「うわっ!」
「ちぃっ」
すんでの所でまたかわす、逃げ回る柏木耕一の様子に柚原春夏も苛立ちを隠せなくなっていた。
所詮素人の射撃では、動いている的を射止めることは難しいらしい。
いい加減銃を持つ手も痺れてきた、思ったよりも良くない状況に春夏は何か策を出せないかと思案しだす。
一方耕一も、奇跡的にだがまだ一発も弾が当たっていない状態でここまで時間を稼ぐことができていた。
舞達も充分遠くへ行けたであろう、今度は自分の番だ。
(正直、ここで止めを刺しとかないと危ないかもしれないんだけどな・・・)
だが、この状況でそれは無謀というものである。
今、二人はあの平原から森に少し下った所で尚争いを続けていた。
春夏がしかけ、耕一がかわし。その連続である。
・・・そんなある意味頓着しているとも言えるような場に向かって、駆けて来る少女がいた。
息を弾ませ山頂に向かっているであろう少女は、ちょうど身構える二人の間を通り抜けようとする道を選んでいて。
耕一がはっと気づいたように春夏に視線を戻すと、やはり彼女も少女のことを見つめていた。
無防備なその姿、勿論春夏が逃すはずはない。
耕一の方に合わせていたマグナムの照準をずらし、春夏は容赦なく少女を狙う。
「逃げろ、こっちに来るな!!」
「え?!」
耕一の叫び、少女の疑問符。それと同時に、少女の体は後方に吹っ飛ぶ。
耕一が身を乗り出した時には既に後の祭り、・・・弾は少女の腹部にしっかりと抉りこんだ。
「あんたって人は・・・!」
睨み据える耕一に向かい、春夏はまた銃を構える。
「何とでも言って頂戴、私はあの子だけは死なせるわけにはいかないのよ」
覚悟を決めたその強い眼差しに耕一が怯んだ時・・・別の場所から、銃声が鳴った。
「「?!」」
耕一も春夏も、対応が遅れる。
銃声は二発連続で鳴り響き、それは二発とも春夏の防弾アーマーへと吸い込まれた。
衝撃は抑え切れなかったのだろう、思わず尻餅をつく春夏に向かって放たれた声。
「痛いじゃないの、おばさん・・・」
半身を起こした状態で射撃してきたのは・・・他でもない、先ほど腹を撃ちぬかれたはずの来栖川綾香であった。
防弾チョッキ、服の下に仕込んだそれで難なく危機を越えた綾香は、そのまま耕一達の方へ駆け寄ってくる。
分が悪いと悟ったか、一端場の離脱を図ろうとする春夏の様子を耕一の目が捕らえるがもう遅い。
「ま、待て・・・っ!」
耕一の言葉は届かない、あっという間に春夏の姿は森の中に消えてしまった。
深夜で見通しの悪い状態、追う手間をかけても体力の無駄になってしまうであろう。
場に残ったのは綾香と耕一の二人だけ、どうするか・・・と綾香に向き直り、耕一はまたぎょっとすることになる。
「聞きたいことがあるの。答えてくれないようなら一発お見舞いすることになるけど?」
先ほど春夏を捕らえたS&Wの銃身は、しっかりと耕一に向かって構えられていた。
・・・彼女は協力を求めている訳ではない、これは脅しである。
それを理解した耕一は、バンザイポーズで彼女に対する服従を表した。
「そうそう、素直な方がいいわよ。・・・で、聞きたいんだけど、あなたこの先の頂上に登ったかしら?」
「ああ、さっきまでいた」
「そう。・・・そこに、大勢のグループとかって、いた?」
「大勢?」
少し悩むように視線を斜めにずらし、耕一は答えた。
「俺達以外はいなかったはずだけど・・・さっきの人に襲われた時も、他の人は出てこなかったし。
ああ、それとも俺達のことだった?」
綾香の視線がすっと細まる。チャラけた雰囲気が抜け真剣さの増した視線に、耕一は少しだじろいだ。
「人を探しているの、川澄舞って子よ。・・・一緒に、いなかった?」
「ああ、彼女なら・・・って、うわぁ!!」
耕一が話そうとした時だった、また思わぬ所から銃弾が飛んでくる。
射撃自体は的外れであったがそれでも脅威である、すかさず身を低め綾香も反撃をした。
「しつっこいわねっ、逃げてなかったんじゃないっ!」
少し距離があるだろうけれど、それは確かにさっきも聞いたマグナムの銃声。
春夏は、まだ近くにいる。そして、今も二人を狙っていた。
不慣れな手つきで弾をこめ直し、綾香は春夏の出方を窺いながらも耕一への詰問を続けた。
「で、川澄舞は?本当に一緒だったの?!」
「一緒だったけど、あの人に襲われた時別れたんだ」
「どこ?!あいつはどっちに向かったの?!!!」
「えっと、北の方に逃げたはずだけど・・・君、川澄さんの知り合い?」
耕一の疑問に対し、少し間を空けてから綾香は答えた。
「・・・会わなくちゃいけないヤツなのよ、絶対」
何かが含まれた、言葉であった。
場はまた頓着する、迂闊には動けない状態だ。
だが綾香にとっては一刻を争う状況である、ここで「川澄舞」を逃したら再び見つけられるチャンスはないかもしれない。
道を塞ぐのは春夏の存在・・・どうするか、思案した結果。
「これ、貸してあげる」
「え!?どういうことだよ」
「悪いけど、あいつは頼んだわ。私は、まーりゃんを追わなくちゃいけなから」
綾香は自分の鞄から乱暴にトカレフを取り出し、それを耕一に押し付けた。
「足止めよろしく」
「ちょ、ちょっと・・・」
「お願い、私は川澄舞に・・・まーりゃんに、会わなくちゃいけないのよ」
それは冷徹に見えた少女が、初めて年相応の焦りを顔に出した瞬間であった。
・・・綾香の必死な様子に、耕一も腹を括るしかない。
彼女に何があったかは分からない、だが余程の理由があるということだけは分かったから。
「はぁ・・・仕方ないな、分かったよ。ほら、あっちの方だから。行きな」
「頼もしい言葉ね。感謝するわ」
そう言って駆け出す綾香の背を守るよう、耕一は春夏がいるであろう方向に向かって発砲した。
・・・耕一は彼女の目的を知らない、また綾香も自分の向かう先にいるであろう人物が誰だか分かっていない。
ここに存在するすれ違いに気づく者はいないが、状況だけはどんどん加速していくのだった。
26 :
補足:2006/12/16(土) 01:32:18 ID:+GtnS8Al0
柚原春夏
【時間:2日目午前2時半】
【場所:F−5南部・神塚山】
【所持品:要塞開錠用IDカード/武器庫用鍵/要塞見取り図/支給品一式】
【武器(装備):500S&Wマグナム/防弾アーマー】
【武器(バッグ内):おたま/デザートイーグル/Remington M870(残弾数4/4)予備弾×24/34徳ナイフ(スイス製)】
【状態:このみのためにゲームに乗る】
【残り時間/殺害数:10時間49分/4人(残り6人)】
柏木耕一
【時間:2日目午前2時半】
【場所:F−5南部・神塚山】
【所持品:トカレフ(TT30)銃弾数(5/8)・大きなハンマー・他支給品一式(水補充済み)】
【状態:春夏と対峙、柏木姉妹を探す】
来栖川綾香
【時間:2日目午前2時半】
【場所:F−5南部・神塚山】
【所持品:S&W M1076 残弾数(6/6)予備弾丸22・防弾チョッキ・支給品一式】
【状態:舞のいる集団に向かう、腕を軽症(治療済み)。麻亜子とそれに関連する人物の殺害(今は麻亜子>関連人物)、ゲームに乗っている】
(関連515・525)(B−4ルート)
515で間違いがあったので、訂正させてください;
春夏の備考
【残り時間/殺害数:11時間04分/4人(残り6人)】
27 :
しのぶの戦い:2006/12/16(土) 04:18:32 ID:c3MwuoLB0
榊しのぶは薄暗い個室にひとり、座っていた。
安っぽいスツールが、ぎし、と鳴る音が響く。
小さなデスクには私物のモバイルPCだけが置かれている。
扉には外から鍵がかかっており、廊下には歩哨が立っているはずだった。
有り体に言って、軟禁である。
艦内放送で流された、プログラムの定時放送。
たどたどしい栗原透子の声を、しのぶは目を閉じたまま、じっと聞いていた。
握り締められた仕立てのスーツに、皺がよる。
長瀬源五郎の嫌らしい笑い声が聞こえてくるようだった。
意図は明らかだった。
(―――人質のつもり……か)
この人選は、ただしのぶ一人に対する示威行為でしかない。
つまらないことをするなと、そう言いたいのだ。
だが、としのぶは思う。
それは失敗だ。あの男は、致命的な失敗を犯した。
榊しのぶを脅迫する手段に、よりにもよって栗原透子を使ったのだ。
それがどういう結果を招くか、長瀬は理解していない。
殺してやる、と。それだけを、しのぶは思う。
28 :
しのぶの戦い:2006/12/16(土) 04:20:19 ID:c3MwuoLB0
榊しのぶは官僚である。
厚生労働省人口調査調整局、特別人口調査室勤務。
国家T種取得者、いわゆるキャリアであり、来春人事においては同期入省者と共に
課長補佐職への昇進が約束されていた。
十年以内には課長職も確実な身であったが、しかし彼女はそれをよしとせず、
貪欲に出世を目指していた。
榊しのぶを駆り立てていたのは、改正BR法の存在であった。
表向きには国民感情の沈静化を目的として制定されたこの法律の目玉は、
プログラム参加資格における公務員への免責条項、いわゆる『公務員特権』の改定―――、
即ち、地方公務員のプログラム参加免除特権の剥奪である。
柳川祐也などはその第一号にあたる。
また煩雑な業務が増えるなと、当初はそんなことだけを考えていたしのぶであったが、ある日を境に
その認識を一変させることになる。
部課長級の勉強会において、肥大化した行政のスリム化を目的として、とんでもない提案が
なされたというのである。
各省の外局末端、ノンキャリアと称される人間を一定の割合で地方支局への出向扱いとし、
それをもって地方公務員と同格とみなしプログラム参加者の選考対象としてはどうか、
というのがその内容であった。
それを聞いて、榊しのぶは愕然とした。
栗原透子は社会保険庁、即ち厚労省外局勤務である。
無論、国家T種など取得していようはずもない。
お茶くみとコピー取り、書類整理が主な業務の、マンガみたいな使い走りだと本人も笑っていた。
それはつまり、改正法の新運用対象となる可能性を示していた。
栗原透子がプログラムに参加する。
それはしのぶにとって、何ら隔たることなく世界の破滅を意味していた。
入省時に人口調査調整局を志願した自分に、しのぶは心から感謝したものである。
世界を破滅から救う可能性を、その手に掴み取るチャンスが与えられたのだから。
29 :
しのぶの戦い:2006/12/16(土) 04:21:19 ID:c3MwuoLB0
その日から、榊しのぶは一歩でも早く出世の階段を駆け上がるべく、あらゆる手段を行使し始めた。
女であることを武器にすることにも躊躇しなくなった。
才覚だけで出し抜けるほど、同期は甘くなかった。
嫌になるほど高性能な頭脳の持ち主が、周囲に溢れていた。
彼らに勝つよりも先に、負けないための方策が必要だった。
足元をすくうための、或いは将来、正面から叩き潰すための材料を、しのぶは密かに集めていった。
そうして得たもののひとつが、今回のプログラムの進行という仕事だった。
防衛省との橋渡しをし、法改正後初のプログラムを円滑に進め、無事に終了させる。
それはしのぶにとって大きなアドバンテージとなるはずだった。
結果的に裏目に出たが、透子を名指しで出向させたのも、せめてもの実績作りのつもりだった。
司令が久瀬防衛庁長官の息子と聞いたときには、願ってもないコネができたと内心で小躍りしたものである。
そして、今。情勢は一変していた。
久瀬は失脚し、長瀬源五郎は暴走している。
軍という巨大な力を手にして舞い上がっているあの科学者が次に考えるのは、おそらく自らと対立する
自分とその子飼いである透子を適当な理由をつけて抹殺することだろうと、しのぶは推測していた。
そんなことをすれば自身の足場を突き崩すだけだが、交渉もなく自分を軟禁しているようでは、
それすらも分かるまい。長瀬は政治というものを知らなすぎた。
30 :
しのぶの戦い:2006/12/16(土) 04:22:15 ID:c3MwuoLB0
長瀬源五郎は二つの大きなミスを犯したと、PCの電源を入れながらしのぶは思う。
――― 一つめは、栗原透子を巻き込んだこと。
OSが立ち上がる。
―――そして二つめのミスは、榊しのぶに時間を与えたことだ。
役人の戦い方を見せてあげる、と呟いて、しのぶはおもむろにキーを叩き始めた。
【時間:二日目午前6時】
【場所:ヘリ空母「あきひで」内個室】
榊しのぶ
【状態:官僚モード】
→448 531 ルートD−2
―――ドン!
「ん!?」
―――近くで銃声がした。それを聞いた月島拓也はすぐさま持っていたナイフを構えた。
だが、どうやら自分を狙ったものではないようだった。
「―――近いな……」
一度構えを解いて拓也は考える。
今自分がしようとしていること、それは主催者の皆殺しだ。
そのためには今持っているナイフだけではいくらなんでも武装が貧弱すぎる。
「………漁夫の利を狙うというのは僕の性分じゃあないが……しかたないか?」
拓也は銃声がした方へと駆け出した。目標は銃など強力な武器を確保することだ。
「さてさて……行くとしますか?」
朝霧麻亜子はそう言うと自分が着ていた制服を片方のデイパックに着せた。
またしても麻亜子の格好は上はスクール水着1丁になった。
「―――よーし……うおおおおお! ムロフシ吠えたあああああ!!」
そして次の瞬間、麻亜子はそのデイパックをハンマー投げのような方法で思いっきり芳野たちの方へ放り投げた。
「――ッ!」
少し離れた茂みの中から1つの影が躍り出た。
(間違いない、敵だ)
そう確信した芳野祐介はすぐさま飛び出した陰に向かって持っていたデザート・イーグルを撃った。
ドン!
銃声と共に飛び出した影には風穴が開き、勢い良く水を噴出させる。
(―――なに? 水? ―――しまっ……)
「まーりゃんキーック!」
「ぐはっ!?」
「芳野さん!?」
芳野が罠に気づいたときには彼の近くの茂みから麻亜子が飛び出し、次の瞬間には芳野のわき腹にご自慢のとび蹴りを食らわせていた。
芳野は1メートルは後方に吹っ飛び、持っていたデザート・イーグルも地面に転がった。
そう。芳野が撃ったのは今麻亜子が放り投げたデイパックだったのだ。
噴出した水はその中に入っていたペットボトルに穴が開いたからである。
「ぐっ…長森、お前は逃げろ! こいつは手馴れだ! ――ッ!?」
追撃とばかりに麻亜子は芳野の頭めがけてナイフを投擲した。
「ちっ。そう簡単にやられるかっ!」
すぐさま芳野は左腕でナイフを防ぐ。
もちろん左腕にはナイフが突き刺さり、激しい痛みが芳野を襲った。
「ぐうっ!?」
麻亜子の追撃はまだ終わらない。今度は左手に持っていたバタフライナイフを右手に持ち替え、芳野に突進してくる。
「ちっ!」
芳野は左腕の痛みに耐えながら右手で刺さったナイフを引き抜き、右足でハイキックをかまし麻亜子の接近を防ぐ。
麻亜子はそれをしゃがんで回避すると次の瞬間にはナイフで芳野の左ふくらはぎを切り裂いた。
「があっ!?」
自身を支えていた左足を切られた芳野はそのままバランスを崩し大地に倒れてていく。
「―――悪いけどこれで終わりだねっ」
とどめを刺そうと倒れていく芳野の胸めがけて麻亜子のナイフが吸い込まれていく。
―――ドン!
「!」
「むむっ!?」
―――麻亜子のナイフは芳野の胸に突き刺さる数ミリ前のところでその刃を止めた。
次の瞬間には芳野もどさりと大地に崩れ落ちる。
1発の銃声――それにより芳野の命は首の皮1枚繋がった。
すぐさま芳野と麻亜子は銃声のした方へと目を向ける。
そこには―――芳野のデザート・イーグルを構えた長森瑞佳の姿があった。
「おまえっ、なんで逃げなかった!?」
「――芳野さんを見殺しになんてできません………! あなた……なんで人殺しなんてできるんですか!?」
「あたし……? ん〜……やっぱり罪を一心に背負う覚悟があるからかな?」
「――芳野さんから離れて……どこか行ってください………行かないと……その……撃ちますよ!」
「馬鹿! 俺なんかいいから早く逃げやがれ!!」
「………はあ。やれやれ……しょうがないにゃ〜……」
「えっ?」
「なに!?」
「さーりゃんたちのために、あたしもまだこんなところで死ぬつもりはないしねえ……」
そう言うと麻亜子は持っていたナイフを肩に掛けていたデイパックにしまった。
「――見逃すっていうのか?」
「んー? 今回だけはなー」
芳野の問いに麻亜子は大人に対してぶーぶー文句を言う子供のような顔をして答えた。
(よかった………)
瑞佳がほっと肩をなでおろし、構えていた銃を下ろしたその時であった――――
―――バスッ!
「え―――?」
突然、瑞佳のわき腹に激痛が走った。
痛みのする方へ目を向けると、そこには1本の矢が生えていた。
その矢を中心に制服がじわじわと赤く染まっていく。
「あ……あれ?」
そのまま体中の力が抜け、瑞佳は大地に崩れ落ちた。
瑞佳の意識が闇に落ちる前に最後に見たもの。それは右手をデイパックに突っ込んだまま笑顔でこちらを見つめる麻亜子の姿だった。
「ふっ。この距離なら鞄ごしでも矢ぐらい当たるのだよ」
デイパックから出てきた麻亜子の右手にはナイフではなくボウガンが握られていた。
「き……貴様あああああああああ!!」
芳野はまだ動く右手で腰に挿していたサバイバルナイフを引き抜き、麻亜子に切りかかろうとした。
しかし、それよりも早く麻亜子は芳野の胸に矢を放っていた。
バスッ!
「がはっ………」
芳野の体がビクンと一瞬痙攣する。
そしてそのまま芳野の意識も深い闇に落ちていった。
(公子……すまない……俺も…今そっちに逝く…………)
芳野が動かなくなったのを確認すると麻亜子はゆっくりと口を開いた。
「――言ったはずだよ。『もう躊躇はしない』ってね―――ああ、君たちには聞こえていなかったか?」
そう言うと麻亜子は開いていた芳野の目を閉じさせ、彼のサバイバルナイフと瑞佳の近くに転がっていたデザート・イーグル、そして先ほど芳野に使用した投げナイフを拾った。
「弾はあと2発か……さっきの銃声と弾丸からして前持ってた銃より強力なやつなんだろうね。大事に使わせてもらうとしますか。あとは……」
次に麻亜子は芳野と瑞佳、先ほど自分が放り投げたもうひとつのデイパックを回収した。
「うひゃ〜。あきりゃんにせっかくクリーニングしてもらった制服が水浸しだよー……まあ、しばらくしたら乾くかー」
そう言うと麻亜子は水に塗れたままの制服を軽く絞った後デイパックにしまった。
「あとは……塗れた鞄の変わりにあの子の鞄を貰っていきますか〜。パンだけこっちに移し変えて……あ。そういやあの子は何貰っていたんだ?」
瑞佳のデイパックを開くと中から出てきたのはもちろんどこか見覚えのある3着のファミレス衣装である。
「おお。グットタイミングじゃん! スク水一丁だとさすがに寒いもんねー。さ〜て…どれを着ようかな? ―――よし、こいつだ!」
そう言うと麻亜子は3着のうちの1つ『フローラルミントタイプ』という札がついた緑色の服を選び、早速スク水の上に着用した。
「ややっ!? さっすがP●aキャロの制服! ロリなあたしが着てもぴったりではないかーっ!」
上機嫌になった麻亜子は残り2着をデイパックに戻すと、荷物を持ってその場を後にした。
「さあ、修羅の道を歩く1人の女、まーりゃん様の復活だー。さーりゃん、たかりゃん、ゆーりゃん、そして今は天国にいるこのみん、待っててくれたまえ」
「―――ふむ。どうやら遅かったようだね……」
麻亜子が去って数分後。銃声を聞きつけやって来た月島拓也は倒れている芳野と瑞佳の姿をちらりと見た後、近くに転がっていた2つのデイパックに手を伸ばした。
「片方は穴が開いてずぶ濡れだな……やれやれ、こっちは使えないな……」
そう言うと拓也は塗れていたデイパックを地面に放り投げた。
室伏回避
37 :
名無しさんだよもん:2006/12/16(土) 21:21:22 ID:vL34ZnWN0
回避
「……………う…ん……」
「ん?」
ふと声が聞こえた気がしたので拓也は振り返った。
その視線の先にいたのは矢が刺さり血の水溜りを形成していた長森瑞佳がいた。
当初は死んでいると思ったが、よく見ると彼女は微かに生きをしていた。
―――そう。瑞佳はまだ生きていたのだ。
近づいて瑞佳の様子をもっとよく見てみる。
(――まだ息はしているが……出血が酷いな。まあ放っておけば次期に死ぬか………)
拓也はそのまま見捨ててこの場を立ち去ろうとした。
――が、なぜか瑞佳が気になってその場から離れられなかった。
「…………ああ、もう!」
そう言うと拓也は瑞佳に刺さっていた矢を引き抜き、自身のYシャツを脱いでそれで止血をするとそのまま瑞佳をお姫様抱っこで抱き上げた。
「くそっ…なんで僕がこんなことをしなくちゃならないんだ!?」
長瀬祐介や数時間前に別れた国崎とかいう奴のお人よしなところでも映ったか、などと毒づきながらその場を後にする。
「………」
去り際、芳野祐介の亡骸の方を見て拓也は呟いた。
「フン。見るからにお人よしなツラしているよあんた。どうせこいつを助けようとして返り討ちにでもあったんだろ? 馬鹿な奴め。
――まあ安心するがいいさ。こいつは僕が特別にあんたに代わって面倒見てやるよ。勘違いするなよ。情が移ったなんてことはないからな。本当だぞ……」
まずは着替えと瑞佳の手当てをするための救急用品を探そうと拓也は歩き出した。
「―――ここからだと鎌石村のほうが近いかな?」
【時間:2日目・午前6:45】
【場所:F−7】
朝霧麻亜子
【所持品1:デザート・イーグル .50AE(4/7)、ボウガン、サバイバルナイフ、投げナイフ、バタフライナイフ】
【所持品2:防弾ファミレス制服×2(トロピカルタイプ、ぱろぱろタイプ)、ささらサイズのスクール水着、制服(上着の胸元に穴)、支給品一式(3人分)】
【状態:マーダー。現在の目的は貴明、ささら、生徒会メンバー以外の排除。最終的な目標は自身か生徒会メンバーを優勝させ、かつての日々を取り戻すこと。スク水の上に防弾ファミレス制服(フローラルミントタイプ)を着ている。既に別の場所に移動】
月島拓也
【所持品1:8徳ナイフ、トカレフTT30の弾倉、支給品一式(食料及び水は空)】
【所持品2:支給品一式】
【状態:救急用品、自身の着替えを求めて気絶した瑞佳を連れて鎌石村へ。目標は瑠璃子の敵を討ち、最終的には主催者を皆殺しにする(ただしゲームの破壊が目的ではない)。上着はアンダーシャツ1枚】
長森瑞佳
【所持品:なし】
【状態:気絶中、出血多量(止血済み)、傷口には包帯の変わりに拓也のYシャツが巻いてある】
118番 芳野祐介 死亡
【備考】
・塗れたデイパック(中身は水・食料以外の支給品一式・ただし塗れている)は芳野の死体の近くに放置されている
【訂正】
『デイパックから出てきた麻亜子の右手にはナイフではなくボウガンが握られていた。』
ここを
『デイパックから出てきた麻亜子の右手にはボウガンが握られていた。』
に訂正してください
>>36 >>37 回避ありがとうございました
41 :
二人の追走者:2006/12/16(土) 23:14:24 ID:Fgx27QhM0
家を飛び出すと貴明はすぐさま周りを見渡した。
あの様子ならそんなに遠くには行けてはいないだろう――と逃げた名雪の疲れきったボロボロの表情を思い出す。
案の定、数百メートルほど離れた場所を走っている名雪の小さな背中が見えた。
遠めから見ても身体はふらふらとおぼつかない足取りなのが良くわかった。
あんなところを誰かに見つかったらたまったものじゃない。
考えるまでもなく貴明は駆けていた。
「待って! 大丈夫だからっ!」
名雪の背中がみるみるうちに近づき、今にも倒れそうなその背中に思わず叫んでいた。
後方から聞こえた声にその肩がビクリと震えると、名雪はゆっくりとこちらを振り返り……そして貴明は叫んだことを後悔する。
「来ないでぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」
顔は絶望にゆがみ、どこにそんな体力が残されていたのか、名雪は貴明に背を向けると走り出す。
「あっ……くそっ、なにやってんだ俺は」
自分の思慮の無さを悔やみながら、再び逃げるその姿を追いかけようと走り出した直後、放送は流された。
「…………このみ……………春夏おばさん…………」
再会を約束した少女達の名前、幼馴染の親友の名前……自分の知らないところでまた知り合いが死んでいった。
そして最後に呼ばれた名前に全身から力が抜け、呆然と足を止め空を見上げた。
押し寄せる感情が貴明の全てを無に返そうと襲ってくるのが自分でわかった。
頬を静かに涙が零れ落ちる。
このまま倒れ込んで感情のままに泣き喚き叫びたい衝動に、ほんの数分前に確認した決意がもろくも崩れ去ろうとしていた。
だが貴明がゆっくりと顔を地上に戻した時、彼の瞳に映ったのは恐怖から必死に逃げ続ける再び小さくなった名雪の後姿。
(……そうだ、泣くのなんかいつでも出来る。今俺がしなきゃいけないのは泣くことか? 違うだろう!)
零れ落ちかけた涙を無理矢理拭うと、すでに豆粒ほどになろうかと言う距離まで離された名雪の背中に向かって貴明は走り出した――。
42 :
二人の追走者:2006/12/16(土) 23:15:17 ID:Fgx27QhM0
左手で十円玉、右手でFN P90を握り締める冬弥の表情は、彼を知るものならその違いに彼だとわからないかもしれない。
静かな決意を胸に秘めたまま彼の脳裏に浮かぶのは、今は無くなってしまった日常。
復讐なんてただのエゴだと言う事はわかっていた。
こんな自分を見たらあの世で由綺はなんて言うかな……って人を殺そうとしている自分が向こうで会えるわけ無いか。
そう苦笑した彼の瞳に親しみは篭っておらず、ただ冷たい光が灯るのみ。
自分の取るべき道は決まった、いや決めた。だからもう迷わない。
観音堂から続いていた獣道を抜け、舗装された道へと出る。
冬弥は周囲を警戒するように見渡したところで、彼が息をつく間もなく眼前を一人の少女が通り過ぎていった。
一瞬しか見えなかったが、涙が後方へと飛び散り、怯えた表情であったのは確認できた。
そして少女が来た方向からは必死の形相で追いかける一人の少年の姿もあった。
状況がつかめず、一瞬呆然と立ち尽くしかけた冬弥の前を少年は彼に気付くことなく過ぎ去っていく。
我に帰った冬弥は貴明の持つショットガンと涙を流し逃げ去った名雪の姿に激しい憎悪に襲われた。
――由綺達もそうやって殺されたのかよ!?
湧き上がる激情のままに冬弥はFN P90を握りなおし、二人の後を追うように地を蹴ったのだった。
43 :
二人の追走者:2006/12/16(土) 23:16:13 ID:Fgx27QhM0
【時間:2日目・午前6:20】
【場所:C-5/6境界】
河野貴明
【所持品:Remington M870(残弾数4/4)、予備弾(12番ゲージ)×24、SIG・P232(残弾数2/7)仕込み鉄扇、ほか支給品一式】
【状態:左腕に刺し傷(治療済み)、名雪を追う(もちろん殺すつもりはない)】
藤井冬弥
【所持品:FN P90(残弾49/50)、ほか支給品一式】
【状態:貴明・名雪を追う(二人は冬弥の存在に気付いていない)】
水瀬名雪
【所持品:GPSレーダー、MP3再生機能付携帯電話(時限爆弾入り)、青酸カリ入り青いマニキュア】
【状態:逃走中、錯乱・疲労共に限界】
【備考:冬弥の投げた十円玉の出た面は不明】
(546・555 B-13他)
天沢郁未は、大音量で流される放送の音に目を覚ました。
雨宿りをしていた大樹の根元である。
「……おはようございます。具合はいかがですか」
すぐ隣に座っていた鹿沼葉子が、無表情に訊ねてくる。
「おはよ。……ん、まぁ大丈夫。骨にヒビとか入ったわけじゃないみたい」
ぐるぐると腕を回しながら、郁未が答える。
昨晩の巨大ロボットとの戦闘で得た負傷は、どうやら単なる打撲で済んだようだった。
『―――い、以上、38名が過去12時間の死亡者でした』
放送は続いている。
それを聞いた郁未が、呆れたように天を仰いだ。
「は、夜の間によく死んだもんだわね……。この調子だと、明日の今頃には誰もいなくなってる計算じゃない」
「ええ。キャラを立てやすくなるという意味では人が減るのは望ましいことですが、
勿論リスクが大きくなるということでもあります。
安全、かつ確実に出番を増やすためにはやはりパンの材料探しに専念するのが一番でしょう」
「そうねえ、いくら私らに不可視の力があったって、ロボ相手じゃ手も足も出なかったしね……。
あんなのがゴロゴロしてる方面に首つっこんでもいいことないわ」
そういえばターゲットなんてシステムもあったしねえ、などと言いながらごろんと転がる郁未。
「私も葉子さんもお尋ね者ってことになってるのよね。どれだけの人間が覚えてるか知らないけど」
「……」
「ってかそんなの主催以外、誰も気にしてなかったりして」
返事はない。
「あれ? んなこたぁーない、とか言わないの葉子さん?」
「……」
「スルーかよ」
「……ちょっと静かにしてもらえませんか桃色脳髄」
「なにその人格全否定!?」
何さ、どうせあんただってELPOD入ったら、あーんなことやこーんなことで色々スゴいことになってんでしょうがー。と
わめく郁未を完全に無視したまま、葉子は険しい顔をして放送に聞き入っていた。
『……以上、臨時放送は皆様のお耳の恋人、桜井あさひがお送りいたしました♪
あなたのハートに、ときめ』
唐突に放送が終わる。
郁未が不満げに葉子を睨んだ。
「何よ、そんな難しい顔しちゃって。私らには関係ないことばっかりだったじゃない」
「……そうですね。郁未さんには関係のないことでした」
「うわ何その言い方。喧嘩売ってる?」
「……すみません。少し、動揺しているだけです」
大人しく頭を下げた葉子に、郁未は驚愕の色を隠せない。
「ちょ、ちょっと本当にどうしちゃったの葉子さん!?
普段ならたとえ人の土手ッ腹に風穴開けたって、つい刺しちゃいました、で済まそうとするキャラなのに!」
「……少しあなたの頭蓋骨を切開して、その間違った認識ごと脳髄をかき混ぜてあげたくなりました」
「そうそう、それよ! それでこそ葉子さん!」
手を叩いて喜ぶ郁未を見て、毒気を抜かれたように溜息をつく葉子。
「……いいですか、郁未さん。落ち着いて聞いてください」
「何よ、改まって」
大きく息を吸い込むと、葉子は静かに口を開いた。
「この島は、あと数時間で跡形もなく消滅します」
「……は?」
あんぐりと口を開ける郁未。
何を言い出すのかという顔だった。
「……言いたいことは判りますが、これは事実です」
「へぇ……」
「先程の放送は聞いていましたね」
「まぁ、一応は」
「ではそこに、砧夕霧という名が出たことは」
「知らない」
「鳥頭を無視して話を進めますが、久瀬という人物に与えられた砧夕霧というのはとんでもない代物です」
「知ってたけどあんた、すげえ自分勝手だよね……」
「光学兵器・砧夕霧。それこそは凸システムの完成体なのです」
「いや、いいけどさ……ぐえ」
あさっての方向を向いていた郁未の顔を掴んで、強引に自分の方へと向き直らせる葉子。
郁未の首から妙な音がした。
「いた、痛いって」
「核兵器にも匹敵する膨大な熱量……太陽光線の反射・増幅によるビーム照射が、凸システムの正体です」
「あの、ちょっと、私の首どうなってるの」
「数体で一ユニット、ユニット同士で更に増幅を繰り返すその威力は、数に比例して増大していくのです」
「はぁ……」
「先程の放送によれば、その数は30000……。それだけいれば、この島を蒸発させて充分お釣りがきます」
熱っぽく語る葉子に、とりあえず首の確認を諦めた郁未が不承不承、訊ねる。
「……で、なんで葉子さんがそんなこと知ってんの」
聞かなきゃ終わんないんだろうなー、という声である。
「……仕方ありません。どうやら真実を語らねばならない時が来たようですね……」
「いや別に無理にとは……」
「FARGOのクラスA信徒とは世を忍ぶ仮の姿」
「え、そうなの!?」
思わず素で聞き返す郁未。
そんな郁未の様子に、満足げに小鼻を膨らませると、葉子は高らかに告げた。
「そう、何を隠そうこの私こそが、凸システムの試作第一号―――光学戰試挑躰、鹿沼葉子なのです!」
バァーン、と効果音がつかないのが不思議なくらいのノリである。
聞かされた郁未はといえば、
「うわすげえー。……あいたっ!」
はたかれた。
「何すんのよ! 頭悪くなったらどうしてくれるの!?」
「それ以上悪くなることはありませんから安心してください。
……それより何です、そのリアクションは。妙に薄くありませんか」
「いやだって、何言ってるかわかんないし……」
「たった今、懇切丁寧に説明してさしあげたばかりでしょうがこのミジンコ脳」
「ってかぶっちゃけどうでも……いたた、痛い、痛いってば」
鉈の背でぐりぐりと小突かれる郁未。
ずい、と押し出された葉子の輝く額が、郁未の視界を覆い尽くした。
回避
「見なさいこの磨き上げられた額を」
「眩しい、眩しいから」
「試挑躰である私ですらこの夜明け、雨天という悪条件下でこれだけの集光率を誇るのです」
「ちょっと、目、痛いから、ね、葉子さん」
「完成体である砧夕霧の額たるや……想像するだに恐ろしいものがあるでしょう」
「うん、うん、そうだね、だからちょっと離れてくれるかなお願い頼むから」
「分かればいいのです」
言って、ようやく葉子が郁未から離れる。
慌てて瞼の上からごしごしと眼を擦る郁未。
「拷問まがいよ、これ……」
「……というわけで、方針変更です」
「聞いてる……?」
涙目で睨む郁未を無視して、葉子はすっくと立ち上がる。
「私たちは私たちの自由を取り戻すべく、砧夕霧、ひいてはその持ち主である久瀬という人物を叩きます」
「へぇ……」
「行く手には数々の困難が待ち受けているでしょう。しかし、私たちは決して歩みを止めることはありません」
「そうなんだ……」
「この運命に打ち勝った暁には、私たちの頭上には主人公の栄冠すら輝いていることでしょう」
「いや私、一応主人公だったんだけど……」
「さあ行きましょう郁未さん、まずは敵を探し出すのです」
ぐっ、と拳を握り締める葉子の前に、郁未の声は悉く無視されるのであった。
連続回避
寝る前の連続回避
【時間:2日目午前6時頃】
【場所:E−8】
天沢郁未
【所持品:薙刀】
【状態:唖然】
鹿沼葉子
【所持品:鉈】
【状態:光学戰試挑躰・ノリノリ】
→526,531 ルートD-2
>>48,50,51 ありがとう〜。
「で、学校についたわけだが」
「早いなっ?!」
「あら、あれから一時間くらい経ってるし、別にそんな早い訳でもないわよ?」
「そういう意味じゃなくってだな・・・」
というわけで、鎌石小中学校についた相沢祐一、藤林杏、神尾観鈴、柊勝平の四人組。
辺りは真っ暗で見通しは非常に悪い、夜風も冷たくさながら肝試しのような雰囲気。
ひっそりとそびえ立つ校舎の不気味さに、思わず観鈴は自分の肩を抱き小さく息を呑んだ。
「おいおい、こんな所で漏らすなよ?」
「どこ見ていってんだ、あんたはっ」
「み、みすずちんぴんち」
「ちょ、お前はお前で漏らすなよっ?!」
「で、どうする?さすがにこの中、四人で歩き回ったら夜が明けそうだけど」
建物自体は小・中が一緒になっている割にはそこまで大きくはない。
だが、一々部屋を虱潰しに探すとしたら、やはり時間の浪費は免れないであろう。
二手に別れそれぞれ逆方向から探索をするという案を提唱する杏、効率をはかどらせるならこの方が勿論いいだろう
だが、祐一はそれに対し難色を隠せないでいた。
「万が一敵に会った場合とかが危ないな。俺はともかく、装備面では正直不安が残るからな・・・俺はともかく」
「ちょ、ボクは?!」
「病人は黙っとれ」
「あんた嫌なヤツだな・・・」
「あら、私は平気よ?いざと言う時は、これでバッキューンなんだからっ」
「きょ、杏さん?!いつの間に拳銃をっ」
「ん?護身用に、緒方さんから借りたのよ」
そういう彼女の手には、黒光りする凶器が握らされていた。
「へー、これ何て言う銃なんだ?」
「不明よ」
「は?」
「だから、分からないの」
「どういうことだよ?!見て分かんないのかっ」
「ある時はマグナムのような過激なものに、またある時はコンパクトサイズなデリンジャーで敵を不意打ちに・・・。
自由に選択できるって素晴らしいな」
「何が何だか!!」
「よし、とにかく藤林が前線にいけるなら話は別だ。どういう組み合わせにするか?」
「頼りになる私と頼りになる相沢君は別れた方がいいわね」
「そうだな、その通りだ」
「あんた達イヤなヤツだな?!」
「わ、私、勝平さんと行きたいな!」
その時、今まで後ろで小さくなっていた観鈴が声を張り上げた。
右手をぴっと上げ自己主張する彼女の姿に、一同固まる。
彼女がこういう形で意見を言うのは初めてであって、誰もが驚きを隠せなかった。
「却下」
だが、結局は一刀両断される。
「が、がお・・・」
「おいおい、可哀想だろ。懐かれてんのに無下にするなよ」
「ガオ・・・」
「ほら、神尾さん小さくなっちゃったじゃない」
「30センチくらいに」
「それ何て南君の恋人?!」
正直、何故このような形で観鈴が自分に付き纏おうとするか勝平には分からなかった。
ちらっと目線を送ると、彼女のしょんぼりとした様子が目に入る。
・・・消防分署にいた頃からやけに馴れ馴れしくはあったが、これが彼女の性分なんであろうか。
このような形で年下の女の子に甘えられる経験のない勝平にとっては、あまりに未知のことで戸惑うしかなかった。
「ほら泣くな神尾、俺と行こう。せっかくここまで来たんだし、ここはいっちょフラグでも立ててみようぜ」
「じゃあ、私は勝平さんとフラグでも立ててみちゃう?きゃっ!椋に怒られちゃうわね☆」
「あんた達は平和だな・・・」
「何だ柊、俺とカプりたいのか。それなら早く言えよ・・・」
「きゃっ!スラッシュでクラスBなム−ドに杏ちゃんドキドキっ」
「あんた達マイペースだな?!ああもう、カプらねーよその手をどけろっ!!」
だが勝平も、ここから先は彼も気を引き締めていかなければならない。
・・・捕らわれた少女など勝平にとってはどうでもよいことである、彼にとっての敵は今目の前にいるのだから。
「ほら、こういう時は目を閉じるんだぜ?あんまり野暮なこと言わせんなよ・・・」
「おいっ、いい感じのナレーション入ってんだから邪魔すんなよ!!」
「きゃっ!」
「どきどき・・・」
「お前等も止めろ!!!」
そんな平和な様子の一行を、岸田洋一は職員室の窓からニヤニヤと見下していた。
「おいでなすったな。さーて由依ちゃん、カーニバルはこれからだぞぉ?」
「・・・」
「分かってるな?女を見つけたらここに連れてくる、男は殺せ」
「・・・」
「返事はどうした」
身動きのない体はさながら人形のよう、呼吸で上下する微かな胸元を見ない限り彼女が生きていることに気づく者はいないだろう。
名倉由依は、それほど疲弊しきっていた。
だがそんな彼女にも鞭打つ様、岸田は厳しく接する。・・・いや、岸田にとって、彼女の状態がどうであるかなど関係はない。
「お返事できないか、そうか。じゃあ、下の口にでも聞いてみるか?」
「!!」
「おら、返事しろってんだろーが、クソガキ!」
「・・・・・・・・は、い」
ただの下僕に気を使う必要などないのだから
小さな、とても小さな呟きを何とか口にする由依を汚いようなものでも見るようにした後、彼は自分の持っていたカッターナイフを彼女の手に握らせた。
「よーし、いい子だ。ほら、これを貸してやる」
力なく垂れそうになるが許さない。
きちんと持つようになるまで由依の手を握り締めるようにした後、岸田は部屋を物色することで手に入れたもう一本のカッターを手にこれから起こるであろう騒ぎに胸を馳せるのであった。
「見た所、男は一人しかいねぇようだ。くけけっ、こりゃ大当たりだぜ・・・」
最後に、期待に満ちた視線を送った後岸田は職員室を後にした。
由依も無理やり手を引かれ連れて行かれる・・・彼女に選択権は、ない。
57 :
補足:2006/12/17(日) 16:55:04 ID:0Dy1AcAC0
【時間:2日目午前1時過ぎ】
【場所:D−6・鎌石小中学校・校門】
柊勝平
【所持品:電動釘打ち機16/16、手榴弾三つ・首輪・和洋中の包丁三セット・果物・カッターナイフ・アイスピック・支給品一式(食料少し消費)】
神尾観鈴
【所持品:フラッシュメモリ・支給品一式(食料少し消費)】
相沢祐一
【所持品:S&W M19(銃弾数4/6)・支給品一式(食料少し消費)】
藤林杏
【持ち物:拳銃(種別未定)・包丁・辞書×3(英和、和英、国語)支給品一式(食料少し消費)】
【状態:学校を探索】
【時間:2日目午前1時過ぎ】
【場所:D−6・鎌石小中学校・職員室】
岸田洋一
【所持品:カッターナイフ】
【状態:一行を迎え撃つ・少し勘違い気味】
名倉由依
【所持品:カッターナイフ、ボロボロになった鎌石中学校制服(リトルバスターズの西園美魚風)】
【状態:岸田に服従、全身切り傷と陵辱のあとがある】
【備考:携帯には島の各施設の電話番号が登録されている】
由依の支給品(カメラ付き携帯電話(バッテリー十分)、荷物一式、破けた由依の制服)は職員室に放置
杏のノートパソコンは消防分署に放置
(関連・486・536)(B−4ルート)
「ヘンな所に迷いこんでしまったな……いったいどこだここは? なぜ俺はこんな所にいる?」
巳間良祐は右も左も判らぬ闇の中をただ歩き続けていた。
「確か俺はあの時……そうだ。俺はあの少女を殺そうとして………」
良祐がここに来る以前の記憶を思い出した瞬間、背後から声がした。
「うぐぅ〜! どいてーーーっ!」
「ん? うおっ!?」
振り返った途端、良祐は背後から走ってきた女の子と勢い良く衝突した。
女の子は良祐とぶつかった衝撃で数十センチくらい後ろに転がった。
「あ――大丈夫か? ―――っ!?」
「うぐぅ…酷いよ。どいてって言ったのに〜……」
起き上がった少女――月宮あゆの顔を見て良祐は驚愕した。
(そ、そんな馬鹿な!? こいつは俺が………)
「うぐ? どうしたの?」
驚く良祐の顔をあゆが不思議そうに見つめる。
「ねえ、どうしたの?」
ずいっとあゆが良祐に顔を近づける。
その時、一瞬ではあるが良祐は1発の銃声とともにあゆの顔がボロボロと音を立てて崩れながら血と脳髄を撒き散らしていく幻覚を見た。
それはまぎれもなく良祐があゆを殺した瞬間の様子だった。
「ひっ――――!」
良祐はその幻覚に恐怖してあゆから後ずさった。
「?」
そんなことも知らずあゆは良祐を見ながら首を傾げる。
「や…やめろ……見るな……そんな目で俺を見るな!」
「ふぅ…やっと追いつきました。あゆさん、こんな所にいたんですか?」
「うぐぅ!?」
「!?」
またしても突然現れた少女を見てさらに良祐は驚愕した。
―――草壁優季。良祐があの島で最初に殺した少女だ。
「草壁さん…………ねえ草壁さん。祐一くんたち知らない? いくら探しても見つからないんだよ」
「きっと祐一さんや貴明さんはまだあの島で頑張ってらっしゃるんですよ………あら? あゆさん、こちらの方は?」
「!?」
優季が良祐を見る。良祐の脳裏に優季が死ぬ瞬間が強烈にフラッシュバックした。
「ん〜? 知らない人だよ。うぐ?」
「う……うわあああああああああああああああああああああああああああっ!!」
気がつけば良祐は恐怖のあまり2人のもとから逃げ出していた。
「―――いったいなんだったのでしょう?」
「うぐぅ…ボクもわかんない」
「はっ…はっ…」
悪夢だ。これは悪い夢だ。そうに違いない。夢なら早く覚めてくれ―――
良祐はそう願いながら闇を駆けて行く。
するとまたしても人影が良祐の前に姿を現した。
―――どこか見覚えのある少年だ。
「……」
良祐は少年を見たまま思わず足を止めてしまった。
「? どうかしました? もしかして、僕の顔に何かついてます?」
少年―――氷上シュンは自分を見つめる良祐を不思議に思い、彼に尋ねた。
「あ…いや……なにも……」
「そうですか……あ。そうだ。僕、友達と人を探しているんです。藍原瑞穂という眼鏡をかけた女の子を見かけませんでしたか?」
「いや……すまないが見ていない」
「そうですか……あ。太田さん」
「―――!?」
シュンが顔を向けた方へ目を向けると、そこにはまたしても自身が殺した少女の姿があった。
―――太田香奈子。良祐が最後に殺した子だ。
「どうだったそっちは?」
「ごめんなさい……あっちには瑞穂はいなかったわ。 ―――あら? 氷上くんこちらの人は誰?」
「ああ。今ここで出会ったばかりなんだけど…そう言えば名前を聞いていなかった……」
「夢だ…これは夢だああああああああああああああああ!」
「あ……」
またしても良祐はその場から逃げ出した。
「―――行っちゃった」
「なんだったのあの人?」
「さぁ――まあいいか。それじゃあ気を取り直して藍原さんを探そうか」
「ええ」
「それに草壁さんたちにも会いたいな。きっと彼女たちもここにいると思うんだ……」
「クソッ……クソッ……!」
良祐は毒づきながらさらに闇の中を走っていく。
何故覚めない!? これは夢だろう!? なんで覚めてくれないんだ―――!?
彼の顔はもう恐怖で染まっていた。
「―――っ!?」
良祐の願いとは裏腹にまたも彼の目の前に1人の人影が姿を現す。
だが、その人影の正体は良祐もよく知っている人物であった。
「晴香!」
思わず良祐はその人影に駆け寄った。
―――巳間晴香。良祐の妹にしてあの島における彼の数少ない知人であった。
FARGOの施設で再会したにも関わらず、口はほとんど聞けなかった身内―――その晴香が良祐の目の前にいる。
「良祐……」
晴香は何かに怯えている良祐を不思議そうに見つめる。
「晴香……頼む。俺を助けてくれ。ここは変なんだ……!」
「変?」
「ああ…あの島で……俺が殺した連中が何故か生きていて俺の目の前に現れるんだ……これは悪い夢だ。俺は……早く目が覚めたい………」
「そう……」
晴香はそう言うとふっと笑った。
「晴香……?」
―――銃声と何かが一閃される音が良祐に聞こえた気がした。
「―――ひっ!?」
次の瞬間、良祐はここに来て自身これで何度目か判らない悲鳴を上げた。
それもそのはずだ。
突然目の前にいる晴香の腹部に穴が開き、喉元がパックリと横に裂け、そこから噴水やスプリンクラーのごとく大量の朱を噴出しているのだから。
「あ……あ……ああ………!!」
気がつけば良祐は腰を抜かし、尻餅をついていた。
「クスクス……どうしたのよ良祐?」
「く……来るな! こっちに来るなあ!!」
自身に不気味な姿をさらしながらも可笑しそうに笑いながら1歩1歩近づいてくる晴香に良祐は化け物を見た形相で逃げ出そうとする。
しかし、良祐の身体はそんな彼の思考を無視するかのように1ミリたりとも動かなかった。
「良祐……今…目を覚ませてあげる………」
自身から噴出す血で真っ赤に染まった両手で晴香は良祐の顔を掴む。
そして―――――
――――彼の頬に唇を寄せた。
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
次の瞬間、発した絶叫と共に良祐の意識は電源がONからOFFになったテレビのごとくブツリと途切れた。
「ああああああああああああああ!!」
絶叫と共に、巳間良祐は目を覚ました。
「はぁっ……はぁっ………こ…ここは………?」
目を覚ました彼の視界に映ったもの―――それは空と大地が逆さまになっている世界であった。
(………いや。逆さまになっているのは俺の方か…………)
良祐は自身の足の方に目を向ける。彼の両足にはロープが巻きついていた。
――体中が汗で湿って気持ちが悪かった。
「無理もないか……あのような夢を見たんだからな………」
良祐はとりあえず現状を把握してみることにした。
武器などは全て先ほど自分が戦っていた少女に奪われたようだ。
デイパックが1つだけ残されていたが、恐らくその中に入っているのは地図やコンパスなど基本的な物だけだろう。
『――みなさん……聞こえているでしょうか』
「ん?」
その時、島に例の放送が流れた。
回避
回避〜
『発表は以上だ。引き続き頑張ってくれたまえ』
ウサギのその声とともに放送は終わった。
(――晴香、おまえも死んでいたとはな………)
良祐は少しの間だけ亡き妹のことを思った。
「――しかし、頑張れと言ってもな……」
良祐は悩んでいた。
このまま自分はゲームに乗り続けるべきか、それとも反主催に鞍替えするかを。
(あんな夢見てしまったら人なんて殺せるわけないしなあ………)
だが、この島において他の参加者を殺すこと以外生き残る術はないと結論し行動していたのはまぎれもなく自分自身である。
それに彼は優勝して晴香や死んだ連中を生き返らせてやろうとするほどお人よしでもなかった。
「……武器も全てなくなってしまったし、これからどうするかね…………」
逆さ吊りの状態で良祐はこれから先どうしようかと考えてみることにした。
巳間良祐
【場所:F−7西】
【時間:2日目・午前6時10分】
【所持品:なし】
【状態:これからどうしようか考えている。観月マナが仕掛けた罠に引っ掛かり宙吊り状態。右足・左肩負傷(どちらも治療済み)。真下に支給品一式】
67 :
新ルート用参加者:2006/12/18(月) 11:22:17 ID:527hogIv0
001相沢祐一 002藍原瑞穂 003天沢郁未 004天沢未夜子 005天野美汐
006石原麗子 007猪名川由宇 008岩切花枝 009江藤結花 010太田香奈子
011大庭詠美 012緒方英二 013緒方理奈 014折原浩平 015杜若きよみ(黒)
016杜若きよみ(白) 017柏木梓 018柏木楓 019柏木耕一 020柏木千鶴
021柏木初音 022鹿沼葉子 023神尾晴子 024神尾観鈴 025神岸あかり
026河島はるか 027川澄舞 028川名みさき 029北川潤 030砧夕霧
031霧島佳乃 032霧島聖 033国崎往人 034九品仏大志 035倉田佐祐理
036来栖川綾香 037来栖川芹香 038桑嶋高子 039上月澪 040坂神蝉丸
041桜井あさひ 042佐藤雅史 043里村茜 044澤倉美咲 045沢渡真琴
046椎名繭 047篠塚弥生 048少年 049新城沙織 050スフィー
051住井護 052セリオ 053千堂和樹 054高倉みどり 055高瀬瑞希
056立川郁美 057橘敬介 058塚本千紗 059月島拓也 060月島瑠璃子
061月宮あゆ 062遠野美凪 063長岡志保 064長瀬祐介 065長森瑞佳
066名倉由依 067名倉友里 068七瀬彰 069七瀬留美 070芳賀玲子
071長谷部彩 072氷上シュン 073雛山理緒 074姫川琴音 075広瀬真希
076藤井冬弥 077藤田浩之 078保科智子 079牧部なつみ 080牧村南
081松原葵 082マルチ 083三井寺月代 084御影すばる 085美坂香里
086美坂栞 087みちる 088観月マナ 089御堂 090水瀬秋子
091水瀬名雪 092巳間晴香 093巳間良祐 094宮内レミィ 095宮田健太郎
096深山雪見 097森川由綺 098柳川祐也 099柚木詩子 100リアン
68 :
ゲームスタート:2006/12/18(月) 14:05:38 ID:527hogIv0
絶海の孤島に建てられた巨大なホール。
ここから、史上最悪のサバイバル・ゲームの幕が今、開かれようとしていた。
「えぇ、これからお前達には、殺し合いをしてもらう」
マシンガンを持った男二人を横に連れ、ゲームの管理人、高槻は言った。
突然発せられたその言葉を殆どの人間が理解できなかった。
ただ一人だけ、瞬時に理解し、叫んだ者がいた。
084番、御影すばる。
「ちょっと、どういうこと!? ころし……」
パンッ!
軽い音が響く。
言葉を続けることなく、すばるはその場に崩れ落ちた。
誰よりも理解が早かった結果、誰よりも早くゲームから脱落した。
「どういうことって、こういうことだよ! わかったかい?」
ホール内を緊張が走り抜けた。
084番 御影すばる 死亡
【残り99人】
69 :
ゲームスタート:2006/12/18(月) 14:06:28 ID:527hogIv0
「ルールは簡単。ただこの孤島の中で殺し合いをするだけだ。
最後に残った人間だけが、唯一助かることができる。
脱出しようなんて考えないほうがいいぞ?
船は用意されてないから無駄だ。
これから読み上げた順に、鞄を持ってホールを出てもらう。
鞄の中には食料、水、島の地図、それに武器が入ってる。
武器には当たり外れがあるから、使えないのに当たったら運の悪さを恨むんだな。
我々に刃向かったら即刻殺すので、そのつもりで。
戦闘のプロばかりだから、勝とうなんて思わない方がいいぞ。
何か質問は?」
静かに手を上げる者がいた。
090番、水瀬秋子である。
「よろしいですか?」
「なんだい、かわいらしいお嬢さん。いや、奥さんだたか……クックッ……」
「お母さん!」
091番、水瀬名雪が隣で声を上げる。
秋子は「大丈夫」と目で言い、高槻に訊ねた。
「何の為にこんなことをするんでしょう? どうして私達が選ばれたのでしょうか?」
「何の為? 金持ちの道楽さ。深い意味はない。選ばれたのも、コンピューターが勝手にはじき出しただけだ」
「そうですか、ありがとうございます」
まだ緊張した面持ちで、席に座る。
「それじゃあ、ゲームスタートだ。せいぜい楽しませてくれよ!」
ガサッ。
「ひゃっ」
収容されていた平瀬村分校跡を出て以来、ずっと近くの林の中で身を潜めていた美坂栞(086)は、何者かが近づく音に怯えて小動物のように頭を抱えた。
「あなた……栞」
「……お姉ちゃん」
そこに現れたのは姉、美坂香里(085)だった。
「相沢君は一緒じゃないの?」
「は、はい」
上級生であり今は恋人でもある少年の名が出て、こんな時でも栞は少しだけ顔を赤らめた。
「相沢君ったら、彼女をほったらかしにするなんて……ごめんなさいね。そんな子に育てたつもりはなかったんだけど」
「い、いえ……」
本気とも冗談ともつかないその言葉をどう受け止めていいものか分からずただ曖昧に笑うことしかできなかった。
それでも、姉とごく日常的な会話をする事で栞の心は和らいだ。
「それにしても……まったく、これは何の冗談なのかしら……」
それは栞も同感だった。『最後の一人になるまで殺し合え』だなんて。
「それで、あなたは何を貰ったの」
「え……?」
何が、と問い返す前に香里は言った。
「武器よ」
「あ、はい!」
慌ててスカートのポケットを探り、これです、と言いながら差し出したのは刃の閉じられたバタフライナイフだった。
「ふぅん……」
香里は栞の掌からナイフを取ると慣れた手付きで刃を出し入れさせる。
「ちゃちなオモチャね」
片手でナイフを弄びながらそう呟いた。
「そうですよね。もし男の人もいるなら、こんなナイフだけじゃ……」
戦えないですよね、と言おうとして栞は口篭もった。
そもそも自分に「戦う」なんて事できる筈が無かった。
そんな他人を傷つけるような真似ができる訳が無い。
人を、傷つけるなんて。
「いいえ。そんなことないわ」
「え?」
それは何に対する返答なのだろう。
「ナイフ一本あれば十分よ」
ズ…………バシュ。
栞の首が4分の1ほど切断された。
「あぐ……あががガガググ……」
首を手で押さえるも血は止まらずに指の間から吹き出る。
「ほらね?」
どさっ……。
そして栞は彼女自身の思いのままに誰も傷つけることなく退場した。
「さて、と」
相沢君相沢君相沢君相沢君相沢君相沢君相沢君相沢君。
(この間、劣化月姫風狂気描写が32行続くが省略)
「……今すぐ行くから待っててね」
そして香里は駆け出した。
ただ一人しか生き残れないというこのゲームにあって、彼女はいかなる考えから祐一を求めるのか。
――それはまだ我々には分からない。
086番 美坂栞 死亡
【残り98人】
085番 美坂香里
【時間:一日目正午ごろ】
【場所:G-04】
【持ち物:バタフライナイフ、本人に支給された武器(続き書く人のお好きなように)、最初に与えられたリュック(栞の分は放置)】
【状況:祐一を探して移動中】
73 :
11:2006/12/18(月) 15:28:55 ID:527hogIv0
香里ちゃんが栞ちゃんを殺すわけないだろ!
ぼくちん分岐作っちゃうぞ!
ズガン!!
015番 杜若きよみ(黒)死亡
時刻・場所不明
↑さすがにこれはNGだろ・・・・
>>75 ・書き手ルール
・このリレー小説の大きな特徴は、書き手は「どの話の続きを書いてもいい」ことです。
納得できない作品があったらNGを出すのではなく、自分が納得できる展開を書いてください。
あなたの書いた作品のほうが面白ければあなたの書いた作品の続きを誰かが書いてくれます。
そうでなければ、放置されっぱなしです。適者生存。
78 :
新参加者リスト:2006/12/18(月) 16:36:24 ID:527hogIv0
1浅見邦博 2麻生明日菜 3麻生春秋 4アルルゥ 5石原麗子
6一ノ瀬ことみ 7猪名川由宇 8伊吹風子 9ウルトリィ 10エディ
11エルルゥ 12太田香奈子 13大庭詠美 14岡崎朋也 15緒方理奈
16オボロ 17杜若きよみ(黒) 18柏木耕一 19柏木千鶴 20柏木初音
21梶原夕菜 22神尾晴子 23神尾観鈴 24神岸あかり 25カミュ
26カルラ 27河島はるか 28川名みさき 29木田恵美梨 30北川潤
31木田時紀 32霧島佳乃 33クーヤ 34栗原透子 35ゲンジマル
36上月澪 37坂神蝉丸 38坂上智代 39榊しのぶ 40相良美佐枝
41サクヤ 42桜井あさひ 43沢渡真琴 44芝浦八重 45霜村功
46少年 47春原芽衣 48春原陽平 49スフィー 50須磨寺雪緒
51住井護 52セリオ 53高倉みどり 54立川郁美 55橘敬介
56立田七海 57月島瑠璃子 58月宮あゆ 59ディー 60トウカ
61長岡志保 62長瀬祐介 63名倉由依 64名倉友里 65那須宗一
66七瀬彰 67ハクオロ 68葉月真帆 69柊勝平 70氷上シュン
71雛山理緒 72広瀬真希 73藤井冬弥 74藤田浩之 75藤林杏
76藤林椋 77伏見修二 78伏見ゆかり 79古川秋生 80古川早苗
81古川渚 82ベナウィ 83牧村南 84松浦亮 85三井寺月代
86御影すばる 87美坂香里 88美坂栞 89光岡悟 90水瀬名雪
91巳間晴香 92宮内レミィ 93宮沢有紀寧 94宮路沙耶 95湯浅皐月
96柚木詩子 97ユズハ 98芳野祐介 99リアン 100リサ=ヴィクセン
79 :
プロローグ:2006/12/18(月) 16:43:30 ID:527hogIv0
軽い運動場ほどの大きさの、無機質なホール。
その大部分が、見知らぬ顔だった。かろうじて顔見知りであるのは、横にいる数名。
松浦亮。宮路沙耶。浅見邦博。芝浦八重。――他に、春秋が知らぬ顔が一人。
「誰か、プロクシが出せる人、いる?」
見回し、聞く。
「無理だ」
浅見が、チッと舌打ちした後、苛ついた口調でそう答える。
「俺もだな」
「……俺も出せない」
春秋が知らない人間――修二が呟き、亮も無表情のまま続いた。
「何コレ? どうなってんの?」
「エゴ(プロクシ)という概念そのものが消滅したのか、あるいは、エゴを封じられたか……不思議ね」
不満そうな様子を隠そうともしない沙耶と、冷静な表情を崩さない八重。
「僕も、どうやっても無理みたい」
春秋は、幾度もプロクシの具現化を念じたが、まるで何も反応が無い。
「プロクシもそうだが、本当の問題はそこじゃねえ」
浅見が、短くなった煙草をプッと吐き出した。
「ここがどこで、何で俺達はこんなところにいるのか……だな」
修二が、神妙な表情で合いの手を入れる。
「全く記憶がねえ。拉致られたとしか考えようがねえが……」
「集団夢遊病……ってわけでもなさそうだしね」
言って、自身も可笑しかったのだろう。春秋は皮肉げに唇の端を釣り上げた。
『参加者の皆様、注目されたい』
その声は、厳かにホール内に響き渡った。
他の場所より一段高く設えられた壇上に、隙のない佇まいの初老の男が現れた。
「篁!」
宗一とリサが、驚きの声を上げた。
そちらの方を軽く睥睨し、篁はすぐに視線を戻す。
「本日、皆様に集まってもらった理由は他でもない。殺し合いをして貰う」
男の言葉は淀みなく、簡潔だった。
一瞬、凍てついたような空気がホールに走った。次の瞬間、ざわめきがあちこちに起こった。
「どういうことなのか、説明してくれませんか」
進み出たのは、月島拓也だった。
「わけが分からない。僕たちは気が付いたらここに連れていたんだ」
「言った通りだ。殺し合いをして貰う」
「今すぐに帰してもらいたい。さもなくば――」
「なくば、なんだね?」
凄む月島を、篁は表情を変えずに受け流した。
ヒィ……イィ……ィ……
「電波が……集まらない!?」
「今、君は私に牙を向けたわけだ」
篁は、狼狽する月島をよそに、すっと右手を上げた。
彼の後ろに控える軍人風の男が、月島に無言で銃を向けた。
「貴様――!」
宗一が駆け寄ろうとした時には、すでに遅かった。
「がっ!!」
弾丸は、正確に月島の心臓を貫いた。
「お兄ちゃん!」
「月島さん!」
「いやぁ!」
瑠璃子が、祐介が、香奈子が、それぞれ悲鳴をあげる。
「さて」
惨状を一顧だにせず、平静な声で篁は続けた。
「我々が本気であることは理解されたと思う。説明を続けようか」
「てめえ……!」
「抑えろ、ソーイチ」
いきり立つ宗一を、エディが必死になだめる。
「月島君が死んだから、番号がずれて62番、長瀬祐介」
「……!?」
名を呼ばれ、震える瑠璃子を抱いていた祐介がはっと顔をあげた。
「今、電波が使えるかね」
「なぜ、電波のことを……」
知っている。
祐介はそう告げようとしたが、後半は震えて声にならなかった。
「プロクシ使いの諸君も、FARGOの不可視の力を扱う諸君も、法術を操るオンカミヤムイの諸君も、また、体術を誇る諸君もそうだ」
篁は、それぞれ言葉に反応する人間の顔を見回す。
「君らの能力は封じられている。特殊な結界を張らせてもらっていてね。これも公平を期する処置だ。
また、皆が持っている武器もこちらで預からせて貰っている。同じ理由からだ」
一同は、沈黙したままだった。
何人かは篁の言葉を疑い、己の能力を試そうとしたようだが、一様に無駄に終わった。
「条件は皆同じだ。こちらで用意した武器と、必要なものには薬程度は手配してある。69番、柊勝平。君などは、薬が無くば困るだろうしな」
「……」
勝平は何か言いたそうに唇を噛みしめたが、何も反論はしなかった。
「では、これから島へ一人ずつ降りてもらう。それぞれこちらで分けたグループごとに控え室へ向かってくれたまえ。
終了条件は一つ。生き残りが二人か一人になることだ。生き残った者には賞品代わりに、何でも一つ好きな願いを叶えて差し上げる用意がある。
なお、島には食用の植物も無いことは無いが、基本的に食事を摂る手段は無い。皆がゲームの終わりに向かわねば、皆が飢えて死ぬ。
もっとも、数名には食糧を配って差し上げるから、これを奪えば強者はある程度生き延びることが出来るがね。
開催地は離島ゆえ、逃げることも不可能だ。翼を持つ諸君らでも、体力が続く距離では無いことを告げておこう。
――最後に、我々に逆らうのは自由だが、その場合先程の月島君のように命を落とすのが落ちになろう。そこは個々人で熟考したまえ」
篁はそこまでを告げ、大儀そうに襟を正した。
「では、諸君らの健闘を祈る」
――美坂香里(87)は、椅子に腰掛け、出発の時を待っていた。
思い出すまいとしても、あの異様な雰囲気を持つ男の演説が頭に浮かんでくる。
『諸君らの体内に、小型の爆弾を埋め込ませてもらった』
『万一にも、我々が諸君らの武力に圧倒されることなど有り得ぬのだが』
『羽蟻のようにたかる諸君らを殺すような展開になっては、大会を楽しみにしておられるお歴々にも申し訳無い』
『島には管理者を数名降ろしてあるが、もしその管理者に攻撃するようなことがあった場合――』
『諸君らはルール違反者として処分させて貰う。体内に埋めた爆弾は、分厚い金庫を爆砕する破壊力がある』
『人間の身では骨肉の一片すら残るまい。何が賢い選択であるかは言うまでも無い』
「く……」
身体のどこかに埋まっている筈の爆弾を意識すると、吐き気がするようなおぞましさを感じた。
(ふざけないで……! こんな理不尽で死ぬのは御免よ。何なのよ、これはっ……!)
また一人、参加者が控え室を出ていくのを眺めながら。
香里は、震える膝を抱きかかえるように丸まり、ただ自分の出発の時を待った。
【月島拓也 死亡】
【残り100人】
以上分岐性の活用例でした
ハカロワ3は分岐性です
有効に分岐しましょう
84 :
鬼の王の選択:2006/12/18(月) 18:25:49 ID:+hi1XfwY0
「――祐介お兄ちゃん…………」
窓の外を眺め、今にも泣き出しそうな顔で初音はもう何度目かもわからないほどに、祐介の名前を呟いていた。
放送後、祐介が家を出てからすでに二時間が立とうとしていた。
だが一向に彼が戻ってくる気配は無い。
もしかして襲われでもしたのだろうか? 最悪死んでいたり?
そう思うといても立っても居られなくなり家を飛び出し探しに行こうともした。
――もしそれで入れ違いになったらどうするんですか?
――そのせいで柏木さんの身に何かあったらそれこそ祐介さんは立ち直れないかもしれませんよ?
――信じて……待ちましょう。
だがその度に有紀寧の言葉によって遮られ、シュンと項垂れてしまう。
表面上は落ち着いたように初音をたしなめていた有紀寧だったが、同じように彼女も焦っていた。
武器は祐介が置いていったものの、正直なところ初音だけでは襲われたら何の役にも立たないだろう。
むしろ足手まといでしかなく、そうならないように手元に祐介を置いていたというのに、これではまったく意味が無い。
「はあ……」と小さく溜め息を漏らす。
せめて柏木姓の者達と合流できれば当面の安全は確保されるのに、と半ば投げやりに考えた時だった。
初音がフラフラと歩き出し、扉のほうへと向かっていた。
「柏木さん?」
尋ねる有紀寧の声を無視して初音はドアノブへと手をかける。
「――!?」
慌てて初音の元に走り寄り、ノブを握る初音を止めようと手を伸ばす――が、彼女の様子が先ほどとはまるで違っているのに目を見開いた。
瞳は生気を失ったように暗く曇り、「――次郎衛門……」とブツブツと呟いていた。
何が起きたのか有紀寧にはわからなかったが、ともあれここで初音までも居なくなってしまうのは避けたかった。
肩を掴み正気に戻そうと必死に揺さぶる。
「……あれ?」
振動に初音の瞳に光が戻り、キョロキョロと辺りを見渡しながら首をかしげた。
「柏木さん……どうしたんですか?」
有紀寧の問いに、まだ少しボンヤリとしたまま初音が答える。
「なんだろう……わかんないけど、誰かが呼ぶ声がしたの。懐かしくて、暖かくて……あれは…………」
85 :
鬼の王の選択:2006/12/18(月) 18:26:48 ID:+hi1XfwY0
その時、何かに気付いたように初音が叫んだ。
「耕一お兄ちゃん!」
「え?」
「耕一お兄ちゃんだ、きっと迎えに来てくれたんだ!」
言うや否や初音は勢いよく扉を開けると外へと駆け出した。
「あっ! 柏木さん!!」
いきなり何を、と訝しげに思いながらも慌てて有紀寧もその後を追うように走った。
「――お兄ちゃん、お兄ちゃん!!」
初音の中に浮かんだ一つのイメージ。
それがいつのことだったのかはわからない。
だがそれは急かすように初音の足を走らせた。
近くに居る、私を探してくれている。
そんな想いに駆られ、ただ地を馳せる。
そしてずっと待ち望んでいた人物は、唐突に初音の前に姿を現した。
「……初音ちゃん…………良かったっ! 本当に良かったっっっ!!」
耕一は初音の姿を見つけるや否や、恥も外聞も無く彼女を強く抱きしめる。
その姿には威厳に満ちた彼の姿は無く、こぼれる涙がその喜びを現していた。
「お兄ちゃん! お兄ちゃん! お兄ちゃん!」
初音も言葉が出ず、耕一の名前を呼び続ける。
「はぁはぁはぁはぁ…………」
荒く息をつきながら追いついた有紀寧は目の前の状況をすぐに認識し、訪れた歓喜に震えながらも小さく口を開いた。
「柏木耕一さん……ですか?」
「そうだけど、君は?」
「有紀寧お姉ちゃん、大丈夫。今まで一緒に居てくれた人だよ」
小さく警戒を見せるも、初音の言葉にすぐさまそれを解いて微笑みながら言った。
「そうか、今まで初音ちゃんを守ってくれてありがとう」
うやうやしく会釈をする耕一に対し、有紀寧は手をブンブンと振り「とんでもないです」と返した。
「それよりも、こんな町の往来では危険です……私達が隠れていた家がすぐそこにありますので行きませんか?」
86 :
鬼の王の選択:2006/12/18(月) 18:27:32 ID:+hi1XfwY0
有紀寧の言葉に耕一は頷くと、初音の手をギシッと握り締め有紀寧の後に続いて歩き出した。
「……楓お姉ちゃんは」
家に入るなり初音の口から出た言葉に耕一は何も言えずに固まっていた。
なんと返せば良いのだろうか?
返答に詰まり、苦虫を潰したような耕一の表情を見て初音は呟く。
「やっぱり……んじゃったんだね」
その声はとても小さく、死んでいるということを認めたくなかったのだろうことが見てとれた。
答えない耕一の姿に初音の瞳から大粒の涙が零れ落ちる。
有紀寧は初音の身体を包み込むように抱きしめると耕一の顔をじっと見据えて言った。
「……他のご家族の方は?」
有紀寧の問いに初音は顔を上げ、再び耕一の顔をじっと見つめる。
不安に満ちたその顔に、耕一は千鶴のことを思い出しいたたまれなくなりながらも口を開く。
「千鶴さんはわからない……でも梓とは合流できた」
「ほんとっ!?」
落胆と喜びの表情を同時に見せる初音に、耕一ははにかみながら続けた。
「ああ……でも早く見つけるために二手に分かれたんだ。これで後は千鶴さんだけだ」
千鶴が自分達を守る為に人を殺している、とは口が裂けても言えない。
そして早く千鶴を探し出して……そして止めなければ。
「とりあえず梓は鎌石村へ向かってる。梓一人にしておくのはやっぱり不安だ。
初音ちゃんも見つけたし急いで俺達も合流しようと思う」
「うんっ!」
二人の会話に有紀寧は動揺を隠し切れなかった。
鎌石村に向かう?
それは困る。彼には私を守ってもらわなくてはならないのだから。
だがなんと言えばいいのだろう?
目の前の耕一と言う男の家族への絆の深さはたった今出会ったばかりの自分にすらわかった。
そして、他者への愛情も掛け合わせているのもわかる。
生半可なことを言えば私まで連れて行かれるのではないかと有紀寧は葛藤していた。
87 :
鬼の王の選択:2006/12/18(月) 18:28:09 ID:+hi1XfwY0
「有紀寧さん、あなたも一緒にどうだろう?」
(……ほらやっぱりそうきますよね)
有紀寧は考える。
危険を冒してでも彼と一緒に行動して鎌石村に向かうべきか、それともなんとか言いくるめてここに留まるか。
だが先ほど自分が起こした扇動を考えると、どうしても鎌石村に向かうという気は起きないのだった。
「でも、危険ですよ……」
「かもしれない、でもここにいてもそれは代わらないと思うんだ。
初音ちゃんと一緒にいたお礼になればって事もあるけど、頼りないかもしれないが俺が絶対に守ってみせる」
(本当に想像通りの答えを返してくれる方ですね……)
有紀寧は半ば呆れながらも、それを表情には出さずに耕一の顔を見つめた。
小さく溜め息をつきながら意を決したように歩き出すと、机の上に置かれたパソコンの電源をつける。
「ん?」
「これを見てください……」
これが自分の出せる最大のカード、だがそれも耕一には効果は無いだろうし、逆に行く気がさらに増すだろうとも考えたが、
自分が行きたく無い理由には出来るだろうと有紀寧はロワちゃんねるを開いた。
耕一と言う最高の盾を無くすのは痛手だが自分の命にはとても変えられなかった。
「これは……!」
有紀寧が見せたのは自信が岡崎朋也を語り書き込んだレス。
それを見た耕一は思わず顔が綻んでいた。
「なんだ! 同じような考えのような奴がいるんじゃないかっ!」
「いいえ、それは違います」
単純に喜ぶ耕一とは対照的に暗く首を垂れながら有紀寧は画面をスクロールさせた。
そこに書かれていたのはレインボーと言うなる人物による彼への叱咤の言葉だった。
「単純に……殺人者も集まってくる可能性があると言う事です」
同じ想いを抱えた仲間を見つけた耕一の喜びが、有紀寧の言葉で現実に戻される。
有紀寧が言っているのは至極当然のことだ。
危険を伴うところに初音ちゃんも彼女も連れて行くわけには行かないだろう。
だが梓は鎌石村に向かっている、なんとかして止めなくてなならない。
彼女らをここに置いて? それこそ出来るわけが無い。
88 :
鬼の王の選択:2006/12/18(月) 18:28:42 ID:+hi1XfwY0
選べない選択の前に耕一は唸りながらも、ゆっくりとパソコンの前に置かれた椅子へと腰掛ける。
「――耕一さん?」
その姿に有紀寧の声は震えていた。
「無駄かもしれないが、これを使って梓に呼びかけてみる」
「そんなっ!」
「わかってるさ、これを書いたところで梓が見る可能性だって無いに等しい。
だがやらないよりは絶対マシな事だ」
「誰が書いたかわからないんですよ? 嘘だと思われるかもしれないんですよ?」
「それでもだ」
有紀寧の制止に耳を貸さず、耕一はキーボードを叩き続ける。
よろよろと有紀寧は後ずさりながら震えていた。
彼を止めることは不可能だ。そしてこのままだと最悪の事態が起きる。
チラリと部屋の片隅に目を見やる。そこには置かれていった祐介の鞄。
同時に左ポケットへと手を入れる。ゴツリとした感触。
それを握り締めると有紀寧は一つの覚悟を決め、ゆっくりと息をついた。
キーボードを叩く手が止まり、耕一が画面を凝視していた。
=============================================
自分の安否を報告するスレッド
6:柏木耕一:二日目 08:36:10 ID:pdh2rLcYc
梓、初音ちゃんは見つけた。
もしこれを見ていたらすぐに俺の向かったところに来てくれ!
上を見ればわかるだろう、そこは危険だ!
千鶴さんも、これを見たら返事をくれ!!
=============================================
回避
再回避
idで有紀寧の自演ばれそうだなw
回避
92 :
鬼の王の選択:2006/12/18(月) 18:31:27 ID:+hi1XfwY0
「初音ちゃん」
「ん?」
「ここに岡崎朋也ってやつのはいたのか?」
「え? ここにいたのはずっと私達だけだったと思うけど」
「それじゃIDが同じってのはどう言うことだ?」
そう言いながら耕一が有紀寧に大して振り返ったほぼ直後。
ポケットの中のリモコンを取り出すと有紀寧はそのスイッチを二人に向かって押していた。
耕一と初音の首輪が紅く点滅を始めるのにたいし、二人は有紀寧の行動の意味がわからずに呆然としていた。
「本当に残念です……あなたなら良い盾になってくれると思ったのですが……」
「「え?」」
そして祐介のバックからコルト・パイソンを取り出し、リモコンと一緒に二人へと突きつけた。
「二度は言いませんのでちゃんと聞いてくださいね。発言も禁止します。
――今、このリモコンであなた方の首輪の爆弾を作動させました」
「なっ!?」
「あ、動かないでくださいね。どんなに早く私を捕まえようとしても、間違いなく私が爆破するほうが早いですから」
身構えた耕一を有紀寧の言葉が重く制し、耕一は鬼の形相で睨みつける。
「大丈夫ですよ、私の言うとおりにしていただければ解除して差し上げますから」
今まで見せていた笑みと何も変わらない有紀寧の表情がとても恐ろしいものに見えた初音が震えながら口を開いていた。
「有紀寧お姉ちゃん……なんで?」
「なんでもなにも、私はこの殺し合いに乗っていますから」
再び変わらぬ笑顔で、いやそれ以上に満面の笑みを浮かべて有紀寧は言い放つ。
「そうですね差し当たって10人ほど……さすがに多すぎますかね、5人にしましょう。
次の放送までに5人殺して、ご自身の名前と殺した方のお名前を掲示板に書き込んでください。
放送で呼ばれた名前と書き込まれた名前が一致したなら次の指令を出します」
笑みを全く崩すことなく有紀寧が淡々と告げる。
93 :
鬼の王の選択:2006/12/18(月) 18:32:14 ID:+hi1XfwY0
「勿論、パソコンが見つからなかったらそこでゲームオーバーですので時間には余裕を持って行動することをお勧めしますね。
場所は……鎌石村は掲示板を見ても予想がつくとおり、すでにいろいろ起きそうな気がしますので平瀬村にしましょうか。
勿論そっちに向かってもらっても結構ですよ? ただし私に危険が及ばないように氷川村では行動を起こさないようにお願いします。
もっとも、初音ちゃんがいますしそんなことはしないでしょうけどね」
「そんな要求呑むと思っているのか?」
「思っていますよ。そうしないと二人とも死ぬんですから。
それとも見知らぬ他人を助けて、柏木さん……初音さんを見殺しにしますか?
ああ、言い忘れてましたが爆弾は解除しないと48時間以内に爆発しますので急いだほうがよろしいかと」
「!?」
「今は……8:45ですか。迷っている暇は無いと思いますよ? そして勿論選択肢もあなたには無いかと」
言いながら有紀寧は初音に向かって手招きする。
「彼女はこちらで預かっておきますね、危険でしょうし。大丈夫、私が必ずお守りします」
「……そんな言葉信じられると思うか?」
耕一が初音の身体を庇うように抱きしめながら言い放つ。
「ですから、信じる信じないの選択肢は無いのがお分かりになりませんか?
ほら時間は待ってはくれませんよ、それともここでお二方とも死にますか?」
「三、二……」と急かすように有紀寧がカウントを始めた直後、耕一は「くそっ」と叫びながら
窓ガラスを突き破り、振り返りもせず地を蹴って駆け出していった。
「お兄ちゃんっ!」
全力で遠ざかっていく耕一の後姿に初音が懸命に叫ぶも耕一は何も答えない。
みるみるうちに遠ざかっていく耕一の後姿に有紀寧は満足そうに笑みを漏らすと
震えながら自身に振り返った初音に対して、出会ってから過ごしていた時と同じ笑顔で笑うのだった。
「――祐介さん遅いですね……戻ってきたら喜んでいただけるようにお食事の準備でもしましょうか」
回避
95 :
鬼の王の選択:2006/12/18(月) 18:33:22 ID:+hi1XfwY0
【時間:2日目8:45】
【場所:I-6上部】
宮沢有紀寧
【所持品:コルトバイソン(6/6)、スイッチ(3/6)、ゴルフクラブ、支給品一式】
【状態:前腕軽傷(治療済み)、強い駒を隷属させる、祐介の帰りを待つ】
柏木初音
【所持品:鋸、支給品一式】
【状態:首輪爆破まであと二十四時間】
柏木耕一
【所持品:大きなハンマー・支給品一式】
【状態:首輪爆破まであと二十四時間 彼の行動や目的地は後続任せ】
【備考】
祐介の他の荷物(予備弾×19、包帯、消毒液、支給品一式)は家の中
有紀寧の「首輪爆破まで48時間」はブラフ、本当は24時間で爆破される
【関連:510・520 B13など】
回避ありがとうございました(ペコリ
あの後私と柳川さんは瑠璃さんの遺体を埋めるのを手伝いました。
珊瑚さんはその作業をしている間もずっと泣き続けていました。
瑠璃さんと珊瑚さんはきっと私と舞のようにお互いがお互いにとってかけがえの無い存在だったのでしょう……。
一人残された珊瑚さんの気持ちを思うと胸が締め付けられる様な気分になります。
常々『感傷に浸っている暇は無い』と言っている柳川さんが黙ってお手伝いをしていたのも、珊瑚さんの気持ちを考えての事だと思います。
「畜生、どうしてこんな事に……」
瑠璃さんの遺体を埋め終えた後、浩之さんがぼそっと呟きました。
浩之さんから聞いた話では先程の襲撃者は浩之さんのお知り合いの方だったようです。
知り合い同士で殺し合う…とても不毛で悲しい事です。
ですがそれがこの島では当然のように起こっています。
きっと理由なんて無い…参加者の誰かのせいだという物では無いのです。
だから私が言うべき事は決まっています。
それはかつて柳川さんが私に言った事と同じ―――
「悪いのは全てこのゲームを仕組んだ人です…ですから私達がすべき事は決まっていると思います。佐祐理には柳川さんのような力は無いけれど…それでも生きている限りは精一杯戦うつもりです」
それが私の誓いだから。柳川さんから学んだこの島での生き方だから。
その結果命を落とす事になったとしても、後悔なんてしない。
私の言葉を聞いた浩之さんは袖で涙を拭いました。
「ああ、元からそのつもりさ……。主催者の奴ら、絶対に許さねえ!」
「私も…私なんかに何が出来るかは分からないけど、浩之君と一緒に頑張るよ」
「ええ、みんなで力を合わせればきっと何とかなります。希望を捨てずに行きましょう」
皆、目的は同じ。浩之さんとみさきさんは迷わず即答してくれました。
みんな力が無いなりに前を向いて生きていこうとしているのです。
ですが、柳川さんが厳しい声でその流れを止めました。
「お前達にその覚悟はあるのか?」
「え?」
「戦うという事は自分が死ぬかもしれないという事だけではない…人を殺すという事でもある。ゲームに乗った者と遭遇したのならば躊躇無く殺さなければならない。
例えそれが知り合いであろうともな。人を殺したという罪を背負って生きていかねばならない……。倉田も含めて、お前達に本当にその覚悟があるのか?」
「…………」
その問い掛けに私は答える事が出来ませんでした。
――――人を殺す覚悟。
友人を自らの手で殺す事も厭わない程の頑強な意思。
柳川さんは確かにそれを持っていると思います。ですが私にその覚悟はありません。
万が一舞がゲームに乗っていたとしても、私は舞を撃てないでしょうから……。
黙り込んでいる私とは対照的に、浩之さんは反論を始めました。
「それは違うぜ…そんな覚悟はいらねえ。俺は守る為の覚悟を持って生きていく。俺は知り合いがゲームに乗っていたら、何としてでも止める。
諦めずに話し合えばきっといつかは分かり合える筈だ」
「それは普段の生活ならば正しいがこの島では理想論に過ぎない。その理想論で行動した結果が、あの娘の死ではないのか?」
「そ、それは……」
「俺は知り合いであろうとゲームに乗っている者は容赦無く殺す。例え一人ででも絶対に主催者を仕留めてみせる。
あの娘の死を無駄にしたくないのなら、お前達も覚悟を決める事だな。今すぐにとは言わん……。だが理想だけでは人は救えないのは紛れも無い事実だ。
いずれ選択をすべき時が必ず来る。それまでによくその事を考えておけ」
そう言うと柳川さんは背を向けて一人で歩きはじめました。
口調とは裏腹にその背中はとても寂しげなものに見えました。
私は知っています…柳川さんが本当は人を殺したくないと思っている事を。
苦しみながら戦い続けているという事を。
厳しい言葉の数々も、全てはその事を隠す為の鎧のようなものです。
だけど柳川さんの性格では絶対にその事を認めようとはしないでしょう……。
ですから今私が出来る事は一つだけ。黙って傍で支え続ける事だけが私の出来る事。
私は一人で歩き去ろうとする柳川さんを追いかけ、その手を掴みました。
「待ってください、佐祐理も行きます。一人で行くなんて認めませんっ!」
「そうか。……そうだな。そもそも俺達は倉田の知り合いを探しに平瀬村へと向かっていたんだったな……」
「ええ、ですから柳川さん一人では行かせません。それに佐祐理にもお手伝い出来る事はあると思います」
「俺達も一緒に行くよ。あんたのやり方に賛同した訳じゃないが目的は同じだ。だったら俺達とあんたは協力するべき仲間だ」
浩之さんの一言で柳川さんはキョトンとした表情になりました。
きっと浩之さんまでそう言ってくれるとは思っていなかったのでしょう。
押し隠してはいるもののその面持ちはどこか嬉しそうで――――私は思わずくすっと笑ってしまいました。
そんな私と一瞬目が合って、柳川さんはバツが悪そうに視線を逸らしました。
「……ふん、邪魔さえしないのならば好きにするが良い」
「ああ、そうさせて貰うよ。……珊瑚、いけるか?」
浩之さんは様子を窺うように珊瑚さんに声を掛けました。
すると珊瑚さんはゆっくりと立ち上がって、こちらに振り向きました。
その顔にはまだ涙の跡が残っていましたが、もう泣いてはいませんでした。
その表情は何かを決意したような表情で。
「うん、もう大丈夫…ウチはいっちゃんに救われた、瑠璃ちゃんに救われた。ウチの命は3人分や―――3人分頑張らないと瑠璃ちゃんといっちゃんに怒られちゃうわ。
せやから、もう行こう?最後まで希望は捨てないって、浩之も言うたやんか」
「……珊瑚も瑠璃も強いんだな。俺、お前達に励まされてばっかりだ」
私は瑠璃さんがどのような方だったのか、よく知りません。
ですが瑠璃さんは何も遺さずに死んだのではない―――『強さ』を浩之さん達に遺して死んだ。
そしてそれが受け継がれる限り、瑠璃さんは浩之さん達の中で生き続ける。
親から子へ。子から孫へ。人類は意思を託して進化してきました。
人とはそのようにして生きていくものだと私は信じています。
浩之さんは瑠璃さんが埋められた場所へと歩いてゆき、祈るように手を合わせてお辞儀をしました。
「守ってやれなくてすまない…せめて安らかに眠ってくれ」
「……浩之君、それは違うよ」
「川名?」
「こういう時は笑って『行ってきます』って言うんだよ。じゃないと瑠璃ちゃんが心配しちゃうよ?」
「……分かった。それじゃ最後はみんなで……」
「「「「『行ってきます』」」」」
最後には笑顔で。涙を堪えての笑顔はとても不自然で、端から見れば滑稽な光景だろうけど。
瑠璃さんの『強さ』を私も受け継いで生きていきたい。舞や祐一さん―――それに柳川さんと一緒に日常に帰れる日を夢見て。
私は生きていく。
【時間:2日目 8:40過ぎ】
【場所:G-5(移動中)】
藤田浩之
【所持品:なし】
【状態:柳川に同行、人を殺す気は無い】
川名みさき
【所持品:なし】
【状態:柳川に同行、人を殺す気は無い】
姫百合珊瑚
【持ち物:デイパック、水(半分)食料(3分の1)】
【状態:柳川に同行】
柳川祐也
【所持品@:出刃包丁(少し傷んでいる)、S&W M1076 残弾数(4/6)予備マガジン(7発入り×4)】
【所持品A、コルト・ディテクティブスペシャル(2/6)、支給品一式×2】
【状態:左肩と脇腹の治療は完了したが治りきってはいない、教会を経由して平瀬村へ】
倉田佐祐理
【所持品:支給品一式、救急箱、二連式デリンジャー(残弾2発)、吹き矢セット(青×5:麻酔薬、赤×3:効能不明、黄×3:効能不明)】
【状態:舞の捜索、柳川に同行】
【関連】
B−13
→528
101 :
準備は万端?:2006/12/18(月) 20:04:14 ID:7AwkFJSn0
「…なぁ茜。どうして私達は殴り合いをしてたんだ?」
数十分にも及ぶガチンコ対決。結局両者共倒れとなり今は二人して無様に床に転がっている。けれども、二人の顔は先ほどとは一転して晴れ晴れとした顔になっていた。
「…さぁ? どうしてでしょう」
今にして思えばどうしてここまでのケンカに発展したのか分からない。というか、もうどうでもいい。
「しかし…茜って結構根性あるんだな。あまり言いたくなかったんだが…私は住んでいる街では誰にも負けたことがなかったんだけどな」
要はケンカが強く敵無しだったということらしい。確かに、蹴りはものすごく痛かった。
「忍耐力だけはありますから」
「なるほど」
智代はそう言うと、よっこらしょといった感じで起きあがった。
「さて…そろそろ本格的に動くか。味方が集まらない以上は自分達で何とかするしかない。装備を整えて出発だ」
「…装備、って何かアテがあるのですか」
「ここは倉庫だぞ? 少なくとも、フォークよりマシなものはいくらでもあると思うが」
「なるほど」
茜はそう言うと、よいしょといった感じで起きあがった。
「まだ詳しくは調べてないからな…何か有用なものがあるかもしれないな」
「そうでなければ困りますけどね…」
まず二人は奥にある工具の物置から探すことにした。まずは武器が大前提だ。適当に見繕って、これはどうかと互いに見せ合っていく。
「茜、これなんかどうだ? 携帯用チェーンソーがあるぞ」
「重過ぎです。第一、近接戦以外では意味が無いじゃないですか」
「そうか…神殺しもできるくらいだからいいと思ったんだが…」
そんな知識どこで学んだのか、と突っ込みをいれたくなったがそれを知っている自分もどうかと思ったので、やめた。
「智代、電動釘打ち機がありますけど…どうですか」
「いいんじゃないか? 一応は銃器の代わりにもなるしな。釘の数は?」
「かなり多そうです。弾切れの不安はなさそうですが」
なら持っていこう、と智代が言ったので茜はデイパックに詰めて次を探す。
102 :
準備は万端?:2006/12/18(月) 20:04:57 ID:7AwkFJSn0
「茜。ペンチがたくさんあるぞ。何本か持っていこうか」
投擲用だろうか。チェーンソーよりは悪くない。いいんじゃないですか、と言うと智代は2〜3本ほどデイパックに詰めこんだ。
「武器はこのへんでいいでしょう。次はどうします?」
「そうだな…防具も整えた方がいいんじゃないか?」
「防具って…もしかして、ヘルメットとかですか」
「ああ、そうだが? まあ他にも何かあるかもしれないが」
ヘルメットなんて中学生以来じゃないだろうか。ふっ、と茜の頭に自転車で漕ぎまわる昔の自分が浮かんだ。
ヘル中…と懐かしんでいると智代からヘルメットが一個投げられた。お約束通り、『安全第一』と書かれている。
さらにいいものはないかと智代は色々と漁っている。手伝おうか、と思った時、智代が声を張り上げた。
「茜、いいものが手に入ったぞ」
「いいもの?」
「湯たんぽだ」
なんと懐かしい。茜の頭に1960年代のほのかな香りが漂ってくる。…と、トリップしかけたとき、茜はあることに気付いた。
「…って、こんなものどうするんです。水でも入れて持ち運ぶんですか」
それもあるけどな、と智代が言い、それから自らの腹をどんどんと叩いた。
「メインはこっちだ。腹に仕込んでおけば擬似防弾チョッキになるぞ。何はなくとも金属製だからな」
なるほど。紐でも使って括り付けておけば効果は十分だろう。しかし…
「智代、ちょっと腹に入れてみてくれませんか」
「構わないが…どうしたんだ」
「いえ、少し気になることがあるので…」
少し首を傾げたが、言われた通り服の中に入れる。すると、思っていた通り、奇妙な出っ張りが出来てしまっていた。これでは、服の中に何か仕込んでいるのがバレバレである。
103 :
準備は万端?:2006/12/18(月) 20:05:50 ID:7AwkFJSn0
「ダメですね…ボテ腹にも見えません」
「妙な言い方をするな…あ、そうだ! いい方法がある」
言うなり智代はかけてあった作業着を取り出す。…まさか。
「どうだ茜、この作業着を服の上から着込んでおけばバレないと思うぞ」
自信まんまんに言う智代。確かに、グッドな方法ではあるが…
が、ベストな方法がないのも事実。…了解です、と頷いて茜と智代は作業着を着込むことにした。
* * *
着替えた後。二人して鏡を見ながら茜は智代に呟く。
「智代…ぶっちゃけたこと、言っていいですか」
「…何だ?」
「これなんて作業員のオッサンですか」
頭にヘルメット。体を覆う作業着。電動釘打ち機。ペンチ。どこからどう見ても工場で働く作業員の姿だった。
「…言うな、私だって思ってたんだ」
命には代えられないとは言え、明らかにおかしな二人組である。はぁ、と二人分のため息が洩れた後、智代が行こうか、と言って荷物を取りに行こうとした。
「あ、待って下さい。後一つだけ気になることがあります」
茜はそう言うと、部屋の隅に目立たないように置かれていたパソコンの側へと行く。色々探している間に偶然見かけたものであった。
「どうした…? それも持って行くのか?」
「いえ、持っては行きませんけど…何か有用な情報があるんじゃないかと思って」
カチ、とボタンを押しパソコンの電源を入れる。程なくしてディスプレイにいくつかのアイコンが表示される。
「…流石に、インターネットは使えませんか。他には…『参加者の方へ』? 一応、開いてみますか。…channel.exe? 智代、何だと思います、これ?」
「さぁ…私はそのへんには詳しくないからな。開いてみるか」
はい、と茜が返事してアイコンをダブルクリックする。すると、某巨大掲示板のような見覚えのある壺が表示される。
104 :
準備は万端?:2006/12/18(月) 20:06:26 ID:7AwkFJSn0
「…悪趣味ですね」「まったくだ」
二人とも利用はほとんどしたことはないがインスパイア…いやパクリだという事は一目で分かった。
「スレッドがいくつかあるようですけど…どれから見ます?」
「あまり見たくはないが…死亡者の報告のスレッドだ」
ひょっとしたら、また新たに死亡者が出ているかもしれない。茜が、そのスレを開く。そこには管理人とものと思しき書きこみの後、ずらりと死亡者が並べられていた。そして、その中にあった何人かの名前に、智代が目を見開く。
「春原…古河…それに、仁科もか」
「…知り合いですか?」
「…いや、仁科以外は違うが…友人の家族らしい人物が何人かいたんだ」
苦渋に満ちた声で智代が言う。刻一刻と死者は増えつづけている。
「気になりますか」
「春原はともかくとして…古河の方がな。しかし、目的を放っては置けない。信じるしかないな、まだ無事なことを」
本当は今すぐにでもその友人を探しに行きたいのだろう。茜も少しだけクラスメイトのことが気がかりだったが、口に出すわけにもいかなかった。
「…次に行きます。『自分の安否を報告するスレッド』に飛びますよ」
茜がクリックし、スレを開く。
「藤林…あいつが書きこんでいたのか。…ああ、構わない、進めていいぞ」
それから順々に読み進める。すると、一番最後に気になる書きこみを見つけた。
「岡崎!? あいつっ…何をやっているんだ!」
「どうしたのですか」
「いや、知り合いなんだが…くそ、これじゃ敵に場所を知らせてるようなもんだぞ。あのバカ」
苦々しく呟く。茜から見ても、これでは賢い行動とは思えない。
「…しかし、おかしい部分もあるな。あいつ…岡崎は敬語なんて使うような奴じゃないんだが」
その言葉を聞いた茜はピンと来た。
「偽の書きこみ…いわゆる騙り、ですか?」
「かもしれない、いや、その可能性の方が大きい。しかし、ウソとも言い切れない」
「どうします、役場に向かいますか、それとも無視しますか」
智代はしばらく悩んだが、やがて行こう、と言い出した。
「たとえウソであっても…これを信じてやってくる人間もいるはずだ。マーダーもな。…なら、先に行ってそれを迎撃することも可能なはず」
105 :
準備は万端?:2006/12/18(月) 20:06:58 ID:7AwkFJSn0
「…要は、敵の数を減らしに行く、というわけですか」
「味方を増やす意味もある。どちらにしても、意味も無く動き回るよりはいい」
うん、と茜も頷く。
「それには同意です。だったら、なるべく早く向かったほうがいいでしょう。迎撃にも準備が必要かと」
だな、と智代も言い、パソコンの電源を切ると荷物を取り、準備を整えた。
「よし、行くかっ」
智代の声を起点にして、二人は再び外の世界へ飛び出していった。
【時間:2日目3:30】
【場所:F−2、倉庫】
坂上智代
【持ち物:手斧、ペンチ数本、ヘルメット、湯たんぽ、支給品一式】
【状態:作業着姿。鎌石村役場まで行く】
里村茜
【持ち物:フォーク、電動釘打ち機(15/15)、釘の予備(50本)、ヘルメット、湯たんぽ、支給品一式】
【状態:作業着姿。鎌石村役場まで行く】
【備考:B-10】
106 :
死神の誕生:2006/12/18(月) 23:45:55 ID:dE9SkPjyO
天沢郁未は診療所を発ってすぐに診療所から少し離れたところで民家を発見した。
「……まずは何か武器になるものを探さないとね」
――玄関の鍵は開いていた。先客か中に人がいるのかと思い、慎重にドアを開く。
「………血の匂い」
玄関を開けた早々血の匂いを感じ取った郁未は、いつでも脱出態勢に入れるよう警戒しながら家の中に侵入した。
入ってすぐに郁未は佐藤雅司の死体と血塗れの男女の制服を発見した。
死体の周辺には雅司の血と脳髄がこれでもかというくらい飛び散っていた。
「随分と派手に殺ったみたいね………あら?」
ふと目を向けると、血塗れの制服の近くに一冊のぼろぼろなノートが置いてあった。
「何かしらこれ……?」
郁未はノートを拾い、早速それを開いてみた。
だが、ノートには何も書かれていなかった。 ――――表紙の裏にあった英文を除いて………
「英文か……面倒ね………なになに……『使い方……これは……死神のノートです。このノートに名前を書かれた人間は……死ぬ』って、え!?」
郁未は一瞬我が目を疑った。だが、何度読み返してもそこにはそう書いてあった。
「ま……まさかね」
そんなおいしい話があるわけないと思い、郁未はノートを捨てようとした。
――しかし、気になって捨てることができなかった。
「………………」
とりあえず英文はまだ全て読み終えていなかったので、郁未は民家の本棚から英和辞典を見つけてノートに書かれていた文を訳してみることにした。
107 :
死神の誕生:2006/12/18(月) 23:47:23 ID:dE9SkPjyO
1時間以上かけて郁未はある程度英文を訳すことに成功した。
「はは…自分でもびっくりだわ……生き残れたら翻訳家の仕事でもはじめようかしら?」
郁未が訳せた文によると、ノートの使い方は以下の通りである。
・ノートに名前を書かれた人間は40秒後に心臓麻痺で死ぬ
・書く名前は本名をフルネームで書かなければ効果を発揮しない
・さらに、殺せる対象はノートの持ち主が殺したい相手の素顔を知っている者のみに限られる
・名前の後に死因を書くと書かれた人間はその通りに死ぬ
「もしこれが本当のことならこのノートはこのゲームにおいて凄い強力な武器だわ……………」
自身のノートをもつ手が震えているのが郁未には判った。
(――本当かどうか、早速試してみるとしますか……)
そう決断すると郁未は早速ノートの力を試してみようと民家を後にした。
万一のことも考え、台所から包丁も拝借して………
民家を出て20分ほど歩いたところで郁未は立ち止まり考えた。
(――やっぱり試すなら殺す人間の近くにいた方がいいわよね………?)
それならば、しばらくはこれから先初対面の人間には自身がゲームに乗っていることを隠していたほうがよさそうだ、と郁未は判断した。
そのほうが他の参加者にも近づきやすいし、何よりノートの実験もしやすいからだ。
(そうと決まれば……早速モルモットを探すとしますか………)
郁未がノートの実験台を求めて歩きだそうとしたその時、ふと物音が聞こえた。
―――ガラスの割れる音だ。それもそう遠くはない。
さらに少女の声や誰かが大急ぎで駆けていく足音も聞こえた。
108 :
死神の誕生:2006/12/18(月) 23:49:09 ID:dE9SkPjyO
「―――!?」
咄嗟に近くの物陰に1度身を隠す。
―――1分ほど警戒していたところで問題ないと判断し郁未は物陰から姿を現わした。
(早速人を見つけた……!)
そして、一瞬にやりと口元を吊り上げると音が聞こえた方へと一気に駆け出していった。
天沢郁未
【時間:2日目・8:50】
【場所:I−6】
【所持品:死神のノート、包丁、他支給品一式】
【状態:隠れマーダー化。音がした方に行く。まずはノートの実験台を探す。右腕・頭部軽傷(治療済み)。最終的な目的は不明(少年を探す?)】
109 :
運命の女神:2006/12/19(火) 04:05:32 ID:F3MRN1wJ0
「何故君達は争っているのかね?」
戦いの場に突然現れた第三者。
霧島聖はこの場でただ一人銃を持っていないにも関わらず、臆する事も無く語りかけた。
貴明と冬弥は若干面食らいながらも各々の見解を述べるべく口を開いた。
「そこの男が女の子を殺そうと追っていた。だから俺は攻撃を仕掛けた。悪いか?」
まるで悪びれた様子も無く、平然と冬弥は言い放った。
謂れの無い罪を被せられた貴明は当然黙ってはいられない。
「違うっ!確かに俺は女の子を追っかけていたけど、殺そうとなんてしていない!」
「見苦しい言い訳を………あの女の子の恐怖で歪んだ表情を俺は見たんだ!」
「それは………」
「もう良い、これ以上話してても時間の無駄だ!」
冬弥はそう言うと再び感情の赴くままに攻撃を仕掛けようとP90を構え直した。
「く……」
貴明もそのまま蜂の巣になる気は無いので、応戦するべくレミントンを冬弥へと向ける。
一触即発の状態だったが、またも聖の叫びが両者の動きを止めた。
「待ちたまえ!まだ話の途中だ………せめて最後まで話を聞いてからでも遅くはないだろう?」
冬弥は銃を構えたまま少し考え込んだ末、結局聖の言う事に従い銃口を下ろした。
勿論何時でも回避動作を取れるような態勢をとったままだったが。
貴明もそれに習い、ともかく二人の戦闘再開はほんの少しだけお預けを食らう事となった。
「と、自己紹介が遅れたな、私は霧島聖……しがない町医者だ。君達の名前は?」
「…………河野貴明です」
「藤井冬弥だ」
「では河野君、事情を聞かせてくれないか?君が何故少女を追っていたかだ。
ちなみにその少女と思われる人物は今は私の仲間が介抱しているから心配は無用だ」
その言葉を聞いて貴明はホッと安堵の息を漏らした後、
気を落ち着けるように深呼吸してから話し出した。
「あの女の子、凄い混乱してるみたいで……俺と仲間達は何もしてないのにいきなり攻撃してきて、そのまま逃げ出したんです。
あれだけ錯乱している状態で放っておいたら危ないと思って、それでとにかく落ち着かせようと思って追い掛けていたんです」
110 :
運命の女神:2006/12/19(火) 04:08:11 ID:F3MRN1wJ0
「そうか……河野君の言い分は分かった。追いかけたのは逆効果だ、それでは余計に相手を怯えさせてしまうだけだろう。
だがやり方こそ間違っていたものの、君が嘘を付いているような感じは見受けられない。
信用出来ると思うんだが、藤井君はどう思うかね?」
話を振られた冬弥は少し時間を置いた事が功を奏したのか、さっきまでより随分と落ち着いた様子で口を開いた。
「そうだな……俺も河野君は嘘を言ってないと思う。聖さんの仲間が女の子を保護してるって聞いた時、河野君はホッとしてたからな。
演技が上手いタイプにはとても見えない。俺も信じるよ。ただ………」
「ただ……何だね?」
冬弥は一呼吸置いて再び喋りだした。
とても、暗い声で。
「あんた達、森川由綺って知ってるか?」
「それってアイドルの……?」
「ああ。そして……俺の恋人だった女性だ」
「っ!?」
それきり場を重い沈黙が支配する。
貴明は驚きを隠せないでいた。
森川由綺という名の女性がこのゲームに参加しているのは知っていたが、まさかアイドルの森川由綺だとは思わなかった。
だがそれ以上に森川由綺と恋人だったという冬弥の言葉に動揺していた。
恋人『だった』。その言葉の通り、森川由綺はもうこの世にはいない。
大切な人を殺された人間が何を考えるか。それは余りにも予想が容易いものだ。
沈黙を破ったのは冬弥だった。
「俺は由綺を殺した人間を探しだし……復讐するつもりだ。だから由綺を殺した奴について何か知っていれば、教えてくれ」
「ふむ……止めても無駄そうだな……」
「ああ、黙秘する事も許さない。俺は由綺の仇を討つ為になら何だってするさ」
そこまで聞いて聖はすぐに冬弥の説得を諦めた。淡々とした口調で語っていた冬弥だったが、その奥底にはとても強い感情が感じられた。
それは余りにも深い憎悪。そして聖はそれがどのようなものかを知っている。
医者という己の身、そして同行者のことみの存在が、聖に正気を保たせ的確な判断力を維持させたのだ。
聖とて医者という職に就いている身で無ければ、そしてもし一人で行動していたら佳乃を殺した者への復讐に走っていたかもしれない。
だから聖には、今の冬弥の心にはどんな言葉も届かない事が分かった。
ならば今はこの場を穏便に収めるのが最良の選択だった。
111 :
運命の女神:2006/12/19(火) 04:10:48 ID:F3MRN1wJ0
「そうか……。すまないが、森川由綺はこの島に来てから一度も見ていない。アイドルの森川由綺の顔なら知っているし、間違いない。
森川由綺を殺した人物の情報も持っていない」
「分かった。河野君、君はどうだ?」
「………聖さんと同じだよ。悪いけど藤井さんの仇については何も知らない」
「外れか………」
冬弥は小さな溜息を吐いた。
落胆の色が明らかに見て取れたが、彼にとってはこの方が良かったのではないか、と聖は思った。
復讐など馬鹿げている。そんな事をしても憎しみが憎しみを生んで最後には悲しみだけが残るだけだ。
死んだしまった者に報いようと思うなら、その者の分も生き続ける事が大切なのだ。
だが今それを説いても彼は変わらないだろう。
ならばせめて彼が正気に戻るまで、仇に辿り着いて欲しくなかった。
そうすればまだ戻れるかもしれないから。
だが、運命の女神はとことん聖を嫌っているようで。
「な……」
貴明が驚きの声をあげる。
冬弥の銃口が、再び自分に向けられたからだ。
「ならもうお前達には用は無い。死んでもらう」
冬弥は冷たくそう言い放つ。
その一言で聖も貴明も理解した。
この男は狂気に身を任せ、ゲームに乗ったのだと。
今まで自分達を撃たなかったのは自分達をマーダー………つまり森川由綺の仇である可能性が無いと判断したから。
だから冬弥は無差別殺人よりも優先順位の高い目標、森川由綺の仇の情報を得ようとしたに過ぎない。
―――コインは裏だった。
藤井冬弥はもう、戻れないのかもしれない。
112 :
運命の女神:2006/12/19(火) 04:12:15 ID:F3MRN1wJ0
【時間:2日目7:10】
霧島聖
【場所:C−6(観音堂周辺)】
【持ち物:ベアークロー、支給品一式、治療用の道具一式】
【状態:焦り】
河野貴明
【場所:C−6(観音堂周辺)】
【所持品:Remington M870(残弾数2/4)、予備弾(12番ゲージ)×24、SIG・P232(残弾数2/7)仕込み鉄扇、ほか支給品一式】
【状態:左腕に刺し傷(治療済み)、左足にかすり傷、焦り】
藤井冬弥
【場所:C−6(観音堂周辺)】
【所持品:FN P90(残弾24/50)、ほか支給品一式】
【状態:マーダー、最終目標は森川由綺の仇の殺害。今は貴明と聖の殺害を目論む】
(関連564・ルートB-13)
『こ……これは……!』
『どうした、並列世界検索班!?』
だんご大家族は相変わらず大騒ぎである。
『は、いえ、しかし……まさか、こんな……』
『構わん、報告しろ!』
どうも先程と似たような展開だが、所詮だんごのやることなのであまり気にしてはいけない。
『は。……実に、実に驚くべきことですが……どうやらこの世界に、自力で異なる次元への道を
切り開いた者がいるようです』
『何だと……! 観測ミスではないのだな……!?』
『はい、すべての数値がそれを裏付けています……しかし信じられません。まさか、こんな……』
『ああ、我々以外にそのようなことができる者がいたとはな……』
『現地探索班の報告によれば、他にも通常の人間では考えられないようなミタラシ値が、
この島のいたるところで確認されている模様です』
『むぅ……この島でいったい何が起きようとしているのだ……いや、今は考えるまい。
―――観測された異次元回廊の詳細なデータを回してくれ』
『3番の串で転送します』
『む……対象世界を侵蝕し、塗り替えるタイプの回廊か……これならば、あるいは……』
『はい、こちら側にもアンコ痕が多量に残っています。痕跡をトレースすることは充分に可能です』
『うむ……椎名繭の存在する次元断片は確認されている。あとはその開かれた次元ゲートをカタパルトとして、
主を射出すれば……』
『理論上では、問題なく転送可能です』
『うむ、これで主への義理が果たせるというものだ。……僥倖と言わねばならんな』
しばらくの間を置いて、折原浩平の持つカバンから厳かな声が響いた。
『ごほん。……あー、待たせたなお兄ちゃん』
「……ん? ああ、だんごか。どうした?」
『古河渚ちゃんの居場所が判った。これよりナビゲートする』
「そうか、その手があったな! ……って、できるなら最初からそうしろよ」
『我らにも都合というものがあるのだ。それよりも急いでくれお兄ちゃん』
「ああ、分かってる。繭のためにも、一刻も早くお前らを送り届けなきゃな!」
-----
「今朝は冷えますね……」
ぐっすりと眠る愛娘の寝顔を見つめながら、古河早苗は呟く。
窓の外からは相変わらず雨音が響いていた。
しかしそこから見える景色は既に、灰色の薄明かりに包まれている。
夜が明けはじめているのだった。
「秋生さん、風邪なんてひいていないといいんですけど……」
最愛の亭主の名を口にする早苗。
診療所の扉を叩く音がしたのは、そんなときであった。
控えめなノックに続いて、元気のいい声。
「ごめんくださーい」
「はーい、ちょっと待ってくださいね」
ごく普通に応対する早苗。
悪意というものにとことん無縁な人物であった。
ベッドから降りると、服の裾を軽く引っ張って皺をのばし、簡単に髪をまとめる。
扉を開けると、そこには一人の少年が立っていた。
人差し指をあごに当てると、小首を傾げて早苗が訊ねる。
「どちらさまでしょう」
「ええと……ここに、古河渚さんっていますか?」
少年、直球。
「あら、渚のお友達ですか。ごめんなさい、あの子まだ寝てるんですよ」
眉筋ひとつ動かさず、笑顔で捕球する早苗。
「雨の中、大変だったでしょう。立ち話もなんですし、中にどうぞ」
「え? ……はい、お邪魔します」
すっかり早苗のペースであった。
「―――どうしたんですか、お母さん……お客様ですか?」
「あら渚、起きたのね」
背後からの声に振り返る早苗。
寝ぼけ眼を擦りながら、渚が早苗と少年を見比べていた。
「なら、丁度いいですね。とりあえず朝ごはんにしましょう」
ぱん、と手を叩いて早苗が提案する。満面の笑顔である。
「ね、あなたも。……でもその前に、体を拭いたほうがいいですね。
そのままでは風邪をひいてしまいます」
夜通し雨の中を歩いてきた少年に、否やのあろうはずがなかった。
------
ずずー、とお茶をすする音が食卓に響いていた。
並んだ皿はあらかた空である。
「ごちそうさまでしたー」
「はい、お粗末さまでした」
言いながら皿を片付ける早苗、嬉しそうな表情。
少年の食べっぷりの良さにすっかり満足している。
「どれもホント、うまかったです。特にぴり辛バンバンジーなんか絶品でした」
「そう言っていただけると嬉しいですね。……時間がなくてパンが焼けなかったのが、少し残念ですけど」
「そ、それは、お父さんが帰ってきてからのお楽しみにしましょう」
なぜか慌てる渚を、少年は不思議そうに見る。
「……それで折原さん、渚にご用というのは」
「っと、そうだった。うまうまとごまドレッシングのサラダを頬張ってる場合じゃなかった」
早苗に言われて、少年はようやく診療所を訪ねてきた用件を思い出した。
折原浩平と名乗ったその少年は、がさごそと自分の荷物を探りだす。
「まずは、こいつを見てください」
言って、すっかり皿の片付けられたテーブルに並べられたのは、
「わ、だんご大家族ですっ」
出るわ出るわ、どこに詰まってたんだという量である。
中には一抱えもあるような大きさのものまであった。
回避
「これは?」
ぷにぷにと小さなだんごを指でつつきながら、早苗が訊ねる。
「俺の支給品です。話せば長いような、そうでもないような話なんですが……」
そう前置きして、浩平はこれまでの事情をかいつまんで説明した。
勿論、尿の排泄音がどうこうという部分は自主的にカットである。
「そうですか……。繭さんという方は、もう……」
「ええ、残念ながら。けど、こいつらの力なら、もう一度俺らを会わせることもできるっていうんで」
『そういうことだ、お兄ちゃん』
「わ、だんごが喋った!」
『はじめまして、渚ちゃん。我らの同胞を大層可愛がってくれていたようで、一族を代表して感謝を申し上げる』
『ありがとう!』『ありがとう渚ちゃん』『ありがと〜』『ダンケ!』
驚く渚に、わらわらと礼を口にするだんご父以下の大家族。
テーブルの上はにわかに大騒ぎである。一通り収まるのを待って、浩平が口を開く。
「……というわけで、こいつらをもらってやっていただけますか」
「え、いいんですかっ!」
「よかったですね、渚。きちんとお礼を言わなくてはね」
「はい! 本当にありがとうございます!」
ぺこり、と音がしそうなくらい深々と頭を下げる渚。慌てる浩平。
「いや、そんな感謝されるようなこと、俺やってないからさ……」
『照れているのか、お兄ちゃん』
「うるさいぞ。それより、約束は果たしたからな。今度はそっちの番だ」
『わかっておる。我ら大家族、何より義理を重んじるのでな』
回避
回避
回避
回避
ついさっきまで大いに焦っていたことなど微塵も感じさせない、堂々たる態度である。
これぞ一族を取りまとめる父の威厳であった。
『並列世界検索班、準備はいいか』
『はい、いつでも大丈夫です!』
『技術班はどうか』
『こちらも準備完了しました! いけます!』
『よし、装置起動のカウントダウンを開始するぞ。お兄ちゃん、そこに立つのだ』
「……ああ」
すっくと立ち上がった浩平に、早苗が少し残念そうに声をかける。
「もう、行ってしまわれるんですか」
「ええ。繭が待ってると思いますんで。あいつ、泣き虫だから早く行ってやらないと」
「そうですか……どうか、お幸せに」
「はい。なんだか早苗さんにはすっかりご馳走になっちゃって。ありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ渚が大層なものを頂いてしまって」
「ありがとうございますっ。だんご、だんごっ」
渚はすっかりだんごの虜である。
「今度、繭さんと二人でうちのパンを食べに来てくださいね」
「はは……ちょっと遠いかもしれませんけど、頑張ります」
そういって笑う浩平の背に、だんご父の声が飛ぶ。
『可能性を接続するぞ! 準備はいいな、お兄ちゃん!』
その声に親指を立てて応じる浩平。
「じゃあな、お前ら。渚さんと仲良くやれよ? 早苗さんと渚さんも、お元気で。
……っとこれ、つまらないものですが、旦那さんにどうぞ!」
回避
浩平が荷物の中から投げて寄越したのは、日本酒の一升瓶である。
それが、最後だった。
『目標次元断片座標、誤差修正完了! 経由次元座標、連動!』
『最終計算結果、問題ありません!』
『次元流、波穏やか!』
『……よし、可能性接続!』
『了解、可能性接続!』
だんごたちの声を合図に、浩平の姿が、まるで魔法のように掻き消えた。
『転移―――完了』
「す、すごいです」
「秋生さんにも見せてあげたかったですね……」
第二回の定時放送が聞こえてきたのは、その直後のことである。
【時間:2日目午前6時】
【場所:沖木島診療所(I−07)】
古河早苗
【所持品:日本酒(一升瓶)、ハリセン、支給品一式】
【状態:どうか、お幸せに】
古河渚
【所持品:だんご大家族(100人)、支給品不明】
【状態:だんごをありがとう】
折原浩平
【所持品:装置、支給品一式】
【状態:別次元へ】
→444 447 451 ルートD-2
>>117 >>119-122 >>124 ありがとうございました〜。
七瀬留美はあれから自転車を全力疾走させながら平瀬村を目指していた。
「えっと……神塚山を迂回してきたから今いるところは……D−4かE−4あたりかしら?」
左手に持っていた地図をちらりと見てだいたいの場所を確認すると、再び前を向きスピードを上げる。
(さっきの放送――もしかしたら藤井さんは殺し合いに乗ってしまったかもしれない………)
ここまで来る途中耳にした2回目の放送。
浩平たちが無事だったことにはほっとしたが、死者発表の後に流れた優勝者に与えられるという褒美のことを耳にした瞬間、留美は自身の顔色が青ざめていくのを感じた。
『優勝者はどんな願いもひとつだけ叶えられる』――そのようなことが本当にできるのか!?
罠という可能性も充分ある。だが、冬弥のように大切な人を失ってしまった者たちにとって(真偽はともかく)これほどおいしい話があるだろうか?
実際あのウサギは言っていたではないか『大事な人が死んだって優勝して生き返らせればいいだけだ』と………
(嫌だよ……あんな優しかった藤井さんが見ず知らずの人を次々と殺していくなんて………見たくないよ……考えたくないよ………)
自身を1人の女の子として見てくれたあの冬弥が一瞬のうちに血に汚れた殺戮者に代わる姿など留美は想像したくなかった。
(とにかく、急いで藤井さんを探さないと―――!)
気を取り直して留美は道無き道を自転車で走っていく。
その時……
パン!
「えっ!?」
突然銃声が聞こえた。それもすぐ近くからだ。
(また敵!?)
思わずブレーキをかけ、腰にねじ込んでいたデザート・イーグルを抜く。
「止まりなさい、そこの自転車!」
どこか聞き覚えのある声が近くの茂みのほうから聞こえてきた。
「抵抗しなければ命までは取ろうとしないわ。その荷物を置いていきなさい!」
その言葉と共に現れたのは銃を持った長髪で制服姿の少女であった。
――その姿を確認した途端思わず留美の口が開いた。
「…………柚木さん?」
「へ……? あ。確か茜と同じクラスで折原くんの友達の七瀬さん……だっけ?」
そう。留美の前に姿を見せた少女は114番・柚木詩子その人だった。
「美佐枝さん! 美佐江さん!」
「う……ん?」
誰かが呼ぶ声が聞こえたので相良美佐江はゆっくりと目を開いた。
目を開くとそこには自身を心配そうに見つめる小牧愛佳の姿があった。
「美佐江さん! ああ…よかった……ぜんぜん目を覚まさないから私心配で心配で……」
「うわっ!? ちょ…ちょっと。そんな…大げさよ愛佳ちゃん」
いきなり飛びついてきた愛佳に少し戸惑う美佐枝。
するとあることに気がついた。
「――あれ? 詩子ちゃんは?」
「あ…はい。柚木さんなら今周辺の見回りを……」
「小牧さーん、今戻ったよー。あっ。美佐江さん目を覚ましたんだね?」
愛佳が説明し終わる前に当の詩子が戻ってきた。
――後ろに自転車を転がす大荷物の少女を連れて。
「詩子ちゃん――ええ。ちょうど今ね。 ―――ところで、そっちの子は」
「ああ。この子は私の知り合いの……」
「七瀬留美です。相良美佐枝さんと小牧愛佳さんですね? 柚木さんからお話は聞いています」
留美は美佐江たちにぺこりと頭を下げた。
「ああ、こりゃご親切にどうも」
「は…はじめまして」
美佐枝と愛佳もつられて頭を下げてお辞儀をした。
「――さて。じゃあ美佐江さんも起きたことだし、説明しなきゃね」
「説明?」
「千鶴さんの……先ほど柚木さんたちを襲った人のことです………」
詩子と愛佳は自分たちが知っている千鶴に関する情報を全て美佐江に説明した。
一緒にいた留美も愛佳たちの話に耳を傾けた。
「――なるほどね……しかし何でゲームに乗っているはずのその人が愛佳ちゃんや私たちを殺さなかったんだろうね?」
「そうですね……殺せるならいつでも殺せたはずです」
「―――その人、迷っているんじゃないかな?」
「え?」
留美の口から出た言葉に3人が反応する。
「迷ってる?」
「うん。きっとその人……本当は凄く優しい人なんだよ。だから……上手くいけばその千鶴って人……説得できるかもしれない」
「なるほどね……だけどあの女は武器を持ってる。この先出会えてもそう簡単にこちらの話を聞いてくれるか判らないよ?」
「そうよね……出会いがしらにいきなり殺される可能性もあるしね………」
「―――だったら、これ……使ってください」
「へっ?」
留美は自身のデイパックを1つ美佐枝に手渡した。
美佐江がデイパックの中を開けて見てみると、そこにはドラグノフと銃剣が付いた89式小銃とその予備弾が入っていた。
「留美ちゃんこれは……」
「ここに来る途中に手に入れたものです。もちろんを人殺して奪ったものじゃありませんよ」
それぐらい装備があればそう簡単にやられることはないと思います、と留美は付け加えた。
「―――まあ私たちもちょうど武器をなくしたところだったからこれはありがたくいただいておくけど……本当にいいのかい?」
「はい。私は殺し合いには乗っていませんから、たとえどんな理由があっても人は殺せませんので……」
「そうか……わかった。ありがとうね留美ちゃん」
「いえ………」
「―――じゃあ、留美ちゃん。私と愛佳ちゃんは鎌石村に戻るから詩子ちゃんをよろしくね」
そう言って美佐枝は自身の荷物を手にするとすっと立ち上がり歩き始めた。
――その後、荷物を整理した美佐枝たちは2人ずつに別れて行動することになった。
話し合いの結果、美佐枝と愛佳が鎌石村に戻り、留美と詩子は平瀬村に向かうことになった。
「七瀬さん。柚木さん……もし千鶴さんと出会ったら……その……よろしくお願いします」
「うん。あ…そうだ……あの……美佐江さん、小牧さん」
「なんだい?」
「私からもお願いがあるんですけど……藤井冬弥って人に会えたら私が探していたと伝えてほしいんです………」
「………何かワケありみたいだね。わかった。伝えておくよ」
もし無事に会えて話が聞ける状態だったらね、と付け加えて美佐枝は笑って答えた。
「ありがとうございます」
「そんじゃ。そっちも気をつけてね」
「はい!」
「ありがとうございました」
「七瀬さん、柚木さん必ずまた会いましょうね」
留美と詩子に手を振りながら愛佳は先を行く美佐江の後を追って歩き始めた。
「美佐江さん」
「ん? なんだい愛佳ちゃん」
「私……まだ言ってませんでした………ごめんなさい!」
愛佳は命一杯美佐江に頭を下げた。
「―――とっくのとうに許しているよ。ほら行くよ」
「はっ、はい!」
こうして美佐枝と愛佳は気を取り直し鎌石村へと歩いて行った。
「行っちゃったね……」
「うん……それじゃあ私たちも行こうか。七瀬さん、早く乗って」
自転車に乗った詩子が留美に声をかける。ここから先、平瀬村までは彼女が自転車をこぐことになったためだ。
「OK」
留美が後輪のステップに足を乗せ、自身の両肩に手を乗せたのを確認すると詩子は勢い良くペダルをこいだ。
「よし…茜たちを探しに行きますか!」
「ええ」
【時間:2日目7:40】
相楽美佐枝
【場所:D−4・5境界】
【持ち物1:食料いくつか、他支給品一式】
【所持品2:ドラグノフ(7/10)、89式小銃(銃剣付き・残弾22/22)、予備弾(30発)×2、他支給品一式(2人分)】
【状態:愛佳と鎌石村に戻る。千鶴と出会えたら可能ならば説得する。冬弥と出会えたら伝言を伝える】
小牧愛佳
【場所:D−4・5境界】
【持ち物:火炎放射器、他支給品一式】
【状態:美佐枝と鎌石村に戻る。千鶴と出会えたら可能ならば説得する。冬弥と出会えたら伝言を伝える】
柚木詩子
【場所:D−4・E−4境界】
【持ち物:折りたたみ式自転車、ニューナンブM60(5発装填)、予備弾丸2セット(10発)、鉈、包丁、他支給品一式】
【状態:自転車に乗っている。留美と平瀬村へ。千鶴と出会えたら可能ならば説得する】
七瀬留美
【場所:D−4・E−4境界】
【所持品1:デザートイーグル(.44マグナム版・残弾6/8)、デザートイーグルの予備マガジン(.44マグナム弾8発入り)×1、H&K SMG‖(6/30)、予備マガジン(30発入り)×4、スタングレネード×1、何かの充電機、ノートパソコン】
【所持品2:支給品一式(3人分)】
【状態:自転車に乗っている。詩子と平瀬村へ。目的は冬弥を止めること。ゲームに乗る気、人を殺す気は皆無。千鶴と出会えたら可能ならば説得する】
【備考】
・美佐枝、詩子、愛佳の3人は留美から折原浩平と共に行動していたことを聞いている
・美佐枝、詩子、留美の3人は愛佳から芹香を殺した男(岸田洋一)の身体的特徴などを聞いている
「さて……まずは武器や情報を集めなくてはなりませんね……」
篠塚弥生は消防署を後にするとマーダーとしての活動を再開した。
まずは近くの民家から武器になりそうなものと情報を集めることにした。
(――おそらく先程の放送で藤井さんもこのゲームに乗ったと考えていいでしょう……)
由綺の恋人だった藤井冬弥が先の放送を聞きゲームに乗ったならば、必ず自分と同じく由綺を生き返らせるために動くだろう。
ならば彼と自分は同志ということになる。そのため、冬弥とはできれば合流したいと弥生は考えた。
一件目の民家を発見した弥生は早速消防署から拝借してきた消防斧で窓ガラスを破壊し窓の鍵を開け、そこから民家に侵入した。
まず弥生は台所から包丁を、冷蔵庫からは食料と水を拝借した。
次に他の部屋をくまなく捜索し、結果バンソウコウなど一般家庭にある基本的な医療品が入った救急箱を発見した。
情報収集に役立つであろうパソコンもほしかったが、残念ながらこの家にはパソコンはないようだった。
(――仕方ありませんね。他の家を探してみましょう……おや?)
民家を後にしようと玄関の戸を開けようとした弥生ったが、この時玄関にあるものが置いてあることに気がついた。
「……自動車のキーでしょうか?」
そう。弥生が手に取ったそれは間違いなく自動車の鍵であった。
(ということは、この民家の近くに自動車が止めてあるということでしょうか?)
弥生はその鍵を手に民家の外に出ると、早速自動車を探してみた。
――自動車はすぐに見つかった。
民家から少し歩いたところで駐車場を発見し、弥生はそこに駐車してあった数台の自動車を一台一台調べていった。
そして3台目の自動車に見事弥生の持っていた鍵が一致した。
ティーダという名の日本の某自動車会社の5ドアハッチバック型乗用車だった。
早速ドアを開け車内に入り、エンジンをかける。
ガソリンの残量は充分あった。
(―――ならば、まずは藤井さんを探しましょう)
弥生はシートベルトをするとハンドルを握りティーダを走らせた。
自動車ゆえに森林や山など道無き道は進めないであろうが、早く動ける分冬弥もすぐに見つけられそうな気がした。
篠塚弥生
【時間:2日目・6:55】
【場所:C−5・B−5境界】
【所持品:消防斧、包丁、救急箱、水と食料少々、ほか支給品一式(車の後部座席に置いてある)】
【状態:脇腹に怪我(治療済み)、マーダーだがまずは冬弥を探す、自動車運転中(燃料は問題ない)、とりあえず東(C−6方面)から道を走ってぐるりと島を一周するつもり】
【備考】
・自動車は基本的に道しか走れません
134 :
心の痛み:2006/12/19(火) 19:58:36 ID:8EatyzWr0
柏木千鶴は平瀬村郊外の民家を探索していた。
村に来たのは獲物を探すという目的もあったが、それとは別に食料を調達する必要もあったからだ。
「まあこんな所かしらね」
食料はすぐに見つかった。質素なパンが数個だけだったが携帯出来る事を考えると逆に都合が良い。
腹が減っては軍は出来ぬという言葉もある。空腹は集中力の低下にも繋がり、決して軽んじてはいけない事なのだ。
千鶴は早速手に入れたパンを食べ始めた。その時千鶴はふと昨晩の事を思い出した。
(そういえば前は愛佳ちゃんと一緒に食べたのよね……)
愛佳とはほんの少しの間しか一緒しかいなかったが、その時間こそがこの島の中で唯一千鶴が本来の千鶴でいられた時間。
安らぎを感じられた時間だった。
愛佳は出会ったばかりの自分に信頼を寄せてくれた。
仕方の無い事ではあったが自分はその信頼を裏切ったのだ。
そう考えると心が痛む感覚を覚え、その事に気付いた千鶴は皮肉な笑みを浮かべた。
「私何をやってるのかしら……もっと酷い事を大勢の人にしなければならないのにね」
人殺しに比べればまだ千鶴が愛佳達にした事はマシな事だと言える。
千鶴は既に二人の命をその手で奪っている。にも拘らず、その時よりもずっと心に痛みを感じていた。
きっと嬉しかったのだ。愛佳がこんな自分を信頼してくれた事が。
……人を殺すと決めたのに、それでもまだ自分は安らぎを求めてしまっている。
その事を千鶴は認めざるを得なかった。
しかしだからと言って立ち止まる訳にはいかない。
こうしてる間にも家族に危険が迫っているのかも知れないのだ。例えどんなに心が痛もうと止まれない。
食事を終えた千鶴は民家を出ようとした。
だがその時千鶴は、視界の隅にある物が入るのを確認した。
「あれは……ノートパソコン?」
部屋の片隅にあったノートパソコンを発見した千鶴はパソコンの電源を入れた。
(今は時間が惜しいけど……何か役立つ情報が手に入れるかもしれない)
そんな千鶴の希望は見事に叶う事になる。
135 :
心の痛み:2006/12/19(火) 19:59:24 ID:8EatyzWr0
千鶴はロワちゃんねるを見て『岡崎朋也』の書き込み、そして『レインボー』の書き込みを見つけたのだ。
『岡崎朋也』の書き込みの内容から察するに彼が再びロワちゃんねるを見る可能性は低いだろう。
そして『レインボー』もまた『岡崎朋也』を救う為に鎌石村に現れるかも知れない。
一体どれだけの人間が『岡崎朋也』の誘いに乗るか分からないが、今の自分の武装なら虚さえ付ければ相手が何人いようと一瞬で全滅させる事が可能だ。
それにまだだいぶ時間もある。ウォプタルの足の速さを考えれば平瀬村一帯を調べつくしてからでも十分に間に合う。
今後の方針が決まった千鶴は再びその手を朱に染める為に動き出した。
家族の無事と、もう二度と愛佳に出会わない事を祈りながら。
ほぼ同じ時刻に耕一と初音は有紀寧の謀略に嵌まり窮地を迎えていたのだが、その事を千鶴は知る由も無かった。
柏木千鶴
【場所:E-02】
【時間:二日目午前08:45】
【持ち物:日本刀・支給品一式(食料を半分消費)、ウージー(残弾25)、予備マガジン弾丸25発入り×4】
【状態:左肩に浅い切り傷(応急手当済み)、マーダー。平瀬村を探索した後14時までに鎌石村役場へ】
ウォプタル
【状態:民家の傍の木に繋いである】
※千鶴がロワちゃんねるを見たのは耕一の書き込みの直前
※関連495、566。ルートB13
136 :
策士:2006/12/19(火) 21:05:13 ID:Kset7Dio0
耕一が去った後、有紀寧は少しだけ歯噛みした。当初の予定と、少し食い違ってきたからである。
自分の理想は、あくまでも間接的な殺人。手を汚さず、リモコンで操った人間で人数を減らしていくはずだった。しかし…
(柏木耕一に名前を知られたのは失敗でしたね…)
あの人の良さそうな耕一のことだ。間違い無くこのことを梓、千鶴などの家族に知らせる確率は高い。つまり、自分がマーダーだという事が知れ渡って行くということだ。情報が伝わるのはとんでもなく早い。
もはや隠れ蓑は通用しないだろう。ならば、何としてでも手駒を増やさねばならない。
しかし、有紀寧も失敗ばかりではなかった。耕一に知らせた48時間というブラフは考えての上だ。
本来は24時間。耕一がブラフを信じているならまだ比較的余裕を持っている時間帯に爆発することになる。これが有紀寧の狙いだった。
先程も考えた通り、人の良さそうな耕一が乗って殺しに行く確率は低いと言わざるを得ない。恐らく何か打開策を講じようと仲間を集めるはず。そして、そこそこ仲間も集まってきたところで爆発すれば…
当然本来とは違う時間の爆発に、仲間は驚き、そして互いに疑うだろう。誰かが内部から騙まし討ちをした、と。そうなれば仲間割れ、上手く行けばそのまま殺し合いに発展することだって有り得る。
勿論、耕一がそのまま殺し合いに参加してくれることが一番望ましいことだが…望みは薄い。
有紀寧はちらり、と震えている初音を見た。その心理は手に取るように分かる。
自分のせいで、お兄ちゃんを殺し合いに向かわせてしまった、と。
お兄ちゃん、という先程の悲痛な叫びに、有紀寧は僅かながら心を痛めていた。兄を、家族を失う苦痛は、有紀寧にだって分かっている。しかし他人は他人だ。こちらにだって、何が何でも生き延びなければならない理由があるのだ。
「さ…柏木――いや、もう初音さんの方がいいですね。祐介さんが戻ってくるまで食事の支度でもしませんか?」
だから、せめて死に往く者への礼儀として最大限にもてなしてやってから死なせるつもりだった。
「ど…どうして…」
初音が震えながらも有紀寧に問う。
「どうして…そんなに笑いながらあんなことが出来るの?」
137 :
策士:2006/12/19(火) 21:06:16 ID:Kset7Dio0
「決まってるじゃないですか」
有紀寧はにこっと笑って優しく答える。
「死にたくないからですよ」
その返答は、この島にいる人間のほとんどが考えていることだった。ただ有紀寧と他の人間が違うのは、そこに良心があるかどうかということだ。
「大丈夫です。まだ初音さんには利用価値がありますから…そう簡単には殺しません。精々耕一さんがあなたのために頑張ってたくさん殺してくれることを祈っててください」
初音を生かしておくのは万が一他の柏木家の人間が襲撃してきたときに備えるためだ。いわば人質である。
「有紀寧お姉ちゃん…お姉ちゃんは間違ってるよっ! 死にたくないのは私だって同じだけど…でも、そんな人達が集まればきっと、きっと何か出来るはずなのに!」
説教か。やれやれと肩をすくめる。
「そんな都合よくいくわけないじゃないですか。ファンタジーやメルヘンじゃあないんですから。第一、この首輪をどうやって外すんです? 出来るようならこのゲームはとっくに崩壊してると思いますが」
有紀寧の反論に、初音は何も言い返す事が出来ない。
「ともかく、少なくともわたしはそんな芸当ができるような大それた人間じゃあありません。そして、この島にいる人間が全員そうであることを、肝に命じておいた方がいいですよ」
くるりを背を向けて、キッチンで調理器具を取り出す有紀寧。初音は自分の無力さに項垂れ、その場から一歩も動く事はなかった。
一方の有紀寧は、すでに次の思考へと移っていた。残る問題、長瀬祐介をどうするか。
正直なところ、もう誤魔化しきるのは無理だ。自分のいないところで、あるいは首輪爆弾の事を話すかもしれない。そうなればたとえ拳銃を持っていようが負傷するのは免れない。
(元々そんなに利用価値もないですし…殺しますか?)
先手をとって殺してしまえばどうということもないが…本音は祐介ごときの小物相手に貴重な銃やリモコンを使うのも惜しい。どうしようかと思っていると、ふと有紀寧に一つの案が浮かんだ。
(そうです…わざわざ『長瀬さんに』リモコンや拳銃を使わなくてもいいじゃないですか)
有紀寧がほくそ笑んだところで、「戻ったよ、初音ちゃん、有紀寧ちゃん」という声が聞こえた。
来た。ある種の賭けになるが、勝算は大きい。有紀寧は初音に告げる。
138 :
策士:2006/12/19(火) 21:06:51 ID:Kset7Dio0
「初音さん。長瀬さんをお迎えしてきますのでここで待っていて下さい。逃げようなどとは考えないで下さいね。もし逃げたらあなたの大切な耕一さんの首が飛びますから」
自分自身の命ならまだ諦めがつくだろうが大切な家族の命ならば別なはず。少なくとも、初音はそういう人間だ。
居間から出て、玄関へと向かう。有紀寧の策は言葉を駆使して祐介を殺し合いに向かわせることだ。
言い出すタイミングを見計らって、自分がゲームに乗っている人間であること、そして初音にリモコンを使って首輪の時限装置を作動させたことを告げる。当然その際、首輪を解除できる方法を知っているのは自分だけと言い、人を殺しに行くように要求する。
もちろん初音本人がいないので半信半疑になるだろうがその時はこう言ってやればいい。
「別に信じないならそれも構いませんよ? 嘘かどうか、初音さんの命を賭けてみますか? ボタンを一回押せば分かりますから」と。
今までの様子を見る限りでは祐介もどうしようもないお人好しだ。間違い無く自分の要求に乗ってくれるはず。
もし、万が一にでも失敗した時は…撃ち殺すしかない。
残る懸念は祐介が誰かを連れてくるということだ。まだ生き残りはたくさんいる。おまけに耕一のようなお人好しも数多いときている。
帰ってくる途中で誰かと息投合して複数人で帰ってきたという確率も決してゼロではないのだ。
ゼロではない。この島においては、あらゆる状況を考えなければならないのだ。むしろ、今まで予定通りにいっていた事こそが奇跡に近いのだろう。
その場合は…どうしようもない。祐介にとって初音の命は重大な問題だが連れにとってはそうでもないはず。無闇に正体を明かすと寿命を縮めかねない。
諦めて祐介とその連れで今まで通りにするしかない。無論初音の変調に気付く可能性は高い。それまでに、何としても次の策を講じておかねばならないだろう。
(…まあ、あくまで万が一の話ですが)
いつも通りの柔らかい表情に戻しながら、有紀寧は玄関の扉を開けた。
139 :
策士:2006/12/19(火) 21:07:28 ID:Kset7Dio0
【時間:2日目9:30】
【場所:I-6上部】
宮沢有紀寧
【所持品:コルトバイソン(6/6)、スイッチ(3/6)、ゴルフクラブ、支給品一式】
【状態:前腕軽傷(治療済み)、強い駒を隷属させる】
柏木初音
【所持品:鋸、支給品一式】
【状態:首輪爆破まであと二十四時間、居間で呆然】
【備考】
祐介の他の荷物(予備弾×19、包帯、消毒液、支給品一式)は家の中
【関連:→566、B-10、13など】
140 :
憤怒に繋ぐ命:2006/12/19(火) 21:13:09 ID:7GMI6eSd0
「こうして出会えたのも何かの縁だ。君に大人のキスを教えてやろう」
「大人のキス……ですか?」
長森瑞佳は思いも寄らぬ告白に、顔を真っ赤にしてうろたえていた。
断るに断れず戸惑っていると、おとがいに芳野祐介の手が当てられた。
「目を閉じてごらん」
芳野に抱き締められると瑞佳は静かに眼を閉じた。
軽いキスの後、芳野の舌が彼女の口内に侵入して来た。
それだけに止まらず更に彼女の舌を絡め取り、強く吸引する。
本格的なキスの経験がないだけに瑞佳は目を大きく見開き、抗議の視線を向けた。
一頻り瑞佳の口腔を蹂躙すると芳野は唾液を流し込んで来た。
(さあ、飲み込んで)
(ええっ、飲むんですか!?)
暗示がかかったかのように飲み込むと芳野は漸く口を開放した。
「酷いです。こんなことするなんて」
瑞佳は頬を膨らまかして不満を言う。冗談交じりに。
「悪い。オナ禁のまま果てるのは悔しいからな。ハハハハ」
「オナ禁て何ですか?」
芳野はそれには答えず、
「短い付き合いだったが……君のことが好きだ。出来れば他の世界で出会いたかったな」
「ありがとうございます。そう言っていただくと慰めになります」
島に来て折原浩平と再開することなく、短い人生をを終えてしまったのだと思うと目頭が熱くなる。
「僅かばかりだが、俺の最後の気力を託した。体の中が温まるような気がしないか?」
「……なんだかすごく気持ち悪いです」
瑞佳は体が芯から溶けるような感覚に思わず身を竦めた。
141 :
憤怒に繋ぐ命:2006/12/19(火) 21:14:17 ID:7GMI6eSd0
憤怒に繋ぐ命
「君は聡明な女の子だ。今から言うことを肝に銘じておいてくれ」
「はい……承ります」
「君の持ち前の優しさはこの島ではあまり通用しない気がする。むしろ悪い奴からすれば利用し易いことこの上ない」
「わたしも何となくそう思いますけど、今更──」
「──感性を磨け。理屈抜きで嫌だなと思ったり、納得出来ないことがあったらその対象から離れろ」
「そんなこと言われても、もうわたしにはどうでもいいことです」
零れる涙を拭おうともせず芳野を見つめる。
芳野は狂おしいほどに抱き締め瑞佳の匂いを嗅ぐ。
「いい匂いだ。いつまでも浸っていたいような良い匂いがする」
「芳野さん、痛いです」
「さよなら、愛しきひとよっ!」
──そして思いっきり彼方へ突き飛ばした。
「いやあぁぁぁっ!」
後ろに倒れたはずなのに、どこまでも底の無い空間を落ちて行く。
瑞佳はこれ以上考えることを止め、身を為すがままに任せた。
突然脇腹に刺すような鋭い痛みが走り、体が何かに引っ掛かったような気がした。
茂みを踏み歩く音とともに、瞼の向こう側が明るくなる。
陽が高く昇っているのであろう、薄目でも眩しくてたまらない。
明るさに慣れて来ると見知らぬ少年の顔が映る。
「やあ、気がついたかい?」
少年は両腕に抱いていた瑞佳を静かに地に横たえた。
「あぁ……助けて下さったんですね。ありがとう、ございます」
「無理して喋らなくていい。かなりの重傷だから」
「あの、芳野さんは……いっしょに居た男の人はどうなりました?」
「僕が現場に着いた時には既にコト切れていた」
聞くや否や瑞佳は顔を覆って、嗚咽を漏らした。
少年はやおらポケットをまさぐっていたが、何を思ったか片方の靴を脱ぎ、そして靴下を脱ぐと瑞佳へ渡した。
ハンカチ代わりに使えということなのだろう。
瑞佳は目礼で受け取ると靴下で目頭を拭った。
142 :
憤怒に繋ぐ命:2006/12/19(火) 21:15:38 ID:7GMI6eSd0
──忌まわしい光景が甦る。
襲撃者に気を緩めたあの時。そう、自分が芳野を殺してしまったも同然なのだ。
(ごめんなさい。わたしが至らなかったばかりに、取り返しのきかないことをしてしまいました)
瑞佳はなおも自分を激しく責め続ける。
(悔しい。こんな悔しい思いは未だかつて経験したことがなかった。わたしの性格が仇になろうとは)
身体の傷とは別に心がズキリと痛む。
(今までわたしは人を憎むどころか嫌うことさへしたことがなかった。そのわたしが人を憎もうとしている)
目を開けると流れる雲の一つを睨む。
(固まって震えているだけの女にはなりたくない。扶(たす)けられる側に居てはいけない)
「あうっ!」
傷口が一際大きく痛み、顔をしかめる。
「おい、あんまり自分を責めない方がいいぞ。せっかく生き長らえたんだし」
「すみません。取り乱しちゃいまして」
半身を起こそうとすると少年が手を貸した。
「名前を聞こうか。僕は月島拓也だ」
「遅れてすみません。わたし、長森瑞佳と申します」
助けてくれたからにはきっといい人なのだろう。瑞佳は内心胸を撫で下ろした。
荷物について尋ねてみると、
「お前と相棒のは見当たらなかったな。穴の開いた使えないのが一つあったが置いてきた」
瑞佳は気が抜けたように落とし呆然とした。
せっかく身を守る装備品だったのになぜ着用しなかったのか、後の祭りである。
「月島さん、聞いて下さい」
瑞佳は早朝の惨劇のことを涙交じりに噛み締めながら披露した。
彼女と芳野を襲った、おそらくあだ名であろう「まーりゃん」という少女の人相と身体的特徴。
奪われた三つのファミレス風防弾チョッキのうち、実用性があるのは薄い緑色の物ということである。
「そうか。僕も防弾チョッキを着た奴に酷い目に遭ったよ。ジジイだったけどな」
防弾チョッキの効能に思いを馳せながらファミレス風タイプを想像してみる。
拓也は笑いを堪えながら水筒を取り出すと瑞佳に勧めた。
143 :
憤怒に繋ぐ命:2006/12/19(火) 21:16:55 ID:7GMI6eSd0
瑞佳は水をと口に含むと瞑目し、ゆっくりと喉を潤した。
ふと視線に気づき、顔を向けると拓也がじっと見つめていた。
「死相が出てますか?」
「恐ろしいこと言うなよ。お前って可愛いだけでなく不思議な力がありそうだなって、思っただけ」
「あはは、普通の女の子ですよ」
「念じると物を動かせたり、壁の向こう側の物が見えたりする力を持っていないか?」
手振りを交えて否定すると拓也は大げさに落胆の色を見せた。
「こんな体ですけど、きっとお役に立ちます。もしもの時にはわたしが囮になって時間を稼ぎますから、その間に──」
「──お前なあ、殊勝なこというなって」
拓也は断りも無く瑞佳をひしと抱き締める。
決して上辺だけではない、この少女の温かな雰囲気に包まれてもいい気がした。
「あのっ、えっと、ここはどのあたりになりますか?」
瑞佳は堪りかねて話を逸らしてみた。
「おう、たった今山から街道に出るところだ。東崎トンネルの東側入口付近になる」
「すみません。地図を見せて下さい」
拓也が地図を広げると瑞佳は食い入るように見る。
「これからどこへ行くのですか?」
「鎌石村へ行くつもりだが診療所の方がいいかな」
「いえ、鎌石村で結構です。たぶん診療所には本来の従事者は居ないでしょうから」
街道の左右を窺う。なぜか右──トンネルの方から行く方が良さそうな気がした。
(感性を磨け……か)
「どうした? 怪訝な顔をして」
瑞佳は海岸沿い経由を勧めた。
小中学校経由は上り坂で山道が曲がりくねっており、時間が掛かりそうなこと。
海岸沿い経由は一見遠回りに見えるものの、平坦地や直線路が多く見通しがいいことなどである。
もちろん真意は別にあったが、あくまでも憶測なので言わないことにした。
「いかがでしょう?」
「うーん、なかなかいいぞ」
拓也の視線は前屈みになった瑞佳の胸元に注がれている。
服の隙間からは胸の谷間がはっきりと覗いていた。
144 :
憤怒に繋ぐ命:2006/12/19(火) 21:18:21 ID:7GMI6eSd0
「おんぶしてやるから荷物を頼む」
瑞佳はデイパックを背負うと拓也の背に身を預けた。
街道に出るとすぐ間近にトンネルの入口があった。
「出口が見えないくらい長いんですね」
「ああ、ちょっと曲がってるにしても千メートルはありそうだなあ……って、おい、照明がないぞ」
「わたし達の今の状態にも似てますね」
「やっぱり山の方から行かないか? お化けが出そうだ」
「月島さんといっしょだから平気です。トンネルを行きましょう」
あまり気の向かない拓也を瑞佳は励ました。
足元が見えず壁伝いに進むため、進行は思いの外進まない。
「おい、遠くに出口が見えるぞ。しかしまだ半分過ぎたくらいか」
「……そうですね」
瑞佳は拓也の背に揺られながら朝の放送のことを思い出していた。
(芳野さん、わたし嘘ついてました。放送に友人の名前がありました。その子はわたしを姉のように慕ってくれました)
椎名繭の名前を聞いたにも関わらず平然としていた自分を瑞佳は呪った。
「こんな所で話すのもなんだが、僕の考えに同意して欲しい」
暗闇の中、拓也はこれまでの経緯と今後の目標──主催者の殲滅への協力を求めた。
「妹さんを……喪われたお気持ち、お察しします。微力ながら、お伝い……」
声を掠れさせながら、瑞佳は考え方にズレがあるのを承知で同意した。
ままならぬ体ではゲームに乗った者を殺そうにも殺せないからである。
「なんだか苦しそうだぞ。休むか?」
「いえ、このまま行って下さい」
瞼が重い。気が遠くなりかけている。
(気を失ったらもう目覚めないかもしれない。そうだ、あの人の顔を思い出そう。憎いあの人に一矢報いたい)
瑞佳の脳裏に惨劇の記憶が何度もフラッシュバックしていた。
「――芳野さんから離れて……どこか行ってください………行かないと……その……撃ちますよ!」
「馬鹿! 俺なんかいいから早く逃げやがれ!!」
「………はあ。やれやれ……しょうがないにゃ〜……」
回避
回避いる?
147 :
憤怒に繋ぐ命:2006/12/19(火) 21:37:29 ID:7GMI6eSd0
「トンネルを抜けたぞ。瑞佳、綺麗な海が見えるぞ」
返事はなかった。すぐに横目で瑞佳の顔を窺う。
拓也は付近の茂みに駆け込むと彼女を降ろした。
「瑞佳! しっかりしろ」
「すみません……ちょっと寝てました。お水、下さい」
瑞佳の声は弱々しくなっていた。
美しい顔立ちは血の気がなく、見ていて痛々しいほどである。
「すぐやるからな、待ってろ」
蓋を開けたところで戸惑いを覚える。これはもしかして俗にいう末期の水なのではないか。
拓也はかぶりを振る。死なせてはなるものかと。
折りしも正午の放送が流れていたが二人の耳に届くことはなかった。
水を口に含むと自身の唇で瑞佳の唇をこじ開け、口移しに注ぎ入れる。
瑞佳は静かに拓也の厚意を受け入れた。
「ありがとうございます。少し、元気が出ました」
「村に着いたら医者に診せるからな、気をしっかり持つんだぞ」
「お願いがあります。聞いて下さい」
「遺言なら聞かない」
「はしたない女と思って下さって結構です。わたしを、ぎゅってして下さい」
「ぎゅっ? ……してあげるからな。してあげるぞぉ!」
拓也は優しく抱き締め、そして囁く。
「お前を必要としている、いや、お前を好きな男のためにも死ぬな」
「わたし、月島さんのためにも……もう少し、頑張ります」
「ありがとう。瑞佳、僕は……」
拓也は何か言いかけたが、鼻をすすると押し黙ってしまった。
148 :
憤怒に繋ぐ命:2006/12/19(火) 21:39:29 ID:7GMI6eSd0
傍に居るのは好きでもない男だが、それでも彼の暖かさを切実に感じていた。
(情が移っちゃったかな。浩平には悪いけど、わたしは月島さんに運命を託そう)
容態からしてなんとなく今夜が山になりそうだと判断する。
強運のツキはあるだろうか。
まーりゃんのニヤケた顔が思い浮かぶと、悪態の一つでも言ってやりたい気に駆られる。
(鏡を見たら恐ろしい顔をしているだろうな。今のわたしを支えているのは憎しみだ。わたしは敢えて、鬼になろう)
瑞佳は心がどす黒い澱に包まれつつあるのを、従容として受け入れていた。
【時間:2日目12:00】
【場所:E−8、東崎トンネル西側入口、三叉路付近の茂み】
月島拓也
【所持品1:8徳ナイフ、トカレフTT30の弾倉】
【状態:瑞佳の看護、時期を見て救急用品、自身の着替えを求めて瑞佳を連れて鎌石村へ、上着はアンダーシャツ1枚】
長森瑞佳
【所持品1:支給品一式(食料及び水は空)は拓也の預かり物】
【所持品2:支給品一式(水半分)は拓也の預かり物】
【状態:出血多量(止血済み)、傷口には包帯の変わりに拓也のYシャツが巻いてある。衰弱、まーりゃん(名前知らず)を憎悪する】
→448
【備考】
・拓也は瑞佳から天沢郁未、鹿沼葉子、まーりゃん(名前知らず)の身体的特徴などを聞いている
>>145-146 ありがとうございました
電波感じて… 〜Under the Blue Sky〜
長瀬祐介が『それ』を感じたのは初音たちのもとへ戻ろうと帰路についていた途中だった。
「これは………」
祐介はすぐに『それ』の正体に気がついた。
「……電波」
祐介はポツリと呟いた。
そう、確かにそれは祐介がよく知っている『電波』であった。
この島にいる、あるいは“いた”様々な人たちの意思が電波と直結し、それが祐介に流れ着いてきているのだ。
(ある程度制限されているとはいえこれくらいのことはできるんだな………)
やはり晴れているからかな、と祐介は先ほどと同様、また空を見る。
―――しばらくの間祐介は自身に集まる電波を感じることにした。
集まってくる電波には様々なものがあった。
あるものは悲しみに染まっているもの。またあるものは絶望に染まっているもの。そして希望の火を燃やし続けるもの……
(―――とても懐かしい感じがする……)
祐介はふぅと1回息を吐いた。
確かに彼が電波を感じることは久しぶりのことであった。
(……そういえば月島さんは今頃どうしているんだろう?)
ふと祐介はこの島にいる親族を除く知人で唯一の生き残りである月島拓也のことを考えた。
やはり瑠璃子を生き返らせるためにゲームに乗ってしまったのであろうか?
「…まあ、今の僕には関係の無いことか………」
祐介はそう呟くと止めていた足を再び歩かせようとした。
(あれ?)
が。その時彼は近くから恐怖に染まった電波と救いを求める心に染まった電波を感じた。
それもかなり強い。しかもそれはどんどん濃くなってくる。
――発信源がこちらに近づいて来ているんだ、と祐介は気づいた。
(誰だ?)
思わず物陰に身を隠して先ほど手に入れた弾切れのベネリM3をその手に握る。
こちらに向かってきている者が敵やこの島の狂気に囚われ暴走している人間でもこの銃口を向ければ少しは威嚇できるであろう。
―――感じる電波が濃くなるにつれ、祐介の耳に誰かの足音が聞こえた。同時に息遣いも聞こえる。
「はぁ……はぁっ……!」
―――どうやら女の子のようだ。
(何をそんなに怯えているんだ?)
祐介は思わず構えていた銃を下ろしてゆっくりと物陰から出た。
脳裏に焼きついて離れない光景に恐怖しながら、藤林椋は振り返りもせずに走り続けていた。
(――怖い。怖いよ…もう嫌だよ。お姉ちゃん。怖いよ。助けてよ……)
この島――こんな状況だからこそ人を信じたいと言った少年、佐藤雅史。
そんな彼が信じた相手――それも同じ学校に通う知り合いの手によって殺害された。
――雅史がマルチの振り下ろしたフライパンで頭蓋をかち割られ、血と脳髄を撒き散らす光景が何度も頭から離れない。
(みんな……みんな壊れちゃうんだ………)
もはや彼女は見知らぬ人間も、知人でさえも信じることができないほど精神に傷がついていた。
―――しかし、こんな状況でも唯一自身が最も信頼できる人間である姉の存在が彼女という人格をなんとか形成させていた。
自分の心はもはや誰も信じられるような状況ではないというのに、姉だけは信じている―――矛盾だなと椋も思う。
やはりロワちゃんねるで見つけた姉の書き込みが彼女にそのような感情を生んだのであろう。
「そこの君」
「―――!?」
背後から声がした。
しかし椋は振り返ることなく走る足を止めない。むしろさらにスピードを上げた。
つまるところ逃げたのである。
(振り返っちゃ駄目……足を止めちゃ駄目……止めたら殺される!)
「あ…ちょ、ちょっと!」
椋に声をかけた少年――長瀬祐介は逃げる椋の後ろ姿を見て少し戸惑ったが、すぐに彼女の後を追い走り出した。
急に声をかけたから驚かせてしまったか、と祐介は思った。
その考えは半分当たっていて、半分はずれである。
(ごめん初音ちゃん。有紀寧さん。少し戻るのは遅くなりそうだよ……)
祐介は心の中で自分の帰りを待っているであろう柏木初音と宮沢有紀寧の2人に謝罪した。
自身の銃――コルト・パイソンや荷物は全て初音たちのもとに置いてきてある。
だから2人の身に万一のことがあっても多分大丈夫だ―――と祐介は思っておいた。
(とにかく今は彼女の後を追わなきゃ。1人では危険過ぎる……)
―――それから30分近く2人の鬼ごっこは続いた。
(な…なんでまだついて来るのよぉ!?)
椋は1度後ろをちらりと振り向き追いかけてくる祐介の姿を確認する。
徐々に追いつかれてきている気がした。
「ちょ…だから僕の……話を聞いてってば……」
息苦しそうな祐介の声が聞こえてくる。
それでも椋は足を止めない。
自身も走りすぎて結構息苦しい状態だがまだ足には余裕があった。
(――騙されるもんか。追いついたら即私を殺すに決まってる……!)
「はぁ…はぁ……ほ…本当に…待ってってば……」
椋の後を追う祐介は少し体力的に限界が近づいてきていた。
なにしろデイパック2つにショットガンを背負って全力疾走しているのだから無理もない話である。
もっと自分に体力があればと祐介は内心愚痴る。
(瑠璃子さん、沙織ちゃん、瑞穂ちゃん、そして太田さん………教えてくれ。こういう時はどうすればいいんだ!?)
祐介がそう思った瞬間、祐介はまたしても電波を感じた。
(!?)
それはどこか温かい電波だった。
祐介はその温かさの正体がなんだか判っていた。
それは「人の思い」だ。たとえここが狂気が支配する島であっても人の思いは――人の心の温もりは消え去ってはいないのだ。
(――そうだ。これを………!)
祐介は走っていた足を止め目を閉じ己の力を集中した。
祐介の周辺に今祐介が感じたものと同じ温かな電波が集まってくる。
次の瞬間、祐介はかっと目を開いて既に100メートルほど距離が離れてしまった椋に向かってその電波を一斉に飛ばした。
「――――止まれ…!」
(――あれ?)
椋は突然自身の身体の動きか鈍くなっていくのを感じた。
徐々に……確実に椋の身体は静止していく。
「な…なんで……どうして?」
椋自身いったいどうなってしまったのか検討もつかない。
そして、ついに椋の身体は完全に動きを停止した。
いや。『停止』というより『固定』といったほうが正しいかもしれない。
身体――特に足が意思に反して動かないのだ。金縛りのように。
「そ…そんな……」
「ふぅ…やっと追いついたよ」
「ひっ!?」
気がつくと祐介が椋に追いついていた。そして、ついに祐介が椋を追い抜き振り返る。
椋の視界に祐介の姿が至近距離で映った。
「あ…あなた、私に何をしたんですか!?」
「ああ、ごめん。いくら話しても君が止まってくれなかったから、『電波』の力で君の『身体に信号を送る精神』に干渉して強制的に君を止めたんだ」
――電波? 精神に干渉? ワケが判らない。
「――と言っても、僕にとってもこれは賭けだったけど……僕の力もこれでも結構制限されていたからね」
空が晴れていたことと君の心にスキマができていたからできたんだろうね、と祐介は付け加えた。
――この少年は何を言っているんだ? 話している言葉の意味は大体判るが、言っている言葉1つ1つの意味が理解できない。
回避
回避
「わ……私をどうするつもりですか!?」
「へ? いや…別にどうもしないよ。僕はただ1人じゃ危ないから君に声をかけようとしただけで……」
「嘘です! それなら追いかけてきてしかもこんなワケのわからないことをしたりしません!」
「いや…それは君が逃げるから……」
「いや…嫌です! こんな所で死にたくありません! 助けて! お姉ちゃん! お姉ちゃん!!」
椋は絶叫した。しかしその声は祐介と自身以外の者には聞こえることなく空の彼方に吸い込まれる。
「お…落ち着いて……」
「いやああぁぁぁ! お姉ちゃん! お姉ちゃん!」
いつの間にか椋の目からは大量の涙が零れていた。
(どうしよう……らちがあかないよ………仕方がない……)
祐介はもう一度電波を集めて椋に飛ばした。
「―――眠れ…」
「ああああ…! あ……」
祐介の言葉と共に椋は次第に大人しくなり、やがて大地に崩れた。
そして次の瞬間にはすやすやとやすらかな寝息をたてた。椋は完全に眠っていた。
「―――はぁ…とりあえず少し寝かせれば落ち着いてくれるだろうけど……」
椋の寝顔を確認すると祐介は辺りを見回した。
今自分たちがいるのは村から少し離れた場所にある池のほとりだった。
「……しょうがない。彼女が目を覚ますまではここにいよう。僕が眠らせちゃったんだし………」
最初は村まで運ぼうかとも思ったが、ただでさえ今自分は大荷物だ。人を無事に村まで運べる自信はなかった。
祐介は池のほとりに大の字で寝転がった。
水辺のすがすがしい空気と日の光―――そして温かい電波を肌に感じた。
更に回避
―――祐介が椋を追ったのは本当は彼女の助けを求めている声を感じ取ったからである。
かつて祐介が瑠璃子の救いの声を感じた時のように……
(この子が起きたらそのことをちゃんと説明してあげよう……電波のことも含めて………)
(長瀬くん)
(祐介さん)
(祐くん!)
(長瀬ちゃん……)
(――ん?)
――ふと今は無き友人・知人声が聞こえた気がした。
これも電波の力なのだろうか? 電波には祐介自信知らない事がまだまだたくさんあるのだ。
(電波…届いた……?)
「…………うん。届いたよ。ありがとう……」
祐介は青い空に向かってぽつりと呟いた。
【時間:2日目・午前8:30】
【場所:H−6北(源五郎池のほとり)】
長瀬祐介
【所持品1:ベネリM3(0/7)、100円ライター、折りたたみ傘、支給品一式】
【所持品2:フライパン、懐中電灯、ロウソク×4、イボつき軍手、支給品一式】
【状態:椋が起きるまで待つ。島でも条件次第である程度電波が使えることを知る】
藤林椋
【持ち物:包丁、参加者の写真つきデータファイル(内容は名前と顔写真のみ)、ノートパソコン、支給品一式(食料と水二日分)】
【状態:祐介の電波の力で睡眠中】
【備考】
・祐介は瑠璃子よりも強力な電波の使い手なので他人に干渉する際の条件難易度が瑠璃子よりやや低い
>>154 >>155 >>157 回避ありがとうございました
訂正
『――ふと今は無き友人・知人声が聞こえた気がした。』
↓
『――ふと今は無き友人・知人たちの声が聞こえた気がした。』
「こうして出会えたのも何かの縁だ。君に大人のキスを教えてやろう」
「大人のキス……ですか?」
長森瑞佳は思いも寄らぬ告白に、顔を真っ赤にしてうろたえていた。
断るに断れず戸惑っていると、おとがいに芳野祐介の手が当てられた。
「目を閉じてごらん」
芳野に抱き締められると瑞佳は静かに眼を閉じた。
軽いキスの後、芳野の舌が彼女の口内に侵入して来た。
それだけに止まらず更に彼女の舌を絡め取り、強く吸引する。
本格的なキスの経験がないだけに瑞佳は目を大きく見開き、抗議の視線を向けた。
一頻り瑞佳の口腔を蹂躙すると芳野は唾液を流し込んで来た。
(さあ、飲み込んで)
(ええっ、飲むんですか!?)
暗示がかかったかのように飲み込むと芳野は漸く口を開放した。
「酷いです。こんなことするなんて」
瑞佳は頬を膨らまかして不満を言う。冗談交じりに。
「悪い。オナ禁のまま果てるのは悔しいからな。ハハハハ」
「オナ禁て何ですか?」
芳野はそれには答えず、
「短い付き合いだったが……君のことが好きだ。出来れば他の世界で出会いたかったな」
「ありがとうございます。そう言っていただくと慰めになります」
島に来て折原浩平と再開することなく、短い人生をを終えてしまったのだと思うと目頭が熱くなる。
「僅かばかりだが、俺の最後の気力を託した。体の中が温まるような気がしないか?」
「……なんだかすごく気持ち悪いです」
瑞佳は体が芯から溶けるような感覚に思わず身を竦めた
「君は聡明な女の子だ。今から言うことを肝に銘じておいてくれ」
「はい……承ります」
「君の持ち前の優しさはこの島ではあまり通用しない気がする。むしろ悪い奴からすれば利用し易いことこの上ない」
「わたしも何となくそう思いますけど、今更──」
「──感性を磨け。理屈抜きで嫌だなと思ったり、納得出来ないことがあったらその対象から離れろ」
「そんなこと言われても、もうわたしにはどうでもいいことです」
零れる涙を拭おうともせず芳野を見つめる。
芳野は狂おしいほどに抱き締め瑞佳の匂いを嗅ぐ。
「いい匂いだ。いつまでも浸っていたいような良い匂いがする」
「芳野さん、痛いです」
「さよなら、愛しきひとよっ!」
──そして思いっきり彼方へ突き飛ばした。
「いやあぁぁぁっ!」
後ろに倒れたはずなのに、どこまでも底の無い空間を落ちて行く。
瑞佳はこれ以上考えることを止め、身を為すがままに任せた。
突然脇腹に刺すような鋭い痛みが走り、体が何かに引っ掛かったような気がした。
茂みを踏み歩く音とともに、瞼の向こう側が明るくなる。
陽が高く昇っているのであろう、薄目でも眩しくてたまらない。
明るさに慣れて来ると見知らぬ少年の顔が映る。
「やあ、気がついたかい?」
少年は両腕に抱いていた瑞佳を静かに地に横たえた。
「あぁ……助けて下さったんですね。ありがとう、ございます」
「無理して喋らなくていい。かなりの重傷だから」
「あの、芳野さんは……いっしょに居た男の人はどうなりました?」
「僕が現場に着いた時には既にコト切れていた」
聞くや否や瑞佳は顔を覆って、嗚咽を漏らした。
少年はやおらポケットをまさぐっていたが、何を思ったか片方の靴を脱ぎ、そして靴下を脱ぐと瑞佳へ渡した。
ハンカチ代わりに使えということなのだろう。
瑞佳は目礼で受け取ると靴下で目頭を拭った。
──忌まわしい光景が甦る。
襲撃者に気を緩めたあの時。そう、自分が芳野を殺してしまったも同然なのだ。
(ごめんなさい。わたしが至らなかったばかりに、取り返しのきかないことをしてしまいました)
瑞佳はなおも自分を激しく責め続ける。
(悔しい。こんな悔しい思いは未だかつて経験したことがなかった。わたしの性格が仇になろうとは)
身体の傷とは別に心がズキリと痛む。
(今までわたしは人を憎むどころか嫌うことさへしたことがなかった。そのわたしが人を憎もうとしている)
目を開けると流れる雲の一つを睨む。
(固まって震えているだけの女にはなりたくない。扶(たす)けられる側に居てはいけない)
「あうっ!」
傷口が一際大きく痛み、顔をしかめる。
「おい、あんまり自分を責めない方がいいぞ。せっかく生き長らえたんだし」
「すみません。取り乱しちゃいまして」
半身を起こそうとすると少年が手を貸した。
「名前を聞こうか。僕は月島拓也だ」
「遅れてすみません。わたし、長森瑞佳と申します」
助けてくれたからにはきっといい人なのだろう。瑞佳は内心胸を撫で下ろした。
荷物について尋ねてみると、
「お前と相棒のは見当たらなかったな。穴の開いた使えないのが一つあったが置いてきた」
瑞佳は気が抜けたように呆然とした。
せっかく身を守る装備品だったのになぜ着用しなかったのか、後の祭りである。
「月島さん、聞いて下さい」
瑞佳は早朝の惨劇のことを涙交じりに噛み締めながら披露した。
彼女と芳野を襲った、おそらくあだ名であろう「まーりゃん」という少女の身体的特徴。
奪われた三つのファミレス風防弾チョッキのうち、実用性があるのは薄い緑色の物ということである。
「そうか。僕も防弾チョッキを着た奴に酷い目に遭ったよ。ジジイだったけどな」
防弾チョッキの効能に思いを馳せながらファミレス風タイプを想像してみる。
拓也は笑いを堪えながら水筒を取り出すと瑞佳に勧めた。
瑞佳は水をと口に含むと瞑目し、ゆっくりと喉を潤した。
ふと視線に気づき、顔を向けると拓也がじっと見つめていた。
「死相が出てますか?」
「恐ろしいこと言うなよ。お前って可愛いだけでなく不思議な力がありそうだなって、思っただけ」
「あはは、普通の女の子ですよ」
「念じると物を動かせたり、壁の向こう側の物が見えたりする力を持っていないか?」
手振りを交えて否定すると拓也は大げさに落胆の色を見せた。
「こんな体ですけど、きっとお役に立ちます。もしもの時にはわたしが囮になって時間を稼ぎますから、その間に──」
「──お前なあ、殊勝なこというなって」
拓也は断りも無く瑞佳をひしと抱き締める。
決して上辺だけではない、この少女の温かな雰囲気に包まれてもいい気がした。
「あのっ、えっと、ここはどのあたりになりますか?」
瑞佳は堪りかねて話を逸らしてみた。
「おう、たった今山から街道に出るところだ。東崎トンネルの東側入口付近になる」
「すみません。地図を見せて下さい」
拓也が地図を広げると瑞佳は食い入るように見る。
「これからどこへ行くのですか?」
「鎌石村へ行くつもりだが診療所の方がいいかな」
「いえ、鎌石村で結構です。たぶん診療所には本来の従事者は居ないでしょうから」
街道の左右を窺う。なぜか右──トンネルの方から行く方が良さそうな気がした。
(感性を磨け……か)
「どうした? 怪訝な顔をして」
瑞佳は海岸沿い経由を勧めた。
小中学校経由は上り坂で山道が曲がりくねっており、時間が掛かりそうなこと。
海岸沿い経由は一見遠回りに見えるものの、平坦地や直線路が多く見通しがいいことなどである。
もちろん真意は別にあったが、あくまでも憶測なので言わないことにした。
「いかがでしょう?」
「うーん、なかなかいいぞ」
拓也の視線は前屈みになった瑞佳の胸元に注がれている。
服の隙間からは胸の谷間がはっきりと覗いていた。
「おんぶしてやるから荷物を頼む」
瑞佳はデイパックを背負うと拓也の背に身を預けた。
街道に出るとすぐ間近にトンネルの入口があった。
「出口が見えないくらい長いんですね」
「ああ、ちょっと曲がってるにしても千メートルはありそうだなあ……って、おい、照明がないぞ」
「わたし達の今の状態にも似てますね」
「やっぱり山の方から行かないか? お化けが出そうだ」
「月島さんといっしょだから平気です。トンネルを行きましょう」
あまり気の向かない拓也を瑞佳は励ました。
足元が見えず壁伝いに進むため、進行は思いの外進まない。
「おい、遠くに出口が見えるぞ。しかしまだ半分過ぎたくらいか」
「……そうですね」
瑞佳は拓也の背に揺られながら朝の放送のことを思い出していた。
(芳野さん、わたし嘘ついてました。放送に友人の名前がありました。その子はわたしを姉のように慕ってくれました)
椎名繭の名前を聞いたにも関わらず平然としていた自分を瑞佳は呪った。
「こんな所で話すのもなんだが、僕の考えに同意して欲しい」
暗闇の中、拓也はこれまでの経緯と今後の目標──主催者の殲滅への協力を求めた。
「妹さんを……喪われたお気持ち、お察しします。微力ながら、お伝い……」
声を掠れさせながら、瑞佳は考え方にズレがあるのを承知で同意した。
ままならぬ体ではゲームに乗った者を殺そうにも殺せないからである。、
「なんだか苦しそうだぞ。休むか?」
「いえ、このまま行って下さい」
瞼が重い。気が遠くなりかけている。
(気を失ったらもう目覚めないかもしれない。そうだ、あの人の顔を思い出そう。憎いあの人に一矢報いたい)
瑞佳の脳裏に惨劇の記憶が何度もフラッシュバックしていた。
「――芳野さんから離れて……どこか行ってください………行かないと……その……撃ちますよ!」
「馬鹿! 俺なんかいいから早く逃げやがれ!!」
「………はあ。やれやれ……しょうがないにゃ〜……」
「トンネルを抜けたぞ。瑞佳、綺麗な海が見えるぞ」
返事はなかった。すぐに横目で瑞佳の顔を窺う。
拓也は付近の茂みに駆け込むと彼女を降ろした。
「瑞佳! しっかりしろ」
「すみません……ちょっと寝てました。お水、下さい」
瑞佳の声は弱々しくなっていた。
美しい顔立ちは血の気がなく、見ていて痛々しいほどである。
「すぐやるからな、待ってろ」
蓋を開けたところで戸惑いを覚える。これはもしかして俗にいう末期の水なのではないか。
拓也はかぶりを振る。死なせてはなるものかと。
水を口に含むと自身の唇で瑞佳の唇をこじ開け、口移しに注ぎ入れる。
瑞佳は静かに拓也の厚意を受け入れた。
「ありがとうございます。少し、元気が出ました」
「村に着いたら医者に診せるからな、気をしっかり持つんだぞ」
「お願いがあります。聞いて下さい」
「遺言なら聞かない」
「はしたない女と思って下さって結構です。わたしを、ぎゅってして下さい」
「ぎゅっ? ……してあげるからな。してあげるぞぉ!」
拓也は優しく抱き締め、そして囁く。
「お前を必要としている、いや、お前を好きな男のためにも死ぬな」
「わたし、月島さんのためにも……もう少し、頑張ります」
「ありがとう。瑞佳、僕は……」
拓也は何か言いかけたが、鼻をすすると押し黙ってしまった。
傍に居るのは好きでもない男だが、それでも彼の暖かさを切実に感じていた。
(情が移っちゃったかな。浩平には悪いけど、わたしは月島さんに運命を託そう)
容態からしてなんとなく今夜が山になりそうだと判断する。
強運のツキはあるだろうか。
まーりゃんのニヤケた顔が思い浮かぶと、悪態の一つでも言ってやりたい気に駆られる。
(鏡を見たら恐ろしい顔をしているだろうな。今のわたしを支えているのは憎しみだ。わたしは敢えて、鬼になろう)
瑞佳は心がどす黒い澱に包まれつつあるのを、従容として受け入れていた。
【時間:2日目12:00】
【場所:E−8、東崎トンネル西側入口、三叉路付近の茂み】
月島拓也
【所持品1:8徳ナイフ、トカレフTT30の弾倉】
【状態:瑞佳の看護、時期を見て救急用品、自身の着替えを求めて瑞佳を連れて鎌石村へ、上着はアンダーシャツ1枚】
長森瑞佳
【所持品1:支給品一式(食料及び水は空)は拓也の預かり物】
【所持品2:支給品一式(水半分)は拓也の預かり物】
【状態:出血多量(止血済み)、傷口には包帯の変わりに拓也のYシャツが巻いてある。衰弱、まーりゃん(名前知らず)を憎悪する】
→448
【備考】
・拓也は瑞佳から天沢郁未、鹿沼葉子、まーりゃん(名前知らず)の身体的特徴などを聞いている
守る者、守られる者
「――少し静かになったの……」
名雪を無事に観音堂へと運んだことみは先程から近くで聞こえていた銃声がまったく聞こえなくなったことに気がついた。
おそらく聖が無事に戦っていた者たちを仲裁したのであろう。
ことみはほっと肩を撫で下ろした。
―――ぱららららら……!
「えっ!?」
刹那、再び銃声が辺りに響き渡った。
(――まさか…先生……!)
嫌な予感がしたことみは気がつけば銃声がした方へと駆け出していた。
「かはっ……!」
「河野君!」
藤井冬弥のP90から放たれた無数の5.7ミリ弾は銃口の先にいた河野貴明の左脇腹、左肩、右腕から鮮血を吹き出させた。
貴明は一度吐血すると大地に崩れ落ち、たちまち血の池を形成していく。
貴明ももちろん回避運動をとっていたが、それが終わるよりも早く冬弥はトリガーを引いていた。
「――次はお前だ………!」
貴明が動かないことを確認すると冬弥はP90の銃口を次の標的――霧島聖に向けた。
「ッ!?」
すぐさま聖は近くの草木が密集している場所へと滑り込む。
ぱらら!
滑り込むと同時に冬弥のP90が再び火を吹いた。
「くっ――普通は逃げるべきなのだろうが、ここで私が引き下がってしまうとことみ君たちの身が危ないしな……!」
聖はそう言うとデイパックからベアークローを取り出し自分の手に装着した。
「医者が人を傷つけるというのは本当はしたくないのだが仕方がない。死なない程度に痛い目にあってもらうぞ!」
そして聖は自身のデイパックを投げ捨て、冬弥のもとへと突撃した。
「ヤケになったか!?」
すぐさま冬弥も聖にP90を撃つが聖はまたしても草木の影に隠れそれをかわす。
が、貫通力の勝れたP90の弾丸は細い木々を貫通し聖の腕をかすった。
「くっ…! さすがに銃相手では不味いか……?」
しかし聖は後に引くことはできない。
もし自分に万一のことがあったら、ことみたちがこの場から逃れるための時間だけでも稼がなくてはならない。
既にことみも再び戦闘が始まったことに気づいているはずだ。
「そうだな……お姉ちゃんは医者である以上、最後まで他の人のために頑張らなければいけないもんな。佳乃………!」
ふっと笑ってそう言うと再び茂みから飛び出し冬弥のもとへと突き進む。
この戦いの優劣など本当は最初から判っている。ゆえに、聖は自身の命に変えてでも冬弥をこの場から退かせる覚悟であった。
―――またしても銃声が辺りに鳴り響いた。
―――体が熱い。
どうして俺は寝てるんだっけ?
ああ、そうだ。撃たれたんだ。
体のあちこちから激しい痛みを感じる。熱いのは――血が出ているからだ。
―――うん。このままじゃ間違いなく出血多量で死ぬな。
―――死ぬ?
回避いる?
ちょっと待った。こんな所で俺は死んでいいのか?
俺はまだだれも助けていない。むしろ助けられてばかりじゃないか。
それなのに、こんなところで死ぬのは勝手すぎないか?
それに、ここで死んだらタマ姉や雄二、久寿川先輩たちを裏切ることになる。
――そんなのは嫌だ! こんな所で死ぬのは嫌だ!
だけど体が動かない……このまま無残に死んでいくのか?
恐い! 死ぬのは恐い! 死にたくない!
―――ぱららららら……!
!?
銃声が聞こえる。
そうだ――霧島さんは!? あの女の子はどうなった!?
うっすらと目を開く。
そこにはマシンガンを撃つ藤井さんの後ろ姿だけが移っていた。誰が戦っているのかは判らない。
しかし、見たところ現在は藤井さんの方が有利なのは確かだ。やられるのも時間の問題かもしれない。
今戦っている人も俺のように……無残にも撃ち殺されてしまうのか………?
……違う! なにを言っているんだ!? 俺はまだ死んじゃいない!
それに、俺はこんな島で――こんな糞ゲームなんかで死ぬつもりはない! 俺にはやらなきゃならないことがまだ残っているから……!
だから。たとえボロ雑巾のようになるまで傷ついても何度だって立ち上がってやる!
―――それなら……今やるべきことはひとつだろう河野貴明!
俺は意識を覚醒させ、かっと目を開いた。
―――右手に力をこめる。腕が痛むがそんなの今は関係ない。
―――動く。ならば動かす。
腰にねじ込んであるソレを手に取る。これを俺に託してくれた久寿川先輩の顔が脳裏によぎる。
そうだ。この程度の痛み、久寿川先輩やこの島で死んでいった人たちが受けた痛みや苦しみに比べたらぜんぜんマシしゃないか!
「もう……守られてばかりいるのは……嫌だ!」
俺は持てる気力を振り絞り立ち上がった。
回避
やっと藤井さんはこちらに気がついたようだ。
―――だけど遅い。
構える。
そして……力一杯手に持っているソレのトリガーを引いた。
「ぐうっ……!?」
左肩に激痛が走った。被弾したと聖はすぐに気づいた。
「くっ……だがまだだ!」
ひるむことなく聖は前に進む。
せめて目の前にいる彼に――藤井冬弥にせめて一矢報いるまでは倒れるわけにはいかない。
(ふっ…佳乃。どうやらお姉ちゃんは負けず嫌いでもあるようだ……)
こんな時でも聖は笑っていた。
「くっ…こんな時に何笑ってるんだよお前!?」
そんな聖の顔を見た冬弥はいらだちを隠せなかった。
こちらはただでさえ銃の弾が切れそうで苛立っているというのに、聖のその顔は彼の感情をさらに底撫でしているようにしか見えなかった。
ぱらら!
「!? ぐああああ!」
聖の左腕に風穴が開き鮮血を吹き出した。さすがの聖も激痛に耐え切れず大地に倒れ伏した。
「終わりだ!」
冬弥のP90が倒れた聖を捕らえる。だが、次の瞬間、その叫び声が聞こえた。
「もう……守られてばかりいるのは……嫌だ!」
「!?」
冬弥が振り替えると、そこには殺したはずの河野貴明が銃を手に立ち上がる姿があった。彼はまだ死んではいなかったのだ。
「ちっ!」
冬弥はすぐさまP90を構えようとしたが、それよりも早く貴明は持っていたSIGを構え、そして引き金を引いた。
2発の銃声とともに冬弥の右腕と右肩に激痛が走った。
「があああああ!?」
痛みのあまりP90が持っていた手からこぼれ落ちた。
「……………」
その様子を黙って見つめながら貴明は力尽き再び大地に倒れた。しかし、持っていたSIGは決して放さなかった。
「くっ…あいつ……」
「君の相手は私だ!」
冬弥はすぐにP90を拾おうとしたが、いつの間にか接近していた聖の体当たりを食らった。
「ぐっ………さすがにこれはまずいか?」
さすがにこのままだとこちらが不利だと判断した冬弥は立ち上がるとすぐに鎌石村の方へと撤退していった。
本当は銃も拾っていきたかったが諦めた。どうせ弾もほとんど残っていないだろうと思ったからだ。
(こうなるんだったら留美ちゃんから予備のマガジンを貰っておくべきだった……
ん? なんで俺、こんな時に留美ちゃんのことなんて思い出しているんだろう?)
そんな自分がおかしくて冬弥は思わず笑ってしまった。
「はは……本当に何やってんだろうな俺…………?」
回避置いていきますね
「河野君、しっかりしまえ!」
冬弥が去ったのを確認すると聖は貴明のもとに駆け寄った。
「出血がひどいな……急いで応急処置をしなければ……」
「先生!」
「ん?」
振り替えるとそこには銃声を聞きつけやってきたことみの姿があった。
「おお。ことみ君、無事だったか」
「先生……その腕…血が出てるの……」
聖の腕を指差すことみの顔が青ざめる。
そんなことみに対して聖は普段と変わらない笑顔で答える。
「なあに。この程度なら私にとっては掠り傷にさ。それより手を貸してくれないか? 急患なんだ」
「……うん」
ことみは頷くとすぐに聖と貴明のもとに駆け寄った。
「………なんとか応急処置は済ませたが、あとは彼の体力次第だな」
観音堂の堂内に運んできた貴明を寝かせると聖はふぅと一度息を吐いた。
「先生、お疲れさまなの」
「ああ、ありがとう。………ところで、その子もまだ目を覚まさないのかね?」
「うん……」
聖たちは貴明の隣で眠っている水瀬名雪に目を向けた。目を覚まさないことは心配だが、先程よりは顔色がよくなってきていた。
「――とにかく。今はこの2人が目を覚ますのを待とう。氷上村に迎うのは少し遅れてしまうがね」
「うん。貴明くんは先生や私たちの命の恩人なの」
苦笑いしてそう言った聖にことみは笑顔でそう答えた。
霧島聖
【時間:2日目・10:30】
【場所:C−6(観音堂)】
【所持品1:ベアークロー、FN P90(4/50)、治療用の道具一式(残り半分くらい)、他支給品一式】
【所持品2:Remington M870(2/4)、予備弾(12番ゲージ)×24、SIG・P232(0/7)、仕込み鉄扇、他支給品一式】
【状態:左肩・左腕負傷(応急処置および治療済み)。貴明と名雪が起きるまで見守る】
一ノ瀬ことみ
【時間:2日目・10:30】
【場所:C−6(観音堂)】
【所持品:暗殺用十徳ナイフ、青酸カリ入り青いマニキュア、携帯電話(GPSレーダー・MP3再生機能・時限爆弾機能(機動1時間後に爆発)付き)他支給品一式(ことみのメモ付き地図入り)】
【状態:普通。貴明と名雪が起きるまで見守る】
河野貴明
【時間:2日目・10:30】
【場所:C−6(観音堂)】
【所持品:なし(聖が預かっている)】
【状態:左脇腹・左肩・右腕負傷(応急処置および治療済み)。左腕刺し傷・右足に掠り傷(どちらも治療済み)。気絶中】
水瀬名雪
【時間:2日目・10:30】
【場所:C−6(観音堂)】
【所持品:なし(ことみが預かっている)】
【状態:気絶中。精神状況不明】
藤井冬弥
【時間:2日目・7:30】
【場所:C−6(鎌石村の方に移動済み)】
【所持品:支給品一式】
【状態:右腕・右肩負傷。マーダー。最終目標は由綺を殺した者の殺害】
【備考】
・名雪が目を覚ました後の精神状態は後続の書き手さんにお任せします
北川潤、広瀬真希、遠野美凪の凸凹□トリオは首輪解除の情報を求めて、
笹森花梨が手に入れた手帳の情報を頼りに、前回参加者(『こみパ』と名乗っていた)が滞在していたと思われる平瀬村工場へと辿り着いていた
もちろん昨晩のホテルでの保科智子からの忠告を忘れずに人の有無を調べるなど慎重に行動していた、
そしてお目当ての場所、手帳に滞在していたと書かれていた【工場の屋根裏】に行き着く
当初…何故屋根裏なのかは解から無かったがホテル跡の手帳の件と同様、
ゲーム時に他の参加者やゲーム後に主催者に発見されにくいように前回参加者が配慮したと言うのが打倒だと考えられた。
「………潤くんや…この部屋は…何なんでしょうかねぇ…。」
広瀬真希は平瀬村工場の屋根裏の状況を見て絶句した、
工場の屋根裏はボイラーや吸排機などで広く出来ている部屋とも言える処だが真希が言いたいのはそんなことではない
「………修羅場の…あと…だな。」
北川は前回参加者の修羅場の惨状の痕に頭を抱え目を背ける、
辺りには前回参加者が使用していたと思われる、ディバック数個や工具類、血で錆びて折れた日本刀、銃身が曲がって使えなくなった猟銃、
微妙な竹やりやハズレ武器らしきハリセンなどもあったが、今はそんなことも問題ではない
問題は会議室あたりから調達したと思われる会議用の机の上においてある物だった、
ノートパソコン、プリンター、スキャナー、ドリンク剤の空き瓶、資料や数々の本などはまだ問題ではなかった
大量のペン類、消しゴムカス、書き損じの原稿用紙やメモ、何かを焼いたCD…………………………そして【数々のコピー本同人誌】
「………前回の参加者さんってオタクだったのでしょうか?」
美凪が頬に手を当て首を傾げ、言ってはいけない事を言ってしまう、
「言うなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
真希の絶叫と共にスパ――ン!スパ――ン!と美凪と北川の頭にハリセンの衝撃が響き渡る
「……切れ味抜群ですね。」
「……久しぶりのツッコミをどうもありがとう…。」
美凪とついでにシバかれた北川は冷静に真希に対処する、
ツッコミを入れた当の本人である真希は肩を大きく上下させゼーゼーと息をしている
ちょっと何なのよ!!遠路はるばると遣って来たのに前回参加者のオタク一同は同人誌渡すために主催者にバレない様に巧妙に工作してたわけ!?」
今まで溜まっていた緊張感が一気に爆発したのか声を荒げる真希、
「……割烹着の防弾チョッキ作る主催者だったり、死ぬ瀬戸際までマンガ画いてる前回参加者っていったい何なんだろうなぁ…。」
ふと疑問に思う北川、
そう思いつつ曲がった猟銃の鞄から使われなかった予備の12ゲージ弾丸のセットを抜け目なく拝借しておく、今朝のホテル以来パクリ癖は付いたようだ。
「…死ぬ瀬戸際だからこそ描くんじゃないんですか?」
「それは…ありえるな……。」
淡々と会話を続ける北川と美凪、北川と美凪は前回参加者の遺作である同人誌やメモを調べる。
「『壮絶!地獄兄弟』…作者は芳賀玲子………ぽっ。」
どうやらアッチ系の同人誌だったらしい。
「あんた達ぃぃぃぃぃぃ〜!!」
きぃ〜と歯を食いしばり指をワナワナと動かす真希、怒りのボルテージは上がる一方。
それはそうだ、色々あったがホテルでは死の一歩手前の怖い思いもしたし、北川にいたっては防弾チョッキ越しとは言え撃たれてる
昨晩のことは水に流せても、今の二人のこの態度だけは癪に障る真希…しかし気にしない二人
「…【修羅場モードドリンク】&【回復ドリンコ】………こんなモン飲みながら書いとったんかい。」
北川は蓋の空いてないドリンク剤を回収して、ノートパソコンとメモを見ようとする、そして美凪は他のバックを漁る
「…真希さん、使える拳銃ありましたけど…?」
嬉しそうな顔をしながら真希に声をかける美凪、支給品以外で銃が手に入るのはとてもラッキーに決まってるが当の真希は頭に血が上っている
「いらんわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?………………………って欲しい欲しい♪」
条件反射の拒絶、数秒の沈黙、そして我に返る三段オチ…級友の七瀬とは違う形で真希のキャラが定着しつつあった。
それに、北川に護られてばかりでは忍びない、自分もサポート出来る様になりたいそう思う真希
「………何コレ…。」
「…『こみパ一同』が残してくれた銃です。」
実物の拳銃でありながらサイレンサー、ロングバレル、スコープ、ショルダーストック、そして紫色のエンブレムの付いたスパイ御用達のバカ銃を見て絶句する真希
「…【ワルサーP38アンクルモデル】、別名メガト○ンガンだそうです」
「ダサイわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
『キモイ』の言葉が定着しつつある昨今、あえて『ダサイ』の言葉で絶叫する真希
説明書を見ながらカッコイイのに…と呟く美凪、しくしくと銃とマガジンを受け取り啜り泣く真希、
「…クソっ、そういう事か………。」
パソコンや同人誌や散らばったメモの数々を調べていた北川が普段見せないような表情を見せる、慌てて詰め寄る二人
北川が手にしている物はメモの数々と一枚の原稿用紙…メモは筆談の形跡が、原稿用紙にはこみパ一同が体験しまとめた首輪の情報が書かれていた
おおまかに爆発の範囲、支給品の中にリモコン爆弾なるものの存在、そしてそれを解除するための電磁波発生スイッチと専用充電器、それに首輪の電波を特定する探知機
………そして首輪に盗聴用のマイクが付けられている事が。
「何なのよ!…これ!?」
真希が混乱したような声で北川に叫ぶ、もちろん盗聴の事を言っている
「書いてある、そのまんまだろ。」
首元を掻き毟りながら盗聴用のマイクの穴を指で確認する北川、そして何も書いていないメモ用紙を取り出して書きなぐる
(少なくとも昨日の保科との会話は主催者にバレてる…勿論、宝石のことも手帳の事も前回参加者がいた情報もだ…。)
(でも主催者は今朝の段階でオレ達も湯浅達も処分していない…つまりオレ達は連中に泳がされてるわけだ。)
まだ主催者に付け入る隙はあると言いたい北川、真希と美凪の二人はメモ用紙をみて頷く。
(それに主催者側は一応首輪解除される可能性ぐらいは視野に入れてるみたいだしな…。)
(…どうすればいいのですか?仮に技術者と出会えて首輪を取り外そうと行動したときに主催者にバレては意味があるとは思えません。)
北川同様、メモを取り出し首輪解除の瞬間に主催者にその場にいる全員の起爆スイッチを入れられたらこのみの二の舞になってしまうと言いたい美凪
(『こみパ』の連中はその対処も一応考えてくれてる…流石オタク様々、俺達や主催者の斜め上を入ってるぜ)
北川は前回参加者のスキルの高さに感心し、美凪と真希にこみパが残した、焼いたCDと付属の説明書(同人誌)を見せる
保守
【対ロワちゃんねるハッキングプログラム 作者/九品仏大志】そう書かれていた
(これを使えばロワちゃんねる経由で主催者側のホストコンピューターに進入できるらしい………が!!)
北川は不安そうな書き方をする。
(………が!!って何よ?書きたいことがあるならちゃんと書きなさい。)
今まで黙っていた真希がメモ用紙に書き込む、すると覚悟を決めたようにため息交じりで北川はペンを執る…。
(ハッキングってマンガでしか知らない言葉で何が出来るのか解らないし、付属の説明書は専門用語使いまくりで理解できないし、ロワちゃんねるって今初めて聞いた言葉だし。)
前回参加者が使っていたノートパソコンの画面に映し出されたロワチャンネルの画面を見つつため息を付く北川
北川はスレッドの中身を見ないことに決めていた、どれが本当で嘘か判別できないからだ。
(つまりこれは宝の持ち腐れなわけだ。)
(首輪の解除の技術者だけでなくパソコンのスペシャリストまで見つけないといけない訳ね…。)
(…しかもこのCDで何が出来るのかも解らないわけですね。)
「「「………はあっ。」」」
回避
首輪解除の情報をもとめて前回参加者の滞在していた場所にやってきた三人組、
そこに待ち受けていたものは前回参加者が残してくれた支給品の残りと同人誌と情報の数々だった、しかし三人には現状を打破できる能力は無かった
手帳に鍵と書かれた『青い宝石』の情報は無く、しかも首輪の解除はすんなりとは行きそうにも無かった。
ふと三人は思った、前回参加者が体験した情報…リモコン爆弾の事だった、このみはいつの間にかリモコンの時限スイッチを入れられたのでは無いかと…。
でも三人は口を閉ざす、憶測でものを考えるのはよくないと理解していたからだ。
そしてまとめ切れない情報を手に入れたのは言うまでも無い
【場所:G−2】平瀬村工場
【時間:2日目08:30頃】
北川潤
【持ち物@:防弾性割烹着&頭巾、SPAS12ショットガン 8/8+予備弾薬16発+スラッグ弾8発+3インチマグナム弾4発】
【持ち物A:スコップ、支給品一式、おにぎり1食分 お米券 ワイン&キャビア 】
【状況:首輪が外せる技術者及びCDの中身が理解できるパソコンの詳しい人探し、今は情報をまとめる】
広瀬真希
【持ち物:ワルサーP38アンクルモデル8/8+予備マガジン×2 スコップ、防弾性割烹着&頭巾、支給品一式、おにぎり1食分、携帯電話、お米券】
【持ち物A:ハリセン ホテルで調達したもの(剃刀、タオル、食器、調味料、救急箱、その他諸々)】
【状況:同上】
遠野美凪
【持ち物:包丁、防弾性割烹着&頭巾、支給品一式、おにぎり1食分、お米券数十枚】
【持ち物A同人誌の数々と色々書かれたメモ用紙とCD(ハッキング用) ノートパソコン 色々なドリンク剤×6】
【状況:同上】
【ルートB13】→523
【備考】
工場内の屋根裏には数々のこみパが残してくれた支給品の残りや備品や工具が散乱、(ゴミ等が大量に散乱していて全部把握できていない)
CDの中身はゆめみ・珊瑚・高槻(多分w)辺りが理解できる筈
宝石の情報及び首輪の正確な構図の情報は今のところ無い
北川達はロワちゃんねるのスレッドの中身は見ていない
首輪の盗聴及び現在有紀寧が所有しているリモコン爆弾の存在と時限解除方法の情報ついて知る(盗聴の情報は主催者には気付かれていない)
>>184>>186 ありがとうございます
「ふう、ようやく着いたな……」
北川達は平瀬村の一角にある民家の前に来ていた。
参加者の情報を手に入れる事には成功したもののあまりにも荷物が多すぎる……。
万年荷物持ちの北川としては、荷物整理の必要があった。
だが工場跡に置いていっては誰かに盗まれる可能性が高いと考え、手頃な民家を探していたのだ。
「ご苦労様、家政夫さん♪」
「……せめてホテルボーイと呼んでくれ。そっちの方がなんか格好良さそうだ」
「あんた礼儀作法とか苦手そうだから駄目」
「う……」
北川は礼儀作法など殆ど学んだ事が無い。
それなりに良い店で食事した際にはナプキンで堂々と鼻を噛んだ実績すら持っている。
当然、真希に対して言い返す言葉は無かった。
「そうだ美凪、お前が何か良いあだ名を考えてくれ!」
北川は縋るような眼で美凪に助けを求めた。
その様はまさに必死と呼ぶに相応しい。
美凪は頬に手を当て少し思案した後その助けに応えた。
「…………奴隷さん?」
「……俺が悪かったです、これからもお嬢様方の家政夫という事でお願いします」
「宜しい」
真希は腰に手を当て満足げに笑うと民家の扉を開けようとした。
だが扉を開ける前にその肩を北川が掴んでいた。
真希が疑問を口にするより早く北川はショットガンを構え、扉を開けて民家の中へと侵入していった。
慌てて真希と美凪はその後を追う。
「ちょっと潤、どうしたのよ?誰かいるような気配でもしたの?」
「いや、そんな事は無いけどな。それでも警戒するに越した事はないだろ?
これでも一応男だからな、こういう役目は任せてくれ」
北川は特に恩を着せる風も無く、微笑みながら自然に言った。
その時真希はドクン、と心臓が高鳴るのを感じた。
(え?ちょ……ちょっと、今の何よ!?)
生まれて初めて感じるその感覚に、真希は戸惑いを隠せなかった。
「……広瀬さん、どうかしましたか?」
「あ、あはははは、何でも無いのよ何でも、うん」
「…………なるほど」
異変に気付いた美凪に声を掛けられ慌てて誤魔化す。
美凪は何かに勘付いた様子だったが、それ以上何かを尋ねる事はしなかった。
「よーし、一休みだっ」
広間に荷物を下ろした北川は疲れを癒すべくどすんとソファーに座り込んだ。
彼は平均的高校生、決して体力が優れている訳ではないのだ。
3人分の荷物を運び続けた疲労は軽くない。
北川に続いて広間に入ろうとした真希だったが、後ろから美凪に袖の端を摘まれ廊下の方へと引っ張られていった。
「ちょっと、美凪。どうしたの?」
「…………」
遠野は頬に手を当てたまま、黙って真希の顔を凝視している。
「黙ってちゃ分からないわよ。何?」
「北川さんの肩を揉んであげましょう」
「別に良いけど……何で?」
「……そうすればポイントアップ」
美凪はそれだけ言うとぽ、と頬を赤く染めた。
それで真希も美凪の意図に気付き、美凪の何倍もの勢いで顔が赤くなっていった。
「いや、ちょ!?なんで私が潤の機嫌取りをしないといけない訳!?
アイツはお調子者で馬鹿で……そりゃ確かに頼りになる時もあるけど……。
だけど私はアイツの事なんて、何とも思ってないのよっ!」
「……あまり大きな声を出すと北川さんに聞こえてしまいますよ」
パンパンパン!とハリセンでツッコミを連打しながら一気に捲くし立てた真希だったが、冷静な指摘を受け慌てて両手で己の口を塞いだ。
そんな真希に対して美凪は軽く溜息を吐いた。
「それでは感謝の気持ちを表して、という事でどうですか?」
「そ、そうね……。荷物を運んでもらったし、そういう事なら構わないわよ……。
でもでも、ポイントアップなんて狙ってないわよっ!」
また喚き散らした後、真希は北川の居る広間へと戻っていった。
美凪も微笑みと生暖かい視線を真希の後ろ姿へと送りながら後をついていく。
「なあ真希、なんか騒がしかったけどなんかあったのか?」
「い、いや……別に何も無いわよ。ちょっと今の日本の政治情勢についての議論が白熱してただけよ」
「随分と堅苦しい事で熱くなってたんだな……」
北川の疑問を、手を振りながら何とか誤魔化す真希。
「そんな事より疲れてるでしょ?家政夫さんへのお給料代わりに肩を揉んであげるわよ」
「お、悪いな。頼むよ」
人の肩など碌に揉んだ事が無かった真希は手探り状態で、しかし優しく丁寧に北川の肩を揉み始めた。
途端に恍惚の表情を浮かべる北川。
「真希、上手いな……」
「そ、そう?なら良かったわ」
真希は北川の一言で自信を付け、そのまま肩を揉み続けた。
(この結構硬い感じは……凝ってるって言うのかしら。そういえばコイツってば何だかんだ言っても苦労してきてたわね……)
北川潤はいわゆるお人好しというヤツであった。
真希と美凪達の荷物はもっぱら彼が運んでいた。
女性の悲鳴を聞けば己の身の危険を顧みることなくすぐに助けに向かっていた。
そして―――真希が皐月に銃をつきけられた時、北川は身を挺して彼女を守ろうとしていた。
普段はふざけている事が多いが、いざという時の彼は常に紳士だった。
「真希、ありがとう。もう大丈夫だよ、そろそろ荷物の整理を始めよう。
色々考えたけどやっぱり俺達だけじゃこの情報は活かし切れない。準備して人探しに出発しようぜ」
「え?」
気付くと北川は振り向いており、その顔は真希の眼前にあった。
赤面しながら慌てて真希は後ろへと飛び退いた。
「あ、そ……そうね。そうしましょうか」
「?」
北川は首を捻ったが特に何かに気付いた様子は無い。
そのまま彼は立ち上がると、美凪にも出発の準備を促した。
美凪はすぐにてきぱきと準備を始めた。
遅れて真希も少々たどたどしい手つきでそれを手伝う。
「ようし、これで荷物の整理は出来たな……。それじゃ行こうか」
「ええ、そうしましょ」
必要最低限な物以外は民家に残して、彼らは歩き始めた。
これは北川は―――そして真希自身も気付いていない事だったが、横に並んで歩く時の北川と真希の間隔が僅かに縮まっていた。
【場所:G−2】
【時間:2日目09:10頃】
北川潤
【持ち物:防弾性割烹着&頭巾、SPAS12ショットガン8/8発+予備弾薬16発+スラッグ弾8発+3インチマグナム弾4発、支給品一式】
【持ち物A:ノートパソコン、お米券】
【状況:首輪が外せる技術者及びCDの中身が理解できるパソコンの詳しい人を求めて平瀬村を探索】
広瀬真希
【持ち物:ハリセン、ワルサーP38アンクルモデル8/8+予備マガジン×2、防弾性割烹着&頭巾、支給品一式、携帯電話、お米券】
【状況:同上】
遠野美凪
【持ち物:包丁、防弾性割烹着&頭巾、支給品一式、お米券数十枚、色々書かれたメモ用紙とCD(ハッキング用)】
【状況:同上】
【備考】
おにぎり1食分×3、ホテルにあった様々なもの(剃刀、タオル、食器、調味料、救急箱、その他諸々)、ワイン&キャビア、
同人誌の数々、スコップ×2、 色々なドリンク剤×6はF-2民家の中
※関連『前回参加者達の遺産』 ルートB13
193 :
訂正:2006/12/20(水) 13:15:57 ID:nOkoc9K60
>【備考】
>おにぎり1食分×3、ホテルにあった様々なもの(剃刀、タオル、食器、調味料、救急箱、その他諸々)、ワイン&キャビア、
>同人誌の数々、スコップ×2、 色々なドリンク剤×6はF-2民家の中
↓
【備考】
おにぎり1食分×3、ホテルにあった様々なもの(剃刀、タオル、食器、調味料、救急箱、その他諸々)、ワイン&キャビア、
同人誌の数々、スコップ×2、 色々なドリンク剤×6はG-2民家の中
194 :
集いし者たち:2006/12/20(水) 18:46:52 ID:jDppMB1k0
平瀬村にやって来た住井護たちは早速、仲間やゲーム脱出に役立ちそうな情報を求めて活動を開始した。
「本当は迅速に事を済ませるために2組ぐらいに別れて行動したいけど……」
「さすがに今の俺たちの武器じゃ少人数で行動しても安全とは言えないよなあ……」
「はちみつくまさん」
「う〜…すいません。あたしが刀を奪われなければこんなことにはならなかったっス……」
「よっち、気にすることじゃない」
「そうそう。命があるだけでも喜ばなきゃ」
「だな。さて、まずはどの辺りから調べてみようか?」
地図を片手に護が3人に尋ねた。
「……ここがいいと思う」
そう言って舞が地図に載っている平瀬村のとある場所を指差した。
「………倉庫?」
舞が指差したのは村の中心から少しずれたところに位置する倉庫であった。
「ここなら近いし、武器までとはいかないけど役に立ちそうなものが見つかるかもしれない」
「なるほど。それもそうね」
「じゃあ、まずはここだな」
「そうと決まれば、いつまでもこんな所でつっ立っている場合じゃないっしょ!」
「ああ。行こうか」
早速4人は倉庫の方へと歩いていった。
195 :
集いし者たち:2006/12/20(水) 18:47:47 ID:jDppMB1k0
「るーこ。そっちはもう荷物はまとめたかい?」
春原陽平は自身の荷物を手に取り立ち上がるとノートパソコンでロワちゃんねるを見ていたるーこに尋ねた。
「ああ。こちらは既に済ませてある。 ………しかしうーへい、それも本当に持っていくのか?」
「いや……この島ではこういう物も万一の時には役に立つかもしれないじゃん?」
るーこが指差す彼の手元には先ほどまで誰も手付かずな状態であった鋏とアヒル隊長と木彫りのヒトデがあった。
ちなみに、その他にも彼は雛山理緒のものだったデイパックと佳乃のものであったデイパックからFN Five-SeveNのマガジンを2セット見つけて拝借していた。
「別に置いていけとは言わないが、そのがーの扱いには充分気をつけろ。今日の正午に爆発するようだからな」
「判っているよ。僕だってそこまでドジは踏まないさ」
そう言ってニカッと笑うと春原もパソコンの画面に映っているロワちゃんねるを見た。
=============================================
自分の安否を報告するスレッド
4:岡崎朋也:二日目 03:05:23 ID:pdh2rLcYc
皆さん、この書き込みをよく読んでください。
このままでは俺達には未来がありません。
こんな馬鹿なゲームに乗った人は少ないと思いますが、島から脱出出来なければいずれ皆命を落としてしまうでしょう。
何とかして島を脱出しようにも、俺の力だけではどうにも出来ません。
そこで俺はこの島を脱出しようと考えている人達を集めたいと思っています。
協力してくれる方々は今日の14時に鎌石村役場に来てください。
疑われる方もいるでしょうが、その懐疑心こそが主催者の狙いです。
こんな絶望的な状況ですが、皆で力を合わせればきっと何とかなると信じています。
俺の知り合いだけでなく知らない方でも脱出に協力してくださるなら大歓迎です。
俺は今から仲間を迎えに行ってくるのでこの掲示板はもうチェック出来ませんが、必ず14時に鎌石村役場に行きます。
皆さん、俺と一緒にこの島を脱出しましょう!
196 :
集いし者たち:2006/12/20(水) 18:48:38 ID:jDppMB1k0
>>3 上の通りですので、仲間の方も連れて14時に鎌石村に来てください
5:レインボー:二日目 06:53:41 ID:JRstJ5Ip
馬鹿野郎!
誰がこの掲示板を見てるか分からないんだぞ……。
言ってる事は分からなくもねえが、状況を考えろ!
こんな無茶はすぐに止めて、自分の身を守る事に集中しやがれ!
=============================================
「うーへい。この書き込み、どう思う?」
るーこは画面に映る岡崎朋也の名の書き込みを指差し陽平に尋ねた。
「……少なくとも書き込まれた時間からして岡崎がこれに書き込んだという可能性はまずないだろうね」
「ああ。この書き込みがあった時間は丁度るーとうーともたちが出会って話をしていた最中だ。したがってこれはうーともの名を語る偽者の書き込みということになる」
「下のレインボーってのは間違いなく秋生さんだな。 ……恐らく殺し合いに乗った何者かが岡崎の名を語って参加者を集めて集まったところで一網打尽にしようって魂胆かな?」
「しかし、これはまずいな。もしうーともの知り合いがこの書き込みを見てしまったら……」
「ああ。ほぼ間違いなく釣られちゃうだろうね………」
陽平はそう言うともう一度偽朋也の書き込みを1行ずつ読んでいった。
「それにしても……見事なまでの偽りっぷりだなあ……」
「そうか?」
「うん。岡崎の奴は普段は敬語とかまったく使うような奴じゃないけど、こういう大衆の前とかではちゃんと敬語使ったりするんだよ」
さすがにこういう掲示板ではそんなことするわけないけどさ、と言って陽平ははっと笑う。
「………何が言いたいんだうーへい?」
「いや……まさかとは思うけど………これを書き込んだのは僕や岡崎もよく知っている奴かも知れない………」
「なんだと……!?」
陽平が口にした言葉にるーこはぴくりと反応した。
197 :
集いし者たち:2006/12/20(水) 18:49:36 ID:jDppMB1k0
「ここまで岡崎になりきれるんだ。おそらくこれを書き込んだ奴は岡崎がどういう思考をした人間なのかをある程度理解している。
それに先ほどの岡崎を見たとおり、あいつは自身が島で出会った参加者とは全員一緒に行動しているっぽかった。島で岡崎と出会った奴によるものとは考えにくい」
「なるほど……うーへいは凄いな」
「………どうする? 一応この岡崎の名の書き込みは偽者だと注意を促しておこうか?」
「いや…止めたほうがいい。かえってそれは逆効果になるかもしれない……」
「そうか…わかった……」
そう言って陽平はロワちゃんねるを閉じるとパソコンの電源を切った。
(でもいったい誰があの書き込みをしたんだ? 風子ちゃんは岡崎と一緒にいたし、渚ちゃんは多分秋生さんといるはずだからシロだ。というかこんなことするはずがない。そして智代とも考えられない……じゃあ残るは………まあ別にいいか今は。いずれ判るはずだ)
「よし。じゃあ行こうか、るーこ」
るーこが自分のデイパックにノートパソコンをしまうのを確認すると陽平は玄関の戸に手をかけた。
「ああ。死んでしまったうーへいの妹たちの分までるーたちは生きなければならないからな」
「―――ああ…!」
陽平は頷くと玄関を開けた。外の天気は眩しいくらい晴れていた。
―――1時間ほど前に流れた2回目の放送で2人は仲間であった者の1人深山雪見、そして陽平の妹――春原芽衣の死を知った。
陽平が時点において最も恐れていた妹の死が現実のものとなってしまったのだ。それを知った瞬間、陽平は激しい喪失感と悲しみに襲われた。
「芽衣が死んだ……はは……そんなことがあってたまるか!」
陽平は近くの壁を思いっきり殴りつけた。
「芽衣はこんなところで死んでいいような子じゃなかった………! それなのに……それなのに………!」
「うーへい………」
るーこは当初、そんな陽平を黙って見つめることしか出来なかった。
しかし、しばらくすると「悲しいときは泣いていい」と言って陽平の背中を抱いて彼を気遣った。
――が、彼はその言葉を拒んだ。
「泣くことはいつでもできる……だから…泣くのは全てが終わってからでいい………」
その時陽平が言ったその言葉は、間違いなくこのゲームの主催者に対する宣戦布告であった。
198 :
集いし者たち:2006/12/20(水) 18:50:34 ID:jDppMB1k0
陽平はるーこの方に振り返り互いの目を合わせた。陽平の瞳には涙ではなく決意が滲み出ていた。
「るーこ……僕に力を貸して欲しい……皆でこのクソゲームから脱出して、そして主催者たちを倒すために………」
「―――言われなくても、るーはそのつもりだ」
そう言ってるーこは陽平の顔をそっと自身の胸に抱き寄せた。
「ありがとう………」
顔は自身の胸にうずめていたためるーこにはその時の陽平の表情は判らなかったが、身体が微かに震えていたのは判った。
るーこはそんな陽平の頭をしばらくの間ただ黙って撫で続けた。
「―――さて……まずはどうしようか?」
青空の下う〜んと一度伸びをすると陽平はるーこに尋ねた。
「決まっているだろう。まずは主催者やマーダーに対抗するために仲間を集める。さすがに2人だけではこの先は辛いからな」
「でも夜の一件でこの村からは人はもういなくなっちゃったかもしれないな」
「いや……そうでもないみたいだぞ………?」
「えっ?」
「そろそろ倉庫に着くはずだけど……」
「護…みんな…少し止まる」
「えっ?」
地図を見ながら進む護たちを突然舞が制止した。
「どうしたんスか舞先輩?」
「――近くに誰かいる…」
「何だって!?」
舞が日本刀をいつでも抜刀できるように構えると、護たちも自分たちの武器を持ち4人で背中合わせな状態になり警戒する。(ちなみに現在武器の無いチエは自身のデイパックを盾代わりにした)
kaihi
200 :
集いし者たち:2006/12/20(水) 19:15:25 ID:jDppMB1k0
「だ、誰よ!? いるなら出てきなさい……!」
志保が少し震えた声で辺りに叫ぶ。
すると近くの民家の物陰から……
「るー!!」
おかしな言葉を発しながら空に向かって両手を掲げる長髪の少女が現れた。
「あ…また長岡さんと同じ制服の人だ」
「参加者には長岡先輩や河野先輩と同じ学校の人多いんスかね?」
「……志保、知り合い?」
「あ、あたし知らないわよこんな子!」
「るー。るーたちの存在をいち早く感知するとはうーたちは只者ではないな」
「なあ、るーこ。その挨拶この島ではしばらく止めたほうが良くないかな? 下手したら相手を驚かせてこっちが殺されかねない…」
そう言いながら少女――るーこが隠れていた同じ物陰から春原陽平が姿を見せた。
「誰だあんたら?」
「あー…僕らは仲間を探しているんだ」
「仲間?」
「その通りだ。この殺し合いというゲームから脱出し主催者を倒すための仲間をるーたちは求めている」
「主催者を倒す? そんなこと可能なの!?」
「残念だが今は無理だ。だが1人でも多くの仲間を集めればきっと道は開けるとるーたちは信じている」
「…………信用していいの?」
「信用してくれるなら僕らも喜んで出来る限りだけど君たちに協力する。信用しないというなら僕らは黙ってここを去るよ」
「…………」
「……あたしはこの2人は信じられると思うわ」
しばらく黙っていた4人であったが、まず最初に志保がその沈黙を破った。
201 :
集いし者たち:2006/12/20(水) 19:16:53 ID:jDppMB1k0
それに続いて護たちも口を開く。
「………そうだな。それに俺たちも丁度仲間が欲しいと思っていたところだし」
「そうっスね。それに、あたしたちの持っている武器だけじゃ正直心細かったですし……舞先輩は?」
「………皆がそう言うなら異論は無い」
「じゃあ決まりっしょ」
「そうか、ありがとう。じゃあ早速自己紹介といこうか。僕は春原陽平。こっちはるーこ・きれいなそらだ」
「る。よろしく頼むぞ」
「俺は住井護。住井とでも護とでも言いやすいほうで呼んでくれて構わないぜ」
「吉岡チエっス。よっちと呼んでくれたら嬉しいっス」
「長岡志保よ。情報を集めることがあったらあたしにお任せ!」
「………川澄舞。舞で構わない」
陽平たち6人はそれぞれ手っ取り早く自己紹介を終わらせると続いて情報交換に移った。
「じゃあ春原さんたちはヒロに会ったのね?」
「ああ。今はどこにいるのか判らない状態だけど、多分みさきちゃんと一緒に頑張っていると思う」
「川名みさきって確か俺の学校の先輩だな。俺は会ったことはないけど、確か目が見えないっていう…」
「しかし、うーの行方は未だに判らず仕舞いか…」
「でも驚いたっス。るーこ先輩も河野先輩を探していたなんて……」
「よっち……頑張れ」
舞がぽんとチエの肩を叩いた。
会費
203 :
集いし者たち:2006/12/20(水) 19:18:10 ID:jDppMB1k0
「ふぇっ!? な…なんのことっスか!?」
「………よっち、顔が赤い」
「殺人を強要された島で生まれる恋の三角関係! これは志保ちゃん情報至上最大のスキャンダルね!」
「な、長岡先輩まで何言ってるんスかー!!」
チエは思わず両方の手をぶんぶんと振った。
「安心しろ、うーっち。るーはうーっちからうーを取るつもりはないぞ」
「なーんだ。つまんないの。折角のビックスキャンダルだと思ったのに……」
「あの〜、るーこ先輩? できればその『うーっち』って呼び方は止めてもらえないっスか? なんか…その……う●ちみたいに聞こえるんで……」
できれば普通によっちでお願いします、と言って頭を下げるチエ。
ちなみに護は『うーまも』。志保は『うーしほ』。舞は『うーまい』である。(ちなみに、さすがに舞は普通に呼ぶべきじゃないかと陽平たちはるーこに意見したが舞本人が「嫌いじゃない」ということなので採用された)
「あー……僕も普通に呼んだほうがいいと思う」
「そうか? ならば仕方ない。努力しよう」
「どうもっス」
「―――なあ春原さん……」
ふいに護が陽平に声をかけた。
「ん? なんだい?」
「あの……本当は聞いていいかわかんないんですけど……」
「………芽衣の……妹のことかい?」
「………はい…」
やっぱり親族だったんですね…、と護が言うと同時に6人の周りはしんと静まり返った。
「…………芽衣は僕なんかとは違って優しくてしっかりしたやつだった……殺し合いに乗るような子でも、殺し合いを強制されるような子でも、殺されるような子でもなかった……」
「……………」
「放送で芽衣の死を知ったときは凄く辛かった。悲しかった。殺した奴が憎かった……だけど、いつまでもそんなことに囚われていちゃ駄目なんだとるーこが僕に教えてくれた………」
「うーへい……」
「僕たちは芽衣や死んでいった人たちの分まで生きなければならない。そのためにも生きてこの島から…このクソゲームから脱出する。そして………」
陽平は右手を上げると次の瞬間それをぐっと握った。
「このクソゲームの主催者たちに強力なカウンターパンチを食らわせてやるんだ………!」
204 :
集いし者たち:2006/12/20(水) 19:20:55 ID:jDppMB1k0
「………陽平の言うとおりだ」
「舞先輩?」
陽平に続いて今度は舞が口を開いた。
「みんなで力を合わせれば、きっとこの島から脱出できるはず……」
「川澄さん……」
「そしてみんなで主催者に見せ付けてやればいい………」
「……何を?」
「……………正義は必ず勝つということを」
そう言って舞はふっと笑った―――ように見えた。
先ほどの陽平も、今の舞もどこかで見たり聞いたことがあるセリフとシチュエーションだなと他の者たちは思ったが、あえて突っ込まない。(というより陽平も舞も狙って言っていたわけではないことが様子を見て明らかだからである)
むしろこの2人のおかげでその場にいた全員の結束は固まった。
「……そうだな!」
春原がそう言ってうんと頷く。
「ええ。やってやりましょう!」
「るーたちが正義か…確かにその通りだな」
「そおっスよね! みんなで頑張るっしょ!」
「よっしゃ! じゃあ、気を取り直して行きますか!?」
「はちみつくまさん」
護たちは立ち上がると自分たちの荷物を手に取った。
「ん? どこか行くのかい?」
陽平たちも立ち上がり荷物を手に取ると護たちに尋ねた。
「ああ。俺たちはこれからすぐそこの倉庫に行こうとしていたところだったんだ」
「倉庫?」
「何か役に立つものが見つかるかもしれないだろう?」
「なるほど。ならば善は急げだ。すぐに行こう」
こうして護たち4人に陽平とるーこを加えたメンバー6人はみんなで必ず最後まで生き残るという決意を胸に再び歩き出した。
205 :
集いし者たち:2006/12/20(水) 19:22:18 ID:jDppMB1k0
【時間:2日目午前7時30分頃】
【場所:F−2】
春原陽平
【所持品1:スタンガン・FN Five-SeveNの予備マガジン(20発入り)×2・他支給品一式】
【所持品2:鋏・アヒル隊長(4時間30分後爆発)・木彫りのヒトデ・他支給品一式】
【状態:全身打撲・数ヶ所に軽い切り傷(どちらも大体は治療済み)。まずは使えそうな物を探しに倉庫へ】
ルーシー・マリア・ミソラ
【所持品1:ノートパソコン(バッテリー残量・まだまだ余裕)・スペツナズナイフ】
【所持品2:鉈・包丁・他支給品一式(2人分)】
【状態:左耳一部喪失・額裂傷・背中に軽い火傷(全て治療済み)。まずは使えそうな物を探しに倉庫へ】
吉岡チエ
【所持品:支給品一式】
【状態:まずは使えそうな物を探しに倉庫へ。貴明ほか知人・同志を探す】
住井護
【所持品:投げナイフ(残り:2本)・支給品一式】
【状態:まずは使えそうな物を探しに倉庫へ。浩平ほか知人・同志を探す】
長岡志保
【所持品:投げナイフ(残り:2本)・新聞紙・支給品一式)】
【状態:まずは使えそうな物を探しに倉庫へ。浩之・あかりほか知人・同志を探す】
川澄舞
【所持品:日本刀・支給品一式】
【状態:まずは使えそうな物を探しに倉庫へ。祐一・佐祐理ほか知人・同志を探す】
206 :
集いし者たち:2006/12/20(水) 19:32:29 ID:jDppMB1k0
【備考】
・アヒル隊長が正午に爆発することは陽平、るーこ以外のメンバーも確認済み
・以下の物はるーこたちがいた民家内に放置されている
デイパック×4(澪、敬介、佳乃、晴子のもの)(いずれも中身は支給品一式。なお陽平が持っていったのは理緒のもの)
207 :
集いし者たち:2006/12/20(水) 22:03:40 ID:jDppMB1k0
【訂正】
>デイパック×4(澪、敬介、佳乃、晴子のもの)
この部分を以下に訂正
デイパック×4(澪、繭、佳乃、晴子のもの)
>>199 >>202 回避ありがとう
>>感想・考察・運営スレ824
指摘サンクス
よぉ皆の衆。毎度お馴染みの一人称視点でお送りしている高槻様だ。
いつもならここいらで愚痴をこぼしたりお袋に(脳内)手紙を出している頃だが今はそんな気分じゃねえ。俺様にだってセンチメンタリズムに浸りたい時だってあるのさ。
それもそうさ、俺様のファン四号の沢渡(一号は郁乃、二号は立田、三号は久寿川な)が俺様達をかばう形で名誉の戦死をとげちまったんだからな…
一番最初のグループでそこそこ仲が良さそうだったゆめみを始めとして俺様を除く全員が涙を流している。いや、ゆめみはロボットだから涙を流しそうな表情なだけなんだけどな。
俺様は泣かない。というより、泣けないのだ。そりゃそうか、ずっとFARGOにいて泣く子も黙るような事をさんざんしてきたんだからな…けどよ、俺様だって悲しくないわけじゃあない。一時とは言えこんな俺様にも懐きかけてくれたんだからよ。
などと俺様が冷静になっていても状況が進展するわけじゃあねえ。早いトコ久寿川に追いつく為にも荷物をまとめなくっちゃあいけない。
「…おい、ゆめみ。別れはそこらへんにしとけ。ここから出るぞ」
俺様はゆめみをどかし、沢渡の遺体を持ち上げる。ひどく軽くて、そしてまだ温かかった。
「ちょっ…そんな言い方ないんじゃないの? ゆめみにとって、真琴は大切な仲間だったのよ? それに…あんた、どうしてそんな平然とした顔でいられるのよ…人が…死んだっていうのに」
普段のあいつとは全然違う、涙目で俺様に言う郁乃。
…俺様にだって分かるもんか。それに、こんなところでくよくよしててもしょうがねえじゃねえか。
しかし、上手い説得の方法を思いつけなかった俺様はいつもの調子で、無神経な口調で言ってやる。
「知るかよ…大体、あいつとは元々縁もクソもなかった奴だぞ。たった一日足らず一緒にいただけじゃねえか」
「な…何よっ…その突き放した言い方は…!」
必要以上に暴言を吐いてしまう俺様に、郁乃が怒りを含んだ言い方で答える。…クソッ、本当に分からねえよ…どうしてだか、何か胸の中のモンが煮えたぎっていやがる。
「大体よ、あいつが勝手に動くからだ。力もねえくせにしゃしゃり出てくるからこうなったんだ」
「こっ…こいつ…助けてもらっていてなんて野郎だ…」
まだ名前も聞いていない小僧に睨まれる。包丁でもあれば今にも突き刺してきそうだ。
「まったく…いつもいつもギャーギャー煩くてよ…恐がりなくせして敵の前では虚勢を張りやがるし、何をしても文句を言いやがる」
沢渡を抱える手が震え、足も震え出してロクに進めなくなる。そう言えば、最後にあいつにしてやったのも、こんな感じの…所謂お姫様だっこだった。ちっ…こうなると分かってりゃもう少しやっても良かったってのによ。
その時の、沢渡の嬉しそうな顔が、ふっと浮かんだ。そして、何故だか分からないが視界が悪くなり、目から何かが滴り落ちやがった。
おいおい、室内なのに雨ってか? やれやれ、雨漏りがひどすぎるってんだ…
「迷惑なんだよっ…そんなどうしようもねえヤツでも…俺様のすぐ側でこうやって死なれるとよ…! 俺様がそいつの分までその思いを背負って生きなきゃならねえじゃねえか…!」
その雨に気付いたらしい郁乃が、驚いたような声を漏らす。
「…高槻、あんた…」
くそっ、ちくしょう、俺様は一流の悪で、ハードボイルドなんだぞ、一々人が死んだくらいで、どうして泣いてる。そう言えば、俺様が人の為に泣いたのはいつが最後だっただろう…そんなこと、もう覚えちゃいないってのによ…
「おっさん…」
「うるせえ…まだおっさんって言われるくらい年食ってねぇぞ、小僧」
全然説得力の無い声で反論する。ああもう、情けないったらありゃしねぇ…
「俺も小僧、って呼ばれる筋合いはないな。折原浩平だ」
「けっ…高槻だ。一生覚えてろ」
剣呑な自己紹介を交わして、俺様はゆめみに言ってやる。
「おらっ、沢渡の墓作るんなら早くしろ。時間がもったいないんだよ」
言われたゆめみは、少しの間俺様を見た後大きくお辞儀をして「ありがとうございます…」と言ってくれた。あーあ、感謝されるなんてガラじゃねえのに…
「ぴこー…」
ふと足元を見ると、気のせいか毛がツヤツヤになっているようにも見えるポテトがくいくいとズボンを引っ張っていた。
「何だよ、今こっちはシリアスなんだよ。漫才なら後に…あ、立田? …ああそうか、気ぃ失ったまんまなんだったな…おい折原、立田背負って行ってやれ」
そう言うと折原は「偉そうに言うなよ」と言いながらも立田の側まで行き、背中に抱えてくれた。
その時。
「ぴこっ!?」
いきなり鳴き声をあげるポテト。何かを感じ取ったらしく、境内の方を見据えている。
「何…? もしかして、また敵なの!?」
郁乃の言葉を聞いて、俺様達に戦慄が走る。ハッキリ言って、全員がボロボロなこの状態ではまともに戦えるもんじゃねえ。ちっ、こうなったらポテトに頑張ってもらうか…
などと思っていたところ、果たして現れたのは!
「ぷひ〜〜〜〜〜っ!!!」
一直線にこっちに突っ込んでくるのはウリ坊らしき物体だった。そして、そいつは俺様の顔面目掛けて…って、オイ! ちょ、タンm
* * *
「…本当にごめんなさい。銃声がしたもんだからつい」
俺様がウリ坊のストレートを受け、寺の床にぶっ倒れてから数分。目の前にいる髪の長い女がぺこぺことウリ坊共々謝罪していた。
まったく、沢渡の死体に傷がつかなかっただけでもマシってもんだ。流石俺様。自らの身を犠牲にしてでも仲間の名誉は守る。漢にしかできない荒業だな。
「それにしても…いきなりこの子が飛んできたときには何かと思ったわよ」
「あははは…ま、まあ、殺し合いを止めるには手段を選んでいられないと思って。…でも、遅かったのね…」
そうだ、来るならもう少し早く来やがれ、と悪態を付きそうになるが、それはこの場にいる全員が同じ気分だし、この女に罪はねぇ。…なんか、俺様にも思慮分別がついてきたような気がする。
「…ホントにごめんね。あなた達、この子の埋葬をしてあげようとしてたんでしょ? 邪魔しちゃって…」
「いいえ、いいんです。また殺し合いにならずに済みましたから…」
ゆめみの言葉に、全員が頷く。まったく、戦闘にならなかっただけでも幸いだな。
「…ね、おわび…とは言えないけど、私もこの子の埋葬、手伝ってあげてもいい?」
「ああ、それは別に構わないぞ。人手は多い方がいいし、こいつ…沢渡だって喜ぶだろうからな」
折原の言葉にありがとう、と頷く女。
「そう言えば…まだ名乗ってなかったわね。私は杏、藤林杏よ。杏でいいわ。で、この子はボタン。私の相棒よ」
ぷひ、と鳴き声を出すボタン。…また動物か。それにしても、ポテトといい、ボタンといい、やけに食い物の名前が多いような…
「何か考えてる? そこの人?」
「い、いや…別に考えてねぇよ」
何て鋭い女だ。うーむ、こいつはファンにすべきか…
その後は杏に各々自己紹介をして、銃弾を装填し直したり荷物を纏めた後、全員で沢渡の墓を作る事にした。
杏と言う人手が加わったので、俺様の力もあり、短時間で墓を作ることができた。墓標に、森で集めてきた木の枝を十字に束ねて、十字架代わりにしてやる。
沢渡を入れて土をかぶせた後、真っ先にゆめみがその前に跪く。
「どうか…宮内さんと同じ天国へ」
郁乃も手を合わせ「それじゃ…また」と呟き、折原も「ほとんど話も出来なかったけど…じゃあな」と別れの言葉を告げる。
沢渡を直接には知らない杏は黙って祈りを捧げていた。俺様? 俺様は…一言だけ言ってやったさ、「あばよ」と。
小牧郁乃
【所持品:支給品(写真集×2)、S&W 500マグナム(5/5、予備弾7発)、車椅子】
【状態:真琴に別れを告げる】
立田七海
【所持品:支給品(フラッシュメモリ)】
【状態:腹部殴打悶絶中、今は浩平の背中に】
ほしのゆめみ
【所持品:支給品(忍者セット、おたま)】
【状態:左腕が動かない。真琴に別れを告げる】
折原浩平
【所持品:支給品(要塞開錠用IDカード、武器庫用鍵、要塞見取り図、34徳ナイフ、だんご大家族(残り100人)、H&K PSG−1(残り3発。6倍スコープ付き)、日本酒(残り3分の2))】
【状態:全身打撲、打ち身など多数、両手に怪我。真琴に別れを告げる】
漢・高槻
【所持品:食料・水以外の支給品一式、日本刀、分厚い小説、ポテト(光一個)、コルトガバメント(装弾数:7/7)予備弾(6)】
【状況:真琴に別れを告げる】
藤林杏
【所持品:包丁、辞書×3(国語、和英、英和)、携帯用ガスコンロ、野菜などの食料や調味料、ほか支給品一式】
【状態:真琴の死を弔う】
ボタン
【状態:ポテトと出会う】
【時間:2日目05:40】
【場所:無学寺】
【備考:B-10他】
冬弥は貴明に撃たれた傷を抑えながら鎌石村の道をふらつきながら歩いていた。
「――なにやってるんだろうな、俺は」
勢い込んで人を襲ったのにもかかわらず、結果は武器は失い、自らは怪我を負っただけ。
それでも由綺を殺した人間に対する憎悪は止まなかった。
ポケットに残った十円玉を取り出すとぎゅっと握り締める。
痛みに耐えながら歩く道すがら、気が付くと昨日訪れた消防分署が目の前にあった。
「そう言えば昨日もこの道を通ったな……」
奇妙な縁で知り合った自分の隣にいた少女のことを思い出した。
どこかマナに良く似たその風体を頭の中に描く。
「……七瀬さんはどうしているのかな」
去り際の呆然と泣き出しそうな顔が冬弥の脳裏を駆け巡る。
「だからなんで今更七瀬さんの顔が浮かぶんだ……次に会っても殺すことになるだけなのに」
考えるのを拒絶するように頭を振りながら呟いた――その直後、彼を手伝うように異音が辺りに響き渡る。
「――!?」
その音に冬弥は慌てて分署の壁へと身を隠すように移動する。
鳴り響く重いエンジン音と共に一台の車が分署の前に停車すると、中から一人の女性が降りてきた。
「――そこにおられるんでしょう? ……藤井さん」
見つかっていたのかと舌打ちをした冬弥だったが、聞き覚えのある声と呼ばれた自身の名前にそっと壁から身を乗り出すと
そこにはもう帰れない日常の世界の住人であったはずの篠塚弥生の姿があった――。
「っつっ……」
促されるように車に乗り込み、怪我の手当てを受ける冬弥の顔が痛みに曇る。
だが意にもせず弥生は黙々と応急処置を続け包帯を巻いていた。
その間二人の間にはずっと沈黙が流れ付ける続ける。
胸に去来する共通の想い。由綺を失った悲しみとその怒りの矛先はおそらくまったく一緒だろう。
敢えて冬弥は何も言わなかった。
きっと弥生さんはゲームに乗った。
俺も乗ったものと考えているが、それでも目的は一緒だからとこうやってくれているんだ――。
「誰に……」
弥生の手が止まり、ポツリとつぶやく様に尋ねる。
「誰にやられたんですか?」
「――河野貴明って名乗ってたかな……あとは攻撃されたわけじゃないけど霧島聖って女性も。
この二人は由綺を殺した奴じゃ無かったわけで……情け無い話ですけどね」
冬弥の答えた名前に少し驚いたものの、納得したような顔で「そうですか」と小さく返すと、救急箱に使い終わった包帯を仕舞い蓋をする。
「一つ確認してもよろしいでしょうか?」
いつもスタジオで見せていた表情でありながら冷たく悲しい色を瞳に灯しながら発せられた問いに冬弥は首を振りながら答える。
「言いたいことはわかりますよ。間違いなく弥生さんの想像通りです」
冬弥の返答に少し寂しそうに、だが愁いを帯びた表情で弥生は笑った。
「差し支えなければご一緒してもよろしいでしょうか?」
「――別にかまわないですけど、武器も何も無い、それに怪我もしてる……足手まといでしかないですよ」
弱気な冬弥の発言に少し苛立ちを覚えたものの、服の裾をめくりさきほど聖から治療を受けた傷痕を見せながら言った。
「――それは私も同じですよ。それもあの方につけられたものだって言うのですから恥ずかしい限りです」
「もしかして英二さん……?」
コクリと頷きながら視線を逸らすように空を眺め言葉を続けた。
「――やはりあの方は強いです……意思も、言葉も、行動も、全てが私とは大違いで……。
でも……由綺さんを失った私に何が残るんでしょうか。別のやり方って言うのは何なんでしょうか……」
それは俺も同じです――と言いかけて冬弥は口をつぐんだ。
言葉にしたら決心が揺らいでしまう気がした。
おそらく彼女も迷っていたのだろう。
だが『優勝すれば望みは全て叶う』と言う主催の言葉を信じて動こうとしているんだと。
自分はそんな言葉は信じて無いし、誇れるような立派な行動理念も無かった。
「――俺は」
ただあるのは由綺を殺した人間を許せないと言う想い。
「由綺を殺した人間が憎い……ただそれだけさ」
他の人間を殺すことへの迷いはあれどそれだけは変わらず、だからこそ止まろうとは思わなかった。
その冬弥の答えに弥生は振り返ると満足そうに小さく頷くのだった。
「さて、それでは武器を取りに行きましょうか」
言いながら弥生は車のエンジンをかける。
「え?」
「霧島さん方は観音堂のところにいらっしゃったのでしょう?
放送前に鎌石村にいて藤井さんがそこで出会ったのだとしたら間違いなく氷川村のほうに向かっているはずです。
今なら向こうも手負いでしょうし殺せるうちに殺しておくべきだと思いますわ」
「でももう大分前だしいるかどうかもわからないですよ?」
「……いなければそれはそれで構いません。少なくとも鎌石村で人と出会うことが無かったので氷川村へと向かおうと思っていましたし」
「しかし車でだと目立ちませんか?」
次々と繰り出される冬弥の問いに弥生は彼女らしからぬ笑みを浮かべながら答えた。
「……逆に安全だと思いますよ、先ほどの藤井さんのようにこの音を聞いたら隠れるでしょうし。それに――」
弥生は言いながら窓ガラスを全力で殴りつける。
その音に冬弥は思わず怯むも、ガラスにはヒビ一つ入ってなかった。
「どうやらこの車は窓はおろかタイヤまで完全に防弾製になっているようですので、撃たれて爆発ということもなさそうです」
エンジンをかけた車内に訪れる再びの沈黙。
ハンドルを握り締め一直線に前を見続ける弥生に対し、ポケットの十円玉を握り締めながら冬弥はいまだに思い浮かぶ顔に悩んでいた。
――だが由綺の仇を討つという共通の思いを乗せて車はゆっくりと動き出していった。
篠塚弥生
【所持品:包丁、救急箱、水と食料少々、ほか支給品一式(車の後部座席に置いてある)】
【状態:マーダー・脇腹に怪我(治療済み)、自動車運転(燃料はほぼ満タン)、観音堂経由して氷川村→平瀬村へと向かう】
藤井冬弥
【所持品:消防斧、支給品一式】
【状態:マーダー・右腕・右肩負傷(簡単な応急処置)】
【時間:2日目10:00】
【場所:C−5鎌石村消防分署前出発】
【備考】
・自動車は基本的に道しか走れません
・→573 →579
217 :
迷走:2006/12/21(木) 04:16:55 ID:wODNRSQN0
「まずは電池の確保よねぇ…」
柳川裕也と激戦を演じた来栖川綾香は一路氷川村へと進路を取っていた。
浩之達から奪い取ったレーダー………これはこのゲームに於いてある意味最強の武器といえるかもしれない。
何しろこのレーダーさえあれば敵の位置を一方的に把握出来る。
敵の虚を付く事も容易いし、逆に虚を付かれるような事態は避けれるだろう。
しかし…万が一大事な場面で電池切れなどという憂き目にあっては死んでも死に切れない。
そこで予備の電池(綾香が調べた所このレーダーは単3電池を使用しているようだった)を探そうとしていた。
綾香は考える、レーダーさえあればこれ以上の情報収集はもう不要だと。
人が集まりそうな場所をレーダーを持って徘徊していれば、いつかは怨敵を発見する事が出来るだろう。
綾香の標的はゲームに乗っていた、ならば基本的には単独行動だろう………あの女の行き先を知っている人間はいないと思う。
名前くらいなら知っている者がいるかも知れないが、今その情報にどれだけの価値があるというのか。
毎回出会い頭に問答をして余計な手間とリスクを負うのは愚かな行為だ。
折角手に入れたレーダーだ、最大限に活かさねば罰が当たるというものだろう。
もう集団に取り入る必要も無い、自分一人の力で問題無く優勝する事が可能だ。
これからは敵をレーダーで確認したら影から様子を窺い、無理なくやれるようならやる。
危険そうな集団ならばやり過ごせば良い―――無論その中にターゲットを見つけた場合は別だが。
「待ってなさいよクソガキ…絶対に生き地獄を味合わせてやる……!」
時間を置いても綾香の憎悪は薄らぐどころか一層強まるばかりだった。
氷川村へ向かう足も自然と早まってくる。
だがふとレーダーを覗いてみると、そこには自分以外にもう一つ光点が映っていた。
「誰か………凄い速さでこっちに来てる!?」
綾香は急いで少し離れた場所にある林の中に身を隠した。
そのまま辺りを観察していると、自分より幾つか年上に見える風貌の男が街道の向こうから走ってきた。
遠くて正確には分からないが、ハンマーのような物を握っているだけで銃は持っていない。
つまり格好の獲物だ。
218 :
迷走:2006/12/21(木) 04:18:32 ID:wODNRSQN0
(この距離だと自信は無いけど…迷ってる時間は無いわよね?)
林に隠れたまま、引き金に指をかける――――!!
・
・
・
「くそ………くそぉっ!」
柏木耕一は全力で駆けていた。向かうは平瀬村―――しかし、有紀寧の言った通りに動くつもりなど毛頭無かった。
人殺しなどしない、出来る訳が無い。大体これまで俺は何をしようとしていた?
殺戮に走った千鶴さんを止めようとしていたんじゃないか!
そんな自分が人殺しをするなど馬鹿げている。
だが自分一人ではもうどうしようもない状況なのもまた事実だった。
だから今は仲間が必要だ。
平瀬村には以前行動を共にしていた舞達がいる筈だった。それに柳川も向かっている。
このクソゲームの中でも自分を見失っていない信頼出来る奴らだ。
彼らと力を合わせ―――有紀寧を何とかして出し抜く。
―――大丈夫、まだ時間はたっぷりある。
―――大丈夫、所詮相手は非力な女の子だ。
「そうさ、きっと何とかなる。何とかしてみせる…!!」
まるで自己暗示をかける様に自らに言い聞かせながら耕一は走り続ける。
しかし街道は移動の際に利用する人間が多い。
即ち敵に襲われるリスクも高いという事である。
冷静さを欠いていた耕一はその事に気付いていなかった。
219 :
迷走:2006/12/21(木) 04:19:58 ID:wODNRSQN0
ぱららららら……
突然銃声が辺りに響き渡る。
直後、耕一のすぐ後ろの地面がまるで線を描くかのように順番に弾け飛んだ。
「て、敵かっ!?」
耕一は驚いて立ち止まりかけたが―――それは自殺行為だと気付いてすぐに再び走り出した。
ぱららららら……
再び銃声が響き渡る。
しかし咄嗟の判断が功を奏したのか、再び放たれた銃弾の群れも彼を捉える事は無かった。
第3射は―――無い。きっと弾切れだ。
しかし敵が一時的に弾切れを起こしていようとまだ予備の弾丸があるかも知れない。
この場は走り続けるしか無かった。
・
・
・
「ああ、もう!やっぱり駄目だったわね」
一人残された綾香は心底悔しそうに呟いた。
銃器に関しては素人の彼女では、離れた場所を全力疾走している相手を射抜く事は適わなかった。
綾香は追撃するか悩んだが結局それはしない事にした………相手の逃げる方向は自分の行き先とは反対方向だったからだ。
あのような隙だらけの行動を取っている男では長生き出来ないだろう、自分が手を下すまでもない。
そう考えた彼女はすぐに気を取り直し、氷川村目指して歩き出した。
220 :
迷走:2006/12/21(木) 04:21:17 ID:wODNRSQN0
・
・
・
綾香の銃撃を凌いだ後も耕一はそのまま走り続けた。
脇目も振らず己の全てをその脚に籠めて駆け抜ける。
後ろから誰かが追ってくるような気配もしない。
(何て奴だ…いきなり撃ってくるなんて……!!)
余りにも一方的な攻撃に耕一は怒りと焦りを覚えていた。
襲撃者の姿を確認する余裕は無かったが、間違いなくゲームに乗っている人間だろう。
そいつは全く容赦する事なく狙撃してきたのだ。
耕一もほんの数時間前に流れた放送は聞いている。
もう3分の1以上……多分今はもっと多くの人間が殺されてしまったに違いない。
この島にはさっきの襲撃者のようなやる気になっている者が確実に何人か…もしかしたら何十人かという規模で存在する。
今も殺し合いはこの島の至る所で行なわれているのだ。
仮に有紀寧を打倒出来たとしても………根本的な問題が全て解決する訳ではない。
果たしてこの先ずっと人を殺さずにやっていけるのだろうか?
きっと無理だ、さっきの奴を殺さずに制止出来るとは思えない。
また……仮に仲間を作ったとしてもそのうちの誰かが裏切ったら終わりだ。
そう考えると千鶴のやっている事は、身内の生存確率を上げるという意味では最も効率の良い方法であるように思えた。
柏木家の人間なら絶対に裏切らない。それに自分達は普通の人間とは違う。
家族で力を合わせれば、他の人間がいなくても島からの脱出は可能なんじゃないか?という疑問が頭を過ぎる。
(なら俺もいっそ……)
『正当防衛なら、殺したって良いんじゃないか?』
こんな夜中にご苦労様です
222 :
迷走:2006/12/21(木) 04:22:43 ID:wODNRSQN0
そんな囁きが心のどこかから聞こえてくる。
それは仕方の無いことかも知れない。
自分だって死にたくは無いし、初音を救うという使命もある。
襲ってきた襲撃者を悉く殺していけばその両方を成す事になるのだ。
――なら今から戻ってあの襲ってきた奴と戦うか?
…………駄目だ。俺は銃を持っていない、近付く前に蜂の巣にされるのがオチだ。
――なら銃を持っていない相手なら勝てるんじゃないか?
それは……勝てる。そうさ、近接戦なら俺は柳川にだって負けない自信がある。
――でも……銃を持っていない奴が襲撃を仕掛けてくるだろうか?
それは確率が低い。序盤ならともかくここまでゲームが進んでしまった今では、ゲームに乗った奴は強力な武器を手に入れているだろう。
……けど、俺は銃を持っていない奴らを知っている。4人もいるのに銃を一つも持っていない奴らを、だ。
何故攻撃の対象を襲撃者だけに絞る必要がある?舞達を殺せば、後一人殺すだけで初音ちゃんは救えるんじゃないのか?
舞達の命と初音ちゃんの命、どっちが自分にとって大切だ?
……
……
…
「―――駄目だっ、何を考えているんだ俺は!」
恐ろしい方向に進みかけた思考を慌てて停止させる。
鬼の殺戮衝動にも耐えた自分がそんな簡単に狂気に身を任せて良い訳が無い。
今は襲われたばかり……一歩間違えれば命を落としていた。
だからそんなネガティブな考えが生まれるんだ。
なら今は何も考えないでおこう。ただ走り続けよう、平瀬村へと。
そう強引に結論付けて、耕一は考えるのを止めた。
回避です
もういっちょ回避
回避…いい加減作品書きたいよう…でも暇がないよう(泣き
さらに回避…実はもうB-13どこまで話が進んでいるのかすらも追えてない…
回避
回避
229 :
迷走:2006/12/21(木) 04:29:50 ID:wODNRSQN0
柏木耕一
【時間:2日目9:35頃】
【場所:H-3街道】
【所持品:大きなハンマー・支給品一式】
【状態:錯乱気味、平瀬村へ。首輪爆破まであと23:10】
来栖川綾香
【時間:2日目9:00頃】
【場所:I-5街道】
【所持品1:IMI マイクロUZI 残弾数(30/30)・予備カートリッジ(30発入×4)】
【所持品2:防弾チョッキ・支給品一式・携帯型レーザー式誘導装置 弾数3・レーダー】
【状態@:氷川村に行き電池の探索。右腕と肋骨損傷(激しい動きは痛みを伴う)。左肩口刺し傷(治療済み)】
【状態A:まーりゃんとささら、さらに彼女達と同じ制服の人間を捕捉して排除する。好機があれば珊瑚の殺害も狙う】
(関連528・566 B13)
>>221 >>223-228 回避ありがとー
>>225-226 イ`
補助サイト見ると分かりやすいかも
230 :
邂逅する道:2006/12/21(木) 04:36:52 ID:uCfzDiLV0
「――気が付いたか?」
貴明が目を開けると目の前にはやれやれといった表情で、だが安堵の笑みを漏らした聖の姿があった。
横には心配そうに見つめることみと先ほどまで恐怖に覚えていたとは思えないほど安らかに眠る名雪の姿もあった。
「――っ!! あいつは?」
気絶する前のことを急激に思い出し、冬弥の姿を探そうと身体を無理矢理起こしたものの身体を激痛が襲う。
よろける貴明をたしなめるように聖は言う。
「大丈夫だ、なんとか追い払ったよ。それよりあまり無理はしないほうが良い。軽い怪我でもないのだからな」
うんうんと頷きながらことみは貴明の身体をさすっている。
「――手当て……してくれたんですね」
身体に巻かれた包帯に触れながら聖に対してペコリと頭を下げた。
聖ははにかむように笑いながら、そして一転真面目な表情を作り貴明の顔に向かい合う。
「出来る限りの事をしたつもりだが、正直応急処置でしかない。無理をするとすぐ傷は開くぞ。
安静にしていることをお勧めしたいが……ここではそう言うわけにもいかないだろうな」
「ええ……人を待たせているからすぐにでも戻らないと」
置いてくる形になったささらとマナのことが気にかかっていた。
名雪のほうをチラリと見た貴明に聖は小さく溜め息をつくと
「――止めるわけにもいかんだろうな」
言いながら聖は持っていた貴明の所持品を手渡す。
「この娘のことは私達に任せたまえ、君にはやるべき事があるのだろう?」
聖の言葉に貴明は真摯に頷くと、痛む身体を押さえよろめきながらも立ち上がり自身のバックを手に持った。
231 :
邂逅する道:2006/12/21(木) 04:38:45 ID:uCfzDiLV0
「すいません、お世話になりました……どうかお気をつけて」
「ああ、君もな」
「ばいばいなの」
また一つ貴明は小さく会釈をすると観音堂の西の林の中へと真っ直ぐ鎌石村の方角に走って行った。
「――さてと、この娘のことも気にかかるがそろそろ出発しようか。
三時間ほどここで足止めを食ってしまったわけだしね」
聖は眠り続ける名雪を起こさぬようにそっと背中におぶせる、自身のバックに手を伸ばす――が
「先生重くないの? これぐらい私が持つの」
庇うようにことみが二人分のバックを抱え上げる。
「大丈夫か?」
ことみは少しフラフラとしながらも、聖の問いに微笑みながらガッツポーズで返す。
そんなことみの姿を微笑ましく眺めながら、聖は笑って言った。
「それでは行こうか、とりあえずは氷川村だな――ん?」
足並みをそろえて聖とことみが歩き出そうとした直後、ガサリと言う音が聞こえた。
「また会いましたね――霧島聖さん」
慌てて音のした方に振り返ると先ほど自分が手当てした女性――篠塚弥生の姿があった。
232 :
邂逅する道:2006/12/21(木) 04:39:21 ID:uCfzDiLV0
【時間:2日目10:45】
【場所:C-6(観音堂正面)】
霧島聖
【所持品1:ベアークロー、FN P90(4/50)】
【状態:左肩・左腕負傷(応急処置および治療済み)。名雪を背負っている】
一ノ瀬ことみ
【所持品:暗殺用十徳ナイフ、青酸カリ入り青いマニキュア、携帯電話(GPSレーダー・MP3再生機能・時限爆弾機能(爆破機能1時間後に爆発)付き)他支給品一式(ことみのメモ付き地図入り)】
【状態:聖の支給品一式(治療用の道具一式(残り半分くらい)と名雪の持ち物を所持】
水瀬名雪
【所持品:なし】
【状態:気絶中。精神状況不明】
篠塚弥生
【所持品:包丁(隠している)】
【状態:マーダー・脇腹に怪我(治療済み)】
【時間:2日目10:40】
【場所:C-6(観音堂西の林道から鎌石村へ)】
河野貴明
【所持品:Remington M870(2/4)、予備弾(12番ゲージ)x24、SIG・P232(0/7)、仕込み鉄扇、支給品一式】
【状態:左脇腹・左肩・右腕負傷(応急処置および治療済み)。左腕刺し傷・右足に掠り傷(どちらも治療済み)、ささらたちのもとへ】
【備考】
・弥生の支給品一式(救急箱、水と食料少々)は車の後部座席に置いたまま
・車はC-6の脇道に一時放置
・冬弥がどこにいるかは後続任せ
233 :
獣の膿:2006/12/21(木) 05:03:45 ID:G8vaEwgW0
「俺は悪い夢でもみてるのか……」
そう呟いた国崎往人の眼前には、およそこの世のものとも思えない光景が広がっていた。
*****
発端は、一筋の光であった。
雨の中、国崎が翼の少女を探すべく魔犬ポテトの背に乗って空を飛んでいたときのことである。
「ん? ……ありゃ何だ?」
夜明け前の冷え込みにぶるりと身体を震わせた国崎は、眼下に広がる森の中に、小さな光を見た気がして身を乗り出した。
その途端、ポテトが翼を振るい、大きく身を傾ける。
「う、うぉぉっ!?」
慌ててポテトの毛にしがみつく国崎。
その鼻先を、黄金の光が掠めた。じ、と焦げ臭い匂いが立ち込める。
国崎が己の前髪が焦げていると認識するより早く、ポテトが今度は急降下を始めた。
「おい! 何だってんだ、一体!?」
「……どうやら、面倒なヤツがいるみたいだぴこ」
ポテトの返事は短い。状況は掴めなかった。
振り落とされぬように、必死でポテトへとしがみつく国崎。
小さく見えていた森の木々が、どんどんそのスケールを増していく。
「おい、突っ込む気か!?」
「せいぜい頭を低くするぴこ」
234 :
獣の膿:2006/12/21(木) 05:04:24 ID:G8vaEwgW0
木の枝を盛大にへし折りながら、梢の中に飛び込むポテト。
鋭い破片や枝から顔面を庇っていた国崎が、ふと背中に熱気を感じて振り返る。
「お、おい! 何だあれは!?」
視界に映ったものの異様さに、国崎は思わず声を上げてしまう。
それは、見たままを言うならば、黄金に輝く猪であった。
「猪は間違っても金色に光らんし、まして空は飛ばないだろっ!」
「あれは、神代の生き物ぴこ」
あまりの理不尽に憤る国崎に、ポテトが冷静な声を返す。
「神代だと!? ……くそ、夢ならさっさと覚めてくれ……」
「残念ながら現実だぴこ。ちなみにヤツに触ると火傷するから気をつけるぴこ」
「ああ、見ればわかる……」
黄金の猪が駆け抜けた後ろでは、森の木々が盛大に焼け焦げている。
降り続く雨のおかげで燃え広がることはなさそうだったが、その火力は明白だった。
「お前を乗せたままでは戦えないぴこ。降りるぴこ」
「無茶言うなっ!」
猛スピードで視界から消えていく木々を横目に見ながら、国崎が叫ぶ。
しかし魔犬の答えは無常だった。
「このまま焼け死ぬよりは助かる確率が高いぴこ」
「って、おい、やめろ! うぉぉっ!?」
ぐるり、と空中で一回転するポテト。
その勢いに、国崎は思わず手を放してしまう。
235 :
獣の膿:2006/12/21(木) 05:05:40 ID:G8vaEwgW0
「ぐわあぁっ!?」
背中から梢に突っ込んだ国崎は、そのまま空中へと放り出された。
落ちる、と思う間もなく、次の衝撃が来る。地面へと叩きつけられたのである。
一瞬、意識が飛んだ。
「く……無茶しやがって……!」
悪態をつきながら、どうにか起き上がる国崎。
口の中に入った泥を、血の混じった唾と一緒に吐き出す。
全身に細かい傷と打撲はあるが、骨に異常はないようだった。
梢に茂る濡れた葉がうまい具合に速度を殺し、落ちた先が泥濘であったことが幸いしたらしい。
してみると、あれでもポテトはその辺りのことを考えていたのかもしれなかった。
「そうだ、あいつは!?」
慌てて見上げた国崎の視線の先。
そぼ降る雨を背景に、空中で二体の異形が対峙していた。
*****
「まだ生きてやがったとはな……しぶとい狗っころだ」
神々しく輝く全身の毛を逆立たせて、ボタン。
対するポテトも、大蛇の尾を揺らめかせながら言葉を返す。
「そっちこそ元気そうで何よりだぴこ。けどそのまま焼けてポークソテーにでもなってた方が世の為だぴこ」
「ぴこぴこウルセえ狗だな……ッ!」
236 :
獣の膿:2006/12/21(木) 05:06:31 ID:G8vaEwgW0
瞬間、ボタンの黄金の毛が、鋭い針となってポテトを襲った。
だがポテトの姿は既にそこにはない。
お返しとばかりに、上空から大蛇の牙がボタンへと迫る。
それを見るや、ボタンは身体を器用に丸め、全身の毛を外側へと向けた。
光り輝くイガ栗の如きその体勢のまま、逆に大蛇へと突進する。
鋭い棘と化したボタンの毛が突き刺さると見えた刹那、大蛇はその軌道を逸らし、ポテトの方へと引き戻されていく。
ぶるり、と身を震わせたボタンが、元の姿へと戻った。
「……何だぴこ、新しいご主人様に物真似でも仕込まれたぴこ? さすがにブタは媚を売るのが上手いぴこ」
「狗畜生に言われたかねえな。……それと、覚えとけ」
ボタンの毛が、またも逆立っていく。
輝きを増したその周囲に、陽炎が揺らめいている。雨粒が蒸発しているのだった。
陽炎に包まれながら、ボタンが後ろ足を一つ蹴り上げた。
「―――俺は、猪だ……ッ!」
転瞬、ボタンの姿が、消えた。
戸惑ったように辺りを見回すポテトの身体が、次の瞬間、真上に吹き飛ばされる。
直撃。ボタンの突進が、ポテトの腹を抉っていた。
ギ、とくぐもった音を喉から漏らして、くの字に跳ね上げられたポテトの無防備な胴を、更なる衝撃が襲う。
一個の光弾と化したボタンの、文字通りの猪突猛進である。
二度、三度と跳ね上げられ、ポテトの喉から漏れる呼気に、血が混じり始める。
それでもボタンの突進は止まらない。骨も砕けよとばかりの、猛烈な攻撃。
四度目の突進を敢行すべく、ボタンが迫る。
が、息も絶え絶えであったはずのポテトは、それを見て、口の端を上げた。
吐き出す血が、凍っていた。
回避
回避
239 :
獣の膿:2006/12/21(木) 05:16:44 ID:G8vaEwgW0
異変に気づいたボタンが慌てて足を止めようとするが、その猛烈な勢いを殺しきることはできない。
ポテトの口が、大きく割り開かれる。
ずらりと並んだ禍々しい牙と、長い杖の向こうに、光が灯った。
ボタンのそれとは対極に位置する、身を切るような白く冷たい光は、瞬く間にその大きさを増し、
周囲を包み込んでいく。雨粒が凍りつき、一瞬の内に猛烈な吹雪へと変わった。
吹雪が、ボタンを呑み込んだ。
温度差によって発生する凄まじい水蒸気を更に凍てつかせながら、吹雪はその勢いを強めていった。
灼熱していたボタンの毛を、見る間に氷の粒が覆い尽くしていく。
粒は塊となり、ボタンの全身を冒す。間を置かず、ボタンは一個の氷塊と成り果てていた。
ぐらりと傾き、ゆっくりと地に落ちていこうとする氷塊に、ポテトは大蛇の尾を巻きつかせる。
そのまま勢いをつけて地面へと叩きつけようという算段である。
しかし、振り上げられたその尾は、唐突に動きを止めた。
「ぴこ……?」
氷が、汗をかいている。
ポテトがその違和感の正体に気づいたときには、遅かった。
眩い光が湧き上がった。氷が一瞬にして融解する。同時に、ポテトの尾が白く変色した。
激烈な痛みにポテトが悲鳴を上げるよりも早く、ボタンの牙がポテトの腰辺りへと突き立てられていた。
反射的に後ろ足を蹴り上げるポテト。
大きく翼を羽ばかたせ、ボタンの頭部を踏み台として、互いの身を引き剥がそうとする。
ずるり、とボタンの牙が抜ける。鮮血が飛沫いた。
そのままもつれ合うようにして、二体の獣は大地へと落下していく。
地響きを立て、盛大に泥を跳ね上げながら地面へと降り立つや、巨獣は即座に距離を取りあう。
「狗の血ってな、えらく不味いな……こんなもんを煮て食うたぁ、人間は相当に飢えてると見えるぜ」
流れる返り血をべろりと舐め上げながら、ボタン。
「喰われる為に飼われてるブタらしい発想だぴこ。せいぜい贅肉を切り売りしてご奉仕するといいぴこ」
回避っ・・・!
241 :
獣の膿:2006/12/21(木) 05:17:55 ID:G8vaEwgW0
ぼたぼたと鮮血を流しながら、ポテトが言い返す。
その大蛇の尾は、煙を上げながら再生しつつあった。白く変色した鱗が、一枚、また一枚と剥がれ落ちていく。
「餌ァもらって尻尾振るだけが能の飼い狗風情が、さすがによく吠えやがるぜ」
「田舎の神はブタに餌もやれないぴこ? その貧しさには同情してやるぴこ」
「……テメエ如きが神の名を語るなよ、痩せ狗」
ボタンの全身が、一瞬にしてその輝きを増す。
蒸発する雨が、まるで怒気を形にしたかのように陽炎となってボタンを包んでいた。
「まだ過去に縋るぴこ? 豊饒の神の乗騎とうたわれていた頃がそんなに懐かしいぴこ?」
「……テメエッ!!」
飛来するボタンの毛を、ポテトは軽く後ろに飛んで避ける。
「神族なんてもうこの世のどこにもいないぴこ。とうの昔に滅びたものにいつまでも執着するのは見苦しいぴこ」
「言うわりにゃあ命冥加に存えてんじゃねえか、狗畜生が!
テメエが後生大事に銜えてやがる杖にも、もう神なんざ欠片も宿ってねえってのによ……!?」
ボタンの言葉に、今度はポテトの視線が凍りつくように温度を下げた。
動きを止めた大蛇の尾が鋭い牙をむき出し、毒液を垂らしながら大きく口を開けて威嚇している。
激怒しているのが一目瞭然だった。
そんなポテトの様子に怖気づくこともなく、ボタンは言葉を続ける。
「―――なぁおい、俺達は似たもの同士なんだよ。つくづくムカつくことにな」
「不愉快だというところだけは認めるぴこ」
「もう戻らねえ時代の、その残りッ滓みてえなもんにしがみついて、生き恥を晒し続けてる」
「……」
ぴしり、とポテトの尾が泥濘と化した地面を打つ。
それはまるで、続きを促しているかのようだった。
242 :
獣の膿:2006/12/21(木) 05:18:57 ID:G8vaEwgW0
「挙句、こんなバカみてえな人間同士の殺し合いに巻き込まれてよ。
本当、俺らを何だと思ってやがるんだろうな、連中」
「……」
「実際、笑えるぜ? なんせあの相沢祐一の名前まであるってんだからな」
「唯一者……あの哀れな道化も、ぴこ……」
「そうだ、神族の首吊り縄の成れの果て、可哀想なあの坊やだよ。くく、傑作だろ?」
ふるふると、ボタンの毛が揺れる。
心底から嘲るような笑い方だった。
「残酷なもんだよなあ……とっくにお役目なんか終わってるのによ。
死んで死んで死んで死んで、あんな姿に成り果てても、まだ滅びることができねえ。
そりゃあ壊れちまうわなあ、何度テメエの首を掻っ捌いたって、次の瞬間にはまた生まれ直させられるんだぜ?
いと猛き神々もご照覧あれ、だ」
「……何が言いたいぴこ」
「後始末くらいしていってやれ、って話だよ」
ボタンの声が、途端に陰を帯びる。
「そりゃアレにはもう、テメエってもんの欠片も残っちゃいねえさ。
そこら辺に在るだけの影法師、ただ在り続けるだけの写し鏡、そんなもんでしかねえ」
「……」
「けどな、アレだって最初からそうだったわけじゃねえ。ハナッから壊れたまんま作られたわけじゃねえんだよ。
希望と、目標と、夢と挫折とささやかな幸せとちっぽけな不幸と、そんなもんを詰め込んだ、」
ボタンの毛が、揺れる。
「つまらねえ、人間の似姿だったはずなんだよ」
「……」
「それが、どうしてこうなった」
「……」
回避
244 :
獣の膿:2006/12/21(木) 05:20:28 ID:G8vaEwgW0
ポテトは沈黙を守っている。
それが気に入らないのか、ボタンが声を荒げた。
「どうしてアレは、神を殺し、テメエを殺し、殺して殺して殺しまくった挙句、壊れなきゃならなかった?
えぇおい解ってんだろ、言ってみろよ狗っころ?」
「……それが」
若干の間を置いて、ポテトが口を開く。
「それが、お役目だったからぴこ」
「そうだよ。お役目だ。神様から与えられた、貴い貴いお役目だ。俺や、テメエと同じように、な」
「……同じなどでは、ないぴこ」
「同じだよ」
ボタンが断じる。
「同じだ。俺らもアレも、神族がとっ散らかしてったこの世界に放られっぱなしのゴミ屑だ。
連中、テメエら自身の始末はしても、ゴミのことまで頭が回んなかったと見えらぁ」
「……つまらない感傷だぴこ」
自嘲的なボタンの言葉を、今度はポテトが切り捨てた。
「そんなに死にたければ、さっさと神々の後を追えばよかったぴこ。
人に飼われて、屈辱に塗れながらずっとそんなことばかり考えていたぴこ?
ブタらしいといえばブタらしい生き方ぴこ」
「……ケッ」
「誇りを捨て、志を忘れ、ただその日を生きながらえる―――。
つまらない、本当につまらない、下らない、吐き気のするような生き方ぴこ」
「……」
「どうして―――、死んでしまわなかったぴこ。
そうすればお前は、永遠に気高い神の乗騎であり続けられたぴこ」
回避
246 :
獣の膿:2006/12/21(木) 05:21:07 ID:G8vaEwgW0
露骨な侮蔑にも、ボタンは激昂しようとはしなかった。
ポテトの言葉には、永きに過ぎた生への疲れが、隠しようもなく滲み出していた。
それは正しく、己自身へと向けた言葉に他ならなかった。
死を選ぶこともできず、ただ地べたを這いずるように生き続けた、それは膿であった。
癒えることのない傷口から涌きだし続ける、醜悪な膿。
人の垢に塗れた餌を食い、埃と煤を被りながらただ生きてきた、病の痕。
見なければ気づかずに済むと、目を逸らし続けたその傷を直視してしまったという、
そういう言葉だった。
だからボタンは、そうかもしれねえなと、それだけを、口にした。
「……お喋りは終わりぴこ」
ポテトもまた、短く答える。
「ああ。―――お客さんも、来たみてえだしな」
同時に飛び退く、二匹の獣。
一瞬遅く、それぞれのいた場所を駆け抜ける影があった。
ポテトのいた空間を斬り裂いていたのは、銀色の閃光であった。
音もなく、ただ静かに抜き身の刀を提げて立つのは、黒髪の少女。
「……魔犬、見つけた」
川澄舞は、雨に溶けるような声で、それだけを告げた。
回避
回避
連続回避
寝る前に最後の回避
251 :
獣の膿:2006/12/21(木) 05:27:10 ID:G8vaEwgW0
一方、ボタンを襲ったのは、異形の物の怪であった。
長く伸びた鋭い爪を舐め上げる、真っ赤な舌。
漆黒の肌は岩石の如く、濁った眼光は狩猟の予感に昂ぶっている。
その頭部には角を生やしたそれは、正に地獄から這い出た悪鬼。
「なんだか派手にやってるじゃないか……俺も混ぜてくれよ……!」
柏木耕一は、鬼の血に酔っている。
*****
「俺は悪い夢でもみてるのか……」
国崎往人は、頭を抱えている。
魔獣同士の戦い、理解できない会話の応酬。
その果てに、さらなる異形どもの乱入である。
折りしも流れ出した第二回放送を、この場の誰も気に留めていない。
国崎の悪夢は、まだまだ終わりそうになかった。
回避
253 :
獣の膿:2006/12/21(木) 05:32:01 ID:G8vaEwgW0
【時間:2日目午前6時】
【場所:H−4】
ボタン
【状態:聖猪(飛行能力あり)】
ポテト
【所持品:なんかでかい杖】
【状態:魔犬モード(毛の色は白銀。目の色はコバルトブルー。物凄く毛並みがいい。背中に巨大な翼。尻尾は大蛇)】
国崎往人
【所持品:人形、トカレフTT30の弾倉×2、ラーメンセット(レトルト)、化粧品ポーチ、支給品一式×2】
【状態:呆然としている】
川澄舞
【所持品:日本刀・支給品一式】
【状態:爪、玉、皮、尻尾……】
柏木耕一
【所持品:不明】
【状態:鬼】
→315 430 444 451 ルートD−2
>>ID:spe6fjA8O
>>ID:auhiOPRSO
両氏とも早朝からの回避、どうもありがとうございました〜♪
254 :
取り残されて:2006/12/21(木) 10:30:00 ID:laCQGwhd0
「今頃は、みんな頑張ってるのかな」
そう言って、緒方英二は自分の膝に頭を預け安らかに眠っている春原芽衣の髪を優しく撫でた。
幼い少女の安心しきった表情が微笑ましい、暖かな温度に英二の心も癒されていく。
鎌石小中学校に向かった面子を見送ってから既に数時間経っていた、今は英二が見張りをすることになっている。
本当はこの後向坂環が見張りを交替することになっているけれど、彼女がこの部屋にやって来る様子はない。
(彼女も最初から色々あったみたいだし、大変だったんだろうな・・・)
目線を、芽衣に向ける。
芽衣も色々あった。いきなりゲームに乗った参加者に襲われるという経験が、幼い心に傷を残さないことを祈るばかりである。
(あの少年、見覚えがあった・・・ような、ないような)
芽衣を襲った人物、七瀬彰とは直接の面識はない。故に英二からすれば、彰は名前すら分からない一参加者であった。
一方彰からしてみれば、英二程の有名な人物は名前くらい覚えている範疇であって。
この違いのもたらす影響を、まだ彼は気づかない。・・・彰も、忘れている頃だろう。
「さて、どうするかな」
暇をもて余していてもしょうがない。
英二は自分の膝で熟睡している芽衣の頭をそっと降ろし、クッションをあてた。
そのまま自分は、机の方に置きっぱなしになっている杏のノートパソコンの方へと向かう。
パソコンの電源はつけっぱなしであった、何か書き込みがあったら即対応するためである。
特に観鈴の父親の件については、何かしらの情報は欲しい所だ。
スクリーンセーバーを止め、まずは開いたままであった「死亡者報告スレッド」に更新をかける英二。
最終更新時刻は零時、最後に見たページから変わってはいなかった。
次に掲示板に戻り・・・気づく。「自分の安否を報告するスレッド」には、新たな書き込みが存在していた。
期待を込め内容を確認するが・・・英二の目が捉えたそれに対し、彼は自身の動揺が隠せなかった。
255 :
取り残されて:2006/12/21(木) 10:30:43 ID:laCQGwhd0
(・・・これは、まずいな)
ハンドルネームは「岡崎朋也」。午後二時に鎌石村にて集合をかけるというその自殺行為にさすがの英二も冷静さを失いそうになる。
慌てて地図を取り出し確認してみると、場所自体もここから非常に近い。
危険であった。この書き込みを見て集まる者が、ゲームに乗っていないとは限らない。
罠か、それとも馬鹿正直なのか。
(神尾さんの書き込みにレスをつけているから、彼女の知り合いなんだろうか)
だが、確かめたくとも観鈴はここにはいない。
(そう言えば、彼女フラッシュメモリがどうたらこうたらって言ってたような)
だが、確かめたくとも観鈴はここにはいない。しかも今は関係ない。
とにかく、この書き込みに関してはこれ自体が「岡崎朋也」本人によって行われたかも分からない状態である。
鵜呑みにするのも危険、英二が頭を抱えていた時であった。
「これ、岡崎さん!」
いつからだろうか、眠っていたはずの芽衣がノートパソコンを覗くようにして身を乗り出していた。
「芽衣ちゃん、知り合いかい?」
「はいっ、お兄ちゃんの友達なんです」
「・・・ふむ」
「これで、仲間も増やせますねっ!やったー」
無邪気にはしゃぐ芽衣に対し、意見を述べる雰囲気でもなく。
英二は喜ぶ彼女の頭を撫で、これに対しどう対応すべきかを考えるのだった。
256 :
取り残されて:2006/12/21(木) 10:31:26 ID:laCQGwhd0
緒方英二
【時間:2日目午前3時30分】
【場所:C-05鎌石消防分署】
【持ち物:デイパック、水と食料が残り半分】
【状況:書き込みに対し警戒】
春原芽衣
【時間:2日目午前3時30分】
【場所:C-05鎌石消防分署】
【持ち物:デイパック、水と食料が残り半分】
【状況:書き込みを朋也と信じている】
(関連・485b・536)(B−4ルート)
YO! YO! パソコンの画面の前のよい子、悪い子のみんな。おはこんばんちわ。(死語? ほっとけ!)
いつの間にかMr.ハードボイルドと呼ばれるまで(え? まだそこまでは呼ばれてない? 別にいいじゃねーか)このキャラが板についてきたと思ったら、
前回ランクが「漢」にアップしたんだかダウンしたか判らなくてちょっと困ってる高槻お兄さんだよー。
いつものノリならこのまま美少女ゲーみたいに俺様の一人称視点で話が進めたいだが、残念ながら今回は以降の文は普通の小説っぽく話が進んじまうんだなあこれが。一応メインキャラは俺様だけどよ。
たまにはいいだろそういうのも? 原点回帰みたいで新鮮な感じ……しないか? 駄目か?
……あーもう。とにかく本編開始だ。さっさと次に行けよやー!!
「はい。終わったわよ」
「おう。すまねえな」
杏は浩平の両手に包帯を巻き終わると救急箱をデイパックにしまった。
「――しっかし…沢渡の置き土産がこんなところで役に立つとはな」
高槻は浩平に再び七海を背負わせると現在は杏の手にある沢渡真琴のデイパックに目を向けた。
以前述べたとおりこの中には今杏がしまった救急箱や先ほど真琴の墓を作る際に使用したスコップなど様々な日用品が入っている。
今は亡き真琴曰く「持って行けば絶対に役に立つわ!」とのことだったが、その「使えそう」というのが真琴基準であるため、使えそうなものから見るからに絶対使えそうもないものまで本当に様々な種類の品が中にはぶちこんである。
「そういえば聞いていませんでしたが、何で久寿川さんとは別行動を?」
まだ聞いていなかった疑問をゆめみが高槻に投げかけた。
「ああ。実はあれから俺たちはポテトの鼻を頼りに鎌石小中学校まで行ったんだがな………」
高槻がそこまで言ったところで2回目の定期放送が流れ出した。
『――みなさん……聞こえているでしょうか。
これから第2回放送を始めます。辛いでしょうがどうか落ち着いてよく聞いてください』
「!?」
前にも一度聞いた青年の声が高槻たちの耳に入る。
しかし、その青年の声は12時間前に聞いたときよりも活気がなくなっているように思えた。
(――もしかして、この放送をしている奴も俺たちみたいに主催者に強制されてやらされているのか?)
放送を聞きながら高槻はそう思った。
「くそっ…まさかエディさんが……氷上や雪見先輩まで………」
放送が終わると浩平は手当てを終えたばかりの右手でどんと軽く壁を叩いた。
「梶原さんって人の名前もあったわね……」
「神尾晴子って確か観鈴の……それに春原芽衣と古河早苗って…もしかして………」
「久寿川たちや沢渡の探していた祐一って奴はまだ一応無事みたいだな」
「ええ…」
「しかしマズイなこれは……」
高槻は放送の最後に(どういうわけか)あの声を聞くだけで腹立たしいクソウサギが言った言葉を思い出した。
「『優勝者にはどのような願いも叶えられる』。『大切な奴が死んでしまってもそれで生き返らせれば問題ない』……だっけ?」
「ああ。それに、下手をしたらそれに釣られて今までこのゲームに乗っていなかった奴までゲームに乗っちまう可能性がある。
『ゲームに乗って他の参加者を皆殺しにしても、自分が優勝してゲームが終わった後に全員生き返らせれば問題ない』なんて馬鹿なこと考えてな」
「少なくとも1人はそういうやつがいるだろうな」
「―――まあ、今は考えてばかりいても仕方がねえ。まずは鎌石村に行って久寿川たちと合流するぞ」
そう言って高槻は自分の荷物を手に取ると無学寺を後にする。
「あっ! 待ちなさいよ! まだなんでささらと別行動になったのか理由を聞いてないわよ!」
「それは歩きながら説明してやるよ。いいから早く来い。置いてくぞ」
ぶっきらぼうにそう言って先を行く高槻の背中にぎゃーぎゃーと文句を言う郁乃をなだめながら浩平たちも高槻の後に続いた。
「………とまあそういうこった」
道中を歩きながら高槻は鎌石小中学校で起きた出来事を一通り郁乃たちに説明した。
「つまり、鎌石村に行ってささらたちと合流したらまずはその朝霧って人を探すのね」
「ああ。一応な。本当なら宮内の仇を討ちたいとこだが、久寿川たちがそれだけは止めてくれってことでな。
……そういや、折原に藤林だったか? お前らは探している奴はいないのか?」
「そうだな。俺は……エディさんが探していた人も含めると、
川名みさき、上月澪、里村茜、住井護、長森瑞佳、七瀬彰、七瀬留美、藤井冬弥、広瀬真希、柚木詩子。
それとさっき高槻が言っていた河野貴明に那須宗一、姫百合珊瑚、姫百合瑠璃、湯浅皐月、リサ=ヴィクセン……だな」
「そりゃまた随分多いな」
やれやれだぜ、と呟くと高槻は郁乃から渡された参加者名簿にペンでチェックを入れていく。
「河野って奴を除いてエディさんが探している人たちは判らねえけど、俺の探している連中……特に住井と長森とみさき先輩と七瀬…留美のほうな。この3人は間違いなく信用していい」
「確証はあんのか?」
「七瀬はここに来る前まで俺と一緒に仲間を探していたから問題ない。長森とみさき先輩は性格からしてゲームに乗るような連中じゃない。住井は……馬鹿だけどこういうことには絶対乗るような奴じゃない」
「おいおい…最初の留美って奴はともかく、2人以降はまともな確証になってないじゃねえか………」
「安心しろ。俺のカンは結構当たるぞ」
「そう言われると逆に凄く不安なんだけど……」
自信に満ちた浩平の発言に杏と郁乃…そしてさすがの高槻も呆れるしかなかった。
「あー。気を取り直して、次はあたしの探している人ね。
あたしが探しているのは一ノ瀬ことみ、岡崎朋也、坂上智代、春原陽平、古河渚……そして妹の藤林椋の5人よ」
「一ノ瀬に岡崎に坂上………そして藤林椋と……」
「あと。さっき言ってた祐一って人――多分相沢祐一だと思うけど、彼とは一度鎌石村の消防分署で会ったわ」
「本当か?」
「ええ。今はもう鎌石村にいるかどうかは判らないけど……それと、祐一と一緒にいた子で神尾観鈴。あと私は直接話しちゃいないんだけど緒方英二と向坂環って人。彼らは全員信頼できるわ」
「なるほど……少なくともゲームに乗るなんてことはないんだな?」
「ええ……観鈴が少し心配だけど………」
「神尾晴子……だっけ?」
郁乃が先ほどの放送で上がった名前を口にする。
杏もだまってうんと頷いた。
「あー。そういう辛気臭くなる話はやめろ。ただでさえこっちはテンション高くねえんだからよ」
これ以上士気が下がらないように高槻が話を強制的に終了させた。
「さて、お前たち」
突然高槻が手にしているものを参加者名簿から地図に変えて郁乃たちの方に振り返った。
「なに?」
「なんだ?」
「どうしたんです?」
「どうかしたの?」
郁乃たちはそろって高槻に声をかける。
すると高槻は地図を広げると彼女たちにこれから先の道のりについての説明を始めた。
「既にご存知の通りだが今俺たちは鎌石村に向かっている最中だ。そして、地図を見れば判るとおりここから鎌石村に行くには2種類のルートがある。
1つは東崎トンネルを通って行くルート。もう1つは山道から観音堂方面を経由して行くルートだ。
そのことなんだが…俺様の意見としては後者のルートの方で行った方が安全だと思うわけよ」
回避
高槻が地図に載っている海沿いの山道を指でなぞっていく。
「なんでさ?」
「さっき俺様と今は亡き沢渡は行きも帰りもこっちの東崎トンネルのルートを通って来たんだけどよ、ここがちょっとワケありな場所でな……」
「ワケあり?」
「ああ。このトンネル軽く1キロくらいは距離があるんだよ。しかも、どういうわけかこのトンネル中に照明が、まったくないときたもんだ」
「つまり中は真っ暗闇ってこと?」
「ザッツライトだ藤林! するとどういうことかもう判るよな? つまりはここを通るときは壁伝いでなきゃ恐ろしくて行動できねえんだなこれが!」
「ああ…! そうそう思い出した。私も七海とここを一度通ったけど、中本当に暗いのよここ」
郁乃は昨日七海と無学寺に行くためにこのトンネルを通ったときのことを思い出した。
確かに高槻の言うとおり、あのトンネルの中は昼間でも本当に暗かった。しかも、その暗さは酷いと自身の足元すら判らなくなるほどであった。
「おお。そうなのか我が愛しのマイスイートハニー郁未!? これはやはり運命ってやつなのかねえ……」
属にRRと呼ばれる竹林風台詞回しで高槻が郁乃に言う。ちなみに今言った『我が愛しのマイスイートハニー』という言葉は嘘でもなければ本心でもない。ただノリで言っただけである。
「馬鹿丸出しな冗談言ってないでさっさと話を続けなさい」
「なんだよノリが悪い奴だな……とにかく、俺が言いたかったのはこのトンネルを通るのは危険すぎるってことだ。
もしここん中でマーダーと接触でもしてみろ。下手したらいつの間にか全員ズガンされちまう」
「確かに…それに、もしかしたらそれを狙ってトンネルの中で待ち伏せしている奴がいるかもしれないしな」
「でも、マーダーだってわざわざ自らを危険にさらすまでそんな所で待ち伏せすると思う?」
「そうですね。下手をしたら自分がやられてしまうかもしれないのに……」
「いや……少なくともあの男は………平気でやるでしょうね」
郁乃のその一言で高槻と杏以外(すなわち浩平とゆめみ)ははっとした顔をする。
「―――さっきの男……岸田洋一だな?」
高槻の問いに郁乃は黙って頷く。
回避
回避回避回避
回避
「キシダヨウイチ? それがあの男の名前か?」
「ああ」
「ちょっと待ってよ! 岸田なんて人は参加者名簿に載っていなかったわよ!?」
杏が高槻と郁乃に問い返す。が、それにはゆめみが答えた。
「でも、私やポテトさんやボタンさんのこともありますし………」
「あっ…そっか………つまりその岸田って男は主催者がゲーム進行を進めるために用意し送り込んだマーダーってことなのね?」
「いや。その可能性は低いだろうな」
「なんでよ?」
「あの男は首輪をしちゃいなかった」
「えっ?」
「俺たちやゆめみにだって付けられているこの首輪をあの男は付けてはいなかったんだよ。おそらく………」
「―――ゲームに乱入したっていうのか?」
「多分な。あくまで可能性にすぎないが、もしかしたら島のどこかに奴の船か何かが隠されているかもしれねえ」
「じゃあ上手くいけば……」
「ああ。このゲームを脱出する糸口が掴めるかもしれねえ」
高槻は一度にやりと笑った。
「さて……この話はここで一旦打ち切りだ。本題に戻るぞ」
全員うんと頷く。
「というわけだから俺たちは山道から鎌石村に向かうべきだと思う。ちょっと遠回りになるかもしれないし山道だからきついかもしれねえが………異論は無いか?」
「『急がば回れ』って言うし……いいんじゃないの?」
「ああ。異論は無いな」
「私もありません」
「あたしもないわ」
「ぴこっ」
「ぷぴっ」
「よし。満場一致で決定だな。じゃあ気を取り直して行くとするか」
そう言って地図をしまうと、高槻一行は再び歩き出した。
回避
(やれやれ……何度も思うが本当に俺はどうなっちまったんだろうな?)
空を見上げながら高槻はふと思った。
(こんな連中なんか頬っておけばいいと思っていたはずなんだがなあ………なぜか知らねえが放っておけねえんだよなあ危なっかしくてよ)
(―――それとあの岸田って野郎だ。同族嫌悪というワケじゃねーというと嘘になるかもしれねえが俺はあの野郎が許せねえ……!)
ふと脳裏に真琴が岸田に刺された光景がフラッシュバックする。
(………腸が煮えくり返ってしょうがねえ…!)
その光景や岸田の顔を思い出すたび内から怒りが込み上げてきた。
(あの野郎は絶対あの程度で引き下がるような奴じゃねえ……間違いなくこれから先も奴は他の参加者を殺したり犯そうと暗躍するはずだ………
そして……絶対に俺やこいつらの前に再び現れる………!)
高槻はちらりと目線を郁乃たちに向けた。
(―――ったく。こんな絶望的な状況の中でも僅かな希望の光を求め続ける……本当に馬鹿な連中だぜ。
だが、それに少なからず影響を受けてきている俺様……か。はっ。我ながら馬鹿馬鹿しい光景だぜ。
――――だけど、結構悪くねーじゃないの、そーいうのよ………)
高槻はふっと笑った。
それに気が付いた浩平たちが高槻に尋ねる。
「なんだ高槻? 急に笑ったりして」
「ほっときなさい。どーせまたやらしい妄想でも抱いていたんでしょ?」
「おいコラ。勝手に決め付けんな。俺様だって時には憂鬱に浸りたいときがあんだよ!」
(―――まったく…本当にしょうがねえガキどもだぜ。しょうがねえ…もうしばらくこいつらの面倒を見てやるか……)
高槻はそう決断するともう一度ふっと笑った。
(そして待ってやがれ岸田洋一…そして主催者ども……! テメーらはこの高槻様が直々にブッ潰す…!)
―――高槻自信はまだ気づいていなかったが、彼の心には確実に『正義』と属に呼ばれるものが生まれていた。
【時間:2日目・07:00】
【場所:E−8】
正義の波動に目覚めはじめた高槻お兄さん
【所持品:日本刀、分厚い小説、ポテト(光一個)、コルトガバメント(装弾数:7/7)予備弾(6)、ほか食料・水以外の支給品一式】
【状況:外回りで鎌石村へ。岸田と主催者を直々にブッ潰すことを決意】
小牧郁乃
【所持品:写真集×2、S&W 500マグナム(5/5、予備弾7発)、車椅子、ほか支給品一式】
【状態:外回りで鎌石村へ】
立田七海
【所持品:フラッシュメモリ、ほか支給品一式】
【状態:気絶(睡眠)中。今は浩平の背中に】
ほしのゆめみ
【所持品:忍者セット(忍者刀・手裏剣・他)、おたま、ほか支給品一式】
【状態:外回りで鎌石村へ。左腕が動かない】
折原浩平
【所持品1:34徳ナイフ、H&K PSG−1(残り4発。6倍スコープ付き)、だんご大家族(残り100人)、日本酒(残り3分の2)】
【所持品2:要塞開錠用IDカード、武器庫用鍵、要塞見取り図、ほか支給品一式】
【状態:全身打撲、打ち身など多数。両手に怪我(治療済み)。外回りで鎌石村へ】
藤林杏
【所持品1:包丁、辞書×3(国語、和英、英和)、携帯用ガスコンロ、野菜などの食料や調味料、ほか支給品一式】
【所持品2:スコップ、救急箱、食料など家から持ってきたさまざまな品々、ほか支給品一式】
【状態:外回りで鎌石村へ】
ボタン
【状態:外回りで鎌石村へ】
>ID:35Rg2i/A0
回避ありがとうございました
271 :
お人好し二人:2006/12/21(木) 18:16:31 ID:hdNho0fO0
「何か御用ですか?」
声を掛けてきた往人達に対し、秋子は痛む腹を押さえつつ答えた。
「ちょっと聞きたい事があるんだが―――ってあんた大丈夫か?随分顔色が悪いようだが……」
「腹を撃ち抜かれましたが問題ありません。……ですが先を急いでいます、ここでお話するのは了承出来ません」
それでは失礼します、と秋子はそのまま走り出した。
往人はどうするか迷ったがすぐにその後を追った。
横に並び、走りながら話しかける。
「ちょっと待ってくれ、まだ話は終わってないぞ」
「まだ何か用があるのですか?先を急いでいると言った筈ですが」
「……撃たれたのに走るのは無茶じゃないのか?」
「無茶でも何でも構いません。私は一刻も早く診療所に行かないといけませんから」
「どうしてだ?そんな怪我を負っているのに何をそこまで急ぐんだ?」
「橘敬介という極悪非道な男に仲間が攫われたからです……奴は恐らく診療所にいます。
ですから奴に罰を与え、仲間を救わなければなりません。こんな所で時間を食っている暇はないんです」
そこまで語り終えると、秋子はぐっと歯を食い縛って険しい表情をした。
その様子はまさに鬼気迫るといった感じである。
往人は今落ち着いて話をするのは不可能だという事を理解した。
ならば最低限のやり取りで必要な事を済まさねばならない。
「……そうか、邪魔して悪かったな。一応あんたの名前だけ教えてくれないか?
俺は国崎往人だ――もし神尾観鈴って奴に会ったら俺がここにいた事を伝えて欲しい」
「私は水瀬秋子です。伝言了承しました……代わりに私の方からもお願い事があります。
もし水瀬名雪という女の子を見つけたら私が診療所にいる旨を伝えてください」
「分かった」
「はい、お願いします。では今度こそ失礼します」
秋子はそう言うと益々ぺースを上げ、怪我人とは思えない速度で走り去った。
272 :
お人好し二人:2006/12/21(木) 18:18:39 ID:hdNho0fO0
足を止め立ち尽くしていた往人だったが、暫くするとあかりが追いついてきた。
元々体力も無く怪我もしている彼女では秋子の走るペースにはついてこれなかったのだ。
あかりは息を切らしながら非難の言葉を口にする。
「ハァ……ハァ……。もう国崎さん、置いていくなんて酷いですよ〜」
「ああ、悪いな。さっきの奴に聞きたい事がいくつかあったんでな」
「そうですか……それで何か分かりましたか?」
そう聞かれ、往人は秋子とのやり取りの一部始終を説明した。
聞き終わったあかりは少し憂いの混じった顔をしていた。
「また……殺し合いが起きてしまうんですね」
「秋子の様子は尋常じゃなかった。橘敬介という男を見つけたら間違いなく殺そうとする筈だ」
「でもあの人、怪我してるんじゃ……」
「ああ。相手は極悪非道な男らしい―――返り討ちにされてしまうかもしれない。……だから俺に考えがある」
「考えって?」
元々険しい顔つきの往人だったが、その顔つきが一層険しくなった。
まるで何かを決意したような表情だった。
「今の俺達には知り合いがどこにいるかは全く分からない……。
どうせ闇雲に探すしかないなら、どこに行っても問題無い筈だ。だから俺は今から診療所に行こうと思う」
「―――秋子さんを助けに行くんですね?」
「出会ったばかりの人間の為に無茶をするつもりはない。……だが状況が許せば助けたいと思っている。
この島から脱出するにはもっと多くの仲間が必要だ、ならゲームに乗っていない人間が殺されるのを放っておく訳にはいかない。
それにゲームに乗っている人間を見逃す訳にもいかない。
俺がしようとしている事は危険かもしれない―――いや、間違いなく危険だろう。それでも構わないか?」
「構いません……これ以上人が死ぬのは嫌ですから……」
「よし、決まりだ。急ぐぞ!」
「はいっ!」
―――国崎往人も神岸あかりも根本的な所ではお人好しだった。
お人好し二人は秋子が去った方向へと走り出した。
秋子を救う為に―――そして橘敬介と戦う為に。
天野美汐の気まぐれで放たれた悪意の拡散は、止まる事を知らない。
273 :
お人好し二人:2006/12/21(木) 18:19:48 ID:hdNho0fO0
国崎往人
【時間:2日目6時55分】
【場所:I−4】
【所持品1:トカレフTT30の弾倉、ラーメンセット(レトルト)】
【所持品2:化粧品ポーチ、支給品一式(食料のみ2人分)】
【状態:満腹。あかりと生き残っている知り合いを探す。秋子を助けに診療所へ】
神岸あかり
【時間:2日目6時55分】
【場所:I−4】
【所持品:水と食料以外の支給品一式】
【状態:往人と知り合いを探す。月島拓也の学ラン着用。打撲、他は治療済み(動くと多少痛みは伴う)。秋子を助けに診療所へ】
水瀬秋子
【時間:2日目6時40分】
【場所:I−4】
【所持品:ジェリコ941(残弾14/14)、予備カートリッジ(14発入×1)、澪のスケッチブック、支給品一式】
【状態:腹部重症(治療済み)。名雪と澪を何としてでも保護(まずは澪を連れた敬介を追い診療所へ)。目標は子供たちを守り最終的には主催を倒すこと】
※関連551 ルートB13
「篠塚弥生さん……だったかな。どうした、私を襲いにでも来たのか?」
聖は皮肉気に言いながら身構え、ことみを庇うように彼女の前へと立つ。
弥生はその言葉に首を振り、困ったように笑みを浮かべると両手を掲げた。
その行為にホッと溜め息を漏らすがあくまで警戒は緩めなかった。
「妹さんのお名前……呼ばれてましたね」
弥生の言葉に眉をしかめながら、聖は重い口をゆっくりと開いた。
「そうだな……もう謝ることも出来ない」
「それをふまえて、放送を聞いてどう思われたでしょうか」
「願いを何でも……と言う奴のことだろうか?」
「ええ」
弥生の真意を測るように聖は言葉を捜しながら、そしてその口は明確に自分の意思を発した。
「真実であれどうあれ、私は医者だ。人を殺すなど考えらかったよ。
――それに人を殺して佳乃が喜ぶとも到底思えないしな」
聖の返答に弥生は何も答えず、黙って目を瞑る。
何かを考えるようなしぐさの弥生を前に、場に訪れる数秒の沈黙――。
そして弥生は目を開くと羨む様な表情で聖に微笑みかけた。
「――道をしっかりもってらっしゃるんですね」
「そう言うわけでも無い。性分なだけさ」
返された言葉にゆっくりと顔を空に向け、誰に向かってでもなく弥生は訪ねていた。
「私にもそう言う生き方ができるんでしょうか――大好きだった人の死を忘れ、享受するなんて……」
物憂げにたたずむ弥生を見て、聖の心にどことなく安堵の色が灯っていた。
彼女は道に悩んでいる、そしてきっと変わりたいと願っている……そう考えた。
「今は無理かもしれない、だがそれは時が解決してくれる。心の傷とはそう言うものだ。あいにく精神科は専門外だが私はそう思うよ」
聖は佳乃の姿を想い零れ落ちそうな涙をこらえながらベアークローを外し、弥生に手を伸ばした。
だが、差し出された手を見ると戸惑うように弥生は頭を振る。
「――人を襲ってしまった私が変わることは出来るのでしょうか」
「――変われるさ。だからこうして私のところに来たのではないのかね?」
自惚れかもしれないがな……と自嘲するように笑う聖に再び首を振ると、弥生は差し出された手を取り無言で微笑んだ。
車を見つけたんですと促され、聖とことみは弥生の後を付いて行く。
大きな舗装された道に出るとそこには確かに黒塗りの車が止めてあった。
周囲を警戒するように三人は車に近づくが特に誰も襲ってくるようなことはなく弥生は運転席のドアを開けた。
続いてことみが後部座席へと乗り込み、聖は名雪をその隣へと横たえると助手席のドアへと手をかけ
「――トランクを開けましょうか? 荷物も一杯ですし」
尋ねた弥生の言葉に聖は後部座席をチラリと見る。
――確かに少し窮屈そうなその車内に「そうだな」と返すと弥生が椅子の脇をごそごそといじるり、ガタン、とトランクの開く音が聞こえてきた。
ことみからバックを受け取りゆっくりと車の後方に回り込むと、開きかけたトランクを勢いよく開けようと手をかけ――
「――なっ!!」
聖が手を触れる前にガアンとトランクが勢いよく開き、中には先ほど追い払ったと思っていた冬弥の姿。
その手には消防斧を抱えているのが見て取れ、距離を取ろうと慌てて後ろに後ずさる。
だが斧が振り下ろされるほうが一瞬早かった。
聖の左肩に斧がぐさりと突き刺さり鮮血が周辺に飛び散っていく。
「――くっ……」
すぐさま斧を抜き去ると再び冬弥が聖の身体へと斧を振り下ろす――が転げまわるようにすんでのところで回避し、斧は空を切るだけに終わった。
痛みに左肩を抑えるが聖の息は荒く、足に力は入らず立ち上がることすらは出来なかった。
「先生っ!」
聞こえた聖の呻き声にことみが慌てて車から飛び出した。
そこで見た光景に彼女は絶句し、ただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
「なにをしている、逃げるんだ!」
思うように動かない身体に苛立ちを隠せず、聖は搾り出すように叫んだ。
「で、でも……」
「――いいからっ!」
遮るように再び冬弥の斧が襲い掛かるも、地面を転げ周りなんとかそれを交わす。
そして再びことみに目を向けた直後、後ろに立つ弥生の姿に絶望を感じた。
冷たい目、そして右手に握られた包丁――。
「ことみくん逃げろぉぉぉっ!」
聖の絶叫と共に、ことみは自分の背中が熱くなっていくのが感じた。
「……えっ?」
振り返ると感情を感じさせない瞳で自分を見下ろす弥生の顔。
ゆっくりと視線を下に降ろすと、包丁が背中に生えていたのがわかった。
時間差をおきながら襲ってきた痛みにことみの足から力が抜ける。
だがそれを待つこともなく弥生は包丁を引き抜くと、ことみの首に切っ先をあて一瞬で薙いでいた。
首を切られた痛みを感じるまもなくことみの意識は闇に落ち、力なくその身体が崩れ落ちていく――
「――そ、そんな……」
未だ襲い掛かる冬弥の斧をギリギリで交わしながら、聖の目に映ったのは倒れていくことみの姿だった。
「何故だ……変わるんじゃなかったのか」
聖の搾り出すように発した問いに、今まで終始無言だった冬弥がゆっくりと口を開く。
「――あんたにだってわかるんだろう? ……大切なものを失った気持ちって奴は」
その言葉に大きく目を見開くも、反論しようにも出てくるのは荒い息だけだった。
出血は酷く、全身をけだるさが襲ってくる。
止めを刺しきれない冬弥を諌めるように手で押しのけると、弥生がゆっくりとした足取りで聖を見下ろし
「そんなに……器用ではないんです――私は」
右手にFN P90を握り締め、銃口を聖に向けたその表情はとても儚げで――悲しく微笑みながら引き金は引かれた。
元々残弾数の少なかったそれからはパラパラと短い音だけが響いたが、
発射された弾丸は真っ直ぐに聖の身へとめり込み、そして聖は僅かな呻き声と共に地にひれ伏す。
弾の出なくなったFN P90をその場へ投げ捨てると弥生は包丁を握りなおしゆっくりと聖へと近づいていく。
「――本当に、君達はそれで良いのか?」
口から血を吐きながらも聖が懸命に言葉を発する。
だが弥生は答えることもなく首を振ると、躊躇うこともなく包丁を聖の心臓へと突き刺した。
ピクピクと痙攣しながら聖の身体が蠢き、そして動かなくなるのをただ黙って弥生は見つめる。
右手からベアークローを抜き取り小さく頭を下げ――呟くように言うのだった。
「こうするしか私には道がないんですよ――」
動かない骸と化した聖とことみに背を向け、弥生はゆっくりとバックの中を確認するように開ける。
銃火器のようなものはなかったが何かと使えるものが揃っており、貰っていこうと思い立ち持ち上げた。
「弥生さん!」
冬弥が慌てたように叫んでいるのが聞こえた弥生は思わず冬弥の元へと駆け寄る。
彼が見ていた車の車内――そこに寝ていたはずの名雪の姿が忽然と姿を消していた。
「……探しますか?」
おおよそ感情の篭ってない言葉に冬弥は思わず躊躇しながら答える。
「……あんな子が由綺を殺したとは思えないし、生き残れるとも思えない」
そう答えたのは冬弥に残っていた良心の呵責からか。
甘い人だと考えながらもその通りではあると思い、深く追求することもなく弥生は頷いた。
聖とことみのバックを後部座席へと投げ捨てると運転席に乗り込みエンジンをふかす。
その行為に慌てて冬弥も助手席へと乗り込むとシートベルトを締めるのだった。
「それでは、氷川村へと向かいましょうか――」
・
・
・
「――何か聞こえないか?」
いきなりそう言った浩平の言葉に全員が耳を傾ける。
確かに遠くから何か聞きなれた音が聞こえてきた。
「これはエンジン音……?」
杏がボンヤリとながらにそれに答える。
「とりあえずなんだか良い予感はしねえな……隠れるぞ!」
高槻の言葉に慌てて全員は頷くと茂みの中へと身を隠す。
その数秒後、黒塗りの一台の自動車が彼らに気付くことはなく眼前を通過していった。
「車か……あれも支給品か? いいもんもらってるやついるじゃねーか……」
高槻はポテトを見ながら恨めしそうな目で見つめるとその頭をぽかんと叩いた。
ぴこぴこ文句を言っているが全く気にせず「行くぞ」と促すが、浩平と杏は一瞬車の中に見えた人物にそれぞれが考えていた。
(あれは藤井冬弥――?)
(藤井さんのように見えたけれど……)
「おいっ! 置いてくぞ!!」
回避
苛立つような叫びが響き、その場に取り残された形になった浩平と杏が思考を中断すると慌てて高槻達に駆け寄っていった。
――そして数分後彼らが見たものは事切れた聖とことみの死体だった。
【時間:2日目11:00】
【場所:C−6東部】
篠塚弥生
【所持品:包丁、ベアークロー】
【状態:マーダー・脇腹に怪我(治療済み)目的は由綺の復讐及び優勝】
藤井冬弥
【所持品:暗殺用十徳ナイフ・消防斧】
【状態:マーダー・右腕・右肩負傷(簡単な応急処置)目的は由綺の復讐】
【時間:2日目11:15】
【場所:C−6観音堂前】
正義の波動に目覚めはじめた高槻お兄さん
【所持品:日本刀、分厚い小説、ポテト(光一個)、コルトガバメント(装弾数:7/7)予備弾(6)、ほか食料・水以外の支給品一式】
【状況:岸田と主催者を直々にブッ潰すことを決意、聖とことみの死体を発見】
小牧郁乃
【所持品:写真集×2、S&W 500マグナム(5/5、予備弾7発)、車椅子、ほか支給品一式】
【状態:聖とことみの死体を発見】
立田七海
【所持品:フラッシュメモリ、ほか支給品一式】
【状態:気絶(睡眠)中。今は浩平の背中に】
ほしのゆめみ
【所持品:忍者セット(忍者刀・手裏剣・他)、おたま、ほか支給品一式】
【状態:左腕が動かない、聖とことみの死体を発見】
多分まだ回避いる?死者載ってないし
ふむ。取り敢えず規制食らうまで回避置いとくね
回避
折原浩平
【所持品1:34徳ナイフ、H&K PSG−1(残り4発。6倍スコープ付き)、だんご大家族(残り100人)、日本酒(残り3分の2)】
【所持品2:要塞開錠用IDカード、武器庫用鍵、要塞見取り図、ほか支給品一式】
【状態:全身打撲、打ち身など多数。両手に怪我(治療済み)。聖とことみの死体を発見】
藤林杏
【所持品1:包丁、辞書×3(国語、和英、英和)、携帯用ガスコンロ、野菜などの食料や調味料、ほか支給品一式】
【所持品2:スコップ、救急箱、食料など家から持ってきたさまざまな品々、ほか支給品一式】
【状態:聖とことみの死体を発見】
水瀬名雪
【所持品:なし】
【状態:いつのまにか逃亡、後続任せ】
霧島聖
【状態:死亡】
一ノ瀬ことみ
【状態:死亡】
【備考】
・FN P90(残弾数0/50)
・聖のデイバック(支給品一式・治療用の道具一式(残り半分くらい)
・ことみのデイバック(支給品一式・ことみのメモ付き地図・青酸カリ入り青いマニキュア・携帯電話(GPSレーダー・MP3再生機能・時限爆弾機能(爆破機能1時間後に爆発)付き)
・冬弥のデイバック(支給品一式)
・弥生のデイバック(支給品一式・救急箱・水と食料少々)
上記のものは車の後部座席に、車の燃料は十分で道なりに氷川村→平瀬村へと向かう予定
連投規制くらったので仕事で出なきゃいけないからこっちへ・・・
本スレ>>w89uw1U60氏回避thx-
284 :
村役場へ:2006/12/22(金) 13:46:33 ID:m//Ytmi30
「さて。村に戻ってきたのはいいけどこれから先どうしようか?」
ドラグノフを片手に美佐枝は愛佳に尋ねた。
「まずは人を探しましょう。それが駄目だったら少しでも有力な情報だけでも見つけましょう」
「よし。それじゃあ手始めにそこの民家から調べていこうか」
「はい」
そうと決まればと2人は早速近くの民家にお邪魔することにした。
もちろん前回同様、先に銃を持っている美佐江が家の中が安全であることを確認してから愛佳が入るという形で。
「さてと。まずは使えそうなものから探していきましょうか」
美佐枝はそう言うとまず台所へ行き、包丁を拝借して次に冷蔵庫を開ける。
「おっ。ここにはちゃんと食べ物とか用意されてるわね」
「美佐枝さん。こっちには缶詰もありますよ」
愛佳はそう言って桃やらアスパラやらシーチキン。果てにはカニや鯖の味噌煮といった数々の缶詰を見つけ次第テーブルに並べていく。
「あ…あのさ愛佳ちゃん。そんなに並べても全部は持っていけないからね?」
「ああっ!? す…すいません………!」
そう言って頭を下げると缶詰をもとあった場所にひとつひとつ戻していく。
「……って、全部戻してどうすんの!?」
「はっ!? そうでした!」
台所の次は居間などを調べていく。
すると寝室と思える部屋で愛佳がパソコンを発見した。
「あっ。美佐江さん。パソコンがありますよ」
「本当? 愛佳ちゃん。それ動かせる?」
「ちょっと待ってください。今電源を入れてみます」
愛佳はそう言ってパソコンの電源を入れ起動した。立ち上がりは問題なかった。
しばらくすると愛佳たちにも馴染みのあるデスクトップ画面が映る。
285 :
村役場へ:2006/12/22(金) 13:47:18 ID:m//Ytmi30
「この『参加者の方へ』って何でしょう?」
「さぁ? とにかく開いてみましょ」
「はい」
愛佳は言われたとおりマウスを操作してフォルダをダブルクリックする。
すると今度はchannel.exeというファイルが出てきたので続けてそれを開いた。
もちろん現れるのは「ロワちゃんねる」という掲示板である。
「…………え…え〜っと……これって、2ちゃ…」
「と…とにかく1つずつ内容を見ていきましょ」
このゲームの主催者はなんか趣味が悪いなと思いながら2人は立ててあるスレッドを確認する。
まずは一番書き込み数が多かった『自分の安否を報告するスレッド』から見ることにした。
「―――まったく……岡崎も無茶なことをする………」
美佐枝は一度はぁとため息をつくと画面に映っている岡崎朋也の名の書き込みをもう一度確認する。
「お知り合いの方なんですか?」
「ええ。しかし場所が近くてよかったわ。鎌石村役場ならここから歩いても1時間もせずに着くしね」
「じゃあ、準備が出来次第私たちは役場に向かうんですね?」
「もちろん。これじゃあ味方どころか敵すら呼び出しちゃうからね。この次の書き込みをしている奴だってそう言っているでしょ?」
「そうですね…しかも岡崎さんはもうパソコンはチェックできないと書き込んでいます……」
「だから岡崎たちが到着するよりも先に私たちが役場に行って岡崎の奴を引き止めるべきだと思うの。愛佳ちゃんはどう思う?」
「私もそう思います。人が集まったところをゲームに乗った人が襲撃をかけてくるかもしれませんし……」
「よし決まり。じゃあ今すぐ行くとしようか?」
「はい」
愛佳は頷くとロワちゃんねるを閉じてパソコンの電源を切ると自分の荷物を手に取り立ち上がった。
(――さて。できればゲームに乗っている奴があの書き込みを見てないことを願いたいけど………)
民家を後にしながら美佐枝は一度空を見てそう願った。
286 :
村役場へ:2006/12/22(金) 13:49:08 ID:m//Ytmi30
【時間:2日目8:45】
【場所:C−4】
相楽美佐枝
【持ち物1:包丁、食料いくつか、他支給品一式】
【所持品2:ドラグノフ(7/10)、89式小銃(銃剣付き・残弾22/22)、予備弾(30発)×2、他支給品一式(2人分)】
【状態:愛佳と鎌石村役場へ行き朋也を引き止める。千鶴と出会えたら可能ならば説得する。冬弥と出会えたら伝言を伝える】
小牧愛佳
【持ち物:火炎放射器、缶詰数種類、他支給品一式】
【状態:美佐枝と鎌石村役場へ行き朋也を引き止める。千鶴と出会えたら可能ならば説得する。冬弥と出会えたら伝言を伝える】
【備考】
・2人は柏木耕一の書き込みは見ることができなかった
287 :
幸福の行方:2006/12/22(金) 14:53:21 ID:9YAFgpWa0
神様なんていうものが、どれだけ身勝手な存在なのか、私たちはよく知っている。
私たちは、ずっと旅をしてきた。
色々な国を、色々な街を、色々な人たちを見てきた。
そこには私たちの幸せを願ってくれる神様も、私たちなんてどうでもいいと思ってる神様もいて、
人はただ、そういう大きなものに流されるように生きている。
それでも、私たちは抗った。
私たちは私たちだと、剣を取ったのだ。
いくつもの勝ちと、いくつもの負けを超えて、私は今ここにいる。
私たちは、神様なんかじゃない、大切なものを追いかけて、ずっとずっと追いかけて、
姿かたちさえ捨てて、こんなところにまで来てしまった。
これから先もずっとそうして、旅をしていくのだと思う。
色々な街や、色々な人を知るだろう。
そこにはきっとまたたくさんの神様がいて、私たちは、時にはそういうものを相手にしながら
大切なものを追い続けるのだ。
だから、私たちは、神様がどういうものだか、よく知っている。
けれど、それでも。
それでも、この国のどこかにもきっといるだろう神様に、問いかけたくなるような、
これは残酷な運命だった。
ねえ、神様。
―――どうして春夏さんが、泣かなくてはいけないの?
288 :
幸福の行方:2006/12/22(金) 14:54:05 ID:9YAFgpWa0
【時間:2日目午前6時過ぎ】
【場所:D−4】
柚原春夏
【所持品:おたま】
【状態:慟哭】
アヴ・カミュ
【状態:哀切】
→526 →531 ルートD-2
北川潤、遠野美凪、広瀬真希の3人は仲間を求めて村を徘徊していた。
しかし…
「うーん、人っ子一人いないな…」
手にショットガンを握りつつ、北川は溜息交じりに呟いた。
「そうね…平和なのは良い事だけど…」
真希もワルサーP38を手にしながらそれに答える。
彼らは工場の周りを探し回ってみたが、人と会う事はおろか誰かがいた形跡すら見つからなかった。
「もう少し南の方を探してみるか?海岸沿いはまだ調べていないしな」
「もっと北の方が人がいそうじゃない?」
「町の中心らへんは最後に調べた方が良いと思う…一番人が集まりやすい分危険な場所だからな」
「…そうですね。ゲームの乗っている方以外が好き好んでそんな所に滞在するとは思えません」
「分かったわ。じゃ、潤の言うとおりにしましょうか」
「おう」
スムーズに次の行動が決まる。
真面目な時の北川の判断は的確だった。
それはこの島で1日中行動を共にしてきた真希も美凪も感じている事であり、もはや彼女達の北川への信頼は絶対的なものだった。
今回も北川の判断は的確だった。ただ―――運が悪かっただけなのだ。
彼らが向かった先には鬼が存在していた。
厄災は何の前触れも無く唐突に訪れた。
「こっちにも人がいないわね……」
真希がそう呟いた時だった。
「―――人ならいますよ?尤も、あなた達にとっては人というより鬼でしょうけどね」
「…えっ?」
ダダダダダッ!!
「きゃぁぁっ!」
「ぐはっ………」
背後から聞こえた声に一同が反応して振り向くより早く、マシンガンの掃射は無慈悲に行なわれた。
背中に突然の衝撃を受けた彼らは為す術もなく地面に倒れ伏した。
「残念でしたね、出会えた人間が私のような者で」
彼らを撃った張本人、柏木千鶴は倒れている彼らを一瞥もせずその荷物を奪い取るべく距離を縮めてゆく。
千鶴はこんな少年・少女の命を奪う事に痛みを感じないような強い心は持っていない。
しかしだからこそ彼女は敢えて非情に徹していた…情けをかければ余計に辛くなる事をもう知っていたから。
「あら…?」
彼らが倒れている地点まで後5メートル程度の所にまで来て、千鶴は何かの違和感に気付いた。
「血が…流れていない…?」
倒れている北川達の体からは全く血が出ていなかった。
(撃たれたからと言って噴水のように血が噴き出すのは漫画の世界の話に過ぎません。ですが、だからといって全く血が出ないなんて…?)
疑問の答えを探し出そうと頭の中を情報を検索する。だがその最中、千鶴にとって最も愛しい人の叫び声が聞こえた。
「千鶴さんっ!」
「……?」
千鶴が振り向いた先には―――柏木耕一が立っていた。
* * * *
* * * *
(く、くそぉ……!)
俺が激痛に耐えながらも顔を起こすと、目と鼻の先で男と女が激しく言い争っていた。
「だから!何でこんな事するかって聞いてるんだよ!」
「耕一さん、貴方も分かっているでしょう!?こうしないと妹達を守れないのよっ!」
「違うっ!他に方法があるんじゃないのか!」
さっき聞こえた声は女の声だった…この女が俺達を撃ったんだと思う。
その手にはマシンガンのようなものも握られている。
これは起死回生のチャンスだ。奴らは口論に集中していて俺達の方に注意を払っていない。
でも…体が動かない。撃たれた場所が悪かったのか。
防弾性の服でも衝撃までは殺せない。立ち上がろうとしても体が上手く動いてくれない。
それでも今立たなくてどうする!そうしないと、真希が、美凪が、殺されちまう!
「うおおおおっ!」
背中から伝わる激痛を無視して雄叫びと共に立ち上がり、落としてしまったショットガンを探す。
―――だが俺の目に最初に映ったのは、包丁を手に女の背中目掛けて突き進む美凪の姿だった。
* * * *
* * * *
「だから!何でこんな事するかって聞いてるんだよ!」
「耕一さん、貴方も分かっているでしょう!?こうしないと妹達を守れないのよっ!」
「でもっ…他に方法があるんじゃないのか!」
俺は千鶴さんに詰め寄っていた。
千鶴さんのすぐ近くにはまだ高校生くらいの子供達が倒れていた。
何が起きたか考えるまでも無い。
家族を守る為の仕事を忠実にこなした結果がそこにはあった。
「方法?それはどんな方法ですか…言ってみてください」
「それは…殺し合いなんて馬鹿な真似は止めてみんなで協力するんだ。そうすればきっと…」
「巫山戯いでっ!そんな悠長な事を言ってるせいで楓は殺されてしまったのよ!」
「く……」
楓ちゃんの死を知るまで何も行動を起こさなかった手前、俺には反論が思いつかなかった。
何より俺自身、千鶴さんのやってる事が正しいのかもしれないという疑問を抱き始めている。
だが言葉に詰まっている俺は千鶴さんの後ろで長い髪の女の子が立ち上がるのを見た。
その手には包丁が握られている。
その子は千鶴さんに向かって駆け始めて……気が付くと俺は千鶴さんを守る為、弾かれたように動き出していた。
* * * *
* * * *
「うおおおおっ!」
突然聞こえた咆哮に、千鶴が向きを変える。
千鶴の視界には顔を苦痛で歪めながらも立ち上がる北川の姿と、今にも自身を突き刺さんと目前に迫る美凪の姿があった。
(―――――避けられない!?)
千鶴がそう思った時、彼女の横から耕一がハンマーを手に飛び出していた。
ドゴォッ!!
ズザザザザッ!!
渾身の力で振るわれたハンマーは美凪の脇腹を捉え、悠に数メートルは弾き飛ばしていた。
まるで車に轢かれたかのように美凪の体は地面を転がってゆき、やがてその勢いも止まり彼女はぐったりと倒れたままになった。
「あ…………」
自分のやってしまった事に気が付き、耕一の手からハンマーが落ちる。
制限されているとは言え、常人を遥かに凌駕した腕力でハンマーを叩きつければ―――殴られた相手の命運は決まっている。
「そ、そんな…俺は……俺は……っ」
耕一は顔面蒼白になり、頭を抱えていた。
「よくも美凪をーーーっ!!」
北川は怒りの絶叫を上げながらショットガンを拾い上げ、耕一に向けて構えた。
「耕一さん、こっちです!」
弾が発射される刹那、千鶴が耕一の手を引き北川達とは反対方向へ駆け出していた。
ドンッ!
それまで耕一がいた空間を散弾が切り裂く。
「うわああああぁぁ!!」
ドンッ!ドンッ!ドンッ!
遠ざかっていく千鶴達に向かってショットガンを連打するが、怒りで照準が定まらない。
すぐにショットガンが弾切れを訴え、ガチッ!ガチッ!と音がするだけになった。
* * * *
* * * *
戦地を離れた千鶴は意気消沈している耕一から事情を問い詰めていた。
「…分かりました。つまり人を5人殺さないと、耕一さんと初音の命が危ないのですね?」
「……ああ。そうだよ…………」
「なら急がないといけません。さっきの女の子の名前は分からないから数には含めれないでしょうし……。
私が代わりに人を殺しに行ってきます。さしずめ私が戦った……川澄舞ちゃんでしたっけ?
あの人達は如何でしょう。名前も耕一さんが知っている事ですし、贄としては適任です」
千鶴は事も無げにそう言い放った。
人を殺すと簡単に言う千鶴に、耕一は怒りを抑え切れなかった。
「どうして……どうしてそんなに簡単に!!人を殺すなんて言えるんだよっ!!
俺はさっき人を殺してしまった!とても辛かったんだっ!」
耕一は叫び千鶴に掴みかかろうとした。
しかしある事に気付き、その動きはピタッと止まった。
千鶴は……泣いていた。その目からとめどもなく涙が溢れていた。
「貴方なら分かるでしょう……?私がどれだけ辛い思いをして、人を殺しているのか……!
私だって!こんな事したくないわよっ!
それでも!私には家族より大事な物なんてないからっ!
これ以上大切な人が死んだら私は壊れてしまうからっ!こうするしかないのよぉぉぉっ!!」
それはあまりにも悲しい叫び声、そして紛れも無い千鶴の本心だった。
千鶴の感情が痛いほど伝わってくる。
千鶴は……家族の為に心を凍らせ、ずっと一人で耐え続けてきたのだ。
その事は耕一も知っている。
だから耕一は覚悟を決め、その体を抱きしめた。
「千鶴さんごめん…俺自分の事ばっかりで………千鶴さんに酷い事言っちまった。
それに……千鶴さん一人にずっと頑張らせてしまった」
「耕一さん……」
「もう千鶴さん一人に重荷は背負わせない。俺も……背負うよ。
殺そう…二人で人を殺そう。みんな殺して、最後にこの島を脱出しよう」
「耕一さん……耕一さぁんっ!」
回避
千鶴は耕一の胸に顔をうずめ、子供のように泣きじゃくった。
それは間違った愛の形…………しかし確かな愛の形と絶対の殺意が、そこにはあった。
* * * *
* * * *
「美凪ぃぃぃ!」
真希の悲痛な叫び声で北川は我に返り、慌てて美凪の元へ駆け寄った。
折れた脇腹の骨が内臓に突き刺さったのだろう。美凪は―――大量の血を吐いていた。
素人目にも致命傷と分かる程に。
「きた………がわ…さん……」
それはとても力の無い声だった。そして、また吐血。
「美凪…!大丈夫かっ!?」
北川が美凪の体を抱き起こす。
「ねえ潤、どうすればいいのっ!?どうすれば美凪を助けられるのっ!?」
「分からねえ……分からねえよっ……!!」
答えは一つ―――――もう手遅れ。
治療用の道具の持ち合わせは無い。
それ以前に二人は医術の心得など欠片も備えていない。
今の二人には涙を流す事しか出来ない。
「…き…た……がわ…さん……、ひろ……せさ…ん……。そこ……にいます…か……?」
「ああ、いるぞ!俺はここにいるぞ!」
北川は自らの存在を伝えるべく、美凪の体を強く抱き締める。
「ごめ……んなさい…、わたし…頑張った…けど……駄目……でした……」
「そんな事無いわよっ!美凪が頑張ってくれたから、今私達は生きているのよ!」
真希が滝のような涙を流しながら全力で否定する。
「よ……かった……」
血を吐きながら小さい声で、そう呟く。
回避
「もういい美凪、これ以上喋るな……怪我を治してまた一緒に頑張ろうぜ」
北川はそう言ったが、美凪はその言葉を受け入れなかった。
「だめ…です……さいごに……おねがいが……あります…から……」
「何言ってるのよ、美凪……私に潤の世話を全部押し付ける気?」
「ああ、俺達は3人で一つだろ。お前がいなくちゃ始まらないよ」
美凪は答えない。その代わりに今までで一番たくさんの血を吐いた。
「美凪ぃぃぃ!!」
美凪は最後の力を振り絞るかのように、ゆっくりとした手つきで自身の十字架のペンダントを外し、小さく息を吸った。
「みちる……に……あの子に……会ったら……おいしい……ハンバーグを……たべさせて……あげて……ください……」
「…うん、任せてよ。知ってると思うけど、私料理は得意なんだから」
「ありが……とう……それと……」
「ああ、何だ?」
ペンダントを真希の手に握らせ、はっきりとした声で。
「二人共、絶対に死なないでください」
聖母のような笑みを浮かべ、美凪は目を閉じた。
北川潤
【時間:2日目10:10頃】
【場所:G−2下部】
【持ち物@:防弾性割烹着&頭巾、SPAS12ショットガン0/8発+予備弾薬16発+スラッグ弾8発+3インチマグナム弾4発、支給品一式】
【持ち物A:ノートパソコン、お米券】
【状況:号泣、背中に痛み】
広瀬真希
【時間:2日目10:10頃】
【場所:G−2下部】
【持ち物@:ハリセン、ワルサーP38アンクルモデル8/8+予備マガジン×2、防弾性割烹着&頭巾、支給品一式、携帯電話、お米券】
【持ち物A:美凪のペンダント】
【状況:号泣、背中に痛み】
回避
遠野美凪
【持ち物:包丁、防弾性割烹着&頭巾、支給品一式、お米券数十枚、色々書かれたメモ用紙とCD(ハッキング用)】
【状況:死亡】
柏木耕一
【時間:2日目10:15頃】
【場所:G-2上部】
【所持品:日本刀・支給品一式】
【状態:マーダー化。舞達を狙う。首輪爆破まであと22:30】
柏木千鶴
【時間:2日目10:15頃】
【場所:G-2上部】
【持ち物:支給品一式(食料を半分消費)、ウージー(残弾18)、予備マガジン弾丸25発入り×4】
【状態:左肩に浅い切り傷(応急手当済み)、マーダー。平瀬村を探索した後14時までに鎌石村役場へ。舞達を狙う】
ウォプタル
【状態:近くの民家の傍の木に繋いである】
【備考】
おにぎり1食分×3、ホテルにあった様々なもの(剃刀、タオル、食器、調味料、救急箱、その他諸々)、ワイン&キャビア、
同人誌の数々、スコップ×2、 色々なドリンク剤×6はG-2民家の中
大きなハンマーは北川達のすぐ近くに放置
(関連574・581・585 B13)
>>ID:0Yg1G+2UO
回避サンクス
助かりました
「やれやれ。やっと抜け出せたか……」
巳間良祐は試行錯誤の末、なんとか自力で罠から脱け出すことに成功した。
「――よし。では行くとするか……」
そう言うと良祐はデイパックを手に取り歩きだす。
――あれから良祐はこれから先も自分はゲームに乗り続けるか、それとも乗らないべきか自分なりに考え続けた。
しかし今の彼はもう他の参加者を殺そうなどとは思わなかった。
かといって主催者に反逆しようなどとも彼は思わなかった。
だから彼は自分1人で島を脱出する方法を探すことにしたのだ。
今更他の参加者と群れて行動する気など彼にはなかった。
(――だが、まずはこの首輪をなんとかしなければならないな………)
良祐は一度首に取り付けられている首輪に手をやった。
(おそらく、こいつには爆弾のほかに人間の生死を判断する機能や参加者の居場所を割り出す発信機、そして盗聴器などが仕掛けられている……
つまりこれがある以上、島からの脱出は事実上不可能だ。
だが、主催者が本当に首輪を爆発させることが可能ならば必ず島のどこかにこいつを管制する装置か施設が存在するはずだ)
良祐はデイパックから地図を取り出すと今一度沖木島全体をチェックした。
(――神塚山。ここが一番臭いな……)
管制装置があるとしたらやはりこのような高い場所にあった方が首輪に信号を送りやすいし、なにより島の中心に位置するため島全ての場所に均等に信号を送ることができる。
ならば調べる価値は充分あった。
(せめて何か武器も欲しいところだが今更ぜいたくは言えないか……)
地図をしまうと良祐は前方にそびえ立つ神塚山に目を向けた。
(――管制機能の破壊ができなくとも首輪の設計図か何かを手に入れられれば脱出も可能だろうがな……)
そんなことを思いながら良祐は神塚山へと足を進めていった。
巳間良祐
【時間:2日目・午前7時】
【場所:F−6・7境界】
【所持品:支給品一式】
【状態:探求者化。右足・左肩負傷(どちらも治療済み)。神塚山を調べる。目標は首輪を無力化して島からの脱出すること。他の参加者と手を組むつもりはない。自分から人を殺す気はまったくなくなったが、万一の場合殺す覚悟はある】
>>303 ( ゚д゚)ポカーン
( ゚д゚ )ナニコレ
「ねえ、杏さん」
「なに?」
「もしさ、自分の体が手榴弾で吹っ飛んだとしたらどうする?」
何気ない日常の会話をすかのように、柊勝平はこの話題を振った。
振られた藤林杏にとってはたまったものではない、気味の悪いものだが。
「やだ、そんな・・・どうもできないわよ。そんな怖い例え話しないでよ勝平さん。それより・・・」
愛想笑を浮かべながら、話題を転換しようとする杏。だが、勝平はそれを許さない。
「いや、でもさ。それ実際にあったことだから。・・・凄い痛かったんだよ」
彼の口調にふざけた感じが抜けたことに対し、杏も何か感じ取ったのだろう。押し黙った。
それは、静かな校舎を二人が歩き出しいくらかの時間が経過した時だった。
結局はこのような組み合わせになり、校舎の探索は行われることになり。
杏と勝平は右側から、残りの二人は反対側から。一つ一つの教室を確認していくことになる。
正門から入った所にある掲示板に、校舎の見取り図は貼られていた。それにより線対称的な作りになっていることが分かり。
階段もそれぞれ三箇所、右端、左端、真ん中とあったので移動するにも支障はない。
これならうまく、効率よく事が進むはずだと。相沢祐一も、楽観的に笑った。杏も笑った。
勝平も笑った・・・が、彼の場合は違う意味で。それは、杏と二人っきりだという非常に良いシチュエーションを手に入れたことに対する喜び。
ただ一人、神尾観鈴だけは俯いていた。
しょげているその様子の理由は分かっている・・・時々向けられる、子犬のような視線がそれだと勝平も勿論気づいている。
だが、それを無視して彼は杏の手をとった。
「きゃっ!勝平さんってば中々大胆ね」
何と言ったらよいのか。やはり言葉が上手く紡げず、勝平は観鈴を避けるように杏と二人進路を取る。
寂しそうな彼女を見ないようにしてこの場から離れていく勝平、そんな彼の様子をどこか微笑ましそうに祐一は見送った。
探索を始めて数十分経った頃であろうか、勝平がその話題を振ったのは。
それは保健室を抜けて、一階の一番右端である証拠の階段傍に辿り着いた時だった。
ここまで特に会話も無くもくもくと辺りを探っていたので、思ったよりも響く自分の声に勝平は内心驚いた。
杏はというと、彼の突拍子の無い様子に驚いて固まるだけであり。
そんな彼女を面白そうに眺め、そして。勝平は、言う。
「ずっと待ってたんだ、この時を。・・・杏さん、懺悔の時間は終わったかな?」
笑みが思わず漏れる、そう。待ちに待ったこのチャンスに武者震いでも起こりそうだった。
電動釘撃ち機の照準を彼女に合わせると、その瞳はますます見開かれた。その変化が快感だった。
彼女をこのような目に合わせることができるということに対する、満たされる感情。
この、充実感。体の中を走る爽快感、これから起こることに対する期待も全て含め。勝平の心が喜びで埋め尽くされようとした時だった。
「・・・勝平さん、何を言ってるの?」
それは、恐怖心の微塵も含まれていない台詞。
まるで『頭大丈夫?』的な視線を送られてしまい、途端勝平の精神状態は焦燥に包まれた。
「え、な・・・」
思わず言葉を失うが、そんな彼の様子お構いなしに杏はまくしたてた。
「あのねー。実際あったって言われても、それが何を指しているのかさっぱり分からないんだけど」
眉を吊り上げ、腰に手をあて。ちょっと説教モードに入ってるかの如く、彼女は勝平を見やった。
「や、だから杏さんがボクに投げ返した手榴弾がボクに当たって・・・」
「そんなことしてないわよ」
「したの!あんたが覚えてないだけでしたんだよっ!!」
「・・・勝平さん、頭大丈」
「大丈夫!!」
「っていうか勝平さん、投げ返したってことは勝平さんが私に手榴弾投げたのよね?それって自業自と」
「五月蝿いっ!!」
何故分かってくれないんだと躍起になる勝平を見やる杏の視線は、冷たく。
・・・それはそうだ、いくら勝平が「覚えていた」としても、杏は「覚えていないのだから」。
あくまで一方通行なのである、だがそんな当たり前のことすらも興奮した勝平は理解しようとしていなかった。
高ぶる思考は目の前の敵の排除だけを求める、勝平は追い詰めるように電動釘撃ち機を構えたまま杏へと近づいた。
「怖いだろ、助けを呼んでもいいんだぜ?こんなボロ校舎なら、反対側にいる相沢にだって届くだろうよ」
「・・・そんなの、必要ないわ」
「はぁ?」
「勝平さんが私を撃つはずなんて、ない」
「な、何でそんな言い切るんだ」
「言い切るわよ!そりゃ自分勝手でエゴの強い所はあったとしても、あなたがそんなことするなんて思わないもの。
・・・それに、あなたは椋の大切な恋人。椋が信頼する人を、私が疑ってどうするのよ!」
杏が叫んだのと、ガガガガッ!っと電動釘撃ち機が連続して撃たれたのは同時であった。
胸を横一直線に走る無数の釘、よろよろと膝をつく杏に向かって、勝平は言い放つ。
「撃てるさ。それだけのことを、あんたにされたんだからな」
見下す視線は、あくまで冷徹であった。
荒い息をあげ、そんな勝平と目を合わす杏。勝平は馬鹿にするような笑いを浮かべながらも、今度は彼女の頭に電動釘撃ち機突きつけた。
「・・・ボクが憎い?憎いだろ、くやしいだろ。ざまあみろ、裏切られて腹がたっただろ?」
だが。そんな勝平の言葉にも、杏はふるふると力なく首を振り続けた。
「何でだよ・・・命乞いとか、もっとこう・・・することがあるだろ?!」
首を振り続ける、胸から滴る血の量は尋常でなく彼女が助からないことは明白である。
でも、それでも。恨みの一つでも吐いて貰えれば、それだけで良かった。
へたり込み、後ろに倒れるその瞬間まで彼女はずっと首を振り続けていた。
・・・その頑なな意思表示に、戸惑いが溢れる。
「どうしてだよ、こんなんじゃ・・・こんなんじゃ・・・」
何のために、殺したのか。勝平がうろたえていた時だった。
「よう、仲間割れかい?危ないねぇ、こんな所で」
「え・・・」
突然かけられた声に振り返ろうと思った時には、体は既に冷たい廊下に投げ出されていた。
「なっ・・・?!」
圧し掛かっきたのは若い男、抵抗しようにも首にカッターナイフを即座にあてられ身動きができなくなる。
「おー、上玉上玉。こういう綺麗な顔が泣き叫ぶ所、見たいもんだぜ・・・」
「は?」
濁った視線を送られ固まる。そんな勝平の様子を、岸田洋一は楽しそうに見下した。
柊勝平
【時間:2日目午前1時45分過ぎ】
【場所:D−6・鎌石小中学校・右端階段前】
【所持品:電動釘打ち機11/16、手榴弾三つ・首輪・和洋中の包丁三セット・果物・カッターナイフ・アイスピック・支給品一式(食料少し消費)】
【状態:岸田に押さえつけられる】
岸田洋一
【時間:2日目午前1時45分過ぎ】
【場所:D−6・鎌石小中学校・右端階段前】
【所持品:カッターナイフ】
【状態:少し勘違い気味】
藤林杏 死亡
杏の持ち物(拳銃(種別未定)・包丁・辞書×3(英和、和英、国語)支給品一式(食料少し消費))は放置
(関連・563)(B−4ルート)
倉庫に辿り着いた陽平達は何か使える物が無いか探していた。
だが彼らが探している倉庫はかつて茜達が使用していた倉庫だった。
即ち―――
「―――もう何も無いね」
陽平がソファーの下を覗き込みながらぼやく。
「っていうか、何で倉庫にソファーなんて置いてあるんッスか!?」
そう。この倉庫にはソファーやテーブルなど、おおよそ倉庫に似つかわしくないものばかりが置いていた。
まるでリビングか何かのようで、テレビさえあれば1日中ここで快適に過ごせそうな気さえしてくる。
「―――とにかくだ。これ以上探しても無駄じゃないか?」
護の一言に全員が頷く。
かくして彼らは倉庫の探索を切り上げたのだった。
ここでの収穫は鉄パイプ一本だけであった。
「じゃあ次はどうするかだけど……」
陽平はそう言って、ちらりとるーこの方を見る。
意見を求められている事を察したるーこは考えていた事を口にした。
「るーは違う村に行くのが良いと思う。この村では激しい戦いがあった――だからもう、この村に他のうー達はいないかもしれない」
「それはつまり、他の村に行って仲間を探すって事ッスか?」
「ああ。そうなるな」
そのやり取りを聞いていた護はるーこの意見を反芻した。
(戦闘の影響で村に他の人がいないかもしれない――――だけど、人がいないからこそ出来る事があるんじゃないか?)
そう考えた護はるーこの意見を否定した。
「折角人がいないんならさ……今のうちにそこら中の家を調べちゃわないか?
人が多い場所じゃそんな余裕が無いかもしれないしさ」
「そうか……一理あるな。るーもそれで良いと思う」
「……はちみつくまさん」
その後も少し話し合ったが、結局護の意見が採用される事となった。
・
・
陽平達は近くの民家を探し、既に3件程調べ終えていた。
民家からは爆竹・ライター・救急箱が見つかった。
爆竹とライターは使い所が難しいが、救急箱は確実に役立つ場面があるだろう。
だが4件目の民家に向かおうとした護達は、横から風が吹きつけてくるような感覚を覚えた。
横の小さな林―――ざわめく木々の間から何かが近付いてくる。
かつての仲間と―――自分達を襲った女が妙な生き物に乗ってこちらに走ってくるのが見えた。
「あれは……耕一さんじゃないッスか!」
「でもあの女は昨晩の……」
仲間だった耕一が自分達を襲った千鶴と共にいる事に護達は戸惑いを隠せない。
耕一と千鶴はウォプタルから降り、歩いて舞達の方へと近付いてきた。
舞は半ば本能的に刀を構える。
そんな舞達に対して、耕一は苦笑いしながら言った。
「あ〜、そんなに警戒しないでくれ。千鶴さんはもう俺が説得したんだからさ」
「じゃあ……?」
護が期待に満ちた声で尋ねる。
その問いには千鶴が答えた。
「―――ええ。今の私は耕一さんと同じ道を進んでいます」
「ま、そういう事さ」
護は思う。
(耕一さんは千鶴さんの説得に成功したんだ……。だったら以前の事なんて忘れて、千鶴さんも暖かく迎え入れてあげるべきだよな)
「そっか……良かったよ。じゃあそんな離れた所に居ないでこっちに来なよ。一緒に行こうぜ」
護はそう言って、つかつかと耕一へと歩み寄る。
その時、耕一の両腕にぐっと力が篭った。
それを見抜けたのはこの場でただ一人―――
「―――うーまも駄目だっ!逃げろ!」
「―――え?」
場の時間が止まる。
刀が生えていた。
護の背中から。
剣先から紅い血を滴らせながら。
耕一が護の体から刀を引き抜くと、支えを失ったその体は地面に倒れこんだ。
千鶴がトドメとばかりに彼の体目掛けてウージーの引き金を引き絞った。
護の体がびくんびくん!と痙攣するように動いて赤い何かが飛び散る。
心臓を貫かれた事も理解出来ずに。
蜂の巣にされた事も知らずに。
残された者達の無事を祈る時間すら与えられずに。
護の意識は闇の底へと消えていった。
「耕一、あなた……!」
舞がキッと耕一を睨む。
耕一は一瞬申し訳無さそうな顔をしたが、すぐに冷たい顔つきになった。
「俺は千鶴さんを説得したんだ、もう一人で重荷を背負うなってな。
だから―――俺も人を殺す。千鶴さんと一緒にな」
「そんな……」
信じられない事態に、チエはその場にへたり込みそうになる。
千鶴は隙らだけの彼女に対してウージーの銃口を向ける。
しかし――――るーこは冷静だった。
「あぐっ!?」
千鶴の手に何かが当たり銃を取り落とす。
見ると、それは木で出来た星のような物体だった。
るーこが咄嗟に陽平の鞄から抜き取り、ブーメランのように投げつけたのだ。
「みんな、今だっ!」
陽平の叫びが契機となり、それぞれが動き出す。
「あなたはぁ!」
「―――くぅ!」
舞が両手で日本刀を握り締め一直線に耕一へと斬りかかる。
耕一は手に持った刀でその舞の攻撃を凌いでいた。
激しいつばぜり合い。耕一と舞は顔を付き合わせる形になった。
「行くぞ、よっち!」
その一方でるーこはチエの腕を取ると、強引に彼女を引っ張り走り出した。
だが逆に陽平は、鉄パイプを振り上げながら千鶴の方へと駆けた。
「うーへい!?」
「僕に構わずその子を安全な所に!」
今のチエをこの場に残しては良い的になる。
だから――――彼女は最優先で逃がした方が良い。
るーこは逡巡しそうになったが、すぐに陽平の意図に気付いて駆け出した。
「―――っ!」
銃を拾い、舞を今にも射抜かんとしていた千鶴は陽平の予想外の行動に反応が遅れる。
陽平の振り下ろす一撃をバックステップしてやり過ごし、続く突きは少し余裕を持って空いてる方の手で軌道を逸らす。
重心を泳がせがら空きになった陽平の胴体に銃を向けようとするが、千鶴は咄嗟の判断でその場を飛びのいた。
直後それまで千鶴がいた辺りを風が通過する。
「志保ちゃんをなめんじゃないわよっ!」
志保がナイフを手に走り込んで来ていた。
間髪置かずに陽平が踏み込む。
千鶴はウージーの銃身でどうにかそれを受け止めていた。
――――攻め続ける事が重要だった。
この距離で銃撃を避けるのは不可能に近い。
陽平達が生き延びるには千鶴に銃を撃つ暇を与えない事が絶対条件だった。
この場にいる全ての人間が一度は死線を潜っている。
だからこそ全員直感でその事を理解していた。
・
・
・
・
・
柳川達は平瀬村目指して歩を進めていた。
途中教会に立ち寄ったが、そこは既にもぬけの殻で特に収穫は得られなかった。
同時に教会の中で武器の再分配と軽い情報交換を行なったのだが、その中で発覚した事を確認する為に柳川は珊瑚に尋ねた。
回避
回避
「―――姫百合。お前は本当に首輪を外せるのか?」
これは本来なら教会の中で確認しておくべき事だったがいつ舞達が平瀬村を離れるか分からない。
だから柳川は先を急ぐ為、情報交換の続きは歩きながらする事にしたのだ。
「うん。確証はまだあらへんけど多分いけると思う」
「ふぇー、珊瑚さんってすごい方なんですね……」
すっかり感心した佐祐理がそう呟いた。
だが話を聞いていた浩之は逆に不安を抱いていた。
「多分、か……。失敗すれば首輪は即爆発してしまうんだし、危なくねえか?」
柳川もそれに同調し意見を続ける。
「藤田の言う通りだ。外したら自動的に爆発する仕掛けをしてある可能性も考えられる……。
外そうとするならちゃんとした確証が必要だ」
二人から指摘され珊瑚はうーん、と唸りながら紙を取り出し何かを書き始めた。
紙には乱雑な字でこう書かれていた。
『盗聴されてるから筆談で説明するでー』
柳川はその字の汚さに呆れつつも珊瑚に習い紙に文字を書きなぐる。
『盗聴されているのは知っているが……もう少しマシな字を書いてくれないか。読み取るだけでも一苦労だぞ』
柳川はやれやれ、と肩を竦めるいつものポーズをとって見せた。
珊瑚は不満げに頬を膨らませたが、今回は他の者も柳川に同意でこくこくと頷いていた。
その後も筆談が続いた―――その内容は以下の通りである。
・首輪の解除は工具があれば出来る自信があるが、先の発言の通り確実ではない
・パソコンでハッキングを行い主催者の情報を調べる、その時に首輪の構造の情報が入手出来れば首輪解除が確実に行なえる
・これらの理由からまずは平瀬村でパソコンを入手したい
・筆談の内容は一切喋らずに、口頭上では工具を探している事にして欲しい
事情を全て了解した柳川は紙を鞄へと戻しながら喋りだした。
「―――まあ他に方法は無い、まずは村で工具を探すしかないか……。倉田の連れも見つかると良いんだがな」
「確か川澄舞って言う人だっけ?」
「ええ、無事だと良いんですが……」
柳川達は会話を交わしながらも足を止める事は無い。
程なくして彼らは平瀬村に辿り着いていた。
浩之が地図と睨めっこしながら柳川に尋ねる。
「なあ柳川さん、どこから探すんだ?」
「そうだな―――まずは村の中央部から探すか。きっとそこが一番倉田の連れがいる可能性が……」
その時辺り一帯に連続した銃声―――戦いの始まりを報せる音が響き渡った。
佐祐理が強張った表情で柳川の方へと視線を送る。
「こ、これは……」
「ああ、どうやらゲームに乗った愚か者がこの村にはいるらしい……!」
厳しい声でそう言うと、柳川はポケットからS&W M1076を取り出した。
「どうするん?」
瑠璃が尋ねる。だが柳川の答えは決まりきっていた。
一人でも多くの人間を救いたい―――それが刑事である彼の願いだから。
「俺は現場に行ってくる。お前達はこの辺りの民家に隠れておけ」
「そんな、一人でなんて―――」
浩之の言葉に耳を貸さず、柳川はもう銃声のした方へと駆け出していた。
「待ってください、佐祐理も行きますっ!」
すぐに佐祐理もその後を追って走り去っていった。
残された3人は呆然と立ち尽くしていた。
しかし、やがて浩之が意を決したような表情で珊瑚達に話し掛けた。
「川名と珊瑚はここで待っていてくれ。やっぱり俺も行ってくる」
「だったらうちらも……」
「駄目だ!」
珊瑚が言い終わる前に浩之が大声で叫び遮っていた。
その剣幕に珊瑚はびくっと怯えてしまう。
浩之はコルト・ディテクティブスペシャルを鞄から取り出し、珊瑚へと手渡した。
それから告げる。とても真剣な目で。
「珊瑚は首輪を外せる―――だからこの島にいる皆の為にも絶対に死んじゃいけないんだ。
辛いだろうけど自分の身の安全を最優先に行動してくれ。
後―――俺がいない間、代わりに川名を守ってやってくれ。頼む」
こう言われると珊瑚も諦めて頷きざるを得なかった。
「そんな―――武器も持たずになんて……」
ただ一人、まだ納得していないみさきが表情を曇らせながら呟く。
先程聞こえてきた銃声は軽機関銃の類である事は明白だった。
そんな所に素手で飛び込むなど、無謀と言う他ない。
みさきの不安を見て取った浩之は、彼女の頭にそっと手を載せ撫で始めた。
「すまん……俺はこれ以上人が死ぬのを放っておけないんだ」
「ひ、浩之君……?」
「ばーか、心配するなって。俺はまだ死なない―――川名を残して死ぬなんて出来ねーよ。瑠璃とも約束したしな。
だから安心して待っててくれ」
なだめるような優しい声でそう告げると、浩之もまた銃声のした方へと一目散に走り出した。
一人でも多くの人間を救いたい―――その点においては彼も柳川と同じだった。
元仲間同士の、そして同じ血を引いた者同士の、哀しい戦いが始まる。
【場所:F−2】
【時間:2日目10:40頃】
春原陽平
【所持品1:スタンガン・FN Five-SeveNの予備マガジン(20発入り)×2・他支給品一式】
【所持品2:鋏・アヒル隊長(1時間20分後爆発)・鉄パイプ・他支給品一式】
【状態:全身打撲・数ヶ所に軽い切り傷(どちらも大体は治療済み)、戦闘中】
長岡志保
【所持品:投げナイフ(残り:2本)・爆竹・ライター・新聞紙・支給品一式)】
【状態:戦闘中】
川澄舞
【所持品:日本刀・支給品一式】
【状態:戦闘中】
ルーシー・マリア・ミソラ
【所持品1:ノートパソコン(バッテリー残量・まだまだ余裕)・スペツナズナイフ】
【所持品2:鉈・包丁・他支給品一式(2人分)】
【状態:左耳一部喪失・額裂傷・背中に軽い火傷(全て治療済み)。チエを安全な場所へ】
吉岡チエ
【所持品:救急箱・支給品一式】
【状態:るーこに連れて行かれている、軽い錯乱状態】
住井護
【所持品:投げナイフ(残り:2本)・支給品一式】
【状態:死亡】
柏木耕一
【所持品:日本刀・支給品一式】
【状態:マーダー、首輪爆破まであと22:05】
柏木千鶴
【持ち物:支給品一式(食料を半分消費)、ウージー(残弾13)、予備マガジン弾丸25発入り×4】
【状態:左肩に浅い切り傷(応急手当済み)、マーダー】
ウォプタル
【状態:耕一達の近くに放置されている】
柳川祐也
【所持品@:出刃包丁(少し傷んでいる)、S&W M1076 残弾数(4/6)予備マガジン(7発入り×4)】
【所持品A:支給品一式×2】
【状態:左肩と脇腹の治療は完了したが治りきってはいない、銃声のした方へ】
倉田佐祐理
【所持品:支給品一式、救急箱、二連式デリンジャー(残弾2発)、吹き矢セット(青×5:麻酔薬、赤×3:効能不明、黄×3:効能不明)】
【状態:銃声のした方へ】
藤田浩之
【所持品:なし】
【状態:人を殺す気は無い、銃声のした方へ】
川名みさき
【所持品:なし】
【状態:安全な場所で待機】
姫百合珊瑚
【持ち物:デイパック、水(半分)食料(3分の1)、コルト・ディテクティブスペシャル(2/6)】
【状態:安全な場所で待機、みさきを守る】
→567
→582
→間違った愛の形
B13
※木彫りのヒトデは耕一達が戦っている辺りに転がっています、柳川達が聞いた銃声は千鶴が住井を撃った音
※
>>318の
>瑠璃が尋ねる。だが柳川の答えは決まりきっていた。
の瑠璃を珊瑚に修正お願いします……
>>315-316 回避ありがとー
「もう少しで山頂に着くな…」
コンパスと地図を片手に巳間良祐は神塚山を登っていく。
ちらりと南の方に目を向けると氷川村がはっきりと目に見えた。
(やはりこの山ならば島全土に信号を送ることができる……)
首輪の管制装置、あるいは施設の捜索に乗り出したころから良祐は無駄に口を開かなくなった。
うっかり首輪の管制機を探しているなど口にして、それが盗聴され主催者の耳に入ってしまったらそれこそ一環の終わりだ。
「………風も出てきたな」
山頂に近づくにつれ風も出てきていた。
着ていた黒いコートがバサバサと風になびく。
「―――ん?」
―――その時、彼は出会った。
自身のコートのように緑色のおかしな服をバサバサと風になびかせてこちらの姿を見つめる少女――朝霧麻亜子に……
「………」
良祐の姿を見つめる麻亜子は終始無言だった。
(先客――いや違うか……)
自身と同じ考えの者かと最初良祐は思ったが、すぐに否定した。
このような場所に1人でいる者など決まっている。ゲームに乗った奴以外誰がいるのか。自身と同じ考えを持つ者ならこの様な場所で待ち伏せなどしない、と。
「………」
麻亜子と目が合う。それでもお互いは終始無言であった。
――沈黙を破ったのは麻亜子の方だった。
「よう。こんにちはお兄さん。いい天気ですなあ」
「…………」
良祐は黙って麻亜子を睨みつける。
(―――今こちらには武器が無い。相手のペースにはまったら確実に俺は死ぬ)
「こんな所にわざわざ1人で来るなんてキミも物好きだねぇ。もしかしてあたしを探していたのかい?」
「…………」
「ははは。さすがにそんなわきゃーないか」
「…………」
「……おい。さっきから何じろじろ見てんのさ? ああ、判った。スカートの中を覗きたいんだな? あたしのパンツを見たいんだな? だけど残念ながらこの下はスクール水着なんだにゃ〜コレが!」
そう言って麻亜子は自分のスカートを大胆にバッとめくり上げる。
―――確かにスカートの中はスクール水着だった。
「ま〜これはこれで一部の人間には萌え萌え〜なんだが………ってアンタ。さっきからずっと黙ってるけど何とか言ったらどうなんだい!?」
自身に何も反応を示さない良祐にしびれを切らしたようで、麻亜子は良祐をビシッと指差した。
「――生憎だが今の俺は殺人鬼に話す舌は持っていないのでな………」
「あらら。やっと口を開いたと思ったら酷いこと言うね君も。 ……でもさ。君だって殺人鬼だったころの自分の殻を今でも着ているじゃあないか」
「!?」
その言葉にピクリと反応してしまう。
「図星みたいだねえ。どんな理由があって足を洗ったのかは知らないけど、今でも君からは血と硝煙のにおいがプンプンするよ〜?」
「………なるほど。これが自己嫌悪というやつか。貴様を見ているとかつての自分を見ているようで気分が悪くなる」
「そうだろうねえ。似た者同志が近くにいると気が合うって言うけど、それは近親憎悪の裏返しみたいなもんさ。 …まあ人間社会ってもともとそういうもんの集まりなんじゃない?」
ははは。自分でも難しすぎて何言ってんのかさっぱりわかんねーや、と言って麻亜子は自分の頭をぽかんと叩いた。
「これ以上用が無いなら俺は行くぞ」
「そうだね。あたしも何時までも君に用はないよ。だから逝け!」
その言葉と同時に麻亜子はデイパックからボウガンを取り出し良祐に向けた。
「―――っ!」
良祐は咄嗟に自分のデイパックを前に放り投げた。
バスッという音と共に投げたデイパックに1本の矢が生えた。
「―――悪いが俺は死ぬわけにはいかない」
そう吐き捨てると良祐はすぐさま来た道を引き返す。もちろん麻亜子も獲物を逃がすつもりはない。
「だけどそうもいかないんだにゃ〜これが。死ねよやー!」
再び良祐めがけボウガンから矢が放たれる。
バスッ!
矢は真っ直ぐ良祐の背中に命中した―――と思われたが、矢が刺さったのは良祐の着ていた黒いコートだけであった。咄嗟に脱ぎ捨てたのである。
(――これでこちらの手の内は全て使い果たしてしまったか……だがこの距離ならばもう逃げ切れる)
ちらりと良祐は後ろを振り返る。麻亜子と良祐の距離は既に20メートルは離れていた。
ボウガンは確かに強力な武器に違いないが、銃とは違い射程はそう長くはないしいちいち装填する必要もある。良祐はそこに目をつけたのだ。
後ろでは麻亜子がボウガンに次の矢を装填しようとデイパックに手を入れていた。
(こういう状態での装填は慌ててしまい時間もかかる。これでまた距離が広がるな……)
良祐は顔を前に戻す。前方には氷上村が見えた。
――――ズドン!
突然良祐の背後から音が聞こえた。大きな音だった。
「…………あ?」
同時に背中と胸から激痛がした。
「…………………」
痛みがする場所に手を触れる。
―――手が真っ赤に染まった。
「がは……」
次の瞬間、良祐は口から血を吐いて大地に膝を着き、そして倒れた。
撃たれた。それも大口径の超大型拳銃に。良祐はすぐに理解した。
「やれやれ。逃げ足の速い子だね君も。はあ〜…本当は使いたくなかったんだけどにゃ〜これ。弾あと2発しかなかったんだぞう…」
いつの間にか追いついてきていた麻亜子が手に持っていたソレを良祐にちらつかせた。
―――デザートイーグル.50AE。
別名『ハンドキャノン』という名を持つソレから放たれた50口径の弾丸が良祐の肉体をいとも簡単に貫いたのだ。
「はは……まいったな。まさか…そんな隠し玉を用意していたとはな……」
こんな状況でも良祐は思わず苦笑いをした。
(――やられた。出会った時から既に俺はこの女のペースにはまっていたのだ。しかし、それに気づくのはあまりにも遅すぎた……)
「君は道を誤ったんだよ。君みたいなマーダーの出来損ないは粛清される運命にあるのさ」
「―――粛清か……確かに、俺にはふさわしい末路かもしれないな」
「最初にこのゲームに乗った瞬間からあたしたちはもう人殺しなのさ。何人殺そうが、途中別の道に歩んでも結局は人を殺したことに変わりはない。
手についた血のアカは何時までも……一生かけても落とせないのさ」
「………道を誤ったか。そうかもしれないが、俺はそのことに後悔はしていない。たとえ僅かな時間でも……俺は…死んだ妹の分まで生きようと思えたんだからな………」
「妹?」
「……晴香という。まあアンタには関係ない話だがな」
……本当は関係あるんだけどな、と麻亜子は言おうとしたが言わないでおいた。散り逝く者への麻亜子なりのせめてもの気遣いである。
そう。彼女の義妹、巳間晴香の命を奪ったのも他でもなく麻亜子自身なのだ。
兄妹揃って馬鹿だな、と麻亜子は思った。
「……そういえばさ。馬鹿となんとかは高いところが好きっていうけど、君はどっちだったのかねえ?」
「――馬鹿だろうな………」
「そうだね。あたしも馬鹿だ……って勝手に決めんなコノヤロー!」
「はは……さて。どうやら……迎えも来たみたいだな………」
「ふぅん。妹さんかい?」
「さあな………おい。娘ちゃん。最後に同じ殺人鬼から1つアドバイスしてやるよ」
「ほう。何かね?」
「――俺みたいに…道を誤るんじゃないぞ糞餓鬼………」
風でスカートをバサバサとたなびかせながら朝霧麻亜子は山を下りていく。
(やれやれ……まさか兄妹揃ってクソガキと言われるとはね………)
麻亜子は良祐と晴香が最期に自分に言った言葉を思い出していた。
(クソガキなら世界NO.1エージェントの彼がこの島にはいるではないか)
ふと足を止めて空を見る。道を誤った結果、哀れな最期を迎えた殺人鬼が召されていった場所だ。
……本当に天国は空の彼方にあるのかは麻亜子にも判らないが。
―――結局あの男は遅すぎた。気づいたときには高いツケを払わなければならなかったのだ。
(まあそれはあたしも同じだけどね……だれがあたしにそれを払わせるかは知らないけど………)
再び足を進める。その先には氷川村が見える。
「言われなくてもあたしは道を誤りはしないさ。だって殺人鬼と修羅は違うんだからね………」
麻亜子のその言葉は誰の耳にも入ることなく空の彼方へと吸い込まれていった。
朝霧麻亜子
【時間:2日目・午前8:45】
【場所:F−5・6境界南】
【所持品1:デザート・イーグル .50AE(1/7)、ボウガン、サバイバルナイフ、投げナイフ、バタフライナイフ】
【所持品2:防弾ファミレス制服×2(トロピカルタイプ、ぱろぱろタイプ)、ささらサイズのスクール水着、制服(上着の胸元に穴)、支給品一式(3人分)】
【状態:マーダー。現在の目的は貴明、ささら、生徒会メンバー以外の排除。最終的な目標は自身か生徒会メンバーを優勝させ、かつての日々を取り戻すこと。スク水の上に防弾ファミレス制服(フローラルミントタイプ)を着ている。氷上村方面へ移動】
106 巳間良祐 【死亡】
【備考】
・良祐のデイパックは放置
はぁい、どうも。すっかり置いてけぼりにされていた(B-10の)天沢郁未です。
まぁ、あれよ。世間様では私はすっかりかませ犬だの空気だのいらない子だの言われてるけど私だってマーダーの一人だもの、しっかりしなきゃね。
え? どうして一人称で話しているかって? そりゃあれよ、いまハカロワで人気ぶっちぎりの奴は主に一人称主体でいってるらしいじゃない? だから私もそれにあやかってみようと思ってね。どこの誰だか知らないけど。
…ホントは、葉子さんの死を紛わせるためにやってるんだけどね。数少ない、私の味方だったから、そりゃショックも大きいわよ。
それでも相打ちにもっていった葉子さんは本当に凄いと思う。だから、もうこれ以上は負けられない。何としてでも生き残らないと。
とは言うものの、正直一人で勝ち残っていけるかというと、厳しいものがあるわね…不可視の力は使えないし、武器も頼りないし。けど頼れる仲間もいないしね。
まぁ…あの少年(未だに本名が分からない、クソッ)も一応は味方なんだろうけど、何を考えてるかわかんないようなところもあるし…はぁ、分かりやすい性格の奴が仲間ならいいんだけどなぁ。
などと考え事をしながら歩いていたのが失敗だった。
ズガン!
いきなり響く銃声。そして、目の前から高速で飛んできた銃弾が、郁未の額を貫いたのだった。
天沢郁未 【死亡】
…なんて状況になるところだった。ギリギリのところで、銃を構えた女に気づいてアヴドゥルのように頭を反らさなければ間違いなくこうなっていたわね…くわばらくわばら。
「…ちっ、勘がいいわね」
私の目の前にいたのは何やらギラついた目をしている制服姿の女。距離はゆうに5メートルはある。どう転んでも薙刀すら届かない距離だ。
「ちょっと、いきなり何のつもり? こちとらまだ大した活躍をしてないのよ、せめて名言くらい吐いてから死にたいんだけど」
「黙りなさい」
女が再び銃を構えたので私はやむなくバンザイして降伏の意思を示す。しかしこのまま死のうものなら私は間違いなく「『天皇陛下ばんざーい』という台詞の途中で米軍の爆撃をもらって死んだ哀れな一国民」のような格好で野山の肥やしになるだろう。
「聞きたいことがあるんだけど」
女は構えたまま尋ねる。質問? いきなり撃ち殺そうとしておいて質問とは何事だ。
「…そのまえに、一応弁解しておくわ。さっきのは威嚇のつもりで撃ったんだけど、どうもまだ銃に慣れて無いようなのよね…で、手元が狂って真っ直ぐ飛んでった、ってワケなんだけど」
グレイト。つまり私は手元が狂った、という最高のハプニングで野山に晒されそうになったってワケか。
私の非難轟々の目線に、女が取り繕うように咳払いをする。
「と、とにかく…私は今ある女の行方を追っているのよ。これくらいの小さいチビで、調子の良さそうな言葉遣いをする…名前はまーりゃん、っていう奴なんだけど…知らない?」
身振り手振りでそのマーリャンなる生物の説明をする女。
「そんな名前…名簿にあったかしら? 本名は?」
「知ってたら始めから本名で言ってるわ。で、知らないの、知ってるの?」
有無を言わさず、といった強い口調で言う女。…やばいわね。知らないと言ったらその場でズドン、は確定ね。でもそんなマーライオンの仲間みたいな奴なんて知ってるわけないじゃないのよさ。
ここは慎重にいかねば。落ちつけ天沢郁未。KOOLだ、KOOLになるんだ。
「残念だけど知らないわ、でも」
「死ね」
ズダァン!
またもや私の頬を掠める銃弾。冷や汗が流れるのを、私は感じた。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! 話は最後まで聞くものよ」
私の必死な弁明に、渋々銃を下ろす女。ああクソッ、冗談キツイわよっ。こんなギャグキャラみたいな死に方なんてゴメンだわ。
「知らない、確かに知らないんだけど…けど、あなたもこのゲームには乗っているんでしょう?」
「それがどうしたってのよ」
苛立たしい口調で言う女。オーケイ、落ちついて落ちついてブッシュ大統領。
「どうせなら、私と手を組まない?」
「さよなら」
ズダァン!
さっき撃たれた方とは反対の頬から血が流れる。
「ちっ…どうも射撃って上手くいかないものね」
もはや日米交渉はご破算寸前だった。このままでは米軍との開戦も免れないだろう。
近衛首相、開戦するのかしないのかどっちなんですか。了解、嫌なら総辞職なさい。その後に銃殺してあげましょう、っての? ブラボー。
「まっ、ままま待ちなさいって! アンタ、ホントに一人でそのマーリャンっての何とかできると思ってんの?」
「何? 私に説教する気?」
「違うっての! そうやって片っ端から殺してくのはいいけどね。その内息切れしちゃうわよ。ようやく見つけた、って時に銃も弾切れ、体力もない、ってんじゃ返り討ちに会うのがオチよ」
そう言うと、なるほど一理あるわね、というように女が銃を下ろす。
やれやれ。ペリー提督もようやくニホンゴが理解出来るようになりましたか。
「実は私もゲームには乗ってるの。でも流石に一人じゃ行き詰まってきてね…お互いに敵だけど、今は協力し合うしかないんじゃない?」
ようやく言いたい事が言えた。この女、物騒極まりないけど戦力としては十分。性格も分かりやすそうだし。
「つまり…互いに利用し合おう、ってワケね」
「そういう事。もし私とあなたが生き残れば、決着はその時につければいいでしょ?」
「ふん、いいわ。あなたの案に乗ってあげる。ただし、もし私の邪魔になるようだったらその時はすぐに撃ち殺すから」
「言うわね。こっちだってあなたが邪魔になれば切り殺すわ」
互いに敵意のこもった笑みを向ける。油断ならない信頼関係。
例えるなら吉野家でUの字テーブルの向かいに座った奴といつ喧嘩が始まってもおかしくない、って関係だッ!
「先に名前を言っておくわ。私は天沢郁未」
「来栖川綾香よ。精々邪魔にならないようにね」
言ってくれるじゃないの。私は荷物を拾い上げると綾香と並んで歩き出した。
「ちょっと、気安く並ばないでくれる?」
「何よ、対等な関係でしょ? 今は」
「はっ、銃も持ってないくせに」
火花を散らしつつ、次なる殺人へと、私達は向かう――
【時間:1日目午後11時頃】
【場所:G−04】
来栖川綾香(037)
【所持品:S&W M1076 残弾数(3/6)予備弾丸28・防弾チョッキ・トカレフ(TT30)銃弾数(6/8)・支給品一式】
【状態:興奮気味。腕を軽症(治療済み)。麻亜子と、それに関連する人物の殺害。ゲームに乗っている】
天沢郁未(綾香の下僕)
【持ち物:鉈、薙刀、支給品一式×2(うちひとつは水半分)】
【状態:右腕軽症(処置済み)、ヤル気を取り戻す】
って! ちょっ! 何で私が下僕になってんのよ! 確かに武器は見劣りするけど…納得いかーんっ!
「文句を言う下僕はいらない」
ズガン!
いきなり響く銃声。そして、目の前から高速で飛んできた銃弾が、郁未の額を貫いたのだった。
天沢郁未
【持ち物:鉈、薙刀、支給品一式×2は綾香が回収】
【状態:死亡】
どこで終わりか分からんWが回避置いとく
331と332は同一人物なの?ID違うが。
投稿規制に引っかかったからつなぎ変えたんだろうかと
いやいや、別人ですって。作品は
>>331までです。
念の為の回避すみませんでした
337 :
名無しさんだよもん:2006/12/24(日) 18:41:15 ID:tDqhOMZv0
332が別人だったりしたら他はまたこんな駄ネタかよと思って読んでたら
332の不意打ちのオチで腹筋千切れそうなぐらい盛大に吹いた俺はどうすればw
「クソッ! ツキが落ちてやがる」
人目につかぬ森の中で岸田洋一は苛立たしげに吐き捨てた。この島に来てからというもの、一人として女を犯すに至っていない。
いや、正確には犯す寸前まではいけるのだがいつもそこで誰かしらの邪魔が入る。来栖川芹香のときもしかり、小牧郁乃のときもしかり。
郁乃の顔を思い浮かべたとき、岸田の脳裏に高槻の顔がよぎった。
何もかもがあのカスのお陰だ。せっかく手に入れたコルト・ガバメントも、S&W 500もあいつのお陰でなくした。
「奴さえいなければな…ちっ、何かあいつとは星の巡り合わせでもあるのか」
ふと岸田の記憶から、少年時代読んだとある少年漫画が思い出された。その漫画では度々ライバル――名前は忘れたがなんとかブランドーとか言ってたか――が主人公を追い詰めるのだが最後の最後に主人公に敗れ去ってしまう。
「馬鹿馬鹿しい…そんな漫画通りにいくか。しかし…確かに俺はあのカスを侮り過ぎていたのかもしれんな…意外に知恵もあるし、それに爆発力もある」
何よりも、奴には岸田同様の躊躇の無さもある。敵と見定めた人間には容赦しない。そんな雰囲気があった。
「だが今度は失敗は無い…今この岸田は全てにおいて冷静だ。数々の失敗が、逆にこの俺を冷静にさせているのだッ」
岸田は気合を入れ直すとその辺にあった木にもたれかかり、次にどうするかを決める。
あのカス――いや、今からは高槻と呼んでやろう――は後回しにしておくとして…これからどうするか?
銃は欲しい。有ると無いとでは相手に与える牽制力が格段に違う。問題はいかにして奪い取るか、だが…
時間帯から考えれば、今は中盤戦。このゲームに乗っているにしろ乗っていないにしろ集団で行動している確率は大きい。現に、あの高槻とそのとりまきの奴らは行動を共にしていた。
マーダーも然りだろう。一人より二人で協力して殺しにいけば効率は遥かに良くなる。休憩を交代で取れるのもメリットだ。
岸田に集団で行動する、という選択肢はなかった。首輪がないのが大きい。大抵不審がられるだろうし、外せると嘘をついても必ず一人は疑いにかかるはず。
人の良い奴は、もう大体が死んでいるはずだからな…
ならば、乱戦に乗じて奪いにいくしかないだろう。集団で行動している奴らが戦闘に入った時がチャンスだ。では、どこで戦闘は起こりやすいか、ということになるが…
「村、が一番可能性は高いが…」
岸田としては、室外戦よりは室内戦の方が性に合っている。大体、今まで一人も殺せなかった時は、いつも室外での戦いだったじゃないか。
「ちっ…面倒だが村に向かうしかないか」
そう言って山を下りようとした岸田に、ある建物が目に映った。民家だ。
「家か…そう言えば、ずっと歩き詰めだったな。少しくらい休憩を取ってもいいだろう」
休息も重要。ヤる段階になってから体力がなくなってできませんでしたという事態になっても困る。
岸田は山を下りると、誰かがいないかと注意を払いつつ侵入する。幸いなことに、誰かがいる形跡もなかった。
まずは武器がないかと探しまわったがまともなものがない。恐らく、先に侵入した人間に持ってかれたのだろう。まぁ、これくらいは想定の範囲内だ。休憩できればいい。
しかし毛布くらいは欲しいと別の部屋を探していた岸田は、奇妙なものを見つける。
「こいつは…ずいぶん古い型のパソコンだな」
でかいディスプレイにキーボード。まさかな…とは思うが念の為に起動してみる。
ガガガガガ…
「遅い…って、やっぱWindows95かっ! 旧式にも程があるだろうがっ! このポンコツ!」
蹴り飛ばそうかと思ったが、『タンスの角に小指をぶつけた』ような事態を想定して、止めた。
「頭を冷やせ…今の俺は全てにおいて冷静冷静…」
心頭滅却しつつ操作できるようになるまで待つ。ようやく操作できるようになったところで、何か有用なプログラムはないかと探す。
「む…? channel.exe…? ちゃんねる…まさかな」
ダブルクリック。すると、見覚えのある壺が岸田の目の前に表示された。
「随分とウィットに富んだジョークだな、このパソコンは…」
どう考えても2ちゃ○ねるのパクリだった。失笑を浮かべつつ一応覗いてみる。
「何だ、ちゃんとしたスレもあるんじゃないか。死亡者…俺には関係無いな。自分の安否を報告するスレッド…か。こっちはどうだ?」
========================================
1:藤林杏:一日目 12:34:08 ID:ajeogih23
自分が今、どういう状態にあるか、報告するスレッドです。
報告して知り合いを安心させてあげてください。
私は、今は無事です。さしあたっては当面の危機もありません。
それから、私は積極的に人を殺そうとは思っていません。攻撃された場合は別ですが。もし、あたしを見つけても撃たないでね。
みんな、希望を捨てちゃ駄目よ。生き延びて、みんなでまたもとの町へ帰りましょう!
========================================
「ちっ…吐き気のするような甘い女だ…こんなのばっかりか」
悪態をつきつつ、下へと読み進めていく。すると、興味深い書き込みを見つけた。
岡崎なる人物が、鎌石村の役場へ来るように求めているのである。
「相変わらず甘い考えだが…利用させてもらうか。知らない奴でもいいらしいからな…」
岸田の狙いはこうだ。のこのこ集まってきたお人好しのバカどもを、気付かれないように殺しつつ武器を奪う。それに役場の中ということは…岸田にとっても有利に戦えるということだった。
「その次は…高槻に復讐だ。最初に会った時に俺を殺しておかなかった事を…必ず後悔させてやるからなぁ!」
憎しみを交えた笑みを浮かべつつ、パソコンの電源を切る。
しかし、まだ夜も明けていない。14時ということはまだ時間もある。少し休憩してから、役場に向かうとするか…
もう一度部屋を探して毛布を見つけてから、岸田は一時の休息についた。
【時間:2日目05:45】
【場所:E-8、民家】
岸田洋一
【持ち物:鋸、カッターナイフ、電動釘打ち機8/12、五寸釘(5本)、防弾アーマー、支給品一式】
【状態:切り傷は回復、マーダー(やる気満々)、少し睡眠を取る】
【備考:各種B系ルート】
343 :
遊び心:2006/12/25(月) 22:52:10 ID:l9A9/eVr0
「あれ?何だ、これ二発しか入ってなかったんだ」
リサ=ヴィクセンを葬った七瀬彰は、そのまま彼女の膝で眠り続ける美坂栞にも止めを刺すつもりであった。
だが、手にしていたデリンジャーからはカチ、カチッといった弾切れの合図しか返って来ない。
銃ならまだあるので、それはまあ良かった。
それにたった今殺害した女性の鞄から出てきたものも、何と今彰が所持していた銃と同じもので。
運とは恐ろしい、改めて思う。
リサの荷物も奪い取り、彼の装備はますます強固になった。
そんな彰には今、精神的にもかなりの余裕があった。
「そうだ、こうしたら・・・」
それは、ちょっとした遊び心であった。
いまだ眠り続ける栞の右手をとる、彰はそれに弾切れになったデリンジャーを掴ませた。
「あはは、目が覚めたらこの子どんな反応するかなー」
咽るような血の匂いの中、薬のせいで眠り続ける栞を置いたまま海の家を後にする。
栞が目覚めるのは、まだ先のこと-----------------。
344 :
遊び心:2006/12/25(月) 22:52:50 ID:l9A9/eVr0
七瀬彰
【時間:2日目午前0時過ぎ】
【場所:G−9】
【持ち物:アイスピック
吹き矢セット(青×4:麻酔薬、赤×3:効能不明、黄×2:筋肉弛緩剤)
八徳ナイフ
コルト・ディテクティブスペシャル(装弾6)
コルト・ディテクティブスペシャル(装弾6) 残弾17
リサの集めた食料
他支給品一式】
【状況:ゲームに乗っている】
美坂栞
【時間:2日目午前0時過ぎ】
【場所:G−9・海の家】
【所持品:鉄芯入りウッドトンファー・支給品一式】
【状態:右手に二連式デリンジャー(弾切れ)を握らされている、麻酔薬により眠っている、香里の捜索が第一目的】
(関連・511)(B−4ルート)
345 :
託された命運:2006/12/26(火) 00:12:14 ID:FDVgsPx60
「あれ……?」
敬介が目を覚ますと白い天井が見えた。
怪我の影響からか、まだ少し意識が朦朧としていた。
「よう、目が覚めたか?」
声のした方へ振り向くと男が座っていた。
観鈴と同じくらいの年頃の―――だが少年と言うには相応しくない凄みが目の前の男にはあった。
「君は……?ここは一体……?」
「俺は那須宗一だ。ここは氷川村の診療所で……あんたはここの前で倒れていたんだ。
それを俺が見つけて、応急手当をしたって訳だ」
「そうか……。僕は橘敬介だ―――宗一君、ありが……」
そこで敬介は思い出した。自分が連れてきた女の子の事を。
慌てて体を起こし周りを見回す。
その所為で肩に激痛が走ったが、すぐに澪の姿を視界に捉える事が出来た。
彼女はまだ眠ってはおり、その頭には包帯が巻かれていた。
敬介が何か言う前に宗一が口を開いた。
「ああ、その子も一緒に手当てをしておいた。その子の怪我はあんたと違って軽いし平気だと思うぜ」
「―――ありがとう、本当に助かったよ」
そう言って敬介は頭を下げた。
「気にするなって。それよりあんた達一体何があったんだ?
そんな怪我で人を背負って動き回るなんて、よっぽどの事があったんだろ?」
「ああ、大変だったよ……。色々ありすぎて、どこから説明したら良いか分からないくらいね……」
平瀬村での一件は筆舌に尽くしがたい程の激闘だった。
それに平瀬村の一件を説明する前に、まず天野美汐との事から説明する必要がある。
これ以上余計な誤解を招かない為にもだ。
「じゃあまず、僕がこの村に来た時の事から話……」
「……待て、誰かが近付いてきてるみたいだ」
「―――え?」
宗一は敬介の言葉を遮って、真剣な表情でFN Five-SeveNを握っていた。
集中してみると、確かに遠くから何かの気配が近付いてきているのが敬介にも分かった。
346 :
託された命運:2006/12/26(火) 00:14:44 ID:FDVgsPx60
これまでの厳しい戦いの経験のお陰かは分からないが、敬介の感覚は以前より鋭敏になっていた。
「俺が行ってくる、あんたはここで待っててくれ」
「僕を信用してくれるのかい?」
「一応な。殺し合いに乗った奴がそんな体で女の子を背負って動き回るとは思えない」
宗一は敬介の方を見ずに立ち上がり、警戒した足取りで玄関の扉へと向かった。
宗一が扉を開け放つと、女が駆けて来るのが見えた。
その手には銃が握られている。
宗一が銃を構えるのとほぼ同時に女―――水瀬秋子も脚を止め、宗一に向けて銃を構えた。
いきなり発砲してこない事から考えて、相手はゲームに乗っていないかも知れないと秋子も宗一も考えた。
しかし予断を許さない状況である事に変わりは無い。
ほんの些細なきっかけで次の瞬間には射撃戦が始まる可能性もあるのだから。
二人の間に緊張が走る。
先に口を開いたのは宗一だった。
「俺は殺し合いには乗っていない、だから出来れば穏便に済ませたい」
「ええ、私もゲームに乗っている訳ではありませんから……それには賛成です」
「あんたここに何か用なのか?」
「ええ、私は人を探しています。女の子を背負った男がここに来ませんでしたか?」
「確かに人は来たが……それは敬介と彼が連れていた女の子の事か?」
「!」
秋子の目が見開かれる。彼女の予想は当たっていたのだ。
そして宗一の問いに、秋子は答える。
片手で脇腹を押さえたまま、しかしはっきりとした声で。
「ええ、そうです。私はその女の子――澪ちゃんを助ける為に。
そして人を謀る極悪非道な男―――橘敬介を殺す為にここに来たのですから」
告げる。
自身の目的を。
347 :
託された命運:2006/12/26(火) 00:16:15 ID:FDVgsPx60
誤解を解く暇も与えられぬまま。
敬介の命運は宗一の判断一つに託された。
【時間:2日目・午前7時40分】
【場所:I−7(診療所)】
那須宗一
【所持品:FN Five-SeveN(残弾数20/20)、H&K VP70(残弾数2)、包丁、ダイナマイトの束、携帯電話(GPS付き)、ロープ(少し太め)、ツールセット、救急箱、ほか水・食料以外の支給品一式】
【状態:携帯電話の改造開始。現在の目的は情報を集めること、次に仲間と合流。宗一の判断は次の書き手さん任せ】
鹿沼葉子
【所持品:支給品一式】
【状態@:肩に軽症(手当て済み)右大腿部銃弾貫通(手当ては済んでいるがまだ歩けるほどではない)。一応マーダー。今は郁未のために情報を収集する】
【状態A:病室にいる】
橘敬介
【所持品:支給品一式、花火セットの入った敬介の支給品は美汐の家に】
【状態@:左肩重症(腕は上がらない)・腹部刺し傷・幾多の擦り傷(全て応急手当済み)。澪の保護と観鈴の探索、美汐との再会を目指す】
【状態A:玄関奥にいる】
上月澪
【所持品:なし】
【状態:精神不安定。頭部軽症(手当て済み)・気絶中。目的不明。玄関奥にいる】
水瀬秋子
【所持品:ジェリコ941(残弾14/14)、予備カートリッジ(14発入×1)、澪のスケッチブック、支給品一式】
【状態:腹部重症(治療済み)。名雪と澪を何としてでも保護。目標は子供たちを守り最終的には主催を倒すこと】
→557、590 ルートB-13
考察板の101です、とりあえずはアナザー扱いでお願いします。
お手数おかけしますが、回避を手伝っていただけると助かります。よろしくお願いします。
おk
「耕一さん、ちょっと思うことがあるんです」
「何ですか?」
歩みを止めこちらを振り返る耕一、千鶴は神妙な顔つきで語りだした。
「さっきの子たちのことなんですが・・・」
「ええ」
「あの男の子・・・死んだ子の名前、叫んでませんでしたか?」
耕一の目が見開かれる、千鶴は彼の様子を気にすることなく話を続けた。
「今になって思い出したんですが。よくもナギをって、言ってませんでしたか」
「すみません、ちょっと分からないです・・・でも」
すかさず名簿を取り出し確認しだす耕一、千鶴も彼の手元を覗き込む。
そして。そこに書かれた名前、69番「遠野美凪」を発見し二人は固まった。
顔を見合わせる、キッと視線を強め千鶴は言った。
「耕一さん、パソコンを探しましょう」
「・・・書き込み、ますか?」
「いえ、まずは見つけるだけです。私の聞き間違いという可能性も、視野にいれないといけませんから。
ですが、夜の放送までに彼女の身元を明かすことができたなら。
・・・耕一さんや初音を一刻も早く助けるためにも、みすみす逃すのは惜しいです。
あの子・・・黒髪に割烹着姿という判断材料では難しいかもしれませんが、それでも探す価値はあるはずです」
「そのためにもパソコン、ですか」
「身元が分かったとしても、書き込むことができなければ意味はありませんから。
生憎私はまだ一つも見つけていません、数はそんなに多くないと思います」
報告ができなければ全てが無意味、ゲームに乗るにしてもこの枷は中々厄介である。
そんなことを話し合っているうちに、舞達のグループにはあっという間に追いついた。
一向は、少し開けた場所にある倉庫の前にて屯っていた。
中でも調べていたのだろうか。彼らの神妙な顔つきから想像すると、あまり良い結果は出なかったと見える。
「・・・どうします?」
パソコンか、ターゲットか。
優先順位で言えば勿論後者だが、今までパソコンについて話していたこともあり耕一はこのような声かけをした。
「私は顔が割れています、一緒に行くのは不自然でしょう」
「それでしたら、千鶴さん先にパソコンの目星つけてくれませんかね」
「構いませんが・・・大丈夫、ですか?」
「あそこにいる連中が、銃を持っていないことは分かってますから。平気ですよ」
「そうですか?ではこれを・・・」
だがウージーを差し出す千鶴に対し、耕一は首を振る。
「不意打ちを狙います、それならこの日本刀の方が便利ですよ。
いきなり銃器を持って現れるのも、ちょっと目立つでしょうし。
・・・『遠野美凪』について聞いてみたら動き出します、やり遂げてみますよ・・・家族の、ために。」
その口調に迷いはない。
鞘を茂みに捨て抜刀されたままの日本刀を右手でしっかり持つ耕一、その手に千鶴はそっと触れる。
最後にぎゅっと握り締め、彼女は耕一を見送るのだった。
「あれ?どうしたのよ、何か忘れ物?」
再び現れた耕一の姿にあがる志保の疑問の声、その親しげな様子に顔を見合わせる二人の男女は耕一も見知らぬ顔であった。
影になっていたから気づかなかった・・・志保達に比べて制服の荒さが目立つ二人組み、その新しい存在に耕一も注視する。
戦闘の跡が垣間見れるそのいでたち、少し警戒した方がいいかもしれない。
かけよってくるメンバーから説明を受け、とりあえずは自己紹介をしあう。
そして、彼らが今までこの倉庫にて探索を行っていたことも聞いた。
だが特に役立つものも見つからなかったらしく。
無駄に時間を過ごしてしまったと、溜息をつく護に笑みを浮かべて励ましの言葉を送る。そして。
・・・新顔の一人、るーこから送られてくる胡散臭そうな眼差しはとりあえず無視する方向に決め、やっと耕一は用件を切り出した。
「ちょっと、みんなに協力して欲しいことができたんだ」
「・・・もしかして、脱出できる鍵とか分かったっスか?!」
「いや、ごめん。そういうのじゃなくて」
苦笑いを浮かべる、チエは少しショボンとしたがすぐに「何でも言ってくださいっス♪」と笑顔を浮かべてくれた。
理由は特に捻りもなく頼まれたから、ということで押し通す。
耕一は『遠野美凪』の外見的特長を説明し、誰か彼女の知り合いでないか質問してみた。
「黒髪?うーん、来栖川先輩がそうだったけど・・・先輩、亡くなったから。妹の綾香さんは、まだ生きてると思うんだけど」
「伊吹風子っていう後輩が当てはまりますけど、あいつそんなスタイルはよくないんですよね・・・」
「・・・私?」
「い、いや、それが舞先輩なら耕一さんが聞くはずもないっス。っていうか舞先輩割烹着着てないじゃないっスか」
それならばと質問を変える、今度は『遠野美凪』という実名を出し耕一は聞いてみた。
だが、誰もそのような名前の少女と関わりをもっていないらしく。
これだけの人数の中から一つも情報が入らないのはさすがに手厳しい、思ったより良くない戦果に耕一も気を落とす、が。
(・・・そうだ、千鶴さんに頼んじゃったけどあっちの方も聞いてみるか)
ものは試しである、ついでという形で耕一はその話題を持ち出した。
「そうそう、パソコンの存在について知ってるかな」
「パソコン?それなら、るーこが持ってますよ」
「何だって?!」
「・・・おかしな奴だ。パソコンの存在を知っているならば、それが支給品の一つであることも検討がつくであろう?」
「いや、俺が見たのは民家にあったやつなんだ、そうか・・・そんな支給品もあったのか・・・」
とりあえず、彼らに対する質問は以上であった。
『遠野美凪』に関する情報が一つも手に入らなかったことは残念であったが、もう一つの目的が達成できたことは大きい。
これで、彼らに対する用件というのも本当に全て終わったことになる。
そして用件が終わったというその言葉の指す意味は。
一つ、深呼吸した。もう一度しっかりと彼らを見据え、耕一は覚悟を決める。
「うん、ありがとう。じゃあ、さようならだ」
耕一が日本刀を振りかぶったのは、その台詞とほぼ同時であった。
「・・・え?」
「危ないっ!!」
白いセーターが真紅に染まる、だが耕一が思っていたようなスプラッタな映像はそこにはない。
目をやるとるーこが護の襟首を掴んでいる様子が見えた、やはり彼女は侮れなかったか。
奇襲は失敗、正面にいた護の左肩口から斜めに赤い一直線が走るが、その滲み方は本当にごく一部であり。
表面しか切れていない、一命を取り留めることができた護は幸運だが・・・耕一以外のメンバーにとってはそれは関係ない。
問題は、何故護がこのような目にあったのかである。
・・・るーこ以外その場を動けたものはいなかった。
突然の耕一の行為に戸惑い、そして硬直する面々に向かい彼は黙って刃を振るう。
確実に人を傷つけようとするその行い、周りの連中を押しのけるーこは鉈での応戦を図った。
だが、所詮男と女の力の違い。
勢いで乗り切ろうとするスイングで、最後はるーこも尻餅をついてしまう。
「るーこ!!」
彼女を庇うよう身を乗り出す陽平、そして残りの面々もやっと場の状況を理解したのか彼らの間に入ってくる。
「ど、どういうことっスか!答えてくださいっス・・・どうして、どうして・・・」
チエが問う、だがそんな彼女の疑問に返ってきたのは日本刀の一撃。
「くっ!」
すかさず庇うような形で間に入り、舞は耕一の刃を自身の刀で受け止めた。
そのまま力で抑え込まれそうになる所を何とかいなし、距離を置く。
「・・・耕一?」
耕一は答えない。黙ってまた、刀を振りかぶるその姿に迷いはない。
振り上げ、降ろすという一辺倒の動きを繰り出す耕一に、舞は素早い剣捌きで流れを変えようと仕向けてきた。
会話が成り立たずどうすればいいか、身の置き場を悩む他の面々。
そんな形で立ちふさがる彼らの足の間から・・・いまだ尻餅をついたままであったるーこは、それを捕らえた。
回避
回避
回避
携帯回避
まだ駄目かい?
「伏せろ!狙われてるっ!!」
るーこの叫びと同時にそれは鳴り響いた。
ダダダダダッという連続音、るーこの掛け声でチエ、志保をしゃがませた護の頭上をそれは走り去っていく。
日本刀同士の奏でる金属音とは違う、もっと物騒なもの。彼らの日常では決して生まれることのないそれは・・・銃声で、あった。
「な・・・っ?!」
「走れ、的になるぞっ」
何が起こっているか理解する前に、まず行動を起こさねばならない。
陽平の叫びにも反応できず呆然となるチエの腕を引く護、志保も彼女を支えるのを手伝いながら一緒に場から離れるべく走り出す。
だが、それを追いかけてくるよう弾は再び飛んできて。
慌てて投げナイフを取り出し威嚇の意味を込め放つ志保、しかし走りながらの上見えない敵相手では何の役にも立たなかった。
るーこ、陽平も護達とは逆方向に走り抜ける・・・その頃には茂みに隠れていたであろう新手の姿は完全に見えていて。
その見覚えのある女性の姿に、戦慄が走る。
「お前は・・・っ」
「まさか、これも避けられるとは思いませんでした」
辺りを襲った銃撃音、それは千鶴の放ったウージーであった。
背面からの奇襲を何とか避けられたのはるーこ、そして陽平の声かけという支援のおかげである。
あの民家での戦いで陽平自身も場を読む力がある程度ついたらしい、素早くデイバックからスタンガンを取り出すその姿に戸惑いの色はない。
一方、何とか二人の叫びで事態を回避できた三人組は、見知ったマーダー的存在が現れたことで現状に対する緊張感を膨らませた。
・・・彼女が耕一を援護するように現れたこと、それがどういうことか。
少し考えれば簡単に想像がついてしまうが・・・信じたくない、その思いは決して小さくない。
「千鶴さん、どうして・・・」
だが、彼らを取り巻く現実は非常だった。
舞と対峙し続ける耕一の漏らした呟き、泣きそうな顔で聞き入るチエの手を隣にいる志保はぎゅっと握り締める。
しかし、その願いは次の台詞で崩される。
「すみません、やはり心配だったもので」
場に現れた千鶴はウージーの弾層を入れ替えながら、耕一の問いに答えた。
口調は大人しいもののその目は狩猟者そのものである、冷たい眼差しに一同に緊張感が走った。
回避
回避
千鶴は耕一の背面にいる、だから彼は今の彼女の様子をうかがうことはできない。
対峙する舞はそれを許さないであろう、だから耕一はそのまま話を続けた。
「正直、助かりました・・・」
「一人で駄目なら二人で乗り切ればいいのです」
「そうですね、ありがとうございます。
あと、パソコンのことですが・・・るーこちゃん、ピンクの髪の子が持ってるそうです」
「それはちょうどいいですね、いただきましょう。・・・全ては、家族のために」
会話終了。二人は改めて目の前のターゲットに狙いを定めた。
舞を睨みつける、耕一。その目の鋭さに舞も本当に言葉が通じないことを実感できたであろう。
そして、残りのメンバーも。・・・誰が敵であるかを、理解するしかない。
千鶴、陽平とるーこ、そして護、チエ、志保の三人は三角形のような立ち位置になっていた。
再びウージーを向けられる前に何とかしなければいけない、先に動いたのは右方向にて待機していた護達のグループの志保であった。
「こ、このっ!!」
鞄から取り出し、もう一本持っていた投げナイフをその勢いのまま千鶴に向かって放つ。
だが緊張に震える手で投げられたそれをかわすのは簡単なこと、少し横にずれるだけで千鶴はそれを回避できた。
「無駄です」
「ならこれはどうだっ!」
今度は逆方面、陽平が側面に回りこもうとする。走る彼に向かってウージーの銃声が鳴り響くが今一歩の所で届かない。
陽平は木彫りの星型をかまえ、銃声がなり終わったと同時にそれを手裏剣のようにして千鶴に放った。
思ったよりも素早いそれが千鶴の肩口に命中する、一瞬姿勢が崩れるが致命傷にはならなかったようだ
せめてウージーを手放してくれれば。その期待を込めての狙いが外れ、陽平は唇を噛み締める。
「甘いです、銃を持たないあなたに勝ち目はありません・・・」
「残念、甘いのはお姉さんだ」
「え?!」
陽平の正面を向いていた、それはあの三人に背をさらすという意味になる。
次の瞬間千鶴が感じたのは、太ももの裏側に突き刺さるような痛みであった。
そして目をやる、そこには文字の通り一つのナイフが刺さっていて。
・・・それは、先ほど志保が投げてきたものと同じタイプのものであった。
「ボーっとしてるのは危ないぜ?」
膝が崩れる、振り返るがもう遅い。
護の所持するもう一本のナイフが、今度は顔面を狙って飛んでくるのが目に入る。
「くっ!」
何とかギリギリで回避する、だがまた逆側から気配を感じ。
そこには、全力で駆け抜けながら陽平がスタンガンを構えている姿があった。
膝をつき、ナイフを外して構えるがもう遅い。
ウージーは既に取り落としている。・・・万事休すの事態で出した、千鶴の苦肉の策は。
「・・・・・・・・いらっしゃい、ウォプタルッ!!!」
それは、陽平のスタンガンがまさに千鶴にあてられようとした瞬間だった。
彼女の背後の茂みから躍り出る怪物、未知の生命体が彼に向かって駆け抜ける。
突如出現したその生き物に対し一同呆然となる、すさまじい勢いでせまってきたソレに対する防御方を考える暇もなく・・・陽平は、弾き飛ばされた。
「ぐわあっ!」
「うーへいっ!!」
「春原さ・・・」
るーこ、そして反対側からも護が走り寄ろうとする。
るーこが仰向けで倒れ、気絶する陽平を抱き起こした時だった・・・再び、ウージーが唸りをあげたのは。
言葉が出なかった。
志保とチエの目の前で、崩れ落ちていく護の姿。
彼女等側からは見えないが、反対方向の彼の腹部は蜂の巣と化していた。
走っていた勢いのまま倒れる体、そこから流れゆく血が地面を濡らす。
その様子に固まる少女達・・・その先にて膝をついている千鶴の手には、落としていたはずのウージーが握られていた。
「これが、執念の・・・差です・・・」
さすがに太ももの痛みが激しいのか、千鶴は顔をしかめ俯いた。
それでもウージーは手放さない、るーこも陽平を抱いていたためか即座に反応できなかったようで。
回避
・・・一緒に生き延びようと誓った仲間からの、初めての欠員。
そのショックは、少し離れた場所にて争っていた舞にも伝わったようであった。
「・・・!!」
一瞬であれ、動きが鈍くなった舞を耕一は見逃さない。
力任せに舞の刀を薙ぎ払う。カキンッ!っと一際大きな金属音をたて、日本刀は宙を舞った。
「これで、終わりだ」
無防備な姿に刃をつきつけ、そして。
・・・耕一はほんの少しの躊躇の後、舞の胸部を突き刺した。
抉る肉の感触に痛む心を押さえつける、耕一は目を閉じ彼女の体を貫通させるべく刀に力を込めた。
「・・・な、ん・・・で・・・・・」
それは、血と共に吐かれる舞の台詞。彼女の最期の言葉。
「こう、い・・・ち・・・・・な・・・んで・・・・」
「ごめん」
それは、戦闘に入ってから初めて耕一がメンバーの疑問に対して答えた瞬間。
その、小さな呟き。悲しそうに見やる舞と目を合わせず、耕一は刀を引き抜いた。
力の抜けた体は支えをなくし、そのまま仰向けに倒れてゆく。
溢れる血が体にかかるが、気にせず耕一は歩みだそうとした。
(残りの獲物は、四人。この調子なら『遠野美凪』を見つけるまでもない・・・)
罪悪感は、血の海に埋もれていく彼女に全て捧げた。
それは、真の修羅になる決意の現われ。
顔を上げた耕一は、まさに鬼のような表情を浮かべ膝をついたままの千鶴に駆け寄るのだった。
【時間:2日目午前11時】
【場所:F−2・倉庫前】
柏木耕一
【所持品:日本刀(血塗れ)・支給品一式】
【状態:マーダー、少し返り血がついている、るーこのパソコンを狙う、首輪爆破まであと21:45】
【備考:遠野美凪について調べる】
柏木千鶴
【持ち物:ウージー(残弾18)、予備マガジン弾丸25発入り×3、投げナイフ×1(血塗れ)、支給品一式(食料を半分消費)】
【状態:マーダー、るーこのパソコンを狙う、太ももに切り傷、左肩に浅い切り傷(応急手当済み)】
【備考:遠野美凪について調べる】
長岡志保
【所持品:投げナイフ(残り:0本)・新聞紙・支給品一式)】
【状態:呆然】
吉岡チエ
【所持品:支給品一式】
【状態:呆然】
春原陽平
【所持品1:スタンガン・FN Five-SeveNの予備マガジン(20発入り)×2・他支給品一式】
【所持品2:鋏・アヒル隊長(1時間20分後爆発)・他支給品一式】
【状態:気絶、全身打撲、数ヶ所に軽い切り傷(どちらも大体は治療済み)】
ルーシー・マリア・ミソラ
【所持品1:ノートパソコン(バッテリー残量・まだまだ余裕)・スペツナズナイフ】
【所持品2:鉈・包丁・他支給品一式(2人分)】
【状態:陽平を抱いている、左耳一部喪失・額裂傷・背中に軽い火傷(全て治療済み)】
回避
回避
川澄舞 死亡
住井護 死亡
ウォプタル
【状態:千鶴の近くにいる】
【備考:舞の日本刀・木彫りの星・志保と護の投げたナイフ計3本はそこら辺に落ちている】
→582 →595
数々の回避のお手伝い、ありがとうございました。
もういっちょ
舞が、滑るように走った。
狙うはポテトの尾、牙を剥く大蛇と化したそれである。
ポテトの脇を駆け抜けるや転進、下段に構えた一刀を摺り上げるようにして振るう。
それをチラリと見て、ポテトは煩わしげに翼をはためかせた。
湧き起こる烈風に、舞の剣筋が鈍る。
大蛇は僅かに身を引いて易々と刀を掻い潜ると、逆に舞へと襲い掛かろうとする。
だらだらと毒液を垂れ流し迫り来る大蛇の牙を、舞は刀の峰の上を滑らせるようにしていなす。
大人の腕ほどもある大蛇の胴が、半透明の鱗を撒き散らしながら舞の顔面に程近いところを流れていく。
「愚かだぴこ、人間。そんな力では傷一つ……ぴこっ!?」
ポテトは言葉を切ると、慌てて飛び退いた。数メートルを羽ばたいて着地。
その尾には、一本の朱線が走っていた。刀傷である。
皮一枚を切り裂いただけの小さな傷は瞬く間に塞がっていくが、ポテトは驚いたように舞を凝視していた。
「ぴ、ぴこ……!? そんな馬鹿な……」
「―――ほう、結構な業物を持ってるじゃねえか」
感心したように声を上げたのは、ボタンである。
光り輝く猪の視線は、舞が手にした一刀に吸い寄せられていた。
白銀の刃が、雨に煙る朝の空気を裂くように煌いている。
「抜けば玉散る氷の刃、ってな。……そいつは、俺らみたいなのを斬る為に打たれた代物だ。
しかも狗野郎の尻尾がだらしなく伸びきった瞬間を狙って刃を返しやがった。
持ち物だけじゃねえ、やっとうの方もそこそこ使えるみてえだな、嬢ちゃん」
言われた舞はといえば、しかし口を硬く引き結んだまま、言葉を返そうとはしなかった。
視線は、ゆらゆらと身をくねらせるポテトの尾へと真っ直ぐに向けられて動かない。
無視されたポテトが、苦笑するように牙を振る。
「ったく、無口な嬢ちゃんだな……、っと!」
予備動作なしに宙に舞うポテト。
ほんの一瞬の後、鬼の巨体が降ってきた。
エルクゥの全体重を乗せた一撃に、雨に濡れた地面が陥没する。
「よそ見すんなよ……俺はこっちだぜ……?」
ずるり、と地面から腕を引き抜いて、耕一が笑みを浮かべたままボタンを見る。
爛々と輝くその赤銅の眼は、紛れもなく血に飢えた悪鬼のそれだった。
「見ねえ顔だが、この国の固有種……か? いや、それにしちゃ……」
「がぁぁっ!!」
巨体に見合わぬ身軽さで、鬼が跳んだ。
横薙ぎに振り抜かれるその丸太のような腕が、空を切る。
ボタンが更なる高さへと舞い上がったのである。
「……こっちの兄ちゃんは随分と頭に血が上りやすいみてえだな。力に呑まれてやがるのか……?
ま、いい。売られた喧嘩なら、買ってやるさ……!」
ボタンが、その輝きを増した。
全身の毛が、針のように尖っていく。そのまま身体を丸め、逆落としに突っ込んだ。
それを空中で見上げるかたちになった耕一が、咄嗟に腕を十字に組んでガードを固める。
激突。
「ぐ……ぅおッ!?」
かろうじてボタンを弾き飛ばした耕一だったが、その衝撃までは殺しきれない。
受身も取れずに地面へと叩きつけられる。泥が、盛大に跳ね上がった。
すぐさま起き上がる耕一。しかしその腕からはぶすぶすと煙が上がっている。
「ほぉ……今のでその程度とは、頑丈な兄ちゃんだ。
しかも何だ、その傷……もう治りかけてんじゃねえか?」
ボタンの言葉通りであった。
耕一の腕はいまだ煙を上げていたものの、出血は止まっていた。
傷んだ表皮の下からは、既に新たな外皮が顔を覗かせている。
「頑丈なのは先祖譲りでね……おかげで、まだまだ戦える。感謝しなくちゃな」
言って、にんまりと笑ったその口は、耳まで裂けていた。
そんな鬼の笑みを見ながら、ボタンは牙をしゃくる。
「……兄ちゃん。そっちこそ、よそ見してていいのかい」
「―――!?」
がちり、と。
金属がぶつかり合うような高音が、響いた。
耕一は、背中に衝撃を感じて振り返る。
視界の端に映ったのは少女、舞の影であった。
後ろで一つにまとめた黒髪をなびかせながら、舞は耕一の背を蹴って刀ごと跳ぶ。
耕一は裏拳気味に腕を振るうが、届かない。
空中でくるりとトンボを切った舞が、静かに着地する。
「……鬼、硬い」
どうやら耕一の背に斬りつけたはいいが、分厚い外皮に阻まれたものらしい。
「おいおい、ひどいことするな……そういうモノを人に向けちゃあいけませんって、
お母さんに習わなかったのかい?」
「……」
母、という単語に幾分表情を固くする舞。
しかしすぐに口を開いた。
「……鬼は、人じゃない」
「はは、違ぇねえや!」
笑ったのはボタンである。
いつの間にか耕一からは距離を取り、今度はポテトと対峙している。
空中から繰り出されるポテトの爪を紙一重でかわしながら、呵呵大笑するボタン。
「喋る猪に笑われる筋合いはないね……」
言いながら、傍らに立つ大樹に向けて、太い腕を無造作に叩きつける耕一。
一抱えほどもある巨大な立ち木が、まるで枯れ枝のように折り砕かれる。
ゆっくりと倒れていくその幹を両手で掴み、耕一は周囲を薙ぎ払うように大樹を打ち振るいだした。
自身を中心軸とし、遠心力を利用して回転する。膨大な膂力によってのみ可能となる、力技である。
風を切る葉ずれの音が、森に響く。
木枝に溜められた雨粒が、横殴りの嵐のように撒き散らされていく。
周辺の若木が、突然生じた暴力の渦に巻き込まれ、砕け散る。
バックステップして回転半径から逃れ、距離を取ろうとする舞。
それを一瞥して、耕一は回転の勢いをそのままに、しかし舞とはまったく別の方へと向けて大樹を手放した。
ハンマー投げの要領で放り出された大樹が一直線に飛ぶ先にいたのは、翼を生やした魔犬と輝く猪。
ポテトとボタンである。
「何、勝手にやりあってんのさ……!」
回避
回避
回避
回避
鬼の一投が、飛ぶ。
巨大な質量に充分な速度を得て投じられた大樹だったが、しかしついに二頭の獣を捉えることはなかった。
一本の大槌と化して迫り来る大樹を見るや、ポテトとボタンはそれぞれの方法でこれを迎え撃ったのである。
まず一歩を下がったポテトの口から、猛烈な吹雪が吐き出された。
無数の葉が、枝が、瞬く間に凍りついていく。
一瞬の間を置いて、前に出たボタンがその輝く毛を鋭い針と化して飛ばした。
凍結した木枝が、片端から割り砕かれていく。
質量を失った破片は、正面から吹き荒ぶ吹雪の風圧に耐え切れず、次々に失速し、吹き散らされる。
残ったのは、すっかり丸裸となった幹だけであった。太い幹の槌は、しかし風圧にも負けず飛ぶ。
毛針でもこれを砕ききれぬとみて、二頭の獣は瞬時に体勢を入れ替えた。
即ち、ポテトが一歩を踏み出し、ボタンがその後ろへと下がったのである。
直撃するかと見えた刹那、身を低くしたポテトの大蛇の尾が、螺旋を描いて伸びた。
ほんの僅か、軌道を上に逸らされる大樹。
それによって生じた、小さな隙間を埋めるように占位していたのが、ボタンである。
瞬間、丸められたボタンの身体が、弾けるように跳ねた。回転しながらの、突進。
真下からカウンター気味に放たれたそれは、大槌と化した大樹を、粉砕した。
瞬きするよりも早く行われた、それは見事な連携であった。
鬼の目論見は、完全に失敗したかにみえた。
しかし、砕かれた大樹の破片を、更に断ち割って飛び出す影が、あった。
川澄舞である。
ポテトに向けて飛ばされた大樹の、その陰に隠れるように、疾走していたのだった。
完全に不意を打たれた格好のポテトは、舞の突撃に対処しきれない。
舞が、刀の間合いに、入った。
低い姿勢から、右の脇に構えられた銀の刃が、突き出される。
回避
回避
「―――っ!」
「ぴ……っこぉぉぉぉっ!!」
刃は、ポテトの左眼窩、その僅か数センチ横を抉り、突き抜けていた。
血が、飛沫く。
文字通りの間一髪で身を反らしたポテトが、必死の形相でその頭部を跳ね上げた。
銜えられた巨杖が、舞の身をしたたかに打ち、弾き飛ばす。
「―――ッ……!」
猛烈な勢いで流れる視界の中、舞は身を捻り、手にした刀を地面へと突き立てた。
慣性のまま飛ぼうとする己が身体を、腕力だけで引き戻す。肩が外れそうに痛んだが、無視。
地面と水平に一回転して、ようやく舞の身体が泥濘へと落ちる。
むき出しの膝が、泥に擦れて傷を作る。
すぐに立ち上がろうとして、舞は思わず膝をつく。脇腹、杖に打たれた辺りに刺すような痛みがあった。
肋骨に何らかの損傷がある、と判断。無視しようとするが、呼吸が乱れた。
膝立ちのまま、刀に縋るようにして視線を上げる舞。
致命的な追撃を覚悟したその視界を覆っていたのは、しかし毒を満たした蛇の牙ではなく、
あるいは一撃で首を刎ねんとする爪でも、逃れようのない吹雪の白い煌きでもなかった。
灼熱の太陽を思わせる、黄金の輝きが、そこにあった。
「―――何のつもりだぴこ」
今にも吐き出さんとしていた吹雪を咥内に収めながら、ポテトが静かに尋ねた。
全身の毛を逆立たせながら、ボタンがそれに答える。
「……常命のただびとが、剣一本で妖と魔獣を狩ろうってんだ。
はは、こりゃテメエ、ちょっとした神話だぜ?」
心底から楽しげに、ボタンが言葉を続ける。
「で、神代生まれの大先輩としちゃ、そういうの放っとけねえだろ、なあ?」
「……お前のような田舎ブタに英雄の知り合いがいたとは、初耳だぴこ」
ポテトの挑発にも、ボタンは動じない。
「ま、さっきから見てりゃあ、嬢ちゃんはテメエとあっちの兄ちゃんにだけ用があるみてえだしな。
現に、こうして背中見せてたってバッサリいく気はねえみてえだし」
「人間如きと手を組む、ということぴこ?」
「テメエだって妙な兄ちゃん、乗せてたろうが。どっか行っちまったみてえだがな」
「……まぁ構わないぴこ、始末する順番が変わるだけぴこ」
ポテトが、低く喉を鳴らす。蛇の尾が牙を剥いていた。
そんなポテトから視線を外さないようにしながら、ボタンは背後の舞に語りかける。
「とまぁ、そういうわけだ、嬢ちゃん。狗っころ始末するんなら手ェ貸すぜ」
「……イノシシさん、邪魔」
ぽつりと、それだけを口にする舞。
それを聞いて、ボタンが爆笑した。
「くっ……くははは、ははははは! 面白ぇ、面白ぇな、やっぱり!
そうだ、俺ぁ邪魔なイノシシさんだよ、嬢ちゃん!」
逆立った毛が、ふるふると揺れている。
「で、こっちの狗野郎はひとまずイノシシさんが引き受けてやらぁ!
まずはそいつを片付けてこい、嬢ちゃん!」
黄金の聖猪が、飛んだ。
kaihi
【時間:2日目午前6時すぎ】
【場所:H−4】
ボタン
【状態:聖猪】
ポテト
【所持品:なんかでかい杖】
【状態:魔犬モード】
川澄舞
【所持品:村雨・支給品一式】
【状態:爪、尻尾、斬る(肋骨損傷)】
柏木耕一
【所持品:不明】
【状態:鬼】
一方その頃、国崎往人。
「さすがにつきあいきれんぞ……」
頭を抱えながら、戦場から遠ざかっていた。
賢明な判断である。
国崎往人
【所持品:人形、トカレフTT30の弾倉×2、ラーメンセット(レトルト)、化粧品ポーチ、支給品一式×2】
【状態:逃亡】
→587 ルートD-2
>>ID:C9+/Nd0s0、ID:YOO8UcFSOの両氏、回避ありがとうございました♪
386 :
希望:2006/12/26(火) 16:18:16 ID:pygGEFLU0
窓から差し込む朝日に天野美汐は静かに目を覚ました。
(……私はまだ生きてるんですね)
霞む視界をぼんやりと見渡し、そんなことを考える。
誰かがやってくるわけでも襲われるでもなく、まるで普段の日常のようだった。
布団からむくりと起き上がり寝室を出ると、パソコンの置かれた部屋へと戻りロワちゃんねるを開いた。
新しく書き込まれていたのはたったの一件。
しかもそれは自分の書き込みに対する返答はでなかった。
(真琴も相沢さんも見てはいなかったのでしょうか……)
元々そんなに期待していなかったとはいえ、あからさまに落胆の溜め息がついて漏れる。
代わりと言っては何だが、新しく書かれた書き込みをぼんやりと眺めた。
岡崎朋也――昨日の夕方に訪れた男性が探していた人間。
(この人も現実を受け入れずに言葉にすがり付いているのですね。
『未来』などと言うか細い幻想を抱いてまで何を求めるのでしょうか……。
確かに楽しい事もあるでしょう。
それと同時に、いやそれ以上の悲しみだって襲ってくると言うのに)
それを見て特に憤りを感じたわけではない。
なんとなく、昨日自身が行った書き込みの時のような気まぐれでキーボードを叩いた。
もしこの後に彼は殺人鬼だと言う書き込みをしたらどうなるのか。
そう考えると自分でも気付かないうちに頬がゆるんでいた。
387 :
希望:2006/12/26(火) 16:18:55 ID:pygGEFLU0
――そんな彼女の手を止めたのは流れ始めた二回目の放送だった。
「真琴……」
相沢祐一の名前は呼ばれることはなかった。
だが彼女にとって膨大な参加者の中で、皆無に等しい知り合いの一人が呼ばれハッと息を呑む。
そしらぬ風に装っていたものの、やはり真琴の存在は僅かながらに彼女の中にはあったようだ。
だがその考えもほんの一瞬のもので、瞬く間に達観した表情に戻っていた。
その間も名前は次々と読み上げられ続け、ブツリと声は途絶え放送は終わりかと思ったその時だった。
今までの声とは違う最初に聞かされた甲高い声――ウサギの声が聞こえてくる。
その告げられた内容を美汐は半信半疑のまま黙って聞いていた。
『優勝して生き返らせれば良い』
その言葉を聞いた瞬間「消えてしまったあの子」のことを思い出していたのだった。
本当にそんなことが出来るのだろうかと言う疑念を抱きながらも彼女の中にほんの僅かの"希望"が生まれる。
望んでも起こらなかった……叶えられることはなかった……奇跡。
美汐の脳裏には在りし日の思い出が描かれていた。
あの頃の自分は何もかもが楽しかった。輝いていた。幸せだった……。
それをもう一度取り戻せる?
だが自分に与えられたのは役にもたたなそうなおもちゃばかり。
体力も何も無い自分が優勝など到底出来るとは思えなかった。
388 :
希望:2006/12/26(火) 16:19:28 ID:pygGEFLU0
(馬鹿馬鹿しい……こんな"希望"を抱くこと自体ありえないことですよね。
今までと同じようにここで訪れる運命を待ちましょう……そうずっと――)
諦めながら考えるのをやめようとした美汐の頭にふと一つの妙案が舞い降りる。
書きかけだった文章を全て消すとPCの電源を落とすとぼんやりと美汐は立ち上がった。
一日に一回しか書けないのだ。これは残しておこう……そう考えながら台所へ向かう。
冷蔵庫を開けると中には一人ならしばらく潜むには不自由しないほどの食料が置かれていた。
次に家の構造を理解しようと探索を始める。
一階を回り、階段を上って二階へと全ての部屋を回る。
何度も何度もぐるぐると家の中を歩き回り、全ての構造を把握すると最後に入り口の扉に錠をかけた。
……別に何かをしなければいけないわけではない。
そう、逆に何もしなければ何も起こらないのではないだろうかと考えた結果の行動だった。
今朝普段と変わらないように起きれたように、外に出なければ、動かなければ放送の通り人は死んでいく。
もし最後まで隠れ続けられれば勝手に他の人間が潰しあって優勝することは出来るのでは無いか?
「――神様……私はもう一度だけ希望を持っても良いのでしょうか?」
寝室に戻り、言いながら美汐は朝日が差し込んでいたカーテンを閉めた。
訪れる暗闇の中、思考すらやめるように再び彼女は布団へと潜って行ったのだった。
389 :
希望:2006/12/26(火) 16:20:28 ID:pygGEFLU0
天野美汐
【時間:2日目8:00】
【場所:I-7民家寝室】
【持ち物:支給品一式(様々なボードゲーム)】
【状況:自分から動く気は皆無】
【備考:美汐と敬介の支給品の入ったデイバックがPCの置かれた部屋の片隅にある】
【関連:390、479】
「耕一、どうして!」
「…………」
鍔競り合いの状態のまま尋ねるが耕一は答えない。
耕一は返答の代わりと言わんばかりに力任せに舞の刀を弾き返した。
そのまま刀を舞の頭部に向けて振り下ろす。
キーンッ!!
舞の頭上で二本の刀が交錯する。
この刀も以前は両方舞達の物だった。
それが今では、所有者と同じく袂を分けている。
耕一はもう一度両腕を力の限り振り下ろした。
ドガッ!!
刀が地面を抉り取る。
舞は横に跳ぶ事で攻撃の軌道から逃れていた。
手に持った刀を耕一の脇腹へと奔らせる。
キィィィンッ!
「―――!」
耕一は片手で地面を押してその反動を利用する事で体を翻し、それを受け止めていた。
そして……
「―――なっ!?」
片手はまだ地面についたままであるにも関わらず、残る片手の腕力だけで舞を弾き飛ばしていた。
(なんて桁外れの力なの……!!)
疾風が舞へと肉薄する。
キィンッ!キィンッ!キィンッ!
耕一は間合いを詰めると出鱈目に刀を振り回した。
息もつかせぬ連続攻撃に、舞の疲労は加速度的に蓄積されていく。
鬼の王と斬り合う事など無謀でしかない。
だが、他の仲間にこの役目を任せればものの数秒で殺されてしまうだろう。
仲間が千鶴を倒してくれる事を信じ、今は時間稼ぎに徹し続けるしかなかった。
「このぉっ!」
そのすぐ近くでは千鶴と春原達の戦いが続いていた。
春原は握り締めた鉄パイプを横に振るった。
ガァンッ!
その一撃を千鶴は銃で受け止めていた。
「……ふッ!」
千鶴はその圧倒的な腕力で春原を弾き飛ばす。
素早く銃を構えようとするものの志保の存在がそれを許さない。
「あんたがッ!」
志保は叫びながらナイフを斜めに振り下ろす。
千鶴は上半身を逸らす事でそれを避けていたが、前髪が何本か切り落とされた。
「あんたが耕一さんを誑かしたのねッッ!!」
志保の感情は限界まで昂ぶっていた。
許せなかった―――優しかった耕一を変えたこの女が。
罵声の言葉を浴びせ続けながら、激情をぶつけるようにナイフで斬り付ける。
激しい怒りで志保は我を忘れていた。
感情に任せた攻撃は単純で千鶴にとって捌き難くはない。
志保の振り終わりを狙って、その腕を掴む。
残る手で持つ銃を振り上げ、志保の頭に叩きつけようとする。
だが――――
「させねえよッ!」
ガァンッ!
春原が横から鉄パイプを伸ばしその軌道を遮る。
「離れなさいよオバサン!」
ゴッ……!
「っぅ……!」
志保が千鶴の腹を蹴り飛ばす。
堪らず千鶴は後ずさった。
迫り来る二人に対し、千鶴は腰を落とす。
地面に手をつき、その手を支点として回転する事で回し蹴りを繰り出す。
春原は鉄パイプでそれを受け止め、志保がナイフで千鶴の即頭部を狙う。
千鶴は頭を後方へと逸らし、その勢いのままバック転の要領で後ろへと下がった。
すぐさま春原と志保は間合いを詰め、再び千鶴を追い立てていく。
千鶴は防戦一方だった。
この状態で先手を取る事は叶わない。
一方の攻撃を捌いて反撃しようとすると、すぐにもう一方が攻撃を仕掛けてくる。
少しずつ体力を削られながらも、千鶴は防御に徹していた。
だがそれはそうするしかない、では無く、そうする事が最良であったからだ。
春原の武器も、志保の武器も、急所にさえ当たらなければ致命傷とは成り得ない。
一発食らいながらでも強引に発砲すればこの状況を打開する事が可能だ。
では千鶴がそうしないのは何故か。
それは―――
「…………くうッ!」
「川澄さんッ!?」
舞の呻き声が聞こえる。
耕一と舞の均衡が遂に破れ、舞は左肩を切り裂かれた。
その声に反応した春原と志保は一瞬硬直してしまっていた。
それは十分過ぎる程の隙。
千鶴はすぐさま次の行動に移っていた。
この瞬間こそ彼女の狙いだったから。
耕一の力は彼女が一番良く知っている―――だから全ては予定通りだった。
千鶴は無理せずただ、この時を待てば良いだけだった。
真横で隙だらけの様相を晒している春原の腹に渾身の肘打ちを叩き込む。
完全に虚を突いた一激を受け、春原は腹を押さえ地面にうずくまった。
続いて正面へと銃を連射する。
パラララ……ッ!!
銃声が鳴り響く。
志保の腹の大事な器官を何発もの銃弾が破壊していく。
弾が命中する度、志保の体に穴が開いていく。
銃声が鳴り止むと同時に、志保はどっと後方へと倒れた。
その銃声で仲間の誰かがやられたのだと知り、舞の集中力が途切れた。
刀と刀を合わせたまま、耕一は脚を振り上げる。
舞は咄嗟に肘で受け止めたが衝撃は殺し切れず、どすんと地面に尻餅をついた。
すかさず耕一は舞の手を蹴り飛ばし刀を手放させた。
「……終わりだ」
舞の眼前に剥き出しの刀身が突き付けられる。
銃声のした方を見ると、志保が血だらけになって倒れていた。
「ち、ちくしょう……」
同じように銃を突き付けられている春原が悔しそうな呟きを漏らす。
――――勝敗は決したのだ。
それでも舞は視線を決して逸らす事なく耕一を睨みつける。
「どうして……どうしてこんな事を……ッ!」
「だから言っただろ、千鶴さん一人にこんな事はさせられない。俺も罪を背負うってな」
「そういう事です。それでは―――――さようなら」
耕一は冷酷な双眸で舞を見据えながら全てを終わらせるべく腕を振り上げた。
(―――佐祐理。すまない……)
舞は心の中で親友に謝罪の意を表しながら目を閉じた。
だがその時――――
耕一は何かを察知し、地面を蹴っていた。
ダンッ!
迫り来る銃弾が耕一の左腕を掠める。
千鶴はすぐに銃声が聞こえた方へと振り向きながら銃を連射した。
パララララ!!
弾丸は横一直線に空間を切り裂いたが、それが相手を捉える事は無い。
千鶴の銃撃を屈み込んでやり過ごした男の手元が光った。
ダンッ!
「くあぁッ!」
回避動作を取っていた千鶴だったが、間に合わない。
銃弾は千鶴の肩を掠めその衝撃で彼女は銃を取り落とした。
鬼―――そう表現するに相応しい圧迫感を放ちながら柳川祐也は現れた。
辺りを見渡すとそこには血まみれになって倒れている志保。
苦痛で表情を歪めたまま地面に座り込んでいる舞と春原の姿があった。
柳川は般若の如き形相で耕一を睨み付けた。
だがその目は怒りよりも寧ろ、悲しみに満ちていた。
「柏木耕一、貴様狂ったか……!」
耕一は答えない。代わりに口を開いたのは千鶴だった。
「―――狂っているのは貴方の方でしょう、柳川祐也。貴方が今更人助け?―――冗談も程々にしてください」
「冗談などでは無い。俺はもはや鬼に支配されてなどいない―――人間の柳川祐也だ」
「そうですか……。それで、人間の柳川祐也さんはどうなさるおつもりですか?」
「俺はこのゲームを破壊する。そして、ゲームに乗っていない者達を救う」
柳川は間を置かずにそのまま言葉を続ける。
「もし道を誤ったというのなら―――俺が貴様らを殺す」
その声を聞いた耕一の体は本人の意思とは無関係に震えてしまった。
(なんて冷たい――――そして悲しい声で話すんだ……)
まるで刃物を首筋に突き付けられているような、それ程の迫力。
耕一の戦闘本能が警鐘を鳴らしていた。
肉体的には自分の方が優れている筈なのに、何かが決定的に違う気がした。
だが千鶴は臆した様子を全く見せずに答えた。
「貴方らしくも無い……人を救うなどと、本当にそんな甘い考えを持っているのですか?」
「―――ああ。それが俺の誓いだからな」
誓い――――耕一達にもそれは、ある。
決して柳川とは相容れない誓い。
例え善良な人々を殺してでも家族を絶対に守るという誓いだ。
「愚かな……。では―――理想に溺れて溺死しなさいっ!」
それが契機となった。
千鶴は取り落とした銃へと走り寄る。
耕一も覚悟を決め、弾かれた様に柳川に向かって走った。
柳川はすぐさま銃口を上げ、耕一の胴体目掛けて引き金を引く。
ダンッ!
「くぅっ――ッ!」
刹那のタイミングで耕一は横に跳ぶ―――!!
弾は耕一の脇腹を切り裂いたが、浅い。
耕一は勢いを止める事なく斬りかかり、柳川は銃をポケットに仕舞うと出刃包丁でそれを受け止めた。
キィィィンッ!
「ぐ……」
額をかち割らんとする一閃を頭上で受け止め、見上げる形で耕一と対峙する。
「耕一ィーーーーッ!!」
「柳川ァーーッ!!」
人を守る者と狩猟者――――以前とは逆の立場で二人は激突する。
キィィィンッ!キィィィンッ!
お互い乱暴に己の獲物を叩きつける。
すぐさま柳川は腕を引き、包丁を突き出そうとした。
耕一は刀で受けようとしたが、柳川はそのまま包丁を振り抜くような事はしなかった。
瞬時に突きの軌道が変わり、耕一のわき腹を抉らんと進む。
「!」
嫌な予感がし、柳川は咄嗟に宙へと舞った。
耕一の放った足払いは空を切る。
だが柳川の体勢を一瞬崩す事には成功した。
耕一は刀を乱暴に横に払った。
「クッ――……」
どうにか包丁の腹でそれを受け止める。
傍目には互角の勝負だった。
だが腕力と武器のリーチで柳川が劣る。
耕一の攻撃を受ける毎に腕の筋肉が軋む。
昨日負った傷も痛む。
柳川の不利は否めない――――常識的にはそうだった。
しかし―――
ザシュゥッ!
「ぐあッ……」
柳川の手に服と肉を裂くかすかな感触が伝わった。
競り負け、胸を浅く斬られたのは耕一の方だった。
傷口を抑えながら後ろへと跳び間合いを取る。
「オオオォォォッ!!」
雄叫びを上げながら柳川は追撃に移ろうとする。
躊躇い無く戦っているのは両者とも同じだったが、柳川には鬼気迫るような何かがあった。
それは理想を抱き続けている者と、理想を棄てた者の――――背負っている物の大きさの違い。
彼はその気迫だけで、本来の戦力差を補っていた。
――――銃を回収した千鶴は耕一の援護をしようとしていたが、それは妨げられる。
「舞ッ!!」
「し、しほぉーーーーッ!!」
新たな乱入者、倉田佐祐理と藤田浩之が現れたからだった。
浩之は佐祐理より遅れてこの現場に向かったのだが、体力差もあって到着はほぼ同時だった。
肩から血を流し苦しんでいる親友の姿を見た佐祐理の心に大きな怒りが生まれる。
「貴女達が舞をーーッ!」
パァンッ!パァンッ!
佐祐理はこの島で初めて銃の引き金を引いた。
親友の傷付けられた姿はそうするに十分な理由だった。
放たれた弾はてんで見当外れの方向に飛んでいったのだが―――柳川の目論見どおり、威嚇にはなった。
佐祐理の攻撃に気を取られた千鶴に、舞が、春原が、武器を拾い傷付いた体で決死の攻撃を仕掛ける。
だが怪我を負っている彼女達の攻撃に以前の鋭さは無い。
「遅すぎます」
千鶴が左足を軸に体を回転させるだけで、その攻撃は悉く空を切り、舞達は大きく態勢を崩した。
そして千鶴が振り向いた方向には後退する耕一へ今にも斬りかからんとする柳川の姿――――
自分を狙う敵に構う事なく、彼女はその引き金を引く。
パラララッ!!
碌に狙いも付けなかったそれが柳川の体を捉える事は無かったが、何の因果か――――弾の一発は柳川の獲物を捉えていた。
体よりも遥かに小さいその的を。
バキィッ!!
「――――!?」
傷付いた刀身がその衝撃に耐えうる術はなく、柳川の出刃包丁の刃は根元から砕けてしまっていた。
耕一は徒手空拳となった柳川に容赦無く襲い掛かる。
「チッ!」
首へと迫り来る一閃を屈みこんで回避した柳川だったが、これで終わりではない。
続けざまに襲い掛かる剣風の嵐。
柳川は紙一重の所でそれをかわし続けるが、とても攻撃までは手が回らない。
銃にはまだ弾が一発残っていたが構える暇など与えられない。
千鶴の一撃で、柳川と耕一の攻守は完全に逆転していた。
* * * * * * * * * * * * *
「し……ほ……」
柳川達が激闘を繰り広げているその時、浩之はよろよろと歩き志保の亡骸の前に辿り着いていた。
彼女はもう事切れていた。
その腹のあたりからは夥しい血が流れており、目は見開いたままだ。
また、守れなかった――――。
視界が曇り、今にも泣き崩れたい衝動に駆られる。
だが浩之は志保の手にある物が握られているのを気付いた。
きっと最後の力を振り絞ってこれを使おうとして――――その前に力尽きたのだろう。
なら、今は泣いてる場合じゃない。
志保が生きていればきっと、 『ヒロ、しっかりしなさいよッ!』と叱ってくれる気がした。
周りを見渡すと苦戦している柳川の姿が最初に目に入った。
「志保―――お前の代わりに俺が強烈なカウンターパンチを決めてやるッ!」
志保の目蓋をそっと閉じる。
そして彼女の手に握られていた遺物を持って駆け出す。
まだ生きている仲間達を救う為に――――
* * * * * * * * * * * * *
耕一も鬼の血を引いている。
彼もまた怪物―――その攻撃は徐々に柳川の動きを読んで繰り出されるようになっていた。
もう素手では凌ぎ切れない。
ザシュゥ!
「ぐぅっ!」
柳川は頭上から迫り来る一閃を体をよじってひねる事で避けようとしたが、かわし切れない。
肩から胸にかけて、浅く切り裂かれる。
一応回避
一瞬動きの鈍った柳川に容赦無く次の一撃が迫りそうになり――――
「柳川さん、後ろへッ!!」
その声に反応して、柳川は後ろへ跳んだ。
浩之は思い切り腕を振りかぶり―――
「志保ぉーーーーーーーーーーーーーーッ!!」
友人の名を叫びながら手に持った物を投擲する。
耕一と柳川の間に導火線に火のつけられた爆竹が落ちて――――
パンパンパンパンッ!
激しい炸裂音が連続して響き渡る。
元より殺傷力を期待しての攻撃では無い。
ほんの数秒で良いから時間を作れれば十分だった。
その音が鳴り終えた時には柳川はもう、銃を耕一の胸に向けて構えていた。
――――避けられない。
初動が大きく遅れた耕一はその事に気付いた。
「―――――さらばだ」
別れの言葉と共に―――――
ダンッ!
銃弾が一直線に放たれる。
それは耕一の心臓を正確に貫いた。
胸が見る見るうちに赤く染まっていく。
口から血が吐き出される。
もういっちょ
「―――後は……まか、せ……た」
それは誰に宛てた言葉なのだろうか。
千鶴か―――それとも柳川なのか。
一体何を任せたというのだろうか。
家族の事か―――それとも主催者に対しての報復の事か。
耕一の膝が折れ、地面へ倒れこむ。
その時には彼はもう死んでいた。
―――彼の最後の言葉の意味は、もう確かめようが無かった。
鬼の王は、死んだ。
激闘と甥の死の影響で、柳川は満身創痍というべき状態に近かった。
パララララッ!!
「―――!?」
だが息も付く暇も無く銃声が再び響き渡る。
柳川が振り返る。
――――そこでも決着が着いていた。
千鶴が春原達を見下ろしていた。
何かで殴られたのか、春原は頭から血を流しながら地面に倒れている。
そして――――佐祐理を庇うように立っている舞の胸から血が噴き出していた。
「さ…ゆり……ごめ……」
舞はどっと、後ろに倒れた。
「いやぁぁぁぁぁっ!舞!舞ぃぃぃ! 」
その体に縋り付いて泣く佐祐理には気をやらずに、千鶴は周りの戦況を確かめようとし――――目を見開いた。
回避
「――――耕一さん!?」
彼女の愛する柏木耕一は、地面に倒れていた。
うつ伏せで怪我の状態は分からないが、血の水溜りが出来ている。
「来てっ、ウォプタルさんッ!!」
千鶴が叫ぶとウォプタル――――柳川にとっては正体不明の生物が悠然と走り込んできた。
千鶴はすぐさまその背に飛び乗り、ウォプタルを柳川に向けて突撃させた。
「くそっ!」
弾丸の装填をまだ終えていなかった柳川は飛び退くしかない。
千鶴はその隙に耕一の体を抱き上げ、ウォプタルの背に乗せた。
(今は戦ってる場合じゃない―――耕一さんを助けないと!大丈夫、きっと助かるわ……耕一さんが死ぬはずないものね)
千鶴はもう攻撃を仕掛ける事はなく、二人を背に乗せたウォプタルはそのまま走り去った。
耕一への狂信的な信頼を抱いたまま。
攻撃を仕掛けている場合では無いのは柳川も同じ。
すぐに佐祐理に抱き付かれている舞の所へ駆け寄った。
浩之もその傍で膝を地面についたまま、泣いていた。
「……貴方が……これまで…………佐祐理を守ってくれていた人?」
うっすらと目を開けた舞は、柳川の姿を認めるとそう呟いた。
柳川はゆっくりと頷いた。
「―――その通りだ」
「柳川さぁん、舞が……私を庇って……ッ!」
佐祐理が涙ながらに訴える。
舞は血に染まったその手を優しく佐祐理の頬へと添えた。
「佐祐理、泣かないで……佐祐理が泣いてると……私まで悲しくなるから……」
「舞…舞……ッ!」
「―――そうか。俺が戦っている間、お前が倉田を守ってくれたんだな……」
「ええ……。でももう、私は駄目みたいだから……」
舞は柳川の手を握る。
まるでバトンを渡すように―――全てを托して。
「―――佐祐理をお願い」
「ああ、任せておけ」
柳川は力強く答える。
舞と――――先程の耕一の頼みにも。
それで安心したのか、舞は口元を吊り上げて、精一杯の笑みを浮かべた。
彼女は滅多に見せないとびっきりの笑顔をしていた。
―――佐祐理、今までありがとう……愛してる
最後にそれだけ言い残して、とても安らかな顔で舞は息を引き取った。
柳川は一言も言葉を発さずに佐祐理を抱き締めた。
佐祐理はその胸の中で泣き叫んでいた。
目の前で親友を失ったその痛みは如何程のものなのだろうか。
感傷に浸るななどという台詞は、もう口が裂けても言えなかった。
少女の体を抱きながら、柳川は空を見上げた。
曇り一つ無い青空―――だけど、そのどこかから主催者が下衆た笑みで自分達を見下ろしている気がした。
「今はそうやって笑っているが良い……。だがいつか必ず後悔させてやる……ッ!!」
佐祐理に聞こえぬよう小さな声で、柳川は天に向かって呟いた。
【時間:2日目11:10頃】
【場所:F-2】
春原陽平
【所持品1:スタンガン・FN Five-SeveNの予備マガジン(20発入り)×2・他支給品一式】
【所持品2:鋏・アヒル隊長(1時間20分後爆発)・鉄パイプ・他支給品一式】
【状態:全身打撲・数ヶ所に軽い切り傷(どちらも大体は治療済み)、頭と脇腹に打撲跡、気絶】
柳川祐也
【所持品@:S&W M1076 残弾数(7/7)予備マガジン(7発入り×3)】
【所持品A:支給品一式×2】
【状態:左肩と脇腹の治療は完了したが治りきってはいない、肩から胸にかけて浅い切り傷、疲労】
倉田佐祐理
【所持品:支給品一式、救急箱、二連式デリンジャー(残弾0発)、吹き矢セット(青×5:麻酔薬、赤×3:効能不明、黄×3:効能不明)】
【状態:号泣】
藤田浩之
【所持品:ライター】
【状態:人を殺す気は無い、すすり泣き】
柏木千鶴
【持ち物:支給品一式(食料を半分消費)、ウージー(残弾0)、予備マガジン弾丸25発入り×4】
【状態@:左肩に浅い切り傷(応急手当済み)、肩に怪我(腕は動く)、マーダー、疲労、逃走】
【状態A:耕一の死を受け入れていないのか純粋に気付いていないかは後続任せ】
407 :
名無しさんだよもん:2006/12/26(火) 18:31:08 ID:kEEmuJgK0
虐殺さらしあげ
ウォプタル
【状態:耕一の死体と千鶴を乗せている】
【関連:598 B-13】
【備考:現場に舞、耕一、志保、護の支給品一式、新聞紙、日本刀×2、投げナイフ(残り4本)が置いてあります】
長岡志保【死亡】
柏木耕一【死亡】
川澄舞 【死亡】
>>ID:AxXW+pDT0
>>ID:AkoZI/NE0
回避有難う御座いました
409 :
少女たち:2006/12/26(火) 18:53:42 ID:AxXW+pDT0
るーことチエは走った。後ろを振り返ることなく、ただまっすぐ前を向いて走り続けた。
――軽く10分以上は走った。
そして、2人はいつの間にか村の外に出て、林の中にいた。
「……ここまでくれば問題はない。よっち、大丈夫か?」
るーこはチエの腕を放すと、彼女の方に目を向けた。
「…どうして………」
るーこの腕が解かれると今度こそチエは力なくその場にへたり込んでしまった。
「どうしてこんなことになっちゃったんスか……どうして耕一さんが……住井先輩が……」
「………この島はうーたちの何かを少しずつ狂わせてしまうんだろう。
誰が殺した、殺された、どうしてこうなった、こうなってしまったとかそんな話はもう関係ないとばかりに。あるのはただひとつの可能性の結果だけなんだろうな……」
「そんな……」
「だが…それでもうーへいたちは生き続けようと努力している……だから、るーたちも頑張らなければならない」
そう言って片方のデイパックをチエに手渡すとるーこは自分たちが走ってきた方に振り返った。
「預かっていてくれ。すぐに戻る」
「ど…どこに行くんスか?」
「決まっている、うーへいたちを助けに行く」
「そ…そんな! 危ないっスよ!」
「この島にいる以上るーたちが常に危険なことに変わりはない。それに逃げたところで結局は死神といたちごっこだ」
「で…でも!」
「くどいぞ……る?」
「ど…どうしたんスか?」
「……何か来るぞ」
「えっ!?」
すぐさまるーこはチエの前に立つと鉈を取り出し構えた。
しばらくすると、何かがもの凄いスピードでザザザザザと草木をかき分けながらこちらにやって来るのがチエの耳にも聞こえた。
「………」
るーこの鉈を握る両手に自然と力をこもる。
410 :
少女たち:2006/12/26(火) 18:54:22 ID:AxXW+pDT0
――音はどんどんこちらに近づいてくる。
(近い……!)
そして次の瞬間近くの茂みから突然巨大な影が躍り出た。
現れたのはるーこの右側面。
(しまっ―――!)
さすがのるーこも一瞬判断に遅れが出る。一瞬の判断の遅れがこの島では死に繋がる。
(くっ――せめて、よっちだけでも守らなくては!)
るーこがチエを守ろうと体制に入ると同時に………
「ちょ…ちょっと!? ストーップ! ストーップ!」
どがらがっしゃーん!!
「…………」
「…………」
現れた影―――2人乗りの折りたたみ式自転車はるーこたちの前で盛大にクラッシュした。
「いや〜…やはり林道での2人乗りは危ないね〜……」
「こ…腰が……」
自転車に乗っていたのはるーこたちと同年代の少女たちであった。
「―――大丈夫か?」
るーこは自転車から放り出された少女たちに声をかける。
もちろん、万一のこともあるので警戒は怠らない。
411 :
少女たち:2006/12/26(火) 18:55:08 ID:AxXW+pDT0
「いつつつつ……だ…大丈夫よ……」
ツインテールの少女が腰を抑えながら起き上がる。
その後ろでは長髪の少女が既に起き上がって先ほどクラッシュした自転車を起こしていた。
「七瀬さん。悪いけど散らばった荷物集めてくれない?」
「うん。判ってる。急いで村に行かないと……さっきの銃声……もしかしたら千鶴さんかもしれないしね」
「!? 待て。うーたちはあのうーを知っているのか!?」
「へっ?」
七瀬という少女の口から思いがけない名前が出てきたので、すぐさまるーこが少女たちに詰め寄った。
るーことチエは手短に2人から話を聞いた。
話によるとこの2人―――七瀬留美と柚木詩子は柏木千鶴を探していたらしく、可能ならば彼女を説得したいということだった。
「……なるほど、そういうことだったのか。だが…残念ながらうーたちは遅すぎた。既にうーちづはるーたちの仲間を1人殺している……」
「えっ!?」
「そ…そんな……」
想像していた最悪の事態が発生してしまったことを知り、留美たちは驚きと落胆を隠せない。
「残念だがあのうーを説得することはもはや不可能だ。止めるなら殺して止めるしかない……」
「…………」
4人のいる空間を沈黙が支配する。
しかし次の瞬間、留美が口を開いた。
「……そんなことない」
「る?」
「殺したから殺して、殺されたから殺すなんて絶対に間違ってるよ!」
そう言うと留美は平瀬村の方へと勢いよく駆け出していった。
412 :
少女たち:2006/12/26(火) 18:56:31 ID:AxXW+pDT0
「七瀬さん!?」
「留美先輩!?」
「うーるみ!? くっ…急いで追うぞ、うーしい!」
「え…ええ!」
「あっ…ま、待ってください先輩!」
るーこと詩子、そしてチエも留美を追って駆け出す。
そして、そこには1台の自転車だけが残された。
【時間:2日目・11:00】
【場所:F−3】
七瀬留美
【所持品1:デザートイーグル(.44マグナム版・残弾6/8)、デザートイーグルの予備マガジン(.44マグナム弾8発入り)×1、H&K SMG‖(6/30)、予備マガジン(30発入り)×4、スタングレネード×1、何かの充電機、ノートパソコン】
【所持品2:支給品一式(3人分)】
【状態:平瀬村へ。目的は冬弥を止めること。ゲームに乗る気、人を殺す気は皆無。千鶴と出会えたら可能ならば説得する】
柚木詩子
【持ち物:ニューナンブM60(5発装填)、予備弾丸2セット(10発)、鉈、包丁、他支給品一式】
【状態:留美を追う。千鶴と出会えたら可能ならば説得する】
ルーシー・マリア・ミソラ
【所持品:鉈・包丁・スペツナズナイフ・他支給品一式(2人分)】
【状態:留美を追う。左耳一部喪失・額裂傷・背中に軽い火傷(全て治療済み)】
吉岡チエ
【所持品1:救急箱・支給品一式】
【所持品2:ノートパソコン(バッテリー残量・まだまだ余裕)】
【状態:留美を追う】
【備考】
・折りたたみ式自転車はF−3に放置
千鶴は平瀬村郊外の民家に戻り、耕一の治療を行なっていた。
耕一の穿たれた胸からは血がとめども無く溢れ出していたが、それももう止まっていた。
傷が治ったからではない……既に耕一の体は体温を失いつつあった。
だが千鶴はそんな彼の胸に乱暴に包帯を巻きつけて―――
「ほら、これで治療は終わりですよ。耕一さん、そろそろ起きてまた一緒に人を殺しに行きましょう?」
耕一は答えない。答えられる筈が無い。
だが千鶴はそんな耕一に話し掛け続ける。
「もう、仕方ないですね……。よっぽどお疲れになったんですね?」
千鶴は困ったような表情で頬に手を当てた。
耕一の血で紅く染まったその手を。
千鶴の顔に血がこびり付く。
顔だけでは無い。
耕一の死体に対して手当を行なっていた千鶴の腕にも、服にも、もういたるところに血が付いていた。
「分かりました、耕一さんはここでゆっくり眠っていてください。
耕一さんが起きるまで、私はまた一人で人を殺し続けますから」
紅く染まったその手で耕一の額を撫でる。
耕一の顔もまた、血で汚れていった。
「妹達と愛佳ちゃんに会った時はどうしましょうか?出来れば協力して貰いたいんですけど、
彼女達の性格では協力してくれるかどうか……」
そこで千鶴は何かを思いついたように胸の前でポンと手の平を合わせて、子供のような無邪気な笑顔で―――
「―――そうだ!断られたら殺してしまえば良いんですね!そうすれば彼女達は手を汚さないで済むし、
後で優勝の褒美で生き返らせれば良いだけですから」
ウージーに、再びマガジンを詰める。
「辛い思いするのは私と耕一さんだけで十分ですからね。
耕一さんが眠っている間は私一人で頑張ります……。でもあまり長い間一人にしちゃ嫌ですよ?」
ノートパソコンの時計で時間を確かめる。
数字は11時50分を示していた。
「鎌石村に行く時間までまだ少しありそうですね。もう少しだけ、一緒にいさせてくださいね」
千鶴は顔を耕一に近付け、口付けを交わした。
「全てが終わって元の生活に帰れたら、大学を辞めて私の旅館で働きませんか?
妹達もきっと喜びますし――――何より私が一番嬉しいですから」
耕一の頭を上げ、自身の膝の上に乗せた。
「膝枕、気持ち良いでしょう?耕一さんがこうやって寝付いた後も毎朝私が起こしてあげますし、
料理も上手くなるように頑張ります、耕一さんの世話を一生してあげます。
だからずっと私と一緒に暮らしましょう、ね?」
楽しそうに将来の事に想いを馳せる。
いつもと変わらぬ穏やかな笑顔で。
心の支えを失った千鶴はもう現実とは別の世界を見ていた。
【場所:E-02民家】
【時間:二日目午前11:50】
柏木千鶴
【持ち物:支給品一式(食料を半分消費)、ウージー(残弾25)、予備マガジン弾丸25発入り×3】
【状態:左肩に浅い切り傷(応急手当済み)、肩に怪我(腕は動く)、マーダー、狂気、血塗れ、14時頃に鎌石村役場へ】
関連
→608
B-13
ウォプタル
【状態:民家の傍の木に繋いである】
誓い(前編) 〜銃声と潮風〜
少年は鎌石村のとある1件の民家にいた。理由は空腹を満たすためだ。
さすがの彼でも食事を取らなければ腹は減る。それに空腹は時に判断力を鈍らせる。
――この島では一瞬の判断の遅れも即死に繋がる。そのため食事と休養は絶対に必要不可欠な行為なのだ。
(おそらく、あの2人はこの村のどこかにいる……)
少年は民家で見つけた缶詰とパンを食しながら先ほど取り逃した2人の少女のことを考えていた。
(―――湯浅皐月と笹森花梨だっけ? いくら逃げ足が速くても所詮は女の子だ。すぐに見つけてみせるさ………)
缶詰とパンを食べ終わり、冷蔵庫から拝借した牛乳をぐいっと飲むと少年は立ち上がった。
(――さて。休み時間は終わりだ。行こうか)
少年は肩にデイパックを下げ、右手に先ほど手に入れたステアーAUGを持つと民家を後にした。
民家を出た瞬間、彼は再びジョーカーとしての自分に変わり、行動を再開した。
(――宝石を手に入れれば全てが終わる。この繰り返される悪夢も……)
* * * * *
あれから皐月と花梨の2人は鎌石村を徘徊していた。
しかし、あれから2人は先ほどの少年はおろか他の参加者とも遭遇しなかった。
はたしてそれは運がいいのか、それとも悪いのかと2人は思った。
「…ねえ花梨」
「ん? どうしたの皐月さん?」
突然皐月が花梨に声をかけた。
「その手記には、以前もこの島で殺し合いが行われていたことが書かれていたんでしょ?」
「うん。でも、どうして今更それを聞くんよ?」
「いや…もしかしたらさ、その手記に載っていた平瀬村の工場みたいに前回の参加者の人たちが武器か何かを村のどこかに残していないかなと思って………」
「なるほど。それはあるかもしれないんよ!」
「それでさ。まずはここに行ってみようと思うんだ」
皐月は地図を取り出すと鎌石村のある場所を指差した。
「郵便局?」
そう。皐月が指差したのは鎌石局という鎌石村の中心部から少し外れた場所にある郵便局だった。
「うん。物を隠すなら村役場や消防署とかだとさすがに人も集まりやすそうだから隠しづらいと思うの。でもここなら来る人も限られてくるだろうし……」
「なるほど。それなら早速行ってみるんよ」
「ええ」
そうと決まればと2人はすぐに鎌石局に行くことにした。
ただでさえ自分たちはこの殺し合いというゲームの参加者中、最強最悪とも呼べる存在に狙われているのだ。ぼさっとしている余裕は今の2人には無かった。
* * * * *
「やれやれ……やっと村に着いたか………」
耕一と別れて数時間。長く暗いトンネルを抜け、小中学校を通過して柏木梓はなんとか無事に鎌石村へとやって来た。
「さて……休んでいる暇はないよな。急いで千鶴姉や初音を見つけないと………っ!?」
梓が歩き出そうとした瞬間、梓は誰かがこちらに向かって走ってくる気配を感じた。
(敵か!?)
すぐさま近くの民家の陰に隠れ、様子を見る。
もし敵――それも銃などを持っている者だったら特殊警棒しか武器を持っていない梓には不利だからだ。
柏木の血に眠る鬼の力が制限されてしまっている以上、今の自分たちも一歩間違えたら即死ぬ弱い存在でしかない。
「――う〜ん…さすがに時間かかり過ぎだよな……」
河野貴明は時計を見ながら仲間のもとへと大急ぎで戻っていた。
彼が名雪を追って家を飛び出してから既に軽く5時間近くの時間が経過している。さすがに家に待たせているマナとささらも心配しているだろう。
「時間的にも高槻さんたちももう来ているかな?」
貴明は鎌石小中学校で出会ったささらの仲間――高槻と沢渡真琴のことを思い出していた。
(でも、あの沢渡さんも既にこの世にはいない……)
数時間前に聞いた放送には真琴やこのみたちのほかに、雄二たちと一緒に行動していた新城沙織、月島瑠璃子の名もあった。
高槻や雄二たちの身に何かあったのだろうか、と貴明は心配したが彼にはもう立ち止まることは許されなかった。
仲間やかけがえのない友人や知り合いたちの死を無駄にはしないためにも生き残っている自分たちは島を走り続け、そして生き続ける義務があるのだ。
―――それが本当に死んだ人たちへの償いになるのかと聞かれたらさすがに答えられないかもしれない。
それに、たとえこの殺し合いから生き残れたとしても自分たちにあのかけがえのない日常が戻ってくるわけでもない。
しかし全てが終わるまで――生きてあの日々に戻るまでは悲しむわけにも、泣くわけにも、絶望するわけにもいかなかった。
(――今の俺には俺が出来る範囲のことを精一杯やるしかないんだ……!)
数時間前と同じく、貴明は自身の決意を再び胸の奥に刻み込んだ。
「――っ!?」
その時だ。貴明が近くの民家の物陰から人の気配を感じ取ったのは。
氷川村で那須宗一と出会ったときもそうだったが、貴明のカンの鋭さや人の気配を感じ取ることはこの島に来たことで桁違いに跳ね上がっていた。
それは彼がもともと秘めていた一種の才能の開花なのか、それともただの火事場の馬鹿力なのかは本人含み誰にもわからない。
しかし、このような場所においてそれはどのような武器よりも役に立つことに変わりはなかった。
「…………」
立ち止まり、肩に下げていたレミントンを握り締める。
神経を集中させ360度どの場所からの奇襲にも対応できるように身構える。
それと同時に背後から風のような空気の流れを感じた。
「――っ! 後ろかっ!?」
すぐさま振り返ると、そこには自分と同年代の少年――いや少女がこちらに凄いスピードで接近してくる姿が見えた。
「くっ…」
すぐさまレミントンを構えようとしたが、少女は貴明が照準を定める前にジグザグと走る方向を変えるので貴明は狙いを定められない。
徐々に少女は貴明に接近してきた。さらにその手にはいつの間にか特殊警棒も握られている。
「ちいっ!」
貴明はレミントンを下ろすとすぐに腰にねじ込んでいた鉄扇を取り出し、バッと開いた。
ガキィン!
少女から振り下ろされた警棒と貴明の鉄扇が衝突し周辺にやや大きな金属音が響く。
衝撃の振動が鉄扇を持っていた貴明の右手にもビリビリと伝わってくる。
(くっ……女の子なのになんて力しているんだ……!)
刀でいうところの鍔競り合いの状態が続く。貴明はその時、少女と目が合った。
少女の目は純粋でまっすぐで、どこか怒りのようなものも内に秘めてる感じの目だなと貴明は思えた。
「―――てぇめ、いったいこれまでに何人殺しやがった……!?」
少女が口を開く。
それに答えるように貴明も口を開いた。
「俺はまだ誰も殺しちゃいない。自己防衛のために何度か銃は撃ったけどな。俺はただ知り合いや仲間を探しているだけだ」
「……それはつまり、あんたはゲームに乗ってはいないってことなのか?」
「ああ。この殺し合いに乗った奴が襲ってきたときは容赦はできないけど、俺は自分から人を殺そうとは思っていない」
「………」
貴明のその言葉を聞いた少女は貴明からバッと後退して貴明から数歩距離をとるとすると警棒を収縮させて自身のポケットにしまった。
しかし、警戒は怠っていないようだ。
「………信じていいのか?」
再び少女が貴明に尋ねてくる。
「じゃあこうすれば信じてくれるか?」
貴明は鉄扇とデイパックを近くに投げ捨てると、次にレミントンを梓の足元に投げ捨て両手を上げた。
「なっ…!? おまえ、正気か!?」
貴明の無謀ともとれる行動に少女は驚きを隠せない。
「でもこうしたほうが信じてもらえるだろ?」
「ば、馬鹿か!? もしあたしが実はゲームに乗っている奴だったらすぐにこのショットガンを拾っておまえに撃っているぞ!?」
「でも俺は君がゲームに乗っていないと嘘をついているような奴には見えないけど?」
「う…ま、まあそうだ。あたしはゲームには乗ってない。これは本当だ」
「なら話は早いじゃないか。君もゲームには乗ってないし、俺も乗っていない。つまり俺たちは敵じゃない」
「……そうだな」
そう言うと少女――柏木梓は完全に警戒を解きレミントンを拾うとそれを貴明に返した。
(柳川のときもそうだったが、あたしは見かけとかで人を判断しちまうからどうもいけねえな……)
と内心苦笑いをしながら。
荷物をまとめ終わると貴明と梓は歩きながら簡潔に話を始めた。
「あたしは柏木梓だ。あんたの名前は?」
「河野貴明」
「貴明か……なあ貴明。出会い早々に聞くが、あんたここに来るまで柏木千鶴と柏木初音って奴に会わなかったか?」
「……ごめん。俺はこの島で柏木って名前の人に会ったのは梓さんが始めてだ。俺は島で出会った人からは必ず名前は聞いてるから」
「そうか…ところでどこに行くんだ?」
「すぐそこの民家。仲間をそこで待たせちゃってるんだ」
5分ほど歩いたところで2人は村はずれの民家に到着した。
「ここか?」
「ああ…2人とも無事だといいけど……」
そう言うと貴明は玄関のチャイムを鳴らした。
ピンポーンという音が辺りに軽く響く。
しばらくするとゆっくりと扉が開き……
「いっつ!」
飛び出してきた少女のスネ蹴りが貴明に直撃した。
「遅い!」
少女――観月マナは痛む足を押さえる貴明を見下ろしながら叫んだ。
間違いなく怒っていた。
「ご…ごめん。本当に遅くなった」
蹴られた足をさすりながら貴明は立ち上がるとマナに頭を下げた。
「謝るなら私よりも久寿川さんに謝りなさい。貴明のことすごく心配していたのよ」
マナが後ろに顔を向けるとそこには安堵の表情を浮かべるささらがいた。
回避
回避
回避
「――お帰りなさい、貴明さん……」
「あ、ああ……ただいま」
微笑むささらに貴明も微笑み返した。
「――心配させちゃいましたね……」
「いえ……ですが………」
「あ……」
次の瞬間、ささらが貴明に抱きついた。
表情は判らなかったがささらは震えていた。
「柚原さんが…沢渡さんが………」
「……………」
貴明は何も言わず、ささらの背を優しくポンポンと叩いた。
とりあえず中に入りましょう、とマナが言ったので貴明たちはうんと頷くと静かに民家に入った。
4人は居間に腰を下ろすと早速これまで集めた情報を交換することになった。
まずは梓から自分が知っている限りのことを貴明たちに話していく。
「――それじゃあ、その千鶴さんって人はゲームに乗っているのね?」
マナの問いに梓は頷く。
「ああ。あたしと耕一はなんとかして千鶴姉を止めたいと思ってる。それと初音だ」
「その初音さんの行方はまだ判らないんですね?」
「うん。初音は優しい奴だから…こんな殺し合いに乗るような奴じゃないから……ゲームに乗ってない奴と一緒に行動していると願いたいけど………」
「大丈夫だよ梓さん。この島にいる人たちがみんなゲームに乗っているわけじゃないんだからさ。今はその初音ちゃんを信じてあげよう」
「……そうだな」
「さて。次は貴明に聞く番ね。何でこんなに遅くなったの?」
マナとささら、そして梓が貴明のほうに目を向ける。
「ああ――そのことなんだけど………」
貴明もあの後起きたことをマナたちに一通り説明していった。
「そんな……藤井さんが………」
藤井冬弥がゲームに乗り、貴明とその場にいた霧島聖と戦闘になったことを聞いたマナは信じられないという顔をした。
「俺もあの人が観月さんが探していた人だったことを思い出したのはその後だった……森川由綺を殺した奴を探しているらしい」
「馬鹿じゃねえか、そいつ? その恋人の仇もとっくにくたばっているのかもしれないってのに?」
「もしかしたら……あの時の放送………」
ささらは2回目の放送の最後にあのウサギが言っていた『優勝者へのご褒美』のことを思い出した。
『どんな願いも1つだけ叶えられる』……本当かどうかは定かではないが、藤井冬弥はそれで恋人を生き返らせようとしているのだろうか?
「うん……それに釣られたって可能性も多分一理あると思う………」
「藤井さん………」
「―――千鶴姉も楓を生き返らせようとか思ってんのかな………?」
「まーりゃん先輩も今頃は出会った人を見境なく襲っているのでしょうか………? 柚原さんが亡くなられてしまった以上……」
貴明以外の3人がはぁとため息をついた。
居間の空気が完全に重くなる。
「――皆はこれから先、どうするべきだと思う?」
「え?」
そんな中突然貴明が口を開いた。
「突然何を……」
「確かに、このみや春夏さんや沢渡さん……友達や大切な人たちが殺されてしまったことは悲しいし、殺した奴が憎い気もする。
でも、死んでしまった人たちのことを何時までも嘆いているわけにはいかないし、殺した奴を憎み続けるわけにもいかないと俺は思うんだ。
泣いているだけ、憎んでいるだけじゃ何も変えることは出来ないし、変わりもしない……
生き残っている俺たちは死んでしまった人たちの分も生きていかなきゃならないんだ。たとえそれが本当は正しい道じゃなかったとしても………」
「…………」
「全てが終わっても、俺たちには背負うべきものが山ほどある。本当に大変なのはそこからだ」
「―――なんか今の貴明ってあいつみたいね」
何かを思い出したマナが呟いた。
「あいつ?」
「貴明に会う前にさ、ちょっと目つきが悪い奴に会ったんだ。
その時ちょうど1回目の放送が流れて……お姉ちゃんが死んじゃったこと知って私凄く悲しかった。もちろん泣いた。
そしたらそいつさ、今貴明が言ったようなことと同じようなことを私に言ったんだ………」
「そうなんだ……」
「――それで、貴明さん。本題に戻りますが、これから先どうしようと貴明さんは考えているんですか?」
「うん。そのことだけど、俺はもちろん自分の考えを変えるつもりはないよ。今俺がするべきと思うことをする。ただそれだけ。
生き残っている仲間を集めて、皆と合流して、最後は皆で島から脱出する…口で言うのは簡単だけどね。正直俺1人じゃどこまでできるかは判らないけどさ」
「おいおい…だからあたしたちがいるんじゃないのか?」
「そうですよ貴明さん。私たちも1人ではできることには限界があります」
「そうよ。十人十色って言うじゃない」
「――ああ。そうだな」
4人はそれぞれ微笑むとうんと頷いた。
もう語る必要などない。自分たちのやるべきことは決まった。あとはもう行動に移るだけだ。
――ガガガガガガ!
「!?」
突如、外――それも貴明たちのいる民家の近くから激しい銃声が聞こえた。
すぐさま貴明たちは自分たちの武器と荷物を手に取ると、部屋の窓の方にテーブルを蹴り倒しその影に隠れた。
「敵か!?」
梓が警棒を取り出しながら隣でレミントンを構えている貴明に尋ねた。
「外みたいだ。でも俺たちを狙ったものじゃないらしい……」
「じゃあ……」
「この近くで戦闘が行われているっていうの!?」
マナに対して貴明は無言で頷く。
回避
「いったい誰が戦っているんだ?」
「わからない……でももしかしたら………」
俺たちが探している人のうちの誰かかもしれない、と小さな声で貴明は呟いた
「――確認してみる価値はあるか?」
そう言った梓にも貴明は無言でこくりと頷く。
よし。そうと決まれば、と梓も頷くと次の瞬間2人は玄関へと駆け出した。
「なっ!? ちょっと2人とも、いくらなんでも危険すぎるでしょそれは!?」
戦闘に乱入するという自殺行為スレスレなことをしようとする2人を止めようとマナが2人に叫んだ。
しかし、それに反論したのは以外にもささらだった。
「観月さん、どのみちこのままここにいても私たちが危険であることに変わりません。
それに、戦闘を行っている人はもしかしたら千鶴さんや藤井さんたちの可能性もあるんですよ?」
そう言うとささらも立ち上がり、彼女も玄関へと駆けていった。
「ちょ…久寿川さん!? ……もう! しょうがないわね本当に!!」
そう言うとマナも3人を追って玄関へと駆けていった。
まずは貴明が、続いて梓が民家から外に飛び出した。
「銃声が聞こえたのはどっちだ!?」
「確か……」
ガガガガガ………!
貴明が先ほど銃声のした方を確認しようとしたのと同時に、またしても銃声が鳴り響いた。
「――あっちか!」
「よし…!」
銃声が鳴り止むよりも前に貴明と梓はすぐに音のした方へと走り出した。
「待ってください貴明さん、梓さん!」
「そう言う久寿川さんも待ってよ!」
その後をささら、マナが続いて走り出す。
―――4人が民家を去ると同時に、鎌石村にびゅうと突風のような大きな潮風が吹いた。
それはこれから貴明たちの身に起こる戦いの予兆だったのか、それともただの偶然だったのかはもちろん誰にも判らない。
【時間:2日目・11:40】
【場所:C−4・5境界】
河野貴明
【所持品:Remington M870(2/4)、予備弾(12番ゲージ)x24、SIG・P232(0/7)、仕込み鉄扇、他支給品一式】
【状態:左脇腹・左肩・右腕負傷(応急処置および治療済み)。左腕刺し傷・右足に掠り傷(どちらも治療済み)、銃声が聞こえた方へ】
柏木梓
【持ち物:特殊警棒、他支給品一式】
【状態:銃声が聞こえた方へ。現在の目的は初音の保護、千鶴の説得】
観月マナ
【所持品:ワルサー P38(残弾数8/8)、予備マガジン(9ミリパラベラム弾8発入り)×2、カメラ付き(バッテリー十分、全施設の番号登録済み)携帯電話、他支給品一式】
【状態:足にやや深い切り傷(治療済み)、銃声が聞こえた方へ】
久寿川ささら
【所持品:スイッチ(未だ詳細不明)、トンカチ、カッターナイフ、他支給品一式】
【状態:右肩負傷(応急処置及び治療済み)、銃声が聞こえた方へ】
回避
【時間:2日目・11:00】
【場所:B−4】
湯浅皐月
【所持品:セイカクハンテンダケ(×1個+4分の3個)、他支給品一式】
【状態:光を集める。鎌石局へ】
笹森花梨
【所持品1:特殊警棒、海岸で拾ったピンクの貝殻(綺麗)、青い宝石(光一個)、手帳】
【所持品2:大量の古河パン(約27個ほど)、他支給品一式】
【状態:光を集める。鎌石局へ】
ぴろ
【状態:皐月の鞄の中にいる】
【時間:2日目・11:00】
【場所:C−3】
少年
【所持品1:強化プラスチックの大盾(機動隊仕様)、38口径ダブルアクション式拳銃(残弾2/10)】
【所持品2:智子の支給品一式、ステアーAUG(22/30)、ステアーAUGの予備マガジン(30発入り)×3、グロック19(15/15)、予備弾丸11発。】
【状況:ジョーカー。健康。まずは皐月、花梨を探す】
訂正
>梓が歩き出そうとした瞬間、梓は誰かがこちらに向かって走ってくる気配を感じた。
ここを以下のようにに訂正
梓が歩き出そうとした瞬間、誰かがこちらに向かって走ってくる気配を感じた。
>ID:vDbpb/N30
回避ありがとうございました
修羅と化した鬼執筆者です、続きを書いてくださる方がいらっしゃるようなので、訂正を行わせてください。
・1レス目(350)をそのまま入れ替えてください
「耕一さん、ちょっと思うことがあるんです」
「何ですか?」
歩みを止めこちらを振り返る耕一、千鶴は神妙な顔つきで語りだした。
「さっきの子たちのことなんですが・・・」
「ええ」
「あの男の子・・・死んだ子の名前、叫んでませんでしたか?」
耕一の目が見開かれる、千鶴は彼の様子を気にすることなく話を続けた。
「今になって思い出したんですが。よくもナギをって、言ってませんでしたか」
「すみません、ちょっと分からないです・・・でも」
すかさず名簿を取り出し確認しだす耕一、千鶴も彼の手元を覗き込む。
そして。そこに書かれた名前、69番「遠野美凪」を発見し二人は固まった。
顔を見合わせる、キッと視線を強め千鶴は言った。
「耕一さん、パソコンを手にいれましょう」
「・・・書き込み、ますか?」
「いえ、まずは持っておくだけです。私の聞き間違いという可能性も、視野にいれないといけませんから。
ですが、夜の放送までに彼女の身元を明かすことができたなら。
・・・耕一さんや初音を一刻も早く助けるためにも、みすみす逃すのは惜しいです。
あの子・・・黒髪に割烹着姿という判断材料では難しいかもしれませんが、それでも入手しておく価値はあるはずです」
「そのためにもパソコン、ですか」
「身元が分かったとしても、書き込むことができなければ意味はありませんから。
ちょうど一つ心当たりがあります、そこに行きませんか?」
報告ができなければ全てが無意味、ゲームに乗るにしてもこの枷は中々厄介である。
だがそんなことを話し合っていると、前方に探していた舞達のグループを発見してしまう。
・2レス目(351)の上部を以下のものに入れ替えてください
一向は、少し開けた場所にある倉庫の前にて屯っていた。
中でも調べていたのだろうか。彼らの神妙な顔つきから想像すると、あまり良い結果は出なかったと見える。
「・・・どうします?」
パソコンか、ターゲットか。
優先順位で言えば勿論後者だが、今までパソコンについて話していたこともあり耕一はこのような声かけをした。
「私は顔が割れています、一緒に行くのは不自然でしょう」
「それでしたら、千鶴さん先に行って回収しといてくれませんかね」
「構いませんが・・・大丈夫、ですか?」
「あそこにいる連中が、銃を持っていないことは分かってますから。平気ですよ」
「そうですか?ではこれを・・・」
だがウージーを差し出す千鶴に対し、耕一は首を振る。
「不意打ちを狙います、それならこの日本刀の方が便利ですよ。
いきなり銃器を持って現れるのも、ちょっと目立つでしょうし。
・・・『遠野美凪』について聞いてみたら動き出します、やり遂げてみますよ・・・家族の、ために。」
その口調に迷いはない。
鞘を茂みに捨て抜刀されたままの日本刀を右手でしっかり持つ耕一、その手に千鶴はそっと触れる。
最後にぎゅっと握り締め、彼女は耕一を見送るのだった。
6レス目(362)の上部を以下のものに入れ替えてください
千鶴は耕一の背面にいる、だから彼は今の彼女の様子をうかがうことはできない。
対峙する舞はそれを許さないであろう、だから耕一はそのまま話を続けた。
「正直、助かりました・・・」
「一人で駄目なら二人で乗り切ればいいのです」
「そうですね、ありがとうございます。
あと、パソコンのことですが・・・るーこちゃん、ピンクの髪の子が持ってるそうです」
「それはちょうどいいですね、取りに行く手間が省けました。・・・全ては、家族のために。頑張りましょう耕一さん」
会話終了。二人は改めて目の前のターゲットに狙いを定めた。
以上です、ご迷惑おかけします。
437 :
唯一の欠点:2006/12/29(金) 05:18:45 ID:Ym4+tQJC0
「―――どういう事だ?」
「ですから私は善人の皮を被り人を謀る橘敬介を許さないと言っているのです。私は彼を殺して澪ちゃんを救います」
「…ちょっと待てよ、何かの勘違いなんじゃないのか?」
「勘違いなどではありません。あの男が現れた事が発端で悲劇が起こってしまいました。あの男の所為で罪の無い子供達が二人も命を失ってしまいました」
秋子は理緒と佳乃の死に様は目撃していない。見たのは物言わぬ死体となった彼女達の姿だけだ。
秋子にとっては、敬介こそが全ての元凶に思われた。
何せ彼が現れてから全ての歯車が一気に狂ってしまったのだから。
そして宗一と秋子の口論を聞きつけて、当の本人は登場する。
「―――ちょっと待ってくれ!僕は本当に何もしてないんだ!」
「!?」
宗一の後ろ―――診療所の玄関から秋子の聞き覚えのある声が聞こえた。
それは彼女の駆逐対象、橘敬介その人のものだった。
「貴方はあれだけの惨劇を引き起こしておいて…よくもぬけぬけとそのような事が言えますね」
「違う、あれは僕がやったんじゃない!大体僕がゲームに乗っているのなら、どうしてあの女の子をここに連れてくる必要がある?
そんな事をして僕になんのメリットがあるって言うんだ!?」
「メリットならありますよ?貴方は重度の怪我を負っていた…それなら治療は必要でしょう。
そして女の子を連れて行けば、診療所にいる人を騙して信頼を得る事も容易いでしょう。この方のようにね」
「な……!」
秋子は宗一を顎で指しながら言った。その暴論に敬介は絶句してしまう。
敬介にとって、澪は信頼を得る為の道具―――それが秋子が出した結論だった。
そしてそれは秋子と宗一にとっては道理に適っている考えでもあった。
人を謀るような男なら闇雲に戦おうとするよりも、そういった行動をする方が自然だからだ。
(―――どっちだ?どっちが正しい事を言ってるんだ!?)
438 :
唯一の欠点:2006/12/29(金) 05:21:20 ID:Ym4+tQJC0
秋子と敬介―――宗一にとってはどちらも出会ったばかりの人間に過ぎない。
二人は全く逆の事を言っている…宗一にとって彼らは二人共警戒すべき対象に相違無かった。
なら――――情に流されずに判断するのならば、結論は一つ。
「―――悪いがお前達は両方信用出来ない。俺にはどちらが正しい事を言っているのか分からない。
だから女の子――澪を連れて行くのなら勝手に連れて行ってくれ。そしてすぐに出て行ってくれ。お前達のどちらにも俺は加担出来ない」
「そ、そんな…」
それは敬介にとって事実上の死刑宣告。水瀬秋子は診療所を出た途端、間違いなく自分を撃つだろう。
だが宗一も彼を完全に見捨てるほど薄情ではない。
「そこのあんたは澪を連れて表の入り口から出て行ってくれ―――そして敬介は裏口から出て行ってくれ。
これが俺が呑めるぎりぎりの条件だ。この周りで戦う事は許さない」
これが宗一の敬介救済の為の策だった。
宗一はどちらが嘘をついていようとも、誰も死なずに済む条件を提示したつもりだった。
この条件なら秋子も澪を救えるし、敬介も無事に生き延びられる――――今思いつく限りでは最も良い解決策だと思えた。
秋子は黙って頷くと玄関へと進み、その奥に澪の姿を確認した。
「澪ちゃん!」
秋子は靴も脱がずに澪の所へ駆け寄り、眠る少女の体をしっかりと抱き締めた。
その体温を確かめるように、その命を確かめるように、強く抱きしめた。
すると澪が、ぱちっと目を開いた。
多大な恐怖を抱いたままの状態で気を失っていた澪だったが、目を覚ますとそこには今や唯一の信頼出来る人間―――水瀬秋子の姿があった。
恐怖から解放された澪は涙目で秋子に抱き付いた。
「澪ちゃん、無事だったのね…」
「(こくこく)」
「怖かったでしょう…。でももう大丈夫。後は私が絶対に、澪ちゃんを守ってあげるからね」
「(こくこく)」
439 :
唯一の欠点:2006/12/29(金) 05:24:22 ID:Ym4+tQJC0
秋子が澪を抱きしめながら優しく話しかけ、澪は笑顔で頷き続ける。
彼女達のやり取りをみていた宗一は再び思考を巡らせていた。
(これは―――少なくともこっちの女はゲームには乗ってないな…。しかし、これは直感だが敬介がゲームに乗っているとも思えない。
なら――やはり二人の間で何か勘違いが?…いや、直感なんかに頼ってちゃ駄目だ。今この女からは殺気が消えている…なら)
「……邪魔して悪いが、そろそろ出て行ってくれないか?俺にはやる事がある、いつまでもこうしてはいられないんだ」
穏便に済むうちに終わらせてしまおう。
時間を置けば再び揉める事になるかもしれない。
だから今はすぐに動いてもらうべきだ、と宗一は考えていた。
退去を命じられた秋子は澪に2,3言耳打ちした。
すると澪は自分を指差して…
「え、あなたも?」
「(こくこく)」
「駄目よ、そんなの…。私に任せておいて」
「(ぶんぶん)」
「…時間がもうないわ。お願いだから、言う通りにして頂戴ね」
秋子は小声でぼそぼそと喋っていた。そのやり取りはとても小さい声で行なわれていたので当人達以外には聞き取れない。
宗一は眉間にしわを寄せて彼女達の様子を見ていたが、すぐに秋子が宗一の方へと振り向いた。
「分かりました、では失礼します。ですが―――出来れば澪ちゃんの荷物を返してもらえませんか?
今澪ちゃんに聞いたのですが、荷物が無くなってるみたいなので…」
嘘だ。澪は言葉を喋れない…秋子に荷物の事など言ってはいない。
これはリスクの無い賭けだ。失敗しても適当に誤魔化せば済む。
そして成功すれば―――
440 :
唯一の欠点:2006/12/29(金) 05:27:43 ID:Ym4+tQJC0
「敬介、この子の荷物はどれか分かるか?」
「すまない…僕が持ってきた支給品は誰のか分からないんだ……」
「そうか、じゃあどうする?あんた達の荷物の一部は俺が勝手に取ってしまっていたんだが……出来れば携帯だけは譲ってくれないか?」
「僕には必要ないものだし構わないよ。このダイナマイトはどうしようかな……」
宗一と敬介は二人で敬介が持ってきた荷物の分配について話し始めた。
今現在宗一の鞄には敬介の鞄から抜き取ったいくつかの品が入っている。彼らは鞄の中を覗き込み、それを誰に渡すかを話し合っていた。
―――秋子達の方を見ずに。
世界No1エージェント・那須宗一は今この島で生き残っている人間達の中でも特に優れた戦闘能力を持っている。
そしてそれは正面からの戦闘に限ったことではない。彼はこの環境の中で生き残る為の能力も、初見の相手に対する警戒心も十分に備えていた。
唯一つ欠点があるとすれば―――那須宗一は、お人好し過ぎた。
抱き合う秋子と澪の様子を見て、この二人が人を騙し討ちするような事はしないだろうと勝手に決め付けてしまっていたのだ。
それは決して意識しての事では無かったが、無意識のうちに宗一は秋子を信頼してしまっていた。
『情に流されたら……自滅するのがオチだ』
彼はその事を徹底出来る程、冷徹にはなれなかった―――それが彼の唯一の過ち。
「―――言ったでしょう、その男は極悪な男だと」
澪と話している時とは全く違う、凍てつくような声で秋子は言った。
何かを感じ取った宗一は覗き込んでいた鞄をかなぐり捨てると、反射的に敬介を抱えて素早く外へと飛び出した。
ほぼ同時に銃声が聞こえ、宗一の左肩に大きな衝撃と跳ねるような痛みが走った。
「ぐぁぁぁ!」
「子供達に害を為すその男を救うというのなら―――貴方も殺します」
肩を抑えて倒れそうになる宗一に対して銃が再び構えられるが、彼とて素人相手に簡単に殺されはしない。
宗一は倒れこみながらも玄関の扉を蹴り飛ばして強引に閉めた。
「くそ!宗一君、こっちだ!」
「ち、ドジったぜ………」
441 :
唯一の欠点:2006/12/29(金) 05:28:53 ID:Ym4+tQJC0
敬介が宗一に肩を貸して走り出す。今の宗一の状態では秋子から逃げ切るのは厳しい―――なら目指すはすぐ前方にある茂みだった。
それは即ち――秋子を迎撃するという事。宗一のまだ無事な右手にはしっかりとFN Five-SeveNが握られている。
秋子は澪の手を引きながら扉を蹴り飛ばし敬介達の背に向けて発砲したが、地面の土を抉り取るだけに終わった。
敬介達が茂みに入るのを確認すると、秋子は澪と共に診療所の側面に回りこみ、診療所の建物の角の壁を盾にしながら茂みの様子を窺った。
秋子は一瞬だけ壁から身を乗り出すと茂みに向かって発砲し、すぐに壁の後ろへと体を戻した。
その1秒後には彼女がいた空間を宗一が放った弾が通過していた。
秋子達は診療所の壁を、宗一達は外からは視界の悪い茂みを盾にしながら両者は対峙していた。
そんな中、澪は先程拾った鞄…宗一が落とした鞄の中身を覗いていた。
その中にはダイナマイトや包丁、様々な道具、そして―――H&K VP70が入っていた。
澪は秋子に『私が戦い始めたら澪ちゃんはしばらく安全な場所で隠れてて頂戴。良いっていうまで絶対出てきたら駄目よ』と言われていた。
しかし澪はもう一人になる事には耐えられなかった。黙って秋子が戦っているのを見守る事など出来ない。
秋子が自分にそうしてくれているように、自分も秋子を守りたい―――そう考えた彼女は銃をその手に取った。
・
・
・
祐一達は診療所を目指して走っていた。
「向坂の奴、本当に大丈夫ですかね…」
「心配いらない、彼女は考えも無しにあんな事をするほど馬鹿じゃない。きっと確かな勝算があったはずさ」
「だと良いんですが…」
残してきた環の心配をしながらも、祐一達は駆ける。
とそこで、診療所の方から銃声が聞こえてきた。
「銃声!?」
「最悪だな…。診療所のあたりで、誰かが戦っているみたいだね…」
「どうします?」
回避
回避
回避
回避
まだ無理?
447 :
唯一の欠点:2006/12/29(金) 05:44:44 ID:Ym4+tQJC0
英二は祐一の背の観鈴の様子を窺った。
彼女の顔色は数時間前より明らかに悪くなっており、状態は芳しいとは言えない。
「観鈴君が危ない…このまま診療所へ向かおう。ただし警戒しながらだ」
「分かりました」
こうしてすぐに方針は決まった。
観鈴の容態も悪化しており、環も戦っている現状であれこれ悩んでいる余裕は無いのだ。
二人はペースを落とし、前方を警戒するような足取りで診療所に向かい続ける。
だが彼らが本当に警戒すべきは後ろだった―――少し離れた位置で、マルチが彼らを尾行しているのだから。
(雄二様のお力無しでは普通にやっても勝てません…。今は機を待つしかありません)
―――マルチは冷静に狂っていた。
雄二の力と彼の方針に対してだけは絶大な信頼を寄せていたが、その他の事に対しての判断までもが狂っている訳ではない。
だからマルチは冷静に祐一達を打倒する好機を待っていた。
・
・
・
葉子は診療所の窓から外の様子を窺っていた。
彼女が覗いている窓から秋子達の方は見えないが、宗一達と交戦しているのは銃声からだけでも十分予測出来る。
(さて、どう動くべきでしょうか……)
448 :
唯一の欠点:2006/12/29(金) 05:46:27 ID:Ym4+tQJC0
葉子は今どう行動すべきか考えていた。
足の怪我は快方に向かってきた…まだ痛みはするが歩く程度なら可能だ。
この戦いは、順当にいけば世界No1エージェント・Nasty Boyが勝つだろう。それを黙って待つのも悪くない。
しかし勝った側の人間に奇襲を仕掛け、この場にある全ての火器を手に入れるのもまた、魅力的な選択だった。
武器は先程病室でメスを見つけた、戦い終えて疲弊している相手にならやり方次第では勝てるかもしれない。
とにかく焦ることは無い、今の自分は一方的に戦況を把握出来る立場にいる。
もう少し状況を見極めてから動けば良いのだ。
しかし、彼女は知らない。茂みに隠れている那須宗一は重傷を負っており、とても万全の状態ではないことを。
そして様々な人間が診療所に近付いてきている事を。
【時間:2日目・午前7時50分】
【場所:I−7】
那須宗一
【所持品:FN Five-SeveN(残弾数19/20)】
【状態:左肩重傷(腕は動かない)、茂みに隠れている、秋子を打倒】
鹿沼葉子
【所持品:メス、支給品一式】
【状態@:肩に軽症(手当て済み)右大腿部銃弾貫通(手当て済み、動けるが痛みを伴う)。一応マーダー】
【状態A:診療所内から外の様子を窺っている、どう動くべきか迷っている】
橘敬介
【所持品:支給品一式、花火セットの入った敬介の支給品は美汐の家に】
【状態@:左肩重傷(腕は上がらない)・腹部刺し傷・幾多の擦り傷(全て応急手当済み)。澪の保護と観鈴の探索、美汐との再会を目指す】
【状態A:茂みに隠れている】
上月澪
【所持品:H&K VP70(残弾数2)、包丁、ダイナマイトの束、携帯電話(GPS付き)、ロープ(少し太め)、ツールセット、救急箱、ほか水・食料以外の支給品一式】
【状態:精神不安定。頭部軽症(手当て済み)・秋子を助けて敵を倒す】
449 :
唯一の欠点:2006/12/29(金) 05:47:16 ID:Ym4+tQJC0
水瀬秋子
【所持品:ジェリコ941(残弾10/14)、予備カートリッジ(14発入×1)、澪のスケッチブック、支給品一式】
【状態:腹部重症(治療済み)。名雪と澪を何としてでも保護。目標は子供たちを守り最終的には主催を倒すこと。今は敬介と宗一の排除】
緒方英二
【持ち物:ベレッタM92(8/15)・予備弾倉(15発×2個)・支給品一式】
【状態:疲労、慎重に診療所へ向かう】
相沢祐一
【持ち物:レミントン(M700)装弾数(5/5)・予備弾丸(15/15)支給品一式】
【状態:観鈴を背負っている、疲労、慎重に診療所へ向かう】
神尾観鈴
【持ち物:ワルサーP5(8/8)フラッシュメモリ、支給品一式】
【状態:睡眠 脇腹を撃たれ重症(容態少し悪化)、祐一に担がれている】
マルチ
【所持品:支給品一式】
【状態:マーダー、精神(機能)異常 服は普段着に着替えている。英二達を尾行】
(関連540・604)
>>ID:XmwmNwBhO
回避、アドバイスありがとうございました
451 :
修正:2006/12/29(金) 05:57:22 ID:Ym4+tQJC0
>橘敬介
>【所持品:支給品一式、花火セットの入った敬介の支給品は美汐の家に】
>【状態@:左肩重傷(腕は上がらない)・腹部刺し傷・幾多の擦り傷(全て応急手当済み)。澪の保護と観鈴の探索、美汐との再会を目指す】
>【状態A:茂みに隠れている】
を
橘敬介
【所持品:支給品一式、花火セットの入った敬介の支給品は美汐の家に】
【状態@:左肩重傷(腕は上がらない)・腹部刺し傷・幾多の擦り傷(全て応急手当済み)。観鈴の探索、美汐との再会を目指す】
【状態A:茂みに隠れている、まずはこの状況の打開を考える】
に修正お願いします
三人は民家に帰ってからも無言だった…。
ベッドの上の少女…美凪は顔に付いた血を綺麗に拭き取られ、偶然タンスの中にあった新品の割烹着を身に着けられて寝かされていた
北川と真希は傷の手当てもせずに肩を寄せ合い座っていた、ベッドの上の少女を見つめながら…。
その時は部屋の中の時間が止まってるような気がした。
「少しだけ待っててね…美凪」
真希がそう言い残すと、二人は部屋から立ち去った。
美凪が寝かされた部屋の隣の居間で二人の傷の手当てが始まった
当初「自分の傷は自分でする…」と言った北川だったが、二人とも背中を撃たれていた為
「碌な手当てが出来ないでしょ…」と真希が無理矢理に北川の服を脱がせ手当てを始めた
先ずは北川、そして真希の順で手当てが始められた
真希は北川の身体の傷痕を見て絶句した、背中の傷は勿論のこと手当て済みだが昨日腹に受けた二発の弾丸の痕を…
防弾チョッキ越しでもこんなになるとは思わなかったからだ。
真希は何も言わず北川の傷の治療をした…そして真希の番になった
「……アンタ…よく昨日からこんなの撃たれて動きまわれたわね。」
居間の座布団の上に裸でうつ伏せに寝かされた真希がそう話を切り出した…。
真希の小さい背中はチョッキ越しに撃たれていたが夥しいほどの弾痕の痕を残し、皮膚は円状に剥がれ血が滲み出ていた
ホテルから拝借しておいた救急箱の中から消毒液とガーゼを取り出し手当てをする北川
「そうだな…。」
素っ気無い返事をしながら手当てを続ける北川…あまり話はしたくないらしい、しかし真希は気にせず話し続ける…覚悟を決めているからだ
「アンタはあれだったわ、一番しなければならないことをよく解ってた…。」
これまでの事を振り合えるように話す真希、消毒液が染みるのか時折顔を歪ませている。
「今回もそうだった…アンタも美凪も…それに引き換えあたしは何も出来なかったわ。」
淡々とした口調で話す真希…弾痕の治療を終えたのか座るように指示する北川、
真希の胸と腹に綿とサラシを巻く北川、…治療のガーゼが取れないようにの為であり
申し分程度の防弾衝撃対策、斬撃での内臓が飛び出ないようにだったりする、決して二の鉄を踏まない、
そして北川は意を決して口を開ける
「………お前達に…危険なことなんかさせられるかよ!」
嗚咽を交えながら、やっとまともな口を開く北川、真希の身体にサラシを巻くのを一時的に止める
「…じゃあアンタは危ないことは自分で全部やるとでもいうの!」
北川の洩らした言葉が癪に障ったのか、身体を振り返らせ瞳いっぱいに涙を溜めて北川に詰め寄り押し倒しながら怒鳴る真希
昨晩のホテル跡の食堂で北川を庇った時と同じ体勢を取って…。
「…美凪はねぇ、あたしと違ってちゃんと考えて行動してたわ、アンタと出会う前からね!!」
「今回だって美凪は美凪なりの判断でやったのよ、それを後からあんたがつべこべ言って、あの子が聞いたらどう思うのよ!!」
泣きながら北川を叱咤する真希、そのまま北川の胸に顔をうずめる…。
「…ああ…そう……だな……真希…。」
そっと真希を抱きしめ涙を流す北川
傷の手当てを終えたままの北川と真希は身を寄せ合い唯々泣いていた………。
取り残された二人は一通り泣いた後、二人の気持ちは一つになっていた。
二人は荷物の整理をして装備を整える、
北川の荷物にはショットガンと接近戦用のスコップを真希の荷物には美凪の包丁と前回参加者が置いていった拳銃を持って
そして美凪からもらったお揃いの割烹着と頭巾を着込んでいた、
真希は美凪の防弾性割烹着も一緒に二重に着込む…もしあの子に…みちるに出会えたのなら渡すためだ。
一通りの準備が出来次第、北川と真希は意を決してロワちゃんねるのスレッドを見ていた
耕一と呼ばれた男と千鶴と呼ばれた女の情報が欲しかったからだ…
連中がもっぱら口論していたときに途切れ途切れ聞こえてきた
【ロワちゃんねる】【自作自演】【氷川村の宮沢有紀寧】【リモコン爆弾】【首輪の爆破まで48時間】【岡崎朋也】【人質の初音】
【鎌石村】の単語の数々
耕一と呼ばれた男がマーダーの千鶴を説得しようと何度も説明を繰り返していたので断片的に憶えていた…。
そして一つのスレッドを発見する、
【自分の安否を報告するスレッド】…何と無く理解できた…そしてどうでもよかった…美凪が如何なるわけでもないからだ…。
ノートパソコンの電源を落とし、北川と真希は最後に美凪の部屋に行く
回避
回避
綺麗な顔をしてベッドの上で安らかな眠りに付く美凪、今にもひょっこりと起きて来そうだった
エディとこのみを弔ったのと同じく、庭で摘んだ花を美凪の傍らに添える二人。
「オレ達はオレ達にしか出来ないことをするよ……美凪」
「美凪の作ってくれたハンバーグの味はちゃんと覚えているわ……行って来ます」
そう言って半泣きの真希は永遠に眠ったままの美凪の冷たい頬を撫でた後、二人は部屋を出て行く。
「…覚悟はいいか?………いくぞ真希。」
「どこまでもついていくわ………潤」
北川はそう言って民家を出ていく、傍らには自分で荷物を持った真希が北川と肩を並べて走っていたのだった。
二人のポケットにはお米券が…そして真希の首には美凪のロザリオが提げられていた。
北川潤、広瀬真希、遠野美凪の三人は唯の高校生だった、
首輪を解除できる技術も持ち合わせていなかった、だからこそ自分達の出切る事をしようとした
悲しいときに涙を無理に止めるような感情を持ち合わせてはいなかった、だからこそ笑えるときに笑う感情を持ち合わせていた
残された二人の心は曇ったまま、傷ついた心と身体で前へと進む
自分たちにできること…現在生きてるのかどうかも分からないみちるの情報を求めて、残された二人は北へと走り出した。
三人の心は一つだった…。
回避
真希が健気だ・・・
回避
回避……!
回避
いやっほーぅ!凸凹□トリオ最高ー!!
北川潤
【時間:2日目11:00頃】
【場所:G−2民家】
【持ち物@:SPASショットガン8/8発+予備8発+スラッグ弾8発+3インチマグナム弾4発、支給品】
【持ち物A:スコップ、防弾性割烹着&頭巾(衝撃対策有)、ノートパソコン お米券 おにぎり1食分】
【状況:美凪を看取る、チョッキ越しに背中に弾痕(治療済み)】
【目的:自分たちにしか出切ないことをする(みちるの情報)】
広瀬真希
【時間:2日目11:00頃】
【場所:G−2民家】
【持ち物@:ワルサーP38アンクルモデル8/8+予備マガジン×2、防弾性割烹着&頭巾(衝撃対策有)×2、支給品、携帯電話】
【持ち物A:ハリセン、美凪のロザリオ、包丁、コミパのメモとハッキング用CD、救急箱、ドリンク剤×4 お米券】
【状況:美凪を看取る、チョッキ越しに背中に弾痕(治療済み)】
【目的:同上】
遠野美凪
【持ち物:民家にあった割烹着&頭巾、お米券数十枚】
【状況:永眠 G-2民家のベッドで北川と真希に弔われる】
【備考】
今現在リモコン爆弾の解除方法の情報は北川と真希しか知らない
ドリンク剤×2及びおにぎり×2を消費
その他の物はG-2民家の中
ホテルにあった様々なもの(剃刀、タオル、食器、調味料 その他諸々) ワイン&キャビア、
同人誌の数々、スコップ はG-2民家の中
ルートB−13
→595
>>sUJYepR00
気合の入った回避ありがとうごさいます
やはり制限されている電波では効果が薄かったのか、
椋はあの後すぐに目を覚ました――――
椋が体を起こすと、目の前には祐介がいた。
「貴方はさっき追って来てた人……?」
「うん。怯えさせてしまってごめんね」
祐介は申し訳無さそうに頭を下げたが、椋はまだ訝しむような顔をしていた。
「……私をどうなさるおつもりですか」
「まだ僕を疑っているんだね……」
「当然です」
椋は雅史から少し距離を取りながら言った。
一度眠らされた事で落ち着きは取り戻していたが、だからといって目の前で雅史が殺された記憶が消える訳ではない。
簡単に人を信用する事など出来なかった。
「疑う気持ちは分かるけど……僕が君を殺すつもりだったらもう君は死んでるんじゃないかな?」
「それは……確かに」
そう。祐介が本気でゲームに乗っていたのなら、椋を眠らせた後殺している筈だった。
椋は厳しい表情で少し考え込んだ後、答えた。
「分かりました……今は信用する事にします」
『今は』。祐介が今この場で自分に危害を加える気が無いことは分かった……。
だけどそれは自分を何かに利用しようとしているからなのかも知れない。
このゲームでは仲間がいれば何かと便利である。戦闘でも人数が多い方が有利だし、二人いれば交互に睡眠を取る事も出来る。
椋には出会ったばかりの人間を全面的に信用するような事など出来なかった。
だが、それでも一時的には椋の警戒は解かれた。
それからは比較的穏便に話を進める事が出来た。
まず二人が話した事はお互いの名前と、電波についての事だった。
「その”電波”っていう力で祐介さんは私を眠らせたんですか?」
「うん、ごめんね?」
「いいえ、私の方こそすいませんでした。あんなに取り乱しちゃって……」
「ううん、仕方ないよ。もう大丈夫なのかい?」
「ええ、もう落ち着きました」
「それじゃちょっと試してみても良いかな?」
「……え?」
途端にちりちりとした感覚を椋は感じた……先程祐介に金縛りにされた時と同じ感覚だ。
しかし今度は、体に異変が起きるというような事は無かった。
その事を確認すると祐介は表情を幾分か緩めていた。
「確かにもう大丈夫みたいだね」
「え?」
「ゲームの開始時にウサギが言ってたでしょ?『能力はある程度制限されてる』ってね。
制限されている今の僕の電波じゃまともな精神状態の相手には通用しない……。つまり」
「つまり?」
「今の椋さんの心は元気だって事だよ」
そう言って祐介はにっこりと椋に微笑みかけた。
今は亡き雅史と同じ―――真っ直ぐな曇りの無い笑顔で。
それは頑なに閉ざされた椋の心に確かに届く。
「ありがとう……ございます」
今度ばかりは椋の口から心の底からの礼の言葉が飛び出していた。
「うん。それじゃ僕は仲間を待たせてあるから戻るけど、椋さんはどうする?一緒に来る?」
祐介の提案に、椋は考え込んだ。
長瀬祐介は確かに人の良さそうな少年だ……だが人を完全に信用する事はもう自分には出来そうも無い。
今の自分はもう佐藤雅史や岡崎朋也に対してすら少なからず疑いの念を持ってしまうだろう。
絶対の信頼が持てるのは唯一、姉に対してだけである。
だが……この島でたった一人の人間と出会う事がどれ程難しい事かくらい、椋にも分かっていた。
強力な武器も持たず、優れた体力も無い自分では姉に出会う前に殺されてしまうのが関の山だろう。
なら―――この少年に賭けてみよう。
結局は確率の問題なのだ。この少年に裏切られる可能性が自分一人で生き残れる可能性より高いとはとても思えなかった。
「そうですね……出来ればご一緒させてください」
「うん、分かったよ。僕の仲間はゲームに乗る気なんか全く無い良い子達だから安心して」
それはまるで人を疑う事など知らぬかのような、信頼しきった口調。
歩き出した祐介の後ろについていきながら椋は思う。
(祐介さん……貴方はお人好し過ぎます……)
このゲームは裏切りが殺人の為の常套手段となっている最悪のゲームなのだ。
祐介のように簡単に人を信用していては、いつか寝首をかかれるだろう。
だがそう思うと同時に、椋は心がちくりと痛むのを感じた。
きっと羨ましいのだ―――今だに人を信頼する心を持ち続けていられる祐介が。
それはこの島で生き延びる為には間違った姿勢だが、人としては正しい姿勢だ。
椋にはもう、何が正しいのか何が間違いなのか分からなかった。
程なくして祐介達は初音達の待つ民家が見える位置まで辿り着いていた。
「長い間待たせちゃったな……」
祐介は困ったように呟きながら歩き続ける。
と、後ろから誰かの足音がした。
祐介と椋が振り向くと、そこには自分達と同じくらいの歳の少女が立っていた。
「ねえ、あんた達はここの家にいる人達の仲間?」
少女―――天沢郁末は特に警戒した様子を見せる事無く平然と祐介達に話し掛けた。
「そうだけど……ここの家がどうかしたの?」
「さっきここの近くを歩いてたら、ガラスが割れる音が聞こえてきたのよ。
それで何事かと思って近くまで来たんだけどやっぱり危ないから、ここで様子を見てたのよ」
「え!?」
それを聞いた祐介は慌てて駆け出しそうになったが、そこで自分の持つ力の事を思い出した。
(そうだ……こういう時こそ電波を感じるんだ……)
「祐介さん……?」
椋に話し掛けられるが今は答えられない。
目を閉じ全神経を集中させる。
家の中から感じられる電波は二つ……何となく分かる、これは有紀寧と初音のものだ。
ここからではその感情までは読み取れないが、とにかく二人は無事という事だろう。
「……何があったか知らないけど、どうやら大丈夫みたいだ」
「どうしてそんな事が分かるの?」
電波の存在すら知らない郁末には祐介の言葉の根拠が全く分からない。
「それを話すと少し長くなるから、家の中で話さない?」
「……分かったわ。貴方達の名前は?」
「僕は長瀬祐介だよ」
「私は藤林椋です」
「そ。私は天沢郁末よ、よろしくね」
簡潔に自己紹介を終えた3人は、すぐ近くの初音達の待つ家へと進んだ。
だが、この自己紹介が郁末にとっては大きな意味を持っていた。
(これで、ノートの効果を試そうと思えば試せるわね……)
―――これまで天沢郁末は一言も嘘は言っていない。
ガラスが割れる音を聞きつけてここに来たのも事実であるし、ここに来てはみたものの、やはり危険だと思って様子を見ていたのも本当だ。
このノートが本当に死神のノートだったとしても、問答無用に銃で撃たれてはどうしようもない。
だからこそどうすべきか決めかねている時に祐介達がやってきたのだ。
郁末は嘘を言っていない、ただ隠し事をしているだけだ。
家の中に祐介達の仲間がいるというのならそれもまた好都合、全員の名前を聞き出してからノートで殺害し武器を奪う。
ノートの効果が偽物だったならまた新たに作戦を立てて、祐介達を内部から切り崩すだけだ。
出会ったばかりの自分を簡単に拠点に招くなどお人好しにも程がある、いくらでも寝首を掻く方法は見つかるだろう。
天沢郁末は笑い出したい衝動を必死に堪えていた。
【時間:2日目・9:30頃】
【場所:I−6、初音達がいる民家のすぐ傍】
天沢郁未
【所持品:死神のノート、包丁、他支給品一式】
【状態:隠れマーダー。右腕・頭部軽傷(治療済み)。最終的な目的は不明(少年を探す?)】
長瀬祐介
【所持品1:ベネリM3(0/7)、100円ライター、折りたたみ傘、支給品一式】
【所持品2:フライパン、懐中電灯、ロウソク×4、イボつき軍手、支給品一式】
【状態:健康】
藤林椋
【持ち物:包丁、参加者の写真つきデータファイル(内容は名前と顔写真のみ)、ノートパソコン、支給品一式(食料と水二日分)】
【状態:祐介に同行しているが、完全に信用してはいない】
(関連569・577)
糞女殺したい衝動が湧いてくるいい作品だ
ただのほとんど意味の感じられない分岐駄作にしか見えないが
なんだ糞女の信者か
巣から出てくるなよ
474 :
名無しさんだよもん:2006/12/30(土) 11:19:50 ID:mXEQFU/n0
開戦間近♪
悪いけど平瀬村アナザーの方が楽しみで仕方ない
476 :
脱出の糸口:2006/12/30(土) 18:15:15 ID:pynVuzhv0
北川達は平瀬村の中を動き回っていた。
彼らの第1目標はみちるの捜索、第2目標が自分達の持つ情報を活かせる人間の捜索だ。
今の彼らにとってゲームの脱出方法の模索は二の次だ、まずはみちるを見つけ出して守ってあげたかった。
そして謝りたかった―――美凪を守れなかった事を。
しかし、基本的にはこれまでとやるべき事は変わらない。
結局の所人を探すには、村を捜索するのが一番効率が良いのだ。
「そろそろ村の中央部だし、歩いていこうか」
「そうね―――さっきの二人組もまだ何処かにいるかもしれないしね」
二人の銃を握る手に力が篭る。
美凪は言った――――『二人共、絶対に死なないでください』と。
復讐に走れば彼女の気持ちを台無しにする事になる。
自分達はみちるを見つけ出し、その後何とかして生きてこの島から脱出するのだ。
復讐の末に辿り着くのは凄惨な死―――だから復讐を目的として行動する気は微塵も無かった。
しかし―――
「ねえ潤……もしまたアイツ達にあったらどうするの?」
「…………」
北川は沈黙を返答とした。その顔はかつてない程険しくなっており、おおよそ彼らしくない。
それで真希も北川の考えている事を察して、黙りこくってしまった。
美凪を殺した連中は許せない―――許せる筈が無い。
無論自分達から仇を探し回るような事はしない。
それは絶対に出来ない。
けれど、もし偶然出会ったのなら――――答えは決まりきっている。
その時は……
そこまで考えて北川はぶんぶんと首を振った。
「じゅ、潤、どうしたの?」
「あーヤメヤメ!こんな暗い事考えてちゃ美凪が悲しんじまうよ!」
北川はそう叫ぶと銃を地面に置いて両手を思いっきり広げ、自分の頬を叩いた。
477 :
脱出の糸口:2006/12/30(土) 18:17:23 ID:pynVuzhv0
パチーン!
豪快な音がした。
北川の頬は叩いた跡が残り少し赤くなっている。
「よーし、これでもう大丈夫だ。やっぱ俺達は明るくいかないとな」
美凪が死んだ事への悲しみはまだ消えてない―――きっと一生残るだろう。
だけど、美凪は自分達が悲しみに暮れる姿など望んではいないだろうから。
だから北川は、真希に微笑みかけた。
真希は一瞬呆気に取られていたが、すぐにいつもの勝気な笑顔をして見せた。
「そうね……そうよね。それじゃあたしも……」
真希は銃をポケットに入れて両手を思いっきり広げ、北川と同じように叩いた。
パチーン!
豪快な音がした。
叩いた跡が残り赤くなっている。
…………北川の頬が。
「あ、あの〜真希さん?気合を入れるなら自分の頬を叩いてくれませんか?」
「嫌よ、痛いし」
「…………」
北川がジト目で非難するが1秒で却下される。
真希は腰に手を当て、偉そうに胸を張っている。
北川は少しの間不満そうにしていた。
だが突然、彼は堪えきれなくなったように笑い出した。
「くっ…はは……ははははっ」
「な……何よ突然笑い出して……頬を叩かれたショックで頭のネジが飛んじゃった?」
「いや、これでこそ真希だと思ってな」
「え……?」
「やっぱり、元気じゃないと真希じゃねえや。お前は元気なのが一番似合ってるよ」
478 :
脱出の糸口:2006/12/30(土) 18:18:15 ID:pynVuzhv0
―――それは真希にとって、完全に不意打ちの一言。
真希の頬がみるみるうちに赤く染まってゆく。
恥ずかしさに耐えられなくなった真希はハリセンを手に取った。
スパ――ン!
スパ――ン!
スパ――ン!
北川の頭に連続して衝撃が走る。
「ちょ、いや、俺今なんか悪い事言ったか?」
「うるさいっ」
スパ――ン!
スパ――ン!
北川が制止しようとしたが、真希の照れ隠しは止まらない。
ハリセンの耐久力が尽きるのが先か、真希の体力が尽きるのが先かと思われたが―――
北川はぱしっと、真希の手を受け止めた。しかし顔は別の方向を向いている。
「―――潤、どうしたの?」
「あっちに……人がいる」
言われて真希は北川と同じ方向を見やった。
すると視界の先に二人の女の子の姿を捉えた。
少女達は窓から顔を出して外の様子を窺っているようで。
その視線は―――こちらに向けられていた。
距離はまだかなりある、逃げようと思えば問題無く逃げ切れるだろう。
しかし折角人を見つけたのだから、出来れば情報を得たい所でもある。
真希は北川の判断を仰ぐ事にした。
「潤、どうする?」
「向こうの方が先にこっちを見つけてたのに何もして来なかった―――攻撃してくる気は無さそうだ」
「じゃあ?」
「ああ、話をしにいこう」
そう言うと北川は銃を鞄に仕舞い、こちらを注視している少女達の方へと歩き出した。
敢えて武器を鞄に戻した理由は単純。相手を無闇に驚かせたり無用な警戒心を与えたりしないようにだ。
真希もそれに習って武器を仕舞い(ハリセン以外)、後に続く。
479 :
脱出の糸口:2006/12/30(土) 18:19:37 ID:pynVuzhv0
・
・
・
「あ、あの人ら一体何やの……?」
「珊瑚ちゃん、危険そうなの?」
「大丈夫やと思う、大丈夫やと思うけど……」
珊瑚は目の見えないみさきの為にそれだけ答えると、口を開いて呆然としていた。
窓の向こうから男と女が堂々と近付いてくる。
割烹着を着て。何故かハリセンだけ持って。
頭には頭巾までしており、その様は異様と言う他無い。
北川達の行動は珊瑚を別の意味で驚かせていた。
だから――――
「芸人さん?」
「「―――は?」」
北川達が声の届く位置に来た時、珊瑚が最初に掛けた言葉はそれだった。
・
・
・
数分後、北川達は珊瑚達が隠れている家の中へと招かれていた。
480 :
脱出の糸口:2006/12/30(土) 18:20:55 ID:pynVuzhv0
「残念だが俺達は芸人じゃない……俺は北川潤、育ち盛りの元気な高校生だ。
それでこっちが広瀬真希……俺の漫才の相方だ。得意技はHGの物真似だ」
「セイセイセイセイ〜〜♪………………………って誰がんな事やるかっ!」
スパ――ン!
スパ――ン!
スパ――ン!
連続してハリセンが振るわれる。
そのやり取りはまさに芸人そのものだったが、とにかく北川達が学生であるらしい事は分かった。
「よ……よく分からないけど、悪い人達じゃないみたいだね……」
「そ……そうやね……」
みさき達は苦笑いをしながらも北川達と同じように自己紹介をした。
その後みさきはまず自分達の置かれている現状の説明を行なった。
近くで戦闘が行なわれているという事実は、いち早く報せるべきだと思ったからだ。
「そうか―――それで川名達はその柳川さんって人達が戻ってくるのを待っているんだな?」
「うん……。みんな大丈夫かな……」
みさきの問いに北川は答えられない。襲撃者は多分、先程北川達を襲った連中だろう。
あの二人組の中でも特に女の方は全く容赦無く襲い掛かってきた。それにマシンガンも持っていた。
なら―――みさき達の仲間が全員無事に帰る保障など、何処にも無かった。
だから北川は、話題を変える事にした。
「姫百合。お前、パソコンが得意なんだってな」
それはみさきの現状説明の時に聞いた情報だった。
みさきは目が見えない―――そして、珊瑚は首輪の解除をしうるだけの技術を有し、
パソコンの扱いにも長けているから安全な場所で待たされている、と。
「うん。うちはそれ以外に取り柄あらへんし……」
「なら―――今がまさにお前の出番だ」
「え―――?」
北川と真希は鞄を探り、ある物を取り出した。
「受け取ってくれ。これは俺達じゃ有効に使えない」
それは―――前回参加者達が遺したメモ、CD、それにノートパソコンだった。
北川はそれらを珊瑚に渡した。
481 :
脱出の糸口:2006/12/30(土) 18:22:58 ID:pynVuzhv0
「俺達はもう少しここに残ってお前達の仲間が帰ってくるのを待つよ。
だけどその人達が帰ってきて情報交換も終わったら、ここを発つ。俺達にはやらないといけない事があるんだ。
だから―――俺達の代わりにお前がこれを活かしてくれ」
前回参加者達の遺産は、然るべき人物へと托された。
【時間:2日目11:30頃】
【場所:F−2民家】
川名みさき
【所持品:なし】
【状態:健康】
姫百合珊瑚
【持ち物@:デイパック、水(半分)食料(3分の1)、コルト・ディテクティブスペシャル(2/6)、ノートパソコン】
【持ち物A:コミパのメモとハッキング用CD】
【状態:健康】
北川潤
【持ち物@:SPASショットガン8/8発+予備8発+スラッグ弾8発+3インチマグナム弾4発、支給品】
【持ち物A:スコップ、防弾性割烹着&頭巾(衝撃対策有) お米券 おにぎり1食分】
【状況:チョッキ越しに背中に弾痕(治療済み)】
【目的:柳川達が戻るまで待って情報交換を行なう。それが終わったらみちるの捜索へ】
広瀬真希
【持ち物@:ワルサーP38アンクルモデル8/8+予備マガジン×2、防弾性割烹着&頭巾(衝撃対策有)×2、支給品、携帯電話】
【持ち物A:ハリセン、美凪のロザリオ、包丁、救急箱、ドリンク剤×4 お米券】
【状況:チョッキ越しに背中に弾痕(治療済み)】
【目的:同上】
(関連598・614 ルートB13)
トリ入れ忘れた・・・
――――――何もなかった…。
神塚山山頂には何も無かった…。
坂上智代と里村茜は首輪に電波を送る為の基地局を探して神塚山山頂へと上った
しかし何も無かった……そして平瀬村への帰路についている最中である。
「くそっ!結局全ては徒労に終わったのか……何も出来ていないじゃないか……」
拳を握り締めながら深く悔しがる智代、前にもこんな感じのセリフを言ったのは言うまでもない。
「仕方がありません…無いモノは無いのですから…。」
明後日の方向を見て、どこかで聞いたようなセリフを吐くのは里村茜、
それに仮に首輪に電波を送る為の基地局があったとしても参加者の目の届く範囲にあってたまることは無い
理由としては支給品の武器にあった
・藍原瑞穂の持っていた手榴弾と姫百合瑠璃の持っていた携帯型レーザー誘導装置
主催者が支給品にこんな物をいれるのだから、仮に目の届く範囲に基地局があれば破壊されるのも想像につく主催者は浅はかでは無い…。
「爆弾が支給品にあるくらいです、主催者も馬鹿ではないでしょう」
昨日の夕方の事を思い出したのか、ボソリと口に出す茜、
「…ハッ!!………なんでその事を言ってくれなかったんだ!!」
茜が口に出さなかったら本気で思い出さなかっただろうな智代、慌てて抗議の態度に出る
「それも含めて成功確率が2割程度だと思って賛成したんです…もしかして忘れていましたか?」
能面のような顔で智代にボソリと喋りかける茜、別に怒ってはいない…呆れているのだ。
「いや…その……。」
しどろもどろに成りながら手の平をぶんぶん振る智代、
「それならいいです…。」
『やっぱり』と言いたげな茜、しかし智代にトドメを刺すつもりは無い。
なんだかんだ言ってもマーダーに成らなかったのは正解であり今も無事に生きている
そういう意味では智代に感謝しなければならない………しかし!!
(どう考えても空回りですね…島一番の役立たずな気がします…。)
口に出さず核心を突く茜、智代はゲーム開始24時間経っても本当に何もしていないのだ…。
二人は知らないことなのだが、他の参加者達は大いに行動していた。
対主催者を目指す者達は仲間を集め、マーダーとも戦う
銃を持たないものでも知恵を振り絞り立ち向かう
首輪解除を目指すものたちは情報を集める
マーダーとてマーダー同士で戦うこともある
亡くなった者とて24時間死者が出ない場合のリセット役に貢献していたりする。
ある者は愛するものを奪われ、ある者は友情を深めた仲間を奪われた…。
裏切りや誤解、様々な不の感情が渦巻くこの島…。
――――――坂上智代の取った行動…。
最初からゲームの破壊を目標とし行動を開始する。
マーダー化しかけていた茜の説得に成功
その後は協力者を探し行動したが無駄に終わる。
倉庫でやさぐれ
茜とドツキ漫才…。
鬱な春原を発見して蹴り飛ばし説教した。(茜がフォローした)
首輪に電波を送る為の基地局を探したが何も出なかった。
現在は平瀬村への帰路に着く最中である。
(………彼女はいったい何をやっているのでしょうか…。)
下手なキャラより役に立たないとふとそう思う茜だった…。
【時間:2日目11:00頃】
【場所:f-3】
里村茜
【所持品:フォーク、他支給品一式】
【状態:全身打撲(マシになった)、智代の行動に呆れている、平瀬村に帰宅する最中】
坂上智代
【所持品:手斧、他支給品一式】
【状態:全身打撲(マシになった)、平瀬村に帰宅する最中】
→547 ルートB−13
487 :
陽光:2006/12/31(日) 12:09:11 ID:8ICLZxUz0
村の中央に、力無く項垂れる3つの影があった。
乾いた風が、彼らの意を介す事無く吹き抜ける。
そこに、蒼い空から陽の光が降りそそいでいた。
柳川は立ち上がると住井の元に歩み寄り、様子を伺った。
複数の無残な銃痕は彼が事切れていることを能弁に語っている。
そして、志保の方を見る―――何時の間に移動したのだろうか、浩之がもう動かない志保の上半身を支え起こしていた。
浩之の表情は、こちら側からでは影になっており読み取る事は叶わない。
「藤田……」
「……悪いが少しだけ、一人にしといてくれないか?大丈夫……少しの間だけだ」
浩之は顔をこちらに向ける事無くそう言った。その声は震えている。
柳川は下唇を噛み締めると、先刻まで抱き締めていた少女へと目を向けた。
「舞、舞……」
佐祐理は舞の手を取り、譫言のように親友の名を呼び続けていた。
けれど、彼女がそれに答える事は二度と無い。
川澄舞の生命は、永遠に失われてしまったのだ。
佐祐理の目にもう涙は溢れていないが、その瞳は虚ろだった。
「倉田……」
その背に声を掛ける。反応は、無い。
佐祐理は舞の体を抱き起こし、がくがくと揺すり始めた。
「止めろ倉田……」
聞こえていない筈は無い……しかし心にまでは届いていない。
舞の体は更に激しく揺さぶられ、その頭が不規則に揺れている。
柳川は佐祐理の肩を掴み、こちらを振り向かせ―――
「……いい加減にしろ!」
佐祐理の頬を張っていた。
その頬は柔らかく、張った手が痛むという事は無い。
ただ―――心がどうしようもなく痛んだ。
その痛みで佐祐理はようやく現実に引き戻された。
488 :
陽光:2006/12/31(日) 12:11:47 ID:8ICLZxUz0
「や、柳川さん……?」
「もう止めろ……川澄はもう、此処にはいないんだ……」
「…………」
「死んだ人間の生命は決して戻らない……」
柳川は敢えて告げる―――現実を。
受け入れられない事実を突き付けられ、佐祐理の瞳に再び涙が満ちてゆく。
佐祐理は耳を塞ぎ、全てを拒むように首をぶんぶんと振った。
「聞きたくありませんっ!どうして……そんな事を言うんですかっ……!」
「川澄は死んだ―――だが」
「もう止めてぇぇぇ!」
柳川が優しく佐祐理の体を抱き締めた。
佐祐理の動きがピタリと停止した。
そしてゆっくりと、柳川は言葉を紡ぐ。
「川澄の代わりに、俺がずっとお前を守る。俺は絶対に死なないし、お前も絶対に死なせはしない」
「……どうして?どうしてそこまでしてくれるんですか?」
「川澄との約束もある……だがそれだけではない。俺にはどうやらお前が必要のようだからだ。
お前といると、何故かとても心が安らぐ……。もうとうの昔に失った感情だと思っていたのだがな……」
「え……?」
「だからずっと傍にいてやる。この島の中だけでは無い、ずっとだ。お前が迷惑で無ければな。
だから……もう、川澄を休ませてやれ。泣くなら俺の胸で泣け……そして川澄にはいつもの笑顔を見せて、安心させてやれ……」
その真摯な言葉一つ一つが、佐祐理の心へ届く。
佐祐理の瞳から涙が再び零れ落ちそうになる。
だが、泣かなかった。
佐祐理は顔を上げて、微笑んだ。
目にまだ涙は溜まっているが、決して無理に作られた笑顔ではない。
「分かりました……でももう、泣いてられません。涙は―――この島から出られた時に纏めて流す事にします。
これからも、ずっと……よろしくお願いしますね」
もう佐祐理は虚ろな瞳をしていなかった。彼女の目には確かな光が宿っている。
489 :
陽光:2006/12/31(日) 12:13:47 ID:8ICLZxUz0
強い少女だと思った。親友の事で鬼に呑まれてしまっていた自分とは比べ物にならないくらい、強い。
主催者さえ殺せば、もう自分は死んでも良いと思っていた。
鬼を抑え込んでいる制限と呼ばれている力が無ければ、自分はもう自我を保てないから。
再度、愚かな傀儡と化してしまうだけだから。
だけど―――今ならきっと、そうはならない気がした。それだけの強さを佐祐理が与えてくれた。
(貴之……俺は生を望んでも良いのか?)
心の中で親友に問い掛ける…………答えは無い。
だけど、決意はもう固まっていた。
自分の命はもう、自分の為だけにあるのでは無い―――生を諦める事など許されない。
「……ああ、こちらこそな」
微笑みながら、簡素な言葉を返す。
それ以上の言葉は必要無い……お互いの想いはもう十分に伝わっているから。
ふと浩之達の方へ視線をやると、浩之は春原に肩を貸していた。
「久しぶりだな、春原」
「ああ……無事だったんだね」
浩之も彼なりの葛藤があり、そしてそれに打ち勝ったのだろう。
もう彼の声は震えていなかった。
浩之は柳川の視線に気付くと、しっかりと頷いた。もう、大丈夫だと。
柳川は再び空を見上げた―――ほんの僅かの間に、陽の光は随分と輝きを増しているように見えた。
「―――!」
そんな時、何かが近付いてくる気配を感じ取り、柳川は気配のした方向へと目を向けた。
そちらからは、見知らぬ少女が一人と、少し遅れて別の少女が三人、駆けてきていた。
【時間:2日目11:30頃】
【場所:F-2】
490 :
陽光:2006/12/31(日) 12:14:54 ID:8ICLZxUz0
春原陽平
【所持品1:スタンガン・FN Five-SeveNの予備マガジン(20発入り)×2・他支給品一式】
【所持品2:鋏・アヒル隊長(1時間20分後爆発)・鉄パイプ・他支給品一式】
【状態:全身打撲・数ヶ所に軽い切り傷(どちらも大体は治療済み)、頭と脇腹に打撲跡】
柳川祐也
【所持品@:S&W M1076 残弾数(7/7)予備マガジン(7発入り×3)】
【所持品A:支給品一式×2】
【状態:左肩と脇腹の治療は完了したが治りきってはいない、肩から胸にかけて浅い切り傷、疲労】
倉田佐祐理
【所持品:支給品一式、救急箱、二連式デリンジャー(残弾0発)、吹き矢セット(青×5:麻酔薬、赤×3:効能不明、黄×3:効能不明)】
【状態:普通】
藤田浩之
【所持品:ライター】
【状態:人を殺す気は無い】
七瀬留美
【所持品1:デザートイーグル(.44マグナム版・残弾6/8)、デザートイーグルの予備マガジン(.44マグナム弾8発入り)×1】
【所持品2:H&K SMG‖(6/30)、予備マガジン(30発入り)×4、スタングレネード×1、何かの充電機、ノートパソコン、支給品一式(3人分)】
【状態:まだ状況を把握していない、目的は冬弥を止めること。ゲームに乗る気、人を殺す気は皆無。千鶴と出会えたら可能ならば説得する】
柚木詩子
【持ち物:ニューナンブM60(5発装填)、予備弾丸2セット(10発)、鉈、包丁、他支給品一式】
【状態:まだ状況を把握していない、千鶴と出会えたら可能ならば説得する】
ルーシー・マリア・ミソラ
【所持品:鉈・包丁・スペツナズナイフ・他支給品一式(2人分)】
【状態:まだ状況を把握していない、左耳一部喪失・額裂傷・背中に軽い火傷(全て治療済み)】
吉岡チエ
【所持品1:救急箱・支給品一式】
【所持品2:ノートパソコン(バッテリー残量・まだまだ余裕)】
【状態:まだ状況を把握していない】
【備考:現場に舞、耕一、志保、護の支給品一式、新聞紙、日本刀×2、投げナイフ(残り4本)が置いてあります】
→608 ルートB−13
491 :
謹賀新年:2007/01/01(月) 00:06:33 ID:7N/JNup70
―――時は12月31日、23時50分。
北川、美凪、真希ら凸凹□トリオは一緒にコタツに入りながら日付が変わるのを待っていた。
「しかし今年も寒いな……。このままじゃ年が明けても寝正月になっちまいそうだ」
北川が蜜柑を食べながらぼやく。
彼はだらしなく上半身をコタツの上に預けており、やる気の無い事が容易に見て取れる。
だが真希はそんな彼に容赦無く言い放つ。
「駄目よ、明日は初詣に行くんだから」
「誰が?」
「あたし達がよ」
「何処に?」
「神社よ」
「何日に?」
「明日よ」
「誰が?」
「…………」
真希はこのやり取りの無意味さを悟り、北川の耳を掴んで引っ張った。
そのまま指に力を加え、捻るような動きを混ぜる。
「あだだだだっ!」
「そういう事だから私と美凪のエスコートをよろしく頼むわね、北川君?」
「いててっ!分かった、分かったって!」
「よろしい」
真希はパッと手を離した。
すると、とんとんと肩を美凪に突かれた。
「どうしたの?」
「……見てください」
美凪が指で示してる方向を見ると、テレビの時計は丁度0:00を示していた。
北川もすぐそれに気付く。
「新年になったな、真希、美凪」
「そうね、潤」
「じゃ、始めるか」
三人はコタツから出ると横一列に並んで整列するように立った。
492 :
謹賀新年:2007/01/01(月) 00:07:30 ID:7N/JNup70
北川がすう、と深呼吸をする。
だが、彼が何かを話す前に美凪がお米券を手に喋りだした。
「……新年おめでたいで賞、しんて……」
「わー、待て美凪!それは三人一緒にだ!」
「……残念」
授賞式を妨げられた美凪は一瞬シュンとしたが、すぐにいつもの微笑みを湛えた顔に戻った。
改めて北川は二人を促し、三人は揃って深呼吸をした。
「それじゃいくぞ…………明けまして」
「「「おめでと〜ございますっ!」」」
彼らは三人一緒に大きな声でそう言って深々とお辞儀をした。
そのままの態勢で10秒程固まっていたが、やがて北川が姿勢を戻して動き出した。
「ふ〜、終わった終わった。さて、またコタツに戻って冬の風物詩・蜜柑を堪能するとしますか」
北川はそう言ってコタツに戻ろうとするが、その肩をがしっと真希に掴まれる。
「ちょっと待ちなさいよ。まだコメント発表が残ってるでしょ?」
「ああ、そう言えばそうだったな……」
「そうです。それじゃまずは私がT槻(匿名希望)さんからのコメントをお伝えしますね」
美凪は紙を取り出して、そこに書かれてある内容を読み出した。
「『参ったぁっ!俺は参ったぁぁっっ!なぜなら人気No1の座を得たからだぁぁぁっ!ハハハハ、我が世の春が来たァ!
フハハハハハ、お前らもっと俺を褒め称え……』……あら?」
「ん、どうしたんだ美凪?」
「字はここで途切れてます……そしてこれまでとは違う女の子らしい字で裏に何か書かれていますね」
「どういう事かしら……読んでみてよ」
「『騒がせて悪かったわね。調子に乗ってる高槻には私、郁乃がちゃんとお仕置きしておいたわ。
……ふ、ふんだっ!今年も私達をよろしくお願いだなんて、思ってないんだからねっ!』……以上です」
読み終えると美凪は紙をポケットの中へと戻した。
北川と真希は苦笑いを浮かべている。
「さ、最初から随分と変わった奴らだな……」
「そ、そうね……。ま、気を取り直して次行きましょ。今度はあたしの番ね。えーと……、柳川祐也さんって人からのコメントみたいね」
真希は紙を取り出し、そこに書かれてある内容を読み出した。
493 :
謹賀新年:2007/01/01(月) 00:08:34 ID:7N/JNup70
「『ちっ、新年の挨拶などと下らん。作者もこんな物を書いてる暇があれば本編の一つでも書けば良かろうにな。
こんな茶番に付き合う気は無い、俺のコメントは以上だ。……と思ったんだが、後ろで倉田がうるさいから代わりに書かせるか……』」
「……変わった奴ばっかだな」
北川がぼそっと呟いたが、真希は構うことなく紙に書かれている内容を読み続ける。
「『あはは〜、倉田佐祐理です。どうもすいません……普段は無愛想ですけど、本当は柳川さんは良い人なんですっ!
ですから出来れば今年も応援してあげてくださいね』……以上よ。ったく、レディに迷惑掛けてる奴が多いみたいね……」
真希は溜息を吐きながら紙をポケットに戻した。
「そうだな。このジャパニーズジェントルマン・北川潤様を見習えってんだ」
「もうつまらないボケは良いからさっさと最後のコメント読んじゃって……。変なコメントばっかで、ツッコミを入れる元気も無くなったわ」
「あ、ああ、そうだな……。えーと……、橘敬介って人のコメントだな」
北川は紙を取り出し、そこに書かれてある内容を読み出した。
「『やあみんな、新年おめでとう。去年の僕は厄災続きだったんだけど……今年は少しはマシになったら良いな、ハハハ……。
今年も至らないなりに頑張るから、どうかよろしくね』……以上だな。この人は割と普通そうだ」
「……橘敬介さんには不幸で賞として、お米券100枚を進呈します。ぱちぱちぱち……」
どこにこれだけの量を仕舞っていたのだろうか、美凪は数え切れない程大量のお米券を取り出していた。
北川にとってそれはもう慣れっこの光景だったので特に気にせず、彼は終幕へと取り掛かる。
「よし、それじゃ最後に三人一緒に締めようぜ」
「そうね」
「そうですね」
「「「せーの………」」」
三人はまた横一列に整列し、大きく息を吸った。
「「「今年も葉鍵ロワイアル3をよろしくお願いします!」」」
494 :
謹賀新年:2007/01/01(月) 00:09:05 ID:7N/JNup70
北川潤
【持ち物:みかん10個、Mr死亡フラグのコメント付き用紙】
【状況:コタツでみかんを食べたい】
広瀬真希
【持ち物:柳川と佐祐理のコメント付き用紙】
【状況:疲労、呆れ】
遠野美凪
【持ち物:お米券数百枚、T槻と郁乃のコメント付き用紙】
【状況:また出番が来て嬉しい】
【備考:つい調子に乗ってやった、今は反省している】
/ / ,/ ...:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:ヽ:.ヽ
/ / / i:.:.:.:.:l.:.:.::l:.:.:l.:lヘ:.:.l:.:.:.:l:.:.:ヽ
/ / / .:l.:.l::/l:.:.:.:|:.:.:|.:|.:|.:.l:.:.:.:.:l.:.:.:.:',
. l ..l..:l.:.:.:上:l:| |.:l.:.:ト、:TTナメ、.:.:.:.:l.:.:.:.:.l
. | ..|.:.|y´l.:l`lリ レ V ヽ| レ| |:.:.:.:.:l:.:.:.:.:l
|.:.:.:|.:.| ヽ! N ! l.:.:.:.:.ト、:.:.:l
|.:.:∧:V _ ィ=z、l.:.:.:.:|,ノ:.:.:l
l.:.:r、∨', ィ´ ̄` 、 |:.:.:.:ト、:.:.:.:l
l.:.:| |∧ム t‐ァ ,イ:.:.:|::::l:.:.:.:', 次スレです
!__| |∧' ,ヽ、 , イ::|:.:.:l:::::ト、.::.:}
__r‐/ / i|∧::l\/>ト 、__ ,ィ7. |::l.:.:/::ノl、::∨
| 〈 〈 l l|::∧l::/∧{`〜〜〜〜ー7:;/:::::ノ::∨
ヽ、Nレ 〉.:.:∨/.:.:| //〕_ノ::_ノ
{ / /∧.:l:/.:.:/}ヽ、 -‐ ,/ノ´ >、
〉 /∧.:∨.:.:/{ \ _ / / \
〈ト、_ イ>{.:.:\l:.:/∧ ]、 / \
/l_  ̄ ̄ | ∨:.:.:Y.:/:;仆{◯ ,〉_,ィ´ / ヽ
/  ̄ ̄ 〉 ∨.:.:l:/:/::/ / ,' l
/ /i ∧ l:/イ/ / / |
/ // {.:.:∨:.:,} ,/ / |
/ // ∨.:l:.:/ / / |
! / { ∨ノ.◯ / / |
葉鍵ロワイアル3作品投稿スレ9
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1167394239
-‐- 、
, ' ヽ
l⌒i彡イノノノ)))〉 / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
乙!(| | ( | | | l | あははーっ♪
| ! !、'' lフ/||__ < 埋め立てですーっ♪
. || ! |^ 、ヽ i〔ァ i |
<','l |⌒8^) 〈_/ \__________
|i/ l !〉 !、_/
/ /|リ l リ
. _/^>l li^ヽ /|
` つノ / |
/ !
/ l !
. / | | !
/ / ! ! | |
ァ / ! l | |
. `‐L_L|_」┘
|_i 、⌒)⌒)