「―――始めるよ、セリオ」
言葉と同時に、綾香が地を蹴る。
フォワードは綾香。バックアップがセリオ。
NBSによって可能となった、齟齬なき多重攻撃。
「……ふぅん」
対する初音は、綾香の突進にも笑みを崩さない。
大気を割り裂いて迫る綾香の拳を、右腕一本で受け止める。
か細かったその右腕は、いまやどす黒く変色し、人間のそれとは明らかに違った
組成の筋肉によって膨れ上がっていた。
一方、拳をガードされた綾香にも驚きはない。
間髪いれず、右後方に展開したセリオの火器が射撃を開始する。
初撃が止められることは元より織り込み済みとでもいう様子であった。
同時に綾香はバックステップ。セリオの射角を確保する。
迫る火線に初音が動く。
下がった綾香に対して長く伸びた右手の爪を裏拳気味に一閃。
勢いを利用して身を翻し、セリオの射線から退いた。
足元への着弾を気にも留めていない。
「……銃、ね。わたし、撃たれるのには慣れてるんだ」
飛び退きながら、どこか楽しげに口を開く初音。
その眼前には、既に綾香が距離を詰めている。
顔面に迫る、特殊合金で固められた足先を軽くスウェーしてかわす初音。
波打つ髪が、巻き起こされた突風になびく。
「毎日毎日、通学路で急に撃たれたりしてたからね。
……梓お姉ちゃんがみんな殺しちゃってたけど。
わたしは許してあげて、って言ったんだよ?」
やりすごした右足の後ろから、更に加速を増した左足が飛び出してくる。
機械仕掛けによってサポートされた、神速の後ろ回し蹴り。
身を屈めて回避した初音が、そのまま綾香の胴を取りに行く。
伸ばされた腕は、しかし瞬時に引き戻された。
一瞬遅く、綾香と初音の間に存在する僅かな空間をセリオの銃弾が通過する。
引いた腕ごと飛び退く初音。
その頭上から落とされようとしていた綾香の踵が、空しく宙を切り裂いた。
「おかげですっかり勘が鋭くなっちゃった。
……誰だか知らないけど、感謝しなくちゃね?」
にこりと笑うや、初音の身体が横っ飛びに跳ねる。
左右に小刻みなステップを踏みながら狙うのは、正面の綾香ではなく、
左側面に展開しているセリオ。
不規則な初音の動きに、セリオは射線を絞りきれない。
「―――さっきから邪魔だよ、人形のお姉ちゃん」
弾幕を縫うように初音が迫る。
セリオはそのままで充分な凶器となりうる鋼鉄の四肢を構え、格闘戦に移行する。
肉薄しつつある初音に対し、自ら踏み込んで距離を詰めるセリオ。
大きく右の爪を振りかぶった初音の小さな身体、その背に上から叩き下ろすように
固めた拳を落とす。初音の爪は身を捩ったセリオの脇腹を軽く裂くのみ。
無防備な背に文字通りの鉄槌が下るかと見えたその瞬間、初音の黒く太い右腕が
セリオの胸をしたたかに打ちつけていた。
爪での一撃をはずしたと見るや、踏み込んだ左足を軸足として、初音が強引に
突進の軌道を変えたのである。
バックブロー気味に叩き込まれた鬼の腕の一撃に、セリオの動きが止まる。
しかし強引な挙動で体勢を崩した初音もまた、セリオに対するニ撃目が遅れた。
その一瞬で、綾香が距離を詰めている。
仰向け気味に流れた初音の視界半分を覆うように、綾香の左踵が打ち下ろされた。
直撃。
鼻面に踵を落とされた初音が、後頭部から地面に叩きつけられる。
間を置かずに落とされるストンピングを、真横に転がってかわす初音。
そのまま勢いを殺さずに腕の力だけで跳ね起きる。
「……痛いなあ、鼻血が出ちゃったよ……」
真紅の瞳を煌かせながら、初音が左手で血を拭う。
常人の頭蓋骨ならば粉砕する一撃も、鬼の体にとってはさしたる痛撃ではないとでも
言いたげに、初音の表情から微笑みは消えない。
「そうかい……じゃ、死ぬまで殴ってやるまでさ……!」
言いながら、綾香は既に飛んでいる。
セリオもまた、一時の機能障害から回復して火器を展開していた。
「懲りないなあ……来栖川は死ななきゃ治らない、って千鶴お姉ちゃんが言ってたよ」
受ける初音も足を止めることはない。
アウトレンジから繰り出される綾香の右脚をダッキングして回避するや、
軸足を狙って右手の爪を繰り出す。
しかし同時に、初音の狙いを果たさせまいと横合いからの火線が襲う。
「……っ!」
先刻と同様のパターンに、初音が思わず舌打ちする。
バックステップして難を逃れようとする初音。
しかし、
「―――!?」
飛び退いた先に、セリオの脚が待っていた。
鞭のようにしなるその蹴りを、初音は人の形を保ったままの左手で受ける。
一瞬だけ動きの止まった初音の身体に、衝撃が走った。
即座に距離を詰めていた綾香の右正拳が、初音の腹部にめり込んでいた。
軽量ゆえに吹き飛ぼうとする初音の身体を、セリオの蹴り足が許さない。
右の拳が引かれるや、左の正拳が叩き込まれる。
ラッシュ。
瞬時に五、六発もの打撃が入り、ようやく初音の身体が慣性に従うことを許される。
吹き飛んだ先に撃ち込まれた追撃の銃弾は、しかし初音の身体を捉えることはない。
「……く……痛ぅ……」
大きく跳んだその先で、腹を庇うように立つ初音。
肩で息をするその表情には、しかしまだ笑みが残っていた。
その真紅の瞳を見据えて、綾香が口を開く。
「身体能力だけで勝てると思った……?
あんま人間様をナメんじゃないよ、鬼っ子」
その嘲るような声に、初音が答える。
「ふふ……綾香お姉ちゃんこそ、全力でこの程度……?
やっぱり可哀想だね、人間は」
「言うわりにはキツそうだけど……? 脳味噌の詰まってない石頭と、
薄ッ気味悪い化け物の腕以外は案外脆そうじゃない、牝鬼」
絡み合う視線は、互いに向けられた殺意そのものだった。
うぐぅ?
むぎゅ
「参ったなあ……」
困ったように呟く初音。
「綾香お姉ちゃんを殺すくらいなら、『これ』で充分だと思ったんだけど」
「……『これ』で?」
怪訝そうに聞き返す綾香の目の前で、初音の表情から微笑が消えた。
柔和な弧を描いていた真紅の瞳が、温度を失っていく。
「……綾香お姉ちゃんが悪いんだよ。わたし、ちゃんと苦しまないように
殺してあげようと思ってたんだから」
「何を、言ってる……?」
「もう、楽には死ねないってことだよ。……さよなら、お姉ちゃん」
その言葉が、終わるか終わらないかの一瞬。
綾香の背に、言い知れぬ悪寒が走った。
「……避けろ、セリオ……ッ!」
叫んで、跳ぶ綾香。
初音の姿は、既にセリオの眼前にあった。
「―――遅いよ」
右手、一閃。
身を捻ったセリオの、右肩に載ったマルチの頭部が、真っ二つに割り裂かれていた。
エラー信号の嵐に膝を突くセリオ。
その首筋に、旋風の如く迫る、もう一対の爪。
高音が響き渡った。
「……へえ」
驚いたような声は初音。
「その鎧……結構、硬いんだね」
「……く……ッ!」
文字通りの間一髪で初音の追撃を受け止めていたのは、十字に組まれた綾香の腕。
セリオの首を落とさんとする斬撃を止めた特殊合金製のKPS−U1改にはしかし、
大きな亀裂が走っていた。
「……鬼が……その、左手……!」
綾香の鼻先にある初音の左腕は、夜の闇に溶け込むように黒ずんでいる。
指先からは、瞳と同じ真紅の爪が長く伸びていた。
白くたおやかだったその面影は、最早どこにも残っていない。
「あはは、やだなあ……鬼の力が片手でしか使えないなんて、誰が言ったの?」
初音の瞳が、真紅を通り越して赤黒く染まり始める。
吐息が荒い。
「ただ……両手を使うと、ちょっと自分が……押さえられなくなっちゃうから、
普段は使わない、だけ、だよ……!」
言いながら、力を込める初音。
綾香の腕に装着されたKPS−U1改の亀裂が、大きくなる。
「くっ……だいぶ、化け物らしくなってきたじゃない……!」
「言わないでよ……恥ずかしい、なあ……!」
せめぎ合う、銀と黒の腕。
荒い呼吸の中、初音が白く小さな牙をむく。
「ねえ、その鎧……硬いけど、……これなら、どうかな……!?」
「……ッ!」
初音の右腕が綾香に向かって突き込まれるのと、綾香の背後で
機能を回復したセリオの右足が初音を襲ったのは、ほぼ同時。
「……くぁ……っ!」
硬質な音が、響く。
二本一対の斬撃に耐えかねたKPS−U1改の右腕パーツが、砕け散っていた。
セリオの蹴りがあと一瞬でも遅ければ、その腕ごと切り落とされていたかもしれない。
初音の爪は、綾香の皮一枚を浅く切り裂くに留まっていた。
飛び退いた初音が、地を蹴って再び迫る。
その速度は、
(さっきまでとは、桁が違う……!)
一瞬で綾香に肉薄した初音の右の爪が、大きく横に薙がれる。
その切っ先をかろうじて避けた綾香の逆袈裟を狙うように、左の爪が疾る。
全力でスウェー。前髪が数本、鬼の爪に切り裂かれて風に舞う。
「あっはははは! これが本当の鬼の力だよ、綾香お姉ちゃん!」
防戦に回る綾香に、初音が執拗に爪を突き込んでいく。
流れるように襲い来る初音の爪を間一髪で受け流しながら、綾香は状況を分析する。
攻勢に回れない。KPS−U1改の防護を失った素の右腕を下手に使えず、速度を増した
斬撃への対処に手を焼いているということもあるが、何よりもサポートに回るはずの
セリオの動きが悪い。
アッパー気味にせり上がってくる初音の左手を身を捩って回避しながら、綾香は歯噛みする。
今の瞬間に一斉射を叩き込めていれば距離を取れたものが、彼我の体勢の変更に対処しつつ
最適な狙撃ポイントを算出するまでに時間がかかりすぎている。
結果、流れた初音の左側面に一撃を加えることも叶わず、綾香は途切れることなく襲い来る
右の爪への回避を優先せざるを得ない。
マルチの演算機能の損傷によるダメージは、予想外に深刻らしかった。
鋭さを増す斬撃の主は、システムの回復にかけられるだけの時間を与えてくれそうにはない。
退がり続ける綾香。
数瞬ずれたタイミングで銃弾が発射されるが、初音は既に余裕を持って着弾点から跳躍している。
「……バカ、そっちじゃない……!」
綾香が叫んだ時には遅い。
乱れた射線を悠々と潜り抜け、一瞬にしてセリオの眼前に初音が迫っていた。
一撃。
「―――!?」
回避は不可能と判断。最後の一瞬、セリオは自ら半歩を踏み込む。
打撃点を逸らすことで、爪による一閃をかろうじて避けるセリオ。
しかし胴を薙ぐように振り回された鬼の腕の一撃は、その身を吹き飛ばしていた。
綾香はブラックアウトするNBSのシンクロを切断。
バックステップで初音との距離を取る。
「……どうしたの綾香お姉ちゃん、もしかして機械の助けがあれば勝てると思った?
あんまりエルクゥを甘く見ないでほしいな、人間のくせに」
「はん……行儀の悪い爪が増えたくらいで、鬼畜生が偉そうに……!」
先刻までとは、まるで状況が逆転していた。
腕から一筋の血を流しながら、大きく肩で息をする綾香。
対する初音は、呼吸こそ荒いものの無傷である。鼻からの出血は既に止まっていた。
回避
「……そういえば綾香お姉ちゃん、何か見せてくれるんじゃなかったの?
なんだか知らないけど、なるべく早くしてくれないかな。
せっかく楽しみにしてたのに、このままじゃすぐ殺しちゃうよ」
黒い右手を目の前に掲げながら、微笑みもなく言い放つ初音。
「……参った、ねえ」
呟いたのは、綾香だった。
どこか自嘲的な呟きに、初音は眉を寄せる。
「お前如き殺すのに、あの力は必要ないかと思ったけど……やっぱりダメか。
腐っても鬼ってのが、よくわかったよ」
「……へぇ」
荒い呼吸の中、綾香の表情が変わった。
口の端を上げて、哂ってみせたのである。
「お望み通り、見せてやる……。
余裕かましたことを後悔して死んどけ、鬼っ子―――」
言って、いまやKPS−U1改に包まれていない、その素肌を晒す右腕を
だらりと下げる綾香。
綾香の白い腕、その傷口から手先を伝って一筋の血が零れ落ちる。
それが合図だった。
両の手には真紅の爪。絶対の死を提げて、初音が疾る。
「すぐ殺しちゃうって……言ったよね!」
交差は一瞬。
死が駆け抜け、鮮血が、飛び散った。
「――――――」
噴き出す血潮が、少女の身体を染め上げていた。
凍りついたように張り詰めた時間が、ゆっくりと動き出す。
「……なん、で……?」
柏木初音の、鬼の腕。
その黒い右腕が、肩口から失われていた。
迸る血潮に、初音は戸惑ったような目を向ける。
痛みは、遅れてやってきた。
「……ぐ、……ぁぁぁぁぁぁ―――ッ!」
想像を絶する激痛に、膝から崩れ落ちる初音。
傷口を押さえる左手の隙間から零れる鮮血は、勢いを衰えさせる様子もない。
そんな初音を静かに見下ろしていたのは、対峙していた少女、綾香だった。
「……痛いか、鬼」
見上げる初音。
激痛の中でその真紅の瞳が捉えたのは、俄かには信じ難い光景だった。
「……が、っふ……ぁ、その、腕……、どう、して……」
初音の目に映った、来栖川綾香の姿。
その右腕は、黒く染まっていた。硬質化した、黒い皮膚組織。
奇怪に盛り上がった、異形の筋肉。
そして、禍々しくも美しく伸びた、真紅の爪。
それは正しく、
「……エルクゥの、お前ら鬼の腕、さ」
初音は己の目を、耳を疑った。
眼前に立つ少女が何を言っているのか、理解できずにいた。
「これが、私の得た力―――ラーニング。確かにいただいたよ、その力」
エルクゥの、鬼の力を模倣したとでも、いうのか。
あり得ない。考えられない。
しかし現にこうして自らの腕は落ち、溢れる血潮は止まらない。
そして来栖川綾香の手指に伸びる爪からは、雫となって血が零れている。
鬼の腕を斬り落とす、速さと膂力。
絶望が、初音の精神を覆い尽くそうとしていた。
「じゃあな。……そろそろ地獄に帰れよ、鬼」
言葉と共に、綾香の爪が翳される。
正に振り下ろされんとする、その刹那。
「……くぅぁ……っ……!?」
腕の激痛を凌駕するような、鋭い痛みが初音の頭蓋を揺さぶった。
脳髄を掻き乱し、頭蓋骨の内側に反響してまたあらゆる神経を徒に刺激する、
それは圧倒的なノイズ。
見れば、綾香もまた端正な顔を歪めて自らの頭を押さえている。
ノイズに満たされた空間に、ゆらりと蠢く影があった。
その姿を見た初音が、苦しげな吐息の中で呟く。
「……ゆう、すけ……おにい、ちゃん……?」
いつからそこにいたのか。
狂った犬の如く四つん這いで歩き回っていた彼を、この場の誰一人として
気に留めていなかった少年、長瀬祐介が、そこに立っていた。
ゆらりゆらりと揺れるその身体。焦点の合わない瞳。
一見して正気を疑われる風情のその少年は、しかし何事かを呟いている。
次第に大きくなるその声は、やがて絶叫へと変わる。
「は……つね……初、音……、初音ちゃん……。
初音ちゃん、を……初音ちゃんを、初音ちゃんを苛めるなぁぁっ―――!!」
目を血走らせ、叫ぶ祐介。
その声に同調するように、ノイズがその出力を増す。
「……がっ……ぁぁ……!」
「くぅ……お、おにい……ちゃん……やめ……」
隙間なく大気を埋め尽くした雑音を全身で強制的に聴かされているような、
壮絶な嘔吐感。
空間を塗り潰し、その場の全員を悶死させるかと思わせたそれは、
だが唐突に消え去った。
「……はぁ……っ、は……っ、……?」
祐介が、絶叫を止めていた。
そのどろりと充血した瞳は、目の前に立つ影をねめつけていた。
「……姉、さん……?」
今度の呟きは、綾香の口から漏れていた。
長瀬祐介の前に立つ、闇に溶けるようなその影は、離れた場所に隠れていたはずの
来栖川芹香だった。無言で対峙する二人。
密やかに、しかし昏く激しい人外の攻防が始まろうとしていた。
回避
そんな二人の様子をどう見たか、初音はゆらりと立ち上がると口を開く。
真紅の瞳は、眼前に立つ綾香に真っ直ぐ向けられていた。
「……助っ人は助っ人同士、ってことみたい、だね……」
綾香もまた、初音の瞳を見据えて答える。
「……お前を片付けて、ゆっくり応援に回るさ」
その言葉に、にやりと口の端を歪めてみせる初音。
押さえた右腕の切断面からは、いまだに鮮血が流れ出している。
「……この傷じゃ、もうそんなに、もたない、かな。
その……力のこと、千鶴お姉ちゃんたちに、伝えたかった、けど」
「そりゃ残念だったな。私が伝えてやるから安心して地獄に帰れ」
す、と。
綾香が、真紅の爪を眼前に構える。
「……けど、ね」
「……」
「せめて、刺し違えてでも……お姉ちゃんは、止めてみせるよ」
「……はん」
傷口を押さえていた左手をゆっくりと下ろす初音。
真紅の爪が、貫手の形に揃えられていく。
「祐介お兄ちゃんのおかげで、痛みだけは、消えたみたい、だからね……。
全開の……鬼の力、見せてあげられるよ……!」
「……そりゃ、楽しみだ……!」
うっ
同時に地を蹴る二人。
フェイントも、コンビネーションもなく。
ただ純粋に、速さと鋭さだけを己が武器と携えて、疾る。
生命活動のすべてを一撃へと昇華して、鬼が猛った。
声ならぬ声を上げて、二つの影が交錯する。
瞬間。
殺った、と初音は感じた。
紛れもなく、生涯最速、最高の一撃。
爪が、来栖川綾香の胸甲へと届くのを、コマ送りのように認識していた。
めり込み、引き裂き、貫く。
―――パージ。
それが、柏木初音がその生涯で最後に聞いた声だった。
着地。
来栖川綾香は、己が真紅の爪に付いた血を払うように、その黒い右腕を振るう。
背後で、どさりと音がした。少し遅れて、とす、と軽い音。
柏木初音の胴と、首が、それぞれ地面に落ちる音だった。
「……ドロー狙いの負け犬根性で、この私に勝てるかよ」
振り向きもせず、吐き棄てるように言いながら、身を屈めて何かを拾い集める綾香。
それは、泥に塗れながらも銀色に煌く、KPS−U1改のパーツだった。
交錯の瞬間、爆発的に除装されたそれを盾に、綾香は初音の首を刎ねていた。
「紙一重、か……」
胸元、心臓の直上を指先で撫でる綾香。
サポートギアに覆われているそこには、一筋の裂け目があった。
大きく息をつく綾香。
振り返れば、もう一つの戦いにも決着がつこうとしていた。
【23:00過ぎ】
【I−6】
【37 来栖川綾香】
【持ち物:パワードスーツKPS−U1改、各種重火器、こんなこともあろうかとバッグ】
【状態:右腕パワードスーツ全損、ラーニング(エルクゥ)】
【60 セリオ】【持ち物:なし】【状態:ブラックアウト】
【9 イルファ】【状態:スリープ】
【98 マルチ】【状態:大破(死亡)】
【21 柏木初音】
【状態:死亡】
【38 来栖川芹香】
【持ち物:水晶玉、都合のいい支給品、うぐぅ、狐(首だけ)】
【状態:バトル中】
【持ち霊:うぐぅ、あうー、珊瑚&瑠璃、まーりゃん、みゅー、智代、澪、幸村、弥生、有紀寧】
【73 長瀬祐介】
【持ち物:コルト・パイソン(6/6) 残弾数(19/25)・支給品一式】
【状態:電波酔い、バトル中】
→396 ルートD−2
>>284-285 >>290 >>295 >>297 ありがとう〜。
水を持って戻ってきた三人を迎えたのは、刀を片手に凛と立ち、こちらをじっと見つめる川澄舞の姿だった。
お前たちか、と呟き力を抜くその姿に、一早く異変を察知したのは耕一だった。
「おい、川澄。俺達が留守の間に何かあったな」
「ああ。ゲームに乗った奴からの攻撃を受けた。チエは今は倒れているが、これといった怪我もないし大丈夫だと思う」
答える声からは疲労の色が隠せない。襲撃から今の今までずっと神経を張り詰めさせていたことがよくわかる。
「ごめん、川澄さん、大事なときに外してて」
タイミングの悪さを嘆く住井に、問題ないと舞は答える。
「水を汲んでくるのも大事な仕事。そっちが襲われる可能性もあった。結局運の問題。気にしなくていい」
「そう言ってもらえると助かるけど、なあ」
「でも流石に少し疲れた」
すとんと椅子に腰を落とす。
「正直甘く見ていた。相手は完全にこっちを殺すつもりで襲ってきた。見通しの悪い夜に例えば銃を持った奴から襲撃されるリスクを考えると、朝になるまではここにいた方が安全」
「だが川澄、こうしてじっとしている間にも俺達の探している人が襲われていたら」
「だけど」
焦る耕一をあくまで諭すように舞は続ける。
「皆がどこにいるかわからない以上、無闇に歩き回っても仕方がないと思う」
迷路に閉じ込められた二人の話を住井は思い出していた。
二人とも歩き回るのと、一人はそこでじっとしているのどちらが出会える確率は高いのかという命題だ。確か二人の初期位置と迷路の大きさによって答えが決まったのではなかったかと思うが、だからといって今回はどうすればいいのかはわからない。
誰もが次の行動に移れないまま、時間だけが過ぎていった。
そして、新たに扉の前に現れた気配に最初に気付いたのは耕一だった。
「誰かいるな……」
刀を構えて立ち上がる舞を、お前は休んでいろ、と制し、気配を殺しドアの近くへ移動する。
扉の向こうの気配は動かない。こちらの存在が気取られているのだろうかと、緊張の汗が一筋走る。
もしもこの訪問者がゲームに乗った人間だったら、自分は皆を守るために戦うだろう。
それまではいい。だがその先に、この相手を殺す覚悟が自分にあるのかと問われたら自信はない。
その躊躇い一つで、もしかすると守れたはずの命が失われるのではないかと。
そんなザマで、本当に守りたい家族を守りきれるのかと。
覚悟を決める時間が欲しかった。だから何も言わずに気配が去ってくれればいいと耕一は願う。
結局のところその願いは果たされず、しかし当面の危機は去ったことがわかる。
「誰か、いるのか」
ドア越しに聞こえたその声は、まさに耕一が待ち望んだ家族の声だった。
「梓か!」
警戒の一つもせず、扉を開け放つ。
一呼吸だけの間を置いて、泣き顔の梓が耕一の胸に飛び込んできた。
梓が落ち着いてから耕一に語ったのは二つのこと。
楓が死んだこと。そして、千鶴の凶行だ。
「……川澄。お前たちを襲った奴の特徴、聞いてなかったな」
嫌な話だが、ゲームに乗った人間は他にもいるだろう。別人であればいい。
だが、現実は時に、嫌になるような偶然を見せつける。
「黒髪で長身の綺麗な女だった。あと、馬鹿力」
「そう、か」
「耕一の、探してる人?」
志保の恐る恐るの問いかけに、耕一は力なく頷く。
「多分、そうだ。千鶴さんは本当はそんな人なんじゃない。ただ、家族を守りたいがために、他のことが目に入らなくなってるだけなんだ。そういうとこ昔から視野が狭いんだ。一人でなんでも抱え込んで」
「それで殺されそうになったこっちはいい迷惑」
舞の台詞に梓は言い返そうとしたが、一理あるだけに何を言い返せばいいのかもわからない。
「だけど、私も佐祐理が目の前で殺されそうになったら、何をするかわからないから。同じ」
ともあれこれで、今どうするべきか、耕一にははっきりとわかった。
だからここで、お別れだった。
自分の荷物を持ち、立ち上がる。皆に告げる。
「悪いが、俺と梓はもう行くよ。千鶴さんがそんなことになってるなら、俺は千鶴さんを止めなくちゃいけない」
はっ、と梓が耕一を見上げる。そんな梓を呆れたように見返し、言った。
「おいおい、当たり前だろ。千鶴さんを助けてあげられるのは、家族である俺達しかいないじゃないか」
「そうか……うん、そうだね。千鶴姉も初音も、まだきっと間に合うよね」
「ちょっと、じゃああたしも」
立ち上がろうとする志保を耕一は止める。
「悪いが、これは俺達家族の、鬼の一族の血の問題なんだ。皆が関わるような話じゃないんだよ」
「そんな……」
「ありがとうな。その気持ちだけで充分だから」
「耕一」
舞が静かに口を開く。
「もう止めない。だけど一つだけ約束して」
「何だ?」
「死ぬな」
「……ああ、皆も。生きてまた」
藤田浩之と倉田佐祐理は生きている。
藤田浩之は随分前の話だが、倉田佐祐理は最近見かけた。柳川という強い奴と一緒だったから、多分安心だ。
それだけ告げて、耕一と梓は夜闇へと飛び出した。
「梓、柳川と一緒だったら安全だってのはどういうことだ?」
「あいつ、人を助けて、人に信頼されて、主催者を倒すとか言ってたらしいんだよ。はは、信じられるかい?」
はぁ? と耕一はつい叫ぶ。それは一体誰のことだ。
「信じられないだろ。全く。どうしちまったんだか。あいつには敵わないな。だけどさ、あいつは楓を救えなかったらしいんだよ。救えなかった自分を責めてた。耕一、もしあいつに会ったら、どうするんだい?」
「そうだな……」
走りながら考える。
だが本当は考えるまでもなく決まっていた。
あいつがもし本当にそんな一面を持っていて、誰かのために立ち上がることができたなら。
楓を救えなかったことは、許せないかもしれないけれど。
「一発ぶん殴って、おしまいにしてやるよ」
あいつだって、少し何かが違っただけで、俺達の家族の一員だったはずなんだからと、
声に出さずに耕一は呟いた。
二日目が始まる。
柏木耕一
【場所:G3を出たところ】
【所持品:大きなハンマー・支給品一式】
【状態:初音の保護、千鶴を止める】
柏木梓
【場所:G3を出たところ】
【持ち物:特殊警棒、支給品一式】
【状態:初音の保護、千鶴を止める】
川澄舞
【場所:G3】
【所持品:日本刀・支給品一式】
【状態:今のところ朝が来るまで待機】
吉岡チエ
【場所:G3】
【所持品:支給品一式】
【状態:気絶】
住井護
【場所:G3】
【所持品:投げナイフ(残:2本)・支給品一式】
【状態:今のところ朝が来るまで待機】
長岡志保
【場所:G3】
【所持品:投げナイフ(残:2本)・新聞紙・支給品一式)】
【状態:今のところ朝が来るまで待機】
【B-11(支障がなければ他でも)】
【時間:二日目午前零時】
「お前、ゲームに乗っているのか?」
彰は家の前に立ったまま電動釘打ち機を構え、警戒している。
彰はゲームに乗っている者に対しては、全く容赦しないつもりだった。
ゲームに乗っている者―――それは美咲に危害を及ぼす可能性がある者に他ならない。
「いや、すまない・・・・誤解させてしまったようだな
俺は情報を集めたいだけさ」
そう言って、苦笑する岸田。
「なら、なんでさっきみたいな事を言ったんだよ」
対照的に彰は全く警戒を解いておらず、電動釘打ち機を構えたままである。
「冗談のつもりだったんだ、悪かったよ」
「・・・・悪いが信用出来ない。まずはナイフを地面に置いてもらおうか」
「あ・・・・」
言われて初めて気付いたかのように、岸田は慌てた様子でカッターナイフを地面へと捨てた。
そして岸田は両手を前に出し、何も持っていない事を多少大袈裟な動作で示した。
「これで敵意が無い事は分かってもらえただろう?その物騒な武器を降ろしてくれないかな」
それでも、彰は武器を降ろすそぶりを全く見せなかった。
「情報交換するだけならこのままでも出来るだろ?」
彰は目の前の男に胡散臭さ、そしてある一種の嫌悪感を感じていた。
それは全く根拠の無いただの直感だったが、何故か信用する気になれなかった。
(チ、このままじゃどうしようもないな・・・。)
岸田は内心毒づいていた。
あの釘打ち機をどうにかしない限り、下手は打てない。
この少年は予想以上に警戒心が強い。懐柔するのは難しいだろう。
そこで岸田は別の作戦を試してみる事にした。
「仕方ないな・・・そのままで良いよ。君はゲームには乗っていないんだな?」
「ああ。僕の敵は美咲さんを狙う奴だけだよ」
「美咲さん?誰だそれは?」
「僕にとって一番大事な人だよ。美咲さんだけは絶対に守らないと・・・」
「そうか・・・、詳しく話を聞かせてくれないか?力になれるかもしれない」
そうして、彰は美咲の外見の特徴等を岸田に伝えた。
「どうだ?何処かで美咲さんを見てないか?」
「残念ながら見てな・・・・」
そこで岸田は何かに気付いたような表情になった。
「どうしたんだ!?何か思い出したのか!?」
彰は凄い剣幕で情報を聞き出そうとしていた。
だが、岸田はそれには構わずに彰の後方を指差していた。
「その美咲さんって・・・、今そこを歩いてる子じゃないのか?」
「え!?」
彰は大慌てで後ろを振り向いた。だが、そこには誰もいなかった。
「なんだよ、一体どこにいるって――――」
喋り終わる前に、彰の体に衝撃が走った。
彰は腹部を強打され、地面に倒れた。
「あぐッ! 」
続いて手を蹴られ、釘打ち機を蹴り飛ばされた。
岸田が素早くそれを拾いに走っていった。
――――――騙された!
やはり、彰の直感は正しかった。
彰にとって幸いだったのは、岸田が強く蹴りすぎたせいで釘打ち機が家の庭の方まで飛ばされた事。
そのおかげで、何とか彰は起き上がるだけの時間は稼ぐ事が出来た。
「あああっっ!!」
彰は全身の力を振り絞りデイバックを岸田に投げつけた。
「ぐおッ!」
バックは釘打ち機を拾おうとしゃがみ込んでいた岸田に見事に命中した。岸田はバランスを崩している。
彰はその隙に逃げ出した。
「う・・・」
腹が酷く痛んだが、休んでいる余裕は無い。
「クソガキが、待てぇ!!」
釘打ち機を回収した岸田が怒りを露にしつつ後ろから追ってきていた。
岸田は彰目掛けて釘打ち機を連射した。
だが扱いに慣れいない上に走ったままでは狙った場所に飛んでいくはずが無く、釘は空を切るだけだった。
「くそ・・・・、まあいい、武器は手に入ったからな」
ほどなくして岸田は彰を追う事を諦め、彰の鞄を回収しに戻っていた。
彰の鞄には釘打ち機用の大量の五寸釘や、鋸、食料などが入っていた。
それを見た岸田は、邪な笑みを浮かた。
「ククク・・・・・これだけあれば十分だ。明日が楽しみだ!」
岸田洋一
【時間:午後8時30分】
【場所:C−04】
【所持品:鋸、トンカチ、カッターナイフ×2、電動釘打ち機8/12、五寸釘(24本)、支給品一式】
【状態:マーダー(やる気満々)】
七瀬彰
【時間:午後8時30分】
【場所:C−05】
【所持品:無し】
【状態:右腕負傷、腹部に痛み。ややマーダー(美咲の敵のみ排除)】
【B-11(支障がなければ他でも)】
【関連295・296】
「ところで超先生、祐一に言っていた13の至宝とは何なのですか?」
「光の玉だ」
「光の玉?」
「ヘギョー」
超先生は懐から光輝く12個の宝玉を取り出した。
「この玉は、13個全て集めるとどんな願いでも叶うと言い伝えられている。
そのときには幼女が現れるとか、異形の神が現れるとか云われているのだ」
「いいかげんな伝承ですね」
「全て集めればRRを完成させるという我が願いを叶えることができる。
しかし所詮言い伝えであるから、何が起こるのかは実際に使ってみないとわからん」
(そんなのに頼っていいのかよ……)
「ヘギョー」
「最後の一つを手に入れる鍵は命の炎にある」
「『最後の一つはこの殺し合いの末に姿を見せる』とはそういう意味ですか」
「うむ、今はとりあえず殺し合いの行方を見守るしかない」
「ヘギョー」
超先生、滝沢諒助、そして鹿は神社の奥へと向かっていった。
「超先生! これは!」
「ヘギョー!」
二人と一匹はそこに設置されたモニターを見て驚愕した。
そこには額が驚くほど広い少女たちが大勢整列していく映像が映っていたからである。
「凸システム……これは超先生が開発されたものでは?」
「久瀬にしてやられたな……私は久瀬を利用して主催者の地位を得たつもりだったのだが、
どうやら逆だったようだ……」
「どういうことですか、超先生?」
「久瀬はこの島ごと全ての参加者を焼き尽くすつもりだ。奴の目的は異種族・異能者の排除。
バトルロワイアルの形態をとったことはカモフラージュに過ぎないし、来栖川も久瀬に利用されているだけだ。
先の放送で久瀬が惜しげもなく国家機密を語った時点で気付くべきであった。
誰もこの島から出すつもりはないということだ」
「それでは……」
「このままでは私の計画は台無しだ! どうすればいいんだ!」
「ヘギョー!」
「お、落ち着いてください、超先生!」
滝沢は取り乱す超先生をなだめる。
「何か策はないのですか? RR空間を展開して動きを止めるとか……」
「誰彼を執筆したのはこの私だ。そんな策は通じん!
そもそも未完成の段階で、そんな広範囲にRR空間を展開することも出来ない。
凸システムの最大の弱点は雨だが、明日の正午ごろは晴天に決まっている。
天候を読み誤るミスを犯すような久瀬ではない」
「ヘギョー!」
超先生は天を仰いだ。
「それならこちらから打って出る……というのは?」
「……そうだな……分の悪い賭けになるが、それしかあるまい」
「ヘギョー!」
「直樹よ、お前の出番だ。頼んだぞ!」
「ヘギョー!」
相沢祐一は、超先生との再戦に向けて休息をとっていた。
短時間に過度の力を行使することは魂の消費速度を上げる。出来る限り避けるべきだ。
「ヘギョー!」
そのとき、突如祐一の前に鹿が姿を現した。
「お前は……久弥直樹!」
急な登場に対応が遅れた祐一をよそに、久弥は謎の術法の詠唱を始める。
「ところで、誰か久弥の行方を知らんか?」
「俺まだいるよ」 「ハカロワ3にも久弥スパイラルの時代」
「卒業してもラ・モスのこと忘れないでねという気持ち」
「突然何を権田ルバ」 「マジレスすると、権田ルバ禁止」
「人はそう簡単には死なない。死にそうになっても奇跡が起こって復活するから大丈夫だ」
「鹿せんべいをくれないと、いたずらしちゃうぞ」
「だから少女なら家でピクミンやってるって前に言ったっしょ?」
「ONE、Kanonなどのパソコンゲームのシナリオを手掛けた久弥直樹氏を総理のお力で探して頂きたいのです」
「ごるべりあを」 「どろり濃厚いたる味138円」
「ごるべりあをって権田ルバとなんか関係があるのか?」
「お尻を貸すお仕事」 「偽クラナドと仮想戦記の作者は久弥」
「こないだ秋葉原ではじるす5つ買ってました」
「どうでもいいけどこれがこのスレで322回目の書き込み」
「ミリオンゴッドでミレニアム引いて10万円ゲット」
「だからピクミンやってんのっ! 」 「俺、まだいるよ」
「ハカロワ3にも久弥スパイラルの時代」 「まただ、またセリフがループしている」
「2025年 04月―――― 鹿せんべい FARGOの施設から解放」
「久弥はこの世のどこかにいるはずの理想のシナリオライターだった」
「久弥には妹と姉が12人ずついて全員へギョーって鳴いてるかもしれない」
「全裸にランドセルにニーソックス装備でカチューシャまたはリボンでツインテール」
「只今権田ルルが0時をお知らせするね」 「マジレスなのがすごいだろ?」
「久弥直樹は治外法権なの!」 「お、憶測でものをいうなぁー!!」
「俺まだいるよ」
「だから……、
俺のこと……
俺のこと忘れてください……
俺なんて、最初からいなかったんだって…」
\ \ 俺、まだいるよ /
らしいぞ \  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ /だよもん 投稿日:
∧_∧ \ ∧_∧ /も結局手付かずで
.( ´Д`) ,-っ \ ( ´Д`) /
/⌒ヽ/ / _)そうか\ ____/ / / しさんだよもん 投稿日:
\\// よし \ ∵/ | /、誰か久弥の行方を知らん
/.\/‐=≡ ∧ ∧ \∧∧∧∧/
∧_二つ=≡ ( ´Д`)ハァ< ス >.名無しさんだよもん 投稿日:
_____/ /_ ハ < 予 パ >738
.‐=≡ / .__ ゛ \< イ >今更な事を言っとるんだ、君
───────────< 感 ラ >──────────
∧ ∧ < ル > \ 鹿せんべいやるよ
( ´Д`) ヒ! < !!!! の .>  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄
/ / /∨∨∨∨\ .∧_∧
/ ./_ / ∧_∧も \ (´∀` )
/ _二二二二二/ ( ´Д`) う \ ○⊂( )
/ / / _¢___⊂) だ \ | | |
/ / / /旦/三/ ./| め \ .(__)_)
/ / / | ̄SNOW ̄ ̄| | ぽ \ 麻枝
./ / / .| 執筆中 |/ \
久 弥 ス パ イ ラ ル !
「な!」
―――ヒュゥゥー―――
祐一は轟音をたてて回転する螺旋に飲み込まれた。
どうやらまた何処かに飛ばされたらしい。
目の前には血溜まりの中、一人の女性が倒れている。
流れた血は明らかに致死量を超えていると思われるが、彼女の体に傷は残っていなかった。
彼女の服には胸のあたりに大きな穴が開いており、そこから覗く胸の小ささが印象的である。
彼女の周囲には砕け散った何かのかけらが散乱していた。
「柏木千鶴……なるほど、そういうことか……」
祐一は一目見て事態を理解した。
「超先生は早期決着をお望みのようだ。このままでは世界は滅亡してしまう……」
そして祐一は、隣に立っている物体に声をかけた。
「ところでお前は何者だ」
「やあ! 僕は信号機。天沢郁未の彼氏さ!
今この島ではハジが大繁殖して大変なんだ。
郁未にすのこを届けなきゃ!
Hey! そこの貧乳! すのこの在処を知らないかい?」
これを聞き、倒れていた千鶴はガバッと起き上がった。
彼女は一見冷静なようにも見えたが、その手からは鋭い爪が伸びており、
信号機を見据える瞳は静かな怒りを湛えている。
「今……なんて言った?」
「Hey! そこの貧乳年増偽善者! すのこの在処を知らないかい?」
「今なんて言ったーッ!!!!」
ザン!
回避
「ギャー!!」
大きな音と衝撃波を伴って、信号機が3つに分断される。
「はぁー……はぁー……お前もか!?」
「いや、俺は何も言っていないが……」
貧乳! 年増! 偽善者!
貧乳! 年増! 偽善者!
どこからともなく禁じられた言葉が響き渡る。
「ぶ……ち……こ……ろ……すーー−!!」
「我を失ったか……どうやら戦うしかないようだ」
本来ならば、女性のエルクゥが暴走することはまずない。
しかし祐一の目の前の鬼は、明らかに自我を保っていなかった。
貧乳! 年増! 偽善者!
貧乳! 年増! 偽善者!
休むことなく浴びせかけられる罵詈雑言が、千鶴の理性を破壊してゆく。
「ウオォォォォー!!」
完全なる異形の怪物と化した千鶴の咆哮が、戦いの幕開けを告げた。
【時間:2日目午前0時半ごろ】
相沢祐一
【場所:H−08】
【持ち物:世界そのもの。また彼自身も一つの世界である。宝具・滅神正典(ゴッドイズデッド)、護符・破露揚握琴】
【状態:真唯一者モード(髪の色は銀。目の色は紫。物凄い美少年。背中に六枚の銀色の羽。何か良く解らないけど凄い鎧装着)】
柏木千鶴
【場所:H−08】
【所持品:復活の玉(砕け散った)、支給品一式】
【状態:鬼(暴走中)】
超先生
【場所:沖木島地下の超先生神社】
【持ち物:12個の光の玉】
【状態:どうすればいいんだ】
久弥直樹
【場所:B−02】
【持ち物:なし】
【状態:久弥スパイラル発動】
滝沢諒助
【場所:沖木島地下の超先生神社】
【状態:あの鹿役に立つの?】
信号機
【場所:H−08】
【状態:死亡(罵詈雑言発生器)】
→339, →368, →373, →404, ルートD−2
―――敵影確認。戦闘に移行。
―――準備フェイズ。
―――敵能力識別。
―――識別成功。広範囲精神攻撃。汚染系。
―――スタートフェイズ。補助判定。敵能力位相識別。
―――識別成功。逆位相にて防壁を展開。
―――展開成功。敵スタートスキル無効化確認。
―――防衛フェイズ。
―――対精神系スキル検索。該当無し。
―――八番から十一番までで陣を構築。前後左右に展開。
―――正面、八番に直撃。上月消滅。
―――敵スキルによる侵蝕開始。視覚情報に予期しない映像。
―――他感覚との比較開始。完了。エラーと判断。視覚遮断。侵蝕率12%。
―――敵スキル出力、想定外。六番を加えて再構築。
―――六、九、十番を前面に。一定値以上のダメージで十一番と交代。
―――再構築成功。敵スキル効果消滅。損害軽微。
―――攻撃フェイズ。
―――二番、七番を前衛。五番を後衛として攻勢陣を構築。
―――七番先行、敵本体へ直接打撃。五番の怨念を二番に移行。
―――打撃成功。敵霊的防護、除去。二番、チャージ開始。
―――防衛フェイズ。
―――精神汚染進行。聴覚情報より応答無し。聴覚遮断。侵蝕率21%。
―――敵スキル確認。二番への集中攻撃。五番、十一番を二番の前に。
―――五番、十一番に直撃。朝霧・宮沢消滅。二番に損害無し。
―――敵スキル効果消滅。
―――攻撃フェイズ。
―――二番、チャージ中。七番、打撃続行。十番、即死スキル発動。
―――打撃成功。敵本体、心機能低下。戦闘継続可能範囲。スキル失敗。
―――防衛フェイズ。
―――精神汚染進行。神経系に異常。予期しない痛覚情報。痛覚遮断。侵蝕率38%。
―――敵スキル確認。遮断された神経系より汚染の再侵攻。
―――敵スキル成功。快楽神経系に予期せぬ情報多数。遮断失敗。侵蝕率79%。
―――身体機能に異常。会陰横筋の収縮を確認。膣分泌液の排出を確認。
―――十番、敵スキル介入。十番を敵スキル目標に設定。
―――設定成功。十番、汚染。
―――敵スキル効果消滅。
―――攻撃フェイズ。
―――二番、チャージ完了。詠唱開始。
―――七番、打撃続行。敵介入スキル確認。十番、七番の打撃対象に強制設定。
―――打撃成功。十番に深刻な損害。
―――二番、詠唱完了。対象設定、敵本体。攻撃開始。
―――攻撃成功。敵本体、全身体機能停止。生命活動終了。
―――敵影無し。戦闘終了。
―――浮遊霊・個体名:長瀬祐介、回収。
―――回収成功。
―――浮遊霊・個体名:柏木初音、回収。
―――回収失敗。未確認霊魂収拾機関による介入の可能性。
―――霊体番号再設定。
―――聴覚回復成功。視覚回復失敗。神経系回復成功。
振り向いて、見えないけど、妹とハイタッチ。
勝利、ぶい。
【23:00過ぎ】
【I−6】
【38 来栖川芹香】
【持ち物:水晶玉、都合のいい支給品、うぐぅ、狐(首だけ)】
【状態:盲目、ゆうすけゲットだぜ】
【持ち霊:うぐぅ、あうー、珊瑚&瑠璃、まーりゃん(成仏)、みゅー、智代、澪(成仏)、幸村、弥生、有紀寧(成仏)、祐介】
【73 長瀬祐介】
【持ち物:コルト・パイソン(6/6) 残弾数(19/25)・支給品一式】
【状態:死亡】
【37 来栖川綾香】
【持ち物:パワードスーツKPS−U1改、各種重火器、こんなこともあろうかとバッグ】
【状態:右腕パワードスーツ全損、ラーニング(エルクゥ、電波)】
【60 セリオ】【持ち物:なし】【状態:ブラックアウト】
【9 イルファ】【状態:スリープ】
意味不明すぎ
321 :
量れない天秤:2006/11/06(月) 08:41:53 ID:4mJMnE9F0
祐一と芽衣の後に少し遅れて追いついた環は、呆然としながら立ち尽くしていた。
泣きながら英二にすがりつき「ごめんなさい」と繰り返す芽衣。
困ったように芽衣を抱きかかえる英二。
そして血を流しながら倒れている女性の姿。
銃声と目の前の光景とで、何が起きたのかは簡単に想像がついた。
だが気付けばコルトガバメントを英二に向かって構えていた。
「――やめろよ」
制したのは、苦虫を潰したように顔をしかめながらも気絶している弥生をかつごうとしている祐一だった。
思わず環は祐一を振り返るも、祐一はそれ以上何も言わず弥生を抱え消防署の中へと入って行った。
その間も英二はただただ芽衣の頭をなで続けながら「ごめん」と謝り続ける。
環の視線に気付き、英二は愁いを帯びた表情で「説明は後でするよ」と、芽衣を連れて祐一に続いていった。
消防署のとある一室に弥生を運び込み傷の手当てを終えると、再び環は英二に向かい合っていた。
「説明してもらえますよね?」
その口調は先ほどまでとはうって変わってどこかトゲトゲしい。
「英二さんの知り合いが殺し合いに参加しちまった。だから撃った。それだけさ」
環の問いにすぐさま答えたのは祐一だった。
「それだけって!」
だがその答えがあまりにもありていすぎて、納得の仕様も無く環の声は荒くなっていた。
「知り合いだからこそ、撃つ以外に方法はあったんではなくて?」
「それが出来なかったから撃ったんだろ」
どこか投げやりな言葉、一方で語る瞳は真剣な祐一に環は思わずたじろいでしまう。
「そういやあんたにゃまだ言ってなかったな、俺人を殺してるんだ」
「!?」
「自分や観鈴を守るためだった。言い訳にしかならないけどな。
だから英二さんの気持ちはわかるんだよ」
環は言葉を捜しながらも、返す言葉が見つからずに口ごもっていた。
「もう一つ言えば、向こうに寝てた女の子。あいつも人を殺してる。
詳しい事情まではよくわからないが知り合いのようだった。
ずっとそれ以来泣いてて、そして疲れて今は眠ってるよ」
322 :
量れない天秤:2006/11/06(月) 08:42:44 ID:4mJMnE9F0
環は何も言えずにいた。
よほど今までと違う日常。それを経験してきた祐一たちに自分が簡単にかけれる言葉が浮かばなかった。
「仮に…だ、想像なんかしたく無いけれどあんたの知り合いが乗っていたらどうする?
説得しても聞いてくれない。……俺も最悪の場合は撃つと思う」
「私……」
目の周りを真っ赤に腫らし俯きながら英二に寄り添っていた芽衣が、戸惑うように顔を上げ小さく口を開いた。
「頭が真っ白になって、英二さんが殺し合いに乗っちゃったんじゃないかって思って
何も考えられなくて涙が止まらなかったんです。
でも相沢さんが言ってくれました、『君を守る為に撃ったんだろう』って」
そこまで言って芽衣がこらえきれずにまた大粒の涙を流していた。
なだめるように英二が芽衣を抱きしると、今までずっと黙っていた観鈴が真剣な顔でその後に続いた。
「……さっきも言いましたけど、環さんを襲った人って私のお母さんかもしれないんです」
忘れられていた事実に、場の空気が一瞬で固まった。
だが観鈴は気にも止めずに言った。
「本当にお母さんかわからないけれど……そうだったとして、何か理由があるのかもしれないけれど……
もしも本当にそうなら私が止めなくちゃいけない事なんです。だから……」
考えていることをうまく言葉に表現出来ないのか、観鈴の言葉はそこで止まってしまう。
察したかのように祐一が口を開く。
「元々の友達とここで出来た仲間。天秤になんてかけれねーよ。
だからこそ間違ってるほうを止めるしかないじゃねーか」
「……そうね」
考えたくも無い話だった。
自分の大事な人間が殺し合いに参加しているなんて想像なんか出来ない。
でも目の前にいる彼らはそんなありえない事を経験してしまった。
その想いは自分の知るところでは無いだろう。
自分だったらどうするか。
例えが殺し合いでなくてもいい、何か間違ったことをしていたら。
考えるまでも無い、引っぱたいてでも止めるだろう。
「……なんだか美味しい所みんな少年に持っていかれた気がするな」
環の難しい顔を見て英二が茶化しながら言った。
323 :
量れない天秤:2006/11/06(月) 08:43:35 ID:4mJMnE9F0
それが空元気なのは手に取るようにわかった。
自身の知り合いを、自分達を守る為に手にかけた。
やり場の無い感情で一杯だろうに、それを隠そうとしながら場を和ませようと明るく振舞っている。
英二の言葉に、先ほどの振る舞いを懺悔するかのように環は笑った。
それに釣られるように皆の中に笑顔がこぼれた。
そうした出来事ののち、祐一と観鈴は隣の部屋の杏の様子が気になると部屋を出て行った。
残されたのは英二と芽衣と環と、あくまでの応急手当を終えてベットに横になる弥生の姿。
「この方どうなさるおつもりです?」
環はチラリと弥生を伺い見ると英二に尋ねていた。
怪我人にすることでは無いとも思ったが、全員の安全のため弥生の両手両足はロープでしっかりとベットに縛り付けられている。
「どうしたもんかね……あぁ、僕に敬語は要らないよ。なんか擽ったくってね」
ただ英二は小さく笑って返したのにたいし、環も少しはにかんで言った。
「それじゃ質問を変えて……これからどうするつもりです?」
「いくつか考えはあるけれども、どれが正しいのかなんて答えが出せないからね。
今すぐに出るにしても、少し休んで出るにしても、明るくなるのを待つにしても危険は何も変わらない。
逆に聞けば君はどうするつもりだい?」
「同じ考えですが、どうせ変わらない危険なら今すぐにでもここを発とうと思っています。
やっぱりみんなの安否が気になりますので」
「ふむ……」
英二は腕を組むとなにやら考え込むように目を瞑る。
椅子に座ったままコクリと居眠りをする芽衣を見て、環が告げた。
「芽衣ちゃんですか?」
「そうだね……」
英二は目を開くと芽衣の頭をそっとなでながら言った。
「少しでも早くお兄さんに会わせてやりたいって気持ちは変わらない。でも危険な目にもあわせたくないって言うのが本音だ。
仮初でも安全を取るならば、朝までここにいたほうがいいのかもしれない。
だが、それで朝の放送で名前を呼ばれるなんてことになったらそれを選択した自分が許せないと思う。
結局決めかねてそれでここにずっといる始末だよ、情け無い話だ」
「英二さん……」
324 :
量れない天秤:2006/11/06(月) 08:44:07 ID:4mJMnE9F0
芽衣がその言葉に反応するように起きると、瞼を擦りながらも英二に告げた。
「私のことは気にしないで、英二さんのしたいようにしてくれていいです」
「芽衣ちゃん?」
「考えてしまうんです。もし英二さんと出会っていなかったら……私は殺されていたのかもしれないけれど
由綺さんや理奈さんは死ななくてもすんだんじゃないかって」
「……そんな事言うもんじゃないよ」
二人のことを思い出しているのか、言う英二のその顔は物悲しげで……。
だが芽衣を映すその瞳には後悔の念など思わせない強さが感じられた。
「でも!」
「結果がどうあれ、僕は君と出会ったことを後悔なんかしていない。
二人には……天国に行った時にでも謝っとくさ」
「だったら!」
芽衣は震えながら叫んでいた。
その剣幕に自分自身が動揺し、ゆっくりと呼吸を整える。
「……だったら私のことは気にしないで、英二さんが一番良いって思えることをして欲しいです。
危険だからとか子供だからとか、そんな事でみんなの足枷になんかなりたくない!」
その必死な訴えに英二も環も息を呑み、そして二人は顔を向け合うとゆっくりと頷いた。
「……環くん、出発するのは少し待ってもらえるかな? 僕らももう少し休憩を取ったらここを発とうと思う。
君さえ良ければ一緒に行動しないか?」
「ええ、私もそう言おうと思っていました」
貴明のことも、雄二のことも、このみのことも心配だった。
だがこの場にいる芽衣は勿論、英二や祐一、観鈴の事だって最早知らない他人だとまで言えなかった。
――元々の友達とここで出来た仲間。天秤になんてかけれねーよ。
環の頭の中に先ほどの祐一の言葉が思い出される。
その通りだなと祐一の顔を反芻しながら笑みをこぼし、環はしばしの休息を取るのだった。
向坂環
【所持品:コルトガバメント(残弾数:残り20)・支給品一式】
【状態:健康、しばしの休息の後移動予定】
緒方英二
【持ち物:ベレッタM92(予備の弾丸や支給品一式は消防署内)】
【状態:健康、しばしの休息の後移動予定】
春原芽衣
【持ち物:なし(持ち物は全て消防署内に)】
【状態:健康、しばしの休息の後移動予定】
相沢祐一
【持ち物:なし】
【状態:386話に続く】
神尾観鈴
【持ち物:フラッシュメモリ、支給品一式】
【状態:386話に続く】
篠塚弥生
【持ち物:なし】
【状態:手当て済だが怪我の度合いは後続任せ、両手足は拘束されてます】
共通
【時間:1日目20:30】
【場所:C-05鎌石村消防署】
【備考1:以下の弥生の持ち物はバックの中に入れられて消防署内に置かれてます、誰に何が渡ったとかは後続任せ】
【備考2:レミントン(M700)装弾数(5/5)・予備弾丸(15/15)・ワルサーP5(8/8)】
【関連:B10系ルートの341と386の間の話】
目が覚めたら目の前に知らない男が、それも凶悪な目つきをした男がいる。
一般的に大人しくか弱い女子高生がそんな状況に遭遇したら、それはほぼ例外なく、
「いやああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
悲鳴を上げるに決まっている。
人から怖がられることにはいい加減慣れっこだった国崎往人は、やれやれまたか、と落ち着き払った様子で、
「わかったから静かにしてくれ。今の悲鳴で誰か危ない奴が近づいてくるかもしれんぞ」
と諭すが、当の女子高生、神岸あかりに今の言葉がどう伝わったかと言えば、(静かにしねえと今に俺の仲間が貴様の匂いをかぎつけて集まってくるぜ、へっへっへ)とこうなるわけである。
最早声もでない、腰を抜かしてへたりこむしかない。もっとも逃げようにもこの凶悪な男は部屋唯一の出入口の前に陣取っているので逃げられはしないのだけれど。
本格的にこりゃまずいと往人は今更になって焦る。
「頼むから少し落ち着いてくれ! お前もその傷じゃ満足に動けないだろ!」
(動けない体でどこに行こうってんだい、嬢ちゃん。へっへっへ)
卒倒しなかったのは、この島に来てからの現実離れした光景が、無意識にでも焼きついて離れなかったから。
つまり、良くも悪くも『慣れた』からだろう。
それからあかりを落ち着かせるまでに使った労力と時間は、往人にとってかつてなく濃密なものだった。泣き止まない子供を必死であやすように脳の使ったことのない場所をフル稼働させて様々な方法を試みた。
もっとも最終的にラーメンセットの麺を鼻から飲み込んで悶絶してた頃にはあかりもすっかり正気を取り戻しており、この人は一体何をしてるんだ、という疑惑の視線をただただ向けるだけだったのだが。
「そうか。神岸もいろいろ大変だったな」
「はい……」
「ところで鼻が痛い」
「はぁ……」
あかりに比べて自分がこの島で体験したことと言えば、せいぜい目つきのせいで女の子に怖がられたことと、逆さ吊りにされたことぐらいだ。
(か、かっこ悪ぃ!)
だからあかりに尋ねられたときも
「おおぅ! こっちは幸運にも何もなかったぞ!」
と、大袈裟に反応してしまう。あかりはその反応を疑う由もなかったが。
「この人は?」
「拾い物だ。長いこと目を覚ます気配がない」
「あ、危ない人だったらどうするんですか!」
成る程。成り行きに任せて拾ってしまったが。
「そのときはそのときだ。何、武器も持ってないし多分大丈夫だ」
そんなにアバウトなことでいいのかとあかりは思う。例えばもし何か格闘技の使い手だったらどうするんだろう。国崎さんはそれでも負けないくらい強かったりするのかな。
それから二人はいろんなことを話した。自分のこと、周りのこと、知り合いのこと。
往人は朝になるまでここを動くつもりはなかった。ついついこんなところまで来てしまったが、暗いうちに二人を連れてここを降りるのは危険だと判断したからだ。
「悪いが少しだけ休ませてくれ。何でもいい、何かおかしなことがあったらすぐに起こしてくれ」
「わ、わかりました」
不安で仕方がないが、世話になっておきながら自分は何もしないとは図々しい話だ。
自分に出来ることがあるなら、それをするべきだとあかりは思う。
助けて、と。
小さな、ほんの小さな声が往人の耳に聞こえた気がした。
(!?)
慌てて目を覚ますと、意識を取り戻した月島拓也が今にもあかりに襲い掛かるところで、
(くそっ! 危険人物だったってことかよ!)
飛び起きたそのまま、全力で体当たりを仕掛ける。
「がっ!」
見た目に反することなく、随分と簡単に拓也は吹っ飛んだ。
「もう大丈夫だ神岸! すまなかった!」
「は、はい。なんとか大丈夫です……」
体を震わせながら、気丈に答える。
それだけ確認し、往人は拓也の元へ駆ける。
起き上がろうとする拓也の目の前に思い切り足を振り下ろす。
がん、という音が部屋中に響き、恐怖を湛えた瞳で拓也が見上げた。
そこにあったのは魔獣の瞳。数々の女の子から恐れられてきた、絶対零度の視線だった。
「今すぐ失せろ」
「ひ、ひぃ!」
「聞こえなかったか今すぐ失せろと言ったんだ。さもないと」
「ひゃ、ひゃあ! 瑠璃子! 瑠璃子ぉ!」
まさに脱兎の如く、拓也は逃げ出していって。
その後ろ姿を見ながら軽く落ち込む。
(目つき悪いと特することもあるもんだな……ふぅ)
「あの、大丈夫ですか、国崎さん」
「ああ。そのときはそのときだと言ったろう。神岸には本当に済まないと思うが」
「いえ、国崎さんも私も無事ですし、なんとかなってよか」
本当になんともならない事態はすぐそこまで迫っていたことに、二人は当然、今の今まで気付かない。
一つの銃声が森の中に響く。
慌てて外を向く二人が見たものは、暗くて確かなことはわからないが、
遠く遠くで月島拓也が倒れる姿だった。
「まだだれかそこにいるんでしょ? ああ、いいよでてこなくても。今から僕がそっちに行くから」
大きくもない。けれど静かに通る少年の声。それはその名の通り『少年』の声だということを二人はまだ知らない。
(これは、まずい!)
「いいかよく聞け神岸!」
往人はあかりの肩を掴む。少しだけ痛かったが、その位には事態が切迫していることはあかりにもわかる。
「俺達は今、あいつ以外に外に聞こえるような大声を出していない。俺だけが出て行けば、もしかしたら相手はお前がいることに気付かないかもしれない」
「国崎さん、まさか」
「いいか、状況を見て逃げられるようならどこでもいい、急いで逃げろ。無理そうならここに隠れていろ、いいな!」
「そんな、自分が囮になるなんて、駄目です!」
上がりそうな声を必死に抑えて、小声で叫ぶ。
「大丈夫」
俺がなんとかしてやる、と。
武器一つ持たない往人は、ぎりぎりの笑顔でそう言った。
往人は一人、訪問者を出迎えた。
できるだけあかりから距離を開けるように。限界まで周囲に気を張り詰める。
それでも、向こうが遠距離射撃をしてきたらおしまいだが。
そんな心配を払拭するかのように、一人の少年が現れる。
まるで鏡を見ているようだと往人は思う。自分をそのまま小さくしたかのような『少年』だった。
それ以上に、
確実に初めて見かける顔なのに、何故だろう、ずっと昔どこかで会った気がする。
お互いに銃を向け合った気がする。
「君は……」
少年が少しだけ驚いたような声を出す。
「へぇ。偶然なのか運命なのか。久しぶりだね、国崎往人さん」
「誰だ。生憎お前みたいな知り合いは俺の中にはいないんだが」
「そりゃあそうだよね。僕もなんでわかったのかがわからないんだ。でも、もう五年くらい前に君と会ったとこがある気がするよ」
奇遇だな、俺もだ。と、往人は言わなかった。
「その様子だと丸腰みたいだね」
嫌になるくらい無邪気な笑みを浮かべた少年は、何かを往人に向かって放り投げた。
それは少年の持ち物。ずしりと重いそれは、グロック19。
「何の真似だ」
「予備弾丸まではサービスしてあげないけどね。せっかくの邂逅なんだ、今度はちゃんとどっちか生き残るまで戦おうよ」
「俺にはさっきからお前が何を言ってるのかサッパリわからん」
「実を言うと僕もだよ」
「だがな」
構える。絶対に逃げられない運命の再戦が始まる。
「後悔するぞ、糞ガキ」
「させてみてよ、お兄さん」
回避
少年
【所持品1:強化プラスチックの大盾(機動隊仕様)、注射器(H173)×19、MG3(残り16発)】
【所持品2:支給品一式、レーション3つ、グロック予備弾丸12発。】
【状況:往人との1vs1に限り逃げるつもりがない】
国崎往人
【所持品1:トカレフTT30の弾倉(×2)ラーメンセット(レトルト)、グロック19(15/15)】
【所持品2:化粧品ポーチ 支給品一式(食料のみ二人分)】
【状況:少年との1vs1に限り逃げるつもりがない】
神岸あかり
【所持品:支給品一式】
【状況:応急処置あり】
月島拓也
【死亡】
【ルートB-11】
【場所:f-06】
【時間:二日目午前二時】
関連書き忘れ。
【→288 →328】
でいいかな。
「本当にごめんなさいエディさん・・・・、私、きっと宗一と一緒に生き残ってみせるからね・・・
それじゃあ、いってきます」
「エディ、約束は守ったるからな・・・・、あんたの代わりにうちらがこの糞ったれゲームをぶっ潰したる!」
エディの遺体はホテル跡の裏側に埋められた。
皐月達は一人一人、最後の別れの挨拶をしていた。
皐月の目にはホテルでの事件が起こる前以上に強い光が宿っていた。
彼女達はエディの冥福を祈り両手を合わせた後、その場を離れた。
ホテルの裏口を通り、フロントへと戻ろうとする。
すると、ホテルの入り口の方に複数の人影が見えた。
智子は警戒して捕縛用のバズーカ砲を構えようとしたが、すぐにそれは中断した。
「なあ広瀬、こんな幽霊が出そうな所よりも野性味溢れる野宿の方が素敵だと思わないか?」
「思わない、思えない、思えるかっ!大体幽霊なんて実在するわけないでしょ!」
「凄い3段活用だな・・・・」
周囲に全く注意を払わずに騒いでいる女と、引き摺られている男。
どう見てもゲームに乗った人間とは思えない。
遅れてもう一人女が入ってきたが、特に武器は持っていないようだった。
後はエディと出会ったときと同じである。
「・・・・あんたら、何やっとんのや?」
すっかり戦意を削がれた智子が呆れ顔で声をかけていた。
―――そして今。ホテルの食堂で北川と智子が二人で話していた。
「そっか、じゃああんたらも首輪を解除しようとしとんのやな?」
「ああ。まだ有力な情報は何も得られてないけどな」
「まあこんなややこしいモン解除出来るヤツなんて、そうそうおらへんわな」
智子と北川は真面目に首輪の対策について話し合っていた。
だが結局の所自分達の知識ではどう頑張ってもこの首輪は外せない。
優れた技術力のある人間と偶然出会う事に期待するしかない、という結論が得られただけだった。
他の者達はどうしているかというと、幸村、花梨、皐月の3人は流石に疲れたのか別室で睡眠を取り、
広瀬と遠野はすぐ近くのキッチンで夕食の後片付けと明日の分の食料の確保をしていた。
このみはというと、
「えへへ、かわい〜」
智子達の話には我関せずで夢中でぴろに頬擦りしていた。
「あんたら、明日はどうするんや?」
北川は少し考えた、答えた。
「明日は村を中心に回ろうと思ってるよ。それが一番人とたくさん遭遇出来る方法だからな」
「でもそれって危険ちゃうんか?ゲームに乗った奴らに会う可能性も高いやんか」
「俺達は一応防弾性のある服を着てるからな。ショットガンもあるし少しは無茶出来ると思うぜ」
そう言って北川は自分が着ている割烹着の袖をぱんぱん、と叩いた。
何故このような服に防弾性があるかは非常に疑問が残るが、性能自体は勝平との1戦で証明済みだ。
「じゃあ明日になったら別行動やな・・。うちらのメンツじゃ無茶できへんからな」
「ああ、そうだな。それにバラバラに探した方が、首輪の解除が出来る奴を見つけれる可能性は高いしな」
「せやな。でもさっきホテル入ってきた時みたいな事はもうしたらあかんで。隙だらけや」
あの時の北川達の様子を思い出し、智子はぷっと笑った。
「い、いや、あれは深刻な事情があってだな・・・・」
「ま、ええわ。あんた意外にしっかりしてそうやし、大丈夫やろ」
しどろもどろになりながら言い訳をしようとする北川には構わず、智子は立ち上がった。
「どこ行くんだ?」
「今日はそろそろ寝るわ、あんたらも早めに寝えや」
そのまま智子は歩き去った。
北川は一息付き、このみの方を見た。
「あら、かわいい猫ね。私も触って良い?」
「うん、良いよ〜〜〜」
「お近づきの印にお米券を・・・・」
このみに加え、遠野と広瀬もぴろに群がっていた。
ぴろは少し疲れた様子だったが、みんな楽しそうだった。
北川はその様子を眺めながら微笑んでいた。
とても平和な光景だと思った。
こんなゲームの中だからこそこの光景はとても大事な、かけがえのないものだ。
――――しかし、異変は突如訪れた。
ピピピピピピ・・・・
「何だ?」
「この音、何なの・・・?」
どこからともなく、電子音が聞こえてきた。
北川達は音と出所を探り始めた。
ほどなくしてそれは判明した。
「この音・・・・、このみの方からしてない?」
「ふえ?」
そう言って、広瀬はこのみの首のあたりを調べた。
次の瞬間、全員が言葉を失った。
このみの首輪のLEDが点滅していたのだ。
嫌な予感が走る。
ピピピピピピピピピピピピピピピピ・・・・
電子音の間隔はどんどん短くなっていた。
「柚原、すまんっ!!」
北川が弾かれたように飛び出し、遠野と広瀬の傍にいたこのみを突き飛ばしていた。
「あうっ!!」
このみは突き飛ばされ、地面に尻餅をついた。
「き、北川君、何で・・・?」
まだ状況を理解しきっていないこのみの表情には、驚愕の色のみが映っていた。
「・・・・・ごめん」
北川は顔を伏せたまま、それだけしか言えなかった。
その両手は遠野と広瀬の腕を掴んでいた。彼女達がこのみに駆け寄れないように・・・・。
直後、爆発音と共に食堂が光に包まれた。
「何事や!?」
すぐに、騒ぎを聞きつけた智子が銃を手に走ってきた。
皐月達も起きたのか、別室から物音がしている。
食堂に飛び込んだ智子が見たものは、泣きじゃくる広瀬と、表情を歪めながらも広瀬をなだめている北川、
床に倒れている遠野。そして、
「この・・・み・・・・?」
――――首から上を消失した、かつてこのみだったモノだった。
智子は狂いそうになる心を必死に抑えて、状況の把握に努めた。
返り血を浴びている3人、このみの死体、すぐ近くのテーブルの上に置かれているショットガン。
ここから推測出来る事は・・・・・・
智子の銃が北川に向かって構えられる。
「ほ、保科・・・・?」
北川は事態がよく飲み込めず、呆然としていた。
「・・・あんたらがこのみをやったんか?」
智子の目には、強い殺意が宿っていた。
幸村俊夫
【所持品:無し】
【状態:次の書き手さん任せ】
湯浅皐月
【所持品:無し】
【状態:次の書き手さん任せ】
ぴろ
【状態:爆発音に驚いて食堂の端に逃げた】
笹森花梨
【持ち物:無し】
【状態:次の書き手さん任せ】
保科智子
【所持品:38口径ダブルアクション式拳銃(残弾7/10)】
【状態:激怒】
北川潤
【持ち物:防弾性割烹着&頭巾】
【状態:疲労、首輪を外せる技術者を探す】
広瀬真希
【持ち物:防弾性割烹着&頭巾】
【状況:号泣】
遠野美凪
【持ち物:防弾性割烹着&頭巾】
【状況:ショックを受け気絶】
柚原このみ
【所持品:無し】
【状態:死亡】
共通
【時間:E−4、ホテル跡】
【場所:1日目23:50頃】
【B-11(支障がなければ他でも)】
【関連247・299・387・393】
※北川、遠野、広瀬の荷物はショットガン以外は食堂の端へ、ショットガンのみすぐ近くにテーブルの上に
※智子達の荷物は38口径ダブルアクション式拳銃以外は幸村達が寝ていた別室に
訂正
>北川潤
>【持ち物:防弾性割烹着&頭巾】
>【状態:疲労、首輪を外せる技術者を探す】
を
北川潤
【持ち物:防弾性割烹着&頭巾】
【状態:驚愕】
でお願いします
往人は一人、訪問者を出迎えた。
できるだけあかりから距離を開けるように。限界まで周囲に気を張り詰める。
それでも、向こうが遠距離射撃をしてきたらおしまいだが。
そんな心配を払拭するかのように、一人の少年が現れる。
まるで鏡を見ているようだと往人は思う。自分をそのまま小さくしたかのような『少年』だった。
少年が少しだけ驚いたような声を出す。
「へぇ、わざわざ出てきてくれたんだ。ありがとう。それとも、出てこざるを得ない状況でもあったのかな」
気付かれてるのかと往人は内心毒付く。それでも持てる限りの平常心で、なんとか外面だけは冷静を装うことができた。
「能書きはどうでもいい。どうしてお前が殺し合いに乗ってるのかもどうでもいい。俺はしたくて人殺しをするわけじゃないが、生き残るためにはここを切り抜けるしかないだろうからな」
目を細める。
「はじめるぞ」
「まあまあ、そうは言ってもお兄さん丸腰でしょ」
嫌になるくらい無邪気な笑みを浮かべた少年は、何かを往人に向かって放り投げた。
それは少年の持ち物。ずしりと重いそれは、グロック19。
「何の真似だ」
「予備弾丸まではサービスしてあげないけどね。堂々と姿を現したことに対する敬意だと思っていいよ。大丈夫、暴発するような罠とかないから。どっちにしろ僕は負けるつもりないしね」
「なめやがって。後悔するぞ、糞ガキ」
「させてみてよ、お兄さん」
お手数おかけします、差し替えていただければ幸いです。
幾ばくかの時間が流れていた。
向坂雄二、月島瑠璃子、マルチの三人は、新城沙織の遺体が発見された部屋を出て、
瑠璃子とマルチが最初に休んでいた民家の一室へと戻ってきていた。
沙織の遺品だけは持ち込んでいたが、遺体を運ぶだけの気力は残っていなかった。
三人の座り込む部屋に、言葉は無かった。
重い沈黙の降りた部屋の暗がりで、向坂雄二は膝を抱えて俯いている。
自身の心音が不快だった。
呼吸する音が不快だった。
服の衣擦れが不快だった。
何もかもが、不快だった。
顔を埋めたその衣服にも、濃密な血の匂いに満ちた部屋の残り香がまとわりついているようで、
不快だった。
それでも、顔を上げることなどできなかった。
赤黒く腫れ上がった瑠璃子の顔を、直視できるはずもなかった。
どろりと濁ったその温度のない瞳に映る自身の姿に、耐えられるはずもなかった。
―――ぶったよね。
目を閉じていても、瑠璃子の瞳が自分を責めているのがわかった。
耳を塞いでも、その声は雄二の脳髄にこびりついて離れない。
叫んでしまえば、止まらなくなりそうで。
それで、ただ膝を抱えてズボンの裾を握り締めている。
―――ぶったよね。向坂君。何度も何度も。
女の子の顔をぶったよね。ほら、こんなに腫れちゃった。
痕が残っちゃうかな。痛かったよ。とっても痛かった。
見せないでくれ、そんなものを見せないでくれ。
瞼の下の闇の中、雄二は必死に懇願している。
それでも瑠璃子の声がやむことはない。
腫れ上がったその顔が、雄二を嘲るように嗤っている。
ぶったよね。私をぶったよね。何度も何度もぶったよね。
証拠もないのに人のことを犯人扱いして。
自分が犯人だって言われるのが怖かったから。
ぶって、ぶって、女の子を犯人にしようとしたよね。
ね、女の子にとってもとっても優しい向坂雄二君。
やめてくれ。やめてくれ、やめてくれ、やめてくれ。
後悔ではなかった。反省ではなかった。悔悛ではなかった。
それはただ、赦しを希う声だった。
悪かったと言えないまま、ただやめてくれとだけ、雄二は叫び続ける。
雄二の懇願は終わらない。瑠璃子の責め苦も終わらない。
―――やっぱり沙織さんを、あのままにはしておけません。
そんな声を上げたのは、マルチだった。
その声を聞くや、雄二は立ち上がっていた。
俺が行く、と口にしたつもりだったが、その呟きが言葉になっていたかどうか、
雄二には判然としない。
判然としないまま、マルチを突き飛ばすようにして部屋を飛び出した。
「……雄二さん……」
倒れこんだままのマルチを、月島瑠璃子はぼんやりと眺めている。
頬は腫れ上がっていたし、口の中も切っているようだったが、痛みはさほどでもない。
もとより、痛覚というものにあまり敏感な方ではなかった。
瑠璃子にとって、苦痛は常に自身の中に存在していた。
凡庸で、低俗で、猥雑なこの世界に埋没するように存在する、自分自身が苦痛だった。
月島拓也の些か度を過ぎた愛情には辟易することもあったが、それでも彼が瑠璃子に向ける
圧倒的な感情がなければ、瑠璃子はとうにこの世界に見切りをつけていたかもしれない。
身体を捧げてみせたのも、その返礼に過ぎない。
どの道、傷つけて惜しい身体でもなかった。
助けて、と呼んではみても、結局のところ自身を救い出すことなど誰にもできはしないと、
瑠璃子は正しく理解していた。
この災厄の宴に積極的に加担してみせたことにも、大した理由があるわけではなかった。
こうして愚かな狂乱の宴にうち興じている内は退屈もすまいと、それだけのことだった。
誰が死ぬも、誰が生きるも、それは悲劇であり、喜劇であり、つまりは娯楽だった。
絵物語を眺めるように、瑠璃子は人の生き死にを愉しんでいた。
そんな瑠璃子にしても、新城沙織の死は意外だった。
彼女を庇護してみせたのは、別段殺すためではなかった。
長瀬祐介にしたように、彼女を包んでみただけだった。
そうすれば、見事に兄を悪夢から救い出してくれた祐介のように、彼女も誰かを
救い出してくれるかもしれない。
それが楽しみで、瑠璃子は沙織を庇ってみせた。
だから祐介にしたように、沙織を、沙織の精神の奥を、少しばかり電波で
弄ってみせたのだった。そうしたら。
沙織は、死んでしまった。
何がいけなかったのだろう、と瑠璃子は考えている。
辛いこと、苦しいこと、悲しいこと、そんなものは一つの娯楽でしかないのに。
見て、聞いて、感じて、辛くなったり苦しくなったり悲しくなったりすればいいという、
ただそれだけのことなのに。
そんなものに心の全部を包まれたからといって、どうして新城沙織は死を選んだのだろう。
わからない。わからなくて、面白い。
難解なミステリの謎解きを楽しむように、瑠璃子は沙織の死を弄んでいる。
次はどうしよう。次は何をしよう。
誰を殺そう。誰が死ぬのが面白いだろう。誰かに誰かを殺させるのも面白い。
退屈と、人の命を捏ね回して、月島瑠璃子は微笑んでいる。
「……っ、痛ぁ……」
マルチの声が、思考の淵から瑠璃子を引き戻した。
見れば、向坂雄二に突き飛ばされた姿勢のまま、起き上がれずにいるようだった。
「どうしたの、起き上がれないの……?」
雄二が飛び出していってから、それなりの時間が経っていた。
その間、ずっと倒れたままでいたというのであれば、どこかの機能に異常が発生して
いるのかもしれなかった。
「いえ……大丈夫だと、思います……けど」
仰向けのまま、腕や首周りを振り回して四苦八苦しているが、足腰が動いていない。
やはりどこかに異常をきたしているようだった。
人間で言えば打ち所が悪かった、といったところだろうか。
なおももがいているマルチの姿を見て、瑠璃子は立ち上がる。
「……ほら、手」
「え、……いえ、大丈夫ですから!」
バタバタと腕を振り回すマルチ。
困ったような顔でまくし立てる。
回避
「そんな、人間の方にご迷惑をおかけするようなこと、できません!」
苦笑して、少し強引にマルチの手を取る瑠璃子。
「……ね。引き起こすよ」
「いえ、そんな、ほんとに大丈夫ですから! 結構です……わ!」
「……っと」
瑠璃子に手を取られたまま、マルチが腕を振り回す。
小柄に見えるマルチの、意外な重量とバランスの変化によろける瑠璃子。
マルチを踏みつけそうになって、足を取られる。
「……ひゃ!」
「……あ、ごめん」
ちょうど、馬乗りになるような形でマルチにまたがる瑠璃子。
手をついて立ち上がろうとしたとき、背後でドアが開く音がした。
向坂雄二は走っていた。
どこか湿り気を含んだ夜の風が、ひどくわずらわしかった。
そんな空気を吸い込むのが嫌で、息を止めて走り続ける。
すぐに限界が来た。
肺と心臓と脳が、雄二自身の愚かさを糾弾していた。
脇腹にも、刺すような痛みを感じる。
そんな生理反応が疎ましくて、雄二はさらに足を速める。
叫び出したかった。
おぞましい記憶だけが甦るその部屋に駆け入って、後ろ手に扉を閉める。
閉めた扉に体を預けて、雄二はずるずると座り込む。
暗い部屋は、相変わらず濃密な血の匂いに満ちていた。
大きく息を吸い込む雄二。鼻をつく鉄の臭いが、肺に沁みた。
部屋の中央には、新城沙織が倒れている。
座り込んだまま、雄二はその遺骸に手を伸ばす。
届かない指の先に、沙織の躯が伏していた。
死に貌は、見えない。
「―――なんで、こうなっちまったんだろうな。
灯台で会った時には、うまくやれそうだったじゃないか。
貴明と、俺と、マルチと。なんで、なんで、こう、さ―――」
雄二の呟きに、沙織が答えることはない。
静寂が降りる中で、雄二は立ち上がる。静けさが、怖かった。
動いていなければ、瑠璃子の声が聞こえてきそうな気がしていた。
沙織の遺体に歩み寄り、その背に手を差し入れようとする。
貼りつく血糊を剥がしながら、その差し入れた手を、
―――持ち上げることなど、できなかった。
初めて抱えた死体は、柔らかく、ねっとりとしていて。
ひどく、おぞましかった。
忌む、という言葉の意味が、指の先から体中を駆け巡る。
せり上がってくる嘔吐感を堪えきれず、雄二はその場に胃の中のものを吐き出した。
胃液までを全部吐き出して、その苦さに涙を浮かべて、そして雄二は凍りつく。
叫び出したい衝動を必死で堪えた。どさりと、沙織の躯が落ちる。
唾液と胃液のこびりついた口元を、凝固しかけた血の欠片のついた両手で覆う。
見開かれた目に映る、沙織の遺骸。
その顔一面が、雄二の反吐に塗れていた。
異臭が鼻をつく。
雄二の胃で消化されかけていた細かな欠片が、沙織の額といわず頬といわず、
こびりついている。
制服の白い襟にも、点々と染みができていた。
沙織自身の血液によるものなのか、それともたった今吐き散らした反吐のせいなのか。
暗い部屋の中で、それは、同じもののように、見えた。
口元を押さえたまま、雄二は後ずさる。
その背が扉に当たる。震える手で、何度も失敗しながらノブを捻った。
ようやく開いたドアの向こう側の暗闇に向かって、雄二は走り出す。
夜闇の中を、雄二は走る。
何度も転びながら、砂利が掌に食い込んで血が滲むのも構わずに。
とめどなく涙を流しながら、雄二は走っていた。
怖かった。
悲しいでもなく、ただ、自身のしてしまったことが、怖かった。
声が、響いていた。
走って、走って、走って。
逃げ込むために押し開けた、その扉の向こうで。
月島瑠璃子が、マルチを押し倒していた。
恐怖から逃れようと、暴力を振るった自分を。
仲間の遺骸のおぞましさに耐えかねて、新城沙織を汚してしまった自分を。
嗤うように、引き裂くように責めていた、月島瑠璃子が。
最後に残った仲間を、殺そうと、している。
そう、見えた。
向坂雄二の中で、何かが弾けた。
絶叫が、雄二の口から迸っていた。
血の池の中心に、一つの塊。
塊には、手と足のようにも見える何かが、生えていた。
かつて、月島瑠璃子と呼ばれていたそれを、向坂雄二は呆然と見下ろしていた。
ぶっくりと赤黒く膨れ上がった自身の手には、鉄製のフライパン。
新城沙織の、遺品だった。
無残にも形を変えたそれから、ぬらりと粘る何かが、滴り落ちている。
腰にしがみついているのは、マルチだった。
必死の形相で、何かを叫んでいる。
何を叫んでいるのかは、聞こえない。
【場所:I−6】
【時間:二日目午前4:30頃】
向坂雄二
【所持品:フライパン、死神のノート(ただし雄二たちは普通のノートと思いこんでいる)、ほか支給品一式】
【状態:呆然】
マルチ
【所持品:支給品一式】
【状態:絶叫】
月島瑠璃子
【状態:死亡】
※瑠璃子の所持品:ベレッタ トムキャット(残弾数7/7、355b経由のルートでは
残弾数0/7)、ほか支給品一式は部屋に転がっている。
→390 ルートB,J系
>>347 多謝〜。
投下が終わったようでこちらも投下。
でも、仕事が終わって覗いてみれば同じ展開が投下されていたり……orz
ともかく288の続き、411の対立項になっちゃいますが投下します。
連投回避お願いします。
「―――ったく。世話ばかり焼かせやがって……」
国崎往人(035)は倒れ伏す神岸あかり(026)を横たえて愚痴を零す。その傍らには静かに息を上下させる月島拓也(066)が転がっていた。
彼等は鷹野神社の境内に腰を据えていた。
正常に意識があるのは往人ただ一人であり、二人は例外なく痛みかショックによるもので気絶している。
内、あかりに関しては背面を爪のようなもので引っ掻かかれており、傷自体は浅くとも決して無視をできない状態にあった。
拓也に関しては放っておいても構わない。何時か目を覚ますだろう。
だが、あかりには治療を施さなくてはならない。
遭って間もない、それこそ会話一つ交わしていない彼女に義理も恩もありはしない。
それでも、眼前に苦しんで倒れている少女を見て見ぬ振りをすることも人の行いとして良心の呵責が押し留める。
結局は拓也の時同様、往人には彼女達を平然と捨て置くことはできないのだ。
「クソっ……。腹は減ったが仕方がない。とりあえず治療を……む」
面倒臭そうに頭を掻きながらあかりに手を伸ばそうとして、ふと思い立って動きを止める。
あかりの症状は特に背中の傷が大きい。他にも小さな擦り傷や切傷があるものの、そちらは既に自然治癒が成されていた。
つまり、問題なのは背中の傷であって、血に染まった制服をどうにかしなければ―――
「……ごほん。言っておくが、治療の為だ。勘違いするんじゃないぞ」
お待たせして申し訳ない回避…
一体誰に言っているのか。
言い訳がましい往人の言葉が境内に空しく響く。当然反応はない。
日が沈んだ神社の中はとても暗く、懐中電灯の光を頼りにあかりへと手を掛けた。
青少年の反応としては、成熟の過程を進む同年代の女性の身体に心臓を高鳴らせるものだが、往人の表情は至って無表情。
むしろ顔を顰めて制服のリボンを指で摘みながら解いている姿は、逆に女性に失礼である。
往人にとってはあかりの身体などどうでもよく、今は早く彼女の服を脱がして治療を施したい。
仮に今の自分の姿を第三者に発見されてしまえば、いらない誤解を招くこと請負だ。
観月マナ(102)に一度それで疑われているのだ。こんな実行場面を目撃されでもしたら、身の危険を感じざるを得ない。
戦々怖怖と丁寧にあかりの制服を脱がしていった往人だったが、ようやく上半身を下着姿にすることに成功する。そのままうつ伏せの体勢にするために引っくり返した。
真っ白い健康的な柔肌が電灯の光を浴びて眩しく反射するが、それ以上に血に濡れた背中が痛々しく感じる。
往人はバックから水を取り出して躊躇なく背中に浴びせ掛ける。
外部からの感触にあかりが小さく呻くが、血液が流れて時間が立っていなかったこともあって付着した液体は難なく流れ落ちた。
そこで再び問題に行き当たる。
制服の上から鋭いナニかで切り裂かれたのだ。肉体に傷付いている以上、重ねられた衣類や下着類が切り裂かれているのは道理。
つまり、ブラジャーのベルトが切断されており、下着として要を足していないという事実。
往人は目を細めて数秒後、あかりの状態を少し起こして下着を剥ぎ取った。
「…………ふっ。まったく仕方のない奴だ」
完全に開き直り、綺麗にあかりのせいにしつつ正当化を図る。
握った下着を傍らに放り投げて、何事も無かったかのように近くで見つけた布を巻き付け始めた。
本人に意識があったら卒倒しそうな行いだが、幸い気絶していることもあって往人の図太い神経を糾弾する者は誰もいない。
あくまで自分は世話を焼いているという事実を念頭において、彼は簡単な治療を施し終わる。
生憎、消毒液などの有り難い代物などないのだから、どうしても簡素な応急措置だが、しないよりは遥かに増しだ。
ともかく、今度はあかりの格好の問題である。
下半身はスカートで、上半身は素っ裸。血に濡れて切り裂かれた制服は使い物にならないだろう。
自身が着衣しているのも黒の長袖一着限り。ならば、誰から借り受けるなど言わずとも分かるというものだ。
「ここまで運んできてやったんだ。とりあえず寄越せ」
気絶した物言わぬ拓也に目を付けた往人は、追剥が如く彼の学ランを容赦なく剥ぎ取った。
あかりの小さく自己主張する乳房にはなるべく目を向けず、学ランを羽織らせて前面のボタンを締め、静かに身体を横たえさせる。
そこまでして、ようやく安堵の息を付いた。何事も無く、誰にも目撃さえれることもなく終えたのだから。
(後はコイツらが起きるのを待つだけだな……)
往人としても、早急に知り合いと合流したい。
放送を聞く限り、殺し合いは止まることなく加速している。
恐怖で錯乱したものや、疑心暗鬼に囚われた少女達とも会ったばかりであるし、現に傷付いた少女を保護した身。
知人は生きている筈だと、楽観的に考えることも出来ない。
二人が起きたら現状の説明をしてやって、それを終えたら彼は直に神社を発つつもりだ。
いずれかが同行したいと申し出るのならば、同行を許す。単独行動やここに残るといった者には引き止める真似はしない。
何時までも荷物を抱えて移動しては、足手まといでしかないのだ。手っ取り早く二人には行動を決めてもらう。
そこまで考えて、我慢に耐えかねた往人の腹が空腹を訴えた。
彼は表情をニヤリと歪ませて、二人の荷物を注視した。
「―――ふっふ……。これは正当な報酬だということを履き違えるんじゃないぞお前達……」
妖しい眼光で、往人はバックに手を伸ばす。
****
境内を照らす小さな灯火。
僅かな懐中電灯の光が閉じられた瞼を刺激した。
「―――うっ……ん、ん。……ここは、つぅ……っ!」
目を覚ました拓也は混乱した様子で辺りを見渡すが、口内で痛みが走って顔を顰める。
頬の辺りを押さえると、若干腫れ上がっていた。
―――思い出した。
妹の月島瑠璃子(067)を探している道中、遭遇した老齢な男性―――長瀬源蔵(072)に殴り飛ばされたことを。
確かに、あの時の自分は冷静ではなかったかもしれない。
瑠璃子のことを想うあまり、過剰な反応を示してしまった。出会い頭で拳銃をぶっ放すといった常軌を逸した行動なのだが、彼には罪悪感など微塵も無い。
それ以上に憤怒の感情が拓也の全身を駆け巡った。
「クソがっ。あのジジぃ……。不意打ちなんぞしやがって……」
「なかなか剣呑としているな」
「っ!? 誰だ―――!?」
自分のことを棚に上げて源蔵を激しくなじる拓也へと、横から急に声が掛かった。
誰も居ないと思っていたのか、心臓を鷲掴みされたかのように驚いて広がる闇を睨みつける。
往人は懐中電灯を無言で中央に置いた。僅かではあるが境内を光が灯し、二人の長い影が生まれた。
「よう。ようやくお目覚めか」
「……なんだお前は」
咄嗟に自分の所持していた拳銃を構えようとするも、それが既に没収されていることに気付いて小さく舌打ちする。
それに少し肌寒いと思えば、着ていた筈の上着までもが何故かなかった。
回避
「あぁ、上着なら借りたからな」
往人は近くを顎でしゃくりながら拓也の疑問に答える。
しゃくった先に、あかりが気を失って倒れている様子が暗闇ながらも目視できた。
「……彼女は?」
「アンタと一緒だ。倒れていた所を保護したまでだ」
お人好しにも程があるのではないか。
そう感じずにはいられない拓也だが、その甲斐もあって助かったのならば訝しむ必要もないだろう。
あんな道端で気絶した状態で放置されていたのであっては、命が何時失われても可笑しくはない筈だ。
殺し合いのゲームが行われているということは把握しているが、知ったことではない。
だが、どうでもいいことである反面、拓也自身の目的から見れば非常に有意義なイベントでもある。
此度のゲームを利用することによって、禁忌の想いを成し遂げることが出来るかもしれないのだ。
よって自分が野垂れ死ぬなど冗談ではない。瑠璃子に会うことが二度と叶わないと思ってしまうと我慢がならない。
そんな境地に陥れようとした源蔵も許さない。
(電波さえ使えればあんなジジィ……。言っても仕方がない、今はこの男だな)
内心で恨み言を連ねる拓也だが、既にその対象が死亡していることは知るよしもない。
能力さえ使用できればという無い物ねだりの思考を情けなく感じたため、それらを振り払って往人へと改めて向き直る。
「貴方が助けてくれたのですね。改めてお礼を言います」
「余計なものは被らなくていいぞ。そんな性格じゃないんだろ実のトコ」
「…………」
普段の私生活では外面重視の態度を心掛けていた拓也だが、地の自分を先程目撃されていたとあっては効果がない。
ニヒルな表情を引き攣らせながらも、決して笑みは絶やさない。
「そうですか。どちらにしろ貴方の方が年上でしょう? 敬意を払うのは至極当然のことですよ」
「ま、態度云々は俺が言うことじゃないがな。―――じゃあ、その眼つきをやめろ」
「……眼、ですか?」
「いかにもヤル気な態度が滲み出ているぞ。笑ってないんだよ、お前の瞳は」
「……ふん。アンタだって似たり寄ったりじゃないか」
通用しない外面を何時までも被っていても仕方がない。
普段覗くことのない表情で形取りながら、拓也は皮肉気に口許を吊り上げた。
そもそも、眼光云々を往人が指摘するのは間違っている。拓也から見ても、中々に凶悪だ。
自覚し、現に碌なことがなかった往人は苦虫を噛み潰したように唸る。
「それを言うな。ロクな目にあった試しがない」
「まぁ、そんなことは僕には関係ない。ともかく拳銃……あっただろ? 悪いけど返してくれないかな」
「拳銃……? そんなモンなかったぞ」
「はぁ? 拾ってくれたことに関しては礼を尽くすのもやぶさかではないけど、少なくとも隠すと身の為にはならないぞ?」
「……身の為、ね。そんなセリフを平気で吐く奴に仮に持っていたとしても渡すわけないだろ?」
往人の挑発的な笑みに腰を浮きかける拓也だが、武器がない以上、下手には動けない。
意外と体格も悪くないために、無手で飛び掛かったとしても一筋縄でいくような相手でもなさそうだ。
今は、本当に隠し持ってはいないと考えたほうが事を上手く運ぶことが出来るだろう。
「……じゃあ、僕の拳銃は何処にいったんだ?」
「俺が知るか。大方お前が気絶していたことと関係があるんじゃないのか」
「……あぁ、アイツか。―――ちっ、ふざけやがって……」
往人の言葉で思い立った拓也は、いらただし気に舌打ちをする。
源蔵に殴られて気絶した。自分が拳銃を手放したのは間違えなくあの時だ。
ということは、往人ではないというのなら源蔵が持っていったということになる。
つくづく気に喰わない。
「なにやら思い出したようだが、お前を拾ったときにはそれらしき物は落ちていなかったとだけ言っておく」
「すまなかったね、思い違いだったよ」
「で? 強制するつもりはないが、経緯を教えてくれ。ここまで数十分の道程を経て連れて来たのは何を隠そうこの俺だぞ」
「別に頼んじゃいないけど、感謝はするよ。経緯だっけ?」
少し考えたが、屈辱的な出来事しか思い浮かばない。
「完結に言えば、僕の思考の邪魔をして不意打ちを食らわせられた、といったところかな」
「十中八九、どうぜお前が何かしたんだろ? 思考の邪魔と不意打ちの間が抜けてるんじゃないのか」
「……黙れよ。僕の邪魔をしたアイツが悪いに決まっているだろう?」
自分勝手な物言いに、往人は拓也が何かしらの制裁を受けたのだということは理解した。気分が悪そうにこちらを睨みつける様子からも窺える。
厄介な奴を拾ったものだ、そう言わんばかりに往人は肩を竦めた。
「まあいい。過剰防衛ってことにしといてやる。ともかく答えてもらうぞ……お前はゲームには乗ったのか?」
往人にとっては拓也を見極める機会。乗っていても乗っていなくとも武器のない拓也を退ける自信はあるが、対応自体は異ならない。
乗っていないに越したことはないが、逆にしても止める術はないし、それこそ義理もない。自分に危害を加えないのなら放置するに限る。
本音を言わせてもらえれば、手荷物を早急に手放して身軽になりたいのだ。この場合、拓也とあかりのことである。
往人の探るような問いかけに、拓也は鼻で笑って見せた。
「ゲーム? そんな児戯、僕には関係ないさ。瑠璃子以外に目的はない」
「……その瑠璃子って奴は恋人か何かか?」
恋人―――その一言に拓也の淀んだ瞳が笑った。
「よしてくれ、照れるじゃないか。確かに僕は瑠璃子を愛して止まないが……生憎とそんな真柄には“まだ”なっていはいないね」
「ほう。なら早いトコ探さなきゃならんだろ。殺し合いの真っ只中では安心も出来やしないからな」
「……そうだ、そうだよ。僕らの愛に無粋な横槍を入れるクズ共がいるんだった……。あぁ、瑠璃子……無事で居てくれよ瑠璃子ぉ」
「…………」
陶酔したように独り言を続ける拓也を、往人は生暖かい視線で見守った。若干引いたが。
台詞だけ聞けば嫉妬深い美しい情愛だと感じられないこともないが、拓也の表情が全てを台無しにしていた。
ともかく、留まることを知らない妄想を何時までも放っておくわけにもいかない。
「そうかそうか、素晴らしい愛だ応援するぞ。さっさと瑠璃子さんとやらを探しに行ったらどうだ?」
「言われずとも。しかし、僕達の愛を応援してくれたのは君が初めてだよ。気に喰わないが、期待に答えられるよう努力はするさ」
「……あ〜、適当にがんばれ」
早いところ厄介払いをしたいがために、往人の態度がぞんざいになるのも無理はない。
それ以前に、拓也が愛を向ける相手が実の妹だという事実も知らないのだから、往人にとってはまさしく詰まらない他人事なのだ。
そんな拓也は満足気に立ち上がり、あかりへと無遠慮に歩み寄る。
「この子には悪いけど、僕の上着は返してもらうよ」
「お、おい……ちょっとま―――」
自身の学ランを取り返そうと手を伸ばす。
その下に衣類を一切着用していないという事実を知る往人は、少女の為にも静止の声を掛けるが時既に遅し。
あかりの状態などまったく考慮せずに上着を剥ぎ取るが、現れた姿に硬直した。
「…………」
「…………」
「…………」
「……第三者から観ればお前も変態の仲間入りだな」
「ふ、ふざけるなっ! 何でコイツは裸なんだよっ」
回避
女性の裸を直視して羞恥心が湧く様な可愛い性格をしていない拓也とて、唐突に女体が飛び出してくれば流石に慄く。
脱がせたのはお前だろうが変態野郎と、顔を歪ませて往人へと迫るが、当の本人は素知らぬ振り。
「ゲスい勘繰りはやめろ。治療のための不可抗力だ。それで? 何時まで上着を強奪しているんだお前は」
「―――クソっ」
拓也はあかりへと乱暴に上着を被せる。
これでは上着を持っていくことが出来ない。
別に学ランに愛着や執着があるわけではないが、人の服を黙って使用したことが癇に障る。
「―――人が気絶してりゃ好き勝手しやがって……」
「気絶したお前の自業自得だバカ。感謝こそすれ、恨まれる筋合いはないな」
憎々しく往人を睨みつけるが、小さく舌打ちをして目を離す。
確かに往人の言う通り、彼がいなければ拓也の命は危機に晒されていた。
その点に関しては非礼を詫びるのもやぶさかではないが、同時に疑問にも思う。
(コイツ……恩でも着せるつもりか。長瀬裕介並みのお人好しかと思ったが、そんな人柄でもなさそうだな……)
往人の第一印象は、後輩の長瀬裕介(073)のように緩い顔をして人助けをしている心底甘ったるい人種だと思っていた。
だが、一言二言会話をした時点で印象は覆った。勿論悪い意味でだ。
裕介のような人間ならば電波などなくとも言葉巧みに陥れることも不可能ではないが、こういった隙の見せない人間は扱いに困る。
むしろ拓也側の人種と言えた。他人へ干渉せず、そして他人は何処までも命の質量が軽い。
自身の命、もしくは大切な人の命と他人の命を天秤にかけるならば、傾く方向はまったく躊躇ない。
少なくとも、拓也にとって自分と瑠璃子以外は全て死に絶えてもいいと本気で考えているのだ。
拓也は極端に顕著だが、往人にもそれが見え隠れしていた。
「そんなに嫌ならこの少女を素っ裸で放り出せばいいだろうが」
現にこんな本気ともつかない台詞を吐ける時点で相当の曲者だ。
始めに脱ぎ払ったときの拓也の躊躇いを目敏く突いてくるのだから。
拓也は苦々しい顔から一転、侮蔑するような眼つきを往人へと向ける。
「確かにこんな女知ったことじゃないが、流石に裸身を晒したままでは忍びないだろう? 僕はこれでも紳士だからね」
「はっ、どの口がほざく」
紳士とは言うが、実際は少女達をゴミのように扱ったこともあり、往人の指摘はあながち間違いではない。
それでも自信の笑みを浮かべて往人を見下す。
「……少なくともアンタよりは人当たりが良い顔立ちだと自負できるけどね」
「下手な仮面を被ったときの話だろそれは。存外に白々しく見えるぞ?」
「ふん、アンタ幸運だよ。僕の電波が健在ならとっくに廃人にしてやったものを……」
「……電波?」
電波という言葉に首を傾げる往人だが、思い当たったように頷いた。
「なるほど、それが巷で蹂躙跋扈する電波系という奴か……。確か頭の触覚から受信するんだったよな?」
「その電波じゃないっ!! いや、妄想する点では一緒だが……ともかくだ! そんな低俗なオタク共と一緒にするんじゃない!!」
身の程を弁えない馬鹿がと、小さく悪態をつきながら正しい電波の解説を頼んでもいないのに語りだす。
別に電波についの知識を教授してやっても拓也にとっては弊害にはならないし、往人も意外と興味深そうに話を聞き入った。
だが、拓也が悪徳非道の行いを包み隠さず何の臆面もなく語りだしたときには、正直何度目かのドン引きをしてしまったが。
「なるほどな……。人間とは思えぬ力……その電波とやらも該当するみたいだな……」
「ムカつくが、主催者達は英断だったってことさ。力さえ制限されてなかったらゲーム自体を崩壊させることは訳ないんだよ」
確かに電波のように外部から干渉する能力を防ぐ手立てはない。
そして、主催者の言葉を真に受け取るならば、能力の種類は決して一つではないのだ。
それこそ好戦的な能力が存在しているかもしれない以上、そんな彼らが有利に事を運べるのは自然の理。
拓也も自身の能力に余程自信と信頼を置いていたのだろうが、それが使えないと知るや今では非情に苛ただし気に顔を顰めている現状だ。
しかし、これは往人には知る良しもないことだが、逆に電波がない状態の方が拓也は人間らしかった。
危険な思想と、度が過ぎた誇大妄想を発現する手段のない拓也は、本性を知るものからすれば借りてきた猫の様に大人しく、理性的なのだ。
ゲーム開始時点では常軌を逸した精神を抱えていたが、それは電波が使えないという現実を受け入れがたいが故に冷静に狂っていたためである。
源蔵に殴られて、一度頭を冷やす機会があったのは往人にとっても拓也にとっても僥倖と言えた。当たり前だが、拓也は源蔵に憎しみしか抱いていない。
「―――とまあ、未熟ながら長瀬君も電波を使えるわけだけどね」
「ほう。なら一つ聞くが、お前の電波は今じゃからっきし駄目なのか?」
「ああ。アンタの顔を見た時に即座に放ったけど効果はなかったよ」
「……おい、ふざけんなコラ。助けてやった恩も忘れて……」
往人が本気で睨みを利かせてきたために、拓也は冗談だと肩を竦める。勿論冗談ではなかったが。
だが、実際電波の効果は望めなかった。
本来ならば容易に人間を操ることが出来るのだ。そして、精神不安定の者ならば更に容易い。
主催者は能力を“制限”したと言った。僅かならば電波を放て、且つ正常な意識をしていない人間ならば操れるのではないか。
未だ実行は出来てはいないが、機会があればやってみるつもりだ。当然、往人に口を滑らす必要もない。
二人は、そんな当たり障りのない会話を数十分続ける。
以外に話が弾んだ能力について二人で討論していたとき、ならば自分の能力はどうだろうかと往人は考えた。
人形を取り出そうとするが、それさえも没収されていることに今更ながらに自覚して肩を落とすが、変わりになるものがないか辺りを見渡す。
「―――何かないか……。ん? ……あれで、別に構わないか……」
「……? 何をやって……って、な……っ。そんなモノでナニをするつもりだい?」
「いや待て! 勘違いするな、俺の能力を見せてやるためには仕方がないことだと理解しろよ!」
冷ややかな拓也の視線にたじろぐが、見つけた代用品を改めて戻すのも白々しく思えたために、ソレを二人の眼前に神妙に置く。
「…………」
「…………」
「……ま、待て。そんなモノ掴もうとしてナニをするつもりだ……」
「掴まんし何もせんわ! 手を翳すだけだ……っ」
「だ、だけど……それはそこに転がっている女のした―――」
「―――言うな! ただのコットン素材だが何か?」
「こ、コイツ……」
本気なのか―――拓也の瞳の奥が語っていた。
微かな光に灯されて、二人の視線を釘付けにする真っ白い衣類―――即ち脱がせたあかりの下着。
それを中央で囲みながら注視する姿は怖いほどにシュールだ。
拓也からしてみれば、その下着を違った用途で使用しないかが心配だ。そんな光景、おぞまし過ぎて我慢ならない。
往人も違った意味で冷や汗を垂らしながら、代理品へと力を込めた。
すると、ビクリと脈動するあかりの下着。
この世のものとは思えぬ光景に、拓也は肩を震わせた。
「なっ……。ど、どうなっているんだ」
「―――動かし難いが……意外といけるな……」
「か、カップが回って、いや、回るのがカップか……。あ、歩いた……歩いただと……っ!?」
回避
真剣にブラを睨みつける往人と慄きながらブラを指差す拓也。
傍から見れば、完全に馬鹿二人である。
珍妙な光景に我慢の限界が来た拓也は、定番事である吊るすべく糸を捜そうと躍起になって手を彷徨わせるが何かに触れる感触はない。
ますます理解の光景を逸脱した行動をする下着だが、拓也は原因追求のために種明かしを往人へと迫る。
往人が仕方ないとばかりに頷いたことが作用したように、まさしく糸が切れたかのように下着の動きが止まった。
「一応俺の使用できる能力―――法力だ。こういった簡単な小物程度ならば手を使わずとも動かすことが出来る」
「法力……。なかなか便利な能力だね。ということは、制限されている以上、本来ならばもっと常識外れなことも可能という訳か……」
「ま、まあな。制限されているからな、制限。今はこれぐらいしか出来ないという訳だ」
まるっきり嘘だ。
拓也が本来の往人の能力上限を知らないことをいいことに、制限という言葉をダシにして虚勢を張る。
見栄を張った往人の冷や汗も、興奮冷めやらぬ感じで下着を確かめる拓也に気付かれなかったことは幸いだ。
「とまあ、電波を聞かせてくれたお礼だと思ってくれて結構だ。金はいらん」
「当たり前だ。確かに凄い出し物ではあるけれど、金など出してやるほどでもないだろ」
「聞き捨てならんなオイ。俺はこれ一本で全国を渡ってきたんだぞ」
「……一本?」
「い、いや。気にするな。本来ならば人形劇なんだが、見ての通り都合の悪い代用品でしかなかったからな」
「確かにね。正直に言わせて貰うとアレでは気味が悪かったよ」
二人してあかりの下着を哀れむように見詰める。
本当に失礼であった。あかりの意識が健在ならば顔を羞恥で歪ませて咽び泣いたとしても可笑しくはない。
拓也は下着から視線を外して、硬直した背骨を伸ばしながら気怠そうに立ち上がった。
「さて、僕はモタモタとしている場合じゃないから行かせて貰うよ」
「そうか。気をつけてな」
「……アンタに心配されるほどヤワじゃないんでね。余計なお世話だ」
「じゃあ、せいぜい野垂れ死ねよ。……そういや名前なんつったっけ?」
「ふん、月島拓也だ。アンタは?」
「国崎往人。別に覚えてもらわなくて結構だぞ」
「片隅に留めて置くさ。アンタも早いトコくたばれよ」
お互い不敵な笑みを浮かべながら視線を交わす。
言葉を連ねる度に憎まれ口を叩いていたが、拓也にとっては素の自分を曝け出しても抵抗なく会話が弾んだものだ。
認めたくはないが、こういった交流も悪くはない。
内心で苦笑しながら、自分のバックを拾って境内から出ようとした時、往人から声が掛かった。
「おい。忘れモンだ」
「―――おっと。急に投げるなよ」
往人から投げつけられた二つの黒い物体を持ち前の反射神経で手に納める。
覗くと、源蔵に没収された拳銃―――トカレフの弾倉が少量の懐中電灯の光に灯されて光っていた。
拓也は目元を細めて往人を眺める。
「なんだよ。あるんじゃないか」
「マガジンだけな。拳銃は知らん。ともかく、お前のものだろう」
「―――まあ、ねっ」
拓也は二つのうち一つを、再び往人へと投げ返す。
驚きながら手に取った往人は怪訝そうに拓也を窺うが、彼は肩を竦めて背を向けた。
「一つはアンタが持っていればいい。取り分だ、お守りにでもすればいいだろ」
「はっ。ご利益なさそうだな」
「さっさと死ねってことさ」
「……ったく。最後まで口の減らないガキだな……」
苦笑する往人の言葉を背に受けて、拓也は軽く手を振りながら境内を後にする。
外は漆黒の闇に閉ざされており、虫の鳴き声も街の喧騒も皆無。
静かに空へ浮ぶ一条の光を仰ぎながら、彼は最愛の人を思い浮かべる。
(―――さあ、待っていておくれよ瑠璃子。他者には干渉させず、歯向かう奴には制裁を。
禁忌の思いを遂げて、邪魔立てのない二人だけの世界へと共に行こう瑠璃子……)
表情を陶酔に歪ませながら、狂人が歩みを進めた。
まだ回避、必要ですかね?
『国崎往人(035)』
【時間:1日目午後11時頃】
【場所:鷹野神社(F−6)】
【所持品1:トカレフ TT30の弾倉1セット(八発)・ラーメンセット(レトルト)】
【所持品2:化粧品ポーチ 支給品一式(食料のみ二人分)】
【状態:満腹。あかりの起床後行動開始】
『神岸あかり(026)』
【時間:1日目午後11時頃】
【場所:鷹野神社(F−6)】
【所持品:支給品一式(食料及び水は空)】
【状態:気絶中。打撲、他は治療済み(動くと痛みは伴う)。拓也の学ラン着用】
『月島拓也(066)』
【時間:1日目午後11時頃】
【場所:F−6】
【所持品:トカレフ TT30の弾倉1セット(八発)・支給品一式(食料及び水は空)】
【状態:普通。瑠璃子を探し、邪魔立てするものは排除する】
>>hxSJyvJb0
感謝感謝〜
376 :
決断の責任:2006/11/07(火) 08:09:54 ID:GlKDaxNs0
夜の廃墟のホテル、食堂内での爆発後、一発の銃声が部屋中に木霊した
無論その銃声が食堂から廊下へ廊下から皐月たちの部屋に伝わるのは当然のことだった
それが皐月達を食堂へ導くのを早めたのは言うまでもない
「どうしたの!!」
湯浅皐月は食堂に入ると同時に開口一番叫んだ、用心のため手には智子のランダムアイテムであるバズーカと自分の所持品を持ちながら…。
「そうやったな…防弾チョッキ付けとるんやったな、忘れとったわ!」
血だらけの三人組みに銃口に硝煙を燻らせて保科智子の怒号が飛び交う
部屋の床は一面が赤一色、血の匂い、地獄絵図そのものだった
「………っ」
割烹着を着た皐月と同じぐらいの年齢の少年、北川潤は脇腹を押さえ呆然としていた
枯れた声で呻き声を上げながら智子をじっと見つめていた
防弾性があるとは言え銃弾の衝撃までは緩和されない、そしてこのみの惨劇…彼にはどうすることもできない状況だった
(…言い訳が出来ない…しかも寝ている皆も来ちまった…。)
北川は死を覚悟していた、何故このみの首輪が爆発したのか理由は解らない、彼女を突き飛ばしたのは彼の咄嗟の判断だった。
首輪のカウントダウン、必要最低限の犠牲、広瀬と遠野を失いたくない一心、…そして今。
「テーブルの上の銃で(ショットガン)撃ったみたいにドタマ打ち抜いて、さっさとこのみの所に送ったるわ!」
先程の皐月の叫び声は聞こえず、目を血走らせ北川に怒鳴り散らす…。
377 :
決断の責任:2006/11/07(火) 08:12:32 ID:GlKDaxNs0
智子にしろ事の次第は把握できていない、しかし数時間前のエディの件、テーブルの上の北川のショットガン
首から上を吹き飛ばされたこのみの死体、血だらけの三人組、そしてそれを信用した自分自身…。
―――智子は北川達と同じぐらいに自分が許せないでいた―――
彼女は責任感が人一倍強い、自分が北川達を信頼できると判断したからこそホテル内に招き入れた…それは彼女が下した決断、そして今の現状…。
(皐月のこと偉そうに言えんわ…ごめん…ことみ)
それが懺悔の言葉であり、けじめの決意でもあった…智子の銃口が北川の顔面に向けられる、北川は覚悟を極める…。
(ごめん…真希、美凪…。)
心の中で初めて彼女達を名前で呼ぶ北川…。
――――――ガバッ!!!――――――
再度銃口が北川向けられた瞬間、不意に北川に覆いかぶさり彼を庇う影…広瀬真希だ。
子供の様に泣きじゃくり、ダンゴ虫の様に縮こまりながら、北川を庇う
378 :
決断の責任:2006/11/07(火) 08:13:19 ID:GlKDaxNs0
「――――――――――――――――――!!!」
爆死したこのみの返り血を浴びた顔で涙を流し言葉に為らない言葉で頭を横に振りながら智子に叫ぶ広瀬。
「そこを退きぃや!!!」
涙を流し叫びながら銃身が震える智子、尋常じゃない顔で涙を流し懇願する広瀬…。
(うちの…私の責任や…私の所為でこのみが…このみが――――――――――!!!)
「やめて!智子さん―――――――――――――!!!」
事態を把握出来ていない皐月、尋常でない智子、呆然とし覚悟する北川、泣きじゃくり北川を庇う広瀬、とにかく皐月は叫んだ。
智子の銃38口径ダブルアクション式拳銃の引き金が引かれようとする!!
パシッ!―――――――――――――――――――コトン。
軽い音と共に床に落ちる智子の持つダブルアクション式拳銃、湯浅皐月と同じ部屋で寝ていた幸村俊夫の手刀によるものだった…。
同じく俊夫と一緒に来た笹森花梨が智子の銃を直ぐ様拾う…。
部屋中一辺を沈黙が支配する
「………みんな落ち着くんじゃよ…。」
俊夫の言葉が部屋一面に重く圧し掛かった。
379 :
決断の責任:2006/11/07(火) 08:14:15 ID:GlKDaxNs0
(如何すればいいの、宗一、エディさん…。)
ことみの死体、激怒する智子、呆然とする北川、泣きじゃくる広瀬、気絶する美凪、
智子から見れば北川達が殺した風に見れたのかもしれないが、皐月から見れば何もかもがおかしく見れた。
皐月はまだエディの事を立ち直れてはいないものの命がけで思考を張り巡らした
今の状況を冷静な判断が出来る人が欲しい、皐月は心の底から願った…そして。
何も言わずバッグの中からセイカクハンテンダケを取り出し1/4ほど食べて沈黙した…。
エディへの約束、自分の決意、このみの死の意味、北川達の弁護、先走って智子を自分の二の舞にしたくない
全ては皐月の双肩に掛けられていた…。
湯浅皐月
【所持品:専用バズーカ砲&捕縛用ネット弾、予備弾薬80発ホローポイント弾11発使用、セイカクハンテンダケ(×1個&四分の三個)支給品一式】
【状態:性格反転(クール)事態の把握は出来ていないが、先走って智子を自分の二の舞はさせない】
幸村俊夫
【所持品:無し】
【状態:エディの件もあり誰にも誰にも軽はずみな行動はさせたくない】
保科智子
【所持品:なし】
【状態:混乱、激怒(北川よりも自分に対しての怒りの方が大きい)】
笹森花梨
【持ち物:38口径ダブルアクション式拳銃(残弾6/10)】
【状態:事態の把握は出来ていないが、智子に銃を渡さない
保守
北川潤
【持ち物:防弾性割烹着&頭巾】
【状態:呆然 脇腹に痛み(智子を怨んではいない)】
広瀬真希
【持ち物:防弾性割烹着&頭巾】
【状況:号泣(北川に庇うように抱きついている)】
遠野美凪
【持ち物:防弾性割烹着&頭巾】
【状況:気絶】
ぴろ
【状態:爆発音に驚いて食堂の端に逃げた】
共通
【場所:E−4、ホテル跡】
【時間:1日目23:55頃】
【412『突き飛ばされた命』の続き】
【関連247・299・387・393・412】
※北川、遠野、広瀬の荷物はショットガン以外は食堂の端へ、ショットガンのみすぐ近くにテーブルの上に
※皐月以外の荷物は元の寝ていた部屋に
【備考】
SPAS12ショットガン総弾薬数8/8発+ストラップに予備弾薬
北川はゲーム開始から一発も使ってはいない
珊瑚と貴明のやり取りの傍らで沙織がふと、レーダーに目を落とした。
「……ねえ、珊瑚ちゃん。これってやばいんじゃない?」
沙織はレーダーを指し、珊瑚に尋ねる。
珊瑚がレーダーの画面を見るとバッテリーの残量らしいマークが半分程度欠けていた。
「あー、バッテリーの残量が減ってきてるんやな。まあ、昼から使いっぱなしやししゃあないわ」
「じ、じゃあもうそんなに使えないってことだよね?」
沙織がおそれおそれ尋ねる。レーダーが無くなれば行動の危険度が上がるのは素人考えでもすぐ分かるからだ。
「うん、このままやったらな」
「え……このまま…だったら?」
訝しげに珊瑚に尋ねると、珊瑚は事も無げに言ってのけた。
「そや。充電したったらええねん」
「だって、充電プラグも充電器も無いよね。どうやって?」
「充電器が無かったら作ったらええねん。レーダーの下んところに携帯にあるような端子があるやん?そこから充電できるはずやで」
「えっ、つくるって、そんなこと……」
「なあなあ、貴明ー。そこにあるテレビ持ってきてー」
「ん、分かった。おい雄二、ちょっとそっち持ってくれ」
「あいよー」
そんなこんなで珊瑚の目の前にテレビが置かれる。
そこからの流れは見る者を驚嘆させるものだった。
あっ!っという間にテレビは多数の部品にばらされ、組み替えられ、
その次の瞬間にはレーダーの充電器が完成していた。
珊瑚がレーダーを充電器に載せるとレーダーのバッテリー表示が点滅している。
おそらく充電が正常に開始されたということなのだろう。
「はわー、凄いですー」
その様子を見ていて最初に口を開いたのはマルチだったが、他の皆も同様に珊瑚の技量に感嘆していた。
「そや、まるちー。バッテリーのほう大丈夫かー?」
唐突に珊瑚はマルチに呼びかける。
「あ、はい。まだ大丈夫ですよー」
「うちの記憶が確かやったらHM-12型の充電インターバルは8時間ぐらいやったはずや。
これから先何が起きるかわからんし、充電できるうちに充電しといた方がえーよ」
「あー、そうですね。じゃあ、そうします。しばらく失礼しますね」
そう言うと、マルチは自分の手首から充電コードを取り出しおもむろにコンセントに突き刺した。
部屋の片隅でスリープモードに入ったマルチの姿は一部を除けば人間が眠っている様とほとんど変わらないように見えた。
「うち、ちょっとトイレいってくる」
「あ、さんちゃん待ってー、うちも行くー」
そう言うと、二人はリビングから出て行く。
「んー、二人で仲良くお手洗い……仲が良いねぇー」
「雄くん……それってちょっと変態っぽい……」
「ま、待て、新城。そういう意味じゃなくってな……」
狼狽している雄二とジト目で雄二を見ている沙織。
その様子を呆れて見ている貴明の元に珊瑚達が戻ってきたのは数分後のことである。
「そーいえば、貴明達はこれまでなにしてたん?」
戻ってきた珊瑚が貴明達にそう尋ねるが、その手には大量の紙が抱えられていた。
付き添っていった瑠璃の手にもだ。
それが意味することはただ一つ。
それはさっきの筆談の続きをするということ。
「俺達は灯台に居てさ……」
これからの会話に意味は無い。
ただ、筆談をしていることを悟られない為のフェイクだ。
【さっき、何とかなるって書いてたけど、どういうこと?】
【この工具セットがあれば、この首輪、外せるかもしれへん】
【じゃあさ、すぐにでも外してしまおうぜ】
【ううん。まだ、あかんよ】
【何で?何か問題でもあるのか?】
【うん。いくつもな】
【一つは何もないところで首輪の反応が消えたら主催者が怪しむやん?】
【もう一つはうちの首輪。自分で首輪を外すのはかなり難しい】
【そうか。自分の首は難しいか】
【なるほどな。確かに先に誰かだけ外すってこともできねぇし。でも、どうする?】
【瑠璃ちゃんはそういうことできないの?】
【うちは無理や。さんちゃんが凄いねん。さんちゃんは天才やからな】
瑠璃の書いた言葉を疑う者は誰一人いない。それは先ほど目の前で証明されている。
【最初、何とかなるかもしれない、って言ってたよな。何か策があるのか?】
【うん。いっちゃんがいれば。いっちゃんやったら外し方教えれば出来ると思うねん】
【いっちゃんって、誰?】
【9番のイルファさんのこと。珊瑚ちゃんが作ったメイドロボなんだよ】
【じゃあ、そのイルファさんを探して皆の首輪を外せばいいって事?】
【それだけじゃ、まだあかんねん】
【まだあるのか?】
【脱出する方法が無いと首輪外したって意味ない。むしろマイナスになる】
【ん?どういうことだ?】
【雄二が主催者だったとして、首輪が無い参加者が現れたら、どうする?】
【そりゃ、具合が悪いから何とか処分ってそういうことか】
【そう、多分主催者側の人間が処分に来ると思う】
【他にも、一杯困ることはあるよ】
【他にもあるの?】
【うん。例えば首輪を外して死んだことになっているうちらが外歩いてたら
他の参加者の注意を引くだけやし、島の中に主催者のカメラがあるかもわからん
そうやってうちらの事がバレたらやっぱり処分されると思う】
【じゃあ、首輪はいつ外すんだ?】
そう尋ねられ、珊瑚はペンを走らせるのを滞らせた。
ほんの僅かに間を空け、珊瑚は、
【参加者がうちらだけになったら、や】
そう書き記した。
【私達、だけ?】
【さんちゃん、なんでや?】
【うちらって言ってもこれから探す人達も込みやけどな】
【珊瑚ちゃん、理由はあるのかい?】
【理由はあるよ。まず、うちらだけになったら誰かが自分だけ助かりたいという理由で
他の全員を殺したってことにすれば首輪の解除が容易に出来る。
24時間で誰も死なへんかったら全員首輪爆発っていうルールもあるしな】
珊瑚は書き続ける。
【最後の一人が決まれば主催者は何らかの手段でこの島にやってくるやろ。それを乗っ取るしか脱出する道はないと思う】
【でもそうなると、必然的に】
【そう、最低でも一人はうちらが殺さんとあかんって事や】
珊瑚の書く文字が歪む。殺さなければならないという事実の重さが全員の心に暗い影を落とす。
【最後の一人は間違いなくゲームに乗ってる。武器もたっぷりあるやろ。何より場慣れしているはずや】
【じゃ、じゃあさ私達を除いて最後の一人が決まったら私達全員が死んだことにしてしまったら?それなら問題ないよね?】
沙織がある種懇願するかのように書き殴る。
だが、それに答えを出したのは雄二だった。
【そりゃ駄目だろな。俺がもしゲームに乗って死力を尽くして最後の一人になれたのに
戦いもせずに抜け道探して逃げ出そうとする奴が居たとしたら間違いなく殺そうとするだろ。
それまでに何十人と殺してたら数人殺すのが増えたってどうって事ないだろうしな】
結局、どんな形にせよ手を汚さないわけにはいかない。
認めたくない結論を明確にされ、沙織は落ち込むしかなかった。
【それにしたって前提条件が最後の一人を本当に生きて帰らせるという話が本当やったら、や。
違ったら処分しに来た人間がこの島にやってくるのに使った乗り物を奪うしか方法があらへん。
どっちにしても主催者との戦いは避けようがないで】
可能性を二つに絞ってみせることで『主催者が島に来ない』という最悪の可能性を珊瑚は伏せた。
最悪の可能性は出来れば知らないほうが良いのだ。
知れば行動の為の活力が失われかねない。
【だから、これからしないといけないことは事はいっちゃん探しと友達集め、それから最後に使わんとあかん武器集めやな】
全員がため息をつく。
「ちょっと早いけど、ご飯にしーへん?あんまり多くはないけど食べれそうなもんあったでー」
テーブルの上のメモを纏めながら珊瑚が話を切り出した。
今、筆談で伝えないといけない事は全て伝え終わった、という事だろう。
「そうだな。そういえばここに来て何も食ってないんだった」
「じゃあ、うち何か作ってくるわー」
「あっ、瑠璃ちゃん。私も手伝うね」
と、台所に向かう二人に向かって珊瑚が一声掛けた。
「瑠璃ちゃん、換気扇回したらあかんでー」
「なんでやさんちゃん、匂い篭るやん」
「うちらがここに居ること匂いでバレるやん」
「あ、そっか。わかったわさんちゃん」
十数分後、瑠璃・沙織の手によりリビングのテーブルには幾つかの料理が並べられた。
「あんまり食材がなかったから、それで出来るものを作ってみただけやけどな」
「瑠璃ちゃんって凄いの。手際とかがまるでプロみたい!」
新城さんがあんまり褒めるので瑠璃ちゃんがなんだか気恥ずかしそうに見えた。
回避
「でも、食材がほとんど残ってへん。なんとかせんとあかんわ……」
「そっか、じゃあ食材探しもしないといけないな……」
貴明は新たに突きつけられる問題の前に頭を悩ませる。
が、美味しそうな料理を目の前にして悩むのは馬鹿がすることだと思い直し、
「じゃあ、頂こうか」
考えるのは後回しにすることにした。
姫百合珊瑚
【持ち物:水を消費、レーダー、レーダーの充電器、工具セット】
【状態:僅かな擦過傷、切り傷(手当て済み)】
姫百合瑠璃
【持ち物:水を消費、シグ・サウエルP232(残弾8)】
【状態:擦過傷、切り傷(手当て済み)】
河野貴明
【持ち物:水を少々消費、モップ型ライフル】
【状態:健康】
向坂雄二
【持ち物:水を少々消費、ガントレット】
【状態:健康】
新城沙織
【持ち物:水を少々消費、フライパン(カーボノイド入り)】
【状態:健康】
マルチ
【状態:充電中、健康】
共通
【持ち物:デイパック、多量のメモ用紙】
【時間:一日目午後5時40分頃】
【場所:I-07の民家】
→146 Hルート
391 :
守るべきもの:2006/11/07(火) 18:24:30 ID:+qmMxG9e0
リサ=ヴィクセン(119)は海の家に戻り食事を済ませた後、皆を休ませ一人見張りを続けていた。
「Huー…、全く大変な1日ね…。」
一つ、溜息を吐く。
リサも疲れていたが柳川裕也(111)は新たに怪我も負っており、リサ以上に疲れている様子だったので先に休ませた。
倉田佐祐理(036)や美坂栞(100)はリサ達とは基礎体力も戦闘力も全く比べ物にならない。
彼女達を見張りに起用する事は出来なかった。
考える。
明日はどう動くべきか。出来れば宗一と合流したいが、今は柳川がいる。それに装備も充実している。
宗一と合流するに越した事は無いが、戦力の増強は最優先事項では無いだろう。
ならばどうすべきか。
リサが考え込んでいると、後ろで物音がした。
どうやら柳川が起きてきたようだった。
「柳川、もっと休まないと駄目じゃないの?」
「もう十分休んだ、後は俺が見張ろう。お前こそ、疲れているのが一目で分かるぞ。」
リサは柳川の様子を伺ったが、怪我こそ負っているものの体力面ではどうやら本当に大丈夫そうだ。
「Wow…、『鬼の力』というものは本当に凄いのね。」
リサは驚きを隠せないでいる。
柳川は自分の肩を少し動かしてみたが、まだ痛みが走るようだった。
「本来の力ならこの程度の傷、一晩寝れば殆ど治るのだがな……。今は体力の回復だけで限界のようだ。」
「All right.じゃあ見張りをお願いするわね。でも、少し考え事をしてるからもうちょっとだけここにいるわ。」
リサはそう言うと、口の前で人差し指を立ててから柳川を手招きし、紙の裏にペンを走らせた。
リサは紙の裏に【喋らないで。】と書き込んでいた。
リサが続きを書こうとするが柳川はそれを手で制し、自分のペンを取り出し紙に字を書き始めた。
【分かっている、盗聴されているんだろ?】
【That's right.やっぱり気付いてたのね。さっき寝てる栞の首輪を調べたけど、多分盗撮はされてないわ。】
そう言って、リサは自分の首輪を指差した。
柳川はリサの首輪を念入りに調べたが、レンズなどの撮影に必要な物は見当たらなかった。
【そのようだな。だがこんな筆談などしないでも、俺達が盗聴に気付くくらい、多分予想されているぞ。】
【でしょうね。だから、主催者に聞かれたら不味い会話だけ筆談でするようにしましょう。】
392 :
守るべきもの:2006/11/07(火) 18:25:25 ID:+qmMxG9e0
【それも無意味だ。俺は既に何度も主催者を殺すと言ってるが、特にお咎めはないようだしな。】
それを見たリサは人指し指をたてて、チ・チ・チ…というポーズをとった。
【No.それは違うわ。そんな事でいちいち首輪を爆破していたら参加者が大幅に減ってしまうわ。主催者が本当に首輪を爆発させるのは】
そこで気付いたのか、柳川がペンを走らせ始めた。
【実際にゲームに支障が出そうになった時……つまり俺達が首輪を外す直前、もしくは主催者に襲撃をかける直前という事か?】
【Yes.その時だけ筆談にすれば大丈夫だと思うわ。それと、この事はまだ佐祐理と栞には……】
そこまで書くと、柳川は頷いた。
【分かっている。直前まで伝えるな、だろう?】
【話が早くて助かるわ。】
リサはそこまで書くと、紙とペンを片付けた。秘密会議は終わったという事だろう。
「柳川、明日はどうするの?」
「ゲームに乗った連中を倒しつつ、首輪を解除出来る人間を探すつもりだ。
この忌々しい首輪をどうにかしない限り、何かやった途端にドガン、だからな。」
コンコン、と人差し指の先で首輪を叩き、肩を竦めた。
「そうね、私もそれで良いと思うわ。ただ出来れば……」
「分かっている。倉田の探し人と美坂の探し人を見つけてやれ、だろ?」
「Yes.でも何処にいるか分からない以上、私達がやる事は変わらないでしょうけどね。」
「ああ、とにかく動き回るしかないだろうな。人を探すのにも、ゲームに乗った連中を止めるのにも、それしかないだろう。」
それからリサは視線を落とし、少し考え込むような動作を見せた。
「まず首輪を解除出来る人間がどこにいるか、そもそも存在するかも分からない。
仮に上手く首輪を解除出来たとしても、主催者側の情報が殆ど無いわ。」
「これだけ大規模な事をやってのける連中だ…相当な戦力があると考えて間違いないだろう。
主催者との対決はまさしく死闘になるだろうな。」
「前途多難ね……。でも柳川、あなたが目的以外の事を全く省みないような人じゃなくて良かったわ。」
リサはそう言って、にこっと笑った。
「何?俺はゲームを破壊する事しか考えていないぞ?」
柳川は意外そうな顔をしていた。
そんな事を言われるとは全く思っていなかったからだ。
393 :
守るべきもの:2006/11/07(火) 18:26:40 ID:+qmMxG9e0
「本当にそうなら、あなたは佐祐理や栞を置いていこうとした筈よ。違うかしら?」
言われて柳川ははっとした。
それは確かにリサの言うとおりだった。
ゲームに乗った者を止めるのも主催者を殺すのも、リサと二人で行動した方が効率良く行なえるだろう。
明日はリサと二人だけで動くべきではないか、という考えが一瞬浮かび上がる。
しかしすぐにその考えは消え失せた。
「俺にとっての最優先事項はゲームの破壊だ、その為ならゲームに乗った者を殺す事にも躊躇いは無い。
だが同時に、倉田を守りたいとも思っている……奴には借りもあるしな。」
その声からは強い意志が感じ取れた。
リサはそれを聞いて、強く頷いた。
「私もあなたと同じよ。栞は絶対に守るわ。」
そう言った後に、リサの目が心持ちいたずらっぽくなった。
「私は正義のヒロイン、貴方は正義のヒーローってワケね。」
「…くだらん、何がヒーローだ。もういいから早く寝ろ。」
柳川は馬鹿にしたような口調でそう言ったが、その口元には微かに笑みが浮かんでいた。
「All right.じゃあ、後は頼んだわね。」
リサはそう言って立ち上がると、栞達が寝ている部屋の方へと消えていった。
「守りたい、か。俺も随分と丸くなったものだな…。」
制限のおかげで自我を取り戻したとは言え、過去の自分はそんな人間では無かった筈だ。
柳川は自分の変化に少し戸惑いを覚えていた。
リサが寝た後は、辺りにはただ波の音だけが響いていた。
それでも時間は確実に流れ続けている。
夜明けの時は刻一刻と迫ってきていた。
394 :
守るべきもの:2006/11/07(火) 18:27:47 ID:+qmMxG9e0
【時間:2日目午前3時20分頃】
【場所:G−9、海の家】
リサ=ヴィクセン
【所持品:鉄芯入りウッドトンファー、二連式デリンジャー(残弾2発)、食料、支給品一式】
【状態:睡眠中】
倉田佐祐理
【所持品:自分と楓の支給品一式、 吹き矢セット(青×5:麻酔薬、赤×3:効能不明、黄×3:効能不明)】
【状態:睡眠中】
柳川祐也
【所持品@:出刃包丁、(ハンガーは海の家の一室に破棄)、M4カービン(残弾30、予備マガジン×4)】
【所持品A、コルト・ディテクティブスペシャル(弾数10内装弾3)、自分の支給品一式】
【状態:見張りをしている。左肩と脇腹の治療は完了したが、治りきってはいない。】
美坂栞
【所持品:支給品一式】
【状態:睡眠中】
(関連・76・344・392)(ルートB-9・B-10・B-11)
沈黙。それは、余りにも重過ぎる空気。
定時放送は、見事に二人の期待を裏切った。
「・・・ぐすっ、うえぇ・・・」
最初に崩れたのは立田七海、手で顔を覆い泣き崩れる彼女の姿はあまりにも弱々しい。
車椅子ゆえ、駆け寄って抱きしめることもできなければ屈んで背を撫でることもできない。
小牧郁乃は自分の状態を恨んだ。
だがそれ以前に、彼女自身精神的にも・・・かなり参っていた。
郁乃にとっての大切な人、小牧愛佳の名前も放送に上げられたということ。
正直、もう夢も希望も朽ちた気がした。
あまりの非現実さに、涙も出てくれない。
現在二人が身を潜める場所として選んだホテル跡、ここにちょうど辿り着いた時その放送は流れた。
爆発により傷んだ建物のどこにスピーカーなんてあったのか、探す気にもならない。
・・・それぐらい、二人は打ちのめされていた。
ロビーらしき入り口から少し入ったレストランにて、今二人は息を潜めている。
とりあえず身を隠すにしても、車椅子の郁乃は上には上れない。
エレベーターが使えるかどうかを確認してはいないが、もし先にこの建物に入っていた人物がいた場合・・・それを使用するのは余りにも、危険な行為であったから。
「どうしたの、一体何を泣いているの?」
呆けていて気づかなった、駆けられた声で郁乃は現実に戻される。
「だ、誰?!」
カツ、カツ・・・暗闇の中で響く靴の音。ローファー辺りだろう。
咄嗟のことで動けない二人の前に現れたのは・・・郁乃と、同じ制服を身にまとった少女であった。
いや、少女と言うには、少し大人っぽすぎるかもしれない。
明らかに上級生、そう見て取れる。
「・・・悲しいことがあったの?私もよ・・・」
暗い建物の中、近づいてきたものは憔悴しきった表情。
病的な眼差しに、「ひっ」と郁乃は小さな悲鳴をあげてしまった。
「何で死ななくちゃいけなかったのかしら・・・あの子が・・・」
ぽろり。瞳から流れる雫。
「何で守れなかったのかしら・・・私・・・」
つーっと流れていく涙を、二人は呆然と眺めていた。
大切な欠片を失くした悲しみ、それは今二人が抱えているものと同じもの。
目の前の彼女に対し、一気に親近感が膨れ上がる。
腰を上げ、黙ったままでいた七海が彼女の正面に向け歩みだした。
「私も・・・です。さっきの放送で告げられて・・・も、もう、どうすればいいか・・・」
「そうなの・・・一緒ね。私も、さっきの放送で知ったわ」
「何で、何でこんなことに・・・」
「分からないわ、分からない。・・・私は、何のために手を汚したのかしら」
え、という呟き。
彼女の傍まで駆け寄っていた七海の足が止まったのは、その時。
「私は、これから何のために手を汚せばいいのかしら」
「七海!!」
郁乃の叫び、それに応じることなく崩れていく七海の体。
最初に膝がつき、そして前のめりに倒れ伏せる。
じわっとした血の泉が、その瞬間にどんどん広がっていく様に郁乃は息を呑んだ。
「・・・どういうことなの?」
一呼吸を終えた後、郁乃は改めて目の前に対峙する女を睨みすえる。
彼女の視線の先には目の前の女の握るバタフライナイフがあった。
「ふふ・・・分からないわ。私も」
女は屈みこみ、さらに止めを刺すようにと血の滴り続ける刃物を崩れ落ちた七海に突き刺していく。
「や、止めて!そんな・・・七海、ななみ!!」
「ふふ・・・切り口が浅いと、また殺り逃しちゃうかもしれないんですもの。
こういうのは、しっかりやらないとね」
狂ってる・・・車椅子の両端を握り締め、郁乃は怒りと恐怖の両極端な感情に振り回された。
その間も、女の動きは止まない・・・彼女がゆらっと再び立ち上がった時、七海であったはずの少女は悲惨な形に変形させられていた。
「奪う側に回るっていうのは、もう決めたことだから撤回はしないわ」
ゆらり。女の視線がこちらに向く。
郁乃は自分の支給品の入ったバックを握り締め、今まで開けることのなかったその中身をまさぐった。
「それに、あなた私の一番癪に障る女の雰囲気にそっくり」
カツ、カツ・・・再びローファーの音が響き渡る。
「刻んであげる」
気がついたら、向坂環の影は目の前までせまっていた。
398 :
補足:2006/11/07(火) 18:46:27 ID:z/K/6Qg80
向坂環
【時間:1日目6時半】
【場所:E−4(ホテル跡、一階レストラン)】
【持ち物:バタフライナイフ、爆竹&ライター(爆竹残り9個)、他基本セット一式】
【状況:郁乃と対峙】
小牧郁乃
【時間:1日目6時半】
【場所:E−4(ホテル跡、一階レストラン)】
【持ち物:支給アイテム不明、車椅子、他基本セット一式】
【状況:環と対峙】
立田七海 死亡
七海の支給品は傍に放置
(関連・130・269)(A・Dルート)
399 :
3輪の花:2006/11/08(水) 00:46:55 ID:4Uly9k4X0
【前回までのあらすじ】
鬼姉妹次女・梓さんからの誤解を受け、喧嘩を吹っかけられた柳川さん。
そんな彼を救ったのは、自らを盾に梓の爪の前に飛び出したさゆりんでした。
しかし梓の与えたダメージは致命傷で、さゆりんは命を落としてしまいます・・・。
柳川さんは涙しました。
涙し、そのやるせない思いから鬼に進化してしまいました!
・・・しかし、島には能力制限がかかっているらしく、それを越えての鬼変化は柳川さん自身にも大ダメージを与えます。
あと、柳川さんの服にも大ダメージを与えます。
柳川さん自身はともかく、服に関しては壊滅的です。
今、柳川さんはあられもない姿で、この島に放置されてしまったのです・・・。
「うえ〜ん、寒いよさゆりん〜」
時刻は深夜、夜風は柳川さんの柔肌を痛めつけます。
仮眠どころではないです、このまま眠ってしまうと永眠しそうです。
ガタガタと震える柳川さん、一応建物だしーと甘く見ていていましたが、この廃墟。
スタート地点で使われた→つまり一部爆破されたということで、とにかく隙間風がひどいのです。
今更新しい寝床は探せません、探す気力も体力も0です・・・柳川さんぴんち。
そんな時です。建物が、ミシミシと音をたて始めました。
「はて、誰か来たのかな」
柳川さんは部屋の隅っこにいたので、もう逃げも隠れもできませんでした。
仕方ないので、殺気だけは放っておきます。
400 :
3輪の花:2006/11/08(水) 00:47:31 ID:4Uly9k4X0
「えっと、誰かいるんですか〜」
「こ、こら!不用意に声をかけるんじゃないっ」
「で、でももしケガをした人だったら・・・」
男女の会話。微笑ましいです、数時間前の自分とさゆりんの姿を重ねてしまいそうになります。
「う、羨ましくなんかないんだからね!」
「あ、芳野さん。ここの部屋から何か声が聞こえましたよ」
「マジで?」
(しまった、罠だったか?!)
ついつい声を上げてしまった柳川さん、大ぴんちです。
カチャ・・・ドアを開け、部屋に踏み入れてきたのは・・・女学生と繋ぎの男でした。
「きゃっ!」
「うお、何で素っ裸の男がこんな所に?!」
手で顔を覆うもののしっかり指の間から柳川さんの裸身を眺める女学生と、リアクションが普通過ぎて面白くない男。
敵意はなさそうです、柳川さんは心底ほっとしました。
「これに関しては説明させてくれないか、少々複雑な事情があってな・・・」
股間を隠しつつ正座で説明し始める柳川さん、女学生と男もつられて正座してしまいます。
「かくかくしかじかで・・・とにかく、大変だったんだ」
「そうですか、可哀想です・・・。私、長森瑞佳です。何か協力できることがあるようでしたら、遠慮なく言ってください」
女学生こと瑞佳さんは、非常に優しい女性でした。
思わず柳川さんの涙腺も緩みます。
401 :
3輪の花:2006/11/08(水) 00:48:12 ID:4Uly9k4X0
「すまない・・・では、その繋ぎでも貸してくれないか」
「え、俺?」
「このままだと寒くて風邪を引いてしまいそうでな」
「いや、これを渡したら今度は俺の露出ショーじゃないか・・・」
「それでしたら、私いいもの持ってますよ」
ごそごそ。瑞佳さんが支給された鞄を探ります。途端、隣の男の表情が「げっ」という感じで歪みました。
じゃーん。瑞佳さんが取り出したのは、可愛らしい制服三種でした。
「防弾性らしいので、体にも安全です。ホックの位置でS〜XXLまで即対応、優れものなんですよ」
「ほほぅ、それは素晴らしい」
「このトロピカルタイプなんて、ちょうどパンツになりそうですね」
「よし、早速はいてみよう」
ちょっとキュッとなりすぎかもしれませんが、普段ビキニパンツを愛用している柳川さんにはむしろちょうど良かったようです。
これで正座をする理由もなくなりました、体勢を崩して柳川さんは二人に感謝の握手を求めます。
「・・・や、遠慮しとく。とりあえず、手、洗ってからな」
男の拒絶の言葉は、柳川さんのガラスの心にヒビを入れます。
ですが男はそれに気づきません、こういう男はきっとすぐ女にも愛想をつかされるだろう・・・と柳川さんは思いました。
「で、何であんたはフル装備する、その制服を」
「寒いからだ」
「それでも腹でてるが・・・何ならもう二着も着たらどうだ?上から」
「いや、防弾性のくせに防暖性も兼ねているらしい。素晴らしいな、これ一枚でぬくぬくだ」
「お役に立てて良かったですよ」
足手まといこと瑞佳さんも、やっとこさ自分が役に立つ時がきてくれたようでご機嫌です。
402 :
3輪の花:2006/11/08(水) 00:49:03 ID:4Uly9k4X0
「ついでに私も着替えちゃいましたよ、浩平に見てほしいな」
「嘘、いつ?!」
男が柳川さんに気を取られている隙にです。
女学生の生着替えを見逃したことに対し、成人男子達はこっそり舌打ちをしました。
一方瑞佳さんは、黒ストまで決めてぱろぱろタイプを見事に着こなしているようです。
これはいいビジュアルです。・・・さて、残る制服は一着。
「はい、芳野さん。あとは芳野さんで完成です」
「・・・は?」
「うむ、お揃いか。いい響きだ」
「よくねーよふざけんなよ」
「う〜ん、無理やり剥いちゃえ」
「了承」
「は?!ふざけ・・・わぁ〜〜〜〜!!!!!!」
今ここに、3輪の花が誕生しました。
403 :
3輪の花:2006/11/08(水) 00:49:39 ID:4Uly9k4X0
長森瑞佳
【持ち物:某ファミレス仕様防弾チョッキ、ぱろぱろ着用帽子付・自分の制服・支給品一式】
【状態:ご満悦】
芳野祐介
【持ち物:某ファミレス仕様防弾チョッキ、フローラルミント着用・繋ぎ・Desart Eagle 50AE(銃弾数4/7)・サバイバルナイフ・支給品一式】
【状態:異常はないけれど精神的に疲労】
柳川 祐也
【所持品:某ファミレス仕様防弾チョッキ、トロピカルタイプ着用】
【状態:新しい仲間ができて嬉しい】
【能力の制限について:エルクゥ化できる条件は、喜怒哀楽の感情が一定以上に
昂ぶった時(判断は書き手様にお任せします)。回数は10時間に1回程度で
1回の変化につき、最大で1時間まで。その後、30分ほどは激痛と脱力感に
見舞われて無防備になる・・・らしい】
【時間:午後11時半】
【場所:H−7、元スタート地点の廃墟】
関連→253→280、Bの柳川さんの能力が解放されてるルート共通
月も星も見えぬ、その夜の沖木島。
空一面を覆う雲を、それでも見上げる漢がいた。
「―――逝ったか、由真よ……」
吹き抜ける風の音に、何を聞いたか。
呟くと、漢は目を細める。
「戦火に斃るるは長瀬が運命―――。
いつか来る日と分かってはおったが、やはり……慣れぬものよの」
大きく溜息をつき、目を伏せる漢。
黙祷であろうか、握った拳を胸に当ててその場に佇む。
夜の森に静けさが落ちる。
だがそんな静寂を打ち破る声が、唐突に響き渡った。
甲高い、少女の声だった。
「Hey、そこでタソガレてるお爺さん、大人しくほ〜るどあっぷネ!」
「……」
漢は目を閉じたまま答えない。
声が、少し苛立ったように大きくなる。
「お爺さんの背中はアタシがロックオンしてるヨ!?」
「……」
漢はゆっくりと息を吐くと、やはり緩やかな動きでその両腕を上げる。
声が、落ち着きを取り戻した。
「OK! それではお爺さん、ジャストワン、聞きたいことがあるネ!」
「……何じゃの、お嬢さん」
「わっと!? どうしてアタシがスクールガールだとわかりましたか!」
「……その声を聞けば、誰でも判ると思うがの」
「No! それはセクシャルハラスメント、あるいは人種的差別発言デース!
訴えますヨ! こちらにぐれいとな弁護士ついてマース!」
「……で、お嬢さんは何が聞きたいのかの」
華麗にスルー。
「オウ、そうでした! お爺さん、ほわっちゅあねーむ?」
「……お館様からいただいた名は、ダニエルと申す」
「ダニエル! Coolネ!」
「……」
「……」
短い沈黙が降りた。
「Why? なぜダニエル死にませんカ?」
「……いかなわしとて、そこまで老いぼれてはいないつもりだがの」
「No……No,No,Noデース……」
ひどく落胆したような声。
「やっぱりジャパニーズジョークは中途半端ネ……こんなの紙くずデース……」
「……何ぞ知らぬが、期待に応えられなかった様で済まぬの」
「No、お爺さんのせいではないヨ……こんなの、鼻かんでやるデス……ちーん」
「……用が済んだのなら、もうお暇させてもらってもいいかの、お嬢さん。
こう見えても、それほど暇な身ではないでな」
「Yes、そうデシタ……OK、それではグッバイ、デス……」
声と共に飛んできたのは、一本の矢であった。
必殺の勢いをもって放たれたそれは、狙いたがわず漢の首筋を目掛けて飛び、
そして、二本の逞しい指に挟まれて止まっていた。
「わ、わぁっと!?」
「―――長瀬奥義・二指真空把」
戸惑ったような声。
漢の呟きが、果たして理解できたかどうか。
「……長瀬の拳は有情に非ず」
言いながら、漢の指がジュラルミン製の矢を、まるで飴細工か何かのように
捏ね回していく。
「OH……ジーザス……!」
「この戦乱の世にあって、由真は……優しすぎたのやも知れぬ」
「ニンジャ……!? ミフネ……!? No……!」
叫びと共に、幾本もの矢が放たれる。
だが、その矢が背に突き立つ前に、漢の姿は掻き消えていた。
「ど、どこデスカ……ヒィッ!?」
声の主である少女は、身を隠していた大樹の陰で凍りつく。
その背にそっと触れるものがあった。漢の拳である。
少女の背後に立つ漢は、どこか悲しげにも聞こえる声音で囁く。
「これは、残悔積歩の拳……若人よ、己が罪を悔い、輪廻せい」
漢の声を、少女は既に聞いていない。
少女の意識は、自らの身体に起こった異変に対する恐怖で満たされていた。
「ぉ……ごぉ……が……」
奇怪なことに、少女の足はその意思に反して後ずさりを始めていた。
全身の筋肉、全身の神経が膨れ上がっていくような違和感。
「……最後の十歩、有意義に過ごすことじゃ」
少女に背を向け、歩き出す漢。
その頬に、落ちるものがあった。
見上げれば、天から落ちる幾粒もの滴。
「涙雨……、かの」
呟いた漢の背後で、少女の断末魔が響いていた。
【時間:2日目、午前2:00頃】
【場所:D−4】
【長瀬源蔵】
【所持品:防弾チョッキ・トカレフ(TT30)銃弾数(6/8)・支給品一式】
【状態:鎮魂】
【宮内レミィ】
【状態:死亡 「ぺぎぃ!!」】
※レミィの所持品:和弓、矢×5、死神のノート、他支給品一式は放置。
※※この時間から雨が降り出しました。
→150 →327 →347 ルートD-2
星空を見ながら宗一は一人考えていた。
放送のこと。
告げられたゆかりの、醍醐の、篁の死。
診療所でのこと。
暴れだした佳乃、怪我を負った郁未と葉子、そして聞かされた早苗の死。
何が真実で何が嘘なのか、今までに無いほどいろいろな事が一度に起きすぎて宗一の頭はパンク寸前なほど混乱していた。
考えても答えなんか出るわけが無い、そう思った宗一は今すぐにでも出発したかったところなのだが
郁未が急に熱を出した倒れたため、一緒に行くかと聞いた手前置いていくことなどできず、しばしの休息を取ることになった。
そして今、扉一枚隔てた向こうでは葉子と郁未は静かに眠りについている。
見張りとして起きているのは良いのだが、一人だとどうしても考えてしまって今に至っていた。
疲れがたまっているのか眠気が少しずつ押し寄せてきた。
この程度の修羅場なんか何度も味わってきているじゃないか。
最近鈍ってたのかなと自分を奮い立たせるように自身の顔をひっぱたいた。
と同時に内側からコンコンと言うノックの音に、思わず宗一はFN Five-SeveNを構えていた。
ゆっくりと扉を開けて顔を出したのは鹿沼葉子だった。
もっとも中には葉子と郁未しかいないはずで、敵が進入してきたのだったらノックなどしないはずだろうと宗一は自分の行動に苦笑した。
「どうした?」
銃をおろし、葉子に尋ねる。
「宗一さんごめんなさい、郁未さんが目を覚ましたんですが……」
言いながらも、その先を続けることに躊躇いが見えた。
「ですが?」
「えっと……汗が気持ち悪いらしくて身体を拭きたいそうなんですが、お湯とかタオルとかお願いできませんか?」
自分の足はこうですので、と葉子は指差しながら言った。
ここまで来るのにも一苦労だったのか、葉子の顔にも汗が流れ、どこか青白い。
わかった、と頷くと葉子の肩を抱きベットに戻す。
隣のベットで郁未がどこか罰が悪そうにしていたが、気にするなと笑いながら診療所の中を散策しに向かった。
なかなかの設備が整っており、暗いながらも目的のものはすぐに見つけることが出来た。
大き目のタオルと洗面器、そして患者用のガウンを手に取ると、
仮眠室らしきところでヤカンとコンロを見つけ、湯を沸かし二人の元へと戻った。
「これでいいか?」
「はい、ありがとうございます」
葉子にタオルとガウンを、郁未にはお湯の入った洗面器をそれぞれ手渡し
「じゃ俺は見張りの続きをしてるから」
と扉に向かおうとする宗一を郁未が呼び止めた。
「宗一さん何度もごめんなさい、いいかしら?」
「ん?」
宗一はくるりと踵を返す。
「良かったら拭いてもらえないかしら?少しまだ身体がだるくて……」
「……はい?」
「私もちょっと身体が重いので……お願いできませんか?」
拭くって何を?ヤカンか?んなわけないよな……。
んじゃ何か、この二人は出会ったばかりの俺にその柔肌を拭いてくれと言ってる訳か?
ハハハ、んなアホな。
だが宗一の返事を待たず郁未は上着をグイッと脱ぎ捨てると、その裸身惜しげもなく晒す。
「ぶっ!」
同じように葉子も上着を脱ぎ捨てると、懇願するように宗一の顔を見つめた。
「と、とりあえずわかったから、上、上を隠してくれ!」
鼻の下が伸びるのを必死に隠すように顔を逸らしながら、二人に叫ぶ。
だがどうしても目線は二人の胸元を追ってしまっていた。
二人はさも気にして無いと言わんばかりに笑っていたが、あまりの宗一の悲痛な訴えにガウンを羽織る。
なんで俺はこんなことをしているんだろう……。
お湯にタオルを浸し、郁未の背中をゆっくりと拭きながら宗一はテンパっていた。
目の前に広がる白い肌が、体中の血液を頭へと送り込んでいく。
シーツで胸元や足は隠しているものの、垣間見える生まれたままの郁未のその姿に変な想像が止まらない。
チラッと後ろを見ると、ガウンを羽織ってはいるがその下には同じように下着一枚つけてない葉子が座っている。
ゴクリ、と自分の喉がなるのがわかった。
頭へと上った血液が一気に下へと向かっているのも自覚してしまう。
ちょ、勃つな!落ち着け息子よ!
宗一の気持ちとは裏腹にズボンの下では自身の育成を邪魔する布と必死に格闘する息子の姿。
タオルを掴む手が興奮してうまく握れない。
思わずズルッと手が滑り郁未の背中を掌でなでおろしてしまった。
「ひゃっ!」
いきなりの冷たい感触に、郁未が身体を震わせ悲鳴を上げる。
「ご、ごめん!」
落としたタオルを取ろうと宗一が目線を下に落とすと、郁未がクルリと振り返り上目遣いで見下ろしていた。
「フフフ……」
その表情の妖艶たるや否や。
ゆっくりと右手を宗一の顎に伸ばし
「何を考えてたの?」
と尋ねてくる。
答えることが出来ずに宗一は逃げるように後ずさった。
だがその背中に柔らかい感触が当たる。
恐る恐る振り返ると葉子に抱きかかえられるように、宗一の身体は葉子の身体に収まっていた。
「あら……?」
宗一の姿を見て、葉子も嬉しそうに微笑む。
「郁未さん、宗一さんのここ、こんなになってますよ?」
葉子の右手が宗一の股間に伸びる。
「ちょ、ちょっ!」
逃げようとする身体を押さえるように郁未が身体で道をふさいだ。
「あら、ほんと」
「ね?」
まさぐる葉子の右手の動きが少しずつ早くなり、
郁未ははだけたシーツを直そうともせず、胸を宗一の身体に当てながら今度は下目に声をかけた。
「……ねぇ、何を考えてたの?」
繰り返された郁未の言葉に宗一の頭は真っ白になる。
何も答えない宗一の顔を見て、郁未はからかうように笑うと、頭を下げ、ズボンのファスナーに手をかけた。
――いや、ちょっと、さすがにそれは!
止めようと叫びかけた宗一の口は葉子の唇によって塞がれた。
咥内に侵食する舌の感触に、脳がとろけそうになり意識が飛びかける。
全身から力が抜け、抵抗する意識の消えかけた宗一を見上げると、嬉しそうに郁未はトランクスごとズボンをずり下げた。
股間に聳え立つその巨頭を嬉しそうに眺めると、郁未は躊躇うことも無く咥えこんだ。
――ちょっ!郁未さん!それやばい、やばいって!
上は葉子、下は郁未に執拗に全身を舐られる。
何かを言いたくても考えたくても、襲ってくる快楽に手も足も出ずただ流されることしか出来なかった。
――あ、ダメ、あ、ああああああ
勢いよくそこで宗一は身を起こした。
自身の眼前には先ほどと変わらぬ星空。
身体を見渡すも服は脱がされた後も無く、先ほどと何も変化は無い。
強いて違いを上げるとすれば股間がじんわりと冷たい。
――最悪だ、俺……
数分後、ベットで眠る二人を起こさないようにそっとトイレに入り、
頭を抱えながら下着を洗濯する宗一の姿があった。
那須宗一
【所持品:FN
Five-SeveN(残弾数20/20)包丁、ロープ(少し太め)、ツールセット、救急箱、ほか水・食料以外の支給品一式】
【状態:洗濯中】
天沢 郁未
【持ち物:支給品一式(水半分)】
【状態:右腕と頭に軽症(手当て済み)、睡眠中】
鹿沼葉子
【所持品:支給品一式】
【状態:肩に軽症(手当て済み)右大腿部銃弾貫通(手当ては済んでいるがまだ歩けるほどではない)、睡眠中】
共通
【場所:I-07診療所】
【時間:2日目2:00】
(関連363 B-11・J-3)
「一弥と」 「マリーの」
「「なぜなに設定資料コーナー!!」」
「こんにちわ、僕は司会の倉田一弥。このコーナーでは、
本編ではなかなか語ることの出来ない隠された設定を紹介していくよ」
「Bonjour. わたくしは相方の相沢マリーですわ」
「今回のお題はずばり、『7年前の華音市での戦い』について」
「祐くんが唯一者として覚醒するきっかけとなった戦いですわね」
「うん。一般には知られていないけど、この戦いは唯一者狩りを目的としたものだったんだ。
唯一者というのはね、世界そのものとして生まれたただ一人の特別な運命を背負った者なんだ。
唯一者はその先代が使命を終えて亡くなったときに、銀の羽を持つ者として誕生するんだよ。
それが誰になるかは神のみぞ知るといったところかな。
そんな運命に選ばれるなんて、祐一お兄ちゃんてかっこいいよね」
「もちろんですわ。祐くんよりかっこいい方などこの世に存在しませんもの。
ところで祐くんの使命というのは何なのかしら?」
「そんなネタバレ質問には答えられないよ。
唯一者は覚醒するまでその存在を隠されて育てられるんだ。
だから祐一お兄ちゃんが唯一者であることは、
秋子さんと亡くなった先代相沢家当主しか知らないはずだったんだ」
「しかし久瀬家は、華音市に唯一者がいることを突き止めたのですわね」
「うん。詳細はわからないけど、政府や来栖川のバックアップを受けていたらしい。
異能者を忌み嫌う久瀬家としては、他人の魂を生きる糧とし、
常識を超えた様々な能力を持つ唯一者をなんとしても排除したかった。
そんなことをしても本当は意味がないんだけどね」
「そしてその戦いは皮肉にも祐くんを覚醒させることになったのですわ」
「久瀬家は誰が唯一者なのかまでは突き止められなかった。
だから『疑わしきは殺せ』の旗印の下に、僕たちのような大勢の無関係の子供たちが犠牲になったんだよ。
129『賭け』でお姉ちゃんが言ってる『佐祐理の罪』とは、このとき僕たちを助けられなかったことなんだ」
「酷い話ですわ」
「久瀬家は最初は暗殺を繰り返していたんだけど、水瀬家が真相に気付いたために全面戦争に発展した。
関係者の多くは記憶を失っているし、対外的には伏せられていたから一般市民は知らないことだけどね」
「この戦いには狙われていた子供たち自身も参加し、大勢が死亡した。
生き残った人でも、呪いで不治の病を患った栞さんのように後遺症を持つ者が少なくない。
そしてこの戦いで最も活躍したのが、祐一お兄ちゃんの親友だった月宮あゆ」
「彼女が木から転落したことが祐くんが覚醒するきっかけとなったんでしたわね」
「そうだよ。そして祐一お兄ちゃんが引っ越していったことで、この戦いは一応の終わりを向かえたんだ」
「引っ越していった先では何があったのかしら?」
「それはまたの機会に。今回はこの辺でおひらきにするよ」
「「またねー!!」」
倉田一弥
【場所:設定資料コーナー】
【設定:7年前の唯一者狩りで久瀬家の刺客に殺された佐祐理の弟。Sランク。属性は闇。
祐一に憧れるショタ。彼を助けられなかったことは佐祐理のトラウマとなっている。】
【状態:無駄な設定資料集はU−1SSの醍醐味だよね】
相沢マリー
【場所:設定資料コーナー】
【設定:7年前の唯一者狩りで久瀬家の刺客に殺されたの祐一の従姉。Sランク。属性は光。ハーフ。
当時はフランス相沢家からバカンスに華音市に来ていたところだった。祐一を可愛がるお姉さま。】
【状態:馬鹿みたいに長い設定資料集を見てSS本編を読む気が失せた経験はないかしら?】
ルートD
415 :
無防備な少女:2006/11/08(水) 21:40:50 ID:ecC/pIbF0
「さて、どこがいいかしらね・・・・」
昼間から戦い続けた事もあり、千鶴の体力は限界が近付いていた。
治療は済ましたが、肩の怪我も気になる。今は休養が必要だった。
しかし千鶴は単独行動をしている為、寝ているところを誰かに見つかったら非常に危険である。
出来る限り見付かる可能性が低い場所を選ばなければならない。
「ウォプタルさん、明日まで大人しくここで待ってて頂戴ね」
ウォプタルはクワーッと鳴いて返事をした。千鶴をウォプタルを木に繋いで歩き出した。
千鶴が選んだ場所は高原池近くの森の中だった。
民家に泊まるという選択肢もあったが、このゲームでは民家の需要が高い。
たくさんの参加者が寝場所や使える物を求めて民家に侵入してくる。
必然的に誰かと出会ってしまう危険性も高くなる筈であった。
またウォプタルは目立つ為、寝床はウォプタルと少し離れた場所にしなければならないだろう。
もしかしたらウォプタルが誰かに盗まれてしまうかもしれないが、寝込みを襲われるよりはマシである。
ウォプタルを離れた場所に置いた上で森の中なら、誰かと遭遇する確率は相当低いと千鶴は考えていた。
しかし、その相当に低い確率を千鶴は引き当てていた。
(あら・・・これはちょっと予想外ね)
人がいないだろうと思ってこの場所を選らんだのだが、近くで人の気配がした。
だが、問題無い。先客がいるのなら殺すまでだ。
気付かれないように慎重に、獲物との距離を詰める。
もう少しで飛び掛ろうかという所で、千鶴はある事に気付いた。
(この子、・・・・泣いてる?)
千鶴のほんの6メートル程先を歩いている少女は泣きながら歩いていた。
ポキッ・・・
予想外の出来事に一瞬注意力が逸れたのか、足元にあった小枝を踏んでしまう。
「あ・・・・」
少女はその音でこちらに気付き、振り向いていた。
416 :
無防備な少女:2006/11/08(水) 21:42:11 ID:ecC/pIbF0
(相手は武器を持っていない・・・・倒すのは容易そうね)
そう考え、千鶴が刀を構えようとした。
構えようとしたが、千鶴は呆気に取られてしまった。
ガシッ!!
「うぅぅっ……ひぐっ……」
「・・・・?」
目の前の少女が無防備に千鶴の胸に飛び込んできていた。
少女は千鶴の胸で泣きじゃくっている。
その姿は余りにも無防備過ぎて、頼りなさ過ぎて。
千鶴は手が出せなくなっていた。
それからしばらくして、どうにか少女は泣き止んでいた。
見知らぬ女性にいきなり抱き付いたのが恥ずかしくなったのか、少女は俯いたまま黙り込んでいた。
「・・・・・落ち着いたようだし、名前くらい教えて貰えないかしら?私は柏木千鶴よ」
「あ!す、すいません・・・。私、小牧愛佳です」
「愛佳ちゃんね。早速だけど何があったか聞かせて貰えないかしら」
愛佳が語った事の顛末はこうだった。
愛佳は襲撃者に刺された芹香を助けようとしたが、愛佳は医者ではない。
満足な治療など出来る筈も無かった。
結局彼女に出来たのは芹香の死を看取る事だけだった。
何も出来なかった自分。すっかり体温が失われ、冷たくなった芹香の遺体。
物音一つしない小屋。いつまで経っても戻ってこない仲間。
愛佳の精神は追い詰められていた。
そして、もしかしたらさっきの襲撃者がまた戻ってくるかもしれない。
そう考えてしまった彼女は――――全てを捨てて、逃げ出したのだ。
千鶴の妹達の事も聞いたが、愛佳は見ていないようだった。
417 :
無防備な少女:2006/11/08(水) 21:43:01 ID:ecC/pIbF0
冷静になった愛佳は、逃げ出してしまった事を酷く悔いていた。
「私・・・、最低ですよね・・・・。来栖川さんの遺体の埋葬もせずに、相良さんも待たずに逃げ出して・・・・」
そこまで言って、愛佳はまた泣きそうになった。
その時彼女の頭に何かが触れた。
愛佳が見上げると、千鶴が彼女の頭を撫でていた。
「お腹空いたでしょ?食料ならまだ余裕があるし、分けてあげるわよ」
千鶴は空いてる方の手でパンを差し出した。
「え、でも・・・・」
「構わないわよ。遠慮せずに食べなさい」
そう言って千鶴は微笑んだ。
その笑顔は、このゲームで彼女が初めて見せた笑顔。
とても穏やかな笑顔だった。
愛佳はパンを受け取り、食べ始めた。
愛佳が思っていた以上に愛佳の体は腹を空かせていたらしく、あっという間にパンを食べ終えてしまった。
「あの、あ、ありがとうございました」
そう言って、愛佳は頭を下げる。
「どういたしまして。それじゃ、今日はもう休みましょうか」
「え?」
「休める時に休んどかないと、体がもたないわよ?ほら、そこで休みましょう」
そう言って千鶴は近くの茂みの奥に歩いていき、刀で邪魔な雑草を刈り取った。
そこは比較的背の高い茂みの中で、誰かが近くを通ってもそう簡単には見付からなさそうだった。
二人揃って腰を落とし、座り込む。そうしたまま暫くじっとしていた。
「・・・ねえ愛佳ちゃん、まだ起きてる?」
「あ、はい、起きてます。・・・・なかなか寝付けなくて」
「そう。ちょっといいかしら」
「え?何ですか?」
「私もね、あなたがした事は良くないと思うわ。仲間だったのなら、最後まで責任を持つべきよ」
418 :
無防備な少女:2006/11/08(水) 21:45:52 ID:ecC/pIbF0
「そうですよね・・・・・。」
「でもね、愛佳ちゃん・・・・終わった事をいつまでも悔やんでも仕方無いわ。
自分が何をするべきなのか考えて、あなたのやるべき事をやりなさい。今度こそ後悔しないようにね」
「・・・・・・。」
「私の話はそれだけよ。それじゃ、おやすみなさい」
千鶴の言葉はそのまま千鶴自身にも当てはまる事だった。
千鶴は決心を固めていた。
もう二度と後悔したくないから。大切な人を失いたくないから。
けれど愛佳には・・・・、手を出さないでおこう。
この無防備で内気な少女が妹達や耕一に危害を加えるとは到底思えなかった。
千鶴の目的はあくまで家族の安全の確保であって、人を殺す事自体を目的としている訳ではないのだ。
出来ればこの子は、少しでも長く生きていて欲しい。
今日は疲れた・・・、とにかく休もう。
そして朝目覚めたら、また人を殺し続けよう。
そこで考えるのを止めると、すぐに千鶴の意識は闇に落ちていった。
【時間:2日目午前1時頃】
【場所:d−4】
小牧愛佳
【持ち物:なし】
【状態:睡眠】
柏木千鶴
【持ち物:日本刀・支給品一式(食料を半分消費)】
【状態:左肩に浅い切り傷(応急手当済み)、睡眠中。マーダーだが、愛佳に手を出すつもりはない】
ウォプタル
【状態:睡眠中、千鶴達が寝ている場所から少し離れた所にある木に繋がれている】
(ルートB11 関連296・402・403)
419 :
10:2006/11/09(木) 01:23:50 ID:Sijbwf4I0
やっと出来ました
Iルートの→89→96⇔英二芽衣杏入りの話で
一応補足するとIルートここでこの人達止まっているので
暇があったら回避頼みます
「っ……ふぅ……。やっと抜けたな」
芽衣を連れた林間の行軍は英二を中々に疲弊させていた。
「すみません……私のせいで……」
「いやいや」
英字は笑って受ける。
芽衣はあの後一人で突き進んで木の根に足を取られて転んでしまっていた。
膝を擦り剥いたのを英二が見ると、「さ、どうぞ。お姫様」とかいいながら背負ってくれた。
大丈夫だ、と芽衣が主張しても英二はへらへら笑って取り合わなかった。
一度だけ「まぁこんな島だし。小さい怪我でも命取りになりかねないよ?」といって、後は益体も無い事を延々と喋っていた。
そんな英二の心遣いに礼も言ったが、やはりへらへら笑って受け流された。
実は英二は『参加者』が出てきたら即座に芽衣を振り落として拳銃を取るつもりだったのだが、互いにとって幸いにその機会は訪れなかった。
因みに、ボタンは自力歩行で付いて来ていた。
「んじゃ、芽衣姫様。地図出してくんないかな」
「あ、はい」
芽衣は地図を取り出す。
「あ、あともう大丈夫ですからおろしてください……村の中までこれはちょっと……」
もう膝の血は止まっていた。
英二はそれを軽く一瞥する。
「ん? そ? ほい」
英二はゆっくりと芽衣を下ろした。
「ありがとうございました」
「いやいや」
やはり笑って受け流す。
「んー……今……多分この辺の道だね。どっち行く?」
「え……と……英二さんが決めてください」
「じゃあっちで」
そう言って東の道を指した。
「行こうか」
「はい」
「ぷひっ」
二人と一匹はその道に従って歩き出した。
(どうしよう……どうする……)
杏はあの死亡者報告スレッドが流れてからずっと頭を悩ませていた。
しかし実際に人が死んでいるらしいという実感の無い事実、その中に岡崎の名が在ったこと。
自分についている爆発すると言う首輪、そして名簿に書いてあった妹の名前。
色々な事が色々な風に重なってとても落ち着いて考えるなど出来なかった。
そして、その事にも自分で気付けない程にも焦っていた。
(どうする……如何する……)
浮かばない名案に苛立ち、それでも尚考える。
思考の泥沼に嵌まり、それでも考える事を止められない。
引き当てた道具が武器ではなく、失敗すれば待ち受けるのが死である事もその循環に拍車を掛けていた。
(探す……どうやって……でも……)
さっきからそんな事は何度も考えた。
このパソコンに書けば椋や朋也が見るかも知れない。
しかしそれは本当に『かも知れない』で、見ない可能性の方が高いだろう。
調べた限りではさっきの家にもここにもパソコンは無かった。
支給品になるくらいのものだ。
そうそう見つかるものじゃないだろう。
そして、それ以上に問題なのがこの島にはその他大勢がいることだった。
その中にはこの短時間で人を殺した者が既にいる。
そんな者がこれを見たら、最悪椋や朋也と一緒に殺されてしまう。
賭けるには余りに分の悪い賭けだった。
しかしまた同時に完全に望みがないわけではないのでそれを断ち切ることも出来ずにいた。
そうして考えている間にも状況は進む。
杏にもそのきっかけは訪れた。
子連れで。
ガチャ
「!! だっ誰!?」
「怪しくないものだけど」
「怪しいわよっ!!」
「英二さん、怪しいです」
「そ? まぁいいや。君は?」
「あっ……あたしは……じゃなくて! あんたは誰なの!?」
「緒方英二と春原芽衣。分かると思うけど俺が英二ね」
「っ……なんでここにくんのよ!」
「適当に歩いてたらついて」
「何しに来たのよ!」
「何しに来たのかねぇ」
「英二さん、あの、ちょっと……」
見かねた芽衣が止めに入る。
「ん? なんだいお姫様」
「あの、もう少し真面目に……」
「持てる誠意の一割くらいは使って話してるつもりなんだけどねぇ」
「っ……! 真面目に話しなさいよっ!!」
杏は激昂する。
相変わらず英二はへらへら笑って取り合わないが。
hoihoi
「んじゃ、君はなんなんだい?」
「っ……あたしは……」
「殺人ゲームの行われているこの島で、君はここに一人でいて何をしているんだい?」
「! あたしは! ……あたしは……考えて……どうすればいいか……」
「で、如何するんだい?」
「その前に! あんたはこのゲーム乗ってるの!?」
「それを聴いてどうするの? 乗ってないって言ったら信じる?」
「あ……う……」
「あっ! あのあのっ! 私達は乗ってません!」
それまで杏に対しては口を閉ざしていた芽衣が声を上げた。
「英二さんは殺されそうになってた私を助けてくれました! 足を怪我した私をおぶってくれました。
お兄ちゃんを一緒に探そうって言ってくれました! 英二さんは……英二さんは……!」
「ぷひっ」
「へっ?」
何某かの雑音が入った。
雑音の元は飛び出して杏の懐へと潜り込んだ。
「あっ」
「ぷひーーーーーーっ!」
「あっ! ボタン! えっ? なんでここに!?」
「えっ? ボタン知ってるんですか?」
「知ってるも何もボタンはあたしのペットよ!」
「えっ!? すごいです!」
「ぷひーーーーーーーっ!」
ボタンはぐりぐり頭を押し付ける。
「ボタン〜」
杏は始めてこの島で知り合いと会えたからか、弛緩してボタンを抱きしめる。
「くっ……ははっ……ははははははっあはははははははははははははは!!」
「英二さん? どうしたんですか?」
「……? 何よ」
「はははっ……はは……やっぱり俺には出来ないね。相手の警戒解くってのは」
「あっ……」
完全に無防備なところを見られた。
杏は赤くなる。
「で? 少しは信用してもらえたかい? 名前聞かせて貰える位には」
「……藤林……杏」
この目の前の飄々とした男の思惑通りに物事が進むのは気に食わなかったが。
少なくとも。
「ボタンを連れて来てくれたそっちの子は……信じられそうだから……」
「そりゃよかった」
そういってへらへら笑う。
……やはり気に食わない。
ある程度情報交換をして、英二はポケットの中で構え続けていた銃を見せ、杏は自分の支給品たるパソコンを見せた。
「ふーん……これちょっと見せてもらっていい?」
「別にいいけど……気持ちいいもんじゃないわよ」
「結構」
しかし杏は失念していた。
この飄々とした男の名前が『緒方英二』であることと、死亡者報告スレッドに『緒方理奈』の名前があったことを。
「ふーん……死亡者報告……確かに悪趣味だ」
英二は何気なくEnterを押す。
そして、固まった。
「……理奈」
我知らず呟く。
その呟きに杏は。
「え……? あっ!」
失敗した。
そう思ったときにはもう遅かった。
「英二さん? 英二さん? どうしたんですか? 英二さん?」
英二は食い入るように画面を見つめ、そのまま凍りついたように動かない。
「英二さん! 英二さん!」
「芽衣ちゃん……実は……」
今更、とは思ったが芽衣にも耳打ちする。
今の英二に会話は酷だろう。
芽衣の顔も見る見るうちに蒼くなってくる。
「え……いじさん……」
言葉も無く、動きもなく、三者三様の乱れた心のまま時が流れていった。
春原芽衣
【持ち物:デイパック、水と食料が残り半分】
【状況:自失】
緒方英二
【持ち物:拳銃(種別未定)デイパック、水と食料が残り半分】
【状況:絶望】
藤林杏
【持ち物:ノートパソコン(充電済み)、デイパック、包丁、辞書×3(英和、和英、国語)】
【状態:不安】
共通
【時間:一日目午後四時半頃】
【場所:C-05鎌石消防分署】
>>423 感謝
428 :
疾風伝説:2006/11/09(木) 04:08:32 ID:LOaPFmNl0
篠つく雨が、梢を濡らしている。
夜の闇に沈む森の中、一本の大樹の陰に少女が座り込んでいた。
一見して雨宿りといった風情ではあるが、後ろで二つに分けた長い髪からは
雨粒が滴となって零れている。白い学生服の裾も、しとどに濡れていた。
底冷えのするような夜気を意に介さず、少女はじっと座り込んでいる。
どれほどの時間、そうしていたであろうか。
垂れ落ちる滴を目で追いながら、ふと少女が口を開いた。
「ねえ、タバコ……持ってない……?」
独り言のようなその言葉に、答える声があった。
「……セッターライトでよければ」
「何でもいいよ」
苦笑するように口の端を歪めながら、声の方に目線を向ける少女。
答えた男は、雨に濡れた肩を払うようにしながら少女の側へと歩み寄る。
「隣、いいかな」
「どうぞ」
言って、少女はそれきり男から目線を外す。
暗がりをぼんやりと眺める少女に何を見たか、男が話しかける。
「その制服……学生さんだろ。タバコなんか吸うのかい」
「……先生とか、警察の人?」
「程遠いね」
肩をすくめて見せる男。
429 :
疾風伝説:2006/11/09(木) 04:09:18 ID:LOaPFmNl0
「今時の子に説教でもないか。……歳かな、俺も」
言いながら、懐に手を入れる男。
しばらくまさぐって、小さな箱を少女に差し出す。
「火は、あるかい」
「そっちも、もらえるかな」
「はいよ」
男の差し出した箱から一本を取り出すと、口に銜える少女。
男はポケットから出したライターを、少女の口に寄せる。
じ、と音がして煙草に朱色の灯が点る。
紫煙をひと吸いする少女。
「吸い慣れてるな……悪い子だね、っておいおい……?」
男の、少し驚くような声。
少女は、指に挟んだ煙草を吸い口を下にして地面へと突き立てていた。
「ゴメンね。これ、あたしが吸うためのもんじゃないから」
「……?」
「宗一……友達がさ、死んじゃったんだ……」
闇の中で、火のついたままの煙草が、朱い光を放っている。
微かな光に照らされた少女の顔は、だがその言葉とは裏腹に、苦笑しているようにさえ見えた。
「だから、線香代わり……」
「……」
「バカな奴だったけど……こんなにあっさり死んじゃうなんて、本当にバカ」
笑い飛ばすような少女の声は、どこまでも湿り気がない。
430 :
疾風伝説:2006/11/09(木) 04:10:11 ID:LOaPFmNl0
少女の真意を測りかねたか、男は少女に背を向け、しばらく言葉を選ぶように
沈黙を続けていたが、やがて意を決したように顔を上げると口を開いた。
「……もう一本、どうだい」
「……え?」
「君の分、さ」
「あたしはいいよ。もう随分前にやめたんだ。
けど、お言葉に甘えさせてもらえるなら……もう二本、もらえるかな」
「……やっぱり、友達の分?」
男の低い声に、少女は困ったように笑う。
「どうかな。友達っていうか……仲間っていうか、敵でもあったりしたけど。
……でもまぁ、うん、友達だよ」
「そうか。……なら、三本だな」
男の言葉に、少女はその意志の強そうな眉を寄せる。
「……? いや、二本でいいってば」
「まぁ、そういうなよ」
「……」
男は、軽く肩を震わせている。笑っているようだった。
「お前さんの分も合わせて、三本必要だろ。……線香は、さ」
言って振り向いた男の手には、大きな猟銃があった。
その銃口は、座り込んだ少女の顔面を正確に捉えている。
「こんな状況で銃を持った男が近づいてきたら、もっと警戒しなきゃダメだな。
……気をつけないと、死ぬことになるかもしれない」
431 :
疾風伝説:2006/11/09(木) 04:11:06 ID:LOaPFmNl0
少女は声を漏らすこともなく、じっと銃口を見据えていた。
「……怖くて声も出ないか? 安心してくれ、俺は同僚みたいな変質者じゃない。
楽に死なせてやるよ」
「……そうじゃなくてさ」
少女が、口を開いた。
恐怖に震えても、絶望に怯えてもいないその声音に、男が怪訝そうな表情を浮かべた、その瞬間。
「……!?」
男の視界が、閉ざされていた。
電光石火の速さで立ち上がった少女の手が、男の顔面を鷲掴みにしていたのである。
白い細腕のどこにそのような力が隠されていたものであろうか、少女は片手で掴んだままの
男の頭部を、凄まじい勢いで大樹へと叩きつける。
「……がっ……ぁ!」
激しく揺れる大樹。
大粒の滴が、滝のような音を立てて辺りに降り注ぐ。
その飛沫の中心で、少女は片腕で男を目線より高い位置に吊るし上げていた。
絞首台に吊るされた死刑囚のような格好で、男の身体が痙攣している。
「いきなり”ドーグ”出してぇ……、ウタってんじゃねえよ……」
低く唸るようなその声には、先刻までの少女の面影はない。
「この湯浅さんに上等切ったんだ……潰してやんからぁ、殺すまで死ぬんじゃネェぞ……?」
その声が、男に届いていたかどうか。
回避
433 :
疾風伝説:2006/11/09(木) 04:14:45 ID:LOaPFmNl0
小刻みに震える男の手は既に猟銃を取り落としていた。
少女の指の間から垣間見える青黒い顔面からは血液ともつかない液体が流れ出し、
失禁した股間からは湯気が上がっている。
構わず、少女は二度、三度と男の後頭部を大樹へと叩きつける。
飛び散る返り血を顔に受けても、少女は眉筋一つ動かさない。
やがて男がぴくりとも動かなくなると、少女はまるでゴミでも捨てるように
男の身体を放り出した。
「お礼参りァ、『雌威主統武』初代、湯浅皐月に持ってきな……」
言うと、少女は落ちている猟銃を拾い上げ、銃口を空に向けておもむろに引き金を引いた。
響いた銃声は、計五発。
それ以上の弾が出ないことを確認すると、少女は熱を持って湯気を上げている銃身を
雨に濡れた地面へと押し付けた。音を立てて舞い上がる蒸気。
銃身の方を掴み、握りを変えながら何度か猟銃を振り回す少女。
やがて納得したのか、少女は銃を肩に抱えて雨の中へと歩き出す。
「宗一……ゆかり……なんで逝っちゃんだよ……」
小さな呟きは、雨音に掻き消されて誰にも聞こえない。
「坂上のバカもそっちみたいだからさ……喧嘩相手に不足はないだろうけど……。
残されたこっちは、どうすればいいのさ……」
見上げた空は、ただ暗い。
「風が、騒ぐんだよ……宗一……」
雨粒が入ったか、少女の目から一筋の滴が流れる。
もういっちょ回避しておこう
「”狂風烈波”の旗掲げて……みんなで全国”シメ”るって粋がってた、あの頃の……。
もう……とっくに凪いだと思ってた風が、さ……」
顔を伏せた少女の目が、片手のバッグに注がれる。
「こんなの見たら……”暴走り”たくなっちゃうよ……、宗一……」
雨に打たれながら、少女の歩みは止まらない。
その行く手には、ただ夜の闇だけが広がっていた。
湯浅皐月
【所持品:『雌威主統武(メイ=ストーム)』特攻服、ベネリ M3(残弾0)、支給品一式】
【状態:健康】
巳間良祐
【状態:死亡】
※煙草とライターは優季の支給品。
→019 057 067 ルートD-2
【2日目午前3時】
【H-4】
です。申し訳ありません。
「くしゅんっ」
可愛らしいくしゃみをしたのは、松原葵。
体操服にブルマーという出で立ちでうろつき回る、ちょっと危ない女子高生である。
「日が暮れてきちゃった……。
やっぱりこの格好だと、ちょっと寒いな……」
むき出しの腕をさする葵。
元の制服を捨てたわけでもなし、着替えればよさそうなものだが、ブルマー大好き葵ちゃんの
脳裏にはそんな選択肢は浮かばないようである。
「お困りのようですねっ」
「……どうしようかな……焚き火でもしてあったまろうか、どっかの家にお邪魔するか……」
「お・こ・ま・りのようですねっ!」
あんまり相手にしたくなかったが仕方ない。
嫌々顔を上げると、そこに立っていたのは予想通り奇天烈な女だった。
誰のセンスだか知らないが真っ赤なワンピースに白いストールというド派手な制服、
いい歳こいて頭には巨大なリボン。
極め付けに、手に持っているのはおもちゃ屋で女の子がものほしそうに眺めているような
ピンク色のステッキだった。
「……間に合ってます」
足早に立ち去ろうとする葵。
「お困りのようですねっ」
先回りされた。
どうあっても逃がしてくれるつもりはないらしい。
「……えーと、何か御用……ですか……?」
「申し遅れましたっ! 佐祐理は魔法少女ですっ、さゆりんって呼んで下さいね☆」
アブナい人だった。
すげえ逃げたい系。
「魔法少女である佐祐理は困ってる人を見過ごせません」
「はあ……」
「というわけで、困っている声を聞きつけて飛んできちゃいましたっ」
「いえ、特に思い当たる節はありませんが……」
関わりあいになってたまるか。
気合負けしたら終わりだと葵は感じている。
「寒いんですよねっ」
「げ」
聞かれていた。
「そうでしょうそうでしょう、そのちょっと個性的な格好じゃ、寒くても仕方ありません」
あんたにだけは言われたくない、と思ったが口には出さない葵。
賢明だった。
「いえいえ、佐祐理は魔法少女ですからそのくらいは朝飯前でわかってしまうんです〜」
口には出さないが別にどうでもいい。
「そう、実は佐祐理には、ものすごい幸運が訪れたんですよ!」
そんなこと聞いてない。口には出さないが。
「一眠りして起きたら、なんと魔法少女になっていたんです〜」
どんな幸運だ。毒虫になっているのとどっちが悪夢に近いだろう。口には以下略。
「ですから、皆さんにはラッキーのおすそ分けをしてさしあげたいんです」
余計なお世話としか言いようがなかった。略。
「あの……気が済んだら帰っていただけると嬉しいんですが……」
「そうでした、肝心なことを忘れてました〜。佐祐理は馬鹿ですねっ」
ぽかっ、と自分の頭を叩く佐祐理。
葵の話などまるで聞いていない。
(殺したい……)
拳を握り締める葵。
「やっぱり寒い時にはおしくらまんじゅうが一番ですっ」
「……は?」
「えいっ☆」
気合一閃、佐祐理の持つステッキからきらきらと光があふれ出し、一瞬であたりを包み込む。
眩しさに思わず目を覆った葵の耳に、佐祐理の声が聞こえてくる。
「これからも美少女ブルマー戦士として頑張ってくださいねっ―――」
「頑張るかぁっ!」
ツッコんだときには、もう光は消えていた。
佐祐理と名乗るアブない少女の姿もない。
代わりにそこに立っていたのは、
「やあ、オレ北川! 君とおしくらまんじゅうをするために召喚された愛の戦士だ!
って、何で!? ここはどこ!?」
よくわからない少年だった。
気づかれないうちに立ち去ろうとする葵。
「……ちょっと、君! ねえ、そこのブルマーの君だよ」
気づかれていた。
「オレ、今の今まで家の中にいたんだけど……何が起こったか知らない?」
日本語でおk、と言いたいところをぐっと堪える葵。
「さあ……? 私ちょっと急ぎますんで、これで……」
代わりにすっとぼけてみた。
というか、本当に何が起こったのかわからない。
だが、そう言って踵を返した葵の前に立つ人影があった。
「……葵、ちゃん」
「え、琴音……ちゃん? 色々あって私の設立したエクストリーム同好会で
マネージャーをやってくれてる、親友の琴音ちゃんなの……?」
どうやら第二期アニメの設定を引きずっているようだ。
「誰? 友達?」
北川空気嫁。
「そう……あなたもそうなのね……」
「え、いや何のこと……? っていうか今度は何……?」
悲しげに目を伏せる琴音に、葵は慣れた調子で訊ねる。
月に一度は勘違いで欝入る→メンテさせられる→仲直りのコンボであった。
本当に面倒くさい女だなコイツと思うが、こんなんでも数少ない友達の一人である。
「ブルマー……今時そんなの絶滅寸前っていうか来期からウチの学校でも
廃止されるとかされないとか揉めてるような代物を履いたりして……」
「え、そうなの!?」
「そりゃ勿体無い!」
ブルマー大好き葵ちゃんと何でも大好き北川君である。
「そんな属性をつけてまで男に媚を売る……!」
「いやそりゃちょっとは狙ってるけど……けど変なのしか寄ってこないよ実際?」
「わたしなんて超能力者よ!? 異端者の悲劇! 古典的だけど王道!
こんなに立派な悲劇のヒロインなのに……! なのにどうしてこんなに人気がないの!?」
そりゃオメーが全身から面倒くさい女臭振り撒いてるからだろ。
変なスイッチ入れる前にリサーチしろよリサーチ。
……と思っても口には出さない葵。
いつものことだがこうなると琴音は何を言っても止まらない。
それにせっかくモテない度合いがあまり変わらないのに、アドバイスなんかしてたまるか。
本気でアスリート続けてたらマトモな男とっ捕まえられる可能性なんて限りなく低いんだぞ、と
内心半泣きで思う葵。本音の部分では醜い足の引っ張り合いであった。
「……そんな葵ちゃん、浄化してあげるっ!
えいっ、パイロキネシス! サイコキネシス!」
「ひょいっ」
「……え? うわああああああ―――」
グシャ。
炎上したまま空高く放り投げられ、自由落下する北川。
どうせいつものパターンで超能力攻撃が来るとわかっていた葵が、軽くステップして狙いを逸らしたのである。
黒焦げで脳漿ぶちまける北川には目もくれず、琴音は涙を浮かべて走り出す。
「所詮、私を理解してくれる人なんて、いないのね……!
ああ……あと18時間もしたら儚く散ってしまう命なのに……!
なんて可哀想なわたし……! さよなら葵ちゃん、追いかけてきたりしないでね!
あと18時間で死んでしまうワケありのわたしを追いかけてきたりしちゃダメなんだから……!」
「あー……」
いつものことだけどこの死体どうすんだろ、と思いながら頭をかく葵。
「ま、いっか……。どうせ来栖川先輩の家が何とかするだろうし……」
呟いて、琴音の走り去った方へ歩き出す葵。
面倒くさいなあ、一眠りしてから考えようかなあ、などという内心は
決して口には出さない我慢の子であった。
【時間:1日目18時過ぎ】
【場所:H−8】
姫川琴音
【持ち物:武器不明、支給品一式】
【状態:悲劇のヒロイン、2日目午後0時頃に首輪爆発】
松原葵
【持ち物:お鍋のフタ、支給品一式、野菜など食料複数、携帯用ガスコンロ】
【状態:ブルマー。琴音の捜索開始】
北川潤
【状況:死亡】
倉田佐祐理
【持ち物:マジカルステッキ】
【状況:魔法少女】
※北川の所持品:SPAS12ショットガン(8/8+予備12)防弾性割烹着&頭巾 九八式円匙(スコップ)、
水・食料、支給品一式、携帯電話、お米券×2は336の日本家屋にそのまま。
→110 122 129 336 ルートD-2
444 :
凶弾:2006/11/09(木) 20:47:12 ID:YY+YwBjV0
「……やっぱり、僕も行かないと」
敬介が苦痛に顔を歪めながらも、そう呟いていた。
人任せにしてただ待つなど、出来るはずが無かったのだ。
「だ…、駄目ですよ、怪我をしてるのに!」
今にも駆け出しそうな敬介の腕を理緒が掴む。
「やっぱり僕も行かないと駄目だ……これは元々僕と晴子の問題なんだ!」
叫ぶ。それは普段の彼からは考えられないくらいの強い叫びだった。
そして敬介は理緒の腕を振りほどいた。
彼は肩を抑えつつも、そのまま走り出していた。
春原陽平達は暫しの間呆然としていたが、るーこが口を開いた。
「とにかく中へ入るぞ。こんな所で突っ立っているのは危険だ」
「あ、ああ…そうだね」
他の者も同意し、家に向かって歩き出した。
だが、その判断は余りにも遅すぎた。
るーこ達が家の傍まで歩いたその時、理緒の視界の隅で僅かに動く影あった。
――――(ふ…ざけんじゃ……ないわよ……!!)
来栖川綾香は激怒していた。銃を握るその手は怒りで震えている。
綾香は陽平達の様子を近くの木の陰から窺っていた。
撃とうと思えばいつでも撃てたが、まだ綾香の中には殺人への禁忌が少しだけ残っていた。
躊躇してるうちに、大人と思われる風貌の二人は少女達を残してどこかへ走り去った。
恐らくは少女達を連れては行けないような状況………死地へ赴こうというのだろう。
綾香は自らの手を汚して戦っている。生き延びる為に必死に戦っている。
だが、この少女達はなんだ。
危険な事は大人に任せて、自分達はのうのうと家で休む気か?
綾香には少なくともそう見えた。
445 :
凶弾:2006/11/09(木) 20:49:20 ID:YY+YwBjV0
綾香の体を怒りとアドレナリンが満たしていく。
殺人への迷いが消えた綾香は、銃を構えた。
綾香の狙いは敵の中で唯一銃を持っている女……るーこだった。
綾香が引き金を引こうとしたその時、理緒がるーこを突き飛ばした。
理緒は何かを考えていたのではない。元より考えている暇など無かった。
ただ体が勝手に動いていた。
次の瞬間、理緒の体を衝撃が襲った。
陽平達はその光景を呆然と見ていた。何が起きたのか分からない。
突然銃声が鳴り響いたかと思うと、理緒の胸から血の霧が噴き出し、彼女は地面に倒れこんだ。
るーこですら、反応が遅れていた。今回の襲撃は全く予測出来ていなかったのだ。
「この、大人しく殺られときなさいよっ!!」
陽平達が何が起きたか理解するよりも早く、綾香が勢いよく飛び出してきていた。
春原陽平
【所持品:スタンガン・支給品一式】
【状態:呆然】
ルーシー・マリア・ミソラ
【所持品:IMI マイクロUZI 残弾数(30/30)・予備カートリッジ(30発入×5)・支給品一式】
【状態:反応が遅れている】
古河渚
【持ち物:敬介の持っていたトンカチと繭の支給品一式(支給品不明・中身少し重い)】
【状態:呆然】
446 :
凶弾:2006/11/09(木) 20:50:17 ID:YY+YwBjV0
霧島佳乃
【持ち物:鉈】
【状態:呆然】
雛山理緒
【持ち物:鋏、アヒル隊長(12時間40分後に爆発)、支給品一式】
【状態:瀕死(アヒル隊長の爆弾については知らない)】
来栖川綾香
【所持品:S&W M1076 残弾数(5/6)予備弾丸28・防弾チョッキ・トカレフ(TT30)銃弾数(6/8)・支給品一式】
【状態:腕を軽症(治療済み)。激怒】
橘敬介
【所持品:なし】
【状況:左肩に銃弾による傷、平瀬村入り口へ疾走(支給品一式+花火セットは美汐のところへ放置)】
共通
【時間:1日目23:20頃】
【場所:F−02】
【関連391・ルートB-11】
447 :
雪隠詰め:2006/11/10(金) 01:55:57 ID:6tNyLUx10
「七海、なかなか目を覚まさないわね……」
苦しげなうめき声に、郁乃が眉を曇らせる。
「郁乃さん、立田さんの様子は私たちが見ていますから、あなたは少し休まないと……」
「……七海がこんな風なのに、あたしだけ眠れるわけないじゃない!」
心配げなささらの言葉に、郁乃が噛み付く。
周囲を威嚇するようなその声音に、一同は顔を見合わせる。
先程から何度も繰り返された問答であった。
「……? レミィ、どうしたの?」
その様子に、最初に気づいたのは真琴だった。
不思議そうな声に、一同の耳目がレミィへと集中する。
「ン……NO、なんでも……ないヨ」
言葉とは裏腹に、レミィはもじもじとその身をくねらせている。
うっすらと汗もかいているようだった。
そんなレミィの様子を見て、高槻が言い放つ。
「ん、便所なら早く行ってきたらどうだ」
「……!」
「おトイレ? わ、レミィおトイレおトイレー!」
何が楽しいのか、真琴が両手を挙げてトイレトイレと連呼する。
苦々しげに高槻を睨むささらと郁乃。
デリカシーの欠片もない男、とその眼が語っていた。
そんな視線を意にも介さず、高槻の放言は続く。
448 :
雪隠詰め:2006/11/10(金) 01:56:50 ID:6tNyLUx10
「なんだ、暗いのが怖いならついていってやろうか?
もっともこの寺の感じじゃ便所もさぞかし古かろうし、音は丸聞こえだがな……うおっ!?」
高槻の後頭部を思い切りはたいたのは郁乃だった。
「最ッ低!
あんたなんかにちょっとでも勘違いしそうになったあたしがバカだったわ!」
「……? ちょっとでも、何を勘違いしたってんだ?」
「うるっさいわね! それ以上言ったら本気で殺すわよ!」
少し紅潮した頬を誤魔化すように早口で怒鳴る郁乃。
「それより、宮内さん……本当に大丈夫ですか?
何なら私がついていきますけど……」
「No、ダイジョーブヨ」
立ち上がりかけたささらを制するように、レミィが片手を挙げる。
「お手洗いなら、縁側の端にあるっきりだと思うから……」
「サンクス、それじゃちょっとお花を摘んでくるネ」
「お花……?」
「変わった言い回しをご存知なんですね……」
一同が面食らっている間に、レミィは部屋を出て行ってしまう。
閉められた障子の向こうから、歌声が聞こえてきた。
「……やっぱり怖いんだ」
大声でがなりたてられる歌が、遠ざかっていく。
一同は心配そうに歌声の方を見やるのだった。
449 :
雪隠詰め:2006/11/10(金) 01:58:15 ID:6tNyLUx10
「Oh, say, can you see, by the dawn's early light!」
半ば無理やりにひねり出した大声で、宮内レミィは歌っている。
「What so proudly we hailed at the twilight's last gleaming?
Whose broad stripes and bright stars, through the perilous fight!」
曲がりくねった廊下には、明かり一つない。
一寸先も見えない闇の中で、慎重に歩みを進めるレミィ。
「ニッポンの建物なのに、ドーシテこういうときだけ広いデスカ……」
真っ暗な廊下の左右には、幾枚もの障子に隔てられた無人の部屋。
歌をやめると、急に静けさが襲ってきた。
それが怖くて、レミィはまた大きな声を張り上げる。
「O'er the ramparts we watched, were so gallantly streaming!」
おそるおそる歩いていくと、やがて石庭に面した縁側に出た。
月こそ雲に隠されていたが、それでも廊下より明るいというだけで、闇に慣れた
レミィの眼には充分に映った。少しだけ安心して歩みを速めるレミィ。
「OH、あれだよネ……」
縁側の端に、小さな木製の扉が据えつけてある。
それがこの寺で唯一の厠らしかった。
扉を押し開けると、きい、と木の軋む音がした。
中にはやはり、電灯一つついていない。
嫌な臭いの満ちる、狭い空間に足を踏み入れるレミィ。
450 :
雪隠詰め:2006/11/10(金) 01:59:21 ID:6tNyLUx10
「OH、ニッポン式……ニッポンの文化大好きだけど、これだけは苦手ダヨ……」
異臭の中心で真っ暗な穴が口を開けている。
顔をしかめるレミィ。
「ジーザス……オールドスタイルなんて、初めて見たヨ……」
なるべくその穴を視界に入れないようにしながら、そっとスカートの下に手を入れる。
そろそろ汗や汚れが気になってきたショーツを膝下まで下ろして、木製の便器に跨った。
「ウゥ……やっぱり臭い、キツいヨ……」
形のいい鼻の頭に皺を寄せながら、レミィが息をついた、その時。
「―――そう言ってくれるな、これでも色々と使い道があるのだぞ?」
声は、真下から聞こえた。
「―――」
自分の膝が見える。腿が見える。その向こうの向こう。暗がりの、その下で。
目が、合った。
「…………エ?」
驚愕と、恐怖と、困惑。
それらが喉元で複雑に絡まりあって、声が出ない。
「ちょっと反応遅いんじゃないかと思うぞ〜?
お姉さんは異人さんの将来が心配だっ」
kaihi
452 :
雪隠詰め:2006/11/10(金) 02:00:51 ID:6tNyLUx10
言葉と、同時。
放たれた矢はレミィの、むき出しの局部へと突き刺さった。
「……ァ……」
痛み、という感覚は無かった。
ただ、違和感だけがあった。自身の身体から発せられる、あり得ない情報。
その膨大なノイズを、脳が激痛と認識する寸前、絶叫を上げるその直前、
便所の穴から伸びた手が、レミィの足首を掴んだ。
なす術も無くバランスを崩すレミィ。
がつりがつりと便器に引っかかるが、そのまま強引に汚物槽へと引きずり込まれる。
レミィの認識は、いまだに状況についていけていない。
「―――案外広いだろ? これだけ大きなお寺だからさぁ、きっと毎日すごい量の
アレとかアレとかがココに溜まってたんじゃないかと想像しちゃうと楽しくはないかね。
臭いと見た目と衛生面とその他全部を気にしなければ快適空間かもしれないぞ?
っていうかあたしが入居した時には新築同様だったんだけどなぁ、待てど暮らせど
誰も来ないから、ちょっぴり臭いのは全部あちきのです、ごめんなさい敷金は返してくれろ」
一筋の光すら射さない真の暗闇の中で、レミィの口を手で塞ぎながら、楽しげに嗤う少女。
広いとは言うものの、少女二人が入ってしまえば身じろぎする隙間にも事欠く。
肌と肌を密着させたまま、半ば意識を失いかけているレミィの耳元に囁きかける少女。
「さよなら雪隠、また来て異人、ってなもんだ。
ってわけで、そろそろ交代の時間じゃないかと思うんだな、これが。どうよ?」
けーしょーしきぃー、と口ずさみながら少女が魔法のように取り出したナイフの刃が、
レミィの喉笛を掻き切った。
びくり、と震えたその身体が、最後の生命活動を全うしようとする。
453 :
雪隠詰め:2006/11/10(金) 02:01:31 ID:6tNyLUx10
「……あちゃあ、お漏らしが許されるのは中学生までだぞぅ?
ま、健康でよろしい!」
密着した状態では如何ともし難い。
その放尿を最後まで己の下腹で感じとると、
「ぬふぅ、まーりゃん爆誕の瞬間、しかと見よっ」
言いながら便器の淵に手をかけて、少女は鮮血と尿に塗れた身体を引き上げる。
「さーりゃんのためにも、もう少し減らしておきたいところなんだが……ふむ」
ところどころに薄黄色の染みをつけた己の着物の襟に鼻面を突っ込んで、ふんふんと
臭いを嗅ぐ少女。
「さすがにこれじゃあ近づいただけでもバレてしまうぞ……。
……よし、こういうときはお風呂に入って再出撃するに限るっ。
せいぜい不安に慄くがいいぞぅ、諸君!」
厠から出ると、そのまま縁側に降りる少女。
軒下に潜り込むと己のザックを取り出し、石庭を横切って垣根を乗り越えていく。
その姿に、一切の迷いはなかった。
454 :
雪隠詰め:2006/11/10(金) 02:02:15 ID:6tNyLUx10
【時間:2日目午前0時頃】
【場所:F-8 無学寺】
朝霧麻亜子
【所持品:SIG(P232)残弾数(4/7)・ボウガン・バタフライナイフ・投げナイフ・仕込み鉄扇・制服・支給品一式】
【状態:普通。着物を着衣(防弾性能あり)。貴明とささら以外の参加者の排除】
宮内レミィ
【状態:死亡】
所持品:忍者セット(木遁の術用隠れ布以外)、ほか支給品一式は郁乃たちのいる部屋に放置。
高槻自称ry
【所持品:食料以外の支給品一式】
【状況:称号ロリコンストーカー】
小牧郁乃
【持ち物:500S&Wマグナム(残弾13発、うち予備弾の10発は床に放置)、写真集二冊、車椅子、膝にポテト、他基本セット一式】
【状況:不安】
立田七海
【持ち物:フラッシュメモリ、他基本セット一式】
【状況:意識不明】
久寿川ささら
【所持品:スイッチ(未だ詳細不明)、ほか支給品一式】
【状態:健康】
沢渡真琴
【所持品:日本刀、スコップ、食料など家から持ってきたさまざまな品々、ほか支給品一式】
【状態:健康】
ほしのゆめみ
【所持品:支給品一式】
【状態:異常なし】
→283 →372 ルートB,J系
>>451 感謝〜。
「オウ、何だか怖い雰囲気だナ。ムードメーカーエディ様の出番ってヤツダゼ!」
ズジャーン。そんな効果音を引き連れ男女の間に入ったのは、かっこよくポーズを決めたエディだった。
緊張感に包まれた場の空気が緩くなる・・・先に反応したのは、銃身を橘敬介に向け威嚇していた神尾晴子であった。
「・・・うちの嫌いなもん、教えたろか。
肝心な時に女子高生とイチャイチャしてる腑抜けと、空気の読めないお茶らけた奴やぁ!!」
「よせ、晴子っ」
VP70の引き金が引かれようとする、彼女の起こそうとした行動に気づいた敬介が駆け寄るが・・・間に合わない。
空気をつんざく音が響いた、それと同時に「きゃあっ」っという雛山理緒のあげた悲鳴が上がる。
だが、その時にはもう・・・晴子の目の前にいたはずの標的は、消えていた。
「な、何や?」
「何やもくそもナイっつーことだナ。悪いケド、素人に弾当てられるナンテ冗談でもゴメンだぜぇ」
「?!」
正面にいたはずの男は今、晴子の側面に移動していて。
慌てて向き直るものの、すかさず出された手刀で晴子のVP70ははたき落とされてしまう。
「くっ・・・」
「悪趣味でワルイけど、ずっと様子見させてもらってナ。事情は何となく読めたってことヨ」
飄々としたその態度、敬介はただ呆然とそれを見やるしかない。
獲物を手放され、晴子は苦虫を噛み潰したような顔でエディに対し睨みを効かすしかなかった。
「だから何や!これはうちらの問題や、他人が口を挟むようなことじゃあらへんっ」
「イヤイヤ、実はそんなこともなかったりするんだナ。
・・・フム、あんたの獲物はマシンガンタイプじゃナイ、フム。・・・アンタ、ここまでで何人殺したンダ?」
「はぁ?なんでそんなん答えるわけないやろ、いい加減にしい!」
「フムフム。聞く耳は持ってくれない、カ」
「くだらないこと言ってるとしばくでっ」
「ウーン、じゃあ、質問を変えるゼ。人探し中でナ、こういう子達見なかったカイ?」
那須宗一、湯浅皐月、梶原夕菜、リサ=ヴィクセン、姫百合珊瑚、姫百合瑠璃、河野貴明。
彼等の特徴を、エディは細かく説明する。・・・その間、晴子の機嫌がますます悪くなっていったが彼は気にせず話を続けた。
「・・・うちが答えると本気で思っとるん?どれだけ呑気なんや、あんた」
「じゃあ、そっちのニイサン達は?」
「・・・すまない、僕は見てないようだ」
「わ、私もです」
「ソウカ・・・」
「ほんまいい加減にしいや。邪魔なんや、うちの堪忍袋も限界やで!」
「フム。冷静に話すらさせてもらえないってことカイ。・・・まぁ、仕方ないカ」
ギャーギャー騒ぎ続ける晴子を、エディは軽くいなす。
そして、問答の意味がないと理解した時。彼の態度は急変した。
「オバサンの言い分はワカランでもない、オレッチも大事な子は守りたいからナ」
「誰がおばさんやっ」
「でもな、それで手にかけることにより悲しむ人間が新たに生まれるってことを、アンタは理解した方がイイナ」
「うるさい、だからあんたには関け・・・」
歪んだ晴子の表情が、真顔に戻る。
見開いた目が映しているのは、牙を向いた狩猟者の、眼差し。
「アンタは大事な子が生きているから、そういうことが言えるってことだヨ・・・」
一瞬で空気が歪んだ気がした。
おちゃらけているように見えた男の表情が凍てつく、え・・・という呟きが漏れたと同時に、晴子の体は吹っ飛んでいた。
「晴子?!き、君一体何を・・・っ」
固まっていた敬介が慌てて駆け寄る、だがエディの言葉で彼の足は中途半端に止まってしまう。
「大事なコを守るためはいえ、ゲームに乗ったヤツをオレッチは許すワケにはイカナイ」
低い、脅すような台詞。全力でエディに殴られた晴子の意識は既に途切れている、その声は彼女に届くことはない。
だからエディは向き直り、立ちぼうけで何もできなかった男に対し、吐いた。
「・・・この女が次ぎ会った時もコンナ様子だったら、オレッチは容赦しないゼ。
こういうヤツにユカリちゃんが殺されチマッタなんて考えるだけで・・・オレッチ、ハラワタが煮えくり返りそうナンダ・・・」
殺気。晴子を殴り倒したエディの右手が物語る、細かく震え続けるその理由は・・・怒りだ。
ぞっとする。このような場面に今まで出くわしたことのない敬介には、なす術もない。
「・・・アンタの大事な子は無事だといいナ、だけど急いだ方がイイゼ。
さもないと、オレッチの仲間みたいに蜂の巣にされちまうゼ・・・」
その言葉を最後に、エディはこの場から離脱した。
足元に転がっていたVP70は彼が回収した、それを止める者はいない。
残されたのは殴り倒され意識を失っている晴子に、立ち尽くす敬介。
・・・そして、小さく震えているしかなかった、理緒。
苦い顔で拳を握り締める敬介の傍を通過し、彼女は倒れ伏せる晴子の元に近づいた。
殴られた頬は赤く染まっている、口の中も切っているのだろうか赤いしみが草むらにできていた。
「・・・よい、しょ」
肩に腕を回し体を起こす、力の抜けた晴子の体はくたんとなって、理緒一人で運ぶことが不可能であることを表す。
それを見た敬介も、ゆっくり彼女に近づき力を貸した。
・・・とりあえず、気絶した晴子を何とかしなければいけない。
特に行き先を話し合うわけでもなく、二人は村に向かって歩き出した。
「・・・僕は、何もできなかった」
少しずつ進んでいく中、無言の場を先に破ったのは敬介であった。
「それは私も同じです」
「晴子、僕の言うことを・・・聞いて、くれなかった。情けないな・・・」
苦い、苦い呟き。
理緒は、それにかける言葉を思いつけなかった。
・・・役立たずは自分の方だ。何もできなかったのは、自分の方だ。
俯く彼女の様子を、逆側から晴子を支えている敬介は読み取ることはできない。
運よく鍵の開いていた民家に辿りついても、場の空気が戻る気配はなかった。
459 :
補足:2006/11/10(金) 17:28:05 ID:tgT1zd5z0
神尾晴子
【時間:1日目午後11時過ぎ】
【場所:G−2】
【所持品:支給品一式】
【状態:気絶】
雛山理緒
【時間:1日目午後11時過ぎ】
【場所:G−2】
【持ち物:鋏、アヒル隊長(13時間後に爆発)、支給品一式】
【状態:自失気味(アヒル隊長の爆弾については知らない)】
橘敬介
【時間:1日目午後11過ぎ】
【場所:G−2】
【持ち物:トンカチ、繭の支給品一式(中身は開けていない、少し重い)】
【状況:自失気味(自分の支給品一式(花火セットはこの中)は美汐のところへ放置)】
エディ
【時間:1日目午後11時過ぎ】
【場所:G−3(移動済み)】
【持ち物:H&K VP70(残弾、残り14)瓶詰めの毒瓶詰めの毒1リットル、デイパック】
【状態:マーダーに対する怒り・人探し続行中】
B−4の場合、H&KVP70の残弾を16にしてください。
(関連60・318)(B−4)
(関連160・318)(B−9)
「ぷひー! ぷひー!」(おい! 嘘だろ! せっかくまともな飼い主が見つかったってのに!)
ボタンは崖から落ちて息絶えた春原芽衣にすがり、泣き声を上げていた。
「ぷひー……」(どうして……どうしてこんなことに……)
ボタンは芽衣、英二と共に鎌石村に向かっていたはずだった。
そうだったはずなのに、いつの間にか二人と一匹は崖に立っていた。
そして芽衣は、空から降りてきた翼人に妙な術を掛けられ崖下に落とされてしまったのだ。
「ぷひー……」(俺のせいだ……俺がワープポイントに気付かなかったから……)
思えば辛く苦しい日々だった。
力を封印され地上に落とされたところを杏に拾われてから、
ボタンには彼女のオナペットとしての性活が待っていた。
そこには、かつて神をその背に乗せて天を駆けていたころの面影は微塵も残っていなかった。
「ボタン、高速バイブ!」
「ぷひー! ぷひー!」(俺は性猪じゃなくて聖猪だってーの!)
それはまさに地獄だった。
毎日のように彼女のヴァギナを、アヌスを舐めさせられ、
その舌を、前足を、後ろ足を、あるいは全身を入るところまで挿入させられた。
毎日の食事は彼女の愛液だった。
隣の部屋から聞こえてくるおぞましい喘ぎ声を聞き、
向こうよりはましかもしれないと思えることだけが唯一の救いだった。
「ぷひー……」(俺は……これからどうするべきなんだ……)
「うーん、こっちからボタンの匂いがするような気がする……」
藤林杏は匂いを頼りにボタンの捜索をしていた。
朋也2号、3号を失った今、彼女の性的快楽を支える三種の性具はボタンしか残っていない。
なんとしても見つけなければならないという思いが、
彼女の嗅覚を驚くほどパワーアップさせていた。
「ぷひー!」(やばい! 杏がこっちに来る!)
ボタンはまさに性鬼と呼ぶ他ない元飼い主の接近を察知し、震え上がった。
このまま捕まったら、ただのオナニーの道具と成り果てる。
それだけはなんとしても避けなければならない。
しかし今いる場所は崖下の海岸、身を隠す場所などなかった。
「ぷひー……」(万事急すか……)
「匂いが強くなってきたわね。ボタンはこの辺りにいるはず……あっ!」
杏は倒れているボタンを見つけ、駆け寄った。
「やっと見つかったわ。さっきから欲求不満でほんとに辛抱たまらなかったのよね。
さっそくだけど、イクわよボタン! 超高速バイブ!」
そして彼女から、慈悲のかけらもない命令が下された。
・
・
・
「ボタン! 何をやってるのよ!」
杏の怒りの声が響く。何度命じても、ボタンはピクリとも動かなかったのだ。
「ちゃんと振動しなさい! 言うこと聞かないと皮を剥ぐわよ!」
しかしボタンには全く反応がみられなかった。まるで死んでいるかのように。
杏はボタンの脈に手を当てた。
「嘘でしょ……ボタンが……死んでる」
そこに血液の流れは感じられなかった。
彼女は次にボタンの胸に耳を当てたが、心音は聞こえなかった。
「う……そ……」
杏は大いなる絶望に包まれた。
一番の性パートナーの死、受け入れがたい現実に打ちひしがれた。
ボタンの近くには、ひしゃげた誰かの死体がある。
横は断崖絶壁、誰かに突き落とされたのだと杏は判断した。
「誰よ! ……誰がボタンを殺したのよ!」
全ての希望は絶えた。もう何もしたくない。
こんなときはロワちゃんに逃避するに限る。
彼女はパソコンの電源を入れた。
放送保管スレッド
1:びろゆぎ@管理人:一日目 21:02:47 ID:haKarowa3
このスレッドでは、聞き逃した方、もう一度聞きたい方のために定時放送などをアップロードしていきます。
「そういえば、さっきなんか放送あったわね。オナニーに夢中で全然聞いてなかったけど」
別に放送の内容なんてどうでもよかったが、一時でも気を紛らわしてくれればと、
彼女はアップされた放送を聞いてみることにした。
それが彼女にさらなる絶望を突きつけることになるとも知らず……
────────────────────────────────────────────────
───厚生労働省、特別人口調査室の榊です。今回の参加者の権利発生に関するお知らせを致します。
住民基本台帳番号33218802のバトル・ロワイヤルに参加中のの岡崎朋也さん、
住民基本台帳番号33218802のバトル・ロワイヤルに参加中のの岡崎朋也さん。
10月14日に住民基本台帳番号33218802の岡崎がこっそりと市役所に婚姻届だしていた
住基番号38221088番の岡崎智代さん、旧姓坂上智代の死亡が、午後12時32分に確認されました。
配偶者死亡の為、180日後の3月25日、午後12時33分を持って岡崎様に再婚を行える権利が発生した事を
ここにご報告申し上げます。
────────────────────────────────────────────────
放送を聞いた杏は、あまりの内容に意識を失いかけた。
「朋也が……結婚? 智代と? 何よ……それ」
朋也はあたしと付き合うはずだったのに
朋也はあたしと結婚するはずだったのに
朋也のために処女も大切にとってたのに
「あはははははははははははくぁwせdrftgyふじこlp!!」
希望は全て絶えたと思った。そんなの嘘だった。
性的欲求解消の術を断たれることなんて、その源を断たれることに比べたらどうということもない。
自分は誰を想い、何のためにオナニーをしてきたのか……
そんなの決まってる……
朋也への愛のため。
「もういい! みんな死んでしまえ!! 朋也も椋もことみも渚もみんなみんな殺してやる!!
くけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけ
けけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけ
けけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけ
けけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけ!!!!」
杏は奇声を上げてその場を走り去った。
「ぷひー」(助かったぜ……なんかパソコン忘れてったみたいだな)
杏がいなくなったのを確認し、ボタンはそっと起き上がった。
「ぷひー」(まさか心臓を千年に1回しか動かさない技が役に立つ日が来るとは……いや待て)
そしてボタンはおかしなことに気が付いた。
力が封印されているのなら、こんな技が使えるはずがないのである。
「ぷひー」(もしや封印が……)
ボタンの毛の色が金色に染まっていく。
それと同時に、ボタンはこの島にいるもう一匹の獣の気配を感じ取った。
「ぷひー! そうか、我が宿敵ポテトの封印も解けたか!
ついに決着を着ける時が来たぜ。待っていろ、すぐにそちらに向かってやる」
【時間:午後9時半ごろ】
藤林杏
【場所G−03】 【持ち物:包丁、辞書×3(英和、和英、国語)、支給品一式】
【状態:オナニーマスター、朋也を殺す】
ボタン
【場所H−03上空】 【持ち物:ノートパソコン(充電率90%)】
【状態:聖猪(飛行能力あり)、ポテトと戦う】
→351, →361, ルートD
465 :
疑心暗鬼:2006/11/11(土) 00:09:09 ID:HeU+7QOQ0
雅史と椋は途中に何回か小休止を挟みながらも歩き続けた。
あの廃屋では役に立ちそうな道具は無いし、人通りも無く情報も集めれない。
いつまでもあそこで休んでいるわけにはいかなかった。
(お姉ちゃん、朋也くん……どうか無事でいてくださいね……。)
椋の体力は限界を越えていたが、それでも椋は雅史の制止を受け入れる気配を見せなかった。
今椋が考えている事は、早く杏と朋也に会いたいという事だけだった。
一心不乱に歩き続けた甲斐もあって、どうにか椋達は氷川村へと辿り着いた。
だがその時には椋はもう、動き回れるような状態ではなかった。
「椋さん、お姉さん達を探すのは明日にしよう?」
「でも……。」
「これだけ暗いのに動き回ってる人は少ないだろうし、危ないよ。しっかり休んで、明日の朝探そうよ。」
それでも椋は渋ったが、最後には折れた。
まず近くにあった民家に雅史が侵入し、安全を確認してから椋を招き入れる。
民家には生活に必要な物は一通り揃っており、台所から食料、水、包丁などを手に入れる事が出来た。
そして民家の奥にある一室の扉を開けると、机の上にある物がおいてあった。
「これは…ノートパソコンだね。」
「そうみたいですね。雅史さんはパソコン使えるんですか?」
「ちょっとだけならね。少し調べてみるよ。」
電源ボタンを押すと、パソコンが立ち上がった。
デスクトップに『参加者の方へ』と書かれたフォルダが置かれてある。
「これは何だろ?」
他にめぼしい物も無かったので雅史はそのフォルダを開き、中に入っていたchannel.exeをクリックした。
「!?」
いくつかあるスレッドの中で最も目を引かれたもの
―――――死亡者報告スレッド。
雅史は大慌てでそのスレッドを開いた。
雅史のすぐ後ろでは椋が食い入るように画面を見ている。
466 :
疑心暗鬼:2006/11/11(土) 00:09:47 ID:HeU+7QOQ0
「酷いな……。」
それが雅史の感想だった。
杏や朋也、浩之やあかりの名前は無かったが、雅史と椋の気分は沈んでいた。
ゲーム開始から13時間、まだたったの半日程度しか経っていない。
だがそれだけの間に、もう30人以上の人間が命を落としていた。
改めてこのゲームの恐ろしさを実感させられる。殺し合いは決して人事ではないのだ。
詩子と椋の揉め事は雅史とセリオの介入のおかげで事無きを得たが、雅史とセリオがいなければどうなっていたか?
あまり考えたくない事だったが、殺し合いになっていた可能性も十分あるだろう。
椋も詩子もゲームに乗っていなかったにも関わらずだ。
何も敵はゲームに乗った者だけとは限らないのだ。
僅かなすれ違いで、やる気の無い者同士でも殺し合いに発展してしまう可能性がある。
雅史はいつの間にか冷や汗を掻いていた。
何とか気を取り直し、次のスレッドを開く。
「…お姉ちゃん!!」
―――――自分の安否を報告するスレッド
そこに最初に書き込まれていたのは、杏によるものだった。
杏らしい、全く希望を捨てていない気丈な文章。
書き込みの時間は随分と前だが、杏の名前は死亡者スレッドに無かったしまだ無事だと考えていいだろう。
「椋さん良かったね、お姉さん元気そうじゃないか。」
「はい!」
雅史と椋の顔に笑顔が戻った。
だがそれも長くは続かなかった。
次の書き込みを見た瞬間、二人とも凍り付いていた。
「そ、そんな………。」
天野美汐という人物の書き込みによると、橘敬介という男がマーダーであるようだった。
467 :
疑心暗鬼:2006/11/11(土) 00:10:33 ID:HeU+7QOQ0
それも最初は友好的な態度をとっていたのに、突然裏切るという、極めて悪質なマーダー。
当然そのようなマーダーがこの男だけとは限らない。
出会い頭でお互い警戒している時は危険なのは分かっている。
だが仲間になった後も、裏切られるかもしれない。
その事実に二人は凍り付いていた。
何とか落ち着いた後も、椋と雅史は頭を悩ませていた。
杏や朋也が単独行動なら、何も問題無い。感動の再会だ、めでたしめでたし。
だが、もし杏や朋也が複数で行動していたら?橘敬介のようなマーダーに騙されていたら?
一緒に行動すれば、自分達も殺されてしまうだろう。
いや、それすらも楽観的な考えでしかない。
杏や朋也、浩之やあかりですらも、ゲームに乗っていない可能性が0とは言い切れないのだ。
そんな考えは主催者の思う壺だと分かってはいるが、完全に否定する事は出来ない。
何せ、既に30人以上もの人間が死んでいるのだから。何が起きても不思議ではない。
一旦疑いだすとキリが無かった。このゲームは本当によく出来た、タチの悪い死のゲームなのだ。
「雅史さん……。」
椋が不安そうに、雅史の腕を掴んでくる。
雅史は黙って、パソコンの電源を落としていた。
「椋さん……今日はもう寝よう。」
雅史はとにかく今は眠る事にした。
本当は、きっと大丈夫と言ってあげたかったけど。
雅史自身不安は拭いきれていなかった。
468 :
疑心暗鬼:2006/11/11(土) 00:11:04 ID:HeU+7QOQ0
【時間:2日目00:30】
【場所:I-07】
佐藤雅史
【持ち物:金属バット、支給品一式(食料二日分、水二日分)】
【状態:睡眠中、疑心暗鬼】
藤林椋
【持ち物:包丁、参加者の写真つきデータファイル(内容は名前と顔写真のみ)、支給品一式(食料二日分、水二日分)】
【状態:睡眠中、疑心暗鬼】
【関連089・224・326、ルートB-11】
「殺す……殺す殺すコロス弧ロス故lossゥゥゥゥ!!」
貧乳で年増で偽善者だった鬼が、恐るべき勢いで祐一へと迫る。
だが『究極の一』の名を冠する存在は動じない。
その美しさに星々さえも恥らって姿を隠すといわれた眉筋一つ動かすことなく、
鬼の突進を紫水晶の瞳に映している。
凄まじい速さで繰り出された鬼の爪が、その人類至高の美と謳われたかんばせを
引き裂くかと思われたその刹那。
祐一は、驚くべき行動に出た。
「シャァァァァッ―――……え……?」
コンクリートすら轢断する鬼の爪の一撃を、片手で事も無げに受け止めてみせたのである。
掴んだ手を優しく引き寄せる祐一。
何が起こったのか理解する前に、千鶴は祐一の胸に抱かれていた。
(……温かい……)
細身でありながら、しっかりと筋肉のついた胸の力強さに頬を染める千鶴。
そんな千鶴の耳朶に、甘やかな声が反響する。
「俺はお前と戦いたくはない―――」
そのどこか憂いを含んだ美しい声に、千鶴は思わず顔を上げる。
間近で見るその瞳は、夜明けの地平線を思わせる深い色合いの紫色をしていた。
街を歩くだけで幼女から老婆までを濡らすと噂されたその至宝に、思わず
吸い込まれそうな感覚を覚える千鶴。
(なんて……哀しい色……)
千鶴の唇が震える。
祐一の瞳に、永い旅路の中であらゆる人々の嘆きを受け止めてきたかのような
悲哀を見て取ったのである。
知らず、千鶴の目から一筋の涙が零れた。
その涙を、祐一の白くたおやかでありながら絶対の力強さを感じさせる指が掬い取る。
「自分を見失うな……お前のすべては、お前の生きてきた証でもある―――」
その声は、天上からの託宣にも似て千鶴の脳裏を軽やかに侵す。
「だから、……まずはお前自身が、お前を愛してやらなくちゃな」
愛。
あらゆる生と死、喜びと哀しみをその身に背負ってきた祐一の口から発せられた
その言葉は、荒れ狂っていた千鶴の心を見る間に融かしていく。
「お前―――、名前は」
「え、ち、ちっ……」
焦りすぎて舌を噛んでしまう千鶴。
恥ずかしさに紅潮し、眼にいっぱいの涙を溜める。
そんな千鶴の様子に微笑んで、祐一はその腕に少しだけ力を入れる。
「え……きゃっ」
「―――落ち着いたか?」
祐一の胸に顔を埋める格好になる千鶴。
心臓は早鐘のように高鳴っている。
「……か、かしわぎ……」
「うん」
「柏木……千鶴、です……」
頬を真っ赤に染めながら、ようやくそれだけを口にする千鶴。
気恥ずかしさに顔を上げられないでいる。
そんな千鶴の顎に軽く指を添えて、上向かせる祐一。
「あ……」
「千鶴、か―――。綺麗な、名前だな」
そう言った祐一の表情は、どこまでも優しい。
「俺は―――祐一、相沢祐一だ」
「祐一……さん」
その名を心に刻む千鶴。
運命という単語の意味を、たった今理解したと、そう思う。
だが、
「あ……」
千鶴を抱きしめていた祐一の身体が、離れていく。
祐一のぬくもりが、夜気に晒されて消えていく。
「―――俺には、やらなければならないことがある」
「そんな……」
「―――千鶴。お前にはお前の、すべきことがあるはずだ」
「……はい」
「きっとまた逢えるさ。……お互いの道の果てで、な」
その言葉を最後に、祐一は千鶴に背を向ける。
次第に離れていくその背中を、千鶴はいつまでも見つめているのであった。
……そんな二人の様子を、半ば頭を抱えながら見ていた者がいた。
「あちゃー……千鶴さん、そんなのに引っかかったらダメだってば……」
みずかである。
星明りもない夜の中にあって、ぼんやりと輝く少女はしかし、千鶴にも
祐一にも認識されることなく、そこに存在していたのであった。
ぼんやりと祐一の去った方を向いたまま立ち尽くしている千鶴の姿を見て、
みずかはひとつ溜息をつくと大儀そうに立ち上がる。
とことこと歩いて千鶴の前に回り込むと、靄のかかったような千鶴の瞳の前に
指を差し出し、ぱちんと弾いた。
「……はい、ここからはみずかちゃんの設定紹介コーナーだよ。
今、千鶴さんをどうでもいいお説教一発で恋の奴隷に変えた優男が相沢祐一。
U−1って呼ぶ人も多いわね。
彼は偉大な魔法使い、……だったわ。かつてはね。
その話をする前に、彼の特性をちょっと補足しときましょうか。
祐一の『祐』は『誘』に繋がるの。誘惑の誘、ね。
つまり相沢祐一の本質は『魅了』、チャームなんだよ。
そのあまりにも強すぎる魅了の力に、世界すらも彼の虜になってしまった……それが、
彼の無敵の秘密だったのよ。世界に愛されている……それがあの人の強さだったの。
……『だった』、つまり過去形なんだけど。
彼を愛していた世界なんか、もうとっくの昔に死んでしまっているのよ。
まぁそこら辺は長くなるから省くけど、色々あって彼はもうかつての彼とは
実はまったくの別物なの。
今のアレは、『魅了』という概念そのもの。
誰かを、何かを好きになるっていう心、そのものに近い存在ね。
そんなものに正面から向かっていったって、そもそも勝てやしないの。
自分の中の、何かを好きになるっていう心と向き合って勝つなんてできないんだから。
……たぶん、誰であろうと、ね。
だからとにかく、そんな人に引っかかっちゃダメだよー」
kaihi
一気に喋り終えると、みずかはもう一度千鶴の目の前に指をかざし、打ち鳴らした。
「……え? わ、私は……一体……?」
きょろきょろと辺りを見回す千鶴。
靄がかかっていたような瞳は、すっかり晴れている。
「―――で、こっからがみずかちゃんの悪魔のお誘いコーナー」
「……!?」
声は背後から。
慌てて振り向く千鶴。そこには、一人の少女が立っていた。
千鶴はそのぼんやりと輝く不可思議な少女の気配を、今の今まで感じとれなかったことに驚愕する。
「あなた、一体どこから……!」
「そんなことはどうでもいいの。……単刀直入に訊くね」
言葉を切って、上目遣いに千鶴の表情を窺う少女。
悪戯っぽい笑みを浮かべながら、少女はこう続けた。
「―――ねえ、力が欲しくはない?」
【時間:2日目午前1時ごろ】【場所:H−08】
相沢祐一
【持ち物:世界そのもの。また彼自身も一つの世界である。宝具・滅神正典(ゴッドイズデッド)、護符・破露揚握琴】
【状態:真唯一者モード(髪の色は銀。目の色は紫。物凄い美少年。背中に六枚の銀色の羽。何か良く解らないけど凄い鎧装着)】
みずか
【状態:目的不明】
柏木千鶴
【所持品:アイテム不明・支給品一式】 【状態:異常なし】
備考:公子に瑞佳、詩子と梓の荷物は辺りに放置。
→408 ルートD-2
みずかって神奈のしもべじゃなかったっけ?
目的不明?
,.-'" ̄ /"/ / / /| /| / |!,| |、',',\ ト、 ';.| l ',ヽ . ( 嫌 生 無 こ
/ / / ,,./ / , | / |/ |/,,ノ| ヽ. |` `iー-|!ヽ', l| | i |/ ) で .き .視 れ
'///./ | | !,.:T''工!、'' ヽ! ー ,-::、!''ト、 ! | ト |_.( す て .さ 以
/'´ / / ,| | !,ィ込ク _, i! 上ひマァ|l|. | !|X ).! い .れ 上
| /! /| ∧ ト!┴'¨;;;;;:: , ......... 、 ::;;;; ̄ レ'| | ! ̄ヽ( く .な
|l ,l || | ト! /´ ̄ ̄.`'., | | l| ) .の が
|!/ l| !∧ |l ', /'" ̄ ̄ ̄`', ,' .l | |l ( .は .ら
,-、 ,-、 / ト.| | ヽヽ';, | | ,.' /l | ll |__∧.〜〜〜〜´::::
/ 〉 ノ ノ `ヽ|| l| ト':, 、ー-----一 ,. ,:'/'" ! ! l l| l /ヽ \ ! !
/ ,' / ./ , -!| l|. | ト''::、 ~ ,..:::'' | l | l |.|(~`< ヽ ', l ',
| | / ./ ,.-''" ノ!| | |__.|┘|"''ー:;;;,,,..:::''"|l |_/ / l |一`ヽ、\ | !.| !..、
(`| レ’ /_./ ,. -'".-ァ! | | |,.-r! ;::: .|--、 / / / /ヽ`ヽ、 \ `┘ ` | /
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