「やれやれ。やっと抜け出せたか……」
巳間良祐は試行錯誤の末、なんとか自力で罠から脱け出すことに成功した。
「――よし。では行くとするか……」
そう言うと良祐はデイパックを手に取り歩きだす。
――あれから良祐はこれから先も自分はゲームに乗り続けるか、それとも乗らないべきか自分なりに考え続けた。
しかし今の彼はもう他の参加者を殺そうなどとは思わなかった。
かといって主催者に反逆しようなどとも彼は思わなかった。
だから彼は自分1人で島を脱出する方法を探すことにしたのだ。
今更他の参加者と群れて行動する気など彼にはなかった。
(――だが、まずはこの首輪をなんとかしなければならないな………)
良祐は一度首に取り付けられている首輪に手をやった。
(おそらく、こいつには爆弾のほかに人間の生死を判断する機能や参加者の居場所を割り出す発信機、そして盗聴器などが仕掛けられている……
つまりこれがある以上、島からの脱出は事実上不可能だ。
だが、主催者が本当に首輪を爆発させることが可能ならば必ず島のどこかにこいつを管制する装置か施設が存在するはずだ)
良祐はデイパックから地図を取り出すと今一度沖木島全体をチェックした。
(――神塚山。ここが一番臭いな……)
管制装置があるとしたらやはりこのような高い場所にあった方が首輪に信号を送りやすいし、なにより島の中心に位置するため島全ての場所に均等に信号を送ることができる。
ならば調べる価値は充分あった。
(せめて何か武器も欲しいところだが今更ぜいたくは言えないか……)
地図をしまうと良祐は前方にそびえ立つ神塚山に目を向けた。
(――管制機能の破壊ができなくとも首輪の設計図か何かを手に入れられれば脱出も可能だろうがな……)
そんなことを思いながら良祐は神塚山へと足を進めていった。
巳間良祐
【時間:2日目・午前7時】
【場所:F−6・7境界】
【所持品:支給品一式】
【状態:探求者化。右足・左肩負傷(どちらも治療済み)。神塚山を調べる。目標は首輪を無力化して島からの脱出すること。他の参加者と手を組むつもりはない。自分から人を殺す気はまったくなくなったが、万一の場合殺す覚悟はある】
>>303 ( ゚д゚)ポカーン
( ゚д゚ )ナニコレ
「ねえ、杏さん」
「なに?」
「もしさ、自分の体が手榴弾で吹っ飛んだとしたらどうする?」
何気ない日常の会話をすかのように、柊勝平はこの話題を振った。
振られた藤林杏にとってはたまったものではない、気味の悪いものだが。
「やだ、そんな・・・どうもできないわよ。そんな怖い例え話しないでよ勝平さん。それより・・・」
愛想笑を浮かべながら、話題を転換しようとする杏。だが、勝平はそれを許さない。
「いや、でもさ。それ実際にあったことだから。・・・凄い痛かったんだよ」
彼の口調にふざけた感じが抜けたことに対し、杏も何か感じ取ったのだろう。押し黙った。
それは、静かな校舎を二人が歩き出しいくらかの時間が経過した時だった。
結局はこのような組み合わせになり、校舎の探索は行われることになり。
杏と勝平は右側から、残りの二人は反対側から。一つ一つの教室を確認していくことになる。
正門から入った所にある掲示板に、校舎の見取り図は貼られていた。それにより線対称的な作りになっていることが分かり。
階段もそれぞれ三箇所、右端、左端、真ん中とあったので移動するにも支障はない。
これならうまく、効率よく事が進むはずだと。相沢祐一も、楽観的に笑った。杏も笑った。
勝平も笑った・・・が、彼の場合は違う意味で。それは、杏と二人っきりだという非常に良いシチュエーションを手に入れたことに対する喜び。
ただ一人、神尾観鈴だけは俯いていた。
しょげているその様子の理由は分かっている・・・時々向けられる、子犬のような視線がそれだと勝平も勿論気づいている。
だが、それを無視して彼は杏の手をとった。
「きゃっ!勝平さんってば中々大胆ね」
何と言ったらよいのか。やはり言葉が上手く紡げず、勝平は観鈴を避けるように杏と二人進路を取る。
寂しそうな彼女を見ないようにしてこの場から離れていく勝平、そんな彼の様子をどこか微笑ましそうに祐一は見送った。
探索を始めて数十分経った頃であろうか、勝平がその話題を振ったのは。
それは保健室を抜けて、一階の一番右端である証拠の階段傍に辿り着いた時だった。
ここまで特に会話も無くもくもくと辺りを探っていたので、思ったよりも響く自分の声に勝平は内心驚いた。
杏はというと、彼の突拍子の無い様子に驚いて固まるだけであり。
そんな彼女を面白そうに眺め、そして。勝平は、言う。
「ずっと待ってたんだ、この時を。・・・杏さん、懺悔の時間は終わったかな?」
笑みが思わず漏れる、そう。待ちに待ったこのチャンスに武者震いでも起こりそうだった。
電動釘撃ち機の照準を彼女に合わせると、その瞳はますます見開かれた。その変化が快感だった。
彼女をこのような目に合わせることができるということに対する、満たされる感情。
この、充実感。体の中を走る爽快感、これから起こることに対する期待も全て含め。勝平の心が喜びで埋め尽くされようとした時だった。
「・・・勝平さん、何を言ってるの?」
それは、恐怖心の微塵も含まれていない台詞。
まるで『頭大丈夫?』的な視線を送られてしまい、途端勝平の精神状態は焦燥に包まれた。
「え、な・・・」
思わず言葉を失うが、そんな彼の様子お構いなしに杏はまくしたてた。
「あのねー。実際あったって言われても、それが何を指しているのかさっぱり分からないんだけど」
眉を吊り上げ、腰に手をあて。ちょっと説教モードに入ってるかの如く、彼女は勝平を見やった。
「や、だから杏さんがボクに投げ返した手榴弾がボクに当たって・・・」
「そんなことしてないわよ」
「したの!あんたが覚えてないだけでしたんだよっ!!」
「・・・勝平さん、頭大丈」
「大丈夫!!」
「っていうか勝平さん、投げ返したってことは勝平さんが私に手榴弾投げたのよね?それって自業自と」
「五月蝿いっ!!」
何故分かってくれないんだと躍起になる勝平を見やる杏の視線は、冷たく。
・・・それはそうだ、いくら勝平が「覚えていた」としても、杏は「覚えていないのだから」。
あくまで一方通行なのである、だがそんな当たり前のことすらも興奮した勝平は理解しようとしていなかった。
高ぶる思考は目の前の敵の排除だけを求める、勝平は追い詰めるように電動釘撃ち機を構えたまま杏へと近づいた。
「怖いだろ、助けを呼んでもいいんだぜ?こんなボロ校舎なら、反対側にいる相沢にだって届くだろうよ」
「・・・そんなの、必要ないわ」
「はぁ?」
「勝平さんが私を撃つはずなんて、ない」
「な、何でそんな言い切るんだ」
「言い切るわよ!そりゃ自分勝手でエゴの強い所はあったとしても、あなたがそんなことするなんて思わないもの。
・・・それに、あなたは椋の大切な恋人。椋が信頼する人を、私が疑ってどうするのよ!」
杏が叫んだのと、ガガガガッ!っと電動釘撃ち機が連続して撃たれたのは同時であった。
胸を横一直線に走る無数の釘、よろよろと膝をつく杏に向かって、勝平は言い放つ。
「撃てるさ。それだけのことを、あんたにされたんだからな」
見下す視線は、あくまで冷徹であった。
荒い息をあげ、そんな勝平と目を合わす杏。勝平は馬鹿にするような笑いを浮かべながらも、今度は彼女の頭に電動釘撃ち機突きつけた。
「・・・ボクが憎い?憎いだろ、くやしいだろ。ざまあみろ、裏切られて腹がたっただろ?」
だが。そんな勝平の言葉にも、杏はふるふると力なく首を振り続けた。
「何でだよ・・・命乞いとか、もっとこう・・・することがあるだろ?!」
首を振り続ける、胸から滴る血の量は尋常でなく彼女が助からないことは明白である。
でも、それでも。恨みの一つでも吐いて貰えれば、それだけで良かった。
へたり込み、後ろに倒れるその瞬間まで彼女はずっと首を振り続けていた。
・・・その頑なな意思表示に、戸惑いが溢れる。
「どうしてだよ、こんなんじゃ・・・こんなんじゃ・・・」
何のために、殺したのか。勝平がうろたえていた時だった。
「よう、仲間割れかい?危ないねぇ、こんな所で」
「え・・・」
突然かけられた声に振り返ろうと思った時には、体は既に冷たい廊下に投げ出されていた。
「なっ・・・?!」
圧し掛かっきたのは若い男、抵抗しようにも首にカッターナイフを即座にあてられ身動きができなくなる。
「おー、上玉上玉。こういう綺麗な顔が泣き叫ぶ所、見たいもんだぜ・・・」
「は?」
濁った視線を送られ固まる。そんな勝平の様子を、岸田洋一は楽しそうに見下した。
柊勝平
【時間:2日目午前1時45分過ぎ】
【場所:D−6・鎌石小中学校・右端階段前】
【所持品:電動釘打ち機11/16、手榴弾三つ・首輪・和洋中の包丁三セット・果物・カッターナイフ・アイスピック・支給品一式(食料少し消費)】
【状態:岸田に押さえつけられる】
岸田洋一
【時間:2日目午前1時45分過ぎ】
【場所:D−6・鎌石小中学校・右端階段前】
【所持品:カッターナイフ】
【状態:少し勘違い気味】
藤林杏 死亡
杏の持ち物(拳銃(種別未定)・包丁・辞書×3(英和、和英、国語)支給品一式(食料少し消費))は放置
(関連・563)(B−4ルート)
倉庫に辿り着いた陽平達は何か使える物が無いか探していた。
だが彼らが探している倉庫はかつて茜達が使用していた倉庫だった。
即ち―――
「―――もう何も無いね」
陽平がソファーの下を覗き込みながらぼやく。
「っていうか、何で倉庫にソファーなんて置いてあるんッスか!?」
そう。この倉庫にはソファーやテーブルなど、おおよそ倉庫に似つかわしくないものばかりが置いていた。
まるでリビングか何かのようで、テレビさえあれば1日中ここで快適に過ごせそうな気さえしてくる。
「―――とにかくだ。これ以上探しても無駄じゃないか?」
護の一言に全員が頷く。
かくして彼らは倉庫の探索を切り上げたのだった。
ここでの収穫は鉄パイプ一本だけであった。
「じゃあ次はどうするかだけど……」
陽平はそう言って、ちらりとるーこの方を見る。
意見を求められている事を察したるーこは考えていた事を口にした。
「るーは違う村に行くのが良いと思う。この村では激しい戦いがあった――だからもう、この村に他のうー達はいないかもしれない」
「それはつまり、他の村に行って仲間を探すって事ッスか?」
「ああ。そうなるな」
そのやり取りを聞いていた護はるーこの意見を反芻した。
(戦闘の影響で村に他の人がいないかもしれない――――だけど、人がいないからこそ出来る事があるんじゃないか?)
そう考えた護はるーこの意見を否定した。
「折角人がいないんならさ……今のうちにそこら中の家を調べちゃわないか?
人が多い場所じゃそんな余裕が無いかもしれないしさ」
「そうか……一理あるな。るーもそれで良いと思う」
「……はちみつくまさん」
その後も少し話し合ったが、結局護の意見が採用される事となった。
・
・
陽平達は近くの民家を探し、既に3件程調べ終えていた。
民家からは爆竹・ライター・救急箱が見つかった。
爆竹とライターは使い所が難しいが、救急箱は確実に役立つ場面があるだろう。
だが4件目の民家に向かおうとした護達は、横から風が吹きつけてくるような感覚を覚えた。
横の小さな林―――ざわめく木々の間から何かが近付いてくる。
かつての仲間と―――自分達を襲った女が妙な生き物に乗ってこちらに走ってくるのが見えた。
「あれは……耕一さんじゃないッスか!」
「でもあの女は昨晩の……」
仲間だった耕一が自分達を襲った千鶴と共にいる事に護達は戸惑いを隠せない。
耕一と千鶴はウォプタルから降り、歩いて舞達の方へと近付いてきた。
舞は半ば本能的に刀を構える。
そんな舞達に対して、耕一は苦笑いしながら言った。
「あ〜、そんなに警戒しないでくれ。千鶴さんはもう俺が説得したんだからさ」
「じゃあ……?」
護が期待に満ちた声で尋ねる。
その問いには千鶴が答えた。
「―――ええ。今の私は耕一さんと同じ道を進んでいます」
「ま、そういう事さ」
護は思う。
(耕一さんは千鶴さんの説得に成功したんだ……。だったら以前の事なんて忘れて、千鶴さんも暖かく迎え入れてあげるべきだよな)
「そっか……良かったよ。じゃあそんな離れた所に居ないでこっちに来なよ。一緒に行こうぜ」
護はそう言って、つかつかと耕一へと歩み寄る。
その時、耕一の両腕にぐっと力が篭った。
それを見抜けたのはこの場でただ一人―――
「―――うーまも駄目だっ!逃げろ!」
「―――え?」
場の時間が止まる。
刀が生えていた。
護の背中から。
剣先から紅い血を滴らせながら。
耕一が護の体から刀を引き抜くと、支えを失ったその体は地面に倒れこんだ。
千鶴がトドメとばかりに彼の体目掛けてウージーの引き金を引き絞った。
護の体がびくんびくん!と痙攣するように動いて赤い何かが飛び散る。
心臓を貫かれた事も理解出来ずに。
蜂の巣にされた事も知らずに。
残された者達の無事を祈る時間すら与えられずに。
護の意識は闇の底へと消えていった。
「耕一、あなた……!」
舞がキッと耕一を睨む。
耕一は一瞬申し訳無さそうな顔をしたが、すぐに冷たい顔つきになった。
「俺は千鶴さんを説得したんだ、もう一人で重荷を背負うなってな。
だから―――俺も人を殺す。千鶴さんと一緒にな」
「そんな……」
信じられない事態に、チエはその場にへたり込みそうになる。
千鶴は隙らだけの彼女に対してウージーの銃口を向ける。
しかし――――るーこは冷静だった。
「あぐっ!?」
千鶴の手に何かが当たり銃を取り落とす。
見ると、それは木で出来た星のような物体だった。
るーこが咄嗟に陽平の鞄から抜き取り、ブーメランのように投げつけたのだ。
「みんな、今だっ!」
陽平の叫びが契機となり、それぞれが動き出す。
「あなたはぁ!」
「―――くぅ!」
舞が両手で日本刀を握り締め一直線に耕一へと斬りかかる。
耕一は手に持った刀でその舞の攻撃を凌いでいた。
激しいつばぜり合い。耕一と舞は顔を付き合わせる形になった。
「行くぞ、よっち!」
その一方でるーこはチエの腕を取ると、強引に彼女を引っ張り走り出した。
だが逆に陽平は、鉄パイプを振り上げながら千鶴の方へと駆けた。
「うーへい!?」
「僕に構わずその子を安全な所に!」
今のチエをこの場に残しては良い的になる。
だから――――彼女は最優先で逃がした方が良い。
るーこは逡巡しそうになったが、すぐに陽平の意図に気付いて駆け出した。
「―――っ!」
銃を拾い、舞を今にも射抜かんとしていた千鶴は陽平の予想外の行動に反応が遅れる。
陽平の振り下ろす一撃をバックステップしてやり過ごし、続く突きは少し余裕を持って空いてる方の手で軌道を逸らす。
重心を泳がせがら空きになった陽平の胴体に銃を向けようとするが、千鶴は咄嗟の判断でその場を飛びのいた。
直後それまで千鶴がいた辺りを風が通過する。
「志保ちゃんをなめんじゃないわよっ!」
志保がナイフを手に走り込んで来ていた。
間髪置かずに陽平が踏み込む。
千鶴はウージーの銃身でどうにかそれを受け止めていた。
――――攻め続ける事が重要だった。
この距離で銃撃を避けるのは不可能に近い。
陽平達が生き延びるには千鶴に銃を撃つ暇を与えない事が絶対条件だった。
この場にいる全ての人間が一度は死線を潜っている。
だからこそ全員直感でその事を理解していた。
・
・
・
・
・
柳川達は平瀬村目指して歩を進めていた。
途中教会に立ち寄ったが、そこは既にもぬけの殻で特に収穫は得られなかった。
同時に教会の中で武器の再分配と軽い情報交換を行なったのだが、その中で発覚した事を確認する為に柳川は珊瑚に尋ねた。
回避
回避
「―――姫百合。お前は本当に首輪を外せるのか?」
これは本来なら教会の中で確認しておくべき事だったがいつ舞達が平瀬村を離れるか分からない。
だから柳川は先を急ぐ為、情報交換の続きは歩きながらする事にしたのだ。
「うん。確証はまだあらへんけど多分いけると思う」
「ふぇー、珊瑚さんってすごい方なんですね……」
すっかり感心した佐祐理がそう呟いた。
だが話を聞いていた浩之は逆に不安を抱いていた。
「多分、か……。失敗すれば首輪は即爆発してしまうんだし、危なくねえか?」
柳川もそれに同調し意見を続ける。
「藤田の言う通りだ。外したら自動的に爆発する仕掛けをしてある可能性も考えられる……。
外そうとするならちゃんとした確証が必要だ」
二人から指摘され珊瑚はうーん、と唸りながら紙を取り出し何かを書き始めた。
紙には乱雑な字でこう書かれていた。
『盗聴されてるから筆談で説明するでー』
柳川はその字の汚さに呆れつつも珊瑚に習い紙に文字を書きなぐる。
『盗聴されているのは知っているが……もう少しマシな字を書いてくれないか。読み取るだけでも一苦労だぞ』
柳川はやれやれ、と肩を竦めるいつものポーズをとって見せた。
珊瑚は不満げに頬を膨らませたが、今回は他の者も柳川に同意でこくこくと頷いていた。
その後も筆談が続いた―――その内容は以下の通りである。
・首輪の解除は工具があれば出来る自信があるが、先の発言の通り確実ではない
・パソコンでハッキングを行い主催者の情報を調べる、その時に首輪の構造の情報が入手出来れば首輪解除が確実に行なえる
・これらの理由からまずは平瀬村でパソコンを入手したい
・筆談の内容は一切喋らずに、口頭上では工具を探している事にして欲しい
事情を全て了解した柳川は紙を鞄へと戻しながら喋りだした。
「―――まあ他に方法は無い、まずは村で工具を探すしかないか……。倉田の連れも見つかると良いんだがな」
「確か川澄舞って言う人だっけ?」
「ええ、無事だと良いんですが……」
柳川達は会話を交わしながらも足を止める事は無い。
程なくして彼らは平瀬村に辿り着いていた。
浩之が地図と睨めっこしながら柳川に尋ねる。
「なあ柳川さん、どこから探すんだ?」
「そうだな―――まずは村の中央部から探すか。きっとそこが一番倉田の連れがいる可能性が……」
その時辺り一帯に連続した銃声―――戦いの始まりを報せる音が響き渡った。
佐祐理が強張った表情で柳川の方へと視線を送る。
「こ、これは……」
「ああ、どうやらゲームに乗った愚か者がこの村にはいるらしい……!」
厳しい声でそう言うと、柳川はポケットからS&W M1076を取り出した。
「どうするん?」
瑠璃が尋ねる。だが柳川の答えは決まりきっていた。
一人でも多くの人間を救いたい―――それが刑事である彼の願いだから。
「俺は現場に行ってくる。お前達はこの辺りの民家に隠れておけ」
「そんな、一人でなんて―――」
浩之の言葉に耳を貸さず、柳川はもう銃声のした方へと駆け出していた。
「待ってください、佐祐理も行きますっ!」
すぐに佐祐理もその後を追って走り去っていった。
残された3人は呆然と立ち尽くしていた。
しかし、やがて浩之が意を決したような表情で珊瑚達に話し掛けた。
「川名と珊瑚はここで待っていてくれ。やっぱり俺も行ってくる」
「だったらうちらも……」
「駄目だ!」
珊瑚が言い終わる前に浩之が大声で叫び遮っていた。
その剣幕に珊瑚はびくっと怯えてしまう。
浩之はコルト・ディテクティブスペシャルを鞄から取り出し、珊瑚へと手渡した。
それから告げる。とても真剣な目で。
「珊瑚は首輪を外せる―――だからこの島にいる皆の為にも絶対に死んじゃいけないんだ。
辛いだろうけど自分の身の安全を最優先に行動してくれ。
後―――俺がいない間、代わりに川名を守ってやってくれ。頼む」
こう言われると珊瑚も諦めて頷きざるを得なかった。
「そんな―――武器も持たずになんて……」
ただ一人、まだ納得していないみさきが表情を曇らせながら呟く。
先程聞こえてきた銃声は軽機関銃の類である事は明白だった。
そんな所に素手で飛び込むなど、無謀と言う他ない。
みさきの不安を見て取った浩之は、彼女の頭にそっと手を載せ撫で始めた。
「すまん……俺はこれ以上人が死ぬのを放っておけないんだ」
「ひ、浩之君……?」
「ばーか、心配するなって。俺はまだ死なない―――川名を残して死ぬなんて出来ねーよ。瑠璃とも約束したしな。
だから安心して待っててくれ」
なだめるような優しい声でそう告げると、浩之もまた銃声のした方へと一目散に走り出した。
一人でも多くの人間を救いたい―――その点においては彼も柳川と同じだった。
元仲間同士の、そして同じ血を引いた者同士の、哀しい戦いが始まる。
【場所:F−2】
【時間:2日目10:40頃】
春原陽平
【所持品1:スタンガン・FN Five-SeveNの予備マガジン(20発入り)×2・他支給品一式】
【所持品2:鋏・アヒル隊長(1時間20分後爆発)・鉄パイプ・他支給品一式】
【状態:全身打撲・数ヶ所に軽い切り傷(どちらも大体は治療済み)、戦闘中】
長岡志保
【所持品:投げナイフ(残り:2本)・爆竹・ライター・新聞紙・支給品一式)】
【状態:戦闘中】
川澄舞
【所持品:日本刀・支給品一式】
【状態:戦闘中】
ルーシー・マリア・ミソラ
【所持品1:ノートパソコン(バッテリー残量・まだまだ余裕)・スペツナズナイフ】
【所持品2:鉈・包丁・他支給品一式(2人分)】
【状態:左耳一部喪失・額裂傷・背中に軽い火傷(全て治療済み)。チエを安全な場所へ】
吉岡チエ
【所持品:救急箱・支給品一式】
【状態:るーこに連れて行かれている、軽い錯乱状態】
住井護
【所持品:投げナイフ(残り:2本)・支給品一式】
【状態:死亡】
柏木耕一
【所持品:日本刀・支給品一式】
【状態:マーダー、首輪爆破まであと22:05】
柏木千鶴
【持ち物:支給品一式(食料を半分消費)、ウージー(残弾13)、予備マガジン弾丸25発入り×4】
【状態:左肩に浅い切り傷(応急手当済み)、マーダー】
ウォプタル
【状態:耕一達の近くに放置されている】
柳川祐也
【所持品@:出刃包丁(少し傷んでいる)、S&W M1076 残弾数(4/6)予備マガジン(7発入り×4)】
【所持品A:支給品一式×2】
【状態:左肩と脇腹の治療は完了したが治りきってはいない、銃声のした方へ】
倉田佐祐理
【所持品:支給品一式、救急箱、二連式デリンジャー(残弾2発)、吹き矢セット(青×5:麻酔薬、赤×3:効能不明、黄×3:効能不明)】
【状態:銃声のした方へ】
藤田浩之
【所持品:なし】
【状態:人を殺す気は無い、銃声のした方へ】
川名みさき
【所持品:なし】
【状態:安全な場所で待機】
姫百合珊瑚
【持ち物:デイパック、水(半分)食料(3分の1)、コルト・ディテクティブスペシャル(2/6)】
【状態:安全な場所で待機、みさきを守る】
→567
→582
→間違った愛の形
B13
※木彫りのヒトデは耕一達が戦っている辺りに転がっています、柳川達が聞いた銃声は千鶴が住井を撃った音
※
>>318の
>瑠璃が尋ねる。だが柳川の答えは決まりきっていた。
の瑠璃を珊瑚に修正お願いします……
>>315-316 回避ありがとー
「もう少しで山頂に着くな…」
コンパスと地図を片手に巳間良祐は神塚山を登っていく。
ちらりと南の方に目を向けると氷川村がはっきりと目に見えた。
(やはりこの山ならば島全土に信号を送ることができる……)
首輪の管制装置、あるいは施設の捜索に乗り出したころから良祐は無駄に口を開かなくなった。
うっかり首輪の管制機を探しているなど口にして、それが盗聴され主催者の耳に入ってしまったらそれこそ一環の終わりだ。
「………風も出てきたな」
山頂に近づくにつれ風も出てきていた。
着ていた黒いコートがバサバサと風になびく。
「―――ん?」
―――その時、彼は出会った。
自身のコートのように緑色のおかしな服をバサバサと風になびかせてこちらの姿を見つめる少女――朝霧麻亜子に……
「………」
良祐の姿を見つめる麻亜子は終始無言だった。
(先客――いや違うか……)
自身と同じ考えの者かと最初良祐は思ったが、すぐに否定した。
このような場所に1人でいる者など決まっている。ゲームに乗った奴以外誰がいるのか。自身と同じ考えを持つ者ならこの様な場所で待ち伏せなどしない、と。
「………」
麻亜子と目が合う。それでもお互いは終始無言であった。
――沈黙を破ったのは麻亜子の方だった。
「よう。こんにちはお兄さん。いい天気ですなあ」
「…………」
良祐は黙って麻亜子を睨みつける。
(―――今こちらには武器が無い。相手のペースにはまったら確実に俺は死ぬ)
「こんな所にわざわざ1人で来るなんてキミも物好きだねぇ。もしかしてあたしを探していたのかい?」
「…………」
「ははは。さすがにそんなわきゃーないか」
「…………」
「……おい。さっきから何じろじろ見てんのさ? ああ、判った。スカートの中を覗きたいんだな? あたしのパンツを見たいんだな? だけど残念ながらこの下はスクール水着なんだにゃ〜コレが!」
そう言って麻亜子は自分のスカートを大胆にバッとめくり上げる。
―――確かにスカートの中はスクール水着だった。
「ま〜これはこれで一部の人間には萌え萌え〜なんだが………ってアンタ。さっきからずっと黙ってるけど何とか言ったらどうなんだい!?」
自身に何も反応を示さない良祐にしびれを切らしたようで、麻亜子は良祐をビシッと指差した。
「――生憎だが今の俺は殺人鬼に話す舌は持っていないのでな………」
「あらら。やっと口を開いたと思ったら酷いこと言うね君も。 ……でもさ。君だって殺人鬼だったころの自分の殻を今でも着ているじゃあないか」
「!?」
その言葉にピクリと反応してしまう。
「図星みたいだねえ。どんな理由があって足を洗ったのかは知らないけど、今でも君からは血と硝煙のにおいがプンプンするよ〜?」
「………なるほど。これが自己嫌悪というやつか。貴様を見ているとかつての自分を見ているようで気分が悪くなる」
「そうだろうねえ。似た者同志が近くにいると気が合うって言うけど、それは近親憎悪の裏返しみたいなもんさ。 …まあ人間社会ってもともとそういうもんの集まりなんじゃない?」
ははは。自分でも難しすぎて何言ってんのかさっぱりわかんねーや、と言って麻亜子は自分の頭をぽかんと叩いた。
「これ以上用が無いなら俺は行くぞ」
「そうだね。あたしも何時までも君に用はないよ。だから逝け!」
その言葉と同時に麻亜子はデイパックからボウガンを取り出し良祐に向けた。
「―――っ!」
良祐は咄嗟に自分のデイパックを前に放り投げた。
バスッという音と共に投げたデイパックに1本の矢が生えた。
「―――悪いが俺は死ぬわけにはいかない」
そう吐き捨てると良祐はすぐさま来た道を引き返す。もちろん麻亜子も獲物を逃がすつもりはない。
「だけどそうもいかないんだにゃ〜これが。死ねよやー!」
再び良祐めがけボウガンから矢が放たれる。
バスッ!
矢は真っ直ぐ良祐の背中に命中した―――と思われたが、矢が刺さったのは良祐の着ていた黒いコートだけであった。咄嗟に脱ぎ捨てたのである。
(――これでこちらの手の内は全て使い果たしてしまったか……だがこの距離ならばもう逃げ切れる)
ちらりと良祐は後ろを振り返る。麻亜子と良祐の距離は既に20メートルは離れていた。
ボウガンは確かに強力な武器に違いないが、銃とは違い射程はそう長くはないしいちいち装填する必要もある。良祐はそこに目をつけたのだ。
後ろでは麻亜子がボウガンに次の矢を装填しようとデイパックに手を入れていた。
(こういう状態での装填は慌ててしまい時間もかかる。これでまた距離が広がるな……)
良祐は顔を前に戻す。前方には氷上村が見えた。
――――ズドン!
突然良祐の背後から音が聞こえた。大きな音だった。
「…………あ?」
同時に背中と胸から激痛がした。
「…………………」
痛みがする場所に手を触れる。
―――手が真っ赤に染まった。
「がは……」
次の瞬間、良祐は口から血を吐いて大地に膝を着き、そして倒れた。
撃たれた。それも大口径の超大型拳銃に。良祐はすぐに理解した。
「やれやれ。逃げ足の速い子だね君も。はあ〜…本当は使いたくなかったんだけどにゃ〜これ。弾あと2発しかなかったんだぞう…」
いつの間にか追いついてきていた麻亜子が手に持っていたソレを良祐にちらつかせた。
―――デザートイーグル.50AE。
別名『ハンドキャノン』という名を持つソレから放たれた50口径の弾丸が良祐の肉体をいとも簡単に貫いたのだ。
「はは……まいったな。まさか…そんな隠し玉を用意していたとはな……」
こんな状況でも良祐は思わず苦笑いをした。
(――やられた。出会った時から既に俺はこの女のペースにはまっていたのだ。しかし、それに気づくのはあまりにも遅すぎた……)
「君は道を誤ったんだよ。君みたいなマーダーの出来損ないは粛清される運命にあるのさ」
「―――粛清か……確かに、俺にはふさわしい末路かもしれないな」
「最初にこのゲームに乗った瞬間からあたしたちはもう人殺しなのさ。何人殺そうが、途中別の道に歩んでも結局は人を殺したことに変わりはない。
手についた血のアカは何時までも……一生かけても落とせないのさ」
「………道を誤ったか。そうかもしれないが、俺はそのことに後悔はしていない。たとえ僅かな時間でも……俺は…死んだ妹の分まで生きようと思えたんだからな………」
「妹?」
「……晴香という。まあアンタには関係ない話だがな」
……本当は関係あるんだけどな、と麻亜子は言おうとしたが言わないでおいた。散り逝く者への麻亜子なりのせめてもの気遣いである。
そう。彼女の義妹、巳間晴香の命を奪ったのも他でもなく麻亜子自身なのだ。
兄妹揃って馬鹿だな、と麻亜子は思った。
「……そういえばさ。馬鹿となんとかは高いところが好きっていうけど、君はどっちだったのかねえ?」
「――馬鹿だろうな………」
「そうだね。あたしも馬鹿だ……って勝手に決めんなコノヤロー!」
「はは……さて。どうやら……迎えも来たみたいだな………」
「ふぅん。妹さんかい?」
「さあな………おい。娘ちゃん。最後に同じ殺人鬼から1つアドバイスしてやるよ」
「ほう。何かね?」
「――俺みたいに…道を誤るんじゃないぞ糞餓鬼………」
風でスカートをバサバサとたなびかせながら朝霧麻亜子は山を下りていく。
(やれやれ……まさか兄妹揃ってクソガキと言われるとはね………)
麻亜子は良祐と晴香が最期に自分に言った言葉を思い出していた。
(クソガキなら世界NO.1エージェントの彼がこの島にはいるではないか)
ふと足を止めて空を見る。道を誤った結果、哀れな最期を迎えた殺人鬼が召されていった場所だ。
……本当に天国は空の彼方にあるのかは麻亜子にも判らないが。
―――結局あの男は遅すぎた。気づいたときには高いツケを払わなければならなかったのだ。
(まあそれはあたしも同じだけどね……だれがあたしにそれを払わせるかは知らないけど………)
再び足を進める。その先には氷川村が見える。
「言われなくてもあたしは道を誤りはしないさ。だって殺人鬼と修羅は違うんだからね………」
麻亜子のその言葉は誰の耳にも入ることなく空の彼方へと吸い込まれていった。
朝霧麻亜子
【時間:2日目・午前8:45】
【場所:F−5・6境界南】
【所持品1:デザート・イーグル .50AE(1/7)、ボウガン、サバイバルナイフ、投げナイフ、バタフライナイフ】
【所持品2:防弾ファミレス制服×2(トロピカルタイプ、ぱろぱろタイプ)、ささらサイズのスクール水着、制服(上着の胸元に穴)、支給品一式(3人分)】
【状態:マーダー。現在の目的は貴明、ささら、生徒会メンバー以外の排除。最終的な目標は自身か生徒会メンバーを優勝させ、かつての日々を取り戻すこと。スク水の上に防弾ファミレス制服(フローラルミントタイプ)を着ている。氷上村方面へ移動】
106 巳間良祐 【死亡】
【備考】
・良祐のデイパックは放置
はぁい、どうも。すっかり置いてけぼりにされていた(B-10の)天沢郁未です。
まぁ、あれよ。世間様では私はすっかりかませ犬だの空気だのいらない子だの言われてるけど私だってマーダーの一人だもの、しっかりしなきゃね。
え? どうして一人称で話しているかって? そりゃあれよ、いまハカロワで人気ぶっちぎりの奴は主に一人称主体でいってるらしいじゃない? だから私もそれにあやかってみようと思ってね。どこの誰だか知らないけど。
…ホントは、葉子さんの死を紛わせるためにやってるんだけどね。数少ない、私の味方だったから、そりゃショックも大きいわよ。
それでも相打ちにもっていった葉子さんは本当に凄いと思う。だから、もうこれ以上は負けられない。何としてでも生き残らないと。
とは言うものの、正直一人で勝ち残っていけるかというと、厳しいものがあるわね…不可視の力は使えないし、武器も頼りないし。けど頼れる仲間もいないしね。
まぁ…あの少年(未だに本名が分からない、クソッ)も一応は味方なんだろうけど、何を考えてるかわかんないようなところもあるし…はぁ、分かりやすい性格の奴が仲間ならいいんだけどなぁ。
などと考え事をしながら歩いていたのが失敗だった。
ズガン!
いきなり響く銃声。そして、目の前から高速で飛んできた銃弾が、郁未の額を貫いたのだった。
天沢郁未 【死亡】
…なんて状況になるところだった。ギリギリのところで、銃を構えた女に気づいてアヴドゥルのように頭を反らさなければ間違いなくこうなっていたわね…くわばらくわばら。
「…ちっ、勘がいいわね」
私の目の前にいたのは何やらギラついた目をしている制服姿の女。距離はゆうに5メートルはある。どう転んでも薙刀すら届かない距離だ。
「ちょっと、いきなり何のつもり? こちとらまだ大した活躍をしてないのよ、せめて名言くらい吐いてから死にたいんだけど」
「黙りなさい」
女が再び銃を構えたので私はやむなくバンザイして降伏の意思を示す。しかしこのまま死のうものなら私は間違いなく「『天皇陛下ばんざーい』という台詞の途中で米軍の爆撃をもらって死んだ哀れな一国民」のような格好で野山の肥やしになるだろう。
「聞きたいことがあるんだけど」
女は構えたまま尋ねる。質問? いきなり撃ち殺そうとしておいて質問とは何事だ。
「…そのまえに、一応弁解しておくわ。さっきのは威嚇のつもりで撃ったんだけど、どうもまだ銃に慣れて無いようなのよね…で、手元が狂って真っ直ぐ飛んでった、ってワケなんだけど」
グレイト。つまり私は手元が狂った、という最高のハプニングで野山に晒されそうになったってワケか。
私の非難轟々の目線に、女が取り繕うように咳払いをする。
「と、とにかく…私は今ある女の行方を追っているのよ。これくらいの小さいチビで、調子の良さそうな言葉遣いをする…名前はまーりゃん、っていう奴なんだけど…知らない?」
身振り手振りでそのマーリャンなる生物の説明をする女。
「そんな名前…名簿にあったかしら? 本名は?」
「知ってたら始めから本名で言ってるわ。で、知らないの、知ってるの?」
有無を言わさず、といった強い口調で言う女。…やばいわね。知らないと言ったらその場でズドン、は確定ね。でもそんなマーライオンの仲間みたいな奴なんて知ってるわけないじゃないのよさ。
ここは慎重にいかねば。落ちつけ天沢郁未。KOOLだ、KOOLになるんだ。
「残念だけど知らないわ、でも」
「死ね」
ズダァン!
またもや私の頬を掠める銃弾。冷や汗が流れるのを、私は感じた。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! 話は最後まで聞くものよ」
私の必死な弁明に、渋々銃を下ろす女。ああクソッ、冗談キツイわよっ。こんなギャグキャラみたいな死に方なんてゴメンだわ。
「知らない、確かに知らないんだけど…けど、あなたもこのゲームには乗っているんでしょう?」
「それがどうしたってのよ」
苛立たしい口調で言う女。オーケイ、落ちついて落ちついてブッシュ大統領。
「どうせなら、私と手を組まない?」
「さよなら」
ズダァン!
さっき撃たれた方とは反対の頬から血が流れる。
「ちっ…どうも射撃って上手くいかないものね」
もはや日米交渉はご破算寸前だった。このままでは米軍との開戦も免れないだろう。
近衛首相、開戦するのかしないのかどっちなんですか。了解、嫌なら総辞職なさい。その後に銃殺してあげましょう、っての? ブラボー。
「まっ、ままま待ちなさいって! アンタ、ホントに一人でそのマーリャンっての何とかできると思ってんの?」
「何? 私に説教する気?」
「違うっての! そうやって片っ端から殺してくのはいいけどね。その内息切れしちゃうわよ。ようやく見つけた、って時に銃も弾切れ、体力もない、ってんじゃ返り討ちに会うのがオチよ」
そう言うと、なるほど一理あるわね、というように女が銃を下ろす。
やれやれ。ペリー提督もようやくニホンゴが理解出来るようになりましたか。
「実は私もゲームには乗ってるの。でも流石に一人じゃ行き詰まってきてね…お互いに敵だけど、今は協力し合うしかないんじゃない?」
ようやく言いたい事が言えた。この女、物騒極まりないけど戦力としては十分。性格も分かりやすそうだし。
「つまり…互いに利用し合おう、ってワケね」
「そういう事。もし私とあなたが生き残れば、決着はその時につければいいでしょ?」
「ふん、いいわ。あなたの案に乗ってあげる。ただし、もし私の邪魔になるようだったらその時はすぐに撃ち殺すから」
「言うわね。こっちだってあなたが邪魔になれば切り殺すわ」
互いに敵意のこもった笑みを向ける。油断ならない信頼関係。
例えるなら吉野家でUの字テーブルの向かいに座った奴といつ喧嘩が始まってもおかしくない、って関係だッ!
「先に名前を言っておくわ。私は天沢郁未」
「来栖川綾香よ。精々邪魔にならないようにね」
言ってくれるじゃないの。私は荷物を拾い上げると綾香と並んで歩き出した。
「ちょっと、気安く並ばないでくれる?」
「何よ、対等な関係でしょ? 今は」
「はっ、銃も持ってないくせに」
火花を散らしつつ、次なる殺人へと、私達は向かう――
【時間:1日目午後11時頃】
【場所:G−04】
来栖川綾香(037)
【所持品:S&W M1076 残弾数(3/6)予備弾丸28・防弾チョッキ・トカレフ(TT30)銃弾数(6/8)・支給品一式】
【状態:興奮気味。腕を軽症(治療済み)。麻亜子と、それに関連する人物の殺害。ゲームに乗っている】
天沢郁未(綾香の下僕)
【持ち物:鉈、薙刀、支給品一式×2(うちひとつは水半分)】
【状態:右腕軽症(処置済み)、ヤル気を取り戻す】
って! ちょっ! 何で私が下僕になってんのよ! 確かに武器は見劣りするけど…納得いかーんっ!
「文句を言う下僕はいらない」
ズガン!
いきなり響く銃声。そして、目の前から高速で飛んできた銃弾が、郁未の額を貫いたのだった。
天沢郁未
【持ち物:鉈、薙刀、支給品一式×2は綾香が回収】
【状態:死亡】
どこで終わりか分からんWが回避置いとく
331と332は同一人物なの?ID違うが。
投稿規制に引っかかったからつなぎ変えたんだろうかと
いやいや、別人ですって。作品は
>>331までです。
念の為の回避すみませんでした
337 :
名無しさんだよもん:2006/12/24(日) 18:41:15 ID:tDqhOMZv0
332が別人だったりしたら他はまたこんな駄ネタかよと思って読んでたら
332の不意打ちのオチで腹筋千切れそうなぐらい盛大に吹いた俺はどうすればw
「クソッ! ツキが落ちてやがる」
人目につかぬ森の中で岸田洋一は苛立たしげに吐き捨てた。この島に来てからというもの、一人として女を犯すに至っていない。
いや、正確には犯す寸前まではいけるのだがいつもそこで誰かしらの邪魔が入る。来栖川芹香のときもしかり、小牧郁乃のときもしかり。
郁乃の顔を思い浮かべたとき、岸田の脳裏に高槻の顔がよぎった。
何もかもがあのカスのお陰だ。せっかく手に入れたコルト・ガバメントも、S&W 500もあいつのお陰でなくした。
「奴さえいなければな…ちっ、何かあいつとは星の巡り合わせでもあるのか」
ふと岸田の記憶から、少年時代読んだとある少年漫画が思い出された。その漫画では度々ライバル――名前は忘れたがなんとかブランドーとか言ってたか――が主人公を追い詰めるのだが最後の最後に主人公に敗れ去ってしまう。
「馬鹿馬鹿しい…そんな漫画通りにいくか。しかし…確かに俺はあのカスを侮り過ぎていたのかもしれんな…意外に知恵もあるし、それに爆発力もある」
何よりも、奴には岸田同様の躊躇の無さもある。敵と見定めた人間には容赦しない。そんな雰囲気があった。
「だが今度は失敗は無い…今この岸田は全てにおいて冷静だ。数々の失敗が、逆にこの俺を冷静にさせているのだッ」
岸田は気合を入れ直すとその辺にあった木にもたれかかり、次にどうするかを決める。
あのカス――いや、今からは高槻と呼んでやろう――は後回しにしておくとして…これからどうするか?
銃は欲しい。有ると無いとでは相手に与える牽制力が格段に違う。問題はいかにして奪い取るか、だが…
時間帯から考えれば、今は中盤戦。このゲームに乗っているにしろ乗っていないにしろ集団で行動している確率は大きい。現に、あの高槻とそのとりまきの奴らは行動を共にしていた。
マーダーも然りだろう。一人より二人で協力して殺しにいけば効率は遥かに良くなる。休憩を交代で取れるのもメリットだ。
岸田に集団で行動する、という選択肢はなかった。首輪がないのが大きい。大抵不審がられるだろうし、外せると嘘をついても必ず一人は疑いにかかるはず。
人の良い奴は、もう大体が死んでいるはずだからな…
ならば、乱戦に乗じて奪いにいくしかないだろう。集団で行動している奴らが戦闘に入った時がチャンスだ。では、どこで戦闘は起こりやすいか、ということになるが…
「村、が一番可能性は高いが…」
岸田としては、室外戦よりは室内戦の方が性に合っている。大体、今まで一人も殺せなかった時は、いつも室外での戦いだったじゃないか。
「ちっ…面倒だが村に向かうしかないか」
そう言って山を下りようとした岸田に、ある建物が目に映った。民家だ。
「家か…そう言えば、ずっと歩き詰めだったな。少しくらい休憩を取ってもいいだろう」
休息も重要。ヤる段階になってから体力がなくなってできませんでしたという事態になっても困る。
岸田は山を下りると、誰かがいないかと注意を払いつつ侵入する。幸いなことに、誰かがいる形跡もなかった。
まずは武器がないかと探しまわったがまともなものがない。恐らく、先に侵入した人間に持ってかれたのだろう。まぁ、これくらいは想定の範囲内だ。休憩できればいい。
しかし毛布くらいは欲しいと別の部屋を探していた岸田は、奇妙なものを見つける。
「こいつは…ずいぶん古い型のパソコンだな」
でかいディスプレイにキーボード。まさかな…とは思うが念の為に起動してみる。
ガガガガガ…
「遅い…って、やっぱWindows95かっ! 旧式にも程があるだろうがっ! このポンコツ!」
蹴り飛ばそうかと思ったが、『タンスの角に小指をぶつけた』ような事態を想定して、止めた。
「頭を冷やせ…今の俺は全てにおいて冷静冷静…」
心頭滅却しつつ操作できるようになるまで待つ。ようやく操作できるようになったところで、何か有用なプログラムはないかと探す。
「む…? channel.exe…? ちゃんねる…まさかな」
ダブルクリック。すると、見覚えのある壺が岸田の目の前に表示された。
「随分とウィットに富んだジョークだな、このパソコンは…」
どう考えても2ちゃ○ねるのパクリだった。失笑を浮かべつつ一応覗いてみる。
「何だ、ちゃんとしたスレもあるんじゃないか。死亡者…俺には関係無いな。自分の安否を報告するスレッド…か。こっちはどうだ?」
========================================
1:藤林杏:一日目 12:34:08 ID:ajeogih23
自分が今、どういう状態にあるか、報告するスレッドです。
報告して知り合いを安心させてあげてください。
私は、今は無事です。さしあたっては当面の危機もありません。
それから、私は積極的に人を殺そうとは思っていません。攻撃された場合は別ですが。もし、あたしを見つけても撃たないでね。
みんな、希望を捨てちゃ駄目よ。生き延びて、みんなでまたもとの町へ帰りましょう!
========================================
「ちっ…吐き気のするような甘い女だ…こんなのばっかりか」
悪態をつきつつ、下へと読み進めていく。すると、興味深い書き込みを見つけた。
岡崎なる人物が、鎌石村の役場へ来るように求めているのである。
「相変わらず甘い考えだが…利用させてもらうか。知らない奴でもいいらしいからな…」
岸田の狙いはこうだ。のこのこ集まってきたお人好しのバカどもを、気付かれないように殺しつつ武器を奪う。それに役場の中ということは…岸田にとっても有利に戦えるということだった。
「その次は…高槻に復讐だ。最初に会った時に俺を殺しておかなかった事を…必ず後悔させてやるからなぁ!」
憎しみを交えた笑みを浮かべつつ、パソコンの電源を切る。
しかし、まだ夜も明けていない。14時ということはまだ時間もある。少し休憩してから、役場に向かうとするか…
もう一度部屋を探して毛布を見つけてから、岸田は一時の休息についた。
【時間:2日目05:45】
【場所:E-8、民家】
岸田洋一
【持ち物:鋸、カッターナイフ、電動釘打ち機8/12、五寸釘(5本)、防弾アーマー、支給品一式】
【状態:切り傷は回復、マーダー(やる気満々)、少し睡眠を取る】
【備考:各種B系ルート】
343 :
遊び心:2006/12/25(月) 22:52:10 ID:l9A9/eVr0
「あれ?何だ、これ二発しか入ってなかったんだ」
リサ=ヴィクセンを葬った七瀬彰は、そのまま彼女の膝で眠り続ける美坂栞にも止めを刺すつもりであった。
だが、手にしていたデリンジャーからはカチ、カチッといった弾切れの合図しか返って来ない。
銃ならまだあるので、それはまあ良かった。
それにたった今殺害した女性の鞄から出てきたものも、何と今彰が所持していた銃と同じもので。
運とは恐ろしい、改めて思う。
リサの荷物も奪い取り、彼の装備はますます強固になった。
そんな彰には今、精神的にもかなりの余裕があった。
「そうだ、こうしたら・・・」
それは、ちょっとした遊び心であった。
いまだ眠り続ける栞の右手をとる、彰はそれに弾切れになったデリンジャーを掴ませた。
「あはは、目が覚めたらこの子どんな反応するかなー」
咽るような血の匂いの中、薬のせいで眠り続ける栞を置いたまま海の家を後にする。
栞が目覚めるのは、まだ先のこと-----------------。
344 :
遊び心:2006/12/25(月) 22:52:50 ID:l9A9/eVr0
七瀬彰
【時間:2日目午前0時過ぎ】
【場所:G−9】
【持ち物:アイスピック
吹き矢セット(青×4:麻酔薬、赤×3:効能不明、黄×2:筋肉弛緩剤)
八徳ナイフ
コルト・ディテクティブスペシャル(装弾6)
コルト・ディテクティブスペシャル(装弾6) 残弾17
リサの集めた食料
他支給品一式】
【状況:ゲームに乗っている】
美坂栞
【時間:2日目午前0時過ぎ】
【場所:G−9・海の家】
【所持品:鉄芯入りウッドトンファー・支給品一式】
【状態:右手に二連式デリンジャー(弾切れ)を握らされている、麻酔薬により眠っている、香里の捜索が第一目的】
(関連・511)(B−4ルート)
345 :
託された命運:2006/12/26(火) 00:12:14 ID:FDVgsPx60
「あれ……?」
敬介が目を覚ますと白い天井が見えた。
怪我の影響からか、まだ少し意識が朦朧としていた。
「よう、目が覚めたか?」
声のした方へ振り向くと男が座っていた。
観鈴と同じくらいの年頃の―――だが少年と言うには相応しくない凄みが目の前の男にはあった。
「君は……?ここは一体……?」
「俺は那須宗一だ。ここは氷川村の診療所で……あんたはここの前で倒れていたんだ。
それを俺が見つけて、応急手当をしたって訳だ」
「そうか……。僕は橘敬介だ―――宗一君、ありが……」
そこで敬介は思い出した。自分が連れてきた女の子の事を。
慌てて体を起こし周りを見回す。
その所為で肩に激痛が走ったが、すぐに澪の姿を視界に捉える事が出来た。
彼女はまだ眠ってはおり、その頭には包帯が巻かれていた。
敬介が何か言う前に宗一が口を開いた。
「ああ、その子も一緒に手当てをしておいた。その子の怪我はあんたと違って軽いし平気だと思うぜ」
「―――ありがとう、本当に助かったよ」
そう言って敬介は頭を下げた。
「気にするなって。それよりあんた達一体何があったんだ?
そんな怪我で人を背負って動き回るなんて、よっぽどの事があったんだろ?」
「ああ、大変だったよ……。色々ありすぎて、どこから説明したら良いか分からないくらいね……」
平瀬村での一件は筆舌に尽くしがたい程の激闘だった。
それに平瀬村の一件を説明する前に、まず天野美汐との事から説明する必要がある。
これ以上余計な誤解を招かない為にもだ。
「じゃあまず、僕がこの村に来た時の事から話……」
「……待て、誰かが近付いてきてるみたいだ」
「―――え?」
宗一は敬介の言葉を遮って、真剣な表情でFN Five-SeveNを握っていた。
集中してみると、確かに遠くから何かの気配が近付いてきているのが敬介にも分かった。
346 :
託された命運:2006/12/26(火) 00:14:44 ID:FDVgsPx60
これまでの厳しい戦いの経験のお陰かは分からないが、敬介の感覚は以前より鋭敏になっていた。
「俺が行ってくる、あんたはここで待っててくれ」
「僕を信用してくれるのかい?」
「一応な。殺し合いに乗った奴がそんな体で女の子を背負って動き回るとは思えない」
宗一は敬介の方を見ずに立ち上がり、警戒した足取りで玄関の扉へと向かった。
宗一が扉を開け放つと、女が駆けて来るのが見えた。
その手には銃が握られている。
宗一が銃を構えるのとほぼ同時に女―――水瀬秋子も脚を止め、宗一に向けて銃を構えた。
いきなり発砲してこない事から考えて、相手はゲームに乗っていないかも知れないと秋子も宗一も考えた。
しかし予断を許さない状況である事に変わりは無い。
ほんの些細なきっかけで次の瞬間には射撃戦が始まる可能性もあるのだから。
二人の間に緊張が走る。
先に口を開いたのは宗一だった。
「俺は殺し合いには乗っていない、だから出来れば穏便に済ませたい」
「ええ、私もゲームに乗っている訳ではありませんから……それには賛成です」
「あんたここに何か用なのか?」
「ええ、私は人を探しています。女の子を背負った男がここに来ませんでしたか?」
「確かに人は来たが……それは敬介と彼が連れていた女の子の事か?」
「!」
秋子の目が見開かれる。彼女の予想は当たっていたのだ。
そして宗一の問いに、秋子は答える。
片手で脇腹を押さえたまま、しかしはっきりとした声で。
「ええ、そうです。私はその女の子――澪ちゃんを助ける為に。
そして人を謀る極悪非道な男―――橘敬介を殺す為にここに来たのですから」
告げる。
自身の目的を。
347 :
託された命運:2006/12/26(火) 00:16:15 ID:FDVgsPx60
誤解を解く暇も与えられぬまま。
敬介の命運は宗一の判断一つに託された。
【時間:2日目・午前7時40分】
【場所:I−7(診療所)】
那須宗一
【所持品:FN Five-SeveN(残弾数20/20)、H&K VP70(残弾数2)、包丁、ダイナマイトの束、携帯電話(GPS付き)、ロープ(少し太め)、ツールセット、救急箱、ほか水・食料以外の支給品一式】
【状態:携帯電話の改造開始。現在の目的は情報を集めること、次に仲間と合流。宗一の判断は次の書き手さん任せ】
鹿沼葉子
【所持品:支給品一式】
【状態@:肩に軽症(手当て済み)右大腿部銃弾貫通(手当ては済んでいるがまだ歩けるほどではない)。一応マーダー。今は郁未のために情報を収集する】
【状態A:病室にいる】
橘敬介
【所持品:支給品一式、花火セットの入った敬介の支給品は美汐の家に】
【状態@:左肩重症(腕は上がらない)・腹部刺し傷・幾多の擦り傷(全て応急手当済み)。澪の保護と観鈴の探索、美汐との再会を目指す】
【状態A:玄関奥にいる】
上月澪
【所持品:なし】
【状態:精神不安定。頭部軽症(手当て済み)・気絶中。目的不明。玄関奥にいる】
水瀬秋子
【所持品:ジェリコ941(残弾14/14)、予備カートリッジ(14発入×1)、澪のスケッチブック、支給品一式】
【状態:腹部重症(治療済み)。名雪と澪を何としてでも保護。目標は子供たちを守り最終的には主催を倒すこと】
→557、590 ルートB-13
考察板の101です、とりあえずはアナザー扱いでお願いします。
お手数おかけしますが、回避を手伝っていただけると助かります。よろしくお願いします。
おk
「耕一さん、ちょっと思うことがあるんです」
「何ですか?」
歩みを止めこちらを振り返る耕一、千鶴は神妙な顔つきで語りだした。
「さっきの子たちのことなんですが・・・」
「ええ」
「あの男の子・・・死んだ子の名前、叫んでませんでしたか?」
耕一の目が見開かれる、千鶴は彼の様子を気にすることなく話を続けた。
「今になって思い出したんですが。よくもナギをって、言ってませんでしたか」
「すみません、ちょっと分からないです・・・でも」
すかさず名簿を取り出し確認しだす耕一、千鶴も彼の手元を覗き込む。
そして。そこに書かれた名前、69番「遠野美凪」を発見し二人は固まった。
顔を見合わせる、キッと視線を強め千鶴は言った。
「耕一さん、パソコンを探しましょう」
「・・・書き込み、ますか?」
「いえ、まずは見つけるだけです。私の聞き間違いという可能性も、視野にいれないといけませんから。
ですが、夜の放送までに彼女の身元を明かすことができたなら。
・・・耕一さんや初音を一刻も早く助けるためにも、みすみす逃すのは惜しいです。
あの子・・・黒髪に割烹着姿という判断材料では難しいかもしれませんが、それでも探す価値はあるはずです」
「そのためにもパソコン、ですか」
「身元が分かったとしても、書き込むことができなければ意味はありませんから。
生憎私はまだ一つも見つけていません、数はそんなに多くないと思います」
報告ができなければ全てが無意味、ゲームに乗るにしてもこの枷は中々厄介である。
そんなことを話し合っているうちに、舞達のグループにはあっという間に追いついた。
一向は、少し開けた場所にある倉庫の前にて屯っていた。
中でも調べていたのだろうか。彼らの神妙な顔つきから想像すると、あまり良い結果は出なかったと見える。
「・・・どうします?」
パソコンか、ターゲットか。
優先順位で言えば勿論後者だが、今までパソコンについて話していたこともあり耕一はこのような声かけをした。
「私は顔が割れています、一緒に行くのは不自然でしょう」
「それでしたら、千鶴さん先にパソコンの目星つけてくれませんかね」
「構いませんが・・・大丈夫、ですか?」
「あそこにいる連中が、銃を持っていないことは分かってますから。平気ですよ」
「そうですか?ではこれを・・・」
だがウージーを差し出す千鶴に対し、耕一は首を振る。
「不意打ちを狙います、それならこの日本刀の方が便利ですよ。
いきなり銃器を持って現れるのも、ちょっと目立つでしょうし。
・・・『遠野美凪』について聞いてみたら動き出します、やり遂げてみますよ・・・家族の、ために。」
その口調に迷いはない。
鞘を茂みに捨て抜刀されたままの日本刀を右手でしっかり持つ耕一、その手に千鶴はそっと触れる。
最後にぎゅっと握り締め、彼女は耕一を見送るのだった。
「あれ?どうしたのよ、何か忘れ物?」
再び現れた耕一の姿にあがる志保の疑問の声、その親しげな様子に顔を見合わせる二人の男女は耕一も見知らぬ顔であった。
影になっていたから気づかなかった・・・志保達に比べて制服の荒さが目立つ二人組み、その新しい存在に耕一も注視する。
戦闘の跡が垣間見れるそのいでたち、少し警戒した方がいいかもしれない。
かけよってくるメンバーから説明を受け、とりあえずは自己紹介をしあう。
そして、彼らが今までこの倉庫にて探索を行っていたことも聞いた。
だが特に役立つものも見つからなかったらしく。
無駄に時間を過ごしてしまったと、溜息をつく護に笑みを浮かべて励ましの言葉を送る。そして。
・・・新顔の一人、るーこから送られてくる胡散臭そうな眼差しはとりあえず無視する方向に決め、やっと耕一は用件を切り出した。
「ちょっと、みんなに協力して欲しいことができたんだ」
「・・・もしかして、脱出できる鍵とか分かったっスか?!」
「いや、ごめん。そういうのじゃなくて」
苦笑いを浮かべる、チエは少しショボンとしたがすぐに「何でも言ってくださいっス♪」と笑顔を浮かべてくれた。
理由は特に捻りもなく頼まれたから、ということで押し通す。
耕一は『遠野美凪』の外見的特長を説明し、誰か彼女の知り合いでないか質問してみた。
「黒髪?うーん、来栖川先輩がそうだったけど・・・先輩、亡くなったから。妹の綾香さんは、まだ生きてると思うんだけど」
「伊吹風子っていう後輩が当てはまりますけど、あいつそんなスタイルはよくないんですよね・・・」
「・・・私?」
「い、いや、それが舞先輩なら耕一さんが聞くはずもないっス。っていうか舞先輩割烹着着てないじゃないっスか」
それならばと質問を変える、今度は『遠野美凪』という実名を出し耕一は聞いてみた。
だが、誰もそのような名前の少女と関わりをもっていないらしく。
これだけの人数の中から一つも情報が入らないのはさすがに手厳しい、思ったより良くない戦果に耕一も気を落とす、が。
(・・・そうだ、千鶴さんに頼んじゃったけどあっちの方も聞いてみるか)
ものは試しである、ついでという形で耕一はその話題を持ち出した。
「そうそう、パソコンの存在について知ってるかな」
「パソコン?それなら、るーこが持ってますよ」
「何だって?!」
「・・・おかしな奴だ。パソコンの存在を知っているならば、それが支給品の一つであることも検討がつくであろう?」
「いや、俺が見たのは民家にあったやつなんだ、そうか・・・そんな支給品もあったのか・・・」
とりあえず、彼らに対する質問は以上であった。
『遠野美凪』に関する情報が一つも手に入らなかったことは残念であったが、もう一つの目的が達成できたことは大きい。
これで、彼らに対する用件というのも本当に全て終わったことになる。
そして用件が終わったというその言葉の指す意味は。
一つ、深呼吸した。もう一度しっかりと彼らを見据え、耕一は覚悟を決める。
「うん、ありがとう。じゃあ、さようならだ」
耕一が日本刀を振りかぶったのは、その台詞とほぼ同時であった。
「・・・え?」
「危ないっ!!」
白いセーターが真紅に染まる、だが耕一が思っていたようなスプラッタな映像はそこにはない。
目をやるとるーこが護の襟首を掴んでいる様子が見えた、やはり彼女は侮れなかったか。
奇襲は失敗、正面にいた護の左肩口から斜めに赤い一直線が走るが、その滲み方は本当にごく一部であり。
表面しか切れていない、一命を取り留めることができた護は幸運だが・・・耕一以外のメンバーにとってはそれは関係ない。
問題は、何故護がこのような目にあったのかである。
・・・るーこ以外その場を動けたものはいなかった。
突然の耕一の行為に戸惑い、そして硬直する面々に向かい彼は黙って刃を振るう。
確実に人を傷つけようとするその行い、周りの連中を押しのけるーこは鉈での応戦を図った。
だが、所詮男と女の力の違い。
勢いで乗り切ろうとするスイングで、最後はるーこも尻餅をついてしまう。
「るーこ!!」
彼女を庇うよう身を乗り出す陽平、そして残りの面々もやっと場の状況を理解したのか彼らの間に入ってくる。
「ど、どういうことっスか!答えてくださいっス・・・どうして、どうして・・・」
チエが問う、だがそんな彼女の疑問に返ってきたのは日本刀の一撃。
「くっ!」
すかさず庇うような形で間に入り、舞は耕一の刃を自身の刀で受け止めた。
そのまま力で抑え込まれそうになる所を何とかいなし、距離を置く。
「・・・耕一?」
耕一は答えない。黙ってまた、刀を振りかぶるその姿に迷いはない。
振り上げ、降ろすという一辺倒の動きを繰り出す耕一に、舞は素早い剣捌きで流れを変えようと仕向けてきた。
会話が成り立たずどうすればいいか、身の置き場を悩む他の面々。
そんな形で立ちふさがる彼らの足の間から・・・いまだ尻餅をついたままであったるーこは、それを捕らえた。
回避
回避
回避
携帯回避
まだ駄目かい?
「伏せろ!狙われてるっ!!」
るーこの叫びと同時にそれは鳴り響いた。
ダダダダダッという連続音、るーこの掛け声でチエ、志保をしゃがませた護の頭上をそれは走り去っていく。
日本刀同士の奏でる金属音とは違う、もっと物騒なもの。彼らの日常では決して生まれることのないそれは・・・銃声で、あった。
「な・・・っ?!」
「走れ、的になるぞっ」
何が起こっているか理解する前に、まず行動を起こさねばならない。
陽平の叫びにも反応できず呆然となるチエの腕を引く護、志保も彼女を支えるのを手伝いながら一緒に場から離れるべく走り出す。
だが、それを追いかけてくるよう弾は再び飛んできて。
慌てて投げナイフを取り出し威嚇の意味を込め放つ志保、しかし走りながらの上見えない敵相手では何の役にも立たなかった。
るーこ、陽平も護達とは逆方向に走り抜ける・・・その頃には茂みに隠れていたであろう新手の姿は完全に見えていて。
その見覚えのある女性の姿に、戦慄が走る。
「お前は・・・っ」
「まさか、これも避けられるとは思いませんでした」
辺りを襲った銃撃音、それは千鶴の放ったウージーであった。
背面からの奇襲を何とか避けられたのはるーこ、そして陽平の声かけという支援のおかげである。
あの民家での戦いで陽平自身も場を読む力がある程度ついたらしい、素早くデイバックからスタンガンを取り出すその姿に戸惑いの色はない。
一方、何とか二人の叫びで事態を回避できた三人組は、見知ったマーダー的存在が現れたことで現状に対する緊張感を膨らませた。
・・・彼女が耕一を援護するように現れたこと、それがどういうことか。
少し考えれば簡単に想像がついてしまうが・・・信じたくない、その思いは決して小さくない。
「千鶴さん、どうして・・・」
だが、彼らを取り巻く現実は非常だった。
舞と対峙し続ける耕一の漏らした呟き、泣きそうな顔で聞き入るチエの手を隣にいる志保はぎゅっと握り締める。
しかし、その願いは次の台詞で崩される。
「すみません、やはり心配だったもので」
場に現れた千鶴はウージーの弾層を入れ替えながら、耕一の問いに答えた。
口調は大人しいもののその目は狩猟者そのものである、冷たい眼差しに一同に緊張感が走った。
回避
回避
千鶴は耕一の背面にいる、だから彼は今の彼女の様子をうかがうことはできない。
対峙する舞はそれを許さないであろう、だから耕一はそのまま話を続けた。
「正直、助かりました・・・」
「一人で駄目なら二人で乗り切ればいいのです」
「そうですね、ありがとうございます。
あと、パソコンのことですが・・・るーこちゃん、ピンクの髪の子が持ってるそうです」
「それはちょうどいいですね、いただきましょう。・・・全ては、家族のために」
会話終了。二人は改めて目の前のターゲットに狙いを定めた。
舞を睨みつける、耕一。その目の鋭さに舞も本当に言葉が通じないことを実感できたであろう。
そして、残りのメンバーも。・・・誰が敵であるかを、理解するしかない。
千鶴、陽平とるーこ、そして護、チエ、志保の三人は三角形のような立ち位置になっていた。
再びウージーを向けられる前に何とかしなければいけない、先に動いたのは右方向にて待機していた護達のグループの志保であった。
「こ、このっ!!」
鞄から取り出し、もう一本持っていた投げナイフをその勢いのまま千鶴に向かって放つ。
だが緊張に震える手で投げられたそれをかわすのは簡単なこと、少し横にずれるだけで千鶴はそれを回避できた。
「無駄です」
「ならこれはどうだっ!」
今度は逆方面、陽平が側面に回りこもうとする。走る彼に向かってウージーの銃声が鳴り響くが今一歩の所で届かない。
陽平は木彫りの星型をかまえ、銃声がなり終わったと同時にそれを手裏剣のようにして千鶴に放った。
思ったよりも素早いそれが千鶴の肩口に命中する、一瞬姿勢が崩れるが致命傷にはならなかったようだ
せめてウージーを手放してくれれば。その期待を込めての狙いが外れ、陽平は唇を噛み締める。
「甘いです、銃を持たないあなたに勝ち目はありません・・・」
「残念、甘いのはお姉さんだ」
「え?!」
陽平の正面を向いていた、それはあの三人に背をさらすという意味になる。
次の瞬間千鶴が感じたのは、太ももの裏側に突き刺さるような痛みであった。
そして目をやる、そこには文字の通り一つのナイフが刺さっていて。
・・・それは、先ほど志保が投げてきたものと同じタイプのものであった。
「ボーっとしてるのは危ないぜ?」
膝が崩れる、振り返るがもう遅い。
護の所持するもう一本のナイフが、今度は顔面を狙って飛んでくるのが目に入る。
「くっ!」
何とかギリギリで回避する、だがまた逆側から気配を感じ。
そこには、全力で駆け抜けながら陽平がスタンガンを構えている姿があった。
膝をつき、ナイフを外して構えるがもう遅い。
ウージーは既に取り落としている。・・・万事休すの事態で出した、千鶴の苦肉の策は。
「・・・・・・・・いらっしゃい、ウォプタルッ!!!」
それは、陽平のスタンガンがまさに千鶴にあてられようとした瞬間だった。
彼女の背後の茂みから躍り出る怪物、未知の生命体が彼に向かって駆け抜ける。
突如出現したその生き物に対し一同呆然となる、すさまじい勢いでせまってきたソレに対する防御方を考える暇もなく・・・陽平は、弾き飛ばされた。
「ぐわあっ!」
「うーへいっ!!」
「春原さ・・・」
るーこ、そして反対側からも護が走り寄ろうとする。
るーこが仰向けで倒れ、気絶する陽平を抱き起こした時だった・・・再び、ウージーが唸りをあげたのは。
言葉が出なかった。
志保とチエの目の前で、崩れ落ちていく護の姿。
彼女等側からは見えないが、反対方向の彼の腹部は蜂の巣と化していた。
走っていた勢いのまま倒れる体、そこから流れゆく血が地面を濡らす。
その様子に固まる少女達・・・その先にて膝をついている千鶴の手には、落としていたはずのウージーが握られていた。
「これが、執念の・・・差です・・・」
さすがに太ももの痛みが激しいのか、千鶴は顔をしかめ俯いた。
それでもウージーは手放さない、るーこも陽平を抱いていたためか即座に反応できなかったようで。
回避
・・・一緒に生き延びようと誓った仲間からの、初めての欠員。
そのショックは、少し離れた場所にて争っていた舞にも伝わったようであった。
「・・・!!」
一瞬であれ、動きが鈍くなった舞を耕一は見逃さない。
力任せに舞の刀を薙ぎ払う。カキンッ!っと一際大きな金属音をたて、日本刀は宙を舞った。
「これで、終わりだ」
無防備な姿に刃をつきつけ、そして。
・・・耕一はほんの少しの躊躇の後、舞の胸部を突き刺した。
抉る肉の感触に痛む心を押さえつける、耕一は目を閉じ彼女の体を貫通させるべく刀に力を込めた。
「・・・な、ん・・・で・・・・・」
それは、血と共に吐かれる舞の台詞。彼女の最期の言葉。
「こう、い・・・ち・・・・・な・・・んで・・・・」
「ごめん」
それは、戦闘に入ってから初めて耕一がメンバーの疑問に対して答えた瞬間。
その、小さな呟き。悲しそうに見やる舞と目を合わせず、耕一は刀を引き抜いた。
力の抜けた体は支えをなくし、そのまま仰向けに倒れてゆく。
溢れる血が体にかかるが、気にせず耕一は歩みだそうとした。
(残りの獲物は、四人。この調子なら『遠野美凪』を見つけるまでもない・・・)
罪悪感は、血の海に埋もれていく彼女に全て捧げた。
それは、真の修羅になる決意の現われ。
顔を上げた耕一は、まさに鬼のような表情を浮かべ膝をついたままの千鶴に駆け寄るのだった。
【時間:2日目午前11時】
【場所:F−2・倉庫前】
柏木耕一
【所持品:日本刀(血塗れ)・支給品一式】
【状態:マーダー、少し返り血がついている、るーこのパソコンを狙う、首輪爆破まであと21:45】
【備考:遠野美凪について調べる】
柏木千鶴
【持ち物:ウージー(残弾18)、予備マガジン弾丸25発入り×3、投げナイフ×1(血塗れ)、支給品一式(食料を半分消費)】
【状態:マーダー、るーこのパソコンを狙う、太ももに切り傷、左肩に浅い切り傷(応急手当済み)】
【備考:遠野美凪について調べる】
長岡志保
【所持品:投げナイフ(残り:0本)・新聞紙・支給品一式)】
【状態:呆然】
吉岡チエ
【所持品:支給品一式】
【状態:呆然】
春原陽平
【所持品1:スタンガン・FN Five-SeveNの予備マガジン(20発入り)×2・他支給品一式】
【所持品2:鋏・アヒル隊長(1時間20分後爆発)・他支給品一式】
【状態:気絶、全身打撲、数ヶ所に軽い切り傷(どちらも大体は治療済み)】
ルーシー・マリア・ミソラ
【所持品1:ノートパソコン(バッテリー残量・まだまだ余裕)・スペツナズナイフ】
【所持品2:鉈・包丁・他支給品一式(2人分)】
【状態:陽平を抱いている、左耳一部喪失・額裂傷・背中に軽い火傷(全て治療済み)】
回避
回避
川澄舞 死亡
住井護 死亡
ウォプタル
【状態:千鶴の近くにいる】
【備考:舞の日本刀・木彫りの星・志保と護の投げたナイフ計3本はそこら辺に落ちている】
→582 →595
数々の回避のお手伝い、ありがとうございました。
もういっちょ
舞が、滑るように走った。
狙うはポテトの尾、牙を剥く大蛇と化したそれである。
ポテトの脇を駆け抜けるや転進、下段に構えた一刀を摺り上げるようにして振るう。
それをチラリと見て、ポテトは煩わしげに翼をはためかせた。
湧き起こる烈風に、舞の剣筋が鈍る。
大蛇は僅かに身を引いて易々と刀を掻い潜ると、逆に舞へと襲い掛かろうとする。
だらだらと毒液を垂れ流し迫り来る大蛇の牙を、舞は刀の峰の上を滑らせるようにしていなす。
大人の腕ほどもある大蛇の胴が、半透明の鱗を撒き散らしながら舞の顔面に程近いところを流れていく。
「愚かだぴこ、人間。そんな力では傷一つ……ぴこっ!?」
ポテトは言葉を切ると、慌てて飛び退いた。数メートルを羽ばたいて着地。
その尾には、一本の朱線が走っていた。刀傷である。
皮一枚を切り裂いただけの小さな傷は瞬く間に塞がっていくが、ポテトは驚いたように舞を凝視していた。
「ぴ、ぴこ……!? そんな馬鹿な……」
「―――ほう、結構な業物を持ってるじゃねえか」
感心したように声を上げたのは、ボタンである。
光り輝く猪の視線は、舞が手にした一刀に吸い寄せられていた。
白銀の刃が、雨に煙る朝の空気を裂くように煌いている。
「抜けば玉散る氷の刃、ってな。……そいつは、俺らみたいなのを斬る為に打たれた代物だ。
しかも狗野郎の尻尾がだらしなく伸びきった瞬間を狙って刃を返しやがった。
持ち物だけじゃねえ、やっとうの方もそこそこ使えるみてえだな、嬢ちゃん」
言われた舞はといえば、しかし口を硬く引き結んだまま、言葉を返そうとはしなかった。
視線は、ゆらゆらと身をくねらせるポテトの尾へと真っ直ぐに向けられて動かない。
無視されたポテトが、苦笑するように牙を振る。
「ったく、無口な嬢ちゃんだな……、っと!」
予備動作なしに宙に舞うポテト。
ほんの一瞬の後、鬼の巨体が降ってきた。
エルクゥの全体重を乗せた一撃に、雨に濡れた地面が陥没する。
「よそ見すんなよ……俺はこっちだぜ……?」
ずるり、と地面から腕を引き抜いて、耕一が笑みを浮かべたままボタンを見る。
爛々と輝くその赤銅の眼は、紛れもなく血に飢えた悪鬼のそれだった。
「見ねえ顔だが、この国の固有種……か? いや、それにしちゃ……」
「がぁぁっ!!」
巨体に見合わぬ身軽さで、鬼が跳んだ。
横薙ぎに振り抜かれるその丸太のような腕が、空を切る。
ボタンが更なる高さへと舞い上がったのである。
「……こっちの兄ちゃんは随分と頭に血が上りやすいみてえだな。力に呑まれてやがるのか……?
ま、いい。売られた喧嘩なら、買ってやるさ……!」
ボタンが、その輝きを増した。
全身の毛が、針のように尖っていく。そのまま身体を丸め、逆落としに突っ込んだ。
それを空中で見上げるかたちになった耕一が、咄嗟に腕を十字に組んでガードを固める。
激突。
「ぐ……ぅおッ!?」
かろうじてボタンを弾き飛ばした耕一だったが、その衝撃までは殺しきれない。
受身も取れずに地面へと叩きつけられる。泥が、盛大に跳ね上がった。
すぐさま起き上がる耕一。しかしその腕からはぶすぶすと煙が上がっている。
「ほぉ……今のでその程度とは、頑丈な兄ちゃんだ。
しかも何だ、その傷……もう治りかけてんじゃねえか?」
ボタンの言葉通りであった。
耕一の腕はいまだ煙を上げていたものの、出血は止まっていた。
傷んだ表皮の下からは、既に新たな外皮が顔を覗かせている。
「頑丈なのは先祖譲りでね……おかげで、まだまだ戦える。感謝しなくちゃな」
言って、にんまりと笑ったその口は、耳まで裂けていた。
そんな鬼の笑みを見ながら、ボタンは牙をしゃくる。
「……兄ちゃん。そっちこそ、よそ見してていいのかい」
「―――!?」
がちり、と。
金属がぶつかり合うような高音が、響いた。
耕一は、背中に衝撃を感じて振り返る。
視界の端に映ったのは少女、舞の影であった。
後ろで一つにまとめた黒髪をなびかせながら、舞は耕一の背を蹴って刀ごと跳ぶ。
耕一は裏拳気味に腕を振るうが、届かない。
空中でくるりとトンボを切った舞が、静かに着地する。
「……鬼、硬い」
どうやら耕一の背に斬りつけたはいいが、分厚い外皮に阻まれたものらしい。
「おいおい、ひどいことするな……そういうモノを人に向けちゃあいけませんって、
お母さんに習わなかったのかい?」
「……」
母、という単語に幾分表情を固くする舞。
しかしすぐに口を開いた。
「……鬼は、人じゃない」
「はは、違ぇねえや!」
笑ったのはボタンである。
いつの間にか耕一からは距離を取り、今度はポテトと対峙している。
空中から繰り出されるポテトの爪を紙一重でかわしながら、呵呵大笑するボタン。
「喋る猪に笑われる筋合いはないね……」
言いながら、傍らに立つ大樹に向けて、太い腕を無造作に叩きつける耕一。
一抱えほどもある巨大な立ち木が、まるで枯れ枝のように折り砕かれる。
ゆっくりと倒れていくその幹を両手で掴み、耕一は周囲を薙ぎ払うように大樹を打ち振るいだした。
自身を中心軸とし、遠心力を利用して回転する。膨大な膂力によってのみ可能となる、力技である。
風を切る葉ずれの音が、森に響く。
木枝に溜められた雨粒が、横殴りの嵐のように撒き散らされていく。
周辺の若木が、突然生じた暴力の渦に巻き込まれ、砕け散る。
バックステップして回転半径から逃れ、距離を取ろうとする舞。
それを一瞥して、耕一は回転の勢いをそのままに、しかし舞とはまったく別の方へと向けて大樹を手放した。
ハンマー投げの要領で放り出された大樹が一直線に飛ぶ先にいたのは、翼を生やした魔犬と輝く猪。
ポテトとボタンである。
「何、勝手にやりあってんのさ……!」
回避
回避
回避
回避
鬼の一投が、飛ぶ。
巨大な質量に充分な速度を得て投じられた大樹だったが、しかしついに二頭の獣を捉えることはなかった。
一本の大槌と化して迫り来る大樹を見るや、ポテトとボタンはそれぞれの方法でこれを迎え撃ったのである。
まず一歩を下がったポテトの口から、猛烈な吹雪が吐き出された。
無数の葉が、枝が、瞬く間に凍りついていく。
一瞬の間を置いて、前に出たボタンがその輝く毛を鋭い針と化して飛ばした。
凍結した木枝が、片端から割り砕かれていく。
質量を失った破片は、正面から吹き荒ぶ吹雪の風圧に耐え切れず、次々に失速し、吹き散らされる。
残ったのは、すっかり丸裸となった幹だけであった。太い幹の槌は、しかし風圧にも負けず飛ぶ。
毛針でもこれを砕ききれぬとみて、二頭の獣は瞬時に体勢を入れ替えた。
即ち、ポテトが一歩を踏み出し、ボタンがその後ろへと下がったのである。
直撃するかと見えた刹那、身を低くしたポテトの大蛇の尾が、螺旋を描いて伸びた。
ほんの僅か、軌道を上に逸らされる大樹。
それによって生じた、小さな隙間を埋めるように占位していたのが、ボタンである。
瞬間、丸められたボタンの身体が、弾けるように跳ねた。回転しながらの、突進。
真下からカウンター気味に放たれたそれは、大槌と化した大樹を、粉砕した。
瞬きするよりも早く行われた、それは見事な連携であった。
鬼の目論見は、完全に失敗したかにみえた。
しかし、砕かれた大樹の破片を、更に断ち割って飛び出す影が、あった。
川澄舞である。
ポテトに向けて飛ばされた大樹の、その陰に隠れるように、疾走していたのだった。
完全に不意を打たれた格好のポテトは、舞の突撃に対処しきれない。
舞が、刀の間合いに、入った。
低い姿勢から、右の脇に構えられた銀の刃が、突き出される。
回避
回避
「―――っ!」
「ぴ……っこぉぉぉぉっ!!」
刃は、ポテトの左眼窩、その僅か数センチ横を抉り、突き抜けていた。
血が、飛沫く。
文字通りの間一髪で身を反らしたポテトが、必死の形相でその頭部を跳ね上げた。
銜えられた巨杖が、舞の身をしたたかに打ち、弾き飛ばす。
「―――ッ……!」
猛烈な勢いで流れる視界の中、舞は身を捻り、手にした刀を地面へと突き立てた。
慣性のまま飛ぼうとする己が身体を、腕力だけで引き戻す。肩が外れそうに痛んだが、無視。
地面と水平に一回転して、ようやく舞の身体が泥濘へと落ちる。
むき出しの膝が、泥に擦れて傷を作る。
すぐに立ち上がろうとして、舞は思わず膝をつく。脇腹、杖に打たれた辺りに刺すような痛みがあった。
肋骨に何らかの損傷がある、と判断。無視しようとするが、呼吸が乱れた。
膝立ちのまま、刀に縋るようにして視線を上げる舞。
致命的な追撃を覚悟したその視界を覆っていたのは、しかし毒を満たした蛇の牙ではなく、
あるいは一撃で首を刎ねんとする爪でも、逃れようのない吹雪の白い煌きでもなかった。
灼熱の太陽を思わせる、黄金の輝きが、そこにあった。
「―――何のつもりだぴこ」
今にも吐き出さんとしていた吹雪を咥内に収めながら、ポテトが静かに尋ねた。
全身の毛を逆立たせながら、ボタンがそれに答える。
「……常命のただびとが、剣一本で妖と魔獣を狩ろうってんだ。
はは、こりゃテメエ、ちょっとした神話だぜ?」
心底から楽しげに、ボタンが言葉を続ける。
「で、神代生まれの大先輩としちゃ、そういうの放っとけねえだろ、なあ?」
「……お前のような田舎ブタに英雄の知り合いがいたとは、初耳だぴこ」
ポテトの挑発にも、ボタンは動じない。
「ま、さっきから見てりゃあ、嬢ちゃんはテメエとあっちの兄ちゃんにだけ用があるみてえだしな。
現に、こうして背中見せてたってバッサリいく気はねえみてえだし」
「人間如きと手を組む、ということぴこ?」
「テメエだって妙な兄ちゃん、乗せてたろうが。どっか行っちまったみてえだがな」
「……まぁ構わないぴこ、始末する順番が変わるだけぴこ」
ポテトが、低く喉を鳴らす。蛇の尾が牙を剥いていた。
そんなポテトから視線を外さないようにしながら、ボタンは背後の舞に語りかける。
「とまぁ、そういうわけだ、嬢ちゃん。狗っころ始末するんなら手ェ貸すぜ」
「……イノシシさん、邪魔」
ぽつりと、それだけを口にする舞。
それを聞いて、ボタンが爆笑した。
「くっ……くははは、ははははは! 面白ぇ、面白ぇな、やっぱり!
そうだ、俺ぁ邪魔なイノシシさんだよ、嬢ちゃん!」
逆立った毛が、ふるふると揺れている。
「で、こっちの狗野郎はひとまずイノシシさんが引き受けてやらぁ!
まずはそいつを片付けてこい、嬢ちゃん!」
黄金の聖猪が、飛んだ。
kaihi
【時間:2日目午前6時すぎ】
【場所:H−4】
ボタン
【状態:聖猪】
ポテト
【所持品:なんかでかい杖】
【状態:魔犬モード】
川澄舞
【所持品:村雨・支給品一式】
【状態:爪、尻尾、斬る(肋骨損傷)】
柏木耕一
【所持品:不明】
【状態:鬼】
一方その頃、国崎往人。
「さすがにつきあいきれんぞ……」
頭を抱えながら、戦場から遠ざかっていた。
賢明な判断である。
国崎往人
【所持品:人形、トカレフTT30の弾倉×2、ラーメンセット(レトルト)、化粧品ポーチ、支給品一式×2】
【状態:逃亡】
→587 ルートD-2
>>ID:C9+/Nd0s0、ID:YOO8UcFSOの両氏、回避ありがとうございました♪
386 :
希望:2006/12/26(火) 16:18:16 ID:pygGEFLU0
窓から差し込む朝日に天野美汐は静かに目を覚ました。
(……私はまだ生きてるんですね)
霞む視界をぼんやりと見渡し、そんなことを考える。
誰かがやってくるわけでも襲われるでもなく、まるで普段の日常のようだった。
布団からむくりと起き上がり寝室を出ると、パソコンの置かれた部屋へと戻りロワちゃんねるを開いた。
新しく書き込まれていたのはたったの一件。
しかもそれは自分の書き込みに対する返答はでなかった。
(真琴も相沢さんも見てはいなかったのでしょうか……)
元々そんなに期待していなかったとはいえ、あからさまに落胆の溜め息がついて漏れる。
代わりと言っては何だが、新しく書かれた書き込みをぼんやりと眺めた。
岡崎朋也――昨日の夕方に訪れた男性が探していた人間。
(この人も現実を受け入れずに言葉にすがり付いているのですね。
『未来』などと言うか細い幻想を抱いてまで何を求めるのでしょうか……。
確かに楽しい事もあるでしょう。
それと同時に、いやそれ以上の悲しみだって襲ってくると言うのに)
それを見て特に憤りを感じたわけではない。
なんとなく、昨日自身が行った書き込みの時のような気まぐれでキーボードを叩いた。
もしこの後に彼は殺人鬼だと言う書き込みをしたらどうなるのか。
そう考えると自分でも気付かないうちに頬がゆるんでいた。
387 :
希望:2006/12/26(火) 16:18:55 ID:pygGEFLU0
――そんな彼女の手を止めたのは流れ始めた二回目の放送だった。
「真琴……」
相沢祐一の名前は呼ばれることはなかった。
だが彼女にとって膨大な参加者の中で、皆無に等しい知り合いの一人が呼ばれハッと息を呑む。
そしらぬ風に装っていたものの、やはり真琴の存在は僅かながらに彼女の中にはあったようだ。
だがその考えもほんの一瞬のもので、瞬く間に達観した表情に戻っていた。
その間も名前は次々と読み上げられ続け、ブツリと声は途絶え放送は終わりかと思ったその時だった。
今までの声とは違う最初に聞かされた甲高い声――ウサギの声が聞こえてくる。
その告げられた内容を美汐は半信半疑のまま黙って聞いていた。
『優勝して生き返らせれば良い』
その言葉を聞いた瞬間「消えてしまったあの子」のことを思い出していたのだった。
本当にそんなことが出来るのだろうかと言う疑念を抱きながらも彼女の中にほんの僅かの"希望"が生まれる。
望んでも起こらなかった……叶えられることはなかった……奇跡。
美汐の脳裏には在りし日の思い出が描かれていた。
あの頃の自分は何もかもが楽しかった。輝いていた。幸せだった……。
それをもう一度取り戻せる?
だが自分に与えられたのは役にもたたなそうなおもちゃばかり。
体力も何も無い自分が優勝など到底出来るとは思えなかった。
388 :
希望:2006/12/26(火) 16:19:28 ID:pygGEFLU0
(馬鹿馬鹿しい……こんな"希望"を抱くこと自体ありえないことですよね。
今までと同じようにここで訪れる運命を待ちましょう……そうずっと――)
諦めながら考えるのをやめようとした美汐の頭にふと一つの妙案が舞い降りる。
書きかけだった文章を全て消すとPCの電源を落とすとぼんやりと美汐は立ち上がった。
一日に一回しか書けないのだ。これは残しておこう……そう考えながら台所へ向かう。
冷蔵庫を開けると中には一人ならしばらく潜むには不自由しないほどの食料が置かれていた。
次に家の構造を理解しようと探索を始める。
一階を回り、階段を上って二階へと全ての部屋を回る。
何度も何度もぐるぐると家の中を歩き回り、全ての構造を把握すると最後に入り口の扉に錠をかけた。
……別に何かをしなければいけないわけではない。
そう、逆に何もしなければ何も起こらないのではないだろうかと考えた結果の行動だった。
今朝普段と変わらないように起きれたように、外に出なければ、動かなければ放送の通り人は死んでいく。
もし最後まで隠れ続けられれば勝手に他の人間が潰しあって優勝することは出来るのでは無いか?
「――神様……私はもう一度だけ希望を持っても良いのでしょうか?」
寝室に戻り、言いながら美汐は朝日が差し込んでいたカーテンを閉めた。
訪れる暗闇の中、思考すらやめるように再び彼女は布団へと潜って行ったのだった。
389 :
希望:2006/12/26(火) 16:20:28 ID:pygGEFLU0
天野美汐
【時間:2日目8:00】
【場所:I-7民家寝室】
【持ち物:支給品一式(様々なボードゲーム)】
【状況:自分から動く気は皆無】
【備考:美汐と敬介の支給品の入ったデイバックがPCの置かれた部屋の片隅にある】
【関連:390、479】
「耕一、どうして!」
「…………」
鍔競り合いの状態のまま尋ねるが耕一は答えない。
耕一は返答の代わりと言わんばかりに力任せに舞の刀を弾き返した。
そのまま刀を舞の頭部に向けて振り下ろす。
キーンッ!!
舞の頭上で二本の刀が交錯する。
この刀も以前は両方舞達の物だった。
それが今では、所有者と同じく袂を分けている。
耕一はもう一度両腕を力の限り振り下ろした。
ドガッ!!
刀が地面を抉り取る。
舞は横に跳ぶ事で攻撃の軌道から逃れていた。
手に持った刀を耕一の脇腹へと奔らせる。
キィィィンッ!
「―――!」
耕一は片手で地面を押してその反動を利用する事で体を翻し、それを受け止めていた。
そして……
「―――なっ!?」
片手はまだ地面についたままであるにも関わらず、残る片手の腕力だけで舞を弾き飛ばしていた。
(なんて桁外れの力なの……!!)
疾風が舞へと肉薄する。
キィンッ!キィンッ!キィンッ!
耕一は間合いを詰めると出鱈目に刀を振り回した。
息もつかせぬ連続攻撃に、舞の疲労は加速度的に蓄積されていく。
鬼の王と斬り合う事など無謀でしかない。
だが、他の仲間にこの役目を任せればものの数秒で殺されてしまうだろう。
仲間が千鶴を倒してくれる事を信じ、今は時間稼ぎに徹し続けるしかなかった。
「このぉっ!」
そのすぐ近くでは千鶴と春原達の戦いが続いていた。
春原は握り締めた鉄パイプを横に振るった。
ガァンッ!
その一撃を千鶴は銃で受け止めていた。
「……ふッ!」
千鶴はその圧倒的な腕力で春原を弾き飛ばす。
素早く銃を構えようとするものの志保の存在がそれを許さない。
「あんたがッ!」
志保は叫びながらナイフを斜めに振り下ろす。
千鶴は上半身を逸らす事でそれを避けていたが、前髪が何本か切り落とされた。
「あんたが耕一さんを誑かしたのねッッ!!」
志保の感情は限界まで昂ぶっていた。
許せなかった―――優しかった耕一を変えたこの女が。
罵声の言葉を浴びせ続けながら、激情をぶつけるようにナイフで斬り付ける。
激しい怒りで志保は我を忘れていた。
感情に任せた攻撃は単純で千鶴にとって捌き難くはない。
志保の振り終わりを狙って、その腕を掴む。
残る手で持つ銃を振り上げ、志保の頭に叩きつけようとする。
だが――――
「させねえよッ!」
ガァンッ!
春原が横から鉄パイプを伸ばしその軌道を遮る。
「離れなさいよオバサン!」
ゴッ……!
「っぅ……!」
志保が千鶴の腹を蹴り飛ばす。
堪らず千鶴は後ずさった。
迫り来る二人に対し、千鶴は腰を落とす。
地面に手をつき、その手を支点として回転する事で回し蹴りを繰り出す。
春原は鉄パイプでそれを受け止め、志保がナイフで千鶴の即頭部を狙う。
千鶴は頭を後方へと逸らし、その勢いのままバック転の要領で後ろへと下がった。
すぐさま春原と志保は間合いを詰め、再び千鶴を追い立てていく。
千鶴は防戦一方だった。
この状態で先手を取る事は叶わない。
一方の攻撃を捌いて反撃しようとすると、すぐにもう一方が攻撃を仕掛けてくる。
少しずつ体力を削られながらも、千鶴は防御に徹していた。
だがそれはそうするしかない、では無く、そうする事が最良であったからだ。
春原の武器も、志保の武器も、急所にさえ当たらなければ致命傷とは成り得ない。
一発食らいながらでも強引に発砲すればこの状況を打開する事が可能だ。
では千鶴がそうしないのは何故か。
それは―――
「…………くうッ!」
「川澄さんッ!?」
舞の呻き声が聞こえる。
耕一と舞の均衡が遂に破れ、舞は左肩を切り裂かれた。
その声に反応した春原と志保は一瞬硬直してしまっていた。
それは十分過ぎる程の隙。
千鶴はすぐさま次の行動に移っていた。
この瞬間こそ彼女の狙いだったから。
耕一の力は彼女が一番良く知っている―――だから全ては予定通りだった。
千鶴は無理せずただ、この時を待てば良いだけだった。
真横で隙だらけの様相を晒している春原の腹に渾身の肘打ちを叩き込む。
完全に虚を突いた一激を受け、春原は腹を押さえ地面にうずくまった。
続いて正面へと銃を連射する。
パラララ……ッ!!
銃声が鳴り響く。
志保の腹の大事な器官を何発もの銃弾が破壊していく。
弾が命中する度、志保の体に穴が開いていく。
銃声が鳴り止むと同時に、志保はどっと後方へと倒れた。
その銃声で仲間の誰かがやられたのだと知り、舞の集中力が途切れた。
刀と刀を合わせたまま、耕一は脚を振り上げる。
舞は咄嗟に肘で受け止めたが衝撃は殺し切れず、どすんと地面に尻餅をついた。
すかさず耕一は舞の手を蹴り飛ばし刀を手放させた。
「……終わりだ」
舞の眼前に剥き出しの刀身が突き付けられる。
銃声のした方を見ると、志保が血だらけになって倒れていた。
「ち、ちくしょう……」
同じように銃を突き付けられている春原が悔しそうな呟きを漏らす。
――――勝敗は決したのだ。
それでも舞は視線を決して逸らす事なく耕一を睨みつける。
「どうして……どうしてこんな事を……ッ!」
「だから言っただろ、千鶴さん一人にこんな事はさせられない。俺も罪を背負うってな」
「そういう事です。それでは―――――さようなら」
耕一は冷酷な双眸で舞を見据えながら全てを終わらせるべく腕を振り上げた。
(―――佐祐理。すまない……)
舞は心の中で親友に謝罪の意を表しながら目を閉じた。
だがその時――――
耕一は何かを察知し、地面を蹴っていた。
ダンッ!
迫り来る銃弾が耕一の左腕を掠める。
千鶴はすぐに銃声が聞こえた方へと振り向きながら銃を連射した。
パララララ!!
弾丸は横一直線に空間を切り裂いたが、それが相手を捉える事は無い。
千鶴の銃撃を屈み込んでやり過ごした男の手元が光った。
ダンッ!
「くあぁッ!」
回避動作を取っていた千鶴だったが、間に合わない。
銃弾は千鶴の肩を掠めその衝撃で彼女は銃を取り落とした。
鬼―――そう表現するに相応しい圧迫感を放ちながら柳川祐也は現れた。
辺りを見渡すとそこには血まみれになって倒れている志保。
苦痛で表情を歪めたまま地面に座り込んでいる舞と春原の姿があった。
柳川は般若の如き形相で耕一を睨み付けた。
だがその目は怒りよりも寧ろ、悲しみに満ちていた。
「柏木耕一、貴様狂ったか……!」
耕一は答えない。代わりに口を開いたのは千鶴だった。
「―――狂っているのは貴方の方でしょう、柳川祐也。貴方が今更人助け?―――冗談も程々にしてください」
「冗談などでは無い。俺はもはや鬼に支配されてなどいない―――人間の柳川祐也だ」
「そうですか……。それで、人間の柳川祐也さんはどうなさるおつもりですか?」
「俺はこのゲームを破壊する。そして、ゲームに乗っていない者達を救う」
柳川は間を置かずにそのまま言葉を続ける。
「もし道を誤ったというのなら―――俺が貴様らを殺す」
その声を聞いた耕一の体は本人の意思とは無関係に震えてしまった。
(なんて冷たい――――そして悲しい声で話すんだ……)
まるで刃物を首筋に突き付けられているような、それ程の迫力。
耕一の戦闘本能が警鐘を鳴らしていた。
肉体的には自分の方が優れている筈なのに、何かが決定的に違う気がした。
だが千鶴は臆した様子を全く見せずに答えた。
「貴方らしくも無い……人を救うなどと、本当にそんな甘い考えを持っているのですか?」
「―――ああ。それが俺の誓いだからな」
誓い――――耕一達にもそれは、ある。
決して柳川とは相容れない誓い。
例え善良な人々を殺してでも家族を絶対に守るという誓いだ。
「愚かな……。では―――理想に溺れて溺死しなさいっ!」
それが契機となった。
千鶴は取り落とした銃へと走り寄る。
耕一も覚悟を決め、弾かれた様に柳川に向かって走った。
柳川はすぐさま銃口を上げ、耕一の胴体目掛けて引き金を引く。
ダンッ!
「くぅっ――ッ!」
刹那のタイミングで耕一は横に跳ぶ―――!!
弾は耕一の脇腹を切り裂いたが、浅い。
耕一は勢いを止める事なく斬りかかり、柳川は銃をポケットに仕舞うと出刃包丁でそれを受け止めた。
キィィィンッ!
「ぐ……」
額をかち割らんとする一閃を頭上で受け止め、見上げる形で耕一と対峙する。
「耕一ィーーーーッ!!」
「柳川ァーーッ!!」
人を守る者と狩猟者――――以前とは逆の立場で二人は激突する。
キィィィンッ!キィィィンッ!
お互い乱暴に己の獲物を叩きつける。
すぐさま柳川は腕を引き、包丁を突き出そうとした。
耕一は刀で受けようとしたが、柳川はそのまま包丁を振り抜くような事はしなかった。
瞬時に突きの軌道が変わり、耕一のわき腹を抉らんと進む。
「!」
嫌な予感がし、柳川は咄嗟に宙へと舞った。
耕一の放った足払いは空を切る。
だが柳川の体勢を一瞬崩す事には成功した。
耕一は刀を乱暴に横に払った。
「クッ――……」
どうにか包丁の腹でそれを受け止める。
傍目には互角の勝負だった。
だが腕力と武器のリーチで柳川が劣る。
耕一の攻撃を受ける毎に腕の筋肉が軋む。
昨日負った傷も痛む。
柳川の不利は否めない――――常識的にはそうだった。
しかし―――
ザシュゥッ!
「ぐあッ……」
柳川の手に服と肉を裂くかすかな感触が伝わった。
競り負け、胸を浅く斬られたのは耕一の方だった。
傷口を抑えながら後ろへと跳び間合いを取る。
「オオオォォォッ!!」
雄叫びを上げながら柳川は追撃に移ろうとする。
躊躇い無く戦っているのは両者とも同じだったが、柳川には鬼気迫るような何かがあった。
それは理想を抱き続けている者と、理想を棄てた者の――――背負っている物の大きさの違い。
彼はその気迫だけで、本来の戦力差を補っていた。
――――銃を回収した千鶴は耕一の援護をしようとしていたが、それは妨げられる。
「舞ッ!!」
「し、しほぉーーーーッ!!」
新たな乱入者、倉田佐祐理と藤田浩之が現れたからだった。
浩之は佐祐理より遅れてこの現場に向かったのだが、体力差もあって到着はほぼ同時だった。
肩から血を流し苦しんでいる親友の姿を見た佐祐理の心に大きな怒りが生まれる。
「貴女達が舞をーーッ!」
パァンッ!パァンッ!
佐祐理はこの島で初めて銃の引き金を引いた。
親友の傷付けられた姿はそうするに十分な理由だった。
放たれた弾はてんで見当外れの方向に飛んでいったのだが―――柳川の目論見どおり、威嚇にはなった。
佐祐理の攻撃に気を取られた千鶴に、舞が、春原が、武器を拾い傷付いた体で決死の攻撃を仕掛ける。
だが怪我を負っている彼女達の攻撃に以前の鋭さは無い。
「遅すぎます」
千鶴が左足を軸に体を回転させるだけで、その攻撃は悉く空を切り、舞達は大きく態勢を崩した。
そして千鶴が振り向いた方向には後退する耕一へ今にも斬りかからんとする柳川の姿――――
自分を狙う敵に構う事なく、彼女はその引き金を引く。
パラララッ!!
碌に狙いも付けなかったそれが柳川の体を捉える事は無かったが、何の因果か――――弾の一発は柳川の獲物を捉えていた。
体よりも遥かに小さいその的を。
バキィッ!!
「――――!?」
傷付いた刀身がその衝撃に耐えうる術はなく、柳川の出刃包丁の刃は根元から砕けてしまっていた。
耕一は徒手空拳となった柳川に容赦無く襲い掛かる。
「チッ!」
首へと迫り来る一閃を屈みこんで回避した柳川だったが、これで終わりではない。
続けざまに襲い掛かる剣風の嵐。
柳川は紙一重の所でそれをかわし続けるが、とても攻撃までは手が回らない。
銃にはまだ弾が一発残っていたが構える暇など与えられない。
千鶴の一撃で、柳川と耕一の攻守は完全に逆転していた。
* * * * * * * * * * * * *
「し……ほ……」
柳川達が激闘を繰り広げているその時、浩之はよろよろと歩き志保の亡骸の前に辿り着いていた。
彼女はもう事切れていた。
その腹のあたりからは夥しい血が流れており、目は見開いたままだ。
また、守れなかった――――。
視界が曇り、今にも泣き崩れたい衝動に駆られる。
だが浩之は志保の手にある物が握られているのを気付いた。
きっと最後の力を振り絞ってこれを使おうとして――――その前に力尽きたのだろう。
なら、今は泣いてる場合じゃない。
志保が生きていればきっと、 『ヒロ、しっかりしなさいよッ!』と叱ってくれる気がした。
周りを見渡すと苦戦している柳川の姿が最初に目に入った。
「志保―――お前の代わりに俺が強烈なカウンターパンチを決めてやるッ!」
志保の目蓋をそっと閉じる。
そして彼女の手に握られていた遺物を持って駆け出す。
まだ生きている仲間達を救う為に――――
* * * * * * * * * * * * *
耕一も鬼の血を引いている。
彼もまた怪物―――その攻撃は徐々に柳川の動きを読んで繰り出されるようになっていた。
もう素手では凌ぎ切れない。
ザシュゥ!
「ぐぅっ!」
柳川は頭上から迫り来る一閃を体をよじってひねる事で避けようとしたが、かわし切れない。
肩から胸にかけて、浅く切り裂かれる。
一応回避
一瞬動きの鈍った柳川に容赦無く次の一撃が迫りそうになり――――
「柳川さん、後ろへッ!!」
その声に反応して、柳川は後ろへ跳んだ。
浩之は思い切り腕を振りかぶり―――
「志保ぉーーーーーーーーーーーーーーッ!!」
友人の名を叫びながら手に持った物を投擲する。
耕一と柳川の間に導火線に火のつけられた爆竹が落ちて――――
パンパンパンパンッ!
激しい炸裂音が連続して響き渡る。
元より殺傷力を期待しての攻撃では無い。
ほんの数秒で良いから時間を作れれば十分だった。
その音が鳴り終えた時には柳川はもう、銃を耕一の胸に向けて構えていた。
――――避けられない。
初動が大きく遅れた耕一はその事に気付いた。
「―――――さらばだ」
別れの言葉と共に―――――
ダンッ!
銃弾が一直線に放たれる。
それは耕一の心臓を正確に貫いた。
胸が見る見るうちに赤く染まっていく。
口から血が吐き出される。
もういっちょ
「―――後は……まか、せ……た」
それは誰に宛てた言葉なのだろうか。
千鶴か―――それとも柳川なのか。
一体何を任せたというのだろうか。
家族の事か―――それとも主催者に対しての報復の事か。
耕一の膝が折れ、地面へ倒れこむ。
その時には彼はもう死んでいた。
―――彼の最後の言葉の意味は、もう確かめようが無かった。
鬼の王は、死んだ。
激闘と甥の死の影響で、柳川は満身創痍というべき状態に近かった。
パララララッ!!
「―――!?」
だが息も付く暇も無く銃声が再び響き渡る。
柳川が振り返る。
――――そこでも決着が着いていた。
千鶴が春原達を見下ろしていた。
何かで殴られたのか、春原は頭から血を流しながら地面に倒れている。
そして――――佐祐理を庇うように立っている舞の胸から血が噴き出していた。
「さ…ゆり……ごめ……」
舞はどっと、後ろに倒れた。
「いやぁぁぁぁぁっ!舞!舞ぃぃぃ! 」
その体に縋り付いて泣く佐祐理には気をやらずに、千鶴は周りの戦況を確かめようとし――――目を見開いた。
回避
「――――耕一さん!?」
彼女の愛する柏木耕一は、地面に倒れていた。
うつ伏せで怪我の状態は分からないが、血の水溜りが出来ている。
「来てっ、ウォプタルさんッ!!」
千鶴が叫ぶとウォプタル――――柳川にとっては正体不明の生物が悠然と走り込んできた。
千鶴はすぐさまその背に飛び乗り、ウォプタルを柳川に向けて突撃させた。
「くそっ!」
弾丸の装填をまだ終えていなかった柳川は飛び退くしかない。
千鶴はその隙に耕一の体を抱き上げ、ウォプタルの背に乗せた。
(今は戦ってる場合じゃない―――耕一さんを助けないと!大丈夫、きっと助かるわ……耕一さんが死ぬはずないものね)
千鶴はもう攻撃を仕掛ける事はなく、二人を背に乗せたウォプタルはそのまま走り去った。
耕一への狂信的な信頼を抱いたまま。
攻撃を仕掛けている場合では無いのは柳川も同じ。
すぐに佐祐理に抱き付かれている舞の所へ駆け寄った。
浩之もその傍で膝を地面についたまま、泣いていた。
「……貴方が……これまで…………佐祐理を守ってくれていた人?」
うっすらと目を開けた舞は、柳川の姿を認めるとそう呟いた。
柳川はゆっくりと頷いた。
「―――その通りだ」
「柳川さぁん、舞が……私を庇って……ッ!」
佐祐理が涙ながらに訴える。
舞は血に染まったその手を優しく佐祐理の頬へと添えた。
「佐祐理、泣かないで……佐祐理が泣いてると……私まで悲しくなるから……」
「舞…舞……ッ!」
「―――そうか。俺が戦っている間、お前が倉田を守ってくれたんだな……」
「ええ……。でももう、私は駄目みたいだから……」
舞は柳川の手を握る。
まるでバトンを渡すように―――全てを托して。
「―――佐祐理をお願い」
「ああ、任せておけ」
柳川は力強く答える。
舞と――――先程の耕一の頼みにも。
それで安心したのか、舞は口元を吊り上げて、精一杯の笑みを浮かべた。
彼女は滅多に見せないとびっきりの笑顔をしていた。
―――佐祐理、今までありがとう……愛してる
最後にそれだけ言い残して、とても安らかな顔で舞は息を引き取った。
柳川は一言も言葉を発さずに佐祐理を抱き締めた。
佐祐理はその胸の中で泣き叫んでいた。
目の前で親友を失ったその痛みは如何程のものなのだろうか。
感傷に浸るななどという台詞は、もう口が裂けても言えなかった。
少女の体を抱きながら、柳川は空を見上げた。
曇り一つ無い青空―――だけど、そのどこかから主催者が下衆た笑みで自分達を見下ろしている気がした。
「今はそうやって笑っているが良い……。だがいつか必ず後悔させてやる……ッ!!」
佐祐理に聞こえぬよう小さな声で、柳川は天に向かって呟いた。
【時間:2日目11:10頃】
【場所:F-2】
春原陽平
【所持品1:スタンガン・FN Five-SeveNの予備マガジン(20発入り)×2・他支給品一式】
【所持品2:鋏・アヒル隊長(1時間20分後爆発)・鉄パイプ・他支給品一式】
【状態:全身打撲・数ヶ所に軽い切り傷(どちらも大体は治療済み)、頭と脇腹に打撲跡、気絶】
柳川祐也
【所持品@:S&W M1076 残弾数(7/7)予備マガジン(7発入り×3)】
【所持品A:支給品一式×2】
【状態:左肩と脇腹の治療は完了したが治りきってはいない、肩から胸にかけて浅い切り傷、疲労】
倉田佐祐理
【所持品:支給品一式、救急箱、二連式デリンジャー(残弾0発)、吹き矢セット(青×5:麻酔薬、赤×3:効能不明、黄×3:効能不明)】
【状態:号泣】
藤田浩之
【所持品:ライター】
【状態:人を殺す気は無い、すすり泣き】
柏木千鶴
【持ち物:支給品一式(食料を半分消費)、ウージー(残弾0)、予備マガジン弾丸25発入り×4】
【状態@:左肩に浅い切り傷(応急手当済み)、肩に怪我(腕は動く)、マーダー、疲労、逃走】
【状態A:耕一の死を受け入れていないのか純粋に気付いていないかは後続任せ】
407 :
名無しさんだよもん:2006/12/26(火) 18:31:08 ID:kEEmuJgK0
虐殺さらしあげ
ウォプタル
【状態:耕一の死体と千鶴を乗せている】
【関連:598 B-13】
【備考:現場に舞、耕一、志保、護の支給品一式、新聞紙、日本刀×2、投げナイフ(残り4本)が置いてあります】
長岡志保【死亡】
柏木耕一【死亡】
川澄舞 【死亡】
>>ID:AxXW+pDT0
>>ID:AkoZI/NE0
回避有難う御座いました
409 :
少女たち:2006/12/26(火) 18:53:42 ID:AxXW+pDT0
るーことチエは走った。後ろを振り返ることなく、ただまっすぐ前を向いて走り続けた。
――軽く10分以上は走った。
そして、2人はいつの間にか村の外に出て、林の中にいた。
「……ここまでくれば問題はない。よっち、大丈夫か?」
るーこはチエの腕を放すと、彼女の方に目を向けた。
「…どうして………」
るーこの腕が解かれると今度こそチエは力なくその場にへたり込んでしまった。
「どうしてこんなことになっちゃったんスか……どうして耕一さんが……住井先輩が……」
「………この島はうーたちの何かを少しずつ狂わせてしまうんだろう。
誰が殺した、殺された、どうしてこうなった、こうなってしまったとかそんな話はもう関係ないとばかりに。あるのはただひとつの可能性の結果だけなんだろうな……」
「そんな……」
「だが…それでもうーへいたちは生き続けようと努力している……だから、るーたちも頑張らなければならない」
そう言って片方のデイパックをチエに手渡すとるーこは自分たちが走ってきた方に振り返った。
「預かっていてくれ。すぐに戻る」
「ど…どこに行くんスか?」
「決まっている、うーへいたちを助けに行く」
「そ…そんな! 危ないっスよ!」
「この島にいる以上るーたちが常に危険なことに変わりはない。それに逃げたところで結局は死神といたちごっこだ」
「で…でも!」
「くどいぞ……る?」
「ど…どうしたんスか?」
「……何か来るぞ」
「えっ!?」
すぐさまるーこはチエの前に立つと鉈を取り出し構えた。
しばらくすると、何かがもの凄いスピードでザザザザザと草木をかき分けながらこちらにやって来るのがチエの耳にも聞こえた。
「………」
るーこの鉈を握る両手に自然と力をこもる。
410 :
少女たち:2006/12/26(火) 18:54:22 ID:AxXW+pDT0
――音はどんどんこちらに近づいてくる。
(近い……!)
そして次の瞬間近くの茂みから突然巨大な影が躍り出た。
現れたのはるーこの右側面。
(しまっ―――!)
さすがのるーこも一瞬判断に遅れが出る。一瞬の判断の遅れがこの島では死に繋がる。
(くっ――せめて、よっちだけでも守らなくては!)
るーこがチエを守ろうと体制に入ると同時に………
「ちょ…ちょっと!? ストーップ! ストーップ!」
どがらがっしゃーん!!
「…………」
「…………」
現れた影―――2人乗りの折りたたみ式自転車はるーこたちの前で盛大にクラッシュした。
「いや〜…やはり林道での2人乗りは危ないね〜……」
「こ…腰が……」
自転車に乗っていたのはるーこたちと同年代の少女たちであった。
「―――大丈夫か?」
るーこは自転車から放り出された少女たちに声をかける。
もちろん、万一のこともあるので警戒は怠らない。
411 :
少女たち:2006/12/26(火) 18:55:08 ID:AxXW+pDT0
「いつつつつ……だ…大丈夫よ……」
ツインテールの少女が腰を抑えながら起き上がる。
その後ろでは長髪の少女が既に起き上がって先ほどクラッシュした自転車を起こしていた。
「七瀬さん。悪いけど散らばった荷物集めてくれない?」
「うん。判ってる。急いで村に行かないと……さっきの銃声……もしかしたら千鶴さんかもしれないしね」
「!? 待て。うーたちはあのうーを知っているのか!?」
「へっ?」
七瀬という少女の口から思いがけない名前が出てきたので、すぐさまるーこが少女たちに詰め寄った。
るーことチエは手短に2人から話を聞いた。
話によるとこの2人―――七瀬留美と柚木詩子は柏木千鶴を探していたらしく、可能ならば彼女を説得したいということだった。
「……なるほど、そういうことだったのか。だが…残念ながらうーたちは遅すぎた。既にうーちづはるーたちの仲間を1人殺している……」
「えっ!?」
「そ…そんな……」
想像していた最悪の事態が発生してしまったことを知り、留美たちは驚きと落胆を隠せない。
「残念だがあのうーを説得することはもはや不可能だ。止めるなら殺して止めるしかない……」
「…………」
4人のいる空間を沈黙が支配する。
しかし次の瞬間、留美が口を開いた。
「……そんなことない」
「る?」
「殺したから殺して、殺されたから殺すなんて絶対に間違ってるよ!」
そう言うと留美は平瀬村の方へと勢いよく駆け出していった。
412 :
少女たち:2006/12/26(火) 18:56:31 ID:AxXW+pDT0
「七瀬さん!?」
「留美先輩!?」
「うーるみ!? くっ…急いで追うぞ、うーしい!」
「え…ええ!」
「あっ…ま、待ってください先輩!」
るーこと詩子、そしてチエも留美を追って駆け出す。
そして、そこには1台の自転車だけが残された。
【時間:2日目・11:00】
【場所:F−3】
七瀬留美
【所持品1:デザートイーグル(.44マグナム版・残弾6/8)、デザートイーグルの予備マガジン(.44マグナム弾8発入り)×1、H&K SMG‖(6/30)、予備マガジン(30発入り)×4、スタングレネード×1、何かの充電機、ノートパソコン】
【所持品2:支給品一式(3人分)】
【状態:平瀬村へ。目的は冬弥を止めること。ゲームに乗る気、人を殺す気は皆無。千鶴と出会えたら可能ならば説得する】
柚木詩子
【持ち物:ニューナンブM60(5発装填)、予備弾丸2セット(10発)、鉈、包丁、他支給品一式】
【状態:留美を追う。千鶴と出会えたら可能ならば説得する】
ルーシー・マリア・ミソラ
【所持品:鉈・包丁・スペツナズナイフ・他支給品一式(2人分)】
【状態:留美を追う。左耳一部喪失・額裂傷・背中に軽い火傷(全て治療済み)】
吉岡チエ
【所持品1:救急箱・支給品一式】
【所持品2:ノートパソコン(バッテリー残量・まだまだ余裕)】
【状態:留美を追う】
【備考】
・折りたたみ式自転車はF−3に放置
千鶴は平瀬村郊外の民家に戻り、耕一の治療を行なっていた。
耕一の穿たれた胸からは血がとめども無く溢れ出していたが、それももう止まっていた。
傷が治ったからではない……既に耕一の体は体温を失いつつあった。
だが千鶴はそんな彼の胸に乱暴に包帯を巻きつけて―――
「ほら、これで治療は終わりですよ。耕一さん、そろそろ起きてまた一緒に人を殺しに行きましょう?」
耕一は答えない。答えられる筈が無い。
だが千鶴はそんな耕一に話し掛け続ける。
「もう、仕方ないですね……。よっぽどお疲れになったんですね?」
千鶴は困ったような表情で頬に手を当てた。
耕一の血で紅く染まったその手を。
千鶴の顔に血がこびり付く。
顔だけでは無い。
耕一の死体に対して手当を行なっていた千鶴の腕にも、服にも、もういたるところに血が付いていた。
「分かりました、耕一さんはここでゆっくり眠っていてください。
耕一さんが起きるまで、私はまた一人で人を殺し続けますから」
紅く染まったその手で耕一の額を撫でる。
耕一の顔もまた、血で汚れていった。
「妹達と愛佳ちゃんに会った時はどうしましょうか?出来れば協力して貰いたいんですけど、
彼女達の性格では協力してくれるかどうか……」
そこで千鶴は何かを思いついたように胸の前でポンと手の平を合わせて、子供のような無邪気な笑顔で―――
「―――そうだ!断られたら殺してしまえば良いんですね!そうすれば彼女達は手を汚さないで済むし、
後で優勝の褒美で生き返らせれば良いだけですから」
ウージーに、再びマガジンを詰める。
「辛い思いするのは私と耕一さんだけで十分ですからね。
耕一さんが眠っている間は私一人で頑張ります……。でもあまり長い間一人にしちゃ嫌ですよ?」
ノートパソコンの時計で時間を確かめる。
数字は11時50分を示していた。
「鎌石村に行く時間までまだ少しありそうですね。もう少しだけ、一緒にいさせてくださいね」
千鶴は顔を耕一に近付け、口付けを交わした。
「全てが終わって元の生活に帰れたら、大学を辞めて私の旅館で働きませんか?
妹達もきっと喜びますし――――何より私が一番嬉しいですから」
耕一の頭を上げ、自身の膝の上に乗せた。
「膝枕、気持ち良いでしょう?耕一さんがこうやって寝付いた後も毎朝私が起こしてあげますし、
料理も上手くなるように頑張ります、耕一さんの世話を一生してあげます。
だからずっと私と一緒に暮らしましょう、ね?」
楽しそうに将来の事に想いを馳せる。
いつもと変わらぬ穏やかな笑顔で。
心の支えを失った千鶴はもう現実とは別の世界を見ていた。
【場所:E-02民家】
【時間:二日目午前11:50】
柏木千鶴
【持ち物:支給品一式(食料を半分消費)、ウージー(残弾25)、予備マガジン弾丸25発入り×3】
【状態:左肩に浅い切り傷(応急手当済み)、肩に怪我(腕は動く)、マーダー、狂気、血塗れ、14時頃に鎌石村役場へ】
関連
→608
B-13
ウォプタル
【状態:民家の傍の木に繋いである】
誓い(前編) 〜銃声と潮風〜
少年は鎌石村のとある1件の民家にいた。理由は空腹を満たすためだ。
さすがの彼でも食事を取らなければ腹は減る。それに空腹は時に判断力を鈍らせる。
――この島では一瞬の判断の遅れも即死に繋がる。そのため食事と休養は絶対に必要不可欠な行為なのだ。
(おそらく、あの2人はこの村のどこかにいる……)
少年は民家で見つけた缶詰とパンを食しながら先ほど取り逃した2人の少女のことを考えていた。
(―――湯浅皐月と笹森花梨だっけ? いくら逃げ足が速くても所詮は女の子だ。すぐに見つけてみせるさ………)
缶詰とパンを食べ終わり、冷蔵庫から拝借した牛乳をぐいっと飲むと少年は立ち上がった。
(――さて。休み時間は終わりだ。行こうか)
少年は肩にデイパックを下げ、右手に先ほど手に入れたステアーAUGを持つと民家を後にした。
民家を出た瞬間、彼は再びジョーカーとしての自分に変わり、行動を再開した。
(――宝石を手に入れれば全てが終わる。この繰り返される悪夢も……)
* * * * *
あれから皐月と花梨の2人は鎌石村を徘徊していた。
しかし、あれから2人は先ほどの少年はおろか他の参加者とも遭遇しなかった。
はたしてそれは運がいいのか、それとも悪いのかと2人は思った。
「…ねえ花梨」
「ん? どうしたの皐月さん?」
突然皐月が花梨に声をかけた。
「その手記には、以前もこの島で殺し合いが行われていたことが書かれていたんでしょ?」
「うん。でも、どうして今更それを聞くんよ?」
「いや…もしかしたらさ、その手記に載っていた平瀬村の工場みたいに前回の参加者の人たちが武器か何かを村のどこかに残していないかなと思って………」
「なるほど。それはあるかもしれないんよ!」
「それでさ。まずはここに行ってみようと思うんだ」
皐月は地図を取り出すと鎌石村のある場所を指差した。
「郵便局?」
そう。皐月が指差したのは鎌石局という鎌石村の中心部から少し外れた場所にある郵便局だった。
「うん。物を隠すなら村役場や消防署とかだとさすがに人も集まりやすそうだから隠しづらいと思うの。でもここなら来る人も限られてくるだろうし……」
「なるほど。それなら早速行ってみるんよ」
「ええ」
そうと決まればと2人はすぐに鎌石局に行くことにした。
ただでさえ自分たちはこの殺し合いというゲームの参加者中、最強最悪とも呼べる存在に狙われているのだ。ぼさっとしている余裕は今の2人には無かった。
* * * * *
「やれやれ……やっと村に着いたか………」
耕一と別れて数時間。長く暗いトンネルを抜け、小中学校を通過して柏木梓はなんとか無事に鎌石村へとやって来た。
「さて……休んでいる暇はないよな。急いで千鶴姉や初音を見つけないと………っ!?」
梓が歩き出そうとした瞬間、梓は誰かがこちらに向かって走ってくる気配を感じた。
(敵か!?)
すぐさま近くの民家の陰に隠れ、様子を見る。
もし敵――それも銃などを持っている者だったら特殊警棒しか武器を持っていない梓には不利だからだ。
柏木の血に眠る鬼の力が制限されてしまっている以上、今の自分たちも一歩間違えたら即死ぬ弱い存在でしかない。
「――う〜ん…さすがに時間かかり過ぎだよな……」
河野貴明は時計を見ながら仲間のもとへと大急ぎで戻っていた。
彼が名雪を追って家を飛び出してから既に軽く5時間近くの時間が経過している。さすがに家に待たせているマナとささらも心配しているだろう。
「時間的にも高槻さんたちももう来ているかな?」
貴明は鎌石小中学校で出会ったささらの仲間――高槻と沢渡真琴のことを思い出していた。
(でも、あの沢渡さんも既にこの世にはいない……)
数時間前に聞いた放送には真琴やこのみたちのほかに、雄二たちと一緒に行動していた新城沙織、月島瑠璃子の名もあった。
高槻や雄二たちの身に何かあったのだろうか、と貴明は心配したが彼にはもう立ち止まることは許されなかった。
仲間やかけがえのない友人や知り合いたちの死を無駄にはしないためにも生き残っている自分たちは島を走り続け、そして生き続ける義務があるのだ。
―――それが本当に死んだ人たちへの償いになるのかと聞かれたらさすがに答えられないかもしれない。
それに、たとえこの殺し合いから生き残れたとしても自分たちにあのかけがえのない日常が戻ってくるわけでもない。
しかし全てが終わるまで――生きてあの日々に戻るまでは悲しむわけにも、泣くわけにも、絶望するわけにもいかなかった。
(――今の俺には俺が出来る範囲のことを精一杯やるしかないんだ……!)
数時間前と同じく、貴明は自身の決意を再び胸の奥に刻み込んだ。
「――っ!?」
その時だ。貴明が近くの民家の物陰から人の気配を感じ取ったのは。
氷川村で那須宗一と出会ったときもそうだったが、貴明のカンの鋭さや人の気配を感じ取ることはこの島に来たことで桁違いに跳ね上がっていた。
それは彼がもともと秘めていた一種の才能の開花なのか、それともただの火事場の馬鹿力なのかは本人含み誰にもわからない。
しかし、このような場所においてそれはどのような武器よりも役に立つことに変わりはなかった。
「…………」
立ち止まり、肩に下げていたレミントンを握り締める。
神経を集中させ360度どの場所からの奇襲にも対応できるように身構える。
それと同時に背後から風のような空気の流れを感じた。
「――っ! 後ろかっ!?」
すぐさま振り返ると、そこには自分と同年代の少年――いや少女がこちらに凄いスピードで接近してくる姿が見えた。
「くっ…」
すぐさまレミントンを構えようとしたが、少女は貴明が照準を定める前にジグザグと走る方向を変えるので貴明は狙いを定められない。
徐々に少女は貴明に接近してきた。さらにその手にはいつの間にか特殊警棒も握られている。
「ちいっ!」
貴明はレミントンを下ろすとすぐに腰にねじ込んでいた鉄扇を取り出し、バッと開いた。
ガキィン!
少女から振り下ろされた警棒と貴明の鉄扇が衝突し周辺にやや大きな金属音が響く。
衝撃の振動が鉄扇を持っていた貴明の右手にもビリビリと伝わってくる。
(くっ……女の子なのになんて力しているんだ……!)
刀でいうところの鍔競り合いの状態が続く。貴明はその時、少女と目が合った。
少女の目は純粋でまっすぐで、どこか怒りのようなものも内に秘めてる感じの目だなと貴明は思えた。
「―――てぇめ、いったいこれまでに何人殺しやがった……!?」
少女が口を開く。
それに答えるように貴明も口を開いた。
「俺はまだ誰も殺しちゃいない。自己防衛のために何度か銃は撃ったけどな。俺はただ知り合いや仲間を探しているだけだ」
「……それはつまり、あんたはゲームに乗ってはいないってことなのか?」
「ああ。この殺し合いに乗った奴が襲ってきたときは容赦はできないけど、俺は自分から人を殺そうとは思っていない」
「………」
貴明のその言葉を聞いた少女は貴明からバッと後退して貴明から数歩距離をとるとすると警棒を収縮させて自身のポケットにしまった。
しかし、警戒は怠っていないようだ。
「………信じていいのか?」
再び少女が貴明に尋ねてくる。
「じゃあこうすれば信じてくれるか?」
貴明は鉄扇とデイパックを近くに投げ捨てると、次にレミントンを梓の足元に投げ捨て両手を上げた。
「なっ…!? おまえ、正気か!?」
貴明の無謀ともとれる行動に少女は驚きを隠せない。
「でもこうしたほうが信じてもらえるだろ?」
「ば、馬鹿か!? もしあたしが実はゲームに乗っている奴だったらすぐにこのショットガンを拾っておまえに撃っているぞ!?」
「でも俺は君がゲームに乗っていないと嘘をついているような奴には見えないけど?」
「う…ま、まあそうだ。あたしはゲームには乗ってない。これは本当だ」
「なら話は早いじゃないか。君もゲームには乗ってないし、俺も乗っていない。つまり俺たちは敵じゃない」
「……そうだな」
そう言うと少女――柏木梓は完全に警戒を解きレミントンを拾うとそれを貴明に返した。
(柳川のときもそうだったが、あたしは見かけとかで人を判断しちまうからどうもいけねえな……)
と内心苦笑いをしながら。
荷物をまとめ終わると貴明と梓は歩きながら簡潔に話を始めた。
「あたしは柏木梓だ。あんたの名前は?」
「河野貴明」
「貴明か……なあ貴明。出会い早々に聞くが、あんたここに来るまで柏木千鶴と柏木初音って奴に会わなかったか?」
「……ごめん。俺はこの島で柏木って名前の人に会ったのは梓さんが始めてだ。俺は島で出会った人からは必ず名前は聞いてるから」
「そうか…ところでどこに行くんだ?」
「すぐそこの民家。仲間をそこで待たせちゃってるんだ」
5分ほど歩いたところで2人は村はずれの民家に到着した。
「ここか?」
「ああ…2人とも無事だといいけど……」
そう言うと貴明は玄関のチャイムを鳴らした。
ピンポーンという音が辺りに軽く響く。
しばらくするとゆっくりと扉が開き……
「いっつ!」
飛び出してきた少女のスネ蹴りが貴明に直撃した。
「遅い!」
少女――観月マナは痛む足を押さえる貴明を見下ろしながら叫んだ。
間違いなく怒っていた。
「ご…ごめん。本当に遅くなった」
蹴られた足をさすりながら貴明は立ち上がるとマナに頭を下げた。
「謝るなら私よりも久寿川さんに謝りなさい。貴明のことすごく心配していたのよ」
マナが後ろに顔を向けるとそこには安堵の表情を浮かべるささらがいた。
回避
回避
回避
「――お帰りなさい、貴明さん……」
「あ、ああ……ただいま」
微笑むささらに貴明も微笑み返した。
「――心配させちゃいましたね……」
「いえ……ですが………」
「あ……」
次の瞬間、ささらが貴明に抱きついた。
表情は判らなかったがささらは震えていた。
「柚原さんが…沢渡さんが………」
「……………」
貴明は何も言わず、ささらの背を優しくポンポンと叩いた。
とりあえず中に入りましょう、とマナが言ったので貴明たちはうんと頷くと静かに民家に入った。
4人は居間に腰を下ろすと早速これまで集めた情報を交換することになった。
まずは梓から自分が知っている限りのことを貴明たちに話していく。
「――それじゃあ、その千鶴さんって人はゲームに乗っているのね?」
マナの問いに梓は頷く。
「ああ。あたしと耕一はなんとかして千鶴姉を止めたいと思ってる。それと初音だ」
「その初音さんの行方はまだ判らないんですね?」
「うん。初音は優しい奴だから…こんな殺し合いに乗るような奴じゃないから……ゲームに乗ってない奴と一緒に行動していると願いたいけど………」
「大丈夫だよ梓さん。この島にいる人たちがみんなゲームに乗っているわけじゃないんだからさ。今はその初音ちゃんを信じてあげよう」
「……そうだな」
「さて。次は貴明に聞く番ね。何でこんなに遅くなったの?」
マナとささら、そして梓が貴明のほうに目を向ける。
「ああ――そのことなんだけど………」
貴明もあの後起きたことをマナたちに一通り説明していった。
「そんな……藤井さんが………」
藤井冬弥がゲームに乗り、貴明とその場にいた霧島聖と戦闘になったことを聞いたマナは信じられないという顔をした。
「俺もあの人が観月さんが探していた人だったことを思い出したのはその後だった……森川由綺を殺した奴を探しているらしい」
「馬鹿じゃねえか、そいつ? その恋人の仇もとっくにくたばっているのかもしれないってのに?」
「もしかしたら……あの時の放送………」
ささらは2回目の放送の最後にあのウサギが言っていた『優勝者へのご褒美』のことを思い出した。
『どんな願いも1つだけ叶えられる』……本当かどうかは定かではないが、藤井冬弥はそれで恋人を生き返らせようとしているのだろうか?
「うん……それに釣られたって可能性も多分一理あると思う………」
「藤井さん………」
「―――千鶴姉も楓を生き返らせようとか思ってんのかな………?」
「まーりゃん先輩も今頃は出会った人を見境なく襲っているのでしょうか………? 柚原さんが亡くなられてしまった以上……」
貴明以外の3人がはぁとため息をついた。
居間の空気が完全に重くなる。
「――皆はこれから先、どうするべきだと思う?」
「え?」
そんな中突然貴明が口を開いた。
「突然何を……」
「確かに、このみや春夏さんや沢渡さん……友達や大切な人たちが殺されてしまったことは悲しいし、殺した奴が憎い気もする。
でも、死んでしまった人たちのことを何時までも嘆いているわけにはいかないし、殺した奴を憎み続けるわけにもいかないと俺は思うんだ。
泣いているだけ、憎んでいるだけじゃ何も変えることは出来ないし、変わりもしない……
生き残っている俺たちは死んでしまった人たちの分も生きていかなきゃならないんだ。たとえそれが本当は正しい道じゃなかったとしても………」
「…………」
「全てが終わっても、俺たちには背負うべきものが山ほどある。本当に大変なのはそこからだ」
「―――なんか今の貴明ってあいつみたいね」
何かを思い出したマナが呟いた。
「あいつ?」
「貴明に会う前にさ、ちょっと目つきが悪い奴に会ったんだ。
その時ちょうど1回目の放送が流れて……お姉ちゃんが死んじゃったこと知って私凄く悲しかった。もちろん泣いた。
そしたらそいつさ、今貴明が言ったようなことと同じようなことを私に言ったんだ………」
「そうなんだ……」
「――それで、貴明さん。本題に戻りますが、これから先どうしようと貴明さんは考えているんですか?」
「うん。そのことだけど、俺はもちろん自分の考えを変えるつもりはないよ。今俺がするべきと思うことをする。ただそれだけ。
生き残っている仲間を集めて、皆と合流して、最後は皆で島から脱出する…口で言うのは簡単だけどね。正直俺1人じゃどこまでできるかは判らないけどさ」
「おいおい…だからあたしたちがいるんじゃないのか?」
「そうですよ貴明さん。私たちも1人ではできることには限界があります」
「そうよ。十人十色って言うじゃない」
「――ああ。そうだな」
4人はそれぞれ微笑むとうんと頷いた。
もう語る必要などない。自分たちのやるべきことは決まった。あとはもう行動に移るだけだ。
――ガガガガガガ!
「!?」
突如、外――それも貴明たちのいる民家の近くから激しい銃声が聞こえた。
すぐさま貴明たちは自分たちの武器と荷物を手に取ると、部屋の窓の方にテーブルを蹴り倒しその影に隠れた。
「敵か!?」
梓が警棒を取り出しながら隣でレミントンを構えている貴明に尋ねた。
「外みたいだ。でも俺たちを狙ったものじゃないらしい……」
「じゃあ……」
「この近くで戦闘が行われているっていうの!?」
マナに対して貴明は無言で頷く。
回避
「いったい誰が戦っているんだ?」
「わからない……でももしかしたら………」
俺たちが探している人のうちの誰かかもしれない、と小さな声で貴明は呟いた
「――確認してみる価値はあるか?」
そう言った梓にも貴明は無言でこくりと頷く。
よし。そうと決まれば、と梓も頷くと次の瞬間2人は玄関へと駆け出した。
「なっ!? ちょっと2人とも、いくらなんでも危険すぎるでしょそれは!?」
戦闘に乱入するという自殺行為スレスレなことをしようとする2人を止めようとマナが2人に叫んだ。
しかし、それに反論したのは以外にもささらだった。
「観月さん、どのみちこのままここにいても私たちが危険であることに変わりません。
それに、戦闘を行っている人はもしかしたら千鶴さんや藤井さんたちの可能性もあるんですよ?」
そう言うとささらも立ち上がり、彼女も玄関へと駆けていった。
「ちょ…久寿川さん!? ……もう! しょうがないわね本当に!!」
そう言うとマナも3人を追って玄関へと駆けていった。
まずは貴明が、続いて梓が民家から外に飛び出した。
「銃声が聞こえたのはどっちだ!?」
「確か……」
ガガガガガ………!
貴明が先ほど銃声のした方を確認しようとしたのと同時に、またしても銃声が鳴り響いた。
「――あっちか!」
「よし…!」
銃声が鳴り止むよりも前に貴明と梓はすぐに音のした方へと走り出した。
「待ってください貴明さん、梓さん!」
「そう言う久寿川さんも待ってよ!」
その後をささら、マナが続いて走り出す。
―――4人が民家を去ると同時に、鎌石村にびゅうと突風のような大きな潮風が吹いた。
それはこれから貴明たちの身に起こる戦いの予兆だったのか、それともただの偶然だったのかはもちろん誰にも判らない。
【時間:2日目・11:40】
【場所:C−4・5境界】
河野貴明
【所持品:Remington M870(2/4)、予備弾(12番ゲージ)x24、SIG・P232(0/7)、仕込み鉄扇、他支給品一式】
【状態:左脇腹・左肩・右腕負傷(応急処置および治療済み)。左腕刺し傷・右足に掠り傷(どちらも治療済み)、銃声が聞こえた方へ】
柏木梓
【持ち物:特殊警棒、他支給品一式】
【状態:銃声が聞こえた方へ。現在の目的は初音の保護、千鶴の説得】
観月マナ
【所持品:ワルサー P38(残弾数8/8)、予備マガジン(9ミリパラベラム弾8発入り)×2、カメラ付き(バッテリー十分、全施設の番号登録済み)携帯電話、他支給品一式】
【状態:足にやや深い切り傷(治療済み)、銃声が聞こえた方へ】
久寿川ささら
【所持品:スイッチ(未だ詳細不明)、トンカチ、カッターナイフ、他支給品一式】
【状態:右肩負傷(応急処置及び治療済み)、銃声が聞こえた方へ】
回避
【時間:2日目・11:00】
【場所:B−4】
湯浅皐月
【所持品:セイカクハンテンダケ(×1個+4分の3個)、他支給品一式】
【状態:光を集める。鎌石局へ】
笹森花梨
【所持品1:特殊警棒、海岸で拾ったピンクの貝殻(綺麗)、青い宝石(光一個)、手帳】
【所持品2:大量の古河パン(約27個ほど)、他支給品一式】
【状態:光を集める。鎌石局へ】
ぴろ
【状態:皐月の鞄の中にいる】
【時間:2日目・11:00】
【場所:C−3】
少年
【所持品1:強化プラスチックの大盾(機動隊仕様)、38口径ダブルアクション式拳銃(残弾2/10)】
【所持品2:智子の支給品一式、ステアーAUG(22/30)、ステアーAUGの予備マガジン(30発入り)×3、グロック19(15/15)、予備弾丸11発。】
【状況:ジョーカー。健康。まずは皐月、花梨を探す】
訂正
>梓が歩き出そうとした瞬間、梓は誰かがこちらに向かって走ってくる気配を感じた。
ここを以下のようにに訂正
梓が歩き出そうとした瞬間、誰かがこちらに向かって走ってくる気配を感じた。
>ID:vDbpb/N30
回避ありがとうございました
修羅と化した鬼執筆者です、続きを書いてくださる方がいらっしゃるようなので、訂正を行わせてください。
・1レス目(350)をそのまま入れ替えてください
「耕一さん、ちょっと思うことがあるんです」
「何ですか?」
歩みを止めこちらを振り返る耕一、千鶴は神妙な顔つきで語りだした。
「さっきの子たちのことなんですが・・・」
「ええ」
「あの男の子・・・死んだ子の名前、叫んでませんでしたか?」
耕一の目が見開かれる、千鶴は彼の様子を気にすることなく話を続けた。
「今になって思い出したんですが。よくもナギをって、言ってませんでしたか」
「すみません、ちょっと分からないです・・・でも」
すかさず名簿を取り出し確認しだす耕一、千鶴も彼の手元を覗き込む。
そして。そこに書かれた名前、69番「遠野美凪」を発見し二人は固まった。
顔を見合わせる、キッと視線を強め千鶴は言った。
「耕一さん、パソコンを手にいれましょう」
「・・・書き込み、ますか?」
「いえ、まずは持っておくだけです。私の聞き間違いという可能性も、視野にいれないといけませんから。
ですが、夜の放送までに彼女の身元を明かすことができたなら。
・・・耕一さんや初音を一刻も早く助けるためにも、みすみす逃すのは惜しいです。
あの子・・・黒髪に割烹着姿という判断材料では難しいかもしれませんが、それでも入手しておく価値はあるはずです」
「そのためにもパソコン、ですか」
「身元が分かったとしても、書き込むことができなければ意味はありませんから。
ちょうど一つ心当たりがあります、そこに行きませんか?」
報告ができなければ全てが無意味、ゲームに乗るにしてもこの枷は中々厄介である。
だがそんなことを話し合っていると、前方に探していた舞達のグループを発見してしまう。
・2レス目(351)の上部を以下のものに入れ替えてください
一向は、少し開けた場所にある倉庫の前にて屯っていた。
中でも調べていたのだろうか。彼らの神妙な顔つきから想像すると、あまり良い結果は出なかったと見える。
「・・・どうします?」
パソコンか、ターゲットか。
優先順位で言えば勿論後者だが、今までパソコンについて話していたこともあり耕一はこのような声かけをした。
「私は顔が割れています、一緒に行くのは不自然でしょう」
「それでしたら、千鶴さん先に行って回収しといてくれませんかね」
「構いませんが・・・大丈夫、ですか?」
「あそこにいる連中が、銃を持っていないことは分かってますから。平気ですよ」
「そうですか?ではこれを・・・」
だがウージーを差し出す千鶴に対し、耕一は首を振る。
「不意打ちを狙います、それならこの日本刀の方が便利ですよ。
いきなり銃器を持って現れるのも、ちょっと目立つでしょうし。
・・・『遠野美凪』について聞いてみたら動き出します、やり遂げてみますよ・・・家族の、ために。」
その口調に迷いはない。
鞘を茂みに捨て抜刀されたままの日本刀を右手でしっかり持つ耕一、その手に千鶴はそっと触れる。
最後にぎゅっと握り締め、彼女は耕一を見送るのだった。
6レス目(362)の上部を以下のものに入れ替えてください
千鶴は耕一の背面にいる、だから彼は今の彼女の様子をうかがうことはできない。
対峙する舞はそれを許さないであろう、だから耕一はそのまま話を続けた。
「正直、助かりました・・・」
「一人で駄目なら二人で乗り切ればいいのです」
「そうですね、ありがとうございます。
あと、パソコンのことですが・・・るーこちゃん、ピンクの髪の子が持ってるそうです」
「それはちょうどいいですね、取りに行く手間が省けました。・・・全ては、家族のために。頑張りましょう耕一さん」
会話終了。二人は改めて目の前のターゲットに狙いを定めた。
以上です、ご迷惑おかけします。
437 :
唯一の欠点:2006/12/29(金) 05:18:45 ID:Ym4+tQJC0
「―――どういう事だ?」
「ですから私は善人の皮を被り人を謀る橘敬介を許さないと言っているのです。私は彼を殺して澪ちゃんを救います」
「…ちょっと待てよ、何かの勘違いなんじゃないのか?」
「勘違いなどではありません。あの男が現れた事が発端で悲劇が起こってしまいました。あの男の所為で罪の無い子供達が二人も命を失ってしまいました」
秋子は理緒と佳乃の死に様は目撃していない。見たのは物言わぬ死体となった彼女達の姿だけだ。
秋子にとっては、敬介こそが全ての元凶に思われた。
何せ彼が現れてから全ての歯車が一気に狂ってしまったのだから。
そして宗一と秋子の口論を聞きつけて、当の本人は登場する。
「―――ちょっと待ってくれ!僕は本当に何もしてないんだ!」
「!?」
宗一の後ろ―――診療所の玄関から秋子の聞き覚えのある声が聞こえた。
それは彼女の駆逐対象、橘敬介その人のものだった。
「貴方はあれだけの惨劇を引き起こしておいて…よくもぬけぬけとそのような事が言えますね」
「違う、あれは僕がやったんじゃない!大体僕がゲームに乗っているのなら、どうしてあの女の子をここに連れてくる必要がある?
そんな事をして僕になんのメリットがあるって言うんだ!?」
「メリットならありますよ?貴方は重度の怪我を負っていた…それなら治療は必要でしょう。
そして女の子を連れて行けば、診療所にいる人を騙して信頼を得る事も容易いでしょう。この方のようにね」
「な……!」
秋子は宗一を顎で指しながら言った。その暴論に敬介は絶句してしまう。
敬介にとって、澪は信頼を得る為の道具―――それが秋子が出した結論だった。
そしてそれは秋子と宗一にとっては道理に適っている考えでもあった。
人を謀るような男なら闇雲に戦おうとするよりも、そういった行動をする方が自然だからだ。
(―――どっちだ?どっちが正しい事を言ってるんだ!?)
438 :
唯一の欠点:2006/12/29(金) 05:21:20 ID:Ym4+tQJC0
秋子と敬介―――宗一にとってはどちらも出会ったばかりの人間に過ぎない。
二人は全く逆の事を言っている…宗一にとって彼らは二人共警戒すべき対象に相違無かった。
なら――――情に流されずに判断するのならば、結論は一つ。
「―――悪いがお前達は両方信用出来ない。俺にはどちらが正しい事を言っているのか分からない。
だから女の子――澪を連れて行くのなら勝手に連れて行ってくれ。そしてすぐに出て行ってくれ。お前達のどちらにも俺は加担出来ない」
「そ、そんな…」
それは敬介にとって事実上の死刑宣告。水瀬秋子は診療所を出た途端、間違いなく自分を撃つだろう。
だが宗一も彼を完全に見捨てるほど薄情ではない。
「そこのあんたは澪を連れて表の入り口から出て行ってくれ―――そして敬介は裏口から出て行ってくれ。
これが俺が呑めるぎりぎりの条件だ。この周りで戦う事は許さない」
これが宗一の敬介救済の為の策だった。
宗一はどちらが嘘をついていようとも、誰も死なずに済む条件を提示したつもりだった。
この条件なら秋子も澪を救えるし、敬介も無事に生き延びられる――――今思いつく限りでは最も良い解決策だと思えた。
秋子は黙って頷くと玄関へと進み、その奥に澪の姿を確認した。
「澪ちゃん!」
秋子は靴も脱がずに澪の所へ駆け寄り、眠る少女の体をしっかりと抱き締めた。
その体温を確かめるように、その命を確かめるように、強く抱きしめた。
すると澪が、ぱちっと目を開いた。
多大な恐怖を抱いたままの状態で気を失っていた澪だったが、目を覚ますとそこには今や唯一の信頼出来る人間―――水瀬秋子の姿があった。
恐怖から解放された澪は涙目で秋子に抱き付いた。
「澪ちゃん、無事だったのね…」
「(こくこく)」
「怖かったでしょう…。でももう大丈夫。後は私が絶対に、澪ちゃんを守ってあげるからね」
「(こくこく)」
439 :
唯一の欠点:2006/12/29(金) 05:24:22 ID:Ym4+tQJC0
秋子が澪を抱きしめながら優しく話しかけ、澪は笑顔で頷き続ける。
彼女達のやり取りをみていた宗一は再び思考を巡らせていた。
(これは―――少なくともこっちの女はゲームには乗ってないな…。しかし、これは直感だが敬介がゲームに乗っているとも思えない。
なら――やはり二人の間で何か勘違いが?…いや、直感なんかに頼ってちゃ駄目だ。今この女からは殺気が消えている…なら)
「……邪魔して悪いが、そろそろ出て行ってくれないか?俺にはやる事がある、いつまでもこうしてはいられないんだ」
穏便に済むうちに終わらせてしまおう。
時間を置けば再び揉める事になるかもしれない。
だから今はすぐに動いてもらうべきだ、と宗一は考えていた。
退去を命じられた秋子は澪に2,3言耳打ちした。
すると澪は自分を指差して…
「え、あなたも?」
「(こくこく)」
「駄目よ、そんなの…。私に任せておいて」
「(ぶんぶん)」
「…時間がもうないわ。お願いだから、言う通りにして頂戴ね」
秋子は小声でぼそぼそと喋っていた。そのやり取りはとても小さい声で行なわれていたので当人達以外には聞き取れない。
宗一は眉間にしわを寄せて彼女達の様子を見ていたが、すぐに秋子が宗一の方へと振り向いた。
「分かりました、では失礼します。ですが―――出来れば澪ちゃんの荷物を返してもらえませんか?
今澪ちゃんに聞いたのですが、荷物が無くなってるみたいなので…」
嘘だ。澪は言葉を喋れない…秋子に荷物の事など言ってはいない。
これはリスクの無い賭けだ。失敗しても適当に誤魔化せば済む。
そして成功すれば―――
440 :
唯一の欠点:2006/12/29(金) 05:27:43 ID:Ym4+tQJC0
「敬介、この子の荷物はどれか分かるか?」
「すまない…僕が持ってきた支給品は誰のか分からないんだ……」
「そうか、じゃあどうする?あんた達の荷物の一部は俺が勝手に取ってしまっていたんだが……出来れば携帯だけは譲ってくれないか?」
「僕には必要ないものだし構わないよ。このダイナマイトはどうしようかな……」
宗一と敬介は二人で敬介が持ってきた荷物の分配について話し始めた。
今現在宗一の鞄には敬介の鞄から抜き取ったいくつかの品が入っている。彼らは鞄の中を覗き込み、それを誰に渡すかを話し合っていた。
―――秋子達の方を見ずに。
世界No1エージェント・那須宗一は今この島で生き残っている人間達の中でも特に優れた戦闘能力を持っている。
そしてそれは正面からの戦闘に限ったことではない。彼はこの環境の中で生き残る為の能力も、初見の相手に対する警戒心も十分に備えていた。
唯一つ欠点があるとすれば―――那須宗一は、お人好し過ぎた。
抱き合う秋子と澪の様子を見て、この二人が人を騙し討ちするような事はしないだろうと勝手に決め付けてしまっていたのだ。
それは決して意識しての事では無かったが、無意識のうちに宗一は秋子を信頼してしまっていた。
『情に流されたら……自滅するのがオチだ』
彼はその事を徹底出来る程、冷徹にはなれなかった―――それが彼の唯一の過ち。
「―――言ったでしょう、その男は極悪な男だと」
澪と話している時とは全く違う、凍てつくような声で秋子は言った。
何かを感じ取った宗一は覗き込んでいた鞄をかなぐり捨てると、反射的に敬介を抱えて素早く外へと飛び出した。
ほぼ同時に銃声が聞こえ、宗一の左肩に大きな衝撃と跳ねるような痛みが走った。
「ぐぁぁぁ!」
「子供達に害を為すその男を救うというのなら―――貴方も殺します」
肩を抑えて倒れそうになる宗一に対して銃が再び構えられるが、彼とて素人相手に簡単に殺されはしない。
宗一は倒れこみながらも玄関の扉を蹴り飛ばして強引に閉めた。
「くそ!宗一君、こっちだ!」
「ち、ドジったぜ………」
441 :
唯一の欠点:2006/12/29(金) 05:28:53 ID:Ym4+tQJC0
敬介が宗一に肩を貸して走り出す。今の宗一の状態では秋子から逃げ切るのは厳しい―――なら目指すはすぐ前方にある茂みだった。
それは即ち――秋子を迎撃するという事。宗一のまだ無事な右手にはしっかりとFN Five-SeveNが握られている。
秋子は澪の手を引きながら扉を蹴り飛ばし敬介達の背に向けて発砲したが、地面の土を抉り取るだけに終わった。
敬介達が茂みに入るのを確認すると、秋子は澪と共に診療所の側面に回りこみ、診療所の建物の角の壁を盾にしながら茂みの様子を窺った。
秋子は一瞬だけ壁から身を乗り出すと茂みに向かって発砲し、すぐに壁の後ろへと体を戻した。
その1秒後には彼女がいた空間を宗一が放った弾が通過していた。
秋子達は診療所の壁を、宗一達は外からは視界の悪い茂みを盾にしながら両者は対峙していた。
そんな中、澪は先程拾った鞄…宗一が落とした鞄の中身を覗いていた。
その中にはダイナマイトや包丁、様々な道具、そして―――H&K VP70が入っていた。
澪は秋子に『私が戦い始めたら澪ちゃんはしばらく安全な場所で隠れてて頂戴。良いっていうまで絶対出てきたら駄目よ』と言われていた。
しかし澪はもう一人になる事には耐えられなかった。黙って秋子が戦っているのを見守る事など出来ない。
秋子が自分にそうしてくれているように、自分も秋子を守りたい―――そう考えた彼女は銃をその手に取った。
・
・
・
祐一達は診療所を目指して走っていた。
「向坂の奴、本当に大丈夫ですかね…」
「心配いらない、彼女は考えも無しにあんな事をするほど馬鹿じゃない。きっと確かな勝算があったはずさ」
「だと良いんですが…」
残してきた環の心配をしながらも、祐一達は駆ける。
とそこで、診療所の方から銃声が聞こえてきた。
「銃声!?」
「最悪だな…。診療所のあたりで、誰かが戦っているみたいだね…」
「どうします?」
回避
回避
回避
回避
まだ無理?
447 :
唯一の欠点:2006/12/29(金) 05:44:44 ID:Ym4+tQJC0
英二は祐一の背の観鈴の様子を窺った。
彼女の顔色は数時間前より明らかに悪くなっており、状態は芳しいとは言えない。
「観鈴君が危ない…このまま診療所へ向かおう。ただし警戒しながらだ」
「分かりました」
こうしてすぐに方針は決まった。
観鈴の容態も悪化しており、環も戦っている現状であれこれ悩んでいる余裕は無いのだ。
二人はペースを落とし、前方を警戒するような足取りで診療所に向かい続ける。
だが彼らが本当に警戒すべきは後ろだった―――少し離れた位置で、マルチが彼らを尾行しているのだから。
(雄二様のお力無しでは普通にやっても勝てません…。今は機を待つしかありません)
―――マルチは冷静に狂っていた。
雄二の力と彼の方針に対してだけは絶大な信頼を寄せていたが、その他の事に対しての判断までもが狂っている訳ではない。
だからマルチは冷静に祐一達を打倒する好機を待っていた。
・
・
・
葉子は診療所の窓から外の様子を窺っていた。
彼女が覗いている窓から秋子達の方は見えないが、宗一達と交戦しているのは銃声からだけでも十分予測出来る。
(さて、どう動くべきでしょうか……)
448 :
唯一の欠点:2006/12/29(金) 05:46:27 ID:Ym4+tQJC0
葉子は今どう行動すべきか考えていた。
足の怪我は快方に向かってきた…まだ痛みはするが歩く程度なら可能だ。
この戦いは、順当にいけば世界No1エージェント・Nasty Boyが勝つだろう。それを黙って待つのも悪くない。
しかし勝った側の人間に奇襲を仕掛け、この場にある全ての火器を手に入れるのもまた、魅力的な選択だった。
武器は先程病室でメスを見つけた、戦い終えて疲弊している相手にならやり方次第では勝てるかもしれない。
とにかく焦ることは無い、今の自分は一方的に戦況を把握出来る立場にいる。
もう少し状況を見極めてから動けば良いのだ。
しかし、彼女は知らない。茂みに隠れている那須宗一は重傷を負っており、とても万全の状態ではないことを。
そして様々な人間が診療所に近付いてきている事を。
【時間:2日目・午前7時50分】
【場所:I−7】
那須宗一
【所持品:FN Five-SeveN(残弾数19/20)】
【状態:左肩重傷(腕は動かない)、茂みに隠れている、秋子を打倒】
鹿沼葉子
【所持品:メス、支給品一式】
【状態@:肩に軽症(手当て済み)右大腿部銃弾貫通(手当て済み、動けるが痛みを伴う)。一応マーダー】
【状態A:診療所内から外の様子を窺っている、どう動くべきか迷っている】
橘敬介
【所持品:支給品一式、花火セットの入った敬介の支給品は美汐の家に】
【状態@:左肩重傷(腕は上がらない)・腹部刺し傷・幾多の擦り傷(全て応急手当済み)。澪の保護と観鈴の探索、美汐との再会を目指す】
【状態A:茂みに隠れている】
上月澪
【所持品:H&K VP70(残弾数2)、包丁、ダイナマイトの束、携帯電話(GPS付き)、ロープ(少し太め)、ツールセット、救急箱、ほか水・食料以外の支給品一式】
【状態:精神不安定。頭部軽症(手当て済み)・秋子を助けて敵を倒す】
449 :
唯一の欠点:2006/12/29(金) 05:47:16 ID:Ym4+tQJC0
水瀬秋子
【所持品:ジェリコ941(残弾10/14)、予備カートリッジ(14発入×1)、澪のスケッチブック、支給品一式】
【状態:腹部重症(治療済み)。名雪と澪を何としてでも保護。目標は子供たちを守り最終的には主催を倒すこと。今は敬介と宗一の排除】
緒方英二
【持ち物:ベレッタM92(8/15)・予備弾倉(15発×2個)・支給品一式】
【状態:疲労、慎重に診療所へ向かう】
相沢祐一
【持ち物:レミントン(M700)装弾数(5/5)・予備弾丸(15/15)支給品一式】
【状態:観鈴を背負っている、疲労、慎重に診療所へ向かう】
神尾観鈴
【持ち物:ワルサーP5(8/8)フラッシュメモリ、支給品一式】
【状態:睡眠 脇腹を撃たれ重症(容態少し悪化)、祐一に担がれている】
マルチ
【所持品:支給品一式】
【状態:マーダー、精神(機能)異常 服は普段着に着替えている。英二達を尾行】
(関連540・604)
>>ID:XmwmNwBhO
回避、アドバイスありがとうございました
451 :
修正:2006/12/29(金) 05:57:22 ID:Ym4+tQJC0
>橘敬介
>【所持品:支給品一式、花火セットの入った敬介の支給品は美汐の家に】
>【状態@:左肩重傷(腕は上がらない)・腹部刺し傷・幾多の擦り傷(全て応急手当済み)。澪の保護と観鈴の探索、美汐との再会を目指す】
>【状態A:茂みに隠れている】
を
橘敬介
【所持品:支給品一式、花火セットの入った敬介の支給品は美汐の家に】
【状態@:左肩重傷(腕は上がらない)・腹部刺し傷・幾多の擦り傷(全て応急手当済み)。観鈴の探索、美汐との再会を目指す】
【状態A:茂みに隠れている、まずはこの状況の打開を考える】
に修正お願いします
三人は民家に帰ってからも無言だった…。
ベッドの上の少女…美凪は顔に付いた血を綺麗に拭き取られ、偶然タンスの中にあった新品の割烹着を身に着けられて寝かされていた
北川と真希は傷の手当てもせずに肩を寄せ合い座っていた、ベッドの上の少女を見つめながら…。
その時は部屋の中の時間が止まってるような気がした。
「少しだけ待っててね…美凪」
真希がそう言い残すと、二人は部屋から立ち去った。
美凪が寝かされた部屋の隣の居間で二人の傷の手当てが始まった
当初「自分の傷は自分でする…」と言った北川だったが、二人とも背中を撃たれていた為
「碌な手当てが出来ないでしょ…」と真希が無理矢理に北川の服を脱がせ手当てを始めた
先ずは北川、そして真希の順で手当てが始められた
真希は北川の身体の傷痕を見て絶句した、背中の傷は勿論のこと手当て済みだが昨日腹に受けた二発の弾丸の痕を…
防弾チョッキ越しでもこんなになるとは思わなかったからだ。
真希は何も言わず北川の傷の治療をした…そして真希の番になった
「……アンタ…よく昨日からこんなの撃たれて動きまわれたわね。」
居間の座布団の上に裸でうつ伏せに寝かされた真希がそう話を切り出した…。
真希の小さい背中はチョッキ越しに撃たれていたが夥しいほどの弾痕の痕を残し、皮膚は円状に剥がれ血が滲み出ていた
ホテルから拝借しておいた救急箱の中から消毒液とガーゼを取り出し手当てをする北川
「そうだな…。」
素っ気無い返事をしながら手当てを続ける北川…あまり話はしたくないらしい、しかし真希は気にせず話し続ける…覚悟を決めているからだ
「アンタはあれだったわ、一番しなければならないことをよく解ってた…。」
これまでの事を振り合えるように話す真希、消毒液が染みるのか時折顔を歪ませている。
「今回もそうだった…アンタも美凪も…それに引き換えあたしは何も出来なかったわ。」
淡々とした口調で話す真希…弾痕の治療を終えたのか座るように指示する北川、
真希の胸と腹に綿とサラシを巻く北川、…治療のガーゼが取れないようにの為であり
申し分程度の防弾衝撃対策、斬撃での内臓が飛び出ないようにだったりする、決して二の鉄を踏まない、
そして北川は意を決して口を開ける
「………お前達に…危険なことなんかさせられるかよ!」
嗚咽を交えながら、やっとまともな口を開く北川、真希の身体にサラシを巻くのを一時的に止める
「…じゃあアンタは危ないことは自分で全部やるとでもいうの!」
北川の洩らした言葉が癪に障ったのか、身体を振り返らせ瞳いっぱいに涙を溜めて北川に詰め寄り押し倒しながら怒鳴る真希
昨晩のホテル跡の食堂で北川を庇った時と同じ体勢を取って…。
「…美凪はねぇ、あたしと違ってちゃんと考えて行動してたわ、アンタと出会う前からね!!」
「今回だって美凪は美凪なりの判断でやったのよ、それを後からあんたがつべこべ言って、あの子が聞いたらどう思うのよ!!」
泣きながら北川を叱咤する真希、そのまま北川の胸に顔をうずめる…。
「…ああ…そう……だな……真希…。」
そっと真希を抱きしめ涙を流す北川
傷の手当てを終えたままの北川と真希は身を寄せ合い唯々泣いていた………。
取り残された二人は一通り泣いた後、二人の気持ちは一つになっていた。
二人は荷物の整理をして装備を整える、
北川の荷物にはショットガンと接近戦用のスコップを真希の荷物には美凪の包丁と前回参加者が置いていった拳銃を持って
そして美凪からもらったお揃いの割烹着と頭巾を着込んでいた、
真希は美凪の防弾性割烹着も一緒に二重に着込む…もしあの子に…みちるに出会えたのなら渡すためだ。
一通りの準備が出来次第、北川と真希は意を決してロワちゃんねるのスレッドを見ていた
耕一と呼ばれた男と千鶴と呼ばれた女の情報が欲しかったからだ…
連中がもっぱら口論していたときに途切れ途切れ聞こえてきた
【ロワちゃんねる】【自作自演】【氷川村の宮沢有紀寧】【リモコン爆弾】【首輪の爆破まで48時間】【岡崎朋也】【人質の初音】
【鎌石村】の単語の数々
耕一と呼ばれた男がマーダーの千鶴を説得しようと何度も説明を繰り返していたので断片的に憶えていた…。
そして一つのスレッドを発見する、
【自分の安否を報告するスレッド】…何と無く理解できた…そしてどうでもよかった…美凪が如何なるわけでもないからだ…。
ノートパソコンの電源を落とし、北川と真希は最後に美凪の部屋に行く
回避
回避
綺麗な顔をしてベッドの上で安らかな眠りに付く美凪、今にもひょっこりと起きて来そうだった
エディとこのみを弔ったのと同じく、庭で摘んだ花を美凪の傍らに添える二人。
「オレ達はオレ達にしか出来ないことをするよ……美凪」
「美凪の作ってくれたハンバーグの味はちゃんと覚えているわ……行って来ます」
そう言って半泣きの真希は永遠に眠ったままの美凪の冷たい頬を撫でた後、二人は部屋を出て行く。
「…覚悟はいいか?………いくぞ真希。」
「どこまでもついていくわ………潤」
北川はそう言って民家を出ていく、傍らには自分で荷物を持った真希が北川と肩を並べて走っていたのだった。
二人のポケットにはお米券が…そして真希の首には美凪のロザリオが提げられていた。
北川潤、広瀬真希、遠野美凪の三人は唯の高校生だった、
首輪を解除できる技術も持ち合わせていなかった、だからこそ自分達の出切る事をしようとした
悲しいときに涙を無理に止めるような感情を持ち合わせてはいなかった、だからこそ笑えるときに笑う感情を持ち合わせていた
残された二人の心は曇ったまま、傷ついた心と身体で前へと進む
自分たちにできること…現在生きてるのかどうかも分からないみちるの情報を求めて、残された二人は北へと走り出した。
三人の心は一つだった…。
回避
真希が健気だ・・・
回避
回避……!
回避
いやっほーぅ!凸凹□トリオ最高ー!!
北川潤
【時間:2日目11:00頃】
【場所:G−2民家】
【持ち物@:SPASショットガン8/8発+予備8発+スラッグ弾8発+3インチマグナム弾4発、支給品】
【持ち物A:スコップ、防弾性割烹着&頭巾(衝撃対策有)、ノートパソコン お米券 おにぎり1食分】
【状況:美凪を看取る、チョッキ越しに背中に弾痕(治療済み)】
【目的:自分たちにしか出切ないことをする(みちるの情報)】
広瀬真希
【時間:2日目11:00頃】
【場所:G−2民家】
【持ち物@:ワルサーP38アンクルモデル8/8+予備マガジン×2、防弾性割烹着&頭巾(衝撃対策有)×2、支給品、携帯電話】
【持ち物A:ハリセン、美凪のロザリオ、包丁、コミパのメモとハッキング用CD、救急箱、ドリンク剤×4 お米券】
【状況:美凪を看取る、チョッキ越しに背中に弾痕(治療済み)】
【目的:同上】
遠野美凪
【持ち物:民家にあった割烹着&頭巾、お米券数十枚】
【状況:永眠 G-2民家のベッドで北川と真希に弔われる】
【備考】
今現在リモコン爆弾の解除方法の情報は北川と真希しか知らない
ドリンク剤×2及びおにぎり×2を消費
その他の物はG-2民家の中
ホテルにあった様々なもの(剃刀、タオル、食器、調味料 その他諸々) ワイン&キャビア、
同人誌の数々、スコップ はG-2民家の中
ルートB−13
→595
>>sUJYepR00
気合の入った回避ありがとうごさいます
やはり制限されている電波では効果が薄かったのか、
椋はあの後すぐに目を覚ました――――
椋が体を起こすと、目の前には祐介がいた。
「貴方はさっき追って来てた人……?」
「うん。怯えさせてしまってごめんね」
祐介は申し訳無さそうに頭を下げたが、椋はまだ訝しむような顔をしていた。
「……私をどうなさるおつもりですか」
「まだ僕を疑っているんだね……」
「当然です」
椋は雅史から少し距離を取りながら言った。
一度眠らされた事で落ち着きは取り戻していたが、だからといって目の前で雅史が殺された記憶が消える訳ではない。
簡単に人を信用する事など出来なかった。
「疑う気持ちは分かるけど……僕が君を殺すつもりだったらもう君は死んでるんじゃないかな?」
「それは……確かに」
そう。祐介が本気でゲームに乗っていたのなら、椋を眠らせた後殺している筈だった。
椋は厳しい表情で少し考え込んだ後、答えた。
「分かりました……今は信用する事にします」
『今は』。祐介が今この場で自分に危害を加える気が無いことは分かった……。
だけどそれは自分を何かに利用しようとしているからなのかも知れない。
このゲームでは仲間がいれば何かと便利である。戦闘でも人数が多い方が有利だし、二人いれば交互に睡眠を取る事も出来る。
椋には出会ったばかりの人間を全面的に信用するような事など出来なかった。
だが、それでも一時的には椋の警戒は解かれた。
それからは比較的穏便に話を進める事が出来た。
まず二人が話した事はお互いの名前と、電波についての事だった。
「その”電波”っていう力で祐介さんは私を眠らせたんですか?」
「うん、ごめんね?」
「いいえ、私の方こそすいませんでした。あんなに取り乱しちゃって……」
「ううん、仕方ないよ。もう大丈夫なのかい?」
「ええ、もう落ち着きました」
「それじゃちょっと試してみても良いかな?」
「……え?」
途端にちりちりとした感覚を椋は感じた……先程祐介に金縛りにされた時と同じ感覚だ。
しかし今度は、体に異変が起きるというような事は無かった。
その事を確認すると祐介は表情を幾分か緩めていた。
「確かにもう大丈夫みたいだね」
「え?」
「ゲームの開始時にウサギが言ってたでしょ?『能力はある程度制限されてる』ってね。
制限されている今の僕の電波じゃまともな精神状態の相手には通用しない……。つまり」
「つまり?」
「今の椋さんの心は元気だって事だよ」
そう言って祐介はにっこりと椋に微笑みかけた。
今は亡き雅史と同じ―――真っ直ぐな曇りの無い笑顔で。
それは頑なに閉ざされた椋の心に確かに届く。
「ありがとう……ございます」
今度ばかりは椋の口から心の底からの礼の言葉が飛び出していた。
「うん。それじゃ僕は仲間を待たせてあるから戻るけど、椋さんはどうする?一緒に来る?」
祐介の提案に、椋は考え込んだ。
長瀬祐介は確かに人の良さそうな少年だ……だが人を完全に信用する事はもう自分には出来そうも無い。
今の自分はもう佐藤雅史や岡崎朋也に対してすら少なからず疑いの念を持ってしまうだろう。
絶対の信頼が持てるのは唯一、姉に対してだけである。
だが……この島でたった一人の人間と出会う事がどれ程難しい事かくらい、椋にも分かっていた。
強力な武器も持たず、優れた体力も無い自分では姉に出会う前に殺されてしまうのが関の山だろう。
なら―――この少年に賭けてみよう。
結局は確率の問題なのだ。この少年に裏切られる可能性が自分一人で生き残れる可能性より高いとはとても思えなかった。
「そうですね……出来ればご一緒させてください」
「うん、分かったよ。僕の仲間はゲームに乗る気なんか全く無い良い子達だから安心して」
それはまるで人を疑う事など知らぬかのような、信頼しきった口調。
歩き出した祐介の後ろについていきながら椋は思う。
(祐介さん……貴方はお人好し過ぎます……)
このゲームは裏切りが殺人の為の常套手段となっている最悪のゲームなのだ。
祐介のように簡単に人を信用していては、いつか寝首をかかれるだろう。
だがそう思うと同時に、椋は心がちくりと痛むのを感じた。
きっと羨ましいのだ―――今だに人を信頼する心を持ち続けていられる祐介が。
それはこの島で生き延びる為には間違った姿勢だが、人としては正しい姿勢だ。
椋にはもう、何が正しいのか何が間違いなのか分からなかった。
程なくして祐介達は初音達の待つ民家が見える位置まで辿り着いていた。
「長い間待たせちゃったな……」
祐介は困ったように呟きながら歩き続ける。
と、後ろから誰かの足音がした。
祐介と椋が振り向くと、そこには自分達と同じくらいの歳の少女が立っていた。
「ねえ、あんた達はここの家にいる人達の仲間?」
少女―――天沢郁末は特に警戒した様子を見せる事無く平然と祐介達に話し掛けた。
「そうだけど……ここの家がどうかしたの?」
「さっきここの近くを歩いてたら、ガラスが割れる音が聞こえてきたのよ。
それで何事かと思って近くまで来たんだけどやっぱり危ないから、ここで様子を見てたのよ」
「え!?」
それを聞いた祐介は慌てて駆け出しそうになったが、そこで自分の持つ力の事を思い出した。
(そうだ……こういう時こそ電波を感じるんだ……)
「祐介さん……?」
椋に話し掛けられるが今は答えられない。
目を閉じ全神経を集中させる。
家の中から感じられる電波は二つ……何となく分かる、これは有紀寧と初音のものだ。
ここからではその感情までは読み取れないが、とにかく二人は無事という事だろう。
「……何があったか知らないけど、どうやら大丈夫みたいだ」
「どうしてそんな事が分かるの?」
電波の存在すら知らない郁末には祐介の言葉の根拠が全く分からない。
「それを話すと少し長くなるから、家の中で話さない?」
「……分かったわ。貴方達の名前は?」
「僕は長瀬祐介だよ」
「私は藤林椋です」
「そ。私は天沢郁末よ、よろしくね」
簡潔に自己紹介を終えた3人は、すぐ近くの初音達の待つ家へと進んだ。
だが、この自己紹介が郁末にとっては大きな意味を持っていた。
(これで、ノートの効果を試そうと思えば試せるわね……)
―――これまで天沢郁末は一言も嘘は言っていない。
ガラスが割れる音を聞きつけてここに来たのも事実であるし、ここに来てはみたものの、やはり危険だと思って様子を見ていたのも本当だ。
このノートが本当に死神のノートだったとしても、問答無用に銃で撃たれてはどうしようもない。
だからこそどうすべきか決めかねている時に祐介達がやってきたのだ。
郁末は嘘を言っていない、ただ隠し事をしているだけだ。
家の中に祐介達の仲間がいるというのならそれもまた好都合、全員の名前を聞き出してからノートで殺害し武器を奪う。
ノートの効果が偽物だったならまた新たに作戦を立てて、祐介達を内部から切り崩すだけだ。
出会ったばかりの自分を簡単に拠点に招くなどお人好しにも程がある、いくらでも寝首を掻く方法は見つかるだろう。
天沢郁末は笑い出したい衝動を必死に堪えていた。
【時間:2日目・9:30頃】
【場所:I−6、初音達がいる民家のすぐ傍】
天沢郁未
【所持品:死神のノート、包丁、他支給品一式】
【状態:隠れマーダー。右腕・頭部軽傷(治療済み)。最終的な目的は不明(少年を探す?)】
長瀬祐介
【所持品1:ベネリM3(0/7)、100円ライター、折りたたみ傘、支給品一式】
【所持品2:フライパン、懐中電灯、ロウソク×4、イボつき軍手、支給品一式】
【状態:健康】
藤林椋
【持ち物:包丁、参加者の写真つきデータファイル(内容は名前と顔写真のみ)、ノートパソコン、支給品一式(食料と水二日分)】
【状態:祐介に同行しているが、完全に信用してはいない】
(関連569・577)
糞女殺したい衝動が湧いてくるいい作品だ
ただのほとんど意味の感じられない分岐駄作にしか見えないが
なんだ糞女の信者か
巣から出てくるなよ
474 :
名無しさんだよもん:2006/12/30(土) 11:19:50 ID:mXEQFU/n0
開戦間近♪
悪いけど平瀬村アナザーの方が楽しみで仕方ない
476 :
脱出の糸口:2006/12/30(土) 18:15:15 ID:pynVuzhv0
北川達は平瀬村の中を動き回っていた。
彼らの第1目標はみちるの捜索、第2目標が自分達の持つ情報を活かせる人間の捜索だ。
今の彼らにとってゲームの脱出方法の模索は二の次だ、まずはみちるを見つけ出して守ってあげたかった。
そして謝りたかった―――美凪を守れなかった事を。
しかし、基本的にはこれまでとやるべき事は変わらない。
結局の所人を探すには、村を捜索するのが一番効率が良いのだ。
「そろそろ村の中央部だし、歩いていこうか」
「そうね―――さっきの二人組もまだ何処かにいるかもしれないしね」
二人の銃を握る手に力が篭る。
美凪は言った――――『二人共、絶対に死なないでください』と。
復讐に走れば彼女の気持ちを台無しにする事になる。
自分達はみちるを見つけ出し、その後何とかして生きてこの島から脱出するのだ。
復讐の末に辿り着くのは凄惨な死―――だから復讐を目的として行動する気は微塵も無かった。
しかし―――
「ねえ潤……もしまたアイツ達にあったらどうするの?」
「…………」
北川は沈黙を返答とした。その顔はかつてない程険しくなっており、おおよそ彼らしくない。
それで真希も北川の考えている事を察して、黙りこくってしまった。
美凪を殺した連中は許せない―――許せる筈が無い。
無論自分達から仇を探し回るような事はしない。
それは絶対に出来ない。
けれど、もし偶然出会ったのなら――――答えは決まりきっている。
その時は……
そこまで考えて北川はぶんぶんと首を振った。
「じゅ、潤、どうしたの?」
「あーヤメヤメ!こんな暗い事考えてちゃ美凪が悲しんじまうよ!」
北川はそう叫ぶと銃を地面に置いて両手を思いっきり広げ、自分の頬を叩いた。
477 :
脱出の糸口:2006/12/30(土) 18:17:23 ID:pynVuzhv0
パチーン!
豪快な音がした。
北川の頬は叩いた跡が残り少し赤くなっている。
「よーし、これでもう大丈夫だ。やっぱ俺達は明るくいかないとな」
美凪が死んだ事への悲しみはまだ消えてない―――きっと一生残るだろう。
だけど、美凪は自分達が悲しみに暮れる姿など望んではいないだろうから。
だから北川は、真希に微笑みかけた。
真希は一瞬呆気に取られていたが、すぐにいつもの勝気な笑顔をして見せた。
「そうね……そうよね。それじゃあたしも……」
真希は銃をポケットに入れて両手を思いっきり広げ、北川と同じように叩いた。
パチーン!
豪快な音がした。
叩いた跡が残り赤くなっている。
…………北川の頬が。
「あ、あの〜真希さん?気合を入れるなら自分の頬を叩いてくれませんか?」
「嫌よ、痛いし」
「…………」
北川がジト目で非難するが1秒で却下される。
真希は腰に手を当て、偉そうに胸を張っている。
北川は少しの間不満そうにしていた。
だが突然、彼は堪えきれなくなったように笑い出した。
「くっ…はは……ははははっ」
「な……何よ突然笑い出して……頬を叩かれたショックで頭のネジが飛んじゃった?」
「いや、これでこそ真希だと思ってな」
「え……?」
「やっぱり、元気じゃないと真希じゃねえや。お前は元気なのが一番似合ってるよ」
478 :
脱出の糸口:2006/12/30(土) 18:18:15 ID:pynVuzhv0
―――それは真希にとって、完全に不意打ちの一言。
真希の頬がみるみるうちに赤く染まってゆく。
恥ずかしさに耐えられなくなった真希はハリセンを手に取った。
スパ――ン!
スパ――ン!
スパ――ン!
北川の頭に連続して衝撃が走る。
「ちょ、いや、俺今なんか悪い事言ったか?」
「うるさいっ」
スパ――ン!
スパ――ン!
北川が制止しようとしたが、真希の照れ隠しは止まらない。
ハリセンの耐久力が尽きるのが先か、真希の体力が尽きるのが先かと思われたが―――
北川はぱしっと、真希の手を受け止めた。しかし顔は別の方向を向いている。
「―――潤、どうしたの?」
「あっちに……人がいる」
言われて真希は北川と同じ方向を見やった。
すると視界の先に二人の女の子の姿を捉えた。
少女達は窓から顔を出して外の様子を窺っているようで。
その視線は―――こちらに向けられていた。
距離はまだかなりある、逃げようと思えば問題無く逃げ切れるだろう。
しかし折角人を見つけたのだから、出来れば情報を得たい所でもある。
真希は北川の判断を仰ぐ事にした。
「潤、どうする?」
「向こうの方が先にこっちを見つけてたのに何もして来なかった―――攻撃してくる気は無さそうだ」
「じゃあ?」
「ああ、話をしにいこう」
そう言うと北川は銃を鞄に仕舞い、こちらを注視している少女達の方へと歩き出した。
敢えて武器を鞄に戻した理由は単純。相手を無闇に驚かせたり無用な警戒心を与えたりしないようにだ。
真希もそれに習って武器を仕舞い(ハリセン以外)、後に続く。
479 :
脱出の糸口:2006/12/30(土) 18:19:37 ID:pynVuzhv0
・
・
・
「あ、あの人ら一体何やの……?」
「珊瑚ちゃん、危険そうなの?」
「大丈夫やと思う、大丈夫やと思うけど……」
珊瑚は目の見えないみさきの為にそれだけ答えると、口を開いて呆然としていた。
窓の向こうから男と女が堂々と近付いてくる。
割烹着を着て。何故かハリセンだけ持って。
頭には頭巾までしており、その様は異様と言う他無い。
北川達の行動は珊瑚を別の意味で驚かせていた。
だから――――
「芸人さん?」
「「―――は?」」
北川達が声の届く位置に来た時、珊瑚が最初に掛けた言葉はそれだった。
・
・
・
数分後、北川達は珊瑚達が隠れている家の中へと招かれていた。
480 :
脱出の糸口:2006/12/30(土) 18:20:55 ID:pynVuzhv0
「残念だが俺達は芸人じゃない……俺は北川潤、育ち盛りの元気な高校生だ。
それでこっちが広瀬真希……俺の漫才の相方だ。得意技はHGの物真似だ」
「セイセイセイセイ〜〜♪………………………って誰がんな事やるかっ!」
スパ――ン!
スパ――ン!
スパ――ン!
連続してハリセンが振るわれる。
そのやり取りはまさに芸人そのものだったが、とにかく北川達が学生であるらしい事は分かった。
「よ……よく分からないけど、悪い人達じゃないみたいだね……」
「そ……そうやね……」
みさき達は苦笑いをしながらも北川達と同じように自己紹介をした。
その後みさきはまず自分達の置かれている現状の説明を行なった。
近くで戦闘が行なわれているという事実は、いち早く報せるべきだと思ったからだ。
「そうか―――それで川名達はその柳川さんって人達が戻ってくるのを待っているんだな?」
「うん……。みんな大丈夫かな……」
みさきの問いに北川は答えられない。襲撃者は多分、先程北川達を襲った連中だろう。
あの二人組の中でも特に女の方は全く容赦無く襲い掛かってきた。それにマシンガンも持っていた。
なら―――みさき達の仲間が全員無事に帰る保障など、何処にも無かった。
だから北川は、話題を変える事にした。
「姫百合。お前、パソコンが得意なんだってな」
それはみさきの現状説明の時に聞いた情報だった。
みさきは目が見えない―――そして、珊瑚は首輪の解除をしうるだけの技術を有し、
パソコンの扱いにも長けているから安全な場所で待たされている、と。
「うん。うちはそれ以外に取り柄あらへんし……」
「なら―――今がまさにお前の出番だ」
「え―――?」
北川と真希は鞄を探り、ある物を取り出した。
「受け取ってくれ。これは俺達じゃ有効に使えない」
それは―――前回参加者達が遺したメモ、CD、それにノートパソコンだった。
北川はそれらを珊瑚に渡した。
481 :
脱出の糸口:2006/12/30(土) 18:22:58 ID:pynVuzhv0
「俺達はもう少しここに残ってお前達の仲間が帰ってくるのを待つよ。
だけどその人達が帰ってきて情報交換も終わったら、ここを発つ。俺達にはやらないといけない事があるんだ。
だから―――俺達の代わりにお前がこれを活かしてくれ」
前回参加者達の遺産は、然るべき人物へと托された。
【時間:2日目11:30頃】
【場所:F−2民家】
川名みさき
【所持品:なし】
【状態:健康】
姫百合珊瑚
【持ち物@:デイパック、水(半分)食料(3分の1)、コルト・ディテクティブスペシャル(2/6)、ノートパソコン】
【持ち物A:コミパのメモとハッキング用CD】
【状態:健康】
北川潤
【持ち物@:SPASショットガン8/8発+予備8発+スラッグ弾8発+3インチマグナム弾4発、支給品】
【持ち物A:スコップ、防弾性割烹着&頭巾(衝撃対策有) お米券 おにぎり1食分】
【状況:チョッキ越しに背中に弾痕(治療済み)】
【目的:柳川達が戻るまで待って情報交換を行なう。それが終わったらみちるの捜索へ】
広瀬真希
【持ち物@:ワルサーP38アンクルモデル8/8+予備マガジン×2、防弾性割烹着&頭巾(衝撃対策有)×2、支給品、携帯電話】
【持ち物A:ハリセン、美凪のロザリオ、包丁、救急箱、ドリンク剤×4 お米券】
【状況:チョッキ越しに背中に弾痕(治療済み)】
【目的:同上】
(関連598・614 ルートB13)
トリ入れ忘れた・・・
――――――何もなかった…。
神塚山山頂には何も無かった…。
坂上智代と里村茜は首輪に電波を送る為の基地局を探して神塚山山頂へと上った
しかし何も無かった……そして平瀬村への帰路についている最中である。
「くそっ!結局全ては徒労に終わったのか……何も出来ていないじゃないか……」
拳を握り締めながら深く悔しがる智代、前にもこんな感じのセリフを言ったのは言うまでもない。
「仕方がありません…無いモノは無いのですから…。」
明後日の方向を見て、どこかで聞いたようなセリフを吐くのは里村茜、
それに仮に首輪に電波を送る為の基地局があったとしても参加者の目の届く範囲にあってたまることは無い
理由としては支給品の武器にあった
・藍原瑞穂の持っていた手榴弾と姫百合瑠璃の持っていた携帯型レーザー誘導装置
主催者が支給品にこんな物をいれるのだから、仮に目の届く範囲に基地局があれば破壊されるのも想像につく主催者は浅はかでは無い…。
「爆弾が支給品にあるくらいです、主催者も馬鹿ではないでしょう」
昨日の夕方の事を思い出したのか、ボソリと口に出す茜、
「…ハッ!!………なんでその事を言ってくれなかったんだ!!」
茜が口に出さなかったら本気で思い出さなかっただろうな智代、慌てて抗議の態度に出る
「それも含めて成功確率が2割程度だと思って賛成したんです…もしかして忘れていましたか?」
能面のような顔で智代にボソリと喋りかける茜、別に怒ってはいない…呆れているのだ。
「いや…その……。」
しどろもどろに成りながら手の平をぶんぶん振る智代、
「それならいいです…。」
『やっぱり』と言いたげな茜、しかし智代にトドメを刺すつもりは無い。
なんだかんだ言ってもマーダーに成らなかったのは正解であり今も無事に生きている
そういう意味では智代に感謝しなければならない………しかし!!
(どう考えても空回りですね…島一番の役立たずな気がします…。)
口に出さず核心を突く茜、智代はゲーム開始24時間経っても本当に何もしていないのだ…。
二人は知らないことなのだが、他の参加者達は大いに行動していた。
対主催者を目指す者達は仲間を集め、マーダーとも戦う
銃を持たないものでも知恵を振り絞り立ち向かう
首輪解除を目指すものたちは情報を集める
マーダーとてマーダー同士で戦うこともある
亡くなった者とて24時間死者が出ない場合のリセット役に貢献していたりする。
ある者は愛するものを奪われ、ある者は友情を深めた仲間を奪われた…。
裏切りや誤解、様々な不の感情が渦巻くこの島…。
――――――坂上智代の取った行動…。
最初からゲームの破壊を目標とし行動を開始する。
マーダー化しかけていた茜の説得に成功
その後は協力者を探し行動したが無駄に終わる。
倉庫でやさぐれ
茜とドツキ漫才…。
鬱な春原を発見して蹴り飛ばし説教した。(茜がフォローした)
首輪に電波を送る為の基地局を探したが何も出なかった。
現在は平瀬村への帰路に着く最中である。
(………彼女はいったい何をやっているのでしょうか…。)
下手なキャラより役に立たないとふとそう思う茜だった…。
【時間:2日目11:00頃】
【場所:f-3】
里村茜
【所持品:フォーク、他支給品一式】
【状態:全身打撲(マシになった)、智代の行動に呆れている、平瀬村に帰宅する最中】
坂上智代
【所持品:手斧、他支給品一式】
【状態:全身打撲(マシになった)、平瀬村に帰宅する最中】
→547 ルートB−13
487 :
陽光:2006/12/31(日) 12:09:11 ID:8ICLZxUz0
村の中央に、力無く項垂れる3つの影があった。
乾いた風が、彼らの意を介す事無く吹き抜ける。
そこに、蒼い空から陽の光が降りそそいでいた。
柳川は立ち上がると住井の元に歩み寄り、様子を伺った。
複数の無残な銃痕は彼が事切れていることを能弁に語っている。
そして、志保の方を見る―――何時の間に移動したのだろうか、浩之がもう動かない志保の上半身を支え起こしていた。
浩之の表情は、こちら側からでは影になっており読み取る事は叶わない。
「藤田……」
「……悪いが少しだけ、一人にしといてくれないか?大丈夫……少しの間だけだ」
浩之は顔をこちらに向ける事無くそう言った。その声は震えている。
柳川は下唇を噛み締めると、先刻まで抱き締めていた少女へと目を向けた。
「舞、舞……」
佐祐理は舞の手を取り、譫言のように親友の名を呼び続けていた。
けれど、彼女がそれに答える事は二度と無い。
川澄舞の生命は、永遠に失われてしまったのだ。
佐祐理の目にもう涙は溢れていないが、その瞳は虚ろだった。
「倉田……」
その背に声を掛ける。反応は、無い。
佐祐理は舞の体を抱き起こし、がくがくと揺すり始めた。
「止めろ倉田……」
聞こえていない筈は無い……しかし心にまでは届いていない。
舞の体は更に激しく揺さぶられ、その頭が不規則に揺れている。
柳川は佐祐理の肩を掴み、こちらを振り向かせ―――
「……いい加減にしろ!」
佐祐理の頬を張っていた。
その頬は柔らかく、張った手が痛むという事は無い。
ただ―――心がどうしようもなく痛んだ。
その痛みで佐祐理はようやく現実に引き戻された。
488 :
陽光:2006/12/31(日) 12:11:47 ID:8ICLZxUz0
「や、柳川さん……?」
「もう止めろ……川澄はもう、此処にはいないんだ……」
「…………」
「死んだ人間の生命は決して戻らない……」
柳川は敢えて告げる―――現実を。
受け入れられない事実を突き付けられ、佐祐理の瞳に再び涙が満ちてゆく。
佐祐理は耳を塞ぎ、全てを拒むように首をぶんぶんと振った。
「聞きたくありませんっ!どうして……そんな事を言うんですかっ……!」
「川澄は死んだ―――だが」
「もう止めてぇぇぇ!」
柳川が優しく佐祐理の体を抱き締めた。
佐祐理の動きがピタリと停止した。
そしてゆっくりと、柳川は言葉を紡ぐ。
「川澄の代わりに、俺がずっとお前を守る。俺は絶対に死なないし、お前も絶対に死なせはしない」
「……どうして?どうしてそこまでしてくれるんですか?」
「川澄との約束もある……だがそれだけではない。俺にはどうやらお前が必要のようだからだ。
お前といると、何故かとても心が安らぐ……。もうとうの昔に失った感情だと思っていたのだがな……」
「え……?」
「だからずっと傍にいてやる。この島の中だけでは無い、ずっとだ。お前が迷惑で無ければな。
だから……もう、川澄を休ませてやれ。泣くなら俺の胸で泣け……そして川澄にはいつもの笑顔を見せて、安心させてやれ……」
その真摯な言葉一つ一つが、佐祐理の心へ届く。
佐祐理の瞳から涙が再び零れ落ちそうになる。
だが、泣かなかった。
佐祐理は顔を上げて、微笑んだ。
目にまだ涙は溜まっているが、決して無理に作られた笑顔ではない。
「分かりました……でももう、泣いてられません。涙は―――この島から出られた時に纏めて流す事にします。
これからも、ずっと……よろしくお願いしますね」
もう佐祐理は虚ろな瞳をしていなかった。彼女の目には確かな光が宿っている。
489 :
陽光:2006/12/31(日) 12:13:47 ID:8ICLZxUz0
強い少女だと思った。親友の事で鬼に呑まれてしまっていた自分とは比べ物にならないくらい、強い。
主催者さえ殺せば、もう自分は死んでも良いと思っていた。
鬼を抑え込んでいる制限と呼ばれている力が無ければ、自分はもう自我を保てないから。
再度、愚かな傀儡と化してしまうだけだから。
だけど―――今ならきっと、そうはならない気がした。それだけの強さを佐祐理が与えてくれた。
(貴之……俺は生を望んでも良いのか?)
心の中で親友に問い掛ける…………答えは無い。
だけど、決意はもう固まっていた。
自分の命はもう、自分の為だけにあるのでは無い―――生を諦める事など許されない。
「……ああ、こちらこそな」
微笑みながら、簡素な言葉を返す。
それ以上の言葉は必要無い……お互いの想いはもう十分に伝わっているから。
ふと浩之達の方へ視線をやると、浩之は春原に肩を貸していた。
「久しぶりだな、春原」
「ああ……無事だったんだね」
浩之も彼なりの葛藤があり、そしてそれに打ち勝ったのだろう。
もう彼の声は震えていなかった。
浩之は柳川の視線に気付くと、しっかりと頷いた。もう、大丈夫だと。
柳川は再び空を見上げた―――ほんの僅かの間に、陽の光は随分と輝きを増しているように見えた。
「―――!」
そんな時、何かが近付いてくる気配を感じ取り、柳川は気配のした方向へと目を向けた。
そちらからは、見知らぬ少女が一人と、少し遅れて別の少女が三人、駆けてきていた。
【時間:2日目11:30頃】
【場所:F-2】
490 :
陽光:2006/12/31(日) 12:14:54 ID:8ICLZxUz0
春原陽平
【所持品1:スタンガン・FN Five-SeveNの予備マガジン(20発入り)×2・他支給品一式】
【所持品2:鋏・アヒル隊長(1時間20分後爆発)・鉄パイプ・他支給品一式】
【状態:全身打撲・数ヶ所に軽い切り傷(どちらも大体は治療済み)、頭と脇腹に打撲跡】
柳川祐也
【所持品@:S&W M1076 残弾数(7/7)予備マガジン(7発入り×3)】
【所持品A:支給品一式×2】
【状態:左肩と脇腹の治療は完了したが治りきってはいない、肩から胸にかけて浅い切り傷、疲労】
倉田佐祐理
【所持品:支給品一式、救急箱、二連式デリンジャー(残弾0発)、吹き矢セット(青×5:麻酔薬、赤×3:効能不明、黄×3:効能不明)】
【状態:普通】
藤田浩之
【所持品:ライター】
【状態:人を殺す気は無い】
七瀬留美
【所持品1:デザートイーグル(.44マグナム版・残弾6/8)、デザートイーグルの予備マガジン(.44マグナム弾8発入り)×1】
【所持品2:H&K SMG‖(6/30)、予備マガジン(30発入り)×4、スタングレネード×1、何かの充電機、ノートパソコン、支給品一式(3人分)】
【状態:まだ状況を把握していない、目的は冬弥を止めること。ゲームに乗る気、人を殺す気は皆無。千鶴と出会えたら可能ならば説得する】
柚木詩子
【持ち物:ニューナンブM60(5発装填)、予備弾丸2セット(10発)、鉈、包丁、他支給品一式】
【状態:まだ状況を把握していない、千鶴と出会えたら可能ならば説得する】
ルーシー・マリア・ミソラ
【所持品:鉈・包丁・スペツナズナイフ・他支給品一式(2人分)】
【状態:まだ状況を把握していない、左耳一部喪失・額裂傷・背中に軽い火傷(全て治療済み)】
吉岡チエ
【所持品1:救急箱・支給品一式】
【所持品2:ノートパソコン(バッテリー残量・まだまだ余裕)】
【状態:まだ状況を把握していない】
【備考:現場に舞、耕一、志保、護の支給品一式、新聞紙、日本刀×2、投げナイフ(残り4本)が置いてあります】
→608 ルートB−13
491 :
謹賀新年:2007/01/01(月) 00:06:33 ID:7N/JNup70
―――時は12月31日、23時50分。
北川、美凪、真希ら凸凹□トリオは一緒にコタツに入りながら日付が変わるのを待っていた。
「しかし今年も寒いな……。このままじゃ年が明けても寝正月になっちまいそうだ」
北川が蜜柑を食べながらぼやく。
彼はだらしなく上半身をコタツの上に預けており、やる気の無い事が容易に見て取れる。
だが真希はそんな彼に容赦無く言い放つ。
「駄目よ、明日は初詣に行くんだから」
「誰が?」
「あたし達がよ」
「何処に?」
「神社よ」
「何日に?」
「明日よ」
「誰が?」
「…………」
真希はこのやり取りの無意味さを悟り、北川の耳を掴んで引っ張った。
そのまま指に力を加え、捻るような動きを混ぜる。
「あだだだだっ!」
「そういう事だから私と美凪のエスコートをよろしく頼むわね、北川君?」
「いててっ!分かった、分かったって!」
「よろしい」
真希はパッと手を離した。
すると、とんとんと肩を美凪に突かれた。
「どうしたの?」
「……見てください」
美凪が指で示してる方向を見ると、テレビの時計は丁度0:00を示していた。
北川もすぐそれに気付く。
「新年になったな、真希、美凪」
「そうね、潤」
「じゃ、始めるか」
三人はコタツから出ると横一列に並んで整列するように立った。
492 :
謹賀新年:2007/01/01(月) 00:07:30 ID:7N/JNup70
北川がすう、と深呼吸をする。
だが、彼が何かを話す前に美凪がお米券を手に喋りだした。
「……新年おめでたいで賞、しんて……」
「わー、待て美凪!それは三人一緒にだ!」
「……残念」
授賞式を妨げられた美凪は一瞬シュンとしたが、すぐにいつもの微笑みを湛えた顔に戻った。
改めて北川は二人を促し、三人は揃って深呼吸をした。
「それじゃいくぞ…………明けまして」
「「「おめでと〜ございますっ!」」」
彼らは三人一緒に大きな声でそう言って深々とお辞儀をした。
そのままの態勢で10秒程固まっていたが、やがて北川が姿勢を戻して動き出した。
「ふ〜、終わった終わった。さて、またコタツに戻って冬の風物詩・蜜柑を堪能するとしますか」
北川はそう言ってコタツに戻ろうとするが、その肩をがしっと真希に掴まれる。
「ちょっと待ちなさいよ。まだコメント発表が残ってるでしょ?」
「ああ、そう言えばそうだったな……」
「そうです。それじゃまずは私がT槻(匿名希望)さんからのコメントをお伝えしますね」
美凪は紙を取り出して、そこに書かれてある内容を読み出した。
「『参ったぁっ!俺は参ったぁぁっっ!なぜなら人気No1の座を得たからだぁぁぁっ!ハハハハ、我が世の春が来たァ!
フハハハハハ、お前らもっと俺を褒め称え……』……あら?」
「ん、どうしたんだ美凪?」
「字はここで途切れてます……そしてこれまでとは違う女の子らしい字で裏に何か書かれていますね」
「どういう事かしら……読んでみてよ」
「『騒がせて悪かったわね。調子に乗ってる高槻には私、郁乃がちゃんとお仕置きしておいたわ。
……ふ、ふんだっ!今年も私達をよろしくお願いだなんて、思ってないんだからねっ!』……以上です」
読み終えると美凪は紙をポケットの中へと戻した。
北川と真希は苦笑いを浮かべている。
「さ、最初から随分と変わった奴らだな……」
「そ、そうね……。ま、気を取り直して次行きましょ。今度はあたしの番ね。えーと……、柳川祐也さんって人からのコメントみたいね」
真希は紙を取り出し、そこに書かれてある内容を読み出した。
493 :
謹賀新年:2007/01/01(月) 00:08:34 ID:7N/JNup70
「『ちっ、新年の挨拶などと下らん。作者もこんな物を書いてる暇があれば本編の一つでも書けば良かろうにな。
こんな茶番に付き合う気は無い、俺のコメントは以上だ。……と思ったんだが、後ろで倉田がうるさいから代わりに書かせるか……』」
「……変わった奴ばっかだな」
北川がぼそっと呟いたが、真希は構うことなく紙に書かれている内容を読み続ける。
「『あはは〜、倉田佐祐理です。どうもすいません……普段は無愛想ですけど、本当は柳川さんは良い人なんですっ!
ですから出来れば今年も応援してあげてくださいね』……以上よ。ったく、レディに迷惑掛けてる奴が多いみたいね……」
真希は溜息を吐きながら紙をポケットに戻した。
「そうだな。このジャパニーズジェントルマン・北川潤様を見習えってんだ」
「もうつまらないボケは良いからさっさと最後のコメント読んじゃって……。変なコメントばっかで、ツッコミを入れる元気も無くなったわ」
「あ、ああ、そうだな……。えーと……、橘敬介って人のコメントだな」
北川は紙を取り出し、そこに書かれてある内容を読み出した。
「『やあみんな、新年おめでとう。去年の僕は厄災続きだったんだけど……今年は少しはマシになったら良いな、ハハハ……。
今年も至らないなりに頑張るから、どうかよろしくね』……以上だな。この人は割と普通そうだ」
「……橘敬介さんには不幸で賞として、お米券100枚を進呈します。ぱちぱちぱち……」
どこにこれだけの量を仕舞っていたのだろうか、美凪は数え切れない程大量のお米券を取り出していた。
北川にとってそれはもう慣れっこの光景だったので特に気にせず、彼は終幕へと取り掛かる。
「よし、それじゃ最後に三人一緒に締めようぜ」
「そうね」
「そうですね」
「「「せーの………」」」
三人はまた横一列に整列し、大きく息を吸った。
「「「今年も葉鍵ロワイアル3をよろしくお願いします!」」」
494 :
謹賀新年:2007/01/01(月) 00:09:05 ID:7N/JNup70
北川潤
【持ち物:みかん10個、Mr死亡フラグのコメント付き用紙】
【状況:コタツでみかんを食べたい】
広瀬真希
【持ち物:柳川と佐祐理のコメント付き用紙】
【状況:疲労、呆れ】
遠野美凪
【持ち物:お米券数百枚、T槻と郁乃のコメント付き用紙】
【状況:また出番が来て嬉しい】
【備考:つい調子に乗ってやった、今は反省している】
/ / ,/ ...:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:ヽ:.ヽ
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l.:.:r、∨', ィ´ ̄` 、 |:.:.:.:ト、:.:.:.:l
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葉鍵ロワイアル3作品投稿スレ9
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1167394239
-‐- 、
, ' ヽ
l⌒i彡イノノノ)))〉 / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
乙!(| | ( | | | l | あははーっ♪
| ! !、'' lフ/||__ < 埋め立てですーっ♪
. || ! |^ 、ヽ i〔ァ i |
<','l |⌒8^) 〈_/ \__________
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/ /|リ l リ
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ァ / ! l | |
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