南のホール。
機械的に呼ばれ、そして狂気の島へと放り出されていくコテハンたち。
あるものは諦観し、またあるものは憤怒し、またあるものは泣きながら。
やがて、ホールに残る参加者は、2人と、ひとつの肉塊なった。
「マンコスター伯爵」
二律背反の声が響くと、マンコスター伯爵は気だるげに腰をあげた。
「……」
「なんですか?(w」
うつろな目でこちらを睨むマンコスター伯爵に、二律背反がたずねる。
「あぁ……死にてぇ」
「……」
マンコスター伯爵は、近くに横たわる、それを見下す。
目を見開き、血の海に埋もれた山下大先生の成れの果てを。
どうして、これが自分でないのか。
あのとき、一番に声を上げていたのが自分なら、きっと死ねたはずだった。
痛みは……なかったと思う。
エリート生活。 そんなもの、自分には苦痛しか与えてくれなかった。
なんど、死にたいと思ったことか。
憂鬱を酒と、葉鍵板でごまかした。
ネット上でなら、いくらか憂さ晴らしもできた。 事実、そうしてきた。
だがここ最近は、その効果も薄れてきたように思う。
社交辞令も、生活も、なにもかも全てが苦行だ。
マンコスター伯爵は、死への羨望に苛まれていた。
息絶えた【それ】を見て、羨ましかった。
「……誰か殺してくんねぇかなぁ」
「だったら、デイバッグを受け取りなさい?」
二律背反が、デイバッグをマンコスターに投げよこす。
が、マンコスターの手は動かず、デイバッグは音を立てて床に落ちた。
「……」
それを見つめるだけのマンコスターに、二律背反が声を掛ける。
「そこに銃が入っていたら、あなたの思うようになさい」
「……」
「銃なら、死ぬのも怖くないでしょう?」
「……そうだな」
銃なら、痛みを感じる前に死ねるだろう。
マンコスターはデイバッグを拾い、外に出た。
マンコスターはホールを出てすぐ、壁にもたれる。
デイバッグを開き、中を確認する。
食料、水、地図……武器は。
死ねる、道具は……。
「……ない」
そこにあるのは、文房具のコンパス。
こんな針じゃ、死ねない。
「……」
大きく、息を吐く。
「……」
「……」
「ミルフィーユ桜葉」
「――は、はいっ」
すぐ後ろでは、二律背反の声に、最後の参加者が、立ち上がる。
そうだ。
「……これで」
マンコスターは頭に描いた作戦を遂行しようと息を潜める。
やがて、デイバッグを胸に抱えたミルフィーユ桜葉が外に出てくる。
マンコスターの手には、コンパス。
そして――。
「――ひっ!」
ミルフィーユ桜葉の息が、詰まる。
首筋に立てられた、コンパスの針。
震える、体に、ちくちくと針が当たる。
これでは殺せないけど、他人に恐怖を与えるのには十分だった。
マンコスター伯爵は相手が反撃して来ないのを確認すると、重々しく口を開いた。
「……デイバッグを開け」
「ひっ……ひぃ……」
「開けえっ!」
「は、はいっ!」
マンコスターの一喝に、ミルフィーユが畏怖しながら従う。
コンパスの針を立てたまま、目を瞑る。
「武器をよこせ」
「……は、はいっ」
ミルフィーユが差し出したそれを、マンコスターは受け取る。
これが、銃なら。
……俺は、死ねるだろう。
死ぬのが望みでも、傷つくのは、好きじゃない。戦闘の末に死ぬのはまっぴらだった。
だから、俺は、人を傷つけて、そして、自分で死のう。
さぁ。俺を殺してくれ。
目を開けて、【それ】を確認する。
「……」
絶望。
「……」
掌の中にあるそれは、なにか古ぼけた銀製の鍵がひとつ。
こんなものじゃ。こんなものじゃ。俺は死ねない。俺は。
俺は。
死ねない。
殺し合いの島に放り投げれても、自分は死ねない。
「……」
「……あ、あの、僕をどうするんですか……?」
ミルフィーユのおびえきった声が、マンコスターを現実に引き戻す。
「……ああ」
マンコスターは、ミルフィーユを開放した。
ぺたん、とその場に崩れ落ちるミルフィーユが、こちらを見上げる。
脅えきった、自分よりも10も若い男の双眸が、
『死にたくない』
と、訴えていた。
自分は、こんなにも死にたいというのに。
それに直面したこいつは、死にたくないと嘆願している。
吐きそうだった。
「……」
「……あ、あの」
「……行けよ」
「は、はいっ……?」
「行けって…………イケェェェェッッ!!!」
マンコスターは、咆哮をあげると、
「は……はぃぃいいいいいい!」
ミルフィーユは、覚束ない足取りで立ち上がり、デイ自分のバッグを抱えるとなんどもつまづきながら遁走した。
「……くそ」
それを見送ると、マンコスター伯爵は、糸が切れたように腰を落とした。
回避
自己回避
回避
回避
まだカケン……
膝を抱え、目を瞑る。
あの目を、見ていると、嘔吐しそうだった。
『死にたくない、死にたくない』
そう訴える男の目が、なぜかひどく、恐ろしかった。
「……ぐ……ぁ」
口元を押さえ、わなわなと体を震わせる。
よせ。
よしてくれ。
誰か。
誰か。
誰か。
誰か俺を殺してくれ。
痛みもなく。眠るように。
世界を、終わらしてくれ。
誰でもいい。
誰でもいいから、俺の脳天に、鉛の弾をぶち込んでくれ。
なあ?
なあ!
「…なあ……なあ?……あ……………うわああああああああああああ!!!!!!!」
マンコスターの絶叫を、聞くものは、いなかった。
マンコスター伯爵(東大愛佳@自治いいんちょ)
【時間 11:00】
【場所 I-05(コテハン用スタート地点すぐ)】
【持ち物 コンパス、古ぼけた鍵(銀製)】
【状況 しばしの後、移動を開始する】
【状況2 死にたがりだが、殺されたくはない】
ミルフィーユ桜葉
【時間 11:00】
【場所 I-05(スタート地点から、全力疾走中)】
【持ち物 なし(食料等はある)
【状況 恐怖・疾走】
地図
ttp://www.geocities.jp/hr2_routes/map3.jpg 自分が改変したやつしか見当たらなかったので……。
とりあえあず、書いてあるスタート地点は無視で、
I-05 の海岸付近をコテハン用スタート地点。
A-02 の岬(S1のとこ)をスタッフ用スタート地点としとく