葉鍵ロワイアル3作品投稿スレ6

このエントリーをはてなブックマークに追加
95失われていく暖かさ
「こんな所に本当にパソコンが置いてあるのかしら……」
環が呟く。
彼女達は鎌石中学校の昇降口を昇っている最中だった。
校舎は木造で、パソコン等の電子機器とはまるで無縁に思えた。

「正直怪しい所だけど、とにかく探してみるしかないんじゃないかな」
「……そうですね」
英二に言われ、環は頷いた。
あれこれ悩んだ所でパソコンが目の前に現れはしない。
今はこの学校を探す他、無かった。
階段を昇ると、すぐ右の突き当たりに職員室らしき札が掛けてある部屋の扉が見えた。
左側には廊下が伸びており、教室の扉らしきものが複数ある。

「まずは職員室を調べてみよう。パソコンがありそうな場所だしね」
英二が職員室の扉を開き、安全を確認する。続いて部屋の中に入っていく英二一行。
彼らを待っていたのは
「……すー、…すー」
職員室の床で安らかに寝息をたてている名倉由依だった。

「この子は?」
「首輪をつけているし、参加者の一人だろう。ゲームに乗っているようには見えないが……」
「念のため、荷物を調べてみますね」
そう言い、祐一は由依の荷物を調べ始めた。
女の子の鞄を漁る事に罪悪感を覚えたが、今はそれどころではない。
一歩間違えれば即、死に繋がる状況ではどれだけ警戒しても警戒し過ぎという事は無いだろう。

「……武器は持っていないみたいだ。鞄の中にあるのは制服と携帯電話、食べ物と水だけだった」
「そうか、ひとまず安心だな。しかしこの職員室にパソコンは……」
「見回したけど、どうやら無いみたいですね」
「仕方ない。別の場所もまわってみるか」
「でも……この女の子はどうするの?」
「放ってはおけないな。二手に分かれよう。僕と相沢君、それに観鈴君はパソコンを探しに行こう。芽衣ちゃんと環君はここで待っててくれるかな」
96失われていく暖かさ:2006/11/16(木) 01:06:32 ID:sYLXmf+L0
「私も……待機組ですか?」
「ああ。大丈夫だとは思うけど、そこの寝てる女の子がゲームに乗ってないと決まったわけじゃない。
それにこれだけ大きな建物だ……誰かが来る可能性も十分あるからね。もしもの時はみんなを守ってやってくれ」
「分かりました」
「それじゃ、行ってくるよ」
そう言い残して英二達は外へと出て行った。




「ふぅ……」
英二達が去ってから暫くして、環が軽く溜息をついた。
全くやる事が無くて、暇だった。
「…あれ?あなた達は誰ですか?」
そんな時、寝ている少女が目を醒ました。
少女に敵意は感じられない。まだ完全には信用出来ないが、今すぐ襲ってくるというような事は無さそうだった。
「あら、起きたのね。私は向坂環よ」
「春原芽衣です」
芽衣も環に続けて自己紹介し、ぺこりとお辞儀をした。
環が続けて色々話を聞こうとしたが、階段の方から足音が聞こえてきた。
(足音は一つ……英二さん達じゃない!)
環の表情が一気に険しくなる。
「…情報交換してる場合じゃなさそうね」
警戒し、銃を構える環。
「いえ、多分私が呼んだ人だと思います」
「え……?」
環が呆気に取られた瞬間、何者かによって職員室の扉が開け放たれた。
その先に立っていたのは細身で長身の男だった。

「電話で話した七瀬彰ですが……これは一体?名倉由依さんはどちらの方でしょうか?」
男――岸田洋一(もっともこの場では七瀬彰を騙っていたが)は当惑したような顔をしていた。
「あ、すいません七瀬さん!私が名倉由依です…」
97失われていく暖かさ:2006/11/16(木) 01:07:24 ID:sYLXmf+L0
「ねぇ、どういう事か説明してくれない?」
環は銃を下ろして、しかしまだ手には銃を握り締めたまま、尋ねた。





「そうだったんですか……でも、島内なら電話で連絡が取れるって初耳です」
「この電話だけの特別な機能みたいです」
「上手く使えば、もっと効率良く情報を集めれるかもしれませんね」
「そうですね。それに七瀬さんがここに来られたように、ゲームに乗ってない人を集められるかも知れません」
由井と芽衣は既に警戒を解いており、岸田と共に雑談モードに入っていた。

(電話で情報を集める?人を集める?馬鹿かこいつら、そんな事をしても寿命を縮めるだけだ。)
由依と芽衣の言葉にうんうんと頷いている岸田だったが、内心では彼女達を馬鹿にしていた。
そのまま電話の話で盛り上がろうとしていた3人だったが、環の一言がそれを遮った。

「それはどうかと思うわよ。情報を集めるだけなら良いけど嘘の情報が混じってるかもしれないし鵜呑みには出来ないわ。
人を集めるのは論外ね。私がマーダーなら、電話されてもゲームに乗っていないっていうわよ。仲間になってから裏切った方が楽だもの」
芽衣も由依も、そして岸田すらも感心した様子で彼女の言葉を聞いていた。
環の手には銃がまだ握られている。彼女はまだ由依も岸田も完全には信用していなかった。

(この島は馬鹿ばかりだと思っていたが……。この女は面白い…面白いぞ!
肉付きも申し分無い、頭も良いし気も強い。一番犯したくなるタイプだ…!)
岸田はこの気の強い凛々しい女が犯されながら泣け叫んで助けて求めている様を想像した。
股間部に血液が集まるのは律しようが無かったが、下卑た笑みを浮かべたい衝動だけはどうにか押さえ込んだ。

どうやって環の裏を突くか、岸田は考え込んだ。他の少女二人はどうにでもなるが、環はそう簡単には隙を見せてくれないだろう。
すぐにその様子に気付いて、芽衣が心配そうに声をかける。
「七瀬さん、どうしたんですか?」
「あ、すみません。どうやってこの島から脱出するか考えていたんです」
(うるせーんだよ、ガキが!今大事な大事な考え事をしてるんだよ!)
98失われていく暖かさ:2006/11/16(木) 01:08:47 ID:sYLXmf+L0
思考の妨害をされて内心腹がたっていたが、何とか抑えて苦笑いしながら答える岸田。

「この首輪を何とかしないとどうにもならないわね……」
環が空いてる方の手で首をさすりながら溜息をつく。
(首輪……そうか!)
その言葉を聞いて、岸田はある事を閃いた。

「それなら心配ないですよ。僕は首輪の解除が出来ますから」
爽やかな笑顔を作りながらそう宣言する。
「「「え!!?」」」

一同が一斉に驚きの声をあげる。それも無理は無かった。
なにせゲーム脱出の最大の障害を突破出来ると、目の前の男はあっさり言ってのけたのだから。

「それ、本当なの!?」
環が興奮した様子で岸田に尋ねる。
「本当ですよ。ほら、僕の首には首輪がかかってないでしょ?」
岸田は顎を上げ、自分の首を指差した。
環はそれを覗き込んだが、確かに岸田の首には首輪はかかっていなかった。

「本当みたいね………」
「善は急げと言います、早速あなた達の首輪も外しましょう。まずは向坂さん、あなたからどうですか?」
「!!………じゃあ、お願いするわ」

環はあっさりと岸田の申し出を受け入れていた。
しかし、環はここでもっと疑うべきだった。
何故わざわざ環を最初に指名したのか。何故今すぐに外す必要があるのか。
他の者の首輪を外すならともかく、この男はどうやって自分自身の首輪を解除したのか。

だが、首輪の解除はあまりにも魅力的な提案だった。
それが環の眼を曇らせ、警戒心を薄れさせてしまっていた。
99失われていく暖かさ:2006/11/16(木) 01:09:59 ID:sYLXmf+L0

「では………」
岸田は環の後ろに回り、首輪を観察する動作をした。
そしてポケットに手を入れ―――トンカチを取り出していた。
芽衣と由依が驚きの声を上げるよりも早く、環の後頭部に衝撃が走り彼女は崩れ落ちた。

「なっ!?何を―――――」
由依の叫びはザクッという音と共に中断した。
由井の耳にもその音は聞こえており、由依は音の原因を確かめようとした。
喉の辺りがスースーしてとても冷たい。彼女の目に映るのは、自分自身の喉から溢れ出ている血。
(え、え?ナンデナンデナンデ―――)
由依が自分の状態を把握するのを待たず、岸田のカッターナイフを握る手が押し込まれ、由依の意識は消失した。
「あ……え……?」
驚きと恐怖のあまり、芽衣は震える事しか出来ない。

続いて岸田は釘打ち機を取り出し、それを芽衣に向けた。
「おいチビ、下手な真似はするなよ。大人しくしてればお前にも快楽を味合わせてやるからな」
もっとも最初は痛いだろうがな、と歪んだ笑いを浮かべながら付け加える。
その表情は先程までの岸田とは全く違う、おぞましい殺戮者としての表情だ。

「さて……、じゃあパーティーに使うロープを探すとしようか」
岸田は芽衣の怯えきった様子を見て満足そうに笑うと、環を拘束する道具を探し始めた。
環が大人しく犯されるとは思えない、ロープのような物が必要だった。
程無くして体育か何かに使うつもりだったであろうロープが見つかり、環達の方へ振り返る。

すると、芽衣が環の銃を構えて立っていた。
「……動くなと言ったはずだが?死にたいのか?」
岸田は銃を向けられても怯んだ様子を全く見せず、それどころか笑みを浮かべながら芽衣の方へ歩み寄る。
「こ、来ないでっ!これ以上近付いたら撃ちますっ!!」
芽衣はこれから岸田がやろうとしている事は理解出来ていた。
環を守る為に、芽衣は震えながらも必死に虚勢を張っていた。
しかしそれを見破れない岸田ではなかった。
100名無しさんだよもん:2006/11/16(木) 01:13:38 ID:URQT9gNxO
回避
101失われていく暖かさ:2006/11/16(木) 01:14:01 ID:sYLXmf+L0

「お前に人が殺せるのか?その覚悟があるのか?」
その一言を聞いて、芽衣に動揺が走る。
「私は…、私は……」
まだ幼い彼女にとって、人の命を奪うことはあまりにも重過ぎる。
手に握った銃の引き金を引く意味はあまりにも重すぎる。
芽衣の震えが勢いを増していた。

「ぬるいぬるいぬるい!所詮お前の覚悟はその程度だ!」
岸田は笑いながらも歩く速度を速めていた。
もう両者の距離は5メートルも無い。

(このままじゃ、環さんが―――!!)
芽衣の脳裏に浮かんだのは、弥生を撃った英二の姿。
そして相沢祐一の言葉――――『君を守る為に撃ったんだろう』


(守られてばかりじゃいけない――!私だって、私だってやらないと!!)
引き金が、引かれた。





五分ほど遡る。
3階の奥にある一室で木造の校舎には不似合いなIT教室―――デスクトップ型のパソコンが大量に置かれている部屋があった。
「くそ、これも駄目か……」
「が、がお……」
そこで、英二達は頭を抱えている。
英二達はフラッシュメモリーの中にあったファイルの中身を確認しようとしたが、それにはパスワードが必要なようだった。

思いつく限りの単語を入れてはみたが、表示されるメッセージは『パスワードが違います!!』の一点張りであった。
102失われていく暖かさ:2006/11/16(木) 01:15:01 ID:sYLXmf+L0
「ちきしょー、何かヒントくらいくれよな…」
祐一が愚痴をこぼす。フラッシュメモリーには説明書などは付いていなかった。
つまり、手掛かりは一切無い。今の彼らには勘以外に頼る物が無い。
何度失敗しても問題無さそうな事だけが唯一の救いだった。

「あ、これでどうかなっ」
「お、何か思いついたのか?」
観鈴が何かを閃いたらしく、キーボードを叩く。
祐一と英二は期待に満ちた目でその様子を眺めている。
「do…ro…ri……no…u…ko…u……?」
『パスワードが違います!!』
即、エラーのメッセージが出る。

「おい観鈴、今のは何だ……?」
「どろり濃厚ジュース。美味しいよ」
ジュースを飲む仕草をしながらにはは、と笑う観鈴。

ぽかっ!
祐一が迷わずツッコミを入れる。
「が、がお……どうしてそんな事するかなあ……」
「真面目に考えろっ」
作業は一向に進展を見せず、彼らが頭を抱えながらうんうん唸っているその時、一つの銃声が校舎に響き渡った。

「何だっ!?」
「これは銃声だ……まさか敵が来たのかっ!!」
祐一達は銃を手に取り大慌てで教室を飛び出していた。
(芽衣ちゃん……無事でいてくれ………。君だけは、君だけは絶対に僕が守るんだ!!!)
英二の銃を握る手に力が篭る。
古っぽい構造に似合わず大きい校舎が、長い長い廊下が、今の彼にはたまらなく邪魔だった。


103失われていく暖かさ:2006/11/16(木) 01:17:05 ID:sYLXmf+L0


一方職員室では……
「ぐおっ!!」
銃撃された衝撃で岸田の左腕が彼の意思とは無関係に跳ね上がる。
だが、芽衣が震えたまま放った銃弾は岸田の左腕を掠めただけだった。

「あうっ……」
腕に痺れが走り、銃が地面に落ちる。
芽衣の腕力では、環が使っていた銃……コルトガバメントの反動には耐え切れなかった。

「ふざけやがってぇぇぇ!!!」
岸田は芽衣の事を全く警戒していなかった。
せいぜい環を犯し終わった後についでに犯す、余興程度にしか考えていなかった。
そんなちっぽけな存在に噛み付かれた。
岸田の怒りは一気に頂点に達していた。

釘打ち機を芽衣の胸に向け、迷わず引き金を引く。

ドスッドスッドスッ!!

放たれた3本の釘は寸分違う事無く芽衣の胸に吸い込まれ、芽衣は仰向けに崩れ落ちた。
倒れた芽衣の体を中心に、血の海が拡がってゆく。

「ったく生意気なガキだったぜ……。気分直しにメインデッシュを頂くとするか」
そう言って岸田が環の制服に手をかけた時、階段の方から足音が聞こえてきた。

「――何!?仲間がいたのか!」
足音は複数聞こえる。銃声を聞きつけて駆けつけて来たのなら、間違いなく臨戦態勢をとっているだろう。
それに何より、この職員室の光景こそ隠しようのない惨劇の証明だった。
相手は複数、騙まし討ちも通じまい。
104名無しさんだよもん:2006/11/16(木) 01:17:37 ID:UG9VpEW30
うわ…速攻か…
一応回避
105失われていく暖かさ:2006/11/16(木) 01:18:27 ID:sYLXmf+L0

不利を感じ取った岸田は環を殺していくかどうか思案し―――殺さずに逃げ出す事にした。
必要な物だけを素早く回収し、ベランダ側の窓を開け放ち、校舎の壁際を確認する。
そこには彼の予想通り、水道管がついていた。
「あの女……本当に美味しそうだ。いつか絶対に犯してやる!」
最後に一度振り返ってそう呟くと、彼は水道管を握って衝撃を殺しながら飛び降りた。

ほぼ同時に職員室のドアが開け放たれる。
すぐさま一気に飛び込む祐一達。
「こ、これは……?」
職員室の中には血の臭いが充満していた。
「………っ!!」
まず彼らの目に飛び込んだのは無残に喉を切り裂かれた由依の死体だった。
入り口からでは机が遮蔽物となって死角が多い。
「芽衣ちゃんは!?芽衣ちゃんはどこだっ!!」
まだ潜んでいるかもしれない襲撃者を警戒するのも忘れ、英二は駆け出していた。
「くそっ!!環っ!芽衣っ!」
祐一も観鈴も後に続く。
由依の死体の傍まで辿り着いた所で、英二がある方向を見ながら固まった。
祐一も観鈴もすぐに追いつき、同じように固まった。

彼らが見ている方向には――――胸から釘を生やしていた。
彼女の体の周りには血の池が出来ており、彼女がどういった状態であるかは遠目にも明らかだった。

「あ…あ……」
英二はふらふらと芽衣に歩み寄り、彼女の体を抱き上げた。
体はまだ暖かい。肌の艶もまだ失われてはいない。
「め……い………ちゃん……?」
だけど、その体からは。重力以外の何の力も感じられ無くて。
英二が語りかけても彼女の目が、口が、開く事は二度と無くて。
暖かった体温すらも、少しずつ失われていって。
生命を失った芽衣の体を抱き締めがら、英二は泣いた。
106名無しさんだよもん:2006/11/16(木) 01:20:10 ID:UG9VpEW30
うむむ…(負け犬

回避
107失われていく暖かさ:2006/11/16(木) 01:20:29 ID:sYLXmf+L0
共通
 【時間:2日目01:30頃】
 【場所:D-06】
岸田洋一
【持ち物@:鋸、トンカチ、カッターナイフ×2、電動釘打ち機9/12、五寸釘(17本)、支給品一式】
【持ち物A:コルトガバメント(装弾数:6/7)予備弾弾13】
【状態:左腕軽傷、マーダー(やる気満々)、逃亡】

名倉由依
【持ち物:鎌石中学校制服(リトルバスターズの西園美魚風)カメラ付き携帯電話(バッテリー十分、全施設の番号登録済み)
   荷物一式、破けた由依の制服】
【状態:死亡】
春原芽衣
【持ち物:支給品一式】
【状態:死亡】

向坂環
【所持品:支給品一式】
【状態:気絶、後頭部に強い打撃】
緒方英二
【持ち物:ベレッタM92・予備の弾丸・支給品一式】
【状態:号泣】
相沢祐一
【持ち物:レミントン(M700)装弾数(5/5)・予備弾丸(15/15)支給品一式】
【状態:体のあちこちに痛みはあるものの行動に大きな支障なし、呆然】
神尾観鈴
【持ち物:ワルサーP5(8/8)フラッシュメモリ、支給品一式】
【状態:呆然】
※岸田が発見したロープは職員室内に放置
※関連440・445
>>100 >>104
回避ありがとー
108名無しさんだよもん:2006/11/16(木) 01:21:11 ID:sYLXmf+L0
>>106
重ね重ね回避ありがとう、助かりました
109そして共通はなくなった:2006/11/16(木) 01:53:16 ID:UG9VpEW30
『あああっ…』
『どうした並列世界検索班?』
『それが…大変言いにくいことなのですが…』
『言わなければ何の問題の解決にならぬだろう、報告はありのまましろ』
『はい…実は…最後まで共通ルートの軸上に存在していた名倉由依が別ルートで消失しました』
『なんだと…!』
『先ほど私の部下より報告がありました…これにより並列世界の検索及び、行き来きを行うための触媒が全て消失したことになります』
『何とかならんのか! このままでは我は今の主が大切にしている女子に会わせられなくなるではないか!』
『そちらの件については何とか代わりの触媒となる適合者を探してみます…ですが、全ルートの触媒者がいなくなった今並列世界を検索するのは大変難しい状況で…』
『そこを何とかするんだ! …このままでは義理が立たぬ!』


(どこだ、渚ちゃん? 早く見つけてオレは繭と一緒の世界に行くんだ!)
カバンの中では大変なことになっていることを彼は知らない。


折原浩平
 【所持品:だんご大家族(だんご残り100人:大混乱中)、日本酒(一升瓶)、装置、他支給品一式】
 【状態:渚を探す】

 【時間:2日目01:30過ぎ】
 【場所:D−02(迷って戻った)】

→248 →446 D-2ルート
110子犬のワルツ:2006/11/16(木) 03:44:10 ID:+ODWoILN0

沖木島近海に浮かぶヘリ空母『あきひで』。
その中に設置されたコントロールルームに、張り詰めた声が響いていた。

「―――しかし長瀬博士、それでは……!」
「はは、今は司令代行と呼んでほしいな、榊君?
 ……なあに、ちょっとした実験だよ」

柳眉を逆立てる榊しのぶに対し、白衣の男、長瀬源五郎は柔和な表情を崩さない。
だがその目はひどく病的な何かに侵されているように、しのぶには見えていた。

「いいかい榊君、あの島には既にアヴ・カミュ……神機まで投入されているんだ」

まるで出来の悪い生徒に辛抱強く授業を続ける教師のように、長瀬は言う。

「本来、あれは我が国防衛の要……こんなところで化け物ども相手に使われるような代物じゃない。
 それに比べて、私の”これ”は元々、制御の利かなくなった化け物を鎮圧するために用意されていたものなんだ、
 ちょっとしたデータくらいは取らせてもらっても罰は当たらないだろう?」

手に持った有線式のボタンを弄びながら、長瀬は低く笑う。
その薄気味悪い笑みに、しのぶの声はますます大きくなる。

「そういった問題ではありません……!」
「まぁ落ち着きたまえよ榊君、みんな驚いてるじゃないか」
「そもそも起動には司令の承認が必要な筈です!」
「だから私が司令代行として承認を下す、と言っているんだよ」
「久瀬司令は御健在です、代行とは申し上げても貴方にそのような権限は……!」

しのぶの怒声もどこ吹く風、といった様子で長瀬はにやにやと笑っている。
111子犬のワルツ:2006/11/16(木) 03:45:12 ID:+ODWoILN0
「随分とあの子の肩を持つじゃないか、まあ僕よりはいい男だしねえ」
「……っ! 今の御発言、撤回されないのであれば後ほど問題にさせていただきます……!」
「おお、怖い怖い。取り消すよ、今のはナシだ。訴えられちゃたまらないからねえ」
「……」
「そんな顔をしていたらせっかくの美人が台無しだ……おっと、これもセクハラに当たるのかな」
「……」
「ははは、まあその久瀬司令だがね、彼はどこに行ってしまったのかねえ」
「……! 司令は……その……」
「まさか、彼の行動に限って権限上の問題は存在しないとでも?」

問いかける長瀬。
あくまでも笑みの形を崩さないままではあったが、その言葉はどこまでも鋭い。

「それは……」
「砧夕霧の動員か……上陸準備が整うまであとどのくらいかかるのかねえ?」
「ご存知……だったのですか……」
「いやあ、さすがにあれはマズいよねえ、現場レベルの判断で動かしていい代物じゃあない。
 私はあんまりそういうの詳しくないんだがね、もっともっと上の方の決裁が必要なんじゃあないのかな。
 その辺りどうなのかねえ、お目付け役の榊しのぶ君?」
「……ですが、それは……」
「ですが、なんだい? まさか実の兄が死んだのだから仕方がない、なんて言わないよねえ。
 司令職をこんな民間人に押し付けて、禁断の兵器を私的な理由で使用するなんて……。
 それじゃまるで―――大逆の罪人じゃないか」
「……!」
「だからそんな顔をしないでくれると嬉しいね。
 勿論私には判っているよ、彼は彼の権限で許されていることをやっているんだ。
 ……そうだろう?」
「……」
112子犬のワルツ:2006/11/16(木) 03:46:27 ID:+ODWoILN0
「だから私は彼の行動を上に報告していない。問題がないのだから当然だね?
 そして……これも理解してくれると大変に嬉しいのだけれども、私も私の権限において
 許される範囲で、ちょっとした実験をしようとしているんだよ」
「……貴方という方は……!」
「ははは……どうせ何もかも焼き尽くされてしまうんだ、有効利用しなきゃ勿体無いじゃないか。
 君もそう思うだろう、ねえ?」
「……」

唇を噛んで押し黙るしのぶの様子を楽しそうに眺めながら、長瀬は手の中のスイッチをゆっくりと押す。

「さあ、起きておくれ……私の可愛い末娘。
 ―――化け物どもを狩り尽くす時間だ」

長瀬源五郎の低い低い笑い声が、いつまでも狭い室内に響いていた。





「―――刻んであげる」

鮮血を滴らせるナイフをゆらゆらと揺らしながら、向坂環が小牧郁乃に迫る。

「ひっ……!」

表情を引き攣らせる郁乃。
しかし車椅子の身では逃げることもままならない。
一歩、また一歩と迫る凶刃を、恐怖に満ちた眼差しで見つめることしかできなかった。
そんな郁乃を救ったのは、

「……この世のすべてのティッシュには、精液の転送装置が組み込まれてるんだよ。
 それはオカズに使われた対象の膣内へと、密かに精子を転送してるんだ」
113子犬のワルツ:2006/11/16(木) 03:47:22 ID:+ODWoILN0
奇妙に調子の外れた、高い声だった。
郁乃に迫っていた環が、慌てて振り返る。
暗がりの中から現れたのは、がりがりと首筋を掻き毟る女の姿だった。
自らの爪に掻きこぼされた首からは、幾筋もの血が流れている。
焦点の合わないその目は、明確な狂気を物語っていた。

「死体が一つ増えるってわけね……いいわ、あんたから先に奪ってあげる……!」

言って、環がナイフを構えなおす。
女は、そんな環の方に向き直ると、

「知ってる? マリアが懐妊したのはヨゼフがオナニーしたからなんだよ。
 すべては女性しか存在しないのに人間の男性と交わることを忌み嫌うエルフ族の仕業なんだ。
 ……あとはわかるよね?」

ニタリと笑った。

「死になさい」

女の奇妙な言葉に耳を貸すことなく、環が走る。
それを見た女は、眼球が飛び出すのではないかと郁乃が心配するほどに目を剥き、
首筋を掻き毟っていた手指を一杯に広げて奇声を上げた。

「赤い髪! 赤い髪! そんな色の髪は地球上に存在しない!
 エルフ族め! 秘密に気づいた私を殺しに来たのかッ!!」

環の手にしたナイフを恐れる気配もなく、女もまた走り出す。

「ただで殺されてなんてやるもんかッ!
 エルフ族は一人でも多く道連れにしてやるッ!
 だから真実は私が死んでも受け継がれるんだ!!」
114名無しさんだよもん:2006/11/16(木) 03:48:39 ID:RM0CHENM0
回避
115子犬のワルツ:2006/11/16(木) 03:49:00 ID:+ODWoILN0
支離滅裂なことを口走る女の胸を目掛けて、環のナイフが閃く。
だが、女は足を止めることなく、ナイフの軌道に右手を翳す。
ざくりと食い込む刃。しかし女は苦痛を感じる様子もない。
むしろ嬉々として、ナイフが刺さったままの手を右に左に振り回す。
飛び散る血潮。食い込んで離れない刃に、刺した環の方が手を離した。

「あはははははははははは!
 無様だね赤髪! お前の武器で殺してやるッ!」

言うや、躊躇うことなく己が右手からナイフを引き抜く女。
鮮血が噴水のように流れ出るが、女は気にする様子もない。

「イカレてるわね……!」
「……お前たちが人間を馬鹿にするのかッ! 私は死なない!!」

会話が成り立たない。
女の言動は完全に常軌を逸していた。
郁乃は七海を殺し、自分をその手にかけようとしていた環よりも、新たに現れた女の方に
嫌悪感を覚える。

(早く、逃げなくちゃ……!)

どちらが生き残ったとしても、安全は保障されそうになかった。
しかし対峙する二人はレストランの入り口側に位置している。
周囲を見渡して、他の出入り口を探そうとする郁乃。
だが、ふと感じた違和感に、その視線が止まる。

(……地震……?)

車椅子に座っている郁乃だからこそ感じ取れた、微細な震動。
対峙している二人はまだ、気づいていないようだった。
116名無しさんだよもん:2006/11/16(木) 03:49:11 ID:RM0CHENM0
つもう一個回避置いときますね
117子犬のワルツ:2006/11/16(木) 03:50:21 ID:+ODWoILN0
「死ね、赤髪ッ!」
「あたしは奪う側なのよ……ッ!」

目の前ではもみ合いが始まっている。
その間にも、揺れは次第に大きくなっているようだった。

(こんな時に……! 生き埋めなんて冗談じゃないわよ……!?)

開始時の爆発で、既にこの建物は相当傷んでいるのが見てとれた。
この揺れが万が一、大きな地震の来る前兆だとすれば、一刻も早く脱出しなければならなかった。
だが入り口には狂人と殺人者。七海の遺骸もそのままにしておくわけにはいかない。

「どうしろって言うのよ……!」

郁乃が口に出した、そのとき。
ひときわ大きな揺れが、ホテル跡を襲った。
思わず車椅子の上で身を竦める郁乃。手は必死に車椅子の肘掛を握り締めている。
だが次の瞬間、その目に信じられない光景が映った。

「え―――!?」

目の前でレストランの床が、弾けたのである。
装飾を施されたカーペットの床に、幾つもの大きな穴が、唐突に開いていた。
浮き上がるように舞い飛ぶコンクリートの破片。
その上でもみ合っていた二人の身体もまた、大きく宙を舞っていた。

「な……!」

刹那、郁乃が驚く間もなく。
それら、宙に浮いたままのコンクリート塊が、人間の身体が、文字通り粉砕された。
赤と黒の霧が、郁乃の視界一杯に広がる。
118子犬のワルツ:2006/11/16(木) 03:52:13 ID:+ODWoILN0
「……ッ!?」

悲鳴を喉に詰まらせる郁乃。
それは、正確を期するならば、銃撃と呼ばれるものであった。
コンクリートの床を易々と瓦礫の山に変えたその嵐が、一秒間に数百発という勢いで
吐き出された弾丸によるものだと、郁乃がようやく認識するのと、ほぼ同時。
大きく開いた床穴から、巨大な柱のようなものが顔を覗かせた。

「な……なに……!?」

灰白色の金属製。
巨大な筒状のそれを、テレビアニメの中に出てくるロボットが持つ大砲のようだ、と郁乃は感じる。
目線で辿れば、その筒状の根元は、更に大きな機械に続いているようだった。
本体と思しきその巨大な機械が、郁乃の目の前でせり上がってくる。

「なん……だっていうの……?」

四本の足を持った大砲。
あるいは、金属製の巨大な蜘蛛のオブジェ。
郁乃が直感的に思い浮かべたのは、そんな表現だった。
グレーを基調にして、所々に青灰色の斑模様が施されている。
瞬く間に見上げる程の高さを得たその巨大な機械に、郁乃は呆気に取られていた。

「……」

言葉も出ない郁乃の目が、赤い光に照らされる。
見ると、蜘蛛でいえば顔にあたる部分の、少し下。
両胸のあたりに、二つの丸いせり出し部分があった。
向かって右は、郁乃にも理解できる。それは、まだ湯気を上げている機銃の銃口だった。
そこから吐き出された無数の弾丸が、殺人鬼と狂人を灰塵に帰さしめたのだと感じる郁乃。
そう考えると、紛れもない凶器である筈のそれも、実に頼もしい武器のように思えてくるから不思議だった。
119名無しさんだよもん:2006/11/16(木) 03:56:46 ID:RM0CHENM0
>>110!僕はっ!君が投稿し終わるまで!回避をやめないっ!
120子犬のワルツ:2006/11/16(木) 03:57:30 ID:+ODWoILN0
赤い光は、向かって左の丸いせり出し部分から発されていた。
三つのライトが、くるくると回っている。
それが、何か自分を見つめる目のように思えて、郁乃は思わず口を開く。

「あなたが……助けて、くれたの……?」

答えるように、くるくると回る三つの光。

「そうだよ、……って、言ってるのかな……」

くるくるとテンポよく回る、三つのライト。
それはまるで子犬が尻尾を振っているようにも見えて、郁乃は苦笑する。

「大きな子犬だな……」

くるくると回る、小さな光。
それがデフセンサー、近距離管制感覚器と呼称されるものであると、郁乃が知ることはなかった。
球形銃座から覗く13mmニ連装機銃が、デフセンサーと連動してほんの一瞬だけ回転する。
それで充分だった。
飛来した弾丸は、一切の苦痛を与えることなく、小牧郁乃を破砕した。

121子犬のワルツ:2006/11/16(木) 03:58:18 ID:+ODWoILN0
Mk43L/e自動要撃砲台。
開発コードでシオマネキと呼ばれるそれは、射程内に存在する熱源をすべて制圧すると、
その主脚に備えられた八輪の車輪を稼動させる。
ゆっくりとその巨体を回転させると、シオマネキはその巨大な砲塔―――LERC、
長距離電磁射出砲の先端に光を点した。眩い光が、その砲塔に集まっていく。
瞬間、轟音と共にホテル跡の壁が一面、吹き飛んだ。

薄暮の沖木島に、ゆっくりと巨体を現していくシオマネキ。
新たな制圧対象を求めるように歩を進める、その眼前に降り立つ影があった。
それは黒と濃紺で彩られた、優美な機体。
識別信号に反応なし。シオマネキはその機体を即座に敵性体と認識する。
くるくると、デフセンサーが回転を始めた。


『おば様、あれ―――』
「……ええ、間に合わなかったみたいね……!」
『すっかり目を覚ましてるみたい……』
「あんなものが暴れ出したら、大変なことになるわ……! 止められるわよね、カミュ?」
『任せて、おば様!』
「……いい返事。けど、私のことは―――」
『あ、ごめんなさい、春夏さん!』
「わかれば良し! ―――来るわよ!」
122子犬のワルツ:2006/11/16(木) 03:59:11 ID:+ODWoILN0
【時間:1日目19時前】
【場所:E−4】


小牧郁乃
【状態:死亡】

向坂環
【状態:死亡】

澤倉美咲
【状態:死亡】

柚原春夏
【所持品:アヴ・カミュ、おたま】
【状態:健康】

長瀬源五郎
【状態:久瀬司令が超先生の死亡報告を受けたのは220の1日目PM12:11以降、212の演説の直後だったのさ。
 それが証拠にほら、327の久瀬司令と超先生には時間の記載がないじゃあないかね。
 君もそう思うだろう、榊君?】

榊しのぶ
【状態:訴えます】
→171 311 324 418 ←404 ルートD-2

>>114 >>116 >>119 アツい回避、サンクスw
123名無しさんだよもん:2006/11/16(木) 08:45:32 ID:jttCw9qZ0
もしかしたらと言う思いがあった。
雄二たちと別れ地図を広げた貴明の目に焼きついたのは学校と言う二文字。
気が付けば貴明の足は鎌石小中学校へと向かっており、そして今、生徒会室と書かれた部屋の中で静かに座っていた。
このみ…タマ姉…久寿川先輩…まーりゃん先輩…。
放課後集まっていた生徒会室での皆の笑顔がよぎる。
楽しかった日々が夢であるかのような錯覚にとらわれ、頭を振りながらその考えを追い払う。
だが頭の中を駆け巡る思い出が夢ではないように、今起こっていることも決して夢ではない。
これは殺し合いゲーム。その中で草壁さんが死んだ。
悲しいけど、これは現実…だからこそもう悲しみたくは無かった。
貴明はゆっくりと椅子から立ち上がった。
こんなところでじっと座っている暇なんて本当は無いんだ。
感傷に浸り十分休んだ。探しに行こう、みんなを。
武器とバックを抱えると生徒会室の扉を開き、ゆっくりと歩き出した。

――その直後だった。
「動かないで」
貴明の後ろから聞こえた一つの声。
「銃を捨てて手を上げて、ゆっくりとこっちを向いて頂戴」
最悪の想像が浮かびながらも、言われるままに銃を捨て両手を上げると後ろを振り返る。
そこにはワルサーP38を構えた観月マナの姿があった。
銃を突きつけたままマナは貴明にゆっくりと近づき、投げ捨てられたRemington M870を拾う。
ごめん雄二、俺は約束を守れそうに無いかもしれない。
向けられたマナの眼光の鋭さに萎縮しつつも、この距離なら飛びつけば組み伏せるのは簡単かもしれないと考えた。
だが自身に真っ直ぐ突きつけられた銃口が火を噴くのとでは後者のほうが間違いなく早いだろう。
「あんたここでなにやってんの?」
貴明の考えとは裏腹に、銃声の代わりに飛び出したのは不思議そうに語るマナの声だった。
「……人を探してたんだ」
返答次第で返ってくるのは銃弾かもしれない。
慎重に言葉を選びながらも貴明はゆっくりはっきりと告げた。
「ふーん、じゃもう一つ。あんた人を殺した?」
124名無しさんだよもん:2006/11/16(木) 08:46:19 ID:jttCw9qZ0
その問いに小さく頭を振る。
「殺したことも無いし殺すつもりも無いよ。俺はただ大事な友達を守りたいだけなんだ」
マナの瞳を真っ直ぐと見つめ貴明は決意を込めて言う。

貴明の言葉に銃こそ降ろさなかったもののマナの敵意は消えていた。
その心には、先ほど話した往人の言葉が思い出される。
みんながみんなこんなのばっかりだったらお姉ちゃんは死ななくてすんだのに。
そう思うことはある種の逃げだった。
今更何を祈ったところで死人は生き返らない。
だからこそ後悔するより前に動かなきゃいけないんだ。
そう思ってマナは頭を振ってその思考を打ち消した。
人を信じられない自分にも決別するために、一つの決意を固める。
Remington M870を握る手に力を籠めるとそれを貴明の足元へと投げ返したのだった。
「えっ?」
貴明が信じられないといった表情でマナの顔を見つめる。
「ゲームに乗って無いんでしょ?信じてあげるわよ、ごめんなさい」
普段の彼女なら絶対出ないような謝罪の言葉。
自然と口にしたそれに自身でも驚きながら笑みを少しこぼしていた。

「それっぽい人には会って無いと思うわ。変な男ばっかりだったしね」
「そうか……残念ながら俺もその冬弥って人には会って無いと思う」
今までの情報交換ということで二人は歩きながら話していた。
だが知りえた情報は共に少なく、せいぜい安全そうな人間の把握が出来たことぐらいだろうか。
その危機感の少なさは未だにゲームに乗った人間に出会っていない二人にとって
知り合いがゲームに乗ったという想像が働かないのもまた仕様の無い話ではある。
そして二人の目的も動機も一緒だった。
知り合いが死んだ悲しみの上で、これ以上死なせないためにも探そうとしている。
貴明もマナもお互いにどこか親近感を覚えていた。
二人の間に自然と笑みがこぼれる。
そしてちょうどその時、平和な時間を遮るように後ろから廊下を蹴る足音が響き渡った。
125名無しさんだよもん:2006/11/16(木) 08:46:57 ID:jttCw9qZ0
「だーーーーぶーーーーるーーーー……」
同時に聞こえた声に思わず二人は身構えながら振り返った。
「まーーーーりゃんきーーーっくっ!!!」
銃を構える間もなく再び叫ばれた声と共に貴明の身体が大きく吹っ飛ばされた。
勢いよく床に腰を着き、貴明は異に食らった衝撃にむせ返る。
「!?」
状況がわからないながらにもマナは倒れた貴明の元へ駆け寄る麻亜子に銃口を向けた。
「ちみちみ、銃を降ろしたまへ。あたしが用があるのはこっちだから」
少し困ったようにマナに手を振り、麻亜子は貴明の胸倉を掴み上げる。
「……ってて……え、まーりゃん先輩?」
貴明の出した名前にマナの緊張が和らいだ。
先ほど話していた探し人の一人だった。
「おいこらたかりゃん!さーりゃんほったらかしてなに他の女の子とイチャイチャしとるのかな君は」
「いや、別にイチャイチャしてたわけじゃ」
「嘘をつくな! 遠くから見てもすぐにわかったぞ、たかりゃんの鼻の下がこーんなに伸びてるのは」
言いながら麻亜子が両手を目一杯広げている。
「そんなに伸びたら最早人間じゃないですって……」
疲れたように溜め息をつきながらも、貴明は麻亜子の無事な姿に安堵していた。
発言にいろいろ突っ込みたいところは山ほどあった。
だがそれ以上に会えた喜びが胸を締め付け一杯になる。
……はずだったのだがその珍妙な格好に貴明の口から出たのはやはり突っ込みだった。
「とりあえず先輩……なんでスクール水着なんですか?」
そう、麻亜子が着ているのは何故かスクール水着。
小さい胸の膨らみ部分の上には丁寧に"2-A"とまでかかれて張られている。
「どうだ?可愛いだろ?萌えたか?萌えるよなーうんうん」
「いや萌えるとか萌えないじゃなくて……」
「ああそうか、そうだよね、うんうん。
 安心したまへ、さーりゃんの分のスク水も拝借してきたからなーーんにも心配することは無いぞ!」
腕を組み満足げに大きく頷くと、麻亜子は貴明の肩をポンポンと軽く叩く。
「だからそれも違いますってば……」
126名無しさんだよもん:2006/11/16(木) 08:47:32 ID:jttCw9qZ0
蚊帳の外で置いてけぼりを食らっているマナの目はすでに点になっていた。
目の前で繰り広げられるよくもわからない漫才。
これも仕方の無い話ではあるが、いきなり現れた麻亜子のテンションについていくことが出来ない。
「いやいや、あれだよ。学校ならプールもあるだろうしシャワーがあるかなと思って来てみたんだなこれが。
 そしたらロッカーの中にこんな素敵な一品があるではないか!
 是非ともたかりゃんに見せたいと思って着込んでたわけなんだが
 そしたらどうだね!噂のたかりゃん君がいるではないか!
 思わず制服を脱ぎ捨てたは良いものの、そしたらそしたら今度はどうだね!
 たかりゃん君は知らない女子と和気合いあいでは無いか!
 これはさーりゃんにたいする侮辱と思って思わずそのまま飛び出してしまったよ」
息継ぎもせずに一気に言い切ると、そのまま大きくむせ返していた。
呆気に取られながらも、普段と変わらない麻亜子の姿に貴明の心にはようやく喜びが押し寄せてきた。
ゆっくりと立ち上がるとその小さな身体をゆっくりと抱きしめる。
「こ、こりゃ、たかりゃん。あたしはさーりゃんじゃないぞ!」
暴れる麻亜子を抑えるように貴明は握り締める腕に力をこめ、瞳から一筋の涙を流しながら言った。
「会えて……生きててくれて良かった……」
貴明の言葉を聞くと同時に、離れようともがいていた麻亜子の身体から力が抜ける。
そしてその小さな腕を貴明の背中に回すと、そっと摩りながら
「あたしも……嬉しかったよ……」
はにかみながらもポツリと小さく呟いた。
127名無しさんだよもん:2006/11/16(木) 08:48:29 ID:jttCw9qZ0

そんな二人の思いも長くは続くことはなかった。
それを邪魔するかのように校内に銃声が響き渡る――。



河野貴明
 【所持品:Remington M870(残弾数4/4)、予備弾×24、ほか支給品一式】
 【状態:感涙】
観月マナ
 【所持品:ワルサー P38・支給品一式】
 【状態:呆然】
朝霧麻亜子
 【所持品1:SIG(P232)残弾数(4/7)・ボウガン・バタフライナイフ・投げナイフ】
 【所持品2:仕込み鉄扇・制服・ささらサイズのスクール水着・支給品一式】
 【状態:貴明とささらと生徒会メンバー以外の参加者の排除(貴明はその事実を知らない)】
 【備考1:スク水を着衣、浴衣は汚物まみれの為更衣室に放置】
 【備考2:武器や支給品バック、脱ぎ捨てた制服はすぐそばに放置】
 【補足:31話で生徒会の諸君ともあったので一応排除対象に追加しましたが、貴明ささらに絞るかどうかは後続任せ】

【時間:2日目午前1:30ぐらい】
【場所:D-06鎌石中学校生徒会室付近】
(B-11 250・293・428・446)
タイトル忘れてた・・・「すれ違いの再会」で
128少女青春物語:2006/11/16(木) 22:03:29 ID:f9RdywXv0
ようやく倉庫に着いたものの、智代は未だにソファーに寝転がってウダウダしている。たれぱんだもいいところだ。
それよりも、先程の死亡者発表…まだ茜の知り合いは一人も死んではいないが15人もの人間が殺されている。
茜は心底ゾッとした。元は殺し合いとは何の縁も無い人間がたった半日足らずでここまで乗ってしまうものなのか。そして、自分もそこへ足を踏みいれようとしていたことにも戦慄を覚える。
智代がいてくれて本当に良かったと思う。あの時は何も考えずに人を殺して帰る、と言ってしまったがそれはこのゲームに乗るような人間はそうそういないだろう、とたかをくくっていたからでもあった。
しかし実際はこんなにも多くの人間が殺し合いをしている。とすれば素人で武器も良くなかった茜が生き残れるわけもなかった。
もし智代と会わなければあの放送の中に自分が含まれていたかもしれない。
「…しかし、当の本人があれではどうしようもありませんね」
「違う…考え事をしていたんだ」
寝転がった体勢のまま智代が答える。起きていたのか。
「こんなに多くの人間が半日足らずで殺されている…たった半日でだ。なあ茜、私達のように主催者に抗おうとしている人間がどれくらいいると思う」
「…分かりません」
「私は甘かった。始まった時は乗るような人間はそうそういないだろう、って思っていた。しかし現実はどうだ、行動してすぐのあの爆発。この死者の多さ。恐らく、私達のように行動している人間はかなり少ない」
「…何が言いたいのです、智代」
できるだけ感情を抑えて茜は答える。もしかしたら智代は自分とは正反対の考えに到っているかもしれない。ゲームに乗るべきだった、と。
(…その時は、智代を殺します)
愚かな考えに至った人間を野放しにするつもりはない。「あの時」の、智代の気持ちは確かに本物だった。自分はそれに乗った。だから最後までそれを貫く。
智代が二の句を継ぐ。
「だから、私を殺せ。茜」
「は…?」
予想と大幅に違う返答。智代は起きあがって茜を見据える。
129少女青春物語:2006/11/16(木) 22:04:24 ID:f9RdywXv0
「とりあえず、私に協力して脱出する手段を一緒に探せ。失敗したらその時はこれで私の頭を割ってゲームにのればいい――そう言ったな」
手斧を手にとって言葉を続ける。
「この分では119…いや今は104人を殺して帰る方が現実的だ。最初に茜が言った通りだ。こっちの方が非現実的だったというわけか…」
智代が手斧を茜に渡す。
「約束は守る。さぁ、やれ。覚悟は出来たぞ」
くいっ、と喉元を曝け出す。茜は内心でため息をついて言い放った。
「嫌です」
茜は手渡された手斧を床へ投げ捨てた。智代がきょとんとした表情で「…どうして」と言う。
「確かにそう約束はしましたが…私があなたを殺すのは『失敗した時』ですから、私が瀕死の重傷を負ったときに殺します。ですから、まだ失敗はしていない今はまだ智代を殺しません」
「しかし…」
まだ何か言おうとする智代を、茜が鋭い目つきで睨む。その眼光に智代は言葉を続けられない。
「あなたはどうなんです? もう諦めたのですか。約束だとか何だとか、そんなの関係ありません。智代の気持ちを聞いてます。――どうなんです、智代」
智代はためらいながらも答える。
「…勿論、まだチャンスがある限りは最後まで主催者と戦いたい」
「だったら、それでいいじゃないですか。私が死ぬその時まで、智代につき合います」
今更殺し合いに戻ったところで生き残れるわけが無い、と思ってしまった茜はそう返答した。
「…いいのか? 後悔するかもしれないぞ。私が辿る道は遥かに険しい道のりなんだ。惨めに死ぬかもしれない」
「構いません。後悔なら…既にたくさんしてきましたから」
空き地で待ち続けた日。戻ってこないあの人。後悔するのには慣れている。
ふと、茜はどうしてあの空き地へ戻りたいと思ったのだろう、と思った。
あの人を待つため? 戻ってこないと分かっているのに?
分からない。ひょっとしたら、自分はただ単に生きていくための目的が欲しかっただけなのかもしれない。執着があるから生きることができる。
しかし今は智代と生還を果たすことに行動の意味を感じている。だから是が非でも智代には生きていてもらわねばならない。自分が死ぬ、その時まで。
130少女青春物語:2006/11/16(木) 22:05:30 ID:f9RdywXv0
だから喝を入れるために茜は『らしくない』行動を取った。
「ですから、これで気合を入れ直して行きましょう」
そう言うと、茜は思いきり智代の頬をはたいた。乾いた音が倉庫に木霊する。
「ぐっ…痛いな、思いきり張り手されたのは初めてだ」
頬をさすりながら茜を見る智代。
「当然です。弱気になった人間に気合を入れなおすにはこれくらい当たり前です」
あっけらかんと言い放つ。これで再始動だ。そう思って斧を取りに行こうとしたとき。
パァン!
どこからか張り手が飛んできた。物凄く痛かった。茜は智代を睨む。
「…何をするんです」
「訂正を求める。私は別に弱気になってなどいないぞ。最初の約束を守ろうとしただけだ。だからし返しの一発」
不敵な顔で智代が笑っていた。よほど張り手が気に食わなかったらしい。
「…上等です」
ゴスッ、と智代の腹に蹴りを入れる。感謝されこそすれ、お返しを貰ういわれはない。
「ぐうっ…やったな、茜!」
ガスッ! 智代の拳が腹にめり込む。ぐふっ、と息が漏れるが構わず智代の顔面に鉄拳制裁。
「やられっ放しは嫌いですから」
「…奇遇だな、私もだ。だからな…もう一発!」
必殺の回し蹴りが胴を捉える。茜はよろよろとふらつくが、構わずに智代の脛にローキック。
それからしばらくの間ケンカとも言える二人の取っ組み合いが続いたのだった。
131少女青春物語:2006/11/16(木) 22:06:09 ID:f9RdywXv0
坂上智代
【時間:午後11時前】
【場所:F−2、倉庫】
【持ち物:手斧、支給品一式】
【状態:ガチファイト中】

里村茜
【時間:午後11時前】
【場所:F−2、倉庫】
【持ち物:フォーク、支給品一式】
【状態:ガチファイト中】

【備考:B−10,11ルート】
132もうあの日には戻れない:2006/11/17(金) 00:45:17 ID:an42IDZZ0

「ねえデコっぱち」
「なんですか尿」
「尿て」

黒い厚紙に太陽光反射させ殺すぞと思いながら無感動に尋ねる天沢郁未。
ちょっとはてめえの後でELPOD使う人間の迷惑も考えろと考えながら無表情に聞き返す鹿沼葉子。

「ふと思ったんだけど、私ら出番なくない?」
「ありませんね。かれこれ300話ばかり」
「どうする、思い出したようにマーダーやってみる?」
「賢明な判断とはいえませんね。今更殺人程度でキャラが立つほどこの世界甘くないです」
「そうよねえ……」
「昨今はキャラの立たないマーダーから始末されている傾向もありますし」
「私ら格好の餌食よねえ……」
「とはいえ、このままではワープの生贄は免れ得ません」
「何それ」
「そういうこともあるって話です。過去ログくらい読んでください」
「面倒」
「そういうこと言ってるから出番ないんですよ。流れを掴まなくては」
「はいはい、んじゃ流れを掴んでるミス凸面鏡にお任せするわ」
「そういえば気づいてます?」
「うわスルーかよ」
「私たちの不可視の力、いつの間にか復活してますよ」
「へえ、んじゃ優勝できる?」
「無理です」
「お前ちょっと自爆してこいよ」
「無理なものは無理です」
「いいじゃない自爆くらい。キャラ立つよ?」
「立っても死にます」
「死んだら私が奇跡とかで生き返らせてあげるからさ」
「そんなことできるなら他ルートでやってください今すぐ」
133もうあの日には戻れない:2006/11/17(金) 00:46:02 ID:an42IDZZ0
「できるわけねえだろ人間反射望遠鏡。あ、そうだあんたビームとか出せるんじゃないの」
「出ません」
「いや額から。ビーって」
「出ません」
「やればできるって。ここはそういうところなんだって」
「……ピー」
「うわホントにやろうとしたよコイツ! しかも口でSEつけてるし」
「……私はこれでキャラ立ちましたから、先に死ぬのは郁未さんですね」
「何それ、そんなんでいいの!? そもそも出せてないじゃんビーム!」
「いえ、今ハイメガ粒子砲みたいなのが出ました。うわ自分にこんな力があったなんてびっくり」
「あ、てめえ描写されてないからって好き勝手に!」
「言ったもの勝ちです」
「よし、じゃ私はアレだ、その、なんだ、えーと、凄いのよほら」
「無学って哀しいですね。郁未さん確か中卒でしたっけ」
「休学中よ、休・学・中! まだクビにはなってないから!」
「早くコイツ死なないかなあ」

何だそれならまだ学生さんですね、と考えながら無表情に答える葉子。

「逆だよ怪奇姿見女! 上等だオモテ出ろ!」
「はぁ……そんなに早死にしたいなら仕方ありませんね」

立ち上がる二人。

「ご飯は楽しく食べましょうねー」
「「はーい、うまうま」」

平和な食卓であった。

134もうあの日には戻れない:2006/11/17(金) 00:47:18 ID:an42IDZZ0
「たのもう」

時代錯誤な台詞とともに診療所の扉が蹴り開けられ、どさりと何かが投げ込まれたのは、
そんな食事時である。

「カチコミかー!」
「上等です」

すわ出番か、と各々の得物を手にとっていきり立つ郁未と葉子。

「シチューが冷めちゃいますよ」
「「うまうま」」

早苗の一言でいそいそと座り込んで湯気の立つホワイトシチューをすするその背中には、
最早マーダーとして生きていこうと決意した頃の面影は微塵も見られない。
そんな二人を尻目に、早苗は投げ込まれたそれに歩み寄ると、しげしげと眺める。

「死んでますね」
「ぶー!」
「郁未さんたち、汚いです……」

投げ込まれたのは、少女の遺体だった。
慌てふためいたりシチューをすすったりあごに手を当ててちょっと首をかしげたりする一行。

「……で、どちら様でしたっけ?」

首をかしげたまま、扉の外に声をかける早苗。
人影が、室内に一歩踏み込んだ。診療所内に走る緊張。

「……チエを、治して」

お食事時にぷちテロを敢行したその人の名を、川澄舞という。
135もうあの日には戻れない:2006/11/17(金) 00:48:15 ID:an42IDZZ0


「―――お話はわかりました」

舞の話を聞いて、ひとつ頷く早苗。
ずずー、と出されたお茶をすすりながら舞も頷く。

「よろしく」
「いや、無理だから。死んでるから」

思わずツッコむ郁未。
葉子はといえば、チエの遺体を仔細に検分していた。

「おそらく出血多量による多臓器不全でしょうね」
「……変なスキル持ってるのね」
「似合うでしょう」
「そういう問題か?」
「それがすべてです」

深遠な問答には視線も払わず、早苗は舞の眼をじっと見つめている。

「この方は、お友達ですか」
「……わからない」
「死んでいますよ」
「そこを何とか」
「……よく判りました、何とかしましょう」
「お、お母さん!?」

さすがに渚が心配そうな声を上げる。
136もうあの日には戻れない:2006/11/17(金) 00:59:50 ID:an42IDZZ0
「いや早苗さん、いくらなんでも……」
「はい、この方は完全に死亡しています」
「そうですよ、お母さん……いい加減なことを言ったらダメです……」

口々に言う少女たちを見渡して、早苗が軽く眼を伏せる。
何か重大なことを言い出すのかと身構える一行。

「昔のことです……」

ごくり。生唾を飲み込む音が響く。

「私のパンを食べた秋生さんが、こう言ってくれたことがあるんです―――。
 『このパン……死人も墓から飛び出してきちまいそうな、そんな味だぜ……』って」
「お、お父さん……」

父の労苦を偲んでそっと涙を拭う渚。

「だから大丈夫、きっと何とかしてみせましょう」
「よろしく」
「いやちょっと待って!?」

どこからツッコもうかと戸惑う郁未。
だがそんな郁未の裾を葉子が引っ張って言う。

「無駄です郁未さん、最早なるようにしかなりません」
「達観してる場合じゃないでしょ! ああ、私の常識が……」
「不可視の力とかFARGOとか背負ってる人に常識云々言われても」
「お前もだろ!」

ぎむー、と葉子の頬を引っ張る郁未。
案外伸びるな、と郁未は感心する。ちょっと楽しくなってきた。ぎむー。
そんな二人を無視して、早苗の話は続いていた。
137もうあの日には戻れない:2006/11/17(金) 01:00:41 ID:an42IDZZ0
「―――ですが、そのパンを作るために必要な材料が足りません」
「材料……」
「はい」
「私が取ってくる」
「そうですか……ですが、この島に存在するかどうかもわからないのですよ」
「取ってくる」
「……決意は固いようですね」
「それで、何」
「はい、その材料とは……鬼の爪、ヘタレの尻子玉、白虎の毛皮、魔犬の尻尾……」
「ちょっと待てぇぇ!!」

ぎむー、と葉子の頬を引っ張ったまま叫ぶ郁未。

「うるさい」
「そうですよ郁未さん、いま大事なお話を……」
「黙って聞いてれば無茶苦茶言うわねあんた! どれ一つ取ったってあり得ないでしょ!
 っていうかそれどんなパンの材料にするの! 魔女か! あんたは魔女なのかー!」
「おひふいてくらはいいふみはん」
「何よ!?」

郁未が手を離すと、ぱっちんと音を立てて葉子の頬が元に戻る。
赤く腫れた頬をひと撫ですると、何事もなかったかのように葉子が口を開いた。

「……落ち着いてください郁未さん」
「これが落ち着いていられるかぁっ!」
「……他はともかく、白虎は実在します」
「そこっ!? 言いたいことはそれだけなの!?」

ぎむむー。
138もうあの日には戻れない:2006/11/17(金) 01:01:31 ID:an42IDZZ0
「……あんまりうるさいと、斬る」
「まあまあ、あの人たちも悪気があるわけじゃないんです」

チキ、と鯉口を切る舞を宥めるように、早苗が両手を上げる。

「ただちょっといつまでも子供な部分が抜けない……そういう子たちなんですよ」
「……そう」
「うっがあああ! そんな可哀想なものを見るような目でこっちを見るなあああ!」
「おひふいてくらはい」

怪気炎を上げる郁未を無視して、早苗が舞に向き直る。

「……で、どこまでお話しましたっけ」
「魔犬の尻尾」
「そうそう、尻尾でしたね。……えーっと、爪、玉、皮、尻尾……あら?」

可愛らしく小首をかしげる早苗。

「あと一つ、何だったかしら……」
「ああほら、郁未さんが大声出したりするから……」
「私!? 私のせいなの!?」

三対の咎めるような視線を受けてたじろぐ郁未。

「って何であんたまでそんな目で私を見てるのっ!」

ぎむー。

「……うん、まあ作ってるうちに思い出すかもしれないですね。
 とりあえず、いま言った四つを先に持ってきていただけますか?」
「……わかった」
139もうあの日には戻れない:2006/11/17(金) 01:02:32 ID:an42IDZZ0
頷くや、取るものもとりあえず飛び出していく舞。
そんな舞の後ろ姿を見送ると、早苗がじゃれ合う郁未と葉子の方を向いてにっこりと笑う。

「……あなた達もですよ?」
「はあ!?」
「いえ、ですから郁未さんたちも材料を取ってきていただけるんですよね?」
「あのねえ、何で私たちが……!」
「―――郁未さん、ちょっと」

猛然と早苗に詰め寄ろうとする郁未の襟首を掴んで、葉子が部屋の隅へと引きずっていく。

「何よ!?」
「これはチャンスです」
「チャンス? ……何のチャンスよ」
「勿論、キャラを立てるまたとないチャンスに決まってるじゃないですか」
「あんた、まだそんなこと言ってんの……」
「……よく考えてください。
 このまま放置されてうまうまとシチューをすするだけのキャラに成り下がるのか、
 大冒険活劇の末にとんでもないフラグを掴んで一躍主役の座に躍り出るのか。
 ここがターニングポイントなんです、郁未さん」
「このルートで主役になってもねえ……」

口ではそう言うものの、郁未は考え込んでいる。
必死で説得にかかる葉子。

「……お母さん、あの人たちは何を話しているんでしょう?」
「若いうちは色々と悩みが多いものなんですよ、渚」
「そういうものですか……」

やがて話がまとまったらしく、郁未と葉子が立ち上がる。
その眼には、決意の炎が燃え上がっていた。
140もうあの日には戻れない:2006/11/17(金) 01:03:41 ID:an42IDZZ0
「……わかったわ。やってやろうじゃないの」
「そう言ってくださると信じていました。道中、気をつけてくださいね」

どすどすと足音も荒く診療所を後にしようとする郁未たち。
が、扉を一歩出たところで郁未が振り向く。

「……そういえば」
「はい?」
「前に作った時は材料、どうしたのよ」
「……ああ。あの時は秋生さんが、ちょっと珍しいものが手に入ったからって……」
「あんたの旦那、何!? 勇者様かなんか!?」
「いえ……」

少し間を置くと、可愛く微笑んで答える早苗。

「ヒーローです♪」
141名無しさんだよもん:2006/11/17(金) 01:06:04 ID:u+qFfwSm0
回避いるかな…?
142もうあの日には戻れない:2006/11/17(金) 01:07:36 ID:an42IDZZ0
【時間:20時頃】
【場所:沖木島診療所(I−07)】

古河早苗
【所持品:ハリセン、支給品一式】
【状態:パン作りなら任せてください】

古河渚
【所持品:支給品不明】
【状態:お母さんはやっぱりすごいです】 

天沢郁未
【所持品:薙刀・支給品一式】
【状態:聞くんじゃなかった】

鹿沼葉子
【所持品:鉈・支給品一式】
【状態:一緒にサクセスしましょう】

川澄舞
【所持品:日本刀・支給品一式】
【状態:爪、玉、皮、尻尾……】

※舞の所持品の内、支給品×2、牛丼一週間分(割箸付き)、チエの遺体は診療所に。

→140 →444 ルートD-2

>>141 d〜
143進路(1/3):2006/11/17(金) 01:39:51 ID:3ugPjOpB0
「あ、おかえりなさい」
「・・・」

のほほんとした気の抜ける雰囲気が出迎える。
破壊されたセリオを確認した際、失神してしまった柚木詩子を背負いながら相良美佐枝はこの場に戻った。
部屋の真ん中でちょこんと座っている小牧愛佳と来栖川芹香、こちらを迎えるその毒気の無さに相良美佐枝は半ば呆れた。
美佐枝自身が悲惨な面を見てしまったからかもしれないが、彼女達がこうして朗らかにいられるのは・・・まだ、自分達が悲劇の餌食になっていないからだろう。

古びた日本家屋が彼女達の隠れ家だった。
このような佇まいの家はこの鎌石村にはいくつかあり、その内の一つで愛佳と芹香は休んでいた。
少し年代を感じさせる色あせた畳の上、寛ぐ彼女達は美佐枝の帰りを心から喜んだ。
正直ここまで懐かれているとは思わなかったので・・・美佐枝も、どこか嬉しくなる。

「あの、その方は・・・」
「ああ、ちょっとあってね。布団とかあるかい?」
「あ、はい!ちょっと待っててください」

パタパタと押入れの方に向かい、布団を引き出す愛佳。
その間に美佐枝は背負っていた詩子を降ろす、芹香はただぼーっとそんな光景を見つめているだけだった。
詩子を横たえた後、手に入れた缶詰を一つ開けてのささやかな食事と摂りながら、美佐枝は話し出した。
村の家屋で施錠済みの家が多かったこと、そして詩子のこと。
事情を知った愛佳の顔が暗くなる、けれど仕方ないことだ。
これが、殺し合いをさせられているという現実であるのだから。

「そっちは何かあったかい?」
「あ、そうなんですっ。聞いてください美佐枝さん、芹香さんがこの土地の地縛霊さんとお話してくれて、少し分かったことがあるんです」
「はぁ?」
「ですから、芹香さんが・・・」

そう言う愛佳の手には、あ〜んまでの五十音が書かれた用紙と、何故か五円玉が。
見覚えある、小学生の時辺りに流行った気がするそれ。
144進路(2/3):2006/11/17(金) 01:40:30 ID:3ugPjOpB0
「・・・こっくりさん?」
「はい、本当は直接お話することもできるらしいんですけど、今はどうしてかできないそうです」
「・・・」
「この島には特殊な呪いか何かがかけられていて、それが妨害してる・・・と言ってます」

そういえば、最初のウサギがそんなことを言っていた気がする。
・・・芹香が能力者。信じがたいけれど、確かに彼女の常人離れした雰囲気からするとそれは説得ある話だった。
まじまじと見つめる美佐枝の視線を受け、何故か芹香は得意げにブイサインを作る。
そんな二人を無視し、愛佳は話を続けた。

「えっとですね、芹香さんいわくこの島には神塚山を囲んで三つの封印が行われているそうです」

ぱさっと五十音の書かれた紙を裏返す、それは最初に配られた地図。
ホテル跡、鎌石小中学校、鷹野神社。順に、愛佳は指を差していく。
それらは全てスタート地点として指定された場所だった。

「各場所には青い宝石が配置してあり、それには何か秘密があるらしいです」
「・・・秘密?」
「はい。その三つの青い宝石を集めて何かした上で、それを山に謙譲すると何か起きたと、地縛霊さんはそうおっしゃったそうです」
「何だか凄く曖昧だね・・・」
「しかも、それがいいことか悪いことかというのも分からないそうです・・・」
「・・・」
「えっと、地縛霊さんも直接見ていたわけではないのでそこら辺は勘弁してくれ、だそうです」

芹香の呟きを愛佳が伝える、二人はちょっと時間を置いただけでツーカーになっていた。
そんな微笑ましいコンビを見ながら、どうしたもんかねと考える。
・・・腕を組んだところで、美佐枝ははたと気づいた。

「ちょっと待って。芹香ちゃんの言い分だと、このゲームって・・・」
「・・・」
「はい。施行されたのは、初めてでは・・・ないそうです」
145進路(3/3):2006/11/17(金) 01:41:11 ID:3ugPjOpB0
愛佳の表情が曇る、芹香も寂しそうに俯いた。
もし本当に地縛霊という存在があるのであれば、それの持つ知識・・・即ち「見た記憶」というのは過去の物である。
・・・誰かが踏み台になることで、今築かれた現実があるということ。
それらを含め、早い判断を・・・することは、できない。

「ごめんね、二人とも。正直、それを信じろって言われても・・・私にゃ厳しいよ」
「・・・」
「でもね、もしその場所にさ、本当に宝石なりなんなりが隠されていたのなら。
 何かこのゲームから抜け出すきっかけを作れるかもしれない、そうは思う」

美佐枝は一度深呼吸し、表情を崩して二人に笑いかけた。

「明日、行ってみようか。そこに本当に青い宝石なんて物があったらさ・・・また考えよう」
「はい」
「・・・」

行くとしたらここから近いホテル跡か鎌石小中学校だろう、距離的にはホテル跡の方が近いがそこまで大差はない。
とにかく明日考えればいい、そうとしか・・・今の美佐枝には、言えなかった。
146補足:2006/11/17(金) 01:41:59 ID:3ugPjOpB0
相楽美佐枝
【時間:1日目午後11時】
【場所:B−3・日本家屋】
【持ち物:ウージー(残弾25)、予備マガジン×4、缶詰3個&パン2個、支給品一式(水補充済み、食料少し消費)】
【状態:休憩・交代で見張り】

来栖川芹香
【時間:1日目午後11時】
【場所:B−3・日本家屋】
【持ち物:バックパック式火炎放射器、支給品一式(水補充済み、食料少し消費)】
【状態:休憩・交代で見張り】

小牧愛佳
【時間:1日目午後11時】
【場所:B−3・日本家屋】
【持ち物:包丁、支給品一式(水補充済み、食料少し消費)】
【状態:休憩・交代で見張り】

柚木詩子
【時間:1日目午後11時】
【場所:B−3・日本家屋】
【持ち物:ニューナンブM60(5発装填)&予備弾丸2セット(10発)・支給品一式】
【状態:気絶中】

(関連・208・340)(B−4ルート)
147類は友を呼ぶ:2006/11/18(土) 01:10:11 ID:byb4zpuP0
宮本浩くん 死亡
人見広介くん 死亡

「ぐおー! 私はムティカパやー!」
「うわあ……今度は牙が生えた……」
ヘタレトレーナーの藤井冬弥くん、相変わらず苦戦中だった。
全くダメージを与えられないままヘタレたちが死んでゆく。
「だからヘタレなんて役に立たないってば。逃げる気ないならもう銃使っちゃいましょ」
「だめだ。それでは経験値が入らない」
「はあ……」
七瀬留美は盛大にため息をついた。ちなみに、
ムティカパ感染者たちに硬い体毛が生えるのはもう少し病気が進行してからなので今なら攻撃は効く。

「このままだと全滅するわね。
……よく考えるとなんであたしはこの光景を律儀に見守ってるんだろう」
もうほっといて逃げようかと留美が思い始めたとき、
彼女は対峙中の獣っ娘の真上の空間が蜃気楼のように揺らめいているのに気付いた。
「今度はなんなのよ……」

 キラーンと強い光を放ち、一人の人影が浮かび上がる。
どうも本人はかっこいいと思ってるらしいポーズをとって、その人物は自らの主張を叫ぶ。
「ヘタレの集いにこのオレ様を呼ばないとはどういう了見だ!
板違いキャラの前に入れるべき人材がいるだろうがっ!
主人公じゃない!? ヘタレの方向性が違う!? 知るか!」
空間の揺らめきが収まると、そこには額にわら納豆みたいなものを括り付けた男が浮かんでいた。
留美はああまた変なのが現れたよと頭を抱えた。
148類は友を呼ぶ:2006/11/18(土) 01:11:07 ID:byb4zpuP0
「誰よあんた……」
「オレ様を知らないだあ!?
まあいい、今日は気分がいいから特別に名乗ってやろう!
オレ様は皇!―――の弟!―――の息子、ヌワンギ様だ!
オレ様に逆らうのは皇に逆らうのと同じこと、よくおぼえとけ!」
「要するに、虎の威をかる狐というやつね」
「なんだと!」
「というか、そんな異世界の権力なんて振りかざされても……」
「お前はその発言を後悔することに――っうお!」
ヌワンギと名乗ったその男は、器用にも空中でずっこけた。
そしてそのまま下にいる智子に激突する。

「いてぇーー!!」
「ウォ……」
打ち所が悪かったらしく、智子は気絶してしまった。
「で、あんたは何をしに来たのよ」
「あ? そこにいるヘタレに引き寄せられたんだよ」
「チャンスだ! いけ、ヘタレボール!」

 冬弥は気絶して倒れている智子に向けてボールを投げる。しかし……
「あ、手元が狂った……」
冬弥の投げたボールはやや高すぎ、標的の上にいるヌワンギにぶつかる。
そしてヌワンギは赤い光とともにボールに吸い込まれていく。
「おい! せっかく異世界から駆けつけたのにボールに閉じ込めてんじゃ……」
149類は友を呼ぶ:2006/11/18(土) 01:12:02 ID:byb4zpuP0
ピコ、ピコ、ピコ……ピン!

「……ヌワンギ、ゲットだぜ!」
「ゲットしたいのはこっちだったんじゃ……」
「……仲間は多いほうがいいんじゃないかな」
その後智子に改めてボールが投げられ、彼女は冬弥の持ち物となった。

「そのボール、ヘタレとか主人公とか関係なく入ってる気がするんだけど」
「細かいことは気にしちゃ駄目だ」
まだまだ突っ込みたいことが山ほどある気がしたが、
留美は乙女の意地にかけてスルーしておくことにした。
150類は友を呼ぶ:2006/11/18(土) 01:13:07 ID:byb4zpuP0
 【時間:午後9時ごろ】
 【場所:C−06】

 七瀬留美
 【所持品:P−90(残弾50)、支給品一式(食料少し消費)】
 【状態:やっぱり呆れている】

 藤井冬弥
 【持ち物:H&K PSG−1(残り4発。6倍スコープ付き)、
     支給品一式(水1本損失、食料少し消費)、沢山のヘタレボール、
     鳴海孝之さん 伊藤誠さん 衛宮士郎くん 黒崎崇くん(死) 宮本浩くん(死) 白銀武くん
     鳩羽一樹くん 柊空也さん(死) 朝霧達哉くん 人見広介くん(死) 来栖秋人くん 鍋島志朗くん
     ヌワンギくん 保科智子さん】
 【状態:俺=ヘタレトレーナー】

 保科智子
 【所持品:支給品一式(水、食料少し消費)、専用バズーカ砲&捕縛用ネット弾×3、ムティカパの塩漬け×2】
 【状態:ムティカパ症候群L3、気絶】

 ヌワンギ
 【状態:ヘタレ】

→399, ルートD
151Heart by Heart:2006/11/18(土) 01:48:06 ID:j8HXxbf70

「その生白い首筋……困ったような表情……」

神岸あかりの低い声が、呪詛のように響き渡る。
血塗りの金属バットを提げたその姿は、まさに悪鬼。

(真剣怖ぇ……)

高槻は内心で震え上がるが、腕の中で身じろぎする七瀬彰の、悩ましげに寄せられた
綺麗な形の眉を舐め回すように見て勇気を奮い立たせる。

「やい小娘、言っておくがな、こいつに目をつけたのは俺が先だ!
 肉棒一本触れさせやうぉわっ!?」

無造作にフルスイングされたバットを慌ててかわす高槻。
しまったのけぞらないでうつ伏せになっていればドサクサで唇くらいは奪えたのに、
などという高槻の内心を無視して、あかりは訥々と言葉を紡ぐ。

「ついてないよそんなの。そういう下ネタ大っ嫌い。
 ……大体、なんでそうやって媚売るみたいに倒れてるの、その子」
「い、いや……どうやらこいつ、熱があるみたいで……」
「……ふぅん」

頷いたその表情には、温度というものが感じられなかった。

「やっぱりね……」
「な、何がでしょうか……?」

思わず敬語になる高槻。

「やっぱり……キャラ被ってるんだよっ! 雅史ちゃんとっ!」
「ってんなこと俺が知るかぁっ! うおっ、って、危ねえっ!?」
152Heart by Heart:2006/11/18(土) 01:49:22 ID:j8HXxbf70
必殺の勢いをもって振り回されるバットを、彰を抱えたまま器用に避ける高槻。
その腕の中で肌を紅潮させた彰がか細いうめき声を上げる。

「その上、何!? 熱出して誘い受!? 私のキャラまでパクろうとしてるって……、
 そんなの生かして、おける、かぁっ!」
「ん……ぅん……はぁ……っ」
「そうやって! 苦しそうにしてたら! 王子様が迎えに来てくれるとでも!?」
「うわ、ひっ、おま、煽るなよ、こんな時にっ!?」
「でも残念だったね! せっかく来てくれた王子様は、勃たないんだよ!」
「なん、だ、そりゃ、っと、うぉ!?」
「そういう風に、世の中できてるんだああっ!!」

絶叫とともに振るわれたバットが、高槻の鼻先を掠めて近くの木に叩きつけられる。
荒い息をつきながら、めりこんだバットを引き抜くあかり。

「―――お困りのようですねっ」

素っ頓狂な声が響いたのは、そんな瞬間である。
視線だけで人を殺せそうな顔で、あかりが振り向く。
そこに立っていたのは、誰のセンスだか(中略)ピンク色のステッキだった。

「ち、ちょうど良かった、困ってるぞ、俺を助けろ!」

そんなものに助けを求める辺り、高槻も相当テンパっている。

「はいはい、勿論ですよっ。佐祐理はそのために来たんですから〜」
「……邪魔しないでっ!」

高槻と彰に対するような殺気は篭っていなかったが、しかし充分な重さの乗った速度で
バットを振るうあかり。しかし、その軌跡が佐祐理と名乗った少女を捉える事はない。
笑顔を浮かべながら、ひらりひらりと打撃をかわしていく。
横殴りの一撃をひょい、と潜り抜けて、佐祐理は高槻に話しかける。
153Heart by Heart:2006/11/18(土) 01:51:01 ID:j8HXxbf70
「あなた、いつかどこかで変身したいって願いましたよねっ」
「何だそりゃ……? 俺様がいつそんなことを、」
「いいえ、佐祐理の耳は困っている人の願いを聞き逃したりはしませんっ」

要領を得ない佐祐理の言葉に、怪訝な表情を浮かべる高槻。

「変身だとぉ……? いくら俺様がカッコ良くてエレガントだからといってだな、」
「いつかどこかできっとそう願ったはずですからっ」

全然聞いてない。

「これもラッキーのおすそ分けです、えいっ☆」

気合一閃。
きらきらとステッキから溢れ出した光に、夜の森が照らされる。

「これからもセーラー服美青年ヒーローとして頑張ってくださいねっ」
「頑張るかぁぁっ!」

光が収まる。
高槻がツッコんだ時には、もう佐祐理と名乗る少女の姿はなかった。
代わりにそこにいたのは、フリルのあしらわれたピンク色のセーラー服をまとい、全身から
夜目にも鮮やかなオーラを立ち上らせた姿。
そのしなやかな手には、禍々しいトゲが幾つもついたバット。
もはや金棒と呼ぶ方が相応しい凶器を提げたその少女は、

「―――スーパーあかりん、だよ―――!」

と、口にした。
154Heart by Heart:2006/11/18(土) 01:53:04 ID:j8HXxbf70
「……んなぁっ!? なんで俺様じゃなくてこいつが変身してんだよ!?」

開いた口が塞がらない高槻。
爛々と目を光らせた少女が、対象を殺傷する以外の用途では使われそうにないその凶器を、軽々と振り上げ、下ろした。
慌てて後ずさり、すんでのところでその一撃をかわすことには成功した高槻だったが、轟音とともに金棒が
叩きつけられた場所は、小さなクレーターと化していた。

「俺は参ったぁっ!!」

これから始まる虐殺タイムを想像することを拒絶し、頭のワカメを養殖する産業で一山当てる白昼夢に
浸ろうとしていた高槻の耳朶を打ったのは、しかし予想外の声だった。

「―――待ちなさい!」

ざ、と。
高槻と彰を庇うように立ちはだかっていたのは、小さな影。

「お、お前は……!?」
「……また会ったわね」
「昼間のクソガキか……!」

肩越しにちらりと高槻を見ると、観月マナは凛とした声を張り上げる。

「せっかくの陵辱シーンを邪魔するなんて―――!」
「はぁ!?」
「……許さない!」
「お前、何言って……」
「それ以外にそのシチュエーションがどう見えるってのよ!?」

この女、脳が腐ってんのか。
そんな高槻の素直な思考を遮るように、対峙するあかりがくつくつと笑い出す。
155Heart by Heart:2006/11/18(土) 01:54:09 ID:j8HXxbf70
「なぁんだ、何かと思えば……その図鑑」
「……! これが何かわかるってことは、あなた……!」
「BLの使徒相手なら、手加減は要らないよねえ……」
「やっぱり茜って人の仲間……!」
「茜ちゃん……? 仲間、ねえ……まあ、そう言えなくもないかな」
「なあ、お前ら何の話してんの……?」

置いてきぼりの高槻を無視して、BLとGLの戦端が開かれようとしていた!


 【時間:2日目午前0時ごろ】
 【場所:E−5】
神岸あかり
 【所持品:血塗りの金棒、支給品一式】
 【状態:スーパーあかりん】
高槻
 【所持品:支給品一式】
 【状態:(´・ω・`)】
七瀬彰
 【所持品:アイスピック、自身と佳乃の支給品の入ったデイバック】
 【状況:艶めかしく悶え中】
観月マナ
 【所持品:BL図鑑・ワルサー P38・支給品一式】
 【状態:腐女子Lv2】
倉田佐祐理
 【持ち物:マジカルステッキ】
 【状況:不幸を呼ぶ魔法少女】
→166 343 375 426 ルートD-2
156使命開始(1/3):2006/11/18(土) 12:44:10 ID:/QWj15u/0
放送が流れた後、北川潤の表情は一気に険しくなっていた。
彼の変容に、広瀬真紀も遠野美凪も戸惑うばかりで。
・・・場の空気は重い、それを打ち破ったのは潤自身であった。

「ごめん。俺、行かなくちゃ」
「え、ど、どうして?!」
「・・・知り合いが、死んでた」

その一言が、全てを物語る。

「も、もしかして・・・敵討ちとか、考えてんじゃないでしょうね」
「・・・」
「き、北川!答えなさいよっ」

真希の詰問、潤は・・・苦笑いを浮かべながら、やんわりと首を横に振った。

「大丈夫、そういうんじゃない。・・・ただ、あの子が死んだことで変わっちまいそうな奴が、いてさ」
「お友達?」
「そうだ、親友だ。・・・あいつが復讐なんて道に走っちまったら目も当てられない、だから俺は行く」

心配そうに見守る真希と美凪の視線を背中に受けながら、潤は自分の荷物を手にし家の出口まで向かって行った。

「北川ぁ・・・」
「じゃあな。広瀬、遠野・・・短い間だったけどさ、あんがとな」
「わ、私もっ」
「いや、巻き込みたくない。これは俺とアイツのことだ。・・・ごめんな」
「・・・また、会えます?」
「おうよ!きちんとケジメつけて帰ってくるぜ」

しっかりとした足取りで別れを告げる潤を、二人は見送ることしかできなかった・・・。
157使命開始(2/3):2006/11/18(土) 12:44:52 ID:/QWj15u/0



明るく親しみやすい顔は、一歩外に出れば冷たいポーカーフェイスに戻る。
しっかりとした足取りは変わらないが、潤は冷静に島の地図を取り出し現在位置を確認した。
第一回の放送、それが行動を開始する合図であった。

「ふう・・・もうアイツの、動き出した頃かな」

直接会ったこと、関わった事があると言われたら分からない。覚えていない。
そんな彼のことを考えながらも、潤はこれからの指針について考えていた。

島にはゲームを円滑に進めるために、主催側から盛り込まれた人間がいる。
一人は、数減らしのために殺戮を担当する者。
そしてもう一人。『姫君』が退屈しないよう、ゲームを盛り上げるために配置される者。

ある時は参加者に様々な知識を与え、今までとは違う行動や展開に話を持っていこうとすること。
またある時は大人数のグループに紛れ込み、仲間内での疑心暗鬼を作り出すこと。
それが、彼、北川潤の使命であった。

「正直、何で俺がって感じもするんだけどな〜・・・」

・・・いくども繰り返された世界で、彼がこのような行動を取らなくてはいけなくなったのはつい最近のことだった。
何故か、と言われたら分からないとしか言いようがない。

ただ、そのような行動を取る様になる理由は、確かに存在していた・・・と、思う。

また覚えていることは断片的だが、全ての記憶がなくなってしまった訳でもない。
その欠片の中には、自の命を顧みず自分を庇ってくれた・・・真希の姿が、あった。
158使命開始(2/3):2006/11/18(土) 12:45:32 ID:/QWj15u/0
「・・・あの二人が何か首輪のことに、気づいてくれりゃあいいんだけどな」

今回は、あの時とは違う。多分。
この後また二人に会えるかどうか、それは分からないけれど。
彼女達には何かをやり遂げて欲しい、そんな思いも胸に秘めながら潤は新しいターゲットを探しに行くのだった。





北川潤
【時間:1日目午後6時過ぎ】
【場所:B−5】
【持ち物:SPAS12ショットガン(8/8+予備4)防弾性割烹着&頭巾 九八式円匙(スコップ)水・食料、支給品一式、携帯電話、お米券×2 】
【状況:新しいターゲットを探す】

広瀬真希
【時間:1日目午後6時過ぎ】
【場所:日本家屋(周りは砂利だらけ)】【B-5】
【持ち物:消防斧、防弾性割烹着&頭巾、スリッパ、水・食料、支給品一式、携帯電話、お米券×2 和の食材セット4/10】
【状況:北川を見送る】

遠野美凪
【時間:1日目午後6時過ぎ】
【場所:日本家屋(周りは砂利だらけ)】【B-5】
【持ち物:消防署の包丁、防弾性割烹着&頭巾 水・食料、支給品一式、特性バターロール×3 お米券数十枚 玉ねぎハンバーグ】
【状況:北川を見送る】

(関連・219)(B−4ルート)
159大事な人:2006/11/18(土) 18:50:20 ID:7tc5tk4T0
「そうか……。その浩平ってのは、随分と変わったヤツなんだな」
「ええ、もう毎朝毎朝大変ですよ。この前なんてクローゼットの中で寝てましたし……」
そう言って長森が溜息をつく。
芳野と長森は安全に夜を過ごせる場所を探し、人が多そうな街道や村は避け、山の中に身を隠していた。
最初は二人とも口数が少なかったが、長森の幼馴染――――折原浩平の話題になった途端、長森は積極的に話していた。

「起きた後も酷いんですよ。トイレに行ったと思ったら窓から抜け出して私を置いて登校したりするし……。
登校中も知り合いの女の子に肘打ちしたりするし、もうムチャクチャなんですっ」
長森は何度も溜息をつきながら話し続けている。だが、その声は明るかった。
「何でお前はそんな奴を毎朝起こしに行ってやるんだ?」
芳野が疑問をぶつける。それは当然の疑問だった。長森の話だけ聞いていれば、浩平がただの子供にしか見えない。

「浩平は私がいないと駄目ですから…子供っぽくて、我侭で……。心配で、放っておけませんよっ」
そう言って長森がまた溜息をつく。
その様子を見ていた芳野は堪えきれなくなり、笑い出していた。
「な、何で笑うんですかっ」
「いや……すまない。おかしくてつい、な」
「え?」
「そいつの事、好きなんだろ?お前の言葉一つ一つから愛を感じるぞ」
それは、普通の人間なら恥ずかしくてとても言えないような言い回しだった。
その言葉を聞いて、長森が顔はどんどん真っ赤になっていく。
そして、長森は躊躇いながらも頷いていた。

芳野はその様子をみて微笑んで、それから言った。
「なあ長森、お前はそいつに会いたいか?」
その言葉に長森はすぐに頷いた。強く、頷いていた。
「はい。また浩平に会いたい……私、浩平と一緒にいたい」
それは、確かな決意の言葉。少女に出来る、精一杯の決意を籠めた言葉。
だから芳野も、次の言葉を告げる事に迷いは無かった。
「分かった。なら、明日はそいつを探そう」
「良いんですか?」
「ああ。もっとも、そいつが何処にいるかは分からないけどな」
160大事な人:2006/11/18(土) 18:51:44 ID:7tc5tk4T0
その言葉に長森が俯く。
この広い島の中で、この殺し合いの中で、無事に再会する。それはとても難しい事だった。
長森の表情も芳野の表情も暗くなる。
しばらくの間、沈黙が続いた。


「………会えるさ」
ぼそり、と芳野が呟く。
「きっと、会える。ただの勘に過ぎないが、俺はそんな気がしてならない」
長森は目を丸くしていた。芳野が勘で物事を話すタイプには見えなかった。
多分これは彼なりの気遣いで、自分を勇気付けようとしてくれるのだろう。

「……そうですよね。きっと、会えますよね。ありがとうございますっ」
だから長森は、表情を緩め、笑顔でそう答えていた。
その言葉に、芳野も表情を緩め、微笑んでいた。


ふと、芳野は夜空を見上げた。夜空には星がたくさん出ており、とても綺麗だった。
こんなにゆっくりしてられるのは多分今晩だけだろう。
明日になればいつ戦闘になるか、いつ命を落とすか分からない。
だから芳野は、今この時にだけ許される事をする事にした。
(公子―――――俺は上手くやれているか?公子に教えてもらった事、しっかり守れているか?)
芳野は星空を見ながら、もうこの世にはいない愛する人に問いかけた。だが、答えは返ってくるはずもない。
もう二度と見る事が出来ない愛する人の姿を思い浮かべ―――――芳野は心の中で泣いた。
161大事な人:2006/11/18(土) 18:52:56 ID:7tc5tk4T0
芳野祐介
【時間:23時半頃】
【場所:F-07】
【持ち物:Desart Eagle 50AE(銃弾数4/7)・サバイバルナイフ・支給品一式】
【状態:疲労、朝まで休んでから折原浩平を探す】

長森瑞佳
【時間:23時半頃】
【場所:F-07】
【持ち物:防弾チョッキ(某ファミレス仕様)×3・支給品一式】
【状態:疲労、朝まで休んでから折原浩平を探す、】

(関連・253)(B-11ルート)
162戦闘潮流:2006/11/18(土) 23:33:14 ID:6INCWCBU0
拝啓お袋様。
あなた様にお手紙を出すのは何年振りでしょうか。今思い出せば「あんたはやれば出来る子よ」と目の前で5円玉を日がな一日揺らされ続けた日々も懐かしく感じられます。
さてこの度お手紙を出しましたのは、わたくしの人生というものにいささかの不安を感じ始めてきたからでございます。
ハードボイルドなナイスガイ(横文字を使う不忠義、お許し下さい)、それに憧れ今日まで努力の限りを尽くしてまいりましたがいかんせん天はわたくしに味方せず、あろうことかわたくしから主役の座を奪ってしまわれたのでございます。
今ではそこにおはしますお犬様にお仕え申し上げている日々にございますが徳川綱吉のお犬様政策も長くは続かなかったようにいつか天下を取り戻す日を夢見て邁進を続けたく思います。
では。

…さて、(脳内)手紙も出し終えたことだし、本業に戻るとするか。ったく、何で俺様ってこうツイてないんだろうな。郁乃とフラグが立ちかけたところまでは良かったのよ。しかしそこからまるで世界恐慌のごとくツキも落ちていって…
金田一を名乗ったはいいものの良く考えてみりゃ金田一高槻ってダセェ名前じゃありませんか。しかも今向かってる方向って学校だろ? 何か知らんがだんだん人のいる方向へ方向へ行ってる気がするのよ。
当初の指針は人目を避けて行動しつつ美女を助け主催者をギャフンと言わせる予定だったのに…まったく、いつから俺様は社会派の人間になっちまったんだ? 反吐が出るぜ、まったくよ。
「…ねぇ、何か聞こえない?」
沢渡が耳を澄ましながら尋ねる。…そういや、パーンって音が聞こえたような気が。
「ええ、一体何の音でしょう?」
まったく、勘の冴えない奴らだ。クラッカーに決まってるだろうが。…しかし、この島でクラッカー鳴らすなんてどんな神経してるんだろうな。誕生日だったりするのか?
「ぴこっ!」
先頭のポテト大統領が顔を上げる。眼前には不気味にそびえたつ学校があった。
「ここにいるみたいですね…どこから探しますか?」
久寿川が一旦止まって話しかける。
163戦闘潮流:2006/11/18(土) 23:34:04 ID:6INCWCBU0
「えーっと…しらみつぶしに探していけばいいんじゃない?」
沢渡がアホなことを言い出す。俺様は「やれやれだぜ」とため息をついて言ってやった。
「バカ。考えなしもいいところだぜ」
「バカって何よぅーっ!」
沢渡がいきり立つが構わずに続ける。
「いいか、これは大事な物の考え方だ。『もし自分が犯人なら』と相手の立場に身を置く思考!」
「あんな人殺しの立場になんか身を置きたくなんかないわよぅ!」
「いいから聞けッ! 俺様が奴ならッ! まず自分の匂いを落とす、すなわちシャワーのある更衣室まで行くッ!」
どうだ、完璧な推理だろ? …ってオイ。なんかお前らドン引きしてないか?
「こ、更衣室って…このチカン! アンタ着替えを覗きたいだけでしょー!」
「ハァ? 何を言って…」
「…ヘンな人だとは思ってましたが、まさかロリコンで変態だったなんて…」
「だぁぁぁっ! どうしてその発想に行きつくんだよ! てめーらはよう! 意見としては違っちゃいねーだろうが!」
俺様の必死の弁明でようやく久寿川がああなるほど、と納得したようだった。沢渡はまだ警戒しているが。
「ったくよ…変な先入観を持ちすぎなんだよ。俺様だってそれくらいのマナーを心得ちゃあいるさ」
FARGOでは散々悪事を働いてきたけどな。ともあれ、これで方針は決まった。まずは更衣室を目指す。一番近い場所は…プールの更衣室だな。



「ちいっ…誤算だったな!」
岸田は窓から外へと脱出していた。二階の高さではあったがどうということもない。
「くく、だが武器は手に入った。銃なら上出来か…銃はあるだけで牽制になるからな」
とはいえ常に持ったままでは警戒される。コレを使うのはイザという時だけだ。自分には話術で人を騙す才能という武器がある。これでまた女を腹ごなしに…
にやけながら銃を仕舞った時、視界の隅にまたもや歩いて行く一団を発見した。
(男…はどうでもいいが、女が二人か…遠目だったからよく見えなかったが一人はいい体だったな…)
164戦闘潮流:2006/11/18(土) 23:34:45 ID:6INCWCBU0
腕の傷はどうということはない。仮に気付かれたとしても木の枝がかすったとか言えばいい。どうもここの参加者とやらはお人好しが多いようだからな、くくく…
気付かれないように岸田は追跡することにした。



「さて、ここが犯人のハウスね」
沢渡がどこぞで聞いたような台詞を発する。参加者の大半は女ということでまずは女子更衣室を調べることになった。
俺様? 男子禁制ってことで入れないとさ。一応沢渡から武器は預かったので日本刀を手に持ち沢渡が民家から拝借したとか言う分厚い小説(清涼院流水とか書いてあった)を腹に仕込んで見張りすることにした。
小説を防弾チョッキにするとは流石俺様。
「ぴこー」
ついでにコイツも見張り役だ。やれやれ、犬を携えて突っ立ってるとは…西郷どんかっての。
はぁ、とため息をついた時物陰から何者かが現れた。そいつは手に釘打ち機とデイパックを持ってこちらに近づいてくる。
「…誰だ、てめぇは」
思わずドスの利いた声で応対する。
「すみません。驚かせてしまったのなら謝ります。いきなり現れたんじゃ仕方ないですよね」
ニコニコとした表情で話す。…何だ、こいつは。何故笑っていやがる。
ふとポテトを見ると、珍しく警戒したように毛を逆立てていた。…ちっ、気が合うじゃねぇか。
こいつからはイヤな匂いがしやがる。
「何をしに来た?」
「いえ…人を探しているんです」
「どういう意味だ」
すると、奴は目を細めてあたかも真剣そうな口調で言った。
165戦闘潮流:2006/11/18(土) 23:35:22 ID:6INCWCBU0
「人を…この殺し合いを壊せる人を探しているんですよ。こんな馬鹿げたこと、吐き気がしますからね。それでさっき偶然あなたたちの後姿を見かけたので失礼とは思ったのですがつい」
吐き気がするのはこっちだ。たとえ集団で行動していようがゲームに乗ってる奴は乗ってる。それをこんなに気安く話しかけてくるとは。
奴はなおこちらに近づいてくる。そして、片手はポケットに突っ込まれて。
「ですから、僕と一緒に」
「待ちな」
近づこうとするのを刀で制する。
「…何をなさるんです?」
奴の目が少し鋭さを帯びたような気がした。けっ、面倒だな…まったく、また柄にも無いことをやるのか、俺様はよ。ま、自衛のためだ、自衛の。
「白々しい嘘はやめるんだな。分かるんだよ、俺様にはな」
「…何を根拠に?」
「自分で言うのも何だがよ…俺様は根っからの悪党でな。色々な『悪』を見てきたもんよ。だから悪い人間とアホで能天気な良い人間の区別は『におい』で分かんだよ」
ポテトに目で合図する。こいつとのコンビネーションはもはやそんじょそこらのもんじゃあねえ。
「てめェはくせぇーッ! ゲロ以下の匂いがプンプンするぜーーーッ! 根っからの『悪』の匂いがなァーーーッ! 殺し合いを壊す? ちがうねッ! てめぇは生まれついての悪だッ!」
側にあった小石を蹴り飛ばす。それは奴の顔面の横をすり抜けていった。
「ふん…そこまで分かってるのなら仕方ないな…元々お前はカス以下の存在だ。気付かないうちに殺してやろうと思ったが…なら遠慮はいらんな。死ねッ!」
奴が釘打ち機をこちらに向ける。けっ、それくらいのこと俺様には予測済みよ。あえて受けてやる。
素早く向けられた釘打ち機から五寸釘が打ち出される。やはり奴は腹を狙ってきやがったッ!
避けられないフリをして腹で五寸釘の雨を受ける。
「がっ…」
わざとらしく声を張り上げて地面に倒れ伏す。もちろん刀は手放さない。
「口ほどにもないな、カスが…」
奴がそう言った時、突如更衣室の扉が開く。…真剣やべっ! あいつら素で忘れてた!
「どうしたんですか! 高槻さ…えっ? あ、あなたは…?」
騒ぎに気付いた沢渡と久寿川が目の前の野郎を見て呆然とする。
「これはこれは…実に可愛らしいお嬢さん方だ。特に、そちらのお嬢さんは」
奴が久寿川を舐めるように見まわす。
166戦闘潮流:2006/11/18(土) 23:36:14 ID:6INCWCBU0
「な、何なのよっ、アンタはっ!」
「僕ですか? 僕は…パーティを楽しみに来たんですよ。あなた達というご馳走を頂きにね」
何ていやらしい目つき。俺様以下じゃねえか。
「ちょ、ちょっと! アンタ、しっかりしなさいよ! 死んじゃったの!?」
「ははは、このカスならもう死にましたよ。んんー、どうやらあなた方に大した武器は無さそうですねぇ。さて、どちらから犯してあげましょうか?」
犯す、という言葉に久寿川と沢渡が絶句する。四肢が震え、動けないようだった。
「く、来るなら来なさいよっ! た、ただじゃ済まさないんだから!」
沢渡が虚勢を張る。あーもう、逆効果なんだってばよ。こういうクレイジーな奴にはな。
「くくっ、威勢がいいですね。何なら、先にあなたから頂きましょうか?」
野郎が俺様を跨いで行く。…ちっ、予定変更だ。ここから仕掛ける!
野郎が両足を跨ぎ終えた瞬間、俺様は素早く起き上がり奴の後頭部を殴りつけるッ!
「がっ!?」
俺様が、まさか生きてるかと思っていなかった野郎は頭を抑え膝をつく。
「き、貴様…? どうして生きているッ!?」
野郎が憎々しげな目で見たのを、俺様はふふんと笑って言ってやったさ。
「ハードボイルドってヤツはよ…殺しても死なないもんだ。特に、てめーのようなドス黒い『悪』相手にはな」
まぁ実際は釘を小説で防いだだけなんだけどな。銃だったらこうはいかなかったがな。
「高槻さん!?」
ようやく目の前の状況を理解したらしい久寿川が叫ぶ。加勢は欲しいが、武器もないんじゃ役立たずだ。
「ドア閉めて引っ込んでろ! コイツは俺様が何とかする」
「わ…分かりました!」
何も考えず加勢に入ろうとする沢渡を引っ張って更衣室の中に閉じこもる。分かってるじゃねぇか。
167名無しさんだよもん:2006/11/18(土) 23:41:29 ID:PGZZXtvw0
二大悪党w
回避要るかな
168名無しさんだよもん:2006/11/18(土) 23:41:45 ID:j8HXxbf70
回避
169戦闘潮流:2006/11/18(土) 23:42:06 ID:6INCWCBU0
「ささら! どうして助けに行かないのっ! このままじゃ…」
「分かっています…ですけど、私達は有用な武器を持っていませんから敵に盾にされたり利用されるだけです。信じて、私達は待ちましょう」
「あぅーっ…」
「さて、続きといこうじゃないか? 武器を持ちな。どっちが早いか、ってヤツだ」
西部劇のガンマン風に告げてやる。野郎はまだ膝をついている。たとえ釘打ち機を構えたとしてもこっちのほうが100%早いってもんだ。小説でガードもできるしな。
「ふん…いい気になるなよ、カスがっ!」
野郎が構えたのは釘打ち機ではなく、隠し持っていた拳銃だった。…うわっ! 真剣マジやべっ!
撃たれる前に刀を振ろうとするが、奴の一撃の方が明らかに早かった。
「なんてな」
俺様は自信タップリと笑った。言ったろ? 俺様にはコンビネーションはそんじょそこらのもんじゃあねえ、って奴がいるんだよ。
「ぴこーーーーっ!」
なっ、と奴が狼狽える。そう。野郎の横から突進してきたのはポテトだ。ポテトはすれ違いざまに拳銃をくわえて奪い取る。そして直後! 俺様の華麗な刀が奴の腕を切り裂くッ!
「ぐっ! ぐぉぉぉぉぉっ!!!」
薄汚い『悪』らしい醜悪な声で叫ぶ。ざまぁ見ろ。俺様のファン(久寿川)に手を出すからだ。
「おらっ! コイツはオマケよォーーッ! 持ってきなッ!」
腹の小説をぶん投げて追撃をくれてやる。顎に直撃を受けて倒れ、土をつける野郎。
「がはっ…こ、この岸田が、この岸田洋一がこんなカスにッ…殺られてたまるカァーーーッ!」
どこにそんな力があったのか、まだ持っていた釘打ち機を乱射してくる。そこは俺様、そんなひょろひょろ釘に当たりゃしねぇけどよ。だが問題の岸田とかいう野郎は荷物をいくつか落としながらも釘を打ちつつ逃走する。
流石に釘を打たれながらじゃ俺様も戦えない。やむなく岸田は見逃すことにした。まあいい、とにかくこっちは勝ったんだ。銃も手に入ったしよ、くっくっくっ…
170戦闘潮流:2006/11/18(土) 23:42:53 ID:6INCWCBU0
帰ってきた高槻
【所持品:食料以外の支給品一式、日本刀、ポテトwithコルトガバメント(装弾数:6/7)】
【状況:気分は最高にハイ】
久寿川ささら
【所持品:スイッチ(未だ詳細不明)、ほか支給品一式】
【状態:健康、更衣室に隠れてる】
沢渡真琴
【所持品:、スコップ、食料など家から持ってきたさまざまな品々、ほか支給品一式】
【状態:健康、更衣室に隠れてる】
岸田洋一
【持ち物:鋸、カッターナイフ、電動釘打ち機0/12、五寸釘(17本)、支給品一式】
【状態:左腕軽傷、右腕に深い切り傷、マーダー(やる気満々)、逃亡】

【その他:分厚い小説、ガバメントの予備弾(13発)、トンカチ、カッターナイフ一本は地面にばら撒かれている】
【時間:2日目01:50頃】
【場所:D-06】
【備考:B−10、11ルート】
171戦闘潮流:2006/11/18(土) 23:47:40 ID:6INCWCBU0
おっと、礼を言うのを忘れてた。
>>167>>168、回避サンクスと言わせて頂こうッ!
172Artificial Precious:2006/11/19(日) 00:28:21 ID:hCLK2LtU0

ごぐり。
波音だけが支配する闇の中に、異質な音が響いた。
縦王子鶴彦の頚骨が延髄ごと粉砕される音である。

「無念……でござるよ……」

どさりと崩れ落ちたその側には、横蔵院蔕麿の死体も転がっていた。

(―――おかしい)

手応えが、なさすぎる。
強化処理どころか、最低限度の訓練すら受けていなかったであろう二つの死体を見下ろして、
リサ=ヴィクセンは内心で首を捻る。
先ほどの声によれば、この船に残った警護はあと四名。
首輪による制約があるとはいえ、このあまりにも容易な脱出手段を護るには、その質、量共に
穴がありすぎると言わざるを得なかった。
考えられるとすれば、

(罠、か)

そうと知りつつ、リサには撤退するという思考はなかった。
篁が、醍醐が死に、そしてまた栞を喪った今、リサには果たすべき目的も、守るべきものもない。
ならば、このような愚かしいゲームを企てた人物に、地獄の雌狐を参加させたことを心底から
後悔させてやるというのが、リサが己に課したミッションである。
宗一亡き今、この困難な任務をこなせるのは自分しかいないという自負もあった。

そんな思考を走らせつつ、甲板に林立する人形らしきものを遮蔽物として陰から陰へと移動するリサ。
目指すは操舵室のあるブリッジである。
しかし、音もなく扉に忍び寄ったリサが、ノブに手をかけた瞬間。
173Artificial Precious:2006/11/19(日) 00:29:19 ID:hCLK2LtU0
「……!?」

その姿を、無数のサーチライトが一斉に照らし出していた。
突然の圧倒的な光量に、リサの目が眩む。
翳した指の隙間から、一つの影が眼前に立っているのが見えた。
暗緑色のボディスーツに身を包んだ、銀髪の東洋人女性。

「ようこそ、地獄の雌狐。……意外と時間がかかったな」
「……私のことはよくご存知のようね。良ければ、貴女の名前も聞かせてもらえるかしら?」
「国軍、水戰試挑躰―――岩切花枝」
「Ha、噂には聞いたことがあるわ……」
「ほぅ、流石は一流のエージェント、と言うべきかな」
「センメイジュ、とかいうオカルトで寿命を延ばすとかいう、時代遅れの実験体さんでしょう……?」
「……言ってくれるなよ、それを」

リサの挑発をどう受け取ったか、岩切が苦笑する。

「上が我々のことをどう見ているか、そんなことは我々が一番よく分かっているつもりさ。
 お互い、宮仕えの身は辛いな?」
「……Hmm、本当によくご存知で」
「ま、あの気色の悪いゴミ虫どもを始末してくれたことには感謝している。
 ……あんなものでもゲスト扱いでな、手を出すわけにもいかず難儀していたところだ」
「気持ちはお察しするわ」
「おっと、黙って見ていたことは秘密にしておいてくれ。上に知られたら何を言われるか分からん」
「OK、宮仕えの狐にも、そのくらいの裁量はあるわ」
「礼を言う。……さて、戯言はここまでにしようか」
「……Yes」

言って、手にした剣を逆手に構える岩切。
一瞬にして、空気が変わっていた。
174Artificial Precious:2006/11/19(日) 00:30:20 ID:hCLK2LtU0
リサもまた、腰に提げたトンファーを己の眼前に引き寄せる。
この間合いでは懐の銃を抜き放つよりも、相手の剣筋が己を両断する方が早い、とリサは直感していた。
トンファーを構える隙を狙ってくるかとも思っていたが、それはあっさりと見逃された。
どうやら岩切花枝という女、戦いを楽しむタイプの相手らしい。

「時代遅れかどうか……その身で試してみるがいい、雌狐」
「OK……かかってきなさい、フランケンシュタインの怪物」

刹那、両者が走った。
交差の瞬間、鈍い音が響く。
逆袈裟に斬り上げられた岩切の剣筋を、リサが左手のトンファーで受け止めた音である。
空いた右のトンファーを回転させ、岩切の側頭部を狙うリサ。
だが岩切はそれを軽くのけぞるだけでかわしてみせる。
前髪を掠めるトンファーを物ともせず、岩切の右足が跳ね上げられる。
のけぞった勢いを利用した、真下から顔面を狙う蹴り。
死角から迫るその一撃に対して、リサはしかし、岩切の剣を受けている左手を押し込むようにする。
後傾気味に体重を乗せている岩切の剣はびくともしないが、反動でリサの身体が下がった。
リサの鼻先を、烈風の如き蹴りが駆け抜ける。
かわされた岩切が、ニヤリと笑う。瞬間、跳ね上げられた筈の右足が、まるで逆回しのように
振り下ろされた。一連の動作を囮とした、リサの脳天を襲う踵落とし。
下からの蹴りをかわしたリサの身体は泳いでいる。右の引き戻しは間に合わない。

(もらった……!)

だが転瞬、リサは岩切に対して笑い返してみせたのである。
岩切の右足が振り下ろされたその刹那、リサの姿は魔法の如く掻き消えていた。
完全に予測していなければできないタイミングでの、華麗なステップバック。
驚愕の表情を浮かべる岩切。全力で足を振り下ろした反動で、姿勢は前傾。
たたらを踏む岩切の間合いに、身を低くしてリサが踏み込む。
175Artificial Precious:2006/11/19(日) 00:31:12 ID:hCLK2LtU0
フック気味に叩き込まれる右を、岩切は左腕で受ける。
みちり、と嫌な音がするが、岩切はそれを無視。仙命樹の治癒力に任せた、強化兵ならではの戦い方である。
彼我の間合いを見た岩切は、右手の剣を振るうには一瞬遅いと判断。
アッパー気味の角度でリサの左が繰り出されるよりほんの少しだけ早く、右の前蹴りを
リサの胴に向かって叩き込む。
大したダメージにはならないが、リサの突進が寸刻、止まる。
刹那、開いた間合いを逃さず、岩切の剣筋一閃。狙いはリサの左胴。
だがリサは、岩切の前蹴りで止まった身体を強引に前へと押し出す。
密着することで剣の間合いを殺す算段。
一瞬のせめぎ合いは、リサに軍配が上がった。
片足で立つ岩切が体勢を崩したのである。
勢いを殺された剣筋の内側に、リサが踏み込んだ。剣の届かない間合い。
岩切はしかし、一刀をかわされた右腕をそのままリサの背へと回すようにしながら、
密着しつつある距離を更に潰すように上半身を前へと出す。
岩切の額に走る、衝撃と確かな手応え。
狙い違わず、その頭突きがリサの鼻を直撃していた。

「がっ……!」

のけぞるリサ。
開いた空間に走り込むように、岩切が右肩からリサに当たりに行く。
全体重を乗せたショルダータックルに、リサの身体が吹っ飛んだ。
甲板に立つ人形らしきものを何体か巻き込み、盛大な音を立てて倒れこむ。
見上げればその眼前に、岩切の剣がぴたりと突きつけられていた。

「―――終わりだな、雌狐」
「くっ……」
「仙命樹の試挑躰たるこの私を相手に、よくぞここまで戦ったと褒めてやろう」
「それは、どうも……」

切れ切れの呼吸の合間に言葉を返すリサ。
だがその声は、明らかに精彩を欠いていた。
176名無しさんだよもん:2006/11/19(日) 00:32:06 ID:gkqBAeJA0
kaihi
177Artificial Precious:2006/11/19(日) 00:32:32 ID:hCLK2LtU0
「強がるな。先程の手応え……肋骨が何本か、折れているだろう」
「Shit……地獄の雌狐も、腕が鈍ったのかしらね……」
「相手が悪かったのだ。案ずるな、今、楽にしてやる―――」

す、とほんの数寸、剣が引かれる。

(ここまで、か……)

リサが内心で十字を切り、静かに目を閉じる。

「―――」

だが、

(…………?)

リサの覚悟を嘲笑うかのように、その瞬間はいつまで経っても訪れない。
思わず目を開けるリサ。
その目に映ったのは、

「今、楽にしてやるからな……雌狐」

言いながら、目を閉じてそっとリサに顔を近づける、岩切の姿だった。

「!? ……Nmmm……!」

唇に触れる、柔らかい感触。
178Artificial Precious:2006/11/19(日) 00:33:35 ID:hCLK2LtU0
目を白黒させるリサだったが、そのひんやりとした感触の心地よさに、次第に身体の力が抜けていくのを感じる。
ぬめりとしたものが、ルージュの引かれたリサの唇を撫で回した。すぐさま口を開いて岩切の舌を受け入れるリサ。
口腔を蹂躙せんと蠢きまわる岩切の舌を、リサのたっぷりと唾液を含ませた舌が迎え撃つ。
粘膜同士が絡まりあい、互いの体液を交換する。
リサの鼻から、熱い吐息が漏れる。
その艶に興奮したものか、岩切の手がリサの胸へと伸ばされる。

「Nmm……」

折れた肋骨の上を、そっと撫で回すような岩切の愛撫。
傷の痛みと口腔の責めが相まって、リサの吐息が次第に切なさを帯びてくる。

「Ah……Ha……」

ねちゃねちゃと水音を響かせていた岩切の舌が離れた。
つぅ、と糸を引く唾液が、互いの唇を繋いでいる。
見つめあう瞳は、すっかり熱を帯び、霞がかかったようだった。

「……いいか、リサ……」

岩切の問いかけに、悪戯っぽく微笑んで口を開くリサ。

「No……今度は、こっちから……」
「ん……はぁ……」

リサの手が、ぴったりとしたボディスーツから覗く、岩切の白い太股に伸ばされる。
妖しい蠢きに、岩切が思わず声を漏らす。

二人の営みは、いつ果てるともなく続くのだった。

179Artificial Precious:2006/11/19(日) 00:34:26 ID:hCLK2LtU0


「―――マーシャ……マーシャ……!」
「花枝……Yes,Yes……I'm comin'……yeah……!」

二つの白い肌が、汗に塗れて絡み合っている。
互いの股間を激しく擦り合わせるようにして、二人は上り詰めていく。

「くぁ……ひ……あ、あああああっ―――!」
「Yeah……Comin'……Comin'……Ohhhhhh―――!」

ほぼ同時に、絶頂を迎えるリサと岩切。
脳髄を塗り潰すようなその感覚に、脱力して身体を重ね合う二人。
荒い吐息だけが、暗い甲板に響いていた。

「ん……マーシャ……」
「花枝……」

互いの唇をついばむような軽い口づけを交わし、愛の交歓の余韻を楽しむ。
だが、次の瞬間。

「―――がぁ……っ……!?」
「……ク……ァァ……ッ……」

快感の余韻は、想像を絶する激痛へと変化していた。
重ね合わされた、リサと岩切の身体。
そのむき出しの白い腹部を繋ぎ合わせるかのように、一振りの刀が突き立てられていた。
びくり、と痙攣するリサの鼓動が弱まっていくのを感じながら、岩切が目線を動かす。

「き……貴様、……!」

その目が捉えていたのは、一分の隙もなく軍服に身を固めた男だった。
180名無しさんだよもん:2006/11/19(日) 00:34:57 ID:gkqBAeJA0
回避
181Artificial Precious:2006/11/19(日) 00:35:09 ID:hCLK2LtU0
「……み、光岡ぁ……っ!」
「―――侵入者、それも異人と密通、とはな……」

岩切を見下ろす男の、厳しい声音。

「岩切、貴様には失望したぞ」

その視線には、嫌悪以外の感情は一片たりとも見出せない。
貫かれた岩切の腹部からは、とめどなく血が流れ出していく。
いかに仙命樹の治癒能力があるとはいえ、出血が続けばその効力も意味をなさない。
焦る岩切を見下ろしながら、光岡が歩みを進める。
甲板に響く足音は、すぐに止まった。続いて、小さな金属音。
光岡が、側に転がっていた岩切の剣を拾い上げたのである。

「……貴様……ぁっ!」

岩切の掠れた声にも眉筋一つ動かさず、光岡が剣を振り上げる。
どこまでも静かに、しかし紛れもない侮蔑と憤りの混じった声で、光岡が告げる。

「我が国への裏切り……死を以て償え」

一閃。
岩切花枝の首が、宙を舞った。

182Artificial Precious:2006/11/19(日) 00:35:46 ID:hCLK2LtU0

「ぱぎゅう……終わりましたの?」

突き立てた一刀を引き抜き、丁寧に血を拭っていた光岡にかけられる声があった。
振り向きもせずに答える光岡。

「……はい。しかし不審者を発見した際の報告は、もう少し迅速にお願いいたします」
「すばるたちはゲストですの。そういうのは強化兵さんのお仕事ですの」
「……」

少女の言い分に、光岡は無言を返す。
ただ静かに踵を返すと、船内へと戻っていくのだった。



「―――こんなものですか」

そんな船上の一部始終を、遥か彼方の岩壁の上から眺める人影があった。
人影は、ぼんやりと赤く光る図鑑を携えている。
GLの使徒、里村茜であった。

「強制的にカップリングを成立させる……それがこの図鑑の真の恐ろしさ。
 実験としては上出来、といったところですね」

冷徹に呟くと、茜は手にした図鑑に新たに刻まれた文字を見やる。

『岩切花枝(誰彼)×リサ=ヴィクセン(Routes)   ---   クラスB』

満足げに頷くと、図鑑を閉じる茜。
その口元には小さな笑みが浮かんでいた。

「―――ごちそうさまでした」
183Artificial Precious:2006/11/19(日) 00:36:28 ID:hCLK2LtU0
【時間:二日目午前3時頃】
【場所:G−9】

リサ=ヴィクセン
【状態:死亡】

岩切花枝
【状態:死亡】

光岡悟
【状態:異常なし】

御影すばる
【状態:異常なし】

縦王子鶴彦
横蔵院蔕麿
【状態:死亡】

里村茜
【持ち物:GL図鑑(B×2)、支給品一式】
【状態:石を投げれば変態に当たりますね】

→329 401 404 ルートD-2

>>176 >>180 ありがとう〜。
184連鎖する悲劇:2006/11/19(日) 00:41:24 ID:2zt9swUO0
「――俺が……俺がフラッシュメモリの事なんて言い出さなければ……」
祐一は目の前に広がる惨劇に力なく膝をついて呻いてた。
英二も呆然としたまま流れる涙を拭おうともせず、冷たくなった芽衣の死体を抱きしめている。
二人の姿と目の前の光景に真っ青な顔で震えながらも、倒れている環に駆け寄った観鈴が大声を上げた。
「環さん、生きています!」
祐一もハッと顔を上げると慌てて環の様子を窺うように駆け寄った。
頭から少量の血を流してはいるが、気絶しているだけのようで脈も呼吸もあった。
「大丈夫か! おい! しっかりしろ!!」
環の肩を掴み、狂ったように叫びながらがたがたと身体を揺らす。
「ゆ、祐一さん。そんなにしたらだめだよっ」
その行動を制するように観鈴が祐一の身体を抑える。
興奮しているのに気が付いたのか、祐一は動きを止め、罰の悪そうに顔をしかめた。
だが結果的にそれが幸をなしたのか、環の口から苦しそうな呻き声が漏れると共に、その瞳が開かれた。

視界がぼやける、頭がガンガンと響いて思考が回らない。
部屋に広がる生臭い血の匂いが環の鼻腔を刺激し、嘔吐感までも溢れてきた。
白く靄のかかった光景を振り払うように聞こえてくる声に目を擦りながら凝らすと
はっきりとしてくる視界には環に向かって必死に叫んでいる祐一と観鈴の姿が映った。
――……ん、どうしたんだろう私。
痛む頭を抑えようと手を当てると、ぬるっとした感触。
その奇妙な違和感に手を目の前に寄せ、それが自身の血であることに気付くと
そこで環の頭の中が現実に引き戻された。
185連鎖する悲劇:2006/11/19(日) 00:42:00 ID:2zt9swUO0
「――っ! あいつは!? 芽衣ちゃんは!?」
上半身を起こしながら職員室内を見渡した環の目に映ったのは見たくも無い現実。
涙を流しつくしたのか、悲しげな表情を浮かべたまま両手で芽衣の背中と足を抱えている英字の姿。
そして芽衣はと言えば、胸元を紅く染め、その中心には何本もの釘が刺さっていて――。
「そんな……」
起こした身体から力が抜け、再び環は床に倒れこんだ。
(私が、私がもっと警戒していれば……)
ただ後悔だけがよぎり、瞳から涙が溢れ出てくる。

職員室は時が止まったように静かで、暗く、悲しみだけが場を包み込み誰も何も言えないでいた。
不幸な偶然が重なった、ただそれだけと言って済ますには重過ぎる現実。


――沈黙を破るように、複数であろう足音と共に唐突に職員室の扉が開かれた。
「タマ姉!!」
祐一達が振り返った直後にその声は響き、そこには銃声を聞きつけて走ってきた貴明の姿があった。
突然の来訪者に構える隙も無いほど、祐一達の心は疲弊していた。
「!? たまちゃんに何をしたーーーっ!!」
突然鳴り響いた銃声と、目の前で倒れている環の姿に冷静な思考が出来なかったのもあるだろう。
激情した麻亜子の手に持った銃から銃弾が放たれるのを、誰も止めることは出来なかった。
再び校内に一発の銃声が鳴り響き、それは環の隣に座っていた観鈴の身体を一瞬のうちに貫いた。
空中に舞う血飛沫と共に静かに倒れていく観鈴の姿を、誰もがただ呆然と眺めることしか出来ないのだった。


186連鎖する悲劇:2006/11/19(日) 00:42:39 ID:2zt9swUO0
向坂環
 【所持品:支給品一式】
 【状態:呆然】
緒方英二
 【持ち物:ベレッタM92・予備の弾丸・支給品一式】
 【状態:呆然】
相沢祐一
 【持ち物:レミントン(M700)装弾数(5/5)・予備弾丸(15/15)支給品一式】
 【状態:体のあちこちに痛みはあるものの行動に大きな支障なし、呆然】
神尾観鈴
 【持ち物:ワルサーP5(8/8)フラッシュメモリ、支給品一式】
 【状態:麻亜子に撃たれる。生死等は後続任せ】
河野貴明
 【所持品:Remington M870(残弾数4/4)、予備弾×24、ほか支給品一式】
 【状態:呆然】
観月マナ
 【所持品:ワルサー P38・支給品一式】
 【状態:呆然】
朝霧麻亜子
 【所持品1:SIG(P232)残弾数(3/7)・ボウガン・バタフライナイフ・投げナイフ】
 【所持品2:仕込み鉄扇・制服・ささらサイズのスクール水着・支給品一式】
 【状態:貴明とささらと生徒会メンバー以外の参加者の排除(貴明・マナはその事実を知らない)】
 【備考1:スク水を着衣、浴衣は汚物まみれの為更衣室に放置】
 【備考2:制服はバックの中へ】

【時間:2日目午前1:35】
【場所:D-06鎌石中学校職員室】
【備考:由依の荷物(下記参照)と芽衣の荷物は職員室内に置きっぱなし】
   (鎌石中学校制服(リトルバスターズの西園美魚風)
    カメラ付き携帯電話(バッテリー十分、全施設の番号登録済み)
    荷物一式、破けた由依の制服
(関連446と449)
187忘れ去られた男 逆襲の勝平!!:2006/11/19(日) 07:07:31 ID:4vJDpYWJ0
柊勝平は放送直後、夜まで行動しないはずだったが取り憑かれたように鎌石消防分署に急行していた。
彼は少し前までは快楽的殺人を行うマーダーでしかなかった。
しかし今は違う…勝平は、数減らしのために殺戮を担当する死神の役割を与えられたからだ。

(奴らが原因だ…まずはあの二人を殺してからでないと気がすまない!!)

引きつった顔に怒りの表情…。
脳裏に焼きついた記憶の欠片、自分の投げた手投げ爆弾で醜く死んでいく断片…
都合よくワープしたかのように逃げた女、都合よくワープしたかのように現れた男の顔を記憶、

(自分が楽しむんじゃなく…ギャラリーを楽しませるのだったね…。)

断片的な自分の記憶の欠片、『自分が死んだ原因の一部』も忘れていなかった
反省を活かし行動する、チャンスを与えられた、やるべきことをやるだけだ…。
片手には手榴弾、そして都合よく手に入れた電動釘打ち機16/16を持って走り出す
188名無しさんだよもん:2006/11/19(日) 07:12:24 ID:4vJDpYWJ0
(そう言えば、あんな奴もいたなぁ…。)
ブロック壁の影から消防分署まで一目散に駆けていく勝平を見守る(30番)北川潤だ。
(さ〜て、どうなるやら…。)
気持ちは解かるんだけどね、と言いたげな顔つきでため息をつく北川
(まっ…あの調子だと今晩中はあの二人には手は出さないだろう)
さっきまで一緒にいた広瀬と遠野の身を案じる、別れてすぐさま誰かに殺されたら気分が悪いからだ。
走っていく勝平の後ろすがたを、がんばんなさいねと手をヒラヒラと掲げる。
勝平の影を見送ると同時に北川は自分の行動に移り出す。
(しかし…ヤル気マンマンだな…。)


あの時とは違う二人の男、北川潤と柊勝平、二人の行動の意味は!?
そして北川の言う「アイツ」とは?
189名無しさんだよもん:2006/11/19(日) 07:13:37 ID:4vJDpYWJ0
柊勝平
【時間:1日目午後6時30分頃】
【所持品:電動釘打ち機16/16、手榴弾三つ・首輪・和洋中の包丁三セット・果物、カッターナイフ・アイスピック・他支給品一式】
【状態:暴走、記憶の断片による祐一と杏への復讐】

北川潤
【時間:1日目午後6時30分頃】
【持ち物:SPAS12ショットガン(8/8+予備4)防弾性割烹着&頭巾 九八式円匙(スコップ)他支給品一式、携帯電話、お米券×2 】
【状況:同情、新しいターゲットを探す】

【場所:C−05 鎌石消防分署まで数100m】
(B−4ルート)
456と181の続き

【備考】
はたしてOKなのかw
190名無しさんだよもん:2006/11/19(日) 11:09:04 ID:hq+7YESf0
余裕でG.j
191獣の槍を持つ男:2006/11/20(月) 00:38:33 ID:mu/121Ls0
美坂香里と名倉友里は、まだズルズルとまぐわっていた。

「や……ちょっとぉ……もう……イキすぎてるからぁ……っ」
「だめぇ、お姉さま……お姉さまにたくさん気持ちよくしてもらった分、
 まだ全然返してないんだからぁ……」

電波の影響はもはや無いにもかかわらず関係を断ち切れない辺り、香里の隠された性癖が垣間見えるエピソードである。
周辺に漂う、女同士の妖しい香り。
そんな香りに引き寄せされるように恐るべき脅威が迫りつつあることに、行為に夢中の二人は気づかなかった。

「……セロ……」

それは誇り高き王の如く。

「……ラセロ……!」

それは密林を疾駆する野獣の如く。

「―――ウォォォォ―――!!」

そこに裸の女がいる限り、それは必ずやって来る。

「ヤラセロ、女ァァァ―――ッ!!!」

下半身世界無差別級チャンピオン、魔獣・岡崎朋也が、夜の闇を裂いて現れた。
その暴れん坊将軍は24時間体制ゴーゴーである。

「な、何……!?」
「ひっ……!」

ネコ役を務めていた分、香里の反応が一瞬だけ遅れ、それが彼女の致命傷となった。
192獣の槍を持つ男:2006/11/20(月) 00:39:37 ID:mu/121Ls0
「レッツ……ゴォーッ!!」
「ひ……がぁ……いや……いやあああ……ッ!」

神速の突きが一瞬にして膣内を越え、香里の子宮を蹂躙する。
飛び散る破瓜の血が、見る間にその下半身を真っ赤に染めていく。

「イッけぇぇぇ、俺のマグナムゥゥゥ!!」
「が……ぁああああああああっっ!!」

子宮を埋め尽くし、なおも途切れず発射され続ける朋也の超子汁。
性戦士ならぬ香里の身には、それはあまりにも巨大な負担であった。

「ぉ……ぉなかぁぁぁ……ぉなかさけちゃぅぅぅ! ぎ、ぎぃぃぁぁ……っ」
「ヒィィィト、エンドォォォ!!」

朋也の肉男爵が、指一本すらも使わず、その力だけで繋がったままの香里を持ち上げる。
伝説の奥義・マグロ一本釣りである。

「ひ、ひぎぃぃぃ!! ……が……くぁ……ぁ……ぁ……」
「お、お姉さまぁぁぁっ!?」

友里が叫ぶが、時既に遅し。
香里のその瞳は最早、何一つとして映してはいなかった。
あらゆる力を喪いもたれかかる香里の死体を、エクスカリバーの上下運動だけで放り捨てると、
朋也はそのギラギラと光る眼を、友里へと向ける。

「ひ……あ……お、お姉さまを……よくも……!」
「クク……イキながら死んだのさ……女としちゃあ一番の幸せだろうぜ……!」

締まりのない口元から涎をだらだらと垂らしながら、かつて朋也と呼ばれていた獣が友里に迫る。
だが友里は、己が荷物から素早く突撃銃を取り出すと、朋也へと向けた。
奇跡的な手際で弾倉を叩き込み、トリガーを引き絞る。
193獣の槍を持つ男:2006/11/20(月) 00:40:18 ID:mu/121Ls0
「し、死ねえっ! ……えっ!?」

だが、その30発の弾丸は、すべて野獣の剛直によって受け止められていた。
朋也の乳繰りマン棒から、ぱらぱらと弾丸が零れ落ちる。

「ン……今、俺の愚息が何か頂いちまったようだなァ……?」
「ば……ばけもの……!」
「貰ったら……お返しを、しなくちゃイケねぇよなァ! 人としてッ!!」

朋也が、翔ぶ。

「生まれたてのッ! ヒヨコの産毛のように繊細にッ!」

その奇妙に蠢く指が目にも留まらぬ速さで、一糸まとわぬ友里の、白い胸へと伸ばされる。
膨らみの頂点、桜色の突起を、女神の如き優しさで撫でさする朋也。

「ふ……ぁぁ……っ!?」

がくりと、友里の膝が落ちる。

「そしてッ! 怒れる独裁者のように大胆にッ!!」

一転、狂気すら感じさせる強さで、友里の乳首が摘み上げられる。
敏感な場所を万力のように締め上げられる苦痛。
しかしその中に、友里は確かな悦楽の芽を見出し始めてていた。

「ひ……ぎ……ぁ……」

酸素を求めて開けられた友里の口に、朋也がもう一方の指を突き込む。
194獣の槍を持つ男:2006/11/20(月) 00:41:02 ID:mu/121Ls0
「い……いら……いらぃよぉ……」

舌を掴まれ、苦痛と快楽の声を上げる自由すらも奪われる友里。

「安心しろ……お前もすぐに送ってやるさ! あの女が待つ、悦楽のエデンへなッ!」

その言葉に、薄れかけていた友里の意識が戻る。

(お……おねえ、さま……!)

朋也の無慈悲な夜の王様が、友里を儚く散らそうとした刹那。
友里が、最後の力を振り絞って朋也の手を払った。

「貴様……!」
「ただで殺されてなんて……あげるもんですか……っ!」

飛びついたのは、香里の荷物の中にあったナイフ。

「アソコがダメでも、他のところなら……!
 お姉さまの仇、死ねえっ……!」

虚を突かれた朋也の反応が、一瞬遅れた。
銀に光る刃が、その無防備な横腹を刺し貫くと見えた、その瞬間。

「……が……ふ……っ」

友里の胸腔に、大きな穴が開いていた。
己の胸から突き出した異物を、呆然と眺める友里。

「……どう……して……」

そこにあったのは、白い毛皮と鋭い爪。
195名無しさんだよもん:2006/11/20(月) 00:44:11 ID:Ds6npUUG0
回避
196獣の槍を持つ男:2006/11/20(月) 00:46:24 ID:mu/121Ls0
ゆっくりと引き抜かれていくそれを見ながら、友里は絶命した。

「女……俺の、女が……!」

寸秒前の窮地を省みようともせず、朋也は怒りの声を上げる。

「邪魔しやがったのは、どこのどいつだ……ッ!」

その黄色く濁った目には、涙さえ溜めている。
崩れ落ちていく友里の身体の向こう側から現れたのは、

「―――風子……参上」

聞き覚えのあるその声に、朋也が驚愕する。

「風子……風子、だと……!?」

だがその口から出たのは再会の喜びではなく、疑念交じりの声。
朋也が驚くのも無理からぬことであった。
風子を名乗るその姿は、有り体にいって、マントを羽織って直立する虎の子であった。

「お前……本当に、あの風子……なのか」
「風子……参上」

朋也の言葉が聞こえているのかどうか。
返ってくる言葉は先刻とまったく同様であった。
だが朋也は既にそんな風子の反応に一切の興味を払っていない。
そのどろりと濁った目は、真っ直ぐに風子の腰辺りへと注がれていた。

「クク……まあいい……そろそろ獣の締め付けも恋しくなってきたところだ……。
 後ろを向いてケツを出せ、風子……」
「……」
197獣の槍を持つ男:2006/11/20(月) 00:47:34 ID:mu/121Ls0
「おい、聞いてるのか風子……何!?」

朋也が再び驚愕する。
風子と名乗る獣の姿が、霞のように消えてしまったのである。

「クッ……何だっていうんだ……!? おい風子、風子!」

呼べども叫べども、風子が再び姿を見せる気配はない。

「グォォ……女……、誰でもいい……女を寄越せェェェッ!!」

朋也の咆哮が、夜の森に響き渡る。
胸を貫かれた友里の死体だけが、風子が確かに存在していたことを無言の内に語っていた。



【時間:2日目午前2時頃】
【場所:D−5】
 岡崎朋也
【持ち物:お誕生日セット(クラッカー複数、蝋燭、マッチ、三角帽子)、支給品一式(水、食料少し消費)、大変な逸物】
【状況:変態強姦魔】
 伊吹風子
【持ち物:彫りかけのヒトデ】
【状態:覚醒・ムティカパ妖魔】
 美坂香里
【状態:死亡】
 名倉友里
【状態:死亡】
※アーミーナイフ、Remington Model 700Police装着数4 残弾数51、支給品一式×2、
 ハーネル StG44突撃銃(0/30)&弾層×4は放置。
→329 388 443 ルートD-2
>>195 多謝。
198高校生と化学の英知2(1/5):2006/11/20(月) 00:55:46 ID:Ds6npUUG0
声が聞こえた、だから急いでここまで走ってきたというのに。
今度こそ、生きている人間に会えるかと思ったのに。
しかし、目の前にいるのは一切の身動きがない倒れた女性だけで。
折原浩平は落胆の色を隠せないでいた、そっと近づくものの反応はやはり返ってこなくて。

「また、死体か・・・」

初めに見たインパクトが強かったからか、考えはその一点に集中してまう。
浩平は音を立てないようゆっくりと跪き、彼女の様子をさらに詳しく見る。
女性の体には戦闘の跡があった。服も所々破れている。

(こんな女の人も、戦わなくちゃいけないっていうのかよ・・・)

悲しくなる。巻き込まれてしまったことに対するやるせなさが拭えない。
彼女の支給されたバックはすぐ近くに放られていた。
黙ってそれに手を伸ばそうとした時、浩平はふと彼女の人とは明らかに違う部分にやっと気がついた。

「この耳って・・・」

そう。明らかに人のぬくもりが感じられない無機質さが表れている、それ。

「メイドロボ?」

浩平も名前だけは聞いたことがあった。
とある大きな会社が開発した、福祉などを目的とするロボット。
生憎浩平の住む地域には配置されていなかったので、直接目にするのはこれが初めてである。

「もしかして、壊れてるだけか?」
199高校生と化学の英知2(2/5):2006/11/20(月) 00:56:22 ID:Ds6npUUG0
ぺたぺたといじってみる。やっぱり反応は返ってこないが、見回したところ特別異常は見られない。
しいて言うなら左腕がかなり痛んでいるものの、こんな所基本的な動力には関係ないだろう。
確か六時の放送では、メイドロボらしき対象の名前は上がっていない。
ここに来るのに聞いた声も多分彼女で間違いないし、ついさっきまでは動いていたという保障はある。

「・・・よし、やるか」

彼女の鞄を肩にかける、日本酒邪魔なのでそこら辺に放置した。
よっと掛け声を上げ、浩平は彼女・・・イルファを、背負う。

「お前を直せるような人、見つけてやるからな」

浩平は来た道を戻るようにして、歩き始めるのだった。







だが。正直『戻る』という行為に、さして意味はなかった。
何故ならば浩平は、迷っていた所たまたまイルファの声を聞きこの場所に辿り着いただけだったのだから。

「・・・地図出して、見りゃよかった」

その場のノリで行動を決めてしまったことを、ひどく後悔した。
そう、この島の地図。自分の物は紛失したけれど、今はイルファのバッグに入っているであろう物で確認することが可能だったというのに。
そのバッグというのは今浩平の肩にかかっており、取り出すには一端背負っているイルファを降ろさなければいけなくなる。
ここでイルファを降ろすという行為には、大きな覚悟が必要であった。

「・・・正直、もう一度これを抱えなおすなんて冗談じゃないぞ・・・」
200高校生と化学の英知2(3/5):2006/11/20(月) 00:57:05 ID:Ds6npUUG0
ずっしりと背中にかかる重量。
まだ歩いて数十分だが、距離はほとんど変わっていない気がする。
とにかく、重いのだ。
そりゃロボットだから仕方ないのかもしれないが・・・きつい、としか言いようがない。

「くそっ、どうすれば・・・」

ガクガクと膝が震える、だがここで休んでしまうともう一度背負い上げられる自信はない。
どうしたもんかと思案する。

結果、踏ん張らねばいけない時に頭を使うことで精一杯で、足元に転がる石に気づけなかった。
途端、視界が一気に逆転する。

「あれ?」

気がついたら、満天の星が輝くのが見えた。おかしいな、今まで歩いていた森はどこにいった。
それにしても背中に何か違和感を感じる。何だ、倒れてしまったのか。
背中に何か感じるってことは後ろに倒れたってことだよな、うん。

・・・そっと起き上がると、体の下には背負っていたはずの彼女が。
見事に潰してしまっている。

「げげっ?!」

しかも浩平がのしかかったことか、転んだ勢いが原因なのか。
イルファは、頭部が吹っ飛んんだ形で浩平の下敷きになっていた。
悲鳴をあげそうになる、いやいやこれはロボットだからと何とか気持ちを落ち着かせる浩平。
慌てて近くの茂みを探しに行くと、頭自体はすぐ発見できたから、まぁいい。

「こ、このままはめ込めば、元に戻るもんかな・・・」
201高校生と化学の英知2(4/5):2006/11/20(月) 00:57:59 ID:Ds6npUUG0
恐る恐る戻ってくる。ちょいグロテスクな光景が浩平を待っていた。
・・・そして、改めて見て、はたと気づく。
目の前の、首の外れたボディ。
首。さらされたそこにある、首輪。

首輪の爆発の条件は三つあった。
一つは無理やり外した場合、もう一つはこの島から外に出た場合、
そして最後はゲーム開始以後、連続して24時間誰も死ななかった時。

・・・でもそれは、生きている人間に関しての、ことではないのか?

首輪に関して、浩平には思う所があった。ずっと一人だったから、そういうことでもしないと暇で仕方なかったと言うのもあったが。
例えば、首輪がどうやって人の生死を判断しているか、とか。
温度ではないだろう。それでは、死んですぐの判断をあちらが入手できる訳ではない。
そこで思いついたのが、脈。
脈が止まれば人は死ぬ、それは1か0かという分かりやすい分け方でしかない。
ではロボットはどうだ。
似たような所で経路が動いているとか、そういうのではないのか?

目の前にいるメイドロボットを今一度確認する。
どこをいじっても、動く気配はない。
全ての動力を止められている、それは即ち・・・「死」と同じ意味にはとれないか。

それに、浩平は可能性を見出す。
試してみるチャンスは、今ここにあった。
自分がしようとすることは、単なる犬死に繋がるだけかもしれない。
でも、浩平はその可能性を信じたかった。
202高校生と化学の英知2(5/5):2006/11/20(月) 00:58:43 ID:Ds6npUUG0
緊張に震える手を、目の前の頭の外れた首にかける。
ごくり。口の中に溜まった唾液を一飲みして。
浩平は、それを一気に引き抜いた。
少し力を込めるだけで、それはロボットの首から簡単に外れる。






爆発は、起こらなかった。




折原浩平
【時間:1日目午後8時30分】
【場所:F−7】
【所持品:だんご大家族(だんご残り100人)、イルファの首輪、他支給品一式(地図紛失)】
【状態:イルファの首輪を外しちゃった。】
 
イルファ
【時間:1日目午後8時30分】
【場所:F−7】
【持ち物:デイパック*2、フェイファー ツェリスカ(Pfeifer Zeliska)60口径6kgの大型拳銃 5/5 +予備弾薬5発(回収)】
【状態:頭と首輪外れてる・電池切れ・左腕が動かない・珊瑚瑠璃との合流を目指す】

日本酒はF−7に放置
(関連・438)(B-4ルート)
203名無しさんだよもん:2006/11/20(月) 00:59:00 ID:760DOusD0
kaihi
204名無しさんだよもん:2006/11/20(月) 00:59:33 ID:760DOusD0
うわ、、、意味ねえw
205名無しさんだよもん:2006/11/20(月) 01:11:06 ID:Ds6npUUG0
お気持ちだけ受け取ります、ありがと〜
206.meat//悪性変異:2006/11/20(月) 03:13:33 ID:9/mUWs5XO
「誰でもいい……女を寄越せェェェッ!!」

響き渡る咆哮。

「―――」

そんな岡崎朋也を見つめる、一対の目があった。
伊吹風子である。
彼女は誰にも認識されることなく、朋也の傍らに控えていた。

一体、風子の身に何が起きていたのか。
その原因は、霊獣ムティカパの血を得て進化した炭疽菌にあった。
恐るべき病魔は、特殊な魂魄体である伊吹風子の体内に取り込まれることで、更なる
驚異的な変貌を遂げていたのである。

伝説によれば、遠い遠い何処かに、魑魅魍魎の棲まう世界があった。
その世界には、忠義に果てた一匹の妖魔がいたと、伝えられている。
星型の刃を操り、とある王国を守り続けたその妖魔の名を、風子という。
妖魔の主の名は、朋也。

進化の彼方に、病魔は伊吹風子の内に眠る妖魔の因子を呼び起こしたのである。
風子は待っている。
己が忠義を果たすべき戦場を。
主の命に生き、主の命に死ぬその時を、風子はじっと待っている。
岡崎朋也
【持ち物:お誕生日セット(クラッカー複数、蝋燭、マッチ、三角帽子)、支給品一式(水、食料少し消費)、大変な逸物】
【状況:変態強姦魔】伊吹風子
【持ち物:彫りかけのヒトデ】
【状態:覚醒・ムティカパ妖魔】
※→「獣の槍〜」の補完
207幕間:2006/11/20(月) 18:37:05 ID:Q2+dWt6X0
男はゲーム開始以来、ずっと周囲のマイクから聞こえてくる悲痛な叫びを楽しんでいた。
だが夜が深まるにつれて寝静まる者が増え、マイクから聞こえる悲鳴も少なくなっていった。

男は気だるそうにあくびをした後、モニターを見たまま、傍にいる側近に声をかけた。
「ふむ………篁も醍醐も呆気ない最期だったな。奴らには期待していたんだがな。おい、那須宗一はどうしてる?」
言われて側近はすぐにファイルに目を通した。
「那須宗一は今、マーダーの二人…天沢郁末と鹿沼葉子と行動を共にしています。
完全には信じていないものの、騙されているようですね」
「愚かな……世界No1エージェント、NASTYBOYもその程度か。これは今回も少年の優勝で終わりそうだな」
「恐らくそうなるでしょう。ですが一つ、朗報があります」
男は眉を寄せ、唇を少しすぼめた。
「何だ?」
「前回のゲームの最中に紛失した"宝石"が見つかりました。現在は笹森花梨が所持しています」
それを聞いた男は側近の方へと振り返り、唇の端をぴんと持ち上げた。
それは酷く、歪な笑みだった。
「くくく……ようやくか。絶対に監視を怠るなよ、アレは我々の計画の要となる物だ」
「分かっています。前回と同じミスは決して犯しません」
「ああ、頼んだぞ。では、再び楽しませてもらうとするか」
再びモニターに視線を戻す。
男の顔には歪な笑みがへばり付いたままだった。

【時間:2日目午前3時】
【場所:不明】
【関連:026・046・222・325・363】
208勝平さん、がんばってください(by諒)(1/4):2006/11/21(火) 00:14:19 ID:YkpUNvLw0
「オラオラ!勝平様のお通りだよっ」
「五月蝿い黙れ馬鹿」
「何だと?!っていうか、やっぱりお前等はそのメンバーでしか固まれないのか!」

鎌石消防分署に飛び込んだ柊勝平を迎えたのは、想像通りのあの面子だった。
相沢祐一、神尾観鈴、藤林杏、緒方英二、春原芽衣。そしてしょぼい男の代わりに婦女子プラスワン。

「ああ?誰だ、あんた」
「いきなり失礼ね」

見覚えのないボインの姉ちゃんこと、向坂環に目をくれる。
それにしても良いスタイルだった。

「おーいおーいおい、りなぁ〜」
「泣かないでください英二さん、私が・・・あなたの妹になりますから」
「芽衣ちゃん・・・」
「な、何であいつ泣いてるんだ?」
「妹さんが亡くなったんだそうだ・・・そっとしておいてやれ」

鼻水を垂らしながら、芽衣の平たい胸に抱かれている英二の崩れっぷりに唖然。
ちょうど杏を殺すという時に乱入してきたあの威厳はどこへやら、英二は泣き続けていた。

「にはは、私達もついさっきここに来たの。一緒一緒♪」
「一緒にするな」
「が、がお・・・」
「あんたは何か用があってここに来たのか?」

声をかけてきた祐一に対し、お前を殺しにだよ、と。そう叫んでやりたかった。
209勝平さん、がんばってください(by諒)(2/4):2006/11/21(火) 00:15:00 ID:YkpUNvLw0
「芽衣ちゃんは、あったかいね・・・」
「へへっ。英二さん、かわいい」
「そんな、芽衣ちゃん・・・大人をからかっちゃ、ダメだよ」
「守ってくれたお礼じゃないですけど、少しは英二さんの力になれますか?私、英二さんになら・・・」
「こらそこ、ここで乳繰り合うんじゃないわよ」

だが、いまいち雰囲気に欠ける。

「でも勝平さんも無事だったのね。良かったわ〜、早速報告でもしようかしら」
「報告?」

カタカタとキーボードに手をやり、ノートパソコンを操作している杏に近づく。

「何やってんだ?」
「ん?掲示板にね、こうやって載せとけば安心でしょ?」

覗き込んでくる勝平にもよく見えるよう杏はノートパソコンをずらし、開かれたウインドウを指差した。
『自分の安否を報告するスレッド』というタイトルのついたページが、そこにある。

「・・・ふーん。そんなの、あったんだ」
「ええ、ただパソコンという設備自体が希少みたいでね、まだ書き込みも・・・・・・・・・あった」
「はぁ?」

さっきまではなかったそれを、杏の目が捉える。
その内容に思わず声を上げてしまう、何だ何だと祐一達も寄ってきた。

「・・・天野?」
「相沢くん、知り合い?」
「ああ、後輩だ」
「が、がお!これ、私のお父さん!」
「は?」
210勝平さん、がんばってください(by諒)(3/4):2006/11/21(火) 00:15:52 ID:YkpUNvLw0
『橘敬介』という文字を指差し、観鈴が叫ぶ。
天野美汐という参加者曰く、彼女はその橘敬介さんに不意打ちくらわされピンチだったらしい。

「あなたの両親何考えてんのよ・・・」
「が、がお」
「神尾さん、あなたのお父さんは本当にこんなことをする人なの?」
「わ、私、一緒にいることなんてなかったから・・・分からない」
「そうか」
「相沢くん、天野さんっていう子は信用できる?」
「ああ、無口だけど悪い奴じゃない。嘘をついているとは思えないんだけどな・・・」
「うーん、神尾さんのお父さんというなら、あまり疑いは持ちたくないんだけどね」
「早めに合流して、話し合ってみた方が良さそうだな」
「う、うん!そうだ、そのこと書き込んでみたらどうかなっ」

何か盛り上がっているが、勝平はいまいち会話についていけないし混ざれない。だから皮肉っといた。

「もうどれが誰しゃべってるかさっぱり分からんな」
「五月蝿い黙れ馬鹿」
「誰だ?!今言ったの誰だ、っていうか最初にもお前ソレ言ったよな?!!
 ・・・ああもう、ゴチャゴチャし過ぎ!お前等、人、塊過ぎ!散れ!!」

怒り爆発、っていうか最初からこうしていれば良かった。
勝平はバックから電動釘打ち機を素早く取り出構えようとする。

だが。
211勝平さん、がんばってください(by諒)(4/4):2006/11/21(火) 00:16:32 ID:YkpUNvLw0
次の瞬間祐一はS&W M19を、少し離れた場所で涙で伏せっていた英二は拳銃(種別未定)を、
同じく離れた場所にいた芽衣はボタンを、環はコルトガバメントを、杏は辞書を、構えた。

「すいません僕が悪かったです、とりあえずそれら諸々を降ろしてもらえませんか?」
「にはは、情けない」
「何もしてないお前が言うな!!」
「が、がお・・・」
212補足:2006/11/21(火) 00:17:15 ID:YkpUNvLw0
柊勝平
【所持品:電動釘打ち機16/16、手榴弾三つ・首輪・和洋中の包丁三セット・果物、カッターナイフ・アイスピック・他支給品一式】
【状態:ま、まだ諦めた訳じゃないんだからね!】

相沢祐一
【所持品:S&W M19(銃弾数4/6)・支給品一式】
【状態:冷静】

神尾観鈴
【所持品:フラッシュメモリ・支給品一式】
【状態:がお】

向坂環
【所持品:コルトガバメント(残弾数:20)・支給品一式】
【状態:冷静・朝までは祐一達と同行】

春原芽衣
【持ち物:デイパック、水と食料が残り半分】
【状況:冷静】

緒方英二
【持ち物:拳銃(種別未定)デイパック、水と食料が残り半分】
【状況:冷静になった】

藤林杏
【持ち物:ノートパソコン(充電済み)、デイパック、包丁、辞書×3(英和、和英、国語)】
【状態:冷静】

【時間:一日目午後6時45頃】
【場所:C-05鎌石消防分署】
(関連・252・424・461)(B−4ルート)
213留美の選択:2006/11/21(火) 01:05:53 ID:f0exEsrD0
気絶した折原浩平を担ぎ、七瀬留美は街道を逸らし林の中を歩き続けていた。
こんな状態で誰かに襲われたらひとたまりも無いと考えた為だ。
身を潜めていようかとも考えたが、地図を広げたところ近くに寺があるようでそこに移動しようと決めた。
少し前まではピクリとも動かない浩平を心配していたのだが
今は背中からは浩平の安らかな寝息が聞こえており、安堵は勿論したものの相反して妙な苛立ちが募っていた。
(藤井さん……)
留美の頭の中に蘇るのは道を分かち、復讐へと身を投じた冬弥の姿。
出会ってからずっと見せてくれた優しい笑顔、そして去り際の悲しい笑顔。
今までの生活でずっと一緒だった瑞佳のことだって勿論心配だった。
瑞佳が浩平のことを好きだったのは気付いていたし、浩平も瑞佳の事を一番に考えているのがわかっていた。
――報われない片思い。留美は浩平のことが好きだった。
それでも悲しいと思うよりも、浩平と瑞佳と一緒にいる時間が大好きだった。
また三人で一緒にいられたら……くだらない事で笑い、はしゃぎあえたらどんなに良いだろうか。

214留美の選択:2006/11/21(火) 01:07:32 ID:f0exEsrD0
悩み迷う心に決着はつくことがなく、同じ考えがぐるぐると回っていた最中。
茂みが急に途切れ視界が広がった。
目の前には目的地である無学寺がそびえたっていた。
少し探すと裏口のような扉を発見し、支える浩平の身体を落とさないように静かに扉を開け中へと進んでいった。
長い廊下を静かに歩く。
月明かりが留美の身体を照らし、出口を求め闇に覆われた留美を導くように心の中に入り込んできた。
本当はわかっている、自分がしたい事なんてわかっているのだ。
去来する想いとは裏腹に脳裏の大半を占めて止まなかったものは浩平でも瑞佳でもない。
この島に来て出会い自分を女性として扱ってくれた冬弥の姿だけだったのだから。
浩平の身体を壁に預け深呼吸を一つつくと小さく呟いた。
「……ごめん浩平、私行くわ」
それは仮に浩平が起きていたとしても聞き取れるかどうかわからないぐらい小さなものだった。
でも込められた決意は何よりも大きく。
言いながら浩平の顔に自身の顔をゆっくりと近づける。
二人の唇が触れるか触れないかの距離まで近づいた所で留美はと惑うように笑い、自身の頭を軽く小突くのだった。

柚原春夏のデザートイーグルを手に持つと、眠ったままの浩平に向かって笑い、そしてその場を後にした。
奇しくもそれは冬弥が留美にしたように、とても小さな笑みでとても悲しい顔で……。

215留美の選択:2006/11/21(火) 01:08:26 ID:f0exEsrD0
七瀬留美
 【所持品:デザートイーグル(再装弾済)、予備弾、ノートパソコン、支給品一式】
 【状態:藤井冬弥を追う】
折原浩平
 【所持品:だんご大家族(残り100人)、日本酒(残りおよそ3分の2)、包丁、ほか支給品一式】
 【状態:無学寺裏手縁側で気絶(爆睡)中】

【場所:F-8無学寺】
【時間:二日目2:00頃】
【備考1:以下のものは浩平の横に放置】
【備考2:春夏の支給品一式(要塞開錠用IDカード・武器庫用鍵・要塞見取り図・34徳ナイフ)】
【備考3:H&K PSG−1(残り4発。6倍スコープ付き)】
(関連:→387のB10・B11・B13あたり?)
2162つの狂気:2006/11/21(火) 05:49:19 ID:Dt6ohzb60
場の空気が止まっていた。麻亜子は英二達の反応を見て理解した。
彼らがゲームに乗っていない事に。環の仲間だった事に。
誰もが呆気に取られて動く事が出来ない――――ただ一人を除いて。

「てめえぇぇぇぇぇぇっ!!」
祐一が弾かれたように動き出していた。怒りに任せ引き金を引く。
だが、ロクに狙いも定めず撃った弾は大きく逸れて扉の近くの壁に当たった。
祐一はすぐにボルトを操作し、次の弾丸を装填した。
今度こそ外さないように、しっかりと麻亜子の顔面へと狙いを定める。

引き金を引こうとした刹那、環が気力を振り絞って体を動かし祐一の銃を掴んでいた。
「環、何で邪魔するんだよっ!あいつが、あいつが観鈴を!!」
「落ち着いて、あそこにいる二人は私の知り合いよ!きっと何かの間違いだわ!!」
「けど、観鈴が…観鈴がっ……!」
今にも銃を撃ちかねない祐一。彼の殺意を沈めたのは、環でも英二でも無かった。

「駄目……だよ……、祐一、さん……」
苦しげな声。観鈴が倒れた姿勢のまま、祐一の服の袖を引っ張っていた。
「観鈴!」
祐一が慌てて観鈴を抱き起こす。観鈴は苦しそうな息遣いをしていたが、その表情から生気は失われていなかった。

環が傷口を覗き込む。
「……どうやら急所は外れてるみたいね」
それを聞いて、祐一が心底安堵したような表情になった。
「良かった……本当に良かった……」
観鈴の手をぎゅっと強く握り締める。

「にはは……、祐一、さん、涙出てるよ………」
自分の目の下のあたりを触ってみると濡れていた。
いつの間にか、涙が溢れていた。
服の袖でごしごしと涙を拭いて観鈴に笑いかける。
観鈴も相変わらず苦しそうに、でもしっかりと笑いかけてくれた。
2172つの狂気:2006/11/21(火) 05:50:28 ID:Dt6ohzb60

環も貴明もマナもその光景を見て暖かい気持ちになっていた。
まさしく不幸中の幸いというものだろう。環の目にもまた、涙がこみ上げてきた。




―――一その場でただ一人、英二の瞳は現実を捉えていなかった。
彼の瞳に、脳裏に映るのは緒方理奈が、森川由綺が、血塗れになって倒れている姿だった。
「理奈ぁーっ!!由綺ぃーーっ!!」
緒方は妄想の世界の中で彼女達の傍へ駆け寄ろうとするが、走っても走っても体が前に進む事は無い。
英二は泣き叫ぶ以外に何も出来ない。
突然ビジョンが切り替わる。

次に彼の目に映ったのは、胸に数本の釘を突き刺され息絶えている春原芽衣だった。
「めいちゃんめいちゃんめいちゃんメイチャンメイチャンメイチャン……」
いくら呼びかけても、芽衣の瞳が開かれる事は無い。目からとめどもなく涙が溢れ続ける。
また、ビジョンが切り替わる。

今度はさっき見た光景―――観鈴が突然の来訪者に銃弾で撃ちぬかれる姿だった。
英二は頭を抱えて泣き続けている。

僕はゲームに乗ってなどいない!それなのに、なんで、なんでみんな僕から何もかもを奪うんだ!!
恨みの念が、憎しみが、どんどん膨らんでいく。

コロセ。
頭の中で誰かが話しかけてくる

コロセ
コロセ
コロシテシマエ!
この声は誰の声だ。
2182つの狂気:2006/11/21(火) 05:51:31 ID:Dt6ohzb60

ソウスレバ、モウナニモウバワレナイ。
マモルタメニコロセ!
この声は……僕自身の声だ。

コロセ!ウバワレルマエニコロセ!
声はどんどん大きくなっていく。

コロセ!コロセ!コロセ!コロセ!コロセ!コロセ!
コロセ!コロセ!コロセ!コロセ!コロセ!
コロセ!コロセ!コロセ!コロセ!コロセ!
コロセ!コロセ!コロセ!コロセ!コロセ!
コロセ!コロセ!コロセ!コロセ!
ミンナ、コロシテシマエ!!
僕の頭の中を、声が埋め尽くす。

目を開けると、扉に人が3人立っていた。その手には銃が握られている。
僕の仲間ではない。つまり敵だ。僕から全てを奪っていく敵だ。ならばもう、迷う事は無い。



―――突然銃声が鳴り響いた。
「がっ……!」
貴明の左肩に衝撃が走る。
「たかりゃんっ!?」
貴明が左肩を抑え、表情を歪めていた。
肩を抑えるその手は血に染まっている。

祐一が横を見ると、英二が銃を構えて立っていた。その銃口からは煙が立ち昇っている。
「……英二さん?何をしてるんだ!」
「守るんだ……僕が…みんなを……守るんだ………」
祐一が話かけても英二は全く反応しない。まるで何も聞こえていないかのようだった。
2192つの狂気:2006/11/21(火) 05:52:36 ID:Dt6ohzb60
環は英二の顔を見てゾッとした。英二の目が濁っていた。とても暗く、濁っていた。
その顔は引き攣っており、とても以前の英二と同一人物とは思えない程だった。

「僕が!敵を殺して!みんなを守るんだぁぁぁぁぁっ!!」
英二が絶叫しながら再び銃を貴明達に向ける。
「やめろっ!!」
祐一が慌てて英二に飛び掛かったが、英二はそれを振り払うように激しく動いた。

理性の飛んだ英二の力は予想以上で、祐一が振り払われるのは時間の問題だった。
「まーりゃん先輩、タカ坊を連れて今すぐ逃げて!早く!」
環の言葉で冷静さを取り戻した麻亜子は、すぐに貴明の無事な方の手をとった。
「たかりゃん行くぞ!」
強引に貴明の手を引っ張り、走り出す。マナも慌てて後を追いかける。

3人はそのまま足を止めずに学校の裏門まで走り続けた。
裏門についたところで貴明が苦しそうに左肩を抑えながら足を止めた。
「たかりゃん、大丈夫か!?」
「ええ、何とか…」
貴明は苦痛に耐えながらも何とか笑顔を作ってみせた。

「ねえ、さっきの人達は何だったの?」
まだ息を切らしているマナが尋ねてくる。
「俺とまーりゃん先輩の知り合いが一人、いたんだ……俺の幼馴染で、大切な人なんだ」
「何でそんな人と一緒にいる人が貴明さんを撃ったの?」
「そんなの決まってるじゃないか、あたしがたまちゃんの傍にいた女を撃ったからだよ」
マナの質問に、麻亜子が答える。

「……まーりゃん先輩、なんであんな事をしたんですか?」
「いやいや、たまちゃんが倒れてるのを見て頭に血が昇ってしまってね。ついつい撃ってしまったわけだよ」
「ついって……」
貴明の表情が凍る。いつもの調子で喋る麻亜子の言葉からは何の後悔も感じられなかった。
自分が知っているまーりゃん先輩は、朝霧麻亜子は、そんな人だったのか?
2202つの狂気:2006/11/21(火) 05:53:37 ID:Dt6ohzb60
「先輩、どうしたっていうんだよ!」
麻亜子の肩を掴んで、がくがくと揺する。撃たれた肩が激しく痛んだが、今は気にならなかった。
そして貴明は見た。
人懐っこい麻亜子の目が――――とても冷たい目に変わるのを。

「あたしは人を殺した」
「え?」

ゴトッ、と音をたてて貴明のRemington M870が手から地面に落ちた。
「もう、何人も殺した。これからも殺し続ける」
「せんぱ…い……?何を……何を言ってるんだ……?」
貴明の顔から血の気が引いていく。

麻亜子はそんな貴明の様子に構う事なく言葉を続けた。
「生徒会の者達を、さーりゃんを、たかりゃんを生き残らせるためにあたしは修羅になったんだ」
いつもの麻亜子からは想像も付かない、とても重い声。
そして麻亜子は貴明を振り払うと、マナに銃口を向けた。
銃口はマナのすぐ目前にまで迫っている。

「ひっ……」
「いいかねお嬢さん?たかりゃんは怪我をしている……チミが誰かは知らないがたかりゃんを助けてくれたまえ」
マナは未知の恐怖にがくがくと震えるだけで答えられない。
「もし裏切ったら……分かってるね?」
銃の先端でとん、とマナの額を軽く叩いた。

麻亜子は貴明へと視線を戻した。その目は少しだけ哀しげなところを除けばいつもの麻亜子の目に戻っていた。
「たかりゃん、死ぬんじゃないぞ。あたしが絶対にたかりゃん達を無事に家に帰らせてやるからな」
そう告げて走り出そうとし、何かを思い出したように立ち止まった。

「危ない危ない!あたしとした事が忘れてたよ、これをさーりゃんに渡してくれたまえ!」
バッグの中からスクール水着を取り出すと貴明の手に握らせ、今度は立ち止まる事なく走り出した。
貴明もマナも、ただ呆然とその背中を見送る事しか出来なかった。
221名無しさんだよもん:2006/11/21(火) 05:55:21 ID:+7nB/FClO
回避いるかい?
222名無しさんだよもん:2006/11/21(火) 05:57:29 ID:+7nB/FClO
もう一つ回避
223名無しさんだよもん:2006/11/21(火) 06:02:47 ID:+7nB/FClO
まだ書けないの?
2242つの狂気:2006/11/21(火) 06:04:47 ID:Dt6ohzb60
向坂環
【時間:2日目午前1:45】
【場所:D-06鎌石中学校職員室】
 【所持品:支給品一式】
 【状態:混乱、極度の疲労、後頭部に怪我。英二を制止】
緒方英二
【時間:2日目午前1:45】
【場所:D-06鎌石中学校職員室】
 【持ち物:ベレッタM92(7/15)・予備の弾丸(15発)・支給品一式】
 【状態:精神異常、仲間以外の人間を排除】
相沢祐一
【時間:2日目午前1:45】
【場所:D-06鎌石中学校職員室】
 【持ち物:レミントン(M700)装弾数(4/5)・予備弾丸(15/15)支給品一式】
 【状態:混乱、体のあちこちに痛み(だいぶマシになっている)、英二を制止】
神尾観鈴
【時間:2日目午前1:4】
【場所:D-06鎌石中学校職員室】
 【持ち物:ワルサーP5(8/8)フラッシュメモリ、支給品一式】
 【状態:麻亜子に撃たれる。急所は外れている】
2252つの狂気:2006/11/21(火) 06:06:54 ID:Dt6ohzb60
河野貴明
【時間:2日目午前1:50】
【場所:D-06鎌石中学校裏門】
 【所持品:Remington M870(残弾数4/4)、ささらサイズのスクール水着、予備弾×24、ほか支給品一式】
 【状態:呆然、左肩を撃たれている】
観月マナ
【時間:2日目午前1:50】
【場所:D-06鎌石中学校裏門】
 【所持品:ワルサー P38・支給品一式】
 【状態:呆然、恐怖】

朝霧麻亜子
 【時間:2日目午前1:50】
 【場所:D-06鎌石中学校裏門付近】
 【所持品1:SIG(P232)残弾数(3/7)・ボウガン・バタフライナイフ・投げナイフ】
 【所持品2:仕込み鉄扇・制服・支給品一式】
 【状態:貴明とささらと生徒会メンバー以外の参加者の排除(生徒会メンバーの仲間の命を積極的に奪う気は無い)】
 【備考:スク水を着衣、浴衣は汚物まみれの為更衣室に放置】


【備考:由依の荷物(下記参照)と芽衣の荷物は職員室内に置きっぱなし】
   (鎌石中学校制服(リトルバスターズの西園美魚風)
    カメラ付き携帯電話(バッテリー十分、全施設の番号登録済み)
    荷物一式、破けた由依の制服

(関連460)
※訂正:神尾観鈴の時間を午前1:45に

>>221-223
回避thx-
226敵、新たなり:2006/11/21(火) 07:30:19 ID:eaLkLVGc0
「あ…う…」
呻き声を出しながら床にどさり、と倒れ込む観鈴。それを見ていた祐一の頭は真っ白になっていた。
(おい、どうしてだ? どうして神尾が倒れてんだよ…撃った? あの女が? どうして? たまちゃんに何をした? 知るかよ…何だよ、何なんだよアイツはっ!)
気がつけば祐一は憎しみのままに麻亜子にレミントンを構えていた。
「お…お前ぇぇぇーーっ!」
気付いた環が必死の思いで祐一の手を止める。
「何すんだよ! こいつが、こいつが神尾をっ!」
「手を出さないで! この人は…私の知り合いなの」
知り合い? ならどうしてあの女は手を出した? 祐一の疑問は加速する。頭が熱すぎて整理できない。
「関係…ないだろ。こいつは、神尾を撃ったんだぞ」
「ええ。…だから、真偽を確かめるのよ。誤射かどうかってことをね」
誤射って、何を今更…そう言いかけた祐一の口がつぐむ。環の顔は、恐ろしいほど険しいものになっていた。祐一にも勝らぬとも劣らぬ表情。
「…分かった、好きにしてくれ」
レミントンの銃口が床に落ちるのを確認して、環は麻亜子と向かい合った。
「一体何のつもりですか、まーりゃん先輩」
低く、重たい声で麻亜子に語りかける環。目が覚めたと思ったら観鈴が麻亜子に撃たれていた。
環にも訳がわからなかったが、英二は精神的に戦えるかどうか分からない。祐一は見ての通り頭に血が上りきっている。
芽衣は先程殺されてしまった。自分の判断ミスで。どうして首輪が外れていたのか、まずそこを疑うべきだったのだ。
普通、首輪が外せたらまずは知り合い等そういう人間の安全を確保すべきである。しかし七瀬彰とか言う男は何を考えているかも分からない赤の他人に気安く話しかけてきた。
せっかく首輪を外せてもゲームに乗ってしまった連中に問答無用で撃たれたら何の意味もない。
結局は自分の焦りがこの事態を生み出してしまった。だから、もう判断ミスはしない。これ以上自分の失策で人が傷ついていくのは耐えられない。
皮肉なことに、周りの皆が冷静でないことが、かえって環を冷静にさせた。
227敵、新たなり:2006/11/21(火) 07:31:08 ID:eaLkLVGc0
「何って…あたしはたまちゃんを助けようとしただけだぞ? 現に、たまちゃんは頭から血を流し、倒れていたじゃあないか?」
しかし麻亜子は別段焦った様子も無くあっさりと言った。それどころか麻亜子は拳銃を構えて環に言い放った。
「さて、たまちゃんをいぢめたその他大勢の諸君には消えてもらおうではないか。たまちゃん、そこをどきなさい。このあたしがお掃除してあげよう」
環は絶句する。あろうことか、麻亜子はこのゲームに乗っていたというのだ。だとすれば、先程のは誤射でも何でもなく…本気だったというのか。
「な、何をしてるんですか! まーりゃん先輩!」
すぐ横にいた貴明が麻亜子の銃を押さえようとする。
「ぬわっ! 何をするったかりゃん! これはたかりゃんとさーりゃんとたまちゃんと…ええい、ともかく生徒会の諸君のためなのだぞっ」
まるで子供のように銃の取り合いをする二人を、祐一が怒りに満ちた声で環に言う。
「向坂…決まったな、誤射でも何でもない、あいつらは殺人者だ。俺はやるぞ」
再びレミントンを構えようとする祐一を環は必死に説得する。
「待って! もう少しだけ…」
「うるさいっ! 神尾が死んじまったんだぞ! カタキを取って何が悪い…」
「う…」
聞こえてきた小さな声に二人が頭を返す。観鈴が小さく動いたのだ。
「神尾!」「神尾さん!?」
二人が駆け寄る。観鈴は二人の方を向き、苦痛に満ちた表情ながらも無理矢理笑って言った。
「にはは…う、撃たれちゃった」
「撃たれた、じゃないだろう! クソッ、傷は! 傷はどうなんだ!」
乱暴に体を揺らす祐一を、もう一つの手が止める。先程まで呆然としていた英二だった。何かがふっきれたように冷静になっていた。
「…乱暴に動かすな、少年。焦ってもいいことは無い」
英二は「失礼」と言って観鈴の出血箇所を調べる。どうやら、肺などの主要器官には命中していないようだったが脇腹を貫通している。重症には違いなかった。
「くっ…これは…医者でもいないと…放っておいたら致命傷になりかねん」
「医者って…んなもんがこの島にいるわけないだろっ!」
228敵、新たなり:2006/11/21(火) 07:31:48 ID:eaLkLVGc0
祐一が叫ぶのを、観鈴が「そんなことないよ…」と弱々しく言う。
「霧島…霧島聖、っていうお医者さんが…いるの」
「霧島? どういう人なの!」
「えっと…髪の長くて…つっ!!」
痛みに苦しむ観鈴を、英二が落ちつかせる。
「分かった。もう喋らなくていい。僕達がその先生のところまで連れていこう。いいな、少年、向坂さん」
二人が反論するはずもない。英二が観鈴を背負って出ようとしたところに、貴明との乱闘から抜け出したらしい麻亜子が立ちはだかる。
「おおっと、そうはいかんね。あたしにも使命というものがあるのだよ」
拳銃とナイフをかざし、戦闘態勢をとろうとした…が。
「いい加減にして下さい! その人達を殺して何になるっていうんですか!」
アメフトよろしく麻亜子にタックルを仕掛ける貴明。「うおあっ!?」という声と共に二人が職員室の床を転がる。
「ええい、いい加減にしないと死なない程度に懲らしめるぞったかりゃん!」
麻亜子からの強烈なストレートを顔面に受けながらも貴明は叫ぶ。
「タマ姉! 俺がまーりゃん先輩を足止めするからその人達と行ってくれ!」
「タカ坊!? でも…」
「大丈夫。まーりゃん先輩は俺を殺せないようだから、何とかなる! たまには俺にもカッコつけさせてくれよ、タマ姉!」
貴明はそう言うと上手く体勢を変えて麻亜子に対してマウントを取る。
「ぬうっ! ぼ、暴力反対だぞっ!」
「あなたが言えることですか!」
格闘戦になっている二人を横目に見ながら祐一が環に言った。
「よし、今なら行けるはずだ。あの子はまだ何もしてないようだからな」
未だに立ち尽くしているマナを指差して英二と共に走り出す祐一。しかし環は走らなかった。
「おい、向坂!?」
「…ごめん、やっぱタカ坊を放ってはおけない! 先に行って…」
環が走り出そうとしたところに、小さい影が立ちはだかる。さっきまで呆然としていた観月マナだった。
229敵、新たなり:2006/11/21(火) 07:32:23 ID:eaLkLVGc0
「行って。あなたの代わりにあの人は私が何とかする」
「でも、相手は銃を持って…」
「あなたも持ってないでしょ? 私は持ってる。大丈夫、どっちを止めるべきか、なんて分かってるから。どっちが敵なのか今まで分からなかったけど…今のあのタカ坊、ってひとの言葉で決めた。行って。絶対に止めてみせるから」
決意に満ちた声。環はそれに押されるようにして背を向けた。
「ごめん! タカ坊! 私も死なないから…タカ坊もまだ死なないでよ!」
「当たり前だろっ、タマ姉やこのみを残して死ねるかっての…がっ!」
「ふふん、余所見は禁物だぞ〜、たかりゃん」
一瞬の隙をついた麻亜子が貴明を蹴り飛ばし、英二達を追おうとした時。
「余所見は…どっちよっ!」
伝家の宝刀、スネ蹴りが麻亜子に突き刺さる。
「いっ……………………………たぁ〜〜〜〜〜っ!!! おのれぇ、チビ助がっ」
「誰が…チビよっ!」
二度目の蹴り。今度は麻亜子がかわし、鉄扇で思いきり引っぱたく。マナの足から血が噴出する。
「きゃあっ! …痛いじゃないのよっ! …くうっ」
「痛いのはお互い様。今度は痛いだけじゃ済まんぞぉ」
貴明とマナの二人を相手にしてもなお怯まない麻亜子。
「ふふん、修羅の底力、見せてやろうではないかっ!」
230敵、新たなり:2006/11/21(火) 07:32:55 ID:eaLkLVGc0
向坂環
 【所持品:支給品一式】
 【状態:平静を取り戻す。聖を探して脱出】
緒方英二
 【持ち物:ベレッタM92・予備の弾丸・支給品一式】
 【状態:平静を取り戻す。聖を探して脱出】
相沢祐一
 【持ち物:レミントン(M700)装弾数(5/5)・予備弾丸(15/15)支給品一式】
 【状態:体のあちこちに痛みはあるものの行動に大きな支障なし、聖を探して脱出】
神尾観鈴
 【持ち物:ワルサーP5(8/8)フラッシュメモリ、支給品一式】
 【状態:脇腹を撃たれ重症、英二に担がれている】
河野貴明
 【所持品:Remington M870(残弾数4/4)、予備弾×24、ほか支給品一式】
 【状態:麻亜子の足止めをする。殺しはしない】

231名無しさんだよもん:2006/11/21(火) 07:37:41 ID:QW72Lo2uO
自回避
232名無しさんだよもん:2006/11/21(火) 07:40:49 ID:QW72Lo2uO
自回避2
233敵、新たなり:2006/11/21(火) 07:52:53 ID:eaLkLVGc0
観月マナ
 【所持品:ワルサー P38・支給品一式】
 【状態:足にやや深い切り傷。麻亜子の足止めをする。殺しはしない】
朝霧麻亜子
 【所持品1:SIG(P232)残弾数(3/7)・ボウガン・バタフライナイフ・投げナイフ】
 【所持品2:仕込み鉄扇・制服・ささらサイズのスクール水着・支給品一式】
 【状態:貴明とささらと生徒会メンバー以外の参加者の排除。スネが痛い】
 【備考1:スク水を着衣、浴衣は汚物まみれの為更衣室に放置】
 【備考2:制服はバックの中へ】

【時間:2日目午前1:50】
【場所:D-06鎌石中学校職員室】
【備考:由依の荷物(下記参照)と芽衣の荷物は職員室内に置きっぱなし】
   (鎌石中学校制服(リトルバスターズの西園美魚風)
    カメラ付き携帯電話(バッテリー十分、全施設の番号登録済み)
    荷物一式、破けた由依の制服

【備考2:B−10ルート】
234姉妹愛〜神性なる神の願い〜:2006/11/21(火) 18:43:53 ID:NFbDsHPA0
            ──────ちょっと前の話──────

 新たなるイケメン宇宙を創造し、
性欲の果てに合体を果たした椋とことみは、再び沖木島に降り立った。

「さあイケメンを探しに行きましょう。
もちろん精子……もとい生死は問わねぇぜ!」
「この島には相沢祐一という物凄いイケメンがいるの。
髪の色は銀で、目の色は紫なの。背中に6枚の銀色の羽が生えてるの。
物凄くかっこいい技や魔法を使うの」
「それはぜひともセックスしたいですね」
「祐一くんはとっても強いの。このまま向かっても、きっと返り討ちにされるの」
「そう言えば、ことみちゃんは便利な薬を持ってましたね。
これを使いましょうか?」
「それはいいアイデアなの。さっそく書き手薬を使うの」
そしてことみは、祐一とセックスするべく書き手薬を一錠飲んだ。

 性神の前に、6枚の羽を広げて優雅に佇む美少年のヴィジョンが映し出される。
この世のものとは思えない美しさを誇るその銀髪。
全てを魅了する吸い込まれそうな紫の瞳。

「な! なんというイケメン!!!! ああ、早くセックスしたい!!!!」

相沢祐一は性神の前にワープして
相沢祐一は性神の前にワープして神々しく光輝くその鎧を華麗に脱ぎ
相沢祐一は性神の前にワープして神々しく光輝くその鎧を華麗に脱ぎその艶かしい裸体を性神に……
235姉妹愛〜神性なる神の願い〜:2006/11/21(火) 18:44:43 ID:NFbDsHPA0
「て、手が……動かないの!」
「な、何故!?」
その薬は短時間の間に限り、使用者の望む展開を書くことが出来るはずだった。
至高の快楽を味わえるであろう世界一のイケメン・祐一との性交は、あと少しで叶うはず。

相沢祐一は性神の前にワープして神々しく光輝くその鎧を華麗に脱ぎその艶かしい裸体を性神にさらして……

「こ……これ以上は無理なの!」
「どういうことですか!?」

 うろたえる性神の目に、一冊の本が映る。
「この本は!?」


         宝具・滅神正典(ゴッドイズデッド)

───────それはあらゆる神性を無効化する。性神の力も、そして神(書き手)の視点すらも。

「なんて本なの!?」
「やっかいな物を持っていますね」
究極のイケメン相沢祐一、このまま逃すことはセックスの神として許されない。
しかしこのままでは祐一とセックスすることが出来ない!

「仕方ありませんね。お楽しみは最後にとっておきましょう。
他にもセックスするべきイケメンは沢山いるみたいですし」
「たくさんイケメンセックスして、祐一くんに対抗できるぐらいの力を手に入れるの」
「おや? あそこにいるのはお姉ちゃんじゃないですか。
いいことを思いつきましたよ」

            ───────────────────
236姉妹愛〜神性なる神の願い〜:2006/11/21(火) 18:45:16 ID:NFbDsHPA0
「というわけで、杏ちゃんも一緒にいきましょうなの」
「どういうわけなのかさっぱりわからないわよ……」
「お姉ちゃんは本当に物わかりが悪いですねえ」
「椋には言われたくないわ」
藤林杏は、とりあえず椋とことみだったらしい物体の説明を聞き終えた。
ぶっとんだ話でわけがわからなかったが、どうやらことみは椋にたぶらかされたらしい。
「椋はともかく、ことみまで性欲に溺れちゃうなんて……」
杏は心底呆れていた。あまりの展開に、朋也の後に椋やことみも殺す気だったことは忘れている。

「性欲を馬鹿にしてはいけないの。性欲がなかったら生物は皆絶滅するの。
性欲は生理的欲求、つまり食欲、睡眠欲と並ぶ人間の基本的な欲求の一つなの。
生理的欲求はマズローの欲求段階説で最も低次の欲求として位置付けられていて、
人間はまずこの欲求が満たされることを望むものなの。
だからもっとセックスするの」
「その通りですよ。セックスに勝る快楽など存在しません!
お姉ちゃんはもっとセックスの素晴らしさを理解するべきです。
いいですかお姉ちゃん。相沢祐一、私は彼を超えるイケメンなど見たことがないです。
きっと今後も現れないことでしょう。
彼とセックスしなければ、私は死んでも死にきれません!」

 力説する椋とことみを、杏は冷めた目で見つめる。
「あたしは朋也一筋! たとえ裏切られても、他の男なんて御免よ。
その祐一とやらがどれだけかっこいいか知らないけど、あたしは興味ないわ」
「まだそんなこと言ってるんですか。
朋也くんはお姉ちゃんなんて眼中になかったこと、思い知ったはずなのに」
「『いや、待て。俺たちは普通に友達の関係じゃなかったか?』なの」
「なんですって!」
237姉妹愛〜神性なる神の願い〜:2006/11/21(火) 18:46:03 ID:NFbDsHPA0
 二人の言葉により、杏に殺意が甦った。
「そう言えば……椋も朋也とヤったとか言ってたわね!?」
「私、朋也くんと寝たの」
「椋ちゃんが言っても似合わないの」
「ふふふふふ……ええ、姉妹だもの。
椋が朋也みたいなイケメンを放っておかないことぐらいよくわかってるわよ。
でも……でも椋だって、あたしの気持ちぐらいわかってたはずよ!」

「はい、もちろん知ってましたよ。
ともやくんのために しょじょをまもる そのすがたは
わたしさえも かんどうさせるものがありました
わたしは このかんどうを あたえてくれた おねえちゃんに おれいがしたい
しんの かいらくというものを おしえてあげましょう」
椋は杏を小馬鹿にするような口調でそう言った。杏の瞳に怒りが宿る。
「こ、殺してやる!」
「元から殺す気だったくせに」
「放送を聞いて自棄になっていたときとは違うわ。
もうあなたを妹だなんて思わない!
苦しんで、苦しみぬいて死ぬがいいわっ!!」

「せいしんに ケンカをうるとは…… どこまでも たのしいきょうちゃんなの」
「どうしても ヤるつもりですね これもしょじょのサガか……
よろしい せいよくのとりことなるまえに せいしんのちから とくと めに やきつけておけ」
椋とことみは棒読みでそう言った。

「ば……馬鹿にしやがってーー!!」
杏は素早く包丁を拾うと、それを構えて性神に襲い掛かる。
しかし性神は上空に浮かび上がり、軽くその攻撃をかわした。
238姉妹愛〜神性なる神の願い〜:2006/11/21(火) 18:47:00 ID:NFbDsHPA0
「いきなさい! トモヤ!」
椋から伸びていた触手の一本が、するりと抜け落ち杏へ向かって這っていく。
「朋也? な、何これ!?」
そしてイケメン触手トモヤは、蛇のように杏に絡みついた。
杏は触手に縛り上げられ身動きが取れない。

「こんなイケメンに向かって、『何これ!?』はないんじゃないですか?」
「杏ちゃんみたいな未熟者に、触手のイケメン度を計るなんて無理なの」
「そうでしたね。所詮バイブとイノシシでオナニーしてるだけのお姉ちゃんに、
触手プレイの快楽などわからないのでしょう」
「あ、あたしは朋也への愛のために生きてるの!
性欲だけで生きてるあんたたちみたいな淫乱ヤリマンとは違う!」
「そう言ってられるのも今のうちですよ」
「愛はセックスを彩る一つの感情に過ぎないの。
セックスの本質は快楽の追求にあるの。杏ちゃんは何もわかっていないの」

 トモヤは杏の毛穴から皮膚の下に潜りこんでいく。
「きゃ! いや! やめて!」
「その子はイケメンの体内に寄生するんです。
どうやらお姉ちゃんは、その子に認められたみたいですね。
よかったじゃないですか。トモヤくんと一つになれて」
杏は椋を睨み付ける。そこにある顔を、悪魔みたいだと杏は思った。

「あ、あたしをどうする気?」
「言ったでしょう? 真の快楽を教えてあげるって。
私はお姉ちゃんに、イケメンセックスの素晴らしさを理解して欲しいだけです」
その瞬間、杏の全身を毛虫が這いずり回るような感覚が襲った。
「くぁ! いやっ! 気持ち悪いっ! ぐはぁ!」
「わかってないですねえ」
239姉妹愛〜神性なる神の願い〜:2006/11/21(火) 18:52:57 ID:NFbDsHPA0
 そして杏の背中からごつごつとした触手が生えた。
それが動く感覚に杏は身震いする。
「うあーっ! 何なのよこれ! いやーっ!」

「生身のお姉ちゃんでは私たちとのセックスに耐えられませんからね」
「杏ちゃん処女喪失の瞬間なの」
トモヤは杏の処女膜を突き破らんと、杏のヴァギナへ向かっていく。
「そうは……させないっ!」
杏の股間からは、既に大量の愛液が流れ出ている。
しかしトモヤがその割れ目に入り込もうとしたとき、
そこはピッチリと閉まって触手の侵入を食い止めた。

「あら?」
「あたしの処女は……朋也の……もの……なんだから」
杏はさらに膣に力を込める。
トモヤはそこを開こうと愛撫を繰り返すが、全く開く気配はない。

「仕方ないですね」
「私たち自らがヤってあげるの」
必死で触手の侵攻をガードする杏の前に、セックスの神が舞い降りる。

「これでも咥えてろなの」
ことみはそう言うと、手に持った性剣を杏の口に差し入れた。
「んっ! ……っ!」
口に入ったその剣は、それ自体が意思を持っているかのように激しく振動する。
その太さゆえに、杏はもう声を上げることが出来ない。
だが彼女は、それでも膣の力だけは緩めなかった。
「往生際が悪いですね。本能に身を任せれば、とても気持ちよくなれるというのに」
しかし椋は、姉の最後の抵抗を愉しんでいるようだ。
240姉妹愛〜神性なる神の願い〜:2006/11/21(火) 18:54:05 ID:NFbDsHPA0
「杏ちゃんの処女、いただきなの」
そしてことみは、膣以外既に力が入っていない杏を押し倒した。
杏の口から剣を引き抜く。その先からは白濁液が零れ落ち、杏の顔に降り注いだ。
「げほっ! げほっ! いや! こんなの飲みたく……ないのに!」
大量に放出されたその液体は、既に杏の胃を埋め尽くしている。
(汚された……こんな……よくわからない……モノに……)

 強いショックを受けながらも、杏は処女だけは死守しようとする。
しかし次に目にしたものは、彼女の想像を遥かに超えていた。
「うそよ……そんなの……入るわけない……」

 ことみの股間にそそり立つそれは、太さ20センチを優に超えている。
びくびくと震え、多数の血管が浮き出たことみのペニスから先走りの汁が噴出した。
「あつっ!」
それは杏の足にかかると、ジューと音をたててそこを溶かしていく。
「ぎゃー!」
「ことみちゃん特性の硫酸精液なの」
「膣が焼けるように溶けていく感覚が堪らないわよね」
「そんなの……死んじゃうわよ……」
杏の目から涙が零れ落ちる。
「大丈夫よ。トモヤくんが守ってくれるわ」
ことみは無慈悲にもその極太肉棒を杏に突き立てた。
神の力が、その鉄壁の守りを突き崩す。
ぷつんという音とともに、破瓜の血が流れ落ちる。
「いやーーーー!!!!」
杏の絶叫が大地を揺らした。

241姉妹愛〜神性なる神の願い〜:2006/11/21(火) 18:54:56 ID:NFbDsHPA0
「うぅ……あたしは一体?」
「お姉ちゃん、目を覚ましましたか?」
杏はあたりを見回した。自分は裸で、球状の物体から突き出しているらしい。
「さあ、次なるイケメンを探しにいきましょう」
「そうね……あたしが間違っていたわ、椋」
「イケメンはみんな家族なの」
「私たち、イケメンセックス大家族です」



 一ノ瀬ことみ・藤林椋・藤林杏 融合体
 【時間:2日目午前1時ごろ】
 【場所:E−05】
 【持ち物:書き手薬×2、性なる剣、性なる鎧、ベレッタM92、包丁、イケメン触手キョウ、イケメン触手トモヤ、支給品一式×3】
 【状況:性神(The God of Sex)】

→436, ルートD−2
242Carnivorous Negroid:2006/11/21(火) 21:57:34 ID:nJ6dU19p0

夜も更けた平瀬村の民家、その一室。
窓の外ではしとしとと雨が降っている。

「……というわけなんだけど、わかった?」
「う〜ん……」

相楽美佐枝の説明に腕を組んで首を傾げた少女は長岡志保。

「気を失ってるあたしが変態野郎にレイプされそうになってて」
「そうそう」
「んで、それを助けてくれようとした美佐枝さんが返り討ちに遭いそうになったところに、
 パン屋の親父がレーザー銃持って現れて」
「うんうん」
「どうにか助かったけど、また襲われちゃたまんないから、とりあえずこの家にあたしを運び込んで
 介抱してくれてた……って?」
「よくできました」

頷く美佐枝。
そんな美佐枝に頷きを返すと、志保が神妙な面持ちで口を開く。

「美佐枝さんだっけ、……頭、大丈夫? ……って痛ぁっ!」
「ん?」
「いや、怖いから笑顔で殴んないでよ……」

涙目で頭を抱える志保。
そんな志保を見やって、美佐枝は大きな溜息をつく。

「はぁ……言ってるあたしだってワケわかんないんだからね……。
 幸村先生や坂上さんは亡くなったっていうし、一体何がどうなっちゃってるんだか……」
「え!? 何それ、誰が死んだとか、どうして知ってるの!?」
243Carnivorous Negroid:2006/11/21(火) 21:58:39 ID:nJ6dU19p0
美佐枝の言葉に、志保が食いつく。

「ああ、あんたが寝てる間に放送が流れたのよ、それで」
「うっそ、あかりは? 雅史は? ついでにヒロのバカは? 無事なんでしょうね!?」

美佐枝に詰め寄る志保。
そんな志保をうんざりした目で見ながら、美佐枝はすげなく答える。

「そんなの知らないわよ、あんたの世話もしなくちゃいけなかったし」
「んな、無責任なっ! だいたいあたしが起きたときには、美佐枝さん寝てたじゃない!
 しかも食卓に空になった食器置きっぱなしにしたままで! ……って痛ぁ!?」
「ちょっと黙んないと、ぶつわよ?」

笑顔で言う美佐枝。

「殴ってから言わないでよ……」
「とにかくね、あたしゃあんたの友達の事なんか聞いてないし、覚えてもいない」
「そんなあ……」
「……それより、あんた」
「な、何よ、急に真剣な顔しちゃって……」

美佐枝の鋭い視線に、志保がたじろぐ。

「あんた、気を失う前に鬼を見た、……って言ってたね」
「へ? ……う、う〜ん……見た……ような気はするんだけど、よく覚えてないのよね……。
 今思えば、夢だったのかもしれないなあ、なんて……」
「それってさ」
「何よ……?」

美佐枝が、指を突きつける。

「―――ああいうの?」
244Carnivorous Negroid:2006/11/21(火) 21:59:49 ID:nJ6dU19p0
美佐枝の指が示していたのは、志保の背後。
窓ガラスの向こう側だった。

「へ……?」

振り返った志保の視界に、涎を垂らしながら屋内を窺う、獣の顔があった。

「ひ……ひゃああああ!?」

悲鳴を上げて立ち上がる志保の襟首を、後ろから掴んで引き寄せる美佐枝。
ほとんど同時に、獣が窓ガラスを割って飛び込んできた。
破片が飛び散り、屋内に落ちて硬い音を立てる。
それを踏みしだくように降り立つ獣。

「GRRRR―――!」

全身を覆う焦茶色の剛毛に入った、黒の縞模様。
鋭く太い牙を剥いたその頭部は、在阪球団のトレードマークにもなっている、見紛う事なき肉食獣。

「と、虎ぁ……!?」
「いや……」

だが、その獣は図鑑に載っているそれとは、些か様相を異にしていた。

「ってか、お、狼男ぉ!?」
「この場合、虎男だろ……」

威嚇するように広げられた、前脚ならぬ二本の手。
二本足で直立している下半身には、ご丁寧にズボンまで履いていた。

「ど、どっちでもいいけど、どうすんのよ美佐枝さん!?」
「白炎……? いや何か黒っぽいし、どっちかってーと黒炎王か……」
245Carnivorous Negroid:2006/11/21(火) 22:00:29 ID:nJ6dU19p0
ぶつぶつと何事か呟いている美佐枝。

「GUOOOOOOOOO!!」

獣が吼えた。
その咆哮に、思わず身を竦める志保。

「って、んなこと考えてる場合じゃないか……! 逃げるよ!」

慌てて駆け出そうとする美佐枝と志保。
しかし、

「……きゃっ!?」
「くっ……出口が……!」

恐るべき俊敏さで先回りした虎男が、扉の前に立ち塞がっていた。

「こいつ……無駄に知恵が回るな……!」
「ど、どうしよう、美佐枝さん……」

虎男の口元からダラダラと垂れる涎に、負の想像力が否が応でも掻き立てられる。

「志保ちゃん、異郷の地に野獣の餌と散る……なんてイヤぁー!」
「そこ、不吉なこと言わない!」

とは言うものの、美佐枝にもこの絶体絶命の窮地を逃れる術など思いつかない。

「WOOOOOOOOO!!」

一声、獣が跳ぶ。
そのしなやかな筋肉による跳躍は、人間のそれを遥かに超えた速度。
鋭い爪が、二人に迫る。
246名無しさんだよもん:2006/11/21(火) 22:01:22 ID:bhfUDpai0
回避
247Carnivorous Negroid:2006/11/21(火) 22:02:16 ID:nJ6dU19p0
「く……!」
「美佐枝さん……っ!」

咄嗟の判断。志保を庇うように、美佐枝が前に出る。
思わず目をつぶる志保。

「いや……美佐枝さん……美佐枝さぁーんっ!!」

志保の絶叫が狭い室内に響きわたる。
が、次の音は、思わぬ方向から聞こえてきた。
重量のある何かが、勢いよく壁にぶつかったような音。

「へ……?」

おそるおそる目を開ける志保。
志保が見たのは、壁に叩きつけられた虎男と、

「み……美佐枝……さん?」

それに跳びかかっていく美佐枝の姿だった。
首を振りふり立ち上がろうとする虎男の腰に、鋭いタックルを決める美佐枝。

「ぐ、グラウンドに持ち込もうというのかー!?」

思わず解説口調になる志保。
倒れこんだ虎男の、茶色の剛毛に覆われた両の足を掴むや捻り上げ、複雑な形に組み上げる。

「こ、これはぁー! タイガーの足を極めようというのかぁーっ!」
「GUOOOOOOOO!!」

関節から響く激痛に、虎男が唸る。
だが美佐枝はさらに、虎男の腕を逆手に掴み、関節の稼動範囲とは逆に捻った。
248名無しさんだよもん:2006/11/21(火) 22:03:53 ID:NFbDsHPA0
回避
249Carnivorous Negroid:2006/11/21(火) 22:04:08 ID:nJ6dU19p0
「チキンウイング……いや、これは……足のロックに腕を組み入れようという動きなのかぁ!?
 おぉーっと、タイガー動けない、これは苦しい、完全に四肢を封じられたぁー!」
「GYAAAAOOOO!!!」
「さあ、このままタイガーをうつ伏せにして足首を極めるのか!
 そうなればパラダイスロックの完成だぁーっ!!」

しかし、美佐枝は転がった虎男を一瞥する。

「これはどうしたことか、一向に極めにいこうとしていませんが……?
 いや……こ、これは、ま、まさかーっ!?」

虎男を見下ろしたまま、美佐枝はその口の端に冷笑を浮かべる。
そして、

「こ、こ、腰掛けたぁーっ!!」

仰向けに転がされた虎男の、その無防備な腹の上で優雅に足を組む美佐枝。
軽く頬杖などついて微笑んでみせる。

「ティ……ティーチャーズ・ペットなのかーっ!?
 伝説の女教師、殺戮の島に降臨!!
 タイガー、屈辱の椅子責めだぁーっ!!」
「CUUUUUN……!」

微笑んだまま、美佐枝が初めて口を開く。

「終わりよ」

涼しげな言葉と同時。
尻に敷かれたままでいる虎男の、極められた四肢の関節から異様な音が響いた。

「GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!」
250Carnivorous Negroid:2006/11/21(火) 22:05:06 ID:nJ6dU19p0
「く、砕かれたぁーっ!!
 動けない、全身の骨を砕かれたタイガー、ピクリとも動けないーっ!!
 今高らかにゴングが鳴り響きます! 美佐枝さん、完全勝利ぃーっ!!」

あくまでも優雅に立ち上がり、片手を挙げながら四方に軽く礼を送る美佐枝。
その姿は、まさしく勝ち名乗りを受ける女王のそれであった。

「すごい、すごいよ美佐枝さん……!」

駆け寄る志保。
しかし、当の美佐枝は、なにやら呆然と倒れた虎男を見下ろしている。

「あ……あたし、いま何を……?」
「へ? 何言ってんの美佐枝さん、カッコよくこの虎をやっつけてくれたじゃない!
 いやー、あたしもびっくりしたわよ! こんな強いなら早く言ってくれればいいのに、このこのー」

小突かれながら、美佐枝は己が手を見つめていた。

「……まさか……ドリー夢……?
 そんな……もうあたしは足を洗ったはずなのに、どうして……」

呟く美佐枝をよそに、志保は倒れ伏す虎男の死体を検分している。

「ねえねえ美佐枝さん、虎って食べられんのかな?
 鍋とかにしたら美味しそうじゃない? 珍味って感じで」

哀れな犠牲者、かつてエディと呼ばれていたそれは、いまや食材として吟味されていた。
そして雨に濡れたその毛皮には、包丁の刃を防ぐ力すらも残ってはいなかったのである。
251Carnivorous Negroid:2006/11/21(火) 22:05:59 ID:nJ6dU19p0
 【時間:2日目午前3時過ぎ】
 【場所:F−2 平瀬村民家】

相楽美佐枝
【持ち物:ガダルカナル探知機、支給品一式】
【状況:呆然】

長岡志保
【持ち物:不明】
【状態:空腹】

エディ
【状態:ムティカパ症候群L5、死亡】
→226d2 388 434 ルートD-2

>>246,248 ありがとう〜。
252やっとこさ脱出(1/4):2006/11/22(水) 00:08:42 ID:OhBk1I3r0
「さて、で。これからどうするかだが・・・」
「どうもこうもねぇだろ、降ーろーせっ!クソチビ戻ってこーい!!」

国崎往人と高槻は、ただただ時間を食い潰すしかなかった。
ブラーンと間抜けな醜態をさらし続け早十分。
頭に血が上ってしまうので適度に揺れてみたりするが、事態が良い方向に転がりそうな気配はない。

「ぴっこり」
「そうだポテトよ、俺様を助けろ!」
「ぴこ〜・・・」

無茶言うな、という眼差しが返ってくる。ガックリ。

「・・・ん、待てよ」
「どうした、何かいい考えでもあるか?!」
「いや、ちょっと失礼・・・よっと」

横に勢いをつけ、そのまま高槻の腰に往人はガバっと抱きついた。

「ギャー!俺様にその趣味はない、離せ離せ離せっ」
「ちょっと落ち着けって・・・よいしょ」

そのまま這う様にして、往人は高槻ごとロープを登っていった。

「ぐぁ、いて、いてて!足蹴にすんな、コラッ」
「うるせえな・・・よっと」
「ああ?」

高槻の視線の先には、木の枝に跨る往人の姿が映っていた。
つまり、彼がしたことはというと。
253やっとこさ脱出(2/4):2006/11/22(水) 00:09:27 ID:OhBk1I3r0
「ふむ。括られたロープが思ったよりも長かったようだな。
 もう少し短かったら、俺の股関節様が脱臼する所だった」

そういって固結びされた縄を解く往人の姿は、正に救世主。

「よくやった!は、早く俺も助け・・・」

高槻が叫ぶ。
ノイズの走った放送が響いたのは、ほぼ同時であった・・・。




(さすがにあの連中が、こんな早くくたばる訳はないか)
放送には、高槻の見知った名前は一つも上げられなかった。
特に何とも思わない連中ばかりだが、それでも安心のようなものはする。
・・・一方、往人の表情は固かった。

「悪い、俺急ぐわ」
「何だ、今の放送に知り合いでもいたのか?」
「・・・・・」
「・・・図星か」

今はもう地上に戻っていた往人の様子は、明らかに焦りを含んでいる。
無言で荷物をまとめだした彼の背中を、高槻は黙って見送・・・

「いや待ておい、俺様を助けてはくれないのか」
「悪い、時間を無駄にしたくない」
「ちょ、おまっ!そんな理由で・・・」
「ポテト、お前が何とかしてろ」
「・・・ぴっこり」
254やっとこさ脱出(3/4):2006/11/22(水) 00:10:24 ID:OhBk1I3r0
往人の離脱は早かった、残されたのは高槻と・・・ポテト。
乗りかかった船というやつだろう。気絶していた拓也を担ぎなおす律儀な往人の背中を見送りながら、高槻は溜息をついた。
・・・それなら俺だって降ろしてくれてもいいじゃないか。そんなむさしさでいっぱいである。
何て非情なヤツだとイライラしてきた時・・・高槻は、ポテトの様子がおかしいことに気がついた。

「どうした、ポテト」
「・・・」

返事がかえってこない。その項垂れた様子で、さすがの間の読めない男もポテトの心情に気がついた。

「そうか、腹が減ったか・・・俺が降りられたら何か食わせてやるからな」
「・・・」

だが、その食料も往人によって持ち出されているのを知るのは、また後のことである。






拓也を抱えているので速度は遅いが、往人は着実にあの場所から離れていた。
が。やはりマナのテリトリーだけあって、罠に対しては警戒していかないといけない。

「・・・そこ、落とし穴あるわよ」

聞き覚えのある少女の声、顔を動かし周囲を見やると・・・小さく体育座りをする観月マナが目に入る。

「何だ、脱走の罪は問わないのか」
「いいのよ、もう。・・・どうでも」
255やっとこさ脱出(4/4):2006/11/22(水) 00:11:05 ID:OhBk1I3r0
やさぐれているというより、諦めにも似たその様子。
・・・思うところは同じなのだろう。

「放送か」
「まあね。大事なお姉ちゃんが死んだわ」
「そうか・・・」

会話終了。
往人自身、今は他者と和気藹々に話を弾ませる気には到底なれなかった。

「気が向いたら、吊られてるあいつも助けてやってくれ。俺は先を行く」
「そう・・・考えとくわ」

マナは最後まで、往人と目を合わせることはなかった。
往人も気にせず歩き出す。
まだ一日目、まだ一回目の放送。
・・・次の日を考えるだけで、憂鬱になりそうだった。
256補足:2006/11/22(水) 00:12:10 ID:OhBk1I3r0
国崎往人
【時間:1日目午後6時30分】
【場所:F−7(西)】
【所持品:トカレフ TT30の弾倉(×2)ラーメンセット(レトルト)化粧品ポーチ 支給品一式(食料のみ二人分)】
【状態:先を急ぐ】

月島拓也
【時間:1日目午後6時30分】
【場所:F−7(西)】
【所持品:支給品一式(往人持ち)】
【状態:気絶中】

観月マナ
【時間:1日目午後6時30分】
【場所:F−7(西)】
【所持品:ワルサー P38・支給品一式】
【状態:消沈】

高槻
【時間:1日目午後6時30分】
【場所:F−7(西)】
【所持品:無し】
【状態:宙吊り】

備考:高槻の食料以外の支給品一式は傍に放置

(関連・176)(B−4ルート)
この後288に繋げたいので、B−4に288・414を入れてください。
257激突! 淫獣 vs 性神!!:2006/11/22(水) 02:55:05 ID:OgpqVu8y0

藤林杏が性神に呑み込まれていく様を、遥か天空の高みから見下ろしている視線があった。
巨大化したピンクのステッキに腰掛けた、フリルたっぷりの白衣姿。
キリシマ博士(腐女子形態)である。

「性神……だと!? バカな……まだ早すぎる……!
 預言の時までは、まだいくらかの間があったはずだ……!」

その装いとは裏腹に、視線は険しい。

「まずいな……このままでは、この世界そのものが……ん?」

視線の先には、一人の男。

「―――ヤラセロォォォ!!」

否、一匹の淫獣がいた。
かつて岡崎朋也と呼ばれていたその淫獣は、夜の森を真っ直ぐに南下している。

「あの方向は……」

キリシマの見つめる先。
闇に沈む森の中で、二大淫魔が相まみえようとしていた。

258激突! 淫獣 vs 性神!!:2006/11/22(水) 02:55:59 ID:OgpqVu8y0

「ハァ……ハァ……クク……女……女の匂いだァ……ッ!」

がばぁ、と茂みから飛び出した朋也を待っていたのは、言わずと知れた性神融合体である。

「朋也くんお久しぶりです、相変わらずいいモノ持ってますね」
「こんばんは、なの」
「と……朋也……!」

三者三様の反応を、朋也は気にした風もない。
ただそのぶよぶよとした球状の塊を見て、興奮に身を焦がしている。

「クク……ハァーッハハハ!! 素晴らしい、素晴らしいぞお前たち!
 俺のために大股開きで待っていてくれるとはなぁ!!」

どうやら朋也の目には、三人の裸しか映っていないらしい。
朋也のバベルの塔は無論発射オーライである。
先走り汁の代わりに精液がとめどなく漏れ出している辺り、王者の風格を感じさせる。

「と……朋也? どうしちゃったの、キャラが全然違ってるけど……」

杏が不安そうに口を開く。
つい先ほどまで殺そうとしていた相手ではあったが、それも愛ゆえの殺意であった。

「何言ってるのお姉ちゃん。朋也くんは昔からこんな感じでしたよ」
「そうなの。昼の顔しか知らない杏ちゃんにはわからないだけなの」
「な……!」

驚愕の真実に打ちのめされる杏。
259激突! 淫獣 vs 性神!!:2006/11/22(水) 02:56:43 ID:OgpqVu8y0
「私、全裸に首輪つけて公園の散歩させられたことありますよ。楽しかったなあ」
「夜の朋也くんは王様なの。お父さんを中絶代で破産させたくらいなの」
「嘘……嘘よ! 朋也はそんなロクデナシの絶倫野郎なんかじゃない!」
「―――テメエら、何をゴチャゴチャ言ってやがる! 今夜は誰から犯ってほしいんだ!?」

朋也の怒声にびくりと震える杏。
その目にはうっすらと涙が浮かんでいる。

「と、朋也があんな声出すの……聞いたことないよ……」
「まあ、今夜はちょっと機嫌が悪いみたいですね」
「どうせヤりそびれただけなの、ちょっと挿れさせてあげればすぐゴキゲンなの」
「あ……あんたたち、何言ってんのよ……おかしいんじゃないの!?」
「―――いい加減にしろテメエらぁッ!! 全員犯り殺してやるから動くんじゃねえぞッ!!」

痺れを切らした朋也が飛びかかってくるのを見て、椋とことみが目配せをしあう。

「え!? ……ちょ、ちょっと! いやああっ!!」

にゅるり、と球状の塊が蠢き、ゲル状の物体に包まれていた杏の身体が、夜気に晒される。
その四肢を触手に固定され、強制的にM字に開脚させられる杏。

「仰角よし」
「右、あと30センチなの」
「こんな感じ?」
「バッチリなの」
「え……やだ……やめてええ!!」

ホールインワン。
飛びかかってきた朋也のグングニルが、正確に杏の秘所を直撃していた。

「あ……ああ……!」
260激突! 淫獣 vs 性神!!:2006/11/22(水) 02:57:21 ID:OgpqVu8y0
「んん? 何だ杏、おまえそんなに俺とヤりたかったのかァ……?」
「いや……いや、やめて朋也……こんなの……!」

空中でキャッチされた格好の朋也が腕を組み、肉槍一本で己が身を支えながらニヤリと笑う。

「こんだけ濡らしといて言う台詞かよ……ッ!」
「いや……言わないで……!」
「処女ってわけでもねえみたいだしなァ……!」
「ゃ……いやぁ……」

がしりと杏の肩を掴み、腰のグラインドを開始する朋也。

「ひ……いやぁぁっ!」
「クク……どうだ、初めて味わう俺の息子は……?」
「やめて……朋也……こんなの……いやぁ……」
「何だァ? 夜は貴方の奴隷です、ってタイプだったのか、おまえ?
 ……クク、まぁそういうのも悪くないな……気に入った、ヤぁぁってやるぜ!!」
「ひ、ひがぁぁぁぁぁ!?」

朋也の腰が、その速度を増していく。
とどまる事を知らないその加速に、結合部から湯気が上がりはじめる。
杏の膣から溢れ出す愛液と、朋也が常時放ち続けている精液が摩擦熱によって蒸発しだしたのである。
立ち上るその湯気を見て、椋とことみが喝采を上げる。

「あ、朋也くんの昇り龍だ! 久しぶりに見たなあ……」
「風流なの」
「この香ばしい匂いをかいでるだけで、いくらでもご飯が入っちゃいそうなんですよね」
「椋ちゃんは下のお口でご飯を食べるから底なしなの」
「あはは、いくら私だってそんなの二日に一度くらいですよ、嫌だなあことみちゃんったら」
「流石なの、噂以上なの」

きゃっきゃと騒ぐ乙女たちの会話をよそに、杏は既に失神寸前である。
261名無しさんだよもん:2006/11/22(水) 02:59:25 ID:+947j2e/0
    /_ ‐- 、 ヽ  、ミ  レ- 、
  〈  ヽ \ j /ヽ∨∠_    ヽ    これが…
.   ヽ`ー三う ,ィ, ハ 'ニ, i |ヽ. i l   せい…いっぱい…の回避…
.     ト、ニ∠イ_:ヽ{ ::'''_:ノル'  i { 〉     です
     レ' : =;;三`テツy;ッzj' イ; } :}.{    >>257…さん
    l  j'  ::: : |「 ソ   ,ンノ ,〉   受け取って…
   ノ  {'   、_;;j' /__ (. ( r'     ください…
  ,.イー=ゝ、 fF==ァ′〜 )_ノ    伝わって………
  {、 ,.ヘ\{  ̄「/三ニ=('
  ヘミ \_> ` ー'rう'´ ー-、       ください……
    ヽ\=-‐''´ `ー-

262激突! 淫獣 vs 性神!!:2006/11/22(水) 03:00:56 ID:OgpqVu8y0
「ぁつぃ……あつぃよぉ……もぉ……やめてぇ……ともやぁ……」

ぽろぽろと涙をこぼしながら、杏が弱々しく呟く。
その子宮は既に朋也の精液で満たされ、真っ赤に腫れ上がった膣口からは、ぼたぼたと白濁液を落としている。

「あァ!? 奴隷がご主人様に口ごたえすんじゃねーよッ!
 それよりもっと腰振れ、眠てぇだろうがァ!!」

その腰の動きは既に、常人の目には留まらないレベルに達している。
腰椎が存在しているのかどうかも怪しいその変幻自在の動きに、杏はまったくついていけていない。
ことみの超絶肉棒によって拡張されたそのヴァギナから与えられる快楽は、脳の処理容量を遥かに超えていた。

「チッ……仕方ねえ、マグロにはマグロの扱い方ってもんがあるか!」
「あ、もしかしてアレを出すのかな」
「きっとそうなの」
「うわあ、レアですねえ……お姉ちゃん、かわいそうー」

妹たちの言葉は、既に杏の耳には届いていない。
ただ、ぎらぎらと輝きを放つ朋也の眼が更なる熱を帯びたことだけを、ぼんやりと認識している。
と、杏の肩をがっしりと掴んでいた朋也の手が、離れた。

「な……に……?」
「クク……おまえなんかには勿体無いが……よぉっく、味わえッ!!」

朋也の身体が重力に従って落下を始めた、その瞬間。

「が……か……ふっ……」

朋也の十本の指が、杏の首に食い込んでいた。
そのまま懸垂の要領で己の身体を持ち上げていく朋也。
ぎりぎりと音がするほどに、杏の首が締め上げられる。
呼吸を止めるどころか、頚骨を粉砕せんとする勢いであった。
263名無しさんだよもん:2006/11/22(水) 03:02:41 ID:+947j2e/0
回避
264激突! 淫獣 vs 性神!!:2006/11/22(水) 03:04:06 ID:OgpqVu8y0
「クク……い〜い締め付けだァ……!」

半ば意識を失い、だらりと垂れ下がる杏の身体。
その股を割り裂くように、朋也の腰が食い込んでいる。
両手で杏の首を持ち、空中に凛然と立つようなその姿。

「うわあ、ホントにヤりましたよ! すごいすごい! ことみちゃん、ちゃんと記録してる!?」
「ばっちりなの」
「王者の杓杖……人間であの体位ができるのは朋也くんくらいですね」
「希望の星なの」

大喝采である。

「ギャラリーには楽しんでもらえたようだぜ、杏ぉ……」
「か……ひ……」
「そろそろイクぜ……子宮に穴あけてでも全部飲めよ、溢したら殺すからなッ!」

朋也の豪柱が、杏の膣内で更にその容積を増す。
その内圧に杏の膣が何箇所かで裂けるが、既にその痛みすら杏には感じられていない。

「ククク……ハーッハッハッハ!!!」

哄笑しながら子汁を解き放つ朋也。
これまでの常時放出が噴水なら、絶頂時の射精は津波である。
膣の裂け目から漏れ出した白濁液が、瞬く間に杏の腹腔を埋め尽くしていく。
心臓を、肺を侵蝕した白濁液が、逆流する。

「綺麗だぜ、杏! ことみたちにも見せてやれッ!!」
「うわあ……お姉ちゃん、いいなあ……」
「すごいの……」

うっとりと見つめる椋とことみ。
265激突! 淫獣 vs 性神!!:2006/11/22(水) 03:04:49 ID:OgpqVu8y0
その視線の先には、目、耳、鼻、口……あらゆる穴から白濁液を噴き出す杏の艶姿があった。
同時に、ごきゅり、と音を立てて砕ける杏の頚骨。
朋也の全体重を支えかねたのである。

「何だァ? ……もう使い物にならなくなっちまったのかよ、つまらねえ」

生命活動を停止した杏の、己の子汁に塗れた死に顔を汚物でも見るような目で一瞥すると、
朋也は杏の中からずるりと聖剣を引き抜き、地面へと降り立った。

「つうか杏……おまえ、ガバマンな。ははっ」

笑いながら、言い放つ。
それが、朋也が杏にかけた最後の言葉であった。

「さて……次は、どっちが相手をしてくれるんだ?
 昔みたいに二人いっぺんでも、俺は全然構わないぜ……?」

言って、宙に浮かぶ球状の物体を見上げる朋也。
見下ろすかたちになる椋とことみは、楽しそうに言葉を交わしている。

「杏ちゃんが昇天しちゃったの」
「だらしないですね。ま、お姉ちゃん如きは神の器じゃなかったってことでしょう。
 首を折られたくらいでいちいち死んでたら、セックスなんてできないのに」
「さすがにビッグバンセックスの女は言うことが一味違うの」
「あら、褒めても何にも出ませんよ……ふふ」
「ところで、朋也くんはまだまだ元気いっぱいみたいなの」
「ふふ……順調に育ってくれてるみたいですね」
「収穫が楽しみなの」
「まあ、まだまだ青い果実……今日は、この子達に相手をしてもらいましょうか」

椋の身体から生える無数の触手が、鋭い槍のように朋也へと迫る。
266激突! 淫獣 vs 性神!!:2006/11/22(水) 03:05:28 ID:OgpqVu8y0
「……ッ!?」

下唇、首筋、左の乳首、臍の下、裏筋、肛門……正確に朋也の性感帯を狙って繰り出されたそれらは、
しかしそのすべてが、どこからともなく飛んできた星型の物体によって無残にも切り裂かれていた。
地に落ちるや、煙のように消えてなくなる触手の群れ。

「あら、残念」
「……よく見たら、変なのが憑いてるの。
 さすが朋也くん、獣姦と霊体セックスをいっぺんにこなせる性奴隷完備なの」
「……にしてもおかしいですね、あのくらいで消えちゃう子達じゃないはずなのに……」
「杏ちゃんなんていうお荷物でも、いなくなると構成が不安定になるの」
「最後まで面倒をかけますね、お姉ちゃんは……」

軽く眉を寄せ、溜息をつく椋。

「まあいいでしょう、今日のところは一旦退散するとしましょうか。
 元々、朋也くんの味見程度のつもりだったんですしね。
 ……勝平さんの熟成も見ておきたかったんですけど、死んじゃってるみたいですし」
「こんな末端の細胞一つじゃできることもたかが知れてるの。もっと贄を寄越すの……」
「ふふふ……そうですね、あの子には頑張ってもらわないと……」

言いながら、ゆらゆらとその姿を薄れさせていく性神。

「おい待て……! 俺の相手をしてくれるんじゃないのか……ッ!」
「またすぐにお相手してあげますよ」
「今度はもう少し楽しくなると思うの」
「だから、そのときまでにもっともっとイケメンになっててくださいね」
「また明日、なの」

そう言い残すと、椋とことみはその身体を包む球状の塊ごと、完全に消えてしまう。
後に残されたのは、切り離された杏の死体のみであった。
267激突! 淫獣 vs 性神!!:2006/11/22(水) 03:06:41 ID:OgpqVu8y0
「畜生、どいつもこいつも……! 戻って来い、牝どもがァーッ!!」

叫ぶ朋也の声は、またしても夜の森に吸い込まれていくのみであった。




そんな光景の一部始終を、キリシマは険しい表情で眺めていた。

「あれで……細胞の一つだと……?」

魔法の力を得て理性を失っているとはいえ、下半身無差別級世界王者の朋也のプレイを間近に見て
顔色一つ変えず子供扱いした、あの恐るべき性力。
常人であれば、その周辺にいるだけでよがり狂っても不思議ではない。
それが、末端細胞の一つでしかないというのだ。

「やはり……預言は正しかった」

世界の終焉に関する記述。
それを知る者は、BL団広しといえどもキリシマただ一人である。
統帥葉賀すらも知らぬ秘密をその胸に抱え、キリシマは思案を巡らせる。

「いずれ奴らが真の力を取り戻して降臨する、それまでに……。
 世界の命運は君にかかっているのだ、マナ……!」

若き使徒の顔を思い浮かべ、決意を新たにするキリシマ。
だがその表情は、一瞬にして曇る。

「……それにしても奴ら、贄がどうとか言っていたな……。
 何者かが、奴らの手助けをしているというのか……。一体誰が……」

答えることなく、雨は降り続いていた。
268名無しさんだよもん:2006/11/22(水) 03:07:45 ID:+947j2e/0
回避
つうか性力ってwwwwwwwww
269激突! 淫獣 vs 性神!!:2006/11/22(水) 03:08:28 ID:OgpqVu8y0
 【時間:2日目午前3時ごろ】
 【場所:E−05】

 岡崎朋也
【持ち物:お誕生日セット(クラッカー複数、蝋燭、マッチ、三角帽子)、支給品一式(水、食料少し消費)、大変な逸物】
【状態:変態強姦魔】
 伊吹風子
【持ち物:彫りかけのヒトデ】
【状態:覚醒・ムティカパ妖魔】
 一ノ瀬ことみ・藤林椋 融合体
【持ち物:書き手薬×2、性なる剣、性なる鎧、イケメン触手キョウ、イケメン触手トモヤ】
【状態:性神(The God of Sex)第一段階】
 藤林杏
【状態:死亡】
 霧島聖
【所持品:魔法ステッキ(元ベアークロー)、支給品一式】
【状態:腐女子形態】


「……んにゅ、ところでおばさん、どこ行ったのかな……?
 まあいいか、ぐぅ……」

平気で置き去りにされていた!


みちる
【時間:2日目午前3時】
【場所:E−2、菅原神社】
【持ち物:アイテム未定(武器ではない)、支給品一式(水、食料少し消費)】
【状況:睡眠中】
(関連443,463,471 D−2)
>>261と263、268の回避が! 『言葉』ではなく『心』で理解できたッ!!
270高槻青年の名推理:2006/11/22(水) 06:48:06 ID:qYnE4OUo0
拝啓お袋様。
先ほど何年振りかもわからない便りを送ったにもかかわらず、凝りもせずまた筆を取ってしまいました。
筆不精な息子をお許しください。
と言うのも、前回の手紙をぜひ訂正したい所存であります。
あれだけ見てしまったら、「そんな辛いなら早く帰っておいで」とも言われかねないのでは無いかと思ったのです。
是非とも腹を痛めて産んでくれた事を後悔しないような息子でありたいと常々思っているのは間違いありません。
そしてこの度自分で言うのもなんですが、ようやく世間様に顔向けが出来るようになったと自負しております。
今はまだあなた様に自信を持って顔を向ける事は出来ませんが、少しでも精進して誇りに思ってもらえるよう頑張って行きたいと思っております。
乱筆ではございますがこれにて、どうかお身体にお気をつけてくださいませ。

……脳内手紙(二通目)の投函は無事完了したし、現実に戻るとするかね。
ともあれ今の俺は最高にハイだ。
なんて言うか自分で言うのも情け無いがオチがなかった話は初めてじゃないか?
吊るされるわ張り手食らうわロリコンだのストーカーだの言われるわ、挙句の果てに持ち物に格下げだ。
ハードボイルドなんて儚い夢だと人生に挫折しかけたものの、諦めず頑張れば報われるってのが良くわかったよ。
なんだポテト、その不満そうな顔は。俺様の隣の二人を見てみろよ?
さっきまでの小馬鹿にした態度は欠片も無いじゃねーか。
結局更衣室にあったのは糞尿まみれになった浴衣だけだったらしく、もう身体を洗ってここから逃げたんだろうという結論に達した。
ポテトの鼻も反応しなくなったし、まったく使えない奴だ。力なく顔をうなだらせたポテトの足取りは重い。
久寿川は腹を撃たれた俺を本気で心配そうに見て、俺が大丈夫って言ってるのに肩を貸してきやがった。
271高槻青年の名推理:2006/11/22(水) 06:48:36 ID:qYnE4OUo0
マスクメロンのような乳が俺様の脇に当たって、つい顔が緩みそうになるのを必死にこらえている。
ここで崩しちまったら元の三枚目に逆戻りだからな。ファンは大事にしないといけねぇ。
ファンと言えば郁乃達は無事なんだろうか?
……いつから俺は他人の心配するような人間になっちまったんだ。調子狂うぜ……ったくよ。
「高槻さん、本当に大丈夫ですか?」
久寿川が俺の顔を覗きこんで尋ねてくる。
別の意味で大丈夫じゃねーよ、息子がやばいことになってる。言えねーけどな。
「ああ、こいつの小説があったからな。助かったぜ」
言いながら真琴の髪の毛をくしゃくしゃとやってやった。
「あうーーーっ!」
真琴がジタバタともがいて俺様の手を跳ね除けるが、そんなに嫌そうには見えないな。
さすが俺様。こいつらのハートはがっちりキャッチだろう。
俺様の気持ちを知ってなのかは知らんがポテトの視線が冷たい。
主役の座を再び奪われて悔しいのか? 安心しろ、気が向いたら少しはまた出番をやるよ。気が向いたらだけどな。

そんな絶好調の俺様だからこそ気付けたのかもしれない。
殺気とも言える独特の空気。微かに鼻を擽る血の香り。
隣の二人はそれに全く気付いていないようで、久寿川の身体から身を離すと小さな声で言った。
「……お前らちょっとここで待ってろ」
「「え?」」
272高槻青年の名推理:2006/11/22(水) 06:49:12 ID:qYnE4OUo0
「いいから、すぐ戻る」
拝借したばかりのコルトガバメントを握り締め、ポテトに合図を送ると俺様はゆっくりと歩き出した。
俺様の後をちょこちょことついてくるポテト。よかったな、さっそく出番はあるかもしれねーぞ。

廊下を曲がろうとしたところで俺様は壁に身を隠す。
曲がった先にはガキどもの姿があった……一人、二人、三人か。
今にも殺し合いをしようって形相で睨みあってやがる。……やれやれだ。
危険を察知できたことに満足すると、関り合いにならないほうが良いと思って俺様は踵を返したんだ。
ポテトが裾を引っ張って文句を言ってるが知ったこっちゃねぇ。関る理由も必要も無いしな。
「あたしはみんなを守る為に修羅になるって決めた。もう人を何人も殺してるんだよ。今更後戻りなんて出来ないしするつもりも無いぞ」
俺様の足を止めたのはその中の一人のそんなセリフだった。
人を殺しただと? 浴衣はここに捨ててあったよな。そして言葉を発した女の格好はスクール水着だ。
なんでそんな格好してるかなんて普段の俺なら突っ込んでただろうが、今の俺は違う。
ダサい云々は置いておいても金田一だからな。ピーンときた。宮内を殺ったのはあいつだ、間違いない。
「その話詳しく聞かせてもらうぞ」
気付けば俺はガキどもの前に姿を現していた。
「俺のおっぱ……じゃねぇ、連れが殺されたんだ。わりいが事と次第によっちゃただじゃすまさねぇ」
本当に関るつもりはなかったんだがな、おっぱいの恨みはでかいんだぞ。


273高槻青年の名推理:2006/11/22(水) 06:49:50 ID:qYnE4OUo0
金田一高槻
 【所持品:食料以外の支給品一式、日本刀、分厚い小説、ポテトwithコルトガバメント(装弾数:6/7)予備弾(13)】
 【状況:絶好調】
久寿川ささら
 【所持品:スイッチ(未だ詳細不明)、トンカチ、カッターナイフ、ほか支給品一式】
 【状態:健康、高槻と少し離れたところで待機】
沢渡真琴
 【所持品:スコップ、食料など家から持ってきたさまざまな品々、ほか支給品一式】
 【状態:健康、高槻と少し離れたところで待機】
河野貴明
 【所持品:Remington M870(残弾数4/4)、予備弾×24、ほか支給品一式】
 【状態:麻亜子と対峙。殺しはしない】
観月マナ
 【所持品:ワルサー P38・支給品一式】
 【状態:足にやや深い切り傷。麻亜子と対峙。殺しはしない】
朝霧麻亜子
 【所持品1:SIG(P232)残弾数(3/7)・ボウガン・バタフライナイフ・投げナイフ】
 【所持品2:仕込み鉄扇・制服・ささらサイズのスクール水着・支給品一式】
 【状態:貴明とささらと生徒会メンバー以外の参加者の排除。スネが痛い】
 【備考1:スク水を着衣、浴衣は汚物まみれの為更衣室に放置】
 【備考2:制服はバックの中へ】

【時間:2日目02:00頃】
【場所:D-06鎌石小中学校職員室前廊下】
【備考:由依の荷物(下記参照)と芽衣の荷物は職員室内に置きっぱなし】
   (鎌石中学校制服(リトルバスターズの西園美魚風)
    カメラ付き携帯電話(バッテリー十分、全施設の番号登録済み)
    荷物一式、破けた由依の制服

(関連458・470 ⇔469なので今のルート配分だとB10のみなのですが、自分がB11提唱者で11と13中心の書き手なので、
 ルート増やすのもなんなので「加速する嘘」投稿時と同じ形・運営スレ4の67氏の案でB11準拠470採用のB13でお願いします。
 どうしてもルート増える形になるのであればB11&B13準拠のB14新設ルートで、違いは414と470採用です)
274螺旋:2006/11/22(水) 13:05:40 ID:9WXelAUK0
真夜中の森は闇に包まれていた。
その闇の中に一つの影が溶け込んでいる。

少年は藪の中に降ろしていた。
彼は考えていた。これまでの事を。これからの事を。
自分の掌を覗き込んでみる。その手は見た目には綺麗な手だったが、少年からすれば血が染み付いているように見えた。
自分は既に数え切れない程沢山の命を奪ってきた。
そしてこれからも奪い続けるだろう。

けれどそれも仕方の無い事だ。
主催者への協力を拒んだ所で殺し合いの螺旋は途切れない。
殺し合いは「計画」が成功するまで終わる事は無いだろう。
「計画」が完遂される事なく参加者が死に絶えても、また新たな人柱達が参加者として連れてこられるだけである。

前回のゲームは失敗に終わった。「鍵」を参加者に奪われ、参加者達が死に絶えてもそれは見つからなかった。
少年はその手を汚して戦い続けたが結局大勢の命が無駄に消えただけだった。

少年の目的はただ一つ、今度こそ「計画」を成功させこの殺し合いの螺旋を終わらせる事。
そして彼にはその自信もあった。ゲームが始まるまでは。参加者の顔ぶれを知るまでは。
ゲーム開始時まで参加者が誰なのか知らされていなかった彼は、名簿を見て絶句した。
今回の参加者は前回とはまるで違う構成だった。

理外の民の末裔、鬼の血筋の者達、毒電波を操る者達……そして、自分と同じ「不可視の力」を持つ者達。
「人外」の力がある程度制限されるとは言え、彼らは前回の参加者の誰よりも強敵になる事は疑いようが無い。
それに今回は自分にとってかけがえの無い存在――――天沢郁末も参加している。
だが既に彼女をこの手にかける覚悟も出来ている。
今度こそ、全てを終わらせなければならない。例えそれがどんなに辛く困難で道であろうともだ。

275螺旋:2006/11/22(水) 13:06:39 ID:9WXelAUK0

気付くと森に光が差し込んでいた。
空には朝日が昇っている。
「さて……そろそろ行こうかな」
少年は立ち上がる。顔に出てしまっていた表情と感情を押し殺し、再び笑顔の仮面を被りながら。

そしてまた1日が始まる。
とても長い、とても辛い、螺旋の中の1日が。


【場所:f-05】
【時間:二日目午前五時半】
{関連466・(441or328)、ルートB系共通}

※441採用ルートの場合
少年
【所持品1:注射器(H173)×19、グロック19(15/15)】
【所持品2:支給品一式(水を半分消費)、レーション3つ、グロック予備弾丸3発。】
【状況:頬にかすり傷、行き先はお任せ】

※441非採用ルートの場合
少年
【持ち物1:強化プラスチックの大盾(機動隊仕様)、注射器(H173)×19、MG3(残り17発)】
【持ち物2:支給品一式、レーション3つ、グロック19(15/15)・予備弾丸12発。】
【状況:行き先はお任せ】
276おともだち。(1/4):2006/11/23(木) 12:48:32 ID:ZdjpuYgf0
初めまして、神尾観鈴といいます。
私は無事です、友達もたくさんできました。
今、藤林杏さんのパソコンを借りて書き込みをさせていただいてます。
えっと、上で書いてある橘敬介というのは私の父です。
お父さん、もしこれを見てくれているなら、もう人を傷つけて欲しくはないです。
また、父に会う人がいらっしゃるようでしたら、この書き込みのことを伝えてください。
お母さんの神尾晴子という人に会った人も、伝えてもらえると嬉しいです。
よろしくお願いします。




「えっと、こんな感じで良かったのかな」
「いいんじゃない?」
「まぁ、あなたのご両親にあまり負担のかかるようなことも書けないしね・・・」

ロワちゃんねるへの書き込みを終え、神尾観鈴は一つ小さな溜息をついた。
・・・自分のために敬介はともかく晴子が手を汚しているという事実を、彼女は知らない。
藤林杏と向坂環が後ろからのアドバイスを入れながら書いたそれが、どうか二人に届きますように。
そう願うしか、なかった。

「いや、アドバイスもクソもないぞ、その長さ」
「五月蝿・・・」
「それはもういいから」
277おともだち。(2/4):2006/11/23(木) 12:49:12 ID:ZdjpuYgf0
黒い銃器などに屈するしかなかった柊勝平は、ムスっと後ろからその様子を眺めていた。
他の面々は食事の支度をしている。少しばかり食料もあるらしく、調理場からは良い匂いが漂ってきていた。

「英二さん、お塩取っていただけます?」
「はい、これかな?」
「違いますっ、これは胡椒ですよ」
「あはは、ごめんごめん」
「もう、英二さんってば〜・・・」
(お前等二人でどっか行けよ・・・)

その後ナチュラルに共に食事をとり、各自休憩をすることになる。
余りにもナチュラル過ぎて、もう最初から仲間だったような気さえしてくる。

「いや、それはない」
「柊、何につっこんでるんだ?」

ターゲットは目の前にいるというのに。
相沢祐一ののほほんとした物腰に苛立つ、ボクがバズーカーでも持ってたらお前の頭目掛けて迷わず撃ち込むね!っていう気分であった。

(今ボクにできることか・・・しいて言うなら、あの掲示板かな)

杏の持ち物らしいが、特に彼女が管理している訳でもない。
さっきは環が何か書き込みがないかとチェックしているようだった。今は、誰も使っていない。
・・・今のうちにあいつらの暴言でもブチまけてやろうか。

「にはは。IDでばれちゃうから、小細工は無理だよ」
「うわ!お前、いたのかよ」
「最初の見張りは観鈴ちんと勝平さんになりました〜ぱちぱち」
「待て、何だそれはいきなりっ!!」

気がつけば、わらわらと部屋から出て行こうとするメンバーと目が合う。
278おともだち。(3/4):2006/11/23(木) 12:49:56 ID:ZdjpuYgf0
「ははっ、少年。こういうのは新参者からってね」
「おい柊、お前やきそばパン買ってこい」
「何この扱い?!」
「今は九時か・・・うん、三時間後に交代しよう」

手を振って去っていく緒方英二、彼を最後にこの部屋には勝平と観鈴の二人が取り残される形になる。

「っていうか・・・あいつら、マジでボクのこと放っておくつもりかよ・・・」

あまりのお人よし加減に呆れてしまう。
そんな勝平の様子に気にも留めず、観鈴は懐っこく彼に寄って行った。

「勝平さん、勝平さん」
「気安く呼ばないでくれる?」
「が、がお・・・」
「がお言うな」
「がおーん」
「吼えるな」

・・・面倒くさい、こいつだけなら始末することは簡単だろうに。六対一でなければ、本当にすぐ手にかけてやりたかった。
勝平の中でイライラとした感情が膨れ上がっていく、だがそれ以上に観鈴は懐っこかった。

「あのね、勝平さん」
「・・・何?」
「勝平さんは、誰か守りたい人とかっている?」

くだらない、質問。
人のために戦ってどうする、最後は自分が生き残らなければ帰れないというのに。
・・・だが、それを口にしようとした時。頭の中に一人の少女の笑顔が浮かんだ。
藤林諒。大事な、恋人。
279おともだち。(4/4):2006/11/23(木) 12:50:36 ID:ZdjpuYgf0
ここにきて、彼はその恋人を守るという思いがなかったことに、自身で気づいた。
勿論大切である、勝平を支えてくれるかけがえのない存在で、ある。
けれど。それなのに。
また、勝平が島に来て最初に起こした行動というのも、諒を探すわけでもなく目の前にいた藍原瑞穂を殺し、弄んだことで。

(・・・あれ?そういえばボクは、どうしてあんなことを、したんだっけ?)

冷静になっている今だからこそ、勝平の中で過去の自分が犯した件についての疑問が沸く。
祐一と杏に関しては、あの時の無念さを晴らしてやりたいという憎しみがあった。それは今も続いている、が。
目の前でちょこんと座っている観鈴に目を向ける。
・・・どうして自分は、彼女を殺さなくては、いけないのだっけ?

勝平にとって、ゲームの中で人と触れ合うのは初めてであった。
いや、実際は覚えていないだけで過去の世界ではもっと人と交わりのある「ルート」があったのかもしれない。
だが、今の彼にそんな記憶はない。
だからだろうか。彼は観鈴の世間話程度の話に、答えることができないでいた。
混乱する頭の中、それでも「人を殺すこと」に対しためらいのない自分があることには気づいていて。
何故自分がそのようになってしまっているのか。それは答えの出ない疑問であった。


いくら話しかけても勝平からの返事がなかったからか、以降観鈴が彼にちょっかいを出すことはなかった。
時間は刻々と過ぎていく。
そろそろ交代の時間、勝平は未だ自分の身の置き方について考えがまとめられず、これからどうすればいいかという展望を全く築けないでいた。
そんな時であった。部屋の隅に置かれた電話が、いきなり鳴り出したのは。
280補足:2006/11/23(木) 12:51:15 ID:ZdjpuYgf0
柊勝平
【所持品:電動釘打ち機16/16、手榴弾三つ・首輪・和洋中の包丁三セット・果物、カッターナイフ・アイスピック・支給品一式(食料少し消費)】
【状態:電話に気づく】

神尾観鈴
【所持品:フラッシュメモリ・支給品一式(食料少し消費)】
【状態:電話に気づく】

相沢祐一
【所持品:S&W M19(銃弾数4/6)・支給品一式(食料少し消費)】
緒方英二
【持ち物:拳銃(種別未定)デイパック、水と食料が残り半分】
【状況:休憩中、男性二人は同じ部屋】

向坂環
【所持品:コルトガバメント(残弾数:20)・支給品一式(食料少し消費)】
春原芽衣
【持ち物:デイパック、水と食料が残り半分】
藤林杏
【持ち物:ノートパソコン(充電済み)、包丁、辞書×3(英和、和英、国語)支給品一式(食料少し消費)】
【状態:休憩中、女性三人は同じ部屋】

【時間:1日目午後11時30分】
【場所:C-05鎌石消防分署】

(関連・467)(B−4ルート)
281フラグをつかめ:2006/11/23(木) 16:56:58 ID:q0VoYiJK0
 天沢郁未と鹿沼葉子、現在パンの材料を探す大冒険中である。
「タイムリミットはおそらく凸システムが発動する明日正午ごろ。
それまでにこのイベントをクリアしなければなりません」
「いるかどうかもわからないのに、時間足りるの?
というか、なんで葉子さんはそんなこと知ってるのよ!?」
「不可視の力です」
「いや、絶対違うだろ!」

「ともかく、のんびりしてると時間切れで脇役として殺されます。
効率的に獲物を探さないといけません。タイムアタックです」
「何? 葉子さん、ゲーマー?」
「レベル1キャラ3人でラスボスが倒せます。
だいたい私をゲームに嵌めたのは郁未さんじゃないですか」
そう言えばFARGOに隠し持っていった携帯ゲーム貸したんだったなあと、郁未は思い出した。
返してもらったときには電池が切れていた。

「これで私は、新たに遊戯の王と対決フラグを入手しました。当分死にません」
「何それ?」
「だから過去ログを読んで下さい」
「どうやって過去ログ読むのよ?」
「不可視の力です」
「嘘つくな!」
「嘘ではありません。そもそも原作自体描写不足なので、これぐらい出来ても不思議はないです」
「そうですか……」
そもそもあれはカードゲームがメインなんじゃないかと思いつつ、
郁未はこれ以上訊いても無駄だと悟った。
282フラグをつかめ:2006/11/23(木) 16:57:47 ID:q0VoYiJK0
 二人は診療所を出てから、適当に雑談しつつ西北西に向かっている。
「鬼の爪、ヘタレの尻子玉、白虎の毛皮、魔犬の尻尾……
まずはどれから探すのよ?」
「私の予想が確かならば、この先に鬼が向かってくるはずです」
「ほんとにいるのね。で、その根拠は?」
内心そんなのあてにならねえよと思いつつ、郁未は尋ねる。

「「不可視の力です」」
二人の声がはもる。
「真似しましたね」
「もうその返答飽きた」
「郁未さんも、何かフラグ立てたらどうですか」
「フラグねえ……」
「ほら、郁未さんにはあれがあるじゃないですか」
「何よ?」
「机の角に擦り付けたりとか、陸上部の先輩のものを美味しそうにしゃぶったりとかです」

 郁未の脳内に嫌な記憶が甦る。
「何でそんなこと知ってるのよ……」
「不可視の力です」
「……もういい」

「この島には凄いヤリマンがいるんですよ」
「ああ、椋ね……」
郁未は大きく溜息をついた。
283フラグをつかめ:2006/11/23(木) 16:58:43 ID:q0VoYiJK0
「お知り合いですか?」
「昔ちょっとね……
私程度じゃあいつには太刀打ちできないわよ。
あいつに出会って、私はこの道を引退したの」
もう思い出したくないというように、郁未は頭を振った。

「やりましたね。性神様の元ライバルという美味しい役が手に入ったじゃないですか」
「ライバルなんかじゃない……私の完敗だった……」
らしくない言い方に、葉子は郁未の顔を見つめる。
「何が……あったんですか?」
「頼むから思い出させないで」
どうやら凄いトラウマらしい。

 しばらくして開けた道に出たとき、郁未は見知った顔に出会った。
「あ、郁未」
出来ればこいつには会いたくなかった。
「鬼って、もしかしてこいつ?」
「いえ、違います」
「そうだよね。こんなのどうみても鬼に見えないし」
「なんか酷い言われようだね……」
「大体名前が無くて呼びにくいのよ」
「だったら駒田とでも呼んでくれればいいよ」
「何その名前?」
「お姫様に付けてもらったんだ」
「こうしてまた、不可視の力で暴走する人間が一人増えるわけね……」
「なんか、凄い勘違いをされた気がする……」
284フラグをつかめ:2006/11/23(木) 16:59:53 ID:q0VoYiJK0
 そんな二人のやりとりをどうでもよさげに眺めていた葉子は、
もう一人の人物が走ってくるのに気付いた。
「本命の鬼が、来たみたいですよ」
「え?」

「貴之が死んだなんて嘘だ! 貴之が死んだなんて嘘だ!」
走ってきた人物、柳川裕也はそんなことを大声で叫んでいた。
「貴之って誰?」
「おそらく参加者の一人、河野貴明の間違いでしょう」
「誰それ?」
「参加者名簿ぐらいちゃんと見て下さい。ちなみにもう死んでいます」
「何だと!? お前らが貴之を殺したのか!」
「僕じゃなくてこの二人だよ」
「あんたなんてこと言うのよ!」
「面白そうだったから」
柳川の姿が鬼のそれに変わっていく。
「俺、貴之の仇討つ!!」
「あれが……鬼?」
「そうみたいですね」
「いくわよ、葉子さん、駒田」
「えっ!? 僕も?」
なんだかんだ言いつつも、郁未はわりと楽しんでいた。
285フラグをつかめ:2006/11/23(木) 17:00:55 ID:q0VoYiJK0
 天沢郁未
 【時間:午後9時半ごろ】
 【場所:G−06】
 【所持品:薙刀、支給品一式】
 【状態:材料求めて三千里】

 鹿沼葉子
 【時間:午後9時半ごろ】
 【場所:G−06】
 【所持品:鉈、支給品一式】
 【状態:ゲーマー】

 少年
 【時間:午後9時半ごろ】
 【場所:G−06】
 【持ち物:強化プラスチックの大盾(機動隊仕様)、注射器(H173)×19、レーション3つ、支給品一式】
 【状態:郁未ってこんなキャラだったかな?】

 柳川祐也
 【時間:午後9時半ごろ】
 【場所:G−06】
 【持ち物:出刃包丁、ハンガー、支給品一式】
 【状態:俺、貴之の仇討つ!(鬼)】

→348, →442, →451, ルートD−2
286第2回放送(ルートB13用):2006/11/24(金) 02:02:08 ID:vtHQDB5B0
時刻は午前5時50分……

久瀬は数々の惨状を見せられ、疲弊しきっていた。
多すぎた。あまりにも死人が多すぎた。
実の所彼は少し期待していた。
時間が経てば混乱していた者も落ち着いて、殺し合いが収まってくれるのではないかと。
だが実際には、殺し合いはますます激しさを増していくばかりだった。

ある者は一方的に殺され、またある者は裏切られて殺された。
特に酷かったのは、指を1本1本切り落とされて惨殺された女性だった。
その女性は最期の瞬間まで想像を絶する悲鳴を上げ続け、返り血に塗れた加害者の女性は笑いながら包丁を振るい続けた。
その一部始終を見ていた久瀬はとうとう嘔吐感を堪えきれなくなり、腹の中の物を全て吐き出していた。

自分が確認出来ただけでも10名以上の人間が命を落としていた。
恐らく―――その倍以上の数の人間が、既に物言わぬ躯と化しているのではないか。


そして第2回放送の時がきた。

画面が真っ黒に染まり、ゆっくりと赤く浮かび上がる番号、そして名前。
「そ、そんな……こんなに大勢の人が……」
彼の知り合いの名前は今回も無かったが、予想以上の死者の数に震えが止まらない。


『それじゃ久瀬君、今回もよろしく頼むよ』
一回目の放送の時と同じくウサギが一瞬画面に現れ、その一言だけを告げまた消える。
久瀬は今にも倒れこみそうなくらい疲弊していたが、それでも彼に選択肢は一つしか用意されいない。

「――みなさん……聞こえているでしょうか。
これから第2回放送を始めます。辛いでしょうがどうか落ち着いてよく聞いてください。
それでは、今までに死んだ人の名前を発表…します」
287第2回放送(ルートB13用):2006/11/24(金) 02:03:15 ID:vtHQDB5B0
画面に目を戻す。これだけの人数の人間が死んだのだ。
きっとここに名前が載っている者の友人や家族も沢山いるだろう。
彼らの気持ちを考えると、やりきれないものがあった。
だがここで自分が抗っても死体が一つ増えるだけだ。
意を決して何とか言葉を捻り出す。

「――それでは発表します。

9  イルファ
10 エディ
11 太田香奈子
22 梶原夕菜
38 来栖川芹香
51 澤倉美咲
56 新城沙織
57 春原芽衣
60 セリオ
67 月島瑠璃子
72 長瀬源蔵
75 名倉由依
76 名倉友里
80 仁科りえ
82 氷上シュン
84 姫川琴音
94 古河早苗
99 美坂香里
105 巳間晴香
107 宮内レミィ
109 深山雪見
112 山田ミチル
115 柚原このみ
116 柚原春夏
288第2回放送(ルートB13用):2006/11/24(金) 02:04:45 ID:vtHQDB5B0



 ――以上…です……」

自分の役目を終えた久瀬はがっくりと項垂れた。
強制されているとは言え、島にいる者達に悲しみを、絶望を、自分の手で与えてしまったのだ。
体力だけでなく精神的にももう限界が近かった。

そこで突然画面が切り替わりウサギが画面に現れた。
『さて、ここで僕から一つ発表がある。なーに、心配はご無用さ。これは君らにとって朗報といえる事だからね』

話ぶりからしてウサギは放送を通じて島全体に対して話しかけているようだった。
久瀬は他の参加者達と同様、ただ黙って話に聞き入る事しか出来ない。

『発表とは他でもない、ゲームの優勝者へのご褒美の事さ。相応の報酬が無いと君達もやる気が上がらないだろうからね。
見事優勝した暁には好きな願いを一つ、例えどんな願いであろうと叶えてあげよう』
(―――何!?)
信じ難い発言に、久瀬の目が見開かれる。
戸惑う久瀬に構う事なく、ウサギの話は淡々と続けられていく。

『だから心配せず、ゲームに励んでくれ。君らの大事な人が死んだって優勝して生き返らせればいいだけだからね。
発表は以上だ。引き続き頑張ってくれたまえ』
そこで、映像は途切れた。

話を聞き終えた久瀬は蒼白になっていた。
常識的に考えればどんな願いでも叶えるという事など出来る訳が無い。
優勝者の願いを叶えるよりも、裏切って殺す方が圧倒的に手軽である。そして主催者達は間違いなくそうするだろう。
だがゲームの極限状態の中で、放送による悲しみの中で、どれだけの人間が冷静に判断を下せるというのだろうか。
一体何人の参加者があの話を鵜呑みにしてゲームに乗ってしまうのだろうか。

―――信じるんじゃない、これは罠だ!餌をぶらさげて殺し合いを加速させるための罠だ!!
289第2回放送(ルートB13用):2006/11/24(金) 02:05:47 ID:vtHQDB5B0
そう参加者達に伝えたかった。だが今の彼にはそれが許されていない。
久瀬は自分の無力を呪い床を力の限り殴り続けた。
程なくして彼は力尽き、意識を失った。


久瀬
 【時間:2日目06:00】
 【場所:不明】
 【状態:極度の疲労による気絶】
 【関連216b2・357・ルートB13】
※この話を他ルートで使いたい場合は自由に改変してお使いください
※この話の投稿後も死者が出るかもなので、後日死者チェックをして修正要請を出します
290最後の懺悔:2006/11/24(金) 11:13:35 ID:BrWGjwD10
あの男に一杯食わされてから僕は農家の納屋に隠れていた。
疲れていた所為かいつの間にか眠り込んでしまっていたみたいで、気付くと外はもう明るくなっていた。
(くそ、何をやってるんだ僕は!)
急いで武器を探したけれど、使えそうな物は農作業用の鍬くらいしか無かった。
それでも素手よりは幾分かマシだ、とにかく早く美咲さんを探さないと!
そう考え納屋を飛び出そうとした矢先に、二回目の放送が始まった。








――――美咲さんが死んだ。
その事を知った僕は全身から力が抜けていく感覚に襲われた。
守れなかった。それどころか探し出す事さえ出来なかった。
結局僕は何も出来なかったのだ。ただ悪戯に時間を浪費しただけだった。
犯人は憎かったが、復讐を考える気力は残されてはいなかった。
美咲さんが死んだ事への悲しみに、自分の不甲斐なさへの怒りに、ただただ涙が溢れ続けてくる……。

だがその場に崩れこむ僕に対して、容赦無く悪魔の囁きが呟かれた。
そう、主催者はまさに悪魔だ。巧妙な手法で人の心の隙間に付け込む悪魔だ。
『どんな願いでも叶えられる』
つまり、優勝すれば美咲さんを生き返らせる事も可能という事。
話の真偽は定かでは無い………多分、嘘だと思う。僕のような境遇の人間の道を踏み外させる為の。
だがこれだけの規模の事をやってのける連中だ。話が本当である可能性もまた、完全には否定出来ない。
291最後の懺悔:2006/11/24(金) 11:15:03 ID:BrWGjwD10
冬弥はあの放送を聞いてどうするだろうか。
アイツならきっとゲームに乗ると思う。そしてゲームに乗る以上は、殺される事も覚悟の上の筈だ。
もし僕が冬弥と会う事があっても、容赦なく"やれる"と思う。
元々ゲームに乗った人間を殺す覚悟はあった。だが今は以前とは少々事情が異なる。
ゲームに乗っていない人間――――折原のような奴でさえも殺さないといけない。
これはとてもタチの悪い椅子取りゲームなのだ。椅子は一つしか用意されていない。
だがそれでも。それでも可能性が僅かにでもあるのなら。
他に選択肢は考えられない。

「美咲さん、折原――――すまない」
最後の懺悔の言葉と一筋の涙と共に、僕は人間として一番大切なモノを捨て去った。

七瀬彰
【時間:二日目午前6時10分】
【場所:C−05、農家の納屋】
【所持品:鍬】
【状態:右腕負傷(マシにはなっている)。マーダー化】
(ルートB13 関連407・479)
292麻亜子とささら(前編):2006/11/24(金) 18:52:44 ID:BdiBrAi60
「その話詳しく聞かせてもらうぞ」
そう言いながらいきなり現れた男の顔に私は驚きを隠せなかった。
ロープで吊るしたままだったのにどうやって降りたのかしら……しぶといわね。
あたしが睨みつけているのに気付いたのか、元吊るされた男は苛立ちを見せながらあたしを睨み返してきた。
でもそう思ったのも束の間、あたしの事を思い出したらしく苦虫を潰したような顔になる。
それにしてもこの男が言ってるのが本当なら、目の前の女に殺された仲間の敵討ちってところ?
どう見ても悪役一直線って顔をしてるのに、あたしの目も曇ったのかしら。
男の言葉にまーりゃんって人が小さく笑いながら言った。
「さてね。いつ誰を殺したとか忘れたよ。大事なのはたかりゃんやさーりゃん達が生きていること。私にとってはそれだけだからな」
あたしと貴明、目の前にいるまーりゃん先輩って呼ばれてる殺人者。そしていきなり現れた男の間には奇妙な間が広がっていた。
銃口はそれぞれが向けたままで、張り詰めた緊張だけが漂う。
誰かが動いたらどうなるかなんて考えたくもなかった。





293麻亜子とささら(前編):2006/11/24(金) 18:53:37 ID:BdiBrAi60
(……やっかいな事になったなあ)
麻亜子は貴明とマナ、そして高槻を目の前に自分の失敗を悔いていた。
高槻の言葉にあった心当たりは3人。
時間と、彼が横に犬を連れていることから先ほど殺した女性のことを言ってるんだろうと簡単に想像は付いた。
ゲームに乗ってないとはお世辞にも言えない高槻の風貌に、銃を握る手に力が篭る。
それでもすぐ行動に移せなかったのは、貴明が麻亜子から銃口を放してはいなかった事だった。
自分が銃を向けたこの男に何かしたらすぐさま貴明は飛び掛ってくるだろう。そう考える。
かと言って躊躇していても逆にその前にこの男に自分は撃たれるかもしれない。
今のところ高槻は貴明のことを歯牙にもかけてないようで麻亜子に狙いを絞っていた。
(はてさてどうするかね……)

悩んでいる時間は――無い。




294麻亜子とささら(前編):2006/11/24(金) 18:54:31 ID:BdiBrAi60
「高槻さんどうしたのかしら……」
職員室から少し離れた場所でささらと真琴は高槻の言葉どおりに彼を待っていた。
だが暗い校舎がささらの不安を募らせていた。
隣では先ほどまでの威勢はどこへいったのやら、真琴が震えながらささらの袖を掴んで離そうとしない。
レミィの死に加え、今しがた岸田に襲われ、そしてずっと近くにいた大人の男性が消えたのだ。
彼女ではなくとも恐怖に駆られても仕方ないのかもしれない。ささらも事実恐ろしかった。
だが隣にいる少女のか細い姿が、自分がしっかりとしなくてはと言う気持ちを奮い立たせてくれた。

その想いをあざ笑うように、校内に銃声が響き渡る。
我を忘れささらは高槻の向かった方向へと走っていた。




295麻亜子とささら(前編):2006/11/24(金) 18:55:18 ID:BdiBrAi60
膠着を破ったのは麻亜子の手から放たれた銃弾。それは高槻の頬をかすめるように壁を貫いていた。
すぐさま発射されようとした二発目を止めたのは、貴明とポテトだった。
銃声と同時に飛び出したポテトの身体が麻亜子の鳩尾をえぐり、ひるんだ麻亜子の腕を貴明が必死に掴み上げ銃が離れ落ちる。
高槻は一瞬呆気に取られたように呆然とするが、自身に起こったことを認識すると顔を真っ赤にして吼えた。
「このくそガキがっ!」
動きを止められた麻亜子に今にも発砲しそうな高槻の形相をマナの銃口が制する。
「銃を降ろしなさい!」
「ざけんな! 見てなかったのか!? 俺様は今撃たれたんだ! 殺されかけたんだぞっ!!」
「それでも……よ」
憎々しげにマナに言い返す言葉も聞かず、マナは高槻から銃口を降ろそうとはしない。
「高槻さんっ!?」
廊下の向こうから、足音と共にささらの呼ぶ声が聞こえてきた。
「久寿川来るな! 宮内を殺した奴がいるんだ!」
高槻が言い終わる前にささらはその場に現れてしまった。
「「「えっ?」」」
暴れていた麻亜子の身体がピタリと止まり、高槻の出した名前と目の前に現れたささらの姿に呆然と立ち尽くした。
ささらから。貴明から。麻亜子から。彼らの口から発せられた疑問の声だけが、静かに校舎に木霊する――。
296麻亜子とささら(前編):2006/11/24(金) 18:55:56 ID:BdiBrAi60
金田一高槻
 【所持品:食料以外の支給品一式、日本刀、分厚い小説、ポテトwithコルトガバメント(装弾数:6/7)予備弾(13)】
 【状況:お怒り中】
久寿川ささら
 【所持品:スイッチ(未だ詳細不明)、トンカチ、カッターナイフ、ほか支給品一式】
 【状態:呆然】
沢渡真琴
 【所持品:スコップ、食料など家から持ってきたさまざまな品々、ほか支給品一式】
 【状態:ささらの隣に、状況理解できていない】
河野貴明
 【所持品:Remington M870(残弾数4/4)、予備弾×24、ほか支給品一式】
 【状態:呆然】
観月マナ
 【所持品:ワルサー P38・支給品一式】
 【状態:足にやや深い切り傷。高槻に銃口を向けたまま三人の様子を見ている】
朝霧麻亜子
 【所持品1:ボウガン・バタフライナイフ・投げナイフ】
 【所持品2:仕込み鉄扇・制服・ささらサイズのスクール水着・支給品一式】
 【状態:貴明とささらと生徒会メンバー以外の参加者の排除。スネが痛い。呆然】
 【備考1:スク水を着衣、浴衣は汚物まみれの為更衣室に放置】
 【備考2:制服はバックの中へ、SIG(P232)残弾数(2/7)は床へ】

【時間:2日目02:05頃】
【場所:D-06鎌石小中学校職員室前廊下】
【備考:由依の荷物(下記参照)と芽衣の荷物は職員室内に置きっぱなし】
   (鎌石中学校制服(リトルバスターズの西園美魚風)
    カメラ付き携帯電話(バッテリー十分、全施設の番号登録済み)
    荷物一式、破けた由依の制服

(関連475 B13)
297再会(柳川さん的に)(1/5):2006/11/24(金) 20:53:38 ID:3vi5jWj90
「ユーヤーフラッーシュッ!」

バリバリバリッっと、掛け声と共に裂けていくスーツ。
散りゆく布の向こうから現れたのは、一匹の鬼。
唸り声を上げるそれに対し、天沢郁未等三人は身構えた。

「来るわよ」
「どんと来いです」
「はは、僕関係ないよね?もう行ってもいいかな」

鬼の低い鳴き声は怒りの大きさを表している、知らないうちに郁未の頬を汗がつたっていた。
・・・強い。こいつは冗談抜き、で本当の実力者だ。

「るーは鬼に賭けよう。男の鬼は最強、これは絶対だ」
「うーん、じゃあ私は不可視の人たち一向に3ちー賭けるよ。人数とコミュニケーションで応戦してくれるよ、きっと」
「あー、だるくなってきた。寝ていいか?」
「あんた達余裕ね・・・」

そんな応戦間際な光景を、見守る集団がいた。

「わ、凄い。鬼さん鳴いてるね、私も見てみたかったよ〜」
「こら、みさき!身を乗り出さないで、危ないんだから・・・」
「うーゆき、静かにしてくれ。集中できないじゃないか」
「いや、あなた達のやってることでこっちにまで火花が飛んできたら洒落になんないのよっ?!」
「・・・ちょっと外野、黙っててくれるかしら。こっちは命かかってんだから」

呑気に傍観するのは川名みさき率いる聖闘士軍団であった。
対峙している鬼と郁未等から後方数十メートル、そこで支給されたパンを啄ばみながら観戦している。
298再会(柳川さん的に)(2/5):2006/11/24(金) 20:54:47 ID:3vi5jWj90
「うーさきの3ちーは頂いたな。さあ鬼よ、存分に暴れるがいい」
「何不吉なこと言ってんのよ?!」
「私は遊戯の王と対決するまで死ねませんので、郁未さん先にどうぞ」
「わ、私だって前回フラグ立てたわよ!駒田、あんた突っ込みなさいっ」
「無茶言わないでよ・・・って、何かあの人こっち見てないけど」

え?と視線を鬼に戻すと、確かに彼は体だけこちらに向け顔は全然別の場所に固定されていた。
鬼の目線を追う。その先には、あのうるさい連中が。

「わっ、もしかして鬼さんこっち見てる?」
「悪いがるーの趣味ではない。そんな熱い眼差しを送らないでくれ」
「いえ、見てるの藤田君みたいだけど・・・」
「俺?」

興味無さげに欠伸をしていただけの浩之、今一度目の前の鬼に目を向けてみる。

「げ。マジだ」
「きゃあっ!こっち来るわよっ」

どすん、どすん。一歩一歩に重量感を感じさせるそれをアピールするかのように、鬼は近づいてきた。
そして、止まる。

「・・・・・」
「・・・・・」

見つめ合う。
299再会(柳川さん的に)(3/5):2006/11/24(金) 20:55:59 ID:3vi5jWj90
「・・・・垂レ、目・・・」
「あ、ああ。確かに俺は垂れ目だが」
「眠そうだよね」
「前髪・・・分ケ、テル・・・」
「ああ、子供の頃からそんな感じだ」
「子供の頃からそんな擦れてたの?」
「・・・・」

間。何か考えているようだった。

「・・・学、ラン?」
「ああ、高校生だからな」
「あれ?じゃあPC版では・・・モガモガ」
「しっ!みさき、いい加減黙りなさいっ」
「・・・・・・・・」

間。また何か考えているのだろうか。

「・・・タカ、ユキ?」
「いや、俺は浩之だ」
「学ラン・・・ノ、タカユキ?」
「浩之だ」
「・・・・・・高校生タカユキ!!タカユキ若返ッタ!!!」

その時、鬼・・・いや、柳川さんの胸に広がったのは、一筋の希望であった。
貴之、大好きな貴之。
いつも楽しそうに自分の夢を語ってくれていた貴之。
ギターを弾き、気持ち良さそうに歌っていた貴之。
・・・そして、ヤクザに身を売っていた、貴之。
300再会(柳川さん的に)(4/5):2006/11/24(金) 20:56:53 ID:3vi5jWj90
貴之、大好きな貴之。
でも、壊れてしまった貴之。
壊れてしまった貴之は、最後の理性を振り絞りその銃身をこちらに向けて---------------

それは、悲しい記憶であった。
あのルートなら柳川さんも死んでるじゃないかとかそういうのは置いといて、とにかくせつなさでいっぱいだった。
大好きな貴之を守りたかった、ただそれなのに。柳川さんの思いは幸せな形で成就することはなかった。

でも、目の前の貴之(違)はあの貴之ではなかった。
高校生。ヤクザも何も関係ない、明るい世代の彼。
まだ、心の底から幸せを体感できたであろう貴之が・・・目の前に、いる。
自然と柳川さんの目からは、涙が溢れていた。
これは一つのチャンスであったから。

「タカ、ユキ・・・俺達、ヤリナオセル、ノカナ・・・」
「いや、だから浩之だってば」

気がついたら、柳川さんは浩之のすぐ目の前まで辿り着けていた。
その容貌の恐ろしさから、婦女子三人は既に少し後ろの方に逃走済みである。だが、浩之は動かない。
柳川さんがあまりにも悲しそうな表情を浮かべ、こちらを見つめ続けていたから。

地べたに腰掛けていた浩之に合わせるよう、柳川さんも低い姿勢をとる。
手を伸ばすが、浩之は特に抵抗をしなかった。
そのまま彼の無防備な右手に手を伸ばす柳川さん。
普通に握り締めたら骨は粉々になっていただろうが、それは要らぬ心配で。
柳川さんは優しく浩之の手を包み、そして泣き崩れた。

目の前の、失ってしまったはずの温もりが、たまらなく愛おしかったから。
301再会(柳川さん的に)(5/5):2006/11/24(金) 20:58:40 ID:3vi5jWj90
その時、辺りに澄んだ音色が流れる。
そう、まるでロスでレコーディングをしたかのようなBGM。
それは物語を告げるオープニングだった。
浩之の手を握り締めたまま、柳川さんは声を張り上げる。

これが、柳川さんの物語の幕開けだった。




         「貴之の詩」  
 作詞&歌 柳川祐也 作曲 折戸伸治 編曲 高瀬一矢

      壊れてく心 僕のすぐ傍で
     悲しくて逃げた いつだって弱くて 
あの日から  変われず いつまでも変わられずに
  いられなかったこと くやしくて指を離す

  あの時はまだ幸せだったけど いつかは今に辿り着く
 届かない場所に思い馳せるけど  願いは砕け砂に混ざる

     二人だけで 夏の日差し浴びる
     開けた窓 流れるラブソング
      僕らは覚えている 歌を
       貴之の 抱えた希望を

    あどけない笑顔 癒してくれたそれを
      失ってからは 世界は反転し
     僕はまだ 捕らわれ 貴之の幻想に
  弾かれないギター それでも待ってるよ ずっと
302名無しさんだよもん:2006/11/24(金) 21:02:20 ID:9W2LnSQd0
雑魚3匹対鬼柳川
瞬殺するところしか思い浮かびませんw
303補足:2006/11/24(金) 21:03:28 ID:3vi5jWj90
柳川祐也
【持ち物:出刃包丁、ハンガー、支給品一式】
【状態:最後はどうか、幸せな記憶を】
藤田浩之
【所持品:折りたたみ式自転車、他支給品一式(ただし、ここまで来る間に水を少し消費)】
【状態:浩之なんだけどなー(鳳凰星座の青銅聖闘士)】

川名みさき
【所持品:支給品一式(食料無し)】
【状態:あ、気がついたらパン全部食べちゃった(女神)】
深山雪見
【所持品:支給品一式】
【状態:つっこみきれません(牡牛座の黄金聖闘士)】
ルーシー・マリア・ミソラ
【所持品:支給品一式】
【状態:む?うーへいがいないではないか(ペルセウス星座のるー)】
304補足:2006/11/24(金) 21:05:03 ID:3vi5jWj90
天沢郁未
【所持品:薙刀、支給品一式】
【状態:今のうちに爪切らせてもらおうかしら】
鹿沼葉子
【所持品:鉈、支給品一式】
【状態:止めといた方がいいですよ、邪魔したら殺されます】
少年
【持ち物:強化プラスチックの大盾(機動隊仕様)、注射器(H173)×19、レーション3つ、支給品一式】
【状態:むしろこれだけ人集まったなら、Bルートみたいに僕が先陣切って行くべきなのかな?】

【時間:1日目午後10時】
【場所:G−6】

(関連・342・478)(D−2ルート)
瞬殺展開じゃなくて申し訳ないけど>>302さん助かりました・・・
305名無しさんだよもん:2006/11/24(金) 21:11:17 ID:9W2LnSQd0
次回に期待する
ノシ
306空腹者たちの協奏曲:2006/11/24(金) 22:14:38 ID:jr12WKVq0
「う〜ん…飛び出したのはいいけど、まずはどこを探したらいいのかしら…」
藤林杏は地図を見ながら悪戦苦闘していた。一概に探すと言ってもこの広い島のどこを探せばいいのか。おまけに寝てる間にすっかり夜になってしまい視界が悪いというのもある。
「まっ、今更戻るわけにもいかないし」
妹自体は弱気なところはあるが、芯は強い。恐らくは恐怖に負けて人殺しをするようなことはあり得ない。誰か頼れる人間と一緒にいる…と信じたい。
ふと、杏の頭の中に朋也の顔が浮かぶ。あの人なら…
「って、人ばっか当てにしてどーすんのよ。てゆーかどうして朋也なワケ? 陽平よりかマシだけどさ」
ぶつくさ言いつつ、いつのまにか道沿いに歩いていた。
「しっかし、あたしの武器ってこれで大丈夫かしら?」
包丁ほか辞書3点セット。もし包丁が万能包丁であればどこぞのテレショップである。
銃…とまではいかないがせめてもう少し投げやすいのが欲しいところだ。野球ボールとか。
ぐぅ〜…
ついでに、腹が減った。
「巧遅より拙速を尊ぶ、とは言うけれど用意もナシに、っていうのは考え物ねぇ…」
仕方が無いと思いつつデイパックからパンを取り出して腹を満たそうとする。
「…あれ?」
ない。どこにも、ない。水はあったがパンがないのである。
「ウソ!? 入ってたはずなのに!? どこいった…?」
「ぷひ〜♪」
ふと見てみると相棒のボタンがもしゃもしゃと何かを頬張っていた。そして彼の足元には袋の残骸が。
「ふふ、ふふふふふ…ボォ〜タァ〜ン〜…?」
がしっ、と背中を引っ掴み目の前でぶらさげる。
「ぷひ!? ぷ、ぷひぷひ」
「さぁ〜て、どんなお仕置きがいいかしら、ねぇ〜?」
杏の背後には黒いオーラが漂っていた。ボタンが戦慄に震える。
「小便はすませた? 神様にお祈りは? 部屋の隅でガタガタ震えて命ごいをする心の準備はOK?」
307空腹者たちの協奏曲:2006/11/24(金) 22:15:14 ID:jr12WKVq0
「ぷっ、ぷひ! ぷひー!」
「問答無用! フラッシュピストンマッハ…お? 何かしら、あれ」
ボタンに鉄拳がめり込む直前、杏は視界の隅になにかが転がっているのを見つけた。取り敢えずの命をとりとめたボタンがホッ、とため息をつく。
「何か…カタマリのような…それに…この匂い」
身に覚えのあるイヤな匂い。思い出したくもない杏の記憶が蘇る。
(勝平さんと…同じ)
一瞬、杏はそこへ行くのを躊躇った。しかし、もう現実から逃げてはいけない。自分がしっかり気を持たなければ妹は守れない。
吐き気を堪えつつ一歩一歩近づいて行く。そこで杏は悲劇を垣間見た。
「死ん…でる…」
無残に打ち捨てられていたのは松原葵の死体だった。無念といった面持ちが今もなお残っている。
「ひどい…」
予測はしていたといえ、実際に見ると気が滅入らずにはいられない。そんな杏の心情を察したのかボタンが体を摺り寄せる。
「ぷひ」
「…ありがと、ボタン。もう大丈夫だから」
優しく頭を撫でた後、杏は彼女の埋葬をしてやることにした。
     *     *     *
数十分かけて埋葬を行ったあと、杏は葵の遺品がないかどうか周囲を探した。
「墓場泥棒みたいで好きじゃないけど…使えるものは使っていかないと」
やがて、木の影にデイパックが落ちているのを確認する。どうやら持って行かれなかったようで、中身が詰まっている。
中身は野菜や麺などの食材一式、ガスコンロ、調理器具、そしてお鍋のフタ。
テレショップから一転、料理番組になってしまった。
「けど、これも天の恵みと思いたいわね。上手い具合に食べ物が手に入ったんだから」
早速ガスコンロを敷き、辞書をまな板代わりにしつつ万能包丁で野菜を切る。
「サバイバル、って感じよねえ…」
衛生面が少しだけ気になるものの最悪腹痛くらいで済むだろう。多分。
麺があったので今晩はヤキソバを作ることにした。水は支給品のものを利用しつつフライパンを振るう。
「隠し味が入れられないのが残念だけどね…」
まぁ文句を言っても仕方ないだろう。十分炒めたのを確認して調味料を入れ、いよいよ食する段階になる。
308空腹者たちの協奏曲:2006/11/24(金) 22:16:16 ID:jr12WKVq0
「お箸は…あ、あったあった。至れり尽せりよねぇ」
ようやく腹に仕事を与えてやれる。いただきまーす、と言って麺を口に運ぼうとしたとき。
「そ、そこの人…」
どこからか元気のない声が聞こえてきた。驚いて麺を口に含んだまま杏が振り向くと、
「腹が…減った」
情けない声で食べ物を求めたのは藤井冬弥だった。

【時間:二日目0時】
【場所:D−8】

藤井冬弥
【持ち物:P-90 支給品一式】
【状況:由綺(・理奈・はるか)を殺した人間への復讐…だが、空腹でそれどころじゃない】
藤林杏
【持ち物:包丁、辞書×3(英和、和英、国語)、支給品一式、お鍋のフタ、野菜など食料複数、携帯用ガスコンロ】
【状態:決意、目標は妹との再会…だが、食事中】

ボタン
【状態:杏に同行】

【備考:B−10、11、13ルート】
309封印:2006/11/25(土) 00:32:10 ID:g6RlCaHs0
「んー、お腹減ったよぉ〜…」

川名みさきは何度、いや何百度目になるか分からない愚痴を言う
愚痴の内容は

「なんでこんなトコにいるんだろう」 5%
「お腹減った」           95%

内訳するとこんな感じである

同行する者はアロウン
みさきに支給された召喚スイッチにより召喚された魔王である

「──問おう。貴方が、私のマスターか」

「マスターって……何?」

「では、貴方が私を呼び出したのか?」

「…うーん…よく分からないけど……あっ!この変なボタン押したら煙が出てきて
貴方の声がしたんだよ、だから私が呼んだのかな?」

「では、貴方がマスターなのだな」


こんなやりとりを経て二人は一緒に歩いていた
みさきの眼のこともあり、ゆっくりではあるが…
かれこれ10時間は経ったであろうか
まだ誰とも会わない
しかし、午後6時に放送があったので
本当に殺し合いをしているのだ、とは理解ができた
310封印:2006/11/25(土) 00:33:05 ID:g6RlCaHs0
「んー、早く帰ってお腹一杯カレーを食べたいんだよ…
 あれ?そういえば昔お母さんとお父さんが言ってたな、あれは確か…」


「みさきー、もうねなさーい」
「わかったよー、おやすみー」

「そういえば、みさきの食べる量が増えたわね、また…」
「しょうがないだろう、あの娘は伝説の食神なんだから」
「なんで私たちの娘があのような存在に…」
「嘆いても仕方ないだろう、幸い封印方法は簡単なんだから
 
 『半日食事ヲ与エネバ食神ハ復活スル、食神復活スレバ世界ハ滅ブ』

この言葉のおかげでみさきはまだみさきでいられるのだから…」


(…なんなんだろうね、食神って。食べ物の神様だから、いろんな食べ物を出してくれるのかな?
 あ〜、なんか食べたいよ〜)
311封印:2006/11/25(土) 00:34:13 ID:g6RlCaHs0
川名みさき
 【時間:午後11時ごろ】
 【場所:J-09】
 【所持品:召喚スイッチ(使用済み)、食料と水を除く支給品一式】
 【状態:空腹度120%・食神復活まであと2時間】

 アロウン
 【時間:午後11時ごろ】
 【場所:J-09】
 【所持品:マフラー】
 【状態:みさきと契約を結ぶ】


備考【262より続き】
312お手本:2006/11/25(土) 03:11:31 ID:Kr74Ih2Z0
(あらあら……やっぱり姫川さんは死んでしまわれたんですね)
時は深夜、有紀寧はノートパソコンを覗いていた。
既に祐介と初音は寝静まってしまっている。
画面に映っているのは『ロワちゃんねる』という大きな文字。
そこの死亡者報告スレッドを開くと姫川琴音の名前があった。
有紀寧の予想通り、錯乱している姫川琴音では生き残れなかったのだ(実際には琴音は二人殺してのけたのだが)。

だが有紀寧にとっては琴音の死など些事である。問題はそれよりもこの掲示板をどう活用するかだ。
出来れば柏木姓の人間達と合流し、自身を守る強力な「盾」としたい。だがこの掲示板で自分達の場所を知らせる事は自殺行為だ。
そんな事をすれば、柏木の人間達だけでなくやる気になっている者達まで呼び寄せてしまいかねない。
この掲示板は誰かと合流する為に使うようなものではないのだ。

この掲示板はゲームを加速させる為に使い、自分は安全地帯に居座り続けるべきだろう。
ではどうやってゲームを加速させるか。既に天野という人物がその類の書き込みをしている。
だが、この程度の内容では生ぬるい……あまりにも甘過ぎる。
これではせいぜい殺せて2-3人、下手をすれば誰も犠牲を出す事なく誤解が解けてしまうかもしれない。

(ふふ……私がお手本を見せて差し上げますよ)
『安否を報告するスレッド』を見ていた有紀寧はある事を思いつき、キーボードを打ち始めた。
(言葉遣いは……あの方らしくはありませんが敬語で統一した方が良いでしょうね。レインボーという方との関係が分かりませんから)
文字を打ち終えた有紀寧は迷うこと無く送信ボタンを押した。

=============================================

 自分の安否を報告するスレッド

4:岡崎朋也:二日目 03:05:23 ID:pdh2rLcYc
皆さん、この書き込みをよく読んでください。
このままでは俺達には未来がありません。
こんな馬鹿なゲームに乗った人は少ないと思いますが、島から脱出出来なければいずれ皆命を落としてしまうでしょう。
何とかして島を脱出しようにも、俺の力だけではどうにも出来ません。
313お手本:2006/11/25(土) 03:14:30 ID:Kr74Ih2Z0

そこで俺はこの島を脱出しようと考えている人達を集めたいと思っています。
協力してくれる方々は今日の14時に鎌石村役場に来てください。
疑われる方もいるでしょうが、その懐疑心こそが主催者の狙いです。
こんな絶望的な状況ですが、皆で力を合わせればきっと何とかなると信じています。
俺の知り合いだけでなく知らない方でも脱出に協力してくださるなら大歓迎です。
俺は今から仲間を迎えに行ってくるのでこの掲示板はもうチェック出来ませんが、必ず14時に鎌石村役場に行きます。
皆さん、俺と一緒にこの島を脱出しましょう!

>>3
上の通りですので、仲間の方も連れて14時に鎌石村に来てください

=============================================
朋也は決してゲームに乗るような性格ではないから、こういう書き込みをする事も有り得るだろう。
彼の知り合いがこの書き込みを見れば、本人の書き込みであると勘違いしてくれる可能性が高い。
この書き込みの危険性に気付かず、何も考えないままのこのことやってくる愚かな者もいるかもしれない。
だが書き込みを見た者達も馬鹿ばかりという訳ではないだろう……この誘いの危険性に気付く者は恐らく多い。
しかしだからこそ、朋也の知人ならば指定した場所にやってくる筈だ――――危険に晒されている朋也を救う為に。

朋也の知り合いや馬鹿な人間がそれぞれ仲間を引き連れてやってきて、そして獲物を狙った強力なハンター達もやってきたのなら。
一気にゲームは加速するだろう。偽名で書き込みしている以上失敗しても有紀寧にはリスクは無い。
マーダー達を自分から遠ざける為に、落ち合う場所を氷川村とはほぼ反対の位置にある鎌石村に指定する配慮も忘れない。


(朋也さんとお知り合いの方々……せいぜい頑張ってくださいね)
一仕事終えた有紀寧はノートパソコンの電源を切った。
宮沢有紀寧は一人、笑っていた。その笑みはどうしようもないくらいの邪な色を含んでいた。
314お手本:2006/11/25(土) 03:15:41 ID:Kr74Ih2Z0


【時間:2日目午前3時10分頃】
【場所:I−6上部】

『宮沢有紀寧 (108)』
【持ち物:リモコン(5/6)・支給品一式・ゴルフクラブ】
【状態:前腕に軽症(治療済み)。強い駒を隷属させる】

『長瀬祐介 (073)』
【持ち物:コルト・パイソン(6/6) 残弾数(19/25)・支給品一式・包帯・消毒液】
【状態:睡眠中。目的は初音を守りつつ、彼女の姉を探す事】

『柏木初音 (021)』
【持ち物:鋸・支給品一式】
【状態:睡眠中。目的は祐介に同行し、姉を探す事】

【関連356・374 B−11、13ルート】
315求められた助け(1/3):2006/11/26(日) 00:28:24 ID:Vswhbewy0
顔を見合わせる。
電話の呼び鈴が鳴り響く部屋で、柊勝平と神尾観鈴はその薄気味悪い事象に戸惑っていた。
一定のリズムを刻むそれは、いつまで経っても止むことはない。
そもそも電話なんて連絡手段を使えるということを、彼等は知らなかったから。

・・・もしかして、ここに人がいるかを確かめるためにかけているのだろうか。
それとも命の危機に晒され、助けを求め必死になって連絡を取ろうとしているのか。

分からない。どうすればいいか、勝平が思い悩んでいる時であった。
座っていた観鈴がすくっと立ち上がり、電話の方へ歩いていく。

「お、おい」
「とりあえず取らないと、皆起こしちゃうし・・・」

怖くないわけではない、でもこのままだとせっかく休んでいる仲間に迷惑がかかってしまう。
それが観鈴の結論であった。
ゆっくりと受話器を持ち上げ耳に当てる観鈴の後ろ、やはり気になるのか勝平も構える。

「・・・もしもし?」

観鈴の問いかけ。返事は、即座に返ってきた。

『た、助けてください!』
「え?え??」
『鎌石小学校にいます、今変な人に捕まっちゃったんです・・・っ、お願いします、助けてっ!!』
「あ、あの・・・」
「何、悪戯?・・・ちょっと貸して」
316求められた助け(2/3):2006/11/26(日) 00:29:08 ID:Vswhbewy0
勝平には相手側の声は聞こえていないようで。
ただしどろもどろしている観鈴の様子に苛立ったのか、無理矢理受話器をひったくった時だった。
受話器の向こう側から上がる悲鳴、それと同時に『何してやがるっ!』といった男の罵声も聞こえてくる。

「お、おい!もしもし?!」

慌てて受話器を耳に押し付けるものの、既に通話は切られていて。
呆然。何が起きているのか理解する前に、勝平の中に走ったのは「これはヤバイ」という不安であった。

もう一度、二人顔を見合わせる。
観鈴も感じたのだろう、「どうしよう・・・」という眼差しを勝平に送ってくる。
戻されていない受話器から流れる機械的な音だけが、場を支配していた。






一方。鎌石小中学校、職員室にて。

「ン〜、由衣ちゃんは悪い子だなぁ。勝手に外に連絡とっちゃうなんて、これはお仕置きモノだぞ?」
「ひ、ひぃっ」

ガタガタという震えが止まらない。
携帯電話を抱きしめるように身を小さくし、名倉由衣は男から逃げるよう後ずさりをした。
だが尻餅をついてしまっている状態だったため、ずかずかと歩いて詰め寄ってくる男から離れることはできない。
髪を掴まれ顔を寄せられる、由衣は男の成すがままになるしかない。
317求められた助け(3/3):2006/11/26(日) 00:30:03 ID:Vswhbewy0
「ほ〜ら、熱いキッスをくれてやる。顔こっち向けろ」
「い、嫌です!」
「たっく、ノリが悪いな・・・ほら、じゃあ自分から股開けよ」
「い、いやです、もう止め・・・」
「愚痴愚痴言ってんじゃねえ!!大体こんな小さい身なりで非処女なんてヤリマンの証拠じゃねえか、あぁ?」
「う、うぅ・・・」

引き裂かれた物の代わりにこの学校で手に入れた制服も、今は所々破かれ大量の白い染みに侵されていた。
服だけではない。体中も男に撫で回された不快感が拭えず、それは由衣の心をズタズタに引き裂いていく一方で。

・・・最初は優しい笑顔だったはずの男は、この場所に由衣以外の人間が本当にいないと分かった途端彼女を押し倒した。
由衣は状況が理解できないままに身をもみくちゃにされ、何度も何度も犯されることになる。
そんな経緯から、男にとって由衣のそれは今更の抵抗であった。泣き叫ぶ由衣の姿を見るのもまた余興。そんな、心境。

約一時間前、仲間を増やすべく由衣が電話をかけた先・・・それに出たのが目の前の男、岸田洋一であった。
余程近い場所だったのか、彼が由衣の元に辿り着いたのは三十分ほどで。
こんなにも早く味方を見つけられるなんて・・・と、彼女が思うのも束の間。
岸田の変貌は本当に早かった。
花梨や由真を取り逃がしたことによるフラストレーションを抱えていた時に、運よく現れた由衣という小動物。
それが、名倉由衣。岸田は彼女にそれをひたすらぶつけた、由衣自身にとってはたまったものではない。
・・・だが、それでようやく岸田は。本来の調子を取り戻せたような、そんな気分になることができていた。

「まぁ、やっちまったことは仕方ねえなぁ。くっくっくっ、ちょうど刺激が足りなくなってきた所だあ!いっちょ揉んでやるかっ。
 さーて、由衣ちゃんの呼んだお仲間が来るまで・・・気持ちいいこと、してような〜」
「いやああああぁぁぁっ!!!」

由衣の悲鳴は止まらない。
彼女の地獄は、まだ始まったばかり。
318補足:2006/11/26(日) 00:31:14 ID:Vswhbewy0
柊勝平
【時間:1日目午後11時45分】
【場所:C−5・鎌石消防分署】
【所持品:電動釘打ち機16/16、手榴弾三つ・首輪・和洋中の包丁三セット・果物、カッターナイフ・アイスピック・支給品一式(食料少し消費)】
【状態:呆然】

神尾観鈴
【時間:1日目午後11時45分】
【場所:C−5・鎌石消防分署】
【所持品:フラッシュメモリ・支給品一式(食料少し消費)】
【状態:呆然】

岸田洋一
【時間:1日目午後11時45分頃】
【場所:D−6・鎌石小中学校・職員室】
【所持品:カッターナイフ】
【状態:女>ゲーム】

名倉由依
【時間:1日目午後11時45分頃】
【場所:D−6鎌石小中学校・職員室】
【所持品:鎌石中学校制服(リトルバスターズの西園美魚風)、
      カメラ付き携帯電話(バッテリー十分)、
      荷物一式、破けた由依の制服】
【状態:全身切り傷と陵辱のあとがある・このゲームで傷ついた人への介抱を目的にしているが、今はそれどころじゃない】
【備考:携帯には島の各施設の電話番号が登録されている】

(関連・178・394・477)(B−4ルート)

485・お手本執筆者様へ
よろしければB-4でも該当させたくて、B-4用の改変版を上げさせていただきたいのですがダメでしょうか・・・?
319名無しさんだよもん:2006/11/26(日) 00:32:42 ID:xGOxYM9W0
>>318
丁度読んでましたw
本人証明出来ないけど485作者です
ご自由に改変どうぞー
320名無しさんだよもん:2006/11/26(日) 00:47:51 ID:Vswhbewy0
ありがとうございます!

まとめさんへ
以下の改変をしたB-4用の485を、B-4ルートに入れていただければと思います。
お手数おかけしてすみません、よろしくお願いします。

9行目
×
出来れば柏木姓の人間達と合流し、自身を守る強力な「盾」としたい。だがこの掲示板で自分達の場所を知らせる事は自殺行為だ。
そんな事をすれば、柏木の人間達だけでなくやる気になっている者達まで呼び寄せてしまいかねない。


出来れば柏木姓の人間と合流し、自身を守る強力な「盾」としたい。(と言っても、もう残りは一人しかいないが)
だがこの掲示板で自分達の場所を知らせる事は自殺行為だ。
そんな事をすれば、柏木の人間だけでなくやる気になっている者達まで呼び寄せてしまいかねない。


20行目
×
(言葉遣いは……あの方らしくはありませんが敬語で統一した方が良いでしょうね。レインボーという方との関係が分かりませんから)


(言葉遣いは……あの方らしくはありませんが敬語で統一した方が良いでしょうね)
321別離:2006/11/26(日) 02:17:56 ID:6daNxx7A0
空が明るくなり始めた頃の海の家。
そこで柳川は見張りを続けながら銃の手入れをしていた。
「おはようございますっ」
背後から明るい声が掛けられる。振り向くと佐祐理が微笑みながら立っていた。
「む、随分と早いな」
「佐祐理はお昼にも寝てたから、目が覚めちゃいました」
「ああ、そう言えばそうだったな」
それだけ言うと、柳川はまた銃に目を戻し、手入れを再開した。
柳川達の武装は充実していたが、その分念入れに手入れする必要がある。
いくら強力な武器でも戦闘中に故障したら堪らない。

「ふむ……。どうやら銃の方は問題はないようだな」
点検を終え、一息つく。
梓や琴音との激しい斬り合いの所為か出刃包丁に若干傷みが見られた。
だが銃火器類の武器には特に問題が見られない。
「柳川さん、ちょっと良いですか?」
「ん、なんだ?」
声を掛けられた方を向くと先程と同じく佐祐理が笑顔で立っている。
違うのはその手に救急箱が握られている事だった。
「包帯を取り替えませんか?リサさんの代わりに佐祐理がやりますよ」
「そうだな……奴も疲れているだろうし、頼む」
柳川はそう言うと、M4カービンを床に置いた。
「…………」
「…………」
「………………」
「………………」
「……どうした?始めないのか?」
「あの……。佐祐理が脱がせるのはちょっと…………」
それで初めて柳川は自分が上着を着たままだった事に気付いた。
佐祐理は少し顔を紅潮させながら、困ったように苦笑いしている。
柳川は慌てて、「す、すまん」と言いながら上着を脱ぎ捨てた。
322別離:2006/11/26(日) 02:19:07 ID:6daNxx7A0
「それじゃ、始めますよーっ」
佐祐理は柳川の包帯を外して消毒液を取り出した。
消毒を済ませた後、新しい包帯を巻きつける。
柳川から見てもそれはなかなか見事な手際だった。
「どうですか?」
佐祐理が不安そうに尋ねてくる。
柳川は確かめるように肩を動かしてみたが、特に違和感は無かった(もっとも傷の痛み自体は残っていたが)。
「大丈夫だ。リサ程ではないが、上手いな」
「あははーっ、ちゃんと出来て良かったです」
佐祐理は安堵したような表情を浮かべた後、満足そうに笑っていた。

昨日は戦いの連続で余裕がなかったが、今日の佐祐理は終始笑顔だった。
多分これがこの少女の本来の姿なんだろうなと、柳川は思った。
無愛想で生真面目な自分に対してもこの少女は微笑んでくれる。
昨日から緊張の連続だった柳川も幾分か表情が柔らかくなっている。
貴之と一緒にいた時とはまた違う安らぎ。こういうのも悪くないな、と素直に思う。
だがこうしてる間にも殺人ゲームは進行している。いつまでもゆっくりとしている訳にはいかなかった。

「よし……、そろそろ出発するか」
「あ、そうですね。それじゃ、リサさんと栞さんを起こしてきますね」
佐祐理が部屋を後にする。柳川も荷物をまとめ、後に続く。
寝室に入ると、息を乱している栞の傍でリサが座り込んでいた。
「どうしたんだ?」
「分からないわ。朝起きたら、苦しそうにしてたの」
「へっちゃら、です……」
栞はそう言ったが、その言葉とは裏腹に彼女は青ざめた顔をしていた。
柳川は荷物を置いて右手を伸ばし栞の額に当てた。冷や汗と共に熱が柳川の手のひらに伝わってくる。
「……熱があるな」
「そのようね……」
「佐祐理、救急箱に解熱剤が入っていないか見てきてもらえないかしら?」
言われて、佐祐理は慌てて救急箱を取りに行った。
「どうだ?何の病気か分かるか?」
323別離:2006/11/26(日) 02:20:49 ID:6daNxx7A0
柳川がリサに尋ねる。病気の類は彼の知識の範疇の外の事だった。
「多分、ただの風邪ね。でも楽観視は出来ないわ……」
生まれつき体の弱い栞にとっては、ただの風邪でも軽く見ることは出来ない病気である。
おまけにゲームのせいで疲労も溜まっている。命に関わる程ではないがとても動き回れる状態ではないだろう。
リサは爪を噛みながら考え込んでいた。
そこで佐祐理が戻ってきて、救急箱をリサの前に差し出した。
リサは急いでその中を探し始めた。
「Shit……、どこにも見当たらないわ」
中から出てきたのは包帯と消毒液。後は目薬や正○癌などの、風邪には役に立ちそうもない薬ばかりだった。
「……何かおかしいな。解熱剤は無いにしても普通は風邪薬くらい入れてあるものだ」
「主催者が意図的に最低限の物しか用意してないようにしてるのかもしれないわね」
そうしてる間にも栞の息遣いが激しくなっていく。

リサは部屋で見つけたハンカチを水で濡らして栞の額に当てていたが、効果はあまりないようだった。
「……柳川、出発しましょう」
「この状態でか?」
視線を栞の方にやると栞は前以上に苦しそうにしていた。
とても、歩き回れるような状態とは思えない。
「Yes.このままじゃ埒があかないわ。私は栞を背負って診療所に行くわ。柳川と佐祐理は首輪を外せる人間を探して頂戴」
柳川は眉を持ち上げ、怪訝な顔をした。
一人で栞を背負って診療所まで行く?決して近くはないのに?
「それは危険だろう。俺達も一緒に診療所に行った方が良いんじゃないのか?」
だが、リサはあっさりと首を振った。
「いいえ、そんな余裕はないわ。こうしてる間にもどんどん人が死んでいくのよ。貴方達は貴方達で今する事をするべきだわ」
「でも……」
佐祐理が異論を挟もうとしたがリサはそれを待たずに話し続ける。
「大丈夫。私はそう簡単にやられたりしないわ」
「……分かった。ならせめてこれを持って行け」
柳川はほんのわずかの逡巡のあと、M4カービンを差し出した。
「良いの?」
「良いも何も、これはもともと美坂の物だ。それと合流場所を決めておくぞ。今日の22時に平瀬村分校跡に来い」
「OK,ありがとう。それじゃ私達、もう行くわね」
324別離:2006/11/26(日) 02:23:04 ID:6daNxx7A0
リサはM4カービンを受け取り栞を背負って、海の家の外に出た。
柳川達も荷物を回収して後に続く。
「リサ、貴様は貴重な戦力だ。変な所で野垂れ死ぬなよ」
「貴方もね、柳川。佐祐理をしっかり守らないと駄目よ?」
リサは笑みを浮かべつつ人差し指をたてている。
柳川は肩を竦めながら、ふんと笑った。
「余計なお世話だ」
ぶっきらぼうに、そう言い放つ。
リサは最後に柳川と佐祐理に向けて少しずつ頷いてみせ、柳川達とは別の方向へと歩いていった。
栞を背負ったリサの後姿は力強く頼もしく、だが同時に何故かとても儚げなものに感じられた。
「どうかお気をつけて……」
佐祐理は柳川とは対照的に、心底心配そうにしていた。
それでも柳川が佐祐理に視線をやるとすぐに彼女は頷き、柳川達もまた海の家を後にした。


「おい倉田、これを持っておけ。護身ぐらいにはなるだろう」
柳川が歩きながら懐から二連式デリンジャーを取り出し佐祐理に差し出した。
佐祐理は少し戸惑っていたが結局それを受け取った。
佐祐理が人を撃てるか正直疑問だったが、吹き矢では護身用の武器としてあまりに不足だった。
備えは万全にしておくに越した事はない。銃ならばただ持っているだけでも敵にとっては脅威となる。
そして佐祐理がデリンジャーをポケットに入れた所で、島中に例の放送が響き渡り始めた。
「これは……」
「ああ、有り難いホームルームのお時間が始まるようだ」
そして2回目の放送が流された。



夜の間ならば、皆寝静まっているのではないかと。
それならば、人はあまり死んでいないのではないかと。
放送に聞き入りながら二人は願う。
だがその願いは果たされず、それどころか最悪の現実を突きつけられる事になる。
聞き終わった時には柳川も佐祐理も言葉を失っていた。
325別離:2006/11/26(日) 02:24:53 ID:6daNxx7A0
優勝者に対する褒美………好きな願いを叶えられる。これはすぐに嘘だと思った。動揺するような事では無かった。
だが、その放送で呼ばれた名は余りにも多すぎた。実に20人以上もの人間が一晩のうちに命を落としたのだ。
一回目の放送とあわせると約40人、既に参加者の3分の1の人間が死亡した事になる。
そしてその中には栞の姉―――美坂香里の名前があった……。

佐祐理は放送を聞き終えるとすぐにリサ達が歩いた方向に振り返っていた。
「引き返しましょう、栞さん達が心配ですっ!!」
だが、引き返そうとした佐祐理の腕を柳川が掴む。
「冷静になれ、倉田」
表情を変えないままとても静かな声で、それだけ言った。
「柳川さん、どうして止めるんですか!?」
「リサも言っただろう…、俺達は一刻も早くこのゲームを止めないといけないんだ」
「でもっ!」
柳川はもう佐祐理の反論を相手にせず一人で歩き出した。
「どうしてっ……そんなに落ち着いていられるんですか……」
佐祐理は彼女にしては珍しく険しい表情をしながらも何とか感情を抑えて、柳川を追った。

……だが、佐祐理はすぐにある事に気づいた。
柳川の手から、強く握り締められた拳から、僅かに血が垂れている。
よく見ると微かに肩も震えている。
それでようやく佐祐理は彼の本当の気持ちを察した。
(馬鹿です、私…)
佐祐理は視線を足元に落としたがすぐに顔を上げた。
そして一言謝罪し彼の横に並んで歩き始めた。
その拳は柳川と同じように強く、握り締められていた……。
326名無しさんだよもん:2006/11/26(日) 02:26:13 ID:o5kDF7JvO
回避
327別離:2006/11/26(日) 02:28:00 ID:6daNxx7A0
リサ=ヴィクセン
【時間:2日目午前5時50分頃】
【場所:G−9、海の家付近】
【所持品:鉄芯入りウッドトンファー、支給品一式×2、M4カービン(残弾30、予備マガジン×4)】
【状態:栞を背負いつつ診療所に向かっている】

美坂栞
【時間:2日目午前5時50分頃】
【場所:G−9、海の家付近】
【所持品:無し】
【状態:酷い風邪で苦しんでいる】



倉田佐祐理
【時間:2日目午前6時10分頃】
【場所:G−9】
【所持品:支給品一式、救急箱、二連式デリンジャー(残弾2発)、吹き矢セット(青×5:麻酔薬、赤×3:効能不明、黄×3:効能不明)】
【状態:健康、移動先はお任せ(リサ達とは別方向)】

柳川祐也
【時間:2日目午前6時10分頃】
【場所:G−9】
【所持品@:出刃包丁(少し傷んでいる)】
【所持品A、コルト・ディテクティブスペシャル(5/6)、支給品一式×2】
【状態:左肩と脇腹の治療は完了したが治りきってはいない、移動先はお任せ(リサ達とは別方向)】

(柳川関連の過去の話でコルト・ディテクティブスペシャルの弾数の推移に異常があったので修正(参照:76話・114話・118話))
(関連73・417・479)(B-13ルート)
>>326
ありがとう、助かりました
328信じること(1/9):2006/11/26(日) 05:47:30 ID:7bnTIuFj0
「こんな所に本当にパソコンが置いてあるのかしら……」
環が呟く。
彼女達は鎌石小中学校の昇降口を昇っている最中だった。
校舎は木造で、パソコン等の電子機器とはまるで無縁に思える。

「正直怪しい所だけど、とにかく探してみるしかないんじゃないかな」
「……そうですね」
英二に言われ、環は頷いた。
あれこれ悩んだ所でパソコンが目の前に現れはしない。
今はこの学校を探す他、無かった。
階段を昇ると、すぐ右の突き当たりに職員室らしき札が掛けてある部屋の扉が見えた。
左側には廊下が伸びており、教室の扉らしきものが複数ある。
また階段はさらに上に続いている。

「まずは職員室を調べてみよう。パソコンがありそうな場所だしね」
英二が職員室の扉を開き、安全を確認する。続いて部屋の中に入っていく英二一行。
329信じること(2/9):2006/11/26(日) 05:48:33 ID:7bnTIuFj0

そこはこざっぱりとしたよく見る職員室の風景。
だが肝心のパソコンは…見あたらない。
「どうやらパソコンは無いみたいですね」
「仕方ない。別の場所もまわってみるか」
一同は落胆しつつ、職員室を後にする…

「あ、あの」
「どうしたの観鈴さん?」
「あの、その…なんか寝息が聞こえませんか?」
一同は観鈴の指摘に耳を澄ます。


「……すー、…すー」

確かに職員室の奥の方から寝息らしき音が聞こえる。
「…誰か寝ているみたいね」
「俺、見てきます」
「念のため気をつけろよ」
英二の言葉に頷きながら祐一が慎重に職員室の奧へと向かう。
そこにいたのは。
330信じること(3/9):2006/11/26(日) 05:49:35 ID:7bnTIuFj0

(!?)
「どうした?」
「すいません…どうやらここで寝ているのは俺の…知り合いみたいです」
「何、そうなのか」
「着ている制服は違いますけど…多分俺が知っている栞って子です」
「そうか…だが念のため、彼女の荷物を調べてくれ。」
「!? まさか栞を疑うんですか!」
「いや、君の知り合いだからと言ってゲームに乗っていないとは限らない。万が一だ」
英二に促されしぶしぶ彼女の荷物を調べる祐一。
中にあったのは…食べ物と水、携帯電話、そしてまた祐一にとっては見慣れない制服。
おかしい、祐一は思った。栞はこんな服は着ていたことはない。いったいどういうことなのだろうか。
あらためて栞とおぼしき少女をみる。暗闇で正確にはわからないが寝顔、髪、背格好。どれを見ても少女は栞だという答えを祐一ははじき出す。
「おい、どうした?」
荷物を調べるといってなかなか反応がないことで英二が再度声をかける。
「……武器は持っていないみたいです」
祐一は静かに英二たちに伝えた。


「……この祐一の知り合いって子はどうするの? 起こす?」
「いや、俺が起きるまで見ている。パソコン探しは英二さん達が頼む」
「おいおい、彼女がまだ安全だって決まっているわけでは」
「俺の知り合いを武器もないのに疑うんですか!」
「……わかった。でも相沢君だけじゃ不安だな。環君は相沢君と一緒にここで待っててくれるかな」
「私も……待機ですか?」
「ああ。もちろん相沢君が保証しているから大丈夫だとは思うけど、念のためね。
それにこれだけ大きな建物だ……誰かが来る可能性も十分あるからね。もしもの時は相沢君と一緒に切り抜けてくれ」
「分かりました」
「それじゃ、行ってくるよ」
そう言い残して英二達は外へと出て行った。
331信じること(4/9):2006/11/26(日) 05:50:34 ID:7bnTIuFj0


「ふぅ……」
英二達が去ってから暫くして、環が軽く溜息をついた。
全くやる事が無かった。だけど…。
「栞…」
祐一のそばで今も寝ている少女(栞?)に対する祐一の態度がどうしても気になっていた。
二人はどういう関係なのかは祐一には聞いてない。
ただ、祐一のつぶやきから少女が病弱だということだけ。
改めて少女の並べられた荷物を見定める。
その中でも目を引くのが少女が着ていたものらしき制服。
上着もスカートも何かに切り裂かれたかのように大きく前の部分が無くなっている。
この状態から想像できることは…考えたくもない。
いったいこの半日の間に少女はどんな脅威に晒されていたのだろうか。


「…ん」
栞とおぼしき少女がぴくりと身体を震わせる。
「栞? 起きたのか」
「ふぇ…」
少女がゆっくりと身体を起こす。と同時に何かが少女の髪から落ちる。
細長い布のような…りぼん?
「ふぁ……わわわわわわわわわわわわっ」
突然栞とおぼしき少女がびっくりしながら一気に私たちから後ずさる。
「!? その声は栞…じゃないのか」
祐一が告げると同時に私はとっさに少女に対して銃を向ける。

「動かないで。できれば手荒な真似したくないの」
332信じること(5/9):2006/11/26(日) 05:51:39 ID:7bnTIuFj0

その頃――
3階の奥にある一室で木造の校舎には不似合いなIT教室―――デスクトップ型のパソコンが大量に置かれている部屋があった。
「これも駄目か……」
「が、がお……」
そこで、英二は頭を抱えている。
英二達はフラッシュメモリの中にあったファイルの中身を確認しようとした…が、困ったことにファイルが開けない。
理由はファイルの情報を示す拡張子が存在しないため、そのままではこのパソコンで中身を閲覧することができないからだ。
このため英二は思いつく限りの拡張子…txt、doc、csv、xls、html等をファイル名の末尾に付加して開こうとしてはみた。
だが大概はファイルが開けない旨のエラーが表示されるか、…運良く開けても意味不明な文字の羅列しか表示してくれない。

「芽衣ちゃん、わかる?」
「ううん。お兄ちゃんだったらわかるかも知れないけど…」
英二の苦闘ぶりに芽衣&観鈴は何とかしてあげたいのだがどうすることもできないでいる。
フラッシュメモリには説明書などは付いていない。
だから本来ならば特に何かをしなくてもファイルの中身を見ることができるのだろう。
しかし現状でファイルを開くには…英二の頭では考えつかない。これがパスワード形式であればまだ希望がもてたかもしれないのだが…。
「観鈴君、すまない…相沢君たちを呼んできてはもらえないか。相沢君たちならもしかしたらこのファイルの開け方がわかるかも知れない」
333名無しさんだよもん:2006/11/26(日) 06:04:47 ID:hqDp8oQW0
回避
334名無しさんだよもん:2006/11/26(日) 06:05:39 ID:hqDp8oQW0
回避2
335名無しさんだよもん:2006/11/26(日) 06:06:32 ID:hqDp8oQW0
回避
336名無しさんだよもん:2006/11/26(日) 06:07:39 ID:hqDp8oQW0
もう出掛けるので取り敢えず落とせるだけ回避を落としていこう……ってことで回避その4
337名無しさんだよもん:2006/11/26(日) 06:08:18 ID:hqDp8oQW0
ラスト回避
338信じること(6/9):2006/11/26(日) 06:09:12 ID:7bnTIuFj0

「しかし…本当に似てるな栞に」
「そうなんですか? そこまで言うんでしたらちょっと栞さんに会ってみたいですね〜」
相沢君の知り合いかと言われた彼女=名倉由依はいつの間にか相沢君と雑談に興じている。
私が銃を名倉さんに向けた際には緊張感が走っていたのだが、お互い敵意がないことを確認した途端、名倉さんが色々と話しかけてきたからだ。
どうもそのやりとりのうちに相沢君は名倉さんへの警戒をいつの間にか解いている。
でも私は…まだこの名倉さんを信用はしていない。
相沢君は名倉さんを栞さんとだぶらせているからかもしれないけど、その分私が警戒するに越したことはない。


「へえ〜その携帯電話って島内ならどこへでも連絡できるのか」
「この電話だけの特別な機能みたいです。カメラもついているんですよ〜。あと電話以外にもメールや多分ネットもできると思うんですけど…」
なぜだろう名倉さんの声が心なしか突然小さくなる。
「そうだよな、いくらこっちから通信ができると言っても、相手先がわからなければどうしようもないしな」
「いえ、あの…」
名倉さんが続けて何か言いかけようとしたところで、階段の方から足音が聞こえてきた。
私と相沢君は警戒し、銃を構える。
(一人? でもこの足音は…)
職員室の扉がゆっくりと開けられる。
そこには…神尾さんがあたふたした様子で立っていた。

「ごめん、相沢さん、環さん…英二さんが力を貸してほしいって」
339信じること(7/9):2006/11/26(日) 06:10:16 ID:7bnTIuFj0

「本当に一人で残るのか」
「わたしたちと一緒にいた方がいいよ」
相沢君と神尾さんは自分たちと一緒に行動しないかと名倉さんを誘う。しかし
「ごめんなさい。あたし…実はここで人を待っているんです」
私はそれを聞いて唖然とした。
どうやらこの子は島内どこへでも連絡できると言われる携帯でどこの誰かもわからない人をここに招き入れたばかりか、会おうとまでしているらしい。
「あなた本当にわかっているの?こんな状況で電話だけで人を信じるなんて!」
「それでも…何もしないで立ち止まっているよりはいいと思います」
「それはどうかと思うわよ。私がマーダーなら、電話されてもゲームに乗っていない、協力したいっていうわよ。それで仲間になってから裏切った方が楽だもの」
そんな考えでいたらまたあの制服を着ていたときのようになるわよ、と言おうとしたがやめた。
「でも、とりあえずは信じることにしているんです。誰も信用できない、身内が殺された、だから人を殺すしかない、
 …もしそんな状態に陥ってしまった人を説得するには…あたしの方から信頼を見せるしかないですから」
その言葉には同世代の女子高生が発しそうな軽さは無かった。相沢君と神尾さんも、そして私自身もそれを感じ取る。
「大丈夫ですよ。これでも修羅場はくぐってますし、こういう場所での身の避け方って慣れてますから。あ、でも見つかっちゃったら何もできないかもしれないですけど…」
…この子は今までいったいどういう人生を歩んでいたのだろう。私はそれ以上考えるのをやめた。

「これ、名倉さんのだろ?」
相沢君が職員室を出る際に名倉さんに何かを手渡す。
それは不釣り合いに二つに千切れた黄色いリボンだった。
彼女はひどく残念そうにしていたけれど、すぐに相沢君に対して感謝を伝えていた。
「信頼ある人でしたら皆さんに紹介しますからっ。ただ…もし…どうしても本当に信頼できる人でなかったら」
名倉さんの言葉がいったん止まる。
「逃げます。皆さんに迷惑をかけないように…あたしだけでなんとかしますから」
この申し出は私たちにとって非常にありがたかった。ここでの目的を達成しないうちに危機に遭ってしまっては元も子もないわけだし。
「それじゃあ…そっちも頑張ってね」
そう言い残して私たちは職員室を後にした。

340信じること(8/9):2006/11/26(日) 06:11:33 ID:7bnTIuFj0

「ちきしょー、わからねえ…」
「すまない…俺の知識では常識的な範囲でしかわからなくてね。相沢君や環君だったら解決するかと思ったのだが」
英二たちと合流した祐一&環はどうにかファイルを開くために思いつく限りの拡張子を入れてみたが…
やはりエラーが表示されるか、または意味不明な文字の羅列しか表示されなかった。
「どうやらこのファイルには何か暗号か特殊なフィルターがかかっているか…あるいはこのフラッシュメモリを読み込む装置がパソコンでは無いのかも知れないな…」
一同は消沈した。手掛かりは一切無い。せめて何でもいいから情報が得られれば…
「待てよ…」
祐一は突然フラッシュメモリのフォルダを閉じたかと思うとインターネットを閲覧するソフトを立ち上げ始めた。
「相沢君?」
「おいおい、ここって、ありとあらゆる情報から隔離されているんじゃなかったか」
「確かに外部との情報は遮断されていると思う。でも」

――へえ〜その携帯電話って島内ならどこへでも連絡できるのか」
――この電話だけの特別な機能みたいです。――あと電話以外にもメールや多分ネットもできるとあるんですけど…

あの言葉が事実なら、必ず内部ネットワークみたいなみたいなものが用意されているはず。
そこに何かヒントがあれば…
祐一が画面を確認すると閲覧ソフトは既に立ち上がり最初に読み込むホームページを表示させようという段階のようだ。
祐一をはじめ後ろの面々もパソコンの画面を食い入るように見つめる。

しばらくして何かのページらしきものが本の少しずつだが画面に表示されてきた。
その小出しに小出しに現れるページに息を飲みながら見守っていたその時、一つの銃声が校舎に響き渡った。

「何っ!?」
「これは銃声だ……」
「まさか…」
祐一と環はお互い顔を合わせる。
341信じること(9/9):2006/11/26(日) 06:13:52 ID:7bnTIuFj0


――信頼ある人でしたら皆さんに紹介しますっ。ただ…もし…どうしても本当に信頼できる人でなかったら
――逃げます。皆さんにまで迷惑をかけないように…あたしだけでなんとかしますから

祐一は銃を手に取る。
「どこへ行くの?」
環は慌てて教室を飛び出そうとするや否やの祐一を制する。
「どこって決まっているだろ」
「待ちなさい! 何かあったらあの子は一人で何とかするって言ったじゃない。それにあなたが出て行ったらここはどうするの?」
「誰かが襲われているのがわかっていながら見過ごすとなんて俺にはできない。それに俺がいなくても英二さんたちがいればここは大丈夫だ。パソコンの件は頼みます」
そう言うと祐一は一気に教室を飛び出していった。


環は祐一の行動が理解できなかった。
あの子とはほんの一時しか言葉を交わしていないのに…信用できるかわからないのに。

――元々の友達とここで出来た仲間。天秤になんてかけれねーよ。

以前の祐一の言葉
でも…どうして信用なるかわからない人にまで、そう動くことができるの?

――でも、とりあえずは信じることにしているんです。誰も信用できない――もしそんな状態に陥ってしまった人を説得するには…あたしの方から信頼を見せるしかないですから

ああ…もう面倒くさい!
私は銃を取り緒方さんの顔を見やる。
そして緒方さんの頷く姿を確認すると同時に、私は教室を飛び出したのだった。
342No.488 信じること:2006/11/26(日) 06:20:34 ID:7bnTIuFj0
緒方英二
【所持品:ベレッタM92・予備の弾丸・支給品一式】
【状態:健康、表示されるページを確認する役目】
春原芽衣
【所持品:支給品一式】
【状態:健康、怯え】
神尾観鈴
【所持品:ワルサーP5(8/8)フラッシュメモリ、支給品一式】
【状態:健康、怯え】
相沢祐一
【所持品:レミントン(M700)装弾数(5/5)・予備弾丸(15/15)支給品一式】
【状態:体のあちこちに痛みはあるものの行動に大きな支障なし、職員室へ向かう】
向坂環
【所持品:コルトガバメント(残弾数:残り20)・支給品一式】
【状態:健康、職員室へ向かう】
名倉由依
【所持品:鎌石中学校制服(リトルバスターズの西園美魚風)
     カメラ付き携帯電話(バッテリー十分)、荷物一式、破けた由依の制服】
【状態:全身切り傷のあとがある以外普通、職員室で誰かを待っていた→状況不明
【備考:携帯には島の各施設の電話番号が登録されている】

→440 →445
⇔446 ⇔486
ルートに採用できるか否かは感想スレで(アナザー含)
【時間:2日目午前1:30ぐらい】
【場所:D-06 鎌石小中学校】
【備考1:由依は祐一たちに誰と会うかまでは教えていない】
【備考2:パソコン上に何が表示されたかどうかは後述を書く人へ】
【備考3:フラッシュメモリのファイルの仕様については後述を書く人へ】

>>333-337
早朝お忙しい中、本当にありがとうございました。
343318:2006/11/27(月) 01:49:04 ID:1f1iHwHD0
大変失礼しました、考察板にて訂正いただいた箇所を直しました。
(何故か昨日から考察板に書き込めないので、投稿板にて失礼します)
まとめさんへ、すみませんが以下の改変をお願いします


467話
タイトルの諒→椋

486話
由衣→由依
引き裂かれた→切り裂かれた
以下の文を貼り付けて直していただければと思います、お手数おかけします;
引き裂かれた〜はニュアンス的なものとして捉えていたもので、違和感を与えてしまいすみませんでした。




一方。鎌石小中学校、職員室にて。

「ン〜、由依ちゃんは悪い子だなぁ。勝手に外に連絡とっちゃうなんて、これはお仕置きモノだぞ?」
「ひ、ひぃっ」

ガタガタという震えが止まらない。
携帯電話を抱きしめるように身を小さくし、名倉由依は男から逃げるよう後ずさりをした。
だが尻餅をついてしまっている状態だったため、ずかずかと歩いて詰め寄ってくる男から離れることはできない。
髪を掴まれ顔を寄せられる、由依は男の成すがままになるしかない。
344318:2006/11/27(月) 01:49:52 ID:1f1iHwHD0
「ほ〜ら、熱いキッスをくれてやる。顔こっち向けろ」
「い、嫌です!」
「たっく、ノリが悪いな・・・ほら、じゃあ自分から股開けよ」
「い、いやです、もう止め・・・」
「愚痴愚痴言ってんじゃねえ!!大体こんな小さい身なりで非処女なんてヤリマンの証拠じゃねえか、あぁ?」
「う、うぅ・・・」

切り裂かれた物の代わりにこの学校で手に入れた制服も、今は所々破かれ大量の白い染みに侵されていた。
服だけではない。体中も男に撫で回された不快感が拭えず、それは由依の心をズタズタに引き裂いていく一方で。

・・・最初は優しい笑顔だったはずの男は、この場所に由依以外の人間が本当にいないと分かった途端彼女を押し倒した。
由依は状況が理解できないままに身をもみくちゃにされ、何度も何度も犯されることになる。
そんな経緯から、男にとって由依のそれは今更の抵抗であった。泣き叫ぶ由依の姿を見るのもまた余興。そんな、心境。

約一時間前、仲間を増やすべく由依が電話をかけた先・・・それに出たのが目の前の男、岸田洋一であった。
余程近い場所だったのか、彼が由依の元に辿り着いたのは三十分ほどで。
こんなにも早く味方を見つけられるなんて・・・と、彼女が思うのも束の間。
岸田の変貌は本当に早かった。
花梨や由真を取り逃がしたことによるフラストレーションを抱えていた時に、運よく現れた小動物。
それが、名倉由依。岸田は彼女にそれをひたすらぶつけた、由依自身にとってはたまったものではない。
・・・だが、それでようやく岸田は。本来の調子を取り戻せたような、そんな気分になることができていた。

「まぁ、やっちまったことは仕方ねえなぁ。くっくっくっ、ちょうど刺激が足りなくなってきた所だあ!いっちょ揉んでやるかっ。
 さーて、由依ちゃんの呼んだお仲間が来るまで・・・気持ちいいこと、してような〜」
「いやああああぁぁぁっ!!!」

由依の悲鳴は止まらない。
彼女の地獄は、まだ始まったばかり。
345名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 02:06:02 ID:CoOk2PPh0
ダラダラと引き延ばして申し訳ありませんでした。
359、391、427の続きです。
長引くと思いますので、連投回避にお付き合いください。
346月下の錯綜模様 〜追走〜:2006/11/27(月) 02:07:35 ID:CoOk2PPh0
「さ、どないするんや? 敬介はうちの味方やで。自分がここで手をこまねいている内に娘さんはえらい目におうてるんやろうなぁ……」
「……ちっ」

 お互いの拳銃で牽制して、迂闊に動けぬよう地へと縫い付けられる古河秋生(093)と神尾晴子(024)。
 一見対等な構図に見えるが、実のところ一方に偏られているのだ。
 余裕の笑みで拳銃を構える晴子と、右肩に傷を負った秋生ではどちらが有利か言わずとも知れている。
 さらには、橘敬介(064)が危険人物かもしれないと分かった今、敬介と共に行かせた秋生の娘である古河渚(095)の安否も怪しいものだ。
 そして、拳銃の残弾数。残り一発という状況を晴子に悟られてしまえば、秋生の圧倒的不利は容易に覆すことが出来なくなる。

(―――マジぃな……。銃弾一発に薙刀でどうにかしなきゃなんねぇってことか)

 渚達の元へ行くには、どうしたって晴子を無力化しなければならない。
 立ち塞がるような彼女の肩口の先を、秋生は焦燥に顔を歪めて眺め見る。
 敬介の善良そうな顔立ちを思い出すだけで、自身の迂闊さを呪いたくなってくるというものだ。
 晴子と橘の確執に飛び込んだことは明らかに余計な横槍だったと、そう思わずに入られなかった。

(ま、渚の手前。しゃあねぇか……)

 自分一人ならば恐らく見捨てた可能性もある。
 いや、妻であった古河早苗(094)を失った今、殺人者に復讐する権利だってあった。 
 だが、彼にはまだ娘の渚がいた。
 身体が弱いくせに根は何処までも素直で強い、母親譲りの自慢の娘だ。
 殺伐とした環境でも決してめげず、早苗を殺した者にまで諭す度胸のある娘だ。
 そんな渚が懇願して秋生に助力を申し出たのだ。普段我侭を極力言わない彼女の言い分を聞いてやらなくて何が父親か。
 言ってしまえば、娘の手前格好が付けたかったという話だ。
 調子の良い自分に、つい状況を忘れて苦笑してしまった。
 晴子は、それを面白くなさそうに怪訝な表情で見詰める。
347名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 02:07:53 ID:LPZUWuHtO
回避一番乗り!!
348月下の錯綜模様 〜追走〜:2006/11/27(月) 02:08:43 ID:CoOk2PPh0
「……何がおもろいんや? なめとんのか」
「ん? いやなに、娘のことを思うとな……」
「余裕やんけ。その娘が敬介と一緒におるいうのにな。みたやろあの顔? あんな無害な顔しとって平然と嘘つける男やで?
 えげつない男やないか。役立たずかと思うたが、存外に利用価値があるってモンやな」
「―――ふん。役立たずとか利用価値とかよ、テメェそれでも子の親か?」
「あ? 何が言いたいんや」

 秋生の言葉に晴子は目を細めた。
 
「主催者に言い様に躍らされて娘を守るだぁ? はっ、テメェが殺してきた奴等の関係者に娘が殺されても文句は言えねぇぜ?
 被害を抑えて共に脱出しようとする心意気ぐらい見せやがれってんだ」
「やかましいっ。われも参加者全員殺して娘を生かそうって心意気ぐらいみせんかい。死んでからじゃ遅いんや。思う壺も関係あらへん。
 こんなヘンピなトコで、観鈴を死なすわけにいかんのや。自分が死んでも娘を生かす、それが親心ってもんやろが!」

 晴子の言葉は揺ぎ無いほどの決心を固めて発せられる。
 秋生が娘達と共に脱出しようと考えていることも、晴子が娘以外の参加者を皆殺しにしようとしていることも、どちらも娘を想ってのことだ。
 それは決して相容れぬものだが、どちらが正否なのか判断できる者は自身でしかない。
 晴子の決意の篭もった双眸と交差したとき、この見解の相違はどうあっても交わることがないと秋生は自覚する。
 彼女を説得することは不可能だ。
 ―――ならば、押し通るのみ。
 素早く地面に目線を走らせて、目的のものを発見してから晴子へと視線を戻す。

「……そうか。テメェの意向をどうにかすることは無理ってことか」
「今更なんやねん。アホか? もうええやろが。この立ち位置もええ加減疲れたわ……はよ死ねや―――」
「―――待て!」

 秋生の能書きに痺れを利かせたのか、晴子は構える拳銃の引き鉄に指をかける。
 だが、銃弾が発射されるよりも早く、彼は薙刀と拳銃を前方に突き出すようにして静止の言葉を掛けた。
349月下の錯綜模様 〜追走〜:2006/11/27(月) 02:09:58 ID:CoOk2PPh0
「命乞いかい、なっさけないやっちゃな。とっとと逝てまえ」
「だから待てと言ってんだろうが! わかった降参だ降参。ほらよ」

 投擲した薙刀が二人の中間地点に突き刺さる。
 あっさりと秋生が獲物を放棄したことに晴子は唖然とするが、直に侮蔑の視線を寄せた。

「なんや……偉そうなこと言っておいて結局は身の可愛さかい。父親の風上にもおけんわ……」
「うるせぇよ。俺だって死にたくないし、死ぬわけにはいかねぇんだよ。ヤル気がないってことを誠意で持って示さなきゃなんねぇだろ?」

 汚らわしいものを見るかのような晴子の視線に飄々と答える秋生。
 彼の脱出という意見には賛成できないまでも、同じ親として真の父親を見た気がしたが、先の発言には流石の晴子も失望した。
 それに拳銃を残しておいて、何が誠意かと。
 そういった感情の篭もった刺々しい視線が秋生へと突き刺さる。
 晴子の様子を察する限り、拳銃を手放したが最後、何の躊躇もなく秋生を殺害するに至るだろう。 
 そんなことは既に承知の上だ。

「ま、構へんよ。われには失望したわ。はよ拳銃手放して何処へなりともいけや」
「そうか。ほら」
「―――っ!?」

 逃がすわけもない。無防備になったら即撃ち殺す算段だったが、当の秋生が何の予備動作もなく拳銃を前方に放ったことで晴子は一瞬硬直してしまった。
 晴子の視線が宙に浮く拳銃へと目を逸らしたとき、秋生は前方斜め横へと転がるようにして飛び込んだ。

「―――こんのっ!?」

 慌てて銃弾を放つが、照準が合わさっていた位置には既に秋生は存在しておらず。
 秋生の姿を知覚した時には、何故か彼は晴子に背中を向けて蹲っており、何やら構えを取っていた。
350月下の錯綜模様 〜追走〜:2006/11/27(月) 02:10:50 ID:CoOk2PPh0
「おらよっ!!」
「―――っぁ!?」
 
 無防備だった筈の秋生の背中へ怒りに任せて銃弾を浴びせかけさせようとするも、それよりも早く振り向き様に彼の腕がぶれた瞬間、晴子の膝下に激痛が走る。
 アンダースローの水平投擲から拳大の石が正確に晴子の足を直撃していたのだ。訳が分からぬうちに彼女は姿勢を崩しそうになる。
 必死に痛みを堪えて顔を上げるがもう遅い。
 秋生は怯んだ晴子の隙を狙って突き刺さった獲物を引き抜くと同時、手に持つ彼女の拳銃ごと射程の長い薙刀で薙ぎ払う。
 吹き飛んだ拳銃には気にも留めず、畳み掛けるように翻した薙刀の柄で驚愕に顔を顰める晴子の鳩尾へと突き刺した。
 晴子は膝を落とす。

「―――くっ……ぁっ、か」
「寝てろっ!!」
 
 酸素を強引に吐き出されて息も絶え絶えな晴子の意識を断つべく、秋生はその首元へと渾身の手刀を放つ。
 だが、晴子は危険を寸でのところで察知したのか、痛みを噛み殺しながら這い蹲るようにして転がり、攻撃を逃れることに成功する。
 秋生は仕留め切れなかったことに小さく舌打ちするが、それでも道は開けた。
 近くに落ちた自身の拳銃を広い、晴子の拳銃も拾おうとしたが、結構な距離を弾き飛ばされた拳銃は茂みへと身を隠している。 
 
「―――クソっ」

 探す手間もないし、なにより吹き飛んだ拳銃は平瀬村とは逆方向だ。 
 秋生は止む無く諦めて、平瀬村へと疾走した。

「ぁ、く……。こすい真似しくさりやがって……っ! ま、ちぃやぁ!!」

 晴子は痛みを堪えながら立ち上がる。
 腹の痛みは一時的なものであるし、膝の痛みも我慢すれば走れないこともない。
 すぐさま飛ばされた拳銃を拾って彼女もまた怒りの形相で追走する。
351名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 02:12:09 ID:1f1iHwHD0
回避
352月下の錯綜模様 〜追走〜:2006/11/27(月) 02:12:11 ID:CoOk2PPh0
 ****


 暗闇に沈んだ平瀬村で、水瀬秋子(103)は音もなく走り抜ける。
 保護した少女達の助力のために、彼女は平瀬村入り口付近で行われているはずの殺し合いを止めに行こうとしているのだ。
 秋子は一直線に目的地を目指すことはせず、少し迂回するようにして向かっていた。迂闊に村の道筋を通ってやるほど秋子は馬鹿ではない。
 幾ら走っているとはいえ、マーダーに捕捉される可能性は無きにしも非ず、余計な道草も泥沼な乱戦も得策ではないのだ。
 彼女の向かう現場に極力人を集めたくないという思惑もあるが、それ以上に自身の姿を確認されるわけには行かない。
 秋子の目的は無力な少年少女の保護。そして、ゲームに乗った者の排除である。
 保護した少年少女達の知り合いとて例外ではない。
 そして、この先で行われている闘争の渦中となっている人物は橘敬介の知り合いと、古河渚の父親だ。
 秋子は別れる間際に洩らした敬介の言葉を思い返す。 

 ―――虫の良い話だが、出来れば彼女を止めてほしい――― 

 聞くつもりはなかった。
 別に虫が良い話とは思わないが、ただ頼む相手を見誤っただけのこと。
 秋子は決めたのだ。ゲームに乗った愚か者は一切の猶予も与えない。
 安易に奪ってきた人の命の重みを知らしめる為に、決して楽には死なせないと。
 だから、敬介が懇願したとしても秋子の意向は動かない。
 ここで有り難い慈悲の精神を見せて漬け込まれでもしたら全てが後の祭り。

(―――不安材料は刈り取るが一番。一刻たりとも生かしては置けませんね……)

 マーダーに改心の余地があろうがなかろうが関係ない。
 危害を加える可能性がある者や、一度悪意に染まってしまった者に安楽の道はないのだ。
 そんな輩を島中にのさばらせては、罪も力もない子供達が危険に晒されてしまい、下手をすると命まで落としかねない状況なのである。
 とてもじゃないが、一母親としても見過ごすことは到底出来ない。 
353月下の錯綜模様 〜追走〜:2006/11/27(月) 02:13:02 ID:CoOk2PPh0
 対象者の選出は簡単。正当防衛ならば許し、他は全て斬って捨てる。 
 秋子の目的は至極単純で、ある意味凶悪ともいえる思考だ。
 彼女の主観次第で、それこそ無関係な被害者を生み出すかもしれない。 
 例えば敬介だ。彼の言う娘を守るために鬼となった母親を秋子が殺してしまったとしたら、一体どういった影響を及ぼすかは想像に難しくない。
 秋子とて一人の母親だ。娘の為に全てを投げ打ってゲームに乗ることは同調できる。
 だが、無差別というのならば話は別だ。自分の娘達に火の粉を振り掛けるつもりなら、そこに一切の容赦はしない。
 彼女は、矛盾した自身の思考に自嘲の笑みを浮かべた。

(……わたしとて、名雪を失くしてしまえばどうにかなりそうなものを……)

 秋子に残された唯一の宝もの。
 それを失ってしまえば、自身は復讐に走らずに正気を保っていられるのだろうか。
 自虐的なことを考えずに入られなかった。
 秋子は自覚しているのだ。自分が偽善的なことをしているということを。
 娘の生死次第で容易く傾いてしまう感情は、不安に感じるほど危ういものだった。
 そうならないためにも、秋子は盲目にマーダーを刈り続ける。
 娘達を死なせないためにも、彼女は被害者の恨みまでも買う覚悟だ。
 マーダーが引き返せぬ道を進んだように、秋子も決して止まれぬ境地に踏み込んでしまったのだ。
 ゲームを加速させる駒として自分が暴走していることを、既に彼女は自覚していた。

 そして、民家の隙間を潜りながら徐々に距離を詰めていた秋子の視界に、一つの影が通り過ぎた。

(―――……なに?)

 暗闇の中、遠目ではあるが確かに何かが通り過ぎた。人影である。
 訝しげに茫然と見ていた秋子だが、その影を追走する形で新たな人影が通り過ぎたことで我に返った。
354月下の錯綜模様 〜追走〜:2006/11/27(月) 02:14:05 ID:CoOk2PPh0
(―――抜けたの!? 方角は……しまった……っ)

 ―――迂闊だった。
 珍しく顔を歪ませた秋子は、踵を返して元来た道を引き返し始める。
 来るまでに時間を掛けすぎた。未だ争っていると思ってしまったばっかりに、容易く見過ごしてしまった。
 争っていたのは二人。人影も二人。
 先駆していた影が古河渚の父親だったとしたら、娘の無事を想って駆けつけるのは至極当然のこと。
 だが、マーダーが追って来ていると分かった上で、娘との合流を果たそうとするだろうか―――ありえない。 
 普通ならば入り組んだ民家を利用してマーダーを撒こうと考え付くべきだ。 
 それをしないということは即ち、追っ手の存在に気付いていないということか。打倒したと油断したのか。
 次にマーダーが先導していた場合はどうか。
 敬介達に引導を渡すべく止めを刺しに言ったのか。もしくは、追って来る古河渚の父親を罠に誘い込む為か。
 回転する頭が様々な可能性を弾き出すが、全てどうでもよかった。
 問題は彼等が向かう方角だ。
 秋子に焦燥の思いを逸らせるのは、娘達がいるべき場所へと彼等が向かっていること。

(―――くっ。名雪っ、澪ちゃん……っ)

 秋子は残してきた少女達の安否を願いながら、漆黒の闇を荒らんだ足音で疾走する。
355名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 02:15:16 ID:HvUDsUYn0
kaihi
356月下の錯綜模様 〜追走〜:2006/11/27(月) 02:16:16 ID:CoOk2PPh0
 『神尾晴子(024)』
 【時間:1日目午後11時頃】
 【場所:G−3】
 【所持品:H&K VP70(残弾数12)・支給品一式】
 【状態:秋生を追走。膝下に打撲傷】

 『古河秋生(093)』
 【時間:1日目午後11時頃】
 【場所:G−3】
 【所持品:S&W M29(残弾数1/6)・薙刀・支給品一式】
 【状態:渚達と合流。左肩裂傷手当て済み】

 『水瀬秋子(103)』
 【時間:1日目午後11時頃】
 【場所:G−3】
 【所持品:IMI ジェリコ941(残弾14/14)・支給品一式】
 【状態:普通。二人を追って名雪達と合流】

 >>347>>351
 回避感謝感謝
 続けていきます
 次で終わりですので、再び連投回避よろしくです。
357名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 02:16:46 ID:HvUDsUYn0
もういっちょ回避
358名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 02:17:11 ID:P3HzdnnL0
さらに回避
359名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 02:17:15 ID:1f1iHwHD0
頑張ってください回避
360月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 02:17:34 ID:CoOk2PPh0
 殺意の視線に蠢く影。
 それがルーシー・マリア・ミソラ(120)を狙っていると分かった時には、理性など吹き飛んで彼女を突き飛ばしていた。 
 その結果、雛山理緒(083)の胸を容易に貫いた銃弾の一撃が、彼女に決定的な生死を隔てることになる。
 庇ったのは衝動的なものだった。

「―――あ、ぅ……」
「お、おい!! マジかよっ」
「―――大丈夫!?」

 地に伏した理緒へと、慌てた春原陽平(058)と霧島佳乃(031)が屈みこんで彼女の身体を起こさせる。
 古河渚(095)は青褪めながら悲鳴を噛み殺し、突き飛ばされたるーこは尻餅をついて未だに唖然としていた。
 理緒へと触れた時の生暖かい感触が全てを物語っており、春原は留まる気配のない血液に息を飲み下す。

「こ、これヤベェって……っ。と、ともかく血を止めないと―――」
「必要ないわよ。その子はもう死ぬわ」

 混乱の極みに達した春原の耳朶を、凛とした女性の声が夜の闇を切り裂いた。
 悠々と現れた襲撃者―――来栖川綾香(037)は、冷酷な瞳で彼等を眺め見る。
 我に返ったるーこは、彼女こそが襲撃者ということにいち早く気付いて腰を浮かそうとするが、綾香の向けた拳銃に動きを止めざるを得なかった。

「ストップ。あなた達の生殺与奪は私が握っているのよ? 長生きしたかったら質問に素直に答えることね」
「……何のつもりだ」

 唸るように呟いたるーこの眼光を、この状況で何を今更、そう言いたげに一笑に帰す綾香。
 
「つもりも何も、一参加者としてルールに従ったまでのことだけど? 本当は貴女を狙ったつもりだったんだけど……命拾いしたわね?」
「……ゲームに乗ったということか」
「……そうね。私はゲームに乗った。だから殺すのよ……悪い?」

 ゲームに乗ったという一言に少し眉が顰めさせたが、それでも綾香は悪びれもなく言い放つ。
 春原は余裕の態度を見せる綾香へと、怒りが篭もった敵意の眼差しを向けた。
361名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 02:18:46 ID:P3HzdnnL0
それでも回避
362月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 02:19:24 ID:CoOk2PPh0
「なんでこんなことすんだよっ! お前頭おかしいよ! なんだって―――」
「―――うるさいのよ。今すぐ死にたいの?」
「う、ぐ……」

 拳銃の照準がるーこから春原へと正確に向けられて、彼は萎縮したように顔を引き攣らす。
 下手に綾香を刺激して拳銃を発砲されるのだけは、春原としても控えたかった。
 根性無しと、自身で罵りながらも、彼は気丈に綾香を睨みつける。
 渚は懸命に震えを堪えているようだが、やはり恐怖は隠しきれていない。
 診療所の惨劇が彼女の脳裏を過ぎったからだ。
 それは佳乃も一緒のことだが、何よりも母親を失った渚の方が精神的の差異を比べるまでもないほど磨耗している。
 そして一番冷静であるるーこは、好機の瞬間を見計らっていた。
 銃は突き飛ばされた勢いで後方に転がっていおり、手を伸ばせば届かない距離ではない。
 だが、少しでも不審な動きを見せれば、恐らく綾香を躊躇いなく引き金を引くだろう。
 無闇に行動してしまったばっかりに、この膠着を悪い方向へと傾けたくはない。
 今は、大人しく様子を見るべきだ。
 幸いなことに、綾香は問答無用に彼女達を殺すつもりはないようで、何やら訪ねたいことがある模様。
 四人は警戒気味に押し黙って、綾香の言葉に耳を傾けることにする。

「それでいいのよ。ちょっと人探しをしていてね、今から上げる名前に心当たりがあれば答えて頂戴」
「…………」
「朝霧麻亜子、鹿沼葉子、川澄舞、小牧愛佳、沢渡真琴、広瀬真紀、観月マナ。
 そしてルーシーの九人」
「っ!?」

 春原がるーこを覗き見るが、彼女自身は表情に変化はない。
 渚と佳乃にも顔が一致する名前があった。
 その四人の反応に、綾香は満足気に微笑んだ。
363月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 02:20:12 ID:CoOk2PPh0
「いくつか知っているようね。で? 教えてもらえるかしら」
「…………」

 明らかにそれらしい素振りをしておきながら、彼女達は一様に口を閉ざす。 
 綾香はスッと目を細めて、るーこに照準された銃口をこれ見よがしに上下させる。

「ふぅ。わかったわよ……さよなら―――」
「―――待ってよ!!」

 彼女の決して威嚇ではない真剣な表情に、慌てて佳乃が制止の言葉を掛ける。
 綾香は先を促すように、佳乃へと視線を移す。

「余計な手間を取らさせないでもらえる? 心当たりがあるのなら知っている限りの情報を吐きなさい」
「い、言うから……。あたしと渚ちゃんが知ってるのは鹿沼葉子って人だよ」
「……それは身長が中学生ぐらいの幼児体系な女なの?」
 
 綾香の問いに、佳乃は訝しげな表情を見せながらも首を横に振って否定する。
 二人が遭遇した鹿沼葉子(023)の体系を幼児とするには流石に無理があったため、そこは素直に答えておいた。
 それ依然に、葉子に対して庇う余地などあるわけもなく、渚に至っては恨む事情さえあるのだ。
 包み隠さず喋ったところで、彼女達には何の不備もない。
 嘘を吐いている様子がなかったため、綾香は渚と佳乃から視線を外した。

「貴女達はどうなの? 一方は確実に知ってそうな雰囲気だったけど」
「……名目上、るーがルーシー・マリア・ミソラだ」
「名目? るー? あぁ、貴女が……るーこね。じゃあ、そっちの男が春原陽平かしら?」
「な、なんで知ってんだよ……?」
「……どうだっていいでしょ、そんなことは」
364名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 02:20:24 ID:P3HzdnnL0
どんどこ回避
365月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 02:20:50 ID:CoOk2PPh0
 るーこと春原は、綾香が面識のない自分達を知っていることに驚いた。
 聞き出そうとするも、彼女は途端に苦々しい表情を形作って目を逸らす。
 綾香が二人のことを知っているのは当然だ。
 巳間晴香(105)の情報通りだとすれば、二人は浩之一行の中にいた筈である。
 だが、晴香のことを想うと、どうしても忌々しい少女の顔を思い浮かべずに入られなかった。
 怒りに震えそうになる感情を強引に振り払い、平常心を保ちつつ再度尋問に移る。
 
「ともかくルーシーは違うのか……他には?」
「小牧愛佳。同じクラスだが、幼児体系ではなかった筈だ」

 綾香は淡々と答えたるーこの言葉に頭を巡らせて考え込む。
 その際に春原にも視線を寄せるが、彼は心当たりがある名前が無かったために小さく否定の言葉を洩らした。
 何故、このような問答を綾香が行っているのか。
 それは他でもない、綾香の怨敵の情報を少しでも多く探るためだ。
 綾香に与えられた情報は数少ない。
 外見的特長と、あと一つ―――

「―――それじゃ、まーりゃんという渾名に心当たりは?」
「……確か、うーささの……」
「―――知ってるのね」

 綾香の顔が凄惨に歪んだ。
 歓喜の笑みを浮かべる綾香を見て迂闊だったかと、るーこは眉を顰めるに留めたが、春原に渚、そして佳乃の三人に至っては余りの笑みに身を引かせた。

「私が先に上げた名前の中にまーりゃんという人物はいるの?」
「知らん。名前に覚えはない」
「じゃあ貴女の言ううーささってのは誰のことよ?」

 実際まーりゃんという人物は知っていはいたが、本名に関しては聞き及んでいない。
 だが、これ以上情報を分け与えていいものなのだろうか。
 一瞬不安が脳裏を過ぎるが、一度口に出した以上素知らぬ振りは出来ぬだろう。
 るーこは止む無く口を開く。
366月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 02:21:40 ID:CoOk2PPh0
「……久寿川ささらだ」
「久寿川ささら……ね。そのささらさんは、まーりゃんといった人物と仲はいいの?」
「…………」

 雲行きが怪しくなってきた。
 まーりゃんという言葉を綾香が発した途端、空気が極端に重くなった気がする。 
 それは決して勘違いではなく、瞳をぎらつかせながら言葉を待つ綾香の姿に執念が感じられた。
 それもその筈。
 綾香の最優先目的。最上級の標的。それがまーりゃんという名の少女。
 だが、綾香は少ない材料で彼女を探し当てなくてはならないのだ。
 先に挙がった九人の名前は、まーりゃんという渾名をつけても可笑しくはない人物名を抜粋したもの。
 酷く短絡的ではあるが、渾名というものは得てして単純なものであるために、一概には見当違いとは言えない。
 流石に本名以外から渾名を拾ってきたのならお手上げだが、それでも綾香自身は気付いていなくともまーりゃんの本名とて挙がっているのだ。
 そして、るーこの情報。これには綾香も喜ばずにはいられない。
 目的達成に一歩近づけたと、彼女の陰鬱とした感情が滲み出ても無理もないということだ。

「……どうなのよ? 親密なの? そうじゃないの? まぁ、悪い関係じゃなさそうってことは確かね」

 沈黙を深めるるーこの様子は、まーりゃんとささらの二人は無関係とはいえないことを言外に語ったいた。
 それは間違ってはおらず、綾香も既に確信している。
 さらには、るーこの関係者ということで対象を狭めることにも成功していた。

「ねぇ、ささらさんは貴女と同じ学校なんでしょ? つまり、その制服ってことよね」
「……ああ」

 ここまでくれば、もはや隠し事に意味はないだろう。
 諦めて頷いたことに、綾香は更に笑みを深めた。
 どうやらまーりゃんなる人物は綾香の姉である来栖川芹香(038)と同じ学校の関係者のようだ。
 ここまで分かれば、彼女の目的遂行に必要な情報は集まったといえる。
 まーりゃんなる人物の名前は、次の機会で訪ねればいいのだ。
 綾香が表情を消したことに気付かないで、二人の応答を緊張して聞いていた佳乃が焦った様に口を開く。
367名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 02:22:01 ID:P3HzdnnL0
ばんばん回避
368月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 02:22:37 ID:CoOk2PPh0
「ね、ねえ。もういいでしょ? 早くこの子の手当てをさせてよっ」
「そ、そうだよ! 早く治療しないとコイツ……」

 同調したように春原も口を開く。
 二人の手の中には、血の気を失い既に息もか細くなっている理緒が生命活動を必死に繋ぎとめていた。
 渚も懇願する瞳で綾香を上目遣う。

「あぁ……まだ生きてるの? 言ったでしょ……もう死ぬって。その前にすることがあるんじゃない?」

 だが、理緒の存在そのものを今思い出したかのような言動は、酷く無慈悲で容赦のないものだった。

「―――貴方達も時期にそうなるんだから、御祈りなり命乞いなりしたらどうなの?」
「なっ!? おいっ、話が違うじゃないか!!」
「ははっ。話? どこにそんな余地があったのよ? 慈悲深い私が延命させてあげていたの間違いでしょうが」
「そ、そんな……っ」

 情報を摂取した以上、彼女達の利用価値など既にない。
 春原に渚、佳乃は綾香の言葉に愕然とし、るーこはやはりそうなったかと苦虫を噛み締める。
 人一人を瀕死に追い込んでおいて、目撃者を残す事自体が有り得ないのだ。
 そもそも、綾香は始めから好戦的であった。
 接近にも気が付かなかったことから、やはり水瀬秋子(103)に先導されてた時には張り付かれていたのだろう。
 別段綾香とて、当初の目的では彼女達を皆殺しにするつもりなどなかった。
 情報を聞き出して、彼女達が目的に沿う人物ならば殺すといった方針であったが、四人の合流の展開を見た時に一変したのだ。

「だって、おかしいじゃない? 精一杯生き残ろうとしている人を貴方達は死地に向かわせたんでしょ?」
「な、なんのことだよ……」

 春原が困惑気味に問い掛けるが、それこそが罪だと言わんばかりに綾香は鼻で笑い飛ばす。
369月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 02:23:45 ID:CoOk2PPh0
「だから甘いってのよ。聞くけど、さっき駆けつけて行った傷だらけの人……あれは何なのよ?」
「あの人は……お父さん達を助けに行って……」
「行って? 行かせたの間違いでしょうが! 私はね、自分で出来ることをしない人間が大嫌いなのよ!
 子供だから、怪我してるから……そんな理由がまかり通るほどね、このクソッタレなゲームは甘くないのよ!!
 貴女達みたいな思考停止した他人任せな人間が、何でのうのうと生きてんのよ? ねぇ……恥かしくないのっ!?」 

 綾香は銃口を突きつけていたるーこへと歩み寄り、容赦なく下段蹴りを噛ます。
 るーこは座り込んでいたために、当然その矛先は頭部に相当し、綾香の蹴りは彼女の頬を抉った。
 吹き飛びそうになる身体をなんとか地に手を付けて押し留めるも、口内を切ったのか、唇の端から血が滴り落ちてくる。
 悲鳴一つ上げなかったるーことは反対に、佳乃と渚は小さく悲鳴を洩らした。
 そして、綾香の仕打ちに血が昇った春原は理緒を佳乃へと任せて飛び掛かかり、彼女を捕らえようと手を伸ばす。
 だが、それよりも早く銃口が彼へと向いたことでやはり足を止めてしまう。

「―――う、ぐ……」
「そうよ。そうやって激情の赴くままに行動すればいいのよ。何もしない馬鹿よりは幾分かマシでしょうしね。
 後から後悔しても遅いのよ! 自分の手を汚す覚悟で! 全てを投げ打ってでも生き続ける必要があるのに何で動かない!?
 もしかして綺麗なまま生き残ろうと夢を見てんじゃないでしょうね? そんな奴は一回死んで一生寝てればいいのよ!!
 殺すのよ! 大切な人を守るなら他は殺すべきなのよ!!」
「じゃあお前みたいに人を殺し続けることが正しいって言うのかよ!? どいつもこいつもさぁ! 生き残るために殺しあって満足してんのかよ!
 僕は嫌だね! お前結局逃げてんじゃん……まあ殺すほうが簡単だもんな!?」
「何よそれ、寝言? 安易に他人任せのアンタらが偉そうな口を利かないでもらえる!? 逃げるって……私が? ホントに何それ」

 加熱した二人は、顔を突き合せながら睨み合う。
 どちらも自身が正しいと思い、一方を間違っていると避難する。
 決して纏まらない不毛な言い争い。
 銃を突きつけられた状況を忘れたかのように、春原は怒声を飛ばす。
370月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 02:24:42 ID:CoOk2PPh0
「未だ寝惚けているアンタにじゃあ言ってやるよ! 逃げてるね! 
 完全無欠に現実が怖くて恐ろしくてガクブル震えながら負け犬のように尻尾をプルつかせて逃げてるね!!
 確かに僕らだって情けないさ! 踏み出す勇気がなくて手をこまねいてるさ!」

 相容れぬ彼女へと、春原は自身の情けなさを自覚しつつ指を突きつける。

「でもさ、アンタよりはマシじゃん。
 積極的に行動しているつもりなんだろうけどさ、結局はあのウサギ野郎が用意したルールに従ってるだけだろ?
 アンタこそ自分の考えを歪めてまで、ゲームを始めた主催者の殺し合えって一言を素直に守ってるじゃないか。他人任せな思考だよね!?
 関係ない人殺して、意味もなく殺して……それで守って綺麗にオチつけられんのかよ!? 守った人間が生き延びる保障があるのかよ!」
「あるのよ!! 少しでも人数を減らせばそれだけ生存率が上がるでしょうが!! あんた達はそういった努力をすればいいのよ。
 それに私は綺麗に終わるつもりなんかないの……。言ってなかったから教えてあげる……」

 怒りに顔を歪めた綾香が、心底忌々しげに呟いた。 

「―――巳間晴香……知ってるでしょ?」
「うーはる……?」
「し、知り合いなのかよ?」

 少しの間しか共にいることが出来なかったが、晴香とは情報交換をした仲だ。
 彼女はこの殺伐とした状況でも冷静な思考を崩すことはなかった覚えがあるが、暴走した柏木梓(017)を追って行ってそれっきりの関係だった。
 何故その晴香の名前が挙がるのかは不思議に思えたが、単に知り合い、もしくは春原達の前後に遭遇したのだろうと当たりをつけていたのだが。
 しかし、綾香の口からは予想だにしないことが飛び出してきた。

「―――彼女ね……死んだわよ?」
「……は?」
「なんだと……」
371名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 02:25:00 ID:P3HzdnnL0
さくさく回避
372月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 02:25:39 ID:CoOk2PPh0
 一瞬何を言われたのか把握できなかった。
 今まで襲撃されたことはあるものの、まだ知人が死に瀕した場面に遭遇してこなかったために、その言葉は酷く非現実的に感じられた。
 そして、綾香が余りにも無表情に呟くものだから、春原は彼女が晴香へと手を掛けたのかと疑ってしまうのも無理からぬことだ。 

「おい! 巳間にも僕達と同じように情報を聞きだした後に殺したってことかよ!?」
「殺した……? 殺されたのよ!!」

 込み上げた怒りを発散させるが如く、綾香は睨み合っていた春原を左手で殴り飛ばした。
 女性とは思えぬ強烈な一撃。春原は唖然としながらたたらを踏んでよろめいた。
 今まで女性から物を投擲されたことや蹴り飛ばされたことは多々あれど、拳で殴られる経験は始めてである。
 綾香は憤怒の表情に顔を歪めながら、溜まりに溜まった怨み言を彼女達へと向けた。

「晴香はねえ! 腹に銃弾受けて喉元掻っ捌かれたのよ!! 冗談ぐらいに血を撒き散らして死んじゃったのよ!!
 それをやったのが笑えることにぃ! 私より一回りも小さいチビガキだってんだからもうお笑い種よね!?」
「……まさか」
「そうよっ!! あんたの学校の関係者でまーりゃんとかいうふざけたクソガキよ!!
 あんな奴に油断した私が馬鹿だったのよ! 気を許した私が愚かだったのよ! でもね、そのおかげで気付けたわ。
 進んでゲームに乗った奴こそ生存率も高まり、数を減らしてこそ大切な人だって守れるってことをね!」

 綾香を果敢に睨みつけるるーこへと再度近づき、彼女は銃口の先端で殴りつける。
 怒りに狂った綾香をこれ以上刺激させぬためには、抵抗しないで無防備を甘んじる以外方法はなかった。
 その一撃が額を切ったのか、パックリと割れた箇所から血が滴って彼女の顔の半面を濡らす。
 先は止めようとした春原も、今は晴香の死に動揺してしまって展開に付いていけてなく、他二人も綾香の暴君振りに怯えてしまっている。
 綾香は濁った瞳で全員を舐め回す。中でも、るーこに対しては凄みを利かせて睨みつける。
373月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 02:26:42 ID:CoOk2PPh0
「―――だから私決めたのよ……。ゲームに乗ったアイツを、ゲームに乗った私が惨く殺してやるってね。
 コケにし腐ったあの餓鬼の顔を恐怖と絶望に歪ませて救いのない遣り方でぶっ殺してやるのよ!! あなたにはこれでも感謝してるのよ?
 ヤツの交友関係に、学校まで突き止めとめることができたんだから。確か、ささらさん? 殺す……絶対ソイツも殺す!! 
 そしてアンタと同じ学校のヤツも尋問して関係者かどうか吐き出させる。当然殺す!! でね? 殺した奴等の一部を持っていくのよ。つまり証拠よ。
 あなたが殺し損なった来栖川綾香はこんなにも貴女のために頑張りましたよってね!! 見せびらかしてやるのよ! 
 最悪でしょ? でも叶えば最高よ。フフ……そしたらあの餓鬼どんな顔するのかしら?」
「お、おかしいよぉ……」

 余りにも綺麗に笑うものだから、佳乃は背筋が薄ら寒くなるのを止めることが出来なかった。
 それは先程正気を疑っていた春原も同じであり、るーこの反応も似たり寄ったりだ。
 だが、渚は震える身体を唇を噛み締めながら堪えて、気丈にも口を開いた。

「そんなことしたって意味なんかありません! な、亡くなっちゃった人だって望んでいる筈がありません!!」
「……何言ってんのあなた?」

 言うに事欠いて説教かと、綾香は嘲笑しながら渚を見下ろすが、彼女は瞼の下に涙を湛えながらそれでも懸命に言葉を掛ける。

「わたしもっ……わたしもお母さんが殺されちゃいました!」
「え……嘘だろ……早苗さんが?」

 渚の言葉に唖然としたのは春原だ。
 自分の馬鹿な頼みを聞いてくれた心優しい女性、早苗の印象が悪い筈もない。
 その女性が殺されたという事実に、また一つ現実を喪失した気がした。
 現場に居合わせた佳乃も痛ましげに顔を伏せる。
 
「そう。ならあなたも当然殺した奴らに復讐するつもりよね?」

 反対に、綾香は先の発言との矛盾に不思議そうな顔をするも、彼女ならば自身に同意するものだとばかり思っていた。
 だが、渚は否定するように頭を振った。
374名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 02:27:40 ID:P3HzdnnL0
ばしばし回避
375月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 02:27:48 ID:CoOk2PPh0
「そんなつもりはありません! わたしが郁未さん達に追い縋ることをお母さんは望まない……。
 だからわたしは間違っていると分かっていることは絶対にやりません。苦しいけれど……絶対に諦める道には進みたくありません!!」
「何よ……何なのよ? どいつもこいつも逃げただ間違ってるだ諦めただ……何簡単に言ってくれちゃってんの!?」

 渚の淀みのない真っ直ぐの瞳は、嘗て天沢郁未(004)を苛ただしく思わせ、そして今も綾香を癪に障らせていた。
 一度決めた事だ。郁未や綾香が厳しく糾弾したとしても、渚の信念を揺るがすことはない。

「だからわたしは、あなたにもそんなことはしてほしくないです……。復讐なんてしても誰も喜びませんし、悲しいことばかりです」
「あああぁぁ!! うるさいうるさいうるさいっ!!」
「だからっ!! まだ大丈夫です、あなたも―――」
「―――黙れって言ってんでしょ!! その定型的なテンプレ文句をこれ以上口に出すな忌々しい……っ!!
 誰も喜ばない? 悲しい? 知ったことか! 私が満足できればそれでいいのよ!!
 これは私の後輩や晴香の弔い合戦……今更引き返す道なんてありゃしないわよ!」

 禅問答は終わりだと言わんばかりに、遂に綾香は拳銃を本気で構える。
 銃口の先は、彼女の目的に当て嵌まるるーこだ。
 これで一人目と、悲願達成の序章に向けて舌なめずりをした綾香が引き金を引こうとした。
 ―――その時だった。四人が背にする民家に電灯が唐突に灯ったのは。

「―――っ。なに……?」

 外窓やドアの隙間から光を洩らす一軒の民家。その正面に位置していた綾香は、暗闇に慣れきって視界が突然の光量に眩んでしまう。
 それは又とない絶好の機会。
 それこそるーこが待ち望んでいた好機の合図。
 綾香にただ無防備に頬を蹴り飛ばされた訳ではない。獲物を拾うロスを計算し、銃に手が届く位置に陣取れるようわざと体勢を落としたままなのもそのためだ。
 そして隙を見せた今だからこそ、後方に落ちた短機関銃を、るーこは腕を伸ばして手に取った。
 膝を崩した状態で、彼女は何の躊躇もなく両手で構えた銃の引き金を引く。
376名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 02:28:00 ID:1f1iHwHD0
頑張れ春原回避
377月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 02:28:50 ID:CoOk2PPh0
「ちっ!!」

 視界が光に遮られたとしても、動きがあったことを見抜けぬほど綾香とて油断はしていない。 
 迎撃する時間は無い。危険を察知した綾香は視界に入っていたある少女の下へと転がり込んだ。
 直後、綾香の側面を通過する数発の銃弾。
 るーこと春原から距離を取り、その二人より少し離れたい位置にいる渚と、重症の理緒に付き添う佳乃。
 綾香の標的は単身佇む渚の姿。転がり込んだ勢いのまま渚に掴みかかり、息つく間もなく彼女の腕を取って後方で固めた。
 渚の身体を前面に押し出す。さながら盾のようにだ。

『―――渚ちゃん!!』

 春原と佳乃の悲鳴に近い言葉が重なった。
 綾香の腕に首元を圧迫されて羽交い絞めにされた渚は、苦しそうに吐息を洩らした。

「―――甘いのよ。誰も抵抗なんて許しちゃいないってのに、跳ね上がってんじゃないわよ……」
「ぅ、くぁ……っ」

 綾香の抑えた声色と共に、渚を押さえつける腕にも力が篭もった。
 勝ち誇りの笑みを浮かべる綾香は、るーこへ向けて手に持つ拳銃の先端をクイッと左右に揺らせて見せる。
 つまり、武装解除の仕草だ。

「ほら、とっとと手放しなさい。この子の脆弱な首なんて十秒もあれば容易く落とせるのよ?
 仲間思いで絶対に殺し合いをしない春原君? 早くその女を説き伏せて拳銃を下ろさせなさいよ」
「ぐ、くそ……。るーこ、下ろしてくれ……」

 先の発言を根に持っていたのか、綾香は皮肉気に春原へと笑いかける。
 るーこの銃が失われてしまうと圧倒的不利を覆すことは難しくなるが、渚の命には変えられない。
 この後どういう仕打ちが待っているかは想像に難しくないが、それでも見捨てることは出来なかった。
 春原は悔しそうにるーこへと銃を下ろすよう促すが、彼女は依然として動かない。
 全員が怪訝とるーこに視線を移してギョッとした。
378名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 02:29:44 ID:P3HzdnnL0
がりがり回避
379名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 02:30:35 ID:HvUDsUYn0
まったり回避
380月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 02:31:04 ID:CoOk2PPh0
「―――勘違いしてもらっては困る」

 るーこの無機質で冷酷な表情に皆が驚く中、彼女はやはり躊躇もなく銃を撃ち放つ。

「えっ……」

 パンっという銃撃音は、綾香ではなく、正確に渚の太腿へと吸い込まれていった。
 渚は理解できずに呆けた顔のまま、下半身は力を失ったかのように崩れ落ちた。
 地に膝をつけることが出来たのは、るーこの予想だにしない行動に唖然とした綾香が腕の力を緩めため。
 無防備になった綾香の姿に目を光らせて、再度短機関銃が火を噴いた。

「―――!?」

 夜の闇を切り裂くけたましい銃撃音は、綾香の胸部や腹部に着弾させる。衝撃を吸収しきれずに、彼女の身体を後方へと吹き飛ばしていた。
 倒れ伏した綾香を一瞥して、硝煙が立ち込める銃を下ろしたるーこは春原へと向き直る。

「危ない所だったなうーへい。今度ばかりは駄目だと思ったぞ」
「お、おい……なに言って……」

 左目を血で濡らし、何処か誇らしげにるーこは微笑んだ。 
 綾香はともかく、渚を平然と撃っておいて何故そこで笑うのか。春原には理解できなかった。
 佳乃は理緒を一端横たえて、慌てて渚の下へと駆け寄る。 

「渚ちゃん! 大丈夫っ!?」
「うぅ……だい、じょうぶで、す……」

 渚の強がりも、涙を湛えながら顔を顰めていては効果はない。
 撃たれた直後は痛覚がなかったものの、息を吐いてからが激痛を伴わせた。
 今まで味わったことのない痛みと湧き出る血液の量に、渚は顔を青褪めながら目を逸らすように瞼を閉じる。
 苦しそうに呻く渚のことを省みないるーこへと、佳乃は怒りが篭もった視線でキッと睨み付けた。
381名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 02:31:30 ID:P3HzdnnL0
ひたすら回避
382月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 02:32:34 ID:CoOk2PPh0
「どうして撃ったの!? 他に方法だってあったかもしれないのに……っ」
「……そうか? るーにはあれが最善だと思えたぞ。全滅するのとどちらがいいのか分かるだろう?」
「る、るーこ……。お前何を簡単に……」
 
 佳乃の言い分が心底理解できないと、るーこは不思議そうに首を傾げてみせる。
 渚を撃つしか開放する方法がなく、止む無く攻撃した。これはいい。
 だが、人を撃つ以上、そこに普通は躊躇いが生じるものだ。それが顔に出るものなのだ。
 なのにるーこは一切の遠慮もなく渚を撃ち抜いた。仕舞いには彼女を労わる素振りさえも見せない。
 佳乃には、それが何よりも許せなかった。

「何でそんなに平然としてるのっ!? キミが渚ちゃんを撃ったんだよ? 渚ちゃん、こんなに苦しんでるんだよ!? なのに何で―――」
「―――うーも勘違いしている様だから言おう」

 必死で訴える佳乃を少し鬱陶し気に遮って、るーこは口を開く。

「るーはうーを探している。うーたまやうーこのも探す必要があるだろう。そして逸れたうーひろやうーみさ、うーゆきとも合流したい。
 今はうーへいと行動を共にして皆を探している途中だ。何故だか分かるか? 仲間だからだ」
「る、るーとかうーとかなに言ってんの……」

 何かの固有名詞なのか。言葉の都合上うーというのは人物名だというのは分かる。
 だが、独特であり奇抜とも言える口調を至極淡々と口にする様は、佳乃が見なくとも不気味に思えるだろう。
 ましてや無表情に呟くものだから、正気を疑うもるーこの視線は並々と佳乃へと降り注いでいたために、迂闊に目を逸らすことさえ出来ない。
 そして、るーこは何の気なしに言葉を紡ぐ。

「だが、お前たちは知らない。遭って数分だ、出会いに意義があったとも思えない。るーとうーへいの足枷でしかない。
 仲間じゃないから義理もない。それなのに文句を言われるとるーも不愉快だ」
「―――ふざけないでよ!!」
383名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 02:33:04 ID:P3HzdnnL0
めきめき回避
384名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 02:34:12 ID:P3HzdnnL0
るーこかっこいー
さすが戦士
続けて回避
385月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 02:34:32 ID:CoOk2PPh0
 るーこのあまりの言い草に、佳乃は怒声を上げた。
 普段の佳乃を知る者からしたら、それは驚くほどの感情の起伏だ。
 確かに彼女達はろくに言葉を交わす間もなく現在顔を付き合せており、渚と春原を除いた面々は顔と名前が一致しない現状である。
 それにしたって、るーこの言い分は幾らなんでも倣岸不遜とも思える態度だ。
 関係がないからと言って、仲間外の者を蔑ろにしていいはずがない。
 そして、るーこの価値観の較差に一番愕然としたのは春原だった。
 確かに彼女は普通とは言い難い感性を持っていたものの、藤田浩之(089)達五人と行動を共にしていた時は仲間想いの変わった少女という印象だったのだ。
 そんな人間が、実のところ興味に値しない人物に対しては、こうまで冷たく接するものなのか。
 今までの印象を翻された春原は、それを誤魔化したい心情でるーこに厳しく指摘する。
 彼女の認識は一時の気の迷いであるという願望を込めて。

「おいるーこ! それは言いすぎだよっ。確かにるーこと渚ちゃんは関係ないかもしれないけど、僕の知り合いでもあるんだぞ!」
「む……。そうだったな。すまないことをした」

 謝罪とは言い難い簡素な言葉に、当然納得できるはずもない。
 顔色一つ変えないるーこの様子に、まるで本気が感じられなかった。
 佳乃の見解は、るーこから見れば渚と自分は取るに足らない見下された存在という認識である。
 ―――許せるはずもない。
 るーこの態度を咎めようと春原は再度口を開きかけるが、それよりも早く佳乃が憤慨した様子で顔を歪めた。
 そして、綾香が手放した拳銃を拾ってるーこへと向ける。衝動的に向けてしまった。

「―――ちゃんと謝ってよ! ちゃんと渚ちゃんに謝って!! じゃないと撃つよ! 撃つからね!?」
「か、佳乃ちゃん……。わたしのことは、いいから……」
386月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 02:36:24 ID:CoOk2PPh0
 佳乃の行き過ぎといえば行き過ぎの行為を押し留めるべく渚が弱弱しく声を掛けるも、興奮した彼女の耳はるーこの謝罪以外の声を意図的に遮断している。
 思えば、診療所からここまで渚と佳乃には気の休む暇さえなかった。
 緊張に次ぐ緊張で、佳乃の精神の負担は半端ではなく、無駄に疑心を高まらせていたのだ。
 渚はまだいい。母親を亡くした事実は確かに心身を苛ませたが、彼女には共に支えあう父親が居た。 
 だが、佳乃には溜まりに溜まった感情を吐露すべき相手がいないのだ。
 出来ることなら姉の霧島聖(032)や友達のポテト、国崎往人(035)を探し出したい。
 しかし、渚の父親である古河秋生(093)に保護されていた以上、気安く助けを請うことも出来ない。
 この殺伐とした環境のせいで、ストレスを押し殺していた秋生は近寄り難いということもあったために、道中会話自体が交わされることもなかった。
 結果、深層意識では既に追い詰められていた佳乃の精神が、更なる刺激を持って表立つ。
 極限状態に高まった不安と恐怖、そして警戒心が佳乃を過剰な手段へと駆り立てるのだ。
 何処までも真剣で、今にも殺意が滲み出る彼女を、それでもるーこは問題外とばかりに目も向けない。

「うーへい。何故か家の電気が灯った。寝ていたうーあきの娘が起きたのかもしれないぞ。ともかく混乱を招く前に事情を説明しに行くべきだ」
「ちょ、待てよるーこ……。渚ちゃんの治療もして、その子も置いていけないって―――」
「わかっている。だが、今はここから離れる方が先決だ。こんな暗闇の中だ。電気が灯った民家は酷く目立つ。
 ―――治療など、後から幾らでも出来る。死にはしない、死なないように撃ったからな」
「っ!?」
 
 るーこの言い分は至極正しい。
 だが、佳乃の本能は今や完全に彼女を敵対視していた。
 認めない人間は意識の隅に追い遣る行いや、あくまで優先事項を徹底する人とは思えぬ冷徹な思考。
 ―――既に我慢ならなかった。
 佳乃とて当初は本気ではなかった。威嚇して謝ってもらえさえすれば、それだけで精神の安定が取れる筈だった。
 しかし、彼女の感情が耐え切れなくなって遂に破裂した。

「―――馬鹿にしてええぇぇ!!」
387名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 02:36:32 ID:P3HzdnnL0
ごろごろ回避
388月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 02:38:01 ID:CoOk2PPh0
 背を向けたるーこへと佳乃は引き金を引く。
 背後から強襲する一発の銃弾は、るーこの長い髪を抜けて耳朶を貫いた。
 自制の聞かない感情を従わせる術はなく、それでも震えていた手元が照準を乱して頭部を外させたのだ。
 それは、佳乃にとって幸運だったのか、不運だったのか。
 唯一つ言えることは、これ以上精神の修復は不可能ということだ。

「―――佳乃……ちゃん」
「お、おい……るーこ大丈夫―――」

 佳乃の危うさは誰が見ても一目瞭然ではあったが、まさか本気で撃つとは春原も思っていなかった。
 異常に逸早く気が付いた渚だからこそ、拳銃を手にした佳乃を引き止めようとしたのだ。引き止めることは叶わなかったが。
 そして、るーこだ。敵意を放った者を無視できるほど彼女は寛容ではない。 
 耳朶を半場で喪失したるーこは、今度ばかりは振り返った。
 血に濡れた冷徹な表情で、下ろした銃を再び持ち上げて。

「―――あ……」

 るーこの双眸と交差したとき、撃たれると佳乃は何よりも理解した。
 彼女は自分にとって害悪にしかなりえない存在を排斥すべく無感情に撃つつもりだろう。 
 
 それは間違いではない。命を奪うつもりはないが、手足は打ち抜いて無力化する必要はあるとるーこは思っていたからだ。
 彼女はこの中で仲間と認めた人間は春原陽平ただ一人。それこそ、命の重さを天秤に掛けても言わずもがな。
 錯乱気味の佳乃をここで捨て置いた場合、百害あって一利なしとも言える状況なのだ。
 この先自分達が生き延びる確立性を検討するならば、佳乃は不要であり、言ってしまえば渚までも邪魔でしかない。
 一般的とは言い難い、何処か機械を思わせる懸け離れた思考。
 だが、るーこ自身はこれが当然の帰結と考えており、春原も同調してくれると本気で思っていたのだ。

「―――おい! 早く逃げろっ!!」
「……うーへい……?」
389名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 02:38:30 ID:P3HzdnnL0
さらさら回避
390月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 02:39:26 ID:CoOk2PPh0
 なのに、春原から飛び出した声は、るーこを制止する声でも心配に心痛める声でもない。
 何処かショックを受けた表情でるーこは小さく春原の名前を洩らしたが、聞こえていなかったのか、彼はこちらを見向きもしなかった。
 るーこに見切りをつけて、茫然とする佳乃へと必死に言葉を掛ける春原の姿。
 何故認めてくれないのかと、動揺に震えていた瞳が徐々に鋭くなっていく。
 ―――感情が冷え込んだ。
 自分の価値観を信頼する仲間に否定された気がした。
 危険な自分を遠さげるよう佳乃を促す春原ではなく、言葉を掛けられている彼女が一番許せなかった。 
 形容し難いドス黒い感情が、彼女の精神をどっぷりと浸す
 振り切るように目を閉じて、開いた時には冷酷な双眸が浮んでいた。

「―――もういい」
「―――え」

 命は保障して無力化するつもりであったが―――やめた。
 理解できぬ感情に支配されたまま、るーこは抗うことなく銃弾を放った。
 ―――一発。二発、三発と佳乃の身体を容赦なく蹂躙していく。
 銃声が鳴り止むと、座り込む渚の横へと佳乃は目を見開きながら倒れこんだ。
 彼女にとって唯一幸いと思えたことは、早々と心拍を停止させて痛みを感じる間もなく逝けたことだろう。
 
「え……佳乃ちゃん……?」

 自身が感じる痛みも忘れて、渚は無垢な赤子のように呆けていた。
 先程まで確かに人間であったものが、今や感情を感じさせない人形のように横たわる。
 それを冷然と見下ろするーこには、罪の意識があるようには到底見えない。 
 恐れか怒りか、春原は身体を震わせながらるーこの肩を掴んで振り向かせた。

「何やってんだよるーこ!! お、おま、お前……何やったか分かって……」

 だが、肩に掛かる春原の手をるーこは振り払った。

「……騒ぎが大きくなった。うーあきには悪いが早々と離れることにしよう」
391名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 02:40:12 ID:P3HzdnnL0
るーるー回避
392月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 02:41:05 ID:CoOk2PPh0
 るーこは春原へ極力目を合わさないようにして、その場から離れようとする。
 もうるーこが何を考えているのか理解できなかった。
 声を震わせながら、最後の望みを掛けて声を掛ける。

「―――渚ちゃんは……渚ちゃんはどうするんだよ……?」

 るーこは春原の声に歩みを止めはしたが、決して振り返らずに答えた。

「見捨てる。生き残るためだ、余計な負担は掛けられない」
「―――っ!?」

 間髪入れないるーこの簡潔な言葉。それは予想できた言葉であり、望まない返答である。
 俯いていた春原が顔を上げたときには、怒りとも悲しみともいえない曖昧な表情で顔を引き攣らせていた。 
 春原の視界が真っ白に染まり、気が付いたときにはるーこの背にスタンガンを押し付けていた。

「うーへいっ!? お前―――」

 ビクンと、電流が駆け巡ったるーこの身体を一際大きく跳ねさせた。そのまま糸が切れたように地へと倒れ付す。
 一瞬視線が交差したとき、裏切られたように彼女の瞳が揺れていた。
 春原はるーこの視線に込められた意図に気付いていたからこそ、負い目を感じて彼女から目を離す。
 立て続けの展開に声も出ない渚へと、彼は駆け寄った。

「渚ちゃんっ。傷見せて……」
「す、春原さん……佳乃ちゃんは、佳乃ちゃんはもう……」
「……ごめん」

 誰に対して謝ったのか、当の本人も分からなかった。
 佳乃の遺体や倒れたるーこらには目を向ける勇気がなかった春原は、二人を視界に収めぬよう脂汗を浮ばせる渚の容態を確認しだす。
 見たところ、銃弾自体は彼女の右の太ももを貫通していた。体内に銃弾が残っていなくて幸いだった。
 だが、この場に治療具などあるはずもないので、今は血止めをすることしか出来ることはない。
 春原は足から流れ出る血液の量に動転しながらも、逸らしていた佳乃の亡骸を目にした時、その左手に巻きつけられたスカーフの存在を思い出した。
 借りるよと、言葉を吐くことも叶わぬ彼女へと小さく声を掛けて、慎重に結びを解いていく。
393名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 02:41:25 ID:P3HzdnnL0
るーるーるー回避
394名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 02:42:09 ID:P3HzdnnL0
るーるーるーるー回避
395名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 02:42:44 ID:P3HzdnnL0
るーるーるーるーるー回避
396月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 02:42:57 ID:CoOk2PPh0
「それ、佳乃ちゃんの……」
「……うん。渚ちゃんの為に、使わせてもらうよ……」

 民家から洩れる光を頼りにして、痛々しく赤に染まっていた白磁のような柔肌へと黄色のスカーフを慎重に巻いていく。
 痛みを堪える喘ぎのような吐息に、スカートから伸びるしなやかな太腿に触れていると、欲情心が高まってくるのを自覚する。
 こんな状況でなければ、春原が親友と思っている岡崎朋也(012)を差し置いてどうにかなってしまいそうだった。
 不謹慎な感情を気力で自制して、何とか結び終わることが出来た。

「……ごめんなさい、春原さん……」
「いや、るーこを止められなかった僕の責任でもあるから、さ……」

 お互いが言葉を失くした様に顔を俯かせる。
 暗い表情を浮ばずには入られなかった。るーこのある意味蛮行な乱心に佳乃の死。
 何もかもがやるせなかった。
 無力な喪失感を抱えながら、これからどうするべきかと二人は頭を悩ませる。
 ―――その時、渚の視界を何かがちらついた。 
 なんだろうと思い、目を凝らして間もなく驚愕に硬直する。

「―――春原さんっ!!」
「―――え?」

 渚の切羽詰った声に春原が疑問を感じる暇もなく、彼の即頭部に強烈な衝撃が走った。
 膨れ上がる混乱をそのままに、春原は衝撃に吹き飛ばされて昏倒する。
 渚の瞳には、足を振り抜いた姿勢のままで不適に笑う綾香の姿が映っていた。

「いっ、てえ、ぇ……」
「大人しく見ていれば仲間割れ? 笑わせないでよ」
「ど、どうして……」

 るーこに撃たれた筈の綾香が、何故か五体満足な姿に渚は身を凍らせる。
 地に頬をつけた春原も、信じられないような視線を寄越した。
 二人の視線に満足そうな笑みを浮かべて、彼女は服の上からお腹を擦って見せる。
397名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 02:44:01 ID:P3HzdnnL0
るーるーるーるーるーるー回避
398月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 02:44:45 ID:CoOk2PPh0
「ホント、ダニエルには感謝ね。衝撃は吸収し切れなかったけど、銃弾は防ぎきれるようだし」
「ぼ、防弾チョッキ……」

 納得がいったことに対する満足感などあるはずもなく、この構図は限りなく絶体絶命であった。
 膝に上手く力の入らない春原と、同じく立ち上がることが難しい渚。
 少量の抵抗で如何にかできるほど今の綾香は温くないだろう。
 綾香は立ち上がろうと足掻く春原へと悠々と歩み寄り、その背を問答無用に踏みつけてやる。

「―――げっ、ぇえ……」
「あら、さっきまでの勢いはどうしたのよ? 偉そうな能書きを垂れ流していたわりには情けないんじゃないの」

 潰される形になった春原を、今度は脇腹を蹴り上げて仰向けに転がせた。
 彼は大きく咽ながら、表情を口惜しげに歪ませる。
 抵抗する術のない春原を、綾香は思いのまま足で嬲っていく。
 頭部を蹴り上げ、肩口に踵を落とし、胸を抉って、腹を蹴り飛ばす。
 自由に動けぬ渚が、悲鳴混じりの声で制止を訴えるが、聞いてやる必要などありはしない。

「―――うぁ! がっ。ぐっぁ……っ」
「はははっ。大ぼら吼えてたあんた達も形無しね!? ほらっ! ねぇ、現実を見たでしょ? っと! そこのるーことか言う女も野蛮極まりなかったわよね!?
 ある意味っ! 大したものよ! でもね、間違っちゃいないのよ! 実際っ! 馬鹿なコトしてんのはアンタ達なのよ!!」

 口を開いても、彼女は蹴ることをやめない。
 身体を丸めて痛みを耐える春原の必死な抵抗を、嘲笑うかのような防御の隙間を狙って攻撃していく。
 春原には散々好き勝手に言われたのだ。鬱憤を晴らすかのように綾香は蹴り続ける。

「ホント最ッ悪! 私が早急にゲームに乗ってればねっ! あんなクソガキなんて秒殺なのよ! 殺したモン勝ちよねっ!?
 情けないったらありゃしないわよ!! あんた達も! 早くねっ、気付きなさいよ!!
 この島にはねっ! 上手いこと人を殺す悪者と! まんまと騙されるぅ! 馬鹿しかいないってことをね―――っ!!」
「ひっ、ぐぁ! っあ、う、や、やめ―――」
「―――酷いですっ! やめてっ、やめてあげてくださいっ!!」 
399名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 02:45:00 ID:P3HzdnnL0
るーるーるーるーるーるーるー回避
400名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 02:45:56 ID:P3HzdnnL0
るーるーるーるーるーるーるーるー回避
401月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 02:46:29 ID:CoOk2PPh0
 憂さ晴らしの対象は春原だけではない。
 自分を騙した朝霧麻亜子(003)の怒りも今ここで発散していた。
 綾香の猛威を一身に受ける春原は溜まったものではなく、血反吐を吐きながら身体を固める。
 だが、それに意味はなく、頭を庇ったら脇腹を。蹴られた箇所へと手を伸ばすと、待ってましたとばかりに頭部を炸裂する渾身の一撃。

「ほらっ! ほらっ!! 女に好き勝手嬲られる気分はどうっ!? 悔しいでしょ! 憎らしいでしょ!!
 言わなくても分かるわよ! でもね! そんな顔してもダメよ! 馬鹿なあんたが死んでいくのは馬鹿なあんた自身が悪いのよ!!」
「やめてください! やめてください!」
「―――は、はぁ、はっ。……ふん、ヘタレ野郎が。そこで見てなさいよ……」

 反応が薄くなったてきた春原に面白みをなくしたのか、ようやく暴行の手ならぬ足を止めた。
 渚があまりにも懇意に叫ぶものだから、鬱陶しく思ったという理由もあるが。
 そして、その矛先が渚に向かうのは不思議ではない。 

「―――結局ね。貴女みたいに叫ぶだけで何もしない奴が一番気に食わないのよ、私は」

 座った眼つきで歩み寄る綾香の姿に、今度は自分の身に危険が迫っていることを自覚して、渚は恐怖に駆られる感情を隠せずにいた。
 近づく綾香を必死に遠ざけようと駄々をこねる様に後退るが、民家の壁にぶち当たって容易く追い詰められた。
 ゆらりと、綾香の両手が渚の首へと掛かる。
 喉仏を押し潰すように、ギュッと握りこんだ。

「―――っ、あぁ……」
「ふふ……。あんたなんかね、どうせ直ぐ死ぬに決まってるわ。銃で撃たれたらきっと痛いわよ? 喉を切り裂かれたら物凄い激痛かもよ?
 でも安心して……私が一時の苦しみと引き換えに優しく殺してあげるから―――っ!!」

 握り潰すかのように押し込んだ両手が、渚の顔色を土気色に染めていた。
 掠れるような吐息を洩らし、悲鳴を上げようにもそれさえも許されず。
 全身ぼろぼろとなった春原が、軋む身体に無茶を利かせて立ち上がろうとするも、二人は手が届かぬ位置にいる。
 苦しみから解放されるべく、渚の視界が霞んできた時に。
 ザッと土を踏みしめる音が彼女達の膠着を切り裂いた。
402名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 02:46:51 ID:P3HzdnnL0
るーるーるーるーるーるーるーるーるー回避
403名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 02:47:46 ID:P3HzdnnL0
るーるーるーるーるーるーるーるーるーるー回避
404月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 02:47:53 ID:CoOk2PPh0
「―――こ、これは一体……」

 肩口を押さえた男性―――橘敬介(064)だ
 何発かの銃声に止む無く引き返してきた敬介の眼前には、まさに死屍累々といえる光景が広がっていた。
 現在進行形で首を絞める見知らぬ少女に、絞められる先程逸れたばかりの渚。
 るーこと春原は蹲り、佳乃に至っては血塗れで倒れ付していた。
 そして、一番理解したくない光景が目に映ったとき、敬介は我を忘れて絶叫する。

「―――理緒ちゃんっ!?」
「ぁ、……ち、ばな、さん……?」

 敬介の悲痛なその叫びは、生死を漂っていた理緒を虫の息で覚醒させる。
 不鮮明な意識の中で、確かに彼女は口を開いた。
 その声が敬介に聞こえていたのかはともかく、彼は理緒へと我先に駆け寄ろうと走り出す。

「―――ちっ。戻ってきたのか……」

 駆け寄ってくる橘の姿に舌打ちし、渚の首に掛かる両手を乱暴に振り払った。
 渚は頭を壁に打ち付けながらも、開放された首元を押さえて咽込んだ。 
 綾香の優先度の対象が敬介へと移行したため、まずは佳乃の近くに転がった自身の拳銃を拾おうとこちらも駆け寄った。
 視界に嫌が応にも入ってくる綾香の姿に、この惨状を引き起こした原因は彼女であると敬介は当たりをつける。
 そして、綾香が拳銃を目指していることには気が付いており、まずは彼女をどうにかするべきだとは分かっていても、既に拳銃までは目と鼻の先。
 間に合わないと、半場諦めかけていた時に、走っていた綾香の膝がガクンと落ちた。
 綾香は倒れそうになる身体を何とか掌を地に付けて留め、引力を感じた脚部へと振り返る。

「―――なっ。まだ動けて……っ!!」
405名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 02:48:25 ID:P3HzdnnL0
るーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるー回避
406月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 02:49:37 ID:CoOk2PPh0
 何と綾香の足首を、理緒が横たわりながら握り締めて行動を妨害していた。
 とっくに死んだものとばかり思っていた綾香は、予想外の横槍に慌てて理緒の手から引き抜こうともがく。
 だが、最後に振り絞った力は存外に強く、抜けないことに若干動転していた綾香は、理緒の動きも見過ごした。
 理緒は震えた手付きでポケットから鋏を取り出し、精一杯もう一方の腕を振るって地を滑らせる。
 意図に気付いた敬介も、彼に向かって放られた鋏を足を止めないで回収して綾香に迫った。
 同時に、未だ足首を掴まれて動けぬ綾香が痺れを切らし、始めからこうしていればよかったと言わんばかりに理緒の鼻っ面に拳を叩き込んだ。 
 鼻骨が折れたのか、ゴキリという嫌な音を響かせて鼻血を盛大に散らせた。

「鬱陶しいのよ死に損ないが! 放しなさいよ……!!」
「―――離すのは君だ!!」
「っ!?」

 ようやく緩んだ理緒の腕を蹴り払うが、既に敬介は綾香へと肉薄している。
 光物を女性に向けるには抵抗があったが、それでも判断を見誤らずに敬介は彼女の左の肩口へと鋏を突き刺した。

「っあああぁぁ―――っ!?」
「―――理緒ちゃんっ!!」

 肩口を中心に広がる激痛に、綾香は地面を転げまわる。
 その隙に理緒の傍へと寄り、彼女の小さな身体を抱き起こす。

「理緒ちゃん! 理緒ちゃん!! くっ、どうしてこんなことに……っ」

 微かに開いた理緒の眼は、焦点が合わさっていないように彷徨っている。
 ―――地へ撒き散らす鮮血の水分。素人目から見ても、どう転んだとて助かりそうにない。
 彼女の目を逸らしたくなるような凄惨な容態に、敬介は後悔の残る表情で歯を食いしばっていた。
 この状況。敬介が判断しても、これでは全滅ではないか。
 あの時、幾ら慌てていたとはいえ理緒を残してきたことは失敗だったのだろうか。
 彼は今日一日で幾多の参加者と遭遇したが、それでも類稀な幸運で生き延びてきた。
 そして、そんな敬介に同行を申し出たのは他でもない、理緒である。
 彼女は言っていた。
407名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 02:50:27 ID:P3HzdnnL0
るーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるー回避
408月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 02:51:33 ID:CoOk2PPh0
 ―――私は、一人の女の子の犠牲の上で生きているんです

 澄んだ瞳で、何処までも真っ直ぐに進もうとする彼女の心意気。
 頑張ることだけが取り柄だと、一切の誇張なく誇らしそうに語っていた純粋な姿。
 その時点で、敬介にとって理緒との関係は保護者ではなく、この異常な半島で生き残るべく、協力し合う心強い仲間であった。
 苦労や災難を共に乗り越えて、何時か年の近い娘と仲良く話す姿を、彼は夢見ていたのだ。
 だが、その矢先の出来事。
 もうそれが叶わぬことと思ってしまうと、理不尽なやるせなさに涙が込み上げてくる。
 敬介は感情の吐露すべき相手を、半身を起こして此方を睨みつける綾香へと定めた。
 理緒を優しく横たえさせて、感情を爆発させたように綾香へと飛び掛る。
 綾香は、挙動無しに襲い掛かってきた敬介に反応できずに、勢いのまま押し倒された。
 両の手を押さえつけるように、綾香を馬乗りの姿勢で拘束する。

「―――何故こんなことをした……?」
「くっそ……っ。はな、しなさいよっ」

 四股が束縛された以上、彼女の抵抗は難しい。
 片足や片腕という一方が使用できる状況ならば、寝技でも反撃でも出来ようものだが、流石に純粋な大人の力を退けるような怪力は綾香とて持ち合わせてはいない。
 敬介の言葉には耳を貸さず、拘束を解こうと暴れ狂う。
 ―――彼は激情した。

「―――何故こんなことをしたと聞いている!!」
「っ!? な、何なのよ……」

 綾香は敬介の迫力に蹴落とされて、抵抗の力をピタリと止めてしまう。

「理緒ちゃんが何かしたのか!? 彼らが何かしたのか!? どうして殺し合いなんて真似が出来るんだ!」
「五月蝿いのよ優男が! あなたも助け合うとか甘いことを夢見るクチなワケ? はっ」

 敬介の言葉に、綾香は心底馬鹿にした態度でせせら笑う。
409名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 02:52:22 ID:P3HzdnnL0
るーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるー回避
410月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 02:53:15 ID:CoOk2PPh0
「……何が可笑しいんだい」
「何から何まで可笑しいわよ。いい大人が馬鹿じゃないの? こんな状況になってまで覚悟を決めないなんて正気の沙汰とは思えないってことよ。
 一体ゲームに乗った奴が何人いると思っているの? そこに殺意がある以上、人が死なないなんてある訳ないじゃない。
 それとも何、あなた自殺志願者だったりするの? そうじゃないなら、積極的に殺し合いした方が利口だし長生きできるわよ」
「じゃあ、君は正しいと思って人を殺しているのか……? それが利口だと思うからゲームに抗わないのか……っ!」

 淀みなく言葉を滑らせる綾香の意見は、敬介の意見と真っ向から対立する。
 年端も行かぬ少女が、こうまで物騒な物言いを平然と口にすることが驚愕に値した。
 そんな敬介の視線に当てられても、彼女は事もなく口を開く。

「私? 私の目的は復讐よ。正しいと思っているかって? そうでも思わないとやってられないわよ。
 ……私はね、もうこれ以上偽善的なことをして馬鹿を見るのは沢山なのよ。だからね、嘗ての馬鹿だった私を見ているようで、あなた達は不愉快なの」

 同類嫌悪と近いものだ、綾香の感情は。
 敬介とて始めから説得が出来るとは思っていなかったが、こうまで価値観の食い違いがあると驚かざるを得ない。
 先程相対した神尾晴子(024)の方がまだ分かる。
 過激な手段ではあるが、あくまで娘を生かそうとする奉仕精神があるのだから。
 だが、綾香は復讐と同時、受動的なことに疲れを見出していた。
 積極的に行動しない輩を、何よりも積極的に動いている自分が嫌悪してしまうのは致し方ないこと。
 つまり、情けない人間を見ていると、無性に腹が立ってくることと大差ない。
 ある意味最も人間らしく、狂気に走った正常な少女といったところか。
  
 ともかく、綾香は何とかして拘束の手が緩まないものかと試行錯誤する。
 四股が不自由なこの状況、綾香自身が好転させるべきことは存在しない。
 地に倒れる春原と渚もしばらくは立ち上がれそうにもないだろう。どの道、綾香にとっては二人とも敵なのだが。
 即ち、捕らえる当の本人が何かしらの要因で手を緩めなくてはならない。
 そして、それは唐突に到来した。
 無論、綾香にとっては好機と呼べること。
411名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 02:53:16 ID:P3HzdnnL0
るーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるー回避
412名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 02:54:11 ID:P3HzdnnL0
るーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるー回避
413月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 02:54:56 ID:CoOk2PPh0
「―――渚あぁぁっ!!」
「お父さんっ!」

 古河渚の父―――古河秋生が神尾晴子の妨害を振り切って現れた。
 秋生の双眸は、まず始めに渚を捉える。太腿を打ち抜かれて、座り込んだ渚の姿を。
 次いで、綾香に馬乗りになる敬介を眉を吊り上げて睨みつける。

「テメェ……上等じゃねェか橘敬介ぇ!! 」

 それは、敬介が現れた時とまるで構図が逆だ。
 烈火の如く怒りの表情を浮ばせる秋生に、それこそまったく心当たりがない敬介は当然困惑する。
 何故敬介の名を名指しで罵っているのか、疑問に尽きるが今は謂れのない事実を否定するべく言葉を洩らす。

「な、なにを言ってるんだ……。この少女は―――」
「―――早くこの男を!! これ以上死人は増やしたくないのよ私は!」

 してやったりと言わんばかりに敬介の言葉を遮った綾香は、秋生から見えない角度でさも愉快気に笑みを形取る。
 信じられない瞳で敬介は綾香を直視する。それは、渚と春原も同じこと。
 確かにこの状況ならば、敬介が綾香に危害を加えるべく襲っているようにしか見えない。
 マーダー像を植えつけられた敬介より、現在切羽詰った様子で言葉を掛ける綾香の方が説得力があるというものだ。
 綾香の不自然のない擬態に、秋生は傷付いた渚も相成って興奮の度合に拍車を掛けた。

「そこぉ動くんじゃねェぞ馬鹿野郎が……! 嬢ちゃんは……クソっ! やられたのか……っ」

 さらに近くに転がる春原にるーこ。そして、血塗れで倒れる同行者の佳乃の姿。
 秋生の敬介を見る目は、完全に大量殺人者を既に疑ってはいない視線だ。

「待ってくれ! 僕じゃない! そもそも急に何故そんなことを……」
「お、お父さん……この人はわたし達を助けようと―――」
「―――黙されるな渚!! コイツはな、人が良さそうな顔で近づいて不意打ちを噛ます悪徳非道な輩なんだよ!!」
414名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 02:54:57 ID:P3HzdnnL0
るーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるー回避
415名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 02:55:43 ID:P3HzdnnL0
るーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるー回避
416月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 02:56:31 ID:CoOk2PPh0
 晴子と遭遇したときは何も言わずに助けてくれた筈なのに、この翻した態度は何だ。
 彼女に何か吹き込まれたのだろうか、そう思わずにはいられなかった。
 綾香の戯言に驚きはしたが、我に返った渚は弁護の口を開くも、秋生は聞く耳を持たない。
 秋生からしたら、無条件で人を信じ込んでしまいそうな人柄の渚は、敬介にまんまと騙されているとしか思えないのだ。

「本当に待ってくれ!! 僕は今の今まで不意打ちなんてやっちゃいない! 何かの間違いでは……」
「じゃあ、この惨状をどう説明つけんだよ!」
「僕が来たときには既にこうなっていた!! 理緒ちゃんだってこの女の子に―――」
「なっ……酷い! ちょっと待ちなさいよ、私に罪を擦り付けるの!?」
「き、君は何を言って……」
「テメェ……言うに事欠いてツラが厚すぎんじゃねぇのか……」

 綾香が加わる激化した罪の罵りあいに、誰の真偽が正しいのか判断がつかなかった。
 春原と渚の二人は、敬介がマーダーかはともかくに綾香が間違いなく人を殺していることは直に体験したから疑うべくもない。
 だが、衰弱気味の春原は口を開く事も億劫で、渚のか細い声では加熱する激論に口を挟む余地もないのだ。
 言えることは、敬介にとって有利な点は見当たらないということである。

「なら聞くけど、どうして僕を疑うんだ! 確かにこの状況なら疑われるのは仕方ないとは思うけど、これは必要処置であって―――」
「―――天野美汐って子にあったかよ?」
「あ、会ったよ。彼女がどうしたんだ……?」
「そうかい。俺も会ったぜ。テメェから命辛々逃げ延びたっていう天野美汐にな……!!」
「―――なっ!? そんなバカな……」

 秋生とて、美汐の眉唾ものの話をすんなりと受け入れるつもりはなかったが、都合よく襲い掛かっている現場を見てしまえば事実を頷かざるを得ない。
 春原や渚、そして綾香までもその話に驚きの表情を浮かべた。
 そして綾香は、敬介にしか聞こえぬ声量で呟きかける。
417名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 02:57:59 ID:P3HzdnnL0
るーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるー回避
418月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 02:58:08 ID:CoOk2PPh0
「へぇ……。何よあなた同類? あの餓鬼と同じ手法に騙されるなんて……。やってくれるじゃない」
「やってくれたのは君だろう……っ!!」
「グダグダ言ってんなよ!! いいからテメェはその嬢ちゃんを離しやがれ!」

 ―――駄目だ。
 どう弁解しても、秋生の勘違いを今は正すことが出来ない。
 そして、秋生の要求を聞いてやることも出来ない。
 危険な思考を持つ綾香を解放するわけにもいかないのだから、ますます疑惑も深まって自身の命までも危うくなってくる。
 秋生は牽制のためか、既に拳銃を敬介へと向けていた。
 苦虫を噛み締めた表情で、敬介は自問するように秋生の銃口を眺め見る。
 ―――それは、綾香にとって絶好の隙。 
 意識が拳銃に逸れていた敬介は、綾香が右腕に力を込めたことに遅まきながらに視線を寄せるも、既に片腕は切り払われた後だった。
 密かに背で隠していたものを自由になった右腕で握り、躊躇なくそれを敬介の腹部へと突き立てる。

「何時までも乗っかってんじゃないわよ!!」
「―――ぅが……!?」

 敬介は腹から広がる苦痛を感じる間もなく、綾香に強引に振り払われた。
 地を転がる敬介の腹には、彼自身が綾香へと突き刺した鋏が突き刺さっている。
 生憎と刃渡りの短い鋏であったために、それは致命傷とは成りえぬが、下手に刺さっていたものだから激痛を催す効果は充分にあった。
 嘗て椎名繭(053)を刺し、綾香を刺し、そして敬介を刺すといったまるで鋏としての用途とは懸け離れた使用方法。
 生活用品が凶器へと変わる様は、まさしく凄惨な殺し合いと言えた。
 その鋏を敬介は歯を食い縛りながら引き抜いて、既に難を逃れて勝ち誇る綾香を仰ぎ見る。

「残念だったわね? ともかく……そこのおじ様、助かったわ」
「ああ。気にすんな―――」
「―――ち、がい……ます……!!」

 友好的な笑みを浮かべる綾香と秋生を遮って、か細い声が空気を震わせた。
 もう生きているかどうかすら判別できぬほどの青白い顔色で、夜空を仰ぎ見ながら倒れ伏す理緒が口を開いた。
419名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 02:59:34 ID:P3HzdnnL0
るーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるー回避
420月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 02:59:38 ID:CoOk2PPh0
「―――っ……ないで。……わ、ない……で」
「まだ生きてんのかっ!?」

 佳乃以上に血液の池を作り出す理緒の身体に、もう息を止めていたと思っていた秋生は純粋に驚いた。
 その秋生が吐く言葉と同じでも、意味合いが異なる意見を持っていた綾香は、何故まだ生きていると言わんばかりに眉を引き攣らせる。
 何を口に出すか分からぬ以上、止めを刺しておきたい所だが、拳銃を持つ秋生がいる以上迂闊には動けない。

「―――理緒、ちゃん……」

 理緒が何かを訴えようとしていた。
 視界もまともに定まらない状態で、それでも何かを訴えようとしていた。

 ―――頑張ることが彼女の取り得。
 入院していた母の代わりに、弟や妹を養っていた雛山理緒は文句の一つ言わなかった。
 勤労少女と言える彼女は、それでも多忙に根を上げることなくやるべき事を貫き通してきた。
 彼女の取り得は、場所が何処であろうと変わりはしない。
 優しく受け入れてくれた敬介に対して、まだ自分は頑張れることがあるはずなのだ。
 犬死で死んでやるほど、彼女は恩知らずではない。
 手足は動かない。視界も定まらない。聴覚は既に曖昧だ。痛みなど始めから感じていなかった。
 だから、彼女は最後に想いを告げる。
 ―――息を大きく吸って、大きく吐いて。
 本当に深呼吸が出来ていたかを認識できる程、彼女の神経は既に機能していない。
 それでも理緒は、生涯で一番心を落ち着かせた気がした。
 思いの丈を、微かに聞こえる敬介の息遣いへ向けて、精一杯喉を奮わせる。

「―――っばな、さんを……。たちば、なさんを! わるく、言わないで……っ!!」
421名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 03:00:05 ID:P3HzdnnL0
るーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるー回避
422名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 03:00:51 ID:P3HzdnnL0
るーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるー回避
423名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 03:01:28 ID:P3HzdnnL0
るーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるー回避
424月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 03:01:28 ID:CoOk2PPh0
 その一声は、敬介に留まらず渚に春原、綾香に秋生にまで確かに響いた。
 余計なことをと、内心苛立たせる綾香とは反対に、秋生は理緒の真偽を確かめるべく耳を傾けた。
 敬介のことは当然疑っている。理緒がいい具合に騙されているとも言えない。
 なればこそ、瀕死な身体に鞭を打ってまで言葉を連ねようとする彼女の意思だけは、決して蔑ろにすることは出来なかった。
 片や焦燥に聞き入る者や、素直に受け止めようとする者、様々な聴衆の中、震える口を従わせて理緒は言葉を投げかける。

「……たちばな、さん。き、こえてますか……?」
「聞こえてる! 聞こえてるよ理緒ちゃん……!!」

 腹部を押さえた敬介は、夜の闇から囁きかかる真摯な声を一句洩らさず聞き取った。
 もうこれが最後だと、漠然とした直感が脳裏を巡る。
 彼女が敬介へと笑いかけることも、言葉を交わすことも、これが最後。

「……私、こんなに、なって……迷、惑ですよね。……めん、なさい」
「君が……どうして君が謝るんだ……。僕の判断ミスだ! 迷惑だなんて、決してそんなことはない!!」
「えへへ……。ホント、に、優しい人……。わ、たしね? ちゃん、と人……助け、られたんだよ……?」
「……そうか。うん、そうか……っ」

 口許を綻ばせて、理緒は誇らしそうに笑った。
 敬介は緩んだ視界で、何度も彼女の言葉に肯定してみせる。
 その姿は理緒の視界には届くものではないが、彼女の心に確かに伝わった。
 父親に褒められたように、理緒は嬉しそうに表情を緩める。

「―――わたし……あの子、に……顔向け、できるかな? 報い、ること……でき、たかな?」
「勿論……勿論だよっ」
「でも、でもっ……やっぱり、頑張り、たりないよ……」
「……人を一人助けた。後悔しているかい……?」

 小さく首が揺れた気がした。
425名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 03:02:29 ID:P3HzdnnL0
るーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるー回避
426月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 03:02:32 ID:CoOk2PPh0
「うん、そうだね。この島で、君は素晴らしいことをした。立派に胸を張れる行いだ! 君が頑張っていないなんて……そんなことは僕が言わせない」
「ふふ……うん、うんっ。嬉し、いな……。わた、し……まだ、沢山お礼しな、きゃ……。―――あ、ダメだ……し、した、よくまわら、ないよ……」
「―――理緒ちゃん!! 僕は此処にいる! ちゃんといるから……っ!!」

 敬介の言葉は、もう理緒には届かない。
 ―――でも、理緒はそれでも構わなかった。

「あ、ぅ……あ。み、すずさんと会え、たら……仲良く、なれた……かな。……れ、たら、嬉しい、かも……」
「当たり前だろう! いい子なんだ……二人ともっ、いい子なのに……っ!」

 ―――敬介は確かにそこにいて、今も理緒を見守っていると確信がもてるのだから。
 敬介の娘―――神尾観鈴(025)と戯れる姿を夢想して、理緒は幸せそうに目を閉じた。

「―――たち、ばなさん。こ、んな……私と、一緒してく、れて―――」

 ―――どうも、ありがとうございました!

 彼女は、そうして口を閉ざした。
 呆気のない最期であるが、未練など数え切れないほどあるが、それでも後悔だけはしなかった誇り高い姿だ。
 彼女の想いは、確かに敬介の胸へと届き渡る。
 
 敬介は溢れ出る涙は決して零さぬよう、目元を掌で覆い隠して項垂れる。
 秋生と春原は、美しくも思える気高い最期に圧倒されて言葉を失くし、渚に至っては貰い泣きだ。
 ―――だが、そんな神聖とも言える空間を、土足で踏み散らすかのように肩を震わせる女性がいた。
427名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 03:03:15 ID:P3HzdnnL0
るーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるー回避
428月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 03:03:45 ID:CoOk2PPh0
「―――くっ。くく……っ」
「……?」

 腹を押さえて苦しそうに震えていたのは、綾香であった。
 訝しそうな秋生に構わず、遂に耐え切れなくなったように失笑する。

「く、くはっ。アハハハハっ! な、何これ? 何なのこのセンチメンタルな空気は? あんた達……此処に何しに来てるのよ?」

 堪えきれないといった風に腹を抱える姿は、誰がどう見ても嘲笑しているようにしか見えない。
 余りにも不謹慎といえる綾香の態度に、秋生は凄みがある睨みを利かせる。

「おいコラ! 何がおかしいんだ!!」
「―――しいて言えば全部? もう我慢できないからぶっちゃけるけど、私に意味もなく殺されたその子が報われるわけないじゃない」
「なっ、んだと……っ!?」

 あっけらかんと何の悪気もなく種明かしをする様に、眉を吊り上げる秋生。
 だが、気にも留めない様子で彼女はゆっくりと歩を進めた。
 何処か自然に、そして不自然さを装わないようにして。佳乃の遺体の傍に転がる拳銃を視界に収めて着々と距離を縮める。

「もう無駄死も無駄死。何も出来なかった奴が無様に死んでいっただけの話でしょ? 見ていて私は惨めに思えたけどね。
 私が言うのもなんだけど、せめて一人でも道連れにしないと普通は満足しきれないわよ」
「テメェ……乗ってたのかよ……っ?」
「私の目的に沿う人間と、それを邪魔する奴は当然殺すわよ。この島では常識よね? こちとら一度痛い目見てるから手は抜けないのよ」
「渚を撃ったのも、そこの小僧と嬢ちゃんをヤッタのも全部テメェかよ……!?」
「あー、それは違うわよ。その女は勝手に死んだのよ。あなたの娘だって私は何も手を下しちゃいない。ねぇ、そうでしょ?」
429名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 03:03:49 ID:P3HzdnnL0
るーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるー回避
430名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 03:04:35 ID:P3HzdnnL0
るーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるー回避
431月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 03:05:07 ID:CoOk2PPh0
 春原を嬲り続け、渚の首を絞めといて調子のいい物言いだが、確かに理緒以外には致命傷を浴びさせてはいない。
 理緒を蔑ろにする綾香に小さく非難の視線を寄せていた渚だが、四人の確執に関しては直接的には無関係であったために口も挟めず顔を俯かせる。
 反論のない渚を見て、綾香の言い分は強ち間違っていないことは一目瞭然であり、あの時の敬介の弁に至っては真実ということだ。
 何という失態。秋生は見誤った自身の判断を悔やむが、これで明確ながらに敵対関係が見えてきた。
 綾香にとっては全員が敵。秋生は綾香は敵であり、敬介は依然として警戒すべき対象だ。
 ある意味選り取り見取りで気楽な綾香は、自身あり気に笑みを浮かべていた。 
 秋生の表情を見る限り、まだ人を殺すことに対する甘さが見え隠れしている。問答無用で拳銃を撃たないのがいい例だ。
 そして、既に敬介を綾香は問題としていなかった。
 理緒を失って悲しみに暮れ、完全に腑抜けたと思っていたからだ。

「現実はまったくもって非情ね。私なんかが手を下さなくともバタバタ人間が死んでいくんだから。
 言ってしまえばね、その子は死期が早まっただけでしかないのよ。
 あなたの娘も、今死んだ奴も……今後苦しむことを前提にして早々と殺してやったほうが幸せってモンでしょ?
 目的ないんだから、グダグダ生き残ってても仕方ないわよね」
「―――黙れ」
「は?」

 綾香が声のしたほうに振り向くと、そこには一切の陰りのない敬介が面を上げていた。
 真っ直ぐに彼女を射抜く視線は、決して腑抜けてはいない。

「―――もう、僕がどう疑われたって構わない。だけど―――」

 鈍痛が広がる腹部を顧みず、彼は綾香の前に立ち塞がった。
 夜の闇に溶け込むようにして、静寂に息を閉ざす理緒を眺め見る。
 数時間というほんの僅かでしかない協力関係。
 元の生活では交わることのない人生を、それこそ数奇なる偶然を経て巡り合った敬介と理緒。
 後悔なく逝った彼女と、その出会いに価値を見出す敬介以外の人間が―――

「―――理緒ちゃんを冒涜することは! 絶対に許しはしない!!」
432名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 03:05:32 ID:P3HzdnnL0
るーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるー回避
433月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 03:06:41 ID:CoOk2PPh0
 そんな彼らの絆を否定することは、何人たりとも蔑ろにすることを容認できない。
 揺るがない決意を固めて、綾香の眼前に立つ。
 進行上、邪魔としか言えない敬介の姿に、彼女は鼻で笑いながらも眼光を鋭く尖らせる。

「許さない? 許さないと具体的にどうするのかしら」
「―――止めるさ。僕も精一杯頑張ってみるつもりだ……」
「―――面白いじゃない。満身創痍で何が出来るのか拝見したいものね?」

 綾香は上手く動かぬ肩口へ強引に力を流し込み、左右両手を拳で固める。
 脂汗を滲ませる敬介も、一歩も通さないと言わんばかりの心構えで、彼女の動きを見落とさぬよう冷静に頭を落ち着かせる。
 緊張高まる二人を横目に、比較的自由に行動できた秋生は渚を回収すべく走り出した。
 
「―――渚! 今行くっ!!」

 お互いを敵視していた敬介と綾香が相対している以上、少なくとも秋生に対する警戒が若干薄まることを分かった上で、彼は走り出した。
 この分が悪い状況下で、秋生からしてみれば彼女達と戦おうとする必然性はない。
 正直な話、渚を拾って早々と離脱することが今は得策と考えていた。
 殺された佳乃を弔うべく復讐を行うか、自身の娘の安全性を優先するか。どちらを考慮するか、言うまでもなく後者を選ぶに決まっている。
 敬介はともかく、虚を突く形となった綾香を出し抜いている状況で、彼が渚の下へと辿り着くことに何の障害もないはずなのだ。
 ―――問題がなかった筈の秋生へと、空気を裂く一条の銃弾さえなかったら、問題もなく辿り着けたのだ。
 疾走していた秋生が転倒した。

「―――お父さん!?」
「いって……何だ……?」

 じぐじぐと痛みと熱が急速に発生した脇腹へと手を伸ばすと、ぬちゃりと生暖かい水分が掌に纏わりついた。 
 撃たれたということをまずは認識し、次いで背後を振り返る。
 悲鳴を上げた渚も、発射された銃弾の始点へと正しく視線を向けていた。
434名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 03:06:44 ID:P3HzdnnL0
るーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるー回避
435名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 03:07:36 ID:P3HzdnnL0
るーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるー回避
436月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 03:08:13 ID:CoOk2PPh0
「―――はぁ、はぁっ、はぁ……。自分速過ぎや……。えらい手間取ったやないか」

 秋生が突き放した筈の、神尾晴子がそこに立っていた。
 全速力で追い縋ったのか、吐息を荒げながらも、秋生へとニヤリと不敵な笑みを差し向けている。

「くそ……っ! 完全に忘れてた……」
「ほう、忘れとった? いけずやなぁ……うちはこうしてけったくそ悪いわれの為に駆けつけたっちゅうのに」

 秋生は苦々しい顔で立ち上がり、仕方なく晴子へと拳銃を向けて視線を交差させる。
 笑みの表情の裏面で決して浅くない怒りを浮上させる晴子に、背後を見せて無防備を晒すという真似は流石にできない。

「は、晴子……」
「……あなた確か、あの時の……」

 敬介は勿論のこと、晴子との面識は綾香にもあった。
 晴子もそれに気付いたのか、一度綾香に邪魔された経験のある彼女は眉を潜めて睨みつける。

「なんや……数時間ぶりやな? 邪魔すんなら今度ばっかしは容赦せんぞ」
「はぁ? 尻尾巻いて逃げたのはどこのどなたかしら? 私の記憶上、目の前のオバサンしか該当しないけれど……」
「聞こえんかったな……なんやて?」
「老化現象が進行してんじゃないの醜いババアが。引っ込めって言ってんのよ」
「―――あー、あかんわ……ぶっ殺す」
「晴子っ! もうやめろ……っ!!」
「あん?」

 この集団の中では限りなく影が薄い敬介を、今気付いたとばかりに目を向ける。
 そして、秋生が洩らした敬介マーダー発言を思い出し、周囲をざっと見渡した。
 死人の理緒と佳乃、生死が判別できぬるーこに傷だらけの春原と渚。
 晴子と遭遇したときの態度は擬態で、実の所冷酷で残忍な人間だったのだろうと、見当違いの認識を彼女は浮かべた。
 少なくとも敬介は娘の観鈴を大切に想っていることだけは、気に喰わなくとも認められる。
 ならば、お互いの見解と方針のために手を組むのもやぶさかではない。
 晴子は満足気に怒りを引っ込め、意外と役立ちそうな彼の利用価値に感心したように頷いた。
437名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 03:08:14 ID:P3HzdnnL0
るーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるー回避
438名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 03:09:18 ID:P3HzdnnL0
るーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるー回避
439月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 03:10:44 ID:CoOk2PPh0
「敬介ホンマやるな……。水臭い、協力するなら嘘言わんでもええやんか」
「……僕ではない。大半はそこの子が原因だ」

 実際は晴子の考えは的外れもいいところなのだが、今この状況で必死に弁解したとしても晴子の機嫌を損なわす恐れもあったために、強く言い返すことはしなかった。
 変わりに、その矛先を綾香へと向かわせる。
 晴子も危険だが、今は極めて危険な思考や方針を定める綾香のほうが始末に終えない。
 秋生には辛うじて敵対視はされていないし、晴子に関する対処も何とか説得して説き伏せるつもりだった。
 つまり、一番扱いづらいのはヤル気満々の綾香であり、一番何とかしたいのも彼女である。
 その当の本人である綾香は、一斉に視線が集まっても肩を竦めるだけで表情に変わりはなかった。

「諸悪の根源みたいに言わないでもらえる? 間抜けなコイツラが自爆したようなものじゃない」

 渚と春原を見下したように嘲笑う。
 二人は悔しそうに唇を噛み締める。
 そして、昼に遭遇した時との余りの温度差と変わり様に、晴子は不思議そうな眉を寄せた。

「なんやねん、その一変した態度。狂ったか……?」
「うるさい。やっていることはあなたと大差ないわよ」
「確かになぁ……。自分も覚悟きめたいう訳か」
「―――っ!」
440名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 03:10:47 ID:P3HzdnnL0
るーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるー回避
441月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 03:11:43 ID:CoOk2PPh0
 手強い敵と成り得た綾香に、納得したように頷いていた晴子の姿を隙と見たのか、秋生が駆け出そうとする。
 だが、それよりも早く秋生の眼前の地面が銃弾で弾け、彼の動きをせき止めた。

「こら、勝手に許可なく動くなや」
「じゃあ許可くれよ」
「やるかアホ」

 秋生が動いたことにより、各々の緊張が膨れ上がる。
 際立った面々は綾香に敬介、秋生に晴子の四人。
 綾香を除いた三人は、どれも子の親であることと目的意識という二つの事項に関する共通点に誤差は殆どない。
 守るべく三人と、自身の欲を優先させる一人の人間が、ぶつかり合おうという直前。
 民家の入り口付近で転がっていた春原の耳に、ギィっという開閉音が耳朶を打つ。
 ―――一つの家の、扉が開いた音だった。
442名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 03:11:55 ID:P3HzdnnL0
るーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるー回避
443名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 03:12:57 ID:P3HzdnnL0
るーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるー回避
444月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 03:13:19 ID:CoOk2PPh0
 ****


 ―――……ぃっ。ぉ……

 なんだろうか。
 身体が揺れている気がした。
 
 ―――……き! ……ろっ

 でも、それは無視することにする。
 この身を漂わせるような安らぎが堪らない。
 全身を包む温もりに、さながら丸くなる猫のように安穏と笑みを浮かべる。

 ―――……きろっ。……ぃ! く、きろ!!

 その声は煩わしく思う反面、何処か心を癒してくれるものであった。
 揺れが激しくなり、貝のように塞いでいた耳は徐々に遠くなって。 
 
 ―――…………
 
 そして、揺れが収まった。
 これで妨げるものは何もない。
 偉大なる欲求に任せて、再び真なる安らぎを得ようと旅立とうとしたところで―――

「―――名雪起きろおおおおぉぉ!!」
445名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 03:13:28 ID:P3HzdnnL0
るーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるー回避
446名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 03:14:14 ID:P3HzdnnL0
るーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるー回避
447月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 03:14:43 ID:CoOk2PPh0
 水瀬名雪の頭部に衝撃が走った。
 目から火花が出るほどの痛みに、彼女は飛び起きる。
 名雪は寝惚け眼に涙を浮ばせて、まずは事態の把握に勤しんだ。 
 周囲を見渡すと、綺麗に整頓された室内に、縮こまったように横たわるカエルの縫いぐるみ。さらに、大小様々な目覚時計が錯乱している。
 見違えるべくもない自身の部屋であった。
 そして、何事もなく彼女の部屋から退出しようとする男性の姿。

「ううぅぅ……。酷いよ祐一ぃ……」
「酷いのはお前の寝相だ。朝食出来てるから、準備してさっさと降りてこいよ」

 彼女に容赦なく拳骨を落としたのは、最近この家に引っ越してきた従妹の相沢祐一。
 名雪の非難の声にまったく悪びれる様子のない祐一は、彼女を置いてさっさと下階に降りていった。
 ぶつくさと文句を垂れ流しながらも、名雪は学校指定の制服へと袖を通していく。
 祐一のせい、もとい祐一のおかげで、ある程度覚醒した名雪は寝惚けることもなく準備を終えて下の階へと降りていった。
 リビングの扉を開けると、暖房の熱が名雪を出迎えた。
 香ばしい朝食の匂いに、彼女は頬を緩める。
 そして、第一声。

「おはようございます〜……」
「……相変わらず気の抜ける声出して……」
「おはよう。名雪」
「おはよっ! 名雪さん!!」
「……もぐもぐ」

 既にテーブルで食事を開始していた面々。
 溜め息を零しながら、食後のコーヒーを嗜む祐一。呆れ返った視線を向けていた。
 優しげな微笑を浮かべて、頬に手を当てながら出迎えた秋子。名雪の母親だ。
 最近になって朝食をご馳走になりに来る元気いっぱいの少女、月宮あゆ。
 そして、こちらも最近家族の一員になった沢渡真琴。こんがり焼けたトーストに夢中でこちらに気付いていなかった。
448名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 03:15:55 ID:P3HzdnnL0
るーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるー回避
449月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 03:16:40 ID:CoOk2PPh0
「お母さん〜。わたしのイチゴ〜」
「はいはい。ちゃんとあるわよ」

 秋子が用意した自家製苺ジャムを、それこそ山盛りにパンへと塗りたくる。塗るというより乗せているともいえるが。

「いただき〜ます」

 カプリと食いついた。
 口内に広がる甘酸っぱい苺の酸味が、名雪の舌を楽しませる。
 見えているとも思えない糸目で、彼女は着々と自身の朝食を征服していく。
 苺ジャムでご飯三杯はいけると豪語する名雪の捕食っぷりに、何時もながらに祐一は未知の生物を見るかのような視線を寄せる。

「よくもまぁそこまで喰えるもんだな……」
「ふふ。名雪の大好物ですからね。祐一さん、コーヒーの御代わりはいかがですか?」
「あ、お願いします」
「はい」
「あうー! 秋子さん、真琴にも頂戴!」
「えぇ。二人とも少し待っててね」

 秋子は二人のカップを受け取って、ポットのあるキッチンへとへと向かった。
 真琴は再びパンの攻略に取り掛かり始めるが、手持ち無沙汰な祐一が口を挟んだ。

「おい真琴。パンのカスを落としすぎた。もっと上品に食べられないのか?」
「うっさいのよ祐一の分際で! 真琴がどういう食べ方をしようが関係ないでしょ!」
「片付けるのはお前じゃなくて秋子さんだろうが。お前こそ居候の分際で態度がでかいぞ」
「祐一だって同じクセにーーー!!」

 顔を赤くした真琴は、テーブルに広がるパンのカスを一つに集め始めた。
 珍しく人の言葉に従ったなと感心したのも束の間、収束したパンのカスを掌に乗せ、あろうことか祐一目掛けて吹きかけた。
450名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 03:16:51 ID:P3HzdnnL0
るーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるー回避
451月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 03:17:50 ID:CoOk2PPh0
「―――ぶわっ!? おいこら何しやがる!!」
「べーーだっ」

 慌てふためく祐一の姿に、ざまあ見ろといわんばかりに愉快気に笑う。
 勿論、祐一とてここまでされた以上、友好的手段など既に皆無。 
 不気味な笑みを浮かべながら、あゆが食べていたパンの受け皿へと手を伸ばす。

「借りるぞあゆ」 
「うぐぅ? そんなパンのカス何に使うのさ?」
「いやいや、馬鹿娘に怒りの鉄槌を少々……」

 パンを咥えながら怪訝そうに見詰めるあゆは祐一の動向を見守る。
 彼は口笛を吹き鳴らし、自然さを装って真琴の背後に立つ。
 邪魔な奴がいなくなったとばかりに幸せそうにパンを齧っていた真琴だが、後方で愉悦に顔を歪める祐一の姿に気付いていなかった。
 余りの邪悪な笑みに、あゆは頬を引き攣らせながらも祐一の行動を制止するつもりはないようだ。
 正面に座るあゆの微妙な視線に気付いた真琴は、なんだろうと思った瞬間、彼女の長い頭髪が一気に舞い上がる。
 高速に動いた祐一の指が真琴の首元の襟を引っ張って、さらに一方で持った受け皿の溜まりに溜まったパンの屑を情け容赦なくその隙間に投下した。

「ひぃぎゃあああああ―――!!」

 素肌を通過するざらざらとした感触に鳥肌が粟立ち、真琴は溜まらず悲鳴を上げて飛び上がった。

「なになになに!? なんなのよーーーっ!!」
「盛者必衰……悪は滅んだ」
「うぐぅ……祐一君酷すぎるよ……」

 苦笑しながらリビングに戻ってきた秋子から、冷静にカップを受け取って何事もなくコーヒーを啜る祐一。
 真琴にパンのカス云々と言っていた祐一の方が、極めて傍迷惑であった。
 そんな騒がしくも、平和な朝食風景。
 だが、今日はまた一味違った。
 ピンポーンと、家内に間延びした呼び出し音が鳴り響く。
452名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 03:17:51 ID:P3HzdnnL0
るーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるー回避
453名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 03:18:27 ID:P3HzdnnL0
るーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるー回避
454月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 03:18:57 ID:CoOk2PPh0
「あら、どなたかしら……」
「俺が行きますよ」
「そうですか? それじゃ、お願いしようかしら」
「お願いされました」

 立ちかけた秋子を制して、祐一が来客の対応をすべく玄関へと向かう。
 真琴は依然と服から抜け落ちぬパンの屑に四苦八苦しており、あゆにまで手伝わせる始末。 
 まったくのマイペースで食べている名雪に、玄関の方を気にしている秋子。
 そんな四人の耳に、驚いたような祐一が届いた。

『うおっ。どうしたんだお前ら……』
『たまには一緒に登校しようと思ってね』
『へぇ。……で? 何でお前までいるんだ?』
『酷っ!! この対応の差はなに!? とまあ、来てやった俺達を持て成せよ』
『なに言ってんだか。とりあえず上がれよ』

 リビングに戻ってきた祐一は二人の来客を引き連れてきた。

「ん〜。香里に北川君だ〜。おはようございまふ」
「……水瀬、完全に寝てないかこれ?」
「やっぱりこの子は食事中も寝てるのね……」

 名雪と祐一の同級生、美坂香里と北川潤だ。

「あらあら。二人とも、いらっしゃい。コーヒーと紅茶どちらがいいですか?」
「あ。秋子さん、おはようございます。紅茶をお願いします」
「おはようございます! ロシアンティーを一杯」
「また微妙なものを……」

 秋子の朗らかなお持て成しに、香里と北川は遠慮なく甘えることにする。
 無難な香里に比べて、調子のいい北川の采配に呆れた視線を寄せる祐一と香里。
 だが、秋子の瞳が妖しげに光った気がした。
455名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 03:19:32 ID:P3HzdnnL0
るーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるー回避
456月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 03:20:14 ID:CoOk2PPh0
「あ、ならいいジャムがあるんですよ」

 ロシアンティーを所望した北川へ、秋子は秘蔵の一品とも言えるジャムを取り出した。
 北川を除く面々が凍りついた。
 秋子が本当に幸せそうに取り出す瓶に詰められた特性ジャム。まさしくオレンジに輝いていた。

「あー!! 香里よく見れば時間がやばそうだな!?」
「え、えぇ。そうね早く行きましょうか!」
「え? え……?」
「ちょ、待ってよ〜。置いてかないで置いてかないで〜」
「馬鹿。食事はゆっくりと噛みしめて味わうものだぞ? 大丈夫! 先生には事情を説明してやるから」
「そうよ。抜かりはないわ」
「ご、極悪だよぉぉ……」
「え、いや。お前ら何をそんなに慌てて……」

 顔を青褪めさせる名雪と、事態が掴めず混乱する北川。
 真琴は隅で震え上がり、あゆに至ってはダッフルコートを羽織って既に帰り支度は万端だ。
 滅多にない試食を行ってくれる人材に、心底嬉しそうな笑みを浮かべる秋子の姿に、祐一と香里は顔を引き攣らせる。
 
 ―――騒がしくもあり、平和である日常の一端。

 何時でも笑みを浮かべて、親友達と過ごす毎日にご満悦な自分。
 慌てながらも、それでも悪くないと思いつつ、名雪は母親である秋子へと口を開いた。

「ねぇおか……さん? え? な、なにやっているの……」

 ―――それは唐突に瓦解する。
457月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 03:21:19 ID:CoOk2PPh0
「ふふ。名雪もいっしょにどうかしら? 楽しいワヨ?」 
「ひぎっ! ぎぃ! がっ! あぅ!!」

 秋子は楽しそうに名雪へと笑いかける。
 ―――真琴の指を一本一本包丁で千切り飛ばしながら。

「あ……な、にこれ? え?」
「―――どうしたの名雪さん?」

 椅子からずり落ちた名雪の頭上から、あゆの言葉が掛かる。
 ポタリ。ポタリと。彼女の座り込んだ膝に水滴が零れ落ちてきた。
 仰ぎ見る。

「―――ひっ!!」

 そこには異様なあゆの姿。
 後頭部から眉間に掛けて抉られたような真っ黒な穴が広がり、踝からぱっくりと横に裂けて両の眼球が今にも零れ落ちそうだった。    
 鼻から上は原形を留めておらず、ドス黒い血液は笑みの形を浮かべる口許から滴っている。 

「―――やぁぁぁ!!」

 頭を振って後退る名雪だが、ドンっと何かにぶつかった。
 恐る恐る振り返ると―――

「もう。気をつけなさいよね? 世話がヤけるンダかラ」
「あ、あぁ……」

 首根が異常に捩れ曲がり、口の端から舌が垂れ落ちて、ギョロリギョロリと忙しなく動く眼球が名雪を様々な角度から覗き見ていた。
 香里だった。
 リビングは、何時の間にか血みどろの空間と化していた。
 おかしい。おかしい。確かに自分は食事をしていたは筈。秋子の朝食を頬張っていた筈。
458名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 03:21:33 ID:P3HzdnnL0
るーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるー回避
459月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 03:22:42 ID:CoOk2PPh0
「うふふ。ツギは、足かしらネ?」
「は、ぎぎ……っが! がげぃ! きぃぁ! っぁ、ぅぁ!」

 おかしい。おかしい。おかしい。何時もみたいに真琴が悪戯をして祐一は怒っていた筈。

「アハハハハは!! アハはハハ!! 目玉もどるかなもどるかな」

 おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。珍しいことに香里と北川までもが迎えに来てくれた筈。

「あぁ……あぁぁぁ……う、あぅあァウぁァァァ」

 絶対におかしい。いや、おかしなことはなかった筈なのに、絶対におかしい。
 そうだ。こんなのは違う。おかしいんだ。そうだ夢を見ているのだろう。そうにちがいない。
 後ろからしな垂れかかってくる香里だって幻に違いない。
 意を決して振り向いた瞬間。
 ズドンという轟音とともに、あらぬ方向に歪んでいた香里の後頭部が吹き飛んだ。
 髪の毛が付着した肉片が周囲を打ちつけた。
 ピチャリと、名雪の顔面を真っ赤な塗料が降りかかる。
 ―――考えるな。

「どーん! どーん! とりあえずふっとべー。ふっとべー。水瀬もやろうゼ? どーんどーん」

 よく分からない形状で、辛うじて銃だと思えるものを持った北川。
 彼は、香里だけに留まらずに秋子やあゆに真琴を思うままに吹き飛ばしていく。自分さえも吹き飛ばしていく。
 赤黒いドロのようなものが飛び散り、千切れた手首や手足が吹き乱れ、笑みで固定された顎が飛び交い、風船のように眼球が弾け飛び。
 捻じ切れた腸が地を踊り、鼓動する生臭いものが抉れて潰れ、ピンクのぶよぶよした肉がめくれ上がって。
 ―――もう訳が分からない
 部屋は名雪を残して真っ赤に染まり、ぞわぞわと人間―――否、肉の塊が蠢いていた。
 ―――足りない。まだ足りない。

「―――ぃち? ゆ、いち? 祐一? 祐一、ゆういちっ!!」
460名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 03:23:18 ID:P3HzdnnL0
るーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるー回避
461月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 03:23:51 ID:CoOk2PPh0
 祐一がいない。まだいない。まだ見てない。
 右に左と、下に上にと首が千切れそうになるほど視界を回転させる。
 ―――いない、いない、いない!!
 何故か祐一がいない。どうしてか分からない。どうしていいかわからない。
 みんな肉に変わった。みんな泥に変わった。みんなゴミになった。
 ―――祐一もゴミ? 違う違う違う!!
 腐乱した肉を掻き集める。掻き漁る。

「どこ祐一、どこ? いじわるな祐一どこなの? ねぇどこ? どこ、どこにいるの? いるの? ねえやだねぇ?」

 巨大な肉団子としか思えない塊に顔を突っ込ませて覗かせる。
 でもいない。いるわけがない。でも探さなくてはならない。
 いる。絶対いる。何処かにいる。必ずいる。見つけるまでやめはしない。
 ―――漁る。彼女は漁る。赤が付着していない場所などないぐらい全身を濡らして彼女は漁る。
 見つからない。でも見つからない。
 でも、横から息遣いが感じれた。おかしい。さっきまでは聞こえなかったのに。
 ―――でもいいや。おかしくてもいいや。

「―――祐一!! さがして……た、んだ、え?」
「名雪」

 振り返った名雪の目は、確かに祐一を捕らえた。ゴミなどではない、確かな祐一の姿。
 嬉しい。嬉しい。やっと見つけた。でも―――

「あ、ぁぁ。―――あぁぁあああぁぁあああ!!」

 肩口に刺さるナイフはなんだろうか。
 能面のように微笑えんでナイフを刺している祐一はなんだろうか。
 名雪の名前を小さく囁いて、彼はナイフを動かした。
 スーッとナイフを縦に動かすと、これは不思議。
 ポトリと、名雪の腕が落ちた。
462名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 03:24:01 ID:P3HzdnnL0
るーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるー回避
463名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 03:24:39 ID:P3HzdnnL0
るーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるー回避
464月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 03:24:52 ID:CoOk2PPh0
「―――わ、たしの……うで、は?」
「名雪」

 噴水のように迸る自身の血液を唖然と眺める。
 ―――あ、きれいだな……
 放物線を描いて噴出する真っ赤な血に、心を震わせた。
 そんな名雪の頬へと、祐一は手を伸ばす。

「名雪」
「―――あ」

 ナイフが、胸を貫いていた。一緒に、下半身も抜け落ちていた。
 上半身のみとなる名雪を、祐一は優しく抱きとめる。
 そして、高く高く。それこそ父親が子供に高い高いをしているが如く。
 祐一は名雪を持ち上げた。

「名雪」
「え、え。まって。まってよ祐一。潰すの? また潰すの。わたし、潰されるの? え? あの時と一緒? 違うよね? うん、ちがう―――」

 グシャリと、名雪の身体が地に押し潰された。
 ―――いつかの雪ウサギのように。
465名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 03:25:13 ID:P3HzdnnL0
るーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるー回避
466名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 03:25:49 ID:P3HzdnnL0
るーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるー回避
467名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 03:26:20 ID:P3HzdnnL0
るーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるー回避
468名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 03:26:53 ID:P3HzdnnL0
るーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるー回避
469月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 03:28:07 ID:CoOk2PPh0
 ****


「―――っ!!!!」

 ガバリと跳ね起きた。
 異常と思えるほどに身体を震わせながら、水瀬名雪(104)は全身汗だくで目覚めから覚醒する。
 喘息のように荒い吐息を吐き出して、彼女は混乱した思考で辺りを見渡した。
 見渡すが、名雪の視界は漆黒で閉ざされている。自分が柔らかいベットに横たわっているという感触しか現実を把握できなかった。

「あ、あぁぁ……や、やだ。お母さん何処? 祐一? 何処にいるの……!!」

 視界が定まらないと、思考を整理させないと。
 ―――嫌が応にも先程の悪夢を思い出さずに入られない。
 もう一度思い出してしまうと、彼女の精神は恐らく保ちきることはできないだろう。
 言い知れぬ不安に、名雪は真っ黒な闇を狂乱したように練り歩く。
 何度も同じ場所を行ったり来たりしながら、幸運なことに電気のスイッチを発見する。
 躊躇なく押した。

「―――ぅ」

 途端に広がる電気の灯火。
 急速の光量に中てられて、堪らず目を瞑る。
 そして、恐る恐る見開いた先には、自身の部屋など存在していなかった。

「ど、どこ……ここ。わたし、知らないよ……」
470名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 03:30:37 ID:HvUDsUYn0
回避
471名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 03:31:07 ID:P3HzdnnL0
るーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるー回避
472月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 03:31:18 ID:CoOk2PPh0
 生活に必要な用品は揃っているものの、使われた痕跡のないモデルハウスのような小奇麗な一室。
 ―――そうして彼女は思い出した。
 混乱の極みに達する映像を見せられ、そこから続けざまに狂った人間達に襲われたことを。
 人をそれこそゴミのように見下ろす国崎往人に、哂いながらナイフを突き立てた伊吹公子(007)の姿が思い起こされた。
 公子はともかく、往人に関しては完全に冤罪だが、あの状況での彼の顔立ちは名雪の混雑した主観をさらに狂わせる。
 そんな悪漢と思っていた二人から命辛々逃げ延びた名雪であったが、確かに意識があった最後の瞬間、朧げながら母の温もりに包まれた記憶が残っていた。
 
「そうだ。お母さん、お母さんがいたんだ……」

 期待の視線を周囲に寄せるものの、秋子の姿は一向に見当たらない。
 
「え……どうして? 隠れてるの、やだよ……酷いよ、酷い……」

 カチカチと噛みあわない歯茎を揺らして、名雪は正気を失ったかのように髪を振り乱す。
 自覚なく涙を散らせ、彼女は崩れ落ちるように縮こまった。
 目を力いっぱい瞑って、耳を力いっぱい塞ぎこんで、広がる現実を否定するべく殻に篭もろうとする。
 だが、甲高い音が鳴り響いた。びりびりと窓が震える。
 
「ひっ!!」

 立て続けに連なるその音は、彼女がこの島で幾度となく耳にした音。
 ―――即ち銃声だ。
 それも限りなく近い距離で。それこそ、自身が点在する民家の真正面で。
 そして、聞こえる怒声と苦しむような呻き声までもが名雪の耳へと届く。
 衝動的に立ち上がり、ベットに敷かれた布団に身を隠そうと手を伸ばすが、目前の光景に喉を引き攣らす。

「―――っぁ!?」
「……?」
473名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 03:32:13 ID:P3HzdnnL0
るーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるー回避
474月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 03:32:13 ID:CoOk2PPh0
 何時の間にいたのか、設置されたもう一つのベットに上体を起こした少女が存在している。
 視野が狭まる名雪は、今の今までまったく気付かなかった。
 少女―――上月澪(041)は蕩けた瞳を擦りながら名雪を茫然と見詰めていたが、はっと気が付いたように傍に置いていた自身の所持品へと手を伸ばす。
 慌ててスケッチブックに何かを書き込む様を、名雪は何事か悲鳴を洩らしながら後退り始めた。

「なに、なにこの子? 知らない、こんな子知らない……っ」
「…………」

 もどかしそうに筆を動かしていた澪だが、すべきことを終えたのか、名雪へ向けて勢いよくスケッチブックを差し出そうとする。
 ―――それがいけなかった。
 名雪の脳裏が、返り血を浴びた一人の女性が襲い掛かってくる場面を反芻させた。
 何かを突き出そうとする公子の姿と、何かを突きつけようとする澪の姿。満遍なく一致した。

「―――ああああああぁぁ!!」
「っ!?」
 
 澪のスケッチブックを叩き落とし、彼女の小さな身体を思いっきり突き飛ばした。
 体重の軽い澪は容易く吹き飛んで、ベットの角に頭を打ちつける。
 苦痛に顔を顰める彼女の額からは、偶然切れたのか一筋の血が滴り落ちた。
 勢いで危害を加えた名雪は、それこそ悪気など皆無の様子で舌足らずに言葉を繰り返す。
 
「違う、ちがうよ……悪くない私は悪くない―――!!」

 客観的に見て、それは自己正当化にしか聞こえはしない。
 だが、それこそが彼女の自我を保つ唯一の方法。
 自分は決して悪くないと、何度も口に出して肯定しながら笑みを浮かべ始める。
 泣き笑いともいえる表情で、彼女は今も騒がしい外の喧騒へと目を向けた。

「そうだよ……お母さんがいないはずなんてない。いるんだよね、そこにいるんだよね?」
475名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 03:33:21 ID:P3HzdnnL0
るーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるー回避
476月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 03:33:48 ID:CoOk2PPh0
 浮浪するかのような千鳥足で、名雪は扉へと歩み寄る。
 家の外には確かに母親がいて、従兄の祐一までもが共にいるという妄想を抱いて。
 希望に縋る凄惨な笑みを浮かべて、彼女はゆっくりと扉を開け放つ。
 
 ギイッと開閉音を響かせて、室内の光が漆黒の闇へと飛び出した。
 そよぐ夜風に晒されて、名雪は日常を探すべく目を凝らす。
 
「―――おか……」

 広がる光景に絶句した。
 血溜まりに沈んだ幾多の人間に、その身に血を濡らせて笑う幾人の人間。
 ―――それは役者の違う、先程の正夢といえる地獄絵図が展開されていた。
 瞳孔が広がり、彼女の自我がとうとう弾ける。

「いやあああああああああぁぁぁ!!」
『―――っ!?』

 地の底から滲み出るような狂乱の雄叫びに、相対していた四人、そして春原と渚は例外なく肩をビクリ震わせた。 
 警戒に緊迫した空気を唐突に破って現れた名雪に、皆は心臓を掴まれたような驚きを見せる。
 そして、この中で刺激を与えた時に過剰な反応が返ってくる人間は二人。
 ゲームに乗った綾香に晴子だ。
 綾香が手段を持たず、持つのは拳銃を所持する晴子。名雪の目障りな甲高い声に、晴子は煩げに拳銃を発砲する。
 
「っ」

 だが、晴子の行動も予見でき、尚且つ名雪の直ぐ傍へと控えていた春原が彼女を間一髪押し倒した。
 自身の目の前で人が殺されるのは、これ以上耐え切れなかったからだ。
 二人で縺れ合いながら地面を転がり、銃弾は開いた扉を抜けて室内に飛び込んでいった。
 ガシャンと、何かが崩れる音が聞こえる。室内の家具に命中したのだろう。
 晴子は小さく舌打ちをして、追い討ちをかけるべく倒れこむ二人へと拳銃を向ける。
 ―――場が再び動き出す。
477名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 03:33:56 ID:P3HzdnnL0
るーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるー回避
478月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 03:36:04 ID:CoOk2PPh0
「やめやがれっ!!」

 二人を狙う晴子へ向けて、秋生は上体を屈めて疾駆する。
 握りこんだ薙刀を翻し、峰打ちを狙って彼女の頭部へと振るった。 
 一刀は晴子の前髪を浅く揺らすだけで、彼女は既に後方にステップを踏みながら回避している。
 追撃しようと秋生は踏み込むも、眼前に銃口の先端と対面した。

「―――逝ねや!!」

 秋生は踏み込んだ足を即座に横方へと力を込めて転がり、勢いを止めるために薙刀を地へと突き刺した。
 直後に銃弾で弾ける地面を確認することもなく、晴子の視線は正確に秋生の姿を捉えている。
 転がり先を予想していた晴子は、これで仕舞いとばかりに拳銃を放つ。
 だが、秋生とてそれが格好の的だと理解しているのだから、当然対処を考えている。
 地へと突き刺さった薙刀を両手で強く握り、さながら器械体操のように薙刀を起点にして身体を持ち上げた。
 秋生に直撃することなく通過する銃弾を、晴子は目を見開きながら驚きに顔を歪める。

「ちっ! なんちゅう奴……っ」

 地に足つけることなく上半身の腕力だけで身体を支えきり、そして両腕に更なる力が篭めて脚部を晴子へ向けて旋風する。 
 秋生の振り切った踵が晴子の頬を抉り、彼女の視界は強引に転換させられた。
 たたらを踏むが、それでも倒れない晴子は即座に秋生を補足するべく目線を走らせるが、彼は既に懐に潜り込んでいる。
 自身の腹で揺れる他人の頭髪に気付いた時には、勢いの乗った強烈な秋生の肘鉄が鳩尾に沈んでいた。

「―――!!」
「―――くっ」
 
 晴子の身体は吹き飛んで一瞬足が地を離れるが、唯では転ばないとばかりに倒れ間際に銃弾を発砲した。
 すぐさまサイドへステップを敢行するが、それでも数発は秋生の身体を掠らせる。
 痛みで着地に失敗しそうになる秋生の隙を狙って、晴子は吐き気を催す身体を制して距離を取った。
 秋生は追撃を諦め、突き刺さった薙刀を回収してお互いで睨み合う。
479名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 03:36:16 ID:P3HzdnnL0
るーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるー回避
480月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 03:37:15 ID:CoOk2PPh0
 正しく一瞬の攻防だが、その隅では拳銃を持たない敬介と綾香が隙を窺い、さらに春原も奮闘していた。

「お、おい! ちょ、暴れるなよ!! 中に避難したほうが―――」
「いやぁ! いやあ! 離して離して!! ああああああああ!?」

 狂ったように暴れる名雪を、春原は軋む身体に我慢を利かせて羽交い絞めにする。
 彼女の無茶苦茶に振り回す両腕や両足が、彼の腹や顔面を容赦なく叩く。
 春原は怒鳴りつけたくなる衝動を堪えて、何とかして彼女を民家の中へと非難させようと四苦八苦していた。
 正気じゃない彼女を混戦の場に置いていたとしても、良くて殺されるのが落ちだ。
 下手にこの場に干渉させて、春原からしたら唯一の味方とも言える秋生の邪魔を仕出かした日には目も当てらない。
 自身の衰弱した体力では、既に戦力とは成り得ないのだ。
 なればこそ、無防備な名雪や渚、そしてるーこ達を率先して保護するのは自分の役目。
 いや、役目以前にそうすることで彼もまた矜持を保とうとしていた。
 考えを綾香に否定され、るーこを止めきれず、挙句の果てに死人までも出してしまったがために、不甲斐無さという苦悩が彼を苛んだ。
 少しでもいい。
 少しでも、理緒のように理想的な終焉を迎えるために出来ることをして満足がしたい。
 今現在で、春原はまだ何も成し遂げてはいない。
 手始めといってはなんだが、まずは狂気に身を任せた名雪をどうにかするべきなのだ。 
 
「ぐぁ! 痛っ、痛いって……。クソ、大人しくしろよ!!」
「やああぁ! やああ!! 助けて! 助けて!」
「―――名雪っ!!」 
481名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 03:38:35 ID:P3HzdnnL0
るーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるー回避
482月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 03:38:56 ID:CoOk2PPh0
 だが、偶然は春原の都合を嫌うのか、名雪の母親である水瀬秋子(103)が凄まじい形相で現れた。
 秋生の件といい駆けつけるタイミングに何とも都合が良い。
 しかし当の本人からしたら、それは誤解を生み出す状況というほかなく、余りにも間が悪いといわざるを得なかった。
 
 他を寄せ付けない名雪の聴覚だが、待ち望んでいた安息の声にとうとう動きを止める。
 今までの抵抗が嘘であったかのように身体が弛緩し、ずれた焦点が徐々に秋子の姿を捉えていく。 
 お母さん、名雪はそう小さく呟いて、そして希望に満ち溢れた顔で絶叫した。

「―――お母さん助けてっ!!」

 今までで甘えに縋ったことは多々あれど、それでも秋子は名雪の頼みごとを無碍にしたことはなかった。
 だから、自身の精一杯の懇願を、彼女が受け入れないはずがない。
 何時もの生活風景のように、何の迷いもなく秋子は口にする筈だ。

「了承」

 ―――了承と。
 笑顔で頷く秋子の視界が切り替わる。
 助けを求める娘を羽交い絞めにする存在。
 ただ、それだけ。
 老若男女関係なく、それこそ識別の必要もない。
 名雪を襲っている、排除すべき人間。ただそれだけだ。
 娘に見せた微笑から一変。その一線を隔した冷酷な表情が、春原を射抜いた。
 
「―――ひぅ。う……」
483名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 03:40:07 ID:HvUDsUYn0
回避
484名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 03:40:29 ID:1f1iHwHD0
まだ起きてるよ回避
485月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 03:40:39 ID:CoOk2PPh0
 純粋なる殺意を一身で受けてめて、春原は潰れた悲鳴を喉から洩らす。
 絶対に逃がさないという凄惨な視線が、彼をその場に恐怖で縫い付けた。
 ゆらりと、秋子の腕が持ち上がる。言うまでもなく拳銃が握られていた。
 ―――拳銃の先端から、躊躇なく銃弾が発射される。
 気が付けば、春原の頬を抜けて背後の民家へ着弾していた。
 焼け焦げたような匂いと痺れるような痛みが頬から伝わってくる。春原の頬を、銃弾が掠らせていた。
 それは、威嚇なのか。もしくは牽制か。
 秋子の眼光を直視している春原は、何れも違うということに気が付いていた。
 ―――先の一発は、単なる誤差修正。
 秋子は銃口をほんの少し横にずらして、無常な黒い穴と春原の視線が交差した。
 数秒後、彼の眉間へと鉛玉が突き刺さることだろう。
 口をポカンと開けて、何処か他人事のように身を硬直させていた。
 瞬き一つしない秋子の双眸に中てられて、足を動かそうという概念は根元から消失し、抗う気力さえ沸き起こらなかった。
 嗚呼ここで死んじまうんだろうな、ぼんやりとそう思っていた春原に、それでも救いの手が差し伸べられる。

「―――春原さん!! 逃げて! 逃げてください……!!」
「っ!?」

 渚の必死な呼び掛けに、春原は我に返ったように現実へと戻る。
 急速に浮上した明確なる意思が改めたように思考を混乱させるが、それでも最優先事項だけは即座に弾き出す。
 彼は一も二もなく即座に屈みこんだ。
 チンッと銃弾が民家の壁を削り飛ばす。

「行ってください!」
「で、でも……」
「―――早くっ!!」

 滅多に出さない渚の大声に背を押され、彼は感情が追いつく間もなく衝動的に駆け出した。
486月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 03:42:04 ID:CoOk2PPh0
「なに逃げてんのよあんた!! 待ちなさいよ―――!!」
「ちっ」

 弱弱しく逃走する春原の背を、それこそ烈火の如く感情を爆発させて怒る綾香。
 散々好き勝手戯言を吐きかけておきながら、なんの落とし前もなく逃げ遂せるなどと許せるはずがない。
 相対する敬介を放って、彼女は春原へと引導を渡すべく駆け出そうとする。
 だが、それでも冷静さを保っていた綾香の視界の隅で、一人の女性の腕がぶれた瞬間を目撃した。
 嫌な予感が脳裏を巡り、その直感を信じて彼女は走行を急停止させる。
 眼前を、一発の銃弾が通過した。
 忌々しそうな態度を隠すこともなく、弾の発射点を睨みつける。
 
「うざいわね……。アイツはわたしの獲物なのよ、引っ込んでなさいって言ってんでしょ」
「はんっ。あないな奴どうでもええねん。自分こそとんずらかいな」
「―――誰が。大人しくあのオッサンと戯れてなさいよ」

 離脱を見逃さない晴子は、秋生を警戒しつつも綾香へ牽制の意味合いを込めて銃口を向ける。
 晴子からしたら春原の存在などどうでもよい。
 当然、この場に残るようなら排除するが、追ってまで殺そうとは思わない。彼女は面倒なことが嫌いなのだ。
 そして、一々癪に触る綾香は易々と見過ごせないから、ここで白黒と決着をつけるつもりだ。
487名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 03:42:05 ID:P3HzdnnL0
るーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるー回避
488月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 03:43:04 ID:CoOk2PPh0
 さらにもう一人。
 名雪の敵を仕留めるべく、秋子も春原を追走しようと地を蹴るが―――
 
「彼は無実だ。行かせてやってもいいだろう」

 その直線状に、綾香のマークが外れた敬介が無謀にも立ち塞がる。
 無表情の秋子の眉が、訝しげに垂れ下がった。

「―――どういうつもりかしら?」
「悪くない者を咎めるのは筋違いだろう? 彼は危害を加えるつもりはなかった筈だ」

 そんな彼らの問答を尻目に、春原は民家の一角に飛び込むようにして姿を隠す。
 綾香が舌打ちしながら地を蹴る音は、既に彼の耳には入らなかった。
489名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 03:44:18 ID:P3HzdnnL0
るーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるー回避
490月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 03:44:27 ID:CoOk2PPh0
 光が灯った一軒の民家から持てる力を振り絞りながら走り込み、徐々に距離を離していく。
 彼は痛みに悲鳴を上げる全身を完全に無視して、無我夢中で平瀬村を駆け抜けた。
 今更ながらに、身体が恐怖で震え上がってくる。
 秋子の色の灯さない無常な眼光を思い出すだけで、彼の足踏みは今にも止まりそうだった。
 信じていた者からの冷酷な仕打ち。
 そういえばと思う。
 ―――るーこも同じ気持ちだったのだろうか。
 彼女の交わした最後の視線は、正しく今の春原と同じである。
 だが、鏡を見てしまえば、るーこの視線の意味に容易く気付くことだだろう。
 ―――彼女の瞳は傷付いていた。信頼していた者からの仕打ちに。 
 ―――そして、彼女の瞳は鋭かった。信頼していた者へと向ける怒りの視線が。
 さらにこの状況。
 るーこを守ると誓ったはずではなかったのか。
 そう心で決めておいて、肝心の彼女をあの場へ放置するという体たらく。
 これだけではない。馬鹿みたいに硬直していた自分を叱責してくれたのは、他でもない渚だ。
 春原は無意識に思っていたのだろうか。
 渚は保護されるべきの脆弱な存在で、自分が守らなければ生きていけないという強迫観念にも似た思いを抱いていたのだろう。
 むしろ、自身が人を救うべく立場ということを支えにして、彼は自我と矜持を保っていたのだ。 
 そんな彼が、渚達を救済する役目を負っていると考えていた彼が、あろうことか保護対象者に守られる始末。
 且つ、自分を危機から救った二人へ、何の気配りも浮ばずに無様に背を向けた行為。 
 もう、何を支えにしていいのか分からなかった。
491月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 03:46:05 ID:CoOk2PPh0
 彼は走った。直視できない光景から目を逸らして。
 どのぐらいの時間を走ったのか。数分か、数十分か。
 秒刻みの間隔ですら、今の春原には判別できなかった。
 半場錯乱する思考を持って、それでも駆けていた彼は地面に足を取られて無様に転げる。
 地に衝突したときに鼻を打ったのか、じんじんとした熱が鼻先を中心に広がっていく。
 春原はうつ伏せに倒れ付すも、起き上がることはしなかった。
 土に爪を立て、一筋落涙させる。

「―――うぅ、うぐっ……。ちくしょう、ちくしょう……っ」

 決壊したように、彼の両の眼から幾重の涙が流れ落ちる。
 自身の不甲斐無さに。余りの惨めな性根に、彼は身体を震わせた。痛みか悔しさか、恐らく両方だろう。
 
 あの場に舞い戻ろうという蛮勇は既に一時も考えなかった。否、考えないようにしていた。
 信頼していた少女が、躊躇なく人を殺す姿を思い浮かべて。
 否定した少女に、好き勝手嬲られた姿を思い浮かべて。 
 仲間と思っていた女性から、殺意の視線を寄せられた姿を思い浮かべて。
 それが怖くて恐ろしくて、身体が鉛のように吸い付けられた。
 思い起こせば、自身はこの島で何かを成し遂げることは愚か、無様な失態ばかりを踏んでいた。
 姿見ぬ襲撃者には浩之とるーこの機転が功を成して逃げ延びて、此度は第三者の介入で命を拾ってはまた逃げ延びて。
 そして、彼はようやく自覚した。
492月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 03:46:55 ID:CoOk2PPh0
「ヘタレ、ヘタレか……。岡崎や杏の言う通り、か……」

 平和であった日常で、常日頃親友達から言われたからかい文句が、今の現状と一致して皮肉気に哂う。
 島に着てからは逃げてばかりだった。 
 綾香に正論を告げていた手前、逃げているのは自分だけだった。
 仲間や知人、今も戦っているはずの彼らを放って逃げ遂せる。
 結果的に春原を救った渚までも放ってきたのだから、朋也に合わせる顔もなかった。
 見苦しい後悔に苛まれ、今の自分の醜い姿を他人に目撃されることだけは耐え切れないから、彼には身を縮こませるしか手段はなく。
 
 ―――これから、何をすればいいのだろうか。
 消えた目的に、決まらぬ目的を抱いて。
 春原は地面に顔を埋めて咽び泣いた。
493名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 03:46:59 ID:HvUDsUYn0
回避
494名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 03:47:57 ID:P3HzdnnL0
るーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるー
るー回避
495月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 03:48:51 ID:CoOk2PPh0
 ****

 
 春原が去ったことで、彼らの緊張感が限界までに膨れ上がった。
 綾香はあからさまに舌打ちをし、苛ただし気に現れた秋子に鋭い視線を寄せる。

「ったく。次から次へと何なのよ……。邪魔な介入はホント迷惑ね?」
「君の方が唐突に表れた気がしないでもないけどね」
「まったくだ。余計に干渉したのはテメェだろうが」
「あら? こんな泥沼にしたのは仲間割れしたコイツラと、そこのオバサンを引き連れてきたアンタでしょうが」
「誰がオバサンやねん。ホンマ生意気なガキやな……」

 彼らは再び対峙して、各々の獲物を構えだす。
 先程とは立ち位置が変わっているものの、数人で相対している事態はさほど変わりはない。
 だが、脅威が一つ増えたことで、余計な気力を削がれることだけは確かだ。
 現れた女性―――秋子は互いの罵り合いへと口を挟む。

「くだらない問答は結構です。聞きたいことは一つ、あなた方はゲームに肯定しましたか?」
「全員似たようなものでしょ? まぁ特に極悪なのがね、この橘敬介って男よ。善良そうな顔して不意打ちをする見掛けによらない奴なんだから」
「また君はそんなことを……」

 綾香の茶化すような言動に、実際謂れのない事実を押し付けられた敬介は非常に不愉快そうに頬を引き攣らす。
 情報の出所たる秋生は、本当にそれが事実なのかは判断付けられなかったために沈黙する。
 理緒に対する敬介の態度を見て、彼の評価を変えざるを得なかったのだ。
 もしかしたら天野美汐(005)の言葉は悪質な戯言であり、なんの害もない敬介が疑われているかもしれない。
 姿の見えない人物に第一印象を植え付けることは容易であり、それがパソコンを伝って島中に広がってしまった以上、敬介は今後とも苦難にまみえることだろう。 
 本当にそれが嘘であるならば、余りにも報われないのではないか。
 秋生が頭を悩ませる傍ら、秋子は胡散臭そうに敬介を眺め見る。
496名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 03:49:04 ID:P3HzdnnL0
るーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるー
るーるー回避
497月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 03:50:24 ID:CoOk2PPh0
「……つまり、始めから隙を窺って猫を被っていたと?」
「そうそう。こんな非道な奴に容赦する余地も価値もないってことよ」
「―――もう君は黙ってくれ!!」
「ええやんか敬介。うちと一緒に観鈴守るんやろ? んなことどうだってええわ」

 ゲームの円滑化を推奨しているのか、綾香はニヤニヤと底意地の悪い笑みを浮かべて全員を煽る。
 綾香からしてみれば、ここに連なる連中は皆覚悟を決めた者であるから、気に喰わなくとも生き方に容認はできた。
 面白いと、今は復讐する気持ちを隅に追い遣り、戦う者としての気勢を猛らせる。
 左右対称に警戒を寄せる各々であったが、不意に秋子が微笑を浮かべた。

「―――全員、不了承です」

 秋子の腕が持ち上がった瞬間には、既に銃弾は発射されていた。
 ―――それが開戦の合図。
 銃弾は真っ直ぐに敬介へと迫り、脇を掠らせる。
 脇腹から漏れ出す血液が衣類を湿らせていることを自覚しながらも、敬介は秋子へ向かって疾走した。
 敬介にとっての現時点での脅威は、銃を持たない綾香でも一応仲間と認められている晴子でもない。
 見境なく襲い掛かろうとする秋子に他ならなかった。
 まずは彼女を黙らせるべく飛び掛ろうとするが、背中に衝撃が走ってつんのめる様にして地面を転がってしまう。

「ほらっ。背中がお留守よ!!」

 綾香の飛び蹴りが敬介を吹っ飛ばし、彼女は地面に着地して直ぐに横っ飛びに飛んだ。
 瞬間、地へと抉るようにして銃弾が突き刺さった。
 秋子の銃弾だ。彼女は綾香を散らせ、追撃の手を緩めずに絶好の的たる敬介に銃口を向ける。
 だが、秋子は直ぐに手を引っ込めて、横方へ腰を捻らすように翻った。やはり通過する銃弾。 
498名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 03:50:55 ID:IaCm64rF0
あのこ…わかっているのかしら? …何とかできるか…
499名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 03:51:27 ID:P3HzdnnL0
るーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるー
るーるー回避
500名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 03:52:14 ID:P3HzdnnL0
るーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるー
るーるーるー回避
501月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 03:52:41 ID:CoOk2PPh0
「ちっ。暗いとよう見えんな……。とりあえず、敬介は一応うちのツレにする予定やから勝手に殺すなや」 

 恩着せがましい視線を敬介へと向ける晴子だが、秋子が問答など必要ないとばかりに拳銃を向ける。
 晴子は円状に走り回って秋子の銃撃を回避しながら、自身の拳銃で応戦し始めた。

 そして、敬介と距離を取らされた綾香の下へ、薙刀を握りこんだ秋生が疾駆する。
 小さく舌を打ちつつ、綾香は傍に落ちていた元は佳乃の鉈を手に取って、秋生の振るう薙刀と鉈とを交差させた。
 キンッと金属の衝突音を響かせながら、お互いを刃先で押し合うが、筋力隆々な秋生が競り勝つのは至極当然である。
 だから、綾香は急激に力を抜いて鉈を引き、秋生のバランスが崩れた瞬間を狙って延髄蹴りを繰り出した。

「―――ハっ!!」
「っ」

 渾身の綾香の一撃は、秋生の前腕に阻まれる。
 秋生は予想外の威力に驚いた。
 それでも痺れだした腕に構うことなく上体を落とし、片足立ちの綾香を転倒させるべく脚部を水平に地を走らせる。

「甘いのよ!!」

 弧を描くようにして迫る秋生の払い蹴りを、彼女は片足一本で宙へと飛ぶことで回避し、そこから浮いた状態のままで柔軟な腰を捻らせて回し蹴りへと継続する。
 腰を屈めていた秋生は一時薙刀を放り投げ、その姿勢から後ろ受身を敢行して彼女の脚撃を空に切らせた。
 さらに息を付く暇さえ与えないとばかりに、顔を上げた秋生の視界には回転しながら飛来する鉈が眼前に迫っている。
 首を逸らし、辛うじて避けるも頬を浅く切る。
 鉈を投擲した綾香は、立ち上がる機会を失って硬直する秋生へと一瞬で詰め寄った。

「―――シッ!」
「―――ぐぅ……っ」
502月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 03:55:06 ID:CoOk2PPh0
 常人では悶絶しそうな掌拳が、正確に秋生の鳩尾へと突き刺さっていた。
 しかし、全体重を乗せた一撃の割には突き通すような感触がない。いや、むしろ放った自身の肩口が痺れだす。
 異様に固めた秋生の腹筋に阻まれたのだ。
 何という強度と慄く綾香を考慮せず、取り残される形となる彼女の腕を引き寄せると同時に、身体を翻して彼女を背負う。
 秋生の背中に密着した綾香を腰で蹴り、舞い上がって生じた慣性をそのままに上体を折って彼女を投げ飛ばす。
 一本背負いの要領で、彼女を背面から地面へと衝突させるはずであった。
 だが、身体が持ち上がる寸前で綾香は余った手で秋生の背中を勢いよく押し、ピンと直立したように足を掲げる。
 そのまま秋生の引っ張る力を利用しながら地へと華麗に着地し、未だ掴まれた腕を切り払って秋生から距離を取った。

「―――なかなかやる……っ」
「ったく。とんでもねェ女だな」

 秋生は綾香の予想外の身体能力に苦笑を滲ませつつ、放った薙刀を回収する。
 実のところ、腹筋を固めたせいで抉られた脇腹が再び痛み出したのだ。
 今も尚、痛みが継続していることもあって状態は芳しくない。
 長期の戦闘だと無尽蔵とも言える体力は続いても、痛みに苦しむ身体は許さぬだろう。
 決めるならば短期決戦。
 薙刀と残り一発の拳銃、そして屈強な自身の身体を如何様にして上手く扱うか。
503名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 03:55:13 ID:P3HzdnnL0
るーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるー
るーるーるーるー回避
504月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 03:56:18 ID:CoOk2PPh0
 内心事を欠伸にも出さない秋生と違って、綾香は幾分か楽しそうである。
 異種格闘技大会を制した実力は伊達ではなく、実力で横に並ぶのは数人の身内だけ。
 それこそ男女の垣根なく、彼女を楽しませるほどの強者は数える程しかいないのだ。
 己を狂気に走らせたゲーム内で、自分と同等に渡り合える猛者と出会えたことは思いがけない幸運であった。
 近接戦闘を存分に味わえる相手だ。
 春原や渚のように口だけの存在ではなく、力量までもが備わっているのだから文句もない。
 死との隣り合わせな殺伐とした喧嘩を、それこそ密度が凝縮した駆け引きを持って、彼と一緒に長期に渡って楽しみたいと思ってはいたが。
 ここは彼女達二人だけのリングではなく、混戦極まる危険地帯ということを失念してはいけない。
 現に秋子の猛攻を振り切った晴子が、綾香と秋生を一応打尽にするべく銃口を向けているのだから。

「―――纏めて死ねや!!」

 綾香は名残惜しげに秋生から大きく距離を取る。 
 それに習う様に、彼も綾香とは反対方向へと飛び退った。
 連射された銃弾は、彼等に致命傷を与えることはせずに、空気を裂くに留まる。
 中々思い通りに行かぬ結果に、晴子は気分を害したように歯を噛んだ。
 皆の銃撃は中々命中しない。
 それは暗闇が視界が閉ざしているということもあるが、絶えず動き回る標的を素人が追いかけるのは大変難しいことなのだ。
 何より、ここにいる連中は一際危機感と直感に優れており、心理的にも冷静で余裕があった。
 ゲームの内容に右往左往する段階は既に過ぎ去っており、彼等の揺ぎ無い心構えと覚悟に遅れはない。
 五人は例外なく一日目で修羅場を潜ってきた。
 ある者は殺し、ある者は襲われ。それでも命を勝ち取り、しぶとく生き残ってきた面々が、一発の凶弾如きで倒れるような無様な姿は晒せない。
 ゲームの趣旨を誰よりも理解している彼等だからこそ、銃撃には一際敏感であっても可笑しくはないのだ。
505名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 03:57:38 ID:P3HzdnnL0
るーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるーるー
るーるーるーるーるー回避
506名無しさんだよもん:2006/11/27(月) 03:58:06 ID:HvUDsUYn0
回避
容量限界きたらまとめサイトのしたらば非難スレに続きで良いかも
507月下の錯綜模様 〜混戦〜:2006/11/27(月) 03:59:11 ID:CoOk2PPh0
 綾香は晴子の銃撃を不規則にステップを踏んで掻い潜り、即座に拳が届く射程距離に侵入する。
 地面を勢いよく蹴り、発生した推進力に乗って後方に留めた右腕を一直線に突き出した。
 
「ちぃ!!」

 晴子がその唸る一閃を首を逸らしながら躱して間もなく、軸足を回して身体を反転させた綾香の肘鉄が迫る。
 回転力を加えて鋭い角度から抉るようにして襲い掛かってくる猛攻を、晴子は膝を崩してやり過ごす。
 懐にまんまと沈んだ晴子は、綾香の顎下へと銃口を向けた。 
 だが、綾香は脅威の反射神経で腰を落とし、背面を逸らしながら勢いよく後方に飛んだ。
 視界が逆さまになり、夜空へ一直線に届かせる銃撃音を耳にしながら、浮遊する身体を制御しつつ両の手で勢いよく地面を跳ね返す。
 左肩が痛んだが構やしない。クルリと後方回転をして、無音で地へと着地した。
 晴子はすぐさま次弾を放出しようと構えるが、そんな彼女達へと銃弾の雨が降り注ぐ。

「―――っ!!」
「くぅ」
「―――うぉ」
「っと」

 それは彼女達に留まらず、様子を窺っていた敬介や秋生にまで照射されていた。
 まるで照準などは二の次と言うように、秋子は連弾といえる発射速度で無差別に銃弾を吐き出していく。
 何発か誰かしらに命中したのか、それぞれ余裕のない表情を浮かべている。
 皆は一番の要注意人物をまったく見境のない秋子と定め、固まっていることは得策ではないとばかりに各々その場から散った。
 特に示し合わせたわけでもなかったが、流石に秋子一人に残らず駆逐されるのは彼等の誇りと尊厳が拒否をする。
 晴子は引き続き秋子と銃撃戦を繰り広げ始めた。
 走り回っては狙撃し、絶えず跳ねて転がりながらお互いの銃撃を躱していく。
508名無しさんだよもん
                                              
                                              
                                              
                                              
                                              
                                              
                                              
                                              
次スレ
                                              
                                              
                                              
葉鍵ロワイアル3作品投稿スレ7
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1164567149/