葉鍵ロワイアル3作品投稿スレ7

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239一方、朗らか(1/4)
コン、コン。それはノック音。
扉の前で構えていた水瀬秋子に緊張が走る、突然の客人は自分達に危害を加えるものなのかどうか。

・・・コン、コン。もう一度響く。
秋子は手にしたジェリコ941を構え、今一度相手の出方を窺った。

ゲームに乗った者がこのような愚行を起こすわけはないと思う、これなら中にいる人間に自分の存在をアピールするようなものであるから。
だが、この家の中に人がいるかを確かめるためにやっているとしたら。
また、この行為で特に自分に影響が出ないような支給品を持っていたとしたら。

油断は禁物だった・・・が。

「すみません、誰かいませんかね」

声。扉越しのそれに、秋子は聞き覚えがあった。

「え?あら、あなたは・・・」
「その声!秋子さんですか?!」

急いで扉を開ける、そこから現れたのは見知った顔--------名雪や祐一の友人である、北川潤であった。

「よかった〜、何かあそこの窓から湯気が出てたんで、ここなら人がいると思ったんすよ!
 まさか秋子さんだったなんてね、自分の運気に惚れそうだぜっ」

明るい笑顔、知人が無事であったことに対し秋子も安堵の笑みを浮かべる

「上がってください、一人では大変でしたでしょう。ここには名雪もいますから安心してくださいね」

快く向かい入れた潤の存在に対し、秋子の中の警戒心は一気に消え去っていた。
240一方、朗らか(2/4):2006/12/05(火) 02:02:56 ID:wrWPAXiL0


「おおっと!何やら見知らぬ顔がちらほらといらっしゃいますが、秋子さん」

居間らしき部屋に通された潤の目の前には、三人の少年少女がいた。

「ふふっ、みんないい子ですよ」
「うーあき、この男はなんだ?」
「名雪のお友達です、仲良くしてあげてくださいね」
「・・・ふむ」
「どうもっす、僕は春原陽平っす」
「いやはや初めまして、北川潤と申しますよ」

おしゃべりな潤が加入したせいか、場の雰囲気はさらに明るくなったようだ。
そんな光景を微笑ましそうに見つめた後、秋子は一人寝室の方へ向う。
・・・いまだ目覚めぬ名雪の容態が気になった、このまま目覚めないのでは、という不安も消えなかった。
だが、そんな現状を潤は知らない。
秋子の姿が見えなくなると、彼はそのことを陽平らに聞いてみることにした。

「あの、水瀬はどこにいるの?秋子さんがここにいるって言ってたんだけど・・・」

しん、と。和やかな雰囲気が一変する。
言葉を濁すように黙る陽平、潤には訳が分からなかった。
くい、くいっとブレザーの端を引かれたので目を向けると、スケッチブックを手に上月澪が名雪の状態のことを説明してくれた。

「そっか、そんなことが・・・」
「きっと大丈夫だって!目が覚めたらさ、元気な姿見せてくれるよ」
「そうだな・・・そうだよな」

励ましてくれているのであろう陽平に笑みを返す、さて。
とりあえず夜の越せる安全な場所は手に入ったのだ、ここからどうするかを潤は考えねばならない。
241一方、朗らか(3/4):2006/12/05(火) 02:03:39 ID:wrWPAXiL0
(水瀬がどうなってるかで、変わるかな)

とりあえずは彼女の目覚めを待つ、それが潤の出した結論だった。




一方、寝室。
秋子はまだその中に、なかなか足を踏み込めないでいた。
不安。あれだけ取り乱していた名雪が、目覚めてもいつものあの子でいてくれるかどうか。
・・・万が一、消せない傷を負ってしまっていたとしたら。
心が痛む、守ってやれなかったことに対する悔いが消えることなんてない。
秋子が立ち往生していた時だった、部屋の中から小さな囁きが聞こえてきたのは。

『・・・おか・・・さん?』
「名雪っ」

声、聞き間違えるはずのない娘の声。
秋子は瞬時にドアノブを掴み、急いで扉を開けた。
そこには、上半身を起こしてこちらを見つめる名雪の姿があり。
駆け寄る、傍まで近づき様子を窺おうとする秋子に対し、名雪はゆっくりと笑顔を作るのだった。

「お母さん、どこ行ってたの?寂しかったよ〜」

朗らかな声だった。
近寄ってきた秋子の腰にぎゅっと抱きつき、名雪は甘えるように頭を摺り寄せる。

「な、ゆき・・・大丈夫なの?どこか、変だったりしない?」
「うーん、ちょっと肩が痛いかな。でも平気だよ、だってお母さんが手当てしてくれたんだもん」
「名雪・・・よかった、よかった・・・」
「え?お母さん??」
242一方、朗らか(4/4):2006/12/05(火) 02:04:29 ID:wrWPAXiL0
ぎゅっと抱きしめる。世界で一番大切な存在を、もう絶対離したりはしたくなかった。
いたいよ〜という、のんびりとした声が嬉しかった。
それでも腰にまわした手を離さない、甘えん坊な所が愛おしかった。
いつもの名雪がいつもの名雪でいてくれたことに対し、最大限の感謝をする。

「よかった、よかった・・・あなたが、あなたでいてくれて・・・」
「もう、お母さんってば・・・心配性だな〜」

名雪の言葉ごと包み込むように、秋子は一筋の涙を流しながら彼女を抱き続けるのだった。
243補足:2006/12/05(火) 02:05:08 ID:wrWPAXiL0
【時間:2日目午前1時】
【場所:F−02】

水瀬秋子
【所持品:IMI ジェリコ941(残弾14/14)、木彫りのヒトデ、包丁、スペツナズナイフ、殺虫剤、
 支給品一式×2】
【状態・状況:健康。主催者を倒す。ゲームに参加させられている子供たちを1人でも多く助けて守る。
 ゲームに乗った者を苦痛を味あわせた上で殺す】

春原陽平
【所持品:スタンガン・支給品一式】
【状態:普通】

ルーシー・マリア・ミソラ
【所持品:IMI マイクロUZI 残弾数(30/30)・予備カートリッジ(30発入×5)・支給品一式】
【状態:普通・疲労回復。服の着替え完了】

上月澪
【所持品:フライパン、スケッチブック、ほか支給品一式】
【状態・状況:普通・浩平やみさきたちを探す】

水瀬名雪
【持ち物:GPSレーダー、MP3再生機能付携帯電話(時限爆弾入り)
 赤いルージュ型拳銃 弾1発入り、青酸カリ入り青いマニキュア】
【状態:普通・肩に刺し傷(治療済み)】

北川潤
【持ち物:SPAS12ショットガン(8/8+予備4)防弾性割烹着&頭巾 九八式円匙(スコップ)他支給品一式、携帯電話、お米券×2 】
【状況:考え中】

(関連・500・502)(B−4ルート)
244虚 〜うつろ〜:2006/12/05(火) 08:33:57 ID:d2iD+2x9O
「太田さん、沙織ちゃん………瑠璃子さん………」
2度目の死者を発表する放送。それには瑠璃子さんたちの名前があった。
親戚の一人である源蔵さんの名もあった。
溢れだしてくる怒りで近くの壁を殴りそうになったが、なんとか耐えた。
怒りは次第に治まってきたが、その代わりとばかりに今度は虚無感が僕を満たしていった。

「長瀬さん…」
「祐介お兄ちゃん…」
一緒に放送を聞いていた初音ちゃんたちがそんな僕を心配そうに見つめる。
「――ごめん。大丈夫。大丈夫だから……」
口ではそう言ったが、実際は大丈夫な気分ではなかった。体にあまり力が入らない。
「――悪いけど、少し外に出てもいいかな? 外の空気が吸いたいんだ……」
そう言って僕は半勝手に家を出た。
初音ちゃんたちはそんな僕を止めなかった。多分気遣ってくれているんだと勝手に思う。


外に出た僕を迎えたのは辺りを包む妙な空気だった。
今は殺し合いの真っ最中だと嫌でも思い出させてくれる。

――少し歩いてみる。すると見覚えのある服を着た人を見つけた。僕の学校の女子制服を着た人だ。
いや――人というのは間違いだ。
だって『それ』はもう人ではなかったのだから。

「太田さん……」
かつて太田さんだったモノとその下に見知らぬ少年の亡骸があった。
2人とも銃で射たれて死んでいた。
さらにその近くには太田さんを殺した凶器と思われる弾切れのショットガンと太田さんたちのものであろうデイパックがふたつ落ちていた。
「………」
あまり墓荒らしみたいなことはしたくなかったが、今は少しでも役立ちそうなものが必要だ。だからデイパックとショットガンはもらっていくことにした。
弾切れの銃でも威嚇や鈍器の代わりくらいにはなるはずだ。それに、もしかしたらそのうち弾が手に入るかもしれないしね……
245虚 〜うつろ〜:2006/12/05(火) 08:36:58 ID:d2iD+2x9O
そうして僕はその場を去り、初音ちゃんたちが待つ家へ戻ることにした。もちろん去る前に太田さんと見知らぬその少年の冥福を祈るのも忘れない。

歩きながらふと空を見る。こっちは殺人ゲームの真っ只中だというのに空は何も知らずにいい天気――青い空であった。
――こういう日は高いところに行けば電波がよく集まるんだっけ?
でも、その電波を僕に教えてくれたあの人はもうこの世にはいない。
そういえば、さっきあのウサギがパソコンの画面に出てきて言ってたな、『優勝者はどんな願いもひとつ叶えられる』って………
それはつまり、死んだ人を生き返らせるのも可能なのだろうか?
ならいっそのことかつての自分――大量殺戮に憧れに近い妄想をしていたころの自分に戻って……狂気に溺れてゲームに乗ってしまっても……
いやいや。なにを考えているんだ。そんなことしたら初音ちゃんたちはどうなるんだ。
恐ろしい考えを全力で否定する。
―――結果、虚無感だけが残った。

「――ねえ、瑠璃子さん。僕はこれから先どうすればいいかな……?」

246虚 〜うつろ〜:2006/12/05(火) 08:37:42 ID:d2iD+2x9O
【時間:2日目・午前6:30】

 長瀬祐介
 【場所:I−5、6境界】
 【所持品1:ベネリM3(0/7)、100円ライター、折りたたみ傘、支給品一式】
 【所持品2:フライパン、懐中電灯、ロウソク×4、イボつき軍手、支給品一式】
 【状態:瑠璃子たちの死でやや自信喪失。少し惑いが生じている】

 宮沢有紀寧
 【場所:I−6上部】
 【所持品:スイッチ(5/6)、ゴルフクラブ、支給品一式】
 【状態:前腕軽傷(治療済み)、強い駒を隷属させる、祐介の帰りを待つ】

 柏木初音
 【場所:I−6上部】
 【所持品:鋸、支給品一式】
 【状態:祐介の帰りを待つ。目標は姉、耕一を探すこと】

【備考】
・祐介の他の荷物(コルト・パイソン(6/6)、予備弾×19、包帯、消毒液、支給品一式)はデイパックごと初音たちのいる家に置いてきている
・ベネリM3は貴明、北川の持つ散弾銃と同じ弾を使用する
247最期の想い:2006/12/05(火) 11:24:57 ID:IX7r53iT0
「確かこの林の中に置いたはずじゃ」
皐月達は幸村が隠したというアサルトライフルを回収しに海岸沿いまできていた。
彼女達には戦力が不足している。行動を起こすには強力な力が必要だった。

「それで、この林のどこらへんに置いたんや?」
「…すまんの、正確な場所までは覚えておらん」
「……は?」

絶句する一同。それも当然だ。
海岸沿いに木は延々と生い茂っており、手当たり次第探していては何時間かかるか分からない程の広さだ。

「それじゃ……どうするんや?」
「大丈夫じゃ、覚えてないといっても大体の目星はついとるのでな。ワシはそっちを探すから智子さんは……」

幸村は大まかな位置くらいなら覚えているらしく、ある程度探す範囲は絞れているとの事だった。
それでも捜索範囲は広く、固まったまま探すのはあまりに非効率的に思われた。
各々が探す範囲を指定され、素早く指定された場所へと散っていく。



「う〜、ここにも無いわね……」
普段からミステリ研活動に勤しんでいる笹森花梨にとって、探索は得意分野である。
事実彼女はホテル跡の時も念入りに隠されていた青い宝石と手記を見つけ出した。
だから彼女は、今回もうちが見つけたるんよ!と張り切って探し始めたのだが、無い物は無い。
自分の担当範囲をあらかた探し終えた彼女は、とうとう諦め座り込んだ。
ふと思い立ったように鞄の中から青い宝石を取り出し、手に取ってみる。
その宝石は木の間から降り注ぐ日光を受けて光り輝いている。
その輝きはまるでサファイアのようで、とても価値のある宝石である事は一目で見て取れる。

「綺麗な宝石……この宝石に何が隠されてるっていうの……?」
「――――それは鍵だよ。このゲームを、この計画を成功させる為のね」
「きゃっ!?」
248最期の想い:2006/12/05(火) 11:26:54 ID:IX7r53iT0

突然横から声を掛けられ、思わず驚きの叫び声を上げる。
振り向いた先には黒ずくめの少年―――まさしく「少年」その人が立っていた。
その手に持つグロック19の照準は正確に花梨の頭へと向けられている。

花梨は自身に向けられた銃口よりも寧ろ、こんな状況でも笑顔を絶やさない少年自身に対して強い恐怖を覚えていた。
手足を痺れさせる圧倒的な死の予感――――この場から一刻も早く逃げ出したい衝動に駆られる。
だが花梨が取った行動は恐怖による硬直でも逃走でもなかった。

「あ、あなたは……もしかして……前回参加してた少年っていう人……?」

直感的に抱いた疑問――それは殆ど確信に近い疑問だったが、とにかくその疑問をぶつける。
こんな状況にも関わらず訊かずにはいられなかったのだ。
すると少年は少し意外そうな顔をした。

「へえ、詳しいんだね。その宝石を隠した人がメモでも残してたのかな」
「やっぱりあなたが……?」
「そうだね。僕が前回のゲームに参加して……そして優勝した"少年"と呼ばれている人物だよ」
「やっぱり、あなたが……!」
「とにかくその宝石を渡してくれないかな?今回は十分にゲームは加速しているみたいだし、素直に渡せばここは見逃してあげるよ」

選択が突きつけられる。
花梨の直感は当たっていた。そしてその事を知った花梨の心に、強い怒りがこみ上げていた。
手帳の最後の部分は血痕が大量に付着していた。多分、もう助からないくらいの傷を負っていたのだろう。
苦みながら……そして、少年と主催者を憎みながらも執念で書き綴ったのだろう。
最期の力を振り絞って手帳を書いたであろう少女の気持ちを思い、花梨は憎しみを込めて少年を睨みつけた。
今は恐怖よりも怒りの方が勝っていた。だから花梨が迷う事は無い。花梨のその気持ちが口から漏れ始める。

「い………や……」
「え?」
「嫌!絶対にこれはあなたなんかに渡さないっ!」
249最期の想い:2006/12/05(火) 11:28:06 ID:IX7r53iT0
恐怖を押さえ込んで、精一杯の虚勢を張りそう宣言する。
ここでこの宝石を渡す事は、きっとその少女の気持ちを無駄にする事になるから。
無駄な抵抗である事は分かりきっていたが、それでも心だけは負けたくなかった。

「……出会ったばかりで随分と嫌われたものだね」

その台詞で最後。これ以上の問答を続ける必要も意味も無いと判断した少年は銃の引き金を引こうとした。
しかしその刹那近くで落ち葉を踏みしめる音が聞こえ、少年は即座にその場を飛び退いた。
次の瞬間には銃声が響き渡り少年がそれまで立っていた空間を鋭い銃弾が切り裂く。
間髪をおかずに捕縛用のネットが迫ってきていたので、少年は大きく後退した。

「花梨、大丈夫かいなっ!?」
「……やれやれ、面倒な事になったね」

花梨の元に走りよる少女が二人。
異変に気付いた智子と皐月が急いで駆けつけてきていた。
智子は険しい顔つきで拳銃を構えており、皐月も若干戸惑いを見せながらもバズーカ砲を構えている。
智子は少年を睨み付けながら怒鳴った。

「アンタ、一体何のつもりや!」
「何のつもりって、その子が持っている宝石を受け取りに来ただけだよ。それは絶対に必要なものだからね」
「智子さん、皐月!あいつがあの手帳の"少年"なんよ!」
「あの人が……」

それで皐月も智子も事情を飲み込んだ。
この少年こそがあの手帳の少年で、そしてこいつは青い宝石を取り返しにきたのだ。
ならばもう、今からやるべき事は一つだ。

智子の手から銃弾が放たれる。
既に少年は走り出しておりその弾は木の幹に穴を空けだけに過ぎなかった。
即座に少年は智子に向けて銃を構えるが、それより早く皐月によって捕縛用ネットが放たれ少年は回避を余儀なくされた。
250最期の想い:2006/12/05(火) 11:30:22 ID:IX7r53iT0
智子も皐月も発砲の反動ですぐには次の攻撃に移れない。
その隙を狙い少年が智子へ向けて発砲したが、花梨がすんでの所で智子の頭を抑えてしゃがみ込み銃弾は空を切った。
倒れ混んだ態勢から智子の銃が再び火を噴き少年のすぐ傍の地面を抉り取る。

この島で初めて出会ったとは思えない程見事な連携で智子達は少年を追い詰めていく。
少年は不利を悟ったのか素早く後退し始めた。
そのまま横に跳び、林の奥へと消えていく。

「今や、逃げるでっ!」
「え……、でもあの人もう逃げたんじゃ……」
「そんなワケないやろっ、早くするんや!」

智子にはどうしてもあの少年が大人しく引き下がるとは思えなかった。
粘りつくように重い、嫌な雰囲気を少年は纏っていた。
智子は少年が去った方向から視界を外さないまま花梨達の手を取り駆け出そうとし―――そして林の向こうに映る絶望的な光景を目撃した。
咄嗟の判断で皐月と花梨を突き飛ばし、その直後ダダダダダ……という音を聞いた。
一瞬遅れて体のあちこちに異様な感覚が訪れ、智子はその場に崩れ落ちた。

「ガッ―――――」
「いやあああっ!智子さんっ!」

皐月の悲痛な叫びがこだまする。
倒れ伏した智子の体からは夥しい量の血が流れており、助かる可能性はもはや皆無という他無かった。

「出来ればこっちの弾丸はこんな所で使いたくなかったんだけどね」

少年は事も無げにも無くそう放つ。
MG3―――弾丸のシャワーを吐き出す凶悪な火器を手にした少年が林の向こうから悠々と歩いてくる。
その銃口は皐月達をしっかりと捉えており、彼女達は身動き一つとれない。
少年はそのまま智子を抱きかかえる皐月に歩み寄り、彼女を蹴り飛ばした。バーズカ砲が皐月の手を離れ地面を転がる。

251最期の想い:2006/12/05(火) 11:31:33 ID:IX7r53iT0
花梨は皐月を抱き起こし、少年をキっと睨んだ。
少年はそれを一瞥すらせずMG3をバッグの中に戻し、智子の銃を拾い上げ花梨の額に銃口を突き付けた。
それでも花梨は目を閉じず、少年を睨みつけたままだった。
―――その時、林に叫び声が響き渡った。

「馬鹿な真似はよすんじゃっ!」

少年がその声に反応し顔を横へと振り向ける。花梨達もその視線を追い―――その視線の先には幸村が立っていた。
幸村はアサルトライフルを手にしていた。その表情は今まで花梨達が見た幸村の表情の中でも最も険しく、そして最も悲しそうだった。
その姿を確認すると、少年は深い溜息をついた。

「動いたら容赦無く撃たせてもらうからの」
「全く……どうしてみんな、僕の邪魔をするのかな」
「馬鹿もんっ!こんな下らないゲームに乗りおって……」

幸村は一喝するが、少年はまるで意に介さぬ様子で肩をすくめるばかり。
視線を少し横にやると、血まみれになって倒れている智子の姿が目に入った。
まだ息はあるかもしれないが、もう助かりそうにもない。

「何故じゃ?何故お前さんは平気でこんな事が出来る?」
「……平気で、とは心外だね。僕だってやりたくてこんな事をしてるわけじゃないよ」
「何よっ……。こんな酷い事しといて何言ってるのよ!」

少年の言葉は花梨の頭に血を昇らせるのに十分だった。
たった今仲間を撃たれたばかりの彼女にとって、言い訳をするような少年の言葉と態度は決して許せるものではない。
切迫している状況も忘れ、花梨は怒声をあげた。

「あんた一体何なんよ!どうしてこんな事するのよぉ!」
「それが僕の使命だからさ。僕は計画を成功させないといけない……これ以上犠牲者を出さない為にもね。
計画が成功するまでこの殺し合いは何度でも行なわれる。決して途切れる事の無い、螺旋のようにね」
「え……?」
「計画とは……一体何じゃ?」
252名無しさんだよもん:2006/12/05(火) 11:33:15 ID:DRxJkbYNO
自力回避
253名無しさんだよもん:2006/12/05(火) 11:35:40 ID:DRxJkbYNO
回避
254名無しさんだよもん:2006/12/05(火) 11:37:38 ID:DRxJkbYNO
回避
255名無しさんだよもん:2006/12/05(火) 11:38:35 ID:DRxJkbYNO
回避
256最期の想い:2006/12/05(火) 11:38:53 ID:IX7r53iT0
「君達には関係の無い話だよ。どうせ君達はここで――――」

少年がデイバッグを盾にするように構え、ゆっくりと銃を幸村の方へ向ける。
それを見た幸村は反射的にアサルトライフルの引き金を引き絞った。
弾丸はデイバッグに当たり――――カンカンカン…………という、何か硬い物に弾丸が弾かれる音がした。
衝撃でバランスを崩しながらも少年は銃を手放さない。

「死ぬんだからね」

態勢を立て直した少年はまだ事態を把握出来ていない幸村に向け、弾丸を一発だけ放った。
それで終わり。弾丸は正確に幸村の胸を貫き一瞬にしてその命を奪っていた。
遅れて少年のデイバッグが破れ、中身に入っていた物が地面に落ちた。
その中の一つの物を見て花梨と皐月は何が起こったかを把握した。
少年は鞄の中に入れておいた盾を頼りにして、アサルトライフルの銃弾を防いだのだと。

すすっと少年の銃口が移動し、花梨の頭に向けられる。
度重なる仲間の死に、あまりにもあっけない死に、遂に花梨はへたれ込んでいた。
その姿からは先程までの気丈さは微塵も感じられない。

皐月も動けない。今更何をしても死ぬ順番が入れ替わるだけだと分かっていたから。
その様はまるで死刑執行を待つ囚人のようで。皐月はただその時を待つ事しか出来ない。
だから少年による死刑の執行を妨げたのは、それ以外の人間――――既に刑の執行を受けた者だった。







保科智子は仲間を守れなかった事をずっと悔やんでいた。北川を疑った事をずっと悔やんでいた。
―――自分があの時エディを引き止めていればエディは死なずに済んだのではないか。
―――自分はあの時何の罪も無い北川を撃ってしまった。
257名無しさんだよもん:2006/12/05(火) 11:41:13 ID:DRxJkbYNO
回避
258最期の想い:2006/12/05(火) 11:42:02 ID:IX7r53iT0
結局智子の行動はずっと空回りし続けていただけだった。
だから今度こそは、絶対に仲間を守りたいと思っていた。判断を誤ることなく、仲間を集めたいと思っていた。
もう後者の願いが叶う事はないけれど………せめて皐月達だけでも守りたかった。
そんな彼女の想いが、既に動かぬ彼女の体に最後の原動力を与えていた。







「あああッ!」
「なっ……!?」

智子は最期の力を振り絞るように叫びながら上体を起こすと傍に落ちているバズーカ砲を拾い、少年に向かって放った。
この距離、このタイミングでは少年といえど回避行動を取る事が出来ず、ネットに捕らえられる他無かった。
ネットに絡め取られた勢いのまま茂みに向かって吹き飛ばされる。

「今やーーーっ!!皐月、花梨、逃げるんやーーーーーっ!」

それは、智子の命を燃やし尽くす最後の叫び。生命全てが籠もった叫び。
その叫びを聞いた皐月はすぐにぴろを鞄に入れ花梨の手を取って脇目も振らずに走り出していた。
それは何かを考えての行動ではなく殆ど本能的な行動だった。
智子の叫びが、想いが、皐月の体を突き動かしていた。




少年がようやくネットから抜け出た頃には辺りにはもう誰もいなかった。
目線を下へやると智子が目を見開いたまま事切れている。
その命を燃やし尽くした時の表情のまま、智子は固まっていた。
あれだけの傷を負ってなお自分に不覚を取らせた少女。
259最期の想い:2006/12/05(火) 11:43:25 ID:IX7r53iT0
彼女は仲間を守るために死の淵から一瞬だけ舞い戻ってきたのだ。

少年はその目蓋を閉じさせてやろうか迷ったが―――自分にはそんな資格は無い事に気付いて止めた。
【場所:c-2】
【時間:2日目09:00頃】
少年
【持ち物1:強化プラスチックの大盾(機動隊仕様)、38口径ダブルアクション式拳銃(残弾2/10)】
【持ち物2:智子の支給品一式、ステアーAUG(22/30)、グロック19(15/15)・予備弾丸11発。】
【状況:健康】

幸村俊夫
【所持品:ヌンチャク(金属性)、支給品一式】
【状態:死亡】
保科智子
【所持品:専用バズーカ砲&捕縛用ネット弾、予備弾薬69発ホローポイント弾11発使用、このみの支給品一式】
【状態:死亡】

笹森花梨
【持ち物:特殊警棒、海岸で拾ったピンクの貝殻(綺麗)、青い宝石、手帳、エディの支給品一式】
【状態:逃亡、精神状態不明】
湯浅皐月
【所持品:セイカクハンテンダケ(×1個&4分の3個)、支給品一式】
【状態:逃亡、精神状態不明】
ぴろ
【状態:皐月の鞄の中にいる】

【関連】
B−13
→476
→492
※少年の支給品一式、レーション3つ、注射器(H173)×19、MG3(残り13発)は大破
※智子と幸村の死体と所持品はその場に放置
260刻をこえて:2006/12/05(火) 15:28:14 ID:XVjlN2o60
「くそ、離せ……! 離せよ!」

藤田浩之は必死に暴れてみせるが、しかし鬼の太く硬い腕はその身体をがっちりと抱き締めたまま、
こ揺るぎもしない。

「あそこにはまだ川名たちが残ってるんだぞ!」
「タカユキ……今度コソ、護ル……!」

浩之の言葉を聞いているのかどうか、自らに言い聞かせるように呟く柳川の声には確かな決意が宿っていた。
鬼に自分を解放する意思がないことを悟り、浩之は唇を噛みしめる。
遠ざかっていく白い巨像の影を、せめて記憶に焼き付けようと目を凝らす浩之。
木々の切れ間に垣間見えるそれは、この歪んだゲームに翻弄される者たちの見る悪夢の具現の如く、
或いは浄罪の為に地を焼き払う告死の天使のように美しく、禍々しく、殺戮の島にその威容を晒している。

「川名、深山、るーこ……無事に逃げ延びてくれよ……!」

ルーシー・マリア・ミソラが名無しの少年もろともに叩き潰されたことを、浩之はまだ知らない。


******


深山雪見はその厳しい視線を白い巨像へと向けながら、梢の陰に身を潜めている。
その手には、いまだ意識の戻らぬ川名みさきのぐったりとした体を抱えていた。

(これじゃ戦いようがない……か)

燃えるような憤怒をその瞳に浮かべ、雪見は奥歯を噛み締める。
あの巨像は、るーこをその手にかけた。一瞬たりとも生かしておきたくはない。
しかし、

(今は、みさきを安全な場所に移す方が先……!)
261刻をこえて:2006/12/05(火) 15:29:35 ID:XVjlN2o60
腕の中で力なく横たわる親友の体温を感じながら、雪見は今にも怒りに任せて飛び出そうとする
己の身体を、強引に抑え込む。
決然と顔を上げ、巨像から死角となる木々の間を縫うように走り出す。

(るーこ……あんたの仇は絶対に取ってあげるからね……!)

黄金の名を背負う少女は、再戦への誓いを胸に刻んで疾走している。


******


「ど、どうすんのよ!?」

天沢郁未は動転している。
何か巨大な気配が落下してくることは感知していたが、まさか女性型の巨大ロボなどという物理的に巨大、
かつ非常識を遥かに通り越して不条理ですらある代物が降ってくるとは思ってもいなかった。
傍らで鉈を構える長髪の少女、鹿沼葉子が少なくとも表面上は冷静な口調で答える。

「……重要アイテム入手を目前に登場した謎の巨大人型兵器、ですか。
 見事倒してキャラを立てるには、実においしい相手と言えますね……」
「いや、倒せれば、ね!? さっきの鬼なんかよりよっぽどヤバそうじゃない!」

四階建ての建築物にも匹敵しようかというその巨像を見上げ、郁未は叫んだ。
雷光のような速度で落下し、その質量で大地をクレーター状に陥没させておきながら、巨像は損傷した風もなく
立ち上がり、少女を叩き潰したその手を眺めるようにしている。

「……郁未さん」
「よしきた逃げましょう!」

臆面も無く言い放つ郁未。しかし葉子の返答は鈍い。
262刻をこえて:2006/12/05(火) 15:30:21 ID:XVjlN2o60
「……いえ」
「何よ!? グズグズしてるんなら置いてくわよ!
 あんなのと関わってたら命が幾つあったって足りないわ!」
「それが……」
「実際、私たちより強い不可視の力を持ってたハズのあいつだってやられたじゃない!」
「……その通りです」
「だったら!」

答える代わりに、葉子はその白く長い指を伸ばしてみせた。
つられてその指の先に視線をやる郁未。

「……え」
「……どうやら私たちは、機を逸したようです」

郁未の視界が捉えていたのは、自分たちの方をじっと見下ろしている、白い巨像の美しい顔であった。
巨像の腕が、ゆっくりと振り上げられる。
五指をいっぱいに開いて、風を巻く轟音と共にその手が落ちてきた。

「……うぉわぁっ!?」

慌てて飛び退いたその場所に、一瞬遅れて巨像の手が叩きこまれ、文字通り大地を震わせた。
郁未たちを捉えそこねたその掌が、ず、と音を立てて引き抜かれていく。
巨大な手形が残るその地面を見て、郁未の血の気が引いた。

「冗談じゃないわよ……」
「ですが、向こうに逃がしてくれる気は無さそうですね」
「って……またっ!」

轟、の一字を伴って、巨像の手が、今度は横殴りに襲いかかる。
全力で地面を蹴り、どうにか回避する二人。
巨像の手に巻き込まれ、決して細くない木々が数本まとめて薙ぎ倒されていく。
263刻をこえて:2006/12/05(火) 15:31:07 ID:XVjlN2o60
「やるしか……ないっての!?」
「いささか無謀ですが……そのようです」
「冷静ね……」
「いえ、こんぼうとぬののふくを装備して街を出たら、いきなりしにがみのきしに遭ったような気分です」
「どういう意味だか、訊いてもいい?」
「絶望的、ということです」
「……聞かなきゃよかった」
「でしょうね」

じっとりと汗をかいた手で薙刀を握り締め、焦燥にざわめく精神を必死に抑えて不可視の力を練り上げながら、
郁未と葉子は次なる一撃に備える。


******


『にはは……手、真っ赤』

大地から引き抜いた自らの手を眺めて、観鈴が疲れたように笑う。
一度握って開けば、少女の血肉がねちゃりと糸を引くように感じられた。

「ボーっとしとったらあかんで、観鈴!」

晴子の声に、観鈴はゆっくりと辺りを見回す。
気がつけば、まだ大勢いたはずの人影は既に三々五々、散っている。
その場に残っていたのは、刃物を構えた少女が二人だけだった。

「ちッ、ちょこまかと逃げ回りよってからに……!
 ま、ええ。観鈴、まずはあいつらを殺るで! 残りはその後で追っかけて殺せばええわ!」
『にはは……』

晴子の言葉に、観鈴は小さく笑うことで答える。
264名無しさんだよもん:2006/12/05(火) 15:33:58 ID:U5knYt6A0
回避
265名無しさんだよもん:2006/12/05(火) 15:35:35 ID:U5knYt6A0
回避
266名無しさんだよもん:2006/12/05(火) 15:36:34 ID:U5knYt6A0
回避
267名無しさんだよもん:2006/12/05(火) 15:50:38 ID:OWNaQ+YAO
回避手伝い
268名無しさんだよもん:2006/12/05(火) 15:54:00 ID:OWNaQ+YAO
まだダメなのかな?回避
269刻をこえて:2006/12/05(火) 16:03:25 ID:XVjlN2o60
少女たちを見下ろして、何も考えないようにしながらゆっくりと手を振り上げる観鈴。
羽虫を叩くように、掌で押し潰そうという動きだった。
使うのは、先程の少女の血に塗れた左手ではなく、石像を砕いた右手。
握った左手の中で、少女の血がその粘り気を増しているような気がしていた。
叩き潰さんとする少女たちを視界に入れないように、目を逸らしながら振りおろされた手は、
あっさりと回避されていた。

「何やっとんねん観鈴! ちゃんと狙わんかい!」

晴子の檄が飛ぶ。
振りおろした手をそのままに、今度は消しゴムのカスを払うような仕草で大地を薙ぐ観鈴。
これも、少女たちにはかわされる。
ろくに目標を見ないまま繰り出された攻撃である、回避されるのも当然といえば当然ではあったが、
それにしても少女たちの動きは常人離れしていた。

「ふん、ちびっこくてもバケモンはバケモン、ちゅうわけかい……構へんわ、こっちは無敵の観鈴ロボや」

篭ったような晴子の声を聞きながら、観鈴は心中で深く溜息をつく。
と、それまで回避一辺倒だった少女たちの動きが、変化を見せた。
手にした刃物を構えて、観鈴の足元へと突っ込んできたのである。

『わ……』

銃弾を軽々と弾き返す表面装甲が小さな刃物でどうにかなるとも思えなかったが、それでも
攻撃される、という感覚は恐怖の対象である。
むき出しの敵意に、思わず観鈴の身が竦む。一歩、二歩と下がった足が、倒木を踏みしだいた。
それで更にバランスを崩し、観鈴は大きく手を振り回しながら後傾姿勢を維持しようとするが、
それも叶わない。尻餅をつくような格好で倒れこんでしまう。
その拍子にはね上げられた脚が、巨大なギロチンの如く落ち、大地を裂いた。土埃と飛礫が舞い上がる。
突撃の体勢だった少女たちは、予期せぬ頭上からの打撃に、慌てて軌道を変え飛び退いていた。
270刻をこえて:2006/12/05(火) 16:04:19 ID:XVjlN2o60
「……観鈴ぅ……」
『にはは……失敗』
「……いや、そうとも言えんで。あれ見ぃや」

晴子がニタリと笑う。
見れば左右に飛んだ内の一人、薙刀を持った方の少女が倒れこんでおり、いまだ立ち上がれずにいるようだった。
腹の辺りを押さえて苦しそうな表情を浮かべている。
どうやら吹き飛ばした砂礫の一つに直撃を受けたらしい。
深刻なダメージというほどではないようだったが、ほんの数瞬であってもこの近距離で
動きを止めるのは致命傷といえた。

「蹴散らせ、観鈴!」

晴子の声が、高らかに少女の死刑を宣告する。
尻餅をついた姿勢のまま、観鈴が左足を地面に擦り付けるようにしながら広げていく。
鉈を持つ少女が駆け寄ろうとするが、間に合わない。
膨大な土砂と倒木の津波が、少女を飲み込むかと見えた、そのとき。

闇を裂くように、或いは夜が形を成したように。
音も無く舞い降りた黒い壁が、少女を護るかの如く、その寸前で暴力的な質量を遮断していた。
高い音を立てて、観鈴の脚が弾かれる。

『痛っ……』
「何や!?」

壁と見えたそれは悠然と身を起こすと、その背から、周囲を覆わんとするかのように闇を拡げた。
それは漆黒の翼であった。
夜の森に偏在する暗黒よりも更に昏く静かに翼を広げ、それは顔を上げる。

「く、黒い……ロボ、やと!?」

白と黒の巨像が、夜陰の支配する森の中で、向かい合っていた。
271刻をこえて:2006/12/05(火) 16:06:33 ID:XVjlN2o60
【時間:2日目午前2時過ぎ】
【場所:G−6】

 神尾晴子
【持ち物:M16】
【状況:優勝へ】
 アヴ・ウルトリィ=ミスズ 
【状況:契約者に操縦系統委任、一部兵装凍結/それでも、お母さんと一緒】
 天沢郁未
【所持品:薙刀】
【状態:九死に一生】
 鹿沼葉子
【所持品:鉈】
【状態:窮地】
 柳川祐也
【持ち物:俺の大切なタカユキ】
【状態:逃亡、最後はどうか、幸せな記憶を(鬼)】
 藤田浩之
【所持品:無し】
【状態:慙愧(鳳凰星座の青銅聖闘士)】
 深山雪見
【所持品:みさき】
【状態:逃亡、決意(牡牛座の黄金聖闘士)】
 川名みさき
【所持品:無し】
【状態:意識不明(女神)】
 柚原春夏
 アヴ・カミュ
【所持品:おたま】
【状態:健康】
→508,514 ルートD-2
>>264-268 規制待ってる間にリアルでトラブってました…ありがとう&すみません。
272情報を求めて:2006/12/06(水) 00:39:05 ID:ul6IZdh/0
ホテル跡を出発する前に割烹着を着た北川潤、広瀬真希、遠野美凪の三人組みは花を摘んでいた、今はこの世にいない二人の墓に供えるために
先に出発していた皐月達も同じ事をしていたのか二つの墓の前に申し分程度の花が供えられていた
何を言うわけでもなく自分達の摘んだ花を供え墓に黙祷する三人、
「言ってくるよ、柚原…エディさん」
合った事も無いエディはともかく柚原このみはここに居る三人しか死の瞬間を見ていない、それぞれが思い思いに胸を募らせる…。
そう言うと北川と真希は墓の近くの地面に突き刺してある(このみを弔った時に使った)スコップを地面より引き抜き三人はこの地を出て行く…。

「でっ…あたしたちの家政夫さん…何処行くの?」
ホテルを出て数十分後、荷物を北川に持たせ手ぶらならぬ肩ぶらでスコップ片手の真希が今後の方針に付いて聞く
「昨日ホテルを寝床に選んだわけは、どっちの村に行ける様にという意味でもだったんだけど…
 いろいろな事があったからな、当初の通り平瀬村に向かうよ。」
『してその訳は?』と美凪が聞きたそうだ、それを感じたのか北川は続けて話す
「ここからだと氷川村は平瀬村より少し遠い…それに」
そういいつつ北川はポケットの中からごそごそと地図を取り出し開ける、地図には色々と書き込まれている、それを覗く真希と美凪
273名無しさんだよもん:2006/12/06(水) 00:40:36 ID:ul6IZdh/0
「昨日、笹森の手に入れた手帳の中身を読ませてもらったんだけどな…色んなことが書いてあったんだ。」
柚原このみの生前、保科智子と今後の方針について打ち合わせした時に見せてもらった前回参加者の手帳の事だと二人は察した
「この島にはイチ一人の前参加者の手帳しか残っていないとも言い切れないと思うんだ…。」
今回の参加者は120人、前回の参加者が総勢何人かは解からないが他の前参加者が何か手がかりを残していないとも限らない

「上手くいけば情報は元より、捨てていった武器か何か手に入るかもしれない。」
順序だてて計画を語る北川、昨日の間に行動した成果でもあった。
「手帳書いた人物によると、あのホテルに着く前に近くの平瀬村のある場所に滞在してたらしい…その時は仲間付きで。」
手帳を書いた女性は3日目には一人でホテル跡に滞在していた…つまり何かあったのだろう。
「…つまり、手がかりが何かあると言うことですか?」
地図を見つつ北川に聞く美凪
「だといいんだけどなぁ…結局のところ前回参加者が存在してた情報は保科達とオレ達しか知らないし」
自分達にしか出来ないことをやりたい…北川はそう感じていた。
「頼りが有るんだか無いんだか…。」
やれやれと相槌を打つ真希、べつに悪気は無い
274名無しさんだよもん:2006/12/06(水) 00:41:55 ID:ul6IZdh/0
「だけどオレ達と保科達しか知らない情報って、ある意味収穫なんだ…参加者全員にもらえる情報は【地図】と【参加者名簿】ぐらいだし。」
【定時放送】も付け加えたかったが、それは生きていたらの話…止めておく北川。
「まっ…あたし達がこれから行く場所に収穫が無くても智子達には確実に収穫があるからね」
皐月達が取りに行ったアサルトライフルは隠した幸村しか場所は知らない、つまり他の参加者が見つける可能性は低い、そう考える真希
「そういう事だな、こっちが駄目でも湯浅達があるしな」
気軽に考える北川、昨日北川達がホテル来る前にエディの件があったが、少なくとも皐月と智子は呼吸が合っていた…そう思い出す北川
「じゃあ、あたし達はあたし達でやるべきことをやろう。」
上手く話を〆る真希、こっちはこっちで息が合ってるようだった………。


「………ところで真希さん美凪さん。」
何かを気付いたように、北川がジト目で真希と美凪の二人を見る
275名無しさんだよもん:2006/12/06(水) 00:43:21 ID:ul6IZdh/0
なにかしら北川君♪」
「………何でしょう北川さん?」
真希と美凪は口裏を合わせるかの様に北川に返答する…。
「………御姑さん方の…お荷物…昨日より…格段に、重たいんですが…。」
三人の荷物はおにぎりが増えたといえ最初の支給品を渡された重さと然程変わらないはずである
…しかし昨日より2倍くらい重さが増えているのである
「はぁ…アンタ等…ホテルでなぁ〜にパクってきたんだよ…。」
「おほほほほっ♪」
「…ぽっ」
ため息を付く北川、手の甲を口に当て貴婦人笑いして誤魔化す真希、頬に手を当て顔を赤らめる美凪
「どうせ、剃刀とかバスタオルとか気に入った銀のスプーンとかその他諸々見繕ったんだろ…」
「あはははっあんただって諦め切れずにワインとキャビアをパクってるじゃない。」
「ここのホテルは良い調味料を使ってました…エッヘン」
考えることは同じらしい割烹着三人組み、田舎モノ丸出しだ
「とりあえず…村に着いたら、荷物の整理な…。」
「…ワインを飲んで整理しないでほしいで賞」
「………しくしく」

こうして彼らは前回参加者が居たと言う平瀬村のとある場所へと出発することになった
北川は知らないが、生前エディが一番欲しがっていたのは【情報】だった、確かな情報は一番の武器になる
出合うことがなかったエディと北川だったが、エディの意思は北川が受け継いでいたのだった。
276名無しさんだよもん:2006/12/06(水) 00:44:28 ID:6v9V2KAB0
回避
277名無しさんだよもん:2006/12/06(水) 00:44:37 ID:ul6IZdh/0
【場所:F−4】
【時間:2日目07:00頃】
北川潤
【持ち物@:防弾性割烹着&頭巾、SPAS12ショットガン8/8発+予備弾薬8発】
【持ち物A:剣先スコップ、支給品一式、おにぎり1食分 ワイン&キャビア】
【状況:首輪の情報を探して前回参加者が滞在していた平瀬村へ】

広瀬真希
【持ち物:スコップ、防弾性割烹着&頭巾、支給品一式、おにぎり1食分、携帯電話、お米券】
【持ち物A:ホテルにあった様々なもの(剃刀、タオル、食器、調味料、救急箱、その他諸々)】
【状況:同上】

遠野美凪
【持ち物:包丁、防弾性割烹着&頭巾、支給品一式、おにぎり1食分、お米券数十枚】
【状況:同上】

【関連】:B−13 492
278名無しさんだよもん:2006/12/06(水) 00:47:41 ID:ul6IZdh/0
>>276
感謝
279希望と絶望と(前編):2006/12/06(水) 01:02:38 ID:6v9V2KAB0
「浩之君、足の調子はどうかな?」
「ん……」
みさきに言われて浩之は確かめるようにその場で足踏みしてみた。
痛みは無い。全力疾走でもしない限りは平気そうだった。
「大丈夫だ、痛みは引いてるよ。歩く分には問題無さそうだ」
「良かった……」
その言葉にみさきは心底安堵した。それは瑠璃や珊瑚も同じだった。
しかしやがて浩之は考え込むような表情になった。
その様子を心配した瑠璃が声を掛ける。
「浩之どうしたん?本当はまだ足痛むんか?」
「いや、それは大丈夫だ。ただ……主催者と戦うって言っても実際どうすれば良いのかなって思ってな」
「それはさんちゃんがパソコンを使ってきっと……」
「無理や……」
「え?」
一同は珊瑚の強い否定の言葉に驚き、彼女に視線を集中させた。
だが浩之達が見たものは言葉とは裏腹に笑顔を浮かべたまま口の前で人差し指を立てている珊瑚だった。

「珊瑚?何を……?」
「そんなん無理や。ロボットを作るのとはワケが違うわ」
浩之達は怪訝な表情をしながら問いかけるが、珊瑚は否定の言葉を続ける。
彼女は微笑みを浮かべたままバッグから地図を取り出しその裏にペンを走らせた。
【方法はあるよ。だけど盗聴されてるから口には出せないねん】
「ええっ!?」
浩之は思わず驚きの声をあげてしまった。
珊瑚は慌てて再び人差し指を口にあてた。
浩之がしまったという顔をしながら口を閉じる。
「そんな驚く事でもないやん……無理なもんは無理や」
【みさきの首輪を今朝寝てる振りして調べたけど、小さい穴がいくつかついとった。多分盗聴用や。
レンズはついとらんかったから、盗撮はされてへんと思う。
せやから少しの間、上手く話を合わせて欲しいねん。本命の話は筆談でするからな】
珊瑚はその事を書き終えるとみさきに近付いて、彼女の耳元で小声でボソボソと2,3言囁いた。
みさきもそれで事情を了承して表情を緩めていた。
280希望と絶望と(前編):2006/12/06(水) 01:05:27 ID:6v9V2KAB0

「だから何とかして別の案を考えないとあかん……」
「そうか……」
【簡潔に説明すると流れはこうやで。まずは首輪の解除に使う工具を確保する。次にパソコンで主催者の情報を引き出す。
出来ればこの時に連中のセキュリティーシステムも無効化しときたいな……。最後に脱出するか、主催者と対決やな】
それを見た浩之は目を丸くしている。トントン拍子で話が進みすぎてまだ現実味が感じられないのだ。
彼もまた鞄からペンと地図を取り出し、文字を書き始めた。
【珊瑚は首輪を解除出来るのか?パソコンで主催者の情報を調べるなんてどうやってやるんだ?】
【うん、首輪の解除はよっぽど複雑な仕組みになってない限り工具があれば出来ると思う。
パソコンは正直まだ分からへん……島内部にだけでもアクセス出来るようなネット環境が無いとアウトや。
アクセス出来たとしても連中のセキュリティーシステムを無効化出来るかは分からへん……】

フェイクの会話を交わしつつ浩之と珊瑚は交互にペンを走らせる。
瑠璃はその様子を見守っており、書いている内容が分からないみさきはただじっと待っていた。
【パソコンに関してはやってみないと分からないって事か】
【そういう事やね。だからまずは村に行って工具とパソコンを探そうと思うんよ。出来れば信頼出来る知り合いも探したいな。
とにかく細かい作戦を決めるのはパソコンを調べてみてからやね】
「まずは仲間を集めるしか無いんじゃねえかな。正直俺達だけじゃどうしようもないしな」
「でもあんまり簡単に人を信用し過ぎると寝首をかかれかねへんよ」
「うーん、難しいな……。となるとまずは信用出来る知り合いを探すべきか」

【分かった。他に何かあるか?】
【あらへんよ。筆談はこれで終わるけど、工具を探してる事と盗聴に気付いてる事は口に出さんといてな】
浩之は親指を立ててみせた後、ペンと地図をバッグの中に仕舞った。
珊瑚も同じようにバッグの中に筆記用具を仕舞い、そしてみさきにまた耳打ちし大体の事情を説明した。
「じゃあまずは平瀬村へ行かへん?」
「え……でもそれって危ないんじゃ……」
瑠璃の提案に対してみさきが不安そうに呟く。
だが瑠璃は大きく首を振り、珊瑚の持つレーダーを指差した(尤も目が見えないみさきにはこの動作は分からなかったが)。
281希望と絶望と(前編):2006/12/06(水) 01:07:57 ID:6v9V2KAB0
「さんちゃんのレーダーで周りを常に警戒して、人が近付いてきたら隠れて様子を見よ。
それで知り合いやったら声を掛けて、知らない人やったらそのままやり過ごせば大丈夫やって」
「そうだな……、悩んでても始まらないしな。よし、みんな行こうぜ!」


今後の方針が決まった彼らは再び歩き出した。
放送直後は重苦しい雰囲気からは一転して、希望が見えてきた彼らの足取りは軽い。
レーダーがある以上周りを過度に気にする必要も無い。
彼らは歩きながらも会話を続けていた。
「それで浩之は誰を探すつもりなん?」
「そうだな………神岸あかり、佐藤雅史、長岡志保……それから来栖川綾香だな。
特に綾香は強力な戦力になるから何とか合流したい」
勿論あかりや雅史の事も心配だったし出来れば見つけて守りたい。
だが今は何よりも主催者を倒す為に戦力が必要だった。
「へ〜、その綾香さんって凄い人なん?」
「ああ。綾香はエクストリームチャンピオンの全日本チャンピオンで、俺が知ってる限りでは一番運動神経が良い。
こんな糞ゲームに乗るような奴じゃないし、信頼出来る」
そう。綾香は気の強い女の子だが、その一方で姉や葵の事を気にかける優しさも持っている。
何より綾香は自分より何倍も精神的にタフだ。そんな彼女がこんなゲームに乗るとは到底考えられない。
ただ不安要素があるとすれば―――芹香の死だ。姉の死が綾香に与えた影響がどれ程のものか、浩之には想像も出来なかった。

「みさきは?」
「えーと、私はね……」
「あっ!?」
みさきが喋ろうとしたが、それはレーダーと睨めっこしていた珊瑚の叫び声で阻まれた。
レーダーに自分達以外の光点が一つ映っていた。
その光点はどうやら自分達がいる方向に向かってきているようだった。
「誰かが近付いてきてる!川名、こっちだっ!」
浩之は慌ててみさきの手を引っ張り近くの茂みの奥へと身を潜める。
瑠璃達もすぐその後に続いた。
ごくりと唾を飲み込みながらレーダーと、レーダーに映っている光点が来るであろう方向を交互に窺う。
否が応にも皆の緊張が高まってくる。やってくるのは知り合いかもしれない。
282希望と絶望と(前編):2006/12/06(水) 01:09:36 ID:6v9V2KAB0
しかし、マーダーである可能性も十分に考えられる。
気付かれずにやり過ごせれば良いが、発見されてしまう可能性も0とは言い切れなかった。
やがて、その光点の人物が向こうの方から歩いてきた。
その人物を確認した瞬間浩之は緊張から解放され、その人物に向かって走り寄っていた。
「綾香っ!俺だ!」
「え、浩之……?」

その人物―――来栖川綾香はきょとんとした顔で浩之の方へと振り返っていた。
すぐに浩之は彼女の近くまで辿り着き、息を整えてから話し出した。
「全く、とんでもない事になったよな……。でも、お前だけでも無事で良かったよ」
「とーぜんでしょ。私はそう簡単にやられたりなんかしないわ。あなたこそよく無事だったわね」
「まあな。色々と大変だったけどな」
「それはお互い様よ……。ほら」
そう言って綾香は左腕の袖を捲ってみせた。
その肩には包帯が巻かれており、一目見ただけでも傷は浅くない事が分かった。
「お、お前大丈夫なのか?」
「平気よ、これくらい。私には良いハンデだわ」
綾香は手を振りながら笑顔でそう答えていた。
その笑顔を見た浩之はホッとしたような表情になった。
彼女はやっぱり、いつもの綾香だ。まだ芹香の死を報せる放送からはそれ程たっていない。
にも関わらずいつも通りの振る舞いを見せる綾香に、心底安堵を覚えた。

――――だがその浩之の安堵はすぐに打ち砕かれる事になる。

「浩之ーっ、その子が綾香さんなん?」
「もー浩之、ちゃんと説明してから飛び出さなあかんで」
茂みの方から瑠璃達が歩いてきていた。
浩之と綾香の様子から、敵では無いと判断したのだろう。
「わりぃわりぃ。やっと知り合いを見つけれて、嬉しくてついな」
浩之は瑠璃達の方を向き、頭を掻きながら笑顔で謝罪する。
しかしその時、後ろでガチャリという音がした。
途端に、瑠璃達の表情が恐怖と驚愕のそれに変わった。
283希望と絶望と(前編):2006/12/06(水) 01:12:22 ID:6v9V2KAB0

不審に思い綾香の方へ視線を戻すと、そこにいたのは先程までの彼女では無かった。
浩之が目にしたのは―――殺気に満ちた目で銃を構える殺戮者の姿だった。

「お、おい綾香、何やってんだよ!?この子達は俺の仲間だぞ!」
「だから?そんなの関係無いわよ」
「お、お前もしかしてゲームに……」
「ええ、私はゲームに乗ってるわよ。貴方も殺されたくなかったら大人しくしときなさい」
放送に続いて、信じたくない現実をまたも突きつけられる。浩之の顔に絶望の色が浮かんだ。
綾香は威圧するような視線を瑠璃と珊瑚に投げかける。
「そこのあんた達、死にたくなかったら質問に答えなさい。まーりゃんという人物に心当たりはない?」
「……知らへんわ」
瑠璃が首を振る。
同じ問いかけを珊瑚や浩之、みさきにも行なったが結果は一緒だった。

「そう。ったくどいつもこいつも知らない知らないって……あの女、よっぽど影が薄かったのかしら。
ま、仕方ないわ。じゃあ久寿川ささらは知ってる?」
「確か……うちの学校の生徒会長さんやったと思う」
「知り合い?」
「いや、名前を知ってるだけやで…」
ちっ、と綾香が舌打ちする。久寿川ささらの役職などには興味が無い。
もしかしたらまーりゃんという人物は生徒会関係の人間なのかもしれないが、その情報に何の意味がある。
瑠璃達の様子に嘘や偽りは感じられない。とすれば彼女達は自分の復讐すべき標的ではない。
本音を言えばまーりゃんと同じ学校というだけでも排除したかったが、今は浩之がいる。
まーりゃんと同じ学校とは言え浩之を自分の手で殺すのは流石に躊躇いを覚える。
無理に攻撃を仕掛ける事も無いだろうと、綾香は判断した。
「じゃあ最後に……あんた達の武器をよこしなさい。断ったら……分かるわよね?」
レーダーを失うのは痛手だったが、命には代えられない。
浩之達は渋々レーダーと携帯型レーザー誘導装置、それぞれの説明書を綾香に投げ渡した。
「これは……レーダーか。これであの女を探しやすくなるわね……。
じゃあ収穫もあった事だし、あんた達は見逃してあげる。せいぜい長生きしなさい、じゃあね」
綾香はバッグに奪い取った荷物を放り込んだ。
284名無しさんだよもん:2006/12/06(水) 01:14:22 ID:fzmuhgLQO
回避
285名無しさんだよもん:2006/12/06(水) 01:15:47 ID:fzmuhgLQO
回避
286希望と絶望と(前編):2006/12/06(水) 01:16:06 ID:6v9V2KAB0
また一つ怨敵を探し出す足掛かりを得た綾香は上機嫌でその場を後にしようとしていた。
しかしその背中に声が掛けられた。
「ま、待ってくれよ!」
「あら……まだ何か用かしら?」
立ち去ろうとした矢先に浩之に呼び止められ、立ち止まる。
浩之は必死の形相で綾香の方を見ていた。

「なんで……なんでお前、こんなゲームに乗っちまったんだよ?先輩が死んだからか?」
「違うわよ。姉さんが死んだのは悲しかったけど、私はもっと前からゲームに乗っていたわ」
「何でだよっ!?」
「……そっか、これはあんた達にも関係のある事だったわね」
綾香はくすりと笑った。浩之はその笑みをみて、背筋がぞくりとするような感覚を覚えた。
「巳間晴香って知ってるでしょ?その子が殺されたのよ、まーりゃんって奴に、惨たらしくね」
「は、晴香が……」
巳間晴香の死は既に知っていたが、改めて聞かされるとやはり多少のショックを受ける。
だが、次の言葉はその何十倍ものショックを浩之達に与える事になる。

「それで雪見って分かるでしょ、あんた達と一緒に行動してたらしい深山雪見よ。
彼女はまーりゃんにハメられて私と晴香に襲い掛かってきたのよ。
私は雪見に撃たれた晴香を守る為に、雪見と戦ったわ。必死に戦った末に雪見を殺してしまった。
そして急いで晴香の治療をしようとしたら、もう晴香はまーりゃんに殺された後だったのよっ!」
「そ、そんな……」
「雪ちゃんが……」
「だから私はまーりゃんを殺してやるのよっ!絶対に許さない……これ以上無いくらい苦しめて殺してやるっ!
アイツの知り合いも殺すっ!殺した奴らの死体の一部を持っていって、アイツに突きつけてるのよ。
あのクソガキがどんな反応をするか、今から楽しみだわ」

浩之は言葉が出なかった。かつて浩之と仲間を共にした―――そしてみさきの親友である深山雪見のあまりにも報われない死に様。
そして綾香が剥き出しにした狂気。目の前の光景が現実だと受け入れたくなかった。
「これで分かったでしょ?私がゲームに乗った理由がね。安心なさい、私がちゃんと雪見の仇は取ってあげるからさ」
「駄目……だよ……」
「は?」
287希望と絶望と(前編):2006/12/06(水) 01:17:58 ID:6v9V2KAB0
「駄目だよ!そんな事しても雪ちゃんも晴香さんも喜ばないよ!」
綾香にとっては最も関心の薄かった人物、川名みさきが叫んでいた。
あの優しかった雪見ならそんな事を望むはずがないから―――そう、叫んでいた。
綾香は一瞬呆然として、すぐにその表情は険しい物へと変わっていった。
彼女の存在など綾香にとってはどうでも良い事だが、言っている事が堪らなく気に入らない。

「何勘違いしてるのよ……別に晴香達を喜ばそうとしてやってる訳じゃないわ。私が満足出来ればそれでいいのよ。
全くどいつもこいつも戯言をほざく……。いい?これは元々一人しか生き残れないゲームなのよ。
だったらゲームに乗るしかないじゃない。あんた達も早く目を覚ました方がいいわよ」
「そんな……お前、それで満足なのか?人を殺して、自分一人だけ生き残って満足なのかよっ!?」
「そんなのどうでもいいわよ、現実を見なさい。さっきも言ったけど最後には一人しか生き残れないのよ……同じ事を何度も言わせないで頂戴」
そこで浩之は珊瑚に言われた計画を思い出した。
そう、自分達にはゲームに乗らずとも生き延びる希望があるのだ。
まだ脱出する手段までは決まっていないが、首輪だけなら何とかなる可能性が高い。
首輪さえどうにか出来れば道は開けるように思えた。
きっとその事を伝えれば綾香も考えを改めてくれる。今の彼女はこのゲームの環境の中で狂わされているだけだ。
自分の知っている来栖川綾香なら、きっと協力してくれる。
そう思った――――いや、思いたかった。

「そうだ!ゲームに乗らないでも帰れる方法があるんだよ!」
「……へえ、それは諦めなければどうにかなる、なんてクソみたいな理想論じゃなくて現実的な話なの?」
「それは……」
浩之は内容を言いかけて慌てて口を閉ざした。具体的な事を言えば主催者達にもその事が筒抜けとなってしまう。
これから先の行動が不利になるのは間違いなかった。
それでも、このまま綾香を放って置く訳にはいかない。
許しを請うように珊瑚の方を見ると、珊瑚は真剣な面持ちで頷いてくれた。

「そこの……珊瑚が首輪を外せるんだよ。他にもやろうとしてる事はあるけどそれは今は言えない。
でも、首輪さえ外せれば後は何とかなりそうって事は分かるだろ?一緒に主催者をぶっ飛ばそうぜ」
288名無しさんだよもん:2006/12/06(水) 01:18:44 ID:9E5nEoNU0
また このて の はなし か かいひ
289希望と絶望と(前編):2006/12/06(水) 01:19:50 ID:6v9V2KAB0
「ふーん……珊瑚さん、だっけ。それは本当の話なの?」
「……うん、そうや。ウチはそういうの凄い得意やから、多分やけど外せると思う」
浩之は最低限の、だけど説得には最も効果的な情報を教えていた。
首輪は参加者にとって最も大きな重圧となっている筈だった。
なにせ、主催者の気分一つでいつでも殺されてしまうのだから。
常に自分の命を人質に取られているようなものだった。
その重圧さえ取り除けば、綾香も仲間になってくれるだろうと考えた。

「そう……なら予定変更。そこの女は生かしておけないわ。
復讐する前にゲームを終わらせるなんて、冗談じゃないっ!」
「え……?」
だが、綾香の反応は浩之が期待していた反応とはまるで正反対で。
綾香の銃口が珊瑚へと向けられていた。


【時間:2日目午前7時50分頃】
【場所:G−5】

来栖川綾香
【所持品1:S&W M1076 残弾数(5/6)予備弾丸28・IMI マイクロUZI 残弾数(20/30)・予備カートリッジ(30発入×5)】
【所持品2:防弾チョッキ・支給品一式・携帯型レーザー式誘導装置 弾数3・レーダー】
【状態@:やる気満々(浩之を殺すつもりはない)。肋骨損傷(激しい動きは若干の痛みを伴う)。左肩口刺し傷(治療済み)】
【状態A:まーりゃんとささら、さらに彼女達と同じ制服の人間を捕捉して排除する。今は珊瑚を殺害しようとしている】

藤田浩之
 【所持品:なし】
 【状態:驚愕】

川名みさき
 【所持品:なし】
 【状態:驚愕、恐怖】
290希望と絶望と(前編):2006/12/06(水) 01:23:37 ID:6v9V2KAB0

姫百合瑠璃
 【持ち物:デイパック、水(半分)、食料(3分の1】
 【状態:驚愕、恐怖】

姫百合珊瑚
 【持ち物:デイパック、水(半分)食料(3分の1)】
 【状態:驚愕、恐怖】
【関連】:B-13 518

・訂正
>>286

>浩之は言葉が出なかった。かつて浩之と仲間を共にした―――そしてみさきの親友である深山雪見のあまりにも報われない死に様。

浩之は言葉が出なかった。かつて浩之と行動を共にした―――そしてみさきの親友である深山雪見のあまりにも報われない死に様。
に。

>>284-285>>288
回避感謝〜
展開が似てしまったのは申し訳ないとしか言いようが無いです
綾香の行動目的から、俺の想像力だとこれ以外の展開が思い浮かばなかった……
291綾香の決意(1/4):2006/12/06(水) 01:36:43 ID:iHMVrjHu0
来栖川綾香には、「まーりゃん」を打ちのめすというしっかりとした目的があった。
そのために手を汚す覚悟もできている、ダニエルを撃った時から彼女はゲームに乗った身になった。
今、彼女は北川潤に言われた通り神塚山に向けて走り続けていた。
途中崖上の場所に出てしまいまわり道を余儀なくされるが、それでもめげずに彼女はひたすら足を動かし続けた。
そんな時だった。思いがけない場所から、声をかけられたのは。

「おい、おい!綾香じゃないかっ、いや〜助かった・・・」
「え、浩之?あんた、こんな所で一体何してんのよ」

視覚的に捉えにくい茂みに隠れるように寄り添う男女、その一方は綾香も見知った相手・・・藤田浩之であった。
突然の再会に戸惑う、そんな綾香の様子を気にすることなく浩之は話し出した。

「あそこの崖から落ちたんだよ、それで足挫いっちゃっって身動きとれなかったんだ。
 いやぁ、通りがかったのがお前でよかった」
「藤田くん、お知り合い?」
「ああ、来栖川綾香って言って、すっげー頼りがいのあるヤツだ。
 綾香、こっちは川名みさきさん」
「みさきです、よろしくお願いします」
「えっと、私こっちなんだけど・・・」
「わわわ、ごめんなさい」
「綾香・・・川名な、目が見えないんだ」

それからも、浩之は普段の様子からは思いつかないほど流暢に話し続けた。
第一回放送が行われた頃からずっと二人だったという、気づかぬうちに彼の中にも何らかのストレスが溜められたのであろう。
だが、それらの話は全て綾香の耳を素通りしていく。

・・・なんで、こんなに早く出会ってしまったのか。そんなつらい感情に支配されてしまいそうだった。
綾香の右手には、今もS&Wが握られている。
一方、目の前の二人は何の武装もしていない。
綾香が少し、人差し指を動かすだけで二人を葬ることはできる。
そんな現実が今、彼女の目の前にあった。
292綾香の決意(2/4):2006/12/06(水) 01:37:27 ID:iHMVrjHu0
「・・・綾香?」

いい加減静か過ぎる彼女の様子をおかしく思ったのか、浩之も怪訝な表情で見やってくる。
きゅっと唇を噛み締め、彼女は決意を露にした。
・・・自分の進むべき道を、誤ってはいけないのだ。

「ちょっと、聞いてもいいかしら」

今、彼女の最優先事項は「まーりゃん」である、そのことについての確認は必要だった。

「ここら辺、集団が通ったりはしなかったかしら。時間的にはちょっと前になるんだけど」
「ああ・・・確か、一回そういうのは通った気がする」
「藤田君の視覚には入らなくて、声かけられなかったんだよね。私はこんなだから見極めることもできなくて・・・」
「そう。その中に、女の子は入っていた?」
「連中、しゃべりながらの移動じゃなかったから正直分からない。ごめんな」
「そう・・・」

これだけだったら可能性的には五分と五分、と言った所だろう。
だが、潤の証言からその一行が「まーりゃん」の属するものだという察しは容易につく。
・・・これで、目の前の二人は本当の意味で用済みとなった。
すっと、銃を手にした右手を構える。
狙うは大切な友人、隣の少女など彼を殺れた後にはどうとでもなる。
イヤなものを後回しにせず先に持っていくところが、何とも彼女らしいと言ったところか。

「・・・冗談だろ?」

いきなりの綾香の行動に、浩之も戸惑いが隠せなかったらしい。
だが、綾香は弁明も何もしようとしなかった。する気がなかった。
293綾香の決意(3/4):2006/12/06(水) 01:38:41 ID:iHMVrjHu0
「冗談じゃないわ」
「お前がゲームに乗る必要なんてないだろ?」
「できたのよ、理由が」
「・・・マジか」
「ごめん、大マジ。痛いのは一瞬よ、この距離なら外さない・・・ごめんね」

最後の呟きと共に、引き金を引いた瞬間だった。
それは、本当に一瞬のできごと。綾香も予想することができなかった。

浩之を狙うS&Wと彼の間、突如割り込んできた存在。みさきである。
目の見えない彼女が、気配だけで動いた結果--------浩之に当たるはずの銃弾は彼女の腹部に命中する。

「あうっ・・・!!」
「か、川名ぁ!」

浩之の叫び声、みさきはそのまま前のめりに倒れこんだ。
致命傷ではないのだろう、苦しそうだが彼女が息を引き取る様子は見えない。
綾香は今一度S&Wを構えなおし・・・そして、今度は浩之ではなく彼女を狙い。撃った。

言葉も出ないとは、このような状態であろう。
信じられないといった視線、みさきに止めを刺した綾香は一身にそれを受けるしかない。
それが、彼女のしたことに対する責任であるから。

「綾香、お前・・・っ!」
「憎いかしら。当然よね・・・私も、そうだったもの」
「川名がお前に何をしたんだっ、お前、彼女は・・・彼女はなぁ!!」
「ごめん」

胸が痛まない訳ではない。苦しくないはずがない。・・・綾香、だって。
でも、こんなにも戸惑いなく事を起こせたことに対する自分を、綾香自信恐ろしく感じていた。
これが「殺人鬼」というもの・・・今の、綾香だということを。
294綾香の決意(4/4):2006/12/06(水) 01:39:31 ID:iHMVrjHu0
見た目には出ないが、精神的な消耗はひどかった。
罪悪感はあるのだ・・・ダニエルを撃った時とはまた、違う形で。
それは、関係性のないみさきの死に対してではない・・・友人である、彼の存在が大きかった。
視線も、言葉も、何もかも。
一秒でも早く逃げ出したかった、もう彼を殺さなければいけないという思いを抱けないほど、綾香の心には負担がつのっていて。
これから「まーりゃん」を倒しに行くという状況的にも、不にしか働かない状態である。

・・・どっちみち浩之は、この足では何もできないだろう。
「まーりゃん」と決着をつけた後戻ってくるのでも問題はない、綾香はそう判断する。
それまでに、もっと強くならなければ。
心を鍛えなければ。こんなことで揺らぐ必要のないくらい、冷徹な人間にならなければいけなかった。

彼と目を合わせることなく、綾香は山頂を目指し歩き出そうとする。
当然の如く浩之は疑問を口に出すが、綾香はそれに対しての答えは伝えなかった。その代わり。

「あいつとの事が終わったら戻ってくるわ。・・・浩之、その時はあなたを」

一呼吸おき、そして。

「あなたを、殺すわ」

顔を伏せたまま言い放つ。
そのまま振り返らないで走り出す綾香、涙はもう枯れ果てて、いた。
295補足:2006/12/06(水) 01:40:10 ID:iHMVrjHu0

来栖川綾香
【時間:2日目午前2時】
【場所:G−5】
【所持品:S&W M1076 残弾数(4/6)予備弾丸28・防弾チョッキ・トカレフ(TT30)銃弾数(6/8)・支給品一式】
【状態:舞のいる集団に向かう、腕を軽症(治療済み)。麻亜子とそれに関連する人物の殺害(今は麻亜子>関連人物)、ゲームに乗っている】

藤田浩之
【時間:2日目午前2時】
【場所:G−5】
【所持品:無し。それまでの荷物は街道に放置】
【状態:足を打撲。一人では歩けない】

川名みさき  死亡

(関連・241・500)(B−4ルート)
296希望と絶望と(後編):2006/12/08(金) 00:25:51 ID:WNJniWyw0
「あ、綾香っ!?」
浩之は迂闊過ぎた。綾香の怒りと狂気を軽く見過ぎていたのだ。
彼女はもう4人の命を奪っている。もう戻ってこれるような状態では、無かった。
そして更に悪い事に、綾香には平瀬村の一件で学んだ事があった。
それは――――
「情報も聞き終わったしこれ以上の問答は無意味よ。とっとと終わらせてもらうわ」
無駄に時間をかけてもリスクが増すばかりだという事である。
それを思い知らされた綾香は何の猶予も無しに引き金を引いた。
一つの銃声がこだまする。
浩之には何故かその銃声がひどく遠く現実離れしたものに感じられた。
S&W M1076の銃口から発射された弾丸は珊瑚の胸のあたりに命中し、彼女の内臓に致命的なダメージを与えていた。
瞬間、飛び散る鮮血。力の殆どを一瞬にして失った珊瑚の体がドサリと地面に崩れ落ちた。

「さんちゃぁぁぁぁぁん!」
「はい、これにて一件落着。ゲームを終わらせるなんて考えがどれだけ馬鹿な絵空事なのか、よ〜く分かったでしょ?」
ぐったりとしている珊瑚に必死に縋り付いて号泣する瑠璃。
その様子を見てクスリと、優雅な微笑みを浮かべる綾香。
そして、
「綾香ぁぁぁぁぁぁっ!」
理性を失い弾かれるように飛び出し綾香に殴りかかる浩之。
しかし怒りに任せたその動きは直線的で単純であり、綾香に通用する道理はない。
綾香がほんの少し上半身を後ろに傾けただけであっさりとその拳は外される。
そのまま綾香は浩之の無防備な腹部へと膝蹴りを打ち込んだ。

「がはっ……」
カウンター気味に打ち込まれたその衝撃に耐え切れず、浩之はそのままその場に崩れ落ちた。
「ひ、浩之君っ!」
みさきが浩之の元へと駆けつける。
目の見えない彼女だったがこの場の異様な雰囲気と叫び声、銃声で大体の事情は察していた。
「そういえばそっか……一人殺した以上はあんた達にとって私は完全に敵って訳なのね。
良いわ、目撃者を残すわけにもいかないしここで引導を渡してあげる」
綾香は銃を構えながらゆっくりと浩之に近付いてゆく。
297希望と絶望と(後編):2006/12/08(金) 00:28:15 ID:WNJniWyw0
そこでみさきが綾香と浩之の間に両手を広げ、毅然とした態度で割り込んでいた。
「何、貴方の方が先に死にたいってワケ?死ぬ順番が変わるだけなのに随分と無意味な事をするわね。
どうせなら、私に殴りかかってくるくらいすればいいのにさ」
「嫌だよ……。私は戦う事なんて出来ないし、人を傷付けたくもない」
綾香は知らない。みさきが目を見えない事を。戦うなどとても不可能な事を。
それでもみさきは首を振りながら綾香の前に立ちはだかった。
綾香は心底面倒臭そうに溜息を一つついた。
「ま、あんたの好きにすればいいわ。現実から目を逸らしたまま死になさいっ!」
火のついてしまった綾香はもう止まらない。その引き金にかけた人差し指に力を入れようとし―――――

「死ぬのは貴様だ、殺人鬼」

後方から静かな声が投げかけられる。
ほぼ同時に二つの銃声が辺り一帯に響いた。
最初に綾香の拳銃が弾き飛ばされ、次にその脇腹に強烈な衝撃が走り彼女は傍の茂みへと吹き飛ばされた。
浩之が銃声のした方を見ると銃を構えた長身の男、そして浩之と同じ年頃の少女が立っていた。
鋭い眼光を放つその男は浩之の知っている人物だった。
「あんたは……」
「お前は確か、藤田浩之か。久しぶりだな」
男―――柳川裕也は銃を下ろし倒れている少女、珊瑚へと顔を向けた。
今にも息絶えそうなその様子を見て柳川の表情は僅かに、だが確かに歪んでいた。
「……倉田、もう手遅れかもしれんがそこの少女の手当てをしてやってくれ。俺はあの殺人鬼にトドメを刺す」
「は、はいっ!」
佐祐理は素早く救急箱を取り出し走り出し、浩之とみさきも遅れて珊瑚の所へと向かった。


(クソッ、まずいわね……)
その会話の一部始終を聞いていた綾香は焦っていた。
倒れた場所が茂みだったのは、綾香にとって僥倖と言える。
背の高い雑草のおかげで防弾チョッキには気付かれないだろう。
だがそれも相手が油断していればの話だ。男の足音は確実にこちらへと近付いてくる。
このままではいずれ気付かれ、殺されてしまう。相手の注意がこちらから逸れるのを待つなどという悠長な作戦は通用しそうもない。
298希望と絶望と(後編):2006/12/08(金) 00:29:56 ID:WNJniWyw0
拳銃はどこに飛ばされたか分からない。マシンガンを鞄から取り出す暇があるとも到底思えなかった。
綾香は死体を演じながら反撃の糸口を捜し求め―――指先に何か硬い物が触れているのに気付いた。
それを絶対に悟られないように慎重な動作で握りこむ。
そして柳川が後数メートルといった所まで近付いてきた時、綾香は反撃を開始した。


「――――何!?」
綾香は撃たれた衝撃でポケットから落ちていたマガジンを柳川の銃目掛けて投げ付けた。
奇襲は完全に成功し、柳川の銃が弾き飛ばされる。
間髪いれずに起き上がり柳川の顎を狙って鋭い蹴りを放つ。
(――獲った!)
このタイミングなら絶対に避けられない。
綾香の豊富な格闘技経験がそう確信させる。
しかし、柳川の反応速度は常識で計りきれるものでは無かった。
「……くっ!」
「嘘でしょ!?」
柳川は迫り来る蹴りを間一髪で避けていた。
すぐに柳川も綾香も次の行動に移り、肉弾戦が始まった。
柳川は腕を振りかぶり、綾香の顔を狙った一撃を繰り出した。
だがその一撃の軌道を読み切っていた綾香は腰を落として避ける。
綾香はその態勢のまま柳川の足元目掛けて足払いをしかけた。
「その程度っ!」
柳川はそれを避けようとせず、逆に綾香の蹴り足に対して蹴りを放つ事で対抗した。
「つうっ……!」
先手を取り十分な予備動作を得ていたにも関わらず、綾香が逆に押し負け後退する。
その機を見逃さず柳川が一気に間合いを詰めた。
柳川の正拳が風を切りながら放たれる。
綾香は上半身を横に傾け、目標を失ったその右腕を両腕で掴んだ。
「ヘシ折れなさいっ!」
そのまま関節技の態勢に持っていき、柳川の右腕の機能を奪わんと全ての力を両腕に籠める。
今までの相手ならばこれで勝負は決していた。そう、今までの相手ならば。
だが柳川は咆哮と共にその腕を力の限り振り回した。腕を掴んでいる綾香ごとだ。
299希望と絶望と(後編):2006/12/08(金) 00:31:51 ID:WNJniWyw0
「うおおおぉっっ!」
「なっ!?」
勢いに耐え切れず綾香が振り払われる。綾香はそのまま勢いに身を任せ間合いを取った。
「―――貴様、やるな」
「あんたもね」
綾香も柳川も予想以上の相手の力量に驚いていた。
両者は再び地を蹴り間合いを詰め、場違いな決闘の続きが行なわれる。
騒ぎに気付いて柳川に加勢しようとしていた浩之だったが、その戦いの凄まじさに魅入ってしまっていた。

離れた地に落ちた銃を拾いにいく事など自殺行為に他ならないと二人とも分かっている。
両者の拳と殺意が交錯し続ける。
柳川の攻撃は綾香から見ればまだまだ粗く技術的には大したレベルではない。
だが―――
(……一体何なのよコイツ!)
―――スピードが違う。必殺のタイミングで繰り出した綾香の一撃が悉く防がれる。
―――パワーが違う。柳川の繰り出す一撃一撃がまともに食らえば戦闘不能に追い込まれかねない威力を秘めている。
それは綾香の知りうる全ての格闘技の枠組みを越えたものである。
猛獣のような柳川の攻撃の前に、綾香は次第に追い詰められていった。
綾香の常識が、修練の日々が、否定されていく。
湧き上がってくる感情は戦いによる高揚感などではなく、焦りと理不尽な思いだった。

「――――シッ!」
素早い突きが柳川の喉に向かって伸びる。
柳川は裏拳でその突きを弾き飛ばし、綾香の左脇腹へと拳を叩き込もうとし―――
「――――!?」
「くらえっ!」
すぐにそれを止めて綾香の頭部目掛けて上段蹴りを放っていた。
既に綾香は数回フェイントを用いていたが、柳川がこのような動きをするのは初めてだった。
大きく反応が遅れた綾香はその強烈な一撃を受け止める以外に選択肢が残されていない。
受け止めた綾香の右腕に鈍い痛みが走る。
「……こんのぉぉぉぉっ!」
それでも綾香は歯を食いしばって耐え、膝蹴りを柳川の脇腹へと繰り出す。
300名無しさんだよもん:2006/12/08(金) 00:33:07 ID:Ca5XXT7f0
 
301名無しさんだよもん:2006/12/08(金) 00:33:46 ID:Ca5XXT7f0
 
302希望と絶望と(後編):2006/12/08(金) 00:34:22 ID:WNJniWyw0
柳川は肘でそれを防いだが、梓に殴られた傷跡にもその衝撃が伝わり一瞬動きが止まった。

綾香にとってそれは明らかな隙だったが、敢えて追撃をしない。
既に幾度となく柳川の隙を狙って攻撃を仕掛けているがそのどれも通用していないので。
先の一撃で受けた右腕のダメージも大きく不利は明らかだ、加えて左肩の傷も気になる。
綾香は素早く飛び退いて自身のデイバッグを拾い上げ、次の瞬間にはもう林を目指して一目散に走り出していた。
(……予想外の展開だったけど―――収穫はあったわ)
レーダーは手に入れ、マシンガンも残っている。この場でこれ以上無理をする意味は薄い。
自分が格闘戦で遅れを取った事実は非常に気に食わないが、借りを返すのならば後日万全の状態で戦うべきだ。
あくまで至上目的はまーりゃんへの復讐、今この難敵との決着に固執していてはいけないのだ。


「貴様、待てっ!」
綾香の突然の逃亡に柳川は一瞬反応が遅れたがすぐに自分の拳銃を探し始め、見つけると迷わず綾香の背中に向けて発砲した。
だがその銃弾は虚しく空を切り、二発目を撃とうとした時にはもう綾香の背中は林の中に隠れて見えなくなっていた。
「チ……逃がしたか」
追撃を諦めた柳川はその場に放置された綾香の拳銃とその弾層を回収し、珊瑚達の方へと戻っていった。


「――――!」
戦いに集中していて気付かなかったが、瑠璃の泣き叫ぶ声が響き続けている。
珊瑚の胸からとめどもなく血が溢れていた。肺を傷付けられたのか口から血も吐いている。
これはもう―――――助からない。
医者でない佐祐理にはどうする事も出来ず、ただ力なく項垂れるだけだ。
いや、例え医者がいたとしてももう打つ手はないだろう。
柳川も浩之もみさきも呆然と立ち尽くすだけで何も出来ない。
だがそんな時、珊瑚が微かに声を発した。
「る、り……ちゃん」
「さんちゃん!しっかりして!」
「るり……ちゃん、ごめん……うち、もうだめ……みたい……」
「そ、そんな……さんちゃん……」
「何言ってんだ、諦めんな!」
303名無しさんだよもん:2006/12/08(金) 00:34:28 ID:Ca5XXT7f0
 
304名無しさんだよもん:2006/12/08(金) 00:35:22 ID:Ca5XXT7f0
 
305希望と絶望と(後編):2006/12/08(金) 00:35:57 ID:WNJniWyw0
浩之が座り込んで叫んでいた。その手は珊瑚の手を握っている。
「きっとまだ何とかなるから……だめだなんて言うなよっ!」
涙を流しながら力の限り叫ぶ。
認めたくなかった。
諦めたくなかった。
だが、そんな彼の肩を柳川が掴んでいた。
「止めろ、藤田」
「何でだよ!珊瑚が……珊瑚がっ……!」
「楓のときは遺言を聞く時間も与えられなかった……。だが、まだその女は生きている。
ならばせめて最後まで話を聞いてやれ」
「…………」
それで浩之は何も言えなくなり、黙って珊瑚の言葉を待った。

「るりちゃん……うちら、ずっと、いっしょ……やったね……」
「……うん、さんちゃんとうち、ラブラブラブやもん」
「うちは……死んでも、るり……ちゃんの、こころのなかに、生き続けるから……から、これからもずっと、いっしょやで……」
「うん、うん……」
「だからるりちゃんは、生きて……浩之も……みさきも、死んだらあかんよ……」
「……分かった。俺達、お前の分も頑張るからな」
浩之が珊瑚の右手を、瑠璃が珊瑚の左手をしっかりと握る。
珊瑚の暖かさを忘れないよう、強く、強く。
「やくそく、やで……」
珊瑚の手から力が失われ、その目が閉ざされる。
後はただ、浩之達の啜り泣く声が聞こえるばかりだった。
306名無しさんだよもん:2006/12/08(金) 00:36:17 ID:Ca5XXT7f0
 
307名無しさんだよもん:2006/12/08(金) 00:37:16 ID:Ca5XXT7f0
 
308希望と絶望と(後編):2006/12/08(金) 00:37:38 ID:WNJniWyw0
【時間:2日目午前8時20分頃】
【場所:G−5】
来栖川綾香
【所持品1:IMI マイクロUZI 残弾数(20/30)・予備カートリッジ(30発入×5)】
【所持品2:防弾チョッキ・支給品一式・携帯型レーザー式誘導装置 弾数3・レーダー】
【状態@:逃亡、右腕、肋骨損傷(激しい動きは痛みを伴う)。左肩口刺し傷(治療済み)】
【状態A:まーりゃんとささら、さらに彼女達と同じ制服の人間を捕捉して排除する】

姫百合珊瑚
 【持ち物:デイパック、水(半分)食料(3分の1)】
 【状態:死亡】
藤田浩之
 【所持品:なし】
 【状態:啜り泣き】
川名みさき
 【所持品:なし】
 【状態:啜り泣き】
姫百合瑠璃
 【持ち物:デイパック、水(半分)、食料(3分の1】
 【状態:啜り泣き】
柳川祐也
【所持品@:出刃包丁(少し傷んでいる)、S&W M1076 残弾数(4/6)予備マガジン(7発入り×4)】
【所持品A、コルト・ディテクティブスペシャル(2/6)、支給品一式×2】
【状態:左肩と脇腹の治療は完了したが治りきってはいない、教会を経由して平瀬村へ】
倉田佐祐理
【所持品:支給品一式、救急箱、二連式デリンジャー(残弾2発)、吹き矢セット(青×5:麻酔薬、赤×3:効能不明、黄×3:効能不明)】
【状態:啜り泣き 柳川に同行、教会を経由して平瀬村へ】

【関連】:B-13 510 524

>>300-301 >>303-304 >>306
回避感謝〜
309彰の騎士:2006/12/08(金) 02:22:48 ID:une0Qdz40

「クク……そろそろくたばったか……?」

ニヤリと歯を剥いて笑ったのは岡崎朋也である。
その視線は、一人の男の尻を見下ろしていた。
ぴくりぴくりと痙攣しているそのむき出しの尻に指を滑らせ、朋也は満足したように笑うと、
その場に横たわるもう一人の青年の方へと歩き出そうとする。
しかし、その足を掴むものがあった。
胡乱げに振り向く朋也。足を掴んでいたのは、痙攣していたはずの男の手であった。

「ま、待て……どこへ行く気だ……? まだ俺様のバックはピッチピチだぜ……」

毛だらけの尻にロウが垂らされた痕を幾つも作り。
白濁液に塗れた菊座には、クラッカーの中に詰まっていたらしき色とりどりの紙吹雪をまとわりつかせ。
それでも、男の瞳は死んではいなかった。
震える手で必死に足を掴んでいるその男の、血の涙を流さんばかりに充血した眼を見て、
朋也は嬉しそうに舌なめずりをする。

「ほぅ、いい覚悟だ。俺のスペシャルメニューじゃあ、まだ足りなかったか」
「ケッ……何が、スペシャルだ……あれっぽっちじゃ、オードブルにもなりゃしねえぜ……」

男の精一杯の強がりに、朋也は哄笑する。

「ククク……フフ、ハハハハハ!! よく言った、よく言ってくれた!
 そうだな、ここからはシェフのおすすめメニューといこうか!」

と、朋也はぴたりと笑みをおさめると、男の目を見返して静かに告げる。

「……その前に、俺はひとつお前に謝らなきゃならんことがある」
「な……何だ……?」
310彰の騎士:2006/12/08(金) 02:23:29 ID:une0Qdz40
ただならぬ口調に、思わず身構える男。
朋也は王者の風格漂う笑みを口元に浮かべ、悠然と口を開いた。

「俺としたことが、男を相手にするのは初めてでな。ついつい手加減しちまってたみたいだ。
 まったく、失礼なことといったらないな……クク」

楽しくてたまらない、といった風情で続ける朋也。

「……なぁ、おい? たかだか準備運動程度で、まさか音を上げるはずがなかったよなあ?」
「な……っ!」

朋也の言葉に、思わず男が絶句する。
驚愕に固まったその表情を見て、朋也は男のおとがいに手をかけると、その唇をついばむように吸う。

「さぁ……本番と行こうぜ?」
「ひっ……」

朋也の舌が、水音を立てて男の口腔を侵蝕する。
その感触に嫌悪感を覚えたか、男が顔をしかめた。
それを見て、朋也は嬉しそうに男の頬を撫でると、その瞼をねぶりながら囁く。

「いいんだぜ? ギブアップならそう言ってくれてもな……」

朋也はそこで言葉を切ると、視線を傍らに倒れ伏して荒い呼吸を続けているもう一人の青年に移した。

「ただ、そのときは……あっちに相手をしてもらうことになるけどなぁ……?
 クク……アレはアレでデザートに良さそうじゃないか……白くて柔らかそうだ」
「ま、待て……! 待ってくれ……!」

朋也の言葉に、男が激しく反応する。
死に掛けたカエルに電気を流すような、それは朋也の残酷な遊戯だった。
小刻みに痙攣するその矮小な姿を見て笑うように、朋也は男をねぶり続ける。
311彰の騎士:2006/12/08(金) 02:24:21 ID:une0Qdz40
「そいつには……そいつには手を出すな……。
 俺がいくらでも相手になってやるから……頼む……」
「手を出すなぁ……? ちょっとばかり言葉遣いがなってないんじゃねえか……?」
「く……手を……出さないでくれ、いや……ください、頼み……ます……」

臍の穴まで舐められながら、男は必死に懇願していた。
その擦れた声を聞いて、朋也は己の逸物が更に体積と硬度を増していくのを感じる。

「クク……わかってるさ、お前がそうやって可愛い態度を取ってりゃあ、あっちに浮気したりはしねえよ」

言いながら、その剛直を男のそれへと擦り付ける朋也。

「おいおい、すっかり萎えてんじゃねえか……ま、お前のは使わねえから別にいいけど、なっ……!」
「ぎ……がぁ……ぅ……っ!」

うつ伏せにし、尻を高く突き上げさせた男の菊座に狙いを定めると、一気に挿入する。
激痛ゆえにか、男の限界まで見開かれた眼からぽろぽろと涙が零れ落ちた。
流れた涙は唾液と混ざり合い、雨に濡れた地面に落ちる。
己の体液と雨粒によって作り出された泥濘に顔を埋めて、男は必死に苦痛を堪えようとしているようだった。
そんな涙ぐましい男の態度を見て、朋也の腰が加速する。

「いいねぇ……そういうの、嫌いじゃないぜ……。
 もっと耐えてみせろよ……お前の限界、見せてくれよ……ああ、たまんねえ……」

男の直腸は、既に朋也の発射した子種で満たされている。
溢れだす白濁液が、血と混ざり合って桃色の泡となり、男の尻を彩っていた。
朋也の腰遣いが、段々と人間離れしたものになっていく。

「さぁて……じゃ、そろそろイクぜ……!
 ザーメン一気だ、飲み干してみせてくれよぉ……!?」

朋也の荒い呼吸が、限界に到達しようとした、その瞬間である。
312彰の騎士:2006/12/08(金) 02:25:06 ID:une0Qdz40
「が……ぁぁぁぁっ!?」

突然、朋也の腰遣いが止まった。
のみならず、頭を抱えて苦しみだしたのである。
弾みで男の尻から剛直が引き抜かれた。
裸体を泥濘に預けてのた打ち回る朋也の目に、雨雲の薄灰色に満たされた空が映る。

「が……しまった、夜明けか……ッ! ぐ……ぐああああぁぁっッ!」

その言葉を最後に、朋也は意識を失っていた。






「た……助かった……、のか……?」

ばったりと倒れこんだまま動かなくなった朋也を恐る恐るつつく高槻。
つい先程まで自分を責め苛んでいたその身体が突然起き上がるようなことがないという確信を得て、
高槻はようやく胸を撫で下ろした。
雨水で身体中に付着した朋也の精液を荒い流し、ところどころ破れた服をいそいそと着直すと、
そっと彰の身体を揺する高槻。

「おい……おい彰、もう大丈夫だぞ……」
「ん、うぅ……?」

ぼんやりと目を開ける彰をみて、優しく微笑む高槻。

「気がついたか」
「高槻……さん?」
「そうだ、お前の高槻さんだよ。……調子はどうだ?」
313名無しさんだよもん:2006/12/08(金) 02:27:38 ID:hqtrd+Go0
回避
314彰の騎士:2006/12/08(金) 02:31:11 ID:une0Qdz40
高槻の手に額をまさぐられて、思わず身を引きかける彰。
そんな彰の様子を気にも留めず、高槻は難しい顔で呟く。

「……まだかなり熱があるな。やっぱりどこかで休まなきゃいかんか。
 心配するな、俺様がちゃんとエスコートしてやるからな」

まだついてくる気かこのおっさん、と内心でげんなりする彰。
意識がはっきりしてくるにつれて、周囲の様子が眼に入ってきた。
すぐ側に倒れている朋也を見て、彰が躊躇いがちに訊ねる。

「この人……高槻さんが殺したの?」
「いや、死んでないぞ。何だか知らんが勝手にぶっ倒れちまった。
 ……そうだな、彰が心配ならトドメをさしていこうか」
「誰もそんなこと言ってないんだけど……」

彰の呟きは耳に入らない様子で、朋也の方へと歩み寄る高槻。
どこで拾ったのか、手には大きな石を持っている。
が。

「……うおぉっ!?」

突如として飛来した何かが、高槻の足元に突き刺さっていた。
その行く手を塞ぐように、朋也との間に突き立てられているそれは、星型の巨大な手裏剣であった。

「クソッ……近くに誰かいやがるのか……! 逃げるぞ、彰!」

もつれる足を引きずって彰に駆け寄ると、高槻は彰の華奢な身体を荷物ごと抱え上げる。

「お、お姫様抱っこ……?」
「はは、彰は軽いな」
「いや、そういうことじゃなくて……」
「熱のあるお前を走らせたりできないだろ」
315名無しさんだよもん:2006/12/08(金) 02:34:48 ID:hqtrd+Go0
回避
316名無しさんだよもん:2006/12/08(金) 02:35:19 ID:hqtrd+Go0
回避
317彰の騎士:2006/12/08(金) 02:35:59 ID:une0Qdz40
油断なく周囲に目を配りながら、荒い呼吸を隠そうともせずに走り続ける高槻。
その言葉と強い視線に、彰が少し黙り込む。

「ねえ」
「何だ」
「高槻さん、どうして僕の為にここまでしてくれるの……?」

その問いに、高槻は不意を突かれたように彰の目を見返した。その間にも足は止めない。

「……何でだろうな」
「え……?」
「正直、俺様にもわかんねえ」
「それじゃ……」
「何でこうなっちまったのか、いつからこうなっちまったのか。
 全然わかんねえ。……けどな」
「けど……何?」
「お前を守る理由だけは、はっきりしてる」

何となく続きが聞きたくないような気がする彰だったが、高槻はしっかりと
彰の目を見つめたまま、言い切った。

「俺様が、お前を愛してるからだ」

いっそ殺せ。
高槻の腕の中で揺られながら、彰は本気でそう思っていた。

318彰の騎士:2006/12/08(金) 02:36:42 ID:une0Qdz40

「……何で?」

いつの間にか図鑑に浮き上がっていた文字に観月マナが驚くのは、その少し後のことである。

『岡崎朋也(CLANNAD)×高槻(MOON.)   ---   クラスB』



【時間:2日目午前6時前】
【場所:E−06】

高槻
【所持品:支給品一式】
【状態:彰の騎士・切れ痔】

七瀬彰
【所持品:アイスピック、自身と佳乃の支給品の入ったデイバック】
【状況:発熱】

岡崎朋也
【持ち物:お誕生日セット(三角帽子)、支給品一式(水、食料少し消費)、大変な逸物】
【状態:変態強姦魔(両刀使い)・気絶中】

伊吹風子
【持ち物:彫りかけのヒトデ】
【状態:覚醒・ムティカパ妖魔】

観月マナ
【所持品:BL図鑑・ワルサー P38・支給品一式】
【状態:BLの使徒Lv1(クラスB×3)】
→496,517 ルートD-2
319名無しさんだよもん:2006/12/08(金) 02:37:27 ID:une0Qdz40
>>313,315-316
サンクス〜。
320希望と絶望と(後編)・修正版:2006/12/08(金) 03:06:01 ID:hqtrd+Go0
「あ、綾香っ!?」
浩之は迂闊過ぎた。綾香の怒りと狂気を軽く見過ぎていたのだ。
彼女はもう4人の命を奪っている。もう戻ってこれるような状態では、無かった。
そして更に悪い事に、綾香には平瀬村の一件で学んだ事があった。
それは――――
「情報も聞き終わったしこれ以上の問答は無意味よ。とっとと終わらせてもらうわ」
無駄に時間をかけてもリスクが増すばかりだという事である。
それを思い知らされた綾香は何の猶予も無しに引き金を引いた。
「駄目ぇぇぇぇっっ!」
一つの叫び声と、銃声がこだまする。
浩之には何故かその銃声がひどく遠く現実離れしたものに感じられた。
綾香が銃口を引く刹那、瑠璃が珊瑚の前に飛び出していた。
姉を守る――――ずっと変わらぬその誓いを守る為に。瑠璃にとってはその誓いが全てだった。
S&W M1076の銃口から発射された弾丸は瑠璃の胸のあたりに命中し、彼女の内臓に致命的なダメージを与えていた。
瞬間、飛び散る鮮血。力の殆どを一瞬にして失った瑠璃の体がドサリと地面に崩れ落ちた。

「瑠璃ちゃぁぁぁぁぁん!」
「チッ……またか……。昨日のあの女と言い、どうしてこう自分から命を捨てる馬鹿が多いのかしら……。死んだらお終いなのにね」
ぐったりとしている瑠璃に必死に縋り付いて号泣する珊瑚。
その様子を見ていかにもくだらなさそうに肩を竦めている綾香。
そして、
「綾香ぁぁぁぁぁぁっ!」
理性を失い弾かれるように飛び出し綾香に殴りかかる浩之。
しかし怒りに任せたその動きは直線的で単純であり、綾香に通用する道理はない。
綾香がほんの少し上半身を後ろに傾けただけであっさりとその拳は外される。
そのまま綾香は浩之の無防備な腹部へと膝蹴りを打ち込んだ。

「がはっ……」
カウンター気味に打ち込まれたその衝撃に耐え切れず、浩之はそのままその場に崩れ落ちた。
「ひ、浩之君っ!」
みさきが浩之の元へと駆けつける。
目の見えない彼女だったがこの場の異様な雰囲気と叫び声、銃声で大体の事情は察していた。
321希望と絶望と(後編)・修正版:2006/12/08(金) 03:08:51 ID:hqtrd+Go0
「そういえばそっか……一人殺した以上はあんた達にとって私は完全に敵って訳なのね。
良いわ、目撃者を残すわけにもいかないしまずはあんたから引導を渡してあげる」
綾香は銃を構えながらゆっくりと浩之に近付いてゆく。
そこでみさきが綾香と浩之の間に両手を広げ、毅然とした態度で割り込んでいた。
「何、貴方の方が先に死にたいってワケ?死ぬ順番が変わるだけなのに随分と無意味な事をするわね。
どうせなら、私に殴りかかってくるくらいすればいいのにさ」
「嫌だよ……。私は戦う事なんて出来ないし、人を傷付けたくもない」
綾香は知らない。みさきが目を見えない事を。戦うなどとても不可能な事を。
それでもみさきは首を振りながら綾香の前に立ちはだかった。
綾香は心底面倒臭そうに溜息を一つついた。
「ま、あんたの好きにすればいいわ。現実から目を逸らしたまま死になさいっ!」
火のついてしまった綾香はもう止まらない。その引き金にかけた人差し指に力を入れようとし―――――

「死ぬのは貴様だ、殺人鬼」
後方から投げかけられる静かな声を聞いた。
ほぼ同時に二つの銃声が辺り一帯に響く。
最初に綾香の拳銃が弾き飛ばされ、次にその脇腹に強烈な衝撃が走り彼女は傍の茂みへと吹き飛ばされた。
浩之が銃声のした方を見ると銃を構えた長身の男、そして浩之と同じ年頃の少女が立っていた。
鋭い眼光を放つその男は浩之の知っている人物だった。
「あんたは……」
「お前は確か、藤田浩之か。久しぶりだな」
男―――柳川裕也は銃を下ろし倒れている少女、瑠璃へと顔を向けた。
今にも息絶えそうなその様子を見て柳川の表情は僅かに、だが確かに歪んでいた。
「……倉田、もう手遅れかもしれんがそこの少女の手当てをしてやってくれ。俺はあの殺人鬼にトドメを刺す」
「は、はいっ!」
佐祐理は素早く救急箱を取り出し走り出し、浩之とみさきも遅れて瑠璃の所へと向かった。


(クソッ、まずいわね……)
その会話の一部始終を聞いていた綾香は焦っていた。
倒れた場所が茂みだったのは、綾香にとって僥倖と言える。
背の高い雑草のおかげで防弾チョッキには気付かれないだろう。
322名無しさんだよもん:2006/12/08(金) 03:09:50 ID:PuQ8AZzm0
まあ回避
323希望と絶望と(後編)・修正版:2006/12/08(金) 03:10:29 ID:hqtrd+Go0
だがそれも相手が油断していればの話だ。男の足音は確実にこちらへと近付いてくる。
このままではいずれ気付かれ、殺されてしまう。相手の注意がこちらから逸れるのを待つなどという悠長な作戦は通用しそうもない。
拳銃はどこに飛ばされたか分からない。マシンガンを鞄から取り出す暇があるとも到底思えなかった。
綾香は死体を演じながら反撃の糸口を捜し求め―――指先に何か硬い物が触れているのに気付いた。
それを絶対に悟られないように慎重な動作で握りこむ。
そして柳川が後数メートルといった所まで近付いてきた時、綾香は反撃を開始した。


「――――何!?」
綾香は撃たれた衝撃でポケットから落ちていたマガジンを柳川の銃目掛けて投げ付けた。
奇襲は完全に成功し、柳川の銃が弾き飛ばされる。
間髪いれずに起き上がり柳川の顎を狙って鋭い蹴りを放つ。
(――獲った!)
このタイミングなら絶対に避けられない。
綾香の豊富な格闘技経験がそう確信させる。
しかし、柳川の反応速度は常識で計りきれるものでは無かった。
「……くっ!」
「嘘でしょ!?」
柳川は迫り来る蹴りを間一髪で避けていた。
すぐに柳川も綾香も次の行動に移り、肉弾戦が始まった。
柳川は腕を振りかぶり、綾香の顔を狙った一撃を繰り出した。
だがその一撃の軌道を読み切っていた綾香は腰を落として避ける。
綾香はその態勢のまま柳川の足元目掛けて足払いをしかけた。
「その程度っ!」
柳川はそれを避けようとせず、逆に綾香の蹴り足に対して蹴りを放つ事で対抗した。
「つうっ……!」
先手を取り十分な予備動作を得ていたにも関わらず、綾香が逆に押し負け後退する。
その機を見逃さず柳川が一気に間合いを詰めた。
柳川の正拳が風を切りながら放たれる。
綾香は上半身を横に傾け、目標を失ったその右腕を両腕で掴んだ。
「ヘシ折れなさいっ!」
そのまま関節技の態勢に持っていき、柳川の右腕の機能を奪わんと全ての力を両腕に籠める。
324希望と絶望と(後編)・修正版:2006/12/08(金) 03:11:53 ID:hqtrd+Go0
今までの相手ならばこれで勝負は決していた。そう、今までの相手ならば。
だが柳川は咆哮と共にその腕を力の限り振り回した。腕を掴んでいる綾香ごとだ。
「うおおおぉっっ!」
「なっ!?」
勢いに耐え切れず綾香が振り払われる。綾香はそのまま勢いに身を任せ間合いを取った。
「―――貴様、やるな」
「あんたもね」
綾香も柳川も予想以上の相手の力量に驚いていた。
両者は再び地を蹴り間合いを詰め、場違いな決闘の続きが行なわれる。
騒ぎに気付いて柳川に加勢しようとしていた浩之だったが、その戦いの凄まじさに魅入ってしまっていた。

離れた地に落ちた銃を拾いにいく事など自殺行為に他ならないと二人とも分かっている。
両者の拳と殺意が交錯し続ける。
柳川の攻撃は綾香から見ればまだまだ粗く技術的には大したレベルではない。
だが―――
(……一体何なのよコイツ!)
―――スピードが違う。必殺のタイミングで繰り出した綾香の一撃が悉く防がれる。
―――パワーが違う。柳川の繰り出す一撃一撃がまともに食らえば戦闘不能に追い込まれかねない威力を秘めている。
それは綾香の知りうる全ての格闘技の枠組みを越えたものである。
猛獣のような柳川の攻撃の前に、綾香は次第に追い詰められていった。
綾香の常識が、修練の日々が、否定されていく。
湧き上がってくる感情は戦いによる高揚感などではなく、焦りと理不尽な思いだった。

「――――シッ!」
素早い突きが柳川の喉に向かって伸びる。
柳川は裏拳でその突きを弾き飛ばし、綾香の左脇腹へと拳を叩き込もうとし―――
「――――!?」
「くらえっ!」
すぐにそれを止めて綾香の頭部目掛けて上段蹴りを放っていた。
既に綾香は数回フェイントを用いていたが、柳川がこのような動きをするのは初めてだった。
大きく反応が遅れた綾香はその強烈な一撃を受け止める以外に選択肢が残されていない。
受け止めた綾香の右腕に鈍い痛みが走る。
325希望と絶望と(後編)・修正版:2006/12/08(金) 03:13:25 ID:hqtrd+Go0
「……こんのぉぉぉぉっ!」
それでも綾香は歯を食いしばって耐え、膝蹴りを柳川の脇腹へと繰り出す。
柳川は肘でそれを防いだが、梓に殴られた傷跡にもその衝撃が伝わり一瞬動きが止まった。

綾香にとってそれは明らかな隙だったが、敢えて追撃をしない。
既に幾度となく柳川の隙を狙って攻撃を仕掛けているがそのどれも通用していないので。
先の一撃で受けた右腕のダメージも大きく不利は明らかだ、加えて左肩の傷も気になる。
綾香は素早く飛び退いて自身のデイバッグを拾い上げ、次の瞬間にはもう林を目指して一目散に走り出していた。
(……予想外の展開だったけど―――収穫はあったわ)
レーダーは手に入れ、マシンガンも残っている。この場でこれ以上無理をするのは愚かな選択だ。
珊瑚という女を仕留めておきたい所だが、今それを成すのは非常に困難だろう。
自分が格闘戦で遅れを取った事実も非常に気に食わないが、借りを返すのならば後日万全の状態で戦うべきだ。
あくまで至上目的はまーりゃんの殺害、今この難敵との決着に固執していてはいけないのだ。


「貴様、待てっ!」
綾香の突然の逃亡に柳川は一瞬反応が遅れたがすぐに自分の拳銃を探し始め、見つけると迷わず綾香の背中に向けて発砲した。
だがその銃弾は虚しく空を切り、二発目を撃とうとした時にはもう綾香の背中は林の中に隠れて見えなくなっていた。
「チ……逃がしたか」
追撃を諦めた柳川はその場に放置された綾香の拳銃とその弾層を回収し、瑠璃達の方へと戻っていった。


「――――!」
戦いに集中していて気付かなかったが、珊瑚の泣き叫ぶ声が響き続けている。
瑠璃の胸からとめどもなく血が溢れていた。肺を傷付けられたのか口から血も吐いている。
これはもう―――――助からない。
医者でない佐祐理にはどうする事も出来ず、ただ力なく項垂れるだけだ。
いや、例え医者がいたとしてももう打つ手はないだろう。
柳川も浩之もみさきも呆然と立ち尽くすだけで何も出来ない。
だがそんな時、瑠璃が微かに声を発した。
「さ、ん……ちゃん……ぶじ、だったん……だね……。よかっ、た…………」
「瑠璃ちゃん!しっかりして!」
326名無しさんだよもん:2006/12/08(金) 03:13:31 ID:PuQ8AZzm0
よいしょっと
327名無しさんだよもん:2006/12/08(金) 03:16:08 ID:PuQ8AZzm0
さねさね
328名無しさんだよもん:2006/12/08(金) 03:17:34 ID:PuQ8AZzm0
携帯どうすんべ
329希望と絶望と(後編)・修正版:2006/12/08(金) 03:18:28 ID:hqtrd+Go0
「さん……ちゃん、ごめん……うち、もうだめ……みたい……」
「そ、そんな……瑠璃ちゃん……」
「何言ってんだ、諦めんな!」
浩之が座り込んで叫んでいた。その手は瑠璃の手を握っている。
「きっとまだ何とかなるから……駄目だなんて言うなよっ!」
涙を流しながら力の限り叫ぶ。
認めたくなかった。
諦めたくなかった。
だが、そんな彼の肩を柳川が掴んでいた。
「止めろ、藤田」
「何でだよ!瑠璃が……瑠璃がっ……!」
「楓のときは遺言を聞く時間も与えられなかった……。だが、まだその女は生きている。
ならばせめて最後まで話を聞いてやれ」
「…………」
それで浩之は何も言えなくなり、黙って瑠璃の言葉を待った。

「さんちゃん……うちら、ずっと、いっしょ……やったね……」
「……うん、瑠璃ちゃんとうち、ラブラブラブやもん」
「うちは……死んでも、さん……ちゃんの、こころのなかに、生き続けるから……から、これからもずっと、いっしょやで……」
「うん、うん……」
「だからさんちゃんは、生きて……浩之も……みさきも、死んだらあかんよ……」
「……分かった。俺達、お前の分も頑張るからな」
浩之が瑠璃の右手を、珊瑚が瑠璃の左手をしっかりと握り締める。
瑠璃の暖かさを忘れないよう、強く、強く。
「やくそく、やで……」
瑠璃の手から力が失われ、その目が閉ざされる。
後はただ浩之達の啜り泣く声が聞こえるばかりだった。

【時間:2日目午前8時20分頃】
【場所:G−5】
330名無しさんだよもん:2006/12/08(金) 03:20:20 ID:PuQ8AZzm0
まあ何はともわれ乙ですよ
331希望と絶望と(後編)・修正版:2006/12/08(金) 03:20:53 ID:hqtrd+Go0
来栖川綾香
【所持品1:IMI マイクロUZI 残弾数(20/30)・予備カートリッジ(30発入×5)】
【所持品2:防弾チョッキ・支給品一式・携帯型レーザー式誘導装置 弾数3・レーダー】
【状態@:逃亡、右腕と肋骨損傷(激しい動きは痛みを伴う)。左肩口刺し傷(治療済み)】
【状態A:まーりゃんとささら、さらに彼女達と同じ制服の人間を捕捉して排除する。好機があれば珊瑚の殺害も狙う】

姫百合瑠璃
 【持ち物:デイパック、水(半分)、食料(3分の1】
 【状態:死亡】
藤田浩之
 【所持品:なし】
 【状態:啜り泣き】
川名みさき
 【所持品:なし】
 【状態:啜り泣き】
姫百合珊瑚
 【持ち物:デイパック、水(半分)食料(3分の1)】
 【状態:啜り泣き】
柳川祐也
【所持品@:出刃包丁(少し傷んでいる)、S&W M1076 残弾数(4/6)予備マガジン(7発入り×4)】
【所持品A、コルト・ディテクティブスペシャル(2/6)、支給品一式×2】
【状態:左肩と脇腹の治療は完了したが治りきってはいない、教会を経由して平瀬村へ】
倉田佐祐理
【所持品:支給品一式、救急箱、二連式デリンジャー(残弾2発)、吹き矢セット(青×5:麻酔薬、赤×3:効能不明、黄×3:効能不明)】
【状態:啜り泣き 柳川に同行、教会を経由して平瀬村へ】

【関連】:B-13 510 524
この話を『希望と絶望と(後編)』と差し替えてください。
お手数かけて申し訳ありません>まとめ様

>>ID:PuQ8AZzm0氏
回避多謝〜 迷惑かけてすいません
332空に光る:2006/12/08(金) 17:20:35 ID:1YNELuHP0
走った。
ひたすら走り続けた。
あの時のように。かつて、皐月の自殺を止めた時のように、二人は無心で走っていた。
違うのは、それが希望を求める前進ではなく、絶望に満ちた後退だということだった。
どれくらい走っただろう、全身が汗で濡れた時ようやく花梨がその足を止めた。皐月もそれに気付いて、二、三歩先に進んでから、また戻ってきた。体が言う事を聞いてない。ふらふらになっている。
「もう…追ってきてないよね」
行きも絶え絶えにそう呟くと、花梨は近くの木に身を寄せてへたり込んだ。皐月も腰が抜けたようにどさりと座る。
二人は無言で、息が切れなくなるのを待った。智子と幸村の犠牲の元に二人は生かされている、そう考えるとお互いかける言葉がなかった。二人とも自分の気持ちを抑えるのに精一杯だった。
だが二人に共通していたのは、「今ここで泣いてしまえば、きっともう一人も泣き崩れてしまう。だから私一人が泣くわけにはいかない」という気持ちだった。
「皐月さん…これからどうするの?」
呼吸が回復した頃、最初に声をかけたのは花梨。しかし、その声には元気が感じられないのは明らかだった。
「…分かんないよ、どうすればいいのかなんて」
「だよね…」
だが花梨は少しの安堵も感じていた。復讐に走る、と言い出すよりはマシだったからだ。
「銃も無くなっちゃったし…私はもうこのキノコしかないわ。そっちは」
「私は…警棒と、貝殻と…エディさんの、パン。それに…あの宝石」
まともな武器は何一つ見当たらなかった。おまけに体力も尽きかけているこの状態で再び狙われようものなら今度こそ助からない。
「皐月さん…これで良かったのかな」
花梨が宝石を取り出す。相変わらずの輝きを保ちながら花梨のてのひらに転がっている。
「花梨は…どう思ってるの? 先に花梨の言葉が聞きたい」
逆に尋ねられ、少し口を詰まらせる。しかし思いきったように皐月に言った。
「間違っては…間違ってはいない、と思う」
333空に光る:2006/12/08(金) 17:21:13 ID:1YNELuHP0
すると皐月が少し笑って「ならそれでいいじゃない」と答えた。
「花梨が間違っていない、って言わなかったらきっと殴ってた。…だって、それだったら幸村さんや智子、無駄死にになっちゃうでしょ…?」
うん、そーだね…と小さく頷く花梨。
「私達だけでも、これを守り抜こう? 他人から見てどんなにそれが馬鹿げたものだとしても」
皐月は立ち上がると、花梨に近づき、宝石ごとその手を握り締める。そして、祈るかのように目を閉じた。花梨もそれに倣う。
(幸村さん、智子、いってきます)
二人ともがそう思った、その時。突然、空が明るくなったような気がした。
「!? て、敵っ?」
驚いた二人が空を見上げる。しかし、それは何者かの襲撃ではなかった。
「…光…?」
小さな、小さな球状の光が、ふわふわと空に舞っていた。あまりにも幻想的なその光景に、二人は見入ってしまう。
『光』はゆっくりと落ちてくると、花梨の手のひらに収まった。皐月がそれを覗きこむ。
「…何なのかしら、これ」
確かめようと、一度つついてみた。すると、聞き覚えのある声が脳に響いてきた。
『今やーーーっ!!皐月、花梨、逃げるんやーーーーーっ!』
「とっ、智子っ!? えっ、何…ウソ…?」
突然回りをきょろきょろし始めた皐月に、花梨がどうしたの、と尋ねる。
「いや…これに触ったら、智子の声が…」
「え…? ウソでしょ…?」
半信半疑気味に、花梨もつついてみる。
『さっさと…行けッ! 手遅れになってからじゃ遅いんだヨッ!』
『足の早さなら、自信があるからっ!』
『馬鹿もんっ!こんな下らないゲームに乗りおって……』
花梨は耳を疑った。死んだはずの、確かに死を見届けたはずの三人の『声』が聞こえてきたからである。
334空に光る:2006/12/08(金) 17:22:21 ID:1YNELuHP0
「エディさん、このみ、幸村さん…」
「えっ? その人達の声も!? どうなってるの、これ?」
再び『光』に触れようとすると、するりとかわし、再び空に舞い上がる。そして、今度は宝石へと落ちていき…そして、『光』は宝石に吸いこまれていった。
目の前で起きた、超常的な現象に何が何だか分からない二人。
「…ねえ、花梨。どういうこと、なの?」
「さぁ…私も、数々のミステリを追ってきたけど…こんなのは見た事も聞いた事も…でも、これだけは分かるよ。これは…みんなの『想い』なんだって」
皐月もそれに頷くほかなかった。ただでさえ謎の多い宝石に、また一つ謎ができてしまった。
しかし、二人に再び希望への道が見えてきたのも確か。
『光』を集められれば、何か起こるかもしれない。
集め方は分からないが、とにかく大きな前進にはなった。
「よし、行こうっ! 皐月さん」
「うん!」
335空に光る:2006/12/08(金) 17:23:05 ID:1YNELuHP0
【場所:B-3付近の森】
【時間:2日目10:00頃】
笹森花梨
【持ち物:特殊警棒、海岸で拾ったピンクの貝殻(綺麗)、青い宝石(光一個)、手帳、エディの支給品一式】
【状態:光を集める】
湯浅皐月
【所持品:セイカクハンテンダケ(×1個&4分の3個)、支給品一式】
【状態:光を集める】
ぴろ
【状態:皐月の鞄の中にいる】

【備考:B-10、11、13】
336女狐と殺戮者(Jルート):2006/12/08(金) 23:55:36 ID:O/TnAESQ0
「Hm…,このくらいでいいからしね」
リサのデイパックの中にはパンや果物等、大量の食料が詰まっていた。
今リサがいる小屋で入手したものである。
海の家の周りには民家は見当たらなかったから、少し時間が掛かってしまった。
きっと栞達が腹を空かせて待っているだろう。
急いで帰らなければ。

そう思い小屋を出た時何か違和感があった。
エージェントとして数々の経験を積んだ彼女だからこそ分かる違和感―――
次の瞬間にはリサは横に大きく跳躍し、そのまま地面を転がっていた。
銃こそ落としてしまったが、その動きは華麗という他無かった。
その後を追うように、銃弾が一斉に着弾し、地面の土が跳ね上がっていた。

「な――――」
驚愕の声を上げるのは、巳間良祐。
完璧な奇襲のはずだった。簡単に終わるはずだった。
相手が家から出てきた瞬間を狙っての、ライフルによる狙撃。
待ち伏せしている事を察知されていない限りは仕留めれる筈だった。
そして、察知されていない自信もあった。
今までに二回、この戦法で相手の不意をついてきたのだ。

事実相手は気付いた様子も無くのうのうと玄関から出てきたではないか。
それが何故、突然あのような動きをするのだ!
彼は混乱しながらも、地面に転がったリサに対してライフルを撃とうとする。
しかし、弾が発射される事は無かった。

「ぐああっ!!」
リサが放り投げたナイフが左肩に突き刺さっていたからである。
激しい痛みで、ライフルを取り落とす。
しかし良裕は既に一度、予想外の反撃を受けている。その経験のおかげからか、彼が次の行動に移るのは早かった。
彼は激痛に耐えながらも、すぐにライフルを拾いにいこうとし――それは諦め、ベネリM3を取り出し、次の瞬間にはもう撃っていた。
リサが間髪入れずにこちらに向けて走ってきていたので。その手にはいつの間にか銃が握り直されていた。
337女狐と殺戮者(Jルート):2006/12/08(金) 23:56:37 ID:O/TnAESQ0
リサはあの一瞬の隙の間に、落としてしまっていた銃を拾っていたのだった。


リサは銃を向けられた瞬間すぐに回避動作を取っていた。また、咄嗟に撃ったので良裕の標準も定まらない。
結局銃弾がリサに当たる事は無かった。だが、リサの突進を止める事だけは出来た。
この敵に近付かれる事は何としても避けなければならない。近付かれたら殺られる!
彼の直感がそう告げていた。


(コイツ………油断ならないわね)
リサは一気に間合いを詰め、確実に仕留めようとした。
素人ならナイフを刺された痛みですぐには動けないだろうと予想しての行動だったが、
予想に反してすぐに別の銃で攻撃してきたので、遮蔽物の影に退避しざるを得なかった。
その隙に良裕は取り落としたを素早く回収していた。

リサは冷静に思考を巡らせた。
(全く容赦がない奇襲だったわね…………、まずマーダーで間違い無さそうね。
それに複数の銃を持っている……、恐らく参加者を何人も殺してきた手馴れたマーダーね)
それでも、自分はエージェントだ。多少経験を積んだだけの素人とは格が違う。
装備差は明確だが、それでも勝てる自信はあった。

しかし不安要素もあった。
相手はまだ他にも装備を隠し持っているかもしれない。
万一防弾チョッキやグレネードランチャーの類の武器を持っていたら、流石に分が悪い。
それに何より、自分の一番の敵は主催者であって、ゲームの参加者ではない。
今は危険な賭けをすべきではないという結論に達した。


巳間良祐もまた、左肩の痛みに耐えながら、必死に思考を巡らせていた。
彼は奇襲に専念し、正面からの対決を避けるという戦い方を貫いてきた。
卑怯と言われる行動なのかもしれないが、そんな事は些事である。
338女狐と殺戮者(Jルート):2006/12/08(金) 23:58:00 ID:O/TnAESQ0
正々堂々戦おうが、死んだらそれで終わりなのだ。
このゲームで勝つという事は即ち、最後まで生き残る事。

無理せず殺せる時に殺し、危険な橋は決して渡らない。
それがこのゲームにおける最善の手の筈である。
今目の前にいる相手は明らかに戦闘慣れしている。それに自分は怪我も負っている。
今ここで雌雄を決しようとするのは危険過ぎる。

「ぐうぅっ!」
撤退する事を決めた良裕は、自らの肩に刺さっていたナイフを引き抜いた。
そしてショットガンで威嚇射撃をしながら後ろへと下がり始めた。
「くそっ……、あいつは一体何者なんだ!」
良裕は苛立っていた。彼の計算通りにいけば、先程の集団も今の女も問題無く仕留めれていた筈である。
だが結果的には仕留めれなかった。それどころか手傷まで負わされた。
何より、酷く肩が痛む。それに今の自分は怒りで冷静さを失っている。
今日はもう動き回るのは控えるべきだろう。


リサも無理に追う事はせずに、良祐とは反対の方向へと走り出した。
彼女の心には焦りが生まれていた。
彼女がこのゲームに参加してから、実際に戦闘を行なったのは初めてだった。
その最初の相手が、全く容赦が無く、武装も強力なマーダーだった。

醍醐や篁といった猛者達も既に死亡している。
それに加えて、人外の者達の存在……このゲームは思った以上に過酷なモノとなっているようだった。

さっきは奇襲される寸前まで察知できなかった。明らかに注意不足である。
どうやら自分は疲れているらしい。このゲームの緊張感は予想以上に体力を奪うようだった。
まずは戻って休憩をとらなければ。そして、その後はそれこそ死に物狂いで生き延びる事を考えよう。
そうしなければ、この過酷なゲームではきっと生き残れないだろうから。
339女狐と殺戮者(Jルート):2006/12/08(金) 23:59:16 ID:O/TnAESQ0
共通
 【場所:G−7】
 【時間:午後11時00分】

リサ=ヴィクセン
【所持品:コルト・ディテクティブスペシャル(弾数10内装弾3)、大量の食料】
【状態:疲労、今後の行動は海の家への帰還、それから休憩】

巳間良祐
【所持品:ベネリM3 残弾数(0/7)・89式小銃 弾数数(21/22)・支給品一式・草壁優季の支給品】
【状態:疲労、怒り。右足に激痛(治療済み)、左肩に痛み】
※リサの八徳ナイフは地面に放置

関連は→196、265
340彼女のタイミング2(1/5):2006/12/09(土) 01:45:46 ID:Qz9Xkt6h0
「くぅっ!」
「きゃあ!さ、皐月さんっ?!」

予想だにしない場所から放たれた銃弾は、湯浅皐月の左腕を掠る。
すぐさま近くに落ちていた38口径ダブルアクション式拳銃を手に取り、皐月は弾の飛んできた方向に向かい発砲した。
・・・反撃はない、逃げ出したのだろうか?
それでも油断はできない状況である、皐月は集中して気配を探ろうとする。

そんな、突然の襲撃にも冷静に対処する彼女。一方柚原このみは呆けてしまっていて使い物にならない状態である。
本当に足手まとい、下手したら彼女はほんの些細なことで命を落としてしまうかもしれない。

「行って」
「へ・・・」

声をかける、返ってきたのはやはり予想通りの間抜けな声。

「さっさとどっか行って、今ならまだ逃げられるでしょ」
「で、でも皐月さんはっ・・・」
「悪いけど、あんた邪魔。これなら一人で相手した方がマシなのよ」
「でもでも、怪我してるし・・・」
「いいから、あんたのことまで気を回す余裕ないのよ!無駄死にしたくなかったらさっさと逃げなさい」

でも、とまだこのみが粘ろうとした時だった。
今度は部屋の入り口の方面から弾が飛んでくる、中に入り込んでくるつもりであろう。
牽制しながら部屋の隅に移動する皐月。ここは境内である、隠れられる場所というのも多くはない。
何とか彼女についていこうと、このみも後を追った。そして再び声をかける。
341彼女のタイミング2(2/5):2006/12/09(土) 01:46:44 ID:Qz9Xkt6h0
「な、なら一緒に逃げようよっ」
「馬鹿、目の前にせまってんのに逃げ切れるわけないでしょ」
「そんなぁ」
「・・・いいか、らっ!!」
「きゃあっ?!」

最初に弾の飛んできた方向とは逆方面の窓、空気を入れ替えるためにのみ存在しているであろうそこに皐月はこのみを押し入れようとする。
軋んだと思ったら窓枠ごと外れてしまうが気にしない、その小さな猫の勝手口のような場所は小柄なこのみだから通ったとも言えるだろう。
とにかく、皐月の力業によりこのみは外に放られた。彼女の意思とは関係なく。

「さ、皐月さんっ!!」

このみが叫んだ時だった、どちらのものか分からない銃声が次々と鳴り響いてくる。
・・・今、このみにできることは、ない。
このまま突っ立てるだけでは何にもならない、せっかく皐月が作ってくれたチャンスを無駄にすることほどおこがましいものはないだろう。
だが、このみはそれでも動けないでいた。

(何も・・・できないの?このみには、何もできないの?)

あせる彼女。そんなこのみの肩には、喧嘩していた最中もかけっぱなしであった支給品の入ったバッグがかかっていた。





一方、入り口から狙い打つように篠塚弥生は皐月を追い詰めようとしていた。
だが皐月も負けてはいられない。走りこみながら弥生に近づき、そのままハイキックを決め彼女の手からワルサーを落とす。
思ったよりも身のこなしの軽い相手に弥生も戸惑う、だがやられるだけというのも彼女の性には合わない。

(・・・ワルサーではなくレミントンを構えていれば、急所を仕留められたかもしれませんね)
342彼女のタイミング2(3/5):2006/12/09(土) 01:47:28 ID:Qz9Xkt6h0
試し撃ちをするかどうか考えていた彼女の前に現れたのが、このみと皐月の喧嘩をする情景であった。
そこからさらに近づき狙っていたという状態だったので、自分の構えていた銃の向き不向きなど考える余裕もなかったということだろう。
だが、過ぎてしまったことを悔やんでも仕方ない。今はできる限りのベストを尽くすだけ。

ワルサーを飛ばされた弥生は、それに執着することなくまず皐月の拳銃を塞ぐための行動を起こした。
冷静に彼女の右手を払いのけ銃を叩き落し、そのまま押し倒してマウントポジションを確保しようとする。

「あぐっ?!」

皐月の左腕、血の滲む銃弾の掠った箇所を押さえ込む。
傷自体は大した事ないのであろうが、それと痛みとは別である。皐月の反抗はすぐに止んだ。

「ふぅ、手こずらせてくれましたね」
「いい気にならないでよ、おばさん・・・」
「口だけは達者のようですが、状況を見てものを言った方がいいかと」
「ふざけ・・・ぐぅ?!」
「?」

両手を自らの手で縛りつけて、動きを封じていた皐月の様子が一変する。

「ぐ・・・ああああぁぁぁぁ!!」
「?!」

少女のものとは思えない動き、苦しむように全身使っていきなりもがき出した皐月に手が出せない。
拘束を外すためのものかと思った、だから弥生は一端引き様子を窺おうとする。
彼女の異変自体はすぐ収まった。

「・・・あれ?ここどこ、あたしってば一体・・・ぇ?」
343彼女のタイミング2(4/5):2006/12/09(土) 01:48:14 ID:Qz9Xkt6h0
まるで今目覚めたかのように言葉を発した瞬間、皐月の体は側面に吹っ飛ばされる。
躊躇いなく放たれた弥生の裏拳は、しっかりと皐月のこめかみにヒットした。
強く頭を打ったのだろうか、そのまま気絶してしまう皐月・・・弥生にも、彼女の変貌については理解できなかったであろう。

それはセイカクハンテンダケの効果が切れたということ、ただそれだけのこと。
本来は後十数時間もつはずだったであろうが、このみと争っていた際に吐き出したことが関係したのであろうか。
効果は予想だにできないほど突然消え失せた、それは最悪のタイミング。

「何にせよ、これでお終・・・がはっ?!」

弥生にとっては最大のチャンスであった、だから彼女は余裕を持って皐月に止めを刺せるはずであった。
しかし、言葉は最後まで紡がれない。
ガンッ!ギャンッ!!!グァンッ!!!!
瞬間、ひたすらモノを叩き潰そうとする嫌な音が場に響いた。

「さつきっ、さんにっ、何するのぉっ!」

弥生が振り返る間もなく、打撃の嵐が降り注いでくる。
頭を集中して狙われたためか、意識はあっという飛んでいった。

「はぁ、はぁ、はぁ・・・」

もう弥生が再び動き出さないということを確認したうえで手を止めると、彼女はへなへなとその場に座り込んでしまう。
両手で握り締めた金属製のヌンチャクには、錆びてしまうとも思えるくらいの血がついていて。
同じくらい、それはこのみの制服にも飛び散っていて。

目の前には頭のひしゃげた女性の死体。ここにきて、このみの体を震えが走り抜ける。
・・・皐月を守るためとはいえ、本当にやってしまった。この手で人を殺してしまった。
その事実はこのみの心を引き裂いていく・・・涙が、気がついたら溢れてしまったそれがこのみの顔中を濡らしていく。

「あ・・・うぁ、うああああぁぁぁぁんっ!!!」
344彼女のタイミング2(5/5):2006/12/09(土) 01:48:56 ID:Qz9Xkt6h0
やっぱり皐月を置いて逃げ出すなんてことは彼女にはできなかった、だからこのみはずっと機会を窺っていた。
皐月を助ける瞬間を、でもそのために弥生を殺すつもりなんてなかった。
・・・ただ、加減が分からなかったから。それがこの結果を引き起こす。

境内に響くのはこのみの泣き声だけ、皐月が目を覚ます様子は、まだない。





湯浅皐月
【時間:1日目午後9時30分】
【場所:E−02・菅原神社】
【所持品:セイカクハンテンダケ(2/3)・支給品一式】
【状態:気絶】

柚原このみ
【時間:1日目午後9時30分】
【場所:E−02・菅原神社】
【所持品:予備弾薬80発・金属製ヌンチャク・支給品一式】
【状態:号泣・貴明達を探すのが目的】

篠塚弥生  死亡

38口径ダブルアクション式拳銃 残弾数(6/10)、ワルサー(P5)装弾数(4/8)はそこら辺に落ちてます
弥生の支給品(レミントン(M700)装弾数(5/5)予備弾丸(15/15)含む)は放置

(関連・493)(B−4ルート)
345第二回定時放送(ルートD−2):2006/12/09(土) 03:29:08 ID:W1I7JK5P0

午前6時。
篠つく雨に包まれた沖木島の静寂を破るように、声が響き渡った。
定時放送である。

『―――は、はじめまして。社会保険庁、総務部総務課の栗原透子と申します。
 こ、これより第二回の定時放送を、か、開始いたします。
 それでは、まず本日午前6時現在の、プログラム参加者の、し、死亡報告をしたいと思います。
 その……よ、よろしくお願いいたします。

3  朝霧麻亜子
7  伊吹公子
10 エディ
13 岡崎直幸
14 緒方英二
17 柏木梓
21 柏木初音
22 梶原夕菜
26 神岸あかり
30 北川潤
39 向坂環
43 幸村俊夫
44 小牧郁乃
49 佐藤雅史
51 澤倉美咲
53 椎名繭
55 少年
57 春原芽衣
65 立田七海
70 十波由真
73 長瀬祐介
74 長森瑞佳
346第二回定時放送(ルートD−2):2006/12/09(土) 03:29:54 ID:W1I7JK5P0
75 名倉由依
76 名倉友里
81 柊勝平
90 藤林杏
98 マルチ
99 美坂香里
100 美坂栞
106 巳間良祐
107 宮内レミィ
108 宮沢有紀寧
110 森川由綺
112 山田ミチル
114 柚木詩子
117 吉岡チエ
119 リサ=ヴィクセン
120 ルーシー・マリア・ミソラ

 以上、38……さんじゅうはち!? ……あ、す、すみません!
 い、以上、38名が過去12時間の死亡者でした。

 続いて、た、ターゲット賞を発表いたします。
 ターゲット、柏木梓の殺害に成功したのは、芳野祐介さん。
 同じく柏木初音殺害に成功したのは、来栖川綾香さん。
 同じく長瀬祐介殺害は、来栖川芹香さん。
 同じくルーシー・マリア・ミソラ殺害は、神尾晴子さん、神尾観鈴さん両名の共同作業と認定されました。
 以上の皆様には、現時点で優勝者の権利が与えられます。
 お、おめでとうございます。プログラム終了までの生存目指して、頑張ってくださいね。
 なお協議の結果、神尾観鈴さんの生死はプログラム終了条件から除外されました。
 ただしターゲット指定は解除されませんので、ご注意ください。
 現在のターゲット殺害数は4、生存ターゲット数は14名、ただしプログラム終了は
神尾観鈴さんを除く残り13名の死亡が条件となります。
 ……これでいいんですよね? ……あ、は、はい』
347第二回定時放送(ルートD−2):2006/12/09(土) 03:30:56 ID:W1I7JK5P0
何かをごそごそと確認するような物音が、島中のスピーカーから流れる。

『し、失礼しました。
 続いて……ほ、本日の天候です。
 本日の沖木島は、雨のち曇り、ところにより晴れ。
 夜半から降り続いた雨は次第に弱まり、山沿い以外の地域ではお昼前に止むでしょう。
 午後からは太陽が顔を覗かせるところも多くなり、過ごしやすい天気となる見込み、です。
 気温は平年並み、風はやや強く、波は高いでしょう。
 ……あ、以上、気象情報でした。

 主催一同、皆様の、今後一層の……ご、……あ、え?……ごせいれい?
 ……し、失礼しました! 今後一層のご精励をおいのりしております。
 社会保険庁、総務部総務課の栗原透子が、お、お送りしました』


たどたどしい放送が終わるや否や、新しい声がスピーカーから響く。


『業務連絡です。
 久瀬様、久瀬権兵衛様。
 久瀬様には現在、服務規程違反及び国家反逆罪の嫌疑がかけられております。
 幕僚本部通達によりまして本日午前6時をもって司令職より解任。
 以降は一般参加者扱いとなりますのでご注意ください。
 お手持ちの光学兵器・砧夕霧30000体は支給品扱いとなりますので、そのままお持ちください。
 給与等で不明な点は防衛庁人事教育局、人事計画・補任課までお問い合わせくださいませ。
 なお私物等は後日、ご自宅へ送付いたします。

 続きまして業務連絡です。
 久瀬前司令の承認により上陸が許可された全強化兵、及びゲストの皆様は至急撤収の上、
本部への出頭をお願いいたします。
348第二回定時放送(ルートD−2):2006/12/09(土) 03:31:43 ID:W1I7JK5P0
 続きまして、プログラム参加者の皆様へご連絡申し上げます。
 参加者名簿、及びターゲット指定に変更がございますので、追記をお願いいたします。
 新たに参加者へ追加となりますのは121番、久瀬。
 繰り返します、121番、久瀬。また同時に、久瀬はターゲット指定参加者となります。
 伴いまして生存ターゲット数は15名となります。ご注意ください。
 なお、久瀬前司令官による参加者の皆様に対する通達はすべて有効となります。
 参加者の皆様におかれましてはご安心くださいませ。

 この度は皆様に多大なご迷惑をおかけしたことを心よりお詫び申し上げます。
 今後はこのような事態を未然に防ぐべく、チェック体制と監視体制の強化を行ってまいります。
 誠に申し訳ございませんでした。

 ……以上、臨時放送は皆様のお耳の恋人、桜井あさひがお送りいたしました♪
 あなたのハートに、ときめ』


ようやく静けさを取り戻した島に、朝が来る。
349名無しさんだよもん:2006/12/09(土) 03:34:19 ID:wJcSMm9+0
回避
350第二回定時放送(ルートD−2):2006/12/09(土) 03:37:59 ID:W1I7JK5P0
栗原透子
【状態:てんやわんや】

桜井あさひ
【状態:これが本職の力だっ! ……って、どうして途中で切るんですか……?】

>>349
感謝〜。
351蜃気楼:2006/12/10(日) 19:06:49 ID:NUE7lDlc0

『―――上陸が許可された全強化兵、及びゲストの皆様は至急撤収の上、
 本部への出頭をお願いいたします』
「……だとよ」

陸軍火戰試挑躰、御堂が肩をすくめて振り返る。
その視線の先にいた白髪の男、坂神蝉丸は目を閉じたままで口を開く。

「……上は相変わらずだな」
「けっけっけ、連中に少しでも前線のことがわかってりゃ、こんな負け戦になるこたあなかっただろうよ」

御堂の含み笑いには、しかし自嘲の響きはない。
絶望的な戦況を楽しむが如き精神性が、彼をして強化兵たらしめている要因であった。

「石原はどうしている」
「石原……ああ、安宅のことか? 知らねぇよ、あんな薄気味悪い女なんざ。
 いつも通り何か企んでやがるんじゃねえのか」
「……そうか」

雨を避けるように身を寄せている洞窟の奥、夜が明けてなお薄闇に包まれたそちらをちらりと見る御堂。
石原麗子は連れてきた随伴者達と、何やら話し込んでいるようだった。
話の中身など知る気もないと、御堂は蝉丸へと視線を戻す。

「それで、貴様はどうする気だ、御堂。帰還命令に従うのか」

静かな問いかけを、御堂は少し意外に思う。
上からの命令に従うかどうかなど、蝉丸が確認することなどこれまで一度もなかった。
命令とは遵守するものであり、それが適わなければ死をもって償う。
坂神蝉丸とはそういう男であると、御堂は認識していた。
しばらく蝉丸の内心を窺うようにその横顔を見ていた御堂だったが、瞳を閉じたその静謐な表情からは
何も読み取ることはできない。おどけたように肩をすくめ、口を開く御堂。
352蜃気楼:2006/12/10(日) 19:07:38 ID:NUE7lDlc0
「……ケ、冗談じゃねえぞ。
 俺達がどうしてこんなところで油売ってるのか、分かってんだろうが。
 『お客さん』どもが、物見遊山がしてえなんぞと抜かしやがる、そのお守りだぜえ?
 連中は艦から出すなと厳命されてた筈が、あの坊ちゃん、自分も出るからって簡単に許可しちまいやがってよ。
 どの道、上の連中は俺らなんざ時代遅れのガラクタだと思ってやがんだ。
 今回のこたぁ、いい口実になるだろうぜ。戻ったところで命令無視で銃殺が関の山。
 悪くすりゃ、切り刻まれて実験、実験、実験だろうよ」

安宅あたりは上手くやるんだろうがな、と唾を吐き棄てる御堂。

「幸い俺らにゃ、あのクソったれな首輪とやらはついてねぇしな。
 適当にバケモン狩りでもしながら時間潰して、隙ィ見てトンズラ決め込むとするさ。
 ……第一、こう雨が降ってちゃあ、俺ァ戻るに戻れねえ」

最後は少し情けない顔になって付け加えると、御堂は懐から煙草を取り出して火をつけた。
フィルターの部分はぞんざいに噛み千切り、吐き棄てる。
そうして御堂は美味そうに紫煙を吸い込むと、蝉丸に問いかけた。

「……で、貴様はどうするよ、坂神?」
「俺は……」

問われ、蝉丸が閉じていた瞼を開けた。
強靭な意志を秘めたその瞳は、真っ直ぐに洞窟の外、雨に濡れる木々を見つめている。

「―――俺は……残ろうと、思っている」
「……はァ? 残るって貴様、この島にかよ?」

意外な答えに、煙草を取り落としそうになる御堂。

「おいおい、陸軍にその人ありとうたわれた、鉄の坂神さんがどういう風の吹き回しだぁ?
 光岡あたりが聞いたら刃傷沙汰だぜえ……」
「……砧を、な」
353蜃気楼:2006/12/10(日) 19:08:42 ID:NUE7lDlc0
御堂の軽口もどこ吹く風と、蝉丸は重々しく続ける。

「砧を、護ろうと思う」
「砧、って貴様……まさか、あの薄気味悪いデコ人形どもをかよ?」

御堂の脳裏に、数隻の揚陸艇の甲板といわず船室といわず詰め込まれた無表情な顔が浮かぶ。
理不尽な扱いにも苦痛をもらすどころか、声ひとつあげようとしなかった量産体。
明確な自意識すらもない、生体光学兵器。
それは軍が研究を続けてきた複製身技術の、ひとつの到達点であった。

「おいおい、どうしちまったんだ貴様……? 勘弁しろよ、連中のおかげで俺らァお払い箱なんだぜえ?
 それとも何か、あの久瀬とかいう坊ちゃんに同情でもしちまったかぁ?」
「そういうことではない」

御堂の疑念を言下に否定する蝉丸。

「……俺には、な」
「……」

どこか遠くを見つめるような蝉丸の表情に、御堂は胡乱げな眼差しを向ける。

「俺には、分からなくなってきたのだ。
 戦場という戦場を駆け抜けてきたといっても、俺達はただの駒に過ぎん。
 それは分かっていたし、それで構わんとも思っていた。
 しかし―――」

そこで蝉丸は言葉を切って立ち上がると、洞窟の入り口近くまで歩いていく。
雨の降り続く空を見上げて、再び口を開いた。
354蜃気楼:2006/12/10(日) 19:10:14 ID:NUE7lDlc0
「……しかし、今回の決定はどうしても腑に落ちん。
 久瀬という少年は文民だが、しかし司令官だ。今回の作戦の長たる方だった。
 それが何だ。俺達を盤面の上で動かしていた者までもが、いとも簡単に切り捨てられる。
 その上、決戦兵器と持て囃されていた砧たちが、捨て駒扱いだと……?
 あれはこの戦局を覆すための技術ではなかったのか」

ぎり、と奥歯を噛み締める蝉丸。

「……国の為と思えばこそ。
 我らが屍を礎に、後に続く者の道が築けると信ずればこそ、俺は戦ってこられた。
 俺は……、俺には最早、奉ずるべき義が見えんのだ、御堂」

振り返ったその眼は、深い苦悩を湛えていた。
御堂の吸う煙草が、じ、と小さな音を立てる。

「俺たちが、何の為に戦ってきたのか。
 あの砧という娘たちが、何の為に生まれてきたのか―――」

言葉を切ると、蝉丸はどこか悲しげに眉を寄せて、呟いた。

「……俺は、与えてやりたいのだ。あれらに、生まれてきた意味を」

黙って蝉丸の言葉を聞いていた御堂は、最後に一吸いすると煙草を投げ捨てた。
軍靴の底で踏み躙ったそれを眺めながら、口を開く。

「……そうかい」

それは、彼らしからぬ静かな声音だった。
しばらくの間を置いて、御堂が独白めいた口調で言う。

「……ま、俺様がトンズラするにも船は必要だ。
 まだ残ってやがるなら……俺様がいただくまで、精々しっかり守り抜いてくれや」
355蜃気楼:2006/12/10(日) 19:10:49 ID:NUE7lDlc0
蝉丸の方へは目をやらないまま、御堂はひらひらと手を振る。

「じゃあな、坂神ィ―――」

口元には、いつもの肉食獣めいた笑み。

「次に会う時は……敵同士ってことで、なァ」

対する蝉丸もまた、篠つく雨に濡れる森を眺めながら、ただ一言だけを返した。

「―――さらばだ、御堂」



【時間:2日目午前6時】
【場所:G−7】

坂神蝉丸
【状態:砧夕霧の直衛へ】

御堂
【状態:雨が上がり次第、参戦】


石原麗子・猪名川由宇・スフィー
【状態:帰還】

→401 404 531 ルートD-2
356苦難:2006/12/10(日) 22:06:54 ID:B+iiXlPI0
―――午前六時。
祐一達は氷川村にほど近い場所で第2回放送に聞き入っていた。

……
……
24 神尾晴子
……

「か、神尾晴子さんって、観鈴の―――」
「ああ。観鈴君の母親だろうね」
「くそっ、やっぱり……」

祐一は不安気味に、英二の背中で眠っている観鈴に視線を寄せていた。
今は眠っているが後でこの事実を知ったらどういう反応をするのだろうか。
きっと心にまで大きな傷を受ける事になるだろう。
放送はそんな祐一達の不安を意にも介さないように続けられていく。

……
51 澤倉美咲
56 新城沙織
……

(―――タカ坊や雄二は無事だったみたいね)
向坂雄二や河野貴明、朝霧麻亜子の番号が呼ばれる事は無く既に死者発表はそれ以降の番号へと移っている。
学校での揉め事のその後の顛末は分からないが貴明と麻亜子は共に命を落とさずに済んだという事だろう。
その事は環にとっては間違いなく喜ぶべき事であった。だが今回は前の放送の時とは違い仲間の身内が死んでいる。
神尾晴子は自分にとっては突然襲い掛かってきた敵に過ぎないが、観鈴にとっては唯一無二の大切な母親だったのだ。
環はとても安堵の息を漏らす気にはなれなかった。

……
……
99 美坂香里
357苦難:2006/12/10(日) 22:08:44 ID:B+iiXlPI0

「香里……」
呼ばれた級友の名に、祐一は唖然としていた。また一つ、彼にとっての"日常"が欠けてしまった。
だが同時に、あゆや芽衣の死を知った時ほど自分が動揺していないとも思った。
祐一は僅か1日で何度も大切な人や仲間の死を経験している。きっと、慣れてしまったのだ。
だが悲しみまでもが無くなるわけではない。祐一はもう二度と見れぬ香里の少し冷めた笑顔と、残された栞の事を思って静かに目を閉じた。
しかし得てして不幸は連続で訪れるものである。これで終わりでは無かった。


……
115 柚原このみ
116 柚原春夏


「う……嘘……でしょ……?」
大切な幼馴染の死に、環はがくんと膝から崩れ落ちた。
このみが死んだなんて信じたくない……しかしこの島ではいつ誰が死んでもなんら不思議ではない。
その事を十分に思い知っている環には、受け入れがたい現実を否定する事も出来ずただ両の瞳から涙を零す事しか出来ない。
英二も祐一も大切な者をなくした時の辛さは既に味わっている。環に対してなんと声を掛ければ良いか分からなかった。







このみの死を知った環は心が張り裂けそうな痛みを感じていた。
彼女の"日常"が音をたてて崩れていく。傍に居て当然の存在が理不尽な形で奪われてしまったのだ。
環はこの結果を予想していなかった訳ではない。
貴明や雄二ならそう簡単に死ぬ事は無いだろうと思っていた。だがこのみだけは別だった。
このみはどう考えても殺し合いには不向きであり、一番危ない事は分かっていた――――分かっていたのに何もしてあげれなかった。
環の心は悲しみと後悔の念で覆いつくされていた。
358苦難:2006/12/10(日) 22:10:11 ID:B+iiXlPI0

だが今は感傷に浸っている余裕など欠片も無いのだ。貴明も雄二もまだ生きている。
きっと二人共今の放送で相当なショックを受けているだろう。
こんな時こそ彼らの姉として生きてきた自分がしっかりしなくてどうする。
環は涙を拭き、少しふらつきながらもしっかりと立ち上がっていた。
まだ笑顔を作る余裕は無かったけれど、それでも凛とした表情を取り戻していた。
まだ大切な存在は残っているから―――確かな強さを環は持つ事が出来た。







「すいません……もう大丈夫です。診療所はもう遠くない筈ですし急ぎましょう」
「環くん……良いのか?」

放送から少し時間が経過した後口火を切ったのは環だった。
英二が心配そうに尋ねるが環は静かに首を横に振った。

「観鈴が危ないんです……こんな所でゆっくりとはしていられません。
それに私達が無事にここまで来れたのはタカ坊が頑張ってくれたおかげです。
それを無駄にするような真似なんて出来ません」
「――分かった。もう明るくなったし奇襲される心配は少ないだろう……ペースを上げていこう。
それと、神尾晴子さんの事は暫く観鈴君には秘密にしておこう。今これ以上の負担をかけるべきじゃない」
「そうですね……。それじゃ向坂、英二さん、次は俺が観鈴を背負います。診療所へ急ぎましょう」

英二が先頭を歩き、環と観鈴を背負った祐一がその後に続く。
全員何かに耐えるような表情をしながらも前へ向かって歩いていく。
これまでのゲームの中での彼らの道のりは苦難の連続で、体も心も傷付きながらも彼らは生きてきた。
どうやらそれはこれから先も同じようで。
359苦難:2006/12/10(日) 22:11:22 ID:B+iiXlPI0

「―――あれは?」
診療所まで後数百メートルの所まで迫った時、彼らは二つの人影を発見した。
それは遠目には何の異常も見られない向坂雄二とマルチの姿だった。

【時間:2日目午前7:00】
【場所:I-07】
向坂環
【所持品:支給品一式】
【状態:疲労、後頭部に殴られた跡(行動に支障は無い)】
緒方英二
【持ち物:ベレッタM92(8/15)・予備弾倉(15発×2個)・支給品一式】
【状態:疲労】
相沢祐一
【持ち物:レミントン(M700)装弾数(5/5)・予備弾丸(15/15)支給品一式】
【状態:観鈴を背負っている、疲労】
神尾観鈴
【持ち物:ワルサーP5(8/8)フラッシュメモリ、支給品一式】
【状態:睡眠 脇腹を撃たれ重症、祐一に担がれている】
向坂雄二
【所持品:金属バット・支給品一式】
【状態:マーダー、精神異常 服は普段着に着替えている】
マルチ
【所持品:歪なフライパン・支給品一式】
【状態:マーダー、精神(機能)異常 服は普段着に着替えている】

※雄二とマルチの血まみれの制服・死神のノートは雅史の死体がある家(I-7)に放置。武器に付着した血は拭き取ってある
【関連】
B−13
→479
→501
→512
360救出組(1/4):2006/12/11(月) 00:30:09 ID:9tPEXNmj0
「成る程ね。正直それだけだと、本当かどうかは読み取れないな」
「何、ボク達が嘘ついてるとでも言うの?」
「はは、違うよ。相手側の方さ。君たちを騙して、誘き出そうとしているという可能性を否定できないだろう?」

電話の件について、自分達だけではどうすることもできないと結論付けた柊勝平と神尾観鈴は、頼りになりそうな人物にこのことを打ち明けることにした。
頼りになりそうな人こと緒方英二は、冷静にとりあえずの意見を述べる。
しかし、その返答に観鈴は納得することができないでいた。

「女の子、必死そうだった。凄く、一生懸命だった。・・・私行きたい、助けに行きたい」

直接助けを求めてきた少女と会話した観鈴にとっては、彼女の必死さを無下にはできないという思いが強く。
そんな様子の観鈴に対し、勝平は冷ややかな視線を送った。

「っていうか、お前が行っても役には立たないだろ。人質が増えるだけじゃないのか?」
「が、がお・・・」
「うーん、でもその子の声をちゃんと聞いたのは神尾さんだけなんだよね?
 本当に行くのならば、どのちみち神尾さんは同行しなければいけないと思う」
「はあ?何で」
「・・・神尾さんが言う女の子を囲っている側の人間が、柊君の聞いた声の持ち主・・・男性だけという訳ではないかもしれないからね。
 誰が敵で誰が味方かは見極めなければいけないだろう、それを判断するのに彼女は必要だ」

成る程。やっぱり頼もしかった。

「ただその発想で言えば、その子以外にも捕らわれた人間もいるかもしれないんだよね。
 厄介だな、そこら辺は何も聞けてないのだろう?」
「電話、すぐ切れちゃったから・・・」
「仕方ないね。じゃあ二人でサクサク頑張ってきてくれたまえ」
361救出組(2/4):2006/12/11(月) 00:30:49 ID:9tPEXNmj0
「ちょっと待て、何だその他人のふりは。っていうかボクも行くのかよ」
「神尾さんを一人にする訳にいかないし、第一男の声を聞いたのは君なんだから。
 君も判断材料の一つなんだよ、彼女を守って男度アップさ。ははっ、ぴったりの配役だ」
「こんな生死かけてまで男度上げてどうする?!
 やだよ、ごめんだね。そんなの、万が一ボクの身に何かあったらどうするのさっ」
「ははっ、僕には芽衣ちゃんがいるからね。悪いけど責任は・・・」
「どういう意味だよ?!」

だが、勝平もそこは粘った。
復讐は終わっていない、ここでそんな命の無駄遣いをするわけにはいかなかった。
・・・そう、今は呑気に休んでいるであろう相沢祐一と藤林杏に自分と同じ痛みを与えるまで、勝平は死ねない。

「柊が行かないなら俺が行くよ。神尾とはここまで一緒に来た仲だし、ほっとけないさ」
「私も付き合うわよ。一日中引きこもっていたから体力にも余裕あるわ。
 とにかく、男には気をつけろ。それでいいんでしょ?任せてよ」
「って、お前等いつからそこにいた」
「最初からいただろ」
「ビジュアルないからって好き放題だな?!」

事の発端、祐一と杏はいつの間にか隣に立っていて、さも当然と会話に混ざっていた。

「すぐ帰ってきますよ。向坂と芽衣ちゃんのこと、お願いしますね」
「すまない、危険なことを押し付けたようになってしまって・・・」
「気にしないでいいわよ。・・・環さんがいるから大丈夫だと思うけど、芽衣ちゃんに手を出すんじゃないわよ?
 お兄さんに言いつけちゃうんだから」
「ははっ、二人にはかなわないな」
「ボク無視?!」

気がついたら、勝平はガヤと化していた。
362救出組(3/4):2006/12/11(月) 00:31:40 ID:9tPEXNmj0
「にはは、勝平さんカワイソス」
「お前も似たようなもんだろ」
「が、がお・・・」
「っていうかボクも行く、行くよ!!やっぱり行きますっ」
「いきなりだね。さっきまであんな反抗してたのに」

そう、勝平にとっては祐一と杏が同行するというならば話は別だった。
それこそチャンスがあれば葬ってやることもできるのだから、この機会を逃すのは惜しすぎる。
そもそもこのメンバーは固まってばかりいて何ともやりずらいグループである、崩せる時があるならば有効活用せねば。
これを逃して、またぬるま湯のような時間を過ごす事だけは嫌だった。だから、勝平はまた粘った。

「勝平さん、無理しない方がいいわよ。あなた大変な病気持ってるんだから」
「うわっ、こっちも忘れてるようなこと今言うか」
「そうそう、よく薬飲まないで生きてられんな。普通死ぬだろ」
「内服薬くらい持たされてるよ、ウサギだって言ってただろーが!」
「言ってたか?」
「言ってないわね」



その頃のもう一人の病人。
「氷上君、何飲んでるの?」
「ん、持病がちょっとあってね。生き残ってるのも始末が大変ってことさっ。ははっ!」



「とにかく、こう、ほら!命の危機に関わるようなのはオッケーだったのっ、車椅子が持ち込み可なんだからいいだろ別に」
「どうでもいいよ」
「そっちが振ってきたのに?!」
「とにかく、病弱なお前があっちで揉め事起きた場合戦闘面で期待できないのは変わらないんだよ。イラネ」
「ちょ、これ!これ見てってばっ、電動釘打ち機にパイナップルにその他モロモロ!役に立つって、本当役に立つって!!」
363救出組(4/4):2006/12/11(月) 00:32:33 ID:9tPEXNmj0
粘った、とにかく粘った。
粘った結果、どうやら波は勝平の方に向いてくる。

「仕方ないわねー」
「まぁ、土下座までされたら認めるしかないか」
「してないよ?!だからビジュアルないからって好き放題するなってば」
「柊さん、あまり熱くなりますとお体にさわりますよ」
「はっはっはっ、芽衣ちゃんは優しいな〜」
「何でいきなり現れるんだ、ここの連中は!!」
「え?私、最初からいましたけど」
「つっこみきれん!!」
「にはは、四人で仲良く頑張ろー」

という訳で、鎌石小中学校へ行くメンバーが決まりましたとさ。




「くっそー、見てろよ・・・へへっ、二人とも嬲り殺しにしてやるわぁ」
「にはは、勝平さんキモい」
「お前いい加減にしろよ・・・」
「が、がお・・・」
364補足:2006/12/11(月) 00:33:12 ID:9tPEXNmj0
柊勝平
【所持品:電動釘打ち機16/16、手榴弾三つ・首輪・和洋中の包丁三セット・果物、カッターナイフ・アイスピック・支給品一式(食料少し消費)】
神尾観鈴
【所持品:フラッシュメモリ・支給品一式(食料少し消費)】
相沢祐一
【所持品:S&W M19(銃弾数4/6)・支給品一式(食料少し消費)】
藤林杏
【持ち物:ノートパソコン(充電済み)、包丁、辞書×3(英和、和英、国語)支給品一式(食料少し消費)】
【状態:鎌石小中学校へ】


緒方英二
【持ち物:拳銃(種別未定)デイパック、水と食料が残り半分】
春原芽衣
【持ち物:デイパック、水と食料が残り半分】
【状況:残留組】

【時間:2日目午前0時】
【場所:C-05鎌石消防分署】

(関連・486)(B−4ルート)
365変調の兆し:2006/12/11(月) 01:50:31 ID:s3VlaeFw0
いい加減誰か突っ込んでくれよ。俺様の方向性はこれで本当に良いのか?
なし崩し的にどんどん他人と関ってる気がするんだが気のせいじゃないよなこれは。
今回の件もそうだ。助けるまではいい、武器も手に入りそこそこの活躍も出来たしな。
だがなんで俺様は今こんな全力で走ってるんだ。
郁乃のところに戻る必要はあるのか?
そして久寿川と合流する必要も本当にあるのか?
あの麻亜子とか言ったクソガキに対しての怒りは確かにあるが、ぶっ殺したい衝動まではなくなっていた。
貴明って奴の言葉のせいか、久寿川のあの泣きそうなツラのせいか、そんなことは知ったこっちゃねえが
なんだかんだで俺様は無事に生きてるんだからほおっておいていいじゃねえか。
このままトンズラこいて、今度こそ当初の目的を果たせばいい。
そう考えてるのに身体は止まろうとしやしねえ。
いったいぜんたいどうしちまったんだろうな俺様は。

「あううーー、待ってよぉ」
後ろから聞こえた叫びに俺様は思わず足を止めた。
振り返ると沢渡が息を荒げながら必死に後を追いかけていた。
その顔には傍目からもわかるほどの大量の汗を流し、それでも離されまいと走っているのがわかった。
「チッ」
俺様は足を止めると、沢渡のそばに駆け寄る。
「早すぎるーっ!」
「おめえがおせえんだよ、ったく」
その言葉に頬を膨らませるも、ヨロヨロと力なく俺様の身体にもたれかかる沢渡。
「チンタラしてる時間はねーんだが……少し休むか?」
言うや否や、疲れのほうが勝っていた沢渡はコクリと頷いた。
思うように動かせない沢渡の身体を支えながら、沢渡を道脇に生えていた木の根元に座らせバックを開く。
「ほらよ」
取り出した水をゴクゴク一気に飲み干す沢渡を見て、何故か笑みが浮かんできた。
本当になんでだ。普段の俺様ならこんな奴気にせず置いていっただろうに。
瞬く間に空になってしまい、出てこない水を惜しむように水筒の傾けて舐めている。
やれやれ、しょうがねーな……。
366変調の兆し:2006/12/11(月) 01:51:27 ID:s3VlaeFw0
「ほらよ」
自分で飲んでいた水筒を沢渡の前にかざす。
「え?」
その行動にたいしてキョトンとした顔で俺様を見つめてきた。
「足りないんだろ、飲んでおけ」
「いいの!?」
そう言って俺様の手から奪うように水筒を取ると一気にそれをも飲み干した。
大きく息をつくと満足そうに笑うと空になった水筒を俺様に戻すと「ありがとう」と小さく呟く。
なんだ、生意気なだけかと思ってたが素直なところもあるんじゃねーか。

「ねえ……高槻はこれからどうするの?」
「ああ?」
呼び捨てにされたことに思わずムッとしながら沢渡を睨みつけていた。
剣幕に怯えたように肩を震わせていた沢渡を見て思いなおす。
こんなガキに凄んでどうすんだ、ハードボイルドだろ俺様は。
「さっき久寿川と話したこと忘れたのか? 郁乃達を連れて久寿川たちのところへ行くさ」
「そうじゃなくて」
「あ?」
「最初は何をしようとしてたのかなって。探したい人とかいないの?」
「ああ……別にいねえな。逆に会いたくねえ奴らばっかりだ」
FARGOの連中の顔を思い浮かべる。間違いなく襲い掛かってくるんだろうな、めんどくせえ。
「お前はどうなんだ?」
「……祐一」
「ん?」
「祐一に会いたい」
「なんだ、お前のコレか?」
親指を立ててやるも意味がわかっていないようで「男か?」と言い直してやった。
小さく首を振るも少なくとも祐一って奴がこいつにとっての一番大事な奴には違いないことはわかった。
特に何かしてやろうって気はさらさらなかったが、結局こいつもコブつきかと思うと妙に苛立った。
久寿川もそうだったし、これから出会う奴みんな男持ちじゃねーよな……。
367変調の兆し:2006/12/11(月) 01:52:35 ID:s3VlaeFw0
「そろそろ行くぞ」
俺様が立ち上がるのを見て沢渡も慌てて立ち上がろうとするも、身体をふらつかせながらその場に倒れこんだ。
「あれ?」
再び身体を起こすも、足がプルプルと震え俺様にのしかかってきた。
「……なにやってんだ?」
「あ、あれ……?」
おぼついて無い足で必死にしがみついてくる沢渡。
疲れがたまってるのか。それとも体調でも崩したのか。
沢渡の額に手を当ててみるも特に熱があるわけでも無い。
風邪を引いたってわけでもなさそうだし恐らく前者だろうな。
仕方なく溜め息をつきながら俺様は沢渡の身体を背中に担ぎ上げた。
「時間がねーんだ、このまま行くぞ」
このくらいの重さなら苦にはならんだろう。
そう思ってバックを持った俺様だったが、沢渡はジタバタと暴れながら頭をぽかぽかと叩いてくる。
「いててっ! なんだよっ!!」
「違うのーっ!」
「何が違うんだよ!」
「こう言う時って、前で抱きかかえてくれるんじゃないの!?」
言ってる意味が一瞬わからなかったが、冷静に考えてみる。
あー、何だ、前で抱える。つまりあれだろ? 俺様が? なんで? そんな傍目に見て恥ずかしいことを?
その間も口を尖らせてブーブー文句を続ける沢渡。
実は演技じゃねーだろうなこの野郎。
ええいめんどくせえ。俺は意を決して沢渡の背中と足を抱えて走り出した。
そう、俗に言うお姫様抱っこ。あまりにも俺様のキャラにあわな過ぎて顔から火が出そうだ。
こんなところ誰かにでも見られようものなら立ち直れないかもしれん。
そう思った俺様は一心不乱に走り続けた。
たまに下を向くと満面の笑みで笑っている沢渡の顔があり、俺の腕を握り締めていた。
悪い気はしない、しないんだが良い気もしない。
ジレンマに耐え切れずますますスピードを上げ、気が付くと特に何事もなく数時間前にくぐった無学寺の門が眼前に見えていた。
368変調の兆し:2006/12/11(月) 01:53:17 ID:s3VlaeFw0
ハードボイルド高槻
 【所持品:食料・水以外の支給品一式、日本刀、分厚い小説、ポテトwithコルトガバメント(装弾数:6/7)予備弾(13)】
 【状況:無学寺で郁乃達と合流、その後鎌石村に向かいささら達と合流予定。真琴をお姫様抱っこ】
沢渡真琴
 【所持品:スコップ、食料など家から持ってきたさまざまな品々、ほか支給品一式】
 【状況:同上、お姫様抱っこでご機嫌。体がうまく動かない、原因不明】

【時間:二日目4:00頃】
【場所:無学寺到着】
369第2回放送(ルートB-10) :2006/12/11(月) 15:02:49 ID:bOQpMvVu0
時刻は午前5時50分。
久瀬は数々の惨状を見せられ、疲弊しきっていた。
多すぎた。あまりにも死人が多すぎた。
実の所彼は少し期待していた。
時間が経てば混乱していた者も落ち着いて、殺し合いが収まってくれるのではないかと。
だが実際には、殺し合いはますます激しさを増していくばかりだった。
ある者は一方的に殺され、またある者は裏切られて殺された。
特に酷かったのは、指を1本1本切り落とされて惨殺された女性だった。
その女性は最期の瞬間まで想像を絶する悲鳴を上げ続け、返り血に塗れた加害者の女性は笑いながら包丁を振るい続けた。
その一部始終を見ていた久瀬はとうとう嘔吐感を堪えきれなくなり、腹の中の物を全て吐き出していた。
自分が確認出来ただけでも10名以上の人間が命を落としていた。
恐らく―――その倍以上の数の人間が、既に物言わぬ躯と化しているのではないか。

そして第2回放送の時がきた。
画面が真っ黒に染まり、ゆっくりと赤く浮かび上がる番号、そして名前。
「そ、そんな……こんなに大勢の人が……」
彼の知り合いの名前は今回も無かったが、予想以上の死者の数に震えが止まらない。
『それじゃ久瀬君、今回もよろしく頼むよ』
一回目の放送の時と同じくウサギが一瞬画面に現れ、その一言だけを告げまた消える。
久瀬は今にも倒れこみそうなくらい疲弊していたが、それでも彼に選択肢は一つしか用意されいない。

「――みなさん……聞こえているでしょうか。
これから第2回放送を始めます。辛いでしょうがどうか落ち着いてよく聞いてください。
それでは、今までに死んだ人の名前を発表…します」

画面に目を戻す。これだけの人数の人間が死んだのだ。
きっとここに名前が載っている者の友人や家族も沢山いるだろう。
彼らの気持ちを考えると、やりきれないものがあった。
だがここで自分が抗っても死体が一つ増えるだけだ。
意を決して何とか言葉を捻り出す。

「――それでは発表します。
370第2回放送(ルートB-10) :2006/12/11(月) 15:03:49 ID:bOQpMvVu0
9  イルファ
10 エディ
11 太田香奈子
22 梶原夕菜
23 鹿沼葉子
38 来栖川芹香
51 澤倉美咲
56 新城沙織
57 春原芽衣
60 セリオ
66 月島拓也
67 月島瑠璃子
72 長瀬源蔵
75 名倉由依
76 名倉友里
80 仁科りえ
82 氷上シュン
84 姫川琴音
93 古河秋生
94 古河早苗
99 美坂香里
105 巳間晴香
107 宮内レミィ
109 深山雪見
112 山田ミチル
115 柚原このみ
116 柚原春夏
371第2回放送(ルートB-10) :2006/12/11(月) 15:04:49 ID:bOQpMvVu0
 ――以上…です……」
自分の役目を終えた久瀬はがっくりと項垂れた。
強制されているとは言え、島にいる者達に悲しみを、絶望を、自分の手で与えてしまったのだ。
体力だけでなく精神的にももう限界が近かった。
そこで突然画面が切り替わりウサギが画面に現れた。
『さて、ここで僕から一つ発表がある。なーに、心配はご無用さ。これは君らにとって朗報といえる事だからね』
話ぶりからしてウサギは放送を通じて島全体に対して話しかけているようだった。
久瀬は他の参加者達と同様、ただ黙って話に聞き入る事しか出来ない。
『発表とは他でもない、ゲームの優勝者へのご褒美の事さ。相応の報酬が無いと君達もやる気が上がらないだろうからね。
見事優勝した暁には好きな願いを一つ、例えどんな願いであろうと叶えてあげよう』
(―――何!?)
信じ難い発言に、久瀬の目が見開かれる。
戸惑う久瀬に構う事なく、ウサギの話は淡々と続けられていく。
『だから心配せず、ゲームに励んでくれ。君らの大事な人が死んだって優勝して生き返らせればいいだけだからね。
発表は以上だ。引き続き頑張ってくれたまえ』
そこで、映像は途切れた。
話を聞き終えた久瀬は蒼白になっていた。
常識的に考えればどんな願いでも叶えるという事など出来る訳が無い。
優勝者の願いを叶えるよりも、裏切って殺す方が圧倒的に手軽である。そして主催者達は間違いなくそうするだろう。
だがゲームの極限状態の中で、放送による悲しみの中で、どれだけの人間が冷静に判断を下せるというのだろうか。
一体何人の参加者があの話を鵜呑みにしてゲームに乗ってしまうのだろうか。

―――信じるんじゃない、これは罠だ!餌をぶらさげて殺し合いを加速させるための罠だ!!

そう参加者達に伝えたかった。だが今の彼にはそれが許されていない。
久瀬は自分の無力を呪い床を力の限り殴り続けた。
程なくして彼は力尽き、意識を失った。

久瀬
 【時間:2日目06:00】
 【場所:不明】
 【状態:極度の疲労による気絶】
372名無しさんだよもん:2006/12/11(月) 15:06:21 ID:bOQpMvVu0
書き手さんが改変して上げるって話だったけど、音沙汰ないんで一応。
373ずっと一緒に:2006/12/11(月) 23:06:51 ID:ov03d5a/0
「そう警戒すんなよ、俺達は殺し合いをする気は無いぞ。……つーか、武器が無い」
そう言って朋也は手に持つクラッカーをぶんぶんと振って見せた。
朋也以外の者はそもそも手に何も持っていない。
全く敵意も感じられないので、るーこは構えを解き警戒を緩めた。
「その筒状の物体は何だ?」
「知らないのか?これはクラッカーといってだな……」
言い終わる前にみちると風子が智也からクラッカーを奪い取り、天井に向けてクラッカーを放った。
パンパン!と派手な音が家中に響き渡る。
「るー!」
その音に驚いたるーこは非難の声と共に再び薙刀を朋也達に向けた。
それとは対照的にみちると風子は満足気に笑っている。
「にゃはは、驚いている。お姉さん弱虫だねー」
「大成功、です」
「つまらん悪戯をするんじゃないっ」
 ボコッ! ボコッ!
「にょわっ!」
「はうっ」
朋也の鉄拳(ゲンコツ)制裁が炸裂し、みちると風子は頭を抱えてうずくまる。
邪魔者を排除した朋也はるーことの会話を再開した。

「悪かったな。っと、まずは自己紹介をしとくか……俺は岡崎朋也だ」
「るーはるーこ。るーこ・きれいなそら。誇り高きるーの戦士だ」
るーこはそう言って両手を高々と上げた。
(……るー?戦士?そのポーズの意味は?)
突っ込み所が多すぎて朋也は頭が痛くなる感覚を覚えたが、とにかく話を進める事にした。
「それでアンタさっき同じ服だとかうーへいだとか言ってたけど、一体何の事だ?」
「そのままの意味だ。るーはうーへいを探している。うーともはうーへいの知り合いか?」
「うーへいって、一体誰なんだそりゃ?」
るーこの問い掛けに朋也は首を捻らせる。
うーへいが誰かの名前を指しているのは辛うじて分かったが、誰の事かはさっぱり分からなかった。
「うーへいはうー達には春原陽平と呼ばれていると思う」
「春原を見たのか!?」
374ずっと一緒に:2006/12/11(月) 23:09:07 ID:ov03d5a/0
「見たも何も少し前まで一緒に行動していたぞ」
「今は?」
「……分からない」
るーこはそう言って俯いた。
朋也達もこの民家の周辺の惨状は目撃している。
大きな戦いがあって、るーこも春原もそれに巻き込まれた事は容易に推測出来た。

「春原は俺の友達だ……一応な。ここで何があったか詳しい話を聞かせてくれないか?」
そしてるーこの説明が始まった。かなりの人数がこの場所に集まっていた事。
るーこが渚とも会っていた事。そして突然襲撃された事。
一緒にいたうちの一人がるーこを庇い撃たれた事。
るーこ独特の言葉遣いによる説明は少し分かり辛かったが、それでも大体の事情は飲み込める。
るーこは理緒が撃たれた所で一旦戦闘の説明を止めて、襲撃者―――来栖川綾香の特徴を説明した。
このゲームではマーダーの情報は非常に重要である。
どの人間がゲームに乗っているか知っていれば、少なくとも騙まし討ちをされる事は避けれるからだ。
「そうか……。それにしてもその女、全く容赦が無いな」
「ああ、あのうーは危険だ。完全にこの殺し合いに乗っている」
朋也の脳裏に民家の外で見た数人の死体となった姿が浮かぶ。
死体を見た事が無かった朋也にとってはどの死体も直視に耐えない無残なものに見えた。
どうしてあんな事が平気で出来るのか、全く理解出来なかった。

「それでだな……」
再びるーこの説明が始まる。綾香の尋問の内容。
突然民家の明かりがついた事。そして……。
「てめぇ!渚を撃ったのか!?」
「……すまない」
るーこが渚を撃った事を知った朋也は逆上してるーこの胸倉を掴んでいた。
朋也の刺すような視線が、るーこの心に文字通り突き刺さる。
あそこで渚を撃たなければ確実に全滅していた。それは紛れも無い事実だ。
それ故当時のるーこはその事を必要悪として気にしていなかったが、春原に責められてからは罪悪感を感じていた。
激昂する朋也に対して、るーこはただ謝る事しか出来ない。
頭に血が昇った朋也はるーこの胸倉を締め上げ、ガクガクと激しく揺すった。
375ずっと一緒に:2006/12/11(月) 23:10:51 ID:ov03d5a/0
「ふざけんなっ!何で……何でそんな事したんだよっ!渚は今どうしてるんだ!?どこにいるんだよ!」
「く…苦しいぞ……」
呼吸が出来なくなってるーこの顔色が見る見るうちに悪くなっていくが、怒りで我を忘れている朋也はその事に気付かない。
手に力を入れたままひたすら捲くし立てる。由真が横から恐る恐る制止の声を上げるが、朋也は全く聞き入れる様子が無かった。
――――だがその時、部屋の扉が開け放たれた。

「違うんだっ!るーこは悪くないんだ!」
全員の視線が扉の先に集中する。そこに立っていたのは……
「……うーへい?」
「るーこ……良かった、無事だったんだね……」
金髪の少年。朋也の親友。
そして、るーこが今一番会いたかった人物―――春原陽平だった。

彼は民家の傍まできて死体が誰かを確認していた。
渚の死体が無いのでホッとしていたが、中から朋也の怒声が聞こえてきたので慌てて駆けつけたのだ。
るーこと春原はお互い無事だった事に、再び会えた事に、嬉し涙が出そうになった。
だが今は再会を祝う事が許される状況ではない。
るーこを掴む手を離した朋也が、今度は春原へと詰め寄っていく。
「おい、春原……。渚を撃った事のどこが悪くないっていうんだ?」
「あの時はああする以外に無かった……そうしなきゃ全員殺されてたんだ」
「言いたい事はそれだけか?あいつが渚を撃ったのは事実なんだな。だったら俺はあいつを許せない」
守るべき存在を傷つけたるーこはもはや朋也にとっては敵でしかない。
生まれて初めて女に手を上げるべく、朋也はるーこに近付こうとした。
だが肩を後ろから掴まれその歩みを止められる。朋也が振り返ると春原が必死の形相で肩を掴んでいた。
「待ってくれ、殴るなら僕を殴ってくれ!」
「ああ?何言ってんだ?」
「僕が不甲斐なかったからいけなかったんだ!僕は……僕は渚ちゃんに救われながらも一人で逃げてしまったんだよ!
るーこが渚ちゃんを撃った時だって、ああなる前に僕がどうにかしないと駄目だったんだよっ!」
「お前、渚を放って逃げやがったのか!?」
「ああ……その通りだよ」
「てめぇぇぇっ!」
鈍い音がして春原が背中から派手に壁に叩きつけられた。
376ずっと一緒に:2006/12/11(月) 23:13:07 ID:ov03d5a/0
春原はうずくまって呻き声を上げている。
「うーへい!」
るーこが春原の傍に走り寄り、彼を庇うように朋也の前に立ち塞がった。
「そこまでだ、うーとも。うーへいは悪くない、どうしても気が済まないというのなら……」
るーこはそこまで言って、薙刀を朋也へと差し出した。
「これをやる。それでるーを殺すがいい。但し、絶対にうーへいには手を出すな」
「そんなの……」
「そんなの駄目だ、ふざけんなっ!」
つい感情的になってしまったがそれでも朋也は怒りに任せて人を殺すほど愚かではない。
怒りはまだ収まっていないものの、流石にその提案は断ろうとしたがそれより先に春原が叫んでいた。

「殺すなら僕を殺せよ。僕は絶対にるーこを守るんだ!」
春原はよろよろと立ち上がり、るーこを押し退けて朋也の正面に立っていた。
綾香に嬲られ、朋也に殴り飛ばされた春原の体は満身創痍もいいところだった。
だがそれでも彼は一歩も引かず、怒気どころか殺気すら帯びている朋也の目から視線を外さない。
今の春原の姿は覚悟を決めた一人の男の姿だった。
かつて臆病者と呼ばれていた頃の面影はもうどこにもない。

春原の真剣な眼差しを見ていた朋也は怒りが急激に醒めていくのを自覚して、諦めたように大きな溜息をついた。
「お、岡崎?」
「もういい、お前らのやり取りを見てたらこっちまで恥ずかしくなってくる。それにこんな事してる場合でも無いしな。
それより渚がどこ行ったか教えてくれ。怪我をしてるなら一刻も早く見つけないと……」
「ごめん、僕も分からない……。でも秋生さんが一緒だったから、多分大丈夫だと思う」
「オッサンが?」
「ああ。ここの外で戦ってた時、秋生さんが助けに来てくれたんだ」
「そうか……」
それなら確かに大丈夫かもしれないと、朋也は思った。
悪い言い方をすれば、殺しても死なないというイメージが秋生にはあった。
それに秋生なら何をさしおいてでも渚を守ろうとするだろう。信用度という点でも文句が無い。
だがそれでも渚には会いたかった。この島から無事に生きて帰れるという保障はどこにもないのだから。

「やっぱり俺は渚を探しに行くよ。それにみちる達の知り合いも探さないといけないしな」
377ずっと一緒に:2006/12/11(月) 23:15:55 ID:ov03d5a/0
「そっか……頑張れよ」
「おい、うーとも。これを持っていくと良い」
るーこは殺虫剤とトンカチを拾い朋也に投げ渡し、そして呟くようにぼそぼそと言葉を続けた。
「それと……うーなぎに会ったらすまなかったと伝えておいてくれ。許してもらえるとは思えないが……」
「……大丈夫だよ。あいつはお人良し過ぎるから、きっと笑って許してくれるさ」
朋也はそう言って笑った。その目からはもう怒りは感じられない。
場の空気が、随分と軽くなっていた。
「じゃあ僕も……」
「お前は駄目。渚には許さないように言っておく」
「僕だけ扱い悪くないですかねぇ!あんたそれでも僕の親友かっ」
「わりい、俺お前のこと友達だと思ってねーや」
「ひでえっ」
その二人のやり取りを見ていたるーこや風子、由真やみちるはついつい笑ってしまった。
それに釣られて朋也と春原も笑い出した。
束の間の出来事に過ぎなかったが、そこには日常となんら変わらぬ暖かさがあった。




朋也達が民家を過ぎ去った後、春原はるーこを優しく抱きしめた。
それはあまりにも唐突で彼らしくない行動だった。
「うーへい……?」
「ごめん、るーこ。僕はるーこの気持ちを考えてやれなかった」
「え?」
「るーこに守ってもらってばっかりで、全然るーこに何もしてあげれなかった……」
「それは違うぞ、うーへい」
るーこは春原の胸をうずめ、その背中に手をまわして抱きしめ返した。
「うーへいはさっきるーを守ってくれた」
「そうかな……?」
「ああ……それにるーは、うーへいと一緒にいたい。うーへいはただ傍に居てくれればそれで良い」
「るーこ……」
378ずっと一緒に:2006/12/11(月) 23:18:56 ID:ov03d5a/0
「だから、ずっと傍に居て欲しい。この島から帰ってもずっと一緒に居て欲しい」
るーこの声が涙声になっていた。
涙と共に素直な感情が溢れ出していた。
「ああ。僕はずっとるーこと一緒にいるよ……もう二度と離れない。僕はるーこの事が大好きみたいだから」
そう言って春原はるーこを抱きしめる力を強めた。
「るーもうーへいの事が大好きだ……」
るーこも同じように、強く春原を抱きしめた。
まるでお互いの体温を確かめ合うように。
これまで受けてきた心の傷を癒すように、二人はただ抱き合っていた。
るーこは春原に、春原はるーこに、確かなぬくもりを与え合っている。

―――――今この瞬間だけは、この島に自分達二人だけしかいない気がした。

 ルーシー・マリア・ミソラ
 【時間:2日目・午前5時】
 【場所:F−2 平瀬村・民家】
 【所持品1:ノートパソコン(バッテリー残量・まだまだ余裕)、スペツナズナイフ】
 【所持品2:鉈、包丁、他支給品一式(2人分)】
 【状態:左耳一部喪失、額裂傷、背中に軽い火傷(全て治療済み)】

 春原陽平
 【時間:2日目・午前5時】
 【場所:F−2 平瀬村・民家】
 【所持品:スタンガン、他支給品一式】
 【状態:全身打撲、数ヶ所に軽い切り傷】


 岡崎朋也
 【時間:2日目・午前4時】
 【場所:F−2 平瀬村】
 【所持品:クラッカー残り一個、トンカチ、殺虫剤、薙刀、他支給品一式】
 【状態:現在の目標は渚・知人の捜索】
379ずっと一緒に:2006/12/11(月) 23:19:51 ID:ov03d5a/0

 みちる
 【時間:2日目・午前4時】
 【場所:F−2 平瀬村】
 【所持品:武器不明、他支給品一式】
 【状態:現在の目標は美凪の捜索】

 十波由真
 【時間:2日目・午前4時】
 【場所:F−2 平瀬村】
 【所持品:双眼鏡、他支給品一式】
 【状態:朋也に同行】

 伊吹風子
 【時間:2日目・午前4時】
 【場所:F−2 平瀬村】
 【所持品:三角帽、スペツナズナイフの柄、他支給品一式】
 【状態:朋也に同行】

【備考】
以下の物はるーこの近くに放置されている
・デイパック×5 ・鋏 ・アヒル隊長(7時間後爆発) ・木彫りのヒトデ
(関連:497、513 B-13)
380tyrant,and obedient machine:2006/12/12(火) 20:21:27 ID:ujl/5IOl0
「なぁ、マルチ。俺って強いよな」
へらへらと、いつものように軽く、しかし壊れたように笑いながら雄二は話しかける。目の前には先ほど惨殺したばかりの雅史の死体が転がっている。
「そうですね、雄二さんは『強く』て、『正しい』です」
「だよなぁ? はははっ、そうだよ、所詮やったもん勝ちなんだよ、このゲームはさ。勝った奴が正しくて、強いんだよな?」
「はい。間違いありません」
頷くマルチを見て満足そうに頭を撫でてやると、マルチもまた嬉しそうな顔をする。彼らの関係は、まさに狂った主従関係であった。
「さて、と…服に血がついて気持ち悪りぃな。まったく、こんな汚ねぇ奴の血をつけたまま姉貴や貴明に会えるかっての…行こうぜ」
「はい」
まるで道端の小石を蹴るかのように雅史の死体を蹴り飛ばして、彼らは替えの服を探しに歩いて行った。
     *     *     *
それから十数分の後、開いていた一軒家で適当な服を見繕って着替えた後、ぶらぶらと村をさまよっていると、不意に雄二は聞き覚えのある声を聞いた。
「雄二っ、雄二でしょ!? 無事だったの!?」
振り向くと、駆け寄ってきていたのは見なれた姉の顔。雄二も思わず金属バットを取り落として環の元へ向かう。
「姉貴じゃねぇか! 無事だったのかよっ」
「バカ、あんたやタカ坊を残して簡単に死にゃしないわよ」
互いに笑い合いながら体を叩き合ったりどつき合う。第三者の目から見れば、まさにそれは姉弟の感動の再会だっただろう。
「雄二さん、どちら様ですか? この人は」
拾いなおした金属バットと歪んだフライパンを手に、雄二に問い掛けるマルチ。環はその様子に何となくおかしいものを感じた。
(何だか…すごく無機質な声)
まるで狂ってしまった人間のような――そこまで考えて、環は自分が疲れているのだ、と思った。
381tyrant,and obedient machine:2006/12/12(火) 20:23:11 ID:ujl/5IOl0
見たところメイドロボのようだから、きっとそんな風に聞こえてしまったのだろう、と思うことにする。
「ああ、マルチ紹介するぜ。俺の姉貴で、向坂環っていうんだよ」
「そうですか…お姉さんですね。宜しくお願いします。マルチといいます」
丁寧にお辞儀するマルチに、環も頭を下げる。
「ええ、こちらこそ。それより、ウチの雄二が迷惑かけなかった? このバカ、メイドロボが大好きなんだけど…何かされたりしなかった?」
「いいえ。それどころかわたしにとても優しくしてくださいましたし、色々と『正しい』ことも教えてくださいました」
どうやら粗相はしていないようで、環は安心する。
まぁ、これくらいのマナーがなくっちゃあ私の弟じゃないわよね。
「向坂ぁ、やっと追いついた…急に走ってくから何かと思ったじゃないか。知り合いか、そいつら?」
観鈴を背負った祐一と英二がようやく環に合流する。
「あぁ、ごめんごめん。弟が見つかったからつい、ね。こいつが弟の雄二で、隣にいるのが今まで一緒に雄二といてくれたマルチさん…ん? 雄二、どうかしたの?」
英二達を見るなり斜な表情になった雄二に、環が尋ねる。
「姉貴…何なんだよこいつら。見ず知らずの奴ばっかじゃねえか」
弟のあからさまな態度の豹変に驚きを隠せない環。それでも窘めるように言う。
「そんな言い方はないでしょ? 確かに会って間もないけど…信頼できる人達よ」
しかし雄二は態度を崩さぬばかりか強い口調で、
「信頼? 何言ってんだよ姉貴。こんなところで信頼もクソもあるかよ。騙されて寝首をかかれるのがオチだぜ? どうして殺さねぇんだよ」
予想もしていなかった雄二の発言に、一瞬我が耳を疑う環。英二達も環の弟だという人間の暴言に呆気にとられていた。
382tyrant,and obedient machine:2006/12/12(火) 20:23:57 ID:ujl/5IOl0
「信じてたっていつかは裏切られんだよ。だったら裏切る前にこっちから殺りゃあいいんだ。勝てば官軍、って言うだろ? 弱肉強食、どうせ強い奴しか生き残れないし勝った方が正義なんだよ。
信じてりゃあ救われますみたいなそんな宗教みたいな甘っちょろい妄想にすがり付いてたってどうせ死ぬしかねえんだよ。大体優勝すりゃあどんな願いでも叶えてもらえるんだろだったら殺した奴ら全員生きかえらせりゃいいじゃねえかどうしてその程度思いつかねえんだ姉貴?
ああそうかそんなバカな奴らと一緒にいるから姉貴もバカになっちまったんだなだったら俺が目を覚まさせてやるよ、『強い』俺が姉貴の頭を揺さぶり起こしてやるからさぁ!」
早口で異常とも言える理論をまくしたてながらマルチから金属バットを受け取る雄二。
今にも振り下ろしてきそうなその雰囲気に、反射的に飛び退き、雄二と距離を取る環。
「な、何バカなこと言ってるの! ふざけるのもいい加減にしなさいっ! マルチさんも止めて!」
しかしマルチはあなたこそ何をバカなことを言っているのですか、と言わんばかりの口調で、
「いいえ。雄二さんはふざけてなどいません。むしろ逆です。雄二さんはこの場で最も的確な判断をなさっていると考えます。ゆえにわたしはこの場の人間、全員を排除することを第一目的とします」
フライパンを両手で握り締め、戦闘態勢に入るマルチ。先ほどまでは微塵も感じられなかった二人の狂気の行動に、祐一が慄きながら後ずさる。
「な、何なんだよっ…こいつら、あのまーりゃんって言う奴とも弥生って言う女とも違う…狂ってやがるっ…」
英二も狼狽えていたが、やがて覚悟したように口を固く閉じると、ベレッタを二人に向けて構える。
「近づかないでもらおうか、向坂少年、マルチとやら。危害を加えるようならこちらも実力行使に出る」
「英二さん!?」
「…すまんな、環君。殺しはしないが、放っておくには危険すぎる。どうやら血の気が多過ぎるようだからな。少し血の気を抜いてやる必要があるだろう?」
環は再び雄二の方を見る。二人は銃を気にするどころか、まるで見えていないような態度だ。
「…雄二! 今ならまだ取り返しはつくわ! いい加減になさい!」
383tyrant,and obedient machine:2006/12/12(火) 20:25:07 ID:ujl/5IOl0
「はぁ? いつからそんなに弱くなっちまったんだよ姉貴は。二日目にもなって、取り返しのつく人間なんていると思ってんのかよ!
姉貴だって、人の一人や二人撃ったんだろ? そこのそいつらも。俺だって、もう二人もやっちまったんだからな! まさか姉貴だけキレイキレイしてるわけねぇよなぁ、ハハ、ハハハハハハッ!」
壊れたような高笑いの後、雄二はマルチを愛しそうに抱き寄せながら囁く。
「そうだよな、もうこんなダメ姉貴なんて必要ねぇ。そうだ、俺が殺して俺の理想の姉貴に生きかえらせりゃいいんだ。姉貴だけじゃねえ、他の気に食わねぇ奴らもだ。
へへへへ…まるで神様みたいだよなぁ? 神様かぁ…いいねぇ、その響き。全知全能って奴だよ! みんなみんな俺が殺して生きかえらせて、そして…俺は世界の神となる!」
妄想じみた雄二の意見にも、マルチは手を叩いて賛同する。
「素晴らしい考えです、雄二『様』。雄二様を妨げる人間は…たとえご家族でも容赦しません」
もはや修正不可能なまでに二人の精神の歯車は歪んでいた。それを悟らざるを得なかった環は心底で悔む。
(救えなかったのか、このみだけじゃなくて、雄二も――だけど!)
後悔をかなぐり捨てて、英二を後ろ手で押し留める。
「環君、何を…?」
「すみません。祐一と観鈴を連れて、先に診療所へ向かってくれませんか? 弟は私が何とかします」
「しかし、加勢は必要じゃないのか、向坂? 俺一人だけでも…」
反論する祐一を、強い口調で窘める環。
「もし診療所に敵が潜んでたらどうするの? 観鈴を背負ったままで戦えるわけがないでしょ? それに…弟の不始末は、姉の私がきっちりとケリをつけなきゃならないのよ」
しかし…となおも反論を試みる祐一を英二が制する。
「分かった、君に従おう。少年、今は観鈴ちゃんの手当ての方が優先だ。下手に動かして傷が開いたら元も子もない」
英二に言われ、ちっと舌打ちしながらも環に言い寄る祐一。
「こんなところで死んでくれるなよっ、向坂! 神尾を運び込んだら、すぐに戻ってくるからな!」
「ふん、その前にカタをつけるわよ。雄二となら、戦い慣れてるから」
その言葉を聞いて、信じるぞ、と祐一が言い残して二人は診療所へと走って行った。
「あーおいおい、敵前逃亡かよ? 逃がすかぁ? 逃がさねぇよ。マルチ、行ってこい」
384tyrant,and obedient machine:2006/12/12(火) 20:25:55 ID:ujl/5IOl0
了解、とまるで戦闘機械のように呟いた後、マルチが駆け出す。…が、環がそれを許すはずもない。素早く接近し足払いをかけて転ばせる。そしてフライパンを奪い取り足を叩き折ってやろうと力いっぱい振り下ろそうとした――が。
「邪魔すんじゃねぇよ、クソ姉貴が」
横薙ぎに雄二の金属バットが振られる。フライパンの底で辛うじて受けとめるが勢いが強く二、三歩後退してしまう。その隙に、マルチが平然と立ち上がり再び追撃を始める。
「くっ――」
もう一撃、とマルチを追おうとしたがその前に雄二が立ちはだかる。
「逃げるなよ、姉貴。それとも弱くなり過ぎて立ち向かえないってか? だったら俺がその負け犬根性叩きなおしてやるぜ?」
「雄二っ…!」
避けては通れない。いや、避けてはならないのだ。環は一度体勢を解いて深呼吸する。その脳裏に、今までの事が思い出された。
『悪いけど、ウチの娘のために死んでもらうで』
『その他大勢の諸君には消えてもらおうではないか。このあたしがお掃除してあげよう』
「どいつもこいつもバカばっかり…」
あん? と首を傾げる雄二に、環は凄みを効かせた声で言い放つ。
「上等よ…かかってきなさい。その根性、叩き直してあげるわ!」
「へへ、それでこそ殺す甲斐があるってもんだ! 死ねっ、姉貴ィ!」
力任せの一撃。だが環はそこから一歩も動く事無くフライパンで打ち払う。勢い余って前のめりになりながらも横から第二撃を放つ雄二。しかしそれも動くことなく難なく打ち払う。
「どうしたの? 私は一歩も動いてないんだけど?」
挑発する環に雄二はムキになって打ちかかる。
「るせぇっ! まだこれからだよぉっ!」
何度も打ちかかるがまるで当たりもせず、打ち払われ続ける雄二。
「ち…ちくしょう! 負けるか! 俺が負けてたまるか! 俺は強いんだっ! 誰にも負けねぇんだよ!」
「強い…ね」
385名無しさんだよもん:2006/12/12(火) 20:26:36 ID:QWaNU+qD0
回避
雄二の壊れっぷり最高w
386tyrant,and obedient machine:2006/12/12(火) 20:27:13 ID:ujl/5IOl0
ため息をつくと、持っていたフライパンを打ち捨てる環。
「…おい、何のつもりだ? 姉貴」
「雄二相手には素手でも十分」
「武器なしで戦うってのかよ…へへへ、自信過剰なんだよ姉貴ぃぃぃーーーーー!」
『打つ』のではなく、『突き』に切り替えて環に攻撃する。それが功を奏したか、環の腹部にクリーンヒットする。よろめいた環にすかさず腕を、足を、腹を、頭部を殴打し続ける。
血が噴出し、それでも黙って殴られ続ける環。十数度殴り、地へ倒れ伏した環に、雄二は満足そうに笑う。
「自信過剰なのがダメなところなんだよなぁ、姉貴?」
頭をかち割ってやろうとバットを大きく振りかぶる。しかし直前、何事も無かったかのように平然と環が立ちあがった。
「なっ!?」
「それが雄二の本気…? 全然効かないわね」
まるでこたえていない様子の環に狼狽える雄二。実は雄二の疲労は既にピークを超えており、まともに環を殴れる力がなかったのだ。それに気付かない雄二はただ混乱するばかりだった。
「な…なんで死なないんだよ、俺は強いんだぞ、俺は強い俺は強い俺は強い俺は強い…」
虚ろな言葉を発しながら、なおも力を振り絞って環にバットを振り下ろす。
「俺は…強いんだよォーーーーッ!」
瞬間。環が右腕を上げたかと思うとバットの動きが止まった。右腕一本で、雄二のバットを止めたのだ。
「あんたの言う『強さ』ってのは…」
唸るような環の声に、体を動かせない雄二。
「私一人殺せやしないの…? そんなちっぽけな『強さ』を…あんたは狂ってまで欲しかったの? …雄二ッ!」
涙が見えた。目の淵に涙が浮かんでいた。そして、それが雄二の見た最後の光景。
「この…バカ弟ッ!」
387名無しさんだよもん:2006/12/12(火) 20:27:51 ID:QWaNU+qD0
回避
388tyrant,and obedient machine:2006/12/12(火) 20:28:02 ID:ujl/5IOl0
一発。途方も無く重い一発が雄二の顔に叩き込まれる。今まで食らってきたのとは質が違う拳に、なす術も無く地面に倒れる。
「はぁ…まったく、手間かけさせて…英二さんたち、無事かしら」
くるりと背を向けて去ろうとする環の背に、力のない声がかかる。
「ま…待てよ。待ちやがれよっ…」
雄二だった。どうやら、喋るくらいの根性はあるようだ。
「うるさいわね…あんたにつきあってる暇はないの。勝手にどこにでも行って、勝手になさい。行かなきゃならないのよ、私は」
「…ちくしょう、ちくしょう…後悔させてやるッ…」
すすり泣く声が聞こえた。だが環はまったく意にも介さない。
「悔しいの? その涙は悔し涙? 悔しいのだったら、何回でもかかってきなさい。その時は…また殴り倒してあげる」
去って行く背中を、雄二は見ることすら出来なかった。その胸にあるのはただ「悔しさ」だけだった。


【時間:2日目午前7:30】
【場所:I-07】
向坂環
【所持品:支給品一式】
【状態:頭部から出血、及び全身に殴打による傷。マルチを追う】
緒方英二
【持ち物:ベレッタM92(8/15)・予備弾倉(15発×2個)・支給品一式】
【状態:疲労、診療所へ向かう】
389tyrant,and obedient machine:2006/12/12(火) 20:28:55 ID:ujl/5IOl0
相沢祐一
【持ち物:レミントン(M700)装弾数(5/5)・予備弾丸(15/15)支給品一式】
【状態:観鈴を背負っている、疲労、診療所へ向かう】
神尾観鈴
【持ち物:ワルサーP5(8/8)フラッシュメモリ、支給品一式】
【状態:睡眠 脇腹を撃たれ重症、祐一に担がれている】
向坂雄二
【所持品:金属バット・支給品一式】
【状態:マーダー、精神異常。放心状態】
マルチ
【所持品:支給品一式】
【状態:マーダー、精神(機能)異常 服は普段着に着替えている。英二達を追撃】

【その他:フライパンは雄二の近辺に放置】
【備考:B−10、13】

>>385
>>387
回避ありがd。
390名無しさんだよもん:2006/12/12(火) 20:31:36 ID:JV0bDRip0
ここがチンコいじりスレと聞いてきました
391取捨選択:2006/12/12(火) 21:19:26 ID:QWaNU+qD0
「―――あいつは無事だったみたいだな」
2回目の放送を聞いた秋生はそう呟いた。
死者発表で呼ばれた中に橘敬介の名前は無かった。
卑劣極まりないという噂が立っている、しかし死に物狂いで自分達を逃がしてくれた男。
橘敬介が悪人かどうか秋生は判別出来ないでいたが、とにもかくにも敬介はあの後無事に生き延びたという事だろう。
だが敬介を仲間扱いしていた晴子という女は死んでしまったようだ。
彼女は間違いなくゲームに乗っていると断言出来るが、それでも人が死んだという事は良い気がしない。
出来ればあの場に残って争いを止めたかった。だが、しかしである。

隣で眠っている渚に目をやる。
あの後渚を抱えて鎌石村の外れまで逃亡し、民家に入って彼女の足の手当を済ませた。
その怪我は決して軽いと言えるものでは無い。当分は安静にする必要があるだろう。
岡崎朋也もこの場には居らず、早苗はもう死んでしまった。
唯一渚の傍にいる自分は、例え他人を見捨ててでも渚を守り続けなければならないのだ。


「まあ考えてもしゃあねえか……」
深みにはまる思考を中断し、まずは家を中をくまなく物色する事にした。
支給品セットは一人分しか持ってきていない。食料を調達する必要がある。
それに何か役立つ道具もあるかもしれない。まずはキッチンの方を探してみる。
すると冷蔵庫でそれなりの量の食料を発見する事が出来た。包丁も何かの役に立つかもしれないので持っていく事にする。
次に客間やトイレ、風呂や寝室などを探索してみたが、そこでは大きな収穫は無かった。
最後に奥にある書斎へと足を踏み入れる。すると机の上に一つのノートパソコンが置いてあった。

「こいつは……壊れてはいなさそうだな」
ロワちゃんねるに何か新しい書き込みがないか気になる。
今すぐにでも調べてみたい衝動に駆られたが、同じ家の中とは言え渚をあまり一人にはしておきたくない。
まずは渚が眠るリビングへとノートパソコンを運びこんだ。
手頃なテーブルの上にパソコンを置き、電源をつけて参加者の方へと書かれたファイルをクリックする。
しかし、ロワちゃんねるの中に書かれていた内容を見て秋生は驚愕した。
392取捨選択:2006/12/12(火) 21:20:41 ID:QWaNU+qD0

「あ……あの馬鹿、何やってやがんだ!」
そこには岡崎朋也の名の書き込みがあったが、その書き込みの内容が大問題だ。
朋也は誰が見るか分からない掲示板上で、堂々と落ち合う場所と時間を宣言してしまっている。
それは自殺行為に等しいという事が、秋生にはすぐ分かった。
ゲームに乗った者にこの事が知られれば間違いなく狙われるだろう。
これを書いたのが朋也本人だとすれば、朋也の命は風前の灯といっても差し支えない状態だった。
まずは朋也がもう一度ロワちゃんねるを見てくれる可能性に期待し、新たな書き込みをする。


5:レインボー:二日目 06:53:41 ID:JRstJ5Ip
馬鹿野郎!
誰がこの掲示板を見てるか分からないんだぞ……。
言ってる事は分からなくもねえが、状況を考えろ!
こんな無茶はすぐに止めて、自分の身を守る事に集中しやがれ!



一抹の期待と共に大きな不安を抱きつつもパソコンの電源を落とす。
朋也はもうこの掲示板をチェック出来ないと書いている。この書き込みを見て貰える可能性は高くなかった。
幸い指定されている場所はここからそう遠くないので、秋生一人でなら朋也を救出しに向かうのは難しくない。
しかし、自分は渚を守らなければならない。怪我を負っている娘を置いていくのも連れて行くのもリスクが大き過ぎる。
だからといって朋也を見捨てたくはない。時間はまだまだあるがどうすれば良いか答えは出そうにもない。
あまりにも重い取捨選択を前に、秋生は苦悩し頭を抱えるばかりだった。
393取捨選択:2006/12/12(火) 21:21:26 ID:QWaNU+qD0
【時間:2日目午前7時頃】
【場所:B−3】

古河渚
【所持品:無し】
【状態:睡眠中。右太腿貫通(手当て済み)】
 
古河秋生
【所持品:トカレフ(TT30)銃弾数(6/8)・包丁・S&W M29(残弾数0/6)・支給品一式(食料3人分)】
【状態:苦悩。左肩裂傷・左脇腹等、数箇所軽症(全て手当て済み)。ゲームに乗っていない参加者との合流。聖の捜索】

※関連479・485・490 ルートB-13
394策略:2006/12/12(火) 22:52:15 ID:yjqNw2mc0
「くそ……この俺様があんなカスに……」
高槻との戦闘から逃げ遂せた岸田洋一は、切りつけられた右腕を押さえながら走り続けていた。
流れ出る血を押さえてはいるが、その勢いは未だ止まることは無い。
激しい痛みは襲われてはいるものの思い通りに動かすことは出来ていた。
神経に至っていなかったのが彼にとっては幸いと言うところだろうか。
「絶対に殺してやる! 隣の女どもを目の前で犯したやった後に最大の苦痛を与えてな!!」
手持ちの武器を見ながら岸田は叫ぶ。怒りは収まることもなく脳内からアドレナリンが駆け巡っていた。
せっかく手に入れたコルトガバメントをいきなり奪われるという不甲斐無さに舌をうつ。
釘の残数は確かにまだあった。
だがこの怪我で絶対の死を与えるためにはこれだけでは分が悪いと、溢れ出る激情を抑えながら考えていた。
武器がいる。あれにも勝るとも劣らない絶対的な武器が。

そう考えながら走り続けていた岸田の目に、道脇に倒れこむ人影の姿が映った。
思わず足を止め、気付かれないようにと木の影に身を隠す。
注意深く観察するも一向にその影は動く気配を見せなかった。
音を立てずに影に忍び寄り――岸田が目にしたのは数時間前に藤井冬弥によって殺された柚原春夏の死体だった。
仰向けのまま目を見開き、額に大きな風穴を開けているそれは死んでいるということを一瞬で認識させる。
「……脅かしやがって」
物言わぬ骸となった春夏の死体を忌々しげに睨み付けるとそのまま思い切り蹴飛ばした。
「殺すならもっと若い女にしろってんだ。こんなオバンじゃ死姦する気にもなりゃしねえ」
395策略:2006/12/12(火) 22:53:27 ID:yjqNw2mc0
言いながら岸田は春夏の身体をまさぐる。
別に犯してやろうなどと考えたではなく、何か武器になるものを持っていないかと考えたためだった。
殺されてる上に、周りにもバック等が見当たらない事からそんなに期待はしていなかったわけだが、彼の期待は良い意味で裏切られることになる。
「ククク……良いもん持ってんじゃねーか」
岸田が目をつけたのは春夏が着込んでいた防弾アーマー。
勿論春夏のように頭部を打ち抜かれでもしたならば全く意味を持たないものではあるが
それでも急所の多い身体を守れるのならば大きな武器となるだろう。
春夏の上着を力任せに剥ぎ取りアーマーを脱がせると、腕の痛みをこらえながら自身の服の下に着込む。
多少重いが行動にそこまで支障が無いことを確認すると、上半身裸となった春夏の死体を興味もなく再び蹴り飛ばし再び走り出した。

再び駆け出すししばらく走ったところで、岸田は大きな門を発見した。
「なんだこりゃ……『無学寺』?」
眼前にそびえたつ門の大きさに呆気に取られるが、しばしの休憩を取るにはちょうど良いだろうと考え足を進めた。
人がいる可能性も考慮し警戒は緩めない。
寺の扉の前に立つと、予想通り中から数名の話し声が岸田の耳に届いた。
音を立てぬよう扉を数センチ開き、中の様子を窺い見る。
中には女が三人。その中の一人は車椅子にまたがっている。
全員が子供のようで小さく笑いを漏らしながら談笑していた。
「また仲良しこよしで群れあいか……本当にどうしようもない奴らばかりだな」
岸田は頭を巡らせて考えた。子供だけだとは言っても先ほどのようなミスはしない。
別段焦って行動を起こす必要も無いのだ。
そして一つの考えに至りながら彼はゆっくりと扉を開けた。

396策略:2006/12/12(火) 22:54:02 ID:yjqNw2mc0


「!?」
無学寺にて高槻の帰りを待っていた郁乃、七海、ゆめみの三人はいきなり開いた扉に思わず視線を送っていた。
高槻が戻ってきたのかと思ったのも束の間だった。
「……た、助けて下さい」
扉を開けた本人は右腕を押さえ、いかにも苦しそうな声を発しながら懇願の表情を三人に送る。
その右腕から流れ落ちる血を見て、慌てて三人は岸田の下へと駆け寄った。
「ひどい……」
岸田の負った傷を前に七海が呆然と立ち尽くす。
車椅子に乗ったままでうまく様子を探れない郁乃ですら、遠目からその傷が浅いもので無いことはわかった。
声も出せずに固まる二人を横目に、ゆめみが岸田の腕を取る。
「つっ……」
自信の意思では無い圧力に岸田が呻き声を上げた。
勿論半分は演技だったのだが、目の前の少女達の表情からさらなる同情を得られたことは明白だった。
心の中でほくそえみながらも、沈痛な表情をさらに深める。
「これは刀傷でしょうか……ちょっと待っててください」
言いながらゆめみが自身のバックを漁りだすとなにやら不思議な形をした容器を取り出した。
蓋を開け、中に指を突き刺しすと、中からどろりとした白いゲル状の液体が指にまとわりついていた。
「それは?」
「はい、忍者セットの中に入っていたのですがどうやら止血剤のようです。
 鎮痛作用は無いようですが、これなら少しでも応急処置にはなるのではないかと思いまして……失礼します」
397策略:2006/12/12(火) 22:54:51 ID:yjqNw2mc0

「すいません、お手数をおかけして……」
「いえ、とんでもないです。お役に立てて幸いです」
ゆめみがにこりと微笑みながら返す。
「一体なにが?」
ゲームに乗ったものに襲われたのだろう事はすぐに予想がついたものの、それでも郁乃からは頭の浮かぶ問いが口に出ていた。
「わかりません……いきなり後ろから襲われまして。暗かったので何がなにやらといった感じでした。
 無我夢中で逃げてなんとか振り切ったみたいなのですが……」
そう言いながら岸田がキョロキョロと辺りを見渡し、どこか不安そうな顔を向けると三人に真面目な顔を向ける。
「助けて頂いたことはお礼を言います……ですがあなた達はここで何を?
 しかもこんな小さな子供ばかりで、危険では無いでしょうか」
岸田の言葉に郁乃は苦笑しながらブツブツと文句を言うように答える。
「あたしもそう思うんだけどね……まったくあの馬鹿あたしが残ってどうにかできると思ってるのかしら……。
 とりあえずちょっとどこかに行っちゃった奴がいるんでそいつの帰りを待ってるって所ね」
「なるほど……」
やっぱり仲間がいたかと岸田の頭に先ほどの学校での出来事が思い出される。
最初からそれを念頭に入れておけばあんな屈辱を味わうこともなく今頃はあの豊満な女の肢体をしゃぶりつくせていたろうに。
そして問題点はもう一つ。自信の名前は名乗れないと言うこと。
先ほどは運良く成功したが毎回そうなるとも限らないだろうし、違っていて疑われたら襲うのも難しくなるだろう。
それに関して岸田は一つの案を考え付いていた。
失敗したならそれはしょうがない。仲間が来る前にトンズラすればいいだけだ。
398名無しさんだよもん:2006/12/12(火) 22:55:16 ID:GZ0tSKOe0
回避
399策略:2006/12/12(火) 22:55:27 ID:yjqNw2mc0
だが成功したならばゆっくりでいい、隙を見て一人一人蹂躙してやるさ。
間を置き、ゆっくりと岸田はその案を口にする。
「いきなりですいません……澤倉美咲さんと言う女性に心当たりは無いでしょうか?」
岸田の問いに三人は顔を見合わせるも、フルフルと首を振る。
「……お仲間の方はどうでしょう? そんなことは言っておられませんでしたか?」
「残念だけど、言ってなかったような気がするわ」
「私も聞いていないです」
その答えに左腕で床を叩きつけ、悔しそうな表情を浮かべる岸田。
「そうですか……くそっ!」
――さあどうだ。奴のことを知っているならなんらかのリアクションはあるだろう?
だが岸田の行動に慌てふためいてはいるものの、三人からの返答はなく、ただどうして良いかわから無い表情だけが返される。
そこで確信を持つ。こいつらは七瀬彰のことは知らない……と。




400名無しさんだよもん:2006/12/12(火) 22:55:50 ID:GZ0tSKOe0
回避
401策略:2006/12/12(火) 22:56:27 ID:yjqNw2mc0

岸田洋一
 【持ち物:鋸、カッターナイフ、電動釘打ち機12/12、五寸釘(5本)、防弾アーマー、支給品一式】
 【状態:左腕軽傷、右腕に深い切り傷、マーダー(やる気満々)】
小牧郁乃
 【所持品:S&W 500マグナム(3/5、予備弾10発)、写真集×2、車椅子、他支給品】
 【状態:岸田に駆け寄る】
立田七海
 【所持品:フラッシュメモリー、他支給品】
 【状態:岸田に駆け寄る】
ほしのゆめみ
 【所持品1:忍者セット、他支給品】
 【所持品2:おたま、他支給品】
 【状態:岸田に駆け寄る】


【時間:2日目03:50、494話直後】
【場所:無学寺】
【備考:浩平は外で呑気にお星様鑑賞中】
(関連458・494 B-13)
402名無しさんだよもん:2006/12/12(火) 22:57:07 ID:GZ0tSKOe0
回避回避回避
403悪意の暴走:2006/12/12(火) 22:57:12 ID:yjqNw2mc0
「ん?」
間抜けな声を出すと共に折原浩平が本堂へと姿を現した。
見知らぬ来訪者の姿に身構えかけるが、郁乃達の様子を見て杞憂だと思いながら声を上げて近づいた。
「なんだなんだ?」
何も言わずいきなり姿を消していた浩平を呆れたように睨みながら郁乃が言う。
「……ったく、どこ行ってたのよ?」
「ちょっと空を見たくなってな」
「呑気なものね……」
「まぁそう言うなよ、でなんかあったのか? ってこりゃひでえ!」
近づくまで良くわからなかったものの、岸田の様相を見てたまらず声を上げる。
「いきなり後ろから襲われたらしいのよ」
「お恥ずかしい話で。彼女達にはお世話になりました」
深々と頭を下げる岸田に対して、浩平はうろたえながら手を振る。
「いやいやよしてくれよ、俺は別に何もしちゃいないさ」
「ほんとね」
「なんだとコラ!」
目の前で繰り広げられる漫才に岸田の心の中には苛立ちが募っていた。
自分達の置かれた状況がわかっていないのだろうかと問い詰めたくなる。
だが少なくとも自分に対して危機感を抱いていないであろうから取りうる態度だろうと無理矢理納得させる。
「しかし凄い武器ですねそれ。私なんてこんなのですよ」
電動釘打ち機をバックから取り出すと、敵意が無いことを装うために四人の目の前に『置いた』。
「んー、確かにそうかもしれないけど、別に俺が人を殺すつもりが無い以上手に余るものでしか……」
抱えたPSG-1を左右にと傾けながら、少し困惑した顔で浩平が答える。
「それでも十分威嚇にはなるんじゃないですか?」
「そうね……少なくとも手ぶらよりは安心かも。まっ私がこんなの持ってても使いこなせるとは思わないんだけどね」
郁乃も懐からマグナムを取り出すと、腫れ物を扱うようにしげしげと眺めた。
404悪意の暴走:2006/12/12(火) 22:57:48 ID:yjqNw2mc0

「そういやアンタ、澤倉美咲って人知ってる?」
「ん、いや知らないな、なんだ急に?」
「この人が探してる人らしいの」
岸田はコクリと頷きながら浩平の瞳を見つめる。
だが申し訳なさそうに顔をしかめて浩平は答えた。
「なるほど……残念ながら心当たりは無いと思う」
「やっぱりダメですか……」
顔だけは悲痛めいたものを醸し出していたが、内心では喜びに震えていた。
「楽観的なことしか言えないけど、きっと無事でいてくれるさ。
 だから気を落とさずアンタも……ってそういや名前聞いてなかったな。俺は折原浩平ってんだ」
「はい、七瀬彰と言います」
「……は?」
聞き間違いかと浩平が耳をトントンと叩きながら呆けた顔で岸田を見つめていた。
その表情に岸田も浩平が疑問を抱いたことを察する。
「すまんがちょっと良く聞こえなかったかもしれないんだ、なんて名前だった?」
「なに、その歳でもう耳が遠くなっちゃったの? 七瀬彰さんでしょ?
 って言うかそういえばアンタが探してた人じゃないの?」
「いや俺が探してるのはもっと若い――」
四人が顔を見合わせ状況を理解できないまま岸田の姿を振り返った刹那、彼は行動に移っていた。
郁乃の手を捻り挙げるように持ったマグナムを奪い去ると、そのまま首を殴打し車椅子を横転させる。
痛みと反動により郁乃の身体は床へと投げ出され、苦痛に首を押さえ込む。
そして浩平が銃を構えるよりも早く七海の後ろに回りこむと、左手でその小さな身体を抱え込み銃口を押し付けながら笑った。
「いいとこまで行ってたと思ったんだがな、やっぱこの作戦は穴がありすぎるか」
405名無しさんだよもん:2006/12/12(火) 22:58:03 ID:GZ0tSKOe0
回避
406悪意の暴走:2006/12/12(火) 22:58:24 ID:yjqNw2mc0

「お前一体……」
浩平の問いを妨げるように、七海の頭に突きつた銃口を揺らす。
「こいつが見えないのか? いいからそいつはおとなしく捨てな」
「……どっちにしたって撃つんだろ?」
岸田はケケケと醜悪な笑みを浮かべながら続けて言った。
「まあそうだな。お前がこいつを見捨てるか見捨てないか、ただそれだけの違いだな」
「この野郎……」
いきがってみるも浩平に選択肢などあるはずも無い。
「お前……彰の名前を語って今までもそうやって人を殺してきたのか!?」
「だったらこの状況が何か変わるのか? いいから黙れや」
銃口がピタリと七海の頭に突きつけられたのを見て慌てて口をつぐむ。
許せなかった。岸田も。今こうして何も出来ないでいる自分も。
だが自分の行動次第では七海の命が危うい。
どうすればいいか決めあぐねている浩平の瞳に映ったのは、震えながらも真っ直ぐ自分を見ている七海の顔だった。
気にしないでくださいとそう言っているようにも見えた。
だが見捨てるなんて出来るわけが無い。

岸田の言葉から数秒の間……じれたように銃口を握る岸田を前に浩平は覚悟を決め、PSG-1を岸田の足元へ投げ捨てる。
そのほんの一瞬、岸田が視線をライフルに移した瞬間浩平は岸田に向かって駆けていた。
たった数歩の距離、手を伸ばせば助けられる距離。
握る拳に力を込め、全力で振りかぶりながら岸田の顔面をめがけていた。
だがドンッと響いた重い音と共に、浩平の右肩に響いた衝撃が彼の身体を後方へと吹き飛ばした。
「ヒィァッハハハハ……だろうな、だと思ったよ!!」
その顔をさらに歪め、七海を携えたまま打ち抜いた浩平にゆっくりと近づいていく。
肩を抑え腰をつきながらも毅然と睨みつける浩平の顎を、岸田は全力で蹴飛ばした。
407悪意の暴走:2006/12/12(火) 22:58:57 ID:yjqNw2mc0
「ぐああっっ」
跳ね上がる浩平の身体を押さえつけるように、続けざまに銃のグリップを頭上から振り下ろした。
「うがぁっ!」
全身を襲う痛みに抵抗すら出来ずに床へと叩きつけられ苦悶に叫ぶ浩平。
銃を持った手で浩平の髪の毛を掴むと、そのまま力任せに引き上げ、ブチブチと抜ける音が響いた。
「まあなんだ、別にこいつらを殺すつもりは今はなかったよ。殺しちまったら犯してもつまんねーしな。
 お前の行動は無駄だったって訳だ、ククク……」
眼前で発せられる岸田の言葉に激しい嫌悪感を覚えたが、腕も上がらず身体も満足に動かせず
睨みつけることしか出来ない。
「んま、どの道男には用はねーからてめえの運命は変わらなかったがな」
「……黙れよクソ野郎っ」
そう吐き捨てると、岸田の顔に向かって唾を吹きかける。浩平に許されたささやかな抵抗だった。
「……餓鬼が」
当然のごとく、それは起死回生にもならず岸田の逆鱗に触れるだけの結果に終わる。
握り締めた髪の毛を振り回し浩平の頭が激しく揺らされ、その度にブチブチと髪の毛が抜け続ける。
数度の往復の後、浩平の頭が再び床へと叩きつけられた。
そして満足に動かぬその身体を何度も踏みつけ、蹴り飛ばし、岸田は歓喜に叫び続けた。
「や、やめてください!」
後方からの叫びに浩平を踏みつける岸田の足がピクリと止まった。
ゆっくりと振り返るとそこには浩平が投げ捨てたPSG-1をかまえるゆめみの姿。
だがその身体は言葉とは裏腹に震えている。
「やめときなお嬢ちゃん、この娘に当たるぜ?
 それにそんなことされたらお嬢ちゃんも殺さなくちゃいけなくなるだろ」
せせら笑いを繰り返しながら再び身体を浩平に戻し、その頭を踏みつける。
「や、やめろ……」
408名無しさんだよもん:2006/12/12(火) 22:59:32 ID:GZ0tSKOe0
回避
409悪意の暴走:2006/12/12(火) 22:59:35 ID:yjqNw2mc0
か細いほどの呻き声しか出すことが出来ずにいるものの、浩平はゆめみに視線を送り、手を伸ばしながら口を開いていた。
「ああ? 誰もお前の発言なんか許可しちゃいねーよ」
頭に乗せた足を上げると、浩平の手を踏みなおす。
「ああああああああ」
再び響き渡る絶叫。それが合図だった。
一発の銃声と共に岸田の足すれすれを弾丸が通過していった。
振り返る先には半泣きになりながら今まさに銃弾を放ったゆめみの姿。
そんなゆめみの姿を見て、困ったように溜め息をつきながら岸田は銃口を向ける。
「あのなあ、言っただろ?」
岸田の持つ銃口はゆめみへと向けられ
「そんなことしたら」
そして放たれる銃弾。
「……殺すってな」
一直線にゆめみの左胸へと吸い込まれると同時に、音もなくゆめみの身体は地面へと倒れていった。

「いやあああああっっ!!」
その光景に岸田に押さえつけられていた七海が絶叫と共に暴れだす。
振りほどこうと身体を揺するも、小さな身体では岸田の力に対抗することも出来ず逃げる事すら出来なかった。
「うっとおしい!」
自身の腕の中でもがき続ける七海の鳩尾に拳を叩き込むと、細いうめき声と共に七海の体から力が抜ける。
人質はいなくなるがこの状況ならそんなものはもういらないだろうと七海の身体を投げ捨てた。
値踏みをするように倒れこむ郁乃を見てニヤリと口元を吊り上げた。

410悪意の暴走:2006/12/12(火) 23:00:12 ID:yjqNw2mc0
「うおおおおおおおおお!!」
まったくの予想外。
その叫びに一番驚いたのは岸田だった。
あれほど蹴られ、殴られ、踏みにじられ。
それでもどこにそんな力が残っていたのか、浩平が立ち上がり絶叫しながら岸田に向かって跳んでいた。
完全なる岸田の油断。銃を構えるまもなく拳が岸田の頬へとめり込んでいた。
「ケケケ……やるじゃねーか」
頭が揺れ、意識が飛びかける寸前でなんとかそれを耐え切る。
「ち……くしょ……う……」
一方の浩平は全ての力を使い果たし、その場に倒れ伏す。もはや指一本さえ動かす力が無いのがわかった。
「そんなんで俺様に一発入れるとはな……むかついたが褒めてやるよ」
床を見渡し先ほど置いたままの釘撃ち機を手に取ると、ニヤニヤと浩平に向かっていく。
「ご褒美だ」
言いながら浩平の手のひらに一本、また一本と釘を打ち抜く。
その激痛に声にもならない叫びを上げるが、床に打ち付けられた手がこれ以上の浩平の動きを許さなかった。
「もういっちょ」
同じように反対の手にも打ち込まれる釘。
「楽しませてくれた礼だ、特等席で堪能してくれや」
下卑た笑いと共に釘撃ち機を投げ捨てると踵を返す。

「さあ、楽しいパーティの始まりだ」
自身を見ながら発せられた岸田のその言葉に、郁乃の心が絶望に曇る。
揺れる頭を押さえながらも必死に後ずさるもその距離はゆっくりと詰められていく。
そして郁乃の目の前で岸田は片膝をつき、右手を差し出しながらかしこまりながら頭を下げた。
「お姫様、私と踊ってくださいませんか?」
411名無しさんだよもん:2006/12/12(火) 23:00:38 ID:GZ0tSKOe0
回避
412悪意の暴走:2006/12/12(火) 23:01:20 ID:yjqNw2mc0
大粒の涙を両目からこぼしながら郁乃はかぶりをふる。
押さえつけようとのしかかってくる岸田の身体を両手で必死に叩きながら抵抗する。
「……イヤ、…………イヤイヤ」
だがそのささやかな抵抗も岸田の興奮を高めるだけのものに過ぎなかった。
「まあ諦めて一緒に楽しもうぜ」
ビリっと鈍い音と共に郁乃の上着は破り捨てられ、発育途上な小さな胸が隠すことも許されずに晒される。
ズボンのベルトを外そうとする岸田に対し抗うことも許されず、郁乃は脳裏に浮かんだ顔……高槻の名前を叫んでいた。
413悪意の暴走:2006/12/12(火) 23:02:00 ID:yjqNw2mc0
岸田洋一
 【持ち物:鋸、カッターナイフ、電動釘打ち機8/12、五寸釘(5本)、防弾アーマー、支給品一式】
 【状態:左腕軽傷、右腕に深い切り傷、マーダー(やる気満々)】
小牧郁乃
 【所持品:S&W 500マグナム(2/5、予備弾10発)、写真集×2、車椅子、他支給品】
 【状態:岸田に押さえつけられる……間に合うのか高槻】
立田七海
 【所持品:フラッシュメモリー、他支給品】
 【状態:腹部殴打悶絶中】
ほしのゆめみ
 【所持品1:忍者セット、他支給品】
 【所持品2:おたま、他支給品】
 【状態:左胸を撃たれ倒れる、損傷状態不明】
折原浩平
 【所持品1:34徳ナイフ、H&K PSG−1(残り4発。6倍スコープ付き)、だんご大家族(残り100人)、日本酒(残り3分の2)】
 【所持品2:要塞開錠用IDカード、武器庫用鍵、要塞見取り図、他支給品】
 【状態:全身打撲、打ち身など多数、両手は釘で床に打ち付けられ身動きが取れず】



【時間:2日目04:00】
【場所:無学寺】
【備考:全員の支給品は部屋にまとめられている】
(関連 「策略」の続き B-13)
414彼の復讐の矛先:2006/12/13(水) 00:00:16 ID:DG4mrUIfO
「すまない。だけど、おかげで助かった」
「いいのよ。困った時はお互い様だしね」
藤井冬弥と藤林杏は出来上がった焼そばを互いに分け合いながら食していた。
『旅は道連れ、世は情け』とはこういうことをいうのかしらと焼そばを食べながら杏は思った。

「ええと……杏ちゃん、だっけ? 聞きたいことがあるんだけど……いいかな?」
冬弥は焼そばを食べる手を止めると突然杏に話し掛けた。
「ん? なに?」
「単刀直入に言うけど―――君はこれまで何人殺した?」
「――っ!?」
本当に単刀直入な質問であった。
『殺す』という言葉に思わず反応してしまう。

しばしの沈黙。
まだ残っている焼そばが焼けるジュージューという音だけがあたりに響き渡る。

しばらくして杏は口を開き答えた。
「………1人よ。妹の大切な人を事故だったとはいえ……この手で…………」
杏は自分の両手を見た。激しく震えていた。
「そうか………俺も1人……襲ってきた女を殺した………」
「…………」
「…………」

再びしばしの沈黙。
焼そばが焼ける音だけがあたりに響く。

沈黙を破ったのは冬弥の方だった。
「……杏ちゃんはこれからどうするつもりなんだ?」
また質問か、と杏は思った。だが先程の質問とは違い、今度はすぐにはっきりと答えられるものだ。
少なくともこれ以上場の空気を悪くすることはあるまい、いやむしろ良い方向に戻せると判断すると杏は答えた。
415名無しさんだよもん:2006/12/13(水) 00:01:07 ID:DG4mrUIfO
「私はもちろん妹や知り合いを探すわ」
「そうか……」
「そういう藤井さんはどうなのよ?」
「俺は……俺の大切な人たちを殺した奴らを見つけだして………殺すつもりだ」
「なっ!?」
杏は愕然とした。
「なに言ってんのよ!? そんな馬鹿なこと……自分から死にに行くようなものじゃない!」
「―――うるさい」
「っ!?」
刹那、冬弥は杏に銃口を向けていた。
「あんたにわかるのか?
たった一人の自身の心だったの支えだった人を失った奴の気持ちが?
かけがえのない友を失った奴の気持ちが?」
「そ、それは………」
「――ゲームに乗った奴らを片っ端から潰していけば、由綺やみんなを殺した奴に会えるはずだ……
だから俺は……この糞ゲームに乗った馬鹿な奴らを一人残らず殺してやるんだ!!」
そう叫ぶと冬弥は先程杏がいた鎌石村の方へと駆けていった。
「ちょ…ちょっと………もう。男ってどうしてああいう真っすぐな馬鹿ばかりなのよ!!」
杏はそう叫ぶと残った焼そばを口の中にかき込んだ。
「……ぷぴっ」
そんな杏を見てボタンはただ鳴くことしかできなかった。


416彼の復讐の矛先:2006/12/13(水) 00:01:54 ID:DG4mrUIfO
【時間:2日目・午前1:00】

 藤井冬弥
 【場所:D−8(移動済み)】
 【所持品:FN P90(残弾49/50)、ほか支給品一式】
 【状態:復讐のためマーダーキラー化。鎌石村へ】

 藤林杏
 【場所:D−8】
 【所持品:包丁、辞書×3(国語、和英、英和)、携帯用ガスコンロ、野菜などの食料や調味料、ほか支給品一式】
 【状態:目標は妹や朋也たちとの再開、だが今は残った焼そばをやけ食い】

 ボタン
 【状態:杏に同行、今はただ鳴く】
417修羅再臨:2006/12/13(水) 01:43:33 ID:DG4mrUIfO
「――どうやらあんた知り合いたちはまだ無事みたいだな」
「みたいですね」
放送を聞いた芳野と瑞佳は参加者名簿に死者のチェックを終え、荷物をまとめはじめた。
「―――だが、問題はこれからだな。さっきの放送でまたジェノが増えそうだ」
「ジェノ?」
「ジェノサイダーの略だ。つまりこの糞ゲームに乗って他の参加者を殺しまくる奴ってことさ」
「ああ」
納得した瑞佳は手をぽんと叩いた。

「それに、早いところあんたの知り合いやゲームに乗ってない奴らとも合流しないとこっちもヤバい」
そう言って芳野は自身の銃の残弾を確認する。
芳野たちの武器で唯一の飛び道具であるデザート・イーグルはあと4発しか弾が残っていなかった。
弾切れした場合、サバイバルナイフだけでここから先迫りくる敵に対抗できるか……微妙なところである。(武器がないよりはマシだが……)

「――だから今は敵に対抗するための武器、そしてできるなら食料と水もできるだけ確保しておきたい。だからまずは鎌石村に行こうと思う」
「そうですね。村なら人もきっといるはずです」
「ま。リスクもでかそうだがな。だが善は急げとも言う、すぐに行く………っ!?」
荷物を持とうとした芳野はふと何かを感じた。
(これは―――殺気か!?)
すぐさま芳野はデザートイーグルを構え警戒態勢に入った。

「芳野さん? どうしたんですか?」
「―――早速、敵さんのお出ましのようだ」
「えっ!?」



418修羅再臨:2006/12/13(水) 01:46:59 ID:DG4mrUIfO
「ありゃりゃ……感付かれちゃったか。さすがはここまで生き残っている参加者。昨日までの連中とは格が違うねぇ………」
芳野たちから少し離れた茂みの中、そこにはスク水の上に制服を着たマーダー朝霧麻亜子が潜んでいた。
その手にはボウガンと投げナイフがあった。
(先程までの様子だと、銃の弾はもう残りが少ないみたいだが………ナイフも持ってるみたいだし油断は禁物かにゃ?)
実は麻亜子は放送が始まる数分前から芳野たちの様子を伺っていた。ゆえに芳野たちの状況はある程度は把握していた。

(―――あたしがヘマさえしなければ、このみんも助かったかもしれない……だけど、優勝すればどんな願いも叶うと判ったならもう話は別。
絶対にあたしたちは勝ち残って、あの日々を取り戻さなければならないんだ!
………だからたかりゃん、さーりゃん。悪いけど、今のあたしはもうヘマも躊躇もしないよ………!)
麻亜子は一度芳野たちから目を離し、自身のデイパックに目を向けた。

(――修羅には修羅なりの戦い方というものがあるのさ。それを今から教えてあげよう………)
現在の自身の所持品を確認すると、麻亜子はにんまりと笑った。



419修羅再臨:2006/12/13(水) 01:47:39 ID:DG4mrUIfO
【時間:2日目・午前6:10】
【場所:F−7】

 芳野祐介
 【所持品:デザート・イーグル .50AE(4/7)、サバイバルナイフ、支給品一式】
 【状態:警戒】

 長森瑞佳
 【所持品:防弾ファミレス制服×3、支給品一式】
 【状態:警戒】

 朝霧麻亜子
 【所持品1:ボウガン、投げナイフ、バタフライナイフ、支給品一式】
 【所持品2:ささらサイズのスクール水着、支給品一式】
 【状態:マーダー。現在の目的は貴明、ささら、生徒会メンバー以外の排除。最終的な目標は自身か生徒会メンバーを優勝させ、かつての日々を取り戻すこと。スク水の上に制服を着ている】
420名無しさんだよもん:2006/12/13(水) 02:26:26 ID:DG4mrUIfO
訂正
最初の芳野の台詞
『あんた知り合い』を『あんたの知り合い』に
421ピクニックに行こう:2006/12/13(水) 22:11:41 ID:zC3U8Us00
―――事の始まりは智代の一言だった。

「―――茜、神塚山へ行こう」
「……え?」

唐突に言われ茜はキョトンとしていた。
すぐに疑問が浮かび上がり、それを口にする。

「仲間を集めるんじゃないんですか?山には人が少ないと思います」
「それはその通りだがな、実は仲間を集める以外にもう一つ作戦を思いついたんだ」
「作戦?その作戦とはどんな内容なんですか?」
「この首輪を操作して爆発させれる範囲はどれくらいだと思う?」
「………?」

話が噛み合ってない気がして茜は僅かに顔を顰めた。
さっきから智代の話は過程が飛び過ぎている。
しかしゲーム開始以来ずっと行動を共にして分かった事だが、智代は馬鹿ではない。
この話にも何かしらの意味がある筈だった。
この場は大人しく話を合わせる事にする。

「―――分かりません、特別機械に詳しいという訳ではありませんから。智代は分かるんですか?」
「いや、私にも分からない。でもそこまで広くはないと思う。例えば携帯電話は山奥などでは圏外になるだろう?」
「私は持っていないですけど、そういう物だとは聞いています―――もしかして山に行けば首輪が爆破されないとでも考えているのですか?
だとしたらそれはあまりにも軽率な考えです」

これだけ大規模な事をやってのける主催者がそのようなイージーミスを犯すとは考え難い。
そもそも首輪が無ければ殺し合いが成立しない。首輪は参加者を律す為の、いわば鎖のような物だ。
この島内で首輪の操作が出来ない場所があるとは思えなかった。
422ピクニックに行こう:2006/12/13(水) 22:12:40 ID:zC3U8Us00
「違う、そんな甘い考えは持っていない。首輪の管理は徹底されている筈だ。
だがそれにはある物が必要なんだ」
「ある物?」
「首輪を操作する電波を中継する為の施設―――基地局やアンテナのような物がどこかにある筈だ」
「成る程……ですがそれが分かった所でどうすると言うのですか?」
「基地局を破壊して、首輪を無効化させる。上手く行けば一時的にでもこのゲームを止められる」
「――――!?」

智代は自信満々に言い切っていた。その顔には微笑みすら見て取れる。
それに対して茜は呆気にとられたような表情をしていた。感情を顔に出す事は滅多にないが、この時ばかりは別だった。
このような展開は全く想像していなかったからだ。
確かに智代の言う通り、首輪を無効化出来ればゲームは止められるだろう。
後は主催者達が首輪の操作システムを復旧させる前に島から脱出するなり、参加者全員で徒党を組んで主催者に攻撃を仕掛ければ良い。
だが言うは易し、行なうは難しという言葉もある。そう簡単に出来る事とは思えなかった。

「ですが、基地局の場所は分かるのですか?地図には載っていないし、目立つような場所に建てられているとも思えません」
「場所は予測が付く。地図を見る限りではこの島の中央部に山がある。ここなら目立たない。
それに端に建てるより中央の、しかも高度が高い場所に建てた方が島中に電波が届きやすいのは自明の理だ」
「……確かにそうかもしれませんね。ですがそのような重要な施設ならば警備員が配置されているでしょう。
私達の武器では分が悪すぎます」
「そうだな。警備が手薄なようなら奇襲を仕掛けても良いが、そうでない場合は一旦引く事になる。
だがそれでも問題無いんだ。基地局の正確な場所と存在さえ確かめれれば、仲間も集めやすくなると思う。
具体的なプランがあれば、信用はかなり得られやすくなるだろうからな」
「………」

茜は頭の中で今までの話の整理を行なった。
智代の話の要点は以下の3つだ。
・首輪の操作には基地局のような物が必要である
・その基地局は島の中央にある神塚山のどこかにある可能性が高い
・まずは基地局を探して、可能ならその施設の破壊。無理な場合は一旦引いて仲間を集める
この事をよく吟味した上で、茜は智代に問い掛けようとした。
423ピクニックに行こう:2006/12/13(水) 22:13:31 ID:zC3U8Us00


――――だがその時第2回放送が流れ、茜と智代の作戦会議は中断を余儀なくされた。
放送には茜達と親しい人間の名前は無かった。しかし犠牲者は着実と増えている。
第1回放送の時の倍近い数の名前が呼ばれたのだ。
放送が終わった時、智代はすっかり項垂れてしまっていた。
智代は無力感に苛まれていた。自分は理想を唱えているだけでまだ誰一人として救えていない。
出会った中で唯一の知人である春原ですら、茜がいなければ立ち直らせれていたか分からなかった。

「くそっ!結局私はまだ何もしていない……何も出来ていないじゃないか……」
「顔を上げてください、智代。何度も激励するつもりはありません。それよりも、尋ねたい事があります」
「……そうだな、すまない。尋ねたい事とは何だ?」
「―――単刀直入に聞きます。貴女の作戦の成功確率はどれくらいだと思いますか?」
「この首輪が電波で作動するという保障も無いし、山に基地局があるというのも予測に過ぎない。
成功確率は楽観的に見積っても2割程度だと思う。だが現状でこのプランよりマシな手は無いと思うぞ?」
「そうですね……。私のような非力な女が優勝する確率に賭けるよりは遥かに分の良い話です。
私はその作戦に賭けてみる事にします」
「よし、決まりだな。では早速神塚山に向かおう……これ以上の犠牲者を出さない為にもな」

そう、元より確実に脱出出来るような美味しい話などある筈も無いのだ。
それがどんなに低い確率でも、他に道は用意されていない。
智代達は進路を変え、神塚山を目指して歩き始めた。
その先にどんな困難が待ち構えていようとも、今はそうするしかなかった。

424ピクニックに行こう:2006/12/13(水) 22:14:28 ID:zC3U8Us00

【時間:2日目06:20頃】
【場所:f-3】

里村茜
 【所持品:フォーク、他支給品一式】
 【状態:全身打撲(マシになっている)、主催者の施設を探して神塚山へ】

坂上智代
 【所持品:手斧、他支給品一式】
 【状態:全身打撲(マシになっている)、主催者の施設を探して神塚山へ】

【関連】
B−13
→479
→513

425Howl of fox:2006/12/13(水) 22:51:46 ID:/WIE11kL0
気絶――正確には衝撃によるプログラムの一時停止状態だが――から、ようやくゆめみの人格が目を覚ました。センサーがまだ上手く起動していないのか、音が聞こえない。
損傷だが、回路の一部を切断されたようで左腕が動かない。人間なら痛みはあるだろうが生憎とゆめみはロボットだったので痛みというのを全然感じない。
しかし、「痛み」は別の部分にあった。守ると約束した郁乃や七海を守れなかったという「心」の痛み。プログラムされた感情かもしれなかったが、もしゆめみが人間だったら涙を流していただろう。
――ああ、きっと折原さんや立田さん、小牧さんはもう…
無力を感じながらまた目を閉じようとした時、センサーがようやく回復し、外の音を運んでくる。
「……イヤ、…………イヤイヤ」
「まあ諦めて一緒に楽しもうぜ」
――小牧さん…! まだ、小牧さんは生きています!
徐々に音が大きくなっていく。郁乃の悲鳴、浩平の怒号、岸田の下卑た笑い声。
まだ戦闘は終わっていない。まだ、「守れなかった」という過去にはなっていない。
――お客様の安全を守るのは…ロボットの、わたしの役目です! これ以上、悲しみは増やさせません!



「うあああぁぁっ!」
ゆめみはありったけの力をこめて立ち上がり、勢いそのままにスボンを下ろそうとしていた岸田に突進していく。
「何ッ!?」
完全に虚を突かれたのは岸田。殺したはずのゆめみが、再び立ち向かってきたのだから。
釘打ち機や銃は床に置いたまま。取る暇も無く、岸田は全力の突進をまともにくらった。
吹き飛ばされ、無様に床を転がる。岸田は立ち上がるとゆめみに叫んだ。
「貴様っ! どうして死んでいない!?」
かつて高槻にも同様の事を言ったかと思うと、胸糞が悪くなった。ゆめみはらしくない「微笑み」で岸田に言い放つ。
「わたしは…ロボットですから」
426Howl of fox:2006/12/13(水) 22:52:41 ID:/WIE11kL0
その一言で岸田は理解する。彼女はいくら撃ち抜かれようが主動力を破壊されなければ何度でも蘇る、と。
「ちっ…そうか、ロボットだったか…くく、失念していたよ。だが貴様一人で何が出来る」
「時間稼ぎです」
事も無げにゆめみは言ってのける。ロボットゆえの迷いの無い返答だった。
「小牧さん、今のうちに折原さん達を連れてどこか、出来るだけ遠くへ行ってください。わたしが必ず足止めしてみせます」
「そ…そんなこと、できるわけないじゃない! ゆめみ一人置いて逃げる事なんて…」
「ですが…」
「そんな悠長にお喋りしてる暇があるのかい、このポンコツが!」
クラウチングスタートよろしく低姿勢で突っ込んでくる岸田。狙いは勿論ゆめみの足元の銃だ。
「っ! 小牧さんっ!」
慣れない格闘、しかも左腕を欠いた状態で応戦するゆめみ。蹴りなどを繰り出すものの、軽く受けとめられてしまう。一方の岸田は先ほどの治療が効いてきたのか、徐々に調子が良くなっているようだった。
「いいぞォ! 新たな力が湧いてくるッ! いい感触だッ!」
懸命に格闘するゆめみを見て、郁乃は動こうとするが、足が動かせない、いや「動かない」。リハビリを十分に行っていなかった郁乃には逃げる事すら出来ない。――これがゆめみの懇願を断った理由でもあるのだが――
ならば出来る事は何か、と郁乃は考える。
「折原っ! 動けるの!?」
遠くで倒れている浩平に懸命に呼びかけるが…
「出来るならやってるさ! クソッ、釘が…抜けねぇんだよ!」
無理矢理にでも釘を引き抜こうとする浩平だが、固く打ち付けられた釘は抜ける気配すらない。
一方の七海も気絶しており、とても助けに行ける状態ではない。
「…なら、あたしが動くしかないじゃない!」
匍匐全身に近い無様な動き方で床の銃を拾おうとする郁乃。しかし動きが遅すぎた。
「ぐ…あうっ…!」
427Howl of fox:2006/12/13(水) 22:53:28 ID:/WIE11kL0
ゆめみが岸田の蹴りにより吹き飛ばされる。ふん、と鼻をかき鳴らして悠々と床の銃を拾う。
「残念。遅かったなお嬢さん? 足がまともだったら俺に銃弾を撃ちこめたのになぁ? くく、くくくっ」
「く…このっ、変態野郎!」
浩平が吠えるが、岸田は見下した表情で言い放つ。
「変態で結構。今からその変態に仲間が犯されるんだからなぁ、ハハハッ! …まぁ、その前に邪魔なポンコツからぶっ壊すがな」
余裕の表情で吹き飛ばされたゆめみに拳銃を向ける岸田。
「クソッ! やめろッ、やめろォォォーーーッ!」
「…何やってるのよ、早く来てよ、ハードボイルドなんでしょ、仲間がピンチなのに…どうして来てくれないのよっ、高槻ーーーっ!」
カチリ、と撃鉄が上げられる。
「死ね、ポンコツが」
「死ぬのはてめぇだ、クソ野郎」
ゾクリ、と岸田の背に悪寒が走った。この声、間違い無い、この声は。
「まさ…」
振り向こうとした時には、既に銃弾は放たれていた。四発、コルトガバメントから放たれた四発が岸田の体に吸いこまれていく。
「がは…っ!」
まともに食らって、よろめきながら倒れる岸田。…そして、寺の入り口にいたのは紛れも無い、
高槻の姿だった。
「待たせたな、郁乃」
「…ふん、遅いのよ。現れるのが」
現れた高槻の姿に、嬉しさを感じながらもつい憎まれ口を叩いてしまう郁乃。
「うるせえ。俺様にだって限度ってもんがあるんだよ」
「ぴこー、ぴこぴこー」
「み、みんなっ! 大丈夫?」
背後から、ポテトと真琴も現れる。
428Howl of fox:2006/12/13(水) 22:54:14 ID:/WIE11kL0
「何だよ、足が動かないんじゃなかったのか」と高槻。
「うるさいわよぅっ! 叫び声が聞こえたと思ったら置いてけぼりにしちゃうし…でも、そう言えば…何で? 全然平気なんだけど」
「俺様が知るか」
「何よぅっ! 人をどすんと落としといてぇ!」
「おーそうか、きっとそのショックで治ったんだな」
「そんなわけないでしょー!」
浩平が「やれやれ、えらく騒がしい救援だな」と呟いた。
「何よぅ、偉そうにーー! …って、誰よコイツ?」
「見りゃ分かるだろ。床に張り付けにされたイエス・キリストだ」
「な、なんですってー!?」「ぴ、ぴこぴっこー!?」
浩平の場違いな冗談を本気で信じる一人+1匹。
「…冗談に決まってるでしょ。この人は敵じゃないわ。釘、引き抜いてあげてくれない?」
「おいおい新手は男か…ちっ、ほらよ。一生感謝しやがれ」
高槻が渋々ながらも床から釘を引き抜いてやる。
「…そう言えば、ささらがいないんだけど」
尋ねる郁乃に、真琴が答える。
「うん、ちょっとささらとは別行動を取ってるの。後で説明するけど」
「ならいいけど…」
ようやく解放された浩平は、手をぷらぷらさせて、
「痛ててて…くそっ、あの野郎め。手に風穴が開いたじゃないか」
ま、死ななかっただけマシか、とこぼして岸田の方角を見やる。
「…死んだのか? あの野郎。ゆめみの方は大丈夫みたいだけどな」
浩平がそう言うと、座りこんだまま、ゆめみが手を上げて「わたしはまだ大丈夫です」と言うのが聞こえた。
七海も、気絶してはいるが命に別状はない。むしろ遠くで倒れていたので戦闘のとばっちりを受けなかっただけでも幸いだろう。
429Howl of fox:2006/12/13(水) 22:55:01 ID:/WIE11kL0
「ゆめみも七海も大丈夫ね…あの男も死んだはずよ。まともに銃弾を浴びてたもの。…それより、早く起こして欲しいんだけど」
未だに床に這いつくばっている郁乃に、高槻が倒れていた車椅子を起こしてから手を貸してやる。
「やれやれ、世話のかかるガキだ…お? おおっ、これは…」
「…? 何よ」
「い、いや、気付かなくていいんだ。最高…! なんて最高なんだっ、この眺めはぁっ…!」
しげしげと自分の胸元を見やる高槻に疑問の表情の郁乃。だがすぐにその原因に気付く。
「なっ…ど、どこ見てるのよっ! このバカ!」
片手で胸を隠しながら高槻の顔に頭突きする郁乃。「おごっ」と高槻が奇怪な声を漏らす。
「どうしようもないな…」「ぴこー」
呆れかえる浩平とポテト。
郁乃はこれが自分を助けてくれたのかと思うと情けない気分になってきた。胸を隠しつつ高槻への罵詈雑言を叫びながら車椅子に座る。
「…ねぇ、アイツ、ホントに死んだの?」
真琴はただ一人、岸田の様子をじっと見ていた。心なしか、かすかに胸が上下しているように見えたのである。
「ああ? 死んだに決まってるだろうが。俺様がタマをぶち込んだんだぞ」
「うーん…」
どうしても信じられない真琴は、そろそろと岸田に近づいていく。…だが、それが間違いだった。
岸田はこの機会を狙っていたのだ。誰でもいい、死んだと油断して不用意に近づいてくるのを。
真琴が岸田の前に立った瞬間、かばりと岸田は起きあがった。
「えっ!?」
動転する真琴をがっしりと掴み、ポケットからカッターを取り出し、真琴に突きつけた。
「何だとッ!?」
死んだはずの人間が起きあがる姿に全員が驚愕する。その様子を見まわした後、岸田が粘ついた声で言う。
430Howl of fox:2006/12/13(水) 22:56:03 ID:/WIE11kL0
「くくく、俺がそう簡単に死んでたまるか。偉大だよなぁ、文明の利器って奴は?」
トントンと自らの腹を叩く。それを見た浩平が「防弾チョッキか…!」と憎々しげに呟く。
「後ろのポンコツも動くんじゃないぞ! 少しでも動けばこいつの首を掻き切るからなぁ!」
虚をついて後ろから襲撃しようとしたゆめみも、その一言で動けなくなる。
「揃いも揃って俺をコケにしやがって…特にそこのカスはただでは殺さん! たっぷり痛めつけた後殺してやる」
高槻に向けて憎悪に満ちた声で叫んだ。
「まずは全員! 武器を捨ててもらうぞ! 真後ろに向かって投げるんだ。思いきり遠くになぁ!」
クソッ、と高槻が吐き捨てる。人質がいる以上手出しできない。ガバメントを放ろうとした時。
「あうーっ! なめんじゃないわよぅっ、このバカーっ!」
真琴が岸田の手に噛み付いていた。



私はあの前に見た気色の悪いオッサンに捕まえられたとき、正直何が何だか分からなかった。
覗きこもうとしたとき、急に手が伸びてきて、気がついたらカッターの刃を押し当てられていて…
まわりのみんなは、呆然としたまま何もすることが出来なかった。
私のせいだってことは、すぐに分かった。私のせいでみんながまたピンチになってしまった。
それは分かっていたけど…カッターの刃が恐くて、何もすることが出来なかった。
そんなときだった。不意に、秋子さんの家で祐一とやりとりしたことを思い出した。フラッシュバックっていうのかな? ともかく、そのときのお喋りが頭に浮かんできたのよ。
『真琴ってホントにガキっぽいよな…』
『あうーっ! ガキじゃないもん!』
『いいや、ガキだね。ガキじゃないんだったらそんなにムキになったりしないし、人にだって迷惑なんかかけたりしないはずだろ? お前さ、いつもイタズラばかりしては秋子さんに迷惑かけてるじゃないか』
『あ、あうーっ…』
『だからさ、自分のしたことの責任は自分で取るようにしろよ。そうすりゃ俺だって真琴のことをわーカッコイイー惚れちゃうねーみたいな感じで認めてやるからさ』
『そんな感じで認められても嬉しくないっ!』
431名無しさんだよもん:2006/12/13(水) 22:56:22 ID:zC3U8Us00
回避
432Howl of fox:2006/12/13(水) 22:57:09 ID:/WIE11kL0
…そうよ。真琴はガキじゃないもん。一人前の大人よっ。一人前の大人が…責任も取れなくてどうすんのよっ!
負けない、負けられない、負けるかっ!
「あうーっ! なめんじゃないわよぅっ、このバカーっ!」



「ぐぁっ!? 何しやがる、この…クソガキがぁーーっ!」
偶然にも、真琴が噛みついた場所は古傷、つまり以前高槻に切り付けられた場所だった。その激痛に耐えかねた岸田は、思わず手を離す。
「高槻っ! 今ようっ! バンバン撃っちゃって!」
真琴が叫ぶ。…しかし、その直後。どんっ、という音と共に胸に激痛が走った。岸田がカッターで真琴を突き刺したのだ。
「あ…あう…」
崩れ落ちる真琴。それを見た高槻が激昂して叫んだ。
「て、てめぇっ…絶対に許さねぇっ! 撃ち殺してやるッ!」
しっかりと構えたガバメントから銃弾が放たれるが辛うじて岸田はしゃがんでかわす。その隙をついて釘打ち機を回収し、続いて拳銃も回収しようとしたが、
「させませんっ!」
いつのまにか走ってきていたゆめみが拳銃を蹴り飛ばす。舌打ちしながら、岸田は撤退を決める。この人数差では負けは確実だからだ。
ゆめみに体当たりし、転ばせると背を向けて窓から逃げる岸田に、高槻のガバメントが火を吹く。
「逃がすかぁっ!」
だが悪運の強かった岸田には命中はしない。カチ、カチッと弾切れの音がするころには岸田の姿は森の中へと消えていた。
「ちっ! 逃がしてたまるか!」
追おうとする高槻を、郁乃が呼びとめる。
「追い返したからいいでしょ! それより、真琴が、真琴が!」
433名無しさんだよもん:2006/12/13(水) 22:57:23 ID:zC3U8Us00
回避
434Howl of fox:2006/12/13(水) 22:57:52 ID:/WIE11kL0
ハッとなって真琴の方に振り向く高槻。その真琴は…胸をかすかに上下させているだけ。致命傷だった。
「沢渡…さん」
震えた声で真琴の体を持ち上げるゆめみ。
「へへ…真琴、頑張ったでしょ…?」
「はい…沢渡さんは…とても頑張っていたと…思います…」
真琴の顔は笑っていたが、生気はもはや感じられない。浩平も、郁乃も、高槻さえも悲痛な表情になっていた。
「真琴…が、ガキじゃ…ないわよっ…ね?」
「…ああ、立派だったぞ、沢渡。だからもう喋るな。ゆっくり休め」
「…うん、そーする…」
「真琴っ、少しだけだからね、少しだけ休んだら…すぐに…出発するから…」
「………」
「おい、返事しろ。返事くらいしやがれっての…返事しろよっ…」
しかし、真琴の体はそれきり動く事はなかった。共に行動してきた仲間が、また一人散った。
「…クソッ」
高槻の悪態は、空しく響くだけだった。
「ぴこ…?」
一方、気絶している七海の側に来ていたポテトは、空中にふわふわと漂うものを見つけていた。
どこから来たのか分からない、不思議な光だった。それはゆっくりとポテトの目の前に落ちると…ポテトの肉球に吸いこまれていった。
「ぴ…ぴこっ?」

岸田洋一
 【持ち物:鋸、カッターナイフ、電動釘打ち機8/12、五寸釘(5本)、防弾アーマー、支給品一式】
 【状態:切り傷はほぼ回復、マーダー(やる気満々)】
435Howl of fox:2006/12/13(水) 22:58:24 ID:/WIE11kL0
小牧郁乃
 【所持品:支給品(写真集×2)、車椅子】
 【状態:すすり泣き。ポテトには気付いていない】
立田七海
 【所持品:支給品(フラッシュメモリ)】
 【状態:腹部殴打悶絶中】
ほしのゆめみ
 【所持品:支給品(忍者セット、おたま)】
 【状態:左腕が動かない。ポテトには気付いていない】
折原浩平
 【所持品:支給品(要塞開錠用IDカード、武器庫用鍵、要塞見取り図、34徳ナイフ、だんご大家族(残り100人)、日本酒(残り3分の2))】
 【状態:全身打撲、打ち身など多数、両手に怪我。すすり泣き】
ハードボイルド高槻
 【所持品:食料・水以外の支給品一式、日本刀、分厚い小説、ポテト(光一個)、コルトガバメント(装弾数:0/7)予備弾(13)】
 【状況:やりきれない思い。ポテトには気付かず】
沢渡真琴
 【所持品:スコップ、食料など家から持ってきたさまざまな品々、ほか支給品一式】
 【状況:死亡】

【時間:2日目05:00】
【場所:無学寺】
【備考:全員の支給品と支給武器は部屋の片隅にまとめられている、H&K PSG−1(残り3発。6倍スコープ付き)、S&W 500マグナム(2/5、予備弾10発)は床に】
436Howl of fox:2006/12/13(水) 22:59:07 ID:/WIE11kL0
>>431
>>433
回避ありがとうございました
437ハードボイルドとツンデレと:2006/12/13(水) 23:45:05 ID:SYBhX2tM0
ああ、しっかし急いで戻ったはいいものの意味があんのか?
どうせ「遅い」とかウダウダ文句言われるんだろ……。
そんなことを考えながら溜め息をつく高槻は沢渡真琴を抱えたまま無学寺の門をくぐった。
だがその直後彼の耳に届いたのは、悲痛な声で叫ばれた自身の名前――

その聞き覚えのある声に、考えるよりも先に体が動いていた。
今まで走り続けた疲れも忘れ、ただがむしゃらに駆ける。
――なんだってんだよっ!
ほんの数十メートル先に見える寺の扉がやけに遠く感じた。
響き渡った絶叫と急変した高槻の表情に、腕に抱かれた真琴が裾をぎゅっと握り締め不安げに見上げる。
だがそんな真琴のことすら忘れてしまったかのように高槻は一心不乱に走る。
――まだだってか!
扉まであと三メートル
二メートル……
一メートル………………

ガアアアアンと派手な音が所かまわずと響き渡った。
肩で息をつきながら、全力疾走のまま眼前の扉を蹴破った高槻は目の前の光景に愕然とする。
倒れたゆめみと七海、ボロボロになった見知らぬ男。それよりも何よりも真っ先に目に入ったのは、
ボロボロに破られた制服が申し訳なさ程度に上半身を隠してはいるものの、ほぼ裸となった郁乃と
ズボンを下ろし押さえつけるように跨っている先ほど学校で撃退した岸田の姿――。


438ハードボイルドとツンデレと:2006/12/13(水) 23:45:46 ID:SYBhX2tM0
いきなり現れた高槻の姿に岸田はらしくないほどにうろたえていた。
まさか浩平の他にも仲間が居たとは。
しかもそれが先ほどの男だなどとは夢にも思っていなかった岸田が脱ぎ捨てかけたズボンを下ろす手を止めて固まる。
「てめえ、なにやってやがるっ!!!!」
両手に抱えた真琴を乱暴に投げ捨て、叫ぶや否やコルトガバメントを取り出し岸田に向かって地を蹴った。
――近すぎる、当たっちまうか……!?
右手に抱えたそれを左手に持ち替え、代わりに右拳を握り締める。
いきなりの襲撃に慌てた岸田だったが、それでも組み敷いた郁乃を乱暴に抱えながら手元に置いていたマグナムに手を伸ばした。
だが、膝と踝に引っかかったズボンにより体勢が崩れ去る。
その隙を見逃さず高槻の裏拳が岸田の右頬を捕らえていた。
「っ!」
その衝撃に銃を取り落としながらも左腕に抱えた郁乃を離そうとはしない。
間髪いれずに銃のグリップを再び岸田の右頬へと叩き込む。
続けざまに襲った顔面への激痛に郁乃を抱えた腕を離し、岸田は両手で頬を押さえる。
そして声を上げさせる暇も与えず、高槻は右腕を振りかぶると押さえた腕の上から岸田を殴りつけていた。
高槻の拳にぐしゃりとした感触が襲う。
声にもならない悲鳴を上げのたうち回る岸田に対し、丸出しの下半身を見つめ唾を吐き捨てる。
「ふざけた真似しやがって!!!」
銃を握る手に力が篭り、「死ねよ」とただ一言告げ岸田に対して銃弾を放った。
だが高槻の思惑とは裏腹にカァンとした金属音が鳴り響き、彼の怒りを乗せた銃弾は岸田に胸に当たったと同時に見当違いのほうに跳ね返るとコロコロと床を転がっていた。
439ハードボイルドとツンデレと:2006/12/13(水) 23:47:06 ID:SYBhX2tM0
「んだとっ!?」
予期せぬ事態に高槻は再び引き金を引く。
だが結果は変わらず、再び放たれたその銃弾も弾かれるように逸れ本堂の壁に埋まっていた。
「……ククク」
高槻の狼狽した声に、顔面を押さえたままの岸田が突如醜悪に笑い声を上げた。
覗き見るように顔から両手を離すものの、そのおびただしい出血が鼻が折れていることを告げており、押さえるように左手を当てる。
「やってくれるじゃねえか……クズが」
高槻を睨みつける眼光は暗く深く、そして冷たく。
とても怪我人とは思えないような殺気と共に言い放っていた。
「その言葉そっくりそのまま返すぜこのクソ野郎」


郁乃はただ目の前で起こっている光景を映画でも見ているように呆然と眺めていた。
目の前に現れた高槻の姿に視線を移すも、焦点の合わない瞳で言葉にならない嗚咽を漏らし続ける。
その呻き漏れる声の一つ一つに感情が溢れ出る。
チラリと窺い見た郁乃の表情に高槻は今まで経験したことも無い怒りを覚えた。
440ハードボイルドとツンデレと:2006/12/13(水) 23:47:51 ID:SYBhX2tM0
さっきまで俺様を罵倒していた女が何故こんなすがるような目で俺様を見ている?
……決まってる、あいつのせいだ。
それを見て気分はどうだ?
……腸が煮えくり返ってしょうがねえ
何故だ? こんな女なんか頬っておけばいいと思っていたんじゃねえのか?
……知るかよ!
そもそも他人となんか関るつもりなんか無いんじゃなかったのか?
……うるせぇっ!
自分でも言ってただろ? こんなの俺様じゃねえって。
……いい加減黙れっ!

自問自答していたはずが、心の中で何者かが俺様に話しかけてくるような感覚に囚われた。
だがそれもあながち間違いじゃなかろう。
おそらくは昔の俺様が、この島に来て変わってしまった俺様を馬鹿にしてるんだ。
自分でだって何故こんなんになっちまったかわからねーんだからな。

FARGOに居た頃を思い出せよ。あの頃のように泣き叫ぶ女を犯し、嬲りまくればいいじゃないか。
目の前の男と争う必要なんかあるのか? 同類じゃねえか。楽しめばいいだろう、一緒によ。
……黙れ黙れっ黙れっっっっ!!!

「―――――――!!!!」
瞬間、高槻は吼えた。
441ハードボイルドとツンデレと:2006/12/13(水) 23:48:34 ID:SYBhX2tM0
全ての思念を取り払うように、言葉とも言えない感情を口からあらん限りの大声で吐き出す。
その叫びに岸田の身体がわけもわからず震えた。
学校で戦った時とは明らかに何かが違う。あの時のこいつは完全に自分と同種だと感じていた。
同族嫌悪という奴だろうか、全てが気に食わなかった。
だが今目の前に居る高槻からは、それともまた違った感情で嫌気が湧き上がっていた。

晒された小さな乳房を隠すこともせず、未だ現実を受け入れきれない郁乃もその雄たけびに怯えながら顔を上げた。
自分の目の前に居るのはいったいなんなのか。
ハードボイルドで、ロリコンで、ストーカーで、天パで、名探偵で……それでいて私を好きだといってくれた人?
だが考える暇も与えず郁乃の顔に柔らかな感触が当たると同時に視界が暗転し、郁乃の鼻腔をどこか汗臭い香りがくすぐる。
それはどこで嗅いだものだったのか……そんな昔ではない、そしてそれはけして嫌なものでは無かった。
震える腕を懸命に動かし自身の顔に当たるそれをそっと降ろすと――そこには今まで羽織っていた白衣を脱ぎ捨てた高槻の姿があった。
自然と視界がぼやけていた。
――目の前に居るのはあいつだ……あいつだ…………あいつだ!
見たかったはずなのに、流れる涙が郁乃にそれを許してはくれない。
かけられた白衣を握り締め、先ほどとは違う歓喜の嗚咽が漏れ、郁乃は咽び泣いた。

自身の白衣に顔をうずめ、ただ泣き続ける郁乃の頭に手を置くと高槻は奥歯をかみ締めて呟いた。
「…………すまん」
今まで過ごしてきた中で、謝ったことなどあっただろうか。
だが高槻の人生初めてとも言えるそれは、何の臆面もなく、自然に、彼の口から漏れていた。
白衣を握り締める郁乃の手に力がこもり、顔を隠しながら大きく首を横に振られる。
「待ってろよ……すぐ終わらせる」
郁乃の頭をポンポンと叩きながら、倒れたゆめみと七海、ひれ伏したままの浩平をチラリと見て苦々しげに拳に力をこめる。

「――来いよ、ぶっ殺してやる!!」
442名無しさんだよもん:2006/12/13(水) 23:49:09 ID:8P98raOu0
回避
443名無しさんだよもん:2006/12/13(水) 23:50:04 ID:8P98raOu0
回避2
444ハードボイルドとツンデレと:2006/12/13(水) 23:50:10 ID:SYBhX2tM0
ハードボイルド高槻
 【所持品:食料・水以外の支給品一式、日本刀、分厚い小説、コルトガバメント(装弾数:4/7)予備弾(13)】
 【状況:岸田と対峙】
沢渡真琴
 【所持品:スコップ、食料など家から持ってきたさまざまな品々、ほか支給品一式】
 【状況:無学寺扉に、身体はうまく動かない】
ポテト
 【状態:真琴と一緒】
岸田洋一
 【持ち物:鋸、カッターナイフ、、五寸釘(5本)、防弾アーマー】
 【状態:高槻と対峙、左腕軽傷、右腕に深い切り傷、鼻骨骨折、マーダー(やる気満々)】
小牧郁乃
 【所持品:支給品(写真集×2・マグナム予備弾10発)】
 【状態:号泣】
立田七海
 【所持品:支給品(フラッシュメモリ)】
 【状態:腹部殴打悶絶中】
ほしのゆめみ
 【所持品:支給品(忍者セット、おたま)】
 【状態:左胸を撃たれ倒れる、損傷状態不明】
折原浩平
 【所持品:支給品(要塞開錠用IDカード、武器庫用鍵、要塞見取り図、34徳ナイフ、だんご大家族(残り100人)、日本酒(残り3分の2))】
 【状態:全身打撲、打ち身など多数、両手は釘で床に打ち付けられ身動きが取れず】


【時間:2日目04:05】
【場所:無学寺本堂】
【備考1:郁乃・七海・浩平の支給品は部屋にまとめられている、郁乃の車椅子は倒れて放置】
【備考2:S&W 500マグナム(2/5)電動釘打ち機8/12は床、H&K PSG-1(残り3発。6倍スコープ付き)はゆめみのそば】

(関連 537・543
 指定特になし、と言うかアナザーあたりかかぶらないルートで……タイトルも適当でつ)
445無題:2006/12/14(木) 11:02:43 ID:FCwTnEmI0
「レミィ……来栖川先輩………理緒ちゃん………」
第2回の放送を聞いたあかりは友人・知人たちの死にショックを隠せないでいた。
次は自分が死ぬのではないかという恐怖や悲しみに押しつぶされそうになったが、それは何とか耐え抜いた。
なぜなら前回の放送の時はそれが原因で結果としては美坂香里をしなせてしまったのだ。同じ過ちは繰り返せない
「……」
往人はただ黙ってそんなあかりを見ているだけだった。いや。見ていることしかできなかった。
(晴子……佳乃………)
先ほどの放送には自身の知り合いであり探していた人間たちの1人だった神尾晴子と霧島佳乃の名前があった。
だから彼は今のあかりの気持ちが少なくとも理解できないということはなかった。
何かを失ってしまったことによる虚無感―――とでも言えばいいのだろうか?
とにかく往人にもそのような感情が確かに生まれていた。

(――まあ、俺の方はともかく、問題は観鈴のほうだな……)
自身の母親の死――それを知った観鈴は今頃どうしているのだろうか?
おそらく優しい観鈴のことだ。母だけでなく見ず知らずの人間の死にも泣いている可能性はある。
問題は今回の件で感情に流されて暴走しないかであった。
そんなことを考えているとあかりが往人に声をかけた。
「―――国崎さん。先を急ぎましょう」
「もう大丈夫なのか?」
「はい。それにこうしている間にも他の人たちの身に危険が迫っているかもしれませんから」
「――そうだな。先を急ぐとするか」
「はい」
往人たちが再び歩き出そうとしたその時であった。
「ん?」
ガサガサと草木を掻き分ける音が聞こえてきた。

446無題:2006/12/14(木) 11:03:25 ID:FCwTnEmI0
「はっ…はっ…はっ…」
水瀬秋子は腹部の痛みに耐えながら草木を掻き分け走り続けていた。
その手には上月澪の所持品であったスケッチブックがあった。
(名雪……澪ちゃん……)
名雪の行方は未だに判らない。しかし澪の行方は判っている。
橘敬介―――素性を偽り、隙を見て他の参加者を殺害していく極悪非道なマーダー。その敬介に澪は連れて行かれた。
しかし、なぜあの時澪を殺さずに連れて行ったのか。それ以前に、なぜ自分に止めを刺さなかったのかなど疑問はいろいろある。
(―――ですが今は関係ありません)
敬介が向かった方向からして彼は氷川村に向かったのだろう。
あそこには診療所もある。自身の怪我の治療も出来るし、何より人が集まりやすい場所だ。ゲームに乗った人間が一番集まる場所だろう。
「真琴……」
秋子はぼそりとその名前を口にした。
先ほどの放送に真琴の名前があったのだ。
最初の放送で名前があった月宮あゆに続いてまたしても大切な家族を――未来ある者を1人失ってしまった。
(あの子たちは……この島にいる参加者の人たちには何も罪はない……それなのに何故あゆさんや真琴が殺されなければならないの!?)
秋子の内には主催者に対する怒りがますます膨れ上がっていた。

先ほどの放送であった『優勝者にはどんな願いも叶えてやる』というあの忌まわしいウサギの言葉は間違いなく参加者に殺し合いをさらに強制させるための罠だろう。
だれが乗るものか、と秋子はさらにペースを上げようとした。その時だった。


「おい。そこのあんた」
「!?」
ふいに声をかけられた秋子はすぐさま足を止め振り返った。もちろん警戒は怠らない。スカートにねじ込んである銃に手をやりいつでも取り出せる状態にしておく。
振り返った先には国崎往人と神岸あかりの姿があった。


447無題:2006/12/14(木) 11:03:56 ID:FCwTnEmI0
 【時間:2日目6時30分】
 【場所:I−4】

 国崎往人
 【所持品1:トカレフTT30の弾倉、ラーメンセット(レトルト)】
 【所持品2:化粧品ポーチ、支給品一式(食料のみ2人分)】
 【状態:満腹。あかりと生き残っている知り合いを探す。秋子と遭遇】

 神岸あかり
 【所持品:水と食料以外の支給品一式】
 【状態:往人と知り合いを探す。月島拓也の学ラン着用。打撲、他は治療済み(動くと多少痛みは伴う)。秋子と遭遇】

 水瀬秋子
 【所持品:ジェリコ941(残弾14/14)、予備カートリッジ(14発入×1)、澪のスケッチブック、支給品一式】
 【状態:腹部重症(治療済み)。名雪と澪を何としてでも保護(まずは澪を連れた敬介を追い氷川村へ)。目標は子供たちを守り最終的には主催を倒すこと】
448ラブハンターvs恐るべき魔弾の射手:2006/12/14(木) 17:44:28 ID:0nlP8bch0

「……ったく、あの馬鹿……」

第二回定時放送、正確にはその直後の臨時放送を聞いた、来栖川綾香の第一声である。
眉間によったシワを揉み解しながら、綾香は渋い顔で考え込んでいた。

結局、更迭と処断が同時に行われたというわけだ。
いずれ避け得ぬ事態であったとは、思う。思うが、しかし。
綾香の来栖川重工役員としての思考回路が、名状しがたい違和感を訴えていた。

更迭は、まだいい。
東京の緊急会議を経て出された妥当な結論と、納得もできる。
しかし、急遽参加者としてプログラムに組み込むというのは、流石に性急に過ぎる。
あれでも久瀬防衛庁長官の一子なのだ。
それを、いずれ形式的なものになるとはいえ正規の手続きも踏まずに参加者、しかもターゲット扱いで
有無を言わせず抹殺するとなっては、今回のプログラム遂行にあたって強硬に横槍を入れてきた防衛庁、
ひいては軍の面子が立たない。
有り体に言って、今回の処分には背広組の意向があまりにも反映されていない。

更に言えば、三万体もの砧夕霧が久瀬に与えられたというのもおかしな話だった。
そもそも砧シリーズは軍の発注を受けて来栖川重工のラインで量産していたものだ。
そして三万体といえば、納品した機体のほぼ全てにあたる。
巨費を投じてようやく実働レベルにまで数を揃えたそれを、抹殺対象として指定した個人に支給するというのだ。
いくらなんでもそんな無茶を、百鬼夜行の霞ヶ関が通す筈もない。
そんな指示を出せば内局や他省庁の突き上げを食うでは済まないことくらい、現場の人間であれば少なからず
理解しているはずだった。

おそらく、否、十中八九まで、今回の処分は久瀬に代わってこの現場を仕切ることになった人間、それも
現場勘もなければ予算配分に関わることもない外部の人間の独断専攻と、綾香は状況をそう読んでいた。
この分では、新司令とやらの御世も長くはないだろう。
いかに面従腹背の伝統があるとはいえ、制服組がいつまでも背広組の意向を無視して動けるとは思えなかった。
449ラブハンターvs恐るべき魔弾の射手:2006/12/14(木) 17:45:22 ID:0nlP8bch0
とはいえ、時間が解決するに任せて無視を決め込むわけにもいかなかった。
砧夕霧は単体ではデコが光るだけの不気味な人形だが、数が揃えば途端に強力な光学兵器へと変貌を遂げる。
三万体ともなれば、戦略級の威力を有するといってよかった。
それが個人の手にあるという危険性を、綾香は正しく認識していた。
叩くなら雲に覆われて陽光が射さない午前中しかない、と綾香は思考を巡らせる。
問題は三万という数と上陸地点だが、大規模な艦が接岸できるような海岸は、この島にそう多くない。
常識的に考えれば、本部の設置されている空母「あきひで」、それが展開している沖木島の東側。
綾香たちの現在位置からもそう遠くない場所が、第一候補であった。


「……で、あんた誰」

その少年はふらりと立っていた。
思考を中断した綾香が、険悪な声で誰何する。
見れば、少年は上半身に何も纏っていないようだった。

「……知ってる?
 早朝に裸で女の子の寝室に入ってくる男は無条件で殺していいって法律、去年施行されたの」

明確な殺意の込められた綾香の言葉にも、少年は顔色ひとつ変えない。
ズボンだけを身につけた姿で、ゆらりと口を開く。

「あいつ……知ってるだろ?」
「は?」

要領を得ない少年の言葉に、飛び掛るタイミングを見失う綾香。

「あいつさ……いなくなったんだ。急に」
「……」
「俺のこと、嫌いになったのかな……そんなはず、ないよな。きっと何か理由があるんだ。
 だから追っかけてるんだ。知ってるだろ?」
450ラブハンターvs恐るべき魔弾の射手:2006/12/14(木) 17:46:03 ID:0nlP8bch0
何かにとり憑かれたような少年の言動に、思わず一歩退く綾香。
恍惚の表情をすら浮かべながら、少年はふらふらと洞窟の中に踏み入ってくる。
ふんふんと、何かを嗅ぐように鼻を鳴らす少年。

「ああ、やっぱりだ……。ここ、あいつの……匂いがする」
「うわキモっ!」

思わず叫ぶ綾香。
少年は明らかに常軌を逸していた。

「なあ……知ってるんだろ、あいつのこと……」
「いや、知ってるっていうか、なんていうか……」

綾香の脳裏に、先程ボロ雑巾のようになるまで痛めつけて追い出した金髪の少年の姿が浮かぶ。
口ごもる綾香の様子を訝しがってか、少年がどろりとした目つきで綾香を睨んだ。

「……知ってるならさ……、返してくれよ」

言いながらズボンの中に突っ込まれた少年の手が、魔法のように一丁の銃を掴みだした。
コルト・パイソン。古風なリボルバー式拳銃である。

「俺の運命を……返してくれよ……!」

銃口を向けられた綾香は、しかし余裕の表情で少年を見返している。
その顔から戸惑いが消えていた。戦闘ともなれば、綾香の領域であった。
己を取り戻した綾香の身体を包む銀色のパワードスーツが、薄明かりに煌く。

「……は、上等じゃない。そんな豆鉄砲でKPS-U1改の装甲を、」

しかし最後まで言い切ることは、できなかった。
少年は躊躇なくトリガーを引いていた。
451ラブハンターvs恐るべき魔弾の射手:2006/12/14(木) 17:47:41 ID:0nlP8bch0
轟音が洞窟内に反響する。
放たれた.357マグナム弾が、笑みをすら浮かべる綾香の頭部バイザーへと、着弾する。
秒速400メートルの速度を与えられた弾丸は、13mm弾の直撃にすら耐える特殊合金製のバイザーを、しかし易々と貫通し、
綾香の右眼窩を抉ると、その鉛の弾体を脳髄へと―――

「って、そんなんなったらマジで死ぬわよねえ!?(;゚皿゚)」

間一髪。
綾香は春原から会得したカウンターリアクションによって、致命的な打撃を回避していた。
火を噴くバイザーを投げ捨てて、苦痛にのた打ち回る綾香。長い黒髪がばさりと広がる。
眼を×印にして転がるその襟首を掴んで洞窟の奥へと走り出したのは、HMX-13セリオである。
もう一方の腕には来栖川芹香を抱えていた。

「―――早速、その異能が役に立ちましたね」
「危なく二度目の死を迎えるところだったわ……」

涙を浮かべながら答える綾香。抱えられながら首を捻る。

「しっかし、それにしても……なんで拳銃弾なんかで撃ち抜かれたんだろ。
 機関銃の掃射にだって耐える複合装甲、って触れ込みで売り出すのよアレ。
 やっぱ責任者は物理的に吊るし上げね……」
「開発部門の総責任者は綾香様ですが」
「マグナム弾、たって9mmでしょ……? そんなのに負けるなら軍事予算なんて要らないっつーの」

と、セリオの指摘を無視した綾香に、芹香が何事かを囁いた。

「え? ……ごめん、さすがによく聞こえなかった」
「―――あれは魔弾の射手の一種ではないか、と芹香様は仰っています」

高性能の集音センサーを持つセリオが代弁する。
452名無しさんだよもん:2006/12/14(木) 17:53:30 ID:VxnsINFR0
かいひ
453ラブハンターvs恐るべき魔弾の射手:2006/12/14(木) 17:58:09 ID:0nlP8bch0
「何それ」
「―――物理法則から、俗に運命と呼ばれるものまで、概念そのものを捻じ曲げる力を持った弾丸を広く魔弾と称する、と仰っています」
「ちょっとだけ噛み砕いてくれると嬉しいかな……」
「―――彼の撃った弾から、庇護、或いは防護の概念を無視するような力を感じた、と仰っています」
「もう一声」
「……綾香様にもご理解いただける範囲で端的に申し上げるならば、」
「姉さん、ホントにそんなこと言ってる?」

無視して、セリオが続ける。

「―――防御無視、と」
「そりゃ分かりやすいわね」

轟音。
顔をしかめた綾香の鼻先を、弾丸が掠めていく。
慌てて振り返ると、少年が血相を変えて追いかけてきていた。

「さっきの顔……あいつの……! お前、あいつに……陽平に何をした……っ!」

どうやら、綾香のリアクションに鋭く春原の痕跡を嗅ぎつけたようだった。
舌打ちして、セリオに短く指示を出す綾香。

「もう大丈夫、下ろして。……姉さんをお願い」
「はい」

半ば飛び降りるように、走るセリオの腕から身を投げ出す綾香。
勢いを殺さず、前転して近くの大きな岩陰に飛び込んだ。
見る見るうちに遠くなっていくセリオの背中に向かって、綾香は叫ぶ。

「で、弱点は!?」

変わらず淡々と、しかし音量だけは平時より大きく、セリオが返答する。
454名無しさんだよもん:2006/12/14(木) 17:59:47 ID:Bphkps6gO
回避
455名無しさんだよもん:2006/12/14(木) 18:00:53 ID:Bphkps6gO
ってD2久々な気がする連続回避
456ラブハンターvs恐るべき魔弾の射手:2006/12/14(木) 18:01:03 ID:0nlP8bch0
「―――知らないわそんなもの、と」
「絶対言ってないでしょ……」

嘆息して、綾香は少年の様子を窺う。
足音は聞こえない。どうやら綾香が迎撃体勢を取ったのを見て、少年も足を止めたようだった。
岩陰からそっと顔を出そうとする綾香だったが、瞬間、背筋に悪寒が走った。
轟音。反射的に身を引いた綾香の、そのすぐ目の前を弾丸が駆け抜ける。

「……ッ!?」

冷や汗を垂らしながら横目で見れば、身を隠していた岩盤に、ぽっかりと穴が開いている。
全身から血の気が引いていくのを感じる綾香の耳に、遠くからの声が響く。セリオだった。

「―――申し忘れましたが……」
「何!?」

叫び返す綾香。

「……敵弾が防護という概念を貫通する以上、防壁はあまり意味を成しませんのでお気をつけ下さい」
「早く言えよっ!」

思わずツッコんだ瞬間に、またも轟音が響いた。
遅いと分かっていても、反射的に身を伏せる綾香。衝撃は無かった。

「っくぁ……外してくれたか。……って、待てよ……?
 これ、確かに弾は防げないかもしれないけど……」

二つ目の穴が開いた岩盤を見上げて、綾香はようやく気づく。
防壁としての意味は無くとも、遮蔽には充分な効果があるのだった。

「っとに、わざと紛らわしい言い方してるんじゃないのか、アイツ……?」
457ラブハンターvs恐るべき魔弾の射手:2006/12/14(木) 18:02:00 ID:0nlP8bch0
セリオが駆けていった洞窟の奥に広がる闇に、ちらりと目をやる綾香。
暗視装置つきのバイザーが失われた今、その闇を見通すことはできなかった。
気を取り直して思考を戦闘に集中させる。

(落ち着け……まず、状況確認だ)

岩陰に身を縮めて投影面積を小さくしながら、彼我の戦力を計算し始める綾香。
まず自身の武装KPS-U1改は、少なくとも装甲面では全くの無力であった。
有効なのは運動能力の向上機能、そしてそれ自身の重量と硬度。
となれば手持ちで最大の火力は、エルクゥの腕による肉弾戦となる。
既に黒く変色し、鬼化を完了した拳を握り締める綾香。
一方、少年が手にしている銃はコルト・パイソン。6連装のリボルバーであった。

(最初に私が撃たれてから、合わせて4発撃ってるってことは……)

相手の残弾は多くとも2発。リロードをしている気配はない。
このまま膠着状態を続けて弾切れを待つのが得策だろうか、と綾香は頭の中でシミュレーションを開始する。
正面から撃たれた最初の一発はともかくとして、あとはすべて外れていることを考えても、敵の射撃精度は決して高くない。
当たれば致命傷となりかねない弾丸とはいえ、KPS-U1によって補助された綾香の運動能力で振り回せば、それほど
分の悪い賭けではないかもしれない。

でもねえ、と綾香は内心で顔をしかめる。
いくら確率は悪くないといったところで、ギャンブルであることに変わりはなかった。

(もっと確実な方法―――敵は、防護を無視する概念か……概念?)

と、綾香がそこまで思考を巡らせたところで、またしても洞窟内に轟音が反響した。
弾丸が岩盤に三つ目の穴を開ける。
が、まったくのめくら撃ちである。弾痕は綾香に掠りもせず飛び抜けていった。

(残り、一発……!)
458ラブハンターvs恐るべき魔弾の射手:2006/12/14(木) 18:02:49 ID:0nlP8bch0
新たな判断材料を得て、シミュレーションを更に推し進めようとする綾香。
だがその耳に、少年の怪訝な声が飛び込んできた。同時に、カチカチという金属音。

「……あれ? もう弾切れか……使えないな……」

危機感の欠片もない声と共に、ガシャリと音がした。
少年が拳銃を投げ捨てた音であると、綾香は聞き分ける。
千載一遇の好機。間髪いれず、岩陰から飛び出す綾香。
果たして、少年の持っていたコルト・パイソンは地面に落ちていた。
少年自身は、不思議そうな顔で迫り来る綾香を見ている。その両手はズボンの中に突っ込まれていた。
もらった、と勝利を確信する綾香。疾る。
だが少年はへら、と笑うと、意外な言葉を口にした。

「―――何だ、そっちから出てきてくれたの」

次の瞬間、綾香の目に映っていたのは、悪夢のような光景であった。
ズボンから引き出された少年の両手には、それぞれ黒光りする長大な銃が握られていた。
二丁の自動小銃の銃口が、ゆっくりと綾香へと向けられる。

「この島ってすごいよな……ちょっと歩くだけで、武器がごろごろ落ちてるんだから。
 誰かが捨てていったのかな……感謝しなくちゃな」
「なんてデタラメな……! ってか、どっから出したのよ……!」

自身のことを棚に上げて憤る綾香。
しかし、足は止まらない。止めるわけにはいかなかった。
拳銃であればともかく、この閉鎖空間で自動小銃が相手では、命中精度の計算など意味がなかった。
遮蔽物ごと蜂の巣にされるのが目に見えている。距離を取ることは、即ち敗北を意味していた。
春原の異能をもって致命傷を回避したところで、近づけなければ手の出しようがない。
そもそも、発動に失敗すれば即死だった。

(やっぱり、一旦退いてセリオと合流するべきだったかな……)
459ラブハンターvs恐るべき魔弾の射手:2006/12/14(木) 18:03:33 ID:0nlP8bch0
後悔も、今となっては役に立たない。
一秒を更に区切る単位で、綾香は彼我の距離が近づいていくのを認識する。
しかし、間に合わない。自身が拳の間合いに入るよりも早く、敵の小銃が火を噴くと、綾香は確信する。

(敵は概念、か……。仕方ない、イチかバチか……!)

決断は一瞬。
疾走のまま頭を下げ、身を低くする綾香。
上体をほとんど地面に擦るように、頭から相手に突っ込む姿勢。
その黒い両の拳は、腰溜めに引かれている。
視線が、少年を捉えた。

「……陽平を、返せっ!」

マズルフラッシュが見えるよりも、一瞬早く。
綾香は右の拳を、突き出していた。間合いの遥か外である。
弾丸の嵐が、綾香を押し包む。狭い洞窟の中に、発砲音が反響する。
血煙が、上がる。

一瞬の後。
圧倒的に勝利に近いはずの少年の表情は、しかし恐怖に凍り付いていた。

「なんで……なんで、止まらない!? 来るな……来るなぁっ!!」

来栖川綾香が、迫っていた。
間合いまで、あと五歩。爛々と輝く真紅の瞳が、少年を射抜いていた。

「……思ったとおりだ。アンタの弾は、防護を貫く」

あと、四歩。
白い牙を剥き出して、綾香が嗤う。
460名無しさんだよもん:2006/12/14(木) 18:05:12 ID:VxnsINFR0
回避
461名無しさんだよもん:2006/12/14(木) 18:05:27 ID:Bphkps6gO
更なる回避
462ラブハンターvs恐るべき魔弾の射手:2006/12/14(木) 18:05:44 ID:0nlP8bch0
「そうだ、この硬い皮膚は確かにわたしを護る為のもの」

あと三歩。
黒い皮膚を血で染めながら、綾香の拳が繰り出されている。

「けれど、この拳は―――何かを護る為のものじゃあない」

あと二歩。
続く弾幕を、左右の拳で薙ぎ払い、綾香は止まらない。

「だったら……アンタの力が貫けるのは、私の、皮一枚だけ」

あと一歩。
ぼろぼろになった黒い皮膚の破片が、鮮血と共に周囲に散乱する。

「ただの弾丸が……この拳を、止められるか―――!」
「ひっ……!」

自身を襲うすべての弾丸を迎撃し尽し、綾香が最後の一歩を、踏み出した。

「―――さようなら、魔弾の射手」

少年が最後に見たのは、嗤いながら血塗れの拳を振るう、悪鬼の如き少女の姿であった。

463名無しさんだよもん:2006/12/14(木) 18:07:42 ID:VxnsINFR0
かいひ
464名無しさんだよもん:2006/12/14(木) 18:08:04 ID:Bphkps6gO
オマケに回避
465名無しさんだよもん:2006/12/14(木) 18:09:32 ID:VxnsINFR0
さらに回避
466名無しさんだよもん:2006/12/14(木) 18:10:31 ID:Bphkps6gO
これでこのスレも終わりかな回避
467ラブハンターvs恐るべき魔弾の射手:2006/12/14(木) 18:10:43 ID:0nlP8bch0

「うぇ……、サンドバックにされすぎて気持ち悪い……」

雨の中を、一人の少年がとぼとぼと歩いている。春原陽平である。
こみ上げる嘔吐感に口元を押さえながら、春原はどこへともなく歩みを進めていた。

―――まだ、この時の彼には知る由もなかったのである。
住井護少年の一発……概念を超えて春原に放たれたその恐るべき子種は、彼の胎内に新しい命を芽生えさせていた。
己に宿った小さな奇跡を知らず、そしてまた住井護の死を知らず、春原陽平は歩いている。


 【時間:2日目午前6時過ぎ】
 【場所:H−6】
来栖川綾香
 【持ち物:パワードスーツKPS−U1改、各種重火器、こんなこともあろうかとバッグ】
 【状態:両腕パワードスーツ全損、ラーニング(エルクゥ、(;゚皿゚)、魔弾の射手)】
セリオ
 【持ち物:なし】
 【状態:グリーン】
イルファ
 【状態:せめて描写くらいしてください】
来栖川芹香
 【持ち物:水晶玉、都合のいい支給品、うぐぅ、狐(首だけ)、蝙蝠の羽】
 【状態:盲目】
 【持ち霊:うぐぅ、あうー、珊瑚&瑠璃、みゅー、智代、幸村、弥生、祐介】
住井護
 【状態:死亡】
春原陽平
 【持ち物:なし】
 【状態:妊娠(;゚皿゚)】
→382 435 531 ルートD-2
>>452,454-455,460-461,463-466の各氏、多謝〜♪
468名無しさんだよもん
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      |: : : : l: :.:.| : : : : | ,>=―-、      --.、|:.: : :!
      |: :.:. : |:/,r|:.:| : : : | く i::::::::::::| !      ,.,,_  ':.:.: :,'  容量限界だ
      |: :.:. : |ハ . !: ! : : : |  .Lニニム      /::::::ハ/:.:.:./  るーが埋めてやろう
      |: :.:. : | |:ヽ|:.:! : : : | ,,,        , l::::ry": :,.イ
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