本物の沢渡真琴のスレッド

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1名無しさんだよもん
知的で素敵なお姉さまでした。
2名無しさんだよもん:2007/03/09(金) 18:27:44 ID:hfmhgIn/0
あの部屋にあった黄色い物体が動くインテリアって
実物みたことある。なんだけ?
3名無しさんだよもん:2007/03/09(金) 18:29:40 ID:16odJDN20
夢か現か
4名無しさんだよもん:2007/03/09(金) 19:51:21 ID:Ej0Bwtb30
5名無しさんだよもん:2007/03/09(金) 21:15:22 ID:sc79jy/V0
誘導するならこっちではないか?

http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1088828584/l50
6名無しさんだよもん:2007/03/09(金) 22:36:28 ID:zP1TMIUk0
どうみてもみくる大です
7名無しさんだよもん:2007/03/09(金) 23:06:10 ID:cApC6m7v0
すまん、惚れちまったよ
8名無しさんだよもん:2007/03/10(土) 00:39:37 ID:oQSICWdL0
まず病院に連れて行けよ
と強く思った
9名無しさんだよもん:2007/03/10(土) 00:57:01 ID:8dsEAnjQ0
キョンとみくる大ですた



京アニ氏ね
10名無しさんだよもん:2007/03/10(土) 01:04:18 ID:4Kbhb2EL0
ハルヒ厨もどうかとおもうぞ
なんでもハルヒと結びつけるな
11名無しさんだよもん:2007/03/10(土) 01:06:22 ID:3nqLh2v50
ああいうふうにお持ち帰りされたいです
12名無しさんだよもん:2007/03/10(土) 01:13:16 ID:XTEl6gzY0
アニメ板から移動完了!
ミクル(大)とか言われてもいい!
ようやくkanonで池沼キャラじゃない、至って普通の萌え対象に出会えたよ…(つд⊂)
部屋のセンスといい、話し口調といい、萌えっつーか普通に惚れた!
13名無しさんだよもん:2007/03/10(土) 01:14:05 ID:4Kbhb2EL0
萌えますね、真琴さん
魅力たっぷりです
14名無しさんだよもん:2007/03/10(土) 01:21:07 ID:GM0JcZO/0
しかし、鍵作品としてはまったく設定されてない、いわば「京アニオリジナル」な
キャラなのに………………

………………ええい、何でも良いっ萌えたもん勝ちだぁっ!!
15名無しさんだよもん:2007/03/10(土) 01:26:06 ID:XTEl6gzY0
冷蔵庫の中のタッパー入りの肉じゃがといい、白でまとめていながら
冷たさを感じない部屋のセンスとか、服のセンスとか、髪型とか全部好みだ…。
飲み終わったマグカップをさりげなく受け取る仕草、相手の話を聞く時の姿勢、
説教臭く感じさせない諭すような言葉遣い…ああああぁぁあああぁあ!
マジでたまらん…。
って、漏れ相当キモいな………。
16名無しさんだよもん:2007/03/10(土) 01:29:56 ID:8dsEAnjQ0
>>10
ハルヒ厨じゃねーよ
デザインとか絵柄とかキャスティングがどれもおんなじな
京アニにうんざりしてるだけ

AIRの時は忠実に作ってたからいいが、KANONは
オリジナルいれ杉で、うざいし
17名無しさんだよもん:2007/03/10(土) 01:55:37 ID:8vaTNaUcO
7年ごしの新萌えキャラかよw
やばいです
本当に好きになっちゃいました
お姉さんキャラって何気にいなかったよな
佐祐理さんや舞は何か違うし
18名無しさんだよもん:2007/03/10(土) 02:11:07 ID:7DsDCJ+u0
俺もヤられて来ました。
くぅ、あの声であのうわぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!
あの人にこの気持ちを伝えたいぃぃぃl!!くわぁ。
19名無しさんだよもん:2007/03/10(土) 02:22:45 ID:4Kbhb2EL0
祐一の初恋が真琴さんだって件は真琴シナリオのどの辺りで出てきたかわかります?
木になって仕方ないんです
20名無しさんだよもん:2007/03/10(土) 05:31:53 ID:YgWQl53g0
>>18
え、中の人はおんなじだよね?
21名無しさんだよもん:2007/03/10(土) 06:48:48 ID:hYo7SJmX0
裕一が本物の沢渡真琴に憧れていたのが理解できたw
22名無しさんだよもん:2007/03/10(土) 06:54:12 ID:90/nSvCE0
>>16
そもそも何にも設定されてないキャラだったのを一から設定するのに
最近出たみくる(大)にイメージ引きずられない方がよくよく考えたら不思議だ

確かにどう見ても朝比奈さんな感じが凄いするけど
それ以上に声とか含めてどことなくあっちの真琴の面影を感じる事に驚愕。
面識無いはずだから別に本物をトレースしたわけでも無いのだろうに、ある意味奇跡
23名無しさんだよもん:2007/03/10(土) 08:00:44 ID:8QZQHtIz0
他にU1を諭すキャラの候補がいなかったから、
新キャラとして出した
24名無しさんだよもん:2007/03/10(土) 08:28:06 ID:EfvUHefH0
外観は同じなんだが、中身が全然違うのな(笑)
あれだけ違うと流石に祐一でも思い出せないよな。

人間、中身は重要だと悟った。




25名無しさんだよもん:2007/03/10(土) 08:42:16 ID:leMay/ZO0
あうぅーっ
26名無しさんだよもん:2007/03/10(土) 09:35:00 ID:IS+ZtMjR0
次期ブームはお姉さん萌えだな。
27名無しさんだよもん:2007/03/10(土) 11:22:58 ID:8QZQHtIz0
kagiにはいないタイプのキャラ
28名無しさんだよもん:2007/03/10(土) 11:28:30 ID:eMoBvBmJ0
>>24
人は成長するもんだぜ?
狐真琴もきっと…
29名無しさんだよもん:2007/03/10(土) 11:54:48 ID:leMay/ZO0
狐真琴は、魔物ハンターに成長します
30名無しさんだよもん:2007/03/10(土) 12:20:08 ID:V15MvNNu0
あうーって言わせてみたい
絶対萌える
31名無しさんだよもん:2007/03/10(土) 13:05:56 ID:czWXrXpGO
だよとか、もんとか(ry
32名無しさんだよもん:2007/03/10(土) 13:40:31 ID:IS+ZtMjR0
長森
33名無しさんだよもん:2007/03/10(土) 16:24:27 ID:90/nSvCE0
>>27
あれよりもっと大人っぽいのいるぞ
今年新発売の姐g(ry
34名無しさんだよもん:2007/03/10(土) 16:28:06 ID:TRVFoYpt0
これみくる(大)とか言ってる奴は葉鍵板住人じゃなくてアニメ板難民だろ
どう見ても長森じゃねーか
35名無しさんだよもん:2007/03/10(土) 16:37:04 ID:olUyJhEp0
>>34
わーい。声優ネタ声優ネタ。
36名無しさんだよもん:2007/03/10(土) 19:18:02 ID:EfvUHefH0
>28
…きっとクイーンオブニートになっているかと。
37名無しさんだよもん:2007/03/10(土) 19:32:47 ID:nCKnqeEd0
俺が飼ってやるから
38名無しさんだよもん:2007/03/10(土) 20:54:05 ID:GM0JcZO/0
>>30
オレも同じ事思った。
今回の話の中では、祐一を暖かく諭す“お姉さん”キャラとして登場したが
普通に生活してる若い女性なんだから、学校か職場でもっと年上の先輩か上司とかに
祐一のように冷やかされたりからかわれたりすると、(あの真琴ほどではないにしろ)
困った顔をして、控えめに「ぁぅ〜」とか言っちゃうんだぜ。

これが萌えずにいられようか。

この際、「あうーっ」は狐の鳴き声だ、っていう設定は無視w
あ、しかしあのメモのイラストとか見たら、童話や動物とか
大好きな可愛いヒトって感じはあるから、鳴きまねっぽい口癖ってのはアリかも。
39名無しさんだよもん:2007/03/10(土) 21:10:21 ID:mjwd93Pg0
> 大好きな可愛いヒトって感じはあるから、鳴きまねっぽい口癖ってのはアリかも。
まあらじおで、にゃにゃにゃいってる40過ぎてるおっさんもいるんだし、ありだろ
40名無しさんだよもん:2007/03/10(土) 22:39:34 ID:U1uisksU0
あの風貌なら結構なセンまで大丈夫だろう。
嗚呼、妄想が止まらない。
41名無しさんだよもん:2007/03/10(土) 22:46:55 ID:JIykmvon0
あのまま押し倒されたら、流されてしまいそうだ。
42名無しさんだよもん:2007/03/10(土) 22:54:09 ID:IS+ZtMjR0
BS
43名無しさんだよもん:2007/03/10(土) 22:55:13 ID:IS+ZtMjR0
BS観れない俺さまのために、誰か真真琴のBEST SHOTをうp
44名無しさんだよもん:2007/03/11(日) 02:52:22 ID:sYAbQ9Km0
555あぷろだ。の556にうぷしといた
45名無しさんだよもん:2007/03/11(日) 04:02:53 ID:6mQNSsIe0
貧乳……だな……


………………


ちょ……ま……この板出入りしてるだろ京アニ関係者!!
46名無しさんだよもん:2007/03/11(日) 04:06:22 ID:ZzHtS4D70
>>45
外見長森で、声優ネタにもなってるあたり、“分かってる”人がやってるなーと思った。
47名無しさんだよもん:2007/03/11(日) 04:11:03 ID:Nj9jREJD0
そういや、便箋がアニメスレにあったな。
後、>>40はIDがU1だったな。
48名無しさんだよもん:2007/03/11(日) 04:56:19 ID:SyN2j1vW0
>>46
うん、それでな、

実は、「まこ姉&由起子さんスレ」では、最近「まこ姉は大人貧乳(しかも腰から下はそこそこ)」
とゆー流れができてたのよ。
性格のイメージこそ違え、外観のイメージはまさにそれじゃない。

ってか、なんかこれでSS1本かけそうだ。書いても良いかな。
49名無しさんだよもん:2007/03/11(日) 05:00:57 ID:ZzHtS4D70
>>48
よし、書け。ガンガレ
50名無しさんだよもん:2007/03/11(日) 05:14:48 ID:gyQG919Q0
今までの板内でのイメージもあって、少しはっちゃけちゃうかもしれないけど、
それでも許容範囲?
51名無しさんだよもん:2007/03/11(日) 05:21:23 ID:mN34GGu10
あゆ「祐一君、ボク、見てたんだよ。昨日、沢渡さんと....。」
祐一「思いだすなぁ!!!」
52名無しさんだよもん:2007/03/11(日) 08:04:05 ID:Ik41whJz0
カノンじゃ貴重な常識人お姉さんキャラだねえ。

HP絵なりなんなりで鍵が採用して公式キャラ化とかそういう商売っ気は、ないだろうなあ。
53名無しさんだよもん:2007/03/11(日) 14:07:48 ID:X7V4xmkP0
冷静に考えると、オリキャラ沢渡さんの登場は京アニの大博打だったと思う。
でも、これは正解だったね。
5443:2007/03/11(日) 14:12:08 ID:X7V4xmkP0
>>44
遅くなったがGJ ! & thx !
55名無しさんだよもん:2007/03/11(日) 14:24:22 ID:pdEhJSAT0
まことさんきれいだろ
でもそれで処女なんだぜ
56名無しさんだよもん:2007/03/11(日) 15:33:10 ID:bU+JI5AQ0
あの街に住んでるのも、あんなところに通りがかるのも嘘くさいんだが。
前回の真琴が記憶読んで、狐たちが作り上げたんじゃないのか。
次に訪ねていったら、いなくなってるんだよ。
57名無しさんだよもん:2007/03/11(日) 16:46:55 ID:pYXs3PnD0
まことさんきれいだろ
だからふつーにかれしいてしゅうまつはでーとしておとまりしてせっくすしてるんだぜ
58名無しさんだよもん:2007/03/11(日) 17:05:42 ID:mN34GGu10
ここはとあるあぱーと・・・
にんきめにゅーは、にくまん・・・
59名無しさんだよもん:2007/03/11(日) 18:47:10 ID:Ih4hcbYI0
>>52
そうなれば、絶対買うよ
60名無しさんだよもん:2007/03/11(日) 20:19:42 ID:cXv/74Fh0
あの一晩の間に、やることはやったんだろうな。きっと。
61名無しさんだよもん:2007/03/12(月) 00:18:56 ID:vc9vpCQy0
車はジムニー(SJ30〜JA22)っぽくね?
62名無しさんだよもん:2007/03/12(月) 02:02:45 ID:sN/6uPxX0
お礼を言いに逝こうと思ったらそのアパートはU1が助けられる前に壊されていた。
等の展開ではなんだか嫌だなぁ・・・。
やはり真琴姉さんは人間であって欲しいなぁ・・・。
63名無しさんだよもん:2007/03/12(月) 02:32:37 ID:L6RSKQF60
いや別にあれが妖狐の力の産物でも、本物はどこかにはいるんだから、そんな悲しまなくても。

関係ないけど、あのアパートが元・狐の人間達の住居とかでもいいかも。
64名無しさんだよもん:2007/03/12(月) 02:59:29 ID:mGZAPIVg0
妄想は果てしないな
65『雪の街の同居人』1 1/5 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/12(月) 13:08:43 ID:H1YEyMDd0
 雪…………

 雪が降っている……

「っつーか、寒い……ぞ」
 俺、相沢祐一は、雪の降る中、駅前で人を待っていた。

 突然の、親の海外赴任。
 しかし、俺は、既に高校2年生の冬だったこともあり、日本に残ることを希望した。
 1人暮らしができるものと思っていたのだが、両親はそれを許さず、叔母の家で暮らすことを
条件にした。
 そしてこの街に来た俺は、迎えに来るという従姉妹の女の子を、こうして待っているのだが…


「ねぇ、寒くないの?」
「寒い、ぞ」
 ベンチに腰掛けて震えていると、正面に立った誰かから、そんな声をかけられた。
「……すみません、どちら様でしょう?」
 顔を上げると、そこには、見覚えの無い、大人の女性が立っていた。
「えっと……その前に、相沢祐一君、だよね?」
「えっ?」
 目の前の女性は、笑顔で、俺にそんなことを訊ねてきた。
「何で、俺の名前を知ってるんですか?」
「あ、よかった、人違いじゃなかったんだね」
 俺の反応に、彼女はにこりと笑って、そう言ってから、
「覚えていないかなぁ……うん、あれから7年も経っちゃってるもんね。しかたないか」
 少し残念そうに言う、優しげで、綺麗な女性。
 こんな美人に、俺は、覚えは…………
66『雪の街の同居人』1 2/5 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/12(月) 13:10:46 ID:H1YEyMDd0
「もしかして、こっちで近所に住んでた……沢渡さんのお姉さん、真琴さん?」
「そうだよ、思い出してくれたんだ」
 子供の頃、この街に来ていた頃の記憶は、断片的というか、おぼろげなんだけれど……その
中でも、確かに覚えている名前。
 彼女は、俺の初恋……と言っても、よくある、子供が、歳の離れた、美人のお姉さんに憧れて
いた、という奴なんだけど……その、“お姉さん”が、真琴さんだった。
「感激だな、こっちにきて、最初に出会うのが真琴さんだなんて」
 俺は、なんだか嬉しくて、その場で立ち上がった。
「ありがとう。でもね、偶然じゃないんだよ」
「え?」
 偶然じゃない、って……どういう意味だ?
「名雪ちゃんは? 確か、待ち合わせは1時だったよね?」
 そう言って、真琴さんは腕時計を見た。
 もう、1時は20分ほど過ぎている。
「そのはずだったんですけど……」
「携帯に、かけてみたの?」
「それが、圏外になっちゃってて……繋がらないんです」
「そっか……」
 真琴さんは、腕を組んで、うーん、と考え込む格好になってしまった。
「おかしいね、昨日まではすごくはしゃいでたのに」
 そうなのか……って、なんで、真琴さんが名雪のことを知っているんだろう?
「とにかく、家まで行こう? 私がつれて行ってあげるから」
 真琴さんは、そう言って、俺の手を握る。
「でも、名雪が……」
 俺は、本来迎えに来ることになっていた、従姉妹の事を思い出し、躊躇う。
「祐一君がここにいなければ、家に連絡してくるよ」
 真琴さんの言葉は、もっともなんだけど。
「それはあるかもしれないけれど、それならなおさら、私たちがここにいてもしょうがないよ」
67『雪の街の同居人』1 3/5 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/12(月) 13:11:25 ID:H1YEyMDd0
 真琴さんは困ったような表情で、言う。
 まぁ、それもそうか……
「それに、こんなところにずっといたら、祐一君の方がどうにかなっちゃうよ」
 そう言って真琴さんが指差した先には、地元銀行の、今となってはいささかクラシックな電光
掲示板があった。
 そこに、『現在の気温 −2.0℃』と表示されていた。
「うぉ……昼間だってのにこの温度……」
 まばらではあるが、雪も降っている。
「オマケにそんな薄着だし、このままここにいたら凍死しちゃうよ?」
「それはごめんだな」
 さすがに、冗談ではない。
 俺の今の姿は長袖のカッターシャツの上にジャンバーという、確かに余り厚着ではないが、
地元では充分寒さを凌げる程度だ。だが、ここでは通用しないらしい。
「どうしても、心配だったら、私がまた探しに来てあげるよ」
「え、でも、そんなの、悪いですよ」
 俺は少し驚いて、慌てて言い返す。
「大丈夫。私はほら、車があるから。祐一君も、一緒に乗ってきても、いいし」
 それでも俺は、少し躊躇った。
 だが、そんな僅かな間だけでも、寒さが染み入ってくる。
「解りました。すみませんが、お言葉に甘えさせてもらいます」
「はい、わかりました」
 真琴さんはにこっと笑った。
68『雪の街の同居人』1 4/5 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/12(月) 13:12:18 ID:H1YEyMDd0

「でも、大きくなったよね、あの頃は、私の胸ぐらいだったのに」
 ベンチから離れて、少し歩く途中、真琴さんはそう言った。
「そう、ですか?」
 真琴さんの言葉に、俺は少し照れくさくなってくる。
「本当、かっこよくなっちゃって」
「やめてください……恥ずかしいですよ」
 俺がさすがに気恥ずかしくて言うと、真琴さんはにこにこと笑う。
「でも、本当のことだよ」
 言って、路肩に停めてある軽自動車のところまで、俺をつけてきた。
 赤い軽自動車だが、横に『GX-R』とか派手なロゴが入ってる。
 真琴さんが鍵を開けて、俺に助手席に乗るように勧めてきた。助手席に身を埋める。ついさ
っきまでエンジンが回っていたのか、車内は、外の寒さが染み入っていた俺には、大分暖かく
感じた。
 意外なことに、MT車だった。さらに運転席の方には、なんだか2つほどメーターが追加して
あった。
 溶けた雪が残る道路を、真琴さんはそろりと車を出した。
 その、車中。
「私の両親もね、仕事の関係で、ここを離れることになったの」
 真琴さんは車を走らせながら、そんな事を言ってきた。
「そうだったんですか」
「でも、その頃私は、もう、ここで就職することになってたから。残ることになったんだけどね、親
が、どうしても1人暮らしは駄目だって」
「え? それじゃあ、どうしたんです?」
 俺が聞き返すと、真琴さんは前を向いたまま、くすっと、どこか悪戯っぽく笑った。
「それでね、母が信頼できる人って言うことで、水瀬さんの家に、下宿させてもらうことになった
の」
「水瀬さんって……ええ? そ、それじゃあ」
69『雪の街の同居人』1 4/5 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/12(月) 13:12:59 ID:G+85ERnU0
 秋子さん──俺の叔母──と、その娘で俺とおない年の名雪──の2人暮しだと聞いてい
た。女だけと言っても、身内だし、と言うことで、俺の同居を引き受けたんだとばかり思っていた
けど……
「今日から同居人、だね。……よろしくね」
 俺は、言葉を失った。
70『茨の街の騒動人』1 6/5 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/12(月) 13:14:34 ID:G+85ERnU0
番号ミス。>>69は 5/5 です。

「好きなのは〜」スレの方に投下した奴のリメイクなのですが、どうでしょう?
設定が変わっとりますが……
71名無しさんだよもん:2007/03/12(月) 17:07:17 ID:C0EMm/vZ0
>>70
素晴らしいよ
72名無しさんだよもん:2007/03/12(月) 17:27:27 ID:mGZAPIVg0
なかなかいいとおもいます。
73名無しさんだよもん:2007/03/12(月) 17:38:26 ID:5iOmF3lU0
オレの方が「どうにかなっちゃいそう」です。


あー、これで初恋を思い出した祐一くんと真琴ねえさんの恋物語になるのか。
他のキャラ放置決定、「Kanon」完。
74名無しさんだよもん:2007/03/12(月) 18:42:13 ID:C0EMm/vZ0
最終話 夢の中の追復曲〜Kanon〜 KanonDVD第4巻は4/4発売予定です

祐一「うおぉぉぉぉぉ!結婚するぞ真琴ぉ!」
真琴「あうーっ祐一!真琴は実はものみの丘の狐でもうすぐ消えるわよぅ!」
チリーン
名雪「真琴が消えたみたいだよ〜」
舞「あの子はこの中で一番攻略が簡単…」
栞「起こらないから奇跡って言うんですよね」
祐一「うおおおおお!」
「キャアアアアアアア!!」
祐一「やった…ついに4人クリアしたぞ。これであゆの所へ行ける!」
真・真琴「よく来たわね祐一君。待っていたのよ」
祐一「あ…あなたが本物の沢渡真琴さんだったのか」
真・真琴「祐一君、一つ言っておくわね。このアニメが終わるにはあゆちゃんと会わないといけないと思っているようだけど…別に会わなくても終わるのよ」
祐一「そうだったのか…」
真・真琴「それから秋子さんの容態は峠を越えて安定して、名雪ちゃんも元気になったそうよ。あとは家に帰るだけね」
祐一「フ…それならオレも一つ言っておくことがあります。今まであゆを好きだったような気がしてたけど全然そんなことはなくて、実はあなたのことが好きなんです!」
真・真琴「え、そうなの?」
祐一「うおおお行きますよぉぉぉぉぉ真琴さん!!」
真・真琴「ええ!来て、祐一君!」

真・真琴の可愛さが奇跡を起こすと信じて…! Kanon・完
75名無しさんだよもん:2007/03/13(火) 12:11:37 ID:aKNizySX0
U-1ヒドス
76名無しさんだよもん:2007/03/14(水) 14:31:49 ID:j7X5OMpz0
>>65-70
亀レスだが、素直に良かった。
77名無しさんだよもん:2007/03/14(水) 22:10:03 ID:JDbv6j9c0
             r─ '´           \
        / /               \
       / / .:/             \  ハ
.      / / .:/ .:/.:/  .:./iハ:.  |:.: l:.:  ヽ  l
      / / .:/ .:/ _:斗-.:.:/  }、 ┼-|、:.  ハ |
       { ,イ .:/イ/ノl!ハ/   ' \l ハl下  l | |
       |/ ! .:{ .:{ ィ庁マ      Z云ハ:.  |ノミ|
         レヘハ :.:! { ::;;ii}     { ::;;ii} |:.:. j:ミュ|
          |{ \| ゝ- ′ ,   ゞ-く |/lミュ|
          | ゞ-∧"""   、__  """/__ノ:.:  |
          |  / ..:.:.>   `¨    ィヽ.:.:.::.   |
         ,′' ..:./  >  __  イ ,   } ノ   ',
           /  ...:.:{_  {      j/  //   l:. ヽ
        /  .:/ 「  \__/  ,イ/   :|、 ∧
       ′/   \  ー一'′   /   .:/ \ ∧
      / .′     \     イZ   .:/'´  ヽ ヘ
.     /  .:| 、      ` ー " /   ...:/    | ∧
     ′ .:|  \|   o       /。/   ...:/     j/ ヽ
     ;.   .:|    |o    °ヽ/ / ,  .::/       ,':.:...  }
     l   ハ  l       {  ′/ .:.:./    l /:.:...  ,′
      ヽ  /:.:.|  ',        | /| .:.:/     l/:.:...  /
.      \ :.:.|   ヽ       リ \{       〉::.. /
78名無しさんだよもん:2007/03/14(水) 22:27:46 ID:EcnEpGQg0
>>19 亀レスですが…。
原作では、幼い頃のU1が拾ってきた子狐(真琴)に対してだけ、
好きな女性の話をしていたシーンがあったが、それは名前だけの
話で、姿まで伝えてはいなかったと思う。そう考えると、化け狐
の真琴はオリジナル沢渡真琴の姿は知らなかったハズなのだが…
まあ、所詮は原作を外れた物語ということか。
79名無しさんだよもん:2007/03/14(水) 22:43:36 ID:JAE2pEam0
それは厳密には分からない
好きな女性の話をしていた野良狐が7年の間にその人物を見る可能性もあるし
人間に化ける時に祐一の想念か何かをスキャニングしたのかも知れないし
そこらへんの説明のしかたなんていくらでもある
80名無しさんだよもん:2007/03/14(水) 22:55:24 ID:Sx4Z74li0
>>78
真琴(狐)に憧れの女の子の名前だけを言うとは思えない。
おそらく色々な情報を言ってる可能性がある。
背丈
髪型
目鼻の特徴 etc.
81名無しさんだよもん:2007/03/15(木) 00:01:55 ID:hYRsA8Ib0
一番簡単なのは、祐一の記憶の中にある風景を参考にする事だな。
丁度十年前はあんな感じの女の子だった、と。
82名無しさんだよもん:2007/03/15(木) 00:38:56 ID:TE2YdcU20
それもこれも、あれが本物だったらの話で。
ピロに裏設定作るようなだーまえの監修で、唐突に偶然に本物が出ると思えない。
83名無しさんだよもん:2007/03/15(木) 09:34:55 ID:IEWSp9120
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\
 な、何か狐につつまれたような    |
 気がする…。              |
_____  _________/
        V
            ∧_∧
            /    ヽ
            | `  ´|
      <>○<;>\= o/
      // ヽ\⊂ ̄ , ヽ  
      / ∧_∧ヽ  ̄   ヽ 
     /,( ;´∀`)ヽ ,ゝ  |___, ヘ
     | ヽ\`yノ )(   |   <;   |
     ヽ ___ノ_と_ノ\_<;_ノ

84名無しさんだよもん:2007/03/15(木) 12:12:54 ID:VF3J5aRs0
ぴろの裏設定って結局よくわからんまま現在に至るおれ
85『雪の街の同居人』2 1/5 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/15(木) 13:14:45 ID:OLJ8GnxE0
 水瀬家のガレージに、真琴さんの車が収まって行く。
 俺がガレージの入り口で待っていると、真琴さんは車から降りて、俺の姿を見るなり、パタパタ
と俺の方に駆け寄ってきた。
「先に、中に入っててくれてもよかったのに」
「あ、いえ、そんな、悪いですよ」
 俺は慌てて、手を振って否定する。
 ……まぁ、真琴さんがどうというより、1人っきりで入るのが、なんだか気まずかった、というのも
あるんだが。
「ありがとう。それじゃあ、少し待っててね」
 そう言うと真琴さんいったん離れて、ガラガラとシャッターを下ろした。
「お待たせ」
 俺の前に戻ってくると、そう言ってにこっ、と満面の笑顔を見せた。
 そうして、2人揃って、水瀬家の玄関をくぐる。
「ただいま戻りましたー」
 真琴さんが奥に向かって言うと、奥から、「はーい」という、女性の声が聞こえてきた。
「祐一君、連れて来ましたよ」
 真琴さんが続けて言うと、奥から、「あらあら」と言いながら、パタパタと女性が出てくる。
 水瀬秋子さん。俺の叔母、うちの母親の妹だが、そうとは見えないほど、若々しく見える。真
琴さんと同じ歳と言ったら、押し通せるんじゃないだろうか。
「どうも……秋子さん、お世話になります」
 俺は、なんとなくの気まずさを伴いながら、秋子さんに挨拶した。
「はい、いらっしゃい、祐一さん」
 秋子さんは、俺に向かって、優しげな笑みでそう言ってくれた。それから、視線を真琴さんに
向ける。
「名雪が迎えに行ったはずなんですけど……」
「約束は、駅前に1時、だったんですよね?」
 真琴さんが聞き返す。
「ええ、確かそのはずですよ。間違いなく、家も出ていますし」
「おかしいなぁ。私、駅前通りかかったら、20分も過ぎてるのに、名雪ちゃん、まだ、来てなかっ
たんですよ。それで、このままじゃ、祐一君、凍えてしまいますから、私が、連れてきたんです」
86『雪の街の同居人』2 2/5 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/15(木) 13:15:22 ID:OLJ8GnxE0
「そうですか……」
 真琴さんが事情を説明すると、秋子さんも、少し怪訝そうな顔をする。
「途中で、何かあったんじゃないといいんですけど」
 真琴さんが言う。けれど、秋子さんはそれには直接返事をしなかった。
「あの、秋子さん」
 俺はどうしていいかわからず、おずおず……と声をかけた。
「あ、ごめんなさい、祐一さん。ここで立ちっぱなしじゃ仕方ありませんね」
 秋子さんははっと我に返ったようにして、優しげに苦笑しながら俺の方を向いた。
「そうですね……祐一さん、お昼御飯は?」
「ああ、済ませてきました」
 俺がそう答えると、秋子さんはなぜか少し残念そうな表情をした。
「そうですか。それじゃあお部屋の方に」
 秋子さんが言うと、真琴さんがすっと、俺の手を取った。
「行こう、祐一君。2階だよ」
「え、あ、でも……」
 一瞬、ドキッとして声を失ってしまう。
 気まずい気がして、秋子さんと真琴さんの顔を交互に見やる。
 すると、くす、と秋子さんが笑った。
「私、まだお昼の後片付けがありますので……真琴さん、よろしくお願いしますね」
「はい」
 まぁ、秋子さんがそう言うなら……と、俺は真琴さんに引っ張られるままに歩き出す。
 階段を上りながら、真琴さんが話しかけてきた。
「祐一君、さっき、秋子さんのこと名前で呼んでたけど……」
「え?」
 俺は真琴さんの質問の意図がわからず、顔を上げて聞き返した。
「秋子さんって、祐一君の叔母さん、だよね?」
「ああ」
 それで、発言の意図を理解した。
87『雪の街の同居人』2 3/5 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/15(木) 13:16:01 ID:OLJ8GnxE0
「うん……昔からあまり叔母さんって呼んだことないんだよ。なんだか失礼な気がしてさ」
「確かに、見た目は20代で押し通せるもんね」
 真琴さんも、くすくすと苦笑する。
「見た目だけじゃなくてさ、見た目だけならうちの母親も結構年齢不詳だけど、そうじゃなくて、
こう、あまりおばさん臭さを感じさせないでしょう? それに、前会ってたときはリアルで20代だ
ったから、おばさんって言うよりお姉さんみたいな気分なんです」
「そうだね、秋子さんはどっちかって言うと、大人のお姉さんって感じだね」
 俺の説明に、真琴さんもくすくすと笑いながら、同意してくれた。
「そう言えば、真琴さんは、いくつなんですか?」
「え?」
 俺がふと、思いついて訊ねると、真琴さんは、きょとん、として立ち止まった。
「こらこら、女の人に歳を訊くなんて、マナー違反よ」
 少し苦笑気味にしながら、そう俺を嗜める。
「あ、すみません」
 言われて、俺は、慌てて頭を下げる。
「24だよ。名雪ちゃんとおない歳なら、7つ違いのはずだよね」
 苦笑しながら、そう答えてくれた。
 その、くりっとした瞳、柔らかそうな顔。
 うーん、秋子さんほどじゃないけれど、真琴さんもハイティーンで通せるんじゃ……
「それでね、階段上がってすぐが名雪ちゃんの部屋」
 真正面に見えるドア。それには緑色のカエルのようなプレートが下がっていて、『なゆきのへ
や』と書かれていたから、それはすぐにわかった。
「右側の部屋が、祐一君に使ってもらう部屋だって」
「あ、はい」
 真琴さんの先導で、俺に宛がわれた部屋に入る。
 フローリングの洋間。6畳程度の広さだが、まだ、ベッドしかないので、殺風景で、やたら広く
感じる。
 玄関先の道路に面していて、2方向に窓が開いている。
88『雪の街の同居人』2 4/5 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/15(木) 13:17:16 ID:OLJ8GnxE0
「祐一君、荷物はまだこれから来るんでしょう?」
 真琴さんが、そう訊いて来た。
「ああ、明日届くことになっています」
「じゃあ、お手伝いしなきゃね」
「い、いいですよ。そんな、悪いし……」
 俺は慌てて、手を振って、真琴さんの言葉を断った。
「別に遠慮しなくていいんだよ?」
 真琴さんは優しげに笑ったまま、目を開いて、少し首をかしげるような仕種で、俺を見てくる。
「大丈夫ですよ、大した量じゃ、ありませんから」
「そう? でも、もし人手が要るなら遠慮しないで言ってね」
 目をキョトン、とさせてから、にこっ、と微笑む。
 ガタン。
 不意に、部屋の扉を開ける音がした。
 2人揃って、扉の方を振り返る。
「あ、名雪ちゃん。どこに行ってたの?」
 先に、真琴さんから、困ったような表情で、訊ねた。
 その言葉で、俺は、その少女が、7年前までこの地で会っていた従姉妹だと、理解した。
「祐一を迎えに……真琴さんこそ、どうして祐一と一緒にいるの?」
「え?」
 名雪の問いに、真琴さんは、どこかおっとりと首を傾げてから、
「あ、うん……黙って連れて行ったのは悪いと思ったんだけど、祐一君、駅前で凍えそうだった
から、連れてきたんだよ」
 真琴さんはおっとりとした口調で説明するが、なぜか、名雪はあからさまに不機嫌そうだっ
た。
「祐一も酷いよ。黙って真琴さんについて行っちゃうなんて」
 その、むすっとふくれた名雪の矛先が、今度は俺の方に向けられてくる。
 だが、俺はそんな態度をとる名雪に、逆にむっと来た。
89『雪の街の同居人』2 5/5 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/15(木) 13:18:09 ID:OLJ8GnxE0
「何言ってんだよ、氷点下の中に人を放り出しやがって。俺を凍死させる気だったのか」
「……でも、約束してたのは私だもん」
 名雪の言葉に、俺ははぁ、と思わずため息をついていた。
「そう言うなら、時間ぐらい守れ。そうでなけりゃ、携帯に連絡ぐらいしろ」
「そうだよ、むしろ、心配したんだからね」
 俺の言葉に、真琴さんも付け加える。
「それは……でも」
 名雪は敵意に近いような不機嫌さを顔であらわしながら、言葉に詰まる。
 そして、
「もう、祐一なんか知らないっ」
 そう捨て台詞を残して、名雪は部屋から出て行った。
「どうしたってんだ? 名雪のやつ……」
 俺は、そうつぶやいてから、真琴さんを見る。
 すると、真琴さんは、口元に手を当てて、何か考えているような仕種をしていた。
90『茨の街の騒動人』2 6/5 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/15(木) 13:19:40 ID:lmulmXbK0
なんかイメージ違っちゃってきたかなぁ……
91名無しさんだよもん:2007/03/15(木) 15:57:48 ID:zQXksKW30
いや、いいんでないかい?
92名無しさんだよもん:2007/03/15(木) 18:15:23 ID:RPqahV8s0
真琴さんと一緒にお風呂入るのはいつですか?
93名無しさんだよもん:2007/03/15(木) 19:38:57 ID:KZUjYpsw0
>>85->>89
乙カレー
94 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/16(金) 13:10:21 ID:DkoHaxBA0
続きを書きたい気はするが、ここから先を書くと、あからさまに名雪の扱いが悪くなるような気がしてきた。
95名無しさんだよもん:2007/03/16(金) 20:08:25 ID:7hdf7lOw0
まあ、人間沢渡真琴スレだからそうなってもいいのでは?
96『雪の街の同居人』3 1/7 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/17(土) 10:53:00 ID:kqXke0UR0
「祐一ー、お母さんが、お風呂入っちゃって、だってー」
 名雪の声に、俺は応える。
「おーぅ」
 最小限、持ち歩いてきた下着類と寝巻きを取り出し、自分の部屋を出た。
 浴室に入ると、なぜか明かりが点けっぱなしになっている。
 名雪かな……秋子さんがこうだらしないとは思えないし……いや、ついうっかり、って事もある
だろうけれど。
 そう思いつつ、俺は文字通り一糸纏わぬ姿になって、浴室の扉に手をかける。
 カチャリ、
 と、浴室の折り戸を開ける音と、
 ザザァ……
 という、水音が重なった。
「えっ?」
 その瞬間、俺の時間が一瞬、完全に静止した。
「ま……こと、さん?」
 湯船から出ようとした状態で、同じように凍り付いているのは、真琴さん。
 当然、何も着けていない、無防備な姿のわけで。
「…………え、A?」
 見たままを表現したのが、いけなかったかもしれない。
「きゃぁあぁぁぁーっ」
 俺の視界を、黄色い耐熱プラスチックの物体が一面に満たし──
 次の瞬間、その洗面器が顔面を直撃していた。
97『雪の街の同居人』3 1/7 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/17(土) 10:54:04 ID:kqXke0UR0

「むぎゅ……」
 と、気がつけば、俺はなぜか、フローリングの床とキスをしていた。
「あれ…………?」
 血の上るような、逆さまの体勢。
 どうやら、ベッドから落ちたらしい。
「いきなり真琴さんのあんな夢見るなんて……溜まってんのか、俺」
 つぶやきながら、立ち上がる。
 窓の外はまだ夜。というか、家々にはまだ明かりがついている。
 夕食後にうたた寝をしていて、変な夢を見てしまったらしい。
 ……冷たいものでも、飲むか。
 部屋を出て、名雪の部屋の前を通り過ぎ、階段を下りて、階下に下りる。
 階段を下りてすぐのところに秋子さんの部屋が、それより玄関に近いところに、真琴さんの部
屋がある。
 もちろん俺はどちらでもなく、LDKの方に向かった。
 キッチンに入り、冷蔵庫の前に立ち、冷蔵室のドアを開ける。
 清涼飲料水の類はなく、ドアポケットに、牛乳とイチゴ・オレ、それに白ワインが入っているだ
けだった。
 まぁ、女所帯らしいといえばそうかもしれない。
 とりあえず、牛乳でも…………
 いや、待てよ。自分の家と同じつもりで、いきなり冷蔵庫を開けてしまったが、よく考えたら、
居候の身分じゃないか。
 秋子さんならそんなこと気にしないだろうけど、礼儀として欠ける気がする。
 味気ないが、水道水で我慢しておくか。
 ……俺の地元の水道水は、飲めたものじゃなかったけどな。
 まぁ、コップを借りるぐらいはいいだろう、と、ガラスのコップを取り、流しに向かう。
 蛇口を捻ろうとした、その時。
98『雪の街の同居人』3 3/7 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/17(土) 10:55:03 ID:kqXke0UR0
「あれ? 祐一君、何してるの?」
 ドッキーン
 心臓が飛び出るかと思った。
 よろよろと流し台にもたれながら、身体ごと後ろを振り返る。
「ごめんなさい、驚かしちゃった?」
「い、いえ、別にそう言う、わけでは……」
 イカン。さっきの夢での出来事がフラッシュバックして、いかにも気まずい。
 何とか話題を作りださないと…………ん……?
「真琴さん、そんなかっこして、今からどこか出かけるんですか?」
 厚手の、スキーウェアのようなダウンジャケットと、やっぱり厚手のズボンを履いた格好をして
いる。
「うん、ちょっと、ドライブ」
 えへへ、と、ニコニコ笑いながら、そんな事を言う。
「雪、積もってますよ?」
 ちょっとドライブをしよう、という、道路の状況じゃないことは確かだ。
「うん、それでも」
「はぁ……」
 真琴さんはやたら嬉しそうに、キーホルダーを振り回していた。
「途中でコンビニ寄って来るけど、祐一君、なにか欲しいものある?」
 間抜けにもカラのコップを持ったまま、玄関まで着いて来た俺に、真琴さんは、ブーツを履き
ながら聞いてくる。
「それなら……」
 冷たい飲み物でも、と言おうとして、はっと考え直す。
「あ、いえ、俺も付き合っていいですか?」
「え?」
 真琴さんは、少し驚いたように、俺を振り返った。
「うん、いいよ」
 にこっと笑った。
99『雪の街の同居人』3 4/7 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/17(土) 10:56:38 ID:kqXke0UR0

 ガラガラガラガラ……
 真琴さんの車を表に出して、ガレージのシャッターを閉める。
 もともとこのガレージは、名雪の父親、秋子さんの旦那さん、俺の義叔父の車を入れるための
ものだったが、義叔父がなくなってからは、秋子さんは自分で車は持たず、ずっと使われてい
なかった。
 今は、真琴さんの車が納まり、工具やオイルの缶まで並んでいる。
 昔の特撮ヒーローが乗っていたような、軽自動車だけど厳つい車。
 前輪の少し上に、『Jimmny』と入っていた。ジムニー、か?
 パンパンという、軽自動車にしてもやたら軽いエンジン音がしている。
「真琴さん、車好きなんですか?」
 助手席に収まりながら、そう聞くと、運転席の真琴さんは、「あはは」と苦笑する。
「車が好きって言うより、この子が好きって所かな」
 ハンドルを撫でながら、そう言った。
 発車させつつ、真琴さんは続ける。
「免許とって最初に買ってから、ずっと乗り続けてるんだけどね」
 軽くだが、雪の降り続いている街中を、ワイパーで雪を退かせながら走る。
「程度もいいし、掘り出し物だって言われて買っちゃったんだけど、後から調べたら、好きな人
じゃないととても維持できる車じゃないって言われちゃってさ」
「それで……」
「最初は他にやりようもなかったから、何とかして乗ってたんだけどね。そのうち、愛着が出てき
ちゃって」
 ヘッドライトの照らす先を見たまま、真琴さんは苦笑する。
「いいと思いますよ、それ」
「うん」
 路面電車とすれ違う。俺の地元にはなかったし、全国的にもそうそう見られるものでもないか
ら、なんとなく楽しい。
 しばらく走って、道路の左側にあるコンビニエンスストアに入る。
100『雪の街の同居人』3 5/7 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/17(土) 10:58:03 ID:kqXke0UR0
「いらっしゃいませー」
 店内に入ると、女の子の挨拶が俺を出迎えてくれた。
 緩くウェーブというか、くせのかかった、ショートというには少し短めの髪。
 多分、アルバイトの店員だろう。
 とすれば、少なくとも高校生のはずだが、かなり小柄で、名雪や──つまり、俺より大分年下
に見える。
 そのくせ、なんだかずいぶん愛想のない表情で、こちらをヤブ睨みしている。
 そんなに不審か? 俺。
 なんとなく気分が悪くて、その店員の名札を見てやる。
 『あまの』……か。天野?
「さて、今日は何がいいかな、と」
 真琴さんはおにぎりやお弁当のコーナーの前に立ち、腕を組んで選んでいる。
 俺は奥の冷蔵コーナーに歩いて行き、飲み物を物色する。
 甘い物はあまり好きではないのだが、今は妙に喉が乾いていて、清涼飲料水の類が欲しか
った。
 さすがに、酒、はまずいだろうし。
 少し考えた後、炭酸が欲しくて、有名な三本矢のサイダーを買うことにした。
 レジに行くと、相変わらず、愛想のない態度で、『あまの』が応対する。
 どうやら、俺だけに対してではなく、常にそんな態度のようだ。
「147円になります」
 なんとなく気分悪く感じながらも、俺は小銭で150円を出し、おつりを受け取った。
「あ、なんだ……祐一君、買ってあげたのに」
 おつりをレシートごと懐に納めながら、レジから離れようとすると、買い物籠を持った真琴さん
がいて、そう言ってくる。
「いや……いいですよ、悪いし」
 俺はなんとなく気まずく、そう答える。
「まだ高校生なんだから、そんな気、遣わないの」
「は、はぁ……」
101『雪の街の同居人』3 6/7 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/17(土) 11:00:00 ID:U+mWunTb0
「と言っても、私も社会人、1年目だけどね」
 まだ高校生、か……
 つまり、真琴さんにとっては、まだ、子供の範疇に入るんだろう。
 がっかりしたような、なんとなくほっとしたような……
「あ、フライドポテトお願いします。あと、ピザまんふたつ」
 ────真琴さんが会計を終えて、コンビニを出た。

 真琴さんは、さらに水瀬家とは別の方向に、車を走らせる。
 俺は、窓の外を流れる街の灯を見つめながら、少し考えた。
 …………どういうわけか、俺は、この街での出来事をよく覚えていない。
 7年前、俺がまだ小学校だった頃、俺は、長期休暇ごとに、水瀬家に遊びに来ていた。俺の
両親が多忙と言うこともあったし、母子家庭で、名雪が寂しがるということもあった。
 それが、7年前を最後に、両親は俺を秋子さんのもとに行かせるのをやめた。
 まだ中学に入る歳じゃなかった筈だし、なにか理由があったんだろう。
 けれど、俺自身は、7年前に起こった出来事を、よく覚えていない。
 正直、真琴さんの存在さえ、顔をあわせて、ようやく思い出したほどだ。
「ガキの頃の記憶なんて、そんなものかもしれないな」
 そう呟いて、軽く、ため息をつく。
「ん? 祐一君、なにか言った?」
「あ、いえ、別に」
 俺の呟きに、真琴さんが聞き返してくる。
「だめだぞ、若いうちからあまりため息ついてると、早く老け込んじゃうから」
「もう、手遅れかもしれませんよ」
 俺は冗談交じりに、苦笑した。
102『雪の街の同居人』3 7/7 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/17(土) 11:01:10 ID:U+mWunTb0

 車は、街の繁華街から少し離れた、そこへ到着した。
「さ、着いたよ」
 真琴さんはそう言って、エンジンを切り、降りる。
「着いた……って」
 聞き返しつつ、俺も、一緒になって車から降りた。
 地面に立ち、見渡す。その建物は……少しこじゃれているが、多分、学校。
 …………高校、か?
103『茨の街の騒動人』3 8/7 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/17(土) 11:05:46 ID:U+mWunTb0
>>96-102

>>97は番号ミス 2/7です。

真琴さんの車は「1」では別の車種を考えていたけれど、京アニでそれっぽかったジムニーに変更。
京アニ公式ではどうか知りませんが、こちらはSJ30V最終型で設定しています。

JA11Vを所有していましたが、SJ〜JAジムニーは、趣味人じゃないと維持できないよ、ホント。

別のキャラを出すつもりだったのが、なぜかこちらが先に登場。
しかし、名雪が出ないのぅ……
104名無しさんだよもん:2007/03/17(土) 11:48:57 ID:zeEDjjyT0
乙乙
105名無しさんだよもん:2007/03/17(土) 15:25:17 ID:5mpjaPfN0
面白いですよ、GJですよ。
ああ、続きが楽しみだ。
106名無しさんだよもん:2007/03/17(土) 23:13:18 ID:zwVHDTKK0
GJスグル ( ゚д゚ )
お風呂ネタありがとうございます。
107『雪の街の同居人』4 1/7 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/18(日) 12:15:58 ID:OplwL2a90
「しかし、勝手に入っちゃって良いんですか?」
 俺はあたりをキョロキョロと見回しながら、校舎の方へ向かって歩いて行く真琴さんを追う。
「大丈夫、ここ、セキュリティかかってないから」
 おっとりとした口調で、さらりとそんな事を言う。
「いや、そう言う問題じゃないと思いますけど……」
 ポリさんとかに見つかったら、後々厄介そうだ。
 俺が不安になりつつもついていくと、真琴さんは無人の学校の、昇降口のドアに手をかけ
た。
 まるでそれが当然とでも言うように、ドアに鍵はかかっていなかった。
 かすかな軋みを立てて、ドアは開かれ、真琴さんは校舎の中に入っていく。
「おじゃましまーす」
 小声でそう言う真琴さんを、俺は慌てて追って行く。
 昇降口を抜けると、だだっ広いエントランス・ホールが広がっていた。
 普通の高校には思えない。
「ここ、ひょっとして真琴さんの母校ですか?」
 キョロキョロ見回しながら、前を行く真琴さんに訊ねる。
「あれ……祐一君、覚えてないかな」
 真琴さんは立ち止まり、俺の方を振り返った。
「この高校、5年前にできたんだよ。ちょうど、私が高校卒業する年かな」
「それじゃあ覚えていませんよ、俺、最後にここに来たの、7年前ですから」
 がっくりと肩を落として、真琴さんに言い返す。
 すると、真琴さんは軽く首を振った。
「ここ、学校が建つ前は、麦畑だったの」
「え」
「祐一君、よく、ここで遊んでたんだよ」
 そうだったのか……いや、真琴さんにそう説明されても、いまいち記憶にぴんと来ない。
「すみません……7年以上前の事は、よく覚えていなくて……」
 俺は頭を低くして、真琴さんに謝る。
108『雪の街の同居人』4 2/7 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/18(日) 12:16:41 ID:OplwL2a90
「そうなんだ……」
 真琴さんは少し残念そうに言ってから、再びくるりと前を向いて、
「まぁ、7年も経ってるんだし、仕方ないかもしれないね」
 そう言って、また、歩き出した。
 ……本当に、そうだろうか?
 真琴さんについて歩きながら、俺は、胸につっかえる何かを感じていた。
「でも、明日……ううん、明後日か。祐一君、この学校に通うことになると思うよ」
「え、じゃあ、名雪もこの学校って事ですか?」
「そうだよ」
 そんな事を話しながら、階段を上がって行く。
 それを聞いて、俺は改めて、周囲を見回した。
 そして、……最上階と、屋上の間にある踊り場。
 ガラスから差し込んでくる月明かり──じゃない、空からはまだ雪が舞っている。
 その雪に反射した街灯の明かりが、淡く照らすその場所に、彼女はいた。
「こんばんは、舞ちゃん」
「こんばん、は……」
 ひとり、けれど縮こまるわけでもなく座っている、舞と呼ばれた少女は、真琴さんに向かって
返事をした。
「ご飯、持って来たよ」
 真琴さんが、コンビニの袋を掲げて、見せた。
「ありがとう」
 返事をするその子の隣に、真琴さんはしゃがみこみ、ガサゴソと包みを広げ始めた。
 舞というその女の子も、姿勢を曲げて、真琴さんの持ってきたコンビニ袋を覗き込む。
 …………最初、見た瞬間は、どこか神秘的なイメージがあったのに、結構、現金だ。
「おいおい、お前、こんな時間に学校に入り込んで、何してるんだよ」
 俺は呆れて、舞、にそう話しかけた。
「…………誰?」
「箸を咥えたまま人を見るな」
109『雪の街の同居人』4 3/7 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/18(日) 12:17:21 ID:OplwL2a90
 くるっと俺を見る舞に、俺は思わず、そう言ってしまった。
「大丈夫、私の友達だから」
 真琴さんはニコニコ笑いながら、舞にそう言うと、紙袋を開けて、中の中華まんにかぶりつい
た。
「う〜ん、やっぱり寒いときの夜食は、ピザまんに限るね」
 ……それは、自分で食う分だったんですか。真琴さん。
「大丈夫だよ祐一君、舞ちゃんは、この学校の生徒だから」
「……そう言う問題じゃないと思いますけど」
 俺は真琴さんにそう言ってから、舞の方に視線を移した。
「で、結局、何をやってるんだ?」
「待ってる」
 舞は、俺の問いに、短くそう答えた。
「待ってるって、何を?」
 俺が聞き返すと、舞は、傍らに置いてあった、紙袋の包みを取り出した。
「これ……返さなきゃいけないから」
「こんな時間に、約束してるのか、こんな場所で」
 俺がもう一度聞き返すと、舞はふるふる、と首を振った。
「いつとは約束してない……でも、必ずここに来るから」
「なんだそりゃ」
 俺は、呆れたように言う。
「舞ちゃんはね、もう1年以上前から、ここで待ってるの」
 真琴さんが、付け加えるように説明した。
「なんだよ、それ……」
 それを聞いて、俺は、なんだか無性に、胸の中が苦しくなってきた。
「そんな、人をこんな夜中に待たしておいて、来ないような奴、いつまでも待ち続けるのかよ」
 凄く不快なものが胸を流れる感覚に陥りながら、俺は、舞にそう言った。
「……私は、もう、待つことしかできないから」
 舞は、そう淡々と言うだけだった。
110『雪の街の同居人』4 4/7 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/18(日) 12:18:53 ID:OplwL2a90
「名雪ちゃんがこの高校に入ってすぐかな」
 代わりに、真琴さんが説明を始める。
「名雪ちゃんが学校に忘れ物をしてね、私がジムニーで一緒に取りに来たんだよ。その時に
ね、私が見つけたの。舞ちゃんのこと」
 そう言うと、真琴さんは、くすくすと苦笑した。
「最初に会った時はね、凄かったんだよ。舞ちゃん、剣を振り回して、魔物と戦ってたの」
「はぁ?」
 俺は、間の抜けた声を出してしまう。
 いや、だって普通、そうだろう。こんな夜の学校で、魔物とやらと戦っている、だなんて。
「でも……ちょうど去年の今頃かな、舞ちゃん、剣を持ってこなくなったのは。『後は、待つだけ
だから』って」
「もう、魔物は、住処に帰った……から」
 誰にともなく、舞はそう言った。
 そして、舞は弁当を持ち上げ、どこか寂しげな表情のまま、箸を進めた。
111『雪の街の同居人』4 5/7 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/18(日) 12:19:24 ID:OplwL2a90

「おお、さぶっ。俺もホットコーヒーでも買えばよかった」
 真琴さんからフライドポテトを分けてもらったものの、そんなもので体が温まるわけもなく。
 帰りのジムニーの中、俺は身震いしながら、そんな事を呟く。
「ごめんね、つき合わせちゃって」
「いえ、最初は、俺がそう言い出したんですから」
 ハンドルを握りながら、申し訳なさそうに苦笑する真琴さんに、俺はそう応える。
「でも、ホントの事らしいよ」
 真琴さんはどこか、真剣な表情になりながら、そう言った。
「何がです?」
「あの学校の、魔物」
「……やだなぁ、真琴さんまで、真剣な表情で変なこと言わないでくださいよ」
「冗談じゃないんだってば」
 真琴さんは、一瞬、こっちを向いて、そう言った。
「セキュリティかかってない、って、言ったじゃない?」
「ええ」
 俺も、真剣な表情になって、聞き返す。
「本来、建てた時には、ちゃんと警備会社のセキュリティシステムが入っていたそうなの。だけ
ど、しょっちゅう誤作動ばかりで、一晩に何回も、警備会社の人が来たこともあるらしいわ」
「でも、それって……」
 俺の言葉に、真琴さんは首を振る。
「そんなことがあったから、今度は監視カメラを設置したのよ。だけど……」
「何も、映っていなかった?」
 今度は、縦に、こくんと頷いた。
「センサーには反応するのに、カメラには映らないなんて、おかしいじゃない?」
「確かに……」
 魔物、という表現が妥当かはわからないが、オカルトじみた現象であることは、確かだ。
「結局、たまにガラスが割れてたり、机がひっくり返ってたりするんだけど、それ以上の被害は
なくて。今みたいに、原則放置してあるんだそうよ」
112『雪の街の同居人』4 6/7 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/18(日) 12:20:42 ID:RTwL5hbi0
「俺、そんな学校に通うんですかぁ〜」
 夜な夜な、ポルターガイストが襲う高校。
 そんな不気味なところに通うのは、正直、あんまり気味はよくないぞ。
「大丈夫だって、学校に人がいるうちは、そんなことないらしいから。それに、舞ちゃんも、もう
魔物はいなくなった、って言ってたじゃない」
 くすくすと笑って、真琴さんはそう言う。
「そうなのかもしれませんけど……」
「なんなら私の通ってた高校に、今から変える? バスで20分程度だけど、昼間は2時間に1
本だよ」
 …………選択の余地、なしですか。
113『雪の街の同居人』4 7/7 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/18(日) 12:21:15 ID:RTwL5hbi0

 水瀬家に帰り着くと、名雪はもう寝ていた。
 ……って、まだ、9時過ぎなんですけど。
 俺、真琴さん、の順番で風呂に入り、就寝の準備をする。
 ちなみに、覗きなどはもちろんしていない。していないったらしていない。
 しかし、来ていきなり憧れのお姉さんと再会した……のはよかったんだけど、その後いきなり、
夜の校舎でひとりたたずむハラペコ少女に、魔物ときやがりましたか。
 俺、ホントにこの街で、やって行けるんだろうか……
 不安に思いながら、その1日目を、静かに終えた。
114名無しさんだよもん:2007/03/18(日) 12:23:10 ID:tFx6It6+0
毎度GJです。
115『茨の街の騒動人』4 8/7 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/18(日) 12:23:20 ID:RTwL5hbi0
>>107-113

このスレの読者なら、舞が待っているのか誰なのか、紙包みの中身がなんなのか、
もうお解かりかと思いますが……

っつか、祐一、思い出せよ。
116名無しさんだよもん:2007/03/18(日) 12:42:44 ID:qoUfG1j00
乙乙

祐一の記憶喪失は自分に都合のいい記憶改ざんなので仕方ないかと
117名無しさんだよもん:2007/03/18(日) 12:53:53 ID:ZD8RHk8/0
いつのまにかSSスレになっていたのか。(`・ω・´)
実にけしからん。まったくけしからん!ヽ(`Д´)ノ






いいぞ、もっとやってください。(*´Д`*)
118名無しさんだよもん:2007/03/19(月) 11:23:45 ID:zKmmFhy30
良スレ発見
狐真琴とのからみがみたいかなーとか要望出してみる。難しかったらスルーしてくらさい
119 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/20(火) 10:01:50 ID:/jMTudPy0
名雪ヘイトになりかけるかなーと思ったのですが、今書いている部分では
なんだかさりげなく脇役の地位を固めつつあります。

この先ちょいと香里ヘイト……だな、多分。そういうネタが入る予定なんですが、大丈夫でしょか?
120名無しさんだよもん:2007/03/20(火) 10:06:37 ID:mmM3tNyb0
>>119
期待してまーす。
121名無しさんだよもん:2007/03/20(火) 17:54:33 ID:gmAlqimT0
>>119
多少なら大丈夫ですよ、楽しみにしてます
ただあまりにも激しいんだったら避けてくれるとうれしいかな

ま、激しくても一行目に警告さえしてくれればおk
122『うぐぅー来襲者』1 1/7 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/21(水) 15:48:15 ID:5C5jZSE90
「ん……」
 少しずつ、視界が明るくなる。
 見慣れないフローリング。
 殺風景な部屋。
「うわわわわわわーっ!!」
 そして、突拍子もなく響く甲高い声。
 慌てて身を起こし、見慣れないその場所を見回す。
「あ……そうか、俺……」
 秋子さんの家に、来たんだっけか。
 とすると、今の悲鳴は……名雪か!?
 慌てて、ベッドを飛び出す。
「名雪、何があった!?」
 ドアを突き飛ばすように開けて廊下に飛び出ると、名雪の部屋の前に、真琴さんが立ってい
た。
「あ、祐一君」
 俺を見るなり、真琴さんはのんびりと声をかけてきた。
「おはよう」
「おはようございます……じゃなくって! 今、名雪の悲鳴が聞こえたでしょう!?」
 あまりに緊張感のない真琴さんの姿に、俺も一瞬流されてしまいかけながら、真琴さんに問
いただす。
「あ、大丈夫」
 真琴さんは、変わらずのんびりした口調で言う。
「大丈夫って」
 そう言うと、バタンッ、と、名雪の部屋のドアが乱暴に開いた。
「遅れちゃうよーっ」
 名雪はそのまま階段を下りて行こうとして、いったん止まり、駆け足のまま少し戻ってくる。
「あ、祐一、おはよう」
「あ、お、おはよう」
123『うぐぅー来襲者』1 2/7 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/21(水) 15:50:42 ID:5C5jZSE90
 呆気にとられつつ、俺が挨拶をすると、名雪は文字通り、目にも止まらぬ早さで階下に降り
て行った。
「あんな妙なかっこして、どこ行く気だ、アイツ」
「あれ、学校の制服だよ」
 俺が名雪の過ぎ去って言った方を見ながら言うと、背後から、真琴さんがそう言ってきた。
「…………マジですか?」
「昨日、舞ちゃんも着てたじゃない」
 焦りながら聞き返すと、真琴さんは不思議そうに首をかしげながら、そう言ってきた。
「暗がりだから、そんなに気にしてなかったな……」
「そっか……」
 俺がそう言うと、真琴さんもどこかそっけなく応えた。
「祐一君、秋子さんが朝ごはん用意してるよ。下へ行こう?」
「あ、はい」
 真琴さんと一緒に、階下に下りる。
 まだ、名雪がバタバタとやっていた。
「おい名雪、学校は、明日からじゃないのか?」
「あ、祐一」
 洗面所から出てきた名雪を捕まえて、そのことを聞くと、名雪は立ち止まって答えてくれる。
「私、部活があるんだよ」
「あ、なるほどな」
 俺が納得した、と返事をすると、名雪はさらに続ける。
「私、陸上部の部長さんなんだよー」
 そう言いながら、リビングに駆け込んで行った。
「陸上部? アイツが?」
 どういうわけかこちらに来てから、真琴さん・秋子さん・舞と、どこかのんびりした女性ばかり
出会うが、それに輪をかけてのんびりしたイメージのある名雪が、陸上部の、それも部長です
と?
「名雪ちゃーん、間に合うのー?」
124『うぐぅー来襲者』1 3/7 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/21(水) 15:53:23 ID:ozwGMwKF0
 LDKであたふたと準備している名雪に、真琴さんがそう声をかけるが、名雪は、
「大丈夫ー、行ってきまーす」
 そう言って、玄関の方へ飛び出して行った。
「やれやれ、あわただしいんだかのんびりしてるんだか、よく解らない奴だな」
 俺はそう言って、軽くため息をつく。
「あらあら……祐一さんも、起こしてしまったみたいですね」
 キッチンの方から出てきた秋子さんが、困っているんだかいないんだか、よく解らない苦笑
気味の笑顔を浮かべている。
「いえ。明日から学校ですし、これぐらい」
「よろしければ、朝ごはん、食べますか?」
「あ、はい、頂きます」
「あ、私もいいですか?」
 俺が秋子さんに返事をすると、真琴さんが俺の後ろから言う。キッチンに戻りかけた秋子さ
んが振り返る。
「ええ、もちろん」
 2人でダイニングに移動する。
 白い皿の並んだ席に着くと、秋子さんがオーブントースターからトーストを取り出して、俺の
前に持ってくる。
「あ、ありがとうございます」
「ごめんなさい、真琴さんは、もう少し待っていてくださいね」
「いえ、大丈夫です」
 真琴さんは笑顔で言う。
「すみません、先に頂きます」
「お気になさらず」
 俺の言葉に、真琴さんはくすっ、と笑った。
 テーブルの上には、マーガリンの他に、ジャムとか、マーマレードが並んでいた。けれど、そ
れにはビンとか、フタに、ラベルの類が貼られていない。
「このジャムね、秋子さんの手作りなのよ」
125『うぐぅー来襲者』1 4/7 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/21(水) 15:56:41 ID:WvBgHRyV0
 手を伸ばしてビンを弄びながら、真琴さんが言う。赤いペースト。イチゴジャムだろうか。
「へぇ、凄いですね」
「手間というか、時間がかかるからね」
 ビンの中の、宝石のような液体を見つめながら、真琴さんは言う。
「昨日の夕食も旨かったし……さすが、主婦のカガミって感じですよね」
 流し台に向かっている秋子さんの背中を見ながら言い、ふと、真琴さんのほうに視線を向け
る。
「真琴さんは、どうなんですか?」
「えっ?」
 俺が聞くと、真琴さんはこっちに視線を向けて、キョトン、とする。
「料理の腕」
「ああ……ええ……秋子さんには負けるけど……ね」
 なぜか、顔を赤くして恥ずかしそうに、もじもじしながら言う真琴さん。
 俺はキラーン、と瞳を光らせ、顎に手を当ててにやりと笑ったりして、
「秋子さんには負ける、っていうことは、それなりのものだと思っていいわけですね」
 などと、聞き返す。
「…………どっちかっていうと、洋食が専門なんだけどね」
 言葉を濁し気味に、真琴さんは苦笑しながら答える。
「なるほど、秋子さんは和食、というより、家庭の味って感じみたいですからね」
「そうね」
 そう言って、クスクス笑いあっていると、
「私が、どうかしましたか?」
 トーストを持った秋子さんが現れて、笑顔で聞き返してきた。
「あ、いえ」
 俺は、別に言い逃れるわけでもなく、そう言う。
「秋子さんの手作りジャムの話、していたんですよ」
「あら」
 嬉しそうに、満面で微笑む秋子さん。
126『うぐぅー来襲者』1 5/7 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/21(水) 15:57:15 ID:WvBgHRyV0
「よろしければ、祐一さんも試してみてくださいね」
「ありがとうございます。でも俺、甘い物は苦手で」
 苦笑しながら、やんわりと断り、マーガリンを塗ったトーストをかじる。
「それでしたら、甘くないものもありますよ」
「甘くない?」
 俺はふと手を止めて、再び秋子さんのほうに視線を上げた。
「はい、どうでしょうか?」
「まぁ、甘くないんだったら」
 ジャムで甘くない、というのは、どういうものなのか、いまいち釈然としないが。
「それなら、今お持ちしますね?」
 秋子さんはそう言って、キッチンの方に移動していった。
「甘くないジャムなんて、あったかしら……」
 俺と同じ考えを持っているのか、秋子さんの歩いていった方を見ながら、真琴さんが呟く。
 そうこうしているうちに、秋子さんが、ジャム用のガラス瓶を持って、戻ってきた。
 そのビンには、黄色に近い、薄いオレンジ色をしたジャムが、入っている。
「っ! 秋子さん、それは……」
 ガタッ、椅子を鳴らして、立ち上がりかけながら、真琴さんが声を出す。驚いたというか、狼
狽している。
 おっとりした雰囲気のある真琴さんが、そんなにうろたえるなんて、どうしたんだろう?
「いいじゃありませんか」
 真琴さんを、秋子さんは一言で制してしまう。それから、俺の方を向いて、
「どうぞ祐一さん、試してみてください」
「は、ハァ……」
 なんとなく釈然としないまま、俺は秋子さんから受け取ったビンのフタを開け、スプーンでそ
れを、まだ手をつけていないほうのトーストに塗る。
 サクリ、とかじって。
「むっ……っ」
 こ、これは……
127『うぐぅー来襲者』1 6/7 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/21(水) 15:58:24 ID:WvBgHRyV0
「どう? 祐一君、やっぱり不味い?」
 いや、不味いってことはないんだけど……
 明らかに柑橘類の、強いが、独特の香りを伴った酸味が、口の中に広がる。
「結構酸っぱいですね。甘くないって感じでもないと思いますけれど。でも、これはこれで、美
味しいんじゃないかと思います」
 そう言うと、なぜか真琴さんが、ほっ、と胸をなでおろした。
「これ、もしかして真琴さんが?」
 あの慌てぶりからすると、多分そうなんだろうと思い、訊ねる。
「はぁ……ええ、そうなの。あまり成功作じゃなくて」
「私も名雪も甘党ですから、苦手だっただけだと思いますよ?」
 少し落ち込んだように言う真琴さんに、秋子さんがフォローするように続けた。
「そうですね、俺はこれ、結構いけると思います。……なんのジャムなんですか? 柑橘類み
たいですけど」
 秋子さんに同意しつつ、真琴さんに材料について訊ねてみる。
「デコポン」
 …………そうきましたか。
「ジャムというより、マーマレードといったほうが正しいわね」
 秋子さんがそう説明する。
「静岡に行った友達がね、ダンボールで送ってきちゃって。なかなか減らないから、マーマレー
ドにしちゃったの」
「そういうことだったんですか」
 そう返事をしつつ、俺はマーマレードを塗ったトーストをさらに口に運ぶ。
 その対面で、真琴さんも、イチゴジャムでトーストを食べ始めた。
「そう言えば祐一さん、今日、荷物届くんでしたよね?」
 秋子さんが、テーブルの傍らに立ち、訊ねてくる。
「ええ。多分そうだと思います」
「今日は私もお休みですから、お手伝いしますね」
「え、……いや、いいですよ。秋子さんも、家事だってあるでしょうし……」
128『うぐぅー来襲者』1 7/7 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/21(水) 16:00:26 ID:WvBgHRyV0
 俺は苦笑しつつ、秋子さんの申し出を、やんわりと断った。
「そうですか? でも、もし人手が必要だったら、遠慮なく言ってくださいね」
「解りました、そうします」
 ────って、アレ? 昨日もこんなやり取りしなかったか?
 俺は小首をかしげながら、朝食を再開した。
129『ガオォー田舎者』1 8/7 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/21(水) 16:01:45 ID:WvBgHRyV0
>>122-128
日付が変わったので、タイトルを変えてみました。

でもまだうぐぅは出てきません。看板に偽りありですね。
130名無しさんだよもん:2007/03/21(水) 16:35:43 ID:1l5uSHws0

謎ジャムかと思わせておいて、ぼくの期待を裏切ったなーーー(嘘
真琴さんええのう
131名無しさんだよもん:2007/03/21(水) 17:04:29 ID:z/YxsrW30
謎ジャムかと思って、ニヤニヤしていたら、
これは良い肩透かしですね。(*´Д`*)
132名無しさんだよもん:2007/03/21(水) 20:40:23 ID:0f/ojqI30
デコポンでジャム作ってくるノシ
133『うぐぅー来襲者』2 1/6 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/21(水) 21:52:54 ID:WvBgHRyV0
 さて、と。
 部屋に戻った俺は、いつ荷物がきてもいいよう、直接持ってきた荷物をとりあえず片付けて
おく。
 まぁ、そんなたいそうな量じゃないんだがな。
 名雪につられる形で思わず早起きをしてしまったが、考えると大分早い。
「まいったな……」
 暇を潰すにも、手持ちの本は列車の中でほとんど読んでしまったし、テレビもステレオも後
から届くことになっているので、ラジオすら聞くことが出来ない。
 まてよ、テレビって言えば、この部屋、アンテナ線来てるのか?
 そのことに気付き、キョロキョロと部屋を見回す。
 すると、天井から、アルミだかなんだかのパイプが、にょっきり生えているのに気がついた。
「なんだ?」
 俺がそれに気がついて、確かめようと近付こうとすると、ゴトゴトン、背後、ドアの外から、重
量物を下ろす音が聞こえた。
 何事かと思って振り返ると、コンコン、とドアがノックされた。
「はい」
「祐一君、開けるね」
 真琴さんの声だった。
「あ、はい、どうぞ」
 返事をすると、カチャ、とドアを開けて、真琴さんが──すぐに入ってこなかった。
 なんだか、妙にクラシックな物体を両腕で抱えて、入ってくる。
「このあたりかな」
 その、パイプの生えている真下から、少しずれた位置に、その時代がかったストーブを置い
た。
「ふぅ、と」
「ってすみません。真琴さん。持ってこさせちゃったんですね」
「うん、秋子さんに頼まれてね」
 にこにこ、幾分汗ばんだ顔で笑いながら言う真琴さん。
134『うぐぅー来襲者』2 2/6 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/21(水) 21:54:41 ID:WvBgHRyV0
「言ってくれれば、自分で取りに行ったのに……」
 俺は、ストーブを見ながら言う。
「うん、でも祐一君、こういうストーブ使ったことないんじゃないかって」
 そう言いながら、真琴さんはいったん部屋の入り口まで戻っていく。そして、廊下から、アル
ミだかなんだかのパイプを運んできた。
「あ……え、煙突?」
「あ、やっぱり」
 俺が驚いたように言うと、真琴さんは、どこか楽しそうににこっ、と笑った。
「こっちの方じゃ珍しくないのよ。なんたって、寒いからね」
「はぁ……それにしても、でかすぎるような気がしますが……」
 そのL字型のポットのような物体をしげしげと見ながら、俺はそう聞き返した。
「もともと、リビングで使ってたものの、古いほうだっていってたから」
「なるほど……」
 俺は感心したように言う。
「私達の部屋にあるのは、もっと新しくて小さいよ」
 真琴さんは、少しだけ、申し訳なさそうに言った。
「いえ。あるだけ充分です」
 俺は苦笑して、真琴さんにそう言い返した。
「それじゃあ、祐一君、秋子さんからタンク貰って来てくれるかな」
「タンク?」
 俺は間抜けな声で、聞き返してしまった。
「うん。あ、そうか。普通のファンヒーターじゃタンクも中に入ってるもんね。こういうストーブは、
外付けだから。リビングの、気がつかなかった?」
 そう言えば、そうだったかもしれない。
「そうなんですか……すみません。あ、行ってきます」
「うん」
 部屋を出て、階下に下りる。
135『うぐぅー来襲者』2 3/6 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/21(水) 21:55:17 ID:WvBgHRyV0
 しかし、とんでもないところに来ちまったな……いや待てよ、昔は冬休みもここに来ていたは
ずなのに、何で、覚えていないんだ? 俺。
「秋子さん、すみません。タンク、取りに来ました」
「ああ、はい」
 秋子さんはキッチンにいたが、俺が声をかけると、リビングのほうに出てきた。既に用意して
あったのか、ベージュのタンクがリビングの床に置いてある。
「これですね。どうも、すみません」
「いえ。祐一さんが来る前に、準備しておけばよかったですね」
 苦笑する秋子さん。
「いいえ。お世話になるのに、全部やってもらってては、悪いですよ」
 そう苦笑し返した後、ふと見ると、リビングのストーブも煙突が生えていて、また、傍らに同じ
型のタンクが置いてある。ただ、形は、普通のファンヒーターを少し大きくしたようなものだっ
た。
「灯油、1本分だけ入れておきましたから。あとで、もう1本持って上がってください」
「了解しました。わざわざ、ありがとうございます」
 よっ、と、タンクを持ち上げる。金属製だが、そのものの重さはあまりないようだ。しかし、中
に入っている灯油がたぷんたぷん揺れて、持ち運びにくい。
 それでも抱えて、部屋まで戻ってくると、真琴さんが、煙突を組み上げ終わっていた。
「あ、あんまり側過ぎちゃ駄目。爆発しちゃうよ?」
「げ」
 俺がストーブのすぐ近くにタンクを置こうとすると、真琴さんがそれを止めた。
 数十センチほど離して置く。真琴さんが、手に持っていたホースで、タンクとストーブをつなぐ。
「これで、よしと」
 真琴さんに続いて、俺も身を起こす。
「すみません、やってもらっちゃって」
「いいよ、気にしないで」
「けど……重いでしょう、これ……」
136『うぐぅー来襲者』2 4/6 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/21(水) 21:56:07 ID:WvBgHRyV0
 据えつけられたストーブにいったん視点を移し、真琴さんに戻す。
「でも、こういうこと出来ないと、このあたりじゃ暮らしていけないからね」
「それもそうか……」
 女性だから出来ない、ってわけにはいかんわな、そりゃ……
「でも、疲れるでしょう?」
「そんなこと気にしなくて良いけど……それじゃあ、代わりに、お手伝いしてもらおうかな」
「手伝い?」
 オレが聞き返すと、こくん、と頷いて。にっこりと笑う。
「この後お買い物に行く予定だったんだけど、付き合ってくれないかな」
「それぐらいでしたら、お安い御用です。なんなら、代わりに行って来てもいいですよ?」
 俺が言うと、真琴さんはなぜか、クスクスと笑った。
「いくら祐一君でも、車1台分は運べないでしょう?」
「うへ、そうでした」
「ああ見えて貨物車だから、最大積載量、200kgよ」
「すいません、無理です」
 思わず、深々と頭を下げる。
137『うぐぅー来襲者』2 5/6 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/21(水) 21:56:42 ID:WvBgHRyV0
 ガラガラガラガラ……
 シャッターを閉めて助手席に収まる。
「出すよ」
「はい」
 シートベルトを締めながら、真琴さんに返事をする。
 真琴さんは、ゆっくりと車を発進させる。
 ジムニーは住宅街から、市電の走る表通りへ。
 しばらく走って、だだっ広い駐車場へと左折した。
 駐車場の奥のほうに、これまた大きな建物が、ふたつ並んで経っている。
 一方は3階建てぐらいのショッピングセンター、俺もよく知っている、全国チェーンのスーパー
の看板がかかっている。もう一方は、雑貨店、いや、所謂ホームセンターって奴かな。

「えーと、秋子さんに頼まれたのは、これで全部かな」
 スーパーマーケットの方で、俺は、真琴さんに渡されたメモに書いてある物を一通り買い物
カゴに納める。
「よし、と」
 レジで支払いを済ませ、俺は大きなビニール袋を2つ下げ、真琴さんとの待ち合わせ場所に
向かう。
「結構重いなぁ」
 当然か、サイダーの1.5lペットボトルとか、牛乳とか入ってるもんな。
「あ、祐一くーん。こっちだよ〜」
 俺を見つけた真琴さんが、声をかけてくる。
「すいません、お待たせしました」
「別に。私も今きたところだから」
 ショッピングセンターの中の、軽食コーナー。そこで待ち合わせていた。
「それじゃ、行きましょうか?」
「ええ」
 真琴さんも、何か、よいしょっ、と、重量のありそうなものを持ち上げて、歩き始める。
138『うぐぅー来襲者』2 6/6 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/21(水) 21:59:03 ID:nTJ97pdQ0
「なんです、それ」
 歩きながら、真琴さんの持っているものが気になって、訊ねてみた。
「ああ、これはね……」
 わざわざ重そうなものを、俺に見えるようにか、胸元まで持ち上げて見せる真琴さん。
「あの子の……」
「うぐぅ!! そこの人、どいてどいてどいて〜」
 真琴さんの声を遮るかのように、俺を挟んで反対側から聞こえてきた、切羽詰ったような
声。
 振り返ると、何かが物凄い勢いで突進してくる。
「なんだ?」
 どけ、というので、俺がひょい、と1歩ずれると、それはそのすぐ側を通過して……

 ガン!!

 真琴さんの持っていた、オイルの20lペール缶に顔面からぶち当たり、
「きゅう……」
 そのまま跳ね返るように、ばたん、と、背中から倒れた。
「ちょっと、大丈夫!?」
「お、おい、しっかりしろ!」
139名無しさんだよもん:2007/03/21(水) 22:00:15 ID:0f/ojqI30
うぐぅだな。
140『ガオォー田舎者』2 7/6 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/21(水) 22:01:13 ID:ymG4IfRU0
>>133-138

……結局、一言もしゃべらないままでした。
141名無しさんだよもん:2007/03/21(水) 22:09:41 ID:z/YxsrW30
まったくもって、うぐぅだな。w
142名無しさんだよもん:2007/03/21(水) 23:11:01 ID:1l5uSHws0
こんな、うぐぅみたことないな
143名無しさんだよもん:2007/03/22(木) 11:19:04 ID:nYLk72ja0
だが喋らないうぐぅもうぐぅで良い
144『うぐぅー来襲者』3 1/3 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/22(木) 11:22:51 ID:eyASR0hD0
「ん……ぅ……?」
 昼過ぎになって、ようやくそいつは意識を取り戻した。
「!? こ、ここはどこ?」
 がばっ、と、布団から跳ね起きて、キョロキョロと見回す。
「やっと目を覚ましやがったな、この犯罪者」
「うぐぅ、ボク犯罪者なんかじゃないもん!」
 変な鳴き声を上げながらこっちを見たかと思うと、俺の方に身を乗り出して、ムキになって言
い返してくる。
「ほう、それじゃあ、コレはなんなんだ?」
 俺はそう言って、コイツがさっき持っていた、紙袋を、見せ付けたやる。
「うぐ……そ、それは……」
「食い逃げは立派な犯罪だぞ。詐欺罪だ」
 俺がつっ込んでやると、今度は口を手で抑えて、俯いてしまう。
 ガラガラ……
「あら、目を覚ましたのね。よかった」
 引き戸の扉を開けて、洗面器とタオルを持った真琴さんが、入ってくる。そのまま、布団の側
によって、正座のような形で腰を下ろす。
「大丈夫? 怪我は無かったみたいだけど、お鼻のところとか、痛くない?」
「お鼻?」
 そいつはキョトン、とすると、自分の指で鼻の頭をさする。
「うぐぅ?」
 バンドエイドが貼ってある。
「お前、エンジンオイルの缶に顔面ぶつけて、ひっくり返ったんだ」
「うぐぅ……」
「ごめんね。私が避けそこなっちゃったから」
 真琴さんが、申し訳なさそうに苦笑しながら、言う。俺には、真琴さんが謝る必要なんかない
と思うんだけど。こいつが自分でつっ込んできただけなんだし。
「でも、食い逃げはよくないわよ」
 めっ、と、小さな子供に言い聞かせるように、真琴さんは指を立てて、そう言った。
145『うぐぅー来襲者』3 2/3 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/22(木) 11:23:29 ID:eyASR0hD0
「うぐぅ……ごめんなさい。財布忘れちゃって……」
「そう言う時でも、きちんと事情を説明しなきゃ」
「そうだぞ、まったく」
 優しく言い聞かせる感じで言う真琴さんに、俺も付け加えてやる。
「うぐぅ……」
「今日は私が払っておいてあげたから、今度からはやっちゃだめよ」
「わかりました……」
 そいつは、しゅん、とうなだれつつもそう言った。
「…………で、お前はどこの誰なんだ?」
「え!? そう言えば、ここどこ……」
 俺が訊ねると、はっと顔を上げて、キョロキョロとあたりを見回す。
「だー、お前、いきなり気ぃ失って倒れちまったんだろうが!」
「病院へ連れて行ったほうが良いかとも思ったんだけど、とりあえず私達のところへ連れてき
たの。後で車で家まで送るわ」
 俺がつっ込み、真琴さんが諭すように言う。
「ボクはあゆ、月宮あゆ」
 そいつは、妙に元気よくニコニコ笑いながら、名乗った。
「私は沢渡真琴。こっちは相沢祐一君。…………祐一君?」
 真琴さんが自己紹介をしているが、俺は聞き覚えのある単語に頭を捻っていた。
「あゆ……あゆ…………あゆあゆ?」
「ボク、あゆあゆじゃないもん!」
 懐かしく感じる単語が頭をよぎった時、あゆあゆとやらはそう言い返してきた。
「って、相沢祐一君って、あの祐一君!?」
「お前、あのあゆか、泣き虫の!」
 お互い、驚いたように指を差し合って、お互いを確かめ合う。
「ボク、泣き虫じゃないもんっ」
 ぷいっ、とそっぽを向く仕種をする、あゆあゆ。
「知り合いなの?」
146『うぐぅー来襲者』3 3/3 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/22(木) 11:24:55 ID:eyASR0hD0
 真琴さんが、俺とあゆを交互に見ながら、訊いて来る。
「昔、よく遊んだんだ! 小さい頃の話だけどね」
「みたいですね」
 なんとなくはっきり思い出せないで入る俺は、あゆの発言をあいまいに肯定しておいた。
「へぇ、祐一君、その頃から面倒見がよかったのね」
 ニコニコと優しく微笑みながら、真琴さんはそんな事を言ってきた。
「面倒見が良い、ですか?」
 俺は思わず聞き返す。視線を向けると、あゆもキョトン、としていた。
「ええ、だって祐一君とあゆちゃん、5歳ぐらい離れてるでしょ?」
「うぐぅ……ボク祐一君と同い年だよ……」
「なにぃっ!? そうだったのか!?」
 真琴さんの言葉に、少しヘコんだ様子で言い返すあゆ。俺はさらに、大げさに驚いて見せた。
「祐一君、ひどいー!」
 上目遣いで、抗議の声を上げてくるあゆ。
「わかったわかった。けどまぁ、5歳は言い過ぎとしても、俺はあゆが俺と同い年だって聞いた
事ないぞ?」
 夏や冬の長期休暇にしかこっちにこないから、あゆがあの時、何年生だったかなんて、気に
した事もないはずだ。
「そんなことないよ、ボクは、祐一君から直接聞いたんだもん」
「そう、だっけかぁ?」
 うーむ、どうしても思い出せない。
「でも」
 あゆは、真琴さんに向かって、苦笑しながら、言う。
「面倒見られてた、って言うのは確かかも。ボク、泣いてばっかりだったし」
「ほーれみろ、やっぱり泣き虫だったんじゃないか」
「うぐぅ……」
 口元を押さえて、困ったような顔になった。
 真琴さんは、くすくす、と、俺達を見て、楽しそうに笑っていた。
147『ガオォー田舎者』3 3/4 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/22(木) 11:27:39 ID:eyASR0hD0
>>144-146

少し短いけれど、きりがよかったので、投下しました。

真琴さんのセリフ打ってると時々皆口ボイスが被ってくる……
148名無しさんだよもん:2007/03/22(木) 21:10:08 ID:1Ukjfy0b0
毎度乙
真琴さんは数少ない大人の女なので仕方ないかと
149名無しさんだよもん:2007/03/23(金) 03:58:40 ID:nU28N+4J0
これは良いうぐぅだな。
150名無しさんだよもん:2007/03/23(金) 08:29:06 ID:TDMeXaQ50
これはよいうぐぅですね。
151名無しさんだよもん:2007/03/23(金) 16:39:25 ID:zIF5LUgY0
良ぐぅですね。
152『うぐぅー来襲者』4 1/7 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/23(金) 17:29:19 ID:WCyJoMZD0
 コンコン、と、ドアをノックする音が聞こえた。
 ガラッ、とドアが開くと、秋子さんが顔を覗かせた。
「あら、その子、目、覚めたんですね」
 優しげに微笑みながら、部屋の中に入ってくる。
「祐一君、この人、だれ?」
 あゆが、俺の袖を引っ張ってくる。
「ちょっ、お前、袖が伸びるだろうが」
「うぐぅ……」
 少し睨むようにしながら、あゆに引っ張られた袖を戻す。
「こっちは水瀬秋子さん。俺の叔…………」

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………

 はっ!?

 い、今確かに、圧倒的な“気”の圧力を感じたっ。
 それは言うなれば、『殺気』。
 俺は今、決して口にしてはならないNGワードを口にしかけたらしい。
「俺がお世話になっている家の家主さんで、俺の従姉妹の母親だ」
 俺が、明らかに顔を引きつらせつつ、あゆに紹介する。
 あゆはキョトン、として、
「え? 従姉妹のお母さんなら、それってつまり叔…………」

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………

「うぐっ!?」

 あゆも、途端に吹き出してきた黒いオーラに、気がついたらしい。
「な、なるほど、そういうことだったんだね」
153『うぐぅー来襲者』4 2/7 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/23(金) 17:29:58 ID:WCyJoMZD0
「?」
 1人、真琴さんは状況が理解できないのか、ニコニコと笑ったまま、頭の上にクエスチョンマ
ークを浮かべている。
「でー……秋子さん、こっちは月宮あゆ。俺の友人です」
「月宮……あゆちゃん……?」
 あゆを紹介すると、秋子さんは、軽く首をかしげた。
「秋子さん、あゆのこと、知ってましたっけ?」
 俺は、秋子さんと、あゆとを、交互に見る。
「ボクは、初めて会った気がするよ」
 あゆが、俺の方を見て良い、視線をまた秋子さんに戻す。
「そう……よね……そんなはず、ないものね……」
「どうしたんですか? 秋子さん」
 真琴さんが、澄んだ声で、秋子さんに問いかける。
「いえ……大した事じゃないの。少し記憶違いをしていたみたい」
 困ったように苦笑しながら、秋子さんはそう言った。
「それより、皆さん、お昼ご飯が出来ていますよ」
「あ、はい。今、下に行きます」
 真っ先にそう言って、立ち上がったのは、真琴さんだった。
 俺も立ち上がる。
「ねぇ、ボクの分もある?」
 あゆが、妙に顔を輝かせて、秋子さんの顔を見ている。
「お前な」
「ボクだってお腹空いたよ」
 いや、そんな困ったような顔をしてこっちを見られても、困るんだがな。
「はい、あゆちゃんの分も用意してありますよ」
「わーい、やったー!」
 飛び跳ねて、はしゃぐあゆ。
 …………お前、やっぱり小学生だろ?
154『うぐぅー来襲者』4 3/7 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/23(金) 17:30:35 ID:WCyJoMZD0

「うぐぅー、椅子小さいよ、硬いよー」
 さっきから後から、うぐうぐとうるさい。
「うるさい、犯罪者護送にはそれでも上等すぎるぐらいだ!」
 俺は振り返って、運転席と助手席の間から、「うぐぅうぐぅ」連呼している物体に対して、そう言
った。
「ごめんねー、この車、あまり後ろは人を乗せるように出来ていないの」
 りやしーとすらいどすてー、なるものを取り付けていて、スペースは広くなるようにしているも
のの、ベンチの背もたれをさらに直角にしたようなリヤシートはそのままだ。
「だったら祐一君が後ろに乗れば良いんだよー」
「お前は小さいんだから、その座席で充分だろうが」
「うぐぅー!! それはひどいよ、差別だよ、謝罪と賠償を要求するよ!!」
「どこでそういう単語を覚えてきやがる」
 ルームミラー越しに、くだらない単語を連発する物体を、睨みつけてやる。
「ところであゆちゃん、まだまっすぐで良いの?」
「あ、うん、えっと」
 あゆは運転席と助手席の間から身を乗り出して、前の方を見る。
「あ、次、左だよ」
 あゆが言う。真琴さんはウィンカーを出す。青信号の交差点を、左に曲がった。
「あ、このあたりでいいよ」
「あ、うん」
 結構広い通り。だが、車の流れは少ない。
 真琴さんは左のウィンカーを出して、ジムニーを路肩に寄せた。
「祐一君、降ろしてあげないと」
「はいはい……と」
 ジムニーは3ドア、つまり後部にはドアがない。後に乗り降りする時は、前のシートを倒して
出入りすることになる。
「んもう、だから、ボクが前に乗ったほうがよかったんだよ」
155『うぐぅー来襲者』4 4/7 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/23(金) 17:31:16 ID:WCyJoMZD0
 俺が歩道に立っていると、這い出てきたあゆが、むくれっ面でそう言う。
「いつまでもそうむくれるな。フグじゃないんだから」
「いじわるな祐一君が悪いんだよ」
 あゆはそう言って、むくれるのをやめたかと思うと、今度はそっぽを向いてしまった。
「ああ、俺が悪かったから、機嫌直せよな」
 冗談交じりに、苦笑しながら言ってやる。
「今日のところは、大目に見てあげるよ」
 あゆもそう言って、苦笑した。
「それじゃあ、祐一君、それに真琴さんも、バイバイ」
「ああ、またな」
「バイバイ、あゆちゃん」
 お互い、手を振って挨拶をすると、あゆは、パタパタと歩道を走って行く。
「もう、食い逃げすんなよー」
「うぐぅ! そんなことしないもんっ!」
 あゆは一度振り返って、そう言い返すと、また、踵を返して、パタパタと走って行った。
「それじゃあ、戻りましょうか」
 俺はそういい、助手席のシートを元に戻すと、そこに収まった。
「でも、変だね」
 空いている道路をジムニーで飛ばしながら、真琴さんはポツリ、と言う。
「ん、なにがです?」
「このあたり、住宅街じゃないし、建物もまばらでしょ」
「言われて見れば……」
 車窓の外は、どちらかというと荒涼としていて、寂しい感じだ。
「このあたりで、めぼしい建物って言ったら、あれぐらいだよ」
「えっ?」
 真琴さんが言う『アレ』だろうか、大きな建物が見えてきた。
 ベージュの鉄筋の建物、大きな棟が2つ並んで建っている。
「なんです、あれは?」
156『うぐぅー来襲者』4 5/7 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/23(金) 17:32:15 ID:WCyJoMZD0
 学校、いや────
「病院だよ」
 ──なんだろう、真琴さんからそう聞かされた途端、急に胸が、ムカムカして、不快なものが
流れるような感覚になった。
「このあたりじゃ一番大きい病院かな。私も、お世話になったことあるぐらいだよ」
 こんな大きな病院、ちょっと風邪ひいたぐらいで、って訳には行かないよな……
「真琴さん、なんか、病気したことでもあるんですか?」
 俺は運転席の方を向いて、真琴さんに尋ねた。
「うん、ちょっと前の話だけどね。あ、今は元気だよ」
 真琴さんはにっこりと、満面の笑顔を優しげに、俺のほうに向けた。
 でも、真琴さんの魅力的な笑顔を見ても、俺の胸は、少しも晴れなかった。
157『うぐぅー来襲者』4 6/7 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/23(金) 17:33:39 ID:TXULRz9B0

 ガラガラガラガラ…………
 ジムニーの収まった、ガレージの、シャッターを下ろす。
「よし、と」
「ありがとう」
 にこ、と、俺に微笑んでくる真琴さん。
「シャッター下ろしただけですよ? そんなに感謝されることじゃないです」
 と、言いつつも、俺は悪い気がせず、むしろ照れくさくなって頬を書く。
「そんなことないよ、ありがとう」
 そう言って、真琴さんから先に、俺も続いて、家の中に入る。
「ただいま戻りましたー」
「……ただいま」
 そう言って、俺たちが上がると、リビングの出入り口から、ひょこっ、と、名雪が顔を出した。
「おかえりなさいー」
 名雪は、真琴さんにそう言ってから、
「祐一も、お帰り」
 笑顔でそう言ってくれた後、少し表情を怪訝そうにする。
「また、真琴さんと2人で出かけてたの?」
「ああ……なんだよ」
 わざわざそう聞いてくる、ってことは、もしかしてコイツ……
「まさか名雪、妬いてるのか?」
「うん」
 …………は?
「おい名雪、マジかよ」
 冗談で言ったつもりだったんだが……名雪の表情は、少しも冗談っぽくない。
「だけど、そういう問題だけじゃないよ」
 そう言って、名雪は眉間に、さらに皺を寄せた。
「は? どういう意味だよ」
158『うぐぅー来襲者』4 7/7 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/23(金) 17:35:02 ID:TXULRz9B0
「えーと…………ごめん、今は祐一にはちょっと言えない」
 少し悩んでから、名雪は今度は、申し訳なさそうな表情になって、そう言った。
「おい、そりゃないだろう」
「ホントにごめん。でも、祐一が悪いとか、怒ってるとか、そう言うわけじゃないから、安心して」
「そうか……」
 ぼけぼけした名雪がコレだけ複雑な、険しい表情をするんだから、よほどの事があるんだろ
う。気にはなるが、無理には聞き出さないことにした。
 なので、名雪が妬いている、という答えに対してつっ込むタイミングは、完全に逸してしまっ
た。
159『ガオォー田舎者』4 8/7 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/23(金) 17:36:39 ID:TXULRz9B0
>>152-158

や、やっと2日目の午後……

にしても、真琴さんのセリフと言うか出番というか、やたらすくなっ
でも、この先もっと少ないシーンもあるので、それは御容赦の程を……
160名無しさんだよもん:2007/03/24(土) 01:52:17 ID:THgt7LC00

ところで、まこぴーは出てこないの(当たり前か)
161名無しさんだよもん:2007/03/24(土) 01:59:14 ID:o3NEe8Rt0
いまはやめたほうが(ry
162 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/24(土) 02:33:38 ID:y8UFkb+i0
真琴が出てくるのって3日めじゃなかったっけ?

というか、1日目、到着した当日は何もイベントないんだよね。本来。
163名無しさんだよもん:2007/03/24(土) 07:02:00 ID:qGZ3qbgI0
もう、これはうぐぅだな。
全く持ってうぐぅだな。
164名無しさんだよもん:2007/03/24(土) 10:07:14 ID:oiyU2blP0
これはよいあうーっですな。
165『うぐぅー来襲者』5 1/7 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/24(土) 16:06:03 ID:5oLbEdoI0
「祐一ー、ご飯だよー」
 部屋の外から、名雪の声が聞こえてくる。
「おうー、今行くー」
 ベッドに寝そべって読書──ライトノベルだけどな──をしていた俺は、本に栞を挟んで閉
じると、ベッドの枕元に置いて、立ち上がる。
 軽く身体を伸ばしながら、階段を下りていく。
 リビングに入ると、良い匂いがしてきた。このデミグラス・ソースの匂いは、ハンバーグ、いや
……
「やっぱり、ビーフシチューか」
「あたりー、祐一、良い鼻してるね」
 LDKに入ってきて、出くわした名雪が、にこにこ笑いながらそう答えてきた。
「それ、褒められてるんだかどうだか微妙だな」
「そうかな」
 キョトン、とする名雪。
 ダイニングでは、4人分の皿が用意され、真琴さんが、金色を帯びた少し変わった形の鍋か
ら、シチューをよそっていた。
「あ、祐一君、お待たせ」
 何を待ったのかはよく解らないが、満面の微笑で真琴さんは俺の方を見てくる。
「へぇ、流石秋子さんですね、本格的だな」
 席に座りながら、俺は、湯気を上げるビーフシチューを見て、言う。食欲をそそる香りと見た
目だ。
 しかし、俺の言葉に、真琴さんは一瞬キョトン、とすると、どこか気まずそうに苦笑した。
「うん、秋子さんならコレぐらい簡単に作っちゃうね」
「?」
 俺が真琴さんに視線を上げると、背後からやってきた名雪が、
「祐一、今日は、お母さんじゃなくて、真琴さんが晩御飯を作る日なんだよ」
 非難するような口調で、そう言ってきた。
「え……あ! そ、それじゃあこれ、真琴さんが?」
「洋食は得意なのよ」
166『うぐぅー来襲者』5 2/7 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/24(土) 16:06:54 ID:5oLbEdoI0
 真琴さんはそう言って、にこーっと笑った。
「す、すみません。失礼なこと言ってしまって」
 俺は慌てて、一度立ち上がり、深く頭を下げた。
「気にしないで」
 真琴さんは、手で俺を制するようにして、そう言う。
「秋子さんも仕事あるでしょう? だから、私が作る曜日も決めてあるの」
「なるほど、そうだったんですか」
 それで、夕食の買い物を、午前中に、真琴さんが行ったわけだ。あのメモは、秋子さんから
渡されたんじゃなくて、真琴さんが書いたものだったのか。
「皆さん揃いましたね」
 キッチンから出てきたのは、今度こそ秋子さん。
「それじゃあ、頂きましょうか?」
 4人が揃って、食卓に着き、
「いただきまーす」
「はい、召し上がれ」
 スプーンに掬い、ふぅふぅとで醒ましてから、口に運ぶ。
「旨いっ。真琴さんの料理も旨いですよ」
「うふふ、ありがとう」
「お世辞抜きに旨いです」
 俺が素直に感想を言うと、真琴さんはにこにこと嬉しそうに笑う。
「ね、お母さん」
「ええ、そうね」
 俺と真琴さんのやり取りを見ていた名雪と秋子さんが、なにか、小声でやり取りをしている。
秋子さんはにこっ、と微笑んでいた。
「? なんですか」
 俺は、その様子を見て、2人に訊ねる。
「いえ。今まで女の子ばかりでしたし、1人増えただけでずいぶん賑やかになったって、思った
んです」
167『うぐぅー来襲者』5 3/7 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/24(土) 16:07:36 ID:5oLbEdoI0
「それって、俺が騒がしい、ってことですか?」
 少し焦って、椅子の上で姿勢を直す。
「そう言うわけじゃありませんよ」
「それに、男の子は、少しぐらい元気があったほうが良いわ」
 秋子さんに続いて、真琴さんがそう言った。
「そうですか……いや、俺もこんなに賑やかな夕食は、久しぶりですけどね」
「そうなの?」
 俺の言葉に、真琴さんがキョトン、として、聞き返してきた。
「俺の家も3人家族ですし。それに、両親、仕事でいないことが多かったから」
「そっか。変なこと聞いちゃって、ごめんね」
 俺の言葉に、真琴さんは眉毛を下げて、申し訳なさそうに苦笑した。
「ああ、別に、そんなこと気にしないでください」
 結構どうでも良いことでそんな顔をされると、かえってこっちが悪いみたいだ。
「それより、冷めないうちに食べちゃいましょうよ、秋子さんも、ほら、名雪も」
「くすくす、そうね」
 秋子さんは、妙に楽しそうだった。
168『うぐぅー来襲者』5 4/7 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/24(土) 16:08:07 ID:5oLbEdoI0

 夕食が終わり。
 俺は自分の部屋で読書を再開。夕食の片付け物は秋子さんがやっている。真琴さんは、お
風呂の方を覗いていたみたいだったけれど……
「さて、と……」
 俺は再び、ベッドから立ち上がった。
 シャツの上に厚手のトレーナーを重ね着し、その上からコートを羽織る。
 ストーブを消して部屋を出る。階段を下りていき、真琴さんの部屋に……行こうとすると、ば
ったり、と途中で出会った。
「あれ? 祐一君、どこか行くの?」
 そう言う真琴さんも、昨日と同じようにダウンジャケットを着込んでいる。
「今日も、行くんでしょう? 舞のところに」
「うん。……あ、祐一君もついてくるの?」
 真琴さんは、くすくす、っと笑う。
「もしかして、舞ちゃんに一目惚れしちゃった?」
「な、何言ってんですか!」
 俺は思わず、大声を出していた。
「そんなんじゃありませんよ、ただ、真琴さんと舞だけじゃ、無用心かなとと思っただけです」
 なんたって、曰くつきの学校だからな。
 明日からその学校に通うのかと思うと、少し気が滅入るが……
「くす、ありがと」
 真琴さんはそう言って、にこっ、満面の微笑になった。

 ガラガラガラガラ……
 シャッターを閉めると、俺は三度、ジムニーの車中の人になった。
 ジムニーは市電の走る大通りへ出る。窓の外を、街の明かりが流れていく。
「…………この街って、7年もこんなでしたかね……」
 なんとなしに、呟いた。
169『うぐぅー来襲者』5 5/7 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/24(土) 16:08:48 ID:5oLbEdoI0
「どうかしら。結構変わったと思うな。私は」
 ヘッドライトの先を見たまま、真琴さんはそう言った。
「そうですか……」
「どうしたの、急に。昔が懐かしくなっちゃった?」
 真琴さんは苦笑気味に、ちらりとこっちを見た。
「そう……みたいなもんですかね」
 俺は、窓の外を見たまま、呟くように返事をした。
「あ、変わったことといえば……」
「?」
 真琴さんが、運転しながら、何かを思い出したように言う。
「っ!!」
 キキキキキキュキュキュキューッ
 突然急ブレーキをかけつつ、ハンドルを回す真琴さん。ジムニーは横を向きながら急停止し、
俺はその勢いで、シートベルトに座席に貼り付けられたまま振り回される。
「っ……ふぅ」
 縮こまるような体勢から、真琴さんも腕を伸ばして、息をついた。
「にゃーん」
 何事かと俺が外を見ると、ジムニーが進むはずだった前方を、1匹のネコがのんびりと横断
していた。
「おいおい……」
 緊張感もなく、マイペースで通りを横切っていくネコ。
 プァーっ、パパパーっ
 今度はジムニーの後だった方から、クラクションの嵐が沸き起こる。
「いけないいけない」
 真琴さんは、慌ててギアを入れなおして、ジムニーを発車させる。
「ごめんね、急に。大丈夫だった?」
 ハンドルを握りながら、心配そうな顔で、俺に聞いてくる。
「あ、ええ、大丈夫です」
 俺は、取り繕うように笑顔になって、そう答えた。
170『うぐぅー来襲者』5 6/7 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/24(土) 16:09:27 ID:E3NB2EGX0

 最初にやってきたのは、これも昨日と同じ、コンビニだった。
「いらっしゃいませ」
 しかし、昨日とは違い、作業をしながらも明るい挨拶をしてきたのは、男の店員だった。
 惜しい。これで女の子だったら、俺の中でこの店のイメージは大分回復していたのだが。
「さて……今日は何にしようかなと」
 真琴さんが、弁当売り場に向かう。
 俺は、昨日の反省を生かすべく、ホット缶売り場を覗いた。
 大き目のホットコーヒーを買うことにする。
 商品を持ってカウンターに向かうと、作業していた男の店員がカウンターに走ってきて、会計
を始めた。
 黒ぶちの眼鏡をかけていて、年恰好は俺と同じぐらい……名前は『くぜ』か。まぁ、昨日の
『あまの』よりは大分よろしい。
「あーっ、祐一君、今日も自分だけ先に買っちゃって!」
 お釣りを貰ってカウンターを離れようとしたところで、非難めいた口調と表情の真琴さんが、
後から近寄ってきた。
「え? いやでも、やっぱ悪いですし」
「気にするな、って言ってるでしょお」
 むー、と少しむくれてから、『くぜ』の「いらっしゃいませ」で笑顔に戻って、カウンターの方を
向く。
「沢渡さん、ですよね」
 商品のバーコードを読み取りながら、『くぜ』は、真琴さんに話しかけてきた。
 その表情は、困った、と言うか、大分険しい表情だ。
「その、今夜も、ですか?」
「うん、これから行くところだけど、多分いると思うよ」
「そうですか……」
 明るい真琴さんとは対照的に、『くぜ』はため息をついた。
「あっ、それとね」
「ピザまん2つ、ですね」
171『うぐぅー来襲者』5 7/7 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/24(土) 16:10:02 ID:E3NB2EGX0
 会計を終えて、真琴さんはビニール袋を取り、カウンターを離れた。
「ありがとうございましたー」
「お待たせーっ」
 スキップするような感じでやってくる真琴さん。
 そして、一緒にコンビニの外へ出つつ、俺は真琴さんに聞いた。
「あいつ、舞の知り合いなんですか?」
「うん、舞ちゃんの1コ下の後輩さんだよ」
 会話しながら、ジムニーに乗り込む。
「あいつも、舞のこと心配してるんですかね」
「いろいろあるみたい」
 エンジンを始動させて、ギアを入れ、ゆっくりとジムニーを発進させる。
「そう言う祐一君も」
「?」
 右のウィンカーを出して、通りが途切れるのを待ちながら、真琴さんはニヤニヤしながら、俺
にそう言ってきた。
「あいつ“も”って」
「っ! いやそれは、なんと言うか、言葉のあやという奴で。ま、まぁ、気にかかるのは、間違い
ないんですけど、それは夜にあんなことやってるからです」
 俺が慌てて言い訳するのを、真琴さんは妙に楽しそうにしながら、ジムニーを通りへ出した。
172『ガオォー田舎者』5 8/7 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/24(土) 16:11:24 ID:E3NB2EGX0
>>165-171

本編から2キャラ登場。久瀬と、もう一方は皆様ご想像ください



真琴さんのビーフシチュー、俺も食いてぇなぁ……
173名無しさんだよもん:2007/03/24(土) 16:13:31 ID:qGZ3qbgI0
俺も食いてぇなぁ・・・。
乙です。
174名無しさんだよもん:2007/03/24(土) 16:46:49 ID:ojlfFEb80
俺も真琴さんを、もとい真琴さんのビーフシチューを食いてぇなぁ…。

>>172
いつも乙です。久瀬がバイトしてる姿想像したらなんか和んだw
175名無しさんだよもん:2007/03/24(土) 19:10:45 ID:THgt7LC00

久瀬がいい奴に思えてくる

真琴さん手作りのビーフシチューくいてー
176名無しさんだよもん:2007/03/25(日) 20:44:32 ID:iPYP7JQk0
毎度、読ませてもらっています
良質なSS乙です
177名無しさんだよもん:2007/03/25(日) 22:56:27 ID:5M3r2dj70
これは良い久瀬ですな。w
178『うぐぅー来襲者』6 1/4 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/26(月) 00:27:16 ID:8zgOLwua0
 しんしんと冷える、静寂に包まれた校舎。
 昨日よりもひときわ明るい、晴れた夜空の星明りに照らされて、
 彼女は、今夜も、そこに、いた。
「こんばんは、舞ちゃん」
「こんばんは」
 天窓の方をじっと見つめていた舞だったが、真琴さんが声をかけると、くるりとそちらに首を
向けて、挨拶を返してきた。
「よう、こんばんはだな」
「祐一も、来たの」
 舞はじっと俺の方を見て、そっけなくそう言った。
「ご飯、持って来たよ」
「ありがとう」
 真琴さんは舞の隣に腰を下ろし、その場でガサゴソと包みを広げ始める。
「今日はね、こんなのも持ってきたんだ」
 幾重かの布に包まれた中には、半透明のタッパー。暗がりで色はよくわからないが、多分、
ビーフシチューだろう。
「良い匂い。真琴の料理、相当に嫌いじゃない」
 妙な言い方をしながら、舞はコンビニのプラスチックスプーンで、真琴さんのビーフシチュー
から手をつけ始めた。
 で、真琴さんはといえば、舞の隣に陣取っていて。
「んー、やっぱり寒い夜にはピザまんに限るよね」
「昨日も聞きました、そのセリフ……」
 流石にずっと突っ立っているのも手持ち無沙汰なので、俺は真琴さんの隣に腰を下ろしてい
た。
「しかし……」
 俺は苦笑しながら、舞を見る。
「何?」
 舞が聞き返してきた。
「いや、ホントにそれ、学校の制服なのか?」
179『うぐぅー来襲者』6 2/4 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/26(月) 00:27:55 ID:8zgOLwua0
 見てみれば、確かに、今朝、名雪が着ていた物と同じ服。
「そう……だけど?」
 舞はそう言って、小首をかしげた。
「だから、そう言ったじゃない」
「いえ別に、真琴さんを疑ってたわけじゃないんですけどね」
 少し、むっと来たような表情をする真琴さんに、俺は、慌てて取り繕った。
 しかしまぁ、大胆って言うか、特にスカートが、かなり危険……いや、そうじゃなくて。このデ
ザインを決定した奴の頭のネジは、1、2本飛んでたんじゃないだろうか。
 そう思いながら舞の脚にまで視線を動かしてくると、昨日と同じ、舞が『返す』ために持ってき
ている、紙包みが見えた。
「なぁ、舞」
「ん?」
 だから、箸を咥えたまま人を見るな。
「その中身、ってなんなんだ?」
「…………?」
 俺が訊ねると、舞はコンビニ弁当を膝の上に置き、その包みを持ち上げた。
「なんだ、見せられないのか?」
 ふるふる、舞は首を横に降る。
 そして、紙包みの中から、中身を取り出した。
 って、それはっ────
「…………なぜにうさぎ耳……?」
 舞が手に持っているのは、うさぎ耳がついたカチューシャ。
 ちょっと昔のキャバレーとかで、バニーさんがつけていたようなやつ。
「うわー、可愛い」
 いや、真琴さん、それはちょっとズレてる気がします。
「…………なぁ、舞……」
 俺はしばらく唖然とした後、やっと搾り出すように言った。
「何?」
「念のために聞くが……お前がそれを返す相手って、女か?」
180『うぐぅー来襲者』6 3/4 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/26(月) 00:28:38 ID:8zgOLwua0
 ふるふる。
「男……」
 おいおい。
 大分やばいんじゃないのか、その相手。
「なぁ、舞」
「何?」
「そいつ待つの、もうやめておかないか?」
 ふるふる、首をふる舞。
「なんてこと言うの、祐一君!?」
 と、食って掛かってきたのは真琴さんだ。
「いやだって、どう考えてもやばいじゃないですか、女子高生にこんなもの預ける野郎なん
て!」
「やばい? どうして? 凄く可愛いじゃない。私は、舞ちゃんに似合うと思うけどなぁ」
 いや真琴さん、そう言う問題ぢゃないですから。
「大丈夫……悪い子じゃない……」
「いや絶対そんなことないから」
 ズビシッ
 真琴さん越しに、つっ込んでしまいましたよ、私は。
「…………」
 舞はしゅん、として、俯いてしまった。
「祐一君、言いすぎ」
 真琴さんは顔を険しくして、俺を咎めるように言ってきた。
「いや、でもなぁ……」
 約束通りに迎えに来ないわ、趣味はアレだわ……本当、ろくでもないやつにしか思えないん
だが……
「……約束、だから」
 舞は、それきり、俺と口を聞こうとしなかった。
 俺も、気まずくて、黙ってしまった。
181『うぐぅー来襲者』6 4/4 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/26(月) 00:29:42 ID:8zgOLwua0

 舞とは会話のないまま、学校を後にし、水瀬家に帰り着く。
 今日は、真琴さん、俺、の順に風呂に入った。
 真琴さんの直後のお風呂……しかも、湯船に浸かったのは他に秋子さんと名雪……
「いかんいかん、何考えてんだ、俺。しっかりしろ」
 邪な思念を振り払う。
 風呂を上がり、パジャマ姿で、自分の部屋へと向かいながら、はっと気がつく。
「そう言えば、目覚まし時計がないな」
 名雪にでも借りる……いや、あいつは既に寝ちまってるからな。わざわざ起こすのも悪い気
がする。
 少し気が引けたが、ここは……。
 ドアをノックして、返事を待ってから、開けて、中に入る。
「あら、祐一さん、どうしましたか?」
 パジャマ姿の秋子さんは、ベッドの上で足は布団に入れて座りつつ、読書をしていた。
「いえ、目覚まし時計が、余ってたら貸して欲しいんですけど……」
「あ、はい、それなら」
 秋子さんはわざわざベッドから出てきた。
 箪笥の上に、クラシックなスタイルをした目覚まし時計が置いてあり、秋子さんはそれを取る
と、俺に差し出してきた。
「どうぞ。こっちは置時計になってた奴ですから」
 ベッドの枕元には、別に、箱型の目覚まし時計がある。
「すみません。それじゃあ、お借りします」
 俺は、秋子さんから目覚ましを受け取った。
「でも、多分、別に目覚ましをかけなくても、起きられると思いますよ?」
「は?」
 にこにこと笑いながら言う秋子さんの言葉に、俺は、素で聞き返した。
182『ガオォー田舎者』6 5/4 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/26(月) 00:30:24 ID:8zgOLwua0
>>178-181
祐一、素敵に自爆中。
183名無しさんだよもん:2007/03/26(月) 00:32:44 ID:bXkzLYzj0
素敵だな。
これは良いはちみつくまさんだ。
184名無しさんだよもん:2007/03/26(月) 00:39:04 ID:zjpLD7Tv0
これは良いぽんぽこタヌキさんだ。
そして、さりげなくへし折られているっぽい名雪のフラグ?
(目覚まし時計は、名雪から借りないんだ…w)
185 ◆kd.2f.1cKc :2007/03/26(月) 00:55:53 ID:8zgOLwua0
いや……舞を先に登場させたら、よく考えたら帰ってくる頃には名雪寝ちゃってるよな……と。(汗
186名無しさんだよもん:2007/03/26(月) 12:38:46 ID:wJieVC2m0
良い感じに素敵だな
187名無しさんだよもん:2007/03/26(月) 20:28:01 ID:gApsJ/Gq0

祐一はかなりの自爆モノだ
あと、真琴さんのだし汁を飲む祐一は許さない
188名無しさんだよもん:2007/03/29(木) 16:29:20 ID:h9XDCi4K0
沢渡さんに憧れている。
最初はみくる(大)かと思ったけど、今は違う。
189名無しさんだよもん:2007/03/29(木) 16:43:38 ID:Jw81q6/M0
水瀬家で温泉いくお話が読みたい
190名無しさんだよもん:2007/03/29(木) 21:34:18 ID:h9XDCi4K0
誰か一筆お願い。
191名無しさんだよもん:2007/03/30(金) 21:50:08 ID:W/oDcd+j0
貴様に土地などやらんぞ
192名無しさんだよもん:2007/03/30(金) 22:44:34 ID:5KWbvZRI0
土地なんかいりません、真琴さんを俺にください
193名無しさんだよもん:2007/04/01(日) 10:52:43 ID:6wNbjZw50
ユーチューブに流れてねえかな
194『優しい氷』1 1/7 ◆kd.2f.1cKc :2007/04/01(日) 18:54:06 ID:t6f/Npcj0
 チリリリリ……
 表現するとおとなしそうにも聞こえるが、耳元でなると結構耳障りな音。
 まぁ、そうじゃなかったら目覚ましの役目を果たさないが。
 ともあれ目を覚ました俺は、上体を起こしてから、目覚ましのスイッチを止める。
「ふぅ……」
 ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ!!!!
 ピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピ!!!!
 カンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカン!!!!
 『朝〜 朝だよ〜 謎ジャム食べて卒倒するよ〜』
 ジャンジャンジャンジャンジャンジャンジャンジャンジャンジャン!!!!
「なっななっ、なんだっ!?」
 まさに俺を圧死させんほどの、すさまじい音圧は、壁一枚隔てた向こう側から響いてきた。
「名雪の部屋か!?」
 そう呟いた途端、音はだんだんと小さくなっていき、やがて途切れた。
 と、思ったら……
「うわわわわわわーっ!!」
 突拍子もなく響く甲高い声。
「どうした 、名雪っ!?」
 俺は飛び起きて、ドアを開けて廊下に出る。
 ほぼ同時に、名雪もドアを開けて、中から飛び出してきた。
「名雪!?」
「あ、祐一?」
 名雪は、俺の方を見ると、なぜかニヤーッと、引きつった笑いを浮かべた。
「どうしたんだよ。何があったんだ?」
「い、いや別に、なんでもないよ」
 わたわたと手を振って、誤魔化すように言う。
 その名雪の背後から、にこにこと笑顔の真琴さんが出てきた。
「あ、私、着替えるから。祐一も早くしてねー」
195『優しい氷』1 2/7 ◆kd.2f.1cKc :2007/04/01(日) 18:54:40 ID:t6f/Npcj0
 そう言って、名雪は部屋の中に戻っていった。
「あ、ああ……」
 俺は、行き場を失った手を宙を泳がせながら、そう、返事をした。
「何があったんですか?」
 俺は、にこにこ、優しげな笑みで立っている真琴さんに、俺は訊ねてみた。
「大丈夫、いつもの事だから」
「はぁ……」
 そう言えば、昨日の朝も似たようなことやっていたっけ。そうすると、しょっちゅうこれがある
わけか。先が思いやられるな……
「ほら、祐一君も準備しちゃいなよ」
「あ、ええ、はい」
 真琴さんの言葉に、俺は部屋に戻って行った。
 着替えを始める。
 ありがたいことに、男子用の制服は比較的オーソドックスな、青いブレザーだった。
 カバンを持って、部屋を出る。階段を下りて、階下へ、LDKに入る。
「おはようございます、祐一さん」
「おはようございます」
 秋子さんと挨拶を交わす。
 ダイニングに言って、椅子に腰掛けようとする。
「改めまして、おはよう、祐一君」
「おはようございます、真琴さん」
 真琴さんと、改めて挨拶を交わす。
 真琴さんは、イチゴのジャムをトーストに塗りながら、食べていた。
「はい、お待ちどうさまです」
 秋子さんが、俺の前にも、トーストを持ってくる。
「それと、これ」
 コトン、と、淡いオレンジ色の液体が入った、ビンが、俺の前に置かれる。
「あ、はい、ありがとうございます」
196『優しい氷』1 3/7 ◆kd.2f.1cKc :2007/04/01(日) 18:55:14 ID:t6f/Npcj0
 俺はビンを開けて、バターナイフで、ビンの中のマーマレードをパンに塗る。
「ふぁぁ……おはよ〜」
 名雪が、ボケ〜っとした声を出しながら、あの制服を着て、俺の隣に腰掛ける。
「なんだよ、朝から疲れきったような口調で」
「私、朝は弱いんだよ〜」
 確かに、どこかねぼけたような口調と表情だ。
「それで、目覚ましを大量にセットしてるのか」
「うん、だけどそれでも起きられなくて、いつも真琴さんに起こされちゃうんだよ」
 名雪は、ニタニタとしまりのない顔で言う。
「おまえなぁ、それじゃあ、真琴さんが迷惑だろうが」
「う〜、努力はしてるよ」
 眉をひそめて、困ったような表情になる。
「結局起きられないんじゃ、努力しているうちに入らないんだ」
「まあまあ、祐一君、私は別に、迷惑なんかじゃないから」
 やはり困ったような表情で、真琴さんが、俺たちの対面から割って入ってきた。
「真琴さんがそう言うなら……良いんですけどね」
 俺はそう言ってしぶしぶ、引き下がった。
 そのやり取りの間にも、名雪は俺から視線を外し、用意されたトーストにイチゴジャムを塗っ
て、食べ始める。
「真琴さん、祐一さん、コーヒー、入りましたよ」
 そう言って、秋子さんは2つのコーヒーカップを持ってくる。
「名雪は牛乳ね」
「うん」
 ったく……反省が無いな…………
「ごちそうさま」
 まだ名雪がの〜んびりと食事している間にも、真琴さんはそう言って、立ち上がった。
「それじゃあ秋子さん、私は、先に準備していますから」
「はい、解りました」
197『優しい氷』1 4/7 ◆kd.2f.1cKc :2007/04/01(日) 18:56:30 ID:t6f/Npcj0
 真琴さんが言うと、秋子さんは笑顔で、こくん、と頷いた。
「準備?」
「そうよー。私も、今日は仕事だもの」
「あ、そうか」
 かなり、間の抜けたことを聞いてしまった様な気がする。
「それじゃ、祐一君も、学校に遅れないようにね」
「転校初日からそれは、勘弁ですね」
198『優しい氷』1 5/7 ◆kd.2f.1cKc :2007/04/01(日) 18:57:13 ID:t6f/Npcj0

「いってきまーす」
「いってきます」
 という、俺と名雪の声に、
「いってらっしゃい、気をつけてね」
 玄関まで見送りに来てくれた秋子さんと、
「いってらっしゃーい」
 と、奥の方から聞こえてくる真琴さんの声。
 そして、俺たちは水瀬家を出る。
 雪の残る住宅街。
「祐一、はぐれないでよ?」
「大丈夫だよ」
 時折、サラリーマン風の男性や大学生風の人間とすれ違いながら、歩いていく。
 そのうちに、学校に近付いてきたのか、俺や名雪と同じ制服を着た、学生が増えてきた。
 やがて、校舎の姿が見え、校門が近付いてくる。
 夜に、舞に会いに行く時は、コンビニに寄るためか、ずいぶん遠回りをしていたようだ。
 と、そんなことを考えれば……
「あっ」
 俺は、前を歩いていた名雪を追い抜き、駆け出す。
「よーぉ、舞ー」
 声をかけてながら、走り寄る。
 カバンを抱えて歩いていた舞は、歩みを止めて、くるっ、とこっちを振り返った。
「あ、祐一」
「よっ、今日から同じ学校だな」
 俺は気さくに声をかけたつもりだが、舞は夜の時と同じように、淡々とした反応しかしない。
「なんだよお前、せっかく会ったんだから、もうちょっと愛想良くしてくれてもいいんじゃねー
か?」
「うん……」
199『優しい氷』1 6/7 ◆kd.2f.1cKc :2007/04/01(日) 18:57:56 ID:mfL/2FPk0
 しかし、舞は少し俯いて、短く返事をしただけだ。
 軽く、ため息をつく。
「あれー? 舞ー。この方はどなたですかー?」
 別の、女性の声が、俺と舞に向かって声をかけてきた。
 振り返ると、そこには、やはりこの学校の制服を着た、舞と同じくらいの背格好の、ニコニコ
と笑った女性と、小柄な女の子が、連れ添って立っていた。
「……祐一」
 と、舞は、俺の袖を軽く引っ張りながら、そう短く答えただけだった。
「…………」
 舞のその紹介ぶりにしばし呆れてから、
「俺は相沢祐一。今日から、この学校に編入することになってる。よろしく」
「これはご丁寧にありがとうございます」
 舞と同じ背格好の女性が、そう言って軽くお辞儀をしてから、
「私は倉田佐祐理と申します。それと、こっちは妹の──」
「倉田栞です。よろしくお願いします」
 妹の方も、姉に習って軽く会釈をした。
「こちらこそ、よろしく」
 俺もお辞儀をし返す。
「それじゃあ、また、もし会ったらってことで……」
 そう言って、3人と別れようとするが、ふと気がつくと、
「ってあれ? おい、名雪!?」
 キョロキョロとあたりを見回すが、名雪の姿は近くにない。
「御自分の教室に行かれたんだと思いますよ」
 そう言ってきたのは、栞ちゃん、だった。
「なんだよ、俺、職員室行かなきゃならないのに。場所、位置わからねぇぞー」
 俺が苦い顔になって言うと、舞が、くい、と俺の袖を引っ張った。
「私が、案内する」
 俺が舞の顔を見ると、淡々とだが、舞はそう言った。
200『優しい氷』1 7/7 ◆kd.2f.1cKc :2007/04/01(日) 18:58:37 ID:mfL/2FPk0
「え? いいのか?」
 俺が聞き返すと、舞はコクン、と頷いた後、倉田さん──佐祐理さん、たちの方を見た。
「佐祐理は、先に行ってて」
「うん、解ったよ、舞」
 そう言うと、姉妹で何かおしゃべりしながら、昇降口の方へ歩き始めた。
 しかし……仲は良さそうだけど、似てない姉妹だな……
「祐一、こっち」
 俺がボケッと倉田姉妹に見とれていると、舞は、俺の手を引っ張って歩き始めた。もちろん、
俺もつられて、歩き出す。
「お、おい、舞。こ、これって……っ」
 手をつないで御登校、じゃねーか、恥ずかしいぞ、俺はっ!
「?」
 しかし、舞は一度振り返って、不思議そうな顔で首をかしげた後、そのまま、俺の手を掴ん
だまま、職員室まで引っ張って行った。
201『喧しい水』1 8/7 ◆kd.2f.1cKc :2007/04/01(日) 19:00:02 ID:mfL/2FPk0
>>194-200

ちなみに、名雪がいなくなってしまったのは、嫉妬したからではありません。

次の回、真琴さんまったく出番なさそう……
202名無しさんだよもん:2007/04/01(日) 20:22:26 ID:lCDkxsCX0
これはよいはちみつくまさんですな。(・∀・)
栞はオリジナル設定なのか。どうなるのかな。










…待て。ひとつ変な目覚まし時計が混ざってないか?(;゜д゜)
203名無しさんだよもん:2007/04/01(日) 21:20:34 ID:/MmzLWMs0
うほっ。これは良い謎ジャムですね。
204名無しさんだよもん:2007/04/01(日) 21:35:36 ID:tRRmGr4a0

栞は>>119の宣言からして、家にいられずに倉田家に寄贈されたと桃割れ
205名無しさんだよもん:2007/04/05(木) 20:08:27 ID:C+OJPj510
『朝〜 朝だよ〜 謎ジャム食べて卒倒するよ〜』
(;゜д゜)<ナンデスカコレ…?
206名無しさんだよもん:2007/04/07(土) 01:06:20 ID:yuspv6h20
SS乙であった。
207名無しさんだよもん:2007/04/09(月) 10:22:02 ID:EooL9wZF0
(*´Д`*)
208名無しさんだよもん:2007/04/09(月) 20:52:08 ID:Tc7lauKe0
一週間待機
そろそろ飢えてきました
209 ◆kd.2f.1cKc :2007/04/10(火) 00:47:46 ID:w6EG1VVl0
うへ。すみません。水曜まで待ってください。
210『優しい氷』2 0/6 ◆kd.2f.1cKc :2007/04/10(火) 12:20:51 ID:8mcj9WJt0
要注意

・今回、真琴さんがまったく出てきません。
・ついでに、かなりおふざけ入ってます。

  不快に思われる方は、華麗にスルーしてください。よろしくお願いします。
211『優しい氷』2 1/6 ◆kd.2f.1cKc :2007/04/10(火) 12:21:34 ID:8mcj9WJt0
「さて、新学期が始まったところで、今日からこのクラスに入る転入生を紹介する」
 石橋という、俺が転入することになったクラスの担任が、俺を扉の外で待たせ、教室の中で
切り出す。
「うぉぉぉぉー」
 教室の中で、完成が沸き起こった。
「盛り上がったところで悪いが、男子だ」
「うぉぉぉぉー」
 !?
 なぜ、男子の歓声が沸き起こる!?
「入っていいぞ」
 一抹の不安を覚えながら、俺は教室の前の扉を開けて、教壇に登る。
 担任はチョークで、黒板に、俺の名前を書き込んだ。
「今日からこのクラスに入ることになりました、相沢祐一といいます。よろしくお願いします」
 教壇の中央で、俺はそう挨拶し、軽く例をした。
「よし、それじゃ席は……と」
 担任は指を宙に泳がせた。
「おお、北川の前が空いてるか。あの席だ」
 どういうわけか不自然に空いている、その席を指して、担任はそう言った。
 まぁ、その原因はだいたい解った。
「おい」
 俺は、その後ろの席に座っている、妙な髪形をした奴に声をかけた。
 確か、名前は北川といったはずだ。
「なんだ、転入生」
「なんだじゃねぇ。座席、すり替えやがったろ」
 俺が問いただすが、北川とやらは、しれっとした顔で、答える。
「良いじゃねぇか。減るもんじゃなし」
「そう言う問題じゃないと思うがな」
 そう言いながらも、俺はとりあえず席についた。
212『優しい氷』2 2/6 ◆kd.2f.1cKc :2007/04/10(火) 12:22:06 ID:8mcj9WJt0
「祐一。同じクラスだね」
 その声に、俺は振り返る。
「なんだ、隣は名雪か」
 俺は何気なしにそう言った後、先ほどの事を思い出す。
「ひどいぞ名雪、俺を放って行っちまうなんて」
「ごめんね」
 名雪は、困ったような顔で申し訳なさそうに言ってから、
「でも、声かけにくくって……祐一、川澄先輩と知り合いだったの?」
 と、聞いてきた。
「知り合いっていうか、まぁ、ちょっとな。……なんだ、アイツ、有名人なのか?」
 …………ちょっと待て、名雪、今、川澄“先輩”って言わなかったか?
「前の生徒会長さんだよ……」
「なにぃっ!?」
 さらに、予想だにしなかった言葉に、俺は思わず立ち上がりかけながら、声を上げてしまう。
「ちょっとアナタ、声が大きいわよ」
 名雪の前の席の女子が、振り返って、ジト目で俺を睨んできた。
「す、すまん……」
 俺は椅子に座りなおしながら、振り返ってきた、ツインテールの女の子に謝る。
 すると、女の子はくすっ、と笑うと、ツインテールを揺らしながら、答える。
「なかなか賑やかな従兄弟さんね」
「そりゃ、どうも」
 俺は少し決まり悪そうに答える。
「祐一、この七瀬さんもちょっと前に転校してきたんだよ」
「そうなのか」
 俺は、七瀬さんと名雪と交互に見る。
「もしかして、転校生は自動的にこのクラスに入ることになってるんじゃないのか?」
「さあ、どうかしら」
 七瀬さん、はそう言って笑った後、ウィンクして見せた。
213『優しい氷』2 3/6 ◆kd.2f.1cKc :2007/04/10(火) 12:22:51 ID:8mcj9WJt0
「あたしは七瀬留美。よろしくね」
「俺は相沢祐一、浩平って呼んでくれ」
 俺が言うと、七瀬さんはさらに満面の笑みを浮かべる。
「そう言う性格、嫌いじゃないわよ」
 ……そう言うなら、何で手を組んでパキパキ指を鳴らしますか。しかも結構よく鳴りますな。
「祐一、七瀬さんは、剣道の有段者なんだよ」
 名雪が、妙に楽しそうな笑顔で話す。おお、こわ。
「ってか、何でそんなに楽しそうに話すんだよ、お前は……」
「名雪は天然だから、しょうがないわよ」
 七瀬さんはクスクス笑いながら、そう言った。
「うー、七瀬さん、ひどいよー」
「事実だろ」
 抗議の声を上げる名雪。俺は七瀬さんに同意してやる。
「うー、祐一までー」
 こっちにまで、睨んでるんだか緩んでるんだか解らない表情でこっちを見る。のは、ほっとい
て。
「で、七瀬さん……で良いのか?」
「男子にさん付けで呼ばれるのって、なんかくすぐったいのよね。前の学校にいた奴のせい
で」
 七瀬さん……は、苦笑しながらそう言った。
「じゃあ、七瀬……で良いのか?」
「留美でも、どっちでも好きな方でいいわよ。あたしは祐一って呼ばせてもらうわね」
 うーむ……そっちか……
「どうしたの?」
「いや、留美ほどの美人に下の名前で呼ばれるってのも、なんか照れくさいものだなって」
「美人だなんて、ありがと」
 くすくす、と、留美は笑った。
「うー、祐一、私だって昔から祐一のこと祐一って呼んでるよ」
214『優しい氷』2 4/6 ◆kd.2f.1cKc :2007/04/10(火) 12:23:22 ID:8mcj9WJt0
 名雪が、何か不満そうに言った。
「お前は身内だし、ずっと昔からそう呼んでるだろ」
「そうだけど……なんか納得できないよ」
 不満そうな態度をとり続ける名雪。
「3人とも、いい加減にしてくれないかしら」
 今度は、名雪の後ろの席から、そんな声が聞こえてきた。
 悪戯っぽそうな留美とは違って、明らかに棘のある声。
「先生の話がまったく聞こえないわ。それに貴方たちも、後で差し支えるわよ」
「ごめんなさい」
 そう言って、留美は前を向いた。
「誰?」
 俺は、声を潜めて、名雪に訊ねた。
「香里。美坂香里って言うの」
「なんか、ずいぶん棘のある奴だな」
 俺は眉をひそめて言う。
「前はあんなんじゃなかったんだよ。真面目だったけど、話も楽しかったし」
「そうなのか」
「うん、去年の今頃かな。急にあんまり話さなくなって、冷たくなったの」
「ふーん……」
 俺はちらり、と、美坂とやらの方を見る。
 あまり感情を感じさせない表情で、ノートに何か書き込んでいる。
「なにがあったのか、私にも話してくれないんだよ」
「そうなのか」
 名雪の言葉に返事をしてから、俺もおとなしく前を向いた。
 始業式ということもあって、簡単な話があっただけだ。
 冬休み中の課題についての話もあったが、転校生である俺には関係ない。
215『優しい氷』2 5/6 ◆kd.2f.1cKc :2007/04/10(火) 12:25:05 ID:rnqFsM970
 しかし、舞が上級生だったとは……しかもこの学校の前の生徒会長だったとは……信じられ
ん。
「世の中、まだまだ人知を超えた事象がたくさんあるんだな……」
「んぁ? なんか言ったか? 相沢」
 後ろにいた、北川とか言う奴が、妙になれなれしく話しかけてくる。
「いや、別に。この宇宙の神秘と真理について考察していただけだ」
「なんだ、そりゃ……」

 始業式は滞りなく終わり、授業などもなく、短いホームルームがあった後、解散となった。
「名雪、帰るぞ」
「ん、ああ……祐一」
 カバンを持ち上げながら、隣にいる名雪に声をかける。しかし、名雪は困ったような顔をして
いた。
「ごめん、この後私、部活なんだよ……」
「そうか……それじゃ、しょうがないな、1人で帰るとするか」
 やれやれと、ため息混じりにそう言うと、名雪はなぜか、「う〜ん」と唸る。
「それもなんだか心配だよ〜」
「どういう意味だよ」
 俺が、睨むようにして聞き返すと、名雪は、困ったような表情になる。
「だって、祐一、方向音痴でしょ?」
「う……」
 確かにそうだ。昔、このあたりで遊んでいた時も、名雪とはぐれて帰れなくなり、遠くまで行っ
てしまった事が何度かある。
 どうやって水瀬家に帰り着いたのか、よくは覚えていないのだが────
「それじゃあ、あたしと一緒に帰らない?」
 留美がそう、声をかけてきた。
「方向一緒だし、近くまで送ってあげれば良いんでしょ? 水瀬さん」
 笑顔で、名雪に向かってそう言う。
「いや、転校初日に女の子と帰るってのも……」
216『優しい氷』2 6/6 ◆kd.2f.1cKc :2007/04/10(火) 12:25:36 ID:rnqFsM970
「それなら安心だよ、七瀬さんならしっかりしてるしっ」
 気まずく言う俺の声を遮って、名雪はポン、と手を合わせながら、そう言った。
「おい、俺の意思はどうなんだ……」
「でも、祐一だってうちにたどり着けなかったら、困るでしょ?」
「ん、まあ、そりゃそうだけど……」
 俺はこもるような声で言いながら、名雪から留美に視線を移す。
 留美もニコニコと笑っていた。
「しょうがねぇ、お願いします」
「決まりね」
 俺は連行される犯罪者の心境で、すごすごと留美についていった。
217『喧しい水』2 7/6 ◆kd.2f.1cKc :2007/04/10(火) 12:26:57 ID:rnqFsM970
>>211-216

 まぁ……見ての通りです。遊びすぎかな……
218名無しさんだよもん:2007/04/10(火) 12:59:57 ID:hGgH2/Uz0
ななせwwwww
219名無しさんだよもん:2007/04/10(火) 19:55:47 ID:H8ar8pge0
>>217
なんつーかサプライズだらけだ、特に七瀬w

何気に香里のポジションがちょっと違うっぽいのが気になってる
今後の展開に深く関わってくることもあるのかな
220名無しさんだよもん:2007/04/10(火) 23:06:01 ID:Lg4LBaTw0
>>217

あんど、せっついてしまってスマソ

香里の位置に七瀬が割り込んでいっているw
祐一もえいえその世界へGo
2217/6 ◆kd.2f.1cKc :2007/04/11(水) 00:28:29 ID:GtnicV9F0
しまった……

七瀬が名雪の事を3/6で「名雪」って呼んでるのに5/6で「水瀬さん」になっちゃってる……
222名無しさんだよもん:2007/04/13(金) 23:37:27 ID:Z+mFLGwL0
(*´Д`*)
223『優しい氷』3 0/7 ◆kd.2f.1cKc :2007/04/14(土) 11:40:42 ID:bs9rG9sp0
要注意

・今回も、真琴さんがまったく出てきません。
・ただし、物語には結構関わってくるかもしれません。
224『優しい氷』3 1/7 ◆kd.2f.1cKc :2007/04/14(土) 11:41:40 ID:bs9rG9sp0
 校門を出て、朝来た道を、留美と一緒に歩いていく。
 知った顔に出会うような気がしたが、そんなことはなかった。
「ねぇ、聞かせてもらっても良いかしら」
「ん?」
 前を歩いていた留美が、振り返り、後向きに歩きながら、俺に話しかけてきた。
「祐一が前に住んでたところって、どこなの?」
「え、前に住んでたところ?」
 質問され、俺は思わずその言葉を反芻した。
 好奇心旺盛そうに、にこにこと笑っている。
「あ、うん。少し興味があっただけで、別に無理に言わなくても良いんだけど」
「いや、別にそんなことはないが────」
 俺がそう言って答えると、少し驚いたように、留美は目を円くした。
「なんだ、私が引っ越してきたところと、そんなに離れてないじゃない」
「そうなのか」
 俺の方も、少し驚いた。
「T電車のI線の沿線でしょ? 準急停まるとこ」
「ああ、よく知ってるな」
「うん」
 留美は、制服の袖が少し長いのか、手の甲を袖口で半分ほど覆った手でクスクスと笑う。
「私のところはね────」
「なんだ、目と鼻の先じゃないか」
 電車を使っても、20分ぐらいのところだ。
「あたしたちの感覚だとね」
 留美は苦笑気味に、そんなことを言う。
「え? どういうことだ?」
 おれは、聞き返す。
「このあたりじゃ、駅に行っても……」
「電車が来るまででそれだけ待たされるって訳か」
225『優しい氷』3 2/7 ◆kd.2f.1cKc :2007/04/14(土) 11:43:40 ID:bs9rG9sp0
「それどころか、電車なんか待っても1本もこないわよ」
「へ?」
 俺がため息混じりに言うと、留美はそう言って、悪戯っぽく笑う。思わず、間抜けな声を出し
てしまった。
「このあたり、架線張られてないもの。電車って言ったら、市電ぐらいよね」
「くっ……」
 そうきやがったか……ディーゼルカー? 気動車? とか言えば良いのか?
 そんなバカなやり取りをしながら歩いていると、住宅や雑木林の続いている路地から、だん
だんと商店の数が増えてくる。
「あれ……この辺りは」
 対向2車線の道路に、小さなアーチがあり、商店の並んだ通り。
「どうしたの?」
「いや……見覚えがあるなと思って」
 留美にそう答えつつ、キョロキョロとあたりを見回す。
「え? デジャヴ?」
「あ、いや、違うよ」
 視線を留美の顔に戻す。
「こっちの方に親戚の家があってな、昔に何度か来たことがあるんだ」
「へぇ」
 と、留美は関心したように言ってから、
「その親戚って、名雪の家でしょ?」
「……なんだ、知ってたのか」
 …………って、待てよ? そう言えば、教室でも、「従兄弟さんね」と呼ばれたような気が。美
坂のおかげで有耶無耶になってしまったが。
「……もしかして、名雪の奴、俺が名雪の従兄弟だって言いふらしてるのか?」
「ええ。冬休みの前からそりゃもう、うれしそ〜に吹聴してたわよ」
 クスクス、なんだか妙に楽しそうな笑顔で、俺を見ながら言う。その留美の様子に、俺はイヤ
な予感がした。
226『優しい氷』3 3/7 ◆kd.2f.1cKc :2007/04/14(土) 11:45:02 ID:bs9rG9sp0
「もしかして、俺が住んでるところも……」
「うん、ウチで暮らすことになったんだよ、って言ってたわよ」
「ぐぁっ」
 なんてこった。
 そりゃ、親戚同士だし、名雪の家の近くに住んでいる、というところまでは推定されても仕方
ないとは思っていたが。
「はぁ……いきなり明日から学校、行きたくなくなったぞ」
 俺はうなだれながら言う。
「そぉ? そんなに恥ずかしい?」
 留美は、少しキョトン、として、首をかしげるように言う。
「そりゃ恥ずかしいに決まってるだろ」
「そうかしら? 前の学校にいたヤツなんか、幼馴染の女の子に家の中まで踏み込まれてた
わよ」
 その様子を思い出すかのように、歯まで見せて笑う留美。
「…………そりゃ、すげぇな……」
「でも、そいつと祐一って、なぁんとなく似てるのよね。性格って言うか、雰囲気が」
 どこか、懐かしいものを思い出すような目つきの笑顔で、留美はそう言った。
「…………」
 話しながら、商店街を通過していく。
227『優しい氷』3 4/7 ◆kd.2f.1cKc :2007/04/14(土) 11:45:33 ID:bs9rG9sp0

「待ちなさいっ!」
 2人で歩道を歩いていると、突然、後から、声をかけられた。
「なんだ?」
 2人して振り返るが、そこには声の主らしき相手はいない。
 と、思いきや。
 バサッ!!
「なんだっ!?」
 毛布のようなものが舞ったかと思うと、そこに、またツインテールの、女の子が立っていた。
「貴方だけは……許さないんだからっ」
 そう言うと、女の子は拳を振り上げて構え、俺に向かって飛び掛ってくる。
「わっ!?」
 俺が一瞬、驚いて動けないでいると、ザッ、と、俺とそいつの間に、割り込んできた。
 留美はそいつの胸倉をひょいと掴むと、肩で担ぎ上げるようにして反対側に放り出した。
「えっ、わっ、あっ、あうぅぅぅっ!」
 ぐわぁぁぁん……
 おお……この音は……痛そうだ。
 そいつは顔面から、鉄製の街灯に突っ込まされた。
「きゅう……」
 まるでどこかで見たような動きで、そいつは背中から倒れこんだ。
「お、おい……」
 俺は、慌てて倒れたそいつに駆け寄る。
 留美も、傍にまでやってくる。
「誰よ、この子」
「いや、全然見覚えがないぞ」
 留美の問いに、俺はそう答える。
「でも、この子は祐一のこと、知ってたみたいよ?」
「そんなこと言われても、知らないものは知らん」
228『優しい氷』3 5/7 ◆kd.2f.1cKc :2007/04/14(土) 11:47:21 ID:vTJXC0NF0
 その言葉に納得したのかしていないのか、留美は「ふーん」と言って、そいつを覗き込んだ。
「とりあえず、このままにはしておけないわね〜」
「しょうがない、とりあえず、ウチに運ぶか……」
 言って、俺はやれやれ、と、そいつをおぶる。
「くそっ、こいつ結構重い……」
「こら、女の子にその単語は禁句よ」
「っつっ……」
 こつん、留美は、軽く、俺の頭を小突いた。
「それにしても、凄いな。留美は、他に柔道とかやってるのか? それとも、合気道?」
 おぶって歩きながら、そう、留美に話しかける。
「まさか。あの程度は力の応用よ」
「でも、あんなに咄嗟には普通、出来ねーぞ」
「格闘技は乙女のたしなみ、って所かしらね」
 そう言って、留美は口元に手を当てて、ほほほ、と小さく笑った。
 どういう、乙女のたしなみだよ……
 そんなことを思いながら、商店の並んでいる区画を外れ、水瀬家のある住宅街へと入ってき
た。
 やがてその水瀬家の門をくぐる。
「わり、ちっと落ちないようにしててくれ」
「うん」
 留美に後におぶさっているヤツのことを頼んでから、制服の内ポケットから、玄関の鍵を取り
出し、…………
「あれ? 鍵開いてるな」
 俺は扉を開けて、玄関に入る。
「ただいまー」
 家の中に向かってそう声を上げると、LDKの扉から、秋子さんが出てきた。
「おかえりなさい、祐一さん。あら?」
 俺の姿を見るなり、秋子さんは頬に手を当てて、軽く首をかしげるような仕種をした。
229『優しい氷』3 6/7 ◆kd.2f.1cKc :2007/04/14(土) 11:48:23 ID:vTJXC0NF0
「いたんですか、秋子さん」
「ええ……こんにちは、七瀬さん」
 俺に答えてから、視線を後ろにいた留美に向ける。
「こんにちわ、秋子さん」
「こんにちわ。ごめんなさい、名雪ならまだ帰ってないけど……」
 困ったように、秋子さんが言うと、留美は、慌てて手を振る。
「ああ、いいえ。その名雪に頼まれて、祐一君を送ってきたんです。近くまで、の予定だったん
ですけど…………」
「あら、そうだったんですか」
 秋子さんはそう言って、留美に笑顔を向けておいてから、視線を俺に戻してくる。
「それで祐一さん……大きなおでんダネですね」
 秋子さんは俺の背中にいる奴を見ながら、そう言って、にこり、と微笑んだ。
 隣で、留美が、「ひっ」とか、小さな悲鳴を上げた。
「あ、秋子さん……本気ですか?」
 俺も、唖然としながら聞き返す。
「冗談ですよ」
 そう言って、くすっ、と、悪戯っぽく笑ってから、
「一体、どうしたんですか?」
 と、聞いてきた。
「俺が聞きたいくらいですよ。突然、商店街で、俺に襲い掛かってきたんです」
「まぁ、祐一さん、この子に恨まれるような覚えでも?」
 秋子さんは、困ったような表情になって、真面目に俺に訊ねてくる。
「ありませんよ! 今日、初めてあったようなヤツです」
 思わず声を大きくして、否定する。
「ただ、気絶したままほっとくわけにも行かないんで、とりあえず運んできたんです」
「確かに……それはそうですね」
「それで秋子さん、悪いんですけど、横にさせられる場所、用意してもらえますか?」
 俺が、秋子さんに視線を向けてそう言うと、秋子さんは、にこりと笑う。
230『優しい氷』3 7/7 ◆kd.2f.1cKc :2007/04/14(土) 11:49:44 ID:vTJXC0NF0
「それじゃあ、2階に空いてる部屋がありますから、そちらに」
「はい、すみません」
 俺は靴を無造作に脱いで、玄関を上がる。
「それじゃあ、私は帰るね」
 背後から、留美の声がした。
「ああ、うん。また、学校でな」
「うん、また明日ね。秋子さん、お邪魔しました」
 バタン、と、玄関の扉が閉まり、留美は帰っていった。
231『喧しい水』3 8/7 ◆kd.2f.1cKc :2007/04/14(土) 11:51:33 ID:vTJXC0NF0
>>224-230

狐真琴登場。出すかどうか微妙に迷っていたんですが、要望があったので出すことに。
この後の流れも大まかにまとまってきたし。

しかしまー、次は真琴さん書かなきゃ……
232名無しさんだよもん:2007/04/14(土) 16:59:13 ID:TC2eIUcF0
これは大きなおでんダネですね。(・∀・)
233名無しさんだよもん:2007/04/14(土) 21:18:17 ID:LBq7A7n70


留美もおだんだねにされそうになったんでしょうな
とんでもない食人一家ですぅ
234名無しさんだよもん:2007/04/15(日) 00:48:43 ID:6IJbqySc0
よくこれだけ頑張ったね。
恐れ入りました。
235名無しさんだよもん:2007/04/17(火) 02:14:42 ID:hWXzX7UF0
保守(・∀・)
236名無しさんだよもん:2007/04/24(火) 12:38:24 ID:1gKVirWz0
保守(´;ω;`)ブワッ
237名無しさんだよもん:2007/05/02(水) 10:09:04 ID:96bXycYl0
保守(´ー`)y─┛~~
238 ◆kd.2f.1cKc :2007/05/05(土) 10:51:47 ID:u19KXf/d0
今書いてまーす。今しばらくお待ちを
239名無しさんだよもん:2007/05/05(土) 10:53:57 ID:XMElsyw40
お。久しぶりですね。
期待してますよー。
240名無しさんだよもん:2007/05/05(土) 10:58:00 ID:I0OpgkUb0
wktk
241『優しい氷』4 0/6 ◆kd.2f.1cKc :2007/05/07(月) 01:21:43 ID:r26Snwtv0
・今回も真琴さんの出番がありません……狐を介抱するのに文字数かけすぎ。
 ごめんなさい。次は絶対出しますから!! 出ますから!!
242『優しい氷』4 1/6 ◆kd.2f.1cKc :2007/05/07(月) 01:22:48 ID:r26Snwtv0
 秋子さんに案内されて、階上、名雪の部屋から見て俺の部屋の反対側にある部屋
に、そいつを運ぶ。
 その部屋の扉は引き戸になっていて、ガラガラとあけると、冬とは言えガラス越しに
差し込んでくる西日がまぶしく、部屋の中は日溜りの匂いがした。
 ────あれ、俺……?
「祐一さん、どうか、しましたか?」
 背後からかけられた秋子さんに声に、はっ、と、我に返る。
「あ、すみません。大丈夫です」
 俺はそう言って、部屋の中に進んだ。
 部屋の中はほとんど調度品がなく、ただ1間半分程度の本棚だけが、中に詰まった
本と共に置いてあった。
 秋子さんは、部屋の押入れから布団を一式取り出すと、それを床に敷く。
 俺は、そいつを布団の上にゆっくりと下ろした。
「あの、祐一さん」
「はい?」
 俺が立ち上がりなおすと、秋子さんがどこか困ったような顔で、俺に声をかけてきた。
「この子、着替えさせようと思うんですけど……」
 そうか。ジャンバー羽織ったまま、丸首のセーターは着てるし、ミニスカートじゃ布団
で横にさせておくには辛いだろう。
「でも、着替え、ありますか?」
「名雪のパジャマで、あまり使ってないのを借りますね」
 名雪よりコイツのほうが、少し背格好が小さいように見えたが、寝巻きなら気にする
ほどのものでも無いだろう。
「すみません、お願いします。あ、俺、出てますね」
「あ、祐一さん」
 踵を返しかけた俺を、秋子さんが呼び止める。
「申し訳ないんですが、物置から、予備のストーブを持って来ていただけますか? 鍵
は、リビングのホルダーに、かかっていますから」
「了解しました」
 笑いながら言って、部屋を出る。
243『優しい氷』4 2/6 ◆kd.2f.1cKc :2007/05/07(月) 01:23:22 ID:r26Snwtv0
 階下へ降りて、LDKに入る。
 鍵をかけているホルダーは、いつも真琴さんがジムニーのキーをかけているのを見
ていたので、解っていた。
 白いホルダーから、それらしいキーを捜す。
 車や家のキーとは異なる、小さなキーがあった。
「これだな」
 俺はそれを持って、庭に出る。
 積もったままの雪を踏みながら、物置の前まで歩いてきた。
 果たしてキーは、確かに物置の鍵穴に合い、鍵は回って外れる。
 ガラガラと扉を開ける。中を覗くと、物置のスペースの半分ほどを、でかいタイヤが占
領していた。真琴さんのジムニーの、ノーマルな方のタイヤだろう。後の半分ほどは、
ほとんど空きスペースだった。そっちの方の一番奥に、白い円筒形の、古めかしいスト
ーブが置いてあった。
「これだな」
 俺は呟いて、そのストーブのハンドルを持ち、持ち上げる。
 そのストーブを縁側に運び込んでから、一度物置に戻って物置の鍵をかける。
 ストーブを持って2階に上がると、秋子さんの待っている部屋の扉を、ノックする。
「大丈夫ですよ」
 中から、秋子さんの声が聞こえたのを確認してから、俺は扉を開けて、部屋の中へ
入った。
「お待たせしました、秋子さん」
 そう言って、部屋の真ん中、布団より少し離れた位置にストーブを置く。
 布団の上を見ると、ソイツは緑色のパジャマを着て、布団の中で眠っていた。
「ったく、こっちの苦労も知らないで」
「まぁ、まぁ、祐一さん」
 俺が毒つきかけると、秋子さんが優しい声でなだめるように言ってきた。
「少し、寝かしといてあげましょうよ……あら?」
 言いながらストーブを操作しようとした秋子さんが、急に、少し驚いたような声を出す。
「どうかしましたか?」
 俺が訊くと、秋子さんは、困ったように苦笑しながら、顔を上げた。
244『優しい氷』4 3/6 ◆kd.2f.1cKc :2007/05/07(月) 01:24:42 ID:r26Snwtv0
「祐一さん、灯油、入れてくるの、忘れちゃいましたね?」
 しまった……、すっかり忘れていた。
「すみません、持ってきます……」

 その後、制服を着替え、微かな音も立てずに燃えるストーブの見張りをしながら、そ
の部屋で漫画を読んでいた。
 コンコン、と、ドアがノックされる。
 カラカラとドアを開けながら、秋子さんが入ってきた。
「祐一さん、お昼、まだでしょう?」
「そう言えば……」
 こいつのことですっかり採りはぐっていた。既に時間は午後の2時近い。
「部屋も充分暖まったようですし、この子も起きるまでもう少しかかるでしょう」
 そう言うと、秋子さんは、静かに燃えていたストーブの火を消す。
「下に、用意してありますから、よければ食べてください」
「はい、そうします」
 俺も漫画本をその場に置いて、立ち上がる。
 俺は、秋子さんと一緒に、部屋を出て、階下に下り、ダイニングに入った。
 テーブルの上には、白い平皿に、スパゲティが盛り付けられていた。ミートソースの
香り。
 俺は、早速席に付く。
「いただきます」
「はい、召し上がれ」
 にこり、と秋子さんは微笑んでから、キッチンの流し台の方に向かった。
 洋食は真琴さんが専門と聞いていたけれど、秋子さんのスパゲティもなかなかのも
のでした。
245『優しい氷』4 4/6 ◆kd.2f.1cKc :2007/05/07(月) 01:25:39 ID:r26Snwtv0

 時計は15時を過ぎていた。
 しかし、相変わらずアイツが起きてくる気配は無い。
 秋子さんも言っていたが、だいぶ疲れていたのかもしれないな。
 とは言えいつまでも起きてこないようであれば、病院に連れて行った方がいいのか
もしれないが。
 ひとまず俺は場所を変え、自分の部屋で読書をしていた。
 と言っても、ライトノベルだけどな。
 ベッドに寝転がりながら活字を追っていると、コンコン、と、俺の部屋の扉がノックさ
れた。
「よろしいでしょうか、祐一さん」
 ドアの外から、秋子さんの声が聞こえてきた。
「あ、はい、どうぞ」
 俺が返事を返すと、ドアを開けて、秋子さんが姿を現す。
「そろそろ、夕食の買い物に行ってきますね?」
 そうか、そろそろ、そんな時間だっけか。
「あ、それだったら、俺が行ってきますよ」
 そう言って、俺はベッドを立ち上がる。
「え、でも、なんだか悪いんじゃ……」
「そっちは大丈夫です、ただ、アイツのことを秋子さんにお願いしたいんですが……な
んかあった時、俺じゃ対処しきれるかどうか、不安なもので……」
 そう言うと、申し訳なさそうにしていた秋子さんは、くすっ、と苦笑した。
「解りました。それじゃあ、お願いしちゃいますね」
 そう言って、秋子さん、続いて俺は、階下へ降り、LDKに入る。
 秋子さんはメモ用紙にサラサラと書き込み、それを、俺に手渡した。
「これだけ、買ってくればいいんですね?」
「はい。それと、これがお金です」
 そう言って、秋子さんは5千円札を渡した。
「お釣りは、祐一さんの自由にしてくださって構いませんから」
「え? いいんですか?」
246『優しい氷』4 5/6 ◆kd.2f.1cKc :2007/05/07(月) 01:27:23 ID:futZgHQr0
 少し驚いて、聞き返す。しかし、秋子さんはニコニコと笑ったまま。
「ええ、と、言っても、千円も残らないと思いますから」
「そうですか……いえ、すみません。ありがとうございます」
 頭を下げて秋子さんにお礼を言う。
「それじゃあ、出かけてきますね」
「はい、よろしくお願いしますね」
 俺は、玄関から出て行った。

 ハッキリしない7年前の記憶を頼りに、商店街をキョロキョロとしながら歩く。
 たしか、ここにもスーパーマーケットがあったはずだ。
 昨日、真琴さんと言ったショッピングセンターに比べると、ずっと小さい店だったけど
……
「おかしいな、確かにこの辺のはずだったんだけど……」
 と、あまりにキョロキョロとしながら歩いていると。
 ドンッ
 と、突然、そんなに硬くも無いような物がぶつかってくる衝撃に、俺は、進む方向とは
逆方向に、弾き飛ばされる。
「きゃっ」
 同時に、そんな、短い悲鳴のようなものを聞いた。
 よそ見をしながら歩いていたので、誰かとぶつかってしまった。しかも、その相手は、
小柄な女の子────いやまてよ、どこかで見覚えのあるような。
「す、スマン、大丈夫か?」
 俺はすばやく立ち上がって、女の子に手を差し伸べる。
「大丈夫です、私の方こそ、ぼーっとしちゃって……」
 引っ張り上げて、起こす。女の子は、お尻をはたく仕種をした。
「えっと、今朝、会った子だよね。舞達と一緒にいた……倉田──」
「栞です──確か、相沢祐一さん、でしたよね?」
 栞ちゃんはにこっ、と笑った。
247『優しい氷』4 6/6 ◆kd.2f.1cKc :2007/05/07(月) 01:28:34 ID:futZgHQr0
「ああ……でも、ちょうど良かった」
「はい?」
 栞ちゃんは、軽く首をかしげる。
「昔、このあたりにスーパーがあったと思うんだけど……」
「昔? 祐一さん、このあたりに住んでいたことがあるんですか?」
 俺が視線をキョロキョロさせながら言うと、栞ちゃんが不思議そうに聞いてきた。
「ああ、いや、住んでた訳じゃないんだけど、親戚の家があってね、よく来てた頃があ
ったんだ」
「そういうことだったんですね」
 と、栞ちゃんは納得したように言った。
「けど、多分、祐一さんの言ってるスーパーって、3年ほど前に、無くなっちゃったんで
すよ」
「えっ……マジかよ……」
「はい、建物だけは、あそこに残ってますけどね」
 そう言って、栞ちゃんが指した方を見れば、その建物は100円ショップと、妙にリアル
な黄色いピエロがマスコットのファーストフード店が共用する店になっていた。
「大通りの方に、大きなショッピングセンターが出来て、ここのスーパーが、その中に
移転しちゃったんです」
「そうだったのか……そりゃ、参ったな」
 車ではすぐの距離だが、歩くには少し遠い。
「大丈夫ですよ、電車を使えば、すぐに着きます」
「電車?」
 さっき、留美との話題にも上がったっけ。このあたりで電車といえば、路面電車の事
だ。
「片道200円ですし。私も、買い物がありますから、ご一緒しましょう」
「あ、うん……そうだな」
 栞ちゃんにしても、転校してきていきなり、女の子と一緒に歩いている姿を、クラスの
連中に見られたりしたくは無いが、せっかくの好意だし、無下にもしたくない。
 結局、今度は栞ちゃん連れで、商店街の──学校とは反対の方角のアーチを抜け
たところから、市電に乗って、ショッピングセンターに向かった。
248『喧しい水』4 7/6 ◆kd.2f.1cKc :2007/05/07(月) 01:31:33 ID:futZgHQr0
>>242-247
この直後に真琴さん出てくる予定だったんですが……
狐真琴と秋子さんで尺を取りすぎ……orz

サンクリ参加で間が開きました。
249名無しさんだよもん:2007/05/07(月) 01:33:27 ID:RLvlsh8G0
これこそ舞って高井があったという物。
いやはやGJですぞ。
250名無しさんだよもん:2007/05/07(月) 02:29:44 ID:b+gACp4p0
キタ━(゚∀゚)━!!
251名無しさんだよもん:2007/05/08(火) 12:33:10 ID:DRiabwS80
街角でぶつかるのが栞というのもおつですな。GJ。
252名無しさんだよもん:2007/05/08(火) 14:29:26 ID:/BwbKz/G0
同人やってるひとだったのか。どうりで文章書きなれてる感がするわけだ
253『優しい氷』5 1/6 ◆kd.2f.1cKc :2007/05/09(水) 09:52:07 ID:6Zsq2Mlx0
 市電で揺られること10分ほど。俺は昨日、真琴さんと来たショッピングセンターに来
ている。
 食品売り場の店内は、ありふれたスーパーの構造。ただ、かなり広い印象を受ける。
カートにカゴを入れて、押す。
 栞ちゃんはカゴを取ったが、カートは取らずに、手でぶら下げて、俺についてくる。
「栞ちゃん、別に買い物あるならそっちに行ってていいけど?」
 俺が言うと、栞ちゃんは、「あはは」、と笑う。
「私の方は、たいした買い物じゃありませんから」
 そう言って、相変わらず着いてくる。
「まぁ、いいけどさ……」
 いや、本当はあまりよくないんだが……恥ずかしいし。
「ええと……」
 俺は秋子さんに渡されたメモを取り出し、カートに乗ったカゴに入れていく。
 ダイコン。
 レタス
 サトイモ。
 パセリ。
 コンニャク。
 シラス。
 鳥モモ。
 ゼラチン。
 ちょっと待て。秋子さん、なにを作る気だ。
「なんだか……なにを作るのか、凄く気になりますね〜」
 栞ちゃんはカゴの中を見て、あはは、と笑う。
 いや、実際に食わされる俺としては、かなり深刻な問題なんですけど……
「栞ちゃんは、…………」
 カゴを覗き込むと、ポテトチップスだののスナック菓子や、チョコレートなどのお菓子
ばっかり。
「お菓子ばっかりだな……太るぞ」
 俺が呆れたように苦笑しながら言うと、栞ちゃんはむっ、と軽くむくれた。
254『優しい氷』5 2/6 ◆kd.2f.1cKc :2007/05/09(水) 09:52:41 ID:6Zsq2Mlx0
「そう言うこと言う人、嫌いですっ」
「ははは、冗談だよ。でも、食べすぎには注意しろよ」
 俺は苦笑したまま、言う。
「はい」
 栞ちゃんもくすくすと笑った。
 俺たちはレジに並び、会計を済ませる。

「それじゃあ私、他にもまだ、買い物がありますので」
 お菓子類の入った、それほど重くは無いがかなり膨らんだビニール袋を手に、栞ち
ゃんは言う。
「あ、ああ……良かったら、俺も付き合うけど?」
「いいんですか?」
「ここまで案内してもらったからな……栞ちゃんが良ければ、だけど」
 むしろ、俺としては今朝あったばかりの栞ちゃんがそれでいいのやら。
「構いませんよ」
 栞ちゃんは、にこっ、と笑う。
「それじゃあ、こっちです」
 エスカレーターに乗って、2階へ上がる。
「そう言えばさ、栞ちゃんとお姉さんって……」
「はい?」
 エスカレーターの上で、俺が言うと、前に乗っていた栞ちゃんがくるっと振り向いて、
聞き返してくる。
「……いや、仲が良さそうだな、って」
「そうですか?」
 聞き返すようにいいつつも、栞ちゃんは嬉しそうに笑っている。
「ああ、俺、1人っ子だからさ、少し羨ましいかな」
「そうなんですか」
 エスカレーターから降りる。フロアを歩きながら、栞ちゃんは俺の方を見ている。
「ちょっと見ただけだけど、優しそうなお姉さんだよね」
 俺が思ったままに言うと、栞ちゃんは、満面で笑顔になった。
255『優しい氷』5 3/6 ◆kd.2f.1cKc :2007/05/09(水) 09:53:11 ID:6Zsq2Mlx0
「はいっ、佐祐理お姉さんはとっても優しいですし、勉強も出来ますし……」
 言いながら、どこか優しげな笑みになる。
「それに、とても……その、大物って言うのとは、少し違うんですけれど、器って言うか、
懐っていうか、深く抱きとめてくれる感じの人なんです」
「なるほどね、なんとなく解るよ」
 俺まで、なんだか優しい気分になってくる。
「そうなんです、佐祐理お姉さんはとても優しくて……」
「?」
 栞ちゃんは、ふぅ、とため息をついた。どこか、疲れたというか、急に重くなったように
感じる。
「どうしたんだ?」
「……いいえ」
 ふっ、と栞ちゃんは笑って、また満面の笑みになり、俺の方を向いた。
「とにかく、自慢の、お姉さんなんですよ」
 ……なんだか、誤魔化されてしまったような気がする。
「あ、それじゃあ、祐一さんはここで待っていてもらって構いませんから」
「え?」
 栞ちゃんが、ゆっくりとした歩みを止め、俺にそう言ってくる。
 そこにあるのは……ファンシーグッズ売り場。
「……ああ、うん、そうさせてもらうよ」
 流石にちょっと、浮いてしまう。
 栞ちゃんは俺に手を振るようにして、中に入って行った。
 外から、栞ちゃんの様子を視線で追うようにしつつ、柱に寄りかかって待っていると、
「あれ? 祐一君?」
 と、既に聞きなれた声が聞こえてきた。
「こんなところで、何か買い物かな?」
 声のした方に振り返ると、白いセーターにパンツルックの真琴さんが、ショルダーバ
ッグを持って歩いてくる。
「あ、いえ、秋子さんに頼まれて、夕飯の買出しに来たんですけど」
 俺がそう言うと、近付いてきた真琴さんは、不思議そうに首をかしげた。
256『優しい氷』5 4/6 ◆kd.2f.1cKc :2007/05/09(水) 09:53:42 ID:6Zsq2Mlx0
「食料品売り場は、1階よ?」
「あ、いえ、そっちの方はもう終わってるんです」
 俺は、買い物袋を持ち上げて見せた。
「じゃあ、ついでの買い物かな? でも、メンズの売り場は向こうのほうだよ?」
 真琴さんは、指をさしながら、また、聞き返してくる。
「いえ、そうじゃなくって……」
 困ったように、ファンシーグッズの売り場の方に視線をやる。
「ええっと……」
「?」
「お待たせしましたー」
 ようやく、栞ちゃんが中から出てきた。
「あら? 栞ちゃん?」
「あ、真琴さん!」
 出てきた栞ちゃんを見て、真琴さんは少し驚いたように言う。すると、栞ちゃんも目を
円くして、真琴さんの名前を呼んだ。
「あれ? 2人とも知り合いなんですか?」
「うん、舞ちゃんつながりでね。何度か会ったことがあるだけだけど」
 真琴さんが言った。なるほど、そう言うことか。
「それより、真琴さんと祐一さん、知り合いだったんですか?」
 栞ちゃんが訊いてくる。
「うん、私と同じ家に住むことになったの」
 にこにこと優しげに笑いながら、真琴さんは栞ちゃんにそう説明する。…………って!!
「お、同じ家にですか!?」
 栞ちゃんは驚いて目をまんまるくした。無理も無い。
「ま、真琴さん、その言い方はまずいって」
「え? どうして?」
 理解していないのか、真琴さんは俺の言葉にキョトン、として聞き返してくる。
「そ、それって同棲してる、って事ですよね!?」
 身を乗り出すようにして、栞ちゃんが聞き返してくる。
 予想通りの反応だ。てか、当然だ。
「あ、その、そうじゃなくてだな」
257『優しい氷』5 5/6 ◆kd.2f.1cKc :2007/05/09(水) 09:55:31 ID:6Zsq2Mlx0
「えっと、そうじゃなくて、私が下宿してる家が、祐一君の従姉妹さんの家なの。で、祐
一君の御両親が海外赴任することになって、祐一君がこっちに来たの」
 慌てて否定しようとする俺の声に被さって、真琴さんが落ち着いた様子で説明する。
「なんだ、そう言うことだったんですか」
 眉毛をハの字にして、苦笑する栞ちゃん。
 それでもひとつ屋根の下で暮らしていることに変わりはないんだが、それでさらに騒
ぐには、俺と真琴さんの年は離れすぎている。
「ところで、2人は買い物もう終わりかな?」
 真琴さんが、にこっ、と優しげに笑い、訊いてくる。
「はい」
「あっ、はい」
 栞ちゃんと揃って答えてから、
「真琴さんも、もう帰りですか?」
 と、俺は聞き返す。
「うん、一緒に帰ろうか?」
 やった、これで帰りの電車賃が浮いた。
「はい、お願いします。栞ちゃんも、いいよね?」
「はい、お願いします」

 しかし……昨日はあゆにああ言ってしまったが、確かにこのリヤシートは硬いし狭い。
「大丈夫? 祐一君。足元、狭いんじゃない?」
 ジムニーを運転しながら、前を向いたまま真琴さんが聞いてくる。
「いや、大丈夫ですよ」
 実際にはかなりせまっくるしいんだが。
「やっぱり、私が後ろに乗った方が良かったんじゃないですか?」
 栞ちゃんが、運転席と助手席のシートの間から後ろを覗き込んで、俺に聞いてきた。
「いや、大丈夫だよ。栞ちゃんの方が先に降りるだろ?」
「それは、そうですけど……」
「それに、栞ちゃんは犯罪者じゃないからな」
「えっ?」
258『優しい氷』5 6/6 ◆kd.2f.1cKc :2007/05/09(水) 09:56:53 ID:hmx3gJ+l0
 困ったようにしていた栞ちゃんの顔が、キョトン、と、狐につままれたような表情になっ
た。
 ルームミラー越しにみると、真琴さんがクスクスと笑っていた。
 ジムニーは住宅街に入る。そこは、秋子さんの家のある場所とは少し違う、幾分古く
からある感じの住宅が並んでいる。
 その中でも、重厚な佇まいの家の前に、ジムニーは停まった。
「ここが、栞ちゃんの家?」
 俺は、ジムニーの、後ろの小さな窓にへばりついて、その家を見上げる。
「はい、もちろん、佐祐理お姉さんの家でもあります」
 まぁ、そりゃ当然だな。
「真琴さん、祐一さんも、どうもありがとうございました」
「いえいえ、どういたしまして」
 降りるなり、開いているドアの中の真琴さんや俺に向かって、ぺこりと頭を下げてくる。
「いや、俺は、むしろ栞ちゃんにお礼言わなきゃいけないだろ……買い物、付き合って
もらって、ありがとうな」
 俺は、助手席のドア側の下にあるレバーを引いて、シートを前に倒しながら、言う。
 流石に尻が痛くなってきたので、降りる栞ちゃんの代わりに、前に座ることにした。
「いえ、たいしたことじゃありませんから」
 パタパタと手を振る栞ちゃん。
「それじゃあ、また、明日」
「ああ、学校で、会えたらな」
 俺と挨拶を交わしてから、栞ちゃんはパタパタと小走りに、家の中へかけて言った。
「にしても、大きな家ですね」
 助手席に収まり、バンッ、とドアを閉めながら、俺は真琴さんに言う。
「このあたりの名士なの。確か、栞ちゃんと佐祐理ちゃんのお父さんがね、参議院の
議員さんだったはずよ」
 ジムニーを発進させながら、真琴さんが答える。
「なるほど、そう言うことですか」
 俺はしみじみと呟く。
 真琴さんと俺は他愛も無い談笑をしながら、ジムニーは水瀬家へ向かった。
259『喧しい水』5 7/6 ◆kd.2f.1cKc :2007/05/09(水) 09:59:54 ID:hmx3gJ+l0
>>253-258
お待たせしました。やーっと真琴さん登場。
しかし今回も無駄に尺が……ダブル真琴まで行くはずだったのに……
260名無しさんだよもん:2007/05/09(水) 20:34:11 ID:HUU9xr0W0
帰ってみると・・・。
これはGJだですよ。
261名無しさんだよもん:2007/05/09(水) 22:42:07 ID:ULCdXbMj0
(*´Д`*) なごむなー。今回も乙です。
それはそうと、栞と佐祐理さんの姉妹関係は
そのまんまなのか何かの伏線なのかwktk。
262名無しさんだよもん:2007/05/11(金) 10:06:43 ID:kxOUdss50
真琴さん分の補充終了
ええものを毎回ありがとうございます
263名無しさんだよもん:2007/05/20(日) 18:08:04 ID:1Djk70R50
保守(`・ω・´)
264名無しさんだよもん:2007/05/27(日) 18:15:00 ID:o07tN19D0
保守
265名無しさんだよもん:2007/06/06(水) 11:29:11 ID:DYBGZf8+0
保守
266名無しさんだよもん:2007/06/10(日) 17:44:51 ID:jbjjmJefO
保守
267名無しさんだよもん:2007/06/13(水) 00:07:03 ID:CxMvB0PA0
保守
268名無しさんだよもん:2007/06/14(木) 20:55:59 ID:nOvtm7Nj0
1ヶ月経ったか。ほす。
269名無しさんだよもん:2007/06/28(木) 16:09:38 ID:1xsWt9w/0
保守
270名無しさんだよもん:2007/07/01(日) 00:12:42 ID:4zFpWFBY0
動画が見たいものなり
271名無しさんだよもん:2007/07/04(水) 21:29:19 ID:Srh8J68/0
         / :/ / :.:/ .:.{ :.{:.:  {:.:.:..  ヽ:.:.:ヽ:. \
        / :/〃:.:.:.l :.:.八.:ヽ:. ',:.:.:.:..  '.:.:.:.|:.:.l:. l
         l | l | :.:. |, /-‐ヽ.:\:.:\´:. ̄ ヽ:.:l:.:.j:. |
         | | i l :. /! { __ \{ \ヽ>=くハ:/:./:./
         | N八 :.:.l{ イテ下    `'f_:::: }V/イ /|  
         | / {ヘ:.ト、:':{ハi_::::j      r':;;ソ 〃{:. |
       j/  ヾイ゙ヽゝ v:ソ     '   `´ 厶 |:. l
       /   .:.:.:/| :.:ヘ、    ー '   ,イ:.:. |:.:. ハ みくる
.       /  .:.:;:'イ| :.:小> 、      イ |:.:  ド、 い
.     /  ,/  .| :.:.:| \.   ̄´/〈 .!:.:  l  \ヽ
    /  /    | :.:.:|  \ ー ´ / ヽl:.:.  |   l い
.   /  /      !:. :.:.{     ー'  〇}リ:. /  , |:. l
   /  .:l   ヽ  ヽ:.:.:ハ        __{__}:./__ /  l:.:i |
272名無しさんだよもん:2007/07/10(火) 02:50:54 ID:KVnktZn70
漏れは静止画でもいいからジムニー転がす真琴さん誰か描いてくれ。
273名無しさんだよもん:2007/07/18(水) 18:19:16 ID:nowXbFbc0
保守
274名無しさんだよもん:2007/07/23(月) 19:17:43 ID:9Jc0Pbcy0
保守
275名無しさんだよもん:2007/08/04(土) 00:42:11 ID:udXdCcHL0
保守
276名無しさんだよもん:2007/08/07(火) 17:50:06 ID:t0VfhGfH0
まさかアニメ最萌の予選を突破するとは
277名無しさんだよもん:2007/08/13(月) 00:34:44 ID:t2fBHlEO0
                   ≫ アウー!アウー! ≪
.  ◎、             /⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒\
   |  \       __ __
   |   \    l[》'《|l   ヽl|
  ●     \  〈iノ_,リ._)) ))) ガチャガチャ
  ●      \ ,!!('゚'Д''゚' l)!!!!
           `('⊃∞⊂从ヴヴヴヴ
             从くム〉,つZ/l:___
        / ̄ ̄ ̄ ̄(_〈       /\
     /         ヽ,)   /    \
     |_______.|___l____l
      | |  | |     ●     | |  | |
      | |  | |     ●     | |  | |
      | |  | |     ●     | |  | |
278名無しさんだよもん:2007/08/18(土) 17:28:24 ID:SJTQA0azO
>>276
mjk
最萌スルーしてたが見に行ってみるか
279名無しさんだよもん:2007/08/18(土) 20:34:27 ID:VC29LH7V0
まじで?
280名無しさんだよもん:2007/08/24(金) 01:46:13 ID:timurMKr0
今日が真琴の日
しかも勝ったら真琴VS真琴になるww

アニメ最萌トーナメント2007
http://animemoe2007.hp.infoseek.co.jp/
281名無しさんだよもん:2007/09/10(月) 08:49:18 ID:dldwXXRa0
保守
282名無しさんだよもん:2007/09/18(火) 05:55:54 ID:aY0z401P0
あげ
283名無しさんだよもん:2007/09/18(火) 23:53:39 ID:9BW3KGmr0
あの荒らしが死なない事には盛り上がる訳もないか。
284名無しさんだよもん:2007/09/19(水) 00:40:32 ID:2cvw19zH0
それはたぶんがおれーで真琴AAが貼られる限り無理だろう
285名無しさんだよもん:2007/10/08(月) 11:17:17 ID:Wn6r0/x00
保守
286名無しさんだよもん:2007/10/12(金) 15:27:45 ID:EbwKWD7DO
大人まこぴーあげ
287『優しい氷』6 1/8 ◆kd.2f.1cKc :2007/10/27(土) 17:17:02 ID:k9rwLWYz0
 ヴィヴィーン……
 軽いエンジン音を立て、ジムニーがガレージに収まっていく。
 エンジンが止まり、真琴さんが運転席から降りてきた。
「シャッター、閉めますよ」
「あ、うん、ありがとう」
 真琴さんはにこにこと微笑みながら、シャッターをくぐって外に出てくる。
 俺は、シャッターの引っ掛け棒をとって上がっているシャッターに引っ掛けると、勢い
良く引っ張り出し、そのまま片手で受け止めてから、下までおろす。
 そして、2人で水瀬家の玄関に向かった。
「ただいま戻りましたー」
 俺が、中にいるであろう秋子さんに向かって言う。
 すると、ドタドタと、秋子さんにしては、ずいぶん乱暴に廊下を走ってくる足音が聞こ
えた。
「あう〜っ!」
 ずびしっ
 いきなり俺に飛び掛ってこようとしたので、問答無用でチョップを入れる。
「痛い! 何するのよぉ〜!!」
 もちろん、秋子さんなはずがない。
 ツインテールにした、真琴さんよりもさらに赤みの強い、長い髪。それでもって着てい
るのは名雪のパジャマ。
「何するのよじゃないだろう、さっきだっていきなり飛び掛ってくるし、警戒するのが普
通だ」
 俺は、多分不愉快丸出しで、そいつを指差しながらそう言った。
「う〜ん、でも、今のはちょっと強烈過ぎじゃないかなぁ」
 後ろで、真琴さんがそんな事を言う。
「えっと、この子……誰?」
「そうだ」
 真琴さんにそう言われて、俺ははっとそう思い出す。
288『優しい氷』6 2/8 ◆kd.2f.1cKc :2007/10/27(土) 17:18:28 ID:k9rwLWYz0
「お前はいったい何者なんだよ。商店街でいきなり襲い掛かってくるわ、一体俺に何の恨
みがあるってんだよ」
「え……あれ?」
 そいつはキョトン、と目を円くして、俺の顔を見る。
「あたし……誰?」
 ビシッ
「あうっ!」
 俺は、即効でそいつにデコピンを入れていた。
「痛い〜」
 そいつは、デコピンされた額を押さえながら、抗議するような目で俺を睨んでくる。
「痛いじゃねぇだろ! ふざけてるのか!」
「でも、思い出せないものは思い出せないの!」
 ビシッ
「俺の事を許さないって言ってただろうが!」
 デコピン2発目。
「あう〜っ! だって、そう思ったんだもん!」
「そんな理由で人を襲うな!」
 がしっ、ぐりぐりぐりぐり。
 デコピンでは飽きたらん。拳を両のこめかみに当てて、うめぼし炸裂。
「ゆ、祐一君、やりすぎだよ」
 真琴さんのレフリーストップが入り、俺は一旦そいつから離される。
「祐一君も落ち着いて」
「はぁ、はぁ、はぁ……」
 息の荒い俺に、真琴さんは宥める様に言ってから、そいつの方を向いた。
「とりあえず、名前だけでも思い出せないかな?」
 優しげな笑顔で、小さい子供を諭すように言う。
「名前…………」
「落ち着いて……思い出してごらん?」
289『優しい氷』6 3/8 ◆kd.2f.1cKc :2007/10/27(土) 17:19:06 ID:k9rwLWYz0
 俺はそんな真琴さんを見入ってしまう。外見は若々しくて、可愛らしさも感じさせるく
らいなのに、そいつに対する態度はまるで、母親が優しく語り掛けるようも見えた。
「名前……そうだ、名前」
「思い出した?」
 真琴さんはにこっ、と笑う。
「どうせろくでもない名前なんだろ?」
「祐一君、変な茶々入れない」
 困ったような表情で、指を立てて、めっ、と、俺に叱り付けるように言った。
「あ、いや……スミマセン」
 思わず、謝ってしまう。
 すると、そいつはいーっ、と、勝ち誇ったような笑みを俺に向けた。
 ムカツク……
「それで、あなたのお名前は?」
 真琴さんは再び笑みをそいつに向け、訊ねた。
「あたしの名前、さわたりまこと!」
「ふ・ざ・け・る・な・!」
 ズビシッ
「あう〜っ!」
 反射的にデコピンを入れていた。
「祐一君!」
 真琴さんは困ったような表情で言うが……
「沢渡真琴って言ったらこの人の名前だ!」
「ほへ、そうなの?」
 そいつはキョトン、として、真琴さんを見る。真琴さんはにこっと微笑んで見せた。
「……でも、あたしも沢渡真琴!」
「まだ言うかこいつは!」
 俺はそいつの頬を摘みかけて……
「祐一君!」
290『優しい氷』6 4/8 ◆kd.2f.1cKc :2007/10/27(土) 17:19:37 ID:k9rwLWYz0
 真琴さんが、俺とそいつの間に割って入ってきた。無理やり離される。
「世の中、同姓同名がいたっておかしくないでしょ」
「そーよそーよ」
 真琴さんが俺を叱る様に言うと、そいつまで調子に乗ったように俺に言ってくる。
 ムカツク……
「それで、他に思い出せそうな事はない?」
 真琴さんは、小さい真琴の方を向いて、やはり優しく訊ねる。
「うーん…………」
 小さい真琴は、こめかみに指を当てて、目を閉じて考え込む。
「記憶喪失……か」
「ここはやっぱり、警察に届けた方が良いんじゃないですか?」
 俺がそう言うと、真琴さんは、あごに手をあてた。
「私もそう思うけど……」
「警察……?」
 小さい真琴は、急に、怯えたような表情になる。
「怯えてる子を、無理に連れて行くってのも可愛そうな気がするな」
291『優しい氷』6 5/8 ◆kd.2f.1cKc :2007/10/27(土) 17:20:08 ID:k9rwLWYz0

「了承」
「秋子さん!」
 俺は抗議の声を上げるが、家主の決定に逆らえるはずはなく。
「落ち着けば、いろいろ思い出せるかも知れませんし、少しの間でしたら、構わないでし
ょう?」
 優しげに微笑みながら、秋子さんは言う。
「警察の方にも連絡は入れておくから。身元がはっきりするまでは、置いておいてあげよ
うよ」
「秋子さんや真琴さんがそういうんだったら……」
 しょうがないんだろうけど……
「うーっ」
 俺が横目で見ると、そいつはなぜか恨みがましそうな目で俺を見ている。
 なんか、激しく身の危険を感じるなぁ……
「とりあえずもう少ししたら名雪も帰ってきますし、ご飯の仕度、しちゃいますね。皆さ
んはゆっくりしててください」
 あくまで笑顔のまま、秋子さんはそう言って、キッチンの方へと入っていこうとする。
「って、秋子さん!」
 ふと思い出し、俺はあわてて声をかけた。
「はい?」
 秋子さんは、落ち着いたというか、のんびりした様子で振り返る。
「その……今日の晩飯は、いったいなんでしょう?」
 俺は、呻くような声で訊ねる。
「おでんにしようと思ってましたけど、祐一さん、お好きじゃありませんでした?」
 秋子さんは、不思議そうに首をかしげながら、俺に聞き返してくる。
「あ、おでん……でしたか、いや、それなら、それで」
 あの材料でまともなおでんができるのだろうか…………
292『優しい氷』6 6/8 ◆kd.2f.1cKc :2007/10/27(土) 17:21:06 ID:3koYktb70

「いただきまーす」
 …………どうしてできるのかなぁ。
 四角い、赤いおでん鍋の中で、ぐつぐつと普通に、ありふれたおでんが煮えている。
「あつつっ、はふはふはふ……」
 いや、ありふれたというのは、秋子さんに失礼か。
 味の方は超一品。これぞ日本に伝わるおふくろの味。
「がっがっがっ、んぐんぐんぐんぐ……」
 ……見た目は、ティーンでも、通そうと思えば通るんだけどなぁ、秋子さん。こういう
ところはやっぱり、母親というか、なんと言うか。
「ひら天もう1枚ー」
「って、おい!」
 俺の左側で、ガツガツと飯をむさぼっているちびすけの真琴に、俺は突っ込みを入れる。
「あぅ?」
 箸を鍋に伸ばしたまま、そいつは俺の方を向いてキョトンとする。
「お前、ちょっとは遠慮しようって気にはならないのか!」
「良いじゃない、別に。あんたに関係ないでしょ!」
「関係ないわけあるか!」
 ギリギリギリギリ、お互いに歯を剥きあう。
「いいのよ、どんどん食べて。まだ材料に余裕はあるから」
 秋子さんが、笑顔で言う。
「はーい! ほーら」
 ちび真琴は意地悪そうな笑みで俺を見てから、箸を動かすのを再開する。
「祐一君、足りなかったら、私が後で何か作ってあげるよ」
 真琴さんまで、俺の方を見て、苦笑しながら言う。
 何ですか、名雪まで俺の方を哀れむような苦笑で見てるし。悪者は俺っスか?
「なんか、こっちに来てから俺、調子狂いまくりだよな」
 ボソボソと呟くように言う。
293『優しい氷』6 7/8 ◆kd.2f.1cKc :2007/10/27(土) 17:21:37 ID:3koYktb70
 そんな俺をよそに、ちび真琴はおでんをがっついていた。
「まぁまぁ祐一君、そんなに機嫌悪くしないで」
 真琴さんにそう言われては、これ以上文句を言うわけにもいかず。俺はすっきりしない
まま、箸を動かすのを再開した。
294『優しい氷』6 8/8 ◆kd.2f.1cKc :2007/10/27(土) 17:22:10 ID:3koYktb70

「まぁなんか、ここへ来てからめまぐるしくいろんなことがあったな……」
 食後。
 部屋で、ベッドの上でごろごろしながら、そんな事を考える。
 いきなり最初に真琴さんと再会するサプライズ。まぁ名雪の奴が待ち合わせブッチして
凍死しかけたってのもあったけど。あゆとも再会、それから、新しいクラスメイトの留美。
それと、美坂香里……こいつは悪い意味で覚えてしまった。うまくやっていけそうにない。
外見は似ていないけど性格はどっちもボケボケした感じの倉田姉妹。そして……
「そうか……今日もそろそろだな」
 俺は起き上がり、ダウンのジャケットを羽織った。
295『優しい氷』6 9/8 ◆kd.2f.1cKc :2007/10/27(土) 17:23:43 ID:3koYktb70
>>287-294
今回は以上です。

ええ約半年振りです。まだ見ておられる方おられますでしょうか?
前と感じが変わってしまっていたらごめんなさい。
296名無しさんだよもん:2007/10/27(土) 18:54:11 ID:K68lKqSi0
うわあ。随分とお久しぶりですな。
また読ませていただきますとも。
297名無しさんだよもん:2007/10/29(月) 03:19:26 ID:udwzJYzEO
待ってましたー!
相変わらず良いですね〜、続き期待してます
298名無しさんだよもん:2007/11/02(金) 01:40:49 ID:GUmgLDCu0
久しぶりに(ry
乙(ry
299『優しい氷』7 1/7 ◆kd.2f.1cKc :2007/11/05(月) 17:08:26 ID:avk83KDg0
 俺は階下へと降りてきた。
 リビングに入り、見渡す。真琴さんの姿は無い。
「もう行っちゃったかな……?」
 そう思い、入り口のところにかけてあるキーフックを見た。
 真琴さんのキーホルダーは……まだあるな。
 …………
 何で真琴さんが、こう、かわいい女の子のと言うか、巷で言うところの“萌えキャラ”
のキーホルダーを付けてるのかな。
 このキャラって確か名前は長森、瑞……
「あ、祐一君」
 俺がそんな事を考えながら見ていると、丁度入り口に来た真琴さんは、俺の名前を呼び
ながら、リビングに入ってくる。
「今日も準備万端だね」
 俺がダウンジャケットを着ているのを見て、真琴さんは妙に楽しそうに言った。
 そういう真琴さんも白いダウンジャケット。今更だが、本当に白の似合う人だ。
「それじゃ、行こうか?」
 真琴さんはキーフックから、ジムニーのキーのついた、自分のキーホルダーを取る。
「はい」
300『優しい氷』7 2/7 ◆kd.2f.1cKc :2007/11/05(月) 17:08:57 ID:avk83KDg0

 ガラガラガラガラ……
 シャッターを閉めて、ジムニーの助手席に収まる。
 ジムニーは住宅街をすり抜けて、やがていつものように、市電の走る大通りへと出た。
「今日は、夜にもまたひと降り着そうね」
「雪、ですか?」
 俺は少しげんなりして答えた。
「うん。祐一君、雪は嫌い?」
 頷いてから、真琴さんは優しげに微笑んで、一瞬こちらを見た。
「雪って言うか、寒いのはずっと苦手です」
「そっか」
 真琴さんはフロントガラスの前を見ながら、俺の答えに苦笑した。
「それに、雪って……────」
 俺はなんとなく言いかけたが、突然、言葉が詰まった。
 …………!?
 雪が……なんだ?
 俺は一体、何を言おうとしたんだ?
「? どうしたの?」
 真琴さんは、少し心配そうになった表情で、視線を一瞬こちらに向けて、聞いてくる。
「……いや、なんか度忘れって言うか、思い過ごしだったみたいです」
 俺はそう言って、ジムニーのシートの上で姿勢を直した。
 やがてジムニーは、左折のウィンカーを出して、昨日、一昨日と同じコンビニの駐車場
に入った。
 俺と真琴さんは、ジムニーを降り、店内に入る。
「いらっしゃいませー」
 淡々とした口調、ヤブニラミするような表情。また今日も『あまの』かよ。
301『優しい氷』7 3/7 ◆kd.2f.1cKc :2007/11/05(月) 17:09:28 ID:avk83KDg0
 っていうか、こんな時間にアルバイトしていて良い身分なのだろうか? 親は何も言わ
ないのだろうか? 俺もここに来る前はバイトしていたが、男子と女子では扱いも違うだ
ろう。
 まぁ、どうでもいい……か。
 俺はホット缶のコーナーに向かう。
 スクリューキャップの、大き目の缶コーヒーを取る。微糖。
 レジに持っていく……今日も『あまの』は、不機嫌そうというか、無愛想な表情で応対
する。
「138円になります」
 俺はやれやれと思いつつ、小銭で150円を取り出す。
「ああ、シールで良いです」
「はい、かしこまりました」
 袋を取り出そうとした『あまの』に、少し慌ててそう言うと、『あまの』はシールを缶
のバーコードの上に貼り付けて、両手で俺の方に差し出した。
 …………表情や口調は不愉快だが、ひとつひとつの動作はむしろバカがつくほど丁寧な
んだな、こいつ。
「…………今日、放課後、商店街に居ましたよね?」
「えっ?」
 いきなり、『あまの』が、俺に質問してきた。俺は、突然の事に、一瞬、うろたえてし
まう。
「ツインテールの、赤毛の髪の女の子……」
「な゛っ」
 一瞬、裏返った声を出してしまう。
「何のことかな? 俺は……」
「あーっ!」
 ビクッ!
 突然出された大声に、俺は反射的に身をすくめた。
302『優しい氷』7 4/7 ◆kd.2f.1cKc :2007/11/05(月) 17:10:04 ID:avk83KDg0
「祐一君、今日も1人で先に買っちゃってるー」
 かごを手に下げた真琴さんが、背後で不満げに言う。
「あ、いやその……ですね」
 俺は気まずそうにしながら、後ろの真琴さんにレジの正面を譲るように、右にずれる。
「もう、気にしないでって言ってるのに」
 少しむくれつつ、真琴さんはそう言いながら、カウンターにかごを乗せる。
「いらっしゃいませ」
 『あまの』の、淡々とした声。
 こいつ、何を言いかけて……まぁ、あの騒ぎじゃ、見てれば誰でもツッコミたくなるか。
 俺はそう思いながら、買った缶コーヒーを持って、入り口の方に離れた。
「あっ、それとね」
「ピザまん2つ、ですね」
 …………読まれてんなー……
303『優しい氷』7 5/7 ◆kd.2f.1cKc :2007/11/05(月) 17:10:35 ID:avk83KDg0

 コンビニを出たジムニーが、一路、学校へ向かう。
 商業ビルの密集しているあたりを抜けると、視界が開け、小高い丘がそこから見えた。
 この光景、見た覚えが……うん? でも、少し違うような気がする……なんだろう?
「まぁ、いいか」
「?」
 やがてジムニーは、夜の帳の中、街灯の明かりが妙に幻想的に見える学校へとたどり着
いた。
 曇った空に遮られた星明りの代わりに、積もった雪に反射した街灯の光が、淡く差し込
んでくる。
 今日も、舞は、そこに居た。
 1人で、階段の踊り場に座っている。
「こんばんは、舞ちゃん」
「こんばんは」
 真琴さんの声に、舞はくるりと首を回すと、真琴さんの顔を向けて、挨拶を返してきた。
「よう、こんばんはだな」
「祐一も、こんばんは」
 俺が声をかけると、舞は俺の方に視線を向けて、そう言った。
「ご飯、持って来たよ」
「ありがとう」
 舞の隣に座り込んだ真琴さんが、包みを広げ始める。舞は淡々とながらもお礼を言う。
「そう言えば、舞」
 俺は真琴さんの反対側から、壁に寄り添った状態で、身をかがめて舞に聞く。
「お前、生徒会長だったんだって?」
 俺が訊ねると、舞は箸をくわえつつ、こくん、と頷いた。
「うん、そう」
「へぇーっ」
304『優しい氷』7 6/7 ◆kd.2f.1cKc :2007/11/05(月) 17:12:02 ID:saDPjVI80
 真琴さんが、驚いたような声を上げた。
「私もそれは初耳、そうだったんだ」
 そう言って、真琴さんは興味深そうに、舞の顔を覗き込む。
「佐祐理が私を推薦したから……」
「へぇ」
 口の物を嚥下した合間に、舞が言う。それに対して、声を出したのは真琴さん。
「本当は、佐祐理がって話だったんだけど……」
「え゛?」
「は?」
 舞の言葉に、俺と真琴さんはそろって呻くような声を出す。
 佐祐理さーん!? 自分が面倒くさいからって、舞に押し付けましたかー?
「その頃、佐祐理、栞のことで手がいっぱいだったから……」
「あ、そうか……一昨年の秋ごろなら、丁度栞ちゃん、一番調子悪い頃だよね」
 舞が言うと、真琴さんは思い出したように、舞の言葉を肯定した。
「そうだったのか。それじゃあ、しょうがないな」
 俺はため息混じりに苦笑しつつ、そう言った。
「偉いな、舞は。そんな事が気遣えるなんて」
 俺はそう言って、半ば自然に舞の頭を、そっと撫でていた。
「…………」
 舞は食べ物の咀嚼を続けているが、真琴さんはぎょっ、としたように、俺を見上げた。
「…………祐一君、上級生」
 真琴さんは、舞を指差して、唖然としたような表情で言う。
「って、おうわっ!?」
 俺自身も慌てて手を離し、2・3歩後ろへと退いてしまった。
 舞は、箸をくわえると、無表情のまま、俺が撫でていたあたりを自分の右手で撫でる。
「大丈夫……嫌いじゃないから……」
 舞が言う。
305『優しい氷』7 7/7 ◆kd.2f.1cKc :2007/11/05(月) 17:13:36 ID:saDPjVI80
「お、おう……そうか……スマン」
「やれやれ、祐一君はだいぶ舞ちゃんのことが気になってるみたいだね」
 真琴さんは、苦笑気味に微笑みながら、自分で抱えていたコンビニ袋を広げ始めた。
「そ、そういうんじゃないですってば! ただ、こう、なんとなく、自然にって言うか」
「はいはい」
 説明する俺の言葉を聴きつつ、真琴さんは満面の笑顔で、それを取り出した。
「んー、やっぱり寒い夜にはピザまんに限るよね」
 ああ、はい、毎日言ってるんですね、その言葉。
306『喧しい水』7 8/7 ◆kd.2f.1cKc :2007/11/05(月) 17:15:03 ID:+LIc3TTi0
>>299-305
今回は以上です。
307名無しさんだよもん:2007/11/05(月) 18:44:15 ID:yopxUmYx0
いやあ、これはこれは。乙です。
308名無しさんだよもん:2007/11/05(月) 22:05:55 ID:cZqW+80T0
おお、いつのまにか復活してましたか
まってましたよー

乙です
309名無しさんだよもん:2007/11/16(金) 19:12:41 ID:x97hzHQC0
     ∧_∧真琴は昔拾った狐なんだ。 
    (`・ω・´)      ∧_∧
   /     \    ( ´Д`) (オイ、なんか変なのがいるぞ)
.__| |    .| |_ / 秋子 ヽ
||\  ̄ ̄ ̄ ̄   / .|   | |
||\..∧_∧    (⌒\|__./ ./
||. (     )目合わせるなって   ∧_∧
  /   ヽ           \|   (    ) うわー、なんか言ってるよ
  | うぐぅ ヽ           \/ 名雪 ヽ.
  |    |ヽ、二⌒)        / .|   | |
  .|    ヽ \∧_∧    (⌒\|__./ /
310『優しい氷』8 1/5 ◆PzUpV8gLts :2007/11/17(土) 12:27:23 ID:F8vlvLFS0
「あ、降って来たね」
 舞と別れ、校舎から出てくると、綿毛のようなものが、あまり風もない夜空から舞い降
りてきていた。
 ジムニーの助手席のドアを開けて、座席に乗り込む。
 窓越しに、校舎を振り返った。
「…………」
 真琴さんがキーを捻る。軽いセルの音がする。2ストロークの回転を安定させるのに、
軽く空吹かしする。
「どうしたの?」
 ギアを入れようとして腕を動かした真琴さんが、俺に声をかけてきた。
「いや、舞のやつ、大丈夫かなと思って」
 真琴さんの方を向いてそう言うと、真琴さんはくす、と苦笑気味に笑った。
「やっぱり祐一君、気になるんだ」
「別に、そう言うんじゃないですってば」
 俺が慌ててそう言うと、真琴さんはにこっ、と満面の笑顔になって、言う。
「あれ、同じ学校の先輩を心配するのが、そんなに困った事なのかな?」
「ぐ……」
 俺が言葉に詰まると、真琴さんは楽しそうな笑顔のまま、正面を向く。クラッチを踏ん
で、ギアを繋ぐ。
 ジムニーのほとんどまっ平らなフロントガラスで、降ってきた雪が、ヒーターの熱で溶
けて水になる。それをワイパーがかきとって行く。
「舞、傘とか持ってきてるのかなと思ったんです」
「それは大丈夫だと思うけど」
 大通りをジムニーを走らせながら、真琴さんは答える。
311『優しい氷』8 2/5 ◆PzUpV8gLts :2007/11/17(土) 12:28:00 ID:F8vlvLFS0
「それにしても、名雪と言い舞と言い、良くあんな薄い制服でこの寒さの中平気だなって
思いますよ」
「あはは」
 真琴さんは苦笑してから、言う。
「慣れの問題もあるし、2人とも体育会系だからねぇ」
「いや、それは違うと思う」
 俺はエンジン音に紛れて、真琴さんに聞こえないように小さくつぶやいた。
「舞も体育会系……ですか?」
 部活の話は聞いていなかったが……と、俺は思い出して、真琴さんに訊ねた。
「うーん……どっちかって言うと、体育会系って言うか、武闘派、かな?」
 真琴さんが苦笑気味に言う。
「って、武闘派、ですか……? あいつ……」
「うん、特定の格闘技とかやってるわけじゃないけどね」
 正面を向いたまま、ニコニコと笑いながら真琴さんは言う。
「は、はぁ……」
 武闘派ね……まぁぱっと見確かに鋭そうなところがあるけど、でもそれにしては、なん
となく抜けてるというか、そんなところもあるような気がするがな。
 ジムニーは住宅街に入り、水瀬家に着く。
312『優しい氷』8 3/5 ◆PzUpV8gLts :2007/11/17(土) 12:28:33 ID:F8vlvLFS0

「ぷはー」
 コップに注いだ牛乳を煽る。
「この1杯のために生きてるよなぁ、なんてな」
 風呂上りの俺はそんなことを呟きながら、コップを流しでざっと荒い、水切りに入れて
台所を後にする。
 階段を上がって、自分の部屋に戻る。
「なんだかいろんなことがあったよなぁ……」
 ベッドに座って一息つき、1人で呟いた。
 ベッドの上で大の字に転がると、一気に疲れが吹き出してきた。
「一気にいろいろありすぎだろ、今日は……」
 呟いてから、一度身を起こす。点けていたストーブと、電気を消して、布団の中に潜り
込む。
 そのまままどろみ始め、眠りに落ちていった…………
 ……………………
 …………
 ……
「ん……」
 目が覚める。
 枕もとの目覚まし時計を見ると、午前2時少し前を指していた。
「トイレ……」
 生理的欲求に従い、俺は起き上がり、ベッドから抜け出す。
「くっ、さぶっ……」
 少し出るにも、パジャマだけでは辛い。
313『優しい氷』8 4/5 ◆PzUpV8gLts :2007/11/17(土) 12:29:05 ID:F8vlvLFS0
 半纏を着込み、部屋を出た。
 階下に降り、トイレに入った。
 水道の凍結防止の為か、パネルヒーターが点けっぱなしになっていて、トイレの中は少
しだけ暖かい。
 用を足して、水を流す。
「ん……?」
 トイレを出てくると、LDKに灯りが着いている事に気になった。
「なんだ……秋子さん、起きてるのか?
 カチャカチャ、と、ダイニングの方で音がする。
 覗きこむと、2人の人影があった。
「ダブル真琴……」
 思わず呟いた。
「あ、祐一君」
 俺の姿に気付いた真琴さんが、声をかけてくる。
「あ、真琴さん」
 俺はダイニングの2人の方に近付いていく。
「あひよぉ……ほへははへなひははへ」
 皿に盛られた焼きそばを口に運ぶ箸をくわえて、真琴(小)が俺を睨む。
「口に物を入れたまましゃべるな」
「ごめん、起こしちゃった?」
 真琴さんの声に、俺はそちらを向く。
「いえ、別にそういうわけじゃないです。……夜食、ですか?」
「うん、なんかお腹空いてたみたい」
 ソースの匂いが鼻につく。
314『優しい氷』8 5/5 ◆PzUpV8gLts :2007/11/17(土) 12:29:36 ID:F8vlvLFS0
「お前なぁ……真琴さんだって仕事あるんだから、いちいち手間かけさせるなよ」
 俺は呆れて、真琴(小)に言う。
「らっへおははふいらんらもん」
 真琴(小)は口に運ぶ手を止め。俺を睨んでくる。
「だから、口に物を入れたまましゃべるな」
「あはは、祐一君も作ろうか?」
 真琴さんは苦笑して言う。
「いえ、俺はいいです……すみません」
 立ち上がりかける真琴さんを制して、俺も苦笑した。
 俺は冷蔵庫から牛乳を取り出し、コップに1杯注いで、口に運んだ。
「祐一君、別に付き合わなくてもいいよ? 早く寝た方が」
「あ……はい、すみません」
 実は、最初からあまり付き合うつもりはなかったのだが……
 真琴さんと一緒には居たい気がするが、どうも真琴(小)とは噛み合わない。疲れる。
「真琴さんもあまり無理しないでください」
「うん、大丈夫」
 牛乳のパックを片付けながら言うと、真琴さんはにこっと笑って、そう言った。
「じゃあ、すみません、先に寝ますね」
「はい、おやすみなさい」
「はっはふぉいひははひひょぉ」
 お前には言ってない、と、口には出さずに真琴(小)に悪態をつき返してから、階上に上
がる。
 自分の部屋に……ベッドの中に戻り、俺は再び眠りに落ちた。
315『喧しい水』8 6/5 ◆kd.2f.1cKc :2007/11/17(土) 12:30:54 ID:IXQrGoji0
>>310-314
少し短いですが、今回は以上です。
316名無しさんだよもん:2007/11/17(土) 12:45:08 ID:sSDDjQrh0
乙だ。
土曜日の午後にまったりと読まして頂いた。
次回もまたヨロ
317名無しさんだよもん:2007/11/17(土) 20:21:38 ID:TRYDYDnr0
乙でした。
和むねえ。。。今年もKanonの冬が来る。
318名無しさんだよもん:2007/11/22(木) 23:01:47 ID:+AmoLOg80
頑張り次第では素人が捕まる。俺は実際に2、3人と会えた。
http://hohoi.ichiya-boshi.net/
319名無しさんだよもん:2007/12/03(月) 18:48:18 ID:Y5TrlC0+0
今年もKanonの冬がやってきたねえ。保守。
320名無しさんだよもん
ほっ