ダッ!
千鶴が大きく斜め横に踏み出した。
ドガンッ!
耳を劈く大音が響く。
その熊殺しの銃弾は既の所で当たらず、近くの茂みをすっ飛ばした。
(やはりまともに喰らったら危ない……)
イルファは照準を変更しつつも自分も下がり、再び
ドガンッ!
その一瞬前に地を蹴り、千鶴は再びかわす。
(この距離なら……何とかかわせる……)
相手が下がった分の距離を詰める。
ドガンッ!
かわす。
(掠るだけでも吹っ飛びかねない……)
何でこんなものを配給するのか。
舌打ちしたくなるが、そんなことに割く余力が勿体無い。
カチンッ
遠くまで響くその音。
真横に避けたが銃弾は飛んでこなかった。
(……次っ!)
その目は、勝機を見つけて輝いた。
イルファは下がりながらポケットから銃弾を取り出し、交換する。
その顔は凍て付いて、宛ら修羅の様であった。
(私も、同じ顔をしているのかしら……)
考え事はここまで。
イルファが銃弾を変え終わる。
後は殺すだけ。
ドガンッ!
(一っ!)
斜め後ろに飛び退く。
イルファは僅かに前方に来て、第二射をした。
ドガンッ!
(二っ!)
既の所で真横にかわす。
直撃した細い木が音を立てて折れる。
関係ない。
ドガンッ!
(三っ!)
斜め前に飛び出し、一気にイルファに迫った。
彼我の距離は目測で約15メートル。
カチンッ!
四は、無い。
イルファは飛び退りながらポケットに手を伸ばす。
ビッ
千鶴の右腕がイルファのポケットを裂く。
「あっ!」
イルファが声を上げる。
もう、遅い。
千鶴の左腕が大きく上がり、振り下ろされる。
イルファが左腕で受ける。
ガッ!
ギンッ!
金属質のものが立てる独特の音を上げ、イルファの左腕が動かなくなる。
それでも、残る右腕で震えながら銃を千鶴の胴体に向ける。
「……弾の無い銃はただの鉄塊です。諦めて死んでください」
「そうですね……」
イルファは引き金を引いた。
ドガンッ!
「ガッ!?」
悲鳴ではない。
ただ空気が漏れただけ。
吹き飛ばされた上半身が内臓を撒き散らしながら血の跡を引く。
(何故!?)
下半身も飛ばされていた。
上半身とは別の所に。
血溜まりが異常な速さで広がっていき、それでも未だ千鶴は生きていた。
肺が消え、心の臓が半分飛ばされても、それでも未だ千鶴は生きていた。
イルファが大きな石を右腕だけで持って近付いてくるのが濁った目に見えた。
連回
「貴女の死因は三つです……」
自分の掠れた血流の音と、その声以外に聞こえるものは無かった。
「一つは、この銃を知らなかったこと」
その石をどうするのだろう、と考える思考も最早無かった。
「二つは、刺せる止めを一瞬で刺さなかったこと」
ただ、ただ痛くて、その痛みも段々薄らいで、同時に視界が暗くなりボーっとした音だけが聞こえるようになって来た。
「そして、三つ……」
視界が、閉じ―――――
「瑠璃様と珊瑚様を、殺そうとしたこと」
グシャッ!
イルファは、その石を千鶴の頭に思い切り振り下ろした。
一度大きく身体が跳ね、そして動かなくなった。
「瑠璃様……珊瑚様……今、行きます……」
動かない左腕を抱えて、イルファは立ち上がる。
「絶対に……守りますから……」
イルファ
【持ち物:デイパック*2、フェイファー ツェリスカ(Pfeifer Zeliska)60口径6kgの大型拳銃 5/5 +予備弾薬5発(回収)】
【状態:左腕が動かない、珊瑚瑠璃との合流を目指す】
柏木千鶴
【状態:死亡】
ウォプタルは逃走