水瀬名雪の思考は追いつかなかった。何故祐一と秋子は自分を見捨てて行ったのか。
故に、今すべき最善の行為を―――
「くー」
―――寝た。
水瀬名雪
【時間:午後11時ごろ】 【場所:A−2】
【持ち物:レイピア、GPSレーダー、MP3再生機能付携帯電話(時限爆弾入り)、
赤いルージュ型拳銃(弾1発)、青酸カリ入り青いマニキュア、いちごサンデー】
【状態:水瀬家新当主(未覚醒)。現実逃避】
「378の続き。Dルート」
「ほぉ……もっかい、言うてんか」
「観鈴、そなたの母は血の巡りが悪いのか……?」
(にはは……いきなり言っても、普通はついてこられないと思う)
額に見事な青筋を浮き上がらせているのは神尾晴子。
向かい合っているのは翼人の少女・神奈だった。
「であるからの、余はそなたの娘に宿っておった者だ。
そして余は急いでおる。今すぐ幸せな記憶を作れ」
(うわ、さっきより短くなってる……)
「……よっくわかったわ……」
震える声で言うと、晴子はおもむろに右手のM16を神奈へと向ける。
「……最後にもう一度だけ聞くで。
素っ裸で空から降ってきたと思ったら怪しげな力であっちゅー間に二人始末した、
背中にけったいな羽つけとる自分は、どこのどちらさんやって?」
「観鈴……余はこの者に少し躾をしてやりたくなってきたのだが」
(にはは……がまん、がまん……)
観鈴に話しかけるその声は、霊体である観鈴の見えない晴子にとってみれば、
不気味な独り言でしかない。
とうとう晴子の堪忍袋の緒が切れた。
「観鈴観鈴うっさいんじゃボケ!
居場所知っとんのやったらさっさと案内せぇ!
それともいっぺん蜂の巣なってみるか!?」
晴子の激昂に、神奈の顔から表情が消える。
「ほぅ、面白い冗談を……そのような童の玩具程度で、この身に
どう害を為すというのだ……?」
(が、がお……幸せな思い出……)
「黙れ観鈴、そなたの母の馬鹿は叩かねば治らん。叩いて治ったら、
その後で存分に思い出を作ればよかろう」
(すごいこと言ってる……)
「じゃかましい、死にさらせボケェ!」
売り言葉に買い言葉でスイッチの入った晴子は止まらない。
躊躇無くM16のトリガーを引く。
射出された弾丸はしかし、一発として神奈の身体を貫くことはなかった。
「た、弾が……止まっとる……?」
「ふん、驚くにはまだ早いわ。少し夢でも見て頭を冷やせ」
たちまち涌き出る黒い瘴気。
(が、がお……お母さん、どうなっちゃうの……?)
「心配は要らん、先程と違って手加減しておるわ。
何刻かすれば目を覚ますであろ」
言葉どおり、数時間が経過した。
「ふむ、余の仕掛けたことながら、退屈だの……」
(にはは、夕陽の沈む海、きれいだった)
「今宵は満天の星明り……と言いたいが、少し雲が出てきたようだな……」
硬直したままの晴子の傍らで物見遊山と洒落込む二人。
と、その時。
数時間もの間、身動き一つ取らなかった晴子の指が、ぴくりと動いた。
「お、そろそろかの」
(にはは、お母さんカップラーメンみたい)
指の震えは見る間に晴子の全身に広がり、見開かれたままの瞳に光が戻りはじめる。
最後にびくん、と大きく身を震わせると、晴子はそのまま動きを止めた。
(お、お母さん……? だいじょう、)
がばり、と。
観鈴の恐る恐る、といった様子の呟きが最後まで放たれるよりも一瞬早く、
晴子が顔を上げた。同時に響く、大音声。
「っかぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!
なんでおのれと結婚せにゃならんのじゃ、ボケェーーーーーーーー!
りゅうおう倒した英雄様の言うことが聞けんのかおどれら!!」
(ど、どんな夢をみてたのかな……)
「余とそなたが、如何にしてこのような身の上となったのかを少し絵物語風に
見せてやっただけなのだが……」
(にはは……ぜんぜん違う)
「そなたの母は一筋縄では行かぬようだな……」
ひとしきり叫んでいた晴子だったが、ふと声を収めると、目の前に立つ
神奈へと視線を移した。
まだ微かに警戒の色はあるものの、その目に先程までのような険悪な様子はなかった。
「……ま、自分の言いたいことは大体わかったわ」
「まるで伝わっていないような気もするが、まぁ暴れなければそれでよい」
(お母さん、ちょっと頭悪い犬みたいに言われてる……)
「似たようなものだ」
「何や? 観鈴がなんか言うとんのか」
「益体も無いことだ。……ふむ、ここにそなたの娘がいるということだけは
どうにか伝わっておるようだな」
神奈のトゲのある言葉に眉をひそめる晴子。
「だからわかった言うてるやろ。
観鈴のこと喰いよったバカ虎、バラしてくれてありがとうな。
……ほなら、楽しい思い出作ったるさかいに、観鈴返してや」
「無理だ」
神奈の言葉はにべもない。
「……」
「……」
しばしの無言。
崖に打ち寄せる波音だけが辺りを包む。
先に口を開いたのは晴子だった。
「……何やて?」
「であるから、無理だと言ったのだ。そなたの娘はもうとうに死んでおる」
「やから、生き返らせてや。ちょちょいっと」
ちょちょいっと、と指で卑猥な仕草をする晴子。
そんな晴子を、神奈は冷たい目で見据える。
「滅多なことを言うな。世に無茶は数あれど、それは余にできる無茶を超えておる」
「ちょ、ちょっと待たんかい! そしたら観鈴、観鈴はどないなるんや!?」
「それはもちろん、既に死んでおる身だからの。土に還ることになる。
さ、今すぐ幸せな記憶を作るがいい」
「自分アホぬかしなや! 観鈴死んどって何が幸せや! 何とかせえボケ!」
「何とかと言われても、こればかりはな……」
激昂する晴子。
思案気に腕を組む神奈。
「観鈴は既に魂だけの身……肉は既に使い物にならん。
あんなものに戻したら、それこそ取り返しがつかなくなるだけだからの……」
(が、がお……グロ画像……)
人食い虎に捕食された自身の肉体を想像して胸を悪くする観鈴。
生き返れないという事実そのものはあまり気にしていない。
「せめて魂を込められる器のようなものがあれば、話は別なのだがな……。
そのような都合のいいものが、そうそう転がっているはずも……」
答えは、空から降ってきた。
『―――その務め、私が承りましょう』
暴風を巻き起こし、降りてきたのは輝く白い巨体。
「な……今度は何やっちゅうねん……!」
(にはは、またアニメみたいなのが出てきた)
「む……そなた、その翼は……」
神奈の呟きに、地響きを立てて降り立った白い機体が応じる。
『我が名はウルトリィ―――』
白い翼を持つ機体は、そう名乗った。
【時間:2日目午前1時】 【場所:H−3】
神奈: 【持ち物:ライフル銃】 【状況:すわ、同族かっ/にはは、美人のロボットさん】
神尾晴子: 【持ち物:M16】 【状況:引き続き呆然】
アヴ・ウルトリィ: 【状況:全数値適正】
→351 →383
153 :
彼の代わりに:2006/10/31(火) 11:41:23 ID:ofO1riU00
「ん………」
私はソファーの上で目を覚ました。全身がなんだか酷くだるい。
「よう、目が覚めたか?」
「凄いぐっすり寝てたね……大丈夫?」
声をかけられた方を振り向くと、男の子と女の子が立っていた。
男の子は何となく雰囲気が朋也に似ているかもしれない。
女の子は金髪の子だった。
「……あなた達誰?敵じゃなさそうだけど…」
「ああ、そういえばまだ自己紹介していなかったな。俺は相沢祐一だ」
目の前の男の子は割と落ち着いた様子でそう言っていた。
「み、観鈴です。苗字は神尾です…よろしくお願いします」
それとは対照的に、女の子の方は緊張した様子だった。
なんだか、ことみと知り合った時を思い出すわね…。
あの子と同じように、人付き合いに慣れていない子なのかもしれない。
「あたし杏。藤林杏。それと観鈴、敬語なんて使わなくて良いわよ」
「う、うん、分かった」
無駄に気を遣ったやり取りは好きじゃなかった。
やっぱ、自然に話した方が楽しいしね。
「さて、まずは何で私がこんな所で寝ているのか説明して貰えない?」
杏の言葉に、祐一も観鈴も一瞬固まった。
「…杏さん、何があったのか覚えてないの?」
「残念ながらさっぱりね…、気付いたらここで寝ていたわ」
祐一と観鈴は顔を見合わせていた。
観鈴が何か喋ろうとしたが、祐一が手でそれを制した。
「が、がお…」
「観鈴……、俺に説明させてくれ」
そして祐一はこれまでの経緯を杏に説明した。
154 :
彼の代わりに:2006/10/31(火) 11:43:01 ID:ofO1riU00
杏が女顔の少年に襲撃されていた所を助けた事、その後に杏が疲れて寝てしまった事。18時にあった放送の内容。
向坂環が仲間になった事、観鈴の母がゲームに乗っているという事、銃を構えた女が襲撃してきて英二がその女を撃った事、
今はその女は応急処置済みで別の場所で休ませている事。
女顔の少年との戦いの詳細と、そしてその少年を杏が殺してしまい、錯乱した事は上手く誤魔化して説明した。
その事実を教えれば再び錯乱しかねないと考えたからだ。
説明を受けて、私は大体の状況は把握した。だが、おかしい。
襲撃された時の記憶が全く無い。なんでそんな大事な事を忘れてしまったんだろう。
祐一も何故か曖昧な説明しかしてくれないし……。でも、まずは礼を言わないとね。
「そうだったんだ……、遅くなったけど礼を言うわ。助けてくれてありがとう、それと忘れてしまってて、ごめん」
「いいって。大体俺一人じゃ何も出来なかったしな」
そう言って、祐一は鼻の頭を指で掻いた。照れているんだろう。
やっぱり雰囲気が朋也に似ている。口の悪くない朋也、といった所ね。
アイツも無事だと良いんだけど……。
「それにしても観鈴、大変ね……。お母さんがゲームに乗ってしまっているなんてね」
「うん……、でもきっと、何か理由があると思う」
「私もこのゲームに妹が参加しているのよ……椋、無事かしら……」
妹はちょっとトロい所があるから心配だった。多分、凄い怯えていると思う。
「勝平さん辺りと合流してくれてれば大丈夫だと思うけど……って、あれ?私勝平さんと会ったような気が…」
祐一と観鈴が息を飲んだような気がした。それから記憶が少しずつ戻ってきた。
それは嫌な記憶だったけど、とにかく記憶は戻り始めていた。
「そっか私、勝平さんに襲われたんだ……。それから……」
それからどうなったんだろう。確か、最初に金髪の少年が助けにきてくれたはずだ。
その後駆けつけてくれたのが、祐一と観鈴……。
でも勝平さんは強くて、祐一と金髪の少年の二人掛かりでもやられていた。
そこに大人の男の人がきてくれて、それから確か……。
そこで、全ての記憶が戻った。
下半身だけになった勝平さんの姿が脳裏に浮かび、少し吐き気がした。
155 :
彼の代わりに:2006/10/31(火) 11:44:29 ID:ofO1riU00
「私……、勝平さんを殺しちゃったんだ………」
正当防衛や偶然と自分に言い聞かせようとしたが、駄目だった。
どんな理由があれ事実は事実だ。
「妹の…恋人を……、この手で………」
18時に放送があったと言っていた。なら、椋も勝平さんが死んだ事を知っているだろう。
妹の悲しむ姿が容易に想像出来る。ずっと私が守ってきた妹。
今は逆に、私が妹を悲しませてしまっている。取り返しのつかないほどに。
「私……、どうすればいいの……」
目から涙があふれてくる。どうしよう。どうすればいいのか分からない。
私は人を殺してしまった。それも、妹の一番大事な人を殺してしまった。
きっと、それは死んでも許される事の無い罪。
償いようの無い罪。もう、何も考えられない――
そんな時後ろから、抱きつかれた。
観鈴だった。彼女も私同様、涙を流していた。
「み…すず…?」
「……あんまり、自分を責めないで……」
「なんで…あんたまで、泣いてるの?」
「杏さん、凄い辛そうだったから……」
「………」
なんで、この子は出会って間もない私の為に泣いてくれるんだろう。
なんでだろう。この子にこうして貰っていると、不思議と心が落ち着いてくる。
凄い暖かい。安心できる暖かさだ。
まるでお母さんに抱かれているような感じがする。
私が落ち着いたのを見計らって、祐一が声を掛けてきた。
「杏……確かにお前は人を殺したけど、同時に人の命も救ったんだ。
あの時お前が助けてくれなかったら、俺はきっと死んでたからな」
確かに……それはそうかもしれない。
それで勝平さんを殺した事が許される訳じゃないけれど…、それでも誰かの命を救えたなら、少し救われた気分になる。
156 :
彼の代わりに:2006/10/31(火) 11:45:25 ID:ofO1riU00
「それに、俺も人を殺したけど……、その事を嘆いてるだけじゃ駄目だと思うんだ」
「え……」
「お前と同じで、誰かを救う為にやったんだ。それでも、理由がどうあれ人を殺した事には変わりは無い」
「…………」
「だから俺達は、殺してしまった相手の分も生きなくちゃいけない。」
「…それで、罪が許されるっていうの?」
「許される事は無いさ…人一人の人生を奪ったんだから……。
でも、殺した相手の事を背負って生き続ける事が人の命の奪った者の責任だと思う」
「厳しいのね……、でも、これから何をすべきか見えてきたわ。ありがとう」
私が今すべき事……、それは本来勝平さんがすべきだった事。
つまり、椋を探し出し守る事。あの子は私を許してはくれないだろうけど、それでも絶対に守りたい。
勝平さんも正気の状態だったなら、きっとそれを望んでくれると思う。
やるべき事が決まれば、途端に全身のだるさが取れた感じがした。
精神状態は肉体に大きな影響を及ぼすって、本当だったのね。
「観鈴……あんたもありがとうね。」
私はまだ自分に抱きついてる観鈴に礼を言った。
「にはは……、元気になったみたいで、良かった」
観鈴はまだ目に涙を溜めていたけど、笑顔を作ってくれた。
やばい、この子可愛いかも……。いや、私に変な趣味はないわよ?
でも、女の私から見ても純粋に可愛い。ちょっといたずらしてみたくなった。
――杏は突然観鈴を抱いて、無理やり色んな所を調べ始めた。
「〜〜〜〜!?」
観鈴は必死にじたばたしたが、無駄な抵抗だった。
「へぇ、観鈴は子供っぽいのつけてるんだね」
「〜〜〜〜!!!〜〜〜!?」
「ついでに上も調べてみよっと」
「〜〜〜〜!?〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?!?〜〜〜!〜〜〜!??!!」
「上は、私と同じくらいかな」
157 :
彼の代わりに:2006/10/31(火) 11:46:12 ID:ofO1riU00
一通り調べ終えて満足したのか、杏は観鈴を解放した。
「お前……、そっちの趣味があったのか?」
祐一は怪訝な目で杏を見ていた。
「あ?なんか言った?」
ドスの聞いた声とともに、杏の表情が一瞬険しくなった。
その時の眼光は鋭く、祐一は寒気を感じた。
「い、いや、何でもない」
杏は祐一の周りにいないタイプの女の子だった。
怒らせたら怖い、というレベルではない。怒らせたら命が危ないかもしれない。
祐一は本能で身の危険を察知し、すぐに引き下がっていた。
「が、がお……、もうお嫁にいけない……」
一方で、観鈴はすっかり涙目になっていた。
「もう、あんた達何言ってんのよ……、これくらい友達同士の普通のスキンシップじゃない」
「え……友達?」
観鈴は呆気にとられた表情をしている。
「そうよ。それとも私が友達じゃ、不満?」
「う、ううん!そんな事ないよ!」
「うん、それじゃあよろしく」
そう言って杏は笑顔で手を差し出した。
観鈴も杏の意図を理解し、二人は握手していた。
しかし、杏はすぐに少し考え込むような仕草を見せた。
「…杏さん、どうしたの?」
「友達になったばかりで残念だけど、私そろそろ出発しないといけないわ」
「「え!?」」
祐一と観鈴が同時に驚きの声をあげていた。
「なんでだ?一緒に行動すれば良いじゃないか」
「うん、そうだよ……私、杏さんと一緒にいたいな」
制止しようとする祐一達。
しかし、杏は強い意志を籠めて口を開いた。
一応回避はするが……もうちょっとオナニー臭を抜いた話は作れないのか
159 :
彼の代わりに:2006/10/31(火) 12:18:13 ID:ofO1riU00
「私が今すべき事は、妹に謝る事、そして妹を守る事だから……、ここに留まってるわけにはいかないわ」
その表情は真剣そのもので、一目でその決意の固さが読み取れた。
その様子を見たら、祐一達はもう諦めるしかなかった。
「分かった……、大変だろうけど頑張れよ。」
「ええ、何とかしてみせるわ。あんた達も死んじゃ駄目よ」
「勿論そのつもりだよ……、自信があるわけじゃ無いけどな」
そう言って祐一は苦笑いした。
杏が別行動を取ると知った観鈴は、涙目になっていた。
それに気付いた杏が声を掛けた。
「観鈴、泣いちゃ駄目よ」
「杏さん……」
今はこんな過酷な状況下だった。再び生きて会える保障はどこにもなかった。
それでも杏は、笑顔だった。
「きっとまた会えるわよ。今度は私の妹も一緒にね」
そうして杏は観鈴に近付き、彼女の頭を撫でていた。
「それじゃ私、行くわね。また会いましょう。ほらボタン、行くわよ!」
「ぷひぷひ〜」
杏がボタンの目の前で指をパチンと鳴らすと、ボタンの人形化が解けた。
杏は走り寄ってきたボタンを胸に抱いた。
「杏さん……絶対に、また会おうね」
観鈴は何とか笑顔を作り、そう言っていた。
杏はもう何も言わずに笑顔で手を振り、そのまま分署を後にした。
こうして彼女は強い決意と共に歩き出した。
160 :
彼の代わりに:2006/10/31(火) 12:18:49 ID:ofO1riU00
相沢祐一
【時間:21:00】
【場所:鎌石村消防署(C-05)】
【持ち物:なし】
【状態:体のあちこちに痛み】
神尾観鈴
【時間:21:00】
【場所:鎌石村消防署(C-05)】
【持ち物:フラッシュメモリ、支給品一式】
【状態:疲労はあるものの外傷等はなし】
藤林杏
【時間:21:30】
【場所:C-6鎌石村消防分署のすぐ傍】
【持ち物:ノートパソコン(充電済み)、包丁、辞書×3(英和、和英、国語)、支給品一式】
【状態:決意、目標は妹との再会】
ボタン
【状態:杏に同行。】
※杏の荷物は消防分署に置き去りにした荷物を回収
※関連341、ルートB-10
>>158 回避thx
特に誰も活躍してない話でオナニー臭云々言われても困るけど、
とりあえず感想は感想スレに書いてくれた方が助かります
162 :
無くした面影:2006/10/31(火) 16:29:54 ID:PsI88aqp0
郁乃と七海の襲撃に失敗し、柚原春夏は憔悴しながらただ駆けていた。
あたりはすっかり闇に染まり、空に光る星々が薄く彼女を照らしている。
主催者から告げられたタイムリミットは無慈悲にも止まることはなく刻まれていた。
だがいまだに目的はただの一人も果たせていない。
そして今この瞬間このみが安全である保証も無いのだ。
その表情にはかつての彼女の面影などはなく、愛娘とそして自分を救うために生贄を求め彷徨い続けていた。
そんな折、前方から何やら声が聞こえてきた。
春夏は逸る足をピタリと止める。
こんな時に大声で話しているなど、よほど危機感が無いのかと呆れながらも近くの木に身を潜めた。
暗くてよく見えないが制服を着た一組のカップル。
そして男のほうは背中にもう一人男を背負っていた。
仲睦まじく、笑いながら語り合うそのカップルを見て春夏の心は理不尽な怒りで覆われた。
本当だったら、普段どおりに朝起きて、タカくんがこのみを迎えに来て、二人で登校するのを見送り、帰って来たこのみの笑顔を見る。
たったそれだけの些細な幸せがずっと続くはずだったのに、こんな意味のわからない殺し合いを強制させられて。
このみはずっと震えているのかもしれないのに、彼らは何だ?
デザードイーグルを握る手に力が篭った。
だが、もしかしたらと言う可能性も捨て切れなかった。
怒りを必死にかみ殺し、春夏は覚悟を決めて二人の前に身を晒した。
「――すみません」
いきなり目の前に現れた女性に、浩平と留美は思わず身構えた。
手に持つ銃の姿に、留美のP-90を持つ手が震える。
だが二人の緊張とは裏腹に、春夏は助けを求めるような表情で「娘を探しているんです」と告げた。
同時に容貌や特徴などを聞かされ、その必死さに他人事ではなく感じた二人は警戒を少し解き耳を傾ける。
残念ながら心当たりはなかった旨を伝えると春夏は「そうですか……」とポツリとつぶやきゆっくりと銃を二人に向けた。
163 :
無くした面影:2006/10/31(火) 16:30:31 ID:PsI88aqp0
何かを考えたわけではない。
反射的に浩平の身体は地面を飛んでいた。
その瞬間、今まで自分がいた場所を弾丸が通過して行った。
留美へと向かって体当たりをする形で倒れこみ、留美の手からP-90が転げ落ちた。
また、その反動で冬弥の身体が浩平の背中からドサッと落ちる。
浩平は衝撃に身体に痛みが走るのも気にせず、留美を抱えこんだままゴロゴロと転がる。
その後を追う様にまた銃弾が何発も打ち込まれた。
カチッカチッ。
デザートイーグルの弾が切れ音だけがその場に響く。
春夏は恨めしそうにそれを捨て去ると、荒い息を抑えようとせずバックからナイフを取り出した。
「なにすんだよっ!」
弾が発射されないのを確認すると、ヨロヨロと立ち上がりながら浩平は春夏を睨んで叫んでいた。
その剣幕にも怯まず、春夏は浩平を悲しげに睨み
「このみのために……死んで!」
そう言ってナイフを逆手に握ると大地を蹴った。
――ナイフが浩平の身体に届くことはなかった。
春夏の叫びと共に響いた一発の銃声。
浩平と留美の目に映ったのは、額から血を吹き出しゆっくりと大地に崩れ落ちて春夏の姿と
その後ろでP-90を抱え、自身で撃った春夏を冷たい目で見下ろす冬弥の姿だった。
「おまっ……」
浩平が叫ぼうとした直後、P-30の銃口が浩平に向けられる。
「藤井さん止めてっ!」
トリガーに伸びた指がピクリと動くと、冬弥は呼びかけられた声に銃を下ろし留美のほうをゆっくりと見つめた。
「なんで、撃ったの……」
尋ねる留美の声は震えていた。
聞かなくても答えは予想できていたにも関らず、自分からそう尋ねてしまっていた。
「こんなくだらない殺し合いに乗った奴がいるから、理奈ちゃんは……はるかは……」
繭のことを思い出し、留美の心がチクリと痛んだ。
「お前だって乗ってるんじゃないのか!?」
164 :
無くした面影:2006/10/31(火) 16:31:49 ID:PsI88aqp0
浩平は留美を庇うように前に立つと、冬弥に向かって叫んでいた。
「結果的には助けてやったってのに酷い言われようだな」
困ったような、呆れたような、どちらとも取れる顔で冬弥は溜め息をついた。
「何も殺さなくたって良いじゃないか!結果的にって話なら殺した時点でお前も同類だろうがよっ!!」
「っ、浩平!!」
浩平の言葉に、留美は反射的に浩平の頬を叩いていた。
思わぬ方向からの攻撃に、叩かれた頬を押さえながら浩平は固まってしまった。
「……言いすぎだよ」
反射的に出た手を見て後悔の念にとらわれ留美は謝りながらも、冬弥のほうに振り返る。
「でも……藤井さん。浩平の言うとおりだよ。殺さなくったって……」
数時間前まで一緒に笑っていた人の変貌に、留美は自然と涙を流していた。
冬弥はその問いには答えず
「良かった七瀬さん、探してる人には会えたんだね」
そう言って静かに笑った。
さっきまで見ていた笑顔。だがそれはもうどこか遠く儚げだった。
だから「俺は由綺を探しに行く」と告げた冬弥に、留美は叫んでしまっていた。
留美の言おうとしてることに気付いた浩平が止める間もないほどに……。
「嘘だろ……」
冬弥に突きつけられた事実。
守りたかったもの。
守れなかったもの。
由綺と過ごした時間。
これから過ごすはずだった時間。
考えること全てが激流に飲み込まれていくように脳裏を流れては一瞬で消えていった。
くすぶる感情は、怒りと悲しみ。
ただそれだけを胸に銃を握る手を強める。
「おい」
浩平は冬弥の眼前へと立ちはだかる。
「止めろよ、馬鹿げたこと考えるの」
165 :
無くした面影:2006/10/31(火) 16:32:43 ID:PsI88aqp0
「馬鹿げたこと?」
冬弥の顔に明らかに敵意と見られる表情が浮かんだ。
「あぁそうだ、そんなこれから俺は殺した奴に復讐しに行きますって顔しやがって」
「そのつもりだ」
「だからそれが馬鹿げてるって言ってんだよ!」
浩平の言葉に冬弥は浩平の胸倉を掴み、その顔面を殴りつけていた。
「それじゃお前ならどうする、今俺がこの場で七瀬さんを殺したとしたら」
その言葉と同時に銃口は留美に向けられ、そして弾が放たれていた。
だが意図的に外された照準は留美に当たることは無く、星空へと消えていった。
「てめえぇぇぇぇっ!!」
激情した浩平の拳が冬弥に襲い掛かるも、冬弥はそれを避けようともせず顔面で受け止めた。
「そう言うことだ……」
冬弥はどこか満足そうに笑うとP-90を振り上げ浩平の首下に叩き落した。
その衝撃に浩平の意識は遠く闇へと落ちていった。
冬弥は気絶した浩平を、呆然とへたりこむ七瀬に手渡す。
その怯えた顔を見てすまなそうに顔をしかめ、頭をそっとなでながら一言だけ「ごめん」と告げ、
今まで来た道を戻るように鎌石村へのほうへと向かって歩いていった。
留美の脳裏に浮かぶのは一緒に歩いた冬弥の優しい笑顔。
「いやだよ……いやだよ藤井さん!」
だが今はもうそのかけらすら残っていない冬弥の後姿を見て、引き止める言葉も届かず、涙だけが溢れ出て留美の心を濡らしていた。
166 :
無くした面影:2006/10/31(火) 16:45:17 ID:PsI88aqp0
藤井冬弥
【持ち物:P-90 支給品一式】
【状況:由綺(・理奈・はるか)を殺した人間への復讐】
七瀬留美
【所持品:H&K PSG−1(残り4発。6倍スコープ付き)、ノートパソコン、支給品一式】
【状態:号泣】
折原浩平
【所持品:だんご大家族(残り100人)、日本酒(残りおよそ3分の2)、包丁、ほか支給品一式】
【状態:気絶】
柚原春夏
【状況:死亡】
共通
【時間:E-8】
【場所:1日目23:30頃】
【関連:→243 →337 のB10関連のルート】
【備考1:春夏のバック、弾切れのデザートイーグル、34徳ナイフはその辺に落ちてます】
【備考2:春夏のバックの中には要塞開錠用IDカード・武器庫用鍵・要塞見取り図】
「私ら何やっとるんやろ。あっちに行ったりこっちに行ったり」
「逆に考えるんダ。マーダーをうまく避けてると考えるんダ」
保科智子とエディは、ばったり出会って以来ひとまず協力することにしたのだが、
途中でトラの塩漬け肉を見つけた他には目ぼしい出来事がなかった。
「ちょっと時間が早いガ、とりあえず夕食にするカ」
「そうやな。食べれるうちに食べといたほうがええやろうし」
二人が適当な場所に座り食事をとろうとしたとき、
一人の少女が向かってくるのが見えた。
「んー! 風子激しく困りました。代わりのナイフが見つかりません」
彼女はナイフの柄の部分と木で出来た何かを持っており、
まわりは全く見ていないようだ。
「これではヒトデが完成しません。ぷちさいあくですっ!」
よくわからないことを口走りつつ、彼女はそのままエディにぶつかった。
「わっ」
「前はちゃんと見たほうがいいゾ」
「なんか変な人がいますっ!」
「いきなり失礼なヤツだナ」
「肌が黒いです!」
「人種差別はよくないで」
「さいあくです。風子そんなことしてませんっ」
いまいち話がかみ合わないが、とりあえず3人は自己紹介を済ませた。
「風子はおねぇちゃんのためにヒトデを彫っています」
「それヒトデなんか?」
「そうです。完成したらもの凄くかわいいですっ!」
智子とエディは返答に困った。
「私らはこれから食事にするんやけど」
「なんですかその肉は! 風子のバッグにはそんなもの入っていません。ずるいです」
「これは向こうのほうで積まれてたんダ。トラの肉らしいゾ」
「んー! 風子も食べたいです!」
そんなこんなで3人の食事が始まった。
「意外とうまいんやな」
「この塩加減が絶妙ダ」
「風子、トラなんて初めて食べました。あ、パンもありますっ!」
風子はエディの古河パンに目を留めた。
「それはやめといたほうがいいと思うゾ」
「これは渚さんのところのパンです。前に作ってもらったヒトデパンは素晴らしい出来でした!」
「……これ、実は美味いのカ?」
「そうは見えんけどな」
3人は恐る恐るパンを口にしてみた。
「……不味いナ」
「……粉っぽすぎるわ」
「んー! 小麦粉ですっ!」
多少のハプニングも経つつ、3人は食事を終えたのだが……
「あんた、なんか目光っとらんか?」
「何言ってるんダ?」
・
・
・
「うおーー! オレッチはムティカパダ! ムティカパになるんダ!」
「私はムティカパやー! ムティカパなんや!」
「んー! 風子そこはかとなくムティカパですっ! ムティカパヒトデハリケーンですっ!」
彼らには知る由もなかった。
その肉にはムティカパの血を得て進化した恐るべき病魔が潜んでいることを。
3匹の獣が今、島に放たれた。
伊吹風子
【時間:午後5時50分ごろ】
【場所:D−04】
【持ち物:スペツナズナイフの柄、彫りかけのヒトデ、支給品一式(水なし、食料少し消費)】
【状態:ムティカパ症候群L1】
エディ
【時間:午後5時50分ごろ】
【場所:D−04】
【所持品:支給品一式(水、食料少し消費)、古河パン×27、ムティカパの塩漬け×2】
【状態:ムティカパ症候群L1】
保科智子
【時間:午後5時50分ごろ】
【場所:D−04】
【所持品:支給品一式(水、食料少し消費)、専用バズーカ砲&捕縛用ネット弾×3、ムティカパの塩漬け×2】
【状態:ムティカパ症候群L1】
→026, →204, ルートD
炭素菌に汚染されるならまだしも
こんな謎の病気にかかるとは
さすがDルートだなw
172 :
血染めの揺籃:2006/10/31(火) 23:29:45 ID:NW/OzJdh0
「ね、ねぇ……冗談でしょう、おばさん……?
冗談だって、言ってくださいよ……」
少年は泣いている。
跪き、涙を流して歯の根の合わない声で命乞いをしている。
その眼前に突きつけられているのは、鈍色の大きな銃。
私の持つ、人を殺すための道具だ。
少年は泣いている。
怖いのか。死が。
悲しいのか。日常に裏切られたことが。
悔しいのか。何事も為せずに死んでいくのが。
或いは、それらすべてがない交ぜになっているのかもしれない。
知る術はなかった。
知る必要もなかった。
彼を待つ結末は変わらない。
私は、静かに口を開く。
「―――春夏さんって、呼んでよ。最後に」
笑ってすら、いたかもしれない。
少年は、その生涯の終わりに何を見たのだろう。
銃声が、響いた。
173 :
血染めの揺籃:2006/10/31(火) 23:30:57 ID:NW/OzJdh0
夜の森を、走っていた。
襲撃は失敗した。
懐かしくも楽しかった日々を思い出させるような、幼い子供たち。
その顔に娘の面影を重ねて、躊躇いを憶えた。
大切な思い出を血で汚してしまうことが、怖かった。
思い出を大切にするあまり、千載一遇の好機を逃した。
なんて、救いようがない。
時間は刻々と過ぎていく。
それは、このみの命の刻限に他ならない。
躊躇うことなど、許されないはずだった。
それでも、心のどこかで期待していたのかもしれない。
どうしようもない悪人や、唾棄すべき殺人者が次々と目の前に現れて、
そんなものばかりを殺し続けて、目標に到達できるかもしれない、などと。
ひどく滑稽な、妄想だった。
実際に目の前にいたのは、幼い子供たちだった。
判っている。
殺さなければならなかった。
そんなことは判っている。
だけど、と思う。
だけど、そんなことをして助けられた命に、このみは感謝してくれるだろうか。
吐き気がした。
そんな下らないことを考える、下らない自分に。
感謝など、されるはずもない。
喜んでなど、くれるはずがなかった。
蔑まれ、罵られ、私などの娘に生まれたことを後悔するに違いなかった。
だから、どうした。
174 :
血染めの揺籃:2006/10/31(火) 23:31:49 ID:NW/OzJdh0
そんなことは、痛いほどに判っている。
だからどうしたというのだ。
蔑むがいい。罵るがいい。存分に悔やむがいい。
生きて、悔やんでくれるがいい。
私はだから、どうしようもなく、母親なのだ。
殺そう、と思う。
次に会った人間を殺そう。
その次に会った人間も殺そう。
その次も、次の次も。
殺して、殺して、この手を真っ赤に染め上げて。
そうしてこの手で、このみを抱きしめよう。
走っていた。
殺意だけを胸に秘め、躊躇いなどは振り捨てて。
夜の森を抜けた、その向こうにいたのは、
「おばさ……春夏さん、春夏さんじゃないですか!?」
ああ、と。
ああ、これは運命なのだと、そう思う。
このみのために誰かを殺す。
それは、このみの命を、誰かの命で贖うということだ。
このみのために、誰かの命を積み上げる。
積み上げられる命の重さなど、関係ない。
それはこのみの前に、正しく等価だ。
十という数の中の、一だ。
これは、そういうことだ。
夜の森の向こうで、私の前に現れたのは、河野貴明。
このみの、大切な人だった。
175 :
血染めの揺籃:2006/10/31(火) 23:33:22 ID:NW/OzJdh0
震えが止まらない。
胃の中のものを全部吐き出して、それでも吐き気が収まらない。
涙と、汗と、鼻水と泥と吐瀉物と血だまりが、小さな池を作っていた。
それは、私の罪を、私自身を形にしたような、醜悪な池だった。
苦い唾を飲み込んで、涙と鼻水と返り血を袖で拭って、私は立ち上がる。
視線を上げれば、夜空は一面の雲に覆われて月一つ見えない。
暗い、暗い夜空に向かって、私は口を開く。
「まず……まず一人、殺した! 私が殺したのよ! 撃ち殺した!
……見てるんでしょう!?」
返事などありはしない。
それでも、私は叫び続ける。
「必ずあと九人、殺してみせるから……! だから……!」
声は、夜空に吸い込まれて、もう還らない。
【時間:22:00頃】
【場所:G−9】
柚原春夏
【所持品:要塞開錠用IDカード/武器庫用鍵/要塞見取り図/支給品一式】
【武器(装備):34徳ナイフ(スイス製)/デザートイーグル/防弾アーマー】
【状況:あと9人/残り15時間19分】
河野貴明
【状態:死亡】
※貴明の所持品:Remington M870(残弾数4/4)、予備弾×24は春夏が回収。
→293 or 310 →337 ⇔「無くした面影」
向坂雄二とその一行は、新城沙織が倒れ伏す部屋に立ち尽くしていた。
「クソッ……一人にした途端にこれかよ……!」
「そんな……沙織さん……」
「……」
濃密な血の匂いに嘔吐感を覚えながら、恐々と沙織を囲む雄二たち。
だがその背後で、盛大な溜息をつく者がいた。
「……ッ!?」
驚いて振り返った一行が見たのは、赤い学生服を着た一人の少女。
短く切り揃えた髪。
その下から覗く瞳は、静謐な湖面を思わせる。
「な……お前、誰だ!? いつからそこにいた……!?」
思わず語気を荒げる雄二を意に介さず、少女はつまらなそうに口を開く。
その声は、ひどく冷たい。
「誰でもいいでしょう。名乗ればお友達にでもなってくれるんですか?」
「な……何だと!?」
「ダメです、雄二さん!」
少女に詰め寄ろうとする雄二を、マルチが必死に抑える。
その様子を見て、少女は少し眉根を寄せると、言った。
「天野です。……天野美汐。これで満足ですか?」
「馬鹿にしてんのか……!」
「雄二さん……!」
美汐と名乗った少女の冷たい声音に、雄二のボルテージが上がる。
そんな雄二を無視するように、美汐は一人黙っていた瑠璃子へと向き直る。
「目の前に死体があるというのに、随分と冷静ですね」
「これでも驚いてるんだよ。何を考えてるのかわからない、ってよく言われるね。
……それに、その辺りはお互い様じゃないかな」
ひどく酷薄な何かを孕んで見交わされる視線。
先に目線を逸らしたのは、美汐だった。
「……そうですね。別にどうでもいいことです。
それにしても、この人が自殺なんて、まさか本気で言っているわけでは
ありませんよね?」
棘のある美汐の言葉に、またも雄二が噛み付く。
「そりゃどういう意味だよ!」
「言葉通りの意味ですよ。これが自殺? 悪い冗談ですか」
「おい……まさか、お前がやったとでもいうのか……どけ、マルチ!」
いきり立つ雄二をひどく不快そうに見やる美汐。
深い溜息をついて、言葉を続ける。
「いったい何をどうしたらそういう結論になるんですか……。
そもそも私が手当たり次第に殺すつもりなら、あなた達もとっくに
冷たくなっていてもおかしくありませんね。
すぐ後ろでずっと見ていたのに気づきもせずにわいわいきゃあきゃあと」
と、いったん言葉を切ると、美汐はまたも深々と溜息をつく。
「夜中に煩いんですよ。近所迷惑です。
この辺りは静かですから、騒ぐと遠くまで響くんですよ。
それで様子を見にきてみればこの始末。
修学旅行にでも来てるつもりなんですか、あなた方は。
どうでもいいですから、人の安眠を妨害しないでください」
「……っ!」
美汐の静かな、どこか疲れたような声。
憤りのあまり言葉にならない雄二を押し退けるように、瑠璃子が
一歩を踏み出す。ちょうど美汐と向かい合うようにして、口を開いた。
「それで? ……天野さんは、わざわざその文句を言いにきたのかな」
「そうですよ。静かにさえしてもらえれば、それで構いません。
それでは、私はこれで」
一礼して踵を返そうとする美汐。
それを引き止めるように、瑠璃子が声をかける。
「待って。……新城さんが自殺じゃないって、どういうことなのかな」
「そ、そうだ! そいつを聞かせてもらうまでは帰すわけにはいかねぇぞ!」
その言葉に、美汐はひとまず足を止めた。
眉をしかめて二人を見据える。
それは殆ど睨むといってもいい、厳しい眼光であったが、やがてつい、と
視線を逸らすと、美汐はつまらなそうに言葉を紡ぎはじめた。
「……では、状況を整理してさしあげましょうか。
後ろで話を聞いていただけの私でも理解できる程度のことですけど。
まずあなたは、」
と雄二を指差すと、
「あちらの別棟で一人、眠っていた。間違いありませんね?」
突然の指名に戸惑う雄二だったが、勢いに呑まれたのか素直に頷いてしまう。
そんな雄二の態度を気にも留めず、美汐はそのまま指をマルチへと向ける。
「次にあなたは……あちらの棟で休んでいたのですか?」
「いえ、わたしは充電をしていたんですが……」
その言葉に、少し目を見開く美汐。
「……メイドロボの方でしたか。制服を着ていたので……まあ、それはいいでしょう。
とにかく、あなたは充電をしていた。
それはどのくらいの時間がかかるものなのですか?」
「ええと、通常は一時間程度の充電で丸一日くらい稼動できるように
設計されているんですけど……」
「その間、周囲の状況を認識することは?」
「いえ、人間の方でいうと眠ってしまっているような状態ですので、ちょっと……」
「そうですか。……それでは、最後のあなた」
と、瑠璃子を見やる美汐。
「あなたは、この方……」
横たわる沙織をちらりと見ると、
「この方の様子を見に行った」
「……新城さんだよ。心配だったからね」
「それは、」
「ついさっきだよ」
「……お話が早くて助かります」
回避
即答する瑠璃子に、美汐は目を細める。
「では、こちらのメイドロボの方が眠っている間は、何を?」
「マルチちゃん、ね。退屈だったから、私もうとうとしていたよ」
「なるほど。……もう、よろしいですか?」
言うや、身を翻そうとする美汐。
慌ててその背に声をかける雄二たち。
「ちょ、ちょっと待てよ! なにがよろしいですか、だ!
何もよろしくねえよ!」
「あ、天野さん、わたしにも何がなんだか……」
だが、瑠璃子は一人、冷静な声で呟く。
「天野さんはこう言いたいんだよ。
―――新城さんを殺すチャンスなんていくらでもあった、ってね」
瑠璃子の声に、雄二が驚いて振り返る。
美汐も立ち止まり、首だけを振り向かせて言う。
「そうですよ。いわゆるアリバイ、そんなものがあるのはメイドロボの方、
……マルチさんだけじゃないですか。
他のお二方には充分な機会があった」
つまらなそうな目のまま、美汐は続ける。
「この部屋にも鍵が掛かっていたわけではないんですよね?
率直に言って、この状況のどこに自殺と断定する要素があるのか、
私には皆目見当がつきません。……それでは」
「お……おい!」
今度こそ歩き出す美汐。
雄二の声にも振り返ろうとすらしない。
「おい、ちょっと待てよ……おい!
……畜生、黙って聞いてりゃ言いたいことだけ言いやがって……!」
「でも、言うことには一理あったね」
その言葉に、雄二がぎろりと瑠璃子を睨んだ。
「……おい、月島」
その声は、ひどく重苦しく、湿っていた。
異様な雰囲気に、慌てて二人の間に割って入ろうとするマルチ。
「ゆ、雄二さん……ひゃあっ!?」
しかし雄二はそんなマルチを片手で突き飛ばすと、瑠璃子へと詰め寄る。
「あいつは言ってたよな……?
俺たちにはアリバイが無い。……で、俺は新城をやったりしない」
言いながら、瑠璃子の襟首を掴む雄二。
「正直に言えよ……お前、マルチが充電してる間、本当に部屋にいたのか!?」
「……向坂君は、私が新城さんを殺した、って言いたいのかな」
恐れる気配も無く雄二を見返す瑠璃子。
どこか濁ったような色の瞳に間近で睨まれ、雄二はたじろぐ。
だが、そんな自分を鼓舞するように口を開くと、叫ぶ雄二。
「お前しかいないだろうがッ! マルチは見てない、俺は寝てた!
いつでもここに来られたのはお前だけだろッ!」
応じるように、瑠璃子も静かに口を開く。
「……随分と勝手な物言いだね」
「何だとッ!?」
「……その言葉をそのまま返してあげたいよ」
斬りつけるような言葉のやり取りは、天井を知らない。
足元に横たわる沙織の遺体と、立ち込める濃密な血の匂いが、
雄二に残った最後の冷静さを奪い去っていく。
「……俺がやったって言いたいのかよ……!」
「そういう風にも、取れるのかもしれないね」
「てめえ……ッ!」
鈍い音。
マルチが目を覆う。
向坂雄二が、生涯で初めて女性に手を上げた瞬間だった。
「……」
見る見るうちに赤く腫れ上がる頬を押さえようともせず、
濁った瞳で雄二を睨みつける瑠璃子。
口の中を切ったのか、唇の端から一筋の血が垂れている。
「っだよ、その目は……!」
二度、三度。
箍が外れたように、雄二が拳を振るう。
「やめ、やめて、……やめて……ください……」
マルチの涙声は、雄二の耳には届かない。
だがその代わりとでもいうように、雄二の背にかけられる声があった。
「……何をしているんですか、あなたは」
静かな、しかし頭から冷水を浴びせかけるような声音に、雄二が
どろりとした瞳で振り向く。
「……んだよ、止めにでも来やがったのか……?
てめえにはもう関係ねえ、消えろよ……」
低い、どこか不安定な調子の声にも、美汐は動じない。
「ええまあ、どうでもいいんですけどね。
一つ言い忘れていたことがあったのを思い出しまして」
三対の視線を浴びながら、美汐は淡々と続ける。
「ええ、少なくとも私なら、明らかに自分がやったと言われるような状況で
人を殺したりはしません。そんなものは狂気の沙汰です。
……ですから、あなたと、そこのあなた」
雄二と、襟を掴まれたままの瑠璃子を見て、
「あなた方が正気なら、お二人のどちらかが犯人ということは、まぁ、
可能性としては低いと言えるんじゃないでしょうか。
……で、何をしてらしたんですか、一体?」
冷淡な声と視線に、雄二が思わず瑠璃子の襟から手を離す。
膝から倒れこむ瑠璃子。マルチが慌てて駆け寄る。
すげえおもろいw
「俺……俺は……」
右へ、左へと小刻みに視線を動かす雄二には最早一切の興味を払わず、
美汐は呟く。その目は部屋の中央に倒れ伏す沙織の遺骸を眺めていた。
「……自殺、やはり自殺なのかもしれませんね。それとも、全然関係ない誰かが
突然忍び込んできて、凶行に及んだのかもしれません」
答えの返らない呟きは、暗い部屋へと消えていく。
「どっちだっていいんですけどね……。
いえ、どうでもいいと言うべきですか……」
深い溜息をつくと、美汐はもう一度だけ部屋の全体を見渡して踵を返した。
「私はもう戻りますけど……いい加減真夜中なんですから、
静かにしてくださいね」
ぱたん、と扉の閉まる音。
暗い、暗い部屋の中に残された三人に、言葉は無かった。
【場所:I−6】
【時間:二日目2:30頃】
向坂雄二
【所持品:死神のノート(ただし雄二たちは普通のノートと思いこんでいる)、ほか支給品一式】
【状態:自失】
マルチ
【所持品:支給品一式】
【状態:恐怖】
月島瑠璃子
【所持品:ベレッタ トムキャット(残弾数7/7)、ほか支給品一式】
【状態:頬に殴られた痕】
天野美汐
【所持品:様々なボードゲーム・支給品一式】
【状態:普通】
→224、371 ルートB,J系
189 :
混迷:2006/11/01(水) 03:09:57 ID:koRgdY4p0
秋子に案内されるまま平瀬村を歩き続ける陽平とるーこ。
だが、秋子に出会ってからすでに10分ほど歩き尽くめであった。
陽平の頭に一つの疑念が浮かぶ。
向こうの家に娘がいるとは言っていたが、守る為に戦う者がそんな遠くまで目を離すものなのだろうか?
周辺を警戒しながら進む秋子の姿を見て、先ほどの言葉がだんだん疑わしく思えてきていた。
隣のるーこも秋子に対して銃は向けていないものの、睨みつける目を見て自分と同じ考えに至ってると確信した。
何かがおかしい。
陽平がそう思った直後だった。
「……大きな声を出さないでね」
秋子が歩くスピードを緩め、自分達にゆっくりと近づき小声でそう伝えていた。
思わず銃を構えそうになるが、「そうじゃないの」とわずかに首を振りながら答えた。
「多分だけど、つけられてる気がするの。後ろを向いちゃダメよ」
「!?」
予想外の秋子の言葉に陽平とるーこが身体が跳ねた。
「ど、どうするんだ?」
そう言って少し震えながら銃を構える陽平に秋子は小さく微笑みながら言った。
「危険だけど、確認してみる?」
「どうやって?」
「そうね、一回後ろを全員で振り返ってそのままあの家まで全力で走るの。
角を曲がったらすぐそこで待ってれば追いかけてくるんじゃないかしら」
視線を送る先には100メートルほど先にある一軒の家と曲がり角。
その提案に二人が頷くのを確認すると
「三、二、一……」
秋子の合図と共に三人が後ろを振り向く。
だが後ろに広がるのはただ暗闇のみ、遠目には誰も確認することは出来なかった。
これはあくまで陽動。刹那三人は駆け出していた。
わき腹の痛みを抑えながらも陽平は秋子から離されないように必死に後を追い、角を曲がると壁に寄り添い身を潜めた。
190 :
混迷:2006/11/01(水) 03:10:47 ID:koRgdY4p0
――待つこと数分。
一向に誰も追いかけてくる気配が無いことを確認すると、そこでようやく秋子は今まで発していた殺気に近い警戒を解いた。
「……ごめんなさいね、勘違いだったみたい」
陽平はほっと溜め息をつくも、るーこは訝しげな顔をして口を開いていた。
「だから真っ直ぐ向かわずに遠回りをしていたのか?」
その勘の良さに秋子は感嘆しながらも微笑んでいた。
「ええ……もしもマーダーに後なんかつけられてたらと思うと、あの子の所になんて案内するわけにもいかなかったの」
「そうか、それなら納得がいった」
「もっと早く言えばよかったわね、本当にごめんなさい」
「いや、気にするな、うーあき。それで家はここから近いのか?」
「ぐるっと回る形になったけど、もうすぐよ」
再び三人は歩き出した。
先ほどと違うのは、るーこから秋子に対する警戒が少し消えているということだったろうか。
陽平もそれは一緒だったようでほっと笑みがこぼれていた。
ほどなくして二人は一軒の家の中へと案内された。
中では静かな吐息を立てて眠る名雪と澪の姿。
秋子は名雪の元へ寄ると、少し乱れた布団を直し、慈しむようにその髪をなでる。
そんな秋子の姿を見守る陽平とるーこに「大きな声は出さないでくださいね」と口に指をあて注意を促した。
眠る二人の部屋から出た三人は今までの自分達が体験した行動の情報を交換した。
陽平とるーこの話を真剣に聞いた後、彼らの体験に深い悲しみを覚え、それでも真っ直ぐと向いた瞳に喜びを覚えた。
悩んだ末に秋子は二人に、自分がゲームに乗ったものを殺したことを正直に話した。
そして我が子を、出来ることなら参加させられている子供達を守る為にゲームに乗った人間は許さない、と言う事も。
はじめは二人とも驚いたものの、秋子の行動に対して是非を問うことはしなかった。
自分達だってそうなのだから。
俺だってるーこを守るためなら、と陽平は思ったもののこっ恥ずかしくなって頭をフルフルと振った。
こうなってくると、ますます別れた浩之やみさきに雪見、あと参加させられているであろう芽衣や朋也達の安否が気になる。
「これからどうするつもりですか?」
いつの間にやら秋子に対し敬語になっている陽平だったが、それに気が付かない振りをして秋子は微笑んだ。
191 :
混迷:2006/11/01(水) 03:11:28 ID:koRgdY4p0
「明るくなるまではここを動くつもりは無いわ。
でも夜が明けて次の放送が流れたら、状況によってここを発つことになるかもしれない」
今はそうならないように祈るしかないと、娘が眠る部屋の扉を眺めながら小さく溜め息をついた。
「……外に誰かいるぞ」
気付けば窓から外を窺うように見ながらるーこが小さく呟いていた。
部屋中に緊張が流れ、秋子と陽平も張り付くように窓へと近づいた。
何かから逃げるように走っていたのは、三人の女の子と一人の男性…理緒、渚、佳乃、そして敬介の四人だった。
「あれは……渚ちゃん!?」
その緊迫した四人の姿にただならぬ気配を感じた秋子は、叫ぶ陽平の表情を見て家を飛び出していた。
「どうしたんですか!?」
かけられた声に驚きを隠せず身体を震わせる四人。
だがそれが敵意からくるものではないものをすぐ感じ取り、力なくその場にへたり込んだ。
「渚ちゃん!!」
「す、春原さん」
後を追う様に陽平とるーこも四人の前に姿を現した。
クラスメートとの思わぬ再会に、陽平の顔に安堵の表情が灯る。
「いったいなにがあった!?」
陽平の問いに答えたのは、肩を抑えたまま苦しそうな呼吸を続ける敬介を支えている理緒だった。
「町の入り口で女の人に襲われて、それで、それで!」
「そうなんです、お父さんが私達を逃がしてくれたんです……でもでもっ、お父さん怪我してるんですっ!」
それを聞いた秋子は銃を握り締めると思わず駆け出していた。
だが、それを制したのは肩を抑え苦痛に顔をゆがめていた敬介だった。
「あんた、どうするつもりだ!?」
「決まっているでしょう、この子のお父さんを助けに行きます」
その相手を殺しに行く、とまでは言わなかった。
恐怖に怯えている三人の少女達の前でする話では無いと思っていたから。
敬介もそれを察したようで釘を差す様に言った。
「恥ずかしい話、僕らを襲ったのは顔見知りなんだ。
虫の良い話だが、出来れば彼女を止めてほしい。
192 :
混迷:2006/11/01(水) 03:12:02 ID:koRgdY4p0
娘を守る為に周りが見えなくなってるだけで、本当は誰よりも観鈴の事を考えてる良い奴なんだ」
敬介の言葉に秋子は一言「了承」とだけ告げて走り去っていった。
それが真実かどうか敬介にはわからなかったが、どうか声が届いていますようにと小さく願うばかりだった。
さてここで話は少し過去に戻る。
秋子らが名雪と澪の眠る家に戻る前に感じていた人の気配。
実は確かにそれは存在していた。
武器を手に持ちながら警戒心丸出しの三人に対してチャンスを窺っていたものの
いきなり走り出した行動を罠かもしれないと、冷静に対処しながら後をつけていたものがいた。
そして今まさに、六人の様子をじっと見つめる来栖川綾香の姿がそこにはあった。
水瀬秋子
【所持品:IMI ジェリコ941(残弾14/14)、以下は家に置きっぱなし(木彫りのヒトデ、包丁、スペズナスナイフ、殺虫剤、支給品一式×2)】
【状態・状況:健康。主催者を倒す。ゲームに参加させられている子供たちを1人でも多く助けて守る。
ゲームに乗った者を苦痛を味あわせた上で殺す、平瀬村入り口へ疾走】
春原陽平
【所持品:スタンガン・支給品一式】
【状態:少し疲労】
ルーシー・マリア・ミソラ
【所持品:IMI マイクロUZI 残弾数(30/30)・予備カートリッジ(30発入×5)・支給品一式】
【状態:少し疲労】
古河渚
【持ち物:敬介の持っていたトンカチと繭の支給品一式(支給品不明・中身少し重い)】
【状態:正常】
193 :
混迷:2006/11/01(水) 03:12:34 ID:koRgdY4p0
霧島佳乃
【持ち物:鉈】
【状態:正常】
雛山理緒
【持ち物:鋏、アヒル隊長(12時間50分後に爆発)、支給品一式】
【状態:正常、同上(アヒル隊長の爆弾については知らない)】
橘敬介
【所持品:なし】
【状況:左肩に銃弾による傷、同上(支給品一式+花火セットは美汐のところへ放置)】
来栖川綾香
【所持品:S&W M1076 残弾数(6/6)予備弾丸28・防弾チョッキ・トカレフ(TT30)銃弾数(6/8)・支給品一式】
【状態:腕を軽症(治療済み)。麻亜子とそれに関連する人物の殺害。ゲームに乗っている。上記六人の様子を窺う】
共通
【時間:1日目23:10頃】
【場所:F−02】
【関連:→359 →362 →380 B-11・J-3】
すみません、
>>187補足です。
>月島瑠璃子
> 【所持品:ベレッタ トムキャット(残弾数7/7)、ほか支給品一式】
は、355b経由のルートでは
>月島瑠璃子
> 【所持品:ベレッタ トムキャット(残弾数0/7)、ほか支給品一式】
となります。
195 :
女狐と殺戮者:2006/11/01(水) 17:08:26 ID:jmrVc2lV0
「Hm…,このくらいでいいからしね」
リサのデイパックの中にはパンや果物等、大量の食料が詰まっていた。
今リサがいる小屋で入手したものである。
海の家の周りには民家は見当たらなかったから、少し時間が掛かってしまった。
きっと栞達が腹を空かせて待っているだろう。
急いで帰らなければ。
そう思い小屋を出た時何か違和感があった。
エージェントとして数々の経験を積んだ彼女だからこそ分かる違和感―――
次の瞬間にはリサは横に大きく跳躍し、そのまま地面を転がっていた。
銃こそ落としてしまったが、その動きは華麗という他無かった。
その後を追うように、銃弾が一斉に着弾し、地面の土が跳ね上がっていた。
「な――――」
驚愕の声を上げるのは、巳間良祐。
完璧な奇襲のはずだった。簡単に終わるはずだった。
相手が家から出てきた瞬間を狙っての、マシンガンの連射。
待ち伏せしている事を察知されていない限りは仕留めれる筈だった。
そして、察知されていない自信もあった。
今日はずっとこの戦法で相手の不意をついてきたのだ。
事実相手は気付いた様子も無くのうのうと玄関から出てきたではないか。
それが何故、突然あのような動きをするのだ!
彼は混乱しながらも、地面に転がったリサに対してマシンガンを撃とうとする。
しかし、弾が発射される事は無かった。
「ぐああっ!!」
リサが放り投げたナイフが左肩に突き刺さっていたからである。
激しい痛みで、マシンガンを取り落とす。
しかし良裕は既に数回予想外の反撃を受けている。その経験のおかげからか、彼が次の行動に移るのは早かった。
彼は激痛に耐えながらも、すぐにマシンガンを拾いにいこうとし――それは諦め、ドラグノフを取り出し、次の瞬間にはもう撃っていた。
リサが間髪入れずにこちらに向けて走ってきていたので。その手にはいつの間にか銃が握り直されていた。
196 :
女狐と殺戮者:2006/11/01(水) 17:09:57 ID:jmrVc2lV0
リサはあの一瞬の隙の間に、落としてしまっていた銃を拾っていたのだった。
リサは銃を向けられた瞬間すぐに回避動作を取っていた。また、咄嗟に撃ったので良裕の標準も定まらない。
ドラグノフとは本来、じっくりと標準を定めるべき狙撃用の銃である。
結局銃弾がリサに当たる事は無かった。だが、リサの突進を止める事だけは出来た。
この敵に近付かれる事は何としても避けなければならない。近付かれたら殺られる!
彼の直感がそう告げていた。
(コイツ………油断ならないわね)
リサは一気に間合いを詰め、確実に仕留めようとした。
素人ならナイフを刺された痛みですぐには動けないだろうと予想しての行動だったが、
予想に反してすぐに別の銃で攻撃してきたので、遮蔽物の影に退避しざるを得なかった
その隙に良裕は取り落としたH&K SMG Uを素早く回収していた。
リサは冷静に思考を巡らせた。
(全く容赦がない奇襲だったわね…………、まずマーダーで間違い無さそうね。
それに複数の銃を持っている……、恐らく参加者を何人も殺してきた手馴れたマーダーね)
それでも、自分はエージェントだ。多少経験を積んだだけの素人とは格が違う。
装備差は明確だが、それでも勝てる自信はあった。
しかし不安要素もあった。
相手はまだ他にも装備を隠し持っているかもしれない。
万一防弾チョッキやグレネードランチャーの類の武器を持っていたら、流石に分が悪い。
それに何より、自分の一番の敵は主催者であって、ゲームの参加者ではない。
今は危険な賭けをすべきではないという結論に達した。
巳間良祐もまた、右足と左肩の痛みに耐えながら、必死に思考を巡らせていた。
彼は奇襲に専念し、正面からの対決を避けるという戦い方を貫いてきた。
卑怯と言われる行動なのかもしれないが、そんな事は些事である。
197 :
女狐と殺戮者:2006/11/01(水) 17:11:30 ID:jmrVc2lV0
正々堂々戦おうが、死んだらそれで終わりなのだ。
このゲームで勝つという事は即ち、最後まで生き残る事。
無理せず殺せる時に殺し、危険な橋は決して渡らない。
それがこのゲームにおける最善の手の筈である。
今目の前にいる相手は明らかに戦闘慣れしている。それに自分は怪我も負っている。
今ここで雌雄を決しようとするのは危険過ぎる。
「ぐうぅっ!」
撤退する事を決めた良裕は、自らの肩に刺さっていたナイフを引き抜いた。
そしてマシンガンで威嚇射撃をしながら後ろへと下がり始めた。
走って逃げようとしても、今の自分の足の状態では逃げ切れないだろうと考えての行動である。
「くそっ……、あいつは一体何者なんだ!」
良裕は苛立っていた。彼の計算通りにいけば、先程の集団も今の女も問題無く仕留めれていた筈である。
だが結果的には仕留めれなかった。それどころか手傷まで負わされた。
何より、酷く足が痛む。途中で寄った民家で応急処置は施したが、所詮は気休めである。
それに今の自分は怒りで冷静さを失っている。
今日はもう動き回るのは控えるべきだろう。
リサも無理に追う事はせずに、良祐とは反対の方向へと走り出した。
彼女の心には焦りが生まれていた。
彼女がこのゲームに参加してから、実際に戦闘を行なったのは初めてだった。
その最初の相手が、全く容赦が無く、武装も強力なマーダーだった。
醍醐や篁といった猛者達も既に死亡している。
それに加えて、人外の者達の存在……このゲームは思った以上に過酷なモノとなっているようだった。
さっきは奇襲される寸前まで察知できなかった。明らかに注意不足である。
どうやら自分は疲れているらしい。このゲームの緊張感は予想以上に体力を奪うようだった。
まずは戻って休憩をとらなければ。そして、その後はそれこそ死に物狂いで生き延びる事を考えよう。
そうしなければ、この過酷なゲームではきっと生き残れないだろうから。
198 :
女狐と殺戮者:2006/11/01(水) 17:12:19 ID:jmrVc2lV0
共通
【場所:G−7】
【時間:午後11時00分】
リサ=ヴィクセン
【所持品:コルト・ディテクティブスペシャル(弾数10内装弾3)、大量の食料】
【状態:疲労、今後の行動は海の家への帰還、それから休憩】
巳間良祐
【所持品1:89式小銃 弾数数(22/22)と予備弾(30×2)・折りたたみ式自転車・支給品一式x2(自身・草壁優季)】
【所持品2:スタングレネード(1/3)・ドラグノフ(残弾8/10)・H&K SMG U(18/30)、予備カートリッジ(30発入り)×4】
【状態:疲労、怒り。右足に激痛(治療済み)、左肩に痛み】
※リサの八徳ナイフは地面に放置
※関連265、353b。ルートB-9、B-10、B-11。353採用ルート(ユンナ出る方)の場合はドラグノフの残弾を7にしてください。
「あかん…あかん……止まらへん!」
血が止まらない。真っ赤な血が溢れ続ける。
仲間が放った弾による傷から血が吹き出し続けている。
「ちくしょう、何とかならへんのか!」
このみと幸村が持ってきた救急箱で止血を試みるが、依然として血が止まる気配はない。エディは先程からうんともすんとも反応しない。
「おいアンタ! 男やろが! 目ぇ覚ませアホ、目ぇ覚まさんかい…!」
「しっかりしてっ…死んじゃダメ!」
智子と花梨が必死に呼びかける。それでも反応しないエディに、もう駄目なのかと思った時――
「うッ…ウウ…」
僅かに呻き声。弾かれたように智子と花梨が顔を上げた。
「エディ!」「エディさん!」
かろうじてエディが目を開けるが、その目は虚ろで、何も映していない。明らかに助かりそうもなかった。
「ハ、ハハ…ど、どうやら、このオレっちも…て、天国に…召されるときが来ちマッタ…ナ」
「何言うとんのや! まだ助かる、諦めたらアカン!」
「イ…イヤ、もう、致命傷ダ。どうしようもなイ…そ、それに、この島で医者を期待するのは…お門違い、ってモンだろ…ウ?」
青ざめた顔をしながらもニカッと笑うエディ。花梨も智子も、幸村もこのみも何一つ言葉を発する事が出来なかった。
「だ、だかラ…オレっちが、頼りにしてる奴…ソーイチと、リサ…コイツらに合流してくレ…こいつらなら、き、きっと何とか…」
ゴホ、ゴホッと咳き込む。口から大量の血が吐き出された。しかしそれをものともせずエディは喋り続ける。
「それと…じょ、情報…首輪の…情報を…た、頼ム」
死にかけの人間とは思えないほどの力で智子と花梨の手を握る。
「あ、ああ…分かった、任しとき。私達が絶対ぶっ潰したる。約束や」
「それから…最後に…サ、サツキちゃんを…ゆ、許してやってくレ。サツキちゃんは…優しい子デ、イイ奴ナン…ダ。きっと…何かの間違イ…だ、だから、サツキちゃんにも…後を、頼む、ッテ…」
自分が撃たれたというのに、最後までエディは皐月のことを信頼していた。それほどのものが、あの二人にはあったのだ、という事を智子も花梨も理解した。
「…ああ、分かった。それも約束する」
智子の返事を確認すると、エディはその手をするりと離した。
「エ、エディさんっ!」
花梨が再び手を握ろうとしたのを、エディが振り払う。
「バ、バカヤロウ…分かったンなら、さっさと、サ…ツキちゃんを…追…えッ!」
「で…でも」
躊躇する二人に、エディが今までとは比べ物にならないほどの大声で叫ぶ。
「さっさと…行けッ! 手遅れになってからじゃ遅いんだヨッ! 行けぇーーーッ!」
その言葉に、二人がハッとする。そうだ。大切な仲間を撃ってしまったということは。
皐月が、取り返しのつかない過ちを犯してしまうかもしれないということだ。
「行くでっ、花梨!」
「うんっ!」
身を翻し、二人が駆ける。二人は、泣いていなかった。ただ皐月を連れ戻すために。そんな感傷に浸る暇さえなかったのだ。
「あっ…待って! このみも行くっ!」
このみが二人に続いて追う。智子の声が飛んだ。
「ついて来てどうする気や! ただ連れ戻すだけやで!」
「でも、私が行かないと皐月さん、きっと誤解しちゃう! だから行く!」
「…オーケー、了解や。けど、体力はいけるんか!?」
「足の早さなら、自信があるからっ!」
上出来や、と智子が呟いて再び前を向く。電光石火の如き勢いで、三人が闇の中へと消えていった。
残されたのは、幸村と瀕死のエディのみ。
「やれやれ…無茶をしたの、お前さん」
「ヘ…ムチャは、オレっちの得意…技だからナ。あ、あんたも…後は、頼ム…」
「…言われるまでもない。だが、その言葉は皐月さんが戻ってからにしたらどうだ?」
「…ソイツは、ちょっとばかし、無理な相談…ダナ」
エディの目が、静かに閉じられる。幸村も悲しげに目を伏せた。
(じゃあナ…ソーイチ…最後に…また、何かしたかった…ナ)
* * *
皐月は暗闇の中を当ても無くさまよっていた。
殺した。私が…エディさんを殺した…
撃った時の光景が目にこびりついて離れない。「殺した」という言葉がさざなみのように木霊して皐月の精神を削り取っていく。
真っ暗な部屋の中に閉じ込められたように、皐月の瞳には何も写っていなかった。ふらふらと足がおぼつかなくなり、さながらそれは空っぽの人形のようであった。
やがて、足が木の幹に引っかかりその場に倒れこんだ。弾みで拳銃が落ちた。その時になって、ようやく皐月は銃を持ったまま走っていたということに気付いたのだった。
「宗一…ゆかり、リサさん…私、どうすればいいのよぉ…」
頭の中で助けを求めても、その仲間達すら冷たい目で自分を見ているような気がした。
そのまま呆然としていたが、やがて頭の中で反芻される言葉が別のものへと切り替わる。
「死ね」
誰が言ったでもない、ただ浮かんだだけの言葉が皐月の頭を支配していく。
死ね、死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね…
何人もの声色が一斉に浴びせられる。それは怨恨の声として皐月の脳に届く。
(死ねば…私が、自殺すれば…)
震える手で拳銃に手を伸ばす。これが。これさえあれば…私の罪は…
グリップを握り、銃口を自らの顔へと向けていく。
「やめろぉぉぉぉっ!」
誰かの怒号が聞こえたのは、その時だった。
しかし、皐月にはそんなものはどうでもいいことだった。まったく意に介することなく皐月は銃口を頭に押し当てた。
「やめろって言ってるでしょ…この、ばかっ!」
トリガーを引く直前、誰かの手が皐月ごと銃を押し倒した。銃弾は発射されることなく皐月の手から零れ落ちた。
「間一髪…だったんよ」
皐月を押し倒したのは息を切らせた花梨と智子、このみだった。皐月が同じ所をぐるぐると回っていたせいで早く見つける事が出来たのだった。
「まったく、何を考えとるんや! このアホッ!」
智子が怒鳴りつける。
「どうして…どうして死なせてくれなかったの! 私のせいで、私のせいで、エディさんが死んだっていうのに! 大切な仲間だったのに! かけがえのない仲間だったのに! 私が殺して…こうやって、責任をとるしかないでしょ!? あなた達だって、私を殺したいって…」
そう言いかけた皐月の頬に、パンッという音と共に痛みが走る。智子が皐月の頬を張ったのだ。
「この…ドアホウ! 死んで責任を取る? 何言うとんのや、このボケナス!」
「うわぁ〜…すごい言い草」
「そ、そこまで言わなくても…」
花梨とこのみがぼそぼそと言うが、智子は気にするどころか皐月の胸倉を掴んだ。
「アンタはそれで気が済むかもしれへんけどな、アイツ…エディがそんなもんで気が済むと思うたら大間違いや! エディはなぁ、アンタに撃たれたっていうのにちっともそないなこと気にせんかった。むしろアンタのことをずっと心配しとったんや。
サツキちゃんは、優しくていい子だからきっと何かの間違いだって…血ぃ吐きながら、それでも私らに許してやってくれって言うとったんや。後を頼む、ともな。
それを…それをアンタは…命を粗末にしくさりおって! アンタはエディを二度も殺す気かっ!」
そこまで大声でまくし立てると、ようやく智子は手を離した。
「…アンタに本当に済まないと思う気持ちがあるんやったらな、ここから生きて、生きて生きて生き延びるんや。今ここで死ぬ言うんは、世界の誰が許しても私が許さへん」
「ちょっと智子さん智子さん? 私も忘れないでほしいんよ」
「このみもだよ。皐月さん、死んでほしくないよ…」
「…まあ、最低これだけの人間が今アンタに死なれたら困るワケや。分かったか」
口調は厳しかったが、先程と比べて随分と穏やかな声になっていた。
皐月は自分のしようとした愚かな行為に、心から恥じた。今ここで死ねば、それこそエディは無駄死にだ。顔を上げて、皐月が尋ねる。
「私…戻ってもいいのかな…」
「当たり前だよっ。このみはいつでもおーけーでありますよ〜」
智子と花梨もうん、と頷く。皐月はほんの少し、ほんの少しだけ微笑んで言った。
「じゃあ…私、エディさんに謝りに行かないと。ホテルに戻って、『ごめんなさい』って言わないとね。それから、『いってきます』も」
皐月が立ちあがり、自分の足で歩く。皐月の頭の中には、もう声は聞こえてこない。
木々の間から見える星空が、四人を照らし出していた。
【場所:E−04】
【時間:1日目19時40分】
幸村俊夫
【所持品:支給品一式】
【状態:エディの死を娶っている】
湯浅皐月
【所持品:38口径ダブルアクション式拳銃(残弾7/10)、予備弾薬80発ホローポイント弾11発使用、セイカクハンテンダケ(×2)、支給品一式】
【状態:平静を取り戻す。まだ若干の精神的疲労】
柚原このみ
【所持品:ヌンチャク(金属性)、支給品一式】
【状態:普通。ホテルに戻る】
ぴろ
【状態:健康。フロントに置いてけぼり】
笹森花梨
【持ち物:特殊警棒、海岸で拾ったピンクの貝殻(綺麗)、青い宝石、手帳】
【状態:普通。ホテルに戻る】
エディ
【所持品:支給品一式、大量の古河パン(約27個ほど)】
【状態:死亡】
保科智子
【所持品:支給品一式、専用バズーカ砲&捕縛用ネット弾】
【状態:普通。ホテルに戻る】
【備考:B−10ルート】
>>「やめろぉぉぉぉっ!」
これ言ったの誰?
突然祐一か宗一が現れたのかと思った
む、すまない。智子に言わせたつもりだったのだが…男すぎたかも
由依はうす暗い廊下を歩いていた。
板目の廊下はリノリウムの床の反響とは違い、歩くたびにぎいぎいとした不気味な音が鳴る。
辺りはもう既に真っ暗。唯一かすかな月明かりが廊下をほんの少し照らしてくれてるとはいえ、都会育ちな由依にはお化け屋敷にいるような感覚である。
がらがら…がらがら…
目の前の引き戸をできるだけ音が鳴らないよう注意しながら開け、様子をうかがう…人の気配は感じない。
引き戸より身を乗り出し、教室の中を見回す。人影は…ない。そのまま静かに戸を閉める。
三階から各部屋部屋を覗いているのだが運がいいのか悪いのか誰もいなかった。
これで二階はあと突き当たりの部屋を残すだけ…。
あれから由依は自分はこれからどうするべきか悩み続けていた。
お姉ちゃんや郁未さんたちに会いたい、このおかしなゲームをやめさせたい、身内の亡くしてしまった人たちを救いたい、ゲームに乗ってしまった人を思いとどまらせたい…。
でもそれ以上に……怖い。
あの時襲いかかってきた女の人に対して逃げることしかできなかった自分。
既に多くの人が亡くなっている現実を突きつけられても何もできない自分。
こんなあたしにできることは―――
がらがら…がらがら…
注意深く引き戸を開く。そこは本来なら教師が集まっている職員室だった。
由依にとっては休み時間等で騒ぎ過ぎた際にに叱られるいやな場所。
ただ、ある事情で転入した際には親身になって色々と相談ができる場所でもある。
でも今はもちろん誰もいない。この校内の今の生徒は外部から転入した女生徒(正確には当校の制服を着ているだけなのだが)一人だけなのだから。
由依は辺りを確認した後、中へと入る。隅まで見回したが、やはり誰もいない。
あるのは並べられた机の上に整頓されたファイルの山、筆記用具類、それに電話……電話?
由依は支給品の携帯を取り出す。確かこの携帯は島内だったらどこにでもつながるとあったような…。
試しに携帯の呼び出しをバイブレーションに切り替えた後、携帯にかけてみた。
ぶーっ ぶーっ
けたたましい音と共に当然のように着信が来た。 携帯のディスプレイを見るとここの職員室らしき電話番号が表示されている。どうやら本当に使えるらしい。
だったら……由依は周りにこの島の連絡先が書かれたリストがないかを調べた。ほどよく電話の近くのlファイルに挟まった主要連絡先リストが見つかる。
そのリストを見ながら支給品の地図に載っている施設の電話番号をかたっぱしから登録していく。
普段から携帯をいじっているせいなのだろう、あっという間に島の主要な施設に対して携帯で連絡が取れる状態にはなった。
ただ登録をしている際に由依には一つ疑問が沸いていた。
今どこかに電話をかけたらつながるのだろうか?
携帯電話を手のひらで弄びながら由依は考える。
電話に出る人はいるのだろうか、電話に出た人が見知らぬ人だったらどうするのか、ましてやゲームに乗っている人だったりしたら。
それに例え切られなかったとしても何を話せばいいのだろう?
できることは――何もないかも知れないけど――
由依は携帯のディスプレイと見つめながら、ある電話番号を選び、通話ボタンを押した。
しばらくの無音の後、相手先のコール音が聞こえてきた。
今あたしができることは―――このゲームに取り込まれてしまった多くの人の心を救うこと!
【場所:D−06:鎌石小中学校・職員室】
【時間:1日目22時30分頃】
名倉由依
【所持品:鎌石中学校制服(リトルバスターズの西園美魚風)、
カメラ付き携帯電話(バッテリー十分)、
荷物一式、破けた由依の制服】
【状態:全身切り傷のあとがある以外普通、電話中(相手待ち)、このゲームで傷ついた人への介抱を目的に】
【備考:携帯には島の各施設の電話番号が登録されている
由依がどこにかけているのか、また誰かがその電話に出るかどうかは次の書き手にお任せ】
問題なければ共通ルート
決意は固まった、そのはずなのに。
柚原春夏の足は、本来の目的地とは逆の方向へと向かっていた。
このみのために人を殺そう、平瀬村でこの手を汚しきってやろう。
・・・そう、決めていたはずなのに。
気がついたら、一直線に続いていた歩道が終わりを告げる。
目の前には分かれ道、左右どちらに進めばいいのかなんて思いつくはずがない。
・・・まだ、手には撃ち放った銃の衝撃が残っている。
自分のしたこと、してしまったことに対する無念は拭えない。
考えたくなかった、何も。これからのことも、このどちらの道を進めばいいということさえも。
何もかも・・・全てから、逃げ出したかった。
(どうすれば、一体どうすれば・・・)
頭を抱えてへたへたと座りこむ。その時だった。
「あれ、おば・・・じゃなくてっ!春夏さん、春夏さんですよね?!」
聞き覚えのある声、懐かしい彼の声。
「・・・たか、くん?」
「こんな道の真ん中で何してるんですか、危ないですよ」
手をつかまれ・・・いや、握られる。優しく、力強く。
「とりあえず、こっちへ」
引きずられるようにして茂みの方へ連れて行かれる。
よたよたと歩く春夏を支えるように、河野貴明はしっかりした足取りで進んだ。
「よかったです、無事でいてくれて」
「タカくんもね」
「雄二も無事です、今あいつは氷川村で他の仲間を連れて行動してます」
「・・・どうして、一緒にいなかったの?」
素朴な疑問だった。貴明は、それに苦笑いを含めて答える。
「さっきの放送で、知り合いの名前が呼ばれたんです」
「え・・・」
「だから、俺はもう悔いは残したくないから。
このみとタマ姉のために、大事な人を守るために独断で動くことにしたんです」
春夏の目が見開く。
悔いを残さないため。大事な人を、守るため。
・・・誰よりも大事な、大切な、愛しいこのみを守るため。
たったそれだけの、こと。それだけ、それだけを目的にしていたはずなのに・・・自分、だって。
隣で前を見据える貴明の表情は険しい、それこそが決意の表しである。
気がつけば、春夏の頬を涙がはらはらと流れてていた。それは、彼女の取るべき行動を指していたから。
「え、は、春夏さん?!いきなり、どうし・・・」
「ありがとう、目がやっと覚めたみたい。タカくんのおかげだわ。
このみが助かるかは分からないけれど・・・でも、これでこのみが死んでしまう可能性が少しでも減るなら、ね。」
「・・・春夏、さん?」
「ごめんね、でもこれがこのみのためだから。そう、タカくんの目的も達成できるから、ね。
・・・恨まないでっていうのは、勝手すぎるかしら・・・ごめ、なさい・・・ね・・・」
・・・・・・バァン!という銃声が鳴り響いたのは、その直後で、あった。
「・・・!あっちの方じゃない、今の音っ」
「うん、急ごう」
駆ける、なりふり構わず音に向かって走る。
民家にての休憩を終え、放送が終わったと同時に氷上シュンと太田香奈子は行動を再開していた。
氷川村にて思ったより収穫を得られなかった二人は、今は北に存在する鎌石小学校を目指す途中で。
地図では一番大きく表示されているこの場所、ここなら人がいるかもしれないと・・・そう、思って。
本当はその二人のいた氷川村こそが、ちょうど今一番人が集まっている場所でもあったのだが、位置的に二人がそれを察することはなかった。
昼間の探索から期待を失い、彼等の知らない騒動が始まらない内に既に離脱は行われていた。
「・・・ひぃ!」
香奈子の悲鳴。体の弱いシュンを追い抜き先行していた彼女が、どうやら現場に到着したらしい。
慌ててシュンも彼女に並ぶ。
・・・倒れていたのは一人の少年であった。制服姿から、同年代であることが窺える。
へなへなと座り込む香奈子を横目に、シュンは素早く自分の上着を脱いで少年に向かった。
「大丈夫ですか?!」
じわじわと地面を侵食していく血の量が、その質問の無意味さを語っていた。
けれど、シュンは呼びかけを止めない。
「しっかり、意識を持って」
「・・・くっ」
呻き声。
呼びかけながら、撃たれたであろう腹の部分にセーターを当て止血するシュンに、それは答えとして返ってきた。
「太田さん、僕の鞄から救急箱を」
「は、はいっ」
「がは・・・いいから、もう・・・」
少年の顔は青白く、既に生気は感じられない。
それでも、シュンは自分にできることをしたかった。
「・・・ごめんなさい。あなた、相沢祐一か河野貴明って名前じゃ、ない?」
「太田さん?!」
「分かってる、こんな時に持ち出すべきじゃないかもしれない・・・でも・・・」
「貴明は、俺・・・だけ、ど・・・」
視線が一瞬で集まる、驚愕で見開かれた瞳の意図は・・・まだ、彼には伝わらない。
シュンは彼の左手をしっかり握り締め、喉からひねり出すように・・・言葉を、紡いだ。
「草壁優季さんが君を探していた、会いたがっていたんだ。・・・彼女の思いを、君に伝えたかったんだ」
ぽとり。シュンの涙が、貴明の頬に落ちる。
今度は貴明の驚く番、だが・・・表情に力は、もう入らないようで。
「はは、そ、か・・・やっ・・・ぱり、知り合、い・・・か・・・ごほっゴホ、ゴホッ!」
吐血、その量も物語っている。彼は・・・貴明は、助からない。
「ありが、とう・・・さい、後に知れて・・・よかっ、た・・・」
微笑み。弱々しいけれど、確かに優しく持ち上がった口元から発せられた感謝の言葉。
そして、それに続けられたのは・・・彼の、願い。
「おれ、からも・・・このみ、と・・・タマね・・・を・・・お願、い・・・・・・・・・・・・・・」
それを最後に、貴明は息を引き取った。
河野君、河野君というシュンの呼びかけに静止をかけたのは・・・香奈子の、ぬくもり。
肩を震わせ涙するシュンの背中に、香奈子は静かに寄り添った。
自分にできることなんてないけれど、それでも。少しでも、彼の悲しみを癒したかったから。
・・・人の思いを繋げようとするのに、弊害はたくさんある。
今だ見ぬ相沢祐一や水瀬秋子、それに今貴明から告げられた人物はまだ無事でいるのだろうか。
それとも。
立ち上がり、隣を歩く香奈子の手を握り締めシュンはまた歩き出す。やるべきことは終わっていない。
・・・これが、氷上シュンの生きる目的であった。
柚原 春夏
【時間:一日目午後10時】
【場所:G−9】
【状態:このみのためにゲームに乗る】
【所持品:要塞開錠用IDカード/武器庫用鍵/要塞見取り図/支給品一式】
【武器(装備):500S&Wマグナム/防弾アーマー】
【武器(バッグ内):おたま/デザートイーグル/Remington M870(残弾数4/4)予備弾×24/34徳ナイフ(スイス製)】
【残り時間/殺害数:15時間19分/3人(残り7人)】
氷上シュン
【時間:1日目午後10時】
【場所:G−9】
【所持品:ドラグノフ(残弾10/10)、救急箱、ロープ、他支給品一式】
【状態:祐一、秋子、貴明の探し人を探す】
太田香奈子
【時間:1日目午後10時】
【場所:G−9】
【所持品:H&K SMG U(残弾30/30)、予備カートリッジ(30発入り)×5、懐中電灯、他支給品一式】
【状態:シュンと同行】
河野貴明 死亡
※貴明の所持品:Remington M870(残弾数4/4)、予備弾×24は春夏が回収。
(関連・249・293・300)(B−4)※春夏の状態で389が採用できないと思うので、代わりにこちらを入れていただければと思います・・・
「……?」
不思議そうに首を捻ったのは、HMX-12マルチ。
来栖川エレクトロニクス社製のメイドロボである。
「……なんでわたし、何の描写もなくセリオさんの肩にくっついてるんですか……?」
「うるさい黙れ」
答えたのは来栖川綾香。
パワードスーツKPS−U1改に身を固めた、色々と高スペックの少女。
「急いでるのよ、ダニエルに追いつかれたら皆殺しにされるんだから。
……あれ? 殺されるんだっけ? なんか違ったような……。
まぁ似たようなもんか」
「はぁ……それで、ダニエルさんってどなたですか…?」
「執事」
「ええっ、執事さんに殺されてしまうんですかー! それは大変ですねえ……」
「お前もだよ」
「ど、どうしてわたしまで……?」
「セリオさんにくっついてるからじゃないですか?」
口を挟んだのはHMX-17aイルファ。
といっても現在残されているのは頭部だけである。
「はわ、そういえばわたしの体はどうしちゃったんでしょう〜?
描写されてないからちっとも気づきませんでした……」
今更ながらに驚くマルチ。
イルファと同様、胴体部は既に影も形も無く、その頭部だけが切り離されていた。
「問題ありません。あなたの頭部ユニットの稼動電力程度なら、私の内臓電源で
充分に賄えます」
冷静な声は、HMX-13セリオ。
その腕に来栖川芹香を抱えながら高速で疾走を続けている。
腹にはイルファの首、そしてマルチの首が右肩のハードポイントに搭載されている
その異様は、もはやグロテスクを通り越して滑稽であった。
「いえ、そういう問題ではなくて、わたしの体……」
「いいじゃんそんなの」
涙目のマルチに軽く言い放つ綾香。
「ほら無限の住人の、なんていったっけ最初の方に殺された変態、
アイツみたいでカッコいいよ今のあんた」
「そんなの全然嬉しくないです〜……ひ痛ぁっ!」
セリオの裏拳が、マルチの鼻面を一撃する。
芹香は器用に片手で支えたままの曲芸である。
「黙ってください。耳元で喋られると聴覚センサーにノイズが乗ります」
「ひどいです……ひぁっ!」
「私、お腹でよかったです……」
「換わってください〜……ぁ痛っ」
メイドロボ軍団のどつき漫才を横目で見やりながら、綾香は今後の戦略を練り始める。
現在はとにかくダニエルとの距離をとるべく移動を続けているが、当然ながら
このまま走り回っていても事態は改善されない。
稼いだ時間で、効率的に狩りをしなければならなかった。
その意味では久瀬の放送が大きな指針になる。
ターゲットとして指定されたのは第零種、そして一種の中でも特に本部が
問題視している面子ということだろう。
彼ら固有種、中でも特に柏木一族の首級を挙げれば本家に対して大きなアピールになる。
危険は大きいが、やるしかない。文字通り、命懸けの狩りだった。
18時の時点では、まだターゲットに死亡者はいなかった。
その内どれだけが現在も生き残っているかは判らないが、そう簡単に死んでくれるような
メンバーなら、わざわざこんなプログラムに放り込む必要はない。
その大半が健在と見て間違いはないだろう、と綾香は判断する。
こうしてみると昼頃、虎に殺られたのはある意味では僥倖だったと言える。
セリオの欠点、KPS−U1の弱点、様々な問題を浮き彫りにしてくれた。
おかげでこうして、それらの問題点に応急処置ながらも対策をしてから
真の目標に攻撃を開始できるのだ。
セリオはHMX-12と17aの演算ユニットを得て飛躍的に処理能力を向上させている。
(それに私自身も、ようやく……!)
と、そこまで考えたところで、セリオの声が綾香の思考を中断させる。
「綾香様、サテライトとの情報照会が終了しました」
「あー、ご苦労さん。……で、結果は?」
本部との通信が途絶した今、サテライト経由の真偽も定かではない情報を
頼りにするほかない。
マルチの位置情報などは最終更新時刻が6時間以上も前のものであったが、
それでも容易に捕捉できたのはマルチ自身がその場にずっと立ち往生して
いてくれたおかげであった。
現在検索させていたのは、ターゲット個々の最新座標である。
「……近辺に存在する目標の中で最も近いのは、柏木初音。
同じくターゲットの長瀬祐介も同行している模様です。
情報の最終更新時刻は230分前」
「柏木の末娘か……長瀬の異端、毒電波までくっついてるとはね……。
ふふ……面白いじゃない、新生綾香様の試運転にはちょうどいい……!
急ぐわよ、セリオ。他の連中に取られたらたまんないわ」
「顔が悪役みたいです……」
「やってることも悪役そのものです……るりさまー」
「黙れ生首AB」
綾香一行は加速する。
宮沢有紀寧は嗤っていた。
数時間前のこと。
有紀寧は長瀬祐介、柏木初音と共に、氷川村にある民家に腰を落ち着けていた。
突然流れた放送で発表されたターゲットの中に姫川琴音の名があったことに
驚愕し、内心で地団太を踏みながらも、同じくターゲットとして名前を挙げられていた
目の前の祐介と初音に対しては、なんだか頭のおかしい放送でしたねっ、くらいに
誤魔化した。
よほどその場でリモコンを連打して殺してやろうかと思ったが、念じただけで
その辺りを歩いていたネズミを悶死させてみせた祐介と、鍵のかかっていたドアを
パンチ一発で粉微塵にしてのけた初音に対して、下手は打てなかった。
何より放送によれば、ターゲットを仕留めてもプログラム終了まで生き延びなければ
ならないという。
とりあえずこの二人であれば護衛としては申し分あるまい、と考えて、ひとまずは
機会を窺うことにしたのが、夕食前のこと。
二人の様子がおかしくなったのは、夜も更けてからだった。
突然立ち上がったのは、祐介だった。
「瑠璃子さんの電波を感じる……行かなくちゃ」
「ちょ、ちょっと祐介さん……?」
ふらふらと立ち上がり、外に出ようとする祐介。
押し止めようとする有紀寧。
「祐介さん、いま外に出たりしたらダメですってば!
ちょっと手伝ってください初音ちゃん、……って、えぇ!?」
背後で響く、大きな音と振動。
振り向くと、そこでは初音が床に大穴を空けていた。
「な、なにをしてるんですか、初音ちゃん……!?」
赤く充血した目を向ける初音から返ってきた答えは、
「え……なんか、腕がムズムズするから……」
見れば、その腕が心なしか黒く変色している。
爪も若干伸びているように見えた。
化け物、と叫びたいところをぐっとこらえる有紀寧。
「ちょっと、いいからやめてください……!
こんな夜中に大きな音を立てたりしたら……」
言っている内に、祐介が有紀寧の手を振り解いて歩き出そうとする。
「ああもう、一体どうしちゃったんですか二人とも……!」
まったく手をかけさせる、と内心で顔をしかめながら事態の収拾に
努めようとする有紀寧だったが、
(――――――!)
瞬間、その背に異様な気配を感じた。
勘、としか言いようがなかった。
振り向くよりも早く、身体を前に投げ出していた。
一瞬遅く、有紀寧の首が存在していた空間に一閃が走る。
「……ッ!?」
転がったまま目を向けると、瞳を真っ赤に充血させた初音が、その長く伸びた爪を
じっと眺めていた。ぽそりと呟く初音。
「外しちゃったかぁ……」
「な、初音ちゃん、何を……!?」
問い返す声は上ずっている。
「あ……有紀寧お姉ちゃん……。
ううん、なんでもないんだけど……ちょっと、首が狩りたくなって」
「……!」
聞き終わるより早く、有紀寧は駆け出していた。
爪を振り抜いた、あの速さ、鋭さ。
懐のリモコンを取り出すよりも、明らかに自分の首が飛ぶ方が早く思えた。
とにかく距離をとるより道はない。逃げの一手だった。
ふらふらとよろめきながら前を歩く祐介を突き飛ばし、粉砕された扉の
破片を踏み越えて屋外へと転がり出る。
飛び出した農道には街灯もなく、辺りは一面の闇に覆われていた。
逃走経路を求めて周囲を見回す有紀寧。
(こう暗くちゃ、どっちにいけばいいのかなんて……、え?)
有紀寧の目に映っていたのは、小さな光だった。
自分の方に接近しつつあるらしいその光に、有紀寧は迷う。
あの光の主は、狂気の殺人鬼かもしれない。
あるいは、言葉など通じずに撃ち殺されてしまうかもしれない。
(……ッ、それでも……!)
判断は一瞬。
背後の化け物に向き直るよりはマシだ。
あの速さ、膂力を前に、接近戦でリモコンの電波を正確に当てられる保証はない。
何よりも、その圧倒的な暴力が怖かった。
結論を出すや、有紀寧は叫び、走り出す。
「助けてください! 助けて! 化け物に襲われてるんです!」
走りながら、懐のリモコンを手に取ろうとする有紀寧。
隷属か、死か。
(私を助けたその後で、選ばせてあげる……!)
有紀寧は闇の中、口の端を歪ませて嗤っていた。
行く手の民家から人影が飛び出すのを、綾香は認識していた。
セリオの暗視機能とKPS−U1改のNBSの組み合わせは、暗中を苦にしない。
「ん……セリオ、あれは? 柏木の小娘じゃないみたいだけど」
「照合完了。参加者番号108番、宮沢有紀寧と思われます」
「一般人か……」
そうは言いながらも、綾香は油断することなく己の武装を確認する。
思い出されるのは夕刻、まーりゃんと名乗る少女との一戦だった。
「よし、何かあれば即射撃。いいね」
「了解しました」
人影の数十メートル手前に着地する綾香。セリオは腕の芹香を降ろす。
その人影、宮沢有紀寧は大きく手を振りながら綾香たちの方へと走り寄ってくる。
どうやら助けを求めているようだった。
「助けてください! 助けて! 化け物に襲われてるんです!」
言いながら、走り寄ってくる少女。
だが綾香は、少女が懐に手を入れようとしているのを見ていた。
闇の中、この距離では判らないと思ったのかもしれない。
愚かな行為だった。
「セリオ、撃て」
即決。
間髪いれずセリオの内蔵火器が速射される。
回避いる?
走り来る勢いのまま弾丸を受けた少女は、
「…………ッ……ッ!!」
まるで奇妙な舞踏を踊るように身をよじると、そのまま仰向けに倒れ伏した。
見る間に血だまりが広がっていく。
「あー……ねえ、大丈夫?」
やりすぎたかなー、でも挙動が怪しかったからなー、などと口の中でもごもごと
言い訳をしながら歩み寄る綾香。
と、瀕死の少女が、びくりびくりと震えながら、声にならない声で何事かを呟いた。
「え? 何……?」
近づく綾香の方に向けられた少女の目は、既に焦点が合っていない。
更に数歩を歩み寄る綾香。
少女の口が、笑みの形に歪んだ気がした。
吐息が、言葉を形作ろうとする。
耳を寄せた綾香が聞いた、少女の最期の言葉は、
「……? シ、ネ……? うわ何だコイツ性格悪いな……」
浅く眉を寄せた綾香が、命令を下す。
「セリオ、とどめ」
「はい、綾香様」
閃光と射撃音。
更に数発の弾丸が、宮沢有紀寧を貫いた。
「―――綾香様」
「ん? どした」
完全に動きを止めた少女の死体を見下ろす綾香に、セリオが報告する。
「絶命の寸前、宮沢有紀寧から特定周波数の電波が発射されたのを検出しました」
「何、それ。毒電波の仲間? 喰らったらヤバイ?」
うわまた油断したよ私のバカ、とあまり役に立った試しのない反省をする綾香。
頭を抱える綾香の姿を視認しながら、セリオが冷静な声で続ける。
「いえ、通常の電波です。出力は人体に無害なレベルです」
「じゃ、何よ」
「検出されたのは首輪の爆破機能を起動する為の周波数でした。
おそらく専用のリモコンを隠し持っていたと思われます」
「首輪……? あー、これか……」
一度は外したが通信用に付け直していた首輪を、綾香の指がなぞる。
「それがコイツの武器だったってわけ?」
「リストによれば、そうなります」
「……爆弾て、私の首輪にそんな物騒なもんつけてあるわけないでしょ。
馬鹿なのコイツ?」
言いながら少女の死体を足先でつつく綾香。
「宮沢有紀寧はその事実を知る立場になかったと思われます」
「貧乏人ってイヤねえ、普通は来栖川の名前聞いたらわかりそうなもんなのに」
「宮沢有紀寧は綾香様を認識できなかったものと思われます」
「ますます失礼ね……一目見て駄目でもオーラでわかんなさいっての」
眉根を寄せる綾香。
枯葉信者の厨度がよくわかる駄作乙
だが、そんな綾香にかけられる声があった。
「あはは、綾香お姉ちゃんは有名人だからねえ。
隆山に来たら大歓迎だよ」
小さな影。
夜闇の中、笑みを含んだ表情で真っ直ぐに綾香を見つめるその瞳は、
真紅に煌いていた。
その足元には、何があったのか四つん這いでぐるぐると回る少年。
ぶつぶつと何事かを呟いている。
「―――柏木初音、長瀬祐介と確認。敵性オブジェクトと認識します」
「お出ましか……!」
兵装を展開するセリオ、構えを取る綾香。
対峙する少女、柏木初音はだらりと両手を下げたまま、口を開く。
「あはは、わたしケンカとか嫌いなんだ」
「あ、わたしと同じですね〜」
「……セリオ、そいつ黙らせとけ」
マルチとイルファが強制的にスリープされる様子を、真紅の瞳で見つめる初音。
「もういいかな……?
ね、何度も言うけどわたし、ケンカなんか嫌なんだよ……。
だから、綾香お姉ちゃん」
笑みは、どこまでも柔らかい。
「―――お姉ちゃんの首だけ、狩らせて?」
それは柔らかく、禍々しい鬼の笑み。
「妖怪が……ッ!」
嫌悪感も露に吐き棄てる綾香。
「退治してやるから、人里に下りてきた先祖を恨みながら死ね」
「ひどいこと言うなあ……」
困ったように眉を寄せる初音。
爛々と光る目が、綾香をねめつける。
「―――いいこと教えてやろうか、鬼っ子」
「……?」
少し怪訝な顔をする初音。
「お前、この島のルールって知ってるか……?」
「ルール……殺し合いのことかな……?」
「そうだよ、その殺し合いのルールだ」
「うん、知ってるよ」
可愛らしい仕草で頷く初音。
だがその紅い眼光は、ぞっとするほどに鋭い。
「私たちが、お姉ちゃんたちみんなを殺したら勝ち、だったよね……?」
「……言ってろよ、鬼風情が」
「うん、わたしは鬼だから、お姉ちゃんじゃ勝てない。それが、ルール」
優しげな初音の声は、しかし隠しようもなく冷たいものを孕んでいる。
だが初音の答えを聞いた綾香は、その身を細かく震わせた。
「くく……っ、あははは……!」
来栖川綾香は、哂っていた。
「……何が面白いのかな、お姉ちゃん。怖くておかしくなっちゃった?」
「はは、そりゃおかしいでしょ、鬼の口から冗談が出るなんてねえ……!
私が? 鬼如きに勝てない? この来栖川綾香さんが……!?」
「……冗談なんて言ったつもり、ないんだけどな」
初音の表情から、笑みは消えない。
だが彼女の真紅の目は、紛れもなく零下までその温度を下げていた。
「……ルールなんてな、とっくに変わってるんだよ。
それをこれから嫌ってほど思い知らせてやるさ、角付き」
「……へぇ、どう変わったって言うのかな……?」
交わされる言葉から、殺意以外の色が抜け落ちていく。
「私はこの島で強くなれたってことさ。……新しい力を得て、ね」
「新しい、力……?」
「見せてやるよ、ラーニングの力……!」
言いながら、綾香が拳を固める。
「―――始めるよ、セリオ」
月下、狩人同士の死闘の幕が開いた。
【23:00頃】
【I−6】
【37 来栖川綾香】
【持ち物:パワードスーツKPS−U1改、各種重火器、こんなこともあろうかとバッグ】
【状態:バトルマニア、奥義「ラーニング」】
【60 セリオ】【持ち物:なし】【状態:バトルモード】
【9 イルファ】【98 マルチ】【状態:出番は無いけどド根性】
【38 来栖川芹香】
【持ち物:水晶玉、都合のいい支給品、うぐぅ、狐(首だけ)】
【状態:ゆきねえゲットだぜ】
【持ち霊:うぐぅ、あうー、珊瑚&瑠璃、まーりゃん、みゅー、智代、澪、幸村、弥生、有紀寧】
【108 宮沢有紀寧】
【持ち物:リモコン(5/6)・支給品一式】
【状態:死亡】
【73 長瀬祐介】
【持ち物:コルト・パイソン(6/6) 残弾数(19/25)・支給品一式】
【状態:ぐるぐる電波酔い】
【21 柏木初音】
【持ち物:鋸・支給品一式】
【状態:エルクゥズ・ハイ!】
→174 →347 ルートD−2
>>223 サンクス。
僕の印象の話だ。澤倉美咲は、静かに感情を溢す人だと、そう思っていた。嬉しいとき
も悲しいときも密やかに。と言っても、泣いている姿を見たことはないが。何か良いこと
があったとき、美咲さんは穏やかに微笑み、喜びを噛み締めるように嚥下する。「どうし
て全身で喜びを表さないのか」と思ったことがないわけではない。口にしたことはなかっ
たけれど、もっと嬉しそうな顔をすればいいのに、叫び出したっていいのに、と、そう思
うことが何度もあった。この疑問に対する答えをくれたのは友人の河島はるかで、曰く
「美咲さんが嬉しいときに、悲しい人がいるわけ」。なるほど、含蓄のある言葉だ。幸せ
の裏側には悲しみがある。例えば大学受験に成功したAさんがいた。Aさんは嬉しいな、
両手を挙げて万々歳。しかし、受験とは椅子取りゲームであるから、Aさんが受かってい
る裏で、どこぞの誰かは受験に失敗している。あらゆる喜びというのは、悲しみの礎の元
に出来ている。美咲さんが嬉しいときに手放しで喜ばないのは、自分の成功が誰かの失敗
を影として引き連れている、と自覚しているからなのだ。美咲さんらしいと言えば美咲さ
んらしい感情の機微だ。いや、本当に美咲さんがこういうことを考えているのかどうかは
知らないし、ただ単に大きな声を出すのが苦手なだけなのかもしれない。しかし、何とな
くこの考えは正しいのではないかと思う。美咲さんらしいし、何より他でもない河島はる
かが、世にも珍しく真面目に言ったことだ。普段は茶化したことしか口にしない(という
のもひどい話だが)はるかがおよそ遊びを入れずに発言したことは、経験上正鵠を得てい
るものが多かった。ともかくにして、僕はそんな風に静かに笑う美咲さんのことが好きで、
ついでに少し加虐的ではあるけれど、美咲さんが泣くときはどんな風に泣くのだろうか、
と思っていたものだ。きっと、春雨のような涙を流すのだろうと思った。降っていること
にさえ気付きにくい、静かな雨を降らせるのだろうと思っていた。
森川由綺が死んだのだという放送が流れたとき、美咲さんは泣いた。僕は美咲さんの泣
く姿をはじめて見た。それはひどいひどい泣き方だった。静かな雨なんて思った僕が浅は
かだった。「わああ、わああ」と子供のような声で美咲さんは泣いた。涙と鼻水と涎が構
いなく垂れ流されるその顔はそれはひどいものだった。「由綺ちゃん、由綺ちゃん」と、
ぐしゃぐしゃの顔のまま、もたつく足取りのまま家を飛び出して行こうとまでした。僕と
折原浩平が二人がかりで押さえ付けても「離してェ!」と髪を振り乱しながら美咲さんは
喚き続けた。「大丈夫だから、何かの間違いだから」と羽交い絞めにしながら僕は囁いた
けれど、「どうして間違いなんて分かるの!」と美咲さんは口角泡を飛ばして叫ぶ。「落
ち着いて、美咲さん落ち着いて」。もつれ合いながら床に転げ、美咲さんを押さえ付け続
ける。こんなときに美咲さんの髪の、ほんのりと酸っぱい匂いが気になって仕方ない自分
が、どうしようもなく救えないと思う。「わあああ」。しばらくしてやっと動かなくなっ
たけれど、美咲さんはまだ泣き続けていた。もう大丈夫だろうと僕は羽交い絞めを解くと、
美咲さんの首に腕を回して「大丈夫だから。大丈夫」と出来るだけ穏やかな声を作って言
い聞かせる。美咲さんが小さく首を縦に振り、やがてその身体から力が抜けていった。け
れど一体何が大丈夫なのだろうか、と僕は思う。少なくとも僕は、ゲームに乗ろうと一瞬
でも思った僕は、とても由綺が生きているなんて思っていないから、この場合「由綺は生
きてるよ」という意味で使ったのではない。「由綺は死んだけど美咲さんは大丈夫だよ」
という意味だろうか。それはまたなんとも、僕はひどいことを言うものだ。そもそもにし
て驚くべきは僕が由綺の死を知っても一滴の涙さえこぼしていないことである。僕はもし
かしたらとっくに駄目なのかもしれない。
美咲さんが泣き疲れて眠りに落ちた後のことである。「言い出しにくかったんだけどさ」
と前置きしてから「さっきの放送が本当なら、オレの知り合いも死んだみたいだ」と、浩
平は今にも泣き出しそうな顔で言った。美咲さんが狂乱するのを止めながら、浩平自身気
が気でなかったのだ。「そうか」とだけやっと返した僕に、浩平は意図の分からない笑顔
を見せる。目尻には涙があるが、笑っていると言っていい。「彰ってさ、いい人のことを
好きになったな」。どういうことだろうと思って首を傾げると「友達が死んで、あんな風
に真っ直ぐに悲しめる人なんて、そうはいないと思うんだよ」と、浩平はそう加えた。
「人の不幸を悲しむことって難しいんだよ。オレだって今さっき、繭が死んだことを聞い
てるわけだけど、何だか泣くに泣けないんだ。なんだか現実の出来事じゃないように思え
てくるんだ。昔家族を亡くしてるんだけど、そのときと比べても、全然だ」。どう相槌を
返したものか迷っているうちに浩平は再び口を開き、「オレも自分が何言いたいのかよく
わかんないんだけどさ、オレとか、繭の死を聞いても、今こうして冷静に話せるくらいの
余裕はあるわけでさ、ああ、うん、なんていうのかな、」小さく溜息を吐いた後、「悲し
いことを、真っ直ぐに悲しいと思って、形に出来るっていうのは、すごいことだと思うん
だよ」と、浩平はそう言い終わって口を閉じる。何だか暗に、平然としている自分のこと
が責められているような気がしてきて若干不快になる。「僕は泣けてないけどな」と自嘲
気味に言うと、「何言ってんだよ彰。お前だって悲しいだろ? ただ涙が流れてないだけ
だ。だって彰、そのユキさんが死んで悲しかっただろ?」という問いは考えるまでもなく、
「悲しかった」「だろ」「けど、泣けなかった」「泣くことってそんなに重要なのか?」
「――君さ、ちょっと前に自分が言ったこと忘れたの? 美咲さんは素直に感情を顕すか
らいい人だって。泣けない僕は、いい人じゃないんじゃないか?」「それはそれ、これは
これだ」。何て奴だ。浩平のあまりに適当な物言いに絶句する。
「まあ感情を素直に表せるのに越したこたないけどさ。一番大事なのは悲しいか、悲しく
ないかじゃないか? それだったらオレだって涙流せてないし」。
何だか僕をフォローするための取って付けた言い草にしか思えないが、――なるほど、
正しく聞こえなくはない。
やがて静かになった。さっきまで笑みまで浮かべていた浩平の顔から表情が抜けてゆく。
僕はすくと立ち上がると、隣の部屋に寝かせた美咲さんのところへ向かった。「美咲さん
の様子を見ていたい」という浩平に言った理由は建前だ。本当の理由は、きっと浩平が一
人になりたいだろうと思ったからだ。そして、ついでに言えば、――これは、まあいい。
美咲さんの、取り敢えず今は穏やかな寝顔を見ながら、隣の部屋で泣いているに決まって
いる浩平に思いを馳せる。きっと耳を澄ませば、浩平が心から漏らす泣き声が聞こえてく
るだろう。けれど今、僕の耳には美咲さんの寝息しか聞こえない。
235 :
終了:2006/11/03(金) 01:36:15 ID:FgWrTD310
【折原浩平】
【所持品:包丁、パン、支給品一式、だんごは放置】
【状態:健康】
【七瀬彰】
【所持品:武器以外の支給品一式】
【状態:右腕、背中に負傷】
【澤倉美咲】
【所持品:無し】
【状態:薬物からは脱却、手と首に深い傷、体中に打撲傷】
【状態:就寝中】
【時間:1日目9:30】
【場所:C-03】
【⇒236話 / B-9】
正直に言って、私は不安で仕方がない。そう茜に漏らしたのは、そろそろ空も薄明るくなろ
うかという頃だった。もっとも、こんな状況下で規則正しい生活を送れるはずもなく、時間感
覚は適当極まりない。まさかまだ深夜の一時や二時ということはないだろうという曖昧なもの
だ。どこかの民家で時計を見たような気もするが、それからかなり経っているはずなので当て
にはならない。星座の位置で正確な時間を計る術は持ち合わせていなかった。
その星座にしても今はもう見えない。先程から急に雨が降り出した。確かに少し前までは空
に星は見えていたが、いつの間にか黒一色に染まっている。そんなことにも気付かない程、私
は必死だったのだ。いや、焦っていて周りが見えていなかった。
当面の雨を凌ぐために、私たちは森の中の小屋に足を踏み入れた。確かなことは言えないが、
にわか雨のような降り方だったので、すぐに止むのではないかと思う。そうでなかったら明日
からはいろいろと大変かもしれない。
「突然何を言い出すんですか」
濡れた体を拭きながら茜が返す。綺麗な肌をしているようだが胸は私の方が大きいなんてど
うでもいいことを頭の片隅で考えながら、今日一日を思い返す。
「私達は今日一日でそれなりに多くの場所を歩き回ったはずだ。だがいくら調べても脱出に繋
がりそうな物は何もない」
唯一の発見はあの船だったが、かなり時間を置いてからあの場所に戻ってみたら影も形も消
えていた。誰かが修理して脱出に成功した可能性もあるが、実際のところはどこかで私達を管
理している連中の仕業に違いない。あんな分かりやすい脱出のヒントが用意されているとは到
底思えないので、あれは何かのイレギュラーだったのではないかと私達は結論づけた。いずれ
にせよあのチャンスを逃したのは大きな痛手だった。
そして、それよりももっと大事なものを、私はあの場所で失ったのだけれど。
237 :
sadistic hardcore:2006/11/03(金) 05:05:07 ID:pvBbxOFb0
「おまけに歩いても歩いても誰にも出会わない。船での一件が最初で最後だ。争う音は何度も
耳にしているのに、これは一体どういうことだ」
「運と出番がなかったんでしょう」
「出番?」
なんでもありませんといいながら、茜がタオルを放る。私も早いところ顔や髪を拭いてしま
いたかった。茜は続ける。
「不安は私も同じです。だけど、まさか諦めるつもりではないですよね?」
「そんなことは」
タオルを下ろした私の眼前に、手斧がつきつけられる。仕舞いっ放しで一度も使われること
もなかった刃先がぎらぎらと輝いている。
「そのときは、私が真っ先に智代の敵に回ります。智代が言い出した約束です」
脅しつける姿は、しかし茜には全く似合っていない。この子にはピンクの傘がお似合いだ。
こんな場所にいるべき子ではない。それはきっと誰だってそうだ。
「諦めるつもりなどない。少しだけ弱音を吐いただけだ、私達はまだやれる」
「そうですね」
どことなく満足げに手斧を下ろす。まったく情けない、弱音を漏らすなんて私らしくない。
元気付けられてしまったではないか。
「だがその場合、お前は私を殺した後にどうするんだ? 正直に言って生き残れそうには見え
ないぞ」
脅された仕返しにちょっとだけからかってやる。茜は壁にもたれて、すこしだけ笑った。
「そうですね。私が武器を持って人を殺し回るなんて非現実的です。そんな私はどこにもいま
せん。これだって持っているのが精一杯です」
「ふふっ、違いない」
「それにしても少し喋りすぎま し た」
ごとっ、と、手斧を落とす。持っているのに疲れたのか。
そうではない。
茜の胸から一直線に、何か、刀の、ような、も、のが、生えて、い、た。
「茜っ!」
声と同時、刀が抜かれる。私は崩れ落ちる茜の体を支えようと駆け寄り、
直前、踏みとどまった。
二度目の一閃。壁の隙間からの攻撃だった。ボロ小屋だったのが災いした。確かにここは最
低限の雨を凌げる程度の貧相な建物だった。もしあのまま駆け寄っていたら私は今の一撃を食
らっていた。ギリギリの所で回避したと言っていい。だがその代償は間違いなく存在した。鈍
い音を立てて、茜の体が板張りの床にまともにぶつかる。
嗚呼、私はたとえ串刺しにされても、僅かな時間しか一緒にいられなかったこの友を、支え
てあげなければいけなかったのに。
「茜ぇっ!」
抱き起こすがもう遅い。全てが遅い。たった一突きの傷から尋常じゃない量の血液が溢れ出
る。私達の体が赤く紅く染まっていく。認めたくはない。認めたくはないが、どうみても致命
傷だった。
「わ、私、は……」
「いい、いいから喋るな! 待ってろ、私がすぐに何とかしてやる!」
何もできないのはわかっているのに、どの口がそんなことを言うのだ。
茜は既にどこを見てもいない。うわ言のように呟いた。
「かえ な と……。 の しょ 。 がま て 。 よ る」
伸ばそうとする手を掴む。雨に塗れた手はどうしようもなく冷たい。強く握って少しでも温
めれば、茜も冷たくならずにすむのだろうか。そんなわけはない。
声にならない。言わなければいけないことはいっぱいあるようで、何を言えばいいのかわか
らない。そんな自分がもどかしく、できるなら茜の代わりになりたかった。
お願いします! 誰でもいいから、茜を助けて!
だけどそんな誰かはどこにもいない。この島の、この世界のどこにもいない。
伝えたいこともわからぬまま、何も言えぬままの私に、それでも最後の最後だけ、茜は私を
見てくれたように思えた。
唇が動く。
(智代、逃げて)
それっきり、茜は動かなくなった。
「で、一体あんた、いつまでそうしているのかしら?」
入り口に女が立っていた。手に持っているのは薙刀か。この状況を考えるに、刃先の血をみ
なくてもこいつが今何をしたのか一目瞭然だ。
「きさまあああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!」
獲物によるリーチの差だとか、人を殺すことへの抵抗だとか、そんな些細なことは何も考え
られなかった。転がっている手斧を取り一気に駆ける。相手との間には狭い出入り口が一箇所。
格好の的となった私は、繰り出される一突きを左手で掴み取る。痛みなんか感じない。茜の痛
みに比べたらこんなものは数億分の一にも満たない。強引に突破を試みるが相手の反応は尋常
ではなかった。時間的にも速度的にも。獲物を躊躇なく手離し、手斧を振り落とす私の右腕を
苦もなくかわし、体重の乗った当て身を叩き込まれる。武器だけは手放さないように握ってい
たつもりが、これもいつの間にか弾き飛ばされた。
全ては一瞬。久しく味わったことのなかった、敗北だ。
「弱いのね、あなた」
眼前に刃先が突きつけられる。詰まれた。次の瞬間、私は殺される。茜を殺したこの女にか
すり傷すらも与えられなかった。できるのは言葉による抵抗だけ。
「何故だ! 何故お前達はそうやって人を殺せる!」
「どいつもこいつもくだらないことを言ってくれるわね。死にたくないの、生きて帰るって決
めたのよ。こんな簡単な理由なのにわからないわけないわよね?」
「それだけの力があったら、もっと他のことに使えるだろう! 私達をこんな目に合わせてる
連中に踊らされなければならないんだ!」
「……ああ、ひょっとしてあなた、皆で仲良く知恵を絞ってここから逃げましょう、なんて考
えてるクチかしら」
あはははははっ、おっかしー。なんて笑われながら一秒後には私は壁に叩きつけられた。顔
面に容赦のない蹴りが入る。土と血の味がした。
「それで? 仲間は何人集めたの? 具体的な脱出プランは立ったわけ? そんなわけないわ
よね、お友達と二人で、こんな何もないとこでうろうろしてるものね。あなた気付かなかった
のかもしれないけど、あたしは結構前から狙ってたのよ、あなたたちの命」
つま先が頬に入る。奥歯が折れる感覚。倒れこんだ私は、物言わぬ茜と目が合った。何も映
さない濁った瞳から、私は目が逸らせない。
「あたしはあなたみたいに口先だけの夢物語と唱えるよりも、自分の力で生き抜くことを決め
たのよ。前に殺した奴の言葉を借りると、これがあたしの正義なの。そしてあたしはこうして
あなたの前に立ってる。あなたは何? その子供みたいな理想論で、いったいどれだけの物を
守れてきたの?」
何も言えるはずがない。私は茜を救えなかった、先生を救えなかった。それだけではない。
今までの人生を振り返ってそんなものがあったのだろうか。毎日喧嘩に明け暮れ、壊れていく
家庭を繋ぎ止めようとする努力すらもしなかった。いろいろな物を傷つけてきた。身を挺して
家族を救った弟とはえらい違いだ。一念発起して望んだ生徒会選挙も当選は叶わなかった。あ
の桜の樹は近いうちに切り取られる。この理不尽な暴力を前に胸を張って誇れるものなど、
最初から何一つとして、ありはしなかったのだ。
早朝不眠回避
「呆れた。本当に口先だけのお馬鹿さんだったのね」
自分への怒りや情けなさが止まらない。だがそれは、この女に抵抗する気力にはなりはしな
かった。殺す価値もなくなったとでも言いたげに、女は矛を収め去っていく。手斧を拾い上げ
一言、
「じゃあね、負け犬さん。お友達の所へ行けるのをそこでじっと待ってなさい」
……茜。
…………茜。
私は、何もできないまま終わるのか。
そんなの、そんなの、
「くそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっっっ!!!」
そして幾らかの時間が経った。
からん、と何かが投げられる音がした。
ふと顔を上げると、そこには未だに立ったままの女。
そして私の手元には……手斧が、ひとつ。
「まだ吼える元気があるならいつでもかかっていらっしゃい。忠告しておくけど、敵討ちなん
て甘い考えじゃあたしは絶対に殺されてあげないわ。それを手にするなら、最後の最後の一人
の座を勝ち取る覚悟で私に向かっていらしゃい」
捨てられた手斧が私の心を掴んで離さない。
「さっきあたしを殺そうとしたじゃない。その気になればやってやれないことはないでしょ。
刺激的な友達が一人死んじゃって、少しだけ寂しかったのよ。代わりにあなたが楽しませてく
れればいいんだけど」
「私は坂上智代。……貴様、名前は」
「天沢郁未、あなたの名前は覚えておくわ。智代」
「待っていろ。必ず辿り着いてやる」
「期待しないで待ってるわ」
こうして私は、理想の限界を知った。
こうして私は、最後の一人になるまで戦うことを決めた。
天沢郁未が去ってしばらく、私はようやく動き出した。
茜の亡骸と、今までの私を捨て去って。
坂上智代
【持ち物:手斧、フォーク、支給品一式×2(茜の分)】
【状態:左手負傷。ゲームに乗る】
里村茜
【死亡】
天沢郁未
【持ち物:鉈、薙刀、支給品一式×2(うちひとつは水半分)】
【状態:多分回復した】
【時間:二日目午前五時】
【場所:F-08】
【備考:この時間から雨が】
【B-9ルート 支障がなければ他でも】
まさにビッチだな
原作どおりでいいね
「帰れとは言ったけど、ほんとに出てくことないじゃない……」
七瀬留美は、思わず藤井冬弥と12人のヘタレを追い出しってしまったことを気に病んでいた。
既に20人を超える参加者が殺されている。
消防署内にいれば安全だなどという保障は何処にもないが、
あたしが追い出したがために藤井さんが殺されてしまったら……
そう考えるといてもたってもいられなかった。
放送を聞いたときの彼の反応、ショックを受けていたのは間違いない。
「怖い時はさ、助けてって言っていいんだ」
「それでね、助けてって泣いていいんだよ」
彼と出会ったときのことを思い浮かべる。
恐怖に震え、思わず銃を向けた自分を優しく諭してくれた彼……
(あーもう! 何やってんだろあたし!)
留美は消防署を飛び出し、冬弥の向かったほうへ駆け出した。
全力で走ったおかげで、1時間ほどで留美は冬弥に追いつくことが出来た。
「はぁ、はぁ、ほんとに出てくんじゃないわよ馬鹿……」
「七瀬さん、追いかけてきてくれたんだ」
心配になったなどとは口が裂けても言えない。
見ると冬弥は11個のボールらしきものを腰に着けている。
「何そのボール?」
「俺はさっき、天啓を受けたんだ」
「はあ?」
「エロゲー界には大勢のヘタレ主人公たちがいる。
この殺し合いは、彼らをヘタレから脱却させるために用意されたに違いない。
先の12人はヘタレの中のヘタレ、いわばヘタレ12神。
彼らがヘタレてしまったのは、初代ヘタレ王の俺の責任だ。
俺は彼らを救わねばならない」
なんと電波なことを言ってるのだろうか、留美は開いた口が塞がらなかった。
「ゲットしたヘタレたちはこのヘタレボールに入れておくことが出来る。
敵が現れたらボールから出して戦わせるんだ。
戦いを通じてレベルを上げていくことにより、彼らはヘタレから脱却するだろう」
「その人は外に出てるみたいだけど?」
留美は鳴海孝之を指差した。
「皇帝であるこの俺にボールに入れというのか?」
「ヘタレたちにはそれぞれ個性がある。
中にはこいつのようにボールに入りたがらないものもいるんだ」
もう勝手にしてくれ、留美がそう思ったとき、
一人の少女が雄叫びを上げて向かってくるのが見えた。
「ウォォォォォォ!」
「さっそく敵が現れたようだ」
冬弥はそう言ってボールを構える。
「いけ、黒崎崇! キミに決めた!」
「うおー! ムティカパぱーんち!」
保科 智子 のこうげき!
黒崎 崇 は 9999 のダメージをうけた!
黒崎 崇 は しんでしまった!
「一撃で即死、ヘタレにしかなせないわざね……」
「くっ、戻れ! 黒崎崇!」
冬弥は黒崎崇をボールに戻し、次なるボールを取り出した。
「次はお前だ! いけ、柊空也!」
「うおー! ムティカパきーっく!」
保科 智子 のこうげき!
柊 空也 は 9999 のダメージをうけた!
柊 空也 は しんでしまった!
「なんて手強いんだ! ゲットしたくなってきたぜ!」
「あの人ヘタレ主人公じゃないでしょ……」
「うん? 様子がおかしいな」
「ぐおーっ! 私はムティカパやーー!!」
ギューンと音を立て、目の前の少女の手の爪が伸びた。
「進化したか! 絶対にゲットしてやる!」
「馬鹿言ってないで逃げるわよ」
追いかけてくるんじゃなかったと、留美は大いに後悔した。
七瀬留美
【時間:午後8時ごろ】
【場所:C−06】
【所持品:P−90(残弾50)、支給品一式(食料少し消費)】
【状態:呆れている】
藤井冬弥
【時間:午後8時ごろ】
【場所:C−06】
【持ち物:H&K PSG−1(残り4発。6倍スコープ付き)、
支給品一式(水1本損失、食料少し消費)、沢山のヘタレボール、
鳴海孝之さん 伊藤誠さん 衛宮士郎くん 黒崎崇くん(死) 宮本浩くん 白銀武くん
鳩羽一樹くん 柊空也さん(死) 朝霧達哉くん 人見広介くん 来栖秋人くん 鍋島志朗くん】
【状態:俺=ヘタレトレーナー】
保科智子
【時間:午後8時ごろ】
【場所:C−06】
【所持品:支給品一式(水、食料少し消費)、専用バズーカ砲&捕縛用ネット弾×3、ムティカパの塩漬け×2】
【状態:ムティカパ症候群L2】
→323, →328, ルートD
ムティカパをゲットしようとするなんて
それなんて死亡フラグ?w
その時。
彼女は突然何か手を押さえた。
手の中には胃の中からはきだされた、どす黒いモノがあった。
それと同時に、彼女の頭は締め付けられるように痛くなった。
全身から血の気が引くのが、あきらかにはっきりと感じれれた。
(私は・・・そういえば・・・)
(病人・・・だっ・・・た・・・)
ふわりと地面に倒れこむ。
だが、周りから見ていると、「ふわり」ではなかったのかも知れない。
だが、すくなくとも彼女にはそう感じた。
もう、彼女にはもはや痛覚が無かった。意識も薄らいでいた。
(誰か)が人口呼吸か、心臓マッサージかをやってくれたのかもしれない。
そんな感じはした。だが、意識が朦朧としていて何がなにだか判らない。
何か、騒いでいる声もするような、しないような。
しかし、これらは走馬灯なのかもしれない・・・
彼女は目をあけたままだった。
然し、意識は、既に無かった・・・・・・
(・・・これが・・・最後だった・・・の・・・かな・・・)
彼女は薄れ行く意識の中でそう、最後に思った。
──────AからZまでの美坂栞生存の全ルートで共通──────
美坂栞
【状態:病死】
持ち物・各ルートによって違う 場所:各ルートによって違う
意識不明になった時間:各ルートの美坂栞登場の最終時間の10分後
死亡時間は意識混濁になった後。直後かどうかは本人の感覚なので判らない
(私は・・・そういえば・・・)
(病人・・・だっ・・・た・・・)
ふわりと地面に倒れこむ。
だが、周りから見ていると、「ふわり」ではなかったのかも知れない。
↑この描写、なんかおかしくね?
普通は自分が病人だってことを忘れたりしないだろ。
むしろ自分の体を騙し騙し動くはずなんだが。
俺は喘息持ちだったから分かるが、寒い日やなんかは喉を痛めないよう、
心肺に無理をさせないように気をつけて走ったり歩いたりをしていた経験がある。
病人というのは自分が病気を持っていると自覚した上で、かつそれによった行動の癖みたいなのを持っているはず。
あと、ふわりと地面に倒れこむ、って描写もおかしくないすか。
ふわりっていうのは、まさに物が風に煽られて浮かぶ様も含むわけで。
通常、何かしら身体の異常で地面に伏す場合、これはもう崩れ落ちるという感覚に近い。
書き手はテレビアニメなどでよくあるスロー表現を想像して描写しているんだろうけど。
その後に続く だが、周りから見ていると、「ふわり」ではなかったのかも知れない。 という件が、違和感を決定的なものにしてるよ。
そして最後の 意識は、既に無かった…… はずなのに、 (・・・これが・・・最後だった・・・の・・・かな・・・) って、おぃぃ?という感じ。
書き手はシーンのイメージのほかに何も考えてないような気がする。
「この女……本気で寝てる……? 正気なの……?」
山田ミチルは驚愕していた。
死体かと思い、使える武器の類でも残ってはいないかと考えて近づいてみれば、
少女の学生服の胸元は微かに上下していた。
「この状況で、何の警戒もせずに寝てるなんて……」
途方もない心臓をしているのか、信じ難い愚か者なのか。
どちらでも構わなかった。
「ま、殺るってのは変わんないか……じゃあね、良い夢を」
言って、手のMG3を振り上げるミチル。
眠っている人間相手に無駄弾を使う必要はあるまい、との判断だった。
長い銃身が、無防備な少女の脳天を粉砕するべく振り下ろされる。
「……え?」
銃底が叩いたのは、浜辺に敷き詰められた砂だけだった。
少女の姿が、掻き消えていた。
「そんな……どこに、……がぁっ!?」
衝撃は真横から来た。
何が起こったのかわからないまま、ミチルは砂浜を吹き飛ばされる。
転がりながらも機関銃を手放さなかったあたりは彼女を褒めるべきだろう。
「く、そ……罠……?」
口の中に入り込んだ砂を、血と一緒に吐き出しながら顔を上げるミチル。
だが次の瞬間、ミチルは己の目を疑うことになる。
「か、カエル……!?」
ミチルの目に映った光景を一言で表現するならば、異様、だった。
そこに立っていたのは、果たして先ほどの少女だった。
ゆらゆらと揺れるその身は泥酔しているようにも見える。
だが、そんな少女の様子よりも先にミチルの目を奪ったのは、少女がその手に
持っているものだった。
少女の身の丈ほどもある、巨大なカエル。
「ぬいぐる、み……!? ど、どこから出したの……!」
ぶらぶらと振り回される巨大なぬいぐるみの虚ろな目が不気味だった。
悪寒を振り払うように、ミチルは手にした機関銃を腰だめに構える。
「……死ねっ!」
反動を必死に抑えながらの一斉射。
高速の弾丸が、目の前に立つ少女を引き裂く、はずだった。
「な……っ!」
またもや、少女が消えていた。
否。
「……くー……」
ぬいぐるみにつっぷして、寝ていた。
「……馬鹿にしてっ!」
怒鳴るミチル。
だが、ミチルが再び引き金を引くよりも早く、少女が動いていた。
回転。身を丸めるようにして転がる少女が、ミチルの足元に取り付く。
「こ、このっ!」
MG3という銃、威力は高いが細かい取り回しには向いていない。
それが仇となった。
足元の少女を蹴り飛ばそうとした瞬間、視界が緑一色に染まった。
「が……っ!」
巨大なぬいぐるみによって頭をかち上げられたのだ、と理解するより早く、次の打撃が来る。
少女の、何気ない動きで跳ね上げられた脚が、ミチルの無防備な腹部を正確に抉った。
「ひ……ぎぁ……」
二発、三発と蹴りが入り、たまらず身を屈めようとするミチル。
その頭上から、ぬいぐるみが振り下ろされた。
顔面から思い切り砂浜に叩きつけられる。
「くぁ……も、もう……やめ……」
涙と血で歪む視界の中で、ミチルが最後に見たのは、巨大なカエルを左右に従えて佇む、
少女の姿だった。
「……びーむ、だおー……」
少女の声に答えるように、二匹のカエルの目が光る。
閃光が、周囲を覆い尽くした。
「……くー……」
水瀬名雪は眠っている。
それは正に、今の彼女になせる最善の行動だった。
名雪自身の意識とは関わりのないところで、水瀬の血が当主たる名雪を護っていた。
焦熱の地獄と化した砂浜で、己が殺戮を知らず、水瀬名雪は眠っている。
水瀬名雪
【時間:2日目午前1時ごろ】 【場所:A−2】
【持ち物:レイピア、GPSレーダー、MP3再生機能付携帯電話(時限爆弾入り)、
赤いルージュ型拳銃(弾1発)、青酸カリ入り青いマニキュア、いちごサンデー】
【状態:水瀬家新当主(未覚醒)。睡眠中奥義:けろぴー召喚】
山田ミチル
【状態:死亡】
【所持品は焼け焦げて使用不能】
→057 →384 ルートD
彼女は終始無言だった。
しばらく考えていたのだった。
放送が聞こえた直後、彼女は海の向こうを確認していた。
夕闇に消えて見えていたのは、紛れも無く日本防衛軍保有のイージス艦。
そして夜の海の向こうに見えた光
あれは間違いない。日本保有のヘリ空母の中の一つだ。
「・・・・・・規模が大きすぎる・・・」
主催者は篁じゃない。放送と、この異常な海軍の動きで明らかだ。
──その当の篁もヘンなガキのナイフに当たって開始早々消えていた事などリサに知るよしも無い。
(相手は海、こちらは島)
(しかも相手は少なく見ても2隻以上か・・・)
この場合、主催者に直接攻撃するという事は島から船で主催者の近くまで乗り込み、そこで一気に操舵室を奪うしかない。
だが相手も戦艦。そう簡単に近づけるか、奪取できるか。
(やるとなると、間違いなく海戦)
(しかし、相手側も戦闘準備は万端のようね・・・)
こうやって拉致された事なども考えると、エージェントとしての身元がバレた可能性すらある。
また、仮に最後まで生き残ったとしても、敵側には戦いの記録が残る。
むしろ、その例の「化け物」退治のために・・・つかまったのかも知れなかった。
(余計な事口走らなければよかった)と彼女は深く後悔していた。
首輪から、ギャグのように飛び出してきたヘンな音声。
このような機能があるという事は逆に言えばこちらの声も盗聴できるという事。
余計な話を知っている事を、むざむざ別の敵に知らせてしまった。
(確かに生かしておくとは言ったものの・・・果たしてあの久瀬という?男。私を生かすだろうか?)
答えは簡単、Noになる。
そもそもスパイと判った段階で、そのスパイに価値なんてあるもんじゃない。
となるとやはり、主催者である久瀬?の一味や「あの」戦艦郡を攻撃し、データごと破壊するしかない。
しかしどうやって?
船はどこから手に入れる?
そもそも近づけるのか?
こんな状況下でありながら、ヘリの音すら聞こえる。おそらくCH-47輸送ヘリの音。
参加者が使う事はありえないだろう。つまり敵側には攻撃ヘリや輸送ヘリがあるという事になる。
運営がこの島に定期的に来ているのか?
となるとどうする?
乗っ取るか?
しかしどうやって輸送ヘリを強奪する?
いろいろと調べながら、戻ってきたのは12時近くだった。
状況を確認していた面もあり、海から見えた灯台にいってきて調べてたのだ。
判った事は、まず、敵艦は空母だけで1隻、大船だけで4隻以上ある可能性がある。
そして、光の動きでわかるが空軍・攻撃ヘリも相当数ある。
また、やはり島の中にも「化け物」と呼ばれる怪人がいるかもしれないこと。
幸い、まだその「化け物」には遭遇しなかったが・・・
しかし、海の家に帰った時。
リサは暗闇の家の中で、信じられない光景を目にしていた。
そこにあるのは変わり果てた栞の死体だった。
狙撃された跡もない。彼女はただ、血を吐いて、倒れていた。
「何?・・・ねえ・・・」
まだ体は温かい。だが、脈を調べても、動かない。
彼女は体を動かした。だが、その屍は動こうとしなかった。
毒でも飲まされたのか。それとも、自殺か。
自殺は有り得ない。ついさっきまで姉を探すと頑張っていた少女だ。
何故か、全く判らなかった。だが、明らかに口から血を吐いて死んでいる。
狙撃されたのか、毒を飲まされたのか。それとも全く別の要因?
「敵・・・・・・?それとも一体何?」
暗闇の中で体を急いで調べても、全く外から攻撃された跡もない。
ただ唯一判ることは、これで、守るべき者も、守らなければならない者も、全て無くなった事。
そして、ここも安全ではない事。
だが、リサにはそれを悲しむ暇すらなかった。
海から、不審な音がしていた。明らかに船が近づいている音だ。
恐怖を感じないといったらウソになる。彼女はとっさに身を隠す。
船は海岸に接岸したあと、数名の兵隊が下りて来た。
闇夜の中で、声が聞こえてきた。
───何とか上陸は出来た。
───よし、岩切・光岡・御影・横蔵院・縦王子・砧の6名は船を守れ。
島には坂神・御堂・石原・猪名川・スフィーの5名で入る
───了解した
───ですの。
───状況を確認し次第・・・・・・
(海から・・・参加者が上陸してくることはありえない・・・・・・)
(という事は・・・主催者?!)
美坂栞
【時間:2日目午前0時】【場所:G−9(海の家)】
【所持品:無し】【状態:死亡】
リサ=ヴィクセン
【所持品:コルト・ディテクティブスペシャル(弾数10内装弾6)
鉄芯入りウッドトンファー、八徳ナイフ、支給品一式】
【状態:警戒】【備考:目的喪失】
→ルートD2
耕一達は教会で休憩中だった。
街へは森から侵入した方が安全だと考え、森を進んでいた最中にこの教会を見つけた。
住井が町は危険性が高いから、先に休憩して万全の態勢で行った方が良いと提案した。
それは確かにその通りだった。疲れが溜まれば体の動きも頭の回転も鈍る。
そして町に襲撃者が潜んでいた場合、生き延びるには逃げ足と体力が重要だった。
何しろ耕一達は、銃火器の類の武器を一つも持っていないのだから。
住井は少し探したいものがあるんだ、と言って一人教会の奥へと消えていった。
「お腹は一杯だけど……、ちょっと喉が渇いてきたッスね」
「ああ、よっちと川澄は水が無いんだったな。ほら、飲めよ」
そう言って耕一は舞に水の入ったペットボトルを投げ渡した。
舞とチエはそれを分け合って飲み干していた。
そこに住井が戻ってきた。
「今調べてきたけど、使えそうな物……パソコンや武器は無かった。それからこの教会、水道が止まってるぜ」
「そうか……、まずは水を手に入れないときついな」
「………ここなら水があると思う」
舞が地図で指している場所は、ここからさほど遠くない位置にある分校跡だった。
「水を汲みに行くッスか?」
「ああ、そうだな。町じゃ水を汲んでる余裕があるかなんて分からないし、今のうちに俺が行ってくるよ」
耕一が真っ先に名乗りをあげる。
「一人じゃ危ないだろうし、俺も行くぜ」
「折角だし、私も行ってあげるわよ」
続いて住井と志保も名乗りをあげていた。
「いや、3人は多くないか?水を汲むくらい、一人で十分だぞ」
耕一は軽く反論したが、
「……きっと動き回るグループの方が危険だから、人数は多い方が良い」
舞がそう言ったので、結局3人で水を汲みに行く事にした。
耕一達が教会を出て行った後、舞とチエは礼拝堂にいた。
「でもこの教会、綺麗ッスねー。なんでこんな綺麗な教会が街から遠い場所に建っているんでしょうね」
「………分からない」
教会をこんな場所に建てる意味は無い。
町からこの教会までは距離的にはさほど遠くないが、途中で街道を外れ、森の中を歩かねばならない。
参拝する人達にとって、不便な立地だった。
きっと何か、意味があるはず……。
思考を巡らせる舞達。しかしそれは第三者によって強制的に中断させられた。
教会の外から誰かが歩いてくる足音がする。
「耕一さんッスか?随分早いッスね」
耕一達が戻ってきたのだと思い、チエが出迎えにいこうとする。
しかし歩いてきた人物は耕一ではなかった。
扉が開け放たれる。
「え……?」
開いた扉の先には、綺麗な長い髪の女性が立っていた。
その姿は、この綺麗な教会の雰囲気にとても似合っていた。
しかしその女性―――柏木千鶴は、とても冷たい目をしていた。
舞とチエが動き出すよりも早く千鶴は動き出し、傍にあった椅子を舞に向かって投げつけていた。
舞は素早く剣を手にとった後、その椅子をかわしていたが、その隙に千鶴はチエの目前まで迫っていた。
「うあっ……」
チエは強烈な体当たりを喰らい、舞の方へと吹き飛ばされた。
「よっち!」
舞は素早くチエを抱き止める。気は失っているようだが、大きな怪我は負っていないようだった。
「……あなた、許さないから!!」
舞はチエを地面に横たえ、日本刀を構えて千鶴の方を睨んだ。
その時にはもう、千鶴はチエの日本刀を拾っていた。
「ようやく武器が手に入りました……、素手では限界を感じていた所でしたので助かりました」
千鶴も刀を物色しながらそう言った後、舞を睨み返した。
「では……まずはあなたを、殺します」
そして地面に横たえられているチエの方に視線をやり、
「勿論その後にその子にも死んでもらいます」
ゾッとするような冷たい声で、そう言った。
「させないっ!」
舞が千鶴に向かって斬りかかる。
元々剣だけを頼り、夜の学校での戦いを生き延びてきた少女、舞の攻撃は鋭く、正確だった。
「――――!」
予想外の動きに意表を衝かれた千鶴だったが、後方に跳び、すんでのところでその一撃をかわしていた。
千鶴の額に汗が滲む。
「……あなた、ただの一般人では無いようですね」
「……」
舞は何ももう何も答えず、再び千鶴に斬りかかっていた。
ギィンッ!
ギィンッ!
ギィィィンッ!
刀と刀がぶつかり合う音が教会中に響いていた。
一瞬でも気を抜いたらその瞬間に命を落とすであろう斬り合いが行なわれていた。
命を懸けたその戦いの迫力は、さながら武士と武士との決闘のようだった。
千鶴は体のバネを使って、凄まじい勢いで突きを放った。
その目標は、舞の心臓―――
ギィンッ!
舞が素早く反応し、千鶴の刀を跳ね上げる。
がら空きになった千鶴の胴を狙って刀を横に振るが、千鶴は後ろに下がってかわしていた。
舞は素早く突進し、今度は舞が千鶴の心臓目掛けて日本刀を突き出す。
千鶴はサイドステップでその一撃をかわし、舞目掛けて刀を振り下ろしていた。
ギィィィンッ!
舞は何とかその一撃を受け止めるが、千鶴の攻撃は一撃一撃が重く、舞の腕は軽い痺れに襲われ始めていた。
(………この敵の攻撃は学校の魔物達と同じ……かわさないと駄目)
千鶴の怪力を知った舞は、出来るだけ千鶴の攻撃を受け止めるのは避け、
勘と経験を頼りに千鶴の攻撃をかわす戦法に切り替えた。
身体能力では舞の上を行く千鶴であったが、こと剣の戦いに限っては実戦経験で遥かに上回る舞に分がある。
一進一退の攻防が続けられていたが、徐々に千鶴が押され始めていた。
舞の剣が斜めに振り下ろされる。
ブシャァッ!
「くぅぅぅっ!」
後ろに飛んでかわそうとした千鶴だったが、体力の消耗からか動きが鈍ってきており、完全にはかわし切れなかった。
千鶴の左肩が軽く引き裂かれる。
千鶴は肩を押さえ、息を切らしていた。
「くっ……仕方ありません。刀の戦いではあなたに分があるようです」
劣勢を認めた彼女は舞に背を向けて逃げ出した。
舞は追うか迷ったが、千鶴の足の速さを考えると追っても無駄だと判断して、追撃はしなかった。
何より今は、チエが心配だった。
千鶴は駆けるウォプタルに乗りながら、考え込んでいた。
その内容は得意の筈の近接戦闘で不覚を取った事への反省ではなく、別の事についてだった。
(楓……、私本当に、これで良いのかしら?罪の無い子供達を無差別に襲撃して、傷を負わせて、殺して……。
きっと貴女が今の私を見たら、物凄く悲しむでしょうね……。でも、それでも―――)
「それでももう、妹達も耕一さんも、誰一人として、死なせたくはないのよ……」
柏木家の当主としての責務を果たす為、柏木家の長女として皆を守る為、千鶴はその手を汚していく。
柏木千鶴
【時間:1日目午後9時半頃】
【場所:g3左上】
【持ち物:日本刀・支給品一式・ウォプタル(状態:疲労)】
【状況:左肩に浅い切り傷、疲労、逃亡中。マーダー】
川澄舞
【時間:1日目午後9時半頃】
【場所:g3左上の教会】
【所持品:日本刀・支給品一式(水は空、容器も現在は無い)】
【状態:疲労】
吉岡チエ
【時間:1日目午後9時半頃】
【場所:g3左上の教会】
【所持品:支給品一式(水は空、容器も現在は無い)】
【状態:気絶】
住井護
【時間:1日目午後8時50分頃】
【場所:g3左上の教会】
【所持品:投げナイフ(残:2本)・支給品一式(水は半分ほど)】
【状態:分校跡に水を汲みにいく】
柏木耕一
【時間:1日目午後8時50分頃】
【場所:g3左上の教会】
【所持品:大きなハンマー・支給品一式(水は空、空の容器を3人分持っている)】
【状態:分校跡に水を汲みにいく】
長岡志保
【時間:1日目午後8時50分頃】
【場所:g3左上の教会】
【所持品:投げナイフ(残:2本)・新聞紙・支給品一式(水は三分の二ほど)】
【状態:足に軽いかすり傷。分校跡に水を汲みにいく】
・ルートB-9〜B-12、J-3 関連は279、285
「……」
「何、よ。これ」
小屋に戻った美佐枝と詩子を出迎えたのは、既に冷たくなった芹香の死体だけだった。
荷物も何もかもそのままだ。愛佳だけが、どこにもいない。
二人とも何も喋らない。
詩子が想像できたのは、先程美佐枝との会話に出てきた『芹香』と『愛佳』のうちのどちらか
がこの少女なのではないかということ。
それと、恐らく美佐枝は今、
「何をやってたんだろうね、あたしは」
突如発せられた声に体を震わせ、詩子は美佐枝を見る。美佐枝の瞳から涙が零れ落ちているこ
とを知る。
「この子達は普通の女の子だったんだ。戦う力も覚悟も何もないはずの、ただの女の子だったの
に」
膝を折り、芹香の亡骸を抱え起こす。
「……思えば嫌な予感はしてたんだよ。それなのに、あたしは二人を置き去りにして、一体何を
やってたんだろうね」
それきり言葉もない。ただじっと顔を伏せ、嗚咽交じりの泣き声を続かせるだけ。
どうすればいいのだろうと、詩子は思う。
もしも自分なら、自分の判断ミスで、例えばここで倒れていたのが茜だったらどうだろうか。
想像の限界を超えている。考えようとしただけで襲い掛かるたまらない冷気と暗闇が、それ以
上の思考の連鎖を拒絶する。
当然、そのとき自分がどうやって声をかけられたら少しでも救われるのか詩子にはわからなか
った。
268 :
deadline walking:2006/11/04(土) 16:15:24 ID:qIXvyBep0
もう少しだけ、ついさっきの出来事を思い返す。
セリオを置き去りにして逃げたとき、美佐枝は何と声をかけてくれたのか。
(馬鹿、あんたを逃がすためにその子は足止め役を買ってでたんだろ。今あんたに何かあったら
その子も報われないだろ……)
あの時の詩子は確かに後悔をしていた。もちろん今もそれは続いている。
それでもセリオの意志を無駄にしないために、ここまで歩いてこれたのだ。
美佐枝を振り切ってセリオの元へ戻る選択も確かにあった。
それはそれでヒューマニズムの賜物だが、果たしてセリオはそれを望んでいたのかというとそ
れは違うと思う。
正解なんてきっとなかった。ただ、感情に流されてあそこで命を落とすより、美佐枝の言葉に
従って、ここでこうして生きている方が、
きっとセリオも喜んでくれると思う。
死者のためにやるべきことというのは、きっとそういうことなのだ。
ただ、詩子には、物言わぬ彼女がどんな人柄なのかわからない。
わからないから、美佐枝が自分にしてくれたようには声をかけることができない。
その場に立ち尽くすしかない自分が、もどかしかった。
気付けば握り締めた拳が、じんと痛んだ。
269 :
deadline walking:2006/11/04(土) 16:15:55 ID:qIXvyBep0
「ごめんね。心配かけた」
そう言ったのは、詩子の時間感覚では、まだそう経ってない頃のこと。
「生きているあたしには、まだできることは何かあるはずだ。だから、いつまでもこうしちゃい
られない」
鼻をすすり、袖で涙を思いっきりふき取った。
詩子がそこで見て取ったのは、まだ幾つも後悔の残る、けれども確かに強い瞳だ。
涙はもうそれっきり。
「本当は弔ってあげたいところだけど。ごめんね、芹香ちゃん」
一度だけ手を合わせ、
「歩こうか、詩子ちゃん」
詩子はうなずいた。
ああ、強くて懸命に生きている人だと、詩子は思った。
相楽美佐枝
【持ち物:ウージー(残弾25)、予備マガジン×4、食料いくつか、火炎放射器、支給品(美佐枝、芹香)】
【状態:初期の目標引継ぎ、出きれば愛佳を探したい】
柚木詩子
【持ち物:ニューナンブM60(5発装填)、予備弾丸2セット(10発)、鉈、包丁、支給品(詩子、愛佳)】
【状態:美佐枝に同行しつつ初期の目標引継ぎ】
小牧愛佳
【持ち物:なし】
【状態:次の書き手任意】
来栖川芹香
【死亡】
【B-11(支障なければ他でも)】
【場所:B-03(愛佳は行方不明)】
【時間:一日目午後十時半(愛佳は第一回放送後任意)】
【備考:美佐枝、詩子の両名はセリオの死亡は確認済みとする】
改行しくじったので後で修正します。連続規制に引っかかりそうなので今は多分無理。
回避
「……」
「何、よ。これ」
小屋に戻った美佐枝と詩子を出迎えたのは、既に冷たくなった芹香の死体だけだった。
荷物も何もかもそのままだ。愛佳だけが、どこにもいない。
二人とも何も喋らない。
詩子が想像できたのは、先程美佐枝との会話に出てきた『芹香』と『愛佳』のうちのどちらかがこの少女なのではないかということ。
それと、恐らく美佐枝は今、
「何をやってたんだろうね、あたしは」
突如発せられた声に体を震わせ、詩子は美佐枝を見る。美佐枝の瞳から涙が零れ落ちていることを知る。
「この子達は普通の女の子だったんだ。戦う力も覚悟も何もないはずの、ただの女の子だったのに」
膝を折り、芹香の亡骸を抱え起こす。
「……思えば嫌な予感はしてたんだよ。それなのに、あたしは二人を置き去りにして、一体何をやってたんだろうね」
それきり言葉もない。ただじっと顔を伏せ、嗚咽交じりの泣き声を続かせるだけ。
どうすればいいのだろうと、詩子は思う。
もしも自分なら、自分の判断ミスで、例えばここで倒れていたのが茜だったらどうだろうか。
想像の限界を超えている。考えようとしただけで襲い掛かるたまらない冷気と暗闇が、それ以上の思考の連鎖を拒絶する。
当然、そのとき自分がどうやって声をかけられたら少しでも救われるのか詩子にはわからなかった。
もう少しだけ、ついさっきの出来事を思い返す。
セリオを置き去りにして逃げたとき、美佐枝は何と声をかけてくれたのか。
(馬鹿、あんたを逃がすためにその子は足止め役を買ってでたんだろ。今あんたに何かあったらその子も報われないだろ……)
あの時の詩子は確かに後悔をしていた。もちろん今もそれは続いている。
それでもセリオの意志を無駄にしないために、ここまで歩いてこれたのだ。
美佐枝を振り切ってセリオの元へ戻る選択も確かにあった。
それはそれでヒューマニズムの賜物だが、果たしてセリオはそれを望んでいたのかというとそれは違うと思う。
正解なんてきっとなかった。ただ、感情に流されてあそこで命を落とすより、美佐枝の言葉に従って、ここでこうして生きている方が、
きっとセリオも喜んでくれると思う。
死者のためにやるべきことというのは、きっとそういうことなのだ。
ただ、詩子には、物言わぬ彼女がどんな人柄なのかわからない。
わからないから、美佐枝が自分にしてくれたようには声をかけることができない。
その場に立ち尽くすしかない自分が、もどかしかった。
気付けば握り締めた拳が、じんと痛んだ。
「ごめんね。心配かけた」
そう言ったのは、詩子の時間感覚では、まだそう経ってない頃のこと。
「生きているあたしには、まだできることは何かあるはずだ。だから、いつまでもこうしちゃいられない」
鼻をすすり、袖で涙を思いっきりふき取った。
詩子がそこで見て取ったのは、まだ幾つも後悔の残る、けれども確かに強い瞳だ。
涙はもうそれっきり。
「本当は弔ってあげたいところだけど。ごめんね、芹香ちゃん」
一度だけ手を合わせ、
「歩こうか、詩子ちゃん」
詩子はうなずいた。
ああ、強くて懸命に生きている人だと、詩子は思った。
相楽美佐枝
【持ち物:ウージー(残弾25)、予備マガジン×4、食料いくつか、火炎放射器、支給品(美佐枝、芹香)】
【状態:初期の目標引継ぎ、出きれば愛佳を探したい】
柚木詩子
【持ち物:ニューナンブM60(5発装填)、予備弾丸2セット(10発)、鉈、包丁、支給品(詩子、愛佳)】
【状態:美佐枝に同行しつつ初期の目標引継ぎ】
小牧愛佳
【持ち物:なし】
【状態:次の書き手任意】
来栖川芹香
【死亡】
【B-11(支障なければ他でも)】
【場所:B-03(愛佳は行方不明)】
【時間:一日目午後十時半(愛佳は第一回放送後任意)】
【備考:美佐枝、詩子の両名はセリオの死亡は確認済みとする】
終了
「……システムリンク、すべて問題ありません」
「ふむ……ミラーの用意は、どうか?」
「第1、第2、第4ブロック完了。第3ブロックの展開が遅れていますが、間も無く完了する見込みです」
「そうか。では、第3が終わり次第、足並みを揃えて第5から第8の展開に移れ。夜明けまで、急げよ」
「はっ!」
命令を受け取った部下が退室してから、久瀬は手元の端末を弄った。
「ふ……順調、順調……」
そこに表示されているデータは彼の兄の忘れ形見だった。
「兄上が残してくれたシステム、僕の……いや、人類の未来のために有効に使わせてもらうよ」
シミュレーションに基づけば、僅か3分の照射で島は完全に……岩盤すら残さず蒸発する。
もっとも、最初の1分に耐えられる生物が存在するとは思えないのだが、地下に逃れる者や未知の能力を持つ者を想定に入れての3分だった。
「明日の正午、太陽が一番高く昇るその時…………楽しみだ」
椅子の背凭れがキシッと音を立てた。
「はぁ……」
暗い海の上で岩切花枝は嘆息した。
「こんな物が我が軍の決戦兵器か……それは我々強化兵ではなかったのか……」
一人で愚痴を零していると、同僚――同類がやって来た。
……聞かれてしまっただろうか?
彼女の微妙な心の動きにまるで頓着せず蝉丸は淡々と言った。
「岩切……時間だ」
「ああ、分かった。行こう」
……これが動くまで、化け物相手に時間稼ぎか……用済みとなった自分達に相応しい任務だな……。
そう思いながら最後にもう一度、甲板を埋め尽くすそれを眺めた。
「……む!」
何事かに気付いた彼女の口から鋭い声が飛ぶ。
「おい、そこぉっ! ナンバー13247! ズレてるぞ、姿勢を正せっ!」
'´/^Y^ヽ '´/^Y^ヽ '´/^Y^ヽ '´/^Y^ヽ '´/^Y^ヽ '´/^Y^ヽ '´/^Y^ヽ
i !l{ ii !l{ i i !l{ i i !l{ i i !l{ ii !l{ ii !l{ i
'´/^Y^ヽ '´/^Y^ヽ '´/^Y^ヽ '´/^Y^ヽ '´/^Y^ヽ '´/^Y^ヽ '´/^Y^ヽ
i !l{ ii !l{ i i !l{ i i !l{ i i !l{ ii !l{ ii !l{ i
'´/^Y^ヽ '´/^Y^ヽ '´/^Y^ヽ '´/^Y^ヽ '´/^Y^ヽ '´/^Y^ヽ '´/^Y^ヽ
i !l{ ii !l{ i i !l{ i i !l{ i i !l{ ii !l{ ii !l{ i
'´/^Y^ヽ '´/^Y^ヽ '´/^Y^ヽ '´/^Y^ヽ '´/^Y^ヽ '´/^Y^ヽ '´/^Y^ヽ
i !l{ ii !l{ i i !l{ i i !l{ i i !l{ ii !l{ ii !l{ i
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
'´/^Y^ヽ '´/^Y^ヽ '´/^Y^ヽ '´/^Y^ヽ '´/^Y^ヽ '´/^Y^ヽ '´/^Y^ヽ
i !l{ ii !l{ i i !l{ i i !l{ i i !l{ ii !l{ ii !l{ i
'´/^Y^ヽ '´/^Y^ヽ '´/^Y^ヽ '´/^Y^ヽ '´/^Y^ヽ '´/^Y^ヽ '´/^Y^ヽ
i !l{ ii !l{ i i !l{ i i !l{ i i !l{ ii !l{ ii !l{ i
'´/^Y^ヽ '´/^Y^ヽ '´/^Y^ヽ '´/^Y^ヽ '´/^Y^ヽ '´/^Y^ヽ '´/^Y^ヽ
i !l{ ii !l{ i i !l{ i i !l{ i i !l{ ii !l{ ii !l{ i
'´/^Y^ヽ '´/^Y^ヽ '´/^Y^ヽ '´/^Y^ヽ '´/^Y^ヽ '´/^Y^ヽ '´/^Y^ヽ
i !l{ ii !l{ i i !l{ i i !l{ i i !l{ ii !l{ i i !l{ i
i !l| |i !l| | i !l| |i !l| | i !l| |i !l| | i !l| |
i !l| |i !l| | i !l| |i !l| | i !l| |i !l| | i !l| |
>(|-[ ] []ノ >(|-[ ] []ノ >(|-[ ] []ノ >(|-[ ] []ノ >(|-[ ] []ノ >(|-[ ] []ノ >(|-[ ] []ノ
(Y⊂)i木!) (Y⊂)i木!) (Y⊂)i木!) (Y⊂)i木!) (Y⊂)i木!) (Y⊂)i木!) (Y⊂)i木!)y)
(y) くんi〉 (y) くんi〉 (y) くんi〉(y) くんi〉(y) くんi〉(y) くんi〉(y) くんi〉(y)
ノ) し'ノノ) し'ノ ノ) し'ノ ノ) し'ノノ) し'ノノ) し'ノノ) し'ノ ))
久瀬
状態:勝利を確信した悪役モード
岩切花枝
状態:文句を言いつつ任務には忠実
坂上蝉丸
状態:朴念仁
凸システム(砧夕霧×30000)
状態:展開中
時間:401「漆黒の闇の中で」(午後0時)の少し前
出たw
「―――始めるよ、セリオ」
言葉と同時に、綾香が地を蹴る。
フォワードは綾香。バックアップがセリオ。
NBSによって可能となった、齟齬なき多重攻撃。
「……ふぅん」
対する初音は、綾香の突進にも笑みを崩さない。
大気を割り裂いて迫る綾香の拳を、右腕一本で受け止める。
か細かったその右腕は、いまやどす黒く変色し、人間のそれとは明らかに違った
組成の筋肉によって膨れ上がっていた。
一方、拳をガードされた綾香にも驚きはない。
間髪いれず、右後方に展開したセリオの火器が射撃を開始する。
初撃が止められることは元より織り込み済みとでもいう様子であった。
同時に綾香はバックステップ。セリオの射角を確保する。
迫る火線に初音が動く。
下がった綾香に対して長く伸びた右手の爪を裏拳気味に一閃。
勢いを利用して身を翻し、セリオの射線から退いた。
足元への着弾を気にも留めていない。
「……銃、ね。わたし、撃たれるのには慣れてるんだ」
飛び退きながら、どこか楽しげに口を開く初音。
その眼前には、既に綾香が距離を詰めている。
顔面に迫る、特殊合金で固められた足先を軽くスウェーしてかわす初音。
波打つ髪が、巻き起こされた突風になびく。
「毎日毎日、通学路で急に撃たれたりしてたからね。
……梓お姉ちゃんがみんな殺しちゃってたけど。
わたしは許してあげて、って言ったんだよ?」
やりすごした右足の後ろから、更に加速を増した左足が飛び出してくる。
機械仕掛けによってサポートされた、神速の後ろ回し蹴り。
身を屈めて回避した初音が、そのまま綾香の胴を取りに行く。
伸ばされた腕は、しかし瞬時に引き戻された。
一瞬遅く、綾香と初音の間に存在する僅かな空間をセリオの銃弾が通過する。
引いた腕ごと飛び退く初音。
その頭上から落とされようとしていた綾香の踵が、空しく宙を切り裂いた。
「おかげですっかり勘が鋭くなっちゃった。
……誰だか知らないけど、感謝しなくちゃね?」
にこりと笑うや、初音の身体が横っ飛びに跳ねる。
左右に小刻みなステップを踏みながら狙うのは、正面の綾香ではなく、
左側面に展開しているセリオ。
不規則な初音の動きに、セリオは射線を絞りきれない。
「―――さっきから邪魔だよ、人形のお姉ちゃん」
弾幕を縫うように初音が迫る。
セリオはそのままで充分な凶器となりうる鋼鉄の四肢を構え、格闘戦に移行する。
肉薄しつつある初音に対し、自ら踏み込んで距離を詰めるセリオ。
大きく右の爪を振りかぶった初音の小さな身体、その背に上から叩き下ろすように
固めた拳を落とす。初音の爪は身を捩ったセリオの脇腹を軽く裂くのみ。
無防備な背に文字通りの鉄槌が下るかと見えたその瞬間、初音の黒く太い右腕が
セリオの胸をしたたかに打ちつけていた。
爪での一撃をはずしたと見るや、踏み込んだ左足を軸足として、初音が強引に
突進の軌道を変えたのである。
バックブロー気味に叩き込まれた鬼の腕の一撃に、セリオの動きが止まる。
しかし強引な挙動で体勢を崩した初音もまた、セリオに対するニ撃目が遅れた。
その一瞬で、綾香が距離を詰めている。
仰向け気味に流れた初音の視界半分を覆うように、綾香の左踵が打ち下ろされた。
直撃。
鼻面に踵を落とされた初音が、後頭部から地面に叩きつけられる。
間を置かずに落とされるストンピングを、真横に転がってかわす初音。
そのまま勢いを殺さずに腕の力だけで跳ね起きる。
「……痛いなあ、鼻血が出ちゃったよ……」
真紅の瞳を煌かせながら、初音が左手で血を拭う。
常人の頭蓋骨ならば粉砕する一撃も、鬼の体にとってはさしたる痛撃ではないとでも
言いたげに、初音の表情から微笑みは消えない。
「そうかい……じゃ、死ぬまで殴ってやるまでさ……!」
言いながら、綾香は既に飛んでいる。
セリオもまた、一時の機能障害から回復して火器を展開していた。
「懲りないなあ……来栖川は死ななきゃ治らない、って千鶴お姉ちゃんが言ってたよ」
受ける初音も足を止めることはない。
アウトレンジから繰り出される綾香の右脚をダッキングして回避するや、
軸足を狙って右手の爪を繰り出す。
しかし同時に、初音の狙いを果たさせまいと横合いからの火線が襲う。
「……っ!」
先刻と同様のパターンに、初音が思わず舌打ちする。
バックステップして難を逃れようとする初音。
しかし、
「―――!?」
飛び退いた先に、セリオの脚が待っていた。
鞭のようにしなるその蹴りを、初音は人の形を保ったままの左手で受ける。
一瞬だけ動きの止まった初音の身体に、衝撃が走った。
即座に距離を詰めていた綾香の右正拳が、初音の腹部にめり込んでいた。
軽量ゆえに吹き飛ぼうとする初音の身体を、セリオの蹴り足が許さない。
右の拳が引かれるや、左の正拳が叩き込まれる。
ラッシュ。
瞬時に五、六発もの打撃が入り、ようやく初音の身体が慣性に従うことを許される。
吹き飛んだ先に撃ち込まれた追撃の銃弾は、しかし初音の身体を捉えることはない。
「……く……痛ぅ……」
大きく跳んだその先で、腹を庇うように立つ初音。
肩で息をするその表情には、しかしまだ笑みが残っていた。
その真紅の瞳を見据えて、綾香が口を開く。
「身体能力だけで勝てると思った……?
あんま人間様をナメんじゃないよ、鬼っ子」
その嘲るような声に、初音が答える。
「ふふ……綾香お姉ちゃんこそ、全力でこの程度……?
やっぱり可哀想だね、人間は」
「言うわりにはキツそうだけど……? 脳味噌の詰まってない石頭と、
薄ッ気味悪い化け物の腕以外は案外脆そうじゃない、牝鬼」
絡み合う視線は、互いに向けられた殺意そのものだった。
うぐぅ?
むぎゅ
「参ったなあ……」
困ったように呟く初音。
「綾香お姉ちゃんを殺すくらいなら、『これ』で充分だと思ったんだけど」
「……『これ』で?」
怪訝そうに聞き返す綾香の目の前で、初音の表情から微笑が消えた。
柔和な弧を描いていた真紅の瞳が、温度を失っていく。
「……綾香お姉ちゃんが悪いんだよ。わたし、ちゃんと苦しまないように
殺してあげようと思ってたんだから」
「何を、言ってる……?」
「もう、楽には死ねないってことだよ。……さよなら、お姉ちゃん」
その言葉が、終わるか終わらないかの一瞬。
綾香の背に、言い知れぬ悪寒が走った。
「……避けろ、セリオ……ッ!」
叫んで、跳ぶ綾香。
初音の姿は、既にセリオの眼前にあった。
「―――遅いよ」
右手、一閃。
身を捻ったセリオの、右肩に載ったマルチの頭部が、真っ二つに割り裂かれていた。
エラー信号の嵐に膝を突くセリオ。
その首筋に、旋風の如く迫る、もう一対の爪。
高音が響き渡った。
「……へえ」
驚いたような声は初音。
「その鎧……結構、硬いんだね」
「……く……ッ!」
文字通りの間一髪で初音の追撃を受け止めていたのは、十字に組まれた綾香の腕。
セリオの首を落とさんとする斬撃を止めた特殊合金製のKPS−U1改にはしかし、
大きな亀裂が走っていた。
「……鬼が……その、左手……!」
綾香の鼻先にある初音の左腕は、夜の闇に溶け込むように黒ずんでいる。
指先からは、瞳と同じ真紅の爪が長く伸びていた。
白くたおやかだったその面影は、最早どこにも残っていない。
「あはは、やだなあ……鬼の力が片手でしか使えないなんて、誰が言ったの?」
初音の瞳が、真紅を通り越して赤黒く染まり始める。
吐息が荒い。
「ただ……両手を使うと、ちょっと自分が……押さえられなくなっちゃうから、
普段は使わない、だけ、だよ……!」
言いながら、力を込める初音。
綾香の腕に装着されたKPS−U1改の亀裂が、大きくなる。
「くっ……だいぶ、化け物らしくなってきたじゃない……!」
「言わないでよ……恥ずかしい、なあ……!」
せめぎ合う、銀と黒の腕。
荒い呼吸の中、初音が白く小さな牙をむく。
「ねえ、その鎧……硬いけど、……これなら、どうかな……!?」
「……ッ!」
初音の右腕が綾香に向かって突き込まれるのと、綾香の背後で
機能を回復したセリオの右足が初音を襲ったのは、ほぼ同時。
「……くぁ……っ!」
硬質な音が、響く。
二本一対の斬撃に耐えかねたKPS−U1改の右腕パーツが、砕け散っていた。
セリオの蹴りがあと一瞬でも遅ければ、その腕ごと切り落とされていたかもしれない。
初音の爪は、綾香の皮一枚を浅く切り裂くに留まっていた。
飛び退いた初音が、地を蹴って再び迫る。
その速度は、
(さっきまでとは、桁が違う……!)
一瞬で綾香に肉薄した初音の右の爪が、大きく横に薙がれる。
その切っ先をかろうじて避けた綾香の逆袈裟を狙うように、左の爪が疾る。
全力でスウェー。前髪が数本、鬼の爪に切り裂かれて風に舞う。
「あっはははは! これが本当の鬼の力だよ、綾香お姉ちゃん!」
防戦に回る綾香に、初音が執拗に爪を突き込んでいく。
流れるように襲い来る初音の爪を間一髪で受け流しながら、綾香は状況を分析する。
攻勢に回れない。KPS−U1改の防護を失った素の右腕を下手に使えず、速度を増した
斬撃への対処に手を焼いているということもあるが、何よりもサポートに回るはずの
セリオの動きが悪い。
アッパー気味にせり上がってくる初音の左手を身を捩って回避しながら、綾香は歯噛みする。
今の瞬間に一斉射を叩き込めていれば距離を取れたものが、彼我の体勢の変更に対処しつつ
最適な狙撃ポイントを算出するまでに時間がかかりすぎている。
結果、流れた初音の左側面に一撃を加えることも叶わず、綾香は途切れることなく襲い来る
右の爪への回避を優先せざるを得ない。
マルチの演算機能の損傷によるダメージは、予想外に深刻らしかった。
鋭さを増す斬撃の主は、システムの回復にかけられるだけの時間を与えてくれそうにはない。
退がり続ける綾香。
数瞬ずれたタイミングで銃弾が発射されるが、初音は既に余裕を持って着弾点から跳躍している。
「……バカ、そっちじゃない……!」
綾香が叫んだ時には遅い。
乱れた射線を悠々と潜り抜け、一瞬にしてセリオの眼前に初音が迫っていた。
一撃。
「―――!?」
回避は不可能と判断。最後の一瞬、セリオは自ら半歩を踏み込む。
打撃点を逸らすことで、爪による一閃をかろうじて避けるセリオ。
しかし胴を薙ぐように振り回された鬼の腕の一撃は、その身を吹き飛ばしていた。
綾香はブラックアウトするNBSのシンクロを切断。
バックステップで初音との距離を取る。
「……どうしたの綾香お姉ちゃん、もしかして機械の助けがあれば勝てると思った?
あんまりエルクゥを甘く見ないでほしいな、人間のくせに」
「はん……行儀の悪い爪が増えたくらいで、鬼畜生が偉そうに……!」
先刻までとは、まるで状況が逆転していた。
腕から一筋の血を流しながら、大きく肩で息をする綾香。
対する初音は、呼吸こそ荒いものの無傷である。鼻からの出血は既に止まっていた。
回避
「……そういえば綾香お姉ちゃん、何か見せてくれるんじゃなかったの?
なんだか知らないけど、なるべく早くしてくれないかな。
せっかく楽しみにしてたのに、このままじゃすぐ殺しちゃうよ」
黒い右手を目の前に掲げながら、微笑みもなく言い放つ初音。
「……参った、ねえ」
呟いたのは、綾香だった。
どこか自嘲的な呟きに、初音は眉を寄せる。
「お前如き殺すのに、あの力は必要ないかと思ったけど……やっぱりダメか。
腐っても鬼ってのが、よくわかったよ」
「……へぇ」
荒い呼吸の中、綾香の表情が変わった。
口の端を上げて、哂ってみせたのである。
「お望み通り、見せてやる……。
余裕かましたことを後悔して死んどけ、鬼っ子―――」
言って、いまやKPS−U1改に包まれていない、その素肌を晒す右腕を
だらりと下げる綾香。
綾香の白い腕、その傷口から手先を伝って一筋の血が零れ落ちる。
それが合図だった。
両の手には真紅の爪。絶対の死を提げて、初音が疾る。
「すぐ殺しちゃうって……言ったよね!」
交差は一瞬。
死が駆け抜け、鮮血が、飛び散った。
「――――――」
噴き出す血潮が、少女の身体を染め上げていた。
凍りついたように張り詰めた時間が、ゆっくりと動き出す。
「……なん、で……?」
柏木初音の、鬼の腕。
その黒い右腕が、肩口から失われていた。
迸る血潮に、初音は戸惑ったような目を向ける。
痛みは、遅れてやってきた。
「……ぐ、……ぁぁぁぁぁぁ―――ッ!」
想像を絶する激痛に、膝から崩れ落ちる初音。
傷口を押さえる左手の隙間から零れる鮮血は、勢いを衰えさせる様子もない。
そんな初音を静かに見下ろしていたのは、対峙していた少女、綾香だった。
「……痛いか、鬼」
見上げる初音。
激痛の中でその真紅の瞳が捉えたのは、俄かには信じ難い光景だった。
「……が、っふ……ぁ、その、腕……、どう、して……」
初音の目に映った、来栖川綾香の姿。
その右腕は、黒く染まっていた。硬質化した、黒い皮膚組織。
奇怪に盛り上がった、異形の筋肉。
そして、禍々しくも美しく伸びた、真紅の爪。
それは正しく、
「……エルクゥの、お前ら鬼の腕、さ」
初音は己の目を、耳を疑った。
眼前に立つ少女が何を言っているのか、理解できずにいた。
「これが、私の得た力―――ラーニング。確かにいただいたよ、その力」
エルクゥの、鬼の力を模倣したとでも、いうのか。
あり得ない。考えられない。
しかし現にこうして自らの腕は落ち、溢れる血潮は止まらない。
そして来栖川綾香の手指に伸びる爪からは、雫となって血が零れている。
鬼の腕を斬り落とす、速さと膂力。
絶望が、初音の精神を覆い尽くそうとしていた。
「じゃあな。……そろそろ地獄に帰れよ、鬼」
言葉と共に、綾香の爪が翳される。
正に振り下ろされんとする、その刹那。
「……くぅぁ……っ……!?」
腕の激痛を凌駕するような、鋭い痛みが初音の頭蓋を揺さぶった。
脳髄を掻き乱し、頭蓋骨の内側に反響してまたあらゆる神経を徒に刺激する、
それは圧倒的なノイズ。
見れば、綾香もまた端正な顔を歪めて自らの頭を押さえている。
ノイズに満たされた空間に、ゆらりと蠢く影があった。
その姿を見た初音が、苦しげな吐息の中で呟く。
「……ゆう、すけ……おにい、ちゃん……?」
いつからそこにいたのか。
狂った犬の如く四つん這いで歩き回っていた彼を、この場の誰一人として
気に留めていなかった少年、長瀬祐介が、そこに立っていた。
ゆらりゆらりと揺れるその身体。焦点の合わない瞳。
一見して正気を疑われる風情のその少年は、しかし何事かを呟いている。
次第に大きくなるその声は、やがて絶叫へと変わる。
「は……つね……初、音……、初音ちゃん……。
初音ちゃん、を……初音ちゃんを、初音ちゃんを苛めるなぁぁっ―――!!」
目を血走らせ、叫ぶ祐介。
その声に同調するように、ノイズがその出力を増す。
「……がっ……ぁぁ……!」
「くぅ……お、おにい……ちゃん……やめ……」
隙間なく大気を埋め尽くした雑音を全身で強制的に聴かされているような、
壮絶な嘔吐感。
空間を塗り潰し、その場の全員を悶死させるかと思わせたそれは、
だが唐突に消え去った。
「……はぁ……っ、は……っ、……?」
祐介が、絶叫を止めていた。
そのどろりと充血した瞳は、目の前に立つ影をねめつけていた。
「……姉、さん……?」
今度の呟きは、綾香の口から漏れていた。
長瀬祐介の前に立つ、闇に溶けるようなその影は、離れた場所に隠れていたはずの
来栖川芹香だった。無言で対峙する二人。
密やかに、しかし昏く激しい人外の攻防が始まろうとしていた。
回避
そんな二人の様子をどう見たか、初音はゆらりと立ち上がると口を開く。
真紅の瞳は、眼前に立つ綾香に真っ直ぐ向けられていた。
「……助っ人は助っ人同士、ってことみたい、だね……」
綾香もまた、初音の瞳を見据えて答える。
「……お前を片付けて、ゆっくり応援に回るさ」
その言葉に、にやりと口の端を歪めてみせる初音。
押さえた右腕の切断面からは、いまだに鮮血が流れ出している。
「……この傷じゃ、もうそんなに、もたない、かな。
その……力のこと、千鶴お姉ちゃんたちに、伝えたかった、けど」
「そりゃ残念だったな。私が伝えてやるから安心して地獄に帰れ」
す、と。
綾香が、真紅の爪を眼前に構える。
「……けど、ね」
「……」
「せめて、刺し違えてでも……お姉ちゃんは、止めてみせるよ」
「……はん」
傷口を押さえていた左手をゆっくりと下ろす初音。
真紅の爪が、貫手の形に揃えられていく。
「祐介お兄ちゃんのおかげで、痛みだけは、消えたみたい、だからね……。
全開の……鬼の力、見せてあげられるよ……!」
「……そりゃ、楽しみだ……!」
うっ
同時に地を蹴る二人。
フェイントも、コンビネーションもなく。
ただ純粋に、速さと鋭さだけを己が武器と携えて、疾る。
生命活動のすべてを一撃へと昇華して、鬼が猛った。
声ならぬ声を上げて、二つの影が交錯する。
瞬間。
殺った、と初音は感じた。
紛れもなく、生涯最速、最高の一撃。
爪が、来栖川綾香の胸甲へと届くのを、コマ送りのように認識していた。
めり込み、引き裂き、貫く。
―――パージ。
それが、柏木初音がその生涯で最後に聞いた声だった。
着地。
来栖川綾香は、己が真紅の爪に付いた血を払うように、その黒い右腕を振るう。
背後で、どさりと音がした。少し遅れて、とす、と軽い音。
柏木初音の胴と、首が、それぞれ地面に落ちる音だった。
「……ドロー狙いの負け犬根性で、この私に勝てるかよ」
振り向きもせず、吐き棄てるように言いながら、身を屈めて何かを拾い集める綾香。
それは、泥に塗れながらも銀色に煌く、KPS−U1改のパーツだった。
交錯の瞬間、爆発的に除装されたそれを盾に、綾香は初音の首を刎ねていた。
「紙一重、か……」
胸元、心臓の直上を指先で撫でる綾香。
サポートギアに覆われているそこには、一筋の裂け目があった。
大きく息をつく綾香。
振り返れば、もう一つの戦いにも決着がつこうとしていた。
【23:00過ぎ】
【I−6】
【37 来栖川綾香】
【持ち物:パワードスーツKPS−U1改、各種重火器、こんなこともあろうかとバッグ】
【状態:右腕パワードスーツ全損、ラーニング(エルクゥ)】
【60 セリオ】【持ち物:なし】【状態:ブラックアウト】
【9 イルファ】【状態:スリープ】
【98 マルチ】【状態:大破(死亡)】
【21 柏木初音】
【状態:死亡】
【38 来栖川芹香】
【持ち物:水晶玉、都合のいい支給品、うぐぅ、狐(首だけ)】
【状態:バトル中】
【持ち霊:うぐぅ、あうー、珊瑚&瑠璃、まーりゃん、みゅー、智代、澪、幸村、弥生、有紀寧】
【73 長瀬祐介】
【持ち物:コルト・パイソン(6/6) 残弾数(19/25)・支給品一式】
【状態:電波酔い、バトル中】
→396 ルートD−2
>>284-285 >>290 >>295 >>297 ありがとう〜。
水を持って戻ってきた三人を迎えたのは、刀を片手に凛と立ち、こちらをじっと見つめる川澄舞の姿だった。
お前たちか、と呟き力を抜くその姿に、一早く異変を察知したのは耕一だった。
「おい、川澄。俺達が留守の間に何かあったな」
「ああ。ゲームに乗った奴からの攻撃を受けた。チエは今は倒れているが、これといった怪我もないし大丈夫だと思う」
答える声からは疲労の色が隠せない。襲撃から今の今までずっと神経を張り詰めさせていたことがよくわかる。
「ごめん、川澄さん、大事なときに外してて」
タイミングの悪さを嘆く住井に、問題ないと舞は答える。
「水を汲んでくるのも大事な仕事。そっちが襲われる可能性もあった。結局運の問題。気にしなくていい」
「そう言ってもらえると助かるけど、なあ」
「でも流石に少し疲れた」
すとんと椅子に腰を落とす。
「正直甘く見ていた。相手は完全にこっちを殺すつもりで襲ってきた。見通しの悪い夜に例えば銃を持った奴から襲撃されるリスクを考えると、朝になるまではここにいた方が安全」
「だが川澄、こうしてじっとしている間にも俺達の探している人が襲われていたら」
「だけど」
焦る耕一をあくまで諭すように舞は続ける。
「皆がどこにいるかわからない以上、無闇に歩き回っても仕方がないと思う」
迷路に閉じ込められた二人の話を住井は思い出していた。
二人とも歩き回るのと、一人はそこでじっとしているのどちらが出会える確率は高いのかという命題だ。確か二人の初期位置と迷路の大きさによって答えが決まったのではなかったかと思うが、だからといって今回はどうすればいいのかはわからない。
誰もが次の行動に移れないまま、時間だけが過ぎていった。
そして、新たに扉の前に現れた気配に最初に気付いたのは耕一だった。
「誰かいるな……」
刀を構えて立ち上がる舞を、お前は休んでいろ、と制し、気配を殺しドアの近くへ移動する。
扉の向こうの気配は動かない。こちらの存在が気取られているのだろうかと、緊張の汗が一筋走る。
もしもこの訪問者がゲームに乗った人間だったら、自分は皆を守るために戦うだろう。
それまではいい。だがその先に、この相手を殺す覚悟が自分にあるのかと問われたら自信はない。
その躊躇い一つで、もしかすると守れたはずの命が失われるのではないかと。
そんなザマで、本当に守りたい家族を守りきれるのかと。
覚悟を決める時間が欲しかった。だから何も言わずに気配が去ってくれればいいと耕一は願う。
結局のところその願いは果たされず、しかし当面の危機は去ったことがわかる。
「誰か、いるのか」
ドア越しに聞こえたその声は、まさに耕一が待ち望んだ家族の声だった。
「梓か!」
警戒の一つもせず、扉を開け放つ。
一呼吸だけの間を置いて、泣き顔の梓が耕一の胸に飛び込んできた。
梓が落ち着いてから耕一に語ったのは二つのこと。
楓が死んだこと。そして、千鶴の凶行だ。
「……川澄。お前たちを襲った奴の特徴、聞いてなかったな」
嫌な話だが、ゲームに乗った人間は他にもいるだろう。別人であればいい。
だが、現実は時に、嫌になるような偶然を見せつける。
「黒髪で長身の綺麗な女だった。あと、馬鹿力」
「そう、か」
「耕一の、探してる人?」
志保の恐る恐るの問いかけに、耕一は力なく頷く。
「多分、そうだ。千鶴さんは本当はそんな人なんじゃない。ただ、家族を守りたいがために、他のことが目に入らなくなってるだけなんだ。そういうとこ昔から視野が狭いんだ。一人でなんでも抱え込んで」
「それで殺されそうになったこっちはいい迷惑」
舞の台詞に梓は言い返そうとしたが、一理あるだけに何を言い返せばいいのかもわからない。
「だけど、私も佐祐理が目の前で殺されそうになったら、何をするかわからないから。同じ」
ともあれこれで、今どうするべきか、耕一にははっきりとわかった。
だからここで、お別れだった。
自分の荷物を持ち、立ち上がる。皆に告げる。
「悪いが、俺と梓はもう行くよ。千鶴さんがそんなことになってるなら、俺は千鶴さんを止めなくちゃいけない」
はっ、と梓が耕一を見上げる。そんな梓を呆れたように見返し、言った。
「おいおい、当たり前だろ。千鶴さんを助けてあげられるのは、家族である俺達しかいないじゃないか」
「そうか……うん、そうだね。千鶴姉も初音も、まだきっと間に合うよね」
「ちょっと、じゃああたしも」
立ち上がろうとする志保を耕一は止める。
「悪いが、これは俺達家族の、鬼の一族の血の問題なんだ。皆が関わるような話じゃないんだよ」
「そんな……」
「ありがとうな。その気持ちだけで充分だから」
「耕一」
舞が静かに口を開く。
「もう止めない。だけど一つだけ約束して」
「何だ?」
「死ぬな」
「……ああ、皆も。生きてまた」
藤田浩之と倉田佐祐理は生きている。
藤田浩之は随分前の話だが、倉田佐祐理は最近見かけた。柳川という強い奴と一緒だったから、多分安心だ。
それだけ告げて、耕一と梓は夜闇へと飛び出した。
「梓、柳川と一緒だったら安全だってのはどういうことだ?」
「あいつ、人を助けて、人に信頼されて、主催者を倒すとか言ってたらしいんだよ。はは、信じられるかい?」
はぁ? と耕一はつい叫ぶ。それは一体誰のことだ。
「信じられないだろ。全く。どうしちまったんだか。あいつには敵わないな。だけどさ、あいつは楓を救えなかったらしいんだよ。救えなかった自分を責めてた。耕一、もしあいつに会ったら、どうするんだい?」
「そうだな……」
走りながら考える。
だが本当は考えるまでもなく決まっていた。
あいつがもし本当にそんな一面を持っていて、誰かのために立ち上がることができたなら。
楓を救えなかったことは、許せないかもしれないけれど。
「一発ぶん殴って、おしまいにしてやるよ」
あいつだって、少し何かが違っただけで、俺達の家族の一員だったはずなんだからと、
声に出さずに耕一は呟いた。
二日目が始まる。
柏木耕一
【場所:G3を出たところ】
【所持品:大きなハンマー・支給品一式】
【状態:初音の保護、千鶴を止める】
柏木梓
【場所:G3を出たところ】
【持ち物:特殊警棒、支給品一式】
【状態:初音の保護、千鶴を止める】
川澄舞
【場所:G3】
【所持品:日本刀・支給品一式】
【状態:今のところ朝が来るまで待機】
吉岡チエ
【場所:G3】
【所持品:支給品一式】
【状態:気絶】
住井護
【場所:G3】
【所持品:投げナイフ(残:2本)・支給品一式】
【状態:今のところ朝が来るまで待機】
長岡志保
【場所:G3】
【所持品:投げナイフ(残:2本)・新聞紙・支給品一式)】
【状態:今のところ朝が来るまで待機】
【B-11(支障がなければ他でも)】
【時間:二日目午前零時】
「お前、ゲームに乗っているのか?」
彰は家の前に立ったまま電動釘打ち機を構え、警戒している。
彰はゲームに乗っている者に対しては、全く容赦しないつもりだった。
ゲームに乗っている者―――それは美咲に危害を及ぼす可能性がある者に他ならない。
「いや、すまない・・・・誤解させてしまったようだな
俺は情報を集めたいだけさ」
そう言って、苦笑する岸田。
「なら、なんでさっきみたいな事を言ったんだよ」
対照的に彰は全く警戒を解いておらず、電動釘打ち機を構えたままである。
「冗談のつもりだったんだ、悪かったよ」
「・・・・悪いが信用出来ない。まずはナイフを地面に置いてもらおうか」
「あ・・・・」
言われて初めて気付いたかのように、岸田は慌てた様子でカッターナイフを地面へと捨てた。
そして岸田は両手を前に出し、何も持っていない事を多少大袈裟な動作で示した。
「これで敵意が無い事は分かってもらえただろう?その物騒な武器を降ろしてくれないかな」
それでも、彰は武器を降ろすそぶりを全く見せなかった。
「情報交換するだけならこのままでも出来るだろ?」
彰は目の前の男に胡散臭さ、そしてある一種の嫌悪感を感じていた。
それは全く根拠の無いただの直感だったが、何故か信用する気になれなかった。
(チ、このままじゃどうしようもないな・・・。)
岸田は内心毒づいていた。
あの釘打ち機をどうにかしない限り、下手は打てない。
この少年は予想以上に警戒心が強い。懐柔するのは難しいだろう。
そこで岸田は別の作戦を試してみる事にした。
「仕方ないな・・・そのままで良いよ。君はゲームには乗っていないんだな?」
「ああ。僕の敵は美咲さんを狙う奴だけだよ」
「美咲さん?誰だそれは?」
「僕にとって一番大事な人だよ。美咲さんだけは絶対に守らないと・・・」
「そうか・・・、詳しく話を聞かせてくれないか?力になれるかもしれない」
そうして、彰は美咲の外見の特徴等を岸田に伝えた。
「どうだ?何処かで美咲さんを見てないか?」
「残念ながら見てな・・・・」
そこで岸田は何かに気付いたような表情になった。
「どうしたんだ!?何か思い出したのか!?」
彰は凄い剣幕で情報を聞き出そうとしていた。
だが、岸田はそれには構わずに彰の後方を指差していた。
「その美咲さんって・・・、今そこを歩いてる子じゃないのか?」
「え!?」
彰は大慌てで後ろを振り向いた。だが、そこには誰もいなかった。
「なんだよ、一体どこにいるって――――」
喋り終わる前に、彰の体に衝撃が走った。
彰は腹部を強打され、地面に倒れた。
「あぐッ! 」
続いて手を蹴られ、釘打ち機を蹴り飛ばされた。
岸田が素早くそれを拾いに走っていった。
――――――騙された!
やはり、彰の直感は正しかった。
彰にとって幸いだったのは、岸田が強く蹴りすぎたせいで釘打ち機が家の庭の方まで飛ばされた事。
そのおかげで、何とか彰は起き上がるだけの時間は稼ぐ事が出来た。
「あああっっ!!」
彰は全身の力を振り絞りデイバックを岸田に投げつけた。
「ぐおッ!」
バックは釘打ち機を拾おうとしゃがみ込んでいた岸田に見事に命中した。岸田はバランスを崩している。
彰はその隙に逃げ出した。
「う・・・」
腹が酷く痛んだが、休んでいる余裕は無い。
「クソガキが、待てぇ!!」
釘打ち機を回収した岸田が怒りを露にしつつ後ろから追ってきていた。
岸田は彰目掛けて釘打ち機を連射した。
だが扱いに慣れいない上に走ったままでは狙った場所に飛んでいくはずが無く、釘は空を切るだけだった。
「くそ・・・・、まあいい、武器は手に入ったからな」
ほどなくして岸田は彰を追う事を諦め、彰の鞄を回収しに戻っていた。
彰の鞄には釘打ち機用の大量の五寸釘や、鋸、食料などが入っていた。
それを見た岸田は、邪な笑みを浮かた。
「ククク・・・・・これだけあれば十分だ。明日が楽しみだ!」
岸田洋一
【時間:午後8時30分】
【場所:C−04】
【所持品:鋸、トンカチ、カッターナイフ×2、電動釘打ち機8/12、五寸釘(24本)、支給品一式】
【状態:マーダー(やる気満々)】
七瀬彰
【時間:午後8時30分】
【場所:C−05】
【所持品:無し】
【状態:右腕負傷、腹部に痛み。ややマーダー(美咲の敵のみ排除)】
【B-11(支障がなければ他でも)】
【関連295・296】
「ところで超先生、祐一に言っていた13の至宝とは何なのですか?」
「光の玉だ」
「光の玉?」
「ヘギョー」
超先生は懐から光輝く12個の宝玉を取り出した。
「この玉は、13個全て集めるとどんな願いでも叶うと言い伝えられている。
そのときには幼女が現れるとか、異形の神が現れるとか云われているのだ」
「いいかげんな伝承ですね」
「全て集めればRRを完成させるという我が願いを叶えることができる。
しかし所詮言い伝えであるから、何が起こるのかは実際に使ってみないとわからん」
(そんなのに頼っていいのかよ……)
「ヘギョー」
「最後の一つを手に入れる鍵は命の炎にある」
「『最後の一つはこの殺し合いの末に姿を見せる』とはそういう意味ですか」
「うむ、今はとりあえず殺し合いの行方を見守るしかない」
「ヘギョー」
超先生、滝沢諒助、そして鹿は神社の奥へと向かっていった。
「超先生! これは!」
「ヘギョー!」
二人と一匹はそこに設置されたモニターを見て驚愕した。
そこには額が驚くほど広い少女たちが大勢整列していく映像が映っていたからである。
「凸システム……これは超先生が開発されたものでは?」
「久瀬にしてやられたな……私は久瀬を利用して主催者の地位を得たつもりだったのだが、
どうやら逆だったようだ……」
「どういうことですか、超先生?」
「久瀬はこの島ごと全ての参加者を焼き尽くすつもりだ。奴の目的は異種族・異能者の排除。
バトルロワイアルの形態をとったことはカモフラージュに過ぎないし、来栖川も久瀬に利用されているだけだ。
先の放送で久瀬が惜しげもなく国家機密を語った時点で気付くべきであった。
誰もこの島から出すつもりはないということだ」
「それでは……」
「このままでは私の計画は台無しだ! どうすればいいんだ!」
「ヘギョー!」
「お、落ち着いてください、超先生!」
滝沢は取り乱す超先生をなだめる。
「何か策はないのですか? RR空間を展開して動きを止めるとか……」
「誰彼を執筆したのはこの私だ。そんな策は通じん!
そもそも未完成の段階で、そんな広範囲にRR空間を展開することも出来ない。
凸システムの最大の弱点は雨だが、明日の正午ごろは晴天に決まっている。
天候を読み誤るミスを犯すような久瀬ではない」
「ヘギョー!」
超先生は天を仰いだ。
「それならこちらから打って出る……というのは?」
「……そうだな……分の悪い賭けになるが、それしかあるまい」
「ヘギョー!」
「直樹よ、お前の出番だ。頼んだぞ!」
「ヘギョー!」
相沢祐一は、超先生との再戦に向けて休息をとっていた。
短時間に過度の力を行使することは魂の消費速度を上げる。出来る限り避けるべきだ。
「ヘギョー!」
そのとき、突如祐一の前に鹿が姿を現した。
「お前は……久弥直樹!」
急な登場に対応が遅れた祐一をよそに、久弥は謎の術法の詠唱を始める。
「ところで、誰か久弥の行方を知らんか?」
「俺まだいるよ」 「ハカロワ3にも久弥スパイラルの時代」
「卒業してもラ・モスのこと忘れないでねという気持ち」
「突然何を権田ルバ」 「マジレスすると、権田ルバ禁止」
「人はそう簡単には死なない。死にそうになっても奇跡が起こって復活するから大丈夫だ」
「鹿せんべいをくれないと、いたずらしちゃうぞ」
「だから少女なら家でピクミンやってるって前に言ったっしょ?」
「ONE、Kanonなどのパソコンゲームのシナリオを手掛けた久弥直樹氏を総理のお力で探して頂きたいのです」
「ごるべりあを」 「どろり濃厚いたる味138円」
「ごるべりあをって権田ルバとなんか関係があるのか?」
「お尻を貸すお仕事」 「偽クラナドと仮想戦記の作者は久弥」
「こないだ秋葉原ではじるす5つ買ってました」
「どうでもいいけどこれがこのスレで322回目の書き込み」
「ミリオンゴッドでミレニアム引いて10万円ゲット」
「だからピクミンやってんのっ! 」 「俺、まだいるよ」
「ハカロワ3にも久弥スパイラルの時代」 「まただ、またセリフがループしている」
「2025年 04月―――― 鹿せんべい FARGOの施設から解放」
「久弥はこの世のどこかにいるはずの理想のシナリオライターだった」
「久弥には妹と姉が12人ずついて全員へギョーって鳴いてるかもしれない」
「全裸にランドセルにニーソックス装備でカチューシャまたはリボンでツインテール」
「只今権田ルルが0時をお知らせするね」 「マジレスなのがすごいだろ?」
「久弥直樹は治外法権なの!」 「お、憶測でものをいうなぁー!!」
「俺まだいるよ」
「だから……、
俺のこと……
俺のこと忘れてください……
俺なんて、最初からいなかったんだって…」
\ \ 俺、まだいるよ /
らしいぞ \  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ /だよもん 投稿日:
∧_∧ \ ∧_∧ /も結局手付かずで
.( ´Д`) ,-っ \ ( ´Д`) /
/⌒ヽ/ / _)そうか\ ____/ / / しさんだよもん 投稿日:
\\// よし \ ∵/ | /、誰か久弥の行方を知らん
/.\/‐=≡ ∧ ∧ \∧∧∧∧/
∧_二つ=≡ ( ´Д`)ハァ< ス >.名無しさんだよもん 投稿日:
_____/ /_ ハ < 予 パ >738
.‐=≡ / .__ ゛ \< イ >今更な事を言っとるんだ、君
───────────< 感 ラ >──────────
∧ ∧ < ル > \ 鹿せんべいやるよ
( ´Д`) ヒ! < !!!! の .>  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄
/ / /∨∨∨∨\ .∧_∧
/ ./_ / ∧_∧も \ (´∀` )
/ _二二二二二/ ( ´Д`) う \ ○⊂( )
/ / / _¢___⊂) だ \ | | |
/ / / /旦/三/ ./| め \ .(__)_)
/ / / | ̄SNOW ̄ ̄| | ぽ \ 麻枝
./ / / .| 執筆中 |/ \
久 弥 ス パ イ ラ ル !
「な!」
―――ヒュゥゥー―――
祐一は轟音をたてて回転する螺旋に飲み込まれた。
どうやらまた何処かに飛ばされたらしい。
目の前には血溜まりの中、一人の女性が倒れている。
流れた血は明らかに致死量を超えていると思われるが、彼女の体に傷は残っていなかった。
彼女の服には胸のあたりに大きな穴が開いており、そこから覗く胸の小ささが印象的である。
彼女の周囲には砕け散った何かのかけらが散乱していた。
「柏木千鶴……なるほど、そういうことか……」
祐一は一目見て事態を理解した。
「超先生は早期決着をお望みのようだ。このままでは世界は滅亡してしまう……」
そして祐一は、隣に立っている物体に声をかけた。
「ところでお前は何者だ」
「やあ! 僕は信号機。天沢郁未の彼氏さ!
今この島ではハジが大繁殖して大変なんだ。
郁未にすのこを届けなきゃ!
Hey! そこの貧乳! すのこの在処を知らないかい?」
これを聞き、倒れていた千鶴はガバッと起き上がった。
彼女は一見冷静なようにも見えたが、その手からは鋭い爪が伸びており、
信号機を見据える瞳は静かな怒りを湛えている。
「今……なんて言った?」
「Hey! そこの貧乳年増偽善者! すのこの在処を知らないかい?」
「今なんて言ったーッ!!!!」
ザン!
回避
「ギャー!!」
大きな音と衝撃波を伴って、信号機が3つに分断される。
「はぁー……はぁー……お前もか!?」
「いや、俺は何も言っていないが……」
貧乳! 年増! 偽善者!
貧乳! 年増! 偽善者!
どこからともなく禁じられた言葉が響き渡る。
「ぶ……ち……こ……ろ……すーー−!!」
「我を失ったか……どうやら戦うしかないようだ」
本来ならば、女性のエルクゥが暴走することはまずない。
しかし祐一の目の前の鬼は、明らかに自我を保っていなかった。
貧乳! 年増! 偽善者!
貧乳! 年増! 偽善者!
休むことなく浴びせかけられる罵詈雑言が、千鶴の理性を破壊してゆく。
「ウオォォォォー!!」
完全なる異形の怪物と化した千鶴の咆哮が、戦いの幕開けを告げた。
【時間:2日目午前0時半ごろ】
相沢祐一
【場所:H−08】
【持ち物:世界そのもの。また彼自身も一つの世界である。宝具・滅神正典(ゴッドイズデッド)、護符・破露揚握琴】
【状態:真唯一者モード(髪の色は銀。目の色は紫。物凄い美少年。背中に六枚の銀色の羽。何か良く解らないけど凄い鎧装着)】
柏木千鶴
【場所:H−08】
【所持品:復活の玉(砕け散った)、支給品一式】
【状態:鬼(暴走中)】
超先生
【場所:沖木島地下の超先生神社】
【持ち物:12個の光の玉】
【状態:どうすればいいんだ】
久弥直樹
【場所:B−02】
【持ち物:なし】
【状態:久弥スパイラル発動】
滝沢諒助
【場所:沖木島地下の超先生神社】
【状態:あの鹿役に立つの?】
信号機
【場所:H−08】
【状態:死亡(罵詈雑言発生器)】
→339, →368, →373, →404, ルートD−2
―――敵影確認。戦闘に移行。
―――準備フェイズ。
―――敵能力識別。
―――識別成功。広範囲精神攻撃。汚染系。
―――スタートフェイズ。補助判定。敵能力位相識別。
―――識別成功。逆位相にて防壁を展開。
―――展開成功。敵スタートスキル無効化確認。
―――防衛フェイズ。
―――対精神系スキル検索。該当無し。
―――八番から十一番までで陣を構築。前後左右に展開。
―――正面、八番に直撃。上月消滅。
―――敵スキルによる侵蝕開始。視覚情報に予期しない映像。
―――他感覚との比較開始。完了。エラーと判断。視覚遮断。侵蝕率12%。
―――敵スキル出力、想定外。六番を加えて再構築。
―――六、九、十番を前面に。一定値以上のダメージで十一番と交代。
―――再構築成功。敵スキル効果消滅。損害軽微。
―――攻撃フェイズ。
―――二番、七番を前衛。五番を後衛として攻勢陣を構築。
―――七番先行、敵本体へ直接打撃。五番の怨念を二番に移行。
―――打撃成功。敵霊的防護、除去。二番、チャージ開始。
―――防衛フェイズ。
―――精神汚染進行。聴覚情報より応答無し。聴覚遮断。侵蝕率21%。
―――敵スキル確認。二番への集中攻撃。五番、十一番を二番の前に。
―――五番、十一番に直撃。朝霧・宮沢消滅。二番に損害無し。
―――敵スキル効果消滅。
―――攻撃フェイズ。
―――二番、チャージ中。七番、打撃続行。十番、即死スキル発動。
―――打撃成功。敵本体、心機能低下。戦闘継続可能範囲。スキル失敗。
―――防衛フェイズ。
―――精神汚染進行。神経系に異常。予期しない痛覚情報。痛覚遮断。侵蝕率38%。
―――敵スキル確認。遮断された神経系より汚染の再侵攻。
―――敵スキル成功。快楽神経系に予期せぬ情報多数。遮断失敗。侵蝕率79%。
―――身体機能に異常。会陰横筋の収縮を確認。膣分泌液の排出を確認。
―――十番、敵スキル介入。十番を敵スキル目標に設定。
―――設定成功。十番、汚染。
―――敵スキル効果消滅。
―――攻撃フェイズ。
―――二番、チャージ完了。詠唱開始。
―――七番、打撃続行。敵介入スキル確認。十番、七番の打撃対象に強制設定。
―――打撃成功。十番に深刻な損害。
―――二番、詠唱完了。対象設定、敵本体。攻撃開始。
―――攻撃成功。敵本体、全身体機能停止。生命活動終了。
―――敵影無し。戦闘終了。
―――浮遊霊・個体名:長瀬祐介、回収。
―――回収成功。
―――浮遊霊・個体名:柏木初音、回収。
―――回収失敗。未確認霊魂収拾機関による介入の可能性。
―――霊体番号再設定。
―――聴覚回復成功。視覚回復失敗。神経系回復成功。
振り向いて、見えないけど、妹とハイタッチ。
勝利、ぶい。
【23:00過ぎ】
【I−6】
【38 来栖川芹香】
【持ち物:水晶玉、都合のいい支給品、うぐぅ、狐(首だけ)】
【状態:盲目、ゆうすけゲットだぜ】
【持ち霊:うぐぅ、あうー、珊瑚&瑠璃、まーりゃん(成仏)、みゅー、智代、澪(成仏)、幸村、弥生、有紀寧(成仏)、祐介】
【73 長瀬祐介】
【持ち物:コルト・パイソン(6/6) 残弾数(19/25)・支給品一式】
【状態:死亡】
【37 来栖川綾香】
【持ち物:パワードスーツKPS−U1改、各種重火器、こんなこともあろうかとバッグ】
【状態:右腕パワードスーツ全損、ラーニング(エルクゥ、電波)】
【60 セリオ】【持ち物:なし】【状態:ブラックアウト】
【9 イルファ】【状態:スリープ】
意味不明すぎ
321 :
量れない天秤:2006/11/06(月) 08:41:53 ID:4mJMnE9F0
祐一と芽衣の後に少し遅れて追いついた環は、呆然としながら立ち尽くしていた。
泣きながら英二にすがりつき「ごめんなさい」と繰り返す芽衣。
困ったように芽衣を抱きかかえる英二。
そして血を流しながら倒れている女性の姿。
銃声と目の前の光景とで、何が起きたのかは簡単に想像がついた。
だが気付けばコルトガバメントを英二に向かって構えていた。
「――やめろよ」
制したのは、苦虫を潰したように顔をしかめながらも気絶している弥生をかつごうとしている祐一だった。
思わず環は祐一を振り返るも、祐一はそれ以上何も言わず弥生を抱え消防署の中へと入って行った。
その間も英二はただただ芽衣の頭をなで続けながら「ごめん」と謝り続ける。
環の視線に気付き、英二は愁いを帯びた表情で「説明は後でするよ」と、芽衣を連れて祐一に続いていった。
消防署のとある一室に弥生を運び込み傷の手当てを終えると、再び環は英二に向かい合っていた。
「説明してもらえますよね?」
その口調は先ほどまでとはうって変わってどこかトゲトゲしい。
「英二さんの知り合いが殺し合いに参加しちまった。だから撃った。それだけさ」
環の問いにすぐさま答えたのは祐一だった。
「それだけって!」
だがその答えがあまりにもありていすぎて、納得の仕様も無く環の声は荒くなっていた。
「知り合いだからこそ、撃つ以外に方法はあったんではなくて?」
「それが出来なかったから撃ったんだろ」
どこか投げやりな言葉、一方で語る瞳は真剣な祐一に環は思わずたじろいでしまう。
「そういやあんたにゃまだ言ってなかったな、俺人を殺してるんだ」
「!?」
「自分や観鈴を守るためだった。言い訳にしかならないけどな。
だから英二さんの気持ちはわかるんだよ」
環は言葉を捜しながらも、返す言葉が見つからずに口ごもっていた。
「もう一つ言えば、向こうに寝てた女の子。あいつも人を殺してる。
詳しい事情まではよくわからないが知り合いのようだった。
ずっとそれ以来泣いてて、そして疲れて今は眠ってるよ」
322 :
量れない天秤:2006/11/06(月) 08:42:44 ID:4mJMnE9F0
環は何も言えずにいた。
よほど今までと違う日常。それを経験してきた祐一たちに自分が簡単にかけれる言葉が浮かばなかった。
「仮に…だ、想像なんかしたく無いけれどあんたの知り合いが乗っていたらどうする?
説得しても聞いてくれない。……俺も最悪の場合は撃つと思う」
「私……」
目の周りを真っ赤に腫らし俯きながら英二に寄り添っていた芽衣が、戸惑うように顔を上げ小さく口を開いた。
「頭が真っ白になって、英二さんが殺し合いに乗っちゃったんじゃないかって思って
何も考えられなくて涙が止まらなかったんです。
でも相沢さんが言ってくれました、『君を守る為に撃ったんだろう』って」
そこまで言って芽衣がこらえきれずにまた大粒の涙を流していた。
なだめるように英二が芽衣を抱きしると、今までずっと黙っていた観鈴が真剣な顔でその後に続いた。
「……さっきも言いましたけど、環さんを襲った人って私のお母さんかもしれないんです」
忘れられていた事実に、場の空気が一瞬で固まった。
だが観鈴は気にも止めずに言った。
「本当にお母さんかわからないけれど……そうだったとして、何か理由があるのかもしれないけれど……
もしも本当にそうなら私が止めなくちゃいけない事なんです。だから……」
考えていることをうまく言葉に表現出来ないのか、観鈴の言葉はそこで止まってしまう。
察したかのように祐一が口を開く。
「元々の友達とここで出来た仲間。天秤になんてかけれねーよ。
だからこそ間違ってるほうを止めるしかないじゃねーか」
「……そうね」
考えたくも無い話だった。
自分の大事な人間が殺し合いに参加しているなんて想像なんか出来ない。
でも目の前にいる彼らはそんなありえない事を経験してしまった。
その想いは自分の知るところでは無いだろう。
自分だったらどうするか。
例えが殺し合いでなくてもいい、何か間違ったことをしていたら。
考えるまでも無い、引っぱたいてでも止めるだろう。
「……なんだか美味しい所みんな少年に持っていかれた気がするな」
環の難しい顔を見て英二が茶化しながら言った。
323 :
量れない天秤:2006/11/06(月) 08:43:35 ID:4mJMnE9F0
それが空元気なのは手に取るようにわかった。
自身の知り合いを、自分達を守る為に手にかけた。
やり場の無い感情で一杯だろうに、それを隠そうとしながら場を和ませようと明るく振舞っている。
英二の言葉に、先ほどの振る舞いを懺悔するかのように環は笑った。
それに釣られるように皆の中に笑顔がこぼれた。
そうした出来事ののち、祐一と観鈴は隣の部屋の杏の様子が気になると部屋を出て行った。
残されたのは英二と芽衣と環と、あくまでの応急手当を終えてベットに横になる弥生の姿。
「この方どうなさるおつもりです?」
環はチラリと弥生を伺い見ると英二に尋ねていた。
怪我人にすることでは無いとも思ったが、全員の安全のため弥生の両手両足はロープでしっかりとベットに縛り付けられている。
「どうしたもんかね……あぁ、僕に敬語は要らないよ。なんか擽ったくってね」
ただ英二は小さく笑って返したのにたいし、環も少しはにかんで言った。
「それじゃ質問を変えて……これからどうするつもりです?」
「いくつか考えはあるけれども、どれが正しいのかなんて答えが出せないからね。
今すぐに出るにしても、少し休んで出るにしても、明るくなるのを待つにしても危険は何も変わらない。
逆に聞けば君はどうするつもりだい?」
「同じ考えですが、どうせ変わらない危険なら今すぐにでもここを発とうと思っています。
やっぱりみんなの安否が気になりますので」
「ふむ……」
英二は腕を組むとなにやら考え込むように目を瞑る。
椅子に座ったままコクリと居眠りをする芽衣を見て、環が告げた。
「芽衣ちゃんですか?」
「そうだね……」
英二は目を開くと芽衣の頭をそっとなでながら言った。
「少しでも早くお兄さんに会わせてやりたいって気持ちは変わらない。でも危険な目にもあわせたくないって言うのが本音だ。
仮初でも安全を取るならば、朝までここにいたほうがいいのかもしれない。
だが、それで朝の放送で名前を呼ばれるなんてことになったらそれを選択した自分が許せないと思う。
結局決めかねてそれでここにずっといる始末だよ、情け無い話だ」
「英二さん……」
324 :
量れない天秤:2006/11/06(月) 08:44:07 ID:4mJMnE9F0
芽衣がその言葉に反応するように起きると、瞼を擦りながらも英二に告げた。
「私のことは気にしないで、英二さんのしたいようにしてくれていいです」
「芽衣ちゃん?」
「考えてしまうんです。もし英二さんと出会っていなかったら……私は殺されていたのかもしれないけれど
由綺さんや理奈さんは死ななくてもすんだんじゃないかって」
「……そんな事言うもんじゃないよ」
二人のことを思い出しているのか、言う英二のその顔は物悲しげで……。
だが芽衣を映すその瞳には後悔の念など思わせない強さが感じられた。
「でも!」
「結果がどうあれ、僕は君と出会ったことを後悔なんかしていない。
二人には……天国に行った時にでも謝っとくさ」
「だったら!」
芽衣は震えながら叫んでいた。
その剣幕に自分自身が動揺し、ゆっくりと呼吸を整える。
「……だったら私のことは気にしないで、英二さんが一番良いって思えることをして欲しいです。
危険だからとか子供だからとか、そんな事でみんなの足枷になんかなりたくない!」
その必死な訴えに英二も環も息を呑み、そして二人は顔を向け合うとゆっくりと頷いた。
「……環くん、出発するのは少し待ってもらえるかな? 僕らももう少し休憩を取ったらここを発とうと思う。
君さえ良ければ一緒に行動しないか?」
「ええ、私もそう言おうと思っていました」
貴明のことも、雄二のことも、このみのことも心配だった。
だがこの場にいる芽衣は勿論、英二や祐一、観鈴の事だって最早知らない他人だとまで言えなかった。
――元々の友達とここで出来た仲間。天秤になんてかけれねーよ。
環の頭の中に先ほどの祐一の言葉が思い出される。
その通りだなと祐一の顔を反芻しながら笑みをこぼし、環はしばしの休息を取るのだった。
向坂環
【所持品:コルトガバメント(残弾数:残り20)・支給品一式】
【状態:健康、しばしの休息の後移動予定】
緒方英二
【持ち物:ベレッタM92(予備の弾丸や支給品一式は消防署内)】
【状態:健康、しばしの休息の後移動予定】
春原芽衣
【持ち物:なし(持ち物は全て消防署内に)】
【状態:健康、しばしの休息の後移動予定】
相沢祐一
【持ち物:なし】
【状態:386話に続く】
神尾観鈴
【持ち物:フラッシュメモリ、支給品一式】
【状態:386話に続く】
篠塚弥生
【持ち物:なし】
【状態:手当て済だが怪我の度合いは後続任せ、両手足は拘束されてます】
共通
【時間:1日目20:30】
【場所:C-05鎌石村消防署】
【備考1:以下の弥生の持ち物はバックの中に入れられて消防署内に置かれてます、誰に何が渡ったとかは後続任せ】
【備考2:レミントン(M700)装弾数(5/5)・予備弾丸(15/15)・ワルサーP5(8/8)】
【関連:B10系ルートの341と386の間の話】
目が覚めたら目の前に知らない男が、それも凶悪な目つきをした男がいる。
一般的に大人しくか弱い女子高生がそんな状況に遭遇したら、それはほぼ例外なく、
「いやああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
悲鳴を上げるに決まっている。
人から怖がられることにはいい加減慣れっこだった国崎往人は、やれやれまたか、と落ち着き払った様子で、
「わかったから静かにしてくれ。今の悲鳴で誰か危ない奴が近づいてくるかもしれんぞ」
と諭すが、当の女子高生、神岸あかりに今の言葉がどう伝わったかと言えば、(静かにしねえと今に俺の仲間が貴様の匂いをかぎつけて集まってくるぜ、へっへっへ)とこうなるわけである。
最早声もでない、腰を抜かしてへたりこむしかない。もっとも逃げようにもこの凶悪な男は部屋唯一の出入口の前に陣取っているので逃げられはしないのだけれど。
本格的にこりゃまずいと往人は今更になって焦る。
「頼むから少し落ち着いてくれ! お前もその傷じゃ満足に動けないだろ!」
(動けない体でどこに行こうってんだい、嬢ちゃん。へっへっへ)
卒倒しなかったのは、この島に来てからの現実離れした光景が、無意識にでも焼きついて離れなかったから。
つまり、良くも悪くも『慣れた』からだろう。
それからあかりを落ち着かせるまでに使った労力と時間は、往人にとってかつてなく濃密なものだった。泣き止まない子供を必死であやすように脳の使ったことのない場所をフル稼働させて様々な方法を試みた。
もっとも最終的にラーメンセットの麺を鼻から飲み込んで悶絶してた頃にはあかりもすっかり正気を取り戻しており、この人は一体何をしてるんだ、という疑惑の視線をただただ向けるだけだったのだが。
「そうか。神岸もいろいろ大変だったな」
「はい……」
「ところで鼻が痛い」
「はぁ……」
あかりに比べて自分がこの島で体験したことと言えば、せいぜい目つきのせいで女の子に怖がられたことと、逆さ吊りにされたことぐらいだ。
(か、かっこ悪ぃ!)
だからあかりに尋ねられたときも
「おおぅ! こっちは幸運にも何もなかったぞ!」
と、大袈裟に反応してしまう。あかりはその反応を疑う由もなかったが。
「この人は?」
「拾い物だ。長いこと目を覚ます気配がない」
「あ、危ない人だったらどうするんですか!」
成る程。成り行きに任せて拾ってしまったが。
「そのときはそのときだ。何、武器も持ってないし多分大丈夫だ」
そんなにアバウトなことでいいのかとあかりは思う。例えばもし何か格闘技の使い手だったらどうするんだろう。国崎さんはそれでも負けないくらい強かったりするのかな。
それから二人はいろんなことを話した。自分のこと、周りのこと、知り合いのこと。
往人は朝になるまでここを動くつもりはなかった。ついついこんなところまで来てしまったが、暗いうちに二人を連れてここを降りるのは危険だと判断したからだ。
「悪いが少しだけ休ませてくれ。何でもいい、何かおかしなことがあったらすぐに起こしてくれ」
「わ、わかりました」
不安で仕方がないが、世話になっておきながら自分は何もしないとは図々しい話だ。
自分に出来ることがあるなら、それをするべきだとあかりは思う。
助けて、と。
小さな、ほんの小さな声が往人の耳に聞こえた気がした。
(!?)
慌てて目を覚ますと、意識を取り戻した月島拓也が今にもあかりに襲い掛かるところで、
(くそっ! 危険人物だったってことかよ!)
飛び起きたそのまま、全力で体当たりを仕掛ける。
「がっ!」
見た目に反することなく、随分と簡単に拓也は吹っ飛んだ。
「もう大丈夫だ神岸! すまなかった!」
「は、はい。なんとか大丈夫です……」
体を震わせながら、気丈に答える。
それだけ確認し、往人は拓也の元へ駆ける。
起き上がろうとする拓也の目の前に思い切り足を振り下ろす。
がん、という音が部屋中に響き、恐怖を湛えた瞳で拓也が見上げた。
そこにあったのは魔獣の瞳。数々の女の子から恐れられてきた、絶対零度の視線だった。
「今すぐ失せろ」
「ひ、ひぃ!」
「聞こえなかったか今すぐ失せろと言ったんだ。さもないと」
「ひゃ、ひゃあ! 瑠璃子! 瑠璃子ぉ!」
まさに脱兎の如く、拓也は逃げ出していって。
その後ろ姿を見ながら軽く落ち込む。
(目つき悪いと特することもあるもんだな……ふぅ)
「あの、大丈夫ですか、国崎さん」
「ああ。そのときはそのときだと言ったろう。神岸には本当に済まないと思うが」
「いえ、国崎さんも私も無事ですし、なんとかなってよか」
本当になんともならない事態はすぐそこまで迫っていたことに、二人は当然、今の今まで気付かない。
一つの銃声が森の中に響く。
慌てて外を向く二人が見たものは、暗くて確かなことはわからないが、
遠く遠くで月島拓也が倒れる姿だった。
「まだだれかそこにいるんでしょ? ああ、いいよでてこなくても。今から僕がそっちに行くから」
大きくもない。けれど静かに通る少年の声。それはその名の通り『少年』の声だということを二人はまだ知らない。
(これは、まずい!)
「いいかよく聞け神岸!」
往人はあかりの肩を掴む。少しだけ痛かったが、その位には事態が切迫していることはあかりにもわかる。
「俺達は今、あいつ以外に外に聞こえるような大声を出していない。俺だけが出て行けば、もしかしたら相手はお前がいることに気付かないかもしれない」
「国崎さん、まさか」
「いいか、状況を見て逃げられるようならどこでもいい、急いで逃げろ。無理そうならここに隠れていろ、いいな!」
「そんな、自分が囮になるなんて、駄目です!」
上がりそうな声を必死に抑えて、小声で叫ぶ。
「大丈夫」
俺がなんとかしてやる、と。
武器一つ持たない往人は、ぎりぎりの笑顔でそう言った。
往人は一人、訪問者を出迎えた。
できるだけあかりから距離を開けるように。限界まで周囲に気を張り詰める。
それでも、向こうが遠距離射撃をしてきたらおしまいだが。
そんな心配を払拭するかのように、一人の少年が現れる。
まるで鏡を見ているようだと往人は思う。自分をそのまま小さくしたかのような『少年』だった。
それ以上に、
確実に初めて見かける顔なのに、何故だろう、ずっと昔どこかで会った気がする。
お互いに銃を向け合った気がする。
「君は……」
少年が少しだけ驚いたような声を出す。
「へぇ。偶然なのか運命なのか。久しぶりだね、国崎往人さん」
「誰だ。生憎お前みたいな知り合いは俺の中にはいないんだが」
「そりゃあそうだよね。僕もなんでわかったのかがわからないんだ。でも、もう五年くらい前に君と会ったとこがある気がするよ」
奇遇だな、俺もだ。と、往人は言わなかった。
「その様子だと丸腰みたいだね」
嫌になるくらい無邪気な笑みを浮かべた少年は、何かを往人に向かって放り投げた。
それは少年の持ち物。ずしりと重いそれは、グロック19。
「何の真似だ」
「予備弾丸まではサービスしてあげないけどね。せっかくの邂逅なんだ、今度はちゃんとどっちか生き残るまで戦おうよ」
「俺にはさっきからお前が何を言ってるのかサッパリわからん」
「実を言うと僕もだよ」
「だがな」
構える。絶対に逃げられない運命の再戦が始まる。
「後悔するぞ、糞ガキ」
「させてみてよ、お兄さん」
回避
少年
【所持品1:強化プラスチックの大盾(機動隊仕様)、注射器(H173)×19、MG3(残り16発)】
【所持品2:支給品一式、レーション3つ、グロック予備弾丸12発。】
【状況:往人との1vs1に限り逃げるつもりがない】
国崎往人
【所持品1:トカレフTT30の弾倉(×2)ラーメンセット(レトルト)、グロック19(15/15)】
【所持品2:化粧品ポーチ 支給品一式(食料のみ二人分)】
【状況:少年との1vs1に限り逃げるつもりがない】
神岸あかり
【所持品:支給品一式】
【状況:応急処置あり】
月島拓也
【死亡】
【ルートB-11】
【場所:f-06】
【時間:二日目午前二時】
関連書き忘れ。
【→288 →328】
でいいかな。
「本当にごめんなさいエディさん・・・・、私、きっと宗一と一緒に生き残ってみせるからね・・・
それじゃあ、いってきます」
「エディ、約束は守ったるからな・・・・、あんたの代わりにうちらがこの糞ったれゲームをぶっ潰したる!」
エディの遺体はホテル跡の裏側に埋められた。
皐月達は一人一人、最後の別れの挨拶をしていた。
皐月の目にはホテルでの事件が起こる前以上に強い光が宿っていた。
彼女達はエディの冥福を祈り両手を合わせた後、その場を離れた。
ホテルの裏口を通り、フロントへと戻ろうとする。
すると、ホテルの入り口の方に複数の人影が見えた。
智子は警戒して捕縛用のバズーカ砲を構えようとしたが、すぐにそれは中断した。
「なあ広瀬、こんな幽霊が出そうな所よりも野性味溢れる野宿の方が素敵だと思わないか?」
「思わない、思えない、思えるかっ!大体幽霊なんて実在するわけないでしょ!」
「凄い3段活用だな・・・・」
周囲に全く注意を払わずに騒いでいる女と、引き摺られている男。
どう見てもゲームに乗った人間とは思えない。
遅れてもう一人女が入ってきたが、特に武器は持っていないようだった。
後はエディと出会ったときと同じである。
「・・・・あんたら、何やっとんのや?」
すっかり戦意を削がれた智子が呆れ顔で声をかけていた。
―――そして今。ホテルの食堂で北川と智子が二人で話していた。
「そっか、じゃああんたらも首輪を解除しようとしとんのやな?」
「ああ。まだ有力な情報は何も得られてないけどな」
「まあこんなややこしいモン解除出来るヤツなんて、そうそうおらへんわな」
智子と北川は真面目に首輪の対策について話し合っていた。
だが結局の所自分達の知識ではどう頑張ってもこの首輪は外せない。
優れた技術力のある人間と偶然出会う事に期待するしかない、という結論が得られただけだった。
他の者達はどうしているかというと、幸村、花梨、皐月の3人は流石に疲れたのか別室で睡眠を取り、
広瀬と遠野はすぐ近くのキッチンで夕食の後片付けと明日の分の食料の確保をしていた。
このみはというと、
「えへへ、かわい〜」
智子達の話には我関せずで夢中でぴろに頬擦りしていた。
「あんたら、明日はどうするんや?」
北川は少し考えた、答えた。
「明日は村を中心に回ろうと思ってるよ。それが一番人とたくさん遭遇出来る方法だからな」
「でもそれって危険ちゃうんか?ゲームに乗った奴らに会う可能性も高いやんか」
「俺達は一応防弾性のある服を着てるからな。ショットガンもあるし少しは無茶出来ると思うぜ」
そう言って北川は自分が着ている割烹着の袖をぱんぱん、と叩いた。
何故このような服に防弾性があるかは非常に疑問が残るが、性能自体は勝平との1戦で証明済みだ。
「じゃあ明日になったら別行動やな・・。うちらのメンツじゃ無茶できへんからな」
「ああ、そうだな。それにバラバラに探した方が、首輪の解除が出来る奴を見つけれる可能性は高いしな」
「せやな。でもさっきホテル入ってきた時みたいな事はもうしたらあかんで。隙だらけや」
あの時の北川達の様子を思い出し、智子はぷっと笑った。
「い、いや、あれは深刻な事情があってだな・・・・」
「ま、ええわ。あんた意外にしっかりしてそうやし、大丈夫やろ」
しどろもどろになりながら言い訳をしようとする北川には構わず、智子は立ち上がった。
「どこ行くんだ?」
「今日はそろそろ寝るわ、あんたらも早めに寝えや」
そのまま智子は歩き去った。
北川は一息付き、このみの方を見た。
「あら、かわいい猫ね。私も触って良い?」
「うん、良いよ〜〜〜」
「お近づきの印にお米券を・・・・」
このみに加え、遠野と広瀬もぴろに群がっていた。
ぴろは少し疲れた様子だったが、みんな楽しそうだった。
北川はその様子を眺めながら微笑んでいた。
とても平和な光景だと思った。
こんなゲームの中だからこそこの光景はとても大事な、かけがえのないものだ。
――――しかし、異変は突如訪れた。
ピピピピピピ・・・・
「何だ?」
「この音、何なの・・・?」
どこからともなく、電子音が聞こえてきた。
北川達は音と出所を探り始めた。
ほどなくしてそれは判明した。
「この音・・・・、このみの方からしてない?」
「ふえ?」
そう言って、広瀬はこのみの首のあたりを調べた。
次の瞬間、全員が言葉を失った。
このみの首輪のLEDが点滅していたのだ。
嫌な予感が走る。
ピピピピピピピピピピピピピピピピ・・・・
電子音の間隔はどんどん短くなっていた。
「柚原、すまんっ!!」
北川が弾かれたように飛び出し、遠野と広瀬の傍にいたこのみを突き飛ばしていた。
「あうっ!!」
このみは突き飛ばされ、地面に尻餅をついた。
「き、北川君、何で・・・?」
まだ状況を理解しきっていないこのみの表情には、驚愕の色のみが映っていた。
「・・・・・ごめん」
北川は顔を伏せたまま、それだけしか言えなかった。
その両手は遠野と広瀬の腕を掴んでいた。彼女達がこのみに駆け寄れないように・・・・。
直後、爆発音と共に食堂が光に包まれた。
「何事や!?」
すぐに、騒ぎを聞きつけた智子が銃を手に走ってきた。
皐月達も起きたのか、別室から物音がしている。
食堂に飛び込んだ智子が見たものは、泣きじゃくる広瀬と、表情を歪めながらも広瀬をなだめている北川、
床に倒れている遠野。そして、
「この・・・み・・・・?」
――――首から上を消失した、かつてこのみだったモノだった。
智子は狂いそうになる心を必死に抑えて、状況の把握に努めた。
返り血を浴びている3人、このみの死体、すぐ近くのテーブルの上に置かれているショットガン。
ここから推測出来る事は・・・・・・
智子の銃が北川に向かって構えられる。
「ほ、保科・・・・?」
北川は事態がよく飲み込めず、呆然としていた。
「・・・あんたらがこのみをやったんか?」
智子の目には、強い殺意が宿っていた。
幸村俊夫
【所持品:無し】
【状態:次の書き手さん任せ】
湯浅皐月
【所持品:無し】
【状態:次の書き手さん任せ】
ぴろ
【状態:爆発音に驚いて食堂の端に逃げた】
笹森花梨
【持ち物:無し】
【状態:次の書き手さん任せ】
保科智子
【所持品:38口径ダブルアクション式拳銃(残弾7/10)】
【状態:激怒】
北川潤
【持ち物:防弾性割烹着&頭巾】
【状態:疲労、首輪を外せる技術者を探す】
広瀬真希
【持ち物:防弾性割烹着&頭巾】
【状況:号泣】
遠野美凪
【持ち物:防弾性割烹着&頭巾】
【状況:ショックを受け気絶】
柚原このみ
【所持品:無し】
【状態:死亡】
共通
【時間:E−4、ホテル跡】
【場所:1日目23:50頃】
【B-11(支障がなければ他でも)】
【関連247・299・387・393】
※北川、遠野、広瀬の荷物はショットガン以外は食堂の端へ、ショットガンのみすぐ近くにテーブルの上に
※智子達の荷物は38口径ダブルアクション式拳銃以外は幸村達が寝ていた別室に
訂正
>北川潤
>【持ち物:防弾性割烹着&頭巾】
>【状態:疲労、首輪を外せる技術者を探す】
を
北川潤
【持ち物:防弾性割烹着&頭巾】
【状態:驚愕】
でお願いします
往人は一人、訪問者を出迎えた。
できるだけあかりから距離を開けるように。限界まで周囲に気を張り詰める。
それでも、向こうが遠距離射撃をしてきたらおしまいだが。
そんな心配を払拭するかのように、一人の少年が現れる。
まるで鏡を見ているようだと往人は思う。自分をそのまま小さくしたかのような『少年』だった。
少年が少しだけ驚いたような声を出す。
「へぇ、わざわざ出てきてくれたんだ。ありがとう。それとも、出てこざるを得ない状況でもあったのかな」
気付かれてるのかと往人は内心毒付く。それでも持てる限りの平常心で、なんとか外面だけは冷静を装うことができた。
「能書きはどうでもいい。どうしてお前が殺し合いに乗ってるのかもどうでもいい。俺はしたくて人殺しをするわけじゃないが、生き残るためにはここを切り抜けるしかないだろうからな」
目を細める。
「はじめるぞ」
「まあまあ、そうは言ってもお兄さん丸腰でしょ」
嫌になるくらい無邪気な笑みを浮かべた少年は、何かを往人に向かって放り投げた。
それは少年の持ち物。ずしりと重いそれは、グロック19。
「何の真似だ」
「予備弾丸まではサービスしてあげないけどね。堂々と姿を現したことに対する敬意だと思っていいよ。大丈夫、暴発するような罠とかないから。どっちにしろ僕は負けるつもりないしね」
「なめやがって。後悔するぞ、糞ガキ」
「させてみてよ、お兄さん」
お手数おかけします、差し替えていただければ幸いです。
幾ばくかの時間が流れていた。
向坂雄二、月島瑠璃子、マルチの三人は、新城沙織の遺体が発見された部屋を出て、
瑠璃子とマルチが最初に休んでいた民家の一室へと戻ってきていた。
沙織の遺品だけは持ち込んでいたが、遺体を運ぶだけの気力は残っていなかった。
三人の座り込む部屋に、言葉は無かった。
重い沈黙の降りた部屋の暗がりで、向坂雄二は膝を抱えて俯いている。
自身の心音が不快だった。
呼吸する音が不快だった。
服の衣擦れが不快だった。
何もかもが、不快だった。
顔を埋めたその衣服にも、濃密な血の匂いに満ちた部屋の残り香がまとわりついているようで、
不快だった。
それでも、顔を上げることなどできなかった。
赤黒く腫れ上がった瑠璃子の顔を、直視できるはずもなかった。
どろりと濁ったその温度のない瞳に映る自身の姿に、耐えられるはずもなかった。
―――ぶったよね。
目を閉じていても、瑠璃子の瞳が自分を責めているのがわかった。
耳を塞いでも、その声は雄二の脳髄にこびりついて離れない。
叫んでしまえば、止まらなくなりそうで。
それで、ただ膝を抱えてズボンの裾を握り締めている。
―――ぶったよね。向坂君。何度も何度も。
女の子の顔をぶったよね。ほら、こんなに腫れちゃった。
痕が残っちゃうかな。痛かったよ。とっても痛かった。
見せないでくれ、そんなものを見せないでくれ。
瞼の下の闇の中、雄二は必死に懇願している。
それでも瑠璃子の声がやむことはない。
腫れ上がったその顔が、雄二を嘲るように嗤っている。
ぶったよね。私をぶったよね。何度も何度もぶったよね。
証拠もないのに人のことを犯人扱いして。
自分が犯人だって言われるのが怖かったから。
ぶって、ぶって、女の子を犯人にしようとしたよね。
ね、女の子にとってもとっても優しい向坂雄二君。
やめてくれ。やめてくれ、やめてくれ、やめてくれ。
後悔ではなかった。反省ではなかった。悔悛ではなかった。
それはただ、赦しを希う声だった。
悪かったと言えないまま、ただやめてくれとだけ、雄二は叫び続ける。
雄二の懇願は終わらない。瑠璃子の責め苦も終わらない。
―――やっぱり沙織さんを、あのままにはしておけません。
そんな声を上げたのは、マルチだった。
その声を聞くや、雄二は立ち上がっていた。
俺が行く、と口にしたつもりだったが、その呟きが言葉になっていたかどうか、
雄二には判然としない。
判然としないまま、マルチを突き飛ばすようにして部屋を飛び出した。
「……雄二さん……」
倒れこんだままのマルチを、月島瑠璃子はぼんやりと眺めている。
頬は腫れ上がっていたし、口の中も切っているようだったが、痛みはさほどでもない。
もとより、痛覚というものにあまり敏感な方ではなかった。
瑠璃子にとって、苦痛は常に自身の中に存在していた。
凡庸で、低俗で、猥雑なこの世界に埋没するように存在する、自分自身が苦痛だった。
月島拓也の些か度を過ぎた愛情には辟易することもあったが、それでも彼が瑠璃子に向ける
圧倒的な感情がなければ、瑠璃子はとうにこの世界に見切りをつけていたかもしれない。
身体を捧げてみせたのも、その返礼に過ぎない。
どの道、傷つけて惜しい身体でもなかった。
助けて、と呼んではみても、結局のところ自身を救い出すことなど誰にもできはしないと、
瑠璃子は正しく理解していた。
この災厄の宴に積極的に加担してみせたことにも、大した理由があるわけではなかった。
こうして愚かな狂乱の宴にうち興じている内は退屈もすまいと、それだけのことだった。
誰が死ぬも、誰が生きるも、それは悲劇であり、喜劇であり、つまりは娯楽だった。
絵物語を眺めるように、瑠璃子は人の生き死にを愉しんでいた。
そんな瑠璃子にしても、新城沙織の死は意外だった。
彼女を庇護してみせたのは、別段殺すためではなかった。
長瀬祐介にしたように、彼女を包んでみただけだった。
そうすれば、見事に兄を悪夢から救い出してくれた祐介のように、彼女も誰かを
救い出してくれるかもしれない。
それが楽しみで、瑠璃子は沙織を庇ってみせた。
だから祐介にしたように、沙織を、沙織の精神の奥を、少しばかり電波で
弄ってみせたのだった。そうしたら。
沙織は、死んでしまった。
何がいけなかったのだろう、と瑠璃子は考えている。
辛いこと、苦しいこと、悲しいこと、そんなものは一つの娯楽でしかないのに。
見て、聞いて、感じて、辛くなったり苦しくなったり悲しくなったりすればいいという、
ただそれだけのことなのに。
そんなものに心の全部を包まれたからといって、どうして新城沙織は死を選んだのだろう。
わからない。わからなくて、面白い。
難解なミステリの謎解きを楽しむように、瑠璃子は沙織の死を弄んでいる。
次はどうしよう。次は何をしよう。
誰を殺そう。誰が死ぬのが面白いだろう。誰かに誰かを殺させるのも面白い。
退屈と、人の命を捏ね回して、月島瑠璃子は微笑んでいる。
「……っ、痛ぁ……」
マルチの声が、思考の淵から瑠璃子を引き戻した。
見れば、向坂雄二に突き飛ばされた姿勢のまま、起き上がれずにいるようだった。
「どうしたの、起き上がれないの……?」
雄二が飛び出していってから、それなりの時間が経っていた。
その間、ずっと倒れたままでいたというのであれば、どこかの機能に異常が発生して
いるのかもしれなかった。
「いえ……大丈夫だと、思います……けど」
仰向けのまま、腕や首周りを振り回して四苦八苦しているが、足腰が動いていない。
やはりどこかに異常をきたしているようだった。
人間で言えば打ち所が悪かった、といったところだろうか。
なおももがいているマルチの姿を見て、瑠璃子は立ち上がる。
「……ほら、手」
「え、……いえ、大丈夫ですから!」
バタバタと腕を振り回すマルチ。
困ったような顔でまくし立てる。
回避
「そんな、人間の方にご迷惑をおかけするようなこと、できません!」
苦笑して、少し強引にマルチの手を取る瑠璃子。
「……ね。引き起こすよ」
「いえ、そんな、ほんとに大丈夫ですから! 結構です……わ!」
「……っと」
瑠璃子に手を取られたまま、マルチが腕を振り回す。
小柄に見えるマルチの、意外な重量とバランスの変化によろける瑠璃子。
マルチを踏みつけそうになって、足を取られる。
「……ひゃ!」
「……あ、ごめん」
ちょうど、馬乗りになるような形でマルチにまたがる瑠璃子。
手をついて立ち上がろうとしたとき、背後でドアが開く音がした。
向坂雄二は走っていた。
どこか湿り気を含んだ夜の風が、ひどくわずらわしかった。
そんな空気を吸い込むのが嫌で、息を止めて走り続ける。
すぐに限界が来た。
肺と心臓と脳が、雄二自身の愚かさを糾弾していた。
脇腹にも、刺すような痛みを感じる。
そんな生理反応が疎ましくて、雄二はさらに足を速める。
叫び出したかった。
おぞましい記憶だけが甦るその部屋に駆け入って、後ろ手に扉を閉める。
閉めた扉に体を預けて、雄二はずるずると座り込む。
暗い部屋は、相変わらず濃密な血の匂いに満ちていた。
大きく息を吸い込む雄二。鼻をつく鉄の臭いが、肺に沁みた。
部屋の中央には、新城沙織が倒れている。
座り込んだまま、雄二はその遺骸に手を伸ばす。
届かない指の先に、沙織の躯が伏していた。
死に貌は、見えない。
「―――なんで、こうなっちまったんだろうな。
灯台で会った時には、うまくやれそうだったじゃないか。
貴明と、俺と、マルチと。なんで、なんで、こう、さ―――」
雄二の呟きに、沙織が答えることはない。
静寂が降りる中で、雄二は立ち上がる。静けさが、怖かった。
動いていなければ、瑠璃子の声が聞こえてきそうな気がしていた。
沙織の遺体に歩み寄り、その背に手を差し入れようとする。
貼りつく血糊を剥がしながら、その差し入れた手を、
―――持ち上げることなど、できなかった。
初めて抱えた死体は、柔らかく、ねっとりとしていて。
ひどく、おぞましかった。
忌む、という言葉の意味が、指の先から体中を駆け巡る。
せり上がってくる嘔吐感を堪えきれず、雄二はその場に胃の中のものを吐き出した。
胃液までを全部吐き出して、その苦さに涙を浮かべて、そして雄二は凍りつく。
叫び出したい衝動を必死で堪えた。どさりと、沙織の躯が落ちる。
唾液と胃液のこびりついた口元を、凝固しかけた血の欠片のついた両手で覆う。
見開かれた目に映る、沙織の遺骸。
その顔一面が、雄二の反吐に塗れていた。
異臭が鼻をつく。
雄二の胃で消化されかけていた細かな欠片が、沙織の額といわず頬といわず、
こびりついている。
制服の白い襟にも、点々と染みができていた。
沙織自身の血液によるものなのか、それともたった今吐き散らした反吐のせいなのか。
暗い部屋の中で、それは、同じもののように、見えた。
口元を押さえたまま、雄二は後ずさる。
その背が扉に当たる。震える手で、何度も失敗しながらノブを捻った。
ようやく開いたドアの向こう側の暗闇に向かって、雄二は走り出す。
夜闇の中を、雄二は走る。
何度も転びながら、砂利が掌に食い込んで血が滲むのも構わずに。
とめどなく涙を流しながら、雄二は走っていた。
怖かった。
悲しいでもなく、ただ、自身のしてしまったことが、怖かった。
声が、響いていた。
走って、走って、走って。
逃げ込むために押し開けた、その扉の向こうで。
月島瑠璃子が、マルチを押し倒していた。
恐怖から逃れようと、暴力を振るった自分を。
仲間の遺骸のおぞましさに耐えかねて、新城沙織を汚してしまった自分を。
嗤うように、引き裂くように責めていた、月島瑠璃子が。
最後に残った仲間を、殺そうと、している。
そう、見えた。
向坂雄二の中で、何かが弾けた。
絶叫が、雄二の口から迸っていた。
血の池の中心に、一つの塊。
塊には、手と足のようにも見える何かが、生えていた。
かつて、月島瑠璃子と呼ばれていたそれを、向坂雄二は呆然と見下ろしていた。
ぶっくりと赤黒く膨れ上がった自身の手には、鉄製のフライパン。
新城沙織の、遺品だった。
無残にも形を変えたそれから、ぬらりと粘る何かが、滴り落ちている。
腰にしがみついているのは、マルチだった。
必死の形相で、何かを叫んでいる。
何を叫んでいるのかは、聞こえない。
【場所:I−6】
【時間:二日目午前4:30頃】
向坂雄二
【所持品:フライパン、死神のノート(ただし雄二たちは普通のノートと思いこんでいる)、ほか支給品一式】
【状態:呆然】
マルチ
【所持品:支給品一式】
【状態:絶叫】
月島瑠璃子
【状態:死亡】
※瑠璃子の所持品:ベレッタ トムキャット(残弾数7/7、355b経由のルートでは
残弾数0/7)、ほか支給品一式は部屋に転がっている。
→390 ルートB,J系
>>347 多謝〜。
投下が終わったようでこちらも投下。
でも、仕事が終わって覗いてみれば同じ展開が投下されていたり……orz
ともかく288の続き、411の対立項になっちゃいますが投下します。
連投回避お願いします。
「―――ったく。世話ばかり焼かせやがって……」
国崎往人(035)は倒れ伏す神岸あかり(026)を横たえて愚痴を零す。その傍らには静かに息を上下させる月島拓也(066)が転がっていた。
彼等は鷹野神社の境内に腰を据えていた。
正常に意識があるのは往人ただ一人であり、二人は例外なく痛みかショックによるもので気絶している。
内、あかりに関しては背面を爪のようなもので引っ掻かかれており、傷自体は浅くとも決して無視をできない状態にあった。
拓也に関しては放っておいても構わない。何時か目を覚ますだろう。
だが、あかりには治療を施さなくてはならない。
遭って間もない、それこそ会話一つ交わしていない彼女に義理も恩もありはしない。
それでも、眼前に苦しんで倒れている少女を見て見ぬ振りをすることも人の行いとして良心の呵責が押し留める。
結局は拓也の時同様、往人には彼女達を平然と捨て置くことはできないのだ。
「クソっ……。腹は減ったが仕方がない。とりあえず治療を……む」
面倒臭そうに頭を掻きながらあかりに手を伸ばそうとして、ふと思い立って動きを止める。
あかりの症状は特に背中の傷が大きい。他にも小さな擦り傷や切傷があるものの、そちらは既に自然治癒が成されていた。
つまり、問題なのは背中の傷であって、血に染まった制服をどうにかしなければ―――
「……ごほん。言っておくが、治療の為だ。勘違いするんじゃないぞ」
お待たせして申し訳ない回避…
一体誰に言っているのか。
言い訳がましい往人の言葉が境内に空しく響く。当然反応はない。
日が沈んだ神社の中はとても暗く、懐中電灯の光を頼りにあかりへと手を掛けた。
青少年の反応としては、成熟の過程を進む同年代の女性の身体に心臓を高鳴らせるものだが、往人の表情は至って無表情。
むしろ顔を顰めて制服のリボンを指で摘みながら解いている姿は、逆に女性に失礼である。
往人にとってはあかりの身体などどうでもよく、今は早く彼女の服を脱がして治療を施したい。
仮に今の自分の姿を第三者に発見されてしまえば、いらない誤解を招くこと請負だ。
観月マナ(102)に一度それで疑われているのだ。こんな実行場面を目撃されでもしたら、身の危険を感じざるを得ない。
戦々怖怖と丁寧にあかりの制服を脱がしていった往人だったが、ようやく上半身を下着姿にすることに成功する。そのままうつ伏せの体勢にするために引っくり返した。
真っ白い健康的な柔肌が電灯の光を浴びて眩しく反射するが、それ以上に血に濡れた背中が痛々しく感じる。
往人はバックから水を取り出して躊躇なく背中に浴びせ掛ける。
外部からの感触にあかりが小さく呻くが、血液が流れて時間が立っていなかったこともあって付着した液体は難なく流れ落ちた。
そこで再び問題に行き当たる。
制服の上から鋭いナニかで切り裂かれたのだ。肉体に傷付いている以上、重ねられた衣類や下着類が切り裂かれているのは道理。
つまり、ブラジャーのベルトが切断されており、下着として要を足していないという事実。
往人は目を細めて数秒後、あかりの状態を少し起こして下着を剥ぎ取った。
「…………ふっ。まったく仕方のない奴だ」
完全に開き直り、綺麗にあかりのせいにしつつ正当化を図る。
握った下着を傍らに放り投げて、何事も無かったかのように近くで見つけた布を巻き付け始めた。
本人に意識があったら卒倒しそうな行いだが、幸い気絶していることもあって往人の図太い神経を糾弾する者は誰もいない。
あくまで自分は世話を焼いているという事実を念頭において、彼は簡単な治療を施し終わる。
生憎、消毒液などの有り難い代物などないのだから、どうしても簡素な応急措置だが、しないよりは遥かに増しだ。
ともかく、今度はあかりの格好の問題である。
下半身はスカートで、上半身は素っ裸。血に濡れて切り裂かれた制服は使い物にならないだろう。
自身が着衣しているのも黒の長袖一着限り。ならば、誰から借り受けるなど言わずとも分かるというものだ。
「ここまで運んできてやったんだ。とりあえず寄越せ」
気絶した物言わぬ拓也に目を付けた往人は、追剥が如く彼の学ランを容赦なく剥ぎ取った。
あかりの小さく自己主張する乳房にはなるべく目を向けず、学ランを羽織らせて前面のボタンを締め、静かに身体を横たえさせる。
そこまでして、ようやく安堵の息を付いた。何事も無く、誰にも目撃さえれることもなく終えたのだから。
(後はコイツらが起きるのを待つだけだな……)
往人としても、早急に知り合いと合流したい。
放送を聞く限り、殺し合いは止まることなく加速している。
恐怖で錯乱したものや、疑心暗鬼に囚われた少女達とも会ったばかりであるし、現に傷付いた少女を保護した身。
知人は生きている筈だと、楽観的に考えることも出来ない。
二人が起きたら現状の説明をしてやって、それを終えたら彼は直に神社を発つつもりだ。
いずれかが同行したいと申し出るのならば、同行を許す。単独行動やここに残るといった者には引き止める真似はしない。
何時までも荷物を抱えて移動しては、足手まといでしかないのだ。手っ取り早く二人には行動を決めてもらう。
そこまで考えて、我慢に耐えかねた往人の腹が空腹を訴えた。
彼は表情をニヤリと歪ませて、二人の荷物を注視した。
「―――ふっふ……。これは正当な報酬だということを履き違えるんじゃないぞお前達……」
妖しい眼光で、往人はバックに手を伸ばす。
****
境内を照らす小さな灯火。
僅かな懐中電灯の光が閉じられた瞼を刺激した。
「―――うっ……ん、ん。……ここは、つぅ……っ!」
目を覚ました拓也は混乱した様子で辺りを見渡すが、口内で痛みが走って顔を顰める。
頬の辺りを押さえると、若干腫れ上がっていた。
―――思い出した。
妹の月島瑠璃子(067)を探している道中、遭遇した老齢な男性―――長瀬源蔵(072)に殴り飛ばされたことを。
確かに、あの時の自分は冷静ではなかったかもしれない。
瑠璃子のことを想うあまり、過剰な反応を示してしまった。出会い頭で拳銃をぶっ放すといった常軌を逸した行動なのだが、彼には罪悪感など微塵も無い。
それ以上に憤怒の感情が拓也の全身を駆け巡った。
「クソがっ。あのジジぃ……。不意打ちなんぞしやがって……」
「なかなか剣呑としているな」
「っ!? 誰だ―――!?」
自分のことを棚に上げて源蔵を激しくなじる拓也へと、横から急に声が掛かった。
誰も居ないと思っていたのか、心臓を鷲掴みされたかのように驚いて広がる闇を睨みつける。
往人は懐中電灯を無言で中央に置いた。僅かではあるが境内を光が灯し、二人の長い影が生まれた。
「よう。ようやくお目覚めか」
「……なんだお前は」
咄嗟に自分の所持していた拳銃を構えようとするも、それが既に没収されていることに気付いて小さく舌打ちする。
それに少し肌寒いと思えば、着ていた筈の上着までもが何故かなかった。
回避
「あぁ、上着なら借りたからな」
往人は近くを顎でしゃくりながら拓也の疑問に答える。
しゃくった先に、あかりが気を失って倒れている様子が暗闇ながらも目視できた。
「……彼女は?」
「アンタと一緒だ。倒れていた所を保護したまでだ」
お人好しにも程があるのではないか。
そう感じずにはいられない拓也だが、その甲斐もあって助かったのならば訝しむ必要もないだろう。
あんな道端で気絶した状態で放置されていたのであっては、命が何時失われても可笑しくはない筈だ。
殺し合いのゲームが行われているということは把握しているが、知ったことではない。
だが、どうでもいいことである反面、拓也自身の目的から見れば非常に有意義なイベントでもある。
此度のゲームを利用することによって、禁忌の想いを成し遂げることが出来るかもしれないのだ。
よって自分が野垂れ死ぬなど冗談ではない。瑠璃子に会うことが二度と叶わないと思ってしまうと我慢がならない。
そんな境地に陥れようとした源蔵も許さない。
(電波さえ使えればあんなジジィ……。言っても仕方がない、今はこの男だな)
内心で恨み言を連ねる拓也だが、既にその対象が死亡していることは知るよしもない。
能力さえ使用できればという無い物ねだりの思考を情けなく感じたため、それらを振り払って往人へと改めて向き直る。
「貴方が助けてくれたのですね。改めてお礼を言います」
「余計なものは被らなくていいぞ。そんな性格じゃないんだろ実のトコ」
「…………」
普段の私生活では外面重視の態度を心掛けていた拓也だが、地の自分を先程目撃されていたとあっては効果がない。
ニヒルな表情を引き攣らせながらも、決して笑みは絶やさない。
「そうですか。どちらにしろ貴方の方が年上でしょう? 敬意を払うのは至極当然のことですよ」
「ま、態度云々は俺が言うことじゃないがな。―――じゃあ、その眼つきをやめろ」
「……眼、ですか?」
「いかにもヤル気な態度が滲み出ているぞ。笑ってないんだよ、お前の瞳は」
「……ふん。アンタだって似たり寄ったりじゃないか」
通用しない外面を何時までも被っていても仕方がない。
普段覗くことのない表情で形取りながら、拓也は皮肉気に口許を吊り上げた。
そもそも、眼光云々を往人が指摘するのは間違っている。拓也から見ても、中々に凶悪だ。
自覚し、現に碌なことがなかった往人は苦虫を噛み潰したように唸る。
「それを言うな。ロクな目にあった試しがない」
「まぁ、そんなことは僕には関係ない。ともかく拳銃……あっただろ? 悪いけど返してくれないかな」
「拳銃……? そんなモンなかったぞ」
「はぁ? 拾ってくれたことに関しては礼を尽くすのもやぶさかではないけど、少なくとも隠すと身の為にはならないぞ?」
「……身の為、ね。そんなセリフを平気で吐く奴に仮に持っていたとしても渡すわけないだろ?」
往人の挑発的な笑みに腰を浮きかける拓也だが、武器がない以上、下手には動けない。
意外と体格も悪くないために、無手で飛び掛かったとしても一筋縄でいくような相手でもなさそうだ。
今は、本当に隠し持ってはいないと考えたほうが事を上手く運ぶことが出来るだろう。
「……じゃあ、僕の拳銃は何処にいったんだ?」
「俺が知るか。大方お前が気絶していたことと関係があるんじゃないのか」
「……あぁ、アイツか。―――ちっ、ふざけやがって……」
往人の言葉で思い立った拓也は、いらただし気に舌打ちをする。
源蔵に殴られて気絶した。自分が拳銃を手放したのは間違えなくあの時だ。
ということは、往人ではないというのなら源蔵が持っていったということになる。
つくづく気に喰わない。
「なにやら思い出したようだが、お前を拾ったときにはそれらしき物は落ちていなかったとだけ言っておく」
「すまなかったね、思い違いだったよ」
「で? 強制するつもりはないが、経緯を教えてくれ。ここまで数十分の道程を経て連れて来たのは何を隠そうこの俺だぞ」
「別に頼んじゃいないけど、感謝はするよ。経緯だっけ?」
少し考えたが、屈辱的な出来事しか思い浮かばない。
「完結に言えば、僕の思考の邪魔をして不意打ちを食らわせられた、といったところかな」
「十中八九、どうぜお前が何かしたんだろ? 思考の邪魔と不意打ちの間が抜けてるんじゃないのか」
「……黙れよ。僕の邪魔をしたアイツが悪いに決まっているだろう?」
自分勝手な物言いに、往人は拓也が何かしらの制裁を受けたのだということは理解した。気分が悪そうにこちらを睨みつける様子からも窺える。
厄介な奴を拾ったものだ、そう言わんばかりに往人は肩を竦めた。
「まあいい。過剰防衛ってことにしといてやる。ともかく答えてもらうぞ……お前はゲームには乗ったのか?」
往人にとっては拓也を見極める機会。乗っていても乗っていなくとも武器のない拓也を退ける自信はあるが、対応自体は異ならない。
乗っていないに越したことはないが、逆にしても止める術はないし、それこそ義理もない。自分に危害を加えないのなら放置するに限る。
本音を言わせてもらえれば、手荷物を早急に手放して身軽になりたいのだ。この場合、拓也とあかりのことである。
往人の探るような問いかけに、拓也は鼻で笑って見せた。
「ゲーム? そんな児戯、僕には関係ないさ。瑠璃子以外に目的はない」
「……その瑠璃子って奴は恋人か何かか?」
恋人―――その一言に拓也の淀んだ瞳が笑った。
「よしてくれ、照れるじゃないか。確かに僕は瑠璃子を愛して止まないが……生憎とそんな真柄には“まだ”なっていはいないね」
「ほう。なら早いトコ探さなきゃならんだろ。殺し合いの真っ只中では安心も出来やしないからな」
「……そうだ、そうだよ。僕らの愛に無粋な横槍を入れるクズ共がいるんだった……。あぁ、瑠璃子……無事で居てくれよ瑠璃子ぉ」
「…………」
陶酔したように独り言を続ける拓也を、往人は生暖かい視線で見守った。若干引いたが。
台詞だけ聞けば嫉妬深い美しい情愛だと感じられないこともないが、拓也の表情が全てを台無しにしていた。
ともかく、留まることを知らない妄想を何時までも放っておくわけにもいかない。
「そうかそうか、素晴らしい愛だ応援するぞ。さっさと瑠璃子さんとやらを探しに行ったらどうだ?」
「言われずとも。しかし、僕達の愛を応援してくれたのは君が初めてだよ。気に喰わないが、期待に答えられるよう努力はするさ」
「……あ〜、適当にがんばれ」
早いところ厄介払いをしたいがために、往人の態度がぞんざいになるのも無理はない。
それ以前に、拓也が愛を向ける相手が実の妹だという事実も知らないのだから、往人にとってはまさしく詰まらない他人事なのだ。
そんな拓也は満足気に立ち上がり、あかりへと無遠慮に歩み寄る。
「この子には悪いけど、僕の上着は返してもらうよ」
「お、おい……ちょっとま―――」
自身の学ランを取り返そうと手を伸ばす。
その下に衣類を一切着用していないという事実を知る往人は、少女の為にも静止の声を掛けるが時既に遅し。
あかりの状態などまったく考慮せずに上着を剥ぎ取るが、現れた姿に硬直した。
「…………」
「…………」
「…………」
「……第三者から観ればお前も変態の仲間入りだな」
「ふ、ふざけるなっ! 何でコイツは裸なんだよっ」
回避
女性の裸を直視して羞恥心が湧く様な可愛い性格をしていない拓也とて、唐突に女体が飛び出してくれば流石に慄く。
脱がせたのはお前だろうが変態野郎と、顔を歪ませて往人へと迫るが、当の本人は素知らぬ振り。
「ゲスい勘繰りはやめろ。治療のための不可抗力だ。それで? 何時まで上着を強奪しているんだお前は」
「―――クソっ」
拓也はあかりへと乱暴に上着を被せる。
これでは上着を持っていくことが出来ない。
別に学ランに愛着や執着があるわけではないが、人の服を黙って使用したことが癇に障る。
「―――人が気絶してりゃ好き勝手しやがって……」
「気絶したお前の自業自得だバカ。感謝こそすれ、恨まれる筋合いはないな」
憎々しく往人を睨みつけるが、小さく舌打ちをして目を離す。
確かに往人の言う通り、彼がいなければ拓也の命は危機に晒されていた。
その点に関しては非礼を詫びるのもやぶさかではないが、同時に疑問にも思う。
(コイツ……恩でも着せるつもりか。長瀬裕介並みのお人好しかと思ったが、そんな人柄でもなさそうだな……)
往人の第一印象は、後輩の長瀬裕介(073)のように緩い顔をして人助けをしている心底甘ったるい人種だと思っていた。
だが、一言二言会話をした時点で印象は覆った。勿論悪い意味でだ。
裕介のような人間ならば電波などなくとも言葉巧みに陥れることも不可能ではないが、こういった隙の見せない人間は扱いに困る。
むしろ拓也側の人種と言えた。他人へ干渉せず、そして他人は何処までも命の質量が軽い。
自身の命、もしくは大切な人の命と他人の命を天秤にかけるならば、傾く方向はまったく躊躇ない。
少なくとも、拓也にとって自分と瑠璃子以外は全て死に絶えてもいいと本気で考えているのだ。
拓也は極端に顕著だが、往人にもそれが見え隠れしていた。
「そんなに嫌ならこの少女を素っ裸で放り出せばいいだろうが」
現にこんな本気ともつかない台詞を吐ける時点で相当の曲者だ。
始めに脱ぎ払ったときの拓也の躊躇いを目敏く突いてくるのだから。
拓也は苦々しい顔から一転、侮蔑するような眼つきを往人へと向ける。
「確かにこんな女知ったことじゃないが、流石に裸身を晒したままでは忍びないだろう? 僕はこれでも紳士だからね」
「はっ、どの口がほざく」
紳士とは言うが、実際は少女達をゴミのように扱ったこともあり、往人の指摘はあながち間違いではない。
それでも自信の笑みを浮かべて往人を見下す。
「……少なくともアンタよりは人当たりが良い顔立ちだと自負できるけどね」
「下手な仮面を被ったときの話だろそれは。存外に白々しく見えるぞ?」
「ふん、アンタ幸運だよ。僕の電波が健在ならとっくに廃人にしてやったものを……」
「……電波?」
電波という言葉に首を傾げる往人だが、思い当たったように頷いた。
「なるほど、それが巷で蹂躙跋扈する電波系という奴か……。確か頭の触覚から受信するんだったよな?」
「その電波じゃないっ!! いや、妄想する点では一緒だが……ともかくだ! そんな低俗なオタク共と一緒にするんじゃない!!」
身の程を弁えない馬鹿がと、小さく悪態をつきながら正しい電波の解説を頼んでもいないのに語りだす。
別に電波についの知識を教授してやっても拓也にとっては弊害にはならないし、往人も意外と興味深そうに話を聞き入った。
だが、拓也が悪徳非道の行いを包み隠さず何の臆面もなく語りだしたときには、正直何度目かのドン引きをしてしまったが。
「なるほどな……。人間とは思えぬ力……その電波とやらも該当するみたいだな……」
「ムカつくが、主催者達は英断だったってことさ。力さえ制限されてなかったらゲーム自体を崩壊させることは訳ないんだよ」
確かに電波のように外部から干渉する能力を防ぐ手立てはない。
そして、主催者の言葉を真に受け取るならば、能力の種類は決して一つではないのだ。
それこそ好戦的な能力が存在しているかもしれない以上、そんな彼らが有利に事を運べるのは自然の理。
拓也も自身の能力に余程自信と信頼を置いていたのだろうが、それが使えないと知るや今では非情に苛ただし気に顔を顰めている現状だ。
しかし、これは往人には知る良しもないことだが、逆に電波がない状態の方が拓也は人間らしかった。
危険な思想と、度が過ぎた誇大妄想を発現する手段のない拓也は、本性を知るものからすれば借りてきた猫の様に大人しく、理性的なのだ。
ゲーム開始時点では常軌を逸した精神を抱えていたが、それは電波が使えないという現実を受け入れがたいが故に冷静に狂っていたためである。
源蔵に殴られて、一度頭を冷やす機会があったのは往人にとっても拓也にとっても僥倖と言えた。当たり前だが、拓也は源蔵に憎しみしか抱いていない。
「―――とまあ、未熟ながら長瀬君も電波を使えるわけだけどね」
「ほう。なら一つ聞くが、お前の電波は今じゃからっきし駄目なのか?」
「ああ。アンタの顔を見た時に即座に放ったけど効果はなかったよ」
「……おい、ふざけんなコラ。助けてやった恩も忘れて……」
往人が本気で睨みを利かせてきたために、拓也は冗談だと肩を竦める。勿論冗談ではなかったが。
だが、実際電波の効果は望めなかった。
本来ならば容易に人間を操ることが出来るのだ。そして、精神不安定の者ならば更に容易い。
主催者は能力を“制限”したと言った。僅かならば電波を放て、且つ正常な意識をしていない人間ならば操れるのではないか。
未だ実行は出来てはいないが、機会があればやってみるつもりだ。当然、往人に口を滑らす必要もない。
二人は、そんな当たり障りのない会話を数十分続ける。
以外に話が弾んだ能力について二人で討論していたとき、ならば自分の能力はどうだろうかと往人は考えた。
人形を取り出そうとするが、それさえも没収されていることに今更ながらに自覚して肩を落とすが、変わりになるものがないか辺りを見渡す。
「―――何かないか……。ん? ……あれで、別に構わないか……」
「……? 何をやって……って、な……っ。そんなモノでナニをするつもりだい?」
「いや待て! 勘違いするな、俺の能力を見せてやるためには仕方がないことだと理解しろよ!」
冷ややかな拓也の視線にたじろぐが、見つけた代用品を改めて戻すのも白々しく思えたために、ソレを二人の眼前に神妙に置く。
「…………」
「…………」
「……ま、待て。そんなモノ掴もうとしてナニをするつもりだ……」
「掴まんし何もせんわ! 手を翳すだけだ……っ」
「だ、だけど……それはそこに転がっている女のした―――」
「―――言うな! ただのコットン素材だが何か?」
「こ、コイツ……」
本気なのか―――拓也の瞳の奥が語っていた。
微かな光に灯されて、二人の視線を釘付けにする真っ白い衣類―――即ち脱がせたあかりの下着。
それを中央で囲みながら注視する姿は怖いほどにシュールだ。
拓也からしてみれば、その下着を違った用途で使用しないかが心配だ。そんな光景、おぞまし過ぎて我慢ならない。
往人も違った意味で冷や汗を垂らしながら、代理品へと力を込めた。
すると、ビクリと脈動するあかりの下着。
この世のものとは思えぬ光景に、拓也は肩を震わせた。
「なっ……。ど、どうなっているんだ」
「―――動かし難いが……意外といけるな……」
「か、カップが回って、いや、回るのがカップか……。あ、歩いた……歩いただと……っ!?」
回避
真剣にブラを睨みつける往人と慄きながらブラを指差す拓也。
傍から見れば、完全に馬鹿二人である。
珍妙な光景に我慢の限界が来た拓也は、定番事である吊るすべく糸を捜そうと躍起になって手を彷徨わせるが何かに触れる感触はない。
ますます理解の光景を逸脱した行動をする下着だが、拓也は原因追求のために種明かしを往人へと迫る。
往人が仕方ないとばかりに頷いたことが作用したように、まさしく糸が切れたかのように下着の動きが止まった。
「一応俺の使用できる能力―――法力だ。こういった簡単な小物程度ならば手を使わずとも動かすことが出来る」
「法力……。なかなか便利な能力だね。ということは、制限されている以上、本来ならばもっと常識外れなことも可能という訳か……」
「ま、まあな。制限されているからな、制限。今はこれぐらいしか出来ないという訳だ」
まるっきり嘘だ。
拓也が本来の往人の能力上限を知らないことをいいことに、制限という言葉をダシにして虚勢を張る。
見栄を張った往人の冷や汗も、興奮冷めやらぬ感じで下着を確かめる拓也に気付かれなかったことは幸いだ。
「とまあ、電波を聞かせてくれたお礼だと思ってくれて結構だ。金はいらん」
「当たり前だ。確かに凄い出し物ではあるけれど、金など出してやるほどでもないだろ」
「聞き捨てならんなオイ。俺はこれ一本で全国を渡ってきたんだぞ」
「……一本?」
「い、いや。気にするな。本来ならば人形劇なんだが、見ての通り都合の悪い代用品でしかなかったからな」
「確かにね。正直に言わせて貰うとアレでは気味が悪かったよ」
二人してあかりの下着を哀れむように見詰める。
本当に失礼であった。あかりの意識が健在ならば顔を羞恥で歪ませて咽び泣いたとしても可笑しくはない。
拓也は下着から視線を外して、硬直した背骨を伸ばしながら気怠そうに立ち上がった。
「さて、僕はモタモタとしている場合じゃないから行かせて貰うよ」
「そうか。気をつけてな」
「……アンタに心配されるほどヤワじゃないんでね。余計なお世話だ」
「じゃあ、せいぜい野垂れ死ねよ。……そういや名前なんつったっけ?」
「ふん、月島拓也だ。アンタは?」
「国崎往人。別に覚えてもらわなくて結構だぞ」
「片隅に留めて置くさ。アンタも早いトコくたばれよ」
お互い不敵な笑みを浮かべながら視線を交わす。
言葉を連ねる度に憎まれ口を叩いていたが、拓也にとっては素の自分を曝け出しても抵抗なく会話が弾んだものだ。
認めたくはないが、こういった交流も悪くはない。
内心で苦笑しながら、自分のバックを拾って境内から出ようとした時、往人から声が掛かった。
「おい。忘れモンだ」
「―――おっと。急に投げるなよ」
往人から投げつけられた二つの黒い物体を持ち前の反射神経で手に納める。
覗くと、源蔵に没収された拳銃―――トカレフの弾倉が少量の懐中電灯の光に灯されて光っていた。
拓也は目元を細めて往人を眺める。
「なんだよ。あるんじゃないか」
「マガジンだけな。拳銃は知らん。ともかく、お前のものだろう」
「―――まあ、ねっ」
拓也は二つのうち一つを、再び往人へと投げ返す。
驚きながら手に取った往人は怪訝そうに拓也を窺うが、彼は肩を竦めて背を向けた。
「一つはアンタが持っていればいい。取り分だ、お守りにでもすればいいだろ」
「はっ。ご利益なさそうだな」
「さっさと死ねってことさ」
「……ったく。最後まで口の減らないガキだな……」
苦笑する往人の言葉を背に受けて、拓也は軽く手を振りながら境内を後にする。
外は漆黒の闇に閉ざされており、虫の鳴き声も街の喧騒も皆無。
静かに空へ浮ぶ一条の光を仰ぎながら、彼は最愛の人を思い浮かべる。
(―――さあ、待っていておくれよ瑠璃子。他者には干渉させず、歯向かう奴には制裁を。
禁忌の思いを遂げて、邪魔立てのない二人だけの世界へと共に行こう瑠璃子……)
表情を陶酔に歪ませながら、狂人が歩みを進めた。
まだ回避、必要ですかね?
『国崎往人(035)』
【時間:1日目午後11時頃】
【場所:鷹野神社(F−6)】
【所持品1:トカレフ TT30の弾倉1セット(八発)・ラーメンセット(レトルト)】
【所持品2:化粧品ポーチ 支給品一式(食料のみ二人分)】
【状態:満腹。あかりの起床後行動開始】
『神岸あかり(026)』
【時間:1日目午後11時頃】
【場所:鷹野神社(F−6)】
【所持品:支給品一式(食料及び水は空)】
【状態:気絶中。打撲、他は治療済み(動くと痛みは伴う)。拓也の学ラン着用】
『月島拓也(066)』
【時間:1日目午後11時頃】
【場所:F−6】
【所持品:トカレフ TT30の弾倉1セット(八発)・支給品一式(食料及び水は空)】
【状態:普通。瑠璃子を探し、邪魔立てするものは排除する】
>>hxSJyvJb0
感謝感謝〜
376 :
決断の責任:2006/11/07(火) 08:09:54 ID:GlKDaxNs0
夜の廃墟のホテル、食堂内での爆発後、一発の銃声が部屋中に木霊した
無論その銃声が食堂から廊下へ廊下から皐月たちの部屋に伝わるのは当然のことだった
それが皐月達を食堂へ導くのを早めたのは言うまでもない
「どうしたの!!」
湯浅皐月は食堂に入ると同時に開口一番叫んだ、用心のため手には智子のランダムアイテムであるバズーカと自分の所持品を持ちながら…。
「そうやったな…防弾チョッキ付けとるんやったな、忘れとったわ!」
血だらけの三人組みに銃口に硝煙を燻らせて保科智子の怒号が飛び交う
部屋の床は一面が赤一色、血の匂い、地獄絵図そのものだった
「………っ」
割烹着を着た皐月と同じぐらいの年齢の少年、北川潤は脇腹を押さえ呆然としていた
枯れた声で呻き声を上げながら智子をじっと見つめていた
防弾性があるとは言え銃弾の衝撃までは緩和されない、そしてこのみの惨劇…彼にはどうすることもできない状況だった
(…言い訳が出来ない…しかも寝ている皆も来ちまった…。)
北川は死を覚悟していた、何故このみの首輪が爆発したのか理由は解らない、彼女を突き飛ばしたのは彼の咄嗟の判断だった。
首輪のカウントダウン、必要最低限の犠牲、広瀬と遠野を失いたくない一心、…そして今。
「テーブルの上の銃で(ショットガン)撃ったみたいにドタマ打ち抜いて、さっさとこのみの所に送ったるわ!」
先程の皐月の叫び声は聞こえず、目を血走らせ北川に怒鳴り散らす…。
377 :
決断の責任:2006/11/07(火) 08:12:32 ID:GlKDaxNs0
智子にしろ事の次第は把握できていない、しかし数時間前のエディの件、テーブルの上の北川のショットガン
首から上を吹き飛ばされたこのみの死体、血だらけの三人組、そしてそれを信用した自分自身…。
―――智子は北川達と同じぐらいに自分が許せないでいた―――
彼女は責任感が人一倍強い、自分が北川達を信頼できると判断したからこそホテル内に招き入れた…それは彼女が下した決断、そして今の現状…。
(皐月のこと偉そうに言えんわ…ごめん…ことみ)
それが懺悔の言葉であり、けじめの決意でもあった…智子の銃口が北川の顔面に向けられる、北川は覚悟を極める…。
(ごめん…真希、美凪…。)
心の中で初めて彼女達を名前で呼ぶ北川…。
――――――ガバッ!!!――――――
再度銃口が北川向けられた瞬間、不意に北川に覆いかぶさり彼を庇う影…広瀬真希だ。
子供の様に泣きじゃくり、ダンゴ虫の様に縮こまりながら、北川を庇う
378 :
決断の責任:2006/11/07(火) 08:13:19 ID:GlKDaxNs0
「――――――――――――――――――!!!」
爆死したこのみの返り血を浴びた顔で涙を流し言葉に為らない言葉で頭を横に振りながら智子に叫ぶ広瀬。
「そこを退きぃや!!!」
涙を流し叫びながら銃身が震える智子、尋常じゃない顔で涙を流し懇願する広瀬…。
(うちの…私の責任や…私の所為でこのみが…このみが――――――――――!!!)
「やめて!智子さん―――――――――――――!!!」
事態を把握出来ていない皐月、尋常でない智子、呆然とし覚悟する北川、泣きじゃくり北川を庇う広瀬、とにかく皐月は叫んだ。
智子の銃38口径ダブルアクション式拳銃の引き金が引かれようとする!!
パシッ!―――――――――――――――――――コトン。
軽い音と共に床に落ちる智子の持つダブルアクション式拳銃、湯浅皐月と同じ部屋で寝ていた幸村俊夫の手刀によるものだった…。
同じく俊夫と一緒に来た笹森花梨が智子の銃を直ぐ様拾う…。
部屋中一辺を沈黙が支配する
「………みんな落ち着くんじゃよ…。」
俊夫の言葉が部屋一面に重く圧し掛かった。
379 :
決断の責任:2006/11/07(火) 08:14:15 ID:GlKDaxNs0
(如何すればいいの、宗一、エディさん…。)
ことみの死体、激怒する智子、呆然とする北川、泣きじゃくる広瀬、気絶する美凪、
智子から見れば北川達が殺した風に見れたのかもしれないが、皐月から見れば何もかもがおかしく見れた。
皐月はまだエディの事を立ち直れてはいないものの命がけで思考を張り巡らした
今の状況を冷静な判断が出来る人が欲しい、皐月は心の底から願った…そして。
何も言わずバッグの中からセイカクハンテンダケを取り出し1/4ほど食べて沈黙した…。
エディへの約束、自分の決意、このみの死の意味、北川達の弁護、先走って智子を自分の二の舞にしたくない
全ては皐月の双肩に掛けられていた…。
湯浅皐月
【所持品:専用バズーカ砲&捕縛用ネット弾、予備弾薬80発ホローポイント弾11発使用、セイカクハンテンダケ(×1個&四分の三個)支給品一式】
【状態:性格反転(クール)事態の把握は出来ていないが、先走って智子を自分の二の舞はさせない】
幸村俊夫
【所持品:無し】
【状態:エディの件もあり誰にも誰にも軽はずみな行動はさせたくない】
保科智子
【所持品:なし】
【状態:混乱、激怒(北川よりも自分に対しての怒りの方が大きい)】
笹森花梨
【持ち物:38口径ダブルアクション式拳銃(残弾6/10)】
【状態:事態の把握は出来ていないが、智子に銃を渡さない
保守
北川潤
【持ち物:防弾性割烹着&頭巾】
【状態:呆然 脇腹に痛み(智子を怨んではいない)】
広瀬真希
【持ち物:防弾性割烹着&頭巾】
【状況:号泣(北川に庇うように抱きついている)】
遠野美凪
【持ち物:防弾性割烹着&頭巾】
【状況:気絶】
ぴろ
【状態:爆発音に驚いて食堂の端に逃げた】
共通
【場所:E−4、ホテル跡】
【時間:1日目23:55頃】
【412『突き飛ばされた命』の続き】
【関連247・299・387・393・412】
※北川、遠野、広瀬の荷物はショットガン以外は食堂の端へ、ショットガンのみすぐ近くにテーブルの上に
※皐月以外の荷物は元の寝ていた部屋に
【備考】
SPAS12ショットガン総弾薬数8/8発+ストラップに予備弾薬
北川はゲーム開始から一発も使ってはいない
珊瑚と貴明のやり取りの傍らで沙織がふと、レーダーに目を落とした。
「……ねえ、珊瑚ちゃん。これってやばいんじゃない?」
沙織はレーダーを指し、珊瑚に尋ねる。
珊瑚がレーダーの画面を見るとバッテリーの残量らしいマークが半分程度欠けていた。
「あー、バッテリーの残量が減ってきてるんやな。まあ、昼から使いっぱなしやししゃあないわ」
「じ、じゃあもうそんなに使えないってことだよね?」
沙織がおそれおそれ尋ねる。レーダーが無くなれば行動の危険度が上がるのは素人考えでもすぐ分かるからだ。
「うん、このままやったらな」
「え……このまま…だったら?」
訝しげに珊瑚に尋ねると、珊瑚は事も無げに言ってのけた。
「そや。充電したったらええねん」
「だって、充電プラグも充電器も無いよね。どうやって?」
「充電器が無かったら作ったらええねん。レーダーの下んところに携帯にあるような端子があるやん?そこから充電できるはずやで」
「えっ、つくるって、そんなこと……」
「なあなあ、貴明ー。そこにあるテレビ持ってきてー」
「ん、分かった。おい雄二、ちょっとそっち持ってくれ」
「あいよー」
そんなこんなで珊瑚の目の前にテレビが置かれる。
そこからの流れは見る者を驚嘆させるものだった。
あっ!っという間にテレビは多数の部品にばらされ、組み替えられ、
その次の瞬間にはレーダーの充電器が完成していた。
珊瑚がレーダーを充電器に載せるとレーダーのバッテリー表示が点滅している。
おそらく充電が正常に開始されたということなのだろう。
「はわー、凄いですー」
その様子を見ていて最初に口を開いたのはマルチだったが、他の皆も同様に珊瑚の技量に感嘆していた。
「そや、まるちー。バッテリーのほう大丈夫かー?」
唐突に珊瑚はマルチに呼びかける。
「あ、はい。まだ大丈夫ですよー」
「うちの記憶が確かやったらHM-12型の充電インターバルは8時間ぐらいやったはずや。
これから先何が起きるかわからんし、充電できるうちに充電しといた方がえーよ」
「あー、そうですね。じゃあ、そうします。しばらく失礼しますね」
そう言うと、マルチは自分の手首から充電コードを取り出しおもむろにコンセントに突き刺した。
部屋の片隅でスリープモードに入ったマルチの姿は一部を除けば人間が眠っている様とほとんど変わらないように見えた。
「うち、ちょっとトイレいってくる」
「あ、さんちゃん待ってー、うちも行くー」
そう言うと、二人はリビングから出て行く。
「んー、二人で仲良くお手洗い……仲が良いねぇー」
「雄くん……それってちょっと変態っぽい……」
「ま、待て、新城。そういう意味じゃなくってな……」
狼狽している雄二とジト目で雄二を見ている沙織。
その様子を呆れて見ている貴明の元に珊瑚達が戻ってきたのは数分後のことである。
「そーいえば、貴明達はこれまでなにしてたん?」
戻ってきた珊瑚が貴明達にそう尋ねるが、その手には大量の紙が抱えられていた。
付き添っていった瑠璃の手にもだ。
それが意味することはただ一つ。
それはさっきの筆談の続きをするということ。
「俺達は灯台に居てさ……」
これからの会話に意味は無い。
ただ、筆談をしていることを悟られない為のフェイクだ。
【さっき、何とかなるって書いてたけど、どういうこと?】
【この工具セットがあれば、この首輪、外せるかもしれへん】
【じゃあさ、すぐにでも外してしまおうぜ】
【ううん。まだ、あかんよ】
【何で?何か問題でもあるのか?】
【うん。いくつもな】
【一つは何もないところで首輪の反応が消えたら主催者が怪しむやん?】
【もう一つはうちの首輪。自分で首輪を外すのはかなり難しい】
【そうか。自分の首は難しいか】
【なるほどな。確かに先に誰かだけ外すってこともできねぇし。でも、どうする?】
【瑠璃ちゃんはそういうことできないの?】
【うちは無理や。さんちゃんが凄いねん。さんちゃんは天才やからな】
瑠璃の書いた言葉を疑う者は誰一人いない。それは先ほど目の前で証明されている。
【最初、何とかなるかもしれない、って言ってたよな。何か策があるのか?】
【うん。いっちゃんがいれば。いっちゃんやったら外し方教えれば出来ると思うねん】
【いっちゃんって、誰?】
【9番のイルファさんのこと。珊瑚ちゃんが作ったメイドロボなんだよ】
【じゃあ、そのイルファさんを探して皆の首輪を外せばいいって事?】
【それだけじゃ、まだあかんねん】
【まだあるのか?】
【脱出する方法が無いと首輪外したって意味ない。むしろマイナスになる】
【ん?どういうことだ?】
【雄二が主催者だったとして、首輪が無い参加者が現れたら、どうする?】
【そりゃ、具合が悪いから何とか処分ってそういうことか】
【そう、多分主催者側の人間が処分に来ると思う】
【他にも、一杯困ることはあるよ】
【他にもあるの?】
【うん。例えば首輪を外して死んだことになっているうちらが外歩いてたら
他の参加者の注意を引くだけやし、島の中に主催者のカメラがあるかもわからん
そうやってうちらの事がバレたらやっぱり処分されると思う】
【じゃあ、首輪はいつ外すんだ?】
そう尋ねられ、珊瑚はペンを走らせるのを滞らせた。
ほんの僅かに間を空け、珊瑚は、
【参加者がうちらだけになったら、や】
そう書き記した。
【私達、だけ?】
【さんちゃん、なんでや?】
【うちらって言ってもこれから探す人達も込みやけどな】
【珊瑚ちゃん、理由はあるのかい?】
【理由はあるよ。まず、うちらだけになったら誰かが自分だけ助かりたいという理由で
他の全員を殺したってことにすれば首輪の解除が容易に出来る。
24時間で誰も死なへんかったら全員首輪爆発っていうルールもあるしな】
珊瑚は書き続ける。
【最後の一人が決まれば主催者は何らかの手段でこの島にやってくるやろ。それを乗っ取るしか脱出する道はないと思う】
【でもそうなると、必然的に】
【そう、最低でも一人はうちらが殺さんとあかんって事や】
珊瑚の書く文字が歪む。殺さなければならないという事実の重さが全員の心に暗い影を落とす。
【最後の一人は間違いなくゲームに乗ってる。武器もたっぷりあるやろ。何より場慣れしているはずや】
【じゃ、じゃあさ私達を除いて最後の一人が決まったら私達全員が死んだことにしてしまったら?それなら問題ないよね?】
沙織がある種懇願するかのように書き殴る。
だが、それに答えを出したのは雄二だった。
【そりゃ駄目だろな。俺がもしゲームに乗って死力を尽くして最後の一人になれたのに
戦いもせずに抜け道探して逃げ出そうとする奴が居たとしたら間違いなく殺そうとするだろ。
それまでに何十人と殺してたら数人殺すのが増えたってどうって事ないだろうしな】
結局、どんな形にせよ手を汚さないわけにはいかない。
認めたくない結論を明確にされ、沙織は落ち込むしかなかった。
【それにしたって前提条件が最後の一人を本当に生きて帰らせるという話が本当やったら、や。
違ったら処分しに来た人間がこの島にやってくるのに使った乗り物を奪うしか方法があらへん。
どっちにしても主催者との戦いは避けようがないで】
可能性を二つに絞ってみせることで『主催者が島に来ない』という最悪の可能性を珊瑚は伏せた。
最悪の可能性は出来れば知らないほうが良いのだ。
知れば行動の為の活力が失われかねない。
【だから、これからしないといけないことは事はいっちゃん探しと友達集め、それから最後に使わんとあかん武器集めやな】
全員がため息をつく。
「ちょっと早いけど、ご飯にしーへん?あんまり多くはないけど食べれそうなもんあったでー」
テーブルの上のメモを纏めながら珊瑚が話を切り出した。
今、筆談で伝えないといけない事は全て伝え終わった、という事だろう。
「そうだな。そういえばここに来て何も食ってないんだった」
「じゃあ、うち何か作ってくるわー」
「あっ、瑠璃ちゃん。私も手伝うね」
と、台所に向かう二人に向かって珊瑚が一声掛けた。
「瑠璃ちゃん、換気扇回したらあかんでー」
「なんでやさんちゃん、匂い篭るやん」
「うちらがここに居ること匂いでバレるやん」
「あ、そっか。わかったわさんちゃん」
十数分後、瑠璃・沙織の手によりリビングのテーブルには幾つかの料理が並べられた。
「あんまり食材がなかったから、それで出来るものを作ってみただけやけどな」
「瑠璃ちゃんって凄いの。手際とかがまるでプロみたい!」
新城さんがあんまり褒めるので瑠璃ちゃんがなんだか気恥ずかしそうに見えた。
回避
「でも、食材がほとんど残ってへん。なんとかせんとあかんわ……」
「そっか、じゃあ食材探しもしないといけないな……」
貴明は新たに突きつけられる問題の前に頭を悩ませる。
が、美味しそうな料理を目の前にして悩むのは馬鹿がすることだと思い直し、
「じゃあ、頂こうか」
考えるのは後回しにすることにした。
姫百合珊瑚
【持ち物:水を消費、レーダー、レーダーの充電器、工具セット】
【状態:僅かな擦過傷、切り傷(手当て済み)】
姫百合瑠璃
【持ち物:水を消費、シグ・サウエルP232(残弾8)】
【状態:擦過傷、切り傷(手当て済み)】
河野貴明
【持ち物:水を少々消費、モップ型ライフル】
【状態:健康】
向坂雄二
【持ち物:水を少々消費、ガントレット】
【状態:健康】
新城沙織
【持ち物:水を少々消費、フライパン(カーボノイド入り)】
【状態:健康】
マルチ
【状態:充電中、健康】
共通
【持ち物:デイパック、多量のメモ用紙】
【時間:一日目午後5時40分頃】
【場所:I-07の民家】
→146 Hルート
391 :
守るべきもの:2006/11/07(火) 18:24:30 ID:+qmMxG9e0
リサ=ヴィクセン(119)は海の家に戻り食事を済ませた後、皆を休ませ一人見張りを続けていた。
「Huー…、全く大変な1日ね…。」
一つ、溜息を吐く。
リサも疲れていたが柳川裕也(111)は新たに怪我も負っており、リサ以上に疲れている様子だったので先に休ませた。
倉田佐祐理(036)や美坂栞(100)はリサ達とは基礎体力も戦闘力も全く比べ物にならない。
彼女達を見張りに起用する事は出来なかった。
考える。
明日はどう動くべきか。出来れば宗一と合流したいが、今は柳川がいる。それに装備も充実している。
宗一と合流するに越した事は無いが、戦力の増強は最優先事項では無いだろう。
ならばどうすべきか。
リサが考え込んでいると、後ろで物音がした。
どうやら柳川が起きてきたようだった。
「柳川、もっと休まないと駄目じゃないの?」
「もう十分休んだ、後は俺が見張ろう。お前こそ、疲れているのが一目で分かるぞ。」
リサは柳川の様子を伺ったが、怪我こそ負っているものの体力面ではどうやら本当に大丈夫そうだ。
「Wow…、『鬼の力』というものは本当に凄いのね。」
リサは驚きを隠せないでいる。
柳川は自分の肩を少し動かしてみたが、まだ痛みが走るようだった。
「本来の力ならこの程度の傷、一晩寝れば殆ど治るのだがな……。今は体力の回復だけで限界のようだ。」
「All right.じゃあ見張りをお願いするわね。でも、少し考え事をしてるからもうちょっとだけここにいるわ。」
リサはそう言うと、口の前で人差し指を立ててから柳川を手招きし、紙の裏にペンを走らせた。
リサは紙の裏に【喋らないで。】と書き込んでいた。
リサが続きを書こうとするが柳川はそれを手で制し、自分のペンを取り出し紙に字を書き始めた。
【分かっている、盗聴されているんだろ?】
【That's right.やっぱり気付いてたのね。さっき寝てる栞の首輪を調べたけど、多分盗撮はされてないわ。】
そう言って、リサは自分の首輪を指差した。
柳川はリサの首輪を念入りに調べたが、レンズなどの撮影に必要な物は見当たらなかった。
【そのようだな。だがこんな筆談などしないでも、俺達が盗聴に気付くくらい、多分予想されているぞ。】
【でしょうね。だから、主催者に聞かれたら不味い会話だけ筆談でするようにしましょう。】
392 :
守るべきもの:2006/11/07(火) 18:25:25 ID:+qmMxG9e0
【それも無意味だ。俺は既に何度も主催者を殺すと言ってるが、特にお咎めはないようだしな。】
それを見たリサは人指し指をたてて、チ・チ・チ…というポーズをとった。
【No.それは違うわ。そんな事でいちいち首輪を爆破していたら参加者が大幅に減ってしまうわ。主催者が本当に首輪を爆発させるのは】
そこで気付いたのか、柳川がペンを走らせ始めた。
【実際にゲームに支障が出そうになった時……つまり俺達が首輪を外す直前、もしくは主催者に襲撃をかける直前という事か?】
【Yes.その時だけ筆談にすれば大丈夫だと思うわ。それと、この事はまだ佐祐理と栞には……】
そこまで書くと、柳川は頷いた。
【分かっている。直前まで伝えるな、だろう?】
【話が早くて助かるわ。】
リサはそこまで書くと、紙とペンを片付けた。秘密会議は終わったという事だろう。
「柳川、明日はどうするの?」
「ゲームに乗った連中を倒しつつ、首輪を解除出来る人間を探すつもりだ。
この忌々しい首輪をどうにかしない限り、何かやった途端にドガン、だからな。」
コンコン、と人差し指の先で首輪を叩き、肩を竦めた。
「そうね、私もそれで良いと思うわ。ただ出来れば……」
「分かっている。倉田の探し人と美坂の探し人を見つけてやれ、だろ?」
「Yes.でも何処にいるか分からない以上、私達がやる事は変わらないでしょうけどね。」
「ああ、とにかく動き回るしかないだろうな。人を探すのにも、ゲームに乗った連中を止めるのにも、それしかないだろう。」
それからリサは視線を落とし、少し考え込むような動作を見せた。
「まず首輪を解除出来る人間がどこにいるか、そもそも存在するかも分からない。
仮に上手く首輪を解除出来たとしても、主催者側の情報が殆ど無いわ。」
「これだけ大規模な事をやってのける連中だ…相当な戦力があると考えて間違いないだろう。
主催者との対決はまさしく死闘になるだろうな。」
「前途多難ね……。でも柳川、あなたが目的以外の事を全く省みないような人じゃなくて良かったわ。」
リサはそう言って、にこっと笑った。
「何?俺はゲームを破壊する事しか考えていないぞ?」
柳川は意外そうな顔をしていた。
そんな事を言われるとは全く思っていなかったからだ。
393 :
守るべきもの:2006/11/07(火) 18:26:40 ID:+qmMxG9e0
「本当にそうなら、あなたは佐祐理や栞を置いていこうとした筈よ。違うかしら?」
言われて柳川ははっとした。
それは確かにリサの言うとおりだった。
ゲームに乗った者を止めるのも主催者を殺すのも、リサと二人で行動した方が効率良く行なえるだろう。
明日はリサと二人だけで動くべきではないか、という考えが一瞬浮かび上がる。
しかしすぐにその考えは消え失せた。
「俺にとっての最優先事項はゲームの破壊だ、その為ならゲームに乗った者を殺す事にも躊躇いは無い。
だが同時に、倉田を守りたいとも思っている……奴には借りもあるしな。」
その声からは強い意志が感じ取れた。
リサはそれを聞いて、強く頷いた。
「私もあなたと同じよ。栞は絶対に守るわ。」
そう言った後に、リサの目が心持ちいたずらっぽくなった。
「私は正義のヒロイン、貴方は正義のヒーローってワケね。」
「…くだらん、何がヒーローだ。もういいから早く寝ろ。」
柳川は馬鹿にしたような口調でそう言ったが、その口元には微かに笑みが浮かんでいた。
「All right.じゃあ、後は頼んだわね。」
リサはそう言って立ち上がると、栞達が寝ている部屋の方へと消えていった。
「守りたい、か。俺も随分と丸くなったものだな…。」
制限のおかげで自我を取り戻したとは言え、過去の自分はそんな人間では無かった筈だ。
柳川は自分の変化に少し戸惑いを覚えていた。
リサが寝た後は、辺りにはただ波の音だけが響いていた。
それでも時間は確実に流れ続けている。
夜明けの時は刻一刻と迫ってきていた。
394 :
守るべきもの:2006/11/07(火) 18:27:47 ID:+qmMxG9e0
【時間:2日目午前3時20分頃】
【場所:G−9、海の家】
リサ=ヴィクセン
【所持品:鉄芯入りウッドトンファー、二連式デリンジャー(残弾2発)、食料、支給品一式】
【状態:睡眠中】
倉田佐祐理
【所持品:自分と楓の支給品一式、 吹き矢セット(青×5:麻酔薬、赤×3:効能不明、黄×3:効能不明)】
【状態:睡眠中】
柳川祐也
【所持品@:出刃包丁、(ハンガーは海の家の一室に破棄)、M4カービン(残弾30、予備マガジン×4)】
【所持品A、コルト・ディテクティブスペシャル(弾数10内装弾3)、自分の支給品一式】
【状態:見張りをしている。左肩と脇腹の治療は完了したが、治りきってはいない。】
美坂栞
【所持品:支給品一式】
【状態:睡眠中】
(関連・76・344・392)(ルートB-9・B-10・B-11)
沈黙。それは、余りにも重過ぎる空気。
定時放送は、見事に二人の期待を裏切った。
「・・・ぐすっ、うえぇ・・・」
最初に崩れたのは立田七海、手で顔を覆い泣き崩れる彼女の姿はあまりにも弱々しい。
車椅子ゆえ、駆け寄って抱きしめることもできなければ屈んで背を撫でることもできない。
小牧郁乃は自分の状態を恨んだ。
だがそれ以前に、彼女自身精神的にも・・・かなり参っていた。
郁乃にとっての大切な人、小牧愛佳の名前も放送に上げられたということ。
正直、もう夢も希望も朽ちた気がした。
あまりの非現実さに、涙も出てくれない。
現在二人が身を潜める場所として選んだホテル跡、ここにちょうど辿り着いた時その放送は流れた。
爆発により傷んだ建物のどこにスピーカーなんてあったのか、探す気にもならない。
・・・それぐらい、二人は打ちのめされていた。
ロビーらしき入り口から少し入ったレストランにて、今二人は息を潜めている。
とりあえず身を隠すにしても、車椅子の郁乃は上には上れない。
エレベーターが使えるかどうかを確認してはいないが、もし先にこの建物に入っていた人物がいた場合・・・それを使用するのは余りにも、危険な行為であったから。
「どうしたの、一体何を泣いているの?」
呆けていて気づかなった、駆けられた声で郁乃は現実に戻される。
「だ、誰?!」
カツ、カツ・・・暗闇の中で響く靴の音。ローファー辺りだろう。
咄嗟のことで動けない二人の前に現れたのは・・・郁乃と、同じ制服を身にまとった少女であった。
いや、少女と言うには、少し大人っぽすぎるかもしれない。
明らかに上級生、そう見て取れる。
「・・・悲しいことがあったの?私もよ・・・」
暗い建物の中、近づいてきたものは憔悴しきった表情。
病的な眼差しに、「ひっ」と郁乃は小さな悲鳴をあげてしまった。
「何で死ななくちゃいけなかったのかしら・・・あの子が・・・」
ぽろり。瞳から流れる雫。
「何で守れなかったのかしら・・・私・・・」
つーっと流れていく涙を、二人は呆然と眺めていた。
大切な欠片を失くした悲しみ、それは今二人が抱えているものと同じもの。
目の前の彼女に対し、一気に親近感が膨れ上がる。
腰を上げ、黙ったままでいた七海が彼女の正面に向け歩みだした。
「私も・・・です。さっきの放送で告げられて・・・も、もう、どうすればいいか・・・」
「そうなの・・・一緒ね。私も、さっきの放送で知ったわ」
「何で、何でこんなことに・・・」
「分からないわ、分からない。・・・私は、何のために手を汚したのかしら」
え、という呟き。
彼女の傍まで駆け寄っていた七海の足が止まったのは、その時。
「私は、これから何のために手を汚せばいいのかしら」
「七海!!」
郁乃の叫び、それに応じることなく崩れていく七海の体。
最初に膝がつき、そして前のめりに倒れ伏せる。
じわっとした血の泉が、その瞬間にどんどん広がっていく様に郁乃は息を呑んだ。
「・・・どういうことなの?」
一呼吸を終えた後、郁乃は改めて目の前に対峙する女を睨みすえる。
彼女の視線の先には目の前の女の握るバタフライナイフがあった。
「ふふ・・・分からないわ。私も」
女は屈みこみ、さらに止めを刺すようにと血の滴り続ける刃物を崩れ落ちた七海に突き刺していく。
「や、止めて!そんな・・・七海、ななみ!!」
「ふふ・・・切り口が浅いと、また殺り逃しちゃうかもしれないんですもの。
こういうのは、しっかりやらないとね」
狂ってる・・・車椅子の両端を握り締め、郁乃は怒りと恐怖の両極端な感情に振り回された。
その間も、女の動きは止まない・・・彼女がゆらっと再び立ち上がった時、七海であったはずの少女は悲惨な形に変形させられていた。
「奪う側に回るっていうのは、もう決めたことだから撤回はしないわ」
ゆらり。女の視線がこちらに向く。
郁乃は自分の支給品の入ったバックを握り締め、今まで開けることのなかったその中身をまさぐった。
「それに、あなた私の一番癪に障る女の雰囲気にそっくり」
カツ、カツ・・・再びローファーの音が響き渡る。
「刻んであげる」
気がついたら、向坂環の影は目の前までせまっていた。
398 :
補足:2006/11/07(火) 18:46:27 ID:z/K/6Qg80
向坂環
【時間:1日目6時半】
【場所:E−4(ホテル跡、一階レストラン)】
【持ち物:バタフライナイフ、爆竹&ライター(爆竹残り9個)、他基本セット一式】
【状況:郁乃と対峙】
小牧郁乃
【時間:1日目6時半】
【場所:E−4(ホテル跡、一階レストラン)】
【持ち物:支給アイテム不明、車椅子、他基本セット一式】
【状況:環と対峙】
立田七海 死亡
七海の支給品は傍に放置
(関連・130・269)(A・Dルート)
399 :
3輪の花:2006/11/08(水) 00:46:55 ID:4Uly9k4X0
【前回までのあらすじ】
鬼姉妹次女・梓さんからの誤解を受け、喧嘩を吹っかけられた柳川さん。
そんな彼を救ったのは、自らを盾に梓の爪の前に飛び出したさゆりんでした。
しかし梓の与えたダメージは致命傷で、さゆりんは命を落としてしまいます・・・。
柳川さんは涙しました。
涙し、そのやるせない思いから鬼に進化してしまいました!
・・・しかし、島には能力制限がかかっているらしく、それを越えての鬼変化は柳川さん自身にも大ダメージを与えます。
あと、柳川さんの服にも大ダメージを与えます。
柳川さん自身はともかく、服に関しては壊滅的です。
今、柳川さんはあられもない姿で、この島に放置されてしまったのです・・・。
「うえ〜ん、寒いよさゆりん〜」
時刻は深夜、夜風は柳川さんの柔肌を痛めつけます。
仮眠どころではないです、このまま眠ってしまうと永眠しそうです。
ガタガタと震える柳川さん、一応建物だしーと甘く見ていていましたが、この廃墟。
スタート地点で使われた→つまり一部爆破されたということで、とにかく隙間風がひどいのです。
今更新しい寝床は探せません、探す気力も体力も0です・・・柳川さんぴんち。
そんな時です。建物が、ミシミシと音をたて始めました。
「はて、誰か来たのかな」
柳川さんは部屋の隅っこにいたので、もう逃げも隠れもできませんでした。
仕方ないので、殺気だけは放っておきます。
400 :
3輪の花:2006/11/08(水) 00:47:31 ID:4Uly9k4X0
「えっと、誰かいるんですか〜」
「こ、こら!不用意に声をかけるんじゃないっ」
「で、でももしケガをした人だったら・・・」
男女の会話。微笑ましいです、数時間前の自分とさゆりんの姿を重ねてしまいそうになります。
「う、羨ましくなんかないんだからね!」
「あ、芳野さん。ここの部屋から何か声が聞こえましたよ」
「マジで?」
(しまった、罠だったか?!)
ついつい声を上げてしまった柳川さん、大ぴんちです。
カチャ・・・ドアを開け、部屋に踏み入れてきたのは・・・女学生と繋ぎの男でした。
「きゃっ!」
「うお、何で素っ裸の男がこんな所に?!」
手で顔を覆うもののしっかり指の間から柳川さんの裸身を眺める女学生と、リアクションが普通過ぎて面白くない男。
敵意はなさそうです、柳川さんは心底ほっとしました。
「これに関しては説明させてくれないか、少々複雑な事情があってな・・・」
股間を隠しつつ正座で説明し始める柳川さん、女学生と男もつられて正座してしまいます。
「かくかくしかじかで・・・とにかく、大変だったんだ」
「そうですか、可哀想です・・・。私、長森瑞佳です。何か協力できることがあるようでしたら、遠慮なく言ってください」
女学生こと瑞佳さんは、非常に優しい女性でした。
思わず柳川さんの涙腺も緩みます。
401 :
3輪の花:2006/11/08(水) 00:48:12 ID:4Uly9k4X0
「すまない・・・では、その繋ぎでも貸してくれないか」
「え、俺?」
「このままだと寒くて風邪を引いてしまいそうでな」
「いや、これを渡したら今度は俺の露出ショーじゃないか・・・」
「それでしたら、私いいもの持ってますよ」
ごそごそ。瑞佳さんが支給された鞄を探ります。途端、隣の男の表情が「げっ」という感じで歪みました。
じゃーん。瑞佳さんが取り出したのは、可愛らしい制服三種でした。
「防弾性らしいので、体にも安全です。ホックの位置でS〜XXLまで即対応、優れものなんですよ」
「ほほぅ、それは素晴らしい」
「このトロピカルタイプなんて、ちょうどパンツになりそうですね」
「よし、早速はいてみよう」
ちょっとキュッとなりすぎかもしれませんが、普段ビキニパンツを愛用している柳川さんにはむしろちょうど良かったようです。
これで正座をする理由もなくなりました、体勢を崩して柳川さんは二人に感謝の握手を求めます。
「・・・や、遠慮しとく。とりあえず、手、洗ってからな」
男の拒絶の言葉は、柳川さんのガラスの心にヒビを入れます。
ですが男はそれに気づきません、こういう男はきっとすぐ女にも愛想をつかされるだろう・・・と柳川さんは思いました。
「で、何であんたはフル装備する、その制服を」
「寒いからだ」
「それでも腹でてるが・・・何ならもう二着も着たらどうだ?上から」
「いや、防弾性のくせに防暖性も兼ねているらしい。素晴らしいな、これ一枚でぬくぬくだ」
「お役に立てて良かったですよ」
足手まといこと瑞佳さんも、やっとこさ自分が役に立つ時がきてくれたようでご機嫌です。
402 :
3輪の花:2006/11/08(水) 00:49:03 ID:4Uly9k4X0
「ついでに私も着替えちゃいましたよ、浩平に見てほしいな」
「嘘、いつ?!」
男が柳川さんに気を取られている隙にです。
女学生の生着替えを見逃したことに対し、成人男子達はこっそり舌打ちをしました。
一方瑞佳さんは、黒ストまで決めてぱろぱろタイプを見事に着こなしているようです。
これはいいビジュアルです。・・・さて、残る制服は一着。
「はい、芳野さん。あとは芳野さんで完成です」
「・・・は?」
「うむ、お揃いか。いい響きだ」
「よくねーよふざけんなよ」
「う〜ん、無理やり剥いちゃえ」
「了承」
「は?!ふざけ・・・わぁ〜〜〜〜!!!!!!」
今ここに、3輪の花が誕生しました。
403 :
3輪の花:2006/11/08(水) 00:49:39 ID:4Uly9k4X0
長森瑞佳
【持ち物:某ファミレス仕様防弾チョッキ、ぱろぱろ着用帽子付・自分の制服・支給品一式】
【状態:ご満悦】
芳野祐介
【持ち物:某ファミレス仕様防弾チョッキ、フローラルミント着用・繋ぎ・Desart Eagle 50AE(銃弾数4/7)・サバイバルナイフ・支給品一式】
【状態:異常はないけれど精神的に疲労】
柳川 祐也
【所持品:某ファミレス仕様防弾チョッキ、トロピカルタイプ着用】
【状態:新しい仲間ができて嬉しい】
【能力の制限について:エルクゥ化できる条件は、喜怒哀楽の感情が一定以上に
昂ぶった時(判断は書き手様にお任せします)。回数は10時間に1回程度で
1回の変化につき、最大で1時間まで。その後、30分ほどは激痛と脱力感に
見舞われて無防備になる・・・らしい】
【時間:午後11時半】
【場所:H−7、元スタート地点の廃墟】
関連→253→280、Bの柳川さんの能力が解放されてるルート共通
月も星も見えぬ、その夜の沖木島。
空一面を覆う雲を、それでも見上げる漢がいた。
「―――逝ったか、由真よ……」
吹き抜ける風の音に、何を聞いたか。
呟くと、漢は目を細める。
「戦火に斃るるは長瀬が運命―――。
いつか来る日と分かってはおったが、やはり……慣れぬものよの」
大きく溜息をつき、目を伏せる漢。
黙祷であろうか、握った拳を胸に当ててその場に佇む。
夜の森に静けさが落ちる。
だがそんな静寂を打ち破る声が、唐突に響き渡った。
甲高い、少女の声だった。
「Hey、そこでタソガレてるお爺さん、大人しくほ〜るどあっぷネ!」
「……」
漢は目を閉じたまま答えない。
声が、少し苛立ったように大きくなる。
「お爺さんの背中はアタシがロックオンしてるヨ!?」
「……」
漢はゆっくりと息を吐くと、やはり緩やかな動きでその両腕を上げる。
声が、落ち着きを取り戻した。
「OK! それではお爺さん、ジャストワン、聞きたいことがあるネ!」
「……何じゃの、お嬢さん」
「わっと!? どうしてアタシがスクールガールだとわかりましたか!」
「……その声を聞けば、誰でも判ると思うがの」
「No! それはセクシャルハラスメント、あるいは人種的差別発言デース!
訴えますヨ! こちらにぐれいとな弁護士ついてマース!」
「……で、お嬢さんは何が聞きたいのかの」
華麗にスルー。
「オウ、そうでした! お爺さん、ほわっちゅあねーむ?」
「……お館様からいただいた名は、ダニエルと申す」
「ダニエル! Coolネ!」
「……」
「……」
短い沈黙が降りた。
「Why? なぜダニエル死にませんカ?」
「……いかなわしとて、そこまで老いぼれてはいないつもりだがの」
「No……No,No,Noデース……」
ひどく落胆したような声。
「やっぱりジャパニーズジョークは中途半端ネ……こんなの紙くずデース……」
「……何ぞ知らぬが、期待に応えられなかった様で済まぬの」
「No、お爺さんのせいではないヨ……こんなの、鼻かんでやるデス……ちーん」
「……用が済んだのなら、もうお暇させてもらってもいいかの、お嬢さん。
こう見えても、それほど暇な身ではないでな」
「Yes、そうデシタ……OK、それではグッバイ、デス……」
声と共に飛んできたのは、一本の矢であった。
必殺の勢いをもって放たれたそれは、狙いたがわず漢の首筋を目掛けて飛び、
そして、二本の逞しい指に挟まれて止まっていた。
「わ、わぁっと!?」
「―――長瀬奥義・二指真空把」
戸惑ったような声。
漢の呟きが、果たして理解できたかどうか。
「……長瀬の拳は有情に非ず」
言いながら、漢の指がジュラルミン製の矢を、まるで飴細工か何かのように
捏ね回していく。
「OH……ジーザス……!」
「この戦乱の世にあって、由真は……優しすぎたのやも知れぬ」
「ニンジャ……!? ミフネ……!? No……!」
叫びと共に、幾本もの矢が放たれる。
だが、その矢が背に突き立つ前に、漢の姿は掻き消えていた。
「ど、どこデスカ……ヒィッ!?」
声の主である少女は、身を隠していた大樹の陰で凍りつく。
その背にそっと触れるものがあった。漢の拳である。
少女の背後に立つ漢は、どこか悲しげにも聞こえる声音で囁く。
「これは、残悔積歩の拳……若人よ、己が罪を悔い、輪廻せい」
漢の声を、少女は既に聞いていない。
少女の意識は、自らの身体に起こった異変に対する恐怖で満たされていた。
「ぉ……ごぉ……が……」
奇怪なことに、少女の足はその意思に反して後ずさりを始めていた。
全身の筋肉、全身の神経が膨れ上がっていくような違和感。
「……最後の十歩、有意義に過ごすことじゃ」
少女に背を向け、歩き出す漢。
その頬に、落ちるものがあった。
見上げれば、天から落ちる幾粒もの滴。
「涙雨……、かの」
呟いた漢の背後で、少女の断末魔が響いていた。
【時間:2日目、午前2:00頃】
【場所:D−4】
【長瀬源蔵】
【所持品:防弾チョッキ・トカレフ(TT30)銃弾数(6/8)・支給品一式】
【状態:鎮魂】
【宮内レミィ】
【状態:死亡 「ぺぎぃ!!」】
※レミィの所持品:和弓、矢×5、死神のノート、他支給品一式は放置。
※※この時間から雨が降り出しました。
→150 →327 →347 ルートD-2
星空を見ながら宗一は一人考えていた。
放送のこと。
告げられたゆかりの、醍醐の、篁の死。
診療所でのこと。
暴れだした佳乃、怪我を負った郁未と葉子、そして聞かされた早苗の死。
何が真実で何が嘘なのか、今までに無いほどいろいろな事が一度に起きすぎて宗一の頭はパンク寸前なほど混乱していた。
考えても答えなんか出るわけが無い、そう思った宗一は今すぐにでも出発したかったところなのだが
郁未が急に熱を出した倒れたため、一緒に行くかと聞いた手前置いていくことなどできず、しばしの休息を取ることになった。
そして今、扉一枚隔てた向こうでは葉子と郁未は静かに眠りについている。
見張りとして起きているのは良いのだが、一人だとどうしても考えてしまって今に至っていた。
疲れがたまっているのか眠気が少しずつ押し寄せてきた。
この程度の修羅場なんか何度も味わってきているじゃないか。
最近鈍ってたのかなと自分を奮い立たせるように自身の顔をひっぱたいた。
と同時に内側からコンコンと言うノックの音に、思わず宗一はFN Five-SeveNを構えていた。
ゆっくりと扉を開けて顔を出したのは鹿沼葉子だった。
もっとも中には葉子と郁未しかいないはずで、敵が進入してきたのだったらノックなどしないはずだろうと宗一は自分の行動に苦笑した。
「どうした?」
銃をおろし、葉子に尋ねる。
「宗一さんごめんなさい、郁未さんが目を覚ましたんですが……」
言いながらも、その先を続けることに躊躇いが見えた。
「ですが?」
「えっと……汗が気持ち悪いらしくて身体を拭きたいそうなんですが、お湯とかタオルとかお願いできませんか?」
自分の足はこうですので、と葉子は指差しながら言った。
ここまで来るのにも一苦労だったのか、葉子の顔にも汗が流れ、どこか青白い。
わかった、と頷くと葉子の肩を抱きベットに戻す。
隣のベットで郁未がどこか罰が悪そうにしていたが、気にするなと笑いながら診療所の中を散策しに向かった。
なかなかの設備が整っており、暗いながらも目的のものはすぐに見つけることが出来た。
大き目のタオルと洗面器、そして患者用のガウンを手に取ると、
仮眠室らしきところでヤカンとコンロを見つけ、湯を沸かし二人の元へと戻った。
「これでいいか?」
「はい、ありがとうございます」
葉子にタオルとガウンを、郁未にはお湯の入った洗面器をそれぞれ手渡し
「じゃ俺は見張りの続きをしてるから」
と扉に向かおうとする宗一を郁未が呼び止めた。
「宗一さん何度もごめんなさい、いいかしら?」
「ん?」
宗一はくるりと踵を返す。
「良かったら拭いてもらえないかしら?少しまだ身体がだるくて……」
「……はい?」
「私もちょっと身体が重いので……お願いできませんか?」
拭くって何を?ヤカンか?んなわけないよな……。
んじゃ何か、この二人は出会ったばかりの俺にその柔肌を拭いてくれと言ってる訳か?
ハハハ、んなアホな。
だが宗一の返事を待たず郁未は上着をグイッと脱ぎ捨てると、その裸身惜しげもなく晒す。
「ぶっ!」
同じように葉子も上着を脱ぎ捨てると、懇願するように宗一の顔を見つめた。
「と、とりあえずわかったから、上、上を隠してくれ!」
鼻の下が伸びるのを必死に隠すように顔を逸らしながら、二人に叫ぶ。
だがどうしても目線は二人の胸元を追ってしまっていた。
二人はさも気にして無いと言わんばかりに笑っていたが、あまりの宗一の悲痛な訴えにガウンを羽織る。
なんで俺はこんなことをしているんだろう……。
お湯にタオルを浸し、郁未の背中をゆっくりと拭きながら宗一はテンパっていた。
目の前に広がる白い肌が、体中の血液を頭へと送り込んでいく。
シーツで胸元や足は隠しているものの、垣間見える生まれたままの郁未のその姿に変な想像が止まらない。
チラッと後ろを見ると、ガウンを羽織ってはいるがその下には同じように下着一枚つけてない葉子が座っている。
ゴクリ、と自分の喉がなるのがわかった。
頭へと上った血液が一気に下へと向かっているのも自覚してしまう。
ちょ、勃つな!落ち着け息子よ!
宗一の気持ちとは裏腹にズボンの下では自身の育成を邪魔する布と必死に格闘する息子の姿。
タオルを掴む手が興奮してうまく握れない。
思わずズルッと手が滑り郁未の背中を掌でなでおろしてしまった。
「ひゃっ!」
いきなりの冷たい感触に、郁未が身体を震わせ悲鳴を上げる。
「ご、ごめん!」
落としたタオルを取ろうと宗一が目線を下に落とすと、郁未がクルリと振り返り上目遣いで見下ろしていた。
「フフフ……」
その表情の妖艶たるや否や。
ゆっくりと右手を宗一の顎に伸ばし
「何を考えてたの?」
と尋ねてくる。
答えることが出来ずに宗一は逃げるように後ずさった。
だがその背中に柔らかい感触が当たる。
恐る恐る振り返ると葉子に抱きかかえられるように、宗一の身体は葉子の身体に収まっていた。
「あら……?」
宗一の姿を見て、葉子も嬉しそうに微笑む。
「郁未さん、宗一さんのここ、こんなになってますよ?」
葉子の右手が宗一の股間に伸びる。
「ちょ、ちょっ!」
逃げようとする身体を押さえるように郁未が身体で道をふさいだ。
「あら、ほんと」
「ね?」
まさぐる葉子の右手の動きが少しずつ早くなり、
郁未ははだけたシーツを直そうともせず、胸を宗一の身体に当てながら今度は下目に声をかけた。
「……ねぇ、何を考えてたの?」
繰り返された郁未の言葉に宗一の頭は真っ白になる。
何も答えない宗一の顔を見て、郁未はからかうように笑うと、頭を下げ、ズボンのファスナーに手をかけた。
――いや、ちょっと、さすがにそれは!
止めようと叫びかけた宗一の口は葉子の唇によって塞がれた。
咥内に侵食する舌の感触に、脳がとろけそうになり意識が飛びかける。
全身から力が抜け、抵抗する意識の消えかけた宗一を見上げると、嬉しそうに郁未はトランクスごとズボンをずり下げた。
股間に聳え立つその巨頭を嬉しそうに眺めると、郁未は躊躇うことも無く咥えこんだ。
――ちょっ!郁未さん!それやばい、やばいって!
上は葉子、下は郁未に執拗に全身を舐られる。
何かを言いたくても考えたくても、襲ってくる快楽に手も足も出ずただ流されることしか出来なかった。
――あ、ダメ、あ、ああああああ
勢いよくそこで宗一は身を起こした。
自身の眼前には先ほどと変わらぬ星空。
身体を見渡すも服は脱がされた後も無く、先ほどと何も変化は無い。
強いて違いを上げるとすれば股間がじんわりと冷たい。
――最悪だ、俺……
数分後、ベットで眠る二人を起こさないようにそっとトイレに入り、
頭を抱えながら下着を洗濯する宗一の姿があった。
那須宗一
【所持品:FN
Five-SeveN(残弾数20/20)包丁、ロープ(少し太め)、ツールセット、救急箱、ほか水・食料以外の支給品一式】
【状態:洗濯中】
天沢 郁未
【持ち物:支給品一式(水半分)】
【状態:右腕と頭に軽症(手当て済み)、睡眠中】
鹿沼葉子
【所持品:支給品一式】
【状態:肩に軽症(手当て済み)右大腿部銃弾貫通(手当ては済んでいるがまだ歩けるほどではない)、睡眠中】
共通
【場所:I-07診療所】
【時間:2日目2:00】
(関連363 B-11・J-3)
「一弥と」 「マリーの」
「「なぜなに設定資料コーナー!!」」
「こんにちわ、僕は司会の倉田一弥。このコーナーでは、
本編ではなかなか語ることの出来ない隠された設定を紹介していくよ」
「Bonjour. わたくしは相方の相沢マリーですわ」
「今回のお題はずばり、『7年前の華音市での戦い』について」
「祐くんが唯一者として覚醒するきっかけとなった戦いですわね」
「うん。一般には知られていないけど、この戦いは唯一者狩りを目的としたものだったんだ。
唯一者というのはね、世界そのものとして生まれたただ一人の特別な運命を背負った者なんだ。
唯一者はその先代が使命を終えて亡くなったときに、銀の羽を持つ者として誕生するんだよ。
それが誰になるかは神のみぞ知るといったところかな。
そんな運命に選ばれるなんて、祐一お兄ちゃんてかっこいいよね」
「もちろんですわ。祐くんよりかっこいい方などこの世に存在しませんもの。
ところで祐くんの使命というのは何なのかしら?」
「そんなネタバレ質問には答えられないよ。
唯一者は覚醒するまでその存在を隠されて育てられるんだ。
だから祐一お兄ちゃんが唯一者であることは、
秋子さんと亡くなった先代相沢家当主しか知らないはずだったんだ」
「しかし久瀬家は、華音市に唯一者がいることを突き止めたのですわね」
「うん。詳細はわからないけど、政府や来栖川のバックアップを受けていたらしい。
異能者を忌み嫌う久瀬家としては、他人の魂を生きる糧とし、
常識を超えた様々な能力を持つ唯一者をなんとしても排除したかった。
そんなことをしても本当は意味がないんだけどね」
「そしてその戦いは皮肉にも祐くんを覚醒させることになったのですわ」
「久瀬家は誰が唯一者なのかまでは突き止められなかった。
だから『疑わしきは殺せ』の旗印の下に、僕たちのような大勢の無関係の子供たちが犠牲になったんだよ。
129『賭け』でお姉ちゃんが言ってる『佐祐理の罪』とは、このとき僕たちを助けられなかったことなんだ」
「酷い話ですわ」
「久瀬家は最初は暗殺を繰り返していたんだけど、水瀬家が真相に気付いたために全面戦争に発展した。
関係者の多くは記憶を失っているし、対外的には伏せられていたから一般市民は知らないことだけどね」
「この戦いには狙われていた子供たち自身も参加し、大勢が死亡した。
生き残った人でも、呪いで不治の病を患った栞さんのように後遺症を持つ者が少なくない。
そしてこの戦いで最も活躍したのが、祐一お兄ちゃんの親友だった月宮あゆ」
「彼女が木から転落したことが祐くんが覚醒するきっかけとなったんでしたわね」
「そうだよ。そして祐一お兄ちゃんが引っ越していったことで、この戦いは一応の終わりを向かえたんだ」
「引っ越していった先では何があったのかしら?」
「それはまたの機会に。今回はこの辺でおひらきにするよ」
「「またねー!!」」
倉田一弥
【場所:設定資料コーナー】
【設定:7年前の唯一者狩りで久瀬家の刺客に殺された佐祐理の弟。Sランク。属性は闇。
祐一に憧れるショタ。彼を助けられなかったことは佐祐理のトラウマとなっている。】
【状態:無駄な設定資料集はU−1SSの醍醐味だよね】
相沢マリー
【場所:設定資料コーナー】
【設定:7年前の唯一者狩りで久瀬家の刺客に殺されたの祐一の従姉。Sランク。属性は光。ハーフ。
当時はフランス相沢家からバカンスに華音市に来ていたところだった。祐一を可愛がるお姉さま。】
【状態:馬鹿みたいに長い設定資料集を見てSS本編を読む気が失せた経験はないかしら?】
ルートD
415 :
無防備な少女:2006/11/08(水) 21:40:50 ID:ecC/pIbF0
「さて、どこがいいかしらね・・・・」
昼間から戦い続けた事もあり、千鶴の体力は限界が近付いていた。
治療は済ましたが、肩の怪我も気になる。今は休養が必要だった。
しかし千鶴は単独行動をしている為、寝ているところを誰かに見つかったら非常に危険である。
出来る限り見付かる可能性が低い場所を選ばなければならない。
「ウォプタルさん、明日まで大人しくここで待ってて頂戴ね」
ウォプタルはクワーッと鳴いて返事をした。千鶴をウォプタルを木に繋いで歩き出した。
千鶴が選んだ場所は高原池近くの森の中だった。
民家に泊まるという選択肢もあったが、このゲームでは民家の需要が高い。
たくさんの参加者が寝場所や使える物を求めて民家に侵入してくる。
必然的に誰かと出会ってしまう危険性も高くなる筈であった。
またウォプタルは目立つ為、寝床はウォプタルと少し離れた場所にしなければならないだろう。
もしかしたらウォプタルが誰かに盗まれてしまうかもしれないが、寝込みを襲われるよりはマシである。
ウォプタルを離れた場所に置いた上で森の中なら、誰かと遭遇する確率は相当低いと千鶴は考えていた。
しかし、その相当に低い確率を千鶴は引き当てていた。
(あら・・・これはちょっと予想外ね)
人がいないだろうと思ってこの場所を選らんだのだが、近くで人の気配がした。
だが、問題無い。先客がいるのなら殺すまでだ。
気付かれないように慎重に、獲物との距離を詰める。
もう少しで飛び掛ろうかという所で、千鶴はある事に気付いた。
(この子、・・・・泣いてる?)
千鶴のほんの6メートル程先を歩いている少女は泣きながら歩いていた。
ポキッ・・・
予想外の出来事に一瞬注意力が逸れたのか、足元にあった小枝を踏んでしまう。
「あ・・・・」
少女はその音でこちらに気付き、振り向いていた。
416 :
無防備な少女:2006/11/08(水) 21:42:11 ID:ecC/pIbF0
(相手は武器を持っていない・・・・倒すのは容易そうね)
そう考え、千鶴が刀を構えようとした。
構えようとしたが、千鶴は呆気に取られてしまった。
ガシッ!!
「うぅぅっ……ひぐっ……」
「・・・・?」
目の前の少女が無防備に千鶴の胸に飛び込んできていた。
少女は千鶴の胸で泣きじゃくっている。
その姿は余りにも無防備過ぎて、頼りなさ過ぎて。
千鶴は手が出せなくなっていた。
それからしばらくして、どうにか少女は泣き止んでいた。
見知らぬ女性にいきなり抱き付いたのが恥ずかしくなったのか、少女は俯いたまま黙り込んでいた。
「・・・・・落ち着いたようだし、名前くらい教えて貰えないかしら?私は柏木千鶴よ」
「あ!す、すいません・・・。私、小牧愛佳です」
「愛佳ちゃんね。早速だけど何があったか聞かせて貰えないかしら」
愛佳が語った事の顛末はこうだった。
愛佳は襲撃者に刺された芹香を助けようとしたが、愛佳は医者ではない。
満足な治療など出来る筈も無かった。
結局彼女に出来たのは芹香の死を看取る事だけだった。
何も出来なかった自分。すっかり体温が失われ、冷たくなった芹香の遺体。
物音一つしない小屋。いつまで経っても戻ってこない仲間。
愛佳の精神は追い詰められていた。
そして、もしかしたらさっきの襲撃者がまた戻ってくるかもしれない。
そう考えてしまった彼女は――――全てを捨てて、逃げ出したのだ。
千鶴の妹達の事も聞いたが、愛佳は見ていないようだった。
417 :
無防備な少女:2006/11/08(水) 21:43:01 ID:ecC/pIbF0
冷静になった愛佳は、逃げ出してしまった事を酷く悔いていた。
「私・・・、最低ですよね・・・・。来栖川さんの遺体の埋葬もせずに、相良さんも待たずに逃げ出して・・・・」
そこまで言って、愛佳はまた泣きそうになった。
その時彼女の頭に何かが触れた。
愛佳が見上げると、千鶴が彼女の頭を撫でていた。
「お腹空いたでしょ?食料ならまだ余裕があるし、分けてあげるわよ」
千鶴は空いてる方の手でパンを差し出した。
「え、でも・・・・」
「構わないわよ。遠慮せずに食べなさい」
そう言って千鶴は微笑んだ。
その笑顔は、このゲームで彼女が初めて見せた笑顔。
とても穏やかな笑顔だった。
愛佳はパンを受け取り、食べ始めた。
愛佳が思っていた以上に愛佳の体は腹を空かせていたらしく、あっという間にパンを食べ終えてしまった。
「あの、あ、ありがとうございました」
そう言って、愛佳は頭を下げる。
「どういたしまして。それじゃ、今日はもう休みましょうか」
「え?」
「休める時に休んどかないと、体がもたないわよ?ほら、そこで休みましょう」
そう言って千鶴は近くの茂みの奥に歩いていき、刀で邪魔な雑草を刈り取った。
そこは比較的背の高い茂みの中で、誰かが近くを通ってもそう簡単には見付からなさそうだった。
二人揃って腰を落とし、座り込む。そうしたまま暫くじっとしていた。
「・・・ねえ愛佳ちゃん、まだ起きてる?」
「あ、はい、起きてます。・・・・なかなか寝付けなくて」
「そう。ちょっといいかしら」
「え?何ですか?」
「私もね、あなたがした事は良くないと思うわ。仲間だったのなら、最後まで責任を持つべきよ」
418 :
無防備な少女:2006/11/08(水) 21:45:52 ID:ecC/pIbF0
「そうですよね・・・・・。」
「でもね、愛佳ちゃん・・・・終わった事をいつまでも悔やんでも仕方無いわ。
自分が何をするべきなのか考えて、あなたのやるべき事をやりなさい。今度こそ後悔しないようにね」
「・・・・・・。」
「私の話はそれだけよ。それじゃ、おやすみなさい」
千鶴の言葉はそのまま千鶴自身にも当てはまる事だった。
千鶴は決心を固めていた。
もう二度と後悔したくないから。大切な人を失いたくないから。
けれど愛佳には・・・・、手を出さないでおこう。
この無防備で内気な少女が妹達や耕一に危害を加えるとは到底思えなかった。
千鶴の目的はあくまで家族の安全の確保であって、人を殺す事自体を目的としている訳ではないのだ。
出来ればこの子は、少しでも長く生きていて欲しい。
今日は疲れた・・・、とにかく休もう。
そして朝目覚めたら、また人を殺し続けよう。
そこで考えるのを止めると、すぐに千鶴の意識は闇に落ちていった。
【時間:2日目午前1時頃】
【場所:d−4】
小牧愛佳
【持ち物:なし】
【状態:睡眠】
柏木千鶴
【持ち物:日本刀・支給品一式(食料を半分消費)】
【状態:左肩に浅い切り傷(応急手当済み)、睡眠中。マーダーだが、愛佳に手を出すつもりはない】
ウォプタル
【状態:睡眠中、千鶴達が寝ている場所から少し離れた所にある木に繋がれている】
(ルートB11 関連296・402・403)
419 :
10:2006/11/09(木) 01:23:50 ID:Sijbwf4I0
やっと出来ました
Iルートの→89→96⇔英二芽衣杏入りの話で
一応補足するとIルートここでこの人達止まっているので
暇があったら回避頼みます
「っ……ふぅ……。やっと抜けたな」
芽衣を連れた林間の行軍は英二を中々に疲弊させていた。
「すみません……私のせいで……」
「いやいや」
英字は笑って受ける。
芽衣はあの後一人で突き進んで木の根に足を取られて転んでしまっていた。
膝を擦り剥いたのを英二が見ると、「さ、どうぞ。お姫様」とかいいながら背負ってくれた。
大丈夫だ、と芽衣が主張しても英二はへらへら笑って取り合わなかった。
一度だけ「まぁこんな島だし。小さい怪我でも命取りになりかねないよ?」といって、後は益体も無い事を延々と喋っていた。
そんな英二の心遣いに礼も言ったが、やはりへらへら笑って受け流された。
実は英二は『参加者』が出てきたら即座に芽衣を振り落として拳銃を取るつもりだったのだが、互いにとって幸いにその機会は訪れなかった。
因みに、ボタンは自力歩行で付いて来ていた。
「んじゃ、芽衣姫様。地図出してくんないかな」
「あ、はい」
芽衣は地図を取り出す。
「あ、あともう大丈夫ですからおろしてください……村の中までこれはちょっと……」
もう膝の血は止まっていた。
英二はそれを軽く一瞥する。
「ん? そ? ほい」
英二はゆっくりと芽衣を下ろした。
「ありがとうございました」
「いやいや」
やはり笑って受け流す。
「んー……今……多分この辺の道だね。どっち行く?」
「え……と……英二さんが決めてください」
「じゃあっちで」
そう言って東の道を指した。
「行こうか」
「はい」
「ぷひっ」
二人と一匹はその道に従って歩き出した。
(どうしよう……どうする……)
杏はあの死亡者報告スレッドが流れてからずっと頭を悩ませていた。
しかし実際に人が死んでいるらしいという実感の無い事実、その中に岡崎の名が在ったこと。
自分についている爆発すると言う首輪、そして名簿に書いてあった妹の名前。
色々な事が色々な風に重なってとても落ち着いて考えるなど出来なかった。
そして、その事にも自分で気付けない程にも焦っていた。
(どうする……如何する……)
浮かばない名案に苛立ち、それでも尚考える。
思考の泥沼に嵌まり、それでも考える事を止められない。
引き当てた道具が武器ではなく、失敗すれば待ち受けるのが死である事もその循環に拍車を掛けていた。
(探す……どうやって……でも……)
さっきからそんな事は何度も考えた。
このパソコンに書けば椋や朋也が見るかも知れない。
しかしそれは本当に『かも知れない』で、見ない可能性の方が高いだろう。
調べた限りではさっきの家にもここにもパソコンは無かった。
支給品になるくらいのものだ。
そうそう見つかるものじゃないだろう。
そして、それ以上に問題なのがこの島にはその他大勢がいることだった。
その中にはこの短時間で人を殺した者が既にいる。
そんな者がこれを見たら、最悪椋や朋也と一緒に殺されてしまう。
賭けるには余りに分の悪い賭けだった。
しかしまた同時に完全に望みがないわけではないのでそれを断ち切ることも出来ずにいた。
そうして考えている間にも状況は進む。
杏にもそのきっかけは訪れた。
子連れで。
ガチャ
「!! だっ誰!?」
「怪しくないものだけど」
「怪しいわよっ!!」
「英二さん、怪しいです」
「そ? まぁいいや。君は?」
「あっ……あたしは……じゃなくて! あんたは誰なの!?」
「緒方英二と春原芽衣。分かると思うけど俺が英二ね」
「っ……なんでここにくんのよ!」
「適当に歩いてたらついて」
「何しに来たのよ!」
「何しに来たのかねぇ」
「英二さん、あの、ちょっと……」
見かねた芽衣が止めに入る。
「ん? なんだいお姫様」
「あの、もう少し真面目に……」
「持てる誠意の一割くらいは使って話してるつもりなんだけどねぇ」
「っ……! 真面目に話しなさいよっ!!」
杏は激昂する。
相変わらず英二はへらへら笑って取り合わないが。
hoihoi
「んじゃ、君はなんなんだい?」
「っ……あたしは……」
「殺人ゲームの行われているこの島で、君はここに一人でいて何をしているんだい?」
「! あたしは! ……あたしは……考えて……どうすればいいか……」
「で、如何するんだい?」
「その前に! あんたはこのゲーム乗ってるの!?」
「それを聴いてどうするの? 乗ってないって言ったら信じる?」
「あ……う……」
「あっ! あのあのっ! 私達は乗ってません!」
それまで杏に対しては口を閉ざしていた芽衣が声を上げた。
「英二さんは殺されそうになってた私を助けてくれました! 足を怪我した私をおぶってくれました。
お兄ちゃんを一緒に探そうって言ってくれました! 英二さんは……英二さんは……!」
「ぷひっ」
「へっ?」
何某かの雑音が入った。
雑音の元は飛び出して杏の懐へと潜り込んだ。
「あっ」
「ぷひーーーーーーっ!」
「あっ! ボタン! えっ? なんでここに!?」
「えっ? ボタン知ってるんですか?」
「知ってるも何もボタンはあたしのペットよ!」
「えっ!? すごいです!」
「ぷひーーーーーーーっ!」
ボタンはぐりぐり頭を押し付ける。
「ボタン〜」
杏は始めてこの島で知り合いと会えたからか、弛緩してボタンを抱きしめる。
「くっ……ははっ……ははははははっあはははははははははははははは!!」
「英二さん? どうしたんですか?」
「……? 何よ」
「はははっ……はは……やっぱり俺には出来ないね。相手の警戒解くってのは」
「あっ……」
完全に無防備なところを見られた。
杏は赤くなる。
「で? 少しは信用してもらえたかい? 名前聞かせて貰える位には」
「……藤林……杏」
この目の前の飄々とした男の思惑通りに物事が進むのは気に食わなかったが。
少なくとも。
「ボタンを連れて来てくれたそっちの子は……信じられそうだから……」
「そりゃよかった」
そういってへらへら笑う。
……やはり気に食わない。
ある程度情報交換をして、英二はポケットの中で構え続けていた銃を見せ、杏は自分の支給品たるパソコンを見せた。
「ふーん……これちょっと見せてもらっていい?」
「別にいいけど……気持ちいいもんじゃないわよ」
「結構」
しかし杏は失念していた。
この飄々とした男の名前が『緒方英二』であることと、死亡者報告スレッドに『緒方理奈』の名前があったことを。
「ふーん……死亡者報告……確かに悪趣味だ」
英二は何気なくEnterを押す。
そして、固まった。
「……理奈」
我知らず呟く。
その呟きに杏は。
「え……? あっ!」
失敗した。
そう思ったときにはもう遅かった。
「英二さん? 英二さん? どうしたんですか? 英二さん?」
英二は食い入るように画面を見つめ、そのまま凍りついたように動かない。
「英二さん! 英二さん!」
「芽衣ちゃん……実は……」
今更、とは思ったが芽衣にも耳打ちする。
今の英二に会話は酷だろう。
芽衣の顔も見る見るうちに蒼くなってくる。
「え……いじさん……」
言葉も無く、動きもなく、三者三様の乱れた心のまま時が流れていった。
春原芽衣
【持ち物:デイパック、水と食料が残り半分】
【状況:自失】
緒方英二
【持ち物:拳銃(種別未定)デイパック、水と食料が残り半分】
【状況:絶望】
藤林杏
【持ち物:ノートパソコン(充電済み)、デイパック、包丁、辞書×3(英和、和英、国語)】
【状態:不安】
共通
【時間:一日目午後四時半頃】
【場所:C-05鎌石消防分署】
>>423 感謝
428 :
疾風伝説:2006/11/09(木) 04:08:32 ID:LOaPFmNl0
篠つく雨が、梢を濡らしている。
夜の闇に沈む森の中、一本の大樹の陰に少女が座り込んでいた。
一見して雨宿りといった風情ではあるが、後ろで二つに分けた長い髪からは
雨粒が滴となって零れている。白い学生服の裾も、しとどに濡れていた。
底冷えのするような夜気を意に介さず、少女はじっと座り込んでいる。
どれほどの時間、そうしていたであろうか。
垂れ落ちる滴を目で追いながら、ふと少女が口を開いた。
「ねえ、タバコ……持ってない……?」
独り言のようなその言葉に、答える声があった。
「……セッターライトでよければ」
「何でもいいよ」
苦笑するように口の端を歪めながら、声の方に目線を向ける少女。
答えた男は、雨に濡れた肩を払うようにしながら少女の側へと歩み寄る。
「隣、いいかな」
「どうぞ」
言って、少女はそれきり男から目線を外す。
暗がりをぼんやりと眺める少女に何を見たか、男が話しかける。
「その制服……学生さんだろ。タバコなんか吸うのかい」
「……先生とか、警察の人?」
「程遠いね」
肩をすくめて見せる男。
429 :
疾風伝説:2006/11/09(木) 04:09:18 ID:LOaPFmNl0
「今時の子に説教でもないか。……歳かな、俺も」
言いながら、懐に手を入れる男。
しばらくまさぐって、小さな箱を少女に差し出す。
「火は、あるかい」
「そっちも、もらえるかな」
「はいよ」
男の差し出した箱から一本を取り出すと、口に銜える少女。
男はポケットから出したライターを、少女の口に寄せる。
じ、と音がして煙草に朱色の灯が点る。
紫煙をひと吸いする少女。
「吸い慣れてるな……悪い子だね、っておいおい……?」
男の、少し驚くような声。
少女は、指に挟んだ煙草を吸い口を下にして地面へと突き立てていた。
「ゴメンね。これ、あたしが吸うためのもんじゃないから」
「……?」
「宗一……友達がさ、死んじゃったんだ……」
闇の中で、火のついたままの煙草が、朱い光を放っている。
微かな光に照らされた少女の顔は、だがその言葉とは裏腹に、苦笑しているようにさえ見えた。
「だから、線香代わり……」
「……」
「バカな奴だったけど……こんなにあっさり死んじゃうなんて、本当にバカ」
笑い飛ばすような少女の声は、どこまでも湿り気がない。
430 :
疾風伝説:2006/11/09(木) 04:10:11 ID:LOaPFmNl0
少女の真意を測りかねたか、男は少女に背を向け、しばらく言葉を選ぶように
沈黙を続けていたが、やがて意を決したように顔を上げると口を開いた。
「……もう一本、どうだい」
「……え?」
「君の分、さ」
「あたしはいいよ。もう随分前にやめたんだ。
けど、お言葉に甘えさせてもらえるなら……もう二本、もらえるかな」
「……やっぱり、友達の分?」
男の低い声に、少女は困ったように笑う。
「どうかな。友達っていうか……仲間っていうか、敵でもあったりしたけど。
……でもまぁ、うん、友達だよ」
「そうか。……なら、三本だな」
男の言葉に、少女はその意志の強そうな眉を寄せる。
「……? いや、二本でいいってば」
「まぁ、そういうなよ」
「……」
男は、軽く肩を震わせている。笑っているようだった。
「お前さんの分も合わせて、三本必要だろ。……線香は、さ」
言って振り向いた男の手には、大きな猟銃があった。
その銃口は、座り込んだ少女の顔面を正確に捉えている。
「こんな状況で銃を持った男が近づいてきたら、もっと警戒しなきゃダメだな。
……気をつけないと、死ぬことになるかもしれない」
431 :
疾風伝説:2006/11/09(木) 04:11:06 ID:LOaPFmNl0
少女は声を漏らすこともなく、じっと銃口を見据えていた。
「……怖くて声も出ないか? 安心してくれ、俺は同僚みたいな変質者じゃない。
楽に死なせてやるよ」
「……そうじゃなくてさ」
少女が、口を開いた。
恐怖に震えても、絶望に怯えてもいないその声音に、男が怪訝そうな表情を浮かべた、その瞬間。
「……!?」
男の視界が、閉ざされていた。
電光石火の速さで立ち上がった少女の手が、男の顔面を鷲掴みにしていたのである。
白い細腕のどこにそのような力が隠されていたものであろうか、少女は片手で掴んだままの
男の頭部を、凄まじい勢いで大樹へと叩きつける。
「……がっ……ぁ!」
激しく揺れる大樹。
大粒の滴が、滝のような音を立てて辺りに降り注ぐ。
その飛沫の中心で、少女は片腕で男を目線より高い位置に吊るし上げていた。
絞首台に吊るされた死刑囚のような格好で、男の身体が痙攣している。
「いきなり”ドーグ”出してぇ……、ウタってんじゃねえよ……」
低く唸るようなその声には、先刻までの少女の面影はない。
「この湯浅さんに上等切ったんだ……潰してやんからぁ、殺すまで死ぬんじゃネェぞ……?」
その声が、男に届いていたかどうか。
回避
433 :
疾風伝説:2006/11/09(木) 04:14:45 ID:LOaPFmNl0
小刻みに震える男の手は既に猟銃を取り落としていた。
少女の指の間から垣間見える青黒い顔面からは血液ともつかない液体が流れ出し、
失禁した股間からは湯気が上がっている。
構わず、少女は二度、三度と男の後頭部を大樹へと叩きつける。
飛び散る返り血を顔に受けても、少女は眉筋一つ動かさない。
やがて男がぴくりとも動かなくなると、少女はまるでゴミでも捨てるように
男の身体を放り出した。
「お礼参りァ、『雌威主統武』初代、湯浅皐月に持ってきな……」
言うと、少女は落ちている猟銃を拾い上げ、銃口を空に向けておもむろに引き金を引いた。
響いた銃声は、計五発。
それ以上の弾が出ないことを確認すると、少女は熱を持って湯気を上げている銃身を
雨に濡れた地面へと押し付けた。音を立てて舞い上がる蒸気。
銃身の方を掴み、握りを変えながら何度か猟銃を振り回す少女。
やがて納得したのか、少女は銃を肩に抱えて雨の中へと歩き出す。
「宗一……ゆかり……なんで逝っちゃんだよ……」
小さな呟きは、雨音に掻き消されて誰にも聞こえない。
「坂上のバカもそっちみたいだからさ……喧嘩相手に不足はないだろうけど……。
残されたこっちは、どうすればいいのさ……」
見上げた空は、ただ暗い。
「風が、騒ぐんだよ……宗一……」
雨粒が入ったか、少女の目から一筋の滴が流れる。
もういっちょ回避しておこう
「”狂風烈波”の旗掲げて……みんなで全国”シメ”るって粋がってた、あの頃の……。
もう……とっくに凪いだと思ってた風が、さ……」
顔を伏せた少女の目が、片手のバッグに注がれる。
「こんなの見たら……”暴走り”たくなっちゃうよ……、宗一……」
雨に打たれながら、少女の歩みは止まらない。
その行く手には、ただ夜の闇だけが広がっていた。
湯浅皐月
【所持品:『雌威主統武(メイ=ストーム)』特攻服、ベネリ M3(残弾0)、支給品一式】
【状態:健康】
巳間良祐
【状態:死亡】
※煙草とライターは優季の支給品。
→019 057 067 ルートD-2
【2日目午前3時】
【H-4】
です。申し訳ありません。
「くしゅんっ」
可愛らしいくしゃみをしたのは、松原葵。
体操服にブルマーという出で立ちでうろつき回る、ちょっと危ない女子高生である。
「日が暮れてきちゃった……。
やっぱりこの格好だと、ちょっと寒いな……」
むき出しの腕をさする葵。
元の制服を捨てたわけでもなし、着替えればよさそうなものだが、ブルマー大好き葵ちゃんの
脳裏にはそんな選択肢は浮かばないようである。
「お困りのようですねっ」
「……どうしようかな……焚き火でもしてあったまろうか、どっかの家にお邪魔するか……」
「お・こ・ま・りのようですねっ!」
あんまり相手にしたくなかったが仕方ない。
嫌々顔を上げると、そこに立っていたのは予想通り奇天烈な女だった。
誰のセンスだか知らないが真っ赤なワンピースに白いストールというド派手な制服、
いい歳こいて頭には巨大なリボン。
極め付けに、手に持っているのはおもちゃ屋で女の子がものほしそうに眺めているような
ピンク色のステッキだった。
「……間に合ってます」
足早に立ち去ろうとする葵。
「お困りのようですねっ」
先回りされた。
どうあっても逃がしてくれるつもりはないらしい。
「……えーと、何か御用……ですか……?」
「申し遅れましたっ! 佐祐理は魔法少女ですっ、さゆりんって呼んで下さいね☆」
アブナい人だった。
すげえ逃げたい系。
「魔法少女である佐祐理は困ってる人を見過ごせません」
「はあ……」
「というわけで、困っている声を聞きつけて飛んできちゃいましたっ」
「いえ、特に思い当たる節はありませんが……」
関わりあいになってたまるか。
気合負けしたら終わりだと葵は感じている。
「寒いんですよねっ」
「げ」
聞かれていた。
「そうでしょうそうでしょう、そのちょっと個性的な格好じゃ、寒くても仕方ありません」
あんたにだけは言われたくない、と思ったが口には出さない葵。
賢明だった。
「いえいえ、佐祐理は魔法少女ですからそのくらいは朝飯前でわかってしまうんです〜」
口には出さないが別にどうでもいい。
「そう、実は佐祐理には、ものすごい幸運が訪れたんですよ!」
そんなこと聞いてない。口には出さないが。
「一眠りして起きたら、なんと魔法少女になっていたんです〜」
どんな幸運だ。毒虫になっているのとどっちが悪夢に近いだろう。口には以下略。
「ですから、皆さんにはラッキーのおすそ分けをしてさしあげたいんです」
余計なお世話としか言いようがなかった。略。
「あの……気が済んだら帰っていただけると嬉しいんですが……」
「そうでした、肝心なことを忘れてました〜。佐祐理は馬鹿ですねっ」
ぽかっ、と自分の頭を叩く佐祐理。
葵の話などまるで聞いていない。
(殺したい……)
拳を握り締める葵。
「やっぱり寒い時にはおしくらまんじゅうが一番ですっ」
「……は?」
「えいっ☆」
気合一閃、佐祐理の持つステッキからきらきらと光があふれ出し、一瞬であたりを包み込む。
眩しさに思わず目を覆った葵の耳に、佐祐理の声が聞こえてくる。
「これからも美少女ブルマー戦士として頑張ってくださいねっ―――」
「頑張るかぁっ!」
ツッコんだときには、もう光は消えていた。
佐祐理と名乗るアブない少女の姿もない。
代わりにそこに立っていたのは、
「やあ、オレ北川! 君とおしくらまんじゅうをするために召喚された愛の戦士だ!
って、何で!? ここはどこ!?」
よくわからない少年だった。
気づかれないうちに立ち去ろうとする葵。
「……ちょっと、君! ねえ、そこのブルマーの君だよ」
気づかれていた。
「オレ、今の今まで家の中にいたんだけど……何が起こったか知らない?」
日本語でおk、と言いたいところをぐっと堪える葵。
「さあ……? 私ちょっと急ぎますんで、これで……」
代わりにすっとぼけてみた。
というか、本当に何が起こったのかわからない。
だが、そう言って踵を返した葵の前に立つ人影があった。
「……葵、ちゃん」
「え、琴音……ちゃん? 色々あって私の設立したエクストリーム同好会で
マネージャーをやってくれてる、親友の琴音ちゃんなの……?」
どうやら第二期アニメの設定を引きずっているようだ。
「誰? 友達?」
北川空気嫁。
「そう……あなたもそうなのね……」
「え、いや何のこと……? っていうか今度は何……?」
悲しげに目を伏せる琴音に、葵は慣れた調子で訊ねる。
月に一度は勘違いで欝入る→メンテさせられる→仲直りのコンボであった。
本当に面倒くさい女だなコイツと思うが、こんなんでも数少ない友達の一人である。
「ブルマー……今時そんなの絶滅寸前っていうか来期からウチの学校でも
廃止されるとかされないとか揉めてるような代物を履いたりして……」
「え、そうなの!?」
「そりゃ勿体無い!」
ブルマー大好き葵ちゃんと何でも大好き北川君である。
「そんな属性をつけてまで男に媚を売る……!」
「いやそりゃちょっとは狙ってるけど……けど変なのしか寄ってこないよ実際?」
「わたしなんて超能力者よ!? 異端者の悲劇! 古典的だけど王道!
こんなに立派な悲劇のヒロインなのに……! なのにどうしてこんなに人気がないの!?」
そりゃオメーが全身から面倒くさい女臭振り撒いてるからだろ。
変なスイッチ入れる前にリサーチしろよリサーチ。
……と思っても口には出さない葵。
いつものことだがこうなると琴音は何を言っても止まらない。
それにせっかくモテない度合いがあまり変わらないのに、アドバイスなんかしてたまるか。
本気でアスリート続けてたらマトモな男とっ捕まえられる可能性なんて限りなく低いんだぞ、と
内心半泣きで思う葵。本音の部分では醜い足の引っ張り合いであった。
「……そんな葵ちゃん、浄化してあげるっ!
えいっ、パイロキネシス! サイコキネシス!」
「ひょいっ」
「……え? うわああああああ―――」
グシャ。
炎上したまま空高く放り投げられ、自由落下する北川。
どうせいつものパターンで超能力攻撃が来るとわかっていた葵が、軽くステップして狙いを逸らしたのである。
黒焦げで脳漿ぶちまける北川には目もくれず、琴音は涙を浮かべて走り出す。
「所詮、私を理解してくれる人なんて、いないのね……!
ああ……あと18時間もしたら儚く散ってしまう命なのに……!
なんて可哀想なわたし……! さよなら葵ちゃん、追いかけてきたりしないでね!
あと18時間で死んでしまうワケありのわたしを追いかけてきたりしちゃダメなんだから……!」
「あー……」
いつものことだけどこの死体どうすんだろ、と思いながら頭をかく葵。
「ま、いっか……。どうせ来栖川先輩の家が何とかするだろうし……」
呟いて、琴音の走り去った方へ歩き出す葵。
面倒くさいなあ、一眠りしてから考えようかなあ、などという内心は
決して口には出さない我慢の子であった。
【時間:1日目18時過ぎ】
【場所:H−8】
姫川琴音
【持ち物:武器不明、支給品一式】
【状態:悲劇のヒロイン、2日目午後0時頃に首輪爆発】
松原葵
【持ち物:お鍋のフタ、支給品一式、野菜など食料複数、携帯用ガスコンロ】
【状態:ブルマー。琴音の捜索開始】
北川潤
【状況:死亡】
倉田佐祐理
【持ち物:マジカルステッキ】
【状況:魔法少女】
※北川の所持品:SPAS12ショットガン(8/8+予備12)防弾性割烹着&頭巾 九八式円匙(スコップ)、
水・食料、支給品一式、携帯電話、お米券×2は336の日本家屋にそのまま。
→110 122 129 336 ルートD-2
444 :
凶弾:2006/11/09(木) 20:47:12 ID:YY+YwBjV0
「……やっぱり、僕も行かないと」
敬介が苦痛に顔を歪めながらも、そう呟いていた。
人任せにしてただ待つなど、出来るはずが無かったのだ。
「だ…、駄目ですよ、怪我をしてるのに!」
今にも駆け出しそうな敬介の腕を理緒が掴む。
「やっぱり僕も行かないと駄目だ……これは元々僕と晴子の問題なんだ!」
叫ぶ。それは普段の彼からは考えられないくらいの強い叫びだった。
そして敬介は理緒の腕を振りほどいた。
彼は肩を抑えつつも、そのまま走り出していた。
春原陽平達は暫しの間呆然としていたが、るーこが口を開いた。
「とにかく中へ入るぞ。こんな所で突っ立っているのは危険だ」
「あ、ああ…そうだね」
他の者も同意し、家に向かって歩き出した。
だが、その判断は余りにも遅すぎた。
るーこ達が家の傍まで歩いたその時、理緒の視界の隅で僅かに動く影あった。
――――(ふ…ざけんじゃ……ないわよ……!!)
来栖川綾香は激怒していた。銃を握るその手は怒りで震えている。
綾香は陽平達の様子を近くの木の陰から窺っていた。
撃とうと思えばいつでも撃てたが、まだ綾香の中には殺人への禁忌が少しだけ残っていた。
躊躇してるうちに、大人と思われる風貌の二人は少女達を残してどこかへ走り去った。
恐らくは少女達を連れては行けないような状況………死地へ赴こうというのだろう。
綾香は自らの手を汚して戦っている。生き延びる為に必死に戦っている。
だが、この少女達はなんだ。
危険な事は大人に任せて、自分達はのうのうと家で休む気か?
綾香には少なくともそう見えた。
445 :
凶弾:2006/11/09(木) 20:49:20 ID:YY+YwBjV0
綾香の体を怒りとアドレナリンが満たしていく。
殺人への迷いが消えた綾香は、銃を構えた。
綾香の狙いは敵の中で唯一銃を持っている女……るーこだった。
綾香が引き金を引こうとしたその時、理緒がるーこを突き飛ばした。
理緒は何かを考えていたのではない。元より考えている暇など無かった。
ただ体が勝手に動いていた。
次の瞬間、理緒の体を衝撃が襲った。
陽平達はその光景を呆然と見ていた。何が起きたのか分からない。
突然銃声が鳴り響いたかと思うと、理緒の胸から血の霧が噴き出し、彼女は地面に倒れこんだ。
るーこですら、反応が遅れていた。今回の襲撃は全く予測出来ていなかったのだ。
「この、大人しく殺られときなさいよっ!!」
陽平達が何が起きたか理解するよりも早く、綾香が勢いよく飛び出してきていた。
春原陽平
【所持品:スタンガン・支給品一式】
【状態:呆然】
ルーシー・マリア・ミソラ
【所持品:IMI マイクロUZI 残弾数(30/30)・予備カートリッジ(30発入×5)・支給品一式】
【状態:反応が遅れている】
古河渚
【持ち物:敬介の持っていたトンカチと繭の支給品一式(支給品不明・中身少し重い)】
【状態:呆然】
446 :
凶弾:2006/11/09(木) 20:50:17 ID:YY+YwBjV0
霧島佳乃
【持ち物:鉈】
【状態:呆然】
雛山理緒
【持ち物:鋏、アヒル隊長(12時間40分後に爆発)、支給品一式】
【状態:瀕死(アヒル隊長の爆弾については知らない)】
来栖川綾香
【所持品:S&W M1076 残弾数(5/6)予備弾丸28・防弾チョッキ・トカレフ(TT30)銃弾数(6/8)・支給品一式】
【状態:腕を軽症(治療済み)。激怒】
橘敬介
【所持品:なし】
【状況:左肩に銃弾による傷、平瀬村入り口へ疾走(支給品一式+花火セットは美汐のところへ放置)】
共通
【時間:1日目23:20頃】
【場所:F−02】
【関連391・ルートB-11】
447 :
雪隠詰め:2006/11/10(金) 01:55:57 ID:6tNyLUx10
「七海、なかなか目を覚まさないわね……」
苦しげなうめき声に、郁乃が眉を曇らせる。
「郁乃さん、立田さんの様子は私たちが見ていますから、あなたは少し休まないと……」
「……七海がこんな風なのに、あたしだけ眠れるわけないじゃない!」
心配げなささらの言葉に、郁乃が噛み付く。
周囲を威嚇するようなその声音に、一同は顔を見合わせる。
先程から何度も繰り返された問答であった。
「……? レミィ、どうしたの?」
その様子に、最初に気づいたのは真琴だった。
不思議そうな声に、一同の耳目がレミィへと集中する。
「ン……NO、なんでも……ないヨ」
言葉とは裏腹に、レミィはもじもじとその身をくねらせている。
うっすらと汗もかいているようだった。
そんなレミィの様子を見て、高槻が言い放つ。
「ん、便所なら早く行ってきたらどうだ」
「……!」
「おトイレ? わ、レミィおトイレおトイレー!」
何が楽しいのか、真琴が両手を挙げてトイレトイレと連呼する。
苦々しげに高槻を睨むささらと郁乃。
デリカシーの欠片もない男、とその眼が語っていた。
そんな視線を意にも介さず、高槻の放言は続く。
448 :
雪隠詰め:2006/11/10(金) 01:56:50 ID:6tNyLUx10
「なんだ、暗いのが怖いならついていってやろうか?
もっともこの寺の感じじゃ便所もさぞかし古かろうし、音は丸聞こえだがな……うおっ!?」
高槻の後頭部を思い切りはたいたのは郁乃だった。
「最ッ低!
あんたなんかにちょっとでも勘違いしそうになったあたしがバカだったわ!」
「……? ちょっとでも、何を勘違いしたってんだ?」
「うるっさいわね! それ以上言ったら本気で殺すわよ!」
少し紅潮した頬を誤魔化すように早口で怒鳴る郁乃。
「それより、宮内さん……本当に大丈夫ですか?
何なら私がついていきますけど……」
「No、ダイジョーブヨ」
立ち上がりかけたささらを制するように、レミィが片手を挙げる。
「お手洗いなら、縁側の端にあるっきりだと思うから……」
「サンクス、それじゃちょっとお花を摘んでくるネ」
「お花……?」
「変わった言い回しをご存知なんですね……」
一同が面食らっている間に、レミィは部屋を出て行ってしまう。
閉められた障子の向こうから、歌声が聞こえてきた。
「……やっぱり怖いんだ」
大声でがなりたてられる歌が、遠ざかっていく。
一同は心配そうに歌声の方を見やるのだった。
449 :
雪隠詰め:2006/11/10(金) 01:58:15 ID:6tNyLUx10
「Oh, say, can you see, by the dawn's early light!」
半ば無理やりにひねり出した大声で、宮内レミィは歌っている。
「What so proudly we hailed at the twilight's last gleaming?
Whose broad stripes and bright stars, through the perilous fight!」
曲がりくねった廊下には、明かり一つない。
一寸先も見えない闇の中で、慎重に歩みを進めるレミィ。
「ニッポンの建物なのに、ドーシテこういうときだけ広いデスカ……」
真っ暗な廊下の左右には、幾枚もの障子に隔てられた無人の部屋。
歌をやめると、急に静けさが襲ってきた。
それが怖くて、レミィはまた大きな声を張り上げる。
「O'er the ramparts we watched, were so gallantly streaming!」
おそるおそる歩いていくと、やがて石庭に面した縁側に出た。
月こそ雲に隠されていたが、それでも廊下より明るいというだけで、闇に慣れた
レミィの眼には充分に映った。少しだけ安心して歩みを速めるレミィ。
「OH、あれだよネ……」
縁側の端に、小さな木製の扉が据えつけてある。
それがこの寺で唯一の厠らしかった。
扉を押し開けると、きい、と木の軋む音がした。
中にはやはり、電灯一つついていない。
嫌な臭いの満ちる、狭い空間に足を踏み入れるレミィ。
450 :
雪隠詰め:2006/11/10(金) 01:59:21 ID:6tNyLUx10
「OH、ニッポン式……ニッポンの文化大好きだけど、これだけは苦手ダヨ……」
異臭の中心で真っ暗な穴が口を開けている。
顔をしかめるレミィ。
「ジーザス……オールドスタイルなんて、初めて見たヨ……」
なるべくその穴を視界に入れないようにしながら、そっとスカートの下に手を入れる。
そろそろ汗や汚れが気になってきたショーツを膝下まで下ろして、木製の便器に跨った。
「ウゥ……やっぱり臭い、キツいヨ……」
形のいい鼻の頭に皺を寄せながら、レミィが息をついた、その時。
「―――そう言ってくれるな、これでも色々と使い道があるのだぞ?」
声は、真下から聞こえた。
「―――」
自分の膝が見える。腿が見える。その向こうの向こう。暗がりの、その下で。
目が、合った。
「…………エ?」
驚愕と、恐怖と、困惑。
それらが喉元で複雑に絡まりあって、声が出ない。
「ちょっと反応遅いんじゃないかと思うぞ〜?
お姉さんは異人さんの将来が心配だっ」
kaihi
452 :
雪隠詰め:2006/11/10(金) 02:00:51 ID:6tNyLUx10
言葉と、同時。
放たれた矢はレミィの、むき出しの局部へと突き刺さった。
「……ァ……」
痛み、という感覚は無かった。
ただ、違和感だけがあった。自身の身体から発せられる、あり得ない情報。
その膨大なノイズを、脳が激痛と認識する寸前、絶叫を上げるその直前、
便所の穴から伸びた手が、レミィの足首を掴んだ。
なす術も無くバランスを崩すレミィ。
がつりがつりと便器に引っかかるが、そのまま強引に汚物槽へと引きずり込まれる。
レミィの認識は、いまだに状況についていけていない。
「―――案外広いだろ? これだけ大きなお寺だからさぁ、きっと毎日すごい量の
アレとかアレとかがココに溜まってたんじゃないかと想像しちゃうと楽しくはないかね。
臭いと見た目と衛生面とその他全部を気にしなければ快適空間かもしれないぞ?
っていうかあたしが入居した時には新築同様だったんだけどなぁ、待てど暮らせど
誰も来ないから、ちょっぴり臭いのは全部あちきのです、ごめんなさい敷金は返してくれろ」
一筋の光すら射さない真の暗闇の中で、レミィの口を手で塞ぎながら、楽しげに嗤う少女。
広いとは言うものの、少女二人が入ってしまえば身じろぎする隙間にも事欠く。
肌と肌を密着させたまま、半ば意識を失いかけているレミィの耳元に囁きかける少女。
「さよなら雪隠、また来て異人、ってなもんだ。
ってわけで、そろそろ交代の時間じゃないかと思うんだな、これが。どうよ?」
けーしょーしきぃー、と口ずさみながら少女が魔法のように取り出したナイフの刃が、
レミィの喉笛を掻き切った。
びくり、と震えたその身体が、最後の生命活動を全うしようとする。
453 :
雪隠詰め:2006/11/10(金) 02:01:31 ID:6tNyLUx10
「……あちゃあ、お漏らしが許されるのは中学生までだぞぅ?
ま、健康でよろしい!」
密着した状態では如何ともし難い。
その放尿を最後まで己の下腹で感じとると、
「ぬふぅ、まーりゃん爆誕の瞬間、しかと見よっ」
言いながら便器の淵に手をかけて、少女は鮮血と尿に塗れた身体を引き上げる。
「さーりゃんのためにも、もう少し減らしておきたいところなんだが……ふむ」
ところどころに薄黄色の染みをつけた己の着物の襟に鼻面を突っ込んで、ふんふんと
臭いを嗅ぐ少女。
「さすがにこれじゃあ近づいただけでもバレてしまうぞ……。
……よし、こういうときはお風呂に入って再出撃するに限るっ。
せいぜい不安に慄くがいいぞぅ、諸君!」
厠から出ると、そのまま縁側に降りる少女。
軒下に潜り込むと己のザックを取り出し、石庭を横切って垣根を乗り越えていく。
その姿に、一切の迷いはなかった。
454 :
雪隠詰め:2006/11/10(金) 02:02:15 ID:6tNyLUx10
【時間:2日目午前0時頃】
【場所:F-8 無学寺】
朝霧麻亜子
【所持品:SIG(P232)残弾数(4/7)・ボウガン・バタフライナイフ・投げナイフ・仕込み鉄扇・制服・支給品一式】
【状態:普通。着物を着衣(防弾性能あり)。貴明とささら以外の参加者の排除】
宮内レミィ
【状態:死亡】
所持品:忍者セット(木遁の術用隠れ布以外)、ほか支給品一式は郁乃たちのいる部屋に放置。
高槻自称ry
【所持品:食料以外の支給品一式】
【状況:称号ロリコンストーカー】
小牧郁乃
【持ち物:500S&Wマグナム(残弾13発、うち予備弾の10発は床に放置)、写真集二冊、車椅子、膝にポテト、他基本セット一式】
【状況:不安】
立田七海
【持ち物:フラッシュメモリ、他基本セット一式】
【状況:意識不明】
久寿川ささら
【所持品:スイッチ(未だ詳細不明)、ほか支給品一式】
【状態:健康】
沢渡真琴
【所持品:日本刀、スコップ、食料など家から持ってきたさまざまな品々、ほか支給品一式】
【状態:健康】
ほしのゆめみ
【所持品:支給品一式】
【状態:異常なし】
→283 →372 ルートB,J系
>>451 感謝〜。
「オウ、何だか怖い雰囲気だナ。ムードメーカーエディ様の出番ってヤツダゼ!」
ズジャーン。そんな効果音を引き連れ男女の間に入ったのは、かっこよくポーズを決めたエディだった。
緊張感に包まれた場の空気が緩くなる・・・先に反応したのは、銃身を橘敬介に向け威嚇していた神尾晴子であった。
「・・・うちの嫌いなもん、教えたろか。
肝心な時に女子高生とイチャイチャしてる腑抜けと、空気の読めないお茶らけた奴やぁ!!」
「よせ、晴子っ」
VP70の引き金が引かれようとする、彼女の起こそうとした行動に気づいた敬介が駆け寄るが・・・間に合わない。
空気をつんざく音が響いた、それと同時に「きゃあっ」っという雛山理緒のあげた悲鳴が上がる。
だが、その時にはもう・・・晴子の目の前にいたはずの標的は、消えていた。
「な、何や?」
「何やもくそもナイっつーことだナ。悪いケド、素人に弾当てられるナンテ冗談でもゴメンだぜぇ」
「?!」
正面にいたはずの男は今、晴子の側面に移動していて。
慌てて向き直るものの、すかさず出された手刀で晴子のVP70ははたき落とされてしまう。
「くっ・・・」
「悪趣味でワルイけど、ずっと様子見させてもらってナ。事情は何となく読めたってことヨ」
飄々としたその態度、敬介はただ呆然とそれを見やるしかない。
獲物を手放され、晴子は苦虫を噛み潰したような顔でエディに対し睨みを効かすしかなかった。
「だから何や!これはうちらの問題や、他人が口を挟むようなことじゃあらへんっ」
「イヤイヤ、実はそんなこともなかったりするんだナ。
・・・フム、あんたの獲物はマシンガンタイプじゃナイ、フム。・・・アンタ、ここまでで何人殺したンダ?」
「はぁ?なんでそんなん答えるわけないやろ、いい加減にしい!」
「フムフム。聞く耳は持ってくれない、カ」
「くだらないこと言ってるとしばくでっ」
「ウーン、じゃあ、質問を変えるゼ。人探し中でナ、こういう子達見なかったカイ?」
那須宗一、湯浅皐月、梶原夕菜、リサ=ヴィクセン、姫百合珊瑚、姫百合瑠璃、河野貴明。
彼等の特徴を、エディは細かく説明する。・・・その間、晴子の機嫌がますます悪くなっていったが彼は気にせず話を続けた。
「・・・うちが答えると本気で思っとるん?どれだけ呑気なんや、あんた」
「じゃあ、そっちのニイサン達は?」
「・・・すまない、僕は見てないようだ」
「わ、私もです」
「ソウカ・・・」
「ほんまいい加減にしいや。邪魔なんや、うちの堪忍袋も限界やで!」
「フム。冷静に話すらさせてもらえないってことカイ。・・・まぁ、仕方ないカ」
ギャーギャー騒ぎ続ける晴子を、エディは軽くいなす。
そして、問答の意味がないと理解した時。彼の態度は急変した。
「オバサンの言い分はワカランでもない、オレッチも大事な子は守りたいからナ」
「誰がおばさんやっ」
「でもな、それで手にかけることにより悲しむ人間が新たに生まれるってことを、アンタは理解した方がイイナ」
「うるさい、だからあんたには関け・・・」
歪んだ晴子の表情が、真顔に戻る。
見開いた目が映しているのは、牙を向いた狩猟者の、眼差し。
「アンタは大事な子が生きているから、そういうことが言えるってことだヨ・・・」
一瞬で空気が歪んだ気がした。
おちゃらけているように見えた男の表情が凍てつく、え・・・という呟きが漏れたと同時に、晴子の体は吹っ飛んでいた。
「晴子?!き、君一体何を・・・っ」
固まっていた敬介が慌てて駆け寄る、だがエディの言葉で彼の足は中途半端に止まってしまう。
「大事なコを守るためはいえ、ゲームに乗ったヤツをオレッチは許すワケにはイカナイ」
低い、脅すような台詞。全力でエディに殴られた晴子の意識は既に途切れている、その声は彼女に届くことはない。
だからエディは向き直り、立ちぼうけで何もできなかった男に対し、吐いた。
「・・・この女が次ぎ会った時もコンナ様子だったら、オレッチは容赦しないゼ。
こういうヤツにユカリちゃんが殺されチマッタなんて考えるだけで・・・オレッチ、ハラワタが煮えくり返りそうナンダ・・・」
殺気。晴子を殴り倒したエディの右手が物語る、細かく震え続けるその理由は・・・怒りだ。
ぞっとする。このような場面に今まで出くわしたことのない敬介には、なす術もない。
「・・・アンタの大事な子は無事だといいナ、だけど急いだ方がイイゼ。
さもないと、オレッチの仲間みたいに蜂の巣にされちまうゼ・・・」
その言葉を最後に、エディはこの場から離脱した。
足元に転がっていたVP70は彼が回収した、それを止める者はいない。
残されたのは殴り倒され意識を失っている晴子に、立ち尽くす敬介。
・・・そして、小さく震えているしかなかった、理緒。
苦い顔で拳を握り締める敬介の傍を通過し、彼女は倒れ伏せる晴子の元に近づいた。
殴られた頬は赤く染まっている、口の中も切っているのだろうか赤いしみが草むらにできていた。
「・・・よい、しょ」
肩に腕を回し体を起こす、力の抜けた晴子の体はくたんとなって、理緒一人で運ぶことが不可能であることを表す。
それを見た敬介も、ゆっくり彼女に近づき力を貸した。
・・・とりあえず、気絶した晴子を何とかしなければいけない。
特に行き先を話し合うわけでもなく、二人は村に向かって歩き出した。
「・・・僕は、何もできなかった」
少しずつ進んでいく中、無言の場を先に破ったのは敬介であった。
「それは私も同じです」
「晴子、僕の言うことを・・・聞いて、くれなかった。情けないな・・・」
苦い、苦い呟き。
理緒は、それにかける言葉を思いつけなかった。
・・・役立たずは自分の方だ。何もできなかったのは、自分の方だ。
俯く彼女の様子を、逆側から晴子を支えている敬介は読み取ることはできない。
運よく鍵の開いていた民家に辿りついても、場の空気が戻る気配はなかった。
459 :
補足:2006/11/10(金) 17:28:05 ID:tgT1zd5z0
神尾晴子
【時間:1日目午後11時過ぎ】
【場所:G−2】
【所持品:支給品一式】
【状態:気絶】
雛山理緒
【時間:1日目午後11時過ぎ】
【場所:G−2】
【持ち物:鋏、アヒル隊長(13時間後に爆発)、支給品一式】
【状態:自失気味(アヒル隊長の爆弾については知らない)】
橘敬介
【時間:1日目午後11過ぎ】
【場所:G−2】
【持ち物:トンカチ、繭の支給品一式(中身は開けていない、少し重い)】
【状況:自失気味(自分の支給品一式(花火セットはこの中)は美汐のところへ放置)】
エディ
【時間:1日目午後11時過ぎ】
【場所:G−3(移動済み)】
【持ち物:H&K VP70(残弾、残り14)瓶詰めの毒瓶詰めの毒1リットル、デイパック】
【状態:マーダーに対する怒り・人探し続行中】
B−4の場合、H&KVP70の残弾を16にしてください。
(関連60・318)(B−4)
(関連160・318)(B−9)
「ぷひー! ぷひー!」(おい! 嘘だろ! せっかくまともな飼い主が見つかったってのに!)
ボタンは崖から落ちて息絶えた春原芽衣にすがり、泣き声を上げていた。
「ぷひー……」(どうして……どうしてこんなことに……)
ボタンは芽衣、英二と共に鎌石村に向かっていたはずだった。
そうだったはずなのに、いつの間にか二人と一匹は崖に立っていた。
そして芽衣は、空から降りてきた翼人に妙な術を掛けられ崖下に落とされてしまったのだ。
「ぷひー……」(俺のせいだ……俺がワープポイントに気付かなかったから……)
思えば辛く苦しい日々だった。
力を封印され地上に落とされたところを杏に拾われてから、
ボタンには彼女のオナペットとしての性活が待っていた。
そこには、かつて神をその背に乗せて天を駆けていたころの面影は微塵も残っていなかった。
「ボタン、高速バイブ!」
「ぷひー! ぷひー!」(俺は性猪じゃなくて聖猪だってーの!)
それはまさに地獄だった。
毎日のように彼女のヴァギナを、アヌスを舐めさせられ、
その舌を、前足を、後ろ足を、あるいは全身を入るところまで挿入させられた。
毎日の食事は彼女の愛液だった。
隣の部屋から聞こえてくるおぞましい喘ぎ声を聞き、
向こうよりはましかもしれないと思えることだけが唯一の救いだった。
「ぷひー……」(俺は……これからどうするべきなんだ……)
「うーん、こっちからボタンの匂いがするような気がする……」
藤林杏は匂いを頼りにボタンの捜索をしていた。
朋也2号、3号を失った今、彼女の性的快楽を支える三種の性具はボタンしか残っていない。
なんとしても見つけなければならないという思いが、
彼女の嗅覚を驚くほどパワーアップさせていた。
「ぷひー!」(やばい! 杏がこっちに来る!)
ボタンはまさに性鬼と呼ぶ他ない元飼い主の接近を察知し、震え上がった。
このまま捕まったら、ただのオナニーの道具と成り果てる。
それだけはなんとしても避けなければならない。
しかし今いる場所は崖下の海岸、身を隠す場所などなかった。
「ぷひー……」(万事急すか……)
「匂いが強くなってきたわね。ボタンはこの辺りにいるはず……あっ!」
杏は倒れているボタンを見つけ、駆け寄った。
「やっと見つかったわ。さっきから欲求不満でほんとに辛抱たまらなかったのよね。
さっそくだけど、イクわよボタン! 超高速バイブ!」
そして彼女から、慈悲のかけらもない命令が下された。
・
・
・
「ボタン! 何をやってるのよ!」
杏の怒りの声が響く。何度命じても、ボタンはピクリとも動かなかったのだ。
「ちゃんと振動しなさい! 言うこと聞かないと皮を剥ぐわよ!」
しかしボタンには全く反応がみられなかった。まるで死んでいるかのように。
杏はボタンの脈に手を当てた。
「嘘でしょ……ボタンが……死んでる」
そこに血液の流れは感じられなかった。
彼女は次にボタンの胸に耳を当てたが、心音は聞こえなかった。
「う……そ……」
杏は大いなる絶望に包まれた。
一番の性パートナーの死、受け入れがたい現実に打ちひしがれた。
ボタンの近くには、ひしゃげた誰かの死体がある。
横は断崖絶壁、誰かに突き落とされたのだと杏は判断した。
「誰よ! ……誰がボタンを殺したのよ!」
全ての希望は絶えた。もう何もしたくない。
こんなときはロワちゃんに逃避するに限る。
彼女はパソコンの電源を入れた。
放送保管スレッド
1:びろゆぎ@管理人:一日目 21:02:47 ID:haKarowa3
このスレッドでは、聞き逃した方、もう一度聞きたい方のために定時放送などをアップロードしていきます。
「そういえば、さっきなんか放送あったわね。オナニーに夢中で全然聞いてなかったけど」
別に放送の内容なんてどうでもよかったが、一時でも気を紛らわしてくれればと、
彼女はアップされた放送を聞いてみることにした。
それが彼女にさらなる絶望を突きつけることになるとも知らず……
────────────────────────────────────────────────
───厚生労働省、特別人口調査室の榊です。今回の参加者の権利発生に関するお知らせを致します。
住民基本台帳番号33218802のバトル・ロワイヤルに参加中のの岡崎朋也さん、
住民基本台帳番号33218802のバトル・ロワイヤルに参加中のの岡崎朋也さん。
10月14日に住民基本台帳番号33218802の岡崎がこっそりと市役所に婚姻届だしていた
住基番号38221088番の岡崎智代さん、旧姓坂上智代の死亡が、午後12時32分に確認されました。
配偶者死亡の為、180日後の3月25日、午後12時33分を持って岡崎様に再婚を行える権利が発生した事を
ここにご報告申し上げます。
────────────────────────────────────────────────
放送を聞いた杏は、あまりの内容に意識を失いかけた。
「朋也が……結婚? 智代と? 何よ……それ」
朋也はあたしと付き合うはずだったのに
朋也はあたしと結婚するはずだったのに
朋也のために処女も大切にとってたのに
「あはははははははははははくぁwせdrftgyふじこlp!!」
希望は全て絶えたと思った。そんなの嘘だった。
性的欲求解消の術を断たれることなんて、その源を断たれることに比べたらどうということもない。
自分は誰を想い、何のためにオナニーをしてきたのか……
そんなの決まってる……
朋也への愛のため。
「もういい! みんな死んでしまえ!! 朋也も椋もことみも渚もみんなみんな殺してやる!!
くけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけ
けけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけ
けけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけ
けけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけ!!!!」
杏は奇声を上げてその場を走り去った。
「ぷひー」(助かったぜ……なんかパソコン忘れてったみたいだな)
杏がいなくなったのを確認し、ボタンはそっと起き上がった。
「ぷひー」(まさか心臓を千年に1回しか動かさない技が役に立つ日が来るとは……いや待て)
そしてボタンはおかしなことに気が付いた。
力が封印されているのなら、こんな技が使えるはずがないのである。
「ぷひー」(もしや封印が……)
ボタンの毛の色が金色に染まっていく。
それと同時に、ボタンはこの島にいるもう一匹の獣の気配を感じ取った。
「ぷひー! そうか、我が宿敵ポテトの封印も解けたか!
ついに決着を着ける時が来たぜ。待っていろ、すぐにそちらに向かってやる」
【時間:午後9時半ごろ】
藤林杏
【場所G−03】 【持ち物:包丁、辞書×3(英和、和英、国語)、支給品一式】
【状態:オナニーマスター、朋也を殺す】
ボタン
【場所H−03上空】 【持ち物:ノートパソコン(充電率90%)】
【状態:聖猪(飛行能力あり)、ポテトと戦う】
→351, →361, ルートD
465 :
疑心暗鬼:2006/11/11(土) 00:09:09 ID:HeU+7QOQ0
雅史と椋は途中に何回か小休止を挟みながらも歩き続けた。
あの廃屋では役に立ちそうな道具は無いし、人通りも無く情報も集めれない。
いつまでもあそこで休んでいるわけにはいかなかった。
(お姉ちゃん、朋也くん……どうか無事でいてくださいね……。)
椋の体力は限界を越えていたが、それでも椋は雅史の制止を受け入れる気配を見せなかった。
今椋が考えている事は、早く杏と朋也に会いたいという事だけだった。
一心不乱に歩き続けた甲斐もあって、どうにか椋達は氷川村へと辿り着いた。
だがその時には椋はもう、動き回れるような状態ではなかった。
「椋さん、お姉さん達を探すのは明日にしよう?」
「でも……。」
「これだけ暗いのに動き回ってる人は少ないだろうし、危ないよ。しっかり休んで、明日の朝探そうよ。」
それでも椋は渋ったが、最後には折れた。
まず近くにあった民家に雅史が侵入し、安全を確認してから椋を招き入れる。
民家には生活に必要な物は一通り揃っており、台所から食料、水、包丁などを手に入れる事が出来た。
そして民家の奥にある一室の扉を開けると、机の上にある物がおいてあった。
「これは…ノートパソコンだね。」
「そうみたいですね。雅史さんはパソコン使えるんですか?」
「ちょっとだけならね。少し調べてみるよ。」
電源ボタンを押すと、パソコンが立ち上がった。
デスクトップに『参加者の方へ』と書かれたフォルダが置かれてある。
「これは何だろ?」
他にめぼしい物も無かったので雅史はそのフォルダを開き、中に入っていたchannel.exeをクリックした。
「!?」
いくつかあるスレッドの中で最も目を引かれたもの
―――――死亡者報告スレッド。
雅史は大慌てでそのスレッドを開いた。
雅史のすぐ後ろでは椋が食い入るように画面を見ている。
466 :
疑心暗鬼:2006/11/11(土) 00:09:47 ID:HeU+7QOQ0
「酷いな……。」
それが雅史の感想だった。
杏や朋也、浩之やあかりの名前は無かったが、雅史と椋の気分は沈んでいた。
ゲーム開始から13時間、まだたったの半日程度しか経っていない。
だがそれだけの間に、もう30人以上の人間が命を落としていた。
改めてこのゲームの恐ろしさを実感させられる。殺し合いは決して人事ではないのだ。
詩子と椋の揉め事は雅史とセリオの介入のおかげで事無きを得たが、雅史とセリオがいなければどうなっていたか?
あまり考えたくない事だったが、殺し合いになっていた可能性も十分あるだろう。
椋も詩子もゲームに乗っていなかったにも関わらずだ。
何も敵はゲームに乗った者だけとは限らないのだ。
僅かなすれ違いで、やる気の無い者同士でも殺し合いに発展してしまう可能性がある。
雅史はいつの間にか冷や汗を掻いていた。
何とか気を取り直し、次のスレッドを開く。
「…お姉ちゃん!!」
―――――自分の安否を報告するスレッド
そこに最初に書き込まれていたのは、杏によるものだった。
杏らしい、全く希望を捨てていない気丈な文章。
書き込みの時間は随分と前だが、杏の名前は死亡者スレッドに無かったしまだ無事だと考えていいだろう。
「椋さん良かったね、お姉さん元気そうじゃないか。」
「はい!」
雅史と椋の顔に笑顔が戻った。
だがそれも長くは続かなかった。
次の書き込みを見た瞬間、二人とも凍り付いていた。
「そ、そんな………。」
天野美汐という人物の書き込みによると、橘敬介という男がマーダーであるようだった。
467 :
疑心暗鬼:2006/11/11(土) 00:10:33 ID:HeU+7QOQ0
それも最初は友好的な態度をとっていたのに、突然裏切るという、極めて悪質なマーダー。
当然そのようなマーダーがこの男だけとは限らない。
出会い頭でお互い警戒している時は危険なのは分かっている。
だが仲間になった後も、裏切られるかもしれない。
その事実に二人は凍り付いていた。
何とか落ち着いた後も、椋と雅史は頭を悩ませていた。
杏や朋也が単独行動なら、何も問題無い。感動の再会だ、めでたしめでたし。
だが、もし杏や朋也が複数で行動していたら?橘敬介のようなマーダーに騙されていたら?
一緒に行動すれば、自分達も殺されてしまうだろう。
いや、それすらも楽観的な考えでしかない。
杏や朋也、浩之やあかりですらも、ゲームに乗っていない可能性が0とは言い切れないのだ。
そんな考えは主催者の思う壺だと分かってはいるが、完全に否定する事は出来ない。
何せ、既に30人以上もの人間が死んでいるのだから。何が起きても不思議ではない。
一旦疑いだすとキリが無かった。このゲームは本当によく出来た、タチの悪い死のゲームなのだ。
「雅史さん……。」
椋が不安そうに、雅史の腕を掴んでくる。
雅史は黙って、パソコンの電源を落としていた。
「椋さん……今日はもう寝よう。」
雅史はとにかく今は眠る事にした。
本当は、きっと大丈夫と言ってあげたかったけど。
雅史自身不安は拭いきれていなかった。
468 :
疑心暗鬼:2006/11/11(土) 00:11:04 ID:HeU+7QOQ0
【時間:2日目00:30】
【場所:I-07】
佐藤雅史
【持ち物:金属バット、支給品一式(食料二日分、水二日分)】
【状態:睡眠中、疑心暗鬼】
藤林椋
【持ち物:包丁、参加者の写真つきデータファイル(内容は名前と顔写真のみ)、支給品一式(食料二日分、水二日分)】
【状態:睡眠中、疑心暗鬼】
【関連089・224・326、ルートB-11】
「殺す……殺す殺すコロス弧ロス故lossゥゥゥゥ!!」
貧乳で年増で偽善者だった鬼が、恐るべき勢いで祐一へと迫る。
だが『究極の一』の名を冠する存在は動じない。
その美しさに星々さえも恥らって姿を隠すといわれた眉筋一つ動かすことなく、
鬼の突進を紫水晶の瞳に映している。
凄まじい速さで繰り出された鬼の爪が、その人類至高の美と謳われたかんばせを
引き裂くかと思われたその刹那。
祐一は、驚くべき行動に出た。
「シャァァァァッ―――……え……?」
コンクリートすら轢断する鬼の爪の一撃を、片手で事も無げに受け止めてみせたのである。
掴んだ手を優しく引き寄せる祐一。
何が起こったのか理解する前に、千鶴は祐一の胸に抱かれていた。
(……温かい……)
細身でありながら、しっかりと筋肉のついた胸の力強さに頬を染める千鶴。
そんな千鶴の耳朶に、甘やかな声が反響する。
「俺はお前と戦いたくはない―――」
そのどこか憂いを含んだ美しい声に、千鶴は思わず顔を上げる。
間近で見るその瞳は、夜明けの地平線を思わせる深い色合いの紫色をしていた。
街を歩くだけで幼女から老婆までを濡らすと噂されたその至宝に、思わず
吸い込まれそうな感覚を覚える千鶴。
(なんて……哀しい色……)
千鶴の唇が震える。
祐一の瞳に、永い旅路の中であらゆる人々の嘆きを受け止めてきたかのような
悲哀を見て取ったのである。
知らず、千鶴の目から一筋の涙が零れた。
その涙を、祐一の白くたおやかでありながら絶対の力強さを感じさせる指が掬い取る。
「自分を見失うな……お前のすべては、お前の生きてきた証でもある―――」
その声は、天上からの託宣にも似て千鶴の脳裏を軽やかに侵す。
「だから、……まずはお前自身が、お前を愛してやらなくちゃな」
愛。
あらゆる生と死、喜びと哀しみをその身に背負ってきた祐一の口から発せられた
その言葉は、荒れ狂っていた千鶴の心を見る間に融かしていく。
「お前―――、名前は」
「え、ち、ちっ……」
焦りすぎて舌を噛んでしまう千鶴。
恥ずかしさに紅潮し、眼にいっぱいの涙を溜める。
そんな千鶴の様子に微笑んで、祐一はその腕に少しだけ力を入れる。
「え……きゃっ」
「―――落ち着いたか?」
祐一の胸に顔を埋める格好になる千鶴。
心臓は早鐘のように高鳴っている。
「……か、かしわぎ……」
「うん」
「柏木……千鶴、です……」
頬を真っ赤に染めながら、ようやくそれだけを口にする千鶴。
気恥ずかしさに顔を上げられないでいる。
そんな千鶴の顎に軽く指を添えて、上向かせる祐一。
「あ……」
「千鶴、か―――。綺麗な、名前だな」
そう言った祐一の表情は、どこまでも優しい。
「俺は―――祐一、相沢祐一だ」
「祐一……さん」
その名を心に刻む千鶴。
運命という単語の意味を、たった今理解したと、そう思う。
だが、
「あ……」
千鶴を抱きしめていた祐一の身体が、離れていく。
祐一のぬくもりが、夜気に晒されて消えていく。
「―――俺には、やらなければならないことがある」
「そんな……」
「―――千鶴。お前にはお前の、すべきことがあるはずだ」
「……はい」
「きっとまた逢えるさ。……お互いの道の果てで、な」
その言葉を最後に、祐一は千鶴に背を向ける。
次第に離れていくその背中を、千鶴はいつまでも見つめているのであった。
……そんな二人の様子を、半ば頭を抱えながら見ていた者がいた。
「あちゃー……千鶴さん、そんなのに引っかかったらダメだってば……」
みずかである。
星明りもない夜の中にあって、ぼんやりと輝く少女はしかし、千鶴にも
祐一にも認識されることなく、そこに存在していたのであった。
ぼんやりと祐一の去った方を向いたまま立ち尽くしている千鶴の姿を見て、
みずかはひとつ溜息をつくと大儀そうに立ち上がる。
とことこと歩いて千鶴の前に回り込むと、靄のかかったような千鶴の瞳の前に
指を差し出し、ぱちんと弾いた。
「……はい、ここからはみずかちゃんの設定紹介コーナーだよ。
今、千鶴さんをどうでもいいお説教一発で恋の奴隷に変えた優男が相沢祐一。
U−1って呼ぶ人も多いわね。
彼は偉大な魔法使い、……だったわ。かつてはね。
その話をする前に、彼の特性をちょっと補足しときましょうか。
祐一の『祐』は『誘』に繋がるの。誘惑の誘、ね。
つまり相沢祐一の本質は『魅了』、チャームなんだよ。
そのあまりにも強すぎる魅了の力に、世界すらも彼の虜になってしまった……それが、
彼の無敵の秘密だったのよ。世界に愛されている……それがあの人の強さだったの。
……『だった』、つまり過去形なんだけど。
彼を愛していた世界なんか、もうとっくの昔に死んでしまっているのよ。
まぁそこら辺は長くなるから省くけど、色々あって彼はもうかつての彼とは
実はまったくの別物なの。
今のアレは、『魅了』という概念そのもの。
誰かを、何かを好きになるっていう心、そのものに近い存在ね。
そんなものに正面から向かっていったって、そもそも勝てやしないの。
自分の中の、何かを好きになるっていう心と向き合って勝つなんてできないんだから。
……たぶん、誰であろうと、ね。
だからとにかく、そんな人に引っかかっちゃダメだよー」
kaihi
一気に喋り終えると、みずかはもう一度千鶴の目の前に指をかざし、打ち鳴らした。
「……え? わ、私は……一体……?」
きょろきょろと辺りを見回す千鶴。
靄がかかっていたような瞳は、すっかり晴れている。
「―――で、こっからがみずかちゃんの悪魔のお誘いコーナー」
「……!?」
声は背後から。
慌てて振り向く千鶴。そこには、一人の少女が立っていた。
千鶴はそのぼんやりと輝く不可思議な少女の気配を、今の今まで感じとれなかったことに驚愕する。
「あなた、一体どこから……!」
「そんなことはどうでもいいの。……単刀直入に訊くね」
言葉を切って、上目遣いに千鶴の表情を窺う少女。
悪戯っぽい笑みを浮かべながら、少女はこう続けた。
「―――ねえ、力が欲しくはない?」
【時間:2日目午前1時ごろ】【場所:H−08】
相沢祐一
【持ち物:世界そのもの。また彼自身も一つの世界である。宝具・滅神正典(ゴッドイズデッド)、護符・破露揚握琴】
【状態:真唯一者モード(髪の色は銀。目の色は紫。物凄い美少年。背中に六枚の銀色の羽。何か良く解らないけど凄い鎧装着)】
みずか
【状態:目的不明】
柏木千鶴
【所持品:アイテム不明・支給品一式】 【状態:異常なし】
備考:公子に瑞佳、詩子と梓の荷物は辺りに放置。
→408 ルートD-2
みずかって神奈のしもべじゃなかったっけ?
目的不明?
,.-'" ̄ /"/ / / /| /| / |!,| |、',',\ ト、 ';.| l ',ヽ . ( 嫌 生 無 こ
/ / / ,,./ / , | / |/ |/,,ノ| ヽ. |` `iー-|!ヽ', l| | i |/ ) で .き .視 れ
'///./ | | !,.:T''工!、'' ヽ! ー ,-::、!''ト、 ! | ト |_.( す て .さ 以
/'´ / / ,| | !,ィ込ク _, i! 上ひマァ|l|. | !|X ).! い .れ 上
| /! /| ∧ ト!┴'¨;;;;;:: , ......... 、 ::;;;; ̄ レ'| | ! ̄ヽ( く .な
|l ,l || | ト! /´ ̄ ̄.`'., | | l| ) .の が
|!/ l| !∧ |l ', /'" ̄ ̄ ̄`', ,' .l | |l ( .は .ら
,-、 ,-、 / ト.| | ヽヽ';, | | ,.' /l | ll |__∧.〜〜〜〜´::::
/ 〉 ノ ノ `ヽ|| l| ト':, 、ー-----一 ,. ,:'/'" ! ! l l| l /ヽ \ ! !
/ ,' / ./ , -!| l|. | ト''::、 ~ ,..:::'' | l | l |.|(~`< ヽ ', l ',
| | / ./ ,.-''" ノ!| | |__.|┘|"''ー:;;;,,,..:::''"|l |_/ / l |一`ヽ、\ | !.| !..、
(`| レ’ /_./ ,. -'".-ァ! | | |,.-r! ;::: .|--、 / / / /ヽ`ヽ、 \ `┘ ` | /
丶! く..-'",,イ | | |''" ヽ、 ソ ヽ/ // / ./ \ `''" /
| /´ || || | \ / / // / / ヽ /
! | ,l| ll | ,rΥく // / / / | /
l | /|! ll | / O| \ // / / \ l /
l .| / |l ll | / | \// / / 丶 !. /