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どうもです。
プロバイダがアクセス禁止なので携帯で書きます。
風邪ネタ書いてたら、自分も風邪ひいてしまいました。
すみませんが、今週はお休みさせていただきます。
ホントにゴメンなさい。
あちゃ、残念なり。
季節の変わり目ですから拗らせないようにゆっくり休んでくださいね。
来週までwktkしながら待ってまーす。
あらら
この時期の風邪は長引きますから、お体に気を付けて
>598
お大事に
夕暮れ時のアーケードは、俺たちと同じような買い物客で賑わっていた。
夕飯の材料を買いにきた主婦や、学校帰りに立ち寄った学生。中には二人で買い物に来
ているんだろう。仲良く歩く中年の夫婦の姿もある。
それと数は少ないけれど、どこかの家で働くメイドロボと。
「申し訳ありません、貴明さん。お買い物に付き合っていただいてしまって」
「いいって。イルファさんにはいつもお世話になってるんだから。これくらい手伝って当
然だよ」
そんな中を、俺とイルファさんは二人で並んで歩いて行く。
俺の両手にはカバンと、あとさっき買った日用品の袋。
珊瑚ちゃんの家に帰る途中、偶然イルファさんに会って。聞けばこれから買い物に行く
って言うから、こうして手伝うためにイルファさんについて荷物持ちをやっている。
イルファさんの方でも荷役ができて嬉しかったのか、この前に行ったスーパーではちょ
っと買い物をし過ぎてしまったらしい。お陰で両手で荷物を抱えることになってしまった
けど、まあ、イルファさんのためならこれくらいのことお安い御用だ。
「えーっと、他に買うものは?」
「あ、はい。後は今日のお夕食の材料を買うだけです」
そう言って、今日の夕飯のメニューを教えてくれるイルファさん。今日はチンジャオロ
ースーにするそうだ。
「良いレシピを教えていただいたので」
「へー、そうなんだ。でも、チンジャオロースーじゃ、珊瑚ちゃん嫌がらないかな。ピー
マンは入ってるし」
「だからこそです。お二人の健康のためには、好き嫌いなくバランスの取れた食生活を心
がけていかなくてはいけませんから。もちろん、貴明さんもですよ。インスタント食品ば
かりじゃ、病気になってしまうんですから」
「お、俺はそんなことしないって」
そりゃまあ確かに、一人で暮らしてた頃はカップめんばかり食べてたけど。でも今はイ
ルファさんや瑠璃ちゃんのお陰で、ちゃんとした料理を食べているし。
むしろ両親といたころより、食生活は向上しているんじゃないだろうか?
「よっ、イルファさん買い物かい? 今日はいいサンマが入ってるよ!」
そんな風に二人で笑い合いながら歩いていると、魚屋の前でイルファさんが声を掛けら
れる。
「どうもこんにちは。サンマも良いですけど、今日は野菜料理にする予定なんです」
「野菜ぃ? やめとけやめとけ、あんな八百屋に行ったってろくな物置いてないぞ。それ
より魚を食わなきゃ、カルシウムたっぷりで美容にも良いよ」
「いえ、ですから私は食べ物が食べられませんと以前」
困った顔で返すイルファさんと、そこで豪快に笑う魚屋さん。たぶん、いつもやってい
る会話なんだろう
「えっと、イルファさん。知り合い?」
「はい、いつも魚を買うときにお世話になっているお魚屋さんなんです」
「っと、イルファさん。横の兄ちゃんは、もしかして、イルファさんの」
そこでようやく俺の存在に気が付いたらしい魚屋の親父さん。
いかにも胡散臭そうに俺の事を見るのは、お客に対して失礼じゃあないだろうか。いや、
買うのはイルファさんで俺じゃあないけどさ。
「はい。私の旦那様なんです」
「ちょ、ちょっとイルファさん、旦那様って!」
そう言うと、イルファさんは俺と腕を組むように寄ってくる。
親父さんと言えば感心したように「はぁー」とか「こんななよなよした頼りないのがね
ぇ」とか「イルファさんもこんなのが趣味なのか」とか。
聞こえてるぞ。
「まあ、いいや。おい兄ちゃん。ちゃんとイルファさんのこと、大事にしてやるんだぞ。
もしイルファさんのこと泣かせたら、俺がただじゃおかねぇからな」
「もう、魚屋さんったら。やめてください」
まんざらでも無さそうなイルファさん。
俺といえば、なんだか、照れるな。会話の内容が、まるで、なんと言うか、新婚さんみ
たいで。
「それでは、失礼いたします」
丁寧にお辞儀をするイルファさんの後ろで、壊れた人形のようにぎこちない礼をする。
親父さんは、次のお客がくるまでこちらに手を振っていてくれた。
「楽しい人だったね」
「あ、申し訳ありませんでした。ちょっと、ふざけ過ぎてしまって」
「別に怒ってないから大丈夫だよ。それよりも、家以外でのイルファさんをみれて楽しか
ったし」
「も、もう」
イルファさん、そう言って横を向いてしまう。ただ、さっきから俺と腕を組んだままだ
し。口調ほど怒ってはいないみたいだ。
本当は、さっき魚屋であんな会話をしたばかりだし、こんないつ知り合いと会うかわか
らないような場所でイルファさんと手を組んで歩くのは恥ずかしいを通り越して顔から火
を噴いてしまいそうなくらいなんだけど。
でも、ここで照れくさいからって手をほどくにはイルファさんの腕は柔らかくて。それ
にこんなくすぐったい気分でいるのも。
たまには、悪くないよな。
「あ、貴明さん。ここの八百屋さん・・・・・・も、申し訳ありません! わ、私ったら
ずっと貴明さんと」
そこで、ようやく俺と手を組んだまま歩いていたことにきがついたんだろう。
顔を真っ赤にして俺から離れるイルファさん。ちょっとだけ残念だったかもしれない。
「いいっていいって、それよりも、ピーマン買わなきゃいけないんでしょ」
「は、はい」
まだちょっとギクシャクしたまま、八百屋の中に向かうイルファさん。また威勢のいい
挨拶をされているというのは、ここでもきっと、イルファさんはお得意様なんだろう。
「いーえ、ですから。こちらのピーマンは少し高すぎるのではないかと。近くのスーパー
では、これより60円は安く販売していましたよ」
「あんな農薬だらけの物と一緒にしないでくれよイルファさん。ここに並んでるのは全部、
俺が朝市場に行って仕入れてきた物なんだぜ」
「それに、昨日置いてあった物から比べると、質もやや落ちるのではないかと。確か、昨
日仕入れに行かれたのは奥様ではありませんでしたか?」
「そうなんだよイルファさん。この人ったら付き合いで野菜仕入れてきちゃってさぁ」
ずいぶんと頼もしい、イルファさんとお店の人との会話。いつもこういう風に、俺たち
のご飯の買い物のためにここに来てるんだろう。
店の入り口の所でもやしだのニガウリだのを眺めながら、そんなイルファさんの様子に
耳を傾ける。
お店の人との交渉も佳境に入ったみたいで、ピーマンの乗ったカゴを手に八百屋のご主
人にイルファさんは詰め寄っていく。この分なら、今日の晩御飯の食材は無事手に入れ
ることができそうだ。
そうなってしまうと、自分が何か野菜を買うわけでもないし。店の外でイルファさんを
待つことにする。
相変わらずアーケード街の中はたくさんの人通りで、どの店にもお客の姿がある。
八百屋の隣の店に目をやってみると、コロッケ屋みたいだ、そこにも今日のおかずを買
うためなんだろう。何人かの女の人たちがお惣菜を買っているところだった。
「あれ?」
そんなコロッケ屋の前に、明らかに周囲の主婦とは雰囲気の違う女のコが一人。
青みがかかった服を着た彼女は、油よけのガラス板の前で。今日も、手を出そうか出す
まいかと悩んでいた。
耳のところにはイルファさんと同じ、メイドロボであるという証拠の耳カバー。
「ねえ、また会ったね。俺のこと覚えてる?」
彼女は俺の言葉に反応すると、こっちを向いて、一瞬不思議そうな顔をすると。
「あ・・・・・・」
何かを言いかけたんだけど、なぜかすぐに口を閉じてしまって。
そうしてにっこりと俺に笑いかけてくれると、深々とお辞儀する。
覚えていてくれたみたいだ。
「また、話せなくなったの?」
プルプルと首を横に振る彼女。じゃあ、なんで?
「もしかして、あの時と同じように?」
笑顔で頷く。そして、何かを喋るようにゆっくりと口を開く。
『お久しぶりです。あの時は、どうもありがとうございました』
声には出していないけれど、きっとそう言いたいんだと思う。
「今日も買い物?」
彼女は頷くと、手に提げた買い物籠の中を見せてくれた。
魚、多分、鮭の切り身。それにキノコに、玉ねぎに、バター。さっぱりメニューの見当
がつかない。
すると彼女は、切り身を両手で包むような仕草をして、説明しようとしてくれる。
ああ、多分、包み焼きか何かでもするってことなんだろう。
当たっていたのか、嬉しそうにする彼女。
すると今度は、首を傾げて俺のほうを見つめてくる。
えっと、これは。
「俺? えっと、俺は」
「貴明さん、お待たせいたしました」
彼女になんて説明すればいいか、意味もわからず悩んでしまう。
どうしてそんな気分になったのかはよくわからないんだけれど、なんとなく、後ろめた
さをのような物を感じてしまった。
だから、イルファさんが声を掛けてくれて、正直救われた気分になった。
「見てください、こんなにたくさんピーマンをオマケしてくださったんですよ」
イルファさんは嬉しそうに、八百屋での戦果でいっぱいの買い物籠を見せてくれた。
「少し、多すぎじゃない?」
「そう、ですか。あ、それでしたら明日のメニューはピーマンの肉詰めにいたしますね。
それと、サラダにするのもよろしいですし」
「うん。楽しみにしてるよ。今日のチンジャオロースーもさ」
「はい。期待していてくださいね・・・・・・あら?」
イルファさんと、俺の後ろできょとんとしていた彼女との目が合う。
「貴明さん、こちらの方は」
「あ、うん。えーと」
さて、いざ彼女のことを紹介しようと思った場合、どんな風に紹介することになるんだ
ろう。
彼女とは春に、一度だけ買い物を手伝ってあげたことがあるだけだし。
そもそも俺は、彼女の名前だって知らない。そういえば、俺の名前を彼女に教えたこと
もなかったな。
そんな風に俺が慌てているのを見かねてなのか、彼女の方から先に、イルファさんに頭
を下げてお辞儀をする。いかにも優秀なメイドロボらしい、そのまま教科書にでも載せら
れそうな綺麗なお辞儀のしかただ。
「えっ、あ、申し遅れました。私、HMX−17"イルファ"と申します」
こちらは逆に、いつものイルファさんらしくないくらい慌ててお辞儀を返す。
そんな様子のイルファさんが可笑しかったのか、それともお辞儀の表紙にカゴから飛び
出たピーマンが琴線にふれたのか。クスクスと笑う彼女にイルファさんはさらに顔を赤
くしてしまって。
「イルファさん、もしかして緊張してる?」
「も、もう貴明さん。からかわないでください」
どうやら図星だったらしい。
「こちらの方は同じHMシリーズの、私にとってお姉様に当たる方なんです。失礼がない
よう、緊張するのも当然です」
俺たちの会話がそんなに面白かったんだろうか。
そこでようやく、彼女が俺たちのことを見つめていたことに気が付いた。
「ご、ごめん。えーっと、いま本人から紹介があったけど、イルファさん。今、一緒に住
んでて、いろいろお世話になってるんだ」
すると彼女は、相変わらず声を出さずに口の動きだけで何かを質問してくる。
あの時もそうだったけど、不思議と、彼女が何を言いたいのか理解することができた。
『あなたは、あのメイドロボットの旦那様なのですか?』って。
彼女の急な質問に、俺よりも隣にいるイルファさんの方が慌ててしまう。ふざけて俺の
ことをそう呼ぶ割には、人にあらためてそう言われるのは恥ずかしいみたいだ。
俺の方はといえば、確かにイルファさんにそう言われ慣れてるってこともあったんだろ
うけど。でも、俺とイルファさん。それに珊瑚ちゃんと瑠璃ちゃん。俺たちの関係が、旦
那様やメイドロボだとかそういった物じゃないって。きっと俺は、考える前に答えなんか
出してしまっていたんだろう。
「旦那様って言うか、イルファさんは、俺の大切な家族の一人だからさ」
だから、照れたり恥ずかしがったりしないで、すぐにその答えを言うことができた。
俺の答えに彼女も満足だったんだろう。笑顔で、頷き返してくれた。
「素敵な方でしたね」
「そう? イルファさんでも、そう思うことがあるんだ」
「当然です。私も、あのお姉様のような素敵なメイドロボになりたいです」
今日もまた、俺たちと彼女はあのバス停の所でそれぞれ別れた。
俺たちの買い物は終わっていたのに、結局彼女の買い物に最後まで付き合ってしまって。
お陰で荷物をもった腕が痛い。
イルファさんは買い物中ご機嫌で、よほどメイドロボの先輩と話ができたのが嬉しかっ
たみたいだ。
それに、いつも俺たちの世話ばっかりしてくれているから、今日みたいに上の人と付き
合うのが新鮮で楽しいんだろう。
「イルファさんは、十分素敵だと思うよ。いつも俺や、珊瑚ちゃんや瑠璃ちゃんのために
働いてくれて。イルファさんのような人と一緒にいられて、俺は嬉しいからさ」
「まあ」と言ったイルファさん。クスクスと笑い声をあげて。
言ったことに嘘はないけど、やっぱりちょっと、言ってて照れくさい。
「ところで貴明さん」
「なに?」
急に立ち止まって、俺の目を覗き込むように見つめてくるイルファさん。頬が赤く染ま
っているように見えるのは、夕日ばかりのせいじゃないだろう。
「私は、貴明さんが私の旦那様であってもまったく問題ありませんから。いつでも、お世
話させていただきますからね」
きっと俺の顔も、夕日に照らされて赤になっているだろう。
こういう時、気のきいたことでも声を掛けられたらいいと思うんだけど。
けれどそんなセリフなんてさっぱり思い浮かばなくて、悩んだ挙句に俺は。
荷物を全部片腕に持ち替えて、横を歩くイルファさんの腕を取る。イルファさんのほう
でも、そっと俺の腕を握り返してくれた。
長く伸びた俺たちの影を、道路を走るバスが追い抜いて行った。
きっとあの中に、さっき分かれた彼女が乗っているんだろう。彼女も、彼女の旦那様と
一緒に、こうやって歩くんだろうか。
俺とイルファさんは、珊瑚ちゃんと瑠璃ちゃんの待つマンションにゆっくりと帰ってい
く。
終
お大事にしてください
イルファ欲しいなぁ〜オレも!
乙です><
乙。
いつも独白が幸せそうで全くもっていい身分ですなぁこの貴明は(怒)
名無しのメイドロボですか。もしかしてシルファ?という疑いも出てきた今日この頃、だけど
>>620 シルファは研究所から一歩も出ていない、っていう設定があったから違うと思う。
かくいう俺は捏造シルファSSを書いてるものの、進まない進まない。無口キャラって難しいね。
>>620 今回出てきたメイドロボって春休み前に商店街に出てきたあのメイドロボの事でしょ?
あの頃はまだシルファもリモートでぬいぐるみの中だろうからあり得ない話だけどな
デレながらもおしとやかなイルファさん良いなぁ
GJです
623 :
名無しさんだよもん:2006/11/14(火) 02:47:27 ID:Pu2msJVcO
あれマルチかセリオじゃないのかなあ、と勝手に思っていたんだけど。ホントのとこどうなんだろう。
リオン説も。
どれにしろ量産型だろうな
浩之をマルチに寝取られたあかりがショックで自分をメイドロボだと思い込んでる姿とかじゃ
うん、何かおかしい。
解凍された拡張子無しのファイルに「.zip」をつけて
もう一回解凍してみてください。
>624
リオン量産型は発売前だろ(秋からだったはず)。
サテライトシステムを使って手話で話そうとしていたはずだ
リオン発売前だとするとHM-15あたりか?
そういや、公式でHMX-15って出てないよな?
そういや13って回収されたとかそういう設定じゃなかったっけ?
633 :
名無しさんだよもん:2006/11/18(土) 17:27:26 ID:lJmUGdzy0
そうだっけ?
るーこの背におぶさり、風邪で苦しむ俺を見物しに来た郁乃。それだけでは飽きたらず、俺の世話
をしてやるなどと言い出す。郁乃の病気に関わるのか、反対する愛佳だったが、郁乃にあっさりと
説得され、俺のことを郁乃とるーこに任せて部屋を出ていった。何をされるかと内心ビクビクの俺。
だけど郁乃は俺の額に冷たいタオルを乗せてくれた。自分も入院中に愛佳にしてもらったと言う郁乃
はやがて、入院中のとある出来事を語り出す。
愛佳に「飲みたいものは?」と尋ねられ、「イチゴが飲みたい」と答えた郁乃。本人はイチゴ牛乳
のつもりだったのだが、愛佳はイチゴの生ジュースだと勘違いし、町中を探し回ったが見つからず、
自分で作ってきたとのこと。愛佳はホントに妹想いだなぁ。
唐突に、誰が一番好きなのかと尋ねてくる郁乃。そっちこそ入院中、気になる男はいなかったのか
と尋ねると、少女漫画じゃあるまいしという答え。へぇ、郁乃も漫画読むのか。だけどどんな漫画が
好きなのかと尋ねると何故か怒る郁乃。女の子の気持ちはよく分からん。代わりに答えてくれたのは
るーこなのだけれど、『NNR』って……
のどが渇いた俺。冗談で「愛佳のイチゴジュースが飲みたい」なんて言ってしまい、偶然(?)
それを聞きつけた愛佳、やたら張り切ってイチゴを買いに出かけようとする。冗談だからと慌てて
止めようとすると、今度は「飲みたくないんですか?」と残念そうな顔。困ったなぁ……
愛佳の目がとても悲しそうに見える。もしかしたら、このまま涙が出そうなくらいに。
ど、どうしようかな? ええと……
「あ、いや、その、飲みたくないってワケじゃないよ。
けど、そのためにわざわざイチゴ買いに行ってもらうのも悪いしさ。何て言うか、そこまで面倒な
ことをさせるつもりはないって言うか」
すると愛佳はパッと笑顔で、
「面倒なんかじゃないですよ。果物屋さんでイチゴを買って、家で作ってくるだけですから」
いや、充分面倒だと思うのだが。
と、愛佳はハッと何かに気付いたかと思ったらこっちに戻ってきて、
「もう、寝てなくちゃダメですよたかあきくん。まだ顔赤いのに」
ぐいぐいと俺を部屋へと押し戻そうとする愛佳。
「え? あ、うん」
「病気の時くらい多少のワガママはいいんですよ。その代わり、しっかり寝て体を休めなきゃ」
「う、うん」
そう答えるしかない俺だった。
部屋に戻り、ベッドに横になる。
「お姉ちゃん、止められなかったんだ」
郁乃の視線が痛い。
「も、申し訳ない」
「ま、お姉ちゃん言い出したら聞かないところあるから、そうなるとは思ったけどね。
あんたも面と向かって『いらない』なんて言う度胸ないだろうし」
全くもって言い返せない。
「まったく、お姉ちゃんもこんな男のどこがいいんだか」
「はいはい、こんな男で悪うございました」
目を閉じる。いっそこのまま寝てしまいたい。
そんな俺を察してか、郁乃もるーこも話しかけてこない。部屋が静かになる。
このまま二人とも部屋を出るかもしれないな――
ぴとっ。
「ん?」
額に濡れタオルが置かれた感触。
「郁乃?」
「いいから、寝てなさいよ」
目を開けた俺に郁乃が言う。
「あ、ああ」
言われたとおりに再び目を閉じる。……けど、やっぱ眠気なんか微塵もない。
「ダメだ、眠くない。郁乃、るーこ、何か話をしようよ」
「話、ねぇ」
郁乃はうーんと考え、
「るーこさん、何か話題ある?」
るーこに振る。するとるーこは、
「ならば、るーがこの宇宙における”るー”の存在について――」
「ゴメン、パス」
聞いてると眠くなりそうだ。……あ、それはそれでいいのか。
「あ、ねぇ貴明」
「ん?」
郁乃が何か思いついたようだ。けど何故かそっぽを向き、自分の髪をいじっている。
「このみってさ、その……、好きな」
「却下」
「え?」
「またそれかよ。ったく、郁乃も大概しつこいな」
「しつこい? 何が?」
「何がって、また誰が好きとかどうとかの質問だろ。何度聞いたって答えは同じ。ノーコメント」
すると郁乃はキョトンとした顔で、
「違うわよ。このみはどんなことが好きなのかって聞きたかったの」
「へ? あ、ああ、そ、そっか」
やば、勘違いしちまった。
「どんなこと、ねぇ……。割と普通だぞ。漫画とかTVとか占いとか。
あ、あとあいつ、身体を動かすことも好きだな。しょっちゅうあちこち走り回って、すぐに靴を
ダメにするし」
「ふぅん」
「あとな、あいつ、おかしなことにチャレンジしたがるんだよ。堤防の階段を降りるとき、手すりに
上って、綱渡りみたいに降りきろうとするんだ。
でもこのみの奴、バランス感覚はイマイチでな。だからいつも途中で失敗して、危ないから止めろ
って何度も注意してるんだけど、全然聞いてくれなくてなぁ。――って」
ふと、気付く。
「何故俺に尋ねる? そんなの直接このみに聞けばいいじゃん」
すると郁乃、何故か顔を赤くして、
「あ、う……」
「いや、恥ずかしがることじゃないし。
このみとはもう友達なんだしさ、聞きたいこととか遠慮なく聞けばいいだろ。
あいつ郁乃のこと、かなり好きみたいだから、きっと何でも話してくれると思うぞ」
「そ、そんなの分かってるわよ! 何となく聞いてみただけだっての。
偉そうに言うなっつーの。全く……」
あら、郁乃怒っちゃった。
「ああ、うん。ゴメン」
一応謝っておく。そこで俺はふと、
「郁乃はこのみのこと、好きか?」
「え、えええっ!?」
支援
「いや、そんな驚かなくても。
友達としてどうかと聞いてるんだぞ。もしかして郁乃、変な意味だと思った?」
「そ、そそそんな勘違いしてないわよ! バカじゃないの!?」
「じゃあ、どうよ?」
「あ、うぅ……」
郁乃は下を向いて黙り込んでしまう。
「嫌いなのか?」
すると郁乃は小さく首を横に振り、
「き、嫌いじゃないわよ……」
「じゃあ、好きか?」
「う、ぅあう……」
ひょっとして今の郁乃、俺より熱があるんじゃないか? そのくらい顔が真っ赤。
「う、うう〜っ!」
と、郁乃、何を思ったか洗面器に手を突っ込み、その手をこっちに、
ぐいっ!
「ふごっ!?」
い、郁乃の奴、俺の鼻に氷押しつけてきた!
「ちょ、お前冷たい冷たいって!
ぐえ!? 鼻に水入ってゲホッ! ガハッ! い、郁乃やめれ〜!」
病人である俺の鼻に氷を突っ込もうとした郁乃は謝りもせず、るーこと共に部屋から去った。
それからしばらく後。
こんこん。
「たかあきくん、起きてますか?」
あ、愛佳の声だ。戻ってきたのか。
「うん」
「じゃ、お邪魔しますね」
部屋に入ってきた愛佳。その手に透明なグラスを持っている。アレが愛佳手製のイチゴジュース
なのだろう。
「お待たせしました」
俺の横にちょこんと腰掛ける愛佳。
「うん、じゃあ――」
ジュースを飲もうと起きあがろうとするけど、
「あ、そのままでいいです」
愛佳に止められる。愛佳はストローを出してジュースに入れ、その先を俺の口元に近づけ、
「はい、どうぞ」
俺はストローの先をくわえ、吸ってみる。――おお、確かにイチゴの味だ。冷たくて美味しいなぁ。
「どうですか?」
やや心配げにそう尋ねる愛佳。俺は一旦ストローを放して、
「うん、美味しい。ずっとのどが渇いてたからマジで最高だよ」
「ホントですか? よかった」
愛佳が笑う。けどすぐハッと、
「え、もしかしてたかあきくん、あれからずっと何も飲まずに待っていてくれたんですか?」
「ん? ま、まぁ」
「ごめんなさい。ならもっと早く――」
「いや、謝らなくていいよ。今こんなに美味いの飲ませてもらってるワケだし」
そう言ってから、再びストローをくわえてもう一口。
「――うん、マジでいけるよこれ。
なぁ愛佳、これって、イチゴをミキサーでかき混ぜただけなの?」
「いえ、牛乳も入れてるんですよ。イチゴだけで作ってもいいんですけど、こっちの方が味が穏やか
になるって言うか、丸くなるって言うか……」
「へぇ、じゃあコレ、正しくはイチゴ牛乳ってことか」
――ん、待てよ?
「なぁ愛佳。コレって、郁乃に作ってやったのと同じなのか?」
「え? あ、はい」
「ふぅ〜ん、そっか」
「ええ、それがどうかしましたか?」
キョトンとする愛佳の顔を見て、思わず笑いそうになる。――郁乃、お前結局、飲みたかったもの
を飲んでたんじゃないか。
そんなこんなで時間が流れ、気がつくともう夕方。愛佳と郁乃、珊瑚ちゃん、ちゃるとよっちが
わざわざ帰りの挨拶をしに来てくれて、みんな明日もうちに来ると言って帰っていった。
その後はまた一人きり。きっと下では夕食の支度をしているのだろう。そう言えば俺の夕飯は、
瑠璃ちゃんが卵入りのお粥を作ってくれるって言ってたっけ。楽しみだなぁ。
こんこん。
「たかあき、いい?」
ドアの向こうから由真の声。
「どうぞ」
俺がそう答えると、由真が入ってきた。
「もしかして、お粥持ってきてくれたのか?」
そう尋ねるが、見ると由真は手に何も持っていない。その手をひらひらさせて由真は、
「残念でした。今はあたしたちの夕飯作りでキッチン使ってるから。たかあきのお粥はその後」
「あ、そ」
「ちなみに今晩のメニューだけど、聞きたい?」
「いや、いい」
どうせ俺は食えないのだ。聞いたって仕方がない。
「お昼が焼肉で結構重かったからね。夕食はあっさり目にしようってことで、煮物とサラダなの。
あと、お味噌汁は大根入り」
「いや、だから聞いてないって」
「ちなみに夕食担当は環さんとるーこ。
るーこったら、環さんから煮物の極意を学ぼうって凄いやる気なんだよ」
俺の言葉を無視してそう語りながら、こっちに近づいてくる由真。
「お前はいいのかよ、その極意とやらを学ばなくても?」
すると由真はちょっとムッとして、
「何よ。あたしが面倒見に来ちゃいけなかった?」
「面倒?」
「はい」
由真が差し出したのは体温計。熱を測りに来たってことか。
「分かったよ」
とりあえず脇に挟むためにパジャマのボタンを外そうと――
「あーん」
「?」
「なに不思議そうな顔してんのよ。はい口開けて、あーん」
そう言って自分があーんと口を開けながら、体温計を俺の口元に近づけようとする。――成る程、
口に入れて測れってことか。
「いや、俺、体温計はいつも脇の下に入れてるけど」
すると由真はしたり顔で、
「たかあき知らないんだ。体温計は口、正しくは舌の下で測るのが正しいやり方なんだよ」
「そうなのか? どっちでもいいんじゃないの?」
「脇の下だと位置とか汗なんかで温度が変わっちゃうのよ。いいからあーんして。あ、それとも」
由真はニンマリと笑みを浮かべ、
「お尻で測ることも出来るけど、する?」
「するかっ!」
「37度8分、か」
俺の口から体温計を引っこ抜いた由真がそう呟く。
「まだそんなにあるのか。結構楽になった気がするんだけどなぁ」
「そりゃ寝てたら分かんないわよ。ま、そのまま大人しくしてることね」
そりゃそうか。とは言え、この先も何もせず寝てるだけだと考えると、思わずため息が漏れる。
由真はそんな俺を見ると、ベッドの横に腰を下ろして、
「仕方がないわね。じゃあ夕食までの間、あたしが話し相手になってあげるわよ。
そう言えばたかあき、また郁乃ちゃん怒らせたんだって?」
げ、いきなりさっきの件か。
「怒るようなことを言った覚えはないんだけどなぁ。なのに鼻の穴に氷突っ込みやがって」
すると由真はいきなり顔を近づけ、
「気を遣わないたかあきが悪い」
ぺしっ。
痛て、デコピンされた。
つづく。
どうもです。第81話です。
>>639さん、支援ありがとうございました。m( __ __ )m
前回風邪でお休みしたものの、実は未だに完治してなかったりします。
(熱は引いたんだけど、何故か鼻水が止まらない……)
今年の風邪はホントにたちが悪そう。皆さんも気を付けてくださいね。
>>645 乙です。今年の風邪は腹にもくるらしいので気をつけて。
鼻腔が渇く→喉が痛む→鼻水が止まらない(今此処!)
明日の朝は熱かな……
俺も癒されたい……
>>645 おつです。
昨日一気に読み進めてようやく追いつきました。
こういうドタバタっぷりは好きです。
私もお腹痛い… 明日会社休も…。
貴明とリンクするくらい創作に入れ込んでいる作者さんに萌え。w
>645
乙。そろそろあらすじが1レス分を占領しそうな勢いですね
郁乃とこのみ? 個人的には大歓迎っスよw
652 :
名無しさんだよもん:2006/11/21(火) 13:28:43 ID:SScrs4/X0
乙、結構風邪ネタが続いてますね、まあ個人的に好きだから嬉しいけど、
こんなシチュエーションいいですね〜
ADが出るまではみんな大人しいんと違うか〜〜??
ADと矛盾したらしたと割り切っていいんだろうけどね。
個人的には郁乃の学校生活が気になる。親が車で送迎して学園内は車椅子だろうが、
エレベータあんのかな。階段昇降機がエロゲに登場するのも見てみたい気はするがw
学校によっては給食や教材を上の階に届けるための業務用エレベータあるじゃん。あれ使うんじゃない?
貴明の学校は給食制じゃ無いし、愛佳がやたら大量の荷物運んでたりするのを見る限り多分無いけど。
私立ならエレベーターあるはず
無かったら貴明がお姫様だっこで運ぶだろうwww
>>656 どっかでみたことあるネタだな。河野家か素直になれない〜のどっちかだった気がするけど。
でも、皆一度は考えるネタだから俺が脳内で考えてただけかもしれない。
素直になれないでもやっている
俺の記憶は間違っていた…orz
書庫を読み直した
河野家は43話から45話で、河野家の階段だった。その後みんなを抱っこする羽目に
素直に〜は学校の怪談もあるな。第1話から、というか第4話まで抱っこしかしてねえw
>学校の怪談もあるな。
ささらネタかと思って探してしまったじゃないか
664 :
名無しさんだよもん:2006/11/25(土) 23:08:58 ID:Z64W9RhrO
書庫の河野家にネギの話しがない・・・
>>656 そんで、エンディングでこうなるわけだな。
890 名前: おさかなくわえた名無しさん 2006/04/10(月) 00:59:22 ID:EYAkXZdz
会社の同僚(♀)の結婚式に行った時。
参加者の一人の女性が突然大声で泣き出して、自分のバッグやら
ナイフやフォークやらぶん投げ始めた。
新郎の子がお腹にいるとか言いながら。
因みにその女は新婦の実姉だった。
ドラマ以上にドラマだった。
残念を通り越して悲しげな愛佳の目を見たら、とても冗談でしたなどとは言えなかった。愛佳は
イチゴジュースを作りに家に帰り、部屋に戻った俺には郁乃の冷たい視線。辛いよぉ。
眠気ゼロなので郁乃、るーこと会話。郁乃はこのみの好きなことを尋ねてくるんだけど、そんなの
本人に聞けばいいのになぁ。イマイチ及び腰な郁乃に、単刀直入にこのみのことが好きかと尋ねて
みると、怒った郁乃に鼻の穴に氷突っ込まれた。酷すぎる。
そして、イチゴジュースを作って戻ってきた愛佳。実際飲んでみるとコレが美味いのなんのって!
何でも牛乳を入れるのが美味しさのコツだとか。あれ? ってことはコレはイチゴ牛乳じゃん。
つまり郁乃は、本人は気付かぬままリクエスト通りのものを飲んでいたのだ。
夕方、由真が熱を測りにやってきた。いつもは脇の下で測っている俺だが、由真は口で測れと言う。
なんでもそっちの方が正確なんだそうな。更にはお尻で測ることも出来るそうだが、勿論お断りだ。
熱はまだまだ高くて、寝ているしかない俺。由真は夕食まで話し相手になると言ってくれた。話題
はさっきの郁乃の件。由真は気を遣わない俺が悪いと言い、デコピンしやがった。
布団から手を出して、デコピンされた額をさする。
「いってーな。病人に何てことすんだよ」
すると由真は、
「なに甘えたこと言ってんのよ。言っとくけど、あたしは愛佳と違って甘やかさないからね」
「いや、別に甘えたいとは――」
「イチゴジュースが飲みたいからって、わざわざ家に帰して作らせたクセに」
う、それを言われると何も返せない。
そんな俺を見て由真は面白くなさそうな顔で、
「愛佳は愛佳でえらい張り切ってたけどさ。で、美味しかった?」
「うん、マジで美味かった」
「あっそ」
人に尋ねておきながら、さも興味がないと言いたげな由真。
「それで、何言ったの?」
「何って?」
「郁乃ちゃんによ。怒らせるようなこと言ったんでしょ?」
「いや、このみは何が好きなのって尋ねてきたから、そんなの自分で聞けばいいじゃんって。
あと、郁乃はこのみが好きかって」
「ああ、そりゃ怒るわ、郁乃ちゃんなら」
あっさり納得する由真。
「あの郁乃ちゃんが『うん、あたしこのみが大好きよ☆』なんて素直に答えるワケないじゃない。
たかあきだっていい加減そのくらいは分かってるでしょ? 分かっててワザと郁乃ちゃんが困る
ような質問をしたんじゃないの?」
「い、いや、そう言うつもりは……」
とは言え、内心ドキリとしてる俺。俺ってば、無意識に郁乃をからかうようになってるのか?
「もう、ホントにたかあきはしょうがないんだから。
あのさたかあき、たかあきは郁乃ちゃんよりも年上なのよ。
年上の男の子が年下の女の子をからかったりのって、凄い格好悪いわよ。幻滅ものよ。
郁乃ちゃんのことが可愛いのは分かるけどさ、もう少し接し方ってものを考えなさいよ。
ちゃんと気を遣って、郁乃ちゃんの機嫌を損ねないよう心がけないと、ね」
げ、由真のヤツ偉そうに説教かよ。
「何だよそれ? タマ姉のマネのつもりか?」
「環さんの? 別に」
「お前さ、タマ姉を尊敬するのは勝手だけど、感化されすぎなのもどうかと思うぞ。
その内お前まで俺のこと『タカ坊』なんて呼ぶんじゃないだろうな?」
実際、今朝そう呼んでたし。まぁアレはモノマネだけど。
「――ああ、いいかもそれ」
「は?」
「あたしも呼ぼうかな。タカ坊って」
面白いことを発見したかのような由真の弾んだ声。ま、マジ?
「いや、あたしだけじゃなくて、河野家メンバーズ全員、たかあきのことはタカ坊と呼ぶってのも
面白そうね。なんか統一されてるってのも良さげだし」
お、おいおい冗談じゃないぞ。このみや愛佳たち、果ては郁乃やよっちたちにもタカ坊呼ばわり
されるのかよ?
それは絶対にお断りだ。年上のタマ姉はともかくとして、同い年や年下の連中にまでタカ坊呼ば
わりされるのは勘弁だ。俺にだって一応それなりのプライドってもんが――
「う〜ん、でも、やめた」
と、あっさり翻す由真。
「やっぱ、タカ坊って呼ぶのは環さんだけだよね。うん」
一人で納得してるし。いつものことだがこいつの思考にはついていけないよ。
「郁乃ちゃんのことだけどさ」
げ、まだ続くのかよ。
「実はあたし、密かな目標があるんだ。聞きたい?」
聞きたい? などと尋ねてくるが、身を乗り出して俺を見る由真の顔を見ると『聞きたいでしょ。
聞きたくないワケないわよね。って言うか聞け』とでも言わんばかり。
ここで聞きたくないなどと言えば何をされるか分かったもんじゃない。なので、
「それってどんな目標?」
すると由真は、
「う〜ん、どうしようかなぁ。やっぱ言わないでおこうかなぁ」
「言いたくないなら別にいいけど」
「もう、そこまで頼まれちゃ仕方がないわね」
頼んでねーよ。
「あたしの目標、それは……」
由真はグッと拳を握り、
「郁乃ちゃんに”お姉ちゃん”って呼んでもらうこと!」
……は?
「お姉ちゃんでも、由真お姉ちゃんでも、ユマ姉でもいいわ。とにかく姉と呼ばれたいのよ」
「何で? 別に由真先輩でいいじゃないか」
すると由真は不満げに、
「親友の妹なんだよ、そのくらい仲良くなりたいじゃない。
それにあたし一人っ子だから、妹って羨ましかったのよねー。
たかあきだって一人っ子なんだし分かるでしょ。あ、でもたかあきにはこのみちゃんがいるか」
「妹じゃない」
「――え?」
「このみは、妹じゃない」
そう、妹なんかじゃない。このみは、このみだ。
まだ気持ちのはっきりしない俺だけど、それだけは言えることだ。このみは、俺の妹じゃない。
「ふぅん。あっそ」
つまらなさそうな由真の台詞。
「ま、とにかくあたしは郁乃ちゃんにお姉ちゃんって呼ばれたいワケなのよ。
郁乃ちゃんにとっても悪い話じゃないと思うのよね。お姉ちゃんが二人もいたら郁乃ちゃんだって
嬉しいに決まってるだろうし」
いや、郁乃にも姉を選ぶ権利はあると思うぞ。
それに郁乃は愛佳で充分間に合ってると思う。あの姉妹、妹の方はなんだかんだ言ってはいるが、
仲良し姉妹なのは誰が見ても明白だ。正直、由真が入り込む余地などあるとは思えない。
「よーし、頑張るぞ! 頑張ってお姉ちゃんと呼ばれるぞ、あたし!」
……まぁ、頑張ればいいさ。多分無駄に終わるが。
「それにしてもさ、至れり尽くせりだよね」
またも唐突に由真が語り出す。
「何が?」
「今のたかあきよ。代わる代わるみんなに面倒見てもらってるじゃない。着替えさせてもらったり、
リンゴ食べさせてもらったり、愛佳に至ってはわざわざ家に帰ってジュース作らせたり」
「いやだから、愛佳のは、その……」
「あ〜あ、たかあきが羨ましいなぁ。
あたしもあんたみたいに、男の子取っ替え引っ替えで面倒見てもらいたい――」
そこで由真は何故か言葉を切り、
「……」
うーんと天井を見上げて考え込む。
「どうした、由真?」
「と思ったけど、やっぱいいや」
まただよ。自分で言った言葉を自分で否定して、こいつホントにワケ分からん。
「なんでだよ?」
そう尋ねてみると、由真は、
「うん、あたしは一人でいい。そういう相手」
そう言って微笑んだ。
由真と適当な話をしているうちに、夕飯が出来たわよとタマ姉の声が聞こえて、「あーお腹空いた。
じゃあたかあき、ちゃんと寝てるのよ」と言い残し、由真は出ていった。
それから少し経って。
こんこん。
「タカくん、いい?」
おや、このみだ。
「いいぞ」
そう言うとこのみが部屋に入ってくる。
このみの手にはお盆、その上には湯気を立ててる土鍋。ん、俺のお粥か?
「お腹空いたでしょタカくん。お粥持ってきたよ」
「あれ? お粥は確か瑠璃ちゃんが……」
卵入りのお粥を作ってくれると約束してくれたはず。何でこのみが?
「うん、瑠璃ちゃんが作ったお粥だよ」
あ、やっぱそうか。それをこのみが持ってきた、と。
このみは俺の横にぺたんと座り、
「ちょっと待っててね」
土鍋のフタを開け、レンゲで掬ったお粥をふーふーし、
「あーん」
――このみも「あーん」ですか。どうせ自分で食べるって言っても聞かないだろうな。
仕方がないので素直に、
「あーん」
口を開けると、このみがゆっくり慎重にお粥を口の中に。
「はふはふ――お」
この味、この食感、間違いないぞ、これは溶き卵入りだ。
「どう、タカくん?」
「うん、美味しい」
約束通り卵入りのお粥を作ってくれた瑠璃ちゃんに、感謝。
「ふぅん、やっぱり美味しいんだね」
そう言ってこのみはレンゲでもう一掬いし、ふーふーして、――え?
ぱくり。
「はふはふ――うん、美味しい」
「え!?」
こ、このみのヤツ、自分で食いやがった!
「お、おいコラこのみ! それは俺のお粥だろうが!」
するとこのみは悪びれもせず、
「えへ〜。美味しそうだったから、つい」
こ、この食いしんぼ娘が……
「ゴメンねタカくん」
そう言ってお粥を掬ってふーふーし、
「はい、あーん」
「あーん」
二口目を食べる。――うん、美味い。
「このみ、次次」
「うん、待ってて」
俺が急かすとこのみはまたお粥を掬い、ふーふーして、
「……」
ん、お粥をじっと見つめてるぞ? ――って、
ぱくり。
支援
支援
「はふはふ――うん、やっぱ美味しい」
「食うなっ!」
散々叱りつけてやったので、さすがのこのみもその後は全部俺に食べさせてくれた。
「ふぅ、ごちそうさま」
「はい、お粗末様でした」
このみが作ったわけじゃないのにお粗末様とはと一瞬思ったけど、まぁ細かいことだな。
「瑠璃ちゃんのお粥、美味しかったねタカくん」
「ああ、お前のせいで全部食えなかったけどな」
「む〜。たった二口しか食べてないよ」
そう言ってむくれるこのみだが、
「あ、そうだお薬」
コロリと元の顔に戻り、ベッドの傍らの薬入りの紙袋を手に取る。
そしてこのみがポケットから取り出したのは……オブラート?
「ちょっと待っててねタカくん。お薬全部オブラートに包んであげるから」
「へ? このみ、何でオブラートを?」
するとこのみはキョトンとした顔で、
「え、だって瑠璃ちゃんが、タカくんはこれがないとお薬飲めないって言うから」
そ、そうか、瑠璃ちゃんにそう言われたのか。
熱冷ましを飲んだとき、オブラートに包んでくれた瑠璃ちゃんの厚意を無碍にしてはいけないと
「俺、オブラート無しじゃ薬が飲めないんだ」ってウソついたんだよな。瑠璃ちゃんもそれを真に
受けて、昼の薬もきっちりオブラートに包んでくれてたし、それをこのみに伝えるのも当然か。
「でもタカくんがオブラート使ってるなんて意外だな。てっきりわたし、タカくんは苦いお薬でも
平気で飲めるって思ってた。
わたしも苦いお薬は苦手なんだけど、お母さんにオブラートで包んでって言ったら、『いい年して
甘ったれたこと言うんじゃないの!』って怒られるんだよ。あ〜あ、タカくんが羨ましいなぁ」
……ま、まずい。このみのヤツすっかり誤解してやがる。このままじゃ俺は、オブラート無しじゃ
薬も飲めないお子ちゃまだとみんなに思われてしまうではないか!
「あ、あのなこのみ、実は――」
と、そこで思いとどまる。もしここで、俺がこのみの誤解を解いたとしよう。すると……
「あのね瑠璃ちゃん。タカくん、オブラートいらないって言ってたよ」
「え!? それホンマなん?」
「うん、オブラート無しで平気で飲んでた」
「う、ウチにウソついたんか! 貴明ホンマはオブラートいらないのに、ウチのこと騙したんや!
貴明のアホ〜! うわああああああああん!!」
い、いかん! それじゃせっかくついたウソが無駄になってしまうではないか!
「タカくん、どうかしたの?」
「――え!? あ、いや、何でもない」
うん、思いとどまったのは正解だ。
昼、夜と美味しいお粥を作ってくれた瑠璃ちゃんを傷つけるワケには決していかない。それに比べ
たら俺のちっぽけなプライドなどゴミのようなものだ。捨てたって構わん。
「……よし、出来たっと。はいタカくん、コレ飲んで」
オブラートに包まれた薬と、水の入ったコップを差し出すこのみ。
俺は身を起こしてそれを受け取り、黙って飲み下すのであった。
つづく。
どうもです。第82話です。
>>673さん、
>>674さん、支援ありがとうございました。m( __ __ )m
風邪編もいい加減長くなってるなぁ……(^^;
河野家の人乙です。
早く体調が回復するといいですね。
せやけど支援がカブるとは思わなんだな。
今年で37の一人モンだがこんなところで結婚する羽目になるとは・・・。
河野家乙。
初のリアル更新ktkrだったが支援に乗り遅れたorz
瑠璃のために自分を犠牲にするとは、貴明良い男だな
間接キスネタが来ると個人的に期待したんだが……
>>665 でおまけシナリオでこうなるわけだな
郁乃は「ギャー!」って叫んで、その場から去ってしまった。
愛佳の方は、泣きながら貴明に掴みかかって「責任とってよ!」とか叫んでた。
貴明はいきなり池沼になったみたいにニヤニヤしてたよ。
両家のお母さんは泣いてた。貴明のお父さんも泣いてて、郁乃のお父さんは怒鳴り散らして
その後倒れて近くの病院に運ばれた。
私はその後他の女の子達と郁乃を探して走り回りました。
その後、愛佳と貴明は結婚した(但し愛佳は実家から絶縁&貴明は仕事辞めるハメに)。
郁乃の方はかなりの額の慰謝料取って、それと預金を元手に留学したよ。
この前久々に一時帰国したので会ったけど、元々はふっくらした人だったのに
入院してた時のように超ガリガリになってました。
作者さん乙、そして支援の方達いつも乙夜勤なもので読むだけで申し訳ないです。
>>681 逆に考えるんだ。
昼書いて昼間に投下すればいいんだ。
高校のときの友人の愛佳の結婚式に行った時。
参加者の一人の女性が突然大声で泣き出して、自分のバッグやら
ナイフやフォークやらぶん投げ始めた。
新郎の子がお腹にいるとか言いながら。
因みにその女は新婦の実妹の郁乃だった。
愛佳は「ギャー!」って叫んで、その場から去ってしまった。
郁乃の方は、泣きながら貴明に掴みかかって「責任とってよ!」とか叫んでた。
貴明はいきなり池沼になったみたいにニヤニヤしてたよ。
両家のお母さんは泣いてた。貴明のお父さんも泣いてて、愛佳のお父さんは怒鳴り散らして
その後倒れて近くの病院に運ばれた。
私はその後他の女の子達と愛佳を探して走り回りました。
その後、郁乃と貴明は結婚した(但し郁乃は実家から絶縁&貴明は仕事辞めるハメに)。
愛佳の方はかなりの額の慰謝料取って、それと預金を元手に留学したよ。
この前久々に一時帰国したので会ったけど、元々はふっくらした人だったのに
入院してた時のように超ガリガリになってました。
こうですk
>>683 見るのも堪えない駄コピペ改編ぐらいしか出来ないのでせめて支援だけでもしたい…
優しい言葉を頂けたので調子に乗って何か投下するかも、その時は罵倒よろしく。
>>686 ぜひ花梨スレに花梨SSを投下してくれ。
住人総出でおもてなしする。
「……」
「あの、シルファちゃん?」
「…………」
「……はぁ」
一体何度同じやり取りを繰り返しただろうか。目の前にいる金髪の少女は、椅子に隠れて
俺を見つめた状態で、微動だにしない。呼びかけても反応してくれないし、目を逸らすこともない。
恨みますよ、イルファさん……
「試作機のテスト?」
「はい、私と同じHMX-17シリーズC型シルファ……簡単に言ってしまうと、私の妹みたいなものですね。
そのシルファちゃんの調整が終わりまして。私たちと一緒に暮らすことになったんです」
そう話すイルファさんだが、どことなく表情が暗い。妹と一緒に暮らせるのに、嬉しくないのかな?
「実はですね、シルファちゃん少し問題がありまして」
「問題?調整は終わったのに何か不具合であるの?」
「いえ、体の調整は完璧に終わっているんです。ですが、心のほうに問題があるんです」
……心に問題があるメイドロボなんて始めて聞いた。これも、D.I.Aの凄さなんだろうか。
「で、どんな問題?」
「シルファちゃん、すっごい人見知りなんです。私や珊瑚様としか話せないぐらい酷くて、
他の方がいると一言もしゃべらなくなってしまうんです」
「人見知り……ねぇ」
それ、商品化できるのか?でも、徐々に打ち解けていくっていう発想は斬新かもしれない。
まさにメイドロボの革命だ。さすがに珊瑚ちゃんの発想は一味違う。
「それでどうしようか悩んでまして。このままだとシルファちゃん、メイドロボとしての
お勤めが出来ないダメな子になってしまいます」
「俺に相談されても……そんなに酷いんなら、精神科に行ってみるとか」
もっとも、メイドロボを診察してくれるのかどうかは分からないけど。
「貴明さんは、シルファちゃんを見ず知らずの人に任せるって言うんですか!?」
「いや、そう言われても……」
俺に出来ることなんて無いし。と思っても口に出来ないのが俺のダメなところだと思う。
言うべきことをしっかり言わないから、いつも面倒に巻き込まれるんだ。
今回もその例に漏れず、しっかり面倒ごとに巻き込まれてしまった。
「というわけで貴明さんにお願いがあるんです」
「……何?」
この台詞をイルファさんに言わせたときに、もう俺の負けは決まってたんだと思う。
「シルファちゃんを、預かってくれませんか?」
「……」
「……」
イルファさんが、シルファちゃんを連れて来たのが10時ごろで、
今が11時。まだ1時間しか経っていないのだが、丸1日こうしているような気がする。
その間、シルファちゃんと俺の間には一言の会話もない。
元々女の子が苦手な俺に気の利いた台詞が浮かぶはずも無く、気まずい沈黙が漂うばかり。
進展どころか、後退しているような気さえしてきた。
「いい加減、椅子に隠れるのやめない?」
「……」
……やっぱり俺には無理だ。イルファさんに事情を話して、また別の解決策を考えよう。
このまま続けたって意味が無い。シルファちゃんも、人見知りなのに
慣れない男の家なんかに送り込まれて迷惑がっているだろう。
「シルファちゃん、俺と一緒にいるの辛いよね?」
「……」
否定しないことが、何よりの回答だった。
「今からイルファさんに電話して、迎えに来てもらうから。荷物、纏めておいてくれるかな」
「……!」
俺が電話に向かって伸ばした手が、シルファちゃんに抱きかかえられる。
驚いて顔を見ると、泣きそうな、それでいて困ったような表情のシルファちゃんが俺を見上げていた。
「ど、どうしたの?」
「……ダメ」
「電話をしちゃダメってこと?」
こくこくと頷くシルファちゃん。その目には、強い意志が感じられる。
「電話しちゃ、ダメです。お母さんと……一緒に暮らしたいです」
言葉足らずで良く分からないが、俺がイルファさんに電話すると、シルファちゃんは珊瑚ちゃんと
一緒に暮らせなくなるらしい。イルファさんは詳しく話してくれなかったが、
実地テストみたいなものを兼ねているのかもしれない。
「分かった、電話はしないよ。その代わり、ちゃんと椅子に座ってくれるかな?」
小さく頷くシルファちゃん。ようやく一歩前進できた。
一歩前進できたというものの、結局そこから進展が無い。椅子に座ってくれるようにはなったのだが、
相変わらず会話は無いし、やっぱり俺から目を逸らさない。こんな風に見つめられてしまうと、
落ち着かないことこの上ない。といっても、誰かに助けを求めるわけにもいかないし。どうしたもんかな。
等とまとまりの無いことを考えていると
ぐー
腹が鳴った。意識してなかったので気づかなかったが、大分腹が減ってるらしい。
時計を見ると、既に12時半を回っていた。シルファちゃんはメイドロボだから
お腹が空くことは無いし、簡単にカップめんでも作って食べるかな。
「俺、お昼ご飯食べるからちょっと待っててくれるかな?」
立ち上がってキッチンに行こう……としたところで、シルファちゃんに服をつかまれる。
「私が、作ります」
「えっ、でも……」
「作ります」
さして強い言い方では無いのだが、二の句をつがせない強さがシルファちゃんにはある。
何かを話すときのこちらを見つめる視線が、強い。
そうしてじっと見つめられてしまうと、俺も何も言えなくなってしまうわけで。
「じゃあ……お願いするよ」
「はい。何を作ればいいでしょうか?」
「えっと、冷蔵庫にあるもので適当に作ってもらえるかな?
シルファちゃんが何を作れるのか良く分からないし」
「かしこまりました」
シルファの設定発表があってからずっと書いてたんですが、ここで筆が止まっています。
料理の経験無いのでどんな料理を出せば良いのか分からないことと、普通のサイトで一話で
完結するぐらいの長さで、このシルファを陥落できるのか、ということが引っかかっております。
何かの拍子に続きが書けたらまたこちらに書きますので、そのときはよろしくお願いします。
素直になれないもこんな感じで進展しておりませんw
学習型あーんどロールアウトしたてなんだから簡単なものでよろし。
ハムエッグとか、落として焼くだけのそんなもの。
それが失敗して、またドラマってのが黄金パターンでいいやね。
つーか、貴明にも簡単に作れそうなものを、あぶなっかしい手つきで作ろうとするシルファに
後ろから手をそえて、はっと気が付いて二人で真っ赤になって舞い上がるつーのはどうよw
「セ〜ンパイ♪」
「貴明〜♪」
ムニュッ×2
「!?!?!?!?!?!?!?!?!?」
「えへへ、センパイゲットです」
「同じく貴明ゲット♪」
前後挟まれ抱きついてくる、チエちゃんとミルファ。
自慢だと言わんばかりにムニュムニュと押し付けられる柔らかな感触で、俺はもう沸騰状態。
「よっち、大概にしろ。先輩が沸騰してる」
「ミルファちゃん、そう言うはしたないマネはやめなさいといつも言ってるでしょう」
「う……そっそうだね」
「わかったわよ、姉さん」
ミチルちゃんとイルファさんに叱られ、渋々離れる二人。
俺はオーバーヒート寸前のグロッキー状態。
「タカ君、大丈夫?」
「……大丈夫ですか?」
おろおろと心配そうに駆け寄るこのみとシルファ。
「チクショー! 何だその究極のフォーメーションは!?
ミルファちゃんとチエちゃんの巨乳の感触つき抱擁に
それに対しての抑止力にミチルちゃんとイルファさん、
仕上げにケアはチビ助にシルファちゃんだと!? 何で貴明ばっかりが!!!」
「セ〜ンパイ♪」
「貴明〜♪」
ムニュッ×2
「!?!?!?!?!?!?!?!?!?」
「えへへ、センパイゲットです」
「同じく貴明ゲット♪」
前後挟まれ抱きついてくる、チエちゃんとミルファ。
自慢だと言わんばかりにムニュムニュと押し付けられる柔らかな感触で、俺はもう沸騰状態。
「よっち、大概にしろ。先輩が沸騰してる」
「ミルファちゃん、そう言うはしたないマネはやめなさいといつも言ってるでしょう」
「う……そっそうだね」
「わかったわよ、姉さん」
ミチルちゃんとイルファさんに叱られ、渋々離れる二人。
俺はオーバーヒート寸前のグロッキー状態。
「タカ君、大丈夫?」
「……大丈夫ですか?」
おろおろと心配そうに駆け寄るこのみとシルファ。
「チクショー! 何だその究極のフォーメーションは!?
ミルファちゃんとチエちゃんの巨乳の感触つき抱擁に
それに対しての抑止力にミチルちゃんとイルファさん、
仕上げにケアはチビ助にシルファちゃんだと!? 何で貴明ばっかりが!!!」
まず、ちょっとパソコンのトラブルで投稿がダブっちゃったことにお詫びします。
現在『お泊り編』が行き詰まってるので、気分転換のつもりで書いたやゆよにHMXを絡めたら
の試作品です。
何となく、や・ゆ・よとメイドロボ3姉妹って共通点ある気がするから、こうなると思うんで
出来れば、こうなる所まで書きたいなとは思ってます。
>>697 ミルファが大きさを主張、よっちが本物の弾力を主張して張り合うとかどうですか(^ω^)
>>698 最後は貴明にどっちがいいのか、確かめてもらうんだな
………直に触ってもらって
最終的には7Pか
701 :
名無しさんだよもん:2006/12/02(土) 14:33:23 ID:mntRP5zh0
HMXなら姫百合姉妹は必須だろ。
だから9Pが妥当だと思う
どんだけ絶倫よw
>>699 そしてオーバーヒートでぶっ倒れて、ちゃるとイルファに二人が叱られて
このみとシルファがあたふたしながら介抱って勢いですな。
704 :
名無しさんだよもん:2006/12/03(日) 12:04:00 ID:bM0by2AfO
>>702 じゃあばったりでくわしたタマ姉と春夏もいれて11Pだな
お前らには河野家があるというのに
河野家XRATED
犯罪のにおいがするぜ
被害者は逆に拉致監禁されて枯渇死したタカアキ
>>664 亀で申し訳ないんだが、書庫の「暗闇の中で」って言うこのみのSSにまざってたぞ。(よっちが葱持って来たやつ)
SSスレ最初の作品か
ナツカシス
年下の女の子への接し方を考えろと説教かます由真。そんな由真の密かな目標は、郁乃に”お姉
ちゃん”と呼ばれることらしい。無理じゃないかなぁ。
他にも、みんなに甘やかされていいご身分だの、河野家メンバーズ全員の俺の呼び方を”タカ坊”
で統一すべきだの、由真は言いたい放題。そのくせどっちも自分で「やーめた」だし。
夕飯が出来たからと由真が部屋を出て、それからしばらくして俺のお粥を持ってきてくれたのは
瑠璃ちゃんじゃなくてこのみ。けれどお粥は約束通り、瑠璃ちゃんが作った卵入りのお粥だ。
他のみんな同様、お粥を食べさせてくれるこのみ。けれどこの食いしんぼ娘、美味そうだからって
二口も食いやがった。数少ない楽しみなのに何てことしやがる!
食後の薬。瑠璃ちゃんから聞いたこのみは、オブラートに包んだ薬を俺に渡す。だが、もしここで
俺がオブラートなどいらないと言えば、嘘をつかれたと瑠璃ちゃんが傷つくに違いない。オブラート
が無ければ薬も飲めないお子ちゃまと言うレッテルを覚悟で俺は、黙ってそれを飲むのであった。
薬を飲んで横になっていると、お粥で腹がふくれたのも手伝ってか、俺はまた眠ってしまった。
そして目が覚めると、部屋の中は真っ暗。隣のベッドを見るとタマ姉がすやすや寝息をたてている。
正確な時間は分からないが、どうやら夜中のようだ。
なので再び目を閉じるのだけれど……、困ったことに、全然眠れなかったりする。昼間何度も寝た
挙げ句、中途半端な時間に一眠りしたのが良くなかったのだろう。
繰り返すが、今は夜中。話し相手も当然いないし、隣でタマ姉が寝ている以上、明かりをつけて
本を読むワケにもいかない。さて、どうしたものやら……
そう言えば以前、牛乳を飲むとよく眠れるって聞いたことがあったっけ。よし、牛乳を飲もう。
身を起こしてベッドから降り、立ち上がる。――う、なんか身体が固い感じ。ずっと寝ていたせい
だな。腰を回して――すげ、コキコキ鳴ったぞ。
熱はだいぶ引いたのだろう。だるさや熱さはあまり感じられない。うん、昼間よりもずっと調子が
いいぞ。
タマ姉が目を覚まさないよう、こっそり忍び足で俺は部屋を出た。
階段の前。真っ暗で階段がよく見えない。手探りで明かりのスイッチを探し、付ける。――う、
明かりがまぶしいな。
目が慣れるまで少し待って、それから階段を下りようと――
がちゃ。
「……あ、貴明」
え、後ろから声――瑠璃ちゃん?
「どないしたん貴明? こんな夜中に」
振り返って見ると、るーこたちの部屋から瑠璃ちゃんが顔を覗かせている。そうか、俺にベッドを
譲ったから、この前の薫子さんたちが泊まったときみたいに、るーこたちの部屋で寝ていたのか。
「あ、のどが渇いたから牛乳でもと思ってさ。もしかして足音うるさかったかな?」
「ううん、ちゃう」
首をふるふると横に振る瑠璃ちゃん。じゃあ何で瑠璃ちゃんは起きたのだろう?
と、瑠璃ちゃんはハッと、
「貴明、勝手に起きたらアカンやないか! ちゃんと寝てな」
「しーっ。瑠璃ちゃん、声大きいって」
俺に注意されて「あ……」と口に手を当てる瑠璃ちゃん。
「身体はだいぶ楽になったしさ、それにタマ姉を起こすのも悪いし。
じゃあ俺、下に行くから。瑠璃ちゃん、おやすみ」
小声でそう告げ、改めて階段を下りようとすると、
「あ、貴明……。そ、その……」
瑠璃ちゃんは部屋から出てきて俺に歩み寄り、
「う、ウチも、行く」
なにゆえ瑠璃ちゃんは俺について来るのだろうか? そんな疑問が頭をよぎるものの、断る理由も
全くないので、俺は瑠璃ちゃんと一緒に階段を下りた。
さて、居間に入ってキッチンへと――
ぎゅっ。
ん? 瑠璃ちゃんが俺のパジャマの裾を掴む。
「どうしたの、瑠璃ちゃん?」
「う、うう……」
困ったような、頼りなさそうな顔の瑠璃ちゃん。何も言わず、チラリと見た方向には――
「あ、トイレ?」
ゲシッ!
「ぐえっ!?」
「い、言うな!」
け、蹴られた……。
けど、これで何となくだが、瑠璃ちゃんが俺についてきた理由が分かったぞ。大方、花梨あたりが
宇宙人関係の怖い話でもして、そのせいで眠れず、おまけにトイレにも行けなかった、と。ホントに
瑠璃ちゃんは恐がりだなぁ。
「ご、ゴメンね瑠璃ちゃん」
痛む脇腹をさすりつつ、廊下の明かりをつける。明るいだけでも随分違うはずだ。
「とりあえず俺はキッチンに行くからさ、瑠璃ちゃんは――」
ぎゅっ。
まただ。また瑠璃ちゃんは押し黙ったまま、俺のパジャマの裾を掴む。
今度は俺にどうして欲しいのだろうか? 俺は少し考え――ふと、ある出来事を思い出す。
それは以前、このみが家に”お泊まり”に来たときのこと。俺がこのみに怪談話をしたばかりに、
すっかり怯えたこのみにトイレにまで付き合わされて……
うん、多分これはあのときと同じだ。なら、そうだな……、よし。
俺はトイレの前に立ち、そして、
「とおいき〜お〜くをたどれば〜♪」
「た、貴明?」
突然歌い出した俺に驚く瑠璃ちゃん。
「ああ驚かせてゴメンね。何故か突然ここで歌いたくなっちゃってさ。
多分俺、5分くらいはこのまま歌ってるつもりだから、悪いけど聞き流してくれないかな。
あ、そうだ、歌に集中したいから耳もふさいでおこう」
両方の耳をふさぎ、歌を続ける。
ポカンとする瑠璃ちゃんだが、やがて俺の意図に気付いたらしく、顔を赤らめながらもコクリと
肯き、トイレに入った。
トイレの後、今度は俺の用事を足しにキッチンへと向かう。瑠璃ちゃんもついてきた。
瑠璃ちゃんが怖がるといけないので、まずは居間の明かりをつける。
「――うぅ、まぶしいよぉ〜」
そんな声が聞こえたのはソファーから。――え!?
「こ、このみ!? なんでお前、そこで寝てるんだ?」
ソファーの上で毛布にくるまって寝ていたのは、このみだ。このみはむくりと身を起こし、
「……ん〜、さっき歌ってたの、やっぱタカくんなんだ」
ぼ〜っと眠そうな目で俺を見る。
「あ、うん、まぁな……
じゃなくて! 何故にお前はここで寝てるのかと聞いている!」
するとこのみは寝ぼけた声で、
「お泊まり」
「お泊まり?」
「あのね、お父さんとお母さん、また急な用事で出かけちゃったの。だからタカくんの代わりにタマ
お姉ちゃんにお願いして」
――ああ、そう言えばそろそろだったか。ほぼ月に一度の、このみの”お泊まり”。
「そっか。まぁ、そう言うことならな。でも何でここで?
何もこんなソファーじゃなくたって、タマ姉か誰かとでも一緒に寝ればいいのに」
「あのね、寝てみたくなったの、ここで」
えへ〜、と、寝ぼけた顔で笑うこのみ。
「タカくんが、普段どんな風に寝てるのかなって思って、タマお姉ちゃんにお願いしたの」
「物好きなヤツだなぁ。普通のベッドの方が寝心地いいだろうに」
「ううん、そうでもないよ。このソファー、なんかとっても気持ちいいんだ。
寝てるとね、なんとなくタカくんの匂いがするの。なんだかタカくんと一緒に寝ているみたい」
「な!?」
こ、こいつ、自分がどんだけ恥ずかしいこと言ってるのか分かってるのか!?
などと俺が慌てるのを余所に、このみは、
「あ、そう言えばタカくんどうしたの? まだ寝てなきゃダメだよ。ホラ、そんなに顔赤くして」
いや、顔が赤いのは風邪のせいじゃないのだが。
「いやその、のどが渇いたからさ、牛乳でも飲もうかと思って」
「瑠璃ちゃんも?」
「え? あ、う、うん……」
「ふぅん……」
瑠璃ちゃんのそのウソを疑うこともなく、このみは、
「わたしも飲む」
支援
支援
ソファーに三人で座り、牛乳を飲む。――そう言えば以前にも似たようなことがあったな。
「あ」
突然声を上げるこのみ。
「どうした、このみ?」
「タカくんにはホットミルクの方がよかったかな」
ホットミルク? ――ああ、温かい飲み物の方が風邪にはいいってか。
「いや、コレでいいよ。のど渇いてるときは冷たい方が美味いし」
「でも、お腹壊したりしない?」
このみはマジで心配そうな顔。
「コップ一杯ならどうってことないって。大丈夫大丈夫」
そう言いながらこのみの頭をくしゃくしゃとなでてやる。
「あ、うぅ、タカくんやめてよぉ〜」
とか言いながらもくすぐったそうに笑ってやがる。ははは、こやつめ。
と、そこで俺は、となりの瑠璃ちゃんがやけに静かなのが気になった。見ると瑠璃ちゃんはコップ
を手に上の空。何か考えているのだろうか?
「瑠璃ちゃん?」
「――え?」
俺に呼ばれ、とハッと気付く瑠璃ちゃん。
「どうしたの瑠璃ちゃん? 何か考え事してたみたいだけど」
「あ、うん……」
瑠璃ちゃんは下を向き、
「あのな……、ウチ、さんちゃんのこと、考えてた。
さんちゃん、今頃何してるやろって。寝てるならええけど、こんな時間までゲームとかしてない
やろかって……。ま、まぁ、イルファがおるから大丈夫や思うけど……」
やっぱり瑠璃ちゃんは珊瑚ちゃんのことが気にかかる、か。まぁ当然だよな。今まで二人はずっと
一緒だったんだから。瑠璃ちゃんにとって珊瑚ちゃんは、手のかかる、でも一番大切な家族……
俺は、思い切ってこんな質問をしてみた。
「瑠璃ちゃん、家に帰りたい?」
「――え?」
その質問に戸惑う瑠璃ちゃん。
「あ、あの、う、ウチ……」
「落ち着いて瑠璃ちゃん。正直に今の気持ちを答えてくれたらいいんだ。迷っているならそれでも
いいよ。別にそれを聞いたからどうこうってことじゃないから」
「う、うん……」
瑠璃ちゃんはコクリと肯くと、下を向いて考え込む。
途端に居間が静寂に包まれる。このみも瑠璃ちゃんのジャマをしないためか、何も言わない。
しばらくして、瑠璃ちゃんは顔を上げると、
「あのな貴明、ウチ、おかしいねん」
瑠璃ちゃんの表情からは戸惑いが。けれど、何となくだがそれは、今までの戸惑いとは少し違う
ように思えて――
「さんちゃんの所に帰りたいのは確かなんや。ウチは今でもさんちゃんが一番好きやもん。
けど、何やろ? ウチな、さんちゃんの所に帰ること想像したら、何かモヤモヤするんや。
ホンマ何でやろ、何かイヤな感じがするんや。不安みたいな、何か、自分でもよう分からん……
さんちゃんの所に帰るのにそんなモヤモヤな気持ちになるなんて、何なんやろ、ホンマ。ウチ、
おかしいわ。どうかしてるわ」
「……そっか」
戸惑っている瑠璃ちゃんの頭を、このみのようにくしゃくしゃとなでる。
「ちょ、貴明、な、何すんの?」
驚く瑠璃ちゃん。けれど不思議と、瑠璃ちゃんは何も抵抗しない。
瑠璃ちゃんが言うモヤモヤはきっと、瑠璃ちゃんの、ここでの生活に対する気持ちなんじゃないか
と思う。何だかんだで瑠璃ちゃんもすっかりみんなとうち解け、当たり前のように我が家で暮らして
いる。たった一ヶ月程度だけど、瑠璃ちゃんなりにこの生活への愛着が芽生えているんじゃないか?
だとしたら、それはいいことだと思う。それは、珊瑚ちゃん以外を全て敵と見なし、狭い世界に閉じ
こもっていた瑠璃ちゃんにとっては劇的な心の変化、いや成長だと思うんだ。
もしかしたら、もう瑠璃ちゃんは大丈夫かもしれない。珊瑚ちゃんの所に帰ってもいいのかも。
……けど、それを思うと何故だろう、胸がチクリと痛む。――俺も、矛盾してるなぁ。
「た、貴明、いつまで、その、なでてるん……?」
やや恥ずかしげな、瑠璃ちゃんの声。
ん? あ、いけね、考え込んでる間もずっと瑠璃ちゃんの頭をなでてたのか。
「あ、ああ、ゴメンゴメン」
慌てて手を放し、アハハと誤魔化し笑い。
「……」
何故か恨みがましそうな目で俺を見る瑠璃ちゃん。
とすっ。
不意に、背中が重くなる。振り返ってみると……このみのやつ、俺にもたれかかってるぞ。
「こら、どうしたこのみ――」
言いかけ、このみの寝息に気付く。寝ちまったのか、このみ。
よく見るとこのみの手にコップはなく、ソファーの上に転がってる。幸いにして中身は全部このみ
が飲んだようで、ソファーは汚れていない。
「ったく、しょうがないなぁ」
瑠璃ちゃんに目配せしてコップを拾ってもらい、俺はこのみが起きないよう、そっとソファーに
寝かせてやる。
「おやすみ、このみ」
このみにそっと毛布をかけてやり、俺と瑠璃ちゃんは居間を後にした。
階段を上ると、
「何をしてたの、タカ坊?」
いつの間に起きたのか、二階の廊下でタマ姉が俺を待ちかまえていた。
「い、いや、のどが渇いたから下で牛乳飲んでたんだよ。瑠璃ちゃんとこのみも一緒に」
などと言いながら階段を上りきると、
ぎゅ〜っ。
「あいひゃひゃひゃひゃ!?」
た、タマ姉に頬をつねられた!?
「のどが渇いたのなら私を起こせばいいじゃない。
長い時間パジャマひとつでウロウロして、また熱がぶり返したらどうするのよ」
「ね、熱ならもう大丈夫だよ。それに寝てるタマ姉を起こすなんて悪いと思ったし」
「油断大敵、遠慮無用」
四字熟語二つでタマ姉は俺の頬を引っ張って部屋へと引き返す。
「あ、あの、環……」
おずおずとタマ姉を呼び止める瑠璃ちゃん。不安げな顔。るーこたちの部屋に戻るのが怖いのか?
「どうしたの、瑠璃ちゃん?」
タマ姉がそう尋ねるが、瑠璃ちゃんは恥ずかしげにモジモジするだけ。するとタマ姉は察しよく、
「いらっしゃい瑠璃ちゃん。私のベッドで良ければ、一緒に寝ましょう」
瑠璃ちゃんはホッとした顔で、コクリと肯いた。
つづく。
どうもです。第83話です。
>>715さん、
>>716さん、支援ありがとうございました。m( __ __ )m
世間じゃWiiが話題になってるようですが、未だにPS2版うたわれが終わっていない自分には
縁の遠い話です(^^;
だけど、ふと、こんなことを考えました。
「Wii版ToHeart2がもし出たら、どんなことが出来るだろうか?」と。
例えば、リモコンでこのみの頭をなでなでしたり……
例えば、リモコンで由真と卓球勝負したり……
例えば、リモコンでいいんちょを高い高いしてあげたり……
アクアプラスさん、是非ご一考願います!!(馬鹿
>>721 毎度乙。
るーこと一緒にるーの踊りをWiiで・・・
視覚的に色々まずいか…
リモコンで毎朝由真と登校勝負ですよ。
ついでに、「うたわれ」で鉄扇の代わりにリモコンをどうぞ。
リモコンでふきふき……いやなんでもない。
…ふきふき終わった後、何か大事な物を失った喪失感と一線を越えた気分になるんだろうな。
はい。珊瑚様、瑠璃様のお二人は昨日から、お二人のお父様、お母様の所へご旅行に行
かれておりまして。
ですから夜には、お二人の分まで貴明さんに可愛がっていただ・・・・・・い、いえ。
お二人の分まで、貴明さんにご奉仕しなくてはいけません。
あ、いえ。貴明さんと二人っきりになるのも、実は久しぶりなことでしたので。その、
期待していなかったと言えば、嘘になるのですが。
最近は瑠璃様と珊瑚様のお相手ばかりなさって、私をかまってくださる回数も少なくな
っていましたし。
お夕食のあと、貴明さんはソファで寛いでいました。ええ、貴明さん、美味しかったと
おっしゃってくださって。メニューは麻婆豆腐でしたが、いつもは瑠璃様、珊瑚様に合わ
せて甘口に味付けをしていましたので、その時は貴明さん用にちょっと辛目に。
それでその後、広いお家なのに私も貴明さんも、一緒に並んでソファに座ってしまって
いて。
つい二人で顔を見合わせてしまって、笑い出してしまいました。「他に場所はたくさんあ
るのに、なんで並んで座っているんだろう」って。
貴明さんはいつもは瑠璃様と珊瑚様がいるので気にならないけど、基本的に広すぎる部
屋は苦手だとおっしゃいますし。私も、出来ればその、どなたかと一緒に居られる方が、
安心しますから。貴明さんですと、特に、それで昨日も。
そこで、え? はい、貴明さん、いつも色々私にお話をしてくださって。学校での瑠璃
様たちのことや、ご友人のことや。もちろん、お二人のお話もよくしてくださいますよ。
昨日は私の方から、最近お菓子作りにも挑戦していると言うことをお話したのですが、
貴明さん、完成したら食べさせて欲しいとおっしゃって。まだ自信が無いので、もうちょ
っと待って欲しいとは言ったのですが、「イルファさんが作るお菓子なら、きっと美味しい
から。味見させて欲しい」だなんて。もう、困ってしまいます。けれど貴明さんに喜んで
いただくためにも、張り切って・・・・・・し、失礼しました。
他にも、お弁当のメニューや、次のお休みの時の予定の話などをしていたのですが。そ
のうち、ふと会話が止まってしまった瞬間があって。こういう時はなんと表現すればよろ
しかったのでしょうか。
そう言う雰囲気、ですか? 貴明さんの目から視線をはずすことができなくなってしま
って、だんだんとモーターの回転は速くなってしまいますし、CPUの方も熱が溜まって
しまっていって。
た、貴明さんの顔だんだんと近づいてきて、目の前まできた時には、貴明さんの唇に吸
い込まれるように、キスを。
貴明さんの唇、とても柔らかいんです。瑠璃様や珊瑚様の唇も、まるでマシュマロのよ
うに柔らかいのですが。貴明さんのは、まるでこちらの体が溶けてしまっていくよう、と
表現できますでしょうか。
それに貴明さん、優しく私の肩を抱いてくださって。舌が、ゆっくりと私の口の中に絡
んできて。
「イルファさん。えっと、行こうか」
寝室に誘われた時には私、もう頭の中が真っ白になってしまっていて。
別に体の機能に不具合が出たわけではなかったんですが。
ただ、私の体を支えてくださる、貴明さんの体の温もりを感じるのに処理能力のほぼ全
てを費やしてしまって。
「イルファさん、もしかして興奮してる?」
貴明さん、時々とってもいじわるになるんです。最近は特に。
昨日だって私があれだけ緊張していたと言うのに、からかうようなことを言って。
もちろんそのままになんてしておきません。
足を払って、ベッドに押し倒してさしあげました。
「もう。いじわるしたお仕置きです」
「お、お手柔らかに」
今度は、私のほうから貴明さんの唇に。
どれくらいキスし続けていたのでしょうか。体は4分13秒だと正確に時間を計ってい
るのに、まるで何時間も貴明さんと唇を合わせていたような気がして。
そうそう。貴明さん、私たちの服を脱がせるの、とてもお上手になったんですよ。最初
のころなんて、照れてしまって私が貴明さんのお洋服をぬがせていましたのに。
それはそれで、とても楽しかったのですが。
キスしている間、貴明さんの指が私のボタンをはずしていくのを感じるんです。
エプロンのボタンをはずされて、スカートのホックに手が掛かって。時々、私の頭をな
でてくださって。
「イルファさん、胸、そんなに抱き着かれちゃ、当たって」
「あらあら。ご自分で私の服を脱がせてくださったのに、何がいけないんですか?」
「いやその、くすぐったいのが」
なのにすぐに恥ずかしがって。
「さあ、貴明さん。私ばかり洋服を脱ぐのは不公平ですから。貴明さんもぬぎぬぎしまし
ょうね?」
貴明さんのベルトに手を掛けると、もう、ズボンの上からでも貴明さんのが大きくなっ
ているのが感じられるんです。匂いも、男性の方の匂いと言うのでしょうか。本当なら香
りなんてわからないはずなのに。
チャックを下ろして下着の中から取り出した貴明さんのものは、もう私の手のひらから
こぼれるくらい大きくなって、その瞬間にもどんどん硬くなって。
私の口では、ひと口で食べることができなくなるくらい。
そんな、見とれてしまうくらい逞しい貴明さんのなのに。私の指が触れたり、舌で舐め
て差し上げるとピクン、ピクンと可愛らしく反応するんですよ。
特にこうやって、うふぁふあわの部分にキスして差し上げると、先からお汁を流しなが
らとっても喜んでくれて。貴明さんが気持ちよくなってくれればくれるほど、私も嬉しく
なっていくんです。
貴明さんに喜んでもらいたい。貴明さんのものを、もっと気持ちよくさせてあげたい。
それだけで頭が一杯になってしまいます。
「イルファさん」
貴明さんが、私のことを呼んでくださいました。
私は口いっぱいに貴明さんのものをほお張っていて、満足にお返事をすることができな
かったのですが。視線を上げて貴明さんのことを見れば、貴明さんがどうなさりたいのか
は十分に伝わってきました。
だって、あんなにも切なそうな顔で、私のことを見るのですから。
口の中に含んだまま、強く貴明さんのお汁を吸い出した瞬間。まるで貴明さんのものが
膨張したように大きくなって、そして、熱い、スープのような精液が口の中いっぱいに。
貴明さん、まるで女性のような叫び声をあげたんですよ。「あぁーっ」って。
ただその時は、そのことにまで思考が追いついていなかったのですけれど。
口の中に沢山ある貴明さんの精液の感触を舌で味わいながら。感じた通りのドロっとし
た物が、糸を引いて唇の端から零れていく様子を眺めていました。
「イルファさん、ほっぺた。溢れてる」
「ふぁ、あ。ふぃまふぇん」
貴明さんが何かをおっしゃっていたのですが。私も、なんとお答えしたのかよく覚えて
いないんです。なんだかぼうっとしてしまっていて。
あ、でも、口の中の精液を飲み込む感触はよく覚えているんですよ。貴明さんが、私の
口の中に出された時と同じくらい。
喉を熱いものが流れていくことの心地よさは、今思い出しても胸が熱くなってしまいま
す。
私は物を食べられる訳ではありませんが。だからこそ、貴明さんに可愛がってもらって
いる最中、こうして貴明さんのものをしゃぶって差し上げて、精液の感触を味わえるのが
嬉しくなってしまうんです。
「イルファさん。今度は俺がしてあげる番だね」
貴明さんに促されるまま、ベッドに横になりました。
貴明さんの指や唇が、私の肌を愛撫したり、胸を啄ばんだりするんです。胸がお好きの
ようで、先の部分をちゅっ、ちゅっ、とまるで赤ちゃんみたいに。
え、いえ、その、嫌というわけでは。むしろ、貴明さんが気に入ってくださって、嬉し
いというか・・・・・・
「貴明さん・・・・・・」
「うん、わかってる。こっちも触って欲しいんだよね」
今まで私の胸を揉んでいた貴明さんの指が、胸からお腹を通って、そのまま更に下へ。
いじわるな貴明さん。最初はくすぐるように触っていただけなのに、私がちょっと声を
上げた途端に激しく指を動かして。それも最初は指一本で出し入れするだけだったのを、
私が喜んでるからとおっしゃって、すぐに二本に増やして。
くちゅくちゅくちゅくちゅ、音が聞こえてくるほど。
私のあそこを広げたり、内側をこすったりするんです。あんなに強くされて、しかも貴
明さん、私の弱いところ全部知って触ってくるんですから。思わず足を閉じようと私がし
ても、しっかりと押さえつけてきて。
貴明さん、それどころかキスで唇までふさいでくるんですよ。おかげで声も上げられな
かったんですよ。ひどいと思いませんか。
「うん、そう。四つん這いになって。お尻をこっちに」
まるでワンちゃんのような姿勢になった私は、お尻を高くあげて。貴明さんに私の恥ず
かしいところを見せ付けるように。
あんなポーズ、恥ずかしくて恥ずかしくて壊れてしまいそうになるのに、貴明さんに見
られている、貴明さんが私のお尻を見て興奮している。そう考えるだけで、どんどんボデ
ィに熱が溜まっていきました。
四つんばいになっていて、貴明さんの顔を見ることができなかったせいなのでしょうか。
いつもより敏感になってしまっていたような。貴明さんの息がかかっただけで、背中を
ぞくぞくとした物が走っていきます。あそこからも、溢れたお汁が太ももに流れ出して。
はしたない話なのですが、その時にはもう、私も興奮してしまっていて。
私のお汁を舐める貴明さんに、抵抗するどころかもっとお尻を押し付けるような真似を
してしまったんです。そうしたら貴明さん、もっと激しく舌や唇を動かし始めて。お尻を
齧られた時には、本当に食べられてしまうんじゃないかと思いました。
でも、そこで抵抗すると今度は、一番敏感なお豆さんの方に歯を立ててきちゃいますし。人並み、人並みです私の物は。そんな恥ずかしくありません、ちゃんとカバーされてま
す!!
もう。あまりからかわないでください。
それでどこまで、あ、そうそう。それで。
ずっと舐められ続けて、もう足に力が入らなくて膝が崩れそうになったのに、貴明さん
ったら止めようとしてくれないんです。
それどころか、私が腰を落とした隙に今度は、お、お尻まで。そうです。お尻の、穴の
ところを。
「た、貴明さひゃ、お、お尻ぃっ!」
人間の方のように排泄をするわけではありませんから、汚いということはありませんが。
でも、問題はそう言うところじゃありません!
私、お尻を舐められるの初めてのことだったんですから!!
しかも初めての私の尻の、穴の中にまで舌をいれてきて。腰を引いて逃げようとしても、
こんどは指で前の方をいじられて。結局お尻を高く上げることになって。
「たかあきさぁん」
貴明さんの舌がお尻から離れるころには、私の頭の中は貴明さんに可愛がっていただく
ことで一杯になってしまっていて。でなければ、あんな恥ずかしい格好でおねだりをして
しまったりは。
え、それは、その。なんと申し上げましょうか。
仰向けになって、自分で足を抱えて、貴明さんに私のあそこが良く見えるよう、指で、
広げて。
ふ、普段はそんなこと、けっしてやったりはいたしませんよ!? 瑠璃様にだってした
ことないんですから。
今回は、貴明さんがお尻にイタズラなんてするから、私もいつもより変な気分になって
しまっていたんです。全部、貴明さんが悪いんですから。
「お情けを、くださいまし、貴明さん」
見れば貴明さんのものも、大きくなって、苦しそうに震えていて。
「力を抜いて」そうおっしゃると、はれあがったご自身のものを私のあそこの入り口に
当てて。一息で私の一番深いところまで。
私ったら、それだけで軽く絶頂を迎えてしまいまして。まだ満足に貴明さんのお相手も
していませんでしたのに。
必死に我慢しようと努力はしたのですが、貴明さんの、いつ可愛がっていただいても私
にはちょっとその、大きすぎるほどの物ですから。その前からの愛撫で、ボディの方も火
がついちゃっていたこともありますし。
私が果ててしまったことは、貴明さんにもわかったご様子でしたが。でも貴明さん、私
に休む暇も与えずに腰を動かし始めて。
イルファさんの中が気持ち良すぎて、我慢できなかったなどとおっしゃいましたが、き
っと嘘です。あ、その、私の中が、と言うのは本当にそう思っていただけたと思うのです
が。私も努力しておりますし。
でも、絶対に貴明さん、私の反応をみて楽しんでいたに違いないんです。
ただでさえ貴明さんには私の一番弱いところを苛められていますのに、絶頂を迎えたば
かりで全身が更に敏感になっていたんですから。
いつの間にか私も、自分で腰を振ってしまっていて。
私の体の中から、お汁で濡れた貴明さんのものが引き抜かれていくんです。二人で激し
く腰を動かしているのですから、そんなにしっかりと見る余裕はないはずなのですが。"ひ
だ"の縁から溢れてくるお汁の様子や、貴明さんのものがぬるぬると光っている様までま
るでスローモーションでも見るみたいに。
恥ずかしい声も、たくさん上げてしまいました。貴明さんにも「いつものイルファさん
からは想像できない」と言われてしまって。
い、言えません、そんな恥ずかしいこと。
その後もずっと、二人とも絶頂を迎えるまで、姿勢を変えながら。
後ろから抱きしめられたり、私が上になって、貴明さんを気持ちよくして差し上げたり。
でも一番好きなのは、貴明さんの膝の上に乗って、向かい合って抱きしめられるのでし
ょうか。
後ろから貴明さんに突いていただくのも、その大好き、なのですが。
でもそれだと、貴明さんと繋がったまま、全身で貴明さんの温もりを感じられて。体中
で愛していただいている気持ちになれるんです。
貴明さんの指で、あちこちを可愛がっていただけないのが玉に瑕ですが。あ、でも、キ
スできますからプラスマイナスはゼロですね。
「イルファさん、いく? いきそう? いきそう!?」
「貴明さんも、来てください。私の、私の中にいっぱいぃ!!」
お互い抱き合ったまま激しく体を動かしあって、どんどんと気持ちが昂っていっている
のがわかるんです。
私の胸が、貴明さんの胸板で擦られて。貴明さんのものが、私の一番奥を打ちつけて。
結合部のところなんて、二人のお汁でもうぐしょぐしょに。
でも、そんなことには全く気が付いていなくて。気が付くというか、そのような余裕が
無かったと言うのでしょうか。終わった後、ようやくシーツがひどいことになっていたの
に気が付いたくらいでしたから。とにかくその時は、貴明さんのものを感じるだけで精一
杯で。
まるで私自身が、貴明さんと繋がっているところだけになってしまったような。
貴明さんが、一際強く私のことを抱きしめたんです。そして貴明さんのものも、私の中
を一番奥まで抉って。
「ひっ、あ、ひぃああああああーっ!!」
ドクン、ドクンと脈打つたびに、貴明さんのものから私の体の中に精液が注ぎこまれて
いくのを感じるんです。中が溶けてしまいそうなくらい熱くて、それが心地よくて。
先ほど口の中に出されたその、どろっとした感触を思い出してしまって、それが更に私
の中で溜まっていく精液の感触を強くして。
どれくらい、そのまま二人で抱き合っていましたでしょうか。はい、もちろん、二人と
も繋がったままで。
貴明さんったら凄かったんですよ。もう二度目だったと言うのに、全く衰えなくて。大
きくて、硬いまま。
・・・・・・隠し味に入れた、赤マムシ粉末のお陰でしょうか・・・・・・あ、え、い
えなんでもありません。
私ったら、全身から力が抜けてしまって、抱き合いながら貴明さんに体ごと倒れこんで
しまって。けれど貴明さん、ご自身も乱れた息をしてらしたのに、ちゃんと支えてくれて、その後キスまでしてくださったんです。最初と同じくらい、唇を啄ばんで、舌を絡めてく
る激しいキスを。
「い、イルファさん!?」
ただそうやって抱き合っているうちに、また、気分が高まってきてしまったんでしょう
か。で、ですが、貴明さんの出された精液、全部私の中に溜まったままでしたし、少し体
を動かすだけで、貴明さんのものは私の中を擦りますし。
し、仕方ありません!
「あ、ああ、申し訳、ありません。でも腰がぁ、腰が勝手に動いてぇ」
いくら止めよう、止めようと考えても、体が動いてしまうのを止めることができなくて。
それどころか腰が上下するたびにもっと貴明さんのものを感じたい、貴明さんのもので気
持ちよくなりたいという思いが強くなっていって。
ほ、本当は恥ずかしいんです。自分がこんなエッチの大好きな、淫らなメイドロボだな
んて。
なのに貴明さん、わざと耳元で、私が恥ずかしがるようなことをおっしゃいますし。「イ
ルファさん、ここを擦られるの好きだよね?」ですとか「俺の、イルファさんのお汁でド
ロドロだよ」ですとか。
結局その時も、最後には貴明さんになされるがままになってしまいましたのに。まるで
私だけがいやらしいみたいに。
貴明さんの方がずっとエッチじゃないですか。そのときだって、まるで小さい子に、お
しっこをさせるようなポーズを私に強要するんですから。
「イルファさん」
「ふぁ、はいぃぃ」
「イルファさんの、耳、見せて」
貴明さんの手が、私のアンテナに掛かりました。いくらダメです、いけませんと言って
も、貴明さん聞いてくださらず。それどころか私が抵抗しようとすると、激しく腰を動か
すんです。それに胸の先までつねられて、私に抵抗させまいとして。
首筋にキスの雨を降らされながら、とうとうカバーをはずされてしまいました。
"これ"をはずされて、中の耳を見られてしまうこと。私たちメイドロボにとっては凄く恥
ずかしいことなんです。裸を見られてしまうのと、同じくらい。
それなのに貴明さん「イルファさんの耳、真っ赤にしちゃって。思ったとおり可愛いよ」
なんておっしゃって。
そのうちに貴明さんの唇、首筋から今度はカバーをはずされた耳に移動してきて。
「だめぇ、だめなんです。耳は、みみはぁ恥ずかしすぎ、ぃいいっ!」
どれだけお願いしても、貴明さんは止めてはくれませんでした。
耳たぶに歯を立てられると、全身にまるで電気を流されたような衝撃が走るんです。し
かもその衝撃は、貴明さんの舌が私の耳の中をくすぐるほど強くなって。
もちろん、他のところを手加減してくださることもありませんでしたから。ずっと、私
の中で貴明さんのものは激しく私を攻め立てていましたし、胸も形が変わってしまいそう
なくらい揉まれて。
あまりの快感にとうとう耐えられなくなって、視線を下に下ろしたんです。もう、首に
力を入れることすらできなくて。
そうしたら、目に入ってしまうんです。貴明さんのものが出たり、入ったりして私の中
を擦り上げる様子が。私のお汁と、先ほど出された貴明さんの精液とが混じって、一突き
されるたびに音を立てて泡だって。
「あぁぁっ・・・・・・いやらしい・・・・・・」
なんだかすぐに信じることができなかったんです、自分のことなのに。こんなにいやら
しく、ヒクヒクと嬉しそうに貴明さんの物を求めているだなんて。
でも確かに貴明さんのものが飲み込まれていくたびに、体の奥を痺れるような快感が伝
わって。
それがわかってしまうと、後はもう我慢することができませんでした。
まるで動物のように貴明さんの名前を呼びながら貴明さんを求めて。貴明さんも、私の
名前を呼び続けていてくれたような気がします。
その、その時はもう頭にノイズがかかりっ放しの状態でして。よく覚えていなくて。残
念です。
「た、貴明さぁぁぁん!!」
「イルファさんっっ!」
そしてとうとう絶頂を迎えて。一瞬送れて、体の中に貴明さんの熱い精液が流れ込んで
きました。もう三度目だったと言うのに、たくさん。溢れてしまいそうなくらい。
余韻から覚めて、ようやく思考のノイズも晴れるころには、気が付いたら貴明さんの体
に覆いかぶさるようにベッドに横になっていました。
貴明さんもようやく満足してくださったのか、それまで私のことをあんなに虐めていた
とは思えないくらい可愛らしくなってしまって。
「貴明さん、大好きですよ」
「俺も、イルファさんのこと大好きだから」
私が貴明さんの唇にキスをすると、貴明さんもそれに応えてくださいました。二人とも
体に力が入らなくて、ただ首だけをお互いの方に向けて。
しばらくそうやってベッドに横になっていたのですが、ようやく体に力が入る頃には、
貴明さんの体がもう冷えてしまっていて。
お互い抱き合っていましたし、寒かったということは無かったと思うのですが。ベッド
も、シーツも、二人分の体液で濡れてしまっていましたし。
幸いお風呂はお夕食の前には用意していましたので、すぐに入ることができたのですが。
「じゃあ、一緒に入ろうか」
「え、あ・・・・・・はい」
お互いの体を洗っているうちに、その、二人ともまた興奮してきてしまって。
え、それはもちろん、お互いの体をこすり付けるように洗って差し上げましたよ? 貴
明さんも私の体を、手にボディーソープをつけて洗ってくださいましたし。
それがいけなかったのでしょうか・・・・・・気がついた時にはもう、貴明さんの、ま
たお元気になってしまっていて。
結局また、お風呂場で。
今度は、お尻まで可愛がられてしまって。二回も。
最後に貴明さんの物を、口で綺麗にして差し上げて・・・・・・あ、申し訳ありません。
もうこんな時間に。
申し訳ありません、話の途中ですのに。そろそろ帰って、お夕飯の支度をしませんと。
それではまた、失礼いたし・・・・・・え、メニューですか?
はい、今日は鰻の蒲焼にしようかと。赤マ──山椒をたっぷり使って。
では。
イルファが帰った後、そのオープンカフェのテーブルの上では、顔を真っ赤にした柚原
このみと呆けた様子の向坂環だけが残されていた。
「す、すごかったねー、イルファさんの話」
「そう、ねえ」
話は最初は他愛の無いものだったはずだ。姫百合家に居候する河野貴明の最近の様子だ
とか、そんな感じの。
それがいつの間にか、河野貴明とメイドロボイルファの、生々しい夜の生活の話に発展
してしまって。
「タカくん、すごいんだね」
「そうねぇ」
感想を言う方もそれに応える方も、せいぜいそんなことくらいしか口に出すことができ
ない。まさかここまでとは思っていなかった。
「あれ、このみに、タマ姉。こんなところで何やってるんだ?」
「あ、タカくん。あのね、えっと・・・・・・」
そこに偶然、今の話の片方の当事者が現れる。本人は、ついさっきまで自分のプライバ
シーが赤裸々に暴露されていたことなど考えてもいないだろう。
「タカ坊、首筋のところ。痣ができているけど、虫刺され?」
河野貴明は慌てて首筋に手を当てる。
「そ、そう。虫刺され。昨日寝てたら、大きな蚊に刺されちゃってさ」
その慌てようは、どうやってその痣ができたのかを如実に物語ってしまっていた。
例えば、その蚊の髪の色は青で、服は何も着ていなかったとか。
環は溜息を一つ付くと、おもむろに貴明へと近寄っていく。
「た、タマ姉なんだよ一体?」
「タカ坊。何の理由も聞かないで、とりあえず一度潰されておきなさい」
「な、なんだよそれ。このみ、タマ姉どうしちゃったんだよ!?」
「タカくん。わたしもね、今回はしかたないんじゃないかなーって思うんだ」
環はやる気の無さそうに、でも手加減はまったくしないで貴明の眉間に手を掛ける。
きっと、理由のわからない暴力に晒された貴明が姫百合家に帰ったら、イルファは上機
嫌で彼のことを出迎えてくれることだろう。
終
自分の妄想をダイレクトに文章化すると、こうなるというサンプル。
エロい文章っていうのは、難しいですね。
乙、イルファさんエロ過ぎだw
GJです!
笹森会長が良かった。
752 :
名無しさんだよもん:2006/12/07(木) 09:12:35 ID:8XQ45L3m0
黄色死ネ
>>748 GJ!
ドラマCDとかで実際にイルファさんの声で聞きたいぐらいだ
GJ!!エロいというか微笑ましくてイイ!
欲を言えば、姫百合エンド後のSSってイルファやミルファメインばかりだから
たまには、双子メインのも読みたい。
イルファやミルファメインばかりって…
TH2のSS自体が激減してる状態で何を言ってるんだか
ギャグやエロもいいんだが、たまには長編シリアスとかも見たいような気もする
>>748 GJです!!
久々にこのスレでおっきしたw いつぶりだろ?
なんかまた無性にSS書きたくなってきたな。
鳩2再インスコしたことだしちょいちょい書いてくか。完成するかどうかわかんねーけど。
ミルファとまーりゃん先輩とか絡ませてえなぁ。
「ちっ、なんだよなんだよ最近のメイドロボは可愛げがないなー。
あたしが知ってるメイドロボはこんなんじゃなかったぞー」
「まーりゃん先輩、メイドロボの知り合いでもいたんですか?」
「うむ。あたしが一年のときに学校に来てた。そっちの赤いのみたいに学校に運用テストしに」
「へぇ……。どんなメイドロボだったんですか?」
「いい子だったぞー。頼めばなんでもしてくれたし。それに真面目だったし。
一度冗談で「プレステ買ってこい」って言ったらホントに買ってくるくらい」
「あんただったのー!? マルチお姉様に無理難題言ってたってのは!」
それ、まーりゃんのせいにされてるのをよく見かけるなw
むしろ葵ちゃんだったら萌えた。
ああ、そういやまーりゃん先輩ってマルチと同学年だったな
どうにもまーりゃん先輩は先輩ってイメージが強くて1年生だった頃があるの、イメージできん。
ずーっと偉そうなイメージだ。
確かに葵・琴音・理緒・マルチと同学年には見えんな<まーりゃん先輩
同学年だったら琴音以上の問題児として登場してそうだしなぁ
>763
リオは1学年上だ!
途中で転校してきたとか
新学期。
さわやかな9月1日の朝。
このみは、珍しく早起きだった。
「タカくんが早く行くっていってたから、このみも頑張って起きたのに」
校門をくぐる膨れっ面。
用事があるからと、貴明は先に行ってしまっていて。
二度寝しようとしたら、春夏に殴られた。
「ふわぁ、誰もいない〜」
まだ朝練も始まらない早朝。昇降口には、ひとっこ一人見あたらない。
いつも遅刻寸前で駆け抜ける校舎を、ゆっくり歩いて教室へ。
「もしかして、1番乗りかなあ?」
なんとなくドキドキしながら、教室のドアを引く。
「え?」
びっくりして、入口で立ち止まった。
しんと静まりかえった朝の教室。その最前列、教卓の真正面。
このみの席に。
まるで顔も知らない栗色の髪をした小柄な女の子が、ちょこんと座っていた。
「あの……」
「……?」
仏頂面のまま顔を上げる女の子。
「そこ、このみの席なんだけど……」
「……」
女の子は、無言で椅子から身体をずらすと、机と机の間に平行移動した。
「空気椅子?」
そんなわけはない。机を挟んでこのみの反対側に、車椅子があっただけ。
ブレーキを外して、キコキコとバック。ひとつ後ろの椅子に座り直す。
「……どうぞ」
少し幼い感じの声。
「え、えっとね、……そこは、さっちゃんの席……」
「……」
沈黙5秒間。
再び、お尻を椅子からどかす。
「!」
ブレーキをかけていなかった車椅子が滑った。
「あっ、あぶないよっ!」
慌てたこのみが手を伸ばす。
反射的にその手を掴む女の子。
「うわとっ」
体重の軽いこのみは、彼女の重さに引っ張られて体勢を崩した。
「げ。」
「あわわわわっ!」
女の子も負けずに軽かったのが幸い、危ういバランスで二人とも立ち直る。
「……どうも」
へこ。
頭を下げる女の子。表情は変わらず無愛想だが、頬が少し赤い。
「あ、あのねっ、まだ誰も来てないし、座ってていいよっ。さっちゃん来たら、このみのとこに座って貰えばいいから……」
「郁乃〜っ、先生来たよ〜! 職員室行くよ〜」
入口から声が掛かって、入ってきたのは2年生。
「はれ? 小牧先輩?」
「このみちゃん? お、おはよっ」
「おはようございます」
「海ではありがとね。楽しかった」
「あっ、ううん、全然。わたしこそ」
「……知り合い?」
下方から女の子の声。
「あっ、うん。柚原このみちゃん、ほら、夏休みに海に行ったって言った」
「……ああ」
「このみちゃん、妹の郁乃。今度、こっちに転入してきたから」
「よろしくね、郁乃ちゃん」
「……よろしく」
「ひゃ〜、焦った焦った。お前今日早かったんだな」
所変わって、2−B教室。
「ちょっと用事があってね」
「姉貴も早かったみたいでさ。どうせなら起こしてってくれりゃいいのに」
「始業式の打ち合わせだって。さっき会ったよ。聞いてないの?」
「んなこと、言ってたっけかな」
久方ぶりの、朝の風景に。
「だだいまぁ〜」
朝にしては奇妙な挨拶で、愛佳がやってきた。
「お疲れ」
「疲れたよぉ。あ、おはよう向坂くん」
「おはよーさん。二学期早々、忙しそうだな」
「今日のは自分の用事だから」
「郁乃、どうだった?」
「神妙な顔してた。貴明くんにも見せたかったよ」
ふふっと微笑んだ委員長だが、すぐに心配顔になる。
「本当は教室までついて行きたかったんだけど、先生に追い払われて」
「当たり前だろ」
「妹さん、今日からか」
二人の会話に、雄二が思い当たる。
「うん。よろしくね」
「色々問題はあるけど、いい奴だから……たぶん」
「あんだそりゃ」
「あははは……はぁ……」
苦笑のち溜息、のち、はたと気づいて愛佳、悪戯っぽく。
「あっ、そうだ向坂くん。お客さんが来てるよ」
「客?」
「うん♪」
楽しそうに入口を指さす。
視線の先に、居づらそうに教室内を伺う玲於奈が居た。
「よぉ、久しぶり」
「おはようございます。早くないですけれど」
「二学期早々、御挨拶だなおい……」
「ねえねえ、どうなのかなあの二人」
教室と廊下でやり取る二人を見ながら、愛佳が貴明の方に身を乗り出す。
「どうって?」
「お似合いじゃない?」
「うげ?」
「もぅ、なんですかその反応」
愛佳は三人娘が貴明に行った仕打ちを知らない。
「いやまぁ……。しかし、言われてみれば案外案外か?」
黙って見てれば美男美女。
「雄二、前みたいに女子に声かけなくなったしな」
「でしょでしょ、海でもいい感じだったし」
「海がどうしたって?」
「うきゃぁ!」
いつのまにか戻った雄二の声に飛び上がる愛佳。
その雄二の手には、手提げ袋。
「なにそれ?」
「ビデオ貸してたんだ」
「緒方理奈? あいつらにまで布教活動?」
「押しつけじゃねーよ」
夏休み後半、CD屋で偶然会ったそうな。
「ねえねえ他には? なんにもないの?」
「なにもって……ねーよ別に」
そっけない雄二に、それでも興味津々の誰かさん。
「夏休みにイベント2回……」
頬に人差し指を当てて考え込んだ後、貴明にこっそり耳打ち。
「フラグ足りてるかな?」
「どこで覚えたそんな専門用語」
「小牧郁乃です。よろしく」
「……それだけか?」
担任の北村が思わず突っ込む。
「……」
10秒ほど停止した郁乃だが。
「……席、どこでしょう?」
「……。あー、目が悪いんだっけ?」
彼は、クラス内のコミュニケーション確保に熱心な教師ではなかった。
「申告書よりだいぶ回復してますけど、良くはないです」
「んじゃこの列、一個ずつ後ろに下がれ」
民族大移動。
中央廊下寄り最前列。
「わ、隣だぁ。よろしくねっ」
「どうも」
ニコニコ笑ったこのみと、本日3度目の挨拶を交わした。
で、二学期最初のHRはさっさと終わり、始業式への移動時間。
「体育館まで押していくね」
さっそくよろしくしようとするこのみ。
「自分で動けるからいい」
「いいからいいから」
「あ、ちょっと、そっちじゃなくて」
ごろごろごろごろ。
「……それで、ここからどうする気?」
階段の上で、郁乃は下から問うた。
このみはキョトンと見下ろして、階段と車輪の幅を見比べて、車椅子をあちこち見触って。
「……小牧先輩って、すごく力持ちなのかな?」
「それは絶対ない」
エレベータの存在を初めて知った、1分後のこのみであった。
支援 おひさw
ふんぬ
「姉がこんな有名人だとは思わなかった」
帰り支度の教室で、郁乃がぼやく。
始業式の後とか色々、簡略な挨拶の代償を質問攻めで払わされた転入生。
その半分くらいは、彼女の姉に関連するものであった。
「ったく、やりづらいったら」
「小牧先輩、みんなにすごく頼りにされてるんだよ」
隣でこのみが笑う。
郁乃は、ますます仏頂面になる。
「みんなのパシリ、の間違いでしょ」
「ほえ? ぱしり?」
郁乃の毒づきに首を傾げたこのみ、ちょっと考えて。
「うん、良く走り回ってるね小牧先輩」
にっこり。
「……帰る」
溜息。
ばたばたばた。
「郁乃〜っ! お母さん迎えに来たから〜っ!」
言ってる側から、愛佳が駆けてくる。
「騒がないでよ。みっともない」
「だってぇ」
そんな会話を交わしながら、荷物をまとめる姉妹。
「……んじゃ」
短い挨拶。教室を出る。
「あっ、郁乃ちゃん」
その背中に、このみが声を掛けた。
「……何?」
足ならぬ車椅子を止めて振り向く少女。
「明日からも、よろしくね」
「……ん」
小さく頷いた。
9月2日。今日から授業。
「んじゃあ、当たった奴は黒板に回答書いとけ。他の奴は自習」
1限目の数学は、宿題の答え合わせ。
「4問目か。前の黒板でいいわよね……」
「ふっふっふっ」
「……なに?」
突如、隣から聞こえた不気味な笑いに、郁乃が怪訝そうに尋ねる。
「くくくっ。このみの勘はバッチリなのですよ」
「これは昨日の夜、原潜に原潜を重ねて事故が起きるくらい真剣にあたる場所を予想して、やっておいた3問のうちの1問だよ」
「ほら、このとおり!」
じゃーんと、郁乃にノートの最終ページを開いて見せる。
「……」
3問ってのは前からと廊下側と窓側から割り当てた場合の3通りだろう、とか。
そもそも宿題というのは全問やっておくものではないか、とか。
夏休みの宿題を昨夜してる時点で駄目だろう、とか。
細かい事は置いといて。
「つれづれなるままに ひぐらし?」
「へ?」
「古文のノートじゃない、それ?」
郁乃は、最も直接的な問題を指摘した。
「ああっ!?」
慌てて机の中を探しだすこのみ。
「あれ? はれ? ふえ〜?」
「……忘れてきたわけね」
「だ、だいじょうぶ。だいじょうぶだよ」
頬に汗を浮かべながらも強がる少女。
「昨日の夜の苦難の道程の記憶は今もわたしの胸に鮮明に焼き付いているんだから答えは……全然思い出せない……」
「……はい」
「えっ?」
「あたしは見なくても書けるから」
郁乃は自分のノートをこのみに押しつけると、そっぽを向いて黒板の方に車椅子を進めた。
9月3日。晴れ。
この時期、体育の授業は生徒達に非常に評判が悪い。
秋のマラソン大会に向けての練習=長距離走が始まるからだ。
「えんじーんのおーとーごーごーとー♪」
「な、なんであんな楽しそうなの柚原は」
一部の例外を除く。
「……」
一方、被害も利益も受けていない約1名。
「元気ねえ」
呟く郁乃。
見上げるには少し眩しい空。
走るクラスメート達から、もうひとつ視界を落とす。
「う、車輪に石が」
ちょっと鬱ったその前を、
「し〜な〜ばともに〜とだん〜け〜つの♪」
調子っぱずれの歌声が、ドップラー効果で走り去った。
「おーし、交代〜」
「やっと終わったよぉ」
「うー、嫌だなぁ」
疲れた声と、これから疲れる声の中、
「郁乃ちゃん!」
元気なこのみが走り寄る。
「お疲れ様」
「全然平気だよ。今度は郁乃ちゃんの番!」
「え? あたしは見学で……うわっとっ!?」
「しゅっぱつしんこーっ!」
乗客の意志も聞かずに走り出す車椅子。
「わ、こ、こら、待ちなさい! 危ないってば」
「ああ〜いま〜は〜なき〜もの〜の〜ふの〜♪」
「笑って散るなぁ!」
「ごめんね郁乃ちゃん」
「悪くないから謝らなくていい」
昼下がりの保健室。
「お母さん、すぐ出るって。30分くらいかな」
職員室で電話を借りてきた愛佳が戻ってきた。
「久しぶりだね」
体育の授業の後、郁乃が熱を出した事を指す。
「ちょっと油断したかも」
「このみが無理させちゃったから……」
やっぱり申し訳なさそうな、郁乃の車椅子を押してトラックを走り回ったこのみ。
「いや、あたしが馬鹿なだけ」
再度同級生の責任を否定した、「自分で走れる」とハンドリム全速回転で校庭を突っ切った郁乃。
もちろん、二人揃ってめちゃくちゃ怒られた。
「油断というより、はしゃぎ過ぎたのね」
郁乃ダウンの一報に血相を変えて飛んできた愛佳だが、
深刻なものではないと知って安心した今はヽ (´ー`)┌ ←こんな感じ。
「む……」
がらっ。
郁乃が反論しかかった時、扉が開く。
「郁乃、大丈夫?」
「……なんであんたまで抜けてくんのよ」
「大丈夫そうだな。退散するか」
がらがら。
扉が半分閉じる。
「……普通、来ていきなり帰る?」
「なんだ、帰らないで欲しいならそう言っうぉとっ!」
ベッドからの飛来物を受け止めて、貴明が改めて入室してきた。
「体温計なんて投げるなよ……あれ? このみ?」
枕元の椅子にちょこんとした1年生の姿に気付く。
「あ、タカくん?」
「……?」
郁乃の怪訝そうな顔には、誰も気付かなかった。
「このみちゃん、保健室に付き添ってくれてたんだ」
「同じクラスだっけか」
「うん。あのね、体育の時に、このみが……」
「だからこのみのせいじゃないってば。教室、戻っていいよ」
「でも……」
「なにがあったの?」
愛佳に説明を求める貴明。
「えっとねぇ……」
かくしかじか。
ヽ (´ー`)┌
ヽ (´ー`)┌
「あんた達も、とっとと帰れ!」
「ま、環境変わった疲れが出たんだろ。このみのせいじゃないよ」
ぽん、と貴明がこのみの頭に手を乗せる。
「ほぁ……」
少し安心した表情になる、年齢の割に子供っぽい少女。
「?」
郁乃が再び、怪訝な顔をした。
今度は、愛佳が気付いた。
「あっ、貴明くんとこのみちゃんは、ちっちゃな頃からの知り合いなんだって」
「うん。おかーさん同士が知り合いで、家も近かったんだ」
「ほとんど妹みたいなもんだ」
郁乃を除く三人が次々と説明する、その最後の台詞に。
「いもうと……」
貴明を除く三人が、それぞれ微妙な顔をした。
土曜日、郁乃は大事を取って学校を休んだ。
このみは心配したが、愛佳から事情を聞いた貴明が情報を提供した。
週明けて月曜日。9月6日。
「おはよう郁乃ちゃんっ!」
郁乃が車から降りると、元気な声が降ってきた。
「あ……おはよ」
「おはようこのみちゃん、と、貴明くん?」
「よう」
「なんでアンタがいるの?」
「安心しろ、このみが気にするから早めに来て待ってただけだ」
「またまたぁ♪」
俺が気にしていたわけではない、と続けた貴明を愛佳がからかう。
「からだ、大丈夫? 熱、下がった?」
「ん。全然平気」
「よかったあ」
このみは、自分の事のように笑顔ニコニコ。
そうこうするうちに昇降口。
「じゃ、また」
「無理しないでね」
「はいはい」
1年生と2年生が分かれる。
「あ、そうだ」
「どうした、このみ?」
「タカくん……。えーっと、なにか、忘れてない?」
「「?」」
ちょっと唐突な発言に、小牧姉妹は首を傾げる。
「うーん……宿題ならやったぞ。誰かのようにノートを間違えてもいない、筈だ」
貴明も。
「あれはたまたま! はあ……覚えてないならいいよ。行こう、郁乃ちゃん」
あっさりいいよ、と言った割には憮然として、このみは車椅子を押して行く。
「なんかしたの?」
「なんでもない」
このみの態度に首を捻りながら教室に向かった郁乃だが、
「このみ! 誕生日おめでとーっ!」
寄ってきたクラスメートの言葉に、謎が解ける。
「はいこれ、プレゼント」
「うわぁ、ケ×ピーのキーホルダー。欲しかったんだ!」
「そっかぁ、このみも6歳かぁ」
「ろ、6歳じゃないもん! 1○歳だもん!」
「え? 10歳? どっちにしろ、ちっちゃかったこのみも小学校……まだちっちゃいねー」
「いやいや立派なもんでしょう。中学生にしちゃあ幼いけどさ」
「うーっ、さっちゃんもなっちゃんも酷いよー!」
頬を膨らませながらも嬉しそうなこのみ。
郁乃の隣で、予鈴が鳴るまで友人達に祝福されていた。
「あんた、今日が誕生日だったんだ」
「うん。なのにタカくんてば、今年もこのみの誕生日を忘れたよ」
「去年も?」
「おととしも! あーあ、きっとタカくんには誕生日を忘れる呪いがかけられているんだね」
「アレならあり得るわね」
姉は誕生日に初デートしてプレゼントを貰ったとのろけていたが、来年は怪しいものだ。
視線を泳がせてそんな事を考えた郁乃、と、自分もおめでとうを言ってないことに気付く。
「あ、えーっと、このみ?」
「なあに?」
向き直った途端、このみと目があって、ちょっとどもる。
「そ、その……」
「おはよー、とっととホームルーム終わらせるぞー」
「北村先生、まだ始まってませんよ」
「起立〜!」
言いそびれた。
放課後、校門の外に出た二人を愛佳が待っていた。
「あ、このみちゃん、押してくれてありがとう」
「ううん」
先週校庭を爆走した郁乃でも、基本的には屋外は自走しづらい。
昇降口から校門まで、このみが車椅子のグリップを持った。
「側溝に落とさなかったか?」
「アンタじゃあるまいし」
愛佳と一緒にいた貴明の軽口に答えたのは郁乃の方。
「つーん」
このみは、あからさまにそっぽを向いている。
「朝からどうしたんだ?」
「知らないもんっ!」
「なんなの郁乃?」
「……知らない」
言うまい。おのれで考えろ。
「このみーっ!」
そんな郁乃の教育的配慮は、このみの友人Aの登場で無駄になった。
「あ、えーちゃん、どうしたの?」
「帰っちゃったかと思った。はい、誕生日おめでとう」
小脇に抱えた紙包みがこのみに渡る。
「うわ、おっきぃ……ポ×トだぁ!」
「このみの事だから、学校で渡すと見つかって没収だと思ってさ」
「ありがとーっ!」
不格好な犬のぬいぐるみを抱えて飛び跳ねるこのみ。
その姿を見て貴明がぽんと手を打つ。
「……今日だったっけか、誕生日?」
「た、貴明くん、それはNGじゃないかな……」
案の定このみは更に拗ね、貴明はプレゼントとは別枠でアイス屋のトリプルを奢る約束をした。
「お母さん、ちょっと街に寄ってもいい?」
帰路、郁乃がそんな事を言い出した。
「あら、珍しいわね。いいわよ」
「どこに行くの?」
助手席から愛佳が振り向く。
「んー……」
「郁乃にこういう趣味があるとは、思わなかったなぁ」
愛佳に付き添われて郁乃がやってきたのは、デパートのぬいぐるみ屋さん。
「あ、あたしじゃない」
「もしかして、このみちゃん?」
「……」
そういえば迎えの車を待つ間。
「あたしも、プレゼントない」
「い、郁乃ちゃんから貰おうとは思ってないよ。そもそも知らないんだし」
「俺も知らなかったし」
「タカくんは忘れてたんでしょ!」
こんな会話が。
「そっかぁ、お友達にプレゼントかぁ」
うふふふっと愛佳が微笑む。
「その生暖かい目は気色悪いからやめて」
「ところで郁乃〜」
車椅子を押していた愛佳が、妹の方を抱いてしなだれる。
「な、なによ?」
「お姉ちゃんの誕生日は、5月1日だからねー」
「……」
キコキコキコ。
「わわっ、無視しないで〜」
「うるさい。そういう事はあたしの誕生日が決まってから言え」
“今冬中”には決まるだろう、たぶん。
うふっ
散々迷って郁乃が選んだ、ラグビーボール大のウリ坊のぬいぐるみ。
「可愛い、かなぁ?」
妹の美的感覚に若干疑問を投げかける姉。
「それはわからないけど、なんとなく」
「なにかのキャラクター?」
「札に名前が書いてあるから、たぶん」
「猪にボ×ンって、すごい名前だね」
プレゼント用に包装して貰い、デパートを出る。
「渡すのは、明日ね」
「貴明くんに電話して、家の場所教えて貰おっか?」
「そこまでしなくていい」
二人で駐車場に戻りかけた時。
「メーロンっ♪バナナっ♪スっトロっベリーっ♪トっリプっルだ〜い♪」
ここ一週間ですっかり馴染みになった、歳の割に幼い声が聞こえた。
「うぅ、お金が……プレゼントは来月でいいな?」
自分のアイスを舐めながら、貴明が財布をポケットに戻す。
「むむっ、利子はトイチだよっ」
「十一の意味知ってるのか?」
「え? えーっと、頭を使えってこと?」
「そりゃとんちだ」
「うーん、とにかく、この燦然と輝く三段重ねに免じて許してあげるよ」
「そりゃどうも」
「へへへ〜、どこから食べよっかなぁ〜、あっ!!」
このみの手にしたコーンから、アイスの玉がこぼれ落ちた。
好事魔多し。
振り回したんだから、自業自得ともいうが。
「う、うぁぁぁ゛ぁ゛ぁ゛……」
笑ったカラスがもう泣いた。
「なにやってんだか」
遠目にその様子を視界に収めた郁乃が呟く。
「賑やかだねぇ……いこっか」
愛佳が車椅子を押して二人に近づこうとする。
が、唐突に、足が止まった。
「た゛、だがぐぅ゛う゛う゛う゛ん゛ん゛ん゛」
シングルと1/3くらいになったアイス片手にこのみが振り向く。
残り1と3分の2は路上で地熱に溶けている。無残。
「なにやってんだよ」
「だ゛っ゛で゛え゛え゛え゛」
「もう金ないから。半分残ってるからいいだろ」
「う゛う゛う゛……せめてイチゴが……」
一番上だった。
「あきらめろって」
このみの執念に呆れつつ、自分のを囓る貴明。
実はストロベリー。
「……」
その様子を、じっと見つめていたこのみ。
丁度、愛佳と郁乃が声を掛けようかというあたり。
「てりゃっ!」
不意打ちで、貴明の持っていたアイスに飛びついた。
「うわっ、危ないって」
「はぐはぐ」
「ったく、しょうがないなあ」
体の正面に絡みついてくるこのみに、苦笑しながらアイスを差し出す貴明。
「えへ。代わりにメロンを食べることを許可するであります」
ひょい、と突き出されるコーンに釣られて、貴明は緑色の部分に噛みつく。
往来のど真ん中で互いにアイスを食べさせ合う、いささか親密な光景。
支援
「っと」
一瞬、車椅子がフリーになって、郁乃は慌ててハンドリムを押さえた。
「あっ、ご、ごめんっ」
グリップを離してしまった愛佳が謝る。
「あ、あのさ、あたし邪魔するといけないから、郁乃行ってきなよ」
喉に詰まったような声で、先に車に戻ってるから、まで絞り出すと、そそくさと前方の二人に背を向ける。
「うーん、タカくんもダブルかトリプルだったら、もっと食べれたのに」
「だから金がないんだって」
そんな事はつゆ知らず、賑やかにこのみと貴明。
「……」
二人を眺める郁乃から、表情が消えていく。
くるり。
少女はその場で器用に車椅子を転回させると、車に戻る姉を追った。
「あ、あれっ、プレゼント渡さなくていいの?」
横に並ばれた愛佳、逆に慌てる。
「……」
「あっ、あのね、このみちゃんと貴明くんなら気にしなくて大丈夫だよ」
「……」
「ちっちゃい頃からあんな感じだっていってたし、海でだって」
「……」
「仲が良い兄妹って、うらやましいよねえ」
「……」
「いやっ、別に郁乃が冷たいとかいってるわけじゃなくてね……」
「どこまで行く気?」
「えっ?」
足を止めた愛佳に、短いクラクション。
駐車場の入口が、5メートルほど後方になっていた。
翌朝も、このみと貴明は小牧姉妹を出迎えた。
「ちゃんと渡しなよ、プレゼント」
「う……」
姉の念押しに、後部座席で意思のない声を出す郁乃。
膝には、昨日買ったぬいぐるみの包みがある。
「はい。いってらっしゃい」
停車。
愛佳が先に降りてトランクから車椅子を用意する。
「郁乃ちゃん、おはようっ!」
郁乃が車から出るのを待たずに、このみがやってくる。
「あ、危ないっ!」
それに気づかずに、後続の車が突っ込んできた。
「わわっ?」
「このみっ!」
車の前に飛び出しかけた少女を、貴明が引き戻す。
勢い余って、貴明の腕の中に倒れ込むこのみ。
「とととっ」
「急に飛び出すなよ」
貴明がぽんぽんと幼馴染みの頭を叩く。
「うん……」
このみの頬が赤い。まだ、幼馴染みの腕の中。
「お、おはよう、貴明くん、このみちゃん」
愛佳の声が、少し揺れていた。
「ふぇっ、おはようございますっ!」
「おはよ……ぐげっ!」
その声に、慌てて飛び離れたこのみの頭が、貴明の顎を直撃。
「ひたひ(痛い)」
「それはこっちの台詞」
「ぅぁ……朝から元気ですねぇ二人とも……はは……あれ? 郁乃?」
いつのまにか、郁乃と車椅子が消えている。
愛佳が覗き込んだ後部座席には、紙包みが置き去られていた。
「郁乃ちゃん、どうしたの?」
「まだ、慌てるような時間じゃないぞ」
「トイレ?」
一人で先に行っていた郁乃に、三人が追いつく。
「別に……」
郁乃の様子は、特に普段と変わらない。
昇降口まで、普通に四人で歩き、いつものように二手に分かれる。
だが、昇降口。
「あっ、郁乃ちゃ……」
郁乃は、このみに車椅子を触らせなかった。
そのまま廊下も自走。結構、速い。
「ちょ、ちょっと待ってよー」
追いかけるこのみを、郁乃は振り向こうともしなかった。
教室に入って、黙って自分の席につく。
遅れてこのみが、隣の席に座る。
「きょ、今日は1時間目から数学だね、嫌だなー」
反応なし。
「あとで宿題の答え合わせしようねっ」
応答なし。
「い、郁乃ちゃん、どこか悪いの?」
「このみ」
郁乃がようやくこのみの方を振り向いた。
真っ直ぐに、射るような視線。
「う、うん」
思わず畏まったこのみに、郁乃は言い放った。
「もうアンタとは、口、利かないから」
以上です。長くなってすみません。しかも玲於奈そっちのけ
>772>773>783>786さん支援ありがとうございました。確かにお久しぶりですw
今回は連投規制食らいまくったので大助かりでした。
えーっと、誰も気にしてないかも知れませんがこの場を借りて少し謝罪を。
PS版鳩やってないので知りませんでしたが、緒方理奈はまーりゃん先輩と同学年(寺女中退)だそうで
鳩2時点では冬弥と知り合ってないようです(素直に読めば、出会いは1年後の11月でしょうか)
他にも随所でこのみの「タカくん」「ユウくん」呼びに「君」が混じったり、
第1話に遡るとカスミの「コクコク……。」が「……コクコク。」になってたり。とか色々無数にw
話や文がつまんないとかキャラが違うとかってのは力量の問題で頑張るしかないけど
こういう設定的なとこを外すのは避けたいと反省。でも良く見落とすし忘れる。南無三
>>790 乙&GJ!
その終わり方はかなり拷問ですね。次に期待してます。
あ、誤字発見。>782の下から8行目「妹の方」は「妹の肩」の間違いです。よしなに。
>664 >708 の件、
修正しました(と思う…)。長らく放置してすいませんでした。
報告いただいた方々、どうもありがとうございました。
>794
乙 いつもありがとう。
ちょっと書き溜まったし、さわりだけでも上げてみるかと思い、
あらためて読み直したらなんだこれって感じだった。萎えるぜ……。
DIAに関する考察とか誰が読むんだ。もっと手直ししようと自己完結。
,...,_
γ'',, '''…、
〆.' ' ̄'' ヽヽ
. i;;i' 'i;i
.i;;;i' u .i;
.i;:/ ..二_ヽ '_二`,::
l''l~.{..-‐ }- {.¬....}l'l
ヽ| .`ー '. `ー ´|/
| ノ、l |,ヽ .ノ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
ヽ~(、___, )ノ < これはねえ、やっぱり、くるうてますよ
/|.ヽ..__ ___/| \自作自演してる人の顔見て御覧なさい、ほうけとるしねえ、
/l \ //l\ \目がポ〜っと浮いてるでしょ、こりゃ基地外の目ですわ。
ヽ \/ / \___________
\/▽ヽ
どうもです。
またプロバイダがアクセス禁止食らってしまいました。
解除されたら投稿します。
河野家の人も丸ノ内OCNでつか?
こちらも都内でOCNの光なんで今朝から規制喰らってまつorz
すごいな ここは
ほとんど単発ID、それも変質者的発想のキモレスだけで会話が進行。
書き込まれるときは同時間帯の連投
典型的な変質者による自作自演進行スレですな…カワイソス
801 :
名無しさんだよもん:2006/12/12(火) 05:12:01 ID:i0QLJY6X0
/^i,,、,、/^i _
ヽ' . , '´, ヽ 、
ミill ´ Д `;<^(゚w゚)ノハヾ^、
ハ,_,ハ ´Wリ(i!゚ ヮ゚ノv'`
,:' ´Дnと ミ⊂)卵!つ△
ミ;:,っu_,,っ,、_、、,,,_,、,,;;,彡く,f∂∂
保守
薬を飲んで一眠りして、目が覚めたら真夜中。眠れない俺はとりあえず牛乳を飲むことにした。
そんな俺に何故かついてきた瑠璃ちゃん。花梨に怖い話でも聞かされたのか、眠れず、おまけに
トイレにも一人じゃ行けなかったようで。
居間に行ったらソファーで寝ていたこのみ発見。何でもおじさんと春夏さんが急に出かけてしまい、
タマ姉にお願いしてここに泊めてもらったそうな。で、前から俺の寝床で寝てみたかったからここで
寝ていたとのこと。物好きなヤツ。
このみ、瑠璃ちゃんと三人で牛乳を飲み、物憂げな瑠璃ちゃんに俺は、家に帰りたいかと尋ねて
みる。てっきり素直に肯くと思ってた俺だったが、瑠璃ちゃんはそれを思うと気持ちがモヤモヤする
らしい。きっとそれはこの生活への愛着で、それは瑠璃ちゃんにとってはいいこと、と、思いたい。
瑠璃ちゃんと話しているうちにこのみが寝てしまい、二階に上がるとタマ姉が待ちかまえていた。
頬をつねられベッドに連行される俺。るーこたちの部屋に戻るのが怖そうな瑠璃ちゃんを見てタマ姉
は、「こっちにいらっしゃい」と瑠璃ちゃんを迎え入れた。
先にベッドに寝かしつけられた俺。となりを見ると、タマ姉と瑠璃ちゃんが一緒のベッドで寝よう
としている。
「タマ姉」
「なに、タカ坊?」
「瑠璃ちゃんにイタズラするなよ」
するとタマ姉、ベッドから降りて、
ぎゅ〜〜〜っ!!
「あいひゃひゃひゃひゃひゃ!! い、痛い痛い痛い!!」
も、もの凄い力で頬をつねられましたよ!?
「ひ、酷いよタマ姉、病人に対してこの仕打ち!」
「あら、もう熱は引いたんでしょ?」
「ぐ……」
くそっ、言い返せない。
「馬鹿なこと言ってないでさっさと寝なさい。じゃあお休み、タカ坊」
そう言って自分のベッドに戻るタマ姉。と、その向こう側から、
「お……、お休み、貴明」
「うん、お休み、瑠璃ちゃん」
朝。天気は快晴。そして俺の体調は――
「36度ちょうど。うん、下がったわね」
よっしゃ! 風邪、完治!! 俺は勢いよくベッドから飛び起きようと――
「ダメよ」
タマ姉に押さえつけられる。
「な、何でだよタマ姉!? 俺もう大丈夫だって!」
「ぶり返すことだってあるんだから、急にはダメ。今日は一日安静にしてなさい」
「え、えええ〜? じゃ、じゃあ、今日も一日ずっと寝てないとダメなの? 飯もお粥だけ?」
うう、せめて飯は普通のが食いたいよぉ。今だって腹の虫がグーグー鳴ってるし。
あまりの悲しさに目が潤む。そんな俺を見てタマ姉は、
「うーん、そうね……」
「あはははは! たかあきなにそのカッコ!?」
「た、たかちゃん、可愛い〜☆」
由真と花梨が指差して笑う。く、屈辱だ……。
タマ姉から安静にしてろと命じられたものの、さすがにまた一日寝たきりは勘弁だ。それにさっき
も言ったが飯だってお粥以外のものも食べたい。そんな俺の主張にタマ姉が出した妥協案。それが
パジャマの上にちゃんちゃんこを着た今の俺だ。この格好なら、家の中を歩き回っても構わないとの
お許しをいただいたものの、これ、どう見たって女物の柄なんですけど。
「けど、こんなのよくあったなぁ」
身につけたちゃんちゃんこを見ながらそう言うと、
「それ、私が使ってるのよ」
「え、タマ姉、こんなの持ってたのか?」
するとタマ姉はムッとして、
「こんなのとは何よ。冬場はとても暖かいのよ、それ」
「あ、いやそうじゃなくて、冬でもないのに何でこれ持ってるのって」
するとタマ姉、さらっと、
「ああ、雄二に持ってこさせたのよ。さっき」
「え?」
「タカ坊のために必要だと思ったからね、朝一番に電話して、持ってこさせたのよ」
「おーう、起きたか、貴明ぃ」
居間に行くと、ソファーにはあからさまに不機嫌そうな雄二が。
「お、おっす……」
「ったくよぉ。こっちは朝イチでイルファさんのところに行こうとしてたってのに、お前のために
台無しになっちまったじゃねぇか」
「ま、まぁ、悪かったよ。……ん? コレ置いて珊瑚ちゃんの家に行けばよかったんじゃ?」
俺の疑問に雄二は、
「姉貴が余計な根回ししやがったんだよ!
俺がイルファさんに遅れますって電話したら『今朝は貴明さんのお家で朝ご飯をお召し上がりに
なられるって、お姉様からお聞きしましたよ』だとさ。はぁ……」
深い、ため息。
「あ、あの、イルファさんの朝ご飯ほど美味しくないかもしれませんけど……」
キッチンの優季が何故か済まなさそうな顔。今朝の担当は優季のようだ。――お、あのホット
プレートの上で焼かれてるのは、いつかのフレンチトーストではないか!
「いや、優季ちゃんのせいじゃないからさ。悪いのは鬼のような姉貴、略して鬼貴。なんてな」
などと雄二が愛想良くヘラヘラ笑っていると、
「新しい言葉作ってるんじゃないわよ」
ガシッ! ギリギリギリ……
「あいだだだだだ!! ご、ご免なさいお姉様鬼貴なんて呼んでご免なさい割れる割れる!!」
そりゃタマ姉だって居間にいるんだから、こうもなるわな。
それから数分後。
「はい、召し上がれ」
キッチンのテーブルについた俺の目の前には、優季特製フレンチトーストが。しかも今回は他にも、
カリカリに焼いたベーコンやサラダ、コーンスープと、何となく洋画チックな朝食。
みんな一緒に「いただきます」の後、早速俺はフレンチトーストを一口。
――う、うまーーーい!! 前に食った時より美味いぞコレ!
「はむっ……、もぐもぐ……」
「た、貴明さん、もう少しゆっくり食べて……」
優季が何か言ってるようだけど、悪いが俺の耳には入らない。フレンチトースト、ベーコン、
またフレンチトースト、サラダも一口、ついでにスープもずずっと。
「た、タカくん、凄い食べっぷり」
「この様子なら病は完治したようだな。安心したぞ、うー」
このみとるーこも何か言ってるけど、今はフレンチトーストを更に一口。次またベーコン、そんで
またフレンチトーストを……ぐ、喉が詰まった。スープスープ……ふう。――あ、フレンチトースト
が無くなった。
「おかわり!」
空になった皿を優季に差し出す。
「あ、は、はい! い、今焼きますから」
慌てて席を立ち、ホットプレートでおかわりの分を焼き始める優季。
「早く〜、早く〜」
思わず急かしてしまう俺。だってすぐ食べたいんだもの。
「そんなすぐ焼けるワケないじゃない。落ち着きなさいよたかあき」
呆れたような由真の声。
「うう〜、だってよぉ〜」
「なら、るーのを分けてやる。食え」
そんな俺を見かねたのか、俺の皿に自分のフレンチトーストを分けてくれるるーこ。
「お、サンキューるーこ! いただきま〜す」
早速食べる。――お、メープルシロップを塗ってあるのか。うん、甘いけどこれも美味い。
「おいおい、んないきなりガツガツ食って大丈夫なのかよ」
雄二でさえ俺の食いっぷりに驚いてる様子。
「ずっとウチのお粥だけだったのがよっぽど不満やったんやろ」
あ、やばい、瑠璃ちゃんが不機嫌そう。
「もが、もがもがもが――」
ポカッ。
痛て、タマ姉に頭を叩かれた。
「こら、口にものを入れたまま喋らないの」
「もぐ……ごっくん。ゴメンタマ姉。
誤解しないでよ瑠璃ちゃん。瑠璃ちゃんのお粥だって勿論美味かったよ。特に卵入りのヤツ」
「……べ、別に言い訳せんでええ」
あらら、瑠璃ちゃんがヘソ曲げちゃった。――うーん、それなら、
「あのさ瑠璃ちゃん、俺がまた風邪を引いたら、お粥作ってくれないかな」
「え……?」
このとき俺は、大して考えもせずにこんなことを言ってしまっていた。
そして、瑠璃ちゃんが顔を赤くしながらもコクリと肯いてくれたことに嬉しささえ感じていた。
その後、愛佳と郁乃、珊瑚ちゃん、ちゃるとよっちもやってきて、みんなで遊んだり、昼飯を食べ
たり、いつものように賑やかで、騒がしくて、だけど楽しい一時を過ごしていた。
思えば俺はこの時、風邪が治ったこともあり、少し浮かれていたのだと思う。
さっきの台詞がその証拠。”また”と言ったがそれはいつのことになるのやら。俺は以前春夏さん
に注意されたこと――この生活への問題意識を全く忘れてしまっていたのだ。
みんなといるこの瞬間が楽しくて。それが……いつか必ず終わるってことも忘れて。
だけど。
ピンポーン。
家のチャイムが鳴ったのは、夕方頃のこと。
誰だろうと思って立ち上がろうとすると、
「タカ坊はいいわよ。私が代わりに出るから」
そう言ってタマ姉は廊下に出た。その少し後。
「どちら様でしょうか? ――え? あ、あの、どうして……、あ、ちょっと!」
廊下の向こうからタマ姉の驚いたような声。どうしたんだ?
ガチャ。
支援
「失礼しますぞ」
そう言って居間に入ってきたのは、いやに体格のいいじいさん。――あれ、このじいさんって、
「お、おじいちゃん!?」
俺より先に声を上げたのは、由真。そう、以前神社で俺に襲いかかってきた、あのじいさんだ。
「ど、どうしてここに……?
って、な、なんで、な、何しに来たのよ、おじいちゃん!」
由真の口調が、驚きから、拒絶へと変わる。
そんな孫娘を、無表情でじっと見つめるじいさん。静かで、だけど確かに感じる威厳と風格。
やっぱこのじいさん、ただ者じゃない。
「や、約束が違います長瀬さん! ここには来ないっておっしゃって――」
遅れてタマ姉も居間に飛び込んでくる。その時だった。
「――え?」
目を見開き、信じられないと言った顔でそう呟いた由真。無理もない、俺だって驚いた。
じいさんは何も言わず、いきなりその場で土下座をしたのだ。
「わしが……、わしが悪かった。
この通りじゃ。許してくれ、由真」
「お、おじい、ちゃん……」
床に頭をつけ、何一つ言い訳せず、ただ孫娘に許しを請うじいさん。
そして、呆然とそれを見つめる由真。
この二人に一体何があったのか。俺を含め、その事情を一切知らない他のみんなも、何一つ口を
挟むことも出来ず、ただ事の成り行きを見守るしかない。
それから、どのくらい時間が経ったのだろうか。由真はうつむき、そして、
「……やめてよ」
「……」
じいさんは無言で、土下座をやめない。
「そんなのやめてよ! は、恥ずかしいと思わないの!?
来栖川家の執事がこんなところで、自分の孫に土下座だなんて、そんなの――」
「恥など!」
土下座のまま声を上げるじいさん。その声に由真がビクッと震える。
「恥など、お前が許してくれるのなら、いくらでもかけるわい!」
「あ、あたしが恥ずかしいのよ!
そ、それに、それに今更何よ、何を謝るって言うのよ!?」
その言葉に、じいさんは顔を上げ、
「わしが悪かったのじゃ。お前の気持ちも考えもせず、お前の未来を勝手に決めようとしたわしが。
もう、ダニエルを継がなくてもいい。それに、縁談もきっぱり断った。
わしは今後一切、お前の将来には口出しせん。この場で固く誓う。お前の未来はお前自身が選べば
いい。今まで済まなかったの、由真」
「お、おじいちゃん……」
「お前がそうしたいと言うのなら、そこの」
じいさんは俺を見て、
「そこの小僧との結婚も認めてもいい。お前が選んだ男なら、わしも信じよう」
「な!?」
け、結婚!? 俺と由真が!?
「ちょ、ちょっとおじいちゃん!? あたしたかあきと結婚したいなんて言った覚えないわよ!!」
慌てて否定する由真。
「まあ、あくまで将来の話じゃがな」
「い、いやおじいちゃん、将来も何もまだ……」
ごにょごにょと由真が言葉を濁らせる。
「もし、どうしてもわしが許せないと言うのなら、それでもいい。わしのことはこれからも嫌って
くれても構わん。
じゃが、じゃがのう……、せめて、家には帰ってきてくれんか? 頼む、由真」
そう訴えるじいさんの目は、とても悲しげで――
「お前が家を出て、ここで暮らしていると知ったとき、わしは最初、問答無用でお前を連れ戻す気で
いたんじゃ。
じゃが、お前の両親がそれに反対してな。お前が自分で帰ってくる気になるまで、そっと見守って
いようと言ったんじゃ。わしが猛反対しても、何度も、何度も、そうわしに言い聞かせてな。それに
わし自身も、お前にあれだけ酷いことを言ってしまったという負い目もあったからな。結局わしも
折れたんじゃよ。
じゃがのう……、お前のいない家は、寂しいんじゃ。まるで明かりを失ったように暗いんじゃよ。
お前の両親も表だっては明るく振る舞ってはいるが、お前は今頃どうしているのか、ちゃんとした
ものを食べているのか、勉強も怠ってはいないか、話すことと言えばいつもそんなことばかりじゃ。
向坂家のご息女に面倒を見てもらっているとは知っておっても、お前の父も、母も、それにわしも、
いつもお前のことが気がかりでの。このままでは、わしらはどうにかなってしまいそうなんじゃ。
もう一度頼む。由真よ、家に帰ってきてくれ!」
再び頭を下げるじいさん。
そんなじいさんを見つめ、由真は、
「……帰ってよ」
「ゆ、由真?」
「帰って! 帰ってよ! あたしはここにいるの、ずっといるの! だから帰って!!」
精一杯の声で、そう叫んだ。
つづく。
どうもです。一週遅れての第84話です。
>>811さん、支援ありがとうございました。m( __ __ )m
一週間待ってもアク禁が解けず、とうとう●を買ってしまったら、その直後にアク禁解除……orz
ええと、長らく続いた河野家ですが、そろそろ締めに入りたいと思います。
これからしばらくの間、鬱展開が続きますが、どうかご勘弁ください。
>>815 いつも乙。
そういえば、由真が河野家に押しかけてきたのが始まりだから、
由真が自宅に帰るとなるとこのお話も終わっちゃうんだよな。
始まりがあれば必ず終わりもあるから、この生活が終わるのは
寂しいっちゃ寂しいけど、仕方ないよな。
と、思った。
●買っても無駄にはならないよ。
にくちゃんねるが今年いっぱいで閉鎖されるから、過去ログがこれから先見られなく
なる。●があれば、過去ログを掘り起こせるしね。
>815
乙です
河野家もついに完結編に突入ですか……
別に由真が帰ったとして河野家が解散する事もない気もするんですが……
ともかく各人がどんな結末になるのかwktkです。今から回収だと、丁度全100話くらい?
正直、欝展開いらね
それを明るい展開で乗り切ってくれ
ついに河野家も終わっちゃうのか
寂しくなるなぁ…
まあ最後までいい話を書いてくれる事を期待しますよ
「イルファさん」
リビングに向かうと、キッチンでイルファさんが食器を拭いているところだった。
「イルファさん、俺の靴下が無いんだけど」
カチャカチャと音を立てて、丁寧に食洗機のお皿を拭くイルファさん。
「どこにしまってあったっけ? イルファさん?」
聞こえていないはずは、ない、と思うんだけどな。
けれどイルファさん。まるで俺が呼んでいることになんか全く聞こえていないように洗
い物を片付けている。
「イルファさーん? ・・・・・・あ」
思い出した。
それなら確かにイルファさんが、俺の声に気が付かないフリをするのだってわかるけど。
でも、まさか本当に本気で言っていたなんて。
「えっと・・・・・・あー」
けれどいざ言おうとしても、なかなか問題があるわけで。
そりゃ、イルファさんがそうしろって言ったんだから、悪いことなんかあるはずないん
だけれども。
どっちかといえば、これは俺の気持ちの問題だろう。
緊張で、唾を飲み込む音まで聞こえてきそうだ。
「・・・・・・イルファ」
「はい、どうかなさいましたか、旦那様」
俺がそう言うと、イルファさんはくるりとこちらに笑顔を向ける。
けれど俺は気が付いていた。俺が言いにくそうにしている間、イルファさんがずっとこ
ちらのことを気にしていたことを。
だって、イルファさん。徐々に体がこっち向きにずれてきていたんだもの。
「えっと、俺の靴下、どこにしまってたっけ? タンスの中に見つからなくてさ」
「旦那様の靴下なら、先日引き出しの方へ移しましたが。見当たりませんでしたか?」
「あ、引き出しの中だったっけ。ありがとう、探してみるよイルファさ・・・・・・イル
ファ」
「はい、どういたしまして、旦那様」
笑顔でうなずくイルファさん。
それはもう楽しそうだ。
けれど俺の方はと言えば、イルファさんを呼び捨てにして、さらには「旦那様」なんて
呼ばれて。なんとなく恥ずかしいような、申し訳ないような気持ちになる。
だってあのイルファさんを、「イルファ」だもんなぁ。
ごぞごそとタンスの引き出しを漁りながら考えるのは、ついさっき、イルファさんと交
わした会話のこと。やっぱり、軽々しく「お願い事を聞く」なんて言わないほうが良い、
ってことなんだろう。
喜んではくれているみたいだから、いつもお世話になっているお返しとしては悪くはな
いんだろうけど。
でもまさか、いつものお返しに「今日一日、旦那様とお呼びしてもよろしいですか?」
なんて言ってくるとは思わなかったからなぁ。
その後で「それでは旦那様は、私のことをイルファとお呼びくださいね、旦那様」なん
て。あんな笑顔で言われれば、断れるはずなんてないじゃないか。
お陰でこうやって、照れくさい思いをしているんだけれど。
「旦那様、靴下、見つかりましたか?」
「あ、うん、あったよ。イルファ」
名前を呼ぶ前に、どうしても一呼吸あいてしまう。なかなか慣れそうにない。
イルファさんもそんなに可笑しそうにするくらいなら、こんなお願いしてくれなければ
いいのに。
「いーえ。旦那様からおっしゃったことなんですから。今日一日、きちんと呼ばせていた
だきますからね、旦那様♪」
イルファさんの決意は固い。できればどこかで勘弁してもらいたかったんだけど、ここ
まで嬉しそうだとそれも申し訳ない。
あーもういいや、俺も男だ。恥ずかしいだとか照れくさいだとか言わないで、きちんと
イルファさんのお願いを聞いてあげよう。
そう、たかだかイルファさんを呼び捨てにするだけじゃないか。瑠璃ちゃんだってイル
ファさんのことは「イルファ」って呼んでいるんだ。俺にそれができないはずが無い。
・・・・・・顔が火照るのも、そのうち収まるだろう。
「それで、イルファどうしたの? ありがとう、おかげで靴下なら見つかったけど」
「はい。その、折角ですからその靴下を、旦那様に履かせて差し上げようかと。やはり旦
那様ですし、それ用のお世話をいたしませんと」
「流石にそれは勘弁して」
「イルファ、そっちのドレッシング取ってくれる? オレンジ色の方」
「はい、旦那様。こちらでよろしいですか?」
「うん、ありがと」
瓶を取ってくれたイルファにお礼を言いながら、サラダにドレッシングを掛けていく。
「旦那様、ご飯のお代わりはいかがですか?」
「あ、じゃあ貰おうかな」
茶碗を渡すと、イルファはキッチンへとご飯のお代わりを取りにいってくれた。こっち
がお代わりをお願いした時は、いつも嬉しそうにご飯を持ってきてくれるイルファだけど。
でも今日は、いつもに増して機嫌が良さそうだ。
お陰で俺の方まで気分がよくなって、おいしい料理が一段と美味く感じられるっていう
ものだ。
「珊瑚ちゃん、どうかした? 俺の顔何か付いてる?」
たださっきから、珊瑚ちゃんがじっと俺の方を見つめてくるのが気になると言えば気に
なる。箸もあんまり進んでいないようだし。
「はいどうぞ、旦那様。ご飯、これくらいでよろしいですか」
「ありがとう。こんなもんでいいよ」
「どういたしまして」
「いっちゃんええなぁ。貴明とラブラブしとって」
珊瑚ちゃんがのその一言で、お茶碗を受け取ろうとした腕が固まってしまう。もう少し
で落とすところだった。
「えっと、そうかな?」
俺、イルファとそんなにいちゃついたりしてたっけ? 別に普段と変わらないと思うん
だけど。
でも珊瑚ちゃんは納得行かない様子で、俺とイルファを睨んでくる。
「だって貴明、いっちゃんのこと『イルファ』−って呼んでる。いっつもはイルファさん
なのに」
そう言われて、ようやく気が付いた。
俺、いつの間にイルファさんのこと、意識せずに呼び捨てにしてたんだろう。今更その
ことに気が付くと、今までの分一気に恥ずかしくなってきた。まるで金魚のように口をぱ
くつかせて、イルファのことを見る。
なのに当のイルファさんは「残念」みたいな顔をして。
「イルファばっかり、ちゃんと名前呼んでもらってずるいなあ。なーなー、瑠璃ちゃん
もそう思うやろ」
「う、うち知らんそんなこと」
急に話を振られて、慌ててご飯をかきこむ瑠璃ちゃん。
ずるい、とか言われても、じゃあどうしろと?
「申し訳ございません珊瑚様。ですが旦那様にはきちんと、私の名前を呼んでいただかな
くてはなりませんので」
「むー・・・。あ、なあなぁ、ならな、貴明もうちらのこと、ちゃんと名前で呼んだらえ
えんや」
「ご、ごちそう様。うちお風呂はいってくる」
瑠璃ちゃんはそう言って箸を置くと、逃げ出すようにお風呂場へ行ってしまう。瑠璃ちゃ
んも、俺に「瑠璃」なんて呼ばれるのは勘弁して欲しかったようだ。
「あ、瑠璃ちゃん待って。うちもはいるー」
俺だってイルファさんだけでこうなのに、更に珊瑚ちゃんと瑠璃ちゃんまで呼び捨てな
んてきっと恥ずかしさに耐えられない。
しかもついうっかり口を滑らせて、学校や雄二の前で「珊瑚」とか「瑠璃」なんて呼ん
だ日には、一体何を言われ続けることか。
瑠璃ちゃんを追いかけて、珊瑚ちゃんがお風呂に行くと、ようやくテーブルは落ち着き
を取り戻してくれた。
「ご馳走様」
「お粗末様でした。お茶をお淹れしましょうか?」
いいよーいいよー
「あ、うん、ありがとう・・・・・・イルファ」
きっと笑われるだろうとは思ったけど、やっぱり笑われた。
「別にもうよろしいんですよ。私は十分、満足させていただきましたし」
「いや、でも、今日一日って約束だったしさ」
まあ、また珊瑚ちゃんに焼餅を焼かれても困るから、二人の前では極力呼ばないように
はするけど。
「でしたらもっと、堂々と呼んで下さればいいですのに。それともやっぱり、旦那様と及
びするのは恥ずかしいですか?」
「確かに恥ずかしいっていうのもあるんだけど」
でもそれだけじゃなくて。
「俺、本当にイルファにそう呼んでもらえるほど、イルファに何かをしてあげられてるの
かなってさ。イルファさ──イルファには、こうやっていつもお世話になってしまってば
かりなのに」
だから、たまにはイルファのために何かをしてあげたくて、さっきだって何かをして上
げられないか聞いたんだし。
「確かに旦那様、朝はちゃんと起こして差し上げなければベッドから出てきてくださいま
せんし、靴下だって、私が場所を教えてあげませんと場所もわかりませんが」
イルファの言葉が胸に突き刺さる。いや、全くその通りなんだけど。
でもイルファの口からあらためて言われてしまうと、本当にどこが旦那様なんだか。
「ですが旦那様。私、旦那様からそれ以上のことを、たくさんして貰っているんですよ?」
そう言って、イルファは隣のイスに腰を掛けると、俺の方に体を寄せてくる。肩を通し
て感じることのできる、イルファの体重と体温が恥ずかしい。心臓の音が、聞こえてしま
わなければ良いんだけど。
旦那様は、いつもこうやって私のことを愛してくださいますから。
でも、こんなことくらいで良いの?
はい♪
「それでは旦那様、もう一つだけ、お願いをしてもよろしいでしょうか」
「えっと、何?」
そう言ってしまってから後悔した。
さっきだって、これで旦那様なんて呼ばれることになったのに。
「いつか必ず、私の本当の旦那様になってくださいましね」
イルファはそう言って、笑顔を浮かべながら目を瞑る。
頑張らなきゃな。イルファのお願いを聞いてあげるためにも。
そう思いながら触れたイルファの唇は、なんだかいつもより、柔らかかったような気が
した。