「すまない。だけど、おかげで助かった」
「いいのよ。困った時はお互い様だしね」
藤井冬弥と藤林杏は出来上がった焼そばを互いに分け合いながら食していた。
『旅は道連れ、世は情け』とはこういうことをいうのかしらと焼そばを食べながら杏は思った。
「ええと……杏ちゃん、だっけ? 聞きたいことがあるんだけど……いいかな?」
冬弥は焼そばを食べる手を止めると突然杏に話し掛けた。
「ん? なに?」
「単刀直入に言うけど―――君はこれまで何人殺した?」
「――っ!?」
本当に単刀直入な質問であった。
『殺す』という言葉に思わず反応してしまう。
しばしの沈黙。
まだ残っている焼そばが焼けるジュージューという音だけがあたりに響き渡る。
しばらくして杏は口を開き答えた。
「………1人よ。妹の大切な人を事故だったとはいえ……この手で…………」
杏は自分の両手を見た。激しく震えていた。
「そうか………俺も1人……襲ってきた女を殺した………」
「…………」
「…………」
再びしばしの沈黙。
焼そばが焼ける音だけがあたりに響く。
沈黙を破ったのは冬弥の方だった。
「……杏ちゃんはこれからどうするつもりなんだ?」
また質問か、と杏は思った。だが先程の質問とは違い、今度はすぐにはっきりと答えられるものだ。
少なくともこれ以上場の空気を悪くすることはあるまい、いやむしろ良い方向に戻せると判断すると杏は答えた。
「私はもちろん妹や知り合いを探すわ」
「そうか……」
「そういう藤井さんはどうなのよ?」
「俺は……俺の大切な人たちを殺した奴らを見つけだして………殺すつもりだ」
「なっ!?」
杏は愕然とした。
「なに言ってんのよ!? そんな馬鹿なこと……自分から死にに行くようなものじゃない!」
「―――うるさい」
「っ!?」
刹那、冬弥は杏に銃口を向けていた。
「あんたにわかるのか?
たった一人の自身の心だったの支えだった人を失った奴の気持ちが?
かけがえのない友を失った奴の気持ちが?」
「そ、それは………」
「――ゲームに乗った奴らを片っ端から潰していけば、由綺やみんなを殺した奴に会えるはずだ……
だから俺は……この糞ゲームに乗った馬鹿な奴らを一人残らず殺してやるんだ!!」
そう叫ぶと冬弥は先程杏がいた鎌石村の方へと駆けていった。
「ちょ…ちょっと………もう。男ってどうしてああいう真っすぐな馬鹿ばかりなのよ!!」
杏はそう叫ぶと残った焼そばを口の中にかき込んだ。
「……ぷぴっ」
そんな杏を見てボタンはただ鳴くことしかできなかった。
【時間:2日目・午前1:00】
藤井冬弥
【場所:D−8(移動済み)】
【所持品:FN P90(残弾49/50)、ほか支給品一式】
【状態:復讐のためマーダーキラー化。鎌石村へ】
藤林杏
【場所:D−8】
【所持品:包丁、辞書×3(国語、和英、英和)、携帯用ガスコンロ、野菜などの食料や調味料、ほか支給品一式】
【状態:目標は妹や朋也たちとの再開、だが今は残った焼そばをやけ食い】
ボタン
【状態:杏に同行、今はただ鳴く】
417 :
修羅再臨:2006/12/13(水) 01:43:33 ID:DG4mrUIfO
「――どうやらあんた知り合いたちはまだ無事みたいだな」
「みたいですね」
放送を聞いた芳野と瑞佳は参加者名簿に死者のチェックを終え、荷物をまとめはじめた。
「―――だが、問題はこれからだな。さっきの放送でまたジェノが増えそうだ」
「ジェノ?」
「ジェノサイダーの略だ。つまりこの糞ゲームに乗って他の参加者を殺しまくる奴ってことさ」
「ああ」
納得した瑞佳は手をぽんと叩いた。
「それに、早いところあんたの知り合いやゲームに乗ってない奴らとも合流しないとこっちもヤバい」
そう言って芳野は自身の銃の残弾を確認する。
芳野たちの武器で唯一の飛び道具であるデザート・イーグルはあと4発しか弾が残っていなかった。
弾切れした場合、サバイバルナイフだけでここから先迫りくる敵に対抗できるか……微妙なところである。(武器がないよりはマシだが……)
「――だから今は敵に対抗するための武器、そしてできるなら食料と水もできるだけ確保しておきたい。だからまずは鎌石村に行こうと思う」
「そうですね。村なら人もきっといるはずです」
「ま。リスクもでかそうだがな。だが善は急げとも言う、すぐに行く………っ!?」
荷物を持とうとした芳野はふと何かを感じた。
(これは―――殺気か!?)
すぐさま芳野はデザートイーグルを構え警戒態勢に入った。
「芳野さん? どうしたんですか?」
「―――早速、敵さんのお出ましのようだ」
「えっ!?」
418 :
修羅再臨:2006/12/13(水) 01:46:59 ID:DG4mrUIfO
「ありゃりゃ……感付かれちゃったか。さすがはここまで生き残っている参加者。昨日までの連中とは格が違うねぇ………」
芳野たちから少し離れた茂みの中、そこにはスク水の上に制服を着たマーダー朝霧麻亜子が潜んでいた。
その手にはボウガンと投げナイフがあった。
(先程までの様子だと、銃の弾はもう残りが少ないみたいだが………ナイフも持ってるみたいだし油断は禁物かにゃ?)
実は麻亜子は放送が始まる数分前から芳野たちの様子を伺っていた。ゆえに芳野たちの状況はある程度は把握していた。
(―――あたしがヘマさえしなければ、このみんも助かったかもしれない……だけど、優勝すればどんな願いも叶うと判ったならもう話は別。
絶対にあたしたちは勝ち残って、あの日々を取り戻さなければならないんだ!
………だからたかりゃん、さーりゃん。悪いけど、今のあたしはもうヘマも躊躇もしないよ………!)
麻亜子は一度芳野たちから目を離し、自身のデイパックに目を向けた。
(――修羅には修羅なりの戦い方というものがあるのさ。それを今から教えてあげよう………)
現在の自身の所持品を確認すると、麻亜子はにんまりと笑った。
419 :
修羅再臨:2006/12/13(水) 01:47:39 ID:DG4mrUIfO
【時間:2日目・午前6:10】
【場所:F−7】
芳野祐介
【所持品:デザート・イーグル .50AE(4/7)、サバイバルナイフ、支給品一式】
【状態:警戒】
長森瑞佳
【所持品:防弾ファミレス制服×3、支給品一式】
【状態:警戒】
朝霧麻亜子
【所持品1:ボウガン、投げナイフ、バタフライナイフ、支給品一式】
【所持品2:ささらサイズのスクール水着、支給品一式】
【状態:マーダー。現在の目的は貴明、ささら、生徒会メンバー以外の排除。最終的な目標は自身か生徒会メンバーを優勝させ、かつての日々を取り戻すこと。スク水の上に制服を着ている】
訂正
最初の芳野の台詞
『あんた知り合い』を『あんたの知り合い』に
―――事の始まりは智代の一言だった。
「―――茜、神塚山へ行こう」
「……え?」
唐突に言われ茜はキョトンとしていた。
すぐに疑問が浮かび上がり、それを口にする。
「仲間を集めるんじゃないんですか?山には人が少ないと思います」
「それはその通りだがな、実は仲間を集める以外にもう一つ作戦を思いついたんだ」
「作戦?その作戦とはどんな内容なんですか?」
「この首輪を操作して爆発させれる範囲はどれくらいだと思う?」
「………?」
話が噛み合ってない気がして茜は僅かに顔を顰めた。
さっきから智代の話は過程が飛び過ぎている。
しかしゲーム開始以来ずっと行動を共にして分かった事だが、智代は馬鹿ではない。
この話にも何かしらの意味がある筈だった。
この場は大人しく話を合わせる事にする。
「―――分かりません、特別機械に詳しいという訳ではありませんから。智代は分かるんですか?」
「いや、私にも分からない。でもそこまで広くはないと思う。例えば携帯電話は山奥などでは圏外になるだろう?」
「私は持っていないですけど、そういう物だとは聞いています―――もしかして山に行けば首輪が爆破されないとでも考えているのですか?
だとしたらそれはあまりにも軽率な考えです」
これだけ大規模な事をやってのける主催者がそのようなイージーミスを犯すとは考え難い。
そもそも首輪が無ければ殺し合いが成立しない。首輪は参加者を律す為の、いわば鎖のような物だ。
この島内で首輪の操作が出来ない場所があるとは思えなかった。
「違う、そんな甘い考えは持っていない。首輪の管理は徹底されている筈だ。
だがそれにはある物が必要なんだ」
「ある物?」
「首輪を操作する電波を中継する為の施設―――基地局やアンテナのような物がどこかにある筈だ」
「成る程……ですがそれが分かった所でどうすると言うのですか?」
「基地局を破壊して、首輪を無効化させる。上手く行けば一時的にでもこのゲームを止められる」
「――――!?」
智代は自信満々に言い切っていた。その顔には微笑みすら見て取れる。
それに対して茜は呆気にとられたような表情をしていた。感情を顔に出す事は滅多にないが、この時ばかりは別だった。
このような展開は全く想像していなかったからだ。
確かに智代の言う通り、首輪を無効化出来ればゲームは止められるだろう。
後は主催者達が首輪の操作システムを復旧させる前に島から脱出するなり、参加者全員で徒党を組んで主催者に攻撃を仕掛ければ良い。
だが言うは易し、行なうは難しという言葉もある。そう簡単に出来る事とは思えなかった。
「ですが、基地局の場所は分かるのですか?地図には載っていないし、目立つような場所に建てられているとも思えません」
「場所は予測が付く。地図を見る限りではこの島の中央部に山がある。ここなら目立たない。
それに端に建てるより中央の、しかも高度が高い場所に建てた方が島中に電波が届きやすいのは自明の理だ」
「……確かにそうかもしれませんね。ですがそのような重要な施設ならば警備員が配置されているでしょう。
私達の武器では分が悪すぎます」
「そうだな。警備が手薄なようなら奇襲を仕掛けても良いが、そうでない場合は一旦引く事になる。
だがそれでも問題無いんだ。基地局の正確な場所と存在さえ確かめれれば、仲間も集めやすくなると思う。
具体的なプランがあれば、信用はかなり得られやすくなるだろうからな」
「………」
茜は頭の中で今までの話の整理を行なった。
智代の話の要点は以下の3つだ。
・首輪の操作には基地局のような物が必要である
・その基地局は島の中央にある神塚山のどこかにある可能性が高い
・まずは基地局を探して、可能ならその施設の破壊。無理な場合は一旦引いて仲間を集める
この事をよく吟味した上で、茜は智代に問い掛けようとした。
――――だがその時第2回放送が流れ、茜と智代の作戦会議は中断を余儀なくされた。
放送には茜達と親しい人間の名前は無かった。しかし犠牲者は着実と増えている。
第1回放送の時の倍近い数の名前が呼ばれたのだ。
放送が終わった時、智代はすっかり項垂れてしまっていた。
智代は無力感に苛まれていた。自分は理想を唱えているだけでまだ誰一人として救えていない。
出会った中で唯一の知人である春原ですら、茜がいなければ立ち直らせれていたか分からなかった。
「くそっ!結局私はまだ何もしていない……何も出来ていないじゃないか……」
「顔を上げてください、智代。何度も激励するつもりはありません。それよりも、尋ねたい事があります」
「……そうだな、すまない。尋ねたい事とは何だ?」
「―――単刀直入に聞きます。貴女の作戦の成功確率はどれくらいだと思いますか?」
「この首輪が電波で作動するという保障も無いし、山に基地局があるというのも予測に過ぎない。
成功確率は楽観的に見積っても2割程度だと思う。だが現状でこのプランよりマシな手は無いと思うぞ?」
「そうですね……。私のような非力な女が優勝する確率に賭けるよりは遥かに分の良い話です。
私はその作戦に賭けてみる事にします」
「よし、決まりだな。では早速神塚山に向かおう……これ以上の犠牲者を出さない為にもな」
そう、元より確実に脱出出来るような美味しい話などある筈も無いのだ。
それがどんなに低い確率でも、他に道は用意されていない。
智代達は進路を変え、神塚山を目指して歩き始めた。
その先にどんな困難が待ち構えていようとも、今はそうするしかなかった。
【時間:2日目06:20頃】
【場所:f-3】
里村茜
【所持品:フォーク、他支給品一式】
【状態:全身打撲(マシになっている)、主催者の施設を探して神塚山へ】
坂上智代
【所持品:手斧、他支給品一式】
【状態:全身打撲(マシになっている)、主催者の施設を探して神塚山へ】
【関連】
B−13
→479
→513
気絶――正確には衝撃によるプログラムの一時停止状態だが――から、ようやくゆめみの人格が目を覚ました。センサーがまだ上手く起動していないのか、音が聞こえない。
損傷だが、回路の一部を切断されたようで左腕が動かない。人間なら痛みはあるだろうが生憎とゆめみはロボットだったので痛みというのを全然感じない。
しかし、「痛み」は別の部分にあった。守ると約束した郁乃や七海を守れなかったという「心」の痛み。プログラムされた感情かもしれなかったが、もしゆめみが人間だったら涙を流していただろう。
――ああ、きっと折原さんや立田さん、小牧さんはもう…
無力を感じながらまた目を閉じようとした時、センサーがようやく回復し、外の音を運んでくる。
「……イヤ、…………イヤイヤ」
「まあ諦めて一緒に楽しもうぜ」
――小牧さん…! まだ、小牧さんは生きています!
徐々に音が大きくなっていく。郁乃の悲鳴、浩平の怒号、岸田の下卑た笑い声。
まだ戦闘は終わっていない。まだ、「守れなかった」という過去にはなっていない。
――お客様の安全を守るのは…ロボットの、わたしの役目です! これ以上、悲しみは増やさせません!
・
・
・
「うあああぁぁっ!」
ゆめみはありったけの力をこめて立ち上がり、勢いそのままにスボンを下ろそうとしていた岸田に突進していく。
「何ッ!?」
完全に虚を突かれたのは岸田。殺したはずのゆめみが、再び立ち向かってきたのだから。
釘打ち機や銃は床に置いたまま。取る暇も無く、岸田は全力の突進をまともにくらった。
吹き飛ばされ、無様に床を転がる。岸田は立ち上がるとゆめみに叫んだ。
「貴様っ! どうして死んでいない!?」
かつて高槻にも同様の事を言ったかと思うと、胸糞が悪くなった。ゆめみはらしくない「微笑み」で岸田に言い放つ。
「わたしは…ロボットですから」
その一言で岸田は理解する。彼女はいくら撃ち抜かれようが主動力を破壊されなければ何度でも蘇る、と。
「ちっ…そうか、ロボットだったか…くく、失念していたよ。だが貴様一人で何が出来る」
「時間稼ぎです」
事も無げにゆめみは言ってのける。ロボットゆえの迷いの無い返答だった。
「小牧さん、今のうちに折原さん達を連れてどこか、出来るだけ遠くへ行ってください。わたしが必ず足止めしてみせます」
「そ…そんなこと、できるわけないじゃない! ゆめみ一人置いて逃げる事なんて…」
「ですが…」
「そんな悠長にお喋りしてる暇があるのかい、このポンコツが!」
クラウチングスタートよろしく低姿勢で突っ込んでくる岸田。狙いは勿論ゆめみの足元の銃だ。
「っ! 小牧さんっ!」
慣れない格闘、しかも左腕を欠いた状態で応戦するゆめみ。蹴りなどを繰り出すものの、軽く受けとめられてしまう。一方の岸田は先ほどの治療が効いてきたのか、徐々に調子が良くなっているようだった。
「いいぞォ! 新たな力が湧いてくるッ! いい感触だッ!」
懸命に格闘するゆめみを見て、郁乃は動こうとするが、足が動かせない、いや「動かない」。リハビリを十分に行っていなかった郁乃には逃げる事すら出来ない。――これがゆめみの懇願を断った理由でもあるのだが――
ならば出来る事は何か、と郁乃は考える。
「折原っ! 動けるの!?」
遠くで倒れている浩平に懸命に呼びかけるが…
「出来るならやってるさ! クソッ、釘が…抜けねぇんだよ!」
無理矢理にでも釘を引き抜こうとする浩平だが、固く打ち付けられた釘は抜ける気配すらない。
一方の七海も気絶しており、とても助けに行ける状態ではない。
「…なら、あたしが動くしかないじゃない!」
匍匐全身に近い無様な動き方で床の銃を拾おうとする郁乃。しかし動きが遅すぎた。
「ぐ…あうっ…!」
ゆめみが岸田の蹴りにより吹き飛ばされる。ふん、と鼻をかき鳴らして悠々と床の銃を拾う。
「残念。遅かったなお嬢さん? 足がまともだったら俺に銃弾を撃ちこめたのになぁ? くく、くくくっ」
「く…このっ、変態野郎!」
浩平が吠えるが、岸田は見下した表情で言い放つ。
「変態で結構。今からその変態に仲間が犯されるんだからなぁ、ハハハッ! …まぁ、その前に邪魔なポンコツからぶっ壊すがな」
余裕の表情で吹き飛ばされたゆめみに拳銃を向ける岸田。
「クソッ! やめろッ、やめろォォォーーーッ!」
「…何やってるのよ、早く来てよ、ハードボイルドなんでしょ、仲間がピンチなのに…どうして来てくれないのよっ、高槻ーーーっ!」
カチリ、と撃鉄が上げられる。
「死ね、ポンコツが」
「死ぬのはてめぇだ、クソ野郎」
ゾクリ、と岸田の背に悪寒が走った。この声、間違い無い、この声は。
「まさ…」
振り向こうとした時には、既に銃弾は放たれていた。四発、コルトガバメントから放たれた四発が岸田の体に吸いこまれていく。
「がは…っ!」
まともに食らって、よろめきながら倒れる岸田。…そして、寺の入り口にいたのは紛れも無い、
高槻の姿だった。
「待たせたな、郁乃」
「…ふん、遅いのよ。現れるのが」
現れた高槻の姿に、嬉しさを感じながらもつい憎まれ口を叩いてしまう郁乃。
「うるせえ。俺様にだって限度ってもんがあるんだよ」
「ぴこー、ぴこぴこー」
「み、みんなっ! 大丈夫?」
背後から、ポテトと真琴も現れる。
「何だよ、足が動かないんじゃなかったのか」と高槻。
「うるさいわよぅっ! 叫び声が聞こえたと思ったら置いてけぼりにしちゃうし…でも、そう言えば…何で? 全然平気なんだけど」
「俺様が知るか」
「何よぅっ! 人をどすんと落としといてぇ!」
「おーそうか、きっとそのショックで治ったんだな」
「そんなわけないでしょー!」
浩平が「やれやれ、えらく騒がしい救援だな」と呟いた。
「何よぅ、偉そうにーー! …って、誰よコイツ?」
「見りゃ分かるだろ。床に張り付けにされたイエス・キリストだ」
「な、なんですってー!?」「ぴ、ぴこぴっこー!?」
浩平の場違いな冗談を本気で信じる一人+1匹。
「…冗談に決まってるでしょ。この人は敵じゃないわ。釘、引き抜いてあげてくれない?」
「おいおい新手は男か…ちっ、ほらよ。一生感謝しやがれ」
高槻が渋々ながらも床から釘を引き抜いてやる。
「…そう言えば、ささらがいないんだけど」
尋ねる郁乃に、真琴が答える。
「うん、ちょっとささらとは別行動を取ってるの。後で説明するけど」
「ならいいけど…」
ようやく解放された浩平は、手をぷらぷらさせて、
「痛ててて…くそっ、あの野郎め。手に風穴が開いたじゃないか」
ま、死ななかっただけマシか、とこぼして岸田の方角を見やる。
「…死んだのか? あの野郎。ゆめみの方は大丈夫みたいだけどな」
浩平がそう言うと、座りこんだまま、ゆめみが手を上げて「わたしはまだ大丈夫です」と言うのが聞こえた。
七海も、気絶してはいるが命に別状はない。むしろ遠くで倒れていたので戦闘のとばっちりを受けなかっただけでも幸いだろう。
「ゆめみも七海も大丈夫ね…あの男も死んだはずよ。まともに銃弾を浴びてたもの。…それより、早く起こして欲しいんだけど」
未だに床に這いつくばっている郁乃に、高槻が倒れていた車椅子を起こしてから手を貸してやる。
「やれやれ、世話のかかるガキだ…お? おおっ、これは…」
「…? 何よ」
「い、いや、気付かなくていいんだ。最高…! なんて最高なんだっ、この眺めはぁっ…!」
しげしげと自分の胸元を見やる高槻に疑問の表情の郁乃。だがすぐにその原因に気付く。
「なっ…ど、どこ見てるのよっ! このバカ!」
片手で胸を隠しながら高槻の顔に頭突きする郁乃。「おごっ」と高槻が奇怪な声を漏らす。
「どうしようもないな…」「ぴこー」
呆れかえる浩平とポテト。
郁乃はこれが自分を助けてくれたのかと思うと情けない気分になってきた。胸を隠しつつ高槻への罵詈雑言を叫びながら車椅子に座る。
「…ねぇ、アイツ、ホントに死んだの?」
真琴はただ一人、岸田の様子をじっと見ていた。心なしか、かすかに胸が上下しているように見えたのである。
「ああ? 死んだに決まってるだろうが。俺様がタマをぶち込んだんだぞ」
「うーん…」
どうしても信じられない真琴は、そろそろと岸田に近づいていく。…だが、それが間違いだった。
岸田はこの機会を狙っていたのだ。誰でもいい、死んだと油断して不用意に近づいてくるのを。
真琴が岸田の前に立った瞬間、かばりと岸田は起きあがった。
「えっ!?」
動転する真琴をがっしりと掴み、ポケットからカッターを取り出し、真琴に突きつけた。
「何だとッ!?」
死んだはずの人間が起きあがる姿に全員が驚愕する。その様子を見まわした後、岸田が粘ついた声で言う。
「くくく、俺がそう簡単に死んでたまるか。偉大だよなぁ、文明の利器って奴は?」
トントンと自らの腹を叩く。それを見た浩平が「防弾チョッキか…!」と憎々しげに呟く。
「後ろのポンコツも動くんじゃないぞ! 少しでも動けばこいつの首を掻き切るからなぁ!」
虚をついて後ろから襲撃しようとしたゆめみも、その一言で動けなくなる。
「揃いも揃って俺をコケにしやがって…特にそこのカスはただでは殺さん! たっぷり痛めつけた後殺してやる」
高槻に向けて憎悪に満ちた声で叫んだ。
「まずは全員! 武器を捨ててもらうぞ! 真後ろに向かって投げるんだ。思いきり遠くになぁ!」
クソッ、と高槻が吐き捨てる。人質がいる以上手出しできない。ガバメントを放ろうとした時。
「あうーっ! なめんじゃないわよぅっ、このバカーっ!」
真琴が岸田の手に噛み付いていた。
・
・
・
私はあの前に見た気色の悪いオッサンに捕まえられたとき、正直何が何だか分からなかった。
覗きこもうとしたとき、急に手が伸びてきて、気がついたらカッターの刃を押し当てられていて…
まわりのみんなは、呆然としたまま何もすることが出来なかった。
私のせいだってことは、すぐに分かった。私のせいでみんながまたピンチになってしまった。
それは分かっていたけど…カッターの刃が恐くて、何もすることが出来なかった。
そんなときだった。不意に、秋子さんの家で祐一とやりとりしたことを思い出した。フラッシュバックっていうのかな? ともかく、そのときのお喋りが頭に浮かんできたのよ。
『真琴ってホントにガキっぽいよな…』
『あうーっ! ガキじゃないもん!』
『いいや、ガキだね。ガキじゃないんだったらそんなにムキになったりしないし、人にだって迷惑なんかかけたりしないはずだろ? お前さ、いつもイタズラばかりしては秋子さんに迷惑かけてるじゃないか』
『あ、あうーっ…』
『だからさ、自分のしたことの責任は自分で取るようにしろよ。そうすりゃ俺だって真琴のことをわーカッコイイー惚れちゃうねーみたいな感じで認めてやるからさ』
『そんな感じで認められても嬉しくないっ!』
回避
…そうよ。真琴はガキじゃないもん。一人前の大人よっ。一人前の大人が…責任も取れなくてどうすんのよっ!
負けない、負けられない、負けるかっ!
「あうーっ! なめんじゃないわよぅっ、このバカーっ!」
・
・
・
「ぐぁっ!? 何しやがる、この…クソガキがぁーーっ!」
偶然にも、真琴が噛みついた場所は古傷、つまり以前高槻に切り付けられた場所だった。その激痛に耐えかねた岸田は、思わず手を離す。
「高槻っ! 今ようっ! バンバン撃っちゃって!」
真琴が叫ぶ。…しかし、その直後。どんっ、という音と共に胸に激痛が走った。岸田がカッターで真琴を突き刺したのだ。
「あ…あう…」
崩れ落ちる真琴。それを見た高槻が激昂して叫んだ。
「て、てめぇっ…絶対に許さねぇっ! 撃ち殺してやるッ!」
しっかりと構えたガバメントから銃弾が放たれるが辛うじて岸田はしゃがんでかわす。その隙をついて釘打ち機を回収し、続いて拳銃も回収しようとしたが、
「させませんっ!」
いつのまにか走ってきていたゆめみが拳銃を蹴り飛ばす。舌打ちしながら、岸田は撤退を決める。この人数差では負けは確実だからだ。
ゆめみに体当たりし、転ばせると背を向けて窓から逃げる岸田に、高槻のガバメントが火を吹く。
「逃がすかぁっ!」
だが悪運の強かった岸田には命中はしない。カチ、カチッと弾切れの音がするころには岸田の姿は森の中へと消えていた。
「ちっ! 逃がしてたまるか!」
追おうとする高槻を、郁乃が呼びとめる。
「追い返したからいいでしょ! それより、真琴が、真琴が!」
回避
ハッとなって真琴の方に振り向く高槻。その真琴は…胸をかすかに上下させているだけ。致命傷だった。
「沢渡…さん」
震えた声で真琴の体を持ち上げるゆめみ。
「へへ…真琴、頑張ったでしょ…?」
「はい…沢渡さんは…とても頑張っていたと…思います…」
真琴の顔は笑っていたが、生気はもはや感じられない。浩平も、郁乃も、高槻さえも悲痛な表情になっていた。
「真琴…が、ガキじゃ…ないわよっ…ね?」
「…ああ、立派だったぞ、沢渡。だからもう喋るな。ゆっくり休め」
「…うん、そーする…」
「真琴っ、少しだけだからね、少しだけ休んだら…すぐに…出発するから…」
「………」
「おい、返事しろ。返事くらいしやがれっての…返事しろよっ…」
しかし、真琴の体はそれきり動く事はなかった。共に行動してきた仲間が、また一人散った。
「…クソッ」
高槻の悪態は、空しく響くだけだった。
「ぴこ…?」
一方、気絶している七海の側に来ていたポテトは、空中にふわふわと漂うものを見つけていた。
どこから来たのか分からない、不思議な光だった。それはゆっくりとポテトの目の前に落ちると…ポテトの肉球に吸いこまれていった。
「ぴ…ぴこっ?」
岸田洋一
【持ち物:鋸、カッターナイフ、電動釘打ち機8/12、五寸釘(5本)、防弾アーマー、支給品一式】
【状態:切り傷はほぼ回復、マーダー(やる気満々)】
小牧郁乃
【所持品:支給品(写真集×2)、車椅子】
【状態:すすり泣き。ポテトには気付いていない】
立田七海
【所持品:支給品(フラッシュメモリ)】
【状態:腹部殴打悶絶中】
ほしのゆめみ
【所持品:支給品(忍者セット、おたま)】
【状態:左腕が動かない。ポテトには気付いていない】
折原浩平
【所持品:支給品(要塞開錠用IDカード、武器庫用鍵、要塞見取り図、34徳ナイフ、だんご大家族(残り100人)、日本酒(残り3分の2))】
【状態:全身打撲、打ち身など多数、両手に怪我。すすり泣き】
ハードボイルド高槻
【所持品:食料・水以外の支給品一式、日本刀、分厚い小説、ポテト(光一個)、コルトガバメント(装弾数:0/7)予備弾(13)】
【状況:やりきれない思い。ポテトには気付かず】
沢渡真琴
【所持品:スコップ、食料など家から持ってきたさまざまな品々、ほか支給品一式】
【状況:死亡】
【時間:2日目05:00】
【場所:無学寺】
【備考:全員の支給品と支給武器は部屋の片隅にまとめられている、H&K PSG−1(残り3発。6倍スコープ付き)、S&W 500マグナム(2/5、予備弾10発)は床に】
ああ、しっかし急いで戻ったはいいものの意味があんのか?
どうせ「遅い」とかウダウダ文句言われるんだろ……。
そんなことを考えながら溜め息をつく高槻は沢渡真琴を抱えたまま無学寺の門をくぐった。
だがその直後彼の耳に届いたのは、悲痛な声で叫ばれた自身の名前――
その聞き覚えのある声に、考えるよりも先に体が動いていた。
今まで走り続けた疲れも忘れ、ただがむしゃらに駆ける。
――なんだってんだよっ!
ほんの数十メートル先に見える寺の扉がやけに遠く感じた。
響き渡った絶叫と急変した高槻の表情に、腕に抱かれた真琴が裾をぎゅっと握り締め不安げに見上げる。
だがそんな真琴のことすら忘れてしまったかのように高槻は一心不乱に走る。
――まだだってか!
扉まであと三メートル
二メートル……
一メートル………………
ガアアアアンと派手な音が所かまわずと響き渡った。
肩で息をつきながら、全力疾走のまま眼前の扉を蹴破った高槻は目の前の光景に愕然とする。
倒れたゆめみと七海、ボロボロになった見知らぬ男。それよりも何よりも真っ先に目に入ったのは、
ボロボロに破られた制服が申し訳なさ程度に上半身を隠してはいるものの、ほぼ裸となった郁乃と
ズボンを下ろし押さえつけるように跨っている先ほど学校で撃退した岸田の姿――。
いきなり現れた高槻の姿に岸田はらしくないほどにうろたえていた。
まさか浩平の他にも仲間が居たとは。
しかもそれが先ほどの男だなどとは夢にも思っていなかった岸田が脱ぎ捨てかけたズボンを下ろす手を止めて固まる。
「てめえ、なにやってやがるっ!!!!」
両手に抱えた真琴を乱暴に投げ捨て、叫ぶや否やコルトガバメントを取り出し岸田に向かって地を蹴った。
――近すぎる、当たっちまうか……!?
右手に抱えたそれを左手に持ち替え、代わりに右拳を握り締める。
いきなりの襲撃に慌てた岸田だったが、それでも組み敷いた郁乃を乱暴に抱えながら手元に置いていたマグナムに手を伸ばした。
だが、膝と踝に引っかかったズボンにより体勢が崩れ去る。
その隙を見逃さず高槻の裏拳が岸田の右頬を捕らえていた。
「っ!」
その衝撃に銃を取り落としながらも左腕に抱えた郁乃を離そうとはしない。
間髪いれずに銃のグリップを再び岸田の右頬へと叩き込む。
続けざまに襲った顔面への激痛に郁乃を抱えた腕を離し、岸田は両手で頬を押さえる。
そして声を上げさせる暇も与えず、高槻は右腕を振りかぶると押さえた腕の上から岸田を殴りつけていた。
高槻の拳にぐしゃりとした感触が襲う。
声にもならない悲鳴を上げのたうち回る岸田に対し、丸出しの下半身を見つめ唾を吐き捨てる。
「ふざけた真似しやがって!!!」
銃を握る手に力が篭り、「死ねよ」とただ一言告げ岸田に対して銃弾を放った。
だが高槻の思惑とは裏腹にカァンとした金属音が鳴り響き、彼の怒りを乗せた銃弾は岸田に胸に当たったと同時に見当違いのほうに跳ね返るとコロコロと床を転がっていた。
「んだとっ!?」
予期せぬ事態に高槻は再び引き金を引く。
だが結果は変わらず、再び放たれたその銃弾も弾かれるように逸れ本堂の壁に埋まっていた。
「……ククク」
高槻の狼狽した声に、顔面を押さえたままの岸田が突如醜悪に笑い声を上げた。
覗き見るように顔から両手を離すものの、そのおびただしい出血が鼻が折れていることを告げており、押さえるように左手を当てる。
「やってくれるじゃねえか……クズが」
高槻を睨みつける眼光は暗く深く、そして冷たく。
とても怪我人とは思えないような殺気と共に言い放っていた。
「その言葉そっくりそのまま返すぜこのクソ野郎」
郁乃はただ目の前で起こっている光景を映画でも見ているように呆然と眺めていた。
目の前に現れた高槻の姿に視線を移すも、焦点の合わない瞳で言葉にならない嗚咽を漏らし続ける。
その呻き漏れる声の一つ一つに感情が溢れ出る。
チラリと窺い見た郁乃の表情に高槻は今まで経験したことも無い怒りを覚えた。
さっきまで俺様を罵倒していた女が何故こんなすがるような目で俺様を見ている?
……決まってる、あいつのせいだ。
それを見て気分はどうだ?
……腸が煮えくり返ってしょうがねえ
何故だ? こんな女なんか頬っておけばいいと思っていたんじゃねえのか?
……知るかよ!
そもそも他人となんか関るつもりなんか無いんじゃなかったのか?
……うるせぇっ!
自分でも言ってただろ? こんなの俺様じゃねえって。
……いい加減黙れっ!
自問自答していたはずが、心の中で何者かが俺様に話しかけてくるような感覚に囚われた。
だがそれもあながち間違いじゃなかろう。
おそらくは昔の俺様が、この島に来て変わってしまった俺様を馬鹿にしてるんだ。
自分でだって何故こんなんになっちまったかわからねーんだからな。
FARGOに居た頃を思い出せよ。あの頃のように泣き叫ぶ女を犯し、嬲りまくればいいじゃないか。
目の前の男と争う必要なんかあるのか? 同類じゃねえか。楽しめばいいだろう、一緒によ。
……黙れ黙れっ黙れっっっっ!!!
「―――――――!!!!」
瞬間、高槻は吼えた。
全ての思念を取り払うように、言葉とも言えない感情を口からあらん限りの大声で吐き出す。
その叫びに岸田の身体がわけもわからず震えた。
学校で戦った時とは明らかに何かが違う。あの時のこいつは完全に自分と同種だと感じていた。
同族嫌悪という奴だろうか、全てが気に食わなかった。
だが今目の前に居る高槻からは、それともまた違った感情で嫌気が湧き上がっていた。
晒された小さな乳房を隠すこともせず、未だ現実を受け入れきれない郁乃もその雄たけびに怯えながら顔を上げた。
自分の目の前に居るのはいったいなんなのか。
ハードボイルドで、ロリコンで、ストーカーで、天パで、名探偵で……それでいて私を好きだといってくれた人?
だが考える暇も与えず郁乃の顔に柔らかな感触が当たると同時に視界が暗転し、郁乃の鼻腔をどこか汗臭い香りがくすぐる。
それはどこで嗅いだものだったのか……そんな昔ではない、そしてそれはけして嫌なものでは無かった。
震える腕を懸命に動かし自身の顔に当たるそれをそっと降ろすと――そこには今まで羽織っていた白衣を脱ぎ捨てた高槻の姿があった。
自然と視界がぼやけていた。
――目の前に居るのはあいつだ……あいつだ…………あいつだ!
見たかったはずなのに、流れる涙が郁乃にそれを許してはくれない。
かけられた白衣を握り締め、先ほどとは違う歓喜の嗚咽が漏れ、郁乃は咽び泣いた。
自身の白衣に顔をうずめ、ただ泣き続ける郁乃の頭に手を置くと高槻は奥歯をかみ締めて呟いた。
「…………すまん」
今まで過ごしてきた中で、謝ったことなどあっただろうか。
だが高槻の人生初めてとも言えるそれは、何の臆面もなく、自然に、彼の口から漏れていた。
白衣を握り締める郁乃の手に力がこもり、顔を隠しながら大きく首を横に振られる。
「待ってろよ……すぐ終わらせる」
郁乃の頭をポンポンと叩きながら、倒れたゆめみと七海、ひれ伏したままの浩平をチラリと見て苦々しげに拳に力をこめる。
「――来いよ、ぶっ殺してやる!!」
回避
回避2
ハードボイルド高槻
【所持品:食料・水以外の支給品一式、日本刀、分厚い小説、コルトガバメント(装弾数:4/7)予備弾(13)】
【状況:岸田と対峙】
沢渡真琴
【所持品:スコップ、食料など家から持ってきたさまざまな品々、ほか支給品一式】
【状況:無学寺扉に、身体はうまく動かない】
ポテト
【状態:真琴と一緒】
岸田洋一
【持ち物:鋸、カッターナイフ、、五寸釘(5本)、防弾アーマー】
【状態:高槻と対峙、左腕軽傷、右腕に深い切り傷、鼻骨骨折、マーダー(やる気満々)】
小牧郁乃
【所持品:支給品(写真集×2・マグナム予備弾10発)】
【状態:号泣】
立田七海
【所持品:支給品(フラッシュメモリ)】
【状態:腹部殴打悶絶中】
ほしのゆめみ
【所持品:支給品(忍者セット、おたま)】
【状態:左胸を撃たれ倒れる、損傷状態不明】
折原浩平
【所持品:支給品(要塞開錠用IDカード、武器庫用鍵、要塞見取り図、34徳ナイフ、だんご大家族(残り100人)、日本酒(残り3分の2))】
【状態:全身打撲、打ち身など多数、両手は釘で床に打ち付けられ身動きが取れず】
【時間:2日目04:05】
【場所:無学寺本堂】
【備考1:郁乃・七海・浩平の支給品は部屋にまとめられている、郁乃の車椅子は倒れて放置】
【備考2:S&W 500マグナム(2/5)電動釘打ち機8/12は床、H&K PSG-1(残り3発。6倍スコープ付き)はゆめみのそば】
(関連 537・543
指定特になし、と言うかアナザーあたりかかぶらないルートで……タイトルも適当でつ)
445 :
無題:2006/12/14(木) 11:02:43 ID:FCwTnEmI0
「レミィ……来栖川先輩………理緒ちゃん………」
第2回の放送を聞いたあかりは友人・知人たちの死にショックを隠せないでいた。
次は自分が死ぬのではないかという恐怖や悲しみに押しつぶされそうになったが、それは何とか耐え抜いた。
なぜなら前回の放送の時はそれが原因で結果としては美坂香里をしなせてしまったのだ。同じ過ちは繰り返せない
「……」
往人はただ黙ってそんなあかりを見ているだけだった。いや。見ていることしかできなかった。
(晴子……佳乃………)
先ほどの放送には自身の知り合いであり探していた人間たちの1人だった神尾晴子と霧島佳乃の名前があった。
だから彼は今のあかりの気持ちが少なくとも理解できないということはなかった。
何かを失ってしまったことによる虚無感―――とでも言えばいいのだろうか?
とにかく往人にもそのような感情が確かに生まれていた。
(――まあ、俺の方はともかく、問題は観鈴のほうだな……)
自身の母親の死――それを知った観鈴は今頃どうしているのだろうか?
おそらく優しい観鈴のことだ。母だけでなく見ず知らずの人間の死にも泣いている可能性はある。
問題は今回の件で感情に流されて暴走しないかであった。
そんなことを考えているとあかりが往人に声をかけた。
「―――国崎さん。先を急ぎましょう」
「もう大丈夫なのか?」
「はい。それにこうしている間にも他の人たちの身に危険が迫っているかもしれませんから」
「――そうだな。先を急ぐとするか」
「はい」
往人たちが再び歩き出そうとしたその時であった。
「ん?」
ガサガサと草木を掻き分ける音が聞こえてきた。
446 :
無題:2006/12/14(木) 11:03:25 ID:FCwTnEmI0
「はっ…はっ…はっ…」
水瀬秋子は腹部の痛みに耐えながら草木を掻き分け走り続けていた。
その手には上月澪の所持品であったスケッチブックがあった。
(名雪……澪ちゃん……)
名雪の行方は未だに判らない。しかし澪の行方は判っている。
橘敬介―――素性を偽り、隙を見て他の参加者を殺害していく極悪非道なマーダー。その敬介に澪は連れて行かれた。
しかし、なぜあの時澪を殺さずに連れて行ったのか。それ以前に、なぜ自分に止めを刺さなかったのかなど疑問はいろいろある。
(―――ですが今は関係ありません)
敬介が向かった方向からして彼は氷川村に向かったのだろう。
あそこには診療所もある。自身の怪我の治療も出来るし、何より人が集まりやすい場所だ。ゲームに乗った人間が一番集まる場所だろう。
「真琴……」
秋子はぼそりとその名前を口にした。
先ほどの放送に真琴の名前があったのだ。
最初の放送で名前があった月宮あゆに続いてまたしても大切な家族を――未来ある者を1人失ってしまった。
(あの子たちは……この島にいる参加者の人たちには何も罪はない……それなのに何故あゆさんや真琴が殺されなければならないの!?)
秋子の内には主催者に対する怒りがますます膨れ上がっていた。
先ほどの放送であった『優勝者にはどんな願いも叶えてやる』というあの忌まわしいウサギの言葉は間違いなく参加者に殺し合いをさらに強制させるための罠だろう。
だれが乗るものか、と秋子はさらにペースを上げようとした。その時だった。
「おい。そこのあんた」
「!?」
ふいに声をかけられた秋子はすぐさま足を止め振り返った。もちろん警戒は怠らない。スカートにねじ込んである銃に手をやりいつでも取り出せる状態にしておく。
振り返った先には国崎往人と神岸あかりの姿があった。
447 :
無題:2006/12/14(木) 11:03:56 ID:FCwTnEmI0
【時間:2日目6時30分】
【場所:I−4】
国崎往人
【所持品1:トカレフTT30の弾倉、ラーメンセット(レトルト)】
【所持品2:化粧品ポーチ、支給品一式(食料のみ2人分)】
【状態:満腹。あかりと生き残っている知り合いを探す。秋子と遭遇】
神岸あかり
【所持品:水と食料以外の支給品一式】
【状態:往人と知り合いを探す。月島拓也の学ラン着用。打撲、他は治療済み(動くと多少痛みは伴う)。秋子と遭遇】
水瀬秋子
【所持品:ジェリコ941(残弾14/14)、予備カートリッジ(14発入×1)、澪のスケッチブック、支給品一式】
【状態:腹部重症(治療済み)。名雪と澪を何としてでも保護(まずは澪を連れた敬介を追い氷川村へ)。目標は子供たちを守り最終的には主催を倒すこと】
「……ったく、あの馬鹿……」
第二回定時放送、正確にはその直後の臨時放送を聞いた、来栖川綾香の第一声である。
眉間によったシワを揉み解しながら、綾香は渋い顔で考え込んでいた。
結局、更迭と処断が同時に行われたというわけだ。
いずれ避け得ぬ事態であったとは、思う。思うが、しかし。
綾香の来栖川重工役員としての思考回路が、名状しがたい違和感を訴えていた。
更迭は、まだいい。
東京の緊急会議を経て出された妥当な結論と、納得もできる。
しかし、急遽参加者としてプログラムに組み込むというのは、流石に性急に過ぎる。
あれでも久瀬防衛庁長官の一子なのだ。
それを、いずれ形式的なものになるとはいえ正規の手続きも踏まずに参加者、しかもターゲット扱いで
有無を言わせず抹殺するとなっては、今回のプログラム遂行にあたって強硬に横槍を入れてきた防衛庁、
ひいては軍の面子が立たない。
有り体に言って、今回の処分には背広組の意向があまりにも反映されていない。
更に言えば、三万体もの砧夕霧が久瀬に与えられたというのもおかしな話だった。
そもそも砧シリーズは軍の発注を受けて来栖川重工のラインで量産していたものだ。
そして三万体といえば、納品した機体のほぼ全てにあたる。
巨費を投じてようやく実働レベルにまで数を揃えたそれを、抹殺対象として指定した個人に支給するというのだ。
いくらなんでもそんな無茶を、百鬼夜行の霞ヶ関が通す筈もない。
そんな指示を出せば内局や他省庁の突き上げを食うでは済まないことくらい、現場の人間であれば少なからず
理解しているはずだった。
おそらく、否、十中八九まで、今回の処分は久瀬に代わってこの現場を仕切ることになった人間、それも
現場勘もなければ予算配分に関わることもない外部の人間の独断専攻と、綾香は状況をそう読んでいた。
この分では、新司令とやらの御世も長くはないだろう。
いかに面従腹背の伝統があるとはいえ、制服組がいつまでも背広組の意向を無視して動けるとは思えなかった。
とはいえ、時間が解決するに任せて無視を決め込むわけにもいかなかった。
砧夕霧は単体ではデコが光るだけの不気味な人形だが、数が揃えば途端に強力な光学兵器へと変貌を遂げる。
三万体ともなれば、戦略級の威力を有するといってよかった。
それが個人の手にあるという危険性を、綾香は正しく認識していた。
叩くなら雲に覆われて陽光が射さない午前中しかない、と綾香は思考を巡らせる。
問題は三万という数と上陸地点だが、大規模な艦が接岸できるような海岸は、この島にそう多くない。
常識的に考えれば、本部の設置されている空母「あきひで」、それが展開している沖木島の東側。
綾香たちの現在位置からもそう遠くない場所が、第一候補であった。
「……で、あんた誰」
その少年はふらりと立っていた。
思考を中断した綾香が、険悪な声で誰何する。
見れば、少年は上半身に何も纏っていないようだった。
「……知ってる?
早朝に裸で女の子の寝室に入ってくる男は無条件で殺していいって法律、去年施行されたの」
明確な殺意の込められた綾香の言葉にも、少年は顔色ひとつ変えない。
ズボンだけを身につけた姿で、ゆらりと口を開く。
「あいつ……知ってるだろ?」
「は?」
要領を得ない少年の言葉に、飛び掛るタイミングを見失う綾香。
「あいつさ……いなくなったんだ。急に」
「……」
「俺のこと、嫌いになったのかな……そんなはず、ないよな。きっと何か理由があるんだ。
だから追っかけてるんだ。知ってるだろ?」
何かにとり憑かれたような少年の言動に、思わず一歩退く綾香。
恍惚の表情をすら浮かべながら、少年はふらふらと洞窟の中に踏み入ってくる。
ふんふんと、何かを嗅ぐように鼻を鳴らす少年。
「ああ、やっぱりだ……。ここ、あいつの……匂いがする」
「うわキモっ!」
思わず叫ぶ綾香。
少年は明らかに常軌を逸していた。
「なあ……知ってるんだろ、あいつのこと……」
「いや、知ってるっていうか、なんていうか……」
綾香の脳裏に、先程ボロ雑巾のようになるまで痛めつけて追い出した金髪の少年の姿が浮かぶ。
口ごもる綾香の様子を訝しがってか、少年がどろりとした目つきで綾香を睨んだ。
「……知ってるならさ……、返してくれよ」
言いながらズボンの中に突っ込まれた少年の手が、魔法のように一丁の銃を掴みだした。
コルト・パイソン。古風なリボルバー式拳銃である。
「俺の運命を……返してくれよ……!」
銃口を向けられた綾香は、しかし余裕の表情で少年を見返している。
その顔から戸惑いが消えていた。戦闘ともなれば、綾香の領域であった。
己を取り戻した綾香の身体を包む銀色のパワードスーツが、薄明かりに煌く。
「……は、上等じゃない。そんな豆鉄砲でKPS-U1改の装甲を、」
しかし最後まで言い切ることは、できなかった。
少年は躊躇なくトリガーを引いていた。
轟音が洞窟内に反響する。
放たれた.357マグナム弾が、笑みをすら浮かべる綾香の頭部バイザーへと、着弾する。
秒速400メートルの速度を与えられた弾丸は、13mm弾の直撃にすら耐える特殊合金製のバイザーを、しかし易々と貫通し、
綾香の右眼窩を抉ると、その鉛の弾体を脳髄へと―――
「って、そんなんなったらマジで死ぬわよねえ!?(;゚皿゚)」
間一髪。
綾香は春原から会得したカウンターリアクションによって、致命的な打撃を回避していた。
火を噴くバイザーを投げ捨てて、苦痛にのた打ち回る綾香。長い黒髪がばさりと広がる。
眼を×印にして転がるその襟首を掴んで洞窟の奥へと走り出したのは、HMX-13セリオである。
もう一方の腕には来栖川芹香を抱えていた。
「―――早速、その異能が役に立ちましたね」
「危なく二度目の死を迎えるところだったわ……」
涙を浮かべながら答える綾香。抱えられながら首を捻る。
「しっかし、それにしても……なんで拳銃弾なんかで撃ち抜かれたんだろ。
機関銃の掃射にだって耐える複合装甲、って触れ込みで売り出すのよアレ。
やっぱ責任者は物理的に吊るし上げね……」
「開発部門の総責任者は綾香様ですが」
「マグナム弾、たって9mmでしょ……? そんなのに負けるなら軍事予算なんて要らないっつーの」
と、セリオの指摘を無視した綾香に、芹香が何事かを囁いた。
「え? ……ごめん、さすがによく聞こえなかった」
「―――あれは魔弾の射手の一種ではないか、と芹香様は仰っています」
高性能の集音センサーを持つセリオが代弁する。
かいひ
「何それ」
「―――物理法則から、俗に運命と呼ばれるものまで、概念そのものを捻じ曲げる力を持った弾丸を広く魔弾と称する、と仰っています」
「ちょっとだけ噛み砕いてくれると嬉しいかな……」
「―――彼の撃った弾から、庇護、或いは防護の概念を無視するような力を感じた、と仰っています」
「もう一声」
「……綾香様にもご理解いただける範囲で端的に申し上げるならば、」
「姉さん、ホントにそんなこと言ってる?」
無視して、セリオが続ける。
「―――防御無視、と」
「そりゃ分かりやすいわね」
轟音。
顔をしかめた綾香の鼻先を、弾丸が掠めていく。
慌てて振り返ると、少年が血相を変えて追いかけてきていた。
「さっきの顔……あいつの……! お前、あいつに……陽平に何をした……っ!」
どうやら、綾香のリアクションに鋭く春原の痕跡を嗅ぎつけたようだった。
舌打ちして、セリオに短く指示を出す綾香。
「もう大丈夫、下ろして。……姉さんをお願い」
「はい」
半ば飛び降りるように、走るセリオの腕から身を投げ出す綾香。
勢いを殺さず、前転して近くの大きな岩陰に飛び込んだ。
見る見るうちに遠くなっていくセリオの背中に向かって、綾香は叫ぶ。
「で、弱点は!?」
変わらず淡々と、しかし音量だけは平時より大きく、セリオが返答する。
回避
ってD2久々な気がする連続回避
「―――知らないわそんなもの、と」
「絶対言ってないでしょ……」
嘆息して、綾香は少年の様子を窺う。
足音は聞こえない。どうやら綾香が迎撃体勢を取ったのを見て、少年も足を止めたようだった。
岩陰からそっと顔を出そうとする綾香だったが、瞬間、背筋に悪寒が走った。
轟音。反射的に身を引いた綾香の、そのすぐ目の前を弾丸が駆け抜ける。
「……ッ!?」
冷や汗を垂らしながら横目で見れば、身を隠していた岩盤に、ぽっかりと穴が開いている。
全身から血の気が引いていくのを感じる綾香の耳に、遠くからの声が響く。セリオだった。
「―――申し忘れましたが……」
「何!?」
叫び返す綾香。
「……敵弾が防護という概念を貫通する以上、防壁はあまり意味を成しませんのでお気をつけ下さい」
「早く言えよっ!」
思わずツッコんだ瞬間に、またも轟音が響いた。
遅いと分かっていても、反射的に身を伏せる綾香。衝撃は無かった。
「っくぁ……外してくれたか。……って、待てよ……?
これ、確かに弾は防げないかもしれないけど……」
二つ目の穴が開いた岩盤を見上げて、綾香はようやく気づく。
防壁としての意味は無くとも、遮蔽には充分な効果があるのだった。
「っとに、わざと紛らわしい言い方してるんじゃないのか、アイツ……?」
セリオが駆けていった洞窟の奥に広がる闇に、ちらりと目をやる綾香。
暗視装置つきのバイザーが失われた今、その闇を見通すことはできなかった。
気を取り直して思考を戦闘に集中させる。
(落ち着け……まず、状況確認だ)
岩陰に身を縮めて投影面積を小さくしながら、彼我の戦力を計算し始める綾香。
まず自身の武装KPS-U1改は、少なくとも装甲面では全くの無力であった。
有効なのは運動能力の向上機能、そしてそれ自身の重量と硬度。
となれば手持ちで最大の火力は、エルクゥの腕による肉弾戦となる。
既に黒く変色し、鬼化を完了した拳を握り締める綾香。
一方、少年が手にしている銃はコルト・パイソン。6連装のリボルバーであった。
(最初に私が撃たれてから、合わせて4発撃ってるってことは……)
相手の残弾は多くとも2発。リロードをしている気配はない。
このまま膠着状態を続けて弾切れを待つのが得策だろうか、と綾香は頭の中でシミュレーションを開始する。
正面から撃たれた最初の一発はともかくとして、あとはすべて外れていることを考えても、敵の射撃精度は決して高くない。
当たれば致命傷となりかねない弾丸とはいえ、KPS-U1によって補助された綾香の運動能力で振り回せば、それほど
分の悪い賭けではないかもしれない。
でもねえ、と綾香は内心で顔をしかめる。
いくら確率は悪くないといったところで、ギャンブルであることに変わりはなかった。
(もっと確実な方法―――敵は、防護を無視する概念か……概念?)
と、綾香がそこまで思考を巡らせたところで、またしても洞窟内に轟音が反響した。
弾丸が岩盤に三つ目の穴を開ける。
が、まったくのめくら撃ちである。弾痕は綾香に掠りもせず飛び抜けていった。
(残り、一発……!)
新たな判断材料を得て、シミュレーションを更に推し進めようとする綾香。
だがその耳に、少年の怪訝な声が飛び込んできた。同時に、カチカチという金属音。
「……あれ? もう弾切れか……使えないな……」
危機感の欠片もない声と共に、ガシャリと音がした。
少年が拳銃を投げ捨てた音であると、綾香は聞き分ける。
千載一遇の好機。間髪いれず、岩陰から飛び出す綾香。
果たして、少年の持っていたコルト・パイソンは地面に落ちていた。
少年自身は、不思議そうな顔で迫り来る綾香を見ている。その両手はズボンの中に突っ込まれていた。
もらった、と勝利を確信する綾香。疾る。
だが少年はへら、と笑うと、意外な言葉を口にした。
「―――何だ、そっちから出てきてくれたの」
次の瞬間、綾香の目に映っていたのは、悪夢のような光景であった。
ズボンから引き出された少年の両手には、それぞれ黒光りする長大な銃が握られていた。
二丁の自動小銃の銃口が、ゆっくりと綾香へと向けられる。
「この島ってすごいよな……ちょっと歩くだけで、武器がごろごろ落ちてるんだから。
誰かが捨てていったのかな……感謝しなくちゃな」
「なんてデタラメな……! ってか、どっから出したのよ……!」
自身のことを棚に上げて憤る綾香。
しかし、足は止まらない。止めるわけにはいかなかった。
拳銃であればともかく、この閉鎖空間で自動小銃が相手では、命中精度の計算など意味がなかった。
遮蔽物ごと蜂の巣にされるのが目に見えている。距離を取ることは、即ち敗北を意味していた。
春原の異能をもって致命傷を回避したところで、近づけなければ手の出しようがない。
そもそも、発動に失敗すれば即死だった。
(やっぱり、一旦退いてセリオと合流するべきだったかな……)
後悔も、今となっては役に立たない。
一秒を更に区切る単位で、綾香は彼我の距離が近づいていくのを認識する。
しかし、間に合わない。自身が拳の間合いに入るよりも早く、敵の小銃が火を噴くと、綾香は確信する。
(敵は概念、か……。仕方ない、イチかバチか……!)
決断は一瞬。
疾走のまま頭を下げ、身を低くする綾香。
上体をほとんど地面に擦るように、頭から相手に突っ込む姿勢。
その黒い両の拳は、腰溜めに引かれている。
視線が、少年を捉えた。
「……陽平を、返せっ!」
マズルフラッシュが見えるよりも、一瞬早く。
綾香は右の拳を、突き出していた。間合いの遥か外である。
弾丸の嵐が、綾香を押し包む。狭い洞窟の中に、発砲音が反響する。
血煙が、上がる。
一瞬の後。
圧倒的に勝利に近いはずの少年の表情は、しかし恐怖に凍り付いていた。
「なんで……なんで、止まらない!? 来るな……来るなぁっ!!」
来栖川綾香が、迫っていた。
間合いまで、あと五歩。爛々と輝く真紅の瞳が、少年を射抜いていた。
「……思ったとおりだ。アンタの弾は、防護を貫く」
あと、四歩。
白い牙を剥き出して、綾香が嗤う。
回避
更なる回避
「そうだ、この硬い皮膚は確かにわたしを護る為のもの」
あと三歩。
黒い皮膚を血で染めながら、綾香の拳が繰り出されている。
「けれど、この拳は―――何かを護る為のものじゃあない」
あと二歩。
続く弾幕を、左右の拳で薙ぎ払い、綾香は止まらない。
「だったら……アンタの力が貫けるのは、私の、皮一枚だけ」
あと一歩。
ぼろぼろになった黒い皮膚の破片が、鮮血と共に周囲に散乱する。
「ただの弾丸が……この拳を、止められるか―――!」
「ひっ……!」
自身を襲うすべての弾丸を迎撃し尽し、綾香が最後の一歩を、踏み出した。
「―――さようなら、魔弾の射手」
少年が最後に見たのは、嗤いながら血塗れの拳を振るう、悪鬼の如き少女の姿であった。
かいひ
オマケに回避
さらに回避
これでこのスレも終わりかな回避
「うぇ……、サンドバックにされすぎて気持ち悪い……」
雨の中を、一人の少年がとぼとぼと歩いている。春原陽平である。
こみ上げる嘔吐感に口元を押さえながら、春原はどこへともなく歩みを進めていた。
―――まだ、この時の彼には知る由もなかったのである。
住井護少年の一発……概念を超えて春原に放たれたその恐るべき子種は、彼の胎内に新しい命を芽生えさせていた。
己に宿った小さな奇跡を知らず、そしてまた住井護の死を知らず、春原陽平は歩いている。
【時間:2日目午前6時過ぎ】
【場所:H−6】
来栖川綾香
【持ち物:パワードスーツKPS−U1改、各種重火器、こんなこともあろうかとバッグ】
【状態:両腕パワードスーツ全損、ラーニング(エルクゥ、(;゚皿゚)、魔弾の射手)】
セリオ
【持ち物:なし】
【状態:グリーン】
イルファ
【状態:せめて描写くらいしてください】
来栖川芹香
【持ち物:水晶玉、都合のいい支給品、うぐぅ、狐(首だけ)、蝙蝠の羽】
【状態:盲目】
【持ち霊:うぐぅ、あうー、珊瑚&瑠璃、みゅー、智代、幸村、弥生、祐介】
住井護
【状態:死亡】
春原陽平
【持ち物:なし】
【状態:妊娠(;゚皿゚)】
→382 435 531 ルートD-2
>>452,454-455,460-461,463-466の各氏、多謝〜♪
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|: :.:. : |ハ . !: ! : : : | .Lニニム /::::::ハ/:.:.:./ るーが埋めてやろう
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