貴明もついに犯罪者か
>>310 4Pやってて、将来6P確定なのに、何をいまさら。
>>311 はるみだしー、今は不確定じゃね??
まぁ、姫百合エンディングの「将来」に限定すれば確定かも試練が。
少なくとも俺は個別のがイイ!!
ここで図書委員長話を延々とやってくれたら尊敬する。補完というか後日談みたいな話は見てみたいな。
「なーなー貴明。楽しみにしとってなー☆」
「え、何を?」
「内緒や☆」
昨日の夜から、珊瑚ちゃんの様子がどこかおかしい。今朝だって瑠璃ちゃんに起こさ
れる前から自分で起きてたし。
今だってどういうことなのかいくら聞いても教えてくれないし。
瑠璃ちゃんの方を向くと、「知らん」とばかりに肩をすくめられてしまった。
「さあさあ、早く学校に行かないと遅刻してしまいますよ」
珊瑚ちゃんの様子に首をかしげながらも、イルファさんに促されて慌てて学校に行く
準備を進める。でも本当に、珊瑚ちゃんどうしちゃったんだろう?
まあ、楽しそうにしてるから悪いことじゃないんだろうけど。
「それじゃあ行ってきます、イルファさん」
「はい、いってらっしゃいませ」
イルファさんと行ってきますのちゅー。ちょっとだけ、鼻と鼻の先が触れてくすぐっ
たい。
先に行った珊瑚ちゃんと瑠璃ちゃんを追いかけようとすると、後ろからイルファさん
に呼び止められた。
「何か忘れ物でもあった?」
「いえ。貴明さん。ずぅっと、私たちのこと愛してくださいましね。貴明さんには責任
をとっていただかなくてはならないんですから」
「え、あ、うん、もちろん。イルファさんも、珊瑚ちゃんも瑠璃ちゃんも、俺はずっと
大好きでい続けるさ」
イルファさんは満足そうに微笑むと、ようやく俺を送り出してくれた。
なんだったんだろうなぁ。
イルファさんの様子までなんかおかしい。珊瑚ちゃんと一緒に、また何かたくらんで
なければいいんだけど。
「ほう、それでお前はこう言いたい訳だな。『ボク、女の子に囲まれて困っちゃうんで
す』チクショー! いつもいつもなんでお前ばっかり美味しい思いをしなきゃならんの
だ。地獄に落ちてしまえ」
朝、いつもの教室でまた雄二が一人で叫んでいる。
珊瑚ちゃんや瑠璃ちゃんの様子がおかしかったっていう話をしただけなのに。完全に
話をする相手を間違えた。
でもこのみに相談してもあんまり意味は無さそうだし、タマ姉に話すとまた何を言わ
れるかわかった物じゃないしなぁ。
「『ゆうべはお楽しみでしたね』か!? 珊瑚ちゃん瑠璃ちゃんだけでも許せんのにメ
イドロボまで手を出しやがって。どこの勇者ご一行様だお前は」
雄二もその内疲れて黙るだろう。
まあ、いつものことだ。
「ほら、チャイム鳴ってるぞ。席に着けー」
教室に入ってきた先生に促されて、騒がしかったクラスも落ち着きを取り戻す。
雄二は・・・・・・こういう時は素早いな。もう席についてる。
「えー、突然だが、今日は転校生の紹介をする」
唐突に、先生がそう言った。
一瞬何のことがわからなかったんだけれど、俺がその意味を理解する頃には、せっか
く静かになった教室がまた再び騒がしくなってしまっていた。
「ほらほら、静かにしろ。家の都合で急に転校が決まったそうだ。慣れない生活で大変
だとおもうから、皆、仲良くしてやるように。入ってきなさい」
先生が促すと、教室の扉が開いた。
クラス中が固唾を呑んで扉に注目する。男か、女か、可愛いのか。
そう言う俺も、十分に興味津々で入り口を眺めていたんだけど。
最初に見えたのは、足でも、腕でもなくて、制服の胸のところに付いたリボンだった。
途端、教室が水を打ったように静まり返る。
誰も一言も口を利かない教室の中を、その子はゆっくりと教壇の前まで歩いていった。
黒板に大きく名前を書いて。
なんだか豪快な書き方をするなぁ。黒板の上から下まで、見間違えることの無いくら
い大きな名前が書き込まれている。
・・・・・・ん?
「“河野 はるみ”と言います。まだ引越ししたてで慣れないことも多いですが、どう
かみんな、よろしくね」
そう言って、ぺこりと頭を下げた。
「「おおおおお」」
男女を問わず、教室中から上がる感嘆の声。
理由は簡単で。
「あれは姉貴か、久寿川会長にも匹敵するな」
という雄二の呟きが、この時のクラスの気持ちを最もよく現していたんじゃないだろ
うか。
お陰で、彼女の苗字についてはそれほど注目を浴びていない。転校生が俺と同じ苗字
だなんて、変な気分だな。
「それじゃあ河野は、一番後ろの、あそこの空いている席に座りなさい」
「はい、先生」
河野さんはうなずくと、こちらに向かって歩いて来た。
いや、俺のところに来ているんじゃなくて、ただ単にそこの席に行くには俺の横を通
るってだけなんだけど。
定番の「趣味は?」だとか「どこに住んでるんですかー?」だとか転校生にかけられ
る質問を軽くかわしながら、まあ、これだけ可愛い転校生なら、雄二だけでなく他の連
中が盛り上がるのもわかる気がする。
横の席の子がした質問に笑顔で答える河野さんを見て、転校生っていうのも大変だなぁ
なんて他人事のように・・・・・・河野さんの顔、どっかで見覚えがあるような。
どこで、だったかなぁ。つい最近、見てるような気がするんだけれど。
そう考え込んでいると、いつの間にか河野さんが俺の席の横まで来ていた。
「ねえ、どうかしたの?」
「え?」
まさか声を掛けられるとは思っていなくて、間の抜けた返事をしてしまう。
考えてみれば、他のみんなが全員転校生の事を注目している中で、一人だけ首を捻っ
て考え事をしているのは、周囲から浮いていたのかもしれない。
「何か考え事してたみたいだけど。もしかして、私にする質問とか考えてた?」
「あ、そいつもはるみさんと同じで、河野って名前なんですよ。俺? 俺の名前は向坂
雄二。ちゃんと覚えておいてくれよ」
雄二が後ろで何か喋ってるけど、河野さんはずっと俺のことを見たままだ。
「え、あー、いや。あのさ、河野さん、前にどっかで俺と会ったことなかった?」
うーん、どこかで見たことがあるのは間違いないと思うんだけど。思い出せそうなの
に思い出せず、喉に刺さった小骨みたいに気持ちが悪い。
見れば河野さんは何かに耐えるように両手を握り締めて。
や、ヤバっ。もしかして怒らせた?
慌てて顔を上げると。
そこに、俺に抱きついてきた河野さんの顔があった。
「の、のぅわっ!!」
な、何? なにごと!?
教室中に広がる歓声と嬌声と怒号に、俺の叫び声もかき消される。きっとそのうち、
隣のクラスから苦情が来ることは間違いないだろうってくらい。
「貴明、てめぇ何してやがる!!」
「みんな、静かに、静かにー!!」
「こ、河野、えぇっ、それから。河野も、何をしている! さっさと離れんか!!」
雄二も委員長も先生も、転校生の寄行に混乱しているみたいだ。
「く、苦し・・・・・・」
けれど当の河野さんは一向に俺から離れようとはせず、と言うかよりも一層力いっぱ
い抱きついてきているような。
「・・・・・・」
「えっ?」
河野さんが、俺の耳元でなにかをつぶやく。
すると、まるで抱きついていたのが嘘みたいに俺から離れていった。
「すいませーん。ちょっと立ちくらみがしちゃって。やっぱりまだ、転校の疲れが残っ
ているみたいです」
まったく悪びれた様子も無く、河野さんはそう言ってのける。
あっけにとられて、だれも何も言うことの無い教室の中を、河野さんは悠々とさっき
指定された自分の席に歩いていく。
何かを思い出すかのようにする先生の咳払いだけが、空しくあたりに響き渡った。
「そ、それでは、全員仲良くしてやるようにな。委員長、号令」
「は、はひっ」
慌てて立ち上がる小牧さん。
皆も、なんとなく釈然としない物を感じながらも立ち上がる。
俺もほとんど呆然としたまま委員長の号令に従って席を立つ。抱きしめられた時に感
じた河野さんの体温が、妙に頬の辺りに残ってる。
本当に、立ちくらみしただけなんだろうか? 今、河野さんがどんな表情をしている
のか、確認できないのが悔しい。
『貴明、私、帰ってきたよ』
それに、あの時。河野さんが俺から離れる時、耳元で囁いたあの言葉。
気のせい、じゃあないと思うんだけど。
本当に謎だ。
もちろん、一限の授業に集中なんて、全くすることができなかった。
「走れー!!」
俺が打ち上げた弾を、向こうのチームのセンターが必死になって走って、キャッチし
ようとする。
上がる歓声。その努力は報われたみたいで、俺は一塁にたどり着く前にベンチの方に
引っ込んだ。
「よ、お疲れさん」
グラウンド脇のベンチでは、妙に張り切って素振りをする雄二がいた。
「ここで活躍して『きゃー雄二さん、素敵ー☆』とか言ってもらわないとな。転校初日
の印象っていうのは大切だと思うんだよ」
聞いてもいないのに、大真面目で解説をする雄二。
雄二だけじゃない。クラス中の男子が、体育の授業とは思えないくらい張り切ってし
まっている。
みんな、少しでもあの転校生に良いところを見せたいとでも思っているんだろう。
「ああ、そうか。頑張れよ」
「ハン。彼女のいる奴の余裕のつもりか貴明。だがな見ていろ。はるみちゃんのハート
は俺がゲットしてやるからな。後で吠え面かいて悔しがるがいい!!」
「いや、だから悔しがるも何も。それに、その、俺には珊瑚ちゃんたちがいるし」
「かぁーっっっ!! 聞きましたか奥さん今の貴明君のセリフを。朝いきなり転校して
きたばかりの女の子を押し倒した奴のセリフとは思えませんな! 双子、メイドロボと
来て次は転校生にまで手を出す気か? この──ケダモノめっ!!」
雄二の素振りをする速度が更に上がる。
雄二の中では、朝のあの出来事は俺が河野さんを押し倒したことになっているらしい。
そういえば、グラウンドのあちこちから殺気のこもった視線が俺のことを見ているよ
うな。
いくら河野さんが立ちくらみだって説明したところで、彼女が俺に抱きついてきたこ
とは確かだし。今日から、月のない夜は後ろに注意することにしよう。いや、むしろ瑠
璃ちゃんやイルファさんの耳に、このことが入らないことを祈った方が良いか。
万一二人にこのことが知られたら。
ご飯抜きくらいじゃ済まないよなぁ、やっぱり。
でも
花「きれいなそらさん、お願い!」
る「るーこのべーの腕は上の上だ。そう安々とは貸せないぞ」
花「じゃあコレと交換はどう? じゃじゃーん!
デパ地下1日限定30個の高級タマゴサンド!」
る「まーか。いいだろう、感謝しろうー、うーかり。るーの腕前を見ても腰を抜かすな」
貴「あー! それ俺の!?」
珊「それなら家のいっちゃん使うといいでー」
花「ホント!?」
イ「データをダウンロードすれば、リンゴ・スターにだってなれますよ」
貴「でも、本当にいいの?そんなに簡単に」
イ「ええ、その代わり今挑戦している新レシピの味見役になっていただけますか?」
貴「そんなことならおやすい御よ」
イ「オオコウモリの姿焼きと、水牛のふ○りシチューと、食用カブトムシの空揚げと…」
貴「え…」
花「タカちゃん、ファイトなんよ!」
貴「ところで、バンド立ち上げるってことは、
笹森さんて楽器演奏できるんだ。知らなかった。」
花「できないよ」
貴「……へ?」
花「大丈夫! 何事もなせばなる! 今から練習なんよ! ほら、タカちゃんも!」
貴「い、胃薬をををを!!!」
「私、帰ってきたよ、かぁ」
やっぱり、どこかで会ったことがあるんだろうか?
見覚えがあるんだから、間違いなくそうなんだろうなぁ。でも、どこで会ったんだっ
け。
言われたら、すぐに思い出せるような気はするんだけど。
直接聞いてみようか。
うん、そうだな。その方が良さそうだ。河野さんは俺のことを知っているみたいだし。
ずっとこっちが忘れたままって言うのも、向こうに悪いだろう。
よし、そうしよう。
「おい、雄二」
「ぜひっ、ハァ、ハァ・・・・・・あー?」
「チェンジだぞ。早く守備に付けよ」
肩で息をする雄二を置いて、さっさと自分の守備位置に付く。外野、ライト。ピッチャー
だのサードだの、目立つポジションは別のやつがさっさと取ってしまっている。
まあ、楽でいいけどね。体育の授業でなんか、滅多に外野までボールが飛んでくるこ
ともないし。
遠く離れたベースの周囲では、授業の野球とは思えないくらい白熱した試合が展開さ
れているようだ。
あー、暇だなぁ。
グラウンドの半分向こう側では、女子がソフトボールをやっている。向こうは向こう
でなかなか盛り上がってるみたいだ。
その中の一人。どうしても河野さんに目がいってしまう。
今も彼女は内野を守ってたって言うのに、わざわざ外野の方までボールを追いかけて
いっている。あ、キャッチした。
盛り上がる女子守備陣たち。河野さんも嬉しそうに、あたりに手を振ったりとったボール
を見せ付けたり──
瞬間、河野さんと目が合ってしまう。
慌てて顔をそらすと、向こうが恥ずかしそうにしゃがみこむのが見えた。
うわ、ずっと眺めてたこと、バレたかな。
きっと今の俺は、顔中真っ赤にしてしまっていることだろう。いくら暇だからって、
女の子のこと見てたもんだから罰が当たったか。
転校してきて初日から、河野さんの俺に対する評価は決まってしまったんじゃないだ
ろうか。最悪だ。
そういえば。中学の頃、教師からの評価を良くしたかったのと、ケミカルな雰囲気が格好いいと思い込んで
理科室の手伝いを良くしていた。(といってもゴム栓に穴をあけたり、ビーカーを掃除したりする程度)
でも当時の私は、自分がだんだん子供ながら天才的なミステリの知識を持つすごい奴だと勘違いし始め、
ある日友人を無理やり誘って理科室に忍び込んだ。
そこで適当な物質(っつっても多分ふっとう石とか)を指で触りながら
「へえ…○○先生もなかなか良い物を仕入れて来るんだね。」
とか言ってたり、 適当な薬品の入った瓶を傾けて
「ははっ。ちょっと調合の具合がおかしいかな。ま、授業用には十分か。」
とかほざいてた。
友人は当然ハァ?って感じ。
それでも私はおかまいなしに「ふん。」とか「ははっ!」とかやってた。
そんで一番奥の戸棚を開けて急に表情を変え、
「!!これは!○○先生!いったい…!なんて物を!何をしようとしてるの!」
って言ってみせた。友人も驚いて「それそんなヤバイの?」って聞いてきた。
私は「こんなの黒の教科書の挿絵でしかみたことないんよ…!それなら、もしかしてこっちの瓶は!?」
って別の瓶を手に取って嗅いだ。そしたら、それはなんか刺激臭を発する化学物質だったらしく、
(手であおいで嗅がなきゃいけない奴)直嗅ぎした私は
「エンッ!!!」って叫んで鼻血を勢いよく噴出しながら倒れ、友人に保健室に運ばれた。
私は助かったが、どうやら私の友人が変な勘違いをしたらしく、
「笹森さんは黒の教科書に乗ってる毒物に感染したんです!!」ってふれまわっていた。
それ以来花梨のあだ名は毒物くんになった。当然もう理科室に行く事は無くなった。
「ライトーっ!!」
叫ぶ雄二の声に我に返る。慌てて上を見ると、高く上がった球がこっちに向かって真っ
直ぐ流れてくる。
上手く風に乗っているみたいで、いっこうに落ちてくる気配はなく。まずい、このま
まじゃ頭を越される。女の子に気をとられてバンザイなんて、後でみんなから何を言わ
れるかわかったもんじゃない。
必死になって後ろに下がる。全力で走らないと、これは間に合いそうにない。見失っ
てしまわないよう、球だけを見ながら予測落下地点に。
「ライト! 貴明、前! いや、うしろー!!」
雄二からの掛け声。ええい、こっちはそれどころじゃないって言うのに。後ろ!?
「あ」
「ひゃっ」
声に釣られて後ろを見ると、目の前に驚いた顔をした女の子がいた。
さっき目の合ってしまった女の子。河野さんだってわかった時には、ブレーキも掛け
ず彼女の体にぶつかってしまっていた。
「いててててて」
「うううっ」
転がる視界。ぶつかると思った瞬間、目の前が真っ暗になった。続いて全身を襲う衝
撃。
しばらくは体も動かせず倒れたままでいると、遠くから俺の名前を呼ぶ声が近づいて
きた。
いや、きっと河野って呼び捨てなのが俺で、河野さんって言うのが河野さんを呼んで
いるんだろう。まだ、混乱してるな。あっ
「そうだ、河野さん!?」
急いで起きようとするんだけれど、何かに体をがっちり押さえられているみたいで立
つことができない。顔面に何かを押し付けられているみたいで、今のセリフだってモガ
モガとしか周りには聞こえていないだろう。
「ひゃ、貴明、だめ、くすぐった──」
必死になって体をよじる。まずはこの、視界を塞いでいる物をどうにかしなきゃ。
何とか首を動かしていると、しめた。体を押さえている物の力も弱くなっていった。
「っぷはぁーっ!」
ようやく、体を起こすことができた。酸欠気味の頭に、大量の酸素が送り込まれてい
く。
「河野さん、大丈夫!?」
まず、ぶつかった河野さんに声を掛ける。かなりの勢いで衝突したし、もし怪我をさ
せていたら。
けれど、その心配は杞憂で終わってくれたみたいだ。みたところ怪我らしい怪我はし
ていないみたいだ。彼女の心臓の音だって聞こえそうなくらい近くで確認しているんだ
から、間違いない。
そこで、ようやく気が付いた。
彼女の両足は、今も俺の肩に架かっている。そして俺の目の前に見えるものは、彼女
のブルマー。
ちょっとだけ視線を上げると、顔を赤くした河野さんを間近で見ることができた。
きっと、さっきまで俺のことを押さえつけていたのは彼女のこの、両足だったんだろ
う。どうりで柔らかいと思った。
じゃあ、俺が顔を押さえつけていたのは・・・・・・
もう一度視線を落とすと、河野さんの、柔らかい太ももと太ももの間にある、ブルマー。
もう一度だけ、今度は慌てて視線を上げると、顔を真っ赤にして、今にも何かを叫び
そうな河野さんの顔。
「ち、ちが、ゴメン河野さ──
「貴明の、バカー!!」
握りこぶしが視界を掠めた時には、もう既に首が別の角度を向いていた。コキャッと
か、聞こえちゃいけない音も聞こえた気がする。
「ちょっ、やだ、貴明。ごめ、やだ起きてよ貴明ってば」
誰かにガクガクと体を揺すられている気がするけれど。一瞬で、今度は真っ白になっ
た視界の中で、ひどく落ち着いた気持ちで俺は意識を失っていった。
「ご、ゴメン河野さん!!」
気が付くと同時に、俺はそう叫んでいた。
「・・・・・・あれ?」
あたりを見回すと、どうも保健室のベッドの上のようだ。あのあと気絶して、ここに
運び込まれたらしい。
時計は、もう放課後も大分過ぎてしまっていることを教えてくれた。日差しも既に夕
暮れの物だ。
保険の先生は席を外しているのかもう帰ってしまったのか、保健室には人の気配はな
い。
ベッドから降りると、少しふらつくのと首が痛いのを除けば、うん、大丈夫そうだ。
勝手に出て行くのは気が引けるけど、いつまでも寝ているわけにも行かないし。
制服に着替えて教室に戻る。教室の中には誰も残っていなかったし、もちろん河野さ
んの姿もない。
直接謝りたかったんだけど。
明日、顔を会わせる時のことを考えると、自然と気分が暗くなる。いや、会えるのな
ら良いけど、下手をするとこれがショックで明日から学校に来なくなるとか、うわー!!
「あーあ!まさか!留守の間に!泥棒猫が!入り込んで!いたなんて!ねー!」
「まったく!油断も!隙も!ないもんだよ!」
・・ボス!・・・ボスッ!
ここは体育倉庫の中。身動きが出来ないようマットに簀巻きにされた花梨を、
環とこのみは悪鬼のような形相を浮かべ金属バットで殴りつけている。
「がァッ!・・死んじゃうッ・・・ こんなこと、やめてぇっ!」
「は!何いってんだか。先にタカ坊をたらし込んだの、あんたじゃない!このメス犬!淫乱!痴女!」
「まったくだよ、それでいて自分の身だけは可愛いなんて、都合のいいこと言うとは・・・」
「ち、ちがいますっ・・・・・わたしはただサポー・・ゲボォッ!」
花梨が最後まで言い終える前に、環は花梨の腹を、―先ほどにバケツ3杯分の汚水を
無理矢理飲み込ませ、張り裂けそうに膨れあがってるその腹を―
マットの上から渾身の力で蹴りつけた。
「んぷッ!」
ぴゅう、と花梨の小さな鼻から鼻水混じりの水が噴き出す。
花梨は顔面を真っ赤にして口内まで吹き上がってきた水を、必死に頬を膨らませ耐える。
しかし、環が膨れあがった腹を踏みつけた足にぐいぐいと体重をかけるとすぐに限界を迎えた。
「ごぼッ!げぼッ・・・!おえええ・・・!」
びしゃびしゃとことりの白い頬を汚して流れる吐瀉物。
それが環が腹を踏むリズムにあわせて噴出す様は、さながら人間ポンプの様であり滑稽極まり無い。
…尤も花梨本人にしてみれば笑い事ではなかった。
肺に水が入り溺死寸前、文字通りの意味で「死ぬ程の苦しみ」という訳だ。
「やだ、きったなーい・・・でも、お似合いだよ?黄色」
「・・・まだ殺さないよ・・・そう簡単に楽にはさせないんだから・・・・・・
このみ!ペンチとノコギリ!それと・・・バーベキュー用の鉄串を買って来て!」
「OK!」
環から財布を受け取り一目散に走り去るこのみ。
「んげっ!げほげほ・・・もう・・もうやめてぇぇぇっ!」
涙目になって懇願する花梨の姿を、物陰から、花梨と貴明との関係を密告した愛佳が、
口元を歪め目を輝かせながらじっと見つめていた・・・・。
わざとじゃない、不幸な事故なんだって説明すればわかってもらえるだろうか。でも
ぶつかったことは事故でも、その後のことは言い訳が聞かないし。
どうして俺ってばこう女の子に対して破廉恥なことばっかり。珊瑚ちゃんにはちゅー
されちゃったし、イルファさんのトイレは覗いちゃうし。
あれ、他にも何か、やっちゃいけないことをしていたような気がするんだけど。たし
かまだ珊瑚ちゃんたちと会ったばかりのころだったような、なんだったっけな?
PC教室に足を運ぶと、そこには珊瑚ちゃん瑠璃ちゃんの姿はなくて、パソコンの前
に書置きが一枚。どうも待ちくたびれて先に帰ってしまったらしい。
一人でトボトボと、校門をくぐる。ああ、あしたどうやって謝ろうか。
「わっ!!」
「うわっ!?」
突然、校門の陰から女の子が飛び出してくる。あんまりいきなりだった物だから、本
気で心臓がとまるかと思った。
心臓が、バクバクいっている。
「待ちくたびれちゃった。おそいよー」
立ちすくむ俺の前で、なぜか河野さんが笑顔で立っていた。
「あれ、河野さん? 帰って、なかったの」
「そんなことよりも、言うことがあるんじゃないのかなぁ?」
「えっ、あっ」
河野さんは、相変わらず不適な笑顔のまま、俺の目の前で腕を組んだまま動こうとし
ない。
その格好が変に河野さんに似合っていて。なんとなく、俺も落ち着きを取り戻すこと
ができた。
「河野さん、ごめん。ぶつかっちゃったのは、俺が前をちゃんと見てなかったからだし、
その後の、その、混乱してたからって、河野さんにひどいことしちゃって。謝って許し
てもらえるようなことじゃないかもしれないけど、とにかく、ゴメン」
俺が頭を下げるのを、満足そうにうなずきながら見ている河野さん。けれど俺のでき
ることと言えば、こうやって頭を下げて謝るくらいしかできないし。
「ねえ、貴明」
「えっ」
「貴明、私に許して欲しい?」
「も、もちろん」
「ふーん、そうなんだー。でもなぁ」
楽しそうに俺の顔を覗きこんで、そんなことを言う。
「うーん、どっしよっかなぁ。許してあげないでおこうかなぁ」
そう言って、後ろを向いてしまう。
「初めてなら許してあげたかもしれないけど、貴明、私のあそこ覗いたの、今回で2回
目だしなぁ」
「えっ、いつ!?」
全く身に覚えのないことを言われ、明らかにうろたえる俺。
いや、でも、待てよ。本当に覚えが無いか? 似たようなことを、前にやってなかっ
たか? そういえばさっきも、何か引っかかることが。
「よーし、きーめたっ。貴明は一度ならず二度までも私の大事なところを覗いたから、
許さないことにけってーい。みんなに言いふらしてやろ、貴明は私のことをおもちゃに
したエッチなやつですーって」
そして、スタスタと坂を下りていってしまおうとする。
「ま、まって、謝るから、ゴメン、言いふらすだなんて」
そんなことされでもして、珊瑚ちゃんにこのことが知られたら。ああ見えて珊瑚ちゃ
ん、怒ると凄く怖いんだ。
なんとなく釈然としない物を感じつつ、慌てて河野さんを追いかける。
「俺のできることだったら、何でもするから。だから、ちょっと、待ってー!」
「ほんとぅ?」
満面の笑みを浮かべて、こちらを振り返る河野さん。
やばい、やってしまった。
「そっかー、貴明、私のためになんっでも、やってくれるんだー。どーっしよーっかなーっ。
何でもやってくれるって言うんだもん。ちょっとは、考えてあげないとねー」
特大の地雷を踏んだ気分だ。きっと河野さんの中では、「俺のできること」って言う
一文は、都合よく消されているに違いない。
「お、お手柔らかに、お願いします。河野さん」
「そう、それ!!」
いきなり俺を指差す。
「その“河野さん”って言うの。じゃあまずは一つ目。私のことは“高坂さん”じゃな
くて“はるみ”って呼ぶこと。いい?」
「え、ええっと、はるみ、さん?」
「ちーがーうー。“さん”はいらないの。は・る・み。いい、はるみだからね」
と言われても、いきなり女の子の名前を呼び捨てするのはなかなか抵抗が。
「ほーらっ、何でも、してくれるんでしょ。それともやっぱり、言いふらしたほうが」
「わ、わかりました、言います。言わせてください。はるみ。うん、は、る、み」
もうほとんどヤケで河野さんの名前を呼ぶ。
でも、そんなことでも河野さんは嬉しかったのか。なんだか感激に体を震わせてるよ。
「うーん、まだまだ愛情が感じられないけど、今日のところはこれで許してあげる。じ
ゃあ、次はね」
「次って、まだ何かあるのかよ」
「当然でしょ。貴明は私の言うことを何っでも、聞いてくれるんだから。一回だけなん
て言ってなかったしね」
首を傾げて、あれこれと考えている様子の河野さん。
俺は、まだ日は暮れていないはずなのに、あたりがどんどん暗くなっていく錯覚に襲
われる。
「よーし、決めた」
「な、なんでしょうか?」
「秘密」
「ひみつぅ!?」
「そう、秘密。やっぱり楽しみは後にとっておかないとね。貴明も楽しみでしょ」
楽しみと言うか、死刑宣告が伸びたというか。まあ少なくとも、はらはらドキドキ
することは間違いないな。
「ねえ、貴明」
「はいはい、なんでしょうはるみ」
もう少し
坂の途中、河野さんに名前を呼ばれて彼女のことを振り向く。
そして、心臓を掴まれたような気持ちになった。
夕暮れ時の、オレンジ色の日の光を浴びた彼女は、なんだかこう、言葉にはしずら
いんだけど。
「あ、貴明もしかして、私を見てドキドキしてる? してるでしょ。いけないんだー、
浮気しちゃって」
「う、浮気ってなんだよ」
いや、たしかにこんな女の子と二人でいるところを見られたら、浮気じゃなくったっ
て血を見るハメになりそうではあるけど。
「でも、私相手なら仕方がないっか。ねえねぇ、姉さんと私、どっちが美人だと思う?」
「姉さん?」
俺が聞いても、はるみは答えてくれない。楽しそうな笑顔を、俺に向けてくれるだ
けだ。
いつの間にかそばに寄ってきて、そっと、俺の胸に体を寄せてくる。
「私ね、こうやって貴明と一緒にいられるの、凄く楽しみにしていたんだよ。前みた
いに、あんな小さい体じゃなくて。一人の女の子みたいに、貴明に抱きしめてもらえ
ることが」
はるみの肩に、俺が手を触れると。はるみは嬉しそうに体を預けてくれた。
「貴明」
はるみの、そのきらきらと色の変わるビーズのような瞳に、どんどん体が吸い寄せ
られていく。
心のどこかで、何かが必死になって警報を鳴らしているんだけど、体の方が場の雰
囲気に完全にコントロールされてしまっている。
もう、ちょっと。
もう少しで、はるみのルージュでも引いたみたいなその唇と触れ合うことが
ピーッ ピーッ ピーッ
突然なり始める電子音。
「わっ、わわっ」
もうちょっとで一線を越えそうになっていた俺の体が、それのお陰で我に返ってく
れた。
聞こえてくるのは河野さんのカバンの中。携帯電話が、勢いよくメール着信音を鳴
らしている。
「姉さん・・・・・・せっかく良いところだったのに邪魔して」
そのディスプレイを眺めて、河野さんは腹立たしそうに顔をゆがめる。
本当に、危ないところだった。
「えっと、その、河野さん」
「違う、はるみ!」
「あ、ゴメン、はるみ。えっと、その」
この場合、俺はなんと言えば良いんだろう? ゴメン、も変だし、惜しかったね、と
言うのはもっと変だ。
そして中一の頃,MMRに影響された花梨は
「べんとらの動きを制したものが全てを制する」という世にも奇天烈な信念の元,
毎日休み時間には体育館でそういった儀式の動きをまねた特訓をしていた。
ほかの生徒はもちろん花梨を怪訝な目で見るが,完全に自己陶酔していた花梨は,心の中で
「フン…ただの人間風情が…」と彼らを見下していた。
ある日,数少ない友人の一人が何に憧れたのか,花梨に弟子入りを志願してきた。
突然師匠となった花梨はテンション上がりまくりで,今まで特訓してきた奇行の全てを彼に伝授した。
「体を細くくねらせろ!グレイのように!」とか
「首を引っ込め体を守れ!ネッシーのように」とか
ここまで書いてもう限界 あとのことは思い出したくもない
「まあ、いっか。私もこんなその場の雰囲気でっていうのは嬉しくないし。やっぱり
こういうのは、もっと大切にしなきゃね、貴明」
どう答えるべきか。とりあえず、曖昧にうなずくくらいしか俺にはできなかった。
「いけない、時間になっちゃう」
腕時計を見た河野さんが、突然そう叫ぶ。
「残念だけど、貴明、今日はここでお別れしなきゃ。それじゃあね、バイバイ、貴明。
またあしたー」
「あ、うん。また明日、こう──じゃなかった。はるみ」
俺が最後に彼女の名前を呼ぶと、河野さんは顔一杯の笑顔を浮かべて、こちらに
手を振ってくれた。
ちょうど来ていたバスに乗り込むと、そのまま乗っていってしまう。角を曲がって、
俺の姿が見えなくなるまでずっと、俺のほうを向いて手を振ってくれていたんだけれ
ど。
一人残されて、俺は今のがなんだったのか、大いに頭を抱えることになる。
「河野さん、やっぱりどこかで会ってるのかなぁ」
もうちょっとでキスまでするところだったくらいだ。
頭をひねりながら、今、河野さんがバスに乗った、停留所の前まで来る。
「ああ!」
思い出した。通りで会ったような気がするわけだ。
春、ここの停留所で別れたあいつ。
ロボットの癖に妙に愛嬌のあるやつで、乱暴者の割に憎めない。いっつも、俺の頭
の上から離れようとしなかったあいつ。
「河野さん、雰囲気がクマ吉にそっくりだったんだ」
喉に刺さった骨が取れたような気分だ。
俺専用のメイドロボになるんだって言って、胸を3センチ大きくしようとして暴れ
たっていうあいつ。
そういえば、クマ吉のやつ今どこで何やってんだろうな。
ああ、そうだ。明日、河野さんに会ったらクマ吉のことを話してやろう。はるみそっ
くりのロボットに、前会ったことがあるって。
ロボットと一緒にされて、河野さんは怒るだろうか。
いや、なんとなくだけど。河野さん、凄く喜ぶんじゃないだろうか。
そんな気がする。
終
支援くださった方、どうもありがとうございました。
ADの発表を受けて、勢いだけで書きました。
わかったのは、とことん自分はメイドロボ好きだということで。
早く続報でないかなぁ。
花梨のSS書いてくれる職人さんほかにいないかなあ
>>353 乙であります。
さすが、このままナンバーワンエロインの座を持っていきそうな
勢いが感じられますなw
自分は今オリジナルの創作ばかりで全然SSに手が回せなくて、
やっぱりSSもいいなあ。そのうち俺も誰かメインに据えて書きたい。
>>353 深夜に長編投下、乙&GJです!じっくり読ませてもらいました。
早速はるみ来ましたかwww 少ない情報をうまく使いこなしてると思いますよ。
ちゃんと「うーん、どっしよっかなぁ。許してあげないでおこうかなぁ」が出てきてニヤリ。
本編でもお股覗きネタで来るかもしれませんねw 続報にwktkしましょう!
このSSスレならではのはるみ続編にも期待します。頑張って下さい!
(細かいですが24/32で“高坂さん”となってるのが残念でした)
あと、ID:v69LiHCF0は氏ね。
>353
速攻の二次創作乙です。まだイメージが無い状態なので書いたもん勝ちですね
ちょっと貴明の順応が早すぎな気はしますが、
30レスちょいで出会いからここまで持っていくとはNewクマ吉は伊達じゃないw
>>353 はるみさんへのワクワク度数が上がりましたよ。
いいねえ。
( ^^)<花梨SSの感想も頼む
>>361 嫌がらせ乙、大変素晴らしい作品でワタクシ涙が出そうでしたわ。
>>353 はるみGJ
この長さでしっかりまとまってるのも良かった
はるみのオフィシャルでのキャラ確立してないからこそ書ける作品か。書いたもん勝ちとはいえ、質・量ともにナイス
次回作も期待
>>361 マナーも守れん奴にくれてやる感想なぞない
はるみの人GJ
>>361 Fuck you ぶち殺すぞ黄ヲタ
361はNGID指定したので何をかいてるのかわからんが、連投回避に協力乙、でいいのかな?
どうみれば連投回避に見えるんだ
>>367 同じスレに連投してると投稿できなくなるので、合いの手をいれて連投できるようにサポートすることじゃないのか?
で、どこが連投回避なのさ
まさか釣r
>>369 作品の感想を求めてるらしき奴に、
作品? 最初の投稿見て荒らしと判断したのでとっととNGIDにいれたよ
だから、何書いてるのか全然わからないけど、362-363を見ると作品の感想を求めてるみたいだが
あんなのは作品でもなんでもねえ
353の作品のの連投規制の回避協力くらいにはなったかもな(実際はその役にも立ってないけど)
というのは皮肉だと思うんだが。
あまりに的外れで皮肉としてすら機能していない件
あの発言を皮肉だと捉えられるのは世界広しといえどお前ぐらいだよ…
ていうかコピペだしな。
連投回避発言の人、粘るなあ
そんなに悔しかったのかな
まぁまぁどうでもいいじゃん。はるみは長さを感じなくて面白かったです!あと感想の対比がおもしれえなw
377 :
名無しさんだよもん:2006/10/21(土) 22:27:53 ID:to5ysMiB0
最近めっきり黒SSがなくなったよね
あのこのみに会いたい
と思うのは俺だけですかそうですか
黒このみ、黒愛佳の次は黒ささらだな。
>>353 GJ! タイトルを見ずに一話を読んで珊瑚ちゃん妊娠!?とか思ったり(汗
目の前に封筒一枚。
「んー……」
唸っているのは玲於奈。
「どうしましょう……」
眺めているのは雄二から渡されたチケット。
「困りましたわね……」
座っているのは彼女の自室。
ガラステーブルの前に座布団引いて、両手を太股に挟んで女の子座り。
可愛らしく小首を傾げ、
「会場の場所がわかりませんわ」
悩んでいるのは、そんな事だったりする。
「まったく、この略図が簡単すぎるのです!」
八つ当たり。
「これでは、何線に乗ったらいいかわからないではありませんか!」
それはたぶん地図の問題ではない。
そして間違いなく、イベント前夜になって悩むべき事でもない。
「玲於奈ー! 電話よ!」
そこに声が掛かった。
「今忙しいのです! 後にしてくださいな!」
「何言ってるの、向坂のお嬢様からなの、早く出……」
「それを先に言って!」
階段を駆け下りて受話器に飛びつく。
「あ、あのっ、玲於奈ですっ」
「環ですけど、玲於奈? ごめんなさいね夜分に」
「いえっ、お姉様からのお電話なら例え火の中水の中」
「それじゃ電話機が壊れるわよ」
「はいっ、ごもっともですっ。それで、ご用命の程は」
おかしいのが日本語なのか思考回路なのかは、判断に苦しむところ。
「それがね、ごめんなさい、実は用があるのは私じゃないの」
「えっ?」
「ほら、雄二」
玲於奈の疑問符を受話器の向こうに聞いて、環は耳を離した。
「あ、ああ」
壁によりかかっている雄二に手渡す。
「あー、えーっと、悪い。俺だ」
「雄二さん? なんです一体?」
口調は、特に冷たくはない。
「この間の件なんだが」
「この間?」
「いや、あー、なんだ?」
「聞いているのは私ですが」
3℃低下。
そんな事は雄二もわかっているのだが。
「〜♪」
和室の入口では環があからさまに聞き耳を立てているわけで。
「鳩通線の、M駅だ」
「はい?」
「たぶん、判らないだろうと思ってな」
「なにをです?」
「いや、だから行き方」
「どこのです?」
「会場」
「なんのですか?」
「だからこの間の件」
「人を馬鹿にしているのですかっ!」
温度急上昇。ってか一気に沸点。
「だああっ! 面倒くせえっ!」
両者共に。
「明日のコンサートっ。連れてってやるから3時に駅に来いっ!」
「意外と女性が多いのですね」
会場前、玲於奈が周囲を見渡して呟いた。
水色のワンピースの上から薄手の長袖カーディガンを羽織った立ち姿は、普段よりもすらっとして見える。
「緒方理奈は、デビュー当初は女性ファンの方が多かったんだぜ」
得意げに雄二。蘊蓄には事欠かない。
「へえ?」
「若いのに歌も態度も完璧すぎて、男には取っつきにくかったらしい」
「そういうものですか。アイドルコンサートというから、もっと違う客層を想像していました」
「どんなのだよ」
「それはもう眼鏡を掛けた、小太りかガリ痩せして、服を外に干さない臭そうな男子で溢れているものと」
「まあ、そういうのも少なくは……」
「おおっ雄二ぃ!」
斜め後方から声。
「……あんなのか?」
「あんなのです。知り合い?」
「残念ながらそうだ。悪いが、ちょっと待っててくれ」
「いやー助かるよ雄二! S席なんて取れた事ないから楽しみだなっ!」
「……じゃあな」
雄二は、浮かれるデ○ヲタに手を振って別れた。
「何をしていたのです?」
少し離れて待たされていた玲於奈が怪訝そうに聞いてくる。
「チケットを交換してた」
「チケット? 雄二さんは前の席を取ったのではありませんの?」
ファンクラブ会員枠で優先入手できるチケットは安い席−例えば今回は立ち席−が多い。
玲於奈が貰ったのは雄二の会員枠分で、雄二自身は別にチケットを入手したと聞いていたのだが……
「俺も立ち席に変えたんだよ。今の奴と交換」
「どうしてです?」
「どうしてって……」
昨夜の電話の後の環の詮索の結果、別席がバレて男の心構えを説教された結果、とは言いたくない。
「人混みに放り出したら、また迷子だろうお前は」
「っ〜」
例によって顔が、お湯につけたアルコール温度計よろしく赤く染まる。
早足に入口に向かって歩き出す。
「だから意地張るなっての」
「こんな建物の中で迷子になる訳がないでしょう!」
付いて来るなと半ば駆け足。
「(まあな。並んで入場だし、交通整理も出てるし、本当に迷子になることはねえか)」
雄二はそう思って、無理には追わなかった。
甘かった。
「ちょっと、ご不浄に行こうとしただけで……」
雄二が、別フロアーに迷い込んでオロオロしていた玲於奈を保護したのは入場15分前。
「トイレはあっちだ。行くなら今のうちに行ってこい」
「はい……べ、別に並んでいるのが判らなかったわけではないのですからねっ!」
「わかったから。ついでに顔も直してこいよ」
「余計なお世話です!」
列を離れた玲於奈が、涙で崩れていた薄化粧を直して戻ってきたのは入場5分前。
それから間もなく、
「開場しまーす。押さないでくださーい!」
入場開始。
比較的整然と、しかし結構な早さで列が会場に飲み込まれていく。
「とっ、と、と」
「おっと」
のめった玲於奈を雄二が支える。
「どうも」
「もうすぐドアだぞ、気を付けろよ」
「なにをです?」
「中に入ると……」
雄二の言葉が終わらないうちに、列が加速した。
分厚い両開きの扉をふたつ、くぐって二人は客席へ。
援護しまつ
入った瞬間、人の列が弾ける。
観客それぞれが、良い場所を目指して動き出す。
といって走ったり押したりはないのだが、慣れない玲於奈にとっては。
「えっ? ちょっと、どちらに?」
「たぶんこっちが空いてる。ついて来い」
「は、はいっ、っ、きゃっ?」
迷って立ち止まってしまった玲於奈に、後ろからの集団が追いついた。
二人の間に、人の壁ができる。
「玲於奈?」
雄二が後方を探す間もなく、
「ゆ、雄二さんっ!?」
狼狽した声がホールに響いた。
「どこですかっ!? 雄二さんっ!」
「今行くから動くなっ!」
騒いだおかげですぐに再合流できたのだが、かなり注目の的。
「ったく。こんなところで大声出すなっての」
「すみません……」
しおらしくも安心したような表情の玲於奈。雄二も悪い気はしない。
「すみませーん。通りたいんですけど」
「あっ、ごめん」
でも、立ち止まっていると社会の迷惑。
動き出したのも束の間。
「ひゃっ」
また人混みに引っ掛かってはぐれそうになる。
慌てて手を伸ばし、玲於奈の腕をつかむ雄二。
「ほれっ」
自分の方に引き寄せる。
ずるっ。
「きゃっ?」
「へ?」
カーディガンの袖が伸びた。
「あ、わ、悪い」
雄二は反射的に手を放す。
「ま、待ってください」
また離れそうになって、今度は玲於奈の方が雄二の腕を掴む。
爪が突き立った。
「痛てえっ!」
「ご、ごめんなさいっ」
ぱっと手を開く玲於奈。
足を止めずに、二人の腕が交差する。
雄二の左手と、玲於奈の右手が、相手の手首にぶつかって、互いの指先を掠めて。
やがて、しっかり繋がった。
どくん。
手のひらに伝わる温もりに、心臓が一度跳ねる。
雄二はそのまま、振り向かずに歩いた。玲於奈も、俯いて付いていった。
「この辺りは、空いてますのね」
「ちょっと見づらいし、壁に音が反射するしな」
雄二が連れてきたのは、客席後方の一番端。
背中に壁、すぐ頭上にスポットライトの足場があって、やや囲まれた感じになる。
「良くない場所なんですか?」
「大差はねえよ。人混みより落ち着いて聞けるだろ」
「そうですね」
ようやく落ち着いて、玲於奈は乱れた服を直す。
さっき袖を引っ張られたせいで、カーディガンが右肩から脱げていた。
ワンピースの半袖から白い二の腕が覗いて、暗いホール内で一瞬映える。
「なにか? まだどこか変ですか?」
「いや、別に」
視線を玲於奈から外して、ステージの方に向ける。
ブザーが鳴った。客席のライトが、消えていく。
「始まるぜ」
スポットライトの光群が、ステージに突き刺さった。
「すご……」
1曲目から、玲於奈は圧倒されていた。
「な、言っただろ」
好反応に、にやりと笑う雄二。
ここそとばかりに説教してやろうと目論んでいたのだが、
「……」
あまりに熱心に聴き入る姿に、自分もステージに集中することにする。
「久しぶりだな。こんな後ろで聴くのは」
初めて彼女のコンサートに行った時の衝撃を思い起こす。
ワッ……。
曲が終わっても、隣の玲於奈は拍手もしない。
心を奪われたまま、次の曲を待っている。
今頃になって、新規ファン約1名誕生。
幸せな時間が、過ごせそうだった。
楽しい時間は、あっというまに過ぎた。
「感想は?」
訊くまでもない事を聞いてみる雄二。
「……」
言葉が出ない玲於奈。
切ない曲が多かった第2ステージ以降、ほぼ泣きっぱなしだったので顔はぼろぼろ。
「ハンカチ、いるか?」
「大丈夫、です」
いつぞやの映画館と同じような会話を交わしながら、玲於奈が落ち着くのを待って出口へ向かう。
建物の外は、かなりの混雑。
「ちょっと、出る時間を間違えたかもな。はぐれんなよ」
「失礼な。1日にそう二度も三度も……きゃあっ!?」
「おい! あっちから車出るらしいぜ!」
「うそうそっ! 本物っ?」
「ちょっと突っ立ってないでよ。邪魔よっ!」
「あっ、ちょっ、貴方達っ、あら? ゆ、雄二さんっ〜?」
二度あることは、三度あった。
「……一生の不覚ですわね」
人混みから脱出して彷徨った挙げ句、裏手の駐車場で呟く少女。
「此処、どこなんでしょう?」
この調子で生きてきたのなら、玲於奈の一生は何度でもあるのだろう。
とりあえず歩き出した、途端。
横から車。
「きゃ!」
反射的に後ろに飛び退いて、そのまま尻餅。
急停止した車両から、運転手が降りてくる。
「大丈夫かっ!」
「あ、はい」
「すまなかった。でも君も危ないぞ」
玲於奈が立ち上がるのに手を貸しながら、青年が注意する。
「少し、ぼうっとしていまして」
「怪我は、なかった?」
別な声が掛かる。
帽子を深く被って眼鏡を掛けた小柄な人物。
男の子にも見えるが、声は女性のものだ。
「はい。大丈夫です」
「そう、良かった。冬弥君も気を付けてよね」
「判ってる」
「あ、あのっ」
車に戻りかけた相手を、玲於奈が呼び止めた。
「なあに?」
「失礼ですが、ひょっとして、緒方理奈さん?」
玲於奈の言葉に、二人は周囲を見回してから、
「あははっ、バレた?」
小柄な方、緒方理奈が口元を緩めて頷いた。
「そう言ってくれるって事は、貴方は今日のお客様、かしら?」
「はいっ、初めて拝聴させていただきました。素晴らしかったです」
「ありがとう」
コンサート中とはまた違う、柔らかい声。
その時、駐車場に雄二の声が響いた。
「おーい、玲於奈ー、いたらでてこーい、帰るぞー」
脱走した家猫でも探しているような台詞。
「雄二さん?」
玲於奈が軽く手を挙げると、気づいた雄二が駆け寄ってくる。
「な、なにかやったのか?」
「失礼な。ちょっとぶつかりそうになっただけですわ」
「そうか、って、えっ? 緒方理奈、さん?」
声も聞かずに見抜いたのは、ファン歴の長さの賜物か。
理奈は溜息ひとつ付くと、再度周囲を確認して、眼鏡と帽子を外して見せた。
「……この変装って、イケてないのかしら」
「俺はわからなかったけどね」
「冬弥君じゃ参考にならないもの」
ファンの前で芸能人らしからぬ率直な会話をする二人。
そのファン2名の方は、彼女のオーラに圧倒されて言葉が見つからない。
「じゃあ、これで」
「彼女を泣かせちゃ駄目よ。カッコいい彼氏さん」
改めてお辞儀をひとつ、車のエンジンが始動する。
彼女じゃない、とか、泣いたのは歌のせい、とか言う暇はなく、今日の主役は走り去った。
「はぁ……綺麗な方……」
「こんな至近距離で見たのなんて初めてだぜ」
うっとりと呟く玲於奈。雄二も興奮さめやらぬ様子。
とはいえ、暗い駐車場で突っ立っていても仕方ない。
「いかん、もう帰らないと」
「そうですわね。どっちが表ですの?」
「やっぱり迷ってたか。あっちだ。電車の時間やばいからタクシー拾うぞ」
「はい」
駅に向かうタクシーの中で、玲於奈がふと呟いた。
「あら? 来る時もタクシーを使えば、雄二さんに案内していただかなくても良かったのかしら?」
今更だった。
以上です。
この辺のために最近ホワルバやってまして、可愛いかったので理奈出しました
原作後に冬弥が理奈の運転手やるような展開は無いでしょうが、鳩2SSなのでご容赦を
本当は、はるかも出したかったんだけどな(笑)
>385
支援ありがとです。
392 :
385:2006/10/22(日) 21:14:06 ID:swD6iPss0
毎度毎度乙ですー。
台詞が多いので相変わらず読みやすいですね。
>緒方理奈
ゲーム本編でも名前だけは出てきましたけど
こうやってTH2キャラと絡ませるとまた新鮮ですね。
次も今から楽しみにしてます♪
>>391 う〜む、何故にADに玲於奈シナリオがないのかLEAFに小一時間問い詰めたくなる出来だな。
つーか、萌えた。なんか一気に好きになったよ。
GJ!です。
河野家といい、このスレは三人娘の救済に貢献してるな。
ADでハブられただけに貴重だ。
あ、今日月曜日か
瑠璃ちゃんに全てを見られてしまった俺。挙げ句”小さい”などと言われては、もう心はズタズタ
のボロ切れ。ええどうぞ、体拭きでも何でもしてくださいな。
そんな俺を気遣ってか、お昼のお粥は瑠璃ちゃんが食べさせてくれた。普段の瑠璃ちゃんとは別人
のように、お粥をふーふーして食べさせてくれる瑠璃ちゃん。こりゃ風邪も悪くないだなんて思って
いたら、いつの間にか帰ってきた珊瑚ちゃんに冷やかされるし、おまけにこのみからは、俺以外は
これからみんなで焼き肉を食べるのだと教えられる。焼肉なら俺だって食べたいのに、消化によく
ないものは食べちゃダメだってさ。仕方がないので諦める俺。そんな俺に瑠璃ちゃんは、晩のお粥
には卵を溶いて入れてあげると言ってくれた。瑠璃ちゃんありがとう! 楽しみだなぁ。
お粥を食べた後、ウトウトしていたところにやってきたのはよっち。手にしたビニール袋に入って
いたのはネギでネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギ
「どうしたの一体!?」
「ネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギ」
「タカくんがおかしくなってる!?」
「た、環さん助けてください! 貴明センパイが壊れちゃったッス!!」
「ネギネギネギネギネギネギネギタマ姉ネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギ」
「な、なんなのコレ!? たかあき、うつろな目でネギばっか言って!?」
「たかちゃん、しっかりして〜!」
「貴明さんしっかり! ほら、私を見てください!!」
「ネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギそこはネギネギ」
「うータマ、うーは何故ネギを繰り返しているのだ?」
「え!? ど、どうしてかしら、ねぇ」
「何か知ってるんですか環さん!? 教えてください、どうしてたかあきは――」
「やめてタマ姉ネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギ」
「あ、貴明今『やめてタマ姉』って言うた」
「もしかして、環が貴明に何かしたんか!?」
「あ、アレは仕方がなかったのよ! 私も本気で信じてたから、その――」
「ネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギ」
「なんか貴明センパイ、顔、やけに赤くないッスか?」
「……熱、ぶり返したのかも」
「と、とにかくたかあきくんを落ち着かせないと! 環さん、お願いします!」
「お願いしますって言われても……」
「ネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギ入ってネギネギネギネギネギネギネギ」
「う〜ん、なら、いちかばちか。タカ坊! タカ坊!」
ゆさゆさ。
「ネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギネギ」
「タカ坊、いい、ちゃんと聞いて。――”もう、終わったわよ”」
「ネギネギネギネギネギ、ネギ、ネギ……ネギ……ネギ……ネ……ギ……。――アレ、タマ姉?」
「うん、私よ。タマお姉ちゃんよ」
「タマ姉、ネギオワッタノ?」
「ええ、もう終わったわよ、タカ坊」
「ホントニ? ホントニオワッタノ?」
「ええ、本当よ」
「モウ、シナイ? アンナコトシナイ?」
「うん、しない。だから安心してお休みなさい」
「ウン、ワカッタ。オヤスミ、タマ姉」
ばたん。
「ふぅ……。お休み、タカ坊」
……ん。
あー、俺また寝てたのか。……あっちー、身体がまた汗まみれだ。
あれ、俺の横にいるのは……、優季だ。
「あ、目が覚めましたか貴明さん」
「うん。――優季は、いつからそこに?」
「え?」
何故か優季はすぐには答えず、
「えっと、ついさっきですよ。ホントについさっきです」
「ふぅん」
「あ、あの貴明さん、大丈夫ですか?」
「大丈夫って、熱のこと? うーん、まだ熱っぽいかな」
「いえ、そうじゃなくて、さっきの……」
「さっき? 何のこと?」
「え、覚えていないんですか?」
覚えていない? 俺に何かあったのか?
そう言えば俺、いつ寝てしまったんだろう? 確か、瑠璃ちゃんにお粥を食べさせてもらって、
その後ウトウトして……、アレ? 確かよっちが部屋に……
「そう言えば、よっちが部屋に来て、何かを俺に……、アレは確か、ネ」
「よ、よっちさんは来てませんよ!! ずっと居間で遊んでました!!」
「うわっ!?」
いきなり大声をあげる優季。
「そ、そうなんだ。じゃあ夢でも見たかな……?」
「そ、そうですね。夢ですよきっと」
ニッコリ微笑む優季だが、なーんか、隠し事してる感じだな。
けど、何故かは解らないけど、あまりそれには触れない方がいいような気がしたので、これ以上は
追求しないことにした。
「じゃあ、ちょっと失礼しますね」
優季は俺のおでこに手のひらを当て、
「熱は……少し下がったみたいですね。よかった。
じゃあ、かなり汗をかいたようですし、体を拭いて着替えましょうか」
何か、イヤな予感……
「あ、あのさ優季。まさかとは思うけど、体を拭くのは――」
すると優季はニッコリ笑って、
「私がしますよ」
ぐあ、やっぱそう来たか。けどさっきの悲劇もあるし、なぁ……
「優季、俺だいぶ体の具合もよくなった感じだし、そのくらいは自分で――」
「瑠璃ちゃんにはさせたのに、私にはさせられないんですか?」
ひ、ひぇぇ、なんか怖いよ優季。
なので、またもなすがままとなる俺だった。さすがにパンツだけは死守したけどね。
体拭きと着替えが終わって、またベッドに横になる俺。
「そうだ貴明さん、リンゴ、食べませんか?」
「リンゴ?」
唐突な優季の質問だが、時計を見ると三時を少し回ったところ。おやつには丁度いい時間だ。
リンゴも食えないほど弱っちゃいないし、むしろ汗をかきっぱなしで喉が乾いたところ。リンゴは
大歓迎だ。
「うん、食べたい。あと水も飲みたいな」
支援
「じゃあ、ちょっと待っててくださいね」
そう言って部屋を出た優季だが、大して時間をおかずに戻ってきて、
「お待たせしました」
優季が持ってきたお盆の上には、水の入ったコップと、透明なお椀に入った……もしかして、
「すりおろしたリンゴ?」
「正解です。風邪を引いたらコレですよね」
リンゴって言うからてっきり切ったリンゴだと思ってたのに、わざわざすりおろしてくれたのか。
「ゴメンな優季。なんか手間かけさせて」
「全然手間なんかじゃないですよ」
優季はまた俺の横に腰掛け、
「先にお水を飲みますか?」
「あ、えっと……」
水もいいけど、せっかくなので、
「じゃ、じゃあ、先にリンゴを食べようかな」
「はい」
笑顔で答える優季。お椀を手に取り、スプーンで一さじ掬うと、
「はい、あーん」
「ちょっと待ったぁ!!」
バーン!
「な、何だ!?」
いきなり部屋に入ってきたのは、花梨、珊瑚ちゃん、それにちゃる。
三人はずかずかと俺に近づき、
「風邪を引いたらコレだよね、たかちゃん!」
花梨がずいっと突き出したのは、一缶の缶詰。
「えっと、コレは?」
「モモ缶だよ! 風邪を引いたらモモの缶詰。これは世界の常識だよ!」
「……違う。風邪を引いたらミカンの缶詰」
ちゃるも負けじと、ミカンの缶詰を突き出す。
「ちゃうよ。風邪引いたらコレ〜」
ぽーん。どすん。
「ぐえっ!?」
さ、珊瑚ちゃん、いきなり俺の上にダイブしてきた……
「ちょ、ちょっと何してるんですか珊瑚ちゃん!?」
「パイナポ〜☆」
布団越しに俺に抱きついた珊瑚ちゃんから意味不明の言葉。パイナポ〜?
と、珊瑚ちゃんが俺の目の前に缶詰を。……成る程、パイナップルね。
「パイナポーじゃありません! 早く降りなさい!」
「はーい」
本気で怒っている優季を見て、さすがの珊瑚ちゃんも素直にベッドから降りる。
「で、たかちゃん、やっぱモモ缶だよね?」
「……ミカン」
「パイナポ〜」
「あ、あのさ、フルーツの缶詰はどれも好きだけど、とりあえず今は優季のリンゴがあるから――」
「そうなんだ……」
「……」
「つまらんなー」
途端、ショボーンとしょぼくれる三人。
「え、えっと……」
「たかちゃん、私たちの缶詰より、優希ちゃんのリンゴの方がいいんだって」
「……残念」
「しゃあないなー。ほな、いらない子なウチらは退場やね」
がっくり肩を落とし、トボトボと部屋を後にした三人。
……なんだかなぁ。これじゃ俺が悪いことをしたみたいだよ。
優季のすり下ろしリンゴはとても美味しかった。
「ごちそうさま」
全部平らげ、満足な俺。
「お粗末様でした」
微笑む優季。
「じゃあ私、これ片づけてきますね」
お椀とコップをお盆に乗せ、優季は部屋から出ていった。
しーんと静まりかえった室内。耳を澄ますと、下の方から女の子たちの声が聞こえてくる。
楽しそうだなぁ。何を話しているんだろ? あ、誰かの笑い声。何か面白いことでもあったのか?
って、何か盗み聞きしてるみたいでいやらしいな俺。いいや、また寝よ。
……ダメだ、眠れん。今まで何度も寝ていたせいか、どれだけ待っても眠気はやって来ず、ただ
退屈な時間だけが流れるのみ。下からは相変わらず女の子たちの話し声。うう、眠りたいよぉ。
こんこん。
「たかちゃん、起きてる?」
花梨の声だ。
「ああ、起きてる」
「じゃ、おじゃましまーす」
ドアを開け、部屋に入ってくる花梨。
退屈だわ眠れないわで困っていたところに来てくれたのはかなり嬉しいかも。ってアレ? 手に
何か持って……あ、さっきの缶詰だ。
「いやー、優希ちゃんの目を盗むのは一苦労だったよ。けど、ミステリの探求者たる笹森花梨だもの、
隠密行動だってこなせるようにならないと、ね」
成る程、優季に隠れてこっそりモモ缶を持ってきた、と。つまり、
「やっぱ、食べろと?」
「うん! あ、でも全部は無理だよね。半分は私が食べてあげるから」
いや、半分もキツイなぁ。せめて四分の一くらいで勘弁してくれないかなぁ。
などと考えている間に、花梨は手際よく缶を開け、透明なお椀にモモを移す。
「どうせ食べるなら、見栄えがいい方がいいよね」
フォークでモモの盛りつけを調整する花梨。
「どう、たかちゃん?」
盛りつけ終わったモモを見せてくれる。半身のモモにもう半分を少し重ねただけの盛りつけ。正直
言って、これを見たから食欲が増すというものじゃないけれど、花梨が盛りつけに気を配ったりして
いるのは、この家で家事をするようになったお陰なんじゃないかと思うと、それを否定するような
ことなど到底言えず――
「うん、美味しそう」
などと言ってしまう。すると花梨は嬉しそうに顔をほころばせ、
「だよね! じゃ、ちょっと待っててね」
と、フォークでモモをせっせと切り分ける。そしてその一切れをフォークに刺して、
「はい、あーん」
……今、気づいた。瑠璃ちゃん、優季、花梨と立て続けに「あーん」してもらってる俺、かなりの
幸せ者じゃないか。こりゃ学校で『ハーレム河野』呼ばわりされても仕方がないな。
「どうしたのたかちゃん? ほら口開けて、あーん」
「あ、うん。あーん」
モモを口に入れてもらう。――うーん、甘くて美味しいなぁ。リンゴを食べていなければ、きっと
もっと美味しく感じただろうに。
「たかちゃん、美味しい?」
とは言え、そのままの感想など言えるはずもなく、
「うん、美味しいよ」
とだけ答えてしまう俺。その答えに花梨は満足そうに肯き、
「そっかそっか。なら私も食べてみよっと」
と言って、モモの一切れを口に運ぶ。
「――うーん、やっぱ美味しいよねー。風邪を引いたらモモ缶に――って、あ!」
いきなり声を上げる花梨。
「ど、ど、どうしよう〜」
な、なんだ? 花梨が真っ赤な顔で狼狽えてるぞ?
「ど、どうしたの花梨?」
そう尋ねると、花梨は何故かフォークを見つめ、
「私とたかちゃん、今、間接キス、しちゃった……」
「……え?」
い、言われてみれば確かにそうかも。俺と花梨、同じフォークで食べたわけで……
「ど、どうしよう〜。私のファースト間接キス、たかちゃんに奪われちゃったよ〜!
ファースト間接キスはお嫁に行くまで大事に取っておこうって心に決めていたのに〜!
もうこうなったら、たかちゃんには責任をとってもらうしかないね! 早速明日にでも結婚――」
「食べさせたのは花梨でしょうが!」
つづく。
どうもです。第78話です。
>>401さん、支援ありがとうございました。m( __ __ )m
新作情報を直に見たくて、テックジャイアンを買いました。
アナザーデイズ、今からすっげえ楽しみです!
けど菜々子ちゃんがヒロインって、いいのかなぁ……(^^;
ネギキタ━━(゚∀゚)━━ !!!!!
>407
菜々子ちゃんがヒロインでも、いいんだよ。(夜回り先生風に…言ったら殴られるな確実に)
ネギ連呼の掴みに脊髄反射で笑ってしまった。カタカナ言葉でもタマ姉は漢字なのかw
他にも草壁さんのよっちの呼び方は「よっちさん」なのか、だの、
子供の頃親に食べさせて貰ったすりリンゴは美味しかったな、だの、
モモ缶は定番としても病人にパイナップルは刺激が強いんじゃなかろうか、だの、
刺激強いならいっそタマ姉かよっちか草壁さんのパイ(ry
それにしても花梨のSS少ないねえ。
SS作家さんたちも花梨アンチに報復されるのが恐いのかな。
でもささらアンチやいいんちょアンチのほうがタチは悪いよ。
これもひとえに花梨の魅力のおかげなんよ。
>>407 ネギ乙!!
で、その心の傷を癒すのが草壁さんの愛情だったりして。
いいですなあ……
菜々子ちゃんエロはいいのか?
イインダヨ!!
大人になった菜々子とセックスという展開かねぇ
成長した菜々子がエロキャラだったらどうしよう
>>410 というか口調とか考え方が独創的すぎて書きづらいってのがあるな。
キャラクターとしての個性が強すぎて、こっちの創作の余地が無い。
ToHeart2では動かしづらいキャラの筆頭かもしれん。
>>415 なるほど。
決して人気がないわけじゃなくて、キャラが個性的で書きづらいからSSが少ないというわけね。
それだけキャラとしての完成度が高く、創作がしづらいということかもしれない。
あまり完成されすぎたキャラというのも考え物ということか。
基地外にレスするなよ
⊂⌒ヽ <^(゚w゚)ノハヾ^ (⌒⊃
\ \w リ(i!゚ ヮ゚ノv'`/、 /
⊂二二二 ・) ・) ニ二⊃ いやっほ〜う かもりん最高〜
\ \_ ..../ /
( φ )
ヽ_,*、_ノ
゙ミ;;;;;,_
ミ;;;;;;;;、;:..,,.,,,,,
i;i;i;i; '',',;^′..ヽ
゙ゞy、、;:..、) }
.¨.、,_,,、_,,r_,ノ′
/;:;":;.:;";i; '',',;;;_~;;;′.ヽ
゙{y、、;:...:,:.:.、;:..:,:.:. ._ 、}
".¨ー=v ''‐ .:v、,,、_,r_,ノ′
/;i;i; '',',;;;_~⌒¨;;;;;;;;ヾ.ミ゙´゙^′..ヽ
゙{y、、;:...:,:.:.、;、;:.:,:.:. ._ .、) 、}
".¨ー=v ''‐ .:v、冫_._ .、,_,,、_,,r_,ノ′
/i;i; '',',;;;_~υ⌒¨;;;;;;;;ヾ.ミ゙´゙^′.ソ.ヽ
゙{y、、;:..ゞ.:,:.:.、;:.ミ.:,:.:. ._υ゚o,,'.、)、}
……間違えた。>419の下のは図書委員長じゃなくて学級委員長だ。すまん
>419
ありがとう。自分は図書委員長がなかなか好きで、まぁ単に脇キャラカプが好きなだけだが。
422 :
名無しさんだよもん:2006/10/26(木) 12:35:08 ID:XxDDrU4f0
ToHeartのファーストシーズンネタで悪いけど
FSのENDはもちろんタマ姉ENDだよね?
じゃなかったら自殺するオ俺?
423 :
名無しさんだよもん:2006/10/26(木) 12:58:35 ID:cTl7vpb/0
ID:wLEkFC090=白詰草自演確定キタ━━━━(。A。)━(゜∀゜)━(。A。)━(゜∀゜)━(。A。)━━━━!!!!
425 :
名無しさんだよもん:2006/10/26(木) 14:12:55 ID:cTl7vpb/0
93 名前: 名無しさんだよもん 投稿日: 2006/10/26(木) 00:21:44 ID:cTl7vpb/0
ID:wLEkFC090=白詰草 ◆Pd9gE38GCU でガチ
94 名前: 名無しさんだよもん [sage] 投稿日: 2006/10/26(木) 00:23:25 ID:wLEkFC090
>>93 彼は最近BBSPINKそのものを開いてないらしいぞ。
それなのにどうやって書き込むの?
47 名前: 名無しさんだよもん [sage] 投稿日: 2006/10/26(木) 12:06:15 ID:wLEkFC090
最近このスレに白詰草さん来てくれてるみたいだね。
以前あの人がいたころは今より活気のあるスレだった。
俺も、是非本格復帰してほしいという意見には賛成かな。
白詰草の自演人生
オワタ\(^o^)/
正直俺も荒らしは白自身だと思ってるが
>>425のどこが証拠になるのか分からん
>>426 >彼は最近BBSPINKそのものを開いてないらしいぞ。
>最近このスレに白詰草さん来てくれてるみたいだね。
彼の言動が矛盾してるのはわかるがそれが自演の証拠になるとはいえないんじゃない?
まぁ確かにそうなんだけど、
わざわざ2chでコテを持ち上げる時点で結構グレーゾーンだとは思う。
荒らしの免罪符っつーか、責任転嫁の道具にしてるようにしか見えん
ID:cTl7vpb/0は葉鍵板荒らしまわってる基地外だからスルーが吉。
つい最近も笹森会長関連の重複スレ乱立させて悦に入ってた御仁。
そんなくだらない事でムダにスレ消費するなよ
ウザいなら見なければいいだけだろ?
…うむ。たしかにスルーが一番。
ただ、彼のような荒らしに騙される無垢な子がいるかもしれないから
念のため忠告を入れに参った次第。
>431 名前:名無しさんだよもん [sage] 投稿日:2006/10/26(木) 16:42:05 ID:wLEkFC090
>ID:cTl7vpb/0は葉鍵板荒らしまわってる基地外だからスルーが吉。
>つい最近も笹森会長関連の重複スレ乱立させて悦に入ってた御仁。
>
>433 名前:名無しさんだよもん [sage] 投稿日:2006/10/26(木) 16:48:29 ID:wLEkFC090
>…うむ。たしかにスルーが一番。
>ただ、彼のような荒らしに騙される無垢な子がいるかもしれないから
>念のため忠告を入れに参った次第。
自分の書き込みに自分で相槌…
もう無理しなくていいよ白…
まあ黄色信者は
>>416みたく意味不明な論理展開するから
何考えてたかなんて分からないからな
てかよく見たらここ同人作者スレじゃなかったのな。スレ違いスマン。
ミルファ、偽名で登場か
ワクテカしてきた
俺はむしろシルファと郁乃に期待してる。ミルファは二次創作でお腹いっぱい
ミルファSSは去年の1月の段階で長編が何本も貼られてたっけ
それに引き替え、郁乃、シルファ、菜々子ちゃんや三馬鹿はまだまだ開拓の余地がある
菜々子SSって、アイス屋の菜々子編ぐらいしか見た事がない。
ミルファか〜
キャラの色づけがわかりやすすぎるせいか、誰が書いても似たり寄ったりだったよなあ
HMX-17b研究所なんてHPを立ち上げた人もいたしw
新キャラも良いんだけど意外とイルファさんメインが少ないのが…
OVA効果で作られると良いけど
イルファさんは
妄想腹黒百合おねいさんキャラで確立してるし
イルファさんSS、マジで増えると良いなぁ。
最近はSS置き場で良質なSSを補給できたからまだいいけど。
その節はお世話になりました。
妄想にふけるのにも限界があるっちゅーねん。
このスレに投下された郁乃SSで面白いのってあった?
そんなに数ないんだから全部読め
と言いたい所だが「ただ心だけが」を薦めておく
個人的には「修学旅行の夜」が好き。漏れの脳内では既に、このみ×いくのん、がデフォ
「ただ心だけが」って雄二×郁乃のだっけ?
アレは良かった
私も海に連れてってもおすすめ
最近更新しないね
イルファさんのSSは良質なのが多いけど
エロ、妄想、策謀部分が誇張され過ぎててイルファさんのもうひとつの魅力である清楚さが欠けてると思う事があるなあ
あとイルファさんの一番はあくまで瑠璃なのに貴明ラブで瑠璃はオマケでみたいになってるのもあるし
ま、百合SSになっちゃうから仕方ないけど
二対の真剣さを物語る瞳の衝突が、今の張り詰めた空気を作り出す。
各々方が待つは、勝利か敗北か……それは、運命だけが知っている。
「このみ、いざ尋常に勝負」
「うん……手加減はしないよ、よっち」
一騎打ち……それが、この状況を語る唯一の表現。
親友と言えど、絶対に譲れない物の為に鬼になる……それが勝負の鉄則である。
今、チエちゃんの手が伸ばされ、運命が切り開かれようとしている。
そして、伸ばされた手が掴むは……
「よし、あたしの勝ちっしょ」
「あ〜! またビリ〜……」
このみの不動の連敗神話は続く事となった。
第十二回ババ抜き戦績発表。
ちゃる 一位 12 二位 0 三位 0 四位 0
このみ 一位 0 二位 0 三位 0 四位 12
よっち 一位 0 二位 0 三位 12 四位 0
貴明 一位 0 二位 12 三位 0 四位 0
見た感じ、誰がどう見てもイカサマとしか思えない結果だが、内容を聞けばそうじゃない。
何せ、普段から寡黙なポーカーフェイス、そして駆け引きに関しては素人とは思えないミチルちゃん。
片や、普段から友好的で感情表現が得意なチエちゃんとこのみ。
俺もそこそこ駆け引きは得意だから、この結果はなるべくしてなった物だ。
蛇足だが、チエちゃんとこのみの差は、単純さでこのみが勝っていたのである。
「ん〜……」
「う〜……」
「む〜……」
満足そうな声と、不満そうな二つの声。
戦績見ればわかると思うけど、声を上げた順番は上から俺を抜かした順位順。
先に言っておくが、この声は戦績による物ではなく……
「ん〜……」
「ミチルちゃん、そろそろ5分」
「はい、ではまた3回後に5分お願いします」
「勝手に順位を決めるなキツネ」
「タカ君椅子はこのみの特別席なのに〜」
こういう事。
現状を簡単に説明するとこう。
風呂上り後のちょっとしたトラブルから一段落した後、チエちゃんがババ抜きをしようと言い出した。
このみにミチルちゃんは勿論、俺も折角なので参加しリビングでテーブル囲う事にしたというのが始まり。
因みに今の状況は……。
「そーだ、ババ抜きで一位になったら下位の人に命令できるって事にしない?」
「え? ああ、まあ罰ゲームがあるのは面白いし、やってみようか」
「うん、やる気が出た」
「よーし、頑張るでありますよ♪」
と、全員一致で決まったから。
因みに命令ルールは、連続ではなくローテーションで。
つまり、同じ人に何度も続けて命令が出来ないと言う事。
5分の時間制限までで、話はまとまった。
「ふふ、これは命令次第で好き放題できる」
「何気に怖い事言わないでくれないかな?」
「よーっし、ここは頑張る所っしょ」
「柚原このみ、突貫します♪」
そうして始まり、今に至る訳である。
「髪クシャクシャだよ……折角手入れしたのに」
「あたしのお菓子が……」
ちなみにミチルちゃんが下した命令は、このみは計16分抱き締めて頭ナデナデ。
チエちゃんは今日のお菓子を4つ取られた。
「本当は……ううん、何でもない」
「何? ちょっとキツネ、今何言いかけた? 今何か言いかけたっしょ!?」
「聞かない方が良いと思う。先輩がいるから、自重しただけ」
「……あの、チエちゃん」
「え、ええ、そうっスね。何か聞くのが怖くなったッス」
俺は計20分このみ命名タカ君椅子をやらされた。
ちなみにローテはこのみからで、一番最初の命令は『タカ君椅子』の許可。
「……これ、そんなに良いのかな?」
「はい、何度でも座ってみたいです。ごめんこのみ」
「む〜……」
自分の専売特許を取られて、すっかり不満そう。
でも感情表現が得意なのが仇なんだよな、ババ抜きって。
このみはもちろんだけど、チエちゃんも感情隠すのは下手だし。
ミチルちゃんは、普段からの寡黙なポーカーフェイスを武器に王者として君臨中。
「……考えてみれば、結果はやる前から判ってたような気がする」
「そう言えばそうっスね。ちゃるはこういう時だけは、性格が幸いしてるっしょ」
「性格にも一長一短、必ずしもそれで全てが上手くいくと言う事はない」
「ねえ、別のにしようよ。こんな一方的じゃつまらないよ」
「はいはいわかったよ」
と言うよりもババ抜き事自体、既にこのみにとっては貧乏くじ何だと思わざるをえんな。
……まあ、言う通りにしておいてあげよう。
・・・
大富豪、七並べ、神経衰弱、ポーカーとやっては見ましたが……。
「いや〜、極楽極楽ッス♪ このみがやりたがるのわかるっしょ♪」
「そうなのかな?」
「そうです、フォーメーションAやBをやってる時と同じ様に和んでしまう」
何とかゲームになりそうなのはポーカーだけ。
表情が読まれても差し支えはないほうだし、イカサマしない限り勝ち続けるのは先ず無理。
……の筈なのに。
「む〜!」
相変わらず、このみは連続最下位記録更新中。
俺、ミチルちゃん、チエちゃんの順位は多少は変わってはいるのに、それだけは不変の掟の様に続いた。
「なんでこのみばっかり……」
「後先考えずにその場の勢いだけでやるからだ」
「むー、即答ひどいよ」
「このみ、それは否定できない」
「うん、誰がどう見ても事実っしょ」
「皆していじめなんて酷いよ〜!」
だって事実なんだから仕方ないだろ。
大富豪は後先考えずに強いカードばかり出して、後の方で惨敗。
七並べはババ抜きと同じで待ち札が表情ですぐわかるし、神経衰弱なんか論外。
ポーカーに至っては、大物狙ってばっかでハマりまくり。
つまり、ゲームに置いて必要不可欠とされる、駆け引きと言う物がまるっきり出来てない。
「……仕方ない。2人共、ちょっと良いかな?」
「はい、構いませんよ」
「あ、あたしもオッケーッス」
このみがまた仲間外れだとごねてる前で、3人で円陣を組む
「予想通りとはいえ、そろそろこのみは限界。これじゃ泣き出すのも時間の問題」
「だね。でも、あれじゃわざと負けようが無いし……」
「ですね。あれじゃ流石にわざと負ける事も出来ないっしょ」
「でさ、俺がちょっとこのみに手解きをする事にするよ。だから、ちょっと手を抜いてくれないかな?」
「そうっスね、あたしもいじめるのは気が引けてましたから」
「練習……それなら良いです」
チエちゃんミチルちゃんの同意を持って、会議は終了。
「もう一回大富豪で良いかな?」
「ええ、構いません」
「あたしもオッケーッス」
「じゃあこのみ、行くぞ」
「え?」
「この回だけは、先輩とこのみは連合として扱う」
「ホント? やった♪」
「今回だけだ、俺がアドバイスするからその通りに出せよ」
「うん、わかった」
このみが意気込んでる間にミチルちゃんがシャッフルし、配られる。
手札を見ると、絵札が5枚にAが2枚、2が3枚か……うん、行ける。
「それじゃ、俺が指示するからその通りにやれよ」
「了解であります」
そして、いざスタート。
まずチエちゃんからスタートで、ある程度進むとミチルちゃんが10を出す。
「じゃあこれを……」
「待て、パスで」
そしてチエちゃんもパスで、振り出しに戻る。
「え、何で!?」
「バカ、こんな所で強いカードを出しまくるからダメなんだよ。今の俺達の手札は確かに強いけど、弾切れ起こしたら意味が無いんだ」
「う〜ん……」
「まあ見てろって」
ミチルちゃんが弱い方のカードを出し、俺達はそれよりちょっと強いカードを出す
それから、俺はある程度カードを見定めると強いカードを出し始める。
そしてジョーカーが出ると。
「よし、ここからはこのみのやりたい様にやれ。ただし、ある程度は弱いカードからな」
「うん」
それから、このみ独特の勢い任せでガンガン行かせた。
流石にこれなら楽勝だ。
あらよっと
「やった♪」
「ほらな」
最後の手札を出し、このみが漸く勝利を納めた。
「じゃあもう大丈夫だな。それじゃ、俺もそろそろゲームに合流する」
「うん、ありがとタカ君」
立とうと足を崩した所で、このみが俺の上に座った。
……あ、そっか、一応ゲームなんだし……って、俺参加してないけど。
……まいっか。
「えへ〜♪」
「早速かよ、まったく」
まるで返り咲いたといわんばかりに、とろける様な笑顔で座るこのみ。
何かすっげえ気持ち良さそうに座ってる。
「……まいっか」
流石に水差す気にもなれず、俺はそのまま大人しく従った。
「このみも勝負師としての一歩を踏み出したか……ならばもう私も全力で行くぞ。手加減は無しだ」
「でっでも、流石に新生このみの初出撃だけに、ちょっとやり難い」
「甘いぞよっち、勝負の世界は常に真剣勝負。先輩後輩、家族親友、その他諸々の絆は関係ない、常に心身ともに全力で戦うのが礼儀」
「わ、ちゃるからオーラが……」
確かミチルちゃんって、所謂テキ屋の娘ってこのみから聞いたっけな。
と言う事は、やっぱりこういうのには……何か、怖い物想像しちゃった。
「では……の前に、熱中していて気付きませんでしたが、そろそろ10時です」
「え? あ! じゃあちょっと中断、そろそろ寝床を準備して戸締りしないと」
「うん、そうだね」
夜はまだまだ長い訳で、ちょっと一時休戦。
……いやいや、とある意味ではなくて、あくまでお泊り会での楽しい時間と言う意味で。
こんばんは、SSスレの住人の方々。
漸く書きあがったので、深夜パート前編出します。
まだまだ序章なので、ここから盛り上げて……いけるかは不安ですが、頑張りたいと思います
アナザーデイズの情報が世に出て、楽しみで仕方ありません
よっちちゃる及びミルファとシルファもそうですが、まーりゃんやいくのんが出るらしいですね
以外と言えば、るーこ編のあの菜々子ちゃんまで出るのは驚きですね。
近い内、や・ゆ・よもメイドロボ3姉妹の参加を考えるかな?
>>459 支援どうもありがとうございます
GJ!!
俺は支援するべきかどうかで悩んでしなかったよorz
メイド3姉妹参加希望!!特にイルファ、シルファを!!
久々にやゆよキタ━(゚∀゚)━!!
よっちちゃる分が枯渇気味だったので補給
クロスオーバーはスレ違いかな?
>462
やゆよ乙。ババ抜きでここまで差が出る4人w
ちゃるは普段からこうやってこのみと一次的接触を試みているのかも……うらやますぃ
山田家がテキ屋ってのは、剛田の記事の「親の仕事がちょっと特殊」から?
ごめん、目欄間違えた
「なつやすっみっ♪ なつやすっみっ♪」
「1学期はまだ3日あるんだが」
「もうテストもないし、勝ったも同然だよ〜」
このみ絶好調。
「確かにな、もう誰も授業なんざ真面目に受けデデデデデッ!」
この辺り いつも進歩の ない雄二
「まったく。このみも、1学期をきちんとやり終えてこその夏休みよ」
「う〜ん、そっかなぁ」
判ったような判らないような。
「「お姉様、おはようございます!」」
ペコッ……。
朝の挨拶、三人娘。
「おはよう」
環の応対も慣れたもの。
4+3の登校風景は、既に日常のなかにある。
「「……」」
ギリギリギリ……。
「……ぶるるっ」
「タカ君どうしたの? カゼひいた?」
貴明に向く視線の冷たさは、相変わらずだったが。
「それにしても毎日暑いわね。体調に気を付けないと」
「そ、それなんですけれどお姉様」
玲於奈がやや上擦った声で切り込んだ。
「なあに?」
「夏休みに私共、海に行こうと思うのですが、お姉様もいらっしゃいませんか?」
「海? 海水浴?」
「はい。週末は込むでしょうから、来週の月曜日あたりを考えています」
薫子が引き継ぐのが、三人娘の役割分担。
「月曜日、26日か、特に予定はないけど……」
環が小首を傾げてちょっと考え始めた時、
「ああぁ〜っ! そうだぁ〜!」
素っ頓狂な声このみ。
「うわっ。急に耳元で騒ぐなよ」
「なんだぁ突然?」
「タカ君、ユウ君、忘れたとは言わせないよ」
「何をだよ」
「来週の月曜日は、726事件一周年だよ!」
★726事件
1年前の7月26日、貴明と雄二が二人でウォーターワールドに行った事。
補習で参加できなかったこのみ(当時受験生)は、これを大いに根に持っており、
去る3月11日には、一生忘れないことを心に誓った、とまで宣言している。
「んなもん覚えてるわけねーだろーが」
「ていうか、このみも忘れてたんじゃ……」
「む〜、今は思い出したよ。とにかく」
握り拳ふたつ。
「わたしこと柚原このみは、タカ君とユウ君に、本件の賠償を要求するものであります!」
「……早い話が、どっかに連れてけと?」
「謝罪はいいのか?」
「連れて行ってくれたら、許すであります!」
「現金だなあ」
「ったく、しょうがねえなこのチビッコは」
苦笑ふたつ。
「なにが仕方ないのか良くわかりませんけど、人の話を持っていかないでいただけます?」
不機嫌玲於奈。
が、薫子の対応は、少し違った。
「それでは、雄二様達もご一緒にいかがでしょう?」
西瓜。大玉。約7kg。
「炭とコンロも俺が持つのは不公平じゃないか雄二?」
「馬鹿いえ。このクーラーボックス糞重いんだぞ」
荷物持ち二人の会話。
「その程度で弱音を吐かない。男でしょ」
「ふん、まあ姉貴よりは軽いけどな」
姉弟の会話。弟は、姉の両手が塞がっていることを見越している。
「あらそう。このみ、やっていいわよ」
「やた〜。突撃〜♪」
「だああッ! ぶらさがんじゃねえチビッコがぁ!」
飛び道具で撃墜された雄二の隣では、貴明に寄り添うように少女が一人。
「貴明くん、す、少し持とうか?」
「愛佳じゃなんの役にも立たないからいい」
「うぅぅ、即答〜」
終業式の帰り道で話に巻き込まれた委員長は、慣れない面子にやや居心地が悪そうだ。
環を挟んでバカップルの反対側、
「カスミ、日差しが強いから無理なさらないで」
コクコク……。
「しかし、雄二さんにおチビさん、小牧さんにあの男の相手をさせるとは、見事な作戦ですわ薫子」
「それほどでも。とにかく、後は私達の努力次第。頑張りましょう」
グッ……。
言い出しっぺの三人娘が作戦会議。
「なあに? こそこそ話?」
気づかれた。
「い、いえっ! きょ、今日は良い天気だなあとっ!」
玲於奈、芸がない。
「そうね……眩しいくらい」
それでも空を見上げて環。果てしなく高い、夏の雲。
吹き抜ける風に、潮の匂いが混じった。
「うわ〜、う、み、だぁ〜!」
砂浜に続く堤防の上、両手を思いっきり真横に伸ばして。
「およよよっ」
正面からの風によろけるチビッコ。
「落ちんなよ」
「うん、ありがとうユウ君」
背中を支えた雄二に、無邪気な笑顔を見せる。
「あの〜」
二人を見ていた愛佳が貴明をつつく。
「なに?」
「なんだか今、このみちゃんの肩に黒いカラスが留まっている幻覚が……」
「文学の読み過ぎ」
どさどさどさ。
「お、重かったぜ」
「パラソル、倒れないかな?」
「じゃあ、着替えたら一度ここに集合しましょ」
「脱衣所は、あちらですか」
「あまり綺麗ではありませんわね」
コクコク……。
「んしょ、んしょ」
「こ、このみちゃんっ!?」
シートを敷き終えて立ち上がった愛佳が目を丸くする。
なんの目隠しもない砂の上で、このみが服を脱ぎだしたのだ。
藍色のキュロットが外れて、ストンと足首に落ちる。
下からピンク色の生地が覗く。
「ぱ、ぱんつ……じゃない?」
「えへへ〜、ちゃんと下に着てきたですよ」
自慢げに皆を振り返って、このみはブラウスの裾をつまみあげた。
ばさっ。
脱ぎ捨てられたブラウスが宙を舞う。
水着はピンクのワンピース。布面積は結構広め。ぶっちゃけ、お子様水着。
「あれ、あれ、脱げない」
立ったままもどかしそうに腰を折って靴を脱ごうとするこのみ。
薄いお尻はハート形というより逆三角。斜辺の下で太股もぞもぞ。
「うりゃ、とりゃっ! 準備完了〜!」
背筋を伸ばしてバンザイポーズ。ただし、張った胸はほぼ真っ平。
「じゃあ、先に泳いでるね!」
「ちょっと待てっ」
ア○レちゃんよろしく腕を水平に広げて走り出したこのみを、貴明が引き留めた。
「ぐえ。」
水着姿では掴む首根っこがないので、腕を巻き付けてチョークスリーパー。
「けほけほっ。もう、タカ君ひどいよー」
「泳ぐ前に準備体操だろ」
「あ、そっかぁ。おいっちにっ、おいっちにっ」
「チビ助、水着下に着てきたのはいいけど、帰りはどうすんだ?」
「えっ? ……ああっ!」
「大丈夫、私がこのみの着替えも持ってきたわ」
「ありがとうタマお姉ちゃん!」
「お姉様、参りましょう」
クイクイ……。
「そうね、荷物番が……」
「ああ、俺も海パン履いてきたから」
「雄二の着替えは、持ってきてないわよ?」
「当たり前だ」
脱衣所への道すがら、愛佳が隣の貴明に呟いた。
「このみちゃんって、本当に貴明君達の妹みたいだね」
「うーん、タマ姉が帰ってきてから、ますます甘えっ子になったかな」
「なんだか羨ましいなあ〜。……ん?」
恋人の口調に、やや複雑なものを感じ取った貴明は、そっと愛佳の手を引いた。
ほいさ
「あれ? このみは?」
最初に戻ってきた貴明に、寝ていた雄二は波打ち際を指さす。
「あ〜っ! タカく〜ん! はやく〜!」
指さすまでもなかった。
「大声で呼ぶなよ……」
ぼやきながらも、このみの方へ駆け出す貴明。
「後で荷物番交代しろよ〜」
その背中に声をかけて、再び寝っ転がる。
間もなく、
「あら? このみは?」
環達が戻ってきた。
「あ〜っ! タマお姉ちゃん! はやく〜!」
指差すまでもない。
「今行くわ! ホント、元気なんだから」
腰に手を当てて溜息。
黒に近い濃紺のビキニに包まれた胸が、動きに合わせて揺れた。
「カスミ、ここなら日が当たらないわよ」
ストッ……。
パラソルの影に座ったカスミ。
大人しめの赤のワンピースの上から、長袖のTシャツを被っている。
「泳がないのか?」
「カスミは体力がありませんから、程々に」
その隣に座った薫子の方は、オレンジのスカート付きワンピ。
「じゃあ、荷物番頼んでいいか?」
「構いませんよ。私もいますので」
頷いて、バッグから日焼け止めを取り出し玲於奈に渡す。
「お姉様、お背中お塗りします」
玲於奈の水着は、水色と青のセパレート。腰に小判のパレオ。
「タマお姉ちゃ〜ん! は〜や〜く〜!」
「俺が行ってやるからちょっと待ってろ!」
「え〜、ユウ君いらな〜い」
「あんだとこのガキゃ」
「お待たせしましたぁ!」
「見事なまでに、誰も待ってなかったけどな」
「みんな酷いです><」
白いフリルワンピースに身を包んだ愛佳が到着して全員集合。
オイルを塗りおえた環と玲於奈も、遊泳組に合流している。
「お姉様、あそこのブイまで競争しませんか?」
「玲於奈、お前泳げんの?」
「当たり前です! 何故そんな事を聞くのですか!」
「いや、なんとなく運痴っぽいイメージが。いいんちょ程じゃねえけど」
「私だって泳げますよぉ!」
雄二の勝手な意見に反論する愛佳。
「……犬かきですけど」
しょぼん。
「そういう貴方はどうなんです?」
反撃を試みた玲於奈の頭上を、風に舞ったゲイラカイトが通り過ぎた。
「きゃっ?」
実際は、身をすくめる程の距離ではない。少し離れた海面に着水する。
「うわ〜〜ん! 僕の凧〜!」
砂浜の方で泣き声。小学生くらいの男の子。
「しょうがねえな」
返答の代わりに、雄二が泳ぎ出す。あっという間に、姿が小さくなった。
「おじちゃんありがとう」
「お兄ちゃんだ#」
「な、なかなか速いですわね」
「まあな。子供の頃からアレの相手をしてるから」
雄二が指さした先。
「こら、このみ! そっちは遊泳禁止よ!」
「一人で沖に出るな! また力尽きて溺れるぞ!」
波しぶきをあげて移動する物体。玲於奈と愛佳は、それなりに納得した。
「そろそろお昼の準備ね」
「え〜、まだお腹空かないよ?」
「あれば食うくせに。火を起こす時間があるから、丁度いいだろ」
水からあがってパラソルに戻る遊泳組。
「あ、お昼ですか」
薫子が顔を上げた。膝の上で、カスミが寝入っている。
「カスミ、起きて」
ムク……。
身を起こすカスミ。
寝惚け眼を擦る姿は、普段よりも子供っぽい。
「うーん、男二人に女性六人ねえ」
環が15秒悩んだ結果。
火起こし班:環・貴明・雄二
食材班:薫子・カスミ・玲於奈・愛佳
「タマお姉ちゃん、このみはどっちなの?」
「あ。えーっと、このみは私と一緒にいなさい」
「まずこうやって薪で火床を作って……」
環とて万能ではない。バーベキューコンロの前で結構悪戦苦闘。
「なかなか点かないもんだね」
「着火剤が足りねえか?」
「これ? これ? このみがやる〜♪」
「ちょっと、待ちなさ……」
「てりゃっ!」
どぼどぼどぼ。
「のわーーーーーっっっっっっ!」
激しくも儚い、真昼のキャンプファイヤーであった。
「えーっと、やっぱり向こうを手伝って頂戴」
「はぁい」
トントントントントン……。
やけに手慣れた包丁裁きでリズム良く野菜を切るのはカスミ。
サクッ、サクッ。
堅実に目標を捌いていくのは薫子。
ざくざく。ざくざっ。ぐっ。
どうもやる事が強引な玲於奈。
性格、だろうか。
「わわわ、ととっ、とっ、ふひゅう」
手際は別に悪くないのだが、なんとなく危なっかしくて騒がしい愛佳。
「このみちゃん? どうしたの? っとっと」
ジャガイモを転がしながら、柱の陰からちょこん、と顔を覗かせたこのみに声を掛けた。
「タマお姉ちゃんが、こっちを手伝いなさいって」
柱から半カオでこのみ。
貴明や雄二には無敵を誇る元気娘も、このメンバーには気後れしているようだ。
「別に手伝っていただくことはありませんわよ」
だのに、玲於奈は冷たく言い放つ。
「薫子とカスミがいれば十分ですから」
自分を含めないのが少し謙虚、もしくは自覚的というべきか。
「そうなんだ……」
半カオが、3分の1くらいになる。
「じゃ、じゃあさ、このニンジンお願いできるかな?」
「うんっ!」
愛佳のフォローに、ニコニコとナイフを持ったこのみだが。
「むぅっ、うりゃっ?、てやっ?、ったぁ、おろ?」
「あ、あぁぁて手っ、指の危険が危ないよっ!」
「……小牧さんも、自分の手元をご覧になったら?」
「へ? ふわあぁ!」
薫子の指摘に、かえって手元が狂ったのか、
「痛ッ!」
やっちゃった。
「った〜いぃ〜」
「うわあ、血がどくどく出てるよ!」
「描写しないでぇ〜」
凹む委員長。
「だ、大丈夫ですの?」
「荷物のなかに、絆創膏があった筈ですよ」
トントントントン……。
慌てる玲於奈、冷静に薫子、無反応のカスミ。
「だ、だいじょぶ、大したことないですからっ!」
「大したことなくとも手当はいるでしょう? このみちゃん、一緒に行ってあげて」
気遣い半分、厄介払い半分。
「すみません〜」
へこへこしながら、愛佳が戦線を離脱した。
トントントントン……。
作業効率は、さほど変わらなかったり。
「タマお姉ちゃん、たいへんたいへん!」
「このみちゃん、大騒ぎするような怪我じゃないから」
「どうしたの? って小牧さん?」
「愛佳? ……うわ、なにやってんだ!」
貴明がやってきて、愛佳の様子に顔色を変える。
「あはは、ちょっと手元が狂って、ってわ、わ、引っ張らないで、大したこと、な、いっ」
恋人をシートに座らせて、救急箱を取り出す貴明。
愛佳、少し頬を赤くしながら大人しい。
「結構出てるな、血」
「ひゃっ、舐めちゃやだぁ」
ついでとばかりに、多少いちゃいちゃ。
「ほぁ……」
その様子を、このみが見ている。
「このみ、こっちにいらっしゃい」
環は貴明達の方を見ずに、このみに声を掛けた。
「うん」
とととっ、コンロの側にやってくるこのみ。
「わ、火がついてる」
「ふっ、俺様の努力の賜物だ」
「凄いねタマお姉ちゃん!」
「……いいけどな」
いつもの取り扱いに腐った雄二だが、ふと怪訝そうな顔をする。
興味深そうに炭火を見ているこのみが、何度か小首を傾げていたのだ。
「どうした、チビッコ?」
「ううん、なんでもないよ」
否定しつつ、ちらっとパラソルに視線を向ける。
「さっきタカ君と小牧先輩を見てたらね、なんだか、胸のあたりがモヤモヤしたみたいな?」
「……」
なんだったんだろうね。と不思議がるこのみに、雄二が言葉を探していると、
「日差しが強いから立ち眩みでもしたんじゃないかしら?」
横から環が引き取った。
「そっかな」
「それよりも、このみ、これ知ってる?」
「なんだそりゃ?」
「火吹き竹」
どっから持ってきたのか、時代物を取り出す環。
「こうやって使うのよ」
竹筒の先端をコンロに向けて、逆側からふーっと息を吹き込んだ。
昼陽の下で白黒だった炭が、パアッと赤く染まる。
「わ、面白いよ! このみも!このみもやる〜!」
このみは環から火吹き竹を渡されると、張り切って筒に唇をくっつける。
「ふーっ、ふーっ、ふーっ、ふーっ!」
吹きすぎ。物凄い勢いで、炭より先にこのみの顔が真っ赤になっていく。
「ふおお、目が、目があ〜」
くるくる回って、砂浜に大の字。
苦笑する環と雄二。
二人とも、まだもう少しだけ、無邪気なこのみを見ていたかったのだ。
以上。2/11と6/11が二つずつありますが当然、間違いです。寝惚けてるな俺。
あ、申し遅れました。>474さん支援ありがとです。次も海水浴。
GJ!
ADには3人娘出ないけどその分も頑張っていただきたい
関係ないが火吹き竹は吹きすぎて頭が痛くなった思い出が
「どうした愛佳?」
「え?なに?」
「今日はまた一段とボケてるぞ」
「え?そんな事無いよ〜」
「棚に片付けた本、全部逆さま」
「え・・・あ!?」
だって、仕方がなじゃない・・・
昨日見てしまった、由真と貴明君のキスシーンが頭の中で幾度と無く繰り返される。
あの十字路が、景色が、空が、二人が・・・あの、由真の憂いを帯びた表情が鮮明に思い出される。
それをまた、幾度由真と自分とを差し替えて妄想した事か・・・
そんな事ばかり思っていると。
貴明君と二人きりの司書室でさらに色々な事を妄想してまったのだ。
貴明君の腕に抱きしめられて、キスされて、貴明君を全身で感じて・・・
「やっぱり何かおかしいぞ、愛佳?」
「え?」
「お茶請けに持ってきた皿、空っぽだぞ」
「え?・・・や!そ!忘れてた!」
「おいおい・・・」
「今持ってくるから」
慌てて戻る。
「あ、あれ?」
棚に閉まっていたお菓子が一つも無い。
そう言えば二人だからか、気づかないうちに沢山食べてしまっていたようだ。
「どうした?」
「ごめんなさい・・・お菓子が無くなってたみたい」
「え?」
貴明君が近づいてきた。
「あ、本当だ・・・」
ヤダ、顔がこんなに近い。
「ワリ、俺のセイかな・・・」
「へ?」
「便乗して一緒に食べてからだろ」
「そ、そ、そんな事無いよ〜」
「嘘つかない!!」
「あう・・・」
やっぱり、貴明君にはわかっちゃうみたい。
「買い足さないと・・・」
そうしないと、貴明でも・・・」
「良いから良いから!で、どこで買うんだ?」
「デパートとかで・・・」
「ふむ」
少し考えて込む貴明君。
「じゃあ日曜日にでも一緒に行くか」
「え!?」
でも、それって、もしかして・・・デート?
「嫌か?」
「嫌、そんな事無いけど・・・由真は・・・」
どうせ、由真とデートの約束をしてるに違いない。
「良いよ、一日くらいわ」
「でも・・・」
「じゃあ、十時に西側の駅でな」
貴明君が私の声を遮る。
良いんだよね・・・
「・・・うん」
貴明君とデート・・・か
だけど、貴明君にとって私は『友達』でしかないのだろう。
それ以上でも以下でも無い・・・
私と『練習』何てしなくても由真と色々な事をしている中に『女性恐怖症』をいつの間にか克服していたみたい。
あれが・・・赤い糸で結ばれた二人なのだろうか・・・
司書室にいる間は
『愛佳』と『貴明君』
でも、ここから一歩出れば
『小牧』と『河野君』
ここどけが・・・
私達は所詮、その程度の関係なのだろう・・・
488 :
雲民:2006/10/29(日) 18:53:27 ID:vnRpoQRiO
風邪とか車に跳ねられたりとかレポートとかに巻き込まれてた雲民です
今も病院で通院中です
乱丁がありました
改正しだい書き直します
色々とすいません
「買い足さないと・・・」
そうしないと、遅くまで貴明が此処に居なくなっちゃう・・・
「・・・俺も手伝うよ」
「え?」
「少なからず俺にも非があるだろ」
「でも・・・」
「良いから良いから!で、どこで買うんだ?」
「その、デパートとかで・・・」
「ふむ」
少し考えて込む貴明君。
「じゃあ日曜日にでも一緒に行くか」
「え!?」
でも、それって、もしかして・・・デート?
「嫌か?」
「嫌、そんな事無いけど・・・由真は・・・」
どうせ、由真とデートの約束をしてるに違いない。
「良いよ、一日くらいわ」
「でも・・・」
「じゃあ、十時に西側の駅でな」
貴明君が私の声を遮る。
良いんだよね・・・
「・・・うん」
>488
乙。サイトから転載するならリンクで良い気もするが、プロローグよりは読みやすかった
由真と恋人で愛佳は書庫手伝いのみ、でも愛佳は意識しまくりと。難儀ですなぁ
3の2行目「貴明」呼び捨てと、「一日くらいわ」の「わ」は意図的?まあいいけど
>488
おつおつ。作品自体はいいけど、短めなのがちょっと残念。もっと長い作品に
挑戦されることを期待。貴方の作品の雰囲気はかなり好きです。
しかし、素直になれない女の子との日々、の作者といい交通事故に合われる方が多いスレですね。
みんな草壁さんに会いたかったんだよ。
瑠璃ちゃんのお粥を食べた後でまた眠って、目が覚めると優季が側に。その間に何かあったような
気がするんだけど、思い出せない。と言うか、思い出してはいけない気がする。
またも汗まみれの俺。汗拭きと着替えは任せてくださいと優季は言うけれど、いい加減そのくらい
は自分でしたい。だけど瑠璃ちゃんを引き合いに出されちゃったら断れないよなぁ。
着替えの後、すり下ろしたリンゴを持ってきてくれる優季。喜んでさあ食べようと思ったら、そこ
に現れたのは花梨、ちゃる、珊瑚ちゃん。各々、モモ、ミカン、パイナップルの缶詰を俺に食べさせ
ようとするけど、優季のリンゴで充分なので断った。ちょっと悪い気はしたけどね。
けれど花梨は諦めなかった。しばらくして花梨は再び現れ、モモ缶を食べてとお願いしてくる。
仕方がないので花梨と分けて食べることにしたが、同じフォークで食べていると突然花梨が「間接
キスしちゃった!」となどと言い出す。そりゃ事実だけど、だからと言って結婚しろと言われても。
「――でね、ここから三駅先の町に池があるんだけど、昔そこで全身金色のザリガニが見つかった
ことがあるんだって。突然変異の類だろうってのが生物学者さんの見解で、その後は同じようなのは
一匹も見つかっていないんだけど、私はまだ他にもいるんじゃないかって思うんよねー」
モモを食べ終わった後、花梨は「退屈だろうから、花梨が話し相手になってあげるね!」と言って
この部屋に残ってくれた。とは言え、さっきから話しているのは花梨ばかりで、話題はいつもの通り
ミステリ関連。俺は聞き役に徹し、時折うんうんと肯く程度。
けどまぁ、独りぼっちよりははるかにマシだ。今は楽しげに話す花梨の存在がとてもありがたい。
「でね、来週の日曜にでもこの池に行ってみようと思うんだけど、どうかな、たかちゃん?」
「来週の日曜、か。それまでに風邪が治っていたらね」
すると花梨はむ〜とむくれて、
「治っていたら、じゃなくてちゃんと治すの。一週間もあるんだから治せるでしょ。
ホントは明日にでも行くつもりだったんよ。たかちゃんが風邪さえ引かなかったら……」
あら、そうだったのか。いつも通りの勝手な取り決めとは言え、ちょっと悪い気が。
「申し訳ないです、花梨会長」
「素直でよろしい。なら、たかちゃんは頑張って風邪を治すこと! これ会長命令ね」
「了解」
俺の返事にうんうんと満足そうに肯く花梨。
「あ、ねぇねぇたかちゃん、せっかくだからまた河野家メンバーズとの合同企画にしちゃおうか?
前回は集まりが悪かったし、成果も上がらずだったけど、きっと今回は何か見つかるよ。うん、
私の直感がそう告げている! 間違いない!」
その直感のせいで何度酷い目に遭ったことか。
「それにね、お昼はみんなで作ったお弁当を食べるの!
池を見ながらみんなで食べるタマゴサンド、美味しいだろうな〜」
うっとりと天を仰ぐ花梨。どうやら妄想モードに入ったらしい。ってヨダレヨダレ。
こんこん。
「センパイ、いいッスか?」
ドアの向こうからよっちの声。
「どうぞ」
俺がそう答えると、よっちが部屋に――あれ、これって前にもあったような? 既視感ってヤツ?
だけど部屋にはちゃるも入ってきて……、って、はぁ!?
「あ、あのさ、君たち、その格好なに?」
何故俺が驚いているのか、説明しなければなるまい。
この二人、体操着(細かく言うと体操シャツとブルマ)の上にエプロンと、実にマニアックかつ
意味不明な格好で現れたのだ。一体何のつもりだろうか?
「あ、これッスか?」
よっちはやや恥ずかしげにあははと笑い、
「さっきセンパイに迷惑かけちゃいましたからね、お詫びの印に目の保養をしていただこうかと」
くるりん、と一回転するよっち。正面からは見えにくいブルマが見えちゃったりで、雄二あたり
だとさぞかし喜びそうな光景ではあるものの、生憎と俺にはそっち方面の趣味はあまりない。
「……センパイが引いてる。やはりタヌキの案は失敗」
「ま、まだまだこれからっしょ! あんたも回れ、ほら、くるりんって!」
よっちに言われ、渋々といった感じでちゃるもくるりん。
「いや、あのさ、俺そっち系の趣味はあまり……。
って言うか、さっきの迷惑って? ……うーん、やっぱよっち、さっき一度来たよな?」
「思い出さなくていいんスよ! 思い出さなくていいッスからセンパイは!!
ささセンパイ、これ食べてくださいッス」
誤魔化すように大声を上げたかと思ったら、よっちがちゃると一緒に近づいてくる。よく見ると
その手には透明なお椀。――缶詰ミカンか。
「い、いや、さっきも言ったけど、俺もう腹一杯だし……」
「そんなつれないこと言わないでくださいよセンパイ〜。
第一、さっきはキツネたちにそう言って断ったクセに、花梨さんのモモは食べてるじゃないッスか。
なのにミカンは食べないなんて不公平ッスよ〜」
抗議のよっちに、「早いもの勝ちなんよ〜」と勝ち誇る花梨。
「ぐぐぐ……、と、とにかく!」
よっちはいきなりベッドの端にどすんと座り、
「こんな格好までして来たんだもの、今更後には引けないッスよ!
何が何でもセンパイには食べてもらいますからね! ほれ、キツネもさっさと座る!」
「……了解」
反対側にちゃるがちょんと座る。
「ちょ、ちょっと二人とも……」
俺の言葉には耳も貸さず、二人は、
「「あーん」」
まるで事前に練習でもしてきたかのように、二人、全く同じタイミングでフォークに刺したミカン
を俺の口元に突き出す。
「だ、だから――」
「「あーん」」
「俺はもう腹一杯だって――」
「「あーん」」
だ、ダメだ。二人とも聞く耳持っちゃいない。……はぁ、食べるしかないか。
仕方なく、口を開ける。だが二人はミカンを口に入れようとはせず、
「さて、ここで貴明センパイに質問です」
「し、質問?」
「あたしとキツネ、どっちのミカンを先に食べるッスか?」
「……え?」
「ああ、言っておきますけどこれ、真剣に考えて選んでくださいね。なにせ――」
よっち、それにちゃるまでいきなり真剣な目になり、
「これで、あたしらの女としての価値が決まるんスから」
「え、えええっ!? 何だそりゃ!?」
思わずベッドから逃げたくなるが、しかし二人がベッドの端に布団ごと座っているせいで起きる
ことも出来ない。
「シチュエーション、コスチューム、全て同じ条件!
あとはセンパイがどっちを選ぶかで、あたしとキツネの長年の闘争、すなわち、どっちが女として
上かが決まるんスよ!」
「……そういうこと。だからセンパイ、はい、あーん」
ちゃるのミカンがより近づく。
「あ、こら! 貴明センパイ、あたしの方ッスよね! あーん」
よっちのミカンも近づく。
「あーん」
さらにちゃる。
「あーん」
さらによっち。
「あーん」
さらにちゃる、って、
ぴとっ。
「ちょ、ちょっと、ミカン顔に当たって――って痛たたた!」
フォ、フォークがミカン突き抜けて頬に刺さる!
「あーん」
対抗してよっちもミカンを近づけ、結果ちゃると同じくミカンが頬に当たり、更にはミカンを突き
抜けフォークの先端が俺の頬に刺さってくる!
「だ、だから、よっちも刺さってる刺さってる! 痛たたたた!」
「あー……え? あ!」
俺の必死の訴えに気付いた二人は、慌ててミカン(と言うかフォーク)を戻し、
「ご、ご免なさい貴明センパイ」
「……ご免なさい」
「ふぅ……、全く」
手を出し、頬をさすって確認。――うん、血は出てないな。
「あ、あの、大丈夫ッスかセンパイ?」
「うん、大丈夫。ったく、二人ともやりすぎだっての」
「ホ、ホントにご免なさいセンパイ」
支援
「……ご免なさい」
体操着にエプロンという珍妙な格好で恐縮する二人。――あ、ヤバ。今チョット可愛いって思っ
ちゃったかも。
「ったく」
両手とも布団から出し、二人のフォークを取り上げる、そして二つのミカンを同時にパクリ。
「モグモグ――うん、ミカンだね。ジューシーだね」
「ああっ、センパイそれズルイッスよ! 両方同時だなんて」
「知らないよ。ったく、俺をダシにおかしな勝負するなっての」
「む〜……」
不満そうなよっちとちゃる。と、
ドタドタドタ……
「ターーーックル!!」
ドスン!! ガシャーン!!
「な、なんだ!?」
廊下からもの凄い音。それに今の声、瑠璃ちゃんっぽかったような?
「あーん、何すんの瑠璃ちゃん。パイナポーぶちまけてもうたやないか〜」
「何すんのやあらへん! そんな格好で貴明のトコなんか絶対行かせへんもん〜っ!!」
「この格好? だってよっちたちが体操着にエプロンなんやから、こっちは更に上を行かんと」
「競わんでもええ! って言うかそれだと勝つどころか反則負けや!」
「そうかな〜? このカッコ、貴明喜んでくれる思たのに」
「こんなカッコ見せたら貴明、熱が上がって死んでまうわ! 絶対貴明には見せられへんもん!」
「瑠璃ちゃん、もしかしてヤキモチ? ほんなら瑠璃ちゃんも同じカッコしたらええやん」
「そ、そんな格好、絶対せぇへん!! 死んでもせぇへんもん〜っ!!」
「瑠璃ちゃん、捕まえた!?」
「あ、由真、環!」
「よし、じゃあ瑠璃ちゃんはこのまま私と珊瑚ちゃんを下に。由真はそっちの食器、片づけて」
「はい!」
「じゃあ行くわよ、よいしょっと」
「あ、環と瑠璃ちゃんがウチをさらう気や〜。助けて貴明〜」
「アホなこと言わんといてさんちゃん! ホラ、行くで!」
「あう〜っ! みんなイケズやぁ〜!」
遠ざかる珊瑚ちゃんの声。トントンと階段を下りる複数の音。そして、一時の静寂。
コンコン。
「あ、はい、どうぞ」
ノックの音で我に帰り、開いたドアから由真が顔を覗かせる。
「いや〜、うるさくしてゴメンねたかあき。珊瑚ちゃんがちょっとオイタしちゃって」
「あ、あのさ由真、珊瑚ちゃん一体どんな格好――」
「聞くな」
「はい」
由真の目が怖かった。
「んじゃあたしはこれで。花梨もあまり長居しちゃダメだよ」
「はーい」
「にしても」
由真は冷めた目でちゃるとよっちを眺め、
「ブルマにエプロン、ねぇ。正直どーかと思うけど、たかあきも満更でもなさそうだし」
「な!? ち、違うぞ! 別に喜んでなんか――」
「ええ〜、あんなに嬉しそうにしてたのにぃ〜」
「……嘘つき」
よっちとちゃるにつんつんと頬をつつかれる。
「ってやめい!」
その手を払いのけると、揃って小首を傾げる二人。こ、こいつら絶対俺をからかってるな。
「はいはい、言い訳しなくてもいいから。
そっかー。たかあきってコスプレ好きだったのかー。そのうちあたしたちもコスプレさせられたり
するのかしら。メイド服とか」
「俺は雄二じゃねぇ!」
「あ、でも、『まじフル』のジーナちゃんコスなら一度くらい着てあげてもいいわよ。三万円くらい
するけど、たかあきが買ってくれるならね」
「ジーナ? 誰それ?」
「メイドさん」
ダメだこいつ。
花梨もキツネもタヌキもいなくなり、また部屋に一人。
眠気、ゼロ。またも退屈で仕方がない。せめてテレビか漫画でもあればなぁ。
こんこん。
お、誰か来たぞ。
「どうぞ」
「あ、はい、お邪魔します」
愛佳だ。
「たかあきくん、具合、どうですか?」
「うん、だいぶ良くなったかな。もう起きても大丈夫かも」
「あ、ダメ」
身を起こすと愛佳が駆け寄ってきて、
「熱は……、うん、まだ少し高いみたい」
何のためらいもなく俺の額に手を当てる。
「ホント? 具合はいいんだけどなぁ」
「ダメです、まだ寝てなくちゃ」
う、真剣な顔。ここは素直に従うべきだな。再び横になる俺。
「けどさぁ、もういい加減退屈で仕方がないよ。せめて本でも読みたいな」
「本、ですか?」
愛佳はうーんと考え、
「あたしが今読んでる本、持ってきて読みましょうか?」
「読んでくれるの? それってどんな本」
すると愛佳はやや恥ずかしそうに、
「れ、恋愛ものの小説なんですけど」
「やっぱいい」
「ええ〜っ、ど、どうしてぇ?」
「小説なんて全部読んでたら大変だろ。それに俺、恋愛小説ってあまり興味ないし」
「そうですか……。いいお話なんだけどなぁ」
しょんぼりする愛佳。と、
こんこん。
おや、またお客さんだ。
「どうぞ」
「お邪魔しますだぞ、うー」
部屋に入ってきたのはるーこ――あれ、郁乃が背中におぶさってるよ。
つづく。
どうもです。第79話です。
>>499さん、支援ありがとうございました。m( __ __ )m
このスレでも以前話題になったTH2の再アニメ化ってOVAなんですね。
設定画を見る限りだと期待出来そう。(^^)
乙乙
珊瑚の格好がすごく気になるww
河野家乙
頑張ってサービスしたのに貴明に心でキツネとタヌキ呼ばわりされるちゃるよっちカワイソス
最後の、るーこが郁乃をおぶってるの図、漏れには妙にシュールに見えるんですが
珊瑚の格好は、頭の中でスク水に決定されております。
それはそうと、河野家乙。
>507
どんなSSのどんな場面でもスク水固定だったら、場合によって大変な脳内になるなw
ある意味らぶらぶにゅーはーとの世界か?
河野さん乙です
「どういう事よ、それ!!」
夕方。
貴明と一緒に歩きながら帰っている途中、日曜日にデートへ誘ってみたら、初めて、断られた。
「どうしてよ!?何でよ!?」
私は貴明の胸ぐらを掴みムチャクチャに揺さぶった。こんな事、初めてただったから混乱して錯乱した。
「ゆ、由真!落ち着け!」
「落ち着いていられるか!!」
今度は首を思いっきり締める。
「くら、由真、苦しい!ギブ!ギブ!」
タップする貴明の顔が青くなっているのに気づき、慌てて離す。
「ごほ、こほ、けほ・・・」
「ご、ごめん・・・でも、でも、でも!!」
「ちょっと!泣くなよ!話は最後まで聞け!!」
・・・・・・・・・
「・・・それってデートじゃない!!!」
事の一部始終を聞いた。
それは、どう考えても愛佳との『デート』だ。
「まさか!」
だけどコイツ、まったく自覚していないようだ。
「第一、ただ買い物するだけだろ!それ以上もそれ以下もない!!」
「本当?」
「なんなら、由真も来るか?」
「ふん!誰が行くか!バカ貴明!!」
いくら知り合いで、私の友達とは言えども貴明が他の女と仲良くしている姿は見たくない。
貴明は私だけを何時も一番近い距離で見てもらいたい・・・
貴明をほっといて少し先を行く。
「待ってくれよ」
「ふん!」
「今度、ちゃんと埋め合わせするからさ!!」
「ヤックとアイスと学食奢り!」
「・・・はい」
「それに、もし愛佳に手え出したら・・・」
「出すハズ無いだろ、俺は由真にゾッコンだからな!」
「・・・っ・・・わ、わかれざよろしい!」
何でこういう事をサラリと言うかな・・・
でも・・・
ふふぅ・・・ゾッコン何だ・・・
別に貴明が信用出来ないワケではない。
ただ、相手が愛佳だし・・・
女の私でも可愛いと思うし、意外にデカい。
・・・多分、私以上かな・・・
でも、愛佳だから・・・大丈夫かな。
何時もどうり別れ道の十字路にさしかかる。
私はくるりと回り貴明を見つめる。
「仕方ない、今回は私の過大な心で許してやるかな!」
「そうか・・・」
「ただし!!」
辺りを見回す。
よし、誰もいない・・・
「・・・キスして・・・」
「・・・いいよ・・・」
私は、気づいていただろう。
愛佳の気持ちに。
貴明に対する愛佳の気持ちに。
でも、気づかないフリをした。
514 :
雲民:2006/10/31(火) 14:55:12 ID:8Xws0zVkO
雲民です
中編と言うより間章です
一ヶ月くらい出てこなくても忘れやしないんだから
そんな細切れに投稿しなくてもいいんじゃない?
その辺は作者の自由でいいだろう。
毎回1レス分だけ、とかは流石にウザいけど。
でも、やっぱりこれの倍位の量で毎回来ていただいた方が「あ〜読んだ」って気になるな。
それはそうと、河野家さん&雲民さん、乙
思いつき 閉鎖か。
メイドロボ姉妹SSとか、好きだったんだけどなあ。
インターネットアーカイブでも、まだ存在してないし
誰か、キャッシュ残ってる人居る?
>>450 イルファ→瑠璃のSSだと
イルファさんが瑠璃ストーカー化or瑠璃の意志関係無しで好き放題して
瑠璃ちゃんが嫌がってもさんちゃんがらぶらぶや〜と言って拒否権無し
というSSしか記憶がない_| ̄|○
正直そういうSS見せられると瑠璃が玩具or人形扱いになってて
イルファさんがうざいので(つか個人的にはもう本編とキャラが別)
百合以前にビミョー
普通に一緒に料理したり買い物したりしてるほのぼのとしたものなら是非見たいけどな
>>520 俺も大手メイドロボSSサイトのイルファさんは本編とキャラが違いすぎると思う
違うっていうか性格の一部ばかりが誇張されすぎて何か違う気がするんだよな
ただの妄想エロキャラに成り下がってる事もあるし
ただSSの完成度自体はすごい高いしシチュもすごいイイと思う
俺にはあんなレベルの高い文章は書けそうにないし
個人的にはまずさいのイルファさんが一番本編のイメージに近くて好きかな
テックジャイアンを読んだ。
……シルファって寡黙なんだな。なんか設定だけ見るとダウナーキャラっぽいよ。
ちょっとこれはwktkしてきた。wktkついでにSSも書きたくなってきた。
524 :
名無しさんだよもん:2006/11/02(木) 16:06:17 ID:TMO2z+4w0
べんとら べんとら べんべんとら!
素敵な 素敵な 花梨ちゃん!
一番人気の花梨ちゃん!
私、頑張ったから・・・もういいんよね 休んでも、いいんよね
ごめんね・・でも、私は 全部やり終える事が出来たから
だから ゴールするね
もう一度だけ頑張ろうって作った このミステリ研
たかちゃんと出会ったあの日から始まった高校生活
色んな事があったりしたけど 辛かったりも 楽しかったりもしたけど・・・
私、頑張って良かった
べんとら べんとら べんべんとら!
素敵な 素敵な 花梨ちゃん!
一番人気の花梨ちゃん!
よかったら感想お願いします
たまに花梨本スレにSS投下してるんですがリアクションが無いもんで・・・
黄色信者は最低だな
>>523 性格は瑠璃ちゃんみたいな感じがいいな
というかそうだと信じてる
>>519 そう言う事だったのか。
思いつきのサイト自体と言うか、HIRO氏のSSが気にいってたから
時々見てたんだけど。個人HP持ってないみたいだし、諦めるしか無いか。
はるみ VS タマ姉 VS ささらのエロエロ☆タカ棒争奪戦SSはまだかい?
530 :
名無しさんだよもん:2006/11/02(木) 17:54:03 ID:rdm5z4Ur0
そこから4Pだな
タカ棒の武装錬珍で全員貫きます。
そしてタカ棒は黒くなります。
決め台詞は「精液をぶち撒けろ!」か
>>527 寡黙を通り越して全く喋らない、って書いてあったから多分違う気がする。TH2にはいなかった感じかな。
環とこのみは、どうやらこのみノーマルEND後臭い。三角関係勃発?
>534
来栖川先輩って人見知りする人だったっけ?もしそうなら同じキャラ設定っぽいな。
>>533 琴音が若干似てるかな。
けど極度の人見知りで一部の人間以外とは全く喋らないキャラとなると過去の似たキャラってあんま思いつかないんだよな。
人見知りのキャラでも結構喋ってるし、無口キャラは人見知りだから無口ってわけじゃないし。
うたわれ序盤のアルルゥを大人しくさせた感じかな、と思っている。
鏡を見なよ
寝てる以外することがなく、退屈している俺のために話し相手になってあげると言ってくれた花梨。
話す内容はミステリばかりだけど、それでも今の俺にはありがたいんだよね。
そこへやってきたのはちゃるとよっち。何を考えてんだか、体操着にエプロンという珍妙な格好。
目的はやはり缶詰ミカンを俺に食わせることで、しかも今度はどっちが先に食わせるかで競っている
とのこと。何でもコレで女の価値が決まるんだとか。そんなの俺の知ったこっちゃないよ。
その時、廊下からもの凄い音。珊瑚ちゃんが俺の部屋に行くのを瑠璃ちゃんが必死のタックルで
止めたらしい。何だか凄い格好をしていたようなのだが、後からやって来た由真にそれを尋ねると、
鬼のような形相で「聞くな」と言われた。怖かった。
花梨たちがいなくなり、またも退屈な時間を過ごす俺。そこへやって来たのは愛佳。退屈を訴える
俺に愛佳は本を読んでくれると言うのだけれど断った。だって恋愛小説なんて趣味じゃないもの。
そこにやってきたのはるーこ。その背中には郁乃がおぶさっている。何か奇妙な光景だなぁ。
「具合はどうだ、うー?」
「ああ、だいぶ良くなったんだけど――」
愛佳を見ると、「ダメですよ」とでも言いたげな顔。
「まだ寝てなきゃダメみたい」
「そうか。風邪は万病の元と言うからな、養生しろ、うー」
そう言って近づいてくるるーこ。どうでもいいが宇宙人のクセに妙な言葉知ってるな。
「ところで、なんで郁乃が?」
「そうだよ、郁乃、来ちゃダメって言ったのに」
郁乃を叱る愛佳。その目は結構真剣な感じ。
郁乃の病気のことはよく知らないけど、もしかして風邪が移ると大変なのだろうか?
すると、るーこにおぶさったままの当の本人は、
「はいはい、二人っきりのところをジャマして悪かったわね」
「な!? そ、そういう意味じゃないよぉ〜!!」
真っ赤になって否定する愛佳。
「ゴメンねお姉ちゃん。野暮なことをするつもりはなかったんだけど、どうしても見たくて」
「み、見たいって、何が?」
すると郁乃はニンマリと笑み、
「このバカが苦しんでるところ、よ」
るーこに降ろしてもらった郁乃は、俺の側で頬杖をつくと、
「バカは風邪引かないって言うけど、あれは嘘だったんだね。バカも風邪引くんだ」
「ああ、見ての通りだ」
毒づく俺。しかし郁乃は気にすることなく、
「結構顔赤いね。どれどれ」
何の断りもなしに俺の額に手を当てると、
「ふーん、熱結構あるね」
「当たり前だ。熱がなかったら死人だろうが」
「何それ、揚げ足取りのつもり?」
郁乃がケラケラと笑う。――くそ、何かムカツク。
「お前、俺がこんななのが楽しいのかよ?」
すると郁乃はさも当然と言った顔で、
「うん、楽しい」
げ、マジかよ。
「普段、人が満足に歩けないのをいいことにさ、車椅子勝手に動かしたり、お姫様抱っこしたりして
くれたじゃない。だから今度はこっちの番ってワケ」
「な!? おいおい車椅子はともかく、お姫様抱っこは双方同意の上じゃねぇか!
って言うかこっちの番って、お前、何するつもりだよ!?」
すると郁乃は何故かうーんと考え、そして、
「最初は見て笑ってやるだけのつもりだったけど、考えてみたらそれだと割に合わないわね。
うん、決めた」
「お、おい、決めたって、何を?」
郁乃は再び気味の悪い笑みを浮かべ、
「お世話してあげる、貴明の」
「はぁ!?」
「い、郁乃何言ってるの!?」
驚く俺と愛佳、しかし郁乃は楽しげに、
「氷枕はしてるみたいだけど、おでこに冷たいタオル乗せると更に気持ちいいんだよね。
してあげようか? ああ安心して、顔にタオル被せて葬式のマネとかはしないから」
する、絶対するぞこいつ! あ、でも、
「いや、お前、その冷たいタオルをどうやってここに持ってくるんだよ?」
すると、
「ならば、るーが持ってきてやるぞ。感謝しろ、うーいく」
げ、るーこも郁乃に荷担するつもりかよ。
「うん、ありがとうるーこさん」
郁乃にしては珍しく、素直な感謝の言葉。
「だ、だからダメだってば郁乃! もしも風邪が移ったりしたら――」
「お姉ちゃん心配し過ぎ。風邪引くのを怖がってたら外になんか出られないよ」
「でも、郁乃……」
「先生に言われた通り薬も飲んでリハビリして、今まで何ともなかったんだから。
それに念のため、終わったらうがいとかちゃんとするから。それで安心でしょ」
「う、うん……」
よく解らんが、何か愛佳、このまま説得されてしまいそうだな。
それは、マズイ。あの郁乃の邪悪な笑顔。何を企んでるか分かったもんじゃない。
「あのさ愛佳、やっぱ郁乃には無理をさせるべきじゃ――」
「分かったわ郁乃。せっかく郁乃がやる気になってるんだもの、それを止めるのは良くないよね」
っておい! 手遅れかよ!?
「じゃあ、たかあきくんのことお願いね。それから、もし万が一、少しでも身体がヘンだと思ったら、
無理しないでるーこさんに言うのよ。るーこさん、お願いしますね」
「任せておけうーまな。うーもうーいくも、るーがキチンと面倒見るぞ」
るーこのその返事に安心したのか、愛佳が立ち上がる。
「じゃあたかあきくん、あたし、下に戻りますね」
「ま、愛佳……」
口には出せず、「行かないで」と目で訴えてみる。しかし愛佳は俺には目もくれず、
「じゃあ郁乃、くれぐれも――」
「分かってるってば。お姉ちゃんホント心配性なんだから」
郁乃に素っ気なくあしらわれ、やや寂しそうに部屋を出ていく愛佳だった。
愛佳が出ていったあと、るーこも一旦部屋を出て、先程の郁乃が言っていた冷たいタオル(正確
には水に浸したタオル入りの洗面器)を持って戻ってきた。
るーこは郁乃のすぐ脇にそれを置き、郁乃は洗面器からタオルを取り上げ、軽く絞って、
「はい」
ぴとっ。
額の上にタオルが置かれた。おお、冷たくて気持ちいいぞ。
「あー、いい気持ち」
思わず口に出る。すると、
支援
支援
「でしょ。あたしも熱が出たときはお姉ちゃんにこうしてもらったからね」
やや自慢げな口調。そんな大したことじゃないと思うのだが……、まぁ、郁乃の場合はなぁ。
「他には、どんなことしてもらった?」
何となくそんなことを尋ねてみる。
「他に? 熱が出たときにってこと?」
「いや、それに限らず、入院してたときとか、家の中でとか、何でもいいぞ」
「うーん、例えば、車椅子に乗るのを手伝ってもらったりとか」
「それは知ってる。俺だってやったもんな。他には?」
「そうね、例えば、点滴が切れそうになったら看護士さんを呼んでくれたりとか、薬を一回分ずつ
分けておいてくれたりとか、売店に買い物しに行ってくれたりとか。あ、そう言えば」
そこで郁乃は何か思いだしたようで、
「入院中にね、こんなことがあったの。
お姉ちゃんが『郁乃、何か飲みたい?』って聞いてきて、その時あたし『イチゴが飲みたい』って
答えたの。あたしは病院の売店で売ってるイチゴ牛乳のつもりでそう答えたんだけど、それを聞いた
お姉ちゃんが部屋を出て、それから1時間くらい後だったかな、『郁乃、お待たせ!』って荒い息で
戻ってきたのよ。お姉ちゃんったら――」
そこで郁乃は、呆れたような、それでいて嬉しそうな笑みを浮かべ、
「イチゴのジュースを自分で作って持ってきてくれたの。
売店はおろか、町中の店を探してもイチゴジュースが見つからなくて、それでお姉ちゃん、果物屋
でイチゴを買って、家に帰って自分で作ってきてくれたんだって。
それを聞いたら、ホントはイチゴ牛乳が欲しかったなんて言えないじゃない。仕方がないからそれ
を飲んだわよ。美味しかったけどね」
……い、いい話だなぁ。
やっぱ愛佳は、妹思いの優しいお姉ちゃんなんだなぁ。
「郁乃、今の話聞いて俺感動しちゃったよ。郁乃はお姉ちゃんに足向けて寝られないな」
「るーも感動したぞ。うーまなを大切にしろ、うーいく」
郁乃の手を取り、目を輝かせるるーこ。
「う、うん」
やや照れながらもそう答える郁乃だった。
「貴明ってさ」
頭のタオルを取り替えつつ郁乃は、
「実際のところ、お姉ちゃんのことどう想ってるの?」
いきなりな質問である。
「ええと、その質問につきましては返答を控えたく――」
「あ、逃げた」
何とでも言え。いい加減このテの質問にはうんざりなんだ。
「他の質問でしたらお答えいたします」
「あ、そう。なら、このみのことは?」
「返答を控えたく」
「由真先輩のことは?」
「返答を控えたく」
「るーのことは?」
どさくさに紛れてるーこ。けど、
「返答を控えたく」
「何よ、全然答えてくれないじゃない」
「いや、だから、そっち方面の質問はお断りってことだよ」
「じゃあ、昔付き合ってた女の子とかは?」
「いないよ」
「好きだった女の子は?」
「うーん……、はっきり好きだってコはいなかったかな」
「はぁ、寂しい人生送ってきたのね」
郁乃が呆れ顔。
「ほっとけ。そう言うお前はどうなんだよ?」
「あたしはずっと病院通いだったからね。恋愛なんてしてるヒマなかったわよ」
「入院してる患者さんの中に、格好いい男の子とかいなかったのか?」
「あたしは個室。他の患者のことなんか気にもとまらなかった」
「じゃあ、担当医にイケメンのヤツとかいなかったのか?」
「先生はおじさんばかり。そんなの、少女漫画じゃあるまいし」
フンと鼻を鳴らす郁乃。
「ふぅん、お前、漫画読むのか」
すると郁乃は、
「ま、まぁ、最近このみがよく貸してくれるから……」
「へぇ、どんなの?」
「ど、どんなのって言われても……」
返答に困っている様子の郁乃。
「気に入ったのがあるならタイトル言ってみてくれよ。俺もこのみから借りたことあるから、ひょっ
としたら分かるかも。あ、でも最近のはあまり知らないな」
「タイトル……えっと……」
郁乃はぼそっと小声で呟くが、さっぱり聞こえない。
「え? よく聞こえなかった。もう一回言ってくれ」
「え!? あ、ぅあぅ……」
郁乃、言葉を詰まらせたと思ったらいきなり、
「べ、別に好きな漫画なんかないわよ!
ど、どれも同じような話で、そ、そんな恋愛なんて何が面白いんだっつーの!」
「うおっ!? お、怒らなくてもいいだろ」
「怒ってない!」
怒ってるじゃん。うう〜っ、やっぱ女の子の気持ちはよく分からんなぁ。
「マンガか。マンガなら、るーも最近読んでるぞ」
それまで黙っていたるーこが口を開く。
「へぇ、るーこも漫画読んでるのか」
「うーかりが貸してくれたのを読んでいるぞ。
”うー”にまつわる様々な謎や陰謀を解明するという内容だ。なかなか興味深いぞ。
もっとも、”宇宙人”関しては誤解や偏見ばかりで閉口ものだが、メリケンの手先が情報を隠匿
しているから、それも仕方があるまい」
「あ、あのさるーこ、それって何て漫画?」
「これだぞ、うー」
るーこが差し出した漫画。そのタイトルは――『NNR』。
「あのさ、郁乃」
「なに、貴明?」
「のどが渇いた」
俺がそう言うと郁乃は眉をひそめ、
「あたしに何か持ってこいと?」
「いやゴメン。言ってみただけ」
「るーが持ってきてやるぞ。何が飲みたい、うー?」
るーこに尋ねられ、その時、不意にさっきの郁乃の話を思い出した俺は、
「愛佳のイチゴジュース」
と言うのは冗談でぇ〜、と言おうとしたのだが、それより早く郁乃が、
「貴明、それ本気で言ってるの?
言っておくけど、もしお姉ちゃんが聞いたら本当に作ろうとするよ」
「え? いやあの本気では――」
バタン!
「たかあきくん!」
げ、愛佳!?
「たかあきくん、偶然通りがかったら聞いちゃったんだけど、イチゴジュース飲みたいんですか?
じゃあすぐに作ってきますね!
あ、イチゴ買ってこなくちゃ。それから、えっと、たかあきくんの家にミキサーはありますか?」
「み、ミキサー? いや、そんなのは無かったような……」
「うーん、じゃあ一旦家に帰らなくちゃ。ちょっとだけ待っててくださいね」
スタスタと部屋から出ていく愛佳。
「ま、まさか、本当に聞いてたとはね……」
驚いてる郁乃には構わず、俺は慌ててベッドから飛び起き、愛佳の後を追いかける。
「ま、待ってくれ愛佳! 今のは冗談! 冗談なんだよ!」
すると、階段の途中で振り返った愛佳は、
「冗談、なんですか? あたしのイチゴジュース、飲みたくないんですか?」
残念そうな、愛佳の目。
「あ、あうぅ……」
つづく。
どうもです。第80話です。
>>546さん、
>>547さん、支援ありがとうございました。m( __ __ )m
今回もまたまたTH2と関係ない話題です。
念願のPS2版うたわれるものを始めました。
アニメだと分かりにくかった専門用語などがテキストになってる分わかりやすいとか、戦闘パートは
思っていたよりとっつきやすいとかいろいろ感想はありますが、何よりも、
ア ル ル ゥ の か わ い さ は 異 常
アニメ以上にハクオロさんに甘えまくるアルルゥがたまらん(;´Д`)ハァハァ
乙です
毎週この瞬間が一番の楽しみ
GJ。
イチゴ牛乳が飲みたくなってきた。
もちろんイチゴジュースも飲みたいが。
河野家には毎回やられている
いちごジュースって市販の飲んだことあるけどいまいちだったし、ミキサーだけで作れるのかなアレ
いちごミルクなら作れるけど…
558 :
a:2006/11/07(火) 06:57:39 ID:Bta3ub4I0
そろそろ、さーりゃんが欲すぃなぁ・・・。
ともあれ、河野家乙。
>>557 ミキサーだけだと水臭い&青臭いモノが出来上がる。
キチンとした苺ジュースを作るときは中央の白い部分をナイフで取り除き、外側の赤い部分だけを使う。
ナイフくらいはどこの家庭にもあるから、いちいち尋ねなかったんだろう。
>>559 なんと
一杯作るのに大量にいちご使いそうだ…すごいな
>あたしのイチゴジュース、飲みたくないんですか?
愛佳タンジュースが飲みたいでつ(*´д`*)ハァハァ
漏れはミルクが(*´д`*)ハァハァ
日曜日の九時五十五分、西側の駅前。
まだかなまだかな、遅いな〜・・・速く会いたいな〜
約束の時間まで・・・もう少しある。
今日は貴明君との約束、一緒に買い物に行く日だ。
昨日はあんまり眠れなかった。今日の事が楽しみで仕方が無かったのだ。
ただ、貴明君と買い物に行くだけ・・・
だけど、だけど・・・
でも、貴明君にして見ればこんな事は・・・
あ、けど・・・
そんな事ばかりが、ずっと頭の中でぐるぐると回っている。
その中で、時間はゆっくりと流れていった・・・
「よ!小牧!」
突然、後ろから声がしたので振り返る。
でもそれは声だけで分かる・・・
「河野君!」
やっぱり河野君だった。
初めて見た私服の河野君は何だか何時もと違っていた。
はっきり言ったら、カッコイイ・・・
「ん?何か可笑しいか?」
「そんな事無いよ!」
「そうか、良かった」
笑ってくれた。
服や場所が違うだけ、こうも違うのものかな。
司書室で二人きりでいる時より私は今の方が凄くドキドキしてる・・・
「流石だないいんちょ。五分前に来てたのか」
「当たり前だよ〜でも、ここではいいんちょって呼ばないでよ〜」
「悪い悪い」
・・・約束の時間から一時間くらい前からいた何て言えない。
「由真とは違うな〜」
「・・・由真は遅れて来るんですか?」
河野君はほくそ笑んだ。
「時間どうりに来た方が少ないぜ。その癖俺が遅れると大変なんだよ」
「あらら・・・」
・・・二人の時だけは、『由真』の名前を聞きたくなかったな・・・
「さて、行こうか」
「うん!」
・・・ここだと『小牧』と『河野君』なんだ・・・
なんだか・・・私と河野君の距離を、改めて実感した・・・
駅前デパートの地下。略してデパ地下に私達はいる。
休日だからか混雑はしていたが、息苦しくは無い。
色々なお店が乱雑に置かれていて、どこに何があるわからないが、何度か来ている私は少し慣れていた。
河野君は周りを物珍しそうに見ていた。
「へ〜こんな所あったんだ」
「知らなかった?」
「由真とだとこんな所来ないからな〜」
「・・・そう何だ」
「あいつ、映画を見た後とかゲーセンに来てずっと勝負してるから、あまりどこも行かないんだよ」
「河野君も大変だね」
私は出来るだけ笑顔作った。
「ま、俺もそれが好きだからな」
「好きなんだ・・・」
「熱く成ると手に負えないけどさ、そこが可愛いんだよ」
「へぇ・・・」
・・・由真、愛されてるんだ・・・
何だろう、この初めて味わう感情は・・・
心の中に、濁った何かが流れて込む・・・
気持ち悪い感情・・・
「小牧、これ何てお菓子だ?」
「あ、それはね・・・」
でも、河野君の顔を見たらそんな感情もどこかへ消えていった・・・
貴明君との買い物は、デートはすごく楽しい。
何時も誰かに遠慮しているのに、貴明君の側だとありのままの自分でいられる。
何だろう?
貴明君からでるオーラとでも言うのだろうか、その雰囲気で心が安らぐ・・・
多分、それは・・・
私とは違う優しさ・・・
『博愛』の優しさ・・・
全てを包み込む優しさ・・・なのだろう・・・
でも・・・由真に向けられるモノは、それとは全然違う・・・
ただ純粋な由真への『愛』・・・
そして、由真もそれを全力で受け止めてそれ以上の気持ちで答えている。
お似合いな二人だ。
貴明君は私なんか眼中にもないのだろう・・・
それでも・・・構わない・・・
一緒にいて、由真が知らない私と貴明君との時間があればそれでいい。
だから・・・
どうか、今この時が・・・
ずっと続いてくれば・・・
それだけで・・・いい・・・
どうか・・・このままでいて・・・
・・・願いは、叶わないかった・・・
楽しい時間はあっと言う間に夕暮れへと変わる。
デパ地下を出た後でも二人は色々な事を話しながら歩いた。
私と河野君との距離は・・・友達として歩くには近く、手を繋ぐには遠い・・・
凄くもどかしい距離だ・・・
「ここまでだな」
「・・・うん」
とうとう、別れ道に・・・由真と貴明君がキスした十字路にさしかかる。
河野君は真っ直ぐの道、私は左に行く道に家はある
・・・由真の家は右の方だったかな。
「悪いな、沢山買わせちゃって」
「良いわよ〜何時もこれくらい買ってるから」
河野君が持っていた袋を渡された。袋はズシリと重かった。
「それに、重いだろ?俺が家まで持って行こうか?」
「大丈夫だよ、私の家はここからすぐだから」
「色々と悪いな」
こんな事と代わりに、こうやってあなたの側にいられるのなら・・・安い物だ。
「それじゃあ・・・またな」
河野君がゆっくりと私から離れて行く。
・・・
「貴明君・・・」
「ん?何だ小牧?」
私の方を少し振り返る。
夕日の逆光で顔は良く見えなかった。
・・・ねえ、もしも・・・私がもっと積極的だったら、あなたに好きと言えたら・・・
貴明君は私の事を好きになってくれたのかな?
私はあなたの彼女になれたのかな?
私を抱きしめたり、キスしたりしてくれたのかな?
あなたの側に、私はいれたのかな・・・
ねぇ貴明君・・・
町景色。風。夕焼け。喧騒。そして十字路に伸びる、二人の長い影、
「・・・!!」
そんな日常の風景に混ざりながら、
私は、
貴明君にキスをしていた・・・
569 :
雲民:2006/11/08(水) 23:02:22 ID:eoDsxaNcO
交通事故で膝の皿が割れてた雲民です
草壁さんがいれば・・・
賠償金で寿司を食いました
だけど、そのせいで最近はむちゃくちゃ忙しいです
小説がゆっくり書けない・・・
>569
交通事故乙。
これくらい長さがあると話が分かりやすくていいですな
このキスを、由真が見てたりするのかな?引き続きがんがれ
「くひゅー、ぴすー、ふひゅうー、すー」
寝ている。浜辺で。
チビッコが。
「あらあら、本格的ね」
「目一杯遊んでたからなー」
貴明が優しく視線を落とす。
このみは、幼馴染みの膝に頭を乗せて丸くなっている。
環が掛けてやったバスタオルにくるまって、喉でも鳴らしそうなコタツ猫。
振り返って午後の日程。メシ食ってやがて西瓜割り。
最初は愛佳。
「う〜、たあ!」
パコッ。
「わ〜れ〜な〜い〜!」
ぺこっ、ぽこっ、ピコッ、ぷへ。
「……当たってもどうということはないな」
二番手、玲於奈。
「……あいつはどこまで行ったら自分が間違ってる事に気づくんだ?」
「認めたくないものです。自分自身の、方向音痴ゆえの過ちというものは」
結局、隣のグループに突っ込む寸前で雄二が止めた。
三番目、このみ。
「ぐるぐるぐるぐるぐる〜。うお〜、目が回る〜!」
どってーん。
「なんだか既視感を感じるんだけど」
「お前が感じている感情は精神的痛ッ!」
「貴方達、日本語変よ。なに言ってんの」
以下省略。
結局、戦いは薫子が誘導したカスミが包丁で目標物に穴を開け、
貴明地球割りの後、雄二が環を狙った一撃は白刃取りの前に敗れ去り、
逆襲の環が雄二の腹の上にセットした球体を真っ二つにして無事終了した。
「あまり、無事じゃなかったんだが」
腐った雄二。
「自業自得ですし、お姉様が外すわけがありませんわ」
玲於奈が雄二の取り分を手渡して、そのまま隣に腰を下ろす。
「信用してるなあ……」
「お姉様は、私達の道標ですから」
「九条での姉貴ってのは、そんな大層なもんだったのか」
赤い果肉を囓りながら、環に視線を向けると、
「それはもう!」
玲於奈の目が輝く。
これは語りに入る目だ。雄二は己の失策を悟ったが、観念した。
「九条は名門家の女子が集まる学校故に、派閥争いが激しく」
また上下関係も厳しい。全寮制のため、私生活にもその影響は及ぶ。
「それでもお姉様がいらっしゃる間は、それほど酷い事はなかったのですが」
家の格も申し分なく、実力は群を抜いている上に、そういったものを嫌う。
彼女の前では、上級生達も理不尽な締め付けを行う事はなかった。
「外来で無口なカスミなどは、先輩方に目を付けられていましたから」
それはあの性格では、等と軽々しく言うものでもない。雄二は心の中に止めた。
「カスミはルームメイトに部屋換の要望を出されていたんですのよ」
「ん? 薫子と同室じゃなかったか?」
「薫子は4人目ですわ。先輩方の“忠告”を断って」
そんなわけで二人と、旧友である薫子を優先して主流派と対立した玲於奈を、
まとめて救っていた−当人には自覚はないだろうが−のが環だった。
「それで、カスミは何かとお姉様について回るようになって」
薫子と玲於奈も一蓮托生。
「各所でお姉様の素晴らしき御活躍を目の当たりにした私達は、深い敬愛の念を抱くようになったのです」
長話が終わった。
「それなのに、お姉様が出て行かれてしまって!」
終わってなかった。
「こちらにいらしてからのお姉様は楽しそうでしたから、まだ我慢もできましたが……」
「ごちそうさまー!」
が、元気な声に、玲於奈の口上は中断。
「バレーでもやるか?」
「あっ、タカ君膨ましちゃダメ。このみに貸してー」
貴明から成長途上のビーチボールをもぎ取って、かぷっと吹き口をくわえる。
「焦るとまた目え回すぞ」
「うん。ゆっくりゆっくり……ほわぁ、タカ君の息が逆流したぁ」
「シンナー吸ってんじゃないんだから」
ぎゅわんっ!
唸りを上げて急降下したボールは、雄二の目前、地面スレスレでホップする。巻き上がる砂煙。
「ぶへっ!」
顔面直撃。ビーチボールとは思えない威力に砂の上をのたうちまわる雄二。
とんっ。
前後してコートに降り立つのは、スパイクを打った環。
ぶるんっ。
着地は軽やかだったが、胸の揺れ方には、だいぶ重量感があった。
「「流石はお姉様!」」
コクコク……。
「玲於奈のトスよ。でも歯ごたえがないわねえ、これじゃ」
「2対6なんだぞ!」
「あははは、じゃあ、あたしが貴明くんの方に行き……」
「要らない」
「うぅう、みそっかすぅ〜」
拗ねる委員長。
動く度にすっ転ぶその姿に、水着がビキニだったらと残念がった通行人は、少なくなかった。
「疲れましたね。少し休んでよろしいでしょうか」
薫子は、自分よりもカスミに気を遣ったようだ。
「では、わたくしも」
「ええ〜、もう終わり〜?」
「あっそうだ。こんなの持ってきたんですよ〜」
愛佳がちょこまかと荷物に戻ってがさごそ。
「じゃーん」
取り出したのは、プラスチック製の円盤。
「フリスビーか」
「いくよぉ、このみちゃん」
ぶんっ、へろへろ、ぽて。
「あ、あれ? 飛ばない?」
トタタタタッ。首を捻る間に、このみがダッシュ。
「はい、小牧先輩」
「あ、ありがと。今度こそっ」
ふらふら。べしょっ。
「さ……さっきよりは、飛んだよねえ?」
「俺に聞かれても」
「チビッコ、こっち貸せや。ほれ、貴明っ」
「てりゃっ!」
雄二のパスに背走して飛びつくこのみ。惜しくも届かず。
「おととっ」
勢い余って尻餅をつくが、すぐに跳ね起きる。
「タマ姉行くよっ」
「とうっ! うりゃ! えいっ!」
「オーライ、小牧さんっ」
4人の間で飛び交う円盤と、それを追いかけて砂浜を走り回る少女。
「……何か連想しませんこと?」
「ボール取ってこい、の犬ですか?」
ウンウン……。
あーだこーだで、昼下がって今に至る。
「ふにゃあ」
貴明の膝に顔を擦りつけるこのみ。
「……」
その様子を、ちろちろと伺う愛佳。
さっきから、微妙に口数が減っている。
「しかし暑いな」
やや唐突に、雄二が伸びをした。
「貴明、アイスでも買ってこねえか? 委員長も」
「あっ、うん。そだね」
「タマ姉、このみをお願い」
「いいわよ」
貴明はこのみの下に左手を差し入れ、右手で頭を支えて足を抜こうとする。
「んんん〜」
その太股に、手がかかった。
「このみ?」
「タカくん…いっちゃやだ……」
一瞬の硬直。
「……むにゃむにゃ、まだ食べ終わってない……」
顔を見合わせる環と貴明。
「私が行くわ。タカ坊とこのみの分も買ってくるから」
「「でしたら、私達も!」」
スック……。
「ごめんね。俺はかき氷、なんでもいいから」
「なら俺もアイスお願いすっかな。委員長は?」
雄二は上げかけた腰を下ろし、財布を捜す愛佳も留める。
「えっ? で、でも」
「買って来ますわよ」
「じゃ、じゃあ……かき氷のイチゴで」
「判りましたわ」
「……あと、チョコバーもお願いしますぅ」
環と三人娘が去り、手持ちぶさたの荷物番。
「しかし良く寝るなあ……うり」
バスタオルから飛び出した足を突っつくと、ひょこんと引っ込む。
「やめなよ雄二」
「お前ってさ、猫が膝の上で寝てると起きるまで動かないタイプだよな」
「時間になれば起こすって」
「貴明くんの膝は、気持ちいいからつい寝過ごしちゃって……」
「確かに、幸せそうな寝顔だな……ん?」
このみに落とした雄二の視線が、はたと愛佳に戻る。
「気持ちいいから? 寝過ごす?」
「あっ、そ、それはそのっ、べ、べべべべ別に深い意味じゃなくてっ」
「た、たまたま家で遊んでる時にだな!」
大騒ぎして、
「うー、うるひゃーい」
寝た子が起きた。
「ん、ふわ? ここどこだろ〜」
ごしごし顔を擦ったこのみ。
「あ、タカくんだ〜、だっこ〜」
「こら、寝惚けるな」
「えっ、えっ、えっ?」
「ふに〜……あたっ!」
すけん、と雄二が頭を小突く。
「もう、いたいよユウ君。って、あれ?」
きょろきょろ。
「えーっと、……海水浴、だっけ?」
コクコク。カスミよろしく頷く三人。
「あら、起きたのこのみ?」
買い物を終えて、環達が戻ってきた。
約1名を除いて。
「タマお姉ちゃん。おはよう……ああっ、アイス食べてる!」
「このみの分も買ってきたわよ」
「やた〜」
「ん? 玲於奈はどうした?」
「やっぱり戻ってないんですね?」
雄二の質問を質問で返す薫子。
「売店で買い物をしている間に、姿が見えなくなってしまって」
「またかよ」
少し遡る。
「あっ、あそこですね」
売店を見つけて、羽織った上着の財布を確かめる薫子。
「かき氷はあっちね」
環は、水着の上からセーターを被って、小物入れをぶら下げている。
二手に分かれるところ、カスミは当然環に貼り付く。
玲於奈は、ちょっと迷った。
とん。
「あ、すいません」
水着のカップルとぶつかって、今回は相手が謝ったので何事もなく、
「あら? なにかしら?」
落とし物。
「17番? 番号札ですわね。さっきの人?」
相手は、だいぶ先に行っている。
また少し迷ってから、玲於奈は二人を追いかけた。
そのころ売店では、
「玲於奈? お姉様の方に行ったのかしら? こっちを一人にして」
薫子が、少し憮然として。
かき氷屋では、
「二つで良かったわよね?」
コクコク……。
環とカスミが、まったく気にしていなかった。
前方に、人だかりが見える。
仮設のステージで、なにかイベントをやっているようだ。
番号札を落としたカップルは、その人混みの中に消えていく。
「あっ、お待ちになって」
玲於奈も人波をかき分けるが、一歩届かない。
「結構人多いな」
「なんだか鬱陶しいわね、参加するのやめるわ」
「じゃあ、あっちで涼もうよ」
やっと追いついたと思ったら、そんな会話をしながらステージを離れていく。
「あの、これっ」
「17番〜、17番の方いませんか〜!」
「え? 17番? これ?」
立ち止まった間に、人混みに巻き込まれた。
「貴方何番の方ですか?」
<係員>の腕章を巻いた男性が、彼女の番号札に気づく。
「あっ、17番ですね? 探してたんですよ。こちらへどうぞ」
「え? ちょっと、いえ、私は、これは拾っ……」
「時間押してるんで。すぐ上がりますよ」
「えっ? えっ? えーっ?」
抵抗するタイミングを失った玲於奈が連れてこられたのはステージの袖。
看板には、「夏だ!水着だ!○×海岸カラオケ大会!」との看板。
「次ですから、早く曲を選んでください」
「いえ、その、私は……」
ららほ〜し〜が〜いま〜うんめ〜いを〜えがく〜よ〜♪
「……」
ステージの上で、前の参加者が緒方理奈を歌っている。
「……」
かなり下手くそ。
「同じ曲で、お願いします」
新米緒方理奈信者玲於奈の、ファン魂に火がついたのだった。
支援
「どこにいったんだか」
周囲を見渡して、雄二がぼやく。
「私は堤防の方を探してみますので、雄二様はあちらを」
「ああ、どっちにしろ姉貴達んとこで合流な」
「ダメなら放送で呼び出しですね」
「ったく、はぐれる以外に芸がないのかよアイツは」
「今に始まったことではありませんわ」
薫子と別れて、砂浜を海岸線沿いに早歩き。
前方から、賑やかな音が聞こえてきた。
「ん? カラオケ?」
黒山の人だかり。
「緒方理奈?」
思わず足を止めるのがファンの性質。
人の群れに玲於奈の姿を探しつつ、耳を向ける。
あ、い、と、いう〜♪
「ぶっ!」
流れてきた声に、雄二は食っていたアイスバーを吹き出した。
「なにやってんだ玲於奈」
ステージの上で歌っているのは、見紛う事なき捜索対象者。
振り付けまで真剣だ。
「しかし上手い。成長したもんだ」
本家を聴き慣れている雄二でさえ感心する出来だった。
野外スピーカーの歪んだ音でも、上手下手は判るもの。
おまけに美人でスタイルも良い、と来れば。
「優勝は、17番の方です〜」
本人に参加の意図がなかった事を除けば、順当な結果といえる。
玲於奈は非常に居心地が悪そうだったが、律儀にインタビューまで受けていた。
副賞のポータブルMDPを小脇に抱えて、会場を離れた玲於奈。
「はやく戻らないと、お姉様達に心配をかけますわ」
それは30分前に思うことだろう。
ともかく、足を早めた。
180度、逆方向だった。
「あ、あら? こんな風景でしたっけ?」
遊泳禁止区域のロープが見えて、人もまばらになって、ようやく違和感を覚える。
ちなみに、このみが泳いでいたのは反対側の遊泳禁止区域付近。
「……」
立ち止まって周囲を見渡す。急に心細くなる。
「彼女ぉ、一人ぃ?」
「きゃ?」
突然声を掛けられて、玲於奈はビクッと身を震わせた。
「そんな驚かないでよー」
「可愛いねー、俺達と遊ばない?」
あまりガラも頭も良くなさそうな男2人が、少女の前に立つ。
「つ、連れがいますから、結構ですわ」
逃げるように横をすり抜けるが、男達は両脇を付いてくる。
「えー、そうなの? でもこんな外れでさあ」
「ケンカでもしたんじゃないの? なんなら合流しようよ?」
「! 触らないでくださいっ!」
肩を掴んだ手を振り払う。
「イテ!」
振り払われた男が、大げさに顔をしかめる。
「あーあ、血ぃでちゃったよ」
「どうしてくれんだよ、損害賠償だな」
下卑た笑いを浮かべながら絡まられる。困惑する玲於奈。
「なにやってんだよ!」
その時、雄二が追いついた。
「あっ、雄二さん」
玲於奈は駆け寄って、隠れるように後ろに回る。
「なんでぇ、彼氏連れかよ」
舌打ちする男A。
「けっ、こんなとこで何してたんだか」
「ナニしてたんだろ?」
「下手だからケンカしたってか、アハハ」
「ねえ坊やぁ、俺さあ、彼女にケガさせられたんだよね」
しつこい男B。思った以上に性質の悪い連中だったようだ。
「治療費、払ってくんないかなぁ」
雄二の顔に息を吹きかける。
「雄二さん、そんな事はあ……」
玲於奈の注釈は、最後まで続かなかった。
雄二が無言で、男Bを殴り倒したから。
「な、なにすんだテメ……」
どすっ。色めく相方にボディーブロー。
「お、おいっ!」
白目を向いた男Aを抱えて狼狽える男B。
その隙に、
「行くぞ」
「は、はいっ」
雄二は玲於奈の手を引いて走り出す。
「待てコラ! 覚えてやがれー!」
罵声が遠くなる。
もちろん、待たない。
手を繋いで砂浜を走る二人に、横から口笛が飛んだりしていた。
「こ、ここまで来ればなんとか」
人の多い場所まで来て、一息ついた二人。
カラオケ大会の賞品は、どこかに放り出してしまった。
「大丈夫か? なんかされたか?」
「いえ、肩に触られたくらいで特には」
「そうか、殴ったのはやりすぎだったかもなあ」
「警察に言われたり……」
「ねえだろ。自分の恥なんだから」
「それにしても、驚きましたわ」
「久しぶりにやっちまったなぁ……姉貴には言わないでくれ」
中学までは、このみを守るのが貴明、報復するのが雄二の役割だったが、最近はそんな機会もない。
「しかしな、迷うにも程があるぞ。どこまで行ってんだよ」
「ぶつかった人に落とし物を届けようとしたら、カラオケ大会に巻き込まれたんです」
「ああ、上手かったぞSOD」
「聴いてたんですか!?」
「ステージの下で待ってたのに、反対側に降りやがって」
「すみません」
俯く玲於奈。と、足が止まる。
「どうした?」
「いえ、なんでも、ありませ、あれ?」
言葉と裏腹、足が震え出す。そのまま砂浜にへたり込んでしまう。
「おいおい」
正面にかがみ込んで、玲於奈を覗き込む。
「す、すみません、安心したら、ちょっと……」
力が抜けたらしい。同時に、瞳から涙が溢れ出す。
「ああいう、殿方は、初めて、だった、ので」
声が詰まる。
しゃくり上げる玲於奈。
雄二は隣に腰を下ろして、少女が泣きやむのを待った。
支援
「すみませんでした」
何度目か謝る玲於奈。
二人並んで、売店のあたりまで戻っている。
「そろそろ戻らねえと、放送で呼ばれっちまうな」
「あ」
「どした?」
「いえ、些細な事なのですけど」
ちょっと微笑む。
「クラス別活動の時、仲の悪い先輩に呼び出されまして」
校舎裏で絡まれたところを、環に救出された。
「その時に、お姉様も同じ台詞を話されたのを思い出しました」
「関係ねーだろ、別に」
特に感慨を持つような言葉でもない筈だ。
「そうですね。でも」
玲於奈は雄二を見上げた。
「雄二さんは、お姉様に似てらっしゃいますわ」
「やめてくれよ……」
雄二はそっぽを向いたが、それでも視界の端に玲於奈の顔が入る。
無邪気な顔に、まだ涙の跡が残っている。
「あー、玲於奈?」
「はい?」
きょとんと自覚のない表情。
このまま環の所に連れて行くのは、色々とまずい気がした。
「ちょっとこっち来い」
「はい? はい?」
手を掴んで波打ち際まで連れてくる。
「ど、どうしたんで……きゃあっ!」
雄二はばしゃばしゃと、少女の顔に海水を叩きつけた。
「なにをするのですか!」
そりゃ怒る。
「そのままだと、泣いてたのがモロバレだろうが」
「あぁ……いえっ! それにしてもいきなり!」
納得し掛けて、やはり理不尽に気づき憤慨する玲於奈。
「顔くらい、自分で洗いますから」
太股まで水に進んで、両手で顔を洗う。
「まあ、確かに」
「雄二さん? ちょっと?」
反省した雄二を、玲於奈が手招きする。
「どうした?……のあっ!」
ばっしゃーん。
不用意に近づいた雄二の頭に、思いっきり水しぶき。
「お返しですわ」
「くっ、油断したぜ」
「さ、戻りましょうか」
澄ました顔で玲於奈。
岸に向かって歩き出す。つまり、雄二に背中。
「ふっ、隙ありっ!」
「うぷっ!」
後ろから襲った人工の波に、慌てて振り向く。
濡れた赤髪が、乱れて顔に貼り付いて。
その髪よりも真っ赤な頬。
「や、やりましたわねっ!」
「やったがどうしたっ!」
反撃は反撃を呼び、戦局は激化の一途。
15分後。
「ゆうじくん、れおなちゃん、ほうそうきこえたらおねえちゃんのところにもどってくださ〜い」
迷子の放送で呼び出され、赤面しながら薫子の説教を受ける二人の姿があった。
ついでに、揃ってずぶ濡れだった事も、環に散々からかわれた。
「ただいまぁ〜」
委員長、帰宅。洗濯物を脱衣所に放り込んで、ダイニングのテーブルに就く。
「お帰り」
テーブルには、先客がいた。
「ただいま。あれ? お母さんは?」
「買い物だって」
「そっか。うあ〜、疲れたぁ〜」
テーブルに突っ伏して伸びる愛佳。
「楽しかった?」
「うん、それはとっても」
「あんまり知らない人が多いって言ってたけど」
「大丈夫、みんな良い人だったから」
貴明が聞いたら、一部反論があるかも知れない。
「そうそう、1年生の子が来てたよ」
「そう?」
「うん、柚原このみちゃんっていってね。凄く元気な可愛い子」
「ふーん」
「もしかしたら、同じクラスかも知れないねー」
「別に、どうでもいいわ」
素っ気なく返す。
「で、貴明とは? いちゃいちゃできた?」
「うえ、そ、そんなのしないよぉ」
「何でよ」
「だって、他の人達もいたし、それに、その、そう、全部で8人もいたんだからっ」
「……なんか隠してない?」
「ないない、全然ない! 楽しかったってば、ホント」
「それは疑ってないけどさ」
「でしょでしょ。あっ、お茶淹れてくるねっ」
「……なんだかな」
台所に向かう姉を見送って、小牧郁乃は呟いた。
「まあ、学校行けば、判る事よね」
以上です。どうも全15話(当初の予定)では終わりませんね。計画甘いorz
とはいえ、二学期から話は動きます。次回タイトル「私の郁乃は凶暴です」(嘘)
なお、今回名無しキャラの台詞が多いですが、特にモデル等はありません。
カラオケあったし、志保とか出せれば良かったんですが。
>579>584
こんな夜中に支援ありがとうございました。
ちょうど寝る前に投下が
眠いのでGJとだけ!
花梨ちゃんかわいいいんよ
花梨ちゃん素敵なんよ
ああ、かわいいんよ
人気なんよ
一番人気なんよ
すごいんよ 素敵なんよ
かもかもりんりん かもりんりん
りんりん かもりん かもりんりん
たまごさんどがおいしいな
たまごさんどがおいしいな
りんりん かもりん 一番人気
だいすき だいすき 笹森さん
不人気キャラをぶっとばせ
一番人気だ かもりんりん
>>590 GJ!
これからもSS作家としての憧れであってクレ。
続きも期待してまつ
GJ!!
ADに玲於奈達が出ない事が確定した今、いつも楽しみに待ってます
葉の他のキャラをでしゃばり過ぎない程度に出すとこも好きです
いくのん登場も期待してます
もっと、もっとイルファ分を!…
FDには出ないんだよね…
イルファさんはXRATEDで攻略されたようなものだから……
シルファやはるみが出る以上、間違いなく出番はあるだろうけどな
その分、僕らのイルファにはOVAがあるさ(ニッ
test
どうもです。
プロバイダがアクセス禁止なので携帯で書きます。
風邪ネタ書いてたら、自分も風邪ひいてしまいました。
すみませんが、今週はお休みさせていただきます。
ホントにゴメンなさい。
あちゃ、残念なり。
季節の変わり目ですから拗らせないようにゆっくり休んでくださいね。
来週までwktkしながら待ってまーす。
あらら
この時期の風邪は長引きますから、お体に気を付けて
>598
お大事に
夕暮れ時のアーケードは、俺たちと同じような買い物客で賑わっていた。
夕飯の材料を買いにきた主婦や、学校帰りに立ち寄った学生。中には二人で買い物に来
ているんだろう。仲良く歩く中年の夫婦の姿もある。
それと数は少ないけれど、どこかの家で働くメイドロボと。
「申し訳ありません、貴明さん。お買い物に付き合っていただいてしまって」
「いいって。イルファさんにはいつもお世話になってるんだから。これくらい手伝って当
然だよ」
そんな中を、俺とイルファさんは二人で並んで歩いて行く。
俺の両手にはカバンと、あとさっき買った日用品の袋。
珊瑚ちゃんの家に帰る途中、偶然イルファさんに会って。聞けばこれから買い物に行く
って言うから、こうして手伝うためにイルファさんについて荷物持ちをやっている。
イルファさんの方でも荷役ができて嬉しかったのか、この前に行ったスーパーではちょ
っと買い物をし過ぎてしまったらしい。お陰で両手で荷物を抱えることになってしまった
けど、まあ、イルファさんのためならこれくらいのことお安い御用だ。
「えーっと、他に買うものは?」
「あ、はい。後は今日のお夕食の材料を買うだけです」
そう言って、今日の夕飯のメニューを教えてくれるイルファさん。今日はチンジャオロ
ースーにするそうだ。
「良いレシピを教えていただいたので」
「へー、そうなんだ。でも、チンジャオロースーじゃ、珊瑚ちゃん嫌がらないかな。ピー
マンは入ってるし」
「だからこそです。お二人の健康のためには、好き嫌いなくバランスの取れた食生活を心
がけていかなくてはいけませんから。もちろん、貴明さんもですよ。インスタント食品ば
かりじゃ、病気になってしまうんですから」
「お、俺はそんなことしないって」
そりゃまあ確かに、一人で暮らしてた頃はカップめんばかり食べてたけど。でも今はイ
ルファさんや瑠璃ちゃんのお陰で、ちゃんとした料理を食べているし。
むしろ両親といたころより、食生活は向上しているんじゃないだろうか?
「よっ、イルファさん買い物かい? 今日はいいサンマが入ってるよ!」
そんな風に二人で笑い合いながら歩いていると、魚屋の前でイルファさんが声を掛けら
れる。
「どうもこんにちは。サンマも良いですけど、今日は野菜料理にする予定なんです」
「野菜ぃ? やめとけやめとけ、あんな八百屋に行ったってろくな物置いてないぞ。それ
より魚を食わなきゃ、カルシウムたっぷりで美容にも良いよ」
「いえ、ですから私は食べ物が食べられませんと以前」
困った顔で返すイルファさんと、そこで豪快に笑う魚屋さん。たぶん、いつもやってい
る会話なんだろう
「えっと、イルファさん。知り合い?」
「はい、いつも魚を買うときにお世話になっているお魚屋さんなんです」
「っと、イルファさん。横の兄ちゃんは、もしかして、イルファさんの」
そこでようやく俺の存在に気が付いたらしい魚屋の親父さん。
いかにも胡散臭そうに俺の事を見るのは、お客に対して失礼じゃあないだろうか。いや、
買うのはイルファさんで俺じゃあないけどさ。
「はい。私の旦那様なんです」
「ちょ、ちょっとイルファさん、旦那様って!」
そう言うと、イルファさんは俺と腕を組むように寄ってくる。
親父さんと言えば感心したように「はぁー」とか「こんななよなよした頼りないのがね
ぇ」とか「イルファさんもこんなのが趣味なのか」とか。
聞こえてるぞ。
「まあ、いいや。おい兄ちゃん。ちゃんとイルファさんのこと、大事にしてやるんだぞ。
もしイルファさんのこと泣かせたら、俺がただじゃおかねぇからな」
「もう、魚屋さんったら。やめてください」
まんざらでも無さそうなイルファさん。
俺といえば、なんだか、照れるな。会話の内容が、まるで、なんと言うか、新婚さんみ
たいで。
「それでは、失礼いたします」
丁寧にお辞儀をするイルファさんの後ろで、壊れた人形のようにぎこちない礼をする。
親父さんは、次のお客がくるまでこちらに手を振っていてくれた。
「楽しい人だったね」
「あ、申し訳ありませんでした。ちょっと、ふざけ過ぎてしまって」
「別に怒ってないから大丈夫だよ。それよりも、家以外でのイルファさんをみれて楽しか
ったし」
「も、もう」
イルファさん、そう言って横を向いてしまう。ただ、さっきから俺と腕を組んだままだ
し。口調ほど怒ってはいないみたいだ。
本当は、さっき魚屋であんな会話をしたばかりだし、こんないつ知り合いと会うかわか
らないような場所でイルファさんと手を組んで歩くのは恥ずかしいを通り越して顔から火
を噴いてしまいそうなくらいなんだけど。
でも、ここで照れくさいからって手をほどくにはイルファさんの腕は柔らかくて。それ
にこんなくすぐったい気分でいるのも。
たまには、悪くないよな。
「あ、貴明さん。ここの八百屋さん・・・・・・も、申し訳ありません! わ、私ったら
ずっと貴明さんと」
そこで、ようやく俺と手を組んだまま歩いていたことにきがついたんだろう。
顔を真っ赤にして俺から離れるイルファさん。ちょっとだけ残念だったかもしれない。
「いいっていいって、それよりも、ピーマン買わなきゃいけないんでしょ」
「は、はい」
まだちょっとギクシャクしたまま、八百屋の中に向かうイルファさん。また威勢のいい
挨拶をされているというのは、ここでもきっと、イルファさんはお得意様なんだろう。
「いーえ、ですから。こちらのピーマンは少し高すぎるのではないかと。近くのスーパー
では、これより60円は安く販売していましたよ」
「あんな農薬だらけの物と一緒にしないでくれよイルファさん。ここに並んでるのは全部、
俺が朝市場に行って仕入れてきた物なんだぜ」
「それに、昨日置いてあった物から比べると、質もやや落ちるのではないかと。確か、昨
日仕入れに行かれたのは奥様ではありませんでしたか?」
「そうなんだよイルファさん。この人ったら付き合いで野菜仕入れてきちゃってさぁ」
ずいぶんと頼もしい、イルファさんとお店の人との会話。いつもこういう風に、俺たち
のご飯の買い物のためにここに来てるんだろう。
店の入り口の所でもやしだのニガウリだのを眺めながら、そんなイルファさんの様子に
耳を傾ける。
お店の人との交渉も佳境に入ったみたいで、ピーマンの乗ったカゴを手に八百屋のご主
人にイルファさんは詰め寄っていく。この分なら、今日の晩御飯の食材は無事手に入れ
ることができそうだ。
そうなってしまうと、自分が何か野菜を買うわけでもないし。店の外でイルファさんを
待つことにする。
相変わらずアーケード街の中はたくさんの人通りで、どの店にもお客の姿がある。
八百屋の隣の店に目をやってみると、コロッケ屋みたいだ、そこにも今日のおかずを買
うためなんだろう。何人かの女の人たちがお惣菜を買っているところだった。
「あれ?」
そんなコロッケ屋の前に、明らかに周囲の主婦とは雰囲気の違う女のコが一人。
青みがかかった服を着た彼女は、油よけのガラス板の前で。今日も、手を出そうか出す
まいかと悩んでいた。
耳のところにはイルファさんと同じ、メイドロボであるという証拠の耳カバー。
「ねえ、また会ったね。俺のこと覚えてる?」
彼女は俺の言葉に反応すると、こっちを向いて、一瞬不思議そうな顔をすると。
「あ・・・・・・」
何かを言いかけたんだけど、なぜかすぐに口を閉じてしまって。
そうしてにっこりと俺に笑いかけてくれると、深々とお辞儀する。
覚えていてくれたみたいだ。
「また、話せなくなったの?」
プルプルと首を横に振る彼女。じゃあ、なんで?
「もしかして、あの時と同じように?」
笑顔で頷く。そして、何かを喋るようにゆっくりと口を開く。
『お久しぶりです。あの時は、どうもありがとうございました』
声には出していないけれど、きっとそう言いたいんだと思う。
「今日も買い物?」
彼女は頷くと、手に提げた買い物籠の中を見せてくれた。
魚、多分、鮭の切り身。それにキノコに、玉ねぎに、バター。さっぱりメニューの見当
がつかない。
すると彼女は、切り身を両手で包むような仕草をして、説明しようとしてくれる。
ああ、多分、包み焼きか何かでもするってことなんだろう。
当たっていたのか、嬉しそうにする彼女。
すると今度は、首を傾げて俺のほうを見つめてくる。
えっと、これは。
「俺? えっと、俺は」
「貴明さん、お待たせいたしました」
彼女になんて説明すればいいか、意味もわからず悩んでしまう。
どうしてそんな気分になったのかはよくわからないんだけれど、なんとなく、後ろめた
さをのような物を感じてしまった。
だから、イルファさんが声を掛けてくれて、正直救われた気分になった。
「見てください、こんなにたくさんピーマンをオマケしてくださったんですよ」
イルファさんは嬉しそうに、八百屋での戦果でいっぱいの買い物籠を見せてくれた。
「少し、多すぎじゃない?」
「そう、ですか。あ、それでしたら明日のメニューはピーマンの肉詰めにいたしますね。
それと、サラダにするのもよろしいですし」
「うん。楽しみにしてるよ。今日のチンジャオロースーもさ」
「はい。期待していてくださいね・・・・・・あら?」
イルファさんと、俺の後ろできょとんとしていた彼女との目が合う。
「貴明さん、こちらの方は」
「あ、うん。えーと」
さて、いざ彼女のことを紹介しようと思った場合、どんな風に紹介することになるんだ
ろう。
彼女とは春に、一度だけ買い物を手伝ってあげたことがあるだけだし。
そもそも俺は、彼女の名前だって知らない。そういえば、俺の名前を彼女に教えたこと
もなかったな。
そんな風に俺が慌てているのを見かねてなのか、彼女の方から先に、イルファさんに頭
を下げてお辞儀をする。いかにも優秀なメイドロボらしい、そのまま教科書にでも載せら
れそうな綺麗なお辞儀のしかただ。
「えっ、あ、申し遅れました。私、HMX−17"イルファ"と申します」
こちらは逆に、いつものイルファさんらしくないくらい慌ててお辞儀を返す。
そんな様子のイルファさんが可笑しかったのか、それともお辞儀の表紙にカゴから飛び
出たピーマンが琴線にふれたのか。クスクスと笑う彼女にイルファさんはさらに顔を赤
くしてしまって。
「イルファさん、もしかして緊張してる?」
「も、もう貴明さん。からかわないでください」
どうやら図星だったらしい。
「こちらの方は同じHMシリーズの、私にとってお姉様に当たる方なんです。失礼がない
よう、緊張するのも当然です」
俺たちの会話がそんなに面白かったんだろうか。
そこでようやく、彼女が俺たちのことを見つめていたことに気が付いた。
「ご、ごめん。えーっと、いま本人から紹介があったけど、イルファさん。今、一緒に住
んでて、いろいろお世話になってるんだ」
すると彼女は、相変わらず声を出さずに口の動きだけで何かを質問してくる。
あの時もそうだったけど、不思議と、彼女が何を言いたいのか理解することができた。
『あなたは、あのメイドロボットの旦那様なのですか?』って。
彼女の急な質問に、俺よりも隣にいるイルファさんの方が慌ててしまう。ふざけて俺の
ことをそう呼ぶ割には、人にあらためてそう言われるのは恥ずかしいみたいだ。
俺の方はといえば、確かにイルファさんにそう言われ慣れてるってこともあったんだろ
うけど。でも、俺とイルファさん。それに珊瑚ちゃんと瑠璃ちゃん。俺たちの関係が、旦
那様やメイドロボだとかそういった物じゃないって。きっと俺は、考える前に答えなんか
出してしまっていたんだろう。
「旦那様って言うか、イルファさんは、俺の大切な家族の一人だからさ」
だから、照れたり恥ずかしがったりしないで、すぐにその答えを言うことができた。
俺の答えに彼女も満足だったんだろう。笑顔で、頷き返してくれた。
「素敵な方でしたね」
「そう? イルファさんでも、そう思うことがあるんだ」
「当然です。私も、あのお姉様のような素敵なメイドロボになりたいです」
今日もまた、俺たちと彼女はあのバス停の所でそれぞれ別れた。
俺たちの買い物は終わっていたのに、結局彼女の買い物に最後まで付き合ってしまって。
お陰で荷物をもった腕が痛い。
イルファさんは買い物中ご機嫌で、よほどメイドロボの先輩と話ができたのが嬉しかっ
たみたいだ。
それに、いつも俺たちの世話ばっかりしてくれているから、今日みたいに上の人と付き
合うのが新鮮で楽しいんだろう。
「イルファさんは、十分素敵だと思うよ。いつも俺や、珊瑚ちゃんや瑠璃ちゃんのために
働いてくれて。イルファさんのような人と一緒にいられて、俺は嬉しいからさ」
「まあ」と言ったイルファさん。クスクスと笑い声をあげて。
言ったことに嘘はないけど、やっぱりちょっと、言ってて照れくさい。
「ところで貴明さん」
「なに?」
急に立ち止まって、俺の目を覗き込むように見つめてくるイルファさん。頬が赤く染ま
っているように見えるのは、夕日ばかりのせいじゃないだろう。
「私は、貴明さんが私の旦那様であってもまったく問題ありませんから。いつでも、お世
話させていただきますからね」
きっと俺の顔も、夕日に照らされて赤になっているだろう。
こういう時、気のきいたことでも声を掛けられたらいいと思うんだけど。
けれどそんなセリフなんてさっぱり思い浮かばなくて、悩んだ挙句に俺は。
荷物を全部片腕に持ち替えて、横を歩くイルファさんの腕を取る。イルファさんのほう
でも、そっと俺の腕を握り返してくれた。
長く伸びた俺たちの影を、道路を走るバスが追い抜いて行った。
きっとあの中に、さっき分かれた彼女が乗っているんだろう。彼女も、彼女の旦那様と
一緒に、こうやって歩くんだろうか。
俺とイルファさんは、珊瑚ちゃんと瑠璃ちゃんの待つマンションにゆっくりと帰ってい
く。
終
お大事にしてください
イルファ欲しいなぁ〜オレも!
乙です><
乙。
いつも独白が幸せそうで全くもっていい身分ですなぁこの貴明は(怒)
名無しのメイドロボですか。もしかしてシルファ?という疑いも出てきた今日この頃、だけど
>>620 シルファは研究所から一歩も出ていない、っていう設定があったから違うと思う。
かくいう俺は捏造シルファSSを書いてるものの、進まない進まない。無口キャラって難しいね。
>>620 今回出てきたメイドロボって春休み前に商店街に出てきたあのメイドロボの事でしょ?
あの頃はまだシルファもリモートでぬいぐるみの中だろうからあり得ない話だけどな
デレながらもおしとやかなイルファさん良いなぁ
GJです
623 :
名無しさんだよもん:2006/11/14(火) 02:47:27 ID:Pu2msJVcO
あれマルチかセリオじゃないのかなあ、と勝手に思っていたんだけど。ホントのとこどうなんだろう。
リオン説も。
どれにしろ量産型だろうな
浩之をマルチに寝取られたあかりがショックで自分をメイドロボだと思い込んでる姿とかじゃ
うん、何かおかしい。
解凍された拡張子無しのファイルに「.zip」をつけて
もう一回解凍してみてください。
>624
リオン量産型は発売前だろ(秋からだったはず)。
サテライトシステムを使って手話で話そうとしていたはずだ
リオン発売前だとするとHM-15あたりか?
そういや、公式でHMX-15って出てないよな?
そういや13って回収されたとかそういう設定じゃなかったっけ?
633 :
名無しさんだよもん:2006/11/18(土) 17:27:26 ID:lJmUGdzy0
そうだっけ?
るーこの背におぶさり、風邪で苦しむ俺を見物しに来た郁乃。それだけでは飽きたらず、俺の世話
をしてやるなどと言い出す。郁乃の病気に関わるのか、反対する愛佳だったが、郁乃にあっさりと
説得され、俺のことを郁乃とるーこに任せて部屋を出ていった。何をされるかと内心ビクビクの俺。
だけど郁乃は俺の額に冷たいタオルを乗せてくれた。自分も入院中に愛佳にしてもらったと言う郁乃
はやがて、入院中のとある出来事を語り出す。
愛佳に「飲みたいものは?」と尋ねられ、「イチゴが飲みたい」と答えた郁乃。本人はイチゴ牛乳
のつもりだったのだが、愛佳はイチゴの生ジュースだと勘違いし、町中を探し回ったが見つからず、
自分で作ってきたとのこと。愛佳はホントに妹想いだなぁ。
唐突に、誰が一番好きなのかと尋ねてくる郁乃。そっちこそ入院中、気になる男はいなかったのか
と尋ねると、少女漫画じゃあるまいしという答え。へぇ、郁乃も漫画読むのか。だけどどんな漫画が
好きなのかと尋ねると何故か怒る郁乃。女の子の気持ちはよく分からん。代わりに答えてくれたのは
るーこなのだけれど、『NNR』って……
のどが渇いた俺。冗談で「愛佳のイチゴジュースが飲みたい」なんて言ってしまい、偶然(?)
それを聞きつけた愛佳、やたら張り切ってイチゴを買いに出かけようとする。冗談だからと慌てて
止めようとすると、今度は「飲みたくないんですか?」と残念そうな顔。困ったなぁ……
愛佳の目がとても悲しそうに見える。もしかしたら、このまま涙が出そうなくらいに。
ど、どうしようかな? ええと……
「あ、いや、その、飲みたくないってワケじゃないよ。
けど、そのためにわざわざイチゴ買いに行ってもらうのも悪いしさ。何て言うか、そこまで面倒な
ことをさせるつもりはないって言うか」
すると愛佳はパッと笑顔で、
「面倒なんかじゃないですよ。果物屋さんでイチゴを買って、家で作ってくるだけですから」
いや、充分面倒だと思うのだが。
と、愛佳はハッと何かに気付いたかと思ったらこっちに戻ってきて、
「もう、寝てなくちゃダメですよたかあきくん。まだ顔赤いのに」
ぐいぐいと俺を部屋へと押し戻そうとする愛佳。
「え? あ、うん」
「病気の時くらい多少のワガママはいいんですよ。その代わり、しっかり寝て体を休めなきゃ」
「う、うん」
そう答えるしかない俺だった。
部屋に戻り、ベッドに横になる。
「お姉ちゃん、止められなかったんだ」
郁乃の視線が痛い。
「も、申し訳ない」
「ま、お姉ちゃん言い出したら聞かないところあるから、そうなるとは思ったけどね。
あんたも面と向かって『いらない』なんて言う度胸ないだろうし」
全くもって言い返せない。
「まったく、お姉ちゃんもこんな男のどこがいいんだか」
「はいはい、こんな男で悪うございました」
目を閉じる。いっそこのまま寝てしまいたい。
そんな俺を察してか、郁乃もるーこも話しかけてこない。部屋が静かになる。
このまま二人とも部屋を出るかもしれないな――
ぴとっ。
「ん?」
額に濡れタオルが置かれた感触。
「郁乃?」
「いいから、寝てなさいよ」
目を開けた俺に郁乃が言う。
「あ、ああ」
言われたとおりに再び目を閉じる。……けど、やっぱ眠気なんか微塵もない。
「ダメだ、眠くない。郁乃、るーこ、何か話をしようよ」
「話、ねぇ」
郁乃はうーんと考え、
「るーこさん、何か話題ある?」
るーこに振る。するとるーこは、
「ならば、るーがこの宇宙における”るー”の存在について――」
「ゴメン、パス」
聞いてると眠くなりそうだ。……あ、それはそれでいいのか。
「あ、ねぇ貴明」
「ん?」
郁乃が何か思いついたようだ。けど何故かそっぽを向き、自分の髪をいじっている。
「このみってさ、その……、好きな」
「却下」
「え?」
「またそれかよ。ったく、郁乃も大概しつこいな」
「しつこい? 何が?」
「何がって、また誰が好きとかどうとかの質問だろ。何度聞いたって答えは同じ。ノーコメント」
すると郁乃はキョトンとした顔で、
「違うわよ。このみはどんなことが好きなのかって聞きたかったの」
「へ? あ、ああ、そ、そっか」
やば、勘違いしちまった。
「どんなこと、ねぇ……。割と普通だぞ。漫画とかTVとか占いとか。
あ、あとあいつ、身体を動かすことも好きだな。しょっちゅうあちこち走り回って、すぐに靴を
ダメにするし」
「ふぅん」
「あとな、あいつ、おかしなことにチャレンジしたがるんだよ。堤防の階段を降りるとき、手すりに
上って、綱渡りみたいに降りきろうとするんだ。
でもこのみの奴、バランス感覚はイマイチでな。だからいつも途中で失敗して、危ないから止めろ
って何度も注意してるんだけど、全然聞いてくれなくてなぁ。――って」
ふと、気付く。
「何故俺に尋ねる? そんなの直接このみに聞けばいいじゃん」
すると郁乃、何故か顔を赤くして、
「あ、う……」
「いや、恥ずかしがることじゃないし。
このみとはもう友達なんだしさ、聞きたいこととか遠慮なく聞けばいいだろ。
あいつ郁乃のこと、かなり好きみたいだから、きっと何でも話してくれると思うぞ」
「そ、そんなの分かってるわよ! 何となく聞いてみただけだっての。
偉そうに言うなっつーの。全く……」
あら、郁乃怒っちゃった。
「ああ、うん。ゴメン」
一応謝っておく。そこで俺はふと、
「郁乃はこのみのこと、好きか?」
「え、えええっ!?」
支援
「いや、そんな驚かなくても。
友達としてどうかと聞いてるんだぞ。もしかして郁乃、変な意味だと思った?」
「そ、そそそんな勘違いしてないわよ! バカじゃないの!?」
「じゃあ、どうよ?」
「あ、うぅ……」
郁乃は下を向いて黙り込んでしまう。
「嫌いなのか?」
すると郁乃は小さく首を横に振り、
「き、嫌いじゃないわよ……」
「じゃあ、好きか?」
「う、ぅあう……」
ひょっとして今の郁乃、俺より熱があるんじゃないか? そのくらい顔が真っ赤。
「う、うう〜っ!」
と、郁乃、何を思ったか洗面器に手を突っ込み、その手をこっちに、
ぐいっ!
「ふごっ!?」
い、郁乃の奴、俺の鼻に氷押しつけてきた!
「ちょ、お前冷たい冷たいって!
ぐえ!? 鼻に水入ってゲホッ! ガハッ! い、郁乃やめれ〜!」
病人である俺の鼻に氷を突っ込もうとした郁乃は謝りもせず、るーこと共に部屋から去った。
それからしばらく後。
こんこん。
「たかあきくん、起きてますか?」
あ、愛佳の声だ。戻ってきたのか。
「うん」
「じゃ、お邪魔しますね」
部屋に入ってきた愛佳。その手に透明なグラスを持っている。アレが愛佳手製のイチゴジュース
なのだろう。
「お待たせしました」
俺の横にちょこんと腰掛ける愛佳。
「うん、じゃあ――」
ジュースを飲もうと起きあがろうとするけど、
「あ、そのままでいいです」
愛佳に止められる。愛佳はストローを出してジュースに入れ、その先を俺の口元に近づけ、
「はい、どうぞ」
俺はストローの先をくわえ、吸ってみる。――おお、確かにイチゴの味だ。冷たくて美味しいなぁ。
「どうですか?」
やや心配げにそう尋ねる愛佳。俺は一旦ストローを放して、
「うん、美味しい。ずっとのどが渇いてたからマジで最高だよ」
「ホントですか? よかった」
愛佳が笑う。けどすぐハッと、
「え、もしかしてたかあきくん、あれからずっと何も飲まずに待っていてくれたんですか?」
「ん? ま、まぁ」
「ごめんなさい。ならもっと早く――」
「いや、謝らなくていいよ。今こんなに美味いの飲ませてもらってるワケだし」
そう言ってから、再びストローをくわえてもう一口。
「――うん、マジでいけるよこれ。
なぁ愛佳、これって、イチゴをミキサーでかき混ぜただけなの?」
「いえ、牛乳も入れてるんですよ。イチゴだけで作ってもいいんですけど、こっちの方が味が穏やか
になるって言うか、丸くなるって言うか……」
「へぇ、じゃあコレ、正しくはイチゴ牛乳ってことか」
――ん、待てよ?
「なぁ愛佳。コレって、郁乃に作ってやったのと同じなのか?」
「え? あ、はい」
「ふぅ〜ん、そっか」
「ええ、それがどうかしましたか?」
キョトンとする愛佳の顔を見て、思わず笑いそうになる。――郁乃、お前結局、飲みたかったもの
を飲んでたんじゃないか。
そんなこんなで時間が流れ、気がつくともう夕方。愛佳と郁乃、珊瑚ちゃん、ちゃるとよっちが
わざわざ帰りの挨拶をしに来てくれて、みんな明日もうちに来ると言って帰っていった。
その後はまた一人きり。きっと下では夕食の支度をしているのだろう。そう言えば俺の夕飯は、
瑠璃ちゃんが卵入りのお粥を作ってくれるって言ってたっけ。楽しみだなぁ。
こんこん。
「たかあき、いい?」
ドアの向こうから由真の声。
「どうぞ」
俺がそう答えると、由真が入ってきた。
「もしかして、お粥持ってきてくれたのか?」
そう尋ねるが、見ると由真は手に何も持っていない。その手をひらひらさせて由真は、
「残念でした。今はあたしたちの夕飯作りでキッチン使ってるから。たかあきのお粥はその後」
「あ、そ」
「ちなみに今晩のメニューだけど、聞きたい?」
「いや、いい」
どうせ俺は食えないのだ。聞いたって仕方がない。
「お昼が焼肉で結構重かったからね。夕食はあっさり目にしようってことで、煮物とサラダなの。
あと、お味噌汁は大根入り」
「いや、だから聞いてないって」
「ちなみに夕食担当は環さんとるーこ。
るーこったら、環さんから煮物の極意を学ぼうって凄いやる気なんだよ」
俺の言葉を無視してそう語りながら、こっちに近づいてくる由真。
「お前はいいのかよ、その極意とやらを学ばなくても?」
すると由真はちょっとムッとして、
「何よ。あたしが面倒見に来ちゃいけなかった?」
「面倒?」
「はい」
由真が差し出したのは体温計。熱を測りに来たってことか。
「分かったよ」
とりあえず脇に挟むためにパジャマのボタンを外そうと――
「あーん」
「?」
「なに不思議そうな顔してんのよ。はい口開けて、あーん」
そう言って自分があーんと口を開けながら、体温計を俺の口元に近づけようとする。――成る程、
口に入れて測れってことか。
「いや、俺、体温計はいつも脇の下に入れてるけど」
すると由真はしたり顔で、
「たかあき知らないんだ。体温計は口、正しくは舌の下で測るのが正しいやり方なんだよ」
「そうなのか? どっちでもいいんじゃないの?」
「脇の下だと位置とか汗なんかで温度が変わっちゃうのよ。いいからあーんして。あ、それとも」
由真はニンマリと笑みを浮かべ、
「お尻で測ることも出来るけど、する?」
「するかっ!」
「37度8分、か」
俺の口から体温計を引っこ抜いた由真がそう呟く。
「まだそんなにあるのか。結構楽になった気がするんだけどなぁ」
「そりゃ寝てたら分かんないわよ。ま、そのまま大人しくしてることね」
そりゃそうか。とは言え、この先も何もせず寝てるだけだと考えると、思わずため息が漏れる。
由真はそんな俺を見ると、ベッドの横に腰を下ろして、
「仕方がないわね。じゃあ夕食までの間、あたしが話し相手になってあげるわよ。
そう言えばたかあき、また郁乃ちゃん怒らせたんだって?」
げ、いきなりさっきの件か。
「怒るようなことを言った覚えはないんだけどなぁ。なのに鼻の穴に氷突っ込みやがって」
すると由真はいきなり顔を近づけ、
「気を遣わないたかあきが悪い」
ぺしっ。
痛て、デコピンされた。
つづく。
どうもです。第81話です。
>>639さん、支援ありがとうございました。m( __ __ )m
前回風邪でお休みしたものの、実は未だに完治してなかったりします。
(熱は引いたんだけど、何故か鼻水が止まらない……)
今年の風邪はホントにたちが悪そう。皆さんも気を付けてくださいね。
>>645 乙です。今年の風邪は腹にもくるらしいので気をつけて。
鼻腔が渇く→喉が痛む→鼻水が止まらない(今此処!)
明日の朝は熱かな……
俺も癒されたい……
>>645 おつです。
昨日一気に読み進めてようやく追いつきました。
こういうドタバタっぷりは好きです。
私もお腹痛い… 明日会社休も…。
貴明とリンクするくらい創作に入れ込んでいる作者さんに萌え。w
>645
乙。そろそろあらすじが1レス分を占領しそうな勢いですね
郁乃とこのみ? 個人的には大歓迎っスよw
652 :
名無しさんだよもん:2006/11/21(火) 13:28:43 ID:SScrs4/X0
乙、結構風邪ネタが続いてますね、まあ個人的に好きだから嬉しいけど、
こんなシチュエーションいいですね〜
ADが出るまではみんな大人しいんと違うか〜〜??
ADと矛盾したらしたと割り切っていいんだろうけどね。
個人的には郁乃の学校生活が気になる。親が車で送迎して学園内は車椅子だろうが、
エレベータあんのかな。階段昇降機がエロゲに登場するのも見てみたい気はするがw
学校によっては給食や教材を上の階に届けるための業務用エレベータあるじゃん。あれ使うんじゃない?
貴明の学校は給食制じゃ無いし、愛佳がやたら大量の荷物運んでたりするのを見る限り多分無いけど。
私立ならエレベーターあるはず
無かったら貴明がお姫様だっこで運ぶだろうwww
>>656 どっかでみたことあるネタだな。河野家か素直になれない〜のどっちかだった気がするけど。
でも、皆一度は考えるネタだから俺が脳内で考えてただけかもしれない。
素直になれないでもやっている
俺の記憶は間違っていた…orz
書庫を読み直した
河野家は43話から45話で、河野家の階段だった。その後みんなを抱っこする羽目に
素直に〜は学校の怪談もあるな。第1話から、というか第4話まで抱っこしかしてねえw
>学校の怪談もあるな。
ささらネタかと思って探してしまったじゃないか
664 :
名無しさんだよもん:2006/11/25(土) 23:08:58 ID:Z64W9RhrO
書庫の河野家にネギの話しがない・・・
>>656 そんで、エンディングでこうなるわけだな。
890 名前: おさかなくわえた名無しさん 2006/04/10(月) 00:59:22 ID:EYAkXZdz
会社の同僚(♀)の結婚式に行った時。
参加者の一人の女性が突然大声で泣き出して、自分のバッグやら
ナイフやフォークやらぶん投げ始めた。
新郎の子がお腹にいるとか言いながら。
因みにその女は新婦の実姉だった。
ドラマ以上にドラマだった。
残念を通り越して悲しげな愛佳の目を見たら、とても冗談でしたなどとは言えなかった。愛佳は
イチゴジュースを作りに家に帰り、部屋に戻った俺には郁乃の冷たい視線。辛いよぉ。
眠気ゼロなので郁乃、るーこと会話。郁乃はこのみの好きなことを尋ねてくるんだけど、そんなの
本人に聞けばいいのになぁ。イマイチ及び腰な郁乃に、単刀直入にこのみのことが好きかと尋ねて
みると、怒った郁乃に鼻の穴に氷突っ込まれた。酷すぎる。
そして、イチゴジュースを作って戻ってきた愛佳。実際飲んでみるとコレが美味いのなんのって!
何でも牛乳を入れるのが美味しさのコツだとか。あれ? ってことはコレはイチゴ牛乳じゃん。
つまり郁乃は、本人は気付かぬままリクエスト通りのものを飲んでいたのだ。
夕方、由真が熱を測りにやってきた。いつもは脇の下で測っている俺だが、由真は口で測れと言う。
なんでもそっちの方が正確なんだそうな。更にはお尻で測ることも出来るそうだが、勿論お断りだ。
熱はまだまだ高くて、寝ているしかない俺。由真は夕食まで話し相手になると言ってくれた。話題
はさっきの郁乃の件。由真は気を遣わない俺が悪いと言い、デコピンしやがった。
布団から手を出して、デコピンされた額をさする。
「いってーな。病人に何てことすんだよ」
すると由真は、
「なに甘えたこと言ってんのよ。言っとくけど、あたしは愛佳と違って甘やかさないからね」
「いや、別に甘えたいとは――」
「イチゴジュースが飲みたいからって、わざわざ家に帰して作らせたクセに」
う、それを言われると何も返せない。
そんな俺を見て由真は面白くなさそうな顔で、
「愛佳は愛佳でえらい張り切ってたけどさ。で、美味しかった?」
「うん、マジで美味かった」
「あっそ」
人に尋ねておきながら、さも興味がないと言いたげな由真。
「それで、何言ったの?」
「何って?」
「郁乃ちゃんによ。怒らせるようなこと言ったんでしょ?」
「いや、このみは何が好きなのって尋ねてきたから、そんなの自分で聞けばいいじゃんって。
あと、郁乃はこのみが好きかって」
「ああ、そりゃ怒るわ、郁乃ちゃんなら」
あっさり納得する由真。
「あの郁乃ちゃんが『うん、あたしこのみが大好きよ☆』なんて素直に答えるワケないじゃない。
たかあきだっていい加減そのくらいは分かってるでしょ? 分かっててワザと郁乃ちゃんが困る
ような質問をしたんじゃないの?」
「い、いや、そう言うつもりは……」
とは言え、内心ドキリとしてる俺。俺ってば、無意識に郁乃をからかうようになってるのか?
「もう、ホントにたかあきはしょうがないんだから。
あのさたかあき、たかあきは郁乃ちゃんよりも年上なのよ。
年上の男の子が年下の女の子をからかったりのって、凄い格好悪いわよ。幻滅ものよ。
郁乃ちゃんのことが可愛いのは分かるけどさ、もう少し接し方ってものを考えなさいよ。
ちゃんと気を遣って、郁乃ちゃんの機嫌を損ねないよう心がけないと、ね」
げ、由真のヤツ偉そうに説教かよ。
「何だよそれ? タマ姉のマネのつもりか?」
「環さんの? 別に」
「お前さ、タマ姉を尊敬するのは勝手だけど、感化されすぎなのもどうかと思うぞ。
その内お前まで俺のこと『タカ坊』なんて呼ぶんじゃないだろうな?」
実際、今朝そう呼んでたし。まぁアレはモノマネだけど。
「――ああ、いいかもそれ」
「は?」
「あたしも呼ぼうかな。タカ坊って」
面白いことを発見したかのような由真の弾んだ声。ま、マジ?
「いや、あたしだけじゃなくて、河野家メンバーズ全員、たかあきのことはタカ坊と呼ぶってのも
面白そうね。なんか統一されてるってのも良さげだし」
お、おいおい冗談じゃないぞ。このみや愛佳たち、果ては郁乃やよっちたちにもタカ坊呼ばわり
されるのかよ?
それは絶対にお断りだ。年上のタマ姉はともかくとして、同い年や年下の連中にまでタカ坊呼ば
わりされるのは勘弁だ。俺にだって一応それなりのプライドってもんが――
「う〜ん、でも、やめた」
と、あっさり翻す由真。
「やっぱ、タカ坊って呼ぶのは環さんだけだよね。うん」
一人で納得してるし。いつものことだがこいつの思考にはついていけないよ。
「郁乃ちゃんのことだけどさ」
げ、まだ続くのかよ。
「実はあたし、密かな目標があるんだ。聞きたい?」
聞きたい? などと尋ねてくるが、身を乗り出して俺を見る由真の顔を見ると『聞きたいでしょ。
聞きたくないワケないわよね。って言うか聞け』とでも言わんばかり。
ここで聞きたくないなどと言えば何をされるか分かったもんじゃない。なので、
「それってどんな目標?」
すると由真は、
「う〜ん、どうしようかなぁ。やっぱ言わないでおこうかなぁ」
「言いたくないなら別にいいけど」
「もう、そこまで頼まれちゃ仕方がないわね」
頼んでねーよ。
「あたしの目標、それは……」
由真はグッと拳を握り、
「郁乃ちゃんに”お姉ちゃん”って呼んでもらうこと!」
……は?
「お姉ちゃんでも、由真お姉ちゃんでも、ユマ姉でもいいわ。とにかく姉と呼ばれたいのよ」
「何で? 別に由真先輩でいいじゃないか」
すると由真は不満げに、
「親友の妹なんだよ、そのくらい仲良くなりたいじゃない。
それにあたし一人っ子だから、妹って羨ましかったのよねー。
たかあきだって一人っ子なんだし分かるでしょ。あ、でもたかあきにはこのみちゃんがいるか」
「妹じゃない」
「――え?」
「このみは、妹じゃない」
そう、妹なんかじゃない。このみは、このみだ。
まだ気持ちのはっきりしない俺だけど、それだけは言えることだ。このみは、俺の妹じゃない。
「ふぅん。あっそ」
つまらなさそうな由真の台詞。
「ま、とにかくあたしは郁乃ちゃんにお姉ちゃんって呼ばれたいワケなのよ。
郁乃ちゃんにとっても悪い話じゃないと思うのよね。お姉ちゃんが二人もいたら郁乃ちゃんだって
嬉しいに決まってるだろうし」
いや、郁乃にも姉を選ぶ権利はあると思うぞ。
それに郁乃は愛佳で充分間に合ってると思う。あの姉妹、妹の方はなんだかんだ言ってはいるが、
仲良し姉妹なのは誰が見ても明白だ。正直、由真が入り込む余地などあるとは思えない。
「よーし、頑張るぞ! 頑張ってお姉ちゃんと呼ばれるぞ、あたし!」
……まぁ、頑張ればいいさ。多分無駄に終わるが。
「それにしてもさ、至れり尽くせりだよね」
またも唐突に由真が語り出す。
「何が?」
「今のたかあきよ。代わる代わるみんなに面倒見てもらってるじゃない。着替えさせてもらったり、
リンゴ食べさせてもらったり、愛佳に至ってはわざわざ家に帰ってジュース作らせたり」
「いやだから、愛佳のは、その……」
「あ〜あ、たかあきが羨ましいなぁ。
あたしもあんたみたいに、男の子取っ替え引っ替えで面倒見てもらいたい――」
そこで由真は何故か言葉を切り、
「……」
うーんと天井を見上げて考え込む。
「どうした、由真?」
「と思ったけど、やっぱいいや」
まただよ。自分で言った言葉を自分で否定して、こいつホントにワケ分からん。
「なんでだよ?」
そう尋ねてみると、由真は、
「うん、あたしは一人でいい。そういう相手」
そう言って微笑んだ。
由真と適当な話をしているうちに、夕飯が出来たわよとタマ姉の声が聞こえて、「あーお腹空いた。
じゃあたかあき、ちゃんと寝てるのよ」と言い残し、由真は出ていった。
それから少し経って。
こんこん。
「タカくん、いい?」
おや、このみだ。
「いいぞ」
そう言うとこのみが部屋に入ってくる。
このみの手にはお盆、その上には湯気を立ててる土鍋。ん、俺のお粥か?
「お腹空いたでしょタカくん。お粥持ってきたよ」
「あれ? お粥は確か瑠璃ちゃんが……」
卵入りのお粥を作ってくれると約束してくれたはず。何でこのみが?
「うん、瑠璃ちゃんが作ったお粥だよ」
あ、やっぱそうか。それをこのみが持ってきた、と。
このみは俺の横にぺたんと座り、
「ちょっと待っててね」
土鍋のフタを開け、レンゲで掬ったお粥をふーふーし、
「あーん」
――このみも「あーん」ですか。どうせ自分で食べるって言っても聞かないだろうな。
仕方がないので素直に、
「あーん」
口を開けると、このみがゆっくり慎重にお粥を口の中に。
「はふはふ――お」
この味、この食感、間違いないぞ、これは溶き卵入りだ。
「どう、タカくん?」
「うん、美味しい」
約束通り卵入りのお粥を作ってくれた瑠璃ちゃんに、感謝。
「ふぅん、やっぱり美味しいんだね」
そう言ってこのみはレンゲでもう一掬いし、ふーふーして、――え?
ぱくり。
「はふはふ――うん、美味しい」
「え!?」
こ、このみのヤツ、自分で食いやがった!
「お、おいコラこのみ! それは俺のお粥だろうが!」
するとこのみは悪びれもせず、
「えへ〜。美味しそうだったから、つい」
こ、この食いしんぼ娘が……
「ゴメンねタカくん」
そう言ってお粥を掬ってふーふーし、
「はい、あーん」
「あーん」
二口目を食べる。――うん、美味い。
「このみ、次次」
「うん、待ってて」
俺が急かすとこのみはまたお粥を掬い、ふーふーして、
「……」
ん、お粥をじっと見つめてるぞ? ――って、
ぱくり。
支援
支援
「はふはふ――うん、やっぱ美味しい」
「食うなっ!」
散々叱りつけてやったので、さすがのこのみもその後は全部俺に食べさせてくれた。
「ふぅ、ごちそうさま」
「はい、お粗末様でした」
このみが作ったわけじゃないのにお粗末様とはと一瞬思ったけど、まぁ細かいことだな。
「瑠璃ちゃんのお粥、美味しかったねタカくん」
「ああ、お前のせいで全部食えなかったけどな」
「む〜。たった二口しか食べてないよ」
そう言ってむくれるこのみだが、
「あ、そうだお薬」
コロリと元の顔に戻り、ベッドの傍らの薬入りの紙袋を手に取る。
そしてこのみがポケットから取り出したのは……オブラート?
「ちょっと待っててねタカくん。お薬全部オブラートに包んであげるから」
「へ? このみ、何でオブラートを?」
するとこのみはキョトンとした顔で、
「え、だって瑠璃ちゃんが、タカくんはこれがないとお薬飲めないって言うから」
そ、そうか、瑠璃ちゃんにそう言われたのか。
熱冷ましを飲んだとき、オブラートに包んでくれた瑠璃ちゃんの厚意を無碍にしてはいけないと
「俺、オブラート無しじゃ薬が飲めないんだ」ってウソついたんだよな。瑠璃ちゃんもそれを真に
受けて、昼の薬もきっちりオブラートに包んでくれてたし、それをこのみに伝えるのも当然か。
「でもタカくんがオブラート使ってるなんて意外だな。てっきりわたし、タカくんは苦いお薬でも
平気で飲めるって思ってた。
わたしも苦いお薬は苦手なんだけど、お母さんにオブラートで包んでって言ったら、『いい年して
甘ったれたこと言うんじゃないの!』って怒られるんだよ。あ〜あ、タカくんが羨ましいなぁ」
……ま、まずい。このみのヤツすっかり誤解してやがる。このままじゃ俺は、オブラート無しじゃ
薬も飲めないお子ちゃまだとみんなに思われてしまうではないか!
「あ、あのなこのみ、実は――」
と、そこで思いとどまる。もしここで、俺がこのみの誤解を解いたとしよう。すると……
「あのね瑠璃ちゃん。タカくん、オブラートいらないって言ってたよ」
「え!? それホンマなん?」
「うん、オブラート無しで平気で飲んでた」
「う、ウチにウソついたんか! 貴明ホンマはオブラートいらないのに、ウチのこと騙したんや!
貴明のアホ〜! うわああああああああん!!」
い、いかん! それじゃせっかくついたウソが無駄になってしまうではないか!
「タカくん、どうかしたの?」
「――え!? あ、いや、何でもない」
うん、思いとどまったのは正解だ。
昼、夜と美味しいお粥を作ってくれた瑠璃ちゃんを傷つけるワケには決していかない。それに比べ
たら俺のちっぽけなプライドなどゴミのようなものだ。捨てたって構わん。
「……よし、出来たっと。はいタカくん、コレ飲んで」
オブラートに包まれた薬と、水の入ったコップを差し出すこのみ。
俺は身を起こしてそれを受け取り、黙って飲み下すのであった。
つづく。
どうもです。第82話です。
>>673さん、
>>674さん、支援ありがとうございました。m( __ __ )m
風邪編もいい加減長くなってるなぁ……(^^;
河野家の人乙です。
早く体調が回復するといいですね。
せやけど支援がカブるとは思わなんだな。
今年で37の一人モンだがこんなところで結婚する羽目になるとは・・・。
河野家乙。
初のリアル更新ktkrだったが支援に乗り遅れたorz
瑠璃のために自分を犠牲にするとは、貴明良い男だな
間接キスネタが来ると個人的に期待したんだが……
>>665 でおまけシナリオでこうなるわけだな
郁乃は「ギャー!」って叫んで、その場から去ってしまった。
愛佳の方は、泣きながら貴明に掴みかかって「責任とってよ!」とか叫んでた。
貴明はいきなり池沼になったみたいにニヤニヤしてたよ。
両家のお母さんは泣いてた。貴明のお父さんも泣いてて、郁乃のお父さんは怒鳴り散らして
その後倒れて近くの病院に運ばれた。
私はその後他の女の子達と郁乃を探して走り回りました。
その後、愛佳と貴明は結婚した(但し愛佳は実家から絶縁&貴明は仕事辞めるハメに)。
郁乃の方はかなりの額の慰謝料取って、それと預金を元手に留学したよ。
この前久々に一時帰国したので会ったけど、元々はふっくらした人だったのに
入院してた時のように超ガリガリになってました。
作者さん乙、そして支援の方達いつも乙夜勤なもので読むだけで申し訳ないです。
>>681 逆に考えるんだ。
昼書いて昼間に投下すればいいんだ。
高校のときの友人の愛佳の結婚式に行った時。
参加者の一人の女性が突然大声で泣き出して、自分のバッグやら
ナイフやフォークやらぶん投げ始めた。
新郎の子がお腹にいるとか言いながら。
因みにその女は新婦の実妹の郁乃だった。
愛佳は「ギャー!」って叫んで、その場から去ってしまった。
郁乃の方は、泣きながら貴明に掴みかかって「責任とってよ!」とか叫んでた。
貴明はいきなり池沼になったみたいにニヤニヤしてたよ。
両家のお母さんは泣いてた。貴明のお父さんも泣いてて、愛佳のお父さんは怒鳴り散らして
その後倒れて近くの病院に運ばれた。
私はその後他の女の子達と愛佳を探して走り回りました。
その後、郁乃と貴明は結婚した(但し郁乃は実家から絶縁&貴明は仕事辞めるハメに)。
愛佳の方はかなりの額の慰謝料取って、それと預金を元手に留学したよ。
この前久々に一時帰国したので会ったけど、元々はふっくらした人だったのに
入院してた時のように超ガリガリになってました。
こうですk
>>683 見るのも堪えない駄コピペ改編ぐらいしか出来ないのでせめて支援だけでもしたい…
優しい言葉を頂けたので調子に乗って何か投下するかも、その時は罵倒よろしく。
>>686 ぜひ花梨スレに花梨SSを投下してくれ。
住人総出でおもてなしする。
「……」
「あの、シルファちゃん?」
「…………」
「……はぁ」
一体何度同じやり取りを繰り返しただろうか。目の前にいる金髪の少女は、椅子に隠れて
俺を見つめた状態で、微動だにしない。呼びかけても反応してくれないし、目を逸らすこともない。
恨みますよ、イルファさん……
「試作機のテスト?」
「はい、私と同じHMX-17シリーズC型シルファ……簡単に言ってしまうと、私の妹みたいなものですね。
そのシルファちゃんの調整が終わりまして。私たちと一緒に暮らすことになったんです」
そう話すイルファさんだが、どことなく表情が暗い。妹と一緒に暮らせるのに、嬉しくないのかな?
「実はですね、シルファちゃん少し問題がありまして」
「問題?調整は終わったのに何か不具合であるの?」
「いえ、体の調整は完璧に終わっているんです。ですが、心のほうに問題があるんです」
……心に問題があるメイドロボなんて始めて聞いた。これも、D.I.Aの凄さなんだろうか。
「で、どんな問題?」
「シルファちゃん、すっごい人見知りなんです。私や珊瑚様としか話せないぐらい酷くて、
他の方がいると一言もしゃべらなくなってしまうんです」
「人見知り……ねぇ」
それ、商品化できるのか?でも、徐々に打ち解けていくっていう発想は斬新かもしれない。
まさにメイドロボの革命だ。さすがに珊瑚ちゃんの発想は一味違う。
「それでどうしようか悩んでまして。このままだとシルファちゃん、メイドロボとしての
お勤めが出来ないダメな子になってしまいます」
「俺に相談されても……そんなに酷いんなら、精神科に行ってみるとか」
もっとも、メイドロボを診察してくれるのかどうかは分からないけど。
「貴明さんは、シルファちゃんを見ず知らずの人に任せるって言うんですか!?」
「いや、そう言われても……」
俺に出来ることなんて無いし。と思っても口に出来ないのが俺のダメなところだと思う。
言うべきことをしっかり言わないから、いつも面倒に巻き込まれるんだ。
今回もその例に漏れず、しっかり面倒ごとに巻き込まれてしまった。
「というわけで貴明さんにお願いがあるんです」
「……何?」
この台詞をイルファさんに言わせたときに、もう俺の負けは決まってたんだと思う。
「シルファちゃんを、預かってくれませんか?」
「……」
「……」
イルファさんが、シルファちゃんを連れて来たのが10時ごろで、
今が11時。まだ1時間しか経っていないのだが、丸1日こうしているような気がする。
その間、シルファちゃんと俺の間には一言の会話もない。
元々女の子が苦手な俺に気の利いた台詞が浮かぶはずも無く、気まずい沈黙が漂うばかり。
進展どころか、後退しているような気さえしてきた。
「いい加減、椅子に隠れるのやめない?」
「……」
……やっぱり俺には無理だ。イルファさんに事情を話して、また別の解決策を考えよう。
このまま続けたって意味が無い。シルファちゃんも、人見知りなのに
慣れない男の家なんかに送り込まれて迷惑がっているだろう。
「シルファちゃん、俺と一緒にいるの辛いよね?」
「……」
否定しないことが、何よりの回答だった。
「今からイルファさんに電話して、迎えに来てもらうから。荷物、纏めておいてくれるかな」
「……!」
俺が電話に向かって伸ばした手が、シルファちゃんに抱きかかえられる。
驚いて顔を見ると、泣きそうな、それでいて困ったような表情のシルファちゃんが俺を見上げていた。
「ど、どうしたの?」
「……ダメ」
「電話をしちゃダメってこと?」
こくこくと頷くシルファちゃん。その目には、強い意志が感じられる。
「電話しちゃ、ダメです。お母さんと……一緒に暮らしたいです」
言葉足らずで良く分からないが、俺がイルファさんに電話すると、シルファちゃんは珊瑚ちゃんと
一緒に暮らせなくなるらしい。イルファさんは詳しく話してくれなかったが、
実地テストみたいなものを兼ねているのかもしれない。
「分かった、電話はしないよ。その代わり、ちゃんと椅子に座ってくれるかな?」
小さく頷くシルファちゃん。ようやく一歩前進できた。
一歩前進できたというものの、結局そこから進展が無い。椅子に座ってくれるようにはなったのだが、
相変わらず会話は無いし、やっぱり俺から目を逸らさない。こんな風に見つめられてしまうと、
落ち着かないことこの上ない。といっても、誰かに助けを求めるわけにもいかないし。どうしたもんかな。
等とまとまりの無いことを考えていると
ぐー
腹が鳴った。意識してなかったので気づかなかったが、大分腹が減ってるらしい。
時計を見ると、既に12時半を回っていた。シルファちゃんはメイドロボだから
お腹が空くことは無いし、簡単にカップめんでも作って食べるかな。
「俺、お昼ご飯食べるからちょっと待っててくれるかな?」
立ち上がってキッチンに行こう……としたところで、シルファちゃんに服をつかまれる。
「私が、作ります」
「えっ、でも……」
「作ります」
さして強い言い方では無いのだが、二の句をつがせない強さがシルファちゃんにはある。
何かを話すときのこちらを見つめる視線が、強い。
そうしてじっと見つめられてしまうと、俺も何も言えなくなってしまうわけで。
「じゃあ……お願いするよ」
「はい。何を作ればいいでしょうか?」
「えっと、冷蔵庫にあるもので適当に作ってもらえるかな?
シルファちゃんが何を作れるのか良く分からないし」
「かしこまりました」
シルファの設定発表があってからずっと書いてたんですが、ここで筆が止まっています。
料理の経験無いのでどんな料理を出せば良いのか分からないことと、普通のサイトで一話で
完結するぐらいの長さで、このシルファを陥落できるのか、ということが引っかかっております。
何かの拍子に続きが書けたらまたこちらに書きますので、そのときはよろしくお願いします。
素直になれないもこんな感じで進展しておりませんw
学習型あーんどロールアウトしたてなんだから簡単なものでよろし。
ハムエッグとか、落として焼くだけのそんなもの。
それが失敗して、またドラマってのが黄金パターンでいいやね。
つーか、貴明にも簡単に作れそうなものを、あぶなっかしい手つきで作ろうとするシルファに
後ろから手をそえて、はっと気が付いて二人で真っ赤になって舞い上がるつーのはどうよw
「セ〜ンパイ♪」
「貴明〜♪」
ムニュッ×2
「!?!?!?!?!?!?!?!?!?」
「えへへ、センパイゲットです」
「同じく貴明ゲット♪」
前後挟まれ抱きついてくる、チエちゃんとミルファ。
自慢だと言わんばかりにムニュムニュと押し付けられる柔らかな感触で、俺はもう沸騰状態。
「よっち、大概にしろ。先輩が沸騰してる」
「ミルファちゃん、そう言うはしたないマネはやめなさいといつも言ってるでしょう」
「う……そっそうだね」
「わかったわよ、姉さん」
ミチルちゃんとイルファさんに叱られ、渋々離れる二人。
俺はオーバーヒート寸前のグロッキー状態。
「タカ君、大丈夫?」
「……大丈夫ですか?」
おろおろと心配そうに駆け寄るこのみとシルファ。
「チクショー! 何だその究極のフォーメーションは!?
ミルファちゃんとチエちゃんの巨乳の感触つき抱擁に
それに対しての抑止力にミチルちゃんとイルファさん、
仕上げにケアはチビ助にシルファちゃんだと!? 何で貴明ばっかりが!!!」
「セ〜ンパイ♪」
「貴明〜♪」
ムニュッ×2
「!?!?!?!?!?!?!?!?!?」
「えへへ、センパイゲットです」
「同じく貴明ゲット♪」
前後挟まれ抱きついてくる、チエちゃんとミルファ。
自慢だと言わんばかりにムニュムニュと押し付けられる柔らかな感触で、俺はもう沸騰状態。
「よっち、大概にしろ。先輩が沸騰してる」
「ミルファちゃん、そう言うはしたないマネはやめなさいといつも言ってるでしょう」
「う……そっそうだね」
「わかったわよ、姉さん」
ミチルちゃんとイルファさんに叱られ、渋々離れる二人。
俺はオーバーヒート寸前のグロッキー状態。
「タカ君、大丈夫?」
「……大丈夫ですか?」
おろおろと心配そうに駆け寄るこのみとシルファ。
「チクショー! 何だその究極のフォーメーションは!?
ミルファちゃんとチエちゃんの巨乳の感触つき抱擁に
それに対しての抑止力にミチルちゃんとイルファさん、
仕上げにケアはチビ助にシルファちゃんだと!? 何で貴明ばっかりが!!!」
まず、ちょっとパソコンのトラブルで投稿がダブっちゃったことにお詫びします。
現在『お泊り編』が行き詰まってるので、気分転換のつもりで書いたやゆよにHMXを絡めたら
の試作品です。
何となく、や・ゆ・よとメイドロボ3姉妹って共通点ある気がするから、こうなると思うんで
出来れば、こうなる所まで書きたいなとは思ってます。
>>697 ミルファが大きさを主張、よっちが本物の弾力を主張して張り合うとかどうですか(^ω^)
>>698 最後は貴明にどっちがいいのか、確かめてもらうんだな
………直に触ってもらって
最終的には7Pか
701 :
名無しさんだよもん:2006/12/02(土) 14:33:23 ID:mntRP5zh0
HMXなら姫百合姉妹は必須だろ。
だから9Pが妥当だと思う
どんだけ絶倫よw
>>699 そしてオーバーヒートでぶっ倒れて、ちゃるとイルファに二人が叱られて
このみとシルファがあたふたしながら介抱って勢いですな。
704 :
名無しさんだよもん:2006/12/03(日) 12:04:00 ID:bM0by2AfO
>>702 じゃあばったりでくわしたタマ姉と春夏もいれて11Pだな
お前らには河野家があるというのに
河野家XRATED
犯罪のにおいがするぜ
被害者は逆に拉致監禁されて枯渇死したタカアキ
>>664 亀で申し訳ないんだが、書庫の「暗闇の中で」って言うこのみのSSにまざってたぞ。(よっちが葱持って来たやつ)
SSスレ最初の作品か
ナツカシス
年下の女の子への接し方を考えろと説教かます由真。そんな由真の密かな目標は、郁乃に”お姉
ちゃん”と呼ばれることらしい。無理じゃないかなぁ。
他にも、みんなに甘やかされていいご身分だの、河野家メンバーズ全員の俺の呼び方を”タカ坊”
で統一すべきだの、由真は言いたい放題。そのくせどっちも自分で「やーめた」だし。
夕飯が出来たからと由真が部屋を出て、それからしばらくして俺のお粥を持ってきてくれたのは
瑠璃ちゃんじゃなくてこのみ。けれどお粥は約束通り、瑠璃ちゃんが作った卵入りのお粥だ。
他のみんな同様、お粥を食べさせてくれるこのみ。けれどこの食いしんぼ娘、美味そうだからって
二口も食いやがった。数少ない楽しみなのに何てことしやがる!
食後の薬。瑠璃ちゃんから聞いたこのみは、オブラートに包んだ薬を俺に渡す。だが、もしここで
俺がオブラートなどいらないと言えば、嘘をつかれたと瑠璃ちゃんが傷つくに違いない。オブラート
が無ければ薬も飲めないお子ちゃまと言うレッテルを覚悟で俺は、黙ってそれを飲むのであった。
薬を飲んで横になっていると、お粥で腹がふくれたのも手伝ってか、俺はまた眠ってしまった。
そして目が覚めると、部屋の中は真っ暗。隣のベッドを見るとタマ姉がすやすや寝息をたてている。
正確な時間は分からないが、どうやら夜中のようだ。
なので再び目を閉じるのだけれど……、困ったことに、全然眠れなかったりする。昼間何度も寝た
挙げ句、中途半端な時間に一眠りしたのが良くなかったのだろう。
繰り返すが、今は夜中。話し相手も当然いないし、隣でタマ姉が寝ている以上、明かりをつけて
本を読むワケにもいかない。さて、どうしたものやら……
そう言えば以前、牛乳を飲むとよく眠れるって聞いたことがあったっけ。よし、牛乳を飲もう。
身を起こしてベッドから降り、立ち上がる。――う、なんか身体が固い感じ。ずっと寝ていたせい
だな。腰を回して――すげ、コキコキ鳴ったぞ。
熱はだいぶ引いたのだろう。だるさや熱さはあまり感じられない。うん、昼間よりもずっと調子が
いいぞ。
タマ姉が目を覚まさないよう、こっそり忍び足で俺は部屋を出た。
階段の前。真っ暗で階段がよく見えない。手探りで明かりのスイッチを探し、付ける。――う、
明かりがまぶしいな。
目が慣れるまで少し待って、それから階段を下りようと――
がちゃ。
「……あ、貴明」
え、後ろから声――瑠璃ちゃん?
「どないしたん貴明? こんな夜中に」
振り返って見ると、るーこたちの部屋から瑠璃ちゃんが顔を覗かせている。そうか、俺にベッドを
譲ったから、この前の薫子さんたちが泊まったときみたいに、るーこたちの部屋で寝ていたのか。
「あ、のどが渇いたから牛乳でもと思ってさ。もしかして足音うるさかったかな?」
「ううん、ちゃう」
首をふるふると横に振る瑠璃ちゃん。じゃあ何で瑠璃ちゃんは起きたのだろう?
と、瑠璃ちゃんはハッと、
「貴明、勝手に起きたらアカンやないか! ちゃんと寝てな」
「しーっ。瑠璃ちゃん、声大きいって」
俺に注意されて「あ……」と口に手を当てる瑠璃ちゃん。
「身体はだいぶ楽になったしさ、それにタマ姉を起こすのも悪いし。
じゃあ俺、下に行くから。瑠璃ちゃん、おやすみ」
小声でそう告げ、改めて階段を下りようとすると、
「あ、貴明……。そ、その……」
瑠璃ちゃんは部屋から出てきて俺に歩み寄り、
「う、ウチも、行く」
なにゆえ瑠璃ちゃんは俺について来るのだろうか? そんな疑問が頭をよぎるものの、断る理由も
全くないので、俺は瑠璃ちゃんと一緒に階段を下りた。
さて、居間に入ってキッチンへと――
ぎゅっ。
ん? 瑠璃ちゃんが俺のパジャマの裾を掴む。
「どうしたの、瑠璃ちゃん?」
「う、うう……」
困ったような、頼りなさそうな顔の瑠璃ちゃん。何も言わず、チラリと見た方向には――
「あ、トイレ?」
ゲシッ!
「ぐえっ!?」
「い、言うな!」
け、蹴られた……。
けど、これで何となくだが、瑠璃ちゃんが俺についてきた理由が分かったぞ。大方、花梨あたりが
宇宙人関係の怖い話でもして、そのせいで眠れず、おまけにトイレにも行けなかった、と。ホントに
瑠璃ちゃんは恐がりだなぁ。
「ご、ゴメンね瑠璃ちゃん」
痛む脇腹をさすりつつ、廊下の明かりをつける。明るいだけでも随分違うはずだ。
「とりあえず俺はキッチンに行くからさ、瑠璃ちゃんは――」
ぎゅっ。
まただ。また瑠璃ちゃんは押し黙ったまま、俺のパジャマの裾を掴む。
今度は俺にどうして欲しいのだろうか? 俺は少し考え――ふと、ある出来事を思い出す。
それは以前、このみが家に”お泊まり”に来たときのこと。俺がこのみに怪談話をしたばかりに、
すっかり怯えたこのみにトイレにまで付き合わされて……
うん、多分これはあのときと同じだ。なら、そうだな……、よし。
俺はトイレの前に立ち、そして、
「とおいき〜お〜くをたどれば〜♪」
「た、貴明?」
突然歌い出した俺に驚く瑠璃ちゃん。
「ああ驚かせてゴメンね。何故か突然ここで歌いたくなっちゃってさ。
多分俺、5分くらいはこのまま歌ってるつもりだから、悪いけど聞き流してくれないかな。
あ、そうだ、歌に集中したいから耳もふさいでおこう」
両方の耳をふさぎ、歌を続ける。
ポカンとする瑠璃ちゃんだが、やがて俺の意図に気付いたらしく、顔を赤らめながらもコクリと
肯き、トイレに入った。
トイレの後、今度は俺の用事を足しにキッチンへと向かう。瑠璃ちゃんもついてきた。
瑠璃ちゃんが怖がるといけないので、まずは居間の明かりをつける。
「――うぅ、まぶしいよぉ〜」
そんな声が聞こえたのはソファーから。――え!?
「こ、このみ!? なんでお前、そこで寝てるんだ?」
ソファーの上で毛布にくるまって寝ていたのは、このみだ。このみはむくりと身を起こし、
「……ん〜、さっき歌ってたの、やっぱタカくんなんだ」
ぼ〜っと眠そうな目で俺を見る。
「あ、うん、まぁな……
じゃなくて! 何故にお前はここで寝てるのかと聞いている!」
するとこのみは寝ぼけた声で、
「お泊まり」
「お泊まり?」
「あのね、お父さんとお母さん、また急な用事で出かけちゃったの。だからタカくんの代わりにタマ
お姉ちゃんにお願いして」
――ああ、そう言えばそろそろだったか。ほぼ月に一度の、このみの”お泊まり”。
「そっか。まぁ、そう言うことならな。でも何でここで?
何もこんなソファーじゃなくたって、タマ姉か誰かとでも一緒に寝ればいいのに」
「あのね、寝てみたくなったの、ここで」
えへ〜、と、寝ぼけた顔で笑うこのみ。
「タカくんが、普段どんな風に寝てるのかなって思って、タマお姉ちゃんにお願いしたの」
「物好きなヤツだなぁ。普通のベッドの方が寝心地いいだろうに」
「ううん、そうでもないよ。このソファー、なんかとっても気持ちいいんだ。
寝てるとね、なんとなくタカくんの匂いがするの。なんだかタカくんと一緒に寝ているみたい」
「な!?」
こ、こいつ、自分がどんだけ恥ずかしいこと言ってるのか分かってるのか!?
などと俺が慌てるのを余所に、このみは、
「あ、そう言えばタカくんどうしたの? まだ寝てなきゃダメだよ。ホラ、そんなに顔赤くして」
いや、顔が赤いのは風邪のせいじゃないのだが。
「いやその、のどが渇いたからさ、牛乳でも飲もうかと思って」
「瑠璃ちゃんも?」
「え? あ、う、うん……」
「ふぅん……」
瑠璃ちゃんのそのウソを疑うこともなく、このみは、
「わたしも飲む」
支援
支援
ソファーに三人で座り、牛乳を飲む。――そう言えば以前にも似たようなことがあったな。
「あ」
突然声を上げるこのみ。
「どうした、このみ?」
「タカくんにはホットミルクの方がよかったかな」
ホットミルク? ――ああ、温かい飲み物の方が風邪にはいいってか。
「いや、コレでいいよ。のど渇いてるときは冷たい方が美味いし」
「でも、お腹壊したりしない?」
このみはマジで心配そうな顔。
「コップ一杯ならどうってことないって。大丈夫大丈夫」
そう言いながらこのみの頭をくしゃくしゃとなでてやる。
「あ、うぅ、タカくんやめてよぉ〜」
とか言いながらもくすぐったそうに笑ってやがる。ははは、こやつめ。
と、そこで俺は、となりの瑠璃ちゃんがやけに静かなのが気になった。見ると瑠璃ちゃんはコップ
を手に上の空。何か考えているのだろうか?
「瑠璃ちゃん?」
「――え?」
俺に呼ばれ、とハッと気付く瑠璃ちゃん。
「どうしたの瑠璃ちゃん? 何か考え事してたみたいだけど」
「あ、うん……」
瑠璃ちゃんは下を向き、
「あのな……、ウチ、さんちゃんのこと、考えてた。
さんちゃん、今頃何してるやろって。寝てるならええけど、こんな時間までゲームとかしてない
やろかって……。ま、まぁ、イルファがおるから大丈夫や思うけど……」
やっぱり瑠璃ちゃんは珊瑚ちゃんのことが気にかかる、か。まぁ当然だよな。今まで二人はずっと
一緒だったんだから。瑠璃ちゃんにとって珊瑚ちゃんは、手のかかる、でも一番大切な家族……
俺は、思い切ってこんな質問をしてみた。
「瑠璃ちゃん、家に帰りたい?」
「――え?」
その質問に戸惑う瑠璃ちゃん。
「あ、あの、う、ウチ……」
「落ち着いて瑠璃ちゃん。正直に今の気持ちを答えてくれたらいいんだ。迷っているならそれでも
いいよ。別にそれを聞いたからどうこうってことじゃないから」
「う、うん……」
瑠璃ちゃんはコクリと肯くと、下を向いて考え込む。
途端に居間が静寂に包まれる。このみも瑠璃ちゃんのジャマをしないためか、何も言わない。
しばらくして、瑠璃ちゃんは顔を上げると、
「あのな貴明、ウチ、おかしいねん」
瑠璃ちゃんの表情からは戸惑いが。けれど、何となくだがそれは、今までの戸惑いとは少し違う
ように思えて――
「さんちゃんの所に帰りたいのは確かなんや。ウチは今でもさんちゃんが一番好きやもん。
けど、何やろ? ウチな、さんちゃんの所に帰ること想像したら、何かモヤモヤするんや。
ホンマ何でやろ、何かイヤな感じがするんや。不安みたいな、何か、自分でもよう分からん……
さんちゃんの所に帰るのにそんなモヤモヤな気持ちになるなんて、何なんやろ、ホンマ。ウチ、
おかしいわ。どうかしてるわ」
「……そっか」
戸惑っている瑠璃ちゃんの頭を、このみのようにくしゃくしゃとなでる。
「ちょ、貴明、な、何すんの?」
驚く瑠璃ちゃん。けれど不思議と、瑠璃ちゃんは何も抵抗しない。
瑠璃ちゃんが言うモヤモヤはきっと、瑠璃ちゃんの、ここでの生活に対する気持ちなんじゃないか
と思う。何だかんだで瑠璃ちゃんもすっかりみんなとうち解け、当たり前のように我が家で暮らして
いる。たった一ヶ月程度だけど、瑠璃ちゃんなりにこの生活への愛着が芽生えているんじゃないか?
だとしたら、それはいいことだと思う。それは、珊瑚ちゃん以外を全て敵と見なし、狭い世界に閉じ
こもっていた瑠璃ちゃんにとっては劇的な心の変化、いや成長だと思うんだ。
もしかしたら、もう瑠璃ちゃんは大丈夫かもしれない。珊瑚ちゃんの所に帰ってもいいのかも。
……けど、それを思うと何故だろう、胸がチクリと痛む。――俺も、矛盾してるなぁ。
「た、貴明、いつまで、その、なでてるん……?」
やや恥ずかしげな、瑠璃ちゃんの声。
ん? あ、いけね、考え込んでる間もずっと瑠璃ちゃんの頭をなでてたのか。
「あ、ああ、ゴメンゴメン」
慌てて手を放し、アハハと誤魔化し笑い。
「……」
何故か恨みがましそうな目で俺を見る瑠璃ちゃん。
とすっ。
不意に、背中が重くなる。振り返ってみると……このみのやつ、俺にもたれかかってるぞ。
「こら、どうしたこのみ――」
言いかけ、このみの寝息に気付く。寝ちまったのか、このみ。
よく見るとこのみの手にコップはなく、ソファーの上に転がってる。幸いにして中身は全部このみ
が飲んだようで、ソファーは汚れていない。
「ったく、しょうがないなぁ」
瑠璃ちゃんに目配せしてコップを拾ってもらい、俺はこのみが起きないよう、そっとソファーに
寝かせてやる。
「おやすみ、このみ」
このみにそっと毛布をかけてやり、俺と瑠璃ちゃんは居間を後にした。
階段を上ると、
「何をしてたの、タカ坊?」
いつの間に起きたのか、二階の廊下でタマ姉が俺を待ちかまえていた。
「い、いや、のどが渇いたから下で牛乳飲んでたんだよ。瑠璃ちゃんとこのみも一緒に」
などと言いながら階段を上りきると、
ぎゅ〜っ。
「あいひゃひゃひゃひゃ!?」
た、タマ姉に頬をつねられた!?
「のどが渇いたのなら私を起こせばいいじゃない。
長い時間パジャマひとつでウロウロして、また熱がぶり返したらどうするのよ」
「ね、熱ならもう大丈夫だよ。それに寝てるタマ姉を起こすなんて悪いと思ったし」
「油断大敵、遠慮無用」
四字熟語二つでタマ姉は俺の頬を引っ張って部屋へと引き返す。
「あ、あの、環……」
おずおずとタマ姉を呼び止める瑠璃ちゃん。不安げな顔。るーこたちの部屋に戻るのが怖いのか?
「どうしたの、瑠璃ちゃん?」
タマ姉がそう尋ねるが、瑠璃ちゃんは恥ずかしげにモジモジするだけ。するとタマ姉は察しよく、
「いらっしゃい瑠璃ちゃん。私のベッドで良ければ、一緒に寝ましょう」
瑠璃ちゃんはホッとした顔で、コクリと肯いた。
つづく。
どうもです。第83話です。
>>715さん、
>>716さん、支援ありがとうございました。m( __ __ )m
世間じゃWiiが話題になってるようですが、未だにPS2版うたわれが終わっていない自分には
縁の遠い話です(^^;
だけど、ふと、こんなことを考えました。
「Wii版ToHeart2がもし出たら、どんなことが出来るだろうか?」と。
例えば、リモコンでこのみの頭をなでなでしたり……
例えば、リモコンで由真と卓球勝負したり……
例えば、リモコンでいいんちょを高い高いしてあげたり……
アクアプラスさん、是非ご一考願います!!(馬鹿
>>721 毎度乙。
るーこと一緒にるーの踊りをWiiで・・・
視覚的に色々まずいか…
リモコンで毎朝由真と登校勝負ですよ。
ついでに、「うたわれ」で鉄扇の代わりにリモコンをどうぞ。
リモコンでふきふき……いやなんでもない。
…ふきふき終わった後、何か大事な物を失った喪失感と一線を越えた気分になるんだろうな。
はい。珊瑚様、瑠璃様のお二人は昨日から、お二人のお父様、お母様の所へご旅行に行
かれておりまして。
ですから夜には、お二人の分まで貴明さんに可愛がっていただ・・・・・・い、いえ。
お二人の分まで、貴明さんにご奉仕しなくてはいけません。
あ、いえ。貴明さんと二人っきりになるのも、実は久しぶりなことでしたので。その、
期待していなかったと言えば、嘘になるのですが。
最近は瑠璃様と珊瑚様のお相手ばかりなさって、私をかまってくださる回数も少なくな
っていましたし。
お夕食のあと、貴明さんはソファで寛いでいました。ええ、貴明さん、美味しかったと
おっしゃってくださって。メニューは麻婆豆腐でしたが、いつもは瑠璃様、珊瑚様に合わ
せて甘口に味付けをしていましたので、その時は貴明さん用にちょっと辛目に。
それでその後、広いお家なのに私も貴明さんも、一緒に並んでソファに座ってしまって
いて。
つい二人で顔を見合わせてしまって、笑い出してしまいました。「他に場所はたくさんあ
るのに、なんで並んで座っているんだろう」って。
貴明さんはいつもは瑠璃様と珊瑚様がいるので気にならないけど、基本的に広すぎる部
屋は苦手だとおっしゃいますし。私も、出来ればその、どなたかと一緒に居られる方が、
安心しますから。貴明さんですと、特に、それで昨日も。
そこで、え? はい、貴明さん、いつも色々私にお話をしてくださって。学校での瑠璃
様たちのことや、ご友人のことや。もちろん、お二人のお話もよくしてくださいますよ。
昨日は私の方から、最近お菓子作りにも挑戦していると言うことをお話したのですが、
貴明さん、完成したら食べさせて欲しいとおっしゃって。まだ自信が無いので、もうちょ
っと待って欲しいとは言ったのですが、「イルファさんが作るお菓子なら、きっと美味しい
から。味見させて欲しい」だなんて。もう、困ってしまいます。けれど貴明さんに喜んで
いただくためにも、張り切って・・・・・・し、失礼しました。
他にも、お弁当のメニューや、次のお休みの時の予定の話などをしていたのですが。そ
のうち、ふと会話が止まってしまった瞬間があって。こういう時はなんと表現すればよろ
しかったのでしょうか。
そう言う雰囲気、ですか? 貴明さんの目から視線をはずすことができなくなってしま
って、だんだんとモーターの回転は速くなってしまいますし、CPUの方も熱が溜まって
しまっていって。
た、貴明さんの顔だんだんと近づいてきて、目の前まできた時には、貴明さんの唇に吸
い込まれるように、キスを。
貴明さんの唇、とても柔らかいんです。瑠璃様や珊瑚様の唇も、まるでマシュマロのよ
うに柔らかいのですが。貴明さんのは、まるでこちらの体が溶けてしまっていくよう、と
表現できますでしょうか。
それに貴明さん、優しく私の肩を抱いてくださって。舌が、ゆっくりと私の口の中に絡
んできて。
「イルファさん。えっと、行こうか」
寝室に誘われた時には私、もう頭の中が真っ白になってしまっていて。
別に体の機能に不具合が出たわけではなかったんですが。
ただ、私の体を支えてくださる、貴明さんの体の温もりを感じるのに処理能力のほぼ全
てを費やしてしまって。
「イルファさん、もしかして興奮してる?」
貴明さん、時々とってもいじわるになるんです。最近は特に。
昨日だって私があれだけ緊張していたと言うのに、からかうようなことを言って。
もちろんそのままになんてしておきません。
足を払って、ベッドに押し倒してさしあげました。
「もう。いじわるしたお仕置きです」
「お、お手柔らかに」
今度は、私のほうから貴明さんの唇に。
どれくらいキスし続けていたのでしょうか。体は4分13秒だと正確に時間を計ってい
るのに、まるで何時間も貴明さんと唇を合わせていたような気がして。
そうそう。貴明さん、私たちの服を脱がせるの、とてもお上手になったんですよ。最初
のころなんて、照れてしまって私が貴明さんのお洋服をぬがせていましたのに。
それはそれで、とても楽しかったのですが。
キスしている間、貴明さんの指が私のボタンをはずしていくのを感じるんです。
エプロンのボタンをはずされて、スカートのホックに手が掛かって。時々、私の頭をな
でてくださって。
「イルファさん、胸、そんなに抱き着かれちゃ、当たって」
「あらあら。ご自分で私の服を脱がせてくださったのに、何がいけないんですか?」
「いやその、くすぐったいのが」
なのにすぐに恥ずかしがって。
「さあ、貴明さん。私ばかり洋服を脱ぐのは不公平ですから。貴明さんもぬぎぬぎしまし
ょうね?」
貴明さんのベルトに手を掛けると、もう、ズボンの上からでも貴明さんのが大きくなっ
ているのが感じられるんです。匂いも、男性の方の匂いと言うのでしょうか。本当なら香
りなんてわからないはずなのに。
チャックを下ろして下着の中から取り出した貴明さんのものは、もう私の手のひらから
こぼれるくらい大きくなって、その瞬間にもどんどん硬くなって。
私の口では、ひと口で食べることができなくなるくらい。
そんな、見とれてしまうくらい逞しい貴明さんのなのに。私の指が触れたり、舌で舐め
て差し上げるとピクン、ピクンと可愛らしく反応するんですよ。
特にこうやって、うふぁふあわの部分にキスして差し上げると、先からお汁を流しなが
らとっても喜んでくれて。貴明さんが気持ちよくなってくれればくれるほど、私も嬉しく
なっていくんです。
貴明さんに喜んでもらいたい。貴明さんのものを、もっと気持ちよくさせてあげたい。
それだけで頭が一杯になってしまいます。
「イルファさん」
貴明さんが、私のことを呼んでくださいました。
私は口いっぱいに貴明さんのものをほお張っていて、満足にお返事をすることができな
かったのですが。視線を上げて貴明さんのことを見れば、貴明さんがどうなさりたいのか
は十分に伝わってきました。
だって、あんなにも切なそうな顔で、私のことを見るのですから。
口の中に含んだまま、強く貴明さんのお汁を吸い出した瞬間。まるで貴明さんのものが
膨張したように大きくなって、そして、熱い、スープのような精液が口の中いっぱいに。
貴明さん、まるで女性のような叫び声をあげたんですよ。「あぁーっ」って。
ただその時は、そのことにまで思考が追いついていなかったのですけれど。
口の中に沢山ある貴明さんの精液の感触を舌で味わいながら。感じた通りのドロっとし
た物が、糸を引いて唇の端から零れていく様子を眺めていました。
「イルファさん、ほっぺた。溢れてる」
「ふぁ、あ。ふぃまふぇん」
貴明さんが何かをおっしゃっていたのですが。私も、なんとお答えしたのかよく覚えて
いないんです。なんだかぼうっとしてしまっていて。
あ、でも、口の中の精液を飲み込む感触はよく覚えているんですよ。貴明さんが、私の
口の中に出された時と同じくらい。
喉を熱いものが流れていくことの心地よさは、今思い出しても胸が熱くなってしまいま
す。
私は物を食べられる訳ではありませんが。だからこそ、貴明さんに可愛がってもらって
いる最中、こうして貴明さんのものをしゃぶって差し上げて、精液の感触を味わえるのが
嬉しくなってしまうんです。
「イルファさん。今度は俺がしてあげる番だね」
貴明さんに促されるまま、ベッドに横になりました。
貴明さんの指や唇が、私の肌を愛撫したり、胸を啄ばんだりするんです。胸がお好きの
ようで、先の部分をちゅっ、ちゅっ、とまるで赤ちゃんみたいに。
え、いえ、その、嫌というわけでは。むしろ、貴明さんが気に入ってくださって、嬉し
いというか・・・・・・
「貴明さん・・・・・・」
「うん、わかってる。こっちも触って欲しいんだよね」
今まで私の胸を揉んでいた貴明さんの指が、胸からお腹を通って、そのまま更に下へ。
いじわるな貴明さん。最初はくすぐるように触っていただけなのに、私がちょっと声を
上げた途端に激しく指を動かして。それも最初は指一本で出し入れするだけだったのを、
私が喜んでるからとおっしゃって、すぐに二本に増やして。
くちゅくちゅくちゅくちゅ、音が聞こえてくるほど。
私のあそこを広げたり、内側をこすったりするんです。あんなに強くされて、しかも貴
明さん、私の弱いところ全部知って触ってくるんですから。思わず足を閉じようと私がし
ても、しっかりと押さえつけてきて。
貴明さん、それどころかキスで唇までふさいでくるんですよ。おかげで声も上げられな
かったんですよ。ひどいと思いませんか。
「うん、そう。四つん這いになって。お尻をこっちに」
まるでワンちゃんのような姿勢になった私は、お尻を高くあげて。貴明さんに私の恥ず
かしいところを見せ付けるように。
あんなポーズ、恥ずかしくて恥ずかしくて壊れてしまいそうになるのに、貴明さんに見
られている、貴明さんが私のお尻を見て興奮している。そう考えるだけで、どんどんボデ
ィに熱が溜まっていきました。
四つんばいになっていて、貴明さんの顔を見ることができなかったせいなのでしょうか。
いつもより敏感になってしまっていたような。貴明さんの息がかかっただけで、背中を
ぞくぞくとした物が走っていきます。あそこからも、溢れたお汁が太ももに流れ出して。
はしたない話なのですが、その時にはもう、私も興奮してしまっていて。
私のお汁を舐める貴明さんに、抵抗するどころかもっとお尻を押し付けるような真似を
してしまったんです。そうしたら貴明さん、もっと激しく舌や唇を動かし始めて。お尻を
齧られた時には、本当に食べられてしまうんじゃないかと思いました。
でも、そこで抵抗すると今度は、一番敏感なお豆さんの方に歯を立ててきちゃいますし。人並み、人並みです私の物は。そんな恥ずかしくありません、ちゃんとカバーされてま
す!!
もう。あまりからかわないでください。
それでどこまで、あ、そうそう。それで。
ずっと舐められ続けて、もう足に力が入らなくて膝が崩れそうになったのに、貴明さん
ったら止めようとしてくれないんです。
それどころか、私が腰を落とした隙に今度は、お、お尻まで。そうです。お尻の、穴の
ところを。
「た、貴明さひゃ、お、お尻ぃっ!」
人間の方のように排泄をするわけではありませんから、汚いということはありませんが。
でも、問題はそう言うところじゃありません!
私、お尻を舐められるの初めてのことだったんですから!!
しかも初めての私の尻の、穴の中にまで舌をいれてきて。腰を引いて逃げようとしても、
こんどは指で前の方をいじられて。結局お尻を高く上げることになって。
「たかあきさぁん」
貴明さんの舌がお尻から離れるころには、私の頭の中は貴明さんに可愛がっていただく
ことで一杯になってしまっていて。でなければ、あんな恥ずかしい格好でおねだりをして
しまったりは。
え、それは、その。なんと申し上げましょうか。
仰向けになって、自分で足を抱えて、貴明さんに私のあそこが良く見えるよう、指で、
広げて。
ふ、普段はそんなこと、けっしてやったりはいたしませんよ!? 瑠璃様にだってした
ことないんですから。
今回は、貴明さんがお尻にイタズラなんてするから、私もいつもより変な気分になって
しまっていたんです。全部、貴明さんが悪いんですから。
「お情けを、くださいまし、貴明さん」
見れば貴明さんのものも、大きくなって、苦しそうに震えていて。
「力を抜いて」そうおっしゃると、はれあがったご自身のものを私のあそこの入り口に
当てて。一息で私の一番深いところまで。
私ったら、それだけで軽く絶頂を迎えてしまいまして。まだ満足に貴明さんのお相手も
していませんでしたのに。
必死に我慢しようと努力はしたのですが、貴明さんの、いつ可愛がっていただいても私
にはちょっとその、大きすぎるほどの物ですから。その前からの愛撫で、ボディの方も火
がついちゃっていたこともありますし。
私が果ててしまったことは、貴明さんにもわかったご様子でしたが。でも貴明さん、私
に休む暇も与えずに腰を動かし始めて。
イルファさんの中が気持ち良すぎて、我慢できなかったなどとおっしゃいましたが、き
っと嘘です。あ、その、私の中が、と言うのは本当にそう思っていただけたと思うのです
が。私も努力しておりますし。
でも、絶対に貴明さん、私の反応をみて楽しんでいたに違いないんです。
ただでさえ貴明さんには私の一番弱いところを苛められていますのに、絶頂を迎えたば
かりで全身が更に敏感になっていたんですから。
いつの間にか私も、自分で腰を振ってしまっていて。
私の体の中から、お汁で濡れた貴明さんのものが引き抜かれていくんです。二人で激し
く腰を動かしているのですから、そんなにしっかりと見る余裕はないはずなのですが。"ひ
だ"の縁から溢れてくるお汁の様子や、貴明さんのものがぬるぬると光っている様までま
るでスローモーションでも見るみたいに。
恥ずかしい声も、たくさん上げてしまいました。貴明さんにも「いつものイルファさん
からは想像できない」と言われてしまって。
い、言えません、そんな恥ずかしいこと。
その後もずっと、二人とも絶頂を迎えるまで、姿勢を変えながら。
後ろから抱きしめられたり、私が上になって、貴明さんを気持ちよくして差し上げたり。
でも一番好きなのは、貴明さんの膝の上に乗って、向かい合って抱きしめられるのでし
ょうか。
後ろから貴明さんに突いていただくのも、その大好き、なのですが。
でもそれだと、貴明さんと繋がったまま、全身で貴明さんの温もりを感じられて。体中
で愛していただいている気持ちになれるんです。
貴明さんの指で、あちこちを可愛がっていただけないのが玉に瑕ですが。あ、でも、キ
スできますからプラスマイナスはゼロですね。
「イルファさん、いく? いきそう? いきそう!?」
「貴明さんも、来てください。私の、私の中にいっぱいぃ!!」
お互い抱き合ったまま激しく体を動かしあって、どんどんと気持ちが昂っていっている
のがわかるんです。
私の胸が、貴明さんの胸板で擦られて。貴明さんのものが、私の一番奥を打ちつけて。
結合部のところなんて、二人のお汁でもうぐしょぐしょに。
でも、そんなことには全く気が付いていなくて。気が付くというか、そのような余裕が
無かったと言うのでしょうか。終わった後、ようやくシーツがひどいことになっていたの
に気が付いたくらいでしたから。とにかくその時は、貴明さんのものを感じるだけで精一
杯で。
まるで私自身が、貴明さんと繋がっているところだけになってしまったような。
貴明さんが、一際強く私のことを抱きしめたんです。そして貴明さんのものも、私の中
を一番奥まで抉って。
「ひっ、あ、ひぃああああああーっ!!」
ドクン、ドクンと脈打つたびに、貴明さんのものから私の体の中に精液が注ぎこまれて
いくのを感じるんです。中が溶けてしまいそうなくらい熱くて、それが心地よくて。
先ほど口の中に出されたその、どろっとした感触を思い出してしまって、それが更に私
の中で溜まっていく精液の感触を強くして。
どれくらい、そのまま二人で抱き合っていましたでしょうか。はい、もちろん、二人と
も繋がったままで。
貴明さんったら凄かったんですよ。もう二度目だったと言うのに、全く衰えなくて。大
きくて、硬いまま。
・・・・・・隠し味に入れた、赤マムシ粉末のお陰でしょうか・・・・・・あ、え、い
えなんでもありません。
私ったら、全身から力が抜けてしまって、抱き合いながら貴明さんに体ごと倒れこんで
しまって。けれど貴明さん、ご自身も乱れた息をしてらしたのに、ちゃんと支えてくれて、その後キスまでしてくださったんです。最初と同じくらい、唇を啄ばんで、舌を絡めてく
る激しいキスを。
「い、イルファさん!?」
ただそうやって抱き合っているうちに、また、気分が高まってきてしまったんでしょう
か。で、ですが、貴明さんの出された精液、全部私の中に溜まったままでしたし、少し体
を動かすだけで、貴明さんのものは私の中を擦りますし。
し、仕方ありません!
「あ、ああ、申し訳、ありません。でも腰がぁ、腰が勝手に動いてぇ」
いくら止めよう、止めようと考えても、体が動いてしまうのを止めることができなくて。
それどころか腰が上下するたびにもっと貴明さんのものを感じたい、貴明さんのもので気
持ちよくなりたいという思いが強くなっていって。
ほ、本当は恥ずかしいんです。自分がこんなエッチの大好きな、淫らなメイドロボだな
んて。
なのに貴明さん、わざと耳元で、私が恥ずかしがるようなことをおっしゃいますし。「イ
ルファさん、ここを擦られるの好きだよね?」ですとか「俺の、イルファさんのお汁でド
ロドロだよ」ですとか。
結局その時も、最後には貴明さんになされるがままになってしまいましたのに。まるで
私だけがいやらしいみたいに。
貴明さんの方がずっとエッチじゃないですか。そのときだって、まるで小さい子に、お
しっこをさせるようなポーズを私に強要するんですから。
「イルファさん」
「ふぁ、はいぃぃ」
「イルファさんの、耳、見せて」
貴明さんの手が、私のアンテナに掛かりました。いくらダメです、いけませんと言って
も、貴明さん聞いてくださらず。それどころか私が抵抗しようとすると、激しく腰を動か
すんです。それに胸の先までつねられて、私に抵抗させまいとして。
首筋にキスの雨を降らされながら、とうとうカバーをはずされてしまいました。
"これ"をはずされて、中の耳を見られてしまうこと。私たちメイドロボにとっては凄く恥
ずかしいことなんです。裸を見られてしまうのと、同じくらい。
それなのに貴明さん「イルファさんの耳、真っ赤にしちゃって。思ったとおり可愛いよ」
なんておっしゃって。
そのうちに貴明さんの唇、首筋から今度はカバーをはずされた耳に移動してきて。
「だめぇ、だめなんです。耳は、みみはぁ恥ずかしすぎ、ぃいいっ!」
どれだけお願いしても、貴明さんは止めてはくれませんでした。
耳たぶに歯を立てられると、全身にまるで電気を流されたような衝撃が走るんです。し
かもその衝撃は、貴明さんの舌が私の耳の中をくすぐるほど強くなって。
もちろん、他のところを手加減してくださることもありませんでしたから。ずっと、私
の中で貴明さんのものは激しく私を攻め立てていましたし、胸も形が変わってしまいそう
なくらい揉まれて。
あまりの快感にとうとう耐えられなくなって、視線を下に下ろしたんです。もう、首に
力を入れることすらできなくて。
そうしたら、目に入ってしまうんです。貴明さんのものが出たり、入ったりして私の中
を擦り上げる様子が。私のお汁と、先ほど出された貴明さんの精液とが混じって、一突き
されるたびに音を立てて泡だって。
「あぁぁっ・・・・・・いやらしい・・・・・・」
なんだかすぐに信じることができなかったんです、自分のことなのに。こんなにいやら
しく、ヒクヒクと嬉しそうに貴明さんの物を求めているだなんて。
でも確かに貴明さんのものが飲み込まれていくたびに、体の奥を痺れるような快感が伝
わって。
それがわかってしまうと、後はもう我慢することができませんでした。
まるで動物のように貴明さんの名前を呼びながら貴明さんを求めて。貴明さんも、私の
名前を呼び続けていてくれたような気がします。
その、その時はもう頭にノイズがかかりっ放しの状態でして。よく覚えていなくて。残
念です。
「た、貴明さぁぁぁん!!」
「イルファさんっっ!」
そしてとうとう絶頂を迎えて。一瞬送れて、体の中に貴明さんの熱い精液が流れ込んで
きました。もう三度目だったと言うのに、たくさん。溢れてしまいそうなくらい。
余韻から覚めて、ようやく思考のノイズも晴れるころには、気が付いたら貴明さんの体
に覆いかぶさるようにベッドに横になっていました。
貴明さんもようやく満足してくださったのか、それまで私のことをあんなに虐めていた
とは思えないくらい可愛らしくなってしまって。
「貴明さん、大好きですよ」
「俺も、イルファさんのこと大好きだから」
私が貴明さんの唇にキスをすると、貴明さんもそれに応えてくださいました。二人とも
体に力が入らなくて、ただ首だけをお互いの方に向けて。
しばらくそうやってベッドに横になっていたのですが、ようやく体に力が入る頃には、
貴明さんの体がもう冷えてしまっていて。
お互い抱き合っていましたし、寒かったということは無かったと思うのですが。ベッド
も、シーツも、二人分の体液で濡れてしまっていましたし。
幸いお風呂はお夕食の前には用意していましたので、すぐに入ることができたのですが。
「じゃあ、一緒に入ろうか」
「え、あ・・・・・・はい」
お互いの体を洗っているうちに、その、二人ともまた興奮してきてしまって。
え、それはもちろん、お互いの体をこすり付けるように洗って差し上げましたよ? 貴
明さんも私の体を、手にボディーソープをつけて洗ってくださいましたし。
それがいけなかったのでしょうか・・・・・・気がついた時にはもう、貴明さんの、ま
たお元気になってしまっていて。
結局また、お風呂場で。
今度は、お尻まで可愛がられてしまって。二回も。
最後に貴明さんの物を、口で綺麗にして差し上げて・・・・・・あ、申し訳ありません。
もうこんな時間に。
申し訳ありません、話の途中ですのに。そろそろ帰って、お夕飯の支度をしませんと。
それではまた、失礼いたし・・・・・・え、メニューですか?
はい、今日は鰻の蒲焼にしようかと。赤マ──山椒をたっぷり使って。
では。
イルファが帰った後、そのオープンカフェのテーブルの上では、顔を真っ赤にした柚原
このみと呆けた様子の向坂環だけが残されていた。
「す、すごかったねー、イルファさんの話」
「そう、ねえ」
話は最初は他愛の無いものだったはずだ。姫百合家に居候する河野貴明の最近の様子だ
とか、そんな感じの。
それがいつの間にか、河野貴明とメイドロボイルファの、生々しい夜の生活の話に発展
してしまって。
「タカくん、すごいんだね」
「そうねぇ」
感想を言う方もそれに応える方も、せいぜいそんなことくらいしか口に出すことができ
ない。まさかここまでとは思っていなかった。
「あれ、このみに、タマ姉。こんなところで何やってるんだ?」
「あ、タカくん。あのね、えっと・・・・・・」
そこに偶然、今の話の片方の当事者が現れる。本人は、ついさっきまで自分のプライバ
シーが赤裸々に暴露されていたことなど考えてもいないだろう。
「タカ坊、首筋のところ。痣ができているけど、虫刺され?」
河野貴明は慌てて首筋に手を当てる。
「そ、そう。虫刺され。昨日寝てたら、大きな蚊に刺されちゃってさ」
その慌てようは、どうやってその痣ができたのかを如実に物語ってしまっていた。
例えば、その蚊の髪の色は青で、服は何も着ていなかったとか。
環は溜息を一つ付くと、おもむろに貴明へと近寄っていく。
「た、タマ姉なんだよ一体?」
「タカ坊。何の理由も聞かないで、とりあえず一度潰されておきなさい」
「な、なんだよそれ。このみ、タマ姉どうしちゃったんだよ!?」
「タカくん。わたしもね、今回はしかたないんじゃないかなーって思うんだ」
環はやる気の無さそうに、でも手加減はまったくしないで貴明の眉間に手を掛ける。
きっと、理由のわからない暴力に晒された貴明が姫百合家に帰ったら、イルファは上機
嫌で彼のことを出迎えてくれることだろう。
終
自分の妄想をダイレクトに文章化すると、こうなるというサンプル。
エロい文章っていうのは、難しいですね。
乙、イルファさんエロ過ぎだw
GJです!
笹森会長が良かった。
752 :
名無しさんだよもん:2006/12/07(木) 09:12:35 ID:8XQ45L3m0
黄色死ネ
>>748 GJ!
ドラマCDとかで実際にイルファさんの声で聞きたいぐらいだ
GJ!!エロいというか微笑ましくてイイ!
欲を言えば、姫百合エンド後のSSってイルファやミルファメインばかりだから
たまには、双子メインのも読みたい。
イルファやミルファメインばかりって…
TH2のSS自体が激減してる状態で何を言ってるんだか
ギャグやエロもいいんだが、たまには長編シリアスとかも見たいような気もする
>>748 GJです!!
久々にこのスレでおっきしたw いつぶりだろ?
なんかまた無性にSS書きたくなってきたな。
鳩2再インスコしたことだしちょいちょい書いてくか。完成するかどうかわかんねーけど。
ミルファとまーりゃん先輩とか絡ませてえなぁ。
「ちっ、なんだよなんだよ最近のメイドロボは可愛げがないなー。
あたしが知ってるメイドロボはこんなんじゃなかったぞー」
「まーりゃん先輩、メイドロボの知り合いでもいたんですか?」
「うむ。あたしが一年のときに学校に来てた。そっちの赤いのみたいに学校に運用テストしに」
「へぇ……。どんなメイドロボだったんですか?」
「いい子だったぞー。頼めばなんでもしてくれたし。それに真面目だったし。
一度冗談で「プレステ買ってこい」って言ったらホントに買ってくるくらい」
「あんただったのー!? マルチお姉様に無理難題言ってたってのは!」
それ、まーりゃんのせいにされてるのをよく見かけるなw
むしろ葵ちゃんだったら萌えた。
ああ、そういやまーりゃん先輩ってマルチと同学年だったな
どうにもまーりゃん先輩は先輩ってイメージが強くて1年生だった頃があるの、イメージできん。
ずーっと偉そうなイメージだ。
確かに葵・琴音・理緒・マルチと同学年には見えんな<まーりゃん先輩
同学年だったら琴音以上の問題児として登場してそうだしなぁ
>763
リオは1学年上だ!
途中で転校してきたとか
新学期。
さわやかな9月1日の朝。
このみは、珍しく早起きだった。
「タカくんが早く行くっていってたから、このみも頑張って起きたのに」
校門をくぐる膨れっ面。
用事があるからと、貴明は先に行ってしまっていて。
二度寝しようとしたら、春夏に殴られた。
「ふわぁ、誰もいない〜」
まだ朝練も始まらない早朝。昇降口には、ひとっこ一人見あたらない。
いつも遅刻寸前で駆け抜ける校舎を、ゆっくり歩いて教室へ。
「もしかして、1番乗りかなあ?」
なんとなくドキドキしながら、教室のドアを引く。
「え?」
びっくりして、入口で立ち止まった。
しんと静まりかえった朝の教室。その最前列、教卓の真正面。
このみの席に。
まるで顔も知らない栗色の髪をした小柄な女の子が、ちょこんと座っていた。
「あの……」
「……?」
仏頂面のまま顔を上げる女の子。
「そこ、このみの席なんだけど……」
「……」
女の子は、無言で椅子から身体をずらすと、机と机の間に平行移動した。
「空気椅子?」
そんなわけはない。机を挟んでこのみの反対側に、車椅子があっただけ。
ブレーキを外して、キコキコとバック。ひとつ後ろの椅子に座り直す。
「……どうぞ」
少し幼い感じの声。
「え、えっとね、……そこは、さっちゃんの席……」
「……」
沈黙5秒間。
再び、お尻を椅子からどかす。
「!」
ブレーキをかけていなかった車椅子が滑った。
「あっ、あぶないよっ!」
慌てたこのみが手を伸ばす。
反射的にその手を掴む女の子。
「うわとっ」
体重の軽いこのみは、彼女の重さに引っ張られて体勢を崩した。
「げ。」
「あわわわわっ!」
女の子も負けずに軽かったのが幸い、危ういバランスで二人とも立ち直る。
「……どうも」
へこ。
頭を下げる女の子。表情は変わらず無愛想だが、頬が少し赤い。
「あ、あのねっ、まだ誰も来てないし、座ってていいよっ。さっちゃん来たら、このみのとこに座って貰えばいいから……」
「郁乃〜っ、先生来たよ〜! 職員室行くよ〜」
入口から声が掛かって、入ってきたのは2年生。
「はれ? 小牧先輩?」
「このみちゃん? お、おはよっ」
「おはようございます」
「海ではありがとね。楽しかった」
「あっ、ううん、全然。わたしこそ」
「……知り合い?」
下方から女の子の声。
「あっ、うん。柚原このみちゃん、ほら、夏休みに海に行ったって言った」
「……ああ」
「このみちゃん、妹の郁乃。今度、こっちに転入してきたから」
「よろしくね、郁乃ちゃん」
「……よろしく」
「ひゃ〜、焦った焦った。お前今日早かったんだな」
所変わって、2−B教室。
「ちょっと用事があってね」
「姉貴も早かったみたいでさ。どうせなら起こしてってくれりゃいいのに」
「始業式の打ち合わせだって。さっき会ったよ。聞いてないの?」
「んなこと、言ってたっけかな」
久方ぶりの、朝の風景に。
「だだいまぁ〜」
朝にしては奇妙な挨拶で、愛佳がやってきた。
「お疲れ」
「疲れたよぉ。あ、おはよう向坂くん」
「おはよーさん。二学期早々、忙しそうだな」
「今日のは自分の用事だから」
「郁乃、どうだった?」
「神妙な顔してた。貴明くんにも見せたかったよ」
ふふっと微笑んだ委員長だが、すぐに心配顔になる。
「本当は教室までついて行きたかったんだけど、先生に追い払われて」
「当たり前だろ」
「妹さん、今日からか」
二人の会話に、雄二が思い当たる。
「うん。よろしくね」
「色々問題はあるけど、いい奴だから……たぶん」
「あんだそりゃ」
「あははは……はぁ……」
苦笑のち溜息、のち、はたと気づいて愛佳、悪戯っぽく。
「あっ、そうだ向坂くん。お客さんが来てるよ」
「客?」
「うん♪」
楽しそうに入口を指さす。
視線の先に、居づらそうに教室内を伺う玲於奈が居た。
「よぉ、久しぶり」
「おはようございます。早くないですけれど」
「二学期早々、御挨拶だなおい……」
「ねえねえ、どうなのかなあの二人」
教室と廊下でやり取る二人を見ながら、愛佳が貴明の方に身を乗り出す。
「どうって?」
「お似合いじゃない?」
「うげ?」
「もぅ、なんですかその反応」
愛佳は三人娘が貴明に行った仕打ちを知らない。
「いやまぁ……。しかし、言われてみれば案外案外か?」
黙って見てれば美男美女。
「雄二、前みたいに女子に声かけなくなったしな」
「でしょでしょ、海でもいい感じだったし」
「海がどうしたって?」
「うきゃぁ!」
いつのまにか戻った雄二の声に飛び上がる愛佳。
その雄二の手には、手提げ袋。
「なにそれ?」
「ビデオ貸してたんだ」
「緒方理奈? あいつらにまで布教活動?」
「押しつけじゃねーよ」
夏休み後半、CD屋で偶然会ったそうな。
「ねえねえ他には? なんにもないの?」
「なにもって……ねーよ別に」
そっけない雄二に、それでも興味津々の誰かさん。
「夏休みにイベント2回……」
頬に人差し指を当てて考え込んだ後、貴明にこっそり耳打ち。
「フラグ足りてるかな?」
「どこで覚えたそんな専門用語」
「小牧郁乃です。よろしく」
「……それだけか?」
担任の北村が思わず突っ込む。
「……」
10秒ほど停止した郁乃だが。
「……席、どこでしょう?」
「……。あー、目が悪いんだっけ?」
彼は、クラス内のコミュニケーション確保に熱心な教師ではなかった。
「申告書よりだいぶ回復してますけど、良くはないです」
「んじゃこの列、一個ずつ後ろに下がれ」
民族大移動。
中央廊下寄り最前列。
「わ、隣だぁ。よろしくねっ」
「どうも」
ニコニコ笑ったこのみと、本日3度目の挨拶を交わした。
で、二学期最初のHRはさっさと終わり、始業式への移動時間。
「体育館まで押していくね」
さっそくよろしくしようとするこのみ。
「自分で動けるからいい」
「いいからいいから」
「あ、ちょっと、そっちじゃなくて」
ごろごろごろごろ。
「……それで、ここからどうする気?」
階段の上で、郁乃は下から問うた。
このみはキョトンと見下ろして、階段と車輪の幅を見比べて、車椅子をあちこち見触って。
「……小牧先輩って、すごく力持ちなのかな?」
「それは絶対ない」
エレベータの存在を初めて知った、1分後のこのみであった。
支援 おひさw
ふんぬ
「姉がこんな有名人だとは思わなかった」
帰り支度の教室で、郁乃がぼやく。
始業式の後とか色々、簡略な挨拶の代償を質問攻めで払わされた転入生。
その半分くらいは、彼女の姉に関連するものであった。
「ったく、やりづらいったら」
「小牧先輩、みんなにすごく頼りにされてるんだよ」
隣でこのみが笑う。
郁乃は、ますます仏頂面になる。
「みんなのパシリ、の間違いでしょ」
「ほえ? ぱしり?」
郁乃の毒づきに首を傾げたこのみ、ちょっと考えて。
「うん、良く走り回ってるね小牧先輩」
にっこり。
「……帰る」
溜息。
ばたばたばた。
「郁乃〜っ! お母さん迎えに来たから〜っ!」
言ってる側から、愛佳が駆けてくる。
「騒がないでよ。みっともない」
「だってぇ」
そんな会話を交わしながら、荷物をまとめる姉妹。
「……んじゃ」
短い挨拶。教室を出る。
「あっ、郁乃ちゃん」
その背中に、このみが声を掛けた。
「……何?」
足ならぬ車椅子を止めて振り向く少女。
「明日からも、よろしくね」
「……ん」
小さく頷いた。
9月2日。今日から授業。
「んじゃあ、当たった奴は黒板に回答書いとけ。他の奴は自習」
1限目の数学は、宿題の答え合わせ。
「4問目か。前の黒板でいいわよね……」
「ふっふっふっ」
「……なに?」
突如、隣から聞こえた不気味な笑いに、郁乃が怪訝そうに尋ねる。
「くくくっ。このみの勘はバッチリなのですよ」
「これは昨日の夜、原潜に原潜を重ねて事故が起きるくらい真剣にあたる場所を予想して、やっておいた3問のうちの1問だよ」
「ほら、このとおり!」
じゃーんと、郁乃にノートの最終ページを開いて見せる。
「……」
3問ってのは前からと廊下側と窓側から割り当てた場合の3通りだろう、とか。
そもそも宿題というのは全問やっておくものではないか、とか。
夏休みの宿題を昨夜してる時点で駄目だろう、とか。
細かい事は置いといて。
「つれづれなるままに ひぐらし?」
「へ?」
「古文のノートじゃない、それ?」
郁乃は、最も直接的な問題を指摘した。
「ああっ!?」
慌てて机の中を探しだすこのみ。
「あれ? はれ? ふえ〜?」
「……忘れてきたわけね」
「だ、だいじょうぶ。だいじょうぶだよ」
頬に汗を浮かべながらも強がる少女。
「昨日の夜の苦難の道程の記憶は今もわたしの胸に鮮明に焼き付いているんだから答えは……全然思い出せない……」
「……はい」
「えっ?」
「あたしは見なくても書けるから」
郁乃は自分のノートをこのみに押しつけると、そっぽを向いて黒板の方に車椅子を進めた。
9月3日。晴れ。
この時期、体育の授業は生徒達に非常に評判が悪い。
秋のマラソン大会に向けての練習=長距離走が始まるからだ。
「えんじーんのおーとーごーごーとー♪」
「な、なんであんな楽しそうなの柚原は」
一部の例外を除く。
「……」
一方、被害も利益も受けていない約1名。
「元気ねえ」
呟く郁乃。
見上げるには少し眩しい空。
走るクラスメート達から、もうひとつ視界を落とす。
「う、車輪に石が」
ちょっと鬱ったその前を、
「し〜な〜ばともに〜とだん〜け〜つの♪」
調子っぱずれの歌声が、ドップラー効果で走り去った。
「おーし、交代〜」
「やっと終わったよぉ」
「うー、嫌だなぁ」
疲れた声と、これから疲れる声の中、
「郁乃ちゃん!」
元気なこのみが走り寄る。
「お疲れ様」
「全然平気だよ。今度は郁乃ちゃんの番!」
「え? あたしは見学で……うわっとっ!?」
「しゅっぱつしんこーっ!」
乗客の意志も聞かずに走り出す車椅子。
「わ、こ、こら、待ちなさい! 危ないってば」
「ああ〜いま〜は〜なき〜もの〜の〜ふの〜♪」
「笑って散るなぁ!」
「ごめんね郁乃ちゃん」
「悪くないから謝らなくていい」
昼下がりの保健室。
「お母さん、すぐ出るって。30分くらいかな」
職員室で電話を借りてきた愛佳が戻ってきた。
「久しぶりだね」
体育の授業の後、郁乃が熱を出した事を指す。
「ちょっと油断したかも」
「このみが無理させちゃったから……」
やっぱり申し訳なさそうな、郁乃の車椅子を押してトラックを走り回ったこのみ。
「いや、あたしが馬鹿なだけ」
再度同級生の責任を否定した、「自分で走れる」とハンドリム全速回転で校庭を突っ切った郁乃。
もちろん、二人揃ってめちゃくちゃ怒られた。
「油断というより、はしゃぎ過ぎたのね」
郁乃ダウンの一報に血相を変えて飛んできた愛佳だが、
深刻なものではないと知って安心した今はヽ (´ー`)┌ ←こんな感じ。
「む……」
がらっ。
郁乃が反論しかかった時、扉が開く。
「郁乃、大丈夫?」
「……なんであんたまで抜けてくんのよ」
「大丈夫そうだな。退散するか」
がらがら。
扉が半分閉じる。
「……普通、来ていきなり帰る?」
「なんだ、帰らないで欲しいならそう言っうぉとっ!」
ベッドからの飛来物を受け止めて、貴明が改めて入室してきた。
「体温計なんて投げるなよ……あれ? このみ?」
枕元の椅子にちょこんとした1年生の姿に気付く。
「あ、タカくん?」
「……?」
郁乃の怪訝そうな顔には、誰も気付かなかった。
「このみちゃん、保健室に付き添ってくれてたんだ」
「同じクラスだっけか」
「うん。あのね、体育の時に、このみが……」
「だからこのみのせいじゃないってば。教室、戻っていいよ」
「でも……」
「なにがあったの?」
愛佳に説明を求める貴明。
「えっとねぇ……」
かくしかじか。
ヽ (´ー`)┌
ヽ (´ー`)┌
「あんた達も、とっとと帰れ!」
「ま、環境変わった疲れが出たんだろ。このみのせいじゃないよ」
ぽん、と貴明がこのみの頭に手を乗せる。
「ほぁ……」
少し安心した表情になる、年齢の割に子供っぽい少女。
「?」
郁乃が再び、怪訝な顔をした。
今度は、愛佳が気付いた。
「あっ、貴明くんとこのみちゃんは、ちっちゃな頃からの知り合いなんだって」
「うん。おかーさん同士が知り合いで、家も近かったんだ」
「ほとんど妹みたいなもんだ」
郁乃を除く三人が次々と説明する、その最後の台詞に。
「いもうと……」
貴明を除く三人が、それぞれ微妙な顔をした。
土曜日、郁乃は大事を取って学校を休んだ。
このみは心配したが、愛佳から事情を聞いた貴明が情報を提供した。
週明けて月曜日。9月6日。
「おはよう郁乃ちゃんっ!」
郁乃が車から降りると、元気な声が降ってきた。
「あ……おはよ」
「おはようこのみちゃん、と、貴明くん?」
「よう」
「なんでアンタがいるの?」
「安心しろ、このみが気にするから早めに来て待ってただけだ」
「またまたぁ♪」
俺が気にしていたわけではない、と続けた貴明を愛佳がからかう。
「からだ、大丈夫? 熱、下がった?」
「ん。全然平気」
「よかったあ」
このみは、自分の事のように笑顔ニコニコ。
そうこうするうちに昇降口。
「じゃ、また」
「無理しないでね」
「はいはい」
1年生と2年生が分かれる。
「あ、そうだ」
「どうした、このみ?」
「タカくん……。えーっと、なにか、忘れてない?」
「「?」」
ちょっと唐突な発言に、小牧姉妹は首を傾げる。
「うーん……宿題ならやったぞ。誰かのようにノートを間違えてもいない、筈だ」
貴明も。
「あれはたまたま! はあ……覚えてないならいいよ。行こう、郁乃ちゃん」
あっさりいいよ、と言った割には憮然として、このみは車椅子を押して行く。
「なんかしたの?」
「なんでもない」
このみの態度に首を捻りながら教室に向かった郁乃だが、
「このみ! 誕生日おめでとーっ!」
寄ってきたクラスメートの言葉に、謎が解ける。
「はいこれ、プレゼント」
「うわぁ、ケ×ピーのキーホルダー。欲しかったんだ!」
「そっかぁ、このみも6歳かぁ」
「ろ、6歳じゃないもん! 1○歳だもん!」
「え? 10歳? どっちにしろ、ちっちゃかったこのみも小学校……まだちっちゃいねー」
「いやいや立派なもんでしょう。中学生にしちゃあ幼いけどさ」
「うーっ、さっちゃんもなっちゃんも酷いよー!」
頬を膨らませながらも嬉しそうなこのみ。
郁乃の隣で、予鈴が鳴るまで友人達に祝福されていた。
「あんた、今日が誕生日だったんだ」
「うん。なのにタカくんてば、今年もこのみの誕生日を忘れたよ」
「去年も?」
「おととしも! あーあ、きっとタカくんには誕生日を忘れる呪いがかけられているんだね」
「アレならあり得るわね」
姉は誕生日に初デートしてプレゼントを貰ったとのろけていたが、来年は怪しいものだ。
視線を泳がせてそんな事を考えた郁乃、と、自分もおめでとうを言ってないことに気付く。
「あ、えーっと、このみ?」
「なあに?」
向き直った途端、このみと目があって、ちょっとどもる。
「そ、その……」
「おはよー、とっととホームルーム終わらせるぞー」
「北村先生、まだ始まってませんよ」
「起立〜!」
言いそびれた。
放課後、校門の外に出た二人を愛佳が待っていた。
「あ、このみちゃん、押してくれてありがとう」
「ううん」
先週校庭を爆走した郁乃でも、基本的には屋外は自走しづらい。
昇降口から校門まで、このみが車椅子のグリップを持った。
「側溝に落とさなかったか?」
「アンタじゃあるまいし」
愛佳と一緒にいた貴明の軽口に答えたのは郁乃の方。
「つーん」
このみは、あからさまにそっぽを向いている。
「朝からどうしたんだ?」
「知らないもんっ!」
「なんなの郁乃?」
「……知らない」
言うまい。おのれで考えろ。
「このみーっ!」
そんな郁乃の教育的配慮は、このみの友人Aの登場で無駄になった。
「あ、えーちゃん、どうしたの?」
「帰っちゃったかと思った。はい、誕生日おめでとう」
小脇に抱えた紙包みがこのみに渡る。
「うわ、おっきぃ……ポ×トだぁ!」
「このみの事だから、学校で渡すと見つかって没収だと思ってさ」
「ありがとーっ!」
不格好な犬のぬいぐるみを抱えて飛び跳ねるこのみ。
その姿を見て貴明がぽんと手を打つ。
「……今日だったっけか、誕生日?」
「た、貴明くん、それはNGじゃないかな……」
案の定このみは更に拗ね、貴明はプレゼントとは別枠でアイス屋のトリプルを奢る約束をした。
「お母さん、ちょっと街に寄ってもいい?」
帰路、郁乃がそんな事を言い出した。
「あら、珍しいわね。いいわよ」
「どこに行くの?」
助手席から愛佳が振り向く。
「んー……」
「郁乃にこういう趣味があるとは、思わなかったなぁ」
愛佳に付き添われて郁乃がやってきたのは、デパートのぬいぐるみ屋さん。
「あ、あたしじゃない」
「もしかして、このみちゃん?」
「……」
そういえば迎えの車を待つ間。
「あたしも、プレゼントない」
「い、郁乃ちゃんから貰おうとは思ってないよ。そもそも知らないんだし」
「俺も知らなかったし」
「タカくんは忘れてたんでしょ!」
こんな会話が。
「そっかぁ、お友達にプレゼントかぁ」
うふふふっと愛佳が微笑む。
「その生暖かい目は気色悪いからやめて」
「ところで郁乃〜」
車椅子を押していた愛佳が、妹の方を抱いてしなだれる。
「な、なによ?」
「お姉ちゃんの誕生日は、5月1日だからねー」
「……」
キコキコキコ。
「わわっ、無視しないで〜」
「うるさい。そういう事はあたしの誕生日が決まってから言え」
“今冬中”には決まるだろう、たぶん。
うふっ
散々迷って郁乃が選んだ、ラグビーボール大のウリ坊のぬいぐるみ。
「可愛い、かなぁ?」
妹の美的感覚に若干疑問を投げかける姉。
「それはわからないけど、なんとなく」
「なにかのキャラクター?」
「札に名前が書いてあるから、たぶん」
「猪にボ×ンって、すごい名前だね」
プレゼント用に包装して貰い、デパートを出る。
「渡すのは、明日ね」
「貴明くんに電話して、家の場所教えて貰おっか?」
「そこまでしなくていい」
二人で駐車場に戻りかけた時。
「メーロンっ♪バナナっ♪スっトロっベリーっ♪トっリプっルだ〜い♪」
ここ一週間ですっかり馴染みになった、歳の割に幼い声が聞こえた。
「うぅ、お金が……プレゼントは来月でいいな?」
自分のアイスを舐めながら、貴明が財布をポケットに戻す。
「むむっ、利子はトイチだよっ」
「十一の意味知ってるのか?」
「え? えーっと、頭を使えってこと?」
「そりゃとんちだ」
「うーん、とにかく、この燦然と輝く三段重ねに免じて許してあげるよ」
「そりゃどうも」
「へへへ〜、どこから食べよっかなぁ〜、あっ!!」
このみの手にしたコーンから、アイスの玉がこぼれ落ちた。
好事魔多し。
振り回したんだから、自業自得ともいうが。
「う、うぁぁぁ゛ぁ゛ぁ゛……」
笑ったカラスがもう泣いた。
「なにやってんだか」
遠目にその様子を視界に収めた郁乃が呟く。
「賑やかだねぇ……いこっか」
愛佳が車椅子を押して二人に近づこうとする。
が、唐突に、足が止まった。
「た゛、だがぐぅ゛う゛う゛う゛ん゛ん゛ん゛」
シングルと1/3くらいになったアイス片手にこのみが振り向く。
残り1と3分の2は路上で地熱に溶けている。無残。
「なにやってんだよ」
「だ゛っ゛で゛え゛え゛え゛」
「もう金ないから。半分残ってるからいいだろ」
「う゛う゛う゛……せめてイチゴが……」
一番上だった。
「あきらめろって」
このみの執念に呆れつつ、自分のを囓る貴明。
実はストロベリー。
「……」
その様子を、じっと見つめていたこのみ。
丁度、愛佳と郁乃が声を掛けようかというあたり。
「てりゃっ!」
不意打ちで、貴明の持っていたアイスに飛びついた。
「うわっ、危ないって」
「はぐはぐ」
「ったく、しょうがないなあ」
体の正面に絡みついてくるこのみに、苦笑しながらアイスを差し出す貴明。
「えへ。代わりにメロンを食べることを許可するであります」
ひょい、と突き出されるコーンに釣られて、貴明は緑色の部分に噛みつく。
往来のど真ん中で互いにアイスを食べさせ合う、いささか親密な光景。
支援
「っと」
一瞬、車椅子がフリーになって、郁乃は慌ててハンドリムを押さえた。
「あっ、ご、ごめんっ」
グリップを離してしまった愛佳が謝る。
「あ、あのさ、あたし邪魔するといけないから、郁乃行ってきなよ」
喉に詰まったような声で、先に車に戻ってるから、まで絞り出すと、そそくさと前方の二人に背を向ける。
「うーん、タカくんもダブルかトリプルだったら、もっと食べれたのに」
「だから金がないんだって」
そんな事はつゆ知らず、賑やかにこのみと貴明。
「……」
二人を眺める郁乃から、表情が消えていく。
くるり。
少女はその場で器用に車椅子を転回させると、車に戻る姉を追った。
「あ、あれっ、プレゼント渡さなくていいの?」
横に並ばれた愛佳、逆に慌てる。
「……」
「あっ、あのね、このみちゃんと貴明くんなら気にしなくて大丈夫だよ」
「……」
「ちっちゃい頃からあんな感じだっていってたし、海でだって」
「……」
「仲が良い兄妹って、うらやましいよねえ」
「……」
「いやっ、別に郁乃が冷たいとかいってるわけじゃなくてね……」
「どこまで行く気?」
「えっ?」
足を止めた愛佳に、短いクラクション。
駐車場の入口が、5メートルほど後方になっていた。
翌朝も、このみと貴明は小牧姉妹を出迎えた。
「ちゃんと渡しなよ、プレゼント」
「う……」
姉の念押しに、後部座席で意思のない声を出す郁乃。
膝には、昨日買ったぬいぐるみの包みがある。
「はい。いってらっしゃい」
停車。
愛佳が先に降りてトランクから車椅子を用意する。
「郁乃ちゃん、おはようっ!」
郁乃が車から出るのを待たずに、このみがやってくる。
「あ、危ないっ!」
それに気づかずに、後続の車が突っ込んできた。
「わわっ?」
「このみっ!」
車の前に飛び出しかけた少女を、貴明が引き戻す。
勢い余って、貴明の腕の中に倒れ込むこのみ。
「とととっ」
「急に飛び出すなよ」
貴明がぽんぽんと幼馴染みの頭を叩く。
「うん……」
このみの頬が赤い。まだ、幼馴染みの腕の中。
「お、おはよう、貴明くん、このみちゃん」
愛佳の声が、少し揺れていた。
「ふぇっ、おはようございますっ!」
「おはよ……ぐげっ!」
その声に、慌てて飛び離れたこのみの頭が、貴明の顎を直撃。
「ひたひ(痛い)」
「それはこっちの台詞」
「ぅぁ……朝から元気ですねぇ二人とも……はは……あれ? 郁乃?」
いつのまにか、郁乃と車椅子が消えている。
愛佳が覗き込んだ後部座席には、紙包みが置き去られていた。
「郁乃ちゃん、どうしたの?」
「まだ、慌てるような時間じゃないぞ」
「トイレ?」
一人で先に行っていた郁乃に、三人が追いつく。
「別に……」
郁乃の様子は、特に普段と変わらない。
昇降口まで、普通に四人で歩き、いつものように二手に分かれる。
だが、昇降口。
「あっ、郁乃ちゃ……」
郁乃は、このみに車椅子を触らせなかった。
そのまま廊下も自走。結構、速い。
「ちょ、ちょっと待ってよー」
追いかけるこのみを、郁乃は振り向こうともしなかった。
教室に入って、黙って自分の席につく。
遅れてこのみが、隣の席に座る。
「きょ、今日は1時間目から数学だね、嫌だなー」
反応なし。
「あとで宿題の答え合わせしようねっ」
応答なし。
「い、郁乃ちゃん、どこか悪いの?」
「このみ」
郁乃がようやくこのみの方を振り向いた。
真っ直ぐに、射るような視線。
「う、うん」
思わず畏まったこのみに、郁乃は言い放った。
「もうアンタとは、口、利かないから」
以上です。長くなってすみません。しかも玲於奈そっちのけ
>772>773>783>786さん支援ありがとうございました。確かにお久しぶりですw
今回は連投規制食らいまくったので大助かりでした。
えーっと、誰も気にしてないかも知れませんがこの場を借りて少し謝罪を。
PS版鳩やってないので知りませんでしたが、緒方理奈はまーりゃん先輩と同学年(寺女中退)だそうで
鳩2時点では冬弥と知り合ってないようです(素直に読めば、出会いは1年後の11月でしょうか)
他にも随所でこのみの「タカくん」「ユウくん」呼びに「君」が混じったり、
第1話に遡るとカスミの「コクコク……。」が「……コクコク。」になってたり。とか色々無数にw
話や文がつまんないとかキャラが違うとかってのは力量の問題で頑張るしかないけど
こういう設定的なとこを外すのは避けたいと反省。でも良く見落とすし忘れる。南無三
>>790 乙&GJ!
その終わり方はかなり拷問ですね。次に期待してます。
あ、誤字発見。>782の下から8行目「妹の方」は「妹の肩」の間違いです。よしなに。
>664 >708 の件、
修正しました(と思う…)。長らく放置してすいませんでした。
報告いただいた方々、どうもありがとうございました。
>794
乙 いつもありがとう。
ちょっと書き溜まったし、さわりだけでも上げてみるかと思い、
あらためて読み直したらなんだこれって感じだった。萎えるぜ……。
DIAに関する考察とか誰が読むんだ。もっと手直ししようと自己完結。
,...,_
γ'',, '''…、
〆.' ' ̄'' ヽヽ
. i;;i' 'i;i
.i;;;i' u .i;
.i;:/ ..二_ヽ '_二`,::
l''l~.{..-‐ }- {.¬....}l'l
ヽ| .`ー '. `ー ´|/
| ノ、l |,ヽ .ノ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
ヽ~(、___, )ノ < これはねえ、やっぱり、くるうてますよ
/|.ヽ..__ ___/| \自作自演してる人の顔見て御覧なさい、ほうけとるしねえ、
/l \ //l\ \目がポ〜っと浮いてるでしょ、こりゃ基地外の目ですわ。
ヽ \/ / \___________
\/▽ヽ
どうもです。
またプロバイダがアクセス禁止食らってしまいました。
解除されたら投稿します。
河野家の人も丸ノ内OCNでつか?
こちらも都内でOCNの光なんで今朝から規制喰らってまつorz
すごいな ここは
ほとんど単発ID、それも変質者的発想のキモレスだけで会話が進行。
書き込まれるときは同時間帯の連投
典型的な変質者による自作自演進行スレですな…カワイソス
801 :
名無しさんだよもん:2006/12/12(火) 05:12:01 ID:i0QLJY6X0
/^i,,、,、/^i _
ヽ' . , '´, ヽ 、
ミill ´ Д `;<^(゚w゚)ノハヾ^、
ハ,_,ハ ´Wリ(i!゚ ヮ゚ノv'`
,:' ´Дnと ミ⊂)卵!つ△
ミ;:,っu_,,っ,、_、、,,,_,、,,;;,彡く,f∂∂
保守
薬を飲んで一眠りして、目が覚めたら真夜中。眠れない俺はとりあえず牛乳を飲むことにした。
そんな俺に何故かついてきた瑠璃ちゃん。花梨に怖い話でも聞かされたのか、眠れず、おまけに
トイレにも一人じゃ行けなかったようで。
居間に行ったらソファーで寝ていたこのみ発見。何でもおじさんと春夏さんが急に出かけてしまい、
タマ姉にお願いしてここに泊めてもらったそうな。で、前から俺の寝床で寝てみたかったからここで
寝ていたとのこと。物好きなヤツ。
このみ、瑠璃ちゃんと三人で牛乳を飲み、物憂げな瑠璃ちゃんに俺は、家に帰りたいかと尋ねて
みる。てっきり素直に肯くと思ってた俺だったが、瑠璃ちゃんはそれを思うと気持ちがモヤモヤする
らしい。きっとそれはこの生活への愛着で、それは瑠璃ちゃんにとってはいいこと、と、思いたい。
瑠璃ちゃんと話しているうちにこのみが寝てしまい、二階に上がるとタマ姉が待ちかまえていた。
頬をつねられベッドに連行される俺。るーこたちの部屋に戻るのが怖そうな瑠璃ちゃんを見てタマ姉
は、「こっちにいらっしゃい」と瑠璃ちゃんを迎え入れた。
先にベッドに寝かしつけられた俺。となりを見ると、タマ姉と瑠璃ちゃんが一緒のベッドで寝よう
としている。
「タマ姉」
「なに、タカ坊?」
「瑠璃ちゃんにイタズラするなよ」
するとタマ姉、ベッドから降りて、
ぎゅ〜〜〜っ!!
「あいひゃひゃひゃひゃひゃ!! い、痛い痛い痛い!!」
も、もの凄い力で頬をつねられましたよ!?
「ひ、酷いよタマ姉、病人に対してこの仕打ち!」
「あら、もう熱は引いたんでしょ?」
「ぐ……」
くそっ、言い返せない。
「馬鹿なこと言ってないでさっさと寝なさい。じゃあお休み、タカ坊」
そう言って自分のベッドに戻るタマ姉。と、その向こう側から、
「お……、お休み、貴明」
「うん、お休み、瑠璃ちゃん」
朝。天気は快晴。そして俺の体調は――
「36度ちょうど。うん、下がったわね」
よっしゃ! 風邪、完治!! 俺は勢いよくベッドから飛び起きようと――
「ダメよ」
タマ姉に押さえつけられる。
「な、何でだよタマ姉!? 俺もう大丈夫だって!」
「ぶり返すことだってあるんだから、急にはダメ。今日は一日安静にしてなさい」
「え、えええ〜? じゃ、じゃあ、今日も一日ずっと寝てないとダメなの? 飯もお粥だけ?」
うう、せめて飯は普通のが食いたいよぉ。今だって腹の虫がグーグー鳴ってるし。
あまりの悲しさに目が潤む。そんな俺を見てタマ姉は、
「うーん、そうね……」
「あはははは! たかあきなにそのカッコ!?」
「た、たかちゃん、可愛い〜☆」
由真と花梨が指差して笑う。く、屈辱だ……。
タマ姉から安静にしてろと命じられたものの、さすがにまた一日寝たきりは勘弁だ。それにさっき
も言ったが飯だってお粥以外のものも食べたい。そんな俺の主張にタマ姉が出した妥協案。それが
パジャマの上にちゃんちゃんこを着た今の俺だ。この格好なら、家の中を歩き回っても構わないとの
お許しをいただいたものの、これ、どう見たって女物の柄なんですけど。
「けど、こんなのよくあったなぁ」
身につけたちゃんちゃんこを見ながらそう言うと、
「それ、私が使ってるのよ」
「え、タマ姉、こんなの持ってたのか?」
するとタマ姉はムッとして、
「こんなのとは何よ。冬場はとても暖かいのよ、それ」
「あ、いやそうじゃなくて、冬でもないのに何でこれ持ってるのって」
するとタマ姉、さらっと、
「ああ、雄二に持ってこさせたのよ。さっき」
「え?」
「タカ坊のために必要だと思ったからね、朝一番に電話して、持ってこさせたのよ」
「おーう、起きたか、貴明ぃ」
居間に行くと、ソファーにはあからさまに不機嫌そうな雄二が。
「お、おっす……」
「ったくよぉ。こっちは朝イチでイルファさんのところに行こうとしてたってのに、お前のために
台無しになっちまったじゃねぇか」
「ま、まぁ、悪かったよ。……ん? コレ置いて珊瑚ちゃんの家に行けばよかったんじゃ?」
俺の疑問に雄二は、
「姉貴が余計な根回ししやがったんだよ!
俺がイルファさんに遅れますって電話したら『今朝は貴明さんのお家で朝ご飯をお召し上がりに
なられるって、お姉様からお聞きしましたよ』だとさ。はぁ……」
深い、ため息。
「あ、あの、イルファさんの朝ご飯ほど美味しくないかもしれませんけど……」
キッチンの優季が何故か済まなさそうな顔。今朝の担当は優季のようだ。――お、あのホット
プレートの上で焼かれてるのは、いつかのフレンチトーストではないか!
「いや、優季ちゃんのせいじゃないからさ。悪いのは鬼のような姉貴、略して鬼貴。なんてな」
などと雄二が愛想良くヘラヘラ笑っていると、
「新しい言葉作ってるんじゃないわよ」
ガシッ! ギリギリギリ……
「あいだだだだだ!! ご、ご免なさいお姉様鬼貴なんて呼んでご免なさい割れる割れる!!」
そりゃタマ姉だって居間にいるんだから、こうもなるわな。
それから数分後。
「はい、召し上がれ」
キッチンのテーブルについた俺の目の前には、優季特製フレンチトーストが。しかも今回は他にも、
カリカリに焼いたベーコンやサラダ、コーンスープと、何となく洋画チックな朝食。
みんな一緒に「いただきます」の後、早速俺はフレンチトーストを一口。
――う、うまーーーい!! 前に食った時より美味いぞコレ!
「はむっ……、もぐもぐ……」
「た、貴明さん、もう少しゆっくり食べて……」
優季が何か言ってるようだけど、悪いが俺の耳には入らない。フレンチトースト、ベーコン、
またフレンチトースト、サラダも一口、ついでにスープもずずっと。
「た、タカくん、凄い食べっぷり」
「この様子なら病は完治したようだな。安心したぞ、うー」
このみとるーこも何か言ってるけど、今はフレンチトーストを更に一口。次またベーコン、そんで
またフレンチトーストを……ぐ、喉が詰まった。スープスープ……ふう。――あ、フレンチトースト
が無くなった。
「おかわり!」
空になった皿を優季に差し出す。
「あ、は、はい! い、今焼きますから」
慌てて席を立ち、ホットプレートでおかわりの分を焼き始める優季。
「早く〜、早く〜」
思わず急かしてしまう俺。だってすぐ食べたいんだもの。
「そんなすぐ焼けるワケないじゃない。落ち着きなさいよたかあき」
呆れたような由真の声。
「うう〜、だってよぉ〜」
「なら、るーのを分けてやる。食え」
そんな俺を見かねたのか、俺の皿に自分のフレンチトーストを分けてくれるるーこ。
「お、サンキューるーこ! いただきま〜す」
早速食べる。――お、メープルシロップを塗ってあるのか。うん、甘いけどこれも美味い。
「おいおい、んないきなりガツガツ食って大丈夫なのかよ」
雄二でさえ俺の食いっぷりに驚いてる様子。
「ずっとウチのお粥だけだったのがよっぽど不満やったんやろ」
あ、やばい、瑠璃ちゃんが不機嫌そう。
「もが、もがもがもが――」
ポカッ。
痛て、タマ姉に頭を叩かれた。
「こら、口にものを入れたまま喋らないの」
「もぐ……ごっくん。ゴメンタマ姉。
誤解しないでよ瑠璃ちゃん。瑠璃ちゃんのお粥だって勿論美味かったよ。特に卵入りのヤツ」
「……べ、別に言い訳せんでええ」
あらら、瑠璃ちゃんがヘソ曲げちゃった。――うーん、それなら、
「あのさ瑠璃ちゃん、俺がまた風邪を引いたら、お粥作ってくれないかな」
「え……?」
このとき俺は、大して考えもせずにこんなことを言ってしまっていた。
そして、瑠璃ちゃんが顔を赤くしながらもコクリと肯いてくれたことに嬉しささえ感じていた。
その後、愛佳と郁乃、珊瑚ちゃん、ちゃるとよっちもやってきて、みんなで遊んだり、昼飯を食べ
たり、いつものように賑やかで、騒がしくて、だけど楽しい一時を過ごしていた。
思えば俺はこの時、風邪が治ったこともあり、少し浮かれていたのだと思う。
さっきの台詞がその証拠。”また”と言ったがそれはいつのことになるのやら。俺は以前春夏さん
に注意されたこと――この生活への問題意識を全く忘れてしまっていたのだ。
みんなといるこの瞬間が楽しくて。それが……いつか必ず終わるってことも忘れて。
だけど。
ピンポーン。
家のチャイムが鳴ったのは、夕方頃のこと。
誰だろうと思って立ち上がろうとすると、
「タカ坊はいいわよ。私が代わりに出るから」
そう言ってタマ姉は廊下に出た。その少し後。
「どちら様でしょうか? ――え? あ、あの、どうして……、あ、ちょっと!」
廊下の向こうからタマ姉の驚いたような声。どうしたんだ?
ガチャ。
支援
「失礼しますぞ」
そう言って居間に入ってきたのは、いやに体格のいいじいさん。――あれ、このじいさんって、
「お、おじいちゃん!?」
俺より先に声を上げたのは、由真。そう、以前神社で俺に襲いかかってきた、あのじいさんだ。
「ど、どうしてここに……?
って、な、なんで、な、何しに来たのよ、おじいちゃん!」
由真の口調が、驚きから、拒絶へと変わる。
そんな孫娘を、無表情でじっと見つめるじいさん。静かで、だけど確かに感じる威厳と風格。
やっぱこのじいさん、ただ者じゃない。
「や、約束が違います長瀬さん! ここには来ないっておっしゃって――」
遅れてタマ姉も居間に飛び込んでくる。その時だった。
「――え?」
目を見開き、信じられないと言った顔でそう呟いた由真。無理もない、俺だって驚いた。
じいさんは何も言わず、いきなりその場で土下座をしたのだ。
「わしが……、わしが悪かった。
この通りじゃ。許してくれ、由真」
「お、おじい、ちゃん……」
床に頭をつけ、何一つ言い訳せず、ただ孫娘に許しを請うじいさん。
そして、呆然とそれを見つめる由真。
この二人に一体何があったのか。俺を含め、その事情を一切知らない他のみんなも、何一つ口を
挟むことも出来ず、ただ事の成り行きを見守るしかない。
それから、どのくらい時間が経ったのだろうか。由真はうつむき、そして、
「……やめてよ」
「……」
じいさんは無言で、土下座をやめない。
「そんなのやめてよ! は、恥ずかしいと思わないの!?
来栖川家の執事がこんなところで、自分の孫に土下座だなんて、そんなの――」
「恥など!」
土下座のまま声を上げるじいさん。その声に由真がビクッと震える。
「恥など、お前が許してくれるのなら、いくらでもかけるわい!」
「あ、あたしが恥ずかしいのよ!
そ、それに、それに今更何よ、何を謝るって言うのよ!?」
その言葉に、じいさんは顔を上げ、
「わしが悪かったのじゃ。お前の気持ちも考えもせず、お前の未来を勝手に決めようとしたわしが。
もう、ダニエルを継がなくてもいい。それに、縁談もきっぱり断った。
わしは今後一切、お前の将来には口出しせん。この場で固く誓う。お前の未来はお前自身が選べば
いい。今まで済まなかったの、由真」
「お、おじいちゃん……」
「お前がそうしたいと言うのなら、そこの」
じいさんは俺を見て、
「そこの小僧との結婚も認めてもいい。お前が選んだ男なら、わしも信じよう」
「な!?」
け、結婚!? 俺と由真が!?
「ちょ、ちょっとおじいちゃん!? あたしたかあきと結婚したいなんて言った覚えないわよ!!」
慌てて否定する由真。
「まあ、あくまで将来の話じゃがな」
「い、いやおじいちゃん、将来も何もまだ……」
ごにょごにょと由真が言葉を濁らせる。
「もし、どうしてもわしが許せないと言うのなら、それでもいい。わしのことはこれからも嫌って
くれても構わん。
じゃが、じゃがのう……、せめて、家には帰ってきてくれんか? 頼む、由真」
そう訴えるじいさんの目は、とても悲しげで――
「お前が家を出て、ここで暮らしていると知ったとき、わしは最初、問答無用でお前を連れ戻す気で
いたんじゃ。
じゃが、お前の両親がそれに反対してな。お前が自分で帰ってくる気になるまで、そっと見守って
いようと言ったんじゃ。わしが猛反対しても、何度も、何度も、そうわしに言い聞かせてな。それに
わし自身も、お前にあれだけ酷いことを言ってしまったという負い目もあったからな。結局わしも
折れたんじゃよ。
じゃがのう……、お前のいない家は、寂しいんじゃ。まるで明かりを失ったように暗いんじゃよ。
お前の両親も表だっては明るく振る舞ってはいるが、お前は今頃どうしているのか、ちゃんとした
ものを食べているのか、勉強も怠ってはいないか、話すことと言えばいつもそんなことばかりじゃ。
向坂家のご息女に面倒を見てもらっているとは知っておっても、お前の父も、母も、それにわしも、
いつもお前のことが気がかりでの。このままでは、わしらはどうにかなってしまいそうなんじゃ。
もう一度頼む。由真よ、家に帰ってきてくれ!」
再び頭を下げるじいさん。
そんなじいさんを見つめ、由真は、
「……帰ってよ」
「ゆ、由真?」
「帰って! 帰ってよ! あたしはここにいるの、ずっといるの! だから帰って!!」
精一杯の声で、そう叫んだ。
つづく。
どうもです。一週遅れての第84話です。
>>811さん、支援ありがとうございました。m( __ __ )m
一週間待ってもアク禁が解けず、とうとう●を買ってしまったら、その直後にアク禁解除……orz
ええと、長らく続いた河野家ですが、そろそろ締めに入りたいと思います。
これからしばらくの間、鬱展開が続きますが、どうかご勘弁ください。
>>815 いつも乙。
そういえば、由真が河野家に押しかけてきたのが始まりだから、
由真が自宅に帰るとなるとこのお話も終わっちゃうんだよな。
始まりがあれば必ず終わりもあるから、この生活が終わるのは
寂しいっちゃ寂しいけど、仕方ないよな。
と、思った。
●買っても無駄にはならないよ。
にくちゃんねるが今年いっぱいで閉鎖されるから、過去ログがこれから先見られなく
なる。●があれば、過去ログを掘り起こせるしね。
>815
乙です
河野家もついに完結編に突入ですか……
別に由真が帰ったとして河野家が解散する事もない気もするんですが……
ともかく各人がどんな結末になるのかwktkです。今から回収だと、丁度全100話くらい?
正直、欝展開いらね
それを明るい展開で乗り切ってくれ
ついに河野家も終わっちゃうのか
寂しくなるなぁ…
まあ最後までいい話を書いてくれる事を期待しますよ
「イルファさん」
リビングに向かうと、キッチンでイルファさんが食器を拭いているところだった。
「イルファさん、俺の靴下が無いんだけど」
カチャカチャと音を立てて、丁寧に食洗機のお皿を拭くイルファさん。
「どこにしまってあったっけ? イルファさん?」
聞こえていないはずは、ない、と思うんだけどな。
けれどイルファさん。まるで俺が呼んでいることになんか全く聞こえていないように洗
い物を片付けている。
「イルファさーん? ・・・・・・あ」
思い出した。
それなら確かにイルファさんが、俺の声に気が付かないフリをするのだってわかるけど。
でも、まさか本当に本気で言っていたなんて。
「えっと・・・・・・あー」
けれどいざ言おうとしても、なかなか問題があるわけで。
そりゃ、イルファさんがそうしろって言ったんだから、悪いことなんかあるはずないん
だけれども。
どっちかといえば、これは俺の気持ちの問題だろう。
緊張で、唾を飲み込む音まで聞こえてきそうだ。
「・・・・・・イルファ」
「はい、どうかなさいましたか、旦那様」
俺がそう言うと、イルファさんはくるりとこちらに笑顔を向ける。
けれど俺は気が付いていた。俺が言いにくそうにしている間、イルファさんがずっとこ
ちらのことを気にしていたことを。
だって、イルファさん。徐々に体がこっち向きにずれてきていたんだもの。
「えっと、俺の靴下、どこにしまってたっけ? タンスの中に見つからなくてさ」
「旦那様の靴下なら、先日引き出しの方へ移しましたが。見当たりませんでしたか?」
「あ、引き出しの中だったっけ。ありがとう、探してみるよイルファさ・・・・・・イル
ファ」
「はい、どういたしまして、旦那様」
笑顔でうなずくイルファさん。
それはもう楽しそうだ。
けれど俺の方はと言えば、イルファさんを呼び捨てにして、さらには「旦那様」なんて
呼ばれて。なんとなく恥ずかしいような、申し訳ないような気持ちになる。
だってあのイルファさんを、「イルファ」だもんなぁ。
ごぞごそとタンスの引き出しを漁りながら考えるのは、ついさっき、イルファさんと交
わした会話のこと。やっぱり、軽々しく「お願い事を聞く」なんて言わないほうが良い、
ってことなんだろう。
喜んではくれているみたいだから、いつもお世話になっているお返しとしては悪くはな
いんだろうけど。
でもまさか、いつものお返しに「今日一日、旦那様とお呼びしてもよろしいですか?」
なんて言ってくるとは思わなかったからなぁ。
その後で「それでは旦那様は、私のことをイルファとお呼びくださいね、旦那様」なん
て。あんな笑顔で言われれば、断れるはずなんてないじゃないか。
お陰でこうやって、照れくさい思いをしているんだけれど。
「旦那様、靴下、見つかりましたか?」
「あ、うん、あったよ。イルファ」
名前を呼ぶ前に、どうしても一呼吸あいてしまう。なかなか慣れそうにない。
イルファさんもそんなに可笑しそうにするくらいなら、こんなお願いしてくれなければ
いいのに。
「いーえ。旦那様からおっしゃったことなんですから。今日一日、きちんと呼ばせていた
だきますからね、旦那様♪」
イルファさんの決意は固い。できればどこかで勘弁してもらいたかったんだけど、ここ
まで嬉しそうだとそれも申し訳ない。
あーもういいや、俺も男だ。恥ずかしいだとか照れくさいだとか言わないで、きちんと
イルファさんのお願いを聞いてあげよう。
そう、たかだかイルファさんを呼び捨てにするだけじゃないか。瑠璃ちゃんだってイル
ファさんのことは「イルファ」って呼んでいるんだ。俺にそれができないはずが無い。
・・・・・・顔が火照るのも、そのうち収まるだろう。
「それで、イルファどうしたの? ありがとう、おかげで靴下なら見つかったけど」
「はい。その、折角ですからその靴下を、旦那様に履かせて差し上げようかと。やはり旦
那様ですし、それ用のお世話をいたしませんと」
「流石にそれは勘弁して」
「イルファ、そっちのドレッシング取ってくれる? オレンジ色の方」
「はい、旦那様。こちらでよろしいですか?」
「うん、ありがと」
瓶を取ってくれたイルファにお礼を言いながら、サラダにドレッシングを掛けていく。
「旦那様、ご飯のお代わりはいかがですか?」
「あ、じゃあ貰おうかな」
茶碗を渡すと、イルファはキッチンへとご飯のお代わりを取りにいってくれた。こっち
がお代わりをお願いした時は、いつも嬉しそうにご飯を持ってきてくれるイルファだけど。
でも今日は、いつもに増して機嫌が良さそうだ。
お陰で俺の方まで気分がよくなって、おいしい料理が一段と美味く感じられるっていう
ものだ。
「珊瑚ちゃん、どうかした? 俺の顔何か付いてる?」
たださっきから、珊瑚ちゃんがじっと俺の方を見つめてくるのが気になると言えば気に
なる。箸もあんまり進んでいないようだし。
「はいどうぞ、旦那様。ご飯、これくらいでよろしいですか」
「ありがとう。こんなもんでいいよ」
「どういたしまして」
「いっちゃんええなぁ。貴明とラブラブしとって」
珊瑚ちゃんがのその一言で、お茶碗を受け取ろうとした腕が固まってしまう。もう少し
で落とすところだった。
「えっと、そうかな?」
俺、イルファとそんなにいちゃついたりしてたっけ? 別に普段と変わらないと思うん
だけど。
でも珊瑚ちゃんは納得行かない様子で、俺とイルファを睨んでくる。
「だって貴明、いっちゃんのこと『イルファ』−って呼んでる。いっつもはイルファさん
なのに」
そう言われて、ようやく気が付いた。
俺、いつの間にイルファさんのこと、意識せずに呼び捨てにしてたんだろう。今更その
ことに気が付くと、今までの分一気に恥ずかしくなってきた。まるで金魚のように口をぱ
くつかせて、イルファのことを見る。
なのに当のイルファさんは「残念」みたいな顔をして。
「イルファばっかり、ちゃんと名前呼んでもらってずるいなあ。なーなー、瑠璃ちゃん
もそう思うやろ」
「う、うち知らんそんなこと」
急に話を振られて、慌ててご飯をかきこむ瑠璃ちゃん。
ずるい、とか言われても、じゃあどうしろと?
「申し訳ございません珊瑚様。ですが旦那様にはきちんと、私の名前を呼んでいただかな
くてはなりませんので」
「むー・・・。あ、なあなぁ、ならな、貴明もうちらのこと、ちゃんと名前で呼んだらえ
えんや」
「ご、ごちそう様。うちお風呂はいってくる」
瑠璃ちゃんはそう言って箸を置くと、逃げ出すようにお風呂場へ行ってしまう。瑠璃ちゃ
んも、俺に「瑠璃」なんて呼ばれるのは勘弁して欲しかったようだ。
「あ、瑠璃ちゃん待って。うちもはいるー」
俺だってイルファさんだけでこうなのに、更に珊瑚ちゃんと瑠璃ちゃんまで呼び捨てな
んてきっと恥ずかしさに耐えられない。
しかもついうっかり口を滑らせて、学校や雄二の前で「珊瑚」とか「瑠璃」なんて呼ん
だ日には、一体何を言われ続けることか。
瑠璃ちゃんを追いかけて、珊瑚ちゃんがお風呂に行くと、ようやくテーブルは落ち着き
を取り戻してくれた。
「ご馳走様」
「お粗末様でした。お茶をお淹れしましょうか?」
いいよーいいよー
「あ、うん、ありがとう・・・・・・イルファ」
きっと笑われるだろうとは思ったけど、やっぱり笑われた。
「別にもうよろしいんですよ。私は十分、満足させていただきましたし」
「いや、でも、今日一日って約束だったしさ」
まあ、また珊瑚ちゃんに焼餅を焼かれても困るから、二人の前では極力呼ばないように
はするけど。
「でしたらもっと、堂々と呼んで下さればいいですのに。それともやっぱり、旦那様と及
びするのは恥ずかしいですか?」
「確かに恥ずかしいっていうのもあるんだけど」
でもそれだけじゃなくて。
「俺、本当にイルファにそう呼んでもらえるほど、イルファに何かをしてあげられてるの
かなってさ。イルファさ──イルファには、こうやっていつもお世話になってしまってば
かりなのに」
だから、たまにはイルファのために何かをしてあげたくて、さっきだって何かをして上
げられないか聞いたんだし。
「確かに旦那様、朝はちゃんと起こして差し上げなければベッドから出てきてくださいま
せんし、靴下だって、私が場所を教えてあげませんと場所もわかりませんが」
イルファの言葉が胸に突き刺さる。いや、全くその通りなんだけど。
でもイルファの口からあらためて言われてしまうと、本当にどこが旦那様なんだか。
「ですが旦那様。私、旦那様からそれ以上のことを、たくさんして貰っているんですよ?」
そう言って、イルファは隣のイスに腰を掛けると、俺の方に体を寄せてくる。肩を通し
て感じることのできる、イルファの体重と体温が恥ずかしい。心臓の音が、聞こえてしま
わなければ良いんだけど。
旦那様は、いつもこうやって私のことを愛してくださいますから。
でも、こんなことくらいで良いの?
はい♪
「それでは旦那様、もう一つだけ、お願いをしてもよろしいでしょうか」
「えっと、何?」
そう言ってしまってから後悔した。
さっきだって、これで旦那様なんて呼ばれることになったのに。
「いつか必ず、私の本当の旦那様になってくださいましね」
イルファはそう言って、笑顔を浮かべながら目を瞑る。
頑張らなきゃな。イルファのお願いを聞いてあげるためにも。
そう思いながら触れたイルファの唇は、なんだかいつもより、柔らかかったような気が
した。