ToHeart2 SS専用スレ 20

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9名無しさん@そうだ選挙に行こう
>>1
スレ立て乙
10名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 06:29:32 ID:8ibxEC1g0
>>1
スレ立て乙

11月7日(日)。小春日和にはまだ少し早い秋晴れ。

午前10時15分。バス停名「水族館前」

「おせーなー」
駅舎の方を眺めながら、雄二がボヤいた。
「ま、まだ10分ちょっとだし」
困った笑いを顔に浮かべながら、愛佳がフォローする。
「15分ですわ」
端的に指摘したのが玲於奈。
「まったく、6人での待ち合わせに遅れるなんて、非常識も甚だしいですわね、あの男は」
遅刻者が貴明とあって容赦ない。
「遅刻自体はアイツのせいじゃないと思うけどね」
肯定とも弁護ともつかぬ発言をしたのは、郁乃。
ブレーキをかけた車椅子の背にもたれて、空の青さに目を細める。

「郁乃ちゃ〜ん!」
かなり遠くから聞こえた声に、その視線が動いた。
「あ、来た来た」
「なんですの、あんな遠くから。恥ずかしい」
「すぐ来るぜ。チビッコは」
雄二の予言どおり、ぐんぐん近づいてくる白い影。

「おはよーっとととと」
ききーっとブレーキ音がしそうな勢いで、白ブラウスにキュロット姿のこのみが到着。
「おはよう、ユウくん、郁乃ちゃん。おはようございます、小牧先輩、玲於奈先輩。遅れて、ゴメンナサイ」
「え、ああ、おはようございます」
悪びれずにペコっと頭を下げられると、玲於奈もキツい事を言う気にはならない。
「おはよう、このみちゃん」
愛佳など、よくできました、とでも続けそうな口調。

「今日も元気だな」
「うんっ!」
「……ったく」
苦笑して掛けた言葉に勢いよく肯定が返ってきて、さらに口元がほころぶ雄二。

すいっ。
郁乃の車椅子が、愛佳の側を離れる。
「おはよ、このみ」
「郁乃ちゃん、おはよーっ」
近寄ってこのみと二度目の挨拶を交わす。いつもの仏頂面でも、纏った雰囲気が優しい郁乃。

「いや、遅れてごめん。このみが起きなくてさ」
このみがひととおり皆とコミュニケーションをとった頃、ようやく貴明が歩いて来て言い訳。
「お、起きてたんだよ、ただ、着替えが……」
原因にされた当人が、恥ずかしそうに釈明を終える間もなく。

「そのくらい計算に入れなさい。何年このみと付き合ってんのよ」
「女性のせいにするなんて、最低ですわね」
いつもの郁乃の口悪に、貴明には脊髄反射で手厳しい玲於奈。
「まいったな……」
冷たい言葉がステレオで降り注いで、貴明は頭を掻いた。

「あはは、おはよう、たかあきくん」
絶妙のタイミングで愛佳が笑いかけ、彼氏の隣に定位置確保。
「よっ」
「オス」
男同士は、ごくごく簡単な挨拶を交わして。
「じゃあ、みんな揃ったところで……行きますか?」
「はーいっ!」
愛佳の呼びかけにこのみがバンザイ。一行は水族館のエントランスに向かった。

「ほー、立派なもんだな」
「ずいぶん空間を取っていますわね」
雄二と玲於奈が感心。

「これ、建物自体は新しいよな。なんで改装してたんだ?」
「なんだかね、強度不足の箇所があったとかでね……」
「げ、欠陥建築?」
「こ、工事したから大丈夫だと思うよぉ」
貴明と愛佳のやりとり。

「どうだか。やったフリかもよ」
「えーっ! 天井落ちたりするのーっ?」
「それは杞憂。大声出さないの」
横から口を挟んだ郁乃と、素っ頓狂なこのみの声。

いかにも最近の水族館らしい、開放的なつくり。
入口付近は、円形ホールの周囲に水槽が並ぶ、広々としたエリア。
「あっち、サメがいたぜ!」
「行こう行こう!」
「こらっ、走らないのっ」
近くの家族連れの会話。
緩やかな螺旋スロープが中央の長椅子を囲む床の構造。
見るからに小さい子供が駆け回りたくなるような場所である。

うずうず。うずうず。
「……何考えてるか、すぐわかるな」
小さい子供でなくとも駆け回りたさそうなのは、言うまでもなくこのみ。
きょろきょろと周囲の水槽を見回すが、手は郁乃の車椅子。
その様子を見て。
つつつっと郁乃が、このみを離れて姉の側に移動した。

「あらあら」
妙におばさんくさい笑みを浮かべて妹を引き取る愛佳。
「ちょ、ちょっと行ってくるね」
解放された元気少女が、とりあえず目当てらしき巨大魚の水槽に。
「あ、ちょっと」
向かいかけたのを、郁乃が呼び止める。

「なあに?」
トコトコ走り寄るこのみ。
「寝癖」
「えっ? どこ?」
自分の髪に手を回した級友を制して、車椅子から手を伸ばす郁乃。
「あ……」
素直に差し出される少女の頭。
なでりなでり。
後頭部の乱れを撫でつける。
「む」
おおまか収まった黒髪の中に、ぴょこん、と抵抗するアホ毛が一本。
「ぬ」
ぐい。
「い、郁乃ちゃん、首がいたいよ」
「あ、ごめん」
ついムキになった郁乃に押さえつけられて、このみが身じろぎ。
「うー、まあ、さっきよりはマシか」
「ありがとう!」
諦めた郁乃にお礼を言って、このみはホール中央に飛び出す。

とっとことっとことっとっと。
「なんだか、犬みたいですわね」
水槽から水槽へちょこまか走り回る少女に、玲於奈が夏(第10話)と似たような感想を述べた。
15名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 10:04:42 ID:DXlWa/NA0
 
「このみはいくつになっても、落ち着かないなあ」
幼馴染みの所業をぼやく貴明。
「でも、あんなに元気な子が、いつも郁乃を待っててくれるんだよね」
愛佳がしみじみと呟く。
「ホント、ありがたいな」
「本人は待ってる自覚もないだろうけどね、普通に付き合ってるだけで」
「それが貴重なんだよぉ」
少し力んだ愛佳が、ふっと息を吐く。

「郁乃と付き合うってのは、郁乃に制限されるって事だから」
それは責任や意思に関わらない現実。
「もちろん、親切にしてくれる人はたくさんいるけど、郁乃は負担をかけるのを気にするから」
だが、郁乃はこのみに頼る事を怖がらない。
「ずっとそういうの見てきたから、このみちゃんって凄いなって、私は思うよ」
それはおそらく、このみが郁乃を負担に思っていないから。
「同じクラスにそんな子がいてくれて、本当に良かったな、郁乃」
その意味を誰よりも知っているのは、愛佳なのだろう。

「まあ、このみは昔っから、ああだし」
ぽりぽり頬を掻きながら貴明、自分が誉められたみたいに照れ照れ。
「たかあきくん達のおかげだね」
「それは買い被りだよ」
今度は自分が誉められて赤面。
「でもま、あいつが郁乃を見てくれるおかげで愛佳に余裕が出来るし、そこは素直に感謝だな」
「え、あ、そういうわけじゃ……」
「おかげでデートできる」
「あ、うん、それはそうっ……って何言わせるんですかぁ」
茹で上がった愛佳。
だが、もっと赤い顔が、約1名。

「だああっ! 当事者の背中でそういう話ダシにしてイチャイチャすんなあ!」
愛佳に捕まえられて逃げるに逃げられなかった郁乃が、腕を振り回して騒いだ。

「急に狭くなりましたね」
「こういう演出なんだろ」
アマゾンの熱帯魚コーナー。照明も抑えて、ジャングルっぽいディスプレイ。
「空気も蒸しますし」
水槽の上部が空いていて、高温多湿な空調が通路側にも効いている。
「ちょっと、雰囲気出過ぎです」
今日は長袖のトレーナーにジーンズという出で立ちの玲於奈は、
気持ち悪そうに腕をまくって、太股に張り付いたズボンを直す。

汗は浮いていないが、心なしか湿っぽく見える玲於奈の肌。
露出した白い腕が薄暗がりに映えて、雄二の心臓が反応する。
「あ、そ、その……」
恋人の視線に何か言いかけてやめた玲於奈は、もじもじとお尻で手の汗を拭って後ずさり。
どん、と背中が反対側の水槽にぶつかる。
「な、なにがいるんでしょうねこれ」
脈絡のない感想を述べて、くるっと振り向くと。

何故かガラスに張り付いて浮いていたクロコダイルと、ばっちり目があった。

「ひぇっ!」
「うぉっと」
行儀の悪い声をあげて飛び退ったところに雄二の胸。
「す、すみませんっ」
「いや……」
真っ赤な顔で離れたりくっついたりの二人。

「あぁぁ、初々しくていいですよねぇああいうの……」
そんな様子を、羨ましそうに見つめるオンナノコ。
「わ、私も……」
「なにカメとにらめっこしてんだ愛佳」
作戦は失敗した。

「お待たせしましたー。可愛いペンギン君達のお散歩タイムでーす!」

雄二達が入館してから40分強。
トンネル水槽でキーンしたこのみが隣の人にラリアートかまして愛佳が平謝りだの、
ネコザメと郁乃を触り比べようとした貴明が水槽に突き落とされかけただの、
中庭の自然海岸で磯巾着を触った玲於奈が刺された指を雄二に舐められて炎上だの、
賑やかな時間を過ごしていた六人の耳に、場内アナウンスが流れてきた。

「あっ、始まりますね」
「ペンギン! 見たい!」
「……」
主目的を思い出した玲於奈とこのみ、と。
「郁乃も反応したよな、今」
「あれで可愛いもの好きなんだよ、けっこう」
「自分が可愛くねーから……ってっ!」
とりあえず雄二だけ左の車輪で踏んづけて、郁乃が散歩のスタート地点に向かった。

よちよち。ぽてぽて。よちよち。ぽてぽて。むぎゅ。こてっ。ぱたぱた。よたよた。
「うわぁ……」
「これは、凶悪だな」
「な、なんだか和むねぇ」
「……」
キングペンギンの習性を利用した水族館の定番プログラムは、期待どおりの魅力を発揮した模様。
玲於奈も、なんだかぽわーっとした目で人鳥の行列を追っている。
「テレビで見るより、いいもんだな」
雄二が声を掛けると、はっと振り向いて嬉しそうに頷く。
「やっぱり、雄二さんに似てません?」
「どこがだよ」
「ほら、あの羽の動かし方が、カラオケボックスでお姉様に押さえられて藻掻く雄二さんの手と(第7話)……」
「頼むから、そういう嫌な思い出に限定した妄想はやめろ」

「はーい、じゃあペンギン君はおうちに帰りまーす。みんな、一緒にお散歩してくれてありがとーっ!」
中庭からぐるっと敷地を一周して、売店手前のロビーで行進は終わった。

「もう終わりか」
「あっという間でしたわ、残念」
「しかし、よくあんなふうに並んで歩くもんだな」
「野生では、内陸から海岸までエサとりに移動するんだって」
夢から醒めて、口々に感想。
と、郁乃が怪訝な顔をした。

「……このみは?」
「えっ?」
言われてみれば、一番にぎやかな少女がいない。
散歩中はあちこち飛び回りながら、逐一郁乃に結果報告していたのだが。
「た、たかあきくん、あれ……」
「げっ」
愛佳の指の先。ペンギンの群れにくっついてバックヤードに入っていく女の子。
どうも、イベントが終わった事に気づいていないようだ。
「この……」
み、と言い掛けても機動力のない郁乃。
呼びかけようにも大声も出しづらい。アホ毛つきツインテールが、よちよちと館内に消えていく。
「ちょ、ちょっと行ってくる」
慌てて貴明が、幼馴染みの後を追う。

「……やっぱり、変な子ですわ」
「あれが持ち味だから、チビッコはそれでいいんだがな」
雄二が消えた二人から視線を外すと、隣に取り残された小牧姉妹。二人とも複雑な表情。
「あー、ジュース買ってくるけど、お前らも飲む?」
「あ、あたしも行きます」
雄二の言葉に救われたように、愛佳が話に乗った。

しかしそうなると、場に残るのは玲於奈と郁乃。

しーん。

見事に、会話がない。
(な、なにか喋った方がよろしいのかしら)
雄二が愛佳の誘いに乗った理由は、玲於奈にも察しはついている。
こっちの学校に知り合いのいない状況をなんとかしようとしてくれたのだろう。
だからって。
(この子と一緒に残されても……)
郁乃の方は、無表情というか泰然自若というか傍若無人というか。
単にぼんやりしてるようにも見えるが、あまり機嫌はよくなさそうだ。
(でも、せっかくですから)
玲於奈は別に、雄二以外の生徒と仲良くする必要性は感じていないが、
一方で彼の気遣いを無駄にしたくないとは思う。
思い切って、玲於奈の方から口を開いた。

「柚原さんと河野さんは、幼馴染みなんでしょう?」
その辺の事情は、このみが貴明に振られた事あたりも含めて、ある程度雄二から聞いていた。
じろ。
郁乃は玲於奈に胡散臭そうな視線を向けただけ。
「だから別に、一緒に行ってしまったからってどうということはないのではないですか?」
ぎろ。
視線が厳しくなった。
郁乃の口が開きかけて、玲於奈はどんな悪口雑言が飛んでくるかと身構える。
ぷい。
が、車椅子は玲於奈に背を向けた。
「な、なんですの?」
無礼な下級生を目で追った視線の先は。

<全部見せます! 水族館の舞台裏ツアー! 第1回11:35〜>

「ちょっと、勝手に離れては」
後ろから玲於奈の言葉。全然聞いてない郁乃は、係員の下へ。

「これ、予約とかいるんですか?」
「え? 大丈夫ですよ、えーっと、チケットが別売りで500円です」
「じゃ……」
財布を出して500円硬貨を摘みかけた指が、はたと止まる。
「……これでも、大丈夫ですか?」
右手の指をそのまま下へ。自分の車椅子を指す。
係員のお姉さんは、ちょっと困った顔になった。
いくら建物が新しくとも、この手の施設でバックヤードまでバリアフリーってのは無理難題。
「えーっと、狭い所とか通るけど、誰か付き添いの方がいれば……」
「じゃあ、いいです」
あっさり引き下がる郁乃。
もとから、舞台裏という言葉に好奇心を刺激されただけ。どうせ子供向けのツアーだし。
でも、少し寂しい。
「ごめんね、サポートの人が入れれば良かったんだけど」
表情に出ていたのか、係員が頭を下げる。
「いえ」
もう一度否定して、車椅子を反転させようとして。
ぐい。
「?」
回らない。
「私でよろしければ、付き合いますわよ」
玲於奈が、グリップを握っていた。

そんなわけで3分後。
「なんで、なんで〜〜っ?」
「いや、俺に聞かれても」
戻ってきた雄二と愛佳は、誰もいないロビーで顔を見合わせる事になる。
22名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 10:26:21 ID:IZnO7tng0
しえん

一方その頃。ペンギンの檻付近。
「ちょっと、そこの君、ここは立ち入り禁止だよ」
貴明は、入口で飼育係に制止された。
「あ、すみません。判ってるんですけど、ちょっと連れが」
「連れ?」
怪訝な顔をした係員に、貴明が檻の中を指さす。
人鳥に混じって、きょとんと立ちつくす人間一羽。いや一人。
「あ、あれ? いつのまに?」
「さっきのお散歩の時、あとついてっちゃったみたいで」
係員も相当ボケた発言をするものだが、
少女があまりにも自然についてきたので気付かなかったらしい。
「呼んでもいいですか?」
「大声出すとこいつら驚くからなあ。入っていいよ。足元、気をつけて」

inペンギン’s住居

クェックェックエッ、ギャアギャアギャア。
食事時を迎えて騒がしいペンギン達。
「ご、ごめんねタカくん、なんだかボーッとしちゃってて」
「いいよ。いつもの事だし。貴重な経験もできてるし」
幼馴染み同士の会話は、右手に生魚を持ちながら。

ようやく合流した二人は、係員の好意でペンギンのエサやりまでさせてもらっていた。
キングペンギンには手でホッケ。ジェンツーとアデリーにはバラバラとイカナゴ投下。
「わっ、おっ、とおっ」
よたよたわらわらと寄ってくるペンギン達に、このみは目を輝かせている。
「うおっと、ちょっと待てって」
貴明も汗をかきながら奮闘中。夢中でバケツから魚を掴み出していて。

「「あっ?」」
気がつくと、二人の顔が至近距離で向き合っていた。

「ご、ごめ……」
謝罪の言葉が、貴明の口をつきかけて止まる。

自分を見つめる、少女の瞳。
見慣れている筈の、このみの黒くて大きな目は、無邪気に純粋に、貴明を捉えた。
くっ、と貴明が息を飲んでも、このみは身じろぎひとつしない。
貴明は、視線を外せない。
おそらく実際には一瞬であろう、永遠にも思える時間。
やがてほんのわずか、このみの瞳に、吸い込まれそうになる。
「っ!」
それを自覚した瞬間、貴明はのけぞるように一歩下がった。

「……へへっ」
それで、このみが、悪戯っぽい笑顔になる。
「そうだよタカくん、油断したらダメだよ」
ペンギン達が泳ぐプールの方に向き直って、魚に手を伸ばす。
「このみの気持ちは、変わってないからね」
そう言った少女が見せる、ひどく大人びた横顔。

貴明は、ごめん、と言おうと思ってやめて、からかうなよ、と言おうと思ってやめて、けっきょく黙って魚を投げた。
暫しの間、無言でこのみに並んでエサやり。
「ひゃははっ、くすぐったいっ!」
このみはといえば、人懐っこい亜成鳥に手ごと突っつかれて明るい悲鳴。
さっき見せた表情は、なかった事のよう。
だから、聞かなかった事にもできたけど。
「あのさ、このみ」
「なあに? タカくん」

「俺、このみがお嫁に行くとき、たぶん泣く」
やっぱり貴明は、心に浮かんだ言葉を放した。
「……」
きょとん、とこのみは貴明の方を見る。
化学反応が完成するまでに、若干の時間があって。
「あは、あははは」
やがて可笑しさと嬉しさと、目尻の涙が入り混じった声で笑い出す幼馴染み。
「笑うなよ」
腐りながらも、少女の笑い声にホッとする貴明。
「あはは、ごめん、でも、ふふふっ」
またも少女は、貴明の知らない笑顔を見せる。

「そうだね。このみもきっと、タカくんの結婚式では泣くでありますよ」
ふわっと唇の端をあげた幼馴染みは、生まれて初めて年上に見えた。

「そ、そうか?」
「うん。そいでね、【お腹の子供をどうするのーっ】って叫んだらって、郁乃ちゃんが言ってた」
「……やめてくれ」
「あっ、無くなっちゃった」
バケツの底をさぐって、残念そうな声をあげるこのみ。
貴明が自分のバケツを見ると、まだ数匹ニシンが残っている。
「ほれ、このみ」
少女の目の前に、魚を差し出す。
「?」
何故か首を傾げて、ニシンを見つめるこのみ。

ぱく。

じわーっ。

「ひゃ、ひゃはふはいふぉおははふん(な、生臭いよぉ、タカくん)」
「誰が自分で食えといった」
お魚くわえて涙目の幼馴染みは、10歳くらい年下に見えた。

「い、郁乃ってば、もう、大丈夫かなあ、もう」
「まさか玲於奈がついていくとは思わなかったなあ」
異口同音にパートナーの行動を心配するのは愛佳と雄二。
周囲への聞き込みと状況証拠により、二人がバックヤードツアーに参加した事は判明している。

「たかあきくんとこのみちゃんも戻ってこないし……」
愛佳は長椅子に座って、買ってきたアイスの蓋を開けながらぼやく。
「やっぱ、気になるか?」
隣に腰掛けて、ジュースに口をつける雄二。
「ならないって言ったら、嘘ですねぇ」
苦笑する少女。
「貴明くんにあんなに可愛い幼馴染みがいるなんて、同じクラスなのに全然知らなかったです」
はあっ、と溜息く。
「あー、そういや朝は校門までだし、帰りも校門からだったからな」
雄二にとっては貴明とワンセットだった少女の存在だが、一年時の愛佳と貴明は校内だけの付き合い。

「うぅ、リサーチ不足だったかも知れないぃ」
「このみの事知ってたら、くっつかなかったのか?」
「その質問は、意地悪だよぉ……ふふっ」
クラスメートの嘆きに、雄二が掛けた声は厳しめだったが、愛佳は口を尖らせてから微笑む。
以前、環にも試された事を思い出したのだ(第6話)。
「まったく、向坂先輩も向坂くんも、たかあきくんとこのみちゃんの事がホント大好きなんですね」
「べ、別にそんな事ねーよ。ってか、なんで姉貴が出てくるんだ」
「そう! 向坂先輩っ!」
自分で言った単語に、自分で反応する愛佳。
「このみちゃんといい、向坂先輩といい、あんな魅力的な女の子達と至近距離なんですよ? たかあきくんは」
勢い込んで雄二に訴える目。

「だから、後悔なんかするわけないけど、でも、あたしなんかでいいのかなーって、思っちゃいますよ、それは……」
愛佳、語尾に向かって勢いが尻すぼんでしゅん。

(※)「バカな姉の事だから、自分なんかでいいのかなー、なんてバカな事思ってんじゃないかと」
「それは、本当にバカですわね」
「アンタに言われるとなんかムカつく」

また別方。玲於奈と郁乃はというと、これで意外と会話が成立していた。
水族館定番その2の舞台裏ツアーは、それなりに興味深く、
「今回の改装費用は運営計画の中に入ってたんですか? それとも、補助金?」
郁乃が本筋と全然関係ない質問をかまして周囲の小学生の目を白黒させたり、
「あっ」
「あっ、じゃないわよ。殺す気?」
車椅子を押すのには不慣れな玲於奈が大水槽の上から郁乃を落っことしかけたり。

そんな道中を送るうち。
「……たかあきとこのみは、そんなに簡単じゃないから」
「え?」
管理棟と連結している長廊下で、郁乃が唐突に言い出した。
三瞬くらい、何を言っているのか判らなかった玲於奈。
「……もしかして、ロビーでの話ですか?」
車椅子の少女はこくん、と頷く。
15分も前の話を突然持ち出す郁乃に玲於奈は呆れたが、
「たかあきはバカだから、すっきり整理がついたつもりでいるかも知れないけどね」
「多少は話を伺ってますわ。お姉様の気持ちを無下にするような男ですもの」
(「この建物は、お魚さん達のお世話をする人達がお仕事を……」)
「あの朴念仁はね……自覚が無いのが尚更タチ悪いのよ」
「口先ばかりで優しいつもりって、最悪ですわね」
まともに口も利いたことのない二人が、貴明の悪口で意気投合。係員の説明なんてBGM。
異口異音に原作主人公を貶した後で。

「でも、このみとか環先輩があのバカに惹かれてるとさ」
郁乃が嘆いて、(※)に戻る。
「勝手な事を」
言い返した玲於奈だが、郁乃の言葉尻を気にしても仕方ない事は理解しつつある。
「しかし、貴方のお姉さんも苦労しますわ」
「アタシも大変よ」
軌道修正に応じた郁乃は、言い放った放物線を追うように視線を落とす。

「本当に。なんであんなのが好きなんだろ……」
主語を省略した郁乃の台詞は、かなり微妙な表情を持っていた。
「貴方が柚原さんに張り付いてるのは、そのせいですか?」
それに気付かない玲於奈の発言は、少し、調子に乗ったかも知れない。
郁乃の目つきが物騒になる。
「はーい、それじゃ移動しまーす」
が、係員の誘導に、車椅子の少女は玲於奈に向けかけた視線をぐるっと周囲に流した。
ゾロゾロ動く子供中心の列の最後方をカラカラ進む二人。
「そういう試すような言い方、向坂弟に教わったの?」
郁乃と雄二はあまり仲良くないので、郁乃としては多少の悪口のつもりだったが。

「試したわけでは、それになんですのその呼び方……え? 雄二さんに似てました?」
ぽわわっと赤くなってくる相方。その場に立ち止まって、両手で頬を覆う。
「う、似てるなんて言ってない」
ヤバそうな雰囲気を感じ取った郁乃が訂正しても後の祭り。
「そうですか。やはり一緒にいると影響があるのでしょうか、ずっと見てますから、うふふふ……」
玲於奈、ぽやぽや。
「このまま同じ時を過ごせば私も雄二さんのように、あっ、でも価値観が似すぎるというのはパートナーとしては……」
熱暴走。

「浸るのはいいんだけど」
あんまり良くもなさそうなしかめっ面で、郁乃が玲於奈を止める。
「そろそろ、前に進まないとマズいんじゃない?」
「えっ? あらっ?」
気がついたら、前方には誰もいなくなっていた。

「誰も戻って来ませんねぇ」
椅子から足をぶらぶらさせながら、ぽつんと愛佳が呟く。

さっきの続き。
「みんなの分も買ってきたのに、アイス溶けちゃうな。食べちゃお」
「俺も食う」
バニラ二個目に取りかかった少女から宇治金時を受け取って、雄二は言葉を探す。
「まあ、姉貴は置いとくとして、最近チビッコが可愛くなってきたのは事実だがな」
雄二のこのみに対する評価は、どうも貴明以上に大甘である。
「そうですよねえ……」
さらにちっちゃくなる隣の子。
「でもさ、それでも貴明はいいんちょを選んだんだろ」
「……あ」
優しい言葉に、はっとなる愛佳。
「だから、自信持っていいんじゃねえの。いいんちょだって立派なもんだし」
特に、ちょっと玲於奈と比較したかもしれない胸と腰が。
というのは心の中だけに留めて−雄二の最大の成長かもしれない−付け加える。
「うん、ありがとう」
愛佳の表情は、だいぶ和らいだ。
「優しいねえ、向坂くん」
ふふっと余裕を取り戻した笑み。
「玲於奈さんがぞっこんなのも、判るなあ」
「……」
悪戯顔の少女に、しかし雄二は思案顔。

「玲於奈さあ、やっぱクラスで浮いてるか?」
「う、うーん……うん。」
愛佳は悩みながらも、はっきり答えた。
「悪いこと言ってるのは、ごく一部の人だと思いますけど」
2−Aでの会話を思い出しつつ。
「ああなっちゃうと、ちょっと雰囲気というか、そういうのがありますから」
「そっか。まあ、なぁ……」
もちろん雄二は玲於奈の素直さと純粋さを知っているが、
同時に、それが全ての相手に伝わる種類のものでない事も認識している。

「あっ、えっと、でもね、そんな酷い事にはなってないと思いますよ」
雄二には明確に伝えた方が良いと思っての発言とはいえ、フォローの必要性は感じる愛佳。
「玲於奈さん、美人だし成績良いですから」
「そういうの、やっかまれるんじゃねえの?」
「ありますけど、でも、本当にいじめられたりするのは、強味のない子が多いです」
気休めと流すには、少し重い話。
「だから、きっかけさえあれば、たぶん、大丈夫ですよ。きっと」
それが難しい現状と本人の性格なのだが。

なんにせよ、雄二は玲於奈の恋人で、級友にはなれない。
「俺にできるのは、いつでもアイツの味方になってやる事くらいだ」
「それでいいと思いますよ。っていうか、格好いいね、それ」
「からかうなって、さっきから」
「ホントですよぉ。学校でも、向坂くんをカッコいいって女子は結構いるんですから」
「誰も相手してくんなかったぜ」
「声の掛け方が悪いんです。いきなり「一緒にどう?」じゃ逃げますってそりゃ」
「……いいんちょにナンパを指導される日がやって来るとはな」

「あっ、ツアーの人達」
ロビーに戻ってきた一行を、愛佳が見つける。が、その中に玲於奈と郁乃の姿はない。
「あれ? いない?」
「もしかして、途中で迷子にでもなったか?」
「ど、どうしよう?」
狼狽えた愛佳に、雄二は腕を組む。

「とりあえず、だな」
「はいっ!」
「脇に隠した残りのアイス、一人で食うのか俺に一個くれるのか決めてくれ」

「……完全に、道に迷いました」
管理棟でツアーからはぐれてから5分後、玲於奈が白状した。

「なにやってんのよ」
「あ、貴方だって何も言わなかったじゃありませんか!」
「自信持ってそうだから任せてたのよ」
反論しつつも、やや歯切れの悪い郁乃。
「まったく……アンタも方向音痴だとは思わなかったわ」
「わ、悪かったですね!」
自覚のある部分をつつかれて、さっきとは違う感情で赤くなった玲於奈だが。
「……あれ?」
郁乃の言葉に覚えた違和感に気づく。
「アンタ“も”?」

「……」
一年生が思いっきりそっぽを向いても、車椅子の上では表情丸見え。
「あははっ、貴方もなんですか?」
「む。アタシはあまり出歩かなかったから、慣れてないだけ」
仲間発見で喜ぶ玲於奈。むすっとした顔で郁乃。
「言い訳ですね。外を歩くようになっても、治らないものは治りませんわ」
自慢にもならない玲於奈の言。
薫子曰く「玲於奈は人に道案内を委ねているから、方向感覚が発達しないんですよ」だそうだ。

まあ、原因や将来性は置いといて、今、途方に暮れる二人。
と、郁乃の目に、見慣れているが場違いなものが映る。
「……あれ? ウチの制服?」
「えっ? こんな所に?」
すっと目の前の十字路を横切った、ピンクな制服に長い黒髪。
「「……」」
二人は顔を見合わせたが、すぐに協調路線を採った。
「「すみませーん」」

その8分後、ロビーにて。

「おせーぞ、二人とも」
ようやく雄二達と合流した貴明とこのみ。
「ごめんなさーい」
「悪い、係員が親切な人でさ」
「ペンギンさんにエサあげたんだよ!」
「そうなの? 羨ましいなぁ、もう」
「あー、えーっと、後でアイスおごるよ」
「うん……」
「まだ食うのかおい」
話の展開に雄二が呆れていると。

「あ、あら? 着いたみたいですよ」
「……ここに出るんだ」
近くのドアから、車椅子と赤毛の少女が出現。
「なにやってたんだ、おまえら」
「すみません、舞台裏ツアーの途中で迷子になりまして」
「黙って行かないでよぉ」
「いなかったんだもん、仕方ないじゃない」
玲於奈は恐縮。悪びれない郁乃。

「しかし二人とも、どっから出てきたの?」
貴明が疑問を呈する。
「管理棟で迷っていたら、ウチの学校の生徒に会いまして、案内して頂きました」
「会わなかった? 貴明と同学年で高城さんって言ってたけど」
「2年生で高城さん? いたかなぁそんな子?」
「愛佳でもわかんない生徒っているのか。っていうか管理棟に生徒?」
愛佳と貴明が首をかしげる。
が、雄二がもっと根本的な指摘。
「っつーか、そこのドアから出てきたのに会わないなんて事あるか?」
33名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 10:56:04 ID:DXlWa/NA0
 

「「「「「……」」」」」
皆が首を捻る。
「ゆ、ゆゆゆゆ、幽霊だったりして?」
「やめてくださいな。でも、超能力者とか?」
「超能力っていうと、テレポート?」
「土曜日の実験室〜っ!」
「それは時間跳躍者。古いネタ知ってんなチビ助は」
「ラベンダーの香り……そういえばお腹空いたわね」

事実関係はよくわからないが、今回の結論はみんなでお昼御飯になった。

およそ1時間後。

「レジで飴もらっちゃった。このみちゃん、どれがいい?」
「うーんとね……酸っぱくないやつ……」
付近のファミレスで昼食って、時刻はまだお昼過ぎ。
「この後、みなさんはどうされるのです?」
愛佳に配布された飴玉をポケットに入れながら、玲於奈が問う。

「俺と愛佳は……とりあえずアイス屋?」
「ええっと、そうだねえ」
貴明は約束を守るつもりで、愛佳はまだ食うつもりらしい。

「アイス、いいなぁ」
「このみはウチ来るでしょ? ケーキあるわよ」
「ホント? やったぁ」
郁乃は、ちょっと未練をみせた相棒をこれも食べ物で釣る。

「じゃあ、ここで解散だな」
雄二の言葉に、玲於奈は寂しさと安堵を同時に覚えた。

「楽しかったね!」
「まあ、ね」
頷きあう一年生コンビ。

「そりゃお前らはな。俺といいんちょなんて、後半は座って待ってただけだぞ」
別に楽しくなかったわけでもないが、雄二がぼやく。
「それは……私の方も勝手に離れて申し訳ありませんでした」
「首謀者はコイツだろ? 気にすんな」
「……あ、そうだ」
雄二に指さされた郁乃が、ぐるーっと玲於奈の方に車椅子を回してきた。
「な、なんですの」
雄二の彼女は、仏頂面に見上げられて背筋を伸ばす。
「ありがと」
「え?」
「つきあってくれて」
バックヤードツアーの事、らしい。
「ど、どういたしまして」
首を傾けながら玲於奈が頷くと、郁乃がなにもなかったように戻って、そのまま一行は解散した。

「……変な子」
そう呟きながらも、玲於奈は悪い気はしない。
「楽しいもんだろ、こういうのも」
「そう、ですね」
雄二の言葉には、少し微妙な表情を見せる。
「学校でも、仲悪くしたいと思っているわけではないのですけれど……」
気に掛けられている事に自覚はある少女は、不器用に視線を落とす。

「無理する必要はねえよ」
こういう事は、自然となるようになるものだし、ならなくとも構わないとも思う。
ぽん、と雄二は、玲於奈の頭に手を乗せた。
「それで、午後どうする? 映画でも行くか?」
雄二は、この後について計画は持っていなかったようだ。
「それもいいですけど」
玲於奈は、少し躊躇ってから口を開く。

「どうせなら、雄二さんのお宅にお邪魔したい気もするのですが」
「うっ」
玲於奈は軽い気持ちで言ったのだが、雄二には痛恨の一撃。
「お、俺の家は、ちょっと散らかってて……」
いずれ誘うつもりではいた。ただ、どうにも今日は不意打ち。
「構いませんよ。掃除して差し上げましょうか?」
「いや、えーっと」
男の部屋の詳細なんて書きたくもないので省略するが、それもまずいのである。
その辺、玲於奈が察したのかどうか定かではないけれど。
「ふふっ、それでは、無理にとは言いませんわ」
「ごめん、近いうちに招待するから、宿題にしといてくれ」
ミスったなぁ、と頭を掻いた。

「じゃあ、それが雄二さんの宿題で、私の宿題は、お弁当ですね」
笑って、なにげなくさっき配られた飴玉を取り出す。
「……」
「どうした?」
黙りこくった玲於奈の手元を覗き込む雄二。
「そ、そういえば、ですね」
少女の顔が、急に真っ赤になる。
「その、もうひとつ、宿題が……」
「……あったな」
その手に握られた飴玉の包装を見て、雄二もはたと思い出す、先週のデートの帰り際。
包み紙には、ビタミンCたっぷりの黄色い柑橘類。
物陰を探す二人。

二度目のキスは、ちゃんとレモンの味がした。
37名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 11:05:46 ID:nU1vq4yC0
以上です。支援ありがとうございました。

由真シナリオで水族館の周囲に色々お店が建ってるという一文がありましたが、
第20話で建物ないとか書いてますね漏れ。まあいつもの事ですか(開き直った)
ペンギンのエサやりもバックヤードツアーも経験ないので描写変かも
あと13/23のニシンはホッケの間違……いや、どうでもいいですね
38名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 16:36:31 ID:Nwi/7Zo/0
乙です!
このみの天然っぷりのなかに見える、大人の表情にちょっとドキっとしました。
タマ姉とこのみの両手に花もいいけど、愛佳とこのみの両手に花もいいかも・・・と、ちょっと妄想してましたw
39名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 17:12:26 ID:sDrP6kcf0
>>37
乙です!!
横のつながりが少ないTH2なんで
こんな感じで、特にいくのんと玲於奈とか本編では決して見れない組み合わせがいいですね
恋愛と友情を並行させて扱ってるのも自分は好きです
40名無しさんだよもん:2007/07/29(日) 22:23:25 ID:M8Qfnj1p0
乙。
『高城』を名乗ってるのがすごく気になるなあ。
伏線なのかパラレルワールドか……
41名無しさんだよもん:2007/07/29(日) 23:00:05 ID:ljTrrjY80
以下、前の板に掲載したイルファさん話の続き、というかエピローグです。
激しくご都合主義ですが、ご容赦ください。
42花嫁は元メイドロボ:2007/07/29(日) 23:01:17 ID:ljTrrjY80
 5月もそろそろ終わりで、朝とはいえ、だいぶ暑くなってきています。
 私は、玄関の鍵をしっかりかけてから、先に家から出て待ってて下さっているあの人に声をかけました。

 「貴明さん、お家の戸締まり終わりましたよ」

 「お、もういいの? いつも済まないねぇ、イルファさん」

 ニパッと微笑みかけてくださるのはうれしいんですけど、一点だけ不満が。

 「もうっ、”さん”付けはやめてくださいって、あれほど言ったじゃないですか!」

 「ははっ、ごめんごめん、”イルファ”。じゃあ、そろそろ行こうか」

 「はい、”あなた”」

 差し出された”旦那様”の手を握り、私は彼に手を引かれるままに歩きだしました。
43名無しさんだよもん:2007/07/29(日) 23:01:19 ID:1hgcAs5r0
>>37
乙です。
このみが切な過ぎるorz
誰かこのみを幸せにしてやってくれ(´;ω;`)
44花嫁は元メイドロボ(2):2007/07/29(日) 23:06:02 ID:ljTrrjY80

 貴明さんと私が初めて……その、ど、同衾した次の日はいろいろと大変でした。

 あの初めての…”営み”のあと、ほとんど気を失うような状態で、ふたりとも眠りについていたのですが、そのあと真夜中に目を覚まして、そのままもう一戦。
そして、深夜の入浴から、再び気分が盛り上がってしまい(ふ、ふたりとも若いのですから、仕方ないですよね? ね?)、さらにもう1ラウンド……
と、あ、愛の営みをたっぷり堪能したあと、私がメイドロボではなく人間となっている―少なくともそう見える―ことが発覚して、すっかりふたりともパニックになってしまいしまた。

 何せ、サテライトシステムは使えないし、自己診断プログラムも立ち上がらなかったわけですから……。
とは言え、さすがにこんな深夜―すでに3時を回ってました―に、研究所に連絡をとるのは迷惑だろうと言うことで、朝になってから研究所を直接訪ねるということをふたりで話し合って決めました。
 さて、そうなればあとは朝まで寝るだけです。若いふたりは朝まで、そのまま……と言いたいところですが、さすがにこれ以上は貴明さんの健康に差し支えるということで、いったん眠りにつくことになりました。
 貴明さんは別に寝床を用意しようか、と言ってくださったのですが、そんなもったいないことなんかできません。
45花嫁は元メイドロボ(3):2007/07/29(日) 23:07:49 ID:ljTrrjY80
「貴明さん、今日だけは私をあなたのお嫁さんにしてくださるって言ってくださいましたのに……
新婚初夜に、別々の床につくなんて、ああ、私はなんて不幸な新妻なのでしょう」

 よよよ、と泣き崩れながら、チラリと貴明さんの方を見ると、あっさり前言を翻してくださいました。おかげで、貴明さんにう・で・ま・く・らをしていただくこともできましたし(ホウッ)……ハッ!
 誰ですか、腹黒なんておっしゃるのは! べ、別に乙女の108の萌えドリームのひとつ、”恋人の腕枕でぐっすり”を堪能したかったから、泣き真似したわけじゃないんですよ?
 本当は……恐かったんです。いまが幸せ過ぎて。
 これは夢で、目が覚めたら、研究所のメンテナンスベッドに繋がれているんじゃないか。
そう思ったら、少しでも貴明さんの温もりを身近に感じずにはいられなかったんです。
 ……ええ、わかっています。卑怯な女ですよね、私。瑠璃様や珊瑚様、ミルファちゃんの貴明さんの気持ちを知っていながら、こんな……。
 その夜、私は、7割の安息感と3割の後ろめたさを感じながら、貴明さんの腕の中で、生まれてから初めての”眠り”につきました。

 いえ、それだけなら大きな問題はありません――小さな問題は山積みですが。
 翌朝、先に起きた私が愛しい貴明さんの寝顔を至近距離から堪能していたことも、目を覚ました貴明さんが
”裸ワイシャツ”姿の私の魅力に暴走して、4度目の”営み”に突入したことも、十分計算の範囲内です。
 ですが……早朝から、貴明さんのご両親が帰宅され、いくらチャイムを鳴らしても出てこない貴明さんに業を煮やして、
合鍵で入って貴明さんの部屋に足を踏み入れられ、その結果、”ファイナルフュージョン!”状態の私たちを
目撃されることになるとは……イルファ、一生の不覚です(泣)
46花嫁は元メイドロボ(4):2007/07/29(日) 23:09:27 ID:ljTrrjY80
 いろいろ気まずい空気が漂う中、何とか仕切り直して、身仕度を整え、リビングでおふたりとお話をしたのですが……その結果、驚くべきことがわかりました。
 お仕事の都合で遠方に出張しておられる貴明さんのご両親ですが、昨晩、おふたりの元に1通の手紙が届いたのだそうです。それは、こんな文面でした。

「私達、結婚しました!
  河野 貴明&イルファ」

 それは……驚かれたでしょうね。大事な一人息子が、親に断りもなく勝手に結婚したとあっては。
なぜか電話が繋がらなかったため、おふたりはとるものもとりあえず、この家に飛んで来られたのだとか。
なるほど、納得がいく話です。
 ですが、私たち自身はもちろん、こんなハガキを出した記憶も、出すつもりもないのですが……。
これも、貴明さんのおっしゃる”るーこの奇跡”の影響なのでしょうか?

 (当然だ。るーはアフターサービスも万全なのだ)

 ……何やら、人間になったはずなのに、どこかから怪しい電波を受信したような気がしますが、きっと気のせいでしょう。

 「大体の事情はわかった……と言うか、納得はできないけど、とりあえず理解はしたわ。それで、アンタはどうするつもりなの?」

 ハッ! 私が妄想(もうそう)にふけっている間に、貴明つさんとご両親の話し合いは進んでいたみたいです。

 「……学生の身分で、生意気かもしれないけど、キチッと責任はとる積もりだよ。イルファさんに異存がなければ、
その……将来の結婚を前提として、交際を続けていきたいと思ってる」

 ええっ! そ、そんなうれしい事……いえ大事なことをこんな簡単に決められていいんですか?

 「簡単じゃないよ。これでもいろいろ考えた結果なんだし。それともイルファさんは、俺のところにお嫁に来るのはイヤ?」
47花嫁は元メイドロボ(5):2007/07/29(日) 23:09:59 ID:ljTrrjY80
 「と、とんでもありません!!」

 はしたないことに、思わず大声で叫んでしまいました。

 それにしても……私が、貴明さんのお嫁さん……甘い新婚生活……熱い夜の営み……ああっ、ダメです貴明さん、
裸エプロンなんてマニアックな! いえ、旦那様がそれをお望みなら、つ、妻として従うのはやぶさかではありませんが……。
48花嫁は元メイドロボ(6):2007/07/29(日) 23:10:55 ID:ljTrrjY80
 私が真っ赤になって妄想に沈没しているあいだに、どうやらご両親への説得は無事に終わったみたいです。
意外なことに、お父様もお母様も私のことをいたく気に入っていただけたようで……。
「いやぁ、奥手だと思っていたヘタレ息子に、こんなに早く美人の嫁ができるとは!」
とか
「わたし、娘とお台所に立つのが夢だったのよね〜」
と、お会いして間もないのに、すっかり家族の一員として扱っていただけました。
 実際、お義母さまと一緒にお料理したり、お義父さまにお酌して差し上げるのは、私にとっても非常に楽しい経験だったのですが……。
 結局、その晩(幸い、土曜日でした)は一泊され、翌日、「くれぐれもよろしくね〜」と貴明さんのことを私に託されて、おふたりは任地に戻られました。

 すでに日曜のお昼過ぎですが、今日こそはと意気込んで、貴明さんとふたりで来栖川の研究所へと赴いたのですが、そこでも、意外な事実が判明しました。
 私の身体が外形的にはほぼ以前のままなのに、内部構造はすっかり人間と変わらないこと。
いまでは、私も食事をしたり、涙を流したりすることが可能です。
身体構造上は健康な二十歳前の少女と言ってもよいそうで……その、赤ちゃんを身ごもることも可能だとか。
49花嫁は元メイドロボ(7):2007/07/29(日) 23:11:53 ID:ljTrrjY80

 そして……長瀬主任が気まぐれで取り寄せられた(今日は休日のばすなのに、一体どんな手を使われたのでしょう?)、河野家の戸籍謄本の写しには……しっかり、私の名前が掲載されていたのです。
もちろん、貴明さんの配偶者として。
(えっ? 私の戸籍はともかく、日本では男性は18歳以上にしか結婚は認められない? 何言ってるんですか。「この物語に登場する主要人物は全員18歳以上」ですよ?)

 「「あははははははははは……ハァ〜」」

 ”願い事”の手回しのよさに、もうふたりして笑うしかない状態です。
 ですが……これは思ってもみないチャンスなのでは?
 私が心底嫌がれば、貴明さんも願い事の取り消しを決意してくださるかもしれません。
 でも……私自身、いまの状態が決して嫌なわけではありません。むしろ、望むところだ、バッチコイ! というのが本音です。
瑠璃様たちには申し訳ないのですが、私の”初めての男性”となった貴明さんを、ほかの女性に渡すなんて、考えただけでもイヤです。

 ですから、私は、改めて河野家の居間で、畳に三つ指ついて、頭を下げました。

 「ふつつかものですが、末永くよろしくお願いいたします」
50名無しさんだよもん:2007/07/29(日) 23:12:44 ID:aM/WFWXP0
支援
51花嫁は元メイドロボ(8):2007/07/29(日) 23:12:48 ID:ljTrrjY80

 そのあとも、一連の騒動に収拾をつけるまで、いろいろと大変でした。
 瑠璃様たち関係者一同に事態を説明したり、ミルファちゃんが暴れたり、
貴明さんの学校へ私が転入することになったり、ミルファちゃんがスネたり、
貴明さんの幼なじみだと言うふたりの女の子とケンカして和解したり、ミルファちゃんが泣いたり、
貴明さんの親友の雄二さんに言い寄られたので結婚指輪を見せて丁重にお断りしたり、ミルファちゃんが家出したり、
貴明さんがクラス委員の小牧さんや転校生の草壁さんに好意を持たれているのを見て嫉妬したり、ミルファちゃんがヤケ酒煽ったり……。

 とはいえ、さすがに2週間もすれば、それなりに事態も収束方向に向かいます。
 貴明さんを巡る恋のライバルとは言え、このみちゃんや環さん、優季さん、いいんちょさんとも、いまではいいお友達です。
トラブルメーカーのミルファちゃんも、ようやく最近は大人しくなりました。何やら雄二さんと企んでいるみたいなのが無気味ですが……。

 「いやぁ、だいぶ暑くなってきたね」

 「そうですね。そろそろ春物をしまう準備をしたほうがいいのかもしれません」

 貴明さんと手をつないで、他愛もないおしゃべりをしながら、学校までの道のりをゆっくり歩きます。

 「……イルファ、いま、幸せ?」

 ふと会話が途切れたとき、貴明さんが少しだけ真剣な瞳をして、私にそんな質問をされました。

 私はいったん手を放し、トトッの2、3歩だけ前に歩み出ると、制服のスカートを翻しながら、クルリと振り返って、貴明さんにニッコリと微笑みかけました。

 「ええ、もちろんです!!」

−FIN−
52花嫁は元メイドロボ(end):2007/07/29(日) 23:13:34 ID:ljTrrjY80

以上、蛇足気味ではありますが、新妻イルファの話、終了です。
もともと一発ネタからの派生なので、お見苦しいところがあるとは思いますが、笑ってスルーしていただけると幸い。
53名無しさんだよもん:2007/07/29(日) 23:20:00 ID:aM/WFWXP0
性急な終わり方だな
花嫁までは許せる。新妻イルファって言っておきながら新妻らしいところはなしかよ
新妻編は別だろ期待しちゃうぞ
54名無しさんだよもん:2007/07/29(日) 23:43:28 ID:SKjv0/050
>52
イルファさん可愛くてGJだが、なんか蛇の生殺しみたいなSSですぜ旦那
「新妻は元メイドロボ〜女子高生編〜」に期待してまつ!
55名無しさんだよもん:2007/07/30(月) 00:26:43 ID:WDBdcSR/0
>52
GJ!だがほかの人たちも言うように続編が欲しいな
56名無しさんだよもん:2007/07/30(月) 03:31:40 ID:BTiceTB5O
質問なんだが、AD(というかはるみ)が発表されてからのはるみSSって保管庫のアレ一つのみ?

そうならAD発売までワクテカしながら待つとするぜ
5737:2007/07/30(月) 10:08:31 ID:jPYcyLH70
レスくれた方々どもです。
>40
すみません。草壁さんは本筋とは無関係です。旧姓にも意味はありません。
(あるとしたら貴明を見かけて旧姓を名乗りたくなった、くらいかな?)

そもそも、草壁さんの時間跳躍は貴明の事故を知った事がきっかけで、
草壁ルート限定か、少なくともこんな便利屋的な超能力ではない筈ですが、
神出鬼没な雰囲気があるのと、方向音痴話にオチがなかったので出しました。

でも、普通に玲於奈と郁乃が顔見合わせて「「誰かいませんかー!」」で良かったですね
伏線でもないのに意味深っぽい事を書くのは良くない…他にもありますが…
5852(花嫁の〜作者):2007/07/30(月) 12:45:26 ID:UwBwqlXv0
感想ありがとうございます。
実は、今回の「花嫁は」シリーズを書いている途中で、ミルファ&雄二な作品も書きたくなってたりしています。
時間軸的には「花嫁は」の後日談、と言うかすぐ直後で、貴明&イルファの熱々カップルをストーキングする
ミルファと、利害の一致(貴明への嫉妬とメイドロボマンセー)から彼女に協力する雄二……という構図。ミルファ視点で、新婚さんの腹が立つほどのラブっぷりも描写する予定です。
ネタ出しにしばらくかかるとは思いますが、しばしお待ちいただければ幸いです。
5952(花嫁の〜作者):2007/07/30(月) 12:47:47 ID:UwBwqlXv0
びみょーに
何とか姉の邪魔をしてあわよくば貴明強奪を目論むものの、新婚夫婦のLOVE2フィールドにアテられ、
そのヘッポコさからいつも作戦失敗しちゃうミルファーザーと、やれやれと思いつつ一応協力してあげる雄二スキー
という某モモ王的流れも幻視しちゃってるのですが……
60名無しさんだよもん:2007/07/31(火) 02:32:45 ID:Cv4sLaiN0
>>57
草壁さんの能力に関しては問題ないと思うよ。
W会長(ミステリ研&生徒会)ルートでもそんな感じだったし。

高城を名乗る理由は無かったかな・・・
普通なら草壁だし、貴明を意識したなら河野だろうから。
61名無しさんだよもん:2007/07/31(火) 06:55:38 ID:JvYgOxRX0
草壁さんが河野を名乗るなら、他のヒロインも河野を名乗ってもおかしくないな
はるみをきっかけにヒロインが次々と河野姓を名乗りだして……なんてシチュを妄想
62↑こんな感じ?:2007/07/31(火) 20:37:17 ID:7/EQD7Gx0
「皆さん、始めまして。河野優季です」
「「!?」」

〜〜〜〜〜〜翌日〜〜〜〜〜〜〜〜
「河野このみであります!」
「河野珊瑚や〜。んで、こっちは河野瑠璃ちゃ〜ん☆」
「河野郁乃です(なんか語呂悪いわね)」
「ここ、河野愛佳ですぅ〜」
「河野由真よっ!(何であたしまで……)」
(中略)
「るーの名前はるーこ・河野そら。大熊座47番星第3惑星"るー"から、光より速い光に乗って"うー"を探検にやってきた。」
「河野チエっすよ、先輩!」
「河野ミチルだ。よろしくな、先輩」

「あらあら、タカ坊ったらモテモテねぇ〜。でも残念、今日からタカ坊は“向坂貴明”になるの」
「「!?」」

〜〜〜〜〜〜翌日〜〜〜〜〜〜〜〜
「ねえ草壁君、今日のお茶会なんだけどね……」

(以下無限ループ)
63名無しさんだよもん:2007/07/31(火) 22:00:38 ID:jQaK6q/S0
雄二に嫁入りかよ!
64アッー!!:2007/07/31(火) 22:12:20 ID:7/EQD7Gx0
その考えは無かった!!

orz
65名無しさんだよもん:2007/07/31(火) 22:46:04 ID:YPCm4Cgj0
なんで貴明だけが恋愛帝国主義なんだ!?
世の中間違っている!
このみが貴明Loveなのはわかるが、それ以外は誰かの夢の中の話だろ?そうだろ?
雄二が普通なんだ!!

・・・と、なんとなく貴明に嫉妬する今日この頃・・・
66名無しさんだよもん:2007/08/02(木) 11:32:11 ID:VvVP+M4kO
雄二乙
67アッー!!:2007/08/02(木) 17:30:13 ID:U4ehmJgp0

うーのID気に入ったぞ。VVビップでプラスまーこか。
68アッー!!:2007/08/02(木) 17:31:01 ID:U4ehmJgp0
名前消し忘れたorz

これからはこれコテハンでいきまつ。
69名無しさんだよもん:2007/08/02(木) 20:13:25 ID:MxnfbSYa0
嫌なコテハンだなw
70したいわけ このみ編 1/3:2007/08/03(金) 00:22:54 ID:Bb0NVbzW0
今日は月恒例のお泊りの日。
学校から一緒に帰ってくる途中の商店街で、このみが店主の面々に愛想を振りまきながら
買い物を済ませ、二人で手をつないで河野家へと帰ってきた。

「タカくん!すぐ晩御飯作るから大人しく待つでありますよ!」
 そう言いながら客間へと飛び込む。
 以前なら一旦柚原家へ戻ってお泊りセット持参でやってくるところだが、恋人になって
からは客間の一つをこのみが占有していて、そこに多少の着替えなどが常備されているの
で、その客間に飛び込むと次の瞬間にはいつもの私服姿だ。ほとんど同棲状態である。

 実際のところ、何時でもお泊りOK(しかも親(春夏さん)公認)状態なので月いちの
行事だからというのはすでに口実でしかない。あまりに外泊が過ぎるので、柚原のおじさ
んに「せめて結婚だけは成人するまで待ってくれ〜」と泣きつかれたのを思い出す。

「今日は必殺はんばーぐでありますよ」
 月いちのお泊りは新メニュー披露の日でもある。あれから春夏さんに一つずつ必殺メニ
ューを伝授されているらしい。
 何で必殺なのかは未だに謎ではあるが、必殺ゆえにか激ウマである。
「そんなに褒められると照れるであります〜」
 そう言ってえへへと笑うこのみのかわいいことこの上なし。
 思わずかいぐりしたくなる。

 その後風呂に入って布団に入る。このみは当然のように俺の布団にもぐりこんでくるけ
ど、以前のように話をせがむ事はなくなった。かわりにエッチをせがむからである。
71したいわけ このみ編 2/3:2007/08/03(金) 00:23:54 ID:Bb0NVbzW0
 その幼い肢体とは裏腹に、こちらの分野でもこのみの努力は目覚しかった。
 いつもの子供っぽいしぐさでありながら、高等なテクニックを行使して俺を翻弄すると
いうなかなかインモラルな状況がまた興奮を誘うので、ついついこのみに溺れてしまう。
 まさかとは思うけど、こっち方面も春夏さんに特訓されてるのか…?

 にしても、親公認とはいえこうまで愛欲におぼれた生活で良いんだろうかとこの頃思い
もするわけで、最近このみが求めてくる頻度が高いのも気になるところではある。

 すっかりエッチを堪能したあと、このみに腕枕をしながら細い体を抱き寄せ、二人で余
韻を楽しんでいた。

「なんかすっかり最近エッチ付いてるなぁ…一体どうしたんだ?」
「え〜?たかくんこのみとえっちしたくないの?」
「いやそうじゃないけど…進歩が目覚しいというかなんというか。」
「うーん…この間ね、久々にちゃるとよっちに会ったんだよ。」
「あの二人が何か言ったの?」
「タカくんと恋人らしいことしてるかって聞かれたの。それで私はいつも朝ごはん作って
 あげたりお弁当作ってあげたり、一緒に遊びに言ったりしてるって言ったんだけど…」
「言ったんだけど?」
「そんなのほとんど前からタカくんとやってたことだって言われて、ぜんぜん変わってな
 いって言われたの。」

 確かに、自覚こそなかったものの、俺とこのみは傍から見れば恋人同士に見られてもお
かしくない行動をとっていたので、恋人同士がやる大抵のことは当の昔に経験済みである。
エッチこそしてないものの同衾さえしていたのだから。
72したいわけ このみ編 3/3:2007/08/03(金) 00:24:52 ID:Bb0NVbzW0
「だから、恋人同士にしかできないことをいっぱいやろうと思って。」
 結局狸っ子と狐っ子の入れ知恵なのか…
「あのなぁ、このみ。それはそれでうれしいんだけど、そんなことしなくたって俺たちは
 恋人同士なんだから気にする必要なんかないんだぞ。」
「うん…でもね、好きな人といっぱいエッチしたほうが素敵になれるって、お母さんも言
 ってたよ。」

 春夏さん、あなたもですか。
 春夏さんのあの化け物じみた若さの秘訣を垣間見た気がします。せめておじさんが干か
らびない程度に手加減してやってくださいな…

「だからこのみとタカくんはもっともっといっぱいえっちしないといけないのであります
 よ〜えへ〜」
 すりすり
 このみがその小さい体を俺に摺り寄せてくる。そ、そんなことされるとまた元気になっ
ちゃうじゃないか。
「あ…司令!グスタフ砲(※)の砲撃準備が完了したであります〜」
「そ、そんなこというと、砲撃したくなっちゃうじゃないか〜」
「このみも望むところであります〜」

 次の日デート中に偶然狸っ子と狐っ子に会い、口車に乗せられたこのみによってこの夜
のことが大暴露されることになった。
 春夏さん、教育するならそういう夜の生活は秘密にすることも教育してください…

※グスタフ砲…ドイツが製造した80cm巨大列車砲グスタフのこと
73物書き修行中:2007/08/03(金) 00:29:45 ID:Bb0NVbzW0
>>43のこのみ救済の呼び声に引かれてこのみだだ甘を書いてみたつもり











うそです
本当は恋愛同盟第4話の構成に苦しんでの現実逃避です orz
おまけになんか山無しオチ無しの駄目駄目感ぷんぷん
まだまだだなぁ
74名無しさんだよもん:2007/08/03(金) 05:14:54 ID:2QN0p0AY0
GJ
75名無しさんだよもん:2007/08/03(金) 06:39:29 ID:bZOD/JcP0
>73
乙。同衾って言葉はなんかえろいなw
砲撃準備完了の台詞は、やっぱタカ坊のグスタフ砲にスリスリしながら言ったのだろうか
76物書き修行中:2007/08/03(金) 08:13:00 ID:Bb0NVbzW0
実は列車砲じゃなくて速射砲にして、

このみ「艦長!5吋(インチ)速射砲準備完了でありますよ」
たかあき「俺はそんなに早いのか… orz」

と落とすのもちょっと考えた
77名無しさんだよもん:2007/08/03(金) 09:22:12 ID:0EyVzvDs0
LINKS見たら私立桜花高校復活してんのな
やっぱホントに「大騒ぎして閉鎖したサイトは一ヶ月足らずで復活する法則」ってあるんだなw
つーかあそこの作者って、自分のSSはオリジナル要素強いからLINKS使わないとか言ってたのに
いきなり覆しててワロタよ
78名無しさんだよもん:2007/08/03(金) 09:37:51 ID:T3XCwJxB0
>>73
GJなので良いのだがこのタイトルを見る度に貴明の手とか耳とかを切り分け
て持って帰るヒロイン達を連想して……
79名無しさんだよもん:2007/08/03(金) 09:42:11 ID:IgKC9UZf0
>>76
誰と比べてるんだっって話に
NTR?
80名無しさんだよもん:2007/08/03(金) 10:17:15 ID:vB5Ktvsi0
>>77
きっとどっかの知らない誰かが勝手に登録しちゃったんだよ
81名無しさんだよもん:2007/08/03(金) 10:29:03 ID:JYmE6Nrm0
作者の第二人格か

しかしこの作者、わざわざ匿名にしたりしてものすごい構われたがりなのな
82名無しさんだよもん:2007/08/03(金) 20:06:38 ID:RxxyC7Ee0
>>77>>81はLINKSの仕組みを理解しているのだろうか・・・
83名無しさんだよもん:2007/08/03(金) 20:45:20 ID:eL5BLFEzO
>78
腑分けワロス
84物書き修行中:2007/08/03(金) 21:11:54 ID:Bb0NVbzW0
>>78
死体(肢体?)分けでつか? それなんてひぐらしw
でも頭と両手(一人遊び用)と息子(以下同)が人気ありそうだなそれ。
特に息子の奪い合いで壮絶に殺しあいとか、それなんて阿部定w

誤解を受けるとあれなので、一応新参な人のために言っておくと
(エッチ)したい訳をヒロインたちが述べるというのがコンセプトの
SSシリーズっつーことです。
85名無しさんだよもん:2007/08/03(金) 21:49:51 ID:Bed/5gw90
>>82
理解しててもわざと言ってるんでしょ。
テンプレも守らないんだし。
86名無しさんだよもん:2007/08/03(金) 22:26:14 ID:8GFy+1LG0
>>78
りゅうおうたんのGIF画像思い出しちまったぜ・・・
8743:2007/08/03(金) 23:53:05 ID:fX4XRfJv0
>>73
あ…どうもありがとう…?
乙でした
88学食に行こう第四話 1/11:2007/08/04(土) 23:33:25 ID:vN9NT2sd0
不本意な交渉の結果に落ち込んでいたのかと思いきや、一転、哄笑をあげ始めたまーりゃん先輩。
その急激な変化に、遂にまーりゃん先輩が壊れたのかと思ったのは俺だけではなかったようで、
ふと隣を見ると、久寿川先輩が酷く青ざめた表情で眼前の光景を見つめていた。
その様子は今にもショックで倒れそうなほど……って!?
「わーっ、久寿川先輩!? だ、大丈夫ですか? 気を確かにして下さい」
様子を見ていた最中、久寿川先輩が本当に崩れ落ちそうになったのを慌てて支える。
「こ、河野さん。まーりゃん先輩が、まーりゃん先輩がぁ」
「まーりゃん先輩なら大丈夫です、大丈夫ですから」
とは言っても、いまだ絶賛高笑い中のまーりゃん先輩を前にして、そんな気休めの言葉をかけたところで
説得力皆無でしかない。
「タ、タマ姉。何とかならない?」
「いきなり話を振られても困るんだけど……そうねぇ、叩けば直ったりしないかしら?」
「……いや、いくらまーりゃん先輩とはいえ、壊れた電化製品と同じ処方じゃ……」
「いやあああっ! 向坂さんが叩いたら、まーりゃん先輩が壊れちゃう!」
ちょっとした錯乱状態に陥っている先輩が、普段なら胸の内に留めておくような台詞を躊躇なく言い放つ。
「……えーと、タマ姉。今、先輩はちょっと冷静じゃないから、穏便に、ね?」
「別に、気にしてないけど」
恐る恐る顔色を伺ってみるが、怒っているというより、むしろ呆れたような表情のタマ姉。
「ところでタカ坊。ここ、職員室の前なんだけど、いつまで久寿川さんを抱きしめてるつもり?」
「………へ?」
タマ姉の言葉で、先輩を咄嗟のところで抱きとめたままという、今の自分の状況を把握する。
もっと詳しく言えば、目の前には吐息がかかるくらいに密着した久寿川先輩。そんな先輩から漂ってくる
甘い香りが鼻腔をくすぐり、胸の辺りには先輩の豊満なものが押し付けられている、そんな状態。
……ああ、まーりゃん先輩に次いで、俺の方もどうにかなりそうです。
89学食に行こう第四話 2/11:2007/08/04(土) 23:34:46 ID:vN9NT2sd0
そんな中、錯乱状態から回復し、同じく状況を把握したと思われる先輩と目が合う。
……
………
…………
「わあああっ。せ、先輩すいません」
「こ、こっちこそごめんなさい。河野さん」
今までくっ付いていた磁石が、突然反発するかのように二人して勢いよく離れる。
先輩が頬を赤く染めているが、今の自分はそれ以上に真っ赤に染まっているのは間違いない。
「はぁ、全くタカ坊は奥手なのか大胆なんだか、よく分からないわね」
「いや、さっきのは不可抗力で……」
そんな、タマ姉に対し弁解している最中、ふと背中の方から視線を感じ、振り返ってみると、
いつの間にか高笑いをやめていたまーりゃん先輩が、ニヤニヤとした表情でこちらを眺めていた。
「……ま」
「まーりゃん先輩、大丈夫なんですか!?」
俺よりいち早くそれに気付いた久寿川先輩が声をかけると共に、心配そうな表情でまーりゃん先輩に
駆け寄っていった。その迅速な反応は、流石まーりゃん先輩すきすきすきーなだけのことはある。
「あー、さーりゃん。そんな心配しなくても大丈夫だって。あちしは至って正常だから。……ところで、たかりゃん」
「は、はい?」
「付き合え」
「付き合えって……何処にです?」
「いいからいいから。と言う訳で、他の皆は生徒会室で待っているように。ばいばいきーん」
そう言って俺の手を掴み、急な展開に呆然とする他のメンバーを置き去りのまま突然走り出す。
「ちょっ、一体どこに行くんです。まーりゃん先輩」
だが、まーりゃん先輩は俺の疑問に答えることなく、ズンズン俺を引っ張っていった。
90学食に行こう第四話 3/11:2007/08/04(土) 23:36:04 ID:vN9NT2sd0
そんなこんなで、まーりゃん先輩に連れて来られた先は、放課後無人となった3年の教室。
2年の自分にとっては、あまりかかわりのない場所なんだけど……
「あれ? この教室って確か……」
「そう、あたしが去年使ってた教室。いやー懐かしいな」
そういえば、以前この教室でまーりゃん先輩が補習を受けていたっけ。
それにしても、卒業したのか疑わしいほど、しょっちゅう顔を出してる先輩が何言ってるんだか。
「えーと、あたしの席は……って、あれ? 無いじゃん。せっかくあたしがピカソも真っ青の
前衛芸術を机に彫りこんでおいたのに」
「そんなものを彫りこんだせいで、先輩の卒業と同時に廃棄処分になったんじゃないですか?」
エコリサイクルが叫ばれている今の世の中だというのに、嘆かわしい話だ。
「ちぇ。悔しいから適当な机に、たかりゃんとさーりゃんの相合傘でも……」
「小学生の悪戯じゃあるまいし、そういう傍迷惑な事はやめて下さい!」
第一、ここは3年の教室なんだから、俺より久寿川先輩の方に迷惑がかかるでしょうが。
「あっ、そうそう。さーりゃんと言えば、さっきのおよそ高○生とは思えない、微笑ましいやり取りは
見てるこっちの方が赤面モノだったぞ。女の子にダメダメなのは相変わらずだな、たかりゃんは」
「ほっといて下さい! ていうか、そもそも何しにこの教室に来たんです? ただ先輩の懐かし話を
延々と聞かされるだけ、とかだったら即刻帰りますよ」
「むふーん、そう怒るなって。今日はそんなたかりゃんの為に、女の子への苦手意識を克服する、
画期的アイディアを考えてきたんだから。どうだ、聞きたかろう?」
「……何です、それは?」
過去のこの人発案のものに、今までろくな目にあってないことから、その『画期的アイディア』
とやらの俺的期待値は、先輩のテストの点数同様、有ってないような物……なのだが、
その題材が題材なので、とりあえず話を合わせてみることにした。まあ、聞くだけなら
実害は無いだろうし。
91学食に行こう第四話 4/11:2007/08/04(土) 23:37:36 ID:vN9NT2sd0
「うみゅ。ではたかりゃん。そもそも自分自身、何でおにゃのこが苦手なんだと思う?」
「分かりません」
先生のように教壇に立つまーりゃん先輩からの問いに、適当な席に座った俺が半ば投げやり気味に答える。
そんなものが分かったら苦労はしない。
どうでもいいけど、わざわざ教室を選んだのは、この授業ごっこがやりたいが為なのか?
「なんだ、たかりゃん分かってんじゃん」
「へ? いや、俺は分からないって言ったんですけど」
「だからそれが原因。人は分からないものに恐怖するっていうじゃん? たかりゃんにとっては、
女の子がその対象になっている訳。そう考えれば、常日頃たかりゃんがニブチンっていわれてる
理由も納得できるでしょ? 分からないものの気持ちを敏感に察知するだなんて、土台無理な話だからな。
……って、たかりゃん。ちゃんと聞いてるか?」
「は、はい」
驚いた。あのまーりゃん先輩の口から、至極真面目そうな考察が出てくるなんて。
初めこそ全く当てにしてなかったけど……ひょっとして、期待していいのかな?
「逆に言えば、それを克服するには、対象、つまり女の子を理解すればいい訳だ」
ふむふむ。
「でもって、物事を理解するには、頭より身体で理解した方が手っ取り早いってよく言うじゃん?」
……なんか雲行きが怪しくなってきましたよ。
「という訳で、あたしがたかりゃんの為に一肌脱いでやることにしましたー」
えーと、女の子を身体で理解するのに、まーりゃん先輩が一肌脱いでくれるっていうことは……
「って、ちょ、ちょっとまーりゃん先輩!? 一体何を考えているんですか? ひょっとして学食の件が
駄目だったんで、捨て鉢にでもなってるんですか?」
「むふー。オラ、ワクワクしてきたぞ」
あまりの急な展開に戸惑う俺を他所に、教壇から俺が座っている席まで歩いてきたまーりゃん先輩。
その手が、腰を浮かしかけた俺の頬を撫でる。
「じゃ、たかりゃん、早速だけど……」
「ひっ、ま、まーりゃん先輩、駄目ですって!」
92学食に行こう第四話 5/11:2007/08/04(土) 23:39:23 ID:vN9NT2sd0
「女の子になってみようか」
……
………
…………
「……は?」
「うーん、化粧のりがよさそうなきめ細かい肌。あのタマちゃんが絶賛する訳だわ」
「あの、どういうことですか?」
「うん? 言ったとおりの意味だけど? まあ、性転換までしちゃったら本末転倒なんで、
とりあえずは女装という形で女の子になってみることで、その気持ちを理解してみようという、
たかりゃんのたかりゃんによるたかりゃんのためのスペシャル企画。どう? 後輩思いの
いい先輩をもって、たかりゃん感激したか?」
「じょ、冗談ですよね?」
「あ、たかりゃん中途半端は嫌いな方? だったらいいところ紹介するけど」
「違います! ていうかそんな企画、却下です、却下!」
ま、紛らわしい。全く、さっきのやり取りで、まだ心臓がバクバクいってるよ。
「えー、何でさ。せっかく苦労してお披露目の舞台まで作ったのに」
まーりゃん先輩から早速のブーイング。ていうかお披露目の舞台? そんなものいつの間に……
って、ま、まさか。
「あの、まーりゃん先輩。まさかとは思うんですけど、ひょっとして女装した俺に、
学食の接客をさせるつもりですか?」
「うん。女装したたかりゃんが接客することで、それを見た学食利用者の心の癒しに繋がるし、
さーりゃん達の負担も軽減されるから、みんな幸せになれるじゃん」
「その代わり俺がこれ以上ないくらい不幸です! そもそも俺の女装姿なんて癒しどころか、
精神的ブラクラですよきっと。利用者の食欲減退で学食から苦情が来たらどうするんですか!」
「大丈夫。 へいき、へいき。たかりゃん可愛い顔してるからきっといけるって。……多分」
「無理ですって。第一そんなこと許されるわけないじゃないですか!」
93学食に行こう第四話 6/11:2007/08/04(土) 23:41:08 ID:vN9NT2sd0
「ふっ、たかりゃん。これ読んでみ」
そう言って手渡されたのは、まーりゃん先輩が先程職員室で書かされていた、今回の件における同意書。
「えっと『女子生徒が如何わしい格好をしない(あたし含む)』、『女子生徒は制服にエプロン着用』
『ボランティア活動として行う』……これがどうしたんです?」
「そう、その条件に『男子生徒』のたかりゃんが女装して、如何わしい格好で接客してはいけないなんて
一言も書かれていないぞ。だから全然OK」
「なっ、そ、そんなの屁理屈ですよ。それにだからといって俺がそんなことする筋合いは……」
「それにぃ、たかりゃんは、さーりゃんが学校側に条件を提示してもらって、OKが出た範囲で実施する
って提案を出したとき、反対しなかったじゃん。まさか、さーりゃんやたまちゃん達に任せておけば
いいや、なんて対岸の火事をみるような心境だった訳? そんな薄情者だったのか? たかりゃんは」
「……ぐっ」
や、やられた。生徒会室でのことも、学校側との交渉時も、まーりゃん先輩は前回と同じ
スク水メイドに固執していたのかと思いきや、その実、それを隠れ蓑に二重三重の罠を張り巡らせ、
俺に女装せざるをえない状況を作り上げるのが真の狙いだった訳だ。
「は、謀りましたね。まーりゃん先輩」
「たかりゃん。ちみはいい後輩であったが、そのニブチンさがいけないのだよ。フフフフハハハハハ」
ああ、職員室での交渉の後、まーりゃん先輩が突然笑い出した理由が今更ながらに理解できた。
終始、これだけ自分の思惑通りに事が運べば笑いたくもなるだろう。
……まあ、女性としてあの笑い方はどうかと思うけど。
「で、たかりゃん、他になにか反論はある?」
「分かりました。分かりましたよ! もう好きにしてください!」
「うっほほーい。じゃあ、たかりゃん。早速おめかしして、立派な萌えコンテンツになろうね♪」
がっくりと膝をつく俺を尻目に、嬉々とした表情で準備に取り掛かるまーりゃん先輩。
……ああ、俺は一体どうなってしまうんだろうか?
94学食に行こう第四話 7/11:2007/08/04(土) 23:42:50 ID:vN9NT2sd0
前もってこの教室に持ち込んでおいたと思われるバッグから、化粧品やら何やらを取り出し、
てきぱきと準備を進めるまーりゃん先輩。その顔には、椅子に座らされ、まな板の鯉よろしく
じっとしている俺とは対照的に、まるで獲物を捕食寸前の肉食動物のような、愉悦の表情が浮かんでいる。
「……嬉しそうですね」
「うん、さーりゃんを着せ替え人形にして遊んだことはあるけど、たかりゃんはまだないからな」
久寿川先輩、不憫な人。……もうすぐ俺もその仲間入りだけど。
「それでだ。たかりゃん。イメージとしてはどんな感じがいい?」
「叶うのならば、このままが良いです」
「なるほろ。フリフリの衣装が似合う正統派の萌えっ娘だな。よし、あたしにまかせろ」
聞いちゃいねえ。
「とりあえず素材を活かす為にも、メイクはナチュラルでいいか。後は……うーん、さーりゃんや
たまちゃんと被っちゃうけど、ウィッグはバレを多少なりとも防ぐ為にも、普段に近いショートより
ロングの方がいいかな? たかりゃん、いじられっこでキャラ立ってるから二人の影に隠れちゃう
ことはないだろうし」
誰がいじられキャラですかとツッコミを入れたかったが、今の状況がまさにソレと気付き、
無性に悲しくなってくる。ああ、俺の心境を他所に先輩は本当に楽しそうですよ。ははは……

……数分後。最初こそ、わいわい面白半分に俺を玩具にしていたまーりゃん先輩であったが、
作業が進んでいくうちに表情が険しくなり、だんだんと口数も減っていった。数少ない言葉も、
「……なんかこれ、やばくない?」
と言ったネガティブ? なものばかり。いつも無意味に笑っている、あのまーりゃん先輩が
こんな表情をするだなんて、今の俺の姿はそんなにもヤバイんだろうか?
「あ、あの、そんなに不味い出来なんですか?」
「あー、たかりゃん。今、作業中だから黙ってようねー」
今の自分の姿がちょっと恐ろしくなったので、思わず質問してしまったが、その懸念が
どこかに吹っ飛ぶような恐ろしい形相で睨まれ、慌てて口を噤む。
……どうやら作業が終わるまでは大人しくしているしかないらしい。
95学食に行こう第四話 8/11:2007/08/04(土) 23:44:17 ID:vN9NT2sd0
「ほい、これでお終い。とりあえず動いていいぞ、たかりゃん」
数分間、それこそ人形の如くじっとしていることを強要されていたが、やっとそれから開放される。
せっかく自由になった以上、まずは凝り固まった身体を解したいところだけど、それよりも
まず第一に確認しなければいけないことを質問してみる。
「で、俺の顔は今どうなっているんでしょう? ……やっぱり化け物ですか?」
「うーん。まあ、ある意味化け物だな。とりあえず自分で確認してみれ」
そう言って鏡を手渡されたので、恐る恐る覗き込んでみる。そこには……
「……マジ?」
暫し硬直。
「たかりゃん。いつまで見つめてる? なにも自分を視姦しなくても他に相手は沢山いるだろうに」
「……あの、まーりゃん先輩。これ、鏡に細工してあったりしませんよね?」
「たかりゃん。生まれてくる性別を間違ったな。ていうか、なんでこんな超絶美少女になっちゃうのさ!」
……そう、鏡には、これでもかっていう位、女の子らしい女の子が、驚いた表情を浮かべていた。
今回、恐ろしいばかりの策士っぷりを披露してきたまーりゃん先輩だけど、思わぬところで
思惑違いが生じてしまったらしい。……まあ、当の本人ですら予想外だったんだから仕方ない気がするけど。
「いやー、そこそこいけるとは予想してたんだけどさ。ぶっちゃけ、これほどまでとはねぇ。
ほんっと。作業中、世の中の不条理を実感したぞ、あたしは」
「は、は、は……」
褒めて?くれてるのは嬉しいけど、男の自分としては乾いた笑みを浮かべるしかなかった。

とりあえず作業も小休止ということで、まーりゃん先輩は一仕事終わった後のビールといわんばかりに、
バッグから取り出したパック牛乳をちゅーちゅーと吸っている。俺はというと、その様子を横目で見ながら、
さっきまでの固定ポーズでカチカチに凝り固まっていた身体を解す為、うーんと伸びをしている状態。
しかし牛乳というチョイスは、まーりゃん先輩にも、色々とあきらめきれないものがあるんだろうか?
96学食に行こう第四話 9/11:2007/08/04(土) 23:45:44 ID:vN9NT2sd0
そのうち身体も解し終わり、手持ちぶさたとなったので、鏡に映った自分の姿をもう一度確認してみる。
鏡の中の見慣れているようで、やっぱり見慣れない女の子は、俺と寸分違わずコロコロと表情を変えていく。
うーん、信じられないけどこの娘って俺なんだよなぁ。
「どうした、たかりゃん。そんな何度も鏡見ちゃたりして。……ひょっとして、目覚めちゃった?」
「目覚めてません!」
「じゃあ何? まだ鏡の中の萌え美少女がたかりゃん自身だって、信じられない訳?」
「いや、それもあるんですけど」
「けど? 他に何かあんの?」
「いや、まーりゃん先輩も女の子なんだなって」
ぷぴゅ
あ、牛乳吹いた。
「けほっけほっ、た、たかりゃん。いきなり真顔でなに言ってんのさ?」
「いや、正直先輩の女の子らしさを垣間見たのは初めてだったんで。先輩、メイク上手だったんですね」
「そ、それは、たかりゃんの素材が良かっただけだって」
「けど、例え素材が良かったとしても、メイクが駄目だったら台無しじゃないですか。先輩が上手いのは
男の俺でも分かりますよ。いや意外というか何というか、先輩にも可愛らしい一面があったんですね」
「あー、もうその話は終了終了!」
照れ隠しか、話を切り上げようとするまーりゃん先輩の表情には、ちょっと赤みが差してたりして。
先輩がこんな表情をするの初めて見た気がする。……なんか結構可愛いかも。
「全く、たかりゃんが変なこと言うもんだから、まるで顔射されたみたいになっちゃったじゃん。ふきふき」
「わっ、俺のシャツの裾で牛乳拭かないで下さいよ」
「たかりゃん、もう充分休憩したでしょ。時間もないことだし次行くぞ」
「げっ、まだ続けるんですか?」
「終わったのは顔だけじゃん。他にも脛毛の処理とか色々やらなきゃならないことは沢山あるんだから。
ちゃっちゃと終わしちゃうぞ。と言う訳で、たかりゃん。脱いで♪」
そういうまーりゃん先輩の顔からは、さっきまでのレアな表情は消えうせ、いつものへらへらとした
先輩に戻っている。切り替え早っ、ていうか、これはもしかしなくても、さっきの仕返しですか?
「い、いや、そのくらい自分でやりますって」
「いいからいいから♪」
「ちょ、待ってください。あーっ!」
97学食に行こう第四話 10/11:2007/08/04(土) 23:47:23 ID:vN9NT2sd0
………しばらくお待ちください…………

パンパカパーン
「たかりゃん女装試験型基本仕様かんせーい。後は状況に応じて萌えパーツを換装していけば……って、
どしたの? たかりゃん。膝抱えたりなんかして」
「ぐすっ、ひっく、あたし、もうお婿にいけないよぅ」
「たかりゃんも大げさだなぁ。ただ無理やりひん剥いて、×××や○○○しただけじゃん」
「そんなトラウマ級の辱めを、さも他愛のない事の様に言わないで下さいよ。ううぅ」
「ちぇー。ところでたかりゃん、制服のサイズはどう? きつかったりしない?」
ちなみにまーりゃん先輩が言う制服とは、いつもの慣れ親しんだ制服ではなく、さっき無理やり着せられた
女子の制服のことだったりする。
……ああ、出張中のお父さん、お母さん。俺は登ってはいけない階段をまた一段登ってしまいました。
「幸か不幸か、いや不幸なことなんでしょうけど、まるであつらえたかの様にぴったりです。ははは……」
そういえば、スカート穿くなんて何年ぶりだろう。なんか足元がすーすーする。
……スカート穿くのが初めてじゃない自分の過去がちょっと悲しい。
そんな遠い過去を思い出し、少々凹んでいると、まーりゃん先輩が複雑な表情であたし、もとい俺に
ジロジロと視線を向けているのに気付く。
「な、何ですか?」
また何かされるのか思い、ざざっと後ずさる。我ながら少し、いやかなり情けない。
「いやー、女子の制服姿が異常なまでにハマってるなぁって。つくづく女の敵だな、たかりゃんは」
いや、そんなこと俺に言われても困るんですけど。
「ねえたかりゃん。ついでにちょっと裏声で『お帰りなさいませ。ご主人様』って言ってみて」
「何のついでですか、何の!」
「いいじゃん。減るもんじゃないし。それにどうせ本番になったら散々言わなきゃならないんだぞ」
いや、さっきからの先輩の所業で、俺の男としての尊厳が既に枯渇寸前なんですけど。
98学食に行こう第四話 11/11:2007/08/04(土) 23:49:52 ID:vN9NT2sd0
とはいえ、言って聞くような人ではないので、やむなくスカートの裾をちょこんとつまんでお辞儀をしてみる。
「お、お帰りなさいませ。ご主人様……これでいいですか?」
お辞儀した状態から上目遣いでまーりゃん先輩の反応を伺ってみるものの、全くの無反応。
「えーと、先輩。どうしたんです?」
何故か硬直状態に陥っているまーりゃん先輩の顔の正面で、手をひらひらさせてみる。すると突然
「いやあああああ、メロメロであります!」
「わあっ、な、何ですか、いきなり」
あまりの急な反応にちょっとビビる。つうかここまで身悶えられると、逆にこっちがちょっと引くくらい
不気味なんですけど。
「あ、挨拶だけでこの破壊力。ひょっとしてあちしは、とんでもないものを世に生み出しちゃった?」
いや、そんな大げさな。
「よおーし。じゃあ完成したことだし、早速戻ってさーりゃん達にお披露目するぞ」
「えーと、そうなると、やっぱり着替えちゃ駄目ですよね?」
「当然。何の為にこれまで時間をかけたと思ってるんだ? たかりゃんは」
今すぐにでも教室を飛び出しかねない勢いのまーりゃん先輩に、一応駄目元で確認してみるものの、
バッサリと一刀両断にされる。うう、この姿で校舎を歩き回れだなんて何の罰ゲームですか?
「ぐずぐずしないの。ほら、たかりゃん、早く行くぞ」
いつまでも煮え切らない俺の様子に、業を煮やしたまーりゃん先輩が俺の手を取る。
「わっ、ひ、引っ張らないで下さいよぉ」
それに引かれ、俺は教室から、重い重い一歩を踏み出した。
99名無しさんだよもん:2007/08/04(土) 23:51:13 ID:vN9NT2sd0
以上、とりあえず前回つづくと書いたので、投げっぱなしだった複線を回収するところまで書いてみました。
えー、空気読めてなかったらごめんなさい。
100名無しさんだよもん:2007/08/05(日) 01:09:42 ID:p9HcQtei0
乙です
101名無しさんだよもん:2007/08/05(日) 01:32:23 ID:dXF798cvO
これは続きが気になる。乙です。
雄二フラグも回収よろw
102名無しさんだよもん:2007/08/05(日) 01:33:22 ID:O0CFY3Nz0

こう来たか
貴明が女装したら可愛くなるってのは雄二の初恋で証明済みだしな
……福山が裏声で「お帰りなさいませ」とか言ってるの想像して噴きそうになったが
103名無しさんだよもん:2007/08/05(日) 04:45:00 ID:nGtqONHm0
ベタで素晴らしい(すごい賞賛してます
後の展開に激期待
104名無しさんだよもん:2007/08/05(日) 09:15:59 ID:AT7KFKuY0
GJ!
七五三で晴れ着着せられて写真まで撮られた俺には他人事とは思えないw

そう言えば飯店スレ保管庫にカラーのCG有ったね
105名無しさんだよもん:2007/08/05(日) 12:36:29 ID:8vezyB5l0
なんだよ
すげー気になる終わり方をして

続きが気になってモヤモヤするんですけど
早く続きが読みたいです
10699:2007/08/05(日) 22:15:38 ID:JXIccLg60
レスありがとうございます。

続きについてですが、ぶっちゃけ現時点では全くの白紙だったりします(汗)
これからちびりちびり書いていきますので、気長にお待ちください。

後、実はアニメを見てないので、貴明のボイスを聞いた事がなかったりするのですが
男性声優さんの声では萌えようがないと思われますので、裏声部分は女性声優さん、
とりあえずCV藤野らん辺りで脳内再生してくださいw
107アッー!!:2007/08/05(日) 22:59:08 ID:H7l1a7000

いや、タカ坊は萌える。タカ坊可愛い。タカ坊抱きしめたい。ああもう、タカ坊タカ坊タカ坊……
byT.K

おお!あいつ小室とイニシャル一緒か(←どうでも良い)

まじめな話同性としても福山の声はいいと思うんだ。ウホッやアッー!な意味ではなく弟に欲しい。コテハンこんなんだけど。
108Aria:2007/08/08(水) 01:32:22 ID:Uig8Cqox0
続きがとてもきになりますw
良かったですよ♪^^*
109名無しさんだよもん:2007/08/08(水) 22:04:49 ID:/7UPQ6nAO
桜の群像マダー
110物書き修行中:2007/08/10(金) 21:58:34 ID:o95MPceA0
桜の群像でなくて申し訳ないですが投下します。
あほみたく長くなっちまったんで前後編に分けてます。
111恋愛同盟4話 書庫と郁乃と内緒話 前編 1/18:2007/08/10(金) 22:00:00 ID:o95MPceA0
「ねえねえ貴明、優季も。」
「ん?何だ?」
「どうかしたんですか由真さん?」
「先週は色々精神的なショックでそれどころじゃなかったんだけど…」
「あ〜…すまん」
「過ぎたことは仕方ないわよ。それより、実は先週の土曜日は…」


    恋愛同盟 第4話  書庫と郁乃と内緒話 前編


 最近、姉の様子がおかしい。
 いや、おかしいって言うのは変か。なんとなく明るくなったというか、幸せいっぱいっ
て言うか…まあ、そんな感じ。
 先週、この世の終わりみたいな陰気なオーラをしょって無理矢理笑顔を貼り付けて見舞
いに来てたかと思えば、今週に入ってからは打って変わって明るいとなると何かあったと
思わないほうがどうかしてる。

 今も、今にも歌いだしそうな調子で持ってきたりんごをむいてる。
「ねぇ、お姉ちゃん。」
「え〜、なあに?りんごもうすぐ剥けるよ〜?…あ、梨のほうが良かった?」
「そうじゃなくて…なんか良いことでもあったの?」
「え…うーん、いい事…かな?…うん、いいことだよね。うん、ちょっといい事あった
 よぉ。」
「ふーん…男でも出来た?」
112恋愛同盟4話 書庫と郁乃と内緒話 前編 2/18:2007/08/10(金) 22:00:46 ID:o95MPceA0

 ざく。

「や、や、や、そそんなこと」
「お姉ちゃん指から血が出てるってば。看護婦さん呼ぶ?」
 結構な量出てるんだけど痛みより驚きが上回ってるのか気がついてないみたい。
「ひゃ、ひゃ、ひゃ、こふぇふぇふぁいひょうぶ(や、や、や、これで大丈夫)」
 姉は切った左の親指をしゃぶりながら答えた。あたしは横の棚の引き出しから絆創膏を
取り出して姉に渡す。
「はい、これでも巻いといたら。」
「ありふぁほ〜いふふぉ〜(ありがとう〜いくのぉ〜)」
 姉は絆創膏を受け取ると指に巻き始めた。親指だから、巻きずらいみたい。
「…で、どこまでいったの?」
「へ?…何が?」
「エッチしたの?」
「へ…?……えええええええええ!!!」
 姉は真っ赤になってばたばた暴れてる…やば…面白すぎ…。

                   −

 昨日は郁乃にからかわれて散々だったけど、でも、たかあきくんの彼女に立候補できた
のはあたしにとってはいいことだったんだと思う。
 最後に選ばれるかどうかは別としても、今はまだ友達以上の少し特別な関係でいられる
から。
113恋愛同盟4話 書庫と郁乃と内緒話 前編 3/18:2007/08/10(金) 22:01:35 ID:o95MPceA0
 今日は久しぶりに書庫の整理。先週はたかあきくんとの事でいろいろとそれどころじゃ
ない気分だったから手をつけられなかったんだけど、たかあきくんが手伝ってくれると言
ってくれて、今日は書庫で作業することになった。優季さんと由真も手伝うと言ってさっ
きから頑張ってくれている。
 でも言わなきゃいけない。この作業は私の我侭でやっているということを。

「ねえ、みんな。一休みしない?」
 頃合を見て皆に声をかけた。私はお茶の席で、この書庫の今後のことについて皆に話そ
うと思っていた。その時、

 こんこん

 ノックの音。この書庫に来る人間は私たち以外にはほとんどいない。図書委員だって滅
多に入ってこない。
 誰だろうと思いながら私はドアを開けた。
「やぁ、小牧君。」
「あ…図書委員長…」
「今日はお友達も一緒か…まあいい。わかっていると思うが、CDの搬入が始まる。業者
 からの納入は明々後日だ。明後日には書庫の本の撤去を開始する。君がいくら書庫の重
 要性を訴えても、これは変わらない。」
「……」
「ちょ、ちょっとまって。書庫の本を撤去するって…ここの本をどうするのよ。」
 由真があたしと図書委員長の間に割ってはいる。
「ここにある本は廃棄する。……代わりに、生徒から要望の高いCDを入れることになっ
 ている。予算の関係で専用ラックではなくここにある本棚を利用して陳列を行うから本
 は邪魔なんだ。」
114恋愛同盟4話 書庫と郁乃と内緒話 前編 4/18:2007/08/10(金) 22:02:14 ID:o95MPceA0
「な…じゃあ、愛佳がずっと作業してきたこの本は捨てられちゃうってわけ?」
「このことはずっと前から検討されて、生徒会にも予算承認されたものだ。そもそも図書
 委員ではない小牧君がここの作業をしていること自体越権行為なんだ。それは小牧君自
 身が一番良くわかっているはずだよ。」
「……」
 由真が悔しそうに図書委員長をにらんでる。でも図書委員長の言うことは間違っていな
いから、言い返すことも出来なかった。

「…あの、一つ質問をよろしいでしょうか。」
 それまで黙って成り行きを見守っていた優季さんが手を上げて図書委員長に声を掛けた。
「…優季、質問って?」
「君は?」
「はい、2年の草壁優季と言います。あの…CDはどういう風に貸し出しを行うんでしょ
 うか?」
「…今のところ、カウンターに用意した目録から選んで担当の貸し出し係に申請、その後
 係が書庫から取り出して貸し出しすることになっている。」
「では、ここに生徒が入ってきて借りるということではないんですね?」
「そうだ」
「では、ジャケット正面を表に向けた陳列などではなく、普通にケースの背の部分を見せ
 て本棚に収納するんでしょうか?」
「多分そうなるが…それが何か?」
「いえ…それで、借りられるCDはどんなものがどのくらいなんでしょう?」
「予算との兼ね合いなどもあったが、最大限に入れられるように努力した…クラシック、
 環境音楽、英会話などで全部で約2000枚ほどだ。詳しいことが知りたければ、あと
 で図書委員に言って目録を見てくれたまえ。…他には?」
115恋愛同盟4話 書庫と郁乃と内緒話 前編 5/18:2007/08/10(金) 22:03:20 ID:o95MPceA0
「いえ、質問は以上です。ありがとうございました。」
 優季さんは怪訝な顔の図書委員長にいつもの笑顔を向けた。その笑顔にあてられたのか、
委員長は少しぼうっと見とれてたけど、こほんと一つ咳払いをして私のほうに向き直った。
「とにかく、明後日にはここは明け渡してもらう。よろしく頼むよ。」
 そう言って図書委員長は書庫から出て行った。

 あたしは、ついに来てしまった、という思いでその場で立ちすくんでいた。
「愛佳…」
「…たかあきくん…由真…優季さん…ごめんなさい。」
 そんな泣きそうな私の頭をたかあきくんが優しく撫でてくれる。
「愛佳…説明してくれるね?」
「…うん」

 それからあたしは今までの経緯をみんなに話した。
 書庫がなくなることはずっと前から言われていたことだ。でもあたしは書庫で作業を続
けた。それが周りの図書委員の人たちに書庫の存在意義を訴えることになると思って。
 そして、書庫を守ることが出来れば、郁乃がこの学校に入学してきたときの居場所を作
ってあげることが出来るという、私的な思惑も秘めながら。
 事実、あたしの思いを理解して支持してくれる図書委員もたくさん出来た。一方で自分
の私的な思いを知らずに支持してくれる人たちに申し訳ない思いにもなった。

 でも、新学期になって、図書委員長が半ば強引に推し進めてきたCD導入が正式に承認
されたことで、そんな私の行動も無駄なものになっていた。だから今やっているこの作業
はあたしの意地みたいなものだ。
116恋愛同盟4話 書庫と郁乃と内緒話 前編 6/18:2007/08/10(金) 22:04:16 ID:o95MPceA0

「愛佳の妹?」
 たかあきくんが初めて聞いたという顔であたしに聞いてきた。
「貴明さんは聞いてませんでしたか。私はこの間のパジャマパーティのときにお聞きしま
 した。なんでも、病気で小さい頃から何度も入退院を繰り返してらっしゃるとか。」
「あたしは何度か会ったことある。愛佳にそっくりなんだけど、性格は正反対ね。悪い子
 じゃないんだけど…ちょっとヒネてるっていうか。」
「…郁乃はひねくれてないよぉ…ちょっと素直じゃないだけだってば。」
「いや、それをひねくれてるって言うんじゃ…」
「でも、シスコンな所はそっくりか…最初にあったときはあたしに敵意むき出しだったん
 だけど、愛佳の親友って事に対する敵対心だって解ってからは可愛いものよ。」
「まあ、かわいらしい妹さんですね。」
「うん、ちょっと素直じゃないけど、時々甘えて来たりすると可愛くってぇ〜」
「わ…愛佳が溶ける…」
 あたしが郁乃のちょっと怒ったような顔を思い浮かべてはにゃーんとなってるのを見て、
たかあきくんは苦笑いを浮かべてた…うう、また恥ずかしいところ見せちゃった。

「あー…で、愛佳はその郁乃ちゃんのための居場所を作ってあげたかったと…そういえば
 愛佳もここのこと秘密基地って言ってたことあったな。」
 たかあきくんのその言葉で、あたしは初めてたかあきくんを書庫に招待した時の事を思
い出した。
「愛佳にとっても、ここは自分が安心できる居場所だったんじゃない?」
「…うん」
「……じゃ、守らなくっちゃな。」
「そうね…郁乃ちゃんが登校してきた時に、お姉ちゃんが守ったものを胸を張って見せら
 れるように。あたしたちも協力するわ。」
117恋愛同盟4話 書庫と郁乃と内緒話 前編 7/18:2007/08/10(金) 22:05:48 ID:o95MPceA0
「でも、どうすればいいんだ?正式に生徒会の承認を受けてるとすればとめるのは難しい
 ぞ…」
「多分、とめる必要はありませんよ。」
 たかあきくんが頭を捻っていた所で優季さんがそんなことを言った。
「優季、どういうことなの?」
「説明の前にもうすこし詳しく調べましょう。お話はその後で。」

                   −

 今日の作業を済ませてあたし達は下校した。

 優季さんのアイデアはあたしに書庫の存続の希望を抱かせるもので、ついつい作業に熱
が入ってしまって今はちょっとバテ気味。おまけに古い本を移動したりしたせいで埃まみ
れだし。
 でも今日は郁乃のお見舞いに行かなくちゃ。あのこも待ってると思うしぃ…

 そうだ…皆に郁乃のことも話したことだし、病院に案内して会って貰おうかな。
「ねえ皆、これから何か用事あるかな…」
「いや、特にこれといって無いけど。」
「私ももう少し遅くなっても大丈夫です。」
「あたしも大丈夫。何かわからないけど付き合うわよ。」
「うん…郁乃に会って欲しいなと思って。」

                   −
118恋愛同盟4話 書庫と郁乃と内緒話 前編 8/18:2007/08/10(金) 22:06:37 ID:o95MPceA0
 姉に男が出来るのは良い。姉だって健全な女なんだし、何時までも男嫌いって訳にも行
かないだろうし、男をとっかえひっかえするような魔性の女になるとかロクデナシに惚れ
るんでも無ければ反対する筋合いのものでもない。
 だけどよりによってそのロクデナシ−女たらしに惚れるとは…初心とはいえ、姉には男
を見る目を期待出来ないようだ。

 そいつはちょっと童顔だけど顔は悪くない。体格もまあ普通。性格も、姉と同じでお人
よしで、すこし話した限りでは悪くは無いが、こいつは天然の女たらしだ。
 しかも、最悪な事に姉以外にも2人も女の子を侍らせていた。

「あー、郁乃ちゃん。何でそんなににらんでるのかな。」
 そいつ−河野貴明と名乗る男は苦笑いを浮かべながらあたしをなだめにかかっている。
 姉は花瓶の花を換えに行っていて今はいない。
「決まってるじゃん。女の子3人も侍らせて喜んでるような男に愛佳は任せられないって
 思ってるのよ。」
 由真さんに読まれた…
「べつに喜んでるって訳じゃ…」
「なによ…じゃ、迷惑って訳?」
 由真さんがすねたような顔で言う。これがツンデレのデレってやつかしら。
「いや、そうじゃなく…」
 河野貴明はさらに困ったような顔でなんと答えようかと考えてる。

「本当に愛佳さんのことが好きなんですね。」
 今日はじめて会った草壁優季さんがあたしの顔を覗き込みながら言った。
119恋愛同盟4話 書庫と郁乃と内緒話 前編 9/18:2007/08/10(金) 22:10:30 ID:o95MPceA0
「そんなんじゃない。姉が誰と付き合おうとあたしには関係ないし。」
「でも、本当に関係ないことを気にしたりはしませんよね。」
 そういいながらにこっと笑う。この人の笑顔は本当にきれい。女のあたしでも見ほれて
しまう。それが男ならたぶんイチコロだろう。
 あたしはこの人が苦手だ。あたしがひねくれた受け答えをしても、この人の前では全て
見透かされている気がする。

「…で、うちの姉をたぶらかす河野貴明先輩。姉とどこまで進展してるのか知らないけど、
 説明してもらえるんでしょうね。」
「進展も何も…」
 河野貴明が説明に困っていると、由真さんが
「その件についてはあたしが説明するわ。もともとあたしが始めたことだし。」
 そう言って、その奇妙な3人と1人の関係について話し出した。

「つまり、にぶちんで天然スケコマシの河野先輩にやられたうちの姉と由真さんが正妻の
 座を賭けて勝負を挑んだと、まあそういうわけですか。」
「う…スケコマシって…そんなつもりないんだけどなぁ。」
 言い訳がましい河野貴明に由真さんがすかさず突っ込んだ。
「あんたは十分女ったらしだっつーの…にしても、正妻の座って…」
「正妻ですか…素敵な響きですね。私は望むところですけど。」
 そう言って草壁先輩は口に手を当てていたずらっぽく微笑んだ。

「それにしても、うちの姉もずいぶんと思い切ったことをしたもんね。一人の男を取り合
 って勝負を挑むなんて。」
 争いごとを苦手とするうちの姉の性格からして、そういう勝負を挑むとは予想外だった。
120恋愛同盟4話 書庫と郁乃と内緒話 前編 10/18:2007/08/10(金) 22:11:25 ID:o95MPceA0
 でも勝負を挑んでしまった以上は勝たなきゃ意味がないわけで、とりあえず戦況を分析
してみることにした。

 うちの姉は男が苦手とはいえ、妹のあたしから見ても男受けは悪くないはずだ。従順で
家庭的だし、顔も童顔のかわいい系でスタイルだって以外にいい。ちょっとドジだけど、
それだって巷ではいわゆる「萌え」のひとつとされるようなもので、度が過ぎなければプ
ラスの要素といえるだろうし。

 だがこの二人はそれに拮抗するか、それ以上だ。

 由真さんは姉とは正反対で快活さと…女の子に使う表現としてはあれだけど…気風のよ
さが売りだ。容姿だって十分美少女で通るし、スタイルは姉よりいい。気持ちのいい付き
合いがしたいなら由真さんはうちの姉よりもポイントが高い。

 そして草壁先輩…この人は手ごわい。
 長い黒髪が似合う日本的な美人。しかもスタイルは抜群。そして性格も穏やかで、話に
聞いた限りでは文武両道。まさしく才色兼備。

「ただいま郁乃〜自己紹介は終わった?」
「おかえりお姉ちゃん。いろいろ話は聞いたわ。このろくでなしを巡って正妻の座を賭け
 て戦うって話をね。」
「ロクデナシなんて言っちゃ駄目だよぉ…で、せいさいのざ?…って…正妻!」
 あ、姉が爆発した…
「せ、正妻って、あたしたちはまだ高校生で〜〜〜そういうのはまだ早いぃよぉ〜〜〜〜
 それにまだたかあきくんが選んでくれるかどうかも解らないし〜〜〜」
121恋愛同盟4話 書庫と郁乃と内緒話 前編 11/18:2007/08/10(金) 22:12:05 ID:o95MPceA0
 姉は真っ赤になったままで必死に言い訳してる。あまりに面白いのであたしはさらに油
を注いで見ることにした。
「なによ…恋愛同盟だっけ?そんなに4人仲いいなら花婿一人に花嫁3人で結婚しちゃえ
 ば?」
 あ、固まった。しかもさらに赤さが増した。と思ったらさっきの2倍増しぐらいで
暴れ始めた。
「い、い〜く〜の〜!そ、そんなのだめだよぉ〜〜〜〜〜そんな、そんなの……きゅぅ」
 あ、興奮しすぎて倒れた。
「愛佳!」
「うわ、興奮しすぎて鼻血でてる…この子何想像したのかしら…」
「冷やしたほうがよさそうですね。タオル濡らしてきます。」
 ちょっとやりすぎたかな……でも面白すぎる…。

                   −

 姉が介抱されて正気を取り戻したのを確認して、3人は帰っていった。
 今はあたしと姉の二人だけ。

「それにしても、由真さんに水を向けられたとはいえ、よく勝負をする気になんてなった
 ものね。」
「うん…あたしもね、ちょっと驚いてる。」
 でもそういう姉の顔には笑みすら浮かんでいて、おどおどしてあたしの顔色を伺ってい
るいつもの姉とは違っていた。

 物心ついたころからあたしは病院暮らしが長くて、親たちはあたしにかかりきりだった
から、姉は子供らしく親に甘えることさえ許されなかった。
122恋愛同盟4話 書庫と郁乃と内緒話 前編 12/18:2007/08/10(金) 22:12:39 ID:o95MPceA0

 姉は姉で、自分はおねえちゃんでいい子であらねばならないと思い込んで、自分で作り
上げた高い理想と自分を比べて否定する内罰的な性格になっていって、あたしと話してい
るときもいつもどこかこちらを伺うような感じになっていった。

 本当は、姉はあたしにとっても自慢できる優秀で素敵な姉なのに、だ。

 でもあたしは恥ずかしいから本人に素直にそれを伝えられない。あたしはへそ曲がりだ
から、
「でも、いいんじゃない?…おねえちゃんがあの二人に勝ってるとは思わないけど。」
 こんな風に言ってしまって、素直に応援できない。
「そうだよね…二人は素敵だと思う…」
 姉がしゅんとなって、気落ちした声でそんなことを言う。

 …あたしは、お姉ちゃんにこんな顔をさせたいんじゃない…だから、
「…でも負けてもいないと思う。お姉ちゃんにはお姉ちゃんのいいとこがあるんだから。
 …がんばりなさいよ。」
 ちょっとだけ素直になって、応援する。
「郁乃…」
 姉はあたしの顔を信じられない、という感じで見つめている。あたしはというと、ちょ
っと恥ずかしくなって、視線を姉からそらした。

 少しの間、そんな感じで姉はあたしの顔を見つめていたんだけど…
「い〜〜〜く〜〜〜の〜〜〜〜」
123恋愛同盟4話 書庫と郁乃と内緒話 前編 13/18:2007/08/10(金) 22:13:14 ID:o95MPceA0
 あたしに抱きついてきた。いつもなら文句のひとつも言って引き剥がすところだけど、
まあ、たまには良いかな…

                   −

 みんなに郁乃を紹介した次の日の放課後。
 あたしたちは書庫を残すために作業を続けた。
 あたしと懇意にしてくれている図書委員の子たちも何人か応援に来てくれて、作業はほ
とんど完了。後は明日を待つだけになった。

 そして、作業の後あたしとたかあきくんは郁乃の病院へと向かっていた。
 優季さんと由真は用事があるとかで今日は貴明君と二人だけで行くことになったのだ。
 なんか…二人っきりだと意識しちゃって…緊張しちゃうよぉ…
 黙って歩いているとなんか気まずいしぃ…せっかく二人っきりなんだから何か…
「え、えっと…今日はありがとう…」
「え?何のこと?」
「あたしの我侭に付き合ってくれて…書庫を残すために作業を手伝ってくれたから…」
「そのことか…俺一人じゃ何もできなかったよきっと。優季や由真も居てくれたから…そ
れに図書委員の子達だって手伝ってくれたし。」
「そうだね…あたし一人じゃ、書庫は守れなかった。」
「うーん…確かに愛佳一人じゃ、書庫は守れなかったかもしれない。でもね、」
「…でも?」
「愛佳がいつもみんなのために努力していたから、みんなが手を貸してくれたんじゃな
 い?」
「あたしが、みんなのために?」
124恋愛同盟4話 書庫と郁乃と内緒話 前編 14/18:2007/08/10(金) 22:13:50 ID:o95MPceA0
「そう…愛佳はいつも困っている誰かのために働いていたから、助けられた人間は愛佳が
 困っているときには協力しようって思ってくれるんだと思う。」

 あたしはただ自分が誰かに必要とされていると思い込みたくて、誰かが困っていたらそ
れを助けてきた。それは他人に対する奉仕なんかじゃなくて、自分の満足のためだ。

「作業を手伝ってくれた図書委員の子達だって、愛佳が助けてくれたから、今度は自分た
 ちが愛佳の助けになりたいって思ってくれたんだ。それって、得たいと思って簡単に得
 られることじゃないと思う。」

 でも、貴明君はそんな私の行動が、あたしにとってとても得がたい財産だといってくれ
たのだ。でも…

「あたしは、自分が誰かから必要とされていると思いたいからそうしていただけ…他人に
 対する思いやりなんかじゃないんだよ…」
「じゃあ、愛佳は後で見返りがあると思って他人を助けるの?」
「そうじゃないけど…」
「愛佳は、誰かが困っているのを見ると助けずには居られない。だから助ける。違う?」
「ううん…」
「それはやっぱり、愛佳の他人に対する思いやりなんだよ。」
 そう言ってたかあきくんはそっと頭をなでてくれた。たかあきくんの大きな手があたし
の髪をなでると、あたしの心が落ち着いていくのがわかる。

「愛佳はいい子だよ…それは愛佳がいい子で居ようとしたからじゃなくて、愛佳が他人を
 思いやるやさしい女の子だから…だから俺もそんな愛佳のことが好きになったんだ。」
125恋愛同盟4話 書庫と郁乃と内緒話 前編 15/18:2007/08/10(金) 22:14:26 ID:o95MPceA0
 そういってくれるたかあきくんの言葉が、あたしにはとてもうれしかった。

                   −

「で、何であんただけここに来たわけ?」
「今日はあんた呼ばわりか…とことん嫌われてるなぁ。愛佳は下の売店で買い物してから
 来るってさ。」

 昨日姉にはああはいったものの、この男を素直に認める気にはなってなかった。

「いい加減な男よね。3人の女の子に気を持たせるような事しといて…で、誰を選ぶのか、
 決めたわけ?」
「…いいや、まだだよ。約束は夏休みが終わるまでだからね。」
「それまではハーレムを堪能するって訳か。」
 あたしが鼻で笑いながらそういうと、あいつはひどくまじめな顔で、
「そうじゃない。3人とも真剣だから、俺はいい加減に答えを出しちゃいけないんだ。」
 そう答えた。それはすごく真剣で…ちょっとドキッとした。

「ふぅん…ずいぶんと真剣なのね。」
「俺は一度失敗してるからな…」
 自虐的にそう言うそいつの言葉にあたしは興味がわいた。
「昔女の子でも泣かしたってわけ?」
「ああ…幼馴染の女の子に告白されて…いい加減な返事で傷つけた。」
「その女の子はどうしたの?」
「その告白の次の日に転校してしばらくあってなかったんだけど…この間こっちに戻って
 きたよ。」
126恋愛同盟4話 書庫と郁乃と内緒話 前編 16/18:2007/08/10(金) 22:16:03 ID:o95MPceA0
「その人は…今でもあんたのことが好きなのかな。」
「うん…この間、改めて告白されたよ…俺には女の子の幼馴染が二人いるんだけど、その
 両方から。」
「その女の子たちは…振ったの?」
「ああ…今度はいい加減にしたくなかったから、はっきりと。」
「泣いた?」
「泣かれた…でも仕方ないよ。傷つけずにすむ方法はないんだ。なら、せめて小さい傷で
 済むようにしようと思った。」
「勝手なものね。」
「俺にとっては二人は家族のようなものだし、そのときにはもう愛佳たち3人の事があっ
 たから、二人のことは恋人としては受け入れられなかったんだ。」

 あたしは恋愛なんてした事がない。ほとんど人付き合いもないから告白されたことも無
くて、この男の気持ちを理解することはできなかった。

 でも、こいつが姉たちの気持ちに真剣にこたえようと思っていることだけは解った。

「…あんたに、うちの姉を選べとは言わないわ。でも泣かしたら許さないわよ。」
「それは難しいな…愛佳を選べなかったら、きっと泣かすことになる。」
「今から振るつもりって訳?」
「いや、そうじゃないけど…」
 こいつ…河野先輩は困った顔でなんと答えたら良いのか考えているみたい。

「まあ、そのときはあたしが慰めてやるわ。…歯型のひとつぐらいは覚悟してもらうけ
 ど。」
127恋愛同盟4話 書庫と郁乃と内緒話 前編 17/18:2007/08/10(金) 22:16:45 ID:o95MPceA0
「歯型?」
「姉の代わりにあたしが噛み付くから。」
「あー…そいつはカンベン。」
「でも、そうならないように姉にはあたしがいろいろ吹き込んでけしかけるから。姉はそ
 ういうところ気がまわらなそうだし。」
「色々って…何を?」
「そうね…手作りのお弁当とかから始まって、腕に抱きついて胸当ててみるとか、親の居
 ない自宅に連れ込んで誘惑とか…ああ、もうすぐ夏だし、大胆な水着ってのもありよ
 ね。」
「おいおい…程々にしてくれよ…」
「でも言えばやるかもよ。料理とかは得意だからお弁当はその気になれば簡単だし、ああ
 見えて耳年増なところあるからそっち方面だって興味津々のはずだし……ねえ、お姉
 ちゃん。」
 ドアがガタッと揺れた。本人はドアの向こうで隠れて聞いてるつもりなんだろうけど、
窓のガラスに人影見えてて解るってば。

「愛佳?」
「…あー…えへへへへ〜」
 ばつが悪そうに姉が入ってくる。
「どこから聞いてたの?」
「えっとぉ…郁乃が噛み付くって言うところから…ごめん。」
「聞いてたんなら早いわ。お姉ちゃん、こいつ誘惑したら?」
「え?…えええええ!」
128恋愛同盟4話 書庫と郁乃と内緒話 前編 18/18:2007/08/10(金) 22:17:22 ID:o95MPceA0
 耳年増なくせにこういうことを言うと姉はものすごい恥ずかしがり方をする。

 真っ赤になりながら手をぶんぶん振って、普段ののんびりしたしゃべり方とは打って変
わってものすごい勢いで喋り出した。
「む、無理無理無理無理むはぶっ……むりはよほぉ」
 あ、舌噛んだ。でもあたしは追い討ちをかける事にした。
「なんだ…その程度の色仕掛けもできないようじゃ、あの二人に勝つのは無理ね。」
 その言葉にばたばた暴れていた姉がはっとなって、そして河野先輩に振り向いて、
「た、たかあきくん…今日は遅くまで家に誰も居ないから…寄っていきませんか…なの
 よ。」
「いや、乗せられすぎだから、愛佳。」
 面白すぎる…お姉ちゃんごめん…姉いじりしばらくやめられそうにないわ…。
129物書き修行中:2007/08/10(金) 22:21:37 ID:o95MPceA0
というわけで前編でつ。
なげーよ(`・ω・´)ゞビシッ!! とセルフ突っ込み
後編も同じくらいあるんですよこれが。
おまけに図書委員長はかなり捏造だわ他にも色々捏造してる気がするわで
困ったもんです。

これから飯食うんで、そのまま寝たりしなけりゃ後編うpします。
130名無しさんだよもん:2007/08/10(金) 23:01:19 ID:zUFsdxMT0
優季:本妻
愛佳:愛人
由真:喧嘩友達

マイ スウィー ドリーム
131名無しさんだよもん:2007/08/10(金) 23:13:35 ID:NaPbkolN0
プラス
タマ姉:姉
このみ:妹

この二人も家族だし同居だろ
132物書き修行中:2007/08/10(金) 23:49:27 ID:o95MPceA0
つづきいきまつ
133恋愛同盟4話 書庫と郁乃と内緒話 前編 1/16:2007/08/10(金) 23:50:43 ID:o95MPceA0
 昨日は勇気を出してたかあきくんを家に誘ってみたのに、たかあきくんたら、郁乃に乗
せられてるだけだって言って断られちゃった。

 あたしは、たかあきくんが望んでくれるなら…
   :
 (妄想中)
   :
 (妄想中)
   :
 (妄想中)
   :
 はうっ。あ、あたしったら何考えてるのよぉ〜


    恋愛同盟 第4話  書庫と郁乃と内緒話 後編


「愛佳…一人で何にやけてるの…?」
 由真が怪訝な顔であたしを見てた。
「な、なんでもないです…なの。ちょっと図書委員長が来るのに備えてしゅ、シュミレー
 ションしてただけです…なのよ。」
 あたしは顔をばしばしと叩いてにやけた顔に渇を入れた。

「またなんかえろい想像してたのね…男の子苦手とか言ってるくせにほんと想像だけはた
 くましいんだから…」
134恋愛同盟4話 書庫と郁乃と内緒話 後編 2/16:2007/08/10(金) 23:51:48 ID:o95MPceA0
「あら、好きな人との未来を想像するのは女の子なら普通じゃありません?由真さんだっ
 て貴明さんとの逢瀬を想像したりしませんか?」
「そりゃ…ちょっとはそういうことも考えるけどさ…」
「いや、ここでいきなりピンク色の空間を展開するのはやめてくれないか?」
 たかあきくんがこめかみを押さえながら優季さんと由真を止めた。

 こんこん

 ノックの音。ここにくるのは当然あたしたち以外なら図書委員の誰か…今なら図書委員
長しか居ない。
「はい、どうぞ…」
 あたしはちょっとびくびくしながらも扉を開いた。
 案の定、そこに立っていたのは図書委員長で、その後ろには図書委員長派の数人の図書
委員も居た。

「さて、小牧君。予告どおりCD搬入のために書庫の整理を始めさせてもらうよ。」
「あ、あのぉ…そのことなんですけど…」
「何かね?図書委員でもない君たちにはわれわれを止める権利は無いよ。」
「いえ…もう収納スペースの確保はすんでいますけど…」
「何?」
 今までこれといった感情も見せなかった図書委員長に驚きの表情がうかび、彼はすばや
く書庫を見回し、そして元のように冷静な表情に戻って…でもその視線には怒りを込めて
あたしを見ました。
「何も変わっていないじゃないか。小牧君、君は正直な人間だと僕は思っていたんだが…
 嘘をついてまでここを守りたいのかね?」
135恋愛同盟4話 書庫と郁乃と内緒話 後編 4/16:2007/08/10(金) 23:52:34 ID:o95MPceA0
「う、嘘なんてついていません!」

 委員長の視線に怒りの色が浮かび、あたしは思わず後ずさってしまいました。
 そうしたら、すっとあたしの前にたかあきくんが入ってかばってくれた。

「愛佳をうそつき呼ばわりする前に、説明を聞いたらどうですか?」
「河野君だな?…よろしい。説明したまえ。」
「では、こちらへどうぞ。」

 あたしたちは先に立って書庫の奥へと入って、図書室側のドアの前へと委員長を案内し
ました。そして、そこでたかあきくんは振り返って棚を指し示しました。

「ここの棚は全て開いているな…」
「貸し出しで取出しが楽なように図書室側の一角の棚5つを全てあけました。これで足り
 るはずです。」
「な…馬鹿を言うな。2000枚にも及ぶCDがこれっぽっちで足りるはずが」
「いいえ。これだけあれば十分ですよ。」
 優季さんが委員長の言葉をさえぎってそう言いました。
 そう、優季さんがそのことに気がつかなければ、あたしは全てをあきらめて書庫を明け
渡していたのかもしれない…。
 あたしは3日前のことを思い返しました。

                   −

 優季さんの頼みで、あたしは知り合いの図書委員の子にCDの目録を見せてもらえるよ
うにお願いしました。優季さんは今それに目を通しています。
136恋愛同盟4話 書庫と郁乃と内緒話 後編 4/16:2007/08/10(金) 23:53:32 ID:o95MPceA0
 その間、私たちは図書委員の子達と話していました。

「小牧さん…私たち力になれなくて…ごめんなさい…」
「や、や、や、書庫のことは私が勝手にやってたことだからぁ…」
「でも、私たちが図書委員長の計画に反対できていれば…」
「それどういうこと?」

 横で話を聞いていた由真がそんな質問をはさんできた。それに図書委員の子達が答えた。

「今回のCD貸し出しの事は以前から生徒の希望としてはあがっていたんですけど…」
「一番の希望であるポップスや洋楽なんかだと予算を承認してもらえないので、何年も先
 送りされていたんです。でも今年の委員長はジャンルをクラシックや教養分野に絞って
 かなり強引に導入を進めたんです。」
「なんでも委員長は進学のために自分が委員長の任期のうちに実績を残したかったってい
 う噂で。そんな理由は許せないからあたし達は反対したんですけど、委員長は先生達や
 生徒会への根回しをしてて…」
「バーコードの導入なんかでは小牧さんには色々お世話になってましたから…力になれな
 かったのが悔しいです。ごめんなさい。」
 図書委員の子がホントに悔しそうな表情であたしに謝ってくる。
「…書庫のことは、あたしの我侭だから…あなた達がそんなに気にすることはないよ…」
「小牧さん…」

「目録ありがとうございます。参考になりました。」
 優季さんが目を通していた目録を図書委員に返した
137恋愛同盟4話 書庫と郁乃と内緒話 後編 5/16:2007/08/10(金) 23:54:12 ID:o95MPceA0
「優季…そろそろ教えてくれないかな。CD搬入を止めなくてもいいってどういう事?」
 優季さんの考えがわからないたかあきくんが答えを求めると、優季さんは質問で返して
きた。

「貴明さん、CDのケースのサイズを知ってますか?」
「ええっと…CDが直径12センチだから…14センチぐらい?」
「普通の1枚入ケースは大体14cmx12.5cmx1cmぐらいです。ですから、
 CDショップのようにケースの正面を向けて陳列せずにケースの背の部分、タイトル
 部分 が見えるようにきっちり並べるとすると1枚あたりの占有面積は横1センチ
 です。」
「それで?2000枚もあるんだから並べたら2000cmってことよね。そんな量の
 CDじゃ、ケースのサイズが小さくたってかなりの量じゃない。」
 由真が優季さんの考えがわからなくて口を尖らせて文句を言っている。
「愛佳さん、書庫にある本棚ですけど、棚の大きさと数は幾つですか?」
「えっと…確か大体180cmの5段棚が15個ぐらいだったと思うけど…」
「…ああ、なるほど。そういうことか。」
「え、ちょ、ちょっと貴明どういうこと?」

 たかあきくんは優季さんが何を考えてるか解ったみたい。あたしと由真はまだ解ってい
ない。

「さて、ここで問題です。約2000枚のCDを収納するのに幾つの本棚が必要でしょう
 か?」
 優季さんは人差し指をピッと立ててにっこり笑いながらクイズを出題してきました。
138恋愛同盟4話 書庫と郁乃と内緒話 後編 6/16:2007/08/10(金) 23:54:59 ID:o95MPceA0
「えっとぉ…ケースの幅は1cmだから棚1段に180枚で、5段だから…900枚!」
「ってことは、たったの棚2つちょっと?!」
 あたしと由真はその意外な結果に驚いた。
「そういうこと。2000枚って言う数字でものすごい量だと思いがちだけど、実はたっ
 たそれだけなんだよ。」
「勿論、これは計算上の数字ですし、英語教材のCDなんかはDVDと同じトールケース
 に入ってますけど、それでも書庫の棚の1/3もあれば追加を考慮しても十分です。」
「棚5つ空ければいいんなら、本棚をつめて、痛みのひどい本から廃棄に回せば書庫は残
 せるよ。」

 あたしはいつの間にか、胸が苦しくなって、目に涙が浮かんできていました。
「優季さん…たかあきくん…書庫を残せるの?」
「残せるよ。皆で力をあわせれば。」
「そうと決まれば、さっさとはじめましょ。結構重労働だから皆で頑張らないと。」
 由真のその言葉に、さっきまでしゅんとなっていた図書委員の子たちも、
「小牧さん!私たちも手伝う!」
「本の整理なら私たちに任せて!」
「…ありがとう…ほんとにありがとぉ。」

 最近すっかり涙腺が弱くなっちゃったみたい。涙がこぼれてきて止まらないよぉ…

                   −

「ですから、ここにある棚5つで十分足りますよ。」
139恋愛同盟4話 書庫と郁乃と内緒話 後編 7/16:2007/08/10(金) 23:55:53 ID:o95MPceA0
 優季さんが説明の上でそう念押しすると、委員長は言葉を失ってしまった。
 それでも、委員長は何か反論しようとして、
「し、しかし」
「あ〜、勝負はついたんでないの?相変わらず諦めが悪いな〜」
「…げっ、生徒会長」
「あちしは元・生徒会長だ。生徒会長はこっちのさーりゃんだぞ。」
「まーりゃん先輩…そう思うなら生徒会運営に口を出すのはそろそろやめてください…」
 そこにはこの3月に卒業したはずの元・生徒会長の朝霧先輩と現・生徒会長の久寿川先
 輩が立っていた。
「なにやら面白そうなことになってるとかいうんで見に来てみたんだけど、いや〜、チミ
 も進歩が無いな。策略は理屈だけじゃ成功しないんだぜ〜。」
「う、うるさい!」

「…あの…愛佳さん。あちらのお二人は?」
 ああ、転校生の優季さんはしらないんだっけ…
「えっと…あの小さい方が去年の生徒会長の朝霧先輩で、もう一人の方が今の生徒会長の
 久寿川先輩。」
「聞こえたぞ〜」
「へ…わひ!せ、先輩!」
 いつの間にか朝霧先輩があたしのそばまで来ていてビックリした。
「あちしのことはまーりゃんと呼んでくれたまへ。…それはそうと、まーの胸が小さいだ
 とぉ〜!生意気なことを言うのはこの胸かこの胸かくぬくぬ…ううう、意外に大きいで
 はないか。」
「うひゃぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜そ、そんなこと言ってません〜〜〜〜〜」
 まーりゃん先輩にあたしは胸をもみしだかれてすごい状態になってる!
140恋愛同盟4話 書庫と郁乃と内緒話 後編 8/16:2007/08/10(金) 23:56:53 ID:o95MPceA0
「や、や〜〜〜め〜〜〜て〜〜〜」
「ぼ、僕を無視して話を脱線させてるんじゃない!」
「ちぇ…冗談の通じないやつだの。これだから秀才は嫌いなんだ。」
 まーりゃん先輩はあたしの胸から手を離して委員長の方に向き直りました。

「ううう…あたしの胸がぁ…もうお嫁にいけないぃ…」
「いや、女の先輩に揉まれたんだから、ノーカウントだと思うけど。」
 由真があたしを慰めてくれたけど…ううう…たかあきくんもさっきの光景を見て呆然と
してるし…

「さて、図書委員長君。この子達はキチンとCDの受け入れ態勢を整えてくれたわけだ。
 君の投げたボールをきっちり打ち返した以上、この勝負は君の負けだとあちしは思う訳
 だけど。」
「し、しかし、この書庫は図書委員が管理すべきもので」
「あー、言い訳しても駄目。結局君は支持を得られなかった。方やここにいるまなりゃん
 は先生や大勢の図書委員たちから長い時間をかけて信頼を勝ち取った上でこの書庫を任
 されてたんだから。理屈だけじゃ人心は掌握できないよん。」
「まーりゃん先輩は生徒の評判のために色々やりすぎです。おかげで今年は予算繰りが大
 変なんです。」
「う〜さーりゃんが冷たいよ〜。後でいい事してあげるから機嫌直して〜」
「いりません」
 久寿川先輩がぴしゃりとまーりゃん先輩を黙らせた。胸を押さえて赤くなってるってこ
とは…さっきみたいなことしょっちゅうやられてるのかなぁ…

「そ、そうだ。そもそも、2000枚しか購入できなかったのは予算が認められなかった
 からで、生徒会予算の影響を」
141恋愛同盟4話 書庫と郁乃と内緒話 後編 9/16:2007/08/10(金) 23:57:27 ID:o95MPceA0
「いいえ…書籍購入の予算は機材購入予算から拠出されますから生徒会予算とは別ですし、
 今回のCD導入には最大限の便宜を図っていますから、今回の購入タイトル数は妥当な
 ものです。そもそも今回の導入でさえ約400万円もの予算が使われています。今期の
 構内の機材購入の予算としては破格といっていい金額ですよ?…それに貸し出し実績が
 ほとんど無いとはいえ、書庫の蔵書はこの学園の貴重な財産です。廃棄は極力少なく済
 ますべきですから、小牧さんたちの行動は私も妥当だと考えます。」
 反論しようとした委員長の言葉を久寿川先輩がさえぎって、一気にまくし立てた。いつ
も生徒会で見る…一般生徒の間で「副長」と渾名される先輩の姿だ。

 言葉に詰まった委員長はやがて肩を落とした。
「…わかった。今回は君たちの勝ちだ。」
「…いや、勝ちとか負けとか言うことじゃないでしょう?」
 負けを認めようとした委員長にたかあきくんがそう問いかけた。
「先輩は図書委員長としてこの書庫を活用しようとした。そして俺たちはこの書庫を守り
 たいから解決策を考えただけです。」
「……そうだな。君たちの出した答えのほうがより正しかった。皆が幸せになれる答え
 だ。」
 そう言って委員長は入ってきたドアに向かって歩き出した。
「失礼するよ…ああ、小牧君。」
「は、はい。」
「これからも、書庫は君に任せる。頼んだよ。」
「…はい。」
 そう言って図書委員長は書庫を出て行った。
142恋愛同盟4話 書庫と郁乃と内緒話 後編 10/16:2007/08/10(金) 23:58:12 ID:o95MPceA0
「んっふっふっふっ…ぬしらなかなかやるではないか。褒めて遣わすぞ。」
 時代懸かった言葉遣いでまーりゃん先輩があたしたちを褒めたかと思うと、気になる一
言を残して久寿川先輩と一緒に帰っていった。
「さて、さーりゃん、あたしたちも帰るよ。…なかなかいい人材も見つかったことだし
 ね。」

                   −

「みんなありがとう…書庫を残せたよ。」
 玄関から校門へと向かう途中で、あたしは3人に頭を下げた。
「頭を下げる必要はないよ。愛佳のために…それに将来ここに通うことになる郁乃ちゃん
 のために何かしたかっただけなんだから。」
「そうそう。それに、あたしたちは親友でしょ。困ったときは助ける。それが友達だ
 し。」
「そうですよ、愛佳さん。私たちは私たちがしたいようにしただけですから。」
「で、でもぉ…」
「あ、愛佳…これから暇だよね?」
 いつの間にか校門出ていて、貴明君はあたしの予定を聞いてきた。
 今日も両親は遅いし、郁乃には見舞いに来ないように言われたから予定は何にも無い。
 はっ、も、もしかして…
「え、えっと…きょ、今日も両親は居ません…なの。だから、家によっていきませんか…
 なの。」
「いや、そうじゃないから…ワンパターンだし。」
「愛佳…言っとくけどあんたからたかあきにキス以上のことしたら協定違反よ。」
「はぅっ…そうだった…。」
143恋愛同盟4話 書庫と郁乃と内緒話 後編 11/16:2007/08/10(金) 23:58:53 ID:o95MPceA0
「する気満々だったのね…結構油断ならないわ…」
「…とにかく、予定は無いんだね。じゃ、俺に付き合って。」

 たかあきくんがあたしに向かって手を差し出してきた。あたしは無意識にその手をとっ
 て、つないだ。いつもだったら男の子の手をとるなんて緊張してしまうけど、でも今日
 はそんなこと無くて、なんだかうれしい。
「じゃ、いこうか。」
「それじゃ、愛佳さん。」
「じゃあね、愛佳……またあとでね。」
「由真さん!」
「あ、優季ごめんごめん。」
 そう言いながら二人は交差点で私たちとわかれた。
 でも、またあとでって…由真とは会う約束してないはずだけど?

 あたしとたかあきくんは駅前までやってきた。
「ねえ、どこに行くの?」
「2人で映画でも見ようかと思って。愛佳、先週の土曜日は本当は17歳の誕生日だった
 んだろ?由真に聞いたよ。」
「へ…あ、うん。そういえば…」
「自分の誕生日忘れてたの?」
「うん…いつも両親は忙しいから誕生日当日にお祝いしてもらったことってあまりないし
 …たいていそういうのはその次の日曜とかの都合のいい日だったりするし。誕生日当日
 に何かしてくれるのって郁乃か由真ぐらいじゃないかな。それに先週末は色々あった
 し…」
「あー…ごめん。」
144恋愛同盟4話 書庫と郁乃と内緒話 後編 12/16:2007/08/10(金) 23:59:28 ID:o95MPceA0
「や、や、や、たかあきくんを責めてる訳じゃなくってぇ。」
 あわててたかあきくんにフォローを入れる。気に病んでほしくて言ったわけじゃないし。
「まあ、とにかく、愛佳の誕生日になにかお祝いをしたかったんだ。だから今日は俺のお
 ごりでミニデートってことで。」
「うん…ありがとぉ…うれしいよぉ…」
「わ、愛佳、泣くのはまだ早いって。」

 その後あたしたちは映画を見たり、アイスの食べさせあいっこ(このみちゃんがよくた
かあきくんとやっていたというのを聞いてやってみたかったの)したりして、日が落ちる
まで一緒にすごしました。
「たかあきくん。今日は本当にありがとう。」
「愛佳が楽しかったなら、俺はうれしいな。」
「うん、とっても…楽しかった…」
 ほんとうに、夢みたいな時間。このまま、時間がとまっちゃえばいいのに…あっ。
「うひゃっ」
「うわっ」
 デートを思い返してうっとりしながら歩いてたら、つまずいて転びそうになった。
 たかあきくんはそのあたしを抱きとめてくれて、で、あたしは…その…たかあきくんに
しっかりと抱きついているわけで…

 あたしはたかあきくんの胸に埋めていた顔を上げた。たかあきくんの顔がものすごく近
くて、たかあきくんの吐息が感じられる距離。周りには誰も居なくて。
 もう少しだけ近づけば彼の唇に触れることができるけど、それは協定違反で、それ以前
にあたしにはそんな勇気は無くて。
145恋愛同盟4話 書庫と郁乃と内緒話 後編 13/16:2007/08/11(土) 00:00:09 ID:2XNJvwYn0
 でも、それは貴明君も同じだったみたいで、しばらく二人で抱き合ったままで固まって
いた。
 でもいつまでもそうしているわけには行かないから、あたしは離れようとしたの。
 そうしたら…

 ちゅっ

 たかあきくんの唇が、あたしの唇に一度だけそっと触れて、そして離れていた。

 あたしはしばらく呆然としたままでたかあきくんを見ていた。
 たかあきくんはあたしから視線をそらしたままで、顔を真っ赤にしていた。

 しばらくすると、あたしの心臓がドキドキ言い出して、でもそれは不快じゃなくって、
その鼓動に乗せて全身にとても気持ちのいい何かが駆け巡っていくような気がした。

「たかあきくん…」
「えっと…その…ごめん。愛佳がすごくかわいくて…つい…」
「…あやまらないでぇ…あたしは、うれしいよ?」
 そっとたかあきくんの左腕に自分の右腕を絡めて抱きついた。
「まだ、帰りたくないなぁ…」
「えっと…もう1箇所だけ、行きたい場所があるんだけど、いい?」
「…うん、どこへでも連れて行って。」

 たかあきくんはあたしを連れて歩き出した。
 駅前からはどんどん離れて、住宅街の中に入ってきた。
146恋愛同盟4話 書庫と郁乃と内緒話 後編 14/16:2007/08/11(土) 00:00:43 ID:o95MPceA0

「到着。」
「え、ここ?ここって…」
「そ、俺の家。」
 来たのは初めてだけど、「河野」の表札がかかっていたから、たかあきくんの家だとい
うのはすぐに解った。

 え、えっと、キスから一気に…その先まで!
 えええ、わ、私たちまだ高校生だし、そんなの早いよぉ〜〜〜
 それに、由真と優季さんの事もあるし…
 で、でもたかあきくんがその気なら…あ、あたしだって…
「あ、あたしもがんばるよ!」
「…よくわかんないけど…まぁ、入って。」

 あたしはたかあきくんのお家へと一歩踏み込みました。
 中は暗くて、誰も居ないのがわかりました。
「えっと、ご両親は?」
「ん〜、ずっと海外出張だから居ないよ。ここしばらく一人暮らし。さ、あがって。」
 そう言いながらたかあきくんは電気をつけながら奥へと入っていきます。
 そして、玄関から近いドアのひとつを開けて…たぶんリビングだと思うけど…暗い部屋
へと入っていきました。
 あたしも靴を脱いで玄関を上がると、恐る恐る進みながらその開いたドアの中へと足を
踏み入れました。

 そして、リビングに足を踏み入れたそのとき。
147恋愛同盟4話 書庫と郁乃と内緒話 後編 15/16:2007/08/11(土) 00:01:29 ID:o95MPceA0
 ぱっと、突然電気がついて目がくらむと同時に、パンパンパンという何かが破裂する音。
 そして
「「「「愛佳!お誕生日おめでとう」」」」
 そんな言葉がかけられました。
 そこには、たかあきくん、由真、優季さん、そして車椅子に乗った郁乃がクラッカーを
手にしてたっていました。

「み、みんな、なんでここに居るのぉ!それに郁乃まで!」
「実は何日か前からこっそり準備してたのよね。あたしが足を生かして物資調達係で、優
 季は調理担当。たかあきは愛佳の目をそらす係かな。」
「昨日から用意して、ケーキも焼かせてもらいました。」
「あたしはこの間由真さんたちがお見舞いに来たときに打ち明けられて、こっそり外出許
 可をもらったのよ。お姉ちゃんを驚かすためにね。」

 テーブルの上には色々なお料理と、そして優季さんが焼いてくれた大きなケーキが並ん
でいた。白いケーキの上には17本の蝋燭と、そしてHappy Birthday Manakaの文字が並
んでいる。

「みんな…あたしのために…」
 涙が止まらない。涙で前が見えなくて、でもそれはとてもうれしくて…今迄で一番うれ
しい誕生日。

「さあ、愛佳。蝋燭に火をつけるから。」
「…うん。」
 あたしは促されて席に着くと、涙を拭いてケーキの蝋燭に日が灯されるのを見守った。
148恋愛同盟4話 書庫と郁乃と内緒話 後編 16/16:2007/08/11(土) 00:02:02 ID:2XNJvwYn0
 やがて蝋燭を灯し終わると部屋の電気が再び消された。蝋燭の明かりに浮かび上がるみ
んなの笑顔がとてもいとおしいと思った。
 みんなの期待のまなざしに見守られながら、あたしは大きく息を吸い込んで、そして蝋
燭に吹きかけた。

 今日は楽しいお誕生会。
 小さなころ口ずさんで叶えられなかった、そんなフレーズを思い出した。
 きっと今日は一生忘れられないくらい、楽しくなる。そんな気がした。
149恋愛同盟4話 書庫と郁乃と内緒話 後編 16/16:2007/08/11(土) 00:04:59 ID:o95MPceA0
やっとうp完了。後編の一番最初タイトル間違えたyo orz

まーりゃん先輩出してみたけど以外にむずい。特徴ありまくりのようで言葉遣いは意外と特徴が無い。トータルの雰囲気で書かなきゃいかんのね。
学食の中の人、素直に尊敬します。

ちなみに当初のアイデアでは目録を見に生徒会室に行って、そこで交換条件を出されて目録見せてもらうことにしようかと考えたのですが、どう考えてもさらに文が伸びるんで
やめました。

一応補足しておくと、貴明が病院に担ぎ込まれたのが金曜深夜(というか土曜明け方?)
なので、そこから4日入院(1話参照)して火曜日に登校(金土日月と入院したという
こと)、そこで優季と再開して愛佳と由真ぼろ泣き、その後土曜日に二人が勝負を申し
込みますが、この日がゲーム中のカレンダーで5/1なので愛佳の誕生日だったという
ことです。
4話では大体この次の週の週後半あたりの話という想定で書いています。
(ゲーム中でも図書委員長が出てくるのはこのあたりだし。)

また、書庫は20〜30畳部屋ぐらいとゲームのCGから想像して、そこに置けそうな棚
の数を大体想像して15個ぐらいとしました。
150物書き修行中:2007/08/11(土) 00:19:17 ID:2XNJvwYn0
うは。あとがきタイトル直すの忘れてた。

最後のは本文じゃないので、よろしくおながいしまつ>書庫管理人様
151名無しさんだよもん:2007/08/11(土) 15:23:29 ID:qoElmMwN0
>150
乙。このまま愛佳が勝利してしまうのか? 他キャラの巻き返しがあるのか? ってか貴明うらやましすぎ。
まーりゃんは「〜なのだ」とかそんな感じの言葉遣いな気が。「じゃよ」とかいう語尾のイメージもあるんだが見あたらなかったな
152名無しさんだよもん:2007/08/11(土) 16:59:38 ID:AhbmOMbK0
ここまで来ると誰か一人を選ぶより
タマ姉、このみの告白を早々に持ち込まないで
最後は皆に告白されてエンドが簡単だったな
てか、優季エンドなのに他キャラだと可愛そうかと
153名無しさんだよもん:2007/08/11(土) 22:30:38 ID:jMi3KLZf0
>151
まーりゃんだったらどんな口調でも違和感ない俺は変か?
似非関西弁でもずーずー弁でも爺さん口調すらも使いこなしそうな気がする。
154名無しさんだよもん:2007/08/11(土) 23:50:26 ID:iDkFaYfB0
>>152
優季エンドはある意味反則的な話だし、本人も認めてるので良いのではないかと。
流石にこれをキャラスレに貼ったりしたら顰蹙買うかもしれんが。
155小さな勇気、頑張れ女の子1/9:2007/08/12(日) 10:39:37 ID:JVt5JcyN0
 代わり映えのない地面を飾る色鮮やかな桜色。登校路の途中にある川沿いの道は、春の
終わりの訪れを華やかに告げている。
 朝の少しだけ早い時間帯。その道を1人の少女が歩いている。その姿勢は俯き加減で、
快晴の空の下にいるとは思えないような雰囲気を漂わせている。
 彼女の瞳には目の前の光景が映っていない。頭の中をグルグルと、彼女を暗鬱にさせる
出来事が回っているからだ。
 それは先日、少女がある少年の家に泊まりに行った時の話だ。
156小さな勇気、頑張れ女の子2/9:2007/08/12(日) 10:40:19 ID:JVt5JcyN0
「おかえりなさい、タカくん」
 キッチンにいる少女が少年に呼びかけ、リビングに入った少年が少女に応えた。
「ただいま、このみ」
 少女は柚原このみ、少年は河野貴明。2人はお隣さんで、幼馴染で、そして……。
「今、カレー作ってたんだー。後もう少しで出来上がるからちょっと待っててね」
 このみは真剣な目つきで鍋を見つめながら、貴明に話しかけた。
「ああ、悪いな。でも、前もカレーじゃなかったっけ?」
 このみの両親は定期的に出張に行くのだが、その際に娘を貴明の家に預けることが恒例
となっているのだ。
「前は失敗したから、リベンジだよ。今度こそ必殺カレーにするんだから」
 あどけない話し方とは裏腹に、強い口調で言った。
「おばさんの特別な料理だっけ。前のも十分においしかったんだけどな」
 対して、貴明は普段と変わらない、いつもの調子だった。
「今度はお母さんにコツを教えてもらって、練習もしたんだから。前のよりもずっとおい
しくなってるはずだよ」
 このみは今回の必殺カレーに幾ばくかの自信を持っていた。そして同時に、自分でもわ
からないある種の不安も抱いていた。
 調理が終わり、テーブルに盛り付けられたカレーライスが並んだ。ご飯の上にたっぷり
とかかった湯気の立つルー。やや不恰好ながらも切り揃えられた具材。カレーから放たれ
る香ばしい匂いが食欲を刺激した。
「いただきます」
「はい、召し上がれ」
 貴明が目の前にあるカレーを一口含んだ。このみはその様子を緊張した面持ちで見てい
た。
「……んまい。いけるよこれ。確かに前のよりも美味しくなってる」
 このみの顔がパッと輝き、そこに満面の笑顔を浮かべた。
「おかわりあるよな?」
「う、うん。あるよ、食べて、食べて」
 貴明が夢中になって、このみの作ったカレーを食べていた。
 このみはそんな貴明をただ見つめていた。
157小さな勇気、頑張れ女の子3/9:2007/08/12(日) 10:40:54 ID:JVt5JcyN0
「ごちそうさま、おいしかったよ」
「お粗末さまでした」
 弾んだ声だった。このみは不安を取り除かれ、頗る上機嫌になっていた。自信は確信に
変わり、前に一歩踏み出すための小さな勇気を持てた。
「タカくん、このみのカレーどうだった?」
「ん、だから、おいしかったよ。このみが作ったとは思えないくらいに」
「んもう、酷いよ。せっかく一生懸命に作ったのに」
「ごめん、ごめん。でも、本当に美味かったよ」
 貴明がいつものように冗談交じりに答えた。
 一瞬の間。このみはスッと息を吸った。
「じゃあさ、このみ、素敵なお嫁さんになれるかな?」
「ん〜そうだな、このレベルを作れるなら、今すぐにでもなれるんじゃないか」
「タカくんの、お嫁さんになれるかな?」
「え……」
 貴明が初めて見せた動揺。
 このみはやや恥ずかしさを覚えながらも、正面から貴明の目を見据えた。
「このみ……」
 貴明はこのみの真剣さを感じ取り困った様子だったが、何か覚悟を決めたのか、同じよ
うに真剣な顔で答えた。
「それは、無理なんだ」
 このみは反応しなかった。いや、できなかった。
「無理なんだよ、このみ」
「……どうして?」
 このみは絞るような声で、かろうじてそれだけを訊いた。
「黙ってて悪かった。実は今、付き合ってる子がいるんだ。真剣に交際しているんだ。だ
から、このみの気持ちには応えられない」
 真っ暗になった。このみは一瞬ブラックアウトした。涙は出なかった。何も出すものは
なかったから。心はがらんどうで、このみはただその場に立ち尽くしていただけだった。
158小さな勇気、頑張れ女の子4/9:2007/08/12(日) 10:41:25 ID:JVt5JcyN0
 ボスッ。突然、このみは何かにぶつかった。
「なーにボケッとしてんだよ」
 やや背の高い制服の少年がこのみの目の前にいる。
「ユウくん……」
 少年は向坂雄二。このみ、貴明、雄二の3人は幼馴染で、でも雄二はこのみと貴明ほど
の仲ではない。
「ん、なんかあったのか? それに今日は貴明と一緒じゃねーのか?」
「うん、タカくんとはちょっと……」
「……ははぁーん。そうか、貴明が女作ったこと知っちまったのか」
 そんなことを言った雄二の表情も少し寂しげでいる。
「そっか。ユウくんは知ってたんだね」
 このみは貴明に言われるより先に教えて欲しいと思った。
「そんな顔すんなよ。自発的に知った方が、決着をつけられるだろ?」
「決着?」
「そうだ。簡単には心の整理はつけられないかもしれない。けど、もやもやを残したまま
ではもっとつかなくなるからな」
「わかんない。わたしにはわからないよ」
 登校路を2人の男女が歩く。このみと貴明。それがいつもの風景だった。今はこのみと
雄二。このみはそこに違和感を覚えていたが、そんな些細な違いは学校へ近づくにつれて
薄れていく。桜並木を超え、多くの学生が通る学園前の坂に差し掛かったあたりで、ふと
このみは雄二に尋ねてみる。
「ねぇ、どうして、ユウくんがこんな時間にいるの? わたし今日は早く出たつもりだっ
たんだけど」
 雄二はそんなこのみの様子を見て、軽く笑みを顔に浮かべた。
「え、なになに? わたし何かおかしなこと言った?」
 雄二は、何でもねーよと言いながら、早い時間帯での登校の理由を告げる。
「日直なんだよ、今日は」
159小さな勇気、頑張れ女の子5/9:2007/08/12(日) 10:41:57 ID:JVt5JcyN0
 昼休み。このみは学園の渡り廊下を歩いている。学食へ行くためだ。
 このみは貴明に会わないように、なるべく行動を控えめにしていたが、空腹には勝てな
かった。仕方がなく、みんなと少し時間をずらして学食へ行くことにしたのだ。
 昼休み。貴明と雄二は学園の渡り廊下を歩いている。教室へ戻るためだ。
 貴明はこのみのことを少なからず気にはしていたが、無理に会う必要もないと普段通り
に過ごしていた。雄二も特に言及するようなことはしなかった。
 3人は渡り廊下の半ばでかち合う。
「このみ?」
「タ、タカくん!?」
 一瞬、目が合った。しかし、その後の動きは対照的だった。貴明はこのみの眼を見つめ
たままで、このみはすぐに貴明の足元に視線を逸らす。
「おい、俺は無視かよ」
「あ、ごめん。ユウくん」
 このみはハッと顔を上げ、雄二の方へ視線を移して詫びた。自然と隣にいる貴明の姿も
映り、このみはそちらに目を向ける。
「このみ、こないだは、その、ごめんな」
 貴明が神妙な表情で語りかけた。
「う、ううん。もう気にしてないから」
 このみはぎこちない笑顔で、貴明を安心させようとした。
「ホント、ごめん」
「大丈夫だって。わたしの方こそごめ……」
「貴明ー」
 このみの遠く後ろから会話を遮るような女の子の声が聞こえた。少しずつ近づく駆け足
のような足音も聞こえる。
 貴明が一瞬躊躇した後、音のした方を見て軽く手を振る。そして、罰の悪そうな表情で
このみを見て、雄二を見る。
「……雄二、悪い」
 雄二は若干不機嫌な顔で頷く。
「わーってるよ。行くぞ、このみ」
「え、え、う、うん」
 このみは後ろの女の子が誰だか気になったが、この場に残れる覚悟も、後ろを振り返る
勇気もなく、足取り弱く雄二の後を付いて行くことしかできない。
160小さな勇気、頑張れ女の子6/9:2007/08/12(日) 10:42:34 ID:SC5cJvRm0
「たかあ……。今度なー……ちゃんが、カレー作ってくれる……」
「……楽しみ……」
 このみの後ろから断片的に貴明と女の子の会話が聞こえる。
「タカくんがわたしの知らない女の子にカレーを作ってもらう……」
「必殺カレー……」
 その呟きは雄二にも聞こえないくらいに小さく、風に溶けるように消えていった。
 確かな実感。このみは自分の隣に貴明がもう立ってくれないことを悟った。
 雄二はそのまま学食へ戻る。このみも黙ってそれに付いて行く。
「まだ食べてないんだろ? なんか頼めよ」
 それでこのみは改めて自分が空腹なことに気がつく。
「そうだね、そうするね」
 昼休みも残り10分で、学食はところどころ席が空いている。このみと雄二は周りに誰
もいない端っこの席に座ることにした。このみはカレーライスを頼んだ。
「決着、ついたよ」
 このみが食事の途中で零した。その表情は硬い。
「……ああ」
 雄二は相槌を打ち、続きを促す。
「タカくんに言われて、さっきの女の子の話を聞いて、わかっちゃったんだ。今まで同じ
道を歩いていたのに、タカくんは私とは違う道を行き始めたんだね。だから、私は今独り
になっちゃったんだよ」
 寂しげな表情を浮かべ、それでもまた食事を再開する。
「俺もこのみと同じなんだよ」
 このみがちょっと急ぎ目で食べ始めた直後に、突然雄二が切り出した。
「……何が?」
 このみは食べたものをしっかり飲み込んでから聞き返す。何のことかわからないといっ
た表情だ。
「貴明が女作ったことだよ。実は俺もアプローチしようとしてたんだけどな」
 それでこのみは理解する。あの後ろの女の子は雄二の好きな人でもあったんだと。
「そうなんだ、ユウくんも一緒なんだ」
「ああ。だから、このみの抱いている辛さの半分くらいは受け持ってやれっぞ」
 雄二が頭を掻き、このみから少し視線を外しながら言う。柄じゃないといった風だ。
「う、うん。ありがとう」
161小さな勇気、頑張れ女の子7/9:2007/08/12(日) 10:43:06 ID:SC5cJvRm0
 その優しさはこのみの身体にゆっくりと染み込んでいく。傷ついた心は本能的に癒しを
求めていた。乾いた心は本能的に愛情を欲していた。
「優しいんだね、ユウくんは」
 このみがトレイに視線を落としながらポロッと感想を漏らした。
 すると雄二はやや乱暴に席を立ってこのみを促す。
「ほら、もういいだろ。昼休みも終わるし、行くぞ」
 言うやいなや、すぐに立ち去ろうとする。
「あ、待ってよー」
 このみはトレイを持って、早歩きで片付けに行く。
「……ユウくんのことは、あまり見てなかったな」
 このみが出入り口のところまで急いで行くと、雄二は落ち着いた様子でそこに待ってい
た。
「じゃ、行くか」
「うん」
 窓から昼下がりの太陽の光が燦燦とふりそそいでいる。
 このみの隣には雄二がいて、そこに空白はなかった。
「今日は良い天気だね」
 このみが眩しそうに目を細めながら言った。
「あん? 朝からそうだったろ」
 今更何をといった感じで雄二が返した。
「そうだったかもね」 
162小さな勇気、頑張れ女の子8/9:2007/08/12(日) 10:43:38 ID:SC5cJvRm0
 季節は移り代わり初夏の陽気な太陽が、代わり映えのない地面を照りつけている。登校
路の途中にある川沿いの道の雑草は、夏の始まりの訪れにその背丈をグンと伸ばしていた。
 朝の少しだけ遅い時間帯。その道を1人の少女が歩いている。まるでその日の天気のよ
うに元気のある姿で。
 彼女の瞳には、目の前を行く1人の少年の姿が映っている。そして、彼女は太陽の光に
後押しされるように駆け出した。
「おはよー、ユウくん」
 ドンと背中から抱きつく。
「ぅお! ったく、このチビ助が、朝っぱらから」
「チビ助じゃなくて、このみだよ」
 このみはそのまま、チョークスリーパーをかける。
「うおおおぉ、ギブギブギブギブ。このみ、止めろ、止めろー」
「はい、やめた」
「ちっ、姉貴が2人になった気分だ」
 雄二はこのみの手を解き、自分から降ろさせる。
「ユウくん、もう時間ないし急ごうよ」
「おめーが邪魔したんだろうが」
「ん? 何の話?」
 このみは笑顔を浮かべ、楽しそうに歩みを速めた。その内、元気を抑えきれないのか、
勢いよく走り出した。
「ユウくん、はやく、はやくー」
 雄二は手を上げて、やれやれといった感じでジョグし始めた。
「そういえば、ユウくんてさー、カレー好き?」
 このみが前方で立ち止まり、振り返って雄二に訊いた。
「嫌いじゃない」
「じゃあさ、今度カレーごちそうしてあげるよ。このみお手製のカレー」
「料理なんてできたのか?」
「あー失礼だなー。わたしにもできる料理くらいあるんだよ」
「わーった、わーった。じゃあ、今度頼むわ」
「うん!」
163小さな勇気、頑張れ女の子9/9:2007/08/12(日) 10:44:10 ID:SC5cJvRm0
 このみはすっかり以前のような活力を取り戻していた。
「このみが復活したのは良かったけど、どうも俺の方が立ち直れてないな」
 前方で元気にはしゃぐこのみを追うために軽く走りながら雄二が1人ぼやく。
「はぁー。貴明ぃ、あの幼い頃の初恋の相手がおまえだとわかった時の衝撃。あれが忘れ
られないんだ。俺の想いはおまえに通じないのか……」
 その呟きはこのみからは聞こえないくらいに遠く、風に溶けるように消えていった。
164名無しさんだよもん:2007/08/12(日) 10:45:01 ID:SC5cJvRm0
初SS\(^o^)/オワタ
165名無しさんだよもん:2007/08/12(日) 12:25:27 ID:ar3FtTSi0

ってか雄二の失恋はそっちかよw
166名無しさんだよもん:2007/08/12(日) 15:47:34 ID:Kq7BoqC80
いい話だったのに、オチで全部台無しw
いや、普通に好きだけどな

これで初ってのはなかなかすごい。今後に期待してる
167名無しさんだよもん:2007/08/12(日) 18:09:53 ID:p/zlCcMf0
初恋を引きずってる雄二に全部食われた気がするw
168もってけ大三元 ◆BZe2SoTGBo :2007/08/13(月) 00:06:37 ID:p8OegrkTP
最後に「ガラガラガシャーン」なんて音が聞こえた気がするwwwww
169名無しさんだよもん:2007/08/13(月) 09:54:57 ID:0FUI363V0
最後に全てを台無しにする作者のセンスに感動したw
170物書き修行中:2007/08/13(月) 18:24:01 ID:gcdij7jE0
ちょいと帰省してました。

で、帰省先で何気に気がついたのですが

G W の 事 忘 れ て た !

日程の計算合わないw
気がつかなかったことにしよう。

>>151-154
一応今回は愛佳(と郁乃)メインの話なんで愛佳が良い目を見てますが、
だからといって優季の優位が揺らぐわけではないですヨ。
今のところ真の彼女ですしね。

>>164
乙です
良い話で引っ張って引っ張っての最後のオチのセンスが素晴らしい。
ところでこれはやっぱし姫百合エンドで瑠璃ちゃんのカレーを食う
タカ坊ってことですかね。瑠璃カレーうまそうだし。
171恋愛同盟3.5 閑話:向坂雄二の本音 1/2:2007/08/14(火) 10:30:02 ID:n5V5MJKi0
 姉貴が目を腫らして帰ってきた翌日。
 講師の都合で図書館で自習となった午後、俺は貴明を誘って屋上に出た。


    恋愛同盟 第3.5話  閑話:向坂雄二の本音


「聞いたぜ…昨日、姉貴とちびすけに言ったんだって?」
「ああ」
「「恋人」よりも強い「家族」か…姉妹(きょうだい)は恋愛対象じゃない、か。」
「……」
「本当は違うんだろ。「家族」の絆を壊したくなかった。違うか?」
「…その通り。俺は二人のどちらかを選ぶことで、今の関係を壊すのが怖かったんだ。」
 貴明は金網に手を掛けて俺に背を向けたまま答えた。

「…いくら姉妹のように仲が良いとは言っても、どっちかを選んでしまえば、嫉妬と負い
 目に苛まれてお互いにボロボロになるのは簡単に想像がつくからな。そうなりゃ長年の
 俺達4人の絆は空中分解だ。本人達だってそれはわかってただろ。少なくとも俺はお前
 を責めねぇよ。」
 俺は貴明の隣で金網に背を預けた。天気は快晴で気持ちのいい風が吹いていた。
「ニブチンのお前にしては二人の気持ちに気づいて答えを出しただけでもたいしたもんだ
 と思うぜ。おまけに、誰かが悪役にならなけりゃならないこの場面で自分で憎まれ役ま
 で買って出た。…十分すぎると思うけど?」
 貴明は何も答えなかった。
172恋愛同盟3.5 閑話:向坂雄二の本音 1/2:2007/08/14(火) 10:30:34 ID:n5V5MJKi0
 暫くして、呻くような声で、貴明は俺に言った。
「…でも、思ったより……堪えたよ。」
 大事な人間を泣かして平気でいられるほど貴明は神経が太い人間じゃない。子供の頃か
ら一緒にいたから、そのくらいよく解ってる。
「たまには泣いてもいいんじゃねぇか。」
 物音に気がついて、俺は目だけでそちらを見た。
「お前には泣かせてくれる膝があんだろ。贅沢にも3つもな。」
 貴明に、顎でしゃくって階段室の方を指してやる。心配そうな優季ちゃんといいんちょ
が並んでいた。
「じゃあな。俺は先に戻るぜ。お前がもててるのを見るのは悔しいからな。」
「あ…雄二…」
「…あの3人にも、きちんと答えを出してやれよ。」
「…解ってる。」
 俺は階段室の扉の前にいた2人の肩をぽんと叩いて貴明に向かって押し出すと鉄の扉を
潜って校内へと戻った。

                   −

「く〜、俺ってかっこいい?」
「…その台詞があんたの行動を台無しにしてると思うわ、あたしは。」
「あ?」
 階段室で自分に酔ってた俺に冷や水を浴びせるように、遅れてやってきた長瀬に冷たい
目で見られながら突っ込まれました…そういや1人足りなかったね…
 俺って格好悪い…
173恋愛同盟4.5 閑話:サバトの夜 1/4:2007/08/14(火) 10:32:04 ID:n5V5MJKi0
「で、今日のデートはどうだった?数時間とは言え、たかあき独り占めだったんだから何
 か良い事でもあった。」
「え、えっとぉ…うん。」
 由真の質問に愛佳は赤面しながら小さな声で答えた。
「まあ。」
「ほほう…なかなか「良いこと」があったみたいね。」
 そう言って俺を見た由真の目が、ぎらりと光ったように見えた。


    恋愛同盟 第4.5話  閑話:サバトの夜


「確かに、協定ではあたし達が自分からキス以上の行為をたかあきにするのは禁じている
 し、逆にたかあきの側からあたしたちにそういった行為に及ぶのは、あたし達が望む限
 りにおいてはOKということになっているわ。」
「そ、そうだよ。あたしからはたかあきくんにはキスしてないよ…」
「とはいえ、理屈と感情は別物ですから…」
 そう言いながら優季は俺に笑顔を向けた。でも目は笑っていなかった。

 二人に問い詰められた愛佳は、自分がキスされたことを話してしまった。
 愛佳…正直なのはいいことだけど、正直すぎるのはどうかと思うんだ。

 そして、その愛佳の告白を聞いた二人が魔女に変貌するのに時間はかからなかった。
「さあ、きりきり吐いちゃってください。」
「そうよ。良い雰囲気だったとはいえ、そんなに簡単にキスするとかどうよ。」
174恋愛同盟4.5 閑話:サバトの夜 2/4:2007/08/14(火) 10:32:46 ID:n5V5MJKi0
「い、いやその…気の迷いというか…」
「…気の迷いだったの?」
「うっ…その…軽い気持ちじゃないけど…」

 怖い、怖いよ…ママン

「そ、そうだ…もう遅いし、このことはまた後日に」
 こうのたかあきはにげにげだした!
「その事でしたら大丈夫ですよ。今日はここにとまることになってますから。」
「あたしも今日は優季の家に泊まることにしてあるからアリバイは問題ないわ。」
 しかしまわりこまれた!
「え、えと、えと、あ、あたしは泊まることになってないし、郁乃と家に帰らないと。」
 まなかのしえんこうげき!
「ああ、大丈夫。お母さんにここに送ってもらうときにお姉ちゃんと泊まるっていってあ
 るから。お泊りセットも持ってきてもらったし。お母さんが「がんばって」だって。」
 しかしいくのはうらぎった!まなかにだいだめーじ!
「い、郁乃〜〜〜〜」
「ま、このぐらい凌げないとこの先戦っていけないと思うわけよ。」
 郁乃はそんな風にうそぶくと、にやにやと正座させられたままの俺たちを見下ろした。
「抜け駆けした二人には罰が必要よね。」
「そして、私たち二人には補填を求める権利がありますよね♪」
 由真と優季の手に握られた縄束に、俺と愛佳は戦慄を覚えた。

                   −
175恋愛同盟4.5 閑話:サバトの夜 3/4:2007/08/14(火) 10:33:17 ID:n5V5MJKi0
「ふもー、ふもふももー」
「貴明さんと一緒に添い寝なんて、夢のようです。」
「たかあきって抱き心地いいのね。環さんの気持ちがわかるわ。」
「しくしくしく……たかあきくん…」
「あー、もー、お姉ちゃん鬱陶しい。今日はあきらめなさいよ。」

 その夜、俺たち5人は俺の部屋に布団を並べて寝ることになった。
 しどけないパジャマ姿のかわいい女の子が4人一緒に寝るという、雄二あたりなら号泣
して喜びそうなシチュエーションだが、そう甘い話ではない。

 俺はというと両手足縛り上げられた上に猿轡と目隠しされて寝かされ、その両側に優季
と由真がぴったりと寄り添っているという状況。

 別に何かできるほどの度胸が俺にあるわけではないが(ヘタレと呼ぶなら呼べ!)、
視覚を奪われ手も足も出ない状況で、二人の良い香りと柔らかい体の感触と息遣いが感じ
られるという、健康的な高校生男子にとってはひどい生殺し状態である。

 そして愛佳は罰として一番端に寝ることにされた。由真たちとの間には郁乃が入ってい
るので、俺の悶絶と由真たちの楽しげな声を聞きながらも何もできないという、ある意味
生殺しの状況にある。

「今夜は良い夢が見られそうだわ…ああ、この状態で襲えるなら、襲ってもいいわよ。」
 由真が耳元でくすくす笑いながら、さらに体をくっつけて言った。もちろん肉体的に
不自由なこの状況で襲えるはずも無い。
176恋愛同盟4.5 閑話:サバトの夜 4/4:2007/08/14(火) 10:33:54 ID:n5V5MJKi0
「由真さん、そんな挑発するようなこと言っちゃ駄目ですよ。いくら貴明さんが紳士でも
 健康な男の子さんなんですから。もしかしたら興奮しすぎて縄を引きちぎって襲い掛か
 ってきちゃいますよ。」
 そう言いながら、優季も言葉とは裏腹に体を押し付けてきた。
 始末が悪いことに二人ともなかなかのプロポーションである。体に押し付けられた感触
で一層血流が増した。

「じゃ、おやすみたかあき。」
「おやすみなさい貴明さん。」
「もがー!」
「うう…しくしく。」
「お姉ちゃんうっさい。」

                   −

 次の日、俺は鼻血を流しながら気を失った状態で発見された。
 一晩中悶々とした状態で眠れずにすごしたまま、最後に血圧が上がりすぎて気を失った
のである。
 興奮して血圧が上がった結果、鼻血と特定部位の膨張という結果を招いたわけだが、鼻
血はともかく特定部位がその場に居た全員の衆目にさらされた事実を後で知り、思わず引
きこもりたくなった。

 女の子への苦手意識が薄くなってきたと思ったのに…女の子恐怖症になりそうだよ。
177物書き修行中:2007/08/14(火) 10:37:57 ID:n5V5MJKi0
後日談を書いて、前回あげ忘れていた後日談とあわせて上げてみますた。
3.5話の1/2が2つあるのは間違いです。2番目は2/2です。orz
178名無しさんだよもん:2007/08/15(水) 06:35:21 ID:0geBdyMD0
GJ
179名無しさんだよもん:2007/08/15(水) 09:08:03 ID:pjFyZJ3e0
乙です。 貴明に縄抜けのスキルがない事が悔やまれますw

180もってけ大三元 ◆BZe2SoTGBo :2007/08/15(水) 11:38:05 ID:/4DucrVRP
視覚と発話と四肢動作に制限か…恐怖感につぶされて発狂→精神崩壊になりそう
181名無しさんだよもん:2007/08/15(水) 12:59:56 ID:7tBqa/iy0
そういや心理学の講義で習ったな。
この状態だと1週間くらいで発狂するとか。
182物書き修行中:2007/08/15(水) 13:36:23 ID:cSL/LAFb0
こういう話でそういう突っ込みされてもって気もしますが
心理学にはちょっと興味があります。

四肢拘束云々の同じ状況で、今回と同じように信用できる誰かに知っている
場所でこの状態に置かれるのと、逆に知らない人間に知らない場所にこの
状態で置かれるのとでどのような違いにあるのかとか。
183もってけ大三元 ◆BZe2SoTGBo :2007/08/15(水) 15:55:28 ID:/4DucrVRP
リアルな話、俺なら暴れて暴れてゆまにおもいっきり外傷を負わせそうwwwwwたかあき随分と精神強いな
184名無しさんだよもん:2007/08/15(水) 16:41:16 ID:b+j3XQoj0
心理学の感覚遮断実験はもっと徹底してたからなぁ
聴覚と触覚は生きてるからもうちっと長持ちしそうな気がする

やってくれと頼まれてもやりたくないけど
185名無しさんだよもん:2007/08/15(水) 17:02:32 ID:YSy5E5geO
ぼくが、たかあきになるー

たかあきになるー

なるー
186名無しさんだよもん:2007/08/15(水) 19:17:18 ID:N6Q/QL0C0
逆に全く刺激が無い生活を送るせると、数日で皆ギブアップしたって話も有るよな。
飯のとき以外はほぼ動かずに適温な部屋でずっと寝てるっていう奴。
187名無しさんだよもん:2007/08/16(木) 23:30:07 ID:S2wL0TnR0
優季END後ってことは優季とやっちゃってるの?
188名無しさんだよもん:2007/08/16(木) 23:41:38 ID:skZVEh160
当たり前だろ
しかも、愛佳や由真を選んだら何度でもループしてやり直してるんだよ
189もってけ大三元 ◆BZe2SoTGBo :2007/08/17(金) 00:00:44 ID:mBPmvDA4P
>>188
俺ループしまくりだな


ゆうきかわいいけど上には上が…とりあえず上位入賞だけどね
190名無しさんだよもん:2007/08/17(金) 12:10:05 ID:r9NsnYuv0
とりあえず立候補しなくても、ちゃっかり自分のポジションを確保したいくのんが大本命ということで…
191名無しさんだよもん:2007/08/17(金) 21:41:40 ID:WJFa53OK0
ここからいくのんendに行ったら、ある意味神作になるな。
192物書き修行中:2007/08/17(金) 23:06:04 ID:HP/XzyMh0
前スレで1話の投稿したときに一応書いたけど、話の前提として

・エッチはしてない(PS2準拠)
 漏れ自身はX-RATED肯定派なんで単に縛りを減らす都合

・愛佳と由真シナリオは優季シナリオの流星雨観測の日まで進んだ状態
 システム上並列では進められないとか、時間軸的には無理とかは
 目をつぶって、話の進度がそのくらいということで。

ということで書いてる。

あと当初1話限りなげっぱのつもりで書き始めてるので最後は決めてない。
プロットも書いてない。1話ごとにネタだしはして書いてるけど。
つーことで予定は未定。
193名無しさんだよもん:2007/08/18(土) 00:47:23 ID:lZ0o3WWP0
乙です。
毎度ながら続き楽しみにしてるんで、がんばってくれ( ´∀`)
194学食に行こう第五話 1/11:2007/08/18(土) 10:12:12 ID:mHXMm8XA0
まーりゃん先輩の奸計に嵌り、やむなく女装する破目に陥ってしまった俺こと河野貴明。
その悪夢のような一幕も、俺に新たなトラウマを刻んで閉幕し、今は久寿川先輩達が待つ
生徒会室に戻る途中なんだけど……

「うう、先輩。やっぱり女装だってバレてるんじゃないですか? なんかすれ違う人みんなして
奇異の視線をこっちに向けてる気がするんですけど」
放課後、廊下を行きかう人達もまばらだというのに、嫌に注目を浴びているように感じるのは、
俺の自意識過剰というだけでは説明できない気がする。そんな俺からの疑問に、前を歩いていたまーりゃん先輩が
いささか呆れた表情でこちらに振り向いた。
「あー、それは身長差も考えずに、あたしの背中に隠れようと無駄な努力をしてるたかりゃんのせいだから。
たかりゃんの気持ちも分からなくはないけど、傍目から見た今のあたし達はグレイシートレインで行進中の
怪しさ大爆発な二人組にしか見えないぞ。隠れるどころか、むしろあたし達を見てって感じ?」
「そ、そんな。じゃあ先輩。お願いですから今だけ身長伸ばして下さい」
「無茶言うな! あたしは伸縮自在の某紅白宇宙人か!……はっ!? 女装して早々あたしに『ツッコミ』役をさせるだなんて。
やるな、たかりゃん」
いや、そんな下ネタはいいですから。
「いやーしかし、今のたかりゃんの姿を見て、さーりゃん達がどんな反応を示すか楽しみだな」
意地の悪そうな笑みを浮かべるまーりゃん先輩。そう言えば、俺の女装の件は久寿川先輩達もあずかり知らぬことだっけ。
全く、俺やこのみはともかく、頭脳派の久寿川先輩やタマ姉まで騙しおおすだなんて……って、あれ?
195学食に行こう第五話 2/11:2007/08/18(土) 10:13:11 ID:mHXMm8XA0
「先輩、質問があるんですけど、いいですか?」
「何だ? たかりゃん。あたしのスリーサイズなら秘密だぞ」
「それには一切興味ありません」
「あー、何気に傷つくこと言うなたかりゃんは。で、何?」
「今回の件、先生はともかく、久寿川先輩やタマ姉達まで騙す必要あったんですか? 今回は俺が標的だったのなら、
最初から俺を女装させる事を前提に話を進めてった方が手っ取り早かったと思うんですけど。タマ姉辺りは
喜んで飛びついてきそうな話ですし」
そう、悲しいけどタマ姉さえその気になれば、俺からの反対意見なんて速攻却下させられるに決まっている訳で。
そんな、当然の疑問と思われる俺からの問いに、何故かまーりゃん先輩は心底哀れむような表情で溜息を吐いた。
「たかりゃん。君は本当に馬鹿だな」
「その某国民的アニメのネコ型ロボットが、居候先の駄目小学生に言うような口調はやめて下さい」
どうでもいいけど、この先輩に馬鹿と言われて溜息をつかれるだなんて、国辱モノではなかろうか。
「確かにたまちゃんだったら乗ってきたかもしれないけど、自分ならともかく、事たかりゃんが
被害を被る議案なんて、さーりゃんが首を縦に振るわけ無いじゃん」
「何でです? 後、それにしたって今回も先輩は反対してましたけど、無理やり押し通したじゃないですか」
「あー、実際にそんなことしたら、さーりゃんからの抵抗は今回の比じゃないって分かりそうなものだけど。
……まあ、本作戦はその辺りの乙女心がちーっっっとも理解できない、ニブチンのたかりゃんへの言わば愛の鞭だ。
甘んじてMに……じゃない。女心に目覚めるといいぞ」
「……愛の鞭というには、ちょっと強力すぎる気がするんですけど」
「うん、ハンダ線に糸ハンダを巻いて作ってあるからな」
そうだったのか……ってそんなマイナーネタ誰も知りませんよ。
196学食に行こう第五話 3/11:2007/08/18(土) 10:13:58 ID:mHXMm8XA0
そんな他愛のない話をしているうちに、目的地の生徒会室前に到着したんだけど……
「どうしたんです? 入らないんですか?」
なにやらドアの前で考え込む様子のまーりゃん先輩。またこの先輩はしょうもないことを思いついたんだろうか。
「いやー、なんか普通にお披露目するのも芸がないなと思って。うーん……そうだ。ドッキリやろうか? たかりゃん」
「ドッキリ……ですか? 具体的には何をするんです?」
「なあに、単純にたかりゃんがバレないように女の子の振りをするだけ。どう?」
「どう? って言われても……一発でバレる気がするんですけど」
見知らぬ相手ならともかく、今まで一緒に生徒会の仕事をしてきた久寿川先輩や、去年まで九条院にいたとはいえ幼馴染のタマ姉。
そして何より、家族同様の付き合いで四六時中顔を見合わせているこのみ。そんな3人が揃って気付かないなんてまず考えられない。
「たかりゃん自信を持ちなって。今のたかりゃんは年頃の男が見かけようものなら、その晩たかりゃんをおかずに
『ア○ロ、イキまーす!』とばかりに白いヤツを発射させること間違いなしの立派な萌え美少女なんだから」
「そんなおぞましいこと言わないで下さいよ!」
想像するだけで背筋にゾクゾクと寒気が走る。つうか、もはやこの先輩に女性としての恥じらいを期待するのは酷なんだろうか?
「だから、バレるかどうかはたかりゃんの演技力、そして日ごろの行い次第だぞ」
「そ、そうなんですか?」
というより、演技力はともかく、日ごろの行いに何の関係があるんだろう?
「そういう訳だから、バレたらたかりゃん罰ゲームな。じゃあオペレーションスタート」
「えっ!?、ちょ、ちょっと待っ……」
俺が皆まで言う前に、まーりゃん先輩はガラッと勢いよくドアを開け放つ。
「やほほーい、さーりゃん、今帰ったぞい」
「おかえりなさい、まーりゃん先輩」
出迎えの挨拶をする久寿川先輩。だが、まーりゃん先輩は何が不服なのか、表情を曇らせた。
「……さーりゃん、それだけ? 他に何か聞くことあるんじゃないの?」
「え? そういえば、河野さんはどうしたんですか?」
197学食に行こう第五話 4/11:2007/08/18(土) 10:15:10 ID:mHXMm8XA0
「違ーーーう! こういう場合は、お食事にしますか? お風呂にしますか? それともわ・た・し? って尋ねるのが定番じゃん!
全く、さーりゃんはいつもたかりゃんのことで頭が一杯だな」
「そ、そういうわけじゃ……」
とたんに頬を赤く染める久寿川先輩。
「あー、さーりゃんそーいう萌えーな反応するんだから。こうなったらたかりゃんの代わりにさーりゃんのメロンおっぱいを揉みしだいてやるぅ」
「えっ、ちょっとまーりゃん先輩。あっ、いやっ、や、やめて下さい」
「さーりゃん、ここがええんかここがええのんかほれほれぇー、ってアウチッ」
「はい終了、ここまで」
タマ姉からのツッコミのチョップを受け、頭を抱えるまーりゃん先輩。
「なにー、それなら代わりにたまちゃんのスイカおっぱいを揉ませろー」
「却下します」
そんないつもの光景をドア越しに見つめる。開け放たれたドアから伺える生徒会室は、俺がこの世の地獄を見ていた間、
三人して部屋の掃除をしていたようで、職員室に行く前の投書まみれだった惨状とはうって変わり、見事綺麗に片付いていた。
今ではその掃除も終えたらしく、お茶やジュースを机に持ち寄ってのくつろぎモードに入っているみたいだ。
……ふと、その中に新しいメンツが一人増えているのに気付く。そいつは精も根も尽き果てたといった様子で
机に突っ伏していた。大方遅刻してきた罰と称して、タマ姉に部屋の掃除やジュースの買出しと散々こき使われたに違いない。
……雄二、相変わらず不憫なヤツ。
「あら、あなたは……」
そんな、廊下で所在無げに立っていた俺にタマ姉が気付く。うっ、ひょっとして開始5分もしないで罰ゲーム決定ですか?
「どうかしたの? 生徒会に何か用かしら?」
……へ? えーと、気付いてない?
「あ、あの、その……」
ど、どうしよう? バレてないのはいいけど、一体なんて返事をしたらいいんだ? そんな、軽くパニックに陥った俺を
見かねてか、まーりゃん先輩の方が助け舟を出してくれた。
「どう? たまちゃん。この子可愛いでしょ。あまりに可愛いんで思わず連れて来ちゃった」
「まーりゃん先輩。そういう拉致行為は犯罪ですからやめて下さい。……御免なさい、迷惑だったでしょう?」
198学食に行こう第五話 5/11:2007/08/18(土) 10:16:33 ID:mHXMm8XA0
額に手を当てつつ、俺に申し訳なさそうに謝る久寿川先輩。タマ姉同様、先輩の方も気付いた様子はない。
ほっ、た、助かった。罰ゲームが掛かっているものだから、速攻ネタばらしをかましてくれるのかと思ったけど、
逆にフォローしてくれるだなんて。先輩にもフェアプレー精神ってヤツが欠片でも残っていたらしい。
そ、そうだ。二人はともかく、最有力候補のこのみは……
「うわあー、綺麗な人」
全然気付いてないし。……いや、罰ゲームが掛かっている以上、本来喜ばしいことなんだろうけど、ひょっとして
三人揃って俺の顔をろくに覚えてないじゃないかと思うと少し悲しい気分になってきた。
「んあ? 何の騒ぎだ?」
そんな中、俺の存在に気付いたと思われる雄二が気だるそうに顔をあげ……その顔が驚愕の表情にとって変わる。
ま、不味い。こいつは同じ幼馴染でも、学年が違うこのみ以上に危険人物だった。そんな雄二は、四限目の終了時も
かくやという迅速さで席を立ち、つかつかと近づくと、俺の顔を普段ではまずお目にかけない真剣な表情でじっと見つめる。
「ま、間違いねえ」
……やっぱり見破ったか。伊達に長年腐れ縁してるわけじゃないな。とりあえず変態扱いされないように女装している
訳を説明しないと。
「あの、これは……」
そんな俺の台詞を遮るかのように、雄二は俺の手を両手でしっかと握りしめ
「なあ君、俺のこと覚えてないか? 小学生くらいの頃、この近くの公園で一度だけ会ったことあるよな?
その時、君はでっかいリボンついた白い帽子と白いワンピース姿で……って、覚えてないか?」
ズルッ そ、そっちか。……しかし、あの時から10年近く経つどころか、その当時ですら帽子のツバでよく顔も見えなかった筈なのに
なんつー記憶力してるんだこいつは?
「は、はい、覚えてます。あたしが一人でいた時に、声をかけてくれた人ですよね」
「う、うおおおおっ、よっしゃーーー……って、これは夢? 夢じゃないよな? ……姉貴、悪いが俺を殴ってくれないか?」
「え? いいけど、じゃあ行くわよ。ふんっ」
雄二の正気を疑うリクエストに応じ、タマ姉が渾身のアッパーを放つ。それをまともに受けた雄二が車田漫画ばりに宙を舞い、
その後ぐしゃ、と嫌な音を立てて地面に叩きつけられる。……ひょっとして死んだんじゃないのか?
199名無しさんだよもん:2007/08/18(土) 10:17:16 ID:I5pwN1DL0
支援
200学食に行こう第五話 6/11:2007/08/18(土) 10:20:23 ID:mHXMm8XA0
「……よ、良かった。夢じゃねえ」
……相変わらずのことながらよく身体が持つな、こいつ。それはともかく雄二の勢いに釣られてつい話を合わせてしまったけど、
これで良かったんだろうか?……まあいいか。当人は喜んでるみたいだし。
「くうぅ、姉貴が帰ってきた時には、神も仏もないと嘆いたもんけど こんな運命的な出会いを演出してくれるだなんて、神様GJ!」
……雄二、お前が今拝んでいる神様は間違いなく邪神の類だから、即、宗旨替えすることをお勧めする。
「な、なあ、君。名前はなんていうんだ? 学年は俺と同じ? 住んでる所どこ? ついでにスリーサイズは? あと俺と付き合、
あだだだだ、割れる割れる割れる割れる割れるッ!」
「少しは落ち着きなさい雄二! この子、怯えているじゃないの」
話を合わせてしまった数刻前の自分を小一時間問い詰めたくなる程の雄二からの猛プッシュ。そこから俺を救ってくれたのは、
毎度お馴染みタマ姉のアイアンクローだった。……た、助かった。
「なっ!? ゆ、雄二、あなた……」
「ひっ!? ひええええぇ〜」
ほっと息をついたのもつかの間、そこにはタマ姉にアイアンクローされているにも関わらず、こちらにじりじりと近づいてくる雄二の姿が。
その様は驚嘆を通り越して、もはやホラーの領域に達している。そんな驚異的根性を見せる雄二に、横からまーりゃん先輩が声をかけた。
「あー、ゆうりゃん。残念だけどこの子、彼氏いるから」
雄二、活動停止。
「だからゆうりゃん、諦めれ」
タマ姉が少し気の毒そうに手を離すと、雄二はまるで支えを失ったかのように力尽き、がっくりと膝を付いた。
「そうか……そうだよな。ウチの姉貴みたいな性悪暴力女ならともかく、こんな可愛い子に男がいないなんて有る訳ないよな。
くっそー、どんなヤツだ? その羨ましいヤツは」
タマ姉が凄い表情で雄二のことを睨んでいるが、その心情をおもんばかってか、実力行使までには至っていない。
そんな雄二に慰みの言葉でもかけようというのか、まーりゃん先輩が口を開いた。
「そうだなー。こんな可愛い彼女持って幸せモノだよなー。……たかりゃんは」
……何、その無茶振り。
201学食に行こう第五話 7/11:2007/08/18(土) 10:21:46 ID:mHXMm8XA0
ピキッ

まーりゃん先輩の爆弾発言で、今までのまったりとしていた空間が、まるで凍りついたかのような静寂に様変わりする。
暫し運動部の掛け声だけがこの部屋に響いていた中、その状況を破ったのは久寿川先輩だった。
「そ、そう。あなた河野さんの彼女なの? 初耳ね。河野さん、そんな素振り少しも見せなかったから」
先輩、初耳なのは当然です。俺も今聞きましたから。そんな先輩の表情は一見、先程までと変わった様子はない、
……と思いきや、その目は過去に『副長』と呼ばれ、全生徒に恐れられていた頃のそれに様変わりしている。
「私も初めて聞いたわね。良ければ少し話を聞かせてくれないかしら?」
すっと目を細めるタマ姉。口では『良ければ』なんて言っているが、その射すくめるような目は『洗いざらい全部吐きなさい』
と雄弁に語っている。
「ひっ、ひいいっ」
……こ、怖い。このまるで銃弾飛び交う戦場さながらの緊張感に満ちていながら、それでいて二人とも微笑を崩さない様は、
この歳で失禁しそうな程の恐怖の空間を生み出している。そんな針のむしろの状態から救いを求めるかのように視線を這わす。
まーりゃん先輩は……この状況を楽しんでいるかのようにニヤニヤしている。くっ、今回はこれが狙いか。
先輩にフェアプレー精神なんかがあるとカケラでも信じた俺が馬鹿だった。それならばとこのみに目を向ける。
「そっか。……タカくん彼女出来たんだ」
良かった。二人と違い、このみは比較的平静みたいだ。
「ねえ、どうしたらいいと思う?……ゲンジ丸」
って、はあ? ゲンジ丸? 慌ててこのみが話しかけている方向に目を向けるものの、当然ながらあの出不精犬がいるはずもない。
「えっ? そんなことするの? や、やだ、そんなの恥ずかしいよ」
何もない空間に話し続けるこのみ。その様子に薄ら寒さすら感じる。……このみ、お前は誰とどんな会話をしているんだ?
「駄目よこのみ! 現実から目を背けちゃ。もっと気をしっかり持って」
「はっ!? ど、どうしたのタマお姉ちゃん? わ、私、今何か言ってた?」
俺と同じく、異常に気付いたタマ姉に肩を揺さぶられ、幸いにも正気に戻るこのみ。
ていうか何で、皆してこんな大騒ぎになるんだ? 冗談とはいえ、たかだか俺に彼女が出来たというだけの話だろうに。
202学食に行こう第五話 8/11:2007/08/18(土) 10:23:09 ID:mHXMm8XA0
「……嘘だ」
そんな中、まーりゃん先輩の発言で、今まで彫像のように固まっていた雄二がポツリと呟く。
「嘘……嘘だ、嘘だよな? 嘘だと言ってくれ! なあ、なんでよりにもよって貴明なんだ? なんであいつだけがモテまくって
俺は年中女日照りなんだ! いや、この際他の女の子はどうでもいい。だが、君だけは違う、違うと言ってくれ!」
「ひえぇ〜、お、落ち着いて、落ち着いて下さい」
ここで「はい、貴明さんと付き合ってます(ぽっ)」なんて演技しようものなら、すぐさま舌を噛んで死にそうな勢いの雄二に
押し迫られる。逃げようにも肩をしっかり掴まれているので既に脱出不能。他の3人はというと、俺達の会話を一語一句逃さぬ様
注視しているようで、今回はタマ姉からの支援は期待できそうにない。や、やばい。下手なことを言ったら俺の貞操が非常に
デンジャーな予感。
「ち、違うんです。貴明さんとは恋人とかそういう関係じゃなく、友達、そ、そう友達なんです」
ほっ
そんな俺の回答に、今まで部屋に漂っていた緊張感は解け、あからさまに安堵の溜息を吐く4人。
「そ、そうね。よくよく考えてみたら河野さんに彼女だなんて可笑しい話ある筈ないもの」
「そうそう、そもそもタカ坊がこんな可愛い子に手をつける甲斐性なんてある訳ないしね」
「うん、このみもタカくんのこと信じてたよ」
「ううっ、貴明。今日ほどお前がヘタレだってことに感謝したことはねえ」
俺は限られた中から最善の選択肢を選んだはず……なのに、何だろう、この目から溢れ出る汗は。
「全く、相変わらずまーりゃん先輩はお騒がせなんだから……って、どうしたの!? 涙流したりして」
「しくしくしく……いえ、何でもないです」
当人がいないと思ってのことか、それともナチュラルなのか? 4人揃っての散々な言い草で、俺の繊細なハートに
新たな痕が刻み込まれたものの、それを代償にまーりゃん先輩の無茶振りからなんとか軌道を修正出来た。
そんなまーりゃん先輩に俺が恨みがましい視線を向けると、先輩は少し気まずそうな表情を浮かべ、
「あー、めんちゃい。恋人じゃなかったんだ。友達ね。じゃあいわゆるセフレか」
203学食に行こう第五話 9/11:2007/08/18(土) 10:24:43 ID:mHXMm8XA0
ピキキッ

せっかく人が犠牲を払って元に戻したまったりとした空気が、先程同様、いや、それ以上でもって凍結される。
あああああっ! この先輩は。人が苦労してコースから外れかかっていたところを修正したと思ったら、すぐさま逆走させるようなマネを!
「……」
まーりゃん先輩の核爆級の発言で、久寿川先輩達は最初こそ俺の身体に穴が開くんじゃないかという位の注視を
無言で浴びせていたが、やがて何かに気付いたかのようにそれぞれ絶望とも怒りともつかないような表情を浮かべはじめた。
えーと、何? ……ふと、今の状況を冷静に把握してみる。さっきのまーりゃん先輩の発言と、今、涙に濡れた顔の俺。
……ひょっとして、俺(河野貴明)に舌先三寸で騙されて玩具にされてる可哀想な女の子とか、変に誤解されてる?
「いやーしかし、まさか純白の雪原を自分色に染めまくっておいて、只のセフレ扱いだなんて、たかりゃんも意外と鬼畜だなぁ」
先輩達の僅かな期待に止めを刺すかのように、疑惑を確定に変えるような発言をするまーりゃん先輩。
「……そんな、河野さん。信じてたのに……」
「タカ坊! 何でそんなことする前に一言私に言ってくれなかったの!」
「あ、あの野郎。きっとあいつは一人暮らしなのをいいことに、隠れて色んな女の子を連れ込んで、淫行行為に及んでるに違いねえ。
なんてうらやま……もとい、けしからんことを」
とりあえず雄二、それ何てエロゲ?
「え? よく分からないけど、その人タカくんの恋人さんじゃないんでしょ?」
そんな俺の株価がブラックマンデー並に暴落している最中、一人だけ状況についていけていないという風にこのみが声を上げる。
「……あの、柚原さん。それはセフレの意味を分かって言っているのかしら?」
「えーっと……有名人でお金持ちの人?」
「だああああっ、それはセレブだ。いいか、ちびっ子よく聞け。セフレっていうにはだな、セッ、ぐはぁあ!」
「このみに変なこと吹き込まないの!」
タマ姉の鉄槌に沈む雄二。
「ねえ、タマお姉ちゃん。セフレって何?」
「そうね。このみにはまだ……いいえ、ずっと知らないままでいい言葉よ」
「そ、そうなんだ」
204学食に行こう第五話 10/11:2007/08/18(土) 10:26:08 ID:mHXMm8XA0
そんなタマ姉は少しこのみに過保護過ぎのような気がしなくもない。まあ、かと言ってこのみがまーりゃん先輩みたいに
「おはよー、タカくん。ねえ、今朝も朝勃ちしてた?」
とか言い出したら大変なので、口には出さないけど。

「いずれにせよ、生徒会としてそのような事態を看過できません」
久寿川先輩が話を戻すようにそう宣言する。その顔には犯人が身内だった刑事のように沈痛な表情を浮かべて。
「校則にも不純異性交遊について記述されている以上、ここは……」
「ちょっと待って久寿川さん。この件は私に任せてほしいの」
台詞を遮ってのタマ姉からの横槍に、驚いたような表情を浮かべる久寿川先輩。
「えっ? 向坂さん……でも」
「お願い久寿川さん。おじ様とおば様からタカ坊のことを責任を持ってお預かりした身でありながら、こんなことに
なってしまった以上、その責任は私が取る必要があるの」
「……あの、せ、責任って、一体何をするつもりなんですか?」
不安を感じ、恐る恐る尋ねてみると、その問いにタマ姉は躊躇なく答える。

「タカ坊を殺して私も死ぬわ」

「ぶっっっ」
「こ、向坂さん!?」
「た、タマお姉ちゃん……」
「おお、姉貴。やってくれるか」
……いや、いくら夜這いに来た男を冗談抜きに殺すとか明言するタマ姉とはいえ、今のは流石に冗談、もしくは言葉のアヤだよな?
そんな、あまりのショックで困惑の表情のまま固まっている俺に、タマ姉が深々と頭を下げる。
「ごめんなさい。あなたの負った傷は一生癒えないものかもしれないけど、タカ坊にはその命をもって償いをさせるから許してあげて頂戴」
……駄目だこの人……早くなんとかしないと。
205学食に行こう第五話 11/11:2007/08/18(土) 10:30:21 ID:mHXMm8XA0
「そういう訳ですから、まーりゃん先輩、タカ坊はどこ?」
「あー、たかりゃん、たかりゃんは……ねぇ」
まーりゃん先輩もまさかここまで話が大きくなるとは思ってもいなかったのか、いつものヘラヘラとした表情に一筋の汗が伝っている。
ついでに、俺に向けられたその目は『早くゲロしないとハラキリさせられるぞ』と如実に語っているが、そんなこと言われるまでもない。
罰ゲームとやらが気になるものの、この際、命には代えられない。
「タマ姉、今までのは全部ドッキリ。ほら、俺だって」
今までの裏声をやめた俺のネタばらしに、タマ姉をはじめ、皆呆然とした表情を見せる。ほっ、ようやく気付いてくれた。
とはいえ、さっきまで騙していたことに一体なんて言われることか。そんな硬直が解けたタマ姉は、開口一番
「あなた、タカ坊の声マネ上手ね」
「うん、本当。タカくんそっくり」
「ちーーーがーーーう!」

その後、俺の女装だと信じてもらうまでに、さらに暫く時間を要しましたとさ。
206名無しさんだよもん:2007/08/18(土) 10:32:17 ID:mHXMm8XA0
第五話投下させていただきました。支援有難うございます。とりあえず某賭博堕天録並の展開の遅さは相変わらずです。
今回はなんか色々とやり過ぎた気がしなくもないんですが、その中でも特に雄二の扱いについて言及される前に、
恨みはない、むしろ好きと言っておきます。……なんか、すげー前に短編書いたときも言ってた様な気もしますが。

後、物書きさんからまーりゃん先輩でお褒めの言葉を頂いてますが、自分としてはちゃんと書けてるか
よく分からなかったり。少なくとも性格的な面での腹黒さとギャグの寒さが増してるのは自覚してますけど。
むしろこちらとしては、河野家さんみたいに週刊連載も夢じゃないくらいの速筆っぷりが素直に羨ましいですわ。
207名無しさんだよもん:2007/08/18(土) 11:19:29 ID:B68C1ttG0
乙。
素直に楽しかった。

タマ姉とこのみは逆かな〜とは思ったが。
セフレて言葉、よっちゃるに性知識の様々を授けられたこのみは知識として持ってそうだし、
逆に純粋培養かどうかは知らんが山奥の女学院に閉じ込められていた純で古風なタマ姉は持ってなさそう。
208物書き修行中:2007/08/18(土) 11:44:56 ID:ExgpGQfC0
乙です
今回も楽しめましたです。

まーりゃん先輩は十分まーりゃん先輩らしいと思いますよ。
漏れはまーりゃん先輩らしさのツボがいまんとこ掴めてないので(以下略
それとこのみとタマ姉の反応は漏れはこれで良いかなと思いますが。
XRATEDのエロシーンの対比を見れば多分こうなるんでは。
逆に「タカ坊を殺して私も死ぬ」あたりがタマ姉の古風さを出していると思う。

それと速さをお褒めいただいてますが、ノッてるときは良いんですけどね…
209名無しさんだよもん:2007/08/18(土) 11:52:53 ID:a5deTb3c0
一日千秋の思いで待っておりました…

や、本当にまーりゃん先輩の再現度は高いと思うよ?
満足満足

少し我侭を言わせてもらえるなら
11/11でタマ姉以外の人のリアクションが見たかった
なんだかアッサリ風味で拍子抜けしたけど、次回に描写があるのかな?

あと、雄二が白ワンピの女の子と気がついた時点で、昔の仕掛け人であるタマ姉が気がつきそうな気がしないでもないけど…
我ながら細かすぎだな…

でも、そんなことが不満にならない位楽しかったよ
続きも気長に待っております
210名無しさんだよもん:2007/08/18(土) 20:57:38 ID:4aabQyII0
ちょwwプラモ狂四郎とかwww山根とかwwwww
211206:2007/08/19(日) 12:07:00 ID:H2q6DEC60
レスどうもです。
まーりゃん先輩書いてて、ひょっとして只の寒い人になってるんじゃないかと
不安でしたが、方向性が間違ってなさそうでよかったです。

セフレ発言についてですが、このみがよっちゃるからレクチャーされた性知識は、
貴明篭絡に必要そうなものをかいつまんだだけで、結構偏りがあるんじゃないかなー
ということで、自分の中では大体物書きさんと同じ認識ですね。
むしろ自分としては普段がアレなんで、せめてエチシーンくらいは純でしおらしい
タマ姉が見たかったんですけど。
まあ、色々書きましたが、正直なところ、深くは考えていなかったというのが本音です(汗
その他の不備の部分についても同様ですが、バラした後のリアクションとか、
昔の女装の件については、次回でなんとか補完するようにしようかなと。
>>210
気付いていただける人がいるとはw はっきり言って2/11辺りは蛇足かなとも
思ったんですけど、このネタをやりたいが為だけに追加してたりします。
年齢不詳のまーりゃん先輩らしくていいかなと。
212名無しさんだよもん:2007/08/19(日) 22:42:43 ID:H/lbomiu0
まーりゃん好きだし面白いと思った。
ただ、ささらが出てくるとどうしてもささらに肩入れしたくなるから困る
213名無しさんだよもん:2007/08/24(金) 00:14:37 ID:P0Zoe5F/0
ギャグが笑いのツボにはまっていい感じだった。
続きがむずかしそうだけど、展開とか考えずてきとーに
日常書いてもとても面白くなると思うよ。きっと。
214名無しさんだよもん:2007/08/24(金) 12:15:38 ID:YGqfBG6s0
優希ちゃんのフィギュア 全身カットもあったがマジでおかずになる
http://1server.sakura.ne.jp/newfigure/pc/img.php?src=../src/77-2.jpg
215名無しさんだよもん:2007/08/25(土) 23:55:33 ID:YKfCDl3c0
環月記っていうタマ姉SSが会ったサイトって閉鎖したの?
216名無しさんだよもん:2007/08/26(日) 00:12:11 ID:N/65YM/K0
>>215
とっくの昔に閉鎖したよ
217名無しさんだよもん:2007/08/26(日) 00:15:35 ID:3fBp2oQv0
>>216
まじですか。。。
どっかで見れる所ないっすか?
218名無しさんだよもん:2007/08/26(日) 01:30:02 ID:MofAW+Z+O
キャッシュ幾つか漁ればいいだけだろ。
中高生じゃないんだから質問する前にまず自分で探せ。
219名無しさんだよもん:2007/08/26(日) 03:44:08 ID:U2uSboe70
さっき全てのキャラをクリア!!
CGモードを見ていると、エッチなシーンのタマ姉と花梨の間に数個の隙間が・・・
何がこの隙間に入るの?
220名無しさんだよもん:2007/08/26(日) 10:06:58 ID:NbtkxjqM0
そういった隙間にちょっとした小物を入れておくことで、余分なスペースを確保する事が出来るんだよ。
収納術の基本だね。
221名無しさんだよもん:2007/08/26(日) 11:47:55 ID:tkPDFFRz0
>>219
がんばって選択しなかった分岐を全部やることだな。
222名無しさんだよもん:2007/08/26(日) 16:29:25 ID:/+aN+SX/0
恋愛同盟続きまだかな? 先行する草壁さんに、いいんちょの怒涛の追い上げだったから、
次は置いてきぼりにされた感のある由真がメインか? それともマジでいくのん参戦だったり。
223物書き修行中:2007/08/26(日) 23:06:13 ID:NrHm5P6t0
草壁さん欲しいよ草壁さん>フィギュア
でもフィギュアに手を出すとまた駄目人間の階段を一つ登ってしまいそうで…
今更なにいってんだって突っ込みは無しでw

恋愛同盟ですが実は今筆が重くてなかなか進みません。orz
大体の内容は決めてから書いてるんだけどね。
現実逃避に由真の誕生日が近いからそれ用のSS書いて現実逃避…
224名無しさんだよもん:2007/08/27(月) 00:09:40 ID:x5A/G55e0
ttp://pie.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1185725108/110

世の中には批評されただけでこんな反応をしちゃう人だっているからね。
こういう人を見てるとせめて自分は謙虚であろうと思うよ。
225名無しさんだよもん:2007/08/27(月) 00:10:24 ID:x5A/G55e0
ごめん、誤爆した
226名無しさんだよもん:2007/08/27(月) 23:49:20 ID:tMmLRWzE0
>>223
漏れもフィギュア買ったことないや。1回買ったら最後、その後際限なく買っちゃいそうで怖いw
まあ何はともあれ、8月31日待ってます。
227似たもの同志? 1/12:2007/08/31(金) 00:15:27 ID:QYDddYNj0
 むかしむかしあるところに、正直者で心優しい「たかあき」という男の子がおりました。

 男の子はある日、道に迷って困り果てている小さな熊の女の子に出会いました。
 男の子は親身になってその熊の子の飼い主を探しました。そして、その子の親を探して
送り届けてくれたのです。

 男の子は別れ際、もう一人でどこかへいっては駄目だよ、元気でおやり、と熊の子の
頭をそっとなでてやりました。
 そのとき、その熊の女の子は、男の子に恋をしました。そして祈りました。いつか男の
子と再会できるようにと。

 そして、ある日のこと。
 男の子の元に一人の超絶ないすばでーな美少女がたずねてきました。

 あなたはどなたですか? 男の子は尋ねます。
 女の子は答えます。私はあなたに助けていただいた熊です。恩返しがしたくてこのよう
な姿で戻ってきました。お掃除お洗濯お料理はもちろん、お風呂でのご奉仕から夜のお
世話まで何なりとお申し付けください。さあ、さあ、さあ!

 女の子は恩返しのためとは言いましたが、本当は男の子の恋人になりたくてやってきた
のでした。だから身も心も捧げてしまう事さえいとわなかったのです。ああなんて献身的
な女の子なんでしょう。

 二人は同じ家で暮らし始めました。
 しかし、二人の幸せは長くは続きませんでした。UMAと名乗る怖い青鬼女が男の子を
誑かしてさらっていってしまったからです。
228似たもの同志? 2/12:2007/08/31(金) 00:16:15 ID:QYDddYNj0
 しかし女の子はそこで泣き寝入りをするような弱い心の持ち主ではありませんでした。
 男の子を取り返すべく立ち上がったのです。

 その旅は波乱万丈の連続でした。行く先々にUMAの仕掛けた卑劣な罠が待ち受け、
女の子はそのたびに戦いました。しかしいつも危ういところでUMAがドジを踏み、これ
で勝ったと思うなよ、という捨て台詞とともに去っていってしまうのです。

 そして、女の子はUMAのアジトへとついにたどり着きます。そこにはUMAに誘惑さ
れて骨抜きになった男の子が居ました。

 ついにきたわね。でもたかあきは私のもの。
 UMAは言います。でも女の子は負けません。

 女の子の右こぶしが繰り出されます。UMAはそれを避け、返す刀でこぶしを繰り出し
ます。
 二人のこぶしが目にも止まらない速さで繰り出され、互いに一歩も譲りません。

 二人の戦いは長く長く続きました。しかし、UMAはやはり最後の最後でドジを踏みま
した。キックを繰り出そうとしてバナナの皮をふんづけて、滑って転んで頭を打ったの
です。

 ううう、これで勝ったと思うな…がくっ

 ついに悪は滅びました。女の子は骨抜きになっていた男の子を元に戻すため、男の子の
(ぴー)をその豊満な胸で(ぴー)して、その後(ぴー)…
229似たもの同志? 3/12:2007/08/31(金) 00:16:52 ID:QYDddYNj0

                   −

「あー、ミルファ、その変な設定かつ18歳未満禁止な紙芝居は何だ。」
「えー?これはあたしの創作紙芝居。タイトルは…くま太郎の恩返し?」
 悪びれもせずに笑顔で言ってのけたミルファの言葉に、たかあきはこめかみを押さえて
る。まあ、それはいいでしょ。それよりも、
「ちょっとミルファ!その青鬼女のUMAって誰よ。」
「由真ちん。」
 ミルファはあたしを指差しながら何の躊躇もなく言ってのけた。
「…ふっふっふっ、良い度胸ね。今日こそあんたを箱に詰めて不良返品の荷札を張って
 研究所に送り返してあげるわ。あと由真ちん言うなこの性悪熊。」
「べーだ。あたしは性悪熊なんかじゃないもん。家に帰るのは由真ちんだよ〜だ。あたし
 とたかあきの愛の巣から早く出て行ってよ〜。」
「許さん!」
「やる気ね。受けてた〜つ!」
「ちょ、ま、まて、こんな往来の真ん中でおっぱじめるな!」
 トサカにきたあたしとミルファが取っ組み合いのけんかを始めそうになって、たかあき
は必死に止めようとしていた。

                   −

 あたしとたかあきが付き合うようになって少ししたころ、たかあきが小さな熊のロボッ
トを拾った。
230似たもの同志? 4/12:2007/08/31(金) 00:17:35 ID:QYDddYNj0

 お人よしのたかあきはその持ち主の、後輩の姫百合珊瑚という女の子を探し当てて届け
てやったのだが、そのときにその熊−ミルファは生意気にも貴明に恋したらしい。
 珊瑚ちゃんの説明によれば、だいこんいんげんあきてんじゃーとかいうものの働きで、
人と同じ心を持っているらしい。よくわかんないけど。

 かくして、たかあきに対する恋心を抱いたミルファは研究所でちゃんとしたメイドロボ
の体になると、たかあきの所へとご奉公にやってきた。
 実際にはご奉公とは名ばかりで、たかあきのお嫁さんになるつもりだったらしいけど、
ちょうどその時たかあきの家にいたあたしが最初に応対に出たら、その場でライバル宣言
された。

 そして、ミルファの住み込みご奉仕宣言に焦ったあたしは、半ば強引にたかあきの家に
住み込むことになった。それが夏休み直前の話だ。

 それから1ヶ月、あたしとミルファが事あるごとに対立し、そのたびにたかあきが仲裁
に入るということを繰り返し、今日はもう8/31。夏休みの最終日だ。
 一応海水浴に行ったりもしたけど、本当は今年の夏はたかあきにいっぱい甘えていちゃ
いちゃしたかったのに…ぜんぜん出来なかった。ミルファ、許すまじ。

 今日は夏休み最後の1日を楽しむためにあたしたち3人に向坂君を加えて遊びに出かけ
ていた。

                   −
231似たもの同志? 5/12:2007/08/31(金) 00:18:11 ID:QYDddYNj0
「まったく…なんで貴明だけがもてるんだ…世の中は不公平だぜ。」
 アイスバーにかぶりつきながらたかあきの親友の向坂君がぼやく。
「美少女とメイドロボが自分を取り合って争いあう…男なら一度は味わってみたい萌える
 シチュエーションじゃないかっ!」
「まあ、一度二度ならな…最近毎日なんだけど。」
「ま、その気苦労には同情しとくぜ。俺に言わせりゃ贅沢な悩みだがな。にしても…」
「な、なによ…」
「なに?あたしの顔に何かついてる?」
 向坂君があたしとミルファの顔をじろじろと見てる。何かしら…気持ち悪いなぁ。
「何よ…何かあるなら言ってよ。」
「いやなぁ…由真ちゃんとミルファちゃんって似てるなぁと思って。」
「はぁ?何でこんなのと。」
「あたしこそなんで由真ピーなんかと。」
「由真ピー言うな!」
「どこが似てるんだ雄二?」
「んー、なんつうの?見た目っつうか雰囲気っつうか。由真ちゃんはツンデレでミルファ
 ちゃんはデレのみっつー違いはあるけどな。」
「見た目?」
「ほら、長さ違うけど髪形とか、元気で活発なとことか、エロいプロポーションとか。」
「エロい言うな!」
「エロいじゃん。ほら、胸でかい所とか、太ももとかむっちりしてて膝枕してもらったら
 気持ちよさそうなとことか。ぐへへへ。」
「雄二…お前って奴は…」
「…変態…」
「死ね。」
232似たもの同志? 6/12:2007/08/31(金) 00:20:26 ID:QYDddYNj0
 バキィ!
「ぬおはぁ…そこは蹴っちゃ駄目…がくっ」
 悪は滅びたわ。
「まぁ〜ったく、あいかわらず乱暴なんだから。そんなんじゃ貴明に嫌われるよ由真
 ぽん。」
「うがー!由真ぽん言うな!…大体、もともとあたしが貴明の彼女なのに後から割り込ん
 できたのはあんたでしょ!」
「べつに順番の問題じゃないでしょ。あたしは貴明のためだったらどんなことでもしちゃ
 うよ?」
 ミルファはたかあきの腕に抱きついて頬を摺り寄せてみせた。
「あ、あたしだって…たかあきがしたいっていうなら…なんだって…大体、初めての時
 だって…その…ア…アナル…だってしたし…」
「由真…頼むから往来でそういうこと言うのやめて…俺のダメージ必至だから…主に社会
 的地位とか。」
「ふーん。ならあたしはフルコースでご奉仕しちゃう。」
「は?フルコース?」
「えと…前と、後ろと、胸で挟んでお口?」
 ミルファが自分の胸を寄せて見せながら妖艶ににやりと笑った。
 その横のたかあきをふと見たら、
「…たかあき」
「…え?あ?な、なに?」
「何生唾飲み込んでるのよ…ミルファにその…すけべな事されるのを想像してたんで
 しょ。」
「え、あ、いや…ちょっとだけ…」
「いや〜ん、たかあきったらぁ…じゃあ今夜にでもしてあげる。」
233似たもの同志? 7/12:2007/08/31(金) 00:21:02 ID:QYDddYNj0
「あ、いや、そういう事じゃなくって」
「…さいってぇ」
「え?」
 ミルファに迫られてでれでれするたかあきを見てたら、あたしの口からそんな言葉が
自然と出ていた。
「この、むっつりすけべ!」
 どがっ
「ごふぁぁ!」
 あたしは零れそうになる涙をこらえながら、その場から駆け出していた。

                   −

 ツインタワーの渡り廊下は、今にも沈みそうな夕日に照らされて真っ赤に染め上げられ
ていた。
 あたしはガラス越しに沈む夕日を見つめていた。

 さっきのでれでれするたかあきの顔を思い浮かべる。
 たしかにあたしとミルファは似てるかもしれない。でもミルファはあたしと違って自分
の感情に素直で貴明に対しても真っ直ぐだ。
 本当は、たかあきもあたしみたいに素直じゃない女の子より、ミルファみたいに表裏が
無くて素直な子が好きなんじゃないかという気がしてくる。

 ミルファは決して貴明を裏切ったりだましたりしない。ミルファがロボットだからとい
うわけじゃない。
 ミルファに人間と変わらない心があるのはこの1ヶ月の共同生活で十分わかった。そし
てあたしよりも純粋なのだ。純粋に、心の底からたかあきのことが好きだから決して裏切
らないのだ。
234似たもの同志? 8/12:2007/08/31(金) 00:21:33 ID:QYDddYNj0
 それでいて、体はロボットだから、永遠に美しいままなのだ。年とともに成長して、
やがて衰えて老いてしまうあたしたち生身の女の子には怖い存在だ。

 もちろん、あたしは誰にも負けないくらいたかあきの事が好き。今たかあきに別れを
告げられたら、きっと立ち直れない。
 でも、すごく不安になる。もうたかあきの心はあたしには無いんじゃないかって。

 そんな鬱な思考の堂々巡りに陥っていたあたしの体を、誰かがそっと抱きしめた。
 そんなことをするのは一人しか居ない。

「たかあき…」
 顔は見えないけど、あたしの体に回された手だけでわかる。
 大きくて、でもすごく柔らかくてやさしい手。指の爪の形ひとつまで覚えてるたかあき
の手。

「ごめん…また泣かしちまったな。」
「泣いてなんか…ない。」
 そうだ、泣いてなんかいない。涙はさっきここに来る前に止まっていた。
「でもな、今の由真の後姿がさ、なんかあの時と同じで…泣いているように見えたん
だ。」
 たかあきのあたしを抱く腕に力がこもる。その息苦しさがすごくうれしい。
「馬鹿。」
「…ごめん」
235似たもの同志? 9/12:2007/08/31(金) 00:22:08 ID:QYDddYNj0

「ねえ、あたしのこと…本当に好き?馬鹿で乱暴でドジで五月蝿いあたしの事。素直で
かわいくて従順なミルファの方が好きなんじゃない?」
 あたしは、答えを恐れながらそう尋ねる。

 そうしたら、たかあきはあたしの右肩にそっと顔を乗せて、耳元に囁くようにして
答えた。
「俺は…その、由真が好きだよ。由真は俺の前では素直でかわいいじゃないか。」

 あたしが横目で貴明の顔を見ると、貴明の顔は真っ赤だった。それはきっと夕日のせい
じゃなくって、
「じゃ、じゃぁ…それを証明してよ。」
 そう言ったあたしの顔もきっと赤くって、それもやっぱり夕日のせいじゃない。

 たかあきの体が離れる。そしてあたしの肩に手がかかって、あたしを振り向かせる。
 そこに居たたかあきはやっぱり真っ赤だった。そしてあたしも。
「じゃ、証明…」
 そして、あたしの唇がそっと塞がれた。

                   −

「あ、由真はちょっと待っててくれ。呼んだら入ってきて。」
 二人で腕を組んで河野家に戻ってきた。辺りはすでに日も落ちて真っ暗だ。
 なのにたかあきはあたしを外に待たせて、一人で家に入っていってしまった。
 こんな暗い中に女の子一人外で待たせるなんて…何考えてるのかしら。
236似たもの同志? 10/12:2007/08/31(金) 00:22:41 ID:QYDddYNj0

「入ってきていいよ。」
 たかあきに呼ばれてあたしは家の中へと入った。でも誰も居ない。
 仕方なく、靴を脱いでリビングに向かう。リビングにも電気がついていない。

 たかあきはどこに隠れてるのかしら。ミルファも居ないし。
 リビングのドアを開けて電気をつけた。その瞬間、
「「由真!誕生日おめでとう!」」
「え?何、なんなの?」
「だから、お誕生会だよ。由真今日誕生日なんでしょ?」
 そんな事を言いながらミルファがあたしに近づいてくる。
「ミルファ…」
「…さっきはごめん。ちょっとからかいすぎたわ。」
 そう言いながらミルファが頭を下げた。
「いいのよ。さっきはあたしが勝手に怒ってただけなんだから。」
「ありがとう…じゃ、仲直りしたところで、さ、座って座って。」

 ミルファに押されてダイニングに行くと、テーブルの上にはいろいろなごちそうと大き
なケーキが並んでいた。
「実はミルファと何日か前からこっそり準備してたんだ。」
 ケーキの蝋燭に火をつけながら貴明が言った。それでここ何日かミルファがあたしを
キッチンに近寄らせなかったのか。
 あたしはミルファに勧められるままにいつもの自分の席に着いた。

 蝋燭の火を一息で吹き消すと、二人が再びおめでとうといってくれた。
237似たもの同志? 11/12:2007/08/31(金) 00:23:38 ID:QYDddYNj0
「じゃ、これはあたしから。あたしがつけてるのと同じブランドで由真に似合う香りのを
 選んでみたの。」
 ミルファからのプレゼントは香水。さわやかな香りであたし好みだった。

「たかあきは何くれるの?」
「じゃ、手を出して。」
「ん?はい。」
 あたしが、ちょうだい、って感じに両手を出すと、左手を取って手の甲が上になるよう
にひっくり返した。
 そして、薬指に銀の指輪をはめてくれた。こ、これって、もしかして…
「これ、もしかして…婚約指輪!」
「あー、いや…さすがにそこまでは。まだ働いてるわけじゃないしな。まあ、婚約約指輪
 ぐらいかな。将来ちゃんとした指輪を贈るまでの代わりって言うか。安物で悪いけ
 ど。」
「ううん…うれしいよ。…あ」
 ミルファを見ると、あたしの指輪をうらやましそうな、そして悲しそうな目で見ていた。
 ミルファはそのあたしの視線に気がついたのか、無理に笑顔を作りながら答えた。
「あたしはロボットだから…貴明の本当のお嫁さんになってあげられないし、赤ちゃん
 産んであげられないから…」
「ミルファ…」
「あ、でもでも、愛人にはなれるよ!…だから、今夜からは由真と二人でご奉仕しちゃう
 から!」
「な、」
「な、なにいってんのよ!大体たかあきとそういうこと出来るのはあたしだけなんだか
 ら。」
238似たもの同志? 12/12:2007/08/31(金) 00:24:35 ID:QYDddYNj0
 あたしは真っ赤になりながら、後から考えるとすごくはしたない台詞を大声で叫んで
いた。
 そうしたら、ミルファのやつ口を尖らせ、体を悩ましげにくねらせながら言った。
「えー、夜中に二人のいちゃつく声とか聞こえちゃってあたしも欲求不満なんだもん。そ
 れに、二人で協力して搾り取っちゃえば、貴明もほかの女の子に浮気しなくなるよきっ
 と。」
「いやいやいや、そんなことされたら俺死ぬし。」
「それはいい考えかもね…」
「ええっ、由真までその気になってるんじゃない!」
「じゃ、今夜は二人でご奉仕ね。…あたし初めてだから…たかあき、やさしくしてね。」
「のわーっ!やんねっての。大体明日は始業式なんだから、そんなことしてたら寝坊しち
 まう。」
「あ、そだ。明日からあたしも学校行くから。」
「なにぃ!聞いてないぞ。大体なんでミルファが学校にくるんだ!」
「あたしも聞いてないわよ。どういうこと?」
「珊瑚様が社会適応能力のテストだって。制服もちゃんと用意したんだよ。由真!二人で
 協力してたかあきに付く余計な虫を追い払うのよ!」
「なるほど…おっけ!じゃ、明日からあたしたちは同志よね!」
「カンベンしてくれ…」
 がっちりと握手を交わすあたしとミルファの横で、たかあきは頭を抱えていた。
239物書き修行中:2007/08/31(金) 00:25:45 ID:QYDddYNj0
つーわけで、由真誕生日SSです。半分捏造ミルファですが。
Another Days? 河野はるみ? 何ですかそれは (∩゚д゚)アーアーきこえなーい

ちなみにタイトルの「似たもの同志」は「似たもの同士」の誤字ではありません。
わざとです。

じつはシリアスな話も書いてたんですが、途中でgdgdになったのでそっちは絶賛放置中w

ところでこの間コミケ限定の「このたま2」とか言うCDがとらで売っていたので思わず
買ってしまいました。
草壁さんが貴明を「河野さん」と呼ぶのが違和感ありまくりでしたが、あのノリノリな
草壁さんはかなりイイ。貴明改造計画が最高。
240名無しさんだよもん:2007/08/31(金) 00:36:04 ID:xs1ow6M70

なんかニヤニヤしてしまった。
由真好きだから由真のSSはうれしい
241名無しさんだよもん:2007/08/31(金) 02:03:16 ID:AewX+/slO
ひさびさのSSだったけど、けっこう面白かった
242名無しさんだよもん:2007/08/31(金) 19:44:36 ID:gZ+HuwEv0
ほんとうにゆまさんは少ないなあ。
ゆま分補給完了ゴチです。
243名無しさんだよもん:2007/09/01(土) 00:29:42 ID:pUkNcF+C0

ミルファ登場は嬉しい誤算だった。そういえば物書きさんの誕生日SSは
タマ姉に次いで二人目か。キャラへの愛を感じるぜ。
244名無しさんだよもん:2007/09/01(土) 03:54:43 ID:19As8lDDO
ageますね
245物書き修行中:2007/09/01(土) 09:39:57 ID:FygNHjCt0
書きかけ放置のほうももったいないので仕上げますた。
うpします。
246雨のち秋晴れ 1/13:2007/09/01(土) 09:41:26 ID:FygNHjCt0
 夏休みの最後の1日を一緒に過ごそうとたかあきと約束した。
 少し離れた場所にある遊園地に行こうと約束したのだ

 あたしは嬉しくて、前の日は遅くまで寝付けなかった。
 おかげで次の日は予定よりも少し遅くおきてしまった。いつものあたしなら慌てる所
だけど、寝坊は織り込み済みでかなり早く起きる予定だったから余裕の時間だった。

 まずシャワーを浴びて隅々まで綺麗にして、その後念入りにブラッシングしながら
ドライヤーで髪を整える。
 そして薄化粧をして最後にリップを塗ると、昨日のうちに選んでおいた取って置きの服
に着替える。これで完璧。

 そこまで終えて時計を見ると、げ、もうこんな時間。

 本当は歩いていくつもりだったんだけど、この時間じゃ待ち合わせの駅前に着く頃には
遅刻だ。おじいちゃんは今日は早出で居ないし。
 仕方ないのでMTBを引っ張り出した。下はミニスカートだから気をつけないと下着が
見えちゃうけど、MTBならそこそこのスピードでも間に合うから、飛ばさなけりゃ
大丈夫よね。

 MTBを漕ぎ出す。夏の暑さはまだ続いているけど、風はちょっとだけ涼しくなって
きた気がする。日陰ならかなり過ごしやすい。

 今日はどんな1日になるだろうか。貴明と一緒ならそれだけで楽しいけど、今日は
遊園地に出かけるんだから、飛び切り楽しいだろう。
247雨のち秋晴れ 2/13:2007/09/01(土) 09:41:59 ID:FygNHjCt0

 MTBを走らせながら、ちらりと空を見上げた。少し曇ってきている。
 出掛けに天気予報を見てくるのを忘れていた。雨が降るかなぁ。でも傘は持ってきて
ないし。でも、たかあきは意外としっかりしているから持ってきているかも。それなら
それで、一緒の傘で相合傘なんてのも…

 そんな取り止めの無い楽しい想像にふけりながら走っていたあたしの前に、1匹の猫が
飛び出してきた。

 あたしは反射的にブレーキレバーを目いっぱい握った。

 タイヤが悲鳴を上げる。

 時間が濃密になる。その濃密な時間の中で、速度の低下とともにタイヤがグリップを
増していくのを感じて、次にロックした前輪がしっかりと大地を掴むのと同時に後輪が
ふわりと持ち上がるのを感じた。

                   −

 気が付くとあたしは地面にうつぶせに倒れていた。
 周りの地面には雨粒がぽつぽつと落ち始めていた。意識が戻ってくるに連れて体のあち
こちが痛み出した。

 両手の平がひりひりする。両手を見てみるとすりむけて血がにじんでいた。
 両手を突いて身を起こそうとすると左の肘と肩が痛くて力が入らない。
248雨のち秋晴れ 3/13:2007/09/01(土) 09:43:56 ID:FygNHjCt0
 仕方ないので右向きに転がってから起き上がった。立ち上がろうとすると左ひざも痛ん
だ。見てみると腫れ上がった上にひどく擦りむけて血が流れていた。
 左のあごの辺りもひりひりする。右手で触ってみるとぬるりと血が付いた。おまけに
首が痛い。多分顔から落ちてほっぺたの当たりを擦りむいたに違いない。

 いつか貴明とぶつかりそうになって自転車から放り出されたことがあったけど、あれと
同じだった。違うのは、あの時は植え込みがあたしを受け止めてくれたけど、今回はアス
ファルトの地面と熱烈な抱擁をしてしまったことだ。

 見回してみれば、気合を入れておめかしした服も、あちこち擦り切れて泥だらけだった。
 たぶん体も血と泥と打撲の跡でひどい状態になっているはず。

 時計を見ると、とっくに待ち合わせの時間は過ぎていた。でもこんなカッコじゃ行ける
訳も無い。
 雨が強くなってきて、あたしの服をぬらして重くなっていく。それと一緒に、ひどく
惨めな気分になって悲しくなってきて、涙がこぼれてきた。

 たかあきは多分待っているだろう。あいつは優しいから、遅刻してくるあたしを雨の中
待ち続けているだろう。でも、あたしはどうしたらいいのだろうか。

 ずぶ濡れになって、体も冷え切った頃になって、あたしは自転車を起こして歩き始めた。

 ハンドルに添えた左手は痛みで力が入らない。左足はひざが痛んで上手く歩けないので、
ずるずると引きずりながら歩く。駅にはいつ着くか解らなかった。
249雨のち秋晴れ 4/13:2007/09/01(土) 09:45:54 ID:FygNHjCt0
 そうやってヨロヨロしながら歩いていたら、

「由真!」

 ここに居るはずの無いたかあきの声が聞こえた。

「一体どうしたんだ。お前の家に電話したらとっくに家を出たって言うから探しに来たん
 だけど…こんなにずぶ濡れになって…おまけに怪我してるじゃないか。」
「たかあき…う、うぁぁ」
 あたしは恥も外聞もなく泣き出していた。
「ゆ、由真…どうしたんだ。」
「ね、猫が、飛び出してきて…ブレーキかけたら…転んで…たかあきとの…や、約束に
 遅れて…どうしたらいいかわからなくて…」
「遅れたことなんかいいから…病院行かなくちゃ。」
「ごめん…ごめんなさい…たかあき…」

                   −

 あたしはたかあきにタクシーに押し込まれて、近くの緊急病院に連れてこられた。
 顔から落ちたと話したら頭のレントゲンを念入りに撮られて、そして痛みのひどい部分
も片っ端からレントゲンを撮られた。
 レントゲンを撮ってる間にたかあきが連絡したらしくて、レントゲン室を出たらうちの
お母さんが飛んできていて、すごい騒ぎになっていた。

 幸い、頭や骨には大事は無かったみたいでほとんどは擦り傷と打撲だけだった。
250雨のち秋晴れ 5/13:2007/09/01(土) 09:52:39 ID:FygNHjCt0
 膝は少し切れていたので2針ほど縫うことになった。跡残っちゃうな…

 肩は、変な体制で落ちて無理な力がかかったせいで関節を痛めて捻挫のような状態らし
くて、肘の痛みもあるので三角巾でつることになった。左の膝は縫った上に包帯が巻かれ
た。
 顔の左のほっぺたにも大きなガーゼが付けられたけど、顔がどんな状態になっているか
は鏡が無いのでわからない。

 今まで生傷作っても気にしたこと無かったけど、跡が残るかも知れないと思うと、すご
く気になる。顔に傷とか残ったら、たかあきはどう思うんだろう…

 治療が終わって、お母さんがタクシーを呼んでくれた。
 一緒に帰ろうといってくれたんだけど、今は無性に貴明と一緒に居たかったから、持っ
て来てくれた着替えを受け取ってたかあきの家に行くことにした。

 あたしは泥だらけで生乾きの服のまま、たかあきとタクシーに乗った。
 乗るときにバックミラーを見たら、タクシーの運ちゃんがあたしを見て少し顔をしかめ
たのが解った。たぶんシートが汚れるとか思ったんだと思う。あたしはまた惨めな気分に
なった。

 うつむいたあたしの絆創膏だらけの手をたかあきが握ってくれた。
 あったかくて優しい手。その暖かさで、あたしの目からまた涙が滲んで来た。

 タクシーは雨の中しばらく走ったあと、河野家の前に付いた。
 貴明が傘を開いて差してくれる。やっぱりたかあきは傘持ってたんだ…でも今のあたし
は相合傘を楽しむ気分にはなれなかった。
251雨のち秋晴れ 6/13:2007/09/01(土) 09:55:21 ID:FygNHjCt0

 家の中に入って、ソファに座る。
「由真、着替えたほうがいいんじゃないか?ぬれてるだろ。入れるんなら、風呂とか入っ
 たほうがいいと思うけど…無理か。」
 たかあきが絆創膏と包帯であちこちぐるぐる巻きになっているあたしを見て言う。
 でもすごく体が冷えているのは確かだった。

 いつもの意地っ張りなあたしはどこかへ行っていた。代わりに、甘えたがりのあたしが、
普段なら言えない事をたかあきに言った
「たかあき…シャワー浴びるの…手伝ってよ。」

                   −

 たかあきは、あたしの言葉に驚きながらも、手助けが必要と感じたのか同意してくれた。
 本当はたかあきにただ甘えたかっただけなんだけど。

 たかあきは痛がるあたしを心配しながら服を脱がしてくれた。
 たかあきとは何度かエッチもしたから裸を見られるのは初めてじゃないけど、いつもと
違うシチュエーションのせいか、ものすごく恥ずかしかった。

 絆創膏だらけの両手はビニール袋をかぶせて輪ゴムで手首で閉じた。
 擦りむいた肘と膝にはラップをぐるぐる巻きにしてぬれないようにした。
 肩のシップは一旦剥がした。顔はぬれないように気をつけるしかない。
252雨のち秋晴れ 7/13:2007/09/01(土) 09:58:30 ID:FygNHjCt0
 そこまでやって、あたしはふと洗面所におかれた大きな鏡に映った自分の姿を見た。
 体中傷と青あざだらけで、今にも泣きそうな顔をしたあたし。顔に貼られた大きな
ガーゼがひどく痛々しくみえた。

 たかあきも裸になってタオルを腰に巻いてあたしを浴室に導いた。

「じゃ、じゃあ、いくぞ。」
 たかあきが温めにしたシャワーをかけてくれる。

 冷え切っていた体が温まっていくのを感じる。
「どうだ…?」
「ん…あったかい…」
 あたしは裸で立ったまま。たかあきが肩から背中、お尻の辺りまでシャワーを浴びせて、
その後前に回って胸からお腹へとシャワーを下ろしていった。
 たかあきはなるべく見ないようにしているみたいだけど、それでも多少は見られるから、
なんだか恥ずかしい。

「これで、一通りかな…」
 一通りシャワーを浴びせ終わるとたかあきがふう、と一息ついた。
 あたしはというと、恥ずかしさにもなれてきてもう少し貴明に甘えたい気分になって、
普段なら言えない様な大胆なことを言った。
「ねえ…どうせなら、体洗ってよ。ボディソープをスポンジで塗ってくれるだけでいいか
 ら。」
「ええっ!」
 あたしの裸を目の前にしていっぱいいっぱいだったたかあきは驚いたみたい。
253雨のち秋晴れ 8/13:2007/09/01(土) 10:01:30 ID:FygNHjCt0
「じ、自分で洗えないか?…右手は使えるだろ。」
「この手じゃ持ってても滑って落としちゃうわ。」
 あたしは絆創膏だらけでビニール袋をかぶせた手を上げて見せた。
 貴明はあきらめたみたいで、スポンジを手にとってボディソープを含ませた。
「じゃ、じゃあ…行くぞ。」
「う、うん。」
 たかあきの持ったスポンジがこわごわとあたしの背中に触れた。そしてゆっくり、やわ
やわとあたしの背中をこすり始めた。スポンジは少しずつ下に下がって、背中からウエ
スト、そしてお尻をゆっくりとなでていく。
「う…あん。」
 むず痒い様な、くすぐったい様な感触に声を上げたら、一瞬たかあきの手が止まったけ
ど、すぐにその手は太股へと降りていった。

「…やっぱり、前もやるのか?」
「どうせなら…後ろだけじゃしょうがないし。」
 たかあきはまたため息を一つついて、自分の顔をぴしゃりと叩くと、あたしの前に立っ
た。
 当たり前だけど、手が触れる距離だから、たかあきの顔も近い。なんだかキスするよう
な感覚になって、ドキドキした。
「…じゃ、いくぞ。」
「うん…」
 たかあきの手があたしの首元に伸びる。スポンジがあたしの肩に触れて、そこからやわ
やわと、さっき背中にしたのと同じようにゆっくりと優しい感じであたしの体をこすって
いく。
254雨のち秋晴れ 9/13:2007/09/01(土) 10:02:17 ID:FygNHjCt0
 手はだんだん下に下りていく。肩から鎖骨の辺りを経由して、あたしの胸を片方ずつ、
円を描くようにしてこすっていく。そして最後にその先端の部分にスポンジがふれて、
その甘い刺激に思わずあたしに口から吐息が漏れてしまった。
「ふ…ぁ…ん…」
 ねだっては見たものの恥ずかしくてたかあきの手を見ないようにしていたんだけど、今
自分の胸を見下ろしたら、その先端がうっすらと尖ってきていた。…恥ずかしい。
 たかあきの手はそんなあたしの気持ちを知ってか知らずか、ゆっくりと降りていって、
今はおへその辺りを撫でていて…いつもエッチしているときはそんなこと無いのに、撫で
回されるたびに背筋がぞくっとした。
 たかあきの手はさらに下りて、あたしの…あそこに触れる直前で止まった。
「…いいか?」
「…う、うん。」
 たかあきの手のスポンジがあたしのあの部分をやわやわと撫でた。甘い刺激で腰の辺り
にけだるい感触が宿って、背筋がゾクゾクした。
「ふ…や…あん」
「…あんまり色っぽい声出さないでくれよ…俺も抑えきれなくなっちまう。」
 懇願するようなたかあきの声に、あたしは足元のたかあきの方を見た。たかあきが腰に
巻いたタオルの前が持ち上がっていた。
「ご、ごめん…でも、たかあきの手つきが、なんかやらしいから…」
「…仕方ないだろ。女の子の体を洗うのなんて初めてなんだから…雄二とかなら力一杯
 ごしごし洗ってやるけど、女の子にそういうわけにも行かないだろ。」
「う、うん…」
「もう少しで終わるから、もう少し我慢してくれ。」
 たかあきの手が太股に下りて、膝、ふくらはぎ、そして指の間まで丁寧に洗ってくれた。
 最後にもう一度シャワーを浴びせてボディソープを流しておしまい。
「はい、おしまい。…じゃ、上がろうか。」
255雨のち秋晴れ 10/13:2007/09/01(土) 10:03:09 ID:FygNHjCt0
 たかあきがお風呂から出ようとする。でも、腰に巻いたタオルの前が窮屈そうに盛り上
がったままになっていた。
「ねえ、たかあき…それ。」
「え?…あ、ああ。由真の色っぽい声を聞いたら…」
「苦しいんじゃないの?その…しよっか?」
 あたしがそう言うと、たかあきはしばらく固まっていたけど、いきなり水のシャワーを
頭からかぶり始めた。
「うひゃ、つめて〜」
「…なにやってるのよ。」
「いや…これで収まったから。上がろう」

                   −

 お風呂から上がった後、たかあきが夕食を作ってくれた。二人でそれを食べると、今日
は早いけど寝ることにした。
 そして、今はたかあきのベッドで、たかあきの胸に抱かれながら眠りに付こうとしてい
る。あたしはたかあきから借りたぶかぶかのパジャマを着て、たかあきの腕を枕にしてい
る。体が痛くて左に寝返りを打てないので、たかあきの左に寝てたかあきの胸に顔をうず
めていた。

「ねえ…さっきどうしてお風呂でエッチしなかったの?…すごく苦しそうだったのに。」
 さっきのたかあきの様子を思い出して聞いてみた。
「怪我して体中痛がってる由真を抱けるわけ無いだろ…俺はただの性欲のためだけにに
 由真とエッチしたい訳じゃないんだぞ。」
「そっか…そうだよね…たかあき、やさしいな。」
256雨のち秋晴れ 11/13:2007/09/01(土) 10:03:39 ID:FygNHjCt0
「それに、泣きそうな顔してる由真に早く元気を取り戻して欲しいからな。だから、今日
 はもう寝よう。寝て起きれば、ネガティブな気分も少しは晴れるだろ。」
「うん…今日はごめんね。それにありがとう。…おやすみ、たかあき。」
 あたしはまたたかあきの胸に顔をうずめた。深呼吸する。たかあきの香りが胸いっぱい
に満ちて、いつの間にか深い眠りについていた。

                   −

 目覚まし時計に起こされて、目を開けた。
 太陽の光が目に飛び込んできて思わず顔をしかめた。

 目がなれて見上げると見慣れない天井。そういえば貴明と一緒に寝たんだっけ。でも
貴明はとっくに起きているらしくって、もうベッドの中には居なかった。
 起き上がって伸びをすると左肩が痛んだ。でも昨日よりもずっとマシだった。

 なぜか部屋に用意されていた制服に着替えてキッチンに行くと、ベーコンエッグとトー
ストが2人分用意されていた。
「おはよう…よしよし、大分マシな顔になったな。」
「…どういう意味よ。」
「いや、いつもの由真の顔だと思って。昨日みたいなしょげた顔はらしくないからな。
 笑ったり怒ったり、表情がころころ変わって忙しいくらいのほうが由真らしいよ。」
 そう言って貴明が笑う。あたしはふくれっ面をしてみせながらも、いつの間にか笑って
いた。

「ところでこの制服どうしたの?また前の体操服みたいに買ってきたのかと思ったけど、
257雨のち秋晴れ 12/13:2007/09/01(土) 10:04:22 ID:FygNHjCt0
 これ本当にあたしの制服じゃない。」
 貴明の作った朝食を食べながら朝感じた疑問を聞いてみた。
「朝のうちにお前のMTBを拾いに行って、ついでにお前の家まで行って制服とかばん
 受け取ってきたんだよ。始業式があるのに困るだろ。ほらそこにかばんもある。」
 貴明が指したキッチンのいすに、あたしがいつも使っているかばんが掛けてあった。
 早起きして取りに行ってくれたのか。貴明に感謝。
「にしても、たかあきって意外に器用ね。ベーコンエッグも上手に焼けてるじゃない。」
「そいつはどうも。」
「が、しかーし、あたしのほうが料理の腕は上よ。今度食べさせてあげるわ。」
「お、いつもの由真らしくなってきたじゃないか。…じゃ、こいつを渡そうかな。」
 そう言ってたかあきが差し出したのは小さな箱。それを開いてみせる。
「え、それって…指輪じゃない。」
「短期のアルバイトじゃ大して稼げないから安物だけどな。本当は昨日遊園地に遊びに
 行った時に、最後に観覧車にでも乗って渡そうと思ってたんだけど。昨日誕生日だった
 だろ。」
「…これ、ペリドット?…うれしい…ねえ、はめて頂戴。」
 そう言って左手を出そうとして絆創膏だらけなのを思い出した。
「うーん…これじゃ無理よね。」
「いや、この指は無傷だろ。」
 そう言ってたかあきはあたしの左手を取ると、薬指に指輪をはめた。
「ぴったり…どうしてあたしのサイズ知ってたの?」
「おせっかいなどこかのいいんちょが教えてくれた。」
「愛佳が?…全くお節介なんだから。」
 そう言いながらあたしは苦笑した。今回は愛佳に感謝かな。

                   −
258雨のち秋晴れ 13/13:2007/09/01(土) 10:06:16 ID:FygNHjCt0
 二人で玄関を出て、たかあきが戸締りをした。
 玄関の横にあたしのMTBが置かれていた。
「しばらくこいつには乗ってやれないわね。」
「乗れるようになっても今度からは気をつけてくれよ。…由真が大怪我したり…運が悪く
 て死んだりしたら、俺はどうすればいいんだよ。」
「うん…今度から気をつける。…婚約指輪も貰ったから、貴明のお嫁さんにならなきゃな
 らないしね。」
 そう言ってからかったらたかあきの顔が真っ赤になった。
「そ、そうやってからかうのはやめろよ。俺は心配してるんだぞ。」
「わかってるってば。ほら、早く学校行かないと遅刻するわよ。」
 そう言いながら、あたしは貴明の左腕に自分の右腕を絡めた。
「お、おい由真。あんまりくっつくなよ。」
「膝が痛くて歩きづらいんだからちょっとぐらいいいでしょ。さ、レッツゴー」
 今日から新学期。ちょっとがっかりすることもあったけど、でも今日の気分は天気と
同じように秋晴れだった。
259物書き修行中:2007/09/01(土) 10:15:17 ID:FygNHjCt0
つー訳で2本目でした。
盛り上がりもなく淡々とした内容ですが。

ちなみに自転車でこけた部分は自分の経験が多分に入ってたりします。
ままちゃりと違ってスポーツ車はブレーキの利きが良いので油断してるときの
パニックブレーキはやばいです。
漏れはジャックナイフして地面に激突し、緊急搬送されますた。

ところで9/6はこのみの誕生日なの忘れてました。
何も考えてないや。
260名無しさんだよもん:2007/09/01(土) 12:00:13 ID:ydJ2JGS50
ピンポーンピンポーン
貴明「すいませーんUMAの制服とりにきましたー」

想像だけで笑えるw
261名無しさんだよもん:2007/09/01(土) 12:25:52 ID:CSil8jlO0

ロードで事故った時の事を思い出して顔が痛くなった…
由真かわいいよ由真
262名無しさんだよもん:2007/09/01(土) 14:21:49 ID:6e7fSqpT0
はからずも、雄二を力一杯ごしごし洗う貴明に萌えた(;´Д`)ハァハァ
263名無しさんだよもん:2007/09/01(土) 14:34:51 ID:6e7fSqpT0
忘れてた、お疲れ様です
264物書き修行中:2007/09/01(土) 22:01:07 ID:FygNHjCt0
>>262
実は雄二をごしごし〜の下りのあたりは、最初

「女の子の体を洗うのなんて、小さい頃にこのみと一緒に風呂に入った
くらいしかないから解らないよ。」

とか空気読めない貴明を演出しようかと思ったんですが、鬱状態の由真が聞いたらツンデレからヤンデレに
クラスチェンジしそうだと思ってやめましたw


ちなみに雄二相手だったら、

貴明「背中終わったぞ。」
雄二「おう。前も頼むぜ。」
貴明「はぁ?(゚Д゚ )」
雄二「だから前も洗ってくれよ」
(貴明、無言でヘチマたわしを握る)
貴明「ああそうか………じゃあ洗ってやるよ!」
ごりっ!ごりっ!ごりっ!ごりっ!ごりっ!ごりっ!
雄二「うわっ!やめっ、やめて!痛い!痛いって!
   だめ!そこ駄目!うわ!使い物にならなくなっちゃう!」

ってかんじかなw
265名無しさんだよもん:2007/09/01(土) 23:20:13 ID:sXFQoG4s0
お疲れさまでした。                          僕もチャリで事故ってチャリごと前転して八重歯が砕け、顔が傷だらけになった経験があるので感情移入してしました。                最後に、しおらしい由真がかなり良かったですw
266名無しさんだよもん:2007/09/02(日) 12:21:04 ID:/pinzCEqO
しおらしい由真もいいが、貴明がかっこいい
さすが枕貴明。いつもこの調子ならいいのに。
267名無しさんだよもん:2007/09/02(日) 13:29:17 ID:6vxF7CeA0
怪我してるお前に無理やりHなんて出来るか
でも、アナルならいいだろ

枕貴明ならこのくらいのことはする
268名無しさんだよもん:2007/09/03(月) 00:26:01 ID:/1MH3FXS0
雄二の前を洗っているのを想像したらかなり痛かったotu
269名無しさんだよもん:2007/09/03(月) 02:56:39 ID:jPHvCRhz0
今初めてSS書いてみようと思ってるんだが
このスレはエロパロはイラネって考えておk?

本編の如くエロあってもなくても成り立つ内容になりそうだが。
270名無しさんだよもん:2007/09/03(月) 03:07:51 ID:lXCK4IbI0
18禁板だから普通にエロおk
内容の質が酷けりゃ突っ込みも入るかも知れんけど
271物書き修行中:2007/09/06(木) 21:23:20 ID:Jx7HxPrn0
このみ誕生日SSでけた。
ついでに過疎ってるんで一度アゲ
272対等の条件 1/13:2007/09/06(木) 21:24:31 ID:Jx7HxPrn0
 あの「河野貴明共有宣言」からはや4ヶ月とちょっと。
 ああ、はるかな異国の空の下に居るだろう、お父様、お母様。そちらはいかがお過ごし
でしょうか。
 俺はというともういろいろな意味でボロボロです…


 〜対等の条件〜


 共有財産とされた後の俺の生活は、人によっては羨ましいと思えるものかもしれない。

 美人とかわいい幼馴染の女の子が毎朝交代で俺を起こしに来て、朝食を作ってくれた
うえ、両手に花状態で一緒に登校し、お昼にはこれも交代で作ってきてくれるお手製の
お弁当に舌鼓を打ち、放課後にはまたまた両手に花状態でプチデートとしゃれ込み、家に
帰った後も手料理の夕食が出され、日によってはその女の子たちが泊まりにやってきて
一緒に一夜を過ごすのである。

 年頃の健康な男子高校生なら、それだけ聞けばそのハーレムぶりに悔し涙を流すか、
酒池肉林な桃色の妄想でご飯3杯位行ってしまうのかも知れない。

 しかし、当の本人である俺にとってはそう楽しい話ではないのだ。
 問題を先送りにしたツケとはいえ、女の子が苦手な俺にとって押しの強い幼馴染たちの
アピールは目に余るものがある。
273対等の条件 2/13:2007/09/06(木) 21:27:43 ID:Jx7HxPrn0
 大体、前述の事象でさえ俺の主観で言うなら、朝合鍵で進入してきた幼馴染に布団を
めくってたたき起こされ…ついでに朝の男の生理現象を見咎められて辱めを受け…登下校
時は俺の両腕にぶら下がる美少女のベタベタぶりにバカップルを見るような痛い視線を
受けて胃が痛くなるのである。
 泊まりにきたときなど、風呂に入っていると素っ裸で背中を流しにくるわ、夜俺のベッ
ドに侵入しようとするわで最悪である。あの日以来、俺の安息の地は失われたのである。

 そして、今日もまたそれは続くのである。
「タカく〜ん。あさだよぉ。」
 このみの起こし方はやさしい。ゆさゆさとゆすって起こしてくれる。これがタマ姉だと
いきなり布団剥ぎ取りから入った上に朝から体中蹂躙されるのでかなりのHPが朝っぱら
から失われることになる。

 にしても…あれ?
「…おはよう、このみ。今日はタマ姉の日じゃなかったっけ?」
 このみとタマ姉は交代で俺の家にやってくる。月水金はこのみで火木土はタマ姉だ。
 日曜は土曜から泊まることが多いので二人一緒ということだ。
 そして今日は木曜日。タマ姉の日のはずなのだが。

「今日はお願いして交代してもらったの。明日はタマお姉ちゃんが来るから。」
「ふーん。ま、いいか。じゃ、起きるか。」
「うん。朝ごはん出来てるから、さめないうちに降りてきてね。」
 そう言って下へと降りていった。ここでもタマ姉なら過剰サービスが入るが、良くも
悪くも天然で素直なこのみは俺の望まない過剰なサービスはしない。そうでないときは
大抵はタマ姉かあの親友二人組に余計なことを吹き込まれている時だ。
274対等の条件 3/13:2007/09/06(木) 21:28:46 ID:Jx7HxPrn0
 そもそも、このみは何も言わなくても、俺の望んだことは自然にやってくれる。ここら
辺が長い間離れていたタマ姉と、長年一緒に居てツーカーのこのみの最大の差かもしれな
い。
 なんかそう考えると俺とこのみって夫婦みたいだよな、などと考えて、一人で赤くなっ
た。

「あ、今お味噌汁用意するから、座って座って。」
 ダイニングに行くとこのみがエプロン姿で忙しく立ち回っていた。
「今日は鮭と納豆とおひたしか。」
「本当はタマお姉ちゃんがやるはずのメニューだったんだけど、お魚の鮮度が下がっちゃ
 うから食べちゃってって言ってたの。…タカ君今日はお魚じゃないほうがよかった?」
「いや、最近は和食も増えてきたけど、このみが和食作るのは珍しいからな。」
 このみも最近はタマ姉と春夏さんに鍛えられて、ハムエッグ&トーストから一汁三菜と
いった典型的な日本の朝ごはんまでこなすまでになった。夕飯のレパートリーも徐々に増
えつつある。

「はい、ごはんとお味噌汁。」
「じゃ、食べるか。いっただっきまーす。」
 お味噌汁を一口。だしのとり方も申し分なくとてもうまい。
 次に焼き鮭に箸をつける。程よい焼き加減でしっとりとほぐれてくる。口に運ぶと絶妙
の加減で塩が振られているのが解る。ご飯が進む。
「…どうかな?」
 真剣な顔で俺の表情を仔細漏らさず観察していたこのみが聞いてきたので、俺は素直に
感想を述べることにした。
「うまいよ。タマ姉にも負けないくらいだ。」
275対等の条件 4/13:2007/09/06(木) 21:29:22 ID:Jx7HxPrn0
「やた〜!褒められたでありますよ〜これでまたタマお姉ちゃんに一歩近づいたであり
 ます。」
「このみはタマ姉が目標なのか…春夏さんじゃないのか?」
「だって、タマお姉ちゃんは美人でスタイルよくて頭もよくて家事も万能なんだから、
 目標にするのは当然でありますよ。それに、対等の条件で正々堂々タカ君に選んでもら
 わなきゃタマお姉ちゃんに失礼だよ。」
「ふーん。でもこのみにはこのみにしかない良い所があるんだからそんなこと気にする
 必要は無いと思うんだけどなぁ…それにしても、料理上手くなったもんだなぁ。昔くさ
 やを焼いてた頃とは雲泥の差だぞ。」
「もちろんでありますよ。このみは日々鍛錬を重ねているのであります。」
「たしかに、努力無しにはここまで上手くはならないよなあ。春夏さんに結構しごかれて
 るんじゃないのか。」
 そう言ったら、このみの表情が固まった。
「……」
「おい、このみ。どうしたんだ?」
「…もうお玉で叩かれるのはいやでありますよ…」
「……そうか、頑張ったんだな、このみ。」
 頭を押さえてブルブル震えるこのみの頭を撫でてやった。
 なんとなく修羅と化した春夏さんのシゴキに耐えるこのみの姿がまぶたの裏に浮かんで
目頭が熱くなった俺だった。

                   −

 戸締りをしてこのみと並んで門を出る。
276対等の条件 5/13:2007/09/06(木) 21:29:52 ID:Jx7HxPrn0
「ねえねえ、タカ君。」
「んあ。なんだ。」
「今日は特別な日なんだよ。何の日だかわかる?」
「んー、んー……なんかあったっけ?」
「むー、このみの顔見て何か思い出さない?」
「うーん…あ、ここんとこに寝癖が付いてるぞ。」
「え、本当?んしょっと…ってそうじゃなくってぇ。」
「うーん、悪いけど、何も思い当たらないなぁ。ごめん。」
 そう言って謝っては見たが、このみの顔はあっというまにぷうっと膨れ上がってぷいっ
とそっぽを向いてしまった。
「タカ君は薄情者でありますよ。このみはこの事を9・6事件として一生の記憶に留める
 であります。」
「おいおい。」

 ふくれたままのこのみを連れて、タマ姉たちと合流する。
「あら、このみ、どうしたの。」
 早速ふくれっつらのこのみに気が付いてタマ姉が声をかけた。
「タマお姉ちゃん、タカ君が今日何の日かすっかり忘れてるんだよ。」
「まあ、タカ坊が?」
「ん?今日なんかあったっけ?」
 そう口走った雄二の額に、次の瞬間タマ姉の右手が張り付いた。
「お…おおおいててててて!割れる割れる割れる割れる割れる割れる!」
「あんたは黙ってなさい。」
 タマ姉はそう言うと、ごみでも捨てるがごとくぽいと雄二を放り投げた。雄二はぴくり
とも動かなかない。まあ、いつもの事だけど。
277対等の条件 6/13:2007/09/06(木) 21:30:51 ID:Jx7HxPrn0
「もう、タカ坊ったら。このみを怒らせるようなことしちゃ駄目よ。放課後までにはキチ
 ンと思い出してあげなさい。」
「はいはい。でも何だったっけなぁ…」
「む〜、タカ君なんて知らない。」

 そのまま学校まで歩いて、ふくれっつらのまま玄関でこのみと別れた。
 このみを見送った後、くるりとタマ姉が振り向いた。
「さて、タカ坊。解ってるわよね。」
「はいはい。放課後はこのみのご機嫌取りと荷物の引取りね。了解。」
 その時、後ろから頭をさすりながら雄二が追いついてきた。
「おー、いてぇ。姉貴酷いぜ。問答無用だもんな。俺が被害被らないようにごまかして
 くれよ。」
「はいはい。臨時でお小遣いあげるから。雄二は放課後私に付き合いなさい。」
「はいよ。荷物もちだろ。了解。」
「じゃ、またお昼休みにね。」
 タマ姉も玄関に消えた。
「んじゃ、俺たちも行こうぜ。遅刻しちまう。」
「おう。…にしても、ああいういたずらっぽいところは昔と変わらないな。」
「付き合わされるほうはいい迷惑だぜ。おれの頭蓋骨が割れたらどうすんだ。」
「はははは…」
 その頭蓋骨割れそうな攻撃をしょっちゅう食らってもすばやく復活する雄二もどうかと
思うけどな、俺は。

                   −
278対等の条件 7/13:2007/09/06(木) 21:31:43 ID:Jx7HxPrn0
 結局昼休みもこのみの機嫌は直らず、放課後になった。
 俺は一人で校門でこのみが来るのを待っていた。
「あれ?タマお姉ちゃんは?」
 ぼうっとしていたら後ろから声をかけられた。確認するまでもなくこのみだ。
「タマ姉は用事があるからって雄二と先に帰った。…機嫌直ったみたいだな。」
 そう言われて、このみは思い出したようにまたほっぺたを膨らました。
「このみはタカ君のことを許してはいないのでありますよ。…今日が何の記念日か思い
 出してくれたら考え直すけど。」
「いやそれがぜんぜん思い出せなくて…アイスクリーム屋でダブルおごるから機嫌直して
 くれない?」
「う…そ、その程度じゃ誤魔化されないのであります。」
「じゃあトリプル、トッピングもありで。」
「う…ううう」
「それで手を打つってことで良いかな。じゃ、行こうか。」
「あっ。」
 俺はこのみの手を取って繋ぐと、アイスクリーム屋に向かって歩き出した。
「えへ〜」
「どうした?」
「これでありますよ。」
 このみは繋いだ手を上げて見せた。
「タカ君から繋いでくれたのは久しぶりだよ。」
「そ、そうか…」
「さ、行こ、タカ君。」
 このみがきゅっと握り返し、元気に手を振りながら歩く。まるで恋人のような有様に、
俺は周りの視線をくすぐったく感じながらも、少し機嫌を直してくれたこのみをかわいい
なと思っていた
279名無しさんだよもん:2007/09/06(木) 21:31:59 ID:cpo4hoOG0
支援入れておこうか。
280対等の条件 8/13:2007/09/06(木) 21:32:29 ID:Jx7HxPrn0

「…アイスクリーム奢ってくれた位じゃまだまだ許さないのでありますよ。」
 そう言いながらもうれしそうにアイスクリームを頬張るこのみだった。
 現金なやつめ。
「…っと、寄る所があるんだった。」
「え?どこ行くの?」
「ここ。」
「え、ここって…ととみや?」
 そう、ここはこのみの好物のカステラで有名なととみやの前だった。
「も、もしかして…カステラも奢ってくれるの?」
「残念。ここにはタマ姉のお使いで来たの。さ、入ろう。」
 自動ドアを通ってショーケースの向こうの店員さんに話しかける。
「すいません。向坂の使いなんですけど。」
「ああ、いつもご利用いただきありがとうございます。ええと…こちらですね。中身を
 ご確認いただきたいのですが…」
「あ、いえ、そのまま袋に入れてもらえますか。」
「はい、承知いたしました。少々お待ちください。」
 そう言って店員さんは一抱えほどある箱を大きな紙袋に入れてくれる。
「ねえ、タカ君。あれ何かな?」
「さあ…タマ姉が頼んだものだし。中身は見るなって言われてるから。」
「ふーん。」
「お待たせしました。お代はいただいておりますので、そのままお持ちください。」
「はい。」
「ありがとうございました。」
281対等の条件 9/13:2007/09/06(木) 21:33:10 ID:Jx7HxPrn0
 ショーケースに並んだカステラを名残惜しそうに見ていたこのみを引き剥がしながら
店を出た。

 店の前で紙袋を持ち直して時計を見た。…ちょうどいい時間かな。
「さてと…そろそろ帰るか。」
「えー、もう帰っちゃうの?。」
「まあ、タマ姉も待ってるし…」
「タマお姉ちゃん?…荷物を待ってるの?」
「あ、ああ…まあな。」
「…タカ君なんかこのみに隠し事してない?」

 ぎく。

 こういうときのこのみの勘は鋭い…っていうか、付き合いの長さからくる読みの鋭さだ
と思うけどね。仕方ない、ここは、
「実は…タマ姉には内緒にしてって言われてたんだけど…」
「うん…」
「…タマ姉、最近ととみやの特選カステラにハマってるらしくてさ、毎日一本食わないと
 耐えられないらしいんだ。」
「え〜!タマお姉ちゃんずるい〜!このみだって特選カステラ大好物なのに〜!タマお姉
 ちゃんのお家に遊びに言っても一度も食べさせてくれたこと無いよ。」
「実はさ、そのせいで最近ちょっと太り気味らしくて、このみには内緒にしとけって言わ
 れててさ。」
「む〜…タマお姉ちゃんのその気持ちは女の子としてわからなくも無いけど…でもずるい
 よ。」
282対等の条件 10/13:2007/09/06(木) 21:33:50 ID:Jx7HxPrn0
 大食いの割りに太りすぎとは無縁そうなこのみでも、なにか思うところがあるのか俺の
言い訳に納得したようだ。
「じゃあ、その箱はカステラなのかな?」
「ああ、多分な。」
「じ〜〜〜〜」
「…物欲しそうな顔してもやらんぞ。」

 そうこうしているうちに、俺とこのみは河野家の前まで来ていた。
「先にタマお姉ちゃんの家に届けに行く?」
「いや、家に寄っていこう。」
 そう言って門の中へと入った。
「両手がふさがってるから、このみ開けてくれないか。」
 このみがポケットから合鍵を取り出してドアを開ける。予定通りなら…

 ぱん!ぱん!

「わわわ!な、なになに?」
「このみ、お誕生日おめでとう。」
 タマ姉と雄二が扉の内側でクラッカーを持って待ち構えていたのだ。このために二人は
先に帰って準備をしていたというわけだ。
「…タカ君、もしかして知ってたの。」
 このみが振り返ってジト目で俺をにらみつけた。
「まあね。タマ姉たちが準備してる間このみを家に寄り付かせないようにするのが俺の
 役目だったからね。それと、ケーキを受け取るのもね。タマ姉はいこれ。」
「む〜、ひどいよ。タマお姉ちゃんが太ったなんて嘘ついて。」
283対等の条件 11/13:2007/09/06(木) 21:34:25 ID:Jx7HxPrn0
「わ、このみそれは、」
「ふーん、タカ坊は私が太ったと思ってたの…」
 タマ姉の目が細くなった。ひいいいいいいい。
「い、いや、そうじゃなくて…ケーキ受け取った時にこのみに言い訳するのに…」
「まあ、後でじっくり説明してもらうわ。…二人とも早く入りなさい。パーティを始める
 わよ。」

                   −

「「「「かんぱーい。」」」」
 ジュースの入ったコップをチンと打ち鳴らし、パーティは始まった。
「みんなでこのみを騙すなんて酷いよ…パーティ開いてくれたのはうれしいけど。」
「まあまあ。このみを驚かせたかったのよ。」
「でも、タカ君わたしの誕生日忘れてたわけじゃなかったんだね。朝は忘れてると思ってショックだったんだよ。」
「忘れるわけ無いだろ。毎年のようにお誕生会開いてたんだから。」
「いいわね、このみは。私もタカ坊に誕生日祝ってもらいたかったわ。」
「えへ〜」
「じゃ、プレゼントな。まずは俺から。」
 そう言うと雄二は足元から大きな箱を取り出した。
「服?」
「そう。俺様がネットで選りすぐってちびすけに最も似合うメイド服一式を通販で取り
 寄せたぜ。これを着て貴明のやつに「ご主人様〜おはようであります〜」なんて言って
 起こしてやれば、もうメロメロに…って、いて、いたたたたたたた、割れる割れる割れ
 る!」
「それはあんたの趣味でしょ。」
284対等の条件 12/13:2007/09/06(木) 21:36:14 ID:Jx7HxPrn0
 雄二轟沈。
「た、たか君って、そういう趣味があったんだ…ユウ君ありがとう。わたし頑張るよ。」
「いや、それ嘘だから。」
 このみのメイド姿はちょっと見てみたい気もするけどね。
「じゃ、次は俺から。」
 俺は誕生石のイヤリングを用意した。あまり大人っぽいデザインでなく、高校生がつけ
るのにちょうどいい、かわいい感じのデザインだ。
「ちょっと石は小さいけど、サファイアのイヤリング。つけてみて。」
「わ…タカ君ありがとう。…っと、どうやってつけるのかな?」
「つけてあげるわ。…こうやって、と。髪は下ろしたほうが良いわね。はいどうぞ。」
 タマ姉が、持っていた小さな鏡を渡してやると、このみはうれしそうに覗き込んでいた。
「わー、綺麗…今度のデートのときにつけていくよ。」
「羨ましいわね。私も来年の誕生日にはアクセサリーが欲しいわ。」
「ははは…考えとくよ。」
 タマ姉に左の薬指の辺りを触りながら熱っぽい視線を向けられ、俺はしどろもどろに
答えた。
「さてっと。次は私ね…はい。」
「え?これなあに?」
 手のひらに乗るほどの細長い桐の箱を渡されたこのみは首をかしげながらそれを開けた。
「…はんこ?」
「そう。実印よ。象牙で作ってもらったの。」
「うわ、それかなりいい印鑑じゃないの?」
 このみが印鑑を持ってると、なんか悪徳商法とかで騙されてあっさり書類に押してしま
いそうで怖いなぁ、と思いつつ、何でプレゼントに印鑑なんだろう。
「それはね、1度だけ使う印鑑なの。」
285対等の条件 13/13:2007/09/06(木) 21:37:19 ID:Jx7HxPrn0
「え、でも、なににつかうの?」
「ほら、この書類のね、ここのところに名前を書いて…そう、ここに印鑑押して。」
 タマ姉がどこからともなく取り出した1枚の紙に、このみにサインと捺印をさせる。
 まあ、タマ姉だから、やばい契約の書類とかじゃないと思うけど…何の書類だろう?
「さ、出来た。このみ、それをタカ坊に見せてあげなさい。」
「はい、タカ君。」
「な…それは…」
 それはまごう事なき婚姻届。
「このみも16歳になって結婚できる歳になったんだから、用意しておくべきよね。」
「いやいやいや…ということは…まさか…」
「当然、私のもあるわよ。」
 そう言ってまたまた取り出した紙にはタマ姉の名前が書かれていた。
「来年、タカ坊が18になったらどっちかの婚姻届に名前を書いてもらうから、覚悟して
 おきなさい。」
「…かんべんしてよ。」
 どうやら、俺の平和な生活はこれから先も当分来そうに無い。
286物書き修行中:2007/09/06(木) 21:39:11 ID:Jx7HxPrn0
>>279
支援THXです

今回も山なしで申し訳ないです。展開見え見えだし。
でもこのみのSSを書くときはこういう日常ねたで書くのがいいなと思ったり。
このみと貴明で取りとめもなくだらだら話してるのとか書いてて楽しいんですよ。

このみが貴明の気持ちを察するのが上手いっていうのは、この間聞いたこのたま2の
貴明改造計画の最後の、このみが貴明の気持ちを言い当てる下りが気に入ったからです。
実際このみはそういう立ち位置のキャラだろうし。

>>266
基本貴明は素はカッコいいんだろうとおもいますよ。
それを実行に移す根性が無いヘタレなだけでw
あとエロシーンの貴明は第2人格っつーことでw
287もってけ大三元 ◆BZe2SoTGBo :2007/09/07(金) 00:26:46 ID:LVOhi2puP
印鑑すげぇ
GJ
288名無しさんだよもん:2007/09/07(金) 19:51:22 ID:3DxAPD5n0
由真SSから間が無かったのに、このみSS乙

何気にWikiを覘いてみたら、ADの新キャラだけでなく、イルファさんとかにも
誕生日が設定されてるんだな。知らずに全キャラコンプしちゃいなよとか
鬼畜なことを言うところだったw

しかし、タマ姉ルートの三人娘にすら誕生日が設定されているのに
雄二の誕生日は決まってないのか。……不憫な
289名無しさんだよもん:2007/09/08(土) 00:25:50 ID:H2HpIw/FO
乙です
290物書き修行中:2007/09/08(土) 01:20:24 ID:cXrXBgwF0
>>288
一応ネタが出て書ける限りは可能な限り書く所存。
でも三人娘とかはあまりに登場シーンが少なすぎでつらいな。
自分は頭ん中でキャラをシュミレーションし倒して台詞をひねり出すタイプなので
キャラがイメージできないと書けんっす。
ミルファは他の書き手さんの作ったイメージがあるのでその総合系で作りましたが…

とりあえず、当面近いのはささらの20日ですか。その後はしばらく空きますね。
ネタが出れば書きますが、当面は恋愛同盟の第5話を進める予定。
なにか見てみたいシチュのお題とかあればそれで書くかも。
291名無しさんだよもん:2007/09/09(日) 13:13:53 ID:PBmUOvWw0
>>290
コンプまで後20人位いると思うんだけど、あえて茨の道を行くか。とりあえず応援だけしとく。
見てみたいシチュとなると、個人的には小牧姉妹のドタバタ物とか見たいかも。

そういや三人娘といえば、桜の群像の人最近見かけないけど続きが難航してるのかな?
その他のADヒロインがメインだった人は、AD待ちで書くの控えてるといったところか?
AD発売後はこのスレも活性化してくれればいいんだけど。
292名無しさんだよもん:2007/09/09(日) 20:02:46 ID:b5BPgvma0
>291
桜の群像の人です。只今難航中ですw
とりあえず23話は遅くとも来週末には。ホントは今日中のつもりだったのですが

最近まとまった時間が取れなくて、という言い訳はあるのですが
合間でも書ける時は書けるのでモチベーションは下がってるんでしょうね
しかしあと少し(今回含めて3エピソードの予定)なので、とにかく頑張る所存
293名無しさんだよもん:2007/09/09(日) 21:33:14 ID:1SzwJD450
俺としては、このみといいんちょとらぶらぶな感じなSSなら何でもOK!
エロはなくてもいいので、読んでいてこそばゆい、恥ずかしい思春期っぽいのがいいね。
294物書き修行中:2007/09/09(日) 23:42:51 ID:8F06LXf10
>>291
前に書いたかもしれないですが、SS書く目的の半分は自己満のためで半分がコテハンどおり
読み物を書く練習のためなんで、期限を決めて書いてみるというのはその目的には適ってるわけで。

>>292
わしも気長に待ってます。
最近スレが過疎り気味なのでどんどん投稿してもらって盛り立てて欲しい所です。


リクは小牧姉妹需要高しということで、そのうちなんか考えておきます。

ところで昨日手に入れたいくのん同人誌がツボでした。
 ttp://www.geocities.jp/over_page/
ここの方が書いた4コマのいくのんがかわいい。18禁となってますがエロはほとんど
無しで純粋に面白いです。絵も雰囲気をつかんでて上手い。
295名無しさんだよもん:2007/09/11(火) 00:24:03 ID:5fLLYXNY0
まあ、群像の人も物書きの人も、今となっては希少な、コンスタントに投入してくれる
職人さんなんで、無理しない程度に頑張ってくれ。
296桜の群像 第23話「MAID IN HEAVEN」 1/31:2007/09/15(土) 16:23:22 ID:wOn9S2ay0

「お帰りなさいませご主人様」
玲於奈は、入室してきた客に頭を下げた。

ほぼ黒に近い濃紺のワンピースに白のエプロンドレス。
膝丈の裾にはフリルが揺れて、すらっと伸びたふくらはぎにはニーソックス。
赤髪にカチューシャを付けた少女の格好は、いわゆるひとつのメイドさん。

「うわ、可愛いコ」
「写真撮れねぇかな」
こそこそ小声の会話を交わしながら、三人組の客がテーブルにつく。
テーブル、といっても机を4つ組み合わせて、上からクロスを掛けたもの。
椅子はそのまま学校椅子。
黒板に引いた暗幕の上に、模造紙でディスプレイ。

<☆2−A主催 メイドカフェ “To Heart”☆>

「な、なんになさいますかご主人様」
「うーん、あ、とりあえず、これ」
ニヤニヤ笑いながら客が指差したメニューは。
<笑顔・・・PRICELESS>
(……誰ですの、こんなメニュー作ったのは……)
○クドナルドと混同したような記載を心の中で嘆きながら笑顔を作る。
「うーん、もうちょっと笑って欲しいなあ」
「一枚撮っていい?」
「ご、ご注文が決まりましたらお呼びくださいっ」
携帯のカメラを向けられて慌ててカウンターに退却する少女。
注意書きには「撮影は御遠慮願います」と明記されているのだが、指摘する余裕はない。

「まったく、どうしてこんな事に……」
バックヤード−単なる隣の教室−でぼやく少女を、他の女子生徒達が面白そうに眺めていた。
297桜の群像 第23話「MAID IN HEAVEN」 2/31:2007/09/15(土) 16:26:01 ID:wOn9S2ay0

時間を遡って、午前10時。
カレンダーは11月。今日は学園祭、二日目。

「お待たせしました、雄二さんっ!」
「いや、俺も今抜けてきたとこ。もういいのか?」

文化部の活動発表的な色彩の濃い初日の校内祭と違って、
二日目は学園内の各コミュニティが出店やイベントを企画する一般開放。
文化部、運動部、委員会、クラス。
生徒はそれぞれ、自分の属する集団のうち好きなものを選んで企画に参加する。

するのだが、所属らしい所属がない連中も当然いるわけで。
「クラス催事の準備を手伝ったんですけど、あまりすることもなくて」
「俺もだ。どっちかっつーと、邪魔者だな」
「ふふっ、じゃあ、行きましょうか」
適当にお茶を濁して見物に回る雄二や玲於奈のような生徒達もまた、学園祭の一部である。

「ずいぶんと外から来る方が多いのですね」
「学祭はどこも、こんなんじゃねえの?」
「九条の学園祭は、生徒の関係者にしか公開されませんので」
お祭りというよりは、部活動を父兄に参観してもらうのが主旨になるという。
「大学の方は、一般客も受け入れているのですが、場所が山奥ですから」
おまけに身なりの悪い人間は警備員に門前払いされるので、開放的とは言い難い。
「窮屈そうだなぁ」
「中等部と高等部の合同企画とか、それなりに刺激的な事はありますけれどね」
懐かしむような玲於奈の声。
自分も関係者である事を思い出し、行ってみるかと誘い掛けた雄二だが、
関係者たる所以の姉の顔が思い浮かんでそれは保留。

「昨日と違う展示も多いから、ぐるっと回ろうぜ」
そう言って、とりあえず恋人の手を取った。
298桜の群像 第23話「MAID IN HEAVEN」 3/31:2007/09/15(土) 16:28:06 ID:wOn9S2ay0

「でいやーっ! どらいぶしゅーとーっ!」
「びえーっ、おかーさーん。えぐっ」
「あ、ええっと、すぐ戻ってくるからね」
「おしっこーっ」

図書室の扉を開けると、そこは戦場だった。

「……凄いな」
「壮絶ですわね」
「あはは、元気な子が多くて……」
呆然とした二人に愛想笑いを浮かべたのは、所属らしい所属がある方の代表格たる愛佳。
「図書室を託児所ってのは思い切ったなぁ」
「体育館だと、広すぎるんだよねー」

図書委員会と文芸部と家庭部による合同企画。来校者用託児所@図書室with絵本とか。
勉強机を撤去して、空いた空間に厚手のビニールシートとクッションで遊び場を作り、
本棚の列とは仕切りを立てて区切って行き来できないようにしてある。

「TVがないと大変だろ?」
幼子を鎮静化する最強のクスリである文明の利器は、遊び場には見あたらない。
代わりに、遊び場には小型の本棚が用意され、子供向けの本が並んでいる。
「TVやマンガじゃなくて、本を読んで欲しかったから」
本は、半分は図書室の備品で、残りは文芸部の自作。絵本は漫研も自主協力。
それらを世話役の生徒が子供達に読み聞かせていたり、子供同士で読んでいたり、
「じゃんけんぽんっ! えいっ!」
丸めた冊子でバシッとしたり。
「いてーっ、もっかいっ!」

「……読まれてないのもあるようですけど」
「さ、触ってもらうのが第一歩、かなぁ」
299桜の群像 第23話「MAID IN HEAVEN」 4/31:2007/09/15(土) 16:30:14 ID:wOn9S2ay0
「しかし、大掛かりな企画だな」
「去年見てて、お子さん連れ多かったし、役に立てばと思って」
首謀者が述べる動機は単純だが、子供を預かるとなると安全責任もある。
養護教諭に校長まで絡んで、人脈の広い彼女でなければ難しい企画だったろう。
「仕切りは……ベニヤ板?」
「うん。今度の生徒会長さんが土木研究会出身だからいっぱい貰ったの」
「絵は?」
「知り合いの美術部の子が描いてくれたー」
板壁の一部に、小さな子が覗き込んでいる大きなマンガ絵。非公式な協力者も数多いようだ。

「なんだ、来てたのか」
声を掛けてたのは、その非公式な協力者の筆頭。つつっと玲於奈が逃げた。
「よう……プッ」
「笑うなよ」
貴明の格好は、学生服の上から白いエプロンと三角巾。言いつつ本人も苦笑している。
「似合ってるぜ、それ」
「ちぇっ。ガキんちょの相手は、雄二の方が得意なくせに」
公園で環が子供と遊ぶときに駆り出された回数は、雄二の方が若干多いだろう。
「言うなって、委員ちょの為ならえんやこらだろ」
「そういうの、俺だけじゃないよ」
からかった雄二を、貴明はあっさり流す。
「愛佳もさ、最近、人を働かせるのが上手くなったっていうか」

プルルルルル。
「いいんちょ、内線ー、生徒会室ー」
「ごめん、委員ちょ、ちょっとこれどうしよう」
「おーい、委員ちょいるー?」
「うぁあぁ、ちょっと待ってえ!」 

「……あれでもか?」
「……人を働かせた3倍くらいは、自分で働いてるけどね」
300桜の群像 第23話「MAID IN HEAVEN」 5/31:2007/09/15(土) 16:32:55 ID:wOn9S2ay0

@一年生の階。

「う〜ら〜め〜し〜や〜」
「「……」」
教室から出て二人の前にやって来たこのみは、不思議な仮装をしていた。

「怖くなぁい?」
「全然」
白いシーツに虎柄を描いたと思われる貫頭衣をすぽっと被って、頭も白の猫耳帽子。
裾からのぞくハイソックスの先は、不格好な猫スリッパでぺたぺた歩く。
顔に描かれた朱線は、血糊のつもりかヒゲなのか。

「うー、怖ーい人食いネコさんなのに」
拗ねたところで、
「お前のクラス、お化け屋敷なのか?」
「うんっ!」
元気に頷く様子は、どうにも噛みつくより喉を鳴らす方が似合う猫っ娘コス。
「でもね、みんなしてかわいーとか、だっこしたーいとか言うんだよ。なんでだろ?」
「まあ、な」
リアクションに困る雄二。
「け、化粧をした方が、上手くないのではないですか?」
珍しく玲於奈がフォローなどしていると。

「このみ、なにやってんの?」
廊下の騒ぎを聞きつけて、キコキコと馴染みの車椅子の音。
「郁乃か、遊びに来てやっ……のわぁっ!」
「きゃあっ!」
玲於奈が可愛い悲鳴をあげたのは、別にブリッコではない。

車椅子の上の少女は、設定ミイラか透明人間か、全身包帯ずくめだったが、
それ以上に、顔と手足の真っ白な化粧が強烈で、怖いというか気色悪いというか。
301桜の群像 第23話「MAID IN HEAVEN」 6/31:2007/09/15(土) 16:35:21 ID:wOn9S2ay0

「け、化粧は、お上手なようですわね」
「84年版ゴ○ラで巨大化フナムシに吸血された船員の枯死体がモデルだって」
「……マニアックな奴が居やがるな」
「特撮好きみたい」
頷く郁乃。難病人に死体役ってのは悪趣味な気もするものだが、
この娘がそんなことを気にするタマでない事はクラスメートも理解しているのだろう。

「けっこう本格的だったねー」
「やたら凝ってたなぁ。オバケのメーク」
これは、教室から出てきたカップルの会話。

「しかし、そうするとチビッコの格好は……」
「このみーっ、小牧ーっ! どこーっ!」
教室内から、声が掛かった。
「あっ、ごめん。今戻るーっ!」
「んじゃ」
元気に身を翻すこのみと、無愛想に車椅子を回す郁乃。

「もー、あんたらはいっつも二人してえ」
教室の中から漏れ聞こえる、一年生らしい賑やかな会話。
「このみ、今度これ着てみない? うさぎうさぎ」
「うーっ、ウサちゃんじゃ怖くないよ」
「ちっちっちっ。世の中には、人間の首を切り落とす兎がいてね……」
「えっ、じゃあ、怖いかな?」
「怖い怖い。絶叫もん」
「着替えたら教えてね、写真撮るから」

廊下で顔を見合わせる、雄二と玲於奈。
「……要は、あれだな。チビッコは」
みんなのおもちゃ。
302桜の群像 第23話「MAID IN HEAVEN」 7/31:2007/09/15(土) 16:38:21 ID:wOn9S2ay0

かように楽しく学園祭見物を続けていた二人だったが。

「腹減ったな。どっかの出店でメシでも食うか」
「あ、うちのクラス、喫茶店です」
玲於奈のなにげない一言が、転機になった。

「「お帰りなさいませ、ご主人様ぁ♪」」
入店した途端に、声を揃えて挨拶するメイドさん(偽)。
「うっ、なんですのこれ?」
「いや、だからメイド喫茶ってのはこーゆーもん。らしいぞ?」

雄二は、実は廊下の看板を見る前から、2−Aでメイド喫茶をしている事は知っていた。
無類のメイド好きである彼が、気にしていたのは言うまでもない。
行かなかったのは、玲於奈に遠慮して。
いっぽう玲於奈は、そもそもメイド喫茶と普通の喫茶店の区別がついておらず、
雄二がメイド好きであることだけは知っていたので、こういう事になったわけだが。

「ご注文は以上でよろしかったでしょうかぁ☆」
「ああ、よろしくね」
「かしこまりましたぁ♪」
自分の彼氏がウェイトレスを見てニヤケているのを、気分良く思う女性はいるまい。
おまけに。
「お待たせしましたぁ」
「お、大盛りだな」
「制限時間内に召し上がれば値引きでございまーす」
「応援しますよぉ」
二人がかり。ノリノリで雄二にちょっかいを出すクラスメート。

「なによあの子、手伝いもせずに彼氏連れて客で来る普通?」
理由は、バックヤードのヒソヒソ話。確かに玲於奈も悪かろう。
303桜の群像 第23話「MAID IN HEAVEN」 8/31:2007/09/15(土) 16:41:48 ID:wOn9S2ay0
数分後。

「く、食ったぞ」
「完食おめでとうございまーす」
チャッチャッ、とタンバリン振る女子生徒、距離がやたらと近い。
「ご褒美にデザートが……」
一人が雄二の顔を覗き込んだ所で、玲於奈が臨界点突破。
「結構です! 行きますよ、雄二さんっ!」
「え? あ、ああ」
「いってらっしゃいませご主人様ぁ♪」
ウェイトレスは最後までしなしな。カウンターの向こうから笑い声が聞こえた。

「まったく、悪趣味にも程がありますわ」
フロアを移動しても、まだ腹立ちの収まらない玲於奈。
「いやまあ、そうだがな」
曖昧な口調に、キリッと久しぶりに雄二を睨む。
「雄二さんは、ああいうのがお好きなんですの?」
「ぐ……」
言葉に詰まる雄二。
話を合わせればいいのは、分かっているのだが。
「あー、男はまあ、そういうとこもある」
「……」
一般論で逃げ、玲於奈はますます不機嫌に。
「まあそのなんだ、世の中には属性っていうのがあってだな」
火に油。
「……雄二さんがそういう趣味をお持ちなのは分かりました」
「い、いや、そういう事は……」
「もしお望みでしたら……」
玲於奈が何か言いかけた時、

「メイドカフェぇ〜、本物のメイドロボがいるメイドカフェだよ〜!」
廊下に、賑やかな声が響いた。
304桜の群像 第23話「MAID IN HEAVEN」 9/31:2007/09/15(土) 16:44:43 ID:wOn9S2ay0

<1−C企画 喫茶”MACHINE MAIDEN”>

「まったく、どこもかしこも」
頬を膨らます玲於奈。
「今年の流行なのかもな」
雄二がなだめつつ、二人はその前を通り過ぎ、ようとしたが。
「寄ってらっしゃい見てらっしゃい。なんと来栖川重工の最新型だよ〜」
ぴくっ。
雄二はメイドロボも好き。最新型、という言葉に一瞬反応してしまう。
「寄りたいのですか?」
玲於奈の目が吊り上がる。
「いや、そういうわけじゃ……」
「そこの格好いいお兄さんっ!」
足を止めたのが、運の尽きだった。

客寄せの女の子が、飛びつきそうな勢いでぐわしっと雄二の肩を掴む。
「ねえねえ、よっていこうよー」
学年章は一つだが、とても一年生とは思えないタメ口と馴れ馴れしい態度。
(ってか、こんな子いたっけか?)
地色とは思えない綺麗な薄ピンクの長髪に、ちょっとぷにっとした愛らしい顔立ち。
入学式の時にひと通り新入生はチェックした−当時は彼女募集中だった−筈なのだが。
「転校生?」
「まあまあ、はるみのプライベートなんて気にしない。ささ、どーぞどーぞ」
「いや、俺たち飯食ったばっかでさ」
断って振りほどこうとした雄二だったが。
がきっ。

「なに!?」
少女に掴まれた肩が、万力に固定されたように動かない。
振り向くと、獲物を見つけたペルシャ猫のように、にまーっと女の子が笑った。
305桜の群像 第23話「MAID IN HEAVEN」 10/31:2007/09/15(土) 16:47:30 ID:wOn9S2ay0
「遠慮しなくていいんだよっ、さ、さ」
「お、おい、いや、ちょっと待て、ちょっと待てって」
ずるずるずる。
外見からは想像もできない少女の怪力に、雄二はなす術なく引きずられていく。
なす術無く、なのだが。
「何をやっているんですの、雄二さん」
端で見ている玲於奈には、外見から想像できない少女の怪力はやっぱり想像できないので。

「入りたいなら素直にそうおっしゃっていただければ……」
「違う、誤解だ、ってっ、のわーっ!」
「はーい、イルファお姉ちゃん、珊瑚様、お客さんだよーっ!」
がらがら、ぴっしゃん。
雄二の姿は、扉の向こうに消えた。

「……」
残された玲於奈は、非常に楽しくない。
「別に、ダメと言っているわけではありませんのに」
空間に向かって独り言。周囲を気にして、人の流れに取り残された自分に気付く。
これ幸いと引きずられていった−ように玲於奈には見えた−雄二の後を追う気にはなれない。
「もう、知りませんっ」
踵を返した足に任せて、少女は立ち去った。

ので、特に目的地があったわけではないのだが。

「……何がいいんでしょう、あれの」
気が付くと自組の教室前。
入る気はないが、こっそりドアのガラスから室内を窺う。
と、

「えーっ、一日いるって約束じゃんかーっ」
バックヤード側の教室から、大きな声がした。
306桜の群像 第23話「MAID IN HEAVEN」 11/31:2007/09/15(土) 16:50:00 ID:wOn9S2ay0

「ごめん、彼がバイト早引けできるって連絡きてさっ!」
「連帯感ないのー」
「ここまで頑張ったじゃない! あんた達こそあたしにばっか客任せてさーあ」
「あんたが一番客受け良かったんだからいーじゃない」
なにやら揉めている。
覗き込むまでもなく聞こえてくる会話に、足を止めてしまう玲於奈。

「とにかく、あたしは行くから、これお願いね」
「他のひと入らないんだよこのサイズ、細くてさー」
「ちょっとー、フォローちょーだーい!」
「ごめん、もう少し一人で頑張ってー!」
「うぞーっ!」
「困ったなあ、もう一着買っときゃよかった」
「誰かお客様の中にメイドが出来る方はいませんかー?」
詳しい事情はともかく、メイドの数が足りなくなったらしい事は判った。

困っているクラスメート。
メイド好きな雄二。
メイド服。

玲於奈の頭の中で、どんな化学反応があったのか。
「お願い、今日一日我慢してっ!」
「やだよぉ、なんとか着られるでしょ?」
「うーん……」
女の子達が首を捻っているところに。

「よろしければ、お手伝いしましょうか?」
教室の外から、玲於奈は声を掛けた。

それで、話は冒頭に戻る。
307桜の群像 第23話「MAID IN HEAVEN」 12/31:2007/09/15(土) 16:52:24 ID:wOn9S2ay0
戻る前に、少し紆余曲折。

まず、玲於奈の提案の採否。
「なによアンタ、彼氏と喧嘩でもしたの?」
「今頃出てきたって……」
「やったっ! じゃ、後よろしくねーっ♪」
不満の声はあったが、前任者が渡りに船では是非もない。
玲於奈自身は、受け取ったメイド服コスの頼りない軽さに後悔したが、後の祭り。

つぎ、喫茶店の状況。
「いらっしゃいま……」
「違う、お帰りなさいませでしょ」
「お、おかえりなさい……ませ……ごしゅじンサマ……」
(おい、ドジっ子だぜ)
玲於奈のぎこちない接客は来店者にはなかなか好評のようで。
「おねーさん愛想ないなあ、もっと笑ってよ」
「な、何故貴方などにっ……い、いえ、申し訳ありませんご主人様」
(ツンデレだ)
(ああ、ツンデレだな)
どこから何がどう伝わったのか、なんだか客の数も増えてきて。
「うわー、人が途切れないよぉ」
「あたし疲れちゃった。暫く玲於奈に任せようっと。お客も喜ぶし!」
バックヤードはこんな会話。

最後。
「やれやれ、酷い目に遭ったぜ」
言いつつ微妙に鼻の下を伸ばしながら1−Cを出てきた雄二。
「玲於奈、探さなきゃな」
狭い校内、すぐ見つかるだろうとたかをくくって動き出したのだが。
「此処は……いるわけねーか。覗いてたら怒られるよな……」
2−Aの教室だけ、見事に通り過ぎていた。
308桜の群像 第23話「MAID IN HEAVEN」 13/31:2007/09/15(土) 16:56:19 ID:wOn9S2ay0

「はい、できたわよっ、お願い」
「また、私ですの?」
パフェを乗せたトレイを渡されて、玲於奈はげんなり。
「さっきから一人ですのよ。貴方もフロアに入ってくださいな」
「ごめーん、服がほつれちゃってさー」
奥に座っている、もう一人のウェイトレス役の子に抗議したが、
彼女は体操着姿でメイド服を直している。……フリなのだが、玲於奈には判らない。
「はぁ。」
「頑張ってねー」
溜息をついてフロア側の教室に向かう玲於奈を、他の女子達が楽しげに見送った。

「お待たせしましたご主人様」
「待ったよぉ可愛いメイドちゃん」
「……っ」
ニタニタした声に、思わず顔をしかめる。
「なんだよぉ、笑顔笑顔」
別な男がバシバシとメニューを指さす「笑顔」欄。
玲於奈は、引きつった笑みを浮かべる。
「だめだなぁ〜、もっと愛想ないと」
「〜! こちらがっ! ご注文のブルーベリーパフェですっ!」
ご注文じゃないでしょぉ〜、などと下卑た笑いを浮かべた三人目の客。
ふと、玲於奈が持ったトレイ上の物体に目を向ける。
「あれ? 俺、ストロベリーじゃなかったっけ?」
「そ、そんな事はありませ、ございませんわ」
反射的に反論してしまう玲於奈。語尾だけ直す。
「えー、注文票見せてよー」
ねちっとした口調のクレームに、ポケットの注文票に目をやる少女だが、両手が塞がっている。

「取ってあげるよ」
それを見てニヤリと笑った一人目。いやらしい手が、玲於奈の腰に伸びた。
309桜の群像 第23話「MAID IN HEAVEN」 15/31:2007/09/15(土) 16:59:06 ID:wOn9S2ay0
さわっ。

「きゃあっ!」
ガシャン。
「うわっ!」

体を触れられて、嫌悪に飛び退いた玲於奈の手からトレイが滑り、倒れたパフェが容器から溢れる。
「うあっちゃー」
溢れたヨーグルトは、テーブルを伝って客のズボンにびしゃりと落ちた。
「す、す、すみませ……」
狼狽える少女に、
「あーあ、どーしてくれんの?」
「困ったメイドちゃんですねー」
下品な表情で囃す二人。他には客も生徒もいない3対1。
「あ……う……でも、貴方が……」
「なにボサっとしてんだよっ!」
「ひっ?」
「こぼしたんだから、早く拭けってんだよ!」
一転して恫喝気味に迫る。思ったより性質の悪い連中だったらしい。

この辺では、バックヤード側でもフロアーの妙な雰囲気に気がついている。
ドアの前で人だかるクラスメート達。

「ねえねえ、なんかヤバくない?」
「先生呼んでこようか?」
「えーっ、騒ぎにすると怒られるよお」
「でも……もうっ、なんで男子いないのよっ。こんな時に」

その後ろから、ひょいと様子を覗き込んだ少女がいる。
「……」
眼鏡のその子は、オロオロする女子達を尻目に、すぐにバックヤードに消えた。
310桜の群像 第23話「MAID IN HEAVEN」 15/31:2007/09/15(土) 17:00:55 ID:wOn9S2ay0

再びフロアー側。

「す、すみません、ただいまお拭きします」
別に突っぱねても良かったし、逆にタオルを取りに逃げる事もできたのだが、
動揺した玲於奈は、目の前のテーブル布巾を手に取って逃げ場を失う。
「そうそう、それでいいんだよメイドちゃん」
怒鳴った男が相好を崩して椅子をずらす。
「!」
布巾を握りしめて、玲於奈が固まった。

ズボンにべったりとついたヨーグルト。
掛かった部位が、腰から太股にかけて、いわゆる股間。

「ぁ……ぅ……」
凍りつく少女。男の股に手を伸ばすなど、彼女の行動規範では許されることではない。
「どうしたんだよ、冷たくて気持ち悪ぃんだよ」
また、声に怒気を含ませる客。
「〜っ!」
その声に気圧されて、玲於奈は半ば目をつむりながら手を伸ばす。
ズボンの下の方と、腰回りを拭いて、できるだけ手早く、あっさりと、その辺りを、
「なーんだ、もっとちゃんと拭いてよ、ほらここ」
ぐい。
手首を掴まれて、玲於奈の手が、男の体に押しつけられた。
そして、堅い感触。

「ひぃっ!」
叫んで飛び退く玲於奈は、掴まれた手首にバランスを崩して尻餅をつく。
「何すんだっ……おっ?」
自分の行為を棚に上げて文句を言いかけた男が、少女の姿を見下りてニヤリとする。
膝丈のスカートがめくれて、白い内股が奥まで覗いていた。玲於奈は、下に体操着は着ていない。
311桜の群像 第23話「MAID IN HEAVEN」 16/31:2007/09/15(土) 17:03:20 ID:wOn9S2ay0

「いいカッコだねーメイドちゃん」
「これもサービスかい?」
残る二人も、玲於奈に好色な視線を向けて正面に回り込んでくる。
「い、いやっ」
あまりの事に、立ち上がる事も大声も出せずに後ずさる玲於奈。
男達は、なお露骨にスカートの内部を覗き込もうと首を伸ばす。
その時だった。

ばっしゃあーん。

豪快な水音がして、玲於奈の頬に飛沫が跳ねる。
「え?」
目をぱちくりとさせた少女の視界に、全身ずぶ濡れの三馬鹿客。
「げほっ! こほっ!」
「な、なんだぁ?」
男達と玲於奈が向けた視線の先に、逆さにしたバケツを持って少女が立っていた。

「あ? え? えーっと、長瀬、さん?」
同級生だ。名前は知っている。確か、自分の席で一人が多いメガネっ娘。
「なにすんだよっ」
「このシャツ高いんだぞ、弁償だ弁償!」
情けない格好で、新たな標的に文句を付ける男達。
長瀬はというと。
「あ、うーん、掃除の時間だから。えーと、ご主人様?」
なんだか意味不明だが、とりあえず相手の神経は逆撫でしそうな台詞で答える。
「ふざけんじゃねえぞっ!」
客は、当たり前のように激昂。

「ふざけてるのは、あんた達でしょう!」
それに言い返した声は、しかし、玲於奈のものでも長瀬のものでもなかった。
312桜の群像 第23話「MAID IN HEAVEN」 17/31:2007/09/15(土) 17:05:36 ID:wOn9S2ay0

「此処は学校よ。女の子によってたかって、なにやってんのよ!」
「触りたかったらフーゾクいけっての!」
「痴漢で警察に突き出すわよ!」
いつのまにか、様子を見ていた女子生徒達が周囲に集まっていた。
口々に主張しながら、玲於奈を庇うように客に対峙する。

「い、いや、ボクらは別に、そういうわけじゃ…」
「そんな大袈裟な、ははは」
人数比が逆転して、ずっと年下の少女達に押される男共。
「あ、ゆきむらせんせーっ! こっちこっち!」
廊下から聞こえた声が、トドメになった。
「い、行こうぜ、もう」
「これお勘定ね、お釣りはいいからさ」
千円札を机に投げ捨てて、逃げるように教室を後にする。
「あー酷い目にあった」
「下の階にメイドロボがいるらしいぜ。寄ってみようや」
「やっぱガキよりロボだよなー」
去り際に、まだそんな事を言っていた。

「二度と顔見せんな変態どもーっ」
「おとといきやがれー!」
罵詈雑言で見送った2−Aメイド喫茶部隊。
「大丈夫、玲於奈さん?」
まだ床に座ったままの少女に、気遣いの声をかける。
「あ、は、はい」
差し伸べられた手を取って、玲於奈は立ち上がった。
ほうっと息を吐く。
「ありがとうございます」
玲於奈の謝意に、女子生徒達はちょっと顔を見合わせ、互いに視線を交わす。
「ごめんね、出てくるのが遅くて」
やがて、女の子達の輪から一人が代表して、玲於奈に頭を下げた。
313名無しさんだよもん:2007/09/15(土) 17:05:44 ID:NQxcpyXv0
支援
314桜の群像 第23話「MAID IN HEAVEN」 18/31:2007/09/15(土) 17:07:48 ID:wOn9S2ay0
「い、いえ、そんな」
「あと、一人で働かせちゃって、こっちも、ゴメン」
「え?」
「午後、サボりっぱだったでしょアタシ」
これはもう一人のウェイトレスだった子の言葉。
「サボリだったのですか? あれ」
ぽかんと玲於奈。
「あちゃ、気付いてなかったか。言わなきゃ良かった!」
女子が舌を出す。
悪びれない様子に思わず玲於奈が口元を崩して、連れてみんなも笑う。

「今の客もさ、少し前から気付いてたんだけど、どうしたらいいかわかんなくて」
「長瀬さんが突撃してくれて助かったわぁ」
「あっ、そうだ」
それで玲於奈は向き直る。
「長瀬さんも、助けてくれてありがとうございました」
「ん……別に」
礼を言われた長瀬は淡々とした表情のままだったが、頬に色が付く。
「あたしも、着替えてて遅れたし」

「着替え?」
唐突な台詞に、皆が長瀬を見る。
「あれ? それアタシのメイド服?」
「あ、黙って借りた」
眼鏡の少女は、さっき別な子が繕うフリをしていたメイドコスに着替えていた。
「……なんで?」
「だって、メイドカフェだし」
フロアーに出る時はコスプレしなければ、という事か。

「……ぷっ、あははははははははっ!」
場にいる全員が笑い出す。全員には、玲於奈も含む。
長瀬はムッとした顔で何がおかしいのか問うたが、笑い声ばかり返った。
315桜の群像 第23話「MAID IN HEAVEN」 18/31:2007/09/15(土) 17:09:44 ID:wOn9S2ay0

ところで店内は、しっちゃかめっちゃか。
ちらっと覗き込んだ客候補も、雰囲気を察して素通りしている。

「あーあ、喫茶店はお開きだね」
「後片付け、しちゃおっか」
売上は職員室に預けて、長瀬がぶちまけた水の清掃込みで撤収に30分。むろん玲於奈も手伝った。
「予定より、早く終わっちゃった」
「外の売店は、後夜祭までやるんでしょ? みんなで回らない?」
「いいねー」
そんな流れになって。

「玲於奈さんと長瀬さんも、一緒に来ない?」
グループの一人が、玲於奈の方に振り向いた。

「え、えーっとっ」
不意を突かれた申し出に戸惑う玲於奈。
行きたい気持ちもあるし、雄二を捜したい気持ちもある。
困って長瀬を見た。
眼鏡の少女は、暫し考えて、
「……由真」
ぼそっと自分の名前を口にする。
「へ?」
「名字、あまり好きじゃないから名前で呼んで」
「あ、う、うん、じゃあ、由真さん」
また唐突な発言に戸惑いながらも呼び直す同級生。
「呼び捨てでいい」
「あっ、それでは私も、玲於奈で結構です」
咄嗟に便乗する玲於奈。
「そう? じゃアタシは……」
いまさらな自己紹介が一回りするころには、二人が加わる流れが出来ていた。
316桜の群像 第23話「MAID IN HEAVEN」 20/31:2007/09/15(土) 17:11:28 ID:wOn9S2ay0

ピリリリリリリリ。ピリリリリリリリ。
昇降口を出たところで、誰かの携帯が鳴った。
「あ、裏切り者からだ。もしもし、なによ。……えーっ、バッカじゃないのw」
最初は不機嫌そうな口調でも、すぐに明るい調子に変わる声。
「……うん、うん。はいはい待ってる。じゃ」
ピッ。
「ここでちょっと待ってね。もう一人来るから」
電話を切った子が、玲於奈と長瀬に話しかける。
「あっ、午前中にメイドさんをやっていた子ですか?」
「うん。玲於奈に押しつけて逃げた奴」
「で、なんだって?」
「彼氏が今からまたバイトだって帰ったんだって、こっち来るよ」
「なにそれ、アホじゃん」
あはは、とひとしきり笑って足を止める少女達。輪になって雑談が始まる。
「……そうそう、でねでね」
「……えーっ、嘘だぁ!」
トシゴロの娘達のカタマリは、話題がなんだか判らない程に賑やか。

その喧噪から、いつのまにか玲於奈は少し離れた。

(……さっきは、上手く入れましたのに)
今だって、別に冷たくされたわけではない。ただ、少し気後れして弾かれた。
(九条では、こんな事はありませんでしたのに)
向こうでは薫子が意識して間を繋いでいた事に、玲於奈は気付いていない。
(やっぱり、家柄が違う子とはソリが合わないのかしら)
最近封印していた思考法が、鎌首をもたげる。

がさ。

と、耳の端に引っかかった音があった。
317桜の群像 第23話「MAID IN HEAVEN」 21/31:2007/09/15(土) 17:14:27 ID:wOn9S2ay0

「あら? なにかしら?」
玲於奈は音のした方、校舎に沿って植えられた生け垣を見る。
がささささっ。
「!」
茂みが波打って移動する。やっぱり、何かいる。
「ちょ、ちょっと外します。すぐ戻ります」
他の生徒に断って、校舎の端、茂みがざわめいた終点あたりに歩を進めると。
少し乱れた生け垣の上から。

「……カツラ?」
たぶん人間の髪か、それに似たような金色のモノが突き出ていた。

「落とし物でしょうか?」
誰かが使った仮想用の金髪カツラが校舎の窓から茂みに落ちた、のだろうか。
ちょっとおっかなびっくり、玲於奈は手を伸ばす。

もぞ。

「う、動いた!?」
驚いて声をあげた瞬間。びゅんっと凄い勢いで髪の毛が茂みに引っ込む。
茂みの中、何かが身を潜める気配。
「な、なんですかこれ……」
気味悪さと好奇心に息を詰めながら、玲於奈は生け垣を覗き込む。
まだ高い陽が微かに照らす、薄暗がりの藪の中。
光る2つの目。

「……へ?」
玲於奈の声から、間が抜ける。
……チラ。
「女の……子?」
茂みの中には、玲於奈と同じくらいの年格好の少女が、手足を縮めてこちらを窺っていた。
318桜の群像 第23話「MAID IN HEAVEN」 22/31:2007/09/15(土) 17:17:13 ID:wOn9S2ay0

……ジーッ。

生け垣の内と外で見つめ合う二人。
低木の隙間から見える少女の姿は、綺麗な金髪に青い双眸、それと、
「メイド服? いえ、メイドロボ?」
はっきり見えないが、紺の長袖と白い胴着の組み合わせは、来栖川のHMXシリーズの制服に似ている。
「そういえば1年生の企画にメイドロボが……もうっ」
連れて行かれる雄二の姿を思い出して勝手に愚痴る玲於奈。

それは置いといて。
「しかしこの子は……」
さっきから一言も発せずに膝を抱えたままの金髪少女。
じっと玲於奈を見つめる瞳は、怯えと不安と、いくばくかの好奇心。
(なんだか、猫みたいですわね)
手を伸ばしてとーとーとー、をしてみたりして。
……ビクビクッ。
「あっ、じょ、冗談です、ごめんなさい」
大袈裟に怖がられて、慌てて玲於奈は謝る。
……キョトン。
謝られて、少女の方は今度は不思議そうな顔。
「なにもしませんから、出ていらしたら?」
目の前の存在が、人間がメイドロボかも定かではないとはいえ、
縮こまって怯えている少女の姿に冷たい感情は浮かばない。
それに。
(カスミ、元気かしら)
無言の癖に意思表示が明快なこの子は、黒髪の友人を連想させた。
……ソーッ。
玲於奈の優しい雰囲気に、少女が少し近寄りかけた、時。

「おーい、シルファやーい、出ておいでー」
ちょっとだけ覚えのある声が聞こえた。
319桜の群像 第23話「MAID IN HEAVEN」 23/31:2007/09/15(土) 17:19:11 ID:wOn9S2ay0

「シルファぁシルファぁ、おういシルファぁ〜」
あまり真面目そうにも見えない呼び声を挙げていたのは、ピンクの髪をした学園の制服。
1−Cの教室前で雄二を引きずり込んだ、あの見覚えのない一年生だ。

その声に、金髪少女が反応する。
がさ……ごき。
立ち上がろうとして、灌木に頭をぶつけたらしい。
玲於奈が斜め上から覗き込むと、ぶつけた頭を抱えて凹んでいる。
「もう悪い奴らはお姉ちゃんが追っ払ったよぉ〜……あっ! いたぁーっ!」
……ビクゥン!
「えっ?」
大声に驚く様子を観察する間もなく。
「シルファをいじめるなあああああああっっっっ!」
ピンクの子が、全速力で突っ込んできた。
本気で速い。
「べ、別にいじめては……ちょ、ちょっとっ?」
玲於奈の至近距離に来ても、少女の勢いは止まらない。ぶつかる!
「きゃ!」
避ける事もできずに目をつぶった玲於奈に、しかし衝撃はやって来なかった。
代わりに。

「ふぎゃあっ!」
どしゃしゃしゃしゃーっ!
……!!
ごんっ。
悲鳴。生け垣を薙ぎ倒す音。驚いた無言。硬い音。
「?」
玲於奈が目を開けると。

「うぅぅ、三原則なんて嫌いだぁ〜」
ピンクの少女が豪快に生け垣に突っ込んで、意味不明の念仏を唱えていた。
320桜の群像 第23話「MAID IN HEAVEN」 24/31:2007/09/15(土) 17:21:45 ID:wOn9S2ay0

「だ、大丈夫、で……」
「シルファをいじめるなあああああああっっっっ!」
がばっと起きあがって、さっきの録音みたいな大音量。

「い、いじめてませんけど、シルファっていうんですか、その子?」
耳を押さえながらピンク娘に問う玲於奈。
「そうだよっ、シルファは来栖川の最新鋭なんだよっ」
「そ、そうですか」
「凄いんだよっ! 高いんだよっ! 可愛いんだよっ! って、シルファ? どこ?」
キョロキョロと辺りを見回す女の子。
「貴方の後ろに……」
「へっ? ……ああっ!」
ピンクが後ろを振り返ると、金髪の子が目を回して伸びていた。
「シルファ! しっかりっ! 誰がこんな酷い事をっ!」
「……たぶん、貴方が」
玲於奈の前で直角に曲がって藪に突っ込んだ時、巻き込まれたのではないだろうか。

「はるみさーん、どうしたのですか? シルファ、いました?」
急展開に玲於奈が目を白黒させていると、また新手の声がした。

「あっ、イルファお姉ちゃん」
ピンク髪の子は、はるみという名前の模様。
……ムク。
金髪の子も気がついた。
ダメージはなかったようで、何事もなく起きあがる所はロボらしい。

「はるみさん、シルファさん、良かった」
はるみとは対照的な落ち着いた歩調で、声の主がやって来た。
シルファと呼ばれる子と良く似た顔立ちだが、茶色の瞳と青い髪。
服装も同じ紺と白のメイドルック。スカートの色だけが、少し違うようだ。
321桜の群像 第23話「MAID IN HEAVEN」 25/31:2007/09/15(土) 17:24:07 ID:wOn9S2ay0

「二人とも、どうしたのですかその格好?」
茂みの中に立つはるみとシルファの姿を見て、青髪のメイドロボが呆れる。
「こ、これはその……」
しどろもどろになるピンク髪。
「こっ、この人がっ!」
「わ、わたくし?」
いきなり指をさされて、玲於奈は目を丸くしたが。
「シルファを見つけてくださったのですね。ありがとうございます」
青髪の娘は落ち着いたまま言葉を引き取って、玲於奈に頭を下げた。

「い、いえ、どういたしまして」
戸惑いながら言葉を返す玲於奈。この機体も、妙に人間くさい。
(最近のメイドロボは、ここまで進歩しているのかしら?)
玲於奈は、自分の家でメイドロボを使ってはいないが、
九条には採用している家庭も多く、学校を訪れた機体と何度か話をしたこともある。
それらは、確かに人間と意思疎通が取れるように工夫されてはいるものの、
やはり反応が定型的で表情も単純だったように思ったのだが。

「で、はるみさんは、何を?」
改めて、少女に問うイルファ。
「ボ、ボクはシルファを助けようとしただけだよぉ!」
ピンクが額に汗を浮かべて弁解する。彼女の方が立場が弱いようだ。

「てっきりこの人がシルファをいじめてると思ったから、それで……」
「突き飛ばそうとしたんですね?」
はぁ、と溜息をつくイルファ。
「うぅ、ボクもお姉ちゃんみたいに第一原則限定解除して欲しい」
「はるみさん、人前ですよ」
「あっ」
慌てて口を塞ぐピンク髪の少女。それで、玲於奈も謎な単語の意味に思い当たる。
322桜の群像 第23話「MAID IN HEAVEN」 26/31:2007/09/15(土) 17:26:39 ID:wOn9S2ay0
ロボット三原則の一。「ロボットは人間に危害を加えてはならない」
(また、その危険を看過することによって人間に危害を及ぼしてはならない)
メイドロボの思考回路にも大概これが適用されているが、
用途によって承認を受けたごく一部に、人を制圧可能な機体が存在する。

青髪の娘がそれに当たり、ピンクの子がそうなりたい、と言うのであれば。
「あの……失礼ですけれど、貴方もメイドロボ?」
それなら二人の会話も、さっきの直角カーブも納得できる。

「あちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃ」
玲於奈の言葉に、見事なくらいあたふたするピンク。
「まったく貴方は、試験期間を2週間も過ぎないうちにこれですか」
嘆息の青。
「ナイショね、これ、ナイショね?」
玲於奈に向かって手を合わせる“はるみ”。
「お願いっ、みんなに広まったら、テスト続行できなくなるんだぁ」
メイドロボが人間を詐称して良いのか、玲於奈の法知識は曖昧だったけど。
「え、ええ、それは、構いませんけど」
とりあえず、目の前で懇願する少女の必死さに頷いた。
「やったっ」
ぱんっ、と手を叩く女の子。
「ねっ、約束取れたよ、お姉ちゃん」
「……ちょっと待って……はい。テスト続行の承認が取れましたよ」
メーカーのどこかと通信しているのだろう。イルファが少し待って告げる。
「良かったぁ♪」
飛び跳ねて喜んでいるピンク色。見ている玲於奈の口元がほころぶくらい。
これまた、えらく感情表現豊かなメイドロボがいたものだ。

「まったく、危なかったなぁ、これもシルファが逃げるから」
……ムッ。
調子に乗ったはるみの発言に、金髪の娘が激しく不満そうな顔をした。
323桜の群像 第23話「MAID IN HEAVEN」 27/31:2007/09/15(土) 17:28:43 ID:wOn9S2ay0

「はるみさん。元はといえば貴方が勝手に連れ出したのでしょう」
イルファも、厳しい口調で注意する。
「シルファは本来、無選別の対人接触を行う段階ではないのですよ」
「お客さんにあんな酷い奴らがいるとは思わなかったんだよぉ」
はるみが愚痴った客とは、もしかしたら玲於奈に絡んだ連中なのかも知れない。

「うん、そうだ! 悪いのはあいつらだ! シルファもそう思……」
……ジトーッ。
また他人のせいにしようとしたはるみの言葉が、シルファの抗議の目線で止まる。
「う……やっぱ……ボク?」
……コクッ。
「当然です」
きっぱりと縦に振られる金髪。青髪の娘も同調して頷く。
「ごめんなさい」
はるみはしゅんとなって、イルファに謝った。
「シルファも、ごめんね」
……ムゥ。
「悪気はなかったんだよ。ただ、ボクが外に出て、楽しかったから」
両手の人差し指を顔の前で付き合わせながら呟く。
……。
「……怖いだけだった? 全然、楽しくなかった?」
寂しそうな表情で尋ねると、シルファはへの字だった口元を戻す。
…………フルッ。
小さく左右に動く首。はるみが、ぱあっと明るい顔になる。
「楽しかったよねっ! ねっ!」
……コク。
「よかったぁっ!」
頷いたシルファに飛びつくはるみ。頬をスリスリ。
……ムギュ。
抱きつかれて金髪の少女は、迷惑半分にくすぐったそうな顔を見せた。
324桜の群像 第23話「MAID IN HEAVEN」 28/31:2007/09/15(土) 17:31:03 ID:wOn9S2ay0

「本当に、ご迷惑をお掛けしました」
改めて、玲於奈に頭を下げるイルファ。
「いえ、別に迷惑は」
「そう言っていただけると助かります。ほら、行きますよ二人とも」
じゃれているシルファとはるみに声を掛ける。
その落ち着いた仕草は、玲於奈に一番の親友を思い出させた。
……スルッ。
そして、はるみの腕から抜け出してイルファの側に添うシルファ。
(ふふっ、本当にカスミと薫子みたい)
これまでの玲於奈に、メイドロボと人間を重ねる思考など有り得なかったが、
目の前の二機から九条の友人を連想するのは、意外にも悪い気分ではなかった。

「ああ〜、待ってよ〜!」
情けない声で茂みから飛び出してくるもう一体に、自分を重ねたいとは思わなかったけど。

「あ〜、おったー!」
「イっちゃーん☆ みっちゃんとしーちゃん見っけたんやねー☆」
大きな声に振り仰ぐと、校門の方から、二人の一年生が手を振っている。
双子だろうか、良く似た顔立ち。
「はい! ただいま連れて参ります」
「ボ、ボクは迷子になったわけじゃないよぉ!」
青髪の娘が手を振り返し、ピンクの子がトタタッと駆け寄っていく。
どうやら、あの子らがメイドロボ達の主人のようだ。

……ペコッ。
金髪の少女が去り際に振り返って、イルファの陰からちょこっと頭を下げる。
「あっ、バイバイ、優しいお姉ちゃん!」
それを目にして、行きかけたのにわざわざ戻ってきて手を振るはるみ。

じゃれつきながら双子と合流した三姉妹は、5人でやっぱり賑やかに去っていった。
325桜の群像 第23話「MAID IN HEAVEN」 29/31:2007/09/15(土) 17:34:03 ID:wOn9S2ay0

「ふうっ」
メイドロボ達の嵐が去って、溜息をついた玲於奈。
時間的にはほんの数分のやりとりだったが、思うところは色々あった。
(あんなに人間くさいロボットが産まれて来ているだなんて……)
時代は、ずいぶんと進んでいるようだ。
(薫子とカスミは、どうしていますでしょうか)
親友に重なった少女達の姿は、玲於奈に一抹の寂しさをも催した。

トントン。
「ひゃうっ?」
後ろから肩を叩かれて、今日は何度目かわからない悲鳴をあげる少女。
「やっと見つけた。ったく、探したぜ」
振り返れば、ほんの数時間なのにずいぶん久しぶりに思える恋人の顔。
「雄二さん……」

ぎゅっ。

いきなり、玲於奈は雄二に抱きついた。
「お、おいおい、どうした。なんかあったか?」
周囲の目もある校舎前、戸惑いつつも少女の肩を抱く雄二。
「いえ、そういうわけでは、ないのですが」
色々あったにはあったが、ひととおり解決済みだし。
「ただ、少し……」
充電したい気分。雄二も、少女に応えた。

「にしても、どこにいたんだ?」
身体を離した後で、雄二が首を傾げる。
「2−Aです。喫茶店を手伝っていました」
「げっ。そこだけは見なかったぜ」
午後中探し回ってたんだぞ、と嘆く。
326桜の群像 第23話「MAID IN HEAVEN」 30/31:2007/09/15(土) 17:36:09 ID:wOn9S2ay0

「メイドロボ喫茶に喜んで入って行かれたようでしたから、いらっしゃるかと思いましたの」
「お前なぁ……あれは無理矢理連れ込まれたんだって」
「あら、そうですか?」
もう怒ってはいないし、ずっと自分を探していたと聞いて嬉しく思うが、そこは信じてなかったり。
「ホントだって」
口を尖らす雄二。
「あの子ムリヤリ客連れ込んでたみたいでさ。中でメイドロボに怒られてたんだぜ」
「青い髪の子ですか? 可愛かったですね」
「そうそう、優しくて上品でちょっとお茶目入ってて、まさに理想のメ……あ」

力が入って、のち、シマッタという表情。
「いいですよ」
玲於奈はクスリと笑う。
「金髪の子もいたはずですけど。ぜんぜん喋らない」
「いや、いなかったけど……なんで知ってんだそんなの?」
「今さっき会ったんです。ここで。青髪の子も」
「マジか?」
「真面目ですよ。ロボットに言うのも変ですが、いい子達でしたね」
「すっかり人間だよなぁ」
二人の感想は概ね同意見。
(メイドロボ同士ですら、あんなにコミュニケーションを取れますのに)
自分は、何を拘っているのだろう。

「校内は終わっちまったけど、出店はまだやってるからさ」
誘いというより自然に、後夜祭を一緒に回ろうと言う雄二。
「玲於奈ーっ! 何やってんのーっ!」
同時に、校門の方から、声が掛かる。

「あ……」
玲於奈の視線は、隣の雄二と15メートル先の女子生徒達を往復。
327桜の群像 第23話「MAID IN HEAVEN」 31/31:2007/09/15(土) 17:37:29 ID:wOn9S2ay0

「なんだ? あいつらと約束したのか?」
「彼氏と行くのーっ?」
ステレオで第二報。玲於奈は困った顔になる。

「え、ええっと……」
先に約束したのだから、同級生達の下に戻るべきだろう。
玲於奈自身、行きたい気持ちも当然ある。
でも、せっかく雄二と会えたのに。
それに、もしかしたら、向こうは義理で誘ってくれただけで、行かない方が……

とん。

迷う玲於奈の、背中が軽く叩かれた。
「えっ?」
「行ってこいよ」
ニカッと笑う雄二。
詳しい事情は知らなくとも、状況と、玲於奈の思考は分かったようだ。
「でも……」
「つまんなかったら、抜けて来りゃあいいさ」
俺はその辺ぶらついてるからさ。と、半分苦笑気味に付け加える。
「……はい」
それを聞いて、少女の顔が晴れた。

「どうすんのーっ!」
ぞろぞろと後夜祭に出てくる生徒や来校者の合間を縫って、届く声。
すでに移動を始めているクラスメート達。眼鏡の少女がこちらを伺っているのが見える。

「今、行きますーっ!」
目一杯元気に応えて、玲於奈は級友の下へ駆けた。
328名無しさんだよもん:2007/09/15(土) 17:39:00 ID:wOn9S2ay0
以上です。>313さん支援ありがとうございました。
15/31と20/31が二つあるけど間違い。あと21/31で「仮想用」→「仮装用」

俺はメイド喫茶もメイドイメクラも行った事ないのでアレですが、
もとより出し物ですので学生が暴走したらこんなもんかなー、と御容赦を
長瀬由真は、貴明と絡まないとこんな芸風かなと思って書いてみた

にしても今回は、長いし登場人物が多すぎました
遊びでシルミルをちょこっと出そうと思ったら、暴走して大量にレス使うし(−−;
三原則とか通信とかボクっ子とか人間詐称とか色々おかしい設定をしてますが、
その辺まとめて&学園祭も込みで、AD前の今しかできない妄想ってことでご勘弁
イルファも本編ではもっとお茶目な感じだと思うけど、お姉さん役なので控え目に

しかし、自分で書いといて何ですが、玲於奈の対人能力は小学生並ですね
ラストで雄二に「みんななかよし」の主題歌でも歌わせようかと思った(古い)
329物書き修行中:2007/09/15(土) 19:14:44 ID:p4lRBdPl0
乙です
久々の新作面白かったです。
季節も丁度よく学校祭ネタですか。
生徒会長はイルカの曲芸部のひとでせうかw

漏れも現在急ピッチで同盟の続き書いてますが今しばらくかかりそうです。
書くならそろそろささらにも手をつけんとヤヴァイ。
河野家の人ってすげぇなあと今更にして改めて思う。週刊なんて書けねぇ。
330名無しさんだよもん:2007/09/15(土) 23:21:55 ID:rLRD2AXd0
いいんちょが、子供たちにいじめられてスカートめくられたら、マジ泣きするか、マジぎれするか・・・どっちだろう?
331名無しさんだよもん:2007/09/15(土) 23:35:15 ID:2qGUehXJ0
群像の人GJです!相変わらず台詞多めで読みやすかった
結構量あるのに一瞬で読み終わってしまったぜw
でも〆に入ってる感じが少しさびしく思えたり…もう一波乱くらいあるのかな?
332名無しさんだよもん:2007/09/15(土) 23:37:02 ID:rt0AicG60
>>328

今現在一番楽しみなSSだわ
長くても一気に読めるのがいい
次回も期待

>>330
どこからともなく現れたいくのんがキレる
333名無しさんだよもん:2007/09/15(土) 23:50:14 ID:akM33F+y0
とうとうきましたねー。待ってましたww
毎度思いますが、よく考えていますね。
楽しませてもらってますヽ( ´ー`)ノ
題名もまかさそれでくるとはって感じでしたww

一箇所、会話文の中にwが入ってたのが気になりましたが、仕様
334名無しさんだよもん:2007/09/16(日) 12:05:49 ID:5cTrnj8n0
>329-333
328です。レスどもです。

>イルカの曲芸部
正解です。春高祭であ〜る達が暗幕の代わりに板きれもらった話があったので
このみのクラスの特撮好きの子、というのも国枝千里から連想しました
>河野家
自分で書いてみて、コンスタントに書き続けるというのがいかに凄い事か実感します
漏れは話によって長さが激変するので、毎回ほぼ同じ長さに揃えてたのも驚き
でも、物書き修行中さんの製作ペースも十分凄いと思います
>スカートめくり
愛佳は1回なら涙目笑いで許しそうですがしつこいと100tハンマーとか。郁乃は鉄拳
>長さ
話ごと場面ごとに長さが違いすぎるのは悩んでますが、どうにもならない感じです
台詞が多いのも、ぶっちゃけ地の文を書く筆力がないからですけど、台詞地の文とも
1レス内の文字量は極力減らすよう心がけてます。でもそのせいでレス数は増えたり
>〆
お察しのとおり、あと1.5エピソード(話数で3話)くらいの予定です。
ラスト一波乱は、どうも自分でもしっくり来てないんですが……
>題名
これのサブタイトルは、3分の2くらいがエロゲのタイトルかそのモジリです
エロゲじゃないのが1,2,4,6,10,11,15話。どうせなら統一すればヨカタ
今回のヤツは、主題歌の為に買ったけどWin95がないのでゲームはやってない(ぉ
>w
書き間違いではないのですが、どこまで使っていいんでしょうねこういうの?
これまで使った記号っぽいのは、♪★☆@w↑↓><ヽ (´ー`)┌ といったとこです
個人的には、顔文字やAAは(書式やフォントで意味不明になるので)マズイかなとは思った
335名無しさんだよもん:2007/09/16(日) 15:05:37 ID:rNK5U1Xv0
自分もそうだけど、顔文字を無条件に嫌悪する人は結構居るよ。

メールやチャットの顔文字は、相手への「馴れ馴れしさ」を演出するものでもあるから、作品の中で使う時は注意したほうがいい。
作者や登場人物が頭悪そうに見えたり(珊瑚のセリフに☆を付けるのは、それを逆利用したキャラ付け)、読者を馬鹿にしているように感じるからね。
336名無しさんだよもん:2007/09/16(日) 15:15:27 ID:ivvcYW3B0
まあそんなのある程度上手くなれば何も言われなくなるけどね
登場人物が頭悪く云々とか読者を馬鹿に云々なんてもう個人の主観の範疇だし
337名無しさんだよもん:2007/09/17(月) 04:11:15 ID:L/nJZ21c0
セリフの語尾に♪をつけて楽しい、嬉しいといった感情を表現するのと
地の文を使って楽しい、嬉しいといった感情を表現するのは、
やってることは同じだけど、そこから伝わるものには大きな差があると思うよ
俺は前者を手抜きと見て、後者でしっかりと表現できている人を上手いと見る。

使うならどれがどれくらいって基準は決めようもないんだから
気になるなら使わなければいい。気にしないなら好きなだけ使えばいい
書式ルールでいうなら特殊記号な時点で使用は控えるべきだし、
顔文字は書式(縦書きなど)に対応できないので論外
338名無しさんだよもん:2007/09/17(月) 05:49:33 ID:lOwksNhb0
>俺は前者を手抜きと〜
逆にしっかりというより硬い印象を受ける場合もありますね
まあそのあたりは地の文章によりけりですから何とも言えないけれど

というかこんな隔離板まで来てそんなに真面目な小説を読みたいんですか
「自分の言ってることは正しい」なんて主張は必要ありませんよ
339名無しさんだよもん:2007/09/17(月) 07:48:39 ID:L/nJZ21c0
>>338
ちょっとまってくれよ
誰がいつ「自分の言ってることは正しい」なんて主張をしたんだ?
これの話の元は記号の使用についてで
俺は記号をSSに使用するのは
(多用されたら)手抜きに見えるけど、書き手が気にならないのなら使えばいいと言ってる。
その上で、書式的な考えでありかなしかを判断するならなしだって言っただけ

そら、正しい日本語、読みやすい文体、気持ちの良い表現をしているSSを読みたいと思ってるってことに間違いはないけどさ
この考えを絶対的に正しいものとして考えた主張はしていないはずなんだがな
もちろん、自分の考えである以上、自分なりの正しさくらいはもって言ってるけどね
340名無しさんだよもん:2007/09/17(月) 10:23:11 ID:hmw8H0020
俺が語尾に音符をつけるときは、そのキャラ特性と声の響きを考えて必要だと思ったときで、
つけようがつけまいが、地の文での表現は変わらんがなぁ。
別に手を抜く目的でそうしているわけじゃないし、使ったからって手を抜けるわけでもない。
音色を塗っているだけだ。
341名無しさんだよもん:2007/09/17(月) 10:37:18 ID:f9l3+0ZZ0
>相変わらず台詞多めで読みやすかった
これは褒めてるのか?
342名無しさんだよもん:2007/09/17(月) 10:40:28 ID:OJBeZIcZ0
ネット小説ってのが横書きなんだから、横書きに適した書式になるのは自然なこと
だから、俺は顔文字を使うのはアリだと思ってる(地の文とかで)
頻繁に出て来たらウザいし、俺は使わないけど
音符やら星やらの記号は、地の文プラスアルファで使ってる分には気にならない
ただ、「w」とかはちょっと気になるかな
まあ、究極のところ読者が面白いと思えばそれでいいんじゃね?金取ってるわけでもないんだし、作者の好きにやればいいと思う
桜の群像に限って言えば、俺は楽しんでるから文句は何もない
343名無しさんだよもん:2007/09/17(月) 10:43:38 ID:OJBeZIcZ0
>>341
エロゲとかその二次創作とかに慣れてると、地の文が多いと読みづらい、って人がけっこう多いみたい
あと、普段小説読む読まないにかかわらず、キャラを前面に押し出したタイプの作品だと、地の文で描写するより、台詞を喋らせて欲しいって思うのかも
ラノベとかも(作品によるが)地の文少なめなのが多いし
本人としては褒め言葉として使ってるんじゃない?読みやすい、って言ってるくらいだし

連投スマソ
344名無しさんだよもん:2007/09/17(月) 15:59:52 ID:xOBczbdJ0
褒め言葉として使ったつもりなんだけど言い方が悪かったな。スマソ
345名無しさんだよもん:2007/09/17(月) 22:54:55 ID:6gUTck/Q0
334です。いろいろな御意見参考になります。

まず日本語としておかしい/嫌悪感を覚える人がいる、というのは心に置いて、
地の文で感情表現する代わりに記号一発で済ます、という事の善悪の判断が必要、
という事ですかね。台詞の音色というのも広い意味で感情表現の一種かと思いますし

桜の群像に関して言えば、顔文字は>334の理由でもう使う気はないのですが、
記号の方は、台詞だけで口調/感情を表現するのが難しい時に欲しくなります。
例えば愛佳の「しょうがないなぁもうっ」的な台詞の時は♪を付けたくなります
定型的な感情を表現するのに文章を割くのもどうか、というのもありますし。
でもwは、今回は女子が友達を明るく馬鹿にする台詞で自然に手が滑りましたが、
自分でも>335さん指摘のような印象を受けたので多分使わない。この辺はもはや感覚かな

>343
漏れのSSで台詞が多いのは会話から文を起こしてるのと作文能力のせいですが、
地の文が多いと読みづらいというのは漏れが正にそうです。本読んでないから(恥
でも「窓の中の物語」で縦書きにするとそういうのが読みやすい事もありますね
ちなみに桜の群像は、かちゅーしゃに最適化してるつもりですけど、縦にすると悲惨

>344
褒めていただいたと思いましたし、それは嬉しいですが、
褒め言葉でも貶し言葉でも内容は伝わりますので言い方はお気になさらずに
346名無しさんだよもん:2007/09/18(火) 01:42:46 ID:uUeSVyyD0
あくまで俺個人の意見だが"w"をつけると頭悪そうに見えるという意見には賛成だ。
333のレスを見ればわかるように…
347名無しさんだよもん:2007/09/18(火) 02:11:44 ID:w0O+4COo0
333ですが、寝る前に、一日経って何か新しい作品が投下されたか確認にきたら、
何気なく書いたことが、結構議論されてるようで……。
正直、ここまで発展するとは思ってなかったです。

今気づいたら、333のカキコが「〜仕様」で切れてますね。
仕様ですかね?と聞くつもりだったんですが。

>>346
そうですね、wをたくさんつけるとバカそうに見えるのは間違いないですよ。
なにせそれをネタにしたようなものまでありますから。

しかし、wをつけることによって、柔らかさが生まれるのも事実ですので、
否定的になるのは如何なものかとw
348名無しさんだよもん:2007/09/18(火) 02:20:05 ID:F01kwE000
待ってました、っていう明らかに好意的な言葉にwを添えても、柔らかさは生まれないと思うぞ。
へたすりゃちゃかしているように見えるくらいで。
349名無しさんだよもん:2007/09/18(火) 06:09:13 ID:87kGJmQe0
逆にきつい言葉にwを付けると、バカにした感も出るが冗談だよ感も出る、かな?
体裁といえば、スレと書庫でも読み味が多少変わりますな
そういえば書庫の人毎度ながら更新乙! であります

で、書庫を眺めて個人的には「や・ゆ・よ〜」の続きないし中の人の新作を期待していたりするのですが・・・
350名無しさんだよもん:2007/09/18(火) 08:16:24 ID:8tuoccck0
>>349
ID:87kGJmQe0=lOwksNhb0か
反対意見に脊髄反射してるけど何がしたいの?
疑問系で自信も根拠もない反論するとか必死すぎだよ。
あんたのやってることは
>「自分の言ってることは正しい」なんて主張
じゃねーの?w

これが冗談だよって感じに取れるなら何も言うことはないな
351名無しさんだよもん:2007/09/18(火) 17:11:16 ID:fRWtvsay0
ここって不思議な雰囲気なとこだな。昔気質っていうか
最近エロパロ板で流行の台詞並べただけの思考停止SSもどきとか全然見ないし
文法に関してもきっちりしてないとすぐに突っ込まれるし
物書き志望の人とか多いのかな
352名無しさんだよもん:2007/09/18(火) 20:04:10 ID:qSRMRrHL0
SSスレ自体が多いし、扱ってる内容が狭いわりに(外部サイトも含めて)SSが多く作られてるからな。
SS初心者用のスレがあるから、ってのも大きいかも。
353名無しさんだよもん:2007/09/18(火) 21:21:32 ID:CJUCcu2z0
>350
柔らかさとちゃかしは併存可能だと思うので、混ぜっ返して終わらせたかったんです
私(349=345)は>338さんではありませんが、気分を害したならすみませんでした
354名無しさんだよもん:2007/09/20(木) 19:07:11 ID:58fLW91p0
いきなりですが、一つSS投稿してみたいと思います。
処女作&掲示板に使い慣れていないので不満は多々あると思いますが、
そこは温かい目で見守ってくださると助かります。
355愛佳SS−1:2007/09/20(木) 19:08:39 ID:58fLW91p0
ここは俺の家。
時刻はもうすぐ長かった1日にお別れを告げる時刻。
家のベットに横たわっている。
いつもは仰向けに…変わることのない天井を見ながら。
だが今日はいつもとは違って横向きで寝ていた。

俺の目線の先には一人の少女が。
同じベットですやすやと寝息をたてて寝ている。
その少女はいつもの平凡な日々とは違った一日を提供し、俺たちの関係を特別なものにした。

356愛佳SS−2:2007/09/20(木) 19:09:21 ID:58fLW91p0
長かった授業も終わり、HRも終え、週毎に変わる掃除当番の順番が回ってきて、
いつもと変わらず適当に掃除を終え、いつものように俺は帰ろうとしていた。

「た、たかあきくん!」

ドアに手をかける寸前、不意に後ろから声を掛けられた。声の主の名前は小牧愛佳。
同じクラスで委員長役をしている女の子である。

「あの…たかあきくんにお願いがあります…なのよ」

遠慮の塊のような愛佳が人にお願いするほどだからよほど重大な事なのだろう。
というか話し方がやけにぎこちない。

「どうかしたの?」
「そのですね…今日は両親が出張で明日にならないと帰ってこないのですよ」
「うん」
「郁乃は病院ですから今日は私一人なんです」
「それで?」
「そ、それでですね…き、今日の夜は…私と一緒に過ごしてくれませんか?…な
のよ」
「…え?」

思わぬお願いに固まってしまう俺。
夜を一緒に過ごすってことは…お泊まり…ってことだよな。

愛佳にしては積極的すぎる気もするが…理由を問うためにも混乱状態の頭をなん
とか整理して言葉を出す。
357愛佳SS−3:2007/09/20(木) 19:10:21 ID:58fLW91p0
「どうして…」
「え?」
「どうして一緒に過ごしたいのかな?」
「「……」」
しばしの沈黙の後…
「それは…」
「それは?」
「1人は寂しいから…というのは理由になりませんか?」

それがいつもと違った日を過ごすこととなったきっかけだった。

結局、俺はノーとは言えずこうして夜を一緒に過ごすこととなった。
泊まる場所は俺の家になった。
一度学校で別れて、愛佳がお泊まりセットを持参して夕食前に家にくることになった。
夕食前というのも愛佳が夕食作りをすると言い出したからである。曰く一宿一飯の恩義とのこと。

時刻は午後5時半になろうとしていた。

「ピンポーン♪」

呼び鈴が鳴る。どうやら愛佳が来たようだ。

「はいはい」
「お、おじゃまします…」

愛佳は制服姿で普段使っている登校用手提げカバンに、
お泊まりセットが入っていると思われるナップザックを背負い、
夕食用に買ってきたと思われる食材等の入ったビニール袋をカバンとは反対の手に持つ
という一風変わった…いや、変な格好だった。
358愛佳SS−4:2007/09/20(木) 19:11:06 ID:58fLW91p0
「いらっしゃい。重かったんじゃない?持つの手伝うよ」

返事を聞く前にカバンとビニール袋を手に取りリビングに向かっていく。
愛佳は申し訳なさそうな顔をしながらも、同じくリビングに向かっていった。

「わあぁ…」
「そっか、初めてだよね?」
「由真以外のお家に来たのは初めてかも。しかも男の子の」

男子に対しての苦手意識があれば確かに男子の家にあがることは無いだろうが…。
由真以外に訪れたことのある家はどうやら少ないようだ。

「こっちも。タマ姉やこのみ以外の女の子を家に入れたのは愛佳が初めてだよ」
本当の話であるからしょうがないのである。
「へえぇ…」

愛佳は物珍しそうにリビングを眺め回っている。
その間に俺は2人分の飲み物をテーブルに置き、先に座って飲みながら愛佳の様子を見ていた。
一通り眺め終わったのか、俺の前に座る。
359愛佳SS−5:2007/09/20(木) 19:11:53 ID:58fLW91p0
「今日の夕食は和風料理かな?」

ビニール袋の中身から推測して愛佳に尋ねる。

「うん。…和風は嫌い?」
「そんなことないよ。なんでも食べるし」
「今日は腕によりをかけてたかあきくんにおいしいと言われるような料理にするからね」

随分と気合いが入っているようで。

「それは楽しみだね。早速作るの?」
「う〜ん…今から作ればちょうどよさそうだから作らせてもらおうかな」
「よし、それじゃあ作ろうか。手伝うよ」

せっかくの機会なので手伝ってあげようと思ったが

「大丈夫。たかあきくんはテレビでも見ていて待っているだけでいいよ〜」

断られてしまった。
ここで無理に手伝おうとしても無意味だとわかっている。逆に迷惑がられるだけだろう。

「キッチンで何かわからないことがあったら聞いてね」

と一言伝えて、言われたとおりキッチンを背にテレビを見ながら待つことにした。

程なくして愛佳お手製の夕ご飯が完成した。
肉じゃが、おひたし、焼き魚…かなりスタンダードな和食。
しかし、どれもがおいしそうに仕上がっている。
360名無しさんだよもん:2007/09/20(木) 19:14:04 ID:h3lam/GQO
連続投稿回避用
361愛佳SS−6:2007/09/20(木) 19:14:51 ID:58fLW91p0
「どうかな?少し手間取ったから焼き加減とか自信がないんだけど」
「そんな心配がいらないくらいにおいしそうだよ。それじゃあいただこうか?」
「うん」

二人とも手を合わせて

「「いただきます」」

正直、これほどの和食は今までで食べたことがなかった。と思えるくらいおいしかった。
肉じゃがの味付けなんかは好みな味でプロ顔負けと言ってもいいくらいだった。
そのこともふまえた上で感想を述べると愛佳はとてもうれしそうな笑顔をしていた。
学校や書庫で見る愛佳の笑顔とはまた違い、嬉しさのなかに恥ずかしさも混じっているようなそんな笑顔だった。

「どうしたの?」

数秒の間に向けられていた視線に気づいたのか尋ねられる。

「な、なんでもないよ!」

…見とれていた。いつも見ていた笑顔より数倍楽しく、嬉しそうに笑っていた愛佳の笑顔は俺の視線を釘付けにしていた。
そのことを悟られないように振る舞おうとしたが、焦りからか噛んでしまった。
顔が少し赤くなっていたのが体温でなんとなく感じ取れていた。
そんな俺を見て愛佳は「ふふっ」と微笑んでいた。
362愛佳SS−7:2007/09/20(木) 19:15:29 ID:58fLW91p0
夕食の片づけを一緒にした後、テレビを見ながら愛佳と話をしたりして過ごしていた。

「そろそろお風呂入る?」
「う〜ん…それじゃあ入らせてもらおうかな」

リビングを後にし、一人で風呂場で準備をしていた。

―1人は寂しいから…

「いくら寂しいからとさすがに風呂まで一緒…は無いよな」

そんな疑問が浮かび上がった。

「恋人という関係でもないから裸のつきあいはあるわけ無いよな」

答えは直ぐに出てきた。だが…

「恋人か…」

思わず口にしたその言葉が頭に引っかかった。

「俺から見たら愛佳は面倒見がいいし、家事や料理もできそうだし、
すこし天然なところや遠慮がちってところもあるが、かわいいし…」
考えている内に顔が赤くなってきているのを感じた。
冷ますために冷水で顔を洗う。
363愛佳SS−8:2007/09/20(木) 19:16:11 ID:58fLW91p0
「恋人か…」

結局、お風呂を一緒に入るということは無かった。
当たり前のことだった。
が、少し期待もしていた。
ただ、仮に一緒に入ったときには緊張や興奮のあまり、心臓が破裂するのではな
いかという心配も出てきた。
そういった面で俺は安堵の表情を浮かべていた。

「次いいよ〜」
「うん、わかったよ」

そうこう考えてる内に愛佳がお風呂からあがってきたようだ。
風呂上がりの愛佳はピンクのパジャマ姿に様変わりしていた。
それを見た俺はまた目線釘付けになりさらに顔を赤くする羽目になった。
364愛佳SS−9:2007/09/20(木) 19:16:46 ID:58fLW91p0
2人が交互に風呂に入り終わり、またテレビを見てなんとなく過ごしていた。
愛佳の事を意識してから口数が少なくなり、2人の間の空間には自然と静寂な空気に包まれていた。
「それではまた来週」
番組のスタッフロールが流れているのに気づき、ふと時計に目をやる。
11時。
今日は木曜日。明日も学校はある。
愛佳が普段いつ寝るのかは知らないが、明日のためにも寝るのがベストだと思っ
た。

「そろそろ寝る?」
「そうだね。明日も学校があるし遅刻するわけにはいかないよね」

愛佳も同じようなことを考えていたようだ。

「それで…愛佳はどこで寝る?」

こちらから場所を提供すれば何の問題もなかったが、愛佳のことも考えていたの
もあって忘れていた。
普通に考えれば別の部屋に設けるべきなのだろう。
ただ…

―1人は寂しいから

その一言が引っかかり一応本人に確認をとっておくべきだと判断した一言である


「たかあきくんが嫌でなければ…同じ部屋で寝たいです…なのよ」
365愛佳SS−10:2007/09/20(木) 19:17:21 ID:58fLW91p0
結果、自分はベッドに、ベッド横のフローリングに布団を敷いて愛佳が寝るという形になった。

「それじゃ…おやすみ」
「うん。おやすみなさい」

証明を消す。静寂な空気が流れる。
俺は簡単には眠れなかった。愛佳のことが気になっていた。
愛佳の気持ちを考えていた。
どうして一人が寂しいと言い始めたのか…
どうして俺を頼ったのか…
いろいろ考えたが結局それらしい答えも出ず、思案にふけっていた。

「たかあきくん?」
ふと、自分のことを呼ぶ声が聞こえた。

「もう寝ちゃったかな?」
「いや、まだ起きてるよ。どうしたの?」
「その…ね。そっちで寝ちゃダメかな?って思って。」
「え?」

思わぬ一言に思考を中断する域を越えて俺は少しの間固まっていた。

「寝る?一緒に?」
「ダメ…かな?」

愛佳は枕を抱きながら上目遣いでこちらを見つめていた。
どうもこういう顔をされると弱いんだよなぁ。

「う、うん…いいよ。こっちにおいで」
「ありがとう」
366名無しさんだよもん:2007/09/20(木) 19:19:07 ID:h3lam/GQO
連続投稿回避用
367名無しさんだよもん:2007/09/20(木) 19:22:15 ID:h3lam/GQO
連続投稿 〃
368愛佳SS−11:2007/09/20(木) 19:22:56 ID:58fLW91p0
寝ているベッドはそこまで大きくなく、1人が寝るのにちょうどいいくらいの大きさだった。
片方は壁に寄せていて俺がそっちに寝ている。
逆端に愛佳が横たわっているが遠慮からかギリギリ、下手したら落ちるぐらいまでのところにいた。
一緒に寝るといってもいきなり抱きついて寝るわけもない。
これが当たり前だと俺は理解していた。
だが、それでは愛佳が窮屈すぎるだろうと思って声を掛ける。

「もうちょっとこっちにきなよ。」

愛佳は無言でこちらに近づいてくる。
が、密着してるわけでなく、まだ少し空間が空いていた。
俺はなんとなく愛佳と手をつなぐ。
最初は驚いてもいたが愛佳の顔は少し嬉しそうなでも恥ずかしさも含んだ笑顔に
なっていた。

「普段はいつも居る人がたった一日でもいないだけで、こんなにも寂しい思いを
するとは思ってもいなかったの」
「……」
「寝るときは部屋で1人というのは変わらないけど、家に自分以外の人が居るの
と居ないのとでは全然違かった」

愛佳の両親は昨日から出張だったようだ。
愛佳は昨日の今頃は1人寂しく過ごしていたのだろう。
それに耐えきれなくて親友である由真をさしおいて、俺に一緒に居て欲しいとお
願いしたということのようだ。
何故俺を選んだのか?考えるより先に体が動いた。
愛佳の頭を撫でてあげる。
369愛佳SS−12:2007/09/20(木) 19:23:37 ID:58fLW91p0
「俺の両親はいつ帰るかわからない仕事で海外に出張して留守にしている。だから俺も1人なんだ」
「うん」
「最初は「誰もいないから自由だ」と思っていた。実際そのとおりだった。
でも誰もいない寂寥感が常に心の中に居座っていた。」

まさに愛佳と同じ事を俺も体験していた。
だから愛佳が感じた寂しさというのも凄く伝わってきたし理解していた。

「でも最近はそんな気持ちは無くなってきているんだ」
「え?」
「そう…愛佳のおかげなんだ」
「私の…おかげ?」
「最近は学校の教室でもよく話すようになったし、書庫での手伝いやお茶会とかで愛佳と一緒に過ごすことが多くなった。
その時間はとても楽しくて充実していて…今の自分には必要なことなんだ。」

愛佳の表情に変化があらわれる。

「必要…私が…たかあきくんに必要とされている…」

愛佳の目からは一筋の涙がこぼれ落ちていた。

「そう…今の俺には愛佳と存在が必要不可欠なんだ」
370愛佳SS−13:2007/09/20(木) 19:24:10 ID:58fLW91p0
今まで気づかなかったほど心の奥に秘められていたこの思いを…

「もっと俺と一緒に居て欲しい。好きなんだ。愛佳のことが。だから…」

強く込められていたこの想い。
でも無意識の内に隠されていたこの想いを、言葉にして最愛なる人に届ける。

「うん。一緒に居たい。たかあきくんと」

少し涙ぐみながらも、手を繋いだまま俺に近づいてくる。
やがて2人の距離は0になる。
お互いの唇が触れ合う。
わずか数秒の出来事。

やがて離れた唇から出た言葉。

「たかあきくんのことが…好きです」

再び2人の唇が触れ合う。
多くの想いが伝わるように何度も。
強く想いが伝わるように長く。
それはどんなに美しく飾った言葉を伝えられるよりも想いが伝わるように深く。

時刻は長かった1日に別れを告げ、新しい1日の始まりを迎えた時刻。
俺は隣で寝ている大切な人をそっと抱き、眠りについた。
371名無しさんだよもん:2007/09/20(木) 19:32:56 ID:58fLW91p0
とりあえず投稿してみました。
連続投稿〜のコメは自分でやっときましたのでスルーで。

ところで、文章作るのって本当に難しいですね。
こんなの簡単とか思っていた自分が愚かでした。
実際に作ってみると自分の国語能力の無さに泣きました。
少し色々な本や文章読んで力つけたいと思いました。

さて、今回投稿したSSなのですが…いいタイトル思いつかず。
ここでも国語力の無さに泣きました。
たかあきと愛佳の性格がちょっと…いや、かなり違うのはそこは目をつぶってください。
多少自分のイメージで書いてしまった感があるので、読む際には気をつけてください。
次作作る際には気をつけたいと思います。

誤字&脱字ありましたらすいません。
また「こうしたほうがいい」「これはやめたほうがいい」「もうすこし〜」
等の指摘ありましたらご指導おねがいします。
372名無しさんだよもん:2007/09/20(木) 20:49:02 ID:klcOqyum0
GJ
373名無しさんだよもん:2007/09/20(木) 21:29:44 ID:wQUAAzkM0
>371
乙。
文章は良いんじゃないか? 鳩2SSにしちゃあ珍しく静かな雰囲気だね
個人的に思ったのは、読点がもっとあった方が見やすいかも、くらい
正直、俺があーだこーだ言えるレベルは通り越してるw

愛佳については、性格はそんなに違和感ないけど、言動は苦しいように思えた
二人は恋人未満の、初デート直前くらいの関係という設定のように思えるけど、
それで泊まりに行くとか、告白するのに同じベッドで寝るってのは無茶っぽい
原作でも順番を間違えたような二人ではあるので、その辺を意識して書いたのなら
テーマとしては面白いかも知れないが、にしてもありえない感じ

内容自体は、文章と相まって穏やかで雰囲気出てたと思うので、
愛佳が泊まりに来る、もっと他律的な理由があったら良かったな。次も期待してまつ
374縁むすび 1/8:2007/09/20(木) 21:41:44 ID:rnlE0jVS0
 俺たちはまーりゃん先輩たちの協力で大人たちの手から逃れ、文字通り地の果てを目指
して逃げた。

 逃げるときに渡されたリュックサックの中にはいろいろなものが詰め込まれていた。
 二人の着替え数着(これは多分タマ姉とこのみ)、少なくない金額の現金(これも
タマ姉で出世払いの借用書付き)、某バランス栄養食数個とお茶のペットボトル(これは
たぶんまーりゃん先輩)、それに電話帳のようなヨレヨレに使い古された全国時刻表
(これも多分まーりゃん先輩)、その他エトセトラエトセトラ…さすがに某ゴム製品
1グロスが出てきたときは、ささらとふたりで真っ赤になった。

 でも結局一番役立ったのは意外にもまーりゃん先輩の時刻表で、二人でこれを見ながら
あれやこれやと想像して行き先を決めた。
 そして最後に乗ったのは南の島へ向かう連絡船だった。
 本土のアウトドアショップでテントと炊事用具を買い込んで船に乗り、若いカップルの
キャンパーを装って南の島に上陸した。

 元々住人の多い島ではなかったが、港から少しはなれた人気の無い浜の観光客向け
キャンプ地にテントを立てて、そこを俺とささらの当座の住まいとした。
 季節がまだ夏には早いし、GWは過ぎていたから他には誰も居なかった。

 飯盒で飯を炊き、缶詰をおかずに二人で食べ…お父さんと山歩きをしていたせいか、
ささらも飯盒飯は大丈夫だった…その日は疲れで日が暮れて間もなく同時に眠りに付いた。

 次の日は朝日とともに目が覚めた。
「おはよう、貴明さん。」
 テントを出ると、先に目を覚ましていたささらが水場から帰ってきたところだった。
375縁むすび 2/8:2007/09/20(木) 21:43:30 ID:rnlE0jVS0
「早いね…俺はまだちょっと眠いよ。」
「お父さんと山歩きに行ったときは大抵日が昇ると起きてたから、慣れてるの。」
 顔を洗って身だしなみを整えてきたらしく、前髪がほんのり濡れていたが、長く豊かな
髪は乱れや寝癖もなくさらりと流れていた。
「朝ごはんは私が炊く準備をするから、貴明さんは顔を洗ってきて。」
「ああ、朝ごはんなら…よっと…ここに。」
 俺はテントの中にしまってあった包みを取り出してささらに渡した。
「これ…おにぎり…?」
「具がなかったから塩むすびだけど。朝から炊くの面倒だから昨日作っておいた。」
「……」
 ささらが困った顔でそのおにぎりを見ていた。
「…どうかしたの?」
「…ううん、なんでもないの。」
 ささらが手を伸ばしかけて…でもその手はおにぎりをに触れる直前で止まってしまった。
「…やっぱり、駄目。」
「…あ!」
 そうだった。
 昨日飯盒で炊いたご飯は食べてくれたからすっかり忘れていたけど、ささらは手作りの
食べ物が食べられなかったんだ。
 コンビニのおにぎりならともかく、俺が握ったおにぎりなんて食べられるわけが無い。
「…ごめん。俺、また…」
「ううん…いいの。あたしが悪いの。」
 ささらがぽろぽろと涙をこぼしながら俺に謝る。
 もう、ささらを泣かせないって決めたのに…俺は…
「…いつか、きっと食べられるようになるから。だから…」

                   −
376縁むすび 3/8:2007/09/20(木) 21:45:03 ID:rnlE0jVS0
「で、その後、たかりゃんは朝からその若い肉体を使ってさーりゃんを慰めた訳だ。」
「いや、そんなことはしてません。…ていうか、なんでここにまーりゃん先輩が居るん
 ですか。」
「そんな細かいことは気にしちゃいかんよ、たかりゃんクン。なんとなくたかりゃんの
 家の前を通りかかったあと、なんとなく電車に乗って、なんとなく船に乗って、気が
 付いたら目の前にたかりゃんとさーりゃんが居たと言うわけだよ。」
「…それはストーカー行為って言うんですよ。」
 だいたいまーりゃん先輩はリュックサックに寝袋装備で、俺たちがキャンプに出かけた
のを知ってるっていうのがばればれだった。
「いやー、たかりゃんとさーりゃんが愛をはぐくんだって言う南の島をあちしも見て
 みたくってさー。…来ちゃった…てへ。」
「かわいく言っても駄目です。」
「たかりゃん冷たい……さーりゃんが居なくなった後、その寂しさを埋めるためにあん
 なに激しく暖めあった仲じゃないかよー。」
「暖めあってませんから。そう言う誤解を生むようなことは言わんでください。」
「…貴明さん、まーりゃん先輩と仲いいのね…私だけ仲間はずれで寂しい。」
 あの会話を聞いてて何でそうなるのか、ささらがちょっぴりいじけた。

 俺とささらが南の島に逃げたのはもう去年の話だ。

 あの後見つかって連れ戻され、ささらは夏休み前にアメリカへ旅立ち、クリスマスには
俺もアメリカに会いに行って婚約指輪を贈った。

 そして今年の夏、向こうの高校を卒業したささらは大学へ進学するため日本へと帰って
きた。本人たちの知らない間に親たちの間で話しが付いていたらしく、ささらはわが家で
下宿することになっていた。
377縁むすび 4/8:2007/09/20(木) 21:47:08 ID:rnlE0jVS0
 アメリカと日本では新学期の時期が異なるので大学へは来年俺と一緒に入試を受けて
通うことにして、今は俺に家庭教師をしながら、春夏さんに教えを請いつつ花嫁修業中だ。

 一方俺はというと、ささらがアメリカに旅立った後も不抜けている暇などなく、航空
チケットと指輪を買うためにバイトを始めた。

 加えて夏休み明けには、ささらの転校で会長に昇進していたタマ姉の指名を受けて、
俺が生徒会長の要職に付くことになってしまった。
 副会長には人望があって委員長としても実績のある小牧さんを指名した。それに伴って
みんなの呼称が”いいんちょ”から”かいちょ”にバージョンアップした。呼ばれるたび
に「あたしは副会長で会長じゃない〜」って言ってたけど。
 書記はこのみが続投し、会計には小牧さんつながりで妹の郁乃ちゃんが付いた。
 もちろん非常勤顧問ことまーりゃん先輩は俺たちのときも健在だった。

 そんな生徒会も色々あって1年経ち、先月郁乃ちゃんを生徒会長に指名して引き継いだ。
 副会長はこのみで、ボケ役のこのみに突っ込み役の郁乃ちゃんでいいコンビだろう。
 ちなみに書記は珊瑚ちゃん、会計はしっかり者の瑠璃ちゃんだ。

 そうして1年ぶりに自由な時間が増えた俺は、ささらの誕生日にあわせて二人で思い出
の南の島を訪れることにしたのだった。

「まぁ、まーりゃん先輩は放っておいて、」
「冷たっ…世間の風の冷たさに絶望したっ!」
「今日の寝床を確保しないと。テントを立てなきゃ。ささら、手伝って。」
「はい、貴明さん。」
378縁むすび 5/8:2007/09/20(木) 21:47:59 ID:rnlE0jVS0
「ほら、まーりゃん先輩も、そんなところでゴロゴロしてないで手伝ってください。」
「ふんだ。待遇改善されるまであちしは動かん。」
「じゃ、一人で外で寝てもらいますよ。」
「ヒドイ!…ねえ、さーりゃーん。」
「…手伝わないと、ご飯もあげませんよ。」
「うお!さーりゃんまで…ちぇー、働かざるもの食うべからずか。世間は厳しいな〜」
 まーりゃん先輩もぶうぶう文句を言いながら手伝い始めた。
 それを見て俺とささらも笑った。

 今は夏も盛りを過ぎて、去年ささらときたときと同じようにキャンプ場にはほとんど
人気が無かった。俺たち3人以外に在るのは木々のざわめきと打ち寄せる波の音だけだ。

 テントを張った後、夕食の用意をする。
 ささらが飯盒にお米を入れようとしていたのを見て俺は止めた。
「あ、ささら。それはいらない。」
 俺はリュックの中をあさってアルミホイルの包みを取り出した。
「それは…」
「今なら約束果たしてもらえると思ってね。おにぎりを作って持ってきた。」
 そう、去年食べられなかったおにぎりだ。
 俺の家に下宿するようになって春夏さんに料理を習っているが、最近ではささらは自分
の作った料理は食べられるようになっているから、俺はささらが起きる前におにぎりを
作って持ってきたのだ。
 なんとなくまーりゃん先輩も来そうな気はしてたので少し多めに作ってある。
 そのおにぎりを手に取った。まーりゃん先輩に一つ渡す。
379縁むすび 6/8:2007/09/20(木) 21:50:01 ID:rnlE0jVS0
「…今なら、食べられるかも知れないわ。」
「さーりゃん…」
 まーりゃん先輩は心配そうな顔をしていたけど、ささらの顔は去年とは違っていた。

 俺はおにぎりをもう一つ手にとって差し出した。あの時と同じ海苔も何も無い塩むすび
だ。
 ささらはそれをそっと、しかししっかりと受け取って…そして、口元へと運んだ。
 一口食べようとして、少し躊躇した。

 駄目か…まだ。

 しかし、そんな俺の様子を見てささらは一度口元からおにぎりを離すと、柔らかく
微笑んで見せた。
「大丈夫…貴明さんも、まーりゃん先輩もそんな顔しないで。私だってあのときの私じゃ
 ないんだから。」
 そう言ってささらは一口おにぎりを頬張った。ゆっくりと咀嚼して、そして飲み込んだ。
「た、食べた…たかりゃん!さーりゃんが「手作り」のおにぎり食べた!」
「やった!やったよささら!すごい!」
「ありがとう、貴明さん、まーりゃん先輩。」
 ささらが涙ぐみながら、もう一口おにぎりを頬張った。
「…おいしい…親しい人の手が作ったおにぎりがこんなに美味しいなんて、私知らな
 かった。」
「おにぎりなんていつだって作るよ。約束したクッキーも実は春夏さんに習って覚えたん
 だから、帰ったら作るよ。」
「うん…貴明さん…大好き。」
380縁むすび 7/8:2007/09/20(木) 21:50:37 ID:rnlE0jVS0
 そう言いながらキスしたささらの唇はほんのりと塩味だった。

                   −

「ところで…そのおにぎり、中に何か入ってなかった?」
「どうして?…塩むすびだから、具は無いんじゃないの?」
「あ、いや…実は…」
 今日はささらの誕生日だから…
「おおっ、こっ、これはっ!」
 いきなりまーりゃん先輩が驚きの声を上げた。
「なんですか?」
「こ、これは…指輪じゃないかっ!」
 しまった!渡すおにぎりを間違えたのか!
 実はおにぎりに銀紙で包んだ指輪を仕込んであったのだが、さっき渡すときに間違えて
たらしい。
「たかりゃん…」
「な、何ですか。」
「いけない…いけないよたかりゃん。…いくらまーとたかりゃんがさーりゃんの居ない
 寂しさを体で埋めあう関係だったからって…こんな物送られたら…まーはさーりゃんを
 裏切れないよ…」
「いやいやいや、何でそう言う話になってるんですか。」
「貴明さん…」
「はっ、ささら…な、何でそんな責めるような目で俺を見るんだ!」
「さっきのはまーりゃん先輩の冗談だと思ってたのに…指輪を贈るような関係だった
 なんて…」
381縁むすび 8/8:2007/09/20(木) 21:51:14 ID:rnlE0jVS0
「いや、冗談だって…そうでしょ、そうだって言ってくださいよまーりゃん先輩!」
「…ごめん、さーりゃん。」
「そうそう、これはまーりゃん先輩の冗談で…」
「ごめんね…あちしのおなかの中には、たかりゃんの子が…しかも臨月で今にも生まれ
 そうなんだ…」
「うわ〜〜〜〜!なにばればれな嘘で火に油注いでるんですか!」
「ひどい、ひどいわ…貴明さんも、まーりゃん先輩も…もう誰も信じられない…」
「うわ、ささらもそんなみえみえの嘘を真に受けるし…ささら!…俺を、俺を信じて。」
 嗚咽に震えていたささらの肩を抱いて、俺はこれ以上ないくらいの真剣な顔を向けた。
「…くす」
「…は?」
「…くすくすくす」
 ささらの肩がさらに大きく震えだす…あれ?
「あー…だめだよさーりゃん。笑っちゃ台無しじゃん。」
「だ、だって…くすくすくす…貴明さんがあわててるのが可笑しくって…」
「ひ、ひどい…」
「あ?どうしたたかりゃん。」
「ひどい、ひどいよ二人とも…女の子怖いよ…」
「やば…たかりゃんの女性恐怖症ぶり返した?」
「え…そ、そんな、貴明さん!…ああ、ごめんなさい、ごめんなさい…まーりゃん先輩、
 どうしたら…」
「あー…これは予想外。まーにもどうしたらいいか…と、とにかく…たかりゃん、ごめん、
 ごめんよ〜」

 俺の軽い女性不審は日が暮れるまで続いた。
 その間ささらとまーりゃん先輩によって普段では無いほどのサービスが行われ、後日雄二にそのことを話したら血の涙を流しながら泣かれた…
382物書き修行中:2007/09/20(木) 21:52:11 ID:rnlE0jVS0
ふひゅー、ぎりぎり間に合ったyo (;´Д`)

実は恋愛同盟のほうが筆がノッてしまい、けっきょく手をつけたのが昨日からだったり
して、危うく間に合わないところでした。
恋愛同盟のほうはこれから見直しと校正をするので、早ければ明日あたりにうp
できるかも知れません。

>>371
乙です。
私も最近SS書き始めたばかりなのですが、最近スレが寂しいのでお互いどんどん作品を
上げてAD発売まで盛り上げていきましょう。
あと連投は1レスごとに3〜4分程度待つようにすれば規制回避無しでも引っかかり
にくいですよ。
383名無しさんだよもん:2007/09/21(金) 00:32:44 ID:MpbMaHln0
>>371

確かに愛佳の言動に違和感はあったけど、本当に初めて?って位
文章もしっかりしているし、上出来だと思う。
後、タイトルでの番号の振り方は○/○○という表記にしてもらった方が
分かりやすくていいかも。

>>382
こちらもささら誕生日SS乙
この内容を二日で書き上げるとか、そのスピードには脱帽といった感じ。
後、雄二には別の機会にでもいい思いをさせてやってw
384名無しさんだよもん:2007/09/21(金) 06:56:39 ID:8LT4IUYn0
>382
毎度乙。由真、このみに続いて間がない所で連発できるってすごいな
アイディアもいいし、縁と塩も引っかけて、指輪でオチもついて、起承転結が明快

全然漏れの趣味だけだけど、起の要はおにぎり食えなかった事だろうから、
そっちを頭に持ってくるとか、状況説明の方はもっと簡単でもいいのかも

しかし話の流れが綺麗なSSだなぁ。正にGJ!
385371:2007/09/21(金) 07:10:32 ID:/DylpRuhO
>>373
設定苦しすぎましたね。
一緒に寝るその口実を作り出すのがなかなか思いつかなかったので…。
以後、気をつけます。

>>382
間を置けばいいのですね。ありがとうございます。
駆け出しの初心者ですがよろしくおねがいします。

>>383
投稿初めてだったので、文入りきるかわからなくて○/○○とはできませんでした。
いろいろ見たところ30行くらいでの投稿が多いみたいなので、これからはそのような形で投稿させてもらいます。
386名無しさんだよもん:2007/09/21(金) 10:59:10 ID:hVMcW4BT0
>>371
出張が理由になる場合、今まで一度もそういった出張などによる短期の外泊が存在しないとは考えづらい。
というか、いくらなんでもおびえすぎのように思う。
一人でいることに臆病にならざるをえない理由がないと説得力に欠ける。
だったらいっそ愛佳自身が泊まりに行きたいと思っていて、親の出張を利用したとかそういう流れの方がまだ自然かなあ
貴明の設定とのリンクっていう発想はいいのだけど、それを当てはめただけって感じがする。

由真の家以外、友達の家に行ったことがないって結構凄いことになるんだけども。
男の子にしても外で遊ぶだけではないし、女の子ならば家の中で遊ぶ機会は多いのでは。
せめて、泊まりに来たのは初めて(またはは久しぶり)にした方が良かったと思う。

文章は流れを作れてない部分が多々あるかな。
読む時にもリズムみたいなのがあって、それを調節出来ていない感じ。
例の一つは、語尾に「〜〜た。」を多用しすぎなところ。した。だった。が何度も続くと読みづらくなる。
それと、もうちょっと話の尺度を伸ばしてでも、ベッドの中での会話を増やすと、
貴明と愛佳の、いわゆる見てるこっちが恥ずかしくなるような恋愛ってやつに近づけられたかな。
これだけだと綺麗な話だけで終わってて、それだけでも悪くはないけれど、盛り上がりがなさ過ぎる。

文章と台詞の割合が台詞に偏っていて、それでいて台詞が固まっていない作品だと、
台詞毎に改行を入れると隙間が多すぎるかも。
文頭の一文字開けをして、改行を挟まない方が見栄えがよくなるかもしれない。
どっちが読みやすいかは個人の感性によるのでどちらがいいとは一概に言えないけれど。

一人称視点なのに貴明の心情描写が少なすぎて、それが淡々とした雰囲気を生んでいるかな。
雰囲気自体は悪くないし、TH2らしさを損ねている感じはしないから大きな問題ではないけど、
悪い見方をすれば印象に残りづらいSSになってしまっている。
本を読む時に、どういうところが上手いのかを意識して読んでいけばもっと良くなると思う。
引き続き頑張れ。

それとついでに誤字 愛佳SS-10:証明→照明
387名無しさんだよもん:2007/09/21(金) 11:23:14 ID:hVMcW4BT0
>>382
1〜2で回想シーン。3で現在。4で現在までの経緯。っていう流れが非常に読みづらくしている。
3でまーりゃん先輩が出てきたときに、逃避行中に現れたようにしか見えなかった。
そういうサプライズを狙ってるんだと思うけど、錯誤させる意味がないからそれはミスだと思う。

すでに婚約指輪を贈っておいて、次の誕生日プレゼントも指輪というのはプレゼントの選び方が悪いんじゃないかな。
オチのためのネタフリに偏りすぎていて不自然さが目立った。
加えて、回想の中でのおにぎりは、ちょっと貴明の配慮が足りなすぎる気がするかなあ。
人の手で作ったものは食べれないっていうささらの問題は、意識していないと忘れてしまいがちなものではあるけれど
コンビニなどのおにぎりでは大丈夫〜と原作で言われているために、前もって準備してましたっていうのは
貴明がうっかりっていうより配慮が足りないって感じに見えてしまう。
話のキーになるので、ここの設定には力をいれて欲しかったかも。

4の経緯で、生徒会役員の状況だけをつらつら並べるのは脳内設定のひけらかしでしかないと思う。
その後どうなったか、を出すのにいいんちょが副会長になったってところまではいいけど、その翌年の話まで出しても
話にまったく絡まないし、原作にもリンクしないのでここは余分かな。

読みづらい構成になっていたって部分を除けばそれなりに読みやすい文章になってるし、
おにぎりも、構成上不自然さは感じるものの、話の軸になるように組み込んでるのは出来てる。
特に、逃避行中のアイテムに時刻表が入っていたのは小物の使い方として凄く上手い。
状況に合わせたアイテムや描写の選択はできているので、
後は物語の説得力や、読みやすい構成を意識できるともっと良くなると思う。

短いスパンでのSS投下おつかれさま。
スピードも確かに重要だけど、そこに捕らわれすぎて内容がおろそかにならないように気をつけて。
今後に期待してる。
388名無しさんだよもん:2007/09/21(金) 11:46:06 ID:0tgeBHNw0
すごく真面目に批評してる人がいてちょっと驚いた
他のSSスレのことは知らないけど、なかなかすごいことかも
便乗で俺もやってみる

>>371
確かに微妙に貴明や愛佳の性格が違うけど、そこら辺はゲームプレイし直したりして固め直せばおk
台詞をもうちょっとくだけた感じにしてもいいかも。話すときって「〜いる」とかじゃなくて「〜る」になるっしょ?
文章力自体は書いたり読んだりすれば自然と身に付くものだから、初でこれなら十二分に及第点は突破してるかと
>>386が指摘してるように、流れとしてところどころおかしなところがあるから、書いた後に簡単な要約を作ってみて、
それを見直すといいかも。そうすると矛盾点を見付けられる
んで、その矛盾点を解消するためにはどういう風にすればいいかを考えると、綺麗にいくかも
あと、焦点が散漫になってるっていうか、一番の山をはっきりさせられてないから(全体が淡々としてるんで)、
そういう大事な部分では貴明の内面とか、二人の行動とかをはっきり描写してやった方がいい
何はともあれ、次回作にも期待
389名無しさんだよもん:2007/09/21(金) 11:57:53 ID:0tgeBHNw0
>>382
回想で重要なのは塩むすびのくだりなんだから、「塩むすびを食べられない」ってのを最初にやった方がいいかも
その後ちょこちょこ背景を説明するとか。この辺は俺の趣味も入ってるけど
取り敢えず、時間軸が移動したときは、そうとわかるようにしてやった方がいい
> 「で、その後、たかりゃんは朝からその若い肉体を使ってさーりゃんを慰めた訳だ。」
>  せっかく浸っていた想い出を、まーりゃん先輩が見事にぶち壊した。
とか。文自体はかなり適当にでっち上げたもんだから、出来悪いのには目を瞑ってくれ
あと、会話の間にもうちょい地の文が入ってるともっといいかも
五、六個会話が続いたら、貴明の内面とか、表情とかにも変化やら起伏が起こるだろうから
会話の部分と描写の部分が完全に乖離してる感じがあるんで
それと、余分がけっこう多くて、焦点がぶれてる感じ。生徒会関連だとかは、貴明が会長就任、郁乃に引き継ぎだけで十分かと
愛佳が副会長ってのはまだしも、郁乃たちの世代のメンバーになると蛇足感が強い


……言いたいことはほとんど>>386-387が言っちゃってるんで、これ自体蛇足みたいなもんだけど
390371:2007/09/21(金) 16:40:09 ID:/DylpRuhO
>>386
ナレーション的立場(?)の口調は押さえる。
貴明の心情描写を増やす。
文章の流れ、起承転結を作る。

わざわざ長文ありがとうございます。
引き続き上記のことを意識しながら次の作品頑張ります。

>>388
「〜いる」を「〜る」になるのはわかりますが、文章を書く際に不適切では?と思ってました。
構わないようなら以降、書くように心がけます。
簡単な要約…一番の山…指摘ありがとうございます。
391名無しさんだよもん:2007/09/21(金) 17:26:46 ID:hVMcW4BT0
>>390
誤解受けてそうなのでちょっと補足。
別にナレーション的立場のいわゆる第三者的視点なのは別に問題じゃないよ。
(淡々とした雰囲気のSSならむしろこういった軽い描写は有効だったりする)
同じ語尾を短い間隔で多用したらリズムが悪くて読みづらいってだけね。
語尾に使える文字はたくさんあるし、実際序盤は使い分けられている。
中盤から文尾に「〜〜た」が目立ってくるので、多分描写の内容を考える方に意識が持っていかれてるんじゃないかな?
それを、ちょっとだけ意識してみるくらいでいい。
ぶっちゃけ、出来上がった後読み直してみて、なんとなく読みづらいなと思ったら直すくらいでいい。
ヘンに意識しすぎると本当にこれでいいのかって疑いが生まれて書けなくなってしまう可能性があるからね。
392名無しさんだよもん:2007/09/21(金) 18:23:27 ID:0tgeBHNw0
>>390
ラノベでもエロゲでもいいんで、試しに会話文を追っていってみるといいよ
会話文では「〜る」とかくだけた感じになってることが多いんで
文章を書くといっても、堅苦しく考える必要はなくて、公文書ならともかくSSなんだから、もっと口語的になってもいい

>>391に補足すると、文章のリズムっていうのは、後から音読してみるとわかりやすい
読んだ後黙読しただけだとあまりリズムって気にならないことが多いから
文末だけに限ってだけど、「〜た。」が四つ続いたら、その内一つを現在形に直してみるだけで違ってくるはず
まあ、リズムについてはあまり気にしないで、一通り書き上がってから修正するような形でいいと思う
慣れれば自然とうまくなってくるもんだし
初であれだけの出来であれば、もう二、三本書けば普通に出来るようになってくると思うんで、頑張って
393物書き修行中:2007/09/21(金) 19:40:25 ID:cyaie/VC0
>>387-389
今までいただいた中で最も嬉しいレスかも知れません
全体的に客観視が足りないということでしょうか
代表的なところで、>>389さんのおっしゃられる例えがもっともそれを表している
気がします。
(作者の中でだけ時間が進んでると理解できていて、読んでる読者の方には解りずらい)

ちなみに指輪をチョイスしたことについては>>387さんの指摘のとおり、オチのためで、
あえて指輪のチョイスにしました。
指輪は他のアクセサリーと違って往々にして意味を持つものなので、婚約指輪と
被るのですが誕生石の指輪ということにして、まーりゃん先輩にいじられる
足がかりとしています。
逆に、前回投稿したこのみSSでは貴明はタマ姉とこのみの間で宙ぶらりんの関係で
どちらにも決めかねている状態ということで、プレゼントのアクセサリーから指輪は
意図的に外して、イヤリングとしていました。

それと、手前味噌な話で申し訳ないんですが、前回投稿したこのみSS「対等の条件」が
書庫に入っていない模様なので、次回の更新時にでも出来れば追加をお願いします。m(__)m
>書庫の管理人様
394名無しさんだよもん:2007/09/21(金) 20:11:29 ID:hVMcW4BT0
>>393
高校生がそうやすやすと何度も買えるほど指輪は安くないというのと
婚約指輪を贈った翌年の誕生日にまた指輪を贈るというのはチョイスとしてはあんまりかなと。
それに、誕生石に意味があるのでしたら別に指輪にこだわる必要もないのではないですかね?
意味を持たせた弊害でとして作中のネタに違和感が生まれては本末転倒のような気が。

もっとも、作者様が違和感を感じない、もしくは意味を持たせることの方が重要であると考えられているのであれば
それでいいと思います。あくまで私はこうだと考えているだけなので
395名無しさんだよもん:2007/09/21(金) 20:20:55 ID:tj022R/e0
作者さん達もレビュアーさん達も乙
こんなに具体的なレビューがバシバシ上がった事がかつてあったろうか。多分ない
それだけきっちり読めるSSだって事でもあるな、2作品とも。
これでレビュアーさん達がSSあげてくれたらまさに神…いや、レビューだけでも十分有り難いです

>385
1レスの行数は32行。30行前後にして上下に空白行を入れると見やすい
文字数制限(1024文字だったかな?)もあるが、今回みたいな文体ならまず大丈夫
ってか30行前後で文字数の方に引っかかるなら、むしろ文章自体を見直す必要があるな

投下は、1分以内だと自動的にアウト
板で一定レス数が進むうちに5レス以上自分のレスがあっても連続投稿になる、筈
時間帯にもよるが、混雑時で2分、閑散時で3〜4分くらい空けとけば大丈夫かと
引っかかったら待ってればいいだけなんだけど。でも支援も風物詩だよね
396名無しさんだよもん:2007/09/21(金) 20:47:43 ID:0tgeBHNw0
>>395
ごめん、俺は一次創作専門で、二次創作は読むだけなんだ
他の人のキャラで小説書くのって難しいんだよね。だからそれだけでもSS書きさんはすごいと思う
レビューはしやすいのとしにくいのとがある
面白いかどうかとか、なんとなく勿体ないって思ったかどうかとかなんだけど、俺の場合

>>393
指輪に意味を持たせたいのであれば、その意味を作中で明示しないと
サファイアの指輪だってこととか、それがささらの誕生石だってことがわかれば、単なるオチのため、って印象も減らせると思う
他にも宝石言葉を利用したりとか
397物書き修行中:2007/09/21(金) 20:49:54 ID:cyaie/VC0
>>394
別にどんな指輪かは(誕生石かどうかも)重要ではないわけですが…
しいて言えば「高校生がバイト代or貯金で買える程度の指輪(現実に数万程度で物はあります)」です。

意味としては、女性にとっては異性から貰う指輪というのは婚約指輪以外でも特別な意味を持つので、
(いわゆる「おもちゃの指輪でも嬉しい」という奴です)
それを逆手にとってまーりゃん先輩が貴明をいじるシチュエーションにしたかったということですが、
その辺は文章のニュアンスで読者を納得させられない私の技量の足りなさということで…
398名無しさんだよもん:2007/09/21(金) 21:14:44 ID:tj022R/e0
>397
個人的にはですね、今回の話なら「アメリカに行って婚約指輪を贈った」を削除して
おにぎりの中のを婚約指輪にしてしまっても良いような気がします

回想の塩むすびを冒頭に持ってきた方がって意見は、単発SSだからってのもありそう
連載ものの一話なら状況説明から立ち上がるのもいいけど、一本勝負ならとりあえずパンチ打って入る方が掴む、みたいな
399名無しさんだよもん:2007/09/21(金) 22:51:02 ID:hVMcW4BT0
>>397
だとすると余計に指輪自体の特別性が薄れてしまうような。

私としても、そういう展開にもっていきたいなら>>398さんの言うように
婚約指輪の部分を無くしておにぎりのを婚約指輪にしてしまうというのがいいんじゃないかなと思います
ささらが人の手で作った物を食べられるようになったということとあわせて
二つの特別な事を重ねるという演出にもなりますしね
そこまで持ち上げると、渡すおにぎりを間違えるというオチがより際だちます。
まーりゃん先輩が貴明をいじるというオチをより良くするという意味でもこちらの方がいいと思います。

指輪を特別視するなら、指輪そのものに特別性を加味する必要があります
このままだと特別であるという意味を存分に込められてないで、「指輪=特別」というパターンになっているわけです。
大半の人にとって指輪は特別なものだと思うのですが、それを特別に感じるのは
やはりエンゲージリングなどの特別な状況をイメージするからではないでしょうか?
400物書き修行中:2007/09/21(金) 23:15:16 ID:cyaie/VC0
結局、微妙に原作のフリを忠実に入れようとしたのが良くなかったのかなという
気がしてきた…

まあ、今回はこれ以上はキリがなさそうなので次へのの反省材料とします。
401371&385&390:2007/09/21(金) 23:44:51 ID:/DylpRuhO
>>391
同じ語尾を連続するところですか。
そこらへんのバランスは他を参考にして、書いてるうちに整えるようにします。

指摘ありがとうございます。

>>392
口語表現を使って、読みやすくなるよう心がけます。

>>394
テンプレでそういった記述があったので入れなきゃいけないと思ってました。
でもよく見たら他の方の作品でも入ってないことが多いんですよね。

以降も30行を目安に、間隔を置いて投稿するようにします。


とりあえず2作目下書き完成。
早い!とか手抜き!とか言わないでくださいね。
一応ネタは温めてたものなので早めに完成しました。
あとは見直して完成度高めていきます。
投稿日は未定です。
とりあえず意欲のあるうちに数をこなしていきたいと思ってます。
温かい目で見守ってくださると助かります。
でも、ホント日本語って難しいですね。
日本人は識字率が高いとは言っても、それだけじゃ文章は作れませんよって話。
402「すぐ、そこにある獲物」 1/6:2007/09/22(土) 01:56:24 ID:CImchH+e0
 それはいつもと同じ帰り道なのに、なぜかいつもと違う感じがした。
 目に見えて、なにかが違うというわけじゃない。
 ただ、誰かに見られているようで、奇妙に落ち着かない。
 後ろをなにかが通ったような気がして、振り向くけど、そこには誰もいない。
 気のせいだ、なにかの思いこみだ、と自分に言い聞かせるけど、いやな感じは消えなくて――。
 住宅街の角を曲がり、細い、人通りの少ない路地に入り込んだとき、俺はその予感が正しいことを知った。
 一匹の猫が。
 どこにでもいそうな、茶色い毛並みの、やや大きめの猫が、遮るように道のど真ん中に立って、俺の方を真っ直ぐに見ている。
 今にも襲いかかりそうに、背中を大きく曲げて、前傾して。
 猫に恨まれる覚えはないけど、虫の居所とかもあるだろうし、そもそも動物に理屈は通用しない。
 これはまずいと、一歩足を引いたら――やっぱり。いつの間にか背後にも猫が。
 不幸を呼ぶという黒猫が、横切るのではなく、退路を断つ。
 振り向いたら、正面の猫は三匹に増えていた。
 そして左右の塀の上から、車の下から、ありとあらゆる物影から、無数の猫が現れて、俺を取り囲む。
 なんだ、一体? これが人間なら物取りかとでも思うところだが、あいにく俺は、ネコ缶もマタタビも持っていない。
 襲われる理由なんかなにもない。訳を聞こうにも相手は猫だ。
「にゃ、にゃあ……」とかネコ語で挨拶してみたけど、やっぱり通じるはずもなく。
 嫌な汗が浮かぶばかりで、じりじりと詰め寄る猫に、対抗する手段も和解する方法も思い浮かばない。
 そういえば、大きめの猫は、本気を出せば人間の大人よりもはるかに強いとかいう、嫌な話を思いだした。
 フーッ、と独得の息づかいが、背後から聞こえるたびに、冷や汗が落ちる。
 わずかに包囲の薄そうな方向に足を動かせば、それを察して猫も動く。
 十数匹の猫に囲まれた俺は、逃げる術さえ奪われて、後は狩られるのを待つばかり――って、なんで俺がこんな目に!?
 その包囲網は少しずつ小さくなっていき、ついに、その時が来た。
 正面の猫が飛ぶと同時に、一斉に、四方八方から猫が襲いかかってきた。
 俺は反射的に、情けない悲鳴を上げるしか為す術がなく――、
「そこまでだ」
403「すぐ、そこにある獲物」 2/6:2007/09/22(土) 01:57:26 ID:CImchH+e0
 背中から、静かな声が、強く響く。
 顔全体に、猫の腹の感触が被さった。……前が見えない。猫臭い。
 さらにどさどさと、勢いを殺し損ねた猫たちが、俺の上に次々とのしかかる。
 いつの間にか尻餅をついていた俺を、埋めるように。これがいわゆる猫布団という奴だろうか。
 生暖かくて柔らかい、こんな時でもなければ結構気持ちいい感触が、全身に重い。
 顔に被さった奴を引き剥がすと、そいつはもう殺気の欠片もない顔で、離せとばかりににゃーと鳴いた。
 他の猫たちも、興味なさそうに俺を遠慮なく踏んづけては下りていき、そして行儀良く並んだ。
 その視線の向こうには、雄々しくるーこが立っている。
 ……助かった。
 よく分からないけど、るーこが猫を……にゃー達を止めてくれたことは間違いない。
 俺は緊張が一気に抜けたのと、猫ダイブのダメージで、多少よろめきながらも立ち上がる。
「るーこ、助かったよ。ありが……」
「演習終了」
 るーこは満足げにそう告げた。
 ……ええええええええっ!?

「るーこの仕業だったのか……」
 いつもの公園に移り、七輪でサンマを焼くるーこを前に、俺はひたすら脱力していた。
 さっきのネコたちは大人しく、サンマの順番待ちをしている。
 この街、こんなに野良猫いたんだな……。
「まだ怒っているのか。狭量だな、うーよ」
「いや、怒っているっていうか、怒っているけど、でもなんかそれ以上に力が抜けたというか、もうなにをどう責めればいいんだか」
 不意に、るーこは心配そうに、
「ちゃんと爪はしまうように言い聞かせていたが、怪我でもしたか?」
 そんなことを言うから、怒れなくなる。
「……してないけど」
「そうか。なら問題ないな」
 今度はしれっと。ああもう。やっぱり一度がつんといってやろうか――なんて、思うだけで言えない俺。
 とにかく、理由だけでも聞いてみるか。
404「すぐ、そこにある獲物」 3/6:2007/09/22(土) 01:59:04 ID:CImchH+e0
「で、なんだったの、あれ」
「演習だ」
「……俺を襲う?」
「そうじゃない。狩りの演習だ」
 るーこは大まじめにそういった。俺は大きくため息をつく。
「なんでまた」
「見ろ、このにゃーたちを」
 顔を洗う。体を舐める。あくびをする。どこからどう見ても、普通の猫たちだ。
「えぇと、このにゃーたちがなにか?」
「こうして大人しく、るーがサンマを焼くのを待っている。礼節を守るのは大事だが、それだけでは生きていけない。
 自然の中に生きるのならば、狩りは避けて通れない。食料は、自らの手で確保するものだ」
「……だから、狩りを?」
「るー」
 肯定のるーだ。
「この街のにゃーたちは狩猟本能が消えかけている。それもこれも、うーたちが悪い」
「俺たち!?」
「うーたちが港で、余った魚をくれてやったりするから、にゃーたちも楽に生きることを覚えてしまったのだ」
 ……いや、そうかもしれないけどさ。そんなこと俺に言われても。
「それで俺を襲わせたんだ?」
「本能の薄れかかったにゃーたちの、初級講座として手頃だった」
「あのねぇ」
「るーの罠に引っかかった、実績を鑑みての選択だ」
 ううっ。いやな過去を。 
 不意にるーこは、俺を見て微笑んで、
「それにうーなら、こんな目にあわせても許してくれると思ったからな」
 ……そんな信頼をしてもらっても、嬉しくないけど。くそ、なんだ、ちょっと嬉しい。
405「すぐ、そこにある獲物」 4/6:2007/09/22(土) 02:00:10 ID:CImchH+e0
 るーこはサンマをひっくり返し、一部、焼けた部分をほぐして与えてやりながら、
「いいか、にゃーたち。これで分かっただろう。集団での包囲は、獲物を逃さず捕らえるのには都合がいい
 単独で狩りをするメリットもあるが、状況と獲物によっては集団の方がいい」
 分かってるんだか分かってないんだか、にゃーたちはるーこを見返すも、すぐにサンマに夢中になる。
「けどさ、人間を襲ったりしたら、まずいよ」
「大丈夫だ。うーはにゃーたちの口には余る。まずは本能を取り戻させ、徐々に素早い獲物にも対応できるように教育する」
 なんかそのうち、この街から鳥の姿が消えちゃいそうだ。
「にゃーたちの本能か……」
 たしかにあの瞬間、俺は限りない恐怖を感じたけど、嬉しそうに、るーこからサンマをもらっている姿は平和そのものだ。
 るーこが危惧するのも分かるような気もするし、半面――、
「もっとも、安穏に生きていけるこの世界では、もう、にゃーたちには必要のないことなのかもしれないが」
 俺の心を読んだように、るーこはちょっと、寂しそうに言った。

「るーでは、そんなに狩りが重要なんだ」
「生きる術だ」
 当然とばかりに、るーこは頷く。
「るーはあくまでも実用的だ。生きるためには狩りをし、火を点けるためにはちーを使う。
 たったそれだけだからこそ、その2つは貴いものとして、不変の価値を見いだされている。
 うーの世界は効率を重視するあまりに、意味のない紙切れに価値を与えている。
 それは本当に大切なものを見失わせる」
「そうかもなぁ……」
 なんとなく分かる。
 誰かが勝手に作って、誰かが勝手にこれだけの価値があると決めつけた紙切れ。
 確かに便利だけど、本当は百円とかで刷れてしまうんだろうな。
 そう考えると、確かにちょっと馬鹿らしい。
 燃やしてしまうには、俺は現代人としての常識が身に付きすぎていて、とても出来ないけど。
406「すぐ、そこにある獲物」 5/6:2007/09/22(土) 02:01:41 ID:CImchH+e0
「だからうーも狩りをやれ」
「うん……え?」
 ぼーっと考えていたら、なんかとんでもないことに頷いてしまったような。
「ちょ、ちょっとまった。俺には狩りは無理」
「大丈夫だ、るーがコーチする」
 いつもと同じ無表情だが、るーこは明らかに張り切っていた。
「いや、いいから。する機会ないから」
「バインダー式で、テキストも分かりやすく、わずか三日でたちまち狩りの名人になれるぞ」
「どこの通信教育だよ……」
「軽いジョークだ、うー」
「あのね」
 肩が落ちた。 
「手に職を付けることは大事だぞ」
「それは分かるけどさ」
 やる機会、ないし。
「狩りが得意だと、たくさんいいこともある」
「例えば?」
 一応、礼儀で、聞き返した。
「みんなで狩りをやったとき、仕留めたものは、一番おいしいところをもらえる」
 まぁ、狩りで生計を立てるなら、いいけどさぁ。
「1人で大物を仕留めたものは、勇者として尊敬を集める」
「大物って言われても……」
「知っているぞ。虎とか象とか鯨とか。あれらを仕留めたら立派に勇者だ」
「無理無理」
「るぅ〜」
 そんな泣きそうな顔をされても。
「勇者になりたくないのか」
「いや、なれるものならなりたいけどさ、俺には向いてないよ」
407名無しさんだよもん:2007/09/22(土) 02:01:43 ID:bgpv8uMG0
支援
408「すぐ、そこにある獲物」 6/6:2007/09/22(土) 02:02:39 ID:CImchH+e0
 るーこは不満そうだったが、不意に、顔を上げてるーをする。
 これはいいアイデアだと言わんばかりの、輝かしい気配を発していた。
「うーに向いている獲物があった」
「なに、それ?」
 ネズミとかの小物じゃないだろうな。
「しかも大きな特典付きだ」
「特典?」
 ちょっと興味が湧いてきた。
「俺にも仕留められそう?」
「それはうーの努力次第だ」
 るーこはすました顔で言う。
 まぁ、そうかもしれないけれどさ。
「簡単なの?」
「いいや、非常に難しい」
「……じゃあ俺には無理じゃない?」
「そんなことはない。努力次第といったはずだ」
 なんかもったいぶるなぁ。
「なんなのさ、それ?」
 るーこは一瞬、目を伏せて、そして真っ直ぐに俺を見た。
 いつもの得意げな笑顔に、わずかに挑発の色が混ざる。
「ついてくる特典は、次期族長の座」
 え?
「獲物の名は、族長の娘だ」
 そして、聞いた。
「狩る気はあるか?」
 ――俺は耳まで真っ赤になった。多分、それが答えになっていたと思う。
409名無しさんだよもん:2007/09/22(土) 02:05:07 ID:CImchH+e0
>>402-406>>408
以上、「すぐ、そこにある獲物」でした。
るーこかわいいよるーこ。

>>407支援thx
410名無しさんだよもん:2007/09/22(土) 02:46:44 ID:WulLjJefO
>>409
GJ!!!
411恋愛同盟5 恋せよ乙女! 前編 1/16:2007/09/22(土) 11:04:44 ID:nnAs1E8Z0
「ふんふふ〜ん…これで髪の毛も良しっと。リップも塗って…ふふふ。」
「あら、おめかしするのもいいけど、そろそろ学校に出かける時間じゃないの?」
「わかってるってばお母さん…でも手は抜けないのよ。女の矜持が懸かってるの。」
「あら…好きな男の子でもできたの?」
「う…ま、まあね。今好きな男の子の恋人の座を賭けて友達と勝負してるの。」
「まあ…おてんばの由真もやっとそういうことに目覚めたのね。」
「…実の娘をどんな目で見てるのか、よくわかったわ。とにかく、この勝負にはあたしの
 女としてのプライドとか未来とか…とにかくそう言うものが懸かってるのよ。」
「将来はダニエルの名を継いでくれるんじゃなかったのかの?」
「あー、今はパスパス。今はたかあきのハートをゲットするのが最重要課題なの!」
「な、なんじゃと!ダニエルを継ぐ事よりも男の尻を追いかけることのほうが重要じゃ
 と!…最近様子がおかしいと思っておったが、悪い男にたぶらかされておったとは。」
「げっ!おじいちゃん…いつの間に。」
「いかん!いかんぞ!男にうつつを抜かすなど、そんな一時の気の迷いに惑わされては
 ならん!…ぬ、な、何をするのじゃ。」
「お父様、大人しくして下さい。由真、おじいさまには後でよく言っておくから、押さえ
 ている間に行きなさい。」
「あ、ありがとお母さん。じゃ、いってきまーす。」
「いってらっしゃい。そうそう、そのたかあきくん一度連れていらっしゃいな。母さん
 会いたいわ。」
「あー、考えとくわ。…って、やばっ。いってきます!」
「ゆ、由真〜わ、わしは許さんぞ!」
「あらあら、お父様…あちらで私と少しお話しましょう。もうみっちりと。」
「な…わ、わしも仕事に出かけねば、」
「ほほほ、あと30分は大丈夫ですよ。」
412恋愛同盟5 恋せよ乙女! 前編 2/16:2007/09/22(土) 11:07:05 ID:nnAs1E8Z0


    恋愛同盟 第5話  恋せよ乙女! 前編


「あ〜…家に帰るの気が重いわ。」
「どうした?元気が取り柄の由真にしちゃ珍しいせりふじゃないか。」
「…あんた、あたしのこと体力馬鹿だとでも言いたいの?」
「そうじゃないって…家で何かあったのか?」
 たかあきにそういわれて、朝のやり取りを思い出した。
 よりによって一番内緒にしてたおじいちゃんに貴明のことがばれるとは思わなかったわ。

「あ。」
 あたしが朝の出来事を思い出して考えに耽っていたら、たかあきが声を上げた。
「ん?なに?」
「いや、またあのリムジンが停まってるなと思って。たしか由真の関係者だっただろ。」
「え?うそ?」
 見覚えありすぎ。おじいちゃんのリムジンだった。
「…由真、どうかしたの?」
「愛佳…あれうちのおじいちゃんだ。」
「そういえば、乗ってたのは爺さんだったな…って、アレがおまえんとこの爺さんか?」
「たかあき…あたしの後ろに乗って。」
 あたしはMTBに跨りながらたかあきに声をかけた。たかあきはあたしの言ったことを聞いていたのか、聞いていなかったのか、ぽかんとして突っ立ったままだ。
「…何で?」
「今にわかるから。死にたくなかったらさっさと乗る!」
413恋愛同盟5 恋せよ乙女! 前編 3/16:2007/09/22(土) 11:09:08 ID:nnAs1E8Z0
「ちょ、ちょっと由真さん。どういう事ですか。」
 あ、ドアが開いた。
「ほっとくと、筋骨隆々の老人にたかあきがどつき倒されて屍になっちゃうの!」
「はあ?なんだそりゃ。俺が誰に殺されるんだよ。」
「あそこにいるうちのおじいちゃんに。」
 あたしが指を指すと、みんな校門のほうを見た。
 そこには筋骨隆々でタキシード姿のうちのおじいちゃんが立っていた。
 あ、たかあきの顔見たとたんに体が一回り膨らんだ。きっと頭にきて戦闘体制に入っ
たんだ。なんか叫びながら走り出した。
「貴様が由真を誑かした男かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「げ、何なんだありゃ。」
「乗って!愛佳と優季はヤックで待ってて!」
「あ、う、うん。」
「また乗るのか…よっと。」
「うわっ、どこ捕まってんのよ!」
 よたよたしながら後輪の上に跨った貴明がふらついてあたしの体に抱きついてきた。
このむっつりすけべっ!
「よっと…つかまったぞ。」
 たかあきはふらつきながらもあたしの肩に何とかつかまった。
 もうおじいちゃんはかなり近くまで来ていた。あたしは裏山に抜ける道にハンドルを
切る。
「じゃ、いくわよ!しっかりつかまってなさい!」
「お、おう…って、うわああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・」
 あたしは全速力でペダリングを開始。あっという間におじいちゃんを引き離した。
 たかあきは後ろで固まってるみたい。
414恋愛同盟5 恋せよ乙女! 前編 4/16:2007/09/22(土) 11:11:04 ID:nnAs1E8Z0
「貴明さん大丈夫でしょうか…」
「由真…たかあきくん壊さないでね…」

                   −

「ぜえぜえ…もう…由真の後ろには…二度と…のらねぇ…」
「はあはあ…あたしも…今日は…久々に…無茶したわ…はあ」
 由真の家の爺さんはパワーはあるが足は無かったようで、すぐにぶっちぎって裏山に
逃げ込めたのだが、裏山の祠から街中に出たところで、待ち受けていたリムジンの猛追を
受けて30分以上も走り回ることになったのだ。

 俺たちは商店街近くの駐輪場にMTBを置いてヤックに向かい、先に来ていた愛佳と
優季と合流した。
「お疲れ様です。」
「あ、ありがとう。」
 喉がからからになっていたので、優季が差し出してくれたアイスティーをそのまま飲み
干した。
「はー、旨い。」
「…」
「…」
「…♪」
 なんだか、愛佳と由真の視線が痛い。優季はニコニコしてるけど。
「な、なに?」
「…かんせつきす」
 由真が責めるようなジト目で俺を見ながら答えた。
415恋愛同盟5 恋せよ乙女! 前編 5/16:2007/09/22(土) 11:13:05 ID:nnAs1E8Z0
「間接…キス?」
「それ、さっきまで優季さんが飲んでたんだけど…」
 そう言いながら愛佳が優季のほうを見ると…

 ぽん。

「ああ、そうでした。貴明さんがあまりに水分を求めて居そうな感じでしたので、思わず
 自分のを差し出してしまいまして。」
「…時々あんたが怖いわ、あたし。」
 なんだかわざとらしく手を打って答えた優季を、俺もちょっと怖いと思った…

 改めてセットを頼んで…ついでにさっき飲んでしまった優季の新しいアイスティと、
由真と愛佳のご機嫌取りのためにパンケーキとアップルパイも注文し、トレイ二つ分を
受け取って席に戻った。
 そして落ち着いたところで、俺は改めて由真を問い詰めることにした。
「で、何で俺が由真の家の爺さんに狙われなきゃならんのか説明してもらおうか。」
 俺が睨むと、由真の奴はぷいっと目線をそらした。
 しかし、俺が視線をそらさないとわかると、由真は観念したようだった。
「…あんたがあたしと付き合ってるとおじいちゃんが思ってるから。」
「…は?」
「今までは内緒にしてたんだけど、今朝お母さんと喋ってる時にね…おじいちゃんに
 聞かれちゃったのよ。それで朝から一騒動あって、今日は家に帰りずらかったのよ。」
 俺の事家族に話してなかったのかよ…
「それで、なんでお爺さんが怒るんですか?」
「まあ、単純にあたしに悪い虫が付くのを心配してるんだろうけど…昔、小学生のときに
 仲のいい男の子を家に連れてきた事があったんだけど、その時もおじいちゃんが凄んで
 泣かしたことがあったわ。」
416名無しさんだよもん:2007/09/22(土) 11:14:10 ID:bgpv8uMG0
支援
417恋愛同盟5 恋せよ乙女! 前編 6/16:2007/09/22(土) 11:15:10 ID:nnAs1E8Z0
 あのごつい爺さんが小学生相手にガンを飛ばしてる様を想像すると、頭が痛くなって
くる。
「大人気ないなぁ…爺バカってことか?」
「貴明の話をしたら、お母さんは喜んでたわ。おてんばの由真もやっとそういうことに目
 覚めたのね、だって。あたしを何だと思ってるのかしら。」
「色気が無いって事か。」
「たかあき…いっぺん死んで見る?」
「…ごめんなさい」
 イイ顔で拳を見せる由真に俺は思わず謝った。
「とにかく、そういう訳だから、たかあきは殺されないように気をつけてね。」
「おいおい。」
 しゃれになっていないぞ由真。
 あの筋肉ダルマの爺さん相手じゃ戦う余地なんてありゃしない。逃げるしか無いだろう。
「貴明さん。」
「な、何かな優季。」
 優季は心配そうな顔で俺の手をとって握ってきた。
「貴明さんを由真さんのお爺さんから守る手を思いついたんですが…」
「え、本当?教えてよ。」
「ええ…私が貴明さんの婚約者として名乗りを上げるんです。ほら、そうすれば由真さん
 との仲も誤解ということで…」
 などと、ニコニコ笑いながらとんでもない提案をしてきたが、すかさず由真がさえぎっ
た。
「却下。あんたドサクサ紛れになんてこと言ってるのよ。」
418恋愛同盟5 恋せよ乙女! 前編 7/16:2007/09/22(土) 11:17:11 ID:nnAs1E8Z0
「えぇ…駄目ですか…しょんぼりです…」
「あ、じゃあ、代わりにあたしが…」
 さりげなく愛佳が代わりに立候補する。
「愛佳も却下…あんた、何気に図太くなったわね。太くなるのはウエストだけにしとい
 て。」
 がーん、という顔の愛佳。
「…そんなことないもん…ウエスト太くないもん…ないもん…」
 あ、完全にいじけちゃった…後でご機嫌とるの大変なんだよなぁ…

                   −

 その夜。
 俺は晩飯の支度をしていた。といっても、買い置きのカップラーメンにお湯を注ぐだけ
の毎度おなじみ3分クッキングだけど。
 優季たちにばれるとお説教食らうんだけど、この簡便さに慣れるとどうにもまともに
料理する気になれない。そこそこ旨いし。

 お湯を注いでキッチンタイマーを3分にセットする。
 待つ間、テレビを見ながら時間をつぶそうと、カップラーメンを持ってリビングに移動
したところで、

 ピンポーン

 こんな時間に誰だろう。このみかな。春夏さんに言われて何かおかずを持ってきてくれ
たんなら嬉しいけど。
419恋愛同盟5 恋せよ乙女! 前編 8/16:2007/09/22(土) 11:19:03 ID:nnAs1E8Z0
 とりあえず手に持っているカップラーメンをテーブルに置こうとしたんだけど、

 ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポーン!

 ああ、もう、せっかちだな。こりゃこのみじゃない。このみはこんな押し方はしない。
 仕方なくカップラーメンを持ったまま玄関へと向かった。

 ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポーン!

「はいはい、今出ますよ。」
 鍵を開けて玄関を開くと、そこに立っていたのは、
「由真…?どうしたんだこんな時間に。」
 由真が立っていた。私服姿で、肩には大きなスポーツバッグを提げている。
 それに少しご機嫌斜めの様子で怒ったような顔をしていた。
「たかあき。」
「な、なにかな?」
「今日泊めて…っていうか、今日からここに住むから。」
「おいおい、ちょっと待てよ。」
 そう言っている間にも由真は俺を押しのけて家に入り、さっさと靴を脱いで上がり込ん
できた。そのままリビングへとずかずか入っていく。
「ちょっと待てよ。男一人の家に女の子泊める訳にはいかないだろ。」
「あたしは気にしないわ。」
「いや、俺が気にするっての。泊まるんなら愛佳か優季に頼めばいいだろ?」
「愛佳のところは今郁乃ちゃんが退院する寸前で色々忙しいし、優季のところにいきなり
 行くのもちょっと気が引けるから、一人暮らしのたかあきのところにしたの。ここは
 おじいちゃんにもばれてないし。」
420恋愛同盟5 恋せよ乙女! 前編 9/16:2007/09/22(土) 11:21:07 ID:nnAs1E8Z0
「また爺さんがらみか。」
「それより、またそんなもの食べてるの?」
 俺が手に持ったままのカップめんを指して由真が言う。
「んあ…ああ。」
「こんなの食べるなって行ってるでしょ、もう。まあ、あたしが何か作ってあげるから、
 しばらく待ってなさいよ。」
 そう言って俺からカップラーメンを取り上げるとしっしっ、と俺をリビングに追い返し
てキッチンに入っていった。
「いったいなんなんだ…」
 俺はため息をつきながら、電話を手に取った。

                   −

 あたしが冷蔵庫にある材料で適当に料理を作って、お腹を空かせて待ってる筈のたか
あきを呼びにリビングに戻ったら、そこにはこのみちゃんと、このみちゃんに似た若い
お姉さんが座っていた。
 このみちゃんはあたしの顔を見るといつもの人懐っこい笑顔で挨拶してきた。
「あ、由真先輩今晩は。」
「ああ、丁度よかった。由真、こっちに座って。」
 たかあきに手招きされて、あたしはよくわかんないまま隣に座った。
「えっと…どうも。長瀬由真です。…ねぇ、このみちゃんはわかるけど、こっちのお姉
 さんはどちら様?」
 あたしが一番の疑問をたかあきに聞いたら、そのお姉さんはほほほ、と笑い出した。
「まあ、あなたみたいな若い子にお姉さんなんて呼ばれるなんて…私もまだまだ捨てた
 ものじゃないわね。」
421恋愛同盟5 恋せよ乙女! 前編 10/16:2007/09/22(土) 11:23:22 ID:nnAs1E8Z0
「?」
「あー、こちら、うちの親が海外出張してる間の実質的な俺の保護者で、このみのお母
 さんの柚原春夏さん。」
「え…えええ!若っ!」
 このみちゃんって15歳…よね。うちのお母さんとほとんど同世代とは思えない。
 でも、そのこのみちゃんのお母さんが何でここに?
「で、なんでこのみちゃんのところのおばさんが」
「は・る・か、と呼んでくださいな。」
 い、今何かすごいプレッシャーを感じた気が…
「え、えっと…なんで春夏さんがここに?」
「言っただろ。女の子一人家に泊める訳には行かないって。だから監視役としてこのみ
 にも泊まってもらうことにした。」
「突然タカ君から電話があって、このみを家に泊めて欲しいって言われたけど、保護者と
 しては理由も聞かずにこのみを外泊させるわけには行かないし。それでこのみと一緒に
 理由を聞きに来たんだけど…あなたが由真さんなのね。」
「は、はい…」
「どうしてタカ君の所に泊まるとか言い出したのかしら。まさか夜這い…とかではない
 わね。まあ、家出かしらね…理由を話してくれないかしら。」
 春夏さんはニコニコと笑っていたけど、そこには有無を言わせない迫力があった。
 …言いたくないけど、仕方ないわね。
「おみあいです。」
「は?」
 貴明が間抜けな返事で返すから少しむっとしながらもう一度言い返した。
「お見合いよ。…今日家に帰ったら、お見合いの写真があって、あたしのだっておじい
 ちゃんが言うから…あたしはたかあきの事が好きだし、好きな人が居るのにお見合い
 なんかしたくないって言って、大喧嘩して家を飛び出してきちゃった。」
422恋愛同盟5 恋せよ乙女! 前編 11/16:2007/09/22(土) 11:25:03 ID:nnAs1E8Z0
「ふぇえ…高校生のうちからお見合いなんてあるんだねぇ。」
 このみちゃんがおどろいた様子であたしを見てる。
「まあ、これでもそれなりにいいとこのお嬢様らしいからな。そういうこともあるんじゃ
 ないか。」
「…これでも、ってどういう意味よ。」
 あたしが睨んだら、たかあきの奴あさっての方向に視線をそらした。あとでしっかり
言い聞かせる必要があるわね。
「とにかく、由真ちゃんはお見合いが嫌で家出してきたと言うことね。…何はともあれ、
 お家のほうには連絡したほうがいいわね。今頃ご家族が心配して探し回っているかも
 しれないわよ。」
「…はい、でも…」
「大丈夫。私があなたのお母様と話してみるわ。電話をかけてくれないかしら?」
 春夏さんがやさしく笑ってあたしを諭すように言った。

                   −

 その夜、あたしは客間でこのみちゃんと二人で、いっしょに床に就いていた。
 あの後、春夏さんとうちのお母さんとの間で話が付いて、このみちゃんも一緒という
条件で、たかあきの家に泊まれる事になった。
 布団に入ってからは、女の子同士の気安さで胸の触りあいっことか…このみちゃんが
あたしの胸の大きさを羨ましがってた。環さんには負けるけど…ふざけあってるうちに、
いつの間にか眠っていた。
 
423恋愛同盟5 恋せよ乙女! 前編 12/16:2007/09/22(土) 11:27:04 ID:nnAs1E8Z0
 ふと目を覚ますと、まだ真っ暗だった。
 時計を見ると1時ぐらいで1時間ちょっとぐらいしか眠っていなかった。
 隣ではこのみちゃんが眠っている。あたしは一人っ子だから姉妹という感覚はぴんと
こないんだけど、でもこのみちゃんみたいな妹なら欲しい気がする。環さんが本当の妹の
ように猫かわいがりしているのもわかる気がする。

 目がさえて眠れないので、キッチンでホットミルクでも飲もうと思って布団を抜け出し
た。
 このみちゃんを起こさないよう忍び足で部屋を出て、階段を下りる。
 そうしたら、キッチンの電気がついていた。入り口から覗くと、たかあきが居た。
「あれ、由真…眠れないのか?」
「うん…目が覚めちゃったの。そうしたらなんだか眠れなくって。」
「ふーん…お前も飲むか?ホットミルク。」
 よく見ればたかあきはミルクパンで牛乳をあっためて居た所だった。
「なんだ…たかあきも眠れないのか。」
「まあな…今日は色々会ったし。ちょっと興奮して寝付けないって言うか、な。」
「……」
 たかあきは温まったミルクを火から下ろしてカップに注いで、蜂蜜をひとさじ入れて
あたしに渡してくれた。
 ゆっくりとかき混ぜた後で、ふうふうと冷ましながら一口すすった。
「あつっ」
「ゆっくり冷まして飲めよ。」
 たかあきがあたしをみて笑う。

 ふうふうと吹き冷ましながらずいぶんと時間をかけてホットミルクを飲んだ。
424恋愛同盟5 恋せよ乙女! 前編 13/16:2007/09/22(土) 11:29:05 ID:nnAs1E8Z0
 そして落ち着いたところで、あたしはたかあきに聞いてみた。
「ねえ…どうして泊めてくれたの?」
「どうしてって…追い出して欲しかったのか?」
「ううんそうじゃないけど…今日はごめん…あたし、迷惑かけてばっかり。」
「珍しくしおらしいじゃないか。明日は雨でも降るんじゃないか。」
「…失礼な奴。下手に出れば付け上がるんだから。」
「悪い悪い。でも、本当に迷惑なら追い返してるさ。…だけどさ、普段の由真なら、
 あたしみたいなかわいい娘が泊まってあげてるんだから感謝しなさい、ぐらい言うだろ。
 しおらしい由真なんてらしくないと思うぞ。」
 笑いながらそう言うたかあき。でもあたしはその台詞に含まれたある部分が気になった。
「…あたしの事…かわいいと思ってくれてるんだ。」
 あたしがそう言うと、たかあきも自分が何を言ったのか気が付いたみたい。
 真っ赤になってしばらく口を押さえていた。
「あ…ああ…かわいくて魅力的だと思ってる。…そうじゃなきゃ、由真の事を女の子と
 して気にするようにはなってなかっただろ。」
「そっか…そうだよね。そう思われてると思うと、ちょっと嬉しいかな。」
「でも、普段が普段だからな。」
「…あんたも、あたしの事をどういう目で見てるか頭の中一度調べてみたいわ。」
「ま、とにかく、俺の迷惑なんて気にするなって事さ。飲んだら寝ろよ。明日も学校なん
 だからな。」
「うん…ありがと、たかあき。」
 あたしはたかあきとキッチンを出ると、客間に戻って床に就いた。
 今度は眠れそうだった。

                   −
425恋愛同盟5 恋せよ乙女! 前編 14/16:2007/09/22(土) 11:31:07 ID:nnAs1E8Z0

「電話してもらえれば、私もすぐに行きましたのに。」
 優季がそんなことを言ってため息をついた。

 朝はたかあきとこのみちゃんと一緒に歩いて登校して、今は放課後。
 優季と愛佳とたかあきと4人で玄関で靴を履き替えて出たところだ。

「別に抜け駆けして夜這いとかそんなんじゃないわよ。ただ家を飛び出して行く所が
 無かっただけなんだから。」
「でも、言ってくれれば家に泊まってもよかったのに…」
 愛佳も、あたしが遠慮した理由は話したのにそんなことを言っている。たかあきの家に
泊まってるのがやっぱり気になるみたい
「もー、愛佳も。お目付け役のこのみちゃんも一緒なんだから。」
「でも…」
「…おい、由真。あれ。」
 たかあきが校門のほうを指すと、そこには見覚えのあるリムジンと、家のおじいちゃん
が立っていた。
「…みんな、裏門から帰ろう。」
 そう言ってあたしは踵を返した。そうしたら、
「まて!由真!」
 おじいちゃんが走ってあたしの所までやってきた。
「…おじいちゃん…」
「由真…」
 あたしはしばらくおじいちゃんの顔が見られなくて、自分のつま先を見つめていた。
「由真…家に帰ってこんかの。」
426恋愛同盟5 恋せよ乙女! 前編 15/16:2007/09/22(土) 11:31:40 ID:nnAs1E8Z0
「…嫌…あたししばらく帰らないってお母さんに言ったはずよね。」
「しかし…お前のような若い嫁入り前の娘が、一人暮らし男の家に泊まるなど、」
「二人っきりじゃないって言ったでしょ。」
「しかしな…悪いが、調べさせてもらったぞ。…河野貴明というそうじゃな、小僧。」
 おじいちゃんはそう言ってたかあきをにらみつけた。
「おぬし、由真のほかにもそちらの2人とも付き合っておるそうじゃな。」
「あー…はあ、まあ…」
「由真…男と付き合うなとは言わぬ。じゃが、こんな女にだらしの無い男と付き合わず
 とも、もっといい男がおるじゃろう。」
 おじいちゃんは、あたしたちとたかあきとの詳しい関係も知らずに、たかあきを女たら
しと決め付けてそんなことを言った。まあ、女たらしな所があるのは否定しないけど、
たかあきとの関係はそんな単純なものじゃない。…そのおかげであたしたちは苦労して
いるわけだけど。
 ともかく、あたしはそんなおじいちゃんの言葉が気に入らなかった。
「…おじいちゃんは、たかあきがそういう男で、あたしが男の見る目が無くて、たかあき
 に弄ばれてるって、そう言いたいの?…そして、おじいちゃんの選んだ、確かな身元の
 男と見合いして付き合えばいいって、そう思ってるの?なんであたしの進む先を勝手に
 決めちゃうの?」
「い、いや…あの見合いの写真はの、」
 あたしが怒ってるのがわかったのか、おじいちゃんはなんかしどろもどろになりながら
言い訳を始めた。でもあたしはそこで止まるつもりなんでもうなかった。
「そう。じゃあ教えてあげるわ。あたしたちはもうたかあきに身も心も奪われちゃってる
 の。もうメロメロって訳。だから人前でこんなことだって平気で出来ちゃうの!」
 そう言って、あたしはたかあきの首に両腕を回した。
「目ぇ閉じて。」
427恋愛同盟5 恋せよ乙女! 前編 16/16:2007/09/22(土) 11:33:06 ID:nnAs1E8Z0
「え?」
 たかあきが突然あたしに抱きつかれて目をぱちくりさせながら答えた。
 あたしは、貴明が目を閉じるのも待たずに顔を近づけた。
「え?」
「ああっ!」
 驚く優季と愛佳の声を聞きながら、あたしは自分の唇を、たかあきの唇に重ねた。
428物書き修行中:2007/09/22(土) 11:46:03 ID:nnAs1E8Z0
>>416さん 支援サンクスです

舌の根も乾かぬうちに新作をうpさせてもらいました
でも実際には第4話うpし終わった後から書いてたので、なんだかんだで丸々
1月以上かかってます。またアホみたいに長くなってしまいました。

>>401
ちなみにですが、漏れの場合
・横80文字(全角だと横40文字になる)/ぶら下げ禁則あり/
 25行/ページの設定のエディタで書く
・後で読み直してみて、誤字や開業位置を修正。
 改行が極力単語を切らないようにする。
・大体1ページ単位(25行前後)でこぴぺしながら書き込み
という手順で書いてます。
漏れの場合は文章みっちり書く傾向があるので多分30行まで書くと
文字数制限にかかるw

後編は午後か夜にUPします。
429恋愛同盟5 恋せよ乙女! 後編 1/20:2007/09/22(土) 13:59:45 ID:nnAs1E8Z0
 気がつくと商店街のアーケードで、あたしは荒い息をしながらぽつんと立っていた。
 どこをどう走ったのかわからないけど、たかあきとキスした気恥ずかしさで頭が沸騰
して、呆然としていたおじいちゃんの横をすり抜けて学校から飛び出したのは覚えていた。
「ああ、もう…あたしったら…なんであんなこと…」
 キスしたとき、たかあきが驚いてあたしを見たのを思い出した。そして真っ赤になった
のも。そのときはあたしもきっと真っ赤だったに違いない。
 思い出すと、自分の大胆さにあきれながらも、顔がほてってくるのを押さえ切れな
かった。
「…ファーストキス…しちゃった…」
 自分の唇をなぞる。貴明の唇は、お昼休みに飲んでたカフェオレの味がした。
「……考えるとドツボにはまりそう…晩御飯の材料買って帰ろ…」


    恋愛同盟 第5話  恋せよ乙女! 後編


「こんなところまでつき合わせて、すまんの。」
「ああ、いや、いいすけど…」
「それで、お話というのは…?」
「……」
 俺と優季と愛佳は、キスした直後に尋常でなく真っ赤になった由真に置いてきぼりを
食わされしばらく呆然としていたのだが、我に帰った後で由真の爺さんに捕まった…訳
ではなく、頼み込まれて駅前のオープンカフェまでやってきたのだった。
「まず、おぬしらの関係を教えてもらおうかの。」
「あー、誤解の無いように言っておくけど、俺と由真たちはその…肉体的関係は…」
430恋愛同盟5 恋せよ乙女! 後編 2/20:2007/09/22(土) 14:02:05 ID:nnAs1E8Z0
「わかっておる。わしはこれでも由真の家族じゃぞ。由真が生まれたときからの付き合い
 じゃ。…あの子が虚勢を張って大げさに言ったのもわかっておるわ。」
「じゃあ…順を追って話すと…」
 俺は1年生の終わりの、由真との出会いからゆっくりと話し始めた。

「なるほど、由真がの…」
 由真が始めたこの奇妙な関係までを話し終えたとき、爺さんはそう言ってため息を
ついた。
「あの子が変わり始めた…いや、そうではないのぅ…昔の由真に戻ったと感じたのは、
 春先じゃった。丁度小僧と出会った頃じゃ。」
「昔の由真?」
「…たかあきくん。前に言ったかもしれないけど、由真は始めてあったときから最近まで
 は、もっとおとなしい子だったの。」
 愛佳が言う。そういえば、前に由真と俺が話しているのを見て確かめてたことがあった
な…あんなふうに活発なところは見せたことが無かったのか・・・
「元々由真は明るく活発で、わしに似て負けん気が強いところもある子じゃったが、中学
 に上がる頃には大人しく聞き分けのいい子になっておった。わしもいつの間にかそれに
 慣れておったのじゃが…春先ごろから、わしの言葉に反発するようなそぶりを見せる
 ようになったのじゃ。」
「おれはその負けず嫌いで活発な由真しか知らなかったから、どうも大人しい由真って
 言うのが想像できないんだよなぁ。」
 俺が苦労しながらしおらしい由真を想像しようと試みている横で、爺さんは遠い目をして、ほう、とため息を一つ付いた。
「昔の由真はの、それはそれは快活で可愛らしくてのぅ…それこそ、目の中に入れても
 痛くないくらいじゃった。」
「爺バカでしょうか…」
431恋愛同盟5 恋せよ乙女! 後編 3/20:2007/09/22(土) 14:04:34 ID:nnAs1E8Z0
「爺バカだよねぇ…」
 遠い目をして熱く語る爺さんを見て二人が言う。
 ほんと爺バカだよなぁ…。
「で、その由真がなんでそんなに大人しいふりなんかしてたんだ?」
 俺の疑問に答えたのは爺さんではなく愛佳だった。
「…たかあきくん。由真がさっき言ってたよね…なんであたしの進む先を勝手に決め
 ちゃうの、って。…由真は、おじいさんの跡を継ぐって言ってたけど…そのせいじゃ
 ないかな。」
 愛佳の問いかけに爺さんは苦い顔をして黙り込んだ。
 しかし、しばらくして、その重い口を開いた。
「そうじゃな。恐らく、ダニエルのことじゃろう。」
「ダニエル?」
「ダニエルというのはの、わしがその昔、先々代の御館様よりいただいた執事の称号の
 ようなものじゃ。」
「それで、そのダニエルさんがどうして由真さんと関係があるんですか?」
「うむ。」
 一呼吸おくように、爺さんは紅茶を一口飲むと、ゆっくりと話し始めた。
「あの子は、昔からよくわしに懐いておった…わしの働く背中を見ておって、憧れたの
 じゃろう。幼い由真がこう言ってくれたのじゃ。」
 爺さんは目を閉じてゆっくりと呟いた。

『おじいちゃん、あたしダニエルになる〜』
『ダニエルになる〜』
『なる〜……』
432恋愛同盟5 恋せよ乙女! 後編 4/20:2007/09/22(土) 14:06:15 ID:nnAs1E8Z0
 はっ……言っているのは爺さんはずなのに、なぜか子供の頃の由真が見えた…
「わしも、その言葉がうれしくてのぅ…ついつい自分の持つ執事としての技能を由真に
 教え込んでおったのじゃ。いつかダニエルの名を次いでくれると思うてのう。」
「でも、それが由真さんから将来進む道の選択肢を奪ってしまったということですね。」
「…そうじゃな。わしは家族として将来有望な道を由真に勧めたかったのじゃが、それが
 由真を追い詰めておったのかもしれん。」
 爺さんはそう言うと、がっくりと肩を落とした。
「由真があたしたちに話してくれました…たかあきくんが昔の自分を思い出させてくれた
 って。昔はもっと色々な夢を持ってたはずなのに、いつの間にかおじいさんのの跡を
 継ぐっていう道を…『なれる自分』を安易に選んで、それに自分を当てはめようとして
 たって。」
 それは多分、最初に同盟が結成された夜の女の子だけの話し合いで話されたことなん
だろう。俺の知らない話ではあったけど、優季は知っているような顔だった。
 爺さんは悔しそうな、それでいて嬉しいような苦味を含んだ笑みを浮かべながら言った。
「わしは由真の将来のために良かれと思って様々に手を尽くしてきたつもりじゃった。
 じゃから、最近由真が昔のように明るくなったのが、ショックじゃった。しかもそれが
 おぬしのせいと知ってから、わしは年甲斐もなく嫉妬しておった…誰よりも由真に近い
 はずのわしには成し得なかった事を成した、とな。」
「…それで、由真さんと貴明さんを引き離すためにお見合いを用意したんですか?」
「それなんじゃがのう…」
 一転、爺さんは困ったように頭を掻いた。
「あれはわしが用意したものではなくてな…」
「は?」
「わしの姪が持ってきたものなんじゃ。そやつは縁談をまとめるのが趣味でのう…どうも
 回りに縁談を薦められる人間が居なくなって、年頃の由真に話を持ってきたのらしい
 じゃ。」
433恋愛同盟5 恋せよ乙女! 後編 5/20:2007/09/22(土) 14:08:30 ID:nnAs1E8Z0
「じゃあ、爺さんが由真に見合いをさせようとしたってのは…」
「誤解じゃ。わしは娘に…由真の母親じゃが…しっかりと釘を刺されておるからのう。」
「…まあ、由真らしいって言うか…」
 勝手に誤解して、勝手に怒ってたわけか。
 俺があきれていると、爺さんは俺を見て頭を下げた。
「な、何だよ爺さん。」
「小僧…いや、河野貴明殿。由真の誤解を解いて家に戻るように言ってくれんかの。
 わしに似て頑固じゃから、今のあの子はわしの言葉には耳を貸すまい。じゃが、お主の
 言葉なら聴くじゃろう。」
 頭を下げたままの爺さんを前にして、俺には断る言葉など見つからなかった。
 何より、今のまま同棲する訳には行かない以上、いつかは由真を家に帰さないといけ
ないのだから。
「わかったから、頭を上げてくれよ爺さん。俺から説明してみるから。…もしそれでも
 駄目なときは、優季と愛佳にも協力してもらうから。」
 その言葉に二人も頷いた。
 さて、家に帰ったら頑固でじゃじゃ馬なお姫様を何とか宥めてみないと…

                   −

 今日はシチューにした。特に理由は無いけど鶏肉が安かったし、なんとなく食べた
かったから。

 一口大に切ったにんじん、たまねぎ、じゃがいも、とりもも肉をフライパンで炒めて
香りを出した。その後、鍋で小麦粉とバターでルーを作って牛乳とコンソメスープで
伸ばし、炒めた具財を放り込んだ。後は煮込むだけだ。あたしは時計を見た。
434名無しさんだよもん:2007/09/22(土) 14:10:33 ID:dMXAd+yY0
支援
435恋愛同盟5 恋せよ乙女! 後編 6/20:2007/09/22(土) 14:12:25 ID:nnAs1E8Z0

 とっくに帰ってきてもいい頃なのにたかあきはまだだった。多分おじいちゃんに捕まっ
たか、逃げ回ってるかのどっちかだろうけど。でもさっき無理矢理キスして逃げて今は
顔をあわせるのが気まずいから丁度よかった。

 おじいちゃんに捕まってないといいけど、捕まってたら…貴明ボコボコかしら。
 …ううん、おじいちゃんはああ見えてやたらと暴力を振るったりしないから、大丈夫
よねきっと。

 テレビを見ながら、時々シチューの火加減を見て過ごす。こうやってると、なんか
たかあきの奥さんになったみたいな気がする。
 そんなことを考えて、実はすごく大胆なことを考えてたことに気がついて、自分一人で
真っ赤になってこっぱずかしさに身悶えてしまった。

 あたし何考えてるのよ、なんてセルフ突っ込みしたりしてたら、
「ただいま〜」
 たかあきが帰ってきた。
 あたしは顔が赤くなっていたのを2、3回ばしばしと叩いて誤魔化して、玄関に迎えに
出た。
「…なに赤くなってんだ?」
 ぜんぜん誤魔化せてなかった。
 あたしは必死で頭の中で何とか誤魔化す台詞を考えた。でも駄目。さっきまで考えてた
事とか、学校でキスしちゃったこととかが、たかあきの顔を見たとたんに頭ん中でぐる
ぐる回りだして、逆に赤さが増しそうになった。
436恋愛同盟5 恋せよ乙女! 後編 7/20:2007/09/22(土) 14:14:12 ID:nnAs1E8Z0
 そしてそんな状態で何とかひねり出した台詞は、そのときはウイットに富んだジョーク
のつもりだったんだけど、言ってから赤面物の恥ずかしい物と気がついた。
「え、えっと…あなた、お風呂にします?お食事にします?そ、それともわ、わた、たっ、
 わたしにします?」
 噛んだ。思いっきり噛んだ。
 しかも押しかけ状態この状況でこの台詞は洒落になってなかった。たかあきにマジで
「由真が食べたい」なんて言われた日にはあたしはどうすればいいのかしら。
 だけど、たかあきは冷静だった。
 たかあきは、はあ、とため息を一つつくとあたしの肩をぽんぽんと叩いて言った。
「由真…そういう台詞は冗談で言うものじゃない。」
「そ、そうよね…あ、あははは…」
 安心すると同時に、ちょっとがっかりした。
 あれ…ということはあたし少し期待してた…?うそ。
 そんなあたしの落胆を感じ取ったのか、たかあきが驚いた顔で聞き返してきた。
「…まさか、マジ?」
「ち、ちがうわよっ!この馬鹿っ!」
「はぶっ!」
 あたしは照れ隠しにたかあきを張り倒した。

                   −

 シチューはまあまあの出来だったんだけど、味わってなんていられなかった。
 あたしとたかあきは黙々と食事を進めていた。さっきの事もあるけど、校庭でキスを
した事はまだあたしの中では引きずっていて、気まずい状態だった。
 たかあきは平気な顔してパクパク食べてるけど…なんであたしだけこんなに悩んでなく
ちゃならないのよ。
437恋愛同盟5 恋せよ乙女! 後編 8/20:2007/09/22(土) 14:16:06 ID:nnAs1E8Z0
 面白くないのでたかあきに話しかけてみた。
「ねえ、たかあき。」
「んー、何?」
「今日の放課後の事…突然奪っちゃって、ごめん。」
「え…?」
 たかあきは一瞬何のことかわからないという顔をしていたけど、少しして顔が真っ赤に
なった。
「あ、ああ…気にしてない…つか、気にならないわけじゃないけど気にしてないから。」
 たかあきも言葉使いが滅茶苦茶になりながら答えた。なんだ、忘れてただけなのか…
「感謝しなさいよ…あたしのファーストキスあげたんだから。」
「…気にしないで欲しいのか、気にして欲しいのか、どっちなんだよ…」
 たかあきの困った顔を見てあたしはくすくす笑った。

 食事も済んで、あたしとたかあきはテレビでも見ようということになった。
 テレビの向こうではバス芸人がさいころを振ってその出目の悪さに打ちひしがれていた。
 でもあたしの意識は、隣に座っている貴明に向いていて、なんだか落ち着かなかった。
「なあ、由真。」
 たかあきが突然話しかけてきた。
「な、なによ。」
「お前が逃げた後さ…爺さんと話しをしたよ。」
 やっぱり、おじいちゃんに捕まってたのか。
「…どんな話?」
「爺さんが、最近の由真は昔のように明るくなったって言ってた。そして、由真の笑顔を
 引き出した俺に嫉妬してたって。…お前を追い詰めていたこと、爺さんが後悔してた
 ぞ。」
438恋愛同盟5 恋せよ乙女! 後編 9/20:2007/09/22(土) 14:18:08 ID:nnAs1E8Z0
「そっか…おじいちゃんがそんな事を…」
 別におじいちゃんは悪気が会ってあたしにダニエルになれと言っていたわけじゃないの
はわかっている。ただあたしの将来を心配していただけだ。でも、今回のお見合いは別。
「でも、あたしを貴明から引き離すために見合いさせようとしたのは許せないの。」
 それを聞いたたかあきは一つため息をついて笑って答えた。
「それも誤解だよ。あの見合いは、縁談をまとめるのが趣味の、お前の叔母さんが持って
 きて置いてったものらしい。爺さんは無関係だよ。」
「え、じゃあ…」
 もしかしてあたしが勘違いして一人で勝手に怒って立って事?
「まあ、由真らしいって言うか…一人相撲だな。」
「は……」
「は?」
「謀ったなぁぁぁぁ!」
 あたしは思わず…半分は照れ隠しの意味も込めて…そう言いながらびしっとたかあきに
人差し指を突きつけた。
「…久しぶりだな、それ。」
「ううう…」
「ま、今日は泊まって行ってもいいけど明日は家に帰ってやれよ。爺さんが心配してる
 ぞ。」
「おじいちゃんにどんな顔して会えばいいのよ…」
 ずっとたかあきの家に居るわけには行かないのはわかってたけど、でもこの展開は
予想外だった。「あわせる顔が無い」というのはこういう状況のときだと思い知ったわ。

「それにしても…このみの奴遅いなぁ。柚原家の夕食はとっくに終わってるはずだけど…
 電話してみるか。」
439恋愛同盟5 恋せよ乙女! 後編 10/20:2007/09/22(土) 14:20:13 ID:nnAs1E8Z0
 時計の針が9時を回っても一向にお目付け役のこのみちゃんが来ないので、頭を抱えて
いるあたしを置いて貴明が電話をかけに席を立った。
「…あれ、留守電が入ってる。」

 ぴっ。

『用件は1件です』
『あ、タカ君、春夏です。実は急に家族で出かけることになってね、このみも一緒なので
 今日はそちらには行けません。まあ、タカ君のことは信用してるけど、女の子を啼かせ
 るようなことしたら駄目よ。』
「…ああ、春夏さん…なんか「泣く」の字が違う字になってる気がするのは俺の気のせい
 でしょうか…」
『…でも、もし何かあった時は、私もタカ君の保護者代理として「色々」考えなくちゃ
 いけないから。じゃあね、頑張ってね。』
「何をどう頑張れと…それとなにを「色々」なんでしょうか…」
 たかあきが電話機の前でたそがれてる…

 え、でも、ということは、今夜は…たかあきと…二人っきり?
 夕方にあんなことがあったばっかりなのに。
 しかも、さっきふざけ半分で玄関で言った台詞がよみがえってくる。

『…あなたぁ、お風呂にします?お食事にします?それとも…わ・た・し?』
      ・・
 そこ、妙なしなを作って捏造してるな脳内のあたし。さっきとぜんぜん違うじゃん。
440恋愛同盟5 恋せよ乙女! 後編 11/20:2007/09/22(土) 14:22:21 ID:nnAs1E8Z0
 とはいえ、妙に意識しちゃって、またあたしの顔に血が上ってきた。
 とりあえず…お風呂に入ってしばらく逃げよ。
「あ、あたし、お風呂入ってくる…覗いたら殺すからね。」
「…あー、はいはい。覗かないよ。」
「なんかその言い方むかつく。あたしは覗く価値なしって言い方よね。」
「…お前は…覗いて欲しいのか覗いて欲しくないのか、どっちなんだよ。」
「…乙女心は複雑なのよっ!…とにかく、覗くの禁止だかんね。」
 そう言って、あたしは着替えを持ってお風呂場に逃げ込んだ。

「じゃ、風呂入ってくるから。」
「行ってらっしゃい…」
 あたしと入れ替わりで貴明がお風呂場に行った。
 覗かれはしなかったけど、あたしがお風呂から帰ってきたときにあたしの湯上り姿を見てたたかあきの目がエッチだった…気がする。
 座ってても落ち着かない。喉が渇いたのでキッチンに行って何か飲もうとした。
 キッチンに入ったところに、さっきまであたしがつけていたエプロンがあった。
 そのエプロンを見ながら、なんとなくぼうっと考えてしまった。
 エプロン…エプロン…エプロン…裸エプロンとか…裸エプロン!
 や、やだ、あたしなに考えてるのよ!

『…あなたぁん、お風呂にしますぅ?お食事にしますぅ?それとも…わ・た・し?』

 脳内のあたしがパワーアップしてた。裸エプロンで物欲しそうな顔でくねくねしてるっ
てどういうことよ!?
 頭を振って妄想を追い出しながら冷蔵庫を開いた。何か飲んで頭冷やさないと。
 ジュースを一本取り出してプルタブを開けると一気に飲んだ。キンキンに冷えた
ジュースを一気飲みしたせいで、すぐ後に頭痛が襲ってきた。くあー、効くー。
441恋愛同盟5 恋せよ乙女! 後編 12/20:2007/09/22(土) 14:24:02 ID:nnAs1E8Z0
 でもそれが去ってしまうとまた悶々としてきて落ち着かなくなってくる。
 またジュースを飲もうかと冷蔵庫に手を伸ばしかけたところで、料理用においてあった
白ワインのビンが目に止まった。
 そうだ…酔っ払ってしまえば気にならなくなるかも知れない…
 そのときのあたしはそんなおバカな考えで頭がいっぱいになったまま、ワインのビンに
手を伸ばした…

                   −

 気がついたら周りは真っ暗だった。なんか頭も痛い…
「よう、気がついたか。」
 驚くほど近くからたかあきの声が聞こえて、思わずあたしは叫びそうになった。その
あたしの口をたかあきの手が押さえつけた。
 え、うそ、このままあたし、たかあきに身も心も奪われちゃうの?
 嫌じゃないけど…こんな強姦まがいなんじゃなくてもっと、こう、ロマンチックに…
「頼むから叫ばないでくれ…こんな夜中に大声で叫ばれた日にゃ、警察呼ばれちまう。」
 そう言うたかあきの声は落ち着いていて、あたしが想像したようなケダモノ寸前の状態
じゃなかった。
「落ち着いたか?…手ぇ離すから、叫ばないでくれよ。」
 こくこくとあたしが頷くと、たかあきの手があたしの口から離れた。
「なんでたかあきがあたしの布団に居るのよ。」
 まず最初に、あたしはは最大の疑問をたかあきにぶつけた。
 でもその疑問はあっさりと貴明に返された。
「一つ言っとくと、ここは客間じゃなくて俺の部屋で、ここは俺のベッドの中。」
442恋愛同盟5 恋せよ乙女! 後編 13/20:2007/09/22(土) 14:26:14 ID:nnAs1E8Z0
 ということは…あたしの方から夜這いしちゃったの!
 でも、今あたしパジャマはちゃんと着てるし…
「…あたし、なんか変なことしなかった?」
「たっぷりされた…」
 えええええ!
「な、何したの…」
「お前、半分以上あったワイン全部空けただろ…ぐでんぐでんに酔っ払ってたんだぞ。」
「…」
 お、覚えが無い…
「酔っ払って俺に抱きつくわ胸当ててくるわ…挙句に危うくパジャマ脱いで裸になりかけ
 たから両手を使えないように抱き抱えてたらそのまま寝ちゃって…起きてまた暴れられ
 ても困るから、そのまま布団まで運んできて一緒に寝てた。」
「…もしかして、ずっと寝ないであたしの顔を見てたの?」
「ああ…さすがに女の子と添い寝状態でぐっすり眠れるほど神経太くないからな…」
「…すけべ。」
「何故に?」
「でも…一緒に寝られたのは嬉しいかな…愛佳と優季にばれたらやばいけど。」
「…そうだな…内緒にしておこう。」
 あの二人の不敵な笑顔でも眼に浮かんだのか、たかあきもあたしの意見に同意した。
「そうと決まれば…えへへへ。」
 たかあきにもっと擦り寄って、胸に頭を預けた。たかあきに抱っこされているような
状態で、胸元はたかあきのにおいがした。
「おい…あんまりくっつかないでくれよ…気になって眠れない。」
「責任とってくれるなら、エッチなことしてもいいわよ。」
「…勘弁してくれ。」
443恋愛同盟5 恋せよ乙女! 後編 14/20:2007/09/22(土) 14:28:15 ID:nnAs1E8Z0
 たかあきのため息があたしの前髪をくすぐった。

 しばらくあたしたちは抱き合ったまま身じろぎもせずにいた。
 たかあきの胸のトクトク言う鼓動だけがあたしの耳に聞こえていた。
「…ねぇ、たかあき。」
「うん?」
「…明日、デートしよ。」
「は?」
「前に約束したでしょ…二人だけでデート。」
「ああ…そうだな。」
「デートしたら…家に帰るわ。」
「そっか…」
「…あたしが帰ったら、さびしい?」
「そうかもな。」
「でも、帰らなくちゃ…」
「そうだな。」
「そうと決まったら、早く寝よ。」
「そうだな。明日寝不足じゃつらいし。」
「…じゃ、お休み。」
「お休み。」
 目を閉じた。たかあきのトクトク言う鼓動の音が心地よくて、いつの間にかあたしの
意識は深く深く、沈みこんでいっていた。

                   −
444恋愛同盟5 恋せよ乙女! 後編 15/20:2007/09/22(土) 14:30:03 ID:nnAs1E8Z0
 次の日は飛び切りの晴天で、デートにはもってこいだった。

 朝食を食べて大通りの映画館へ向かう。
 見ることにしたのは、この間たかあきと映画を見に来たときにポスターが貼ってあった
”Hard To Say”。
 素直になれないヒロインと主人公の男の子が恋する物語で、まるで今のあたしとたか
あきみたいな関係で、なんだか必要以上に感情移入しちゃった。

 映画が終わって外に出るとお昼を少し過ぎたところだった。
 お昼を食べるためにヤックに移動して、たかあきと映画の話をする。
「…今回は、ありえないって言わないんだな。」
「なにが?」
「この間映画見たときは…ディープキス見て、ありえない連呼してたろ。」
「ああ…今はああいう…キスしたくなる気持ちがなんとなくわかったから。」
「そうか……そういえば…昨日キスしちまったんだったな…」
 たかあきが口元を押さえて赤くなった。
 あたしも忘れかけてたのにまた思い出して顔がほてってきた。
「…思い出したら恥ずかしくて死にそうな気分になってきた。」
「…ごめん。」
 お互い真っ赤になったままうつむいて、恥ずかしくて言葉を交わせなくなってしまった。
 仕方なく、それからしばらく二人とも食べるのに専念する事になってしまった。

「もー、もうちょっとだったのに。」
「ま、鍛錬の差だよな。腕鈍ったんじゃないのか。」
 ヤックを出た後でいつものゲーセンで久しぶりに対戦して、それが一段落して外に出た
頃には大分日が傾いてきていた。
445恋愛同盟5 恋せよ乙女! 後編 16/20:2007/09/22(土) 14:32:10 ID:nnAs1E8Z0
「そろそろ帰るか。」
「んー…最後にあそこに行ってみない?」
 あたしは、出来たばかりのツインビルを指差した。見上げると首が痛くなるような高い
ビルだ。
「この間、あの間の渡り廊下の開通式があったらしいわ。」
「ふーん。眺めはよさそうだな。」
「そうでしょ。…じゃ、競争よ。あたしはあっちから上るから、たかあきはそっち。
 用意どん!」
「うわっ、いきなりかよ。くそっ。」
 あたしは後れを取ったたかあきを差し置いてビルに飛び込んだ。

 中に入るとエレベーターをホールを目指す。でも上半分に向かうエレベーターは行った
ばかりでしばらく帰ってきそうに無い。
「もー、最悪。」
 たかあきならエレベーターに乗れないなら階段で上がるだろうからぼーっと待ってる
わけには行かない。
 仕方なく中層階用に乗って上がれるところまで上がってそこからは階段を駆け上った。

「はっ、はっ、はっ、」
 あたしが倒れ込みそうになりながら廊下に飛び込んだところで、誰かが私の体をしっか
りと受け止めた。
「お疲れ。」
 たかあきだった。たかあきは少しも疲れた顔なんかしていなかった。
「…なんでそんなに普通なのよ。」
446恋愛同盟5 恋せよ乙女! 後編 17/20:2007/09/22(土) 14:35:17 ID:nnAs1E8Z0
「丁度エレベーターが来ててね。まあ、日ごろの行いの差だろ…」
「…むかつくわ。」
 あたしが膨れて見せると、それを見たたかあきは笑ってた。

 太陽が水平線にかかって、ゆっくりと沈んでいこうとしていた。
 あたしとたかあきは並んで立ったまま、その夕日を眺めていた。
「ねえ、たかあき。」
「なんだ?」
「あたし…たかあきに会うまで、将来の事なんて考えたことなかったんだ。」
「…夢とかは?」
「夢はいっぱいあった。…でも、おじいちゃんが自分の跡をあたしが継ぐと期待してて、
 その道に現実味が増してくると、あたしにはそれ以外の道が見えなくなって、あたし
 自身もその道を進むのが楽なんだってわかって、いつの間にかそれに自分を当てはめ
 ようとしてたの。」
 それは、周りが期待する「長瀬由真」のカタチ。
「…たかあきに出会って、ダニエル以外のものが見えたの。それまでのあたしは空っぽで、 ただおじいちゃんの言うままにダニエルを目指していただけの人形みたいなものだった
 けど、たかあきと喧嘩して、たかあきと笑って…たかあきに恋して、昔見た、かわいい
 お嫁さんになりたいって夢も思い出したわ。」
 そう言いながらあたしはたかあきの肩と自分の肩をくっつけて、ぴったりと寄り添う。
「ダニエルを目指すのをやめた訳じゃないの。でも、たかあきと出会えたおかげで、
 あたしの世界はぐんと広がった気がする…ありがとう、たかあき。」
「なんか、照れくさいな。」
 たかあきは赤い顔をしてそっぽを向いてた。だからあたしはたかあきの顔に両手を
添えて、あたしの方へとぐいっと捻じ曲げた。
「なっ、何するんだよ由真。」
447恋愛同盟5 恋せよ乙女! 後編 18/20:2007/09/22(土) 14:37:12 ID:nnAs1E8Z0
「人が感謝の言葉を述べてるんだから、ちゃんとこっち見なさいっての。」
 そう言うと、かたあきは照れくさそうに笑ってくれた。

 気が付くとたかあきの顔が近い。…どきどきする。
「ゆ、由真…」
「たかあき…」
 たかあきの目があたしを金縛りにした。たかあきの瞳の中に、あたしの顔が映っていた。
「…好き…大好き。」
 普段のあたしじゃない、もう一人のあたしが素直にその言葉を口にした。
 それに導かれたように、たかあきの顔が近づいて、二人の距離が狭まる。
 あたしは目を閉じた。
 そして、あたしの唇に、たかあきの唇が触れた。
 夕日が最後の輝きであたしたちを照らし出した。

 どのくらいそうしていたのか。
 唇を離したときには夕日は水平線の下に隠れて、茜色を押しのけて紺色の空が落ちて
きていた。
「……」
「……」
 なんだか気まずい。
「…やっぱりあんたって、女たらしよね。愛佳にもそうやってキスしたんでしょ。」
「あー…その…つい…」
 たかあきが何か言い訳しようとして言葉に詰まっていた。
 でも、あたしはあたしで別のことを思っていて…
448恋愛同盟5 恋せよ乙女! 後編 19/20:2007/09/22(土) 14:37:50 ID:nnAs1E8Z0
「今のが、ファーストキスだったら良かったのに…」
 昨日のはあたしから無理やりしたから…って、あれって良く考えたら協定違反よね。
「…昨日のはノーカウントでいいんじゃないのか。」
「だめ…そう言うごまかしみたいなのはあたしが気持ち悪いのよ。」
「…ふふふっ…そう言うところは由真らしいな。」
 貴明が笑う。なによ…笑わなくってもいいじゃないの。
「笑うな…」
「悪い悪い…じゃ、そろそろ帰るか。」
「うん。あたしもおじいちゃんが待ってるし…戻ろ、たかあきの家に。」
 すっかり夜の黒に染まった空を背にして、あたしとたかあきはツインビルを後にした。

                   −

「ふんふふ〜ん…髪の毛も良し。リップも良しっと。」
「相変わらず気合が入っているのねぇ…おめかしするのもいいけど、そろそろ学校に出かける時間じゃないの?」
「わかってるってばお母さん。」
「今日もあの小僧と待ち合わせかの?」
「そうよ…って、おじいちゃん?!」
 いつの間にか、後ろにおじいちゃんが立っていた。
「小僧によろしくの。…わしは何時でも由真を応援しておる。精一杯やって、後悔しない
 ようにの。」
「う、うん…ありがと。」
 まさか、おじいちゃんに応援されるとは思わなかったわ…
「まあ、おじいさまも認めてくださったみたいね。由真、がんばってたかあきくんを
 ゲットしないとね。」
449恋愛同盟5 恋せよ乙女! 後編 20/20:2007/09/22(土) 14:40:29 ID:nnAs1E8Z0
「う、うん…って、やばっ。いってきます!」
「いってらっしゃい。たかあきくん連れていらっしゃいな。母さん会いたいわ。」
「はいはい、考えとくわ。」

 家を飛び出してMTBを自転車置き場から引っ張り出すと素早く跨って力いっぱいペダル
を踏み込んだ。あっという間に加速して風を切って走り出す。

 昔のあたしは、自ら進んで周りを見ることをしなかった。でも今のあたしは、このMTBみたいに何処までもいける気がする。

 街中を素早く走り抜けると丘の上の学校が視界に入ってきた。そして、その上り坂の下
で待つたかあきたちの姿も見えた。

 たかあきはいつもどおりの顔。あたしはちょっと顔をあわせるのが恥ずかしかったけど、
でもあたしらしく、大きな声で挨拶した。

「おはよっ、たかあき!」
450物書き修行中:2007/09/22(土) 14:44:19 ID:nnAs1E8Z0
以上、第5話でした。長々とどうもすいません。
おまけに改行ミスの見落としあるし… orz
>>434さん支援サンクスです

前回と今回は一応自分の中でテーマを決めて書いていて、
「原作で出てくる複線や要素を押さえながら、原作とは違う切り口で書いてみる」
ということを意識して書いています。

その試みがうまく行ったかどうかは客観的な判断にゆだねたいと思いますが、
自分としては今回はちょっと苦しいかなぁという感じ。愛佳と優季がほとんど動いてないし。

次回のテーマはすでに決まっていまして、原作でもチラッと触れられていましたが
5月後半〜6月に起こる、とある行事で行きたいと思います。
451名無しさんだよもん:2007/09/22(土) 14:46:05 ID:+xyz5r9m0
修学旅行か!
452名無しさんだよもん:2007/09/22(土) 17:40:30 ID:bgpv8uMG0
雄二EDってオチか!?
453名無しさんだよもん:2007/09/22(土) 17:51:41 ID:BGIpbYRx0
>>409
GJ。久しぶりにるーこSS読んだ気がするけど、るーこはかわいいよるーこw
文章も凄く読みやすくて内容も面白かったです。
忘れかけていたるーこ熱を思い出せて良かった。本当、ご馳走様です。

>>450
原作の要素を拾ってくような書き方は結構好きだし、読んでてそれほど苦しいものは
感じなかったので大丈夫だと思いますよ。サクサク楽しんで読めました。GJです。
強いて一つ言うなら、前編2で本題に入ったところで多少の状況説明がほしかったかも。
いきなり台詞で入ってきた小牧&草壁さんの存在がちょっとわかりにくいって言うか、
あ、二人も居たの?みたいな。口調や台詞のまわし方でわかるといえばわかるけど、
ここは地の文でのフォローがあった方が親切かな。
…なんて最近の流れに乗ってえらそうに批評してみたけど、修学旅行編期待してますw
454名無しさんだよもん:2007/09/22(土) 18:32:03 ID:yxIMnTxy0
>>409
ひじょーによかった。
無駄に熱のこもった猫の描写が凄く良い。
455名無しさんだよもん:2007/09/22(土) 18:52:57 ID:KFyFFt+w0
>409
GJ! >454の言うとおり、最初に猫の描写をうりゃーっとやって落とすので掴まれた
オチの照れ照れるーこも可愛いけど、途中ちょこっと貴明を褒めるとこもなかなか
あと俺は猫好き。ねこーねこー
>450
毎度GJ! これ書きながら合間で誕生日SSとかあげてるのか。器用だなあ
愛佳、由真ときて、次は本命の草壁さんですかね。戦いはこっからって感じかな?
しかしこの貴明は……正直ぶっこぉしたいぜ
456名無しさんだよもん:2007/09/22(土) 19:17:49 ID:gCwtRRXs0
>>409
序盤をほぼ地の文だけで書き続けて、場面変化後は台詞をメインにすることで雰囲気の違いを演出できるし、
それが作品内で上手く作用している。
タイトルから見るとオチは簡単に予想できそうなものなのに、ギリギリまでオチをもってこないことで逆にラストを期待させる構成が上手い。
最後に貴明に台詞で答えさせないで一気に終わらせたのも、ラストが締まってて良い感じ。

るーこSSで一番難しいのはるーこのキャラや設定を活かした内容で話を考えることだと考えてるんだけど
(実際るーこSSが少ないのはこの作りづらさが影響しているのではないかと)
るーこらしさや設定をまるで損ねないで作れているのは素直に上手いと思った。


「――、」「〜〜。……」はやらない方が良い
――も……も、も。も文を区切ってるから二重に区切ってることになる。
句読点の後すぐに……を使うなら句読点自体がいらない。

……や――を使用したタメは多用しない方がいい。
演出としては有効だけど、使いすぎると陳腐に見える。
ラスト一行の使い方は上手い。言葉で返せなかったっていう間も表現出来るので、タメが凄く活きてる。

>俺は緊張が一気に抜けたのと、猫ダイブのダメージで、多少よろめきながらも立ち上がる。
ニュアンスでは伝わるけど、文章としては意味は伝わらない。
他にもこういったフィーリング文章があるので、もう少し意識してみるともっとよくなると思う。
457名無しさんだよもん:2007/09/22(土) 19:48:20 ID:KFyFFt+w0
>456
……に頼りがちになるのは、俺も書いてて苦しむとこだな
書き手が読む速度を決められないという文章の泣き所で悩ましい

フィーリング優先で文章を崩すのは、俺は好きだからむしろどんどん使って欲しいが、
日本語としてはおかしいという自覚を持って使う必要はあるだろうね

でも、その例は意味が伝わらない文章だろうか?
「緊張が一気に抜けた」「猫ダイブのダメージ」はよろめく理由だから、読点は、
<俺は、緊張が一気に抜けたのと猫ダイブのダメージで多少よろめきながらも、立ち上がる。>
が正しいんだろうけど、(たぶんリズムを考えて)読点をずらしたのがフィーリング?
458名無しさんだよもん:2007/09/22(土) 20:36:34 ID:nnAs1E8Z0
>>457
>>456さんはニュアンスでは伝わるけど、文章としては意味は伝わらないといっているので
文章としては正しくないということでは?
 句点位置は書いた本人次第の意図次第だけど、この場合文章としては
<俺は、一気に緊張が解けたのと猫ダイブのダメージで、多少よろめきながら立ち上がる>
 という感じじゃないかと思われ
459見習い氷:2007/09/22(土) 21:24:48 ID:n+AeZLAAO
>>409>>450
乙&GJ
恋愛同盟由真編、楽しめる内容でした。
参考にさせていただきます。


改めまして401です。
番号だと紛らわしくなるので一応「見習い氷」とさせていただきます。
誠に勝手ですが、ご理解の程お願いします。

現在手直し中の2作目。
明日の夜に投稿予定です。
本当は今日でもよかったのですが、2作も投稿されてますし、自重します。
…由真SSなのですが、恋愛同盟後に載せれる内容ではございませんw
なので、明日の夜あたりに投稿するつもりです。
460名無しさんだよもん:2007/09/22(土) 22:45:12 ID:gCwtRRXs0
>>457
意味は通じるよ。
フィーリング文章の例をあげるなら「頭痛が痛い」とかかな。
これは極端な例だけども、助詞を正しく使えていなかったりして
部分的に見ていったら意味はわかるんだけど、全体でみると文章の通りに伝わってこない文章とか
感覚で伝えようとしちゃってる文章のことを、俺はフィーリング文章ってよんでる。
その文章は、多分だけど一気に詰め込みすぎてるんだよね。

そのままだと、俺には現在進行形で猫ダイブのダメージを食らったように見えてしまうんだな。
「緊張が解けてバランスを崩したところへ、猫ダイブを食らってよろめいたけど踏ん張って立ち上がった」
そのままの文章で読んだらこう見える。実際はそうじゃないって読んでいれば分かるけど。

基本的な対策は、分けるか、いっかいまとめるかかな。
 俺は、一気に緊張が解けてへたり込む。
 すぐも起き上がろうとしたが、猫ダイブのダメージが抜けきっておらずよろめいてしまった。
とか
 俺は一気に緊張が解けたのと、猫ダイブのダメージで、すぐに起き上がることが出来なかったが、
 多少よろめきながらもなんとか立ち上がる。
とかかな。 
これが正解ってわけじゃないけど、その文章を崩さずに書くのなら、俺はこうする。
まあ俺は物書きでも文章に携わってる人間でもなから、変な部分はあるかもしれないが。
461物書き修行中:2007/09/22(土) 23:11:29 ID:nnAs1E8Z0
>>409
さっき〆の書き込みしたときに書き忘れてしまったので、まずは乙
漏れもるーこのエッセンスが上手に使われてるSSと感じました
るーこを愛しているんでつね…ヽ( ´ー)ノ
漏れもこの間誕生日フルコンプを目指す旨発言してしまったので、いずれるーこにも
手を付けなければならんのですが、るーこはキャラが独特でかなり扱いに困るので
今からガクブル物だったりしてどうした物やら…

>>459
2本もというか、漏れが一人で馬鹿でかいものを上げてしまっている感があるので
面目ないです。
でも見直しは大事ですよ。2日もかけて見直ししたのに誤字と改行ミスが…orz
それに>>453氏の指摘どおり、改めて読み直すとわかりづらい部分が…
まだまだ客観的視点で読み直す作業が出来てないお…

>>455
たしかに平行で書いていたのですが、由真とこのみの誕生日SSを書いてたあたりは
かなり詰まってたので、目先が変わっていい気分転換になりましたよ
それに由真SSについては由真のキャラクターを再確認する習作ともなったので
良かったかなと
462409:2007/09/22(土) 23:31:42 ID:sWisZXe50
えーと、なんか盛り上がっているので、ちょいとくちばしを挟んでみよう。当事者だけど。
の前に、まずは読んでくれた人達、レスくれた人達に感謝を。
やっぱるーこSSって少な目なのかな。
実は俺、あんまり人のSS読んだり、サイト巡りしたりしないから疎いんだけど。

さて、フィーリングと言われたが。それはそれでまったくもって外れてない。俺は感覚とリズム重視型の書き手だから。
だから「これで通じる」と判断したところは、文法を無視するケースもある。言葉を削るのは日常茶飯事だ。
例に挙がった部分では、「ニュアンスで伝わってるならそれでいいや」と、判断してしまう。
これはもう、ごめん、気にしないでとしか言えない。
ただ、今回指摘された点に関しては、ちょっとその解釈は、俺の中にはないなぁと思った。
ダイブのダメージ自体は、現在進行形で、貴明の中に残っているのだから。動詞と名詞の違いかな。
詰め込み過ぎといわれたらその通りだけど。うーん、でもこれ一動作だから、まとめたいんだよなぁ。
悩む。

さて三点リーダーについて。
色々と取りざたされることの多い彼だけど、今回、多用という面に関しては、ちょっと多かったかもしれない。
けれど、用法としては、変えられない。
>「〜〜。……」 ←特にこれ。
句読点は区切りだけれど、三点リーダーやダッシュは息づかいであり、間合いだ。これは明らかに役割が違う。
ピリオドと休符記号の差だね、これは。
念のため、多少、周りの小説などを調べてみたが、「――、」も含めて(これは句点の方が一般的なようだが)、プロも普通に使っているし。

実の所、演出面とかはほとんど考えず、ただ、この時こういう風に言っているから、ここに間合いを挟むんだ。って感じで使っている。
俺にとって、あれは実際にキャラが喋ったセリフの空白を、文字で描いているだけにすぎない。
だから、多用という面に関しても、必要とあらば俺はいくらでも入れてしまうと思う。
先も言ったように、リズム重視であることもあって。
あと、今回は貴明一人称であることも、多めに目に付く原因の一つだと思うが。

色々細かく読み込んで批評してくれているのに、ほんと申し訳ないが、
俺はスタイルをほとんど変えずに、このまま突き進んでしまうと思う。
すまぬ。
ではまた。
463名無しさんだよもん:2007/09/23(日) 02:24:04 ID:JfLANr1u0
>>409
>>462
遅ればせながらGJだった
久し振りにるーこSS読んだけど、展開の仕方がうまいな
ちゃんと話全体が一つのストーリーに沿って進んでるというか

自分も小説書く人間として言わせると、「――、……」みたいな書き方って自分なりのルールがあるんだよね
俺も演出云々よりも、「この間は“――”で、こっちは“……”かな」みたいな感じで使ってる部分あるし
俺はとくに気にならなかったけど、ダッシュとか三点リーダ多用する人はリズムとかそういう意味合いで使ってる場合が多い
演出的な意味で使われてる場合とじゃ使い方が違うから、その辺はその人の味なんだろうな、って思う
実際、俺は気になるほど多用されてるとは思わなかったし。むしろ一人称ならこんなもんだと思うけど
まあ、読者のみんながみんなこう受け取るわけじゃないだろうから注意すべきなのかもしれないけど
うまく伝わらなかった部分は、読点の位置をいじったり、語順を変えてみたり、言葉を増やしたり、色々やりようはあると思う

まあ、なんにしろ一番優先されるべきは面白いかどうかなんで、そういう意味では十分いい作品
次回作も期待してます
464名無しさんだよもん:2007/09/23(日) 07:02:11 ID:8/a6pbEh0
長文レスうざ
465名無しさんだよもん:2007/09/23(日) 08:51:59 ID:tqIUb7hc0
>462
読んでてそう思った人がいる、っていう事だけだから
自分のスタンスを持っているならそれを大事にするのが良いし当然だろうさ

……が多くなると気になるってのは一般論ではあるけど、
(広く言えば……に限らず、同じ語尾やフレーズや言い回しの反復って事だよね)
今回のSSでそんなに多いかってと俺はそうでもない気がするし

今のスタイル全然OK。次回作も期待してまつ
466名無しさんだよもん:2007/09/23(日) 10:46:03 ID:Z/Qe/eyo0
460だけど
>>462
俺は……と――を多用したりするとリズムが悪く感じるし、実際リズムが悪くなるほど多いと感じたのね。
間を意識してるのは読んでて分かったんだけど……や――は多いとリズムを壊すことにしかならないと思ったのでこう書いた。
考えがあってやってるってならそれでいいよ。

「――、」についてはすまない。こっちの勘違い。ただ一般的なのは「――。」だったと思う。
「〜〜。……」とやりたいなら改行すればいいと思うけど、ま、表現の方法だというならそれまで。
俺は文章として見るならそういう風にした方が綺麗だと思うけど。
文章的な綺麗さよりも表現したい描写を重んじるっていうならそれでも別に良いよ。
個人的には文章の書式的な綺麗さにもこだわって欲しいとは思うけど、強制するつもりはないし。
このレベルのストーリーの構築ができるなら、あとは文章を突き詰めていくのがいいかなって思ったので
あえて文章にだけいろいろと突っ込んでみたんだけど、大きなお世話だったみたいね。
引き続き頑張って。
467罰ゲーム1/10:2007/09/23(日) 20:33:51 ID:NF8jtYO40
「こ、こちら、お飲物です」
「『ご主人様』が足りてないんじゃないかね?」
「くっ!…わ、わたしがこんなこと…」
「二言はないんだろう?」
「…ご主人様、お飲物です」
「心がこもってないな。やり直しだ」
「ご主人様、お飲物でございます」
「はっはっはっ。くるしゅうない、くるしゅうない」
 とある休日の一コマ。
 由真がメイド服で雄二に奉仕している。
「もう!どうしてこうなるのよー!」
 …自業自得だ。
「そこ!うるさいよ!」

 ツインタワービルでの一件から、俺と由真は付き合っている。
 付き合っても、付き合う前とやることは特段かわってない。
 ただ、付き合ってきてから、由真はよくこっちのクラスに遊びにくるようになり、
 同じクラスメイトである雄二とは、ゲーマー(?)同士の会話がよく飛び交っていたのを見ていた。
 そして、いま、俺と雄二と由真の3人でゲームセンターに来ている。
 雄二と由真のどちらが強いのかどうか確かめたいそうだ。
「さて、お手並み拝見といきましょうか」
「俺、このゲームやりこんでるから自信あるぜ」
「ふぅん。そんな自信、簡単にへし折ってあげるわ!」
 こうして2人の熱い戦いが始まった。
468罰ゲーム2/10:2007/09/23(日) 20:36:41 ID:NF8jtYO40
「お、おかしいわよ!」
「あら?どうしたのかな〜?」
「く、くそぅ…」
 結果、由真の惨敗。
「嘘だっ!」
「おいおい、あんまり騒ぐなよ。ほかの客に迷惑…」
「こんな程度か?全然本気出してないぜ」
「こ、これで勝ったと思うなよ〜!」
 そう言い放った由真は凄い勢いで台を離れ、札を崩して100円玉に変えて戻ってきた。
「おい雄二。由真は単純だから挑発すると後で面倒なことになるぞ」
「だいじょうぶ、だいじょうぶ。圧倒的差で勝ち続ければすぐに落ち着くって」
「そうかなぁ…」
 心配する俺を横目に由真と戦い続ける雄二。
 反対の由真側を見ると、台の上には100円玉の山。
 …連コインはマナー違反だぞ、由真。

「あのキャラのコンボ、威力高すぎない?」
「一応パワーキャラだしな。それにそっちが女キャラだから、HP少ないし」
「えっ!そうだったの!?」
「下手すりゃ3ゲージ使ったコンボで8割削るからな」
 由真は負けに負け、あの100円玉の山を使いきったところで諦めたらしい。
 今は相手の雄二からアドバイスや指導を受けている。
「ふぅん…なるほどね」
「おーい。これからどうするか?」 
 何もしてなかった俺が2人に尋ねる。

「負けたままで終わるのも気分が悪いわね…」
「おっ、やる気だな」
「そうね…ホッケーで勝負しましょうか!」
469罰ゲーム3/10:2007/09/23(日) 20:40:11 ID:NF8jtYO40
 やる気満々の2人。すっかり意気投合している。
 ホッケーはてっきり由真と雄二のタイマンで勝負するのかと思っていたのだが…
「俺は一人で。なんなら十波と貴明でやってもいいぜ?」
「援軍有りとは、随分余裕じゃない!」
「おいおい…」
「たかあき、やるわよ!雄二なんかケチョンケチョンよ!」
 巻き込まれてしまった。
「そうだ!負けたら罰ゲームね!」
「げっ」
「望むところだぜ!」
「お、おい…由真」
「いくわよ!」
 こうして罰ゲームを賭けたホッケー対決の幕を開けた。
「ちょっと!邪魔しないでよ!」
「あ、すぐ打ち返すなってば!」
「あらあら夫婦ゲンカですか?」
「「うるさい!」」
 あっという間に点差が開いていく。
「そんなんじゃ」
 カシャーン
「俺には」
 カシャーン
「勝てないぜ!」
 カシャーン

 ピピーッ
470罰ゲーム4/10:2007/09/23(日) 20:41:50 ID:NF8jtYO40
 ホッケー対決は雄二の圧勝。
 由真と俺のチームワークは最悪だった。
 由真はただ闇雲に打ち返すだけなのに対し、雄二は止めて的確に2人の間を狙ってくる。
 それに1人のほうが事故らないし、即席となればなおさらのこと。
 俺と由真はお見合いやぶつかったりと、醜態を晒していた。
 ここは雄二が由真の性格を掴んで、口車に乗せて試合を組ませた雄二の策略だったのだ。
「さて、罰ゲームだが…」
「言った以上、二言はないわ」
「潔いじゃないか…よし!決めた。」
 雄二のことだから何を言い出すかわからない。
 下手したらあんなこと(ピー)や、こんなこと(ピー)とか
 …少し由真の身が心配になってきた。
「よし!明日、貴明の家に来てくれ」
「「え?」」
「おい雄二。なに考えてるんだ?」
「いいからいいから。変なことはしないからよ」
 …ニタニタ笑いながら話すのはやめようぜ、雄二。
「わかったわ。こうなった以上、なんでもやってやるわ!」
「それなら話は早い。んじゃ、さらば、お二人さん〜」
「お、おい」
 言うやいなや店から出ていく雄二。
「まったく…勝手に決めやがって」
「負けたんだものしょうがないわ。明日の罰ゲームはどうなるのかな?」
「わからんな…」
471名無しさんだよもん:2007/09/23(日) 20:42:07 ID:MXB/VbsN0
支援
472罰ゲーム5/10:2007/09/23(日) 20:44:12 ID:NF8jtYO40
 …そして現在に至る。
「二言はないと言うんじゃなかったわ!」
「いまさらそんなこと言っても遅いぜ?」
 由真は上目遣いでこちらに懇願してくる。
「たかあき〜どうにかして〜」
「自分で言った罰ゲームだし…我慢してくれ」
 そう言うほかなかった。
 罰ゲームは雄二持参のメイド服に着替えてのメイドごっこ。
 雄二は病気と言ってもいいほどのメイド好きである。
 (…いや、オタク?マニア?まぁどちらでもいいが。)
 衣装等も少ないながらも数点は持ってるほどのメイドマニアなのである。
 まったく…いったいどこから手に入れたのやら。
「こんなかわいいメイドがいるなんて…幸せだ。くうぅっ」
 由真のメイド姿を見て、あまりの感動に泣いている雄二。
 そこまでメイドというものはおまえの心を動かすほどなのか。
 そう思いながらメイド姿の由真の方に目を向ける。
 由真の格好はメイドの定番ともいえる白黒を貴重としたもの。
 スカートの先には白いフリルもこしらえてあり、頭には白いカチューシャ。黒いニーソックス。
 よくある典型的なメイドの格好だった。
「ち、ちょっと、こっち見すぎよ」
「あ、あぁ悪い。こういった姿の由真は初めてだからつい」
「は、恥かしいから、あんまりこっち見ないでよね!」
 雄二…なんとなくだが、わかる気がするぞ。
 たまにはこんな由真も悪くないと思っていた。
473罰ゲーム6/10:2007/09/23(日) 20:46:29 ID:NF8jtYO40
「じゃあ次はマッサージしてもらおうかな。肩だけでいいや」
「わかりました。ご主人様」
 …ヤケになったのか、マジメになったのか。
 さっきの態度とはうって変わり、文句を一言も出さずに雄二の肩を揉んでいる由真。
「いかがですか?」
「おじちゃん、感激しすぎて死にそう」
「ありがとうございます」
「お、おいおい…」
 由真に肩を揉まれている雄二を見ている俺。
 なんとなく雄二がうらやましく思えていた。
「あ〜気持ちよかった」
「それはよかったです、ご主人様」
「おい、雄二。そろそろやめといたら…」
「じゃあ次は耳そうじをしてもらおうかな」
「かしこまりました、ご主人様」
「雄二…」
 聞く耳を持たない雄二に少しイラッときた。
 いや、雄二だけじゃない。
 あれだけ嫌がっていたのに、今では板に付いたように奉仕している由真に対してもイラついていた。
 もはや俺と由真の関係が彼女・彼氏の関係ではないように感じる。
 雄二と由真がまさにその関係のように見えていた。
474罰ゲーム7/10:2007/09/23(日) 20:50:19 ID:NF8jtYO40
「あぁ〜いいねそこ。気持ちいいよ」
 そんな気分になっている俺を余所に、いつのまにか雄二は由真に膝枕してもらっている。
 さらに由真に耳掃除をしてもらっている。
(俺もまだしてもらったことないのに…。)

 ―ドクン

 心臓の音が一瞬だけはっきりと聞こえた。
 心の奥からじわじわ沸いてくるこの気持ち。
 知っている。
 雄二に向けられている感情は嫉妬であると。
 わかっている。
 雄二を憎みはじめていることを。
 自分は由真が他の人に奉仕をしているのを見ているだけ。
 まるで我慢大会のような生殺し状態であった。
 雄二は由真を自分の好きなようにしている。
 由真はどう思っているかしらないが。
 ただ、雄二の行為は、俺に不満を募らせていた。
475罰ゲーム8/10:2007/09/23(日) 20:51:40 ID:NF8jtYO40
「あれ?」
「…」
 そう思っていた矢先、由真は雄二の変化に気づく。
 雄二は由真の膝の上で気持ちよさそうに寝ていた。
「そうとう気持ちよかったのかな?」
「さぁね」
 少し不機嫌そうな声を隠すことなく返事をする。
「ま、いいや。寝かせておきましょ」
 雄二をソファーに寝かせ、由真がこっちにくる。
「どう?この格好?」
「別に」
「たまにはこういったのも悪くはないわね」
「そうか」
 そんな俺の冷たい態度を見て不満に思ったのか、由真は近くに寄ってくる。
「もしかして…嫉妬してた?」
 
 ―ドキッ

「し、してないよ」
「顔真っ赤だよ?」
 確かに俺は図星を突かれて、顔を真っ赤にしていた。
476罰ゲーム9/10:2007/09/23(日) 20:54:49 ID:NF8jtYO40
「だって…」
「ん?」
「目の前で付き合っている人が、他の人とイチャイチャしていてるのを見ていたら…」
「え?」
「…あっ」
 本音を漏らしていることに気づいた頃にはすでに遅かった。
 心の中で思っていたことを知らずのうちに、言葉としていた。
 しょうがない…ここは…。
「俺には我慢できなかった。だからやきもちを焼いていたみたいだ」
「え?あ、うん」
 いきなりの言動に困惑した表情を浮かべる由真。
 しかし、その表情は笑顔に変わる。
「そっか…へぇー。たかあきにもかわいいところあんじゃん」
「か、かわいいいうな」
「はいはい。よしよし〜」
 由真に頭をなでられている。
 でもそれは不思議と嫌ではなく、まるでお母さんにされているような。
 もっとしてほしい。
 俺をそんな気分にさせた。
477罰ゲーム10/10:2007/09/23(日) 20:56:52 ID:NF8jtYO40
「せっかくだし、たかあきにもしてやるか」
「ん?」
「ほら、こっちこっち」
 自分の膝を叩いている。手には耳掻き。
 少し躊躇もしたが、雄二は寝ているし、誰も見ていないことだから素直に横になった。
 由真のふとももは柔らかくて、温かかくて…耳掃除との相乗効果でとても気持ちよかった。
「どう?」
「ああ。気持ちいいよ」
「そう。よかった」
 いつもは些細なことでケンカしたり、対決したり、バカ騒ぎする仲。
 そんな喧噪の中ではわからない由真の優しさに触れて、俺はとても嬉しくなった。
「由真」
「どうしたの?」
「さっきはその…冷たく言って悪かったな」
「いいわよ。気にしてないし」
「その…に、似合ってるぞ」
「あ、ありがとう…」
 思わぬ一言に由真も戸惑いを隠せないようだ。
 由真に背を向けているが、きっとそうだろうと思う。
「そ、そうね。さっきは冷たくあたられたから、お詫びに何かしてもらおうかな」
「…さっき気にしてないっていっただろうが!っ!」
 反論するために上を向いた次の瞬間。
 由真の顔が目の前にあった。
 そして唇には湿った肉感。
 あぁ。キスしてるんだな。そうわかったのは唇が離れてからだった。
「こ、これでチャラね」
 俺がどれだけ落ち込んでいても、由真は俺を慰めてくれる。
 それは今、この瞬間だけじゃない。
 これからもずっとそうしてくれるだろう。
 改めて俺にとって、由真は大切な存在なんだなぁと感じた。
478名無しさんだよもん:2007/09/23(日) 20:57:18 ID:MFTmxN8T0
479見習い氷:2007/09/23(日) 21:06:46 ID:NF8jtYO40
>>471
支援どうもです。

>>478
乙であります。

氷です。
今回は由真SSとさせていただきましたが…。
まったく自信がございませんw

ゲーセンでは高校生が初っ端ホッケーで遊ぶってのは微妙と思ったので雄二を戦わせました。
ちょっと長かった気もします。
メイド罰ゲーム後も少し雄二が多かったかも…。
たまには雄二にもいい思いを…ということで。
そのせいで肝心の貴明の出番が少ないように感じましたが、嫉妬→キスで威力倍増!
…ないですね。

一応文法等にも気をつけましたが、誤字&脱字ありましたらすいません。

ちなみに試験的に全キャラのSSを書くつもりです。
るーことか黄色い子とか双子とか…厳しいかもw
480名無しさんだよもん:2007/09/23(日) 22:05:14 ID:zrKBc2/R0
>479
乙! どんどん書いてくれたら読む側も嬉しい

読んでて、いっそ雄二×由真というのも面白そうだと思った
雄二に嫉妬する貴明も可愛いが(雄二も半分狙ってやってる……、いや、素か)
そういや由真シナリオの貴明って、結構積極的で、少し雄二に近い気がするかな?
個人的にはラストのキスで照れさせた方が落ち着くかな、という気もしたけど、
こういう、由真SSらしからぬ静かな終わり方もいいかもね。あ、照れてはいるなw
481物書き修行中:2007/09/24(月) 01:27:30 ID:DQQPXfyz0
>>451-452
回答編をどうぞ↓
482恋愛同盟5.5 次回予告 1/3:2007/09/24(月) 01:28:25 ID:DQQPXfyz0











    恋愛同盟 第5.5話  次回予告













483恋愛同盟5.5 次回予告 2/3:2007/09/24(月) 01:30:18 ID:DQQPXfyz0

北へ向かう寝台列車からー人の少年が姿を消した。

「いったいどうやって走行中の列車から姿を消したんだ!」
 親友を探し、高校生探偵・向坂雄二が奔る。

 行く先々で次々におそわれ、死んでいく女子高生たち。
「これで勝ったと…思うなよ…がくっ」
「きゅぅ…」

 少女に隠された秘密とは?
「女の子には秘密がいっぱいって言うでしょ。」

 そしてその背後に浮かび上がる、少年を巡る愛憎劇とは?
 巧妙に仕組まれた時刻表トリックから浮かび上がる犯人は一体誰か?

「貴明を殺したのは…あんただ。」
 向坂雄二の桃色の脳細胞が冴え渡る。

 そして北の大地で繰り広げられた殺人劇の結末は…

「メイド萌え探偵向坂雄二の事件簿 〜寝台特急「北斗星」殺人行・消えた親友〜
 最果ての地で見た女子高生の秘密 東京−札幌−旭川殺人ルート 犯人はヤス!」

 ご期待下さい。
484恋愛同盟5.5 次回予告 3/3:2007/09/24(月) 01:36:10 ID:DQQPXfyz0

                   −

「…なんて感じだと、面白いと思いません?」
 ニコニコしながらトンデモ発言をぶちかました優季に、みんな呆気に取られていた。
「…いや、俺殺されるの?それに犯人はヤスってタイトルでばらしてるし…っていうか、
 ヤスって誰?…ああもう、何処から突っ込んだらいいのか…」
「何であたしも死ぬのよ…」
「いや、俺を主人公に選んだ優季ちゃんはさすが目が高いぜ。ついでにどう?貴明から
 俺に乗り換えてみない?」
「ミステリーより、ミステリなんよ。北海道といえばUMAの宝庫、クッシーにトッシー
 に支笏湖の巨大魚なんよ。タイトルは『笹森花梨探検隊シリーズ「恐竜か怪魚か!?
 幻の巨大魚を北の大地に追え!」』」
「むっき〜」
 ぽむぽむぽむ!
 机を叩く音でみんながマジ泣き寸前の愛佳に注目した。
「もー、みんなまじめに相談してよぉ。行動予定表が提出できないと自由行動なくなっ
 ちゃうよ。」
「「「「「はーい」」」」」

 季節は春から夏へと移り変わろうとしている。
 俺たちは修学旅行を目の前にして準備に余念が無かった。
 そして、俺たちの心はすでに北の大地への期待ではちきれんばかりに膨らんでいた。

 出発が待ち遠しかった。
485物書き修行中:2007/09/24(月) 01:47:14 ID:DQQPXfyz0

毎度おなじみシャレ閑話ですが、次回は修学旅行をテーマにする予定です
何か新しい人も増えてますが、まあそれは本編を読んでのお楽しみということで

>>479
乙です
良かったと思いますが、一つだけ
冒頭で、由真が「わたし」といっているのは「あたし」としたほうが良いと思います。
るーこなどは一人称の自分の呼び名が独特なので別ですが、細かいことですが読者に
対して「あたし」「わたし」「私」のキャラクターの印象の差は意外に大きいので、
出来るだけ原作に忠実なほうがいいと思います。

テンプレにも在るんですが、以下が参考になるかと思います
ttp://botan.sakura.ne.jp/~siori/hth/leaf/th2rel2.html
486物書き修行中:2007/09/24(月) 01:54:35 ID:DQQPXfyz0
↑とかいいつつ、漏れも結構間違ってますなw
487見習い氷:2007/09/24(月) 07:02:25 ID:3V4EAmjWO
>>480
乙です。
出来るだけ多く書くよう努めますが、すでにネタ詰まりw
誰にしよう…。

>>485
乙です。
閑話期待してます。

一人称の呼び方間違ってましたね。すいません。
昨日、原作やろうと思ったらいつの間にか無くなってまして…。
キャラ設定なんかが脳内設定になってます。
原作と違う部分が多々あると思いますが、サイト等巡って正しい設定・知識を身につけなければなりませんね。
488学食に行こう第六話 1/15:2007/09/24(月) 10:58:37 ID:xFypqwo20
「……という訳」
久寿川先輩達に俺が女装するに至った経緯を一通り説明すると、最初こそ皆驚き半分、呆れ半分
といった表情を浮かべていたが、結局まーりゃん先輩のすることだからと得心したみたいだ。
「はあ、そういうこと。河野さんも災難だったわね」
溜息をつく久寿川先輩。その表情には同じ苦労を分かち合う同士への憐憫の情が感じられる。
「まあ、そういった経緯はいいとして……タカ坊、さっきはよくも私達を騙してくれたわね」
……どうやらタマ姉は、さっきのドッキリにご立腹のご様子。ひょっとしたら事情を話せば笑って済ませて
くれるんじゃないかという思惑は、ととみ屋のカステラ以上に甘かったらしい。
「え、えーと、言うまでもないと思うけど、さっきのドッキリの企画立案は……」
まーりゃん先輩だから、と言葉を続けようとして、その先輩がこつ然と部屋から消えていることに気付く。
「……あの、まーりゃん先輩は?」
「まーりゃん先輩だったら、さっきタカくんが説明してた最中、部屋から出て行ったけど」
……に、逃げやがりましたか。あの先輩。
「まあ、主犯がまーりゃん先輩だったしても、タカ坊がその片棒を担いだのは事実でしょう?」
「い、いや、さっきのはドッキリと言いつつも、実際は逆ドッキリみたいなものだったから、むしろ俺は被害者……」
「問答無用。タカ坊、覚悟できてるわね」
「ひ、ひえぇっ」
捕食者の目に変貌したタマ姉を見て、すぐさま回れ右して逃げようとしたものの、襟首を掴まれ即捕獲される。
「さーて、どうしてくれようかしら? 頬をつねるのも飽きたことだし、タカ坊もそろそろ雄二を見習って
アイアンクロー辺りにステップアップしてみる?」
「た、環お姉様、そ、それは勘弁……」
つうかそんなことされたら、耐性のついた雄二と違って常人の俺は確実に死ねる。
そんな、捕獲された小動物のように震える俺を見つめていたタマ姉だったが、突然その表情がふっ、と和らぐ。
「……なーんて、冗談よ、冗談。今回のところはタカ坊の可愛さに免じて許してあげる。
ん〜、子供の頃に女装させて遊んだ事あるけど、今だにこれだけの変貌を遂げるだなんて盲点だったわ。
『男子三日会わざれば刮目して見よ』とはよく言ったものね」
489学食に行こう第六話 2/15:2007/09/24(月) 11:03:08 ID:xFypqwo20
……いや、それ使い方が微妙におかしい上に、女装した相手に言う台詞じゃないような。
まあ、何はともあれ学園内での猟奇殺人事件発生という、最悪の事態は回避出来たみたいだ。
「あ〜もう、可愛い♪ 本当、こんな面白いことに気付かせてくれたまーりゃん先輩には逆に感謝しないと」
スリスリと頬をすり寄せて俺を抱きしめるタマ姉。や、やば、このパターンは……
ぎゅ〜
「や、やっぱ…り、た、タマ姉……ぐ、苦し……ぐえ」
いつもながら万力を彷彿させるタマ姉の抱擁。しかも今回に至っては何故か普段より出力が増しているようで、
すぐさま意識が遠のいていく。……ああ、ゲンジ丸、僕、眠くなってきたよ……
「……あの、向坂さん。河野さんの顔が紫色になってるのでその位で」
「え!? た、タカ坊、大丈夫? しっかりしなさい!」
「げほっ、げほっ……し、死ぬかと思った」
「そこまできつく抱きしめてないじゃない。全く、大袈裟なんだからタカ坊は」
……いや、さっきのは冗談抜きにヤバかったんですけど。
「あ、あはは。……けど、タカくん本当に女装が似合うよね。全然気づかなかったよ」
「いや、こっちとしては即座にバレると思ったんだけどな。むしろ十年来の付き合いの幼馴染が、実は俺の顔をろくに
覚えてなかったと知って、逆にショックを受けたくらいだし」
「うっ……え、えへ〜」
……笑って誤魔化したな。
「くそーっ、ショックなのはこっちの方だっつーの! あぁあああっ、よりにもよって初恋の相手がお前だったなんて
悪夢そのものじゃねーか!」
頭をワシャワシャと掻き毟る雄二。……ああ、そういえばこっちの問題も残っていたか。
「そう言えばそんな事言ってたわね。雄二、その話詳しく聞かせてもらえる?」
「あん? 詳しくも何も、ほぼそのまんまの話だよ。さっきの姉貴の話からすると、貴明の事を女装させて遊んでたみたいだし、
でっかいリボンのついた白い帽子と白いワンピースの格好にしたって、確か姉貴があんな服持ってた気がするしで、
もろビンゴじゃねーか!」
「ふーん? そう」
なにやら考え込むタマ姉。その様子だと当時の事を思い出したみたいだけど……
490学食に行こう第六話 3/15:2007/09/24(月) 11:06:57 ID:xFypqwo20
「いいえ、タカ坊を女装させたことはあったけど、そんな服を着せた記憶はないわね。……タカ坊も、さっきのは雄二に
釣られて話を合わせただけなんでしょ?」
「へ? いや、それは……あだだだだ」
違うと言おうとしたら、雄二から死角になる部分を思いっきりつねられる。これは話を合わせろって事なのか?
「そ、そうそう。暫く前、公園にわざわざ寄ってその話聞かされたことがあったろ? だから大まかな話は知ってたからつい。
悪いな雄二」
「……そうか、貴明じゃなかったのか。じゃあ、あの娘は実在するんだな。……よ、良かった、本当に良かった……」
感動に浸って一人さめざめと泣いている雄二を尻目に、不可解な行動をとったタマ姉に小声で話しかける。
「タマ姉、一体何を企んでるのさ?」
「別に、何も企んでないけど」
「いや、これだけ思わせぶりな行動とっておいて、何もない訳ないだろ」
「……初恋の思い出は、綺麗な方がいいじゃない」
「えっ、タマ姉、何か言った?」
「何でもないわよ。はい、この話はこれでおしまい」
早々と話題を打ち切るタマ姉。その前に何か呟いていたみたいだけど、生憎と声が小さくて聞き取れなかった。
……けどその際、タマ姉が一瞬浮かべた悲しげな表情に、何故か胸の奥がチクリと痛んだ。

「まあ、たかりゃんは悪いと思ったなら、後でゆーりゃんにメイド姿でも披露してあげれば?」
「……突然消えたかと思えば一体いつの間に湧いて出たんですか? ていうか俺を置きざりにして何処に行ってたんです
まーりゃん先輩!」
真っ先にトンズラしておいて、普通だったら一体どの面下げて戻って来たといったところだが、あいにくと相手は普通という
言葉と最も縁遠いまーりゃん先輩。案の定その表情にはなんら悪びれた様子もなかったりする。
「いや〜あちしも色々と忙しくてさ。それにこれまでの経緯を説明するだけだったら、たかりゃん一人でも充分でしょ?
わざわざ二人揃って若い命を散らす必要も無いだろうし」
「……その理屈だと、むしろ主犯のまーりゃん先輩が率先して責務を負うべきだと思うんですけど」
「だって、あたしよりたかりゃんを生贄に捧げた方がたまちゃんも喜ぶじゃん」
「まあ、確かにそうね」
491学食に行こう第六話 4/15:2007/09/24(月) 11:10:10 ID:xFypqwo20
「そういう問題じゃありません! あとタマ姉も納得しない!……大体忙しいとかいっても、実際のところは
ほとぼりが冷めるまで暇潰してただけでしょう?」
「うむ、その通りだ。はっはっは、って、ああうぅ〜」
そんなたわけたことをぬかす先輩に、遠慮なくこめかみをグリグリしてやる。
「あぁん、たかりゃん……そこ、そこは駄目……あっ、あっ」
「こめかみを圧迫してるのに、なんでアヘ声を出してるんですか!」
それを聞いてるこっちのほうが恥ずかしくなって慌てて手を離す。この人の感覚神経はどういう繋がり方をしてるんだ?
「ふっ、その程度のことで責めを中断するだなんて、あい変わらず素人童貞な反応だな、たかりゃんは」
「どんな反応ですかそれは! それにその、さも玄人さんには経験があるみたいな言い方はやめて下さい!」
「ちぇ〜。それにしても最近たかりゃん怒りっぽいぞ。ちゃんとカルシウムとってる?」
「先輩がそうさせてるんでしょうが!」
ぜぇ、ぜぇ……つ、疲れる。この先輩の相手は本当に疲れる。というより、もういい加減この先輩はグーで殴ってもいい気がする。
「で、たかりゃん。他にも何か言いたそうだったけど?」
「……いや、もういいです」
「そう? じゃあ話を戻すけど、ゆーりゃん、さっきのナイスアイディアだと思わない?」
さっきの……って俺のメイド姿云々言ってたやつか?
「いや、いくら雄二がメイドフェチとはいえ、俺のメイド姿なんて見たって嬉しくもなんとも無いだろう?」
「まあそうだな。こいつのメイド姿なんて見てもちっとも嬉しく……」
……なぜに言いよどむ? しかも顔を逸らした雄二の頬が何故か赤く染まっていたことに俺は一抹の不安を感じずにはいられなかった。

「よーし、話も丸く収まったことだし次はたかりゃんお待ちかねの罰ゲームを発表するぞ」
くっ、覚えていたか。英単語は5秒で忘れるくせに、こんな時だけ記憶力を発揮するだなんてホント傍迷惑な先輩だ。
「で、何です? 今回はどんな辱めを受けなきゃならないんですか?」
「そう身構えなくてもいいって、今回は簡単だから。さっきと同じ要領で、ずっと女の子のフリをしてればOK」
そうか、ずっと女の子のフリをし続けるだけか……って、ずっと!?
492学食に行こう第六話 5/15:2007/09/24(月) 11:13:09 ID:xFypqwo20
「あの、それだと延々と女装の格好をし続けてなきゃいけないことになると思うんですけど……授業はどうするんですか?」
「まあ、そこは気合で何とか」
「……いや、どう足掻いても無理ですって」
そんな気合だけでどうにかなるような世界だったら、某浜口女史はオリンピックで金メダル量産してるでしょうに。
「ちぇ、しょうがないな。じゃあ授業が終わってからたかりゃんが家に帰るまで。これなら出来るでしょ?」
「まあ、それなら出来るか出来ないかの話であれば出来るんでしょうけど……」
「うむ、じゃあ決定。もし関係者以外に正体がバレたらさっきと同じく罰ゲームだぞ」
「実際やるとなると正直キツイものが……って、人の話を最後まで聞いてくださいよ!」
そんな俺の反論に対し、まーりゃん先輩は逆に呆れたような表情でこちらを見つめ返す。
「あ〜、たかりゃん? 前にも言ったけど今回の学食の件については、規制で衣装に縛りのあるさーりゃん達じゃなく、
あくまでたかりゃんがメインなんだぞ。つまりこのイベントが成功するか否かは、ひとえにたかりゃんの双肩に掛かっている訳だ。
なのにそんなやる気の感じられない、いまどきの無気力っ子みたいな体たらくでどうする?」
「……いや、むしろそこまで本腰入れてやるつもりだったんですか?」
「やるからには当然じゃん。目標は全国制覇だ!」
今回のイベントは俺を女装させるための方便と思っていたのに、予想に反して、やけにやる気を見せるまーりゃん先輩。
ただ、学食で全国制覇とかマジで意味が分からん。単に全国制覇って言いたかっただけじゃないのかと。
「あ〜、ちなみにさっき言った罰ゲームを前もって発表しておくと……」
そう言葉を区切ってからまーりゃん先輩は、さっきまで失踪していた間に持ってきたのか、机の下から黄金色の箱を取り出して
「この黄金BOXに入っている紙を引いてもらって、そこに書かれた罰ゲームを有無を言わさずやってもらうという塩梅。
ギリギリまで責め苦が分からないところなんか、Mっ気のたかりゃんには堪えられない素敵仕様でしょ?」
「勝手に人をマゾにしないで下さい! そもそもさっきの罰ゲームにしたって、まだやるとも言ってません!」
「なんでさ? たかりゃん今更往生際が悪いぞ。さーりゃんもそう思うでしょ?」
493学食に行こう第六話 6/15:2007/09/24(月) 11:16:10 ID:xFypqwo20
そう話を振られた久寿川先輩は、ひとつ溜息をつくと
「私も反対です。第一、今回の女装の件にしたって河野さんを騙したようなものなのに、罰ゲームまで設定するのは、
幾らなんでも河野さんに負担が掛かりすぎます」
毅然とした態度で俺の心境を代弁するかのような意見を述べる久寿川先輩。タマ姉がおそらく女装推進派に組している以上、
久寿川先輩こそが、この状況を打破する唯一の希望と言っていい。そんな俺からの期待の視線に気付いた先輩が
何も言わなくていいとばかりにコクリと頷く。……ああ、今の先輩が女神に見える。
それに対しまーりゃん先輩は、何だそんなことかといった表情を浮かべて
「さーりゃん、大丈夫だって。この罰ゲームはなにもたかりゃんだけでなく、ここにいる生徒会メンバー全員が対象だから」
「……はい?」
呆けた表情のまま固まる久寿川先輩。それは成り行きを静観していたタマ姉達も同様のようで、全員がその真意を
問いかけるように、まーりゃん先輩に視線を向ける。
「だって今回の売りはさーりゃんやたまちゃんに勝るとも劣らない、ぷりちぃなおにゃのこが萌え衣装で
接客するところなのに、本番前に女装のことが知れ渡っちゃったら学食の売り上げがガタ落ちになっちゃうでしょ? 
そんなイベントの成否に関わる最重要機密事項に緘口令を敷く意味でも全員を罰ゲームの対象にする訳。
だからたかりゃんだけが罰ゲームする訳じゃないから、さーりゃんも変に気に病む必要は無いぞ」
「で、ですけど……」
その返しは想定外だったのか返答に窮する久寿川先輩。やっぱりこういった論戦となると、不測の事態にあまり強いとはいえない
久寿川先輩に対し、存在自体がイレギュラーなまーりゃん先輩が相手というのは、もはや天敵と言っても過言じゃないくらい
相性最悪な組み合わせみたいだ。
……おっと、のん気に分析してる暇は無かった。早く先輩のフォローに回らないと……。
「そういうことなら私も反対ね。タカ坊が女装するだけなら歓迎だったんだけど、私達まで巻き込んでの罰ゲームというのは
やりすぎじゃないかしら? そこまで堅苦しいのはちょっとね」
「……このみも秘密にしておく自信無いかも」
494名無しさんだよもん:2007/09/24(月) 11:16:20 ID:whdCTH/P0
sien
495学食に行こう第六話 7/15:2007/09/24(月) 11:19:09 ID:xFypqwo20
そんな俺がもたもたしている間、先輩にフォローを出したのは意外にもタマ姉。そしてそれに追随するようにこのみも意見を述べる。
確かにこのみの場合、当人に話すつもりがなくても、ついうっかりという可能性が大いにありそうだ。
「まあ確かに、まーりゃん先輩の考えた罰ゲームなんざ、まず半端ねえ代物ばかりだろうしな。俺もパス」
最後の一人だった雄二も反対に回る。まあ今の俺の窮状を見たうえで罰ゲーム上等なんて言う酔狂な奴もいないだろう。
まーりゃん先輩にとっては下手に罰ゲームを設定したことが、逆に自身の首を絞める結果に繋がったみたいだ。
「そっか、みんな反対か」
困ったような声を上げるまーりゃん先輩。……だというのにその表情には全然困っている様子はない。
全員が反対派に回ったこの状況から、一体どんな巻き返しの手段があるっていうんだ? 
「残念だな〜。黄金BOXに入れる罰ゲームはさーりゃん達も投函OKなのに」
まーりゃん先輩が呟いたその何気ない発言に、何故か俺を除いた反対派の全員がピクリと身を震わせる。
「あ〜あ、たかりゃんを合法的に、あんなことやこんなことできちゃう唯一無二のチャンスなんだけどな〜」
……ちょっ、ちょっと待った、何だよそれ。そんなものに釣られるヤツなんているはずが……
「こ、河野さんに、あんなことやこんなこと……」
「タカ坊を合法的に、か。……いいわね。一体何をやらせようかしら?」
「ど、どうしよう。タカくんに色々してもらえちゃうのかな?」
……何? この異様なまでの食いつきっぷりは。
「まあそんな訳だから、どう? さっきの件、考え直してみる気はない?」
「そ、そうね。今回はタカ坊に期待するしかないんだから、それを考えるとこれくらいの荒療治も仕方が無いわよね」
「う、うん。タカくん、責任重大なんだし」
まーりゃん先輩の甘言に乗せられ、あっさり寝返る幼馴染が二人。二人揃ってそんなに俺を辱めるのをご所望か。
「そうだな。罰ゲームは俺たちも対象なんだから、条件的にはあくまでフェアなんだし」
「ちょ、ちょっと待った。雄二、何でお前まで鞍替えしてるんだよ」
あれよあれよという間に、残る反対派は俺を含めて二人だけ。そのもう一人の久寿川先輩に目を向けると、
先輩はどこかぎこちない引きつったような笑みをこちらに向ける。ま、まさか……
496学食に行こう第六話 8/15:2007/09/24(月) 11:22:15 ID:xFypqwo20
「こ、河野さん……こういうのは、やっぱり普段から慣れておいたほうがいいと思うの」
……神は死んだ。
終わってみれば四面楚歌なこの状況、もはや罰ゲームの連鎖から逃れ出るすべは無いのか。……いや、まだあきらめるな。
和製カーネルおじさんも『あきらめたらそこで試合終了だよ』という名言を残していたじゃないか。
「ちょっと待った。よくよく考えてみたら、みんなは俺と話しているときだけ注意していればいいのに、それに対して
俺の方は女装している間、四六時中気を張ってなくちゃいけない。もうその時点でフェアじゃないと思うんだ」
「何言ってるのよタカ坊。むしろそのほうが好都合じゃない」
「……いや、こういった議論の場で、エゴ剥き出しな開き直りをされても困るんだけど」
「ああもう、男のくせに細かいこと言わないの。い・い・か・ら、やりなさい」
「……はい」
かくして試合終了のブザーが鳴る。安○先生……この境遇から脱却したいです。

「じゃあ、たかりゃんが性転換を決意してくれたということで続きいこうか」
「いや、そこまで了承してませんから。ていうか続きって何です?」
この期に及んで、まだ死人に鞭打つつもりですか? この先輩は。
「いや〜、だって肝心なことがまだ決まってないじゃん」
「……肝心なこと?」
「たかりゃ〜ん、偽名、偽名。たかりゃんがどれだけ完璧な女装をしても『河野 貴明』で呼んでちゃ一発でバレるでしょ?」
「まあ、それは確かに。けど、一体なんて名のればいいんですか?」
「大丈夫、その辺も抜かりなく考えておいたから。『クリスチーネ剛田』なんてどう? クリスチーヌと間違えやすいから
そこんとこ要注意な」
「よりにもよって、未だに本名不詳の国民的アニメキャラのペンネームとか、どんだけぶっ飛んだチョイスですか!」
「ちぇ〜、だったら『宮○路 ○穂』でどうだ」
「いや、それゲームが違います……ていうか、マジメに考える気ないでしょう?」
「全くたかりゃんは早漏……じゃない、せっかちなんだから。じゃあ普通に『河野矢 貴子』なんて名前はどう?」
「……なんか、いかにも即興で決めましたって感じで、すぐさまバレそうな名前だと思うのは俺の気のせいですか?」
497学食に行こう第六話 9/15:2007/09/24(月) 11:24:18 ID:xFypqwo20
逆にバレ易くして、罰ゲームをやらせるつもりなのかと邪推してしまう俺は、もう心がすさんでしまったんだろうか?
「大丈夫だって。一般的な認識として、さーりゃんみたいに普段から表舞台に立っている生徒会長ならともかく、
その他の生徒会役員なんて顔と名前も一致してない生徒が大半だから。ましてやたかりゃんなんて、当時生徒会長だった
あたしすらよく覚えてなかったでしょ?」
……ああ、そう言えばそんなこともありましたっけ。ていうか未だに記憶していたところをみると、何気に根にもってたんだろうか?
「けど、あまりに本名に似通り過ぎじゃないですか?」
「じゃあ逆に聞くけど、たかりゃんは全く違う名前で呼ばれて咄嗟に反応できる? その辺りも考えておかないと
すぐにボロが出ちゃうぞ」
……言われてみれば確かに、まーりゃん先輩の言うことは一理あるかも。
「まあ、本番となれば接する人数が半端なく増えるんで、偽名とはまた違った対策を取らなきゃならないだろうけど、
それまでは、とりあえずその名前を使用するということでいいでしょ?」
「はあ、分かりましたよ。じゃあその方向で」
なんか、まーりゃん先輩の思惑通りに事が進んでいる気もするけど、かといって代替案が他にある訳じゃないしな。
「うむ。ここまで決まれば、後は人目についている間、互いにどう呼び合うかを確認しとけばOK。まあ、似通った
名前にしたことで、たかりゃんはもとより、名前を呼ぶさーりゃん達も負担が軽くなってるから一石二鳥だな」
「そうですね。私は河野矢さんって呼べばいいから、ほとんど変わらないわね」
「流石にタカ坊は不味いわよね。まあ貴子って呼べばいいか。なんとなく語呂も似てるし」
「うーん、タカさんだと、とん○るずの人になっちゃうから、やっぱりタカ先輩って呼ばなきゃ駄目かな?」
「俺の場合は貴子って呼び捨てでいいよな?」
「そしてあちしはたかりゃんのあだ名を大幅リニューアルして、たかにゃんと呼んでやろう」
いや、それ一文字しか変わってないんですけど。
「まあ、俺への呼び方はそれでいいんじゃないかな。逆に俺からの呼び方としては、まーりゃん先輩、久寿川先輩、雄二、
このみはそのままでいいとして、タマ姉はどうしよう? いっそのことタマお姉様とでも呼んだ方がいい?」
498学食に行こう第六話 10/15:2007/09/24(月) 11:27:07 ID:xFypqwo20
俺の冗談交じりの発言に、タマ姉はげんなりした表情を浮かべ首を振る。
「あ〜それはやめて。前の学校で散々お姉様って呼ばれてたからもうこりごり。普通に先輩でいいわ」
「そう? じゃあタマ先輩って呼ぶよ。とりあえず呼び方はこれでOK?」
一応、念の為の確認だったのだが、意外にも雄二のヤツが不満そうに俺の肩をちょいちょいと軽くつついてくる。
「おいおい貴明、俺の名前は呼び捨てかよ。幼馴染相手にはもっと相応しい呼び方があるだろ?」
「何だよ、呼び捨てじゃ不満なのか? じゃあどんな呼び方がいいんだよ」
そんな俺の問いに、雄二はよくぞ聞いてくれたと言わんばかりの表情を浮かべ、その言葉を口にした。
「雄二ちゃん、これしかねーだろ」
「却下」
「くはーっ!? 即決かよ。貴明、お前は幼馴染にちゃん付けで呼ばれる男のロマンが分からないのか?」
「いや、あいにくと俺には理解できないわ。第一、女装している間は幼馴染の関係ですらないんだから、その呼び方だとおかしいだろ?」
「まあ、それはそれ、これはこれ」
やけに諦めが悪いな。どうあってもちゃん付けで呼ばれたいのか?
「ふ〜ん、ちゃん付けで呼ばれるのが男のロマンなんだ。ユウくん、今度から雄二ちゃんって呼ぼうか?」
「チビ助が? あ〜、駄目駄目、あくまで同い年の女の子にちゃん付けで呼ばれるから萌えるんじゃねーか」
つくづく妙なところにこだわりのある男だな。それだけ細かいくせに女の子じゃなく女装した男に呼ばれるのはいいのか?
「あー、分かった分かった。雄二ちゃん♪ ……これでいいんだろ?」
そんな俺の呼びかけに、雄二は暫し固まっていたかと思えば、直後慌てて口元辺りを押さえうずくまる。
「お、おい!? どうしたんだよ、大丈夫か?」
「い、いや、不意打ちで呼ばれたもんだから、鼻血が……」
……雄二。お前、一度病院に行って検査してもらった方がいいぞ。……特に脳の辺りを念入りに。
499学食に行こう第六話 11/15:2007/09/24(月) 11:30:09 ID:xFypqwo20
まあそんなこんなで呼び方も決まり、ようやくひと段落。もう時間が時間だし今日のところはそろそろお開きかな?
「……」
そんな事を考えていると、向かいに座っていたこのみが無言のままじーっと俺を注視しているのに気付く。
いや、俺を見ているにしては少し視点が低いような。……ははあ、なるほど。 
「ねえ、タカくん。ずっと気になってたんだけど、それってパッド入れてるの?」
「ああ、そうだけど」
そう、俺の胸は現在パッドの恩恵により、久寿川先輩やタマ姉に勝るとも劣らない双丘がそびえ立っていたりする。
「む〜、タカくんずるいであります」
「いや、そんなこと言われてもなあ……」
まあ、その気持は分からなくもないけど。
「ねえ、タカくん。ちょっと触ってみてもいい?」
「了承を得る前に回り込んで来るだなんて、もう既に触る気満々じゃないか。……しょうがないな、少しだけだぞ」
「やたー、じゃあ触るね」
俺からのOKが出た瞬間、まるでお預けを食らっていた飼い犬が餌に貪りつくみたいに、このみが俺の胸に手を伸ばす。
「うわぁ、柔らかくて気持ちいい。なんかマシュマロみたい」
「おいおい、乱暴に扱うなよ」
そんな、このみが俺の胸を玩具みたいにフニョフニョしている様を見てタマ姉も気になり始めたのか、このみに声をかける。
「このみ、そんなにいいの?」
「うん、なんか緩衝材のプチプチみたいに触るの止められないの」
「そう? そんなにいいんだ。じゃあ私も触らせてもらおうかしら? タカ坊、いいわよね?」
「いや、タマ姉はだ……どうぞ」
……なにもそんな顔で睨まなくても。
「うわ、何よこれ? まるで本物そっくりの感触じゃない。最近のパッドでこんなに凄いの?」
驚愕の声を上げるタマ姉。だが生憎と俺の方は、本物を比較できるほど揉みしだいた経験がないので、どれだけ凄いのか
実感できないけど。
「おいおい、そんなに凄いのか? そんなことなら俺にも……」
「雄二、あなたは遠慮しなさい」
「ごふぁっ!」
タマ姉のバックブローに沈む雄二。……合掌。そんな床に転がっている雄二に気を取られていると
「なっ!? タマ姉。何制服の下から手を突っ込んでるのさ?」
500学食に行こう第六話 12/15:2007/09/24(月) 11:33:12 ID:xFypqwo20
「いいじゃない、減るもんじゃないし。ふーん、パッド入れてる訳だから、ちゃんとブラはしてるみたいね。
その中に収まっているパッドは……あら?」
なにやら違和感を感じたのか、怪訝そうな表情を浮かべるタマ姉。暫しそうしていたかと思ったら、突如何の前触れもなく
俺の制服のタイを引っ張って解いた上に、そのまま制服のファスナーを引きおろす。
「へ? た、タマ姉?」
そんな、あまりに急な出来事に俺が唖然としたままなのをいいことに、タマ姉はその勢いのままブラをたくし上げる。
直後、プルンという擬音とともに、今までブラに押さえつけられていた豊かな双丘が露になった。
「……」
目の前の光景が信じられないのか、タマ姉、そしてその一部始終を見ていたこのみ、二人してフリーズしたかのように動かない。
そんな暫しの沈黙の後、二人が驚愕の声を上げたのは全くの同時だった。
「な、なによこれ!?」
「えっ? ええええぇ〜!?」
「ど、どうした? 一体何があったんだ?」
「雄二、あなたは見ちゃ駄目」
復活した雄二がタマ姉の肩越しからこちらを覗き込もうとしたが、そこにノールックでタマ姉の目突きが繰り出される。
プス
「うぎゃあぁあああっ! 目がぁ〜目がぁ〜!」
それがモロに命中したのか床をのたうち回る雄二。……む、惨い。まあ雄二はこの際置いておくとして
「一応、パッドらしいんだけど……」
そんな俺の回答を補足するように、今まで成り行きを見ていたまーりゃん先輩が説明を加える。
「どう? 女体の研究に命を捧げた技術開発者集団、来栖川エレクトロニクスが、メイドロボで培った技術を惜しみなく
投入した最新型のパッドは。まあ、あまりにリアル過ぎて装着していない状態だと、まるで乳房周辺だけ切り取った
みたいでちょっとキモイんだけどな」
「メイドロボのことはよく知らないけど最新の技術って凄いのね。じーっと目を凝らさないと地肌との境目が分からないだなんて」
「うわ〜、本物の胸にしか見えないよ。いいなぁ〜、いいなぁ〜、タカくん」
「……」
「久寿川さん、興味があれば触ってみたら?」
そんな二人の盛況ぶりから、今まで遠巻きに様子を見つめていた久寿川先輩も興味を持ったらしく、それに目ざとく気付いた
タマ姉が先輩に声をかける。
501名無しさんだよもん:2007/09/24(月) 11:35:20 ID:4I3oT0+b0
支援
502学食に行こう第六話 13/15:2007/09/24(月) 11:36:07 ID:xFypqwo20
「河野さん、いいの?」
まさかこのみやタマ姉にOKを出しておいて、先輩だけ断るわけにもいくまい。
「ええ、いいですよ。どうぞ先輩」
「ありがとう。じゃあ、触らせてもらうわね」
そんな俺の返事に先輩は少し嬉しそうな表情を浮かべ、席を譲ったタマ姉に変わり、おずおずと手を伸ばしてくる。
フニュ
「……凄い。確かにこの肌触りとか本物としか思えないわ」
驚きの声をあげる久寿川先輩。それとは別に、このみはさっきから熱に浮かされた様に、もう片方の胸をモミモミし続けている。
そんな二人を正面から見据えるのが何故か気恥ずかしくなり視線を逸らすように天を仰ぐと、いつの間にか背後に回り込んでいた
タマ姉と目が合う。……何か嫌な予感が。
「えーっと、どうしたのかなタマ姉?」
「いやね、ちょっと気になったんだけど、タカ坊、下の方はどうなってるの?」
……やっぱりそのツッコミが入ったか。
「そ、それは……」
「それは?」
「うふ♪ それは禁則事項です(はあと)」
「何が禁則事項です(はあと)よ。ほら、さっさと見せなさい!」
「いやあぁああっ、スカート捲っちゃだめえぇええ!」
ガラッ
「あの〜失礼しま……あひぃあああ!?」
タマ姉が俺のスカートに手を掛けた瞬間、扉の方から悲鳴が上がる。だ、誰だ? よりにもよってこんな時に入ってきたのは。
慌てて扉に視線を向けると、そこに立ち尽くしていたのは、こういった間の悪い状況で抜群のエンカウント率を誇る、いいんちょこと
小牧愛佳その人だった。まあ小牧のことだから事前にノックくらいしていたんだろうけど、全員が夢中で気付かなければ意味はない。
そして小牧の眼前に写るのは、さらけ出された胸を揉みしだいている久寿川先輩とこのみ。そして背後からスカートを
捲り上げようとするタマ姉とそれに必死で抵抗する俺の姿。……どう見てもレズ真っ最中です。本当にありがとうございました。
「あ、あ、あ、あわわ」
扉の前であわあわ言ってる小牧に何か声をかけなければとは思うものの、この状況でどんなフォローを入れれば
いいのか妙案が思い浮かばない。それは久寿川先輩やタマ姉も同様らしく、引きつった表情で口を噤んだままだ。
503学食に行こう第六話 14/15:2007/09/24(月) 11:38:09 ID:xFypqwo20
そんな静けさに満ちていながらも一触即発のふいんき(←なぜか変換できない)の中、まーりゃん先輩が小牧にずいっと一歩近づく。
なにか起死回生の策があるのか? 皆の注目が集まる中、まーりゃん先輩はおもむろに制服のファスナーを下ろしながら一言。

「やらないか」

「ひっ!? ひぃいやあぁああああああああああああああああ〜〜!!」
パタパタパタパタ…ベシャ…パタパタパタパタ……
普段の小牧からは想像できない迅速さでその足音が遠ざかっていく。とはいえ途中慌てて転んだような、ベシャという
音が聞こえたのが、小牧らしいといえばらしいけど。
「ちぇ、なんで逃げちゃうのさ。俺はノンケだってかまわないで食っちまう人間なんだぜって言いたかったのに。って、あうっ」
「フォローを入れなきゃいけない場面で、トドメを刺してどうするんですか!」
……ああ、急場の出来事とはいえ、この先輩に任せたのがそもそもの間違いだった。
だが過ぎてしまったことをとやかく言っても仕方がない。これからどうすべきかを考えないと。
「……」
部屋がシンと静まり返る。あいにくと俺には、今更小牧にどんなフォローを入れればいいのか検討もつかない。
けど幸いにも生徒会には久寿川先輩とタマ姉、そんな学園でも指折りの人材が二人も揃っている。
二人なら……二人ならきっと何とかしてくれる。そんな静寂に満ちた生徒会室で、第一声を発したのは久寿川先輩だった。
「そ、そろそろ帰りましょうか?」
ズルッ
「そ、そうね。タカ坊、変な噂が立たないよう小牧さんにフォロー宜しくね」
「ちょっと待った。小牧をそのままにしておいて良いんですか? タマ姉もさらっと重要なことを言ったまま
撤収の準備に入らないでよ!」
つうか学園屈指のブレインが出した結論が、問題の先送りと丸投げってのはどういうことよ?
「けど今追いかけたところで、何の策もなければ更に状況を悪化させるだけだし、むしろ時間を置いたほうが
小牧さんも落ち着くと思うの。幸いにも彼女は辺りかまわず吹聴して回るような人ではないから」
クラスの委員長として生徒会に関わりのあることから、それなりに面識のある小牧の人となりを考慮にしたうえでの
久寿川先輩の意見。まあ、下手に藪をつつくのではなく、様子見するという理屈は分からなくはないけど……
504学食に行こう第六話 15/15:2007/09/24(月) 11:40:11 ID:xFypqwo20
「けどそれにしたって何もしないというのも危険じゃないですか?」
「だからタカ坊に頼んでるのよ。小牧さんの様子を伺いながら、それに応じて即座にフォローを入れられるのは、
同じクラスのあなたにしか出来ないんだから」
「……いや、同じクラスっていうことなら、雄二だってそうなんだけど」
「雄二じゃ当てにならないからタカ坊に言っているんじゃない」
溜息を吐くタマ姉。その雄二はというと、未だに床で悶えたまま……かと思いきや、ようやく復活したようで
よせばいいのに早速タマ姉に食って掛かる。
「こ、この暴力姉貴。俺を失明させる気かよ? 目突きなんてデンジャーな技使いやがって」
「大袈裟ね。まぶたの上からちょんと突いただけでしょ? 本当に失明させるつもりだったらしっかり抉ってるわよ」
「え、えぐ!?」
ナチュラルに物騒なことを言い出すタマ姉に、食って掛かった勢いはどこへやら、既に及び腰の雄二。
「それに名前を呼ばれただけで鼻血を出してたあなたが、あんな刺激的なものを見たら大変だと思って咄嗟に対応して
あげたんじゃない。それなのに感謝するどころか逆に食って掛かるだなんて。……弟の身を案じる優しい姉心を
解せないような愚弟には、少しお灸が必要かしらね」
「お、お姉様、私が悪うございました。だ、だからやめ、ぎゃああああ、割れる割れる割れる割れる、割、れ、る、わ……れ……」
「まあそういう事だからタカ坊お願いね。勿論私達も色々考えてみるから」
「さ、サー、イエッサー」
ビクンビクンと痙攣している雄二を掴んだまま微笑むタマ姉に、それ以外の返事をすることが出来ようか? いや、出来まい。
ただ、そうはいっても女装に続いての新たな頭痛のタネに頭を抱えたくなる。そんな現実から目を背けるように
窓の方へ目を向けると、いつの間にか外は綺麗な茜色に染まっていた。
505名無しさんだよもん:2007/09/24(月) 11:42:09 ID:xFypqwo20
以上、第六話投下させていただきました。支援有難うございます。 
ちなみに今回出てきたパッドにつきましては、ゲーム中にそんなものは出てこないわけですが、
あれだけ人間そっくりのメイドロボがいる以上、そんなものが有ってもおかしくないんじゃないかと
いうことで捏造してみました。
しかし、毎日のようにSSが投下される、最近の盛況ぶりは嬉しい限りですね。
506見習い氷:2007/09/24(月) 13:04:57 ID:3V4EAmjWO
>>505
乙です。

うーやばいよー話のネタがないよーw
507名無しさんだよもん:2007/09/24(月) 13:30:00 ID:4I3oT0+b0
>ちなみに今回出てきたパッドにつきましては、ゲーム中にそんなものは出てこないわけですが、
>あれだけ人間そっくりのメイドロボがいる以上、そんなものが有ってもおかしくないんじゃないかと

そのうちメイドロボならぬ、美男子的な執事ロボも開発されたりして・・・
508名無しさんだよもん:2007/09/24(月) 15:17:49 ID:9aiXCsGg0
>>505
笑わせてもらいましたwこういう笑えるのが書けるって凄いなー
509物書き修行中:2007/09/24(月) 18:33:26 ID:DQQPXfyz0
>>504
乙です
相変わらずのテンポのよさとキャラの動きで、読んでて単純に楽しくなるSSでした
ご馳走様です

>>487 >>506
締め切りがあるわけではないのでゆっくり考えては?
ネタ出しの秘訣をアドバイスできると良いんですが、漏れも思いつきに近いんで…

それと5.5話の予告じゃなくて5.5話「次回予告」ってタイトルですんで
5.5話の本編はありませんよw
510名無しさんだよもん:2007/09/24(月) 22:01:07 ID:no/2AHDx0
>505
乙。お値段はともかく、存在は間違いないだろうから捏造GJ(w <パッド
盛況ぶりには、貴公も貢献しているわけですから引き続きガンバです
>506
好きなペースで書けるのがSSの利点なわけで、思いついたら書けばいいっすよ
511505:2007/09/25(火) 01:42:53 ID:UeGdE9xQ0
レスありがとうございます。
今回は結構長くなってしまった為、文字数制限ギリギリで区切ったのですが、
ここまで文字みっしりだと、傍目から見て読む気が失せるんじゃないかと
投下中に不安になりましたが、読んでいただき幸いです。

>>509
こちらこそ毎回楽しませてもらってます。修学旅行編、執筆頑張って下さい。

>>506
ゲームの方を無くしてしまわれたようですが、やっぱり、どうにか探し出して
ゲームを再プレイするといいんじゃないですかね? ネタの発掘だけでなく
各キャラの台詞回しも再確認出来るしで、一石二鳥だと思います。
512名無しさんだよもん:2007/09/25(火) 19:49:21 ID:iDDXF6WVO
>>511
文中のなぜか変換できないというのは仕様じゃないですよね。

ふいんき→ふんいき(雰囲気) です。まあ間違えやすいですが
513名無しさんだよもん:2007/09/25(火) 19:58:17 ID:gTcTnm/k0
514名無しさんだよもん:2007/09/25(火) 20:25:10 ID:Rxi96eh+0
ベタすぎて故意か天然か理解できないほどがいしゅつ(←何故か変換できない)


と思ったら最近のATOKはふいんきもがいしゅつも変換してくれるのねw
515名無しさんだよもん:2007/09/25(火) 21:23:01 ID:dhrF1A5x0
辞書に登録されてりゃ出る罠

まあ、本気で読み方間違えてる奴は(←なぜか変換できない)とは注釈はつけない罠
それが正しいと思ってるんだから。
516名無しさんだよもん:2007/09/27(木) 00:17:51 ID:ant3CwQI0
書庫を見てみると、各キャラごとに作品数のバラつきがあったりするけど
環あたりが意外に少なかったりして、必ずしも人気順ではないところが
結構興味深いね。AD発売後はどうなるかな?
517名無しさんだよもん:2007/09/27(木) 09:45:41 ID:gkzUFioX0
タマ姉は自分がメインになるとダメになる人だから。
518見習い氷:2007/09/27(木) 23:51:55 ID:YOjQIec7O
確かにタマ姉ってメインになると性格変わる気がしますね。
そのせいでタマ姉らしくない雰囲気が生まれてしまうのはしょうがないか。

次はタマ姉の予定ですが少し苦戦しそう…。
いまちょっとテスト前なので、新作はしばしお待ちを。
519名無しさんだよもん:2007/09/28(金) 02:17:38 ID:fcghceof0
ヤンデレSSってないかな?
イルファさんメインで、「瑠璃ちゃん解体新書」 とか
このみメインで、「ひぐらしの鳴くこのみ」 とか
520名無しさんだよもん:2007/09/28(金) 03:34:14 ID:0rhfNLYb0
スクイズ厨はどこもかしこもうざいな…
521名無しさんだよもん:2007/09/28(金) 06:05:17 ID:gee/sCi30
別にヤンデレ属性を否定するつもりは無いが、原作でそんな要素が無いキャラを
わざわざ病ませて楽しむような無理矢理な真似は正直勘弁して欲しい。
TH2にヤンデレ要素のあるキャラなんて居ねえだろ。
もうちょっと詳しく言うなら、例え病んでも自分を責めるばかりで
外に向けて発散するようなキャラが居ないと言うべきか。
522名無しさんだよもん:2007/09/28(金) 06:14:06 ID:fY+wKDyW0
ないかな?って訊かれてんだから「あるよ」ってだけ答えときゃいいのに
523名無しさんだよもん:2007/09/28(金) 08:38:13 ID:z4gAPZ0M0
あるなら、具体例も教えてやれよ。
俺は知らんけど。
524名無しさんだよもん:2007/09/28(金) 15:01:47 ID:3ukJpXnW0
精神的にぶっ壊れたささらが、妄想の世界で貴明に抱かれて
実際は貴明はこのみとやってて、ささらのは妄想だって説明したら
ささらが貴明と、かばったこのみをナイフで刺して、その後自分を刺して死んだ。

っていうSSなら知ってるよ。
525名無しさんだよもん:2007/09/28(金) 15:19:36 ID:KNG44Ozg0
このみのなく頃にとか、りゅうおうたん保管庫とか、SS書庫のこのみの項とか見ると、
SSも探せば駄作が腐るほどありそうなんだがな<黒このみ
526スイーツ・トラブル 1/6:2007/09/28(金) 22:42:17 ID:nksN8nKY0
 それはある日の小牧家での出来事。
「あれぇ…無いなぁ…」
「お姉ちゃん、何やってるの?」
 キッチンに足を踏み入れた郁乃は、真剣にテーブルの下を覗き込んでいる姉の姿を
見かけて、そんな言葉をかけた。


    スイーツ・トラブル


「あ、郁乃。ケーキの箱知らない?…たしかこの辺に置いたと思ったんだけど。」
 そう言いながら愛佳は小さな箱をテーブルの上に身振りで描いて見せた。
 だが学校から帰ってきてから今の今まで部屋で読書に耽っていた郁乃が知るわけもなく、
自他共に認めるツンデレ娘である郁乃はいつも通りそっけない返事で返した。
「そんなの知らないわよ。…それよりお腹すいたんだけど。」
「ごめんねぇ…とりあえず、たかあきくんに貰ったクッキーでも食べてて。」
 そう言って愛佳はダイニングテーブルの上に載っていたクッキーの丸い缶を指した。
 外国の有名な老舗菓子店の高級品と思われるそのクッキーは、傍に包み紙と外箱が
あって、今出したばかりといわんばかりの状態だった。
 郁乃が缶をの蓋をあけると中には香ばしい香りを放つ様々なクッキーが納まっていた。
「これどうしたの?たかあきの奴外国に行ってた…わけないわね。」
「外国のご両親が送ってきたんだって。この間たかあきくんの家に遊びに行ってた時にね、
 偶然ご両親からお電話がかかってきて…たかあきくんがあたしのこと紹介してくれて。
 そしたらぁ、たかあきくんのお父さんに、息子をよろしくって言われちゃった。」
「あーはいはい、惚気はいいから。」
 夢見心地で惚気始めた愛佳を生暖かい目で見ながら郁乃は1枚クッキーを口に運ぶ。
 濃厚なバターの香りが口いっぱいに広がってかなり旨い。
「それでぇ、たかあきくんのご両親があたしにって、送ってくれたらしいの。」
「良かったわね、ついに親公認じゃない。…で、晩御飯はいつになるの?」
 惚気をあっさりと受け流しつつ郁乃は話を本題に戻した。
527スイーツ・トラブル 2/6:2007/09/28(金) 22:43:13 ID:nksN8nKY0

 小牧家は親が共働きの関係で晩御飯は愛佳の担当になることが多い。
 そして、郁乃は少し前まで病人ではあったものの、姉に似て健啖家だった。
 ぶっちゃけ、郁乃にとっては腹の足しにもならない惚気話よりも夕食の献立のほうが
重要だった。

「郁乃、そんなにお腹すいたの?…もしかして。」
「…何よその目。何か言いたいことでもあるの?」
「郁乃…お姉ちゃん怒らないから、正直に言ってほしいなぁ。」
「…なに、その子供を諭すような物言いは。」
 突然変わった姉の様子に、郁乃は怪訝な表情を浮かべた。
「郁乃…あたしの買ってきたケーキ…お腹がすいて食べちゃったんじゃない?」
「はぁ?」
 郁乃は自分が姉のケーキをつまみ食いした犯人と疑われているらしいことに、思わず
むっとしながら反論した。
「なんでお姉ちゃんのケーキをあたしが食べるのよ。」
「だって、お腹すいてたんでしょ?お腹がすくのは健康な証拠で、郁乃にとっては良い
 ことなんだから、正直に行ってくれればお姉ちゃん怒らないよ?」
「だからあたしは食べてない!大体なんであたしがこそこそつまみ食いなんてしなきゃ
 ならないのよ。つまみ食いはお姉ちゃんの得意技でしょ。」
「あ、あたしはつまみ食いなんてしないよぉ。」

 売り言葉に買い言葉。ほのぼのした姉妹の会話から一転、言い争いに発展した。
528スイーツ・トラブル 3/6:2007/09/28(金) 22:44:14 ID:nksN8nKY0
「嘘おっしゃい。この間だってあたしが取っておいたプリン食べちゃったでしょ。」
「あ、あれは…郁乃が食べないのかと思って…賞味期限ぎりぎりだったしぃ。」
「やっぱりあれ食べたのお姉ちゃんだったのね。」
「う…そ、それはそれ、これはこれ、郁乃だってケーキ食べたんでしょ。」
「だから食べてないっての。…姉はどうしてもあたしをつまみ食いの犯人にしたい
 のね。」
「だって、郁乃が正直に言ってくれないから…今、家にはあたしと郁乃しかいないんだし、
 あたしは食べてないんだから郁乃しかいないじゃない。」
「もういいわ、あたしが何言っても聞く気無いんでしょ。…さよなら。しばらく家には
 帰らないから。」
「い、郁乃!」
 度々の入退院生活のおかげで手慣れた手際で荷物をまとめると、郁乃はあっさりと家出
した。

                   −

「というわけで、姉と喧嘩して家出してきたから。しばらくよろしく。」
「なんでウチに逃げてくるんだ。」
 少しも悪びれることもなく堂々と言い放った郁乃を前にして貴明は頭を抱えた。

 家でくつろいでいた貴明が来客のチャイムで玄関を開けたのは、すっかり暗くなった
夕食時の話である。
 何を食べようかと頭を悩ませつつドアを開けた貴明は、玄関先に立っていた郁乃の姿に
驚いた。
 そして郁乃はというと、驚いて停止状態の貴明に一方的に事情を説明し、家主の意向を
差し置いて勝手にあがりこんで、リビングでくつろいでいた。
529スイーツ・トラブル 4/6:2007/09/28(金) 22:45:09 ID:nksN8nKY0
「ところで、何か食べるものない?あたし晩御飯食べないで出てきちゃったから、お腹
 ペコペコなのよね。」
「いや、俺もこれから晩飯なんだけど…って、本気で家に泊まるつもりか?」
「悪い?どうせ貴明しか居ないんでしょ。あたしが泊まるぐらいどうって事無いじゃ
 ない。」
「いや、年頃の女の子が一人住まいの男の家に泊まるとか駄目だろうが。」
 まるで自分の家で寝る事の何が悪いといわんばかりの口調に貴明が反論する。
 だが郁乃は少しも心配した様子もなく答えた。
「それなら大丈夫よ。あんたウチの親にはかなり信頼されてるから。それとも、あんた
 女なら見境無しに襲うような節操無しなの?もしかして姉妹丼やって見たいとか…ああ、
 やだやだ、男って女を性欲の対象としてしか見られないのかしら。」
「人を色魔みたいに言うなよ。」
 貴明がげんなりしながら反論すると、郁乃はニヤニヤしながら貴明に言った。
「姉とはさんざ乳繰り合ってるでしょう。前に姉の太股の内側にキスマーク付いてたの
 知ってるわよ。あんな場所についてたらサカってますって言ってるようなもんじゃ
 ない。」
「うっ…いや、アレは…」
 征服欲に駆られて愛佳の白い内腿に付けたキスマークのことを思い出し、貴明は言葉に
詰まった。
「ま、姉に仕返しするためにあんたを誘惑して寝取るってのも手よね…どう?やって
 みる。」
 郁乃がニヤニヤしながら、しなを作って見せた。
 しかし、いい加減うんざりしていた貴明はその誘いにため息で返した。
「アホか。そんなことするかよ。お前はこのみと同じで俺に取っちゃ妹みたいなもので、
 恋愛対象じゃない。」
「ま、そうよね。将来姉と結婚したら義妹になるかもしれない相手に手を出すわけには
 行かないわよねぇ。」
530スイーツ・トラブル 5/6:2007/09/28(金) 22:46:00 ID:nksN8nKY0
「…う、五月蝿い。」
「ま、からかうのはこれくらいにして…それにしてもお腹空いたぁ…」
 貴明を弄るのにも飽きた郁乃はそう言いながらお腹を押さえた。タイミングよく、
きゅう、とかわいい音がお腹のあたりから聞こえてきた。
「そんなに腹減ってるのかよ。…食いしん坊なのは愛佳と一緒か。」
「うっさい。」
「…そういえば。」
 貴明は何か思い出したのか、キッチンに引っ込むと冷蔵庫をあさり始めた。
「何やってるのよ。」
「いや、愛佳に貰ったケーキがあったなと思って。とりあえず食うだろ?」
「…ケーキ?」
 妙な符合を見せる単語の登場に、郁乃は引っ掛かりを感じて貴明に問いただしてみた。
「それいつ姉から貰ったの?」
「今日うちに来たときに持ってきてくれたんだ。親が送ってきたクッキーの包みを渡した
 ら、愛佳の奴夢見心地で大事そうに抱えて帰っていったんだけど、代わりにケーキ置い
 ていったんだ。」
「…あんた、あたしのさっきの説明聞いてたわよね。」
「ああ…それがどうかしたのか…あれ?ケーキ?」
「…あんたたちは…ばかっぷるじゃなくて真性のバカよ!」
 激昂した郁乃の拳が貴明の横っ面に炸裂した。

                   −
531スイーツ・トラブル 6/6:2007/09/28(金) 22:46:56 ID:nksN8nKY0
「しかし、グーで殴ることないだろ。グーで。」
 貴明は張られたシップの上から右頬を撫でながら、熱心にケーキを口に運んでいる郁乃
抗議した。シップの下には青黒くくっきりと郁乃の小さな拳の跡が付いている。

 ここは女の子の間ではケーキが美味しいことで有名なカフェである。
 貴明をノックアウトした後、郁乃がかけた電話によって愛佳は自分の色ボケによるポカ
ミスを知ることになり、あらぬ疑いをかけてしまった郁乃に平謝りすることとなった。
 そして、そのお詫びとして郁乃から提示された条件が、このカフェでのケーキ食べ放題
である。
 言っておくが、このカフェのメニューにはケーキ食べ放題などない。郁乃の一人食べ
放題であり、その代金は愛佳の懐からまかなわれるのであり、そのあたりが愛佳に対する
罰なのである。

「ねえ、郁乃ぉ…お腹壊すよ?少し頼むの控えたら…
 学校帰りにカフェに直行し、メニューにあるケーキを片っ端から頼んでは食べ始めた
郁乃に、愛佳は心配そうに声をかけた。半分は言葉どおり郁乃の体を心配してのものだが、
残り半分はケーキを食べる郁乃への羨ましさと自分の懐を心配してのことである。
「大丈夫よ。お姉ちゃんが自分で言ってたでしょう。あたしはのお姉ちゃんの買ってきた
 ケーキをこっそりつまみ食いするような食いしん坊なんだって。…あ、すいませーん、
 この「秋の特選フルーツショート」と「新栗のモンブラン」追加で。」
「い、郁乃ぉ〜〜〜〜」
「…諦めなよ。今回は愛佳が悪い。」
「たかあきくんの意地悪ぅ〜」
 すでに半べそ状態の愛佳の横で、ケーキを頬張る郁乃は上機嫌だった。

  ×愛佳−郁乃○ 決まり手:うっかり
532物書き修行中:2007/09/28(金) 22:58:51 ID:nksN8nKY0
流れを無視して投下してみまつた
小牧姉妹物ですが、久しぶりに3人称で書いたら何かうまくかけないYo(´・ω・`)
困ったもんだ

>>517
まあ、ゲームをやってればわかる話だけど、タマ姉は実は臆病者だからねぇ
普段は面倒見が良い姉御肌だけど、実際のところ貴明に対しては
極端に臆病で小心者という側面があるから。
だから貴明がタマ姉に好きだといったとたんに、3点フルコースサービスで
貴明を逃げられないようにし、さらに自分の家に囲い込んでこのみの手からも
遠ざけるなど、あの手この手で貴明をがんじがらめにしてしまうという…

キャラとしてキライというわけではないけど、個人的にはTH2の中では
実際に居たら付き合いたくないヒロインのトップかもしれん。
533もってけ大三元 ◆BZe2SoTGBo :2007/09/29(土) 01:56:54 ID:H7dtdHJhP
決まり手吹いたwwwww
534名無しさんだよもん:2007/09/29(土) 14:26:31 ID:900Qqm7m0
いい決まり手じゃない!
535名無しさんだよもん:2007/09/29(土) 15:29:25 ID:29fppryL0
ナイス決まり手!
作者さんお疲れ様です。






関係ないけど、今さっきようやく「河野家〜」を読み終えたけど、すごかったな。
536見習い氷:2007/09/29(土) 16:28:45 ID:FP3ybtutO
決まり手:うっかり
うははw
毎度ながら乙です。

雰囲気掴むためにXRATEDを、文章読むのに「半分の月が昇る空」を借りました。
テスト中なのでまだ手をつけてませんが、それぞれから学び、次作を投稿したいと思います。
537名無しさんだよもん:2007/09/29(土) 16:35:38 ID:vKGf8YTo0
半月は…やめといた方が……
538名無しさんだよもん:2007/09/29(土) 20:23:45 ID:4LoTdYoS0
半月はハルヒやシャナ以上に文が下手だからな
読むなら狼かミミズクくらいにした方がいい
539物書き修行中:2007/09/29(土) 21:28:02 ID:Y1Gauv0T0
決まり手の一行は、何か締りが悪いので最後に1行付け足しただけ
だったんですが、何か予想外に受けてるw

「半分の月が昇る空」というのがどういう話かは知らないんですが、
文章を読んで血肉とするという意味ではラノべは向いてないなぁ、
と30代のオサーンのワシは思ったりします。

理由は色々ありますが、単純に書き手のスキルが駄目な場合もあるし、
人によっては独特の書き方をする人もいるので。
個人的にラノべ自体は好きなんですけどね。さくさく読めるし。

漏れがラノベの作家でうまいなぁと思った人は賀東招二かなぁ。
世界観の作り方の上手さとか、設定を巧みに利用した物語の組み立ての
上手さとかが企画上がりの人らしくてラノベにしてはすごく密度の高い話が
かける人かなと思ってたりします。
まあ、この辺はものすごく個人的見解なので。そうじゃねえって人も居ると思います。

ところで、TH2のOVA第3話見たんですが、なんかまーりゃん先輩が傍若無人な人を
通り越してはた迷惑な痛い人になってるのはどうだろう…
それに時々作画がいい加減なところがあるのが気になる。
前2作が良かっただけに色々がっかり感が拭えない…
540名無しさんだよもん:2007/09/29(土) 21:35:11 ID:vKGf8YTo0
プロとして下手っていうよりアマチュアレベル以下だよなあれ
541名無しさんだよもん:2007/09/29(土) 23:11:09 ID:39+F2LR60
ラノベは文章を読むというよりも話を楽しむことに重きを置いてるからね。
後は読み易さか。
だから単純に文章レベルを上げたいならラノベはあまり向かないと思う。

とはいえ>>539が上げた賀東招二とか、個人的には秋田禎信なんかは上手い作家だと思う。
ただ文章に意識向けすぎると雰囲気が硬くなり過ぎることもあるし、そこら辺は一長一短だよね。
542名無しさんだよもん:2007/09/30(日) 01:21:07 ID:q/ioBco60
半月はやったモン勝ちのネタを書いたラノベ。
似たようなの書いたら間違いなく外れる。

…いや、半月好きで全巻持ってますよ?
543名無しさんだよもん:2007/09/30(日) 03:02:18 ID:2o6GpVfeO
あれ、書き込んでないのにオレがいる?
それはそれとして・・・

何というか半月は文の書き方が良く言えば超主観的、悪く言えばそれがダメなとことなるとこ
話自体は面白いとは思うけど、
あの文の書き方を真似るなら東鳩2をもう一度やったほうがいいんじゃないかと
544名無しさんだよもん:2007/09/30(日) 09:06:00 ID:+vjCACQA0
超ご都合主義な話の流れ
存在する意味が分からないキャラクター群

あれを手本にしてSS書いたらダメSSの典型が書けるだろうと思うのは俺だけか
545名無しさんだよもん:2007/09/30(日) 10:30:40 ID:+MNbdZr+0
なんかその半月とか言うラノベ叩きの流れになるならそろそろやめとけ
546名無しさんだよもん:2007/09/30(日) 12:19:41 ID:RCLfzqVC0
>>393
指摘thx
調べたところ、ほかにも何作か保管漏れていたようで
早速修正しますたm(__)m
547名無しさんだよもん:2007/09/30(日) 18:43:53 ID:EgLodRIP0
>546
更新乙!
548物書き修行中:2007/09/30(日) 21:16:04 ID:S7xK473o0
>>546
対応ありがとうございます&更新乙ですm(__)m
549したいわけ 由真編 1/5:2007/10/01(月) 22:46:19 ID:YevblON70
「ふふーん…いつもいつも好き勝手してくれてたからね…覚悟しなさいたかあき。」
 俺を見下ろした由真が不敵に笑った。
 一方俺はというと、自分の部屋の自分のベッドに上で、すっぽんぽんの状態で両手両足
を縛られて貼り付け状態という、これ何て○ランス書院?と言わんばかりの状態だった。


                   −


 時間は少しさかのぼる。
 俺と由真が恋人同士の間柄となってからも、やることはあまり変わらなかった。増えた
のはキスしたり文字通りヤる事ぐらいで、大部分はデートと称して二人で遊びに行ったり、
二人で勝負したり、まあそんな感じだ。

 今日も今日とて放課後に2人で繰り出したのはいつものゲーセン。いつもの勝負だ。
「ぬぐぐぐぐ…次はこれで勝負よっ。」
 格ゲーで俺が圧勝したために、由真は別のゲームでの勝負を提案した。それは、格ゲー
と並んで俺たちの間では因縁の勝負となっている脱衣麻雀だ。
 最初にやった時は由真が負けてゲーセンで本当に脱衣しそうになって止めたのだが、
恋人同士になってからの対戦では、やる事はすでにやってる仲なので俺の家で存分に脱衣
してもらい、その後美味しくいただくという流れが出来ていた。
 そう言うご褒美もあって、今のところ俺の全勝が続いている。
 そしてその雪辱を果たさんと由真は俺に挑んできたのだ。
「ふふーん、解ってるだろうけど、負けたらいつものアレだからな。」
「くっ…このむっつりスケベ。今日こそは勝って復讐するのよ。」
 俺たちは向かい合わせの筐体の前に着席。そしてゲーム開始。だがしかし、
550したいわけ 由真編 2/5:2007/10/01(月) 22:47:03 ID:YevblON70

「あ、天和」
「え?」

「…あ、それあたり。」
「は?」

「…あ、ツモ。」
「…あ、ありえん。」

 どういうわけだか、いつもと立場が逆転して由真は高額手で上がりまくり、あっという
間に俺はマイナス転落してあっさり負けたのだった。
「さて、たかあき。今日はあたしの言うことを聞いてもらうわよ。」


                   −


「どう?今の気分は。」
「…おまえ、SM趣味だったのか。」
「違うわよっ!」
「とはいえ…いつもと立場が逆で俺が自由を奪われてる以外は一緒じゃないのかこれ?」
 客観的に見るとかなり情けない状態ではあるが、まあナニをいたそうとしている部分で
は変わりない。
「そう言っていられるのも今のうちよ。」
 由真はにやっと笑うと、自分のセーラーに手をかけた。
 1枚ずつはらりはらりと脱ぎ捨て、そして下着も脱ぎ去って由真も裸になった。
551したいわけ 由真編 3/5:2007/10/01(月) 22:47:45 ID:YevblON70
 活発な由真らしいメリハリの利いたプロポーションを目にすると、思わず俺の「バール
のようなもの」もいきり立った。
「勃ったわね。」
 そう言いながら由真が取り出したものは、
「…輪ゴム?」
「そうよ。これをこうして…」
 由真は輪ゴムを2重の輪にすると、はちきれんばかりに膨張しているマイサンの根元に
はめた。
「うあ、イテ、痛いって。」
「この状態でかわいがってあげるわ。イきたくてもイけない状態でね。」
「う、ちょ、や、やめろ。」
「じゃあ、行くわよ。…む…ちゅ。」

それからの数時間は天国のような地獄といっても良かっただろう。
「ふ…あ…ん…ふっ、はっ、はっ」
由真は口、胸、素股ときて、現在騎乗位で俺を攻め立てている。
「く…輪ゴム外してくれ…ち、千切れる…」
「ふっ…駄目…は、はっ…ま、参ったって…言っても…許してあげない…ん、あ」
 由真の生の感触が俺のナニをこすりあげて物理的刺激を与え続け、目の前で弾む由真の
肉体…特に、腰を振るたびにたゆんたゆんと揺れるバストと、快感で蕩けた淫靡な由真の
表情が…視覚的刺激を与えて俺に性的興奮を与え続けている。
 そして性的興奮にあわせてナニが勃起の度合いを強め、それに従い体積が増すのだが、
それに伴って根元にはめられた輪ゴムがぎりぎりと食い込んで強烈な痛みを与えてくるの
である。
 おまけにすでに数度絶頂の波が襲ってきていて尿道もパンク寸前である。

 これは…マジで使用不能になるかもしれん。
552したいわけ 由真編 4/5:2007/10/01(月) 22:48:21 ID:YevblON70
 そんな事を思いながら、ナニの痛みとイきそうでイけないその中途半端な快感で意識が
朦朧となり始めていた。
「ん…あ…はん…は…いきそう。」
 由真が何度目かの絶頂を前にフルフルと背筋を振るわせた。
「…う」
 朦朧とした意識の中、俺もまた絶頂を迎えようとしていた。
「ん…はっ、あっ、ああっ」
 由真のアソコが俺のナニを強烈に締め上げた。そのとたん、俺もまた何度目かの絶頂を
迎えた。
「うあっ!」
 溜まりに溜まったものが、今度こそ噴出せんと、今までに無い圧力で押し出された。
 そのとたん、

 ぷちん

「うわぁっ…あ〜〜〜〜〜〜〜」
 俺は体を痙攣させながら、溜まりに溜まっていたありったけの精液を、情けない声と共
に由真の中へとぶちまけた。
「あっ…熱っ…すご…」
 体内に噴出した大量の体液の熱さに由真のうめき声を漏らした。
 まるで魂まで搾り出すかのような長く大量の射精に、俺は意識が朦朧となりながらも、
今まで味わったことも無いようなえもいわれぬ快楽を味わっていた。
「あ…はあっ、あっ、はっ」
 由真もまた、俺の体にしがみついてびくびくと体を震わせながら俺の射精を受け止め
続けた。
553したいわけ 由真編 4/5:2007/10/01(月) 22:49:25 ID:YevblON70

 かなり長い間二人ともぐったりしていたが、先に正気に戻ったのは由真だった。
「な、なんで…なんで出ちゃったのよ。」
「…お前やりすぎだよ。溜めすぎて輪ゴムが圧力に負けて切れたんだ。」
「う、うそ…」
「おかげで出た瞬間は物凄い気持ちよかった…二度とやりたくないけどな。今までで一番
 大量に出たんじゃないかな。」
「あああ…ど、どうするのよ!」
 なぜか由真は慌てふためいていた
「どうするのよ、って…出ちゃったものはしょうがないだろ。」
「今日は危険日なんだってば。それなのにあんなにどばどば出しちゃって。」
「え゛」
 今度は俺があわてる番だった。
「な、なんでコン○ームとか付けなかったんだよ!」
「それじゃ感触が鈍くなってお仕置きにならないでしょ!ううう…出来たら責任とって
 貰うからね。」
「うっ…」
 由真と結婚するのはやぶさかではないが、それは未来の話であって、こんな展開は想定
外だった。

 結局、由真の次の生理が来るまで、毎日戦々恐々としてすごさなければならなかった。
 だけど、その間ウエディングドレスのカタログを見る由真の顔が何処となく嬉しそう
だったのは気のせいではないだろう。
554物書き修行中:2007/10/01(月) 22:54:40 ID:YevblON70
死体分け、もとい、したいわけ由真編でした
一応俺史上最高エロ…かな?

恋愛同盟書かなきゃと思いつつ、書かなきゃと思っているものとは
別のネタがぽんぽん出てくるんですよね、これが。
ところで、昨今の高校の修学旅行って何泊ぐらいの日程なんですかね。
なんせ当方当年とって三十ウン歳なもんで、修学旅行はもう20年近くも
前の話…どなたか知りませんか?
555名無しさんだよもん:2007/10/01(月) 22:54:45 ID:mVdLO+DQ0
支援
556名無しさんだよもん:2007/10/01(月) 22:56:12 ID:mVdLO+DQ0
うお……まだ続くと勘違いしたあげくあとがきの後に支援なんて……
吊ってきます……
557名無しさんだよもん:2007/10/01(月) 23:05:40 ID:XwVqbR4o0
じゃぁ俺も支援
558物書き修行中:2007/10/01(月) 23:12:41 ID:YevblON70
うあ…番号間違ってましたな
最後5/5に書き直すの忘れた

漏れも吊ってくる……
559名無しさんだよもん:2007/10/02(火) 00:29:50 ID:8UBCfsFE0
>>554
私立は知らんが公立はたぶん3,4泊。
560見習い氷:2007/10/02(火) 00:46:20 ID:xTBUCa5GO
私のところ(私立)は3泊4日でしたね。
修学旅行と言うよりは研修旅行でしたが。

やっと試験終わりました。
…結果?
…聞かないでくださいw
さて、これから作っていかねば。
561名無しさんだよもん:2007/10/02(火) 01:02:21 ID:19r2Q61N0
短いな。うち公立だけど、5泊はしたぞ。6泊だったかもしれん。
562名無しさんだよもん:2007/10/02(火) 03:03:29 ID:r4tqgkVdO
俺は公立だったが修学旅行は海外で3泊5日だったぞ
563名無しさんだよもん:2007/10/02(火) 07:26:20 ID:BQwIEH8e0
俺のところは2泊3日だったよ、俺は途中で陸上の試合があったからかえって1泊2日だったけど。
中学と違って高校の修学旅行はしょぼくて、きびしくてつまらなかった・・・orz
564名無しさんだよもん:2007/10/02(火) 18:08:01 ID:jsPbkbLk0
5泊6日 私立高校
565名無しさんだよもん:2007/10/02(火) 20:48:47 ID:P5tYpMMC0
修学旅行なんてなかった。男子校だからどうでもいいけどさ
俺達の前の年までは、移動ホームルームっていう1泊2日のクラス行動があった
566物書き修行中:2007/10/02(火) 21:45:17 ID:/hwNoK/v0
>>559-565
結構色々あって面白いですな
大体間を取って4泊5日ぐらいというところでしょうかね

ちなみに漏れが高校のとき(北海道)はたしか2泊5日で、寝台特急泊が2泊ありました。
(寝台が3段だったのでたぶん「ゆうづる」か「はくつる」)
当時青函トンネル開通直後で、青森まで特別列車でとろとろ走っていったのですが、
トンネルに入った瞬間歓声をあげた覚えがあります。
風景が変わらないので10分ぐらいで飽きましたが。

話が脱線しましたが4泊5日を目安にプロット組んでみる。
当方鉄分高い人間なので飛行機じゃなく列車で組む予定。
567名無しさんだよもん:2007/10/02(火) 22:01:59 ID:pvEVfGW80
関東の公立だったけど6泊7日だったよ。

うちの高校ひどいことに、
京都→沖縄→京都→沖縄→京都→沖縄
と1年ごとに換わるのよ。


もちろん俺らの年は京都でしたがorz
568名無しさんだよもん:2007/10/02(火) 23:32:26 ID:hS2ZUD5o0
お前ら、甘いぜ
俺の高校なんか、修学旅行先がオーストラリアから国外情勢鑑みて北海道に変更だ
まあ、俺の先輩は高校にでかいバッグ運び込む前日にハワイ行き中止されたんだけどな
569563:2007/10/02(火) 23:48:15 ID:BQwIEH8e0
うちの高校(県立)は、修学旅行先が香川と岡山で2泊3日。
さらに新幹線の中ではおしゃべりやトランプ禁止。途中の買い食い禁止。夜中は完全見回り状態で騒げず。
岡山の藩校なんて時間がめちゃくちゃ長く感じたよ。

中学(東京へ修学旅行)では、先輩はサリン事件のおかげで色々大変だったし、
俺たちは国会議事堂に行く朝に、ニュースで「国会に車が突っ込んだ」って放送されたし・・・
上野では外国人に「テレカ?テレカ?」って偽造テレカ売られそうになったし・・・
宿は東大近くにあるぼろい旅館だったし(俺の後輩はTDLのオフィシャルホテルやプリンセスホテルとかだったらしいが)

小学校(伊勢へ修学旅行)は・・・特に問題なかったかな?
570見習い氷:2007/10/03(水) 00:54:16 ID:Q9Dnf9VTO
>>569
それは災難ですね。
せっかくの行事が台無しになるのはある意味思い出に残りますがw

新作とりあえず完成しました。
タマ姉ssです。
また違った設定やオリジナル要素含んでたりするんで、何かありましたら指摘よろしくお願いします。
3日の夜に投稿予定です。
…しばらく日を空けていたから書き方忘れてましたよw
571clover story 1/9:2007/10/03(水) 21:30:17 ID:ZryIK9fl0
四つ葉のクローバーには4つの意味が込められている。

一つは『誠実』
真心がこもっていて,うそ・偽りがないこと。

次に『希望』
将来に対する明るい見通し。

さらに『幸運』
運のよいこと。しあわせ。

そして『愛』
価値あるものを大切にしたいと思う,人間本来の温かい心。

―クローバーで結ばれたとある2人のとある物語―
572clover story 2/9:2007/10/03(水) 21:31:16 ID:ZryIK9fl0
「いい天気ね」
「そうだね」
「気持ちいいわね」
「うん。とても暖かくて眠くなりそう」
「タカ坊。せっかく一緒にいるんだから寝ちゃだめよ」
「わ、わかってるよ、タマ姉」
ついこの間まで咲いていた桜はいつの間にか散り、桜並木は緑の葉をつけていた。
今、俺はタマ姉と一緒に河原に寝そべっていた。
「今日はいい天気ね。そうだ。せっかくだから河原にまで行ってみない?」
貴重な休みである日曜日の朝、タマ姉は突然家にくるなりそう言ってきた。
「いや、今日は遠慮しとくよ。」
正直、今日は家でのんびり過ごしていたかった。
しかし、タマ姉はそう簡単には譲らない。
「ダメよタカ坊。家に籠もってばかりでは体が弱くなるわ。太陽の光を浴びて、健康になるのよ」
「でも…」
「いいから早く着替えなさい。お姉さんが手伝いましょうか?」
「わ、わかったよ。着替えるからちょっと待ってて」
結局俺は、半分脅迫気味に連れ出されたわけだった。
573clover story 3/9:2007/10/03(水) 21:32:24 ID:ZryIK9fl0
「確かに気持ちいいなぁ」
半強制的に外に出されたが、出てみると外は暑すぎず、寒すぎず。
空には雲一つなく、太陽の光を遮るものは何一つ無かった。
太陽の光もまた体をぽかぽかさせ、心地よかった。
「でしょ?小さい頃はよく一緒に外で遊んだものね」
「俺と雄二とこのみはいっつもタマ姉と遊んでたっけな」
「あの頃はまだホントに小さかったわね」
木陰に仰向けに寝ながら昔を懐かしむ俺とタマ姉。

―「タカ坊は、生涯ワタシのことを愛しつづけることを誓います。
もしワタシたちが離ればなれになることになっても、
かならず再会して想いをそいとげることを、ここに誓います」
まだ小さい頃の話。公園で行われた小さな告白。小さな儀式。
まだ小さかった頃の俺には理解できなかった。
返事をすることもできなかった。
それからタマ姉とは離ればなれになった。
しかし、タマ姉はこの春、九条院から帰ってきて、俺の通ってる学園に転校した。
一緒に過ごしてきた日々。
そしてついこの間。
―「タカ坊は、生涯ワタシのことを愛しつづけることを誓います。
もしワタシたちが離ればなれになることになっても、
かならず再会して想いをそいとげることを、ここに誓います」
再び耳にした告白の台詞。
前と違い、声には決意のこもっているように聞こえた。
俺は迷うことなく返事をする。
―「私、河野貴明は、生涯、向坂環のことを愛しつづけることを誓います」
それから俺とタマ姉の関係は幼なじみから恋人となった。
574名無しさんだよもん:2007/10/03(水) 21:33:30 ID:lhPCGzqv0
支援
575clover story 4/9:2007/10/03(水) 21:35:50 ID:ZryIK9fl0
「………ぼ…………と…る?」
「ん?」
「タカ坊?ちゃんと聞いてる?」
「え?ああ。聞いてるよ」
「タカ坊。聞いてなかったって顔にでてるわよ」
どうやら少しの間自分の世界に入り込みすぎていたようだ。
「もう…せっかく話をしてたのに聞いてないなんて。」
「ごめん、少し考え事していて。で、なんだっけ?」
「クローバーよ」
タマ姉が手に1つのクローバーと手にしながら問いかける。
「え?」
「覚えてない?まぁあれの前日の話だから覚えてないのも無理無いかな…」
クローバー?なんだ?しかもあの告白の前日?
「う〜んと…」
ダメだ…全く覚えていない。
「…タカ坊はクローバーに込められた意味って知ってる?」
確か前に調べたことがあったな。
「えっと、『幸運』と『希望』。それから…」
「そう。それに『誠実』と『愛』よ」
「そうそう、それそれ」
「でもね他にもあるのよ?」
「他に?」
あ、クローバーの話、思い出したぞ。
「他の意味はね…」
そうだ。あれは確か…
576clover story 5/9:2007/10/03(水) 21:36:36 ID:ZryIK9fl0
時を遡る。
「みつけたわ!」
「たまおねえちゃんすごおい!」
「おいたかあき!みつけたか?」
「いや、まだ…あ、あった!」
4人の子供が地面を食い入るように目を凝らして何かを探している。
「なかなかないなぁ…四つ葉のクローバー」
きっと一度は体験したことがあるだろう。
幸運の象徴である四つ葉のクローバー。
たくさんの三つ葉の中から稀にある数少ない四つ葉のクローバー。
目を凝らさないと意外と見つけられない四つ葉のクローバー。
4人の子供はその四つ葉のクローバーを探している。
ひょんとしたことで、子供というのは夢中になるもので、日が暮れるまで探し続けていた。
「このみ1つしかみつけられなかった…」
「このみ、がんばったわね」
「おれなんか7つ見つけたぜ!」
「ゆうじ、それ葉をちぎってるだろ!ごまかすなよ!」
…雄二はこのころからこんなだったか。
「ゆうじ!うそはダメよ!」
「アテテテテ!いたい!いたい!」
…タマ姉のアイアンクローもこの頃からか。
「タカ坊ははいくつ見つけた?」
「ぼくは3つ」
「あら、わたしは4つ見つけたわ」
この頃から既にタマ姉は俺たちの上だったな。
何をしてもタマ姉を上回ることは出来なかったな。
577名無しさんだよもん:2007/10/03(水) 21:37:29 ID:1zkoJ+xR0
支援
578clover story 6/9:2007/10/03(水) 21:37:39 ID:ZryIK9fl0
「そっか…タカ坊。これ、あげるわ」
「え?」
突然、タマ姉からクローバーを渡される。
「できれば…大切にしてほしい」
「え?あ。うん」
当時はわからなかった。今考えるとそのときのタマ姉の表情には寂しそうに感じた気がした。
「ゆうじ!帰るわよ!」
「はいはい。またな、たかあき」
「バイバイ、ゆうじ」
「またね!たまおねえちゃん!」
「またね、このみ」
そして、翌日には告白され、返事を聞かぬまま、タマ姉は九条院に行った。
579clover story 7/9:2007/10/03(水) 21:38:54 ID:ZryIK9fl0
「他の意味はね…『私を思いだして』っていう意味があるの」
「『私を思いだして』…か」
そうか。あの時既に、タマ姉はもう会えなくなることわかっていたんだ。
クローバーに込められた意味を知っていて俺にあげたのか。
そしてその翌日にあの告白…。
俺はあの時気づいてやれなかった。タマ姉の気持ちに。
あの時に返事をしていたら。
クローバーの意味を知っていたら。
今の関係が嫌というわけではない。
ただ、今とは違う形でタマ姉と。
そう考えていた。
「それともうひとつあるのよ」
タマ姉の顔に赤みを帯びる。
「『私のものになって』」
「そ、そんな意味があるの?」
なんとなくタマ姉らしい感じがした。
「私もこれに気づいたのは最近なんだけどね。あの頃はまだ幼かったしね」
…小さいときからそんなこと言うようなのは困りものだが。
580clover story 8/9:2007/10/03(水) 21:39:50 ID:ZryIK9fl0
「でも、時間は掛かったけど実現したし」
タマ姉が寄り添ってくる。
あぁ…やわらかい…じゃなくて。
「お、俺は物、なのかな?」
一応聞いてみる。
「ほら、よく聞くじゃない。『俺の物は俺の物。お前の物も俺の物。』って」
…なんというジャイアニズム。
タカアキの目の前が真っ暗に…なる寸前に。
「ふふっ、冗談よ、タカ坊」
本気だったら俺はこの人から一生逃げることは出来ないのだろう。
「タカ坊。好きよ」
突然の告白。さらに近づいてくる。
顔が近い。
いまにもキス出来そうな距離。
「俺も。好きだよ。タマ姉」
自然と重なる唇。
タマ姉が震えているように感じたが、徐々に震えもとれ、唇を甘噛みされる。
なんとなくそういった仕草にホッとしてしまう。
581clover story 9/9:2007/10/03(水) 21:40:27 ID:ZryIK9fl0
その日の午後。
俺とタマ姉で商店街を散策し、とある店で四つ葉のクローバーのデザインをしている指輪を発見した。
内側に字を彫れるらしく、お互いの名前と字を彫ったのを注文し、2人で薬指にはめている。
まるでエンゲージリングのように。

     〜I Love You Forever〜
582名無しさんだよもん:2007/10/03(水) 21:41:56 ID:1zkoJ+xR0
GJ!!
583見習い氷:2007/10/03(水) 21:52:58 ID:ZryIK9fl0
以上、タマ姉SS投稿させていただきました。
今回は小さい頃の4人を登場させてみました。
このみ→まだ小さいから言葉使いに特徴つけるためにひらがな
貴 明→このみよりは年上だが、雄二と区別するために一人称「ぼく」
雄 二→「おれ」正直どうでもよか(ry
タマ姉→漢字も交え普通に
こんな設定でやってみました。
久しぶりだったので粗いとは思いますがご了承を。
設定もオリジナル入ってるかも…。
誤字報告&指摘等ありましたらお願いします。

…次は誰書こうかな。
あと、テンプレの「容量が480k?」で越えてますがどうしたらいいのでしょう?
こういう掲示板使い慣れてないからどうすればいいか。

>>574
>>577
支援どうもです。

>>582
とりあえずGJ
584物書き修行中:2007/10/03(水) 22:39:40 ID:dVatFDxQ0
>>583
乙です
漏れも良く突っ込まれるけど、時間の行き来がある部分がわかりずらいかなと思った
でも全体的にあまあまな感じでいいんじゃないかとオモタ

あと次スレ立てですが、漏れもやったこと無いけど、葉鍵板のページの一番下に
新規スレッド作成ボタンがあるのでそこからやると思われ
でも立てた直後に過疎ったりするといきなり即死したりするんで…
でも何事も経験だからやって見るかのう…
>>1-2のテンプレ張ればいいんだよね?
585物書き修行中:2007/10/03(水) 22:56:27 ID:dVatFDxQ0
立てますた

ToHeart2 SS専用スレ 21
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1191419513/

ついでにテンプレにXRATEDとAnotherDays公式のリンクも足しときました
586名無しさんだよもん:2007/10/04(木) 00:58:48 ID:YVTAVBtd0
>>583
乙。

以下気になった部分の指摘とかなんで、ウザかったらスルーしてくれ
まず、回想部分。>>584も言ってるように、ちょいとわかりづらい
前後一行か二行空けて区別するとか、鉤括弧を二重鉤括弧(『』)にすると少しはわかりやすいかも
あと、やっぱりリズムがちょっと気になる
やっぱり「〜た」で終わる文が多いんで。それと、句読点で区切った文の長さが似通ってる部分が多いのもその一因かと
次に、ダッシュについて。文章作法云々ってわけじゃないけど、ダッシュは「――」みたいな感じで二つ繋げた方がいい
一つだけだと、漢数字の「一」に見えるんでちょいと紛らわしい。それと、『――「』って使わないで、『――』だけでもいいかと
最後にもう一つ。前に「〜いる」を「〜る」って書いてもいい、って言ったのは俺なんだが、ちょいと誤解があるみたいなんで
一人称でも、地の文では「〜いる」って書いた方がいい(場合によっては「〜る」でも可)。俺が言いたかったのは会話文
会話文は話し言葉なんで砕けた感じで書いていいんだけど、描写とか説明を担当している地の文だと砕けた表現はそぐわないんで

まあ、何はともあれ、話の展開としては良くなったかと
最近はすっかり珍しくなった気がするタマ姉小説ってことで楽しめた
文章が読みやすくなればもっと良くなると思うんで、また次回作に期待
587名無しさんだよもん:2007/10/04(木) 05:50:21 ID:NSZuUhJ70
四つ葉のクローバーを渡すっていう遠回しな告白の翌日にリアル告白だと
なんか無理に原作につなげましたって感じの無理矢理感を感じる。
やるなら告白しようと思った理由を追求するから意味があるんじゃないかね
588見習い氷:2007/10/04(木) 11:55:47 ID:eyfHAH5lO
>>584
いい言葉が見つからなくてそのままにしちゃいました。

>>586
書き方すっかり忘れちゃってましたね。
回想と会話文、ナレーションの部分も以降考えさせていただきます。
>>587
設定ミス…ですかね。
cloverの意味を考えるとあの前にとか考えてましたが、ダメでしたね。
589名無しさんだよもん:2007/10/04(木) 14:34:08 ID:cpMCl36/0
1レス目を読んで菜々子ちゃんSSキタコレ!と思った俺は決してロリではない。
590名無しさんだよもん:2007/10/04(木) 18:51:27 ID:Udgf1a+E0
>>558
輪ゴムとかで尿道塞いでても射精はするよ
膀胱に逆流するけどね
591物書き修行中:2007/10/04(木) 20:24:29 ID:75ItoBAN0
>>590
いや、女の体はようけ解らんけど、男の体の方は男30ウン年やってますから
言われなくても知ってますが…輪ゴムでやったことは無いけどね
592名無しさんだよもん:2007/10/05(金) 04:40:15 ID:0PZxgc1O0
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593名無しさんだよもん:2007/10/05(金) 04:41:11 ID:0PZxgc1O0
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594名無しさんだよもん:2007/10/05(金) 04:53:37 ID:0PZxgc1O0
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595名無しさんだよもん:2007/10/05(金) 04:54:51 ID:0PZxgc1O0
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596名無しさんだよもん:2007/10/05(金) 04:55:45 ID:0PZxgc1O0
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597名無しさんだよもん:2007/10/05(金) 04:57:04 ID:0PZxgc1O0
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598名無しさんだよもん:2007/10/05(金) 04:59:39 ID:0PZxgc1O0
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599名無しさんだよもん
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スレ埋めーーーーーーっ! 終わりっ!