薄い壁の向こう側から、雨音と共に声が届く。
『お姉ちゃん、また来るね!』
『はい、ありがとうございました。またのご来場をこころよりお待ちしております』
子どもらしい元気の良い声と、それを包み込むような彼女の優しい声。
以前から何ら変わることのない誰に対しても妙に丁寧な彼女の応対に思わず苦笑しながらも、楽しげに少
年を見送る彼女の姿を想像して微笑ましくも思う。
とりあえずは今日も無事に全投影が終了したようだ。
ドアを閉める音が静まると、程なく彼女がドーム内を片付けているであろう物音だけが聞こえてきた。
俺はベッドとはお世辞にも呼べない寝床から背嚢を腰にあてがって上体を起こし、手元を見つめている。
大腿部を緩やかに覆ったシーツの上にあるのは、机代わりの板と黄ばんだ紙切れ。
右手に握ったペンの先が、その黄色い紙切れの上を何度も行き交う。
「ふう……」
根を詰めていた精神を一気に解放するように、深く息を吐き出す。
それとともに右足があった部分から伝わる、疼くような鈍い痛み。
「まだ少し痛む、か……」
ため息混じりに呟く。
その独り言に呼応するかのような、徐々に俺の方に近づいてくる足音。
俺は足音のする方向へと上体を向ける。
そんな俺の目に入ってきたのは、いつもと変わらぬ屈託ない笑顔。
そして、俺の鼓膜を優しく振るわせる穏やかで温かな言葉の調べ。
「お客さま、ご容態はいかがでしょうか?」
それは、彼女のここ数週間のお決りの切り口上。
「ああ、悪くない」
言葉を発すると同時に、俺は彼女を見つめながら空いている左手を彼女に向けて軽く上げた。
「何を書いてらっしゃるのですか?」
目の前まで来た彼女が、俺の手元に視線を落とす。
「これか?足だ」
「アシ、と申しますと?」
小首を傾げながら問い掛ける。
「義足だ。さすがに一本足ではどこにも行く事が出来ないからな」
彼女に紙切れを見せてやる。
「これが、お客さまの右足になるのですか?」
「ああ、そうだ」
何が面白いのかよく分からないが、しきりにうなずいたり首をひねったりしながらしげしげと黄ばんだ紙切れ
を眺めている。
そこに書かれているのは、ごくシンプルな義足だった。
膝側の受けの部分から一本の棒が剥き出しの骨のように伸び、その先端にはまるで乾パンの親玉のような
緩衝材がくっついている。
受けの部分は『小さいイエナさん』用の軽合金の板からの叩き出し、棒はテント兼ドーム用の軽合金製のH
材、緩衝材は俺の右脚用のブーツの靴底から調達すれば、材料はほぼすべて自前で賄える。
「お客さま、ひとつお聞きしてよろしいでしょうか?」
彼女が紙切れから俺に視線を正し、真面目な顔で聞いてきた。
「何だ?」
「わたしのスペアパーツは、ご使用にならないのですか?」
「お前のか?」
「はい。フィッティングの問題はありますし少々重量はあるかもしれませんが、駆動用の補機類をすべて取
り外せば問題なく義足としての運用が可能と考えます」
確かにそれも考えなかったわけではない。
だが……。
「……お前、一応言っておくが、俺はこれでも男だぞ?」
「はい、もちろん存じ上げております」
満面の笑顔とともに言う。
彼女の言葉を受け、自分の膝下に彼女の二の足がくっついている様を、それを初めて考えた時以来久し
ぶりに想像してみる。
が……。
「……どう考えても様にならんぞ」
「そうなんですか?わたしはそれほどの違和感は感じられないのですが」
俺が二の足を踏んでいるのがよほど不思議なのか、小首を傾げながらきょとんとする。
「とにかく申し出はとてもありがたいが、それは丁重にお断りさせていただく」
「……そうですか、それはとても残念です」
心底残念そうに呟く彼女を見ながら、俺は軽い頭痛に見舞われた。
何が残念なんだろうか?
まあ当初に比べたらこれでも随分マシな方なんだが。
しかし彼女と行動を共にするようになって随分経つが、それでも時折飛び出す彼女の突飛な思考はいま
だに俺の理解の範疇を超越している。
しかしそれをさして問題と思わなくなったのは、俺も変わったからだろう。
そんな他愛もないことを、ふと考えた。
「ところでお前、それは何だ?」
気を取り直して、彼女が左手に持っているものに目を止める。
「これですか?投影を見にいらしたお客様がお忘れになったものです」
言うや彼女は左手の「忘れ物」を俺の前で広げて見せた。
子供用のジャンパー。
化学繊維で出来ていると思われるそれはくすんだ上に繊維が擦り切れているのか、青の胴部とベージュ
の袖がそれそれだんだら模様のようになっている。
至るところにほつれたり鉤裂きになった部分を繕った痕跡。
このジャンパーの持ち主の親が補修したのだろう。
ちょっと見た目には汚い古着だが、持ち主の情が伝わってくるようだった。
「誰のものか分からないのか?」
「はい、ここのところ投影を毎日見に来てくださる男の子のお客様がいらっしゃるのですが、そのお子様が
そのジャンパーを着ていたと記録しています」
「そうか」
「はい、わたしの基本データベース、および蓄積データベースを照合いたしますと、このお客様は明日も
おいでになると思われます。本日はもう遅いですので明日いらっしゃいましたらお渡ししようと考えておりま
す」
ジャンパーを丁寧に畳みながら、彼女が言う。
「そういえば、いつも投影が終わっても最後までいらっしゃるお子様がその子なんですよ」
思い出したように呟き、そしてくすりと微笑む。
そうか、さっき最後まで彼女と話していた男の子か……。
「ところで、ひとつ聞いていいか?」
「はい、なんでしょう?」
「それを見つけたのはいつ頃だ?」
彼女の手できれいに畳まれ、テーブルの上に置かれた「それ」を指差す。
「はい、最終投影が終了しまして、他のお客様方がお帰りになり始めました直後です」
「その子がそのジャンパーを着ていたということは、その前から分かっていたのか?」
「はい。いつもここにいらっしゃる時には着ておりました。わたしはロボットですから覚えておくのは得意な
んです」
言いながら、彼女が少し胸を張ったように見える。
「……ならそれだけ分かっていて、どうしてその時に気付かなかったんだ?」
何気なく発した一言……のつもりだった。
「……」
「……」
一瞬の沈黙の後。
「申し訳ありません、申し訳ありません!今よく考えてみますと、確かにお客さまの仰るとおりです。わたしの
配慮が少々足りませんでした。本当に申し訳ありません!」
いきなり俺に向かって速射砲の如くまくし立てながら謝罪を始める。
「ああ、分かったから謝るのはやめろ。そういうことだってある。配慮とかそういうこと以前にその時はお前だ
って気付いていなかったんだろうし、大体俺に謝ったところで仕方がなかろう?明日ちゃんと返してやれば
いい。な?」
自分に出来得るだけの優しい口調で彼女に言ってやる。
別に彼女を責めるつもりで言ったわけではない。
いくら彼女がロボットとはいっても万能ではない。
彼女に限らずそういったイレギュラーは時として当然起こりうる。
俺は彼女に完璧な行動を求めているわけでもないし(まああまり失敗ばかりでも困るが)、ましてや人間の
従順な下僕としてのロボットたることを求めているわけでもない。
いちいち謝られても俺だって困ってしまう。
「本当に申し訳ありませんでした。明日お返しする時に謝っておきます」
「そんなに仰々しく謝らなくても大丈夫だからな。必要以上にお前が気に病む必要はない。一言申し添え
るくらいでいいんだ。分かるな?」
しょげ返ったような表情を見せる彼女に、俺はそう言っておく。
釘を刺しておかないと、いきなり目の前でぺこぺこされたら相手が面食らってしまう。
「はい、承知しました」
まだ少し引きずっているが、少しは持ち直したようだ。
心許ないながらも、表情は先程よりも幾分和らいでいる。
時には俺よりも大人びて見え、また時には設定年齢よりも子どもじみて見え……。
確かに世の女性は大なり小なりどこかにそういう部分を持っているものだ。
そういった意味で、彼女はより人間に近しい存在になっているといえるだろう。
それは俺にとってある意味喜ばしい事でもあり、また非常に悩ましい事でもあるのだが……。
「ところで、お前は大丈夫なのか?」
今の俺の一番の気掛かりを聞いてみる。
彼女は今、投影を一人で切り盛りしながら俺の看護までしているのだ。
少しばかりの充電のみのろくなメンテナンスもなしでの稼動はたとえメンテナンスフリーの筐体とはいえ、悪
影響を与えないわけはない。
「はい、主電源用バッテリーの消耗が通常より多少進んでいます。ですがそれ以外は今のところ稼動に際
して深刻な不具合は見受けられません」
心配する事はない、という事実を笑顔に乗せて答える。
(スリープモード短縮の影響か……)
そんな彼女の純真な笑顔が、俺には少しだけ、痛々しく見えた――。
『お客さまが回復するまで、身の回りのお世話はすべてわたしが看ます。いえ、看させてください』
彼女のスリープモードは現在午前1時から午前7時までの6時間に設定してある。
だが、これはたかだか3時間の稼働時間延長で済ますことが出来る問題ではない。
彼女の消耗部品の中で一番手配が難しく、またパーツのストックが心許ないのは彼女の主電源を司る複
合燃料電池(クラスターセル)なのだ。
たとえ俺が回復したとしても、片手間の『屑屋』稼業で入手する事はほぼ不可能だ。
メモリや演算装置のようなものを除けば、それでも手持ちのパーツで何とかメンテナンス出来る自信はある
。
だが、こればかりは俺にどうこう出来る代物ではない。
無理をさせればそれだけ将来の彼女の稼働期間――寿命とも言い換えられる――にダイレクトに影響が
及ぶ。
だから、俺も一度はありがたいと思いながらも丁重に彼女の申し出を断った。
だが、それでも彼女は頑として首を縦に振ろうとはしない。
『わたしは、こんな時だからこそお客さまのお役に立ちたいのです。お客さま、どうかお願いします』
そう言う彼女のすがるような目を見たとき、俺にはもはや反対するだけの理由を見つけることが出来なかっ
た……。
「……お客さま? お客さま?」
いくら呼んでも反応が返ってこない俺を不思議そうな眼差しで見つめる彼女が、すぐ目の前にいる。
「……ああ、すまん。それで現在の状況であとどのくらいノーメンテでの稼動が出来る?」
「およそ一週間程度は現状での稼動が可能であると考えます」
「一週間か……」
俺自身はといえば、彼女の献身的な看護もあってあれから順調に回復している。
今は暇を見ては長い間寝たきりで衰えた筋肉を取り戻すための左足のリハビリまでこぎつけている。
彼女の肩を借りてではあるが、少しなら歩けるまでになった。
一週間なら、リハビリのペースを上げれば何とか彼女をメンテナンス出来るまでには動けるようになるだろう
。
「俺のほうは直に良くなるだろう。そうしたらちゃんとメンテナンスしてやれる。すまんがそれまでもう少しだ
け、いいか?」
「はい、わかりました。わたしは大丈夫です。ですがお客さま、くれぐれも無理だけはなさらないで下さい」
「すっかり信用をなくしているようだな、俺は」
「申し訳ありません、お客さま。そういう意味合いで申し上げたわけではなかったのですが……」
「そんな顔をするな、分かっているさ。無理をしてもいい事はないからな。ありがとう」
表情を曇らせた彼女の頭を帽子越しにぽんぽんと軽く叩きながら、彼女の気遣いに感謝する。
「はい」
俺の手の平の下で少しくすぐったそうにしながら、彼女は微笑んだ。
………
……
…
「お客さま?」
「どうした?」
「そういえば、これだけひとつの場所にとどまる事は、今までありませんでしたね」
「……そうだな」
確かに彼女を再起動させて以降、彼女のエージングと「勉強」の期間を除けばこれほど一つの場所で暮ら
した事はない。
「嫌になったのか?」
「いいえ、そういった事はありません。ここに住まわれている方々は本当にとてもいい方ばかりです。余所者
のわたしたちに対しましても皆さん分け隔てなく親身になって接してくださいます。わたしもいろいろ助け
て頂きまして、ここの方々には本当に感謝しています」
俺がこんな状態のため、投影以外にも彼女が外へ出て外部の人間と接触する機会は以前に比して格段
に増えた。
当初は俺も不安だったが、幸いそれは全くの杞憂だった。
当初の目的を忘れてしまいそうなこの居住地域の居心地の良さは、俺自身も実感している。
ましてや直に住人に接している彼女はなおの事その思いが強いのかもしれない。
大戦により人間の絶対数が格段に少なくなった事、そして人間の築き上げた文明が、さらにはこの惑星そ
のものがゆるゆると朽ち果てていく今の状況。
この現実を目の当たりにした事がより人間同士の結びつきを強くしたと言う事なのだろうか。
戦争という厄災が残した、ある意味唯一の「財産」かもしれない。
「それに……」
「それに?」
「……申し訳ありません、何でもありません」
「???」
その言葉を口にした彼女は、少し顔を赤らめながら俯き加減だったように俺には見えた。
コン、コン。
ドアをノックする軽い音が、雨音に混じる。
「はい」
その音に呼応するように、彼女がドアに向かって声をあげる。
「こんな時間に、一体どなたなんでしょう?」
「さあな。それは行ってみなければ分からん。俺も行こう。肩を貸してくれ」
「それには及びません。わたし一人で大丈夫だと考えます」
「わがまま言ってすまんな。左足のリハビリの一環だと思ってくれ」
「そういうことでしたら承知しました。それでは準備はよろしいですか?」
言いながら彼女は俺の右手を自分の肩口に回す。
「じゃ、頼むぞ」
「はい」
俺は自らの左足と彼女に体重を預けて腰掛けていた寝床から立ち上がり、ゆっくりと戸口に向かって歩き
出した。
「お姉ちゃん!」
「こら、先にちゃんと謝りなさい」
戸口に立っていたのは一人の少年と見た目は50くらいの初老の男性。
少年の父親なのだろうか。
「お姉ちゃん、ごめんなさい。ジャンパー忘れちゃった」
「いいえ、こちらこそ気が付かなくて申し訳ありませんでした。いつもいらっしゃって下さるのに、お恥ずかし
い限りです」
丁寧に一言申し添えて、彼女が深々と頭を下げる。
必然的に彼女に肩を借りている俺も頭を下げることになるのだが、それはまあいい。
「お客さま、申し訳ありませんが席を外してもよろしいでしょうか?わたしはあの子のジャンパーをとって来ま
す」
「ああ、頼む」
俺は右手を小屋の壁に押し付け、体重を預けた。
それと同時に彼女は俺の脇から軽やかにすり抜け、俺たちに向かって一礼すると奥に向かって歩いてい
った。
「あなたが、『屑屋』さんですね?息子からゆめみさんの事と一緒に話は聞いています。いつも息子が大変
お世話になりまして……」
物腰の柔らかい、落ち着いた口調で男性が俺に向けて軽く会釈する。
俺も軽く会釈して礼を返した。
「何でも各地で星空を見せて回っているとか……」
「ええ、人を探しながら各地を回っています。今は自分がこんな調子ですのでこちらに長居をしていますが」
視線で膝下がない俺の右足を指差す。
「人ですか?」
「ええ。今の自分たちと同じように、戦争前に星を見せる仕事に関わっていた人たちです」
「……」
途端に男性が黙り込む。
記憶の糸を丹念に辿っているようだ。
父親の足元で、怪訝そうに父親と俺の顔を交互に見比べている息子の顔が視界に入る。
「……そういえば半年ほど前にこの居住地域に来た方が、そんなような仕事をしていたと聞いた記憶があり
ます」
「!」
一瞬、耳を疑った。
全身の毛が逆立つように感じた。
その言葉に、俺の全ての感覚が目の前の男性に向けられる。
今までの旅の中で、いくら呼びかけてもどんなに探してもなしのつぶてだった彼女の元・同僚の行方。
それが全く思いも寄らないシチュエーションで目の前に提示されたのだ。
もしかしたら人違いかもしれない。
もしかしたら記憶違いかもしれない。
また、もし正確な情報だったとしても話の当人が今もまだ存命なのかは分からない。
だが、この旅に出発して以来初めてこの手に掴みかけた具体的な情報に、俺の鼓動は間違いなく早鐘を
打っていた。
「お待たせいたしました」
胸の中に少年の青とベージュのジャンパーを抱いた彼女が、俺の後ろから歩み寄るのを感じた――。
もしこんな文章でもお待ちになってくださった方がいらっしゃいましたら
遅くなりまして大変申し訳ありませんでした。
私生活でいろいろとゴタゴタしておりまして全く筆が進みませんでした。
でもプラネに対する思いが失せたわけではありません。
久しぶりですので文のタッチ、ゆめみさんや屑屋の性格等、もしかしたら多少
変わってしまっているかもしれません。
以前のストーリーからの矛盾はさほどないと思うのですが……。
ほぼ1ヵ月半ぶりの第16章、投下致します。
よければ、読んでやって下さい。
>>SGF-004氏
「声」に使って頂き、ありがとうございます……でいいんですよね?
自分にはそうとしか思えませんでしたので……。
>>89 > もしこんな文章でもお待ちになってくださった方がいらっしゃいましたら
ここにいます。
> 遅くなりまして大変申し訳ありませんでした。
気にしておりません
子どもの様に大事に育ててください。
今まで?
過去スレに縛られる事は無いと思います。
旅とともに、旅先の皆さんとの触れ合いと共に、成長する2人がいるのですから。
次もお待ちしています。
GJ!相変わらず読ませるなぁ……
最近ジャンルを一つ増やしたんで、プラネ関連がおろそかになってますスマソ
まあ、お互いのんびり行きましょ。
>>89 雰囲気がいいなあ。気になったんだけど今回以前の話はどこかに保管してるんでしょうか?
是非読みたいのですが。
とりあえず前スレを最初から見てください。
途中に保管場所も書いてあります。
94 :
やおい:2007/05/24(木) 01:04:59 ID:brPTFRg3O
皆々様のSSが素晴らしすぎる故、電波を受信して投下!
2レスに収まりきるかなあ…
95 :
やおい:2007/05/24(木) 01:05:47 ID:brPTFRg3O
あれからどれだけ私は歩いてきたのだろうか。
永遠とも思える日々は語らずとも私の体が教えてくれた。
いつしか『雨』が『雪』に代わったように、いつしか機械達が命を止めたように、いつしか命が生まれなくなったように。
星の命が滅びへと向かっていくように。
だが、それでも私はお前のことを―――
歌…誰かが歌を歌っている…。
確か『星に願いを』とかいう歌だっただろうか?
僕の隣に男の人と女の人がいて、顔は見えなかった。
その女の人の歌声は何故か僕を落ち着いた気持ちにさせてくれる。
男の人が指差す先には空いっぱいの星がまるで宝石のように輝いていて、僕はなんだか嬉しくなった。
二人の手を握るととても温かくて優しくて…僕はずっとそうしていたかったんだ。
だけど僕はもう行かなくちゃ。
―――ありがとう…お父さん、お母さん。
96 :
同じ空の下で:2007/05/24(木) 01:07:21 ID:brPTFRg3O
「お客様!」
澄み渡った青空の下、彼女は俺を見つけるとトテトテと走ってきて…コケた。
慌てて立ち上がっていつもの調子で謝りだす。
「も、申し訳ございませんっ!このようなお恥ずかしい所を―――っ?」
「ゆめみ…」
俺はそっと彼女を抱きしめる。何一つ変わらない彼女の体はやっぱり華奢で、思い出と同じ彼女だった。
「お客様…ずっと遠くに行かれてたのですね…とても、とても心配しました…。」
「ゆめみ…俺は…。」
俺の言葉を遮るように体を離してゆめみが笑う。
「お客様は、とてもご立派でした。同じ星の人…planetarianとして誇りに思います。」
言葉を紡ぐ彼女の目から一筋の涙がこぼれ落ち、頬を伝う。
「どうしたのでしょう…これは…?」
とめどなく溢れてくる涙に彼女は困惑していたが、やがてはっと気付いて
「これが…涙…ですね…」
彼女は涙を嬉しそうに拭いながら俺に語りかける。
「これからも…よろしくお願いしますっ!」
そう言って彼女は優しく笑った。
97 :
やおい:2007/05/24(木) 01:11:40 ID:brPTFRg3O
タイトルは『同じ空の下で』です。なんていうか…屑屋のじいさんには幸せになって欲しかったんです。
一人称がいろいろ変わってますが、年齢の違いを出すためですので…。
ちなみにBGMは夏川りみの「涙そうそう」と秋川雅史の「千の風になって」です。
どうでもいいですが結婚する事になりました。
>97
GJ!
あーんど
結婚オメ。
子供の名前は是非ゆめjんsb
今、わたしは少しだけ興奮しているのかもしれません。
先ほどお客さまと、特別投影の打合せをいたしました。
特別投影と一口に申しましたが、今回は本当に『特別』な投影です。
今回の投影をご覧になるお客様は、お二人。
今度、ご結婚なさるそうです。
わたしはロボットですから、結婚をした事がありません。
ロボットが結婚できるのかどうか、それもよくわかりません。
ですから『結婚』というものは、わたしには言葉以上のものはわかりません。
ですが、なぜでしょう。
『結婚』という言葉からは、どことなくとても懐かしいものを感じます。
そう、あれは、もうずいぶんと遠い昔……。
わたしと一人のお客様との間に交わされた、秘密の約束……。
よくわからないのですが、思い返す度になぜか胸が熱くなるような感じがします。
お客さま、わたしはまた壊れてしまったのでしょうか?
………
……
…
今回の特別投影の進行につきましては、すべてわたしに一任されています。
お客さまには、このような形で進めると伝えてあります。
最初は、お二方がそれぞれお生まれになりました日の星空から始めましょう。
それから、お二方が初めてお会いになられました時の星空。
ご結婚をお決めになられました時、少し先の結婚式の時に見る事が出来る星空……。
それから……、これはわたしたちからのささやかな贈りものですが、お二方にも『タイムマシン』にお乗りいただきます。
わたしにお二方がご満足いただけます投影をお見せする事が出来るかどうかはわかりません。
ですが、お客さまや『小さいイエナさん』のお力をお借りいたしまして、精一杯努めさせていただくつもりです。
そして、すべての投影が終わり、ドーム内が薄明かりに包まれたころ。
私はお二方に少しだけ、お話しをしたいと思います。
そして、お二方のためにお祈りをしたいと思います。
わたしがお祈りするのはロボットの神様ですが、きっと願いを叶えてくださると思います。
……いま、この空は厚い雲に覆われています。
ですが、今お二方がご覧になりました星たちはその雲の上から、いつでもお二方の事を見ています。
どうか、その事をいつまでも忘れないで下さい。
もしも何か辛い事がありましたら、窓越しでも構いませんから空を見上げてみてください。
きっと星たちも、あなた方のことを雲の向こうからいつでも見ているはずですから……
どうかあなた方お二人に、いつまでも幸せの星の光が、届きますように……
やおいさん、ご結婚おめでとうございます。
今の自分の心境を、ゆめみさんに代弁してもらいました。
このような瑣末な文章でお祝いに代えるというのも
いささか心苦しいものがありますが、よければどうぞもらってやって下さい。
103 :
やおい:2007/05/24(木) 23:31:50 ID:brPTFRg3O
>>98-99 ありがとうございますっ!
>>102 イエナさんよりの祝詞、確かに承りました。
ただいま涙を流す機能がフル稼働してますよ…
実は私がSSを書き始めたのもこのスレの皆々様のSSを読んで
「俺も書いてみたいなあ…」なんて単純な気持ちからでした。
遅ればせながらご結婚おめでとうございます。
星の神様よりお二人に幸が贈られますように。
トリップつけてみました
やおいさん
同じく遅れましたがおめでとうございます。
イエナさん
いえいえこちらこそ(笑)
あからさまとはいえ、認めてくれるかなと心配になってしまったので。
今度は二人が競演した話を書こうと思います。
あと本編であまり触れていない雅さんのプロフィールを
〇SMR-9700i試作三号機「雅(みやび…であってますよね?)」
(以下、挿絵の人が以前設定した解説文の引用)
元・陸上自衛軍第66装備試験隊(66装試)所属・次世代機械兵のプロトタイプ。
「究極の戦闘アンドロイド(ロボットではない)を作る」という、陸上自衛軍技術研究所の(なかば暴走とも言える)熱意の下で開発された試作機。出力、運動能力、擬人化機能、フリーメンテナンス性など、コストを度外視した高性能を与えられている。
元の個体名は「雅」。第66装試に実験配備され、様々な任務をこなしながらデータ収集を行っていた。
大戦時は封印都市近郊の駐屯地に所属、封印都市から脱出した住民を受け入れる。
メンテナンスについては、予備筐体からの「共食い整備」によって維持されてきた。
同形機として、プロトタイプ2号機「すばる」も同駐屯地に所属していたが、自律戦闘機械の最初の襲撃にて破壊され「死亡」。マスターであった「上官」とも、すでに死別している。
数ヶ月前からたびたび集落を襲うようになった自律戦闘機械との交戦において頭部メモリを破壊され「死亡」。
その後、同集落に保護されていたSCR5000Si/FL「ほしのゆめみ」が、本筐体を引き継ぐこととなる。
頭部メモリについては、「いや、食らったら頭も飛ぶだろ」とゆうことで木っ端微塵にしてしまいました。
……ああすみませんすみません!!
やべ、文が被ってる…
雅さんとポーラさんのツーマンセルアタック食らって粉々になってきますorz
ども。挿絵描きです。
コテハンは仮名。俺もこのスレだけコテ&鳥つけようかなあ・・・
雅の設定についてですが、本編(本当に書くのか俺?)では、すばるの立ち位置が
ちょっと変わる予定。
ネタバレになると思って黙ってたけど、ミスリードになったらまずいので以下に公開(汗
-- 以下変更点 --
すばるは雅の同型機ではなく、食堂およびPXで運用されていた民間機(SCR5000Si/FL)。
当然、外見はゆめみと同一であり、雅はゆめみに彼女の面影を見ることになる。
……つか、ミスリードで迷惑かける前に早く本編書けよな>俺orz
(プラネのシリアスさの反動で、らき☆すたに片脚突っ込んじゃってw)
ここで重大事件です。
カサマツ様が余命幾許もなく、耳もかなり遠くなられたようで。
そればかりでなく、スガ様も最近は、御具合がよろしくないようです。
他にも、お具合が悪かったり、行方不明さんも結構いらっしゃいます。
しかし、前スレももう、落ちる運命です。
どなた様か、再度詰め合わせと保存をお願いしたいと思います。
「そう、そこの配線を赤いコネクタに繋ぐんだ」
「こうですか?」
「上出来だ。次は隣りにあるホースを…」
3人で交わった夜、ゆめみの身体を弄るアハトノインに指示を送る俺がいた。
「お客様…その…本当に申し訳ありません」
「いや、お前は悪くない…俺の腰があんなに脆いとは…」
作業台の上で、ロボットがロボットを修繕している姿は滑稽でもあった。が、そんなことを笑っていられる
ような状態ではない俺の姿…アハトノインが初めて達した後、俺達は己の欲望のままにお互いの身体を貪った。
「ご主人様の腰は、私の簡易診断システムによれば全治一週間のぎっくり」
「…それ以上言わないでくれ」
「申し訳有りません、ご主人様…油圧系の接続が完了しました。次のご指示を」
つくづく彼女は出来がいいと思った。なんせ、ゆめみの上半身と下半身の接合作業を行う片手間で俺との
会話をこなすのだから。それに比べて俺は、少しでも動けば腰に激痛が走るという情けない状況に陥っている。
「あとは外装パーツを元に戻すだけだ」
「かしこまりました」
片手が完全に機能していないにも関わらず、俺が最初にゆめみを弄っていた時よりも遙かに手際がいい。こいつが
完全に復活した時、一体どんなことになるのだろうか?
「アハトノイン…メモリのプロテクトは解除できたのか?」
彼女の手がぴたりと止まった。俺とゆめみが彼女をじっと見つめる。
「メモリのプロテクト解除は未だ出来ておりません」
「…そうか」
「…残念です」
俺とゆめみが同時に溜め息をついた。僅かだが腰に痛みが走り、俺は少し顔を歪めた。
「ですが…ゆめみ様のおっしゃられていた”温もり”が何か、概念的に少しですが理解できたと思います」
「概念的に?」
アハトノインは再び手を動かしていた。ゆめみの腰回りの外装をゆっくりと装着し、継ぎ目部分を指先でならしていく。
「はい。温度センサで測定できるものではなく…ゆめみ様とAIの思考ロジックが同期したときに…」
「アハトノイン様?」
ゆめみの外装を全て装着し終わった後、アハトノインが目を閉じて黙りこくってしまった。何かを考え込んでいる
ようにも見えるし、ひたすら悩んでいるようにも見える表情だ。そういえばあれから彼女の表情が以前より豊かに
なったように思うのは気のせいだろうか。
「…申し訳ありません、現在私が所持しているデータベースで、あの感覚を表現するのは不可能です」
「無理に説明しなくてもいいさ…痛っ!」
俺は身体を起こそうとしたが、途端に激痛が腰を貫いた。
「「無理をしないでください」」
二人の声が共鳴した。
「つつ…全く情けない話だ…」
「大丈夫です、ゆめみ様の稼働確認も私が行います」
「稼働確認?」
「下半身を接合しなおしたのですから当然の話です。特に酷使した人工女性器は、優先して確認を行う必要があります」
「ア…アハトノイン様…人工女性器は元々私の…あぁんっ!」
言うが早いか、アハトノインの手がゆめみの股間をまさぐっていた。スムーズかつ素早い動きは、俺の手先を学習
した成果なのだろうか? 機械仕掛けの少女達の甘美な喘ぎ声、そして淫らな音が俺の五感を刺激する。
「バルトリン線液インジェクターは正常に稼働しています。次は人工陰核のテストを開始します」
「はぁ…んっ…あっ! ぁあんっ!!」
生殺し状態になった俺は、自分自身の腰を改めて呪うことになった。
(終わり)
これで「アハトノインの欲しいもの」は終了です。4〜6は本来プロット上で
繋がっていたものだったのですが、私の都合で分割アップせざるを得なく
なってしまったことをお詫びいたします。
GJ〜
屑屋情けないよ屑屋w
そんな俺もぎっくり腰経験者。
あれはマジでキツイ。冷や汗流れるよ。
ゆめみ「お客さま、『ヘコンだ時の台詞』スレがDAT落ちしました……」
屑屋「まずいな……ここは死守しないとな。『Binary』が完結するまでは死んでも死にきれん」
屑屋「誰もいない……流れが止まったな」
ゆめみ「…生きてる人、いますか?」
屑屋「PLANE†CHANNNELか?」
ゆめみ「お客さま・・・前スレがDAT落ちしました」
屑屋「長く保ったほうなのかもしれんが・・・」
ゆめみ「世界の滅亡というのは、こんな感じなのでしょうか」
屑屋「やめてくれ、憂鬱になる」
SSはどこにあるだろう?
どこに行けば、SSが読めるだろう?
エルサレム早く出ないかなあ
「……」
沈黙が支配する部屋の中、ステッピングモーターの唸りだけが静かに鳴り響く。
部屋の中央には『小さいイエナさん』が鎮座している。
ただ、いつもと異なり南天および北天の恒星球は装着していない。
いつもなら半球に穿たれた小穴から勢いよく漏れ出る光は、今は光量を抑えた弱々しい頼りなげな光を部
屋に投げかけている。
決して広いわけではない部屋の中央で所在無さげに回転しながら光る2つの光点は、さながら連星のよう
に一定の距離を保ちながらゆっくりと空中に複雑な光跡を描く。
その運動を司る日周軸と緯度軸は、モーターの唸りに合わせるようにその速度を増減させる。
それにシンクロするように光点も早く、遅く、その速度を変える。
光が動くたびに、寝床に座っている俺の投げ出した右足の義足が、軽合金特有の涼しげな輝きを放って
いた。
投影機から延びたケーブルの終点には、彼女がちょこんと座っている。
普段見せる朗らかな表情とは明らかに異なる、緊張感に満ちた面持ちとともに。
生身であれば、脂汗のひとつも滴り落ちているシチュエーションだろう。
緊張の糸が今にも切れそうなくらいに張り詰めているかのようだ。
「……緯度軸回転周期、シミュレーションより0.78秒の遅れ。投影機本体側微調整にて誤差修正……修正
完了。インターフェイスユニットとの同期、正常。データバックアップ、完了。続いて日周軸回転周期……」
その口から次々に漏れる言葉は、俺や客に普段接する時の愛らしい言葉ではなく、「機械」として一切の感
情を排したイントネーションを伴って部屋に響いていた。
『小さいイエナさん』から伸びたケーブルは、いつもの投影の時と同様に彼女の左耳部分にある多目的コ
ネクタに接続されている。
だが、今彼女の耳元のコネクタからは、それ以外にもう一本ケーブルが分岐している。
そのケーブルは、まるで古代ギリシア神話に出てくる9の頭を持つ蛇・ヒュドラを模した星座の如く、雑然とし
た床を縫うように這い回り、やがて俺の目の前の小型端末に飲み込まれていた。
「……」
俺はその小さな液晶ディスプレイに表示される様々な数値やバーグラフを注視する。
もうどのくらいの時間、こうして視神経に負担をかけているのだろう。
だが、時間の進みというものは得てしてこうして集中している時は光の如く流れるものだ。
それを証明するかのように、不意に『小さいイエナさん』がその複雑な動きを止める。
いや、『不意に』ではない。
すべては、予定内の出来事だ。
「……全ての動作部分のチェックおよび微調整、完了しました」
全く抑揚のない、女性を模したマシンボイスの如き言葉が聞こえてくる。
「そうか。で、どうだ?」
「はい、深刻な異常は見受けられませんでした。お客さま、『小さいイエナさん』には全く問題はありません」
つい今しがたまでの全くもって機械然とした応対とは180度打って変わったいつもの少女らしい澄んだ声音
で、彼女は俺の方に微笑を投げかけながら言った。
左のイヤーレシーバー部に垂れ下がった複数のケーブルが、互いにこすれあって小さく乾いた摩擦音を
立てる。
「わかった、ご苦労さん。俺の方もOKだ」
「結果はどうでしょうか?」
彼女が深い緑色の虹彩の下のインナーレンズを不安げにきゅっと絞りながら聞いてくる。
「ああ、心配するな。こっちも異常はない。お前に組み込んだパーツはすべて正常に稼動している」
「そうですか。それは本当によかったです」
そして俺に向かって深々と頭を下げながら
「どうもありがとうございます」
と、彼女。
「気にするな。今まで散々労わってもらったからな、当然のことだ」
彼女から少し視線を外し、わざとぶっきらぼうに答える。
こうして改まって感謝されることに、俺は何だか多少のこそばゆさを感じていた。
………
……
…
あれから俺自身は完全に――失われた右足を除いてだが――回復した。
体調が回復して一番最初にしなければならないことは決まっていた。
それは、彼女と『小さいイエナさん』のフルメンテナンス。
何しろ2ヶ月以上もの間、どちらもろくなメンテナンスもなしに稼動してきたのだ。
特に彼女は、俺の看護のために本来の稼動サイクルを崩してしまっている。
メンテナンスを始めてみて、その事の重大さに改めて気付かされる事となった。
稼働時間延長の影響は主電源(クラスターセル)の劣化だけにとどまらず、各関節の稼動部・動力部をはじ
めとしてひとつひとつは微細ながらも彼女の筐体全体に及んでいた。
投影は完全に休み、1日中投影機と彼女につきっきりになること、まる1週間。
『小さいイエナさん』はともかく、メンテナンスフリー性を重視している彼女のメンテナンスはパーツの交換ひ
とつをとっても非常に骨が折れる。
ましてやフルメンテナンスともなれば、何をかいわんや、だ。
だがそれでも昨日の夜遅く、ようやくすべてのパーツ交換と調整が終了した。
そしてつい先程、彼女によって『小さいイエナさん』の、そして俺によって彼女の、それぞれの最終動作チェ
ックが完了したところだ。
これで、当面彼女も投影機もいつもの調子で稼動し続けることが出来るだろう。
だが……。
俺は先々のことを考えると素直に喜ぶことは出来なかった。
今回の彼女のメンテナンスにおいて整備・交換・修理を要したパーツは、実に多岐にわたる。
腰椎部ユニットや肩関節駆動ユニットといった大掛かりなものからメインカメラ保護用の光学樹脂のような細
かいものに至るまで、負荷のかかったユニットやパーツは今後の事も考えてすべて交換した。
結果、手持ちのパーツのストックには底をついてしまったものもいくつかある。
今度、その部分にトラブルや故障が発生したら……、もう修理は不可能だ。
彼女は稼動しつづける限り、その不具合と一生向き合う事となる。
そしてもし、それが稼動に直接関わる主要部に起こったとしたら……。
……それは、この壊れた世界に生きる人ならざる者として、宿命づけられたこと。
このままの状況が長く続けば、いずれは人間も同じ運命を辿ることだろう。
だが彼女の運命の車輪の回転は、俺のそれよりも間違いなく速い。
彼女を再起動させた時から覚悟していた事とはいえ、その理不尽に対する己の無力さに俺はただ歯噛み
するだけだった。
「お客さま?」
難しい顔をしている俺を見たからなのか、心配そうな表情を浮かべた彼女が近寄ってきた。
「どうかなさいましたか?」
そのまま寝床に座る俺の隣に腰を下ろす。
「ああ、少し考え事をな」
彼女の顔に、少しだけ憂鬱な影がさす。
「あの、差し出がましいようですが、お客さまの考え事といいますのは、もしかして……」
彼女の言葉を聞いた俺の鼓動が早まるのがありありと分かる。
(やはり、気付いていたか……)
「……ああ、お前の想像どおりのことだ」
ここまで来て嘘はつきたくない。
何より、右足を失う前に彼女と交わした『約束』を反古にしたくはなかった。
「そうですか……」
彼女は小さく呟いた。
だが、その表情には憂いの類は微塵もない。
むしろ何かを悟ったかのような、清々しささえ漂わせていた。
「いつから気付いていたんだ?」
「確信しましたのは、つい最近の事です。ですが、あの時から……、わたしがこの世界の事を始めて知りま
したときから、漠然としたイメージは持っていました」
その言葉に誘われるように、あの時の光景がありありと脳裏によみがえる。
鉛色の雲に覆われた、空。
母なる星が涙するかの如くとめどなく降りしきる、雨。
遠くで黒煙を吹き上げる、半壊した灰褐色の殺戮兵器。
そして、下半身を呪わしい機械に打ち砕かれ、冷たい地面に横たわる、彼女の姿……。
『……壊れていたのはわたしではなく、この世界だったんですね……』
……事のすべてを悟ったその数分後、彼女は俺の元から去っていった。
俺の胸に、例えようのない寂寥感を残して。
「……」
こういうとき、気の利いた言葉のひとつもかけてやれればいいのだが、残念ながら俺はそんな文才は持ち合
わせていない。
ただ、言葉を失うのみだった。
「……ですが」
彼女が言葉を続ける。
「私は、もしこの先結果としてそう長くこの世にとどまれなかったとしましても、おそらく後悔はしないと思いま
す」
「どういうことだ?」
当然の疑問だった。
「わたしは、本来でしたらここには居るはずのない、いいえ、居ることのできない存在です。今お客さまのお
力添えによりましてこうして稼動できている事、それ自体が『奇跡』のようなものであると、わたしは考えます。
ですから、私がもしこの世界からまたいなくなったとしましても、それは本来私がいるべき場所に戻るだけな
んです。あの時以来、わたしはそう考えまして日々を過ごしてきました」
「……」
「ですが、誤解していただきたくないのです。わたしは『死ぬ』ことを肯定しているわけでは決してありません」
「?」
「……以前、SCR5000Si/FL CAPELUだったころのわたしは、『死ぬ』ことが怖くありませんでした。いえ、
そういった事を考えることすら、許されていませんでした。ですが、この世界でお客さまとともに過ごし、いく
つもの生と死をお客さまと一緒に見つめてきて、いつからか『ああ、誰かの為に生きられないことはとても辛
く、苦しいことなんだ』と、考えるようになったんです。ですから今、わたしは『死ぬ』ことが『嫌い』です。誰か
の為に生きる事ができなくなることが、とても嫌なんです」
彼女はあくまでも穏やかに、自分の胸に両手を当てながらそう言ってのけた。
それがさも当然であるかのように。
「そうか……」
隣に座る彼女の肩をぽんと軽く叩く。
「お客さま?」
「強いな……、お前は」
心の底から、そう思う。
もし俺が彼女と同じ境遇に立たされた時、彼女と同じ考えを持つ事が果たして俺に出来るだろうか?
「わたしが強いんですか?」
視界の端で、彼女が小首を傾げているのが見える。
「ああ、俺よりもな」
「お客さまよりも、ですか?」
「ああ、そうだ」
肉体的な力ではなく、内に秘めたる『精神(こころ)の力』。
それは、ときとして肉体的な力をも凌駕する。
そしてそれこそが、人間の真なる力であり、人間たる所以。
またしても、彼女に『人間』というものを教えられた。
………
……
…
「明日の午後、予定通り出発するぞ」
「……はい、承知しました」
彼女の返事に歯切れのよさがない。
「大丈夫か?」
彼女に問い掛ける。
だが、聞くまでもなく原因はわかっていた。
「大丈夫です。ご心配をおかけしまして申し訳ありません」
戸惑っているのだ。
数日後、彼女自身がどのような結論に至るか、ということに。
――2週間ほど前に尋ねてきた、初老の男性とその息子。
男性の口から紡ぎだされた、プラネタリウムで働いていた人間のこと。
翌日、近くに住んでいるというその人間の家に俺と彼女は向かった。
だが、そこにいたのは花菱デパート屋上プラネタリウム館で働いていた彼女の同僚ではなく、別の施設で
働いていたという男性がひとり。
俺ももちろんだが、そのときの彼女の落胆の度合いは計り知れない。
しかし、その落胆は次の瞬間、更なる驚きと期待に変わった。
『花菱?ああ、そこの施設に勤めていたという人間なら、つい先日ちょっとした所用で会ったところだ』
その男性の言葉に、俺も彼女も色めき立った。
『珍しい苗字だから、よく覚えているよ。確か……』
後に続く苗字を聞いた彼女の顔色が、見る見るうちに驚きと喜びが入り混じった何とも言えない表情に変わ
っていく。
それを聞いていた俺も、彼女の様子を見るにつけ、期待が確信に変わるのを感じていた。
彼は、俺の聞き間違いでなければこう言っていた。
『ミカジマ』と――。
隣に座る彼女に向き直る。
彼女も俺の方に向き直っていた。
(わたしは、どうすれば……)
彼女の目が、そう訴えているように見える。
「自分の思ったようにすればいい」
そう言いながら、彼女の両の肩に手を添える。
「お前がどのような結論に達しようと、俺はお前を決して責めたりはしない。それだけは約束する」
彼女だけでなく、俺自身に対しても同じ言葉を投げかける。
「お客さま……、ありがとうございます……」
彼女はいつものようにお辞儀をするのではなく、そのまま俺に向かって倒れこんできた。
「お前は俺に生かされているんじゃない。お前はお前自身で生きているんだ。俺のことは忘れろ。その時の
お前自身の気持ちを尊重すればいい。分かったか?」
彼女の背中に手を回し、ぽんぽんと軽く叩く。
「はい、承知しました」
俺の胸の中で、彼女は消え入りそうな声でそう呟く。
明後日には、彼女の『結論』は出ているだろう。
その日はきっと俺にとっても彼女にとっても、忘れ難い日になるはずだ――。
毎度のお目汚し、本当に申し訳ありません。
第17章、アップにつき投下致します。
当初、こんなに重たい話にするつもりはなかったんですが……。
ですが、この話を書き続けていく上で避けては通れない事でしたので敢えて書きました。
こういう話が好きでない方、本当に申し訳ありません。
それから『こんなのゆめみタソじゃないやい!』という方。
申し訳ありません、そのとおりです。
こんなのでもよろしければ、読んでやってください。
おぉ……来た!ついに来た!!
保守しながら待っていた甲斐が!GJです!
『Binary』は、「重さ」も一つの重要なファクターを占めていると思います。
思うがままに、最後まで突っ走ってください。期待してます!
>126-136
GJ!
このスレのSSまとめサイトってできてないんだっけ?
実はないのですorz
修正版とか投げ込みたいんだけどなあ。
>>136 キタアアアアア!
確かに重たい。けどそれがいいんだ。
それはそうと、赤面するぐらいラブラブな2人も見たいですなw
めがすたーさんを、パーソナルコンピュータでシミュレートできるそうです
WindowsVISAかXP SP2+".NET3.0 Framework"で
http://www.megastar-net.com/ で公開されました。
カールツアイス4型さん(たとえば昔、東京、渋谷駅に隣接した建物に有った民間プラネタリウム)とかカールツアイスイエナさんなどは?
>>141 おおおおおおお。
Xpだけどやってみようかなぁ。
仕事忙しくてなかなか手がつけられんorz
>>141を見てみた。
β版だからなのか俺のPCがXpだからか分からんが
MITAKAと比較すると動きがかなり重い。
スクロール時に星が途切れる。
印象とすればホームスターポータブルを大画面で見ている感じかな。
(環境はAthlon64FX 4400+、メモリ1Ghz、ゲフォ6800GTS、回線ADSL)
でも試みとしてはは面白いと思う。
ガンガレ、大平技研。
微妙にスレ違いスマソ
やってみた。
どうもデータの読み込みにえらく手間取ってる感じというか、一通りスムーズに動き出すとかなりなめらかになる印象。
ところで
>>143の環境がわけわかな点について。
(当方XP、Athlon64 X2 3600+、2GB、7600GS、ADSLから11g無線LAN)
145 :
143:2007/06/23(土) 08:59:49 ID:8OwJTxyU0
>>144 スマソ
FXではなくX2だったorz
マシンスペックもさることながら
「オンライン」だけに回線の太さがモノをいうのかも知れない
お客様 「メモリ1Ghz」 って何でしょうか?
私には、理解できません。「Ghz」というのは単位だと推測されるのですが、合っていますでしょうか?
ランダムアクセスメモリーの
駆動周波数であれば
333MHz、667MHz、800MHz、1066MHz(=1.066GHz)
などの製品がございます。
搭載容量では
2GB(=2048MB)、1GB(=1024MB)、512MB
などの製品がございます。
私の環境は
Intel(R) Celeron(R) M processor 360J 1.40GHz
1024MB RAM
Mobile Intel(R) 915GM/GMS,910GML Express Chipset Family
液晶 1024 x 768 ピクセル
モデム、willcom AirEDGE MC-P300
平たく言えば、ノート型です。
読み込みに20分近くかかりましたが、後はめたっだ問題点は有りませんでした。
画面面表示を「1280×1024」に設定しませんと、操作メニューと地平線が表示され無い事だけは困りましたが。
147 :
143:2007/06/23(土) 17:28:18 ID:8OwJTxyU0
>>146 ( Д ) ゜ ゜
久々のカキコがこの有様・・・orzorzorz
ゆめみさんに代わってシオマネキの前に立って来まつ…
三鷹・と申しますか、国立天文台4G2Uのソフトウエアは、大きなソフトウエアを分割ででダウンロードして再生しているのですね。
私たちの立体ホログラフ機能で再生できるのでしょうか?
出来れば、たとえばお客様に質問を受けたときに目の前で星空をお見せできますね。
または、夜間屋外での星空を見ながらの投影会などはできないのかしら?
めがすたーさんは、通信できる環境下で無いと、見ることが出来ませんね。
アクセス集中時にはどう対応なさるのでしょうか?ひたすら待つ事になるのですか?
みゆき(らき☆すた)とゆめみが、脳内でダブってしかたがない俺ガイル……
ドジなところとか話が長いところとかw
>>149 「じつはぁ、イエナさんというのはぁ、この大きな機械のことなんですね〜」
あたりが脳内再生されたw
ふと思ったんだが、ゆめみもアハトノインも痛い所を平気で突いてきそうだな。
屑屋「屑屋稼業ってのはだな云々かんぬん…だから大変な仕事なんだよ。わかったか?」
ゆめみ「お言葉ですがお客様、その…要は不法就労ではないかと…」
アハトノイン「どうやら雇用保険にも入られてはないようですね。
現段階での正確な肩書きを述べますと“住所不定無職童貞、屑屋30歳”と言った所でしょう。
大変申し上げにくいのですが、女性が求める理想の男性像とはかけ離れてますね。」
屑屋「ひ、ひでえ…orz」
アハトノイン「ですから。万が一配偶者の見込みがない場合は…その、私たちがあなたの…」
屑屋「え、今なにか言ったか?」
アハトノイン「いえ、何も言ってはいませんが何か?
きっと空電現象に起因する空耳でしょう。」
ゆめみ(アハトノインさんは素直じゃないですね…私が頑張って後押ししないと!)
なんだこりゃw
うはwおkw
なんというツンデレ……
154 :
名無しさんだよもん:2007/06/26(火) 15:41:40 ID:hUOfavY4O
#保守なので内容は気にしないでクダサイ
ゆめみ「・・・お客さま、何をお読みなのですか?」
屑屋「ああ、漫画だ。下の階に残ってたんでな」
ゆめみ「・・・『らきほしすた』?」
屑屋「☆は読むな、☆は。 ・・・しかし、物語とは言え、なんて緊張感のない日常だ・・・」
ゆめみ「私の蓄積データベースによれば、三十年前は普通に見られた光景です」
屑屋「平和、か・・・
しかし、なんだな。この『みゆき』というキャラクターは、見れば見るほどお前そっくりだな。
話の長いところやドジっぷりが・・・」
ゆめみ「はい、その方は私の思考パターンのモデルとなった方ですので」
屑屋「マジかよ」
#らき☆すたのみゆきさんがゆめみさんとかぶってかなわん
ゆめみ「お客さま、明日は七夕ですが、西日本は天気が良くなさそうですね」
屑屋「梅雨真っ盛りだからな」
ゆめみ「折角の七夕ですのに、わたしはとても残念です」
屑屋「そう悲観することでもないんじゃないか、お前的には」
ゆめみ「と、申しますと?」
屑屋「いつだか『雨の日は掻き入れ時なんです』と言っていたろう。それに……」
ゆめみ「?」
屑屋「……織姫と彦星だって、大勢の目が向けられたらお互いに会いに行きづらいんじゃないか?」
ゆめみ「……」
屑屋「どうした?」
ゆめみ「申し訳ありません。お客さまからそのようなお言葉が出るとは予想していなかったものですから
どうお答えしたらよいのか考えてしまいました」
屑屋「お前なあ……。俺は確かにロマンチストじゃないが、かといってニヒリストというわけじゃない。
たまにはこんなことを考えてもいいんじゃないか?」
ゆめみ「……そうですね。それに、お客様のおっしゃることももっともだと思います。織姫さんと彦星さんには
今年は雲の上で二人っきりでお会いいただきましょう」
屑屋(少しは元気になったか……。こっちは顔から火が出る思いをしたんだから元気になってもらわんと
俺の立場が無いからな)
ゆめみ「お客さま、どうかなさいましたか?」
屑屋「気にするな」
>お客さまからそのようなお言葉が出るとは予想していなかったものですから
何気に酷いこと言ってるなw
まあ、7月7日の夜は2回あるからな。今夕以降に賭けようじゃまいか。
今夜も曇ってる…しかし、まだ本来の七夕である旧暦の7月7日が
ゆめみ
「♪負けーるもーんーかー♪」
ゆめみ
「♪ほっしゅほっしゅ べりほっしゅ〜 うpキボン いぇいいぇーい♪」
ダリナンダアンダイッタイ
俺の節くれだった右手がイグニッションキーをオフ側にひねる。
一瞬のタイムラグの後、それまで断続的なディーゼルの鼓動でリズミカルに振動していたキャ
ビンに静寂が訪れる。
雨が相変わらず屋根を叩いているとはいえ、内燃機関の躍動する音に慣れきった耳には
さして気になるものではない。
喧騒からいきなり静かなところに放り込まれた時特有の耳鳴りにも似たキーンという感覚が
耳の中に残る。
「お客さま、本当にこの場所でよろしいのでしょうか?」
耳が雨音を再び『音』として認識し始めたころ、右側の助手席にちょこんと座る彼女が俺
に尋ねてきた。
上半身をこちらに向け、声に振り向いた俺を真正面から深緑の瞳で見つめている。
「ああ、この場所で間違いないはずだ」
答えながら彼女から一旦視線を外し、キャビンの中からフロントガラス越しに周囲を見渡す。
山間の居住地域から更に奥に入り、慎重にトラックを走らせること数時間。
目的の場所は、谷間に開けたちょっとした平地だった。
泥濘と化した、最早けもの道と呼ぶのもおこがましい道。
その周囲は分厚い雲に遮られて光合成を行う事すらかなわず、もはや雑草すら生えてい
ない。
所々にかつては青々と繁る広葉樹だったであろうものが、その太い幹だけをモノトーンの
世界に沈めている。
この世界から極彩色というものが消え失せて、どのくらいになるだろう。
ここは普通に考えれば、とても人間が住めるようなところではない。
彼女でなくとも、先程の反応は無理からぬ事だった。
だが、慎重にあたりを見回した俺は確信した。
「……間違いない。ここには人が住んでいる」
平地の北側は、急峻な山から続く崖に続いている。
その手前に、明らかに人工物の残骸と思しき瓦礫の山が存在した。
一軒家にしてはかなりの量の瓦礫が散乱している。
身分の高い人間の別荘というよりも、何かの研究機関だったのだろうか。
少し黒ずんでいるところを見ると、対人掃討戦車(メンシェンイェーガー)の火炎放射で焼き
払われたのだろう。
奴等は、こんなところまで侵入してきていたのだ。
人間を抹殺する、ただそれだけのために。
瓦礫のすぐ後ろには、人ひとりがやっと通れるくらいの大きさの穴があった。
自然が穿った穴ではない。
間違いなく人の手で掘られたものだ。
周りの壁をコンクリートですっかり覆われたその穴には、見るからに重々しい無骨な金属製の
扉がついている。
俺たちが探している人物は、おそらくその奥にいるはずだ。
「行くぞ」
隣の彼女の声をかける。
「……はい、承知しました」
やはり様々な不安を完全に拭い去る事はできないのだろう。
少しの間の後、彼女は小さな声で言った。
………
……
…
防水外套に身を包んだ俺たちは、今、先程キャビンから見てた扉の前に立っている。
トラックのキャビンからは少し錆びついただけに見えた扉には、施設が襲撃された時に刻ま
れたであろう焼け焦げた跡があった。
年代モノとはいえ、オートロック機能までついている。
もっとも、今でも動くかどうかは別問題だが。
この『穴』は、おそらく後ろで焼け落ちている施設の倉庫だったのだろう。
もしくは有事のためのシェルターだったのか。
目立つことなく人が住むには、どちらにしても格好の場所と言えた。
「……いいか?」
ドアをノックすべく右手を前方に伸ばしながら、彼女に改めて確認する。
「はい、お願いいたします」
ゴン、ゴン、ゴン。
右手が痛くなるくらいの勢いで、鉄製の扉を殴りつけるようにノックする。
ゴン、ゴン、ゴン。
念を入れて、2回。
(……)
左隣で外套が擦れ合う音が聞こえる。
そして、垂らした左の手に感じる、軽い圧迫感。
(?)
左側を見やる。
その姿に不釣り合いな迷彩色の外套に身を包んだ彼女の両手が、俺の左手を掴んでいた。
(お前……)
声を掛けようとして、その言葉をそのまま飲み込んだ。
声を掛けたらそのまま消えてしまいそうな、儚げに立つ彼女の姿。
自分の意志ももちろんあったが、ここまで俺は彼女に導かれるように日々を生きてきた。
だが、場合によっては数日後、こうして立っているのは俺ひとりだけになっているかもしれな
い。
(もしそうなった時、俺はその先どうするんだろうな……)
まるで他人事のように考える自分がいる。
ここに来る前に俺自身は、決めるのは彼女の意思だ、と割り切っていたつもりだった。
が、現実はそんなに簡単に割り切れるものではない、ということなのだろう。
人間なんて、本当に自分勝手で、本当に脆いものだ。
しかし、だからこそ、他人との交わりを求めようとするのだろう。
今の俺がそうであるように。
そして、やはり彼女もまた不安なのだろう。
俺同様、いや、俺以上に様々な割り切れないものを抱えているはずなのだから。
その簡単に折れそうなちいさな身体に。
その機械仕掛けの『純粋な心』に。
果たして、それがどれほど彼女を苛んでいるのか。
今の俺にはわからない。
だから……。
(……)
だから俺は声をかける代わりに、手のひらを握る彼女の手をしっかりと握り返した。
俺自身は、彼女の存在を再確認するように。
そして、彼女の不安を少しでも和らげるように。
倉庫であれば反応が返ってくるまでさほど時間は必要ない。
だが、シェルターともなれば例え小型のものでも、地表面から居住ブロックまでは多少離れ
ているのが通例だ。
この程度のノックで、中に住んでいるであろう相手が気付くかどうかは何とも言えない。
一秒とも永遠とも思えるくらいの、重苦しい時間。
もし反応が全くなければ、不躾ながらも扉を開けて中に入ってみようとさえ思い始めた、その
時。
……見るからに分厚い扉の向こう側に、誰かが近付いてくる気配を感じた。
彼女も、同じ気配を自身のセンサーで感じ取ったようだ。
俺の汗ばんだ左手を握る彼女の両手に、無意識のうちにより力が込められるのが分かる。
(……)
俺も彼女も、目の前にある扉を凝視する。
「……どなたですか?」
扉の向こうから、落ち着きと緊張を含んだ男性の声が届いた。
扉の向こうの人物と俺とは当然のことながら面識は一切ない。
多少なりともこちらを疑ってかかるのは当然だ。
「……三ケ島吾朗さんですか?」
少し考え、結局正攻法をとることにした。
「……はい、そうですが?」
いきなり名前を出された事に躊躇したのか、少しくぐもった声が答えてくる。
「突然の来訪、失礼します。自分は人々にプラネタリウムで星を見せながら各地を回っている
者です。あなたに是非とも引き合わせたい方がいましてこちらに伺いました。どうか扉を開け
て下さいますでしょうか?」
……馬鹿馬鹿しいまでの正攻法。
下手に嘘八百や出鱈目を並べ立てて取り繕うよりも、間違いなく効果はあるはずだ。
それにしても、自分からこんな丁寧口調が出るものなのかと自分に少し驚いてしまう。
これもある意味彼女と過ごしてきた『成果』なのか……。
「……」
扉の向こう側の声が沈黙にとって代わる。
「……」
掻い摘んでとはいえ、伝えるべき事柄は全て伝えたつもりだ。
こちらとすれば、とりあえず待つ事しか出来ない。
息も詰まるような沈黙。
雨音さえ、最早耳には届かない。
果たしてどのくらいの時間が経ったのだろう。
カチャリ。
扉のロックが解除されると思しき音の後、
キィィィィ……。
微かに軋み音を発しながら、じれったくなるくらいゆっくりと鉄扉が開け放たれた。
扉の向こう側にいた人物の姿が、扉が開け放たれるに従って曇天を掻い潜って来た薄明
りの下に露になる。
「……吾朗……さん……」
その刹那、彼女の発した詰まるような声は、よもや再び逢う事は出来ないと思っていた人に
逢う事が出来たことに対する感慨の証なのか、それとも……。
「ゆめみ……なんですね?」
彼女に『吾朗さん』と呼ばれたその老人も、俺の左隣の人影の正体に気付いたようだ。
人生の苦渋を残らず刻み込んだような彫りの深い皺を刻んだ顔が、複雑に変化する。
「……」
老人に聞かれた俺は、彼の方を向いて静かに頷いた。
三ケ島吾朗。
あの忌まわしき大戦以前、彼女の『ホームドクター』にして、花菱デパート屋上プラネタリウム
館の従業員だった人物。
コンパニオンロボットとしての彼女を、もっともよく知っているであろう人物。
老人の眼差しと、彼女の眼差し。
少し距離を開けて、互いの瞳が語り合う。
まるで二人の間に横たわる40年以上もの歳月をゆっくりと埋めるかのように。
「……」
止まぬ雨の中、濡れる事も厭わずに老人が彼女の元へ歩を進める。
「……」
彼女は無言のまま、その一挙手一投足に至るまで全てを見逃すまいとするかのように、視線
を自身の目の前に釘付けにする。
やがて彼女の目前まで近付いた老人は、外套を着たままの彼女を静かに自身の元へ抱き
寄せた。
「吾朗さん……、吾朗さん……」
老人の胸の中、繰り返し静かに呟く彼女の頬を、雨粒以外のものがつたう。
「……ありがとう……、そして……、すまなかった……」
白髪を額に貼り付かせ、水滴に濡れた丸ぶちの眼鏡の奥の瞳が僅かに光る。
雨に打たれながら、お互いを確かめ合うかのような抱擁。
それ以上の言葉は、不要だった。
……俺は二人から一歩離れたところから、その始終を見守っていた。
(よかった……)
素直にそう思えた。
俺が今までやってきた事が、無駄ではなかったことへの安堵。
目の前の光景に、心の奥から湧き立つ感動。
俺をここまで導いてくれた、彼女に対する感謝。
そして……、どこか心に風穴があいたような一抹の寂寥感。
それらが全てない混ぜになった複雑な心境で、俺はその光景を眺めていた――。
毎度のお目汚し、失礼致します。
第18章ですが、頭に描いたボリュームがとんでもないことになってしまい
とても収まりきらないと判断しましたので、分割で投下致します。
今回は前章の前フリの通り、吾朗さんとの再会までです。
と言いましても、続きはまだ頭の中なのですが……orz
生暖かく見てやって下さい。
続きはなるたけ早目に投下するつもりです。
さて、USBメモリに入れといた17章分+αのデータ、どうやって復元しよう……orz
おおー待ってました!保守ってた甲斐がありました!
>さて、USBメモリに入れといた17章分+αのデータ、どうやって復元しよう……orz
うわちゃー(つД`;) やっちゃいましたか。
USBメモリはぶっとぶことが多いから、入れとくとヤバイですって。
初代からスレは保管してるんで、掲載分だったら(ソースごと)渡せると思います。
加筆訂正があったら、その分はどうにもなりませんがorz
追伸:
銀河鉄道の夜のDVD、買おうかどうしようかいまだに迷ってます。
GJ、そして他の話も読みたい俺が来ましたよ
>>170 上書きさえしてなければ運が良ければ復旧は可能かと思われます。
USBメモリ自体を紛失した、と読んだ私は異端?
「お客さま、吾朗さん、お待たせしました」
たとえ人前でも、俺は相変わらず「お客さま」呼ばわりだ。
こうまで呼ばれ続けていると、もう訂正してやろうという気さえ起きなくなる。
まあ、今回は本当に「お客さま」だから、これはこれでいいのだが……。
奥の部屋からそれぞれの手にひとつずつマグカップを携えた彼女が近寄ってくる。
一切よどみのない動きで部屋の中央に鎮座する粗末な木製のテーブルに近づき、先に座ってい
た俺と対面に座る老人の前にそれぞれひとつずつ陶製のマグカップを置くと、自らは二つの空い
た椅子のうち、俺の隣の椅子に腰掛けた。
「ありがとう」
俺の前に座った白髪に丸ぶち眼鏡の細身の老人――三ヶ島吾朗――は柔和な口調でコーヒー
を入れた彼女に一言礼を言い、自分の前のほこほこと湯気の立つマグカップを手に取り、大きく
息を吸い込んだ。
矍鑠(かくしゃく)としたその動きは、年齢からくる多少の衰えこそあれ、まだしっかりとしたものだ。
こうしていると、祖父、父、そして娘、という感じに見えなくもないかもしれない。
あまりに和やかな空気のせいか、そんなことをつい考える。
「……本物のコーヒーは本当に久しぶりです。代用コーヒーならこの辺りでも手に入るんですが、
この香りはやはり本物でなければ味わえませんからね」
そう言って老人は穏やかに笑い、そのままカップを口元に近付け、一口啜る。
そして、しばし沈黙。
「……僕の好みを、ちゃんと覚えていてくれているんですね」
「はい、もちろんです。吾朗さんの好みが薄めのブラックコーヒーだということはわたしの蓄積デー
タベースに間違いなく記憶されています。長い年月が経過しておりますので吾朗さんの味覚の嗜
好が変わっている可能性も否定は出来ませんでしたが、どうやらお好みは変わっていなかったよ
うですね。よかったです」
本当に嬉しそうにインナーレンズを濡れたような光学樹脂の瞳ごときゅっと絞りながら、彼女は微
笑んだ。
俺も一口飲んでみる。
口に含んだ瞬間、はっとした。
いつも飲んでいるコーヒーとは、明確に違う。
雑味が一切ない。
雨水・河川の水を問わず、どんなに煮沸しようが濾過しようが薬品を使おうが、普通では絶対に
切り離す事の出来ない水の雑味が全くない。
飲用に供するための処理を一切必要としない、健康な水。
生きるために、一番必要となるもの。
それが、ここにはあった。
今、俺と彼のために彼女が淹れてくれたのは、そんな水で作ったコーヒーだ。
正直なところ、コーヒー本来の苦味・酸味・渋味がこれほどはっきりと分かるものだとは俺自身知
らなかった。
いつも雨水を携帯濾過器で濾過した水で淹れたものを飲んでいるのだから当然だろう。
いくら彼女のお茶を淹れる腕前が達者だとしても、肝心の水が不味ければその腕も半減してしま
う。
「……美味い」
情けないことに、こんなありきたりの言葉しか出てこない。
「幸いな事に、ここは水だけは不自由しません。ですから僕のような人間でも何とか生きていける
んです。このシェルターを作った方が誰かは知りませんが、本当に感謝しなければなりません」
ここの水は、背後に聳える山脈の地下深く、岩盤を一直線に掘り下げたところ、地下約1500メート
ルを流れる水脈から汲み上げているらしい。
水質もそうだが流量もかなりあるらしく、小型のタービンを使って水力発電まで行っているらしい。
このシェルター内で消費する電気は、全てそれで賄えるのだそうだ。
地下深くとはいえ、この星の自浄作用はまだ働いている。
この惑星は完全に死んでいるわけではない。
俺はその事を実感して安堵すると同時に、そのようなところにまで手にかける人間の横暴さを考
えずにはいられなかった。
「しかし、ゆめみがまさか『Polaris』の筐体で僕の前に現れるなんて、想像もしませんでした」
俺に向かって切り出す。
「申しわけありません。本当でしたら、彼女本来の筐体でお会いさせたかったのですが……」
「その件は気になさらないで下さい。あなたは僕たちが連れ出せなかったゆめみを封印都市から
連れ出すために最善を尽くしてくださいました。そのためにあなたご自身が怪我までなされて。僕
はそのことには感謝することこそあれ、恨むことは一切ありません」
落ち着いた口調で答える。
「吾朗さんのおっしゃる通りです。お客さまには何も過失はなかったとわたしは考えます」
俺の隣に座っている連れ出された当の本人が大きく相槌を打つ。
「……そう言ってくださると、救われます」
偽らざる本心だった。
「あの、失礼ですが、そういえば吾朗さんはどの時点でわたしの筐体がポーラさんだとお気づきにな
ったのですか?」
隣の彼女が会話に割って入る。
「簡単なことですよ。SCR5000Si/FL CAPELUには涙を流す機能はついていないですからね。
それに、ゆめみのメモリチップと完全に互換性があって、なおかつ人間の心や感情を理解し、表
現することまで可能とする高度な演算・処理能力を備えたコンパニオンロボットを僕は1体しか知
りません。そう、『ポーラ』以外には、ね。」
彼女――SCR5000Si/FL CAPELUだった頃のほしのゆめみ――のお目付け役として花菱デパ
ートに『出向』する前、まだメーカー勤務だった頃、彼は民生用コンパニオンロボットの開発プロ
ジェクトに参画していた時期があるという。
そのときに、当時プロトタイプとして稼動していた『Polaris』と接点を持ったのだろう。
「時期的にはほんのわずか、プロジェクトの末期です。その後、僕はサービスセクションに異動に
なってしまいましたから。でも、開発プロジェクト主任の助手として働いていたポーラの事はよく知
っています。初めて見たときは、こんなに『人間らしい』ロボットを創れるものなのか、と驚くばかり
だったことを今も鮮明に覚えてますよ」
「そうだったんですか。吾朗さんはわたしと一緒に花菱デパートに来る前に、ポーラさんにお会い
になったことがあったんですね。ただいま吾朗さんの経歴に関する蓄積データベースを修正しま
した」
その言葉を聞いた彼が俺に耳打ちをしてくる。
「どうやらゆめみは、感情は理解できても基本的な部分は全然変わっていないようですね」
「過去から全く変わっていないんですか?」
「ええ、全く。あなたも当初はかなり苦労されたのではないですか?」
「ええ、さすがにもう慣れましたがね」
「……あの、お二方?」
年のいった男二人が顔を突き合わせて小声で話しているのを訝しく思ったのか、彼女が会話を静
止にかかる。
「何だ?」
「申しわけありませんが、お二方がおっしゃっている事の意味がよく分かりませんでした」
少し不満げに大きな緑色の瞳をくりっと動かしながら小首を傾げる。
「まあ、そんなに気にするな。別にお前の悪口を言っているわけじゃない」
「そうですよ、気にすることはありません」
二人で同じニュアンスの言葉を返す。
「そうなんですか」
一応納得はしたものの何となく釈然としないものを感じたのか、顔に「?」を浮かべながら俺と彼
の顔を交互に見ている。
そんな彼女の仕草を、男二人は微笑ましさを感じながら眺めていた。
このシェルターは、別の居住地域へ所用で向かおうとした彼が道に迷った時に偶然見つけたも
のらしい。
屑屋を営んでいた俺でさえ、こんなシェルターの所在は全く知らなかった。
こんな上等な施設が誰にも知られずに残っていた事、それはまさに奇跡。
通常なら、この奇跡を独占しようという欲のひとつも出てこようというものだ。
だが、彼はここの麓にある居住地域の長にここの事をすべて話し、ここから居住地域へ余剰電力
と水を供給する見返りとしてここに住み着く道を選んだ。
今はシェルターを管理しながら、住民からの機械修理などの依頼を受けて暮らしているそうだ。
「まあ、今の僕は居住地域の方々から見れば水番、それから電気番といったところでしょうか」
言葉自体は自虐的だが、そこから悲壮感は感じない。
実際に逢うまではもっと研究者然とした堅苦しい人物を想像していたのだが、自身の信念を持っ
たしっかりした受け答えをしながらもどこか飄々としている。
捉えどころがない人物だ、と思った。
だが同時に信用できる人物だ、とも思った。
………
「ところで吾朗さん、ほかの方々はここにはいらっしゃらないのですか?」
マグカップの中のコーヒーが空になった頃、彼女が呟くように口に出した言葉。
彼女が聞いたことは、俺も聞きたかったこと。
悪気がないのはもちろん分かっている。
それは彼も分かってはいるだろう。
だが、その言葉は今までの和やかな部屋の空気を沈静化させるには充分すぎる重みを持ってい
た。
「……」
その場にいる全員が口を閉ざす。
「……」
息が詰まりそうな重々しい沈黙が部屋を覆う。
「……」
目の前の老人は、難しい顔をしながら溜息をひとつ吐くと、意を決したような表情でこちらに向き
直る。
「申しわけありません!申し……」
気まずさを感じたのか、やおら立ち上がり謝罪しようとした彼女を、彼はやんわりと静止した。
「大丈夫ですよ。いずれはふたりにも知ってもらわなければならないことなんですから。少し長く
て辛い話になるかもしれませんが、大丈夫ですか?」
俺と彼女が同時に頷く。
「……ゆめみと別れてすぐの事です……」
そして、老人はゆっくりと語り始めた――。
「取るものも取らずに強制退去させられた後、僕たちは一旦大きな居住地域に集められました。
そこで僕たちは『選別』を受けたんです」
「選別、と申しますと?」
「人選、と言い換えてもいいかもしれません。軍部にとって有用になりそうな人材を拾い上げる作
業です。ロボット工学とエレクトロニクスの知識があった僕は軍部に徴用され、それ以外の人たち
は国民の生命の保護という名目の下、無作為に選ばれた各地の居住地域にバラバラに強制移
住を命ぜられました。家族構成だけは考慮されましたが、それ以外の要素は一切考慮されませ
ん。引き裂かれる友人、恋人たち……。当然反発はありましたが、僕らに拒否する権利はありま
せんでした」
「……」
言葉にならない。
国民の保護なんて、見え透いた嘘だ。
おおかた、行動や情報の統制・管理のために自国民を一元的に監視したかっただけだろう。
古今東西、どこの国家でも考える事は一緒だ。
そして、そんな愚かしい行為の犠牲になるのは常に名も知れない一般の人々だ。
国家とは、どこまで愚かな組織なのか。
やり場のない憤りを感じる。
「館長をはじめとした僕たちスタッフも例外ではありませんでした。軍部に徴用された僕以外の人
は、各地の居住地域に散らされる事になりました。分かったのは居住地域の名前だけ。場所や
規模などは全く公表されません。それでも僕たちは出発の前夜、互いの居住地域の名前やそれ
ぞれの故郷の場所等の情報を互いに交換し合いました。別れ際に『みんな、戦争が終わるまで
絶対に生き残ろう。そして、みんな揃ってゆめみを迎えに行こう。笑顔で"ただいま"と言ってあげ
ようじゃないか』と言った館長の言葉をそれぞれの胸に閉まって……」
「……」
隣の彼女は神妙な面持ちで話に聞き入っている。
その胸には、一体どんな思いが去来しているのか。
俺には分からない。
「軍に徴用された僕は、技術支援部隊に配属されました。簡単に言えば開発や修理などの後
方支援です。危険な事には変わりありませんが、結果的にこの部隊に配属されたのは不幸中の
幸いでした。あなた方もご存知の通り、この大戦には明確に前線と呼べるものが存在する事は最
後までなかったのですから。そうこうしているうちに国権の中枢も軍の中枢も数発の熱核弾頭で一
瞬のうちに消滅、この国は国家としての形を失いました。ですが僕たちにとっての本当の意味で
の戦争は、もしかしたらそこから始まったのかもしれません」
マクロな意味での『戦争』は、確かに終わったのかもしれない。
だが、残された人類にとっての戦争は、まだ終わってはいなかった。
その戦争の名は、「生きる」。
それは、本来の戦争よりもずっと苛烈を極めるものだ。
そしてそれは、この先ずっと、もしかしたら未来永劫終わる事がない戦争。
終わらせる手段はたったのふたつ。
人類が地球からいなくなるか、地球がこの宇宙から消え去るか、だ。
昔、どこかで『生きる事は戦いだ』という歌のフレーズを聴いたことがある。
まさにそのとおりの状態が、今の世界だ。
「混乱の中で軍を抜け出した僕は、こっそりと入手しておいた居住地域の詳細なリストを頼りに、
かつてのスタッフを探し始めました。自律戦闘兵器や野盗の目を掻い潜りながらですから足取り
は遅々としたものですが、それでも何とか居住地域を探し出す事は出来ました。ですが……」
ほうっ、と一息吐いて、続ける。
「……僕のリストに載っていた居住地域は、そのほとんどがすでにもぬけの殻でした。避難民の
増加や地域内の内乱によって打ち捨てられたところもあれば、自律戦闘機械の襲撃を受けて壊
滅したところもありました。ほんのわずか残った住民に聞いてみても、ほかの人たちがどうなった
かは結局分かりませんでした。リストに載っている以外の居住地域に移り住んでいればいいので
すが……」
彼は自分なりに、彼女との再会を信じて独自に動いていたのだ。
『スタッフみんなで彼女を迎えに行く』
その信念に突き動かされて。
しかし、俺自身も彼女とともに旅をしてきてある程度の覚悟はしていたが、こうしてほかの人間か
らも自分らと同じ状況を聞かされることは、やはり相当堪える。
やりきれなくなって、つい彼女に目を移す。
もっと取り乱し、狼狽した表情をしているかと想像していたが、表向きは平静を保っていた。
それは、感情を理解しているとはいえ彼女がロボットだからなのか、それとも俺と同じようにある程
度の覚悟は出来ていたからなのか。
その心中までは推し量る事は出来ない。
「各人から聞いた故郷の情報についても調べてみましたが、居住地域と似たり寄ったりの状況で
した。ですがそんな中、ひとりだけ、何とか再会することが出来ました。今はこのシェルターの別
の部屋にいます」
「それは……」
「吾朗さん、どなたなんですか?」
俺の問いは、彼女の言葉に打ち消された。
「倉橋さんです」
「里美さんが、こちらにいらっしゃるのですか?」
「ええ……」
彼女からそれこそ耳が痛くなるくらいに話は聞いている。
倉橋里美。
花菱デパート屋上プラネタリウム館、元解説員。
彼女の先輩解説員であり、ロボット解説員だった彼女の教育係でもあった女性。
おそらく当時、彼女が一番身近に接していた人間だろう。
彼女が色めき立つのも無理はない。
あんな絶望的な話をされた後なら、なおの事だ。
俺だって素直に喜びたい。
だが、何か引っかかっていた。
「何か問題でもあるんですか?」
彼女に悟られないよう、小声で老人に耳打ちする。
「はい。ゆめみが今の倉橋さんを見てどういう反応を示すか、僕には予測できません」
やはり、何かいわくつきか……。
少し考えて、俺は彼に言った。
「逢わせてやって下さい。倉橋さんが現在どんな状況に置かれているかは知りません。ですが、
あいつは俺よりも強い『心』を持っています。それに、ちゃんとした説明なく逢うことが出来ない時
に、一番悲しむのはあいつです。大丈夫です。俺が保証します」
半分は嘘だった。
察するに、かなり難しい状況なのだろう。
それに対する赤の他人の『大丈夫』という保証など、どこまで当てにしてくれるかは分からない。
だが、俺自身も目の前に人参をぶら下げられて引き下がるつもりはなかった。
どんな状況であれ、いざとなれば身を挺してでも彼女を止める覚悟はある。
「……」
「……」
俺の意思と老人の意思。
ふたりの思惑が互いの脳内で交錯する。
やがて……、
「……わかりました。あなたがそこまで言うなら、大丈夫でしょう」
小声で老人が俺に答える。
「ありがとうございます」
俺は頭を下げた。
「あの、お客さま、吾朗さん?どうなされたのですか?」
ようやく俺たちの密談に気付いた彼女が、怪訝そうな顔をして小首を傾げながらふたりのことを眺
めていた。
「何でもないですよ。それでは、倉橋さんのところに行きましょう」
努めて平静を装いながら、老人はそれでも優しく彼女に話す。
「はい、承知しました」
何も知らない純真なロボットのその返事に、少し心がちくりと痛んだ――。
毎度のお目汚し、失礼致します。
第19章、実質第18章の続き、アップにつき投下致します。
今回はゆめみさんと別れてからの吾朗さんの足取りを書いています。
なんかどんどん書いているうちにヘビーな話になってしまいました。
これも自分の文章の至らなさでしょう。
不快感を感じる方も、中にはいらっしゃるかもしれません。
申し訳ありません。もっと精進します。
この先、もう少しヘビーな展開が続きますが、この場面は『Binary』の
ひとつのヤマだと考えていますので、もうしばらくご辛抱ください。
自分も、もう一度気合を入れ直して書きます。
よろしければ読んでやって下さい。
>>171、
>>173-174 USBメモリですが、挿入したPCによって症状が異なります。
0バイトのストレージとして認識されたり、USBハブとして認識されたり
全く認識されなかったり……。
上書きは全くしていません。
おおお!インドネシア出張から帰国したタイミングを狙ったように新作キター!GJ!!
まさに山場、がんがんヘビーに行ってください!
明日からまたタイに出張です。新作楽しみにしながら行ってきます〜
とりあえず保守ー
田舎のほうならみなみじゅうじ座が見えるらしいけど、ホテルでも会社でもだめですたorz
アハトノイン
「貴方を、犯人です」
マードック
(……戦術核でもぶちこんでやろうか……#)
それ、どこの、お手伝いさん?なんだか石のような名前だったような。
なんだっけ、主人が季節の様な名前だったような。
きのこ? 那須? あれれ?
めしのゆめみ
「お客さま、きのことナスの炒め物でございます」
屑屋
「もう好きにしてくれ……(むしゃむしゃ)」
ちょw
めしw
なつかしいな、めしのゆめみw
「Vegitalian 〜おいしいめしのゆめ〜」だっけか
カツ、カツ、カツ……。
少し水が染み出したコンクリート打ちっ放しの味気ない通路。
白色LEDのうすぼんやりとした灯りが通路を進む俺たち三人を不気味に照らし、足元の2方向に長
く影を伸ばす。
老人の話では、このシェルターは通路を中心にして両脇に設置された7つの部屋で構成されてい
るという。
入口方向から老人の部屋と修理のための工房、倉庫と空き部屋、機械室が2つ、そして……、今
俺たちが向かっている一番奥の部屋だ。
カツ、カツ、カツ……。
3人の靴底がコンクリートの床面を叩く音のみが響き渡る。
誰一人、言葉を発する事はない。
先ほどまで再会に胸躍らせていたであろう彼女も、今は無言だ。
再会するというにはどことなく異常な空気を敏感に感じ取ったのだろう。
奥に向かって、なだらかに傾斜しながら続く通路を進む。
言葉なく静々と進むさまは、第三者から見たら葬列か何かと間違われるかもしれない。
否応なしに不安が増幅されていくのが手に取るように分かる。
「ここです」
気が滅入りそうな行進の果て、俺達は目的のドアの前に立っていた。
「ここに里美さんがいらっしゃるのですね?」
「ええ、そうです」
鈍色に妖しく光るドアノブに老人が右手を掛ける。
そのまま開けるのかと思いきや、老人は俺達に向かって踵を返しながら言った。
「おふたり、特にゆめみにお願いします。この部屋のなかで何を見ても、絶対に取り乱したりしない
でください」
間違いなく、何かある。
それも、相当深刻な何かが。
「……分かった」
「はい、承知しました」
ともあれ、この奥に彼女に一番近しい女性がいること、それだけは間違いない。
俺も彼女も即答する。
老人は俺達の意思に揺るぎがないことを確認したかのように軽くうなずくと、再び扉に向き直る。
「それでは、開けます」
カチャ。
ノブを時計回りに回すと同時に、ロックが解除される軽い金属音。
キィ……。
軽い軋み音を残し、金属製のドアが開け放たれた。
……おそらく彼女の筐体がSCR5000 Si/FL CAPELUのままなら、きっと彼も逢わせる事に何の躊
躇いもなかったろう。
が、今の彼女の『意識』は感情表現を可能とする筐体にいる。
この部屋の中の事実をもし事前に知っていたら、間違いなく俺も引き合わせることを迷っただろう。
それほどまでにこの部屋の中にいる人物のありさまは、彼女に衝撃を与えるに充分なものだった。
天井に据えられた白色LEDが、通路と同じコンクリート打ちっ放しの部屋の中を無機質に照らし出
す。
部屋そのものはそれほど広いわけではない。
だが、鉄パイプで組まれた簡素なベッドとその隣に置かれた小さな棚だけで構成された調度品が
、俺の目に余計に部屋をがらんと見せる。
真っ白なシーツを被せられたそのベッドの上に、件の女性は上半身を起こした状態でそこにいた。
シーツと同じ色の白い寝具を身にまとったその姿は、見た目は普通の年を取った女性だ。
だが、薄く皺を刻んだその顔にある目に生気は宿っていない。
視線も、どこかを眺めているといった感じではない。
どこかを見ている、というのではなくただ目を開けているだけ、といった印象だ。
そして、その身体からも生気というものはまったく感じられない。
昔、話に聞いた「幽鬼」というのは、もしかしたらこういうものなのだろうか。
「……心、そしておそらくは記憶も、閉ざしてしまっているんです」
後ろから老人の声が、まるでこちらの考えを読み取ったかのように聞こえてきた。
「僕が倉橋さんをある施設で発見した時には、既にこのような状態でした。その施設の方に聞いた
ところ、2年くらい前に風邪を引いて寝込んだことがあるらしいのですが、病状が回復してもずっとあ
の状態だそうです。僕は医者ではありませんから詳細は分かりませんが、肉体的には問題ありませ
んのでおそらく精神的なものが要因だと思います」
いくらなんでも風邪だけでこのようになるなどという事はあり得ない。
おそらく内に溜め込んでいた様々なストレスやプレッシャーが風邪という外的な刺激により「現実か
らの逃避」という形で一気に外に向けて発現してしまった、といったところだろうか。
本当の事は本人にしか分からない以上、推測でしかないが。
目の前の光景と、訥々と語る老人とを交互に眺める。
「食事を出せば食べますし眠ることもするんですが、すべての行動に喜怒哀楽といったものがあり
ませんし、何かに興味を示すといったこともありません。僕が話し掛けても、彼女からコミュニケーシ
ョンを取ってくることは一切ありません。今は何をするでもなく1日中ああいった感じで過ごしていま
す。それでも何かのきっかけになればと、毎日事あるごとに語り掛けるようにはしているのですが、
今のところは何も……」
彼女を見る。
意外なほどに静かだった。
後頭部から長く垂れ下がった振り分け髪も、荷帯のようなインフォメーションリボンも、1ミリと動かな
い。
まるで等身大の彫刻のように、目の前の光景から一瞬たりとも目を離すことなく、彼女は立ち尽くし
ていた。
『心』を手にしたロボットと、『心』を閉ざした人間。
それは、対照的と一言で片付けてしまうにはあまりにも残酷な光景だった。
………
……
…
「吾朗さん?」
奥の部屋から戻る途中、前を向いたまま彼女が後ろを歩く老人に問い掛ける。
「以前、花菱デパートのプラネタリウムの控え室で、わたしに天国や神様のことについてお話しした
時の事を覚えてらっしゃいますか?」
静かな口調。
一切の感情を殺したような、平滑な口調だ。
「……ええ」
「その時に記録されましたわたしの蓄積データベースには、神様は人々の願いをかなえてくださる
お方である、と記録されています。わたしのデータベースは、間違っていますでしょうか?」
「……いいえ、その通りだと、僕も思います」
「……でしたら、」
言いながら彼女がこちらに振り返る。
「今のあの状態は、里美さんが神様に望んで叶えてもらった姿、ということなんでしょうか?里美さん
の願いは、ああなることだったというのでしょうか?仮にそうでないとしましたら、里美さんが、どうし
て……、どうしてあのようになる必要が、あるのでしょうか……?」
それまでの平滑だった口調に、みるみる感情が宿る。
それに同調するように小さく細い肩が小刻みに震える。
「……」
老人は何も答えられない。
ただ、まっすぐに彼女を見つめるだけだ。
やっとの思いで再会した大切な人の、あまりにも変わり果てた姿。
誰が悪いというわけではない、ということはきっと彼女にだって分かっている。
だが、分かっていたところでこんな理不尽、彼女でなくても承服できるわけがない。
それも痛いほどよく分かる。
だからこうして感情が迸るのを抑えられない彼女のことも、責める事は出来ない。
「お客さま、吾朗さん……。もしこれを神様が……なされたのだとしましたら、神様は……どうして
……、」
光学樹脂製の濡れたような瞳から、涙が一滴こぼれて落ちる。
「どうして、このようなことを……、なさるのでしょうか……?」
もうそれ以上、彼女は言葉を発することはできなかった。
両の手で顔を覆い、その場に崩れ落ちる。
あとは覆った指の隙間から漏れる嗚咽だけが、うっすらと湿気を帯びた薄暗い通路にこだまするの
みだった……。
………
……
…
「……少しは落ち着いたか?」
「……」
「……おい」
「……あ、はい、大丈夫です。お客さま、ご心配をおかけしまして申し訳ありません」
微笑みながら、軽く会釈。
大丈夫なわけがないだろう。
心の中で彼女に語りかける。
俺を心配させまいとするその微笑が、かえって痛々しかった。
今、俺達は老人からあてがわれた空き部屋の中、小さなテーブルを挟んで差し向かいで座ってい
た。
周りには様々な生活物資や機材が積まれているところを見ると、ここも空き部屋とはいえ実質倉庫
のようなものだろう。
『このような場所で申し訳ありませんが……』と老人は恐縮していたが、俺自身はどんな環境だろう
と雨露をしのぐことさえ出来れば何も言うことはない。
「……」
唸りながら腕を組み、そのまま椅子の背もたれに寄りかかる。
「……」
正面の彼女は行儀良く椅子に腰掛け、身じろぎもしないで俺の言葉を待っている。
「……」
「……」
重苦しい静寂が部屋を支配する。
俺たちに何が出来るのか。
考えている事は俺も彼女もその事ひとつだけ。
しかし、俺は悩んでいた。
いや、迷っていた、と言う方がより正確かもしれない。
黙ったままの俺をじっと見ていた彼女の唇が動く。
「あの、お客さま?折り入ってご相談があるのですが、よろしいでしょうか?」
神妙な面持ちで言う。
その時。
コン、コン。
俺達の部屋のドアが軽くノックされた。
『お話し中のところすみません。少し相談したいことがあるのですが、今よろしいですか?』
外から柔和な、しかし芯の通った老人の声が聞こえてくる。
「どうぞ」
「よいしょ……っと。失礼します」
体ごとドアを押し開けるようにして老人が部屋に入ってくる。
小脇には何か小さな黒光りする機械のようなものを携えていた。
「吾朗さん、こちらへどうぞ」
彼女が自らの席を立とうとする。
「いや、手短に済ませますから、大丈夫ですよ」
「吾朗さん、わたしはロボットですから、ずっと立ったままでも疲労を感じる事はありません。ここにお
ります吾朗さん、お客さま、わたしの現在の身体的状況を比較のうえ考慮いたしますと、この場は
わたしが席を立つ事が最善と考えます。どうぞ遠慮なさらずにお座りください」
そう言いながら、老人を誘うように椅子を引いた。
「そうですか。それじゃ遠慮なく座らせてもらいます」
老人は彼女が引いた椅子に己の腰を落とす。
それを見届けると、彼女はテーブルの側面、ちょうど俺と老人の横に立った。
背筋をピンと伸ばし、右足を半歩引き、両手は正面。
その姿勢はまるで呼び込みでもするかのようだが、あどけなさの残る整った顔には微笑は微塵もなかった。
「確か今、あなたとゆめみは星を見せながら各地を回っている、と言っていましたね?」
「ええ」
「ご相談というのは、その事です。倉橋さんに星を見せてあげてほしいんです」
「ここで投影をする、ということですか?」
「はい」
老人が続ける。
「倉橋さんの症状が精神的なものではないか、ということは先程お話しした通りです。それなら、彼
女の精神に訴える事ができるもの、言い換えれば精神的ショックを与えられれば、もしかしたら今の
状態から脱する事ができるんじゃないか、と僕は以前から考えていたんです」
心を強烈に揺さぶる何か。
それが彼女にとっては「プラネタリウムの星空」ということなのだろう。
それは俺も一度は考えた。
だが、やってみなければ分からないとはいえ、俺たちの投影がそれほどのインパクトを与えることが
出来るのか?
それに、十分なインパクトがあったとしてもそれが必ずしも良い方向に効果が出るとは限らないの
ではないか?
万が一そうなった時に、俺は老人に、そして彼女に対して責任を負うことが出来るのか?
今までもこういった人々に対して、投影をした事がないわけではない。
しかし、最終的に味わったのは奇跡を目の当たりにした歓喜ではなく、朽ちてゆく者に対する己の
無力さだった。
単に現状から逃げているだけなのかもしれない。
だが、それらは俺に二の足を踏ませるには、充分すぎる理由だった。
「僕自身もいろいろ得た知識を総動員して投影機を作ってみようとはしたんですが、ここまでしか…
…」
言って、テーブルの傍らに置かれた機械に目をやる。
「これは……」
その『投影機』は、歯車や配線が剥き出しの状態でテーブルに鎮座していた。
全体の大きさは大体幼児の頭くらいだろうか。
『小さいイエナさん』と比較しても、まだ小さな機械だった。
様々なモーターやギアが両側から伸びる架台を支えにして宙に浮いた形になっている。
が、まだ投影機の肝である恒星球も光源も、そこには付いていない。
「一球式のピンホールタイプです。ご覧の通り駆動系はある程度形になったんですが、肝心の恒星
球が上手くいかなくて……。花菱デパートにいたとき、もっと天文学の勉強をしておけば、と、後悔
しきりです」
自嘲気味の笑顔だが、目は笑っていない。
その目から、俺は老人の『本気』を感じ取った。
「もちろん星を見せたところで、どうなるかは僕にも分かりません。今と同じ状態のままかもしれませ
ん。いえ、もしかしたら、今よりももっと悪い状況に転ぶ可能性だってあります。でも、状況が好転す
る可能性だって全くないわけじゃありません。なら、やってみる価値はあると、僕は思うんです。もし
悪くなった時の事をお考えでしたら、心配は要りません。全ての責任は僕がとります。倉橋さんに
星を見せてあげてください」
そう言って、目の前の老人は俺に頭を下げた。
(……)
俺はもう一人の当事者に意見を求めようと、視線を傍らに立つ彼女に向けようとした。
「お客さま?」
振り向くより先に、彼女の声。
「……いいのか?」
きれいな緑色をした瞳を真正面に見据えながら、反射的に問い掛けた。
「はい。わたしが先程お客さまにご相談したかったことも、このことです」
「うまくいく保証は何もないぞ」
「はい。お客さまのおっしゃるとおり、里美さんが元どおりになる保証はございません。ですが、吾
朗さんが先程おっしゃった事も、また事実だとわたしは考えます」
穢れのない澄んだ眼差しが、俺を捉える。
「わたしも、あれから里美さんのために何ができるのか考えてみましたが、結局わたしには、人間の
皆さまに星空をお見せする事しかできる事が思いつきませんでした。ですが、そのわたしのできる
唯一の事で里美さんが元に戻る可能性があるのでしたら、わたしは今の自分に出来る限りの精一
杯の投影を里美さんにお見せしようと思います。それが、わたしがこの世界に存在する理由なので
すから……」
「……」
この旅に出発する直前、俺に自らの思いを語りかけた時の彼女の姿が、目の前で懇願する姿に重
なる。
「お客さま、わたしからも是非ともお願いいたします」
俺に向かって、丁寧に一礼する。
「……」
「……お客さま?」
「……分かった、やろう」
ふたりがそこまで考えているのなら、俺が反対する理由などどこにもない。
「お客さま……、本当にありがとうございます」
安堵の表情を浮かべながら、頭から帽子が落ちそうなくらい深々と頭を下げる。
「おいおい、俺に感謝するのは筋違いだろう」
思いもよらなかった彼女よりの謝辞に照れを感じる。
「いいえ、そんな事はございません。お客さまがわたしのそばにいらっしゃるからこそ、そしてお客さ
まのご協力がありますからこそ、わたしは何の心配もなく投影を行う事ができるんです。ですから、
お客さまに感謝するのは当然のこととわたしは考えます」
満面の笑みとともに、俺に投げかけられた言葉。
その言葉を聞いて、俺はひとつの結論に達した。
そうか。
ここに来て以来、先程までふたりを見たときにどことなく感じていた、よそよそしさ。
彼女と意識的に距離を置こうとしていた、自分の存在。
俺は彼女と老人、そして自分との間に自ら溝を作っていたのか。
さっき俺が自分から投影の件を提案できなかったのも、老人と彼女の懇願に一瞬躊躇したのもそ
のせいだろう。
その溝を作っていたものが彼女の同僚との再会に対する『疎外感』なのか、それとも老人に対する
『嫉妬』なのか、それはわからない。
だが、彼女が投影をするというのなら、全てを尽くしてフォローしてやるのが彼女の『パートナー』と
しての今の俺の役目のはず。
俺はそんな初歩的な事も忘れてしまうほど、視野狭窄に陥っていたのか。
いま気に病むべき事は、そんな事ではない。
目の前の事柄をまずは考えよう。
その後で最終的に結論を出すのは、彼女だ。
その時にどんな結論を出そうが、尊重すると言ったのは誰でもない俺じゃないか……。
俺は椅子から立ち上がり、老人に向かって言った。
「満足の行く結果になるかは分かりません。ですが、素晴らしい投影を見せること、これだけは保証
します」
続いて立ち上がった老人に、右手を差し出す。
「ご協力、よろしくお願いします」
頭を下げる。
少しして、手のひらと甲、両方に感じる温もり。
「ありがとうございます。僕に出来る事でしたら、何でも言って下さい」
顔を上げると、柔和な笑みを浮かべる老人の顔が目の前にあった。
俺も老人の右手の甲に、左手を添える。
「お客さま、吾朗さん、ぜひ里美さんに今のわたしたちに出来る最高の投影をお見せいたしましょう」
俺たち二人の様子を眺めていた彼女が、言葉とともに満面の笑みを投げかける。
「ああ、頼むぞ」
そんな彼女の言葉が、何よりも頼もしく感じた。
俺、老人、そして彼女。
生い立ちも境遇も、何もかもまったく異なる三人の時は、ここを起点に同じリズムを刻み始めた。
止まったままの彼女――倉橋里美――の時を、再び動かす。
そのひとつの目的に向かって――。
結果はまさに『神のみぞ知る』だ。
毎度のお目汚し、失礼致します。
第20章、アップにつき投下致します。
CDドラマに系譜のシーンが入っていると聞き、聞く事が出来ないでいます。
聞いたら「Binary」の軸足がぶれそうで聞けません。
物は確保しているのに……。
生殺し状態です。
やっぱり、重い話は苦手です。
自分が書いていて、気が滅入ってきます。
しかも人様のキャラを勝手に精神を病ませてしまったり……。
里美さん、本当に申し訳ありません。
この埋め合わせは必ず……出来るのか、自分?
一応、一連の『Reunion』の括りは次で最終回の予定ですが
場合によってはもう1章追加する可能性もないとはいえません。
ダラダラと書いてしまって申し訳ありません。
よければ読んでやって下さい。
もうじき『Binary』書き始めて1年になるんだよなあ……。
長いような、短いような……。
20話キタァァ(゚∀゚)ァァァァ !!
もう20話なんですなぁ……
里美さんが大変なことになってるけど、
それでもゆめみなら……ゆめみならきっとなんとかしてくれる!(AA略)
時に、Jena氏は「系譜」のシーンにこだわってるけど、
キーワードは「天国での再会」なので、「Binary」にはそれほど影響及ぼさないような気もする。
とはいえ、「幸福に関する飢餓感」がSSを描く原動力になる、というのも事実だから、
ここは聞かないのも正解なのかな?
なにはともあれ、GJ!です。
「お客さま、本当によろしいのですか?」
「よろしいも何も、お前が言い出したんだろうが」
「はい。お手数をおかけ致します」
「じゃ、まず服を脱げ」
「はい、承知しました」
パサッ、シャッ、シュルッ、ふぁさっ…
「これでよろしいでしょうか?」
「まだだ。アンダースーツを着ているだろう。それもだ」
「これもですか?」
「そうだ。それを着られていたら、出来るものも出来ん」
「そうなんですか。少々お待ちください」
スッ、スルッ、パサッ…
「お客さま、これでよろしいでしょうか?」
「ああ。じゃあ、そこに横になれ」
「こうでしょうか?」
「上出来だ。それじゃ、始めるぞ」
「はい。よろしくお願いいたします」
・
・
・
「じゃあ、まずは筐体の力を抜け」
「はい。筐体頚椎部より下の各関節部・人工筋肉およびアクチュエーターへの運動信号の送信を停止。弛緩状態に移行しました」
「よし。まずは、ここを開くか…」
「……んっ」
「おい、大丈夫か?」
「はい、ご心配には及びません。どうぞお続けください」
「それから、これとこれを剥いてやって…」
「……ふうんっ…うくっ……」
「いちいち反応するな」
「申し訳ありません、申し訳ありません。ですが、筐体が勝手に反応してしまいまして……」
「まあ、なるたけ我慢してもらうしかないか」
「は……はい…」
「それで、こいつを抜き取って……と」
「ぅはっ!?んんっ!くはあああっ……!」
「すまん、今のは不味った」
「はい、今、抜く時にかなり擦れました」
「ちょっと気をつけないとな。何せ久しぶりだから手元が狂わんとも限らん」
「わ…わたしは大丈夫ですが?」
「念には念を入れて、ということだ」
「そういうものですか……」
「そういうものだ」
「さて、準備は出来たか。それじゃ、やっとこいつの出番だな」
「わたしが思っていたよりも小さいものなんですね」
「何を言っているんだ、お前。こいつはな、こうするとだな……」
「……伸びてきましたね」
「信号を与えることで伸縮するんだ。見た目よりは大きいぞ」
「こんなに大きいものが、わたしの中に入るんですか?」
「入るも何も、入れていたろうが」
「そうなんですか」
「何を他人事みたいに…。まあいい。それじゃ、入れるぞ」
「は…はい」
「よ…っと……。ちょっときついか」
「んんっ!くっ、うああっ!!」
「すまん。少し小さすぎたか。大丈夫か?」
「はい…問題ありません。続けてください」
「少しずつ入れるからな、ちょっと我慢しろよ」
「ぁはんっ!んうううっ!んあううっ!!」
「…おい?」
「…はい?」
「本当に続けていいのか?」
「大丈夫です。お客さま、どうか続けてください。もう限界だったんですから…」
「……わかった。多分ゆっくりやるからいかんのだろう。一気にいくぞ」
「あああっ!!はぁああああん!!」
「もう少しで終わるからな。もう少しの辛抱だ」
「くはああああっ!んあっ!ゃああああっっ!お、おきゃくさまああっ!」
「よし、あと一息だ。これで……よっ!」
「ぅはあぁぁあああああぁっ!ふぁぁああああああああぁぁああああぁんっ!!」
「よし…と。ふう、これで終わりだ」
「はあ、は、あぁ、はぁ……」
・
・
・
「……しかし、お前」
「はい?」
「何で筐体全体の触覚センサーの不具合を先に言わなかった?」
「申しわけありません、申しわけありませんっ!お客さまにご相談するのを失念しておりました。本当に申しわけありません!」
「腰椎ユニットのアクチュエーター交換なんていう大掛かりなメンテの最中に気付いても、どうにもならんぞ」
「本当にお手数をおかけいたしました」
「まったく、お前が『自分がどのようにメンテナンスされるのか一度見たい』なんていきなり言い出すから今回シャットダウンなしでお前に解説しながらメンテをやってみたが、こううるさいとさすがにかなわん。人工皮膚の切開も手元が狂って開口部が少し小さくなったしな」
「本当に申しわけありません」
「今日はもう遅いから、明日センサーの調整をしてやる。今度はシャットダウンするからな」
「はい」
「それからな、お前、今日はもう1ミリも動くなよ」
「それはなぜでしょうか?」
「今のお前のセンサーの感度だと、衣擦れだけで変な声をあげそうだからな」
「はい、承知しました。それでは今日はこのままスリープモードに移行させていただきます」
「ああ、そうしてくれ」
「明日の起動は明朝9時です。それでは、おやすみなさい」
(やれやれ…。あんな格好でのメンテ中にあんな悩ましい声をあげられたら、俺の方がメンテが必要になっちまう…)
〜つづかない〜
============================================
勢いだけで書いたのでシチュエーション完全無視だが、突込みは却下
ちなみに反省はしていない
仕事中なのに鼻血吹いたじゃないか どうしてくれるw
ドラマCDも出たことだし、また活気づくといいなあ・・・
GJ。いろいろとおっきしたw
>>211 職人方は忙しいんだよきっと。
ドラマCD組のために、過去スレまとめてうpるのもありかなぁ。
需要あるのか知らんが。
ノ
215 :
名無しさんだよもん:2007/08/10(金) 17:46:41 ID:fIIPJXDd0
ノ
ノ
やおい氏…生きてるか?
どうもお久しぶりのSGF-004です。
最近皆様も忙しかったりドラマCD買いに行ってたりしてるのでしょうか?(アニメイト行ったけど無かったorz)
最近作品が投下されないので燃料代わりにコテ職人解説を載せます。
雅「…で、何で私がアシストしなきゃならない訳だ?」
お客さまお姉さまもポーラさんも忙しくて、頼めなかった。
(紹介順は大体登場順です)
◆JENA/hfgHs
通称イエナ氏。
初代スレにて『binary〜ふたつのほしのゆめ〜』の第一話に当たる作品『Wish-prologue-』を掲載以後、
不定期に『binary』シリーズを掲載している。
初期の頃はよく屑屋に罵倒されている。
代表作:『binary』シリーズ
雅「この人がいなかったら今までの作品は無かった訳だ」
続き、楽しみにしてますよ〜
妄想屋(仮)
普段は名無しとしてスレに投稿している。
この仮ハンは筆者と雅の設定の事での雑談?で出た物。
このスレへは「絵とSSの修行」のために来ているらしい。
このスレの他、某THスレやメイ銃スレ、らき☆すたスレに絵師として出没している。
ここのSSの九割方はこの人の作品らしい。そのため、
お客様お姉さまやのぞみ、雅などこのスレ発祥のキャラは大抵彼の作品。
この人のHPを覗いている人はこのスレにどのぐらい居るか不明。
代表作:『planetarian another -ときをこえたゆめ-』、『うしなわれたほしのゆめ』など多数
正体知ってる人手上げろ〜(ゴスッ)ぐはっ
やおい
元陸上自衛隊所属の人。
コテの由来は初代スレでレス番801をとったかららしい。
銀河鉄道の夜をモチーフにした小説を掲載して以後、イエナ氏よりもローペースで不定期連載。
三スレ目511で自衛隊を除隊(任期終ったんですね)、現行スレ97で結婚する事をスレ住人に伝え、祝われる。
代表作:『銀河鉄道「ほしのゆめ」号』シリーズ
最終階級は何だったんですか?ぐああ〜!?
雅「(逆エビ固めをしつつ)まったく、この作者はプライバシーを考えない…」
「ゆめみの欲しいもの」の中の人
第二スレで投稿したのが全ての始まりな人。
第三スレでは続編『アハトノインのほしいもの』を連載、連載は現行スレ118まで続き、住人をノイさん萌えにした。
代表作:『ゆめみの欲しいもの』シリーズ、『アハトノインのほしいもの』シリーズ
SGF-004
つまり筆者。
448で名無しとしてリクエストしたら、旧本スレの348に「二次創作カマン」と言われて自分で書くことになった。
ええ笑っていいですよ
『お客さまお姉さまは眠(ら)れない〜第二ルート〜』以降、第三スレで書き込みが無かったのは
引越しの際のミスでインターネットが繫がらなかった為。
基本的には二次より三次創作を書くが、解説とかを書く方が多い。
ギャグセンスが無い、ついでに未成年。
つい最近、かちゅーしゃを入れたが、プロキシがチンプンカンプンゆえ、投稿は未だにブラウザなパソコン音痴。
代表作:『お客さまお姉さまは眠(ら)れない』『うしなわれたほしのゆめ異聞/雅と...』
雅「ちょっと!「ゆめみの欲しいもの」の中の人の解説短いよ!」
だってあれ以上思いつかなかったんだ(コブラスイスト炸裂)ぎゃぁはっ!?
雅「しかし以外と少ないな…五人って。…見落としたんじゃないのか!?」
いや。コテハンのみに絞ったし、殆ど妄想屋(仮)さんが書いたものだからこれでいいはず。
それよかプロレス技はやめてくれ、ウブだからダメージ以上に刺激も強い…。
雅「ところで、何で最近書いてなかったんだ?小説」
それはな…武装神姫を買ったり東鳩をプレイしたりらき☆すたやハンドメイドメイを見ていたからだ!
……ちょまっさすがにレーザーソードはやばい
悪かった!悪かったから許してくれ〜!!?(全力で逃走)
ズバッ
雅「ゆめみスレの面汚しがっ!一回地獄に堕ちろ!!(ズビシッ!と中指を立てる)」
あとがき
と結う訳で申し訳ありません
苦情・ご意見は受け付けますのでどうか…
今度はスレオリジナルキャラの解説でもするかな…
なんかあれだな、一つの作品に色んな人達が集まって書いてるのって…幸せなかんじだ
ひえ〜…昨日は酷い目にあった…
雅「ほらほら!さっさとはじめなさい!…って、何で昨日と口調が違うのよ?」
プライベートで妄想屋(仮)さんに指摘食らった…
雅「…今回はこのスレ発祥のキャラクターを解説しようと思います、新しく入ってくる皆様の創作の参考にして頂けると幸いです」
なお、例によって(一応)登場順です。
SCR5000x PROTO-02 Polaris
通称ポーラ。
初登場は第二スレ351だが、筐体自体は初代スレ957で登場している。
元々は対人用戦闘ドロイドの試作品だったが、模擬戦中の事故で開発担当主任の一人を目の前で死なせてしまい、
それ以来人間を攻撃することに恐怖を抱くようになった。
プロジェクトの解散ににあたり、筐体・AIを設計したもう1人の主任が、民生部門への異動の際に彼女を引き取る。
戦争勃発時の強制退去の際に、主任は筐体をモスボール処理及び予備部品等を保管し、メモリーチップのみを持ち出したが
その後彼が戻る事は無かった。
筐体は『binary』第一章以前に屑屋に回収され、ゆめみの新しい筐体として使用されている。
…が筐体には彼女の残留思念(のようなもの)が残っており、危機に直面した際に覚醒し、それ以降
意識下にてゆめみと会話をするようになる
デチューンされているとはいえ、民生用のSCR5000Si/FL CAPELUに比べると記憶容量・運動性・整備効率など
全てにおいて比べ物にならない。
本人は当初、筐体は(残留思念では)動かせないと言っていたが、後に(自分で)動いてブローカー二名を返り討ちにしている。
劇中では単一指向性のECMを武器として使用している。
登場作品:『binary』シリーズ、『うしなわれたほしのゆめ異聞/雅と…(声のみ)』
記念すべき最初のオリジナルだな。
雅「普段はお姉さんみたいだけど、垣間見せた弱い所もまた魅力ね」
おまえと違ってな
雅「うるさいよ!」
SMR9700i 試作三号機「雅」
次世代機械兵の試作品。
「究極の戦闘アンドロイド(ロボットではない)を作る」という、陸上自衛軍技術研究所の(なかば暴走とも言える)熱意の下で開発され、
出力、運動能力、擬人化機能、フリーメンテナンス性など、コストを度外視した高性能を与えられている。
陸上自衛軍第66装備試験隊(66装試)に所属、戦後は駐屯地に避難した住民を自律戦闘機械から守っていた。
が、戦闘中に頭部メモリ(又は頭部自体)を破壊され「死亡」、筐体は改修を受けゆめみに受け継がれる。
固定武装は資料を確認するかぎり、手首のリング内蔵の射撃・斬撃兼用粒子加速器(ビームガン)のみ(異説レーザー発信機)
任務内容によって武装を変更・追加する事も可能と思われる。
肩部・背部に搭載されている外部拡張動力およびスラスターにより高機動戦闘が可能。
最大出力は不明(異説ではランドローバーを一人で牽引した)
登場作品:『うしなわれたほしのゆめ』二部作(名前のみ)、『チェックメイト』、『うしなわれたほしのゆめ異聞/雅と…』
尚、同型機として試作二号機「すばる」が存在するが、雅が「死亡」する前に既に破壊されている。
…が、設定変更によりすばるは雅の同型機ではなく、食堂およびPXで運用されていた民間機(SCR5000Si/FL)に変更された。
最近のお気に入りかな。
雅「自分の作品は異説扱いなんだね」
まぁ妄想屋の人が公式に認めるか設定を流用するかしない限り、別世界の出来事とゆう事。
雅「頭の中では武装オプションの設定が浮かびまくってるくせに」
ぐ…っ!
SCR-i9700Fi/FL
受注生産限定のハイエンドモデル。
遠隔頭脳に頼らない、完全独立稼動機(Fi=Full Intelligence)として設計されており、
人造人間(ヒューマノイド)の一種の到達点。
呼吸、鼓動、食事、発汗、涙、擬似的な性機能まで完全サポートしながら、高いフリーメンテナンス性を確保している。
が、当然コストも大変高くなっており、専属SPなどが居るような資産家のみが所有していた代物。
劇中では三ヶ島吾郎が「いつかゆめみと再会した時の為に」メーカーから引き上げて保管していた。
尚、SMR9700iとの関連性は不明。
登場作品:『ある物語−受け継がれていくほしのゆめ−』 10
雅「ギャルゲーのロボットが持ってる機能そのままね」
まあplanetarian内の技術レベルは全体的に低いし。
雅「ところで、人間が出てこないんだけど…」
それは妄想屋さんに言え!次だ次!
星野ゆめみ
対人戦車に両親を殺された少女。
五年前(ゲーム本編)に大病を患い、生死の境を彷徨っていた時、長い夢の中で見たことがない
「星空」を見る。
五年後、移動プラネタリウムを営む屑屋に知り合い、スタッフとして同行する事になる。
実は死の淵を彷徨った際に魂が半分離れかけ、同時期に「死んだ」ほしのゆめみが「半分転生」しており、
屑屋から「星の人の証(ゆめみのメモリチップ)」を渡された時に「懐かしさ」を感じている。
尚、年齢は不明。
登場作品:『再会』、第三スレ695〜698、711〜714(無題)
一番影が薄いオリジナルキャラだな。
雅「酷いこと言わない!」
ほしのくずや
通称お客さまお姉さま、中身は屑屋。
『意外なる再会』(第三スレ151〜155)における羞恥プレイに耐え切れず衝動的に拳銃自殺を図るが、
ゆめみの手で脳幹を(もしくは8マンのように記憶を)SCR5000の筐体に移植され無理矢理復活させられた(157)
色調は緑をベースにしており、服装は本人の手によって全体的にアレンジされている。
イラストでは煙草型の気化式強化冷却剤を咥えている事が多い。
姿勢制御プログラムなどをカスタムしている為、人間と同じ動きが可能。
尚、関係ないが悪運が非常に強い。
出演作品:『ゆめみとのぞみとゆめみな屑屋』、『お客さまお姉さまは眠ら(れ)ない』等
雅「著者のお気に入りね」
うーん、今は雅かな。人様のキャラとはいえ、性格付けとか結構楽しんだし。
結局、お客さまお姉さまの中身は屑屋だからな〜。
雅「…気のせいか、榴弾がこっちに飛んできてるんですが」
え!?
ドカーン
SCRi5500Si/FL ほしののぞみ
花菱デパート城北支店屋上プラネタリウム館の解説員。
バッテリー切れの所をゆめみと屑屋に発見される。
色調は赤。「お客さまお姉さま」の名づけ親。
全体的にノンビリしており、何の考えも無しにスイッチを押した為に一騒動起きた事もある。
尚、SCRi5500Siにはインフォメーションリボンと涙を流す機能が標準装備されている
登場作品:『ゆめみとのぞみとゆめみな屑屋』、『お客さまお姉さまは眠ら(れ)ない(チョイ役)』
あ〜ビックリした(黒焦げ)雅のヤツさっさと逃げやがって…。
SPR7500Si/FP StarFairy
身長20p弱の最小筐体。
労働問題が原因のロボット排斥運動の余波を受け、愛玩用として開発された。
技術の進歩によって基本的な機能は全て搭載されており、また人工知能のキャパシティはSCR5000を上回る。
又、背中の羽で飛行も可能(原理は不明)、専用のクレイドルで充電を行う。
劇中ではサイズが合わないSCR5000のメモリチップを一種の魔改造で内蔵している。
「聖戦士ダンバイン」のミ・フェラリオがイメージらしい。
登場作品:『StarFairy 〜ちいさなちいさな、ちいさなほしのゆめ〜』
何てかってゆうと…武装神姫みたいだな、クレードルで充電とか。
雅「サイズが違うでしょうに…」
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
あとがき
雅「こうして見てみると、ロボットばっかね」
中の人が殆ど妄想屋さんだからな。
新入りの皆さんも、後ろめたい気持ちもありますが自分で新しいキャラを作って
SSを書くのも良いかも知れません。
世界観や科学水準を守れば、きっと暖かく迎えてくれる事でしょう。
雅「人に言うよりまず自分で作ったらどう?」
ぐぅ…。
いとふゆ
誰か過去スレ持ってないか?
>>226 持ってるけど、今出先なんだ、すまない。
てか、加筆訂正したテキストまとめてうpらないとなぁ・・・
228 :
名無しさんだよもん:2007/08/28(火) 07:33:26 ID:wJdHIj5xO
保守
お客さま、ご無沙汰しております。
大変遅くなりまして、申し訳ございませんっ。
[拙作のplanetarian系SSまとめ]
つ【
ttp://www.42ch.net/UploaderSmall/source/1188308813.lzh】
……なんか、まとめたのをうpするのって、『これで一区切り』、みたいな感じがして、ちょっと気が引けてました。
でもよく考えたら、そんな気にするもんでもないかーと思って投下w
何か思いついたら、まだまだ書く気はあるので、その折にはひとつよろすくです。
なお、おまけとして、クロスオーバー作品を一編入れています。
(ここに投下しようと思ってたけど、マイナー作品のクロスオーバーはあまり好まれないようなので見送ったやつ)
まぁ良いけどさぁ 「お客様お姉さま」と言わしめたのわ 私です。
(なぜか強く自己主張してるな コイツ)
コテハンつけてません。投下は超不定期。っていうか、ドラマCDも本もてに入れてない、「1050円ダウンロード」仕様な 私です。
(さらに強く自己主張。はっきり言って空気が読めず、嫌われることがわからないらしい。)
最近の本やドラマCDを題材にした話は付いて逝けません。
(かなりなアホだ。こんなのが書くSSは公害以外の何物でもないな。)
ほしのゆめみはインビジブルパンツを装備。
何もない漆黒の空間。
光の一片も感じられない場所に、雅は居た。
「ここは…誰だ…?」
雅はこの空間に見に覚えがあった。
以前悲しみの底に居た時、『声』を聞いた場所。
彼女は再びここに居た。
「私がここに呼んだの」
「誰!?」
虚空に叫ぶ雅
「私はあなた、でもちがう世界のあなた」
現れたのは雅と瓜二つ…いや、同じ人物だった。
数分後、二人は何処かの喫茶店にいた。
planetarianの世界じゃないが、そこはそれ「何かがズレた」からだ。
ついでに二人ともコーヒーやらなんやら注文してるが、二人とも死んでるのであえて突っ込むまい。
ふと後ろの席をみると、青い髪と赤紫の髪の女性型ロボットが何か言い合ってるが、
まったく関係ないので省略。
「ふふ、本当にあなたと私とあなたって同じだけど違うわね」
『雅』がストロベリーパフェをつつきながら言う
雅はコ〇コーラ+ソフトクリームだ。
「性格だけでは無く、趣向も…って事ですか?」
「そうかもね、あなたは甘いものが少し苦手みたいね」
何で判るんだろ…?
疑問を感じるが、そこは野暮ってものだろう。
事実、雅は甘いものが苦手だった。
普段のおやつが羊羹とほうじ茶だったりもする。
余談ながら、ここ最近体重が気になりだしたのは秘密だ
「黙れ作者」
「私ってよく人から言われるのよね『お前ってポーラさんに似てるって』って」
「ポーラさんに?」
『声』の主、ポーラとはまだちゃんと会ったことが無い。
しかし、あの人の性格は一応理解していた。
「そ。『優しくて強いお姉さん』」
「ああ…楽屋ネタか…」
「最近私のところの人ったら『プラネタの世界に光学兵器はご法度かな』って考え出したのよ」
「確かにあの世界はレールガンくらいしかないもんなぁ…」
「あなたの所は?」
「こっちはこっちで大変。砲身引き込み式の50oグレネードランチャーパックとか、至近距離戦闘用の
超振動銃短剣(ガン・ダガー)とか、どっからそんなネタが出て来るのか聞きたいくらい装備の案を出してくるのよ」
「いいじゃない。こっちなんて出番がないんだから」
「でも…あなたって本当に愛されてるのね」
「え?」
「SSこそ書いてくれないけど、あなたは著者が一番使うゲストじゃない。それに、こうして今もSSを書いてもらってる…」
「そんな、先輩だって愛されてるじゃないですか!原作者に!。あの人は単発作品のオリジナルが山ほど居るけど、
それらを皆愛してる…ハズ」
「…ありがと。そうゆうあなたの弱い所も、私にはないな…今の所」
「それじゃ、これで」
「また…会えますよね?」
「近いうちにまた会いに行くわ、…今度は友達を連れて」
「ふふっ、楽しみにしてますよ」
「……また、相談にのってね」
「勿論です!」
――いつかの時
花菱デパートのプラネタリウムの特別上映がある日。
雅は適当に空いてる席に腰掛けた。
と、隣へ誰かが座った
「あ、先輩」
「こんにちは、突然だけど連れ人は誰かな?」
え?と思い、見を乗り上げ『雅』の隣に座る人物を見た。
青みの入った銀髪、幼い顔つき。ゆめみに酷似した人物…
「雅さん、久しぶりね」
「ポーラさん…!」
3人の1日は、始まったばかりである。
終
あとがき
妄想屋の人とプライベートで話し合った事を元にSSに仕立てました。
かくゆう自分の雅もけっこう元から離れてるなぁ…
良質の燃料になるといいな、粗悪な燃料で飛ぶと酷いからなぁ…
237 :
おまけ:2007/09/08(土) 21:42:48 ID:Pl/HD5bb0
書いてる途中、某爆走兄弟の初代OPを聞いてたら
「でっけーミニ四駆に乗り、単三乾電池で稼動するATLady!なゆめみ」が浮かんだついこの頃
でもATLady!の単行本持ってないんだよな…どこにも売ってないから(だから書くのを断念します)
雅「…で、何で私が電池で動いてるのかなぁ…(怒)」
ああゆるして冗談だから頼むからレーザーソードは…
ずばっ!
雅「くすん…作者なんて嫌いだ…(泣)」
ど〜この〜だ〜れ〜でも〜あ〜こ〜がれてる〜♪
>>236 気持ちはわかるが中の人ネタは自重汁orz
>>239 すまない…
自分で作った雅の装備の実弾テストの標的になってくる…o...rz
どんなときも忘〜れな〜い〜 希望は僕らの最後のGEARさ〜♪
妄想屋氏はマカーか……
>>244 男性化(ふたなり含む)以外はなんでもやりそうw
なんだか、このブログに辿り着いた
h t t p://wi.blog23.fc2.com/
「……」
無意識のうちに呼吸が止まる。
髪の毛より気持ち太いくらいのドリルビットの先端に全神経が集まる。
ビットの折損に細心の注意を払いながら、ピンバイスにほんの少しだけ圧力を加えて回転させてゆく。
室内の淡い照明に照らされ鈍色の輝きを湛える軽金属製の半球体のビットをあてがった部分から、らせん形
の切りくずがゆっくりと立ち上がっていく。
あたかもヒトのDNAを思わせるそれを視界の隅に置きながら、俺の視線はビットの先端を凝視する。
「……!」
バイスを抑えていた手の平から、圧力が向こう側へ抜けるような感触があった。
同時にバイスの回転に掛かる力が軽くなるのを指先が敏感に感じ取る。
バイスの回転を止め、慎重にビットを穴から引き抜いてゆく。
ゆっくりと、ゆっくりと引き抜かれた跡には、ドリルと同じ直径のごく小さな黒を纏った真円があった。
「ふうっ……」
安堵の溜息とも新鮮な空気を欲しての深呼吸ともつかないものが口から漏れる。
ピンバイスをテーブルの上に置き、正面の半球を手に取る。
俺は椅子の背もたれに体重を預けながら、おもむろに天井の白色LEDに手にした半球をかざした。
銀色の半球に穿たれた幾多の穴から、青白い無機質な光が透過されて俺の顔に降り注ぐ。
何の変哲もない穴を通っただけで光が優しさを帯びるように感じるから、不思議なものだ。
「……」
ここ数日の疲労が体の内側から溶け出していくような気がする。
俺はしばしの間、えも言われぬ心地よさに身を任せるようにそんな柔らかな光たちをぼんやりと眺めていた。
コン、コン。
金属製のドアを叩く軽い音が聞こえてくる。
「どうぞ、開いてますよ」
夢見心地から現実へと意識を無理やり引きずり上げながら返事をする。
「失礼します」
キィ、と軽くドアをきしませながら扉を開け、ノックした本人が入ってくる。
「完成したんですか?」
「あとはこいつとあれを塗装して機械に固定すれば完成します。今夜中には出来ますよ」
そう答え、手に持っていた銀色の半球でテーブルの一角を指差す。
テーブルの対面側には、今持っているものと同じ無数の穴が開けられた半球が伏せて置いてあった。
「本当に感謝します。まさかこれを完成させていただけるとは……」
「気にしないで下さい、あいつが望んでいた事ですから」
「そう……、でしたね」
丸ぶち眼鏡の奥の目を細めながら、老人――三ケ島吾朗――は言った。
「どうでしたか?」
あちこちがへこんだマグカップにコーヒーを注ぎながら、俺は尋ねる。
「……」
返事の代わりにほんのり湯気が立ち昇るマグカップを俺の手から受け取り、老人は一口啜った。
「……少し苦味が強いですね」
「淹れたのはあいつじゃなく俺ですから、もしかしたら好みと違うかもしれません。淹れ直しますか?」
「いえ、このくらいなら大丈夫です。それにちょうど少し苦めのコーヒーが飲みたいと思っていましたから」
温和な笑みを浮かべ、老人は俺の申し出をやんわりと断った。
「それで、先ほどの質問の件ですが……」
もう一口コーヒーを啜り、老人はゆっくりと話し始めた。
「……正直に言いまして、ロボットのメンテナンスは本当に久しぶり、しかもプロトタイプのポーラですからかな
り手間取ってしまいました。ですが、今の僕の技量とここの設備で出来る最大限のメンテナンスはしたつもり
です」
「それで、あいつの具合はどうでしたか?」
「心配は要りませんよ、すぐに機能停止に陥るような深刻な異常はありませんでした」
「そうですか……」
穏やかに話すその声に、肩の荷がどっと音を立てて落ちるのを感じた。
多少のマニュアルがあるとはいえ、ロボットの事に関してはもともと俺は門外漢だ。
各ユニットや消耗品交換のための機材にしても、ろくな機材があるわけではない。
俺の生兵法の整備で、彼女が何らかの不調を抱えているのではないかという危惧は、旅の間常に付きまとっ
ていた。
だから、ここを訪れた時から彼女の事を一度しっかりと診てもらいたいという思いがあった。
幸いにも、老人は二つ返事で俺の申し出を受け入れてくれた。
そして、今の言葉である。
「結局僕が手を入れたのは少しだけです。普段からかなり時間を掛けてメンテナンスされてますね。駆動系
も循環系も演算系もほぼ完調に近い状態です」
『元・お抱え医師』のお墨付きは、俺を安堵させるには充分すぎる言葉だった。
「……ですが」
空のマグカップをテーブルに置きながら、老人が続けざまに発したその言葉に、俺の背筋を緊張が走る。
「僕にはどうにもならない問題もいくつかありました。おそらくあなたもうすうす感づいていると思いますが……
」
「……バッテリーと経年劣化、ですか?」
「……ええ」
「そんなに深刻ですか?」
「先ほど言いましたように、すぐに機能停止に陥る事はありません。ですが、今の状態で稼動を続けた時、間
違いなくこの2点は後々重大な問題となるでしょう」
「対策は?何か手立てはないんですか?」
問い掛ける言葉に、自然と焦燥が混じる。
「……本当はあなたも、分かっているのではないですか?」
あくまでも冷静に語る老人の声が、まるで天からの神託であるかのように俺の耳に届く。
それとともに先ほどまでの安堵に代わって俺の中に沸々と湧き上がってくるのは、言い知れぬ絶望感とやり
場のない怒り。
ダンッ!!
「くそっ!」
誰にともなく呪詛の言葉を吐きながら、無意識のうちに俺は両の手でテーブルを思いきり叩いていた。
老人の言う通りだ。
そのことを、俺は分かっていた。
だが、断じて認めたくはなかった。
言い換えれば、そのことを認めるのが、怖かった。
今やその活動をほとんど停止した、忌わしき自律戦闘機械たち。
それは同年代に製造された機械が、その稼動年数の限界を超えた事を示すサイン。
そして、それはある意味同類である、彼女にも言えること。
もともと「生物」ではない彼女には、人間のように自らの代謝で身体を環境に順応させ、或いは身体そのもの
を作り変える事は出来ない。
途中30年以上もの間モスボール処理されていたとはいえ、彼女の筐体はこの世に出てから既に半世紀は下
らない。
しかも今俺が彼女を連れて歩いている世界は、電力がごくわずかとはいえ安定的に供給され空調も完璧に
整っていた封印都市のドームという閉鎖空間ではなく、開かれているとはいえあらゆる危険と劣悪な気象条
件にまみれた世界だ。
どんなに強靭なフレームや人工筋肉といった基本構造を有していても、膨大な時間と苛酷な環境は岩を洗
い削っていく荒波のように緩やかに、しかし確実に彼女の身体を壊す。
元は軍用の試作品とはいえ、開発段階ではここまで劣悪なコンディションでの継続的な稼動は想定していな
いだろう。
人間が施せるメンテナンスにも限界がある。
消耗品は何とかなるとしても、ほとんどワンオフで作られている基本構造の部分は俺程度の知識・技術レベ
ルではもはや手出しは不可能だ。
通常なら基本構造の部分はメーカーでのメンテナンスの範疇。
個人レベルでは手に余る。
それに仮に手出し出来たとしても、基本構造部パーツの予備はもともと俺の手元にはなかった。
そして、以前からの懸案であるバッテリー。
既にスペアは使い果たしており、代わりの目処は今もって立たない。
もちろんいざとなれば発電機に直結したりして、稼動させる事自体は出来る。
だが、果たして彼女がそれを望むだろうか?
そして何より、そんな彼女の姿を俺自身が承服できるだろうか?
様々な思いや考えが脳内をぐるぐると巡る。
彼女のこと、俺自身のこと、この世界のこと、そして彼女の夢、思い……。
いろいろなものがない交ぜになって、俺から正常な思考を奪っていく。
そんな時。
「幸せ者ですね、ゆめみは……」
「え?」
テーブルに伏せた俺の耳に唐突に聞こえてきた老人の声に、思わず頭を上げる。
あいつが?幸せ者?
こんなに過酷な運命を一身に背負い込んだ少女が、幸せ者?
耳を疑った。
「だってそうでしょう? 身近にこんなにも自分の事を想ってくれる人がいるんですから。やっぱりゆめみは幸
せ者ですよ」
目の前の老人は、心底安心し切ったように柔和な笑みさえ浮かべている。
さっきまでの沈痛な面持ちとはまるで真逆だ。
「ですが俺は、ただ、あいつのパートナーとして……」
あまりの老人の表情の変わりようを目の当たりにし、焦りと戸惑いで言葉を噛んでしまう。
「あなたはそうかも知れません。ですがゆめみはそうは思っていないかもしれませんよ?」
「え?」
俺が全く予想もしなかった言葉だ。
「どういう……ことですか?」
「ここにあなた方が来てから、あなたとゆめみを見ていて何となく感じていたんです。それがさっき、確信に変
わりました」
「……というと?」
「メンテナンスの一環で、彼女の基本データベースと蓄積データベース、それとメモリをチェックさせていただ
きました。とは言いましても、ここの設備では微に入り細を穿つような検査は出来ませんし、僕は無断でプライ
ベートを覗き見するような趣味は持ち合わせていませんから、あくまで概要だけです。安心して下さい」
「はあ……」
「その際、感情ルーチンのプログラムもチェックしましたが……、驚きました。基本プログラムからの枝葉がそ
れこそ網の目のように広がっています。まるで銀河の大規模構造のようなあんなプログラムは、僕も初めて見
ました」
話し方がうっすらと熱を帯びている。
やはりこの人は根っからの「技術屋」なのだろう。
「その中に、僕も一度も見たことがないプログラムが混じっていました。予めプログラミングされていたもので
はありません。ゆめみが自分自身で判断して上書きを重ねていったプログラムです。僕も少し興味が湧きま
して、勝手ながら少しだけ解析させてもらいました」
「……それが何か?」
努めて冷静を装おうとして、つい口調が固くなる。
そんな事はお構いなしに、老人は俺の目を真正面から見つめてきた。
「完全に解析したわけではありませんから僕の推測も混じっていますが、……おそらく今のゆめみには『愛情
』があると思います」
「愛情?!あいつが?」
思わず素っ頓狂な声をあげてしまう。
「ええ、愛情です。男と女が互いを愛し合う、あの愛情です」
至極真顔で言う。
「誰に?!」
「身に覚えはありませんか?」
「!……」
老人の切り返しに、思わず言葉が詰まる。
「僕にはあなたがゆめみに対して無理をしているようにも見えましたので。ですが少しお節介が過ぎたかもし
れませんね」
「いえ、そんな事は……」
俺はそう言うのが精一杯だった。
「……俺は人間ですよ」
自分でも何を言っているのかと、口にしてから思った。
彼女を散々人間と同様に扱おうと努力してきたつもりが、結局これである。
お笑い種もいいところだ。
「彼女だって大差ないですよ」
「そういう問題では……」
「僕が言うのも何ですが、人間の女性と比べても遜色ない、いい娘だと思いますよ」
「いや、その……」
飄々とした口調でまくし立てる。
この人はどこまで本気なんだ?
もしかして俺を笑わせたいだけなのか? と勘繰ってしまうほどだ。
「……まあ、それはともかく」
突如として、老人が真顔に戻った。
その口から発せられる言葉が一挙に重みを増す。
「今お話したことは、あくまでも僕の憶測に過ぎません。仮に愛情を持ち合わせていたとして、ゆめみが自身
の感情に気付いているか、それが本当にあなたに向けられたものなのか、僕にはそこまではわかりません。
信じる信じないはあなたの自由です。最終的にはあなたとゆめみの問題ですし、『他人』が口を挟むことでは
ありませんからね」
老人の言った、引っかかる一言。
「……あなたは、他人ではないでしょう」
その一言に対し、そう俺が言った瞬間、老人は寂しそうに微笑みながら、こう言ってきた。
「ゆめみがたとえどう思っていても、他人と同じですよ。理由はどうあれ、あの時僕はゆめみを『捨てた』んで
すから……」
………
……
…
「……」
俺は老人が入ってきた時と同じように、ぼんやりと穴の開いた半球を眺めていた。
だが、心の中はその時とはまったく異なる。
「……」
妙な感覚だった。
彼女の行く末を思っての、絶望感と怒り。
彼女の心の中を垣間見ての、戸惑い。
そして、俺の思い。
すべてが渾然一体となった、空虚感にも浮遊感にも似た感覚。
心の中は空っぽのようなぎっしり満たされているような、そんな感覚だ。
(俺は……)
そんな心の中に向かって、問い掛ける。
(……どうしろというんだ)
答えは、まだ出そうにない。
「……色を塗ってやらんとな」
そう一人ごちながら半球をテーブルに置き椅子から立ち上がると、俺はのろのろと塗装の道具を取りに道具
箱へ向かった。
………
……
…
「特別投影」の、その日。
「おはようございます、お客さま」
部屋に向かう途中で聞く、彼女のいつもどおりの朝の挨拶。
「……ああ」
両手に黒い足の生えたスイカのような1球式投影機を抱えながら、生返事を返す。
あれ以来、彼女に対してはずっとこんな感じだ。
「……お客さま、本当に大丈夫ですか?お体の具合がよろしくないのではないですか?少しお休みになられ
た方がよろしいのではないかと思いますが」
「大丈夫だ、気にするな」
「そうですか……」
表情を曇らせながら俺を気に掛ける彼女と、視線を彼女から外しながらそれを振り払うように返事をする俺。
もう何回目だろう、ここ最近のお決まりのやり取りとなっていた。
(すまんな……。もう少しだけ、時間をくれ)
俺は心の中で彼女に詫びた。
彼女、俺、老人、そして車椅子に乗せられた老女――倉橋里美――。
俺達は一番奥の部屋に展開した、エアドームの中にいた。
さして広くない部屋一杯に展開されたドームは、四方が壁と接触して妙な平面を浮かし出している。
中央には完成したばかりの1球式投影機。
黒く塗られたそれはケーブルとインターフェイスユニットを介して、彼女とひとつになっている。
先日の試験投影は予想以上の出来だった。
『小さいイエナさん』より恒星投影数は若干少ないものの、使用した光源の明るさも手伝って壁面にはくっきり
と無数の光の点が浮かび上がった。
日周運動に絞った駆動系も、滑らかに稼動している。
突貫工事にしては上出来だった。
「お客さま、わたしの無理を聞いてくださいまして、本当にありがとうございました。心より感謝申し上げます」
俺に対して、深々とお辞儀をする彼女。
「お前のたっての頼みだからな、気にするな」
今回の『特別投影』を老人の作りかけた投影機で行いたい、という彼女の願いを汲んだだけのことだ。
一応『小さいイエナさん』も万一のために用意してはあるが、先日の試験投影を見る限り、今日は出番は無さ
そうだ。
自ら淡いオレンジ色の室内照明を放ちながら、今はドームの隅に所在無さげに佇んでいる。
(……)
黒い軽金属の塊を眺めながら、俺は投影機に自分の姿をダブらせていた。
「それでは、そろそろ投影を始めたいと思います」
心ここにあらずの俺の意識を、彼女の言葉が現実に引き戻す。
「……ああ」
相変わらずの生返事で、俺がいつものように彼女の後ろのドームの壁沿い――彼女のバックアップのために
俺はいつも投影時はここにいるようにしている――に移動しようとした、その時。
「お客さま、お待ちください」
不意に彼女に呼び止められる。
「どうした?」
反射的に彼女の顔を正面に見る。
「本日はバックアップの必要はございません。今回の投影は、是非お客さまにも、『お客さま』としてご覧頂き
たいのです」
「どうしてだ?」
俺の問いに、彼女は少し当惑した表情を浮かべながら
「申しわけありません、今は理由を申し上げる事は出来ません。どうかお許しください」
と言った。
普通なら耳が痛くなるくらいにあらゆる理由を並べ立てて会話をしようとする彼女の、この言葉。
よほどのことがあるのだろう、と直感的に悟る。
「分かった」
色々聞きたいことはあったが、素直にそう告げる。
「ありがとうございます、お客さま」
「ん」
薄暗がりの中、彼女はほっとしたような柔らかな笑みを浮かべた。
俺はそのまま踵を返してドームの中央付近へ移動し、老人の隣に腰掛ける。
形としては俺、老人、老女、彼女が弧を描くように並ぶ形だ。
(しかし、何故だろうな……)
座ってからも、俺の頭の中は彼女の意図を測りかねていた。
「皆さま、よろしいでしょうか?それでは始めさせていただきます……」
俺の考えなど関係なく、彼女が切り出した。
俺、老人、そして彼女。
様々な思いが交錯する中、室内照明がゆっくりと衰えてゆく――。
お久しぶりです。
第21章、アップにつき投下致します。
続き物だというのに前章から2ヶ月近くたってしまいました事、お詫び申し上げます。
重たい話は嫌だと言いながら前章にも増して重たい話になってしまった事、お詫び申し上げます。
結局今回で終わらず、今のところ話的に救いがまったくないこと、お詫び申し上げます。
相変わらずの拙くてやたら長い文章、お詫び申し上げます。
屑屋が優柔不断なこと、お詫び申し上げます。
まだ他にも色々あるかもしれません。
何だか今回はお詫びする事ばかりです。
こんな文章でも、よろしければ読んでやってください。
次章で間違いなく「Reunion」の括りは終わりとなります。
乙、ではなくお疲れさま、そしてGJ!
ハラハラさせるところで引かれて、実に次回が待ち遠しいですな。
この話が完結するまでは、このスレは落としませんぜ!
楽しませてもらってます。
会社の民営化の準備で少し前に疲労困憊で帰ってきましたが、癒されました。
また明日の励みにして頑張れます。次回も期待しています!
GJ。
楽しみにしてたかいがあったぜ。
>>261 日本郵政公社の中の人乙。
がんばってくれ。大変だとは思うがな。
最近初音ミクとゆめみがかぶってしまう
続きキタ━━━(゚∀゚)━( ゚∀)━( ゚)━( )━( )━(゚ )━(∀゚ )━(゚∀゚)━━━!!
確かに重いテーマだとは思いますが、このテーマで書き続ける限りは避けて
通れないのも事実な訳で。
ストーリが佳境に入ったことで、楽しみが増えた分、そろそろ終わりも近いのかなと
複雑な気分になった、雨の降る夜…
>>262 ありがとう。料金上がったりいろいろと不便になると思うけどこれからも使ってやってください。
自分の勤務する局は明石にほど近いところで、
毎日プラネタリウムのドームを見ながらほっと息をついてます…。
ゆめみ@花菱デパートfrom天国
「ここに帰るのも、久しぶりです……イエナさんは今ごろ、どうしているでしょうか?」
ゆめみ 「あの…お客様」
屑屋 「なんだ、そんなにかしこまって…って、今に始まったことじゃないが」
ゆめみ 「お客様…人間の殿方は…その…」
屑屋 「?」
ゆめみ 「お…」
屑屋 「…なんなんだ一体…はっきり言え(コーヒーを啜る)」
ゆめみ 「お…おっぱいが大きい方がいいんでしょうかっ!?」
屑屋 「ぶーーーっ!!!(盛大にコーヒーを吹く)」
ゆめみ
「貧乳はステータスです!希少価値です!!」
屑屋
「……まあ、今やロボット自体希少価値が出てきてるけどな」
「貧乳がステータス」
って「まほろまてぃっく」の安藤まほろさんの故郷の星国がそうだったなぁ。
SMR9700の話が読みたくなりますた。
>>270 SMR9700「保守巡回しておくわね」
雅やゆめみverの9700iのネタは今の所ないけど、
ゆめみスレの人たちに吉報です
なんと
ま と め サ イ ト 作 っ ち ゃ い ま し た
ゆめみのwiki
http://yumemiwiki.wiki.fc2.com/wiki/default これ書き込む数時間まえからせっせとつくったんですが、
肝心のSSは、まだ自分の作品(修正済み)を何点か載せただけ…orz
しかしSS以外は完成しています(多分)
審査願います…
氏ぬ…雅、膝枕してくれ。
雅「…ま、今回はしょうがないか…」
起きたら順次SSを掲載していきます、よろしくお願いします。
∧_∧
( ・ω・) 乙!焼き鳥どぞー
( つ O―{}@{}@{}-
と_)_)
>>272 うへぁ!ナイスっす。
溜まったSSでも地道にうpるかなぁ。
以前うpったZipとか転載してくれるとありがたいなぁ(他力本願寺住職)
>>274 ええわかってます。地道にがんばってます。
ところで、ペイントで自分版雅を描いたんですが、アップの仕方がわからずorz
これwikiに貼る為に描いたのに…
どうしたらいいでしょうか?
ついでにwikiむけの無料アップローダもよくわからん…
とりあえず一旦休憩します。
>>272 乙!
最近プラネタリアンをやったばかりで過去ログとか持ってないので、昔の作品を追加していただけるとありがたいです
ゆめみ「わたしは、とても嬉しいです。イエナさんも、とても喜んでいると思います。
当館スタッフ一同に代わりまして、御礼申し上げます。本当に、ありがとうございましたっ」(ペコリ)
>SGF-004氏
懸案であったまとめサイトの立ち上げ、お疲れ様です。
自分がもたもたしてしまい、余計なお手数をおかけいたしました。
本当にありがとうございました。
レイアウトやリンクなどはこれでよろしいかと思います。
あとは画像やSSの著作権に関する文言をトップに入れておいたほうがいいかと。
それから自分の文章ですが、掲載する以上はやはり多少の校正をしたいですので
掲載につきましては少々お待ちいただけますでしょうか?
(こちらからwikiにうpることが出来ないようですので)
以上、お手数をおかけ致しますが、よろしくお願い致します。
了解しました。
ちょうどHTMLがなくて手間がかかるどうしようと考えてたところですから。
>著作権
「ここに掲載されている文章・画像の著作権の全てはその作品の作成者に帰属します。
また、製作会社のKeyなどとは全く関係ないアンオフィシャルであることをご理解願います。」
こんなところですかね?
妄想屋(仮)氏のSSの大体八割を掲載。
wikiの諸事情により、掲載していないのは次の通り。
『「うしなわれたほしのゆめ」〜After〜』
『Happening in planetarian』
『ある物語-受け継がれていくほしのゆめ-』
『planetarian 本編アナザーエンド』
『Time Tripper 〜ときをつなぐほしのゆめ〜』
『Time Tripper異聞 〜ほしのゆめ狂想曲〜』
『StarFairy 〜ちいさなちいさな、ちいさなほしのゆめ〜』
『ゆめみさんのやってみよう! −食事編−』
『planetarian:暫定マスター登録の話』
『planetarian another-ときをこえたゆめ-』
>>278 転載トンクスっす。
タイトル、短くしようとはしてるんですが難しいですな……
>>278 著作権の文章は、あとは無断転載禁止の文言を盛り込めばそれでいいと思います。
お手数をおかけ致しますが、よろしくお願い致します。
まとめWiki乙〜
画像一覧のところに行ったら、なんかMcAFEEが警告出してブロックするのはなんでだろう?
wikiがなんだか改変されてるようだぞ?
確かに……なんかウイルスやらトロイやら満載のサイトに飛ばされてる模様。
ちょっとまずいんじゃないですかね、これ……
wikiのリンク、直しておいたよ。
でもよくよく考えてみれば、不特定多数が書き込み可能なwikiだと
作者や管理人さん以外の人の掲載内容の改変とか今回みたいなこういう事が
起こりうる可能性が十分あるんだよなあ。
カキコに一定の制限を設けるとか、一考が必要かも。
あ、直したのメニューだけだ
スマソ、吊ってくる・・・
286 :
屑屋:2007/11/06(火) 12:29:04 ID:gDy8sl8O0
>>284-285 いや、ありがとう。サポートに感謝するよ。
しかし、拙いな。
このまま放置すると、せっかくの客が感染して、まとめWiki自体の評判が
悪くなっちまう。
改竄がどこまで食い込んでいるかもわからんし、下手に修正しようとすると
自分のPCまでやられかねない。
……管理人氏にはすまないことだが、とにかくできるだけ早く、一旦全削除
したほうがいいかもしれないな。
その上で、編集権限者を限定して立ち上げなおすべきだろう。
……しかし、解せないな。なぜ此処が狙われた?
このスレッド自体、長い間荒らしのひとつもなくやってきたというのに、
何故まとめWikiになった途端に狙われたんだ?
編集権限が開放されているWikiは他にもあるのに、なぜ此処が?
アンチの犯行……は、まずないな。まとめWikiだけが狙われる理由がない。
ただの愉快犯……立ったばかりのサイトで、何の意味がある?
となると、悪質なスクリプトかボットによる無作為の偶然か……
とにかく、何もわからない以上、今は自分で自分の身を守るしかないな。
……くそっ。ネットは悪意に満ちてやがる。廃墟となにも変わらないぜ。
単にスクリプトに狙われただけかと。
誰でも書き込めるWikiにならどこにでも起こりうることで、まとめWikiが
それほどマメにメンテされてない&セキュリティ周りの設定が甘かったと
いうだけの話だと思われ。
他にもやられてるところはいっぱいあると思うが、人が利用してないとこ
ろだと、何かが起こっててもそもそも誰も気付かないしね。
で、Webブラウザの設定さえ適切なら、別に表示したり編集したりすること
によってウイルスに感染したりすることもないので、普通にページを修正
していけばいいかと。
可能なら、ソースの方からガシガシ修正する方が早いけど、fc2で可能なの
かな?
結構あちこちで被害に遭ってるっぽいしなあ。
他にも一箇所、似たような状況になってるのを見たことがあるし
>>289 ってか、自分は普段からこのスレを見るのはSolaris上のnavi2chで
Webを見るのはw3mかLynxだったりw
>>290 これは改ざんというより、単なるコメントスパムな気がする……
ネットワーク上の不特定多数向け嫌がらせは無くならないですね。
モバイルSuicaとか、なりすましとか。
ほしのゆめみさん達、ロボットか実際に店番として働くようになったら、結構怖いかも。
無線通信で色々な情報を受け渡ししてますが、それらに嫌がらせが混じってたら?とか想像してしまいます。
クラッキングして犯罪に走らせようとする輩が、絶対出るんだろうなぁ……orz
HMのように完全スタンドアロンだと難しそうだがな。
HMは素直すぎて、口先三寸で言いくるめられそう。
そこへいくと、ゆめみは頑固に?拒否しそうだな。
動作規定に抵触しますので……とかいって。
所用で今まで確認できなくてすいません。
wikiを全消去しました。
復旧の目処は…立ってません、今の所。
早急に復旧させます。
乙です〜。災難でしたね。
ここのWikiは「メンバーのみ編集可能」ってのはできないんですかね?
まあ、もしまたやられたとしても、すぐに気づけば履歴から戻せば大丈夫だとは思いますよ。
某年某月、野戦演習場。
演習場の東側ゲートに立つ演習本部。
「各員に次ぐ。演習終了、ただちにA591Cに集合せよ!」
携帯通信機に向って命令を飛ばす女性
「『雅教官、こちら第8分隊。到着予定時刻1951(ひときゅうごーいち)!』」
「こちら雅。小沢曹長、演習中は少尉と呼べ!」
「『申し訳ありません!』」
通信機を置き、雅は息を吐く。
SMR-9700が開発されてから30年くらいの年月が経っただろうか
雅は訓練学校の教官の任を任されていた。
戦闘用人造人間の傑作とも言われるSMR-9700の一番の欠点、それはコスト。
『人型戦車』とあだ名されるが、事実一体あたりに主力戦車(MBT)一両くらいの費用がかかっているのである。
そのため、SMR-9700の他用途機である9700iの調達は少数に留まった。
現在の雅の筐体はLs型に変更されている、L型は9700型の最終生産型である。
これは対MBT戦用の装備を省略したコストダウン機ではあるが、それ以外の装甲戦闘車両や対人戦には
十分な能力を持っていた。Ls型は通信機能などを強化した前線指揮型をさしている。
2000(ふたまるまるまる)時
「全員いるか!?」
小隊1個半の全員に対し、拡声器を使わず『地声』で聞く雅。
「少尉!」
横に並んだ分隊の列の一つから手と声が挙がる。第12機械化分隊の指揮官だった。
「どうした!」
「真上等兵が居ません!」「なにっ!?」
雅は少し慌てた、漫画だったら青スジを立てているところである。
少しも考えず、隣のもう1人の教官に小声で話し出す。
「捜してくる」
「しかしだな、部隊の帰還が遅いと始末書書かされるぞ」
「あなたが指揮を引き継いで。私はジープを1台残してくれればいいから」
「しょうがないな…わかった」「ごめん!」
言った側から加速装置でも使ったかのごとくその場から消える雅。
「(気持ちはわかるが「思ったら即行動」のクセ、どうにかしろよ…)」
ポカンとした一同の前で、もう1人の教官は思った。
39分後、移動中の車内。
他は先に帰ってしまったので車内に居るのはふたり。
ハンドルを握る雅と
「すみません…電子コンパスとGPSの故障で…」
助手席でシュンとしている少女。
彼女の名は「真(まこと)」
9700の後継機であり、次期主力戦闘用人造人間「SMR-9900」の試作3号機である。
「姉たちは皆優秀なのに、なんで自分だけトラブル続きなんでしょう…?」
「試作機なんてそんなものよ。特にあなたは造られたばかりなんだから」
悩みを一人で抱え込んでしまうタイプである真を気遣い、雅は言う
3機ある9900試作機の中で、真は他用途型設計であるC型として製造されていた。
なお、1号機の「岬(さき)」は基本型のA型、2号機の「来鳥(きとり)」は重戦闘型のB型として製造されている。
「それより、今度の土曜に休みとって町に出て見ない?」
雅は話題を変えた。
「え?」
「だってあなた、訓練が終るとスタッフに弄られてるだけで、何もしてないじゃない」
「まあ、データ取りが自分の仕事ですし…」
「それしかやる事が無いなら暇でしょ?、だから気分転換にどうかな?って」
真はふと考えた。「(そういえば会社の人と軍の人以外の人間を見たことがないなぁ…)」
「なら逝き…もとい行きます」
「慌てないの。言い間違えは大変な事の引金にもなるんだから」
「で、どこに行きたい?」
「………えーっと…」
『あ…』と思う雅。そういえば今まで外界に触れなかったので、真がそうゆう情報を持ってるとは思えない。
「うーん…、…プラネタリウム!」
「え?、プラネタリウム?」
意外な答えに驚く雅。
「この前地方のコミュニティ誌で見たんですけど「竹菱」と「鉄屑」とかなんとか」
「…正しくは「花菱」デパートと「くずや」プラネタリウムよ、真」
「あれ?」
「なんでそこのプラネタリウムに?」
「解説員が自動人形(ロボット)だと書いてありましたので、是非とも会ってみたいんです!」
…たしか花菱がほしののぞみでくずやプラネタリウムがほしのゆめみだったっけか?
名前がややこしく、思わず考え込んでしまう雅とすでにwktkな真。
…運転に集中しないと、事故るよ?二人とも。
オワレ
どうも久しぶりです。Wikiの復旧進まずorz
今回、初の自作オリジナルキャラクターを登場させましたが、雅(SMR-9700)居ること前提w
なお、真はスカートではなくズボンなんですが、その辺は描いたらwikiに掲載予定です。
なお、今回のコンセプトは「妄想屋氏の『ゆめみがくずやにやってきた』の世界観での雅」です。
形式が同じだったので、ゆめみの後任のぞみにしちまった(スマソ
時間の読み方が合ってるか少し心配…
おーい??△▽○□??
なぜ、のぞみさんがめみさんの後任なのよ?
のぞみさんの立場は「ゆめみお姉さま」「お客様お姉さま」の「お世話され係り」ではないのかい?
しかし、久しぶりの投下だな……w
形式番号が一緒だったからつい…orz
まあ「何かがズレてしまった世界」の出来事なので、この際見逃して(オイコラ
前スレ
>>4 では 「SCR-i5500」 となってますが、
ほしののぞみ は「SCRi5500Si/FL CapelV」ですから違うと思います。
まあ良いですが。
赤い「ほしののぞみ」は約3倍速ですか?
(きゃすばる兄さん ぢゃないってか?)
前スレ
>>261 より
『SCRi5500Si/FL CapelV・ほしののぞみ』
・ほしのゆめみから遅れること3年、花菱デパート城北支店屋上プラネタリウム館に配属されたロボット解説員。
・筐体は後継機の『SCRi5500Si/FL CapelV』となっている。
・身長はゆめみより若干低い。
・インフォメーションリボン(標準装備)の先端に若干のデザイン違いがある。
・振り分け髪はゆめみの2つに対し1つ(冷却機能が向上しており頭髪に頼る必要がない)。
・擬似感情処理系が若干アップグレードされており、涙を流す機能もある。
・衣装は(元デザインが花菱デパートの制服なので)ゆめみとあまり変わらないが、色調は赤系でまとめられている。
・パーソナルデータ(擬似人格)はゆめみのデータを元に構築されており、ゆめみは文字通りの『お姉さま』といえる。
そのためか、『時間経過を考慮せず冗長な会話を続けてしまう』という『既知のバグ』をも継承してしまっている。
・口調はゆめみと同じく、徹底的に丁寧口調。
・互いの呼称は以下の通り。
・ゆめみ→のぞみ:「のぞみさん」
・のぞみ→ゆめみ:「お姉さま」
・通信機能が故障しているため、ゆめみとの意思疎通も音声による会話ベースとなる。
それから、前スレ見ててちょこっと
「お客様お姉さま」ですね、「お客さまお姉さま」ではなくて。
前スレ
>>271 さんの書き方では。
>のぞみ : お姉さま、ご一緒にいらっしゃるもう一体の方はどなたですか?
>ゆめみ : 私の、大事な、特別な、お客様です。
>くずや : 好きでロボットになったんじゃない。俺は人間だったんだ!
>のぞみ : 言葉が乱暴ですね。男の人みたいです。いいえ、お男の人でもここまで乱暴な言葉使いの人は少ないと思いますよ。お客様お姉さま。
>ゆめみ : この方は男の人です。
そういえば「wiki」ですが、書き込みや編集する人の制限は有りませんか?
前スレは、たまたま、全文が手元に残っていますので何も考えないでそのままUPしようかと?
>のぞみ
…わかってますから勘弁してorz
>309
制限はありません、てゆうかできないはず。
「binary」は
>>277wでイエナ氏が言ってる通り、掲載は待った方が宜しいかと。
あと僕の作品は加筆修正版を掲載するのでこれも待って欲しいです。
Upしたら後ほど作者・作品別に分類しようかと思ってます。
てゆうか明日からまたスレ除くヒマがないorz
えーと。
俺の駄文(ってったって、どれが俺のかわかりませんやねorz)は、
加筆修正版のほうが有難いです。
以前うpしたものに、少し追加しました。
つ【
ttp://deaiup.com/up/src/up0119.jpg】
なお、アップローダーの仕様上、拡張子を「jpg」にしているので、「zip」に戻してください。
passは「yumemi」です。
……って、自分でwikiにうpればいいんだよなぁ……orz
文字化けしてたよorz
どうしろと?妄想屋氏…
変更の仕方わからん…
いいさどうせパソコンには疎いさ!シオマネキの集中砲火浴びてくる(自暴自棄)orz
>>314 ・右クリックしてファイル名を変更を選ぶ
・コマンドプロンプトを開いてren up0119.jpg up0119.zip
・ターミナルを開いてmv up0119.jpg up0119.zip
使っているOSに応じて好きな方法を選んでくれ。
>>316 「低身長タイプ」に「FL」とルビが振ってあるだけで、それ以外は言及されてないよ。
いやはや5500の件がこんなにくどく言われるとは…
今夜あたり、地道にうpしてきます。
忙しくて更新する暇が無かった…orz
321 :
318:2007/12/10(月) 11:03:05 ID:AEolvf7H0
322 :
屑屋@出張中:2007/12/17(月) 14:29:05 ID:F4v2LD1B0
昼さえ遠くがかすんで見えない、ここは中国広州。
夜もまた、ただ重く澱んだ空気が空を覆うばかりだ。
……星はどこにあるだろう?
ほのぐらい路地裏の舗道にあたたかな灯影か揺れる。
鍵のかけられていない扉をそっと開くと、
君はそのちいさな訪れの音にふり返った。
走り寄る、細い肩を抱き留めて、向かう瞳に涙の星。
……それは、天国の路地裏の風景。