「―――そこの、大当たり!」
神岸あかりと対峙したまま、観月マナは高槻に向けて口を開く。
「お、大当たり!?」
「いいから、ここはあたしに任せて、その人と逃げなさい!」
あかりから目を離さず、マナは声を上げる。
「あ、ああ……それならお言葉に甘えさせてもらうぜ……」
言いながら、じりじりと後ずさっていく高槻。
が、すぐに何かに気づいたように周囲を見回す。
「って、あ、あの野郎……いつの間にか一人で逃げやがった!
畜生、待ちやがれ俺様の獲物! そして俺を置いていかないでくれ!」
言葉だけを残して、高槻は脱兎の如く逃げ去っていった。
夜の森に、急速に静けさが戻ってくる。
「……で、あんた……GLとかいう人たちなんでしょ……?
どうするの、戦うっていうんなら……あ、相手になるわよ……!」
夜目にも鮮やかな赤いオーラを立ち登らせ、鋭い棘のついた金棒を平然と片手に提げているあかりに、
マナがいささか震えた声で言う。
対するあかりは何を考えているのか、逃げていく高槻の後ろ姿にも注意を払わず、じっとマナを見つめていた。
「ふぅん……」
「な、何よ!?」
「……男の子、いなくなっちゃったんだ……。じゃあ、こんなもの必要ないよね」
ごとり。
地面を陥没させながら、金棒があかりの手から離れる。
「ど、どういうつも……り……ひゃっ!?」
マナが飛び上がる。
す、と音もなくマナに擦り寄ったあかりが、その手をマナのブレザーの襟元から差し入れたのである。
「……あはは、あったかいね」
「な……ちょ……や、やめなさいっ!」
胸元をまさぐるあかりの手を、マナは赤面して振り払おうとする。
だが、その冷たく細い腕は右に左にマナの手をかわし、その下着に覆われた部分を堪能する。
「―――ね」
「……!」
気がつけば、あかりの顔がすぐ近くにあった。
吐息のかかるような距離に、マナの心臓が改めて跳ね上がる。
するり、とマナの襟元から抜き出された手が、今度はマナの手をそっと握った。
「え……」
「……ふふ」
誘われるまま、マナの手があかりの胸へと伸ばされる。
接触。
それは、どこまでも柔らかく沈み込むようで、
「え、あんた、ひょっとして……」
当然感じられるはずの厚布の感触は、どこにもなかった。
「……うん、つけてない」
「なん、ちょ、どうし……ええ?」
予想外の事態に、マナが動転する。
あかりは、多少装飾過多ではあるが薄桃色の、セーラー服らしきものを着ている。
発育も、当然マナよりも歳の分だけ以上に、ある。
それが下着をつけずにいるなど、考えてもみなかった。
「さっきね、何だか変身……っていうのかな、させられちゃって。
この格好になってから、つけてないんだ。そういうものみたい」
「みたい、って……」
「こういうのも、たまには悪くないよね」
なんだかどきどきするよ、と言ってあかりがにっこりと笑う。
その表情に邪気は感じられない。
ほがらかで優しげなその笑みに、思わず引き込まれそうになる自分を、マナは感じていた。
薄布一枚を通して伝わってくる温かみに、マナの掌がじんわりと汗をかく。
「ね……やわらかいでしょ……?」
囁かれる声は、甘やかで。
「直にさわっても、いいんだよ……」
ひどく、蟲惑的だった。
あかりの鼓動が、掌を通じてマナを呑みこんでいく。
「いらっしゃい……」
言いながら、あかりの手がそっとマナのそれを導こうとする。
乳房を掴むように触れていた手が、なめらかな鎖骨、白い首筋を通り、セーラー服の襟元へと伸びる。
いつの間にか、あかりの全身から立ち登る真紅のオーラが、その勢いを増していた。
それにも気づかないまま、するりとほどかれた濃桃色のスカーフに目を奪われているマナ。
その手が、小さく開かれたあかりの襟の中へと誘われようとした、その瞬間。
マナが腰に提げていた図鑑から、突然、青い光が涌きあがった。
「……!? わ、あたし、いま、何を……」
「―――ちぃ……っ!」
その光を目にした途端、マナが己を取り戻す。
幻惑を破られたあかりが、舌打ちをして飛び退こうとする。
真紅のオーラが、残像のように揺らめく。
だが青い光はそんな真紅の光を追うようにその光跡を伸ばし、あかりを捉えた。
「なっ……く……ああああっ!!」
青い光と赤い光がぶつかり、紫色の火花を散らして、弾ける。
それは互いを相殺しようとするかのような、美しくも激しい光景だった。
そんな紫色の火花に包まれるあかりに見入っていたマナだったが、
「え……?」
ふ、と。
舞い散る光の中に、何か違う像が結ばれたような気が、していた。
「この光……!?
なに……? 何か、伝わって……?」
映像だけではない。
音、匂い、風のそよぐ感触。
それらすべてが、紫色の火花を通して、マナの五感に語りかけてこようとしていた。
「いや……いや……っ!」
赤と青の光に包まれたまま、あかりが弾かれたように叫ぶ。
「これ……、あんたの、記憶……なの?」
「やめろ……やめて……っ! やめて……お願い、やめて……!」
あかりの口から悲痛な叫びが漏れ出る。
しかし、絡まりあう赤と青の光は、あかりの周囲で捻れ、融けあうように、紫の光へと変わっていく。
今や火柱とも映るその紫光は、それを見つめるマナをも呑みこんでいく。
光の中で、マナの意識はいつしか、一人の少女のそれに重なっていった。
回避いる?
よかろう、ならば更なる回避だ!
負けてたまるか、こっちも回避だぜ!
それは、悲しい記憶だった。
一人の少女が、平凡な恋をする物語だった。
大好きな人がいた。
振り向いてほしくて。
振り向いてもらえなくて。
だから大好きな人のために、自分を変えた。
一生懸命に、努力をした。
舞い散る桜の花びらの夜。
青い青い、新しい一年の始まりの朝。
次第に、大好きな人の視線が、自分に向けられるようになっていた。
そして。
大切な思い出になるはずだった、あの日。
長い長い想いが、実を結ぶはずだった、あの部屋。
受け入れられない。
こんなにも、こんなにも大切に想っているのに。
あの人は、私を愛することが、できなかった。
それは、裏切りだ。
私を好きだと言ってほしかった。
私を好きだと言ってくれて、嬉しかった。
けれど、
だから、
ならば、
どうして、
私に、女の傷痕を、残してくれなかった。
それは、悲しい記憶だった。
「違う……違う、違う、違う、違う違う違う……ッ!」
あかりの叫びだけが、闇に沈む森を侵していく。
「それが―――」
マナの、奇妙に静かな声が、あかりの叫びを刺し穿つ。
「それがあなたの、一番奥にあるもの」
「違うっ!」
硬く目を閉じて、あかりが首を激しく振る。
「怖いんだね」
「違う、違うっ!」
跪き、赦しを請い願うように俯いて、あかりが叫ぶ。
「あなたは怖いんだ。―――彼にもう一度、拒絶されるのが」
「―――違、う……っ! もう、私は―――、」
地に額を擦り付けるようにうつ伏せたあかりの背から、赤い光が、膨れ上がる。
「私にはっ! GLがあるから……!
もう、もう浩之ちゃんなんか要らないんだぁっ―――!」
あかりを包みこんだ赤い光が、釜首をもたげた大蛇のように、マナへと襲いかかる。
対するマナはしかし、静かにその姿を見つめていた。
その手にした図鑑から、青い光が、滾々と涌き出している。
背筋を伸ばし、真っ直ぐにあかりと真紅の光を見据えて、
「あなたの恐怖……この観月マナとBLが、受け止めてあげる」
言い放つと、同時。
膨大な真紅の光が、マナと青い光を呑みこんだ。
赤一色に染まる世界の中。
しかし荒れ狂う風を正面から受け止めるように、マナは凛と立っている。
その周囲では、赤と青の光が融けあい、紫色の光へと変化していく。
その中で、マナはゆっくりと、しかし真っ直ぐに指を伸ばす。
次の瞬間。
マナの指先から飛んだ青い光の槍が、真紅の世界を断ち割って、ただ一点、神岸あかりの心臓を刺し貫いた。
「―――怖くなんか、ないんだ」
紫の火柱を背に、言葉が響く。
微かに残る青い燐光を払うように、ぴ、と指先を振るうマナ。
それが合図だったかのように、赤い光が、硝子細工の如く、弾けて割れた。
三色の光が、闇に溶けるように、消えていく。
後に残されたのは、
「……うん」
憑き物が落ちたように、清々しい顔をした神岸あかりだった。
仰向けに倒れながら、大地に手足を伸ばし、ゆったりと微笑んでいる。
「男の子って……ファンタジー」
着ていた制服もフリルが取れ、元に戻っているようだった。
転がっていた金棒も見当たらない。
すべての悪いモノを、あの紫色の火柱が焼き尽くしたかのようだった。
(もう……大丈夫そうね)
その姿を見て、マナはゆっくりと踵を返し、歩き出す。
一つ頷いて、雲に覆われた夜空を見上げて呟いた。
「ようやくわかった気がする、BLの本当の力……」
歩みを止めず、マナは手の図鑑を握りなおす。
この図鑑の存在、BLという力の意味。
それらの答えが、観月マナの中で形を結ぼうとしていた。
【時間:2日目午前1時ごろ】
【場所:E−5】
観月マナ
【所持品:BL図鑑・ワルサー P38・支給品一式】
【状態:ジョブチェンジ・BLの使徒Lv1(クラスB×2)】
神岸あかり
【所持品:支給品一式】
【状態:GL解放】
高槻
【所持品:支給品一式】
【状態:待て獲物!】
七瀬彰
【所持品:アイスピック、自身と佳乃の支給品の入ったデイバック】
【状況:逃亡】
→454 ルートD-2
>>86-88 本当にありがとう、今日は板全体に人が少ないのかなあ…。
93 :
爪痕・夢の跡:2006/11/29(水) 10:26:44 ID:qI0d6rZ4O
「ん…」
あの激戦から数時間が経過した平瀬村の民家の一室でるーこは目を覚ました。
起きたと同時に、左耳がやけに痛いなと思ったるーこだったが、その痛みと同時に先程までの記憶がフラッシュバックした。
「うーへい………」
―――あの時、自分は春原陽平のスタンガンを受けて気を失ったのだ。
そのことを思い出すとるーこは何故か嫌な気分になった。
(――なんなのだこれは?
あの時のことを思い出すと胸が締め付けられるような感じがする…とにかく……嫌だ……)
そんなことを考えながらるーこは一度部屋の明かりを点け、自身の怪我の治療を始めた。
その際、部屋に武器をはじめさまざまな物が置かれてあることに気付いた。
陽平か秋子かそれとも別の者か…誰が自分やこれらの物をここに運んでくれたのかは今はもう判らないが、
マイクロウージーを綾香に奪われてしまった今のるーこには有り難かった。
耳の手当てを済ませると今度は上着を脱ぎ背中の軽い火傷した箇所の治療に入る。
無論、この火傷は陽平のスタンガンによりできたものだ。
(――るーはうーへいに完全に嫌われたかもしれない………)
―――火傷の傷よりもるーこには陽平に嫌われたのではないかという想いから生まれる心の傷のほうが痛かった。
94 :
爪痕・夢の跡:2006/11/29(水) 10:29:10 ID:qI0d6rZ4O
「これは……相当派手にやっていたみたいだな……」
岡崎朋也たち一向は先程の激戦があった場所へと来ていた。
あの後、朋也は由真と見張りを代わり一度睡眠を取った後、渚やみちるたちの知り合いの手がかりが何でもいいから見つからないかと思いやって来たのだ。
由真たちは危険だと最初は朋也に反対したが、
この島にいる以上常に危険であることには代わりはないだろうという朋也の説得により半納得、半諦めて彼に同行することにした。
「――っ」
「お…岡崎朋也ぁ……」
ここに来て3体目の遺体である雛山理央の亡骸を見つけた途端、風子とみちるは朋也の背後に隠れる。
朋也はいい加減慣れてくれよと言いたくなったが、今までこんなもの見たことないんだからしかたないよなと自分に言い聞かせ、言わないことにした。
実際、彼も先程はじめてかつて人(神尾晴子)だったものを見たときは思わず目を逸らしたくなったが、勇気を振り絞ってそれを目に焼き付けた。
自分の父もこのように死んだのかなと思いながら――
「あれ? ねえ、岡崎さん」
「ん? どうした由真?」
「この家――明かり点いてる………」
由真の指差す民家の窓からは確かに光が漏れていた。
治療を済ませたるーこは、これから先どうするか考えていた。が、それはすぐに決まった。いや、考える前から既に決めていたのかもしれない。
(――たとえ嫌われてしまっていたとしても……るーはうーへいに会いたい……)
春原陽平との再開――そのためにすぐに出発しようと部屋に置かれていた荷物を整理していたが、6つあったデイパックの内の1つから意外なものが出てきた。
――それは椎名繭に支給された某リンゴのマークの会社のノートパソコンだった。
95 :
爪痕・夢の跡:2006/11/29(水) 10:35:24 ID:qI0d6rZ4O
「これは……」
るーこは早速パソコンの電源を入れる。何か情報が手に入るかもしれない。調べてみる価値は充分あった。
「――る?」
その時、誰かが民家に入ってくる気配がした。それも数名のだ。
自分をここに運んでくれた者が戻ってきたのか、それとも敵が来たのか。後者の場合部屋の明かりを点けたのは迂闊だったとるーこは思った。すぐさま薙刀を手に取り構える。
「誰かいるのか……っ!?」
「る!? …………うーへいと同じ服……」
次の瞬間るーこの前に姿を見せたのは春原陽平と同じ制服を着た少年――岡崎朋也とその仲間たちであった。
96 :
爪痕・夢の跡:2006/11/29(水) 10:36:24 ID:qI0d6rZ4O
【時間:2日目・午前3時】
【場所:G−3 平瀬村・民家】
ルーシー・マリア・ミソラ
【所持品1:薙刀、ノートパソコン(バッテリー残量・まだまだ余裕)、スペツナズナイフ】
【所持品2:鉈、包丁、トンカチ、、殺虫剤、他支給品一式(2人分)】
【状態:朋也たちと遭遇、現在の目標は陽平の捜索。左耳一部喪失、額裂傷、背中に軽い火傷(全て治療済み)。精神的に軽いショック】
岡崎朋也
【所持品:クラッカー複数、他支給品一式】
【状態:るーこと遭遇、現在の目標は渚・知人の捜索】
みちる
【所持品:武器不明、他支給品一式】
【状態:るーこと遭遇、現在の目標は美凪の捜索】
十波由真
【所持品:双眼鏡、他支給品一式】
【状態:るーこと遭遇】
伊吹風子
【所持品:三角帽、スペツナズナイフの柄、他支給品一式】
【状態:るーこと遭遇】
【備考】
以下の物はるーこの近くに放置されている
・デイパック×5 ・鋏 ・アヒル隊長(9時間後爆発) ・木彫りのヒトデ
そぼ降る雨をものともせず、神岸あかりは意気揚々と歩いている。
(浩之ちゃん……ごめんね、今……会いに行くから!)
GLという幻想から解放された今、あかりは浩之との再会へと胸を躍らせていた。
断絶も来たる再会への伏線でしかなかったとでもいうように、あかりの足音は弾んでいる。
しかし、その楽しげな足取りが、唐突に止まった。
「……誰?」
人影が、あかりの眼前に立ちはだかっていた。
この島で行われているのが殺人ゲームであると、あかりはようやく思い出す。
身構えようとするあかりだったが、しかし金属バットを失った徒手空拳の身では如何ともし難い。
慌てて身を翻そうとするあかりの背に、声がかけられた。
「……私ですよ」
聞き知ったその声に、あかりが再び足を止める。
「……茜、ちゃん……?」
「はい」
現れた少女は果たして、GLの使徒にして同志・里村茜であった。
だが歩み寄ってくるその表情はひどく怜悧で、それがあかりの心中をさざめかせる。
「無様ですね……」
「え……?」
あまりにも温度のない声。
思わず聞き返したあかりの耳に、容赦のない言葉が飛び込んでくる。
「無様だ、と言ったのです」
「あ、茜……ちゃん……?」
「BLの使徒に破れ―――力ばかりか、誇りまで失いましたか。
命から先に失くしていれば、或いはまだ救われたものを」
「なに……そんなこと、」
「そんなことを言われる筋合いはない、とでも? あるのですよ、勿論。
元GL団最高幹部、”無限の誘い受”神岸あかりは、私に糾弾される義務がある」
「き、糾弾……!? 茜ちゃん、何を……」
穏やかならぬ語気に、あかりが言葉を失う。
だが、茜は構わず言葉を続ける。
「糾弾」
どこまでも、無情に。
「―――そして、断罪です」
審判が、下される。
「な……っ! ……え!?」
茜から距離を取ろうとしたあかりを、背後から音もなく忍び寄った何者かががっちりと羽交い絞めにする。
長い黒髪が、かろうじてあかりの視界に入った。
「離して……何なの、茜ちゃん!? ……冗談じゃ、済まなくなるよ!?」
動けないあかりの眼前で、一歩、また一歩と茜が歩みを進める。
「冗談で済ます気などありません。
……ご紹介しましょう。今回、貴女の処断にご協力いただけることになった、森川由綺さんです」
「あは……あかりさん、とっても綺麗なうなじぃ……」
あかりの背後で、荒い息遣いが聞こえる。
女性のものとは思えぬその呼吸と怪力に、あかりの背筋が冷たくなる。
「道すがら出会った方なのですが、今回の件をお話したところご快諾いただけました。
実に性根の真っ直ぐな女性です」
愉しげに言いながら近づいてくる茜の手の中で、分厚い本から緋色の光が漏れだしている。
どろりと垂れ落ちて大地を侵すような、その毒々しい光を見て、あかりが声を上げる。
「……っ! 茜ちゃん、まさか……その力……!?」
「あはぁ……きれい……あかりさん……いいにおい……」
じゅく、と嫌な感触が、あかりの太股を這い回る。
視線を下ろせば、由綺と呼ばれた女性が、自ら零した愛液でてらてらと光る腿を、あかりのそれに擦り付けていた。
「嫌ぁ……っ!」
抗う間もあればこそ、力任せに押し倒されるあかり。
降り続く雨で泥濘と化した地面に、あかりは押し付けられる。
「……何が嫌なものですか、元GLの幹部ともあろう者が」
「茜ちゃん……やめて、やめさせて、お願い……っ!」
必死に懇願するあかりを、まるで唾棄すべきものであるかのように見下ろしながら、茜が口を開く。
「そもそも貴女……佐藤雅史を殺しておいて、今更、浩之ちゃんもないでしょう」
「……ッ! どうし、て……!?」
「―――貴女が知る必要はありません。さようなら、”先輩”」
嘲るような声音。
茜の手に持つ図鑑から、ゆっくりと緋色の光が垂れ下がってくる。
粘り気をすら感じさせるそれが、口腔をこじ開け、体内に満ちて行くのを感じながら、神岸あかりの意識は途絶えた。
「ひ……あああっ……!!」
唾液、愛液、鼻汁、涙。
泥に塗れ、あらゆる穴からあらゆる体液を垂れ流して絡み合う二人の女性をつまらなそうに眺めながら、
里村茜は小さくあくびをしている。
「……まあ、存分にイッてください」
やがてその手の図鑑に、文字が浮き出てきた。
『森川由綺(WA)×神岸あかり(ToHeart) --- クラスB』
それを確かめて、茜は雨宿りをしていた樹から離れると、制服についた泥を払うような仕草をする。
「元GL団最高幹部、神岸あかり……。
貴女なら、充分に役割を果たせるでしょう」
言って歩き出す茜。
泥に塗れながら裸で絡み合う二人には、目もくれない。
代わりに、奇妙な言葉を紡いだ。
「―――もう、いいですよ」
無我夢中で互いを貪り合う二人の他には、聞く者とておらぬ筈の夜明けの森。
しかし、誰に向けて放たれたものかも知れぬその言葉に、答えるものがあった。
空が、裂けた。
そうとしか言い得ぬ断裂が、茜の言葉に答えるように、現れたのである。
その向こう側に、この世ならぬ桃色の空間を覗かせて、断裂はそこにあった。
ぞろり、と。
断裂から、奇怪な触手が、這い出でた。
粘度のある液体を撒き散らしながら一本、また一本と数を増やしたそれは、やがてそのすべてが、
近くにある何かに興味を示したように這いずっていく。
その向かう先には、異様な光景にも気づかずに互いを味わい尽くそうとする、二人の女性がいた。
数刻の後。
泥濘には、脱ぎ捨てられ、或いは破り棄てられた衣服だけが残されていた。
そこには他の何も、残されてはいなかった。
無数の触手も、二人の女性も、その悲鳴すらを呑み込んだ断裂も、何一つとして残ってはいなかった。
やがて放送が鳴り響くまでの、ほんのひと時。
夜明けの森は、本来の静けさを取り戻していたのである。
【時間:2日目午前6時前】
【場所:G−8】
里村茜
【持ち物:GL図鑑(B×3)、支給品一式】
【状態:すべては我が掌中にあり―――】
神岸あかり
【状態:死亡】
森川由綺
【状態:死亡】
→348 459 「StarTRain」 ルートD-2
まだ生きてたのか由綺
103 :
Faith:2006/11/29(水) 16:20:07 ID:bm7l6FL+O
周りの景色が薄ら明るく色づきはじめ、橘敬介の身体を差していた。
肩には気絶したままの上月澪を背負い、自身の乱れる呼吸を気にも留めない。
何度もふらつきながらも彼は休むことも無く夜通し歩き続けた。
追ってくるかもしれないであろう来栖川綾香や水瀬秋子の追撃をかわす為なのも合った。
だが彼にはどうしても確かめなければいけないことが合ったのだ。
平瀬村での惨劇の最中、古河秋生と言う男に告げられた言葉。
『テメェから命辛々逃げ延びたっていう天野美汐にな……!!』
どうしても美汐に会って真意を尋ねたかった。
もしかしたら彼女もゲームに乗っていて、人を陥れることで自身の手を下さずに人を殺していく算段なのだろうか。
自分がされたように他の人間にも同じようなことをしているのではないか。そう考える。
そして逆に、秋生が出会った人間が天野美汐の名前を語りデマを告げ、彼女を陥れようとした可能性も浮かび上がる。
だが結局は本人に聞くしかわからないのだ。
勿論聞いたところで本当に乗っていて自分を騙したのだとしたら『はいそうです』などと答えるわけは無いだろう。
歩きながら堂々巡りな考えを繰り返す。それでも敬介は猜疑心を捨て払いたかった。
元々荷物は美汐の所に置きっぱなしだ。
なによりも氷川村には診療所がある。自身の怪我と、そして背負った澪の応急処置をしておきたかった。
歩くたびに腹部に激痛が走り、気力も体力も著しく奪われていた。
その歩みを止めることは無く敬介は痛みをこらえゆっくりとだが進み続けた。
倒れそうになるたびに理緒の間際の笑顔が脳裏によぎり、自身を奮い立たせてくれていたのだった。
104 :
Faith:2006/11/29(水) 16:21:42 ID:bm7l6FL+O
――どれくらい歩いたのだろうか。
敬介の意識は限界に近づいていた。
腹部から流れ落ちる血は激しさを増し、視界は白く霞んでしまっていた。
民家がチラホラと見え始め、氷川村に入っているのだろうと言う事だけは認識できた。
それでも美汐のいた家から平瀬村に向かった時の景色を思い出すことが出来なかった。
果たして自分はここを通ったのだろうか? 考える気力さえ沸かなかった。
絶え絶えに息を吐きながら、道を、家を、草木を、全ての景色を見渡す。
そして彼の瞳が捉えたものは一軒の家の前に座り込む人影らしきものだった。
ボンヤリとした視界が状況判断をさせてはくれなかったが、それでも警戒は怠らず身を隠すように歩を進めた。
……そこが彼の限界だった。
全身から力が抜け、澪の身体がずり落ちそうになるのを必死に支えるものの
重力に預けるように地面へと落下していく澪の身体を受け止めきるだけの体力は残されておらず、大きな音と共にその場に敬介は倒れんこんだ。
「――!?」
その音に気付いたのか、遠くの人影が何かを叫びながらこちらへ近づいているのがわかった。
(くそ……)
その叫びは敬介には何を言っているのか認識することはできず、動かない身体を憎む声も口に出すことは出来ず
敬介の意識は抗うことも出来ずに闇へと落ちていった。
倒れた敬介と気絶している澪に慌てて駆け寄り現れたのは――NastyBoy、那須宗一だった。
その傷だらけの身体に驚き、眉をしかめながらしばらく考えた後二人を背負い診療所の中へと入っていった。
105 :
Faith:2006/11/29(水) 16:23:50 ID:bm7l6FL+O
橘敬介
【所持品:H&K VP70(残弾数2)支給品一式(誰のものかは不明)花火セットの入った敬介の支給品は美汐の家に】
【状態:普通。左肩重症(腕は上がらない)・腹部刺し傷・幾多の擦り傷・気絶。澪の保護と観鈴の探索、美汐との再会を目指す】
上月澪
【所持品:なし】
【状態:精神不安定。頭部軽症・気絶中。目的不明】
那須宗一
【所持品:FNFive-SeveN(残弾数20/20)包丁、ロープ(少し太め)、ツールセット、救急箱、ほか水・食料以外の支給品一式】
【状態:健康】
【時間:2日目第二回放送前】
【場所:I-7診療所周辺】
(関連421・490 B13)
民家を虱潰しに探してタ−ゲットを探すかどうか。
そんな体力の消耗の仕方を、来栖川綾香は望まなかった。
それにまず求めたかったのは休憩場所だ、いい加減精神的にも肉体的にもつらい面がでてきていたから。
・・・ダニエルを撃ったことに対する後悔の念はもうない、とにかく自分はゲームに乗ると決めたのだから。
S&Wを片手に歩く、綾香は平瀬村を出て森に身を潜めるつもりだった。
一人で身を隠すのであらば、村という集客性の高い場所はそぐわない。
周りに充分気を配りながら、誰にも見つからないようにと綾香は細心の注意を払った。
だが、それは無残にも無意味と化す。
「そこの人〜、おーいそこの黒髪美人〜」
「え?」
呑気な声、まさか自分へのものだとは思わなかった。
呆然。何の警戒心もなく、一人の少年がこちらに向かって駆け寄ってくる・・・何故か割烹着というのも含め、あまりのインパクトに綾香の思考が一瞬止まる。
「はいはいはい、どうもこんにちは。夜道の一人歩きは無用心ですよ、何ならボディガードでもいりませんかね?」
「・・・あなた、凄いわね」
「はい?」
容赦なくS&Wの銃口を突きつける、返ってきたのはやっぱりどこまでも間抜けな声。
「少しは身の危険を感じたら?私達、殺し合いをさせられているはずだけど」
「え、ちょ・・・そんな、いきなりっ?!」
「いきなりもクソもないでしょ。自分の馬鹿さ加減に後悔でもすれば?」
嫌味なくらい意地悪な笑みを浮かべた。その、つもりだった。
だが目の前の少年はそれ以上慌てた様子を見せず、今度はニヤニヤと笑い出してきて。
・・・気味の悪さに綾香の中で不信感が増す、これはどういうことだ?
答えは、少年の口から語られた。
「ああ、でも大丈夫。ほら、だってその銃安全装置ついたまんま」
「え?」
勿論、そんな訳はない。綾香は確かに手にするこれで、自分の家で働く執事を殺したのだから。
・・・だが、それで彼女が隙を作ってしまったのは事実であった。
一瞬のうちに目の前の少年は懐からショットガンを出し、自分と同じようにそれを水平に構えてくる。
図られた、と気づいた時は既に後の祭りだった。
「はーいはいはい、これで五分と五分っつー訳で」
「・・・ただの馬鹿、じゃあないってワケね」
「怒んないでくださいって、用件だけ済ませてさっさと立ち去るからさ。人探ししてんの、協力してくれよ」
ふぅ、と一つ溜息をつき、綾香は今一度少年の目を見やる。
油断はできない。銃を引く気にもとてもなれない。
・・・だが、この話の流れは、綾香にとっても都合は良かった。
あの女、「まーりゃん」の情報を得られるかもしれない。・・・話が終わるまでは下手に出る、それが綾香の出した結論だった。
「いいわよ。ついでに、私も探してる子がいるのよ。質問させてもらっていいかしら?」
「オッケーオッケー、じゃあ、まずこっちからでいいかな?・・・相沢祐一と美坂香里。聞き覚えあります?」
「ないわ」
「こう、タートルネックのインナーの制服の男子と、ケープつけた赤い制服の女子は?同じ学校なんすけど」
「分からないわね。そういう服装の子は、本当に見たことがないわ。・・・次、私の方いいかしら」
「ええ、どうぞどうぞ」
「まーりゃんっていう女の子を探しているの。一緒にいたんだけど、はぐれちゃって・・・」
「まーりゃん?」
本名は分からなかった。だから、このような言い回しにした。
「ええ、そうよ。服装は・・・今は着物を着ていたと思うの。知らないかしら」
「うーん。もしかして、まーりゃん先輩のことですかね?」
「?!知ってるのっ」
「ええ、学校の先輩です。ぶっちゃけ口聞いたこと無いんで面識は皆無ですけど。有名人ですから」
「・・・彼女の本名、教えてくれる?」
「いいですよ。『川澄舞』です、っていうか先輩ならあっち歩いてましたけど」
「嘘っ!!!」
少年の話に鼓動が早まる、思わず声を荒げてしまう綾香。
いきなりの展開に興奮が抑えられなかった。
・・・探していたあの少女の名前が分かったならまだしも、居所を知る機会がこんなにも早く与えられるなんて、と。
腸の煮え返る感触が蘇ってくる。そんな綾香の様子を気にも留めず、少年は話を続けた。
「あっちの山の方、何か楽しそうに大人数で固まってた気が。ただ、見かけたのちょっと前だったもので、急いだ方がいいかも?」
「どっち、どっちの方なの?!!」
「えーっと、ちょうどここを真っ直ぐ行った・・・って、ちょっと?!」
少年の言葉を最後まで待たず、綾香は駆け出していた。
・・・晴香をあんな目に合わせといて、自分は仲間を作ってるということ。それは絶対に、許せない行為。
綾香の中で膨らんでいた怒りが臨界点を突破する・・・その仲間ごと、目の前で皆殺しにしてやる。
決意は瞬時に固まった。
「ああそうそう、俺は・・・『春原陽平』です!金パツの春原!よろしくお願いしますよ〜」
後ろから響く少年の声、だが気にしてなんかいられない。
綾香は彼の指し示した方向へ、とにかく全力疾走するのだった。
「おーおー、頑張れよーっと」
勢いよく走り去っていく綾香の背を、北川潤は頭に被っていた頭巾をハンカチのように振りながら見送った。
・・・正直もうちょっとつっこまれるかなーと思ったが、どうやらそれは杞憂のようで。
あそこまで熱くなりやすいっていうのもどうかと。彼女の先行きが不安になるが、まぁ潤には関係のないことだ。
短い時間で一人を混乱させることができたという結果には満足している。
・・・ただ、少々強引な面が強いので、化けの皮というのもすぐ剥がれるだろう。
自分の知り合いを祐一、香里と語ったことからいつかは彼女も潤の存在を突き止める。
でも、それでいいのだ。
嘘で固めるより、ある程度の本当のことを混ぜた方が人は躍起になって真実を求めようとするのだから。
その「ある程度の本当」を頼りに綾香が潤のことに気づくのは、まだきっと先のこと。
「それまで充分、踊っといてくださいな」
そう言って、潤は綾香とは逆方面・・・平瀬村へと、歩を進めるのだった。
110 :
補足:2006/11/29(水) 16:46:24 ID:2/tqnbIA0
来栖川綾香
【時間:1日目午後11時】
【場所:F−2】
【所持品:S&W M1076 残弾数(6/6)予備弾丸28・防弾チョッキ・トカレフ(TT30)銃弾数(6/8)・支給品一式】
【状態:舞のいる集団に向かう、腕を軽症(治療済み)。麻亜子とそれに関連する人物の殺害(今は麻亜子>関連人物)、ゲームに乗っている】
北川潤
【時間:1日目午後11時】
【場所:F−2】
【持ち物:SPAS12ショットガン(8/8+予備4)防弾性割烹着&頭巾 九八式円匙(スコップ)他支給品一式、携帯電話、お米券×2 】
【状況:新しいターゲットを探す】
(関連・380・461)(B−4ルート)
111 :
最近の女性:2006/11/29(水) 17:07:37 ID:i1/zQQ+L0
「医者を探すといっても何処に行けば良いんだ……」
祐一は学校の正門を出た所で足を止め、頭を抱えていた。
祐一達は観鈴の治療の為に霧島聖を探さねばならなかったが、聖の居場所に見当がついている訳ではないのだ。
この広い島の中を手当たり次第に探し回ったのでまず発見出来ないだろう。
歩き出す前にある程度行き先を絞っておく必要があった。
「ふむ……」
英二は少し考えた後口を開いた。
「まずは診療所に向かってみよう。医者ならそこにいる可能性が一番高い筈だ」
「そうね……もしいなかったとしても治療に役立つ道具はあるでしょうしね」
診療所までは距離があったが、他に良い選択肢はない。
今は診療所へ向かうしか無かった。
行き先が決まった所で、英二は校舎の方へと振り返った。
(芽衣ちゃん……埋葬もしてあげられなくてすまない。でもきっと君なら観鈴君を救う事を望むと思うから……)
祐一にも環にも聞こえないくらいの小さな声で、
「芽衣ちゃん、行ってくるよ」
英二は最後にそう呟いた。
こうして彼らは診療所へ向けて歩き始めた。
・
・
・
「英二さん、次は私が背負いますよ」
「いや、女の子に背負わせる訳には……」
「大丈夫ですよ、これでも力には自信がありますから」
これまでずっと英二と祐一が交代で観鈴を背負っていたが、流石に二人とも疲れが見え始めていた。
それを心配した環は気丈な笑みを浮かべながらそう言ったが、別段彼女は筋肉質な体型には見えない。
「まるで男みたいな台詞だな」
英二がどうするか迷っている間に横から祐一が茶化す。
その時どこかでピキッという音が聞こえ、周りの気温が数度下がった気がした。
112 :
最近の女性:2006/11/29(水) 17:08:38 ID:i1/zQQ+L0
すいっ、と環の手が祐一の顔に向けて伸びる。
「ん、どうした向坂?」
「だ〜れが、男みたいですって?」
祐一の顔を掴む環の手に渾身の力が籠められた。
メキメキメキという嫌な音があがりそうな程の握力で祐一の頭を締め付ける。
「あだだだだっ!!割れる割れる割れる!!」
たちまち祐一の悲鳴が辺りに響き渡る。
ぱっと手を離すと、祐一は地面に崩れ落ちた。
祐一は暫くの間頭を抑えて呻いていた。
「…………」
「こういう訳ですから、私に任せてください」
環が呆然としている英二の方へ振り向き、にっこりと笑みを形作りる。
その笑みが今の英二には何よりも恐ろしく感じられた。
「あ……ああ、それじゃよろしく頼むよ」
英二は引き攣った笑いを浮かべながら、観鈴を環に託した。
すると環は軽々と観鈴を背負い歩き出した。
その後ろを祐一と英二が続く。
「……少年、最近の女性は怖いな」
「全くですね。古き良き時代はもう過ぎ去ったのか……」
祐一はまだ痛む頭を手で抑えている。
彼らは環に聞こえないような小声で話しながら、うんうんと頷きあっていた。
113 :
最近の女性:2006/11/29(水) 17:10:00 ID:i1/zQQ+L0
【時間:2日目午前4:00】
【場所:F-09街道】
向坂環
【所持品:支給品一式】
【状態:健康、観鈴を背負っている】
緒方英二
【持ち物:ベレッタM92・予備の弾丸・支給品一式】
【状態:祐一と共に古き良き時代の思い出に浸っている。疲労】
相沢祐一
【持ち物:レミントン(M700)装弾数(5/5)・予備弾丸(15/15)支給品一式】
【状態:英二と共に古き良き時代の思い出に浸っている。疲労】
神尾観鈴
【持ち物:ワルサーP5(8/8)フラッシュメモリ、支給品一式】
【状態:脇腹を撃たれ重症、環に担がれている】
(関連470・ルートB13)
114 :
噂の二人:2006/11/29(水) 17:58:15 ID:j6vmJKVg0
「…センスが悪いぞ、うーへい。ダメダメのぷーだ」
水瀬秋子に連れてこられた民家の一室で、るーこことルーシー・マリア・ミソラは自分が着ている洋服を見ながら不満げに言った。
「ははっ、そんなわけないだろ? ナウでヤングって感じで最高だって」
「それは死語だと思うぞ」
るーこが着ているのはパーカーにジーンズといたって普通の服装なのだが、どうも気に入らないらしく、しきりに服の裾を引っ張ったり足をぷらつかせている。
「服は決まったかしら?」
ドアの向こうから秋子の声が聞こえた。彼女は春原とるーこが服を選んでいる間もずっと周囲を警戒していた。
「おーけー。もういいっすよ」
「待て。まだうーは…」
るーこが言い掛けるのも気に留めず、ぐいぐいと強引に連れ出す春原。
「さて、次は汗を流さなくちゃな。んで飯を食って…さっさとみんなを探さないと」
矢継ぎ早に行動を決める春原に対して、戸惑いをるーこは覚えた。これまで自分が振り回すことはあっても振り回されたことはほとんどなかったからだ。
「すんませーん、風呂貸してもらえるっすか」
「お風呂? ええ、だったらそこにありますからご自由に使って下さい」
秋子が廊下の奥を指差すと、春原はそこへ行くように促した。
「ほら、行ってこいよ。僕と秋子さんでここは守っててやるからさ」
「しかし…大丈夫なのか? それにうーへいはどうする。風呂には入らないのか」
「るーこの後にでも入るさ。それに僕だって一応男だしね。これくらい出来なくてどうすんだよ」
るーこはしばらく迷っていたが、やがて納得してウージーを春原に手渡した。
「…分かった。信じる、うーへい」
るーの力は信じる力。だから信じて、春原に背中を任せることにした。しかしそれだけでは何となく照れ臭い気分だったので、冗談半分にるーこは言った。
115 :
噂の二人:2006/11/29(水) 17:58:47 ID:j6vmJKVg0
「…覗くなよ?」
「ぶっ! のっ、覗いたりなんかするわけ、なななないっての、ははは」
本気で慌てたように言う春原にまたふふ、と笑うるーこ。何故だか、笑う機会が増えたような気がする。
「冗談だ。じゃあな、うーへい」
満足げに去って行くるーこを尻目に、春原は乾いた笑みで見送った。実は少しだけ考えていたのである。
「仲がよろしいんですね」
「いや、まあ、ね。うん、出会ってまだ一日も経ってないけど大切な仲間っす」
一日も経っていない、という春原の言葉に秋子は少しだけ驚いた。こんな殺伐とした状況でそこまで人を信用できるものなのか。
「…どうしたんすか?」
「いいえ、何でもないですよ。それより、隣の寝室に娘の…名雪がいるのですが、よろしければ様子を見てきてもらえませんか? 警戒はわたし一人で大丈夫ですから」
「そりゃ構わないですけど…秋子さんが行ったほうがいいんじゃないすか? 娘さんなんでしょ? 僕が行くより安心できると思うんですけどね」
もっともな春原の指摘にも、秋子は首を振る。
「寝ていると思いますから大丈夫です。それに、あなた達は疲れているようですから…今まで気を張り詰めていたんでしょう?」
確かにここまで緊張の連続で疲労感は否めない。小休止の意味で見てくるのもいいかもしれない。
「…わかりました、じゃあ少しだけ見てきます。特に何もなかったらすぐに戻ってきますんで」
そう行って寝室へ向かおうとする春原を、秋子が一言付け加える。
「ああそうそう、今寝室には娘以外にもう一人女の子がいるんです。上月澪ちゃん、って言うのですが…口をきくことが出来ない子なんです。さっきまでは寝ていましたが…今は起きていると思います」
「口がきけない? 病気か何かで?」
「そこは詳しく知らないのですが…ともかく、そういう子だっていうことを知っておいてください」
情報として伝えたということだろう。春原は頷くと名雪の部屋へと向かった。
* * *
一時間ほどの眠りから覚めた後、上月澪は目を覚まさない名雪を心配していた。
116 :
噂の二人:2006/11/29(水) 17:59:43 ID:j6vmJKVg0
まだ一度として会話はしたことがないが元より親切で優しい性格である澪は知り合いであるかどうかなど関係がなかった。
しかしその一方で澪は臆病でもある。名雪を心配する裏で外ではこんな恐ろしいことが行われているのか、と思う。
名雪の傷を見ればそれは容易に推測できる。
折原浩平や先輩の深山雪見、川名みさきなどの安否ももちろん気がかりであったが一人で探しに行ける気概もなかった。秋子は名雪が言わぬ限りここから動く気はさらさらないであろう。
結局の所、澪は偶然仲間がここへ来てくれることを祈るしかなかった。
「ちょっといいかな?」
新たな、男と思われる人の声。澪は一瞬心臓が止まるかと思ったがこの家にいるということは危害を加えるような人間ではないだろう。澪は名雪から目を離し、寝室の扉を開けた。
「ちーっす、ここにいる名雪、っていう人の様子を見に来ました」
目の前にいたのは金髪の少年。顔は二枚目というよりは三枚目だ。
澪はサッとスケブを取り出すといつものようにさささと字を書いていく。
「『こんばんは、なの』」
「上月澪ちゃん、だっけ? 可愛いねぇ〜。僕は春原陽平ってんの。ツレもいるけどそれはまた後でね。で、様子はどうなのさ」
様子とはもちろん名雪のことだ。澪はコク、と頷くと春原を名雪の寝ているベッドまで案内した。
「寝てるようだけど…何かうなされてない? ってか、暗くてよくわかんないんだけど」
リビングも暗かったが、ここはもっと暗かった。秋子が人がいることを悟られないために部屋全ての電気を消しているからだ。
そんな事情を知らない春原は無遠慮に部屋の電気をつけようとする。
それを見た澪は慌てて春原にしがみついた。
「お、おいっ、何すんだよっ…え? 理由があるって?」
それから、澪のスケブを通して電気をつけてない大方の理由を聞かされる。それを聞くと春原は感心したようになるほどねぇ、と呟いた。
「まぁ、電気云々に関してはいいや。それより、あの子ひどくうなされてたように見えたけど何かあったのかよ? 分かる範囲でよければ教えてくれない?」
澪はコク、と頷くと名雪がここへきた時の状況を説明し始めた。
肩に酷い刺し傷を負った名雪。そして気絶した後はずっとこのままだということ。
117 :
噂の二人:2006/11/29(水) 18:00:21 ID:j6vmJKVg0
「なるほどね…誰かに襲われたってことか。けど、生きているだけマシじゃん? 死んじゃったら何にもならないからね…」
春原がそう言った時、寝室にもう一人の来訪者が訪れた。
「出たぞ、うーへい。うーあきに聞いたらここにいるって言ってたからな」
るーこだった。風呂に入ったせいか幾分さっぱりした顔になっている。まだ立ち上る湯気が何とも艶めかしい。
誰か分からない澪が春原に説明を求める。
「ああ、紹介するよ」
春原はそう言うとおもむろに立ち上がりるーこの横に並び、
「僕達は!」
それに会わせてるーこも叫ぶ!
「噂のカップル!」
「陽平と!」「るーこだ!」
…しかし、澪からは何かしらの反応が帰ってくる様子もない。
「全然ダメだぞ、うーへい。やはりお前のセンスはぷーぷーのぷーだ」
「おかしいなぁ…僕の読みだとそこは『噂のカップルじゃなくて噂の刑事でしょ』ってツッコミが…って、この子喋れないんだったあぁぁぁぁ! つい脊髄反射でっ」
地団駄を踏んで悔しがる春原。それを見ていた澪がスケブに書きこむ。
「『あのね』」
「『なんでやねん、なの』」
【時間:2日目0時30分】
【場所:F−02】
118 :
噂の二人:2006/11/29(水) 18:01:03 ID:j6vmJKVg0
水瀬秋子
【所持品:IMI ジェリコ941(残弾14/14)、木彫りのヒトデ、包丁、スペツナズナイフ、殺虫剤、
支給品一式×2】
【状態・状況:健康。主催者を倒す。ゲームに参加させられている子供たちを1人でも多く助けて守る。
ゲームに乗った者を苦痛を味あわせた上で殺す】
春原陽平
【所持品:スタンガン・支給品一式】
【状態:スベる】
ルーシー・マリア・ミソラ
【所持品:IMI マイクロUZI 残弾数(30/30)・予備カートリッジ(30発入×5)・支給品一式】
【状態:疲労回復。服の着替え完了】
上月澪
【所持品:フライパン、スケッチブック、ほか支給品一式】
【状態・状況:浩平やみさきたちを探す】
水瀬名雪
【持ち物:GPSレーダー、MP3再生機能付携帯電話(時限爆弾入り)
赤いルージュ型拳銃 弾1発入り、青酸カリ入り青いマニキュア】
【状態:肩に刺し傷(治療済み)、睡眠中。起きた後の精神状態は次の書き手次第………】
【備考:B-10】
119 :
仲間を求めて:2006/11/29(水) 23:50:14 ID:qI0d6rZ4O
「さて茜。これから先どうする? このまま朝までここで待機しているか、朝になる前に移動するか……」
先程までガチバトルでお互いボコボコに殴り(時々蹴り)合ったので今まで蓄まっていた欝憤が全て解消されてスッキリした智代と茜はこれから先どうしようか話し合っていた。
「そうですね…外の方も落ち着いたみたいなのでこのままここに留まっていても問題は無いかもしれませんが………」
「それまでに何人の参加者が犠牲になるか………だな?」
「はい。おそらくこの数時間の間にゲームに乗った人は間違いなく増えています」
「それに比例して犠牲者も増える……」
「――1人でも多くの人を助けるならいつまでもここで休んでいる場合ではないと思います」
「そうだな……」
そうして結論着けると智代は自分の荷物を持った。
「よし、それなら行くぞ茜。先程の外での騒ぎの余波が広がらないうちに1人でも多くの同志と合流するんだ」
「はい」
外ではほんの十分ほど前まで来栖川綾香、神尾晴子、水瀬秋子ら総勢11名(うち3名が死亡)の参加者による激しい戦いがあったが、今はそれが嘘のように静かだった。
まともな武器がなかった自分たちがあの戦いに巻き込まれなかったのは奇跡だったと智代と茜は思った。
「茜、朝までにこの村を離れるべきだと私は思うんだが、おまえはどう思う?」
「同感です。もしかしたら先程の騒ぎを聞き付けて別の敵が来る可能性もありますから」
「そうだな。それに近くにまだ敵が潜んでいる可能性もある」
「決まりですね。……しかし、先程の取っ組み合いで私たち少し絆が深まったんでしょうか? やけに意見が一致する気がするのですが」
「かもしれないな」
思わずふっと笑う智代。それにつられて茜もふっと笑った。
ちなみに、彼女たちが去った倉庫から少し離れた茂みには休息を取っていた綾香がいたのだが、智代たちは運良く接触することはなかった。
つまるところ、彼女たちの予想は当たっていたわけである。
120 :
仲間を求めて:2006/11/29(水) 23:51:51 ID:qI0d6rZ4O
春原陽平はあれからずっと泣き続けた。しかし、もう今は流す涙も枯れた。
そのため彼は何もせずただぼうっとして空を見上げて惚けていた。
今さら皆のもとに戻る気にもなれなかったし、戻っても後の祭りである。
――もう何もしたくなかった。いっそこのまま死んだほうがマシなんじゃないかとすら思う。
自分が死んでも芽衣の奴はしっかりした子だからきっと大丈夫だろう。
――誰かの足音が聞こえた。
それも1人ではない。
追撃が来たのだと春原は思った。
殺されるという恐怖よりも、これで楽になれるという安堵感のほうがあった。
皮肉な話だなと春原も思う。
(さあ――僕はここにいるぞ殺戮者。殺るからには一思いに殺れ。くれぐれも情けなんてかけるなよ……)
春原は覚悟を決めて目を閉じた。
そういえば、るーこと最初に出会ったときもこんな感じだったなと思いほくそ笑みながら。
「―――なにニヤニヤしているんだ春原?」
「へ?」
目を開く。そこには呆れた顔で春原を見る智代と茜がいた。
121 :
仲間を求めて:2006/11/29(水) 23:54:06 ID:qI0d6rZ4O
【時間:2日目・午前0:30】
【場所:G−3(村外れ、教会周辺)】
坂上智代
【所持品:手斧、他支給品一式】
【状態:全身打撲、反主催の同志を集める】
里村茜
【所持品:フォーク、他支給品一式】
【状態:全身打撲、反主催の同志を集める】
春原陽平
【所持品:スタンガン、他支給品一式】
【状態:全身打撲、数ヶ所に軽い切り傷、心身共に衰弱気味、自信喪失、やや自暴自棄】
関連ルート・B−13、他
「や、やっと・・・街道かよ・・・」
抱えなおしたイルファの重みに潰されそうになりながらも、折原浩平はめげずに頑張っていた。
外れた頭部は簡単にはめ込み直せた、一応彼女は元に戻ったということにして彼は再び歩き出す。
同じミスは繰り返さない、今度は事前にきちんと地図を取り出すことも忘れなかった。
何とか現在位置を把握したところで、浩平は次の行き先を探す。
学校を見かけたということを記憶の頼りに検討をつけ、その上で今番近い建築物を求めた。
とりあえずそこで休憩したかった、それだけを考えた。
東に進めば必ず街道に出る、それを頼りに浩平は足を動かし続けた。
一歩一歩の進度は遅かったが、何とかそこまで辿り着いた時は・・・もう、感動で涙がちょちょ切れそうになる。
「・・・やっぱり、あった」
そして。
街道沿いには、古びた建物がポツンと存在していた。
無学寺。地図の通り、浩平の待ち望んだものがそこにあって。
「やっと、やっと・・・ひと、休み・・・」
疲労はピークを迎えている、一刻も早くイルファを降ろして横になりたかった。
ただ、それだけを望んでいた。
それなのに、ただ、それだけだったのに。
「む?!何よあんた、ここは真琴達の場所よ。何か用?」
「さ、沢渡さんっ、不用意に外に出ちゃ意味がないですよっ」
小さな女の子が二人、入り口を塞ぐように現れる。
何事か。浩平が、口を開こうとした瞬間だった。
「問答無用!とりゃあー」
鞘のついたままの日本刀が振り上げられる、あれは何を狙っているのか。
(え、俺?)
オーイエス、その通り。衝撃が来たと同時に、浩平の視界も閉ざされるのであった。
ズキンという、頭の痛みで目が覚める。
「いたっ・・・」
「あ、目が覚めましたか」
声を漏らした途端、ひどく優しい声が降り注がれた。
薄く目を開けると、少しウエーブのかかった綺麗なロングヘアが目の前にあり。
ゆっくり身を起こす・・・固い床の感触に、浩平の中で疑問が沸く。
「え、ここは・・・」
「無学寺です。すみません、ゲームに乗った人が入ってきたら危ないと思って見張りの人を立てていたのですが・・・ちょっと、勘違いがあったみたいで」
見渡すと、数人の少女達がここに収容されていることが分かった。
浩平は今一度、一番近くにいた年上らしき少女に目を合わせる。どういうことなのか、問う前に彼女は答えた。
「負傷した人・・・ではないですけど、そういう状態の参加者を背負っている人が、ゲームに乗っている訳ないですもの。本当に、すみませんでした」
「あ、ああ・・・あの人、そういえばどうなったんだ?俺が駆けつけた時にはもう壊れてたんだ」
「大丈夫です、ただバッテリーが切れていただけらしいです。同じロボットということで彼女が見てくださいました」
少女が紹介するように指差す先にいたのは、いやに個性的な服装をした女の子だった。
「一晩充電すれば問題ないです、ご安心ください〜」
ほんわかとした笑み、こちらまでつられて笑ってしまう。
柔らかい雰囲気に心温まる、そんな浩平に対し少女は改めて自己紹介をした。
「私は久寿川ささらです、こちらはほしのゆめみさん。あと・・・」
それからは、ここにいるメンバーと順繰りに挨拶をしていくことになった。
浩平に一撃与えたのは沢渡真琴、彼女と一緒に見張りをしていたのは立田七海という二人の少女だった。
「あ、あの時はすみませんでした・・・」
「君が謝ることじゃないから、気にしないでいいよ」
「ふんっ、紛らわしいそっちの方が悪いんだもん!」
「いや、お前は謝れ」
そして、いやでも目に入る車椅子に腰掛けた少女、小牧郁乃。
このような状態でゲームに参加させられてしまうということを不憫に思う、だがそのような同情を郁乃は望まない。
浩平も瞬時に悟り、当たり障りない言葉だけを並べておいた。
「あともう一人、今は見張りをしてもらっているんですが宮内レミィさんという子がいます。明るくて面白い子ですよ」
「そっか。せっかくだから、見張り手伝おうか?」
「え、でも・・・」
「女の子一人じゃ危ないだろうし、俺は今寝てたおかげで眠気はふっとんだ。ちょうどいいよ」
「ささらさん、せっかくですしお言葉に甘えたらどうです?」
「そうですね・・・では、一時間ほど経ちましたら交替に行きますから。それまでお願いできます?」
「了解、じゃあいってきま・・・」
立ち上がった時だった。
一人もしゃもしゃと何かを食べている少女が目に入る、真琴だ。
その、彼女の口に入れているものに非常に見覚えがあった。
「こらお前、人のダンゴ勝手に食うな」
「あうっ、何よケチねー・・・」
油断も隙もなかった。
真琴からバックを奪い、レミィと呼ばれる少女の元へ向かう浩平。
とりあえず何とか生きている人間に会えたという事実は、少なからずとも浩平の心に安心感を与えたのだった。
【時間:1日目午後11時】
【場所:F−9・無学寺】
折原浩平
【所持品:だんご大家族(だんご残り95人)、イルファの首輪、他支給品一式(地図紛失)】
【状態:見張りに行く】
イルファ
【持ち物:フェイファー ツェリスカ(Pfeifer Zeliska)60口径6kgの大型拳銃 5/5 +予備弾薬5発(回収)、他支給品一式×2】
【状態:充電中・首輪外れてる・左腕が動かない・珊瑚瑠璃との合流を目指す】
小牧郁乃
【持ち物:写真集二冊、車椅子、他支給品一式】
【状況:休憩、七海と共に愛佳及び宗一達の捜索】
立田七海
【持ち物:フラッシュメモリ、他支給品一式】
【状況:交替で休憩、郁乃と共に愛佳及び宗一達の捜索】
久寿川ささら
【所持品:スイッチ(未だ詳細不明)、他支給品一式】
【状態:交替で休憩】
沢渡真琴
【所持品:日本刀、スコップ、食料など家から持ってきたさまざまな品々、他支給品一式】
【状態:交替で休憩】
宮内レミィ
【所持品:忍者セット(木遁の術用隠れ布以外)、他支給品一式】
【状態:今は見張り中】
ほしのゆめみ
【所持品:支給品一式】
【状態:交替で休憩】
(関連・242・254・464)(B−4ルート)
「そ……そんな……瑠璃子…………」
放送を聞いた拓也は何かの間違いだと乙のが耳を疑った。
瑠璃子が死んだ? そんな馬鹿な!?
確かに瑠璃子は見た目はか弱い少女にすぎないが、芯は強い子だ。なにより自分の妹なのだからそう簡単に死ぬような子ではない。
そうだ。そうに違いない。
瑠璃子がそう簡単に死ぬはずがない。
瑠璃子が死ぬはずない。死ぬわけがない。
「瑠璃子。嘘だと言っておくれ。
冗談だと言って僕の前に姿を見せておくれ……
瑠璃子、君がいないと僕は………
瑠璃子瑠璃子瑠璃子瑠璃子瑠璃子瑠璃子瑠璃子るりこるりこるりこるりこルリコルリコルリコルリコぉ……」
そう言うと拓也は地面に俯せに崩れ落ち号泣した。
「ううっ…るりこぉ…」
「ううう……」
――許せない。瑠璃子を殺した奴が。瑠璃子を救えなかった自分自身が。そして、このゲームの主催者が。
「ぐううっ…」
――ああ、瑠璃子。死ぬ瞬間はやっぱり痛かったかい? 苦しかったかい?
「………」
……でも大丈夫だよ瑠璃子。
お兄ちゃんが必ず瑠璃子を苦しめた奴らに瑠璃子と同じ苦しみを与えてあげるから……
拓也は決意した。
瑠璃子の敵を討つ。そして瑠璃子を死ぬ原因となったこの糞ゲームを主催した連中を皆殺しにする。
ゲームに乗るだの乗らないだのそんなものはもう拓也には関係なかった。
第一、拓也の全てであった瑠璃子が死んでしまった時点で拓也はこの世界などに興味はない。すなわち、今の拓也は万一の場合自身が死ぬかもしれないことすら恐くはなかった。
ここまで来る途中に拾った8徳ナイフを握り締める。
覚悟は決まった。
「――さて。行ってくるよ瑠璃子……愚か者たちに三途の川を渡るための6銭を渡しにね……」
実を言うと、拓也は放送を最後まで聞いていなかった。
瑠璃子の名前が放送で発表された瞬間から彼には何も聞こえなくなっていたのである。
そのため彼は先程の放送で最も重要な「優勝者はどんな願いもひとつ叶えられる」ということを聞き逃していた。
それは彼にとって幸運だったのか不運だったのかは誰にもわからない。
月島拓也
【時間:2日目・午前6:20】
【場所:G−8(無学寺方面へ移動中)】
【所持品:8徳ナイフ、トカレフTT30の弾倉、他支給品一式】
【状態:瑠璃子の敵を討つ。主催者を皆殺しにする(ただしゲームの破壊が目的ではない)】
【備考】
8徳ナイフは392話『女狐と殺戮者』でリサが使用しそのままG−7に放置されていたもの
【関連ルート】
B−13など
129 :
隔たれた道:2006/11/30(木) 17:38:08 ID:JxulNK6F0
「つっぅ……」
弥生は脇腹の痛みで目覚めた。
起き上がろうとしたものの手足が拘束されており、身動きがとれそうになかった。
何度か強引に拘束を外そうとしたが女性の力ではそれが叶う筈も無く、その試みのたびに腹部に痛みが走るだけだった。
(仕方がありませんね……)
やがて弥生は諦め、全身の力を抜いた。
一度気絶して時間を置いたからか不思議と気分は落ち着いている。
こうなったら運に身を任せよう。
もしこのまま殺される事になっても甘んじて受け入れよう。
逆にもし生きてここを出られたのなら……英二の言う『別のやり方』で生きていくのも良いかもしれない。
弥生はそう考えていた。
全身の力を抜いたまま何も考えずにただひらすら待つ。
どれほどそうしていたかは弥生には分からなかったが、裁きの時は唐突に訪れた。
トントントン……と足音が聞こえてくる。
続いてガチャッ、と音がして弥生がいる部屋のドアが開け放たれた。
(さて、訪れたのは死神か天使のどちらでしょうね……)
そんな事を考えながら来訪者の方へと顔を向ける。
そこに立っていたのは白衣を纏った長髪の女性だった。
「ふむ……怪我人のようだな」
その女性―――霧島聖は顎に手をやりながら呟いた。
「先生、どうかしたの?」
遅れて制服姿の少女、一ノ瀬ことみも部屋に入ってきた。
「いや、女性を発見したんだが見ての通り怪我をしているようでね。少し時間を貰っても良いか?」
そう言われてことみは弥生の傍まで近付いて怪我の様子を窺った。
手当ては一応してあるようだったが、素人目にもそれは荒かった。
「うん。私もそうした方が良いと思うの」
「よし、決まりだな。ではことみ君、少し外で見張りをしてて貰えるかな」
ことみはこくりと頷き、部屋を出て行った。
130 :
隔たれた道:2006/11/30(木) 17:38:58 ID:JxulNK6F0
それを見送った聖はくるりと振り向き、喋りだした。
「私は霧島聖……普段は医者をやっている。君の名前は?」
「私は篠塚弥生といいます……私を助ける気ですか?」
「ああ、そのつもりだ」
「ですが……このゲームで縛られたままにされているという事がどういう事か、少し考えれば分かりそうなものですが」
「分かってるさ。大方誰かに襲撃をかけて返り討ちにされて縛り付けられたまま、放置されていたという所だろう」
「その通りです。それでも私を助けると?」
「ああ。怪我人を放っておく医者など医者ではないからな」
「随分と甘いのですね」
「まあな。だが今から少し、痛い目を見てもらう事になるぞ。今は拘束が役に立ちそうだな」
「え?」
聖はニヤっと笑みを浮かべた後、素早く作業を開始した。
弥生の上着をめくり、腹部を露出させる。
弾丸が体内に残っていない事を確認した後、手早く消毒を行なう。
「――――ッ」
無遠慮にかけられた消毒液により傷口に凄まじい激痛が走る。
弥生は声にならない悲鳴を上げるが、聖の手が止まる事は無かった。
患部に化膿止めを塗りたくり、糸で傷口を縫合し、最後に包帯を巻き、弥生の両手足の拘束を取り外した。
「以上で治療は完了だ……本来ならもっとちゃんとした治療を行ないたかったのだがな。今ある道具ではこれが限界だ」
弥生は立ち上がろうとしたが、すぐに腹部に痛みが走り座り込んだ。
「落ち着きたまえ。動くとまた傷口が開きかねん。暫くは安静にしておく事だな」
弥生は少し考えたが実際聖の治療の手際は素晴らしく、医者であるという言葉に嘘はないだろう。
医者がそう言うのだから、ここは素直に忠告に従うべきだという結論に達した。
「分かりました。ありがとうございます」
「構わないさ。それより人を探しているんだが、霧島佳乃という子を見なかったかね?」
「……残念ながら見てませんね」
「そうか、では失礼する。ことみ君をいつまでも待たせておく訳にもいかないしな」
「私はまた人を……もしかしたら貴女も襲うかもしれません。止めないのですか?」
「怪我人を痛めつける趣味は無い。襲われてから考えるさ」
聖はふっ、と笑って踵を返した。
131 :
隔たれた道:2006/11/30(木) 17:40:38 ID:JxulNK6F0
再び一人になった弥生はさっきの医者について考えていた。
人を探しているという事は恐らく自分にとって大切な誰かを守ろうと考えているのだろう。
そう、以前の自分と同じく。
だが聖と自分では決定的に違う点がある。
その大切な誰かがもし命を落としても、きっと聖は道を誤らない。
僅かな間の出会いだったが、そう確信させる何かが聖にはあった。
英二も聖も、自分には無い強さを持っている。
自分は弱かったから道を誤ってしまったけど、今からでも遅くは無い。今度こそ正しい道を歩いていこう。
英二や聖と再び出会えることがあれば、今度は手を取り合って生きていこう。
復讐した所で由綺は生き返りはしないのだから……。
弥生がそう考えていた矢先に一つの放送が流された。
……
……
…
…
プツリ、と放送が途絶えた。
弥生は聖の探し人、霧島佳乃の名前が呼ばれた事に少なからず驚いた。
だがそれも主催者の発表の衝撃で吹き飛んだ。
「……やはり、私は真っ当な道を歩む事は出来ないようですね」
再び見えた希望に。由綺を救えるかもしれないという希望に。
それは蜘蛛の糸のようにか細い希望だったけれど。
森川由綺……自分にとっての全てである存在の為に出来る事があるのなら。
弥生はその糸に縋り付く他、無かった。
・
・
・
132 :
隔たれた道:2006/11/30(木) 17:42:39 ID:JxulNK6F0
・
・
・
「佳乃……、すまない……」
それは普段の聖を知る者からは想像も出来ない姿。
聖は片手で顔を覆いながら背を震わせて泣いていた。
唯一の身内、最愛の妹……霧島佳乃の死が放送で告げられた。
常人に比べれば遥かに気丈な聖にとっても、その事実は重すぎた。
「先生……」
ことみは掛けるべき声も見つからず、ただ聖の背中をさすり続けている。
一つの放送が、一つの主催者の悪意が、彼女達の道を相容れない物へと隔ててしまっていた。
霧島聖
【時間:二日目06:10】
【場所:c-7】
【持ち物:ベアークロー、支給品一式、治療用の道具一式】
【状態:号泣。灯台・氷川村方面へ移動する予定】
一ノ瀬ことみ
【時間:二日目06:10】
【場所:c-7】
【持ち物:暗殺用十徳ナイフ、支給品一式(ことみのメモ付き地図入り)】
【状態:健康。聖が落ち着いた後は灯台・氷川村方面へ移動する予定】
篠塚弥生
【時間:二日目06:10】
【場所:c-5】
【持ち物:支給品一式(鎌石消防署内に放置)】
【状態:脇腹に怪我(痛みは残っているがもう少し休めば行動可能)、マーダー】
(関連259・440・479 ルートB13)
折原浩平が無学寺を訪れる少し前のこと…
あれからそこそこ時間が経っているというのに、アイツときたら全然戻ってきやしない。まったく、待たされるほうの身にもなってみなさいって感じよ。
アイツから手渡された回転式拳銃を見ながら、私は頭の中で文句を言っていた。いや、実際は文句でも言ってなければ不安で仕方ないのよね。拳銃があっても車椅子だからみんなを守れるかというと…とてもじゃないけど自信がない。
べ、別にアイツを頼りにしてるとかそんなんじゃないからね。いないよりはマシってやつよ。
「小牧さん、さっきからぶつぶつ言ってますけどどうかしたのですか?」
「な、何でもないわよ…」
どうやら口に出していたらしく、私は慌てて言い訳する。ああもう、何でかアイツのことばかり意識してしまう。こんなことがお姉ちゃんに知られたらどうなることか…
「ねえ、ゆめみ」
だから私は考えを反らすためにゆめみに話しかけた。七海のことばかり気にかけていたせいであまり彼女とはロクに話をしていなかった。
「はい、何でしょう?」
「あなた、コンパニオンロボットとか言ってたようだけど…具体的に、どんな仕事をするの?」
するとゆめみははきはきとした朗らかな声で答える。
「はいっ、わたしはプラネタリウムの解説員をする予定です。本日はわたしの試験運用としてここへ来たのですが…」
「それで巻きこまれたってワケ?」
「はい、そうです」
災難なものねぇ…念願の初仕事が殺し合いとは。私以上に根性が悪いわね、主催者って。
それにしても…プラネタリウムか。私は行った事がない。目が悪かったからなぁ。
「プラネタリウムって…どんな所?」
「プラネタリウムですか? そうですね…」
ゆめみは私から少し離れると両手を広げて優雅に語った。
「わたしたちを取り巻く、無数の星の数々。その星々には、たくさんのひと達が遥かな昔から夢を抱き続けてきました。今宵は、そんな夢の世界をわたしと一緒に旅をしてみましょう」
ゆめみはそこで一呼吸置くと、口調を元の感じに戻して、
「…とまあ、そんな感じでわたしが語り手になって天井に映し出された季節の星座をお客様に説明していくんです。たまに特別上映を行ったりもしますが」
「へぇ…星座のこととか、全部分かるの?」
「はい。わたしの情報データベースには星座にまつわる伝説、星そのものの情報、そして画像データなどがインストールされています。ホログラフ機能を使って映し出すことも出来ますよ」
便利なものね。それでも試験用ということで最低限の機能しかないのよね。事実、運動機能なんかは見る限りかなり頼りないと言わざるを得ないし…
ふと、私は気になったことを尋ねてみる。
「ね、フラッシュメモリとかって、読み取れたりする?」
「あ、はい。わたしの頭部にはUSBポートも備わっていますので情報を読みとってスクリーンに映すこともできますが」
やった! 私は思わず似合わないガッツポーズをした。前々から気になっていたこのメモリ。どんな情報が入っているか分からないけど支給品である以上有益なものには違いない。
「それ、使わせてくれないかしら? 私達の支給品にメモリがあって」
「分かりました。…ですが、少し恥ずかしいので接続する時にはちょっと後ろを向いててもらえませんか?」
恥ずかしい? 私は首を傾げたけど、まあロボットにとっては見られたくない部分なのかもしれないわね。
私は頷くとゆめみから目を反らした。ありがとうございます、という声が聞こえた後数秒たって完了しました、という声が聞こえたのを確認して私はゆめみに寄って行った。
「で、どう? なにかある?」
「はい、少しお待ち下さい。ファイルをホログラフに映しだしますので」
パッ、と寺の壁に映し出される映像。パソコンと大差ない映像だった。いくつかのファイルがあるようだけど…
「色々種類がありますね…どのファイルを見られますか?」
「う〜ん、もうちょっと拡大できない? 少し見づらいんだけど」
言った直後に拡大された。流石はロボット、といったところか。私は一番最初のファイルを見る。
「『今ロワイアル支給武器情報』…これ、選べる?」
こんな機能があるのだったらもっと早くに言ってほしかった。とは言ってもメモリがあるなんてゆめみは知らなかったんだし、私だって同じなんだけど…
ゆめみは頷くとファイルを開く。そこには参加者のものと思しき支給武器の画像があった。
「すごいわね…どうやって集めたのよ、コレ」
呆れるくらいに感心する。それから先に進めていくと、実に色々な武器があることが判明した。拳銃は元より、ウォプタルという奇怪な動物、首輪を作動させるリモコン、古河パン…あ、アイツの武器ってやっぱあのポテトだったのね。
死んでしまったレミィの所持品はゆめみだった。レミィの名前を見て、ゆめみが落ちこんだ表情をする。もちろん、私も同様だった。
「ゆめみ、もうコレはいいわよ。閉じて」
わかりました、と言ってゆめみがファイルを閉じる。ざっと流し読みしてみて、気になるものはいくつかあった。
武器もそうだが、もう一つフラッシュメモリがあること、そしてささらの支給品であった謎のスイッチだ。
一度見せてもらったときには何が何やらさっぱり分からなかったがこのファイルには別のことが書かれてあった。
最後の行には『cancellation』、つまり『解除』と書いてあった。それ以外には何も書かれてない。ならば何を『解除』できるかということだが、首輪と考えるのは早計だろう。
そんなことをしたらまず間違いなく参加者は主催者に歯向かうだろうし、主催者にとってはデメリットしかないのよね…それに、戦闘中にスイッチはいつでも損壊する恐れがあるし。
だったら、主催者に『解除』されてもメリットがありなおかつ壊れてもどうでもいい…それは一体何なのかしら?
テキストとのギャップも気になる。説明書には『充電式で何度でも使える、すぐ楽になれるもの』とあったが…全くのデタラメという可能性もなくはないけど…
結局のところ、まだ何も分かりそうになかったのでそれについては後回しにすることにした。
「小牧さん、他のファイルも調べてみますか?」
「ううん、今はもういいわ。残りはみんなが戻ってきてからにする」
ゆめみは分かりました、といってホログラフを消し、メモリを抜き取って私に返した。
私がそれを仕舞ったとき、床で寝ていた七海から呻き声が聞こえた。
「あっ、立田さんが目を覚ましたようですね。行きましょう小牧さん」
ええ、と言って私とゆめみは七海の側まで行った。
「うん…?」
「気がつかれましたか?」
「うわぁ!?」
目を覚ました七海は自身の目の前にいたゆめみに対して思わずすっとんきょうな声をあげた――
【時間:2日目AM3:30】
【場所:無学寺】
小牧郁乃
【所持品:S&W 500マグナム(残弾13発中予備弾10発)、写真集×2、車椅子、他支給品】
【状態:高槻たちが戻るまで休憩】
立田七海
【所持品:フラッシュメモリ、他支給品】
【状態:高槻たちが戻るまで休憩】
ほしのゆめみ
【所持品:忍者セット、他支給品】
【状態:高槻たちが戻るまで休憩】
【備考:B-10、11、13ルート】
それは、暮れゆく夕陽を射貫かんとするかの如き光だった。
薄暮の沖木島。
その中西部に位置するホテルの西側壁面が、文字通り消し飛んだ。
Mk43L/e自動要撃砲台、通称シオマネキ。
その主砲、LERC―――長距離電磁射出砲―――が一閃したのである。
崩壊する建造物の、膨大な瓦礫と粉塵を掻き分けるように、ゆっくりと。
破壊の主が、姿を現した。
グレーと青灰色の都市迷彩に包まれた、四脚八輪の巨大な蜘蛛。
シオマネキがその巨体を細かく震わせるようにしながら、大地へとその身を委ねる。
移動を開始しようと八つの車輪に動力を送ろうとした、その瞬間。
シオマネキは、その長距離センサーに反応を感知する。直上。
本来的には拠点要撃用であり、制空権の確保された状況、或いは高射砲等の対空迎撃戦力と共に
運用することを前提に設計されたシオマネキにとっては、射程範囲外からの接近である。
シオマネキの人工知能が最適解を導き出せずにいる一瞬。
しかし、その致命的な隙を、敵機は何故か看過した。不可解な挙動。
シオマネキはそれを敵機のエラーと判断し、デフセンサー―――近距離管制感覚器―――を作動させる。
得られた諸元に対し、即座に前面の13mmニ連装機銃を斉射。
敵機は背面翼を展開、機銃掃射を後方へと回避した。
シオマネキは己の弱点である機動性の無さ、特に初動の遅延をカバーすべく主脚に備えられた八輪すべてを稼動。
全主輪がしっかりと地面をグリップしたのを確認。巨体に比して複雑な回避行動、ランダムシーケンスに入る。
敵機との距離は現在40メートル弱。有効射程内と判断、機銃掃射を継続する。
同時に周囲の地形を検索。
背後には倒壊の危険がある建造物が存在し、その地盤はシオマネキの自重を支えきれないと判断。
主砲の射程を確保すべく、右前方へと遷移しつつ、途切れなく機銃掃射を行う。
敵機は脚部動力と背面翼の複合動作で極低空を飛行、機銃弾を回避する。
第二主輪が舗装路面を感知。
続いて各主輪が安定路面を確保し、機動性が格段に上昇する。
後部機銃にて敵機を牽制しつつ一気に加速。敵機との距離が600m強にまで広がる。
敵機の急速な接近がない事を確認し、前部第一から第三までの主輪をロック。
巨大な慣性により、後部主輪が右方向へと大きく振られ、スピンを開始する。
路面をはみ出し土埃を上げながら、極小の半径をもって急速な旋回を完了。
同時に後部主脚を接地、対衝撃姿勢へと移行する。
移動の為に回していた動力を、すべて主砲へと転換。
意図を察知した敵機の加速を検知するも、チャージ完了のタイミングの方が早い。
主砲発射。
センサーフードが自動展開し、一時的に外界の情報が遮断される。
******
「―――あっぶないわねー……」
『……あはは、カミュの羽、端っこ焦げちゃったかも……』
これ見よがしに展開された敵主砲の砲撃準備がなければ、直撃は免れ得なかったかもしれない。
機体を加速させながら、春夏が問う。
「どうするのカミュ、これじゃ迂闊に距離も取れないけど」
『う〜、でも近づいたらさっきの小さな弾が来るよ……』
「って、早速来てるけどね……っ!」
左右の手に握り締めた操縦桿を、微妙な角度で倒しながら叫ぶ春夏。
まったくの素人であるはずの春夏であったが、不思議なことに、どこをどう操作すればいいのかが
自然と理解できているのだった。
それはカミュの力だよ、とは黒い機体の弁であるが、
「……っ! なら、操縦なんて、する必要、ないようにしてくれれば、いいの、にっ……!」
右に左に、身体ごと操縦桿を捻る春夏。
『それは……わっ! ……それは、さっきも説明したじゃない、おば様っ』
「―――春夏さん、でしょっ! 何度も、聞いたわよっ……けどねっ!」
機体の右翼すれすれを、機銃の弾幕が掠める。
地面に強く右脚をつくようにして、同時に左翼を展開。下向きの風を起こす。
風圧で機体が傾く勢いを利用してのベリーロール。
周囲の木々をなぎ倒しながら、カミュの腹部が銃弾の列を跨ぎ越した。
『きゃ! ……春夏さん、乙女の身体はもうちょっと丁寧に扱ってよ〜』
「無茶言わないの! こっちだって必死なんだから!」
カミュの説明によれば、大雑把な動きであればカミュ自身の自動操縦で賄えるという。
しかし本来カミュの知性体は操縦者の意識に呼応した機体各部の挙動制御と兵装のコントロールに充てられる為、
戦闘機動などという複雑かつ微妙な判断を要する動きはできない、というのだった。
「ったく、便利なんだか不便なんだか……!」
『そう言わないでよ〜』
彼我の距離感を測りながら口をとがらせる春夏。
近づき過ぎれば弾幕に狙われ、かといって遠ざかれば主砲の餌食だった。
結果として春夏は灰色の機体の周囲を極低空で旋回しながら、敵の有効射角を確認している。
全方位モニターの視界を、右から左へと夕陽が横切った。
東の空は既に暗くなり始めている。
赤と黒のコントラストが、コクピットの中をぐるぐると回っていた。
「カミュ、あなたにも何かないの? ああいう武器みたいなの。ビームとか」
『それが……』
「……ん? 言ってみなさい」
避けている内にコツが掴めてきたのか、若干余裕のある表情で春夏が訊ねる。
が、その表情も一瞬で崩れ去った。
『カミュ、寝起きだからよく覚えてないの……ごめんなさいっ』
「……ああ、そう……」
要するに徒手空拳と同じってわけだ、と内心で頭を抱える春夏。
目の前、といっても数百メートル先の灰色蜘蛛は弾切れを起こす気配すらなく、景気よく弾幕を張り続けていた。
くるくると回る、センサーらしき光とマズルフラッシュ。
「待ってても埒があかない、か……」
『どうするの、おば……春夏さん?』
「ほんとはそういうの、私が訊きたいんだけどね……」
『うぅ……ごめんなさい』
「ま、いいわ。助け合いで行きましょ、カミュ?」
『うん! ……それで、どうするの?』
「とりあえずは……」
薙ぎ倒された木々の間に垣間見える、灰色の巨体。
春夏は迷いなく操縦桿を捻り込む。フルスロットル。
『わ!?』
「―――突っ込むわよ!」
『え……えー!?』
カミュの背面翼が、勢いよく羽ばたく。
その背後に発生する膨大な風圧が、暮れなずむ夕陽に照らされる森を揺らした。
即座に機銃の応射。弾幕が展開される。
その弾の嵐に対して左右の翼を打ち振り、或いは腕を伸ばして巧みに慣性を操りながら、カミュは飛ぶ。
彼我の距離が見る見る縮まっていくのを感じながら、春夏が口を開く。
回避
「飛び道具が無いんだったら、とにかく近づかなきゃ始まらないわ!」
『で、でも……』
相対距離が100メートルを切る。
ばら撒かれる機銃弾は、文字通り弾の幕となって行く手を遮ろうとする。
のたうつ大蛇のように敵を絡めとらんとするその掃射を、ギリギリの間隔で駆け抜けるカミュと春夏。
『近づいてから、どうするの!?』
「勿論―――こうするの、よっ!!」
黒い矢と化したカミュの、細く優美な腕が引かれる。
目の前には、灰色の壁。
「いっけええええ!」
カミュの右拳が、灰色の機体の左側面装甲を直撃する。
衝撃と、悲鳴が同時に響いた。
『い……ったあああああいぃ!!』
「……やったの!?」
慌ててモニター越しに状況を確認しようとする春夏。
どのような仕組みによるものか、膨大な慣性はコクピット内にほとんど影響を与えていないようだった。
見れば、カミュの拳は相手の装甲板を貫いており、そして、それだけだった。
「……え?」
目の端に、きらりと光るものが映る。
くるくると回る赤い光は、完全に静止したカミュを捉えていた。
「……やば、離れるわよ、カミュ!」
『え、ちょっと、これ抜けなくて……きゃあっ!?』
これハカロワだよね回避
シオマネキカコイイよシオマネキ
ほんの一瞬前までカミュがいた位置を、機銃弾の掃射が駆け抜ける。
間一髪、カミュは翼を打ち振るってバックステップ。
横っ飛びに斉射をかわし、そのまま加速する。詰めた距離が、瞬く間に開いていく。
「ふりだしに戻る、か……!」
『……おば様、乱暴……』
カミュの涙声が、春夏に伝わってくる。
先刻の旋回半径まで押し戻されたことに舌打ちしながら、春夏はカミュに謝罪する。
「……キックの方がよかった?」
『そういうことじゃないよっ!』
「あはは、……ごめんなさい」
『もう、手がしびれちゃったよ……』
距離が開いた分、余裕のある回避機動を取りながら春夏がカミュの右腕を確認する。
「……でも、傷ひとつないみたいね。うん、子供は丈夫が一番!」
『……おば様、反省してないでしょ』
「え? ……あはは」
『もうっ! カミュはあんなの叩くようにはできてないんだから!』
「そうなの?」
いまだ森の緑が濃く残る一帯の木々を遮蔽物にしながら、微妙に相対距離を調整し続ける春夏。
『そうなの! ……あ』
「どうしたの、カミュ?」
何かに気づいたような声音に、春夏が周辺を見渡す。
だが、海岸線の向こうに没しようとしている夕陽と、それを背にした灰色の敵、そして森の木々。
見えたのはそれだけだった。
「っと、私には分からないけど……何かいるの、カミュ?」
『そうじゃなくて……今、ちょっとだけ思い出したかも!』
「え? 思い出した、って……必殺技とか」
『うん!』
「ほ、ほんとに!? ……言ってみただけなんだけど」
『これなら……うん、おば様』
何かに頷いたかのようなカミュの声。
『……おば様、あの子の足元、もう一度近づける?』
「え……うん、やってみるわ。さっきみたいに、でいいのね?」
『お願い!』
「警戒はしてるだろうから、さっきより難しいかもしれないけど……」
『おば様を信じてる!』
「……はいはい、成功したらちゃんと春夏さんって呼んでよね、カミュ?」
苦笑気味に言って、春夏は機体を大きく左に旋回させながらスロットルを絞るタイミングを計る。
灰色の機体を中心に、円を描くような機動。
カミュの黒い姿が、丁度灰色の機体の西側に位置した、その瞬間。
「……ここっ!」
春夏が短く叫び、カミュが敵機へ向かって急激に加速する。
夕陽を背に突撃するカミュの姿を、しかし灰色の機体は正確に捕捉し、迎撃しようと弾幕を展開する。
「芸がないのね……こっちは、新ネタ見せちゃうんだからっ! ……見せられるのよね、カミュ?」
『お任せっ!』
やり取りの間も、ミリ単位の軌道修正を入れる春夏。
まるで機体が手足の延長線上であるかのような感覚が、春夏を包んでいた。
この速度域なら、翼をこの角度で振るえば機体はこう動く……そんな、あるはずのない知識と経験が
春夏に流れ込んでくるような、奇妙な感覚。考えるよりも先に、手足が動いている。
計器を追う眼もまた、その数字の意味を正確に理解し機体の動作へと反映させていた。
縦横無尽に飛ぶカミュを、機銃掃射が追いきれない。
機銃弾から必死に逃げていた筈のカミュは、いまやその死を運ぶ弾の列を自在に引き寄せ、誘導し、かわしていた。
いつの間にか、攻守は逆転していた。
狙うのは、先程と同様、左側面。
見上げるような灰色の脚の下で、巨躯の向きを変えようと車輪が悲鳴を上げている。
その旋回よりも更に速く、捉えた敵は決して逃がさないとでもいうかのように。
カミュの細いシルエットが、灰色の機体の側面にぴったりと寄り添いながら飛んでいた。
「カミュ! これでいいの!?」
『うん! ありがとう、おば……春夏さん!』
「上出来! ……あとは、カミュの番よ!」
『わかってる!』
元気よく返事を寄越したカミュの声が、次の瞬間、低く重い呟きへと変わる。
『……〜……〜〜……』
理解できそうにもないその響きを聞き取ろうとするのを止め、春夏は機体の制動に集中する。
幾度めかの斉射を紙一重で回避した、その時。
『……いくよ! ―――テヌ・トゥスカイ!』
カミュの声が、力強く響いた。
瞬間、その機体の両腕から、眩い光が迸った。
光はすぐ前に聳える灰色の機体を無視するように、一直線に眼下の大地へと走る。
「……何!? どうなって……」
『大丈夫! 見てて、春夏さん』
春夏が戸惑ったような声を上げるが、すぐにカミュの声がそれを遮った。
言葉通り、地面を見下ろす春夏。その間にも、手は機体の操縦を続けている。
「……え?」
すぐに、それは起こった。
灰色の機体が、突然、大きく傾いだのである。
「……! 地面が……!?」
バランスを崩す灰色の機体に巻き込まれないようにカミュを加速させながら、春夏が驚愕の声を上げる。
大地が、裂けていた。
大きく走った亀裂に、灰色の機体の、その巨大な脚の一つが呑み込まれていた。
残る三本の脚に付いた六輪を必死に回転させているが、一度失われたグリップは戻らない。
亀裂に呑まれたのとは対角にある脚が大きく浮き上がっていくその先で、タイヤが空転している。
横転こそ避けていたものの、今や灰色の機体の動きは完全に封じられていた。
「これが……あなたの力なの、カミュ!?」
『すごいでしょ! 術法っていうんだよ!』
「何て言ったらいいか……。ま、まぁとにかくすごいわ、カミュ!」
『えへへ!』
嬉しそうな声を聞きながら、春夏は斜めに傾いだ灰色の機体の、主砲と機銃の射角を避けるべく機体を移動させていく。
が、その途中。
「……あれ?」
『ど、どうしたの、春夏さん?』
どこか気の抜けたような春夏の声に、戸惑ったように問いかけるカミュ。
しばらく間を置いて、春夏が返答する。
回避
U-1ネタかはたまた天然か回避
お送りしているのは葉鍵ロワイアルです回避
「もしかして、なんだけど……」
『え? ……もしかして、何?』
「……もしかしてこの子……、自分の真上には撃てないんじゃ……」
『へ?』
間の抜けた声。
春夏はカミュの黒いシルエットを、灰色の機体のすぐ側の空中に、静止させていた。
にもかかわらず、お得意の機銃掃射は来ない。
カミュが占位しているのは、巨大な蜘蛛の如き威容を誇る灰色の機体の、胴体にあたる部分の直上。
灰色の機体の機体前後に配置された球形銃座は沈黙している。
主砲の仰角も90度には届かないようだった。
それを確認して、春夏が大きな溜息をつく。
「はぁ……だったら最初から高く飛んでれば、こんなに苦労しなくて済んだんじゃない……」
『そ、そうかも……』
無論、機動性が生きている状態であれば灰色の機体の動きに合わせて飛び続ける必要はあるが、
それにしても要求される手間とリスクは大幅に軽減されていたはずだった。
『……ご、ごめんなさ〜い!
で、でも森を盾にしながら戦ったほうがいいって言ったの、春夏さんだよ!?』
「……」
カミュの指摘に、春夏が一瞬黙り込む。
「……ま、そのことは後にしましょう」
『誤魔化した……』
「いいの! 今はこっちが先!」
言って、灰色の機体を指し示す春夏。
指の先には、完全に亀裂へと嵌まり動けずにいる体を、無理矢理に揺すり続ける巨躯があった。
その車輪はいまだ空しく回転を続けていたが、対角に位置する四輪のみでは自重をすら支えきれないようだった。
機体を亀裂から脱出させるどころか、接地している二本の脚は一見して判るほどに歪み、火花さえ飛び始めている。
がりがりと地面を削る音と、巨大な質量の金属板が軋む音が、夕暮れの森に響いていた。
それはどこか、断末魔の悲鳴を思わせるような音色。
一瞬だけ眉根を寄せた春夏だったが、すぐに首を振って口を開いた。
「……カミュ」
その声に、揺らぎはない。
「終わりにしましょう」
『……うん』
「どうにか、できる?」
『……ん、もうひとつ、思い出した術法、あるから……』
「そう」
『……』
「お願い、できる?」
『……うん、春夏さん』
カミュの低い声が、コクピットの中に響く。
その間、春夏はずっと、灰色の機体を見つめていた。
各部でシャフトが捩れ曲がり、明らかにその役目を終えようとしている二本の脚が、それでもどうにか
姿勢を維持しようとでもいうのだろうか、盛大に火花を散らしながら機構の制動を繰り返していた。
巨象が死の苦しみから逃れるように、既に折れた脚を必死にばたつかせている。
そんな風に、春夏の目には見えていた。
『……ヒム・トゥスカイ』
カミュの詠唱が、静かに終わる。
その手に、見るも鮮やかな真紅の炎が燃え上がった。
ゆっくりと振り上げられた手が、音もなく下ろされる。
炎は真っ直ぐに、過たず灰色の機体の胴体を、貫いた。
すぐに内部で誘爆が起こり、炎が膨れ上がっていく。
炎上するそれに背を向けるように、カミュの黒いシルエットは静かに加速を開始する。
ある程度の距離と高度を確保して振り返った、その正面で。
燃え上がる灰色の機体から、一筋の閃光が奔った。
『あ……』
チャージもままならないまま、夜の迫りつつある暗い空へと放たれた、最後の主砲。
それは、暮れゆく夕陽へと、必死に手を伸ばすような、光だった。
直後。
灰色の機体が、爆発した。
僅かに残っていた周囲の木々を吹き飛ばして、装甲が、フレームが、金属片が舞い飛んでいった。
やがて、爆発の残響が消え、青白い閃光を振り払うように、水平線の向こうへと陽が沈んでいく。
朱い夕陽の、最後の残滓が消えてなくなるのを、春夏はじっと見届けていた。
『春夏さん……あのね』
「ええ」
『あの子……ずっと、ずっと叫んでたの』
春夏の耳に届く声は、静かだった。
『こわい、こわい、って……ずっと』
「……そう」
『でも、カミュの声、届かなくて……、だから……』
その声が、次第にしゃくりあげるようなそれへと変わっていく。
「……頑張ったわね、カミュ」
あとは、静かな嗚咽だけがコクピットに響いていた。
【時間:1日目19時】
【場所:E−4】
柚原春夏
アヴ・カミュ
【所持品:おたま】
【状態:健康】
Mk43L/e自動要撃砲台
【状態:大破全損】
→448 ルートD-2
>>141,143,144,149-151
ご協力に感謝〜!
マーダー弥生復活はでかいな
躊躇の無さではハカロワ随一だろうしこれでかなり人数減らせるか
「ん……あれ? ここどこ?」
懐中電灯が照らす鷹野神社の境内で神岸あかりは目を覚ました。
現在部屋に人はあかりしかいなかったが、自分のもの以外のデイパックが部屋にあったので自分の他にも誰か人がいることを理解した。
「……そういえば、どうして私学ランなんて着てるんだろう?」
「お。やっと起きたか」
「あ……」
あかりが学ランを着ていることに疑問を抱いたのと国崎往人が部屋に戻ってきたのはほぼ同時だった。
「傷の具合はどうだ? まだ痛むか?」
「――傷?」
何を聞いているんだろうと思ったあかりだったが、刹那、あの時の記憶が少しずつ蘇ってきた。
(そうだった。私、あの時――)
「どうした? もしかしてまだ痛むのか?」
「――あ。いえ。もうそれほど痛くはありません。大丈夫です」
「そうか。そりゃあよかった」
「あの……助けてくれてありがとうございます。私、神岸あかりといいます」
「国崎往人だ。まあ、そのことは気にするな。俺もここに来る途中にたまたま傷だらけのおまえを見つけただけだからな」
そう言って往人はあかりの近くに腰を下ろす。
近くではっきりと往人の顔を見たあかりは彼の顔(特に目つき)が少し悪者っぽかったので一瞬ビクッと反応してしまった。
しかし、数秒後には往人は外見こそワルっぽく見えるが悪い人ではなさそうだと思い安堵した。そして、安心したところで一番聞きたかった疑問を尋ねてみる。
「あの……この学ランって国崎さんが?」
「ん?
……あ、ああ。おまえの学制服とその……下着は…あ〜……なんだ? ビリビリに破けていたから代わりにそいつをな……
――あ。か、勘違いするなよ! 決してやらしいことをしようとして脱がしたわけじゃないからな!」
あわてて弁解する往人。
やむを得ずとはいえ男の人に服を脱がされた――すなわち自身の裸体を見られたということは少しアレだが、そんな往人の様子を見ていたあかりは不思議と笑みが零れてしまった。
「な…なぜ笑う?」
158 :
月下:2006/12/01(金) 19:42:11 ID:5vrkSOjiO
「さて……神岸はこれからどうするんだ? 俺は一刻も早く知り合いを探しだして合流しようと思っているんだが……」
「私も早く浩之ちゃんたちと合流したいと思っています。でも………」
「―――それなら俺と一緒に行くか? 生憎、俺には戦える武器は持ってはいないが、1人よりも2人のほうが安全だと思うぞ?」
「いいんですか? 私――絶対足手纏いになっちゃいますよ?」
「構わないさ。それに……おまえ俺が探してる奴の1人にどこか似てるんだよな。なんか放っておけないところとか……」
「はぁ……そうなんですか?」
いったいどんな人なんだろうと、あかりはその往人の探しているという人の姿を想像してみる。
「――で。どうする? 時間が惜しいから俺はすぐにここを発つが……」
「――――私も行きます。いつまでも待っているだけじゃいけませんから」
「よし。それじゃあ荷物をまとめてすぐに出発するぞ神岸」
そう言うと往人は立ち上がり自分の荷物をまとめはじめた。
「はい」
あかりも頷くとすぐさま自分の荷物を手に取った。
―――先程よりやけに軽くなっている気がした。
「あれ? なんか軽くなっているような……」
――ギクッ
あかりのその言葉に一瞬妙な反応をする往人。
あかりは不思議に思い、デイパックを開いてみた。
すると……
「ああーーーっ! パンと水が全部なくなってるーー!!」
そう。デイパックに入っていたはずの自分の食料と水が全て空になっていたのだ。軽いはずである。
159 :
月下:2006/12/01(金) 19:45:56 ID:5vrkSOjiO
「ま…まさか…国崎さん……」
「あ……あ〜…腹が減ったから…ついな……」
「ひどいですよー! 自分のがあるじゃないですか!」
「ほ、ほら、アレだ。助けてやった礼の代わりと思って我慢してくれ」
「そ、そんな〜…私これからどうすればいいんですか〜……?」
「と、とにかく。早く行くぞ神岸!」
そう言って往人は懐中電灯を拾うと外へ飛び出した。
――いや、こういう場合『逃げた』というほうが正しい。
「ああっ!? 逃げ…じゃなくて。待ってください、国崎さん!」
それを追うように(いや、実際追っているのだが)あかりも境内から再び月明かりが照らす外へと飛び出した。
【時間:2日目・午前3時】
【場所:鷹野神社外(F−6)】
国崎往人
【所持品1:トカレフTT30の弾倉、ラーメンセット(レトルト)】
【所持品2:化粧品ポーチ、支給品一式(食料のみ2人分)】
【状態:満腹。あかりと知り合いを探す】
神岸あかり
【所持品:水と食料以外の支給品一式】
【状態:往人と知り合いを探す。月島拓也の学ラン着用。打撲、他は治療済み(動くと多少痛みは伴う)】
【備考】
・あかりの破れた制服と下着は境内に放置
【関連】
B−13など。
→414
耕一と梓は舞達と別れた後神塚山のふもとを探し回ったが、誰とも遭遇する事は無かった。
町を探そうかとも考えたが視界の悪い夜に町を探し回るのは自殺行為だと考え、結局大人しく朝まで休憩していた。
そして彼らの眠りは朝の放送によって終わりを迎える事となった。
「は……晴香が……」
ゲーム開始後梓が暫く行動を共にしていた少女―――巳間晴香。
彼女の名前が放送で告げられた中にあったのだ。
昨日の梓の行動は完全に空回りしていた。
晴香とは自分の都合で……自分の感情に任せた勝手な行動を取り別れてしまった。
勘違いから柳川に襲い掛かり、ゲームを止めようとしている柳川に怪我まで負わせてしまった。
その代償が、この結果だ。
「ちくしょう……」
梓はワナワナと肩を震わせている。
溢れてくる感情を、今すぐにでも何かに叩きつけたかった。
だが楓の死を知った時のように取り乱す事のないよう、梓は何とか自分を抑えていた。
感情に振り回された自身の行動は間違いなく晴香の死因の一つにあるだろう……ならばもう、暴走するわけにはいかない。
梓は項垂れたまま歯を食いしばり、感情の激流が収まるまで耐え続けていた。
そんな梓の肩に、耕一の手が添えられる。
「耕一……」
「悔やんだいたって何も変わらない……俺達は今やるべき事をやろう。これ以上こんな事が続かないようにな」
それは耕一が舞から教えられた事だった。
過去を悔やんでいても死んだ者は生き返らないのだ。
それよりも今出来る事をする事こそが死んだ者に対して報いる事になる。
耕一はそう信じていた。
梓は耕一の手を握り、涙を溜めたままの瞳で、しかし力強く頷いた。
気を取り直し、彼らは前へ進む為に歩き続ける。
森を抜けた先には街道が広がっていた。
そこで彼らは街道の向こうの方から人が二人歩いてくるのを見つけた。
そのうちの一人は顔見知り……というよりは、因縁がある相手だった。
「また会ったな、柏木の娘。今度は柏木耕一も一緒か」
「柳川……」
耕一に緊張が走り、体が強張る。
梓から今の柳川の話は聞いていたが、殺人鬼としての柳川しか知らない耕一にとってはにわかに信じ難い話だった。
この男は何人もの命を奪ってきた狩猟者なのだ。
「また復讐しに来たのか?楓を守りきれなかったのは本当にすまなかったと思っている……。
だが、楓の死を無駄にしない為にも俺にはまだやるべき事がある。今死ぬ訳にはいかないな」
柳川は静かに語り、コルト・ディテクティブスペシャルの銃口を耕一達に向けた。
それは確かな敵意の表れだった。
耕一は動けない。
柳川の口ぶり、それに仲間を引き連れている事から判断するに確かに柳川はゲームには乗っていないようだった。
だが柳川の目は本気だ。
今何かしようとすれば柳川は容赦なくその引き金を引くだろう。
耕一の頬を冷たい汗が伝う。
「ま……待ってくれ!私達はもうそんな気はないんだ!」
慌てて梓が弁解する。
柳川としてもゲームに乗っていない者、特に楓の家族は極力撃ちたくはない。
「そうか。それならとっと消えるんだな」
柳川はあくまで姿勢を崩さず、銃を構えたままそう言った。
まだ緊張は続いているが、とにかく一命は取り留めた。
耕一達は柳川からは目を離さないままじりじりと後退し始めた。
だがそこで佐祐理がすい、と柳川の前に躍り出た。
「待ってくださいっ!もしよろしければ、情報交換をしませんか?」
「なっ……倉田、何を言っている!?」
「この人達はゲームに乗っていません。それなら協力しあうべき仲間の筈です」
「何を馬鹿なことを……」
「私達はゲームを止めようとしているんですよね?だったら、協力し合わないと駄目です」」
佐祐理は一歩も引こうとしない。彼女の言ってる事は至極正論で、本来なら柳川もそうするつもりだった。
だが相手は深い確執のある柏木家の者達だ。加えて自分は既に楓も死なせてしまっている。
「……今更柏木家の人間が俺を信用するとは思えん」
だから柳川は、その一言だけ呟いた。
佐祐理は否定しようとしたが彼女も柳川と柏木家の詳しい関係は知らない。
上手く言葉が出てこなかった。
二人とも黙りこくり、場に沈黙が訪れる。
それを破ったのは耕一だった。
「今のお前はそんな悪い奴には見えない……。情報交換くらいなら構わないぞ」
「ふん、いいのか?いきなり裏切るかもしれんぞ?」
「そうするつもりならとっくにしてるだろ」
「……ちっ」
柳川はいつでも撃とうと思えば銃を撃てた。そうしないのはとにかくゲームには乗っていないという事だろう。
その事を言い当てられ、柳川は舌打ちをしつつも銃口を下ろしていた。
とにかく一時的にではあれ、和解は成立したという事だろう。
お互い警戒心が消える事は無かったが、ともかく自分が知りえる情報を交換し始めた。
「ふむ、その姫川琴音という女はゲームに乗っているんだな」
「ああ……けどさっきの放送で彼女の名前が呼ばれてた。多分誰かに返り討ちにされたんだと思う」
耕一はその『誰か』が柳川である事走らない。
柳川自身もあの狂気の少女の名前が姫川琴音だという事は知らなかった。
「とにかく、その琴音って子に襲われた後俺と長岡は舞達と出会ったんだ」
「―――えっ!?」
耕一の台詞に混じっていた名前に、佐祐理は驚きの声をあげる。
「舞を見たんですかっ!?」
「ああ。君は倉田佐祐理さんか?」
「ええ、そうです。舞は無事でしたか?」
「特に怪我はしてなかったぞ。舞も君を探してた」
「良かった……」
その一言に佐祐理は安堵の声を漏らした。
放送に舞の名前は無かったが、放送で呼ばれなかったからと言って五体満足だとは限らないのだ。
佐祐理の顔に自然と笑みが浮かんでくる。
「それで、舞は今どこにいるか分かりますか?」
「ああ、昨日の夜頃はな……」
そう言って耕一は地図を取り出し、舞達と別れた教会の場所を示した。
佐祐理はその場所を地図に書き示した。
「でも舞達は朝になったら移動するって言ってたからな。多分今は平瀬村の方に行ってると思う」
「分かりました、ありがとうございますっ」
佐祐理が深々と礼をする。
佐祐理は舞の親友だと聞いていたが、佐祐理と舞のあまりのギャップに耕一は苦笑していた。
一体どういう経緯でこの女の子とあの無愛想な舞が親しくなったのだろうか。
そこでそれまで黙っていた梓が口を開いた。
「それでさ、次は私達が質問したいんだけど良いかな?」
「ああ、倉田の連れの居場所も分かったしな。俺達が分かる範囲でなら何でも答えてやる」
「単刀直入に聞くけどさ、あんた達千鶴姉は見なかった?」
「いや、俺はあの女はまだ一度も見ていないぞ」
「ええと……千鶴さんって、誰ですか?」
「ああ、そうか。君は千鶴さんの事を知らないんだったな」
耕一は千鶴の特徴を説明したが、やはり佐祐理も見ていないとの事だった。
初音の事も尋ねたが答えは同じだった。
耕一と梓は落胆の色を隠し切れない。
「おい、柏木耕一。あの女はゲームに乗っているのか?」
「……ああ。よく分かったな」
「大方お前達を守る為に人数を減らす、といった所だろう?あの女の考えそうな事だ」
「その通りだ。だから俺達は千鶴さんを探し出して馬鹿な真似を止めさせないといけない」
そこで耕一はある事に気付いた。
もし柳川と千鶴が出会ってしまったら?
恐らく……戦闘は避けれないだろう。
凶行に走る千鶴を今の柳川が見逃すとは思えないし、千鶴も柳川を見れば決死の覚悟で戦いを挑むに違いない。
だから耕一は無理を承知で一つ、頼みごとをする事にした。
「柳川……。もし千鶴さんにあったら、もう人を襲うのは止めるんだ、って俺が言っていたと伝えてくれないか?
それで出来たら……千鶴さんを止めて欲しい。無茶な頼み事なのは分かってるけどな」
「伝言くらいなら構わんが……正直あの女を説得出来る自信はないぞ。そしてもし説得に応じなければ―――」
柳川はそこで一旦言葉を切り、恐ろしく鋭い目で耕一の顔を見据えた。
「俺はあの女を殺す。ゲームに乗った者を見過ごす訳にはいかん」
「……それで十分だ。頼んだぞ」
柳川の言葉に耕一は頷いていた。
それはつまり、最悪の結果になる事も認めているという事だった。
だが納得のいかない梓がすぐに耕一に掴みかかる。
「耕一、アンタ何言ってるんだよっ!千鶴姉が殺されちまってもいいのか!?」
「梓、落ち着けよ……。これ以上の事は頼めないんだ」
「何でだよっ!」
「千鶴さんを放っておけばどういう事になるか、想像付くだろ?」
回避
そう言われた梓の動きは止まり、耕一から手を離した。
ゲームに乗った千鶴を放っておけばどうなるか……考えるまでもない。
きっと沢山の犠牲者が出るだろう。だから柳川は最悪の場合は殺す、と言っているのだ。
かつて千鶴が柳川の殺戮を止めようとした時のように。
それは耕一達が咎められる行為では無かった。
「だから、急ごう。一刻も早く千鶴さんを見つけないと駄目だ。それと最後に柳川……」
「何だ?」
耕一は柳川に歩み寄る。そして腕を振り上げ、柳川の頬に目掛けて拳を叩き付けた。
柳川は倒れこそしなかったものたたらを踏んで後退した。
慌てて佐祐理がその体を支える。
「ぐっ……貴様、どういうつもりだ?」
「楓ちゃんを守れなかった分はそれでチャラにしてやるよ。じゃあな」
「……ふん、せいぜい頑張るが良い」
それはとても血が繋がっている者達の別れ方とは思えないものだった。
だが柳川の目からは最初のような鋭い殺気は消えていた。
少なくとも耕一にはそう見えた。
ほどなくして耕一達は街道の分岐点に辿り着いた。
「地図によると左に行けば鎌石村、右に行けば氷川村か」
「どっちに行く?」
その問いに、耕一は考え込んだ。
千鶴はゲームに乗っている以上人が集まりやすい村に現れる可能性はかなり高い。
しかしどの村に現れるかは皆目見当がつかなかった。
ここで選択を誤ればまた千鶴は罪を重ね、犠牲者は増えるだろう。
それに初音の事も心配だった。
「時間が惜しい。ここは二手に分かれよう」
「っていうと?」
「俺は氷川村を探すから梓は鎌石村を探してくれ。そっちの方が千鶴さんと初音ちゃんを見つけれる可能性は高い」
「……分かったよ」
これは耕一からしても苦渋の選択であった。
折角出会えた梓と別れるのは惜しいが、梓なら道を踏み外す事もそう簡単に遅れを取る事もないだろう。
梓なら一人でも大丈夫だという安心感がある。
それより今は千鶴と初音の方が心配だった。
最後に耕一が梓の背中に声を投げ掛ける。
「必ず……必ず千鶴さんと初音ちゃんを助けてみんなで元の生活に帰ろうな」
「当たり前さ。もう誰も死なせるもんか……!」
こうして柏木の血を引く3人は、それぞれの目的の為に別々の場所を目指して動き出した。
柏木耕一
【時間:2日目午前7時00分頃】
【場所:G−9の分かれ道(左側の方)】
【所持品:大きなハンマー・支給品一式】
【状態:初音の保護、千鶴を止める、氷川村へ】
柏木梓
【時間:2日目午前7時00分頃】
【場所:G−9の分かれ道(左側の方)】
【持ち物:特殊警棒、支給品一式】
【状態:初音の保護、千鶴を止める、鎌石村へ】
柳川祐也
【時間:2日目午前6時45分頃】
【場所:G−8】
【所持品@:出刃包丁(少し傷んでいる)】
【所持品A、コルト・ディテクティブスペシャル(5/6)、支給品一式×2】
【状態:左肩と脇腹の治療は完了したが治りきってはいない、教会を経由して平瀬村へ】
倉田佐祐理
【時間:2日目午前6時45分頃】
【場所:G−8】
【所持品:支給品一式、救急箱、二連式デリンジャー(残弾2発)、吹き矢セット(青×5:麻酔薬、赤×3:効能不明、黄×3:効能不明)】
【状態:柳川に同行、教会を経由して平瀬村へ】
【関連】
B−13
→487
→406
・訂正
>>162の
>耕一はその『誰か』が柳川である事走らない。
↓
耕一はその『誰か』が柳川である事は知らない。
>>165 回避thx〜
そういえば、騒がしかった海岸付近が急に静かになった気がする。
敢えて避けていたというのもあるが、彼女は海に面する窓付近にいたためその喧騒の正体を見ることはなかった。
好奇心が恐怖心を上回らなかった、それだけである。
リサ=ヴィクセンの支給武器を抱き込んだまま、美坂栞はただただ震えていた。
悲鳴が聞こえた。怒鳴り声が聞こえた。
それら全てが、怖くてたまらなかった。
いくら待てどもリサの戻ってくる気配はない、いざという時は自分の身は自分で守らなければいけない。
・・・考えるだけで、頭がクラクラしてくる。
(お願いします、こっちに来ないで・・・っ!)
ひたすら願った、金切り声の悲鳴の訳を知りたくなかった。
(リサさん、リサさん、リサさ・・・)
その時。サク、サク、という砂を踏みしめる音を耳が捕らえる。
・・・こちらに向かっている?
(・・・リサ、さん?)
分からない。でも、リサであって欲しいと願った。
そうでなければ、もうどうすればいいのか考え付くこともできなかったから。
しかし、結果は。
「Hu…これだけあれば、栞も喜んでくれるわよね」
海の家から少し離れた小屋、リサ=ヴィクセンはそこで様々な食料を調達することができた。
ただ、この場所を見つけるまでに時間がかかりすぎてしまい、かなり遅くなってしまったのも事実で。
置いてきた栞の身も気になる、一刻も早く戻るのが賢明だろう。
(あんまり待たせて、泣かせちゃっても可哀想だしね)
まるで妹みたいな存在の少女、思い出すだけで微笑ましくなってしまう。
・・・そういえば、出かける際彼女が持たせてくれたナイフがあったはず。
自分の得意分野であるそれを、リサはお守りのようにポケットに差し込んでいた。
栞のことを考えていたせいかちょっと見たくなってくる、何となくそれを取り出そうとした時だった。
「Why?確かに、ここに入れておいたのに・・・」
栞から受け取った八徳ナイフは、いつの間にか消えていた。
どこかに落とした?・・・探すにしても時間が惜しい、ちょっと悩んでいた時だった。
・・・不安が、よぎる。胸騒ぎを感じた。
まさかね、と。たかが彼女から受け取ったナイフがないだけで、大げさにも程がある、と思った。
しかし、その「まさか」に恐怖心を覚える。
気がついたら、リサはなりふり構わず走り出していた、目標は勿論海の家。
勘は外れていて欲しい、リサはただただ願った。
だが。
「これは一体っ・・・」
砂浜に戻ってきた彼女は、そこに転がる一つの死体の存在に呆然とした。
近づいてみるが、勿論再び動く気配はない。
ひどい現場だった。首には何度も抉られた跡があり、相当の痛みを感じさせる。
周囲には支給された鞄が散らかっていて、漁られた形跡もひどい。
・・・こんな、強盗まがいのことをする参加者がいるなんて。リサの心に警戒心が強まる。
そして、気づく。
「・・・っ、栞・・・!!」
海岸沿いにある海の家は非常に目立つ存在だった、ここからでも目に入る存在をスルーする訳はないだろう。
リサの背中を冷や汗が走る、最悪の自体が頭に浮かんだ。
脇目も振らず、また走り出す。
足音が響くが気にしてられなかった、リサはそれだけ必死になっていた。
「栞、いるの?!」
そのままの勢いで海の家に駆け込む、無我夢中で彼女の姿を目で探した。
栞は、すぐに見つかった。
だが・・・窓付近にて横たわるその姿に、動く気配はない。
「栞っ!!」
急いでかけよる、くたっとなる体を抱き上げると暖かい温度がリサに伝わってきた。
脈もある・・・栞は、生きていた。
微かな胸が上下する所が目に入り、彼女は眠っているだけだという事実を認識できたリサの中に安堵感が広がっていく。
「もう、驚かさないで・・・え?」
安心して、一息ついた時だった。
・・・チクっとした違和感を、一瞬首に感じる。
そして、慌てていたからだろうか。今の今まで、この部屋に潜んでいたであろうもう一つの気配に気づけなかったのは。
血の気がサッと引いていく、途端体の力がいきなり抜けていく感覚を受けた。
ぺたん。気づいたら、栞を膝に抱えた状態で、リサは真後ろに倒れていた。
動かそうにも、筋肉が言うことを聞いてくれない。
どうして。口を動かすこともできない、唯一動かせる眼球だけで周囲を確認しようとするがそれにも無理があり。
気がついたら、気配はリサの隣にまで近づいていた。
「説明書どっかやっちゃって、効果分からなかったんだ。
なるほど、黄色はこんななんだー」
男の声、覇気のないダレたようなしゃべり方。
リサの視界にはまだ入らない男、七瀬彰はこの結果に満足気に頷いた。
「あとは赤、か。まぁ、これは次の楽しみにとっとくかな」
そう言って、彰はついさっき手に入れた二連式デリンジャーを構える。
「ご協力ありがとう。それじゃあ、さようなら」
躊躇いなく放たれる二発の銃弾、それはしっかりとリサの胸部を抉る。
・・・悔しさで唇を噛み締めたかったが、それでも力が入らず何の抵抗もできない。
自分がこんな形で遅れをとったという事実が、リサのプライドをズタズタに傷つける。
だが、そんな思いは彰に伝わるわけもなく。
霞み行く意識の中、リサは最後の最後まで彼への呪詛を繰り返すのだった。
173 :
補足:2006/12/02(土) 00:51:08 ID:MpSbEEhG0
七瀬彰
【時間:2日目午前0時】
【場所:G−9・海の家】
【持ち物:アイスピック
吹き矢セット(青×4:麻酔薬、赤×3:効能不明、黄×2:筋肉弛緩剤)
八徳ナイフ
コルト・ディテクティブスペシャル(装弾6)
コルト・ディテクティブスペシャル(装弾6) 残弾17
二連式デリンジャー(弾切れ)
リサの集めた食料
他支給品一式】
【状況:ゲームに乗っている】
美坂栞
【時間:2日目午前0時】
【場所:G−9・海の家】
【所持品:鉄芯入りウッドトンファー・支給品一式】
【状態:麻酔薬により眠っている、香里の捜索が第一目的】
リサ=ヴィクセン 死亡
リサの八徳ナイフはG−7に放置
(関連・266・381)(B−4ルート)この後505に続けてください。
あと、485b「お手本」のB−4版なんですが、他ルートにあてる場合で支障がでてしまったので、よろしければ訂正させてください。
×出来れば柏木姓の人間と合流し、自身を守る強力な「盾」としたい。(と言っても、もう残りは一人しかいないが)
↓
○出来れば柏木姓の人間と合流し、自身を守る強力な「盾」としたい。
これなら大丈夫だと思います、よろしくお願いします。
174 :
信じる心:2006/12/02(土) 13:53:14 ID:nxANkR8q0
「宮内さんも死んじゃったのか……」
放送を聞いた雅史は暗い声で呟いた。
「お知り合いだったんですか?」
「うん、僕と同じの学校の子だよ……」
「そうですか……」
定時放送で今朝までの死者が伝えられた。
パソコンで見た時以上の死者の多さに、雅史達の気分は更に沈んでいた。
もう3分の1以上の参加者が死んでいる。その中に宮内レミィの名前もあった。
次に放送で呼ばれるのは自分達かもしれない……。雅史達の不安はますます膨らんでいく。
「雅史さん……これから私達、どうすれば良いんでしょうか……」
椋は下を向いたまま俯いている。
雅史もまた俯いていた。
だが彼は暫く考えた後、意を決して顔を上げた。
「とにかくこうしていても始まらないよ。信頼出来る人を探そう」
「え……でも……」
椋はそれ以上口にしなかったが、その後に続く言葉は聞かなくても分かっていた。
雅史達は既にロワちゃんねるで天野の書き込みを見ている。つまり椋は、
『そんな事をしたら裏切られて殺されるかもしれない。そして実際にそういうマーダーは存在している』
という事を言いたいのだろう。
脅威は外敵だけとは限らないのだ。いや、それどころか仲間の裏切りこそが最も脅威なのかもしれない。
寝こみを襲われなどしたら、それこそまず助からないのだから。
この島では人を簡単に信用する事は自殺行為に等しい。
その事は十分に分かっているつもりだが、それでも雅史の決意は変わらなかった。
「確かに裏切られる可能性はあるかもしれない……。でもずっとこうしていても、いつかは殺されてしまうと思うんだ」
「…………」
椋は答えない。雅史は構わずに言葉を続けていく。
「結局僕らだけじゃどうしようもないよ。信頼出来る人を見つけて力を合わせて、この島から脱出する方法を考えよう」
それは雅史の言う通りで、確かに雅史と椋だけではこの島から脱出する方法は見つけ出せそうもなかった。
雅史はそこで一旦言葉を切り椋の瞳をじっと見据えて、
「それにやっぱりさ、僕は人を疑うよりも信じたいんだ」
175 :
信じる心:2006/12/02(土) 13:54:52 ID:nxANkR8q0
そう言い切った。
言った後で雅史は少し恥ずかしくなり、顔を赤らめながら照れ笑いした。
それに釣られて涼も笑みを浮かべた。
自分を犠牲にしても誰かを救いたい……ゲームに放り込まれた瞬間そう考えてしまうような雅史に、人を疑いきる事は出来なかったのだ。
涼もまたそんな雅史に惹かれ、彼と同じように再び人を信じてみようと決心した。
自分達の中に生まれていた猜疑心を打ち倒した雅史達は、出発するべく荷物を纏め始めた。
「ノートパソコンは……どうします?」
「後で何かと役立ちそうだし、持っていこう」
椋は頷き、ノートパソコンを鞄の中にしまった。
食料も十分に手に入れる事が出来たし準備は万端だ。
だがいざ出発しようと玄関に来た時、目の前の扉がノックされる音がした。
「雅史さん……」
涼が怯えた声を上げながら雅史の服の袖を引っ張っている。
雅史はごくっと唾を飲んだ。だが先程自分で人を信じたいと言ったばかりだ。
不安そうな視線をよこす椋を手で制し、雅史は玄関の扉の鍵を開けた。
すると扉を開けた先に雅史と同じ年頃の少年と、小柄な少女が立っていた。
そのうちの一人は雅史の良く見知った顔の筈であった。
「マルチちゃん?」
そう、その小柄な少女は確かにマルチだった。
彼の学校に試験的に通っているメイドロボで、雅史自身も面識はあった。
だが何か……引っ掛かるものがあった。
「あ、雅史さん、お久しぶりです」
マルチは笑顔を作って答える。やはり違和感があった。
こんな笑い方をする子だっただろうか?以前の彼女の笑顔なら人間とまるで見分けが付かなかった。
しかし今の彼女の笑顔はいかにもロボットらしい、「作られた」笑顔に見えた。
それでも浩之からマルチの話は聞かされている…人間の為に頑張り続けている子が、ゲームに乗っている筈が無いと雅史は考えた。
「雅史さん、お知り合いですか?」
「うん、僕と同じ学校に通ってるメイドロボットのマルチちゃんだよ」
176 :
信じる心:2006/12/02(土) 13:56:16 ID:nxANkR8q0
「はい。HMX−12 マルチといいます、よろしくお願いします」
「そっちの人は……」
もう一人の少年は雅史も知らなかった。
視線に気付き、少年は口を開いた。
「悪い。挨拶が遅れたな、俺は向坂雄二だ」
雄二の異変には恐らく普段の彼を知っている者ならすぐに気付いただろう。
雄二の声調は明らかに抑揚に欠けていた。
何より今の彼の目は酷く暗く、濁っている。
だが普段の雄二を知らない雅史達は特に疑う事もせず、ただ敵意が感じられない事に安堵するのみだった。
「僕の名前は佐藤雅史。よろしく雄二君、マルチちゃん」
「わ、私は藤林椋っていいます。よろしくお願いします」
各々に自己紹介を行い、握手をかわす。
「じゃあとにかく中でゆっくり話そうよ」
そう言って雅史は雄二達を中へと誘った。
仲間が得られた喜びで雅史の表情は明るかった。
雅史の後ろに続いて雄二達が家の廊下を歩いていく。
椋が玄関の鍵を閉めようとした時に、それは起こった。
ぐしゃりという何かが潰れるような音が後ろから聞こえた。
「……?」
音の出所を確かめようと涼が振り返った先には、
「あ……ああああ……いやああああああああああぁぁぁぁぁぁっ!」
赤い何かが飛び散る様だった。
雅史の後頭部に、マルチが振り下ろしたフライパンがめり込んでいた。
後頭部から血を零しながらうつ伏せに倒れる雅史。
悲鳴を上げ続ける椋には目もくれずに雄二は雅史の金属バットを拾い上げた。
渾身の力を込めてそれを振り下ろす!
177 :
信じる心:2006/12/02(土) 13:59:11 ID:nxANkR8q0
再び響き渡る、肉の潰れる音。
雄二がすっと身を引くと次はマルチがフライパンを振り下ろし、再び血飛沫が辺りに舞い上がった。
次は雄二が、その次はマルチが、まるで交互に餅をつくかのように各々の凶器を振り下ろし続ける。
その度にかつて雅史だったモノが跳ね上り、血が、肉が、飛び散り続けていた。
ようやく雄二とマルチがその手を止めた時には、そこにはもうただの肉塊しか存在していなかった。
椋はいつの間にかその場から消えていた。
「よしマルチ。着替えを探して次行こうぜ」
「そうですね。"正しい"のは雅史さんですから」
「ああ……何人殺しても優勝者への褒美で生き返らせてやればいいだけだからなぁ」
彼らはまるでゲームの敵を倒すかのような気軽さで人を殺していた。
返り血に塗れた二人の顔には笑みすら浮かんでいる。
雄二もマルチも、もう完全に壊れていた。
【時間:2日目午前6時半頃】
【場所:I−7】
佐藤雅史
【持ち物:支給品一式(食料二日分、水二日分)】
【状態:死亡】
藤林椋
【持ち物:包丁、参加者の写真つきデータファイル(内容は名前と顔写真のみ)、ノートパソコン、支給品一式(食料と水二日分)】
【状態:逃亡、精神状態や行動方針等は次の書き手さん任せ】
向坂雄二
【所持品:死神のノート・金属バット・支給品一式】
【状態:マーダー、精神異常】
マルチ
【所持品:歪なフライパン・支給品一式】
【状態:マーダー、精神(機能)異常】
(関連431・433・479 ルートB-13)
訂正お願いしますorz
「そうですね。"正しい"のは雅史さんですから」
↓
「そうですね。"正しい"のは雄二さんですから」
179 :
へタレの決意:2006/12/03(日) 12:18:03 ID:WyvKS4Ge0
「智代……」
「お前、随分とボロボロだな」
「……まあね」
僕は端的に答え、口を閉ざし項垂れた。
本来なら知り合いと再会出来た事を祝うべきなんだろうけど、今はそんな気にはなれない。
ただただ、心が痛かった。
そんな僕の様子を見て疑問を抱いたのか智代が口を開いた。
「春原、お前さっきの騒ぎに巻き込まれたのか?」
「……ああ、そうだよ」
「一体何があったのか教えてくれないか?随分と激しい戦闘があったみたいだが……」
「…………」
僕は黙したままそれ以上何も答えなかった。
いや……何も答えられなかった。
あの襲撃してきた女に対して僕はあれだけ御託を並べておきながら何も出来なかった。
渚ちゃんを守る事が出来なかった。
そして何より―――るーこを守る事が出来なかった。
僕を守ってくれたるーこを酷く傷付けた上に、彼女を放ったらかしにして逃げ出してしまった。
だから……きっと僕はもう終わっている。
智代はそれから幾度となく僕に話しかけたてきたが、結果は同じ。
ただ無意味に時間だけが過ぎ去り、智代は苛立ちを募らせているようだった。
「いい加減にしろ、春原。辛い事があったかもしれないが、今はこんな状況下だ。
情報の有無が生死を分ける事は十分考えられる。知ってる事を話してくれ。無論私達も知ってる事は全部話すつもりだぞ」
「……もう………いい」
「……え?」
「もういいよ……僕はもう終わってるんだ。後は死ぬのを待つだけだ」
「な―――!」
180 :
へタレの決意:2006/12/03(日) 12:20:28 ID:WyvKS4Ge0
その言葉がよほど癇に障ったのだったのだろう。
智代は激怒し、僕の服の襟を掴んでいた。
「何が終わっているだ……お前はまだ生きているだろう?希望を捨ててどうするんだっ!」
「もう死んだも同然さ……僕はお前や岡崎の言うとおり、ただのヘタレだったんだよ。もう放っといてくれよ」
「理由は……理由は何だ。何がお前をそこまで追い詰めている」
「…………」
「黙ってないで、話すんだ。お前のそんな姿は見たくない。理由を言うまで私はこの手を離さないぞ」
「……僕にはどうしても守りたい子がいたんだ。だけど僕は彼女に守られてばっかりで……その上彼女を傷つけてしまった。
挙句の果てには気絶している彼女を放ったらかして一人で逃げてしまった。僕は最低のへタレだ………。
こんな僕に生きてる資格なんてあるわけねえだろ」
「……貴様、ふざけるなっ!」
智代が激情を込めて拳を振り上げた。
普段の蹴りとは違う―――強い怒りの篭った本気の拳だ。
抵抗しようとは思わなかった。るーこが受けた痛みの何万分の1でも味わいたかったから。
だけどその拳が振り下ろされる事は無かった。
智代の腕は横にいた―――長いおさげの女の子に掴まれていた。
女の子はとても落ち着いて見えた。どことなくるーこに雰囲気が似てるかもしれない。
「茜、止めるなっ!コイツの性根は叩き直さねば気が済まん!」
「智代は黙っていてください。確か貴方は春原さん……でしたよね。その守りたかった方はもう死んでしまったのですか?」
「……分からない。僕が逃げ出した時はまだ生きていたけどあれからどうなったのか……」
「ならば、貴方のやるべき事は決まっていると思いますが?どうしてその方を助けにいこうとしないのですか」
「もう遅すぎるよ……。きっともう全部終わった後だよ。それに……今更どんな顔をしてるーこに会えっていうんだよ」
そう、合わせる顔が無い。るーこが無事かどうかは分からない。多分……気絶したままのあの状態では、絶望的だと思う。
それにもし万が一生きていて、そして会えたとしても、なんて言えば良いのか分からない。
そして多分――――るーこなら僕を許してしまう。あれだけの事をした僕を許してしまう。
それが堪らなく嫌だった。こんな僕が許されて良い訳が無い。
181 :
へタレの決意:2006/12/03(日) 12:22:31 ID:WyvKS4Ge0
僕は智代の手を振り払い座り込んだ。
まだ怒りの収まらない様子の智代が再び僕に詰め寄ろうとしたけれど、また隣の女の子がそれを止めていた。
睨む智代に対して、女の子は静かに首を振る。
「こんな死人同然の方に関わっていても時間の無駄です。もう行きましょう」
「し、しかし…………」
「智代にはやるべき事があるでしょう?私も同じです。こんな所で浪費する時間はありませんから。
その方にはこのまま野垂れ死んでもらいましょう」
女の子は大きく溜息をついた後、智代の腕を強引に引っ張り歩き始めた。
渋々という様子だったけれど、とにかく智代もそれに従っていた。
死人同然―――本当にその通りだと思う。
僕なんかに構ってないで、智代達だけでも頑張って欲しい。
智代は僕なんかと違って強いんだからさ……。
そんな事を考えながら彼女達の背中を見守っていると、女の子が足を止めてこっちに振り返っていた。
その女の子はとても悲しそうな目で、ぼそりと呟いた。
「無様ですね……つまらない事を気にして悲劇の主人公気取りですか?もしもですが、その方がまだ生きてるのなら……
きっと貴方を待ち続けているでしょう。貴方は更にその方を苦しめる気ですか?」
尤も私には関係の無い事ですけどね、と付け加え、女の子達はそのまま闇夜へと消えた。
智代達が立ち去った後も僕は座り込んだまま考え続けていた。
そうさ、僕はもう死人同然なんだ。
もうきっとるーこも渚ちゃんも殺されてしまっていると思う。
次は僕の番だ。僕一人おめおめと生き残るわけにはいかないんだ。
――――でも気付くと僕は立ち上がっていた。
僕が逃げてから何時間も経っている、もう全ては終わってしまっている筈だ。
もう僕に出来る事は座り込んで殺されるのを待つ事だけだ。
だけど僕の中の何かが頑なにそれを否定する
182 :
へタレの決意:2006/12/03(日) 12:25:13 ID:WyvKS4Ge0
心の奥底から失いかけていた感情が少しずつ、だけど確実に蘇ってくる。
これは―――るーこを守りたい、という気持ち。
それがどんどん膨らんでくる。
僕の理性はそれを否定する。もう彼女は死んでるんじゃないかと。生きていても僕では足手纏いにしかならないと。
僕の別の感情もそれを否定する。るーこに合わせる顔が無いと。今更許されて良い筈がないと。
だけど、るーこはまだ生きているかもしれない。僕を待っていてくれているかもしれない。
そして何より、さっきの女の子の言葉。
―――――貴方を待ち続けるでしょう
もしそれが本当なら僕の都合なんて関係無い。今僕が彼女の為に出来る事は一つだけだ。
僕の中に心が一つの気持ちで埋め尽くされた。
僕は―――――
「僕はるーこを守りたい……僕はるーこを守らないといけないんだっ!」
僕は全力で走り出した。体はまだ痛むけどそんな事はどうでもいい。
るーこを見つけるまで走り続けてやる。そしてもしるーことまた会えたなら……もう二度と迷わないっ!
*
*
*
春原が走り去る姿を近くから窺う二つの影――坂上智代と里村茜。
彼女達は立ち去るように見せかけて、近くの茂みに隠れていたのだった。
「茜。春原を激励したり、こんな茂みの中に隠れたり……どういう風の吹き回しだ?」
「別に大した意味はありません。ただ……あの方は待たされる人間の辛さを分かっていないようでしたから、教えてあげたまでです」
「……ありがとう。これで多分あいつは大丈夫だ。あいつはへタレだが、自分の事しか考えないような人間ではないからな」
「礼を言うのは生きてこの島から脱出してからにしてください。その時に貸しはたっぷりと返してもらいますから」
183 :
へタレの決意:2006/12/03(日) 12:25:54 ID:WyvKS4Ge0
【時間:2日目・午前3:00】
【場所:G−3(村外れ、教会周辺)】
坂上智代
【所持品:手斧、他支給品一式】
【状態:全身打撲、反主催の同志を集める】
里村茜
【所持品:フォーク、他支給品一式】
【状態:全身打撲、反主催の同志を集める】
春原陽平
【所持品:スタンガン、他支給品一式】
【状態:全身打撲、数ヶ所に軽い切り傷、今後の方針はるーこの探索、まずはf-2の戦闘があった民家へ】
(関連503 B13)
草木も寝静まる夜の森に、ぱちぱちと小枝のはぜる音がする。
赤々と燃えるそれは、焚き火であった。
落ち葉と枯れ枝を積み上げたその炎を、数人の男女が囲んでいた。
沖木島の各所では相変わらず殺し合いが行われていたが、その集団はまるで今日が
楽しいキャンプの日だとでもいうかのように、和気藹々と火を囲んで歓談している。
「……というわけで私たち、パンの材料探してんのよ」
言いながら片手を差し出したのは、天沢郁未。
「だから爪頂戴」
「いや、言ってることが全然わかんねえ」
ぺし、とその手を叩いた、眠そうな目をした少年は藤田浩之である。
「何すんのよ!」
「タカユキ、イジめるヤツ、俺ユルサナイ!」
いきり立つ郁未を威嚇するように牙を剥いたのは柳川祐也。
肌の色といいその巨躯といい人間離れしている、正真正銘の鬼である。
「……ってかこの人、元に戻れないの?」
「いや、なんか興奮してるみたいで……ま、そのうち戻るんじゃねーか?」
「大丈夫だよ雪ちゃん、その人、今はとっても優しい感じがするから」
やわらかく言った、しかしその目に光を映さぬ少女は川名みさき。
疑わしそうな目つきでみさきと柳川を見比べているのは、深山雪見であった。
「るー……るー……」
その横で寝息を立てているのはルーシー・マリア・ミソラ、通称るーこである。
「あ、るーこちゃんもう寝ちゃったんだね」
「ってかありえねーだろ、こんな寝息……」
「可愛いじゃない」
「いや、なんつーか、キリンがきりんきりーん! って鳴くとか、そういう発想だろ、これ……」
「浩之くんはロマンチストだね」
「俺じゃねーよ!」
「えへんおほん、……皆さん、お話を戻してよろしいでしょうか」
とめどない掛け合いを咳払い一つで収めてみせたのは鹿沼葉子。天沢郁未の相方である。
静まった一同の視線を前に、葉子は言葉を続ける。
「皆さんがいぶかしむのも無理はありません。
何を隠そう、私たちにだって半信半疑の話なのですから」
「いや、つーか……」
「そもそもパンを食べて人間が生き返るなら、ヨーロッパはとっくの昔に人口爆発で大変なことになっています」
「言うべきはそこなのか!?」
「……だけど、鬼さんはヨーロッパにいないんじゃないかな?」
「勿論、そのおかげで人間が生き返るパンが出回らなかった可能性も多いにあります」
「違うだろ!?」
「っていうか、死体がどうやってパン食べるのよ」
「さあ、その辺は早苗さんに訊いてみないと……」
「話が進まねーから、お前らちょっと黙っててくれ……」
一行を押し退けようとする浩之。半ば以上は柳川が摘んで放り出している。
「ええー。浩之くん、ずるいよ」
「そうよ、わたしだってもうちょっと台詞が……」
「なんで私まで……ま、説明面倒だし後は任せるけど」
ぶつぶつ言いながら脇に追いやられていく一行。
「……んで何だ、その早苗さんって人のパンで、誰かを生き返らせなきゃならないと」
「いえ別に、私たちにとってはその辺わりとどうでもいいんですが」
あっさり言い放つ葉子。
「大事なのは活躍の場です。うまうまはもう御免なのです」
「いや、よくわかんねーけど……。とにかく、あいつの爪が必要だ、ってか」
アゴをしゃくる浩之。
何を勘違いしたのか、柳川が黒い頬を真っ赤に染めて喜んでいる。
「ええ。あの風貌、まさに鬼です。きっとあの爪で問題ありません」
「そりゃ、俺が言えば爪くらい剥がしちまいそうな勢いだけどな……」
ちらりと視線を送っただけで身悶えしている有様である。
「けどなあ……あんたら、ホントに信じてるのか?」
「あなた方だって聖闘士とやらなのでしょう。非常識はお互いさまです」
「そうだけどな……」
と、何かを思い出したようにみさきの方を向くと、浩之は何事かを問いかける。
「そういや、俺たちって聖衣は? あと必殺技とか使えんの?」
「聖衣は呼べば来るよ。念じるだけでもたぶん大丈夫じゃないかな。便利な世の中だね」
「へえ、そりゃすげえな」
「でも、慣れない内はちゃんと自分で着ないとだめなんだよ」
「微妙に不便だな……」
「必殺技は……どうだろうね、練習次第……かな?」
「練習とかいるのかよ!?」
「素質にもよるけどね」
「マジか……」
「えへんおほん」
「……っと、悪い」
再び咳払いを始めた葉子の方へ、浩之は向き直る。
「しっかし、あいつの爪をやったとしても、あと何だ、白虎の毛皮にヘタレの尻子玉、魔犬の尻尾……だったか?」
「はい、それとあと一つ、謎の材料があるらしいのですが」
「謎ってなんだよ……まぁいいけどな。そいつらの在り処は見当ついてんのか?」
「正直さっぱりです」
「だよなあ……」
腕組みをして首を傾げる浩之と葉子。
―――そんな一行を眺める、もう一つの視線があった。
終始にこにこと微笑みながら、黙って一行の話を聞いている風だった少年。
今は駒田と名づけられてしまった彼こそが、この焚き火を囲む最後の一人であった。
(いやー、僕だってそれなりにはやれると思ってたんだけど……)
思いながら、少年は居並ぶ面子を見渡す。
不可視の力を与えてしまった少女が二人。これはまだ理解の範疇でもあるし、どうとでもなるとして。
完全解放状態のエルクゥ。しかも雄の成体。
若干記憶は混乱しているようであるが、暴れだしたら手がつけられない。
女神アテナの転生とその聖闘士たち。青銅、白銀、黄金と一通り揃っている。っていうか聖闘士って何だ。
しかし実力が未知数であるとはいえ、それぞれの放つ異様な雰囲気は既に人間のそれを大きく逸脱している。
これまでにない相手だけに、手の内が読めないのも痛い。
一対一でも油断できないどころか、下手をすれば返り討ちに遭う危険すらあるかもしれない。
そして、それらに対するべき自分は、といえば。
常人よりはそれなりに強い設定にしてある程度の肉体。
人間の限界を若干超える程度に制限されている不可視の力。
武器は盾と注射器。以上である。
回避
2連
3連
「いや、無理」
戦闘に突入した途端にボロ雑巾のようにされる光景を想像して、背中に嫌な汗をかく少年。
とりあえずこの場をやり過ごしてから考えよう、などと日和ってみた、その瞬間。
脳裏に、ざざ、とノイズが走るような感覚。
『こまだー』
「……」
『おーい、こまだー』
「……」
『きこえてるくせに。はやく返事しないとひどいよ』
その無体な言葉に、少年はしぶしぶ返答する。
口を開かなくても伝わるのが、この通信の便利なところでもあり、また面倒なところでもあった。
「……ん? ごめんごめん、ちょっと寝てた」
『うそついたから針千本ね。いっぽんづつのませるよ』
「……えーっと、何か用かな?」
『そうだそうだ、あやうくほんだいをわすれるところだった』
ち、言わなきゃよかったと内心で舌打ちする少年。
『っていうかこまだ、さぼりすぎー』
「いや、だって」
『いつまでもなごんでるんじゃなーい』
「どう考えても勝てないし」
『しんでこーい』
「無茶苦茶言うね……」
『つうしんは以上でーす』
「あの……」
ざ、と再びノイズが走る。
通信は一方的に途絶されていた。
(ホントにまあ、あのお姫様ときたら……)
あまりといえばあまりな言葉ではあったが、姫君の無茶は今に始まったことでもない。
どの道、今回のゲームは充分過ぎるほどに加速している。
この時点で自分が脱落したところで、問題などありそうにもなかった。
(そういうこと判って言ってるから、厄介なんだよね……。
とはいえ、一応は数を減らしておかないと後で何を言われるかわかんないし……)
内心で苦笑しながら、少年は周囲の人間を見渡す。
鬼、無理。不可視の二人、どうも今回は大人しく死んでくれそうな気がしない、却下。
女神。なんせ神だし、どうにもならないっぽい気がする。
聖闘士……黄金は強そう、無理。青銅はあんな顔してたぶん油断してない。
たまにちらりとこっちを見る目が怖い。避けたほうが無難だろう。
(となると……)
ちらりと視線を動かすと、少年は標的を定めた。
結論が出れば、あとは早い。実行するのみである。
身体の中で膨れ上がっていく不可視の力を、瞬く間に練り上げていく少年。
一気に弾き出したそれが狙うのは、無防備に眠るルーシー・マリア・ミソラでった。
(まあ、君に恨みはないんだけど……悪く思わないでほしいな……っ!)
さすがの聖闘士といえども、寝入り端にこの一撃ならただでは済むまい。
まずは先制攻撃の成功を確信し、次なる動きに備えるべく目線を動かそうとした少年だったが、
次の瞬間、驚愕に眼を見開いた。
るーこの前に、一瞬早く立ち塞がった影があったのである。
「な……!?」
影を射抜き、霧散していく不可視の力。
必殺を意図した少年の一撃が貫いていたのは、
「―――間に、合った……かな……?」
るーこを庇うように両手を広げて立った、川名みさきの身体であった。
その身体が、ゆらりと傾く。
「みさきっ!?」
「川名……!」
「ちょっとあんた、何してんの?」
一瞬で激変した状況に、一行が色めきたつ。
崩れ落ちようとするみさきの身体を支えながら、雪見が少年を見据える。
「……どういうことか、説明してもらえるかしら……!?」
その眼光は既に、敵を見るそれだった。
浩之とそれを護るように立つ柳川、状況が読めずに泡を食っている郁未、彼らからさりげなく距離を取りはじめる葉子、
それぞれの目線もまた、少年に集中する。
一気に重く張り詰めた場の空気に、少年は背中にじっとりとした汗が流れるのを感じていたが、
それを表情には出さないように努めた。せめてもの虚勢である。
小馬鹿にしたような薄ら笑いを浮かべたままの少年を見て、雪見の視線が急速に冷たくなっていく。
「……藤田君、みさきをお願い」
「お、おう」
ぐったりとしたみさきの身体を浩之へと預け、雪見が一歩を踏み出す。
(……あ、まずいかも)
黄金聖闘士の重圧に、予想通りとはいえ泣きが入りそうになる少年。
そのとき、少年の脳裏に再び、ざざ、とノイズが走った。
(……見ての通り取りこみ中なんだけど、何の用?)
『じっきょうです。まずはこまだのぎせいフライで1てんせんせーい!』
(犠牲って……僕、まだやられてないんだけど……)
『しかしざんねん、はんげきもここまで!』
(あのね……確かに時間の問題っぽいけどさ……)
『それではまたあした、ごらんのチャンネルでおあいしましょう! さようなら!』
言いたいことだけ言って、ノイズが消えた。
内憂外患の状況に、少年の心中に本泣きが入りはじめる。
(僕を虐めて楽しい……?)
内心で一通り涙を流し、少年は気を取りなおす。
さてどこまでやれるか、と不可視の力を練り上げようとしたそのとき、
少年は足元に妙な感触を得た。何かが、ズボンの裾を引っ張っている。
「ん?」
「……るー」
眼が合った、と感じたのは、いつの間にか足元に忍び寄っていたるーこに対してではなかった。
るーこは、手に抱えた白銀に輝く盾の影に、その身を隠すようにしていた。
少年が見たのは、盾の表面に刻まれた、美しくも禍々しい女怪の面。
その像と、眼が合ったのである。
「しまっ……!」
しまった、と口にする暇はなかった。
瞬間的に、身体が凍りついたように動かなくなっていく。
回避
ってか少年Bだと強いのにDだとやられ役化してるなw
回避
「……お前、るーたちの敵だったのだな。今ならるーにも分かるぞ。
この怒りが、るーに聖闘士とやらの力を教えてくれたからな」
静かな口調だったが、盾の後ろから覗くその眼には、確かな憤りの炎が宿っていた。
(石化の魔眼なんて……やっぱり今回は無茶苦茶だ……)
姫君の言う通りに犠牲フライ止まりだったか、と。
その思考を最後に、少年の意識は闇の底へと沈んでいった。
今や指先一つ動かすことも叶わない少年。
精緻な石像と化したそれを見て、一行が口々に声を上げる。
「い、石になった……!?」
「これが……聖闘士の力ですか……!」
「るーこ、ナイス!」
喝采を上げた雪見だったが、すぐに鋭い目で郁未と葉子をねめつける。
「……そういえば、あんたたちもこいつの仲間だったわね……?」
その剣呑な口調と洒落の通じなそうな目に、郁未が思い切り首を振って否定する。
「し、知らないわよ! 今のはこいつが勝手にやったことだし、元々仲間なんかじゃないし!」
「その通りです。確かに面識はありましたが、彼の行動は我々とは無関係です」
必死に弁明する郁未を、葉子がフォローする。
その様子を疑わしげな視線で睨んでいた雪見だったが、やがて目線を少年の石像へと戻した。
「……そう。じゃ、こいつをどうしようと文句はないってワケね?」
「どうぞどうぞ、煮るなり焼くなり!」
言いながら、何度も首を縦に振る郁未。
その背後では、葉子が痛々しげな視線を郁未に向けていた。
そんな二人には興味を失ったのか、雪見がごきり、と指の骨を鳴らす。
「さて、それじゃどうしてくれようかしらねえ……?」
「……待て、そいつはもう動けねえ。それより川名の方が先決だ」
じり、と少年に迫った雪見を止めたのは浩之であった。
普段は眠たげに垂れ下がっている目が、この時ばかりは真剣に腕の中のみさきへと向けられている。
「そうだうーきみ、こいつのことはるーが見ているぞ」
「そ、そう? ……じゃ、お願いするわ」
るーこに言われて少年から視線を離すと、雪見はみさきに駆け寄る。
「藤田君、みさきの様子は……?」
「……」
「だ、大丈夫よね、だって女神だもんね?」
「……」
「ふ、藤田君……」
次第に不安げな色を帯びてくる雪見の言葉にも、浩之は額に皺を寄せたまま沈黙していた。
「ま、まさか……!?」
「……いや、待ってくれ。あんたの言う通り、女神はこのくらいじゃ死なねえ。……と、思う」
「じゃ、じゃあ大丈夫なのね!」
ようやく口を開いた浩之の返答に、雪見がぱっと愁眉を開く。
しかし、浩之は重々しく言葉を続けた。
「……気を失ってるだけなら、いいんだがな」
「え?」
「この人が女神アテナの化身なら、前にもこんなことがあったはずだ」
「それって……」
不安げな雪見に、浩之が心中にあった推測を告げる。
「仮死状態、ってヤツかもしれねえ」
「どういうこと……?」
「12時間で命を奪う、黄金の矢……そいつが心臓に刺さって、先代のアテナは仮死状態に陥ったんだ」
「そんな!? それじゃ……」
「いや、これは俺の推測でしかねえ。今は全然状況が違うしな。
……川名がこのまま目を覚ませば、それで済む話さ」
「みさき……」
雪見が、目を閉じたまま動かないみさきの顔を心配げに覗きこむ。
―――刹那。
闇と雲だけが支配していた天に、光が生まれた。
それは瞬く間に巨大な閃光となり、降雨を告げる最初の一滴と共に、落ちた。
「―――タカユキ、アブナイ!」
迫り来るその気配に最初に気づいたのは、柳川祐也である。
ほとんど無意識に、目の前のたいせつなものを腕に納め、跳ぶ。
「うおっ!?」
藤田浩之は、強い力で突然、身体ごと後ろに引かれた。
弾みで抱えていたみさきが手から離れ、瞬く間に遠ざかっていく。
「―――何!?」
深山雪見は、突然放り出されたみさきを抱き止め、その直後に頭上から迫る気配に気づいた。
ぐったりともたれかかるみさきの重みを感じながら、全力で地面を蹴る。
「―――郁未さん」
「わかってる!」
天沢郁未と鹿沼葉子は、ほぼ同時に不可視の力を解放。互いの得物だけを手に、瞬時にその場から飛び退く。
頭上の気配は圧倒的に危険であると、本能が告げていた。
「―――」
「―――るー……?」
完全に石化した少年は、当然ながら動けない。
そして、そんな少年の様子を油断なく凝視していたルーシー・マリア・ミソラの反応は、
この場の誰よりも一瞬だけ遅く、そしてそれが、文字通りの致命傷となった。
「どぉぉぉぉぉっ―――」
見上げたその視界を埋め尽くしていたのは、夜気を吹き飛ばすような、眩い白。
「―――せぇぇぇぇいっっっ!!」
巨大な質量が少年の石像と、るーこの聖衣纏わぬ身を、一瞬にして圧し潰した。
寸秒のタイムラグを経て、衝撃がやってくる。
爆発的な風圧に、まずは音が弾けた。
続いて、落下物に抉られた土と石が、明確な悪意を持つ礫となって撒き散らされる。
周囲の木々が、次々と傷つき、倒壊していく。
一通りの爆風が収まると、間を置かず今度は気圧差で逆向きの暴風が駆け抜ける。
ぶつかり合う風に膨大な土煙が巻き上がるが、すぐに降り出した雨粒に叩かれ、落ちる。
次第に勢いを増していく雨に洗われるように、周辺の視界が晴れていく。
回避
さらに
もういっちょ
天より降り立った白い輝きの源は、その破壊と混乱の中心に位置していた。
大地に突き立てた拳を無造作に引き抜くと、周囲を睥睨するようにその巨躯を起こす。
「―――何や、入れ食いっちゅうヤツかいなあ……?」
白い巨体の中から、声が響く。
神尾晴子とその娘が宿った神像、アヴ・ウルトリィ=ミスズは、他を圧してそこに在った。
【時間:2日目午前2時過ぎ】
【場所:G−6】
柳川祐也
【持ち物:俺の大切なタカユキ】
【状態:最後はどうか、幸せな記憶を(鬼)】
藤田浩之
【所持品:無し】
【状態:混乱(鳳凰星座の青銅聖闘士)】
深山雪見
【所持品:みさき】
【状態:必死(牡牛座の黄金聖闘士)】
川名みさき
【所持品:無し】
【状態:意識不明(女神)】
回避いる?
回
天沢郁未
【所持品:薙刀】
【状態:唖然】
鹿沼葉子
【所持品:鉈】
【状態:観察】
ルーシー・マリア・ミソラ
【状態:死亡】
少年
【状態:死亡】
神尾晴子
【持ち物:M16】
【状況:優勝へ】
アヴ・ウルトリィ=ミスズ
【状況:契約者に操縦系統委任、一部兵装凍結/それでも、お母さんと一緒】
※出刃包丁、ハンガー、折りたたみ式自転車、強化プラスチックの大盾(機動隊仕様)、
注射器(H173)×19、レーション3つ、それぞれの支給品一式は周辺に散乱、もしくは喪失。
→462 →482 ルートD-2
>>ID:3aV3pfhl0氏
効果的な回避、ありがとうございました〜。
一発の銃声、それで平和は崩された。
信じられないような光景だが、柏木耕一はそれを受け入れなければいけなかった。
すぐさま隣で呆けている長岡志保の腕をとり、こちらに向けられた敵意を避けるべく横に転がる。
瞬間、彼らのいた場所には数発の銃弾が撃ち込また。
突如現れた襲撃者は、静かに語った。
「・・・大人しくしてちょうだい、時間がないの」
彼女の足元には住井護だったモノが沈んでいた。
突然の来襲の犠牲者一号目、しっかりと眉間を銃弾で撃ち抜かれた彼が再び動き出す気配は皆無。
まさかの不意打ちに、耕一の背中を冷や汗が走る。
眠っていたはずの川澄舞や吉岡チエも、何事かと起きてきた。
耕一は彼女等を庇うようにし、一端近くの森林地帯へ逃げ込む。
慌てた様子を見せることなく、襲撃者・・・柚原春夏は、四人を追い詰めるよう歩を進めるのであった。
平瀬村の民家にて水を補充した耕一等は、一端そのまま村を出た。
・・・民家の近くに、死体が転がっていたからだ。
いつ頃に犠牲が出たものかは分からない、けれど今もまだ近くに犯人が潜んでいた場合この場所はあまりにも危険であった。
次に夜を越すのに五人が選んだのは、森林地帯であった。
身を隠すにはもってこいの場所、視界も悪くゲームに乗った者にも見つかりづらいだろう。
だが。
「・・・これ、あんま意味ないんじゃ・・・」
「俺もそう思ってたところだ・・・」
今、五人はその森林地帯を抜けた広い平原上の広場にいた。
何故こうなったかというと。
「なーによ、あんな湿った場所じゃ志保ちゃん寝れないものっ。」
そんな彼女の一言で、だ。
舞やチエといった牛丼覇者初期メンバーは既に眠っている、男性陣が先に見張りをしてその次に女性陣と交替することになっていた。
だが、事の元凶の志保の目が冴えてしまっているらしく、彼女は寝付こうとせずこうして耕一や護と共に雑談をしている訳で。
「長岡さんも休んどいた方がいいよ、明日も何があるか分からないんだから」
「平気よ〜、志保ちゃんの体力を甘くみんじゃないわよ?」
「ははは・・・」
思わず出てしまう苦笑い。それでも、和やかなムードだった。
ここまでは。
ガサッという物音、そこから現れた一人の女性。
全てはそれで、狂う。
元々姫百合姉妹を殺害した後、春夏は平瀬村に向かうつもりであった。
ただ、迷いを拭えず足を逆方向に動かしてしまっただけで。
貴明のおかげで進路が決まった今、彼女はとにかくタイムリミットまでに参加者を一定数殺害しなければいけないという枠に捕らわれることになる。
闇雲に参加者を探そうとしても、時間ばかりの浪費になってしまう可能性を春夏は恐れた。
だから、彼女は人が絶対いるであろう場所を求め歩き出す。
目安はついていた。
そう、あの姫百合姉妹を殺した場所付近には、確かに人の気配があった。
春夏はそれを求め、今一度その場所へと向かうことにする。
・・・殺してしまった少女達の遺体を再び見るのは非常に心苦しかったが、全てはこのみのため。覚悟はできていた。
あれから数時間経ったあの場所、戻ってきてみたものの気配は当に消えていた。
そこにあったのは戦闘の後、既に決着はついていて血溜まりの中にある一つの死体がそれを物語っていた。
遅かったか、とショックを受けるものの、春夏はここでもう一つ気づいたことがあった。
・・・どうにも、山頂の方が騒がしいのだ。
近くに神社があったのでそこもチェックしておきたい思いもあったが、それより確実に人がいる場所を突き止めたかった。
春夏は迷わず、頂上付近への移動を決意したのだった。
「川澄さん、二人を連れて逃げて」
「耕一?」
魔の手は迫ってくる、四人には一刻の猶予もなかった。
「俺が足止めるから。長持ちするかは分からないけど・・・」
「そんな、危ないっスよっ!」
「このまま皆で蜂の巣になるわけにはいかないだろ。
・・・もし、あの人に対抗できそうな人がいたら、連れてきてもらえるとありがたいけどね」
「分かった」
「ちょ、ちょっと!川澄さん?!」
まだ渋る志保とチエの腕を掴み、舞は移動する準備をする。
「・・・耕一、死なないで」
「簡単には死なないさ、常人よりは丈夫にできてるからね」
「二人を安全な場所に届けたら、戻る」
「いいよ、別に」
「・・・」
「そんな目で見ないでくれよ・・・ほら、来るよ」
これ以上の問答し続ける時間はない、耕一は今一度目の前の敵に意識を集中させるのだった。
手にしたハンマーに力を込める。相手は銃だ、余程の策を練らない限り耕一に勝ち目はない。
・・・だが、そんなことを考える時間すら、彼には与えられなかった。
「3,2,1・・・」
小さな掛け声、それに合わせて間を整える。
よーい、どん。合図と同時に耕一は春夏へ、舞達は鎌石村方面へ向かい駆け込んだ。
「・・・っ、逃がさないわよ」
「悪いけど、こっちも犬死するわけにはいかないんでね!」
逃げようとする舞の背中を狙おうとする春夏、耕一はそんな彼女に向ってハンマーを振り下ろした。
「くっ!」
どうしてもスイングは大きくなってしまう。春夏はバックステップを踏みながら軽くかわし、よろけた体勢のままS&Wを放ってきた。
銃弾を避けるべく、耕一はまたも平原を転がる、彼女もまだまだ撃ち慣れてはいないのだろうか照準がめちゃくちゃだったことに運を感じる。
一分にも満たない時間だが、春夏を引きつけることはできた。
その間で舞達が平原を離脱することもでき、とりあえずの目標は達成となる。
(さて、どうするか・・・)
耕一にとっては、ここからが問題であったが。
213 :
補足:2006/12/03(日) 22:42:55 ID:q2mLBhKG0
【時間:2日目午前2時15分】
【場所:F−5・神塚山】
柚原 春夏
【所持品:要塞開錠用IDカード/武器庫用鍵/要塞見取り図/支給品一式】
【武器(装備):500S&Wマグナム/防弾アーマー】
【武器(バッグ内):おたま/デザートイーグル/Remington M870(残弾数4/4)予備弾×24/34徳ナイフ(スイス製)】
【状態:このみのためにゲームに乗る】
【残り時間/殺害数:11時間19分/4人(残り6人)】
柏木耕一
【所持品:大きなハンマー・他支給品一式(水補充済み)】
【状態:春夏と対峙、柏木姉妹を探す】
川澄舞
【所持品:日本刀・他支給品一式(水補充済み)】
【状態:志保、チエを連れ逃亡、祐一と佐祐理を探す】
長岡志保
【所持品:投げナイフ(残:2本)・新聞紙・他支給品一式(水補充済み)】
【状態:舞と逃亡、足に軽いかすり傷。浩之、あかり、雅史を探す】
吉岡チエ
【所持品:支給品一式(水補充済み)】
【状態:舞と逃亡、このみとミチルを探す】
住井護 死亡
住井の支給品(投げナイフ×2含)は放置
(関連・279・395)(B−4ルート)
214 :
乙女と殺戮者:2006/12/04(月) 12:18:08 ID:+gJ5yAzTO
「ふぅ。結構歩いたかしら?」
あれから歩いては休み、歩いては休みというペースで森林地帯を進んでいた七瀬留美は一度足を止めデイパックから地図を出して広げた。
今彼女が向かおうとしている平瀬村まではまだまだ距離があるが、このペースなら今日中には着けそうだと留美は思った。
(――藤井さんもきっと人が集まるところへ行ったはず……)
そう判断して地図をしまう。
今頃彼は恋人や友人たちの仇を討とうと島中を徘徊しているのだろうか?
いや。もしかしたらゲームに乗ってしまい出会った人をなりふり構わず襲っているかもしれない。
(藤井さん……)
そんな時、留美の視界に突然眩しい光が射し込んできた。
朝日だ。
「あ…もう朝なんだ………」
その光は留美に綺麗だなと思わせるのと同時に、新たな戦いを告げる合図とも思わせた。
「ん? ―――っ!?」
――その時、留美の前方百数十メートルほどの所で朝日の光に反射して何かが光った。瞬間、留美は何かを感じ取り、近くの茂みの中に身を滑らせた。
直後――いや、ほぼ同時に銃声と共に1発の銃弾が留美の頭上を通り抜けた。1秒でも反応が遅れていたら留美は即死だっただろう。
(――敵!)
すぐさま反撃に転じるため腰にねじ込んでいたデザートイーグルを取り出し、弾丸が飛んできた方へ発砲する。
「ちぃ! またか!?」
巳間良祐は4度目となる奇襲失敗に舌打ちした。
平瀬村の一件以来、どうも調子が悪い。完璧と思えた奇襲が今となっては全然通用しない。
215 :
乙女と殺戮者:2006/12/04(月) 12:19:47 ID:+gJ5yAzTO
――銃声。
「!?」
良祐の近くに1発の銃弾が着弾する。
「―――なるほど。ここまで生き残ってきただけのことはあるというわけか……」
奇襲ばかりではもうこの先敵を倒すことは不可能だと確信した良祐はドラグノフからSMG‖に武器を換えた。
(傷の痛みは大分マシになった――なら少しぐらい無理をしても問題はあるまい!)
覚悟を決めた良祐はSMG‖を構え留美に向かって突撃した。
黒コートの男――巳間良祐の姿を留美も確認した。
手にはサブマシンガン――こちらに真っすぐ向かってくる。
「ちょっと。分が悪すぎじゃないの!」
咄嗟に留美は近くの木に身を隠した。
次の瞬間、ぱららららという音と共に木に無数の穴が開き木片を撒き散らす。
「くっ……!」
一度銃撃が止んだ瞬間、留美も木陰から姿を現わし良祐に発砲する。
しかし良祐も近くの木に身を隠しそれをかわす。そして再び彼のサブマシンガンが火を吹く。
「ああ、もうっ!」
留美も再び木に隠れそれを回避する。
この攻防の間だけで2人の距離差は二十数メートルほどまで縮まった。
「――悪いがてっとり早く終わらせてもらうぞ……」
留美が姿を隠したのを確認すると良祐は再びドラグノフを取り出した。
(本当は閃光弾を使いたいところだが、昨日のあの女のように効果がなかったら無駄に終わってしまうからな…)
216 :
乙女と殺戮者:2006/12/04(月) 12:21:14 ID:+gJ5yAzTO
(攻撃が止んだ……!)
留美はもう一度反撃に出ようと木陰から躍り出た。
しかし、それが良祐の狙いだった。
(――かかったな!)
良祐は内心ニヤリと笑った。
そして次の瞬間、良祐はまだ弾が入っているSMG‖を留美に向かって投げ付けた。
「えっ!? きゃあ!」
突然の良祐の予想外な行動に一瞬隙ができてしまった留美に投げ付けられたSMG‖が直撃した。
その衝撃で留美は尻餅をついてしまい、持っていたデザートイーグルも留美の手を離れ地面を転がった。
「終わりだ……!」
良祐はドラグノフを留美に構え一歩踏み出す。
狙いは頭。現在彼と留美の距離は僅か十メートルほどしか離れていない。この距離ならばスコープを覗かなくてもヘッドショットは可能だ。
――しかし、今良祐が踏み出したその一歩がこの戦いの勝敗を一気に覆すことになった。
それは――
ガサッ…
「――ぬ!? うおぉぉぉ!?」
足元から音がしたと思った瞬間、良祐の足にロープが掛かり、彼を一気に逆さ吊りにした。
「ト、トラップだとぉ!?」
そう。どのような運命の悪戯か、今二人が戦っていた場所は昨日観月マナがいくつかの罠をしかけていたエリアだったのだ。
突然、良祐が逆さ吊りになったのを見て、一瞬ぽかんとなってしまった留美だったが、この絶好の反撃チャンスを逃す気はなかった。
「くっ…こんな時に―――っ!?」
「―――ッ!!」
留美はすぐさま自分の近くに落ちていた良祐のSMG‖を拾い、その銃口を良祐に向けた。
217 :
乙女と殺戮者:2006/12/04(月) 12:23:22 ID:+gJ5yAzTO
――この男は危険だ。今ここで殺せ!
留美の脳が、血が、細胞のひとつひとつが彼女にそう告げる。
「あああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
次の瞬間、声にならない叫びをあげ留美は戦いの終わりを告げる一撃を良祐にたたき込んだ。
「武器や道具がこんなに………こいつ、いったいこれまで何人殺してきたのよ……?」
良祐のデイパックから出てくるドラグノフとSMG‖以外の様々な支給品を留美は自分のものに移していく。
折りたたみ式自転車、SMG‖の予備マガジン、スタングレネード、89式小銃(しかも銃剣付き)、その予備弾、
そして水、食料などのその他の支給品一式(1人分・デイパックごと)と草壁優季の支給品であった何かの充電機………
「何の充電機なのかしら? 携帯のじゃないよね……?」
充電機の正体は留美には判らなかったが、とりあえずこれも持っていくことにした。
留美は自分の隣で未だに宙吊り状態の巳間良祐を見る。
その顔面には真っ赤な――――留美の鉄拳の跡がくっきりと残っている。完全にノックアウトしていた。
そう。留美は彼を殺さなかった。「良祐を殺せ」という自身の理性と衝動に反逆した。
(確かにこいつはゲームに乗った人殺しだけど、こいつを殺しちゃったら私も人殺しになっちゃうもんね。
理由はどうであれ人を殺すってことはゲームに乗ったことと同じ……私は藤井さんに言ったもの、ゲームには乗らないって)
それに、良祐を殺したら知人や恋人を殺された冬弥のように良祐の死を悲しむ者もきっといるだろう。そして復讐の道に走る者も……
それは憎しみの連鎖――最悪の悪循環だ。
殺したから、殺す――そんなことさせてはいけない。だから自分も人を殺さない。それが留美が冬弥との出会いにより導きだした結論だった。
故に彼女は良祐の武器や道具だけを没収するだけにとどまった。
「ま。しばらくの間そこで頭を冷やしなさい」
留美は気絶している良祐にそう言い捨て、武器、道具以外の支給品一式が入った彼のもうひとつのデイパックを彼の真下に置くと組み立てた自転車に乗りペダルをこぎはじめた。
218 :
乙女と殺戮者:2006/12/04(月) 12:25:43 ID:+gJ5yAzTO
目指すは平瀬村。
決意を胸に秘めた1人の少女――いや、1人の乙女は朝日が照らす森林地帯を自転車で駆け抜けていった。
【場所:F−7西】
【時間:2日目・午前5時30分】
七瀬留美
【所持品1:折りたたみ式自転車、デザートイーグル(.44マグナム版・残弾6/8)、デザートイーグルの予備マガジン(.44マグナム弾8発入り)×1、H&K SMG‖(6/30)、予備マガジン(30発入り)×4、スタングレネード×1、何かの充電機、ノートパソコン】
【所持品2:ドラグノフ(7/10)、89式小銃(銃剣付き・残弾22/22)、予備弾(30発)×2、他支給品一式(2人分)】
【状態:自転車に乗っている。平瀬村へ向かう。目的は冬弥を止めること。ゲームに乗る気、人を殺す気は皆無】
巳間良祐
【所持品:なし】
【状態:気絶。マーダー。観月マナが仕掛けた罠に引っ掛かり宙吊り状態。右足・左肩負傷(どちらも治療済み)。真下に支給品一式】
【備考】
・良祐が目を覚ます時間、その後の行動は次の書き手さんに任せます
・充電機が久寿川ささらの持つスイッチの充電機なのかは不明
【補足】
関連ルート
・B−13ルートほか
関連話
→468
→392
「冗談じゃないっつーの、あいつらキモ過ぎだっつーの・・・」
七瀬彰は熱を持った体を鞭打ちながらも、必死にあの場所から離れようとしていた。
「っていうか何だよあのパーマのオッサン、マジ最悪なんだけど・・・」
そんなどっかの女子高生のような毒を吐くが、台詞と噛みあわないほど体は衰弱していて。
少し歩いただけでだるくてしょうがなく、ついには膝をついてしまう。
「くそっ、何で・・・」
「はぁ、はぁ・・・追いついたぞ!」
「げっ」
聞き覚えのある声、すぐに追いかけてきたらしき高槻の姿が目に入る。
抵抗する余力などなく、彰はあっさり捕まってしまう。
「やだ、離せ・・・」
「おいおい、具合悪いんだろ。俺様が看病してやるって、無理すんなよ」
「や・・・いやぁっ」
「そ、そんな声出すなって・・・ハァハァ」
「何だ最後の?!っていうか、どこ触ってんだ・・・くそぅ」
まずい。このままでは、本当にまずい。
何とか策を練らなくては、体を弄られながらも彰は必死になって頭を動かしていた。
「あ、あのっ」
「何だ」
「そ、その、自己紹介とか、まだしてないじゃないですか」
「・・・?ああ、そうだな」
「せっかくだからしませんか、その・・・ほら・・・何も知らないで、そのこういうのするっていうのも・・・」
最後の方は言葉にするのもイヤだったが、それでも何とか口にする。
顔を背けボソボソと恥ずかしそうに話す彰の様子がツボにはまったかどうかは知らないが、高槻はにこやかにそれを了承した。
ニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべる彼は、何だかとても嬉しそうである。
その様子に対する彰の感想↓
(うわ、キモッ!)
それからも、彰は粘った。とにかく粘った。
ひたすら自分を押し倒すような体勢を陣取る高槻にネタを振り、そこから先へ進ませないよう努力した。
体調は確かに最悪であった、本当はしゃべるのもつらかったがここでそれを止めたらゲームセット。
会話が途切れぬようネタを振りまくった、それは気がついたら数時間続いていて。
しかも、そんなことをしていたら今自分を押し倒している相手の名前や素性、働いている場所までも知ってしまい本当に他人じゃないような関係にまで発展してしまい。
「そうか、彰は大学生か。ちょうど今が華だな」
「はは、は・・・そうですね・・・」
もう、自分が何をやってるのか分からなくなってくる。
(・・・あ、もうダメ)
体力も限界。ごめんね美咲さん、操守れなくて・・・そんな思いを抱えながら、彼の意識はフェードアウトするのであった。
「む?彰、おい彰!・・・返事がないな。うむ、ではちょっくら味見でも・・・」
「ぐああぁっ!どこだ、どこに女がいる・・・はぁ?」
それは、高槻が手を合わせ目の前の彰の味を確かめようとした時だった。
いきなりの乱入者に対し言葉を失う高槻、だがどうやら相手も同じような状況らしく。
二人の間、静かな時が流れるのだった。
岡崎朋也は性欲を持て余した。
女がとにかく欲しかった、誰でもいいから犯る相手を探していた。
そんな時だった・・・目の前、視界に入ったのは二人の男で。
しかもパーマの男が少年を押し倒しているという構図、朋也にとって信じられない光景だった。
有り得ない、男が男を押し倒すなんて。
犯るモノといえば女、女といえば犯るモノ。そんな感覚の彼にとっては新境地である。
・・・しかも、いつもの朋也であったらそれに対する嫌悪感など持つことになっていただろう、それなのに。
朋也の股間は、しっかりと勃っていた。勃起していたのだ。
「何だ・・・この、胸をうつ感覚はっ?!」
朋也はドキドキしていた、この情景に。
興奮していた、性欲を持て余していた。
「どうしてだ・・・どうして・・・」
その時、彼の思考回路を青いオーラが包んでいく・・・それはキリシマ博士に魔法をかけられた時の感覚に似ていた。
意識が飛びそうになる、それを堪えて渦巻くように流れてくる情報を噛み砕いた結果。
朋也の中で、一つの結論が浮かび上がった。
「・・・男の子って、ファンタジーだ」
「何なんだ、一体」
高槻は呆然と、一人百面相をする朋也の姿を眺めていた。
訳が分からなかった、だがこのまま怪しい男に見られながら性交をする気にもなれず。
まるでお預けをくらっている犬のような気分だったが・・・それも終わりを告げる。
さっきまで様子のおかしかった男が、いきなりこちらに向かって近づいてきたのだ。
「や、やるのかこのヤロウ!」
虚勢を張る、不気味な男に対する策を高槻は思いつけないでいた。
彰に圧し掛かるようにしていた体を起こし、とりあえずファイティングポーズはとっておいた。が。
男は・・・朋也は、値踏みするような視線を高槻に送るだけで、それ以上何か危害を加えてくることもなく。
奇妙だった。不思議に思う高槻の心中を察したかどうかは分からないが、朋也は熱っぽい視線を送りながら彼に話しかけるのだった。
「パーマ・・・お前、よく見ると色っぽいな」
「はぁ?!」
「ふむ、俺の周りにいないタイプだ・・・うまそう」
「何だそりゃ?!」
「気にするな、ただの独り言だ・・・ハァハァ」
「何だ最後の?!うわっ、こっち来んなっ」
嫌な予感がした。
高槻の中で警報が鳴り響く、こいつは危険だと。
「ははははは・・・食い尽くしてやるよ。男も女も関係ねぇ、下半身無差別級チャンピオンの意地・・・見せて、やるよ」
高槻、絶体絶命。
224 :
補足:2006/12/04(月) 16:47:19 ID:LmjC9hL20
岡崎朋也
【時間:2日目午前4時】
【場所:E−06】
【持ち物:お誕生日セット(クラッカー複数、蝋燭、マッチ、三角帽子)、支給品一式(水、食料少し消費)、大変な逸物】
【状態:ますます節操なしになった変態強姦魔】
高槻
【時間:2日目午前4時】
【場所:E−06】
【所持品:支給品一式】
【状態:貞操の危機】
七瀬彰
【時間:2日目午前4時】
【場所:E−06】
【所持品:アイスピック、自身と佳乃の支給品の入ったデイバック】
【状況:気絶】
(関連・474・496)(D−2ルート)
225 :
光の射す方へ:2006/12/04(月) 17:15:52 ID:HJxWI/kO0
すでに時刻は0時を回り、この殺し合いも二日目を迎えようとしていた。
最初は浩之と珊瑚が見張りをすることになったのだが、1時を回る頃には限界が来たのか珊瑚も居眠りを始めていた。浩之は苦笑しつつ立ちあがってみようとする。
「ぐ…っ、まだ痛いな。こりゃどれだけ時間がかかるやら…」
だが先程に比べれば徐々に痛みは引いている。朝までにこの痛みが抜ければ…
「あまり無茶はせんほうがええで?」
珊瑚のものではない、もう一人の声。声のする方を向くと、いつのまにか瑠璃が起きあがって浩之を見ていた。
「なんだ、寝てなかったのか」
「当たり前や。さんちゃん放っといて一人でぐーすか眠れるわけないやん」
「その割には、珊瑚のほうはぐっすりの様だが?」
「…ま、さんちゃんはそーいうコや」
ははは、と二人の間に小さな笑いが漏れる。
「あんた、これからどうするつもりや? 何かアテはあるん?」
携帯型の誘導装置を持ちながら、浩之とは反対の方を向いた。背後を守るつもりのようだった。
「離れ離れになった仲間を探すさ。その後は…とにかく、主催者のやつらをぶっ潰す」
「方法はあるんか」
瑠璃のその問いには、浩之は答えられなかった。実際のところ、こうして生き延びているだけでも精一杯という状況だ。
「ないみたいやな…ま、それはウチらも同じなんやけど。というか、設備が足りないねん」
「設備?」
浩之の問いに、瑠璃がうん、と言って続ける。
「さんちゃんな、ものすごいパソコンとかの機械に強いんや。イルファの設計やプログラムを担当したんもさんちゃんなんやで」
「そら凄いな…」
「やからな、きっとある程度のスペックのあるパソコンさえあれば、きっとさんちゃんがパソコン使ってなんかしてくれる」
自信に満ちた声で瑠璃は言う。そこには珊瑚に対する絶対の信頼があるようだった。
226 :
光の射す方へ:2006/12/04(月) 17:16:28 ID:HJxWI/kO0
「ウチはさんちゃんと違って何もでけへんからな…何が何でもさんちゃんは守るつもりや…たとえ、ウチが死んでもな」
「…そーいう発言は控えとけ。死んだら何にもならないぞ」
「あんたに言われんでもわかっとる。…ウチだって、死にたかないねん」
気のせいか、最後の方は涙声になっているような気がした。お互い反対の方を向いているから、分からない。
「な、レーダーには何か映ってるか」
だから、気を紛わすために浩之は話題を変えた。ネガティブな雰囲気は好きじゃない。
「いや、何も写ってへんよ…イルファの姿も」
「そうか…」
良かった、と言い切ることが出来ない。
「…けど、ひょっとしたら動くことができへんだけかもしれんしな。まだ大丈夫や、大丈夫」
自分に言い聞かせるように言う瑠璃に、浩之は心を痛める。恐らく、相当のストレスになっている。
…もし、イルファが死に、珊瑚まで死んだなら――そう考えかけて、浩之は首を振った。冗談じゃない。そんなことにさせてたまるか。
――しかし、現実は非常で。
結局、一睡もしないまま浩之と瑠璃だけで見張りをしていた。朝日が昇る頃ようやく目を覚ましたみさきと珊瑚がひたすらごめんなさいと言っていた。
それを笑って許す二人。口をそろえて、「後で埋め合わせしてくれたらいい」と言いながら。
そうして、歩き出そうとした時に、二回目の放送が鳴り響いた。
――僅かな希望さえも、奪い取っていく。
「ウソやろ…イルファ、イルファが!?」
イルファの名前を聞いた瞬間、取り乱したように叫ぶ瑠璃。珊瑚も信じられないという表情だった。
起こってしまった最悪の事態の一環に、浩之が対応しあぐねているとき、悲劇は連続する。
227 :
光の射す方へ:2006/12/04(月) 17:17:02 ID:HJxWI/kO0
「来栖川…芹香!? そんな、先輩まで…っ」
自身にも恐れていた事態が起こった。とうとう、二人目の友人が殺されてしまったのだ。だが、それだけでは終わらない。
「琴音ちゃん、まで…」
どう考えても殺しになど縁の無さそうな二人が呼ばれ、浩之の頭から絶望が漂ってくる。
「ひ、浩之…く」
みさきが何か声をかけようとして、浩之の方を向いた時。みさきにも呼ばれてほしくなかったひとの名前が呼ばれてしまった。
「雪…ちゃん? …そんな、冗談、だよね」
四肢が震えだし、吐き気さえ覚えてくるみさき。何とか浩之の腕を掴んだものの、依然として震えが止まらない。
「レミィも…なのかよ。畜生、ちくしょう…」
浩之の声からは、覇気が消え失せていた。そして、放送が終わった時には、全員がまともな顔色をしていなかった。
言葉を発する気力すらこの場の誰にも残されていない。そうして無情に時間だけが過ぎ去って行く。
放送から一時間近くが経過したとき、ゆらりと立ちあがる影が一つ。姫百合瑠璃だった。
「行こう、さんちゃん」
おぼつかない足元のまま、逃げてきた方向へと歩き出す瑠璃。その様子を見た珊瑚が瑠璃の腕を掴む。
「ダ、ダメやって瑠璃ちゃん。そんなふらふらしてたら危ないよ」
珊瑚が引っ張るのも構わず、無心に歩いて行こうとする。
「もう決めたんや。イルファがいなくなってもうたんなら…ウチだって、覚悟を決めなアカンねん」
「か、覚悟って…」
恐れがちに聞いた珊瑚に、瑠璃は気丈な面持ちで答える。
「戦う覚悟や。目的のためなら死ぬことも厭わへん覚悟や。イルファは命を賭けてウチを守ってくれた、今度はウチが命を賭ける番やねん」
「待てよ…瑠璃」
今まで下を向いていた浩之が顔を上げて尋ねる。
228 :
光の射す方へ:2006/12/04(月) 17:18:03 ID:HJxWI/kO0
「その覚悟って…人殺しをする覚悟かよ」
人殺しという言葉を聞いて、みさきと珊瑚が体を強張らせる。瑠璃は首を振る。
「違う。守る覚悟や」
「どう、違うってんだよ? 説明してくれ。でないと…俺は素直にお前を行かせられない」
浩之の言葉に、瑠璃は深呼吸をした後答える。
「イルファとはな、前にケンカしたことがあってん」
「ケンカって、いっちゃんが来た時のこと?」
珊瑚の言葉に頷いて、瑠璃は続ける。
「あんときは、ウチはさんざんひどい事を言った。ウチの勝手な嫉妬で、イルファにすごいイヤな思いをさせてしもうたんや。結局、貴明やさんちゃんのお陰で仲直りはしたけど…」
そこでごしごしと眼の端を拭く瑠璃。珊瑚には、それが涙であることがすぐに分かった。
「仲直りしたときな、イルファは、『愛しています』言うてくれたんや。家族として『愛してる』って。家族って、お互いに助け合うもんやろ? だから、イルファが家族として、助け合う、って言うんなら今度はウチが『家族』を助けてやらなアカンねん。
だから行くんや。もうイルファを助けられんようになってしもうたから…覚悟決めて、今度はウチがイルファの代わりに戦うんや。主催者とな」
「瑠璃ちゃん…」
「ホントは分かってたんや…殺し合いに乗ったとしても、運良く生き残れたとしても、最後にはウチかさんちゃんかどっちかを撃たなあかん。そんなことウチやさんちゃんが出来るワケない。
だからといって、もし逆らってさんちゃんが死んでしもうたら、きっと狂ってしまう。
それが怖かった。逃げる事しかできんかった。守るって言葉にはできても、体はふんぎりつかんかった。けど…もう決めた。もう逃げへん。ウチが逃げずに頑張ったら、きっとさんちゃんが何とかしてくれる。
そしたら、きっとみんなで脱出できる。ウチもさんちゃんも無事に帰れる。そう信じる」
229 :
光の射す方へ:2006/12/04(月) 17:18:37 ID:HJxWI/kO0
もう、涙は流れていなかった。それは強さを受け継いだ目だった。
「…強いんだな、瑠璃は」
「イルファが強いんや。ウチはイルファから、ちょこっと勇気分けてもらっただけやねん」
「勇気、か…」
浩之は呟いて、自分を叱責した。こんな女の子が勇気振り絞って自分の足で歩こうとしてんのに、俺は何をやってんだよ。くそ、こんなんじゃ志保やあかり、雅史に笑われちまう。ざけんな、しっかりしろよ、藤田浩之。
しかし、問題はみさきだった。親友を失って、心がかなり傷ついているはず。もう少し、行動は先延ばしにした方がいいのではないか。そう判断した浩之は瑠璃に告げる。
「すまん、俺達はまだ行けそうにない。だからそっちが先に…」
「待って。浩之君」
みさきが浩之の言葉を止めていた。川名…? と心配そうに言うのを、大丈夫、と答える。
「私はもう大丈夫。もう一緒に行けるよ。だから気を遣わないで、浩之君」
「けど川名…深山の事は…」
「思ったんだ。雪ちゃんなら、『何やってんのよ、しっかりしなさいみさき。それでも私の親友?』って言うなぁ、って。だから、もう歩けるよ」
みさきも、自分の足で歩く事を選んだ。浩之は心中で毒づく。
なんだよ、結局ウダウダしてたのは俺だけってことかよ…ったく、呆れるよな。
「…なら、行こうぜ。まだ仲間の全員が死んだわけじゃないからな。最後まで希望は捨てない」
瑠璃、珊瑚、みさきが頷く。それを確認すると、浩之は立ちあがってみた。痛みはない。自分の足で歩いてゆける。
「藤田浩之、復活だな。待ってろよ…必ずブッ飛ばしてやる」
四人が並んで、日の差す方向へ歩きはじめた。目指す、脱出へ。
共通
【時間:二日目午前7時頃】
【場所:G-5】
kaihi
もう一個回避
もう一つ
233 :
光の射す方へ:2006/12/04(月) 17:29:36 ID:HJxWI/kO0
藤田浩之
【所持品:なし】
【状態:歩けるようになった。仲間を探しに行く】
川名みさき
【所持品:なし】
【状態:気を持ち直す。仲間を探す】
姫百合瑠璃
【持ち物:デイパック、水(半分)、食料(3分の1)携帯型レーザー式誘導装置 弾数3】
【状態:主催者と戦う決意を固める。当面は浩之と行動を共に】
姫百合珊瑚
【持ち物:デイパック、水(半分)食料(3分の1)。レーダー】
【状態:瑠璃と行動を共に。当面は浩之と行動を共に】
【備考:B-10、11、13など】
>>230 d。手間かけた…
時刻は午前5時50分。
久瀬は数々の惨状を見せられ、疲弊しきっていた。
多すぎた。あまりにも死人が多すぎた。
実の所彼は少し期待していた。
時間が経てば混乱していた者も落ち着いて、殺し合いが収まってくれるのではないかと。
だが実際には、殺し合いはますます激しさを増していくばかりだった。
ある者は一方的に殺され、またある者は裏切られて殺された。
特に酷かったのは、指を1本1本切り落とされて惨殺された女性だった。
その女性は最期の瞬間まで想像を絶する悲鳴を上げ続け、返り血に塗れた加害者の女性は笑いながら包丁を振るい続けた。
その一部始終を見ていた久瀬はとうとう嘔吐感を堪えきれなくなり、腹の中の物を全て吐き出していた。
自分が確認出来ただけでも10名以上の人間が命を落としていた。
恐らく―――その倍以上の数の人間が、既に物言わぬ躯と化しているのではないか。
そして第2回放送の時がきた。
画面が真っ黒に染まり、ゆっくりと赤く浮かび上がる番号、そして名前。
「そ、そんな……こんなに大勢の人が……」
彼の知り合いの名前は今回も無かったが、予想以上の死者の数に震えが止まらない。
『それじゃ久瀬君、今回もよろしく頼むよ』
一回目の放送の時と同じくウサギが一瞬画面に現れ、その一言だけを告げまた消える。
久瀬は今にも倒れこみそうなくらい疲弊していたが、それでも彼に選択肢は一つしか用意されいない。
「――みなさん……聞こえているでしょうか。
これから第2回放送を始めます。辛いでしょうがどうか落ち着いてよく聞いてください。
それでは、今までに死んだ人の名前を発表…します」
画面に目を戻す。これだけの人数の人間が死んだのだ。
きっとここに名前が載っている者の友人や家族も沢山いるだろう。
彼らの気持ちを考えると、やりきれないものがあった。
だがここで自分が抗っても死体が一つ増えるだけだ。
意を決して何とか言葉を捻り出す。
「――それでは発表します。
9 イルファ
10 エディ
11 太田香奈子
22 梶原夕菜
24 神尾晴子
31 霧島佳乃
38 来栖川芹香
51 澤倉美咲
56 新城沙織
57 春原芽衣
60 セリオ
66 月島拓也
67 月島瑠璃子
72 長瀬源蔵
75 名倉由依
76 名倉友里
80 仁科りえ
82 氷上シュン
83 雛山理緒
84 姫川琴音
94 古河早苗
99 美坂香里
105 巳間晴香
107 宮内レミィ
109 深山雪見
112 山田ミチル
115 柚原このみ
116 柚原春夏
9 イルファ
22 梶原夕菜
23 鹿沼葉子
38 来栖川芹香
51 澤倉美咲
56 新城沙織
57 春原芽衣
60 セリオ
66 月島拓也
67 月島瑠璃子
72 長瀬源蔵
75 名倉由依
76 名倉友里
80 仁科りえ
84 姫川琴音
93 古河秋生
94 古河早苗
99 美坂香里
105 巳間晴香
107 宮内レミィ
109 深山雪見
112 山田ミチル
116 柚原春夏
20 柏木千鶴
22 梶原夕菜
23 鹿沼葉子
31 霧島佳乃
38 来栖川芹香
42 河野貴明
51 澤倉美咲
56 新城沙織
60 セリオ
67 月島瑠璃子
72 長瀬源蔵
76 名倉友里
80 仁科りえ
82 氷上シュン
84 姫川琴音
99 美坂香里
105 巳間晴香
107 宮内レミィ
109 深山雪見
112 山田ミチル
――以上…です……」
自分の役目を終えた久瀬はがっくりと項垂れた。
強制されているとは言え、島にいる者達に悲しみを、絶望を、自分の手で与えてしまったのだ。
体力だけでなく精神的にももう限界が近かった。
そこで突然画面が切り替わりウサギが画面に現れた。
『さて、ここで僕から一つ発表がある。なーに、心配はご無用さ。これは君らにとって朗報といえる事だからね』
話ぶりからしてウサギは放送を通じて島全体に対して話しかけているようだった。
久瀬は他の参加者達と同様、ただ黙って話に聞き入る事しか出来ない。
『発表とは他でもない、ゲームの優勝者へのご褒美の事さ。相応の報酬が無いと君達もやる気が上がらないだろうからね。
見事優勝した暁には好きな願いを一つ、例えどんな願いであろうと叶えてあげよう』
(―――何!?)
信じ難い発言に、久瀬の目が見開かれる。
戸惑う久瀬に構う事なく、ウサギの話は淡々と続けられていく。
『だから心配せず、ゲームに励んでくれ。君らの大事な人が死んだって優勝して生き返らせればいいだけだからね。
発表は以上だ。引き続き頑張ってくれたまえ』
そこで、映像は途切れた。
話を聞き終えた久瀬は蒼白になっていた。
常識的に考えればどんな願いでも叶えるという事など出来る訳が無い。
優勝者の願いを叶えるよりも、裏切って殺す方が圧倒的に手軽である。そして主催者達は間違いなくそうするだろう。
だがゲームの極限状態の中で、放送による悲しみの中で、どれだけの人間が冷静に判断を下せるというのだろうか。
一体何人の参加者があの話を鵜呑みにしてゲームに乗ってしまうのだろうか。
―――信じるんじゃない、これは罠だ!餌をぶらさげて殺し合いを加速させるための罠だ!!
そう参加者達に伝えたかった。だが今の彼にはそれが許されていない。
久瀬は自分の無力を呪い床を力の限り殴り続けた。
程なくして彼は力尽き、意識を失った。
久瀬
【時間:2日目06:00】
【場所:不明】
【状態:極度の疲労による気絶】
コン、コン。それはノック音。
扉の前で構えていた水瀬秋子に緊張が走る、突然の客人は自分達に危害を加えるものなのかどうか。
・・・コン、コン。もう一度響く。
秋子は手にしたジェリコ941を構え、今一度相手の出方を窺った。
ゲームに乗った者がこのような愚行を起こすわけはないと思う、これなら中にいる人間に自分の存在をアピールするようなものであるから。
だが、この家の中に人がいるかを確かめるためにやっているとしたら。
また、この行為で特に自分に影響が出ないような支給品を持っていたとしたら。
油断は禁物だった・・・が。
「すみません、誰かいませんかね」
声。扉越しのそれに、秋子は聞き覚えがあった。
「え?あら、あなたは・・・」
「その声!秋子さんですか?!」
急いで扉を開ける、そこから現れたのは見知った顔--------名雪や祐一の友人である、北川潤であった。
「よかった〜、何かあそこの窓から湯気が出てたんで、ここなら人がいると思ったんすよ!
まさか秋子さんだったなんてね、自分の運気に惚れそうだぜっ」
明るい笑顔、知人が無事であったことに対し秋子も安堵の笑みを浮かべる
「上がってください、一人では大変でしたでしょう。ここには名雪もいますから安心してくださいね」
快く向かい入れた潤の存在に対し、秋子の中の警戒心は一気に消え去っていた。
「おおっと!何やら見知らぬ顔がちらほらといらっしゃいますが、秋子さん」
居間らしき部屋に通された潤の目の前には、三人の少年少女がいた。
「ふふっ、みんないい子ですよ」
「うーあき、この男はなんだ?」
「名雪のお友達です、仲良くしてあげてくださいね」
「・・・ふむ」
「どうもっす、僕は春原陽平っす」
「いやはや初めまして、北川潤と申しますよ」
おしゃべりな潤が加入したせいか、場の雰囲気はさらに明るくなったようだ。
そんな光景を微笑ましそうに見つめた後、秋子は一人寝室の方へ向う。
・・・いまだ目覚めぬ名雪の容態が気になった、このまま目覚めないのでは、という不安も消えなかった。
だが、そんな現状を潤は知らない。
秋子の姿が見えなくなると、彼はそのことを陽平らに聞いてみることにした。
「あの、水瀬はどこにいるの?秋子さんがここにいるって言ってたんだけど・・・」
しん、と。和やかな雰囲気が一変する。
言葉を濁すように黙る陽平、潤には訳が分からなかった。
くい、くいっとブレザーの端を引かれたので目を向けると、スケッチブックを手に上月澪が名雪の状態のことを説明してくれた。
「そっか、そんなことが・・・」
「きっと大丈夫だって!目が覚めたらさ、元気な姿見せてくれるよ」
「そうだな・・・そうだよな」
励ましてくれているのであろう陽平に笑みを返す、さて。
とりあえず夜の越せる安全な場所は手に入ったのだ、ここからどうするかを潤は考えねばならない。
(水瀬がどうなってるかで、変わるかな)
とりあえずは彼女の目覚めを待つ、それが潤の出した結論だった。
一方、寝室。
秋子はまだその中に、なかなか足を踏み込めないでいた。
不安。あれだけ取り乱していた名雪が、目覚めてもいつものあの子でいてくれるかどうか。
・・・万が一、消せない傷を負ってしまっていたとしたら。
心が痛む、守ってやれなかったことに対する悔いが消えることなんてない。
秋子が立ち往生していた時だった、部屋の中から小さな囁きが聞こえてきたのは。
『・・・おか・・・さん?』
「名雪っ」
声、聞き間違えるはずのない娘の声。
秋子は瞬時にドアノブを掴み、急いで扉を開けた。
そこには、上半身を起こしてこちらを見つめる名雪の姿があり。
駆け寄る、傍まで近づき様子を窺おうとする秋子に対し、名雪はゆっくりと笑顔を作るのだった。
「お母さん、どこ行ってたの?寂しかったよ〜」
朗らかな声だった。
近寄ってきた秋子の腰にぎゅっと抱きつき、名雪は甘えるように頭を摺り寄せる。
「な、ゆき・・・大丈夫なの?どこか、変だったりしない?」
「うーん、ちょっと肩が痛いかな。でも平気だよ、だってお母さんが手当てしてくれたんだもん」
「名雪・・・よかった、よかった・・・」
「え?お母さん??」
ぎゅっと抱きしめる。世界で一番大切な存在を、もう絶対離したりはしたくなかった。
いたいよ〜という、のんびりとした声が嬉しかった。
それでも腰にまわした手を離さない、甘えん坊な所が愛おしかった。
いつもの名雪がいつもの名雪でいてくれたことに対し、最大限の感謝をする。
「よかった、よかった・・・あなたが、あなたでいてくれて・・・」
「もう、お母さんってば・・・心配性だな〜」
名雪の言葉ごと包み込むように、秋子は一筋の涙を流しながら彼女を抱き続けるのだった。
243 :
補足:2006/12/05(火) 02:05:08 ID:wrWPAXiL0
【時間:2日目午前1時】
【場所:F−02】
水瀬秋子
【所持品:IMI ジェリコ941(残弾14/14)、木彫りのヒトデ、包丁、スペツナズナイフ、殺虫剤、
支給品一式×2】
【状態・状況:健康。主催者を倒す。ゲームに参加させられている子供たちを1人でも多く助けて守る。
ゲームに乗った者を苦痛を味あわせた上で殺す】
春原陽平
【所持品:スタンガン・支給品一式】
【状態:普通】
ルーシー・マリア・ミソラ
【所持品:IMI マイクロUZI 残弾数(30/30)・予備カートリッジ(30発入×5)・支給品一式】
【状態:普通・疲労回復。服の着替え完了】
上月澪
【所持品:フライパン、スケッチブック、ほか支給品一式】
【状態・状況:普通・浩平やみさきたちを探す】
水瀬名雪
【持ち物:GPSレーダー、MP3再生機能付携帯電話(時限爆弾入り)
赤いルージュ型拳銃 弾1発入り、青酸カリ入り青いマニキュア】
【状態:普通・肩に刺し傷(治療済み)】
北川潤
【持ち物:SPAS12ショットガン(8/8+予備4)防弾性割烹着&頭巾 九八式円匙(スコップ)他支給品一式、携帯電話、お米券×2 】
【状況:考え中】
(関連・500・502)(B−4ルート)
「太田さん、沙織ちゃん………瑠璃子さん………」
2度目の死者を発表する放送。それには瑠璃子さんたちの名前があった。
親戚の一人である源蔵さんの名もあった。
溢れだしてくる怒りで近くの壁を殴りそうになったが、なんとか耐えた。
怒りは次第に治まってきたが、その代わりとばかりに今度は虚無感が僕を満たしていった。
「長瀬さん…」
「祐介お兄ちゃん…」
一緒に放送を聞いていた初音ちゃんたちがそんな僕を心配そうに見つめる。
「――ごめん。大丈夫。大丈夫だから……」
口ではそう言ったが、実際は大丈夫な気分ではなかった。体にあまり力が入らない。
「――悪いけど、少し外に出てもいいかな? 外の空気が吸いたいんだ……」
そう言って僕は半勝手に家を出た。
初音ちゃんたちはそんな僕を止めなかった。多分気遣ってくれているんだと勝手に思う。
外に出た僕を迎えたのは辺りを包む妙な空気だった。
今は殺し合いの真っ最中だと嫌でも思い出させてくれる。
――少し歩いてみる。すると見覚えのある服を着た人を見つけた。僕の学校の女子制服を着た人だ。
いや――人というのは間違いだ。
だって『それ』はもう人ではなかったのだから。
「太田さん……」
かつて太田さんだったモノとその下に見知らぬ少年の亡骸があった。
2人とも銃で射たれて死んでいた。
さらにその近くには太田さんを殺した凶器と思われる弾切れのショットガンと太田さんたちのものであろうデイパックがふたつ落ちていた。
「………」
あまり墓荒らしみたいなことはしたくなかったが、今は少しでも役立ちそうなものが必要だ。だからデイパックとショットガンはもらっていくことにした。
弾切れの銃でも威嚇や鈍器の代わりくらいにはなるはずだ。それに、もしかしたらそのうち弾が手に入るかもしれないしね……
そうして僕はその場を去り、初音ちゃんたちが待つ家へ戻ることにした。もちろん去る前に太田さんと見知らぬその少年の冥福を祈るのも忘れない。
歩きながらふと空を見る。こっちは殺人ゲームの真っ只中だというのに空は何も知らずにいい天気――青い空であった。
――こういう日は高いところに行けば電波がよく集まるんだっけ?
でも、その電波を僕に教えてくれたあの人はもうこの世にはいない。
そういえば、さっきあのウサギがパソコンの画面に出てきて言ってたな、『優勝者はどんな願いもひとつ叶えられる』って………
それはつまり、死んだ人を生き返らせるのも可能なのだろうか?
ならいっそのことかつての自分――大量殺戮に憧れに近い妄想をしていたころの自分に戻って……狂気に溺れてゲームに乗ってしまっても……
いやいや。なにを考えているんだ。そんなことしたら初音ちゃんたちはどうなるんだ。
恐ろしい考えを全力で否定する。
―――結果、虚無感だけが残った。
「――ねえ、瑠璃子さん。僕はこれから先どうすればいいかな……?」
【時間:2日目・午前6:30】
長瀬祐介
【場所:I−5、6境界】
【所持品1:ベネリM3(0/7)、100円ライター、折りたたみ傘、支給品一式】
【所持品2:フライパン、懐中電灯、ロウソク×4、イボつき軍手、支給品一式】
【状態:瑠璃子たちの死でやや自信喪失。少し惑いが生じている】
宮沢有紀寧
【場所:I−6上部】
【所持品:スイッチ(5/6)、ゴルフクラブ、支給品一式】
【状態:前腕軽傷(治療済み)、強い駒を隷属させる、祐介の帰りを待つ】
柏木初音
【場所:I−6上部】
【所持品:鋸、支給品一式】
【状態:祐介の帰りを待つ。目標は姉、耕一を探すこと】
【備考】
・祐介の他の荷物(コルト・パイソン(6/6)、予備弾×19、包帯、消毒液、支給品一式)はデイパックごと初音たちのいる家に置いてきている
・ベネリM3は貴明、北川の持つ散弾銃と同じ弾を使用する
247 :
最期の想い:2006/12/05(火) 11:24:57 ID:IX7r53iT0
「確かこの林の中に置いたはずじゃ」
皐月達は幸村が隠したというアサルトライフルを回収しに海岸沿いまできていた。
彼女達には戦力が不足している。行動を起こすには強力な力が必要だった。
「それで、この林のどこらへんに置いたんや?」
「…すまんの、正確な場所までは覚えておらん」
「……は?」
絶句する一同。それも当然だ。
海岸沿いに木は延々と生い茂っており、手当たり次第探していては何時間かかるか分からない程の広さだ。
「それじゃ……どうするんや?」
「大丈夫じゃ、覚えてないといっても大体の目星はついとるのでな。ワシはそっちを探すから智子さんは……」
幸村は大まかな位置くらいなら覚えているらしく、ある程度探す範囲は絞れているとの事だった。
それでも捜索範囲は広く、固まったまま探すのはあまりに非効率的に思われた。
各々が探す範囲を指定され、素早く指定された場所へと散っていく。
「う〜、ここにも無いわね……」
普段からミステリ研活動に勤しんでいる笹森花梨にとって、探索は得意分野である。
事実彼女はホテル跡の時も念入りに隠されていた青い宝石と手記を見つけ出した。
だから彼女は、今回もうちが見つけたるんよ!と張り切って探し始めたのだが、無い物は無い。
自分の担当範囲をあらかた探し終えた彼女は、とうとう諦め座り込んだ。
ふと思い立ったように鞄の中から青い宝石を取り出し、手に取ってみる。
その宝石は木の間から降り注ぐ日光を受けて光り輝いている。
その輝きはまるでサファイアのようで、とても価値のある宝石である事は一目で見て取れる。
「綺麗な宝石……この宝石に何が隠されてるっていうの……?」
「――――それは鍵だよ。このゲームを、この計画を成功させる為のね」
「きゃっ!?」
248 :
最期の想い:2006/12/05(火) 11:26:54 ID:IX7r53iT0
突然横から声を掛けられ、思わず驚きの叫び声を上げる。
振り向いた先には黒ずくめの少年―――まさしく「少年」その人が立っていた。
その手に持つグロック19の照準は正確に花梨の頭へと向けられている。
花梨は自身に向けられた銃口よりも寧ろ、こんな状況でも笑顔を絶やさない少年自身に対して強い恐怖を覚えていた。
手足を痺れさせる圧倒的な死の予感――――この場から一刻も早く逃げ出したい衝動に駆られる。
だが花梨が取った行動は恐怖による硬直でも逃走でもなかった。
「あ、あなたは……もしかして……前回参加してた少年っていう人……?」
直感的に抱いた疑問――それは殆ど確信に近い疑問だったが、とにかくその疑問をぶつける。
こんな状況にも関わらず訊かずにはいられなかったのだ。
すると少年は少し意外そうな顔をした。
「へえ、詳しいんだね。その宝石を隠した人がメモでも残してたのかな」
「やっぱりあなたが……?」
「そうだね。僕が前回のゲームに参加して……そして優勝した"少年"と呼ばれている人物だよ」
「やっぱり、あなたが……!」
「とにかくその宝石を渡してくれないかな?今回は十分にゲームは加速しているみたいだし、素直に渡せばここは見逃してあげるよ」
選択が突きつけられる。
花梨の直感は当たっていた。そしてその事を知った花梨の心に、強い怒りがこみ上げていた。
手帳の最後の部分は血痕が大量に付着していた。多分、もう助からないくらいの傷を負っていたのだろう。
苦みながら……そして、少年と主催者を憎みながらも執念で書き綴ったのだろう。
最期の力を振り絞って手帳を書いたであろう少女の気持ちを思い、花梨は憎しみを込めて少年を睨みつけた。
今は恐怖よりも怒りの方が勝っていた。だから花梨が迷う事は無い。花梨のその気持ちが口から漏れ始める。
「い………や……」
「え?」
「嫌!絶対にこれはあなたなんかに渡さないっ!」
249 :
最期の想い:2006/12/05(火) 11:28:06 ID:IX7r53iT0
恐怖を押さえ込んで、精一杯の虚勢を張りそう宣言する。
ここでこの宝石を渡す事は、きっとその少女の気持ちを無駄にする事になるから。
無駄な抵抗である事は分かりきっていたが、それでも心だけは負けたくなかった。
「……出会ったばかりで随分と嫌われたものだね」
その台詞で最後。これ以上の問答を続ける必要も意味も無いと判断した少年は銃の引き金を引こうとした。
しかしその刹那近くで落ち葉を踏みしめる音が聞こえ、少年は即座にその場を飛び退いた。
次の瞬間には銃声が響き渡り少年がそれまで立っていた空間を鋭い銃弾が切り裂く。
間髪をおかずに捕縛用のネットが迫ってきていたので、少年は大きく後退した。
「花梨、大丈夫かいなっ!?」
「……やれやれ、面倒な事になったね」
花梨の元に走りよる少女が二人。
異変に気付いた智子と皐月が急いで駆けつけてきていた。
智子は険しい顔つきで拳銃を構えており、皐月も若干戸惑いを見せながらもバズーカ砲を構えている。
智子は少年を睨み付けながら怒鳴った。
「アンタ、一体何のつもりや!」
「何のつもりって、その子が持っている宝石を受け取りに来ただけだよ。それは絶対に必要なものだからね」
「智子さん、皐月!あいつがあの手帳の"少年"なんよ!」
「あの人が……」
それで皐月も智子も事情を飲み込んだ。
この少年こそがあの手帳の少年で、そしてこいつは青い宝石を取り返しにきたのだ。
ならばもう、今からやるべき事は一つだ。
智子の手から銃弾が放たれる。
既に少年は走り出しておりその弾は木の幹に穴を空けだけに過ぎなかった。
即座に少年は智子に向けて銃を構えるが、それより早く皐月によって捕縛用ネットが放たれ少年は回避を余儀なくされた。
250 :
最期の想い:2006/12/05(火) 11:30:22 ID:IX7r53iT0
智子も皐月も発砲の反動ですぐには次の攻撃に移れない。
その隙を狙い少年が智子へ向けて発砲したが、花梨がすんでの所で智子の頭を抑えてしゃがみ込み銃弾は空を切った。
倒れ混んだ態勢から智子の銃が再び火を噴き少年のすぐ傍の地面を抉り取る。
この島で初めて出会ったとは思えない程見事な連携で智子達は少年を追い詰めていく。
少年は不利を悟ったのか素早く後退し始めた。
そのまま横に跳び、林の奥へと消えていく。
「今や、逃げるでっ!」
「え……、でもあの人もう逃げたんじゃ……」
「そんなワケないやろっ、早くするんや!」
智子にはどうしてもあの少年が大人しく引き下がるとは思えなかった。
粘りつくように重い、嫌な雰囲気を少年は纏っていた。
智子は少年が去った方向から視界を外さないまま花梨達の手を取り駆け出そうとし―――そして林の向こうに映る絶望的な光景を目撃した。
咄嗟の判断で皐月と花梨を突き飛ばし、その直後ダダダダダ……という音を聞いた。
一瞬遅れて体のあちこちに異様な感覚が訪れ、智子はその場に崩れ落ちた。
「ガッ―――――」
「いやあああっ!智子さんっ!」
皐月の悲痛な叫びがこだまする。
倒れ伏した智子の体からは夥しい量の血が流れており、助かる可能性はもはや皆無という他無かった。
「出来ればこっちの弾丸はこんな所で使いたくなかったんだけどね」
少年は事も無げにも無くそう放つ。
MG3―――弾丸のシャワーを吐き出す凶悪な火器を手にした少年が林の向こうから悠々と歩いてくる。
その銃口は皐月達をしっかりと捉えており、彼女達は身動き一つとれない。
少年はそのまま智子を抱きかかえる皐月に歩み寄り、彼女を蹴り飛ばした。バーズカ砲が皐月の手を離れ地面を転がる。
251 :
最期の想い:2006/12/05(火) 11:31:33 ID:IX7r53iT0
花梨は皐月を抱き起こし、少年をキっと睨んだ。
少年はそれを一瞥すらせずMG3をバッグの中に戻し、智子の銃を拾い上げ花梨の額に銃口を突き付けた。
それでも花梨は目を閉じず、少年を睨みつけたままだった。
―――その時、林に叫び声が響き渡った。
「馬鹿な真似はよすんじゃっ!」
少年がその声に反応し顔を横へと振り向ける。花梨達もその視線を追い―――その視線の先には幸村が立っていた。
幸村はアサルトライフルを手にしていた。その表情は今まで花梨達が見た幸村の表情の中でも最も険しく、そして最も悲しそうだった。
その姿を確認すると、少年は深い溜息をついた。
「動いたら容赦無く撃たせてもらうからの」
「全く……どうしてみんな、僕の邪魔をするのかな」
「馬鹿もんっ!こんな下らないゲームに乗りおって……」
幸村は一喝するが、少年はまるで意に介さぬ様子で肩をすくめるばかり。
視線を少し横にやると、血まみれになって倒れている智子の姿が目に入った。
まだ息はあるかもしれないが、もう助かりそうにもない。
「何故じゃ?何故お前さんは平気でこんな事が出来る?」
「……平気で、とは心外だね。僕だってやりたくてこんな事をしてるわけじゃないよ」
「何よっ……。こんな酷い事しといて何言ってるのよ!」
少年の言葉は花梨の頭に血を昇らせるのに十分だった。
たった今仲間を撃たれたばかりの彼女にとって、言い訳をするような少年の言葉と態度は決して許せるものではない。
切迫している状況も忘れ、花梨は怒声をあげた。
「あんた一体何なんよ!どうしてこんな事するのよぉ!」
「それが僕の使命だからさ。僕は計画を成功させないといけない……これ以上犠牲者を出さない為にもね。
計画が成功するまでこの殺し合いは何度でも行なわれる。決して途切れる事の無い、螺旋のようにね」
「え……?」
「計画とは……一体何じゃ?」
自力回避
回避
回避
回避
256 :
最期の想い:2006/12/05(火) 11:38:53 ID:IX7r53iT0
「君達には関係の無い話だよ。どうせ君達はここで――――」
少年がデイバッグを盾にするように構え、ゆっくりと銃を幸村の方へ向ける。
それを見た幸村は反射的にアサルトライフルの引き金を引き絞った。
弾丸はデイバッグに当たり――――カンカンカン…………という、何か硬い物に弾丸が弾かれる音がした。
衝撃でバランスを崩しながらも少年は銃を手放さない。
「死ぬんだからね」
態勢を立て直した少年はまだ事態を把握出来ていない幸村に向け、弾丸を一発だけ放った。
それで終わり。弾丸は正確に幸村の胸を貫き一瞬にしてその命を奪っていた。
遅れて少年のデイバッグが破れ、中身に入っていた物が地面に落ちた。
その中の一つの物を見て花梨と皐月は何が起こったかを把握した。
少年は鞄の中に入れておいた盾を頼りにして、アサルトライフルの銃弾を防いだのだと。
すすっと少年の銃口が移動し、花梨の頭に向けられる。
度重なる仲間の死に、あまりにもあっけない死に、遂に花梨はへたれ込んでいた。
その姿からは先程までの気丈さは微塵も感じられない。
皐月も動けない。今更何をしても死ぬ順番が入れ替わるだけだと分かっていたから。
その様はまるで死刑執行を待つ囚人のようで。皐月はただその時を待つ事しか出来ない。
だから少年による死刑の執行を妨げたのは、それ以外の人間――――既に刑の執行を受けた者だった。
・
・
・
保科智子は仲間を守れなかった事をずっと悔やんでいた。北川を疑った事をずっと悔やんでいた。
―――自分があの時エディを引き止めていればエディは死なずに済んだのではないか。
―――自分はあの時何の罪も無い北川を撃ってしまった。
回避
258 :
最期の想い:2006/12/05(火) 11:42:02 ID:IX7r53iT0
結局智子の行動はずっと空回りし続けていただけだった。
だから今度こそは、絶対に仲間を守りたいと思っていた。判断を誤ることなく、仲間を集めたいと思っていた。
もう後者の願いが叶う事はないけれど………せめて皐月達だけでも守りたかった。
そんな彼女の想いが、既に動かぬ彼女の体に最後の原動力を与えていた。
・
・
・
「あああッ!」
「なっ……!?」
智子は最期の力を振り絞るように叫びながら上体を起こすと傍に落ちているバズーカ砲を拾い、少年に向かって放った。
この距離、このタイミングでは少年といえど回避行動を取る事が出来ず、ネットに捕らえられる他無かった。
ネットに絡め取られた勢いのまま茂みに向かって吹き飛ばされる。
「今やーーーっ!!皐月、花梨、逃げるんやーーーーーっ!」
それは、智子の命を燃やし尽くす最後の叫び。生命全てが籠もった叫び。
その叫びを聞いた皐月はすぐにぴろを鞄に入れ花梨の手を取って脇目も振らずに走り出していた。
それは何かを考えての行動ではなく殆ど本能的な行動だった。
智子の叫びが、想いが、皐月の体を突き動かしていた。
少年がようやくネットから抜け出た頃には辺りにはもう誰もいなかった。
目線を下へやると智子が目を見開いたまま事切れている。
その命を燃やし尽くした時の表情のまま、智子は固まっていた。
あれだけの傷を負ってなお自分に不覚を取らせた少女。
259 :
最期の想い:2006/12/05(火) 11:43:25 ID:IX7r53iT0
彼女は仲間を守るために死の淵から一瞬だけ舞い戻ってきたのだ。
少年はその目蓋を閉じさせてやろうか迷ったが―――自分にはそんな資格は無い事に気付いて止めた。
【場所:c-2】
【時間:2日目09:00頃】
少年
【持ち物1:強化プラスチックの大盾(機動隊仕様)、38口径ダブルアクション式拳銃(残弾2/10)】
【持ち物2:智子の支給品一式、ステアーAUG(22/30)、グロック19(15/15)・予備弾丸11発。】
【状況:健康】
幸村俊夫
【所持品:ヌンチャク(金属性)、支給品一式】
【状態:死亡】
保科智子
【所持品:専用バズーカ砲&捕縛用ネット弾、予備弾薬69発ホローポイント弾11発使用、このみの支給品一式】
【状態:死亡】
笹森花梨
【持ち物:特殊警棒、海岸で拾ったピンクの貝殻(綺麗)、青い宝石、手帳、エディの支給品一式】
【状態:逃亡、精神状態不明】
湯浅皐月
【所持品:セイカクハンテンダケ(×1個&4分の3個)、支給品一式】
【状態:逃亡、精神状態不明】
ぴろ
【状態:皐月の鞄の中にいる】
【関連】
B−13
→476
→492
※少年の支給品一式、レーション3つ、注射器(H173)×19、MG3(残り13発)は大破
※智子と幸村の死体と所持品はその場に放置
260 :
刻をこえて:2006/12/05(火) 15:28:14 ID:XVjlN2o60
「くそ、離せ……! 離せよ!」
藤田浩之は必死に暴れてみせるが、しかし鬼の太く硬い腕はその身体をがっちりと抱き締めたまま、
こ揺るぎもしない。
「あそこにはまだ川名たちが残ってるんだぞ!」
「タカユキ……今度コソ、護ル……!」
浩之の言葉を聞いているのかどうか、自らに言い聞かせるように呟く柳川の声には確かな決意が宿っていた。
鬼に自分を解放する意思がないことを悟り、浩之は唇を噛みしめる。
遠ざかっていく白い巨像の影を、せめて記憶に焼き付けようと目を凝らす浩之。
木々の切れ間に垣間見えるそれは、この歪んだゲームに翻弄される者たちの見る悪夢の具現の如く、
或いは浄罪の為に地を焼き払う告死の天使のように美しく、禍々しく、殺戮の島にその威容を晒している。
「川名、深山、るーこ……無事に逃げ延びてくれよ……!」
ルーシー・マリア・ミソラが名無しの少年もろともに叩き潰されたことを、浩之はまだ知らない。
******
深山雪見はその厳しい視線を白い巨像へと向けながら、梢の陰に身を潜めている。
その手には、いまだ意識の戻らぬ川名みさきのぐったりとした体を抱えていた。
(これじゃ戦いようがない……か)
燃えるような憤怒をその瞳に浮かべ、雪見は奥歯を噛み締める。
あの巨像は、るーこをその手にかけた。一瞬たりとも生かしておきたくはない。
しかし、
(今は、みさきを安全な場所に移す方が先……!)
261 :
刻をこえて:2006/12/05(火) 15:29:35 ID:XVjlN2o60
腕の中で力なく横たわる親友の体温を感じながら、雪見は今にも怒りに任せて飛び出そうとする
己の身体を、強引に抑え込む。
決然と顔を上げ、巨像から死角となる木々の間を縫うように走り出す。
(るーこ……あんたの仇は絶対に取ってあげるからね……!)
黄金の名を背負う少女は、再戦への誓いを胸に刻んで疾走している。
******
「ど、どうすんのよ!?」
天沢郁未は動転している。
何か巨大な気配が落下してくることは感知していたが、まさか女性型の巨大ロボなどという物理的に巨大、
かつ非常識を遥かに通り越して不条理ですらある代物が降ってくるとは思ってもいなかった。
傍らで鉈を構える長髪の少女、鹿沼葉子が少なくとも表面上は冷静な口調で答える。
「……重要アイテム入手を目前に登場した謎の巨大人型兵器、ですか。
見事倒してキャラを立てるには、実においしい相手と言えますね……」
「いや、倒せれば、ね!? さっきの鬼なんかよりよっぽどヤバそうじゃない!」
四階建ての建築物にも匹敵しようかというその巨像を見上げ、郁未は叫んだ。
雷光のような速度で落下し、その質量で大地をクレーター状に陥没させておきながら、巨像は損傷した風もなく
立ち上がり、少女を叩き潰したその手を眺めるようにしている。
「……郁未さん」
「よしきた逃げましょう!」
臆面も無く言い放つ郁未。しかし葉子の返答は鈍い。
262 :
刻をこえて:2006/12/05(火) 15:30:21 ID:XVjlN2o60
「……いえ」
「何よ!? グズグズしてるんなら置いてくわよ!
あんなのと関わってたら命が幾つあったって足りないわ!」
「それが……」
「実際、私たちより強い不可視の力を持ってたハズのあいつだってやられたじゃない!」
「……その通りです」
「だったら!」
答える代わりに、葉子はその白く長い指を伸ばしてみせた。
つられてその指の先に視線をやる郁未。
「……え」
「……どうやら私たちは、機を逸したようです」
郁未の視界が捉えていたのは、自分たちの方をじっと見下ろしている、白い巨像の美しい顔であった。
巨像の腕が、ゆっくりと振り上げられる。
五指をいっぱいに開いて、風を巻く轟音と共にその手が落ちてきた。
「……うぉわぁっ!?」
慌てて飛び退いたその場所に、一瞬遅れて巨像の手が叩きこまれ、文字通り大地を震わせた。
郁未たちを捉えそこねたその掌が、ず、と音を立てて引き抜かれていく。
巨大な手形が残るその地面を見て、郁未の血の気が引いた。
「冗談じゃないわよ……」
「ですが、向こうに逃がしてくれる気は無さそうですね」
「って……またっ!」
轟、の一字を伴って、巨像の手が、今度は横殴りに襲いかかる。
全力で地面を蹴り、どうにか回避する二人。
巨像の手に巻き込まれ、決して細くない木々が数本まとめて薙ぎ倒されていく。
263 :
刻をこえて:2006/12/05(火) 15:31:07 ID:XVjlN2o60
「やるしか……ないっての!?」
「いささか無謀ですが……そのようです」
「冷静ね……」
「いえ、こんぼうとぬののふくを装備して街を出たら、いきなりしにがみのきしに遭ったような気分です」
「どういう意味だか、訊いてもいい?」
「絶望的、ということです」
「……聞かなきゃよかった」
「でしょうね」
じっとりと汗をかいた手で薙刀を握り締め、焦燥にざわめく精神を必死に抑えて不可視の力を練り上げながら、
郁未と葉子は次なる一撃に備える。
******
『にはは……手、真っ赤』
大地から引き抜いた自らの手を眺めて、観鈴が疲れたように笑う。
一度握って開けば、少女の血肉がねちゃりと糸を引くように感じられた。
「ボーっとしとったらあかんで、観鈴!」
晴子の声に、観鈴はゆっくりと辺りを見回す。
気がつけば、まだ大勢いたはずの人影は既に三々五々、散っている。
その場に残っていたのは、刃物を構えた少女が二人だけだった。
「ちッ、ちょこまかと逃げ回りよってからに……!
ま、ええ。観鈴、まずはあいつらを殺るで! 残りはその後で追っかけて殺せばええわ!」
『にはは……』
晴子の言葉に、観鈴は小さく笑うことで答える。
回避
回避
回避
回避手伝い
まだダメなのかな?回避
269 :
刻をこえて:2006/12/05(火) 16:03:25 ID:XVjlN2o60
少女たちを見下ろして、何も考えないようにしながらゆっくりと手を振り上げる観鈴。
羽虫を叩くように、掌で押し潰そうという動きだった。
使うのは、先程の少女の血に塗れた左手ではなく、石像を砕いた右手。
握った左手の中で、少女の血がその粘り気を増しているような気がしていた。
叩き潰さんとする少女たちを視界に入れないように、目を逸らしながら振りおろされた手は、
あっさりと回避されていた。
「何やっとんねん観鈴! ちゃんと狙わんかい!」
晴子の檄が飛ぶ。
振りおろした手をそのままに、今度は消しゴムのカスを払うような仕草で大地を薙ぐ観鈴。
これも、少女たちにはかわされる。
ろくに目標を見ないまま繰り出された攻撃である、回避されるのも当然といえば当然ではあったが、
それにしても少女たちの動きは常人離れしていた。
「ふん、ちびっこくてもバケモンはバケモン、ちゅうわけかい……構へんわ、こっちは無敵の観鈴ロボや」
篭ったような晴子の声を聞きながら、観鈴は心中で深く溜息をつく。
と、それまで回避一辺倒だった少女たちの動きが、変化を見せた。
手にした刃物を構えて、観鈴の足元へと突っ込んできたのである。
『わ……』
銃弾を軽々と弾き返す表面装甲が小さな刃物でどうにかなるとも思えなかったが、それでも
攻撃される、という感覚は恐怖の対象である。
むき出しの敵意に、思わず観鈴の身が竦む。一歩、二歩と下がった足が、倒木を踏みしだいた。
それで更にバランスを崩し、観鈴は大きく手を振り回しながら後傾姿勢を維持しようとするが、
それも叶わない。尻餅をつくような格好で倒れこんでしまう。
その拍子にはね上げられた脚が、巨大なギロチンの如く落ち、大地を裂いた。土埃と飛礫が舞い上がる。
突撃の体勢だった少女たちは、予期せぬ頭上からの打撃に、慌てて軌道を変え飛び退いていた。
270 :
刻をこえて:2006/12/05(火) 16:04:19 ID:XVjlN2o60
「……観鈴ぅ……」
『にはは……失敗』
「……いや、そうとも言えんで。あれ見ぃや」
晴子がニタリと笑う。
見れば左右に飛んだ内の一人、薙刀を持った方の少女が倒れこんでおり、いまだ立ち上がれずにいるようだった。
腹の辺りを押さえて苦しそうな表情を浮かべている。
どうやら吹き飛ばした砂礫の一つに直撃を受けたらしい。
深刻なダメージというほどではないようだったが、ほんの数瞬であってもこの近距離で
動きを止めるのは致命傷といえた。
「蹴散らせ、観鈴!」
晴子の声が、高らかに少女の死刑を宣告する。
尻餅をついた姿勢のまま、観鈴が左足を地面に擦り付けるようにしながら広げていく。
鉈を持つ少女が駆け寄ろうとするが、間に合わない。
膨大な土砂と倒木の津波が、少女を飲み込むかと見えた、そのとき。
闇を裂くように、或いは夜が形を成したように。
音も無く舞い降りた黒い壁が、少女を護るかの如く、その寸前で暴力的な質量を遮断していた。
高い音を立てて、観鈴の脚が弾かれる。
『痛っ……』
「何や!?」
壁と見えたそれは悠然と身を起こすと、その背から、周囲を覆わんとするかのように闇を拡げた。
それは漆黒の翼であった。
夜の森に偏在する暗黒よりも更に昏く静かに翼を広げ、それは顔を上げる。
「く、黒い……ロボ、やと!?」
白と黒の巨像が、夜陰の支配する森の中で、向かい合っていた。
271 :
刻をこえて:2006/12/05(火) 16:06:33 ID:XVjlN2o60
【時間:2日目午前2時過ぎ】
【場所:G−6】
神尾晴子
【持ち物:M16】
【状況:優勝へ】
アヴ・ウルトリィ=ミスズ
【状況:契約者に操縦系統委任、一部兵装凍結/それでも、お母さんと一緒】
天沢郁未
【所持品:薙刀】
【状態:九死に一生】
鹿沼葉子
【所持品:鉈】
【状態:窮地】
柳川祐也
【持ち物:俺の大切なタカユキ】
【状態:逃亡、最後はどうか、幸せな記憶を(鬼)】
藤田浩之
【所持品:無し】
【状態:慙愧(鳳凰星座の青銅聖闘士)】
深山雪見
【所持品:みさき】
【状態:逃亡、決意(牡牛座の黄金聖闘士)】
川名みさき
【所持品:無し】
【状態:意識不明(女神)】
柚原春夏
アヴ・カミュ
【所持品:おたま】
【状態:健康】
→508,514 ルートD-2
>>264-268 規制待ってる間にリアルでトラブってました…ありがとう&すみません。
272 :
情報を求めて:2006/12/06(水) 00:39:05 ID:ul6IZdh/0
ホテル跡を出発する前に割烹着を着た北川潤、広瀬真希、遠野美凪の三人組みは花を摘んでいた、今はこの世にいない二人の墓に供えるために
先に出発していた皐月達も同じ事をしていたのか二つの墓の前に申し分程度の花が供えられていた
何を言うわけでもなく自分達の摘んだ花を供え墓に黙祷する三人、
「言ってくるよ、柚原…エディさん」
合った事も無いエディはともかく柚原このみはここに居る三人しか死の瞬間を見ていない、それぞれが思い思いに胸を募らせる…。
そう言うと北川と真希は墓の近くの地面に突き刺してある(このみを弔った時に使った)スコップを地面より引き抜き三人はこの地を出て行く…。
「でっ…あたしたちの家政夫さん…何処行くの?」
ホテルを出て数十分後、荷物を北川に持たせ手ぶらならぬ肩ぶらでスコップ片手の真希が今後の方針に付いて聞く
「昨日ホテルを寝床に選んだわけは、どっちの村に行ける様にという意味でもだったんだけど…
いろいろな事があったからな、当初の通り平瀬村に向かうよ。」
『してその訳は?』と美凪が聞きたそうだ、それを感じたのか北川は続けて話す
「ここからだと氷川村は平瀬村より少し遠い…それに」
そういいつつ北川はポケットの中からごそごそと地図を取り出し開ける、地図には色々と書き込まれている、それを覗く真希と美凪
「昨日、笹森の手に入れた手帳の中身を読ませてもらったんだけどな…色んなことが書いてあったんだ。」
柚原このみの生前、保科智子と今後の方針について打ち合わせした時に見せてもらった前回参加者の手帳の事だと二人は察した
「この島にはイチ一人の前参加者の手帳しか残っていないとも言い切れないと思うんだ…。」
今回の参加者は120人、前回の参加者が総勢何人かは解からないが他の前参加者が何か手がかりを残していないとも限らない
「上手くいけば情報は元より、捨てていった武器か何か手に入るかもしれない。」
順序だてて計画を語る北川、昨日の間に行動した成果でもあった。
「手帳書いた人物によると、あのホテルに着く前に近くの平瀬村のある場所に滞在してたらしい…その時は仲間付きで。」
手帳を書いた女性は3日目には一人でホテル跡に滞在していた…つまり何かあったのだろう。
「…つまり、手がかりが何かあると言うことですか?」
地図を見つつ北川に聞く美凪
「だといいんだけどなぁ…結局のところ前回参加者が存在してた情報は保科達とオレ達しか知らないし」
自分達にしか出来ないことをやりたい…北川はそう感じていた。
「頼りが有るんだか無いんだか…。」
やれやれと相槌を打つ真希、べつに悪気は無い
「だけどオレ達と保科達しか知らない情報って、ある意味収穫なんだ…参加者全員にもらえる情報は【地図】と【参加者名簿】ぐらいだし。」
【定時放送】も付け加えたかったが、それは生きていたらの話…止めておく北川。
「まっ…あたし達がこれから行く場所に収穫が無くても智子達には確実に収穫があるからね」
皐月達が取りに行ったアサルトライフルは隠した幸村しか場所は知らない、つまり他の参加者が見つける可能性は低い、そう考える真希
「そういう事だな、こっちが駄目でも湯浅達があるしな」
気軽に考える北川、昨日北川達がホテル来る前にエディの件があったが、少なくとも皐月と智子は呼吸が合っていた…そう思い出す北川
「じゃあ、あたし達はあたし達でやるべきことをやろう。」
上手く話を〆る真希、こっちはこっちで息が合ってるようだった………。
「………ところで真希さん美凪さん。」
何かを気付いたように、北川がジト目で真希と美凪の二人を見る
なにかしら北川君♪」
「………何でしょう北川さん?」
真希と美凪は口裏を合わせるかの様に北川に返答する…。
「………御姑さん方の…お荷物…昨日より…格段に、重たいんですが…。」
三人の荷物はおにぎりが増えたといえ最初の支給品を渡された重さと然程変わらないはずである
…しかし昨日より2倍くらい重さが増えているのである
「はぁ…アンタ等…ホテルでなぁ〜にパクってきたんだよ…。」
「おほほほほっ♪」
「…ぽっ」
ため息を付く北川、手の甲を口に当て貴婦人笑いして誤魔化す真希、頬に手を当て顔を赤らめる美凪
「どうせ、剃刀とかバスタオルとか気に入った銀のスプーンとかその他諸々見繕ったんだろ…」
「あはははっあんただって諦め切れずにワインとキャビアをパクってるじゃない。」
「ここのホテルは良い調味料を使ってました…エッヘン」
考えることは同じらしい割烹着三人組み、田舎モノ丸出しだ
「とりあえず…村に着いたら、荷物の整理な…。」
「…ワインを飲んで整理しないでほしいで賞」
「………しくしく」
こうして彼らは前回参加者が居たと言う平瀬村のとある場所へと出発することになった
北川は知らないが、生前エディが一番欲しがっていたのは【情報】だった、確かな情報は一番の武器になる
出合うことがなかったエディと北川だったが、エディの意思は北川が受け継いでいたのだった。
回避
【場所:F−4】
【時間:2日目07:00頃】
北川潤
【持ち物@:防弾性割烹着&頭巾、SPAS12ショットガン8/8発+予備弾薬8発】
【持ち物A:剣先スコップ、支給品一式、おにぎり1食分 ワイン&キャビア】
【状況:首輪の情報を探して前回参加者が滞在していた平瀬村へ】
広瀬真希
【持ち物:スコップ、防弾性割烹着&頭巾、支給品一式、おにぎり1食分、携帯電話、お米券】
【持ち物A:ホテルにあった様々なもの(剃刀、タオル、食器、調味料、救急箱、その他諸々)】
【状況:同上】
遠野美凪
【持ち物:包丁、防弾性割烹着&頭巾、支給品一式、おにぎり1食分、お米券数十枚】
【状況:同上】
【関連】:B−13 492
「浩之君、足の調子はどうかな?」
「ん……」
みさきに言われて浩之は確かめるようにその場で足踏みしてみた。
痛みは無い。全力疾走でもしない限りは平気そうだった。
「大丈夫だ、痛みは引いてるよ。歩く分には問題無さそうだ」
「良かった……」
その言葉にみさきは心底安堵した。それは瑠璃や珊瑚も同じだった。
しかしやがて浩之は考え込むような表情になった。
その様子を心配した瑠璃が声を掛ける。
「浩之どうしたん?本当はまだ足痛むんか?」
「いや、それは大丈夫だ。ただ……主催者と戦うって言っても実際どうすれば良いのかなって思ってな」
「それはさんちゃんがパソコンを使ってきっと……」
「無理や……」
「え?」
一同は珊瑚の強い否定の言葉に驚き、彼女に視線を集中させた。
だが浩之達が見たものは言葉とは裏腹に笑顔を浮かべたまま口の前で人差し指を立てている珊瑚だった。
「珊瑚?何を……?」
「そんなん無理や。ロボットを作るのとはワケが違うわ」
浩之達は怪訝な表情をしながら問いかけるが、珊瑚は否定の言葉を続ける。
彼女は微笑みを浮かべたままバッグから地図を取り出しその裏にペンを走らせた。
【方法はあるよ。だけど盗聴されてるから口には出せないねん】
「ええっ!?」
浩之は思わず驚きの声をあげてしまった。
珊瑚は慌てて再び人差し指を口にあてた。
浩之がしまったという顔をしながら口を閉じる。
「そんな驚く事でもないやん……無理なもんは無理や」
【みさきの首輪を今朝寝てる振りして調べたけど、小さい穴がいくつかついとった。多分盗聴用や。
レンズはついとらんかったから、盗撮はされてへんと思う。
せやから少しの間、上手く話を合わせて欲しいねん。本命の話は筆談でするからな】
珊瑚はその事を書き終えるとみさきに近付いて、彼女の耳元で小声でボソボソと2,3言囁いた。
みさきもそれで事情を了承して表情を緩めていた。
「だから何とかして別の案を考えないとあかん……」
「そうか……」
【簡潔に説明すると流れはこうやで。まずは首輪の解除に使う工具を確保する。次にパソコンで主催者の情報を引き出す。
出来ればこの時に連中のセキュリティーシステムも無効化しときたいな……。最後に脱出するか、主催者と対決やな】
それを見た浩之は目を丸くしている。トントン拍子で話が進みすぎてまだ現実味が感じられないのだ。
彼もまた鞄からペンと地図を取り出し、文字を書き始めた。
【珊瑚は首輪を解除出来るのか?パソコンで主催者の情報を調べるなんてどうやってやるんだ?】
【うん、首輪の解除はよっぽど複雑な仕組みになってない限り工具があれば出来ると思う。
パソコンは正直まだ分からへん……島内部にだけでもアクセス出来るようなネット環境が無いとアウトや。
アクセス出来たとしても連中のセキュリティーシステムを無効化出来るかは分からへん……】
フェイクの会話を交わしつつ浩之と珊瑚は交互にペンを走らせる。
瑠璃はその様子を見守っており、書いている内容が分からないみさきはただじっと待っていた。
【パソコンに関してはやってみないと分からないって事か】
【そういう事やね。だからまずは村に行って工具とパソコンを探そうと思うんよ。出来れば信頼出来る知り合いも探したいな。
とにかく細かい作戦を決めるのはパソコンを調べてみてからやね】
「まずは仲間を集めるしか無いんじゃねえかな。正直俺達だけじゃどうしようもないしな」
「でもあんまり簡単に人を信用し過ぎると寝首をかかれかねへんよ」
「うーん、難しいな……。となるとまずは信用出来る知り合いを探すべきか」
【分かった。他に何かあるか?】
【あらへんよ。筆談はこれで終わるけど、工具を探してる事と盗聴に気付いてる事は口に出さんといてな】
浩之は親指を立ててみせた後、ペンと地図をバッグの中に仕舞った。
珊瑚も同じようにバッグの中に筆記用具を仕舞い、そしてみさきにまた耳打ちし大体の事情を説明した。
「じゃあまずは平瀬村へ行かへん?」
「え……でもそれって危ないんじゃ……」
瑠璃の提案に対してみさきが不安そうに呟く。
だが瑠璃は大きく首を振り、珊瑚の持つレーダーを指差した(尤も目が見えないみさきにはこの動作は分からなかったが)。
「さんちゃんのレーダーで周りを常に警戒して、人が近付いてきたら隠れて様子を見よ。
それで知り合いやったら声を掛けて、知らない人やったらそのままやり過ごせば大丈夫やって」
「そうだな……、悩んでても始まらないしな。よし、みんな行こうぜ!」
今後の方針が決まった彼らは再び歩き出した。
放送直後は重苦しい雰囲気からは一転して、希望が見えてきた彼らの足取りは軽い。
レーダーがある以上周りを過度に気にする必要も無い。
彼らは歩きながらも会話を続けていた。
「それで浩之は誰を探すつもりなん?」
「そうだな………神岸あかり、佐藤雅史、長岡志保……それから来栖川綾香だな。
特に綾香は強力な戦力になるから何とか合流したい」
勿論あかりや雅史の事も心配だったし出来れば見つけて守りたい。
だが今は何よりも主催者を倒す為に戦力が必要だった。
「へ〜、その綾香さんって凄い人なん?」
「ああ。綾香はエクストリームチャンピオンの全日本チャンピオンで、俺が知ってる限りでは一番運動神経が良い。
こんな糞ゲームに乗るような奴じゃないし、信頼出来る」
そう。綾香は気の強い女の子だが、その一方で姉や葵の事を気にかける優しさも持っている。
何より綾香は自分より何倍も精神的にタフだ。そんな彼女がこんなゲームに乗るとは到底考えられない。
ただ不安要素があるとすれば―――芹香の死だ。姉の死が綾香に与えた影響がどれ程のものか、浩之には想像も出来なかった。
「みさきは?」
「えーと、私はね……」
「あっ!?」
みさきが喋ろうとしたが、それはレーダーと睨めっこしていた珊瑚の叫び声で阻まれた。
レーダーに自分達以外の光点が一つ映っていた。
その光点はどうやら自分達がいる方向に向かってきているようだった。
「誰かが近付いてきてる!川名、こっちだっ!」
浩之は慌ててみさきの手を引っ張り近くの茂みの奥へと身を潜める。
瑠璃達もすぐその後に続いた。
ごくりと唾を飲み込みながらレーダーと、レーダーに映っている光点が来るであろう方向を交互に窺う。
否が応にも皆の緊張が高まってくる。やってくるのは知り合いかもしれない。
しかし、マーダーである可能性も十分に考えられる。
気付かれずにやり過ごせれば良いが、発見されてしまう可能性も0とは言い切れなかった。
やがて、その光点の人物が向こうの方から歩いてきた。
その人物を確認した瞬間浩之は緊張から解放され、その人物に向かって走り寄っていた。
「綾香っ!俺だ!」
「え、浩之……?」
その人物―――来栖川綾香はきょとんとした顔で浩之の方へと振り返っていた。
すぐに浩之は彼女の近くまで辿り着き、息を整えてから話し出した。
「全く、とんでもない事になったよな……。でも、お前だけでも無事で良かったよ」
「とーぜんでしょ。私はそう簡単にやられたりなんかしないわ。あなたこそよく無事だったわね」
「まあな。色々と大変だったけどな」
「それはお互い様よ……。ほら」
そう言って綾香は左腕の袖を捲ってみせた。
その肩には包帯が巻かれており、一目見ただけでも傷は浅くない事が分かった。
「お、お前大丈夫なのか?」
「平気よ、これくらい。私には良いハンデだわ」
綾香は手を振りながら笑顔でそう答えていた。
その笑顔を見た浩之はホッとしたような表情になった。
彼女はやっぱり、いつもの綾香だ。まだ芹香の死を報せる放送からはそれ程たっていない。
にも関わらずいつも通りの振る舞いを見せる綾香に、心底安堵を覚えた。
――――だがその浩之の安堵はすぐに打ち砕かれる事になる。
「浩之ーっ、その子が綾香さんなん?」
「もー浩之、ちゃんと説明してから飛び出さなあかんで」
茂みの方から瑠璃達が歩いてきていた。
浩之と綾香の様子から、敵では無いと判断したのだろう。
「わりぃわりぃ。やっと知り合いを見つけれて、嬉しくてついな」
浩之は瑠璃達の方を向き、頭を掻きながら笑顔で謝罪する。
しかしその時、後ろでガチャリという音がした。
途端に、瑠璃達の表情が恐怖と驚愕のそれに変わった。
不審に思い綾香の方へ視線を戻すと、そこにいたのは先程までの彼女では無かった。
浩之が目にしたのは―――殺気に満ちた目で銃を構える殺戮者の姿だった。
「お、おい綾香、何やってんだよ!?この子達は俺の仲間だぞ!」
「だから?そんなの関係無いわよ」
「お、お前もしかしてゲームに……」
「ええ、私はゲームに乗ってるわよ。貴方も殺されたくなかったら大人しくしときなさい」
放送に続いて、信じたくない現実をまたも突きつけられる。浩之の顔に絶望の色が浮かんだ。
綾香は威圧するような視線を瑠璃と珊瑚に投げかける。
「そこのあんた達、死にたくなかったら質問に答えなさい。まーりゃんという人物に心当たりはない?」
「……知らへんわ」
瑠璃が首を振る。
同じ問いかけを珊瑚や浩之、みさきにも行なったが結果は一緒だった。
「そう。ったくどいつもこいつも知らない知らないって……あの女、よっぽど影が薄かったのかしら。
ま、仕方ないわ。じゃあ久寿川ささらは知ってる?」
「確か……うちの学校の生徒会長さんやったと思う」
「知り合い?」
「いや、名前を知ってるだけやで…」
ちっ、と綾香が舌打ちする。久寿川ささらの役職などには興味が無い。
もしかしたらまーりゃんという人物は生徒会関係の人間なのかもしれないが、その情報に何の意味がある。
瑠璃達の様子に嘘や偽りは感じられない。とすれば彼女達は自分の復讐すべき標的ではない。
本音を言えばまーりゃんと同じ学校というだけでも排除したかったが、今は浩之がいる。
まーりゃんと同じ学校とは言え浩之を自分の手で殺すのは流石に躊躇いを覚える。
無理に攻撃を仕掛ける事も無いだろうと、綾香は判断した。
「じゃあ最後に……あんた達の武器をよこしなさい。断ったら……分かるわよね?」
レーダーを失うのは痛手だったが、命には代えられない。
浩之達は渋々レーダーと携帯型レーザー誘導装置、それぞれの説明書を綾香に投げ渡した。
「これは……レーダーか。これであの女を探しやすくなるわね……。
じゃあ収穫もあった事だし、あんた達は見逃してあげる。せいぜい長生きしなさい、じゃあね」
綾香はバッグに奪い取った荷物を放り込んだ。
回避
回避
また一つ怨敵を探し出す足掛かりを得た綾香は上機嫌でその場を後にしようとしていた。
しかしその背中に声が掛けられた。
「ま、待ってくれよ!」
「あら……まだ何か用かしら?」
立ち去ろうとした矢先に浩之に呼び止められ、立ち止まる。
浩之は必死の形相で綾香の方を見ていた。
「なんで……なんでお前、こんなゲームに乗っちまったんだよ?先輩が死んだからか?」
「違うわよ。姉さんが死んだのは悲しかったけど、私はもっと前からゲームに乗っていたわ」
「何でだよっ!?」
「……そっか、これはあんた達にも関係のある事だったわね」
綾香はくすりと笑った。浩之はその笑みをみて、背筋がぞくりとするような感覚を覚えた。
「巳間晴香って知ってるでしょ?その子が殺されたのよ、まーりゃんって奴に、惨たらしくね」
「は、晴香が……」
巳間晴香の死は既に知っていたが、改めて聞かされるとやはり多少のショックを受ける。
だが、次の言葉はその何十倍ものショックを浩之達に与える事になる。
「それで雪見って分かるでしょ、あんた達と一緒に行動してたらしい深山雪見よ。
彼女はまーりゃんにハメられて私と晴香に襲い掛かってきたのよ。
私は雪見に撃たれた晴香を守る為に、雪見と戦ったわ。必死に戦った末に雪見を殺してしまった。
そして急いで晴香の治療をしようとしたら、もう晴香はまーりゃんに殺された後だったのよっ!」
「そ、そんな……」
「雪ちゃんが……」
「だから私はまーりゃんを殺してやるのよっ!絶対に許さない……これ以上無いくらい苦しめて殺してやるっ!
アイツの知り合いも殺すっ!殺した奴らの死体の一部を持っていって、アイツに突きつけてるのよ。
あのクソガキがどんな反応をするか、今から楽しみだわ」
浩之は言葉が出なかった。かつて浩之と仲間を共にした―――そしてみさきの親友である深山雪見のあまりにも報われない死に様。
そして綾香が剥き出しにした狂気。目の前の光景が現実だと受け入れたくなかった。
「これで分かったでしょ?私がゲームに乗った理由がね。安心なさい、私がちゃんと雪見の仇は取ってあげるからさ」
「駄目……だよ……」
「は?」
「駄目だよ!そんな事しても雪ちゃんも晴香さんも喜ばないよ!」
綾香にとっては最も関心の薄かった人物、川名みさきが叫んでいた。
あの優しかった雪見ならそんな事を望むはずがないから―――そう、叫んでいた。
綾香は一瞬呆然として、すぐにその表情は険しい物へと変わっていった。
彼女の存在など綾香にとってはどうでも良い事だが、言っている事が堪らなく気に入らない。
「何勘違いしてるのよ……別に晴香達を喜ばそうとしてやってる訳じゃないわ。私が満足出来ればそれでいいのよ。
全くどいつもこいつも戯言をほざく……。いい?これは元々一人しか生き残れないゲームなのよ。
だったらゲームに乗るしかないじゃない。あんた達も早く目を覚ました方がいいわよ」
「そんな……お前、それで満足なのか?人を殺して、自分一人だけ生き残って満足なのかよっ!?」
「そんなのどうでもいいわよ、現実を見なさい。さっきも言ったけど最後には一人しか生き残れないのよ……同じ事を何度も言わせないで頂戴」
そこで浩之は珊瑚に言われた計画を思い出した。
そう、自分達にはゲームに乗らずとも生き延びる希望があるのだ。
まだ脱出する手段までは決まっていないが、首輪だけなら何とかなる可能性が高い。
首輪さえどうにか出来れば道は開けるように思えた。
きっとその事を伝えれば綾香も考えを改めてくれる。今の彼女はこのゲームの環境の中で狂わされているだけだ。
自分の知っている来栖川綾香なら、きっと協力してくれる。
そう思った――――いや、思いたかった。
「そうだ!ゲームに乗らないでも帰れる方法があるんだよ!」
「……へえ、それは諦めなければどうにかなる、なんてクソみたいな理想論じゃなくて現実的な話なの?」
「それは……」
浩之は内容を言いかけて慌てて口を閉ざした。具体的な事を言えば主催者達にもその事が筒抜けとなってしまう。
これから先の行動が不利になるのは間違いなかった。
それでも、このまま綾香を放って置く訳にはいかない。
許しを請うように珊瑚の方を見ると、珊瑚は真剣な面持ちで頷いてくれた。
「そこの……珊瑚が首輪を外せるんだよ。他にもやろうとしてる事はあるけどそれは今は言えない。
でも、首輪さえ外せれば後は何とかなりそうって事は分かるだろ?一緒に主催者をぶっ飛ばそうぜ」
また このて の はなし か かいひ
「ふーん……珊瑚さん、だっけ。それは本当の話なの?」
「……うん、そうや。ウチはそういうの凄い得意やから、多分やけど外せると思う」
浩之は最低限の、だけど説得には最も効果的な情報を教えていた。
首輪は参加者にとって最も大きな重圧となっている筈だった。
なにせ、主催者の気分一つでいつでも殺されてしまうのだから。
常に自分の命を人質に取られているようなものだった。
その重圧さえ取り除けば、綾香も仲間になってくれるだろうと考えた。
「そう……なら予定変更。そこの女は生かしておけないわ。
復讐する前にゲームを終わらせるなんて、冗談じゃないっ!」
「え……?」
だが、綾香の反応は浩之が期待していた反応とはまるで正反対で。
綾香の銃口が珊瑚へと向けられていた。
【時間:2日目午前7時50分頃】
【場所:G−5】
来栖川綾香
【所持品1:S&W M1076 残弾数(5/6)予備弾丸28・IMI マイクロUZI 残弾数(20/30)・予備カートリッジ(30発入×5)】
【所持品2:防弾チョッキ・支給品一式・携帯型レーザー式誘導装置 弾数3・レーダー】
【状態@:やる気満々(浩之を殺すつもりはない)。肋骨損傷(激しい動きは若干の痛みを伴う)。左肩口刺し傷(治療済み)】
【状態A:まーりゃんとささら、さらに彼女達と同じ制服の人間を捕捉して排除する。今は珊瑚を殺害しようとしている】
藤田浩之
【所持品:なし】
【状態:驚愕】
川名みさき
【所持品:なし】
【状態:驚愕、恐怖】
姫百合瑠璃
【持ち物:デイパック、水(半分)、食料(3分の1】
【状態:驚愕、恐怖】
姫百合珊瑚
【持ち物:デイパック、水(半分)食料(3分の1)】
【状態:驚愕、恐怖】
【関連】:B-13 518
・訂正
>>286の
>浩之は言葉が出なかった。かつて浩之と仲間を共にした―――そしてみさきの親友である深山雪見のあまりにも報われない死に様。
を
浩之は言葉が出なかった。かつて浩之と行動を共にした―――そしてみさきの親友である深山雪見のあまりにも報われない死に様。
に。
>>284-285、
>>288 回避感謝〜
展開が似てしまったのは申し訳ないとしか言いようが無いです
綾香の行動目的から、俺の想像力だとこれ以外の展開が思い浮かばなかった……
来栖川綾香には、「まーりゃん」を打ちのめすというしっかりとした目的があった。
そのために手を汚す覚悟もできている、ダニエルを撃った時から彼女はゲームに乗った身になった。
今、彼女は北川潤に言われた通り神塚山に向けて走り続けていた。
途中崖上の場所に出てしまいまわり道を余儀なくされるが、それでもめげずに彼女はひたすら足を動かし続けた。
そんな時だった。思いがけない場所から、声をかけられたのは。
「おい、おい!綾香じゃないかっ、いや〜助かった・・・」
「え、浩之?あんた、こんな所で一体何してんのよ」
視覚的に捉えにくい茂みに隠れるように寄り添う男女、その一方は綾香も見知った相手・・・藤田浩之であった。
突然の再会に戸惑う、そんな綾香の様子を気にすることなく浩之は話し出した。
「あそこの崖から落ちたんだよ、それで足挫いっちゃっって身動きとれなかったんだ。
いやぁ、通りがかったのがお前でよかった」
「藤田くん、お知り合い?」
「ああ、来栖川綾香って言って、すっげー頼りがいのあるヤツだ。
綾香、こっちは川名みさきさん」
「みさきです、よろしくお願いします」
「えっと、私こっちなんだけど・・・」
「わわわ、ごめんなさい」
「綾香・・・川名な、目が見えないんだ」
それからも、浩之は普段の様子からは思いつかないほど流暢に話し続けた。
第一回放送が行われた頃からずっと二人だったという、気づかぬうちに彼の中にも何らかのストレスが溜められたのであろう。
だが、それらの話は全て綾香の耳を素通りしていく。
・・・なんで、こんなに早く出会ってしまったのか。そんなつらい感情に支配されてしまいそうだった。
綾香の右手には、今もS&Wが握られている。
一方、目の前の二人は何の武装もしていない。
綾香が少し、人差し指を動かすだけで二人を葬ることはできる。
そんな現実が今、彼女の目の前にあった。
「・・・綾香?」
いい加減静か過ぎる彼女の様子をおかしく思ったのか、浩之も怪訝な表情で見やってくる。
きゅっと唇を噛み締め、彼女は決意を露にした。
・・・自分の進むべき道を、誤ってはいけないのだ。
「ちょっと、聞いてもいいかしら」
今、彼女の最優先事項は「まーりゃん」である、そのことについての確認は必要だった。
「ここら辺、集団が通ったりはしなかったかしら。時間的にはちょっと前になるんだけど」
「ああ・・・確か、一回そういうのは通った気がする」
「藤田君の視覚には入らなくて、声かけられなかったんだよね。私はこんなだから見極めることもできなくて・・・」
「そう。その中に、女の子は入っていた?」
「連中、しゃべりながらの移動じゃなかったから正直分からない。ごめんな」
「そう・・・」
これだけだったら可能性的には五分と五分、と言った所だろう。
だが、潤の証言からその一行が「まーりゃん」の属するものだという察しは容易につく。
・・・これで、目の前の二人は本当の意味で用済みとなった。
すっと、銃を手にした右手を構える。
狙うは大切な友人、隣の少女など彼を殺れた後にはどうとでもなる。
イヤなものを後回しにせず先に持っていくところが、何とも彼女らしいと言ったところか。
「・・・冗談だろ?」
いきなりの綾香の行動に、浩之も戸惑いが隠せなかったらしい。
だが、綾香は弁明も何もしようとしなかった。する気がなかった。
「冗談じゃないわ」
「お前がゲームに乗る必要なんてないだろ?」
「できたのよ、理由が」
「・・・マジか」
「ごめん、大マジ。痛いのは一瞬よ、この距離なら外さない・・・ごめんね」
最後の呟きと共に、引き金を引いた瞬間だった。
それは、本当に一瞬のできごと。綾香も予想することができなかった。
浩之を狙うS&Wと彼の間、突如割り込んできた存在。みさきである。
目の見えない彼女が、気配だけで動いた結果--------浩之に当たるはずの銃弾は彼女の腹部に命中する。
「あうっ・・・!!」
「か、川名ぁ!」
浩之の叫び声、みさきはそのまま前のめりに倒れこんだ。
致命傷ではないのだろう、苦しそうだが彼女が息を引き取る様子は見えない。
綾香は今一度S&Wを構えなおし・・・そして、今度は浩之ではなく彼女を狙い。撃った。
言葉も出ないとは、このような状態であろう。
信じられないといった視線、みさきに止めを刺した綾香は一身にそれを受けるしかない。
それが、彼女のしたことに対する責任であるから。
「綾香、お前・・・っ!」
「憎いかしら。当然よね・・・私も、そうだったもの」
「川名がお前に何をしたんだっ、お前、彼女は・・・彼女はなぁ!!」
「ごめん」
胸が痛まない訳ではない。苦しくないはずがない。・・・綾香、だって。
でも、こんなにも戸惑いなく事を起こせたことに対する自分を、綾香自信恐ろしく感じていた。
これが「殺人鬼」というもの・・・今の、綾香だということを。
見た目には出ないが、精神的な消耗はひどかった。
罪悪感はあるのだ・・・ダニエルを撃った時とはまた、違う形で。
それは、関係性のないみさきの死に対してではない・・・友人である、彼の存在が大きかった。
視線も、言葉も、何もかも。
一秒でも早く逃げ出したかった、もう彼を殺さなければいけないという思いを抱けないほど、綾香の心には負担がつのっていて。
これから「まーりゃん」を倒しに行くという状況的にも、不にしか働かない状態である。
・・・どっちみち浩之は、この足では何もできないだろう。
「まーりゃん」と決着をつけた後戻ってくるのでも問題はない、綾香はそう判断する。
それまでに、もっと強くならなければ。
心を鍛えなければ。こんなことで揺らぐ必要のないくらい、冷徹な人間にならなければいけなかった。
彼と目を合わせることなく、綾香は山頂を目指し歩き出そうとする。
当然の如く浩之は疑問を口に出すが、綾香はそれに対しての答えは伝えなかった。その代わり。
「あいつとの事が終わったら戻ってくるわ。・・・浩之、その時はあなたを」
一呼吸おき、そして。
「あなたを、殺すわ」
顔を伏せたまま言い放つ。
そのまま振り返らないで走り出す綾香、涙はもう枯れ果てて、いた。
295 :
補足:2006/12/06(水) 01:40:10 ID:iHMVrjHu0
来栖川綾香
【時間:2日目午前2時】
【場所:G−5】
【所持品:S&W M1076 残弾数(4/6)予備弾丸28・防弾チョッキ・トカレフ(TT30)銃弾数(6/8)・支給品一式】
【状態:舞のいる集団に向かう、腕を軽症(治療済み)。麻亜子とそれに関連する人物の殺害(今は麻亜子>関連人物)、ゲームに乗っている】
藤田浩之
【時間:2日目午前2時】
【場所:G−5】
【所持品:無し。それまでの荷物は街道に放置】
【状態:足を打撲。一人では歩けない】
川名みさき 死亡
(関連・241・500)(B−4ルート)
「あ、綾香っ!?」
浩之は迂闊過ぎた。綾香の怒りと狂気を軽く見過ぎていたのだ。
彼女はもう4人の命を奪っている。もう戻ってこれるような状態では、無かった。
そして更に悪い事に、綾香には平瀬村の一件で学んだ事があった。
それは――――
「情報も聞き終わったしこれ以上の問答は無意味よ。とっとと終わらせてもらうわ」
無駄に時間をかけてもリスクが増すばかりだという事である。
それを思い知らされた綾香は何の猶予も無しに引き金を引いた。
一つの銃声がこだまする。
浩之には何故かその銃声がひどく遠く現実離れしたものに感じられた。
S&W M1076の銃口から発射された弾丸は珊瑚の胸のあたりに命中し、彼女の内臓に致命的なダメージを与えていた。
瞬間、飛び散る鮮血。力の殆どを一瞬にして失った珊瑚の体がドサリと地面に崩れ落ちた。
「さんちゃぁぁぁぁぁん!」
「はい、これにて一件落着。ゲームを終わらせるなんて考えがどれだけ馬鹿な絵空事なのか、よ〜く分かったでしょ?」
ぐったりとしている珊瑚に必死に縋り付いて号泣する瑠璃。
その様子を見てクスリと、優雅な微笑みを浮かべる綾香。
そして、
「綾香ぁぁぁぁぁぁっ!」
理性を失い弾かれるように飛び出し綾香に殴りかかる浩之。
しかし怒りに任せたその動きは直線的で単純であり、綾香に通用する道理はない。
綾香がほんの少し上半身を後ろに傾けただけであっさりとその拳は外される。
そのまま綾香は浩之の無防備な腹部へと膝蹴りを打ち込んだ。
「がはっ……」
カウンター気味に打ち込まれたその衝撃に耐え切れず、浩之はそのままその場に崩れ落ちた。
「ひ、浩之君っ!」
みさきが浩之の元へと駆けつける。
目の見えない彼女だったがこの場の異様な雰囲気と叫び声、銃声で大体の事情は察していた。
「そういえばそっか……一人殺した以上はあんた達にとって私は完全に敵って訳なのね。
良いわ、目撃者を残すわけにもいかないしここで引導を渡してあげる」
綾香は銃を構えながらゆっくりと浩之に近付いてゆく。
そこでみさきが綾香と浩之の間に両手を広げ、毅然とした態度で割り込んでいた。
「何、貴方の方が先に死にたいってワケ?死ぬ順番が変わるだけなのに随分と無意味な事をするわね。
どうせなら、私に殴りかかってくるくらいすればいいのにさ」
「嫌だよ……。私は戦う事なんて出来ないし、人を傷付けたくもない」
綾香は知らない。みさきが目を見えない事を。戦うなどとても不可能な事を。
それでもみさきは首を振りながら綾香の前に立ちはだかった。
綾香は心底面倒臭そうに溜息を一つついた。
「ま、あんたの好きにすればいいわ。現実から目を逸らしたまま死になさいっ!」
火のついてしまった綾香はもう止まらない。その引き金にかけた人差し指に力を入れようとし―――――
「死ぬのは貴様だ、殺人鬼」
後方から静かな声が投げかけられる。
ほぼ同時に二つの銃声が辺り一帯に響いた。
最初に綾香の拳銃が弾き飛ばされ、次にその脇腹に強烈な衝撃が走り彼女は傍の茂みへと吹き飛ばされた。
浩之が銃声のした方を見ると銃を構えた長身の男、そして浩之と同じ年頃の少女が立っていた。
鋭い眼光を放つその男は浩之の知っている人物だった。
「あんたは……」
「お前は確か、藤田浩之か。久しぶりだな」
男―――柳川裕也は銃を下ろし倒れている少女、珊瑚へと顔を向けた。
今にも息絶えそうなその様子を見て柳川の表情は僅かに、だが確かに歪んでいた。
「……倉田、もう手遅れかもしれんがそこの少女の手当てをしてやってくれ。俺はあの殺人鬼にトドメを刺す」
「は、はいっ!」
佐祐理は素早く救急箱を取り出し走り出し、浩之とみさきも遅れて珊瑚の所へと向かった。
(クソッ、まずいわね……)
その会話の一部始終を聞いていた綾香は焦っていた。
倒れた場所が茂みだったのは、綾香にとって僥倖と言える。
背の高い雑草のおかげで防弾チョッキには気付かれないだろう。
だがそれも相手が油断していればの話だ。男の足音は確実にこちらへと近付いてくる。
このままではいずれ気付かれ、殺されてしまう。相手の注意がこちらから逸れるのを待つなどという悠長な作戦は通用しそうもない。
拳銃はどこに飛ばされたか分からない。マシンガンを鞄から取り出す暇があるとも到底思えなかった。
綾香は死体を演じながら反撃の糸口を捜し求め―――指先に何か硬い物が触れているのに気付いた。
それを絶対に悟られないように慎重な動作で握りこむ。
そして柳川が後数メートルといった所まで近付いてきた時、綾香は反撃を開始した。
「――――何!?」
綾香は撃たれた衝撃でポケットから落ちていたマガジンを柳川の銃目掛けて投げ付けた。
奇襲は完全に成功し、柳川の銃が弾き飛ばされる。
間髪いれずに起き上がり柳川の顎を狙って鋭い蹴りを放つ。
(――獲った!)
このタイミングなら絶対に避けられない。
綾香の豊富な格闘技経験がそう確信させる。
しかし、柳川の反応速度は常識で計りきれるものでは無かった。
「……くっ!」
「嘘でしょ!?」
柳川は迫り来る蹴りを間一髪で避けていた。
すぐに柳川も綾香も次の行動に移り、肉弾戦が始まった。
柳川は腕を振りかぶり、綾香の顔を狙った一撃を繰り出した。
だがその一撃の軌道を読み切っていた綾香は腰を落として避ける。
綾香はその態勢のまま柳川の足元目掛けて足払いをしかけた。
「その程度っ!」
柳川はそれを避けようとせず、逆に綾香の蹴り足に対して蹴りを放つ事で対抗した。
「つうっ……!」
先手を取り十分な予備動作を得ていたにも関わらず、綾香が逆に押し負け後退する。
その機を見逃さず柳川が一気に間合いを詰めた。
柳川の正拳が風を切りながら放たれる。
綾香は上半身を横に傾け、目標を失ったその右腕を両腕で掴んだ。
「ヘシ折れなさいっ!」
そのまま関節技の態勢に持っていき、柳川の右腕の機能を奪わんと全ての力を両腕に籠める。
今までの相手ならばこれで勝負は決していた。そう、今までの相手ならば。
だが柳川は咆哮と共にその腕を力の限り振り回した。腕を掴んでいる綾香ごとだ。
「うおおおぉっっ!」
「なっ!?」
勢いに耐え切れず綾香が振り払われる。綾香はそのまま勢いに身を任せ間合いを取った。
「―――貴様、やるな」
「あんたもね」
綾香も柳川も予想以上の相手の力量に驚いていた。
両者は再び地を蹴り間合いを詰め、場違いな決闘の続きが行なわれる。
騒ぎに気付いて柳川に加勢しようとしていた浩之だったが、その戦いの凄まじさに魅入ってしまっていた。
離れた地に落ちた銃を拾いにいく事など自殺行為に他ならないと二人とも分かっている。
両者の拳と殺意が交錯し続ける。
柳川の攻撃は綾香から見ればまだまだ粗く技術的には大したレベルではない。
だが―――
(……一体何なのよコイツ!)
―――スピードが違う。必殺のタイミングで繰り出した綾香の一撃が悉く防がれる。
―――パワーが違う。柳川の繰り出す一撃一撃がまともに食らえば戦闘不能に追い込まれかねない威力を秘めている。
それは綾香の知りうる全ての格闘技の枠組みを越えたものである。
猛獣のような柳川の攻撃の前に、綾香は次第に追い詰められていった。
綾香の常識が、修練の日々が、否定されていく。
湧き上がってくる感情は戦いによる高揚感などではなく、焦りと理不尽な思いだった。
「――――シッ!」
素早い突きが柳川の喉に向かって伸びる。
柳川は裏拳でその突きを弾き飛ばし、綾香の左脇腹へと拳を叩き込もうとし―――
「――――!?」
「くらえっ!」
すぐにそれを止めて綾香の頭部目掛けて上段蹴りを放っていた。
既に綾香は数回フェイントを用いていたが、柳川がこのような動きをするのは初めてだった。
大きく反応が遅れた綾香はその強烈な一撃を受け止める以外に選択肢が残されていない。
受け止めた綾香の右腕に鈍い痛みが走る。
「……こんのぉぉぉぉっ!」
それでも綾香は歯を食いしばって耐え、膝蹴りを柳川の脇腹へと繰り出す。
柳川は肘でそれを防いだが、梓に殴られた傷跡にもその衝撃が伝わり一瞬動きが止まった。
綾香にとってそれは明らかな隙だったが、敢えて追撃をしない。
既に幾度となく柳川の隙を狙って攻撃を仕掛けているがそのどれも通用していないので。
先の一撃で受けた右腕のダメージも大きく不利は明らかだ、加えて左肩の傷も気になる。
綾香は素早く飛び退いて自身のデイバッグを拾い上げ、次の瞬間にはもう林を目指して一目散に走り出していた。
(……予想外の展開だったけど―――収穫はあったわ)
レーダーは手に入れ、マシンガンも残っている。この場でこれ以上無理をする意味は薄い。
自分が格闘戦で遅れを取った事実は非常に気に食わないが、借りを返すのならば後日万全の状態で戦うべきだ。
あくまで至上目的はまーりゃんへの復讐、今この難敵との決着に固執していてはいけないのだ。
「貴様、待てっ!」
綾香の突然の逃亡に柳川は一瞬反応が遅れたがすぐに自分の拳銃を探し始め、見つけると迷わず綾香の背中に向けて発砲した。
だがその銃弾は虚しく空を切り、二発目を撃とうとした時にはもう綾香の背中は林の中に隠れて見えなくなっていた。
「チ……逃がしたか」
追撃を諦めた柳川はその場に放置された綾香の拳銃とその弾層を回収し、珊瑚達の方へと戻っていった。
「――――!」
戦いに集中していて気付かなかったが、瑠璃の泣き叫ぶ声が響き続けている。
珊瑚の胸からとめどもなく血が溢れていた。肺を傷付けられたのか口から血も吐いている。
これはもう―――――助からない。
医者でない佐祐理にはどうする事も出来ず、ただ力なく項垂れるだけだ。
いや、例え医者がいたとしてももう打つ手はないだろう。
柳川も浩之もみさきも呆然と立ち尽くすだけで何も出来ない。
だがそんな時、珊瑚が微かに声を発した。
「る、り……ちゃん」
「さんちゃん!しっかりして!」
「るり……ちゃん、ごめん……うち、もうだめ……みたい……」
「そ、そんな……さんちゃん……」
「何言ってんだ、諦めんな!」
浩之が座り込んで叫んでいた。その手は珊瑚の手を握っている。
「きっとまだ何とかなるから……だめだなんて言うなよっ!」
涙を流しながら力の限り叫ぶ。
認めたくなかった。
諦めたくなかった。
だが、そんな彼の肩を柳川が掴んでいた。
「止めろ、藤田」
「何でだよ!珊瑚が……珊瑚がっ……!」
「楓のときは遺言を聞く時間も与えられなかった……。だが、まだその女は生きている。
ならばせめて最後まで話を聞いてやれ」
「…………」
それで浩之は何も言えなくなり、黙って珊瑚の言葉を待った。
「るりちゃん……うちら、ずっと、いっしょ……やったね……」
「……うん、さんちゃんとうち、ラブラブラブやもん」
「うちは……死んでも、るり……ちゃんの、こころのなかに、生き続けるから……から、これからもずっと、いっしょやで……」
「うん、うん……」
「だからるりちゃんは、生きて……浩之も……みさきも、死んだらあかんよ……」
「……分かった。俺達、お前の分も頑張るからな」
浩之が珊瑚の右手を、瑠璃が珊瑚の左手をしっかりと握る。
珊瑚の暖かさを忘れないよう、強く、強く。
「やくそく、やで……」
珊瑚の手から力が失われ、その目が閉ざされる。
後はただ、浩之達の啜り泣く声が聞こえるばかりだった。
【時間:2日目午前8時20分頃】
【場所:G−5】
来栖川綾香
【所持品1:IMI マイクロUZI 残弾数(20/30)・予備カートリッジ(30発入×5)】
【所持品2:防弾チョッキ・支給品一式・携帯型レーザー式誘導装置 弾数3・レーダー】
【状態@:逃亡、右腕、肋骨損傷(激しい動きは痛みを伴う)。左肩口刺し傷(治療済み)】
【状態A:まーりゃんとささら、さらに彼女達と同じ制服の人間を捕捉して排除する】
姫百合珊瑚
【持ち物:デイパック、水(半分)食料(3分の1)】
【状態:死亡】
藤田浩之
【所持品:なし】
【状態:啜り泣き】
川名みさき
【所持品:なし】
【状態:啜り泣き】
姫百合瑠璃
【持ち物:デイパック、水(半分)、食料(3分の1】
【状態:啜り泣き】
柳川祐也
【所持品@:出刃包丁(少し傷んでいる)、S&W M1076 残弾数(4/6)予備マガジン(7発入り×4)】
【所持品A、コルト・ディテクティブスペシャル(2/6)、支給品一式×2】
【状態:左肩と脇腹の治療は完了したが治りきってはいない、教会を経由して平瀬村へ】
倉田佐祐理
【所持品:支給品一式、救急箱、二連式デリンジャー(残弾2発)、吹き矢セット(青×5:麻酔薬、赤×3:効能不明、黄×3:効能不明)】
【状態:啜り泣き 柳川に同行、教会を経由して平瀬村へ】
【関連】:B-13 510 524
>>300-301 >>303-304 >>306 回避感謝〜
309 :
彰の騎士:2006/12/08(金) 02:22:48 ID:une0Qdz40
「クク……そろそろくたばったか……?」
ニヤリと歯を剥いて笑ったのは岡崎朋也である。
その視線は、一人の男の尻を見下ろしていた。
ぴくりぴくりと痙攣しているそのむき出しの尻に指を滑らせ、朋也は満足したように笑うと、
その場に横たわるもう一人の青年の方へと歩き出そうとする。
しかし、その足を掴むものがあった。
胡乱げに振り向く朋也。足を掴んでいたのは、痙攣していたはずの男の手であった。
「ま、待て……どこへ行く気だ……? まだ俺様のバックはピッチピチだぜ……」
毛だらけの尻にロウが垂らされた痕を幾つも作り。
白濁液に塗れた菊座には、クラッカーの中に詰まっていたらしき色とりどりの紙吹雪をまとわりつかせ。
それでも、男の瞳は死んではいなかった。
震える手で必死に足を掴んでいるその男の、血の涙を流さんばかりに充血した眼を見て、
朋也は嬉しそうに舌なめずりをする。
「ほぅ、いい覚悟だ。俺のスペシャルメニューじゃあ、まだ足りなかったか」
「ケッ……何が、スペシャルだ……あれっぽっちじゃ、オードブルにもなりゃしねえぜ……」
男の精一杯の強がりに、朋也は哄笑する。
「ククク……フフ、ハハハハハ!! よく言った、よく言ってくれた!
そうだな、ここからはシェフのおすすめメニューといこうか!」
と、朋也はぴたりと笑みをおさめると、男の目を見返して静かに告げる。
「……その前に、俺はひとつお前に謝らなきゃならんことがある」
「な……何だ……?」
310 :
彰の騎士:2006/12/08(金) 02:23:29 ID:une0Qdz40
ただならぬ口調に、思わず身構える男。
朋也は王者の風格漂う笑みを口元に浮かべ、悠然と口を開いた。
「俺としたことが、男を相手にするのは初めてでな。ついつい手加減しちまってたみたいだ。
まったく、失礼なことといったらないな……クク」
楽しくてたまらない、といった風情で続ける朋也。
「……なぁ、おい? たかだか準備運動程度で、まさか音を上げるはずがなかったよなあ?」
「な……っ!」
朋也の言葉に、思わず男が絶句する。
驚愕に固まったその表情を見て、朋也は男のおとがいに手をかけると、その唇をついばむように吸う。
「さぁ……本番と行こうぜ?」
「ひっ……」
朋也の舌が、水音を立てて男の口腔を侵蝕する。
その感触に嫌悪感を覚えたか、男が顔をしかめた。
それを見て、朋也は嬉しそうに男の頬を撫でると、その瞼をねぶりながら囁く。
「いいんだぜ? ギブアップならそう言ってくれてもな……」
朋也はそこで言葉を切ると、視線を傍らに倒れ伏して荒い呼吸を続けているもう一人の青年に移した。
「ただ、そのときは……あっちに相手をしてもらうことになるけどなぁ……?
クク……アレはアレでデザートに良さそうじゃないか……白くて柔らかそうだ」
「ま、待て……! 待ってくれ……!」
朋也の言葉に、男が激しく反応する。
死に掛けたカエルに電気を流すような、それは朋也の残酷な遊戯だった。
小刻みに痙攣するその矮小な姿を見て笑うように、朋也は男をねぶり続ける。
311 :
彰の騎士:2006/12/08(金) 02:24:21 ID:une0Qdz40
「そいつには……そいつには手を出すな……。
俺がいくらでも相手になってやるから……頼む……」
「手を出すなぁ……? ちょっとばかり言葉遣いがなってないんじゃねえか……?」
「く……手を……出さないでくれ、いや……ください、頼み……ます……」
臍の穴まで舐められながら、男は必死に懇願していた。
その擦れた声を聞いて、朋也は己の逸物が更に体積と硬度を増していくのを感じる。
「クク……わかってるさ、お前がそうやって可愛い態度を取ってりゃあ、あっちに浮気したりはしねえよ」
言いながら、その剛直を男のそれへと擦り付ける朋也。
「おいおい、すっかり萎えてんじゃねえか……ま、お前のは使わねえから別にいいけど、なっ……!」
「ぎ……がぁ……ぅ……っ!」
うつ伏せにし、尻を高く突き上げさせた男の菊座に狙いを定めると、一気に挿入する。
激痛ゆえにか、男の限界まで見開かれた眼からぽろぽろと涙が零れ落ちた。
流れた涙は唾液と混ざり合い、雨に濡れた地面に落ちる。
己の体液と雨粒によって作り出された泥濘に顔を埋めて、男は必死に苦痛を堪えようとしているようだった。
そんな涙ぐましい男の態度を見て、朋也の腰が加速する。
「いいねぇ……そういうの、嫌いじゃないぜ……。
もっと耐えてみせろよ……お前の限界、見せてくれよ……ああ、たまんねえ……」
男の直腸は、既に朋也の発射した子種で満たされている。
溢れだす白濁液が、血と混ざり合って桃色の泡となり、男の尻を彩っていた。
朋也の腰遣いが、段々と人間離れしたものになっていく。
「さぁて……じゃ、そろそろイクぜ……!
ザーメン一気だ、飲み干してみせてくれよぉ……!?」
朋也の荒い呼吸が、限界に到達しようとした、その瞬間である。
312 :
彰の騎士:2006/12/08(金) 02:25:06 ID:une0Qdz40
「が……ぁぁぁぁっ!?」
突然、朋也の腰遣いが止まった。
のみならず、頭を抱えて苦しみだしたのである。
弾みで男の尻から剛直が引き抜かれた。
裸体を泥濘に預けてのた打ち回る朋也の目に、雨雲の薄灰色に満たされた空が映る。
「が……しまった、夜明けか……ッ! ぐ……ぐああああぁぁっッ!」
その言葉を最後に、朋也は意識を失っていた。
「た……助かった……、のか……?」
ばったりと倒れこんだまま動かなくなった朋也を恐る恐るつつく高槻。
つい先程まで自分を責め苛んでいたその身体が突然起き上がるようなことがないという確信を得て、
高槻はようやく胸を撫で下ろした。
雨水で身体中に付着した朋也の精液を荒い流し、ところどころ破れた服をいそいそと着直すと、
そっと彰の身体を揺する高槻。
「おい……おい彰、もう大丈夫だぞ……」
「ん、うぅ……?」
ぼんやりと目を開ける彰をみて、優しく微笑む高槻。
「気がついたか」
「高槻……さん?」
「そうだ、お前の高槻さんだよ。……調子はどうだ?」
回避
314 :
彰の騎士:2006/12/08(金) 02:31:11 ID:une0Qdz40
高槻の手に額をまさぐられて、思わず身を引きかける彰。
そんな彰の様子を気にも留めず、高槻は難しい顔で呟く。
「……まだかなり熱があるな。やっぱりどこかで休まなきゃいかんか。
心配するな、俺様がちゃんとエスコートしてやるからな」
まだついてくる気かこのおっさん、と内心でげんなりする彰。
意識がはっきりしてくるにつれて、周囲の様子が眼に入ってきた。
すぐ側に倒れている朋也を見て、彰が躊躇いがちに訊ねる。
「この人……高槻さんが殺したの?」
「いや、死んでないぞ。何だか知らんが勝手にぶっ倒れちまった。
……そうだな、彰が心配ならトドメをさしていこうか」
「誰もそんなこと言ってないんだけど……」
彰の呟きは耳に入らない様子で、朋也の方へと歩み寄る高槻。
どこで拾ったのか、手には大きな石を持っている。
が。
「……うおぉっ!?」
突如として飛来した何かが、高槻の足元に突き刺さっていた。
その行く手を塞ぐように、朋也との間に突き立てられているそれは、星型の巨大な手裏剣であった。
「クソッ……近くに誰かいやがるのか……! 逃げるぞ、彰!」
もつれる足を引きずって彰に駆け寄ると、高槻は彰の華奢な身体を荷物ごと抱え上げる。
「お、お姫様抱っこ……?」
「はは、彰は軽いな」
「いや、そういうことじゃなくて……」
「熱のあるお前を走らせたりできないだろ」
回避
回避
317 :
彰の騎士:2006/12/08(金) 02:35:59 ID:une0Qdz40
油断なく周囲に目を配りながら、荒い呼吸を隠そうともせずに走り続ける高槻。
その言葉と強い視線に、彰が少し黙り込む。
「ねえ」
「何だ」
「高槻さん、どうして僕の為にここまでしてくれるの……?」
その問いに、高槻は不意を突かれたように彰の目を見返した。その間にも足は止めない。
「……何でだろうな」
「え……?」
「正直、俺様にもわかんねえ」
「それじゃ……」
「何でこうなっちまったのか、いつからこうなっちまったのか。
全然わかんねえ。……けどな」
「けど……何?」
「お前を守る理由だけは、はっきりしてる」
何となく続きが聞きたくないような気がする彰だったが、高槻はしっかりと
彰の目を見つめたまま、言い切った。
「俺様が、お前を愛してるからだ」
いっそ殺せ。
高槻の腕の中で揺られながら、彰は本気でそう思っていた。
318 :
彰の騎士:2006/12/08(金) 02:36:42 ID:une0Qdz40
「……何で?」
いつの間にか図鑑に浮き上がっていた文字に観月マナが驚くのは、その少し後のことである。
『岡崎朋也(CLANNAD)×高槻(MOON.) --- クラスB』
【時間:2日目午前6時前】
【場所:E−06】
高槻
【所持品:支給品一式】
【状態:彰の騎士・切れ痔】
七瀬彰
【所持品:アイスピック、自身と佳乃の支給品の入ったデイバック】
【状況:発熱】
岡崎朋也
【持ち物:お誕生日セット(三角帽子)、支給品一式(水、食料少し消費)、大変な逸物】
【状態:変態強姦魔(両刀使い)・気絶中】
伊吹風子
【持ち物:彫りかけのヒトデ】
【状態:覚醒・ムティカパ妖魔】
観月マナ
【所持品:BL図鑑・ワルサー P38・支給品一式】
【状態:BLの使徒Lv1(クラスB×3)】
→496,517 ルートD-2
「あ、綾香っ!?」
浩之は迂闊過ぎた。綾香の怒りと狂気を軽く見過ぎていたのだ。
彼女はもう4人の命を奪っている。もう戻ってこれるような状態では、無かった。
そして更に悪い事に、綾香には平瀬村の一件で学んだ事があった。
それは――――
「情報も聞き終わったしこれ以上の問答は無意味よ。とっとと終わらせてもらうわ」
無駄に時間をかけてもリスクが増すばかりだという事である。
それを思い知らされた綾香は何の猶予も無しに引き金を引いた。
「駄目ぇぇぇぇっっ!」
一つの叫び声と、銃声がこだまする。
浩之には何故かその銃声がひどく遠く現実離れしたものに感じられた。
綾香が銃口を引く刹那、瑠璃が珊瑚の前に飛び出していた。
姉を守る――――ずっと変わらぬその誓いを守る為に。瑠璃にとってはその誓いが全てだった。
S&W M1076の銃口から発射された弾丸は瑠璃の胸のあたりに命中し、彼女の内臓に致命的なダメージを与えていた。
瞬間、飛び散る鮮血。力の殆どを一瞬にして失った瑠璃の体がドサリと地面に崩れ落ちた。
「瑠璃ちゃぁぁぁぁぁん!」
「チッ……またか……。昨日のあの女と言い、どうしてこう自分から命を捨てる馬鹿が多いのかしら……。死んだらお終いなのにね」
ぐったりとしている瑠璃に必死に縋り付いて号泣する珊瑚。
その様子を見ていかにもくだらなさそうに肩を竦めている綾香。
そして、
「綾香ぁぁぁぁぁぁっ!」
理性を失い弾かれるように飛び出し綾香に殴りかかる浩之。
しかし怒りに任せたその動きは直線的で単純であり、綾香に通用する道理はない。
綾香がほんの少し上半身を後ろに傾けただけであっさりとその拳は外される。
そのまま綾香は浩之の無防備な腹部へと膝蹴りを打ち込んだ。
「がはっ……」
カウンター気味に打ち込まれたその衝撃に耐え切れず、浩之はそのままその場に崩れ落ちた。
「ひ、浩之君っ!」
みさきが浩之の元へと駆けつける。
目の見えない彼女だったがこの場の異様な雰囲気と叫び声、銃声で大体の事情は察していた。
「そういえばそっか……一人殺した以上はあんた達にとって私は完全に敵って訳なのね。
良いわ、目撃者を残すわけにもいかないしまずはあんたから引導を渡してあげる」
綾香は銃を構えながらゆっくりと浩之に近付いてゆく。
そこでみさきが綾香と浩之の間に両手を広げ、毅然とした態度で割り込んでいた。
「何、貴方の方が先に死にたいってワケ?死ぬ順番が変わるだけなのに随分と無意味な事をするわね。
どうせなら、私に殴りかかってくるくらいすればいいのにさ」
「嫌だよ……。私は戦う事なんて出来ないし、人を傷付けたくもない」
綾香は知らない。みさきが目を見えない事を。戦うなどとても不可能な事を。
それでもみさきは首を振りながら綾香の前に立ちはだかった。
綾香は心底面倒臭そうに溜息を一つついた。
「ま、あんたの好きにすればいいわ。現実から目を逸らしたまま死になさいっ!」
火のついてしまった綾香はもう止まらない。その引き金にかけた人差し指に力を入れようとし―――――
「死ぬのは貴様だ、殺人鬼」
後方から投げかけられる静かな声を聞いた。
ほぼ同時に二つの銃声が辺り一帯に響く。
最初に綾香の拳銃が弾き飛ばされ、次にその脇腹に強烈な衝撃が走り彼女は傍の茂みへと吹き飛ばされた。
浩之が銃声のした方を見ると銃を構えた長身の男、そして浩之と同じ年頃の少女が立っていた。
鋭い眼光を放つその男は浩之の知っている人物だった。
「あんたは……」
「お前は確か、藤田浩之か。久しぶりだな」
男―――柳川裕也は銃を下ろし倒れている少女、瑠璃へと顔を向けた。
今にも息絶えそうなその様子を見て柳川の表情は僅かに、だが確かに歪んでいた。
「……倉田、もう手遅れかもしれんがそこの少女の手当てをしてやってくれ。俺はあの殺人鬼にトドメを刺す」
「は、はいっ!」
佐祐理は素早く救急箱を取り出し走り出し、浩之とみさきも遅れて瑠璃の所へと向かった。
(クソッ、まずいわね……)
その会話の一部始終を聞いていた綾香は焦っていた。
倒れた場所が茂みだったのは、綾香にとって僥倖と言える。
背の高い雑草のおかげで防弾チョッキには気付かれないだろう。
まあ回避
だがそれも相手が油断していればの話だ。男の足音は確実にこちらへと近付いてくる。
このままではいずれ気付かれ、殺されてしまう。相手の注意がこちらから逸れるのを待つなどという悠長な作戦は通用しそうもない。
拳銃はどこに飛ばされたか分からない。マシンガンを鞄から取り出す暇があるとも到底思えなかった。
綾香は死体を演じながら反撃の糸口を捜し求め―――指先に何か硬い物が触れているのに気付いた。
それを絶対に悟られないように慎重な動作で握りこむ。
そして柳川が後数メートルといった所まで近付いてきた時、綾香は反撃を開始した。
「――――何!?」
綾香は撃たれた衝撃でポケットから落ちていたマガジンを柳川の銃目掛けて投げ付けた。
奇襲は完全に成功し、柳川の銃が弾き飛ばされる。
間髪いれずに起き上がり柳川の顎を狙って鋭い蹴りを放つ。
(――獲った!)
このタイミングなら絶対に避けられない。
綾香の豊富な格闘技経験がそう確信させる。
しかし、柳川の反応速度は常識で計りきれるものでは無かった。
「……くっ!」
「嘘でしょ!?」
柳川は迫り来る蹴りを間一髪で避けていた。
すぐに柳川も綾香も次の行動に移り、肉弾戦が始まった。
柳川は腕を振りかぶり、綾香の顔を狙った一撃を繰り出した。
だがその一撃の軌道を読み切っていた綾香は腰を落として避ける。
綾香はその態勢のまま柳川の足元目掛けて足払いをしかけた。
「その程度っ!」
柳川はそれを避けようとせず、逆に綾香の蹴り足に対して蹴りを放つ事で対抗した。
「つうっ……!」
先手を取り十分な予備動作を得ていたにも関わらず、綾香が逆に押し負け後退する。
その機を見逃さず柳川が一気に間合いを詰めた。
柳川の正拳が風を切りながら放たれる。
綾香は上半身を横に傾け、目標を失ったその右腕を両腕で掴んだ。
「ヘシ折れなさいっ!」
そのまま関節技の態勢に持っていき、柳川の右腕の機能を奪わんと全ての力を両腕に籠める。
今までの相手ならばこれで勝負は決していた。そう、今までの相手ならば。
だが柳川は咆哮と共にその腕を力の限り振り回した。腕を掴んでいる綾香ごとだ。
「うおおおぉっっ!」
「なっ!?」
勢いに耐え切れず綾香が振り払われる。綾香はそのまま勢いに身を任せ間合いを取った。
「―――貴様、やるな」
「あんたもね」
綾香も柳川も予想以上の相手の力量に驚いていた。
両者は再び地を蹴り間合いを詰め、場違いな決闘の続きが行なわれる。
騒ぎに気付いて柳川に加勢しようとしていた浩之だったが、その戦いの凄まじさに魅入ってしまっていた。
離れた地に落ちた銃を拾いにいく事など自殺行為に他ならないと二人とも分かっている。
両者の拳と殺意が交錯し続ける。
柳川の攻撃は綾香から見ればまだまだ粗く技術的には大したレベルではない。
だが―――
(……一体何なのよコイツ!)
―――スピードが違う。必殺のタイミングで繰り出した綾香の一撃が悉く防がれる。
―――パワーが違う。柳川の繰り出す一撃一撃がまともに食らえば戦闘不能に追い込まれかねない威力を秘めている。
それは綾香の知りうる全ての格闘技の枠組みを越えたものである。
猛獣のような柳川の攻撃の前に、綾香は次第に追い詰められていった。
綾香の常識が、修練の日々が、否定されていく。
湧き上がってくる感情は戦いによる高揚感などではなく、焦りと理不尽な思いだった。
「――――シッ!」
素早い突きが柳川の喉に向かって伸びる。
柳川は裏拳でその突きを弾き飛ばし、綾香の左脇腹へと拳を叩き込もうとし―――
「――――!?」
「くらえっ!」
すぐにそれを止めて綾香の頭部目掛けて上段蹴りを放っていた。
既に綾香は数回フェイントを用いていたが、柳川がこのような動きをするのは初めてだった。
大きく反応が遅れた綾香はその強烈な一撃を受け止める以外に選択肢が残されていない。
受け止めた綾香の右腕に鈍い痛みが走る。
「……こんのぉぉぉぉっ!」
それでも綾香は歯を食いしばって耐え、膝蹴りを柳川の脇腹へと繰り出す。
柳川は肘でそれを防いだが、梓に殴られた傷跡にもその衝撃が伝わり一瞬動きが止まった。
綾香にとってそれは明らかな隙だったが、敢えて追撃をしない。
既に幾度となく柳川の隙を狙って攻撃を仕掛けているがそのどれも通用していないので。
先の一撃で受けた右腕のダメージも大きく不利は明らかだ、加えて左肩の傷も気になる。
綾香は素早く飛び退いて自身のデイバッグを拾い上げ、次の瞬間にはもう林を目指して一目散に走り出していた。
(……予想外の展開だったけど―――収穫はあったわ)
レーダーは手に入れ、マシンガンも残っている。この場でこれ以上無理をするのは愚かな選択だ。
珊瑚という女を仕留めておきたい所だが、今それを成すのは非常に困難だろう。
自分が格闘戦で遅れを取った事実も非常に気に食わないが、借りを返すのならば後日万全の状態で戦うべきだ。
あくまで至上目的はまーりゃんの殺害、今この難敵との決着に固執していてはいけないのだ。
「貴様、待てっ!」
綾香の突然の逃亡に柳川は一瞬反応が遅れたがすぐに自分の拳銃を探し始め、見つけると迷わず綾香の背中に向けて発砲した。
だがその銃弾は虚しく空を切り、二発目を撃とうとした時にはもう綾香の背中は林の中に隠れて見えなくなっていた。
「チ……逃がしたか」
追撃を諦めた柳川はその場に放置された綾香の拳銃とその弾層を回収し、瑠璃達の方へと戻っていった。
「――――!」
戦いに集中していて気付かなかったが、珊瑚の泣き叫ぶ声が響き続けている。
瑠璃の胸からとめどもなく血が溢れていた。肺を傷付けられたのか口から血も吐いている。
これはもう―――――助からない。
医者でない佐祐理にはどうする事も出来ず、ただ力なく項垂れるだけだ。
いや、例え医者がいたとしてももう打つ手はないだろう。
柳川も浩之もみさきも呆然と立ち尽くすだけで何も出来ない。
だがそんな時、瑠璃が微かに声を発した。
「さ、ん……ちゃん……ぶじ、だったん……だね……。よかっ、た…………」
「瑠璃ちゃん!しっかりして!」
よいしょっと
さねさね
携帯どうすんべ
「さん……ちゃん、ごめん……うち、もうだめ……みたい……」
「そ、そんな……瑠璃ちゃん……」
「何言ってんだ、諦めんな!」
浩之が座り込んで叫んでいた。その手は瑠璃の手を握っている。
「きっとまだ何とかなるから……駄目だなんて言うなよっ!」
涙を流しながら力の限り叫ぶ。
認めたくなかった。
諦めたくなかった。
だが、そんな彼の肩を柳川が掴んでいた。
「止めろ、藤田」
「何でだよ!瑠璃が……瑠璃がっ……!」
「楓のときは遺言を聞く時間も与えられなかった……。だが、まだその女は生きている。
ならばせめて最後まで話を聞いてやれ」
「…………」
それで浩之は何も言えなくなり、黙って瑠璃の言葉を待った。
「さんちゃん……うちら、ずっと、いっしょ……やったね……」
「……うん、瑠璃ちゃんとうち、ラブラブラブやもん」
「うちは……死んでも、さん……ちゃんの、こころのなかに、生き続けるから……から、これからもずっと、いっしょやで……」
「うん、うん……」
「だからさんちゃんは、生きて……浩之も……みさきも、死んだらあかんよ……」
「……分かった。俺達、お前の分も頑張るからな」
浩之が瑠璃の右手を、珊瑚が瑠璃の左手をしっかりと握り締める。
瑠璃の暖かさを忘れないよう、強く、強く。
「やくそく、やで……」
瑠璃の手から力が失われ、その目が閉ざされる。
後はただ浩之達の啜り泣く声が聞こえるばかりだった。
【時間:2日目午前8時20分頃】
【場所:G−5】
まあ何はともわれ乙ですよ
来栖川綾香
【所持品1:IMI マイクロUZI 残弾数(20/30)・予備カートリッジ(30発入×5)】
【所持品2:防弾チョッキ・支給品一式・携帯型レーザー式誘導装置 弾数3・レーダー】
【状態@:逃亡、右腕と肋骨損傷(激しい動きは痛みを伴う)。左肩口刺し傷(治療済み)】
【状態A:まーりゃんとささら、さらに彼女達と同じ制服の人間を捕捉して排除する。好機があれば珊瑚の殺害も狙う】
姫百合瑠璃
【持ち物:デイパック、水(半分)、食料(3分の1】
【状態:死亡】
藤田浩之
【所持品:なし】
【状態:啜り泣き】
川名みさき
【所持品:なし】
【状態:啜り泣き】
姫百合珊瑚
【持ち物:デイパック、水(半分)食料(3分の1)】
【状態:啜り泣き】
柳川祐也
【所持品@:出刃包丁(少し傷んでいる)、S&W M1076 残弾数(4/6)予備マガジン(7発入り×4)】
【所持品A、コルト・ディテクティブスペシャル(2/6)、支給品一式×2】
【状態:左肩と脇腹の治療は完了したが治りきってはいない、教会を経由して平瀬村へ】
倉田佐祐理
【所持品:支給品一式、救急箱、二連式デリンジャー(残弾2発)、吹き矢セット(青×5:麻酔薬、赤×3:効能不明、黄×3:効能不明)】
【状態:啜り泣き 柳川に同行、教会を経由して平瀬村へ】
【関連】:B-13 510 524
この話を『希望と絶望と(後編)』と差し替えてください。
お手数かけて申し訳ありません>まとめ様
>>ID:PuQ8AZzm0氏
回避多謝〜 迷惑かけてすいません
332 :
空に光る:2006/12/08(金) 17:20:35 ID:1YNELuHP0
走った。
ひたすら走り続けた。
あの時のように。かつて、皐月の自殺を止めた時のように、二人は無心で走っていた。
違うのは、それが希望を求める前進ではなく、絶望に満ちた後退だということだった。
どれくらい走っただろう、全身が汗で濡れた時ようやく花梨がその足を止めた。皐月もそれに気付いて、二、三歩先に進んでから、また戻ってきた。体が言う事を聞いてない。ふらふらになっている。
「もう…追ってきてないよね」
行きも絶え絶えにそう呟くと、花梨は近くの木に身を寄せてへたり込んだ。皐月も腰が抜けたようにどさりと座る。
二人は無言で、息が切れなくなるのを待った。智子と幸村の犠牲の元に二人は生かされている、そう考えるとお互いかける言葉がなかった。二人とも自分の気持ちを抑えるのに精一杯だった。
だが二人に共通していたのは、「今ここで泣いてしまえば、きっともう一人も泣き崩れてしまう。だから私一人が泣くわけにはいかない」という気持ちだった。
「皐月さん…これからどうするの?」
呼吸が回復した頃、最初に声をかけたのは花梨。しかし、その声には元気が感じられないのは明らかだった。
「…分かんないよ、どうすればいいのかなんて」
「だよね…」
だが花梨は少しの安堵も感じていた。復讐に走る、と言い出すよりはマシだったからだ。
「銃も無くなっちゃったし…私はもうこのキノコしかないわ。そっちは」
「私は…警棒と、貝殻と…エディさんの、パン。それに…あの宝石」
まともな武器は何一つ見当たらなかった。おまけに体力も尽きかけているこの状態で再び狙われようものなら今度こそ助からない。
「皐月さん…これで良かったのかな」
花梨が宝石を取り出す。相変わらずの輝きを保ちながら花梨のてのひらに転がっている。
「花梨は…どう思ってるの? 先に花梨の言葉が聞きたい」
逆に尋ねられ、少し口を詰まらせる。しかし思いきったように皐月に言った。
「間違っては…間違ってはいない、と思う」
333 :
空に光る:2006/12/08(金) 17:21:13 ID:1YNELuHP0
すると皐月が少し笑って「ならそれでいいじゃない」と答えた。
「花梨が間違っていない、って言わなかったらきっと殴ってた。…だって、それだったら幸村さんや智子、無駄死にになっちゃうでしょ…?」
うん、そーだね…と小さく頷く花梨。
「私達だけでも、これを守り抜こう? 他人から見てどんなにそれが馬鹿げたものだとしても」
皐月は立ち上がると、花梨に近づき、宝石ごとその手を握り締める。そして、祈るかのように目を閉じた。花梨もそれに倣う。
(幸村さん、智子、いってきます)
二人ともがそう思った、その時。突然、空が明るくなったような気がした。
「!? て、敵っ?」
驚いた二人が空を見上げる。しかし、それは何者かの襲撃ではなかった。
「…光…?」
小さな、小さな球状の光が、ふわふわと空に舞っていた。あまりにも幻想的なその光景に、二人は見入ってしまう。
『光』はゆっくりと落ちてくると、花梨の手のひらに収まった。皐月がそれを覗きこむ。
「…何なのかしら、これ」
確かめようと、一度つついてみた。すると、聞き覚えのある声が脳に響いてきた。
『今やーーーっ!!皐月、花梨、逃げるんやーーーーーっ!』
「とっ、智子っ!? えっ、何…ウソ…?」
突然回りをきょろきょろし始めた皐月に、花梨がどうしたの、と尋ねる。
「いや…これに触ったら、智子の声が…」
「え…? ウソでしょ…?」
半信半疑気味に、花梨もつついてみる。
『さっさと…行けッ! 手遅れになってからじゃ遅いんだヨッ!』
『足の早さなら、自信があるからっ!』
『馬鹿もんっ!こんな下らないゲームに乗りおって……』
花梨は耳を疑った。死んだはずの、確かに死を見届けたはずの三人の『声』が聞こえてきたからである。
334 :
空に光る:2006/12/08(金) 17:22:21 ID:1YNELuHP0
「エディさん、このみ、幸村さん…」
「えっ? その人達の声も!? どうなってるの、これ?」
再び『光』に触れようとすると、するりとかわし、再び空に舞い上がる。そして、今度は宝石へと落ちていき…そして、『光』は宝石に吸いこまれていった。
目の前で起きた、超常的な現象に何が何だか分からない二人。
「…ねえ、花梨。どういうこと、なの?」
「さぁ…私も、数々のミステリを追ってきたけど…こんなのは見た事も聞いた事も…でも、これだけは分かるよ。これは…みんなの『想い』なんだって」
皐月もそれに頷くほかなかった。ただでさえ謎の多い宝石に、また一つ謎ができてしまった。
しかし、二人に再び希望への道が見えてきたのも確か。
『光』を集められれば、何か起こるかもしれない。
集め方は分からないが、とにかく大きな前進にはなった。
「よし、行こうっ! 皐月さん」
「うん!」
335 :
空に光る:2006/12/08(金) 17:23:05 ID:1YNELuHP0
【場所:B-3付近の森】
【時間:2日目10:00頃】
笹森花梨
【持ち物:特殊警棒、海岸で拾ったピンクの貝殻(綺麗)、青い宝石(光一個)、手帳、エディの支給品一式】
【状態:光を集める】
湯浅皐月
【所持品:セイカクハンテンダケ(×1個&4分の3個)、支給品一式】
【状態:光を集める】
ぴろ
【状態:皐月の鞄の中にいる】
【備考:B-10、11、13】
「Hm…,このくらいでいいからしね」
リサのデイパックの中にはパンや果物等、大量の食料が詰まっていた。
今リサがいる小屋で入手したものである。
海の家の周りには民家は見当たらなかったから、少し時間が掛かってしまった。
きっと栞達が腹を空かせて待っているだろう。
急いで帰らなければ。
そう思い小屋を出た時何か違和感があった。
エージェントとして数々の経験を積んだ彼女だからこそ分かる違和感―――
次の瞬間にはリサは横に大きく跳躍し、そのまま地面を転がっていた。
銃こそ落としてしまったが、その動きは華麗という他無かった。
その後を追うように、銃弾が一斉に着弾し、地面の土が跳ね上がっていた。
「な――――」
驚愕の声を上げるのは、巳間良祐。
完璧な奇襲のはずだった。簡単に終わるはずだった。
相手が家から出てきた瞬間を狙っての、ライフルによる狙撃。
待ち伏せしている事を察知されていない限りは仕留めれる筈だった。
そして、察知されていない自信もあった。
今までに二回、この戦法で相手の不意をついてきたのだ。
事実相手は気付いた様子も無くのうのうと玄関から出てきたではないか。
それが何故、突然あのような動きをするのだ!
彼は混乱しながらも、地面に転がったリサに対してライフルを撃とうとする。
しかし、弾が発射される事は無かった。
「ぐああっ!!」
リサが放り投げたナイフが左肩に突き刺さっていたからである。
激しい痛みで、ライフルを取り落とす。
しかし良裕は既に一度、予想外の反撃を受けている。その経験のおかげからか、彼が次の行動に移るのは早かった。
彼は激痛に耐えながらも、すぐにライフルを拾いにいこうとし――それは諦め、ベネリM3を取り出し、次の瞬間にはもう撃っていた。
リサが間髪入れずにこちらに向けて走ってきていたので。その手にはいつの間にか銃が握り直されていた。
リサはあの一瞬の隙の間に、落としてしまっていた銃を拾っていたのだった。
リサは銃を向けられた瞬間すぐに回避動作を取っていた。また、咄嗟に撃ったので良裕の標準も定まらない。
結局銃弾がリサに当たる事は無かった。だが、リサの突進を止める事だけは出来た。
この敵に近付かれる事は何としても避けなければならない。近付かれたら殺られる!
彼の直感がそう告げていた。
(コイツ………油断ならないわね)
リサは一気に間合いを詰め、確実に仕留めようとした。
素人ならナイフを刺された痛みですぐには動けないだろうと予想しての行動だったが、
予想に反してすぐに別の銃で攻撃してきたので、遮蔽物の影に退避しざるを得なかった。
その隙に良裕は取り落としたを素早く回収していた。
リサは冷静に思考を巡らせた。
(全く容赦がない奇襲だったわね…………、まずマーダーで間違い無さそうね。
それに複数の銃を持っている……、恐らく参加者を何人も殺してきた手馴れたマーダーね)
それでも、自分はエージェントだ。多少経験を積んだだけの素人とは格が違う。
装備差は明確だが、それでも勝てる自信はあった。
しかし不安要素もあった。
相手はまだ他にも装備を隠し持っているかもしれない。
万一防弾チョッキやグレネードランチャーの類の武器を持っていたら、流石に分が悪い。
それに何より、自分の一番の敵は主催者であって、ゲームの参加者ではない。
今は危険な賭けをすべきではないという結論に達した。
巳間良祐もまた、左肩の痛みに耐えながら、必死に思考を巡らせていた。
彼は奇襲に専念し、正面からの対決を避けるという戦い方を貫いてきた。
卑怯と言われる行動なのかもしれないが、そんな事は些事である。
正々堂々戦おうが、死んだらそれで終わりなのだ。
このゲームで勝つという事は即ち、最後まで生き残る事。
無理せず殺せる時に殺し、危険な橋は決して渡らない。
それがこのゲームにおける最善の手の筈である。
今目の前にいる相手は明らかに戦闘慣れしている。それに自分は怪我も負っている。
今ここで雌雄を決しようとするのは危険過ぎる。
「ぐうぅっ!」
撤退する事を決めた良裕は、自らの肩に刺さっていたナイフを引き抜いた。
そしてショットガンで威嚇射撃をしながら後ろへと下がり始めた。
「くそっ……、あいつは一体何者なんだ!」
良裕は苛立っていた。彼の計算通りにいけば、先程の集団も今の女も問題無く仕留めれていた筈である。
だが結果的には仕留めれなかった。それどころか手傷まで負わされた。
何より、酷く肩が痛む。それに今の自分は怒りで冷静さを失っている。
今日はもう動き回るのは控えるべきだろう。
リサも無理に追う事はせずに、良祐とは反対の方向へと走り出した。
彼女の心には焦りが生まれていた。
彼女がこのゲームに参加してから、実際に戦闘を行なったのは初めてだった。
その最初の相手が、全く容赦が無く、武装も強力なマーダーだった。
醍醐や篁といった猛者達も既に死亡している。
それに加えて、人外の者達の存在……このゲームは思った以上に過酷なモノとなっているようだった。
さっきは奇襲される寸前まで察知できなかった。明らかに注意不足である。
どうやら自分は疲れているらしい。このゲームの緊張感は予想以上に体力を奪うようだった。
まずは戻って休憩をとらなければ。そして、その後はそれこそ死に物狂いで生き延びる事を考えよう。
そうしなければ、この過酷なゲームではきっと生き残れないだろうから。
共通
【場所:G−7】
【時間:午後11時00分】
リサ=ヴィクセン
【所持品:コルト・ディテクティブスペシャル(弾数10内装弾3)、大量の食料】
【状態:疲労、今後の行動は海の家への帰還、それから休憩】
巳間良祐
【所持品:ベネリM3 残弾数(0/7)・89式小銃 弾数数(21/22)・支給品一式・草壁優季の支給品】
【状態:疲労、怒り。右足に激痛(治療済み)、左肩に痛み】
※リサの八徳ナイフは地面に放置
関連は→196、265
「くぅっ!」
「きゃあ!さ、皐月さんっ?!」
予想だにしない場所から放たれた銃弾は、湯浅皐月の左腕を掠る。
すぐさま近くに落ちていた38口径ダブルアクション式拳銃を手に取り、皐月は弾の飛んできた方向に向かい発砲した。
・・・反撃はない、逃げ出したのだろうか?
それでも油断はできない状況である、皐月は集中して気配を探ろうとする。
そんな、突然の襲撃にも冷静に対処する彼女。一方柚原このみは呆けてしまっていて使い物にならない状態である。
本当に足手まとい、下手したら彼女はほんの些細なことで命を落としてしまうかもしれない。
「行って」
「へ・・・」
声をかける、返ってきたのはやはり予想通りの間抜けな声。
「さっさとどっか行って、今ならまだ逃げられるでしょ」
「で、でも皐月さんはっ・・・」
「悪いけど、あんた邪魔。これなら一人で相手した方がマシなのよ」
「でもでも、怪我してるし・・・」
「いいから、あんたのことまで気を回す余裕ないのよ!無駄死にしたくなかったらさっさと逃げなさい」
でも、とまだこのみが粘ろうとした時だった。
今度は部屋の入り口の方面から弾が飛んでくる、中に入り込んでくるつもりであろう。
牽制しながら部屋の隅に移動する皐月。ここは境内である、隠れられる場所というのも多くはない。
何とか彼女についていこうと、このみも後を追った。そして再び声をかける。
「な、なら一緒に逃げようよっ」
「馬鹿、目の前にせまってんのに逃げ切れるわけないでしょ」
「そんなぁ」
「・・・いいか、らっ!!」
「きゃあっ?!」
最初に弾の飛んできた方向とは逆方面の窓、空気を入れ替えるためにのみ存在しているであろうそこに皐月はこのみを押し入れようとする。
軋んだと思ったら窓枠ごと外れてしまうが気にしない、その小さな猫の勝手口のような場所は小柄なこのみだから通ったとも言えるだろう。
とにかく、皐月の力業によりこのみは外に放られた。彼女の意思とは関係なく。
「さ、皐月さんっ!!」
このみが叫んだ時だった、どちらのものか分からない銃声が次々と鳴り響いてくる。
・・・今、このみにできることは、ない。
このまま突っ立てるだけでは何にもならない、せっかく皐月が作ってくれたチャンスを無駄にすることほどおこがましいものはないだろう。
だが、このみはそれでも動けないでいた。
(何も・・・できないの?このみには、何もできないの?)
あせる彼女。そんなこのみの肩には、喧嘩していた最中もかけっぱなしであった支給品の入ったバッグがかかっていた。
一方、入り口から狙い打つように篠塚弥生は皐月を追い詰めようとしていた。
だが皐月も負けてはいられない。走りこみながら弥生に近づき、そのままハイキックを決め彼女の手からワルサーを落とす。
思ったよりも身のこなしの軽い相手に弥生も戸惑う、だがやられるだけというのも彼女の性には合わない。
(・・・ワルサーではなくレミントンを構えていれば、急所を仕留められたかもしれませんね)
試し撃ちをするかどうか考えていた彼女の前に現れたのが、このみと皐月の喧嘩をする情景であった。
そこからさらに近づき狙っていたという状態だったので、自分の構えていた銃の向き不向きなど考える余裕もなかったということだろう。
だが、過ぎてしまったことを悔やんでも仕方ない。今はできる限りのベストを尽くすだけ。
ワルサーを飛ばされた弥生は、それに執着することなくまず皐月の拳銃を塞ぐための行動を起こした。
冷静に彼女の右手を払いのけ銃を叩き落し、そのまま押し倒してマウントポジションを確保しようとする。
「あぐっ?!」
皐月の左腕、血の滲む銃弾の掠った箇所を押さえ込む。
傷自体は大した事ないのであろうが、それと痛みとは別である。皐月の反抗はすぐに止んだ。
「ふぅ、手こずらせてくれましたね」
「いい気にならないでよ、おばさん・・・」
「口だけは達者のようですが、状況を見てものを言った方がいいかと」
「ふざけ・・・ぐぅ?!」
「?」
両手を自らの手で縛りつけて、動きを封じていた皐月の様子が一変する。
「ぐ・・・ああああぁぁぁぁ!!」
「?!」
少女のものとは思えない動き、苦しむように全身使っていきなりもがき出した皐月に手が出せない。
拘束を外すためのものかと思った、だから弥生は一端引き様子を窺おうとする。
彼女の異変自体はすぐ収まった。
「・・・あれ?ここどこ、あたしってば一体・・・ぇ?」
まるで今目覚めたかのように言葉を発した瞬間、皐月の体は側面に吹っ飛ばされる。
躊躇いなく放たれた弥生の裏拳は、しっかりと皐月のこめかみにヒットした。
強く頭を打ったのだろうか、そのまま気絶してしまう皐月・・・弥生にも、彼女の変貌については理解できなかったであろう。
それはセイカクハンテンダケの効果が切れたということ、ただそれだけのこと。
本来は後十数時間もつはずだったであろうが、このみと争っていた際に吐き出したことが関係したのであろうか。
効果は予想だにできないほど突然消え失せた、それは最悪のタイミング。
「何にせよ、これでお終・・・がはっ?!」
弥生にとっては最大のチャンスであった、だから彼女は余裕を持って皐月に止めを刺せるはずであった。
しかし、言葉は最後まで紡がれない。
ガンッ!ギャンッ!!!グァンッ!!!!
瞬間、ひたすらモノを叩き潰そうとする嫌な音が場に響いた。
「さつきっ、さんにっ、何するのぉっ!」
弥生が振り返る間もなく、打撃の嵐が降り注いでくる。
頭を集中して狙われたためか、意識はあっという飛んでいった。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
もう弥生が再び動き出さないということを確認したうえで手を止めると、彼女はへなへなとその場に座り込んでしまう。
両手で握り締めた金属製のヌンチャクには、錆びてしまうとも思えるくらいの血がついていて。
同じくらい、それはこのみの制服にも飛び散っていて。
目の前には頭のひしゃげた女性の死体。ここにきて、このみの体を震えが走り抜ける。
・・・皐月を守るためとはいえ、本当にやってしまった。この手で人を殺してしまった。
その事実はこのみの心を引き裂いていく・・・涙が、気がついたら溢れてしまったそれがこのみの顔中を濡らしていく。
「あ・・・うぁ、うああああぁぁぁぁんっ!!!」
やっぱり皐月を置いて逃げ出すなんてことは彼女にはできなかった、だからこのみはずっと機会を窺っていた。
皐月を助ける瞬間を、でもそのために弥生を殺すつもりなんてなかった。
・・・ただ、加減が分からなかったから。それがこの結果を引き起こす。
境内に響くのはこのみの泣き声だけ、皐月が目を覚ます様子は、まだない。
湯浅皐月
【時間:1日目午後9時30分】
【場所:E−02・菅原神社】
【所持品:セイカクハンテンダケ(2/3)・支給品一式】
【状態:気絶】
柚原このみ
【時間:1日目午後9時30分】
【場所:E−02・菅原神社】
【所持品:予備弾薬80発・金属製ヌンチャク・支給品一式】
【状態:号泣・貴明達を探すのが目的】
篠塚弥生 死亡
38口径ダブルアクション式拳銃 残弾数(6/10)、ワルサー(P5)装弾数(4/8)はそこら辺に落ちてます
弥生の支給品(レミントン(M700)装弾数(5/5)予備弾丸(15/15)含む)は放置
(関連・493)(B−4ルート)
午前6時。
篠つく雨に包まれた沖木島の静寂を破るように、声が響き渡った。
定時放送である。
『―――は、はじめまして。社会保険庁、総務部総務課の栗原透子と申します。
こ、これより第二回の定時放送を、か、開始いたします。
それでは、まず本日午前6時現在の、プログラム参加者の、し、死亡報告をしたいと思います。
その……よ、よろしくお願いいたします。
3 朝霧麻亜子
7 伊吹公子
10 エディ
13 岡崎直幸
14 緒方英二
17 柏木梓
21 柏木初音
22 梶原夕菜
26 神岸あかり
30 北川潤
39 向坂環
43 幸村俊夫
44 小牧郁乃
49 佐藤雅史
51 澤倉美咲
53 椎名繭
55 少年
57 春原芽衣
65 立田七海
70 十波由真
73 長瀬祐介
74 長森瑞佳
75 名倉由依
76 名倉友里
81 柊勝平
90 藤林杏
98 マルチ
99 美坂香里
100 美坂栞
106 巳間良祐
107 宮内レミィ
108 宮沢有紀寧
110 森川由綺
112 山田ミチル
114 柚木詩子
117 吉岡チエ
119 リサ=ヴィクセン
120 ルーシー・マリア・ミソラ
以上、38……さんじゅうはち!? ……あ、す、すみません!
い、以上、38名が過去12時間の死亡者でした。
続いて、た、ターゲット賞を発表いたします。
ターゲット、柏木梓の殺害に成功したのは、芳野祐介さん。
同じく柏木初音殺害に成功したのは、来栖川綾香さん。
同じく長瀬祐介殺害は、来栖川芹香さん。
同じくルーシー・マリア・ミソラ殺害は、神尾晴子さん、神尾観鈴さん両名の共同作業と認定されました。
以上の皆様には、現時点で優勝者の権利が与えられます。
お、おめでとうございます。プログラム終了までの生存目指して、頑張ってくださいね。
なお協議の結果、神尾観鈴さんの生死はプログラム終了条件から除外されました。
ただしターゲット指定は解除されませんので、ご注意ください。
現在のターゲット殺害数は4、生存ターゲット数は14名、ただしプログラム終了は
神尾観鈴さんを除く残り13名の死亡が条件となります。
……これでいいんですよね? ……あ、は、はい』
何かをごそごそと確認するような物音が、島中のスピーカーから流れる。
『し、失礼しました。
続いて……ほ、本日の天候です。
本日の沖木島は、雨のち曇り、ところにより晴れ。
夜半から降り続いた雨は次第に弱まり、山沿い以外の地域ではお昼前に止むでしょう。
午後からは太陽が顔を覗かせるところも多くなり、過ごしやすい天気となる見込み、です。
気温は平年並み、風はやや強く、波は高いでしょう。
……あ、以上、気象情報でした。
主催一同、皆様の、今後一層の……ご、……あ、え?……ごせいれい?
……し、失礼しました! 今後一層のご精励をおいのりしております。
社会保険庁、総務部総務課の栗原透子が、お、お送りしました』
たどたどしい放送が終わるや否や、新しい声がスピーカーから響く。
『業務連絡です。
久瀬様、久瀬権兵衛様。
久瀬様には現在、服務規程違反及び国家反逆罪の嫌疑がかけられております。
幕僚本部通達によりまして本日午前6時をもって司令職より解任。
以降は一般参加者扱いとなりますのでご注意ください。
お手持ちの光学兵器・砧夕霧30000体は支給品扱いとなりますので、そのままお持ちください。
給与等で不明な点は防衛庁人事教育局、人事計画・補任課までお問い合わせくださいませ。
なお私物等は後日、ご自宅へ送付いたします。
続きまして業務連絡です。
久瀬前司令の承認により上陸が許可された全強化兵、及びゲストの皆様は至急撤収の上、
本部への出頭をお願いいたします。
続きまして、プログラム参加者の皆様へご連絡申し上げます。
参加者名簿、及びターゲット指定に変更がございますので、追記をお願いいたします。
新たに参加者へ追加となりますのは121番、久瀬。
繰り返します、121番、久瀬。また同時に、久瀬はターゲット指定参加者となります。
伴いまして生存ターゲット数は15名となります。ご注意ください。
なお、久瀬前司令官による参加者の皆様に対する通達はすべて有効となります。
参加者の皆様におかれましてはご安心くださいませ。
この度は皆様に多大なご迷惑をおかけしたことを心よりお詫び申し上げます。
今後はこのような事態を未然に防ぐべく、チェック体制と監視体制の強化を行ってまいります。
誠に申し訳ございませんでした。
……以上、臨時放送は皆様のお耳の恋人、桜井あさひがお送りいたしました♪
あなたのハートに、ときめ』
ようやく静けさを取り戻した島に、朝が来る。
回避
栗原透子
【状態:てんやわんや】
桜井あさひ
【状態:これが本職の力だっ! ……って、どうして途中で切るんですか……?】
>>349 感謝〜。
351 :
蜃気楼:2006/12/10(日) 19:06:49 ID:NUE7lDlc0
『―――上陸が許可された全強化兵、及びゲストの皆様は至急撤収の上、
本部への出頭をお願いいたします』
「……だとよ」
陸軍火戰試挑躰、御堂が肩をすくめて振り返る。
その視線の先にいた白髪の男、坂神蝉丸は目を閉じたままで口を開く。
「……上は相変わらずだな」
「けっけっけ、連中に少しでも前線のことがわかってりゃ、こんな負け戦になるこたあなかっただろうよ」
御堂の含み笑いには、しかし自嘲の響きはない。
絶望的な戦況を楽しむが如き精神性が、彼をして強化兵たらしめている要因であった。
「石原はどうしている」
「石原……ああ、安宅のことか? 知らねぇよ、あんな薄気味悪い女なんざ。
いつも通り何か企んでやがるんじゃねえのか」
「……そうか」
雨を避けるように身を寄せている洞窟の奥、夜が明けてなお薄闇に包まれたそちらをちらりと見る御堂。
石原麗子は連れてきた随伴者達と、何やら話し込んでいるようだった。
話の中身など知る気もないと、御堂は蝉丸へと視線を戻す。
「それで、貴様はどうする気だ、御堂。帰還命令に従うのか」
静かな問いかけを、御堂は少し意外に思う。
上からの命令に従うかどうかなど、蝉丸が確認することなどこれまで一度もなかった。
命令とは遵守するものであり、それが適わなければ死をもって償う。
坂神蝉丸とはそういう男であると、御堂は認識していた。
しばらく蝉丸の内心を窺うようにその横顔を見ていた御堂だったが、瞳を閉じたその静謐な表情からは
何も読み取ることはできない。おどけたように肩をすくめ、口を開く御堂。
352 :
蜃気楼:2006/12/10(日) 19:07:38 ID:NUE7lDlc0
「……ケ、冗談じゃねえぞ。
俺達がどうしてこんなところで油売ってるのか、分かってんだろうが。
『お客さん』どもが、物見遊山がしてえなんぞと抜かしやがる、そのお守りだぜえ?
連中は艦から出すなと厳命されてた筈が、あの坊ちゃん、自分も出るからって簡単に許可しちまいやがってよ。
どの道、上の連中は俺らなんざ時代遅れのガラクタだと思ってやがんだ。
今回のこたぁ、いい口実になるだろうぜ。戻ったところで命令無視で銃殺が関の山。
悪くすりゃ、切り刻まれて実験、実験、実験だろうよ」
安宅あたりは上手くやるんだろうがな、と唾を吐き棄てる御堂。
「幸い俺らにゃ、あのクソったれな首輪とやらはついてねぇしな。
適当にバケモン狩りでもしながら時間潰して、隙ィ見てトンズラ決め込むとするさ。
……第一、こう雨が降ってちゃあ、俺ァ戻るに戻れねえ」
最後は少し情けない顔になって付け加えると、御堂は懐から煙草を取り出して火をつけた。
フィルターの部分はぞんざいに噛み千切り、吐き棄てる。
そうして御堂は美味そうに紫煙を吸い込むと、蝉丸に問いかけた。
「……で、貴様はどうするよ、坂神?」
「俺は……」
問われ、蝉丸が閉じていた瞼を開けた。
強靭な意志を秘めたその瞳は、真っ直ぐに洞窟の外、雨に濡れる木々を見つめている。
「―――俺は……残ろうと、思っている」
「……はァ? 残るって貴様、この島にかよ?」
意外な答えに、煙草を取り落としそうになる御堂。
「おいおい、陸軍にその人ありとうたわれた、鉄の坂神さんがどういう風の吹き回しだぁ?
光岡あたりが聞いたら刃傷沙汰だぜえ……」
「……砧を、な」
353 :
蜃気楼:2006/12/10(日) 19:08:42 ID:NUE7lDlc0
御堂の軽口もどこ吹く風と、蝉丸は重々しく続ける。
「砧を、護ろうと思う」
「砧、って貴様……まさか、あの薄気味悪いデコ人形どもをかよ?」
御堂の脳裏に、数隻の揚陸艇の甲板といわず船室といわず詰め込まれた無表情な顔が浮かぶ。
理不尽な扱いにも苦痛をもらすどころか、声ひとつあげようとしなかった量産体。
明確な自意識すらもない、生体光学兵器。
それは軍が研究を続けてきた複製身技術の、ひとつの到達点であった。
「おいおい、どうしちまったんだ貴様……? 勘弁しろよ、連中のおかげで俺らァお払い箱なんだぜえ?
それとも何か、あの久瀬とかいう坊ちゃんに同情でもしちまったかぁ?」
「そういうことではない」
御堂の疑念を言下に否定する蝉丸。
「……俺には、な」
「……」
どこか遠くを見つめるような蝉丸の表情に、御堂は胡乱げな眼差しを向ける。
「俺には、分からなくなってきたのだ。
戦場という戦場を駆け抜けてきたといっても、俺達はただの駒に過ぎん。
それは分かっていたし、それで構わんとも思っていた。
しかし―――」
そこで蝉丸は言葉を切って立ち上がると、洞窟の入り口近くまで歩いていく。
雨の降り続く空を見上げて、再び口を開いた。
354 :
蜃気楼:2006/12/10(日) 19:10:14 ID:NUE7lDlc0
「……しかし、今回の決定はどうしても腑に落ちん。
久瀬という少年は文民だが、しかし司令官だ。今回の作戦の長たる方だった。
それが何だ。俺達を盤面の上で動かしていた者までもが、いとも簡単に切り捨てられる。
その上、決戦兵器と持て囃されていた砧たちが、捨て駒扱いだと……?
あれはこの戦局を覆すための技術ではなかったのか」
ぎり、と奥歯を噛み締める蝉丸。
「……国の為と思えばこそ。
我らが屍を礎に、後に続く者の道が築けると信ずればこそ、俺は戦ってこられた。
俺は……、俺には最早、奉ずるべき義が見えんのだ、御堂」
振り返ったその眼は、深い苦悩を湛えていた。
御堂の吸う煙草が、じ、と小さな音を立てる。
「俺たちが、何の為に戦ってきたのか。
あの砧という娘たちが、何の為に生まれてきたのか―――」
言葉を切ると、蝉丸はどこか悲しげに眉を寄せて、呟いた。
「……俺は、与えてやりたいのだ。あれらに、生まれてきた意味を」
黙って蝉丸の言葉を聞いていた御堂は、最後に一吸いすると煙草を投げ捨てた。
軍靴の底で踏み躙ったそれを眺めながら、口を開く。
「……そうかい」
それは、彼らしからぬ静かな声音だった。
しばらくの間を置いて、御堂が独白めいた口調で言う。
「……ま、俺様がトンズラするにも船は必要だ。
まだ残ってやがるなら……俺様がいただくまで、精々しっかり守り抜いてくれや」
355 :
蜃気楼:2006/12/10(日) 19:10:49 ID:NUE7lDlc0
蝉丸の方へは目をやらないまま、御堂はひらひらと手を振る。
「じゃあな、坂神ィ―――」
口元には、いつもの肉食獣めいた笑み。
「次に会う時は……敵同士ってことで、なァ」
対する蝉丸もまた、篠つく雨に濡れる森を眺めながら、ただ一言だけを返した。
「―――さらばだ、御堂」
【時間:2日目午前6時】
【場所:G−7】
坂神蝉丸
【状態:砧夕霧の直衛へ】
御堂
【状態:雨が上がり次第、参戦】
石原麗子・猪名川由宇・スフィー
【状態:帰還】
→401 404 531 ルートD-2
356 :
苦難:2006/12/10(日) 22:06:54 ID:B+iiXlPI0
―――午前六時。
祐一達は氷川村にほど近い場所で第2回放送に聞き入っていた。
……
……
24 神尾晴子
……
「か、神尾晴子さんって、観鈴の―――」
「ああ。観鈴君の母親だろうね」
「くそっ、やっぱり……」
祐一は不安気味に、英二の背中で眠っている観鈴に視線を寄せていた。
今は眠っているが後でこの事実を知ったらどういう反応をするのだろうか。
きっと心にまで大きな傷を受ける事になるだろう。
放送はそんな祐一達の不安を意にも介さないように続けられていく。
……
51 澤倉美咲
56 新城沙織
……
(―――タカ坊や雄二は無事だったみたいね)
向坂雄二や河野貴明、朝霧麻亜子の番号が呼ばれる事は無く既に死者発表はそれ以降の番号へと移っている。
学校での揉め事のその後の顛末は分からないが貴明と麻亜子は共に命を落とさずに済んだという事だろう。
その事は環にとっては間違いなく喜ぶべき事であった。だが今回は前の放送の時とは違い仲間の身内が死んでいる。
神尾晴子は自分にとっては突然襲い掛かってきた敵に過ぎないが、観鈴にとっては唯一無二の大切な母親だったのだ。
環はとても安堵の息を漏らす気にはなれなかった。
……
……
99 美坂香里
357 :
苦難:2006/12/10(日) 22:08:44 ID:B+iiXlPI0
「香里……」
呼ばれた級友の名に、祐一は唖然としていた。また一つ、彼にとっての"日常"が欠けてしまった。
だが同時に、あゆや芽衣の死を知った時ほど自分が動揺していないとも思った。
祐一は僅か1日で何度も大切な人や仲間の死を経験している。きっと、慣れてしまったのだ。
だが悲しみまでもが無くなるわけではない。祐一はもう二度と見れぬ香里の少し冷めた笑顔と、残された栞の事を思って静かに目を閉じた。
しかし得てして不幸は連続で訪れるものである。これで終わりでは無かった。
……
115 柚原このみ
116 柚原春夏
「う……嘘……でしょ……?」
大切な幼馴染の死に、環はがくんと膝から崩れ落ちた。
このみが死んだなんて信じたくない……しかしこの島ではいつ誰が死んでもなんら不思議ではない。
その事を十分に思い知っている環には、受け入れがたい現実を否定する事も出来ずただ両の瞳から涙を零す事しか出来ない。
英二も祐一も大切な者をなくした時の辛さは既に味わっている。環に対してなんと声を掛ければ良いか分からなかった。
・
・
・
このみの死を知った環は心が張り裂けそうな痛みを感じていた。
彼女の"日常"が音をたてて崩れていく。傍に居て当然の存在が理不尽な形で奪われてしまったのだ。
環はこの結果を予想していなかった訳ではない。
貴明や雄二ならそう簡単に死ぬ事は無いだろうと思っていた。だがこのみだけは別だった。
このみはどう考えても殺し合いには不向きであり、一番危ない事は分かっていた――――分かっていたのに何もしてあげれなかった。
環の心は悲しみと後悔の念で覆いつくされていた。
358 :
苦難:2006/12/10(日) 22:10:11 ID:B+iiXlPI0
だが今は感傷に浸っている余裕など欠片も無いのだ。貴明も雄二もまだ生きている。
きっと二人共今の放送で相当なショックを受けているだろう。
こんな時こそ彼らの姉として生きてきた自分がしっかりしなくてどうする。
環は涙を拭き、少しふらつきながらもしっかりと立ち上がっていた。
まだ笑顔を作る余裕は無かったけれど、それでも凛とした表情を取り戻していた。
まだ大切な存在は残っているから―――確かな強さを環は持つ事が出来た。
・
・
・
「すいません……もう大丈夫です。診療所はもう遠くない筈ですし急ぎましょう」
「環くん……良いのか?」
放送から少し時間が経過した後口火を切ったのは環だった。
英二が心配そうに尋ねるが環は静かに首を横に振った。
「観鈴が危ないんです……こんな所でゆっくりとはしていられません。
それに私達が無事にここまで来れたのはタカ坊が頑張ってくれたおかげです。
それを無駄にするような真似なんて出来ません」
「――分かった。もう明るくなったし奇襲される心配は少ないだろう……ペースを上げていこう。
それと、神尾晴子さんの事は暫く観鈴君には秘密にしておこう。今これ以上の負担をかけるべきじゃない」
「そうですね……。それじゃ向坂、英二さん、次は俺が観鈴を背負います。診療所へ急ぎましょう」
英二が先頭を歩き、環と観鈴を背負った祐一がその後に続く。
全員何かに耐えるような表情をしながらも前へ向かって歩いていく。
これまでのゲームの中での彼らの道のりは苦難の連続で、体も心も傷付きながらも彼らは生きてきた。
どうやらそれはこれから先も同じようで。
359 :
苦難:2006/12/10(日) 22:11:22 ID:B+iiXlPI0
「―――あれは?」
診療所まで後数百メートルの所まで迫った時、彼らは二つの人影を発見した。
それは遠目には何の異常も見られない向坂雄二とマルチの姿だった。
【時間:2日目午前7:00】
【場所:I-07】
向坂環
【所持品:支給品一式】
【状態:疲労、後頭部に殴られた跡(行動に支障は無い)】
緒方英二
【持ち物:ベレッタM92(8/15)・予備弾倉(15発×2個)・支給品一式】
【状態:疲労】
相沢祐一
【持ち物:レミントン(M700)装弾数(5/5)・予備弾丸(15/15)支給品一式】
【状態:観鈴を背負っている、疲労】
神尾観鈴
【持ち物:ワルサーP5(8/8)フラッシュメモリ、支給品一式】
【状態:睡眠 脇腹を撃たれ重症、祐一に担がれている】
向坂雄二
【所持品:金属バット・支給品一式】
【状態:マーダー、精神異常 服は普段着に着替えている】
マルチ
【所持品:歪なフライパン・支給品一式】
【状態:マーダー、精神(機能)異常 服は普段着に着替えている】
※雄二とマルチの血まみれの制服・死神のノートは雅史の死体がある家(I-7)に放置。武器に付着した血は拭き取ってある
【関連】
B−13
→479
→501
→512
「成る程ね。正直それだけだと、本当かどうかは読み取れないな」
「何、ボク達が嘘ついてるとでも言うの?」
「はは、違うよ。相手側の方さ。君たちを騙して、誘き出そうとしているという可能性を否定できないだろう?」
電話の件について、自分達だけではどうすることもできないと結論付けた柊勝平と神尾観鈴は、頼りになりそうな人物にこのことを打ち明けることにした。
頼りになりそうな人こと緒方英二は、冷静にとりあえずの意見を述べる。
しかし、その返答に観鈴は納得することができないでいた。
「女の子、必死そうだった。凄く、一生懸命だった。・・・私行きたい、助けに行きたい」
直接助けを求めてきた少女と会話した観鈴にとっては、彼女の必死さを無下にはできないという思いが強く。
そんな様子の観鈴に対し、勝平は冷ややかな視線を送った。
「っていうか、お前が行っても役には立たないだろ。人質が増えるだけじゃないのか?」
「が、がお・・・」
「うーん、でもその子の声をちゃんと聞いたのは神尾さんだけなんだよね?
本当に行くのならば、どのちみち神尾さんは同行しなければいけないと思う」
「はあ?何で」
「・・・神尾さんが言う女の子を囲っている側の人間が、柊君の聞いた声の持ち主・・・男性だけという訳ではないかもしれないからね。
誰が敵で誰が味方かは見極めなければいけないだろう、それを判断するのに彼女は必要だ」
成る程。やっぱり頼もしかった。
「ただその発想で言えば、その子以外にも捕らわれた人間もいるかもしれないんだよね。
厄介だな、そこら辺は何も聞けてないのだろう?」
「電話、すぐ切れちゃったから・・・」
「仕方ないね。じゃあ二人でサクサク頑張ってきてくれたまえ」
「ちょっと待て、何だその他人のふりは。っていうかボクも行くのかよ」
「神尾さんを一人にする訳にいかないし、第一男の声を聞いたのは君なんだから。
君も判断材料の一つなんだよ、彼女を守って男度アップさ。ははっ、ぴったりの配役だ」
「こんな生死かけてまで男度上げてどうする?!
やだよ、ごめんだね。そんなの、万が一ボクの身に何かあったらどうするのさっ」
「ははっ、僕には芽衣ちゃんがいるからね。悪いけど責任は・・・」
「どういう意味だよ?!」
だが、勝平もそこは粘った。
復讐は終わっていない、ここでそんな命の無駄遣いをするわけにはいかなかった。
・・・そう、今は呑気に休んでいるであろう相沢祐一と藤林杏に自分と同じ痛みを与えるまで、勝平は死ねない。
「柊が行かないなら俺が行くよ。神尾とはここまで一緒に来た仲だし、ほっとけないさ」
「私も付き合うわよ。一日中引きこもっていたから体力にも余裕あるわ。
とにかく、男には気をつけろ。それでいいんでしょ?任せてよ」
「って、お前等いつからそこにいた」
「最初からいただろ」
「ビジュアルないからって好き放題だな?!」
事の発端、祐一と杏はいつの間にか隣に立っていて、さも当然と会話に混ざっていた。
「すぐ帰ってきますよ。向坂と芽衣ちゃんのこと、お願いしますね」
「すまない、危険なことを押し付けたようになってしまって・・・」
「気にしないでいいわよ。・・・環さんがいるから大丈夫だと思うけど、芽衣ちゃんに手を出すんじゃないわよ?
お兄さんに言いつけちゃうんだから」
「ははっ、二人にはかなわないな」
「ボク無視?!」
気がついたら、勝平はガヤと化していた。
「にはは、勝平さんカワイソス」
「お前も似たようなもんだろ」
「が、がお・・・」
「っていうかボクも行く、行くよ!!やっぱり行きますっ」
「いきなりだね。さっきまであんな反抗してたのに」
そう、勝平にとっては祐一と杏が同行するというならば話は別だった。
それこそチャンスがあれば葬ってやることもできるのだから、この機会を逃すのは惜しすぎる。
そもそもこのメンバーは固まってばかりいて何ともやりずらいグループである、崩せる時があるならば有効活用せねば。
これを逃して、またぬるま湯のような時間を過ごす事だけは嫌だった。だから、勝平はまた粘った。
「勝平さん、無理しない方がいいわよ。あなた大変な病気持ってるんだから」
「うわっ、こっちも忘れてるようなこと今言うか」
「そうそう、よく薬飲まないで生きてられんな。普通死ぬだろ」
「内服薬くらい持たされてるよ、ウサギだって言ってただろーが!」
「言ってたか?」
「言ってないわね」
その頃のもう一人の病人。
「氷上君、何飲んでるの?」
「ん、持病がちょっとあってね。生き残ってるのも始末が大変ってことさっ。ははっ!」
「とにかく、こう、ほら!命の危機に関わるようなのはオッケーだったのっ、車椅子が持ち込み可なんだからいいだろ別に」
「どうでもいいよ」
「そっちが振ってきたのに?!」
「とにかく、病弱なお前があっちで揉め事起きた場合戦闘面で期待できないのは変わらないんだよ。イラネ」
「ちょ、これ!これ見てってばっ、電動釘打ち機にパイナップルにその他モロモロ!役に立つって、本当役に立つって!!」
粘った、とにかく粘った。
粘った結果、どうやら波は勝平の方に向いてくる。
「仕方ないわねー」
「まぁ、土下座までされたら認めるしかないか」
「してないよ?!だからビジュアルないからって好き放題するなってば」
「柊さん、あまり熱くなりますとお体にさわりますよ」
「はっはっはっ、芽衣ちゃんは優しいな〜」
「何でいきなり現れるんだ、ここの連中は!!」
「え?私、最初からいましたけど」
「つっこみきれん!!」
「にはは、四人で仲良く頑張ろー」
という訳で、鎌石小中学校へ行くメンバーが決まりましたとさ。
「くっそー、見てろよ・・・へへっ、二人とも嬲り殺しにしてやるわぁ」
「にはは、勝平さんキモい」
「お前いい加減にしろよ・・・」
「が、がお・・・」
364 :
補足:2006/12/11(月) 00:33:12 ID:9tPEXNmj0
柊勝平
【所持品:電動釘打ち機16/16、手榴弾三つ・首輪・和洋中の包丁三セット・果物、カッターナイフ・アイスピック・支給品一式(食料少し消費)】
神尾観鈴
【所持品:フラッシュメモリ・支給品一式(食料少し消費)】
相沢祐一
【所持品:S&W M19(銃弾数4/6)・支給品一式(食料少し消費)】
藤林杏
【持ち物:ノートパソコン(充電済み)、包丁、辞書×3(英和、和英、国語)支給品一式(食料少し消費)】
【状態:鎌石小中学校へ】
緒方英二
【持ち物:拳銃(種別未定)デイパック、水と食料が残り半分】
春原芽衣
【持ち物:デイパック、水と食料が残り半分】
【状況:残留組】
【時間:2日目午前0時】
【場所:C-05鎌石消防分署】
(関連・486)(B−4ルート)
365 :
変調の兆し:2006/12/11(月) 01:50:31 ID:s3VlaeFw0
いい加減誰か突っ込んでくれよ。俺様の方向性はこれで本当に良いのか?
なし崩し的にどんどん他人と関ってる気がするんだが気のせいじゃないよなこれは。
今回の件もそうだ。助けるまではいい、武器も手に入りそこそこの活躍も出来たしな。
だがなんで俺様は今こんな全力で走ってるんだ。
郁乃のところに戻る必要はあるのか?
そして久寿川と合流する必要も本当にあるのか?
あの麻亜子とか言ったクソガキに対しての怒りは確かにあるが、ぶっ殺したい衝動まではなくなっていた。
貴明って奴の言葉のせいか、久寿川のあの泣きそうなツラのせいか、そんなことは知ったこっちゃねえが
なんだかんだで俺様は無事に生きてるんだからほおっておいていいじゃねえか。
このままトンズラこいて、今度こそ当初の目的を果たせばいい。
そう考えてるのに身体は止まろうとしやしねえ。
いったいぜんたいどうしちまったんだろうな俺様は。
「あううーー、待ってよぉ」
後ろから聞こえた叫びに俺様は思わず足を止めた。
振り返ると沢渡が息を荒げながら必死に後を追いかけていた。
その顔には傍目からもわかるほどの大量の汗を流し、それでも離されまいと走っているのがわかった。
「チッ」
俺様は足を止めると、沢渡のそばに駆け寄る。
「早すぎるーっ!」
「おめえがおせえんだよ、ったく」
その言葉に頬を膨らませるも、ヨロヨロと力なく俺様の身体にもたれかかる沢渡。
「チンタラしてる時間はねーんだが……少し休むか?」
言うや否や、疲れのほうが勝っていた沢渡はコクリと頷いた。
思うように動かせない沢渡の身体を支えながら、沢渡を道脇に生えていた木の根元に座らせバックを開く。
「ほらよ」
取り出した水をゴクゴク一気に飲み干す沢渡を見て、何故か笑みが浮かんできた。
本当になんでだ。普段の俺様ならこんな奴気にせず置いていっただろうに。
瞬く間に空になってしまい、出てこない水を惜しむように水筒の傾けて舐めている。
やれやれ、しょうがねーな……。
366 :
変調の兆し:2006/12/11(月) 01:51:27 ID:s3VlaeFw0
「ほらよ」
自分で飲んでいた水筒を沢渡の前にかざす。
「え?」
その行動にたいしてキョトンとした顔で俺様を見つめてきた。
「足りないんだろ、飲んでおけ」
「いいの!?」
そう言って俺様の手から奪うように水筒を取ると一気にそれをも飲み干した。
大きく息をつくと満足そうに笑うと空になった水筒を俺様に戻すと「ありがとう」と小さく呟く。
なんだ、生意気なだけかと思ってたが素直なところもあるんじゃねーか。
「ねえ……高槻はこれからどうするの?」
「ああ?」
呼び捨てにされたことに思わずムッとしながら沢渡を睨みつけていた。
剣幕に怯えたように肩を震わせていた沢渡を見て思いなおす。
こんなガキに凄んでどうすんだ、ハードボイルドだろ俺様は。
「さっき久寿川と話したこと忘れたのか? 郁乃達を連れて久寿川たちのところへ行くさ」
「そうじゃなくて」
「あ?」
「最初は何をしようとしてたのかなって。探したい人とかいないの?」
「ああ……別にいねえな。逆に会いたくねえ奴らばっかりだ」
FARGOの連中の顔を思い浮かべる。間違いなく襲い掛かってくるんだろうな、めんどくせえ。
「お前はどうなんだ?」
「……祐一」
「ん?」
「祐一に会いたい」
「なんだ、お前のコレか?」
親指を立ててやるも意味がわかっていないようで「男か?」と言い直してやった。
小さく首を振るも少なくとも祐一って奴がこいつにとっての一番大事な奴には違いないことはわかった。
特に何かしてやろうって気はさらさらなかったが、結局こいつもコブつきかと思うと妙に苛立った。
久寿川もそうだったし、これから出会う奴みんな男持ちじゃねーよな……。
367 :
変調の兆し:2006/12/11(月) 01:52:35 ID:s3VlaeFw0
「そろそろ行くぞ」
俺様が立ち上がるのを見て沢渡も慌てて立ち上がろうとするも、身体をふらつかせながらその場に倒れこんだ。
「あれ?」
再び身体を起こすも、足がプルプルと震え俺様にのしかかってきた。
「……なにやってんだ?」
「あ、あれ……?」
おぼついて無い足で必死にしがみついてくる沢渡。
疲れがたまってるのか。それとも体調でも崩したのか。
沢渡の額に手を当ててみるも特に熱があるわけでも無い。
風邪を引いたってわけでもなさそうだし恐らく前者だろうな。
仕方なく溜め息をつきながら俺様は沢渡の身体を背中に担ぎ上げた。
「時間がねーんだ、このまま行くぞ」
このくらいの重さなら苦にはならんだろう。
そう思ってバックを持った俺様だったが、沢渡はジタバタと暴れながら頭をぽかぽかと叩いてくる。
「いててっ! なんだよっ!!」
「違うのーっ!」
「何が違うんだよ!」
「こう言う時って、前で抱きかかえてくれるんじゃないの!?」
言ってる意味が一瞬わからなかったが、冷静に考えてみる。
あー、何だ、前で抱える。つまりあれだろ? 俺様が? なんで? そんな傍目に見て恥ずかしいことを?
その間も口を尖らせてブーブー文句を続ける沢渡。
実は演技じゃねーだろうなこの野郎。
ええいめんどくせえ。俺は意を決して沢渡の背中と足を抱えて走り出した。
そう、俗に言うお姫様抱っこ。あまりにも俺様のキャラにあわな過ぎて顔から火が出そうだ。
こんなところ誰かにでも見られようものなら立ち直れないかもしれん。
そう思った俺様は一心不乱に走り続けた。
たまに下を向くと満面の笑みで笑っている沢渡の顔があり、俺の腕を握り締めていた。
悪い気はしない、しないんだが良い気もしない。
ジレンマに耐え切れずますますスピードを上げ、気が付くと特に何事もなく数時間前にくぐった無学寺の門が眼前に見えていた。
368 :
変調の兆し:2006/12/11(月) 01:53:17 ID:s3VlaeFw0
ハードボイルド高槻
【所持品:食料・水以外の支給品一式、日本刀、分厚い小説、ポテトwithコルトガバメント(装弾数:6/7)予備弾(13)】
【状況:無学寺で郁乃達と合流、その後鎌石村に向かいささら達と合流予定。真琴をお姫様抱っこ】
沢渡真琴
【所持品:スコップ、食料など家から持ってきたさまざまな品々、ほか支給品一式】
【状況:同上、お姫様抱っこでご機嫌。体がうまく動かない、原因不明】
【時間:二日目4:00頃】
【場所:無学寺到着】
時刻は午前5時50分。
久瀬は数々の惨状を見せられ、疲弊しきっていた。
多すぎた。あまりにも死人が多すぎた。
実の所彼は少し期待していた。
時間が経てば混乱していた者も落ち着いて、殺し合いが収まってくれるのではないかと。
だが実際には、殺し合いはますます激しさを増していくばかりだった。
ある者は一方的に殺され、またある者は裏切られて殺された。
特に酷かったのは、指を1本1本切り落とされて惨殺された女性だった。
その女性は最期の瞬間まで想像を絶する悲鳴を上げ続け、返り血に塗れた加害者の女性は笑いながら包丁を振るい続けた。
その一部始終を見ていた久瀬はとうとう嘔吐感を堪えきれなくなり、腹の中の物を全て吐き出していた。
自分が確認出来ただけでも10名以上の人間が命を落としていた。
恐らく―――その倍以上の数の人間が、既に物言わぬ躯と化しているのではないか。
そして第2回放送の時がきた。
画面が真っ黒に染まり、ゆっくりと赤く浮かび上がる番号、そして名前。
「そ、そんな……こんなに大勢の人が……」
彼の知り合いの名前は今回も無かったが、予想以上の死者の数に震えが止まらない。
『それじゃ久瀬君、今回もよろしく頼むよ』
一回目の放送の時と同じくウサギが一瞬画面に現れ、その一言だけを告げまた消える。
久瀬は今にも倒れこみそうなくらい疲弊していたが、それでも彼に選択肢は一つしか用意されいない。
「――みなさん……聞こえているでしょうか。
これから第2回放送を始めます。辛いでしょうがどうか落ち着いてよく聞いてください。
それでは、今までに死んだ人の名前を発表…します」
画面に目を戻す。これだけの人数の人間が死んだのだ。
きっとここに名前が載っている者の友人や家族も沢山いるだろう。
彼らの気持ちを考えると、やりきれないものがあった。
だがここで自分が抗っても死体が一つ増えるだけだ。
意を決して何とか言葉を捻り出す。
「――それでは発表します。
9 イルファ
10 エディ
11 太田香奈子
22 梶原夕菜
23 鹿沼葉子
38 来栖川芹香
51 澤倉美咲
56 新城沙織
57 春原芽衣
60 セリオ
66 月島拓也
67 月島瑠璃子
72 長瀬源蔵
75 名倉由依
76 名倉友里
80 仁科りえ
82 氷上シュン
84 姫川琴音
93 古河秋生
94 古河早苗
99 美坂香里
105 巳間晴香
107 宮内レミィ
109 深山雪見
112 山田ミチル
115 柚原このみ
116 柚原春夏
――以上…です……」
自分の役目を終えた久瀬はがっくりと項垂れた。
強制されているとは言え、島にいる者達に悲しみを、絶望を、自分の手で与えてしまったのだ。
体力だけでなく精神的にももう限界が近かった。
そこで突然画面が切り替わりウサギが画面に現れた。
『さて、ここで僕から一つ発表がある。なーに、心配はご無用さ。これは君らにとって朗報といえる事だからね』
話ぶりからしてウサギは放送を通じて島全体に対して話しかけているようだった。
久瀬は他の参加者達と同様、ただ黙って話に聞き入る事しか出来ない。
『発表とは他でもない、ゲームの優勝者へのご褒美の事さ。相応の報酬が無いと君達もやる気が上がらないだろうからね。
見事優勝した暁には好きな願いを一つ、例えどんな願いであろうと叶えてあげよう』
(―――何!?)
信じ難い発言に、久瀬の目が見開かれる。
戸惑う久瀬に構う事なく、ウサギの話は淡々と続けられていく。
『だから心配せず、ゲームに励んでくれ。君らの大事な人が死んだって優勝して生き返らせればいいだけだからね。
発表は以上だ。引き続き頑張ってくれたまえ』
そこで、映像は途切れた。
話を聞き終えた久瀬は蒼白になっていた。
常識的に考えればどんな願いでも叶えるという事など出来る訳が無い。
優勝者の願いを叶えるよりも、裏切って殺す方が圧倒的に手軽である。そして主催者達は間違いなくそうするだろう。
だがゲームの極限状態の中で、放送による悲しみの中で、どれだけの人間が冷静に判断を下せるというのだろうか。
一体何人の参加者があの話を鵜呑みにしてゲームに乗ってしまうのだろうか。
―――信じるんじゃない、これは罠だ!餌をぶらさげて殺し合いを加速させるための罠だ!!
そう参加者達に伝えたかった。だが今の彼にはそれが許されていない。
久瀬は自分の無力を呪い床を力の限り殴り続けた。
程なくして彼は力尽き、意識を失った。
久瀬
【時間:2日目06:00】
【場所:不明】
【状態:極度の疲労による気絶】
書き手さんが改変して上げるって話だったけど、音沙汰ないんで一応。
373 :
ずっと一緒に:2006/12/11(月) 23:06:51 ID:ov03d5a/0
「そう警戒すんなよ、俺達は殺し合いをする気は無いぞ。……つーか、武器が無い」
そう言って朋也は手に持つクラッカーをぶんぶんと振って見せた。
朋也以外の者はそもそも手に何も持っていない。
全く敵意も感じられないので、るーこは構えを解き警戒を緩めた。
「その筒状の物体は何だ?」
「知らないのか?これはクラッカーといってだな……」
言い終わる前にみちると風子が智也からクラッカーを奪い取り、天井に向けてクラッカーを放った。
パンパン!と派手な音が家中に響き渡る。
「るー!」
その音に驚いたるーこは非難の声と共に再び薙刀を朋也達に向けた。
それとは対照的にみちると風子は満足気に笑っている。
「にゃはは、驚いている。お姉さん弱虫だねー」
「大成功、です」
「つまらん悪戯をするんじゃないっ」
ボコッ! ボコッ!
「にょわっ!」
「はうっ」
朋也の鉄拳(ゲンコツ)制裁が炸裂し、みちると風子は頭を抱えてうずくまる。
邪魔者を排除した朋也はるーことの会話を再開した。
「悪かったな。っと、まずは自己紹介をしとくか……俺は岡崎朋也だ」
「るーはるーこ。るーこ・きれいなそら。誇り高きるーの戦士だ」
るーこはそう言って両手を高々と上げた。
(……るー?戦士?そのポーズの意味は?)
突っ込み所が多すぎて朋也は頭が痛くなる感覚を覚えたが、とにかく話を進める事にした。
「それでアンタさっき同じ服だとかうーへいだとか言ってたけど、一体何の事だ?」
「そのままの意味だ。るーはうーへいを探している。うーともはうーへいの知り合いか?」
「うーへいって、一体誰なんだそりゃ?」
るーこの問い掛けに朋也は首を捻らせる。
うーへいが誰かの名前を指しているのは辛うじて分かったが、誰の事かはさっぱり分からなかった。
「うーへいはうー達には春原陽平と呼ばれていると思う」
「春原を見たのか!?」
374 :
ずっと一緒に:2006/12/11(月) 23:09:07 ID:ov03d5a/0
「見たも何も少し前まで一緒に行動していたぞ」
「今は?」
「……分からない」
るーこはそう言って俯いた。
朋也達もこの民家の周辺の惨状は目撃している。
大きな戦いがあって、るーこも春原もそれに巻き込まれた事は容易に推測出来た。
「春原は俺の友達だ……一応な。ここで何があったか詳しい話を聞かせてくれないか?」
そしてるーこの説明が始まった。かなりの人数がこの場所に集まっていた事。
るーこが渚とも会っていた事。そして突然襲撃された事。
一緒にいたうちの一人がるーこを庇い撃たれた事。
るーこ独特の言葉遣いによる説明は少し分かり辛かったが、それでも大体の事情は飲み込める。
るーこは理緒が撃たれた所で一旦戦闘の説明を止めて、襲撃者―――来栖川綾香の特徴を説明した。
このゲームではマーダーの情報は非常に重要である。
どの人間がゲームに乗っているか知っていれば、少なくとも騙まし討ちをされる事は避けれるからだ。
「そうか……。それにしてもその女、全く容赦が無いな」
「ああ、あのうーは危険だ。完全にこの殺し合いに乗っている」
朋也の脳裏に民家の外で見た数人の死体となった姿が浮かぶ。
死体を見た事が無かった朋也にとってはどの死体も直視に耐えない無残なものに見えた。
どうしてあんな事が平気で出来るのか、全く理解出来なかった。
「それでだな……」
再びるーこの説明が始まる。綾香の尋問の内容。
突然民家の明かりがついた事。そして……。
「てめぇ!渚を撃ったのか!?」
「……すまない」
るーこが渚を撃った事を知った朋也は逆上してるーこの胸倉を掴んでいた。
朋也の刺すような視線が、るーこの心に文字通り突き刺さる。
あそこで渚を撃たなければ確実に全滅していた。それは紛れも無い事実だ。
それ故当時のるーこはその事を必要悪として気にしていなかったが、春原に責められてからは罪悪感を感じていた。
激昂する朋也に対して、るーこはただ謝る事しか出来ない。
頭に血が昇った朋也はるーこの胸倉を締め上げ、ガクガクと激しく揺すった。
375 :
ずっと一緒に:2006/12/11(月) 23:10:51 ID:ov03d5a/0
「ふざけんなっ!何で……何でそんな事したんだよっ!渚は今どうしてるんだ!?どこにいるんだよ!」
「く…苦しいぞ……」
呼吸が出来なくなってるーこの顔色が見る見るうちに悪くなっていくが、怒りで我を忘れている朋也はその事に気付かない。
手に力を入れたままひたすら捲くし立てる。由真が横から恐る恐る制止の声を上げるが、朋也は全く聞き入れる様子が無かった。
――――だがその時、部屋の扉が開け放たれた。
「違うんだっ!るーこは悪くないんだ!」
全員の視線が扉の先に集中する。そこに立っていたのは……
「……うーへい?」
「るーこ……良かった、無事だったんだね……」
金髪の少年。朋也の親友。
そして、るーこが今一番会いたかった人物―――春原陽平だった。
彼は民家の傍まできて死体が誰かを確認していた。
渚の死体が無いのでホッとしていたが、中から朋也の怒声が聞こえてきたので慌てて駆けつけたのだ。
るーこと春原はお互い無事だった事に、再び会えた事に、嬉し涙が出そうになった。
だが今は再会を祝う事が許される状況ではない。
るーこを掴む手を離した朋也が、今度は春原へと詰め寄っていく。
「おい、春原……。渚を撃った事のどこが悪くないっていうんだ?」
「あの時はああする以外に無かった……そうしなきゃ全員殺されてたんだ」
「言いたい事はそれだけか?あいつが渚を撃ったのは事実なんだな。だったら俺はあいつを許せない」
守るべき存在を傷つけたるーこはもはや朋也にとっては敵でしかない。
生まれて初めて女に手を上げるべく、朋也はるーこに近付こうとした。
だが肩を後ろから掴まれその歩みを止められる。朋也が振り返ると春原が必死の形相で肩を掴んでいた。
「待ってくれ、殴るなら僕を殴ってくれ!」
「ああ?何言ってんだ?」
「僕が不甲斐なかったからいけなかったんだ!僕は……僕は渚ちゃんに救われながらも一人で逃げてしまったんだよ!
るーこが渚ちゃんを撃った時だって、ああなる前に僕がどうにかしないと駄目だったんだよっ!」
「お前、渚を放って逃げやがったのか!?」
「ああ……その通りだよ」
「てめぇぇぇっ!」
鈍い音がして春原が背中から派手に壁に叩きつけられた。
376 :
ずっと一緒に:2006/12/11(月) 23:13:07 ID:ov03d5a/0
春原はうずくまって呻き声を上げている。
「うーへい!」
るーこが春原の傍に走り寄り、彼を庇うように朋也の前に立ち塞がった。
「そこまでだ、うーとも。うーへいは悪くない、どうしても気が済まないというのなら……」
るーこはそこまで言って、薙刀を朋也へと差し出した。
「これをやる。それでるーを殺すがいい。但し、絶対にうーへいには手を出すな」
「そんなの……」
「そんなの駄目だ、ふざけんなっ!」
つい感情的になってしまったがそれでも朋也は怒りに任せて人を殺すほど愚かではない。
怒りはまだ収まっていないものの、流石にその提案は断ろうとしたがそれより先に春原が叫んでいた。
「殺すなら僕を殺せよ。僕は絶対にるーこを守るんだ!」
春原はよろよろと立ち上がり、るーこを押し退けて朋也の正面に立っていた。
綾香に嬲られ、朋也に殴り飛ばされた春原の体は満身創痍もいいところだった。
だがそれでも彼は一歩も引かず、怒気どころか殺気すら帯びている朋也の目から視線を外さない。
今の春原の姿は覚悟を決めた一人の男の姿だった。
かつて臆病者と呼ばれていた頃の面影はもうどこにもない。
春原の真剣な眼差しを見ていた朋也は怒りが急激に醒めていくのを自覚して、諦めたように大きな溜息をついた。
「お、岡崎?」
「もういい、お前らのやり取りを見てたらこっちまで恥ずかしくなってくる。それにこんな事してる場合でも無いしな。
それより渚がどこ行ったか教えてくれ。怪我をしてるなら一刻も早く見つけないと……」
「ごめん、僕も分からない……。でも秋生さんが一緒だったから、多分大丈夫だと思う」
「オッサンが?」
「ああ。ここの外で戦ってた時、秋生さんが助けに来てくれたんだ」
「そうか……」
それなら確かに大丈夫かもしれないと、朋也は思った。
悪い言い方をすれば、殺しても死なないというイメージが秋生にはあった。
それに秋生なら何をさしおいてでも渚を守ろうとするだろう。信用度という点でも文句が無い。
だがそれでも渚には会いたかった。この島から無事に生きて帰れるという保障はどこにもないのだから。
「やっぱり俺は渚を探しに行くよ。それにみちる達の知り合いも探さないといけないしな」
377 :
ずっと一緒に:2006/12/11(月) 23:15:55 ID:ov03d5a/0
「そっか……頑張れよ」
「おい、うーとも。これを持っていくと良い」
るーこは殺虫剤とトンカチを拾い朋也に投げ渡し、そして呟くようにぼそぼそと言葉を続けた。
「それと……うーなぎに会ったらすまなかったと伝えておいてくれ。許してもらえるとは思えないが……」
「……大丈夫だよ。あいつはお人良し過ぎるから、きっと笑って許してくれるさ」
朋也はそう言って笑った。その目からはもう怒りは感じられない。
場の空気が、随分と軽くなっていた。
「じゃあ僕も……」
「お前は駄目。渚には許さないように言っておく」
「僕だけ扱い悪くないですかねぇ!あんたそれでも僕の親友かっ」
「わりい、俺お前のこと友達だと思ってねーや」
「ひでえっ」
その二人のやり取りを見ていたるーこや風子、由真やみちるはついつい笑ってしまった。
それに釣られて朋也と春原も笑い出した。
束の間の出来事に過ぎなかったが、そこには日常となんら変わらぬ暖かさがあった。
朋也達が民家を過ぎ去った後、春原はるーこを優しく抱きしめた。
それはあまりにも唐突で彼らしくない行動だった。
「うーへい……?」
「ごめん、るーこ。僕はるーこの気持ちを考えてやれなかった」
「え?」
「るーこに守ってもらってばっかりで、全然るーこに何もしてあげれなかった……」
「それは違うぞ、うーへい」
るーこは春原の胸をうずめ、その背中に手をまわして抱きしめ返した。
「うーへいはさっきるーを守ってくれた」
「そうかな……?」
「ああ……それにるーは、うーへいと一緒にいたい。うーへいはただ傍に居てくれればそれで良い」
「るーこ……」
378 :
ずっと一緒に:2006/12/11(月) 23:18:56 ID:ov03d5a/0
「だから、ずっと傍に居て欲しい。この島から帰ってもずっと一緒に居て欲しい」
るーこの声が涙声になっていた。
涙と共に素直な感情が溢れ出していた。
「ああ。僕はずっとるーこと一緒にいるよ……もう二度と離れない。僕はるーこの事が大好きみたいだから」
そう言って春原はるーこを抱きしめる力を強めた。
「るーもうーへいの事が大好きだ……」
るーこも同じように、強く春原を抱きしめた。
まるでお互いの体温を確かめ合うように。
これまで受けてきた心の傷を癒すように、二人はただ抱き合っていた。
るーこは春原に、春原はるーこに、確かなぬくもりを与え合っている。
―――――今この瞬間だけは、この島に自分達二人だけしかいない気がした。
ルーシー・マリア・ミソラ
【時間:2日目・午前5時】
【場所:F−2 平瀬村・民家】
【所持品1:ノートパソコン(バッテリー残量・まだまだ余裕)、スペツナズナイフ】
【所持品2:鉈、包丁、他支給品一式(2人分)】
【状態:左耳一部喪失、額裂傷、背中に軽い火傷(全て治療済み)】
春原陽平
【時間:2日目・午前5時】
【場所:F−2 平瀬村・民家】
【所持品:スタンガン、他支給品一式】
【状態:全身打撲、数ヶ所に軽い切り傷】
岡崎朋也
【時間:2日目・午前4時】
【場所:F−2 平瀬村】
【所持品:クラッカー残り一個、トンカチ、殺虫剤、薙刀、他支給品一式】
【状態:現在の目標は渚・知人の捜索】
379 :
ずっと一緒に:2006/12/11(月) 23:19:51 ID:ov03d5a/0
みちる
【時間:2日目・午前4時】
【場所:F−2 平瀬村】
【所持品:武器不明、他支給品一式】
【状態:現在の目標は美凪の捜索】
十波由真
【時間:2日目・午前4時】
【場所:F−2 平瀬村】
【所持品:双眼鏡、他支給品一式】
【状態:朋也に同行】
伊吹風子
【時間:2日目・午前4時】
【場所:F−2 平瀬村】
【所持品:三角帽、スペツナズナイフの柄、他支給品一式】
【状態:朋也に同行】
【備考】
以下の物はるーこの近くに放置されている
・デイパック×5 ・鋏 ・アヒル隊長(7時間後爆発) ・木彫りのヒトデ
(関連:497、513 B-13)
「なぁ、マルチ。俺って強いよな」
へらへらと、いつものように軽く、しかし壊れたように笑いながら雄二は話しかける。目の前には先ほど惨殺したばかりの雅史の死体が転がっている。
「そうですね、雄二さんは『強く』て、『正しい』です」
「だよなぁ? はははっ、そうだよ、所詮やったもん勝ちなんだよ、このゲームはさ。勝った奴が正しくて、強いんだよな?」
「はい。間違いありません」
頷くマルチを見て満足そうに頭を撫でてやると、マルチもまた嬉しそうな顔をする。彼らの関係は、まさに狂った主従関係であった。
「さて、と…服に血がついて気持ち悪りぃな。まったく、こんな汚ねぇ奴の血をつけたまま姉貴や貴明に会えるかっての…行こうぜ」
「はい」
まるで道端の小石を蹴るかのように雅史の死体を蹴り飛ばして、彼らは替えの服を探しに歩いて行った。
* * *
それから十数分の後、開いていた一軒家で適当な服を見繕って着替えた後、ぶらぶらと村をさまよっていると、不意に雄二は聞き覚えのある声を聞いた。
「雄二っ、雄二でしょ!? 無事だったの!?」
振り向くと、駆け寄ってきていたのは見なれた姉の顔。雄二も思わず金属バットを取り落として環の元へ向かう。
「姉貴じゃねぇか! 無事だったのかよっ」
「バカ、あんたやタカ坊を残して簡単に死にゃしないわよ」
互いに笑い合いながら体を叩き合ったりどつき合う。第三者の目から見れば、まさにそれは姉弟の感動の再会だっただろう。
「雄二さん、どちら様ですか? この人は」
拾いなおした金属バットと歪んだフライパンを手に、雄二に問い掛けるマルチ。環はその様子に何となくおかしいものを感じた。
(何だか…すごく無機質な声)
まるで狂ってしまった人間のような――そこまで考えて、環は自分が疲れているのだ、と思った。
見たところメイドロボのようだから、きっとそんな風に聞こえてしまったのだろう、と思うことにする。
「ああ、マルチ紹介するぜ。俺の姉貴で、向坂環っていうんだよ」
「そうですか…お姉さんですね。宜しくお願いします。マルチといいます」
丁寧にお辞儀するマルチに、環も頭を下げる。
「ええ、こちらこそ。それより、ウチの雄二が迷惑かけなかった? このバカ、メイドロボが大好きなんだけど…何かされたりしなかった?」
「いいえ。それどころかわたしにとても優しくしてくださいましたし、色々と『正しい』ことも教えてくださいました」
どうやら粗相はしていないようで、環は安心する。
まぁ、これくらいのマナーがなくっちゃあ私の弟じゃないわよね。
「向坂ぁ、やっと追いついた…急に走ってくから何かと思ったじゃないか。知り合いか、そいつら?」
観鈴を背負った祐一と英二がようやく環に合流する。
「あぁ、ごめんごめん。弟が見つかったからつい、ね。こいつが弟の雄二で、隣にいるのが今まで一緒に雄二といてくれたマルチさん…ん? 雄二、どうかしたの?」
英二達を見るなり斜な表情になった雄二に、環が尋ねる。
「姉貴…何なんだよこいつら。見ず知らずの奴ばっかじゃねえか」
弟のあからさまな態度の豹変に驚きを隠せない環。それでも窘めるように言う。
「そんな言い方はないでしょ? 確かに会って間もないけど…信頼できる人達よ」
しかし雄二は態度を崩さぬばかりか強い口調で、
「信頼? 何言ってんだよ姉貴。こんなところで信頼もクソもあるかよ。騙されて寝首をかかれるのがオチだぜ? どうして殺さねぇんだよ」
予想もしていなかった雄二の発言に、一瞬我が耳を疑う環。英二達も環の弟だという人間の暴言に呆気にとられていた。
「信じてたっていつかは裏切られんだよ。だったら裏切る前にこっちから殺りゃあいいんだ。勝てば官軍、って言うだろ? 弱肉強食、どうせ強い奴しか生き残れないし勝った方が正義なんだよ。
信じてりゃあ救われますみたいなそんな宗教みたいな甘っちょろい妄想にすがり付いてたってどうせ死ぬしかねえんだよ。大体優勝すりゃあどんな願いでも叶えてもらえるんだろだったら殺した奴ら全員生きかえらせりゃいいじゃねえかどうしてその程度思いつかねえんだ姉貴?
ああそうかそんなバカな奴らと一緒にいるから姉貴もバカになっちまったんだなだったら俺が目を覚まさせてやるよ、『強い』俺が姉貴の頭を揺さぶり起こしてやるからさぁ!」
早口で異常とも言える理論をまくしたてながらマルチから金属バットを受け取る雄二。
今にも振り下ろしてきそうなその雰囲気に、反射的に飛び退き、雄二と距離を取る環。
「な、何バカなこと言ってるの! ふざけるのもいい加減にしなさいっ! マルチさんも止めて!」
しかしマルチはあなたこそ何をバカなことを言っているのですか、と言わんばかりの口調で、
「いいえ。雄二さんはふざけてなどいません。むしろ逆です。雄二さんはこの場で最も的確な判断をなさっていると考えます。ゆえにわたしはこの場の人間、全員を排除することを第一目的とします」
フライパンを両手で握り締め、戦闘態勢に入るマルチ。先ほどまでは微塵も感じられなかった二人の狂気の行動に、祐一が慄きながら後ずさる。
「な、何なんだよっ…こいつら、あのまーりゃんって言う奴とも弥生って言う女とも違う…狂ってやがるっ…」
英二も狼狽えていたが、やがて覚悟したように口を固く閉じると、ベレッタを二人に向けて構える。
「近づかないでもらおうか、向坂少年、マルチとやら。危害を加えるようならこちらも実力行使に出る」
「英二さん!?」
「…すまんな、環君。殺しはしないが、放っておくには危険すぎる。どうやら血の気が多過ぎるようだからな。少し血の気を抜いてやる必要があるだろう?」
環は再び雄二の方を見る。二人は銃を気にするどころか、まるで見えていないような態度だ。
「…雄二! 今ならまだ取り返しはつくわ! いい加減になさい!」
「はぁ? いつからそんなに弱くなっちまったんだよ姉貴は。二日目にもなって、取り返しのつく人間なんていると思ってんのかよ!
姉貴だって、人の一人や二人撃ったんだろ? そこのそいつらも。俺だって、もう二人もやっちまったんだからな! まさか姉貴だけキレイキレイしてるわけねぇよなぁ、ハハ、ハハハハハハッ!」
壊れたような高笑いの後、雄二はマルチを愛しそうに抱き寄せながら囁く。
「そうだよな、もうこんなダメ姉貴なんて必要ねぇ。そうだ、俺が殺して俺の理想の姉貴に生きかえらせりゃいいんだ。姉貴だけじゃねえ、他の気に食わねぇ奴らもだ。
へへへへ…まるで神様みたいだよなぁ? 神様かぁ…いいねぇ、その響き。全知全能って奴だよ! みんなみんな俺が殺して生きかえらせて、そして…俺は世界の神となる!」
妄想じみた雄二の意見にも、マルチは手を叩いて賛同する。
「素晴らしい考えです、雄二『様』。雄二様を妨げる人間は…たとえご家族でも容赦しません」
もはや修正不可能なまでに二人の精神の歯車は歪んでいた。それを悟らざるを得なかった環は心底で悔む。
(救えなかったのか、このみだけじゃなくて、雄二も――だけど!)
後悔をかなぐり捨てて、英二を後ろ手で押し留める。
「環君、何を…?」
「すみません。祐一と観鈴を連れて、先に診療所へ向かってくれませんか? 弟は私が何とかします」
「しかし、加勢は必要じゃないのか、向坂? 俺一人だけでも…」
反論する祐一を、強い口調で窘める環。
「もし診療所に敵が潜んでたらどうするの? 観鈴を背負ったままで戦えるわけがないでしょ? それに…弟の不始末は、姉の私がきっちりとケリをつけなきゃならないのよ」
しかし…となおも反論を試みる祐一を英二が制する。
「分かった、君に従おう。少年、今は観鈴ちゃんの手当ての方が優先だ。下手に動かして傷が開いたら元も子もない」
英二に言われ、ちっと舌打ちしながらも環に言い寄る祐一。
「こんなところで死んでくれるなよっ、向坂! 神尾を運び込んだら、すぐに戻ってくるからな!」
「ふん、その前にカタをつけるわよ。雄二となら、戦い慣れてるから」
その言葉を聞いて、信じるぞ、と祐一が言い残して二人は診療所へと走って行った。
「あーおいおい、敵前逃亡かよ? 逃がすかぁ? 逃がさねぇよ。マルチ、行ってこい」
了解、とまるで戦闘機械のように呟いた後、マルチが駆け出す。…が、環がそれを許すはずもない。素早く接近し足払いをかけて転ばせる。そしてフライパンを奪い取り足を叩き折ってやろうと力いっぱい振り下ろそうとした――が。
「邪魔すんじゃねぇよ、クソ姉貴が」
横薙ぎに雄二の金属バットが振られる。フライパンの底で辛うじて受けとめるが勢いが強く二、三歩後退してしまう。その隙に、マルチが平然と立ち上がり再び追撃を始める。
「くっ――」
もう一撃、とマルチを追おうとしたがその前に雄二が立ちはだかる。
「逃げるなよ、姉貴。それとも弱くなり過ぎて立ち向かえないってか? だったら俺がその負け犬根性叩きなおしてやるぜ?」
「雄二っ…!」
避けては通れない。いや、避けてはならないのだ。環は一度体勢を解いて深呼吸する。その脳裏に、今までの事が思い出された。
『悪いけど、ウチの娘のために死んでもらうで』
『その他大勢の諸君には消えてもらおうではないか。このあたしがお掃除してあげよう』
「どいつもこいつもバカばっかり…」
あん? と首を傾げる雄二に、環は凄みを効かせた声で言い放つ。
「上等よ…かかってきなさい。その根性、叩き直してあげるわ!」
「へへ、それでこそ殺す甲斐があるってもんだ! 死ねっ、姉貴ィ!」
力任せの一撃。だが環はそこから一歩も動く事無くフライパンで打ち払う。勢い余って前のめりになりながらも横から第二撃を放つ雄二。しかしそれも動くことなく難なく打ち払う。
「どうしたの? 私は一歩も動いてないんだけど?」
挑発する環に雄二はムキになって打ちかかる。
「るせぇっ! まだこれからだよぉっ!」
何度も打ちかかるがまるで当たりもせず、打ち払われ続ける雄二。
「ち…ちくしょう! 負けるか! 俺が負けてたまるか! 俺は強いんだっ! 誰にも負けねぇんだよ!」
「強い…ね」
回避
雄二の壊れっぷり最高w
ため息をつくと、持っていたフライパンを打ち捨てる環。
「…おい、何のつもりだ? 姉貴」
「雄二相手には素手でも十分」
「武器なしで戦うってのかよ…へへへ、自信過剰なんだよ姉貴ぃぃぃーーーーー!」
『打つ』のではなく、『突き』に切り替えて環に攻撃する。それが功を奏したか、環の腹部にクリーンヒットする。よろめいた環にすかさず腕を、足を、腹を、頭部を殴打し続ける。
血が噴出し、それでも黙って殴られ続ける環。十数度殴り、地へ倒れ伏した環に、雄二は満足そうに笑う。
「自信過剰なのがダメなところなんだよなぁ、姉貴?」
頭をかち割ってやろうとバットを大きく振りかぶる。しかし直前、何事も無かったかのように平然と環が立ちあがった。
「なっ!?」
「それが雄二の本気…? 全然効かないわね」
まるでこたえていない様子の環に狼狽える雄二。実は雄二の疲労は既にピークを超えており、まともに環を殴れる力がなかったのだ。それに気付かない雄二はただ混乱するばかりだった。
「な…なんで死なないんだよ、俺は強いんだぞ、俺は強い俺は強い俺は強い俺は強い…」
虚ろな言葉を発しながら、なおも力を振り絞って環にバットを振り下ろす。
「俺は…強いんだよォーーーーッ!」
瞬間。環が右腕を上げたかと思うとバットの動きが止まった。右腕一本で、雄二のバットを止めたのだ。
「あんたの言う『強さ』ってのは…」
唸るような環の声に、体を動かせない雄二。
「私一人殺せやしないの…? そんなちっぽけな『強さ』を…あんたは狂ってまで欲しかったの? …雄二ッ!」
涙が見えた。目の淵に涙が浮かんでいた。そして、それが雄二の見た最後の光景。
「この…バカ弟ッ!」
回避
一発。途方も無く重い一発が雄二の顔に叩き込まれる。今まで食らってきたのとは質が違う拳に、なす術も無く地面に倒れる。
「はぁ…まったく、手間かけさせて…英二さんたち、無事かしら」
くるりと背を向けて去ろうとする環の背に、力のない声がかかる。
「ま…待てよ。待ちやがれよっ…」
雄二だった。どうやら、喋るくらいの根性はあるようだ。
「うるさいわね…あんたにつきあってる暇はないの。勝手にどこにでも行って、勝手になさい。行かなきゃならないのよ、私は」
「…ちくしょう、ちくしょう…後悔させてやるッ…」
すすり泣く声が聞こえた。だが環はまったく意にも介さない。
「悔しいの? その涙は悔し涙? 悔しいのだったら、何回でもかかってきなさい。その時は…また殴り倒してあげる」
去って行く背中を、雄二は見ることすら出来なかった。その胸にあるのはただ「悔しさ」だけだった。
【時間:2日目午前7:30】
【場所:I-07】
向坂環
【所持品:支給品一式】
【状態:頭部から出血、及び全身に殴打による傷。マルチを追う】
緒方英二
【持ち物:ベレッタM92(8/15)・予備弾倉(15発×2個)・支給品一式】
【状態:疲労、診療所へ向かう】
相沢祐一
【持ち物:レミントン(M700)装弾数(5/5)・予備弾丸(15/15)支給品一式】
【状態:観鈴を背負っている、疲労、診療所へ向かう】
神尾観鈴
【持ち物:ワルサーP5(8/8)フラッシュメモリ、支給品一式】
【状態:睡眠 脇腹を撃たれ重症、祐一に担がれている】
向坂雄二
【所持品:金属バット・支給品一式】
【状態:マーダー、精神異常。放心状態】
マルチ
【所持品:支給品一式】
【状態:マーダー、精神(機能)異常 服は普段着に着替えている。英二達を追撃】
【その他:フライパンは雄二の近辺に放置】
【備考:B−10、13】
>>385 >>387 回避ありがd。
ここがチンコいじりスレと聞いてきました
391 :
取捨選択:2006/12/12(火) 21:19:26 ID:QWaNU+qD0
「―――あいつは無事だったみたいだな」
2回目の放送を聞いた秋生はそう呟いた。
死者発表で呼ばれた中に橘敬介の名前は無かった。
卑劣極まりないという噂が立っている、しかし死に物狂いで自分達を逃がしてくれた男。
橘敬介が悪人かどうか秋生は判別出来ないでいたが、とにもかくにも敬介はあの後無事に生き延びたという事だろう。
だが敬介を仲間扱いしていた晴子という女は死んでしまったようだ。
彼女は間違いなくゲームに乗っていると断言出来るが、それでも人が死んだという事は良い気がしない。
出来ればあの場に残って争いを止めたかった。だが、しかしである。
隣で眠っている渚に目をやる。
あの後渚を抱えて鎌石村の外れまで逃亡し、民家に入って彼女の足の手当を済ませた。
その怪我は決して軽いと言えるものでは無い。当分は安静にする必要があるだろう。
岡崎朋也もこの場には居らず、早苗はもう死んでしまった。
唯一渚の傍にいる自分は、例え他人を見捨ててでも渚を守り続けなければならないのだ。
「まあ考えてもしゃあねえか……」
深みにはまる思考を中断し、まずは家を中をくまなく物色する事にした。
支給品セットは一人分しか持ってきていない。食料を調達する必要がある。
それに何か役立つ道具もあるかもしれない。まずはキッチンの方を探してみる。
すると冷蔵庫でそれなりの量の食料を発見する事が出来た。包丁も何かの役に立つかもしれないので持っていく事にする。
次に客間やトイレ、風呂や寝室などを探索してみたが、そこでは大きな収穫は無かった。
最後に奥にある書斎へと足を踏み入れる。すると机の上に一つのノートパソコンが置いてあった。
「こいつは……壊れてはいなさそうだな」
ロワちゃんねるに何か新しい書き込みがないか気になる。
今すぐにでも調べてみたい衝動に駆られたが、同じ家の中とは言え渚をあまり一人にはしておきたくない。
まずは渚が眠るリビングへとノートパソコンを運びこんだ。
手頃なテーブルの上にパソコンを置き、電源をつけて参加者の方へと書かれたファイルをクリックする。
しかし、ロワちゃんねるの中に書かれていた内容を見て秋生は驚愕した。
392 :
取捨選択:2006/12/12(火) 21:20:41 ID:QWaNU+qD0
「あ……あの馬鹿、何やってやがんだ!」
そこには岡崎朋也の名の書き込みがあったが、その書き込みの内容が大問題だ。
朋也は誰が見るか分からない掲示板上で、堂々と落ち合う場所と時間を宣言してしまっている。
それは自殺行為に等しいという事が、秋生にはすぐ分かった。
ゲームに乗った者にこの事が知られれば間違いなく狙われるだろう。
これを書いたのが朋也本人だとすれば、朋也の命は風前の灯といっても差し支えない状態だった。
まずは朋也がもう一度ロワちゃんねるを見てくれる可能性に期待し、新たな書き込みをする。
5:レインボー:二日目 06:53:41 ID:JRstJ5Ip
馬鹿野郎!
誰がこの掲示板を見てるか分からないんだぞ……。
言ってる事は分からなくもねえが、状況を考えろ!
こんな無茶はすぐに止めて、自分の身を守る事に集中しやがれ!
一抹の期待と共に大きな不安を抱きつつもパソコンの電源を落とす。
朋也はもうこの掲示板をチェック出来ないと書いている。この書き込みを見て貰える可能性は高くなかった。
幸い指定されている場所はここからそう遠くないので、秋生一人でなら朋也を救出しに向かうのは難しくない。
しかし、自分は渚を守らなければならない。怪我を負っている娘を置いていくのも連れて行くのもリスクが大き過ぎる。
だからといって朋也を見捨てたくはない。時間はまだまだあるがどうすれば良いか答えは出そうにもない。
あまりにも重い取捨選択を前に、秋生は苦悩し頭を抱えるばかりだった。
393 :
取捨選択:2006/12/12(火) 21:21:26 ID:QWaNU+qD0
【時間:2日目午前7時頃】
【場所:B−3】
古河渚
【所持品:無し】
【状態:睡眠中。右太腿貫通(手当て済み)】
古河秋生
【所持品:トカレフ(TT30)銃弾数(6/8)・包丁・S&W M29(残弾数0/6)・支給品一式(食料3人分)】
【状態:苦悩。左肩裂傷・左脇腹等、数箇所軽症(全て手当て済み)。ゲームに乗っていない参加者との合流。聖の捜索】
※関連479・485・490 ルートB-13
394 :
策略:2006/12/12(火) 22:52:15 ID:yjqNw2mc0
「くそ……この俺様があんなカスに……」
高槻との戦闘から逃げ遂せた岸田洋一は、切りつけられた右腕を押さえながら走り続けていた。
流れ出る血を押さえてはいるが、その勢いは未だ止まることは無い。
激しい痛みは襲われてはいるものの思い通りに動かすことは出来ていた。
神経に至っていなかったのが彼にとっては幸いと言うところだろうか。
「絶対に殺してやる! 隣の女どもを目の前で犯したやった後に最大の苦痛を与えてな!!」
手持ちの武器を見ながら岸田は叫ぶ。怒りは収まることもなく脳内からアドレナリンが駆け巡っていた。
せっかく手に入れたコルトガバメントをいきなり奪われるという不甲斐無さに舌をうつ。
釘の残数は確かにまだあった。
だがこの怪我で絶対の死を与えるためにはこれだけでは分が悪いと、溢れ出る激情を抑えながら考えていた。
武器がいる。あれにも勝るとも劣らない絶対的な武器が。
そう考えながら走り続けていた岸田の目に、道脇に倒れこむ人影の姿が映った。
思わず足を止め、気付かれないようにと木の影に身を隠す。
注意深く観察するも一向にその影は動く気配を見せなかった。
音を立てずに影に忍び寄り――岸田が目にしたのは数時間前に藤井冬弥によって殺された柚原春夏の死体だった。
仰向けのまま目を見開き、額に大きな風穴を開けているそれは死んでいるということを一瞬で認識させる。
「……脅かしやがって」
物言わぬ骸となった春夏の死体を忌々しげに睨み付けるとそのまま思い切り蹴飛ばした。
「殺すならもっと若い女にしろってんだ。こんなオバンじゃ死姦する気にもなりゃしねえ」
395 :
策略:2006/12/12(火) 22:53:27 ID:yjqNw2mc0
言いながら岸田は春夏の身体をまさぐる。
別に犯してやろうなどと考えたではなく、何か武器になるものを持っていないかと考えたためだった。
殺されてる上に、周りにもバック等が見当たらない事からそんなに期待はしていなかったわけだが、彼の期待は良い意味で裏切られることになる。
「ククク……良いもん持ってんじゃねーか」
岸田が目をつけたのは春夏が着込んでいた防弾アーマー。
勿論春夏のように頭部を打ち抜かれでもしたならば全く意味を持たないものではあるが
それでも急所の多い身体を守れるのならば大きな武器となるだろう。
春夏の上着を力任せに剥ぎ取りアーマーを脱がせると、腕の痛みをこらえながら自身の服の下に着込む。
多少重いが行動にそこまで支障が無いことを確認すると、上半身裸となった春夏の死体を興味もなく再び蹴り飛ばし再び走り出した。
再び駆け出すししばらく走ったところで、岸田は大きな門を発見した。
「なんだこりゃ……『無学寺』?」
眼前にそびえたつ門の大きさに呆気に取られるが、しばしの休憩を取るにはちょうど良いだろうと考え足を進めた。
人がいる可能性も考慮し警戒は緩めない。
寺の扉の前に立つと、予想通り中から数名の話し声が岸田の耳に届いた。
音を立てぬよう扉を数センチ開き、中の様子を窺い見る。
中には女が三人。その中の一人は車椅子にまたがっている。
全員が子供のようで小さく笑いを漏らしながら談笑していた。
「また仲良しこよしで群れあいか……本当にどうしようもない奴らばかりだな」
岸田は頭を巡らせて考えた。子供だけだとは言っても先ほどのようなミスはしない。
別段焦って行動を起こす必要も無いのだ。
そして一つの考えに至りながら彼はゆっくりと扉を開けた。
396 :
策略:2006/12/12(火) 22:54:02 ID:yjqNw2mc0
「!?」
無学寺にて高槻の帰りを待っていた郁乃、七海、ゆめみの三人はいきなり開いた扉に思わず視線を送っていた。
高槻が戻ってきたのかと思ったのも束の間だった。
「……た、助けて下さい」
扉を開けた本人は右腕を押さえ、いかにも苦しそうな声を発しながら懇願の表情を三人に送る。
その右腕から流れ落ちる血を見て、慌てて三人は岸田の下へと駆け寄った。
「ひどい……」
岸田の負った傷を前に七海が呆然と立ち尽くす。
車椅子に乗ったままでうまく様子を探れない郁乃ですら、遠目からその傷が浅いもので無いことはわかった。
声も出せずに固まる二人を横目に、ゆめみが岸田の腕を取る。
「つっ……」
自信の意思では無い圧力に岸田が呻き声を上げた。
勿論半分は演技だったのだが、目の前の少女達の表情からさらなる同情を得られたことは明白だった。
心の中でほくそえみながらも、沈痛な表情をさらに深める。
「これは刀傷でしょうか……ちょっと待っててください」
言いながらゆめみが自身のバックを漁りだすとなにやら不思議な形をした容器を取り出した。
蓋を開け、中に指を突き刺しすと、中からどろりとした白いゲル状の液体が指にまとわりついていた。
「それは?」
「はい、忍者セットの中に入っていたのですがどうやら止血剤のようです。
鎮痛作用は無いようですが、これなら少しでも応急処置にはなるのではないかと思いまして……失礼します」
397 :
策略:2006/12/12(火) 22:54:51 ID:yjqNw2mc0
「すいません、お手数をおかけして……」
「いえ、とんでもないです。お役に立てて幸いです」
ゆめみがにこりと微笑みながら返す。
「一体なにが?」
ゲームに乗ったものに襲われたのだろう事はすぐに予想がついたものの、それでも郁乃からは頭の浮かぶ問いが口に出ていた。
「わかりません……いきなり後ろから襲われまして。暗かったので何がなにやらといった感じでした。
無我夢中で逃げてなんとか振り切ったみたいなのですが……」
そう言いながら岸田がキョロキョロと辺りを見渡し、どこか不安そうな顔を向けると三人に真面目な顔を向ける。
「助けて頂いたことはお礼を言います……ですがあなた達はここで何を?
しかもこんな小さな子供ばかりで、危険では無いでしょうか」
岸田の言葉に郁乃は苦笑しながらブツブツと文句を言うように答える。
「あたしもそう思うんだけどね……まったくあの馬鹿あたしが残ってどうにかできると思ってるのかしら……。
とりあえずちょっとどこかに行っちゃった奴がいるんでそいつの帰りを待ってるって所ね」
「なるほど……」
やっぱり仲間がいたかと岸田の頭に先ほどの学校での出来事が思い出される。
最初からそれを念頭に入れておけばあんな屈辱を味わうこともなく今頃はあの豊満な女の肢体をしゃぶりつくせていたろうに。
そして問題点はもう一つ。自信の名前は名乗れないと言うこと。
先ほどは運良く成功したが毎回そうなるとも限らないだろうし、違っていて疑われたら襲うのも難しくなるだろう。
それに関して岸田は一つの案を考え付いていた。
失敗したならそれはしょうがない。仲間が来る前にトンズラすればいいだけだ。
回避
399 :
策略:2006/12/12(火) 22:55:27 ID:yjqNw2mc0
だが成功したならばゆっくりでいい、隙を見て一人一人蹂躙してやるさ。
間を置き、ゆっくりと岸田はその案を口にする。
「いきなりですいません……澤倉美咲さんと言う女性に心当たりは無いでしょうか?」
岸田の問いに三人は顔を見合わせるも、フルフルと首を振る。
「……お仲間の方はどうでしょう? そんなことは言っておられませんでしたか?」
「残念だけど、言ってなかったような気がするわ」
「私も聞いていないです」
その答えに左腕で床を叩きつけ、悔しそうな表情を浮かべる岸田。
「そうですか……くそっ!」
――さあどうだ。奴のことを知っているならなんらかのリアクションはあるだろう?
だが岸田の行動に慌てふためいてはいるものの、三人からの返答はなく、ただどうして良いかわから無い表情だけが返される。
そこで確信を持つ。こいつらは七瀬彰のことは知らない……と。
回避
401 :
策略:2006/12/12(火) 22:56:27 ID:yjqNw2mc0
岸田洋一
【持ち物:鋸、カッターナイフ、電動釘打ち機12/12、五寸釘(5本)、防弾アーマー、支給品一式】
【状態:左腕軽傷、右腕に深い切り傷、マーダー(やる気満々)】
小牧郁乃
【所持品:S&W 500マグナム(3/5、予備弾10発)、写真集×2、車椅子、他支給品】
【状態:岸田に駆け寄る】
立田七海
【所持品:フラッシュメモリー、他支給品】
【状態:岸田に駆け寄る】
ほしのゆめみ
【所持品1:忍者セット、他支給品】
【所持品2:おたま、他支給品】
【状態:岸田に駆け寄る】
【時間:2日目03:50、494話直後】
【場所:無学寺】
【備考:浩平は外で呑気にお星様鑑賞中】
(関連458・494 B-13)
回避回避回避
403 :
悪意の暴走:2006/12/12(火) 22:57:12 ID:yjqNw2mc0
「ん?」
間抜けな声を出すと共に折原浩平が本堂へと姿を現した。
見知らぬ来訪者の姿に身構えかけるが、郁乃達の様子を見て杞憂だと思いながら声を上げて近づいた。
「なんだなんだ?」
何も言わずいきなり姿を消していた浩平を呆れたように睨みながら郁乃が言う。
「……ったく、どこ行ってたのよ?」
「ちょっと空を見たくなってな」
「呑気なものね……」
「まぁそう言うなよ、でなんかあったのか? ってこりゃひでえ!」
近づくまで良くわからなかったものの、岸田の様相を見てたまらず声を上げる。
「いきなり後ろから襲われたらしいのよ」
「お恥ずかしい話で。彼女達にはお世話になりました」
深々と頭を下げる岸田に対して、浩平はうろたえながら手を振る。
「いやいやよしてくれよ、俺は別に何もしちゃいないさ」
「ほんとね」
「なんだとコラ!」
目の前で繰り広げられる漫才に岸田の心の中には苛立ちが募っていた。
自分達の置かれた状況がわかっていないのだろうかと問い詰めたくなる。
だが少なくとも自分に対して危機感を抱いていないであろうから取りうる態度だろうと無理矢理納得させる。
「しかし凄い武器ですねそれ。私なんてこんなのですよ」
電動釘打ち機をバックから取り出すと、敵意が無いことを装うために四人の目の前に『置いた』。
「んー、確かにそうかもしれないけど、別に俺が人を殺すつもりが無い以上手に余るものでしか……」
抱えたPSG-1を左右にと傾けながら、少し困惑した顔で浩平が答える。
「それでも十分威嚇にはなるんじゃないですか?」
「そうね……少なくとも手ぶらよりは安心かも。まっ私がこんなの持ってても使いこなせるとは思わないんだけどね」
郁乃も懐からマグナムを取り出すと、腫れ物を扱うようにしげしげと眺めた。
404 :
悪意の暴走:2006/12/12(火) 22:57:48 ID:yjqNw2mc0
「そういやアンタ、澤倉美咲って人知ってる?」
「ん、いや知らないな、なんだ急に?」
「この人が探してる人らしいの」
岸田はコクリと頷きながら浩平の瞳を見つめる。
だが申し訳なさそうに顔をしかめて浩平は答えた。
「なるほど……残念ながら心当たりは無いと思う」
「やっぱりダメですか……」
顔だけは悲痛めいたものを醸し出していたが、内心では喜びに震えていた。
「楽観的なことしか言えないけど、きっと無事でいてくれるさ。
だから気を落とさずアンタも……ってそういや名前聞いてなかったな。俺は折原浩平ってんだ」
「はい、七瀬彰と言います」
「……は?」
聞き間違いかと浩平が耳をトントンと叩きながら呆けた顔で岸田を見つめていた。
その表情に岸田も浩平が疑問を抱いたことを察する。
「すまんがちょっと良く聞こえなかったかもしれないんだ、なんて名前だった?」
「なに、その歳でもう耳が遠くなっちゃったの? 七瀬彰さんでしょ?
って言うかそういえばアンタが探してた人じゃないの?」
「いや俺が探してるのはもっと若い――」
四人が顔を見合わせ状況を理解できないまま岸田の姿を振り返った刹那、彼は行動に移っていた。
郁乃の手を捻り挙げるように持ったマグナムを奪い去ると、そのまま首を殴打し車椅子を横転させる。
痛みと反動により郁乃の身体は床へと投げ出され、苦痛に首を押さえ込む。
そして浩平が銃を構えるよりも早く七海の後ろに回りこむと、左手でその小さな身体を抱え込み銃口を押し付けながら笑った。
「いいとこまで行ってたと思ったんだがな、やっぱこの作戦は穴がありすぎるか」
回避
406 :
悪意の暴走:2006/12/12(火) 22:58:24 ID:yjqNw2mc0
「お前一体……」
浩平の問いを妨げるように、七海の頭に突きつた銃口を揺らす。
「こいつが見えないのか? いいからそいつはおとなしく捨てな」
「……どっちにしたって撃つんだろ?」
岸田はケケケと醜悪な笑みを浮かべながら続けて言った。
「まあそうだな。お前がこいつを見捨てるか見捨てないか、ただそれだけの違いだな」
「この野郎……」
いきがってみるも浩平に選択肢などあるはずも無い。
「お前……彰の名前を語って今までもそうやって人を殺してきたのか!?」
「だったらこの状況が何か変わるのか? いいから黙れや」
銃口がピタリと七海の頭に突きつけられたのを見て慌てて口をつぐむ。
許せなかった。岸田も。今こうして何も出来ないでいる自分も。
だが自分の行動次第では七海の命が危うい。
どうすればいいか決めあぐねている浩平の瞳に映ったのは、震えながらも真っ直ぐ自分を見ている七海の顔だった。
気にしないでくださいとそう言っているようにも見えた。
だが見捨てるなんて出来るわけが無い。
岸田の言葉から数秒の間……じれたように銃口を握る岸田を前に浩平は覚悟を決め、PSG-1を岸田の足元へ投げ捨てる。
そのほんの一瞬、岸田が視線をライフルに移した瞬間浩平は岸田に向かって駆けていた。
たった数歩の距離、手を伸ばせば助けられる距離。
握る拳に力を込め、全力で振りかぶりながら岸田の顔面をめがけていた。
だがドンッと響いた重い音と共に、浩平の右肩に響いた衝撃が彼の身体を後方へと吹き飛ばした。
「ヒィァッハハハハ……だろうな、だと思ったよ!!」
その顔をさらに歪め、七海を携えたまま打ち抜いた浩平にゆっくりと近づいていく。
肩を抑え腰をつきながらも毅然と睨みつける浩平の顎を、岸田は全力で蹴飛ばした。
407 :
悪意の暴走:2006/12/12(火) 22:58:57 ID:yjqNw2mc0
「ぐああっっ」
跳ね上がる浩平の身体を押さえつけるように、続けざまに銃のグリップを頭上から振り下ろした。
「うがぁっ!」
全身を襲う痛みに抵抗すら出来ずに床へと叩きつけられ苦悶に叫ぶ浩平。
銃を持った手で浩平の髪の毛を掴むと、そのまま力任せに引き上げ、ブチブチと抜ける音が響いた。
「まあなんだ、別にこいつらを殺すつもりは今はなかったよ。殺しちまったら犯してもつまんねーしな。
お前の行動は無駄だったって訳だ、ククク……」
眼前で発せられる岸田の言葉に激しい嫌悪感を覚えたが、腕も上がらず身体も満足に動かせず
睨みつけることしか出来ない。
「んま、どの道男には用はねーからてめえの運命は変わらなかったがな」
「……黙れよクソ野郎っ」
そう吐き捨てると、岸田の顔に向かって唾を吹きかける。浩平に許されたささやかな抵抗だった。
「……餓鬼が」
当然のごとく、それは起死回生にもならず岸田の逆鱗に触れるだけの結果に終わる。
握り締めた髪の毛を振り回し浩平の頭が激しく揺らされ、その度にブチブチと髪の毛が抜け続ける。
数度の往復の後、浩平の頭が再び床へと叩きつけられた。
そして満足に動かぬその身体を何度も踏みつけ、蹴り飛ばし、岸田は歓喜に叫び続けた。
「や、やめてください!」
後方からの叫びに浩平を踏みつける岸田の足がピクリと止まった。
ゆっくりと振り返るとそこには浩平が投げ捨てたPSG-1をかまえるゆめみの姿。
だがその身体は言葉とは裏腹に震えている。
「やめときなお嬢ちゃん、この娘に当たるぜ?
それにそんなことされたらお嬢ちゃんも殺さなくちゃいけなくなるだろ」
せせら笑いを繰り返しながら再び身体を浩平に戻し、その頭を踏みつける。
「や、やめろ……」
回避
409 :
悪意の暴走:2006/12/12(火) 22:59:35 ID:yjqNw2mc0
か細いほどの呻き声しか出すことが出来ずにいるものの、浩平はゆめみに視線を送り、手を伸ばしながら口を開いていた。
「ああ? 誰もお前の発言なんか許可しちゃいねーよ」
頭に乗せた足を上げると、浩平の手を踏みなおす。
「ああああああああ」
再び響き渡る絶叫。それが合図だった。
一発の銃声と共に岸田の足すれすれを弾丸が通過していった。
振り返る先には半泣きになりながら今まさに銃弾を放ったゆめみの姿。
そんなゆめみの姿を見て、困ったように溜め息をつきながら岸田は銃口を向ける。
「あのなあ、言っただろ?」
岸田の持つ銃口はゆめみへと向けられ
「そんなことしたら」
そして放たれる銃弾。
「……殺すってな」
一直線にゆめみの左胸へと吸い込まれると同時に、音もなくゆめみの身体は地面へと倒れていった。
「いやあああああっっ!!」
その光景に岸田に押さえつけられていた七海が絶叫と共に暴れだす。
振りほどこうと身体を揺するも、小さな身体では岸田の力に対抗することも出来ず逃げる事すら出来なかった。
「うっとおしい!」
自身の腕の中でもがき続ける七海の鳩尾に拳を叩き込むと、細いうめき声と共に七海の体から力が抜ける。
人質はいなくなるがこの状況ならそんなものはもういらないだろうと七海の身体を投げ捨てた。
値踏みをするように倒れこむ郁乃を見てニヤリと口元を吊り上げた。
410 :
悪意の暴走:2006/12/12(火) 23:00:12 ID:yjqNw2mc0
「うおおおおおおおおお!!」
まったくの予想外。
その叫びに一番驚いたのは岸田だった。
あれほど蹴られ、殴られ、踏みにじられ。
それでもどこにそんな力が残っていたのか、浩平が立ち上がり絶叫しながら岸田に向かって跳んでいた。
完全なる岸田の油断。銃を構えるまもなく拳が岸田の頬へとめり込んでいた。
「ケケケ……やるじゃねーか」
頭が揺れ、意識が飛びかける寸前でなんとかそれを耐え切る。
「ち……くしょ……う……」
一方の浩平は全ての力を使い果たし、その場に倒れ伏す。もはや指一本さえ動かす力が無いのがわかった。
「そんなんで俺様に一発入れるとはな……むかついたが褒めてやるよ」
床を見渡し先ほど置いたままの釘撃ち機を手に取ると、ニヤニヤと浩平に向かっていく。
「ご褒美だ」
言いながら浩平の手のひらに一本、また一本と釘を打ち抜く。
その激痛に声にもならない叫びを上げるが、床に打ち付けられた手がこれ以上の浩平の動きを許さなかった。
「もういっちょ」
同じように反対の手にも打ち込まれる釘。
「楽しませてくれた礼だ、特等席で堪能してくれや」
下卑た笑いと共に釘撃ち機を投げ捨てると踵を返す。
「さあ、楽しいパーティの始まりだ」
自身を見ながら発せられた岸田のその言葉に、郁乃の心が絶望に曇る。
揺れる頭を押さえながらも必死に後ずさるもその距離はゆっくりと詰められていく。
そして郁乃の目の前で岸田は片膝をつき、右手を差し出しながらかしこまりながら頭を下げた。
「お姫様、私と踊ってくださいませんか?」
回避
412 :
悪意の暴走:2006/12/12(火) 23:01:20 ID:yjqNw2mc0
大粒の涙を両目からこぼしながら郁乃はかぶりをふる。
押さえつけようとのしかかってくる岸田の身体を両手で必死に叩きながら抵抗する。
「……イヤ、…………イヤイヤ」
だがそのささやかな抵抗も岸田の興奮を高めるだけのものに過ぎなかった。
「まあ諦めて一緒に楽しもうぜ」
ビリっと鈍い音と共に郁乃の上着は破り捨てられ、発育途上な小さな胸が隠すことも許されずに晒される。
ズボンのベルトを外そうとする岸田に対し抗うことも許されず、郁乃は脳裏に浮かんだ顔……高槻の名前を叫んでいた。
413 :
悪意の暴走:2006/12/12(火) 23:02:00 ID:yjqNw2mc0
岸田洋一
【持ち物:鋸、カッターナイフ、電動釘打ち機8/12、五寸釘(5本)、防弾アーマー、支給品一式】
【状態:左腕軽傷、右腕に深い切り傷、マーダー(やる気満々)】
小牧郁乃
【所持品:S&W 500マグナム(2/5、予備弾10発)、写真集×2、車椅子、他支給品】
【状態:岸田に押さえつけられる……間に合うのか高槻】
立田七海
【所持品:フラッシュメモリー、他支給品】
【状態:腹部殴打悶絶中】
ほしのゆめみ
【所持品1:忍者セット、他支給品】
【所持品2:おたま、他支給品】
【状態:左胸を撃たれ倒れる、損傷状態不明】
折原浩平
【所持品1:34徳ナイフ、H&K PSG−1(残り4発。6倍スコープ付き)、だんご大家族(残り100人)、日本酒(残り3分の2)】
【所持品2:要塞開錠用IDカード、武器庫用鍵、要塞見取り図、他支給品】
【状態:全身打撲、打ち身など多数、両手は釘で床に打ち付けられ身動きが取れず】
【時間:2日目04:00】
【場所:無学寺】
【備考:全員の支給品は部屋にまとめられている】
(関連 「策略」の続き B-13)
「すまない。だけど、おかげで助かった」
「いいのよ。困った時はお互い様だしね」
藤井冬弥と藤林杏は出来上がった焼そばを互いに分け合いながら食していた。
『旅は道連れ、世は情け』とはこういうことをいうのかしらと焼そばを食べながら杏は思った。
「ええと……杏ちゃん、だっけ? 聞きたいことがあるんだけど……いいかな?」
冬弥は焼そばを食べる手を止めると突然杏に話し掛けた。
「ん? なに?」
「単刀直入に言うけど―――君はこれまで何人殺した?」
「――っ!?」
本当に単刀直入な質問であった。
『殺す』という言葉に思わず反応してしまう。
しばしの沈黙。
まだ残っている焼そばが焼けるジュージューという音だけがあたりに響き渡る。
しばらくして杏は口を開き答えた。
「………1人よ。妹の大切な人を事故だったとはいえ……この手で…………」
杏は自分の両手を見た。激しく震えていた。
「そうか………俺も1人……襲ってきた女を殺した………」
「…………」
「…………」
再びしばしの沈黙。
焼そばが焼ける音だけがあたりに響く。
沈黙を破ったのは冬弥の方だった。
「……杏ちゃんはこれからどうするつもりなんだ?」
また質問か、と杏は思った。だが先程の質問とは違い、今度はすぐにはっきりと答えられるものだ。
少なくともこれ以上場の空気を悪くすることはあるまい、いやむしろ良い方向に戻せると判断すると杏は答えた。
「私はもちろん妹や知り合いを探すわ」
「そうか……」
「そういう藤井さんはどうなのよ?」
「俺は……俺の大切な人たちを殺した奴らを見つけだして………殺すつもりだ」
「なっ!?」
杏は愕然とした。
「なに言ってんのよ!? そんな馬鹿なこと……自分から死にに行くようなものじゃない!」
「―――うるさい」
「っ!?」
刹那、冬弥は杏に銃口を向けていた。
「あんたにわかるのか?
たった一人の自身の心だったの支えだった人を失った奴の気持ちが?
かけがえのない友を失った奴の気持ちが?」
「そ、それは………」
「――ゲームに乗った奴らを片っ端から潰していけば、由綺やみんなを殺した奴に会えるはずだ……
だから俺は……この糞ゲームに乗った馬鹿な奴らを一人残らず殺してやるんだ!!」
そう叫ぶと冬弥は先程杏がいた鎌石村の方へと駆けていった。
「ちょ…ちょっと………もう。男ってどうしてああいう真っすぐな馬鹿ばかりなのよ!!」
杏はそう叫ぶと残った焼そばを口の中にかき込んだ。
「……ぷぴっ」
そんな杏を見てボタンはただ鳴くことしかできなかった。
【時間:2日目・午前1:00】
藤井冬弥
【場所:D−8(移動済み)】
【所持品:FN P90(残弾49/50)、ほか支給品一式】
【状態:復讐のためマーダーキラー化。鎌石村へ】
藤林杏
【場所:D−8】
【所持品:包丁、辞書×3(国語、和英、英和)、携帯用ガスコンロ、野菜などの食料や調味料、ほか支給品一式】
【状態:目標は妹や朋也たちとの再開、だが今は残った焼そばをやけ食い】
ボタン
【状態:杏に同行、今はただ鳴く】
417 :
修羅再臨:2006/12/13(水) 01:43:33 ID:DG4mrUIfO
「――どうやらあんた知り合いたちはまだ無事みたいだな」
「みたいですね」
放送を聞いた芳野と瑞佳は参加者名簿に死者のチェックを終え、荷物をまとめはじめた。
「―――だが、問題はこれからだな。さっきの放送でまたジェノが増えそうだ」
「ジェノ?」
「ジェノサイダーの略だ。つまりこの糞ゲームに乗って他の参加者を殺しまくる奴ってことさ」
「ああ」
納得した瑞佳は手をぽんと叩いた。
「それに、早いところあんたの知り合いやゲームに乗ってない奴らとも合流しないとこっちもヤバい」
そう言って芳野は自身の銃の残弾を確認する。
芳野たちの武器で唯一の飛び道具であるデザート・イーグルはあと4発しか弾が残っていなかった。
弾切れした場合、サバイバルナイフだけでここから先迫りくる敵に対抗できるか……微妙なところである。(武器がないよりはマシだが……)
「――だから今は敵に対抗するための武器、そしてできるなら食料と水もできるだけ確保しておきたい。だからまずは鎌石村に行こうと思う」
「そうですね。村なら人もきっといるはずです」
「ま。リスクもでかそうだがな。だが善は急げとも言う、すぐに行く………っ!?」
荷物を持とうとした芳野はふと何かを感じた。
(これは―――殺気か!?)
すぐさま芳野はデザートイーグルを構え警戒態勢に入った。
「芳野さん? どうしたんですか?」
「―――早速、敵さんのお出ましのようだ」
「えっ!?」
418 :
修羅再臨:2006/12/13(水) 01:46:59 ID:DG4mrUIfO
「ありゃりゃ……感付かれちゃったか。さすがはここまで生き残っている参加者。昨日までの連中とは格が違うねぇ………」
芳野たちから少し離れた茂みの中、そこにはスク水の上に制服を着たマーダー朝霧麻亜子が潜んでいた。
その手にはボウガンと投げナイフがあった。
(先程までの様子だと、銃の弾はもう残りが少ないみたいだが………ナイフも持ってるみたいだし油断は禁物かにゃ?)
実は麻亜子は放送が始まる数分前から芳野たちの様子を伺っていた。ゆえに芳野たちの状況はある程度は把握していた。
(―――あたしがヘマさえしなければ、このみんも助かったかもしれない……だけど、優勝すればどんな願いも叶うと判ったならもう話は別。
絶対にあたしたちは勝ち残って、あの日々を取り戻さなければならないんだ!
………だからたかりゃん、さーりゃん。悪いけど、今のあたしはもうヘマも躊躇もしないよ………!)
麻亜子は一度芳野たちから目を離し、自身のデイパックに目を向けた。
(――修羅には修羅なりの戦い方というものがあるのさ。それを今から教えてあげよう………)
現在の自身の所持品を確認すると、麻亜子はにんまりと笑った。
419 :
修羅再臨:2006/12/13(水) 01:47:39 ID:DG4mrUIfO
【時間:2日目・午前6:10】
【場所:F−7】
芳野祐介
【所持品:デザート・イーグル .50AE(4/7)、サバイバルナイフ、支給品一式】
【状態:警戒】
長森瑞佳
【所持品:防弾ファミレス制服×3、支給品一式】
【状態:警戒】
朝霧麻亜子
【所持品1:ボウガン、投げナイフ、バタフライナイフ、支給品一式】
【所持品2:ささらサイズのスクール水着、支給品一式】
【状態:マーダー。現在の目的は貴明、ささら、生徒会メンバー以外の排除。最終的な目標は自身か生徒会メンバーを優勝させ、かつての日々を取り戻すこと。スク水の上に制服を着ている】
訂正
最初の芳野の台詞
『あんた知り合い』を『あんたの知り合い』に
―――事の始まりは智代の一言だった。
「―――茜、神塚山へ行こう」
「……え?」
唐突に言われ茜はキョトンとしていた。
すぐに疑問が浮かび上がり、それを口にする。
「仲間を集めるんじゃないんですか?山には人が少ないと思います」
「それはその通りだがな、実は仲間を集める以外にもう一つ作戦を思いついたんだ」
「作戦?その作戦とはどんな内容なんですか?」
「この首輪を操作して爆発させれる範囲はどれくらいだと思う?」
「………?」
話が噛み合ってない気がして茜は僅かに顔を顰めた。
さっきから智代の話は過程が飛び過ぎている。
しかしゲーム開始以来ずっと行動を共にして分かった事だが、智代は馬鹿ではない。
この話にも何かしらの意味がある筈だった。
この場は大人しく話を合わせる事にする。
「―――分かりません、特別機械に詳しいという訳ではありませんから。智代は分かるんですか?」
「いや、私にも分からない。でもそこまで広くはないと思う。例えば携帯電話は山奥などでは圏外になるだろう?」
「私は持っていないですけど、そういう物だとは聞いています―――もしかして山に行けば首輪が爆破されないとでも考えているのですか?
だとしたらそれはあまりにも軽率な考えです」
これだけ大規模な事をやってのける主催者がそのようなイージーミスを犯すとは考え難い。
そもそも首輪が無ければ殺し合いが成立しない。首輪は参加者を律す為の、いわば鎖のような物だ。
この島内で首輪の操作が出来ない場所があるとは思えなかった。
「違う、そんな甘い考えは持っていない。首輪の管理は徹底されている筈だ。
だがそれにはある物が必要なんだ」
「ある物?」
「首輪を操作する電波を中継する為の施設―――基地局やアンテナのような物がどこかにある筈だ」
「成る程……ですがそれが分かった所でどうすると言うのですか?」
「基地局を破壊して、首輪を無効化させる。上手く行けば一時的にでもこのゲームを止められる」
「――――!?」
智代は自信満々に言い切っていた。その顔には微笑みすら見て取れる。
それに対して茜は呆気にとられたような表情をしていた。感情を顔に出す事は滅多にないが、この時ばかりは別だった。
このような展開は全く想像していなかったからだ。
確かに智代の言う通り、首輪を無効化出来ればゲームは止められるだろう。
後は主催者達が首輪の操作システムを復旧させる前に島から脱出するなり、参加者全員で徒党を組んで主催者に攻撃を仕掛ければ良い。
だが言うは易し、行なうは難しという言葉もある。そう簡単に出来る事とは思えなかった。
「ですが、基地局の場所は分かるのですか?地図には載っていないし、目立つような場所に建てられているとも思えません」
「場所は予測が付く。地図を見る限りではこの島の中央部に山がある。ここなら目立たない。
それに端に建てるより中央の、しかも高度が高い場所に建てた方が島中に電波が届きやすいのは自明の理だ」
「……確かにそうかもしれませんね。ですがそのような重要な施設ならば警備員が配置されているでしょう。
私達の武器では分が悪すぎます」
「そうだな。警備が手薄なようなら奇襲を仕掛けても良いが、そうでない場合は一旦引く事になる。
だがそれでも問題無いんだ。基地局の正確な場所と存在さえ確かめれれば、仲間も集めやすくなると思う。
具体的なプランがあれば、信用はかなり得られやすくなるだろうからな」
「………」
茜は頭の中で今までの話の整理を行なった。
智代の話の要点は以下の3つだ。
・首輪の操作には基地局のような物が必要である
・その基地局は島の中央にある神塚山のどこかにある可能性が高い
・まずは基地局を探して、可能ならその施設の破壊。無理な場合は一旦引いて仲間を集める
この事をよく吟味した上で、茜は智代に問い掛けようとした。
――――だがその時第2回放送が流れ、茜と智代の作戦会議は中断を余儀なくされた。
放送には茜達と親しい人間の名前は無かった。しかし犠牲者は着実と増えている。
第1回放送の時の倍近い数の名前が呼ばれたのだ。
放送が終わった時、智代はすっかり項垂れてしまっていた。
智代は無力感に苛まれていた。自分は理想を唱えているだけでまだ誰一人として救えていない。
出会った中で唯一の知人である春原ですら、茜がいなければ立ち直らせれていたか分からなかった。
「くそっ!結局私はまだ何もしていない……何も出来ていないじゃないか……」
「顔を上げてください、智代。何度も激励するつもりはありません。それよりも、尋ねたい事があります」
「……そうだな、すまない。尋ねたい事とは何だ?」
「―――単刀直入に聞きます。貴女の作戦の成功確率はどれくらいだと思いますか?」
「この首輪が電波で作動するという保障も無いし、山に基地局があるというのも予測に過ぎない。
成功確率は楽観的に見積っても2割程度だと思う。だが現状でこのプランよりマシな手は無いと思うぞ?」
「そうですね……。私のような非力な女が優勝する確率に賭けるよりは遥かに分の良い話です。
私はその作戦に賭けてみる事にします」
「よし、決まりだな。では早速神塚山に向かおう……これ以上の犠牲者を出さない為にもな」
そう、元より確実に脱出出来るような美味しい話などある筈も無いのだ。
それがどんなに低い確率でも、他に道は用意されていない。
智代達は進路を変え、神塚山を目指して歩き始めた。
その先にどんな困難が待ち構えていようとも、今はそうするしかなかった。
【時間:2日目06:20頃】
【場所:f-3】
里村茜
【所持品:フォーク、他支給品一式】
【状態:全身打撲(マシになっている)、主催者の施設を探して神塚山へ】
坂上智代
【所持品:手斧、他支給品一式】
【状態:全身打撲(マシになっている)、主催者の施設を探して神塚山へ】
【関連】
B−13
→479
→513
気絶――正確には衝撃によるプログラムの一時停止状態だが――から、ようやくゆめみの人格が目を覚ました。センサーがまだ上手く起動していないのか、音が聞こえない。
損傷だが、回路の一部を切断されたようで左腕が動かない。人間なら痛みはあるだろうが生憎とゆめみはロボットだったので痛みというのを全然感じない。
しかし、「痛み」は別の部分にあった。守ると約束した郁乃や七海を守れなかったという「心」の痛み。プログラムされた感情かもしれなかったが、もしゆめみが人間だったら涙を流していただろう。
――ああ、きっと折原さんや立田さん、小牧さんはもう…
無力を感じながらまた目を閉じようとした時、センサーがようやく回復し、外の音を運んでくる。
「……イヤ、…………イヤイヤ」
「まあ諦めて一緒に楽しもうぜ」
――小牧さん…! まだ、小牧さんは生きています!
徐々に音が大きくなっていく。郁乃の悲鳴、浩平の怒号、岸田の下卑た笑い声。
まだ戦闘は終わっていない。まだ、「守れなかった」という過去にはなっていない。
――お客様の安全を守るのは…ロボットの、わたしの役目です! これ以上、悲しみは増やさせません!
・
・
・
「うあああぁぁっ!」
ゆめみはありったけの力をこめて立ち上がり、勢いそのままにスボンを下ろそうとしていた岸田に突進していく。
「何ッ!?」
完全に虚を突かれたのは岸田。殺したはずのゆめみが、再び立ち向かってきたのだから。
釘打ち機や銃は床に置いたまま。取る暇も無く、岸田は全力の突進をまともにくらった。
吹き飛ばされ、無様に床を転がる。岸田は立ち上がるとゆめみに叫んだ。
「貴様っ! どうして死んでいない!?」
かつて高槻にも同様の事を言ったかと思うと、胸糞が悪くなった。ゆめみはらしくない「微笑み」で岸田に言い放つ。
「わたしは…ロボットですから」
その一言で岸田は理解する。彼女はいくら撃ち抜かれようが主動力を破壊されなければ何度でも蘇る、と。
「ちっ…そうか、ロボットだったか…くく、失念していたよ。だが貴様一人で何が出来る」
「時間稼ぎです」
事も無げにゆめみは言ってのける。ロボットゆえの迷いの無い返答だった。
「小牧さん、今のうちに折原さん達を連れてどこか、出来るだけ遠くへ行ってください。わたしが必ず足止めしてみせます」
「そ…そんなこと、できるわけないじゃない! ゆめみ一人置いて逃げる事なんて…」
「ですが…」
「そんな悠長にお喋りしてる暇があるのかい、このポンコツが!」
クラウチングスタートよろしく低姿勢で突っ込んでくる岸田。狙いは勿論ゆめみの足元の銃だ。
「っ! 小牧さんっ!」
慣れない格闘、しかも左腕を欠いた状態で応戦するゆめみ。蹴りなどを繰り出すものの、軽く受けとめられてしまう。一方の岸田は先ほどの治療が効いてきたのか、徐々に調子が良くなっているようだった。
「いいぞォ! 新たな力が湧いてくるッ! いい感触だッ!」
懸命に格闘するゆめみを見て、郁乃は動こうとするが、足が動かせない、いや「動かない」。リハビリを十分に行っていなかった郁乃には逃げる事すら出来ない。――これがゆめみの懇願を断った理由でもあるのだが――
ならば出来る事は何か、と郁乃は考える。
「折原っ! 動けるの!?」
遠くで倒れている浩平に懸命に呼びかけるが…
「出来るならやってるさ! クソッ、釘が…抜けねぇんだよ!」
無理矢理にでも釘を引き抜こうとする浩平だが、固く打ち付けられた釘は抜ける気配すらない。
一方の七海も気絶しており、とても助けに行ける状態ではない。
「…なら、あたしが動くしかないじゃない!」
匍匐全身に近い無様な動き方で床の銃を拾おうとする郁乃。しかし動きが遅すぎた。
「ぐ…あうっ…!」
ゆめみが岸田の蹴りにより吹き飛ばされる。ふん、と鼻をかき鳴らして悠々と床の銃を拾う。
「残念。遅かったなお嬢さん? 足がまともだったら俺に銃弾を撃ちこめたのになぁ? くく、くくくっ」
「く…このっ、変態野郎!」
浩平が吠えるが、岸田は見下した表情で言い放つ。
「変態で結構。今からその変態に仲間が犯されるんだからなぁ、ハハハッ! …まぁ、その前に邪魔なポンコツからぶっ壊すがな」
余裕の表情で吹き飛ばされたゆめみに拳銃を向ける岸田。
「クソッ! やめろッ、やめろォォォーーーッ!」
「…何やってるのよ、早く来てよ、ハードボイルドなんでしょ、仲間がピンチなのに…どうして来てくれないのよっ、高槻ーーーっ!」
カチリ、と撃鉄が上げられる。
「死ね、ポンコツが」
「死ぬのはてめぇだ、クソ野郎」
ゾクリ、と岸田の背に悪寒が走った。この声、間違い無い、この声は。
「まさ…」
振り向こうとした時には、既に銃弾は放たれていた。四発、コルトガバメントから放たれた四発が岸田の体に吸いこまれていく。
「がは…っ!」
まともに食らって、よろめきながら倒れる岸田。…そして、寺の入り口にいたのは紛れも無い、
高槻の姿だった。
「待たせたな、郁乃」
「…ふん、遅いのよ。現れるのが」
現れた高槻の姿に、嬉しさを感じながらもつい憎まれ口を叩いてしまう郁乃。
「うるせえ。俺様にだって限度ってもんがあるんだよ」
「ぴこー、ぴこぴこー」
「み、みんなっ! 大丈夫?」
背後から、ポテトと真琴も現れる。
「何だよ、足が動かないんじゃなかったのか」と高槻。
「うるさいわよぅっ! 叫び声が聞こえたと思ったら置いてけぼりにしちゃうし…でも、そう言えば…何で? 全然平気なんだけど」
「俺様が知るか」
「何よぅっ! 人をどすんと落としといてぇ!」
「おーそうか、きっとそのショックで治ったんだな」
「そんなわけないでしょー!」
浩平が「やれやれ、えらく騒がしい救援だな」と呟いた。
「何よぅ、偉そうにーー! …って、誰よコイツ?」
「見りゃ分かるだろ。床に張り付けにされたイエス・キリストだ」
「な、なんですってー!?」「ぴ、ぴこぴっこー!?」
浩平の場違いな冗談を本気で信じる一人+1匹。
「…冗談に決まってるでしょ。この人は敵じゃないわ。釘、引き抜いてあげてくれない?」
「おいおい新手は男か…ちっ、ほらよ。一生感謝しやがれ」
高槻が渋々ながらも床から釘を引き抜いてやる。
「…そう言えば、ささらがいないんだけど」
尋ねる郁乃に、真琴が答える。
「うん、ちょっとささらとは別行動を取ってるの。後で説明するけど」
「ならいいけど…」
ようやく解放された浩平は、手をぷらぷらさせて、
「痛ててて…くそっ、あの野郎め。手に風穴が開いたじゃないか」
ま、死ななかっただけマシか、とこぼして岸田の方角を見やる。
「…死んだのか? あの野郎。ゆめみの方は大丈夫みたいだけどな」
浩平がそう言うと、座りこんだまま、ゆめみが手を上げて「わたしはまだ大丈夫です」と言うのが聞こえた。
七海も、気絶してはいるが命に別状はない。むしろ遠くで倒れていたので戦闘のとばっちりを受けなかっただけでも幸いだろう。
「ゆめみも七海も大丈夫ね…あの男も死んだはずよ。まともに銃弾を浴びてたもの。…それより、早く起こして欲しいんだけど」
未だに床に這いつくばっている郁乃に、高槻が倒れていた車椅子を起こしてから手を貸してやる。
「やれやれ、世話のかかるガキだ…お? おおっ、これは…」
「…? 何よ」
「い、いや、気付かなくていいんだ。最高…! なんて最高なんだっ、この眺めはぁっ…!」
しげしげと自分の胸元を見やる高槻に疑問の表情の郁乃。だがすぐにその原因に気付く。
「なっ…ど、どこ見てるのよっ! このバカ!」
片手で胸を隠しながら高槻の顔に頭突きする郁乃。「おごっ」と高槻が奇怪な声を漏らす。
「どうしようもないな…」「ぴこー」
呆れかえる浩平とポテト。
郁乃はこれが自分を助けてくれたのかと思うと情けない気分になってきた。胸を隠しつつ高槻への罵詈雑言を叫びながら車椅子に座る。
「…ねぇ、アイツ、ホントに死んだの?」
真琴はただ一人、岸田の様子をじっと見ていた。心なしか、かすかに胸が上下しているように見えたのである。
「ああ? 死んだに決まってるだろうが。俺様がタマをぶち込んだんだぞ」
「うーん…」
どうしても信じられない真琴は、そろそろと岸田に近づいていく。…だが、それが間違いだった。
岸田はこの機会を狙っていたのだ。誰でもいい、死んだと油断して不用意に近づいてくるのを。
真琴が岸田の前に立った瞬間、かばりと岸田は起きあがった。
「えっ!?」
動転する真琴をがっしりと掴み、ポケットからカッターを取り出し、真琴に突きつけた。
「何だとッ!?」
死んだはずの人間が起きあがる姿に全員が驚愕する。その様子を見まわした後、岸田が粘ついた声で言う。
「くくく、俺がそう簡単に死んでたまるか。偉大だよなぁ、文明の利器って奴は?」
トントンと自らの腹を叩く。それを見た浩平が「防弾チョッキか…!」と憎々しげに呟く。
「後ろのポンコツも動くんじゃないぞ! 少しでも動けばこいつの首を掻き切るからなぁ!」
虚をついて後ろから襲撃しようとしたゆめみも、その一言で動けなくなる。
「揃いも揃って俺をコケにしやがって…特にそこのカスはただでは殺さん! たっぷり痛めつけた後殺してやる」
高槻に向けて憎悪に満ちた声で叫んだ。
「まずは全員! 武器を捨ててもらうぞ! 真後ろに向かって投げるんだ。思いきり遠くになぁ!」
クソッ、と高槻が吐き捨てる。人質がいる以上手出しできない。ガバメントを放ろうとした時。
「あうーっ! なめんじゃないわよぅっ、このバカーっ!」
真琴が岸田の手に噛み付いていた。
・
・
・
私はあの前に見た気色の悪いオッサンに捕まえられたとき、正直何が何だか分からなかった。
覗きこもうとしたとき、急に手が伸びてきて、気がついたらカッターの刃を押し当てられていて…
まわりのみんなは、呆然としたまま何もすることが出来なかった。
私のせいだってことは、すぐに分かった。私のせいでみんながまたピンチになってしまった。
それは分かっていたけど…カッターの刃が恐くて、何もすることが出来なかった。
そんなときだった。不意に、秋子さんの家で祐一とやりとりしたことを思い出した。フラッシュバックっていうのかな? ともかく、そのときのお喋りが頭に浮かんできたのよ。
『真琴ってホントにガキっぽいよな…』
『あうーっ! ガキじゃないもん!』
『いいや、ガキだね。ガキじゃないんだったらそんなにムキになったりしないし、人にだって迷惑なんかかけたりしないはずだろ? お前さ、いつもイタズラばかりしては秋子さんに迷惑かけてるじゃないか』
『あ、あうーっ…』
『だからさ、自分のしたことの責任は自分で取るようにしろよ。そうすりゃ俺だって真琴のことをわーカッコイイー惚れちゃうねーみたいな感じで認めてやるからさ』
『そんな感じで認められても嬉しくないっ!』
回避
…そうよ。真琴はガキじゃないもん。一人前の大人よっ。一人前の大人が…責任も取れなくてどうすんのよっ!
負けない、負けられない、負けるかっ!
「あうーっ! なめんじゃないわよぅっ、このバカーっ!」
・
・
・
「ぐぁっ!? 何しやがる、この…クソガキがぁーーっ!」
偶然にも、真琴が噛みついた場所は古傷、つまり以前高槻に切り付けられた場所だった。その激痛に耐えかねた岸田は、思わず手を離す。
「高槻っ! 今ようっ! バンバン撃っちゃって!」
真琴が叫ぶ。…しかし、その直後。どんっ、という音と共に胸に激痛が走った。岸田がカッターで真琴を突き刺したのだ。
「あ…あう…」
崩れ落ちる真琴。それを見た高槻が激昂して叫んだ。
「て、てめぇっ…絶対に許さねぇっ! 撃ち殺してやるッ!」
しっかりと構えたガバメントから銃弾が放たれるが辛うじて岸田はしゃがんでかわす。その隙をついて釘打ち機を回収し、続いて拳銃も回収しようとしたが、
「させませんっ!」
いつのまにか走ってきていたゆめみが拳銃を蹴り飛ばす。舌打ちしながら、岸田は撤退を決める。この人数差では負けは確実だからだ。
ゆめみに体当たりし、転ばせると背を向けて窓から逃げる岸田に、高槻のガバメントが火を吹く。
「逃がすかぁっ!」
だが悪運の強かった岸田には命中はしない。カチ、カチッと弾切れの音がするころには岸田の姿は森の中へと消えていた。
「ちっ! 逃がしてたまるか!」
追おうとする高槻を、郁乃が呼びとめる。
「追い返したからいいでしょ! それより、真琴が、真琴が!」
回避
ハッとなって真琴の方に振り向く高槻。その真琴は…胸をかすかに上下させているだけ。致命傷だった。
「沢渡…さん」
震えた声で真琴の体を持ち上げるゆめみ。
「へへ…真琴、頑張ったでしょ…?」
「はい…沢渡さんは…とても頑張っていたと…思います…」
真琴の顔は笑っていたが、生気はもはや感じられない。浩平も、郁乃も、高槻さえも悲痛な表情になっていた。
「真琴…が、ガキじゃ…ないわよっ…ね?」
「…ああ、立派だったぞ、沢渡。だからもう喋るな。ゆっくり休め」
「…うん、そーする…」
「真琴っ、少しだけだからね、少しだけ休んだら…すぐに…出発するから…」
「………」
「おい、返事しろ。返事くらいしやがれっての…返事しろよっ…」
しかし、真琴の体はそれきり動く事はなかった。共に行動してきた仲間が、また一人散った。
「…クソッ」
高槻の悪態は、空しく響くだけだった。
「ぴこ…?」
一方、気絶している七海の側に来ていたポテトは、空中にふわふわと漂うものを見つけていた。
どこから来たのか分からない、不思議な光だった。それはゆっくりとポテトの目の前に落ちると…ポテトの肉球に吸いこまれていった。
「ぴ…ぴこっ?」
岸田洋一
【持ち物:鋸、カッターナイフ、電動釘打ち機8/12、五寸釘(5本)、防弾アーマー、支給品一式】
【状態:切り傷はほぼ回復、マーダー(やる気満々)】
小牧郁乃
【所持品:支給品(写真集×2)、車椅子】
【状態:すすり泣き。ポテトには気付いていない】
立田七海
【所持品:支給品(フラッシュメモリ)】
【状態:腹部殴打悶絶中】
ほしのゆめみ
【所持品:支給品(忍者セット、おたま)】
【状態:左腕が動かない。ポテトには気付いていない】
折原浩平
【所持品:支給品(要塞開錠用IDカード、武器庫用鍵、要塞見取り図、34徳ナイフ、だんご大家族(残り100人)、日本酒(残り3分の2))】
【状態:全身打撲、打ち身など多数、両手に怪我。すすり泣き】
ハードボイルド高槻
【所持品:食料・水以外の支給品一式、日本刀、分厚い小説、ポテト(光一個)、コルトガバメント(装弾数:0/7)予備弾(13)】
【状況:やりきれない思い。ポテトには気付かず】
沢渡真琴
【所持品:スコップ、食料など家から持ってきたさまざまな品々、ほか支給品一式】
【状況:死亡】
【時間:2日目05:00】
【場所:無学寺】
【備考:全員の支給品と支給武器は部屋の片隅にまとめられている、H&K PSG−1(残り3発。6倍スコープ付き)、S&W 500マグナム(2/5、予備弾10発)は床に】
ああ、しっかし急いで戻ったはいいものの意味があんのか?
どうせ「遅い」とかウダウダ文句言われるんだろ……。
そんなことを考えながら溜め息をつく高槻は沢渡真琴を抱えたまま無学寺の門をくぐった。
だがその直後彼の耳に届いたのは、悲痛な声で叫ばれた自身の名前――
その聞き覚えのある声に、考えるよりも先に体が動いていた。
今まで走り続けた疲れも忘れ、ただがむしゃらに駆ける。
――なんだってんだよっ!
ほんの数十メートル先に見える寺の扉がやけに遠く感じた。
響き渡った絶叫と急変した高槻の表情に、腕に抱かれた真琴が裾をぎゅっと握り締め不安げに見上げる。
だがそんな真琴のことすら忘れてしまったかのように高槻は一心不乱に走る。
――まだだってか!
扉まであと三メートル
二メートル……
一メートル………………
ガアアアアンと派手な音が所かまわずと響き渡った。
肩で息をつきながら、全力疾走のまま眼前の扉を蹴破った高槻は目の前の光景に愕然とする。
倒れたゆめみと七海、ボロボロになった見知らぬ男。それよりも何よりも真っ先に目に入ったのは、
ボロボロに破られた制服が申し訳なさ程度に上半身を隠してはいるものの、ほぼ裸となった郁乃と
ズボンを下ろし押さえつけるように跨っている先ほど学校で撃退した岸田の姿――。
いきなり現れた高槻の姿に岸田はらしくないほどにうろたえていた。
まさか浩平の他にも仲間が居たとは。
しかもそれが先ほどの男だなどとは夢にも思っていなかった岸田が脱ぎ捨てかけたズボンを下ろす手を止めて固まる。
「てめえ、なにやってやがるっ!!!!」
両手に抱えた真琴を乱暴に投げ捨て、叫ぶや否やコルトガバメントを取り出し岸田に向かって地を蹴った。
――近すぎる、当たっちまうか……!?
右手に抱えたそれを左手に持ち替え、代わりに右拳を握り締める。
いきなりの襲撃に慌てた岸田だったが、それでも組み敷いた郁乃を乱暴に抱えながら手元に置いていたマグナムに手を伸ばした。
だが、膝と踝に引っかかったズボンにより体勢が崩れ去る。
その隙を見逃さず高槻の裏拳が岸田の右頬を捕らえていた。
「っ!」
その衝撃に銃を取り落としながらも左腕に抱えた郁乃を離そうとはしない。
間髪いれずに銃のグリップを再び岸田の右頬へと叩き込む。
続けざまに襲った顔面への激痛に郁乃を抱えた腕を離し、岸田は両手で頬を押さえる。
そして声を上げさせる暇も与えず、高槻は右腕を振りかぶると押さえた腕の上から岸田を殴りつけていた。
高槻の拳にぐしゃりとした感触が襲う。
声にもならない悲鳴を上げのたうち回る岸田に対し、丸出しの下半身を見つめ唾を吐き捨てる。
「ふざけた真似しやがって!!!」
銃を握る手に力が篭り、「死ねよ」とただ一言告げ岸田に対して銃弾を放った。
だが高槻の思惑とは裏腹にカァンとした金属音が鳴り響き、彼の怒りを乗せた銃弾は岸田に胸に当たったと同時に見当違いのほうに跳ね返るとコロコロと床を転がっていた。
「んだとっ!?」
予期せぬ事態に高槻は再び引き金を引く。
だが結果は変わらず、再び放たれたその銃弾も弾かれるように逸れ本堂の壁に埋まっていた。
「……ククク」
高槻の狼狽した声に、顔面を押さえたままの岸田が突如醜悪に笑い声を上げた。
覗き見るように顔から両手を離すものの、そのおびただしい出血が鼻が折れていることを告げており、押さえるように左手を当てる。
「やってくれるじゃねえか……クズが」
高槻を睨みつける眼光は暗く深く、そして冷たく。
とても怪我人とは思えないような殺気と共に言い放っていた。
「その言葉そっくりそのまま返すぜこのクソ野郎」
郁乃はただ目の前で起こっている光景を映画でも見ているように呆然と眺めていた。
目の前に現れた高槻の姿に視線を移すも、焦点の合わない瞳で言葉にならない嗚咽を漏らし続ける。
その呻き漏れる声の一つ一つに感情が溢れ出る。
チラリと窺い見た郁乃の表情に高槻は今まで経験したことも無い怒りを覚えた。
さっきまで俺様を罵倒していた女が何故こんなすがるような目で俺様を見ている?
……決まってる、あいつのせいだ。
それを見て気分はどうだ?
……腸が煮えくり返ってしょうがねえ
何故だ? こんな女なんか頬っておけばいいと思っていたんじゃねえのか?
……知るかよ!
そもそも他人となんか関るつもりなんか無いんじゃなかったのか?
……うるせぇっ!
自分でも言ってただろ? こんなの俺様じゃねえって。
……いい加減黙れっ!
自問自答していたはずが、心の中で何者かが俺様に話しかけてくるような感覚に囚われた。
だがそれもあながち間違いじゃなかろう。
おそらくは昔の俺様が、この島に来て変わってしまった俺様を馬鹿にしてるんだ。
自分でだって何故こんなんになっちまったかわからねーんだからな。
FARGOに居た頃を思い出せよ。あの頃のように泣き叫ぶ女を犯し、嬲りまくればいいじゃないか。
目の前の男と争う必要なんかあるのか? 同類じゃねえか。楽しめばいいだろう、一緒によ。
……黙れ黙れっ黙れっっっっ!!!
「―――――――!!!!」
瞬間、高槻は吼えた。
全ての思念を取り払うように、言葉とも言えない感情を口からあらん限りの大声で吐き出す。
その叫びに岸田の身体がわけもわからず震えた。
学校で戦った時とは明らかに何かが違う。あの時のこいつは完全に自分と同種だと感じていた。
同族嫌悪という奴だろうか、全てが気に食わなかった。
だが今目の前に居る高槻からは、それともまた違った感情で嫌気が湧き上がっていた。
晒された小さな乳房を隠すこともせず、未だ現実を受け入れきれない郁乃もその雄たけびに怯えながら顔を上げた。
自分の目の前に居るのはいったいなんなのか。
ハードボイルドで、ロリコンで、ストーカーで、天パで、名探偵で……それでいて私を好きだといってくれた人?
だが考える暇も与えず郁乃の顔に柔らかな感触が当たると同時に視界が暗転し、郁乃の鼻腔をどこか汗臭い香りがくすぐる。
それはどこで嗅いだものだったのか……そんな昔ではない、そしてそれはけして嫌なものでは無かった。
震える腕を懸命に動かし自身の顔に当たるそれをそっと降ろすと――そこには今まで羽織っていた白衣を脱ぎ捨てた高槻の姿があった。
自然と視界がぼやけていた。
――目の前に居るのはあいつだ……あいつだ…………あいつだ!
見たかったはずなのに、流れる涙が郁乃にそれを許してはくれない。
かけられた白衣を握り締め、先ほどとは違う歓喜の嗚咽が漏れ、郁乃は咽び泣いた。
自身の白衣に顔をうずめ、ただ泣き続ける郁乃の頭に手を置くと高槻は奥歯をかみ締めて呟いた。
「…………すまん」
今まで過ごしてきた中で、謝ったことなどあっただろうか。
だが高槻の人生初めてとも言えるそれは、何の臆面もなく、自然に、彼の口から漏れていた。
白衣を握り締める郁乃の手に力がこもり、顔を隠しながら大きく首を横に振られる。
「待ってろよ……すぐ終わらせる」
郁乃の頭をポンポンと叩きながら、倒れたゆめみと七海、ひれ伏したままの浩平をチラリと見て苦々しげに拳に力をこめる。
「――来いよ、ぶっ殺してやる!!」
回避
回避2
ハードボイルド高槻
【所持品:食料・水以外の支給品一式、日本刀、分厚い小説、コルトガバメント(装弾数:4/7)予備弾(13)】
【状況:岸田と対峙】
沢渡真琴
【所持品:スコップ、食料など家から持ってきたさまざまな品々、ほか支給品一式】
【状況:無学寺扉に、身体はうまく動かない】
ポテト
【状態:真琴と一緒】
岸田洋一
【持ち物:鋸、カッターナイフ、、五寸釘(5本)、防弾アーマー】
【状態:高槻と対峙、左腕軽傷、右腕に深い切り傷、鼻骨骨折、マーダー(やる気満々)】
小牧郁乃
【所持品:支給品(写真集×2・マグナム予備弾10発)】
【状態:号泣】
立田七海
【所持品:支給品(フラッシュメモリ)】
【状態:腹部殴打悶絶中】
ほしのゆめみ
【所持品:支給品(忍者セット、おたま)】
【状態:左胸を撃たれ倒れる、損傷状態不明】
折原浩平
【所持品:支給品(要塞開錠用IDカード、武器庫用鍵、要塞見取り図、34徳ナイフ、だんご大家族(残り100人)、日本酒(残り3分の2))】
【状態:全身打撲、打ち身など多数、両手は釘で床に打ち付けられ身動きが取れず】
【時間:2日目04:05】
【場所:無学寺本堂】
【備考1:郁乃・七海・浩平の支給品は部屋にまとめられている、郁乃の車椅子は倒れて放置】
【備考2:S&W 500マグナム(2/5)電動釘打ち機8/12は床、H&K PSG-1(残り3発。6倍スコープ付き)はゆめみのそば】
(関連 537・543
指定特になし、と言うかアナザーあたりかかぶらないルートで……タイトルも適当でつ)
445 :
無題:2006/12/14(木) 11:02:43 ID:FCwTnEmI0
「レミィ……来栖川先輩………理緒ちゃん………」
第2回の放送を聞いたあかりは友人・知人たちの死にショックを隠せないでいた。
次は自分が死ぬのではないかという恐怖や悲しみに押しつぶされそうになったが、それは何とか耐え抜いた。
なぜなら前回の放送の時はそれが原因で結果としては美坂香里をしなせてしまったのだ。同じ過ちは繰り返せない
「……」
往人はただ黙ってそんなあかりを見ているだけだった。いや。見ていることしかできなかった。
(晴子……佳乃………)
先ほどの放送には自身の知り合いであり探していた人間たちの1人だった神尾晴子と霧島佳乃の名前があった。
だから彼は今のあかりの気持ちが少なくとも理解できないということはなかった。
何かを失ってしまったことによる虚無感―――とでも言えばいいのだろうか?
とにかく往人にもそのような感情が確かに生まれていた。
(――まあ、俺の方はともかく、問題は観鈴のほうだな……)
自身の母親の死――それを知った観鈴は今頃どうしているのだろうか?
おそらく優しい観鈴のことだ。母だけでなく見ず知らずの人間の死にも泣いている可能性はある。
問題は今回の件で感情に流されて暴走しないかであった。
そんなことを考えているとあかりが往人に声をかけた。
「―――国崎さん。先を急ぎましょう」
「もう大丈夫なのか?」
「はい。それにこうしている間にも他の人たちの身に危険が迫っているかもしれませんから」
「――そうだな。先を急ぐとするか」
「はい」
往人たちが再び歩き出そうとしたその時であった。
「ん?」
ガサガサと草木を掻き分ける音が聞こえてきた。
446 :
無題:2006/12/14(木) 11:03:25 ID:FCwTnEmI0
「はっ…はっ…はっ…」
水瀬秋子は腹部の痛みに耐えながら草木を掻き分け走り続けていた。
その手には上月澪の所持品であったスケッチブックがあった。
(名雪……澪ちゃん……)
名雪の行方は未だに判らない。しかし澪の行方は判っている。
橘敬介―――素性を偽り、隙を見て他の参加者を殺害していく極悪非道なマーダー。その敬介に澪は連れて行かれた。
しかし、なぜあの時澪を殺さずに連れて行ったのか。それ以前に、なぜ自分に止めを刺さなかったのかなど疑問はいろいろある。
(―――ですが今は関係ありません)
敬介が向かった方向からして彼は氷川村に向かったのだろう。
あそこには診療所もある。自身の怪我の治療も出来るし、何より人が集まりやすい場所だ。ゲームに乗った人間が一番集まる場所だろう。
「真琴……」
秋子はぼそりとその名前を口にした。
先ほどの放送に真琴の名前があったのだ。
最初の放送で名前があった月宮あゆに続いてまたしても大切な家族を――未来ある者を1人失ってしまった。
(あの子たちは……この島にいる参加者の人たちには何も罪はない……それなのに何故あゆさんや真琴が殺されなければならないの!?)
秋子の内には主催者に対する怒りがますます膨れ上がっていた。
先ほどの放送であった『優勝者にはどんな願いも叶えてやる』というあの忌まわしいウサギの言葉は間違いなく参加者に殺し合いをさらに強制させるための罠だろう。
だれが乗るものか、と秋子はさらにペースを上げようとした。その時だった。
「おい。そこのあんた」
「!?」
ふいに声をかけられた秋子はすぐさま足を止め振り返った。もちろん警戒は怠らない。スカートにねじ込んである銃に手をやりいつでも取り出せる状態にしておく。
振り返った先には国崎往人と神岸あかりの姿があった。
447 :
無題:2006/12/14(木) 11:03:56 ID:FCwTnEmI0
【時間:2日目6時30分】
【場所:I−4】
国崎往人
【所持品1:トカレフTT30の弾倉、ラーメンセット(レトルト)】
【所持品2:化粧品ポーチ、支給品一式(食料のみ2人分)】
【状態:満腹。あかりと生き残っている知り合いを探す。秋子と遭遇】
神岸あかり
【所持品:水と食料以外の支給品一式】
【状態:往人と知り合いを探す。月島拓也の学ラン着用。打撲、他は治療済み(動くと多少痛みは伴う)。秋子と遭遇】
水瀬秋子
【所持品:ジェリコ941(残弾14/14)、予備カートリッジ(14発入×1)、澪のスケッチブック、支給品一式】
【状態:腹部重症(治療済み)。名雪と澪を何としてでも保護(まずは澪を連れた敬介を追い氷川村へ)。目標は子供たちを守り最終的には主催を倒すこと】
「……ったく、あの馬鹿……」
第二回定時放送、正確にはその直後の臨時放送を聞いた、来栖川綾香の第一声である。
眉間によったシワを揉み解しながら、綾香は渋い顔で考え込んでいた。
結局、更迭と処断が同時に行われたというわけだ。
いずれ避け得ぬ事態であったとは、思う。思うが、しかし。
綾香の来栖川重工役員としての思考回路が、名状しがたい違和感を訴えていた。
更迭は、まだいい。
東京の緊急会議を経て出された妥当な結論と、納得もできる。
しかし、急遽参加者としてプログラムに組み込むというのは、流石に性急に過ぎる。
あれでも久瀬防衛庁長官の一子なのだ。
それを、いずれ形式的なものになるとはいえ正規の手続きも踏まずに参加者、しかもターゲット扱いで
有無を言わせず抹殺するとなっては、今回のプログラム遂行にあたって強硬に横槍を入れてきた防衛庁、
ひいては軍の面子が立たない。
有り体に言って、今回の処分には背広組の意向があまりにも反映されていない。
更に言えば、三万体もの砧夕霧が久瀬に与えられたというのもおかしな話だった。
そもそも砧シリーズは軍の発注を受けて来栖川重工のラインで量産していたものだ。
そして三万体といえば、納品した機体のほぼ全てにあたる。
巨費を投じてようやく実働レベルにまで数を揃えたそれを、抹殺対象として指定した個人に支給するというのだ。
いくらなんでもそんな無茶を、百鬼夜行の霞ヶ関が通す筈もない。
そんな指示を出せば内局や他省庁の突き上げを食うでは済まないことくらい、現場の人間であれば少なからず
理解しているはずだった。
おそらく、否、十中八九まで、今回の処分は久瀬に代わってこの現場を仕切ることになった人間、それも
現場勘もなければ予算配分に関わることもない外部の人間の独断専攻と、綾香は状況をそう読んでいた。
この分では、新司令とやらの御世も長くはないだろう。
いかに面従腹背の伝統があるとはいえ、制服組がいつまでも背広組の意向を無視して動けるとは思えなかった。
とはいえ、時間が解決するに任せて無視を決め込むわけにもいかなかった。
砧夕霧は単体ではデコが光るだけの不気味な人形だが、数が揃えば途端に強力な光学兵器へと変貌を遂げる。
三万体ともなれば、戦略級の威力を有するといってよかった。
それが個人の手にあるという危険性を、綾香は正しく認識していた。
叩くなら雲に覆われて陽光が射さない午前中しかない、と綾香は思考を巡らせる。
問題は三万という数と上陸地点だが、大規模な艦が接岸できるような海岸は、この島にそう多くない。
常識的に考えれば、本部の設置されている空母「あきひで」、それが展開している沖木島の東側。
綾香たちの現在位置からもそう遠くない場所が、第一候補であった。
「……で、あんた誰」
その少年はふらりと立っていた。
思考を中断した綾香が、険悪な声で誰何する。
見れば、少年は上半身に何も纏っていないようだった。
「……知ってる?
早朝に裸で女の子の寝室に入ってくる男は無条件で殺していいって法律、去年施行されたの」
明確な殺意の込められた綾香の言葉にも、少年は顔色ひとつ変えない。
ズボンだけを身につけた姿で、ゆらりと口を開く。
「あいつ……知ってるだろ?」
「は?」
要領を得ない少年の言葉に、飛び掛るタイミングを見失う綾香。
「あいつさ……いなくなったんだ。急に」
「……」
「俺のこと、嫌いになったのかな……そんなはず、ないよな。きっと何か理由があるんだ。
だから追っかけてるんだ。知ってるだろ?」
何かにとり憑かれたような少年の言動に、思わず一歩退く綾香。
恍惚の表情をすら浮かべながら、少年はふらふらと洞窟の中に踏み入ってくる。
ふんふんと、何かを嗅ぐように鼻を鳴らす少年。
「ああ、やっぱりだ……。ここ、あいつの……匂いがする」
「うわキモっ!」
思わず叫ぶ綾香。
少年は明らかに常軌を逸していた。
「なあ……知ってるんだろ、あいつのこと……」
「いや、知ってるっていうか、なんていうか……」
綾香の脳裏に、先程ボロ雑巾のようになるまで痛めつけて追い出した金髪の少年の姿が浮かぶ。
口ごもる綾香の様子を訝しがってか、少年がどろりとした目つきで綾香を睨んだ。
「……知ってるならさ……、返してくれよ」
言いながらズボンの中に突っ込まれた少年の手が、魔法のように一丁の銃を掴みだした。
コルト・パイソン。古風なリボルバー式拳銃である。
「俺の運命を……返してくれよ……!」
銃口を向けられた綾香は、しかし余裕の表情で少年を見返している。
その顔から戸惑いが消えていた。戦闘ともなれば、綾香の領域であった。
己を取り戻した綾香の身体を包む銀色のパワードスーツが、薄明かりに煌く。
「……は、上等じゃない。そんな豆鉄砲でKPS-U1改の装甲を、」
しかし最後まで言い切ることは、できなかった。
少年は躊躇なくトリガーを引いていた。
轟音が洞窟内に反響する。
放たれた.357マグナム弾が、笑みをすら浮かべる綾香の頭部バイザーへと、着弾する。
秒速400メートルの速度を与えられた弾丸は、13mm弾の直撃にすら耐える特殊合金製のバイザーを、しかし易々と貫通し、
綾香の右眼窩を抉ると、その鉛の弾体を脳髄へと―――
「って、そんなんなったらマジで死ぬわよねえ!?(;゚皿゚)」
間一髪。
綾香は春原から会得したカウンターリアクションによって、致命的な打撃を回避していた。
火を噴くバイザーを投げ捨てて、苦痛にのた打ち回る綾香。長い黒髪がばさりと広がる。
眼を×印にして転がるその襟首を掴んで洞窟の奥へと走り出したのは、HMX-13セリオである。
もう一方の腕には来栖川芹香を抱えていた。
「―――早速、その異能が役に立ちましたね」
「危なく二度目の死を迎えるところだったわ……」
涙を浮かべながら答える綾香。抱えられながら首を捻る。
「しっかし、それにしても……なんで拳銃弾なんかで撃ち抜かれたんだろ。
機関銃の掃射にだって耐える複合装甲、って触れ込みで売り出すのよアレ。
やっぱ責任者は物理的に吊るし上げね……」
「開発部門の総責任者は綾香様ですが」
「マグナム弾、たって9mmでしょ……? そんなのに負けるなら軍事予算なんて要らないっつーの」
と、セリオの指摘を無視した綾香に、芹香が何事かを囁いた。
「え? ……ごめん、さすがによく聞こえなかった」
「―――あれは魔弾の射手の一種ではないか、と芹香様は仰っています」
高性能の集音センサーを持つセリオが代弁する。
かいひ
「何それ」
「―――物理法則から、俗に運命と呼ばれるものまで、概念そのものを捻じ曲げる力を持った弾丸を広く魔弾と称する、と仰っています」
「ちょっとだけ噛み砕いてくれると嬉しいかな……」
「―――彼の撃った弾から、庇護、或いは防護の概念を無視するような力を感じた、と仰っています」
「もう一声」
「……綾香様にもご理解いただける範囲で端的に申し上げるならば、」
「姉さん、ホントにそんなこと言ってる?」
無視して、セリオが続ける。
「―――防御無視、と」
「そりゃ分かりやすいわね」
轟音。
顔をしかめた綾香の鼻先を、弾丸が掠めていく。
慌てて振り返ると、少年が血相を変えて追いかけてきていた。
「さっきの顔……あいつの……! お前、あいつに……陽平に何をした……っ!」
どうやら、綾香のリアクションに鋭く春原の痕跡を嗅ぎつけたようだった。
舌打ちして、セリオに短く指示を出す綾香。
「もう大丈夫、下ろして。……姉さんをお願い」
「はい」
半ば飛び降りるように、走るセリオの腕から身を投げ出す綾香。
勢いを殺さず、前転して近くの大きな岩陰に飛び込んだ。
見る見るうちに遠くなっていくセリオの背中に向かって、綾香は叫ぶ。
「で、弱点は!?」
変わらず淡々と、しかし音量だけは平時より大きく、セリオが返答する。
回避
ってD2久々な気がする連続回避
「―――知らないわそんなもの、と」
「絶対言ってないでしょ……」
嘆息して、綾香は少年の様子を窺う。
足音は聞こえない。どうやら綾香が迎撃体勢を取ったのを見て、少年も足を止めたようだった。
岩陰からそっと顔を出そうとする綾香だったが、瞬間、背筋に悪寒が走った。
轟音。反射的に身を引いた綾香の、そのすぐ目の前を弾丸が駆け抜ける。
「……ッ!?」
冷や汗を垂らしながら横目で見れば、身を隠していた岩盤に、ぽっかりと穴が開いている。
全身から血の気が引いていくのを感じる綾香の耳に、遠くからの声が響く。セリオだった。
「―――申し忘れましたが……」
「何!?」
叫び返す綾香。
「……敵弾が防護という概念を貫通する以上、防壁はあまり意味を成しませんのでお気をつけ下さい」
「早く言えよっ!」
思わずツッコんだ瞬間に、またも轟音が響いた。
遅いと分かっていても、反射的に身を伏せる綾香。衝撃は無かった。
「っくぁ……外してくれたか。……って、待てよ……?
これ、確かに弾は防げないかもしれないけど……」
二つ目の穴が開いた岩盤を見上げて、綾香はようやく気づく。
防壁としての意味は無くとも、遮蔽には充分な効果があるのだった。
「っとに、わざと紛らわしい言い方してるんじゃないのか、アイツ……?」
セリオが駆けていった洞窟の奥に広がる闇に、ちらりと目をやる綾香。
暗視装置つきのバイザーが失われた今、その闇を見通すことはできなかった。
気を取り直して思考を戦闘に集中させる。
(落ち着け……まず、状況確認だ)
岩陰に身を縮めて投影面積を小さくしながら、彼我の戦力を計算し始める綾香。
まず自身の武装KPS-U1改は、少なくとも装甲面では全くの無力であった。
有効なのは運動能力の向上機能、そしてそれ自身の重量と硬度。
となれば手持ちで最大の火力は、エルクゥの腕による肉弾戦となる。
既に黒く変色し、鬼化を完了した拳を握り締める綾香。
一方、少年が手にしている銃はコルト・パイソン。6連装のリボルバーであった。
(最初に私が撃たれてから、合わせて4発撃ってるってことは……)
相手の残弾は多くとも2発。リロードをしている気配はない。
このまま膠着状態を続けて弾切れを待つのが得策だろうか、と綾香は頭の中でシミュレーションを開始する。
正面から撃たれた最初の一発はともかくとして、あとはすべて外れていることを考えても、敵の射撃精度は決して高くない。
当たれば致命傷となりかねない弾丸とはいえ、KPS-U1によって補助された綾香の運動能力で振り回せば、それほど
分の悪い賭けではないかもしれない。
でもねえ、と綾香は内心で顔をしかめる。
いくら確率は悪くないといったところで、ギャンブルであることに変わりはなかった。
(もっと確実な方法―――敵は、防護を無視する概念か……概念?)
と、綾香がそこまで思考を巡らせたところで、またしても洞窟内に轟音が反響した。
弾丸が岩盤に三つ目の穴を開ける。
が、まったくのめくら撃ちである。弾痕は綾香に掠りもせず飛び抜けていった。
(残り、一発……!)
新たな判断材料を得て、シミュレーションを更に推し進めようとする綾香。
だがその耳に、少年の怪訝な声が飛び込んできた。同時に、カチカチという金属音。
「……あれ? もう弾切れか……使えないな……」
危機感の欠片もない声と共に、ガシャリと音がした。
少年が拳銃を投げ捨てた音であると、綾香は聞き分ける。
千載一遇の好機。間髪いれず、岩陰から飛び出す綾香。
果たして、少年の持っていたコルト・パイソンは地面に落ちていた。
少年自身は、不思議そうな顔で迫り来る綾香を見ている。その両手はズボンの中に突っ込まれていた。
もらった、と勝利を確信する綾香。疾る。
だが少年はへら、と笑うと、意外な言葉を口にした。
「―――何だ、そっちから出てきてくれたの」
次の瞬間、綾香の目に映っていたのは、悪夢のような光景であった。
ズボンから引き出された少年の両手には、それぞれ黒光りする長大な銃が握られていた。
二丁の自動小銃の銃口が、ゆっくりと綾香へと向けられる。
「この島ってすごいよな……ちょっと歩くだけで、武器がごろごろ落ちてるんだから。
誰かが捨てていったのかな……感謝しなくちゃな」
「なんてデタラメな……! ってか、どっから出したのよ……!」
自身のことを棚に上げて憤る綾香。
しかし、足は止まらない。止めるわけにはいかなかった。
拳銃であればともかく、この閉鎖空間で自動小銃が相手では、命中精度の計算など意味がなかった。
遮蔽物ごと蜂の巣にされるのが目に見えている。距離を取ることは、即ち敗北を意味していた。
春原の異能をもって致命傷を回避したところで、近づけなければ手の出しようがない。
そもそも、発動に失敗すれば即死だった。
(やっぱり、一旦退いてセリオと合流するべきだったかな……)
後悔も、今となっては役に立たない。
一秒を更に区切る単位で、綾香は彼我の距離が近づいていくのを認識する。
しかし、間に合わない。自身が拳の間合いに入るよりも早く、敵の小銃が火を噴くと、綾香は確信する。
(敵は概念、か……。仕方ない、イチかバチか……!)
決断は一瞬。
疾走のまま頭を下げ、身を低くする綾香。
上体をほとんど地面に擦るように、頭から相手に突っ込む姿勢。
その黒い両の拳は、腰溜めに引かれている。
視線が、少年を捉えた。
「……陽平を、返せっ!」
マズルフラッシュが見えるよりも、一瞬早く。
綾香は右の拳を、突き出していた。間合いの遥か外である。
弾丸の嵐が、綾香を押し包む。狭い洞窟の中に、発砲音が反響する。
血煙が、上がる。
一瞬の後。
圧倒的に勝利に近いはずの少年の表情は、しかし恐怖に凍り付いていた。
「なんで……なんで、止まらない!? 来るな……来るなぁっ!!」
来栖川綾香が、迫っていた。
間合いまで、あと五歩。爛々と輝く真紅の瞳が、少年を射抜いていた。
「……思ったとおりだ。アンタの弾は、防護を貫く」
あと、四歩。
白い牙を剥き出して、綾香が嗤う。
回避
更なる回避
「そうだ、この硬い皮膚は確かにわたしを護る為のもの」
あと三歩。
黒い皮膚を血で染めながら、綾香の拳が繰り出されている。
「けれど、この拳は―――何かを護る為のものじゃあない」
あと二歩。
続く弾幕を、左右の拳で薙ぎ払い、綾香は止まらない。
「だったら……アンタの力が貫けるのは、私の、皮一枚だけ」
あと一歩。
ぼろぼろになった黒い皮膚の破片が、鮮血と共に周囲に散乱する。
「ただの弾丸が……この拳を、止められるか―――!」
「ひっ……!」
自身を襲うすべての弾丸を迎撃し尽し、綾香が最後の一歩を、踏み出した。
「―――さようなら、魔弾の射手」
少年が最後に見たのは、嗤いながら血塗れの拳を振るう、悪鬼の如き少女の姿であった。
かいひ
オマケに回避
さらに回避
これでこのスレも終わりかな回避
「うぇ……、サンドバックにされすぎて気持ち悪い……」
雨の中を、一人の少年がとぼとぼと歩いている。春原陽平である。
こみ上げる嘔吐感に口元を押さえながら、春原はどこへともなく歩みを進めていた。
―――まだ、この時の彼には知る由もなかったのである。
住井護少年の一発……概念を超えて春原に放たれたその恐るべき子種は、彼の胎内に新しい命を芽生えさせていた。
己に宿った小さな奇跡を知らず、そしてまた住井護の死を知らず、春原陽平は歩いている。
【時間:2日目午前6時過ぎ】
【場所:H−6】
来栖川綾香
【持ち物:パワードスーツKPS−U1改、各種重火器、こんなこともあろうかとバッグ】
【状態:両腕パワードスーツ全損、ラーニング(エルクゥ、(;゚皿゚)、魔弾の射手)】
セリオ
【持ち物:なし】
【状態:グリーン】
イルファ
【状態:せめて描写くらいしてください】
来栖川芹香
【持ち物:水晶玉、都合のいい支給品、うぐぅ、狐(首だけ)、蝙蝠の羽】
【状態:盲目】
【持ち霊:うぐぅ、あうー、珊瑚&瑠璃、みゅー、智代、幸村、弥生、祐介】
住井護
【状態:死亡】
春原陽平
【持ち物:なし】
【状態:妊娠(;゚皿゚)】
→382 435 531 ルートD-2
>>452,454-455,460-461,463-466の各氏、多謝〜♪
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