全体的に見ると文章力も高く、平均より少し上の水準で書かれている事がわかる。
人物描写も丁寧で、SSでありがちな外見的特長の羅列が見られないので好印象。
しかし、シナリオ的に見ると、所々で粗が目立つ。
確かに名雪シナリオの補完とも言えるが、肝心の名雪シナリオについての熟考が足りておらず、結果として散漫な印象を受ける。
名雪の祐一への想いが定番の『七年間』であるのが、その第一の理由。
名雪シナリオがどこからどこまでであるかを判断するのはプレイヤーの自由であるが、一月十九日以降の選択肢からの分岐と考えるか、冒頭の再会シーンからと考えるかで変わる。
また、このときにあゆとの追想シーンを絡めて判断すると、名雪シナリオは冒頭の再会シーンから日常パートを経て、最終的分岐からエンドにいたるまでと解釈できるだろう。
極論すれば、あゆ、栞、真琴、舞のシナリオは、すべて名雪シナリオからの分岐と言っても過言ではない。
つまり、名雪の祐一への想いは七年ではなく、それこそ十何年もかけてきた想いと言える。
祐一にしても、昔は舞台となる街に住んでいたのだし、名雪の家に遊びに行くようになったのは五歳くらいの時なのだ。
ぶっちゃけ、名雪シナリオ補完と銘うってあっても、こういう重箱の隅をつつくレベルでシナリオ解釈をしてるものは皆無に等しい。
二人の間に存在する、他のヒロインが入り込めない歴史の積み重ねまで再現したものもない。
よく名雪を特別視する理由がわからないとか、シナリオに不満があるとか言う人がいるが、表面的な部分だけ見てたって名雪シナリオの真価はわからないのさ。
結局、この作品もそういう意味で言えば、原作シナリオの表面上の部分をなぞってるだけでしかないと言える。
なので、祐一が名雪にこだわる理由もかかれてないし、名雪の持つ要領の悪さも上手く書けてないんだ。