ToHeart2 SS専用スレ 17

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783名無しさんだよもん:2006/12/10(日) 19:30:35 ID:XYOMA+zc0
うふっ

散々迷って郁乃が選んだ、ラグビーボール大のウリ坊のぬいぐるみ。
「可愛い、かなぁ?」
妹の美的感覚に若干疑問を投げかける姉。
「それはわからないけど、なんとなく」
「なにかのキャラクター?」
「札に名前が書いてあるから、たぶん」
「猪にボ×ンって、すごい名前だね」
プレゼント用に包装して貰い、デパートを出る。
「渡すのは、明日ね」
「貴明くんに電話して、家の場所教えて貰おっか?」
「そこまでしなくていい」
二人で駐車場に戻りかけた時。
「メーロンっ♪バナナっ♪スっトロっベリーっ♪トっリプっルだ〜い♪」
ここ一週間ですっかり馴染みになった、歳の割に幼い声が聞こえた。

「うぅ、お金が……プレゼントは来月でいいな?」
自分のアイスを舐めながら、貴明が財布をポケットに戻す。
「むむっ、利子はトイチだよっ」
「十一の意味知ってるのか?」
「え? えーっと、頭を使えってこと?」
「そりゃとんちだ」
「うーん、とにかく、この燦然と輝く三段重ねに免じて許してあげるよ」
「そりゃどうも」
「へへへ〜、どこから食べよっかなぁ〜、あっ!!」
このみの手にしたコーンから、アイスの玉がこぼれ落ちた。

好事魔多し。
振り回したんだから、自業自得ともいうが。
「う、うぁぁぁ゛ぁ゛ぁ゛……」
笑ったカラスがもう泣いた。
「なにやってんだか」
遠目にその様子を視界に収めた郁乃が呟く。
「賑やかだねぇ……いこっか」
愛佳が車椅子を押して二人に近づこうとする。

が、唐突に、足が止まった。

「た゛、だがぐぅ゛う゛う゛う゛ん゛ん゛ん゛」
シングルと1/3くらいになったアイス片手にこのみが振り向く。
残り1と3分の2は路上で地熱に溶けている。無残。
「なにやってんだよ」
「だ゛っ゛で゛え゛え゛え゛」
「もう金ないから。半分残ってるからいいだろ」
「う゛う゛う゛……せめてイチゴが……」
一番上だった。
「あきらめろって」
このみの執念に呆れつつ、自分のを囓る貴明。
実はストロベリー。
「……」
その様子を、じっと見つめていたこのみ。

丁度、愛佳と郁乃が声を掛けようかというあたり。

「てりゃっ!」
不意打ちで、貴明の持っていたアイスに飛びついた。
「うわっ、危ないって」
「はぐはぐ」
「ったく、しょうがないなあ」
体の正面に絡みついてくるこのみに、苦笑しながらアイスを差し出す貴明。
「えへ。代わりにメロンを食べることを許可するであります」
ひょい、と突き出されるコーンに釣られて、貴明は緑色の部分に噛みつく。
往来のど真ん中で互いにアイスを食べさせ合う、いささか親密な光景。
786名無しさんだよもん:2006/12/10(日) 19:38:10 ID:+BIjAXz90
支援
「っと」
一瞬、車椅子がフリーになって、郁乃は慌ててハンドリムを押さえた。
「あっ、ご、ごめんっ」
グリップを離してしまった愛佳が謝る。
「あ、あのさ、あたし邪魔するといけないから、郁乃行ってきなよ」
喉に詰まったような声で、先に車に戻ってるから、まで絞り出すと、そそくさと前方の二人に背を向ける。

「うーん、タカくんもダブルかトリプルだったら、もっと食べれたのに」
「だから金がないんだって」
そんな事はつゆ知らず、賑やかにこのみと貴明。
「……」
二人を眺める郁乃から、表情が消えていく。
くるり。
少女はその場で器用に車椅子を転回させると、車に戻る姉を追った。

「あ、あれっ、プレゼント渡さなくていいの?」
横に並ばれた愛佳、逆に慌てる。
「……」
「あっ、あのね、このみちゃんと貴明くんなら気にしなくて大丈夫だよ」
「……」
「ちっちゃい頃からあんな感じだっていってたし、海でだって」
「……」
「仲が良い兄妹って、うらやましいよねえ」
「……」
「いやっ、別に郁乃が冷たいとかいってるわけじゃなくてね……」
「どこまで行く気?」
「えっ?」
足を止めた愛佳に、短いクラクション。
駐車場の入口が、5メートルほど後方になっていた。
翌朝も、このみと貴明は小牧姉妹を出迎えた。
「ちゃんと渡しなよ、プレゼント」
「う……」
姉の念押しに、後部座席で意思のない声を出す郁乃。
膝には、昨日買ったぬいぐるみの包みがある。
「はい。いってらっしゃい」
停車。
愛佳が先に降りてトランクから車椅子を用意する。
「郁乃ちゃん、おはようっ!」
郁乃が車から出るのを待たずに、このみがやってくる。
「あ、危ないっ!」
それに気づかずに、後続の車が突っ込んできた。
「わわっ?」
「このみっ!」
車の前に飛び出しかけた少女を、貴明が引き戻す。
勢い余って、貴明の腕の中に倒れ込むこのみ。
「とととっ」
「急に飛び出すなよ」
貴明がぽんぽんと幼馴染みの頭を叩く。
「うん……」
このみの頬が赤い。まだ、幼馴染みの腕の中。

「お、おはよう、貴明くん、このみちゃん」
愛佳の声が、少し揺れていた。
「ふぇっ、おはようございますっ!」
「おはよ……ぐげっ!」
その声に、慌てて飛び離れたこのみの頭が、貴明の顎を直撃。
「ひたひ(痛い)」
「それはこっちの台詞」
「ぅぁ……朝から元気ですねぇ二人とも……はは……あれ? 郁乃?」
いつのまにか、郁乃と車椅子が消えている。
愛佳が覗き込んだ後部座席には、紙包みが置き去られていた。

「郁乃ちゃん、どうしたの?」
「まだ、慌てるような時間じゃないぞ」
「トイレ?」
一人で先に行っていた郁乃に、三人が追いつく。
「別に……」
郁乃の様子は、特に普段と変わらない。
昇降口まで、普通に四人で歩き、いつものように二手に分かれる。
だが、昇降口。

「あっ、郁乃ちゃ……」
郁乃は、このみに車椅子を触らせなかった。

そのまま廊下も自走。結構、速い。
「ちょ、ちょっと待ってよー」
追いかけるこのみを、郁乃は振り向こうともしなかった。
教室に入って、黙って自分の席につく。
遅れてこのみが、隣の席に座る。
「きょ、今日は1時間目から数学だね、嫌だなー」
反応なし。
「あとで宿題の答え合わせしようねっ」
応答なし。
「い、郁乃ちゃん、どこか悪いの?」
「このみ」
郁乃がようやくこのみの方を振り向いた。
真っ直ぐに、射るような視線。
「う、うん」
思わず畏まったこのみに、郁乃は言い放った。

「もうアンタとは、口、利かないから」
790名無しさんだよもん:2006/12/10(日) 19:43:56 ID:hceZdq5o0
以上です。長くなってすみません。しかも玲於奈そっちのけ
>772>773>783>786さん支援ありがとうございました。確かにお久しぶりですw
今回は連投規制食らいまくったので大助かりでした。

えーっと、誰も気にしてないかも知れませんがこの場を借りて少し謝罪を。
PS版鳩やってないので知りませんでしたが、緒方理奈はまーりゃん先輩と同学年(寺女中退)だそうで
鳩2時点では冬弥と知り合ってないようです(素直に読めば、出会いは1年後の11月でしょうか)
他にも随所でこのみの「タカくん」「ユウくん」呼びに「君」が混じったり、
第1話に遡るとカスミの「コクコク……。」が「……コクコク。」になってたり。とか色々無数にw

話や文がつまんないとかキャラが違うとかってのは力量の問題で頑張るしかないけど
こういう設定的なとこを外すのは避けたいと反省。でも良く見落とすし忘れる。南無三
791名無しさんだよもん:2006/12/10(日) 19:46:52 ID:jfJwAJ4T0
>>790
乙&GJ!
その終わり方はかなり拷問ですね。次に期待してます。
792名無しさんだよもん:2006/12/10(日) 20:04:22 ID:hceZdq5o0
あ、誤字発見。>782の下から8行目「妹の方」は「妹の肩」の間違いです。よしなに。
793名無しさんだよもん:2006/12/10(日) 21:40:25 ID:EbZE/aUo0
>>790
うおー乙です
郁乃のかわいさは異常
794名無しさんだよもん:2006/12/11(月) 00:06:41 ID:4h95mTwO0
>664 >708 の件、
修正しました(と思う…)。長らく放置してすいませんでした。
報告いただいた方々、どうもありがとうございました。
795名無しさんだよもん:2006/12/11(月) 00:11:52 ID:HIk/G/gJ0
>794

乙 いつもありがとう。
796名無しさんだよもん:2006/12/11(月) 00:12:19 ID:RY/pv/JY0
ちょっと書き溜まったし、さわりだけでも上げてみるかと思い、
あらためて読み直したらなんだこれって感じだった。萎えるぜ……。
DIAに関する考察とか誰が読むんだ。もっと手直ししようと自己完結。
797名無しさんだよもん:2006/12/11(月) 18:16:56 ID:8oWm1K130
           ,...,_
       γ'',, '''…、
      〆.'  ' ̄'' ヽヽ
     . i;;i'       'i;i
     .i;;;i'  u     .i;
     .i;:/ ..二_ヽ '_二`,::
     l''l~.{..-‐ }- {.¬....}l'l
     ヽ| .`ー '.  `ー ´|/
      |   ノ、l |,ヽ .ノ   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
       ヽ~(、___, )ノ  < これはねえ、やっぱり、くるうてますよ
       /|.ヽ..__ ___/|    \自作自演してる人の顔見て御覧なさい、ほうけとるしねえ、
     /l \  //l\    \目がポ〜っと浮いてるでしょ、こりゃ基地外の目ですわ。
       ヽ \/ /       \___________
        \/▽ヽ

798河野家にようこそ の作者:2006/12/11(月) 21:15:05 ID:sXUUouOzO
どうもです。
またプロバイダがアクセス禁止食らってしまいました。
解除されたら投稿します。
799名無しさんだよもん:2006/12/11(月) 22:32:01 ID:uhMIMaP/O
河野家の人も丸ノ内OCNでつか?

こちらも都内でOCNの光なんで今朝から規制喰らってまつorz
800名無しさんだよもん:2006/12/12(火) 04:17:00 ID:XBhS9jQw0
すごいな ここは
ほとんど単発ID、それも変質者的発想のキモレスだけで会話が進行。
書き込まれるときは同時間帯の連投

典型的な変質者による自作自演進行スレですな…カワイソス
801名無しさんだよもん:2006/12/12(火) 05:12:01 ID:i0QLJY6X0
白詰草氏が頑張って荒らしを報告中。
みんなも白詰草氏にはいろいろと世話になったのだから、頑張って氏を応援してほしい。

leaf:Leaf・key [レス削除]
http://sakura02.bbspink.com/test/read.cgi/housekeeping/1157074655/304-
802名無しさんだよもん:2006/12/12(火) 09:23:41 ID:O3bQn4EW0
>>790
GJ! 身悶えしながら待っています。
803名無しさんだよもん:2006/12/15(金) 06:05:18 ID:OIlj3fX20
       /^i,,、,、/^i    _
    ヽ'       . , '´,   ヽ 、
    ミill ´ Д `;<^(゚w゚)ノハヾ^、
  ハ,_,ハ       ´Wリ(i!゚ ヮ゚ノv'`  
 ,:'  ´Дnと      ミ⊂)卵!つ△
 ミ;:,っu_,,っ,、_、、,,,_,、,,;;,彡く,f∂∂
804名無しさんだよもん:2006/12/17(日) 21:30:49 ID:Dd5sZJJ00
保守
805河野家にようこそ 第84話(1/9):2006/12/18(月) 20:45:54 ID:aB9tqABV0
 薬を飲んで一眠りして、目が覚めたら真夜中。眠れない俺はとりあえず牛乳を飲むことにした。
 そんな俺に何故かついてきた瑠璃ちゃん。花梨に怖い話でも聞かされたのか、眠れず、おまけに
トイレにも一人じゃ行けなかったようで。
 居間に行ったらソファーで寝ていたこのみ発見。何でもおじさんと春夏さんが急に出かけてしまい、
タマ姉にお願いしてここに泊めてもらったそうな。で、前から俺の寝床で寝てみたかったからここで
寝ていたとのこと。物好きなヤツ。
 このみ、瑠璃ちゃんと三人で牛乳を飲み、物憂げな瑠璃ちゃんに俺は、家に帰りたいかと尋ねて
みる。てっきり素直に肯くと思ってた俺だったが、瑠璃ちゃんはそれを思うと気持ちがモヤモヤする
らしい。きっとそれはこの生活への愛着で、それは瑠璃ちゃんにとってはいいこと、と、思いたい。
 瑠璃ちゃんと話しているうちにこのみが寝てしまい、二階に上がるとタマ姉が待ちかまえていた。
頬をつねられベッドに連行される俺。るーこたちの部屋に戻るのが怖そうな瑠璃ちゃんを見てタマ姉
は、「こっちにいらっしゃい」と瑠璃ちゃんを迎え入れた。

 先にベッドに寝かしつけられた俺。となりを見ると、タマ姉と瑠璃ちゃんが一緒のベッドで寝よう
としている。
「タマ姉」
「なに、タカ坊?」
「瑠璃ちゃんにイタズラするなよ」
 するとタマ姉、ベッドから降りて、
 ぎゅ〜〜〜っ!!
「あいひゃひゃひゃひゃひゃ!! い、痛い痛い痛い!!」
 も、もの凄い力で頬をつねられましたよ!?
「ひ、酷いよタマ姉、病人に対してこの仕打ち!」
「あら、もう熱は引いたんでしょ?」
806河野家にようこそ 第84話(2/9):2006/12/18(月) 20:46:47 ID:aB9tqABV0
「ぐ……」
 くそっ、言い返せない。
「馬鹿なこと言ってないでさっさと寝なさい。じゃあお休み、タカ坊」
 そう言って自分のベッドに戻るタマ姉。と、その向こう側から、
「お……、お休み、貴明」
「うん、お休み、瑠璃ちゃん」

 朝。天気は快晴。そして俺の体調は――
「36度ちょうど。うん、下がったわね」
 よっしゃ! 風邪、完治!! 俺は勢いよくベッドから飛び起きようと――
「ダメよ」
 タマ姉に押さえつけられる。
「な、何でだよタマ姉!? 俺もう大丈夫だって!」
「ぶり返すことだってあるんだから、急にはダメ。今日は一日安静にしてなさい」
「え、えええ〜? じゃ、じゃあ、今日も一日ずっと寝てないとダメなの? 飯もお粥だけ?」
 うう、せめて飯は普通のが食いたいよぉ。今だって腹の虫がグーグー鳴ってるし。
 あまりの悲しさに目が潤む。そんな俺を見てタマ姉は、
「うーん、そうね……」

「あはははは! たかあきなにそのカッコ!?」
「た、たかちゃん、可愛い〜☆」
 由真と花梨が指差して笑う。く、屈辱だ……。
 タマ姉から安静にしてろと命じられたものの、さすがにまた一日寝たきりは勘弁だ。それにさっき
も言ったが飯だってお粥以外のものも食べたい。そんな俺の主張にタマ姉が出した妥協案。それが
807河野家にようこそ 第84話(3/9):2006/12/18(月) 20:48:15 ID:aB9tqABV0
パジャマの上にちゃんちゃんこを着た今の俺だ。この格好なら、家の中を歩き回っても構わないとの
お許しをいただいたものの、これ、どう見たって女物の柄なんですけど。
「けど、こんなのよくあったなぁ」
 身につけたちゃんちゃんこを見ながらそう言うと、
「それ、私が使ってるのよ」
「え、タマ姉、こんなの持ってたのか?」
 するとタマ姉はムッとして、
「こんなのとは何よ。冬場はとても暖かいのよ、それ」
「あ、いやそうじゃなくて、冬でもないのに何でこれ持ってるのって」
 するとタマ姉、さらっと、
「ああ、雄二に持ってこさせたのよ。さっき」
「え?」
「タカ坊のために必要だと思ったからね、朝一番に電話して、持ってこさせたのよ」

「おーう、起きたか、貴明ぃ」
 居間に行くと、ソファーにはあからさまに不機嫌そうな雄二が。
「お、おっす……」
「ったくよぉ。こっちは朝イチでイルファさんのところに行こうとしてたってのに、お前のために
台無しになっちまったじゃねぇか」
「ま、まぁ、悪かったよ。……ん? コレ置いて珊瑚ちゃんの家に行けばよかったんじゃ?」
 俺の疑問に雄二は、
「姉貴が余計な根回ししやがったんだよ!
 俺がイルファさんに遅れますって電話したら『今朝は貴明さんのお家で朝ご飯をお召し上がりに
なられるって、お姉様からお聞きしましたよ』だとさ。はぁ……」
808河野家にようこそ 第84話(4/9):2006/12/18(月) 20:49:08 ID:aB9tqABV0
 深い、ため息。
「あ、あの、イルファさんの朝ご飯ほど美味しくないかもしれませんけど……」
 キッチンの優季が何故か済まなさそうな顔。今朝の担当は優季のようだ。――お、あのホット
プレートの上で焼かれてるのは、いつかのフレンチトーストではないか!
「いや、優季ちゃんのせいじゃないからさ。悪いのは鬼のような姉貴、略して鬼貴。なんてな」
 などと雄二が愛想良くヘラヘラ笑っていると、
「新しい言葉作ってるんじゃないわよ」
 ガシッ! ギリギリギリ……
「あいだだだだだ!! ご、ご免なさいお姉様鬼貴なんて呼んでご免なさい割れる割れる!!」
 そりゃタマ姉だって居間にいるんだから、こうもなるわな。

 それから数分後。
「はい、召し上がれ」
 キッチンのテーブルについた俺の目の前には、優季特製フレンチトーストが。しかも今回は他にも、
カリカリに焼いたベーコンやサラダ、コーンスープと、何となく洋画チックな朝食。
 みんな一緒に「いただきます」の後、早速俺はフレンチトーストを一口。
 ――う、うまーーーい!! 前に食った時より美味いぞコレ!
「はむっ……、もぐもぐ……」
「た、貴明さん、もう少しゆっくり食べて……」
 優季が何か言ってるようだけど、悪いが俺の耳には入らない。フレンチトースト、ベーコン、
またフレンチトースト、サラダも一口、ついでにスープもずずっと。
「た、タカくん、凄い食べっぷり」
「この様子なら病は完治したようだな。安心したぞ、うー」
 このみとるーこも何か言ってるけど、今はフレンチトーストを更に一口。次またベーコン、そんで
809河野家にようこそ 第84話(5/9):2006/12/18(月) 20:49:51 ID:aB9tqABV0
またフレンチトーストを……ぐ、喉が詰まった。スープスープ……ふう。――あ、フレンチトースト
が無くなった。
「おかわり!」
 空になった皿を優季に差し出す。
「あ、は、はい! い、今焼きますから」
 慌てて席を立ち、ホットプレートでおかわりの分を焼き始める優季。
「早く〜、早く〜」
 思わず急かしてしまう俺。だってすぐ食べたいんだもの。
「そんなすぐ焼けるワケないじゃない。落ち着きなさいよたかあき」
 呆れたような由真の声。
「うう〜、だってよぉ〜」
「なら、るーのを分けてやる。食え」
 そんな俺を見かねたのか、俺の皿に自分のフレンチトーストを分けてくれるるーこ。
「お、サンキューるーこ! いただきま〜す」
 早速食べる。――お、メープルシロップを塗ってあるのか。うん、甘いけどこれも美味い。
「おいおい、んないきなりガツガツ食って大丈夫なのかよ」
 雄二でさえ俺の食いっぷりに驚いてる様子。
「ずっとウチのお粥だけだったのがよっぽど不満やったんやろ」
 あ、やばい、瑠璃ちゃんが不機嫌そう。
「もが、もがもがもが――」
 ポカッ。
 痛て、タマ姉に頭を叩かれた。
「こら、口にものを入れたまま喋らないの」
「もぐ……ごっくん。ゴメンタマ姉。
810河野家にようこそ 第84話(6/9):2006/12/18(月) 20:50:48 ID:aB9tqABV0
 誤解しないでよ瑠璃ちゃん。瑠璃ちゃんのお粥だって勿論美味かったよ。特に卵入りのヤツ」
「……べ、別に言い訳せんでええ」
 あらら、瑠璃ちゃんがヘソ曲げちゃった。――うーん、それなら、
「あのさ瑠璃ちゃん、俺がまた風邪を引いたら、お粥作ってくれないかな」
「え……?」
 このとき俺は、大して考えもせずにこんなことを言ってしまっていた。
 そして、瑠璃ちゃんが顔を赤くしながらもコクリと肯いてくれたことに嬉しささえ感じていた。

 その後、愛佳と郁乃、珊瑚ちゃん、ちゃるとよっちもやってきて、みんなで遊んだり、昼飯を食べ
たり、いつものように賑やかで、騒がしくて、だけど楽しい一時を過ごしていた。
 思えば俺はこの時、風邪が治ったこともあり、少し浮かれていたのだと思う。
 さっきの台詞がその証拠。”また”と言ったがそれはいつのことになるのやら。俺は以前春夏さん
に注意されたこと――この生活への問題意識を全く忘れてしまっていたのだ。
 みんなといるこの瞬間が楽しくて。それが……いつか必ず終わるってことも忘れて。
 だけど。

 ピンポーン。
 家のチャイムが鳴ったのは、夕方頃のこと。
 誰だろうと思って立ち上がろうとすると、
「タカ坊はいいわよ。私が代わりに出るから」
 そう言ってタマ姉は廊下に出た。その少し後。
「どちら様でしょうか? ――え? あ、あの、どうして……、あ、ちょっと!」
 廊下の向こうからタマ姉の驚いたような声。どうしたんだ?
 ガチャ。
811名無しさんだよもん:2006/12/18(月) 20:51:30 ID:8J4N3hSX0
支援
812河野家にようこそ 第84話(7/9):2006/12/18(月) 20:51:51 ID:aB9tqABV0
「失礼しますぞ」
 そう言って居間に入ってきたのは、いやに体格のいいじいさん。――あれ、このじいさんって、
「お、おじいちゃん!?」
 俺より先に声を上げたのは、由真。そう、以前神社で俺に襲いかかってきた、あのじいさんだ。
「ど、どうしてここに……?
 って、な、なんで、な、何しに来たのよ、おじいちゃん!」
 由真の口調が、驚きから、拒絶へと変わる。
 そんな孫娘を、無表情でじっと見つめるじいさん。静かで、だけど確かに感じる威厳と風格。
やっぱこのじいさん、ただ者じゃない。
「や、約束が違います長瀬さん! ここには来ないっておっしゃって――」
 遅れてタマ姉も居間に飛び込んでくる。その時だった。
「――え?」
 目を見開き、信じられないと言った顔でそう呟いた由真。無理もない、俺だって驚いた。
 じいさんは何も言わず、いきなりその場で土下座をしたのだ。
「わしが……、わしが悪かった。
 この通りじゃ。許してくれ、由真」
「お、おじい、ちゃん……」
 床に頭をつけ、何一つ言い訳せず、ただ孫娘に許しを請うじいさん。
 そして、呆然とそれを見つめる由真。
 この二人に一体何があったのか。俺を含め、その事情を一切知らない他のみんなも、何一つ口を
挟むことも出来ず、ただ事の成り行きを見守るしかない。
 それから、どのくらい時間が経ったのだろうか。由真はうつむき、そして、
「……やめてよ」
「……」
813河野家にようこそ 第84話(8/9):2006/12/18(月) 20:53:39 ID:aB9tqABV0
 じいさんは無言で、土下座をやめない。
「そんなのやめてよ! は、恥ずかしいと思わないの!?
 来栖川家の執事がこんなところで、自分の孫に土下座だなんて、そんなの――」
「恥など!」
 土下座のまま声を上げるじいさん。その声に由真がビクッと震える。
「恥など、お前が許してくれるのなら、いくらでもかけるわい!」
「あ、あたしが恥ずかしいのよ!
 そ、それに、それに今更何よ、何を謝るって言うのよ!?」
 その言葉に、じいさんは顔を上げ、
「わしが悪かったのじゃ。お前の気持ちも考えもせず、お前の未来を勝手に決めようとしたわしが。
 もう、ダニエルを継がなくてもいい。それに、縁談もきっぱり断った。
 わしは今後一切、お前の将来には口出しせん。この場で固く誓う。お前の未来はお前自身が選べば
いい。今まで済まなかったの、由真」
「お、おじいちゃん……」
「お前がそうしたいと言うのなら、そこの」
 じいさんは俺を見て、
「そこの小僧との結婚も認めてもいい。お前が選んだ男なら、わしも信じよう」
「な!?」
 け、結婚!? 俺と由真が!?
「ちょ、ちょっとおじいちゃん!? あたしたかあきと結婚したいなんて言った覚えないわよ!!」
 慌てて否定する由真。
「まあ、あくまで将来の話じゃがな」
「い、いやおじいちゃん、将来も何もまだ……」
 ごにょごにょと由真が言葉を濁らせる。
814河野家にようこそ 第84話(9/9):2006/12/18(月) 20:54:54 ID:aB9tqABV0
「もし、どうしてもわしが許せないと言うのなら、それでもいい。わしのことはこれからも嫌って
くれても構わん。
 じゃが、じゃがのう……、せめて、家には帰ってきてくれんか? 頼む、由真」
 そう訴えるじいさんの目は、とても悲しげで――
「お前が家を出て、ここで暮らしていると知ったとき、わしは最初、問答無用でお前を連れ戻す気で
いたんじゃ。
 じゃが、お前の両親がそれに反対してな。お前が自分で帰ってくる気になるまで、そっと見守って
いようと言ったんじゃ。わしが猛反対しても、何度も、何度も、そうわしに言い聞かせてな。それに
わし自身も、お前にあれだけ酷いことを言ってしまったという負い目もあったからな。結局わしも
折れたんじゃよ。
 じゃがのう……、お前のいない家は、寂しいんじゃ。まるで明かりを失ったように暗いんじゃよ。
 お前の両親も表だっては明るく振る舞ってはいるが、お前は今頃どうしているのか、ちゃんとした
ものを食べているのか、勉強も怠ってはいないか、話すことと言えばいつもそんなことばかりじゃ。
 向坂家のご息女に面倒を見てもらっているとは知っておっても、お前の父も、母も、それにわしも、
いつもお前のことが気がかりでの。このままでは、わしらはどうにかなってしまいそうなんじゃ。
 もう一度頼む。由真よ、家に帰ってきてくれ!」
 再び頭を下げるじいさん。
 そんなじいさんを見つめ、由真は、
「……帰ってよ」
「ゆ、由真?」
「帰って! 帰ってよ! あたしはここにいるの、ずっといるの! だから帰って!!」
 精一杯の声で、そう叫んだ。

 つづく。
815河野家にようこそ の作者:2006/12/18(月) 20:56:50 ID:aB9tqABV0
どうもです。一週遅れての第84話です。
>>811さん、支援ありがとうございました。m( __ __ )m
一週間待ってもアク禁が解けず、とうとう●を買ってしまったら、その直後にアク禁解除……orz

ええと、長らく続いた河野家ですが、そろそろ締めに入りたいと思います。
これからしばらくの間、鬱展開が続きますが、どうかご勘弁ください。
816名無しさんだよもん:2006/12/18(月) 21:19:23 ID:wVQfuyoi0
>>815
いつも乙。

そういえば、由真が河野家に押しかけてきたのが始まりだから、
由真が自宅に帰るとなるとこのお話も終わっちゃうんだよな。
始まりがあれば必ず終わりもあるから、この生活が終わるのは
寂しいっちゃ寂しいけど、仕方ないよな。
と、思った。

●買っても無駄にはならないよ。
にくちゃんねるが今年いっぱいで閉鎖されるから、過去ログがこれから先見られなく
なる。●があれば、過去ログを掘り起こせるしね。
817名無しさんだよもん:2006/12/18(月) 21:55:39 ID:W8IY//dD0
>815
乙です
河野家もついに完結編に突入ですか……
別に由真が帰ったとして河野家が解散する事もない気もするんですが……
ともかく各人がどんな結末になるのかwktkです。今から回収だと、丁度全100話くらい?
818名無しさんだよもん:2006/12/19(火) 00:39:46 ID:7I5LfMGw0
正直、欝展開いらね
それを明るい展開で乗り切ってくれ
819名無しさんだよもん:2006/12/19(火) 01:29:26 ID:XzQPSHCDO
ついに河野家も終わっちゃうのか
寂しくなるなぁ…
まあ最後までいい話を書いてくれる事を期待しますよ
820私の旦那様 1/13:2006/12/19(火) 01:50:27 ID:veoI/TlI0
「イルファさん」

 リビングに向かうと、キッチンでイルファさんが食器を拭いているところだった。

「イルファさん、俺の靴下が無いんだけど」

 カチャカチャと音を立てて、丁寧に食洗機のお皿を拭くイルファさん。

「どこにしまってあったっけ? イルファさん?」

 聞こえていないはずは、ない、と思うんだけどな。
 けれどイルファさん。まるで俺が呼んでいることになんか全く聞こえていないように洗
い物を片付けている。

「イルファさーん? ・・・・・・あ」

 思い出した。
 それなら確かにイルファさんが、俺の声に気が付かないフリをするのだってわかるけど。
 でも、まさか本当に本気で言っていたなんて。
821私の旦那様 2/13:2006/12/19(火) 01:52:38 ID:veoI/TlI0
「えっと・・・・・・あー」

 けれどいざ言おうとしても、なかなか問題があるわけで。
 そりゃ、イルファさんがそうしろって言ったんだから、悪いことなんかあるはずないん
だけれども。
 どっちかといえば、これは俺の気持ちの問題だろう。
 緊張で、唾を飲み込む音まで聞こえてきそうだ。

「・・・・・・イルファ」

「はい、どうかなさいましたか、旦那様」

 俺がそう言うと、イルファさんはくるりとこちらに笑顔を向ける。
 けれど俺は気が付いていた。俺が言いにくそうにしている間、イルファさんがずっとこ
ちらのことを気にしていたことを。
 だって、イルファさん。徐々に体がこっち向きにずれてきていたんだもの。

「えっと、俺の靴下、どこにしまってたっけ? タンスの中に見つからなくてさ」

「旦那様の靴下なら、先日引き出しの方へ移しましたが。見当たりませんでしたか?」
822私の旦那様 3/13:2006/12/19(火) 01:54:05 ID:veoI/TlI0
「あ、引き出しの中だったっけ。ありがとう、探してみるよイルファさ・・・・・・イル
ファ」

「はい、どういたしまして、旦那様」

 笑顔でうなずくイルファさん。
 それはもう楽しそうだ。
 けれど俺の方はと言えば、イルファさんを呼び捨てにして、さらには「旦那様」なんて
呼ばれて。なんとなく恥ずかしいような、申し訳ないような気持ちになる。
 だってあのイルファさんを、「イルファ」だもんなぁ。
 ごぞごそとタンスの引き出しを漁りながら考えるのは、ついさっき、イルファさんと交
わした会話のこと。やっぱり、軽々しく「お願い事を聞く」なんて言わないほうが良い、
ってことなんだろう。
 喜んではくれているみたいだから、いつもお世話になっているお返しとしては悪くはな
いんだろうけど。
 でもまさか、いつものお返しに「今日一日、旦那様とお呼びしてもよろしいですか?」
なんて言ってくるとは思わなかったからなぁ。
 その後で「それでは旦那様は、私のことをイルファとお呼びくださいね、旦那様」なん
て。あんな笑顔で言われれば、断れるはずなんてないじゃないか。
 お陰でこうやって、照れくさい思いをしているんだけれど。
823私の旦那様 4/13:2006/12/19(火) 01:57:00 ID:veoI/TlI0
「旦那様、靴下、見つかりましたか?」

「あ、うん、あったよ。イルファ」

 名前を呼ぶ前に、どうしても一呼吸あいてしまう。なかなか慣れそうにない。
 イルファさんもそんなに可笑しそうにするくらいなら、こんなお願いしてくれなければ
いいのに。

「いーえ。旦那様からおっしゃったことなんですから。今日一日、きちんと呼ばせていた
だきますからね、旦那様♪」

 イルファさんの決意は固い。できればどこかで勘弁してもらいたかったんだけど、ここ
まで嬉しそうだとそれも申し訳ない。
 あーもういいや、俺も男だ。恥ずかしいだとか照れくさいだとか言わないで、きちんと
イルファさんのお願いを聞いてあげよう。
 そう、たかだかイルファさんを呼び捨てにするだけじゃないか。瑠璃ちゃんだってイル
ファさんのことは「イルファ」って呼んでいるんだ。俺にそれができないはずが無い。
 ・・・・・・顔が火照るのも、そのうち収まるだろう。
824私の旦那様 5/13:2006/12/19(火) 01:58:37 ID:veoI/TlI0
「それで、イルファどうしたの? ありがとう、おかげで靴下なら見つかったけど」

「はい。その、折角ですからその靴下を、旦那様に履かせて差し上げようかと。やはり旦
那様ですし、それ用のお世話をいたしませんと」

「流石にそれは勘弁して」



825私の旦那様 6/13:2006/12/19(火) 02:00:03 ID:veoI/TlI0
「イルファ、そっちのドレッシング取ってくれる? オレンジ色の方」

「はい、旦那様。こちらでよろしいですか?」

「うん、ありがと」

 瓶を取ってくれたイルファにお礼を言いながら、サラダにドレッシングを掛けていく。

「旦那様、ご飯のお代わりはいかがですか?」

「あ、じゃあ貰おうかな」

 茶碗を渡すと、イルファはキッチンへとご飯のお代わりを取りにいってくれた。こっち
がお代わりをお願いした時は、いつも嬉しそうにご飯を持ってきてくれるイルファだけど。
でも今日は、いつもに増して機嫌が良さそうだ。
 お陰で俺の方まで気分がよくなって、おいしい料理が一段と美味く感じられるっていう
ものだ。

「珊瑚ちゃん、どうかした? 俺の顔何か付いてる?」
826私の旦那様 7/13:2006/12/19(火) 02:09:25 ID:veoI/TlI0
 たださっきから、珊瑚ちゃんがじっと俺の方を見つめてくるのが気になると言えば気に
なる。箸もあんまり進んでいないようだし。

「はいどうぞ、旦那様。ご飯、これくらいでよろしいですか」

「ありがとう。こんなもんでいいよ」

「どういたしまして」

「いっちゃんええなぁ。貴明とラブラブしとって」

 珊瑚ちゃんがのその一言で、お茶碗を受け取ろうとした腕が固まってしまう。もう少し
で落とすところだった。

「えっと、そうかな?」

 俺、イルファとそんなにいちゃついたりしてたっけ? 別に普段と変わらないと思うん
だけど。
 でも珊瑚ちゃんは納得行かない様子で、俺とイルファを睨んでくる。
827私の旦那様 8/13:2006/12/19(火) 02:15:03 ID:veoI/TlI0
「だって貴明、いっちゃんのこと『イルファ』−って呼んでる。いっつもはイルファさん
なのに」

 そう言われて、ようやく気が付いた。
 俺、いつの間にイルファさんのこと、意識せずに呼び捨てにしてたんだろう。今更その
ことに気が付くと、今までの分一気に恥ずかしくなってきた。まるで金魚のように口をぱ
くつかせて、イルファのことを見る。
 なのに当のイルファさんは「残念」みたいな顔をして。

「イルファばっかり、ちゃんと名前呼んでもらってずるいなあ。なーなー、瑠璃ちゃん
もそう思うやろ」

「う、うち知らんそんなこと」

 急に話を振られて、慌ててご飯をかきこむ瑠璃ちゃん。
 ずるい、とか言われても、じゃあどうしろと?

「申し訳ございません珊瑚様。ですが旦那様にはきちんと、私の名前を呼んでいただかな
くてはなりませんので」
828私の旦那様 9/13:2006/12/19(火) 02:16:58 ID:veoI/TlI0
「むー・・・。あ、なあなぁ、ならな、貴明もうちらのこと、ちゃんと名前で呼んだらえ
えんや」

「ご、ごちそう様。うちお風呂はいってくる」

 瑠璃ちゃんはそう言って箸を置くと、逃げ出すようにお風呂場へ行ってしまう。瑠璃ちゃ
んも、俺に「瑠璃」なんて呼ばれるのは勘弁して欲しかったようだ。

「あ、瑠璃ちゃん待って。うちもはいるー」

 俺だってイルファさんだけでこうなのに、更に珊瑚ちゃんと瑠璃ちゃんまで呼び捨てな
んてきっと恥ずかしさに耐えられない。
 しかもついうっかり口を滑らせて、学校や雄二の前で「珊瑚」とか「瑠璃」なんて呼ん
だ日には、一体何を言われ続けることか。
 瑠璃ちゃんを追いかけて、珊瑚ちゃんがお風呂に行くと、ようやくテーブルは落ち着き
を取り戻してくれた。

「ご馳走様」

「お粗末様でした。お茶をお淹れしましょうか?」
829名無しさんだよもん:2006/12/19(火) 02:17:03 ID:7I5LfMGw0
いいよーいいよー
830私の旦那様 10/13:2006/12/19(火) 02:19:03 ID:veoI/TlI0
「あ、うん、ありがとう・・・・・・イルファ」

 きっと笑われるだろうとは思ったけど、やっぱり笑われた。

「別にもうよろしいんですよ。私は十分、満足させていただきましたし」

「いや、でも、今日一日って約束だったしさ」

 まあ、また珊瑚ちゃんに焼餅を焼かれても困るから、二人の前では極力呼ばないように
はするけど。

「でしたらもっと、堂々と呼んで下さればいいですのに。それともやっぱり、旦那様と及
びするのは恥ずかしいですか?」

「確かに恥ずかしいっていうのもあるんだけど」

 でもそれだけじゃなくて。
831私の旦那様 11/13:2006/12/19(火) 02:21:26 ID:veoI/TlI0
「俺、本当にイルファにそう呼んでもらえるほど、イルファに何かをしてあげられてるの
かなってさ。イルファさ──イルファには、こうやっていつもお世話になってしまってば
かりなのに」

 だから、たまにはイルファのために何かをしてあげたくて、さっきだって何かをして上
げられないか聞いたんだし。

「確かに旦那様、朝はちゃんと起こして差し上げなければベッドから出てきてくださいま
せんし、靴下だって、私が場所を教えてあげませんと場所もわかりませんが」

 イルファの言葉が胸に突き刺さる。いや、全くその通りなんだけど。
 でもイルファの口からあらためて言われてしまうと、本当にどこが旦那様なんだか。

「ですが旦那様。私、旦那様からそれ以上のことを、たくさんして貰っているんですよ?」

 そう言って、イルファは隣のイスに腰を掛けると、俺の方に体を寄せてくる。肩を通し
て感じることのできる、イルファの体重と体温が恥ずかしい。心臓の音が、聞こえてしま
わなければ良いんだけど。
832私の旦那様 12/13
 旦那様は、いつもこうやって私のことを愛してくださいますから。
 でも、こんなことくらいで良いの?
 はい♪

「それでは旦那様、もう一つだけ、お願いをしてもよろしいでしょうか」

「えっと、何?」

 そう言ってしまってから後悔した。
 さっきだって、これで旦那様なんて呼ばれることになったのに。

「いつか必ず、私の本当の旦那様になってくださいましね」

 イルファはそう言って、笑顔を浮かべながら目を瞑る。
 頑張らなきゃな。イルファのお願いを聞いてあげるためにも。
 そう思いながら触れたイルファの唇は、なんだかいつもより、柔らかかったような気が
した。