放課後の見回りをしていたら中庭にクドリャフカがいた。
ベンチに腰掛けてじっと前を見ている。
何かあるのかと思って視線を追いかけてみると、そこには二人の男女がいた。
直枝理樹と棗鈴。
つい先日まで、ミッションがどうとか言って何度も騒ぎを起こしていた二人だ。
その後二人は付き合い始めたらしい。
恋人と呼ぶにはまだぎこちない様子だけど、それでも親密そうな空気を振りまきながら並んで歩いていく。
それを見送っているクドリャフカの横顔は私をひどくうんざりさせた。
「はぁ……」
私は一つ溜息をついて、クドリャフカに声を掛けた。
「あ、佳奈多さん」
「クドリャフカ。そろそろ寮に戻りなさい。あなた寒がりなんでしょう? 風邪をひくわよ」
「はい……もう少ししたら戻ります」
「そう。じゃあ、見回りが残ってるから、私はもう行くわ」
「はい。がんばってください」
中庭を離れる時には、もう直枝理樹の姿は見えなかった。
「おかえりなさい」
夕食を挟んで、消灯前の見回りも済ませて部屋に戻った私は、パジャマ姿のクドリャフカに迎えられた。
「ただいま」
「見回りごくろうさまでした」
「今日は疲れたからすぐ寝るわ」
私はシャワーも浴びずにさっさと寝間着に着替えてベッドに入った。
「佳奈多さん。おやすみなさいです」
「おやすみ」
挨拶を交わしてから部屋の明かりを消した。
「……ぁ……ぁ……」
(……また、なの?)
今夜もこの音で私の眠りは妨げられた。
「は……ぁ……」
暗闇の中、隣のベッドから切れ切れに伝わってくる吐息。
このところ毎晩のように行われている、彼女の寝る前の儀式だった。
こちらがすっかり眠ってしまったと思って始めるのだろうけど、あいにく私は昔から眠りが浅くて、少しの物音で目を覚ましてしまう。
理由は――不愉快なので言いたくない。
「はぁ……はぁ……」
ともかく、本人はあれで声を抑えているつもりなのだろうけど、私の耳にはしっかりと聞こえてくる。
寮の狭い部屋の、すぐ隣のベッドにいるのだから。
「はぁ……あぁ……あぅっ……」
彼女のお楽しみの時間は(自分と比べると)随分と長くて、私はその間ずっと寝たふりをしてやり過ごさなければならない。
お陰で最近は寝不足だ。
「は、は、は、は――」
そうこうしてうちに息はだんだん短く浅くなっていき、
「は――あぁ――!」
高く細い声を上げて、一旦は収まるのだけど……むしろ本番はここからで、
「うっ……ぐすっ……」
彼女はさっきまでの何倍も不愉快な声を漏らし始める。
「ぐすん、ぐすん……リキ……リキぃ……」
(本当に毎晩毎晩飽きないわね……)
こうやって疲れ果てるまで泣いてようやく静かになるのだった。
「リキ……えっ、えっ……」
私はまだ泣いている彼女に声を掛けようとして……やめた。
(……私にできることなんて、なにもない)
布団の中に潜り込んでからも、泣き声はしばらくの間続いていた。