葉鍵ロワイアル3作品投稿スレ9

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1名無しさんだよもん
葉鍵キャラが殺しあう葉鍵ロワイアルの作品投稿専用スレです。

・書き手ルール
・このリレー小説の大きな特徴は、書き手は「どの話の続きを書いてもいい」ことです。
 納得できない作品があったらNGを出すのではなく、自分が納得できる展開を書いてください。
 あなたの書いた作品のほうが面白ければあなたの書いた作品の続きを誰かが書いてくれます。
 そうでなければ、放置されっぱなしです。適者生存。

・上記のルールのため、自分が投稿する作品にはどの作品の続きなのかを明記してください。
 その際には自分が書いたキャラの直前の作品ではなく、
 自分が投稿したいルートに投稿された最後の作品を書くこと。
 これは新たに物語を分岐させない場合でも同様です。
(もし、複数のルートが同時に成立した場合、読み手の方々にわかりやすくするため)

・上記のルールのため、自分が投稿する作品には必ず題名を明記してください。
・NGはありませんが、意図的にルートを分ける時以外は極力、前後の状況と矛盾しないようにしてください。

・書き手さんは投稿した作品の最後に出演したキャラの状況を明記してください。
 書く内容は時間、場所、持ち物、肉体的・精神的状況。
 例
 古河渚
 【時間:午後2時ごろ】
 【場所:ホテル跡(E-04)】
 【持ち物:デリンジャー(銃弾装填済み)、予備弾丸×9、水・食料一日分】
 【状況:ひざに擦り傷(血は止まってる)、極度の疲労】
2名無しさんだよもん:2006/12/29(金) 21:11:24 ID:sUJYepR00
ゲームルール
【基本ルール】
・全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が勝者となる。
・生き残った一人だけが、帰ることができる。
・プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる。

【スタート時の持ち物】
・プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収される。
 ただし義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない。また、衣服は持ち込みを許される。
・ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を支給される。以下の物は「デイパック」に詰められ支給される。
 中身は「地図」「コンパス」「懐中電灯」「筆記用具」「水と食料」「名簿」「ランダムアイテム」

【首輪について】 ・ゲーム開始前からプレイヤーは全員、首輪を填められている。
・開催者側は、いつでも自由に首輪を爆発させることができる。
・この首輪はプレイヤーの生死を常に判断し、開催者側へプレイヤーの生死と現在位置のデータを送っている。
・24時間死者が出ない場合は全員の首輪が発動し、全員が死ぬ。
・「首輪」を外すことは専門的な知識がないと難しい(無理やり取り去ろうとすると、首輪が自動的に爆発する)。
・会場である孤島から脱出すると爆発する。
・プレイヤーには説明はされないが、実は盗聴機能があり音声は開催者側に筒抜けである。

【能力制限】
・特殊な能力を持つキャラはその力を制限される。
3名無しさんだよもん:2006/12/29(金) 21:11:55 ID:sUJYepR00
参加者名簿&会場地図
1相沢祐一 2藍原瑞穂 3朝霧麻亜子 4天沢郁未 5天野美汐 6一ノ瀬ことみ
7伊吹公子 8伊吹風子 9イルファ 10エディ 11太田香奈子 12岡崎朋也
13岡崎直幸 14緒方英二 15緒方理奈 16折原浩平 17柏木梓 18柏木楓
19柏木耕一 20柏木千鶴 21柏木初音 22梶原夕菜 23鹿沼葉子 24神尾晴子
25神尾観鈴 26神岸あかり 27河島はるか 28川澄舞 29川名みさき 30北川潤
31霧島佳乃 32霧島聖 33草壁優季 34久寿川ささら 35国崎往人 36倉田佐祐理
37来栖川綾香 38来栖川芹香 39向坂環 40向坂雄二 41上月澪 42河野貴明
43幸村俊夫 44小牧郁乃 45小牧愛佳 46坂上智代 47相楽美佐枝 48笹森花梨
49佐藤雅史 50里村茜 51澤倉美咲 52沢渡真琴 53椎名繭 54篠塚弥生
55少年 56新城沙織 57春原芽衣 58春原陽平 59住井護 60セリオ
61醍醐 62高槻 63篁 64橘敬介 65立田七海 66月島拓也
67月島瑠璃子 68月宮あゆ 69遠野美凪 70十波由真 71長岡志保 72長瀬源蔵
73長瀬祐介 74長森瑞佳 75名倉由依 76名倉友里 77那須宗一 78七瀬彰
79七瀬留美 80仁科りえ 81柊勝平 82氷上シュン 83雛山理緒 84姫川琴音
85姫百合珊瑚 86姫百合瑠璃 87広瀬真希 88藤井冬弥 89藤田浩之 90藤林杏
91藤林椋 92伏見ゆかり 93古河秋生 94古河早苗 95古河渚 96保科智子
97松原葵 98マルチ 99美坂香里 100美坂栞 101みちる 102観月マナ
103水瀬秋子 104水瀬名雪 105巳間晴香 106巳間良祐 107宮内レミィ 108宮沢有紀寧
109深山雪見 110森川由綺 111柳川祐也 112山田ミチル 113湯浅皐月 114柚木詩子
115柚原このみ 116柚原春夏 117吉岡チエ 118芳野祐介 119リサ=ヴィクセン 120ルーシー・マリア・ミソラ

会場:沖木島(原作バトルロワイアルの舞台)
http://www.geocities.jp/hr2_routes/map3.jpg
4名無しさんだよもん:2006/12/29(金) 21:13:17 ID:sUJYepR00
前スレ・関連スレ・まとめサイト・関連サイト
・前スレ
葉鍵ロワイアル3作品投稿スレ8
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1166029269

・感想・考察・運営スレ
葉鍵ロワイアル3感想・考察・運営スレ5
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1166852401

・まとめサイト
http://www.geocities.jp/hr2_routes/index.htm

・補助サイト
http://3rd.geocities.jp/takatukirori/hakarowa3.top.html

・関連スレ
葉鍵ロワイアル統合スレ16
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1126394892/
5名無しさんだよもん:2007/01/02(火) 16:46:31 ID:DTbKuEyt0
作品マダー チンチン
6序盤戦:2007/01/02(火) 17:39:56 ID:GGzQ8v1W0
「クソッ、面倒なことになったもんだ…」
服を無理矢理引き千切って、自らの負傷箇所を服の切れ端でグルグル巻きにする宗一。
「すまない、僕がこっちに逃げてきたせいで」
狭い茂みの中で本当にすまなさそうに謝る敬介に、宗一は苦笑する。
「そういうことはここから脱出できたらにしてくれ。それに、遅からず戦闘はどこかで遭遇するもんだ」
言った直後、ガサッ、と比較的近くの茂みが揺れた。秋子が発砲しているのだ!
ヘイ、可愛らしい子猫ちゃん。お仕置きしてあげるから大人しく出てきなさい。
そしてお仕置きの結果、那須宗一と橘敬介はカラスのエサになりましたとさ、めでたしめでたし。
――冗談じゃない。
まずは相手を無力化するか、逃げるしかない。…しかし、あの水瀬秋子はどこまでも追跡してくるに違いない。そこから先は命を賭けた鬼ごっこだ。こちらが負傷している以上、逃げきれる確率は低い。
ならば、迎撃するしかない、しかしどうやって対抗する? 武器の質ならあちらの方が断然有利だというのに――
ふと、宗一は銃声がしなくなったことに気付いた。おかしい、相手を逃がすつもりがないなら撃ち続けるのが鉄則だ。ましてや、相手はこちらのおおよその位置を掴めているというのに――
そこで一つの結論に至る。固まった敵を、一瞬で殺すには――
ガサッ、と再び音がして何かが焼けるような音が聞こえた。聞こえた時には、既に宗一は茂みをかき分け、それに飛びついていた。
「…やっぱダイナマイトか!」
導火線はすでに短い。宗一は肩の痛みを堪えながら必死に投げ返した!
ひゅっ、という音と共にサイドスロウの要領で投げ返されるダイナマイト。ほれ、ブーメランが帰ってきましたぞ、秋子おばさん。
直後、一帯に爆音が響いた。
7序盤戦:2007/01/02(火) 17:41:07 ID:GGzQ8v1W0



水瀬秋子は驚きを隠せなかった。澪が出て来たのもそうだが、宗一がダイナマイトを投げ返してきたこともそうだった。無論、投げ返されたダイナマイトは秋子達の位置からは離れていたがその爆風で秋子と澪は一瞬動きを取れなくなる。
投げ返した直後の宗一を狙おうかと、あるいは思っていた秋子だが爆風により中断を余儀なくされる。それよりも――
「――澪ちゃん! どうして出てきたの!? 待ってなさいって言ったはずでしょう?」
大声で言うが、澪はぶんぶんと首を振って聞こうとしない。それどころか、強い、決意に満ちた目で秋子を見上げる。
その瞳から、秋子は何を言っても無駄だろう、とすぐに気付いて、「…了承」と言った。――この間、一秒。
澪の装備は敬介のものを流用しているらしく、拳銃もあった。しかし、それよりもダイナマイトだ。秋子は再び診療所の影に隠れながら澪に言う。
「澪ちゃん、ダイナマイトに火をつけたものは、持ってるわね?」
こく、と一秒で頷いて、どうやら診療所から持ってきたらしいライター(100円物だろう)を見せる。
「澪ちゃんは、ダイナマイトでとどめを刺して欲しいの。わたしが拳銃で燻りだしますから、その隙を狙って」
こく、とこれまた一秒で頷き(正確には、コンマ一秒以下だけども)、束にしてあるダイナマイトを解き始めた。そして秋子自身は、再び茂みへの銃撃を再開した。
まずは3発。先ほど宗一のいたあたりに撃ち込む。反応は無かった。
(移動…したのかしら?)
思った瞬間、茂みの中から同様に3発撃ち返された! 直撃こそしなかったものの、1発が秋子の頬を掠める。
「く!」
すぐにその場から銃弾が飛んできた方向に撃ち返す。…しかし、これも命中しなかったようで、発砲直後、今度は正確に銃弾が飛んできた。
まずい、と思って無理矢理体を捻る。それが功を奏したか、はたまた不運か、銃弾は拳銃の方へと命中した! 拳銃は診療所から離れた後方へと飛んでいった。
「しまっ…」
外傷は無いものの、武器を失うのはまずい! しかし、拳銃に飛びつけば、待ってましたとばかりに銃弾が撃ちこまれるだろう。…ならば。
「澪ちゃんっ!」
言うまでもなく、今度は2本、火の付いたダイナマイトが投げこまれた。その隙に、秋子は後方へと猛ダッシュする。
8序盤戦:2007/01/02(火) 17:41:44 ID:GGzQ8v1W0
今度は投げ返されるのを警戒して、茂みの少し手前に投げた。完全に殺傷するまでに至らなくても、秋子が銃を拾えれば良かった。
敵方もそれが分かっていたようで、爆発する寸前、にわかに那須宗一が茂みから顔を見せた。
(見えたの!)
再び爆発。今度は2発分。凄まじい爆風が澪の顔を襲うが、意地でも宗一からは目を離さなかった。そして、ついに宗一が隠れた茂みの位置を見つける。ロック・オン。
すかさず、秋子に向けて位置を指し示す。秋子が頷いて、指のさした方向へ、拳銃がホールド・オープンするまで撃ち続けた。
ぐっ、と呻き声が聞こえたような気がした。



「今度は爆発音かっ!?」
診療所まで、目と鼻の先――そんな位置まで、祐一達は来ていた。ひとの命を救うはずの診療所が、今は命を奪い合うキリング・フィールドとなっていたけれども。
「…少年。本格的にやばい雰囲気がしてきたな。恐らく高確率で、戦闘が起こっている」
英二の言葉を聞いた祐一が、舌打ちする。
「何だってんだよ…どうしてどいつもこいつも殺し合いなんかしたがるんだ…」
祐一の憤りにも、英二は冷静に答える。
「さぁな。誤解から生じたものかもしれない。あるいはさっきのまーりゃん、とかいう子みたいな殺人者が仕掛けたのかもしれない。どうにせよ、僕達は決断を迫られている」
このまま危険を承知で診療所までいくのか、あるいは一時撤退してでも全員の命を確保するか。
…しかし、観鈴には時間が無さ過ぎる。それに、追っ手のマルチのこともある。今は見えないが、いつ仕掛けてくるか分かったもんじゃない。
「…英二さんは、どうするのがベストだと思います?」
「ふむ、そうだな…少年は?」
「…決められないから聞いたんじゃないですか」
「うん、僕も同じだ」
英二の返答に、少し肩を落とす祐一。しかし、気持ちは分かる。どんな些細なミスでも即、死に繋がる。そのような状況で、軽々しく決定などできようはずもない。だが、タイムリミットは刻々と近づいている(クソ、全部はあのまーりゃんのお陰だ)のだ。
「…それじゃあ、二人で今のベストを言いましょう」
うん、と英二が頷いていっせーのー、で言う。
9序盤戦:2007/01/02(火) 17:42:21 ID:GGzQ8v1W0
「「このまま直行」」
見事にハモった。ニヤリと笑いを浮かべる英二。祐一も笑った。
「お互い、大概にバカだな」
「生憎、俺はお人好しなんでね」
奇遇だな、僕もだ、と英二は言うと祐一のデイパックからレミントンを持ち上げた。
「前衛は任せてくれ。少年は観鈴君を診療所に運び込むことだけを考えろ」
「オーケイ。そっちも流れ弾に当たらないようにしてくださいよ」
「勿論だ。そっちこそ、血気にはやって無茶をするな」
診療所に突撃する辞典で十分無茶だろう、と思ったが言わない事にした。
「行くぞっ!」
二人が、一気に街道に飛び出した。
一方、その様子を木の影から窺っていたマルチは次の行動を決めねばならなかった。
(あの方達は動きましたか…しかし、わたしは武器を持っていません)
環に妨害されたせいで丸腰の状態だ。このまま追尾してもどうしようもない。とは言ってもこのままおめおめと引き下がるわけにもいかない。――でなければ、雄二様に…
折檻される自分を想像して、マルチは恐怖に近いものを覚える。絶対に、しくじるわけにはいかなかった。
あの二人の目的地は、すでに把握している。ならば、目的地が分かっているなら遠回りしてでも回り込むこともできるのではないか。
注意は、後ろだけに向けているはず。悪くない作戦ではある。
(――やりましょう。やらなければ、やられる)
大きく迂回するようにして、マルチも行動を開始した。
10序盤戦:2007/01/02(火) 17:43:08 ID:GGzQ8v1W0
【時間:2日目・午前8時00分】
【場所:I−7】

那須宗一
【所持品:FN Five-SeveN(残弾数15/20)】
【状態:左肩重傷(腕は動かない)、茂みに隠れている、秋子を打倒】

橘敬介
【所持品:支給品一式、花火セットの入った敬介の支給品は美汐の家に】
【状態@:左肩重傷(腕は上がらない)・腹部刺し傷・幾多の擦り傷(全て応急手当済み)。観鈴の探索、美汐との再会を目指す】
【状態A:茂みに隠れている、まずはこの状況の打開を考える】

上月澪
【所持品:H&K VP70(残弾数2)、包丁、ダイナマイトの束(3本消費)、携帯電話(GPS付き)、ロープ(少し太め)、ツールセット、救急箱、ほか水・食料以外の支給品一式】
【状態:精神不安定。頭部軽症(手当て済み)・秋子を助けて敵を倒す】

水瀬秋子
【所持品:ジェリコ941(残弾0/14)、予備カートリッジ(14発入×1)、澪のスケッチブック、支給品一式】
【状態:腹部重症(治療済み)。名雪と澪を何としてでも保護。目標は子供たちを守り最終的には主催を倒すこと。今は敬介と宗一の排除】
11名無しさんだよもん:2007/01/02(火) 17:43:10 ID:pU++cV3B0
回避
面白いw
12名無しさんだよもん:2007/01/02(火) 17:43:42 ID:pU++cV3B0
ああ…意味無かった…
13名無しさんだよもん:2007/01/02(火) 17:50:14 ID:pU++cV3B0
と思ったら状態表がまだいるのかな
14序盤戦:2007/01/02(火) 17:50:37 ID:GGzQ8v1W0
緒方英二
【持ち物:ベレッタM92(8/15)・予備弾倉(15発×2個)・支給品一式】
【状態:疲労、一直線に診療所へ向かう】

相沢祐一
【持ち物:レミントン(M700)装弾数(5/5)・予備弾丸(15/15)支給品一式】
【状態:観鈴を背負っている、疲労、一直線に診療所へ向かう】

神尾観鈴
【持ち物:ワルサーP5(8/8)フラッシュメモリ、支給品一式】
【状態:睡眠 脇腹を撃たれ重症(容態少し悪化)、祐一に担がれている】

マルチ
【所持品:支給品一式】
【状態:マーダー、精神(機能)異常 服は普段着に着替えている。迂回しつつ診療所へ回りこむ】

【その他:秋子の発砲で宗一が怪我をしたかどうかは次の人任せ】
B-13、→612

>>11d。
15名無しさんだよもん:2007/01/02(火) 18:43:37 ID:6/N0fFTF0
そこまでおもしろいか?
16対極:2007/01/03(水) 00:30:43 ID:YnTbCJqe0
それは朋也達が由真を運んでいる時の事だった。
突如聞こえてきた足音に振り向く朋也。
そこには鍬を手にして自分達の方へと走りこんで来る七瀬彰がいた。

(あいつ鍬なんて振りかぶってどうする気だ?まさかこんな島に来てまで農作業でもするつもりか?
随分と生真面目な奴なんだな、ホント近頃の若者に見習わせてえよ。学校に遅刻しまくってる俺が言うのもなんだけどな。
――――って)
「―――んなワケねえだろ!」
咄嗟に薙刀を取り出して、迫り来る鍬を受け止める。
手を離したせいで由真の体が地面に落ちるが、今は気にしている余裕は無い。
彰は手を休める事なく鍬を天高く振り上げた。

古傷の影響で右肩が上がらない朋也にその攻撃を受け止める術は無い。
反射的に横に飛び退いて避けようとする。
だが彼は忘れていた――――後ろにはまだ保護すべき仲間達が残っている事を。


「ふうこぉぉぉぉぉぉ!」
朋也の叫びが響き渡る。

風子の胸に鍬が突き刺さっていた。
彰の手に骨を砕き肉を裂く嫌な感触が伝わったが、彼はそれでも気をしっかりと持ち突き刺した鍬を引き抜いた。
同時に鮮血が飛び散り、みちると由真の顔に降りかかる。
力なく、風子の身体は崩れ落ちた。
17対極:2007/01/03(水) 00:31:52 ID:YnTbCJqe0


(風子……死んじゃうみたい、ですね……)
呼吸が出来ずに意識がどんどん薄れていくが、痛みは感じなかった。
―――これでまた姉に会えるかもしれないと思った。
風子には姉のいないこの世界にもう執着する理由が無かったから、彰に対する憎しみは感じなかった。
ただ朋也との別れを惜しみ、彼の今後を案じる気持ちもある。
思考がまとまらないまま、彼女の意識は次第に閉じていった。



(……本当に殺してしまった―――だけど)
彰は血を掃うかのように鍬を軽く振った。
まだ赤く濡れている凶器と化した鍬をじっと見つめた後、残る獲物を睨み付ける。
(僕はこれからもっと多くの人間を殺さないといけない……罪悪感を感じている暇なんて無いんだ!)
彰はまだ風子の死のショックから立ち直っていない朋也の腹を思いっきり蹴りつけた。

「あっ…が…」
呻き声と共に倒れこむ朋也。
彰は容赦なくその腹を2発、3発と連続して蹴り上げる。
その度に朋也は呻き声をも漏らしていた。

朋也の眼前には風子の死体があった。
その顔はとても悲しそうな表情をしていた。
(俺は……保護者気取りだったのに…………こいつに何もしてあげられなかった……)
朋也の精神は、蹴られている事に対する苦痛よりも後悔の色で埋め尽くされていた。




耳に入る叫び声、悲鳴。
きっと殺し合いが行なわれているんだと思う。
18対極:2007/01/03(水) 00:33:08 ID:YnTbCJqe0
今はうずくまっている場合じゃない。
戦わないといけない時だ。
それでもあたしは動けないでいた。
おじいちゃんの死はあたしにとってそれくらい、辛い事だった。
もう…死んじゃっても構わないかもしれない。
そんな考えすら浮かんでくる。

こんな辛い現実で、もう生きていたく無い。
もう死ぬまで妄想に浸っていたい。
だってそうでしょ?
現実に戻ったっておじいちゃんはもういないし、また殺し合いをさせられるだけなんだもの。
それよりは―――死んじゃった方が楽だよね。
生きていたって人を傷付けないといけなくなるんだし……そんな事をしたらおじいちゃんだってきっと悲しむ。



―――でも。
本当にそうだろうか?という疑問もある。
あたしが間違った事をした時のおじいちゃんは怖かった。
本気であたしを叱ってくれた。
誰かが間違った事をしている時に……それを止めるのは本当に悪い事なんだろうか。
おじいちゃんが生きていれば、きっと相手を殴ってでも殺し合いを止めようとするだろう。
なら―――あたしがそうしたって、おじいちゃんはきっと誇りに思ってくれるんじゃないか。

あたしがそう考えている時に、知らない男の声が聞こえてきた。





初めて経験した本物の殺人者との遭遇と、仲間の死。
あまりにも突然過ぎる出来事にみちるは動けないでいた。
19対極:2007/01/03(水) 00:34:57 ID:YnTbCJqe0
その時、それまで沈黙を守っていた彰が初めて口を開いた。
「……君達は何もしないんだね」
その言葉はみちると、そして心ここにあらずといった感じの由真に掛けられていた。
「こんなのおかしいよ……」
みちるが震えながらそれだけを答える。
彰にはみちるが何を言いたいかがよく分かった。
つまり彼女は『殺し合いをするなんておかしい』と言いたいのだ。

「―――僕も根本的には同じだった。何もしようとしなかった訳じゃないけど……結局何も出来なかった。
何としてでも障害を排除して目的を遂行するという”覚悟”が足りなかったんだ……だから美咲さんを守れなかった」
彰は自白を続けながら一歩前に足を踏み出す。
その迫力に、みちるは動けないでいた。
「だけど、今の僕は違う……」
更に一歩、足を踏み出しながら言葉を続ける。まるで己の決意を固めていくように。
「もう僕は何があっても止まらない。形振り構わずに戦い続けて……美咲さんを生き返らせる。
美咲さんが許してくれるとは思わないけど…それでも生きてる方が絶対に彼女は幸せな筈だから……」
みちるを眼下に捉え、鍬を手にした腕を振り上げる。
「美咲さんの為に、死んでくれ!」
迫る絶対の死に、みちるは目を瞑った。


―――しかし訪れたのは死では無かった。
「ふざけんじゃないわよっ!」
叫び声と共にみちるの肩口から何かが飛んでいく。
その物体―――トンカチは正確に彰の眉間に命中した。
「がぁ!?」
堪らず頭を押さえながら彰は後退する。
20対極:2007/01/03(水) 00:36:33 ID:YnTbCJqe0
トンカチを投げた張本人―――十波由真は怒りを露にしながら立ち上がった。
「……いるよね、自分を正当化しようと言い訳ばっかりしてる奴。そんな奴に限って、いざって時は一番えげつないのよね」
足元に落ちていた朋也の薙刀を拾い、それをびしっと彰の方に向ける。
「よおおおっく聞けええええっっっ!あんたはただ逃げてるだけよ、その美咲さんっていう人の死から!
あたしもおじいちゃんが死んだ……凄い悲しかった……」
そこで一旦言葉を止め、大きく息を吸い込む。
先に倍する声で、由真は叫んだ。
「でもね、大切な人が死んだ事を言い訳にして人を襲うなんて、その人への冒涜以外の何物でも無い!
生きてる方が喜ぶ!?そんな事をして生き返らされても、その人は一生罪の意識に苛まされるだけっ!
あんたは美咲さんって人の為に動いてるんじゃなくて、唯自分の為に動いてるだけよっ!」

―――それこそが、由真を現実に引き戻した一番の要因。
彰の言い分はまるで自分の祖父をも馬鹿にしているようで、許せなかったのだ。
あの優しい祖父が沢山の人の命と引き換えに生き返って、喜ぶはずが無い。
きっと自ら命を断ってしまうだろう。

ちらりと、風子のほうを見る。
風子は既に息絶えていた。由真はぐっと歯を食い縛った。
(ごめんね、風子ちゃん……。あたしが不甲斐ないばっかりに……)
それでも由真は視線を前に戻し、彰を睨む。
そのまま後ろを見ずに告げる。

「岡崎さん……みちるちゃんを連れて逃げて」
何とか動けるようになった朋也が、膝に手をつきながら立ち上がる。
「由真、何言ってんだ!?俺も―――」
「迷惑なのよ」
遮るように由真は言った。
21対極:2007/01/03(水) 00:39:20 ID:YnTbCJqe0
「岡崎さんと風子ちゃん、仲良かったでしょ?今の岡崎さんがまともに戦えるとは思えない―――足手纏いに居られたら、迷惑なの」
その言い草に朋也は反論しようとしたが、由真は二の句を告げさせない。
「こんな事になったのはあたしの責任。あたし一人で何とかするわ……お願いだからみちるちゃんを連れて逃げて。
これ以上、誰にも死んで欲しくないのよ」
今の朋也の精神状態、ダメージを考えると彼を戦力として期待する事は出来ない。
由真は由真なりに考えて、朋也達に逃げろと言っているのだ。
人二人を守りながら戦うよりも、自由に1対1の状態で戦う方が勝機が高いのは明らかだった。

「すまん由真……。絶対に死ぬなよ!」
本当は命を落としてでも戦いたかった。
しかしそれでは風子の死と由真の意思を無駄にしてしまう。
ようやく由真の言い分を認めた朋也は、みちるの手を引きながらよろよろと歩き去っていく。
風子と由真への謝罪の念に苛まれながら。




それぞれの獲物を手に正面から対峙する彰と由真。
口火を切ったのは彰だった。
「―――もう始めても良いかな」
「待っていたの?」
「ああ。僕は美咲さんを生き返らせる為に戦って、人も殺してしまった……。
僕にそこまでさせた理由を否定するお前とは正面から戦わないと、僕はもう人を殺せなくなってしまう気がする」
「気が合うわね。あたしもあんたを正面から―――殴り倒したいって思ってたところよ!」

二人は同時に踏み込んだ。
愛する人の死を受け入れる者と受け入れない者。
対極的な両者の戦いが始まった。
22対極:2007/01/03(水) 00:40:14 ID:YnTbCJqe0

【時間:二日目午前7時50分】
【場所:C−03】

七瀬彰
【所持品:鍬】
【状態:右腕負傷(マシにはなっている)、マーダー】

十波由真
【所持品:双眼鏡、薙刀、他支給品一式】
【状態:怒り】

岡崎朋也
【所持品:クラッカー残り一個、他支給品一式】
【状態:意気消沈、みちるを連れて逃亡、腹部に痛み。目標は渚・知人の捜索】

みちる
【所持品:セイカクハンテンダケ×2、他支給品一式】
【状態:朋也に同行、目標は美凪の捜索】

伊吹風子
【所持品:三角帽、殺虫剤、スペツナズナイフの柄、他支給品一式】
【状態:死亡】

※トンカチは地面に落ちています

→554
23名無しさんだよもん:2007/01/03(水) 00:57:37 ID:9c0/n2W50
感想スレ大荒れ警報!
集えMOON.厨!MOON.厨厨!
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1166852401
24名無しさんだよもん:2007/01/03(水) 13:26:39 ID:9c0/n2W50
オナニー駄作マダー チンチン
25名無しさんだよもん:2007/01/03(水) 15:23:00 ID:9c0/n2W50
   ァウ!アウ! アヅイーッ !!
     アヅイーッ !! アヅイーッ !!
             
        ヾフ《|l   ヽl|/            
          i| lノリノ)))〉)゚ 。           _       
      _ ∩(:;:;)UT#)l|゚。____    〃´━┓ヽ /⌒ヽι⌒ヽ
     / ナ ナ ヽ)#!F(とヽ ナ ナ ナ:::://||   (((ハソノ)   !〃⌒⌒`ヽ      
    / ナ ナ ナ(⌒):;_;_|〉ナ ナ ナ // ||   リ(´∀` リリ(((ノ))ソ)ゞ.
   / ナ ナ ナ ナ ナ ナ.し'ナ ナ ナ //   ||   (~ ∞~~ ) i(´∀` リ i
  / ナ ナ ナ ナ ナ‖‖ ナ ナ ナ //;;)) []   く_∞__ > .(.ヘ▼/ll )
 /__________//;;))ボウボウ  (_(__). / _゚_____>
 ||  人从人从人从从人 ||;;))              (_(__)  
 || ( (;;;;) ) (;;;) ) (;;;) );;;) ;;)||ボウボウ  
 || ( ));;;))(;;;))(;;))(;;;) ||     
 [] ///[]////[]//[]\\ []    
26名無しさんだよもん:2007/01/03(水) 15:56:25 ID:9c0/n2W50
たかちゃんは、ゴキブリ嫌い!?
                     _,. -‐ ‐-  .,_
                 ,. r'"´: : : : : : : : : : : :.`'‐ 、
.               ,.ィ'´ : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : ヽ.
              ,イ : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : .ヽ
            ,r': : : : : :r‐: : : : : : :.ヽ. : : : : : : :ヽ: : :ヽ:.:ハ
          / : : : : : : : メ : : : : : : : :.ヽ. : : : : : : ハ: : :ハ: : ',
          ,イ,': : : : : : :.:,':/.ヽ\ : : : : : ヘヽ : , : : : :.',: :.ハ: : i
          |/.|: :.!: : :.:.i|!  ヽ.\ : : : : :ヘ\ヘ: : : :ハ:.:.:.!: :.ィ' _
      ー- .,_! ',:.:.!: : : !,!  '"^'"`‐ ., ,`' ハ.  _\ ソ.ク//_,. -―‐-
       \ `'ハ:.:ヘ:.: ! !   ==ュ  r== ヽ|r'ヾ''ツ: : :.´: : : : /
       _,.. -'‐ ゛:.:r‐ヽ|:fヾ}, ィ赱、 i i r赱ミ  l.ハ, /}: : : : : : :/-‐,.'"´
  _,. r '"´: : : : : : : : : : : : lと',  `"" ,l l `""  ,リぅ! : : : : : : -‐''"‐- .,_
   `゛'' ‐-,ィ: : : : : : : : : : ヽ-ヘ .,_ ,ィ''。_。ヽ、_,. /_ン':.:.:.:.:.:.:.:.:.: : : : : : : : :.__,,..`'‐  
      /: : : /: : : : : : : : : ', / _lj_ }  ,':.:.:.:.!:.:.:.ヽ:.:.:.:.:.:.:.: .,゛'‐.,_
.    / _,. イ:.:.: : : : : :/.:.:.:.: :::l、{ ^' ='= '^' /:.,:.:.:.:.:!:.:.:.:.:ヽ:.:.:.:.:.:.:.:.ヽ  ゛''ー-
   /‐''"´ /:.:.:.:.:.:.:.: :/:.:.:.:.:.:.: :ヽ. `""´ ノ ! |/ヽ,:.:.:.|、:.:.:.:ハ: :、,:.:.:.:.:ヘ
        /:.:.:.:.:.:.:.:,、:.,:.:.:.:.::.;,r‐| `' ― '´ .|'"ゝ ヽ:.|ヽ:.:.:.:.|ヽ',\' .,:.: ヘ
.       /:.:.:.:.:,. イ/:.:ハ:.:.:.:..イ:.::,!       ヘ/:.:.\ ヽ \ |. ヽ \`' ハ
.       ,',. r'"  // ィ'" : : |'"-'"´   '゛,、,.イ:.:.:.:.:.:.:`'‐.,,  リ       ゛
私はね……そんなに嫌いじゃないんだけど
だっておいしいもんね
27The end of the Royal:2007/01/03(水) 20:07:13 ID:9c0/n2W50
【時間:2007/01/03(水)20:00】
【場所:葉鍵板】

葉鍵ロワイアル3
【所持品:バ書き手、厨、荒らし】
【状態:死亡】
28名無しさんだよもん:2007/01/06(土) 02:21:37 ID:heznrDgm0
誘導
葉鍵ロワイアル3避難板(作品投稿スレ・会議スレ)
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/7996/
感想スレ・避難場
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/8314/
29前兆:2007/01/06(土) 14:33:42 ID:CkT/ap550
「……はあ」
美佐枝は一つ、大きな溜息をついた。
無事に鎌石村役場には着いた。
それからというものの、ずっと周囲を警戒していたのだが……
「誰も来ないわね……」
今の所人っ子一人として見かけていない。
いるのは隣で暢気に紅茶(役場の給油室にあったらしい)を淹れている愛佳だけだ。

「美佐枝さーん、一緒に紅茶を飲みませんか〜?」
間延びした声で手招きしてくる愛佳。
美佐枝は頭を抱えながらまた一つ、溜息をついた。
「あのねえ、いつ人が来るのか分からないのよ?あんたももう少し警戒心を持った方が良いわよ」
「そ、そうですけど……少しは休憩しないと身が持たないと思います。さっきから美佐枝さんずっと気を張り詰めてますし……」
しゅんとしながら、小声で訴える愛佳。
愛佳とて彼女なりに美佐枝を気遣い、誘っているのだ。
「……仕方ないわね、一杯だけよ?」
無下に断る訳にもいかず、結局小休止を取る事にした。


美佐枝は愛佳とテーブル越しに向かい合った状態でソファーに腰掛け紅茶を飲んでいる。
当然膝の上にドラグノフを乗せ、いつでも戦闘態勢に移れるようにはしているが。
「どうですか?」
待ちかねたかのように愛佳が感想を求めてくる。
「うん、丁度良い甘さで美味しいわ」
それが素直な感想だった。
すると愛佳は花が咲いたような笑顔になった。
「甘さ控えめにしてみましたけど、お口に合ったようで良かったです」
「私は甘過ぎるのは苦手だからね。にしても、意外だったわ」
「え?」
「いやー、てっきり愛佳ちゃんの事だから砂糖をたっぷり入れた甘々の紅茶でも出してくるかと……」
「あー、酷いですっっ。私にだって得意な事の一つや二つ、ありますよぉ!」
愛佳は頬をぷくーっと膨らませた。
30前兆:2007/01/06(土) 14:35:25 ID:CkT/ap550
慌てて美佐枝は冗談よ冗談、と言って手を振って誤魔化す。
そのまま、穏やかな雰囲気のお茶会が続いた。

しかし美佐枝は紅茶を飲み終え、容器をテーブルの上に置くと急に真面目な顔になった。
「愛佳ちゃん」
「は、はいっ?」
「今は12時50分……指定されてる時間も近付いてきたわ」
「そうですね……」
「もしかしたらあの女……千鶴さんも来るかもしれない」
「!」
美佐枝の口から出たその名に愛佳がぴくりと反応した。

「……あの女を説得しようとするのは危険だわ。あの書き込みを見てここに来たのなら人を殺すつもりで来るだろうし……」
言いながら美佐枝はドラグラノフを愛佳に向けて構えて見せた。
愛佳がごくりと息を飲むのが分かった。
「話をする間も無く、こうやって撃たれちゃうかも知れないよ?それでも説得するって言うのかい?」
「……はい」
「話を出来たとしても改心してくれるとは限らないのに?」
「……はい」
美佐枝が千鶴説得の危険性を説いても愛佳は頷くばかり。
考えを改める気は微塵も無さそうだった。

「……分かったわ。ならせめて、理由を教えてくれないかな?愛佳ちゃんがなんで、そこまで頑なになるのかをね」
「千鶴さんは……」
意を決した愛佳がゆっくり口を開く。
「千鶴さんは、こんな私に優しくしてくれました……。とても親切にしてくれました。
短い時間しか一緒にいれなかったけど、悪い人じゃないと思います」
愛佳の声が、徐々に力強さを増していく。
31前兆:2007/01/06(土) 14:36:51 ID:CkT/ap550
それに、と愛佳は付け加えるように言葉を繋いだ。
「私もう、逃げたくないんです。私は一度、全てを捨てて逃げ出しちゃいました……。ですからもう一度死んだも同じなんです」
「…………」
「どうせ一度死んだのなら、後は後悔の無いように生きたい。だから……千鶴さんと会ったら、私に話をさせてください!」
お願いします!と言って愛佳は深々と頭を下げた。
その態度に、一切の迷いは見られない。

「―――もういいよ、頭を上げな。愛佳ちゃんの気持ちはよく分かったからさ」
「じゃあ……」
「うん、千鶴さんと会ったら愛佳ちゃんに任せるよ」
「あ……ありがとうございますっ!」
「でも……」
「え?」
美佐枝は小声でぶつぶつと何かを呟いている。
愛佳はその声を聞き取る事が出来なかった。
「いや、こっちの話さ。ほら、そろそろ誰か来るかもしれないよ?あんたもいい加減警戒しなさい」
誤魔化すようにそう言うと、美佐枝はドラグノフを愛佳に向かって放り投げる。
「あ、すす、すいませんっ!」
愛佳はたどたどしい手付きでそれを受け取った。

美佐枝はデイバックから89式小銃を取り出し、それを手にして立ち上がった。
89式小銃―――距離の近い室内戦でなら、美佐枝達が持つ武器の中で間違いなく最強。
その殺人兵器を手に美佐枝は先程呟いた言葉を頭の中で反芻する。
(でも……もしあの女が愛佳ちゃんを撃とうとしたら、私はあの女を撃つ。私と一緒に居る子が死ぬのはもう嫌なんだ……)
愛佳同様、美佐枝も芹香を救えなかった事を悔いていた。
彼女の決意もまた、固い。
32名無しさんだよもん:2007/01/06(土) 14:37:25 ID:CkT/ap550

【時間:2日目13:00】
【場所:C-03 鎌石村役場】
相楽美佐枝
【持ち物1:包丁、食料いくつか、他支給品一式】
【所持品2:89式小銃(銃剣付き・残弾22/22)、予備弾(30発)×2、他支給品一式(2人分)】
【状態:愛佳と鎌石村役場へ行き朋也を引き止める。千鶴が説得に応じなかった場合、殺害する。冬弥と出会えたら伝言を伝える】

小牧愛佳
【持ち物:ドラグノフ(7/10)、火炎放射器、缶詰数種類、他支給品一式】
【状態:美佐枝と鎌石村役場へ行き朋也を引き止める。千鶴と出会えたら説得する。冬弥と出会えたら伝言を伝える】

B-13、→593
33やさしさ:2007/01/07(日) 01:45:12 ID:tUA2+qjz0
「ん……」

朝の森で目を覚ましたのは、岡崎朋也である。
雨に打たれた身体は、すっかり冷えていた。
妙な頭痛と虚脱感を抱えながら、身を起こす。

「ここは……? 俺は、いったい何を……え?」

朋也の眼前、距離にして1メートルも離れていない場所に、猛獣がいた。
白い毛並みも美しい、それは人の子供ほどもある虎であった。

「う……うわあああっ!?」

後ずさりしようとするが、身体に力が入らない。
虎は、その口に何かを咥えていた。
それが何なのかを認識し、朋也は更に驚愕することになる。

「ひ……人の、腕……!?」

虎が、口を開いた。
硬直する朋也の眼前に、ぼとり、と誰のものとも知れない腕が落ちる。
ずい、と顔を近づけようとする虎を前に、朋也は悲鳴を抑えきれない。

「く……来るな、来るな……来るなぁ……っ」

震える声。
血に塗れた虎の鋭い牙の間から、生臭い息が朋也の顔に吐きかけられる。
思わず目を閉じる朋也。
だが、虎の吐息は、唐突に途切れた。
34やさしさ:2007/01/07(日) 01:46:06 ID:tUA2+qjz0
「―――え?」

目を開けると、虎の姿は掻き消えていた。
周囲を見回しても、その姿はおろか、気配さえ感じられない。
眼前に置かれた人の腕だけが、その存在が幻覚などではなかったことを示していた。

「くそ……何だってんだ……!」

状況を把握しかねて毒づく朋也だったが、これが千載一遇の好機であることは疑いようもなかった。
倦怠感の残る身体に鞭打って立ち上がる朋也。
走り出そうとして、置き去られた腕につまずきそうになる。

「う……うわっ!」

慌ててそれを蹴り飛ばす朋也。
腕は、小さく宙を舞うと、近くの水溜りに落ちてべしゃりと音を立てた。
それを見届けようともせずに、走り出す。
小枝に引っかかれて細かい傷を作りながら木立の間を抜け、茂みを跨ぎ越そうとして転び、
頭から泥を被りながら、駆けた。

やがて、木々が途切れる。
薄暗い林を、抜けた。

左右に林道が伸びる、小さな広場のようになっているそこに、ひとつの塊が転がっていた。

「あ……ああ……」

泥と、血と、そして粘性のある液体に塗れたそれは、かつて人間と呼ばれる何かだったように、見えた。
血の気を失った、ひどく気味の悪い色の肌。
柔らかい腹は何かとてつもない力で引き裂かれたように、その中身を雨に晒している。
地面いっぱいに広がった長い髪の向こう側で、見開かれた瞳が、虚ろに朋也を映していた。
35やさしさ:2007/01/07(日) 01:47:04 ID:tUA2+qjz0
「ぅ……ぁ……き、杏……」

こみ上げる嘔吐感に抵抗せず、朋也はその場に蹲って胃液を吐き散らす。
藤林杏の遺骸には、腕が一本、足りなかった。



【時間:2日目午前8時前】
【場所:E−06】

岡崎朋也
【持ち物:お誕生日セット(三角帽子)、支給品一式(水、食料少し消費)】
【状態:絶望・夜間の変態強姦魔の記憶は無し】

伊吹風子
【持ち物:彫りかけのヒトデ】
【状態:ムティカパ妖魔・再び認識を消して朋也の傍に】

→527 ルートD-2
36協力関係:2007/01/12(金) 11:51:10 ID:/m4SA9fo0
冬弥と弥生は車内でパンを食べていた。
本当なら外の綺麗な空気を吸いながら食事を楽しみたかったが、今はこんな状況だ。
完全防弾のこの車の中より安全な場所などこの島には存在しない。

(本当にこれで良かったのか……?)
冬弥はペットボトルを手に先ほど殺した女達の事を考えていた。
そのうちの一人―――聖は少しだけ話した事がある。
強い人だった。聖は身の危険を顧みず、自分と河野貴明の戦いを諌めに駆けつけた。
最期の瞬間まで、必死に何かを訴えていた。
弥生から聞いた話では、聖も愛する人を失っているのに―――自分とは大違いだ。
自分はただ流されているに過ぎない。
慕ってくれていた留美を突き放して暴走し。
コインなどという物に運命を任せ、弥生と出会ってからは彼女に全てを任せ。
流されるまま、復讐には関係の無い聖達を殺害し。

――最低だ、と自分でも思う。
それでも……
(それでも俺は、由綺を殺した奴が許せない……っ!)
結局はそこに行き着くのだ。
復讐以外の事をまともに考えれていないのは自覚している。
復讐した所で由綺が生き返る訳では無いのも分かっている。
だが今更どうして後戻り出来ようか。
自分はもう三人の命を奪っている、これは片道切符しか用意されていない旅路なのだ。


……気付くと、中身の無くなったペットボトルを握り潰していた。
そして冬弥はループする思考を中断した。素早く残りのパンを口に放り込み、咀嚼する。
濁った空気のせいかそれとも自身の気分のせいか、その味は酷く不味かった。
味気無い食事を終え横を見ると、弥生が熱心に携帯電話を弄っていた。
37協力関係:2007/01/12(金) 11:52:32 ID:/m4SA9fo0


「何してるんですか、弥生さん?携帯なんか弄って……」
「――この携帯電話、凄いです」
「一見ただの携帯電話にしか見えないけど……?」
「この島に来た時に私の携帯電話は没収されていました。恐らく他の人の携帯も没収されていると思います。
ではどうして荷物の中に携帯が紛れていたのか……」
「まさか……」
携帯は冬弥のものも没収されていた。
これだけ用意周到に殺し合いの舞台を用意した主催者が見落としをするとは思えない。
ならその携帯は―――

「もしやと思って調べてみたのですが、これは立派な支給品です。この画面を見てみてください」
弥生はそう言って携帯電話を冬弥に手渡した。
冬弥はまじまじとその画面を見つめた。

「『機能説明……この携帯には爆弾が取り付けられています。アラームをセットして1時間経ったらあら大変、大爆発で強烈な目覚ましだ!』
……つまり時限爆弾としての役目を果たせるって事ですか」
「そうです。これを使わない手は無いかと思います」
「でも、1時間後に爆発って使い辛くないですか?戦ってる最中にそんなに待つ余裕なんて無いでしょ」
「心配ありません。その携帯の横にあるボタンを押して、伝言メモを聞いてみてください」
「横にあるボタン……これですか?」
ボタンを押すと、録音されていた内容の再生が始まった。
『爆発まで1時間も待てないというお急ぎの方へスペシャルサービル!灯台の地下に、携帯の爆弾操作用リモコンが置いてあります。
リモコンのボタンを押せば即爆発!この大サービスを是非ともご利用ください!』
馬鹿にしたような明るい声でCMのような台詞が流れ、再生は終了した。
ゲーム開始時のウサギの人形といい主催者のセンスは最悪だと、冬弥は思った。

「……サービスとか言うくらいなら、最初からリモコンも支給して欲しいですね」
「ゲームの円滑化の為でしょう。このゲームでは動き回れば動き回るほど誰かと出くわす可能性が高くなる。
逆に考えれば、一箇所でじっとしているのが安全です。だからこそ主催者はこういった事をして、参加者を動かそうとしているのではないでしょうか」
「奴らもちゃんと、考えてるって訳ですね……」
38協力関係:2007/01/12(金) 11:53:45 ID:/m4SA9fo0
主催者のやり口は気に食わなかったが、今は少しでも強力な武器が欲しい。
何度も騙まし討ちが上手く行くとは限らないのだ。
弥生はアクセルを踏み込み、車は灯台に向かって走り出した。








――肌を撫でる緩やかなそよ風、照りつける太陽、耳に響く波の音。
冬弥達は灯台の外へと出た所だった。
あっさりと目的の物は手に入った。
他にも何か役に立つ物があればと期待していたのだが、残念ながらそれは無かった。
それでも、好きな時に爆発させれる爆弾を手に入れたのは大きい。
一度しか使えないが強力な切り札となるだろう。

「弥生さん、見てください。こんな島なのに……海は綺麗なんですね」
「本当ですね……」
二人は並んで眼前に広がる大海原を眺めていた。
海の水は透き通るようで、海底が見えそうな程だった。
波も高くなく、海だけ見れば最高のレジャースポットだといえる。

「藤井さん」
「はい?」
「私の事を、馬鹿な女だと思いますか?」
「……突然何を?」
らしくない発言に疑問を覚え、冬弥は弥生の方へ振り返った。
弥生は……とても寂しそうな表情をしていた。
今にも壊れてしまいそうな、そんな脆さが感じられた。
39協力関係:2007/01/12(金) 11:56:04 ID:/m4SA9fo0
「優勝の褒美の事、藤井さんは信じていないんでしょう?」
「バレちゃいましたか……」
「それくらい分かります。そして私も嘘である可能性の方が高いと思っています。
私は、自分自身でも信じきれていない言葉の為に人を殺している……」
弥生も分かっていたのだ。あれが参加者達をやる気にさせる為の扇動だという事は。
それでも0.1%でも可能性があるのなら選ぶ道は一つだ。
由綺は自身の存在意義そのものだから。

「私達の最終目的は異なります。ですが、一人で戦うより二人で戦った方がお互いの目的を成し遂げる可能性は高い―――分かりますね?」
「……はい」
「だからこれからも協力しましょう。お互いの目的の為に」
弥生はそう言って手を差し出した。
もう、彼女の顔は冷たい仮面を被っていた。
冬弥は少し面食らっていたが、すぐに結論を出した。
「――馬鹿な女だなんてとんでもない、やっぱり弥生さんは強い人です」
二人は、握手を交わした。
【時間:2日目13:00】
【場所:I−10灯台】
篠塚弥生
 【所持品:包丁、ベアークロー、携帯電話(GPSレーダー・MP3再生機能・時限爆弾機能(爆破機能1時間後に爆発)付きとそのリモコン】
 【状態:マーダー・脇腹に怪我(治療済み)目的は由綺の復讐及び優勝】
藤井冬弥
 【所持品:暗殺用十徳ナイフ・消防斧】
 【状態:マーダー・右腕・右肩負傷(簡単な応急処置)目的は由綺の復讐】
【備考】
・FN P90(残弾数0/50)
・聖のデイバック(支給品一式・治療用の道具一式(残り半分くらい)
・ことみのデイバック(支給品一式・ことみのメモ付き地図・青酸カリ入り青いマニキュア)
・冬弥のデイバック(支給品一式、食料半分、水を全て消費)
・弥生のデイバック(支給品一式・救急箱・水と食料全て消費)
上記のものは車の後部座席に、車の燃料は十分
(関連592、B-13)
40血に染まる青年:2007/01/14(日) 12:54:47 ID:iujih/uV0
由真は放たれた弾丸のように飛びかかった。一瞬の逡巡の後、彰は横へと跳ねた。
奔る薙刀はあっさりと空を切る。 そのまま横薙ぎに彰の鍬が振るわれた。
由真は咄嗟に肩に下げた鞄を盾にし、突っ込んだ。
鍬の棒状の部分が鞄に当たった。その激しい衝撃は由真にも伝わり、腕が痺れるのを感じた。
斬り合いに固執せずにタックルを仕掛ける。内臓に響くその衝撃に彰が呻き声をあげる。
しかし体格差の影響は大きく、彰は足を開いて踏ん張りまた鍬を振りかぶった。
慌てて由真は鞄を捨て後ろへと飛び退き、距離を取る。

由真は悪態をつきたい思いだった。
啖呵を切ってはみたものの、やはり男と女、身体能力の違いは明白だった。
自分が上回っているのは威勢のみだ。
恐怖はある――しかし、それを遥かに上回る怒りが由真を奮い立たせる。
逃亡を訴えかけるもう一人の自分を思考の隅へとおいやる。
どうしたら――どうしたらこいつを叩きのめせる?
今考える事はそれだけ。相手の戦力と自身の戦力を冷静に比較する。
そして思いつく――起死回生の策を。
しかし失敗の代償は命だ。成功しても無傷では済まない。
こんな危険な博打は避けたいが、どうする?
「この……っ、大口叩いたくせに逃げるなよっ!」
罵声と共に、影が飛びかかって来た。迷っている暇はもう無い。
41血に染まる青年:2007/01/14(日) 12:56:09 ID:iujih/uV0
鍬が由真の脳天に向け、弧を描くように振り下ろされる――!
今度はそれをかわさなかった。前傾姿勢を取り当て身を放つ。
刃で切られ致命傷を受けるよりマシではあるが、甚大な被害は免れない。
棒の部分が由真の右肩に直撃しその部位の骨を文字通り砕いていた。
「ぐぅぅっ!」
焼けるような痛みが頭を突き抜ける。だがここまではもう織り込み済み。
肉を切らせて骨を断つ、どころじゃない。骨を砕かせ命を断つだ。
本来ならそんな漫画の世界の戦闘狂のような真似は御免だったが、生憎ここはキリングフィールド。
女だからといって我侭は言っていられない。
由真は怯む事無く、無事な左腕に薙刀を持ち替え強引に振るった。
「ぐああっ!!」
反射的に差し出された彰の右腕が瞬時に赤く染まっていく。
血に塗れたその腕は本来の機能を完全に失い、握っていた桑が地面に落ちた。
お互いに必殺の腹構えで放った攻撃はお互いの一部を破壊したに過ぎなかった。
由真の作戦は悪くなかった。自分を上回る戦力を有する相手に対して、少なくとも互角の戦果を得る事は出来たのだから。
だが神は非情であった――最後に勝負を決す要因となったのは運の差。

彰は激痛で喘ぎながらも左の拳を振るった。
狙ったのではない、半ば本能的に振り回しただけだった。
だが過程はどうあれ、拳は由真の顎を綺麗に捉えていた。
顎は人間の急所――そこを強打されればほぼ例外無く脳震盪を引き起こす。
暗転する視界の中、由真は後ろに倒れた。

42血に染まる青年:2007/01/14(日) 12:57:53 ID:iujih/uV0
「終わりだ」
意識を失っていたのはほんの数秒だろう。
しかし由真が意識を取り戻した時には、彰はもう薙刀を拾っていた。
先の一撃の影響で、まだ立ち上がれそうに無い。
「――そうね。悔しいけど、あたしの負けみたい」
彰の右腕はだらしなく垂れ下がっており、先まで真っ赤に染まっていた。
残された左腕1本で逆手に持った薙刀を振り上げる。
「最後に何か思い残すことはあるか?」
そんな問いを発したのに深い狙いは無い。ただ何となく、自分と真逆の人間の考えを聞いてみたくなっただけだ。
「そんなの沢山あるに決まってるでしょ。まずあんたに聞きたい事があるわ」
由真は焦る事も臆す事も無い。まるで日常のワンシーンのように、静かな会話は続く。
「あんたは大事な人の死を受け入れて生きる事は出来ないの?」
「僕は人を殺してしまった、もう後戻り出来ないんだ」
聞くまでもない事だった。一人の命を奪って且つ自分に凶刃を向けている男が、今更説得に応じる筈が無い。
「やっぱりね……」
「他には何かあるか?」
由真は中指をくいっと立てた。挑発のポーズだ。
それはせめてもの抵抗――絶対に、見苦しい命乞いなんてしてやらない。
「後は――あんたを殴り倒せなかったのが一番の心残りよ」
喋り終えると彰が薙刀を振り下ろそうとしているのが見えた。
いくばくの時間を経て僅かに取り戻した体の機能を総動員する。
薙刀の刃は由真の柔らかい腹部を貫き――同時に、彰は頬に鋭い痛みを感じた。
由真は上半身を起こし、腹を貫かれながらも平手打ちを見舞っていた。
選んだのは彰と逆の道、だから最後まで相手の間違いを正し続ける。
「馬鹿…こんな事……続けても…美咲さんもあんた自身も………誰も……救われない……わよ」
由真は口から血を吐きつつ懸命にその言葉を発した。
それが最期の力だったのか、そのまま後ろへ倒れもう二度と由真が動く事は無かった。

物言わぬ死体へと姿を変えた由真を見つめ、彰は呟いた。
「お前は強いよ、本当に立派な奴だ……でも僕はお前ほど強くなれない」
右腕はもう感覚が無く、動かそうとしても指1本反応しない。ちゃんとした治療をしても――もう元通りに動く事は無いと思う。
それでも鞄を肩に下げ、最低限の荷物を持ち、おぼつか無い足取りで彰は再び動き出す。
43血に染まる青年:2007/01/14(日) 12:59:22 ID:iujih/uV0
【時間:二日目午前8時20分】
【場所:C−03】

七瀬彰
【所持品:薙刀、殺虫剤、風子の支給品一式】
【状態:右腕致命傷(感覚が無い)、マーダー】

十波由真
【状態:死亡】

【備考:由真の支給品一式、双眼鏡、三角帽、スペツナズナイフの柄、鍬、トンカチは現場に放置されている】

→623 ルートB-13
44午後の紅茶:2007/01/15(月) 14:11:23 ID:n/awBLSS0
数百メートル先に人影を認める。数えて十二人。
坂上智代と里村茜は物陰に隠れると、固唾を飲んでその集団を凝視した。
面々はは何事か話した後五人が北へ、残りは南へと去って行く。
「ん? 春原か」
「……詩子」
若干遅れて呟く茜。身を乗り出し大声を上げようとする彼女の口が塞がれる。
「どこに敵が潜んでるやも知れん。走って捉まえよう」
二人は走る。とにかく走った。二桁を超える同志がいたことは何よりの励みである。


一旦見失った後、再び目標を捉えた時には南へと去った集団は四人に減っていた。
最後尾を歩いていた柚木詩子が気配に気づき、振り向きざまにニューナンブM60を抜く。
「撃つな、味方だ!」
「味方ですっ!」
直後、姫百合珊瑚とルーシー・マリア・ミソラのそれぞれの銃口が向けられた。
予想外の展開に智代を経験したことのない恐怖感が襲う。
「やめろぉぉぉっ!」
「──待て、仲間だぁっ!」
間一髪で春腹陽平が制した。
再開の喜びも吹き飛び、智代と茜はへたり込んで震えていた。


一同は互いの無事を喜び、近くの民家にて軍議を兼ねたお茶会を催すことにした。
詩子は針金屑を使っていとも簡単に玄関の扉の鍵を開ける。
驚くべきことに、押し入れには携行可能な食料品や日用品が豊富に収納されていた。
冷蔵庫を開けると、常温保存可能の二百ミリリットルパックのLL牛乳が所狭しと置いてある。
LL牛乳に茜は目を輝かせた。
「卵と小麦粉があればいいのですが……」
「何を呑気なことを言ってるんだ。早く紅茶を入れてくれ」
智代に急かされ、茜は紅茶の入ったティーポットを注いで回った。
45午後の紅茶:2007/01/15(月) 14:16:05 ID:n/awBLSS0
互いの自己紹介の後情報交換が始まった。
陽平から午前中の出来事──平瀬村での顛末が語られる。
ゲームに乗った者の謀略と仲間の裏切りは、智代と茜に計り知れない衝撃を与えた。
「るーがもう少し早く気づけば、うーまもは死なずに済んだかもしれない」
るーこが住井護の最期を話すと、茜は紅茶を口に含んだまま凍りついた。
先ほどまで味わい深かった紅茶は、この世のものとは思えない風味に化けていた。

「何が本当で何が嘘かを見分けなければ生きて行けないな」
唇を噛み締める智代にメモ用紙が渡される。
【重要なことは筆談でな。首輪には盗聴器がついとるで。他に生死判定と現在位置の発信機もな】
珊瑚のもたらした情報は智代と茜を更に驚愕させた。
溜息をつく二人に助け舟を出すかのごとく陽平が提案を申し出る。
「よかったら僕達と行動を共にしないか? 人数が多い方がより安全だ」

智代は思う。少なくともこの面々が裏切ることあはあるまい。陽平のいう通り一理ある。
ただ柳川裕也のような統率力のある社会人がいないのは何とも痛い。
自身がアクの強い性格だけに各々と意見が対立することが多と予想される。
「気遣いは有難いが、私は思うところあるゆえ独立行動を取りたい。茜はいかがかな?」
「智代と同行したいと思います」
「そうか……残念だな」
「うーへい、気を落とすな。うーともはそれなりに考えあってのことなのだ」
るーこが励ますのを智代はじっと見ていた。
(彼女なら春原の守役になってくれるに違いない)
智代は咳払いすると申し訳なさそうに要望を口にする。
「私も茜も保有する武器が貧弱ゆえ、できればもう一人加勢をお願いしたい」
「……春原君、るーこさん、姫百合さん、あたしいいかな?」
詩子が遠慮がちに尋ねる。
「ま、いいか。では智代と里村さんを頼む。な、お二方」
るーこも珊瑚も快諾し、ささやかなお茶会は無事に終了した。
46午後の紅茶:2007/01/15(月) 14:19:48 ID:n/awBLSS0
智代と陽平以外の者は携行品を整えると、さっさと玄関の外へと出ていった。
頃合いを見て陽平が最後の打ち合わせなどと言いながら、隣の部屋に智代を招き入れる。
「私達は時計回りに外周を進んで同志を集める。今度会うのは無学寺あたりかな」
「……智代」
突然陽平が顔をクシャクシャにして抱きついてきた。
「わっ、何をする。狂ったか?」
「なんだかもう、会えないような気がするんだ。少しの間でいい、我侭を聞いてくれ」
「おまえ男だろ、しっかりしろ」
叱咤する声が震えていた。日常なら引っ叩くはずが、思考が激しく混乱していた。
「夕べはありがとな……お前死ぬなよ、絶対に」
「礼は茜に言え。それから、それから……春原こそ、うぐっ、うぅぅ…」
涙が止め処なく流れる。切なかった。これが今生の別離になるかもしれない。
「智代……お前も普通の女の子だってことがわかって、僕は安心したぞ」
「何下らないこと……この馬鹿ぁぁぁっ」
制服越しに伝わる優しさと温かさは、いつまでも浸っていたいと思うほど心地良いものだった。


智代は出立直前になって体の不調を訴え、智代一行はもう暫く休憩することになった。
三人は玄関の外で陽平一行を見送る。
「他の仲間達によろしくな、陽平」
「ああ、わかった……え、ええっ?」
うっかり聞き流すところであった。なぜか智代は下の名で呼んだ。
陽平は一瞬意味を計りかねたが、すぐにニヤッと笑った。
「さらばだ、智代ちゃん」

(春原の奴恐るべし。只のヘタレではなかった)
気怠さに苛まれ身体が妙に熱を帯びている。
智代はいち早く家の中に戻ると、膝を抱えて放心状態に陥っていた。
47午後の紅茶:2007/01/15(月) 14:21:44 ID:n/awBLSS0
【時間:2日目13:45頃】
【場所:F-2民家】

坂上智代
【持ち物:手斧、LL牛乳×3、ブロックタイプ栄養食品×3、他支給品一式】
【状態:全身打撲(マシになった)、やや体調不良】

里村茜
【持ち物:フォーク、LL牛乳×3、ブロックタイプ栄養食品×3、救急箱、他支給品一式】
【状態:全身打撲(マシになった)】

柚木詩子
【持ち物:ニューナンブM60(5発装填)、予備弾丸2セット(10発)、鉈、包丁、LL牛乳×3
、ブロックタイプ栄養食品×3、他支給品一式】
【状態:健康】
48午後の紅茶:2007/01/15(月) 14:24:10 ID:n/awBLSS0
【時間:2日目13:45頃】
【場所:F-2民家の外】

春原陽平
【持ち物1:鉈、スタンガン・FN Five-SeveNの予備マガジン(20発入り)×2、LL牛乳×3
、ブロックタイプ栄養食品×3、他支給品一式】
【持ち物2:鋏・鉄パイプ・他支給品一式】
【状態:全身打撲・数ヶ所に軽い切り傷、頭と脇腹に打撲跡(どれも大体は治療済み)、教会へ】

ルーシー・マリア・ミソラ
【持ち物:H&K SMG‖(6/30)、予備マガジン(30発入り)×4、包丁、スペツナズナイフ
、LL牛乳×6、ブロックタイプ栄養食品×6、他支給品一式(2人分)】
【状態:左耳一部喪失・額裂傷・背中に軽い火傷(全て治療済み)、教会へ】

姫百合珊瑚
【持ち物@:デイパック、コルト・ディテクティブスペシャル(2/6)、ノートパソコン】
【持ち物A:コミパのメモとハッキング用CD】
【状態:健康、教会へ】


【備考:智代と茜は柏木千鶴と宮沢有紀寧の情報を聞いている】

→618・634 ルートB-13
49レジャー:2007/01/17(水) 23:02:48 ID:LstcUAP90
柳川裕也達は草木が生い茂る森の中を歩いていた。
森の中は薄暗く、視界は良好とは言えない。
彼らは三者三様の反応を見せながら進んでいた。
「あっ!?スカートが枝に引っ掛かって……きゃーっ!?蛇が、蛇がいる!」
「あははー、ピクニックみたいですねーっ」
「…………」
四苦八苦し騒いでる留美。
楽しそうに朗らかに笑っている佐祐理。
黙々と歩んでいる柳川。
「森の中を通るコースを選んだのは失敗だったようだな……」
あまりにも緊張感の無い二人に呆れ、柳川はボソリと呟いた。
その声は多分に非難の色を含んでいる。
「そんな事無いですよー。佐祐理はピクニックは嫌いじゃないですし、七瀬さんも大はしゃぎです」
「嫌がってんのよ!」
「……やれやれだ」
柳川は頭を抱えたがそれ以上非難を続ける事はしなかった。
自分さえ警戒を怠らなければ何者かに不意打ちされるというような憂き目は避けられる。
他の二人にまで緊張状態を強いて、疲弊させる事もないだろう。
佐祐理に関してはわざと明るく振舞っている節もある。
それを無下にしようとも思わなかった。
「ねえ、どうしてこんな歩きにくい道を通るの?」
「地図を見る限り極端な高低差は無い。なら最短距離で向かった方が、早いからだ」
「でもわざわざこんなトコ通らなくても……」
「俺は時間を無駄にする気は無い。嫌なら一人で街道に戻るんだな」
柳川は唇の端を歪めて冷笑した。
むっとして柳川を睨み付ける留美。
二人の間には火花が散っているようであった。
50レジャー:2007/01/17(水) 23:03:40 ID:LstcUAP90
しばらく歩いていると、少し開けている場所を見つけた。
周りは背の高い草に囲まれており、敵に発見される心配も少ない。
「ふむ、ここらで昼食にするか」
「そうですね」
氷川村に着いた時にはもうヘロヘロでした、では話にならない。
今の柳川の状態では全快時の戦闘能力は望むべくも無い。
制限されている鬼の力だけでは怪我の回復速度が足りなさ過ぎる。
休息――とりわけ栄養補給が重要だ。
柳川は足を止め、そっと地に腰を下ろそうとした。
「あ、待ってください」
「?」
疑問の目を向ける柳川をよそに佐祐理は鞄の中を探り始めた。
やがてある物を取り出し、地面へと広げる。
「さっきの民家でお借りしてきたんです。やっぱりピクニックにはレジャーシートですよねっ」
「………」
敷いてあるのは優に4−5人は座れそうなサイズのレジャーシート。
だが問題はそのデザインだ。
シートの色はピンク一色で、絵柄は可愛らしい花柄。どう見ても女性用である。
柳川としては、出来れば座るのは遠慮したい。
しかし佐祐理は座り込んで嬉しそうに手招きをしている。
留美に至っては「これぞ乙女って感じよね〜」などと言いながらもう食事を始めている始末だ。
ちっ、と二人に聞こえないよう舌打ちしてから柳川も腰を落とした。
51レジャー:2007/01/17(水) 23:05:42 ID:LstcUAP90
主催者支給のパンを手を取り、噛り付く。
「相変わらず不味いパンだな」
これも主催者の思惑なのか、支給された食料の味は最悪だ。
「そうですね……。もしよろしければ夕食は佐祐理が作りましょうか?」
「私も手伝うわよ。私の乙女たる所以、たっっぷりと見せてつけてあげるんだから!」
留美はそう言うと自信ありげに胸を張った。
しかしどう見ても料理は不得手なタイプに見える。
少々、いやかなり不安だったが、まあ佐祐理も一緒に作るのなら大きな間違いは起こすまい。
「そうだな。状況にもよるが余裕があったら頼む」
「はい、お任せくださいっ」
「オッケー、まっかせなさい!」
程なくして柳川はパンを食べ終え、水を口に含んだ。
佐祐理と留美はまだ食事中なので特にする事が無い。
そこで、ふとある考えが頭に浮かんだ。
早速佐祐理の鞄を手繰り寄せる。
「柳川さん、何してるんですか?」
「倉田の持つ青い矢は麻酔薬が塗ってあるのだろう?」
「そうですけど、それがどうかしたんですか?」
「人を殺す気は無いと言っている甘ちゃんにはピッタリだと思わないか?」
「あ……」
ぽかん、と口を開ける佐祐理。
52レジャー:2007/01/17(水) 23:07:01 ID:LstcUAP90
襲われた時に相手を殺さずに止めるにはどうすれば良いのか。
説得が通じればそれに越した事は無いが、そう上手く行くとは限らない。
応戦しざるを得なくなったのなら、相手の意識を奪うのが手っ取り早い。
柳川は青矢のうちの2本を取り出し、1本を自分の鞄に、もう1本を七瀬の鞄に収めた。
「どういう風の吹き回し?」
「大した意味は無い。使える物は全て、有効に使うべきだと思っただけだ」
「……取り敢えず礼は言っとくわ。ありがと」
「ふん、良いからさっさと食事を済ませろ」
佐祐理と留美は再び食事を始める。
柳川はこれから先の事に考えを巡らせようとし―――止めた。
少女達は談笑しながら食事を続けている。
その姿は年相応のものに見えた。
それはとても微笑ましい光景で。
周囲への警戒を解く事は出来ないが、今この時くらいは自分も楽しもうと、そう思った。

【時間:2日目13:10頃】
【場所:G-3森】
柳川祐也
【所持品:S&W M1076 残弾数(7/7)予備マガジン(7発入り×3)、日本刀、支給品一式(片方の食料と水少々消費)×2、青い矢(麻酔薬)】
【状態:左肩と脇腹の治療は完了したが治りきってはいない、肩から胸にかけて浅い切り傷(治療済み)、休憩中】
【目的:まずは氷川村へ】
倉田佐祐理
【所持品1:舞と自分の支給品一式(片方の食料と水少々消費)、救急箱、吹き矢セット(青×3:麻酔薬、赤×3:効能不明、黄×3:効能不明)】
【所持品2:二連式デリンジャー(残弾0発)、投げナイフ(残り2本)、レジャーシート】
【状態:談笑、食事中】
【目的:まずは氷川村へ】
七瀬留美
【所持品1:日本刀、青い矢(麻酔薬)】
【所持品2:スタングレネード×1、何かの充電機、ノートパソコン、支給品一式(3人分、そのうち一つの食料と水少々消費)】
【状態:談笑、食事中】
【目的:まずは氷川村へ。目的は冬弥を止めること。千鶴と出会えたら可能ならば説得する、人を殺す気、ゲームに乗る気は皆無】
【関連:634 B-13】
53欺瞞:2007/01/18(木) 19:33:56 ID:u0zQ1z1Q0
麻亜子は生徒会室の中で、一人立っていた。部屋には鼻をつく臭いが充満している……血の臭いだ。
それは、麻亜子自身の体から発される物だった。
「むう、あたしも随分と修羅が板についてきたな……。血の臭いを纏うようになっちゃうとはねぇ。これじゃたかりゃん達と、一緒にいられないじゃないか」
もう彼女は人の命を奪いすぎた。幾人もの人生を潰えさせてきた。
マーダーでは無い人間も、かつて自分と同じ修羅だった人間も、全て。

「後何人殺せば終わりなのか分かんないけど、最後まであたしは戦い続けるよ……」
寂しそうな笑みを浮かべたまま、しかし確固たる決意を秘め麻亜子は呟いた。
最終的にはこの島の全ての人間を殺し尽くし、生徒会の仲間達を蘇らせる。それまで、止まれない。
だがしかし――

「そんなの駄目です!」
背後から、懐かしい声が聞こえた。それが誰のものなのか、聞き間違えはしない。
「さ、さーりゃん!?」
振り向くと、最愛の後輩が立っていた。

麻亜子が最も守りたい人――久寿川ささら。
ささらはとても悲しそうな顔をしている。そんな顔をさせている原因は、間違いなく自分だろう。
麻亜子は胸がしめつけられるような感覚を覚えた。
「先輩、もう人殺しなんて止めてください……」
「さーりゃんは放送を聞いてなかったの?優勝すれば何でも好きな願いを叶えてやるって、主催者が言ってたじゃんか」
「……」
「だったらあたしか生徒会の誰かが優勝して!みんなを生き返らせれば万事解決、結果オーライじゃないっ!」
「先輩はそれで満足なんですか?」
「え?」
「罪の無い人達の命を奪って、本当に満足なんですか?」
「……ああ、そうさ!あたしは元の生徒会が取り戻せればそれで満足、その為なら人殺しなんてお茶の子さいさいさっ!」
「嘘!」
ささらは叫んでいた。麻亜子が知りうる久寿川ささらのどんな声よりも、悲痛な声で。
54欺瞞:2007/01/18(木) 19:35:42 ID:u0zQ1z1Q0

「そんなの嘘よ……。だって先輩、泣いてるもの」
「え?」
気付くと、自身の頬を液体が伝っていた。それは、涙と呼ばれている物だ。
「先輩泣いてるじゃない!本当は人を殺したくなんてないんでしょ!?辛くて、悲しくて、逃げ出したいのに、自分自身を騙してるだけ!」
「う……うるさい、うるさいっ!あたしは修羅になったんだ!」
「修羅だな、ん、 て」
ささらが何かを叫ぼうとしたが、それ以上言葉が続く事は無かった。

ささらの胸から日本刀の刀身が、突き出していた。傷口から溢れ出た鮮血が、麻亜子の顔に降りかかる。


「さ、さーりゃーーーーーーんっ!」
悲鳴と同時に刀が抜かれる。崩れ落ちるささらの体の後ろから現れたのは、かつて麻亜子が謀った――来栖川綾香だった。
「あははっ、お邪魔だったかしら」
綾香は返り血に染まった日本刀を手に、至福の笑みを浮かべている。その表情を見た瞬間、麻亜子の中で何かが切れた。
「よくも……よくもォォーーーッ!!」
作戦も何も無い。激情の赴くまま、一直線に殴りかかる。綾香はその拳を両手で受けると、背負い投げの要領で投げ飛ばした。
「ごほっ……」
地に叩きつけられ、体の隅まで響く衝撃――それは十分に決め手となるダメージ。
修羅と化した筈だった麻亜子は、僅か数秒で敗北した。
「ナメんじゃないわよ、油断さえしてなきゃアンタみたいなクソガキ、相手になんないのよ」
「あたしを……殺しに、きたの……」
「ご名答よ。因果応報、あれだけナメた真似したんだから、そのくらい覚悟してるわよね?たっぷりと痛めつけてから殺してあげる。……でもその前に、ちょっと余興があるのよ。とっても楽しい、余興がね」
「……?」
綾香は鞄のチャックを開いてみせた。
55欺瞞:2007/01/18(木) 19:36:46 ID:u0zQ1z1Q0

鞄の中には、赤に塗れた何かが沢山入っている。
じっくり眺めて、それが人の頭だと気付いた。
綾香がそのうちの一つの頭髪を掴んで、誇らしげに掲げた。
頭は一部が砕けている。小さく白い何かが二つ、零れ落ちかけている。鼻は削ぎ落とされており、鼻孔が剥き出しの状態となっている。
もはや原型を留めているとは言い難い姿だった。それでもその頭が誰のものか、麻亜子には分かってしまった。
「た、たかりゃん……?」
それは、かつて河野貴明と呼ばれいてた人間の頭だった。彼は想像を絶する程の凄惨な状態で、息絶えていた。
見る見るうちに、麻亜子の表情が悲痛なものにかわっていき――
「うわああああああああぁぁぁぁぁぁっ!!」
「アハハハ、アハハハハハハッ!!そうよ、その表情が見たかったのよ!」


――そこで、映像は途切れた。
気付くと、見知らぬ家の中にいた。
起きるやいなや、麻亜子は吐いていた。それまで食べた物が、すべて床に放出されてゆく。
胃の中身を全部ぶちまけた後も、吐き気は治まらない。目から涙を、口から胃液を垂れ流す。
落ち着きを取り戻し現状を理解したのは、暫く後の事だった。


「なあんだ、夢か……」
何のことはない、ただの夢だったのだ。民家の中で休息を取っている間に、眠ってしまっただけの事だった。
しかし――軽視する事は出来ない。
夢は時に、本人の深層心理を映し出す鏡となる。
夢の場所が生徒会室だったのは、望郷の念によるものだろう。
ささらが出てきたのは、彼女とまた会いたいという願望によるものだ。
ささらが話した内容は自身のもう一つの心、即ち罪悪感によるものだろう。
そして最後に繰り広げられた悪夢は――今まで殺してきた人間の仲間達による、復讐への恐怖心によるものだ。
56欺瞞:2007/01/18(木) 19:39:06 ID:u0zQ1z1Q0

もう、生徒会室には戻れない。
もう、ささらと会う事は出来ない。会えば彼女まで危険に晒す事になる。
もう、昔には戻れない。
殺した人間の仲間達も、そして麻亜子自身も、自分を許す事は出来ないだろう。
「……あはは、なに分かりきってる事考えてるんだろうね、あたしは。今更後戻りなんて、できっこないじゃん。あんな夢見るなんて、まだまだ修羅になりきれてない証拠だね」
自身の押し隠した感情を吹き飛ばすべく、麻亜子は自分の頬を思い切り叩いた。
大丈夫、これで弱いあたしは消え去った。もう涙なんて流さない、罪悪感なんて感じやしない。

「さーて、疲れも取れたし第2ラウンドと行こうかね?待っていたまえ、哀れな獲物の諸君!」
その声は、もう迷いの無いものに戻っていた。

朝霧麻亜子
【時間:2日目・13:30】
【場所:I−6上部・民家】
【所持品1:デザート・イーグル .50AE(1/7)、ボウガン、サバイバルナイフ、投げナイフ、バタフライナイフ】
【所持品2:防弾ファミレス制服×2(トロピカルタイプ、ぱろぱろタイプ)、ささらサイズのスクール水着、制服(上着の胸元に穴)、支給品一式(3人分)】
【状態:マーダー。現在の目的は生徒会メンバー以外の排除。最終的な目標は自身か生徒会メンバーを優勝させ、かつての日々を取り戻すこと。スク水の上に防弾ファミレス制服(フローラルミントタイプ)を着ている】

【関連:599】
57殺意:2007/01/19(金) 18:11:32 ID:FEBnl3BU0
由真の言葉に従って逃げた後、俺は遠く離れた場所に隠れ、体の回復に努めた。
幸いにして、腹の怪我は大した事が無かった。
痛みが治まった俺は、急いで戻ってきたけど……間に合わなかった。
俺は地に膝をつけた。
蹴られた腹がまた痛んだわけじゃない。
ただ、情けなかった。
目の前には――風子と由真の死体が横たわっている。
生気を失った、二人の顔。
もう風子が俺に笑いかけてくれる事は無い。
もう由真の勝気な姿を見れる事は無い。
二人の存在はもう、永久に失われてしまった。
「……ちきしょう」
悔しさで、涙が溢れてくる。
俺は何も出来なかった。
俺は誰一人として、守れていない。
それどころか、逆に女の子に庇われさえした。
目を閉じれば鮮明に、襲ってきたあの男の顔を思い出すことが出来る。
絶対に、許せない。
殺したい。
俺から大切なものを奪っていたあいつを。
殺したい。
ただ逃げる事しか出来なかった、自分を。
でも今は駄目だ。俺には優先しないといけない事がある。
そっと手を伸ばし、風子と由真の目を閉じてやる。
「岡崎朋也ぁ……」
ずっと黙っていたみちるが話し掛けてくる。
とても、不安そうに。
「……大丈夫だ。行こう」
俺は、守らなければならない。
せめて、こいつだけでも。
涙を拭いて立ち上がり、みちるの手を引いた。
今の俺は、友達を埋めてやる事さえ出来ないんだ……
58殺意:2007/01/19(金) 18:14:23 ID:FEBnl3BU0



それから俺達は、村の中を歩き回っていた。
「岡崎朋也、どこに行こうとしてるの?」
「俺の肩じゃ、大きな武器は上手く扱えない」
さっきの失敗から学んだ反省点が、それだった。
一応落ちてた鍬は拾ってきたけど、この武器ではあの男には勝てないだろう。
もっと小回りの利く得物が必要だ。
「だから、まずは武器を探そうと思う」
「……岡崎朋也も、殺し合いをしちゃう気なんだね」
「………」
俺は答えられない。
みちるの言う通りだった。
もしまた誰かに襲われたら、次は最初から殺すつもりで戦う。
それに俺の場合――もう正当防衛ってレベルじゃない。
ゲームに乗った奴らが許せない。
あいつらは俺の大事な物を、どんどん奪っていく。
早苗さんも、親父も、芽衣ちゃんも、殺されてしまったのだ。
次に奴らを見つけたら、こちらから襲撃するつもりだ。
重い沈黙の中、俺達は歩き続ける。
気の利いた冗談の一つでも言えれば良かったのだろうが、それは叶わない事だ。
俺はあの男への、ゲームに乗った奴らへの殺意を抑えるので精一杯なのだから。

やがて、小さな民家の前に辿り着いた。
ここに来る途中にも家は何件もあったか、鍵が掛かってない家は無かった。
窓を割って侵入しても良かったが、大きな音を出すのは好ましくない。
今度こそは――という思いで玄関のノブを回すと、扉はあっさり開いた。
同時にこめかみに、何か硬い物を突き付けられた。
「動くな。何もしなけりゃ危害は加えねえ」
「――!」
59殺意:2007/01/19(金) 18:16:19 ID:FEBnl3BU0
俺は息を呑んだ。
この感触からして、突きつけられているものは銃だろう。
だがそれよりも、聞き覚えのある声に驚かされた。
「オッサン!?」
「小僧か!?」
横を向くと、オッサンが銃を構えていた。




【時間:2日目12時半頃】
【場所:B−3】
 
古河秋生
【所持品:トカレフ(TT30)銃弾数(6/8)・包丁・S&W M29(残弾数0/6)・支給品一式(食料3人分)】
【状態:驚き。左肩裂傷・左脇腹等、数箇所軽症(全て手当て済み)。渚を守る、ゲームに乗っていない参加者との合流。聖の捜索】

岡崎朋也
【所持品:鍬、クラッカー残り一個、双眼鏡、三角帽子、他支給品一式】
【状態:マーダー達、特に彰への激しい憎悪。まずはみちるの安全確保】

みちる
【所持品:セイカクハンテンダケ×2、他支給品一式】
【状態:朋也に同行、目標は美凪の捜索】
(関連541、623、642、ルートB−13)
60名雪の羹:2007/01/21(日) 00:17:47 ID:Gh5AQ4zY0
それは生まれて初めて経験する感覚だった。
『何か』が精神にに侵入していた。声の主は卑猥な言葉を吐く。
「オナニーしろ……オナニーするんだ、普段通りでいい。登り詰めるまでオナニーしろ!」

水瀬名雪は困惑した。なぜなら彼女は奥手なため自慰には疎かった。
たまにカエルの縫いぐるみを抱き締めて満足するのが関の山である。
(えーっ? そんな恥ずかしいことできないよ。ケロピーないし、どうしたらいいの?)
馬鹿馬鹿しいと思ったその刹那、チリチリとした異様な感覚に襲われた。
(うあ、あああああっ! か、身体が、溶けるぅぅぅぅぅぅ!)
「…せさん、 水瀬さん、しっかりして!」
そこでようやく現実に引き戻される。目覚めの悪い夕方だった。
視界がはっきりすると、茜色の空を背景に長森瑞佳が覗き込んでいた。

「長森さん、わたし体がすごく変だよ」
なぜか瑞佳が妖艶に見えた。彼女の手を取るや名雪は自らの胸に押し当てる。
身体が火照りむず痒い。同性なのにキスしたい意識に駆られる。
潤んだ瞳はあたかも異性を見る目だった。
無意識のうちに片方の手が瑞佳のスカートの中へと潜り込んで行く。
「わっ、わっ、水瀬さんどこ触ってるんだよっ! あ、あのっ……」
「心配することはない。悪い夢を見ているだけだ」
しかし名雪は見てしまった。
うろたえる瑞佳の襟口から月島拓也の手が抜かれるのを。
(もしかしてこれも夢なのかな。月島さんが長森さんの胸を触ってたなんて……)
際どいところで痴態を止めるが出来たものの、気まずい雰囲気が漂った。

「水瀬さんは何かスポーツをしてるようだね」
「ええ、陸上をやってます。わかりますか?」
「引き締まって無駄な肉の無い、長い脚をしている。陸上をやってる割には色白だな」
拓也は頭のてっぺんからつま先までを舐めるような視線を走らす。
黙っていればすごくイイ男なのだが、その言動が名雪に嫌悪感を抱かせていた。
61名雪の羹:2007/01/21(日) 00:20:50 ID:Gh5AQ4zY0
「お兄ちゃん、わたしの胸触ってなかった? 変な感じがするんだけど」
「してない。水瀬さんが変な夢を見たせいで動揺しているんだよ」
(嘘。わたしは見たんだからね。月島さんてイヤラシイ人だわ)
名雪はそっぽを向くと山筋に零れる残照を眺める。
「はあ、疲れた……」
溜息を吐いた直後、再び『何か』が精神にに侵入して来た。
(お前を苦しめる恐怖を主催者への憎しみに変えろ。憎め、憎め、憎むんだ)
チリチリとした痺れるような感覚に苛まれる。
抗わずに受け入れるとその不快な感覚は消えて行った。
(こんな恐ろしい目に遭わせた主催者が許せない。殺してやるっ)
いつの間にか名雪は殺気立っていた。


その後二人の会話を聞いているうち、名雪は居たたまれなくなり立ち上がる。
いちゃつきに辟易していたのだが、尿意を堪えきれなくなったのである。
しかもパンティが濡れているのが気になっていた。
「どうしたんだ?」
「あの……ちょっとお花見をして来ます」
「どこにも花なんか咲いてないぞ」
「女の子に言わせちゃ駄目だよ」
内股になって震えていることから、瑞佳は名雪の意中を察し嗜める。
「ああ、そうなのか。付いて行ってやろうか」
「一人で大丈夫です」
拓也の申し出をあっさりと断ると、名雪はそそくさと歩き出し目の届かない所へと消えた。
62名雪の羹:2007/01/21(日) 00:22:57 ID:Gh5AQ4zY0
放尿をしようとパンティを下ろす。
(うわっ、納豆みたいに糸引いてる)
名雪はその光景に絶句した。
(わたしったら、イヤラシイ女の子……)
ティッシュで性器の合わせ目を拭うと、電流が敏感な突起から頭のてっぺんへと駆け抜ける。
「はうぅ、いやあん……」
色白のほっそりとした喉元が晒され、長い髪がピクンと揺れた。
(ここに男の人のアレが入るんだね。祐一に挿れて欲しいよう)
名雪の頭の中には従兄の相沢祐一の安否よりも、彼女の指を祐一の逸物に見立てることしかなかった。

合わせ目を弄り、指を軽く抜き差ししていると蜜が零れ滴りを作る。
踏み固められた草の上に落ちた滴りは小さな水溜りとなる。
それはあたかも羹のごとく微かな湯気を立てていた。
「あん、祐一ぃ……」
軽く絶頂を迎えると、名雪は恥ずかしさのあまり顔を覆って泣き出した。



名雪の不在いいことに、拓也の偏執愛はエスカレートして行くばかりである。
「瑞佳も大分溜め込んでるんじゃないのか? 僕が抱えてやるからシーシーしていいよ」
「ヤだよ。そんな仲になったことないもん」
「兄妹なんだから恥ずかしがることないのに……ん〜、瑞佳、いい首筋してるなあ」
「ひゃうっ! もう、ヤだヤだヤだぁ〜!」
首筋に舌を這わされ、堪らずに逃げ出す瑞佳。
(義兄妹といっても悪魔でも同志のつもりだったのに……)
「下の世話ならお兄ちゃんに任せておけばいいんだ。後始末だって舐めて綺麗にしてやるからさ」
「はあ、変なことばっかり言って、もう……水瀬さんのとこに行って来るよ」
「フッ、女の連れションか」
腰を折って老婆のような恰好で歩いて行く瑞佳の太腿を、拓也は舌なめずりしながら見ていた。
63名雪の羹:2007/01/21(日) 00:24:06 ID:Gh5AQ4zY0
【時間:2日目・17:45】
【場所:D−8、カーブ内側の茂み】

 月島拓也
 【持ち物1:トカレフTT30の弾倉、支給品一式(食料及び水は空)】
 【持ち物2:トボウガンの矢一本、支給品一式(食料及び水は空)】
 【状態:健康、嬉々】

 長森瑞佳
 【持ち物:なし】
 【状態:重傷、出血多量(止血済み)、一時的な回復、放尿しに行く】

 水瀬名雪
 【持ち物:なし】
 【状態:やや精神不安定、すすり泣き】

【関連:627】
64Social Issues:2007/01/21(日) 20:12:03 ID:CYePh5r30

荘厳な玉座に、一人の女が座っている。
女、水瀬秋子は閉じていた目を開けると、静かに告げた。

「―――あかりさんの反応が……途絶えたようですね」
「な……!?」

傍に控えていた少女、巳間晴香が色めき立つ。

「あの神岸が敗れたというのですか……! 一体、誰に……!?」
「……」

晴香の疑問に、秋子は答えない。
ただ静かに目を伏せ、一言だけを呟く。

「BLの使徒の力……私たちの想像を超える速さで進化を続けているのかもしれません」
「観月……マナですか」

晴香が、苦々しげにその名を口にする。

「信じられません。昨日今日、BLに目覚めたばかりの小娘が、そのような……。
 ましてあの神岸を退けるなどと……!」

しばらくの沈黙の後、晴香が意を決したように顔を上げる。

「……こうなった以上、私も打って出ようと思います。
 つきましてはどうか、お許しを賜りたく」
「晴香さん、それは……」
「存じております。今はGLの本願が叶うかどうかという、大事な時期。
 軽挙妄動は厳に慎むべき……。しかし、」

熱っぽい口調で、晴香は続ける。
65Social Issues:2007/01/21(日) 20:13:14 ID:CYePh5r30
「神岸の敗因を、私なりに考えておりました。
 そう、襲い受とはいえ、受は受……。網を張り、待ち受けるがその真骨頂。
 それを奴めは勘違いして自ら仕掛けていき、故にBL如きに遅れをとったのでしょう。
 己が本領を見誤ったからこそ、神岸は敗れたのです」

その燃えるような瞳を見据えて、秋子が口を開く。

「……そして、あなたは」
「はい、『鬼畜一本槍』の名は伊達では御座いません。
 我が本領は鬼畜責……この身一つで敵中へ斬り込み、喰って喰って喰い荒らす……!
 それこそが我がGLの在り方に御座いますれば」

言って、秋子の言葉を待つように頭を下げる。
その姿に小さく溜息をつくと、秋子はどこまでも静かな声で命を下した。

「……わかりました。頼みましたよ、晴香さん」
「はっ! 必ずや、ご期待に沿う働きをしてご覧にいれます!
 すべてはレズビアンナイトのために!」

深々と頭を下げた、次の瞬間には、晴香の姿は既になかった。
遠くから、力強い足音だけが響いてくる。
足音は瞬く間に遠ざかっていった。
その素早さに、秋子はもう一度だけ小さな溜息をつく。

「……すべてはレズビアンナイトのために、ですか……。
 つらいものですね……何もかもを知る、というのも」

小さな呟きを最後に、玉座の間に静寂が戻る。
と、肘掛に頬杖をついて何か考えるように目を閉じていた秋子が、唐突に口を開いた。

「―――さて、そろそろ出てこられてはいかがですか?」
66Social Issues:2007/01/21(日) 20:14:09 ID:CYePh5r30
答えるものとて無い。
天井に反響する声だけが、空しく響き渡る。
しかし秋子の眼は、中空のただ一点を見つめて動かない。

「……」

沈黙が支配する場を打ち破ったのは、一つの声であった。

「―――あはは、バレてたか。さすがはGL団総統・シスターリリーだね〜」

灯火揺らめく洞窟にそぐわぬ、明るい声。
何の変哲も無い岩壁から、その声は響いていた。
岩としか見えぬそれが盛り上がり、見る間に人の形をとっていく。

それは一人の女性であった。
少女から女性へと変わりゆく期間の女だけが持つ、微妙な色香を醸し出している。
発育途上の身に纏うのは黄色いワンピース。
長い桃色の髪は、頭頂部で一房が跳ねていた。

「その名をご存知ということはBLの方、ですか」
「う〜ん、どうなのかな……」

問われ、首を傾げる女。

「一応、肩書きはBL特殊布教部隊所属、ってことになってるけど。
 正直そっちにはあんまり興味ないんだよね」
「ならば、なぜここまでいらしたのです?」

その言葉に、女の表情が微かに動いた。
それまで明るいだけの笑みを浮かべていたものが、どこか底知れぬものを秘めた微笑へと変わる。

「……妹と友達を返してもらいに、って言えばわかるかな?」
67Social Issues:2007/01/21(日) 20:15:19 ID:CYePh5r30
一気に鋭さを増した眼光を正面から受け止めて、秋子が穏やかに微笑む。

「あら、あなたがスフィーさんでしたか。……はじめまして、水瀬秋子と申します」
「知ってるよ。でもまあ、そう言われたらあたしも名乗っておかないと失礼だよね。
 はじめまして、シスターリリー。あたしはスフィー=リム=アトワリア=クリエール。
 リアン=エル=アトワリア=クリエールの姉にして、江藤結花の友達だよ」
「ご丁寧にどうも。リアンさんたちにはいつも助けられています」
「―――無理やりさらっておいて、よくそんなことを言えるねっ!」

秋子の言葉に、スフィーが激昂した。顔から微笑が消え、声音が怒声へと変わる。
堪えていたものが弾けた、といった風のスフィーに、しかし秋子はあくまで静かな声音のまま応じる。

「無理やり、とはおかしなことを仰いますね。
 確かにリアンさんたちは私たちの下で暮らしていますが、すべてあの子たちの自由意志です。
 私たちは来るものは拒みませんが、あなた方のように無闇な布教を行ったりはしませんから」
「嘘をつかないでっ! ならどうして居場所を教えてくれないの!?」
「……受付に出た者が申し上げたと思いますが、我々の中で暮らすことを望んでいらした方の場合は、原則として
 本人からの希望が無い限り、面会をお断りしています。お手紙などの差し入れは受け取っている筈ですが」
「その手紙が返ってこないのは、どういうこと!?」

怒髪天を衝く、とばかりの勢いで詰め寄るスフィー。
対する秋子はどこまでも穏やかに、微笑を崩さない。
慈母の笑みを浮かべたまま、頬に手を当てて答える秋子。

「さあ……それは、ご本人の意思次第ですから」
「話にならないっ!」

吐き捨てて、足を踏み鳴らすスフィー。

「いいよ。そっちがそのつもりなら、こっちも力ずくでいかせてもらう!」
68Social Issues:2007/01/21(日) 20:15:53 ID:CYePh5r30
「……仕方ありませんね。少し、お相手をしてさしあげましょうか」

秋子の言葉と同時。
光が、弾けた。



【時間:2日目午前7時ごろ】
【場所:B−2 海岸洞穴内】

水瀬秋子
 【持ち物:支給品一式】
 【状態:GL団総帥シスターリリー】

巳間晴香
 【持ち物:支給品不明・その他一式】
 【状態:GLの騎士】

スフィー
 【持ち物:なし】
 【状態:魔女】

→378 401 498 ルートD-2
69残された者達:2007/01/22(月) 01:51:27 ID:dalHI8SQ0
「祐一……」
環は目を見開いたまま立ち尽くしていた。何があったかは分からない。
今自分に分かる事はたった一つだけだ。

――元々の友達とここで出来た仲間。天秤になんてかけれねーよ。だからこそ間違ってるほうを止めるしかないじゃねーか

今でも一字一句間違う事なく、はっきりと思い出せるその言葉。
目を逸らす事無く厳しい現実を捉え、正しく強く生きる事を教えてくれた少年。相沢祐一は、死んだ。
事実を認めた環は千切れるくらいに拳を握り締め、目を瞑る。
お互いに助け合ってきた大切な仲間、一緒に生き延びる事を誓い合った大事な同志が死んだ。
だけど、泣けなかった。今にも壊れてしまいそうな程悲しいのに、涙が出てこない。
弟に殴られた傷の影響で体の機能に異常をきたしているのか、もしくは涙が枯れてしまったのか。
きっと、そのどちらでもない。理性が、そして記憶の中にある二人の少年の姿が、泣く事を拒絶させる。

――俺人を殺してるんだ

――タマ姉! 俺がまーりゃん先輩を足止めするからその人達と行ってくれ!

強かった。彼らは本当に強かった。こんな環境の中でも自分を見失う事無く、時には冷酷に、時には優しく、やるべき事を遂行してきた。
それに比べて自分はまだ何もしていない、何も守れていない。
周りを見渡す。大勢の見知らぬ人間、そして地面に、服に、腕に、足に、付着している血。
まだ自分は生きている、動けない程の重傷でもない。今やるべき事は泣く事なんかじゃない。
「環君、これは……」
環の心の中の葛藤が終わるのを見計らったように、英二が話し掛けてくる。
何をするべきか――この場面で、祐一や貴明ならどうするか。
「事情の説明は後でお願いします。まずは怪我をしている人達を診療所へ運びましょう」
「――分かった」
気遣う英二を跳ねつける様に、凛とした声で告げる。
当面の行動目的と、自身の内心を伝えるにはそれだけで事足りる。少しばかりの空白の後、英二は頷いた。
治療が必要な者が多過ぎる、まずは彼らを助けなければ。
環と英二は動ける者に助力を要請しようと足を踏み出そうとし――草を踏みしめる音が聞こえた。
70残された者達:2007/01/22(月) 01:53:02 ID:dalHI8SQ0
「宗一!」
「――っ!?」
環の目に飛び込んできたものは、少女を背負った外人の女性。
金髪の美しい髪、青い色の瞳。そして均衡の取れた体付き。自分もスタイルには自信があったが、外人には敵わないと思い知らされる。
このゲームの鉄則は人を安易に信用しない事。慌てながらも地面に落ちているレミントンを拾う。英二も懐から銃を取り出そうとしていた。
しかし、二人が銃を構えるより先に――外人女性は銃をこちらに向けて構えていた。
「Don't move!」
「くっ……」
神業じみた速度だった、と言っていい。
女性は自分達より遅れて行動に移ったにも、そして少女を背負っているにも関わらず、片腕だけで先に銃を構えていたのだ。
その動作はあまりにも手馴れており、あまりにも速過ぎた。
――勝てない。
直感で分かった。自分達のような素人が何人いようとも到底歯が立たない。
蒼い目から発される、射抜くような凍り付いた視線。
その視線は自分達のほんの僅かな動きすら、見落とす事はないだろう。
向けられる黒い銃口、その奥に覗く漆黒の闇。
その闇から吐き出される鉛球は、文字通り一瞬で自分達の命を奪い尽くすだろう。
圧倒的な死の予感に、環の体を緊張が支配する。追い詰められた環を救ったのは、宗一の一言だった。
「待て、リサ!こいつらはゲームに乗っていない!」
「……OK」
宗一とリサと呼ばれた女性の間柄は知らないが、相当の信頼関係で結ばれているのだろう。
リサはあっさりと銃を下ろし、極度の緊張から解放された環もまた武器を手放した。
ほっと胸を撫で下ろし、金髪の女性に近付き握手を交わす。
「Sorry、いきなり銃を向けてごめんなさい。私はリサ=ヴィクセンよ」
「こちらこそ悪かったわね。私は向坂環よ、よろしく」
「僕は緒方英二だ、よろしく頼む」
「よろしくね、環、英二。……それじゃ、まずは怪我をしてる人達を診療所に運びましょうか」
簡単な自己紹介を終えると、各自が動き出し怪我人の運搬を始めた。

* * * * * * * *

(観鈴……)
71残された者達:2007/01/22(月) 01:54:30 ID:dalHI8SQ0
往人は泣き続けている観鈴になんと声を掛ければ良いか迷っていた。
出来る事ならこのまま少年の遺体の傍に居させてやりたいが、観鈴は怪我をしている。
言っても聞かぬようなら、無理やりにでも連れて行くしかない。
意を決し観鈴に近付こうとしたその時、後ろで何かが動く気配がした。
「く……ぅ……」
「――秋子?」
見ると、秋子が未だに血が止まらぬ腹を押さえていた。
脂汗を垂らすその顔からは血の気が引いており、立っているだけでも辛いのか、体は小刻みに揺れてる。
その様子はどう見てももう限界だったが、驚くべき事に秋子は足を引き摺りながらも歩き去ろうとしていた。
放っておく訳にもいかず、肩を掴んで制止する。
「――離し、なさいっ……」
「何処へ行くつもりだ?それ以上無理をすれば――死ぬぞ」
「構いませ……ん、こうなった一因は……私にありますから、この命に、代えても――娘だけ……でも、助けます」
予想通りの答え。分かっている、今の彼女にはどんな言葉も通じぬ事は。
秋子は目の焦点すら合っていない。あれだけ血を流せば意識も朦朧としているだろう。
そんな状態の彼女を突き動かしているのは、半ば狂気の域にまで達している責任感、そして喪失への恐怖だ。
「済まん」
「――っ!?」
次の瞬間には秋子の首を手刀で打っていた。ぐったりしたその体を抱き上げ、診療所に向かって歩き出す。
彼女が起きたら恨まれるだろうか――きっと、恨まれるだろう。
当然だ、詳しい事情も知らない他人に過ぎぬ自分がこんな事をすれば。
だが、それでも構わない。自分は死後の世界など信じてはいない、たとえどんな事になろうとも生きている方が良いに決まっている。
それに秋子は娘がいると言った。母親が死んだ事を娘が知れば、深い絶望の闇に突き落とされるだろう。
もうこれ以上観鈴のような不幸な境遇の少女を増やしたくは無かった。


* * * * * * * *

「――観鈴君、行こう」
「祐一さんを置いていくの?そんなの嫌だよ!」
「観鈴……祐一はもう、遠い所へ行ってしまったのよ」
「だったら……だったら私もそこに行く!祐一さんを一人でなんて、行かせられないよ!」
72残された者達:2007/01/22(月) 01:55:49 ID:dalHI8SQ0
観鈴は声を張り上げ、涙を流している。環も英二もその対応に苦慮していた。
気持ちは分かるがこのままでは、観鈴の容態が更に悪化しかねない。
事実観鈴の顔色は一段と悪くなっている。もう一刻の猶予も無い。
どうすべきか――二人が結論を出すより早く、一人の男が表れ、すいと観鈴を抱きかかえていた。
「お、おとう……さん?」
「え?」
「そうさ、お前のお父さんだよ」
敬介は、左肩を負傷しており片腕しか使える状態ではない。それでも無事な右腕だけでしっかりと観鈴を抱き締めていた。
それから彼は、くるりと英二達の方へと振り向いた。
「聞いての通り、僕は観鈴の父親――橘敬介という者だ。ここは僕に任せてくれないかな?」
「……分かった、観鈴君を頼む」
出会ったばかりの男だが、父親なら自分達以上に観鈴を大事に思っているに違いない。
彼に任せておけば、大きな間違いはないだろう。英二はそう判断した。


敬介は礼をするように軽く頭を下げると、診療所へと踵を返した。いざ強引に運んでみると思ったよりも観鈴の抵抗は少なかった。
正しくは、今の観鈴の体には抵抗する余力が無かったのだ。移動を続けながら、すすり泣く観鈴に敬介が話し掛ける。
「観鈴。あの少年が、最後に言った言葉を覚えていないのかい?」
「祐一さんの、言葉?」
「明るく、笑いながら生きてくれ。あの少年はそう言ったんだ。観鈴がこんなんじゃあの少年が、あまりにも報われない」
「こんなに辛いのに、こんなに悲しいのに、そんなの出来るわけないよ……」
「そうか。でも――観鈴が何と言おうと僕がお前を死なせはしない」
抱きしめた腕に少し力を込める。死んだ晴子の、祐一の代わりに自分が観鈴を守る。
それは敬介にとって、絶対に揺らぐ事の無い誓いだった。





残された環と英二は、地面に落ちている様々な道具を拾い集めていた。
そんな中、環がポツリと呟いた。
73残された者達:2007/01/22(月) 01:57:18 ID:dalHI8SQ0
「ねえ、英二さん」
「――何だい?」
「後どれだけこんな事を繰り返せば、この悪夢は終わるんでしょうね……」
「僕には分からないが……。でもきっと、少年ならこう答えるんじゃないかな」


――どんなに長く苦しい悪夢でも、醒めない夢なんてねえよ。


【時間:2日目・午前9時10分】
【場所:I−7】

那須宗一
【所持品:FN Five-SeveN(残弾数12/20)】
【状態:診療所へ、左肩重傷(腕は動かない)、右太股重傷(動くと激痛を伴う)、腹部を銃で撃たれている(急所は外れている)】
橘敬介
【所持品:支給品一式、花火セットの入った敬介の支給品は美汐の家に】
【状態@:左肩重傷(腕は上がらない)・腹部刺し傷・幾多の擦り傷(全て応急手当済み)】
【状態A:観鈴を抱き上げている、診療所へ、背中に痛み】
水瀬秋子
【所持品:ジェリコ941(残弾10/14)、澪のスケッチブック、支給品一式】
【状態:気絶、腹部重症(治療はしたが再び傷が開いた)。名雪を何としてでも保護。目標は子供たちを守り最終的には主催を倒すこと。】
緒方英二
【持ち物:H&K VP70(残弾数0)、ダイナマイト×4、ベレッタM92(6/15)・予備弾倉(15発×2個)・支給品一式×2】
【状態:若干疲労】
神尾観鈴
【持ち物:ワルサーP5(8/8)フラッシュメモリ、支給品一式】
【状態:診療所へ、脇腹を撃たれ重症(容態少し悪化)】
国崎往人
【所持品1:トカレフTT30の弾倉、ラーメンセット(レトルト)】
【所持品2:化粧品ポーチ、支給品一式(食料のみ2人分)】
【状態:秋子を抱き上げている、診療所へ】
74残された者達:2007/01/22(月) 02:00:02 ID:dalHI8SQ0
神岸あかり
【所持品:水と食料以外の支給品一式】
【状態:宗一の移動を手伝いながら診療所へ、月島拓也の学ラン着用。打撲、他は治療済み(動くと多少痛みは伴う)】
向坂環
【所持品@:レミントン(M700)装弾数(5/5)・予備弾丸(15/15)、包丁、ロープ(少し太め)、支給品一式×2】
【所持品A:携帯電話(GPS付き)、ツールセット、救急箱、ほか水・食料以外の支給品一式】
【状態:疲労、頭部に怪我、全身に殴打による傷】
リサ=ヴィクセン
【所持品:鉄芯入りウッドトンファー、支給品一式×2、M4カービン(残弾30、予備マガジン×4)】
【状態:栞を背負っている、宗一の移動を手伝いながら診療所へ】
美坂栞
【所持品:無し】
【状態:酷い風邪で苦しんでいる、睡眠】

【関連:601 644】
75青年と少女達:2007/01/23(火) 20:23:46 ID:s1ErgD7y0
七瀬彰は民家の中で休憩していた。
先程の戦闘で失った体力、負傷した腕……とても戦い続けれる状態では無い。
「うっ……」
もはや動かぬ右腕に、無造作に包帯を巻きつける。
止血の効果を高める為に腕の根元のあたりは特に強く締め付けた。
片腕しか使えぬ今の状態ではこれが限界、最善の処置だった。

(これからどうするかな………)
彰は別段優れた体力も筋力も持ち合わせていない。
左腕一本では薙刀を満足に使いこなせないだろう。
もっと強力で、片腕でも使える武器―――銃が欲しい。
出来れば反動の小さい小型の拳銃が良いが、それは高望みというものだろう。
とにかく、銃が必要だ。
(でも、どうやれば手に入る?)
銃を持った相手との戦いを想像してみる。
片腕で薙刀を振り上げ、振り下ろす。その間、早く見積っても1秒以上。
どう考えても相手が引き金を引く方が早い。

正面から奪い取るのは困難を極めるだろう。
(―――もう一つの手で行くしか無いか……)
問答無用に襲撃を仕掛けないのならば、血だらけの今の格好ではまずい。
彰は着替えを探し始めた。
危険は伴うが、元より自分程度の実力ではまともに優勝するのは不可能だろう。
どこかで博打を打つ必要があった。






76青年と少女達:2007/01/23(火) 20:25:06 ID:s1ErgD7y0
少年との死闘を終えた貴明達は、民家で手早く治療を行なった。
満足な道具も無いし、何より誰一人として本格的な医療の知識など持っていない。
簡単な応急処置が精一杯だったが、それでも止血と消毒は何とか済ませた。
準備を整えた彼らは長居する事無く民家を後にした。

「梓さん、皐月さん、本当に一緒に来ないのか?」
「悪いけどそうなるね。あたしと皐月は足を撃たれちゃったからさ、貴明と一緒に氷川村まで行くのは辛いよ」
「でも銃声を聞きつけて別の奴らが来るかも知れない……」
「その時はその時さ。それに―――この盾もある、そう簡単にはやられないさ」
梓は少年が使っていた盾を取り出し、構えて見せた。
確かにこの盾なら、足を怪我していても十分身を守れるだろう。
それに梓も皐月も銃を持っている……今ここにいる5人はこと装備面に関しては、この島の中でもトップクラスに違いない。
なら、過度の心配は無用なように思えた。
「耕一さんは今、氷川村を探してるんだよね?」
「多分ね。もし会ったら、よろしく言っといてよ」
「分かった。それじゃ俺達、そろそろ行くよ」
「ああ、またね」

―――再会出来る可能性は決して高くないが、敢えて「またね」という言葉を使った。
お互いの無事を願い、それぞれが握手を交わす。
彼女達の服には未だに血が滲んだままだ。
五体満足な者は一人としていないが、誰も泣き言は言わなかった。
そして間も無く、貴明達と梓達は各々の方向に別れた。

二人だけになった後、梓と皐月は鎌石村の中を歩き回っていた。
歩きながら、皐月はこれまでの道程について語り始めた。
「あたしと一緒に居た人達…皆死んじゃったな…」
エディは自分に誤射されて、死んでしまった。
このみは原因不明の首輪の爆発で、死んでしまった。
智子と幸村は、少年に殺されてしまった。
最後に傍に残った花梨も……自分達を救う為に、少年と共に死んでしまった。
もう、皆死んでしまったのだ。
77青年と少女達:2007/01/23(火) 20:26:46 ID:s1ErgD7y0
語ってるうちに自然と涙が流れだした。
梓は表情を歪めていたが、それでも何も言わなかった。
所々で嗚咽が混じっていたが、ようやく皐月は話を終えた。

沈んだ表情のままの皐月に梓が話しかける。
「事情は分かったよ……。皐月はこれからどうするつもりなんだい?」
「……この宝石」
皐月はポケットから青く光り輝く宝石を取り出し、梓の手に握らせた。
宝石は、いつの間にか熱を帯びていた。
「暖かいね……。これ、何?」
「この宝石には皆の『想い』が詰まってる…。どんな謎が隠されてるかまだ分からないけど、あたしはこの宝石を守り抜こうと思う」
「……そっか」
皐月は暖かさを噛み締めるように宝石を抱いてから、鞄に戻した。
その時、鞄からぴろが顔を覗かせた。
「にゃ〜……」
「ぴろ?」
皐月はぴろを鞄から出してやった。
するとぴろは慰めるように、皐月の頬を舐め始めた。
「そう言えば、ぴろはあたしとずっと一緒にいるのにまだ生きてるね……。ありがと、ぴろ」
皐月はそう言うと、ぴろをぎゅっと抱き締めた。
梓はやり切れない思いでその様子を見ていた。


「―――!」
そのまま道を進んでいると、遠くから誰かが歩いてくるのが見えた。
まだ相手はこちらに気付いていないようだ。
梓と皐月は顔を見合わせ頷き合った後、民家の塀の影へと身を隠した。

やがて自分達より何歳か、年上に見える青年が歩いてきた。
「はぁ……はぁ……」
青年は苦しそうに息を切らしていた。
肩にデイバックを担ぎ、左腕には薙刀を握っている。
78青年と少女達:2007/01/23(火) 20:27:34 ID:s1ErgD7y0
梓はどうするか迷ったが―――結局、話し掛ける事にした。
人を探すのなら情報を集めなければ埒があかない。
それに自分は何度も相手を信用せずに失敗している。
柳川の時も貴明の時も、自分から襲い掛かってしまったのだ。
今度こそ、まずは冷静に話し合ってみようと思った。


「……あんた、大丈夫か?」
「!」
相手に余計な刺激を与えぬよう、正面から姿を見せた。
当然、銃はいつでも取り出せるようにポケットに入れてある。
警戒しているのか、青年は薙刀を構え数歩後退した。
「あー、ちょっと待ってくんないかな。あたし達、ゲームには乗ってないからさ」
「……本当か?」
「うん。大体ゲームに乗ってるなら、複数で行動はしないだろ?」
「―――それもそうだね」
少し間を置いて青年はそう答え、構えを解いていた。
簡単に信用が得られたので、梓は拍子抜けした気分になった。
話し合いはもっと難航するかと思っていたからだ。
何にせよ、相手が先に警戒を解いてくれた以上はこちらもそうしなければならない。
梓と皐月は表情を緩め、青年に近付いた。
「あたしは梓、柏木梓。こっちの子が―――」
「あたしは湯銭皐月よ。皐月って呼んでね。あなたは?」

「―――七瀬彰だ」

【時間:二日目・12:35】
【場所:C−4(鎌石局周辺)】
河野貴明
【所持品1:ステアーAUG(残段数30/30)、予備マガジン(30発入り)×2、SIG・P232(0/7)、仕込み鉄扇、自分と少年の支給品一式】
【所持品2:38口径ダブルアクション式拳銃(残弾数0/10)】
【状態:左脇腹、左肩、右腕、右肩を負傷・左腕刺し傷・右足、右腕に掠り傷(応急処置および治療済み)、氷川村へ】
79青年と少女達:2007/01/23(火) 20:28:40 ID:s1ErgD7y0
観月マナ
【所持品1:ワルサー P38(残弾数5/8)、ワルサー P38の予備マガジン(9ミリパラベラム弾8発入り)×2、カメラ付き携帯電話(バッテリー十分、全施設の番号登録済み)】
【所持品2:9ミリパラベラム弾13発入り予備マガジン、他支給品一式】
【状態:足にやや深い切り傷(治療済み)。右肩打撲、氷川村へ】
久寿川ささら
【所持品:Remington M870(残弾数1/4)、予備弾(12番ゲージ弾)×30、スイッチ(未だ詳細不明)、トンカチ、カッターナイフ、他支給品一式】
【状態:右肩負傷(応急処置及び治療済み)、氷川村へ】



【時間:二日目・13:20】
【場所:C−3】
柏木梓
【持ち物:グロック19(残弾数7/15)、予備弾丸(9ミリパラベラム弾)×11、特殊警棒、強化プラスチックの大盾(機動隊仕様)、支給品一式】
【状態:右腕、右肩、左腕、右足、左足負傷(全て応急処置済み)。目的は初音の保護、千鶴の説得】
湯浅皐月
【所持品1:セイカクハンテンダケ(×1個+4分の3個)、.357マグナム弾×15、自分と花梨の支給品一式】
【所持品2:S&W M60(2/5)、宝石(光3個)、海岸で拾ったピンクの貝殻(綺麗)、手帳、ピッキング用の針金】
【状態:左肩、左足、右わき腹負傷、右腕にかすり傷(全て応急処置済み)】
七瀬彰
【所持品:薙刀、殺虫剤、風子の支給品一式】
【状態:右腕致命傷(ほぼ動かない、止血処置済み)、疲労、ステルスマーダー化、服は着替えたので返り血はついていない】
ぴろ
【状態:皐月の頭の上に乗っている】
(関連632・642 ルートB-13)
80名無しさんだよもん:2007/01/23(火) 20:37:33 ID:s1ErgD7y0
訂正
>>78
>「あたしは湯銭皐月よ。皐月って呼んでね。あなたは?」
 ↓
「あたしは湯浅皐月よ。皐月って呼んでね。あなたは?」

に修正お願いします。
81なにがなんだか義兄妹(前編):2007/01/24(水) 00:46:01 ID:PSlEfJeV0
「あなたはどうしてそんなに冷静でいられるの?」
水瀬名雪は五メートルほど離れた所でしゃがみ込む長森瑞佳に問いかける。
しかし返答はなかった。聞きそびれたのだろうか。

暫くしてもう一度問いかけようとした時、瑞佳がようやく口を開いた。
「わたしの場合、恵まれたおかげかな」
「恵まれた?」
「うん。襲われる度にいい人に助けられてね。お陰で気持ちを切り替えることができたと思うんだ」
「ふうん……」
月島拓也がいい人なのかと突っ込もうとしたが止めておく。
「わたしも水瀬さんのように助けてくれる人に恵まれなかったら、取り乱していたかもしれない」
答が的を射ていただけに、名雪は立ち上がる気力が萎えてしまった。
「もう少しここに居るから先に戻ってて」
「長居は危険だから早く戻っておいでね」
何度か振り返りつつ、瑞佳は不恰好な姿勢で戻って行った。


何も考えずぼーっとしているのが気楽だったが、気を取り直し拓也達の元へと戻ることにした。
歩き始めて間もなく、名雪は何かに躓き声を上げる間もなく突っ伏した。
足元を見ると、ほど良い大きさの枝が転がっている。
杖代わりにも武器としての棒にも使えそうな代物だった。
名雪は手に取ると黙々と小枝を毟る。
午後の放送が流れたのはそれから間もない時間であった。

相沢祐一の死は、名雪を再び錯乱させるほどの衝撃を与えた。
親友の美坂香里も死んでしまった。沢渡真琴と月宮あゆも。
かろうじて持ち堪えたのは母親の水瀬秋子の名前がなかったからである。
「お母さん、生きてたんだ」
最後に見た秋子は血を流して倒れていた。きっと誰かに助けられたに違いない。
──ホッとしたのもつかの間、瑞佳の悲痛な声が聞こえた。
82なにがなんだか義兄妹(前編):2007/01/24(水) 00:47:46 ID:PSlEfJeV0
「君も聞いただろ。優勝者はどんな願いもひとつ叶えられるって」
「そんな馬鹿げたこと、本気で信じてるの?」
「瑠璃子が生き返るのなら、僕はどんなことでもする」
「そんな嘘信じちゃ駄目だよっ! お兄ちゃん」
「お兄ちゃんと呼んでいいのは瑠璃子だけだ。もう止めてもらおうか」
冷ややかな声。ついさっきまでじゃれ合っていたのが嘘のようである。

「何言ってるんだよ。あなたが呼んでって言ったんじゃないっ!」
瑞佳は生まれて初めてではないかと思うほどの金切り声を上げる。
「……そうだったな。では最後に君を殺すことにしよう。それまでは協力しないか?」
脳裏に初めて襲われた時の記憶が甦る。
──鹿沼葉子と同じことを言っている!

「嫌だよ。あなたってそんな軽薄な人だったの? 最低だよっ」
用を足しに行った方向とは反対側へ後退る。
視線をずらさずに見える範囲に名雪の姿はない。今の内に彼女には逃げて欲しかった。

踵に何かが当たる。直後、背中が立ち木に阻まれた。
「恐怖に怯える顔もいいね」
「ヒィィィィィィィィッ!」
八徳ナイフが首の皮一枚の差で木に刺さる。
腰が抜け根元にへたり込む。もはや悲しげな眼差しで拓也を見つめることしかできなかった。

「ふと考えたが、君には貴重な時間と水や食料を浪費してしまった。駄賃は貰わないとな」
「駄賃って……あっ、いやあぁぁぁっ!」
拓也はスカートの中に手を入れるとパンティを一気に引き降ろした。
抗う瑞佳の顎にナイフを突きつけ抵抗の意思を封じる。
「お願いです。一思いに殺して下さい」
哀願を黙殺し股間を隠そうとする手を払い退け、女の部分を覗き込む。
83なにがなんだか義兄妹(前編):2007/01/24(水) 00:49:23 ID:PSlEfJeV0
「ほう、顔と同じで清楚だ。美しき花弁を僕の物で散らしてやる。いずれ水瀬さんも……え?」
──水瀬! 拓也はようやく名雪の不在に気づいた。
背後に人の気配がしたがもう遅い。
(──しまったぁ!)
振り返った途端、割れるような衝撃が頭に走る。
意識が途絶える直前、拓也の網膜に憤怒に満ちた名雪の形相が焼きついていた。


瑞佳はすぐさま拓也の手を取り脈を診る。
悪党はまだ生きていた。
安堵の溜息を漏らし、名雪を仰ぎ見ると二撃目を振りかぶっていた。
「お願い。命だけは助けてあげて!」
名雪の腰にしがみつき哀願する。
あわや殺されるところだったが、天性の優しさからか、どうしても拓也の命を奪う気にはなれなかった。
「あなた、何されたかわかってるの? 後顧の憂いを絶つためにも、この外道は殺さないと駄目だよ」
「わかるけど、でも、ここはわたしに免じて助けてあげて」
「駄目っ、放しなさいよっ!」
「お願いだから殺さないでっ!」
「くっ……もうっ、やってられないわっ!」
怒りの矛先を立ち木にぶつけると名雪はそっぽを向いた。


瑞佳は何を思ったか八徳ナイフを手にすると草を刈り始めた。
「お願い。これを撚って紐を作ってちょうだい」
「ええっ、紐?」
なんとなく威圧されてしまい、名雪は言われるまま紐作りをする。
途中瑞佳を窺ってみたものの、何を考えているのかやはりわからなかった。
84なにがなんだか義兄妹(前編):2007/01/24(水) 00:51:21 ID:PSlEfJeV0
やがて繋ぎに繋ぎ合わせた二本の紐ができあがった。
「月島さんを後ろ手に縛って」
名雪に指示すると瑞佳は拓也の足首を縛る。
縛り終えると一旦ほどき僅かに緩めに縛りあげる。手首の縛り具合も同様にした。
恐る恐る拓也の頭を触ってみると、幸いにも瘤を認めることができた。
陥没していれば助からないと思ったからである。

包帯代わりに巻いていた拓也のYシャツを脱ぎ、丁寧にたたむ。
「月島さん、大丈夫ですか?」
体を揺すると拓也は意識を取り戻した。
「う……痛っ。クソッ、不覚を取ったか」
「よく聞いて下さい。縛り具合は若干緩めにしてあります。時間をかければほどけるでしょう」
「お前馬鹿じゃないのか? 疲労が脳に回ったか」
「一度は本気で助けていただいたお礼に、命は助けてあげます」
諭すように話しかけると拓也も冷静に対応するようになった。
「いずれ後悔することになるぞ」
「短い間でしたがお世話になりました。では盟約の解消を……」
キスをしようとしたが、拓也は顔を逸らし拒絶した。

「代わりにはなむけの言葉を送ろう。耳を貸せ」
「なんですか?」
淡い期待に胸を膨らませ、顔を寄せる。
「今度見つけたら膣が擦り切れるほど犯してやる。覚悟し……ぐあぁぁぁっ!」
顔の真横の地面に棒が突き刺ささっていた。
「長森さんの好意を無駄にしたいの?」
棒を抜くと名雪は次を振りかぶる。
「……わかった。ありがたく受け取っておく」
「バックは一つ貰って行きます。ナイフは……月島さんのものだから置いていきます」
「ちょっと、長森さん……」
名雪は呆れて物が言えなかった。
85なにがなんだか義兄妹(前編):2007/01/24(水) 00:53:06 ID:PSlEfJeV0
暮れなずむ道路上を、鎌石村方面へ歩く二人の少女の姿があった。
日が落ちたとはいえ、あたりはまだ十分明るい。
瑞佳は名雪の肩を借りながら懸命に歩く。
「水瀬さん、怒ってる?」
無言だった。雰囲気からして不快感まる出しなのであまり期待はしていなかったが……。

思うに消防分署に辿り着く前に名雪に殺されるような気がする。だから敢えて先手を打つことにした。
「もういいよ、ここで殺して。助けるふりして殺されるのは嫌だもん」
アスファルトの上に正座すると頭を垂れる。
その姿を名雪は無言のまま困ったように見下ろしていた。

一分ほどの短い時間ではあったが、それはあたかも一時間も二時間にも思えるものだった。
長い沈黙の後、名雪はその重い口を開く。
「殺さないから安心して。あなたとは気が合うことも多いし、これからもいっしょにやって行こうね」
「ありがとう、水瀬さん。恩に着るよ」
瑞佳の目から涙が溢れた。
「担保になるかどうかわからないけど、友情の証として、これからは名雪と呼んで」
「じゃあ、わたしも瑞佳でいいから」
「うん、命懸けの友情だよ。永遠に……」
二人は互いを信頼し合い、ひしと抱き合っていた。



その遥か後方、彼女達が茂みから出て来たあたりに一人の男が差し掛かる。
男は夕暮れに浮かぶ人影を見て呟く。
「二人とも髪が長いな。あれは間違いなく女。しかも飛びっきりのいい女に違いない」
86名無しさんだよもん:2007/01/24(水) 00:53:42 ID:z4lO1tKb0
回避
87名無しさんだよもん:2007/01/24(水) 00:54:30 ID:z4lO1tKb0
回避
88名無しさんだよもん:2007/01/24(水) 00:55:53 ID:z4lO1tKb0
回避
89なにがなんだか義兄妹(前編):2007/01/24(水) 00:56:20 ID:PSlEfJeV0
【時間:2日目・18:30】
【場所:D−8西】

 長森瑞佳
 【持ち物:棒(杖)】
 【状態:重傷、出血多量(止血済み)、一時的な回復、消防分署へ行く】

 水瀬名雪
 【持ち物:支給品一式(食料及び水は空)、ボウガンの矢1本】
 【状態:やや精神不安定、消防分署へ行く】

【場所:D−8、カーブ内側の茂み】

 月島拓也
 【持ち物:トカレフTT30の弾倉、支給品一式(食料及び水は空)】
 【状態:拘束(若干緩め)、呆然】

【場所:D−8】
 岸田洋一
 【持ち物:鋸、カッターナイフ、電動釘打ち機8/12、五寸釘(5本)、防弾アーマー、支給品一式】
 【状態:切り傷は回復、マーダー(やる気満々)、目の前の少女達に会いに行く】

【備考:八徳ナイフは拓也から少し離れた茂みの中に放置】

【関連:602・653】
90名無しさんだよもん:2007/01/24(水) 00:57:07 ID:PSlEfJeV0
>>86-87
ありがとうございます
91名無しさんだよもん:2007/01/24(水) 00:57:43 ID:PSlEfJeV0
>>86-88でした
92お間抜け:2007/01/25(木) 00:10:48 ID:tKY1qtS/0
北川、真希の凸凹コンビは一路鎌石村へと向かっていた。
しかし歩き続けていれば当然腹は減るもので。
「―――うむ、余は満足じゃ」
「何がよ?」
「いや、このおにぎりが素晴らしい味なもんでついな。ほら、真希も食ってみろよ」
北川はいつの間にかおにぎりを取り出し、口にしていた。
口の中に残るそれをよく咀嚼して味わってから、もう一つのおにぎりを真希に手渡した。
真希も空腹だったので素直に受け取り、口に入れた。
もごもごと口を動かし、じっくりと味を堪能する。
「うん、確かに美味しいわね」
「そうだろそうだろ。やっぱ日本人は米を食わないとな」
「……の割にはあんた今朝、キャビアを真っ先に食べてたじゃない。おかげでご飯が余っちゃったわけだけど?」
「それは庶民の哀しき性というものさ。この美食家北川潤様は、貴重な食材を口にする好機を逃す訳にはいかないのだよ」
「あっそ」
どうでも良さそうに返事をしてから、真希はある事を思い出した。
「話は変わるけどいい?」
「ちょっと待った、米粒ついてるぞ」
「ひゃっ!?」
北川は真希の言葉を遮り、彼女の頬に付着していた米粒を指で取り除いた。
指で触れられた途端に真希の体が硬直する。

「それで話って何だね、マイスウィートハート」
スウィートハート……日本語に訳すと『恋人』という意味である。
それは軽いジャブ的な冗談のつもりだった。
しかし、今の真希はそうは受け取らなかったらしい。
「そ、それってどういう意味?」
頬を赤らませ、恐る恐る尋ねてくる。
こと恋愛に関しては少し、というかかなり鈍感な北川がその期待に気付く筈もない。
「ん?別に深い意味は無いんだが……」
「…………」
93お間抜け:2007/01/25(木) 00:11:45 ID:tKY1qtS/0
数秒間の空白、そして沈黙。
心配した北川が真希の顔を覗き込もうとした時―――
「女の敵めっ!」
スパ――ン!
スパ――ン!
スパ――ン!
「ぐお、またこのパターンかよっ!?」
スパ――ン!
スパ――ン!
スパ――ン!
高橋名人もビックリの連打速度で殴られたのだった。


ボーガン、包丁、日本刀、コルトガバメント。
これらの武器はゲームの中でもよく使われている部類に入るだろう。
しかし、使用回数という点ではハリセンの足元にも及ばない。
「ぜぇ……ぜぇ……」
「……真希さん、満足しましたか?」
「ええ、何とかね……」
散々ハリセンで叩いた真希は、呼吸を乱していた。
脳細胞という物は百億個以上もあるらしいが、一つ一つは案外簡単に死ぬらしい。
今ので1万個は死んだんじゃないか、などと考えつつ北川は別の事を口にした。
「さっき何か言おうとしてたみたいだけど、何だったんだ?」
「ああ、そうそう。これよこれ」
そう言って、真希は長方形状の物体を取り出した。
「……携帯電話か?」
「そうよ。あんた昨日、携帯電話を使って何かしようとしてなかった?」
そう言われて北川は昨日の出来事を思い出した。
大変な事が続きすぎて、今の今まで忘却していたのだ。
94お間抜け:2007/01/25(木) 00:12:42 ID:tKY1qtS/0
「ああ、そういやそうだったな」
「何をしようとしてたの?あの時も言ったけど、携帯電話は通じないわよ」
「俺と真希の携帯電話を使って実験して、電話が通じない原因を調べようと思ったんだよ」
「何でわざわざそんな事を?」
「もし電話が通じるようになったら、絶対有利だと思うぞ。情報が格段に集めやすくなるし、別々に動いてる奴らとも連絡が取り合える」
「なるほどね……。珊瑚なら機械に強いみたいだし、何とか使えるようにしてくれるかも知れないわね」
「そうだな。そんじゃまずは、赤外線通信が出来るか試してみるか」
真希が期待に満ちた目でこちらを見ている。

―――北川は鞄の中を探し出した。
―――北川は鞄の中を探している。
―――北川は鞄の中を覗き込んでいる。
―――北川は支給品の懐中電灯で鞄の中を照らした。
―――北川は固まった。
―――北川は顔を上げた。

「…………」
「ねえ潤、まさか無くしたなんて言わないわよね?」
真希がいつものジト目で睨みつけてきている。
唯一違うのは手に持っている物だ。
真希はハリセンでは無くメガト○ンガンを握り、腕を振り上げていた。
あれで殴られれば相当痛いという事は容易に予想出来る。
「ははは、まあこういう事もあるさっ!」
敢えて(何が敢えてなのか北川本人にも分からないが)、ぐっと親指を立て爽やかに切り返してみた。
「そんな大事な物無くすなぁ!」
怒号、続いて鈍い音と悲鳴が周囲一帯に響き渡った。
95お間抜け:2007/01/25(木) 00:13:44 ID:tKY1qtS/0

【時間:2日目13:00頃】
【場所:E-3】

北川潤
【持ち物@:SPASショットガン8/8発+予備8発+スラッグ弾8発+3インチマグナム弾4発、支給品】
【持ち物A:スコップ、防弾性割 烹着&頭巾(衝撃対策有) お米券】
【状況:チョッキ越しに背中に弾痕(治療済み)】
【目的:みちるの捜索、鎌石村へ】

広瀬真希
【持ち物@:ワルサーP38アンクルモデル8/8+予備マガジン×2、防弾性割烹着&頭巾(衝撃対策有)×2】
【持ち物A:ハリセン、美凪のロザリオ、包丁、救急箱、ドリンク剤×4 お米券、支給品、携帯電話】
【状況:チョッキ越しに背中に弾痕(治療済み)】
【目的:同上】

(関連104・228・634 ルートB-13)
96サダクビア:2007/01/25(木) 20:20:00 ID:SCPHhPlt0

「そん……な……」

幼い、といっていい年頃の少女、スフィーが荒い息の中、膝をつく。
その表情には隠しようもない疲弊の色が浮かんでいた。
小さな身体に纏うにはいささか大きすぎる黄色のワンピースが、少女の肩から落ちかけている。

「―――それが、本当の姿というわけですか」

静かな声が響く。
スフィーの眼前、数メートルの位置に奇妙なオブジェが存在していた。
それは、言うなれば人ひとりをすっぽりと包み込めるほどの大きさをした、真紅の繭だった。
表面は宝石の如き光沢に覆われ、うっすらと淡い赤光を放っている。
声は、その中から聞こえていた。

「……あんたに説明してあげる気は、ないよ」

憎々しげに睨むスフィーの目の前で、繭がゆっくりと割れていく。
まるで地面に溶けるように消えた繭の中から現れたのは、水瀬秋子であった。

「そうそう、魔力を使いすぎるとそのような姿になってしまうんでしたね」
「―――ッ!」

頬に手を当てて悠然と微笑む秋子に、スフィーが射殺さんばかりの視線を向ける。

「なぜ魔法が効かないのか……いいえ、どうして私が魔法への対処など知っているのか。
 気になりますか? 魔法王国グエンディーナ、第一王女スフィー=リム=アトワリア=クリエール殿下」
「なっ……!?」

愕然とした表情で秋子を見るスフィー。
一瞬、殺意すら忘れたかのようだった。
だが次の瞬間、スフィーが猛然と口を開く。
97サダクビア:2007/01/25(木) 20:20:41 ID:SCPHhPlt0
「あんた……っ! リアンに、リアンに何をしたの……ッ!?」

魔力を使い果たした身体に鞭打ち、震える足で立ち上がるスフィー。
その姿を見ても、秋子は笑みを湛えた表情を崩さない。

「ですから何度も申し上げている通り、リアンさんは私たちの大切な同志です。
 無理に何かを伺ったり、まして危害を加えることなどありません」
「おためごかしをっ!」
「安心してください。リアンさんからは何も伺っていません。ただ……」
「ただ、何!?」

スフィーの剣幕にも、秋子は動じない。
ただ静かに頷いて、スフィーに語りかける。

「私は、知ってしまったのです。……すべてを」
「何を……!」
「すべて。この世界のすべてです。来し方から行く末までの顛末を」
「……」

理解できぬものを見る目で、スフィーが秋子をねめつける。
しかし秋子の、独白じみた言葉は止まらない。

「黙示録。あるいは……図鑑、と呼ぶ方もいます。
 そこにはすべてが刻まれているのですよ。
 ……我々の世界、そしてあなた方の王国の滅亡も、また」
「―――もういい! 教祖様の戯言はたくさんだよ!」

スフィーの叫びが、洞穴の天井に反響する。
一瞬だけ静寂を取り戻した玉座の間に、秋子の静かな声が染み渡った。

「……そうですか。残念です」
98サダクビア:2007/01/25(木) 20:21:27 ID:SCPHhPlt0
溜息を一つ。

「それでは、これで終わりにしましょうか。……もう少し、楽しみたかったのですけれど」
「……ッ!」

目を伏せた秋子の足元、灯火に揺らめくその影から、じわりと染み出すものがあった。
どこか粘性の高い液体を思わせる、触手じみたそれは、内部から赤い光を放ちながら、
一気にその体積を増していく。
秋子の周囲が、瞬く間に赤い触手で埋め尽くされた。

「くっ……」

おぞましくも震え蠢く触手を目にして、スフィーが表情を歪めていた。
それはつい先刻、全力の一撃をいとも容易く受け止めてみせた、あの繭を形作った力に他ならなかった。

「既に魔力も底を尽き―――」

秋子の声が、スフィーを刺す。

「抗うこともできず、仇と狙う私の軍門に下る……。
 哀れですね、スフィー=リム=アトワリア=クリエール」

ぞろりと伸びた触手が、スフィーの足首に絡みつく。
冷たい感触に、スフィーが思わず小さな声をあげそうになる。

「”グエンディーナの魔女”ほどの力があれば、あるいはこの場を切り抜けることくらいは
 できたかもしれませんが」
「な……何を、言って……?」

触手に腰まで絡みつかれながら、スフィーが秋子の言葉に反応する。
体幹から響く奇妙な感覚が、スフィーを襲っていた。
99サダクビア:2007/01/25(木) 20:22:03 ID:SCPHhPlt0
「……なつみさん、と言っても今のあなたたちには分からないでしょう」
「なつみ……誰……?」
「既に繰り返しをやめた彼女のことを語るのも、詮無い話です」

どこか寂しげに、秋子が呟く。
微笑を絶やすことのない表情に、憂いの翳が差したようだった。

「魔王の力、光の神の剣、そしてグエンディーナの魔女……。
 比肩するものなき力は、いずれ消え行く定めなのかもしれません。
 勝ち続ける内、己で己に厭いていく。……身勝手な話です。
 ならばその力は優位の象徴などではなく、―――限界にすぎないというのに」

スフィーの応えはない。
既に、その全身を赤い触手に包み込まれていた。

「さようなら、魔法人類。
 ……残された私は、足掻き続けてみせましょう」

秋子の憂いに満ちた声と共に、赤い触手がスフィーを呑みこもうとした、その瞬間。

「―――!?」

触手が内側から膨れ上がり、弾け飛んだ。
一瞬遅れて鈍い爆発音が、洞窟中に響き渡った。
飛散する触手の破片が次々に中空へと溶けていく。
その中に、消えずに宙を舞うものがあった。

はらりと舞うその一つを、秋子の手が掴み取る。
黄色い布の切れ端。
それはスフィーの纏っていた、ワンピースの成れの果てであった。
100サダクビア:2007/01/25(木) 20:22:54 ID:SCPHhPlt0
「……自決、ですか。どこまでも誇り高く、……愚かな散り際です」

言って、秋子は再び目を閉じた。



【時間:2日目午前7時過ぎ】
【場所:B−2 海岸洞穴内】

水瀬秋子
 【持ち物:支給品一式】
 【状態:GL団総帥シスターリリー】

スフィー
 【状態:死亡】

→654 ルートD-2
101その頃:2007/01/25(木) 22:25:30 ID:RanNLbsp0
「しょげんなって、神尾。柊も悪気ないんだろうしさ」
「う、うん・・・」

それでも、神尾観鈴の表情は晴れなかった。
結局、観鈴の期待は裏切られたまま事は進んでいた。彼女の誘いを断った柊勝平は、それ以来彼女を見ようともせず。
何故そんなに怒らせてしまったか、その理由も分からない観鈴は弁解をする余地もなく。

「せっかく一緒にいるなら、みんなで仲良くしていたいだけなのに」
「そうだな、仲良くしてたいな」
「何でだろ。凄く悲しい」
「気にすんなって、話す機会がなくなっちまったわけじゃないんだからさ」

とぼとぼと歩く観鈴を励ますよう、相沢祐一は明るく声をかけ続けた。
校舎の左側を探索する二人、しかしこちらは右側と違い爆破された側なので非常に足場が悪かった。
それでも何とか形は保っているので、瓦礫を避ける形で進路は取っていたのだが・・・・・・正直、ちょっとした爆発でもあれば崩れてしまいそうなイメージを受ける。
もたつく観鈴の手をとり、祐一は少しずつ先を進む。

「っていうか、ほら。手がかりを持ってるのが神尾と柊だけなんだから、それで一緒に行動するわけにもいかなかったっつーのもあると思うぜ」
「そうなのかな」
「そうだって。さっさとその子助けて、またみんなでワイワイやればいいさ」

それは、この殺し合いが行われている場所では実に不似合いな提案であった。
祐一も口にした後苦笑いを浮かべてくる、しかし観鈴はそんな彼に対し柔らかく頬を緩ませるのだった。

「うん・・・・・・皆仲良しがいいな、それで皆でここから出たいな」
「だな」
「人と人が争うなんて、やっぱりダメだよ・・・・・・」

素直な気持ちを言葉にする観鈴は、その年頃から考えれば幼くも見える所がある。
しかし思いは真剣そのものだ、バトルロワイアルという状況の中ここまで染まることなく真っ直ぐでいられる彼女は、どこか頼もしくも思える。
そんな彼女の存在は、きっとなくてはならないものになるはずだ。ふと、そんな考えを祐一の頭が過ぎる。その時だった。
102その頃:2007/01/25(木) 22:26:24 ID:RanNLbsp0
「あれ?祐一さん、あそこ・・・・・・誰か、いる」

月明かりに照らされる廊下、観鈴の指差す先にはポツンと影が一つ落ちていた。

「・・・・・・え?」

近づくとその全貌はすぐに分かった、が。
目の前の光景は、瞬時に理解することができないくらい非現実的なものであった。

そこには、少女が一人佇んでいた。
少し乱れた茶髪のボブカット。
そして、それ以上に乱れた・・・・・・その、格好。
彼女の衣服はボロボロであった、ナイフか何かで引き裂かれた跡もある。
その隙間からちらちらと覗く柔肌には、いくつもの痣が見て取れた。
パンツらしきものは、足首に引っかかっていてその機能を果たしていない。
・・・・・・その姿の指す意味に、自然と観鈴の目に涙が溜まっていく。

「おい、大丈夫か!」

自分の上着を脱ぎながら慌てて駆け寄る祐一は、そのまま少女の細い肩にそれをかけた。
少しだけ触れた少女の体温は、非常に低い。

「おい・・・・・・」

焦る祐一、心配して声かけをしていたが・・・・・・その言葉は、続かなかった。
その後方、観鈴は何が起きているのか理解できないでいた。
ただ、ぽたりと。埃の積もった瓦礫混じりの廊下に垂れていく赤い液体だけを、妙に印象的に感じ。
その出所を探ろうとすると、祐一のインナーの左脇で視線は固定される。
白いインナーは、真紅に染まっていた。
ゆっくりと膝をつき、屈みこむ祐一のその向こう。少女の手にするカッターナイフが目に入ると同時に、観鈴の悲鳴が響き渡る。
103その頃:2007/01/25(木) 22:27:18 ID:RanNLbsp0
「・・・・・・とこは、ころす。おんなは、つれてく・・・・・・」

小さく紡がれるのは少女の声、赤く染まったカッターを手にした名倉由依はそのまま観鈴の方へと近づいていった。

「ひっ」

喉から漏れる掠れた声、由依はそんな観鈴の様子を省みることなく彼女の腕を強引に掴んでくる。

「い、いや・・・・・・っ!祐一さん、祐一さんっ!!」

そのまま走り出され、足がもつれながらも観鈴は由依についていくしかなかった。
振りほどこうにも、事態のおかげで身に力の入らない観鈴は成すがままであり。
膝立ちで腹部を抑える祐一は、その光景を見届けるしかなかった。
104その頃:2007/01/25(木) 22:27:57 ID:RanNLbsp0
【時間:2日目午前2時過ぎ】
【場所:D−6・鎌石小中学校・一階、左端階段前】

相沢祐一
【所持品:S&W M19(銃弾数4/6)・支給品一式(食料少し消費)】
【状態:腹部刺し傷あり、上着無し】

神尾観鈴
【所持品:フラッシュメモリ・支給品一式(食料少し消費)】
【状態:由依に連れて行かれる】

名倉由依
【所持品:カッターナイフ、ボロボロになった鎌石中学校制服(リトルバスターズの西園美魚風)+祐一の上着】
【状態:岸田に服従、全身切り傷と陵辱のあとがある】

由依の支給品(カメラ付き携帯電話(バッテリー十分)、荷物一式、破けた由依の制服)は職員室に放置
【備考:携帯には島の各施設の電話番号が登録されている】

(関連・563)(B−4ルート)
105深淵に遭う:2007/01/28(日) 18:15:42 ID:rXXRdYTT0
―――AM 10:00、鎌石小学校内。

静まりかえる校舎内に、衣擦れの音が響く部屋があった。
保健室である。
艶めかしげな吐息が、室内を満たしていた。
そこに時折、きし、とパイプベッドの軋む音が混じる。

「ん……っ!」

ぴくり、と反応。紅潮する頬。
酸素を求めて、喘ぐように唇が開く。

「はぁ……、あっ……!」

甘やかな吐息に、男の忍耐が限界に達する。

「くそっ……もう、我慢できねえ……っ」

切羽詰った男の声が狭い室内に響いた、その直後。


ガラリ、と扉を開ける音がした。

「……待ってろよ、彰」

扉口で立ち止まり、吐息に満ちる室内を振り返ったのは高槻である。
その目は、簡素なベッドの上で高熱に喘ぐ七瀬彰を、心配そうに見つめていた。

「ここに無いとなると、村まで出なきゃ、ならんからな……。
 しばらくの間、寂しい思いをさせちまうが……我慢してくれよ」

そう呟くと、そっと扉を閉める。
106深淵に遭う:2007/01/28(日) 18:16:27 ID:rXXRdYTT0
高槻が探していたのは、解熱剤、化膿止めの類であった。
発熱したまま長い時間を雨に打たれていた彰の体調は最悪と言えた。
休憩できる場所を求めて学校の校舎に辿りつき、保健室に寝かせてはみたが、前もって撤去されていたように、
薬の類は見当たらない。
せめてもの介抱と右腕の布を真新しい包帯に替え、濡れタオルを額に当ててみたりはしたものの、
繋いだ手から伝わってくる熱は、下がるどころか高くなる一方だった。
一向に良くなる気配を見せない病状に苛立った高槻が、近くの村まで薬を探しに出る決意をしたのが一時間前。
未練がましい目でようやく汗ばむ手を放したのが三十分前であった。
それから立ち上がり、扉までほんの数歩を歩くのに、やはり三十分を要した。
一歩を歩くごとに振り返って、離れたくない、だが許してくれと語彙の限りを尽くして繰り返していたからである。

後ろ手に扉を閉めた高槻が、涙を拭うと顔を上げる。

「……こうしちゃいられねえ。彰が苦しがってるんだ、急がなくちゃな」

言って、一歩を踏み出し、立ち止まりかけて、また走り出した。



七瀬彰が目を開けたのは、その直後である。
ぼんやりとした視界に映ったのは、白い天井だった。

「……ここは……?」

呟いた瞬間、悪寒と頭痛が意識の大部分を支配した。
艶めかしい喘ぎが、熱で荒れた唇から漏れる。
自分がどうやらどこかの屋内、おそらく学校の保健室らしき場所に寝かされているらしいと理解したのは、
それからしばらく経ってのことだった。

「あいつは……?」

目線だけを動かして、室内を見渡す。人影はどこにもなかった。
107深淵に遭う:2007/01/28(日) 18:17:17 ID:rXXRdYTT0
「いなくなって、くれたのか……」

言ってはみたものの、その可能性が高くないことは熱に浮かされた頭でも分かっていた。
自分はあの男、高槻に抱きかかえられたまま意識を失っていたのだ。
その後に高槻と遭遇し、自分を奪還してここに寝かせてくれた誰かがいるなどとは、
あまりにも楽観的に過ぎる想像だった。
あの男が何らかの用事でこの場を離れているにせよ、それは一時的なものである可能性が高いと、彰は考える。

「逃げ……なくちゃ……」

身体を起こそうとして、愕然とした。全身にまったく力が入らない。
負傷している右腕に至っては、まるで感覚が無い。指を動かすこともできなかった。
巻かれている包帯に、血と膿が滲んでいる。
ひどく腫れ上がっているのが、包帯越しにも見て取れた。

「くそ……」

力無く悪態をつくのが精一杯だった。
カーテンの隙間から窓の外を見れば、雨はすっかり止んでいるようだった。
分厚かった雲も切れはじめ、時折青空が顔を覗かせている。

「今しか……ないってのに……」

自分の身体を撫で回す、高槻の手指の感触が蘇る。
目を閉じておぞましさに身を震わせていると、突然、血塗れの顔が脳裏に浮かんだ。
自分が殴り殺した、名も知らぬ少女の顔だった。
もう何も映すことのないはずの、どろりとした瞳が、彰を見つめていた。

「ひ……あぁっ!?」

悲鳴と共に目を開ける。
108深淵に遭う:2007/01/28(日) 18:17:49 ID:rXXRdYTT0
白を基調とした簡素な内装が、静かに彰を囲んでいた。
左手で必死で口元を押さえ、どうにか吐き気を堪える。

「はぁ……っ、はぁ……!」

全身を覆う疼痛と悪寒、そして頭蓋の中をゆっくりと掻き回すような頭痛。
いっそ気を失ってしまえたら、どんなにかいいだろう。
そんなことを考える。
目を閉じればあの少女の顔が浮かんでくるような気がして、眠ることもできない。
自然と、涙が零れてきた。

「どうして僕がこんな目に……。僕らが……何をしたっていうんだ……!」

望んでもいない殺し合いを強制された。
人を殺した。日常が、永遠に失われた。
澤倉美咲の笑顔が、薄れていくように感じられた。

「美咲さん……そうだ、美咲さんは……?」

慌てて壁にかけられた時計を見る。
十時を少し回っていた。

「放送……聞けなかったな……」

高槻に聞けば、教えてくれるだろうか。
そう考えて、その程度のことですらあの男に頼らねばならない自分の境遇に、また涙が出てきた。
と。

「……?」

涙で滲んだ視界の端で、何かが動いた気がした。
ゆっくりと、目線を動かしていく。淡い光が漏れる、カーテンの隙間。
109名無しさんだよもん:2007/01/28(日) 18:19:58 ID:n8XMTKUDO
久々に回避
110名無しさんだよもん:2007/01/28(日) 18:20:47 ID:n8XMTKUDO
もう一つ回避
111名無しさんだよもん:2007/01/28(日) 18:21:53 ID:n8XMTKUDO
回避締め
112深淵に遭う:2007/01/28(日) 18:22:12 ID:rXXRdYTT0
「―――っ!」

そこから、目が、覗いていた。
びくり、と彰が身体を震わせる。
目が、にまりと弓形に歪んだ。

 ―――こいつは初っ端から、思わぬご褒美があったもんだ。

目の主の、声だった。
彰がその言葉の意味を理解するより早く、窓ガラスが割れる音がした。



一方、その頃。
高槻は、まだ校舎の中にいた。
長い長い廊下を、ふらふらと歩いている。

「俺……俺は……薬、を……」

高槻は戸惑っていた。
どうして自分はまだこんなところを歩いているのか。
一刻も早く、近くの村へと向かって薬を探さなければならないというのに。

気がつけば、真っ直ぐ続いていたはずの廊下が、ぐにゃりとカーブを描いている。
このまま歩いていけば昇降口にたどり着くはずだった。
そのはずだったが、奇怪に歪んだ廊下がひどく嫌な臭いを発している気がした。
とてもその先に進む気にはならず、だから高槻は足を止めて辺りを見回す。

「……あっちなら……大丈夫、だろ……」

ぼんやりとした瞳で呟くと、高槻は再び歩き出した。
その先には、階段があった。
113深淵に遭う:2007/01/28(日) 18:22:54 ID:rXXRdYTT0
登っても出入り口などあるはずもない、その階段を高槻はゆらゆらと登っていく。

「どこまで……続くんだ……?」

一段一段が、ひどく遠い。
踊り場を、いくつも過ぎたような気がしていた。
ぐらぐらと不安定な足場を踏みしめながら、高槻は階段を登り続ける。

「あ……?」

唐突に、階段が終わっていた。
狭い踊り場の先に、重々しい鉄の扉があった。
ぎい、と音がした。
高槻の手が、我知らず扉を押し開けた音だった。

正面から吹きつけた風が、高槻の髪を揺らした。
眩しさに、高槻が目を細める。

青と灰色の、斑模様の空。
その空を背景に、一人の少女が微笑んでいた。

「―――電波、届いた?」

少女の声が、高槻を満たしていた。

114名無しさんだよもん:2007/01/28(日) 18:23:36 ID:beATP98gO
私も回避をしておこう
115深淵に遭う:2007/01/28(日) 18:23:55 ID:rXXRdYTT0

【時間:2日目午前10時過ぎ】
【場所:D−6 鎌石小中学校】

高槻
 【所持品:支給品一式】
 【状態:彰の騎士】

七瀬彰
 【所持品:アイスピック】
 【状態:右腕化膿・高熱】

御堂
 【所持品:なし】
 【状態:異常なし】

月島瑠璃子
 【所持品:鍵、支給品一式】
 【状態:電波使い】

→527 533 628 ルートD-2
>>109-111 どうもありがとうございました〜。
116深淵に遭う:2007/01/28(日) 18:24:44 ID:rXXRdYTT0
>>114
ありがとうございました〜。
117冷静に、狂おしく:2007/01/28(日) 19:35:42 ID:7LwK7jIx0
私はデイバックを肩に下げ、それからマシンガンをその中に仕舞った。これは愛佳ちゃんの仲間を襲って奪い取った物だ。
でも、私はあの時何故、気絶させるだけに留めたのだろう。障害は排除出来る時に、排除しておくべきでは?
……彼女達を打ち倒す事は余りにも容易だった。あれでは障害に成り得ない、私は無駄な手間を掛けるのを避けたのだ。

――嘘だ。愛佳ちゃンの前で人を殺したくなかったダケだ

しかし、思ったよりも集団で動いている参加者が多かった。梓以外は皆誰かと一緒に行動していた。
このゲームで集団で動く意味は一つ、脱出という共通の目的の為に結束しているのだろう。ゲームに乗った人間は少ない。もしかするとゲームの破壊も可能では?
……駄目だ、もう楓が死んでいる。ゲームの破壊なんてさせない。
私と耕一さんとで皆殺して、皆生き返らせるのだ。優勝したら何でも願いを叶えて貰えるのだから。

――ムリだ。あれはブラフにすぎナイ

時計を見ると時間的な余裕は無くなっていた。これ以上考え事をしている訳にもいかない。
私はもう一度だけ耕一さんに膝枕をしてあげようとして――そして異常に気付いた。
何か違和感がある。その感覚の出所を探ろうと首を触り、そして分かった。
硬いのだ。耕一さんの首が、とても。耕一さんの鼻孔に手を押し付ける。呼吸をしていない。耕一さんの手首を掴んでみる。脈は無い。
何かの本で見た事がある、死後数時間経過すると、死後硬直が始まると。
……死んでいる?耕一さんが?
まさか、そんな、有り得ない。だってそうでしょ?
耕一さんはあの地獄のような日々から私を救ってくれたのだ。
鬼と化した私に狙われても、私を遥かに凌駕する雄種の鬼に狙われても、生き延びてきたのだ。
今回だってきっとずっと生き延びて、そして私を助けてくれる。
だったらこの耕一さんは――嘘だ。これは耕一さんによく似た、ただの死体だ。
気に入らない。もしこんな物を妹達が見てしまったら、耕一さんが死んだと勘違いして嘆いてしまう。
私はマシンガンを取り出して、耕一さんによく似た死体へと、銃口を向けた。

――ヤメテ!ソれはコウイちさンよ!
118冷静に、狂おしく:2007/01/28(日) 19:36:50 ID:7LwK7jIx0
私が引き金を引くと、乾いた音が聞こえて、死体の頭は弾け飛んでいた。
赤黒い液体と透明な別の液体、脳漿だと思われる物や肉の塊があちこちにぶちまけられる。
これでもう安心だ、妹達が見ても勘違いをするような事は無い。
しかし私は確かに耕一さんと出会ったのに、どこで別れてしまったのだろうか。
よくよく考えれば柳川祐也から逃げる時は必死だった。その際に耕一さんを見失ってしまったのかも知れない。
記憶に無いが、耕一さんとよく似た死体を拾ったのもその時だろう。
鎌石村役場に行って、そこにいた人を全員殺した後に、また耕一さんを探そう。
もうこんな死体が散乱している家に用は無い。そう思った私は、この家を後にした。


「ウォプタルさん、またよろしく頼むわね」
木に繋いであるウォプタルさんの頭を撫でてあげると、ウォプタルさんは嬉しそうにクワーッと鳴き声を上げた。
最初に支給された時は驚いたが、よく見ると結構可愛いかもしれない。
思わず目を細めて微笑んでしまう。その時私の耳はばさばさばさという、羽音を捉えた。
私の肩に小さな鳥が飛び乗ってきたのだ。その姿はウォプタルさん以上に愛らしい。
しかし小鳥は甘えるように、鳴いていた。その鳴き声はとても暢気で、無邪気に。
まるで、この島で行なわれている殺し合いなど知った事ではないと言わんばかりに。
それは私をひどく苛立たせる。ウォプタルさんと違って、この小鳥は只の野生動物だ。
嘲笑うかのように平和に鳴き続けているその鳥が鬱陶しくて……私はその鳥を捕まえた。
握り締めた手に軽く力を加えると、鳥は先程までとは一転して、忙しく悲痛に鳴いた。
「いけない子ね。人をからかっては駄目ですよ?」
私の心に、黒い快感が生まれる。
「苦しいでしょう?でもね……」
加える力を増していくと鳥の声は徐々に小さくなっていき……。
「それでも私の苦しさの何百分の一にも満たないのよォォォォォッ!」
肉が潰れる音がして、どろりとした液体が私の手に絡みついた。
119冷静に、狂おしく:2007/01/28(日) 19:38:09 ID:7LwK7jIx0







静寂に包まれた村の中に人影が三つ。その中に五体満足な者はいない、それぞれが何処かしらに怪我を抱えていた。
話し合いの最中、質問を受けた彰が、口を開く。
「悪いけど、君達の探してる人達とはまだ会ってないよ」
「そっか。宗一、どこにいるんだろ……」
「参ったね、こりゃこの村は外れかな。彰、あんたは探してる人はいないのかい?」
彰は顎に手を当て、ほんの少しばかりの間逡巡したが、答えを出すのに時間は掛からなかった。
――優勝を目的として行動する以上、僕には本当の意味で協力し合える相手なんていない。
藤井冬弥も、折原浩平も、いずれ殺さなければならない人間の中の一人に過ぎない。
「いないね。僕も知り合いくらいならいるけど、わざわざ探そうとは思ってないよ」
「……」
少女達は肩を落とし、少し落ち込んだような顔をしていた。
(人を探しに来たけど、見つからなかったって事かな。どちらにせよ、彼女達を騙して武器を奪うのなら……この村は離れた方が良いね)
この村の何処かには、自分が襲った集団の生き残りがいる筈だった。武器を奪う前に、彼らと出会うのは拙い。
人探しを手伝うという名目で梓達に同行し、別の村へ移動するのが妥当だろう。武器は確実に奪える状況を待ってから奪えば良い。
「あのさ……」
彰が話を切り出そうとしたが、それは中断を余儀無くされる事になる。

「「「――ッ!!」」」
三人が近付いてくる派手な音に気付いたのはほぼ同時。
音は急速に迫ってきて、身を隠す時間は無かった。直ぐにその音の主は梓達の前方、二十メートル程度離れた林の中から姿を見せた。
木陰から現れた奇妙な生物は、梓達の存在には気付かずに一直線に走ってゆく。背中に一人の女性を乗せて。
女性は所々に血の滲んでいる服を纏い、奇妙に歪んだ表情をしていた。
凄惨というに相応しいその姿だったが、梓には一目見ただけでその女性の名前が分かった。
「千鶴姉ぇぇぇ!」
梓は跳ねるように叫ぶと、足が訴える激痛に構わず、ウォプタルが走り去った方向へと駆け出した。
120冷静に、狂おしく:2007/01/28(日) 19:39:18 ID:7LwK7jIx0
【時間:二日目・13:45】
【場所:C−3】

柏木千鶴
【持ち物:支給品一式(食料を半分消費)、ウージー(残弾22)、予備マガジン弾丸25発入り×3】
【状態:左肩に浅い切り傷(応急手当済み)、肩に怪我(腕は動く)、マーダー、狂気、血塗れ、鎌石村役場へ】
ウォプタル
【状態:千鶴が騎乗】

柏木梓
【持ち物:グロック19(残弾数7/15)、予備弾丸(9ミリパラベラム弾)×11、特殊警棒、強化プラスチックの大盾(機動隊仕様)、支給品一式】
【状態:千鶴を追跡中。右腕、右肩、左腕、右足、左足負傷(全て応急処置済み)。目的は初音の保護、千鶴の説得】
湯浅皐月
【所持品1:セイカクハンテンダケ(×1個+4分の3個)、.357マグナム弾×15、自分と花梨の支給品一式】
【所持品2:S&W M60(2/5)、宝石(光3個)、海岸で拾ったピンクの貝殻(綺麗)、手帳、ピッキング用の針金】
【状態:不明。左肩、左足、右わき腹負傷、右腕にかすり傷(全て応急処置済み)】
七瀬彰
【所持品:薙刀、殺虫剤、風子の支給品一式】
【状態:不明。右腕致命傷(ほぼ動かない、止血処置済み)、疲労、ステルスマーダー化、服は着替えたので返り血はついていない】
ぴろ
【状態:皐月の頭の上に乗っている】

→610 →657
121Requiem for the present:2007/01/28(日) 23:51:22 ID:RSYBqkyY0
 何かを見落としている気がする。
 何か……そう、何か非常に重要な分岐点が欠落しているような、そんな感覚。
 この世にあらぬものと会話をする際無意識に溜まる精神的疲労からか、相当の熟睡をやらかしてしまったら

しい橘敬介は、そんな違和感を覚えて目をさました。折りしもひどく緊張したような上ずった女性の声が、雨

とそれ以外の無機的なノイズのむこうから自己紹介の文言を述べているところである。『よ、よろしくお願い

いたします』という台詞に対して敬介は何か返答すべきかとふと思ったが、そのような必要のないことに思い

当たるとその後に続く死者たちの名前に聞き入った。

 昨日、自分を介抱してくれた少女とささやかな武器を分けてくれた少年の名が挙がったことに気づいた敬介

は瞑目し、ふうと息を吐いた。
 柏木初音という少女は三人の姉と同姓の従兄を探していたはずだ。そのうちの一人と思しき名前も放送の中

にある。一方で長瀬祐介と名乗った少年の知り合いの名は出ていない。前回の放送も考え合わせる必要がある

が、彼らと出会った者として未だ生きのびている探し人たちに彼らのことは必ず伝えよう……。
 そんな小さな決意をして目を開いた敬介に、放送の声の主はは出し抜けに、先ほど目を覚ますきっかけとな

った違和感の正体を告げた。

『続いて、た、ターゲット賞を発表いたします』
122Requiem for the present(再):2007/01/29(月) 00:05:05 ID:Wwe9zOAh0
Requiem for the present

 何かを見落としている気がする。
 何か……そう、何か非常に重要な分岐点が欠落しているような、そんな感覚。
 この世にあらぬものと会話をする際無意識に溜まる精神的疲労からか、相当の熟睡をやらかしてしまっ
たらしい橘敬介は、そんな違和感を覚えて目をさました。折りしもひどく緊張したような上ずった女性の
声が、雨とそれ以外の無機的なノイズのむこうから自己紹介の文言を述べているところである。『よ、よ
ろしくお願いいたします』という台詞に対して敬介は何か返答すべきかとふと思ったが、そのような必要の
ないことに思い当たるとその後に続く死者たちの名前に聞き入った。

 昨日、自分を介抱してくれた少女とささやかな武器を分けてくれた少年の名が挙がったことに気づいた
敬介は瞑目し、ふうと息を吐いた。
 柏木初音という少女は三人の姉と同姓の従兄を探していたはずだ。そのうちの一人と思しき名前も放送
の中にある。一方で長瀬祐介と名乗った少年の知り合いの名は出ていない。前回の放送も考え合わせる必
要があるが、彼らと出会った者として未だ生きのびている探し人たちに彼らのことは必ず伝えよう……。
 そんな小さな決意をして目を開いた敬介に、放送の声の主はは出し抜けに、先ほど目を覚ますきっかけ
となった違和感の正体を告げた。

『続いて、た、ターゲット賞を発表いたします』

 確かに聞いていたはずだった。今放送で流れている声の主とは違う、自信に満ちみちた若い男性の声で
読み上げられたそれをはっきりと憶えていたはずなのだ。それを思い出そうとした途端に襲ってきた吐き
気に似た感覚に、敬介はうずくまった。まるで銀髪の目つきの悪い誰かに鳩尾をしたたかぶん殴られて眼
鏡を落としたような感覚。
 反芻するまでもない。ターゲットと呼称され、名指しで排除対象とされた十八名。その中に柏木初音も
長瀬祐介も、彼らの探し人も……そしてあろうことか、敬介自身の娘の名まで含まれていたのだ!
123Requiem for the present:2007/01/29(月) 00:06:26 ID:y82RPRqb0
 これはどういうことか。
 自分を助けた彼らが化け物であるとはどういうことか。
 神尾観鈴が排除対象のにリストに入っているとはどういうことか。
 ……何より、娘が名指しで化け物呼ばわりされていたことを失念するとはどういうことか。
 ――――震えが収まらない。

『……同じくルーシー・マリア・ミソラ殺害は、神尾晴子さん、神尾観鈴さん両名の共同作業と認定され
ました。以上の皆様には……』

 放送は続いている。そしてその内容を敬介は正確に把握していく。娘が晴子と共にいること、彼女たち
がターゲットを殺害し優勝の権利を得たこと、観鈴の生死がプログラム終了条件から外れたこと……。だ
がその脳内作業とはひどくかけ離れたところに、彼の思考は漂い続けている。

 娘に何かを遺すために生きてきた。
 殺し合いに放り込まれ、自身の死が目に見えるところまで迫ってもそれは変わることがないと思ってい
た。
 妻の死以降、自分自身のために生きるのを放棄してしまったせいかもしれない。仕事の際にも、娘の病
気に関わりのありそうな古い文献を当たっている際にもどこか醒めた目でそんな自身を見ていた。
 ……だがそれは、娘のためではなく自分勝手なだけの行動だったのだろうか?
 ……いつかどこかで晴子が言ったように、自己中心的な思いだったのだろうか?

 ――――雨のノイズが今まで強固だった何かをかき乱し、溶かしていく。
 そのノイズが突如、途切れた。

   *
124Requiem for the present:2007/01/29(月) 00:07:21 ID:y82RPRqb0
 時は夜中へと戻る。
 アヴ・ウルトリィ=ミスズを追っていた神奈は、まんまと逃げおおせた己の分を弁えぬ恩知らず共に歯
噛みしながらも、夜闇に消えた白い巨体を捜していた。一度は振り切られたが相手はあの図体、上空から
であれば向こうが派手な動きをすればすぐにわかる。そうたかをくくっていたのだが、折りしも雨が降り
出し、雨雲の上からでは視認ができず、かといって雲の下では雨をまともに受けてしまって機動力が落ち
るといったジレンマに陥ることとなってしまった。羽が雨粒で重くなるのはいやなのでとりあえず雲の上
に避難はしているが、さてこれからどうしたものかと考え込まざるを得ない。

「むう、困ったものよの」
 そう口に出してつぶやいてみるが、覚醒以降ずっと頭の中から響いてきたお気楽な「にはは」という笑
い声もツッコミのような返事もない。
 おもえば、母を探す旅の間は柳也と裏葉がそばにいた。覚醒してからは観鈴と一緒だった。
 誤解するな、淋しくなどないのだからな。そうこの場にいない誰かに説得力の薄い独り言を返す。
 しかし一人空の上にいるとどうしても思い出してしまうのだ。
 飽くほど見た翼人の継ぐ記憶の夢――――世界で一番悲しい夢。
 この世の者は誰一人として神奈を見守ってはくれず、自分をのこして去ってゆく。
 これは、そんな呪い――――だ。

 動かし慣れない背羽をもどかしく思う。
 幾度もの計画遂行、幾度もの覚醒、そして幾度もの失敗。
 母が神奈の名に「神などなし」という隠れた意味をのこしたように神などこの世界にはなく。
 なれば己の呪いを自らの手で払うため、自らが神として動くしかないではないか。
 ――――おのれ、高野山なのだ。
 神奈が観鈴に告げた言葉がある。
 観鈴が神奈のもとから去った今、採るべきはその時点での策、観鈴の母御の保護ではもはやない。
 となれば目指すべきはひとつ。雨雲をかいくぐり、羽の少女はある地点めがけて矢のごとく飛び去る。
125Requiem for the present:2007/01/29(月) 00:07:59 ID:y82RPRqb0
 ――――ここでひとつ、MMR張りのこじつけをせねばなるまい。
 神奈こと神奈備命の登場する原典「AIR」SUMMER編において、このようなシーンが登場する。
「ずっと書を読んでおったのか? 柄にもないことを…」
「そう言うおまえは読めるのか?」
「だれも教えなかったのだ。読めるはずがないであろ」
「よく裏葉が放っておいたな」
 つまり神奈は文盲である、少なくとも翼人の記憶を継ぐまでは字が読めなかったのだ。
 そして翼人の記憶といえど万能ではない。記憶データというものがいかなる形式で保存されているのか
翼人ならぬ身の筆者には想像もつかぬのだが、それを理解するのに文字による媒介が必要ではないだろう
ことくらいはDREAM佳乃編などの描写から読み取れる。
 ひるがえって「おのれ、高野山」というフレーズ。これは文字媒体をメインとする掲示板にて生まれた
合言葉のようなものであり、原典には登場しない。すなわち、神奈はこの言葉を文字としては知っている
が、音声としては知らないのだ。
 筆者の言いたいことはこうである。神奈は「高野山」を「たかのやま」と読んでいたのだ!
(ここで「な、なんだってー」と続けていただけると筆者も報われるというものである)

 しのつく雨の降る夜明け。あたふたした様子の放送が終わる頃。
 付近に神奈から逃げたならず者親子がいるとも知らず、神奈は「たかのじんじゃ」上空にいた。

  *
126Requiem for the present:2007/01/29(月) 00:08:31 ID:Wwe9zOAh0
 ――――いったい何が起こったのか、建物の中の橘敬介にはわからなかった。
 あれだけ煩く思えた雨音が忽然と消えうせたのだ。明かりとりの窓の向こうにも、雨影の細い線は見
えない。
 とすれば止んだのか。しかし雨とはこのような止みかたをするものであっただろうか。
 不思議に思い、身を起こした。
 兜を傍らに置く。昨晩話した景清ならば、隻眼を光らせて「わしも連れて行くが良い」とでも言いそう
なところだが、ちょっと様子を見に出るだけだ、兜までは必要ないだろうさとつぶやきを返し、そのま
少し笑った。
 まったく、どうかしている。ここには誰もいないのに、どうしてこうも気持ちが落ち着くのだろう。古
い道具やそれに宿った想いと……月並みな言い方をすれば幽霊と話をするだなんて、まるでだいぶ昔に観
鈴に読んでやった絵本―――たしか『グエンディーナの魔女』という題だったか―――ではないか。
 この島全体が絵本以上のカオスになっているとはつゆ知らず、敬介は戸をあけて踏み出した。

 おかしな天候であった。
 周辺の森は未だ薄暗く小糠雨が降っているというのに、神社上空だけ、まるで台風の目が静止したよう
に雲が切れているのである。角度の浅い彼誰時の陽が差すその空に、孤影があった。
 人影……なのだろうか。だがそれが中空にある、という事実がそれ以上の推論を阻む。さらに人影とし
ては余分な要素――――背羽の存在が、さらに敬介の思考を混乱させた。
「出てきおったか、高野の者よ」
 逆光の中、嘲るような少女の声が聞こえる。あの人影の主――――前回の放送の言っていた「化け物」
の一人なのだろうか。
 化け物だとしたら――――なぜ僕は、観鈴へのそれとほど近い想いをあの羽の少女に寄せていたような
そんな気持ちになるのだろうか。
 わからない。なにもかもが、わからない。
127Requiem for the present:2007/01/29(月) 00:09:14 ID:Wwe9zOAh0
 心ここにあらずという体で空を見上げる男に向かって、神奈が羽を広げる。そしてその翼からにじみ出
た黒い瘴気は雷光の形を取り、避けようとも逃げようともせぬ男めがけて落ちていった。 

 ―――――雲もない真っ白の空間には雷鳴ひとつなく。
 ―――――その空白があげる悲鳴は、誰のための鎮魂歌であっただろうか。


関連:212,366,462,526,531
ルート:D−2

【時間:2日目午前6時半】
【場所:G−06 たかのじんじゃ】

064 橘敬介
【状態:雷が直撃】
【所持品:眼鏡、庶民の具足、法師の鏡、羽根、持ち主不明の日本刀】
025' 神奈
【状態:おのれ"たかのやま"】
【持ち物:ライフル銃】

【トンカチ、武将の兜、dジキ自動連射装置は宝物殿の中】
【G−06上空にアヴ・ウルトリィ=ミスズがいるようです】
128葛藤:2007/01/29(月) 01:35:52 ID:ioHSIDyt0
坂上智代の気分が優れないことから、里村茜はダイニングルームで暇を持て余していた。
出がらしのティーパックを換えていると、柚木詩子がタオルで手を拭いながら戻って来る。
「暇だからお風呂沸かしたよ。坂上さんは?」
「相変わらず引き篭もってます。彼女に喝を入れて来て下さい」
「しょうがないねえ」
愚痴を零しながら詩子は隣の部屋へと入って行く。
茜は名簿のチェックと人物考察をすることにした。



春原陽平達から実戦の体験を聞いてからというものの、智代は士気が萎えていた。
喧嘩とは訳が違う。敗北は死に繋がるといってよい。
おまけに陽平にヘタレをお裾分けされたような気分である。

「入るよー」と言うよりも早く戸が開き、詩子が背後に座る。
「坂上さん、具合どお?」
「智代でいい。まあ、どうにかな」
「じゃ、あたしも詩子でいいからさ、元気出してよ」
「うん、実は……」
体験話を聞いてから怖気づいてしまったことを正直に話す。
「ホントにそれだけ? なんか乙女チックな匂いがプンプンするんだけど」
「そんなわけはない。気のせいだ」
向きになって否定することが妙に詩子の悪戯心を掻き立てた。
「そうかなあ。時間ないからねえ……闇に聞こえるあたしの十八番、いや、おまじないで治してあげよう」
スーッと智代の脇の下に手が伸びる。
「なっ! どこを触ってる。わたしにそんな気は……あっ、あぁ、やめて……」
「フフフ、智ちゃんカワイイ……」
129葛藤:2007/01/29(月) 01:36:55 ID:ioHSIDyt0
隣の部屋から智代の艶のある声が聞こえていたが、茜は無視してひたすら考える。
名簿の第一番目にある相沢祐一という人物が気になる。
どこかで聞いたことがあるような、或いは面識があるような気がするのは気のせいだろいうか。
どう考えてもやはりわからない。

一旦祐一のことは隅に置き、知り合いの消息に思いを馳せる。
七瀬留美と広瀬真希がゲームに乗っていなかったのは、以外としか言いようがない。
二面性のある留美はわからないでもないが、何かと評判の悪い真希も乗っていなかったとは。
あと消息がわからないのは上月澪と長森瑞佳。
澪の性格と身体的特徴からしてゲームに乗るとは考えられないが、瑞佳は……。
こんなことだから自分も他の者からは疑念を持たれているかもしれない。

ガタッと戸が開いた。
「終わったよ、ルンルン」
「一汗流して来る。非日常でも身嗜みには気をつけたいものだ」
智代は上気しながら風呂場へと行ってしまった。
「様子が変です。何をしたんですか?」
「何って、気つけのおまじないだよ、おまじない」
冷めた紅茶をすすりながら詩子はにやける。

「長森さんをどう思いますか?」
「どうって、無事かどうかってこと?」
「違います。もしかしてゲームに乗ってるんじゃないかと気掛かりです」
「あの虫も殺さないような人が乗るわけないじゃない」
「詩子は甘過ぎます。この島では常識は通用しません。油断すれば住井君のようになります」
「ちょっと神経質になってない?」
確かに住井護は油断していたと言えなくはない。が、茜の思い込みに詩子は眉を顰める。
他校の生徒なのにすぐに友人となってくれた瑞佳。
彼女の人となりを間近で見ていただけに、親友とはいえ、茜の警告はすんなり受け入れる気にはなれない。
たぶん殺伐とした環境が茜を疑心暗鬼に駆り立てているのだろう。
130葛藤:2007/01/29(月) 01:37:56 ID:ioHSIDyt0
どんよりとした重い空気が漂っていた。
「……智代、遅いですね。ちょっと見て来ます」
一人十分の割り当て時間はとうに過ぎていた。
「倒れてたりして……やり過ぎだかなあ」
詩子も心配になったのかついて行くことにする。

ガラス戸越しに見える智代は背を向け、床にしゃがみ込んでいる。
「開けますよ、失礼」
「待たせて悪いな。もう少しだから待ってくれ」
素っ裸で背を向けたまま何かに勤しむ智代。
二人が近づいてみると、手斧を砥石に当て研いでいた。

「引き締まっていい身体してますね。私惚れ直しました」
「ホントだ。贅肉がなくてまさに高スペックの塊。お肌のお手入れもしっかりしてるぅ」
二人の目つきは明らかに異様であった。
「どこを見てるんだ! いいから向こうで待っててくれ」
智代は追い返すと赤面しながらせっせと研ぎ続ける。
(エヘヘ、私だって年頃の女の子だ。あんなこと言われると照れるな)
壁に取り付けてある鏡を見、洗いざらしの美しい長い髪を撫で上げる。
「春原は駄目だな。言われるなら岡崎の方が……あ、私は何を言ってるんだろう」



ダイニングルームに戻ると話題は柏木千鶴の対応に替わる。
「千鶴さんを説得するのはもう、無理な気がします。私が彼女の立場なら説得されるうちに相手を殺します」
「できることならあたしだって殺したくはないよ」
「七瀬さんのような考えでは生き残ることは困難です。夕方の放送で新たな死者の名前がまた出るでしょう」
「そうは言っても主催者と対決するにはより多くの同志が必要だよ」
実戦を経験しながらも穏健な路線を採る詩子に対し、未経験ながら強硬な路線の茜。
二人の主張はここでも平行線を辿る。
131名無しさんだよもん:2007/01/29(月) 01:38:58 ID:KgaR3v290
回避
132名無しさんだよもん:2007/01/29(月) 01:39:26 ID:VES8YZIr0
回避
133葛藤:2007/01/29(月) 01:39:35 ID:ioHSIDyt0
だが詩子は内心焦りを感じていた。
千鶴を翻意させることにしたのは、七瀬留美と会ってからである。
今までに千鶴には二回襲われている。
次はどうか。何となく嫌な予感がしてならない。
従弟の柏木耕一が死んでしまったからには、もう困難ではないのか。
元よりゲームに乗った者達は生半可な考えで乗ったわけでもあるまい。
カップを持つ手がじっとりと汗ばんでいた。

「かれこれ半日で参加者の半分が死んでます。単純計算でマーダー一人あたり二人以上は殺してるのでは」
「だから?」
「わたしはゲームに乗った人には相応の償いをしてもらう所存です」
「償い──つまり死んでもらうと」
「そういうことです」
平然と答えるや茜は席を立つ。
耳を澄ますと脱衣場からドライヤーの音がしていた。
「智代も同じ考えなの?」
「確認はしてません。風呂から上がったら聞いてみて下さい」
詩子は呆然と後姿を見送る。入れ違いに智代がやって来た。

「入浴剤を入れておいた。いいお湯だったぞ」
「聞きたいことがあるんだけどさ。智代はどうなの?」
詩子は二人分の紅茶を入れながら、茜との遣り取りを話す。
「それは……」
と言って口篭る智代。視線はカップに注がれたままである。
「やはり可能なら説得して翻意させた方がいいよね」
「うーん……」
姫百合珊瑚が苦渋に満ちた顔で話した悲話が頭をよぎる。
134葛藤:2007/01/29(月) 01:40:24 ID:ioHSIDyt0
妹瑠璃が来栖川綾香に殺された事件は、今後の方針に大きく影響することになった。
同志になって欲しくても、相手にその気がなければ抹殺されてしまう。
また、綾香がゲームに乗ったきっかけは、まーりゃんなる少女に同志を謀殺されたとのこと。
敵ではない振りをして近づき、相手方が対応する間もなく殺してしまう。
実に恐ろしい。恐ろし過ぎる。
顔を上げると詩子に向き直る。
「千鶴さんは諦めた方がいい。来栖川綾香同様、彼女も非常に危険だ」
「うーん……」
今度は詩子が考え込んでしまう。
「とにかくだ、会う機会があっても私の後方から話しかけてくれ。前に出てはいけない」
「そうするよ。でも智代に悪いなあ」
「詩子、上がりましたよ」
頃合よく脱衣場から声がかかる。
結局それぞれが入浴と髪の手入れににたっぷりと時間を使い、出立は遅れに遅れてしまう。

「藤田君とこにいる川名さんだけど、茜と同じ学校の三年生の人だよ」
「えっ、盲目のあの川名さんだったんですか」
「見えないって、それは戦力としてはマイナスになるぞ」
二人の視線が智代に向けられる。
「千鶴さんと遭遇すると大変なことになります」
茜がポツリと呟いた。
「藤田君達と合流する?」
「今からでは遅すぎる。無事であればいいが……」
「私に何か武器を下さい」
フォークだけでは心細いだけに、詩子に武器のお裾分けを所望する。
「鉈と包丁があるけど……軽い方がいいかな」
「では包丁をいただきます」
そう言ってビニールの鞘が被さった新品の包丁を腰に括りつける。
135葛藤:2007/01/29(月) 01:41:14 ID:ioHSIDyt0
三人は外に出ると休憩に利用した家を改めて眺める。
「すっかり遅くなってしまったな。夜間の行動は避けよう。まあ、行けるところまで行けたらいいか」
「この家は電気もガスも使えるんですけど、他の家もそうなんでしょうか?」
「たぶん期待できそうね」

数分後、近くにある川澄舞ら四人の墓を訪れる。
穏やかな昼下がりの風が吹く中、全員で黙祷する。
茜は護の名前が記された簡素な墓標を撫でた。
「明日は我が身、というより一時間後にはあたしらがこうなってたりしてね」
ぶるっと身震いする詩子。
「埋葬されるのはマシな方だろう。多くはたぶん、野晒しだな」
「野晒しか……あたしもそうなるところだったんだなあ」
「これ以降は私語はなるべく控えよう。それから間隔を一メートルほど開けるようにしよう。あとは……」
智代は額に手を当て考える。先頭を行くだけに緊張し、あらかじめ考えておいたことが思い出せない。
「あたしからは……奇襲を受けたら散開する。で、どう?」
「それで結構です」



村の中心部を抜け外周の道を行く智代達。
予想に反して千鶴らマーダーの襲撃はなかった。
順調にいったが河口付近を最後にその先には民家は見当たらない。
「まだ明るいが今日はここまでにしよう」
さっそく詩子が民家のドアを開錠し中へ入って行く。
茜は鎌石村へと続く一本道を振り返る。
(智代ったらビビッてますね。まあ、これぐらい用心した方がいいのかもしれませんが)
136名無しさんだよもん:2007/01/29(月) 01:43:29 ID:KgaR3v290
回避
137葛藤:2007/01/29(月) 01:43:30 ID:ioHSIDyt0
時間:2日目17:30】
【場所:D-1、河口付近の民家】

坂上智代
【持ち物:手斧、LL牛乳×3、ブロックタイプ栄養食品×3、他支給品一式】
【状態:健康、反主催の同志を集める、千鶴と出会えたらその時の勘で対応する】

里村茜
【持ち物:包丁、フォーク、LL牛乳×3、ブロックタイプ栄養食品×3、救急箱、他支給品一式】
【状態:健康、反主催の同志を集める、ゲームに乗った者を赦さない】

柚木詩子
【持ち物:ニューナンブM60(5発装填)、予備弾丸2セット(10発)、鉈、LL牛乳×3
、ブロックタイプ栄養食品×3、他支給品一式】
【状態:健康、反主催の同志を集める、千鶴と出会えたら可能ならば説得する】


【備考:時計回りに島の外周を移動する予定】

【関連:645 ルートB-13】
138名無しさんだよもん:2007/01/29(月) 01:44:44 ID:ioHSIDyt0
>>131-132、136
ありがとうございました
139リスタート:2007/01/29(月) 18:04:58 ID:vyHfM+Fa0
久しぶりだな読者の諸君、ハードボイルド高槻だ。
別の称号が付いてた気もするが、なげーからまたハードボイルドを名乗らせて貰うぜ。
まあ原点回帰って奴だ。やっぱシンプルイズベストよ。
さて、いきなりだが俺様は今ちょっと困った事になっている。
念の為に言っておくが、前回俺達は知らねえ奴らの死体を見つけた。
どうもその内の一人が藤林のダチだったみたいでよ、あいつすっかり落ち込んじまってるんだよ。
郁乃は足が不自由だし折原とゆめみはボロボロ、七海はお寝んね中ときてやがる。ポテトの野郎もいつの間にかどっか行っちまった。
さて、これからどうなると思う?







……これは虐めか?虐めなのか?
俺様の両腕はすっかり筋肉痛になっちまった。喉ももうカラカラだ。
「ぜぇ……ぜぇ……。やっと終わったぞ……」
俺様はやっとの思いで死体を埋め終えた。
いくら俺様でも二人分の死体が入るだけの穴を、一人で掘るのは辛かったぜ……。
「お疲れ様です」
すっかり疲弊した俺様が肩で息をしていると、ゆめみがペットボトルを寄越してきた。
「おう、気が利くな」
丁度喉が渇いていた俺様は、それを有り難く受け取った。
キャップを外して、勢い良く飲むと生き返る様な気分になった。
140リスタート:2007/01/29(月) 18:05:46 ID:vyHfM+Fa0
「ぴこっ、ぴこっ!」
下を見るとポテトが水を恵んでくれと言わんばかりに尻尾を振ってやがる。
もはや俺様とポテトはベストパートナー、相棒の言いてえ事くらいすぐに分かるぜ。
俺様が座り込んでペットボトルの蓋を外そうとすると、ポテトの野郎が嬉しそうに擦り寄ってきた。
すかさず俺様はポテトの首根っこを掴んでこう言ってやったさ。
「働かざる者食うべからずって言葉を知ってるか?俺様が必死こいて穴を掘ってる間、てめえ隠れてたな?」
「ぴ、ぴこっ!?ぴこぴこぴこぴこっ…!」
違うんだ、とぶんぶん首を振るポテト。だがもう遅え。
「うらっ!!」
「ぴ〜〜こ〜〜〜〜……」
俺様が全力で投擲すると、ポテトは明後日の方向へと飛んでいった。

ふてぶてしい畜生への制裁も終え、俺様が一息ついていると郁乃が横に来た。
よく見ると、沢渡が殺された時と同じような顔をしてやがる。
「どこの誰がこんな酷い事を……」
苛立ちを隠し切れない声で話す郁乃。昔の俺なら、他人が死んだってどうでも良いじゃねーかとか言うところだ。
だが今の俺のは、郁乃が怒る気持ちに少なからず共感出来てしまう。
……本当、俺様も随分と変わっちまったモンだ。
殺人鬼の正体を考えようとすると、俺様の脳裏にいけすかねえにやけ面が浮かんだ。
忘れようにも忘れられねえ、あの憎たらしい顔だ。
「岸田の野郎なら、女をこんな殺し方はしねえはずだ……」
あの野郎ならきっと女達を犯そうとする。
死体の服が破られたりした様子は無かった、つまりこれは岸田の仕業じゃねえ。
俺様が分かるのはここまでだ。
二人の女は俺様達が着いた時にはもう死んじまってたし、犯人の姿は何処にも無かった。
これ以上は推理しようがねえ。
141リスタート:2007/01/29(月) 18:06:28 ID:vyHfM+Fa0
だが、それまで黙り込んでいた藤林がぼそっと言いやがった。
「これはきっと、藤井さんの仕業よ……!」
「お、おい!?」
その後はまさに一瞬の出来事ってヤツだ。
ボタンを引っ掴んむと藤林は物凄い勢いで走って行っちまった。
俺様が止めようとするもの聞かず、どんどん遠ざかる背中。
「どういう事なの……?」
呆然としながら、郁乃が呟く。こっちが聞きてーよ。
全くワケが分からねえ。藤林はなんでいきなりどっか行っちまったんだ?
「多分だけど……俺も犯人が分かった」
俺様達が混乱していると、折原が淡々と口調で語りだした。







「……そうか。さっきの車に乗ってた奴が犯人なんだな」
「ああ。藤井冬弥は復讐に走った―――その結果人を殺しちまうのは十分考えられる話だろ?」
折原は俺様達に藤井冬弥についての事を一通り話した。
説明を受けた俺様達はようやく事情を理解した。
さっきの車に乗ってた奴が犯人で、友達を殺された藤林はそいつを追っていたんだろう。
けれどそれが分かった所でどうしろってんだ?
暴走した藤林は心配だが、久寿川達も同じくらい心配だ。
俺様は分身なんて出来ねえ、両方助けにいくってワケにはいかねーぜ……。
142リスタート:2007/01/29(月) 18:07:14 ID:vyHfM+Fa0
その時突然、ゆめみがおたまを取り出した。
「わたし、藤林さんを追っかけます!」
「ちょっと待てよ、おめえだって怪我してるだろ?」
ロボットに対して怪我って言い方をするのが正しいのか分からねえがな。
ゆめみは左腕が動かせない状態だ、一人で(これも一人じゃなくて一体って言うべきなのか?)行くのは危険過ぎる。
なのにゆめみの奴ときたら、にこっと笑ってこう言いやがった。
「良いんです。お客様の安全を守るのが、わたしの役目ですから」
畜生、そんな顔で言われたら行かせてやるしかないじゃねえか……。
諦めた俺様は日本刀を取り出して、ゆめみに渡してやった。
「……おたまでどうやって藤林を守る気だ?これを貸してやる」
「え……でも……」
「四の五の言わずにとっとと受け取りやがれ。もたもたしてると藤林に追いつけなくなるぞ」
「……分かりました、お借りします」
しかし俺様はただのお人好しなんかじゃねえ。ちゃんと念を押しておく事も忘れない。
「良いか、貸すだけだからな?俺様にこれを返すまで……死ぬんじゃねえぞ」
そうだ。武器はちゃんと返してもらわないと困るからな。
……おいてめえら、何疑いの目で見てやがる。断じてゆめみの奴を心配してるワケじゃねえぞ!
「ありがとうございます。高槻さん達も……お元気で」
「あたりめーだ。この俺様がそう簡単にやられるかよ」
「ゆめみ!壊れたら許さないんだからっ!」
俺様と、叫ぶ郁乃に対して大きくお辞儀してからゆめみは走り出した。
あっという間にその姿は見えなくなっちまった。

……俺様もグズグズしてるわけにはいかねえな。
俺様のファン3号久寿川と、ついでに貴明が鎌石村で待ってるからな。
ヒーローは遅れて現れるものだっつーが、これ以上遅れるワケにはいかねえ。
「よし、俺様達も出発すんぞ」
そう言って、俺様達は再び鎌石村に向けて歩き出した。
143リスタート:2007/01/29(月) 18:08:52 ID:vyHfM+Fa0

【時間:2日目12:30】
【場所:C−6観音堂前】
ハードボイルド高槻
 【所持品:分厚い小説、コルトガバメント(装弾数:7/7)予備弾(6)、スコップ、ほか食料・水以外の支給品一式】
 【状況:岸田と主催者を直々にブッ潰すことを決意、鎌石村へ移動】
小牧郁乃
 【所持品:写真集×2、S&W 500マグナム(5/5、予備弾7発)、車椅子、ほか支給品一式】
 【状態:鎌石村へ移動】
立田七海
 【所持品:フラッシュメモリ、ほか支給品一式】
 【状態:気絶(睡眠)中。今は浩平の背中に】
折原浩平
 【所持品1:34徳ナイフ、H&K PSG−1(残り4発。6倍スコープ付き)、だんご大家族(残り100人)、日本酒(残り3分の2)】
 【所持品2:要塞開錠用IDカード、武器庫用鍵、要塞見取り図、ほか支給品一式】
 【状態:全身打撲、打ち身など多数。両手に怪我(治療済み)。鎌石村へ移動】
ポテト
 【状態:ちゃっかり戻ってきた、光一個】
ほしのゆめみ
 【所持品:日本刀、忍者セット(忍者刀・手裏剣・他)、おたま、ほか支給品一式】
 【状態:左腕が動かない、杏を追う】
藤林杏
 【所持品1:包丁、辞書×3(国語、和英、英和)、携帯用ガスコンロ、野菜などの食料や調味料、ほか支給品一式】
 【所持品2:救急箱、食料など家から持ってきたさまざまな品々、ボタン、ほか支給品一式】
 【状態:車が走り去った方向へ、冬弥と会った場合どうするつもりかは不明】

(関連592)
144Oath of reunion:2007/01/30(火) 21:50:49 ID:EKz+sllq0
「祐一さんも……お母さんも、死んじゃった。往人さんまでいなくなっちゃうの?」
「……聞いてたのか」
観鈴がいる部屋で話をしたのは拙かった、話を聞かれる可能性も考慮すべきだったのだ。
「お母さんが死んじゃって、往人さんまでいなくなったら、私笑って生きていけないよ……」
観鈴は泣いてはいなかった。
けれど、泣いてる時よりも更に深い悲しみを秘めた、これまで見た中で一番辛そうな顔だと感じた。
そんな顔をして欲しくないのに、他の誰でもない、自分自身がそうさせているのだ。
観鈴はもう色んな物を失いすぎた。この場でありがちな言葉を投げかけても、何の意味も無いだろう。
だから往人は――自分にしか出来ない事をしようと思った。
往人はデイバックから紙を取り出して、それをある形になるように破り始めた。
「……何してるんですか?」
不思議そうな顔をしてあかりが尋ねてくるが、往人は黙って工作を続ける。
何のことはない、ただ人の形に紙を破って、折り紙のように折り目をつけただけだ。
往人は意識を集中させ、その即席人形へと力を込めた。
するとその人形はすくっと立ち上がり、足を踏み出した。
「な……っ、これは……?」
敬介が驚嘆の声を上げる。それもその筈だ。
紙で作られた何の仕掛けも無いただの人形が、ひとりでに動き出したのだから。
けれどすぐにその人形はバランスを失い、不恰好に転んだ。
再度人形は起き上がって歩き出したが、数歩と保たずにまた同じ轍を踏む。
「くそっ……」
何度も力を込めて動かしたが、どうも上手く行かない。いつも使っている人形とは勝手が違いすぎるのだ。
人形は起き上がっては転び、また起き上がっては転んだ。その様はとても人形劇と呼べる代物では無かった。
この場にいる殆どの者が、どう反応して良いか分からず口を閉ざしていたのだが――
145Oath of reunion:2007/01/30(火) 21:52:04 ID:EKz+sllq0
「にはは、このお人形さんドジだね……」
それでも只一人、観鈴だけは笑ってくれた。こんな無様な自分の人形劇で。
往人は人形を動かすのを止めると、真っ直ぐに観鈴の瞳を見据えた。
「そうだな。俺の人形劇の腕なんてこんなもんだ。だから観鈴――」
「……」
「俺は必ずお前の所に戻ってきて、もっと上手くなれるように人形劇の練習をするよ。お前は大事な観客だからな。
だから心配するな、俺はそれまで死なない」
優しい声でそう言うと、観鈴の髪をくしゃくしゃと撫でた。観鈴は少し頬を赤く染めて、恥ずかしそうに笑っていた。
その笑顔を見た往人は、自分の心が満たされていくのを感じた。
(やっぱり俺は……、こいつの笑ってる顔が大好きみたいだ)
嬉しかった――こんな自分でも、観鈴を笑わせる事が出来た事が。
往人はその笑顔を絶対に忘れぬよう、深く深く、脳裏に刻み込んだ。
「じゃあ俺達はそろそろ行ってくる。観鈴、ちゃんと大人しくして怪我を治すんだぞ」
「――往人さん」
「何だ?」
「絶対に、戻ってきてね。約束だよ?」
観鈴が目の前に小指を出してくる。往人は一瞬で、その意図を理解した。
「ああ、約束だ」
往人は自身の小指を観鈴の小指と絡ませ――再会の誓いを交わした。
146Oath of reunion:2007/01/30(火) 21:54:23 ID:EKz+sllq0








「――誰もいないわね」
「そうだな……」
あれから往人、環、あかりの三人は人を探して氷川村を徘徊していた。しかし、自分達以外の姿を認める事はなかった。
もしかしたら、もう診療所以外には人はいないのかも知れない、と思い始めた頃だった。
「ずっと疑問に思ってたんだが――お前達同じ制服を着ているけど、同じ学校の生徒なのか?」
「そうみたいですね。私はあかりの事を知らなかったけど、あかりは私に見覚えないかしら?」
環に聞かれて、あかりはうーんと唸りながら記憶を呼び起こそうとしたが、結局成果は得られなかった。
「……見覚えないみたいね。まあ私、生徒会には入ったばかりだし、仕方ないかもね」
「え、生徒会の方なんですか?」
「一応ね。副生徒会長をやらせて貰ってるわ」
「はぁ……凄いんですね」
大人しい性格のあかりにとって生徒会、それも会長や副会長など雲の上の話である。
あかりは心底感心しきった様子で、まじまじと環を見つめていた。
それからもあかりと環は、自分達の学校の話題で楽しげに雑談を続けた。
一方、往人は二人の話を黙って聞いていた。話題を振ってはみたものの、学校に行った経験が無い往人はついていけなかったのだ。
でもそれで良かった。観鈴の事で手一杯で構っている余裕が無かったけど、あかりの事も心配だったから。
自分の柄じゃないとは思ったが、観鈴と同じ年頃の少女が暗い顔をしているのは嫌だった。
しかし――この話題に食いついてきたのは二人だけではなかった。
147Oath of reunion:2007/01/30(火) 21:56:02 ID:EKz+sllq0


「ふっふふの、ふっ。生徒会の話なら、先代生徒会長のあたしの出番だね?」
――足音、そして声。振り向くと、茂みを背に人が立っていた。
緑色の、平たい胸を強調するような変わったデザインの服をきた、朝霧麻亜子が。
反射的に往人が身構えようとするが、環は手で制した。そして往人とあかりを庇うように、二人の前にすいと踊り出る。
「おい、こいつは……?」
「私の知り合いで、そして――ゲームに乗っています」
「――ッ!!」
自分のその一言に往人とあかりが息を飲むのが、背中越しでも分かった。
「まーりゃん先輩、半日振りですね。お元気そうで何よりです」
「うんうん。タマちゃんこそ元気そうで、あたしは嬉しいぞ」
まずは挨拶を交わす二人、だが両者の声色は殺気を隠しきれてはいない。
両者の眼光はどんな言葉よりも雄弁に、これから起こる事態を物語っている。
それで半ば、意思疎通は終わっている。だから、これから続く会話も予定調和、結果の見えた物に過ぎぬのだ。
「まーりゃん先輩……今から、どうするつもりですか?」
「決まってるじゃあないか。たまちゃんの後ろにいる二人には死んでもらうよ」
宣戦布告に等しいその言葉を、麻亜子はあっさりと言い放った。
「ちっ……、やるしかないか!」
それを受け、往人が銃を構えようとするが、またも環に止められる。
「何で止めるんだ、こいつは俺達を殺すつもりなんだぞ!?」
「すみませんが、ここは私に任せてください。先輩は、私を殺せないでしょうから」
往人は眉を顰め、考えたが、大人しく環の言う事に従った。
今自分が戦えば、確実に殺し合いになる――可能ならば、それは避けたかった。
148Oath of reunion:2007/01/30(火) 21:58:13 ID:EKz+sllq0
環は麻亜子へと視線を戻し、真剣な表情で言葉を投げ掛ける。
「止めてくれ、と言っても聞いてくれないんでしょうね」
「当然さ。あたしは優勝して、生徒会のみんなを生き返らせるんだからね」
「――そんな蛮行を、私が黙って見過ごすとでも?」
怒りの篭った敵意の眼差しを向け、ドスを利かせた声で警告する。
それでも、麻亜子が動揺するという様な事は無かった。
「たまちゃん。邪魔をするってんなら――痛い目を見てもらうよ?」
「やれるものなら、どうぞ。但し――痛い目を見るのは先輩の方ですけどね」
こんな状況だというのに、二人は笑みを浮かべていた。
――朝霧麻亜子は修羅の道を経て得た経験と実力に、自信を持っていた。そして、道を変えるつもりなど毛頭無かった。
――向坂環は己の優れた運動神経と体力に、自信を持っていた。そして、麻亜子の凶行を認めるつもりなど欠片も無かった。
譲れぬ想い、譲れぬ道、その二人が衝突しない道理は最早存在しない。
二人の戦乙女の戦いが、始まろうとしていた。








一方、その一部始終を眺める人影が三つ。
「どうやら面白い事になりそうですね」
歪んだ笑みで嬉々として話すその少女の名は、宮沢有紀寧。
彼女は己の傀儡達を引き連れ、少し離れた物陰から様子を伺っていた。
環と麻亜子の会話の内容までは聞き取れないが、その殺気だった姿から戦闘が始まるだろうという事は読み取れた。
149Oath of reunion:2007/01/30(火) 21:59:38 ID:EKz+sllq0
「何が面白いっていうの!人が、殺しあっちゃいそうなんだよ!?」
初音が激しい糾弾の声を上げる。しかし有紀寧はそれを一笑に帰した。
「あら、面白いですよ?今のあの人達、隙だらけじゃないですか。それと声を抑えてくださいね。私達の存在に気付かれてしまっては、何かと不都合ですから」
「……も、もしかしてあの人達を?」
震える声で初音が問い掛ける。すると、有紀寧は笑みを深めて答えた。
「襲いますよ。武器も欲しいですし、敵は減らせる時に減らしておいた方が良いですから。当然その役目は――祐介さんにやってもらいます。
言うまでも無い事だとは思いますが、祐介さんに選択権はありません、分かりますね?」
そう告げると、初音の顔色はあっという間に真っ青に変色していった。
ぎりっと祐介が歯を噛み締める音が聞こえたが、無論有紀寧は意にも介さない。
(……さあ、早くあなた達も私の掌の上で踊り狂ってくださいね)
有紀寧は張り付いた様な笑みを浮かべたまま、環達の方を凝視していた。



神尾観鈴
【時間:2日目・13:40】
【場所:I−7】
【持ち物:フラッシュメモリ、紙人形、支給品一式】
【状態:脇腹を撃たれ重症(治療済み)】

橘敬介
【時間:2日目・13:40】
【場所:I−7】
【所持品:支給品一式、花火セットの入った敬介の支給品は美汐の家に】
【状態:左肩重傷(腕は上がらない)・腹部刺し傷・幾多の擦り傷(全て治療済み)】

リサ=ヴィクセン
【時間:2日目・13:40】
【場所:I−7】
【所持品:鉄芯入りウッドトンファー、支給品一式×2、M4カービン(残弾30、予備マガジン×4)、携帯電話(GPS付き)、ツールセット】
【状態:健康】
150Oath of reunion:2007/01/30(火) 22:02:04 ID:EKz+sllq0
緒方英二
【時間:2日目・13:40】
【場所:I−7】
【持ち物:H&K VP70(残弾数0)、ダイナマイト×4、ベレッタM92(6/15)・予備弾倉(15発×2個)・支給品一式×2】
【状態:健康】

朝霧麻亜子
【時間:2日目・14:30】
【場所:I−6】
【所持品1:デザート・イーグル .50AE(1/7)、ボウガン、サバイバルナイフ、投げナイフ、バタフライナイフ】
【所持品2:防弾ファミレス制服×2(トロピカルタイプ、ぱろぱろタイプ)、ささらサイズのスクール水着、制服(上着の胸元に穴)、支給品一式(3人分)】
【状態:マーダー。スク水の上に防弾ファミレス制服(フローラルミントタイプ)を着ている】
【目的:現在の目的は環を倒し(殺しはしない)、往人とあかりを殺害する事。生徒会メンバー以外の排除、最終的な目標は自身か生徒会メンバーを優勝させ、かつての日々を取り戻すこと。】

国崎往人
【時間:2日目・14:30】
【場所:I−6】
【所持品:ワルサーP5(8/8)、トカレフTT30の弾倉、ラーメンセット(レトルト)、化粧品ポーチ、支給品一式(食料のみ2人分)】
【状態:様子見】

神岸あかり
【時間:2日目・14:30】
【場所:I−6】
【所持品:水と食料以外の支給品一式】
【状態:様子見、月島拓也の学ラン着用。打撲、他は治療済み】

向坂環
【時間:2日目・14:30】
【場所:I−6】
【所持品@:レミントン(M700)装弾数(5/5)・予備弾丸(15/15)、包丁、ロープ(少し太め)、支給品一式×2】
【所持品A:救急箱、ほか水・食料以外の支給品一式】
【状態:麻亜子を倒す(殺しはしない)、頭部に怪我・全身に殴打による傷(治療済み)】
151Oath of reunion:2007/01/30(火) 22:03:20 ID:EKz+sllq0
宮沢有紀寧
【時間:2日目・14:30】
【場所:I−6】
【所持品@:コルトバイソン(4/6)、参加者の写真つきデータファイル(内容は名前と顔写真のみ)、スイッチ(2/6)】
【所持品A:ノートパソコン、包丁、ゴルフクラブ、支給品一式】
【状態:前腕軽傷(治療済み)、環達の隙を探っている】

柏木初音
【時間:2日目・14:30】
【場所:I−6】
【所持品:鋸、支給品一式】
【状態:顔面蒼白、首輪爆破まであと18:15(本人は42:15後だと思っている)、有紀寧に同行(本意では無い)】

長瀬祐介
【時間:2日目・14:30】
【場所:I−6】
【所持品1:包丁、ベネリM3(0/7)、100円ライター、折りたたみ傘、支給品一式】
【所持品2:フライパン、懐中電灯、ロウソク×4、イボつき軍手、支給品一式】
【状態:有紀寧への激しい憎悪、有紀寧の護衛(本意では無い)】

→636 
→651
→663
B-13
152道化:2007/01/31(水) 20:28:25 ID:6JoqhzLa0
余程疲れていたのか、みちるは家に入るなり眠ってしまった。
そして朋也と秋生はテーブルを挟んで座っていた。
秋生は家の何処かにあっただろう煙草を吸っている。
どことなくその顔は不機嫌そうに見えた。
「まあ、おめえが無事で良かったよ。でもな―――ロワちゃんねるのあの書き込みは駄目だ。
あんな事書いたら、ゲームに乗った奴が利用しようとするに決まってるぞ」
「……ロワちゃんねる?何だそりゃ?」
「―――は?」

秋生の目が見開かれる。
開かれたままの口からポロっと煙草が落ちた。
「ちょっと、待てよ……あれを書いたのは、小僧じゃねえのか?」
「いや、全然意味が分からないんだけど……。そもそもロワちゃんねるってなんだよ?」
「―――クソっ、あれは人を誘き寄せる罠かよ!」
秋生は憤りに任せ、拳をテーブルに叩きつけた。
対する朋也はまるで事情が分かっていない。
「おいオッサン、どういう事だよ?」
当然の疑問。
秋生は簡潔に、事の経緯の説明を始めた。



「そうか……俺の偽者が現れたんだな」
それは予想外と言っても差支えの無い反応だった。
話を聞き終えても朋也は激昂するどころか、落ち着いた様子だったのだ。
「どうする?小僧の知り合いが役場に来ちまってるかもしれねえぞ」
「もうロワちゃんねるに本当の事を書いたって間に合わない。オッサンの包丁を貸してくれないか?」
「それは良いけどよ、そんなもんでどうしようってんだ?」
「決まってるだろ。俺が直接役場に行ってくる」
「―――!」
ここから鎌石村役場まで、さほど距離は無い。
今から出発しても充分に間に合う。
153道化:2007/01/31(水) 20:29:44 ID:6JoqhzLa0
「言ったよな、ゲームに乗った奴が利用しようとするって。……危ねえぞ」
「だからって、知り合いが殺されるのを黙って待ってるなんて出来ねえよ。
何も殺し合いしに行こうってんじゃない、知り合いを見つけたらとっとと戻ってくるよ」
真剣な顔で諌めようとした秋生だったが、朋也も危険性くらい承知している。
それに他に方法も無い。
結局、朋也の言い分を認めるしかなかった。







秋生達の滞在している民家を出た後、朋也は急いだ。
とにかく急いだ。
役場付近で待ち伏せされている可能性もあるので走りはしなかったが、歩調を極力速めた。

―――もう誰も殺させない。

たとえ偽者がやった事であれ、これ以上自分の為に人が死ぬのは耐えられない。
それは紛れも無く本心だ。
だがその一方で別の考えも頭の片隅にあった。

―――ゲームに乗った奴らを殺してやる。
154道化:2007/01/31(水) 20:30:47 ID:6JoqhzLa0
秋生の前で見せた冷静な態度は見せ掛けだけの物に過ぎない。
殺し合いをするつもりが無いというのも、嘘だ。
みちるも渚も秋生が守ってくれているのなら心配はいらない。
既に第一目的は果たしているのだ。
これからは復讐の事も考慮に入れて動くつもりだ。
もし辿り着いた先に殺人鬼がいたのなら―――殺す。
特に由真と風子を殺した『あの男』は許せない。
絶対に許す事が出来ない。
あいつは殺す。惨たらしく凄惨に、風子と由真の受けた痛みを体験させてから殺してやる。

とは言え、『あの男』を探し回る為だけに動くかどうかはまだ決めかねている。
目的を果たしてから渚と一緒に島を脱出するのが理想だが、そう上手く行くだろうか?
渚はあの家で眠っていた。
その寝顔はとても穏やかで、綺麗だったが―――彼女の右足には痛々しく包帯が巻かれていた。
渚を守ってやりたい、一緒にいたいという気持ちがあるのも、また事実だ。
今自分の中では二つの感情が天秤にかけられているのだ。
これが秋生なら迷わず復讐の道を棄てるのだろうが、自分はそこまで人間が出来ていない。
…………
……
そこで、思考を一旦止めた。
どうせ悩んでも結論は出ない。
とにかく今は役場に行く事が先決だ。
そして―――



秋生の家を出てから幾ばくかの時間が経った。
まだ役場は見えてこないが、確実に近付いてはいる筈だ。
そこで朋也は突然立ち止まった。
155道化:2007/01/31(水) 20:31:57 ID:6JoqhzLa0
「あ……あいつは……」
目が、二人の人間の姿を捉えた。
視線はそのうちの片割れに釘付けになった。
今でも鮮明に記憶している、あの男に。
風子と由真の命を奪った、殺人鬼に。
もう―――結論を出す必要なんて無くなった。

朋也は三角帽子を取り出した。
風子がかぶっていた、あの三角帽子だ。
風子の顔を思い浮かべてから、それを頭に着ける。
(今から俺がやろうとしてるのは殺し合い……主催者の望んでいる事だ。これは連中の用意した舞台だ。
なら俺は、ピエロになってその舞台で踊ってやる。踊って踊って、踊り続けてやる。馬鹿みたいにな。
だけど気をつけろよ?俺が演じるピエロの出演料は―――主催者の命なんだからな)







梓が走り去った後、彰と皐月は呆然と立ち尽くしていた。
未知の生物に乗った女性は血塗られた衣装を着て、異様な目を携えていた。
凄惨に過ぎるその有様を目の当たりにして二人は硬直してしまっていたのだ。
少しばかり時間が経過したところでようやく皐月は動き始めた。
「―――えと、彰さんだっけ?」
「なんだい?」
「あたしは梓を追うつもりだけど、彰さんも来る?」
「……そうだね、僕も行くよ」
皐月は梓を放っておく気にはなれなかった。
彰は武器を手に入れる好機をみすみす逃すつもりはなかった。
目的こそ違えど、この瞬間に限ってはやるべき事は同じ。
二人は梓の後を追おうとし―――眼前に、一人の道化が現れた。
156道化:2007/01/31(水) 20:33:27 ID:6JoqhzLa0
「―――!」
その男―――岡崎朋也は殺し合いの場におおよそ似つかわしくない格好をしている。
防具の効果は得られないであろう、間抜けな三角帽子。
それとは対照的に、身に纏った黒い殺気は死を連想させる。
まるで釣り合いの取れていないその姿が、とても不気味に感じられた。


【時間:二日目・13:20】
【場所:C−3】
古河秋生
【所持品:トカレフ(TT30)銃弾数(6/8)・S&W M29(残弾数0/6)・支給品一式(食料3人分)】
【状態:左肩裂傷・左脇腹等、数箇所軽症(全て手当て済み)。渚を守る、ゲームに乗っていない参加者との合流。聖の捜索】
古河渚
【所持品:無し】
【状態:睡眠中。右太腿貫通(手当て済み)】
みちる
【所持品:セイカクハンテンダケ×2、他支給品一式】
【状態:睡眠中。目標は美凪の捜索】
157道化:2007/01/31(水) 20:34:06 ID:6JoqhzLa0


【時間:二日目・13:50】
【場所:C−3】
岡崎朋也
【所持品:包丁、鍬、クラッカー残り一個、双眼鏡、三角帽子、他支給品一式】
【状態:マーダーへの激しい憎悪、現在の第一目標は彰の殺害、第二目標は鎌石村役場に向かう事。最終目標は主催者の殺害】
湯浅皐月
【所持品1:セイカクハンテンダケ(×1個+4分の3個)、.357マグナム弾×15、自分と花梨の支給品一式】
【所持品2:S&W M60(2/5)、宝石(光3個)、海岸で拾ったピンクの貝殻(綺麗)、手帳、ピッキング用の針金】
【状態:左肩、左足、右わき腹負傷、右腕にかすり傷(全て応急処置済み)】
七瀬彰
【所持品:薙刀、殺虫剤、風子の支給品一式】
【状態:右腕致命傷(ほぼ動かない、止血処置済み)、疲労、ステルスマーダー、服は着替えたので返り血はついていない】
ぴろ
【状態:皐月の頭の上に乗っている】

(関連 652・666)
158訂正:2007/01/31(水) 23:09:40 ID:6JoqhzLa0
>>156
>【時間:二日目・13:20】
>【場所:C−3】
   ↓
【時間:二日目・13:20】
【場所:B−3】


に修正お願いします
159凹□地味+つき添いの先生:2007/02/01(木) 00:53:46 ID:8d7F//g30
「どうした、ことみ君」
「人の声がするの」

民家の集合している地帯、霧島聖は周囲への警戒を怠ることなく進んでいた。
その後ろ、聖に護衛は任せているからかどこか呑気な様子の少女はいきなり立ち止まり辺りへと耳をすませ始める。

「・・・・・あっちなの」

すっと指差す先、そこには一軒の日本家屋があった。
じーっと窺っていると、確かに時折少女の物らしき甲高い声が耳に入る。
調べて見る価値があるかもしれない、聖が一歩前に出ようとするとその白衣はくいっと引かれ。

「下手に近づくと、気づかれるの」
「騒ぎ立てるわけではない、問題はなかろう?」
「足元、見るの」

そこでようやく、聖は家屋の周囲をぐるっと囲むように存在する砂利に気がついた。

「成る程、これなら足音も目立つというわけか」
「なかなか用意周到なの」
「ふむ、だがここからでも聞こえるぐらいの大きな声を出していては・・・・・・意味はないんじゃないか?」
「無用心なの」
「どっちなんだろうな」
「さっぱりなの」

ここで腕組みしていても仕方ない。先に動き出したのは、先ほど聖を止めた一ノ瀬ことみであった。
ひょいひょいと履いていた靴を脱ぎ、ことみは民家に続く砂利道へと進みだす。
身軽な身のこなしであった、足音はほとんど立っていない。
彼女に続くよう聖も慎重に近づいていく、同じように靴は脱ぎ手にした状態でことみの後を追う。
近づくにつれ、声はより鮮明に捕らえることができた。日本家屋自体が年代物のため、それが原因なのかもしれない。
160凹□地味+つき添いの先生:2007/02/01(木) 00:54:26 ID:8d7F//g30
「本当なの!ついさっき、北川から電話がきたのよっ」
「・・・・・・夢?」
「だーから、夢じゃないっつのっ!」
「・・・・・・妄想?」
「妄想でもないっつのっ!!!」

騒がしい、隠れる気があるのか疑いたくなる。中の住人に対する第一印象はそのようなものであった。
ちょっと高い場所にある窓の淵に手をかけ、背伸びをしていることみの背後から聖も中を覗きこむ。
部屋の様子は一目で把握できた。畳のある和室、言い争うのは二人の少女。
いや、言い争うという表現は当てはまらないかもしれない。別に彼女等の間に険悪なムードが流れているわけではないのだから。

「ん、あれは美凪君ではないか」

のほほんとした様子の黒髪の少女が遠野美凪だと気づき、思わず聖は声を漏らす。

「お知り合い?」
「ああ、ちょっとな。大丈夫だ、彼女なら信用できる。声をかけてみないか?」
「んー」

目の前の少女等がゲームに乗っていないというのは一目で理解できる、その上一人が聖の知り合いとなれば協力関係を築くことも簡単であろう。
脱出を考える二人にとっては、味方を増やすまたとないチャンスであった。

「でも、どうみても足手まといなの」
「随分ストレートな言い方をするな」
「冗談なの」
「おい」
「でも事実なの」
「おい?!」

聖を無視して、ことみは窓に手をかけようとした。だが届かない。
161凹□地味+つき添いの先生:2007/02/01(木) 00:55:05 ID:8d7F//g30
「せんせ、開けて」
「人使いが荒いな・・・・・・」

建てつけの悪い窓を引く、鍵はかかっていなかった。

「だ、誰かそこにいるのっ」

軋む音で中の住人もこちらに気づいたようだった、ことみは背伸びをしたまま手をパタパタ振り存在をアピールしだす。

「無用心レベルマックスなの、命が惜しいなら何かよこせなの」
「ことみ君?!」
「冗談なの」
「あ、あんた達何なのよ」
「・・・・・・とりあえず、お米券進呈?」

背伸びをすることみの手に向かって、次の瞬間何故かお米券が差し出されていた。





「かくかくしかじかで、そういうわけなの」

玄関まで回りこみ少女等と合流したことみ達は、改めて自己紹介をした後これまでの経緯を話した。

「そっか、そういう考えは思いつかなかったわ・・・・・・」

広瀬真希は、ことみの話す『沖ノ島じゃない説』に対し大変興味を持っているようであった。
この認識をできている参加者は数少ないであろう、脱出を考えるにしても現在地を認識していないと後々問題になることは目に見えている。
162凹□地味+つき添いの先生:2007/02/01(木) 00:55:44 ID:8d7F//g30
「ちょこっと学校へ立ち寄った後、すぐにでも灯台へ行く気マンマンなの」
「よかったら一緒に来ないか。先ほどの話だと次に何をするかなどは決めていないのだろう?」

聖の言葉に少女は俯く、てっきり喜んで同行してくれるものだと思っていたから聖にとってこの反応は意外であった。
無言でお互いの顔を見合い続ける真希と美凪。何か考えでもあるのだろうか。
彼女等の出方を聖はひたすら待った。そして意を決したのか、真希がこちらに顔を戻し神妙そうに話し出す。

「実は、あたし達・・・・・・これについて、調べようと思って」

真希の指差す先には、彼女の首輪があった。
163凹□地味+つき添いの先生:2007/02/01(木) 00:56:24 ID:8d7F//g30
【時間:二日目午前4時30分過ぎ】
【場所:B−5・日本家屋(周りは砂利だらけ)】

一ノ瀬ことみ
【持ち物:暗殺用十徳ナイフ、支給品一式(ことみのメモ付き地図入り)、100円ライター、懐中電灯、お米券×1】
【状態:健康。まず学校へ移動】

霧島聖
【持ち物:ベアークロー、支給品一式、治療用の道具一式、乾パン、カロリーメイト数個】
【状態:健康。まず学校へ移動】

広瀬真希
【持ち物:消防斧、防弾性割烹着&頭巾、スリッパ、水・食料、支給品一式、携帯電話、お米券×2 和の食材セット4/10】
【状況:健康、首輪について調べる】

遠野美凪
【持ち物:消防署の包丁、防弾性割烹着&頭巾 水・食料、支給品一式、特性バターロール×3 お米券数十枚 玉ねぎハンバーグ】
【状況:健康、首輪について調べる】

(関連・456・630・670)(B−4ルート)
164joker and joker:2007/02/01(木) 14:07:34 ID:b9ZSb64W0
藤林椋は、柔らかい腐葉土の積もった地面で意識を取り戻した。そして同時に、目の前で椋を見下ろしていた長瀬祐介の姿も目に入った。
「ひ…!」
悲鳴を上げかけて椋はそれを何とか押し留める。大声を出せば他の誰かに気付かれてしまう恐れがあったからだ。
「大丈夫、落ちついて」
祐介が、子供をあやすように笑いを浮かべながら椋を落ち着かせようとする。
「僕は敵じゃない」
――嘘だ! と椋は否定の声を上げようとした。自分の意識を失わせておいて味方なわけがない。そしてそれ以前に、見ず知らずの人間をいともあっさりと信じるなんてあるわけがない。
だが、下手に言葉を出せば今度こそ殺されかねない。さっき意識を失わせたのはきっと警告だ。自分と行動しないと殺すぞ、という。
椋が何も言わなかったのを落ちついたと取ったのか、祐介は「ごめんね、驚かせて」と改めて謝罪した。
「さっきも言ったと思うけど、一人で行動してたら危ないと思ってね。それに、目立つように走ってたし。だから止めたんだけど、聞き入れてくれないから電波を使って…けど、無理矢理気絶させたことは謝るよ、ごめん」
椋を起こしてから、深く頭を垂れて謝る祐介。
「…いえ、いいんです。私もあの時はそれまで一緒にいた人が殺されて、それで…」
表面上、言葉は取り繕う。こうやって安心させといて用済みになれば殺す気なんだ。「私は騙されませんよ」と心中で毒づく。
もう、やらなきゃ、やられるんだ。雅史のように。
「そっか…大変だったんだね」
「はい、もう無我夢中で…でも、もう落ちつきましたし、大丈夫です。ご迷惑をおかけしました」
言いながら、椋は祐介を倒す隙を窺っていた。見たところ、相手はショットガンという強力な武器を持っていて、到底素手では敵いそうにない。だったら後ろから襲うしかない。そのためには、油断させることが重要だ。それも、徹底的に。
「実は、ここからちょっと離れた小屋にも仲間がいてね…宮沢有紀寧ちゃんと、柏木初音ちゃんって言うんだけど、これからその人たちのところへ戻るんだ。どう、一緒に行かないかい? 二人ともいい人だから安心だよ」
165joker and joker:2007/02/01(木) 14:08:16 ID:b9ZSb64W0
柏木初音なる人物は知らなかったが、宮沢有紀寧の方は椋も知っている。資料室でよく本を読んでいる人だ。おまじないも得意で、椋も何度かさせてもらったことがある。
その有紀寧もいい人そうだったから、祐介の口車に乗せられてしまったに違いない。だったら――大変だ。これは何としてでも、今のうちに祐介を何とかしないと。
椋は一大決心をして、ある策を講じてみることにした。
「…本当にいいんですか? 私みたいなのが一緒でも」
「当然さ。皆が集まればきっと何とか出来るはずだよ」
いかにも嘘つきらしい、甘い囁きだった。こんな男に、利用されてたまるか。
――もう、誰も信じない。
「それじゃあ、お言葉に甘えて…きゃっ」
立ち上がりかけて、尻餅をついてしまう椋。もちろん、演技だった。いかにもそれらしく見せただけだ。
「す、すみません…ま、まだ、足が震えていて…」
それを見た祐介が軽く笑って、椋に背中を差し出した。
「それじゃ、小屋まで負ぶって行ってあげるよ。荷物は僕が持つからさ」
「あ、ありがとうございます」
祐介が背中を見せて乗ってくれ、と手で合図する。だが――椋が疑心暗鬼になっていると知らなかった、いや錯乱した様子からある程度それになっているとは気付いていたけれども、大した物ではないだろう、と軽く見ていた祐介が甘かった。
椋は背中を見せるやいなや、首に手を回して祐介の首を絞め上げた。
「ぐぇ゛…!?」
一瞬悪い冗談かと思い、しかしすぐに首を絞められていると気付く。声が、まるでガマガエルのようだった。
「あ゛、あ゛、き、き゛み…な゛っ、なに、を」
166joker and joker:2007/02/01(木) 14:08:57 ID:b9ZSb64W0
振り解こうとするも元々そんなに腕力のない祐介ではいかに非力と言えど椋の首絞めを外す事など出来はしない。その上先程の全力疾走で疲れていたのもあった。
ぐっ、ぐふっ、と絞り出した呼吸が漏れる。ガマガエルの大合唱。
「騙されません、騙されませんよ、この、悪魔め…!」
後ろから絞められているせいで顔を窺い知ることは出来なかったがきっと鬼気迫る顔に違いない。どっちが悪魔なんだか。
やがて、振り解く力もなくなり祐介の手がだらんと地面に落ちる。顔はすでに鬱血しており空気を少しでも得ようとして大きく開けた口からは、舌がでろん、とあかんべーをするように飛び出していた。
それからたっぷり五分、椋は全身の力が抜けるまで首を絞め続け、ようやく手を離したのだった。
はぁ、はぁ、と荒く呼吸をして、祐介を殺した自らの手をじっと見つめる。
殺せる。殺せるんだ、武器なんかなくても。女の子でも。力なんてなくても。
「お姉ちゃん、私やったよ…あはは、お姉ちゃん、性別とか腕力とか関係ないんだよ? 大丈夫、私一人でもやっていけそうだから心配しなくていいよ? 私が…お姉ちゃんのためにいっぱい殺してあげるから…だから、安心して待っててね?」
死体になった祐介の体からデイパックを毟り取り、ベネリM3(弾は入っていないのは知らなかったが)、ライターなど、使えそうなものだけ持って行くことにした。
そして、自分の荷物からノートパソコンを捨てる。今になって気付いた。人を殺すのにこんなものはいらない。重たいだけだ。
あらかた荷物を纏めてから、再び椋は歩き出した。今度は逃げるためではなく、殺しに行くために。

結局、祐介は自分自身の「お人好し」によって殺されたと言うほかなかった。無闇に人を助けることは自分の寿命を縮めるだけだということに気付けなかったのだ。
167joker and joker:2007/02/01(木) 14:09:33 ID:b9ZSb64W0
【時間:2日目・午前9:00】
【場所:H−6北(源五郎池のほとり)】

長瀬祐介
【所持品1:ノートパソコン(椋が祐介の近くに投げ捨てたもの)、折りたたみ傘、支給品一式】
【所持品2:フライパン、懐中電灯、ロウソク×4、イボつき軍手、支給品一式】
【状態:死亡】

藤林椋
【持ち物:ベネリM3(0/7)、100円ライター、包丁、参加者の写真つきデータファイル(内容は名前と顔写真のみ)、支給品一式(食料と水二日分)】
【状態:マーダー化。姉を探しつつ人を見つけ次第攻撃】
168joker and joker:2007/02/01(木) 14:21:15 ID:b9ZSb64W0
あ、書き忘れた。B-10です
169Fear:2007/02/01(木) 17:59:42 ID:UTwrZjCR0
天野美汐の心は空虚だった。
他人の事などどうでも良かった。自分の事も、己の命すらも別段興味が無かった。
橘敬介を陥れた事も、雄二という少年に疑心暗鬼の種を植えつけた事も、興味本位で行なったに過ぎない。
生きるという事は自分にとって、楽しみよりも悲しみの方が大きかったから。死んで無に帰せば、楽になれる。
ただ一つ、「あの子」と一緒に過ごした日々だけは、幸せだった。もしもう一度あの日々を取り戻せるのなら、生き延びたい。
勿論自分は主催者の褒美など信じてはいないし、優勝出来るとも思っていない。
それはあまりにも小さく脆い、息を吹きかければ消し飛んでしまうような希望なのだ。

だから―――窓が割れ、誰かが家の中に侵入してくる音が聞こえても、それ程動揺しなかった。
音の出所は居間の方だった。そして侵入者は堂々と大きな足音を立て始めた。
連続する足音、それが止まった直後に聞こえる、乱暴にドアを開く音。
恐らく家の中をくまなく探すつもりなのだろう、足音は不規則に動き回っていた。
それは徐々にだけれど、確実に美汐のいる部屋へと近付いてきていた。
美汐としては、訪問者がゲームに乗っていない事を望みたいが、その線は薄いだろう。
居間には自分が食事をした形跡がある、それでこの家に先住者が居る事は悟られる。
にも拘らず足音の主は一切呼び掛けては来ない――つまり、話し合う気など一切無いという事だ。
まだ姿の見えぬ襲撃者、歩み寄る理不尽な暴力。このままでは死ぬ。
ここでようやく、美汐に明確な変化が訪れていた。
死を受け入れているつもりだった美汐だったが、気付けば額を冷たい汗が伝っていた。
恐怖や苦しみなど、とうに乗り越えた境地に達している筈だった心が揺らぐ。
それもこれも、些細ながらも希望を抱いてしまったせいだ。
微小に、しかし確かに存在する生への執着が、自身の死を畏れされる。
死を覚悟してはいるが、素直にそれを受け入れる事など、もう無理な相談だった。
170Fear:2007/02/01(木) 18:02:13 ID:UTwrZjCR0
美汐は音を立てないように、慎重に布団から這い出た。
部屋の中は暗かったが、日が昇っているこの時間帯ならば視界が封じられる程では無い。
脱出口はたった一つ、窓から外へと逃げ出すしかない。逃げ切れるかは分からないが、今ここでじっとしていても殺されるだけだ。
足音を忍ばせながら移動し、カーテンに手を伸ばす。物音は発していないが――心臓の音だけは御しようも無く、大きくなっていく。
震える手で、静かにカーテンと窓を開け放つ。差し込む太陽の光が、美汐には希望そのものに見えた。
希望の光の射す方へ向かうべく、窓に手をかけ身を乗り出そうとし、
「待てよ天野、折角人が来たってのにそりゃ無いだろ?」
手に入れかけた希望は、あっけなく零れ落ちた。


恐る恐る振り向くと、自分が興味半分に手を出した少年――向坂雄二が、へらへらと笑いながら立っていた。
美汐は極度の緊張感で体が硬直していくのを感じながらも、雄二を観察した。
前に会った時とは何かが違う目、そしてしっかりと右手に握り締められた金属バット。
「お前には、世話になったよなぁ。お前のお陰で俺は、この島で何が正しいか学ぶ事が出来たよ」
ひどく濁った、不快な気分にさせる声だった。美汐は後ずさろうとしたが、すぐ背に壁が触れてしまった。
「正しい事……?それは何ですか?」
尋ねると、よくぞ聞いてくれたと言わんばかりに、雄二の目がパッと輝いた。
「この島ではな、信じるとか信じないだとか、無意味なんだよ。どいつもこいつも、何寝惚けてるんだろうな?」
雄二が話しながら一歩、近付いてくる。美汐は思わず悲鳴をあげそうになった。
「ウダウダ考える前に、とっとと殺しちまえばいいんだよ。島のルールに従って、殺して、殺して、殺しまくって、生き延びるべきなんだよ」
更に一歩分、間合いが詰まる。美汐の心音が早鐘を打ち、呼吸が乱れてゆく。
雄二の顔を見ると、笑みは消え、代わりに目が丸く強張って、充血していた。それはとてもグロテスクなものに感じられ、嘔吐感が急激に押し寄せてきた。
「その覚悟を持てねえ、弱い奴から死んでいくんだ。けど俺は違う。俺は人を殺す覚悟がある。俺は強い、強いんだ!
もう休憩も取ったし、今度はあのクソ姉貴にだって負けねえ。強くて正しい俺が、夢を見てやがる連中とクソ姉貴に、現実を教えてやるんだッ!!」
171Fear:2007/02/01(木) 18:03:17 ID:UTwrZjCR0
――もうこれ以上、この場に居る事に耐えられなかった。死ぬ事よりも何よりも、目の前の狂人が恐ろしかった。
美汐はぱっと身を翻し窓を昇ろうとしたが、手が汗でびっしょりと濡れていたせいで、上手く窓の縁を掴めずに転げ落ちてしまう。
「ああああああああ」
しりもちをついた態勢から、美汐は壁を這うようにばたばたと手を動かし、もう一度窓の枠を掴もうとする。
だが、もう遅過ぎた。大きく鈍い音が聞こえ、左脚に衝撃が跳ねた。金属バットで殴りつけられたのだ。
声にならない悲鳴をあげながら頭上を見ると、雄二が悠々とこちらを見下ろしていた。
「馬鹿か、逃がす訳ねえだろ?」
雄二は足を大きく振りかぶり、美汐を蹴り飛ばした。その衝撃で、美汐は背中から地面に倒れこんだ。
間髪置かずに雄二が美汐の上にのしかかる。全体重を掛けられて、美汐は身動きが取れなくなった。
間近に見える、血走った目。引き攣った顔。そのこめかみのあたりに、青筋が走っていた。
美汐は全てを諦め、ただ恐怖から逃れる為だけに目を閉じた。
どうせすぐに死が訪れると。完全なる無へと還り、少なくともこの恐怖からは逃れられると。そう信じて。
けれど、いくら待ってもその時は来なかった。もう一度目を開けると、雄二の視線は美汐の顔を捉えてはいなかった。
美汐はその視線の先を追い――先に倍する恐怖と共に、目を見開いた。
雄二の目は美汐の胸の膨らみを凝視していたのだ。雄二の口元が笑みの形に歪み、そこから低い笑い声が漏れた。
「どうせ殺すのなら――その前に何したっていいよな?お前だって、死ぬ前に一回くらいしときたいよな?なあ、いいだろっ!?」
美汐は涙目になり、懇願するように首を振ったが、無慈悲にも制服に手がかけられて――
「拒むんじゃねえよ、腕と足を全部潰してやっても良いんだぜ?この俺とヤレるんだから有り難く受け入れやがれ!」
「いや……いやいやいや、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」
美汐は、絶叫した。
172Fear:2007/02/01(木) 18:04:42 ID:UTwrZjCR0







一時間後。美汐は背中から壁に寄りかかった状態で、床に座り込んでいた。
その瞳は輝きを失い、無機質な人形のソレになっている。制服の至る所に白濁液が付着しており、下着は無残に引き裂かれていた。
対する雄二は、立ち上がってズボンを履き、下卑た笑いと共に口を開いた。
「はぁー、気持ち良かったぜ。優勝した時の願いで全員生き返らせてやろうってんだから、これくらいの役得は当然だよな?」
話しかけても美汐はもう、何の反応も返さなかった。それどころか雄二の姿を見ようとさえ、していなかった。
「おいおい、これくらいの事で壊れちまったのかよ?……ま、良いか。後で生き返らせてやるから、今は大人しく死んどけ」
横に落ちていたバットを拾って振り上げ、用済みになった玩具を壊すかの如く、あっさりと振り下ろす。
バットの先が美汐の顔面を捉え、月島瑠璃子を絶命させた時と同じ感触が雄二の手に伝わった。
美汐は顔から床に崩れ落ちた。その後頭部に向けてまたバットを振り落とすと、美汐の頭蓋骨が陥没し、彼女の生命は完全に終わりを遂げた。
「これでいっちょあがりっと。さーて、そんじゃクソ姉貴にどっちが強いか、教えてやりにいくとしますかね」
雄二はそれだけ言って、もう美汐の死体には興味を示さず、満ち足りた表情で部屋を後にした。
窓から漏れる光の先で、美汐の潰れかけた眼球から、涙のように血が流れ出ていた。
173Fear:2007/02/01(木) 18:05:52 ID:UTwrZjCR0
【時間:2日目・14:00】
【場所:I−7民家寝室】

向坂雄二
【所持品:金属バット・支給品一式】
【状態:マーダー、精神異常。目的はゲームの優勝と環への報復。マルチの捜索は考えていない】

天野美汐
【状態:死亡】

【備考】
・美汐の支給品一式(様々なボードゲーム)は寝室に放置
・敬介の支給品の入ったデイバックはPCの置かれた部屋の片隅にある

→540
→607
174名無しさんだよもん:2007/02/01(木) 18:06:31 ID:b9ZSb64W0
雄二様キター
175名無しさんだよもん:2007/02/01(木) 18:07:38 ID:b9ZSb64W0
…あ、回避いらんかったのね
orz
176名無しさんだよもん:2007/02/01(木) 18:09:07 ID:UTwrZjCR0
>>174-175
その心遣いに感謝です
177Air for the future:2007/02/02(金) 00:21:55 ID:7Ql5zP0Q0
 見上げた空には異様な力が満ちていた。
 それは雨雲を押しのけ、空白であるはずの空に目に見えぬ渦を形成している。
 その中心たる位置にある少女は宝物殿から姿を現した男に、周囲の瘴気を凝縮させた一撃を放った。
 この際ガッとかグシャッとかいう仰々しい擬態語は無用の長物である。ただ一撃、呆気ないほどの脆さ
でその男は崩れ落ちたのだから。
 神奈の瘴気は物理的な攻撃ではない。悪夢によって精神を狂わせ、攻撃を受けた側の自滅を誘発する類
のものである。とすればただの一撃で沈んだこの男については、精神的に壊されたという表現がより適切
であろうか。
「他愛もないわ、狂うほどの精神も持ち合わせておらぬとは」
 それはとりもなおさず、男が精神的に弱いことを意味する。そして精神の死は肉体的な死を妨げる機関
がこの島にない以上時間の問題だった。
 と、と軽い音を立ててつま先から神社の境内へと着地すると神奈は死体と一片も違わぬ男を一瞥した。
戸口にあるそれは、目をかっと見開き、空を仰ぐ姿勢そのままに崩れ落ちている。
「興ざめも甚だしいの、高野の者よ。いますこし余を楽しませてくれると思っていたが……」
 気持ちの悪いものを見る目つきで、その目を覗き込む。と、その散大した瞳に白い影が横切った。

「八雲、八雲! 」
 具現化も半ばのまま、男の視界に、そして神奈の後方――――翼に走りよったのは白穂であった。
 愛する息子の名を幾度も呼び、神奈の翼に手(もし彼女に肉体があれば、だが)を伸ばす。
 だが、それに気づいた神奈が翼でその手を払った。
「何をするか、下賎の者め。この神奈備命の背羽に触れようなどと……」
178Air for the future:2007/02/02(金) 00:22:32 ID:7Ql5zP0Q0
 一喝する。しかし弾かれた白穂はきっと神奈を見返した。
「わが子を見間違う母が、どこにおりましょう。どこに、おりましょうか……」
 半狂乱のまま、涙の気配すら孕んで訴えかける。それに呼応してか、神奈の翼の中の一枚の羽が突然明
滅を始めた。
「な、どういうことだ」
「八雲! そこにいるのですね」
 白穂が神奈の羽をもがんばかりににじり寄る。霊体なので実際にもぐことは出来ぬのだが、彼女にもし
生体の手があれば迷わずその明滅する羽を引きちぎっていたことであろう。
 霊体の手が、神奈の翼を透過する。明滅する羽とその手が交じり合う。
 子守唄が、きこえる。

"わたくしは、名を白穂(しらほ)と申します。どうか、わたくしの話をお聞きください……"
 そのような語りから始まったひとつの悲劇は、やさしい子守唄と共に幕を閉じつつあった。

 ……わたしは羽根に願いました。
 ……この子がすこやかに、やさしく育ってくれるようにと。
 ……ほかには願いなど、ありませんでした。
 ……わたしは幸せでした。
 ……夫と子供がそばにいてくれる。
 ……それだけで幸せでした。

 その子守唄が途絶えると同時、もうひとつの声が響いた。
 すでにものを言うことが出来ないはずの死体の男の、それは"声"であった。
179Air for the future:2007/02/02(金) 00:23:07 ID:7Ql5zP0Q0
 ……この空の向こうには、翼を持った少女がいる。
 ……それは、ずっと昔から。
 ……そして、今、この時も。
 ……同じ大気の中で、翼を広げて風を受け続けている。

 言葉としての体裁を取らず思考がそのまま溢れ出たかのようなその台詞は、敬介が調べつづけていた伝
承の一部と酷似していた。旅を終え留まる地を見つけた旅芸人が、いうなれば国崎往人に至るまでの血を
ひく旅芸人の分家筋にあたる者達が遺した伝承。敬介の足掻きは決して無駄ではなく、正解にごく近い場
所まで彼を導いていたのだった。
 しかしそれは目の前にいる神奈を指した言であり、この場にそぐわぬこと甚だしい。

「戯言を。余はこのとおりこの場に降り立っておるぞ、この痴れ者が―――――」
 そう罵る神奈の目が瞠られた。
 目の前の死体――――正確を期するならほぼ死体、というべきか、その腕がゆっくりと持ち上がり、天
空の一点を差したからである。その手の先、瘴気の影響で雨雲が打ち払われた白い空に、白い翼を広げた
孤影があった。
 ――――アヴ・ウルトリィ。
 純白の神像はその気高い姿をはるか天空に浮かべ、明星の眩さを体現するかのようにそこに在った。
 男の手はその光をいとおしむように広げられ、その指を緩慢に動かす。届かないものへの憧憬、程近い
ものへの慈しみ。そのいずれもが綯い交ぜになった動作と共に、再び声が響く。声帯から発される、いわ
ゆる音声としての声ではないことを、神奈はすでに悟っていた。

 ……あの子を助けてあげて。
 ……あの子は、ずっと一人で、
 ……あの子は、いつも一人で
 ……あの子は、いまも
 ……あの子は
180Air for the future:2007/02/02(金) 00:23:42 ID:7Ql5zP0Q0
「もうよいッ! もうたくさんだ」
 ――――悟っているからこそ、響く"声"を聴きたくなくて声を上げる。
 音声でない以上、そのような行動で言葉を制することなど出来ないとわかっていながらも、そう叫ばざ
るを得ない。
 似ているのだ。なにもかもが。
 神奈が一人天空に在ることで、幾人もの少女が夢を見、一人きりで死んでいく。
 柳也や裏葉が遺して行った者達も、少女達の肉親も、ある者ははその少女と心を通わしてしまったがた
めに死んでいき、あるいは心を通わすことを拒んで去っていく。
 誰も助からない。誰ものこらない。これは、そんな呪いだった。

「なぜ、皆、余、だけを―――――のこしてッ」
 耳を塞いでうずくまる神奈を差し置いて、声の主は、途切れ途切れに続ける。
 命数を使い果たしてなお何かを伝えようとしていた、それも限界のようだった。

 ……あの子を助けてあげて
 ……そしてできるなら、あの子のともだちになってあげて
 ……僕は、あの子の父親なのに、届かないんだ、あの子に
 ……あなたには、僕にはない、つばさが、あるから

 男の死体から溢れつづけていた思念波の奔流は、そんな言葉を最後に途切れた。

  *

 神奈の背が震えていた。
 声が途切れた空白を耐えがたく感じているのか、激発の予兆を孕んで神奈は震えていた。
「……もうたくさんだ」
 これが空の上の、飽くほど見た夢であるならまた違っただろう。だがここは幾度かの失敗を繰り返した
殺し合いの舞台上であり、神奈は神の視点から任を遂行せねばならぬというのに――――。
「もうたくさんだ、余には神に届く翼などないというに何ゆえ皆して勝手に願いをかけようとするか
何ゆえ余にすべてを押し付けようとするかっ! 余は、余は……」
181Air for the future:2007/02/02(金) 00:24:17 ID:7Ql5zP0Q0
 吼える。白い天に向かって。虚空の神像に向かって。
 瘴気の渦が消え去ったそこには雨雲が集まり、ふたたび小糠雨を神の社に降らせ始める。 
「――――それが、呪いなのですよ」
 その冷気の中、男の懐から滑り落ちた羽根の柔らかな毛に光が揺れていた。
 それは声となって神奈の顔を上げさせた。
「我が子よ……よくお聞きなさい」
 そこには神奈の母、八百比丘尼があった。

「翼人は夢を、記憶を継いでゆく。忘れることができぬのです」
 比丘尼は淡々と語っていく。
「翼人がひとを殺すということはそのひとの未来を、可能性の選択肢をそのまま負うということ。
願いとは、奪われた未来を誰か別の者にに託すことなのやも知れません……。
戦の道具として借り出されたわらわは、あまたのひとを殺し、その穢れをうけてきました。
それはあまたの願い――――すなわち、あなたの背羽にそのまま移された呪いなのです……しかし」
 ここまで言って、語調が突然変わった。
「それをあなたという娘はなんですかぽんぽんぽんぽんとなりふり構わず人を殺して回ってそれを自分の
せいにするなと悲劇のヒロインぶって見せるとは。母は情けなく思いますよ」
「ははうえ、キャラクターが変わっているのだ」
「折角の長台詞、キャラクターを変えてまで言わずにどうします。いいですか。すでにこの世にないとい
うのに子を思ってこの世界に残ろうとする者や自らの精神を磨耗させてまで子に何かを遺そうと考える者
だっているのですよ。それをあなたは精神的な弱さを抱えているのをいいことにまるでありさんをプチプ
チするかのようにですね」
 堰を切ったかのようにとつとつと続く比丘尼の説教。それを止められる者はないように思われたが。
 これもまた男の懐にあった鏡がひとつ揺らぎ、咳払いの音が聞こえると八百比丘尼は我に返った。
182名無しさんだよもん:2007/02/02(金) 00:25:45 ID:UQ9CqDeV0
回避
183Air for the future:2007/02/02(金) 00:27:10 ID:7Ql5zP0Q0
「――――ふぅ、収まったのだ」
「ふぅ、ではありません。わかったのですね」
「人殺しをせねば良いのであろ、わかっておるぞ」
「わらわのいいたいことは違うのですよ。我が子よ……よくお聞きなさい」
 この台詞が入ると突如として背景がホワイトアウトし、母子のシルエットが青く浮かび上がる。
 これを仮にAIRモードというべきだろうか。
「人を殺すことはすなわちその人の選択肢を奪って自らの選択肢を広げること。それがわかった上で
お生きなさい。血塗られた手で広げた道を、奪った選択肢を、奪われた人の分まで。
――――それが母の願いです」
「ははうえ……それでよいのか、本当に? 」
「殺人を肯定する気はありません。ですが自らの翼に呪いを増やしてでも生きる意思があるのなら……
それはあなたの意思。わらわは止めることができぬのです」
 八百比丘尼の語調はあくまでやわらかい。そして輪郭がぼやけるそのとき、彼女が娘の名を呼んだ。
「神奈」
 ただ一言、名前を呼ぶ声には冷たさはない。ただそれは、途方もない深みを湛えている。
「神奈……疲れたら、わらわの元へいらっしゃい。でも、あなたはまだ疲れてはいけません」
 その一言を残し、古びた鏡の上に羽根は落ちていった。
184名無しさんだよもん:2007/02/02(金) 00:27:16 ID:UQ9CqDeV0
回避
185Air for the future:2007/02/02(金) 00:27:45 ID:7Ql5zP0Q0
 神奈はしばらく、その鏡を覗き込む気にはなれなかった。
 母は人心と交わり悪鬼となりはてた、という言を旅の途中で柳也にきいたことがある。
 ならば、今の自分の表情は悪鬼そのものなのであろう。
「わかっているのだ、余は、余は……」
 悪鬼である自分を、柳也は好いてくれるだろうか。
 悪鬼である自分を、裏葉は好いてくれるだろうか。
「余は、母上さえ在ってくれればそれでいいのだ……」
 そう口に出してみるも、心はそれ以外の方向に向いている。
 わかっていた。余は―――――淋しいのだ。
 観鈴。
 空を見上げる。そこには雨を降らす雲が張り詰めていて、神像の姿は見えなかった。

  *

 拠る媒体もなく、強靭さももたぬ想いの波がゆっくりと交差している。
(……すまなかったね、君まで巻き込んでしまったみたいだ)
(……あなたらしくていいんじゃないんですか、こんな終焉(おわり)も)
(……そうだね)
(……晴子は、あの子は上手くやっているのかしら)
(……まあ、僕よりかは上手くやってくれるさ)
(……そうね)
 二人には出会いを、二人には花を、二人には季節を
 二人にはゆく日を、二人には闇を、……二人には眠りを。
 囁くような微かな波動は、明けの光に溶けるように消えていった。

 ――――それは破滅に向かう"僕ら"の恋のうた。
186名無しさんだよもん:2007/02/02(金) 00:28:23 ID:4j6++t/60
回避
187Air for the future:2007/02/02(金) 00:28:33 ID:7Ql5zP0Q0
関連:526、667
ルート:D−2

【時間:2日目午前6時半過ぎ】
【場所:G−06 たかのじんじゃ】

025' 神奈
【状態:母の言に悄然】
【所持品:ライフル銃】

八百比丘尼
【状態:羽根(媒体)の中、アンネローゼ様モード】
知徳法師
【状態:法師の鏡(媒体)の中、たまーに咳払い】

【武将の兜(景清)、dジキ自動連射装置(さくや)、持ち主不明の日本刀が残されています】
【G−06上空にアヴ・ウルトリィ=ミスズが見えました】

064 橘敬介
【状態:死亡・消滅】
【白穂、八雲、橘郁子 消滅】
【眼鏡、庶民の具足は壊れました】

>>182,184 回避多謝っ
188メイドロボとして:2007/02/03(土) 01:03:58 ID:41m8l9yI0
ごめんなさい、ごめんなさい・・・・・・ただただ、私は心の中で謝り続けました。
瑠璃子さんを助けられなかったこと、雄二さんを止められなかったこと。
本当は雄二さんの心を、私が受け止めてさしあげなくてはいけなかったんです。
でも・・・・・・私の足は、雄二さん達と一緒に過ごしたあのお家からどんどん離れているんです。

(ごめんなさい、ごめんなさい・・・・・・っ!)

耐えられませんでした、狂ったように瑠璃子さんの亡骸を弄ぶ雄二さんが。
耐えられませんでした、いいように私のことを扱おうとする・・・・・・雄二さんの変容が。
私はメイドロボです、ですから本来はあのような物言いをされたとしてもそれは受け入れるべき区別です。
でも、私は・・・・・・。

「はうっ!!」

足をとられつまづいてしまい、地面に体が投げ出されてしまったとしても。
そこに痛みはありません、私は生き物ではありませんから。
それでも、私を私として大切にしてくださる方々のいる甘い生活に・・・・・・私は、慣れ過ぎてしまったのかもしれません。
おかしいですよね、機械の私が「慣れる」だなんて。
これは有り得ないことだと思います。でも。

「苦しいです・・・・・・ひろゆきさぁん・・・・・・」

お名前を呼んでも、いつも明るく私に接してくださるあの方は現れてはくださいません。
セリオさんもあかりさんも、どなたも・・・・・・ここにはいらっしゃいません。

スカートについた土ぼこりを払い立ち上がると、大分明るくなった空が目に入りました。
きっと普通の方でしたら肌寒さを感じる時間帯でしょう、あの後眠りについた雄二さんはどうしているのでしょうか。
まだ、眠っていらっしゃるでしょうね。目が覚めて、私がいないと分かると・・・・・・どう、されるんでしょうね。

「雄二さん・・・・・・」
189メイドロボとして:2007/02/03(土) 01:04:36 ID:41m8l9yI0
肩にかけた支給品の入った鞄が、重く感じます。
これは・・・・・・雄二さんに支給された、鞄でした。
灯台で笑いあった思い出の詰まったものです、中には雄二さんが楽しそうに語っていたボロボロのノートも入っていました。
もうあの時間に戻れないと思うと・・・・・・凄く、つらいです。悲しいです。
そして。そんな感情を持っているように感じるたびに、雄二さんのあの言葉が復唱され。私は。

「雄二さん・・・・・・」

ノートをぎゅっと抱きしめ、あの幸せなやり取りをメモリーから読み込もうとした時でした。
すぐ隣を歩いていた一つのお家から、どなたかのくしゃみが聞こえた気がしたんです。
私の走っていた場所が住宅街ということもあり、近辺で休んでいらっしゃる参加者の方も決して少ないかもしれませんが・・・・・・。

(もしかしたら、浩之さんでしょうか)

人恋しい思いが募り、いてもたってもいられなくなります。
私は意を決してそのお家の入り口まで行き・・・・・・ドアノブを、回しました。鍵はかかっていませんでした。
玄関は、とても静かでした。私が感知したものはお家の側面に当たる所でしたので、急いで向かおうとします。
・・・・・・と、その時何やら床に点々と落ちている液体に気づきました。
それはすぐ近くの部屋の前まで続いていました、色からして血だと思われます。
大変です。もしここにいらっしゃる方が、お怪我をされていてお命の危機に晒されているとしたら。
いてもたってもいられなくなり、私は閉じられた扉を急いで開けました。

「どなたかいらっしゃいますか〜?」
190メイドロボとして:2007/02/03(土) 01:05:16 ID:41m8l9yI0
声をかけますが、お返事はありません。
そこはダイニングとお呼びすればいいのでしょうか、お食事に使うと思われる椅子やテーブルなどが置かれたお部屋でした。
奥を覗くとキッチンが見えます。でも人はいらっしゃいません。
床をもう一度見回してますと、部屋の隅に向かって血は垂れていました。
そして、家具などの置かれていないちょっとスペースにて。私は、その方を発見することができました。
男の方でした。壁に寄りかかってお休みなっていらっしゃってます、そっと近づきお顔を覗き込んで見ますが、浩之さんではありませんでした。知らない方です。
・・・・・・血の出所は、この方の太ももからでした。布で巻いていらっしゃいますが、このような乱暴な手当てでばい菌などが入ったら大変です。
お休みになっている所申し訳ないですが、きちんと手当てし直す必要があるでしょう。
何か役に立つものはないかと辺りを調べますとと、救急箱をすぐに発見することができました。
包帯、消毒液。共に揃っています。

(ではすみません、勝手にやらせていただきます・・・・・・)

再び近づきますが、起きられる気配は一向にありません。
余程疲れていらっしゃるのでしょうか。まじまじと、そのお顔を見つめてみます。

(あれ?私、この方とお会いしたことありましたっけ〜・・・・・・)

それは、ちょっとした違和感でした。
お知り合いではないはずですか・・・・・・ちょっと気になりましたので、メモリーを呼び起こしてみます。
・・・・・・答えは、すぐに分かりました。この方は昼間私達を襲ったあの男の人でした。
191メイドロボとして:2007/02/03(土) 01:05:53 ID:41m8l9yI0
マルチ
【時間:2日目午前5時45頃】
【場所:I−7・民家】
【所持品:救急箱・死神のノート・支給品一式】
【状態:巳間を見つける】

巳間良祐
【時間:2日目午前5時45頃】
【場所:I−7・民家】
【所持品1:89式小銃 弾数数(22/22)と予備弾(30×2)・予備弾(30×2)・支給品一式x3(自身・草壁優季・ユンナ)】
【所持品2:スタングレネード(1/3)ベネリM3 残弾数(1/7)】
【状態:寝てる・右足負傷】

(関連353・433)(B−4ルート)
192答え:2007/02/03(土) 03:40:00 ID:+fym+Lwp0
(元はルートB13の595)
北川潤、遠野美凪、広瀬真希の3人は仲間を求めて村を徘徊していた。
しかし…
「うーん、人っ子一人いないな…」
手にショットガンを握りつつ、北川は溜息交じりに呟いた。
「そうね…平和なのは良い事だけど…」
真希もワルサーP38を手にしながらそれに答える。
彼らは工場の周りを探し回ってみたが、人と会う事はおろか誰かがいた形跡すら見つからなかった。
「もう少し南の方を探してみるか?海岸沿いはまだ調べていないしな」
「もっと北の方が人がいそうじゃない?」
「町の中心らへんは最後に調べた方が良いと思う…一番人が集まりやすい分危険な場所だからな」
「…そうですね。ゲームの乗っている方以外が好き好んでそんな所に滞在するとは思えません」
「分かったわ。じゃ、潤の言うとおりにしましょうか」
「おう」

スムーズに次の行動が決まる。
真面目な時の北川の判断は的確だった。
それはこの島で1日中行動を共にしてきた真希も美凪も感じている事であり、もはや彼女達の北川への信頼は絶対的なものだった。
今回も北川の判断は的確だった。ただ―――運が悪かっただけなのだ。
彼らが向かった先には鬼が存在していた。
厄災は何の前触れも無く唐突に訪れた。

「こっちにも人がいないわね……」
真希がそう呟いた時だった。
「―――人ならいますよ?尤も、あなた達にとっては人というより鬼でしょうけどね」
「…えっ?」
ダダダダダッ!!
「きゃぁぁっ!」
「ぐはっ………」
背後から聞こえた声に一同が反応して振り向くより早く、マシンガンの掃射は無慈悲に行なわれた。
背中に突然の衝撃を受けた彼らは為す術もなく地面に倒れ伏した。
193答え2:2007/02/03(土) 03:45:57 ID:+fym+Lwp0
(こっから変化)

前方から突然銃声が聞こえた時、耕一は一瞬どうするべきか迷った。
自分の武器(ハンマー)では銃器と真っ向からやりあうのは不可能に近い。ここはいったん近くにかくれ
前方の戦闘をやりすごしそれから舞達の方へいくのが安全だ、
時間はまだある、ここで自分が死ねば初音ちゃんの命はなくなる、リスクはできるだけ避けるべしだ。さっきはなんとか生き延びれたがそれは逃げるのに徹したのと運がよかったからだ、ここで戦闘に介入するのはどう考えても得策じゃない。
そんな事をしたら初音ちゃんを守れなくなる、俺はここで死ぬわけにはいかない!
だが思考は理論的に考えて最善の道を選んだのに全力で走り出す。 近くに今にも命を失いそうな人間がいる、
それを見捨てる事ができない それだけの理由で。 そして走った先にいたのは倒れてる少年、少女達と
自分が探してた大切な女性、柏木千鶴だった。

「どうしてこんな事を!」
答えがわかっててもいわずにいられない。
「これが妹達を守る最善の方法だからです」
わかってる、千鶴さんは大切な妹達を守る為なら自分の手を汚す事を躊躇わない、そんな当たり前の事はわかってる、でも・・
「それは違う! そんな事が最善の方法なはずはない、皆で協力すればきっとこのゲームをなんとかできる。だから・・」
「皆で協力したらなんとかできるなんて保証はどこにあるんですか!それに楓は死んでしまったのよ!」
 彼女は強い言葉で俺の言葉を遮る。冷たい、でもどこか悲しそうな目で俺を見て話を続ける。
「もしかしたら耕一さんのいうようになんとかなるかもしれないです。ですがこのゲームに乗った人間は必ずいます。彼らが巧妙にチームに潜り込むかもしれない、
それに都合よく脱出する方法が見つかるとは限らない。脱出する方法が見つからなければ必ず誰かがゲームに乗りチームは内部から崩壊します。
それがどれほど危険なのか分かってるんですか! 
私はこれ以上誰も失いたくない! その為なら私はどうなっても構わない! 例え妹達に罵倒されようともこの手を汚してみせる!」
194答え3:2007/02/03(土) 03:55:35 ID:+fym+Lwp0
知ってた、彼女が自分がどうなろうとも大切な人を守ろうとする人間だというのは知ってた。だからこそこの人は俺が守ってみせる。
この人だけにつらい想いはさせない。千鶴さんだけじゃない、梓も、初音ちゃんも・・ そしてもう守れないけど
楓ちゃんも守りたかった。 だから俺は千鶴さんを止める。守るというのは命を守る事だけじゃない、心も守るというのが守るということなんだ。
だからここで引かない!
「だったらなおさら皆で力を合わせないと。だってこのままじゃ一人しか生き残れない。それじゃ俺や千鶴さんが守りたい人をみんな守れない、
何よりみんな 今の千鶴さんをみたら悲しむよ、だからもうこんなことやめて俺達と一緒にがんばろう」
 私は一瞬頭が真っ白になった。なんでこんな当たり前の事に気づかなかったんだろう。優勝者は一人、つまり私が守りたい人以外全員死んでも、皆を助ける事はできない。
たった一人・・ それが頭から抜け落ちてた、いや考えないようにしてただけなのかもしれない・・ 私だけが手を汚せば大切な家族全員が助かると思い込んでただけ? 
皆を守るには方法は一つしかない? それは耕一さんのいうように皆と力を合わせる? しかし千鶴の思考はここで中断される。倒れてる少年が微かに動いたのが目に入ったからだ。
反射的にマガジンを向ける。
「千鶴さん!」と叫びつつ耕一は少年と千鶴さんの間に入り少年を打たれないようにする。それを見て千鶴はある決心を決め銃を下げつつ
195答え4:2007/02/03(土) 03:59:13 ID:+fym+Lwp0
「耕一さん、私は貴方と共にいけません・・ 私はこれまで何人かを襲って殺してます。
私がいれば疑心暗鬼を招き貴方にも危険が及びます。だから私は独自にゲームにのった
参加者を殺し貴方達を影から守ります。 どうか妹達を頼みます」
それだけいい千鶴はこの場を走りさる、後に残されたのは耕一と倒れた少年、少女。
 千鶴は走りながら思う。自分はゲームに乗ってない人間も殺してる、それは許される事ではない。
だから 私はこの舞台から降りない。私は大切な人を守る為に、そして罪から逃げないために。
私はこの命尽きるまで戦い続ける。脱出という可能性を僅かでも広げる為に敵は殺し耕一さん達の
味方になってくれるものを守り抜く。それは今までと似ていて違う千鶴なりの今だせる答え。
 耕一は思う。俺はさっき銃撃された時、千鶴さんと似たような事を考えた。皆と協力するのは俺は
自分の手を汚すのが嫌いなだけじゃないか? 最善の手段じゃないんじゃないか?と思った。でも千鶴さんと話をして確信を持てた。 
俺は確かに弱いかもしれない、でも皆で協力し脱出を目指すのは間違いじゃない。だって千鶴さんは悲しそうだった。
そして俺は皆を守りたい。命を、心を。
だから俺はもう迷わない。 それは綾香に襲われ揺らいだ耕一の原点を再び固める耕一なりの答え。 
その時幻聴かもしれないが今はもういない大切な人からの声が聞こえた気がした。
「がんばって 耕一さん」
196答え4:2007/02/03(土) 04:13:26 ID:+fym+Lwp0
北川潤
【時間:2日目10:10頃】
【場所:G−2下部】
【持ち物@:防弾性割烹着&頭巾、SPAS12ショットガン0/8発
+予備弾薬16発+スラッグ弾8発+3インチマグナム弾4発、支給品一式】
【持ち物A:ノートパソコン、お米券】
【状況:痛みでほとんど動けない】
広瀬真希
【時間:2日目10:10頃】
【場所:G−2下部】
【持ち物 ハリセン、ワルサーP38アンクルモデル8/8
【状況:痛みで動けない】
遠野美凪
【持ち物:包丁、防弾性割烹着&頭巾、支給品一式、お米券数十枚、
色々書かれたメモ用紙とCD(ハッキング用)】
【状況:不明」



-

197答え4:2007/02/03(土) 04:15:07 ID:+fym+Lwp0
柏木耕一
【時間:2日目10:15頃】
【場所:G-2上部】
【所持品:大きなハンマー・支給品一式】
【状態:平静。とりあえず3人を介抱しようとする。首輪爆破まであと22:30】
柏木千鶴
【時間:2日目10:15頃】
【場所:G-2上部】
【持ち物:支給品一式(食料を半分消費)、ウージー(残弾18)、
予備マガジン弾丸25発入り×4】
【状態:少し動揺。左肩に浅い切り傷(応急手当済み)、ゲームに乗った者は殺す。
単独行動望む。この場から離脱】
ウォプタル
【状態:近くの民家の傍の木に繋いである
198Victorious smile:2007/02/03(土) 21:30:51 ID:YDHAn7HS0
向坂環は朝霧麻亜子と対峙していた。両者の間は約十メートル、事が始まれば一瞬で無になってしまう距離だ。
「たまちゃんに弾を撃つつもりは無いけど、コレで殴られたらすんごい痛いよ?謝るんなら今のうちだぞ」
話しながらデザートイーグルを握る麻亜子。デザートイーグルクラスの大型拳銃ならば、鈍器としての役目も充分に果たしうる。
「御託は結構です。早くかかってきたらどうです?」
対する環は麻亜子の言葉を軽く受け流すと、余裕の表情を崩さず、空手のまま手招きをした。
武器など使おうとは思わなかった――素手で、相手に無駄な怪我を負わす事無く制圧してみせる。
環にはその自信があった。自分が小柄な麻亜子に遅れなど取る筈が無い、と。

「ふーん、素手でやるつもりなんだ?余裕なんだね。でもこっちはね……遊びでやってんじゃないんだよっ!!」
麻亜子が地を蹴り、疾駆する。だが、そのまま真っ直ぐに攻撃を仕掛けるような真似はしてこなかった。
麻亜子は走りながら地面の土をかき上げると、それを環の目に向けて投擲する。
「賢しい真似を!」
環がその攻撃を手を振るって弾いた時にはもう、横薙ぎに振るわれるデザートイーグルが、眼前に迫っていた。
走り込んだ勢いも上乗せされ、正に空気を裂くといった表現が相応しい一撃を、環は姿勢を低くする事でやり過ごす。
頭上ぎりぎりを通過する麻亜子の腕を掴み取り、背負い投げの要領で投げ飛ばす。
宙を舞う麻亜子の体。しかし、投げる途中で手を離してしまったのが拙かった。
麻亜子は己の身軽さを最大限に活かし、体操団よろしく回転すると、スタっと足から地面に着地した。
「……やるじゃない!」
環がすぐさま追撃しようと走り出すが、そんな折に男の叫び声が聞こえてきた。
199Victorious smile:2007/02/03(土) 21:33:15 ID:YDHAn7HS0


「うぉぉっ!」
「――っ!?」
環と麻亜子の戦いを傍観していた国崎往人に向けて、背後から学ラン姿の男が走り込んできていた。
男――長瀬祐介は、鬼気迫る形相で包丁を振りかぶっている。
その姿を認めた往人は、神尾家で見た出来の悪いホラー映画のワンシーンを思い出した。
映画では、そのまま被害者は喉を切り裂かれてしまった。血飛沫を舞わせ、倒れ伏せる役者の姿が鮮明に思い起こされる。
だが自分は役者ではないし、ここは現実世界だ。映画の再現をする訳にはいかなかった。
「――くっ!」
間一髪の所で反応し、ワルサーP5の銃身で、迫り来る包丁を受け止める。
鍔迫り合いの状態で顔を向き合わせる。往人を睨みつけてくる襲撃者の瞳には明確な殺意が宿っていた。
――この少年は誰なのか?一体何故いきなり自分が狙われているのか?疑問は尽きない。
しかし考えている暇など与えられていないし、その必要も無かった。
この殺し合いのゲームの舞台で、今自分は命を狙われている。応戦する理由としては、それだけで充分過ぎる。

「神岸、下がってろ!」
「は……はい!」
状況はまだ飲み込めないが、このままではやられる。まずはあかりに退避を促がした。
そして後方に跳びながら、祐介の胸部に向けて銃を構えようとする。しかしそれよりも早く、祐介がフライパンを投げつけてきていた。
飛来物が手に命中し、銃を取り落としてしまう。その隙を逃さず飛び掛ってくる祐介。
自分に真剣白羽取りのような芸当が出来るのなら話は別だが、生憎やれる事と言えば人形芸ぐらいだ。
だから往人には、特別な技量を要さない対応――ポケットに入れてあった、トカレフTT30の弾倉を投げつけるのが精一杯だった。
それは祐介の顔を捉え、相手の突進を止める事は出来た。自分の命を一時の間繋ぐ事には成功した。
しかし相手の手には、いまだ包丁が握られている。対する自分は武器を落としてしまい、拾う時間も無いだろう。
往人の不利は明確だった。
200Victorious smile:2007/02/03(土) 21:36:16 ID:YDHAn7HS0




「させるもんですか!」
――仲間の窮地を、環がみすみす見逃す筈はない。
環にとって、麻亜子との対決は優先すべき事項ではない。もっとも重要な事は仲間の命を守ることだ。
環は猛烈な勢いで駆け寄ると、肩を突き出し、祐介の背中に当て身を放っていた。
「――がっ!?」」
全体重を乗せた一撃を受け、祐介が低い呻き声をあげる。そのまま第二撃を入れるべく、環は足を振りかぶる。
祐介は何とか振り返ってはいたが、防御姿勢はまだ不十分だ。不意の一撃により包丁は地面に落としており、構えもまだ取れていない。
だからこそ環には、このまま祐介を倒せるように思えたのだが――


「あたしを放っておくとは、どういう了見だい?」
――後ろから声を掛けられる。
「まーーりゃんきーーっくっ!」
「あぐっ!?」
麻亜子もまた、環の隙を見逃してはくれなかったのだ。
先の祐介と同じ形で自身の背中に衝撃を受けた環は、地面を這うように前のめりに転んでしまう。
環はがばっと顔をあげ、麻亜子に向けて不満をぶちまけた。
「先輩!こんな事をしてる場合じゃりません、今は突然現れたあの男を倒すべきでしょう!」
「別にあたしとたまちゃんにさえ手を出さなきゃ、どうでも良いよ。今は乱入者君より、たまちゃんとの対決が優先さ」
麻亜子としては祐介の存在は寧ろ有り難かった。麻亜子の目的は、あくまで生徒会メンバー以外の人間の排除だ。
排除対象同士で潰しあってくれるのなら、それに越した事はない。
祐介と往人達の戦いが終わる前に環を倒し、漁夫の利を得る形で祐介と往人の双方を殺害するのが理想だ。
「この……分からず屋!」
このまま問答を続けても時間の無駄だと悟り、環が再び標的を麻亜子に定める。
環は飛び上がるように跳ね起きると、麻亜子に向かって駆け出した。
201Victorious smile:2007/02/03(土) 21:39:09 ID:YDHAn7HS0




その頃、往人もまた態勢を立て直して、祐介に殴りかかっていた。
僅か一発に過ぎぬ環の援護だったが、それは充分な効果を為していた。
往人も素手だが、祐介も包丁を取り落としてしまっている。素手同士なら――体格面で大きく勝る自分が有利だ。
往人の拳は、正確に祐介の腹へと突き刺さった。苦しそうに息を吐き、たたらを踏んで後退する祐介。
この絶好の機会を逃す手は無い。往人は祐介に追い縋り、そのまま勢いに任せ押し倒し、馬乗りの態勢となった。
これで勝負は決した筈だったが――往人の脳裏に一つの疑問が浮かぶ。
――ここから、俺はどうするんだ?俺は人を殺すのか?
相手が動かなくなるまで殴りつけるべきか、首を絞めつけ命を断つべきか。
往人は人を殺そうという明確な覚悟をしていたのではなく、ただ自分の身を守る為に応戦しただけだった。
自身の身を守る為には戦えても、無防備な状態となった敵を攻撃する事には迷いが生じてしまった。

だが、祐介は違う。相手が襲ってこようと襲ってこまいと、殺さなければ初音が犠牲になる。
知らない人間と初音の命では天秤にかけるまでもない。本望では無いにしろ、祐介は人を殺す覚悟と、然るべき理由を持っているのだ。
その覚悟の差は、時として実力差を覆しうる要因になる。体の大きい者が必ず勝つとは限らないのだ。
「――シッ!」
「うおっ!?」
どんなに体の大きい人間だろうと、鍛えようの無い急所は存在する。祐介は手をチョキの形にし、そのまま往人の目を狙って奔らせた。
往人は咄嗟に両腕で顔を覆い、下手をすれば自身の視力を奪いかねない凶器の軌道を遮った。
だがそれは同時に、祐介を押さえ付けていた手を離してしまったという事を意味する。
「がっ……」
鳩尾に肘を打ち込まれ、往人の呼吸が一瞬止まった。その隙に祐介は強引に往人を押し退けていた。
遅れて往人も立ち上がったが、その時にはもう祐介は包丁を拾い上げていた。
202Victorious smile:2007/02/03(土) 21:41:16 ID:YDHAn7HS0
――これで状況は振り出しに戻った。
往人は自分の甘さを悔やんだ。一瞬の躊躇が、環の助力を無駄にしてしまったのだ。
それでも往人は、自分を射抜く殺意の視線から逃げる事なく、逆に真っ向から見据えた。
「お前……ゲームに乗っているのか?俺は人に恨まれるような事はした覚えが無いぞ」
自分がした悪行と言えばせいぜい、あかりの食料を拝借した事と、秋子を気絶させた程度だ。
その二人以外に襲われるという事は、相手はハナから殺し合いをするつもりだったと考えるのが自然だ。
だが、祐介の瞳の奥に移る一つの色が気になった。強い殺意の影に埋もれている……迷いのようなものが、見て取れたのだ。
「――貴方に恨みは無いんです。ゲームに乗っている訳でもありません」
「ならどうして……どうして俺を襲うんだ?」
何となく、予想はしていた。こいつには何か理由がある、と。それを知った所でどうなる訳でも無いが――真の狙いは別の所にあった。
尤も最初から作戦を立てて話し掛けた訳ではない。話している最中に、往人はある事に気付いたのだ。
「ごめんなさい、それを話すのは無理なんです」
「そうか。なら、せめて名前だけでも教えてくれ。殺される相手の名前くらい、知っておきたい」
「――諦めたんですか?とてもそうは見えませんが……」
「無論黙って殺されてやる気はない。それでも世の中は上手くいかないもんでな。万一の事態に備える事は必要だろ」
話を続けながらも、往人は微妙に足を動かして、少しずつ間合いを広げていた。
ようやく祐介もその事に気付き、これ以上の会話は自分を不利にするだけだと理解した。
「く――もういい!」
祐介は迷いを振り切るように叫ぶと、再び走り込んできた。しかし往人にとって、それは計算の内。
今度はもうさっきのような醜態は晒さない。
203Victorious smile:2007/02/03(土) 21:44:18 ID:YDHAn7HS0
「――神岸、今だ!」
「はいっ!」
祐介と麻亜子――二人の襲撃者が戦いに没頭している間、あかりは何もしていない訳では無かった。
往人が落とした銃を、隙を見て回収していたのだった。
往人はその事に気付いたからこそ、銃を受け取るに充分な時間を作る為、無駄な問答を続けていたのだった。
あかりが放り投げた銃は、綺麗な放物線を描いて往人の手元に届いた。
「っ!?」
往人はそれを受け取ると素早い動作で握り込み、構えた。祐介にはそれが二人掛かりの手品か何かのように思えた。
何しろ突然銃が、往人の手に降ってきたのだから。ともかく祐介は、向けられた銃口の前に、動きを止めざるを得なくなった。
「――やっぱり僕は駄目ですね。結局僕は弱いままだった……」
「そう自分を貶す事は無い。一対一の勝負を続けていれば、恐らくお前の勝ちだった」
「貴方だって分かっているんでしょ?これは決闘なんかじゃない――どんな手段を使っても、勝てば良いという事を」
「ああ。悪いが俺はまだ死ねないし、俺の命を狙う奴を放っておく事も出来ない――さよならだ」
往人は既に一度、自分の甘さで仲間の援護を無に帰してしまっている。そして、また仲間に救われたのだ。
年長者である自分が、これ以上失態は犯せない。それに観鈴との約束もある。一時の感情に流され、命を落とす訳にはいかなかった。
殺人への禁忌は残っているが、それ以上の責任感が往人に強固な覚悟を与えていた。

(ごめん椋さん、初音ちゃん。僕はここまでみたいだ……)
祐介の心に沸き上がる感情は二つだ。一つ目は罪悪感。椋に救われた命を、こんなにも早く散らせてしまう事が申し訳なかった。
初音をあの悪魔から救い出せぬまま逝く事が、口惜しかった。
だがもう一つの感情は、安堵感。もう少しで、罪の無い人間を殺してしまう所だった。
そうならないまま死ねる事に、祐介は恥ずかしながらもほっとした気持ちになっていたのだった。
204名無しさんだよもん:2007/02/03(土) 21:46:04 ID:b+6APnh20
回避
205Victorious smile:2007/02/03(土) 21:47:23 ID:YDHAn7HS0
だが事態はそんな二人の思惑とは、別の方向へと進んでいく。
「――そう、勝てば良いんですよ。たとえどんな手を使おうとも、ね」
「きゃああっ!」
往人が引き金を絞る寸前に、落ち着いた声、そして悲鳴が聞こえてきた。
往人も祐介も、そして環も麻亜子も動きを止めて、視線を一点に集中させる。
そこには、一人の悪魔の姿があった。勝ち誇った笑みを浮かべながら、宮沢有紀寧が立っていた。
有紀寧は、片腕をあかりの首に巻きつけている。そして、もう片方の手で、あかりのこめかみに銃を突きつけていた。


【時間:2日目・14:45】
【場所:I−6】

朝霧麻亜子
【所持品1:デザート・イーグル .50AE(1/7)、ボウガン、サバイバルナイフ、投げナイフ、バタフライナイフ】
【所持品2:防弾ファミレス制服×2(トロピカルタイプ、ぱろぱろタイプ)、ささらサイズのスクール水着、制服(上着の胸元に穴)、支給品一式(3人分)】
【状態:マーダー。スク水の上に防弾ファミレス制服(フローラルミントタイプ)を着ている】
【目的:驚愕。目標は生徒会メンバー以外の排除、最終的な目標は自身か生徒会メンバーを優勝させ、かつての日々を取り戻すこと。】

国崎往人
【所持品:ワルサーP5(8/8)、ラーメンセット(レトルト)、化粧品ポーチ、支給品一式(食料のみ2人分)】
【状態:驚愕、腹部に痛み】

神岸あかり
【所持品:水と食料以外の支給品一式】
【状態:有紀寧に捕まっている、月島拓也の学ラン着用。打撲、他は治療済み】

向坂環
【所持品@:レミントン(M700)装弾数(5/5)・予備弾丸(15/15)、包丁、ロープ(少し太め)、支給品一式×2】
【所持品A:救急箱、ほか水・食料以外の支給品一式】
【状態:驚愕、頭部に怪我・全身に殴打による傷(治療済み)】
206Victorious smile:2007/02/03(土) 21:48:38 ID:YDHAn7HS0
宮沢有紀寧
【所持品@:コルトバイソン(4/6)、参加者の写真つきデータファイル(内容は名前と顔写真のみ)、スイッチ(2/6)】
【所持品A:ノートパソコン、包丁、ゴルフクラブ、支給品一式】
【状態:あかりを人質に取っている、前腕軽傷(治療済み)】

柏木初音
【所持品:鋸、支給品一式】
【状態:不明、首輪爆破まであと18:00(本人は42:00後だと思っている)、有紀寧に同行(本意では無い)】

長瀬祐介
【所持品1:包丁、ベネリM3(0/7)、100円ライター、折りたたみ傘、支給品一式】
【所持品2:懐中電灯、ロウソク×4、イボつき軍手、支給品一式】
【状態:驚愕、有紀寧への激しい憎悪、腹部に痛み、有紀寧の護衛(本意では無い)】


【備考】
・トカレフTT30の弾倉、フライパンは地面に放置

→671

>>204
回避感謝です
207セーラー服の錬金術師:2007/02/04(日) 00:16:32 ID:oskVyzhb0
ぼーっと、空を眺めていた。

「・・・・・・」

そうしていたら、あっという間に陽が暮れ夜になり。
眠くなったので、寝た。
一緒にいたはずの森川由綺は、どこかに行ってしまってここには戻ってきていない。
放送のノイズで目が覚めた。姉と妹の死をしった、凄く悲しかった。ついでに由綺も死んでいた。
怒りも込み上がる・・・が。

「・・・・・・」

如何せん、全く登場していなかったので表現する機会がなかった。
何故こんなことになってしまったのだろう、メインルートで早々と退場してしまったからか。
柏木楓は色々考えながら、ポテポテと歩いていた。
そう、これから出番を増やすにはどうすればいいか。
まずは目立つことをしなければいけないだろう。

「・・・・・・」

しかし、良案は出ない。そんなことを考えていた時だった。

「お困りですか〜」
「・・・・・・?」

振り向くと、にこにこと微笑む人の良さそうな少女がいた。
自分とは何とも対照的な存在である。その雰囲気は、妹の初音に近いかもしれない。

「お困りですか〜?」
208セーラー服の錬金術師:2007/02/04(日) 00:17:07 ID:oskVyzhb0
もう一度問われたので、静かに俯く。

「佐祐理は困っている人の味方ですよ〜。何でもお願い叶えてあげますっ」
「・・・・・・出番」
「はい〜?」
「出番、欲しい」
「はえ〜。佐祐理も欲しいです〜」
「・・・・・・」
「・・・・・・」

会話終了。

「えっとですね〜。何か個性をお持ちになれば、きっと活躍できますよ〜」
「個性・・・・・・」

そう言われても。
んーと少し考えた後、楓はじっと佐祐理の手にするステッキを見つめた。

「こ、これですか?これは佐祐理の個性ですから差し上げられません〜」
「・・・・・・」
「困りましたね〜。ではこれはいかがでしょう?」

そう言って佐祐理が差し出してきたのは、六角形をした金属の板のようなものであった。

「万が一魔法少女の権利を剥奪された時に使おうと思ったんですけど、あげます。
 これで頑張ってください〜」

受け取り、マジマジと見るが何なのかさっぱり分からない。
質問しようと思い顔を上げるが、既に佐祐理は立ち去っていた。

「・・・・・・」
209セーラー服の錬金術師:2007/02/04(日) 00:17:44 ID:oskVyzhb0
困る。
指で弾くと、澄んだ音色が鳴る。だがそれだけ。
・・・・・・困る。どうすればいいのだろうか。

「目立ちたい・・・・・・」

どうしようもないので、試しに祈りを捧げてみる。
するとどうだろうか、金属はまるで楓の望みを叶えるかのごとく光り輝き、彼女の体を包んでいった。
温かい湯に浸かっているかのような感覚を覚える楓、瞬間太ももに冷たい物質を押し付けられたような気がして彼女の夢はそこで覚めた。
気持ちよさに閉じていた瞳を開けると、そこは先ほどと変わらない村の中。
しかし、視界にはおかしなものが映っており。

「・・・・・・?」

太ももに、見慣れぬ器具が取り付けられていた。
器具からは四つのナイフが飛び出ている。正直、危ない。
何であろうか・・・・・・指でつついてみると、勢いよくナイフが飛び出してくる。
まるで傘の骨のように繋がったそれは、楓を守るかのように周囲へと広がった。
何が起きているか理解できず硬直してしまう楓の様子を窺うかのように、一つの刃が彼女の前に近づいてくる。
恐る恐る側面に触れると、カクカクと揺れて反応を示す。その様子は、少し微笑ましい。

しかし、そんな穏やかな時間は続かなかった。
人の気配を感じ、楓はすぐに臨戦モードへと構えを変えた。コルト・ディクティブスペシャルを手に、辺りの様子に気を張り巡らせる。
ナイフ等も彼女を守るよう四方に伸びて、場をうかがい始めた。
人影は、前方からやってきた。

「おー怖い怖い。話し合う予知はないってことかな」

・・・・・・佐祐理の時とは違い、楓は最初から敵意を持って目の前の人物に対し対峙していた。
彼女は、雰囲気が違う。佐祐理とは違うその禍々しさに眩暈を起こしそうになる、そのようなプレッシャーを目の前の彼女は放っていた。
210セーラー服の錬金術師:2007/02/04(日) 00:18:22 ID:oskVyzhb0
「ふーん、いい『個性』持ってるじゃない」
「・・・・・・?」
「ああ、知らないのかな。この世界で生き抜くには『設定』と『情報』、そして『個性』が必要なワケよ。
 こういうのがないと、どんどん消されていっちゃうセチガナイ世の中なのさ」
「・・・・・・」
「ぶっちゃけ、あたしは今ドンジリかもしんねぇんだ、早めに手を打たんと消されるっちゅーことね。
 いい時にいい獲物が見つけられたよ・・・・・・その『個性』、あたしがいただくよ!」

言葉と共に特攻服を靡かせる少女、湯浅皐月は楓に向かって突っ込んでいった。
211セーラー服の錬金術師:2007/02/04(日) 00:18:57 ID:oskVyzhb0
柏木楓
【時間:2日目午前10時】
【場所:平瀬村住宅街(G-02上部)】
【持ち物:バルキリースカート(それとなく意思がある)・コルト・ディテクティブスペシャル(弾丸12・内6装填)・支給品一式】
【状況:武装錬金】

湯浅皐月
【時間:2日目午前10時】
【場所:平瀬村住宅街(G-02上部)】
【所持品:『雌威主統武(メイ=ストーム)』特攻服、ベネリ M3(残弾0)、支給品一式】
【状態:番長】

倉田佐祐理
【時間:2日目午前10時】
【場所:平瀬村住宅街(G-02上部)移動済み】
【持ち物:マジカルステッキ】
【状況:何でもありな魔法少女】

(関連・348・425・454)(D−2ルート)
212Avenger:2007/02/05(月) 22:12:14 ID:vSALSSYO0
「神岸!」
「あかり!」
往人も環も、新たな乱入者、そして捕まっているあかりに気付き驚愕していた。
「有紀寧、お前まさか……」
祐介すらも、有紀寧が乱入してくるとは予想していなかったので、思わず尋ねてしまう。
「ええ、この方を人質に取っているんですよ。本来なら私は出るつもりは無かったのですが、貴方があまりにも無能なせいですよ?」
有紀寧は祐介を罵倒しながらも、余裕の笑みを保っている。全ては自分の掌中にある、と言わんばかりの笑みを。
往人はその二人のやり取りを見て、いわゆる『グル』である事を読み取った。
「お前ら、仲間なのか?」
「仲間?こんな馬鹿な人と一緒にされても困りますが……まあ、どうでも良い事です。早く武器を手放してください」
話を続ける事で時間を稼いで、その間に何か突破口が得られればと往人は思っていたのだが、それも許されない。
「――武器を手放せば、私達の命は保障してくれるんでしょうね?」
「ええ、私は生き残りたいだけですから。武器が手に入ればそれで構いません」
その言を信用して良いものか――きっと、信憑性は薄いだろう。
それでも武器を手放さなければ、確実にあかりが殺される。
全滅の危険性を冒してでもあかりを助けるべきか、それとも一人を犠牲にして敵を倒すべきか。
常識的に考えれば後者なのだろうが、環と往人にはあかりを見捨てる事など出来なかった。
「……く」
悔しそうに武器を手放そうとする往人と環。だが――彼らとは逆の行動を取る人物がいた。
213Avenger:2007/02/05(月) 22:15:18 ID:vSALSSYO0
「あたしは騙されないよ」
「ま、まーりゃん先輩!?」
環が驚愕で目を見開く。麻亜子が銃口を、有紀寧の方へと向けていたのだ。
「本当に生き残ろうと思ってるのなら、ここで敵を見逃したりしない。もしあたしが人質を取ってる立場なら、相手が武器を手放した瞬間ズガン!だね」
「――!」
その指摘に、それまで余裕の表情を崩さなかった有紀寧の眉が、ほんの少しだが、確かに動いた。
「第一あたしは、その人質の子も殺そうとしてたんだ。人質君ごと、君にも消えてもらおうじゃあないか」
そう、あかりが殺されても麻亜子にとっては、敵が一人減るだけだ。麻亜子は、躊躇する事無くトリガーを引こうとする。
有紀寧の体の大部分はあかりの体に隠れている形だが、デザートイーグルの一撃なら、文字通り『人質ごと』有紀寧を攻撃出来るだろう。
だが有紀寧の顔からは、まだ笑みが消えていなかった。
「――待て」
あかりが麻亜子にとってただの敵であると同時に――麻亜子も、往人にとってはただの敵に過ぎない。
往人は再び銃を構え、麻亜子に狙いをつけていた。
「そんな事をすれば、その瞬間俺がお前を撃つ」
「君はあたしの話を聞いてなかったのかい?あの女の言う通りにしたら――全員殺されるだけだよ」
麻亜子の言い分は当然の事だ。武器を持っていない状態の敵を見逃すメリットなど、何処にもありはしないのだから。
「国崎さん!私の事なら大丈夫ですから……私に構わずに戦ってください!」
あかりは、自分のせいで皆が殺されそうな事に耐えられなかった。保身を完全に捨て、震えながらも必死に訴える。
「――五月蝿い。俺は仲間を見殺しになんて、しない」
「……」
往人は、とても厳しい声で言い放った。
有紀寧は人質を堅持しており、麻亜子は有紀寧へ、往人は麻亜子へ銃口を向けている。
傍目には均衡しているように見えるこの状況だが、実はこれは三竦みでも何でもない状態だった。
214Avenger:2007/02/05(月) 22:17:54 ID:vSALSSYO0
「――国崎さん、でしたっけ?早くその方を撃ってください。今銃を撃てるのは、あなただけですから」
麻亜子はあかりを撃てば、その直後に自身も往人に撃たれるだろう。
有紀寧は人質を殺せば、往人と麻亜子の双方に撃たれるだろう。
だが、往人は麻亜子を撃ったところで誰にも反撃されはしない、故に一方的に攻撃出来る状態にある。
そして人質の命を優先してる以上、往人の行動の決定権は有紀寧に握られている。
有紀寧の圧倒的優位は未だ崩れていないのだ。
「ほら、急がないとこの方がどうなっても知りませんよ。殺しはしませんが、祐介さんに命令して指を一、二本切り落としても良いんですよ?」
「ぐっ……!」
平然と恐ろしい事を言ってくる。そして有紀寧なら、実際にそのくらいやってのけるだろう。
今本当に倒さないといけないのは麻亜子で無く有紀寧だが――撃つしかない。
「国崎さん、待ってください!」
「環……すまん」
環の制止を振り切って、往人が引き金にかけた指に力を入れようとする。
有紀寧は、勝利を確信していた。

(こんなかよわい女の子から狙うなんて、鬼かっての!でも……まだ、チャンスはあるね)
麻亜子は冷静に、往人の――銃口の向きを確認していた。
読み違いが無ければ、銃弾は自分の腹のあたりに命中する筈だ。
そして長森瑞佳の鞄に入っていた説明書が誤りで無ければ、今自分が着ている服には防弾性がある。
なら敢えてこのまま撃たれ死んだ振りをして、周りの注意が外れた隙に動けば良い。
麻亜子もまた、充分な勝算を持っていた。
しかし――二人の計算は完全に外れる事になる。


「――ッ!?」
驚きの声を発している暇など、無かった。
往人は見た、突然辺りを光が埋め尽くすのを。
そして、戦争の現場か何かのように――爆発が起こった。
爆発の中心部は少し離れた所だったので、一瞬で命を奪われるようなものでは無かった。
しかしそれでも、民家の一軒程度なら容易に全壊させれるであろう規模の爆発は、近くにいる者全てを容赦無く蹂躙していく。
215名無しさんだよもん:2007/02/05(月) 22:21:09 ID:tNSI/7POO
回避?
216Avenger:2007/02/05(月) 22:21:50 ID:vSALSSYO0


往人は吹き荒れる熱風に吹き飛ばされ、地面を派手に転がった。
凄まじい轟音で右耳の鼓膜が痺れていた。体の節々が痛み、視界の大部分もドス黒い硝煙によって覆われている。
何が起こったのかよく分からなかったが、今すぐに動かなければヤバイ、という事だけは勘で分かった。
まずは、取り落としてしまった銃を探す。幸運にもそれは足元に落ちていたので、すぐに見つかった。
「神岸っ、環っ、何処だ!返事をしろ!」
煙が邪魔で周りを確認出来ないので、往人は叫んだ。仲間の無事を確認する為に。
「国崎さん!」
「私は大丈夫です!」
すると二人ともまだ姿は見えないが、声が返ってきた。往人は思わずほっと、一息ついた。
それから次第に黒煙が薄らいできて、視界が戻ってきた。
まず最初に往人の視界に入ったのは、走り去る有紀寧と祐介の後姿だった。
その背中を狙う事も可能だったが、往人はそれよりも仲間の姿を探した。
次に近くで立ちあがろうとしている環と、麻亜子の姿が目に入った。
最後に、こちらに走り寄ってくるあかりの姿が目に入り――往人の耳は、連続した銃声を捉えた。

(おい……冗談だろ?)
往人は目の前で起こった光景が信じられなかった。
スローモーションを見てるかのように、周りの動きがゆっくりに感じられた。
銃声が聞こえたかと思うと次の瞬間にはもう、あかりの体から血が舞っていた。
交通事故のように、あかりが弾き飛ばされる。
そして、あかりは力無く倒れ――

「神岸ーーーっ!!」
往人はあかりのもとへと、走った。自分達を襲った者の正体を確かめるのも後回しにし、とにかく駆けた。
だから次に狙われているのが、自分だという事にも気付かなかった。
「国崎さん、駄目っ!」
次の瞬間には、往人の視界は反転していた。環が往人を抱えて、地面を滑る形で跳んでいたのだ。
ほぼ同時にまた銃声が鳴り響き、往人達の頭上を殺意の群れが通過していた。
217Avenger:2007/02/05(月) 22:23:41 ID:vSALSSYO0


「へぇ……今のは殺すつもりで撃ったのに、やるじゃない」
環が立ち上がり、聞こえてきた声の方を向くと、ようやく襲撃者の全貌が明らかになった。
民家の影から現れたその顔は――

「――綾香?」
それは環が、この島で最初に友好的な会話を交わした人物だった。
そう、彼女はゲームに乗っていなかった。それどころか、戦闘中だった自分を止めてくれた。
最初に浮かび上がってくるのは、疑問、そして強い非難の念だった。
「……どういうつもり?」
すると綾香は、からかうように、手をひらひらと振った。
「あんた馬鹿?見たら分かるでしょ。私は島のルール通りに、殺し合いをしてるだけよ」
「どうして……前会った時の貴女は主催者を倒そうとしてたじゃない!」
「それは私より、そこのクソチビに聞いた方が良いんじゃない?」
環は、いつの間にか隣まで来ていた麻亜子に目を移した。
「先輩、もしかして……」
「――そうだよ。あたしはあやりゃんをハメた。あたしのせいで、あやりゃんはゲームに乗ったんだろうね」
この人はもう、どれだけの罪を重ねたというのか――知人の凶行に、環の顔が絶望の色を帯びてゆく。
脱力感に襲われて、がっくりと膝に手をつける環に構わずに、綾香は話を続ける。
「そういう事。環の知り合いみたいだけど、そのクソチビはとんでもない奴よ。人の好意を踏みにじった上に、他の参加者まで殺させたんだからね。
まだ問答無用で襲ってくる奴の方が、幾らかマシってもんよ」
「……何とでも言えば良いよ。あたしは地獄に堕ちてでも、勝ち残るんだ」
麻亜子はデザートイーグルを手に、強い意志を込めて告げる。
だが、デザートイーグルの残りの銃弾は一発のみ。対する綾香は、マシンガンを持っている。
覆しようのない火力差が、二人の間にはあった。
「はん、勝手に言ってろ。あんたも環も、ここで終わりよ。あんたの知り合いは全員殺す……八つ裂きにしてやるわ。
でも反応からして、さっき撃った女は外れだったみたいね。あんたの苦しむ顔が見たかったのに、残念だわ」
まあこれから見れるでしょうけどね、と付け加えて、綾香はマシンガンを握り直した。
今はへコたれてる場合じゃない――環も自身に喝を入れて、銃を取り出し応戦態勢を取る。
麻亜子も銃を構え、このまま戦いが始まると思われた。
218Avenger:2007/02/05(月) 22:25:25 ID:vSALSSYO0

しかし、そこで三人とは別の者の声がした。とても強く、とても悲しい、声が。
「――ふざけんなよ」
見ると、往人が綾香達に背を向けた状態で、血塗れになったあかりを抱えてうずくまっていた。
そして背を向けたまま、ゆらりと立ち上がる。
「外れ、だと?ふざけんなよ……!」
往人は振り返ると、怒りの形相を露にして綾香を睨みつけた。
「ここで終わりなのはお前の方だ。お前はここで……俺が殺す!」



【時間:2日目・14:55】
【場所:I−6】

朝霧麻亜子
【所持品1:デザート・イーグル .50AE(1/7)、ボウガン、サバイバルナイフ、投げナイフ、バタフライナイフ】
【所持品2:防弾ファミレス制服×2(トロピカルタイプ、ぱろぱろタイプ)、ささらサイズのスクール水着、制服(上着の胸元に穴)、支給品一式(3人分)】
【状態:マーダー。スク水の上に防弾ファミレス制服(フローラルミントタイプ)を着ている、全身に痛み】
【目的:目標は生徒会メンバー以外の排除、最終的な目標は自身か生徒会メンバーを優勝させ、かつての日々を取り戻すこと。】

国崎往人
【所持品:ワルサーP5(8/8)、ラーメンセット(レトルト)、化粧品ポーチ、支給品一式(食料のみ2人分)】
【状態:激怒、全身に痛み】

神岸あかり
【所持品:水と食料以外の支給品一式】
【状態:瀕死、月島拓也の学ラン着用。打撲】

向坂環
【所持品@:レミントン(M700)装弾数(5/5)・予備弾丸(15/15)、包丁、ロープ(少し太め)、支給品一式×2】
【所持品A:救急箱、ほか水・食料以外の支給品一式】
【状態:頭部に怪我・全身に殴打による傷(治療済み)、全身に痛み】
219Avenger:2007/02/05(月) 22:27:21 ID:vSALSSYO0
宮沢有紀寧
【所持品@:コルトバイソン(4/6)、参加者の写真つきデータファイル(内容は名前と顔写真のみ)、スイッチ(2/6)】
【所持品A:ノートパソコン、包丁、ゴルフクラブ、支給品一式】
【状態:逃亡、前腕軽傷(治療済み)、全身に痛み】

長瀬祐介
【所持品1:包丁、ベネリM3(0/7)、100円ライター、折りたたみ傘、支給品一式】
【所持品2:懐中電灯、ロウソク×4、イボつき軍手、支給品一式】
【状態:逃亡、有紀寧への激しい憎悪、有紀寧の護衛(本意では無い)、全身に痛み】

来栖川綾香
【所持品1:IMI マイクロUZI 残弾数(23/30)・予備カートリッジ(30発入×4)】
【所持品2:防弾チョッキ・支給品一式・携帯型レーザー式誘導装置 弾数2・レーダー(予備電池付き)】
【状態@:右腕と肋骨損傷(激しい動きは痛みを伴う)。左肩口刺し傷(治療済み)】
【状態A:まーりゃんとささら、さらに彼女達と同じ制服の人間を捕捉して排除する。好機があれば珊瑚の殺害も狙う】

【備考】
・トカレフTT30の弾倉、フライパンは地面に放置
・爆発は綾香の携帯型レーザー式誘導装置によるもの

→585
→683

>>215
回避感謝です
220絶望の宴:2007/02/06(火) 12:28:20 ID:53sF5D8T0
「何だ…今の爆発音は…!」
銃声が聞こえたかと思えば、今度は爆発。それも往人達が向かった方向から、だ。
「…間違いない、戦闘ね、これは」
動けない者の介護をしていたリサが、爪をガリッ、と噛んだ。
本当なら今すぐにでも飛び出したいリサであったが、環の『これ以上人数を割いたら守りが薄くなる』という言葉があったので、動くわけにはいかなかったのだ。英二も同じだった。
「そんな…じゃ、まさか…往人さん!」
だが、観鈴は違っていた。焦燥したような顔つきになって、今すぐにでも診療所を出て往人達を追おうとしていた。
しかしその手を掴んで観鈴の行動を制止する者がいた。観鈴の父親――橘敬介だった。
「駄目だ、観鈴。今重症の観鈴が飛び出してもどうにもならない。待つんだ」
敬介の言葉はしごく真っ当で、理に敵った言葉だった。けれども、さらに大切な人を失ってしまうのではないかと恐慌状態になりかけている観鈴にとっては、それは冷たい、往人を見殺しにするような言葉にしか聞こえなかった。
「どうして…?どうしてそんなこと言うの…?往人さんが、死んじゃうかもしれないんだよ!?」
その言葉で、観鈴の状態がただならないものであると瞬時に悟ったリサが観鈴を諭そうとする。
「落ちついて、観鈴。気持ちは分か…」
「分かってないよ!」
普段の彼女からは考えられないような、激昂した声。
「お母さんもいなくなって、祐一さんもいなくなって…もうこれ以上ひとが死んでいくのはもう嫌だよ!お父さんも何も分かってない!英二さんも、みんなも…何も分かってないよ!」
これまで観鈴が正気を保ってこれたのも、往人がいたからこそ。往人が生きているという事実があったからこそ成り立っていたものであった。
それを理解できずに、いや分かっていたのであろうが、それを分かっていてなお出ていったのは。
――往人の、失策と言うほか無い。
敬介の手を無理矢理振り解くと、重症とは思えないほどの脚力で診療所を飛び出した。
「しまった…!」
すぐにでも追おうとする敬介だがこれまでの無茶が祟り、傷口が痛んで動けなかった。
それを見て、代わりに動いたのは英二だった。
「く…すまない、リサ君、ここを頼む!僕が観鈴君の援護をする!」
「待って、代わりに私が…!」
221絶望の宴:2007/02/06(火) 12:31:42 ID:53sF5D8T0
「いや、連れ戻すだけだ!大丈夫、すぐに戻ってくるさ。それよりもここの守りが薄くなる方が危険だ。重病人を放っておくわけにはいかないだろう?」
いつものような、苦笑まじりの笑みを浮かべる英二。そして、言うだけ言うと最低限の武器だけ持って出ていってしまった。
残されたのは、悔しさで一杯の敬介と、再び爪を噛むリサ、そして未だ事を知らない、休息を取っている重病人達だった。
「くそっ…父親なのに、情けない」
敬介の歯軋りに、リサは返す言葉がなかった。
     *     *     *
「あぁ?何だぁ今のでけー音は」
天野美汐を犯し、殺した後、まだ近辺に潜んでいるだろうと環を探していた雄二が、ひどい爆音に目をしかめる。
「ははあ…姉貴だな」
何の根拠も無かったが、自信たっぷりに雄二は呟くとすぐさまその方向へ駆け出した。
マルチがいつまで経っても戻ってこない。それから察するに返り討ちにされたのであろう。まあ別に生き返らせれば問題無いのであるが…彼女は唯一無二の下僕だっただけに恨みもないではない。
恐らく返り討ちにした奴らと一緒にいるだろうから、弔い合戦も兼ねて叩き潰してやろう。
「姉貴だけは…この雄二様が何が何でもブッ潰してやる。覚悟しとけよ…泣いて、叫んで、命乞いをさせながら殺してやるからなァ、ハハハ、ヒャハハッ!」
まるで疲れを知らないかのごとく意気揚々と、雄二は爆発音の方向へ一直線に駆け出した。
     *     *     *
先程の爆発の後、待機していた初音を連れてさっさと逃げてきた『宮沢有紀寧主催・殺人ツアー御一行様』は戦闘の中心地から少し離れた森林地帯で身を潜めていた。
予想外の乱入があったことは意外だったが、ゲームに乗っている人間であることは間違い無いだろうから放っておいても死人は出る。わざわざ自分が危険な一線に立つ必要はない。
(ですが…乗っているのが二人では殺れるのはせいぜい1、2人、しかも相打ちでやっと、というところでしょうかね…)
有紀寧としては、まだ人数が残っている状態でマーダーを減らされるのはいただけない。もう少し、掻き回してやるか…祐介も、もう潮時だ。
222絶望の宴:2007/02/06(火) 12:32:24 ID:53sF5D8T0
先程の戦闘では明らかに手を抜いていた。あわよくば自分に目を向けさせて第三者に自分を撃破してもらおうという心積もりだったのだろう。
(実際は本気で往人を殺そうとしており、決して手を抜いていたわけではない。有紀寧にはそう見えたのだ)
間違いなく、反逆する。それも、近いうちに。
ならば、その目はすぐにでも刈り取る。
「何とか逃げてきましたけど…ひょっとしたら追っ手がいるかもしれませんね。長瀬さん、あなた、さっきのところに戻ってもう少し足止めしてくれませんか?」
有紀寧の言葉の真意に、祐介はすぐに気付いた。捨て駒にしようとしている!
「なっ…僕に死んでこいって言うのか?包丁しか持ってないんだぞ」
無駄だとは分かっているが、一応の反論を試みる。少しでも時間を稼いで、誰かが追ってきてくれれば。そう期待していたのもあった。
「あら、今は乱戦じゃないですか。相手が組み合っている隙を狙うなり何なりして漁夫の利を取ればいいんですよ。それとも何か――初音さんが死んでもよろしいと?」
言っている間にもリモコンが初音に向けられる。
くそっ――まだ、賭けに出るには早過ぎる!まだ、まだ死ねない!
「くっ…分かったよ、お望み通りに」
包丁を再び握り直し、祐介は反転して元いた場所へ向かい始めた。
「祐介お兄ちゃん!行っちゃダメ!」
初音が制止をかけようとするが、すぐに有紀寧に口を塞がれる。
「立場をいい加減理解してください。あなたはカードなんですよ。交渉のカード」
最も、最高の切り札はこのリモコンなんですがね、と付け加えて。
さて、地獄の血みどろ湯巡りツアー…何ヶ所回れるでしょうかね、長瀬さんは?


様々な人間の思惑を抱えて…絶望の宴が、今始まる。

【時間:2日目・15:05】
【場所:I−6】
223絶望の宴:2007/02/06(火) 12:33:11 ID:53sF5D8T0
宮沢有紀寧
【所持品@:コルトバイソン(4/6)、参加者の写真つきデータファイル(内容は名前と顔写真のみ)、スイッチ(2/6)】
【所持品A:ノートパソコン、包丁、ゴルフクラブ、支給品一式】
【状態:離脱しつつ初音と逃げる、前腕軽傷(治療済み)】

柏木初音
【所持品:鋸、支給品一式】
【状態:首輪爆破まであと17:40(本人は41:40後だと思っている)、有紀寧に同行(本意では無い)】

長瀬祐介
【所持品1:包丁、ベネリM3(0/7)、100円ライター、折りたたみ傘、支給品一式】
【所持品2:懐中電灯、ロウソク×4、イボつき軍手、支給品一式】
【状態:再び戦闘の中心部へ向かう、有紀寧への激しい憎悪、腹部に痛み、有紀寧の護衛(本意では無い)】

向坂雄二
【所持品:金属バット・支給品一式】
【状態:マーダー、精神異常。目的はゲームの優勝と環への報復。マルチを殺された復讐】
224絶望の宴:2007/02/06(火) 12:33:48 ID:53sF5D8T0
神尾観鈴
【持ち物:フラッシュメモリ、紙人形、支給品一式】
【状態:精神が恐慌、脇腹を撃たれ重症(治療済み)、往人を追う(ただし速度はそんなに速くない)】

橘敬介
【所持品:支給品一式、花火セットの入った敬介の支給品は美汐の家に】
【状態:左肩重傷(腕は上がらない)・腹部刺し傷・幾多の擦り傷(全て治療済み)】

リサ=ヴィクセン
【所持品:鉄芯入りウッドトンファー、支給品一式×2、M4カービン(残弾30、予備マガジン×4)、携帯電話(GPS付き)、ツールセット】
【状態:健康、診療所を守る】

緒方英二
【持ち物:H&K VP70(残弾数0)、ダイナマイト×4、ベレッタM92(6/15)・予備弾倉(15発×2個)・支給品一式×2】
【状態:健康、観鈴を追う】

→B-13
225歯車:2007/02/07(水) 03:55:49 ID:wr+llssj0
「さて、これからどうすべきでしょうか」
祐介を戦地へと送り込んだ有紀寧は、これからの自分の行動について思案していた。
自分の正体はばれてしまった。知ったものが全滅するのが望ましいが、おそらくそれはないだろう。
爆破スイッチの残量は残り二つ。
それを考えると祐介が他の参加者を皆殺しにし戻ってくる事が一番楽なのだが、あの様子では当てには出来ない。
なまじ正義感にあふれた参加者に説得でもされて反目しそうな気さえする。
早急に新しい眷属を作るか、もしくはこの村から脱出してしまうのが一番安全ではないか。
最初の思惑と大きく狂い始めた歯車に焦りを感じ始めた矢先のことだった。
どこからともなく有紀寧の耳に悲痛な叫び声が聞こえてきた。

「往人さんっ! どこ行っちゃったの!?」

遠くから聞こえるその言葉に呆れたように笑みをこぼし、あたりを警戒しながらその声の発信源へとゆっくりと歩を進める。
茂みから顔を出すと、そこには焦燥した顔で足取りはおぼつかないながらも必死に叫び続けながら走る金髪の少女の姿があった。
その姿にただただ馬鹿だとしか思えなかった。
そんな大声を出すなんて自分の位置を人に教えているようなもの。殺してくださいと言わんばかりではないか。
まさかスタートからこんなに時間が過ぎてるのにもかかわらずそのような人間が生き残っているとは思いもよらなかった。
運がよほど強かったのかもしれない。
だが、声の主は人の名前を呼んでいる。つまりはその探し人に守られてきたのかもしれない。
その名前から男と女……これは使えるかもしれないと考え、手持ちのデータファイルを広げていた。

「ゆきと……ゆきと……」
『国崎往人』――少女が探しているであろう人物の名前はすぐに見つかった。
その名前とその顔に有紀寧の顔が妖しく歪んでいた。

226歯車:2007/02/07(水) 03:56:41 ID:wr+llssj0
「あの……」
茂みを掻き分けると共に有紀寧は観鈴へと声をかけた。
「だれっ?」
思わぬ声と音に観鈴が身をこわばらせながら振り返る。
そこにいたのが自分の探し人ではないことに落胆の表情を見せるが、現れたのがさほど歳の変わらない少女と幼い外見の少女と言う事で警戒はすぐに解けていた。
「すいません、声が聞こえたもので……もしかして今叫ばれていた『往人』って国崎さんの事ですか?」
「っ! 往人さんを知っているの!?」
質問に対する答えになってないと心の中で苦笑しながら有紀寧は続ける。
「と言う事はあなたは神尾観鈴さん……でよろしいでしょうか?」
観鈴がコクンと首を縦に振る。
「そうですか、良かった。いえさっき国崎さんとお知り合いになることが出来たんですが、その様子だと先ほどの爆発音でご心配になられているようですね」
「そうなんです。往人さんは無事なんですか!?」
「やっぱり……先ほどご一緒していた所をゲームに乗った人に襲われまして。なんとか撃退は出来たんですが国崎さんは足に怪我をしてしまったのです」
「えっ!?」
有紀寧の答えに観鈴の表情が不安げに曇っていくが、たしなめるように有紀寧は続ける。
「いえ、命に別状はありません。ですがすぐに動くことも出来ないようで、あなたにその事を伝えて連れて来てくれないかと頼まれたんです」
両手で口元を押さえたまま全身をがたがたと震わせなる観鈴を労わる様に有紀寧はその身体を支える。
「大丈夫です。彼のところに行きましょう、案内します」

小さな涙の雫を流しながら頷く観鈴に有紀寧は「大丈夫」と何度も何度も繰り返しながら先導し始めた。
その足が向かう先は往人がいる場所でもなく、観鈴が走ってきた方向でもなく、まったく見当違いの方向。
今すぐ行く必要もない。1時間ほどすれば戦闘も終わっているだろう。
国崎往人が生き残っていれば彼女を人質に眷属にすれば良い。
死んでいればもう彼女は不必要だ、殺せば良い。
一時は零れ落ちたものの再び巡って来た運に、有紀寧の心は喜びに打ち震えていたのだった。

227歯車:2007/02/07(水) 03:57:19 ID:wr+llssj0
【時間:2日目・15:15】
【場所:I-7北部】

宮沢有紀寧
【所持品@:コルトバイソン(4/6)、参加者の写真つきデータファイル(内容は名前と顔写真のみ)、スイッチ(2/6)】
【所持品A:ノートパソコン、包丁、ゴルフクラブ、支給品一式】
【状態:戦線離脱、前腕軽傷(治療済み)】

柏木初音
【所持品:鋸、支給品一式】
【状態:首輪爆破まであと17:30(本人は41:00後だと思っている)、有紀寧に同行(本意では無い)】

神尾観鈴
【持ち物:フラッシュメモリ、紙人形、支給品一式】
【状態:精神が恐慌、脇腹を撃たれ重症(治療済み)、有紀寧に同行(往人の元に向かっていると思い込んでいる)】

(関連:687 B-13)
228狂乱:2007/02/07(水) 22:26:35 ID:ZMlg5+fq0
それは約束の時間の10分前―――13:50分頃に訪れた。
「美佐枝さん……何か聞こえませんか?」
「……え?」
美佐枝が耳を澄ますと、小さな音が聞こえた。
地響きのようなその音は次第に大きくなってゆく。
「これは……足音?」
足音と呼ぶには余りにも派手過ぎるが……一定のリズムで刻まれるそれはどんどん接近してくる。
そして音は美佐枝達のいる建物の傍で止まった。

「どうやら誰か来たみたいですね……」
「そうね。さて、鬼が出るか蛇が出るか……運命の分かれ道って所ね」
武器を手に、緊張した面持ちで話す二人。
今愛佳達がいる広間は、役場の玄関を入ってすぐの所にある。
もう殆ど時間を置かずに、来訪者がこの場に現れるだろう。
誰かが来る事は分かっていたが、ゲームに乗っている人間が来たかどうかは対面してみるまで計りようがない。

案の定、すぐにドアの前に人が立つ気配がした。
ドアのノブがガチャッと音を立てて回された瞬間、愛佳は思わず声を漏らしそうになる。
それは何とか堪えたが―――入ってきた女性を見た瞬間、今度こそ愛佳は声を漏らしてしまった。
「ち、ちづ……る…さ……ん?」
愛佳は呆然としながら、疑問系で呟いた。
その女性は確かに柏木千鶴だった。
しかし千鶴の姿はあまりにも変わり果ててしまっていた。
愛佳の記憶の中にある千鶴と同一人物とは思えない程に。


「こ……この女、一体何なの……!」
千鶴の姿を見た美佐枝は思わずそんな事を口走ってしまっていた。
顔に、手に、服に、付着している赤い液体。
艶やかだった髪はくすみ、奇妙に歪んだ泣き笑いのような表情。
そして一番恐ろしく感じられたのが―――目だ。
229狂乱:2007/02/07(水) 22:29:14 ID:ZMlg5+fq0
以前のような凍りついた冷たい目をしているのならまだマシだった。
だが今の千鶴の瞳は爛々と熱を帯びて赤く輝いていた。
それを目の当たりにした瞬間、美佐枝はぞくりと寒気を感じた。
そして理解した―――柏木千鶴はもう、壊れてしまっていると。


その事に気付いているのか、気付いていないのか―――愛佳は体を震わせながらも千鶴に話し掛ける。
岸田洋一と対峙した時のように精一杯の勇気を振り絞って。
「ち、千鶴さん……お話があります」
「なあに、愛佳ちゃん?」
紅い瞳がぐるりと動いて愛佳に向けられる。
本能が逃亡を訴えかけてくるが、愛佳はそれを強引に押し留めた。
「あの……色々大変な事があったんでしょうけど……その……もう、人を襲うなんて止めてくださいっ!」
「……どうして?」
「どうしてって……そんなの当たり前じゃないですか!人を襲うなんておかしいですよぉ!」
愛佳が叫ぶと、千鶴の顔から笑みが消えた。
暫しの間、静寂がこの場を支配する。
それから千鶴はゆっくりと語り始めた。

「私の大事な妹―――楓は死んだわ」
それは愛佳の質問の答えになっていない。

「本当に良い子だった。とても……とても……」
愛佳はどう答えて良いか分からず黙ってしまっていた。

「あの子はね、絶対ゲームに乗るような子じゃなかったわ。それなのに、殺されたのよ?」
それでも構わず千鶴は一人で言葉を続けてゆく。
230狂乱:2007/02/07(水) 22:30:32 ID:ZMlg5+fq0
「耕一さんも初音も、とても酷い目にあっていタわ。この島の人間達は、私と家族を苦しめるだケなのよ」
もう愛佳の方を見ようともせず、視線を虚空に泳がせながら。

「ソんな連中と協力し合えるわけが無いじゃナい。だったらコロしてしまった方がいいデしょ?」
語調すら、徐々に狂ってゆく。

「死をもっテ償わセルのよ。優勝すればワタしの家族も蘇らセられルし一石二鳥でしょ?」
無表情だった顔が、段々と一つの形に変わってゆく。

「もちろん愛佳ちゃンは特別扱いするわよ?ちゃんと後で生き返らセテあげるわ」
それは笑顔と呼ばれているものだった。

「すべテが終わっタらわたしの家にあそビにきなサイ。きっと楽しイわよ」
笑顔と呼ばれているものだったが―――

「だかラ――アイかちゃンも、ワタシといっしょにヒトをコロシましょう?」
見る者全てを竦み上がらせるような、おぞましい笑顔だった。

千鶴は威嚇するように手にしたウージーの先を揺らした。
まるで従わなければ殺す、という意思表示のように。
愛佳の顔が恐怖と絶望に歪む。

(ここまでね……!)
美佐枝は逃げ出したい衝動を必死に抑え、今やるべき事を考えた。
もう説得は無理だろう……なら自分が、愛佳を守らなければならない。
あの化け物に銃を向けてトリガーを絞る。
一秒にも満たぬ、それだけの動作で決着はつく筈だ。
先手必勝―――美佐枝は即座に行動に移った。
231狂乱:2007/02/07(水) 22:32:45 ID:ZMlg5+fq0

「愛佳ちゃん、下がって!」
叫ぶとほぼ同時に美佐枝の手元から閃光が発される。
だが―――89式小銃の向けられた先では千鶴の姿がもう消えていた。

「いまワタしはあいカちゃんとおはなシしているの……ジャまものハきえなさい!」
ぞっとするような声が横からかけられる。
美佐枝は嫌な予感がして、ばっとその場を飛び退いた。
その直後にはもうそれまで美佐枝がいた空間を銃弾が切り裂いていた。
背後に置いてあった接客用らしきカウンターが派手な音と共に砕かれてゆく。
照準を定める時間は無い。

「このぉっ!」
美佐枝は振り向き様に89式小銃を連射した。
水平方向に死の直線が描かれる。
その圧倒的な破壊力で広間の設置物が次々に壊されてゆく。
だがまたしても目標の体はその射線上に無い。
千鶴が膝を折って銃撃の軌道から逃れ、その姿勢のまま地面を蹴って突進してきていた。
その手元の銃口の向いた先には美佐枝の体―――

美佐枝は慌てて上体を捻った。
それで何とか千鶴のウージーから吐き出される銃弾を躱す事が出来た。
だが態勢は完全に崩れてしまっている。
迫る千鶴から逃れる事はかなわず、次の瞬間には美佐枝の視界は反転していた。


瞬きする間もなく千鶴は、倒れている美佐枝にのしかかる。
美佐枝は、紅い瞳に間近で射抜かれただけで心臓が止まるかと思った。
「シね」
ウージーの銃口を額に押し付けられる。
体を凄まじい力で押さえつけられている美佐枝には対応する術が無い。
そして凶弾が美佐枝の額を貫こうとしたその時だった。
232名無しさんだよもん:2007/02/07(水) 22:35:28 ID:cgYf8IOC0
回避
それと分かってるとは思うが…愛佳の読みは「あいか」じゃなくて「まなか」なんだけどな
233狂乱:2007/02/07(水) 22:35:55 ID:ZMlg5+fq0


「やめてぇぇぇ!」
背後から腕を引っ張られ、ウージーを地面に落としてしまう千鶴。
振り向く千鶴の視界の中に愛佳がいた。
「もう……もうやめてください!」
異常なこの状況に気押されながらも愛佳は戦いを止めようとしていた。
「あいかちゃン……」
千鶴の動きが一瞬止まる。
その注意が愛佳に逸れたかと思われたが……そうでは無かった。

千鶴はさっと手を伸ばし、美佐枝の89式小銃を奪い取った。
そして猛獣じみた動きで乱暴に鮮やかに腕を一閃する。
89式小銃の先には銃剣が取り付けられてあり、刃物としての機能も併せ持つ。
完全に不意を討たれた美佐枝は反応が間に合わない。
せいぜい、微かに肩を動かせた程度だ。

「ごっ……ぼっ…」
美佐枝の喉を鋭利な銃剣が一閃し、血煙が周囲を赤く染める。
さらに返す刃が美佐枝の顔面を縦に深く斬り裂いていた。
「ああああっ…美佐枝さぁぁぁんっ!!」
三人の視界が真紅に染まる。
千鶴は噴水のように噴き出る美佐枝の鮮血を全身に浴び、恍惚の笑みを浮かべた。
美佐枝は激痛とショックでごぼごぼと声にならない悲鳴を上げている。
千鶴は大きく腕を振り上げ、美佐枝の喉に銃剣の先端を突き刺した。
(愛佳ちゃん……芹香ちゃん……守ってあげられなくてごめんね…………)
最後にそれだけを思って、美佐枝の意識は途切れた。

「あああっ…ああっ…いやああああああっ!!」
愛佳が絶望の叫びを上げる。
美佐枝の亡骸に縋りつきながら。
千鶴はすくっと立ち上がり、そんな愛佳を見下ろし―――
234狂乱:2007/02/07(水) 22:37:14 ID:ZMlg5+fq0


その時ドアが開いた。
「こ……これは……!?」
そこから現れた者達は息を切らしたまま呆然と立ち尽くしている。
彼女達の名は川名みさき、吉岡チエ、そして、藤田浩之だった。


【時間:2日目14:00】
【場所:C-03 鎌石村役場】

柏木千鶴
【持ち物:支給品一式(食料を半分消費)、89式小銃(銃剣付き・残弾14/22)、ウージーの予備マガジン弾丸25発入り×3】
【状態:左肩に浅い切り傷(応急手当済み)、肩に怪我(腕は動く)、マーダー、狂気、血塗れ】

藤田浩之
【所持品1:デザートイーグル(.44マグナム版・残弾6/8)、デザートイーグルの予備マガジン(.44マグナム弾8発入り)×1】
【所持品2:ライター、新聞紙、志保の支給品一式】
【状態:呆然】
吉岡チエ
【所持品1:投げナイフ(残り2本)、救急箱、耕一と自分の支給品一式】
【所持品2:ノートパソコン(バッテリー残量・まだまだ余裕)】
【状態:呆然】
川名みさき
【所持品:護の支給品一式】
【状態:呆然】
235狂乱:2007/02/07(水) 22:39:15 ID:ZMlg5+fq0

小牧愛佳
【持ち物:ドラグノフ(7/10)、火炎放射器、缶詰数種類、他支給品一式】
【状態:絶叫】

相楽美佐枝
【持ち物1:包丁、食料いくつか、他支給品一式】
【所持品2:89式小銃の予備弾(30発)×2、他支給品一式(2人分)】
【状態:死亡】

【備考:ウージー(残弾12)は床に転がっている】

ウォプタル
【状態:役場の近くに放置】

(関連631・634・666)


>>232
回避thx
変換の時の癖のまま素で間違えてました…

>まとめサイト様
修正部分が多過ぎるので後で愛佳の呼称部分を修正したものを避難所に投下します
申し訳ありませんでした
236名無しさんだよもん:2007/02/07(水) 22:39:45 ID:cgYf8IOC0
回避
237名無しさんだよもん:2007/02/07(水) 22:41:02 ID:cgYf8IOC0
ウホッ、またしても…まあ今回は役に立ったからいいか
238名無しさんだよもん:2007/02/07(水) 22:41:42 ID:ZMlg5+fq0
>>236-237
回避と指摘thxです
マジ助かりました
239名無しさんだよもん:2007/02/09(金) 07:12:06 ID:qX7bt96mO
阻止
240Thirty Thousan' Tea Party:2007/02/09(金) 23:37:25 ID:U1L1hojG0

「……雨は、上がったか」

少年は、空を見上げて呟いた。
と、傍らに佇む少女が、小さな声で何事かを口にする。

「ん? 何度も言っているだろう、報告はもう少し大きな声で……」
「―――別働隊の配置も完了したようだ。……頃合だな」

背後からの声に、少年が振り向いて頷く。
そこにいたのは、一分の隙もなく軍服を着込んだ、屈強な男であった。
頑強な意思を湛えた瞳と、歳にあわぬ白髪が印象的なその男の名を、坂神蝉丸という。

「ええ。……本当によろしいんですか、坂神さん」
「俺の考えは何度も話した通りだ。砧と、その主人である君を守る」
「……しかし」
「光岡らのことは気にしなくていい。俺たちの問題だ」
「……はい」

表情を曇らせながら、それでも少年は頷いてみせる。

「さて、時間もあまり残されていない。
 三万の軍勢が君の言葉を待っているぞ、……久瀬」

言われて顔を上げた少年の瞳に、海岸を埋め尽くす少女の群れが映っていた。


******


久瀬少年の朝は、絶望から始まった。
放送が告げたのは、彼自身の存在基盤の崩壊に他ならなかった。
241Thirty Thousan' Tea Party:2007/02/09(金) 23:38:36 ID:U1L1hojG0
光岡悟も、御影すばるも、彼に言葉をかけることはなかった。
同情の視線すら、彼には向けられなかった。

そんな久瀬に唯一、付き従っていたのが砧夕霧である。
三万の意思持たぬ複製身、その中核をなすという触れ込みの少女であった。
怒鳴りつけても決して傍を離れようとしない、少女の能面のような無表情が癇に障って、
ついに手を上げようとした久瀬を止めたのが、坂神蝉丸である。

島内散策に出たゲストたちを引き連れて帰還したという蝉丸が淡々と告げたのは、
久瀬にとって驚愕に値する言葉であった。
―――曰く、自分は軍籍を離れ、砧夕霧の直衛を請け負う。
ひいては砧夕霧の所有者である久瀬をも護衛する、と。

蝉丸は表情を変えぬまま続けた。
砧夕霧群は現状、この島における最大戦力であり、その主こそは久瀬自身なのだと。
掌中に逆境を跳ね除ける力を得、何を腐ることがあるのかと。

雷に打たれたように固まる久瀬とは別に、その言葉に激しく反応したのは光岡悟であった。
命令無視に軍籍離脱、どちらも死に値する行為だと糾弾する光岡に、蝉丸は釈明しようとはしなかった。
ついに愛刀の鯉口を切った光岡を止めたのは、石原麗子であった。
一触即発の空気の中、常のように婉然と笑みを浮かべたまま光岡に歩み寄ると、その耳元に何事をか囁いたのである。
何を聞かされたものか、驚くべきことに光岡は無言の内に刀を収めたのだった。
その後は誰も言葉を発することなく、撤収作業は完了する。
光岡、御影、石原、猪名川の各名は本部のある艦艇へと戻っていった。

残された久瀬が決意を秘めた眼差しで口を開いたのは、それからしばらく経ってのことである。

―――そして、現在に至る。


******
242Thirty Thousan' Tea Party:2007/02/09(金) 23:39:21 ID:U1L1hojG0

「―――最後に作戦を確認する。まずこの場に残った二万五千はニ隊に分ける。
 A隊一万五千は僕と共にこのまま西進。鷹野神社山道より神塚山山頂を目指す。
 B隊一万はここから北上して東崎トンネルを経由、E-6登山道より山頂北側の制圧。
 別働隊として展開したC隊五千はI-5より上陸。平瀬村分校跡を経由して西側を押さえる。
 三万のすべてが山頂に辿り着く必要はない。二千、ただ二千でいい。
 それだけの数がいれば、この島を焼き尽くすことができる。
 正午までに二千の砧が、山頂に存在していること。それが僕たちの勝利条件だ。
 ……そうですね、坂神さん」

目線をやれば、蝉丸は腕を組んだまま小さく頷いている。
それを見ると久瀬は、無言のまま傍らに佇む少女に目配せをした。
少女が虚空を見つめて動きを止める。
別働隊も含めた三万の同胞へ意思を伝達しているのだった。

「進軍の時だ。……采配を振るうのは君だ、久瀬」

蝉丸の言葉に、久瀬が表情をこわばらせる。
握られた拳が小さく震えていた。
跳ね上がる脈動を強引に押さえ込んで、一歩を踏み出す。

眼下には、二万五千の砧夕霧。
五万の瞳が、久瀬を真っ直ぐに見つめていた。
一瞬だけ眼を伏せ、大きく息を吸い込むと、少年は口を開いた。

「―――時は来た。」

その声は、不思議に朗々と響き渡った。
吹き荒んでいた風や、潮騒すらもが少年の声に耳を傾けているかのようだった。
243Thirty Thousan' Tea Party:2007/02/09(金) 23:40:15 ID:U1L1hojG0
「打ち捨てられた僕らが、歩を進める時だ。
 理不尽を捩じ伏せ、立ちはだかる全てを超えて、高みへと歩みだす時だ。
 これは進攻でも、宣戦でもない。純然たる抵抗の意志だ。
 君たちは無用と置き捨てられた戦争の遺物だ。
 僕は見限られ、省みられることもない歯車の残骸だ。
 僕らは敗者たるべくここに集められた廃物の山に過ぎない。
 だが、だが僕はここに立っている。立っている限りは抗おうと心に決めた。
 僕は抗う。君たちに抗えと命じる。
 嘲り笑う者を焼き、侮り蔑む敵を蹂躙して進め。
 君たちにはその力があり、僕がそれを許す。
 だから、」

少年はただ一点、聳え立つ山の頂を指し示すと、言った。

「―――諸君、反撃だ」



【時間:2日目午前10時前】
【場所:G−9】

久瀬
 【状態:悲壮】
坂神蝉丸
 【状態:健康】
砧夕霧コア
 【状態:健康】
砧夕霧
 【残り30000(到達0)】
 【状態:進軍開始】

→404 533 ルートD-2
244ママも覚醒:2007/02/10(土) 00:30:19 ID:9KDTcOuD0
物悲しい雰囲気に包まれる診療所。あまりにも長い死者の発表に、古河早苗は呆然となった。
そして、ふと思い出す。そう言えば我が娘も「ターゲット」に指定されていたということを。

「お母さん。実はわたし、秘密にしていたことがあるんです」

わたわたとした雰囲気に包まれた放送が終わると同時に、古河渚は口を開く。
彼女の宣告が深い意味を持つということに気づき、早苗は黙って頷き返した。

「お母さん。わたし達がこのゲームに参加させられたことは予定された調和の内にあります」
「な、渚?」

すっと目を細めて言う渚の声は、やけに平坦であった。
そして、その意味の分からない突拍子のない内容に、これまた早苗は呆然となる。
そんな彼女を無視して渚は話を続けた。

「わたしはこの土地を守るために存在します、この沖ノ島を見張る心になるのです。お母さん、あちらを見てください」

窓の外を指差す渚、そこには灯台が存在していた。
ここから見える範囲ということで、そう遠くもないのだろう。そんなことを考えた矢先だった。
ゴゴゴゴゴと、地響きのようなものが・・・・・・鳴り響いたわけではないが。
そんな効果音をつけてもいいような事態が起こる、そこにあった灯台を押し出す形で新たな建築物が現れたのだ。

「須弥山です」
「ス、スメール?」

黒い渦を巻く巨塔、例えるならば魔方陣グルグルに出てくるククリの修行塔のようないでたちのそれ。
視線を早苗に戻す渚。彼女はクエスチョンマークを浮かべ続ける母親に向かい、無常にもまた話を続けるのだった。
245ママも覚醒:2007/02/10(土) 00:30:59 ID:9KDTcOuD0
「時が満ちれば、わたしはあそこに収まります・・・・・・そう、我を離れ梵に至る運命なのです。
 肉は朽ち果てても梵に至ったわたしは常にお母さん達と共にあります」
「渚、お母さん頭が痛くなってきました」
「言葉は交わせなくとも、互いに触れ合えず目には見えなくとも、わたしは須弥山にあって沖ノ島にあまねくお母さんを含めた皆さんと共にあるということです」

一度瞬きをして、光のない空ろな瞳を称えながら渚は言い放つ。

「すみません、わたしは新世界の神になります」







『ちょ、長老!渚ちゃんあんなこと言ってますがどうしますかっ?!』
『むむぅ、ここで静かな余生を過ごすはずがとんだ事態じゃ・・・・・・』
246ママも覚醒:2007/02/10(土) 00:31:39 ID:9KDTcOuD0
【時間:2日目午前6時15分】
【場所:沖木島診療所(I−07)】

古河渚
【所持品:だんご大家族(100人)、支給品不明】
【状態:ネ申】

古河早苗
【所持品:日本酒(一升瓶)、ハリセン、支給品一式】
【状態:渚、ごめんなさい。お母さんよく分かりません】

(関連・571)(D−2ルート)

I-10・灯台は崩れました。代わりに須弥山(黒い巨塔)が建ちました。
247つみ重なる悲劇:2007/02/10(土) 23:44:43 ID:kmkS5Gta0
来栖川綾香の爆撃から逃れた朝霧麻亜子ことまーりゃんは向坂環と国崎往人が戦っているのを尻目に、ちゃっかり綾香の目に付かぬ別の家の塀まで避難してきていた。
ボウガンにきっちり矢を装填した後、どう展開するかを考える。
ぶっちゃけた話、武装面では往人にも環にも、綾香にも劣る。正面からの撃ち合いは殺してくれと言っているようなもの。唯一持っているデザートイーグル・50AEも弾は一発。
(はてさて、ここで究極の選択です。たまちゃんを助けるか、このまま逃げるか)
今の状況では環はまず殺されてしまうだろう。敵対関係とはいえ、何とかして助けてやりたい――
そう思ったところで、麻亜子はまた自分が感情に流されていることに気付いた。
(…馬鹿だね、あたしは)
環は確かに大切な人間だ。だが、だからと言って命を張ってまで守るような価値があるだろうか。ここで命を落としてはささらを、誰がどうやってあの日々に戻してやれるというのか。
そもそも、生き残れるのはたったの一人だ。ここで環が死んでも――それはやむを得ない事柄だ。
だが、あの来栖川綾香を放置しておくのはまずい。あんな奴に往人や環の武装を奪われようものなら手がつけられなくなる。黙って逃げるわけにはいかない。
(すまんねたまちゃん、アンタを使わせてもらうよ)
隙を見て、必殺の一撃を叩き込む。その狙いは――
綾香が、全員を打ち倒して勝利の悦楽に浸っている時だ。

「くそっ…逃げるだけか、俺はっ!?」
国崎往人は動きを止めては迫ってくる、綾香のマイクロウージーの掃討から必死に走りまわっていた。
綾香の方を見る。祐介が再び乱入してきたのを見て足止めには十分と判断したのだろう、狙いは自分一本に絞っているようだった。
「チッ…あのまーりゃんとか言う奴はどこ行った!」
必死に周囲を見渡してみるものの、麻亜子の姿は見当たらない。逃げやがった、こんちくしょう。
「よそ見してる暇、あるの!?」
綾香が叫んだかと思えばまたまた土が飛び跳ねる音がして、自分に死をもたらす鉛弾が迫ってきていた。
248つみ重なる悲劇:2007/02/10(土) 23:45:30 ID:kmkS5Gta0
当たる!――と思ったがどこにも痛みは無い。弾切れか!助かった!
「ち…悪運の強い…」
マガジンを取り替えようとするが、走っているせいか思うようにいかないようだった。その隙を、往人が見逃すはずが無い。
「遅いっ!」
反転してワルサーを向ける往人。綾香は飛び退こうとしたが、運動している体をそう急に動かせはしない。軽い銃声の元、9mmパラベラム弾が綾香の腹部、ど真ん中に命中した。
銃弾の衝撃が綾香を後ろに傾けさせ、やがてゆっくりと後ろに倒れる。ふぅ…と往人は軽く一呼吸を入れる。強敵だった。
手元のワルサーを見て苦笑いする。ここまで上手く当たってくれるとは。射撃の才能があるのか、火事場のクソ力か…まあ、そんなことはどうでもいい。勝ったのだ、自分は。
それより、早く環を援護に行かないと――そう思っていた矢先、往人はとんでもない光景を目にする。
「なっ、み、観鈴…?」
往人が逃げてきた方向は少し盛り上がった、いわゆる丘状の地形で低地の部分を見下ろすことも出来たのだが――
そこに、先程あかりを人質に取り祐介を差し向けた少女、宮沢有紀寧と一緒に歩いているのを見た。(もう一人、こっちは見知らぬ少女も一緒に歩いていた。多分有紀寧の仲間だろう)
何故ここに、という疑問も浮かばないではなかったがそれは容易に想像がついた。
「さっきの爆発か…!」
あんな奴と一緒にいたら命がいくつあっても足りない。助けに行かないと!
「すまん、環、もう少しだけ踏ん張ってくれ!」
往人は一人ごちると一気に斜面を駆け下りた。…その背後で、ゆっくりと起きあがる人間がいるとも気付かずに。

宮沢有紀寧は、銃声が少しづつ近づいていることにすぐに気付いた。誰かが、戦闘をしながらこちらに来ているのだ。
それが国崎往人であるなら、まだいい。だが、それ以外の――来栖川綾香、朝霧麻亜子など――人間が来るなら…最悪だ。武装が頼りなさ過ぎるし、運動能力も劣る。
249つみ重なる悲劇:2007/02/10(土) 23:46:29 ID:kmkS5Gta0
どうも長瀬祐介と言う男は不幸を運んでくるらしい。
「まだ鉄砲の音が…環さん、あかりさん、大丈夫かなあ…」
「………」
隣には、黙ったままの初音と、不安げな観鈴。初音が黙ったままなのを見て、有紀寧が言葉をかける。
「大丈夫ですよ、その方達なら散開して逃げて行きましたから…今の銃声はきっと、殺人鬼が互いに戦っている音だと思います」
「ホント?なら、いいけど…」
そうは言う観鈴だが、初音を見ると、ばつが悪そうに目を反らした。有紀寧は内心歯噛みする。
(不安を煽っていますね…逃がすつもりですか、初音さん)
祐介と違い、こちらにはまだ利用価値がある。しかも撃ち殺そうものなら観鈴を取り逃がす恐れもある。
ならば観鈴にリモコンを使えばいいのだが…残り二回。この二回は、起動用と爆破用に取っておきたかった。国崎往人がガタイの良さそうな男だとは言えここで一か八かの勝負に出るわけにはいかない。
我慢。今はとにかくここを離れるのが先決…
「観鈴うぅーーーーっ!!!」
「ゆ…往人さん?往人さんっ!」
まさか。弾かれるように声のした方を見やる。そこには血相を抱えた往人が、転がるようにして駆け下りてきていた。
(国崎さん…まさか本当に来てくれるとは思いませんでしたよ…それも単独で)
やはり、幸運の女神は自分についていたようだ。にやりと口元を歪める有紀寧。
「往人さんっ、大丈夫?けがは…」
観鈴が叫ぶのを遮って、往人が叫んだ。
「そいつから今すぐ離れろっ!そいつはゲームに乗っているっ!」
「え?」
疑問の声を上げたときには、観鈴は有紀寧に首根っこを掴まれてコルトバイソンを押し当てられていた。
「くそっ!貴様っ、観鈴を放せ!」
「そうはいきませんよ、大切な人柱なんですから。…初音さん、無駄でしたね、せっかくの警告も」
背後の初音が悔しそうに歯噛みする。それを見て、往人が問いかける。
250つみ重なる悲劇:2007/02/10(土) 23:47:31 ID:kmkS5Gta0
「警告?お前ら仲間じゃなかったのか」
「ええ、仲間ですよ。それはもう、地獄までの。それより、わたしがこうしている理由…言わなくても分かりますよね?無駄に時間を稼ごうなどとは考えないほうがいいですよ?
選択肢は二つに一つ。戻ってまだ戦っている全員を殺してくるか、この神尾観鈴さんの頭がポップコーンみたいに弾けるのを見るか。
観鈴さんを見殺しにしてわたしを殺しても構いませんが…その場合、この横にいる初音さんも死ぬことになりますがね」
観鈴を放せ、と言った瞬間からワルサーを向けてはいるが明らかに不利なのは往人だ。おまけに、仮に有紀寧だけを上手く殺せたとしてもその横の少女、初音も死ぬという。往人にとっては赤の他人、どうでもいい存在なのだが――
観鈴が、それを許しはしないだろう。他人を見捨てて、自分だけ助かるというのを。
「くそっ…分かった、言う通りにする。だから、観鈴だけは…」
情けない台詞だと思うがこの場はこうやって切り抜けるしかない。反撃のチャンスを待たないと…
だが、その考えを遮るかのように観鈴が言う。
「ダメ!往人さん、この人のいいなりになっちゃダメ!わたしはいいから…むぐっ!」
有紀寧が、観鈴の口を塞ぐ。
「お喋りが過ぎます。それとも国崎さんからポップコーンにしてあげましょうか」
その言葉を聞いた観鈴の顔が青ざめる。…ふん、この子も柏木家の人間と同じだ。
「行くなら早くしてきてもらいたいものですね。わたしは気の長い人間じゃな――」
台詞の途中。有紀寧は背後からある人間が駆け下りてきていることに気付いた。
(さっき、わたしの邪魔をした人!?)
間違いなくあの女は「乗って」いる。国崎往人め、冷淡な顔をしているが…詰めが甘い!とどめを刺し損ねたか!
その女、来栖川綾香はマシンガンを構えていた。あれだ、さっきの掃射音は。
今有紀寧達はダンゴ状態になっているも同然。このままでは皆蜂の巣になる!
幸い、まだ綾香は比較的遠く、綾香側を向いている三人でも気付いたのはわたしだけのようだ。
(く…口惜しいが仕方ないですね)
251つみ重なる悲劇:2007/02/10(土) 23:48:08 ID:kmkS5Gta0
「気が変わりました。観鈴さんはお返しします」
自分の命が最優先だ。このまま皆で死ぬ義理はない。
有紀寧は往人の方向へ観鈴を思いきり突き飛ばし、自らは初音の手を引いて真反対の方向へ駆け出した。そして、一つの捨て台詞を残して。
「――精々、仲良く死んで下さい」

一方の往人は、絶対的に有利だったはずの状況をあっさり放棄して逃げ出していることに不信感を覚えた。何か、あるのか?
「待てお前…!く…」
撃っても、往人の腕では当たるかどうか怪しい。それより観鈴だ。
「観鈴っ、お前診療所で待ってろって何度も…」
だが、その怒りさえ含んだ声を観鈴の泣き声が打ち消す。
「往人さん、往人さぁん…無事で、無事でよかった…心配したんだよ、行っちゃったほうから鉄砲の音がしたから…もしかしたら、大怪我をしてるんじゃないかって…でも、よかった、また会えたから」
「………」
一気に、怒気は失せていた。その声だけで、表情だけで、置いていかれ、不安に駆られた観鈴の気持ちが、よく分かる。
「…あの子、乗ってるって…ホント?」
「…ああ、一度交戦した」
「…じゃあ、往人さんが怪我をしてる、っていうのは?」
「そりゃウソだ。俺はこの通りピンピンしてるぞ。きっと、観鈴を騙してどこかへ連れて行って人質にでもしようかと思ったんだろ」
「そんな…あの人、いい人そうだったのに…」
泣き顔のまま、落ち込んだ表情をする観鈴。こういうとき、どう言えばいいのかわからない。
「取り敢えずここを離れるぞ。俺はまた環の援護をしなきゃいけない。観鈴は安全な場所へ――」
だから、その言葉への返答を今は避けて、まずは二人で移動しようと思い後ろへ振り向いたところに…
「標的が二人減ったけど…まあいいわ。あんたらだけでも死になさい」
先程、殺したはずの来栖川綾香がウージーの銃口を向けて往人と観鈴を狙っていた。
――冗談だろ?
252つみ重なる悲劇:2007/02/10(土) 23:49:15 ID:kmkS5Gta0
それは、観鈴を抱えて逃げるにはあまりにも銃口と近過ぎる距離。どうして綾香が生きているのか、とかそういうのはもう、どうでもよかった。往人がすることはただ一つ。
「観鈴っ、逃げ」
言うと同時に有紀寧と同じように突き飛ばした瞬間、いくつもの銃弾が往人の体を貫いていく感触がした。
しりもちをついた観鈴が目を見開いたのを見ながら、国崎往人はあっけなく、死んだ。
だが、不幸中の幸いか観鈴には一発も銃弾は命中していなかった。
「ゆ…ゆきと、さん、往人さぁぁぁんっ!」
血溜まりで草が赤く染まっていくのを、ようやく動けるようになった観鈴が必死に止めようとする。
「ゆきとさん、しっかりして、ゆきとさん、ゆきとさんが死んじゃったらわたし、わたし、もう笑えないよ、生きていけないよ!」
狂乱、そうともとれるくらい必死に、そして機械仕掛けのように観鈴が往人を揺り動かす。
それを見ていた綾香は、向けかけた銃口を放して観鈴に言った。
「大切な人を殺されて、悔しい?」
言われた観鈴が、キッ、と綾香の方を振り向いた。その表情には憎しみが現れている。
「どうして…どうして往人さんを…殺したの?」
綾香はまたこの手の質問か、と笑いながら答える。
「コレに乗ったからに決まってるじゃない。で、悔しい?憎い?どうなの、観鈴さんとやら」
綾香の挑発に、観鈴はワルサーを取って答えた。
「…ゆるさ、ない」
しかし、いくら憎しみに駆られていてもまだ撃てないのか観鈴の手はただ震えるばかり。それを鼻で笑いながら、綾香は背を向ける。
「ならいいわ。悔しいなら…憎いなら…いつでも相手になったげるわ。そのときは思う存分」
「殺し合いをしましょ」
これだけ挑発しても、銃弾は飛んでこない。もう一度綾香はせせら笑った。そして一気に、最初にいた場所へと走り出した。
後に残されたのは、虚空へ拳銃を向けている観鈴の姿だけだった。
253つみ重なる悲劇:2007/02/10(土) 23:52:18 ID:kmkS5Gta0
【時間:2日目・15:30】
【場所:I-7北部】

朝霧麻亜子
【所持品1:デザート・イーグル .50AE(1/7)、ボウガン、サバイバルナイフ、投げナイフ、バタフライナイフ】
【所持品2:防弾ファミレス制服×2(トロピカルタイプ、ぱろぱろタイプ)、ささらサイズのスクール水着、制服(上着の胸元に穴)、支給品一式(3人分)】
【状態:マーダー。スク水の上に防弾ファミレス制服(フローラルミントタイプ)を着ている、全身に痛み】
【目的:目標は生徒会メンバー以外の排除、最終的な目標は自身か生徒会メンバーを優勝させ、かつての日々を取り戻すこと。】

国崎往人
【所持品:ラーメンセット(レトルト)、化粧品ポーチ、支給品一式(食料のみ2人分)】
【状態:死亡】

来栖川綾香
【所持品1:IMI マイクロUZI 残弾数(25/30)・予備カートリッジ(30発入×2)】
【所持品2:防弾チョッキ・支給品一式・携帯型レーザー式誘導装置 弾数1・レーダー(予備電池付き)】
【状態@:右腕と肋骨損傷(激しい動きは痛みを伴う)。左肩口刺し傷(治療済み)】
【状態A:まーりゃんとささら、さらに彼女達と同じ制服の人間を捕捉して排除する。好機があれば珊瑚の殺害も狙う】
254つみ重なる悲劇:2007/02/10(土) 23:52:55 ID:kmkS5Gta0
宮沢有紀寧
【所持品@:コルトバイソン(4/6)、参加者の写真つきデータファイル(内容は名前と顔写真のみ)、スイッチ(2/6)】
【所持品A:ノートパソコン、包丁、ゴルフクラブ、支給品一式】
【状態:離脱、前腕軽傷(治療済み)】

柏木初音
【所持品:鋸、支給品一式】
【状態:首輪爆破まであと17:15(本人は40:45後だと思っている)、有紀寧に同行(本意では無い)】

神尾観鈴
【持ち物:ワルサーP5(2/8)、フラッシュメモリ、紙人形、支給品一式】
【状態:綾香に対して非常に憎しみを抱いている、脇腹を撃たれ重症(治療済み)】

(関連:688、691)
255名無しさんだよもん:2007/02/11(日) 00:05:02 ID:oaLlIPGb0
( ゚д゚)ポカーン
256すれ違う絆:2007/02/11(日) 10:54:56 ID:ILMKQNg+0
切りつけられた左肩が焼けるように熱い。
そんなに深くはないようだが動かそうとすると軽く走る痛みに集中力がとぎれそうになる。
だがそんなことに気をかける暇などは今は全くなかった。
祐介の包丁が再び環に向かって振り下ろされる。
真正面から襲い来るそれを環は転がりながらすんでの所で交わすと、地面の土を掴み取り祐介に向かって投げ放った。
「くっ――!」
視界を奪われもがく祐介から距離を取るように跳ね起きると、チラリと辺りを見回す。
往人も麻亜子も綾香も、周辺にはいつの間にやら誰の姿も見られなかった。
別のところで交戦しているのだろうか、それとも様子を伺っているのか。
こんなところで足踏みを食らってる場合ではない、特に撃たれたあかりの安否が気がかりでしょうがなかった。
誰もいないなら好都合、と環はレミントンを握る手に力を込める。
殺すつもりは毛頭ない――幸い祐介の武器は包丁。威嚇用に……最悪でも足を狙って動きを封じれれば。
「――もうやめましょう? こんな殺し合いに何の意味があるっていうの!?」
依然殺意にみなぎらせた瞳で睨みつけている祐介に、環は声を荒げながら叫んでいた。
257すれ違う絆:2007/02/11(日) 10:55:38 ID:ILMKQNg+0
環の言葉は祐介の心をえぐるように響いていた。
この島に来てから自分がしてきたことは皆無に等しく、そしてそれらは本当に無意味なことばかり。
「意味……そうだね、そんなものは本当は誰にもないのかもしれない」
瑠璃子さんも、沙織ちゃんも、瑞穂ちゃんも、太田さんも、みんな死んでしまった。
僕は何もできずに。再会すらできず。知らないところで。
「そう思っているなら、やめましょう!? まだ後戻りだってできるじゃない!」
寂しげに曇る祐介の顔に説得の余地があると判断した環だったが、その声は祐介には届いてはいなかった。
「でも僕にはとっては――」
初音の顔と有紀寧の顔が交互に頭の中を交錯し――
「意味があることなんだよっ!」
ベネリM3を取り出し、銃口を環へと向ける。
弾は詰まってはいないのだが、それは環の動きを止めるのには十分な代物であった。
一瞬ひるんだ環の姿を見逃さず、祐介は全身をかがめ間合いを詰める様に地を駆けていた。
258すれ違う絆:2007/02/11(日) 10:56:17 ID:ILMKQNg+0
油断と、驚きと、そしてなにより撃つことに躊躇していた環の身体に祐介の身体が激しくぶつかり、そのまま押し倒す形で二人はもんどりうって地面に転がった。
「く、ぁっ――!」
衝撃に全身に痛みが走る環に対してそのまま馬乗りになると、レミントンを持ったままの環の右腕を押さえ込み祐介は再び包丁を抱え上げた。
暴れようともがいてみるものの、けだるい痛みに思うように身体に力が入らない。ここまでか――
ごめんタカ坊、私もうだめみたい。
ことみ、祐一、芽衣ちゃん、今からそっち行くね。
英二さん――あとはお願いします。
そして走馬灯のように浮かび出る顔の中に、最後に出てきたのは弟、雄二の顔だった。
雄二……なんであんなになっちゃったんだろうね。
私の躾が足りなかったのかしら。
もし生まれ変わるなら、またあなたの姉になってちゃんと躾け直してあげたいところだわ。
「恨みならあの世でいくらでも聞くから、だから――ごめんっ」
暗闇の中、祐介の叫び声が聞こえ現実へと戻される。環は覚悟を決めぎゅっと目を瞑った。
259すれ違う絆:2007/02/11(日) 10:57:15 ID:ILMKQNg+0
――ドスンと鈍い音が聞こえた気がした。
今から死んでいく自分には関係のないことだとは思い、大して気にも留めなかったのだが
うめき声と共に自分の身体にかかってきた重みに違和感を覚えた。
「――なっさけねえな」
そして耳に届いたのは聞きなれしんだ声。
ゆっくりと目を開けると、頭から血を流したままぐったりと自身の身体に覆いかぶさっている祐介の姿と
金属バットを抱え、自分らを見下ろす雄二の姿がそこにはあった。
「雄二……あなた」
ヨロヨロと上半身を起こし、予想もしなかった助けに環は驚きを隠せなかった。
元の雄二に戻ってくれたのかとそんな事も考え、思わず顔が綻んでいた。
だが現実は非常で――
「ったく、こんな奴に良いように遊ばれてるんじゃねーよ。姉貴を殺すのは俺なんだからな!」
ピクリともしない祐介の背中につばを吐きかけると、手から零れ落ちていたベネリM3を拾い上げるとニヤリと笑う。
弟の口から発せられた言葉に環は絶望すら感じながら、その歪んだ笑顔を見続けることしかできなかったのだった。
260すれ違う絆:2007/02/11(日) 10:58:18 ID:ILMKQNg+0
【時間:2日目15:20】
【場所:I−6】

向坂環
【所持品@:レミントン(M700)装弾数(5/5)・予備弾丸(10/10)、包丁、ロープ(少し太め)、支給品一式×2】
【所持品A:救急箱、ほか水・食料以外の支給品一式】
【状態:頭部に怪我・全身に殴打による傷(治療済み)、全身に痛み、左肩に包丁による切り傷】

長瀬祐介
【所持品1:包丁、100円ライター、折りたたみ傘、支給品一式】
【所持品2:懐中電灯、ロウソク×4、イボつき軍手、支給品一式】
【状態:生死は後続任せ、有紀寧への激しい憎悪、全身に痛み】

向坂雄二
【所持品:金属バット・ベネリM3(0/7)・支給品一式】
【状態:マーダー、精神異常。目的はゲームの優勝と環への報復。マルチの捜索は考えていない】

(関連:687、691)
261甘味処:2007/02/11(日) 16:05:12 ID:eozzi1tq0
柳川裕也達は昼食を終えると速やかに氷川村へと急ぐ。
街道へ出ると東に向かい、暫く歩くとヘアピンカーブに差し掛かった。
突然倉田佐祐理が足を止め、左側の一点を見つめる。
「あんなところにデイパックが」
指差す方には街道からも見える、森の入口付近に立つ大きな木。
その木の傍に、しかもあまりにも目立つ所にデイパックが置かれていた。
「二人ともここで待機してくれ」
佐祐理と七瀬留美を残し、柳川はデイパックへと近づく。
仕掛け爆弾の可能性もあるだけに、気持ちの悪い脂汗が吹き出た。
デイパックに手をかけた所で大きく深呼吸をし、少しだけ開けてみる。
パンや水筒の他に銃身らしきものと、黒光りする四角い箱のようなものがあった。

(やはり爆弾なのだろうか)
振り返ると佐祐理も留美も固唾を飲んで見守っている。
デイパックの口を更に少しばかり開け、もう一度中を見る。
木陰にある上、中身が黒いだけによく判らない。
──そういえば懐中電灯があった。
自身のデイパックから懐中電灯を取り出し、謎のデイパックの中を照らす。
爆弾に見えたものは予備のマガジンのようだ。しかもかなりの本数がある。
意を決し中身を掴み、外に出したが爆発は起きなかった。

説明書を見るとイングラムM10短機関銃と書いてある。
「これはまた大そうなものを手に入れたぞ!」
手招きして控える二人を呼び寄せると、特に留美は目を輝かせていた。
「映画で見るようなサブ・マシンガンね。すっごーい」
「参加者の誰かが置いていったのでしょうか?」
「なんとも言えなんな。まずは有難く頂戴しておこう」
262甘味処:2007/02/11(日) 16:06:39 ID:eozzi1tq0
予備の分も含めるとズッシリとした重みがあった。
(倉田と七瀬の武器と持ち物の量からしてどちらに持たせたら良いものか)
考え込んでいると留美が意図を理解したらしく、
「柳川さんの拳銃、あたしにくれないかな」
「それで?」
「柳川さんがイングラムとかいうのを持つのはどうです?」
「どうせなら倉田に持たせたいんだがな」
佐祐理には過ぎたるものに思えるが、留美に渡すのは気が進まない。
「いえ、佐祐理は七瀬さんが持った方がいいと思います」
「やっぱりあたしも銃が欲しい。お願いしますよ、柳川さん」
やけに辞を低くするな、と嫌味を言いそうになるが止めておくことにする。
「七瀬が期待に応えてくれるのを期待しよう」
「わあ、ありがとう。感謝感激、ウフッ」
(まったく倉田と違っ起伏の激しい奴)
連携が必要なだけに、無闇に角を付き合わせることは無用だ。
呷った水はまろやかに感ぜられた。



ヘアピンカーブを曲がり次のカーブに差し掛かると、異様な臭気が皆の鼻腔を刺激する。
柳川には仕事柄、時折嗅ぐことがあるだけに驚くものではない。
血よりも更に濃厚な体液に近いものか。
近くに人間の死体があるのは間違いない。
片手を軽く上げ、後方を歩く佐祐理と留美に要警戒の注意を促す。
道路の右側は崖になっており、死体があるとすれば左側の茂みから木立にあるはず。
ほどなく臭いの元は道路から見える木立の隅にあった。
胸から上を上着が覆ってあるが、着衣からして二人の女の子らしい。
「──あの上着、あたしんとこの学校のだ。まさか折原の……」
怪訝な表情で佐祐理と留美は柳川の肩越しに覗く。
柳川はゆっくりと上着を捲る。
周囲には血や毛髪の他に、かつては桃色だったものが飛び散り、ドス黒く変色していた。
263甘味処:2007/02/11(日) 16:07:56 ID:eozzi1tq0
「うぅっ……」
佐祐理は口を押さえると背を向けしゃがみこむ。
どうにか慣れたとはいえ、彼女にはこの度の死体は正視に堪えられるものではなかった。
頭部が粉砕されていた。わずかに下顎を残して。
(折原がここを通ったのかな。それにしてこの惨状、お好み焼きといったらいいのやら)
溜息をつくと佐祐理の背中を擦る留美。
「いずれ見る機会が増えるだろうから、免疫をつけるきっかけになるといい」
「今吐いちゃもったいないですよ」
留美自身、動揺を鎮めようと気休めにならない言葉をかけてしまう。
「大丈夫です。なんとか我慢できそうです……はあ、はあ……」
「このブヨブヨしたの、脳ミソよね。ナマで見れるなんて興奮するわ」
飛散した物質を留美は何気なく触っていた。
「勇気がありますね。佐祐理はとても触る気にはなれませんが」
「うぐぅ! あたしったら何ということを……きゃーっ!」
「七瀬は後方の警戒を頼む。ハハハ……」
滑稽とも微笑ましくもあり、柳川は苦笑した。


重なり合う二つの凄惨な遺体は、草壁優季と月宮あゆだった。
柳川は優季に被さるあゆを引き離した。
(顔面を散弾で殺られたか。傷さえなければハッとするような美少女だな)
身元が分かるものはないかと優季の身体をまさぐる。
興味深げに留美が覗き込む。
「美人ねぇ……って、どさくさに紛れて何してんのよっ」
「勘違いするな! 遺留品を調べている。お前は頭のないコの方を調べてくれ」
「わかったわよ。乙女たるものこれしきのこと──」
「乙女なら普通は倉田のような症状を起こすがな」
留美はぐうの音も出なかった。
264甘味処:2007/02/11(日) 16:09:10 ID:eozzi1tq0
佐祐理はどうにか気分を整えると死体に向き直る。
何か発見はないかと注目するうち、優季の着衣が姫百合珊瑚と同じであることに気づく。
「あのう、下の方の女の子ですけど、制服が珊瑚さんと同じ学校の方です」
「おう、よくぞ言ってくれた。彼女と再会したら身元がわかる可能性大だ」

付近を調べたものの、身元が分かるものはおろかデイバックさえも見当たらなかった。
柳川は二人の身体的特徴と遺留品、場所等をメモに記す。
「さっきの支給品とこの方達と何か関係ありそうな気がします」
「距離も近いことだし……でもなんでこんなところにねえ」
二人を尻目に柳川も考えてみたが、どうにも想像がつかなかった。
「埋めてやりたいところだが掘るものが無いし、埋葬中を襲われたら元も子もない」
「ミイラ取りがミイラになっちゃうようなものね」
「んー、なんか違うような気もするが、まあいいか」

変わり果てた二人に黙祷し、再び歩き始める。
カーブを曲がったあたりで、眼下に見える遥か遠くの氷川村の西端を眺める。
これからの苦境を予想し、佐祐理も留美も真剣な表情をしていた。
(氷川村も我々を平穏には迎えてはくれないだろう)
柳川は闘志も新たに拳を握り締めていた。
265甘味処:2007/02/11(日) 16:10:40 ID:eozzi1tq0
【時間:2日目14:45頃】
【場所:H−4北部】

柳川祐也
【所持品:イングラムM10(30/30)、イングラムの予備マガジン30発×8、日本刀、支給品一式(片方の食料と水残り2/3)×2、青い矢(麻酔薬)】
【状態:左肩と脇腹の治療は完了したが治りきってはいない、肩から胸にかけて浅い切り傷(治療済み)、移動中】
【目的:まずは氷川村へ】

倉田佐祐理
【所持品1:舞と自分の支給品一式(片方の食料と水残り2/3)、救急箱、吹き矢セット(青×3:麻酔薬、赤×3:効能不明、黄×3:効能不明)】
【所持品2:二連式デリンジャー(残弾0発)、投げナイフ(残り2本)、レジャーシート】
【所持品3:拾った支給品一式】
【状態:移動中】
【目的:まずは氷川村へ】

七瀬留美
【所持品1:S&W M1076 残弾数(7/7)予備マガジン(7発入り×3)、日本刀、青い矢(麻酔薬)】
【所持品2:スタングレネード×1、何かの充電機、ノートパソコン、支給品一式(3人分、そのうち一つの食料と水残り2/3)】
【状態:移動中】
【目的:まずは氷川村へ。目的は冬弥を止めること。千鶴と出会えたら可能ならば説得する、人を殺す気、ゲームに乗る気は皆無】

(関連:047、640、648)
266託されたものは:2007/02/12(月) 02:00:09 ID:za0vzdZ80
爆発音がしたであろうと思われる方角からとはまた違う場所から響いた銃声に、英二は湧き上がる不安を隠せなかった。
どちらに進むか悩んだ末、今しがた銃声が聞こえた正反対の方向へと踵を返し駆け出していた。
「くそっ、みんな無事でいてくれよっ!」
もう誰も死なせたくはない、死なせない。
それが相沢祐一との約束だったから。
最悪の場合、人を殺めることになっても躊躇はするまい。
ベレッタを握る手に力がこもり、速度をさらに加速させ走り続けた。
だが決意を固めながら地を蹴り続ける英二を出迎えたのは、彼の願いを粉々に打ち砕く無情な光景。
――血まみれのまま地面に伏した往人と、その傍らで壊れたように泣きじゃくる観鈴の姿だった。

その光景に一瞬で状況を理解する。
おそらく彼は観鈴を守ろうとして、そしてやられてしまったのだろうと言うことを。

ゆっくりと近づく英二の存在にも気づく様子もなく、観鈴は返ってくる事のない返事を待つように往人の亡骸に語り続けていた。
その悲痛な様相にかける言葉も浮かばず呆然と眺めながらも、ふと我に返ると警戒するように周囲を見回し始める。
一緒にいた環とあかりの姿は周囲にはない――同時に最悪の想像が彼の脳裏に浮かんでいた。
瞬間、彼ははじけるように観鈴の元へ駆け寄り、叫んでいた。
「観鈴君、ここは危険だ。診療所へ戻ろう」
他の二人の安否が気になる。
とにかく観鈴を診療所まで連れ帰り、すぐさま二人を助けに行かなければ。
267託されたものは:2007/02/12(月) 02:00:45 ID:za0vzdZ80
そう考えなら観鈴の肩をゆさぶり、英二は必死に言葉を投げかけていた。
ようやくそこで観鈴も英二の存在に気づき彼の顔をじっと見上げる。
だが焦点の合っていないその瞳が全てを拒絶しているようにその手を払いのけ、観鈴は往人の死体にしがみつきながら再び声を高ぶらせながら涙を流していた。
「往人さんも死んじゃったよ……嘘だよね。こんなの嘘だよね? ちょっとしたら起き上がっていつもみたく泣くなって怒ってくれるんだよね?」
「観鈴君……」
脈を図ろうと往人の右腕を取る。
が、期待した反応はなくやはり生きていると言うことはなかった。
ともすればますます観鈴をこのままにしておくわけにはいかない。
ただでさえ安静にしてなければいけないこの状況で、母親の死と愛するものの死。
いったい彼女の精神にもどれだけ負担がかかっているのだろうかと考える。
英二は息を呑むと観鈴の身体に手を伸ばすと、勢いよく抱えあげた。
「英二さん!?」
「すまない……文句なら後でいくらでも聞くから、だから今は診療所に戻ろう」
言うや否や、往人の亡骸に背を向けると全力で駆け出した。
みるみるうちに視界から離れていく往人の姿に観鈴は手を伸ばして叫びだしていた。
「待って、往人さんが、往人さんがっ! 置いて行かないで!! もうはなればなれは嫌だよっ!!」
伸ばしても届かない手を戻すと、そのまま英二の肩を力なくドンドンと叩きつけて抵抗する。
「ごめん、ごめんよ――」
謝罪の言葉をつむぎながら走り続ける英二に、観鈴の瞳から零れ落ちる涙は止まることを知らず英二のスーツを湿らせていた。

268託されたものは:2007/02/12(月) 02:01:27 ID:za0vzdZ80

そんな彼の行動をあざ笑うかのように、英二は聞き覚えのある重低音があたりに響き渡っていることに気づく。
観鈴もその音に気づいた様子で泣き喚いてた声が驚きと共に止まっていた。
「これは……エンジン音か?」
一瞬の判断で観鈴を抱えたまま英二は一軒の家屋の扉を開け放ち身を隠す。
観鈴を入り口の床に座らせすぐさま窓から外の様子を覗き込むと、遠くから走ってくる一台の黒塗りの車の影が見えた。
そしてそれは二人の眼前を通過し――英二は乗っていた人間の姿に驚愕した。
「弥生君と……青年!?」
急所は外して撃ったとは言え、縛り付けていたはずの弥生が動いている姿。
そして同時に隣に座っていた藤井冬弥の姿。
もしも弥生君が道を変えていなかったら……藤井君が復讐に走っていたら……。
考えたくもない想像に英二の心は震えていた。
車の向かった方向には自分たちの目的地である診療所がある。
いまだ傷ついたまま診療所で待つ敬介の顔が思い出され、隣で不安そうに自身を見つめる観鈴の顔を覗き込むと決心したように英二は立ち上がった。
杞憂であって欲しい、これ以上悲劇は起こって欲しくはないんだ。
「――行こう」
本当ならここに置いて行ったほうが安全かもしれない。
だが、芽衣の時も往人の時も、ほんの少しの別行動が永遠の別れとなってしまっている。
守れもせずに死なせてしまうのはもう絶対に嫌だった。
「そうだよな、少年。約束は……守る」
ゆっくりと観鈴に手を伸ばしてにっこりと笑いながら、そのまま空を見上げながら誰にでもなく英二は言った。
そして英二の放った「少年」と言う単語が観鈴を立ち上がらせていた。
相沢祐一と最後に交わした約束。
零れ落ちていた涙を袖でグイとぬぐうと、差し出された英二の手を取る。

『――明るく、笑いながら生きてくれ』
そんな簡単なことがこの島では何よりも難しい。
だがそれでも託していったものたちのために今はがむしゃらに走るしかないのだと。
そう思いながら二人は扉を開け、診療所へと駆け出すのだった。


269託されたものは:2007/02/12(月) 02:02:01 ID:za0vzdZ80
【時間:2日目16:00】
【場所:I-7北部】

緒方英二
【持ち物:H&K VP70(残弾数0)、ダイナマイト×4、ベレッタM92(6/15)・予備弾倉(15発×2個)・支給品一式×2】
【状態:健康、診療所へ】
神尾観鈴
【持ち物:ワルサーP5(2/8)、フラッシュメモリ、紙人形、支給品一式】
【状態:綾香に対して非常に憎しみを抱いている、脇腹を撃たれ重症(治療済み)、診療所へ】

篠塚弥生
 【所持品:包丁、ベアークロー、携帯電話(GPSレーダー・MP3再生機能・時限爆弾機能(爆破機能1時間後に爆発)付きとそのリモコン】
 【状態:マーダー・脇腹に怪我(治療済み)目的は由綺の復讐及び優勝】
藤井冬弥
 【所持品:暗殺用十徳ナイフ・消防斧】
 【状態:マーダー・右腕・右肩負傷(簡単な応急処置)目的は由綺の復讐】

【備考】
・FN P90(残弾数0/50)
・聖のデイバック(支給品一式・治療用の道具一式(残り半分くらい)
・ことみのデイバック(支給品一式・ことみのメモ付き地図・青酸カリ入り青いマニキュア)
・冬弥のデイバック(支給品一式、食料半分、水を全て消費)
・弥生のデイバック(支給品一式・救急箱・水と食料全て消費)
上記のものは車の後部座席に、車の燃料は十分、車は診療所方向に向かってますが行き先は後続任せ
・往人の所持品は全て死体の場所に放置

【関連:638、687、695】
270勘違い:2007/02/13(火) 00:58:12 ID:rKLu71C80
何がどうなっているのか、柊勝平には理解できなかった。
ただ分かるのは、目の前でニヤニヤといやらしい笑みを湛える男が激しく危険な存在であるということだけ。

「怖くて声も出ないか?いいねぇ、そのまま黙ってればあっという間に終わる。静かにしてろよ・・・・・・」
(何が終わるっていうんだっ?!)

反抗したくとも荷物は押し倒された際に手放してしまっている、電動釘打ち機も手の届かない場所まで転がっていた。
いや、もし近くにあったとしてもそもそも利き腕を押さえつけられる形で固定されているため、それも叶わなかったであろう。
唯一動かせる左腕で懸命に男の肩を押し返すが、相手はびくともしなかった。

「ちょ、どこ触ってんだよ?!」
「ああん?お前胸ねーな・・・・・・」
「あったら大変だよ?!って、おい!捲くるな!!」

素肌を撫でる冷たく硬い手の感触が気持ち悪い、肌が泡立っていくのを感じる。

「やめろ、気色悪いんだよ・・・・・・っ」
「ああ?その割には、乳首立ってんじゃなねーか」
「鳥肌!それ鳥肌の副産物!!」

しかし勝平の叫びを一向に気にも止めず、岸田洋一の手は下半身へと伸びていく。
遠慮なく入り込んできた手が、今度はその肉付きの悪い足をパンツの上から撫で始めた。
足を閉じようにも間に岸田の体が割って入ってきているため身動きが取れない、服の上からとはいえその粘つくような愛撫に呼吸が乱れる。
おぞましい感覚に、勝平はこの島に来て初めて「恐怖」という感情を思い出した。

「さて、じゃあそろそろいただくとするか」
「いぃっ?!」

太ももから離れたその手が向かう場所、目で見えなくとも岸田の台詞で分かるそれ。
心の準備をする間もない、ついに股間へと手を添えられ勝平が思わず目を瞑った瞬間。
男の動きが、止まった。
271勘違い:2007/02/13(火) 00:58:50 ID:rKLu71C80
「・・・・・・」

今まで執拗な愛撫を繰り返した手が、いきなり静止したことに疑問を抱く。
薄く目を開けると、さっきまでいやらしい笑みを浮かべていた男が真顔で固まっていた。

「おい?」

声をかけるが、反応はない。
左手を伸ばし間近にあるその頬を叩いてみる、つねってみる。
やはり反応はない。

「・・・・・・か?」

と思ったら、やけに覇気のない声が耳に入った。
勿論目の前の岸田のものである。一瞬意味が理解できず、勝平はちょっとその言葉の意味を考えた。
少し乾いたように見える唇の動き、掠れた声。
それで形成された短い一言、それは。
「お前は男か?」という、ちょっとした疑問であった。

「あ、当たり前だろ!見て分かんないのかよ」

カッと顔の温度が高くなるのを感じながら、勝平は岸田を睨みつけるようにして叫んだ。
確かに容姿のことで勘違いをされることはよくあったが、ここまで好き放題した後となっては何を今更という思いの方が強い。

「知っててイジってたんじゃないのか?!」

岸田は答えない。代わりに、ぷるぷると震えだしてきた。

「キモッ?!」
272勘違い:2007/02/13(火) 00:59:26 ID:rKLu71C80
そんな罵りに言い返すことなく、岸田はただただ震えるばかりで。
先ほどとの様子の違いにさすがの勝平も戸惑いが隠せなくなる、そのまま無言の時間がしばし続いた。
そして、その間だんだん岸田の震えは大きくなり。
ついでに掴まれている勝平の右手にもそれが伝わり。
一緒にぷるぷる、まるで一つの共同作業。

「何だそれ?!」

そう叫んだ瞬間だった、いきなり岸田の震えが止まる。
そして。

「ぐえ?!!」

そのまま、押し倒していた勝平の上に倒れこんだ。
勿論真下にいた勝平は下敷きになる、ヒキガエルのような声を出し勝平はいきなりの攻撃に悶えた。
しかしそれと同時に固定されていた右手が自由になっているのに気づく、慌てて這い出るが岸田が再び動き出す気配は一向にない。

「な、何だったんだ一体・・・・・・」

最後まで何がどうなっているのか分からなかったが、とにかくチャンスである。
・・・・・・この男を見ているだけで先ほどの情けない恐怖心が甦った。
勝平は早くなる動悸を抑えようと胸に手をやりながら、放置されていた電動釘打ち機を手に一目散にこの場から離脱した。
止めをさすとかそのような考えなど一切持てなかった、それぐらい勝平自身もも慌てていたのであった。
273勘違い:2007/02/13(火) 01:00:01 ID:rKLu71C80
柊勝平
【時間:2日目午前2時過ぎ】
【場所:D−6・鎌石小中学校・右端階段前】
【所持品:電動釘打ち機11/16、手榴弾三つ・首輪・和洋中の包丁三セット・果物・カッターナイフ・アイスピック・支給品一式(食料少し消費)】
【状態:逃亡】

岸田洋一
【時間:2日目午前2時過ぎ】
【場所:D−6・鎌石小中学校・右端階段前】
【所持品:カッターナイフ】
【状態:失神】

杏の持ち物(拳銃(種別未定)・包丁・辞書×3(英和、和英、国語)支給品一式(食料少し消費))は放置

(関連・597)(B−4ルート)
274勘違い執筆者:2007/02/13(火) 15:03:52 ID:S03UCDEW0
まとめさんへ
すみませんが、272の一番最後の行を訂正させてください

×
止めをさすとかそのような考えなど一切持てなかった、それぐらい勝平自身もも慌てていたのであった。


止めをさすとかそのような考えなど一切持てなかった、それぐらい勝平自身も慌てていたのであった。

指摘ありがとうございました
275重なり合う影:2007/02/13(火) 21:12:00 ID:57cO8QpK0
陽平達は教会に辿り着くと最初に教会内部の構造を調べた。
いざ襲撃者が来た時に、地形を考慮に入れた行動が取れるようにだ。
その結果出入り口は正面の一つだけ、そして水道は止まっているという事が分かった。

そして今三人は教会の奥にある部屋で、パソコンの画面と睨めっこをしていた。
正確にはるーこと陽平が固唾を呑んで見守る中、珊瑚がキーボードを叩いている。
のんびりとした―――悪く言えば間の抜けた表情と、目で動きを追う事も難しい速度の手の動き。
その顔と手は、別人の物としか思えない程の違いがあった。
そんな珊瑚の様子を見て陽平はぼそっと呟いた。
「珊瑚ちゃん、まるで二人羽織みたいだね」
「えへへ、それよく言われるねん」
「どうだうーゆり。上手く行きそうか?」
陽平達の方へ顔を向けながらも手は休ませていない珊瑚に、るーこが尋ねる。
上手く行きそうか、とは無論―――ハッキングの事である。

今はとにかく情報が必要だった。
首輪を外す為にも、主催者を倒す為にも。
それらに有用な情報を得るには、主催者側のホストコンピューターにアクセスするのが手っ取り早い。

「今んとこ順調やけど、もう少し時間かかりそうやわー」
「そうか。うーゆりの邪魔をしては悪い……るー達は別の部屋で待機する事にしよう」
「そうだね……正直僕らじゃ力になれそうもないしね」
パソコンに関して特別な技能を持たぬ自分達では珊瑚の集中の妨げにしかならない。
それに盗聴されている現状では、下手に手を貸そうとすれば逆にボロを出してしまいかねないだろう。
陽平もるーこもその事は理解していたので、大人しく別の部屋へと移動した。
276重なり合う影:2007/02/13(火) 21:13:03 ID:57cO8QpK0

これまでの道程で負った怪我は軽い物ではなく、もう暫くは休憩が必要だ。
ふう、と一つ大きな溜息をついて陽平は礼拝堂にある椅子に腰を落とした。
すると横に並ぶように、ブロックタイプ栄養食品を持ったるーこが座ってきた。
「うーへい、この四角いのは何だ」
「ああ、それは栄養食品ってヤツで、手軽に栄養補給が出来るように作られた食べ物だよ」
るーこは栄養食品と睨めっこをした後、恐る恐る口にした。
「美味しい?」
陽平はそう言って、るーこの顔色を窺う。

もぐもぐと口を動かするーこの顔が少しずつ歪んでゆく。
陽平は苦笑して水の入ったペットボトルを差し出した。
るーこはそれを口に含み、何とか栄養食を飲み込んだ。
「るー……不味いぞ」
「味を重視して作られた食べ物じゃないだろうしなあ……そんなもんだよ」
陽平は話しながらパンを取り出し、それを二つに千切った。
片方をるーこに手渡し、もう一方は自分の口の中に放り込む。
パンの味はまだマシだったので、今度はすんなりと食べる事が出来た。

食事も終えて陽平が一息ついていると、何かに気付いたるーこが陽平の肩を叩いた。
「あれは何だ?」
陽平がるーこの指差す方を見ると、そこには小さな祭壇があった。
その奥の壁には十字架が架かってある。
「僕は教会なんて全然行かないからよく分からないけど……。あそこは確か神様に願い事をしたりする場所だったと思う」
「そうか。なら……」
るーこが立ち上がって祭壇の方へと歩いていく。
祭壇の前まで辿り着くと、るーこは陽平に向かって手招きをした。
陽平は怪訝な顔をしながらも、それに従いるーこの傍まで歩いた。
277重なり合う影:2007/02/13(火) 21:14:04 ID:57cO8QpK0
「どうしたんだい?」
「うーへい、願い事をしよう」
「……へ?」
「やってみる価値はある。今の願いを神に伝えよう」
「そんな事したって何の意味があるんだよ。神なんているわけが……」
陽平は馬鹿らしいという風に否定しようとした。
しかし、るーこはとても真剣な目をしていた。
「るーはるーの神を信じている。うーへいも、うーの神を信じろ」
「………分かった」
陽平は神なんて信じていなかった。
そんなものがいればこんな殺し合いなど起きる訳が無いと、そう思っていた。
それでも陽平は、るーこの眼差しを裏切る事は出来なかった。
どうせ願い事をするなら自分も真剣にだ。
陽平は自分の一番の望みが何か考え―――すぐに答えは出た。


陽平とるーこは手を合わせて目を瞑り、各々の願いを口にした。

「どうかるーこと一緒に帰れますように」
「るーはうーへいと一緒に帰りたい」

それが二人の願い。
決して揺らぐ事が無いであろう望みだ。
お互いの台詞を聞いた二人は、赤面して顔を見合わせた。
思わず頬が緩み、照れ笑いと呼ばれる類のものを浮かべてしまう。

―――そして、小さな祭壇の前で、二つの影が重なった。
ステンドグラスから漏れる虹色の光の中、お互いの吐息を感じ取れるくらい密着する。
―――どうかいつまでも、一緒に。
陽平とるーこは唇を合わせながら、ただひたすらに願い続けた。
278重なり合う影:2007/02/13(火) 21:15:01 ID:57cO8QpK0

【時間:2日目15:00頃】
【場所:g-3左上の教会】

春原陽平
【持ち物1:鉈、スタンガン・FN Five-SeveNの予備マガジン(20発入り)×2、LL牛乳×3
、ブロックタイプ栄養食品×3、他支給品一式(食料と水を少し消費)】
【持ち物2:鋏・鉄パイプ・他支給品一式】
【状態:全身打撲(マシになっている)・数ヶ所に軽い切り傷、頭と脇腹に打撲跡(どれも大体は治療済み)】

ルーシー・マリア・ミソラ
【持ち物:H&K SMG‖(6/30)、予備マガジン(30発入り)×4、包丁、スペツナズナイフ
、LL牛乳×6、ブロックタイプ栄養食品×5、他支給品一式(2人分)】
【状態:左耳一部喪失・額裂傷・背中に軽い火傷(全て治療済み)】

姫百合珊瑚
【持ち物@:デイパック、コルト・ディテクティブスペシャル(2/6)、ノートパソコン】
【持ち物A:コミパのメモとハッキング用CD】
【状態:ハッキング中】

(関連:645 ルートB13)
279一休み:2007/02/13(火) 23:23:36 ID:AAOf+clO0
高槻の元を飛び出し街道を駆ける藤林杏。
だが彼女の駆け足は長くは続かなかった。あまりにも荷物が多過ぎたのである。
ボタンをデイパックに入れたままだったことも災いした。
しばらく歩いていると荒い息もどうにか落ち着いてくる。
「今更捨てるわけにもいかないよね。でもここでは辞書なんて役に立たないと思うけどなあ」
「慌てずにゆっくりと行きましょう。早足で歩けば日暮れには村の入口に着けそうです」
後から追いついたほしのゆめみが慰めの言葉をかけた。

街道は無学寺を南下した後、三叉路になっている。
直進すれば氷川村、西へ行けば山を通って平瀬村へと続く。
それ以前に鎌石小中学校へ行く道もあるがどうだろうか。
冬弥達が自動車でいずれかへ行くかは見当もつかない。
なんとなく氷川村ではないかと希望的観測のみが頼りである。
午前中来た道を戻るのにさほど怖くはなかった。
遠くまで見通しが良く、両側の茂みに待ち伏せされていなければ問題はない。
ただ岸田洋一という男のその後が気掛かりである。
もしかしてこちらへ向かっているかもと考えると、これ以上急ぐ気にはなれない。
茂みに入り休憩も兼ねて昼食を摂ることにした。
わずかだが荷物が減ることにもなる。

天候も良く、ここが殺し合いの場でなかったらピクニックだ。
午後の柔らかな日差しが緊張をほぐしてくれた。
昼食後雑談をしていると、それまでの疲れがどっと吹き出し睡魔に襲われた。
「ごめん。ちょっとお昼寝するから三十分後に起こしてくれない?」
「どうぞ。わたしが警戒してますから安心してお休み下さいませ」
「あなたはどうなの? メンテナンスとか」
「左腕のことを除けばお休みのうちに十分できます」
日本刀を手にゆめみはにっこりと微笑む。
(椋はどうしてるかな……)
妹の身を案じながらも、眠りの中へと落ちて行くのに時間はかからなかった。
280一休み:2007/02/13(火) 23:25:06 ID:AAOf+clO0
どのくらい眠ったのか、ゆめみに声をかけながら体を揺すられていた。
「……起きて下さい。プラネタリウムが御覧になれる時間になってしまいます」
「うーん、もう少し……ん、プラネタ?」
ガバッと身を起こし目を擦る。
昼といっても太陽の位置がさっきより低くなっていた。
「三十分後に起こしてくれなかったの?」
「なかなか起きられませんでしたので、また三十分後に……ということを繰り返してました」
「ああ、いわゆるスヌーズ機能じゃない。まったくぅ……」
「申し訳ありません。次回は一度でお目覚めになるように致します」
ゆめみは肩をすぼめ、深々と頭を下げた。
「いいわよ。もしかしたら急がない方がいいのかもしれない」
泣きたくなる気分とは裏腹に空はどこまでも青かった。


【時間:2日目15:30頃】
【場所:C−7】

藤林杏
 【所持品1:包丁、辞書×3(国語、和英、英和)、携帯用ガスコンロ、野菜などの食料や調味料、ほか支給品一式】
 【所持品2:救急箱、食料など家から持ってきたさまざまな品々、ボタン、ほか支給品一式】
 【状態:呆然、冬弥と会った場合どうするつもりかは不明】

ほしのゆめみ
 【所持品:日本刀、忍者セット(忍者刀・手裏剣・他)、おたま、ほか支給品一式】
 【状態:休憩中、左腕が動かない】

(関連:669)
281名無しさんだよもん:2007/02/14(水) 12:18:52 ID:t3fNOB3K0
「一休み」の訂正をお願いします

×【場所:C−7】
○【場所:D−7】
282魚料理が蟹料理に:2007/02/15(木) 00:26:31 ID:XZLd7rit0
両手を大きく広げ伸びをする。
月島拓也にとって数十分の熟睡は、それまでの疲労を一掃していた。
隣に目をやると長森瑞佳も水瀬名雪もまだ眠っていた。
二人を頭のてっぺんからつま先まで舐めるように観察する。
実に見目麗しい女の子である。
(両手に花とはまさにこのことだな)

最後に肉の悦びに浸ったのはいつだったろうか。
妹でも太田香奈子、新城沙織、藍原瑞穂──今は亡き彼女達のいずれでもなかったような。
美少女のフェロモンに浸っていると、淫らな発想が沸き起こって来るのを禁じ得ない。
片手を瑞佳の襟口から差し入れ、ブラジャー越しに膨らみの具合を確かめる。
予想どおりいい塩梅だ。
彼女の隣にいる名雪に電波を流してみたが、期待するような反応はなかった。
(水瀬さんの精神状態なら通じるはずだが……クソッ、面白くねえ!)
苛立ちを紛らわそうと、気をつけながら布越しに膨らみを撫で回す。
(瑠璃子の敵を──主催者を斃さなければならないのに、僕は何をやっているんだろう)
甘い吐息とともに瑞佳の体がピクンと跳ねた。


瑞佳と名雪が達が用を足しに行ってる間、大の字になり空を見上げる。
一点を見つめていると、青い空に吸い込まれてしまうような錯覚を覚えた。
瑠璃子のことを思うとどうしても切なくてたまらない。
草を踏みしめる音がし、振り向くと瑞佳が一人で戻って来た。
「恰好が婆さんみたいだぞ。下の世話なら僕がしてやるから遠くに行かなくてもいいのに」
「もう馬鹿なことばっかり言って。お兄ちゃんにはしっかりした人が必要だよ」
「瑞佳が傍にいてくれたら安心だ。ところで水瀬さんは?」
「そのうち戻って来るよ」
落ち着いたとはいえ、名雪はどこか危なっかしいところがある。
うかうかしていると背後から襲われそうな気がしないでもなかった。
283魚料理が蟹料理に:2007/02/15(木) 00:27:39 ID:XZLd7rit0
「予定を変更してすぐ出立する。瑞佳の体のことを考えると明るいうちがいいからな」
「ごめんね。気を使わせちゃって……あっ」
申し訳なさそうに俯く瑞佳を抱き寄せる。
柔らかくて温かくていい匂いのする女の子の体。
彼女を抱き締めていると瑠璃子を喪った悲しみが癒される。

「ん〜、君のその白い素肌にかけてしまいそうだ」
「何をかけるの?」
「もちろん、いや何をって……瑞佳の好きな牛乳」
「牛乳はかけるものじゃなくて飲むものだよ」
「まあ、どっちでもいいじゃないか」
拓也は目を細め、彼女の首筋に舌を這わせる。
「だ、駄目だよ、こんなことしちゃ。ヘンな気持ちになっちゃうよぅ」
顔を赤らめ小さく喘ぐ瑞佳が愛おしい。
「誰もいないんだ。ヘンになってもいいんだよ」
「──いるんですけど」
「うわっ!」
振り向くと名雪が太めの枝を手に立っていた。
無表情で生気がなく何をしでかすか分らない。

「仲がいいですね」
「兄妹の仲が良いのは良いことだ。君もよかったら義理の妹にならないか?」
「間に合ってますから結構です」
「そうなんだよ。同い年の従兄がいるんだって」
「ふうん、いとことヤり……そろそろ行こう」
拓也は余計なことを口にしかけたところで歩き出した。
284魚料理が蟹料理に:2007/02/15(木) 00:28:41 ID:XZLd7rit0
驚きとともに拓也と名雪の足が止まった。
街道に出ようとしたところで一人の男と遭遇した。
その男は長身で頑強な体つきをしており、なお且つ首輪がなかった。
茂みから出て来た三人は戦慄したまま息を飲む。
相手の男も以外だったらしく銃のようなものを構えたままである。
(駄目だ。逃げようがない)
拓也は何か話しかけようとしたが言葉が見つからない。
謎の男──岸田洋一も戸惑っていたが、余裕ができたのか軽い笑みを見せた。
「俺は君達を救うためにFARGOという闇の組織から派遣された、山田まさきという者だ」
「外部からの救援が来てるんですか?」
「そうだ。俺は偵察隊の一員なんだが仲間は全滅してしまった」
「僕達を助けて下さい。お礼に荷物は持ちますから」
「ああ、いいからいいから……。まずは君達の名前と知っている情報を教えて欲しい」


和やかな雰囲気になったものの、拓也達は完全には信用しなかった。
(わたしには判る。この人は絶対に信用できないよ)
平静を装いながらも、特に瑞佳は極度の不信感を募らせていた。
「──背負ってるコが義理の妹で長森瑞佳、隣の女の子が水瀬名雪さんです」
拓也はよどみなく簡潔に代弁した。
「ほう、水瀬さんか。みなせ違いだな」
「えっ、みなせ違いとは?」
「いや、同棲している女が皆瀬まなみという名前なんだが、どうでもいいことだ」
「ところでこれから何処へ行くんですか?」
「あー……鎌石村に行ってみようと思う」
岸田はさりげなく高槻のことを聞いてみた。
仲間だったら拓也を殺して瑞佳と名雪を陵辱するつもりだが、彼らは知らないと言う。
いずれにしろ、村へ着くまでに拓也は始末するつもりである。
(ヒャッホウ! 今日はついてるらしい!)
互いに騙し合う三人と一人の奇妙な旅が始まった。
285魚料理が蟹料理に:2007/02/15(木) 00:29:44 ID:XZLd7rit0
【時間:2日目・15:00】
【場所:D−8】

 月島拓也
 【持ち物:八徳ナイフ、トカレフTT30の弾倉、杖代わりの枝】
 【状態:瑞佳を背負っている、鎌石村へ、やや緊張】

 長森瑞佳
 【持ち物:ボウガンの矢1本、支給品一式(食料及び水は空)】
 【状態:脇腹に重傷、出血多量(止血済み)、やや緊張】

 水瀬名雪
 【持ち物:なし】
 【状態:鎌石村へ、ぼーっとしてる】

 岸田洋一
 【持ち物:鋸、カッターナイフ、電動釘打ち機8/12、五寸釘(5本)、防弾アーマー、支給品一式】
 【状態:拓也達を襲う時期を考えている、鎌石村へ、切り傷は回復、マーダー(やる気満々)】

【関連:602、627、653】
286名無しさんだよもん:2007/02/15(木) 01:38:10 ID:XZLd7rit0
『魚料理が蟹料理に』を分岐扱いでお願いします。(B-15?)
B-13ルート準拠で
627の続き
287Clown and Murderer:2007/02/15(木) 12:03:19 ID:XvvT62Sg0
「な、何なのよアンタ……!?」
皐月は思わず、そんな事を口走ってしまっていた。いきなり攻撃を仕掛けられるような事は無かった。
それでも強い警戒心を抱かせるだけの何かが、目の前の男――岡崎朋也には、あった。
震える手で、相手を見据えながらS&W M60を構える皐月。幸いにして、相手は銃を持っていない。
それにまだ出会ったばかりの人間とは言え、とにかくこちらは二人いる。いざ戦闘になっても、自分達が有利なように思えた。
そんな状況であるにも関わらず、朋也はまるで怯えた様子を見せずに声を掛けてくる。
「お前――ゲームに乗っているのか?」
「え?」
「俺はゲームに乗っている奴を許さない。お前がゲームに乗っているなら、お前は俺の敵だ」
「……お生憎様。あたしはゲームに乗ってないわ」
「そうか。なら俺が用があるのは、そっちの男だけだ」
そう言って朋也は皐月から視線を外し、その横を凝視した。皐月がその視線を追うと、そこには彰が立っていた。
身構える彰の手にはいつの間にか、薙刀がしっかりと握り締められている。
朋也を睨み返すその瞳の奥底に秘められた感情までは、皐月に読み取る事は叶わなかった。
「ちょっと、どういう事?」
「そいつは俺の仲間を殺した。だから俺は、そいつを殺す」
「――なっ!?」
それは皐月にとって、まさに寝耳に水の話である。彰とは、これから行動を共にしようとしていた。
その矢先に別の男が現れ、いきなり彰の事をマーダー呼ばわりしているのだ。
「ねえ彰さん、それは本当なの!?」
「……そんなの言い掛かりさ。冗談も大概にして欲しいよ」
「テメェッ!よくもぬけぬけとそんな事を……!」
朋也が忌々しげに、吐き捨てる。それとは対照的に、彰は涼しい顔をしたままだった。
――これまで既に何度も命のやり取りをしてきたおかげだろうか。
二人を同時に敵に回してしまいかねないこの状況でも、少なくとも外見上では、彰は一切の焦りを見せていない。
288Clown and Murderer:2007/02/15(木) 12:07:33 ID:XvvT62Sg0
「…………」
銃を手にしたまま、皐月は黙り込んでしまった。それも仕方の無い事だろう。
皐月からすれば出会って間もない彰も、今現れたばかりの朋也も信用するに足りる相手ではない。
どちらが正しいか判断出来る要素が、まるで無いのだ。軽率な行動をする訳にはいかない。
かといって、ここで時間を掛けすぎるのもまずい。今はこの二人よりも、走り去った梓の方が心配だった。
――そうやって皐月が頭を悩ませている時に、遠くで響き渡る銃声が聞こえてきた。
「これは――もしかして、梓が……?」
銃声のした方へ振り返る。それは、梓の走っていった方向から聞こえてきた。
梓が何かの戦闘に巻き込まれている可能性は、極めて高い。今はこの二人を放置してでも、梓の元へ向かわねば――
もう一刻の猶予も無い。皐月は慌てて、その旨を伝えようとする。
しかし、僅かの間でも他の事に気を取られた事は失策としか言いようが無かった。
「――ッ!?」
皐月が振り向き直した時にはもう、朋也が目前にまで迫っていた。
S&W M60の銃口を朋也に向けようとしたが、それはあまりにも遅過ぎる。
覚悟が違う――朋也は殺人への禁忌を既に捨て去っている。
集中力が違う――朋也はこの場において、彰への復讐以外は何も考えていない。
武器が違う――近距離戦に限って言えば、狙いを付けてから撃たねばならぬ銃よりも、一動作で攻撃出来る刃物の方が速い。
皐月の銃が弾丸を吐き出す前に、朋也の包丁が唸りをあげる。それは正確に皐月の首元を捉え、彼女の意識を奪い去っていた。
「……わりぃ。あんたに恨みは無いが、今は眠っててくれ」
朋也は表情を変えずに、地面に倒れ伏す皐月に向かってそう呟いた。
包丁は刃を返した形で、いわゆる峰打ちを狙う為の状態のまま、朋也の手に握られている。
その刃を元の向きに戻し、そして――朋也は大きく横に跳んだ。直後、それまで朋也がいた場所を薙刀が切り裂く。
朋也はその攻撃を放った主――七瀬彰の方へ顔を向けた。二人は各々の武器を手に睨み合う。
289Clown and Murderer:2007/02/15(木) 12:08:46 ID:XvvT62Sg0
「上手く騙してたみたいだが、残念だったな。これでもう、俺達の戦いを邪魔する奴はいねえ」
「くっ……」
彰はこの時初めて、明確な焦りを見せた。予想以上に怪我のハンデは大きかった。
薙刀を片腕で振り回すのはかなりの腕力を要し、自分程度の力ではまるで速さの足りぬ攻撃になってしまう。
それに朋也の動きが前と違って、全く躊躇の無いものになっている。このままでは確実に殺される。
僅かに後ずさる彰を、朋也がゾッとするような冷たい目で睨み付けた。
「風子も由真も、精一杯生きてたんだぞ?本当にいい奴らだった……それなのに……お前がっ……!」
「……そんなの僕の知った事じゃない。僕は絶対に優勝して、願いを叶えないといけないんだ」
「黙れ。お前は今――ここで殺すっ!」
叫んで、朋也は地面を蹴った。小細工も何も無しに、ただ一直線に彰を目指して駆けた。
大きな薙刀を無理に片腕で扱う彰の姿は、あまりにも不自然だった。何故そんな事をする必要があるのか。
――きっと、由真を殺害した際に傷を負ったのだろう。彼女はただで殺された訳ではなかったのだ。
由真の意思を継いで、自分が確実に、復讐を成し遂げてみせる。
「――このっ!」
獲物のリーチでは彰が大幅に上回る。先に相手を射程範囲に捉えた彰は、薙刀を斜めに振り下ろした。
しかし朋也はそれを難なく包丁で受け止めると、そのまま足を前に進める。
彰を倒すには、距離を詰める事が重要だ。懐に入ってしまえば、小回りの利く包丁の方が有利なのだから。
間もなく朋也は、憎き敵の、彰の体に手が届く位置まで辿り着いた。
「うおおぉぉぉっ!」
一閃。死んだしまった仲間の分まで、怒りと憎しみを籠めて、朋也は己の全力で横薙ぎに斬りつける。
彰は後ろに飛び退く事でその一撃を回避しようとしたが、避けきれない。
「がっ……!?」
後退する最中、彰は腹に痺れるような痛みを感じた。その影響で倒れてしまいそうになるが、それは何とか堪える。
朋也から距離を取る事に成功した彰だったが、その腹からは血が零れ落ちている。
幸運にも致命傷となる程の深さでは無かったが、腹部を切り裂かれてしまったのだ。
彰は歯を食い縛りながら朋也を見やり――そして、戦いの趨勢が更に絶望的なものとなった事を知る。
290Clown and Murderer:2007/02/15(木) 12:10:21 ID:XvvT62Sg0
「――終わりだ」
彰の視線の先――朋也の手には、S&W M60が握られていた。
朋也は追撃する事に固執せず、皐月の銃を回収して、それを彰へと向けていたのだった。
彰の顔に絶望が走る。朋也はそんな彰を冷酷な瞳で見据えながら、静かに言葉を紡ぎ始めた。
「俺が平和ボケしてたせいで、友達を二人も死なせちまった……。
お前に襲われた時、俺がきちんと人を殺す覚悟をしてれば、二人は死なずに済んだかも知れないんだ……!」
表情は変えず――しかし語る声は重く、悲痛に。
「でもな、俺はもう容赦しねえ。死んだ皆の分まで、お前や、ゲームに乗った他の奴らに、復讐してやる。
殺して殺して殺しまくって、最後に主催者も殺してやる」
それが朋也の自らに課した使命。ピエロと化して戦い続ける事を受け入れた、哀しい男の決意だ。
もはや彰の殺害すらも、その第一歩に過ぎない。そして朋也が引き金を引けば、その一歩は踏み出されるのだ。
時折遠くの方から銃声が聞こえてくるが、目の前の敵に集中している朋也がそれを意に介す様子は見受けられない。
間もなく訪れるであろう、確実なる死の前に、彰の頬を冷たい汗が伝う。
だがそんな時、ザッと土を踏みしめる音が彼らの耳に入った。

「あ、彰っ!?」
足音の主は、この島で彰が唯一仲間として行動を共にした人物――折原浩平だった。
地に倒れ伏す少女。そして見知らぬ男に銃を突きつけられている友人の姿。
浩平の眼前には、決着が着く寸前の殺し合いの構図があった。
まさに風前の灯となっている友人の命を救う為に、浩平は声を荒げて怒鳴りつける。
「てめぇ、そこまでにしとけよ!」
浩平の手にしたH&K PSG−1の銃口は既に朋也の方へ向けられている。
朋也は舌打ちしながら浩平を見やり、その背後から更に数人の人間が駆けつけて来ている事に気付いた。
(最悪……だな)
どんどん悪化していく状況に歯軋りしながら、朋也はそんな事を思った。
291Clown and Murderer:2007/02/15(木) 12:11:36 ID:XvvT62Sg0
【時間:二日目・14:00】
【場所:C−3】
岡崎朋也
【所持品:S&W M60(2/5)、包丁、鍬、クラッカー残り一個、双眼鏡、三角帽子、他支給品一式】
【状態:マーダーへの激しい憎悪、現在の第一目標は彰の殺害、第二目標は鎌石村役場に向かう事。最終目標は主催者の殺害】
湯浅皐月
【所持品1:セイカクハンテンダケ(×1個+4分の3個)、.357マグナム弾×15、自分と花梨の支給品一式】
【所持品2:宝石(光3個)、海岸で拾ったピンクの貝殻(綺麗)、手帳、ピッキング用の針金】
【状態:気絶、首に打撲、左肩、左足、右わき腹負傷、右腕にかすり傷(全て応急処置済み)】
七瀬彰
【所持品:薙刀、殺虫剤、風子の支給品一式】
【状態:腹部に浅い切り傷、右腕致命傷(ほぼ動かない、止血処置済み)、疲労、ステルスマーダー】
ぴろ
【状態:皐月の傍で待機】
折原浩平
 【所持品1:34徳ナイフ、H&K PSG−1(残り4発。6倍スコープ付き)、だんご大家族(残り100人)、日本酒(残り3分の2)】
 【所持品2:要塞開錠用IDカード、武器庫用鍵、要塞見取り図、ほか支給品一式】
 【状態:彰の救出、全身打撲、打ち身など多数。両手に怪我(治療済み)】
ハードボイルド高槻
 【所持品:分厚い小説、コルトガバメント(装弾数:7/7)予備弾(6)、スコップ、ほか食料・水以外の支給品一式】
 【状況:岸田と主催者を直々にブッ潰すことを決意、郁乃の車椅子を押しながら浩平の下へ】
小牧郁乃
 【所持品:写真集×2、S&W 500マグナム(5/5、予備弾7発)、車椅子、ほか支給品一式】
 【状態:車椅子に乗っている】
立田七海
 【所持品:フラッシュメモリ、ほか支給品一式】
 【状態:意識は取り戻している。浩平の下へ】
ポテト
 【状態:高槻に追従、光一個】

→669
→672
292一つの、終幕:2007/02/20(火) 19:40:43 ID:448R7xtQ0
浩之がドアを開けた時、目に飛び込んできた光景は正に地獄絵図だった。
顔を大きく切り裂かれた上に、喉を突き破られ、血で構成された水溜りの中に倒れ伏す女性の死体。
その女性の死体を抱きかかえて、悲しい喚き声を上げ続ける少女。
そんな中、返り血を浴びて至福の笑みを浮かべている女――もはや完全に鬼と化した、柏木千鶴。
「あ……あああ……」
凄惨に過ぎるその光景を呆然と眺めながら、チエが小さく声を漏らす。
それに反応して、まるで機械のように千鶴の首が動き、続いて目がぐるりと回り浩之達の姿を捉えた。
その瞳は赤く染まっており、奥底に昏い光を携えていた。そして千鶴の喉の奥から、酷く掠れた音が紡がれる。
「フフ……新しいお客さんかしら。貴方達も私の邪魔をする気?」
「……!」
千鶴の『壊れた』姿を目にし、更にその声を聞いた時にはもう、浩之は完全に言葉を失っていた。

実の所浩之は、役場にゲームに乗った者がいても、まずは説得を試みる気であった。
やはり自分は、柳川裕也のようには割り切れない――だから、ゲームに乗った者すらも出来れば救いたいと、そう思っていた。
だがしかし、今目の前に居る者はとても話が通じる状態ではない。平瀬村で見た時の柏木千鶴とは、まるで別人である。
そして目が見えずともこの場の異様な雰囲気を察し、不安げに浩之の服の袖を掴んでいるみさき。
これまでの反省を活かすなら、仲間達の死を無駄にしない為には、今こそ非情にならねばならない。
「吉岡……川名……、下がってろ」
「――え?」
二人の返事を待たずして、浩之はデザートイーグルを手に駆け出した。
仲間が殺されてしまってから戦うのでは遅すぎる。迫る脅威から仲間を守るには、手遅れになる前に戦わなければならないのだ。
頑なに殺人を拒んできた浩之ですらそう決断してしまうだけの狂気が、この死臭漂う部屋の中には満ちていた。
293一つの、終幕:2007/02/20(火) 19:42:45 ID:448R7xtQ0

「このぉっ!」
浩之は初めて明確な殺意を持ち、千鶴の胴体を狙って……人を殺す為に拳銃の引き金を絞る。
だが震える手から放たれた銃弾は滅茶苦茶な方向へと飛んでいき、千鶴の体に命中する事は無かった。
湧き上がる焦りの感情を抑え込み、両手で拳銃をしっかりと固定して、もう一度銃弾を放つ。
浩之の両肩に大きな反動が伝わったが、今度は確かに銃弾は狙い通りの位置へと飛んでいった。
だがその時にはもう、千鶴の姿は浩之の銃口の先から消えていた。
「くそっ!」
浩之は咄嗟の判断で地面を全力で蹴り、跳ねるように移動する。
遅れて連続した銃声が鳴り響き、それまで浩之がいた場所を数発の弾丸が切り裂いていた。
素早く体勢を整えて、もう一度銃を放とうとしたが、既に千鶴の銃口は浩之の方を向いている。
浩之はその場に転がり込んで、銃口より直線状に伸びる死の軌道から体を外した。
再び千鶴の89式小銃が火を噴き、浩之の頭のすぐ上の空気を銃弾が貫いていく。
圧倒的な火力による攻撃を何とか凌いだ浩之ではあったが、避け方が悪かった。
地面に転がってしまった大きな隙を、敵が見逃してくれる筈も無い。
「死に……なさい」
頭上より聞こえる、冷え切った声。 浩之が顔を上げると、千鶴がもうすぐ傍にまで迫っていた。
その手に握られた89式小銃が、浩之の眼前に突き付けられる。
「しまっ――!?」
浩之が完全に状況を飲み込むよりも、みさきやチエが悲鳴を上げる早く、部屋中に銃声が響き渡る。
訪れるのは、あまりにもあっけない死。
連続して放たれる銃弾は間違いなく浩之の胸を貫いて、一瞬にしてその命を奪い尽くすだろう。
294一つの、終幕:2007/02/20(火) 19:44:33 ID:448R7xtQ0

だが――
刹那のタイミングで何かが飛んできて、千鶴の放った銃弾の悉くがその物体に弾かれた。
「これは……?」
呆然としたまま、驚きの声を上げる浩之。
浩之には知る由も無いが、その物体はかつて少年が使用していた道具。
アサルトライフルの銃弾すらも防ぎきる、頑強な強化プラスチック製の盾だった。
「千鶴姉ぇっ!」
「――ッ!?」
聞こえてきた声に、浩之とみさきが、そして千鶴も反応する。
浩之が振り向くと、部屋の入り口に、見覚えのある女――柏木梓が立っていた。
梓は豹変しきってしまった姉の姿を前に、信じられない、といった風に目を見開いていた。
「あ、梓……!?」
浩之が声を掛けると、梓ははっと我に返り、そして少し間を置いて返事をした。
「……久しぶりだね。すまないけど、ここはあたしに任せてくれないかな?」
「けど、その女は……」
浩之は素直に頷く気にはなれなかった。千鶴はもはや話が通じる状態では無い。
誰が説得を試みようとも、結果は決まりきっているように思えた。
それでも梓は静かに、しかし力強く首を振った。とても悲しそうな目をしながら。
「あたしだって分かる。今の千鶴姉は正気じゃない……けど。それでも、あたしの大事な家族なんだ!」
梓はそう叫ぶと、重い足取りで千鶴の目の前まで歩いていった。何故か浩之には、その背中が霧に包まれたように霞んで見えた。
295一つの、終幕:2007/02/20(火) 19:45:58 ID:448R7xtQ0


「千鶴姉……」
目を背ける事無く、逆に千鶴の紅く光を放つ目をじっと見つめながら、梓が静かに話し掛ける。
対する千鶴はまるで子供のように、きょとんとした顔で梓を眺めていた。
「一体どうしたってんだよ……千鶴姉はあたし達家族の中で一番しっかりとしてたのに……」
そう。叔父の死後、柱を失って悲しみに暮れていた家族達を、千鶴は常に支えてきた。
どんなに辛い事があろうとも逃げ出さずに、たとえ自分を犠牲にしてでも、ただひたすらに頑張り続けてきた。
それが梓の中で形成されている、決して揺らぐことの無い強い姉の姿――柏木千鶴の生き様だった。
「頼むから正気に戻ってよ……人殺しなんてもうやめてくれよ……」
「人殺しをやめて……どうしろっていうの?」
「――――!」
梓がここを訪れて以来初めて、千鶴が口を開いた。それは思いの外、落ち着いた声に聞こえた。
良かった、千鶴姉はまだ『戻れる』――千鶴が錯乱せずに話し合いに応じた事で、梓の心に希望が芽生える。
「そりゃ勿論、皆で協力してこの島を脱出するんだよ。ついでに、主催者の野郎もぶっ飛ばしてさ」
「そんな事が出来ると思ってるの……?」
「あたし達家族が力を合わせれば十分いけるでしょ。それに他の皆だってこんな殺し合いは望んでないし、協力してくれるよ」
訝しげに尋ねてくる千鶴だったが、梓は明るい調子で自信満々に言った。事実梓は、脱出は十分に可能だと思っている。
それも仕方の無い事だった。梓は耕一が死んだ事を知らない上に、これまで出会った人間の大半がゲームに乗っていない者だったのだから。
それに加えて、主催者側の人間であるという少年を打倒した事も、梓の楽観的な考えに拍車をかけていた。
しかしそれでも、梓はもっと事態を重く見るべきだったのだ。
忘れてはいけない――僅か1日で40人以上の人間が命を失い、そして妹の楓もその中の一人であるという事を。
この島の現状は決して甘く考えれる物では――それどころか、今もなお絶望的と言える状況下にある。
狂った頭でも、追い詰められた現実を十二分に理解している千鶴には、梓の軽率に過ぎる言葉が届く筈も無かった。
296一つの、終幕:2007/02/20(火) 19:47:51 ID:448R7xtQ0

千鶴は歯を食い縛って、わなわなと震え出す。それからポツリと、一言呟いた。
「――――――るさい」
「……え?」
それは聞く者全てを凍りつかせるような、とても冷たい声。梓は思わず聞き返してしまった。
「うるさい!梓も愛佳ちゃんも、みんなみんな理想論ばっかりで!私を一人ぼっちにして!」
「ちが……あたしそんなつもりじゃ……」
千鶴は首を振って涙を零しながら、心の底から絶叫した。
これまで決して弱さを見せることの無かった姉の、とても悲痛な叫びの前に激しく動揺する梓。
それは話を聞いていた浩之達も一緒で、声を発する事が出来なくなってしまっていた。
「もうたくさんよ!耕一さん以外、誰も私を分かってくれない!みんな――死んでしまえばいいのよ!」
――誰一人として、全く動けなかった。起こっている出来事を、ただ傍観している事しか出来なかった。
千鶴は泣き叫びながら89式小銃を構えると、目の前にそれを向けて思い切りトリガーを引いた。
正面には梓がいて――立ち尽くす彼女の体を、荒れ狂う幾多もの銃弾が容赦なく蹂躙してゆく。
蜂の巣と化してしまった梓の体は、支えを失った人形のように、どさっと床に倒れ込んだ。
ずたぼろにされた梓の腹部と胸から大量の血が流れ出し、その目から流れる涙もまた、地面を濡らしていた。


それから少しして、ようやく浩之が声を絞り出す――ゆっくりと、震えながら。
「あんた……何してんだ?」
僅か数回とはいえ会話を交わした知人の死による悲しみや、目の前の狂人への恐怖を押し殺して、叫ぶ。
「梓は、あんたの妹だったんだろ!?それをどうしてっ……!」
「…………」
千鶴は答えない。喚く浩之を無視して、89式小銃の銃口をすっと別の方向へと向けた。
その先には愛佳が、泣き腫らした目で座り込んでいた。愛佳は千鶴の行動に気付くと、唇を動かした。
「ちづる……さん……?」
その声にはまるで生気が無く、自分の身が緊急事態に置かれている事を、全く理解していないようだった。
297名無しさんだよもん:2007/02/20(火) 19:48:21 ID:iJ2I58YL0
回避
298名無しさんだよもん:2007/02/20(火) 19:49:38 ID:iJ2I58YL0
回避
299名無しさんだよもん:2007/02/20(火) 19:50:54 ID:iJ2I58YL0
回避
300一つの、終幕:2007/02/20(火) 19:52:16 ID:448R7xtQ0

「――くそったれ!」
次の瞬間、浩之は思い切り地面を蹴った。形振り構わず、力の限り駆けた。
今の浩之の脳裏を占めている想いはたった一つ――守りたい、という意思だけだった。
これ以上、自分の前で誰も死なせたくない。一人でも多くの人を救いたい。
今にも火を噴きそうな銃口を省みず、足の筋肉を酷使して、全力で飛び込んだ。
浩之が愛佳の体を抱いて転がるのと、ほぼ同時。89式小銃が、暴力的な唸りを上げた。
「く……ぁ……っ!」
「ふ、藤田先輩!」
チエが声を張り上げて叫ぶ。弾丸のうちの一つは、浩之の脇腹を掠めていた。
急激に襲い掛かる激痛で、浩之が低い呻き声を漏らした。
千鶴は弾丸が尽きた89式小銃を捨てて、美佐江の死体の傍まで歩くと、そこに転がっているウージーを拾い上げた。
「ウフフフ……」
何が楽しいというのだろうか。自らの手で妹を殺害し、目から涙を流したままなのに、千鶴はにやりと口元を歪めていた。
まだ起き上がれないでいる浩之に向けて、のろりとした動作でウージーを構える。
「おりゃぁぁぁっ!」
「っ!?」
しかし千鶴の背後から、これまで全く動きを見せなかった者――吉岡チエが、飛び掛かってきた。
意外な人物の唐突な乱入に、千鶴は初動が大きく遅れてしまってる。
チエは走り込んだ勢いのままナイフを振り下ろし、それは千鶴の身体を見事に捉えていた。
「ああああああああっ!」
背中を大きく切り裂かれた千鶴が、迸る激痛に大きな叫び声を上げる。
それでも千鶴はどうにか横へステップを踏んで、続けざまに振るわれたチエの一撃だけは回避した。
301一つの、終幕:2007/02/20(火) 19:53:26 ID:448R7xtQ0

意表を突かれたのは千鶴だけではない。仲間である浩之も、突然のチエの行動に驚いていた。
「お前、下がってろって言っ――」
「嫌ッス!」
諌めようとした浩之だったが、それを遮るようにチエが叫んだ。とても、強く。
「あたしはこれまで、ただ守られてばっかりで……、戦いが終わった後に、悲しむだけで……」
「吉岡……?」
「あたしだって、戦えます!仲間が傷つくのを黙って見てるなんて、もう嫌ッス!」
それは無力だった少女に芽生えた、強い意志だった。仲間の死を乗り越えた少女の、固い決意だった。
浩之は一瞬戸惑うような仕草を見せ――そして、大きく頷いた。
「分かった……いくぞ、吉岡っ!」
「了解ッス!」
頷き合った後、千鶴を挟み撃ちにする形で、二人は同時に走り出した。この戦いを終わらせる為に。
敵の――柏木千鶴だった人間の抜け殻による、悲しい殺戮を終わらせる為に。


「うおおおっ!」
もう躊躇もクソも無い。浩之は乱暴にデザートイーグルの引き金を二度、引いた。
驚くべき吸収力で何事もそつなくこなす浩之は、拳銃の扱いに関してすらも、飲み込みが早かった。
デザートイーグルの銃口より放たれた弾丸は、正確に千鶴の胴体向けて飛んでゆく。
回避行動を取ろうと上半身を捻った千鶴だったが、避けきれない。千鶴の左肩から鮮血が迸る。
背中の怪我や、平瀬村の戦いで負った傷も含めれば、今の千鶴はまさに満身創痍。
肉体も精神も、もはやボロボロの状態だったが――千鶴は止まらなかった。
千鶴は残る右腕でウージーを堅持し、浩之に向けてそれを斉射する。
「ぐうっ!?」
脳に、焼け付くような感覚が伝達される。急所にこそ命中しなかったものの、浩之は左腕と右足を負傷してしまった。
続いて千鶴はくるりと後ろを向きながら、ウージーを横一直線に振り回した。
「あぐっ……」
千鶴の背後から迫っていたチエは、左腕を銃身で殴りつけられて、大きくたたらを踏んで後退した。
傷付いた三者は距離を置いた状態で、それぞれが自身の体勢を立て直す。
302一つの、終幕:2007/02/20(火) 19:55:01 ID:448R7xtQ0
「く……そ……」
浩之は左腕を押さえながら、よろよろと立ち上がった。敵は恐ろしいまでの強さだ。
正気を失ってもなお、千鶴に流れる鬼の血は猛り続けている。それでも浩之には、逃げる気など毛頭無かった。
ここで千鶴を放置すれば、夥しい数の犠牲者が出るだろう。何としても今、倒さねばならないのだ。
床に倒れている見知らぬ女性や梓の為にも――そして、千鶴自身の為にもだ。

千鶴が血に染まった顔で、こちらを見つめてくる。浩之はそれを睨み返し、デザートイーグルを持ち上げた。
もうこれで、何度目になるだろうか――血の匂いの充満する部屋の中に、銃声が響き渡った。
その場を飛び退く事で、千鶴は猛然と迫る脅威から身を躱した。
地に降り立った千鶴は再びウージーを構え、引き金にかけた指に力を入れようとする。
だが千鶴は足に異物が進入する感覚を覚え、次の瞬間、凄まじい激痛が彼女を襲った。
「ぎゃああああああっ!」
たとえ背後からの攻撃とはいえ、予想していれば、そして直接斬り掛かってくるのならば反応するのは容易い。
だからこそ千鶴は飛び道具を持つ浩之に狙いを絞っていたのだが、チエは予想に反してナイフを放り投げた。
そしてチエの武器は投げナイフである以上、本来はそういった使い方をするものなのだ。結果、ナイフは千鶴の足に突き刺さっていた。
これまで凶暴なる殺意に翳りを見せる事の無かった千鶴が、足を貫かれて、とうとう地面に膝を付く。
千鶴の外見を見渡してみると、もう血に濡れていない部位を探す方が難しかった。
返り血と、そして己の血で、千鶴の服も身体も、赤い色で埋め尽くされている。
そんな風体を晒しながらもなお、千鶴は抵抗を続けようとした。
「アアアアアアアアアアアアアッ!」
もはや言葉を成していない叫びを上げながら、千鶴はウージーの銃口をチエに向ける。
この世の物とは思えぬ千鶴の形相を目撃し、チエの身体は硬直してしまった。
勇気を振り絞って抵抗したが、圧倒的な存在を前に、チエは恐怖を拭い切れなかった。
そして同時に――
(こんなに悲しそうな顔をしてる人、見た事ないよ……)
湧き上がる同情という名の感情も、消し切れなかった。
303一つの、終幕:2007/02/20(火) 19:56:29 ID:448R7xtQ0
チエは千鶴の顔を凝視し――そして、銃声と共に千鶴の胸から大量の血が噴き出した。
千鶴の肩の向こうを見ると、浩之が立っていた。その手には、デザートイーグルが握られている。
動きの止まった千鶴は、浩之にとって絶好の的だったのだ。
「ア……ア、ァァ……」
千鶴が口から盛大に吐血し、ずるずると床に崩れ落ちていく。
そのまま千鶴の身体はぴくりとも動かなくなり、ただ血だけが零れ落ち続けていた。

「終わった……のか?」
血の海に沈んだ千鶴を見つめた後、浩之がぼそりと呟いた。それはチエも同感だった。
時間にすれば僅か30分にも満たぬ出来事だったが――永遠にも感じられる、長く苦しい戦いであった。
それ程この戦闘は厳しいものだったのだ。複数の人間が命を失い、残された者も傷付いている。
そこで浩之は、ふともう一人の仲間の事を思い浮かべた。
「そうだ、川名は――」
浩之はみさきの姿を探し出すべく、首を回そうとした。しかしそれより早く、浩之を衝撃が襲う。
「浩之君っ!」
「うおっ!?」
服越しに伝わる、柔らかい感触。そして女性特有の、鼻を刺激する心地好い香り。
――みさきが、浩之に抱きついていた。光を失ったその瞳が、涙で滲んでいる。
「こんな事言うのは不謹慎だけど――良かった……浩之君が死ななくて、本当に良かったよ……」
目の見えないみさきだったが、音声と気配だけでも戦いの凄惨さは容易に推し量れた。
浩之の事が心配だった。しかし自分がその場に飛び込めば、確実に足手まといになる。
だからこそみさきは、戦火の及ばぬ位置で浩之の無事をただ祈り続けるしか無かったのだ。
304一つの、終幕:2007/02/20(火) 19:58:03 ID:448R7xtQ0
「川名……」
浩之は、みさきの震える肩を抱きしめた。少しでも、彼女を安心させようと。
何としてでも守りたいと思った。目が見えなくとも心優しき、この健気な少女を。
「大丈夫だ、俺は死なねーよ。絶対生き延びて、そして皆と一緒に帰るんだ」
「浩之君……」
ぎゅっと抱き締めあう。そうしているうちに、少しずつみさきの震えが収まってきた。
最後に一際強く腕に力を込めてから、みさきの背に回している手を放した。
「さて、まずは後始末か」
いつまでもお互いの無事を祝っている訳にもいかない。死体の埋葬、傷の手当て、他にも色々しなければならない事はある。
銃声を聞きつけた殺人者が、いつこの場に飛び込んでくるとも限らない――最優先事項は、武器の回収だった。
武器を探そうと思いふと横を見ると、チエが僅かに顔を赤くしてこちらを眺めていた。視線に気付き、慌ててチエは背を向ける。
「くあっ……」
浩之の頬を、冷たい汗が伝う。そう、抱き合うシーンは当然の如く見られていたのだ。
しかし、これはまさに自業自得というものである。浩之はバツが悪そうに頭の後ろを掻いて、武器の回収を始めようと歩く。
305名無しさんだよもん:2007/02/20(火) 19:58:10 ID:iJ2I58YL0
回避
306名無しさんだよもん:2007/02/20(火) 19:59:30 ID:iJ2I58YL0
回避
307一つの、終幕:2007/02/20(火) 20:00:13 ID:448R7xtQ0



ダダダダッ!!



「――――ッ!?」
「何っ!!?」
響き渡った銃声に浩之が振り向くと、千鶴が――死んだと思っていた千鶴が、倒れたままの姿勢でウージーを放っていた。
鬼の力の恩恵によるものか、当たり所がマシだっただけなのかは分からないが、ともかく千鶴はまだ生きていたのだ。
「……ァ……ァァァァ……」
喉の奥から聞き取れぬ程小さい呻き声を出しながら、千鶴は銃口をすっと浩之に向けた。
浩之はデザートイーグルを構えトリガーを引き、そして弾が尽きている事に気付いた。
鞄の中に予備マガジンはあるが、取り出している時間は無い。今の自分の足では、身を躱そうとしても間に合うとは思えない。
いや、最後まで諦めちゃ駄目だ――!
跳躍するべく、浩之は傷付いた足に力を入れた。だがそれより先に、一つの銃声が聞こえた。
浩之は自分が撃たれたものだと勘違いしたが、そうでは無かった。見ると、千鶴の眉間から血がシャワーのように噴き出していた。
千鶴はウージーを手放し、がっくりとその首が垂れ落ちて、今度こそ紛れも無い完全なる死を迎えた。
助かったのだ、とにもかくにも。しかしこの場で銃を持っているのは、自分と千鶴だけの筈。
一体誰が――

「……したくなかった」
聞こえてきた声に、浩之は首を向けた。そこでは浩之にとっては名も知らぬ少女――小牧愛佳が、ドラグノフを構えていた。
「私……千鶴さんを助けたかった……。こんな事したくなかった……したくなかったよぉ……」
愛佳はドラグノフを地面に捨てて、目からぼろぼろと大粒の涙を零し、床に崩れこんだ。
事情を知らぬ浩之は、どうして良いか分からず呆然と立ち尽くした。
だが――何かが引っかかる。何か、大事な事を忘れていないか?
そうだ、千鶴が死ぬ前に放った銃弾は、誰を狙っての物だったのだ?
湧き上がる焦燥感と共に、浩之は周囲を確認する。そしてデザートイーグルが、浩之の手から落ちた。
308一つの、終幕:2007/02/20(火) 20:01:56 ID:448R7xtQ0


「か……か……、川名ぁぁぁぁぁっ!」
みさきが床に突っ伏していた。その腹の辺りから流れ出す、夥しい量の血。
止まる事の無い、赤い血。彼女の生命が、その血と共に失われてゆく。
自分の怪我などどうでもいい。浩之は走った。僅か数メートルの距離が、酷く長くて煩わしい。
みさきの身体を抱き上げる――それは、とても軽く感じられた。
みさきは浩之に向けて、微笑みかけた。信じられないくらい、穏やかな笑みだった。
「ごめんね浩之君。やられちゃったよ……」
「馬鹿、何で謝るんだよ!俺が……俺が油断したせいだっ……!」
「ううん。浩之君は何度も私を守ってくれたよ。浩之君がいなきゃ、私もっと早くに死んでた……」
「でも――」
それ以上言葉を続けられない。何か言おうとした浩之の口を、みさきの人差し指が抑えていた。
「それより――お願いがあるんだけど、良いかな?」






浩之達は、役場の外に出ていた。太陽が見える場所に行きたい――みさきの要望はそれだけだった。
すぐ近くで、平瀬村で見た謎の生物――柏木千鶴が騎乗していたウォプタルが、寂しげに佇んでいる。
「そうか、あいつは主人を失ったんだな……」
呟く浩之は、今にも息絶えそうなみさきをしっかりと背負っていた。
309名無しさんだよもん:2007/02/20(火) 20:02:03 ID:iJ2I58YL0
回避
310名無しさんだよもん:2007/02/20(火) 20:03:33 ID:iJ2I58YL0
回避
311一つの、終幕:2007/02/20(火) 20:03:37 ID:448R7xtQ0
「ねえ、浩之君……」
みさきが話し掛けてくる。注意していなければ聞き落としそうなくらい、とても小さい声だった。
「――何だ?」
「今日の夕焼けは……何点くらいかな?」
言われて浩之は、天を仰ぎ見た。少し考えた後、浩之は答えた。
「――綺麗な夕日だぞ。文句無しの、100点満点だと思うぜ」
「ふふ……浩之君は優しいね……」
「……どうしてだ?」
「この時間に……夕焼けなんて見えるわけ、ないよ」
――そう、嘘だった。夕焼けなど見えない。まだ陽は天高くに昇ったままだった。
浩之は何も言えなかった。首を回して、ただみさきの顔を見つめる。
「そんな優しい所も……好きだよ」
「……え?」
浩之は自分でもおかしく思えるくらい、間抜けな声を出してしまった。
それくらい、みさきが発した今の言葉は浩之を驚かせていた。
みさきは最後の力を振り絞り、顔の筋肉を強引に動かして、笑みを作って見せた。
「私ね……浩之君の事――」
そこで突然、言葉が途切れる。それは本当に、いきなりだった。
「川名……?」
声を掛けるが、返事は無い。
「嘘だろ?ここからが……大事な所だったじゃねえか!」
みさきを背中から降ろして抱きかかえ、がくがくと揺さぶる。
だが結果は変わらない。みさきは穏やかな笑みを浮かべたまま、もう事切れていた。
この時浩之は、神というものを心底憎んだ。せめてみさきに――最後の言葉くらい、言い切らせてあげて欲しかった。
312一つの、終幕:2007/02/20(火) 20:05:16 ID:448R7xtQ0
浩之は両腕でぎゅっとみさきの身体を抱き締めて、そして唇を一文字に引き結んだ。
すぐに顔が崩れそうになって、また唇を引き締めて、その繰り返し。
何度も何度も、傍から見れば滑稽なその行為を続けた。やがて、それを見かねたチエが言った。
「……駄目だと、思うッスよ」
みさきの手に、自身の手を重ね、もう一度。
「こんな時くらい我慢せずに、思いっきり泣かないと駄目だと思うッスよ。じゃないと、いつ泣けって言うんスか……!?」
「…………!」
浩之はようやく――顔をくしゃくしゃにして、子供のように泣きじゃくった。

【時間:2日目14:30】
【場所:C-03 鎌石村役場】

藤田浩之
【所持品1:デザートイーグル(.44マグナム版・残弾0/8)、デザートイーグルの予備マガジン(.44マグナム弾8発入り)×1】
【所持品2:ライター、新聞紙、志保とみさきの支給品一式】
【状態:号泣、脇腹と左腕と右足を負傷(それぞれ痛みはあるが、動けないほどでは無い)】

吉岡チエ
【所持品1:投げナイフ(残り1本)、救急箱、耕一と自分の支給品一式】
【所持品2:ノートパソコン(バッテリー残量・まだまだ余裕)】
【状態:悲しみ、左腕負傷】

小牧愛佳
【持ち物:ドラグノフ(6/10)、火炎放射器、缶詰数種類、他支給品一式】
【状態:号泣】

ウォプタル
【状態:役場の近くに放置】

川名みさき
【状態:死亡】
313名無しさんだよもん:2007/02/20(火) 20:05:17 ID:iJ2I58YL0
回避
314一つの、終幕:2007/02/20(火) 20:07:05 ID:448R7xtQ0
柏木梓
【状態:死亡】

柏木千鶴
【状態:死亡】

【備考】
以下の物は役場内に放置
・投げナイフ、グロック19(残弾数7/15)、予備弾丸(9ミリパラベラム弾)×11、包丁、食料いくつか、
特殊警棒、強化プラスチックの大盾(機動隊仕様)、支給品一式×4、支給品一式(食料を半分消費)、
89式小銃(銃剣付き・残弾0/22)、89式小銃の予備弾(30発)×2、ウージー(残弾3)、ウージーの予備マガジン弾丸25発入り×3

→666
→689

>ID:iJ2I58YL0氏
回避大感謝です
315括られるもの:2007/02/22(木) 18:33:14 ID:sBaGRzJi0
激戦の傷痕深い地から少し離れた小さな廃屋。
その中に寝そべるのはかつて向坂雄二、そして神岸あかりだった者達の遺骸だった。
廃屋内にあった衣服を被せられ、彼らの体の大半は隠されている。
唯一、雄二の頭だけがいまだ露出された状態にあった。

救えなかった。
あかりも、雄二も。
姿を消した往人と綾香の戦いもとっくに終わっているだろう。
今から探しても……到底間に合わない。

消沈する気持ちのまま向坂環は一人、腰を落とした姿勢で弟の顔を眺め見る。
結局自分は雄二に大した事をしてあげられなかったように思う。
昔からただ叱りつけて振り回すだけで、碌に優しさを与えてやれなかった。
だから環は、せめて今だけでも雄二の頭を撫でた。
慈しむよう、優しく。
「生きてるうちにこうしてあげれば良かったのに、乱暴なお姉ちゃんでごめんね……」
雫が一滴降り注ぎ、雄二の頬を塗らした。
最後に雄二の顔に衣服を被せる。
「じゃあね、雄二……」
環は立ち上がって荷物を背負い、歩き出す。
こうして姉と弟は、永遠の別れを遂げた。




環が廃屋の外へ出ると人が三人待っていた。
先の騒動の終わり際に駆けつけてきた者達だ。
環はまだ彼らの事は名前しか知らない。
弟を殺害した張本人―――柳川祐也が、ぼそっと呟いた。
「俺を恨んでいるか?」
316括られるもの:2007/02/22(木) 18:35:42 ID:sBaGRzJi0
環は目を閉じて静かに首を振った。
「命を助けて頂いたのは事実です。それに―――」
再び目蓋を上げて、それからしっかりと柳川の目を見て言った。
「人を殺そうとしていた雄二と、殺人を止めた柳川さんのどちらに非があるか……子供でも分かる事です。
それを逆恨みするような人間は、もう向坂環ではありません」

柳川は「そうか」とだけ言ったきり、黙りこんだ。
代わりに留美が感心しきったように口を開く。
「環さんは……強いね」
「そんな事無いわ。私はただ―――」


「向こうで雄二が自慢出来るような姉になりたいだけよ」







柳川ら三人は、環との情報交換を行った。
首輪を解除しうる人物―――姫百合珊瑚の存在を教えるべきかどうか、柳川は迷った。
万一優勝を目指す者にまで情報が伝われば、真っ先に珊瑚が狙われる事になるからだ。
しかし環の仲間が待つ診療所には、あのリサ=ヴィクセンがいるという。
リサと情報を共有した方が良いと判断し、柳川は全てを話した。
情報伝達の必要性を感じた環は、怪我の応急処置を済ませると速やかに診療所の方へ戻っていった。


情報を得たのは環だけでは無い。
柳川達が初めて知った事実。
佐祐理のもう一人の探し人―――相沢祐一の死。
317括られるもの:2007/02/22(木) 18:37:55 ID:sBaGRzJi0
柳川の脳裏に、星空の下で楽しそうに語る佐祐理の顔が思い浮かぶ。
『佐祐理は、一杯やりたい事あるんですよーっ』
『舞や祐一さんと一緒にまた学校に行きたいし、お弁当も食べたいです』
『二人と一緒にまたダンスパーティーに出るのも良いですねーっ』
『ずっと一緒に、たくさん思い出を作りたいです』
平凡な、けれどとても大事な夢。
しかし川澄舞も相沢祐一ももういない。
佐祐理の願いが叶う時は、永久に訪れないのだ。

佐祐理は泣かなかった。
全てが終わるまで泣かないともう決めていたから。
「祐一さんは遠い場所に行ってしまわれたのですね……」
佐祐理は空を見ながら、ただそれだけ言った。
だけど、その姿は寂しそうで……、とても儚いものに見えて……。
柳川は佐祐理を暖めるように、彼女の手を握る事くらいしか出来なかった。



そんな二人の様子を見守る留美の手にはヘアバンドが握られている。
あの赤髪の少女の死体が神岸あかりのものだと知り、拝借してきた物である。
留美はあかりと面識すら無い。
差し出がましいとは思ったが……浩之の心境を考えると、そうせずにはいられなかった。
(あの女の子……悲しそうな死に顔だったな……)
そんな事を考えてから、留美は浩之の事を思い起こす。
318括られるもの:2007/02/22(木) 18:40:08 ID:sBaGRzJi0
たとえ自衛の為であろうとも極力殺人を否定する留美と浩之は、似た者同士であった。
しかし今の浩之の境遇は、あまりにも報われないものである。
志保を、雅史を失い、そしてあかりすらも失ってしまった。
だからこそ留美は、あかりの遺品を浩之に届けたいと思ったのだ。
ただの自己満足に過ぎないかも知れない。
その行為にどれ程の意味があるか分からない。
それでも何かせずにはいられなかった。



―――それから少し時間が経過して。
いつまでもこうしてはいられない。
まずはこれからの行動を決めなければならない。
差し当たっては―――佐祐理が困ったように言った。
「え、えーと……。この方は、どうしましょうか……?」
三人の正面。
大きな木の幹に、気絶したままの長瀬祐介が括り付けられていた。

【時間:2日目16:30頃】
【場所:I−6】

柳川祐也
【所持品:イングラムM10(18/30)、イングラムの予備マガジン30発×8、日本刀、支給品一式(片方の食料と水残り2/3)×2、青い矢(麻酔薬)】
【状態:左肩と脇腹の治療は完了したが治りきってはいない、肩から胸にかけて浅い切り傷(治療済み)】
【目的:祐介の処遇を考える】

倉田佐祐理
【所持品1:舞と自分の支給品一式(片方の食料と水残り2/3)、救急箱、吹き矢セット(青×3:麻酔薬、赤×3:効能不明、黄×3:効能不明)】
【所持品2:二連式デリンジャー(残弾0発)、投げナイフ(残り2本)、レジャーシート】
【所持品3:拾った支給品一式】
【状態:健康】
【目的:同上】
319括られるもの:2007/02/22(木) 18:41:35 ID:sBaGRzJi0
七瀬留美
【所持品1:S&W M1076 残弾数(7/7)予備マガジン(7発入り×3)、日本刀、あかりのヘアバンド、青い矢(麻酔薬)】
【所持品2:スタングレネード×1、何かの充電機、ノートパソコン、支給品一式(3人分、そのうち一つの食料と水残り2/3)】
【状態:健康】
【目的:目的は冬弥を止めること。千鶴と出会えたら可能ならば説得する、人を殺す気、ゲームに乗る気は皆無】

向坂環
【所持品@:包丁、支給品一式、レミントン(M700)装弾数(5/5)・予備弾丸(10/10)、】
【所持品A:救急箱、ほか水・食料以外の支給品一式】
【状態:診療所に向かう、頭部に怪我・全身に殴打による傷(治療済み)、全身に痛み、左肩に包丁による切り傷(応急処置済み)、右肩骨折、疲労】

長瀬祐介
【所持品1:100円ライター、折りたたみ傘、支給品一式】
【所持品2:懐中電灯、ロウソク×4、イボつき軍手、支給品一式】
【状態:気絶、後頭部にダメージ、ロープ(少し太め)で木に括り付けられている。有紀寧への激しい憎悪、全身に痛み】

【備考】
・金属バット・ベネリM3(0/7)・支給品一式×2、包丁は祐介が括り付けられている木の近くに置いてある


(関連698 B−13)
320黒幕:2007/02/27(火) 18:28:38 ID:/eSUbCbQ0
「何だと、それは本当かっ!?」
とある部屋で、野太い怒声が響く。濁声の主は、ゴリラの如き筋骨隆々な肉体を誇る男。
飛ぶ鳥も落とす勢いの篁財閥、篁総帥直属のシークレットサービスを纏める地位に就いている。
数々の戦功を上げている歴戦の勇士、世界中の裏の人間から恐れられている戦闘狂、傭兵隊長『狂犬』醍醐その人であった。
「……そうか。分かった」
電話の相手に確認しても同じ。まさか一人だけ首輪を外したという事も無いだろう。
醍醐の宿敵――NASTYBOY、那須宗一は間違いなく死んだ。醍醐は電話を切ると、椅子の背に声を掛けた。
「――総帥。クソガ……いえ、那須宗一の死亡が確認されました。それも、異能力者相手ではなく、一般人に倒されたそうです」
椅子に座っていた主は、ゆっくりと音を立てながら醍醐の方へと振り向いた。
「ふむ……少年に続いて那須宗一までもが殺られるとはな……。我らの予想以上に激しい戦いとなっているようだな」
その声は、それだけで人を惹きつける甘い響きがあり、とても80代の老人の、それどころか人間のものとすら思えない。
巨大財閥の総帥にして、100兆円を超える個人資産を保有する、世界経済のキーマン。そして、このゲームの主催者。
篁財閥総帥は外見もまた、人間離れしていた。初老の男――にも関わらず、彼の放つ威圧感はどんな軍人をも遥か凌駕している。
一目で分かる、圧倒的な存在感、桁外れの迫力、威厳。
蛇の様な目から放たれる、燃え盛る赤い光の前には、どのような者であれ萎縮せずにはいられないだろう。
321黒幕:2007/02/27(火) 18:33:39 ID:/eSUbCbQ0
那須宗一の死を受けて醍醐がどこか、忌々しげに口元を歪ませる。
「所詮は奴も、私と総帥の出来損ないに過ぎないクローンと同じだったという事でしょう」
すると篁は、視線を醍醐の方へと流して、それから心底愉快そうに言った。
「八ッ八ッ八ッ……。ではお前はその程度の軟弱な者に、何度も苦渋を飲まされてきたというのか?」
「い……いえ、そのような事は……。認めたくはありませんが、あの男は超一流のエージェントです」
「そうであろう?よく覚えておくが良い。油断すれば、いくらお前と言えども……不覚を取るぞ」
篁は目を見開くと、ジロリ、とそれだけで灼き斬れるほどに睨み付けた。醍醐は、慌てて畏まる。
「八ッ、承知しました!」
二人はそれきり口を閉ざし、部屋の中に重い沈黙が流れた。周囲のマイクから、時折阿鼻叫喚の悲鳴が聞こえてくるのみである。
そのまま幾ばくか時が流れ――やがて醍醐が思い出したように、再び言葉を発した。
「ですが――よろしいのですか?総帥は、あれ程あの男にご執心であられたのに……」
「構わんよ。青い宝石の秘めたる力を知った以上……もはや奴を利用するまでもない。
お前のほうこそ鬱憤が溜まっているのでは無いか?あの男を自らの手で倒すのが、お前の宿願だったであろう」
「グッ……ご安心を。私は計画の成功を最優先目標として、動きます」
醍醐が渋々言うと、篁はまた笑った。とても甘美な、しかし吐き気を催す笑いだった。
「フフ、そう取り繕ろわずともよい。安心しろ、いずれお前にも思う存分暴れ回る機会を用意してやる」
「八ッ、ありがたき幸せ!」
「――では下がってよい。再びこの愉快な遊戯の監視を続けよ」
「仰せの通りに……」
醍醐が部屋を去った後、篁はくるりと椅子を回して、口の端から赤い舌を覗かせながら呟いた。
「フフフ……さて、参加者の諸君はどこまで私を楽しませてくれるかな」
322名無しさんだよもん:2007/02/27(火) 18:34:10 ID:/eSUbCbQ0
【時間:二日目・17:00】
【場所:不明】


【所持品:不明】
【状態:健康】

醍醐
【所持品:不明】
【状態:健康】

→722
323波乱の前兆:2007/02/28(水) 19:21:56 ID:qA9+3QXb0
鎌石村を出立して、一路氷川村を目指す河野貴明様御一行。しかし彼らの足取りは芳しくなかった。
彼らの――特に、貴明の怪我は本来なら即時入院するべきレベルだ。
その上彼らは最短距離、つまり山を越えるルートを選択しており、その事も疲労の蓄積に一役買っていた。
「貴明さん。辛そうですけど――荷物を持ちましょうか?」
息を荒くしている貴明に対して、ささらが心配そうに提案を持ちかける。
「疲れてるのは、否定しないけど……先輩だって肩を怪我してるじゃないか。俺だけ楽するなんて、出来ないよ」
貴明の言葉通り、ささらの右肩は名雪によって撃ち抜かれているのだ。右腕を動かせない事は無いが、余計な負荷は加えない方が良いだろう。
「それより久寿川先輩さ、普段通りタメ口で良いよ。ずっと堅苦しくしてても疲れるだろ?」
「あ、ソレ私も同感。久寿川さんの方が年上なんだし、敬語なんて必要無いわよ」
「そうですか?……そうね、じゃあそうするわ。気を遣ってくれてありがとう」
ささらはそう言って僅かに頬を緩ませた。それを見て貴明も満足げに微笑んだ。
穏やかな雰囲気の中、三人は再び道を歩いてゆく。精神的には少し楽になった気がしたが、それも一時の事。
すぐに次の疲労の波が押し寄せてくる。脂汗を滴らせている貴明を見かねて、マナが口を開く。
「貴明やっぱり辛そうだよ。あたし大した怪我はしていないし、貴明の分も荷物持ってあげるわよ」
言われて貴明は目をパチクリさせた。確かにマナの怪我は自分やささらに比べて浅いが――それ以前の問題がある。
少し思案してから、貴明はタブーを口にした。口に、してしまった。
「うーん……あれじゃない?観月さんの体格じゃ、荷物を二人分持つのは……」
「――それって、あたしがチビだって事?」
「ん、まあ身も蓋も無い言い方をすれば……」
貴明がそう言うやいなや、彼の視界からすっとマナの姿が消えた。
「ぐあっ!?」
次の瞬間にはマナの強烈な蹴りが放たれて、脛を痛打された貴明は地面を転げまわってもがいていた。
324波乱の前兆:2007/02/28(水) 19:23:59 ID:qA9+3QXb0



――貴明が地獄の苦しみを乗り越えてから数十分後。結局貴明の荷物の大半はマナに剥ぎ取られ、ステアーAUGを残すのみとなっている。
荷物が減ったお陰で貴明の負担も軽くなり、一行は順調に神塚山の斜面を降っていた。
街道が眼下に広がっており、氷川村もそう遠くないだろう。だがそんな良い流れに反して、マナが重い声でぼそっと呟いた。
「ねえ……もし氷川村にも麻亜子さんがいなかったらどうする?」
マナが抱く一抹の不安。麻亜子はゲームに乗っている以上、人が集まりやすい村に来るだろう。
鎌石村を素通りして、平瀬村まで行くとは考え難い。自然、鎌石村か氷川村の二つに、捜索範囲は絞られるのだが……。
鎌石村では色々あり過ぎて、満足な捜索が行えなかった。もしかしたら、まだ麻亜子は鎌石村にいるのでは?
それがマナの心配事だった。氷川村に麻亜子がいなければ、あまりにも多くの時間を無駄にしてしまう事になるのだ。
しかし浮かない表情のマナとは対照的に、貴明はあっけらかんとしたまま答えた。
「それは大丈夫だよ。あの人の習性は、久寿川先輩と俺が大体把握してるから」
「どういう事?」
「あの人は基本的に、極度の目立ちたがり屋なんだよ。さっき俺達と少年が戦ってた時の音は、かなり広範囲まで聞こえていたと思う。つまり――」
「麻亜子さんがもし鎌石村に来てたんなら、その音を聞きつけて嬉しそうに寄ってきてた、って事?」
「そうだね。あの人ならきっと、ポーズでも取りながら現れるんじゃないかな」
「学校の時も思ったけど、凄い変わった人ね……。――あ、そうだ」
マナは若干顔を引き攣らせながらもそう言って、それからはっと気付いて鞄に手を突っ込んだ。取り出した物を、貴明に手渡す。
「これは――携帯電話かな?」
「うん。学校で拾ったんだけど、どうやら色んな施設の番号が、登録されてるみたいよ。これで氷川村の施設に、電話を掛けてみるっていうのは、どう?」
「良いわね。早速やってみましょう」
ささらが頷くのを確認して、貴明は携帯電話の電話帳を開いた。貴明が選んだ電話先は――


     *     *     *
325波乱の前兆:2007/02/28(水) 19:26:17 ID:qA9+3QXb0

観鈴と合流した英二は診療所に向かって急いでいたのだが、途中で観鈴が腹を押さえて苦しみ出した。
銃で撃たれた観鈴の怪我は、完治とはほど遠い状態にあったのだ。仕方なく、英二達は診療所は歩いて行く事にした。
だが――診療所から聞こえてきた爆発音。観鈴はもう腹の怪我が痛むのも無視して、走った。
英二も観鈴の無茶を諌めようとはせずに、彼女の荷物を持って駆けた。
その努力も虚しく、間に合わなかった。
英二と観鈴は、焼け焦げた床の上で無言のままに、身じろぎひとつ出来ないでいた。
眼前に横たわる物は、かつての仲間――那須宗一の死体。その他の者達の姿は無かった。何が起こったか、考えるまでもない。
篠塚弥生と藤井冬弥は爆弾の類の武器を使用して、世界No1エージェントを殺害せしめたのだ。
知人の凶行と、驚くべき底力に英二は戦慄した。
そして、宗一の死を悲しむ暇も無く、診療所内にけたたましいベルの音が鳴り響く――。

『……あ、もしもし』
英二が受話器を取り耳に当てると、その向こうから微かに聞き覚えのある男の声が聞こえてきた。
この声は確か――
「間違っていたらすまない。君はもしかして、貴明少年か?」
『――!』
多分、合っている。英二の記憶の片隅には、学校で必死に自分達を救ってくれた貴明の声が残っていた。
『どうして俺の名前を?』
「ああ、君は僕の事を知らないんだね。僕はほら……学校の時、環君と一緒にいた眼鏡の男で、緒方英二って名前さ」
『そうですか。タマ姉は元気にしていますか?』
「そ、それは……」
一瞬言葉に詰まったが、英二は現在の状況を簡単に伝えた。環は他の数人の仲間と共にいなくなってしまった事。
環と一緒に出て行った仲間の一人が死んでしまっていた事。診療所も、既に戦火に巻き込まれた事。
朝霧麻亜子はまだ氷川村では見かけていない事。そして――向坂雄二がゲームに乗っていた事もだ。
326名無しさんだよもん:2007/02/28(水) 19:28:07 ID:qA9+3QXb0
『そんな……。雄二が……』
小さく震える声。電話越しでも、貴明の沈んだ表情が手に取るように分かる。
「彼は正気を失っている。向坂少年を説得するつもりなら、気をつけた方が良い」
『――分かりました。これから英二さん達は、どうするんですか?』
「もう診療所にはいられないし、仲間を探しに――それから、知人を懲らしめに行ってくるよ」
『そうですか。これから俺達も氷川村に向かいます。……どうか、タマ姉をよろしくお願いします』
「……任せてくれ」
ゲームに乗った、二人の知人の説得。それは困難を極める道程となるに違いない。
英二は、これから苦難が降りかかるであろう貴明達の無事を祈りつつ、受話器を置いた。
振り返って、黙って会話が終わるのを待っていた観鈴に声を掛ける。
「観鈴君、聞いての通りだ。まずは環君を探しに行こう!」
英二は観鈴が無言で頷くのを確認すると、すぐさま扉を開けて診療所の外へと歩を進めた。
(環君、無事でいてくれよ……!そして青年に弥生君、僕は君達を――殺さなくてはいけない)
宗一の死は、元を辿れば自分の落ち度だった。消防署での一件――弥生をあの時殺しておけば、結果は違っていた。
だからこそ、自分の落ち度は自分でケジメをつける。それが仲間達に対しての、最低限の責任だった。


――普段の元気な姿は、最早何処にも見られない。観鈴は、ただ英二の後ろを歩き続けていた。
ポケットに大切な人が作ってくれた紙人形を入れて、両手でしっかりとワルサーP5を握り締めて。
(往人さん、私頑張るから……。往人さんの分も頑張って、あの人を撃つから……見守っててね)
純真だった心に宿った、ドス黒い感情。一方で、心の奥底に残っている祐一との約束。
様々な想いが、氷川村の舞台で交錯しようとしていた。



【時間:二日目・16:45】
【場所:G−5】
河野貴明
【所持品:ステアーAUG(残段数30/30)、予備マガジン(30発入り)×2】
【状態:中度の疲労、左脇腹、左肩、右腕、右肩を負傷・左腕刺し傷・右足、右腕に掠り傷(応急処置および治療済み)、氷川村へ、目標は雄二と麻亜子の説得】
327波乱の前兆:2007/02/28(水) 19:29:36 ID:qA9+3QXb0
観月マナ
【所持品1:ワルサー P38(残弾数5/8)、ワルサー P38の予備マガジン(9ミリパラベラム弾8発入り)×2、カメラ付き携帯電話(バッテリー十分、全施設の番号登録

済み)】
【所持品2:38口径ダブルアクション式拳銃(残弾数0/10)、9ミリパラベラム弾13発入り予備マガジン、、SIG・P232(0/7)、仕込み鉄扇、支給品一式×3】
【状態:若干疲労、足にやや深い切り傷(治療済み)。右肩打撲、氷川村へ】
久寿川ささら
【所持品:Remington M870(残弾数4/4)、予備弾(12番ゲージ弾)×27、スイッチ(未だ詳細不明)、トンカチ、カッターナイフ、他支給品一式】
【状態:若干疲労、右肩負傷(応急処置及び治療済み)、氷川村へ、目標は麻亜子の説得】


【時間:二日目・16:45】
【場所:I−7】
緒方英二
【持ち物:H&K VP70(残弾数0)、ダイナマイト×4、ラッシュメモリ、ベレッタM92(6/15)・予備弾倉(15発×2個)・支給品一式×3】
【状態:健康、目標は仲間、特に環の捜索と弥生・冬弥の殺害】
神尾観鈴
【持ち物:ワルサーP5(2/8)、紙人形】
【状態:目標は綾香の殺害、脇腹を撃たれ重症(歩く分には大きな支障が無い程度に回復)、英二に同行】

→657
→699
→722
328波乱の前兆:2007/02/28(水) 20:56:16 ID:qA9+3QXb0
→ルートB15指定でお願いします
329最悪の出会い(前編):2007/03/01(木) 04:51:16 ID:633P+5BS0
宮沢有紀寧は柏木初音を連れて戦場から逃亡した後、近くの民家で息を潜めていた。
時折聞こえてくる爆発音、銃声。
氷川村はどうやら想像以上の危険地帯となっているようである。
そのような状況で出歩くのは下策に過ぎる。
少し時間を置いて、血気盛んな者達の戦いが終わった頃に動くのが最善と考えたのだ。

何も正面から強敵と事を交える必要は無いし、そもそも自分は積極的に人を狩ってまわるべきではないのだ。
確かにどんな人間であろうとも、銃弾をまともに受ければ問答無用で死ぬ。
そういった意味ではこのゲームは先手必勝であり、先に襲撃を仕掛ける側が有利だ。
しかし有紀寧の戦闘能力は高くないし、初音など盾になるかどうかすら怪しい。
もっと強力な傀儡を手に入れない限り、直接戦闘は避けるべきだろう。


―――民家に入ってからもうだいぶ経つというのに、初音はまだ表情を曇らせたまま窓に張り付いて外を眺めていた。
包丁一本で死地に飛び込まされた祐介の事を心配しているのだろう。
有紀寧はそんな初音の姿を見て、呆れ果てていた。
(愚かな人ですね……。今この時も私が作動させた首輪の爆破時刻は刻一刻と迫ってきている。
あなたの命の蝋燭はどんどん短くなっているんですよ?)

有紀寧は乾いた笑みを浮かべた後、机の上でノートパソコンを起動した。
自分が創り上げたピエロ――柏木耕一の戦果を確認する為にだ。
だが開かれたロワちゃんねるの内容を前にして、有紀寧の目が大きく見開かれる。
「これは……まずい事になりましたね……」
有紀寧は、周りに聞こえないよう小さな声で呟いた。
ロワちゃんねるの死亡者スレッド。
第2回放送後も大量の死者が出ていたのは、有紀寧にとって喜ばしい事だった。
掲示板で岡崎朋也の名前を騙って扇動を行ったり、耕一を平瀬村に差し向けた甲斐があったというものである。
しかし問題は、死者リストの中に柏木一族の名前が三つも追加されていた―――即ち、初音以外の柏木家の人間が死に絶えたという事だ。
これではもう初音を人質として、強力な護衛を得る事は出来ない。
それ以前に耕一の死を知れば、失う物の無くなった初音は間違いなく謀反を企てるだろう。
もう初音も、そして祐介も隷属させるのは不可能だ。
330最悪の出会い(前編):2007/03/01(木) 04:53:21 ID:633P+5BS0
だから有紀寧はあっさりと、拍子抜けするくらい簡単に言った。
「―――初音さん」
「……何?」
初音が首をこちらに向けて、怪訝な眼差しを送ってくる。
しかし有紀寧は刺すようなその視線を受け流して、にっこりと優しい笑顔を作ってみせた。
「流石に私も祐介さんの事が心配になってきました。ですから、祐介さんを探しに行ってくれませんか?」
「良いのっ!?」
「ええ、こうしている間にも祐介さんの身に危険が迫っているかもしれませんから」
「うん、分かったよ。―――有紀寧お姉ちゃん、ありがとっ!」
初音は花の咲いたような笑顔でそう言うと、一目散に家を飛び出していった。

それなりに判断力がある人間なら、有紀寧の態度の急変に不信を持つだろう。
パソコンを操作しての情報収集。そしてその直後に突然の解放―――推理に必要な情報は揃っている。
もし立場が逆ならば、自分ならば、相手の急変の理由すらも見抜いてみせよう。
しかし初音は疑う様子一つ見せずに有紀寧の言葉をそのままに受け取り、あろうことか礼までも述べたのだ。
救いようの無い馬鹿だな、と有紀寧は思った。

とにかくこれ以上ここには留まってはいられない。
放送を聞けば、初音と祐介は自分を執拗に狙って来るだろう。
それにあのマシンガンの女のように、強力な者達ともいずれは雌雄を決する時が来る。
一刻も早く、新たなる、それも出来るだけ強力な眷属を手に入れなければならない。
有紀寧は手早く荷物を纏め、民家の扉を開けた。
外の様子を見渡して―――そして有紀寧は過去最大級の愉悦を覚えた。
それはもう、今すぐ飛び跳ねてはしゃぎ回りたいくらいの喜びだ。
331最悪の出会い(前編):2007/03/01(木) 04:54:58 ID:633P+5BS0
民家から少し離れた街道の向こうを、とある参加者達が歩いていた。
遠目でも分かる大きなライフルを持った金髪の成人女性、そしてその女性に守られるように後ろを歩いている小柄な少女だった。
何も出来ないような非力な少女と、保護者のように振舞っている人間。
それはあたかも、長瀬祐介と柏木初音の姿を再現しているようであった。
だが祐介達とは決定的に違う点がある。

金髪の女性―――ファイルによると、リサ・ヴィクセンという名前らしい女の立ち振る舞いは、ズバ抜けていた。
隙の全く感じられぬ足取り、周囲に放つ凍て付くような威圧感。
後少しでも距離が近かったら、有紀寧の存在は瞬く間に察知されていただろう。
明らかに素人では無い……それどころか、彼女に敵う人間などこの島に存在しないのでは?
一目でそう思わせるだけの迫力が、リサ・ヴィクセンにはあった。

待ち侘びた絶好の機会に、有紀寧は笑った。
目を細めて、唇の端を吊り上げて、悪魔の如き歪な笑みを浮かべた。
「さて、この最高級の食材……どう料理しましょうかね?」


【時間:2日目・17:30】
【場所:I-7】

宮沢有紀寧
【所持品@:コルトバイソン(4/6)、参加者の写真つきデータファイル(内容は名前と顔写真のみ)、スイッチ(2/6)】
【所持品A:ノートパソコン、包丁、ゴルフクラブ、支給品一式】
【状態:前腕軽傷(治療済み)】
332最悪の出会い(前編):2007/03/01(木) 04:57:47 ID:633P+5BS0
リサ=ヴィクセン
【所持品:鉄芯入りウッドトンファー、支給品一式×2、M4カービン(残弾30、予備マガジン×4)、携帯電話(GPS付き)、ツールセット】
【状態:体は健康】
美坂栞
【所持品:無し】
【状態:体は健康】

柏木初音
【所持品:鋸、支給品一式】
【状態:祐介の捜索、首輪爆破まであと15:15(本人は39:15後だと思っている)】

(関連:695・722 ルートB-13)
333助け人走る:2007/03/01(木) 21:26:40 ID:lxiQGaff0
人気の無い昼下がりの鎌石村の中心部。
北川潤と広瀬真希は山を下り、役場の傍に辿り着いていた。
役場で何か情報を得ようと歩いていると、突然、連続した発砲音が聞こえた。
すぐさま玄関へ向かおうとしていたところ、二人は異様な惨殺死体を発見する。
頭を叩き割られた上に脳を攪拌され、しかも斬首された少女──藍原瑞穂。
日陰で少し目立たないところにそれはあった。


「お……これはまた、酷いなあ」
「ヒィッ! あ、ああぁ……」
思わず手を口に当て凍りつく真希。
足の力が抜け崩れ落ちかけたところ、横から手が伸び腰を掴まれる。
「大丈夫だ、俺がついてるから」
北川は真希を支えながら優しく宥める。
「怖い、あたし怖いよ! こんな風に殺されるなんて……」

はからずも普段の勝気な性格とは裏腹に、真希は少女の弱さを吐露してしまった。
自身でいくら叱咤しても体の震えは止まらない。
元々滅多なことで動じない性格だが、瑞穂の殺され方は耐性をはるかに超えるほど強烈であった。
撃たれたり刺されたりした程度の死体なら、取り乱すことはなかった。
北川を余裕で引っ叩くぐらいのことはしたかもしれない。

「俺が、全身全霊でもって守ってやる。必ずな」
「うん、ありがとう」
北川の温かな体温が萎縮した士気を回復してくれるのを、真希は肌で感じた。
今まで高飛車な態度であたったことを思うと申し訳ない気がしてならない。
これからはいくらか素直な女の子でいよう。真希はそう思った。
334助け人走る:2007/03/01(木) 21:27:50 ID:lxiQGaff0
目を逸らしていたが瑞穂の亡骸に向き直り、彼女の死に様を目にしっかりと焼き付ける。
(あたしは死なない。あなたの分もきっと生きるから、全てが終わるまで見守っててね)
遺体の傍にある鉈が目に留まる。血糊がべっとりと付き、刃こぼれしていた。
凶器がこの鉈であることは明らかである。
「これはもう、使えないね」

北川が警戒する中真希はデイパックを漁ってみたが、皆が持つ支給品一式しかなかった。
やりたくはなかったが、瑞穂の体を弄り何か持ってないか調べてみる。
「殺した奴が持っていったみたいだな」
「そうね、何もないよ」
何気に傷口や脳漿の乾き具合を見ている内に、ある事にがつく。
どう考えても当日に死んだようには見えなかった。
今行われている銃撃とは無関係のようだ。
「そろそろ行こうか」
いつまでも検分しているわけにはいかない。北川に促され建物の中へと向かうことにした。



「ねえ、今の銃声……」
「ああ、別の方からもしたな」
役場とは別の方──北の方角からも発砲音が聞こえた。
どうやら別々の所で撃ちあいが起きているもようだ。
真希は迷った。どちらへ駆けつけたらよいものか。
判断を仰ごうと北川を窺う。
こういう時はやはり男の決断を頼りにしてしまう。
北川はというと、彼もまた思考を巡らしているところであった。
軽挙は慎まなければならないが優柔不断でもいけない。
335助け人走る:2007/03/01(木) 21:29:00 ID:lxiQGaff0
熟慮の末、下した決断は──。
「準備はいいか?」
「いつでもオッケーよ。雨が降ろうが矢が降ろうがついていくから」
「よし北の方へ行こう」
「う、うん」
口にはしなかったが、北川もみちるの捜索を優先したに違いない。
ただ、現場は役場の方が近いだけに、中にいる仲間を援護できないもどかしさが募る。
もしかしたらみちるが居たりして……。
あるいは知り合いの折原浩平、長森瑞佳、里村茜、川名みさきのいずれかかも。

──川名みさき!
平瀬村で出会った彼女のことが思い起こされる。
今後の方針についての話し合いが一段落した後、みさきと少しばかり個人的な話をしてみた。
「実はわたし、同じ学校の二年生なんです。」
「うん、広瀬さんのことは三年生の間でも噂を聞くことがあるよ。出会えてうれしいよ」
「ほう、真希は有名人だったんだ。ハハハ」
北川のちゃちゃに真希は苦笑するしかなかった。

「深山先輩が亡くなられて辛いでしょうけど、この困難を乗り越えて下さい」
「ありあとう、雪ちゃんの分まで生きるから、広瀬さんも頑張ってね」
みさきは目に涙を浮かべながら真希の手をしっかりと握っていた。
初対面とはいえ、後輩と邂逅したことがよほど嬉しかったのだろう。
彼女がその後、どこへ向かったかは知る由も無い。

(──先輩どうかご無事で)
ワルサーP38を握る手に力を込める。
ゲームに乗った者はやはり斃すしか方法がない。
この島を脱出するためにも彼らと戦い続けなければならないのだ。
役場内のことを気にかけながらも二人は駆け出した。
走る北川の背中が頼もしく見える真希であった。
336助け人走る:2007/03/01(木) 21:30:07 ID:lxiQGaff0
【時間:二日目・14:25】
【場所:C−3鎌石村役場外】

北川潤
【持ち物@:SPASショットガン8/8発+予備8発+スラッグ弾8発+3インチマグナム弾4発、支給品】
【持ち物A:スコップ、防弾性割 烹着&頭巾(衝撃対策有) お米券】
【状況:銃声のする北の方へ向かう、チョッキ越しに背中に弾痕(治療済み)】
【目的:みちるの捜索】

広瀬真希
【持ち物@:ワルサーP38アンクルモデル8/8+予備マガジン×2、防弾性割烹着&頭巾(衝撃対策有)×2】
【持ち物A:ハリセン、美凪のロザリオ、包丁、救急箱、ドリンク剤×4 お米券、支給品、携帯電話】
【状況:銃声のする北の方へ向かう、チョッキ越しに背中に弾痕(治療済み)】
【目的:みちるの捜索】

【備考】
鉈と瑞穂のデイパックはそのまま

【関連:018、660、714、720】
337No.734  逆転、逆転、再逆転:2007/03/04(日) 10:26:51 ID:4sMiIg0P0
呆然としていた朋也は、やがて現在の状況を思い出す。
「おっさん……なんで来た! 渚まで連れて!」
「やかましい! てめえなんでこんなことになってやがんだ! 止めに行くんじゃなかったのか!?」
「彰が見つかったんだよ! あいつは絶対俺が殺す!」
「るっせえ! やらせてたまるか!」
再び高槻と朋也が向き合う。
「ああくそ! おめえらいっぺん止まれ! ぶっ飛ばすぞ!」
「岡崎朋也、彰はどこ?」
「ちょっと待て、あいつが彰じゃねえのか?」
「違う……こいつらは彰にとどめさそうとしたら乱入してきやがった」
「おい、お前……ゲームに乗ってるんじゃないのか?」
「そんなわけ……」
「朋也君はそんなことしません!」
「渚……」
「そうだよ! 岡崎朋也はみちるを助けてくれたんだよ! 彰って奴が風子と由真を殺したんだから!」
「おい……じゃあ」
338No.734  逆転、逆転、再逆転:2007/03/04(日) 10:27:35 ID:4sMiIg0P0

「あーあ……ばらしてくれちゃったね」

「彰!」
そこには七瀬彰が立っていた。
七海を盾にして銃を口に突っ込みながら。
真っ先に反応したのは高槻だった。
「てめえ何してやがんだ!」
「このまま話してたらいつか僕が殺したってことばれそうだったから。本当は銃借りた後誤射して君を殺そうと思ってたんだけど……」
闖入者を見やる。
「あなたたちが来てしまったからね……」
「おめえ……それでどうしようってんだ……」
339No.734  逆転、逆転、再逆転:2007/03/04(日) 10:29:02 ID:4sMiIg0P0
「武装解除と逃走経路の確保……かな。こうなった以上僕に味方してくれるとは思えないし。それに誰かを殺そうとしたら君たちも黙ってないよね? 
だからこうだ。全ての武器を僕のほうに軽く投げて皆はそこから離れてくれ。後ろを向く必要は無いけど僕のほうに近づいたらこの子を撃つかもしれない。
そして僕が武器を選んでここから離れる。その時は皆には後ろを向いていてもらう。僕が逃げられたと判断した段階でこの子は解放するよ。
僕はここにいる誰も殺さない。その代わり、君たちも僕を追ってこない。どうだい?」
「! その銃は! ちょっと待て! 郁乃はどうした!」
「郁乃……って言うのはあの車椅子の子だよね? 
大丈夫。この銃は君たちの争いを止めるためにって穏便に借りただけだし、その人たちが来て僕のことをばらしそうになったからちょっと気絶してもらっただけ。
後遺症になってることも無いと思う。伝言。高槻、ごめん……だって。さあ、どうする?」
「くっ……」
怯んだ高槻の前に朋也が出る。
「その程度で……俺が止まると思ったか……?」
「! てめえ! 動くな!」
一歩踏み出した朋也を高槻が強引に止める。
340No.734  逆転、逆転、再逆転:2007/03/04(日) 10:29:45 ID:4sMiIg0P0
「やかましい! ここであの糞野郎を仕留めなくていつ仕留めるってんだ!」
「うるせえ! あいつらは殺させねえ!」
「……そうなると思ったよ。だから……」
彰は闖入者のほうを再び見る。
「そっちの……渚とかいう子、ちょっと来てくれないか?」
「「「!!」」」
指名された渚が震える。
「おい! 渚は関係ないだろうが!」
「だから、君が一番行動を躊躇する人質のほうがいいんだ。問題ないだろう? ちゃんと解放するんだから。それに渚という子がちゃんと来ればこの子も解放する」
「渚! 行くな!」
「いえ……私、行きます」
「渚!」
「駄目だ! 渚、いかせねえぞ!」
秋夫が渚の前に立ちはだかった。
「でも、私が行かないとあの子が殺されてしまいます。私が行けば皆さん助かるんですから、やっぱり行きます」
秋夫の横を抜けて渚が歩いていく。
341名無しさんだよもん:2007/03/04(日) 10:30:27 ID:JTQIdm3F0
回避
342No.734  逆転、逆転、再逆転:2007/03/04(日) 10:30:40 ID:4sMiIg0P0
「渚っ! くそっ! 彰! 俺を変わりに人質にしろ!」
「ふざけないでくれ。命懸けでも僕を殺そうって奴を人質になんかできるわけ無いだろう」
「くそっ!」
渚はゆっくりと歩く。
足の傷は完治には程遠い。
「さて、その間に君たちには武装解除してもらいたいのだが。銃は勿論、ナイフや石ころ、とにかく全ての持ち物を一箇所に集めてそこから離れてくれ。
……大丈夫。ここで約束を反故にして無用な恨みを買うよりは生き残ることを選ぶから。それに……」
(相手方の足手まといは残しておくに越したことは無いからね)
口には出さず、黙々と持ち物を捨てていく朋也たちを見る。
渚はまだ遠い。
「渚ちゃん、もう少し急げないかな」
「は……はい……」
渚は速度をあげる。
足から血が滲む。
「! やめてくれ! 渚は足を撃たれているんだ!」
「……そうなの?」
「は……はい……」
「それは悪かったね。じゃあゆっくりで構わないよ」
「はい……」
343名無しさんだよもん:2007/03/04(日) 10:31:10 ID:JTQIdm3F0
回避
344名無しさんだよもん:2007/03/04(日) 10:31:46 ID:JTQIdm3F0
回避
345名無しさんだよもん:2007/03/04(日) 10:32:18 ID:JTQIdm3F0
回避
346No.734  逆転、逆転、再逆転:2007/03/04(日) 10:32:25 ID:4sMiIg0P0
そうこうしている間に武装解除が終わる。
「本当に全部捨てたの? もし嘘をついてたら撃っちゃうかもしれないよ?」
「本当だ! もう何も持ってねえ!」
「他の人も?」
朋也や秋夫も渋々頷く。
「じゃあ、そこから離れて。僕がおかしなことしないか見てる分には構わないけど、近づいたら……もういいね」
渚が到着する。
「その人を……放してください……」
「じゃあ、抵抗しないでね」
「……はい」
「君も、動かないでね」
七海に向かって言う。
銃身を突っ込まれて閉じられない口からは涎が溢れていた。
七海は泣きながら頷いた。
347No.734  逆転、逆転、再逆転:2007/03/04(日) 10:33:00 ID:4sMiIg0P0
「じゃあ……」
彰は七海の口から銃身を抜き、開いた渚の口に銃口を突っ込もうとして……

ぱぱんっ!

銃声が響き渡った。
渚の顔が朱に染まる。
「渚っ!?」
「彰! てめえええ!!」
朋也と秋夫が駆け出した。
渚がゆっくり……倒れ……ない。
代わりに、彰が跪く。
撃たれた弾みに暴発した銃を落とし、左腕から血を流し、それを右腕で抑えることも侭ならず。
348名無しさんだよもん:2007/03/04(日) 10:33:38 ID:JTQIdm3F0
回避
349No.734  逆転、逆転、再逆転:2007/03/04(日) 10:34:15 ID:4sMiIg0P0
「ぐぅっ……」
「なっ……」
「どういう……」
(どういうことだ……騙されたのか……? そんな筈は無い……僕が見てる限りあいつらは動いていなかった。
仮に銃を隠し持っていたとしても構えるそぶりもなかった。ましてそのための盾も目の前にいたのに……
浩平は……倒れてる……じゃあ、何が……)
霞む意識を繋ぎ止め、取り落とした銃を拾い周囲を見渡す。
そしてその異物を発見した時には。
「あ……」
異物はH&K PSG-1を構えて、彰の額をポイントしていた。

ぱんっ









350名無しさんだよもん:2007/03/04(日) 10:34:56 ID:JTQIdm3F0
回避
351名無しさんだよもん:2007/03/04(日) 10:36:21 ID:JTQIdm3F0
回避
352名無しさんだよもん:2007/03/04(日) 10:36:37 ID:q5oB2pzK0
回避
353名無しさんだよもん:2007/03/04(日) 10:37:13 ID:JTQIdm3F0
回避
354名無しさんだよもん:2007/03/04(日) 10:37:24 ID:q5oB2pzK0
回避
355No.734  逆転、逆転、再逆転:2007/03/04(日) 10:37:38 ID:4sMiIg0P0
【時間:二日目・14:40】
【場所:C-3】
古河秋生
【所持品:無し】
【状態:呆然。中程度の疲労、左肩裂傷・左脇腹等、数箇所軽症(全て手当て済み)。渚を守る、ゲームに乗っていない参加者との合流。聖の捜索】
古河渚
【所持品:無し】
【状態:呆然。銃の暴発時に左の頬を浅く抉られる。自力で立っている、右太腿貫通(手当て済み、再び僅かに傷が開く)】
みちる
【所持品:セイカクハンテンダケ×2、他支給品一式】
【状態:呆然。目標は美凪の捜索】
岡崎朋也
 【所持品:三角帽子】
 【状態:呆然。マーダーへの激しい憎悪、疲労大、全身に痛み。第一目標は彰の殺害、第二目標は鎌石村役場に向かう事。最終目標は主催者の殺害】
356No.734  逆転、逆転、再逆転:2007/03/04(日) 10:38:15 ID:4sMiIg0P0
湯浅皐月
 【所持品1:H&K PSG-1(残り0発。6倍スコープ付き)、 セイカクハンテンダケ(×1個+8分の3個)、.357マグナム弾×15、自分と花梨の支給品一式】
 【所持品2:宝石(光3個)、海岸で拾ったピンクの貝殻(綺麗)、手帳、ピッキング用の針金】
 【状態:性格反転、首に打撲、左肩、左足、右わき腹負傷、右腕にかすり傷(全て応急処置済み)】
七瀬彰
 【所持品:S&W 500マグナム(4/5 予備弾7発)、薙刀、殺虫剤、風子の支給品一式】
 【状態:死亡】
ぴろ
 【状態:皐月の傍で待機】
折原浩平
 【所持品1:34徳ナイフ、だんご大家族(残り100人)、日本酒(残り3分の2)】
 【所持品2:要塞開錠用IDカード、武器庫用鍵、要塞見取り図、ほか支給品一式】
 【状態:脳震盪(回復にはもう少し時間が必要)、頭部と手に軽いダメージ、全身打撲、打ち身など多数。両手に怪我(治療済み)】
ハードボイルド高槻
 【所持品:分厚い小説】
 【状況:呆然。全身に痛み、疲労極大、出血大量、左肩を撃ち抜かれている(左腕を動かすと激痛を伴う)、最終目標は岸田と主催者を直々にブッ潰すこと】
357No.734  逆転、逆転、再逆転:2007/03/04(日) 10:39:21 ID:4sMiIg0P0
小牧郁乃
 【所持品:写真集×2、車椅子、ほか支給品一式】
 【状態:気絶、車椅子に乗っている】
立田七海
 【所持品:フラッシュメモリ、ほか支給品一式】
 【状態:呆然】
ポテト
 【状態:気絶、光一個】

【備考】
以下の物は彰が指定した所にまとめて置いてある
トカレフ(TT30)銃弾数(6/8)・S&W M29(残弾数0/6)・支給品一式(食料3人分)
S&W M60(0/5)、包丁、鍬、クラッカー残り一個、双眼鏡、他支給品一式
コルトガバメントの予備弾(6)、スコップ、ほか食料・水以外の支給品一式

以下の物は高槻達が戦っているすぐ傍の地面に放置
・コルトガバメント(装弾数:6/7)

【関連:730】

JTQIdm3F0
q5oB2pzK0
感謝
3583輪の花・終:2007/03/04(日) 15:17:34 ID:rHFyYARW0
深夜、例のスタート地点であった廃墟にて。
それぞれ個性的なコスチュームに身を包んだ長森瑞佳・柳川祐也・芳野祐介は朝方に再出発を図るために今は各自休息をとることになった。
見張りは男二人での交代制、瑞佳のみ奥の部屋でゆっくりと休んでいる。
今は芳野が見張りを担当する時間だった。

「で、何であんたがここにいるんだ・・・・・・」
「まあ、いいじゃないか」

既に交替の時間は過ぎているのにも関わらず、何故か隣に居座り続ける柳川。
機嫌がいいのかずっとこうして芳野相手に話し続けている、芳野からしてはうざいだけなのだが。

「・・・・・・む」
「どうした、いきなり」

後方、見張っていた入り口とは真逆の場所。
鋭い視線を送る柳川につられる形で芳野も見やる、そこには眠っていたはずの瑞佳がもじもじと佇んでいた。

「長森? 明日は早いんだぞ、きちんと休んだ方がいい」
「あ、はい。お気遣いありがとうございます・・・・・・」

少し皺になっているぱろぱろタイプの制服、横になっていたせいだろう。
寝起きのままこちらまで来たようで、髪も整えていない。
年頃の少女として身だしなみに気遣わなければ駄目だろうとプリプリ注意する柳川だが、どうやら瑞佳は全て右から左に抜けていってしまっているようだった。
太ももを擦り合わせ、困ったように俯く瑞佳の様子に芳野が助け舟を出す。

「えっと、アレか?」
「あ、はい、その・・・・・・洗面所を探していまして」
「何だ、こんな時間に顔でも洗うのか?」

すかさず後頭部にチョップを入れられた柳川、抗議するもののそのまま襟首掴まされ芳野に耳打ちされる。
3593輪の花・終:2007/03/04(日) 15:18:16 ID:rHFyYARW0
「トイレだろうが、ト・イ・レ!」

ああ! とポンッと手をつく、これでやっと納得したらしい。
しかし次の瞬間その顔つきは異変した。いきなり表情を引き締めた柳川は、再びトイレを探しに廃墟を俳諧しようとする瑞佳を慌てて呼び止める。

「待て長森! それは死亡フラグだ!!」
「え・・・・・・え??」
「トイレに行ってはいかん! 何かあってからじゃ遅いんだ、とにかく駄目だっ!」

困ったように固まる瑞佳、指先をつきつけながら柳川は叫ぶ。

「小便がしたいなら、トイレ以外を使え! 屋外とか!!」
「そんな、恥ずかしいですよ」
「とにかくトイレは危険なんだ、俺の第六感が悲鳴を上げている・・・・・・どうしてもトイレで用を足したいと言うなら、個室の中までついていくぞ!」
「おい変態、手錠いるか?」
「ノーサンキュー!」

呆れ返りばがらもつっこむ芳野、しかし柳川の暴走は止まらない。

「くそっ、ちょっと待ってろ。屋外で安全な場所を確保してくる、それまで動くなよ!!」
「あ、おい!?」

そのまま後ろを顧みることなく、柳川は駆けて行った。
残されたのは、呆然とその背中を見送る男女二人。

「・・・・・・迷ったんだろ?そこまで送ってやる。安心しろ、個室の中には入らない」
「は、はい。お願いします」


3603輪の花・終:2007/03/04(日) 15:18:55 ID:rHFyYARW0
「フー、外でするのも気持ちいいものだな」

トロピカルタイプの半パンをずり下げ、その逞しい一物から勢いよく尿を放つ。
廃墟のすぐそこ、森林地帯にて柳川は用を足していた。
よくよく考えれば彼が求めていたのは安全な場所であり彼自身が用を足す必要は全くなかったが、それはそれ。物はついでである。

放尿による開放感に包まれながら、今後について柳川は考えた。
今は亡き倉田佐祐理からの最期の願い、彼女の友人である「川澄舞」と「相沢祐一」を・・・・・・そして、少しでも多くの参加者を守るということについて。
優しい彼女が託してくれたそれを肝に銘じながら、柳川は改めて決心する。

「倉田、見ていてくれよ。俺は・・・・・・ヘブゥ!!」

バクッッッッ




だが、言葉は最後まで紡がれなかった。
3613輪の花・終:2007/03/04(日) 15:19:42 ID:rHFyYARW0
ムティカパ
【時間:2日目午前4時】
【場所:H−7】
【状況:健康】
【状態:辺りを警戒、常に移動しながら獲物を探している】

長森瑞佳
【時間:2日目午前4時】
【場所:H−7、元スタート地点の廃墟】
【持ち物:某ファミレス仕様防弾チョッキ、ぱろぱろ着用帽子付・自分の制服・支給品一式】
【状態:トイレへ】

芳野祐介
【時間:2日目午前4時】
【場所:H−7、元スタート地点の廃墟】
【持ち物:某ファミレス仕様防弾チョッキ、フローラルミント着用・繋ぎ・Desart Eagle 50AE(銃弾数4/7)・サバイバルナイフ・支給品一式】
【状態:瑞佳を送る】

柳川祐也  死亡

(関連・086・419)(B−4ルート)
362名無しさんだよもん:2007/03/04(日) 17:56:38 ID:Qvs5hyFm0
これはひどい
363名無しさんだよもん:2007/03/04(日) 19:20:41 ID:TdxWkldT0
そう思うなら分岐作ればいいだろバーカwwwww
364開戦:2007/03/04(日) 23:51:03 ID:gS2UqYHR0
「……こ…これは…………?」
意識を取り戻した祐介の視界に映ったもの――それは、イングラムM10の黒い銃口だった。
「――――っ!?」
慌てて身を躱そうとするが、身動きが取れない。そこで初めて祐介は、自分が木に縛り付けられているのに気付いた。
「暴れるな。殺されたくなければ、質問に答えろ」
聞こえてきた声に顔を上げると、銃を構えた男が、飢えた獣のようなギラついた眼つきでこちらを見下ろしていた。
その横から、自分と同じ年頃の少女がオドオドとした様子で口を開く。夕暮れの陽に金色の髪が映える綺麗な子だった。
「あ、あの柳川さん……。いきなりそんな風に聞いても、相手の方も訳が分からないと思います。まずは自己紹介だけでもしておいた方が……」
「ああ……それもそうだな。俺は柳川祐也だ」
「私は倉田佐祐理です」
それから、青い髪に長いツインテールの少し勝気な印象を受ける女の子が、すっと祐介の前に躍り出た。
「――七瀬留美よ。あんたの名前は?」
隠す意味も無いので、祐介は素直に返答する事にした。
「長瀬祐介だよ。どうしてこんな事になっているか聞きたいんだけど……」
まずはその事を確認したかった。自分が覚えているのは赤い髪の女と戦っている所までだ。
それが何時の間にか木に縛られており、今自分を取り囲んでいる三人はまるで見覚えが無い者達だった。
「んーとね……」
七瀬留美と名乗った女の子が、頬に人差し指を当てながら語り始める。
彼女の説明によると、祐介は赤い髪の女――向坂環と戦っている最中に、後ろから環の弟に殴られて気絶した。
その後柳川祐也ら三人が現場に駆けつけて、危険人物と判断された祐介はこうして縛られてしまったという訳である。
「そっか……僕はまた空回りしてただけだったんだね……」
椋に救われた時と同じ――自分は愚かで無力な男に過ぎなかった。そもそも、有紀寧は相手を殺せ、とまでは命令していなかった。
足止めをするだけなら環の命を狙う必要は無い。環が自分達を追ってくる様子は無かったし、その事だけ確認してすぐに引き返すべきだったのだ。
にも関わらず殺し合いの緊張感から冷静さを失ってしまい、ゲームに乗っていない環の命を奪おうとしてしまう体たらく。
これではゲームに乗っているとされても、返す言葉が無い。ここで殺されても、文句は言えなかった。
365開戦:2007/03/04(日) 23:52:15 ID:gS2UqYHR0
「これで今貴様が置かれてる立場は分かっただろう。さて、楽しい質疑応答の時間だ」
柳川がその口調とは裏腹に、真顔のままに唇を動かす。そしてイングラムM10の先端が、祐介の額に押し付けられる。
「聞きたい事は一つだ。貴様が宮沢有紀寧について知っている事を全て教えろ」
「……どうして僕にそんな事を聞くんです?」
「貴様が現れた時の話は全て、向坂から聞いている。貴様は一緒にいた女の事を、有紀寧と呼んでいたそうじゃないか。
嘘や言い逃れは許さん……正直に話さなければ撃つ」
柳川が鬼のような迫力で睨みつけてくる。その言葉通り、逆らえばこの男は躊躇わず引き金を引くだろう。
「ここで貴様が黙秘を続けた所で、死体がこの島に一つ増えるだけだ。そうなる前に吐いた方が良いと思うが?」
黙して語らずば死――祐介の顔が恐怖に引き攣り、思わず呻いてしまいそうになる。
だが有紀寧についての情報を流した事が、本人にバレてしまった場合、初音は100%殺される。
「…………」
「――ふむ、だんまりか」
自分は自殺志願者などではないが、初音の代わりに生き延びるのだけは、断固拒否する。
初音を救う。それが自らに課した誓い、そして次々と大切な存在に先立たれた祐介に残った、生きる意味そのものだった。
口を硬く閉ざした祐介を見て、柳川はあっさりと銃を降ろし、言った。
「貴様、宮沢有紀寧に人質を取られているな?」
「――――!?」
あまりの驚愕に、祐介の表情がぎしっと強張る。自分の知る限りでは、その事は当事者しか知らぬ筈。それを何故?
しかし事情が分からないのは他の者も同じようで、佐祐理が不思議そうに首を傾げていた。
「ふぇー……。どういう事ですか?」
「自分の命を犠牲にしてまで殺人者に従う……。その行動は、最早人質を取られているという形以外では説明出来ん。
つまり柏木耕一と同様――長瀬は、柏木初音を人質にされていると考えるのが妥当だ。違うか?」
そう言って、柳川は祐介の方へ視線を戻した。
366開戦:2007/03/04(日) 23:53:12 ID:gS2UqYHR0
――正解だった。そして同時に祐介は、どうして有紀寧に人質を取られている事がバレているのか、その理由を悟った。
柳川達は、有紀寧に殺人を強要されたという柏木耕一と出会ったのだろう。
「宮沢有紀寧の謀略のせいで、多くの人間が命を落としてしまった。だから俺は宮沢有紀寧を殺して、これ以上の被害の増加を防ぐ」
「佐祐理達は、もうあの時みたいな悲劇を繰り返したくないんです。話してください……お願いします」
佐祐理が大きな目で見つめてくる。その瞳の奥底に宿った、哀しみの色。祐介は耕一について、人を殺す為に平瀬村に向かわされた、という所までしか知らない。
しかし佐祐理の表情を見ていれば、平瀬村で凄惨な殺し合いが起きてしまった、という事が推し量れた。
同じ有紀寧の被害者。同志としてこれ程信頼出来る相手はいないが――まだ、根本的な問題が残っている。
「でも……やっぱり、駄目です」
「――何故だ?」
「有紀寧は、作動した首輪の爆弾を解除出来る機械を隠している、と言っていました……。今僕が奴を裏切ったら、初音ちゃんは助からない……」
それが唯一にして、最大の問題だった。たとえ有紀寧を倒した所で、初音を救えなければ意味が無い。
だがそこで祐介に、声が掛けられる。凛とした、強い声だった。
「大丈夫、方法ならあるわ」
「――え?」
留美が鞄から紙を取り出していた。その紙には、何かがびっしりと書き込まれている。
「おい、七瀬!?まだどちらに転ぶか分からない奴にそれを見せるのは……」
「――柳川さんは黙ってて。長瀬さんはきっと悪い人間じゃない。見捨てるなんて、私には出来ないわ」
「……チッ、どうなっても知らんぞ」
留美が祐介に見せた紙は、向坂環との情報交換に使った時の物だった。
そこには首輪についての事柄――盗聴されている事や、首輪を外しうる技術者が教会にいるといった事が書いてあった。
首輪の爆弾が作動していようと、外してしまえば関係無いだろう。祐介の心に、希望の炎が灯ってゆく。
「ありがとう――それじゃ僕も知ってる事を、全部話すよ」
祐介はようやく大きく頷いて、それからゆっくりと自分の知り得る限りの全てを話し始めた。
367開戦:2007/03/04(日) 23:54:05 ID:gS2UqYHR0



「……ふむ、そういう事か。宮沢有紀寧は俺達が思っていた以上に、危険な女らしいな。特に隠し持っているという銃には、十分気をつけねばなるまい」
柳川は淡々と考察しながら、日本刀を鞘から引き抜いた。それを軽く振るって、祐介を拘束していたロープを切り落とす。
ようやく動けるようになった祐介は、すくっと立ち上がって近くに落ちてある荷物を拾い上げた。
「さて、これで貴様は自由の身だ。何処へなりとも行くがいい」
「行くがいいって……祐介さんと一緒には行かないの?」
留美が尋ねると、柳川は微かに馬鹿にしたような笑みを浮かべた。
「少しは頭を使え。長瀬と俺達が一緒に居る所を有紀寧に見られたら、あの女の事だ……迷わず柏木初音の首輪を爆発させるぞ」
「あ、そっか……」
「さあ、早く行け長瀬。貴様には貴様のやるべき事があるだろう。早く初音を救い出して、教会へ連れてゆけ」
そうだった。初音を救うには、あの狡猾な有紀寧から連れ出さなければならないのだ。
それも、柳川達より早く。柳川達と有紀寧が先に出会えば、初音は捨て駒として使われるのは明らかだった。
「あの、柳川さん」
「何だ?」
「もし僕より先に初音ちゃんを見つけたら――助けてあげてください」
「……可能ならな」
柳川としては、その返事が限度だった。柳川には、人質の命を優先するつもりは無かった。そんな事をすれば、有紀寧の思う壺だ。
祐介は大きくお辞儀をした後、まずは有紀寧達と別れた地点を目指して地を蹴った。
(瑠璃子さんも……沙織ちゃんも、瑞穂ちゃんも死んでしまった。でも初音ちゃんだけは……絶対に、僕が守る!)
自分はかつて、世界滅亡の妄想へと想いを馳せていた。ただ現実から目を背けているだけの、弱い人間だった。
けれど瑠璃子に、本当の強さを教えてもらった。その瑠璃子はもういないけれど、守るべき人間はまだ残っている。
だから祐介は走った。何処かに敵が潜んでいるかも知れないけれど、そんな事は意に介さずに疾走し続けた。


     *     *     *
368開戦:2007/03/04(日) 23:55:05 ID:gS2UqYHR0


診療所を襲った篠塚弥生と藤井冬弥は、一旦見つかり辛い場所まで移動して、そこに車を隠してきた。
それから少し休憩を取った後、二人は目立たぬよう徒歩で活動を開始した。
「ようやく銃が手に入りましたね。由綺さんの仇の情報も聞けましたし、上手く行き過ぎて怖いくらいです」
「ええ……」
生返事をする冬弥とは反対に、弥生は珍しく上機嫌だった。正直、あそこまで作戦通りに事が進むとは思っていなかった。
銃もある、車もある。由綺の復讐を果たし、優勝するという目標は、十分に手の届く物になったと言える。
まずは三つの村を調べ回って、参加者を――特に、由綺を殺したという柳川祐也を探し出して、殺害する。
復讐を果たし、十分な量の武器を手に入れた後は、村を避けて何処か安全な場所で車に乗ったまま息を潜める。
隠れている所を発見されたとしても、車に追いつける人間などいる筈も無いのだから心配は不要だ。
そしてゲームが終局に近づいた頃には、他の参加者達の体力も銃弾も殆ど尽きているだろう。
そこを、力を温存してきた自分達が襲撃するという算段だ。特別な力を持たぬ弥生達でも、実行可能なプランである。
(けれど……最初から最後まで漁夫の利を得るだけという風には、いかないでしょうね)
弥生は慢心しかけていた自分を叱り付け、再び気を引き締めた。これからまだ何度かは、命のやり取りをしなければならないのだ。
取らぬ狸の皮算用、という諺もある。優勝を決めたその瞬間まで、油断など許されない。
369名無しさんだよもん:2007/03/05(月) 00:00:00 ID:dxULnVdg0
回避
370開戦:2007/03/05(月) 00:00:25 ID:7UEMPEoI0
弥生が着々と優勝への構想を練っている横で、冬弥は別の事に考えを巡らせていた。
(はは……何でだろうな?由綺の仇が誰か分かったのに……全然嬉しく、無い……)
冬弥の心には、目標へ一歩近付いたという喜びではなく、また人を殺してしまったという後悔の方が多く湧き上がっていた。
那須宗一は決して悪い人間では無かっただろう。警戒する様子を見せてはいたものの、腰を据えて自分達と話し合ってくれたのだ。
そんな彼を、ただ目的の為だけに、卑怯なやり口で殺害してしまったのだ。後味が良い筈が、無かった。
――止めろよ、馬鹿げたこと考えるの
それは、折原浩平に言われた台詞。口惜しいが、今となっては彼の言葉に頷きざるを得ない。
頭に浮かぶのは、留美のはにかんだ可愛い笑顔。そして別れ際に見せた、あの悲しい泣き顔。
その顔を思い出すたびに、冬弥は胸が張り裂けるような感覚を覚えた。
かと言って、今更道を変えようとも変えれるとも思わない。人を殺したという事実は、決して消える事が無いのだから。
ただ、一時の感情と、周りの動きに流されていくだけの自分が、酷く矮小な存在に思えた。
「……い…さん。藤井さん」
そこで、弥生に呼び掛けられて、ボーっとしていた意識を現実へと戻した。
「あ、ああ……すいません。どうしたんです?」
「――あちらをご覧下さい」
弥生が指差す方向、まだかなり離れた所にある道を三つの人影が進んでいた。
距離があって良く分からないが、そのうちの一人、一際大きな人物が纏っている服装は、リサの説明と酷似していた。
だが冬弥の目はもう一つの人影の方へと、釘付けになっていた。あの制服はまさか――
(ま、まさか――七瀬さんっ!?)
冬弥は呆然として、視界の先を歩く少女を見つめる。図らずして体が硬直してしまう。
しかしそこで、冬弥の腕が、今向いている場所とは逆の方向へと強く引っ張られた。
「やっ、弥生さん!?」
「相手は三人、正面から銃撃戦を挑むのは得策ではありません。”アレ”を使いましょう」
「え、えっ――!?」
”アレ”とは何か、冬弥には分からなかった。どうするつもりか問う暇も無く、弥生は冬弥の手を握ったまま走り出した。


     *     *     *
371開戦:2007/03/05(月) 00:01:30 ID:7UEMPEoI0


「――くそ、奴は何処にいるんだ……」
柳川が僅かに苛立った様子で、しかしあくまで冷静さを保ちながら呟く。
長瀬祐介から聞いた話では、有紀寧と最後に別れたのは氷川村の右上部だったと言う。
その情報を頼りに村を歩き回っていたのだが、それらしき人影は見当たらない。
「もしかして、もう別の場所に移動してしまったのでは……。別の場所を探しませんか?」
佐祐理がそう言って、地図を取り出そうとした。だがその佐祐理の手を、突然柳川が掴み取る。
「柳川さん?」
「――静かにしろ。何か、近付いてくる」
「……?」
三人が口を閉ざすと、奇妙な静寂が周囲を包み込んだが、その静寂を遠くから響いてきた騒音が引き裂いた。
耳を澄まして集中力を傾けると、その音の正体が分かった。これは――
「車のエンジン音?」
留美が呟くのと殆ど同時に、向こうの方から車が走ってくるのが見えた。それは、真っ直ぐこっちに向かって走ってくる。
「チィ――!」
柳川は舌打ちして、左右を見渡した。ここは開けた平地、周りにあるのは背の低い茂み程度だった。
車の突撃を防げるような遮蔽物――木や、民家のような物はすぐ近くには無い。
そうしている間にも、車は全速力で柳川達の方向へ突っ込んでくる。しかし柳川はその場から動かずに、イングラムM10を構えた。
防ぐ事が出来ないのなら、破壊するまで――!
イングラムM10が火を噴き、弾丸が連続して吐き出される。銃弾のうちの何発かは車の窓ガラスに当たった。
だが車の窓ガラスにはヒビ一つさえ入る事は無く、その走る勢いに翳りも見られない。
372開戦:2007/03/05(月) 00:02:25 ID:7UEMPEoI0
「――な……!」
柳川の顔が戦慄に強張った。車はもう、目前まで迫っている。柳川は、横に跳ぼうとしている留美を手伝うように、その背中を押した。
続いて佐祐理を抱きかかえて、自身も反対方向へと跳躍する。本当に、ギリギリのタイミングだった。
車は佐祐理の後ろ髪を掠めるくらいの近距離を通過して、そのまま走ってゆく。柳川は背中に巨大な風圧を感じた。
佐祐理を傷付けぬよう、自身を下にして肩口から地面へ滑り込む。左肩の傷が痛んだが、今はそれどこではない。
柳川がすぐさま立ち上がると、車は前方で大きくUターンして、またこちらの方へ直進してきた。
一瞬柳川は焦燥感に襲われそうになったが、すぐにその口元を歪めて――笑った。
「面白い……鬼と機械の対決といこうか」


【時間:2日目17:00頃】
【場所:I−6】
長瀬祐介
【所持品1:100円ライター、折りたたみ傘、金属バット・ベネリM3(0/7)・支給品一式×2、包丁】
【所持品2:懐中電灯、ロウソク×4、イボつき軍手】
【状態:後頭部にダメージ、疲労、ロープ(少し太め)で木に括り付けられている。有紀寧への激しい憎悪、全身に軽い痛み】
【目的:初音の救出、その後は教会へ】
373開戦:2007/03/05(月) 00:03:11 ID:7UEMPEoI0



【時間:2日目18:00前】
【場所:I−7平地】
柳川祐也
【所持品:イングラムM10(12/30)、イングラムの予備マガジン30発×8、日本刀、支給品一式(片方の食料と水残り2/3)×2、青い矢(麻酔薬)】
【状態:左肩と脇腹の治療は完了したが治りきってはいない、肩から胸にかけて浅い切り傷(治療済み)】
【目的:車を何とかする】
倉田佐祐理
【所持品1:舞と自分の支給品一式(片方の食料と水残り2/3)、救急箱、吹き矢セット(青×3:麻酔薬、赤×3:効能不明、黄×3:効能不明)】
【所持品2:二連式デリンジャー(残弾0発)、投げナイフ(残り2本)、レジャーシート】
【所持品3:拾った支給品一式】
【状態:健康】
【目的:車を何とかする】
七瀬留美
【所持品1:S&W M1076 残弾数(7/7)予備マガジン(7発入り×3)、日本刀、あかりのヘアバンド、青い矢(麻酔薬)】
【所持品2:スタングレネード×1、何かの充電機、ノートパソコン、支給品一式(3人分、そのうち一つの食料と水残り2/3)】
【状態:健康】
【目的:車を何とかする。目的は冬弥を止めること。千鶴と出会えたら可能ならば説得する、人を殺す気、ゲームに乗る気は皆無】

篠塚弥生
 【所持品:包丁、FN Five-SeveN(残弾数12/20)、ベアークロー】
 【状態:車に乗っている、マーダー・脇腹に怪我(治療済み)目的は由綺の復讐及び優勝】
藤井冬弥
 【所持品:暗殺用十徳ナイフ・消防斧・FN P90(残弾数0/50)】
 【状態:車に乗っている、迷い、マーダー・右腕・右肩負傷(簡単な応急処置)目的は由綺の復讐】
374開戦:2007/03/05(月) 00:04:45 ID:7UEMPEoI0

【備考】
・支給品一式×2は祐介が括り付けられていた木の近くに放置
・柳川達が戦っている場所の近くには、茂み以外の遮蔽物は無い
【備考2】
・聖のデイバック(支給品一式・治療用の道具一式(残り半分くらい)
・ことみのデイバック(支給品一式・ことみのメモ付き地図・青酸カリ入り青いマニキュア)
・冬弥のデイバック(支給品一式、食料半分、水を全て消費)
・弥生のデイバック(支給品一式・救急箱・水と食料全て消費)
上記のものは車の後部座席に、車の燃料は残量60%程度

→718
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B-13

>>369、本スレ165
回避感謝です
375一難去って……:2007/03/05(月) 14:32:16 ID:YPmPq/Up0
「藤田先輩……本当に大丈夫なんスか?」
「ああ。いつまでも感傷に浸っている場合じゃないしな。柳川さんたちに笑われちまう……」
荷物を整理し、デザートイーグルとウージーの弾倉を交換すると、浩之は自身を心配してくれるチエと愛佳に向かって軽く苦笑いをした。
「――俺はもうしばらくこの市役所を調べてから教会に戻る。吉岡たちは先に教会に戻っていてくれ」
「そんな……藤田君一人残るなんて危ない……」
愛佳はすぐさま浩之が一人村に残るということに異議を唱えようとしたが、それをチエが静止した。
「――今は一人にしておいてあげたほうがいいと思うっス…………」
「チエちゃん…………」
愛佳はしばらく考えたが、浩之の気持ちを考えた上で彼が残ることに同意することにした。


「それじゃあ藤田先輩。あたしと小牧先輩は先に春原先輩たちのもとに戻っているっス」
ウォプタルの背中の蔵に一通り荷物を乗せ終えると、チエは笑顔で浩之に向かってびしっと敬礼をした。
(この敬礼は今は亡き親友、柚原このみの癖を真似したものである)
「ああ。気をつけて行けよ。それと―――ウォプタルだっけ? 二人を頼むぞ」
浩之はウォプタルに目を合わせ話しかける。
するとウォプタルも浩之に一度クワッと泣いて返事をした。
「それじゃあ藤田君、もし河野君たちに会えたらその時は…………」
「ああ、判ってる。小牧たちこそ、もしあかりや皆に会えたら俺は無事だって伝えておいてくれよ?」
「うん。――じゃあ私たちはこれで……」
「ああ。また後でな」

「…………」
ウォプタルの手綱を持って歩いていく愛佳と、それに同行するチエの後姿を浩之はしばらくの間見つ続けた。
――――そして二人の姿が見えなくなると、浩之は再び役場の中に入った。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇
376一難去って……:2007/03/05(月) 14:33:08 ID:YPmPq/Up0
役場の奥の部屋――――そこに、四人の女性が川の字になって横たえられていた。
無論、それは相良美佐江、柏木梓、柏木千鶴、そして川名みさきの亡骸である。
「…………」
浩之は変わり果てた四人の姿を何も言わず黙って見つめながら思った。

――――何故こんなことになってしまったのか。
なにが彼女たちをこのような目に合わせてしまったのか。
そして、どうしてこの惨劇を自分は回避できなかったのか。

「…………」
――――考えれば考えるほど答えは出てこない。
しかし、浩之でも唯一これだけははっきりと言えた。
「俺は――俺たちの世界を破壊し、こんな地獄に変えた主催者たちを絶対に許さない…………!」
この島に来て浩之は、初めて主催者に対する怒りを口に出した。

もう一度、浩之はみさきたちを見つめた。
他の三人はともかく、みさきはとても安らかな死に顔だった。
(そういえば倉田の親友の川澄って奴もこんな顔してたっけ…………
るーこはこの顔のことを『何かをやり遂げた顔』って言ってたな…………)
そう思いながら浩之は一度みさきの頬にそっと手を触れて撫でた。
「川名……今までありがとうな。俺もお前がいなかったら今頃は生きていなかったかもしれない……
俺もお前に何度も救われていたよ…………」
そう呟くと浩之はみさきの顔から手を離し、ゆっくりと立ち上がった。
「――だから、お前に助けてもらったこの命、まだそう簡単に捨てるつもりはねえ。
俺は必ず皆でこのデスゲームを叩き潰して、そして絶対に生きて帰る。だからよ――むこうで深山や皆と俺を……俺たちを見守っていていてくれ」
そう言うと浩之は部屋を後にして役場を後にしようとした。

――――その時だった。その男が浩之の前に現れたのは…………

377一難去って……:2007/03/05(月) 14:34:41 ID:YPmPq/Up0
「おやおや……この様子だと、どうやら文化祭は既に終わってしまったみたいだなあ…………」
「!」
役場の入り口がゆっくりと開き、一人の男が浩之の前に姿を見せた。
男が現れた瞬間。役場の空気は再び一瞬で凍りついた。
それも、先ほどの柏木千鶴のものの比にならないくらいの禍々しい殺気によるものだ。

(な…なんだこいつ…………!?)
――浩之の背にも一瞬悪寒が奔る。
まるでケツの穴にツララを突っ込まれたような気分だった。

「ちょ〜〜〜っと早いかもしれないが、まあいい…………後夜祭といこうじゃないか、少年!!」
その叫び声と同時に、目の前の男――――殺人鬼・岸田洋一は動き出した。


378一難去って……:2007/03/05(月) 14:35:32 ID:YPmPq/Up0
【2日目・14:50】


【場所:鎌石村役場】

藤田浩之
 【装備:ウージー(残弾25/25)、デザートイーグル(.44マグナム版・残弾8/8)、特殊警棒】
 【所持品1:ウージーの予備マガジン(弾丸25発入り)×2】
 【所持品2:ライター、新聞紙、支給品一式(×2)】
 【状態:脇腹と左腕と右足を負傷(それぞれ痛みはあるが、動けないほどでは無い。軽い手当て済み)】

岸田洋一
 【装備:電動釘打ち機(8/12)、カッターナイフ、鋸、防弾アーマー】
 【所持品:五寸釘(5本)、支給品一式】
 【状態:切り傷は回復、マーダー(やる気満々)】



【場所:D−3】

吉岡チエ
 【装備:89式小銃(銃剣付き・残弾30/30)、グロック19(残弾数7/15)、投げナイフ(×2)】
 【所持品1:89式小銃の予備弾(30発)、予備弾丸(9ミリパラベラム弾)×14】
 【所持品2:ノートパソコン(バッテリー残量・まだまだ余裕)、救急箱(少し消費)、支給品一式(×2)】
 【状態:左腕負傷(軽い手当て済み)、教会へ】

小牧愛佳
 【装備:ドラグノフ(6/10)、包丁、強化プラスチックの大盾(機動隊仕様)】
 【所持品:缶詰数種類、食料いくつか、支給品一式(×1+1/2)】
 【状態:健康、教会へ】
379一難去って……:2007/03/05(月) 14:36:06 ID:YPmPq/Up0
ウォプタル
 【状態:教会へ】
 【備考】
  ※以下のものを運んでいます
   ・火炎放射器、支給品一式×4


【備考】
※ウージーの残弾3発はチエの持つ予備弾丸に加えられました
380一難去って……:2007/03/05(月) 14:56:13 ID:YPmPq/Up0
【ルート・関連】
B−13
→602
→714
381兎を玩ぶ者たち:2007/03/05(月) 23:38:35 ID:mpuBMwDd0
昔々、ある小さな“物”が生まれました。
その“物”は自身の複製、つまり子孫を残しません。ただ自分の身体の部分にかぎり複製できます。
生き物に似ていますが、そんな“物”は、自分自身が無くなればそれでお終いです。
生き物とは呼べません。
だから“物”です。
事実ほとんどすべての種類が消えて無くなりました――
                              (『誰彼』より引用)              
 静かな空間であった。
 別室ではマイク越しに聞こえるであろう生命を賭した叫びや悲鳴も、この部屋では聞こえない。
 参加者達の置かれている環境からは隔絶した雰囲気をもつ部屋に踏み入った石原麗子は青白い光を放つ水槽を
一瞥すると眼前の男に軽く頭を下げた。
「どうなっている」
「は。例の宝石は笹森花梨の死亡に伴い、同行していた湯浅皐月の手に渡った模様。それと……」
「休んでいる間になにかあったのか」
「はい、いまいちど那須宗一の動向に関してのデータを見たところ、仮想時間16時37分に死亡が確認されました」
「ほう……呆気のないものだったな。いま少しこちら側に踏み入ってくるかと思っていたが」
「彼とて万能ではないでしょう。そのような枝を選び取るしか出来ないように仕向けたわが方にも落ち度があるかと」
「手厳しいな。だがどのみち新たな薬を探すには数多の兎の屍は見ざるを得ないだろう」
 男の目が細められた気配を麗子は感じた。というのも、サングラスで隠れたままのその目元を伺い知ることが
できなかったからである。
382兎を玩ぶ者たち:2007/03/05(月) 23:39:06 ID:mpuBMwDd0
「少年が宝石の所持者――ああ、前の持ち主の何某とかいう者に道づれにされたというのは少々予想の範囲を超えて
いたな……ところでだ、石原君。この一手、君ならどう駒を動かす? 手持ちはともかく板状にはわが方の駒は殆ど
残されておらぬといっていいかもしれないが」
「こちらしか知りえない情報も駒となりえるでしょう。掲示板に何か動きを持たせるのも一興かと愚考いたします」
「ふむ」
 あごに手を当て何か考えるしぐさをした男に、麗子は視線を注いでいる。参加者内で情報の均一化が進んでいる現在、積極的に殺しに乗る者たちの情報が拡散してしまうのを防ぐ手立てはない。ならば主催側から打てる策としては同程度の
信頼しうる情報――たとえば非マーダーの殺害人数など――をリークすることによって起こる非マーダー同士の不審や
猜疑を最大限に利用すべきだと考えた結果の、それは発言だった。それが原因でさらに人数が減ればよし、そうならずともそれは参加者それぞれが「生きようとする力」の強化につながり、光の玉の採集効率も上がる。
「その件はひとまずおくとして……兎の裏の少年、久瀬といったかな」
 側近の計算を知ってか知らずか、主催者と呼ばれる眼前の男は話を切り替えた。
「そろそろ起こしてやることだ。放送が近づいているからな」
 冷徹な、あるいはそう装った男の発言に対し、虚飾を排したただ一言のみを返す。
「……仰せのままに」
 その眼鏡の奥にある眼光を、初老の男――犬飼俊伐は知らない。

 自らがヨークと呼ばれる宇宙船を完全に掌握し、ゲームの主催として絶対の位置にいることを信じて疑わない
不老の科学者は、水槽のほうへと体を向ける。薄青にゆらぐ光の中に見える少女の裸体をいとおしむかのように、
彼岸と此岸を隔絶するガラス槽に指を這わせる。
「もう少しだ……あと少しだよ、きよみ……」
383兎を玩ぶ者たち:2007/03/05(月) 23:39:38 ID:mpuBMwDd0
 一方、部屋を退出した麗子は失笑をこらえきれずにいた。
 飽き飽きするほど長い間仙命樹の行く末を見守ってきたが、今回は極めつけの茶番だった。
 戦時中に恋をした初老の男が、その相手の少女を完全に復活させようという夢を見つづける。
 その恋は世紀を超えて、ついには仙命樹本体と麗子自身、そして数多の人間を巻き込んで際限なく肥大化していく。
「まあ、それに乗る私も私だけれどね」
 麗子は権限の届く限り、犬飼に対して「光の玉」の情報は伏せていた。得体の知れない船を呼びだし、確たる財力の
バックアップもないまま篁や来栖川などの要人を拉致し、それと気づかさせずに、ヨーク内に設けたフィールドで
殺し合いを二度にわたって始めてのけた手腕は驚嘆するべきものだったが、完全に手を組むとなれば話は別だ。
 人が生きるとき、無意識に、あるいは意識的に選び取る選択肢。それを経るごとに、言い換えれば「生きる」ごとに
人はエネルギーを蓄積し、また消費する。そのエネルギー体が目に見える形――「光の玉」となって現れることがある。
 ヨークのパーツの一部――見かけは青い宝石であるそれが「光の玉」を吸い取る性質があることに気づいた麗子は、
前回のゲームの際それを隔離フィールドに紛れ込ませたのだった。
 光の玉のエネルギーを集めること……それは犬飼も知らない麗子の目的に沿う。
「まあ、しばらくは熟成が必要ね。美味しい酒も男もまずは待つことから」
 "見守る者"石原麗子にとってそのような時間はとるに足りぬものである。
 ふふ、と含み笑いを漏らすと、麗子は放送の準備に取り掛かった。 
 

→(259)、466、632、722 ≠→724

【時間:仮想時間2日目18時前、定時放送直前】
【場所:ヨーク内部(沖木島はヨークの仮想空間内部)】
【ヨークの外がどうなっているかはお任せします】
犬飼俊伐
【状態:466の「男」、ヨークの完全動作ときよみの復活が目的】
【所持品:仙命樹コントロール装置】
石原麗子
【状態:466の「側近」、隙あらば反逆の意思あり、目的不明】
384The winner at the end:2007/03/06(火) 23:28:00 ID:29fFShmm0
「な…なんだ、お前はっ…」
 浩之は突然現れた男から目を離す事が出来なかった。
 体中の筋肉、いや細胞にいたるまで「この男は危険だ」と警鐘を鳴らし続けている。
 その男――岸田洋一――は、千鶴との戦闘で滅茶苦茶になった役場の中を見ながら答える。
「そうだな…例えるなら折角の楽しい文化祭に寝坊してしまった可哀想な学生、というところかな?」
「茶化すなっ!答えろ!」

 浩之は己の中にある震えを追い払うべく大喝を入れる。
 だが当の岸田は浩之の大声を鬱陶しい、とでも言うようにに顔を歪ませるといきなり姿勢を屈めた。
 その様子を見て、場違いに浩之はかけっこに似ている、と思った。

「貴様のようなガキには言うまでもないって……事だ!」
 裂帛の勢いで叫ぶやいなや、岸田が一直線に駆け出した。ぎらり、と鈍く輝きを放っている鉈が浩之に向けられる。
 浩之は真正面から迎撃するというような事をせず、横っ飛びに岸田の攻撃を避ける。
 あれでは反撃できても、相打ちになりかねない。
 岸田の第一撃が虚空を切る。

「いい反応だ!だが撃ってこないのか?」
「一介の高校生にそんな簡単に銃が撃ててたまるかっての、オッサン!」
 言いながら、浩之は44マグナムをポケットの中に入れる。怪我を負っている浩之は片手ではこれは撃てない、と思ったからだ。
「けどな、数撃ちゃ当たるって言葉もあるッ!」
385The winner at the end:2007/03/06(火) 23:28:35 ID:29fFShmm0
 サイドステップから両足を着地させ、同時にしっかりと両手でウージーを構える。
 未だに人を殺す事への躊躇があったが…この場合、やむを得ない!
 マズルフラッシュが薄暗い役場の中を、ほんの数瞬明るくした。だが、その火線上には――
「え、いない…?」
 忽然と、岸田の姿が消えた、かに思った。

「ここだよ」

 机の物陰、そこから床と机にへばりつくようにして岸田の頭と腕が現れていた。そして手に握っているのは釘打ち機。
「やろっ!」
 源義経の八双飛びを想起させるかのような跳躍で机の上に飛び乗る浩之。着地の瞬間、ズキッと体が軋むが痛いとは思わなかった。
(これくらいの痛み、みんなが受けたのに比べればッ!)
 机から机へと本や雑誌を取りながら軽やかに乗り移っていく浩之。釘打ち機を撃つ音は聞こえてこない。

 飛び移りながら浩之は考える。距離を置いて戦うべきだ。スピードもパワーも相手の方が勝っている。何とか距離をあけて弾幕を張るしかない!
(武器の性能はこっちが勝ってるんだ、油断さえしなければ)
 部屋の隅へ移動し、物陰に隠れて岸田の位置を探る。岸田も隠れたようで、こちらからは位置が特定できない。
 浩之は出していた顔を戻すと呼吸を整え、そして思考する。
 奴の方は、こちらの位置を掴んでいるのか?それとも自分と同じか?
 相手だけがこちらの位置を掴んでいるのならそれは実にまずい。警戒をする方向を絞れるからだ。
 こちらも部屋の隅にいるのである程度攻撃してくる方向を絞れるのだが…

 再び浩之は顔を出した。さっきは大まかにしか見ていなかったので分からなかったが、視界の隅には力尽き、命を散らせた仲間の遺体が並べられているのが見えた。
(川名っ…もう一度、俺に力をくれっ)
386The winner at the end:2007/03/06(火) 23:29:09 ID:29fFShmm0
「おい小僧ッ!」
役場の中に岸田の声が響く。室内であるせいで、声が聞こえても位置は特定できない。
「この死体どもは小僧の仲間か、ん?」
 何を言っているのか浩之には分からなかった。知り合いなのだろうか?いや、少なくとも川名の知り合いではない。他の三人――柏木千鶴、柏木梓、相楽美佐枝の知り合いかは分からないが。
「それがどうした!」
「いやいや……中々いい女だと思ってね。よい体をしていらっしゃる」
 嫌悪を感じずにはいられないほどのざらざらとして、それでいて粘つくような声質。
「……何が、言いたい」
「死んでしまったとは言ってもまだ綺麗な体だろう?ほら、まだ血色もいいじゃないか」
 まるで岸田がみさきたちのすぐ近くにいてじろじろ見まわしているような口ぶりだ。
「何が言いたいのかって聞いてるんだ!」
 浩之の怒声など気にもしていないように、岸田は続ける。
「くく……人間ってどうしようもなく緊張したり興奮すると性欲が高ぶるらしいなぁ? 実はなぁ、俺もここ最近女と犯ってなくってな…溜まって溜まって仕方がないんだよ、これが」
 『犯って』という言葉が浩之の神経に障った。半分身を乗り出して叫ぶ。
「お前、まさかっ…」
「だからなぁ、ちょいとこいつらに悪戯させてもらおうと思ってね……まずは、この可憐そうな制服のお嬢ちゃんからにしとくかな?」

「や……やめろッ!!」
 岸田の欲望の対象がみさきに向けられていると知るが早いか、浩之はみさきの遺体がある方向へと疾走した。
「川名に手を出すんじゃねえッ!」
 すっかり逆上した浩之は無我夢中で死体まで駆け寄る。彼女らのすぐ近くの机の陰!岸田はそこにいるに違いないと思っていた。
「うああああああっ!!」
 ありったけの銃弾を岸田が潜んでいると思われる机の陰へと撃ち込んだ。雨あられと銃弾が岸田に撃ちこまれて――いなかった。
「何ッ!?」
「何を狼狽えてる、こっちだマヌケが」
387The winner at the end:2007/03/06(火) 23:29:52 ID:29fFShmm0
 反対――!
 振り向きウージーを発射しようとして、弾が出ない事に気付く。弾切れ、だった。
 弾のないウージーを構えた視線の先には岸田洋一がニヤリと笑っていた。浩之と同じように、しかし岸田は銃でなく釘打ち機を構えて。
 トカカカカ、と目にも留まらぬ早さで釘が浩之の腹部に吸いこまれていった。

「うぐぅッ!」
 悲鳴を上げて浩之が床に倒れる。その衝撃でポケットに入れていた44マグナムが顔を出す。
 浩之の腹には計8本もの釘が刺さっていた。
 にもかかわらず、浩之はまだ死んではいなかった。
 急所から外れていたわけではない。では何故浩之は生きているのか?

(あ…危なかった…あいつが持っているのが釘打ち機で…良かった。隅へ移動するときに釘打ち機を警戒して学生服ん中に雑誌やらを仕込んでおいて助かった……)
 浩之は目を開けたまま死んだフリをして、反撃の機会を窺っていた。岸田は自分が死んだものと思いこんで自分の武器を漁ろうとするだろう。その時を狙って奴を――倒す!
 だが、その浩之の思惑を知っているかのように、岸田は安易に近づこうとしなかった。

(何故だ?どうして動こうとしない…)
 こちらは目線すら動かせない以上、岸田の動向を探れない。待っていると岸田は数歩、浩之の方へ近づいてきて、言った。
「これまでの失敗があるからな……ひょっとしたら、『死んだフリ』をして騙そうとしているかもしれん。念には…念を入れておくとするか」

 動けない浩之の頭の中には『!』マークがいっぱいに広がっていた。
(バレてる!くそっ、トドメを刺すつもりか!)
388The winner at the end:2007/03/06(火) 23:30:28 ID:29fFShmm0
「この鉈で、首を切断してやろう、くくくっ」
 見えずとも、岸田が鉈を取り出して邪悪な笑いを浮かべているのが手に取るように分かった。
「高槻への前哨戦だ…血祭りに上げてやるッ、小僧!」
(クソッ、一応避けられることには避けられるが…近距離すぎる、これじゃ撃てない!)
 だが、迷っている暇は無かった。浩之の目に、振り上げられた鉈が映っているのだから。
「ちくしょうッ!」
 やむを得ないと判断した浩之が即座に起き上がりマグナムを掴みながら岸田にタックルをかけた。
 元より『生きている』と仮定して攻撃を仕掛けた岸田にとってそれは予想外でも何でもなかった。悠々とタックルを回避して鉈を横薙ぎに振るう。
「ぐ…ッ!」
 がら空きになっていた背中に、鉈の一撃が入る。辛うじて致命傷ではなかったが、もう浩之には眼前の殺人鬼と交戦するだけの余力が残っていなかった。

 それでも浩之はよたよたと動き、岸田から距離を取ろうとしていた。
「まだだ…まだ終わっちゃいねぇ…っ、俺はまだ…死ぬわけには、いかないんだッ!」
「無駄な足掻きを…素直にあのまま切られておけば良かったのになぁ…おーおー、痛そうだ」
 岸田は余裕の表情だ。
(確かに、こっちにはもうまともに格闘も出来ねぇ。走るのも出来ねぇ…だがな、まだ必殺の一撃が残ってる!)
 がくがくと震える体を奮い立たせ、しっかりと両手に44マグナムを握る。岸田もすぐにそれに気付いたが、やれやれと肩をすくめて言った。
「ほぅ、最後の抵抗のつもりだろうが…戦闘が始まったとき、すぐにそれを仕舞ったな?くく、弾は残っていないんじゃあないのか?ハッタリは通じんぞ」
 どうやら岸田は勘違いをしているようだ。いける。このまま、最大級の攻撃を叩きこんでやれる!
「……どうかな?」
 ニヤリ、と笑う浩之。その様子を見た岸田の顔色が変わる。
「小僧、まさかッ!?」
「そのまさかだ!食らいやがれッ!」
 しっかりと腕を伸ばし、ブレないように構えて撃ったマグナムの弾が岸田の腹を直撃する。
 浩之と同じ箇所に命中した弾丸は岸田の体を動かし、後ろへと倒れさせた。
389名無しさんだよもん:2007/03/06(火) 23:30:33 ID:d1AwLxFx0
回避
390名無しさんだよもん:2007/03/06(火) 23:31:12 ID:d1AwLxFx0
回避
391名無しさんだよもん:2007/03/06(火) 23:32:02 ID:d1AwLxFx0
回避
392The winner at the end:2007/03/06(火) 23:32:21 ID:29fFShmm0
 直後、撃った時の反動が浩之に襲いかかり背中から鮮血を溢れさせる。その痛みに顔をしかめた浩之だったが、体は倒れる事無くしっかりと二の足で地を踏みしめていた。
 勝った。
 満身創痍だが、とにかく、自分はあの殺人鬼に勝利したのだ。
「くそっ、だけど……これじゃ、吉岡や小牧のところまで、行けやしねぇ…ははっ」
 がっくりと膝をつき、どたっと倒れ込む。傷が酷い。手当てしてもらわないとヤバいかもしれない。
「誰かが…来るまで…待つ、かな。もしかしたら、吉岡達に迎えに来てもらったりしてな」

 笑いながら、視線の先にみさきの遺体を見つける。また、彼女には力を分けてもらった。
「川名――」
 力の入らない体でみさきの元へ這いずっていこうとする。床に血溜まりが出来ているような気がするが、どうでもよかった。
 何分か時間をかけた後、ようやくみさきの元へ辿りついた。死んでいるとは思えないほどの綺麗な顔が、浩之の瞳に映る。
「川名、俺、精一杯、生きてみせるからな…それで、このゲームをぶっ壊して、無事に帰って…川名の墓を…いや、死んだ奴全員の墓を作ってやって…弔ってやるんだ」
 みさきの手を握る。冷たかったが――しかし、不思議な温かみを感じた。
「俺、絶対に死なないからな。約束…したもんな。………川名。俺――」

「恋人との感動の再会は済ませたかい?え、クソガキが」
「なッ――」
 後ろから聞こえる禍禍しい、二度と聞こえないはずの声が聞こえる。
 そんな馬鹿な、と言わんばかりの表情で浩之が振り向く。
 しかし、確かにそこには――
「それじゃあ、続きはあの世でやるんだな。………死ね」
 ――殺したはずの岸田洋一が、鉈を振り上げていたのだった。

    *     *     *

「ふん、キチンと死んだか確かめないからこうなる。だから貴様はガキなんだ」
 岸田が生きていた理由、それは高槻の銃撃からも彼を守った防弾アーマーが働いたからであった。
393The winner at the end:2007/03/06(火) 23:34:06 ID:29fFShmm0
 全ては演技。
 顔を青ざめさせたのも、死んだフリをしていたのも。
 結局、最後に笑ったのは場数を踏み、幾度とない失敗から教訓を学んできた岸田だった。
 これが今までの岸田なら浩之を死んだと勘違いし、強襲されて無事では済まなかっただろう。
 岸田は悠々と浩之の持ち物から武器を奪い取って、弾薬の装填を行っていた。
「サブマシンガンに…マグナムか。サブマシンガンは弾数が足りんが…十分だ。今度こそ、奴に煮え湯を飲ませてやる…!覚悟しておけよ、くくく、ハハハハッ!」
 岸田の執念を込めた笑い声が、血で染まった役場に響く。

【2日目・15:40】


【場所:鎌石村役場】

藤田浩之
 【所持品:ライター、新聞紙、支給品一式(×2)】
 【状態:死亡】

岸田洋一
 【装備:電動釘打ち機(5/12)、カッターナイフ、鋸、防弾アーマー、ウージー(残弾25/25)、デザートイーグル(.44マグナム版・残弾7/8)、特殊警棒】
 【所持品:支給品一式、ウージーの予備マガジン(弾丸25発入り)×1】
 【状態:切り傷は回復、マーダー(やる気満々)】

【その他:浩之の残った荷物は放置しておくようです】

【関連】
B−13
→738
d1AwLxFx0、回避ありがとうございます
394再会は一瞬のうちに:2007/03/07(水) 00:17:19 ID:BVnEVJq70
「そっちは大丈夫か!?」
「な、なんとか!」
遅れて立ち上がった佐祐理を庇う様に左腕で抱きかかえ、丁度道を挟んだ反対側に跳んだ留美に柳川は声をかける。
最も心配など毛ほどもしてはいなかったが、はっきりと聞こえた声にほんの少し安堵し、正面の車を睨み付ける。
眼前に迫り来る車体に向けて柳川は再びイングラムM10の銃口を向け小さく息を吸い―ー
防弾加工でもされているのであろうその車体に傷一つつかないのはわかった。
ならばタイヤはどうだ――!
考えるとほぼ同時に、イングラムM10が火を噴いていた。
だが奇襲に失敗したのを警戒してか、完璧に一直線ではなくわずかに蛇行しながら向かってきている車には思うように当てることが出来ない。
顔色を変えることなく柳川はトリガーを引き続け、飛び出す弾丸の一発がようやく左前輪を捕らえた。
同時に耳に届いたキンと鳴り響く金属音。そこで初めて柳川の顔に焦りが浮かんだ。
「――馬鹿な、タイヤまでもだと言うのか!」
目論見が外れたのを確信すると同時に佐祐理の身体を抱き寄せ、再びその場を横に飛び跳ねた。
二人のいた空間を車が猛スピードで駆け抜け、大気が震える。
今度ばかりは佐祐理を庇うことが出来ずに地面へと倒れこみ、佐祐理の口からわずかなうめき声が漏れる。
「――倉田、大丈夫か?」
「は、はい」
声をかけながらも視線は車へとすぐに戻す。
50メートルほど離れた場所で、すでに周回運動をしようとしている。
空中でちらりと見えた運転席の女性が、外した狙いに苦々しく顔をしかめているのがおぼろげながら見て取れた。
今までは銃を警戒してスピードを抑え蛇行していたのだろう。だが今ので完全に銃弾は効かないと言うのが向こうも確信したはずだ。
ならば今度こそ100%仕留め切るつもりで突進してくるに違いない。
銃で破壊することが出来ないなら……考えている暇はなかった。
あたりには身をかわす遮蔽物も何もない。この間にも車は再びこちらへスピードを上げてきている。
迷っている時間が長ければ長いほど待っているのは――死だ。
395再会は一瞬のうちに:2007/03/07(水) 00:17:54 ID:BVnEVJq70
ならば方法は一つしかない。
「……こいつを持ってろ、出来れば離れて援護してくれ。
隠れていろ、と言いたい所だがあいにくそんな所はどこにも無いようだし……なっ!」
手荷物をその場に投げ捨てると、佐祐理と留美の返事を待たずに柳川は駆け出していた。
「ちょ、ちょっ、柳川さんっ!?」
方向は――向かってくる車の眼前。
フロントガラス越しに映る黒髪の女性が一瞬戸惑いの表情を浮かべたのが見えた。
しかしそれはほんの一瞬で、車はますますスピードを上げて柳川の身体に迫っていた。
全身に力を込める。失敗すれば大怪我ではすまないだろう。
だがこんなところでくだらない足止めを食っているわけには行かないのだ。

目前に迫る車を前に目標地点を決め……両脚に意識を集中し――――跳ねた。

大きく車体が揺れ、衝撃と共に柳川の全身に強い痛みが走る。
フロントに乗り上げ、ゴロゴロと転がりながら柳川の身体はフロントガラスを駆け上がる。
白くなった視界の中、意識を両腕に移し必死に車体の縁を掴んでいた。
少しでも力を緩めれば襲い来る強風に飛ばされてしまうだろうことを本能で理解しながら、中にいる人間の顔を凝視しながら睨み付ける。
怒りに満ちた柳川の眼光。
だがその睨みにまったくひるむ様子も無く、車を運転していた女性……篠塚弥生は一切の表情を崩さず、感情の篭ってない瞳で柳川を見つめ返していた。





396再会は一瞬のうちに:2007/03/07(水) 00:18:28 ID:BVnEVJq70
目の前に走りよる男の影が突然大きくなったかと思った直後に、車体が大きく揺れハンドルから手が離れかけるのを必死に握りなおす。
柳川の行動の意味をすぐさま読み取ってはいたが、一歩間違えれば大怪我ではすまないであろうことをよもや本当に実行するとは思いもよらなかった。
フロントガラスは柳川の身体に覆い隠され視界を阻まれている。
隣に座る冬弥はと言えば、なにが起きたのかわからない表情を浮かべたまま目の前の光景を眺めていたが
すぐさま我に返ると弥生に手渡されていたFN Five-SeveNをフロントガラスへと向けていた。
「……無駄です」
そんな冬弥の行為を冷たく弥生は制す。
防弾――確かに外から中に届くことはない。が逆に中からも外に向かっては撃てないという事。
この車の銃弾製がここまで高かったのは幸運だったが、よもやこんな方法で車を止めにくるとは想定外だった。
せいぜいかわしながら車の行けない所まで逃げ続けるぐらいだろう――と。
襲撃してから一瞬での思考、そして決断と行動。
この男は今まで会ったぬるま湯に浸かっているような参加者とは違う……。
舌打ちをしながらアクセルをさらに深く踏み、握るハンドルを右へ左へと何度も何度も回す。
弥生の願いを遂行するかのように、車はますますスピードを上げ蛇行し続ける。
このまま走らせ続けていれば、いつかは体力も尽き振り落とすことも可能だろうが、
目の前が見えない現状、突然の障害物に激突し事故になんてこともありえない話ではない。
『慌ててブレーキを踏ませる』『視界を塞いで何かにぶつける』――おそらくこれらが目の前の男の画策だろう。
向こうの思惑通りになるのも尺だが、ここで車を失うことも避けたい。
「藤井さん……周りに人影は見えますか?」
前方から集中を切らせない弥生は、冬弥にそう尋ねていた。

だがこの状況であるにも関わらず冬弥は頭を悩ませ考えていた。
すれ違った時に一瞬だけ見えた少女。
あの場にいたのは七瀬留美。あの髪型に制服。間違いない、間違えようがない。
(……だったらどうなんだ? 俺はどうするんだ?)
397再会は一瞬のうちに:2007/03/07(水) 00:19:17 ID:BVnEVJq70
思わずポケットに入れた手に触れたのは、自分の行動を決めたはずの一枚のコイン。
(何をいまさら? みんな殺すんだろ?)
いまだ煮え切らない態度の自分を馬鹿にしたようにしている気がした。
(違う! 俺は由綺の敵を取りたかっただけだっ!!)

「――藤井さんっ!?」
返ってこない返事に、弥生は無表情を繕いながらも苛立った声を上げた。
「あ、はい、えっと……」
遮られている前方に慌てながらウィンドウを開けて横、そして後ろを確認する。
見える範囲には誰もいえるようには見えなかった。
そして目の前の男と一緒にいた二人の姿はまさに消えようとしていた。
「……大丈夫みたいです」
その答えに弥生はほんの一瞬の間を起き、さらにアクセルを吹かしながら告げた。
「――では少々乱暴に止めますのですぐに飛び出せる準備をしておいてください」





猛スピードで離れていく車を留美は必死に追いかけていた。
留美に少し離れされながらもその後ろを佐祐理が追う。
「柳川さん無茶しすぎよっ!」
車に乗っているのは間違いなくゲームに乗ってしまった人間だと言うのにも関わらず、悪態をつきながらも留美の顔には笑みが浮かんでしまっていた。
無茶具合では劣らぬ馬鹿な人間の顔を思い出してしまったから。
398再会は一瞬のうちに:2007/03/07(水) 00:19:53 ID:BVnEVJq70
浩平には何も言わずこんなことになってしまっているけれど、あいつは大丈夫なんだろうかな。
一瞬だけそんなことを考えた彼女の笑顔は、その時間さえも許されることのなく凍りつく。
はるか遠くに消えかけている車の、そのサイドウィンドウから顔を出した人間の顔。
本当に豆粒ぐらいにしか見えなかったにも関わらず、彼女は確信してしまった。
それこそがずっと彼女が探していた人間――藤井冬弥だと言う事を。
「――藤井さんっ!!」
衝動的に口から飛び出た叫びは、すでに大きく離されもう見えなくなっている彼に届くわけも無く……。
そして彼女の叫びに対する返事のように夕方の放送が響き渡り始めた――。



【時間:2日目18:00】
【場所:I−7平地】
柳川祐也
【所持品:下記備考参照】
【状態:左肩と脇腹の治療は完了したが治りきってはいない、肩から胸にかけて浅い切り傷(治療済み)、車のフロントガラスにしがみついてる】
倉田佐祐理
【所持品1:舞と自分の支給品一式(片方の食料と水残り2/3)、救急箱、吹き矢セット(青×3:麻酔薬、赤×3:効能不明、黄×3:効能不明)】
【所持品2:二連式デリンジャー(残弾0発)、投げナイフ(残り2本)、レジャーシート】
【所持品3:拾った支給品一式】
【状態:健康、車を追っている】
七瀬留美
【所持品1:S&W M1076 残弾数(7/7)予備マガジン(7発入り×3)、日本刀、あかりのヘアバンド、青い矢(麻酔薬)】
【所持品2:スタングレネード×1、何かの充電機、ノートパソコン、支給品一式(3人分、そのうち一つの食料と水残り2/3)】
【状態:健康、車追っている。目的は冬弥を止めること。千鶴と出会えたら可能ならば説得する、人を殺す気、ゲームに乗る気は皆無】
399名無しさんだよもん:2007/03/07(水) 00:21:55 ID:12hyJ4T90
回避?
400名無しさんだよもん:2007/03/07(水) 00:22:27 ID:12hyJ4T90
回避
401再会は一瞬のうちに:2007/03/07(水) 00:22:47 ID:BVnEVJq70
篠塚弥生
 【所持品:包丁、ベアークロー】
 【状態:車に乗っている、マーダー・脇腹に怪我(治療済み)目的は由綺の復讐及び優勝】
藤井冬弥
 【所持品:暗殺用十徳ナイフ・消防斧・FN Five-SeveN(残弾数12/20)・FN P90(残弾数0/50)】
 【状態:車に乗っている、迷い、マーダー・右腕・右肩負傷(簡単な応急処置)目的は由綺の復讐】


【備考】
・柳川達が戦っている場所の近くには、茂み以外の遮蔽物は無い
・柳川の所持品(イングラムM10(5/30)、イングラムの予備マガジン30発×8、日本刀、支給品一式(片方の食料と水残り2/3)×2、青い矢(麻酔薬))は
 車にしがみついてるので大量には持てない状況だと想定していますが、その辺の分配は後続にお任せします。
【備考2】
・聖のデイバック(支給品一式・治療用の道具一式(残り半分くらい)
・ことみのデイバック(支給品一式・ことみのメモ付き地図・青酸カリ入り青いマニキュア)
・冬弥のデイバック(支給品一式、食料半分、水を全て消費)
・弥生のデイバック(支給品一式・救急箱・水と食料全て消費)
上記のものは車の後部座席に、車の燃料は残量60%程度

【→737 B-13関連】
>>399 thxですよー
402No.744 性格反転茸:2007/03/08(木) 01:06:26 ID:NSO7qhsu0
派手な音もなく、彰が倒れ伏す。
額に小さな穴が開き、後頭部は無残に破裂し、頭皮と頭蓋と脳漿とを撒き散らす。
渚と七海がそれを見て一拍、悲鳴をあげる前に気絶した。
その瞬間場の呪縛が解けた。
「てめえええええええええ!! 何しやがったああああああ!!」
朋也が皐月に詰め寄る。
形相は修羅。
裂帛の気迫は気の弱い者ならずとも硬直させるだけの迫力はあった。
が、皐月の表情は僅かも揺るがなかった。
黙って彰の死体を指差す。
「――見て分からない?」
「なんだとっ!?」
「撃ち殺したのよ。あいつを」
皐月の表情は揺るがない。
「何故、殺した!」
「あたしはあいつを知らないし、あいつを放っておけば人が死ぬから。その中にはあたしも含まれるかもしれないから。どう? 満足?」
「っ……ざけんなぁあああ!!」
痛む体に構わず、右腕を振り上げる。
「うっ……」
が、同時に皐月もH&K PSG-1を構えていた。
403No.744 性格反転茸:2007/03/08(木) 01:07:21 ID:NSO7qhsu0
「じゃあ、何が不満なの? ん? マーダーは消えたよ。あたしたちの誰も死んでない。致命傷も負ってない。この上何が不満なの?」
下目使いで嘲るように言う。
事実、嘲っていたのかもしれない。
それが酷く朋也の癇に障る。
「あいつは……俺が殺す筈だったのに……」
「は。馬鹿じゃないの?」
搾り出すようにした反論も一言の下に切り捨てられる。
「なんだと!?」
「……あんたもゲームに乗ってるの? あの子がみちるを助けてくれたっていったのはブラフ?」
「んなわけねぇだろうが!」
「どうだか。あんた七海って子を見殺しにしようとしたよね。『その程度で俺が止まると思ったか』忘れちゃった?」
「っ……それは……」
怯む。
確かに、朋也は七海を見殺しにしようとした。
あそこで高槻が止めていなかったら構わずに突っ込んでいただろう。
彰を殺して、マーダーを殺して、主催者たちを殺す。
その為の犠牲は厭わないつもりだった。
それも渚を盾にされるとなったとたんあの体たらく。
あれがみちるでも動けなくなっていただろう。
つまり、その程度の覚悟。
知らぬ者は見殺しにできても大事な人は犠牲にできない。
404No.744 性格反転茸:2007/03/08(木) 01:09:03 ID:NSO7qhsu0
皐月は傷を抉り続ける。
「あんたはあの子達が無事ですんだことより何より彰を殺せなかったことに腹を立てた。
今もまた気絶したあの子達の所じゃなく彰を殺したあたしのところに来た。仇の仇が憎かったから。
あんたはあたしがこの銃を下ろしたらどうするの? その握った拳。あたしに振り下ろす? さっきみたいに気絶させる? それとも今度はあたしを殺す?」
「う……るせぇー!」
これ以上聞いていられない。
聞いていたら俺の何かが崩れてしまう。
朋也は皐月に殴りかかる。
振り上げた右腕をそのまま叩き付ける。
――が、あたらない。
バックステップでかわした皐月はそのままH&K PSG-1を持ち替え銃把で横っ面をぶっ叩いた。
「がっ……!」
「――少し頭を冷やしなさい」
朋也は吹っ飛ばされ、そのまま気を失った。
「嬢ちゃん、やるねぇ」
秋夫が笑いながら皐月に近づいてきた。
「――止めないのね」
「ああ。今回ばっかりは小僧が悪い。いっぺんぶっ飛ばされて落ち着いたほうがいいさ」
「あたしがあいつを殺すとは思わなかったの?」
「それは無いと思った。せいぜいがぶっ飛ばされるくらいだろうと」
「そう。よかったわね。殺されなくて」
「全くだ」
秋夫は笑っていった。
対称的に皐月は底冷えする眼差しで秋夫を見ている。
「じゃあ、あたしは行く。さよなら」
405名無しさんだよもん:2007/03/08(木) 01:10:28 ID:ueU1POW10
回避
406No.744 性格反転茸:2007/03/08(木) 01:10:30 ID:NSO7qhsu0
「待て!」
高槻が皐月を止める。
「――何? そこの馬鹿に気絶させられちゃったからもう時間が無いんだけど」
「何処に行くんだ? 行くんなら一緒にいかねーか?」
「はっ。やめとくわ。そこで気絶してる足手まといを待つほど時間が無いの」
高槻の隣で気絶している郁乃と七海を一瞥して返す。
「っ……じゃあ、せめて情報だけでも持ってってくれ。一応おめえは恩人だ。死なれでもしたら寝覚めがわりぃ」
「わかったわ。じゃあ、早く教えて。本当に時間が無いの」
「ああ……つっても大した情報があるわけじゃねえんだけどな……この島にどうやって紛れ込んできたのかしらねえけど岸田洋一って奴がいやがるんだ。
こいつはマジでやべえ……根っからの極悪人だ。
大柄で糞みてえな目をしてやがる糞野郎だ。何より首輪をしてねえ。それをみりゃ一発でわかるはずだ。
こいつに出会ったら、躊躇わず殺せ。出来なきゃ逃げろ。防弾チョッキを着てやがるから狙うなら頭か腕か足だ。動けなくしてからきっちり止めを刺せ」
「……随分な言われようね。わかったわ。殺せるようなら殺しておくわよ。じゃあ、あたしは梓を追う。七海が起きたら皐月がいたって伝えておいて。それじゃ」
そういって皐月は駆け出していった。
駆け出す皐月を光が追いかけていく。
同時に、ポテトの手からも光が出て皐月を追いかけていった。
ここで受け取った情報がこの後どんな役目を果たすのか。
梓も梓の追っていた千鶴も帰らぬ人となっていることも含めて、それは皐月の知り及ぶところではなかった。
407名無しさんだよもん:2007/03/08(木) 01:11:42 ID:ueU1POW10
回避
408名無しさんだよもん:2007/03/08(木) 01:12:34 ID:ueU1POW10
回避
409No.744 性格反転茸:2007/03/08(木) 01:13:25 ID:NSO7qhsu0
「おめえはどうすんだ? 成り行きでこの小僧の相手させちまったが、目的地はあんだろう?」
「ああ……久寿川と貴明を迎えに鎌石村まで行くとこだったんだ。お前はどうすんだ?」
「色々複雑なんだが……ロワチャンネルっつーので小僧のふりして二時に集まろうって言う書き込みがあったんだわ。で、小僧がそれを止めに行くって出てったんだが……それは七瀬のガキを殺しに行くための方便だったらしい。それで連れ戻しに来たんだが……」
そういって気絶した面々を見やる。
「状況が状況だ。俺らは帰るぜ。――もし、鎌石村に行くんなら、できるんならロワチャンネルで集まった奴がいたらあれは嘘だったって伝えてやってくれねーか?」
「ま、相手がゲームに乗ってねーと思ったら伝えといてやるよ。じゃ、取り敢えずのんきに寝てやがる馬鹿を起こすか」
「小僧だけは寝かしとけよ。また飛び出されたらたまんねえ」
そう言って秋夫と高槻は未だ眠っている郁乃たちに近付いて行った。

410No.744 性格反転茸:2007/03/08(木) 01:14:10 ID:NSO7qhsu0
【時間:二日目・14:50】
【場所:C-3】

湯浅皐月
 【所持品1:S&W M60(5/5)、セイカクハンテンダケ(×1個+8分の3個)、.357マグナム弾×10、自分と花梨の支給品一式】
 【所持品2:宝石(光5個)、海岸で拾ったピンクの貝殻(綺麗)、手帳、ピッキング用の針金】
 【状態:性格反転、首に打撲、左肩、左足、右わき腹負傷、右腕にかすり傷(全て応急処置済み)梓を追いかける】
ぴろ
 【状態:皐月と共に行く】
古河秋生
【所持品:トカレフ(TT30)銃弾数(6/8)・S&W M29(残弾数0/6)・支給品一式(食料3人分)】
【状態:中程度の疲労、左肩裂傷・左脇腹等、数箇所軽症(全て手当て済み)。渚を守る、ゲームに乗っていない参加者との合流。聖の捜索。取り敢えずいったん帰る】
古河渚
【所持品:無し】
【状態:涙目。左の頬に傷。自力で立っている、右太腿貫通(手当て済み、再び僅かに傷が開く)】
みちる
【所持品:セイカクハンテンダケ×2、 薙刀、殺虫剤、風子と自分の支給品一式】
【状態:健康。目標は美凪の捜索】
岡崎朋也
 【所持品:三角帽子包丁、鍬、クラッカー残り一個、双眼鏡、他支給品一式】
 【状態:気絶。マーダーへの激しい憎悪、疲労大、全身に痛み、頬に打撲。最終目標は主催者の殺害】
411No.744 性格反転茸:2007/03/08(木) 01:14:45 ID:NSO7qhsu0
折原浩平
 【所持品1:S&W 500マグナム(5/5 予備弾6発)、34徳ナイフ、だんご大家族(残り100人)、日本酒(残り3分の2)】
 【所持品2:要塞開錠用IDカード、武器庫用鍵、要塞見取り図、ほか支給品一式】
 【状態:頭部と手に軽いダメージ、全身打撲、打ち身など多数。両手に怪我(治療済み)】
ハードボイルド高槻
 【所持品:コルトガバメント(装弾数:7/7)、コルトガバメントの予備弾(5)、スコップ、ほか食料・水以外の支給品一式、分厚い小説】
 【状況:全身に痛み、疲労極大、出血大量、左肩を撃ち抜かれている(左腕を動かすと激痛を伴う)、最終目標は岸田と主催者を直々にブッ潰すこと、当面は貴明たちとの合流】
小牧郁乃
 【所持品:H&K PSG-1(残り0発。6倍スコープ付き)、写真集×2、車椅子、ほか支給品一式】
 【状態:赤面、車椅子に乗っている】
立田七海
 【所持品:フラッシュメモリ、ほか支給品一式】
 【状態:涙目】
ポテト
 【状態:たんごぶ】

【備考】
  七瀬彰の持ち物はみちるが貰いました。
  弾が無くなったので郁乃と浩平は銃を換えました。
  彼女たちは高槻と秋夫に起こされています。推して知るべし。

【関連:734】

>>405
感謝
412二人の殺戮者:2007/03/09(金) 11:58:54 ID:8sUmVIGW0
地にぐったりと倒れ伏す国崎往人の死体。
朝霧麻亜子はどこか冷めた目で、僅かの間とは言え共闘した者の亡骸を眺め見ていた。
「もう勝負を終わらせていたなんて、あやりゃん……恐ろしい子」
来栖川綾香を打倒するという共通目的の下、成り行きで協力しただけなので特に悲しいとは思わなかった。
しかし―――国崎往人は、強い男だった。
優れた体格、咄嗟の判断力、そしてマシンガンを持った相手にも物怖じしない度胸。
武装面も考えれば、その実力は自分以上であった筈だ。
そんな彼ですら綾香相手ではあっさりと殺されてしまった。
はっきり言って今の自分の装備では、綾香を正面から倒すのは絶望的だ。
隙を狙おうにも、既に綾香は姿を消してしまっている。
こうなってしまった以上は―――

「他の参加者を倒してレベルアップするしかないね……」
ここで言うレベルアップとは装備を奪い取る事だ。
出来ればマシンガン系統の武器、最低でも拳銃が欲しい所。
弾が一発しか無いデザートイーグルでは、攻撃面であまりにも不安が大き過ぎる。
とは言え氷川村で獲物を探そうものなら、また綾香に出会ってしまう危険がある。
武器を手に入れる前にそうなってしまえば、今度こそ自分の命は無い。
となればまずは他の村……距離的に考えれば、平瀬村で狩りを行うのが妥当か。
平瀬村で巳間晴香らを屠ってから一日近く経過している。
そろそろ新しい獲物達が集まってくる頃だろう。

「さーりゃんは絶対殺させない。パワーアップした後なんとしてでもあやりゃんを見つけ出して、そして―――」
麻亜子はボーガンを握り締めた手をバッと天に掲げた。
「デストローイ!」
活を入れるかのように大きく叫んで、麻亜子は平瀬村へと歩き出した。
413二人の殺戮者:2007/03/09(金) 12:00:57 ID:8sUmVIGW0



しかしそんな麻亜子の一挙一動を逃さず窺っている人影が、すぐ近くの茂みの中に存在した。
「は、何言ってんだか。私は殺そうと思えばいつでもあんたなんか殺せるのにね」
麻亜子に聞こえないような小さな声で呟くその少女こそが、来栖川綾香だ。
綾香は往人を殺害した後、環と麻亜子に遭遇した場所へ戻ろうとしていた。
しかし何者かが急接近してくるのに気付き身を隠したのだ。
そして近付いてきた人物は、綾香にとって怨敵である朝霧麻亜子だった。
最大の標的を見つけた綾香は、息を潜めたまま麻亜子の後を追っているという訳である。
何故こうも一方的に相手の存在を察知する事が出来るのか?
「主催者も便利な道具を用意してくれたもんね。コレさえあればもうまーりゃんを見失う事は無い……」
笑みを浮かべながらレーダーを覗き見る。
その中には光点が二つ。
一つは自分の物、そしてもう一つは麻亜子の存在を示す物だろう。

この状態から麻亜子を殺す事はいつでも出来る。
隙だらけの背中を晒している麻亜子目掛けて、マシンガンの引き金を引けば終わりだ。
しかしそれでは余りにもつまらない。
麻亜子を苦しませるには……彼女が『さーりゃん』と再会を果たした時に、二人纏めて片付けるのが理想だ。
たっぷりと自分の無力さを味合わせた上で殺す。
「せいぜい束の間の追跡者気分を味わう事ね、哀れなオチビちゃん」
尾行にまるで気付いていない麻亜子を嘲笑い、綾香もまた歩き出すのだった。
414二人の殺戮者:2007/03/09(金) 12:02:18 ID:8sUmVIGW0
【時間:2日目・16:30】
【場所:I-7北部】

朝霧麻亜子
【所持品1:デザート・イーグル .50AE(1/7)、ボウガン、サバイバルナイフ、投げナイフ、バタフライナイフ】
【所持品2:防弾ファミレス制服×2(トロピカルタイプ、ぱろぱろタイプ)、ささらサイズのスクール水着、制服(上着の胸元に穴)、支給品一式(3人分)】
【状態:マーダー。スク水の上に防弾ファミレス制服(フローラルミントタイプ)を着ている、全身に痛み】
【目的:平瀬村方面へ移動、目標は生徒会メンバー以外の排除、特に綾香の殺害。最終的な目標は自身か生徒会メンバーを優勝させ、かつての日々を取り戻すこと。】

来栖川綾香
【所持品1:IMI マイクロUZI 残弾数(25/30)・予備カートリッジ(30発入×2)】
【所持品2:防弾チョッキ・支給品一式・携帯型レーザー式誘導装置 弾数1・レーダー(予備電池付き)】
【状態:右腕と肋骨損傷(激しい動きは痛みを伴う)。左肩口刺し傷(治療済み)】
【目的:麻亜子を尾行、麻亜子とささら、さらに彼女達と同じ制服の人間を捕捉して排除する。好機があれば珊瑚の殺害も狙う】

(関連:695、698)
415第三回放送(ルートB-13・B-16):2007/03/10(土) 17:09:14 ID:HJTcFBdL0
17:50

ジリリリリリリリリリリリ……!
けたたましいベルの音がなる。その圧倒的音量によるノイズは、熟睡していた久瀬を地獄へと呼び戻す。
久瀬はばっと身を起こし、モニターの右下を注視した。
表示されている時計は、現在の時刻が17時50分である事を示している。
モニターの映像が移り変わり、生理的嫌悪感をもたらすあの白いウサギの顔が現れた。
『やあ久瀬君、お目覚めは如何かね?』
「……僕の体調なんて毛程にも心配をしていない癖によく言うよ。三回目の放送をやれ、というつもりだろ?」
『くくくっ……、よく分かっているじゃないか。それじゃ宜しく頼むよ。
念の為に言っておくけど、命が惜しければくれぐれも我々にとって不利益な事は言わないようにね』
地声が分からぬよう変換された声で紡がれる笑いは、久瀬を酷く苛立たせる。
そして画面の映像がプツリと途切れ、表示されるものは漆黒の闇だけとなった。
久瀬は両の足を奮い立たせ、唯一の出入り口である扉へと歩いていった。
渾身の力で扉を開け放とうとしたが、案の定施錠されたままのソレはびくともしない。
「クソッ……!」
大きく舌打ちする。睡眠を取って体力は全快近くまで回復した。
しかしその程度でこの状況を打開するのは、到底不可能だった。
416第三回放送(ルートB-13・B-16):2007/03/10(土) 17:10:08 ID:HJTcFBdL0



17:59

第三回放送の時は訪れた。
それはゲームに参加している者達に、そして久瀬自身にも絶望と憎悪を与える報せだった。
ゆっくりと赤く浮かび上がってくる、この島の何処かで無残な姿を晒しているであろう骸達の名前。
久瀬は驚愕のあまり、ぽかんと口を開けた。
勿論殺し合いは自分が意識を失っている間にも進行していて、第二回放送時を上回る数の死者が出ていたという事もある。
だがそれ以上に久瀬へ衝撃を齎した事実、それは、
「あ……相沢君と川澄君が……」
相沢祐一と川澄舞の死だった。
とうとう知人から犠牲者が出てしまった。しかし今の彼には悲しむ時間さえ与えられていない。
時計は18:00を示していた。



18:00

『――時間だよ、久瀬君。放送を始めたまえ』
ウサギが一瞬画面に現れ、その一言だけを告げそしてまた消える。
ここで逆らってもどうにもならない――久瀬は一度大きく深呼吸をしてから、言葉を吐き出し始めた。
「――みなさん、聞こえているでしょうか?これから第三回放送を始めます。とても辛い報せになりますが、どうか気を確かにしてお聞き下さい。
それでは、今までに死んだ人の名前を発表します」
目線をモニターへと移して、死者達の……精一杯生きてきて、それでも助からなかった者達の名前を読み上げる。
「――それでは発表します。
417第三回放送(ルートB-13・B-16):2007/03/10(土) 17:11:28 ID:HJTcFBdL0
1番、相沢祐一
4番、天沢郁未
5番、天野美汐
6番、一ノ瀬ことみ
8番、伊吹風子
17番、柏木梓
19番、柏木耕一
20番、柏木千鶴
26番、神岸あかり
28番、川澄舞
29番、川名みさき
32番、霧島聖
35番、国崎往人
40番、向坂雄二
41番、上月澪
43番、幸村俊夫
47番、相良美佐枝
48番、笹森花梨
49番、佐藤雅史
55番、少年
59番、住井護
69番、遠野美凪
70番、十波由真
418第三回放送(ルートB-13・B-16):2007/03/10(土) 17:13:21 ID:HJTcFBdL0
71番、長岡志保
77番、那須宗一
78番、七瀬彰
86番、姫百合瑠璃
89番、藤田浩之
91番、藤林椋
96番、保科智子
98番、マルチ
106番、巳間良祐
118番、芳野祐介


 ――以上です」

全ての死者の名前を挙げた後、久瀬は別の事柄について考えていた。
ここで感傷に浸っていても誰も救われないからだ。
『今回は随分と落ち着いていたじゃないか。もう人が死ぬのに慣れたのかね?』
あのウサギの下賎な声がまた聞こえてくるが、久瀬の意識にまでは届いていない。
(死ぬのはもう怖くない……相沢君だって川澄君だって、死んでしまったんだ。
きっと彼らの事だ、誰かを助けようとして殺されてしまったんだろう。ここで僕だけが臆病風に吹かれる訳にはいかない。
考えろ……どうやったらこの殺し合いを管理している連中に一泡吹かせられるか、考えるんだ……ッ!)
相沢祐一と川澄舞の遺志は久瀬にもまた、受け継がれていた。

久瀬
 【時間:2日目18時過ぎ】
 【場所:不明】
 【状態:主催者へ反旗を翻す決意】
※この話を他ルートで使いたい場合は自由に改変してお使いください
419Despair:2007/03/12(月) 17:07:55 ID:TStvNsTC0
陽の落ちた集落に、屹立する二つの人影。
それはこの島で生き延びる為には、決して出会ってはいけない存在だった。
「リ……リサさん、どうしてっ!?」
苦痛に顔を歪めながら、かつての同志に尋ねる佐祐理。
しかしそのような事、聞くまでも無い。リサは確実に柳川を殺そうとしていた。
リサは紛れも無くゲームに乗っており、それは即ちあの柏木耕一と柏木千鶴さえも上回る、最強の敵が誕生したという事だ。
「こんばんは皆さん。本当なら初めましてというべきなんでしょうが……貴方達は私の事を知っておられるようですので」
微笑みながら、有紀寧は言った。その声は愉し気に弾んでいる。
(な……なんなのこいつらっ……!?)
圧倒的な死の雰囲気を纏うリサと、まるで日常生活の中でのワンシーンのように笑みを崩さぬ有紀寧に、留美はかつてない戦慄を覚えた。
一介の女子高生に過ぎぬ留美ですら、今対峙している二人がどれだけ危険な敵なのか、当然のように理解出来た。
こうやって向かい合っているだけで、眉間に銃を押し当てられている錯覚を覚える。
ある者は恐怖で、ある者は裏切りに対する驚愕で硬直してしまっていたが、柳川だけは平然と口を開いた。
「宮沢有紀寧……俺は貴様を殺しに来た。俺の甥である柏木耕一を弄んだその愚行、たっぷりと償わせてやろう」
「確か貴方は殺し合いに乗ってる方々を倒して回っていたという――柳川さんですよね。そうですか、耕一さんと会ったんですね。
 どうでしたか、耕一さんは?最期まで愚かしく、馬鹿正直に人を襲い続けてくれていましたか?」
「貴様……!」
柳川が忌々しげに、ぎり、と強く歯を噛んだ。
その反応に満足したのか、有紀寧が一層深い笑みをこぼした。全てを嘲笑うような、そんな表情だった。
柳川は有紀寧から視線を外し、リサを睨みつけた。
それから、どうしても聞かねばならない事を口にした。
昨夜交わした約束、その顛末だけは確認しておきたかった。
「リサ、貴様――美坂はどうした」
その一言に、リサの顔が引き攣った。
柳川は決して触れてはならない事に、触れてしまったのだ。
リサから放たれる殺気が膨れ上がり、強大な重圧が辺りに充満する。
異能の力を持たぬ人間とはとても思えぬ威圧感だった。
420No751. 珊瑚の考察と覚悟:2007/03/12(月) 17:08:30 ID:P/pO+qmo0

 ――以上です」

「瑠璃ちゃん……」
かけがえのない妹の名が死者の名として告げられる。
自らの手で埋葬までしてこようと改めて突きつけられた事実は重い。
少なくとも春原陽平にはそう見えた。
そんな珊瑚を励ますつもりだったのだろう。
とっさに思い当たった最悪の話題に手を付けてしまった。
「あ、そ、そういえばさ。あのウサギの言ってる優勝したらなんでも願いを叶えてくれるってなんなんだろうね。そんなこと出来るわけないのにさ」
珊瑚がびく、と震える。
「うーへい」
「え……何?」
「考えろ」
「あっ……」
珊瑚は俯いたまま顔を上げない。
「あっ……あのさ、えっと……」
気まずい沈黙が流れていく。
陽平がもう土下座でもしようかと思ったとき、沈黙は破られた。
「あんな、ウチな、瑠璃ちゃんが……てからいろいろ考えてん。それもな。考えた」
珊瑚は顔を上げずに言葉を紡ぐ。
「もしウチが優勝したら、とかもな」
「さ……珊瑚ちゃん?」
421No751. 珊瑚の考察と覚悟:2007/03/12(月) 17:09:45 ID:P/pO+qmo0
すみません。
先どうぞ。

間の悪い……
422Despair:2007/03/12(月) 17:10:04 ID:TStvNsTC0
「――殺したわ」
リサは冷たい瞳で柳川を見つめたまま、約束の破棄を告げた。
「……リサァァァアアアッ!」
殺気を抑えていた柳川の、堪忍袋の緒がとうとう千切れ飛んだ。それと同時に柳川のイングラムM10が火を噴く。
リサと有紀寧はサッと民家の中に駆け込み、銃弾の雨から身を躱していた。
「…………ッ!」
柳川は後を追おうとしたが、すぐに昂ぶった感情を抑え込んで、冷静に現状を分析した。
リサ達が家の中に逃げ込んだのは一時的なものに違いない。必ず、再び攻撃を仕掛けてくる筈だ。
戦力的には、万全の状態なら五分以上に戦えるだろう。
何しろこっちは四人いるのだ。
しかし先の奇襲で佐祐理は怪我をしてしまっているし、留美も冬弥も完全に浮き足立ってしまっている。
ここで決戦を行えば、結末は想像に難しくない。
一人、また一人と倒され、最終的に全滅は免れないだろう。
だから、柳川は決断を下した。
「――リサが裏切るとは、完全に計算違いだ。ここは俺が食い止める、お前達は先に逃げて教会へ行け」
「な――何を言ってるの!?一人でどうにか出来る訳無いじゃないっ!」
留美が驚きの声を上げる。それも当たり前の事だった。
柳川は「自殺する」とほぼ同じ意味に聞こえる言葉を口にしたのだから。
柳川は素早く走り、留美の鞄を一つ奪い取ると、リサ達が隠れている民家に向かってゆっくりと歩き始めた。
「待ってください!柳川さんまで死んでしまったら、佐祐理は……佐祐理は……ッ!」
必死に訴えかける佐祐理。だが――柳川は振り向かない。
はっきりとした足取りで、歩みを進めてゆく。
心配には及ばぬと、無言のままにその大きな背中で語っていた。
もう、柳川の決意を止める事は叶うまい。
「……柳川さん」
だから佐祐理は彼を信じて、その背中に言葉を投げ掛けた。唯一つの台詞に、一番の望みを乗せて。
「どうか、ご無事で」
民家の窓が割れ、そこから神速を誇る影――リサ・ヴィクセンが飛び出してくる。
その姿を認めた柳川は、一切の雑念を捨て去って疾走した。
佐祐理達も、柳川とは反対方向に駆け出した。再び生きて逢える事を信じて――

     *     *     *
423Despair:2007/03/12(月) 17:11:46 ID:TStvNsTC0
集落の中を駆ける二つの疾風。
敵の――リサ・ヴィクセンの照準を定めさせぬよう、柳川は小刻みに左右へ跳ねる。
リサの攻撃は正確なだけではない。
こちらの動きを先読みして、上手く進路を塞ぐように弾を置いてくる。
柳川は常人ではあり得ない速さで不規則に跳躍を続けているが、それでも紙一重で命を繋いでいる、といった状態だ。
想像を遥かに越えるリサの実力。
身体能力だけで見れば柳川に分があるかも知れない。
しかし機関銃の扱いに関しては、はっきり言って格が違う。
佐祐理達を逃がした判断は正解だった。
混乱している彼女達がリサの標的にされた場合、ものの数秒で殺されてしまうだろう。
数箇所を切り裂かれたカッターシャツの有様が、柳川の回避に全く余裕が無い事を雄弁に物語っている。
それとは対照的に、リサは余裕を持って柳川の放つ銃弾を躱していた。
それも、当然の結果だった。柳川は弥生達と一戦交えた後、そのままリサとの戦いを始めている。
つまり柳川は一時間近くも碌に休憩を取らずに、戦い続けている事になるのだ。
技術面でも体力面でも劣っているこの状況では、いかな柳川といえど厳しい戦いになるのは疑いようが無い。
「くっ……」
足に力を入れて飛び跳ねる度に、筋肉が悲鳴を上げる、細胞が酸素不足を訴える。
それでも呼吸だけは決して乱さぬよう耐えた。少しでも動きが遅くなれば、その瞬間に殺される。
地を蹴り、信じられないスピードで柳川が宙を舞う。
一瞬遅れて、先程柳川がいた空間に鉛球が飛び交っていた。
着地と同時、横へ体を流したそのままの勢いで、イングラムM10の引き金を思い切り絞る。
それと同時にリサが上体を沈め、放たれた銃弾の斜線から身を躱す。
柳川はイングラムM10からマガジンを落とし、鞄から予備マガジンを取り出しすと、素早く銃弾を装填した。
間髪入れずに、リサが身を起こした。
M4カービンにマガジンを詰めながら、見とれるような動きで間合いを詰める。
柳川がまた数発撃った。リサは横へ飛び退く事で、連射された銃弾を捌いてゆく。
返す一撃は疾く正確に。柳川が再度攻撃をするのを待たずに、リサのM4カービンが火を噴いた。
咄嗟に身を捻った柳川の眼前を掠めながら、凶弾は後方にある木の幹に致命的な損傷を与える。
424Despair:2007/03/12(月) 17:13:00 ID:TStvNsTC0
「狙いが甘過ぎるわね。機関銃の扱いは苦手なのかしら?」
「……チッ」
構えを崩さず、地獄から聞こえてくるような声で話すリサ。その瞳に表情は無い。
今のリサはエージェントというより寧ろ、標的の命を例外無く奪い尽くす冷徹なハンターのようであった。
二人は再度、それぞれの武器を縦横無尽に操り、周囲一体に破壊の嵐を巻き起こしてゆく。
柳川が生まれついての狩猟者なら、リサは後天的な狩猟者。
二人の狩猟者の戦いは苛烈を極めていた。
真っ当な判断力がある者なら――否、理性を失っている者ですら、本能だけでこの場に漂う絶望的な死の臭いを嗅ぎ取る事が出来るだろう。
「――ッ!」
柳川は、左腕の表面に灼けるような熱い感触を覚えた。
微細な怪我とは言え、リサの放った銃弾が初めて柳川に損傷を与えていた。
リサの攻撃は一切のミスを犯さぬ精密機械のようであったが、本当に機械ならどれだけ楽だっただろう。
決まった行動パターンしか取らぬ機械の攻撃ならば、予測は容易である。それがどれだけ正確なものであろうと、だ。
しかし機械と違い、人間は学習する。
銃撃戦を続けるに連れ、リサの狙いは獲物の動きとの誤差を修正していっている。
「っ――」
遂に体力が底をついたのか、身を低くし口元を歪める柳川。そこへ、待ってましたと言わんばかりにリサがM4カービンを撃ち込む。
柳川は無理な体勢ながらも、強引に横へステップを踏んで、次々と迫り来る死から身を躱す。
それは一時凌ぎにしか過ぎぬ行為だ。満足に予備動作を取れなかった為、柳川は更にバランスを崩す。
その、柳川がようやく見せた隙を、地獄の雌狐が見逃す道理は存在し得ない。
これはこの戦いの均衡が初めて完全に破れた瞬間であり、同時に決着を着ける為のこれ以上無い好機でもあるのだ。
「シューーーーーーッ!!」
リサが攣り切れんばかりにトリガーを引き絞る。
柳川の体勢では横に避ける事も上に跳ぶ事も叶わない。
M4カービンは一点集中の連射を放ち、それは仮に相手が防弾チョッキを着ていようとも、殺傷せしめるものだった。
425Despair:2007/03/12(月) 17:14:09 ID:TStvNsTC0
「!?」
しかし――宙に舞っているのは薄汚れた鞄だけだった。
リサが撃ち抜いたのは柳川の鞄のみ。
柳川は敢えて隙を作り、リサの攻撃ポイントを絞り――鞄を放り投げ、自身は地面に滑り込む事で命を繋いだのだ。
地面に滑り込むという事は、次の動作が致命的に遅れるという事。
しかし、問題無い。
その直後、眩い閃光と不快且つ膨大な騒音が周囲一体に広がったのだから。
それは柳川の――元は留美の所有物だった鞄に入っている、スタングレネードが撃ち抜かれた事で巻き起こったものだった。
「――Shit!」
視界を奪われたリサは、上体を沈め、弾丸の如き勢いで大地を疾走した。
すぐに移動しなければ、狙い撃ちにされるに違いないと思ったからだ。
逆に言えば、目が見えなくとも足を止めなければそうそう撃ち抜かれる事は無い。
それが数多の死地を潜り抜けた、リサの判断だった。
だが柳川は素早く身を起こすと、もうリサとの勝負には固執せずに踵を返して駆け出した。
ここは逃げ切る事が最優先、欲を出すべきでは無い。逃走経路は既に、大体の目星をつけてある。
柳川はそのまま走り続け、あっという間にリサを遥か遠くへ引き離していた。
そう、既に消耗している状態ではリサ相手に勝ち目など無い事は、柳川自身にも分かっていた。
そのまま戦えば敗れると分かっていながらもなお踏み留まったのは、ただの時間稼ぎに過ぎない。
今は極力自分達の被害を抑えて逃げ延びる事が、何よりも重要だった。
リサのような純粋な強さによる脅威では無く、策略を用いて状況を悪化させていく宮沢有紀寧は、主催者を除けば最も厄介な敵だ。
有紀寧には恨みもあるし、ここで何としてでも仕留めておきたかった。
しかしリサが有紀寧と組んでしまった所為で、状況は一変した。
柳川の知る限り、リサ・ヴィクセンを打倒しうる者は自分を置いて他にいない。
リサは、柳川自らの手で倒す必要性がある。だからこそ、ここでやられる訳にはいかない。
先手を取られ味方が混乱している状態で無理をするより、十分な勝算を持って再戦すべきだ。
圧倒的な力と、極悪非道な策略を兼ね備えた二人の悪魔達。
放置しておけば、柏木耕一の時を上回る惨劇を引き起こすのは確実だろう。
この島の中でまだ生き残っている善良な人間達の為にも、絶対に倒さなければならない。
426Despair:2007/03/12(月) 17:15:45 ID:TStvNsTC0
(く……あの女、とうとう現れなかったな……)
戦場を離れた柳川は、激しい焦燥感に襲われていた。
佐祐理達が逃げ切るのに十分な時間は稼いだ。合流場所も指定してあるし、異変が起こらなければリサ達より柳川の方が先に、佐祐理達と再会出来る筈だ。
教会にいる仲間達とも力を合わせれば、数の面で圧倒的に有利になる。
だがそれでも、嫌な予感を拭い切れなかった。
宮沢有紀寧が一度も攻撃を仕掛けてこなかったからだ。
姿を消していた有紀寧がどう行動していたか?決まっている、佐祐理達を襲撃しに行ったのだろう。
それに、教会にいる味方達が何者かに襲撃を受けぬとも限らない。
何しろこの島は、殺戮が日常茶飯事であるのだから。
教会に辿り着いた時、仲間達が全員無事である保障など、何処にも存在しなかった。


――柳川が走り去った後の戦場。
「――――やはり一筋縄ではいかないようね……」
距離があった事もあり、聴覚までは奪われずに済んだ。
柳川が逃げるのは足音で辛うじて分かったが、リサは追い掛ようとはしなかった。
目の機能が回復するのを待たず追撃に移れば、そこを狙われるに違いない。
だからリサは危険な博打を避けて、柳川を放置し、自身の身体の回復を待ちながら思考を纏めていた。
柳川祐也の戦闘能力は、一般人の域に収まる物では無い。
戦闘のプロ、それも超一流の軍人と肩を並べうるだけの潜在能力を秘めている。
まだまだ荒削りではあるが――最大の障害となるのは間違いない。
先の一戦で、リサはそれを確信していた。
こうなった以上は宮沢有紀寧の存在が有り難かった。
一人で柳川と他の参加者達を同時に相手するのは流石に無理がある。
まだ視界が完全に回復していないので、少し歩いて民家の影に腰を落とし、安全を確保しつつ身を休める。
「柳川……次に出会った時こそ、貴方を抹殺するわ」

     *     *     *
427Despair:2007/03/12(月) 17:17:10 ID:TStvNsTC0
「こっちだ、急げっ!」
柳川と別れた佐祐理達は、冬弥を先頭として民家の密集地帯を移動していた。
いち早くリサの射程から逃れるには、遮蔽物を利用する必要があったからだ。
リサ達が隠れていた民家を迂回するように、大回りで激戦地帯を離れようとする。
(ちくしょう……由綺を殺した奴に助けられるなんて……。留美ちゃんを守るって決めたのに、逃げるしかないなんて……ッ!)
冬弥は心中穏やかでは無かった。銃を持っていない冬弥では、柳川を手伝おうとしても逆に邪魔になるだけだ。
留美を守ると宣言したにも関わらず、今の彼には逃げる事しか出来ない。由綺の仇に戦いを任せるしかないのだ。
だからせめて、一番危険の高い先頭を走る役目を買って出た。少しでも、留美の力になる為に。

「柳川さん……」
佐祐理は柳川の安否を心配して、今も大きく表情を曇らせている。そんな佐祐理の肩を、留美がぽんぽんと叩いた。
「きっと大丈夫よ。あの人なら殺したって生き返りそうだしね」
留美の言う通り――今は信じるしか無い。柳川はどんな状況であろうとも打開してきた。
それはこの島で柳川と長い間行動を共にした、佐祐理が一番知っている。ならば、ここは生き延びる事に集中すべきだ。
度々聞こえてくる銃声。柳川は佐祐理達を逃がす為に、今も決死の戦いを行っているだろう。
それを無駄にしてはいけない。佐祐理達は走る速度を一層速める。
やがて、民家の密集地帯の終わりが見えてきた。
一番前を行く冬弥が最後の民家の角を通り過ぎようとして、そして鈍い音がして、崩れ落ちた。
「ぐあぁっ……」
「ふ……藤井さんっ!?藤井さんっ!!」
弾かれるように留美が駆け寄ろうとするが、民家の角から宮沢有紀寧が現れ、腹を抑えて呻いている冬弥の後頭部にコルトバイソンを押し当てた。
有紀寧は片方の手で持っていたゴルフクラブを投げ捨てて、言った。
「折角ですから、もう少し楽しんでいかれては如何ですか?……まずは、武器を渡して貰いましょうか」
「――――ッ!!」
最悪の展開に、佐祐理と留美が絶句する。
428No752. 珊瑚の考察と覚悟:2007/03/12(月) 17:17:16 ID:P/pO+qmo0
回避
429No752. 珊瑚の考察と覚悟:2007/03/12(月) 17:18:02 ID:P/pO+qmo0
回避
430Despair:2007/03/12(月) 17:18:16 ID:TStvNsTC0
最悪の展開に、佐祐理と留美が絶句する。
民家の中で柳川達の様子を窺っていたリサと有紀寧は、相手が二手に分かれたのを見て自分達も同じようにする事にしたのだ。
もっとも有紀寧は正面から襲撃する気は無かったので、佐祐理達が通りそうな場所で待ち伏せをしていた。
敵が来なければ来ないで、リサには逃げ切られたと報告すれば良い。
そして思惑通りの場所を敵が通れば――今のように、圧倒的有利な状況が生まれるという訳だった。


【時間:2日目19:05】
【場所:I−7】
柳川祐也
【所持品:イングラムM10(24/30)、イングラムの予備マガジン30発×6、日本刀、支給品一式(食料と水残り2/3)×1、青い矢(麻酔薬)】
【状態:左肩と脇腹の治療は完了したが治りきってはいない、肩から胸にかけて浅い切り傷(治療済み)、左腕軽傷、中度の疲労】
【目的:佐祐理達との合流、まずは教会へ移動。有紀寧とリサの打倒】
リサ=ヴィクセン
【所持品:鉄芯入りウッドトンファー、支給品一式×2、M4カービン(残弾15、予備マガジン×3)、携帯電話(GPS付き)、ツールセット】
【状態:マーダー、視力の回復を待って有紀寧と合流、目標は優勝して願いを叶える。有紀寧を警戒、軽度の疲労】


【時間:2日目18:35】
【場所:I−7】
倉田佐祐理
【所持品1:支給品一式×3(内一つの食料と水残り2/3)、救急箱、吹き矢セット(青×3:麻酔薬、赤×3:効能不明、黄×3:効能不明)】
【所持品2:二連式デリンジャー(残弾0発)、投げナイフ(残り2本)、レジャーシート】
【状態:驚愕、左肩重症(腕は上がらない)、まずは教会へ移動】
七瀬留美
【所持品1:S&W M1076 残弾数(7/7)予備マガジン(7発入り×3)、日本刀、あかりのヘアバンド、青い矢(麻酔薬)】
【所持品2:何かの充電機、ノートパソコン、支給品一式(2人分、そのうち一つの食料と水残り2/3)】
【状態:驚愕、千鶴と出会えたら可能ならば説得する、人を殺す気、ゲームに乗る気は皆無、まずは教会へ移動】
藤井冬弥
【所持品:暗殺用十徳ナイフ・消防斧】
【状態:腹部に重度の打撲、右腕・右肩負傷(簡単な応急処置)、目的は留美を守る事、まずは教会へ移動、有紀寧に銃を突き付けられている】
431No752. 珊瑚の考察と覚悟:2007/03/12(月) 17:18:43 ID:P/pO+qmo0
回避
432Despair:2007/03/12(月) 17:19:50 ID:TStvNsTC0
宮沢有紀寧
【所持品@:コルトバイソン(4/6)、参加者の写真つきデータファイル(内容は名前と顔写真のみ)、スイッチ(2/6)】
【所持品A:ノートパソコン、包丁、支給品一式】
【状態:前腕軽傷(治療済み)、マーダー、自分の安全が最優先だが当分はリサの援護も行う、リサを警戒、冬弥に銃を突き付けている】

【備考】
・リサと柳川が戦っていた場所の近辺にFN P90(残弾数0/50)、包丁が落ちています。
・柳川・佐祐理・留美・冬弥は戦闘に集中していた為、第三回放送の内容を聞き逃しています
・有紀寧の近くにゴルフクラブが落ちています

→748
B-13,B-16,B-17

>ID:P/pO+qmo0氏
回避感謝です
タイミングかぶってすいません
433No752. 珊瑚の考察と覚悟:2007/03/12(月) 17:21:26 ID:P/pO+qmo0
「こんなもの開催する人やで? たぶんウチらの知らんようなことも知ってる。来栖川、篁、那須そーいち……こんな人を集めるなんて、普通できへん。しかも、綾香以外みんな死んじゃってる……」
ぎゅっ、と小さい手を握る。
「陽平、るーこ。ここに来る前のこと覚えとる?」
「る……」
「あ……」
覚えていない。
その動揺が返答となる。
「ウチも覚えとらん。しかも、それにも最初は気付かなかった。こんなこと出来るんやで? もしかしたら、ほんとに何でも出来るんかもしれへん。……瑠璃ちゃんを……いっちゃんを生き返らせることも……」
陽平もるーこも話に引き込まれて動けない。
珊瑚は涙で濡れた顔を上げた。
「でもな……」
その目は、輝きを失ってはいなかった。
「こんなもの開催する人やで? 何でも出来るとしても……ウチらが幸せになるような願い事なんて聞いてくれないと思う。……ウチは瑠璃ちゃんに生きててほしい。生きててほしかった。瑠璃ちゃんを生き返らせてって言ったら生き返らせてくれるかもしれへん。けどな……」
珊瑚は目を閉じる。
その嗚咽が響く。
「瑠璃ちゃん、今土の下やで? 綾香に、胸を……撃たれた。肺に穴が開いとる。寿命やない。この島にいる人はみんなそうやで? そのまま生き返っても……すぐに……」
もう後は声にならない。
黙した部屋に亡き人を想う泣き声だけが沁みてゆく。
434No752. 珊瑚の考察と覚悟:2007/03/12(月) 17:22:38 ID:P/pO+qmo0
「うーさん。もういい。喋らなくていい」
「っ……ん……ん……」
珊瑚はしゃくり上げながら頷く。
るーこは珊瑚を抱きしめる。
「るーの加護は偉大だ。この島ではるーの力は使えないようだが、それでるーの加護が失われたわけではない。
うーあやはるーが殺す。この下らないものを考え出した主催者もだ。心配はいらない。るーはぐーにも負けない。
るーはるーに出来ることをする。だから、うーさんもうーさんが出来ることをしろ。
……この島ではもううーさんだけが頼りなのだ」
「っ……うん……」
「よし。よく言った。強いな。うーさんは」
「瑠璃ちゃんと……いっちゃんの……おかげや……」
涙がるーこの服を濡らしていく。
そして、珊瑚はその分だけ強くなる。
もう、心は離れない。
(瑠璃ちゃん、いっちゃん……ウチは、絶対、生き残る……)
心は、永久に、離れない。
(ずっと覚えてる……ずっと……一緒やよ……)





435No752. 珊瑚の考察と覚悟:2007/03/12(月) 17:23:28 ID:P/pO+qmo0
【時間:二日目18:10頃】
【場所:G-3左上の教会】

姫百合珊瑚
【持ち物@:デイパック、コルト・ディテクティブスペシャル(2/6)、ノートパソコン】
【持ち物A:コミパのメモとハッキング用CD】
【状態:号泣中、ハッキングはコンピュータの演算に任せている最中】

ルーシー・マリア・ミソラ
【持ち物:H&K SMG‖(6/30)、予備マガジン(30発入り)×4、包丁、スペツナズナイフ、LL牛乳×6、ブロックタイプ栄養食品×5、他支給品一式(2人分)】
【状態:綾香に対する殺意・主催者に対する殺意、左耳一部喪失・額裂傷・背中に軽い火傷(全て治療済み、裂傷の傷口は概ね塞がる)】

春原陽平
【持ち物1:鉈、スタンガン・FN Five-SeveNの予備マガジン(20発入り)×2、LL牛乳×3、ブロックタイプ栄養食品×3、他支給品一式(食料と水を少し消費)】
【持ち物2:鋏・鉄パイプ・他支給品一式】
【状態:全身打撲(大分マシになっている)・数ヶ所に軽い切り傷・頭と脇腹に打撲跡(どれも大体は治療済み)、へたれ】

【備考】
冒頭の放送は放送後の久瀬の状況によって改変するかもしれません。
したい人はしてください。

>>TStvNsTC0氏
もう運が悪かったとしか。
436Despair・訂正:2007/03/12(月) 17:36:53 ID:TStvNsTC0
>>430
最悪の展開に、佐祐理と留美が絶句する。

を削除でお願いします。
437作戦会議:2007/03/13(火) 21:34:33 ID:+xl72C4l0
ったく似合わない事はするモンじゃねえな。
あの彰っていうクソガキを助けようとしたせいで撃たれちまって肩は痛てえし、頭はくらくらするしよ。
熱血馬鹿みてえな台詞を言っちまってこっぱずかしいし、マジで最悪だ。
俺様は決めたぞ、もう絶対にボインの姉ちゃんしか庇わねえ。『女を助けて美味しく頂いちまう』―――これだよ、これ。
ハーレムを築きながら、ついでに岸田と主催者の野郎をブッ潰す。
そうすりゃこのかったりいゲームに放り込まれてた女達が、みんな俺様に大感謝してウッハウハって寸法よ。
……妄想はここら辺にして、そろそろ本編に戻るとしますかね。

俺様達は湯浅皐月ってガキに先導されて鎌石局を訪れていた。
歩きながら湯浅の話を聞いてたんだが、貴明と久寿川はもう鎌石村を離れちまったらしい。
つまり俺様達は当面の間、急ぐ必要はねえって訳だ。
いくら俺様でも、あんだけ派手に殴り合ったら体力の限界が来る。
疲れ果てた俺様は鎌石局につくなり、爆睡モードに入った。
そのままずっと惰眠を貪っていたかったんだが、湯浅に叩き起こされ、今は治療の最中だ。

湯浅が俺様の左肩へ無造作に消毒液をぶっかける。
「あいててっ!俺様はデリケートなんだ、もっと丁寧に扱いやがれ!」
「うるさいわね。知り合ったばかりの貴方の手当てをしてあげるだけ、有り難く思いなさい」
いや、マジで痛いんだぞ?タンスの角に足の小指をぶつけた時の十倍は痛え。
湯浅は包帯を取り出して、ぐるぐると俺様の肩に巻きつけた。
「はい、これで終わりよ」
銃で撃たれてんのにこんな簡単な手当てで良いのか、オイ。
まあ文句を言っても却下されるのは目に見えてる、ここは大人しくしておこう。
「じゃ治療も終わったし、早く七海達の所に行くわよ」
「あん?」
言われて俺様は周りを見渡した。いつの間にか俺様と湯浅以外の奴らがいなくなってるじゃねえか。
「他の奴らは何処行ったんだ?」
「説明するのも面倒だわ。良いから連いてきなさい」



438作戦会議:2007/03/13(火) 21:36:34 ID:+xl72C4l0


俺様は鎌石局のすぐ横にある一軒家で、椅子に座っていた。
「どうぞ、召し上がってください。一生懸命作りました」
七海のヤツがテーブルの上に、焼肉が盛り付けてある皿を置く。
失った血を取り戻すには肉を食べるのが一番だって湯浅に言われて、肉を焼いたらしい。
ちなみに郁乃と折原の奴はもう飯を食い終わって休憩中だ。
ポテトの野郎はと言うと主人を放ったらかしにしたまま、ぴろとかいう猫とじゃれ合ってやがる。
テメェ、焼き犬にすんぞ。

さて、七海シェフの作った焼肉についてだが、ちょっと焦げているが食えないレベルじゃなさそうだ。
七海が見守る中、俺様は肉を口に入れて、モグモグと噛んで飲み込んだ。
「ど、どうですか?」
「ああ、悪かねえぞ。こんくらいなら全然オーケーだ」
「よかったぁ」
七海は心の底からホッとしているみてえだった。うむうむ、愛い奴よのう。
にしてもまだまだ食い足りねえ。俺の胃が更なる獲物を要求してやがるぜ。
「おい七海、もうひ……」
「ごご、ごめんなさいっ!やっぱり焼き過ぎでしたよね」
「あん?全然そんな事は……」
「ですよね。やっぱりこんなの食べれませんよね」
……人の話は最後まで聞けよ、オイ。小学生の頃先公から習わなかったのか?
まあ俺様は授業時間をもっぱら睡眠学習に充ててたから知らないがな。
ってげげっ、七海のヤツ焼肉を捨てようとしてやがる。
「あー、もう良いから貸しやがれっ!」
「え……?」
俺様は皿を七海から奪い取ると、焼肉を一気に口の中に放り込んでいった。
一個、また一個と次々に咀嚼して飲み込んで、一分と掛からずに全部食い尽くした。
流石俺様、早食い大会に出たら優勝間違いなしだぜ。
439作戦会議:2007/03/13(火) 21:37:36 ID:+xl72C4l0
「貴方、行儀悪いわね……」
湯浅皐月嬢が下目遣いでいちゃもんをつけてくる。
「っせーな。それより、お前は料理しねえのか?七海がお前の事、料理が凄い上手いって褒めてたぞ」
「嫌よ面倒臭い。性格反転してない時の私に言って頂戴。それより食べ終わったんなら皆を集めて作戦会議するわよ」







「この見取り図、臭うわね」
湯浅が折原の持っていた(元は知らないオバハンの物だったそうだ)見取り図を眺めながら、呟いた。
その見取り図には何かの建物の内部構造に加え、普通に支給品されてる分の地図と同じ番号(A1とかそういうのだ)が書いてある。
「風呂には二日間入ってないけど、物にまで感染る程俺の体臭は濃くなってるのか……」
折原ががっくりと項垂れる。すると、湯浅は呆れたように大きく溜息をついた。
「違うわよ、この見取り図に書いてある建物が怪しいって言ってんの。何しろこれだけ大掛かりな建造物なのに、支給品についてる地図には一切載ってないんだからね」
「何で大掛かりって分かるの?」
郁乃が素朴な疑問をぶつけてくる。よし、ここは金田一高槻様がズバッと答えてやろうじゃないか。
「この見取り図に打ってある番号は支給品の地図と同じだろ?んで、この建物の一部分はC6-7の海岸線からそのままG06-H07まで続いている。
もう一つの部分はG2-H2の境界線と海岸線の交差地点から、GとHの交差する09地点まであるらしい。
つまり、この島を横断出来るくらい馬鹿でけえ建物って事だ」
「でもこのc6-7の辺りはあたし達も通ったけど、何にも無かったわよね?」
ふむ、言われてみればそうだな。こんなでけえ建物が建ってたら、気付かない訳が無い。
となるとハッタリか?けどよ、意味も無くこんなモンを支給するとは思えねえんだよな。
440作戦会議:2007/03/13(火) 21:38:35 ID:+xl72C4l0
「……これは推測に過ぎないんだけど」
湯浅が前置きをしてから話し始める。
「この建物は地下にあるんじゃない?そして浩平の持っているカードか鍵のどちらかが、この建物の中に入る手段だと思うわ。
こんな見取り図を配った以上、出入りする為の道具も一緒に渡してあると考える方が自然だしね」
「うーん……、その可能性はあるな。でもこんな大きな建物、何に使うんだろうな?」
折原が顎に手を当てて考え込む仕草を見せる。そこで俺様は、ピッと人差し指を立てて言ってやった。
「地下にある建物っていったら、悪の秘密基地に決まってるじゃねえか。……つまり、主催者共がそこにいるって事よ。
ガキくせえ理論だが、あながち間違いでは無い筈だぜ。地下なら襲撃される心配も少ないし、必要がありゃいつでもゲーム会場に来れるし、隠れ家にはもってこいだ」
「確かに主催者の人が隠れるのに丁度良いでしょうけど……何でわざわざ、自分達の居場所がバレるような物を準備したんでしょうね?」
七海が尋ねてくる。その疑問はもっともだが……答えは俺様にも分かんねえ。
『――みなさん、聞こえているでしょうか?これから第三回放送を始めます』
「―――!?」
そこで、あの胸糞悪い放送が始まりやがった。


【時間:二日目・18:00】
【場所:C-4一軒家】

湯浅皐月
 【所持品1:H&K PSG-1(残り0発。6倍スコープ付き)、S&W M60(5/5)、.357マグナム弾×10、自分と花梨の支給品一式】
 【所持品2:宝石(光4個)、海岸で拾ったピンクの貝殻(綺麗)、手帳、ピッキング用の針金、セイカクハンテンダケ(×1個)】
 【状態:性格反転中、首に打撲、左肩、左足、右わき腹負傷、右腕にかすり傷(全て応急処置済み)】
ぴろ
 【状態:ポテトとじゃれ合っている】
折原浩平
 【所持品1:S&W 500マグナム(4/5 予備弾7発)、34徳ナイフ、だんご大家族(残り100人)、日本酒(残り3分の2)】
 【所持品2:要塞開錠用IDカード、武器庫用鍵、要塞見取り図、ほか支給品一式】
 【状態:頭部と手に軽いダメージ、全身打撲、打ち身など多数。両手に怪我(治療済み)】
441作戦会議:2007/03/13(火) 21:39:48 ID:+xl72C4l0
早食いチャンピオン高槻
 【所持品:コルトガバメント(装弾数:6/7)、分厚い小説、コルトガバメントの予備弾(6)、スコップ、ほか食料・水以外の支給品一式】
 【状態:全身に痛み、中度の疲労、血を多少失っている、左肩貫通銃創(簡単な手当て済みだが左腕を動かすと激痛を伴う)】
 【目的:最終目標は岸田と主催者を直々にブッ潰すこと】
小牧郁乃
 【所持品:写真集×2、車椅子、ほか支給品一式】
 【状態:首に軽い痛み、車椅子に乗っている】
立田七海
 【所持品:フラッシュメモリ、ほか支給品一式】
 【状態:健康】
ポテト
 【状態:ぴろとじゃれ合っている、光一個】

(関連:108、743)
442名無しさんだよもん:2007/03/14(水) 01:12:27 ID:c8ITAsK30
       、_      _...... 
  、、_  ノヽ  ̄ ̄ ̄ ̄  └゛゙゙゙´`ヘ─¬_ 
   )    こ  投 こ  投  ス  や 
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  ヽ    ド  し 次  し  建  た 
    |   グ  ろ ス  ろ  て   ッ 
    |   サ  ッ レ  ッ 成   ! 
    |    レ ! に  ! 功    
    |    が         だ    
  ノ´    ッ         ッ  
    |    !         ! 
    ヽ          
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葉鍵ロワイアル3作品投稿スレ10
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1173801422/
443名無しさんだよもん:2007/03/14(水) 01:17:53 ID:mFslIYzM0
  ./ ,  l  i  ヽ ヽ'\/1 /l.  | lイ±リl| iトlム仕ミ|   ト_j||. / 、 .', . ! !',  ',. ',、ヽヽ ' ,
 / /,'  !ヽ ヽ  ヽ. ヽ .\..| |  ゝ1!())Vレ:.(()}|   |トーソ/, ', !',、 ',  !! rナ ̄!`T', ヽヽ
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l .| | |/Tハ    |::f;;}| レ'r.}' /'\  | 丶.、::_:// /.,! .! .! ',《ヽソ;ヽ        L彡ン "! !ヽ うめなのですよ
N |、 | !` l:リ}     ‐,,,‐ ._,ノ ./ i \∧∧∧∧/ ! . ! ト .! ',. ゞ┘         !. ! ,l
  `!ヽN ヽ''' ` _    /!ヘ.|./__  |< の .う > .! .! .!  ', ヽ .,,.   '    "" /!  ,! リ
   | | | `i - ..,.. '´''´   リ´'レ`.<    め >  リ !  リ,  ヽ、   ー‐    イ ..!  ソ
─────────────< 予 .な >────────────────
     .      う         <    の > .:.:! i ィiナ/ 7⌒`   ヾ⌒ヽマ ヾx.:.:.:.:.:.i
   , -‐―‐‐-、  め      .< 感 で >.:.:i.:.i.:.オ' /       リ  ヽ.:iハ、.:.:.:.:.|
  /   ,    ヽ  る      <   .す > .:i.:.i':.:.v,.ォ=ァ丶     r==ァミV}}.:.:.:.:.:.|
  l */_ノ/ヽ)ノ..   \ .  / ∨∨∨∨ \ ::i.:.i;ゞ i :::::: i      i :::::: i ヌ;:':.:.:.:.:.i うめなのです
  | (| | ┰ ┰|l |       /    !::: :::リイ"  V\:.  ヾ_;;;ソ      ヾ_;;ソ/イj:.:.:.:.:.,'
  l ∩、''' - ''ノ∩     /:ハ:! (   )ヾノ (   ) / \   .,,,   '    .,,,. /.://.:./:/
  | ヽ}| {介} |{/..   / :::. k_ヽ││"   "| │ハ::.::: \      ー‐     /〃ソ/
444名無しさんだよもん:2007/03/14(水) 01:18:44 ID:mFslIYzM0
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.  ヽ|!     |::::::::l:| l:|  ! ,, ==、       {::::::::::ハ ヽ Y ,ヘ !:::|
            !::!:::::l:l|  l! 〃/´:::::ヽ         い-‐ク    〈ヽ. ハ{    ume
           l:l|:::::l:lヘ   i! {:;、_;;:::、}         `¨´      !' ,.イ
          l| l::::ト.{. `、 l! `ー-- ′                 ,'r'´ l{
             ! ヽ:| ヽ. ヘ           '          /i{
               `iー、                     〃
                   }ハ         _       ィl;{_
                     `  、       ‘ ′  ,. '´ ヽ: :`ー- 、
                          `j丁`i¬ー、‐ '´       \: :、: : :ヽ
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445名無しさんだよもん:2007/03/14(水) 01:19:30 ID:c8ITAsK30
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446名無しさんだよもん
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           l.:.:| |∧ム      t‐ァ     ,イ:.:.:|::::l:.:.:.:',   国崎最高!です
          !__| |∧' ,ヽ、         , イ::|:.:.:l:::::ト、.::.:}
        __r‐/ / i|∧::l\/>ト 、__ ,ィ7. |::l.:.:/::ノl、::∨
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       ヽ、Nレ  〉.:.:∨/.:.:|       //〕_ノ::_ノ
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葉鍵ロワイアル3作品投稿スレ10
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