各々の探し人を見つける為に、リサ=ヴィクセン(119)と美坂栞(100)はまずは南へ下っていくことにした。体力のあまりない栞に合わせて歩いているため、そんなに早く進むことはできなかった。
「栞、大丈夫? 荷物、持ってあげましょうか」
「いえ、私は大丈夫です。これくらいは自分でやりたいので」
「分かったわ。でも、辛くなったら言ってね」
リサの心遣いが、栞にとっては歯がゆかった。死ぬのが恐いくせに、人の役にも立たない。
もっと強くなりたい。心の底から、栞はそう願った。
…やがて、海岸沿いのある地点で、リサが足を止める。
「どうしたんですか、リサさん」
「…血の匂いがするわ」
血の匂い、と言われてもそんな匂いはしない。…いや、注意してよく嗅いでみると、かすかに鉄のような匂いがしてきた。
「注意して。近くに、殺人者がいるかもしれない」
殺人者。栞が体を強張らせる。リサは栞に体勢を低くするように命じた。リサは体勢を低く保ったまま、トンファーを構え匂いの元へと歩み寄っていく。
「栞はこのまま待って。安全そうだったら、合図するから」
こくりと栞が頷くのを確認すると、リサが「Good」と滑らかな発音で言ってから、一歩一歩匂いの元へと近づいていった。
数分が経った頃だろうか、栞が不安になってきたころ、リサから「OK、大丈夫よ」という声がかかった。栞はまだ周りを警戒しつつ、リサの元へと小走りに行く。
リサの待っていた地点では、おぞましいものが横たわっていた。
「リ…リサさん、これは…」
リサが見下ろしていたのは男の死体だった。腕は片方が無くなっており、恐らく致命傷を与えたものと思われる銃弾が男――醍醐の眉間を貫いていた。目は見開かれたままであり、その最後が壮絶である事を物語っていた。
「…この男はね、その筋の世界では一流の傭兵だった男よ。…まさか、こんなに早く脱落していたとはね」
リサが感慨深げに醍醐の死体を見つめる。一流の傭兵。そんな殺しのプロフェッショナルでもこんなに簡単に死んでしまうものなのか。
ましてや、自分は病弱。そんな自分が、生き残る事などできるのか――栞の不安は、いやがうえにも高まった。
(あの醍醐をこんなにも簡単に屠れる人間…あの兎の言っていた、人間離れした参加者がいるということ、まんざら嘘ではないのかもしれないわね。これからは、用心してかからないと)
心中で決意を新たにした後、リサは醍醐の目を閉じてやり、そして醍醐に向けて十字を切ってやった。
「さて、栞、行きましょうか。もう少し歩く事になるけど…栞?」
醍醐の死体を見たまま固まっている栞を見て、リサがぽんぽんと軽く叩く。
「ごめんなさいね。こんなものを見せちゃって…」
「いえ…それはいいんです。ただ…」
「ただ?」
「ただ…こんなに強そうな人でも簡単に死んじゃうなんて…私なんか、絶対に生き残れないんだろうなぁ、って思ってしまって…バカですよね、私」
リサはその言葉を聞くと、何も言わずに、ただ優しく微笑んで栞の体を抱きしめた。
「リ、リサさん?」
「大丈夫よ。何があっても私が守るから、あなたは絶対に死にはしない。だから、もっと気を強く持ちなさい。弱気は、いざという時に窮地を招くわよ」
栞の弱気の虫を追い払うように、優しく頭を撫でる。栞も、それに甘えるように顔をうずめた。
「はい…わかりました」
坂上智代は里村茜は、海沿いに歩いていた。
もっとも二人の持つ武器では護身には少々不十分である為、その足取りは非情に慎重であった。
二人は街道をさけ、海岸沿いに平瀬村へ向かっていた。
街道は危険と判断しての行動である。
今の二人の状態で敵に襲われてはひとたまりも無い。
「おい、あれは・・・。」
何かに気付いた様子の智代が指を指している。
「・・・・?」
智代が指を指している方向を見ると、一人の老人が立っていた。
「幸村先生!!」
5分後、老人――幸村俊夫と、智代達は簡単な情報交換を済ませ、本題に入っていた。
「ほうほう、つまりわしに仲間になってくれと?」
「その通りです。正直な所、もっと協力者がいないとどうにもなりません。」
「・・・・。」
茜は黙って様子を見ていた。
「こんな老いぼれがどれだけ役に立つか分からんが、いいじゃろう。
わしの学校の生徒や、生徒達と年頃の子供を見捨てるわけにはいかんしな・・・・。」
あっさりそう言うと、老人はすぐに歩き出した。
智代は慌てて追いかけ、遅れて茜もついてきている。
「このゲーム、私達の学校の生徒も一杯参加していますね・・・。」
「そうじゃよ・・・。みんな無事だったらいいんだがの。
わしのような老いぼれは死んでも良いが、若いもんがこんな所で死ぬのは耐えられん・・・・。」
幸村が遠い目でそう言うと、智代はそれきり何も言えなくなり、
茜も幸村も口を開く事なく歩き続けた。
しばらくして、栞が落ち着いてから、二人はまた歩き出した。
空が赤みを見せ始めた頃、二人は海岸にある建物を発見した。
「リサさん、あれって海の家じゃないですか?」
「うみのいえ? あれがそうなの? 私はまだ見たことがなくてね」
「リサさん、見たことがないんですか?」
「ええ、日本でそういうことをする機会はあまり無かったから」
意外だった。日本語がかなり上手だったからこういうものも当然知っていると思ったのだが。リサの思わぬ側面に、思わず笑いが漏れてしまう。
「あ、栞。今笑ったでしょう」
「いえ、そんなことはないですよ」
「いいのよ、笑っても。どーせ私は外国人ですからねー」
不貞腐れるリサ。何だか、幾分か気分がほぐれたような気がする。
「拗ねないで下さいよー。取り敢えず、あそこでちょっと休憩しましょう、ね」
栞はリサを引っ張りながら、海の家まで歩いていった。
『美坂栞(100)』
【時間:1日目午後5時半ごろ】
【場所:G−9、海の家に向かって移動】
【所持品:支給品一式、支給武器は不明】
【状態:健康】
【備考:香里の捜索が第一目的】
『リサ=ヴィクセン(119)』
【時間:1日目午後5時半ごろ】
【場所:G−9、栞と同上】
【所持品:支給品一式、鉄芯入りウッドトンファー】
【状態:健康】
【備考:宗一の捜索及び香里の捜索が第一目的、まだ篁を主催者と考えている】
【備考:葵の制服は海の家に放置されたまま、B、H系ルートで】
一行は、暫く歩き続けると海岸に船を発見した。
「おい、船があるぞ!・・・でも、外傷が激しいし故障していそうだな。」
「・・・・それでも、修理すれば脱出の時に使えるかも知れません。」
「そうだな。とにかく行ってみるか!」
二人は脱出方法が見つかったかもしれない事に、興奮しており、周りが見えなくなっていた。
(もっとも修理する技術がある者が仲間にいないし、首輪の問題もまだ未解決であったが。)
出発当初の慎重さは、全く無くなっていた。
この時海岸に捨てられたバックに気付いたのは、幸村だけだった・・・・。
二人は我先にと船に乗り込み、まずは船尾の方を調べてみた。
船尾は外損以外特に損傷は見当たらず、修理すれば問題無さそうであった。
次に二人は船室を調べるべく、
船室の扉を開けた。
その瞬間、
「駄目じゃっ!!」
幸村が二人を突き飛ばしていた。
その直後、
パラララララ!!という音が聞こえ、
二人が顔を上げると、
幸村は体中のあちこちから血を迸らせていた。
「な―――!?」
「くそっ、勘付かれたっ!?」
3人一気に仕留めれると確信していた山田ミチルは予想外の出来事に一瞬狼狽したが、
すぐにMG3を構えたまま走りこんできた。
茜も智代もあまりに突然過ぎる出来事に動けない。
―――駄目だ、殺られる
二人が、そう確信した時だった。
幸村は最後の力を振り絞り、彼の支給武器――煙球を、船室内に叩きつけていた。
「な・・・!!」
突然ミチルは視界を奪われて、立ち往生していた。
グイッ!!
茜は強引に智代の腕を掴むと走り出した。
「おい、離せっ!!先生を助けにいかせろっ!!」
智代は強引に振り払おうとするが、茜は手を離さない。
「・・・お願いですから、黙ってください・・・・。」
彼女にしては珍しく、感情の籠もった強い口調で言った。
「お前・・・、泣いてるのか?」
それ以降二人は何も言わず、ただ走り続けた。
涙を流しながら・・・・。
【時間:16時】
【場所:D-1】
坂上智代
【持ち物:手斧、支給品一式】
【状態:体は健康。逃亡中】
里村茜
【持ち物:フォーク、支給品一式】
【状態:体は健康。逃亡中】
山田ミチル
【所持品:MG3(残り30発)、他支給品一式】
【状態:普通。マーダ―。この後の行動は次の書き手さんにお任せ】
幸村俊夫
【持ち物:支給品一式(その場に放置)】
【状態:死亡】
※(B系ルート(B-2、B-7以外共通)、関連は051、107、121)
※(教師の鑑の修正版です。まとめサイトに載せるのはこちらでお願いします>まとめの人)
※(
>>498割り込みになってしまってすいません。)
篁未死亡、もしくは『ムティカパと篁』ありルート用に書いたものですが、一応Bルート共通?
関連
→072
(→107)
⇔教師の檻
「さて……随分と歩いてきたが、おまえさんは大丈夫かの?」
幸村俊夫(043番)は自分の足元を歩いている自身の支給品――ぴろ(猫)に目を向けた。
幸村と目が合うとぴろは「大丈夫だ」とばかりに、にゃーと元気そうに鳴いた。
彼はこのゲームに乗る気など微塵もなかった。
むしろ、密かに主催者への怒りで満ち溢れていた。
自分よりも若い多くの者たちを殺し合わせようとしている主催者たちに喝を入れてやりたいとすら思っていた。
(――大事な教え子たちを貴様らの勝手な都合だけで殺させはせんぞ…………)
そう。このゲームの参加者の一部の人間は彼の教え子たちなのだ。
さらに、名簿を見るかぎりこのゲームの参加者の半数以上は現在の彼の教え子たちと同年代の者たちばかりだった。
そんなまだ未来ある者たちが殺し合う………
それを1人の教師として――否。人として見過ごしておけるはずが無い。
幸村はなんとかしてこのゲームを止めようと考えていた。
(しかし、この老いぼれ1人の身ではそれを成すことは難しい。誰か1人でも同士がいれば心強いのだが………)
そう考えながら歩いていると前方に2人組の人影が見えた。
よく見ると、そのうち1人は銃らしき物を持っていた。
(――いかん!)
マーダーかと思い一度幸村はぴろを一度バッグに入れ草影に身を隠した。
「皐月さん。本当にもう大丈夫なの?」
「うん。もう大丈夫だから。ありがとうね、このみちゃん」
「えへ〜…そう言われると照れるでありますよ」
2人のそんな話し声がかすかに聞こえた。
声からして2人とも女の子だろうと幸村は判断した。
(このままやり過ごしてくれればよいのだが……)
身を潜めながらそう思っていた幸村だったが、
ここで見逃してしまったらもう誰にも会えずに終わってしまうかもしれないとも思ったのですぐさま覚悟を決め2人に近づいて声をかけてみることにした。
(殺し合いに乗った者たちでなければよいが……)
「おまえさんたち。ちょっとよいかの?」
「ん?」
「ほえ?」
少女たちが同時に幸村の方へ振り返る。
振り返ったと同時に幸村は2人に尋ねた。
「わしは幸村俊夫というもんじゃ。
単刀直入に聞かせてもらうが、おまえさんたちはこのゲームとやらに乗ったのか? それとも乗っていないのか、どちらじゃ?」
「………まだわからないわ」
「このみたちは今タカくんたちを探しているんでありますよー」
「そ。まずはそれからよ。ゲームに乗るか、乗らないかなんて今は考える暇はないわ」
「ふむ……」
少なくとも彼女たちは今のところゲームに乗っていないようなので安心した。
「そういうおじいさんこそなにをしようとしてんの?」
今度は逆にこちらが尋ねられる。
だから幸村は正直に答えた。
「わしは――この理不尽なゲームを止めようと思っておる」
「………とめるのでありますか?」
「うむ。老いぼれだがわしとて教師じゃ。未来ある若いもんたちが互いのその身を食い合うところなど見たくはないのでな………」
「食い合う!? 隊長。このみたちは食べられてしまうのでありますか!?」
「このみちゃん。今のはたとえよ。たとえ………
ゲームを止めるか……きっと宗一やリサさんたちも今そうしようと動いているんだろうな………
よし。決めた! おじい…じゃなかった。幸村さん。私も協力するよ!」
「隊長、隊長。このみもお手伝いするでありますよー!」
「―――しかし、主催者たちを敵にするということはこの島においてかなり危険な選択じゃぞ?」
「心配ご無用! こう見えても私はあのNASTY BOYのパートナーですから!」
「このみもタカくんのお家のお隣さんでありますから!」
そう言って2人の少女――湯浅皐月(113番)と柚原このみ(115番)は自分の胸をどんと叩いた。
無論、幸村はNASTY BOYやエージェントなどは知らないが、彼女たちは頼もしい存在になりそうなことに間違いはなかった。
「さて。やはりまずは知人関係を探してみるかの?」
「はい」
「どこから探してみるでありますか?」
このみが広げた地図に3人が目を通す。
「そうじゃな……ふむ。近くにホテル跡があるらしい。そこから調べてみるかの」
「そうですね。それにここなら床にもつけそうですし」
「それなら早速出発でありますよー」
「にゃー」
【場所:E−03】
【時間:午後5時40分】
幸村俊夫
【所持品:支給品一式】
【状態:健康】
【その他:ゲームを止める。知人たちを探す】
湯浅皐月
【所持品:38口径ダブルアクション式拳銃(残弾8/10)、予備弾薬80発ホローポイント弾11発使用、セイカクハンテンダケ(×2)、支給品一式】
【状態:健康】
【その他:宗一たちを探す】
柚原このみ
【所持品:ヌンチャク(金属性)、支給品一式】
【状態:健康】
【その他:貴明たちを探す】
ぴろ
【状態:健康】
【その他:幸村の支給品】
【備考】
・3人(と1匹)で行動。ホテル跡へ向かう
・このみの支給品は皐月が使うことに
舞一行の、牛丼を食べるペースは、極端に落ちていた。
「もう駄目だ・・・」
住井護は、牛丼を5杯食べきった時点で、人体の限界を感じていた。
どう足掻いても、これ以上は食べれない。
「……………」
吉岡チエは既に、爆睡状態だ。
「・・・・・・・げっぷ・・・。」
牛丼7杯を屠った魔人・川澄舞もとうとう限界の時を迎えていた。
既に、舞の水も尽きている。これ以上食べるのは普通に考えて不可能である。
「川澄さん・・・、まだ食べる気なのか・・・?」
「・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・。」
これ以上は、食べれる訳がない。大食い選手権以上の荒行である。
しかし、このままでは牛丼の鮮度が落ちてしまう。
場に、重い沈黙が訪れる。
そんな時である。
「ぎ・・・、牛丼・・・・。」
そんな台詞と共に現れたのは、鬼。食欲の鬼と化した、耕一である。
「牛丼だね・・・。」
続いて志保も現れた。
二人とも、よほど腹が減っているのであろう。
こんなゲームに参加しているにも関わらず、視線は舞達を捉えていない。
彼らの視線は牛丼、ただその一点のみに集中していた。
「・・・食べる?」
全く警戒せずに、牛丼の容器が入ったバッグを耕一達に差し出す舞。
住井も新たな来訪者に全く気を取られる事無く、寝転がっていた。
っていうかこんな食欲丸出しの殺戮者なんている訳ないしね。
「くれるのか!?サンキュー!!」
「え、マジ!?ありがとう!」
それだけ言い、待ってましたと言わんばかりに牛丼を貪る耕一と志保。
恐ろしい勢いで、容器の中の牛丼が減っていく。
「・・・・最後の力を振り絞る。」
「俺も、人間の限界に挑戦してみたくなったぜ。」
再び立ち上がる戦士が二人。
最強を誇った牛丼の群れも、とうとう最期の時を迎えようとしていた・・・・。
共通
【場所:G−04】
【時間:1日目午後4時00分】
【状況:牛丼攻略中】
【牛丼:残り6杯(現在食べている分含む)】
住井護
【状態:満腹度100%】
【所持品:投げナイフ(残り4本)、ほか支給品一式】
吉岡チエ
【状態:爆睡】
【所持品:日本刀、ほか支給品一式(ただし水・残り3分の1)】
川澄舞
【状態:満腹度100%】
【所持品:牛丼以外の支給品一式(ただし水・残り半分ほど)】
長岡志保
【持ち物:新聞紙、支給品一式】
【状態:疲労、限界空腹、足に軽いかすり傷】
柏木耕一
【持ち物:日本刀、大きなハンマー、支給品一式】
【状態:疲労、限界空腹】
【備考】
・ルートB、H共通
・関連は115、152
突如、葵の脳裏に、藤田浩之の言葉が浮かんだ。
『葵ちゃんは強いっ!』
その瞬間、冷静さを取り戻した葵は、
「くぅ!」
即座に側転し、ギリギリの所でナイフをかわしていた。
もう、うだうだ考えるのは止めだ。
とにかく殴り倒して、それから考えよう。
全力で戦う。そして気絶させる。
落ち着かせてから話し合えば、琴音さんならきっと分かってくれる筈――
それが、葵の一瞬で出した結論だった。
続けざまに、琴音のナイフが振り下ろされる。
それをかわして、距離を一歩詰める。
業を煮やした琴音は大きな動作でナイフを突いた。
それはかなりの速度であったが、葵はその一撃も頬の皮1枚でなんとかかわした。
葵の目論見通り、琴音に決定的な隙が生まれる。
「ハッ!!」
そこにすかさずローキックを一発。格闘家の、重い一撃。
ローキックは琴音の左足に完全に直撃し、琴音の体勢は崩れた。
続いて一番の得意技、ハイキックを放つ。
その一撃は唸りを上げ、無防備な琴音の頭部を直撃し、
琴音は5,6メートル程吹き飛ばされていた。
琴音は地面に倒れたまま、動かなかった。
「ハァハァ・・・。」
戦闘時間自体は短かったが、極度の緊張の為か葵は息を切らしていた。
「だ・・、大丈夫ですか?」
ようやく口を開くのは、保科りえ。
しかし、葵よりも彼女の方が明らかに重症である。
「私は平気です・・・、あなたこそ大丈夫ですか?」
当然葵も、自分の事よりも彼女の事を気遣う・・・・。
「凄い痛いですけど、あなたのおかげでなんと・・・」
りえはそこまで言って、目を見開き、そのまま硬直した。
彼女の視線は、葵の後ろを凝視していた。
まるで恐ろしい、化け物を見るかのような目で・・・。
葵が慌てて振り返ると、そこには、狂気に支配された少女、姫川琴音が立っていた。
彼女はボロボロだった。顔は返り血と彼女自身の血で血まみれだった。
足はどす黒く変色し、左側頭部からは血が垂れ流れている。
しかし、彼女の口は、この世のモノとは思えないおぞましい笑みを浮かべていた・・・。
その姿を見て、絶句する葵とりえ。
姫川琴音は、度重なるショックと、恐怖と、己自身の行為によって、完全に壊れてしまっていた。
彼女はナイフを構え、葵の胸めがけ、それを突き出した。
「ぐっ!」
そのナイフを持つ手を、何とか受け止める葵。
力なら、私に分があるはず・・・。
このまま腕をとって関節技で骨を折るしかない!
そう考え、葵は腕をとろうとした。
しかし、微動だにしない。
おかしい。ただの女性相手に、仮にも格闘家である私が、なんで腕をとれないの?
そう考えている間にも、琴音の力が、どんどん強まってくる。
なんで、なんで、なんで?
なんで私が力負けするの?あんなに鍛えたのに、なんで?
「あれぇ?あおいちゃん、つかれてるのぉ?」
琴音はそれだけ言い放つと、「今の」全力を、腕に籠めた。
葵の抵抗など無かったかのように、ナイフはあっさりと葵の胸に突き刺さっていた。
葵の口から大量の血が溢れる。
胸からは、血の花火を咲かせていた。
体の感覚が無くなっていく。
葵の体が、ゆっくりと崩れ落ちる。
(ひろ、ゆきさん、ごめんな、さい・・・・。わたし、がんばった、けど、とめれません、でした・・・。)
そうして葵の意識は、永遠に消失した。
彼女の『勇気』は、琴音の『狂気』の前に敗北したのだ―――
琴音の精神は既に取り返しのつかないほど、異常をきたしていた。
その異常の副産物として、まるで毒電波で操られている人間のように、
筋力を100%引き出せるようになっていたのだ。
自分の体を守る為に脳から課せられた規制が、今の彼女には適用されていなかった。
故に、異常な筋力を発揮する事が出来る。
代償として自らの筋肉を引き裂きながら。
自らの命を引き裂きながら・・・・。
保科りえは、いつの間にか逃げ出していた。
「さて、あとよにんだねぇ・・・・」
かつて琴音だったモノは笑みを浮かべつつそう言うと、次の標的、保科りえの追跡を開始した。
今の彼女なら本気を出せばすぐに追いつける筈だが、
敢えて彼女はそうしなかった。
ほい
筋力を100%ひきだせるようになったのだ。って
…………それはひょっとしてギャグで言ってるのか?
どこかおかしいか?
【時間:1日目17時半ごろ】
【場所:D−8】
松原葵
【所持品:お鍋のフタ、支給品一式、野菜など食料複数、携帯用ガスコンロ】
【状態:死亡、所持品は死体の傍に放置】
仁科りえ
【所持品:拡声器・支給品一式】
【状態:パニック状態で逃亡中。右肩に浅い切り傷、左腕に深い刺し傷】
姫川琴音
【所持品:支給品一式、八徳ナイフ】
【状態:狂気、異常筋力。右側頭部出血、左足打撲、他細かい傷多数。18時間半後に首輪爆発】
【備考:No.168:不幸な再会の続き。B系ルート】
>514-517
仁科が保科になってるぞ。
>520
IDはおかしいと言ってるな。
523 :
514:2006/10/05(木) 10:30:07 ID:L5ttfynQO
ああ、マジだ、、
保科→仁科で掲載お願いします>まとめの人
すいません。
IDは運営スレ参照。
芳野祐介は溜息をついた。
傍らで眠る少女、長森瑞佳をなだめるのには、意外と手こずり時間もかかった。
そして、この始末である。
「・・・すぅ・・・すぅ・・・」
叩き起こす、かついで氷川村まで移動する、放っておく。
選択肢はいくつもあるが、祐介はそれを選ばなかった。
隠れられるだろう茂みに入り、瑞佳を横たえると自分はその隣で周りを警戒する。
「たっく、いつになったら氷川村に行けるんやら」
まぁ、仕方ないか、という諦めにも似た思い。
ちらっと盗み見る。
もぞもぞと体を丸くしてる瑞佳、まだまだ可愛い年頃だ。
「・・・風子よりちょっと上、くらいだよな」
その時、彼女の抱えるデイバックも目に入る。
彼女の支給品・・・祐介は、それに目をつけた。
(悪いけど、いい物だったら頂戴するか)
丸くなっている体を押しのけ、鞄を取り出す。
気づかれぬよう素早く開ける、彼女の支給品は・・・
「・・・・・これは・・・」
制服。見覚えのあるファミレスか何かのものだ。
薄い緑色の、肩が出るタイプ。札には
まるで水着、長いパレオが特徴の涼しげなタイプ。
ブロンズパロットのような作り、赤と白のコントラストが可愛いタイプ。
それぞれ「フローラルミントタイプ」「トロピカルタイプ」「ぱろぱろタイプ」という札がついている。
瑞佳の鞄には、この3着が無理やりギュッギュッと押し込まれていた。
「何だ、一体・・・」
そして、一枚の髪。説明書。
『防弾チョッキ(某ファミレス仕様)』
頭が痛かった。
そんな混乱状態の中、気づいたらなぜか・・・
「いや、着ないから。着るぐらいなら蜂の巣になるから。
っていうか露出多くて弾から守ってくれないから」
526 :
補足:2006/10/05(木) 11:46:59 ID:tOJPtgBN0
芳野祐介(118)』
【時間:1日目午後5時50分】
【場所:H−08】
【所持品:Desart Eagle 50AE(銃弾数4/7)・サバイバルナイフ・支給品一式】
【状態:氷川村へ向かおうとしているものの、足止め中】
長森瑞佳(074)』
【時間:1日目午後5時50分】
【場所:H−08】
【所持品:防弾チョッキ(某ファミレス仕様)×3・支給品一式】
【状態:熟睡】
(関連・100)(共通)
527 :
訂正:2006/10/05(木) 11:49:01 ID:tOJPtgBN0
>>525 ×薄い緑色の、肩が出るタイプ。札には→○薄い緑色の、肩が出るタイプ。
すみません・・・
「あ………」
「―――っ!?」
皐月の一撃を受け敗走中だった名倉友里は海岸を歩いている伊吹風子と偶然でくわした。
直ぐ様友里は応戦しようとしたが、自身の武器はあの時あの場所に置いていったことを思い出す。
(――しまった………)
その隙をついて今度は風子が動く。
自身のバッグに両腕を突っ込んで………
「これあげますっ!」
と知っている人にはすっかりお馴染みの木彫りのヒトデをバッグから取出し友里に差し出した。
「はぁ?」
無論、わけがわからない友里は頭のうえに大きな?マークを浮かべる。
「つまり友里さんはこのゲームに乗ろうとしているんですね?」
「まあね。そういうあなたはどうなの?」
「風子はゲームなんて興味ないです。風子は普段どおりヒトデを掘っているこそが風子なんです!」
「―――馬鹿ね。そんなことしていたらいずれ無駄死にするだけよ」
「そんなこと関係ないです。風子はどうなろうともお姉ちゃんのためにヒトデを掘り続けるだけです!」
ナイフが無くなっちゃいましたけど、と付け足して自分の支給品のスペツナズナイフの残った柄の部分を見せる。
「馬鹿馬鹿しい……付き合ってられないわ………」
そう言って友里は風子と別れた。
――木彫りのヒトデは強引に貰わされたが…………
「――まずは人が集まりそうな場所……鎌石村あたりへ行こうかしら…………?」
【場所:B−02】
【時間:午後5時】
名倉友里
【所持品:木彫りのヒトデ、支給品一式】
【状態:右肩負傷(軽傷、止血済み)。マーダー(積極的)】
伊吹風子
【所持品:スペツナズナイフの柄、支給品一式】
【状態:健康。ゲームに乗る気もゲームを止める気もない(理解しきっていない?)】
訂正
吉〇屋→吉〇家
支給してもらった武器がないと人が殺せないとはずいぶんへぼい積極的マーダーですね
532 :
10:2006/10/05(木) 19:30:02 ID:CNRD6KmT0
できましたー
篁生かしておいて何もしないのもどうかなので篁生存ルート。
篁関係と⇔って事で。
一応Iルート。
と、まとめの人Iルートに183加えておいてくださいな。
篁は怒り心頭に来ていた。
(おのれ……オノレ……この私が……)
(このような愚劣なゲームに参加しろだと……?)
篁は今何も持っていなかった。
怒りに任せ開いた戸棚を思い切り殴り付けていた。
支給品ごとに。
こんなゲームに参加させられてむざむざ施しを受けるなど篁には耐えられなかった。
(巫山戯……おって……)
篁は又、怒りに任せて傍に在る木を力任せに殴る。
ドゴォ……と凄まじい音がして、梢が揺れる。
(何なのだ……この封印とやらは……)
その木には罅が入り、拳の跡が刻まれていた。
普通の老人では在り得ない様な膂力だった。
が、それでも彼の本来の力の一欠片も出せていない。
(忌々しい……)
しかし、篁を本当に怒らせていたのは封印ではなかった。
(この私を駒にしてゲームをするだと……?)
(最後まで残った者は生かして帰してやろう……?)
(巫山戯る……な……)
彼の背中からどす黒いオーラが立ち上っている様にも見えた。
「必ず……後悔させてくれるわ……」
「地獄の底で……その罪を悔いるがいい……」
噛み砕かんばかりに力を込めた奥歯がぎりぎりと悲鳴を上げる。
もう一度力任せに木を殴り付け、篁はその場を去った。
篁に殴られたその木は軋む様な音を立てる。
暫くして、めきめきと嫌な音を立てていたその木は、倒壊した。
そして、その場に静寂が戻った。
篁
【時間:一日目午後三時頃】
【場所:E-04とE-05の境目付近】
【持ち物:無し】
【状態:怒り心頭、目標はゲームの主催者の皆殺し、参加者は眼中に無い】
「ゼェ…ゼェ…ゼェ…こ、ここまで来れば、もう大丈夫、よね」
十波由真(070)は後ろから誰も尾行してくる人物がいないことを確認すると、近くの木の陰に腰を下ろした。
「あ〜〜〜〜っ、つっかれたぁ…花梨の奴、大丈夫かな?」
今も岸田に追われているであろう友人の姿を思い浮かべる。まぁ、あの子は逃げ足だけは速そうだから、大丈夫よね。
勝手にそう結論付けて、水分を補給する為にデイパックから水をを取り出……せなかった。
「あっちゃ〜…あの場所に置いてきたまんまだったっけ」
状況が状況だったとはいえ、全食料を失ったのは痛い。しかし、戻ろうにも騒ぎを聞きつけた他の参加者が待ち伏せしている可能性すらある。食い気より命だ。
「さてここで問題よ。この食料の無い状況でどうやってこの先生きのこるか」
1、 キュートで可愛い十波由真は突如食料を調達するアイデアをひらめく
2、 仲間が来て食料を分けてくれる
3、 餓死する。現実は非常である
「あたしとしては2がベストなんだけど、そう簡単に誰か来てくれるわけでもないし、これを期待するのは酷ってもんよね。…となると、答えは1しかないようね…! よしっ、まずは自分の現在位置を確認よ」
地図を取り出そうとする、が手は空を掴んだままだった。
「…地図もデイパックの中だった」
ぶっちゃけた話、由真は双眼鏡一つしか持っていないのである。パックマンではないので、こんなもんをバリバリ食う事など出来はしない。
「はぁ…適当に歩いて、食べ物がありそうなところを探すしかないのか…」
ぐぅ〜、と由真の腹の虫が鳴る。朝から何も食べていなかった。
「こんな状況でもお腹が空くあたしが恨めしいわ…よいしょっと」
ふらふらと立ちあがり、行く当ても無くのろのろと歩きだした。
夕刻になろうとしている時間だったが、由真の視界には民家の一つさえ見えてこない。というか、そもそも自分がどれだけ進んでいるかも怪しい。
きっと今の自分の顔はゾンビのようになっているに違いない。この調子では銃に撃たれて死ぬどころか先に空腹で死にかねない。
いやだ、そんなの、絶対にいやだ。あたしの命はそんなに軽くない…はず。
色々な意味で自分に自信が持てなくなってきた時、とうとう体力が限界に達した。ふらりとよろめき、ドタッと地面に倒れ伏す。
が、がんばれ…あたしの体…ち、ちくしょーっ、動けッ、あたしの足! もっとふんばって体を持ち上げろーッ!
…が、抵抗も空しく徐々に意識が闇の中に飲まれていく。
――答え3 答え3 答え3
そんな言葉が頭をよぎった時。
「にょわ〜…この人、なんか行き倒れになってるよ。まるで国崎往人だ」
失礼ね。行き倒れ何かじゃ…ない。たぶん。
倒れた由真の前にやってきたのは、みちると岡崎朋也ご一行様だった。
「あん? 誰かいるのか…って、誰だコイツ? 死んでる…のか?」
冗談じゃないわ。こんなの最もマヌケな死に方じゃない。ズガンの方がまだましよ。
「あ、ちょっと動いたよ。まだ生きてるみたい」
「…ん? じゃあ、どうして倒れてるんだ。まさか…腹が減ってるとか」
朋也がそう言った時、ぐぅ〜〜〜〜、という大音声が木霊した。
「お腹、減ってるみたいだね…ね、かわいそうだから何かあげようよ」
あたしゃ捨てられた子犬ですか。でも、欲しい…
「…ああ、このまま見捨てるわけにもいかないしな…ほら、あんた。パンだ。食えよ」
目の前にパンが差し出される。すると、怒涛の勢いでパンにかぶりつく由真。ものの十数秒でパンを平らげる。
「にょわっ、国崎往人より早いっ」
「ごちそうさまっ!」
最後の一口を呑みこんだ後、手を合わせて元気に言った。それから朋也に向かって普段から考えると珍しく素直に礼を言う。
「ありがと。お陰で最悪の事態だけは免れたわ。朝からずっと食べてなくって。荷物も無くしちゃうし」
「ふぅん、そりゃ災難だったな…誰かに襲われでもしたのか」
うん、と由真が言ってこれまでの経緯を説明する。
「…ヤバい奴だな。いきなりやって来てしかも殺人鬼か」
「それに、口がものすごく上手いの。もうオレオレ詐欺を遥かに超越してるわよ、あれ」
「オレオレ詐欺って、もう古いよ。今は架空請求の時代だよ」
みちるがツッコミをいれるが、二人は気にしない。
「…口も上手い、か。渚なんかはお人好しだから、簡単に信じちまうかもな…早いとこ、渚を探さないとな。それで、あんたはどうする。連れてけというなら構わないぞ。仲間は多いに越した事はないからな」
「うん、みちるもオッケーだよ」
「そうね…荷物もないし、一緒に行かせてもらうわ。あたしは十波由真よ」
「俺は岡崎朋也だ。で、こっちのちっこいのが」
「みちるだよ。…って、さりげなくチビ言うなーっ!」
ゴスッッッ!
「ぐはっ! ぐぉぉぉぉ…」
鳩尾を蹴られ、悶絶する朋也。
(…このチビッコ、意外にやるわね)
みちるの素晴らしい蹴りに感心しつつ、由真はうんうんと頷いた。
十波由真
【時間:17:30】
【場所:E−2の街道】
【持ち物:ただの双眼鏡(ランダムアイテム)】
【状況:朋也達と行動を共にする。まだ少しだけ空腹。デイパックはD−1に放置状態】
岡崎朋也
【時間:17:30】
【場所:E−2の街道】
【持ち物:お誕生日セット(クラッカー複数、蝋燭、マッチ、三角帽子)、支給品一式】
【状況:友人達の捜索をする。パンを一つ消費】
みちる
【時間:17:30】
【場所:E−2の街道】
【持ち物:武器は不明、支給品一式】
【状況:美凪の捜索をする】
【備考:B−2、B−7、B−8ルートで】
540 :
虚ろな瞳:2006/10/05(木) 20:23:07 ID:0fXFJr7X0
月島瑠璃子は手の痺れが取れた後に再び雛山理緒を殺しに戻った。
しかし既にそこはもぬけの殻であった。
繭の支給品一式も、そして繭の死体すらも、無かったのだ。
瑠璃子は自分が使っていた鋏をずっと探し回ったが、それすらも無かった。
彼女にとって唯一の武器なのに、茂みの中にも何処にも無かった。
月島瑠璃子は鋏を探すのを諦めた後、じっくりと思考を巡らせた。鋏が無くては戦えない。
――否、鋏があったとしても満足には戦えない。
先程も鋏があったにも関わらず、丸腰同然の女に遅れをとったばかりだ。
だから、彼女は仲間を、仲間という名の傀儡を探す事にした。
自分自身で戦えないなら、他の者に戦わせ、
自分自身で自分の身を守れないなら、他の者に守らせれば良い。
自分は傀儡達を散々利用し、最後に寝首を掻くだけでいい。
殺戮がしばらく楽しめなくなるのは残念だが、今は仕方無い。
彼女はそう考え、傀儡を探す事にした。
しかし、傀儡探しはあくまで慎重に行なわなければならない。
声を掛けた相手がゲームに乗ったマーダーだったとすれば、
今の自分の装備では抵抗すら満足に出来ずに殺されるだろう。
そこで今は街道付近の茂みで息を潜め、様子を見ている、という訳である。
その後1時間ほどずっと待っていると、
街道の向こうの方から一人の女が歩いてきた。
(駄目・・・、あの女の人は、殺気立ってる。)
女―――神尾晴子は、次なる標的を探し、街道を徘徊していた。
この女と話し合うのは危険過ぎる。
下手すれば姿を見せた瞬間撃たれかねない。
そう判断し、瑠璃子は隠れたままやり過ごした。
541 :
虚ろな瞳:2006/10/05(木) 20:24:26 ID:0fXFJr7X0
またしばらく息を潜めていると、今度はガラの悪い男が歩いてきた。
ベルトには大きな銃を差し込んでいる。
しかしその男の雰囲気は、何故か日常に近いものがあった。
このゲームに参加している者独特の緊張感も、殺気も感じられない。
この男には人に警戒心を抱かせない何かがあった。
男――古河秋生は、街道を歩いていた。
最初に鎌石小中学校を探索したが、彼の家族は見つからなかった。
その後はどこに向かうが迷ったが、自分の勘に任せ氷川村へと向かう事にした。
「あの、すいません。」
突然、近くの茂みから声をかけられる。
「誰だ!!」
秋生はすぐに足を止めて銃を茂みに向けて、構えた。
「待ってください、私、兄を探しているだけなんです。」
瑠璃子は両手を上げて、武器を持ってないことをアピールしつつ出てきた。
「わりいが、ゲームが始まってから人を見たのは嬢ちゃんが初めてだ。」
「そうですか。残念です。」
「すまんな。ところで嬢ちゃんは、古河渚と古河早苗って女を見なかったか?」
「いえ、見ていません。」
瑠璃子は俯きながら答えた。
「そうか。じゃあな」
秋生はそれだけ言うと、立ち去ろうとした。
542 :
虚ろな瞳:2006/10/05(木) 20:25:26 ID:0fXFJr7X0
「待ってください。あなたも人探ししてるなら、一緒に行動しませんか?」
「ふむ・・・。」
「お願いします、私一人じゃ何も出来ませんから。」
はたしてこのゲームで簡単に人を信用していいものか。
恐らくそれは、かなり危険な行為であろう。
しかし、娘と同じ年頃の女の子の頼みを断るのは罪悪感が残る。
出来れば信じてあげたい。
秋生はしばらく考えた後、
「・・・いいぜ。ついてきな。」
そう言い、歩き出した。
「ありがとうございます。」
それだけ言い、後をついていく瑠璃子は、微笑みを浮かべていた。
しかしその瞳だけは、どうしようもなく虚ろだった。
秋生はその事に、気付いていなかった。
543 :
虚ろな瞳:2006/10/05(木) 20:26:08 ID:0fXFJr7X0
神尾晴子
【時間:1日目16:20】
【場所:F−9、街道】
【所持品:支給品一式、H&K VP70(残弾、残り18)】
【状態:健康。次の標的を探している。】
月島瑠璃子
【時間:1日目16:30】
【場所:G−9、街道】
【持ち物:支給品一式】
【状態:健康。最終的にはマーダーになるつもりである。】
古河秋生
【時間:1日目16:30】
【場所:G−9、街道】
【持ち物:S&W M29(残弾5発)、他支給品一式】
【状態:普通。渚と早苗を探して氷川村へ移動中】
(B系ルート、関連014、143、165)
何だかんだと本部の方ですったもんだがあったようだが、放送はどうにか
滞りなく行われた。
もっとも逐一データ提供を受けている綾香には関係のない話である。
適当に聞き流した。
「ったく使えないわねー、久瀬って」
ぶつぶつ文句を言いながら紙パックの野菜ジュースにストローを挿す来栖川綾香。
もちろん支給品ではない。
喉が渇いたので主催部隊に持ってこさせたものである。
ぢゅー、と音を立てて啜りながら、綾香は地面に転がしたイルファを足で小突く。
「じゃー姉さん、とっととヤっちゃって?」
芹香の準備は万端である。
妖狐である真琴の血で書いた魔法陣と、その真ん中に置かれた狐の生首。
あうー、ちょんぱーという冥界からの恨み言もどこ吹く風と涼しい顔で
座っていた芹香は、綾香の声に頷くと何やら懐から取り出した水晶球を
天に翳し、怪しげな呪文を唱え始めた。
(うわー、やっぱこえー)
折からの曇天もあり、周辺は既に薄暗い。
奇妙な抑揚をつけて詠われる呪言に誘われるかのように、生暖かい風が
渦を巻き始める。
つむじ風に吹かれたか、狐の首がカタカタと音を立てる。
(え?)
否、首はひとりでに蠢いていた。
開くはずのない頤を大きく開け、まるで変わり果てた自らの哀れな姿を
哄うかのように牙を噛み鳴らす妖狐の首。
音のない哄笑と共に、周囲の空気が変わっていく。
どこか淀んだ、生臭い匂いが綾香の鼻をついた。
おぞましい気配が辺りを包み込む。
と、芹香の肩がぴくりと震えた。
その震えは瞬く間に全身に拡がっていく。
それはまるで質の悪いドラッグで神経を侵されている中毒者のように、
綾香の目には映った。
「ね、姉さん……大丈夫なの……?」
がくりがくりと身を揺らし、腕を、額を、地面に擦り付け、叩きつける芹香。
さすがに心配になってきた綾香が、芹香の肩を掴もうと手を伸ばした、その刹那。
「ぎにゃあ!」
一瞬の出来事だった。
快楽とも、苦痛ともつかない奇妙な感覚が、綾香の全身を駆け巡り、消えた。
思わず両腕で我が身を抱え、しゃがみ込む綾香。
「何だったの、今の……? って、姉さん!」
見れば、目の前で芹香が地に伏していた。
慌てて姉を抱き起こす綾香。
息が荒い。
ぼんやりと虚ろに見開かれていた瞳が、綾香を映して焦点を戻していく。
「ちょっと、しっかりしてよ姉さん、大丈夫!?」
必死に呼びかける綾香の声を聞いて、ぽそぽそと何事かを囁く芹香。
「え? ……あ」
ふるふると震えながら掲げられた芹香の手指が、Vサインを形作っていた。
秘儀成功。
【37 来栖川綾香】
【持ち物:パワードスーツKPS−U1改、各種重火器、こんなこともあろうかとバッグ】
【状態:健康】
【38 来栖川芹香】
【持ち物:水晶玉、都合のいい支給品、うぐぅ、狐(首だけ)、珊瑚&瑠璃】
【状態:珊瑚召喚成功】
【60 セリオ】【持ち物:なし】【状態:出番なし】
【9 イルファ】【持ち物:支給品一式】【状態:俎上の鯉】
→116,→170 D−2ルート
547 :
復讐の誓い:2006/10/05(木) 21:56:49 ID:9/AdTALE0
「ぎゃあああああああ」
激痛と恐怖のうちに水瀬名雪は振り返りもせずに走っていた。
怖い怖い怖い怖い怖い。
痛い痛い痛い痛い痛い。
名雪は走りながらも肩に刺さったナイフを抜こうと手を伸ばすがうまくいかない。
左肩に刺さったナイフは深く刺さっていて簡単に抜けない上に、だんだん左腕がしびれてきていた。
声を立てて走っていたのに幸い他に狙われる事も無かった。
痛みが痺れと共に感覚が無くなって来て意識も朦朧としてくる。
「はぁ。はぁ。はぁ。」
しばらく走ってきたが、どうやら追っては来ないようだ。
名雪はやっと足を止めて茂みの方で座って、改めて左肩を見るとナイフが刺さったままになっていた。
そっと右手を伸ばす。
「痛。」
痛みで右手もうまく動かない。
「ああ。私も....私も死んじゃうんだ。お母さん。祐一・・・もう会えない。」
「私は独りぼっちだよ。怖い・・・怖い。怖いよ。怖いよ。」
548 :
復讐の誓い:2006/10/05(木) 21:57:53 ID:9/AdTALE0
泣きたい。けれど恐怖のためか顔が引きつって泣けない。
唇は乾いて、喉も乾いている。でも水も何も持っていない。
「・・・怖い。・・・喉が渇いた。」
日が暮れてきて風が出てくる。
ガサガサと近くの森が揺れるたびに名雪はひっと首を縮め、恐怖で目が閉じる。
「――――――。」
そんな事を何度も繰り返して、かなり暗くなった時、名雪は茂みから出て歩き始めた。
「かなり暗くなってきたから、どこかで休憩しましょうか。」
『はい、なの』
水瀬秋子は上月澪に声を掛ける。
休憩できる上に見通しが聞いて行動しやすい場所、できれば電気や水が使えると有難い。
でも水道は毒が入っていそうだから、小川か井戸があったほうがいい。
549 :
復讐の誓い:2006/10/05(木) 21:58:30 ID:9/AdTALE0
「あそこにしましょう。」
村はずれのちょっと小高い所にある民家に向かう。
ドアに鍵はかかっていない。入る前に一応先客が居ないか確かめる。
「大丈夫そうね。さ。入って。」
澪を入れると秋子は慎重にドアを閉め、代わりにベランダの窓を開ける。脱出経路を確保するためだ。
かなり暗くなってきていて、澪のスケッチブックも読めない。
電気は点きそうだが、電気をつけるとかえって危ない。
「そうだ。澪ちゃん。スケッチブック1枚くれる?」
澪が暗がりの中、スケッチブックを1枚剥いで秋子に渡す。
秋子は勘を頼りに台所に向かい、サラダ油と皿を探して持ってくる。
「こうやって・・・・」
秋子がサラダ油を皿に注ぎ、スケッチブックを細く剥いで油に浸すと、片方に火をつける。
ぼぅっと周りが明るくなる。澪が眩しさで目を細める。
「これでも明るすぎて危ないんだけど。我慢してね澪ちゃん。」
こくこくと澪がうなずく。
550 :
復讐の誓い:2006/10/05(木) 21:59:04 ID:9/AdTALE0
「さっ、食事にしてしまいましょう。」
秋子が支給品の食料を取り出すと澪もにこにこと食料を取り出した。
秋子はふふふと微笑む。が、ふとその手が止まる。
「澪ちゃん。灯りを消して!」
澪が慌てて火を吹き消すと、周りは闇に包まれた。
物音が聞こえた気がしたのだが、既に外は日が暮れていて姿かたちを判別するのは困難だ。
だが、今日は月が出ている。しっかり見れば見えるはずだと秋子は思った。
やがて、遠くから独りでとぼとぼ歩いている姿が見えて来た。足取りはふらついているが女性のようだ。
何やらぶつぶつ言っているようだが聞き取りにくい。
「澪ちゃんは動かないで。物音も立てちゃダメよ。」
秋子は澪にそう言い聞かせると、そっとベランダから外に出る。
「・・・か・・・・ん。」
やっとかすかな声が聞こえるようになった。幸いにこっちに気がついていないようだ。
ふらふらと歩いてくる姿が派別できるようになると秋子は目を見張った。
551 :
復讐の誓い:2006/10/05(木) 21:59:36 ID:9/AdTALE0
「名雪っ!」
秋子は慌てて走り寄って我が子に抱きつく。
だが、名雪は何があったのか判らなかった。
「名雪!名雪。よく・・・無事で。」
泣きながら秋子は我が子の顔を覗き込む。
「お母さん・・・怖いよ・・。痛いよ・・・。お母さん・・・。」
名雪は意識も朦朧なのか、視点の定まらない目のままで。繰り返し呟く。
「名雪!」
秋子は何度も名雪を揺するが、状況は変わらない。
気がふれたのか、少しよだれも出ている。
「お母さん・・・怖いよ・・。痛いよ・・・。お母さん・・・。」
秋子は改めて名雪を見る。
ぼろぼろになった制服。そして肩に刺さった大型のナイフ。
秋子は唇を強く噛んだ。
「ゆ・・・る・・・さ・・・な・・・い。」
きっと秋子は月を見上げて呟いた。
「許さない!こんなゲームをしかけたやつ!そして名雪をこんな目にあわせたやつを!」
秋子は自身が修羅に落ちても復讐すると誓った。
552 :
復讐の誓い:2006/10/05(木) 22:00:31 ID:9/AdTALE0
【時間:午後7時頃】
【場所:F−02】
水瀬秋子
【所持品:IMI ジェリコ941(残弾14/14)、包丁、殺虫剤、ほか支給品一式】
【状態・状況:健康。主催者を倒す。ゲームに参加させられている子供たちを1人でも多く助けて守る
そして名雪に危害を与えた者を探して復讐する。】
上月澪
【所持品:フライパン、スケッチブック、ほか支給品一式】
【状態・状況:健康。浩平やみさきたちを探す】
水瀬名雪
【持ち物:GPSレーダー、MP3再生機能付携帯電話(時限爆弾入り)
赤いルージュ型拳銃 弾1発入り、青酸カリ入り青いマニキュア】
【状態:肩に刺し傷。すでに混乱もしくは発狂?】
【備考】
・秋子は澪たちに自身の胸の内を明かしていない。(そのため少し誤解されている)
→154,→164 Bルートで
PM5:00過ぎ。
向坂雄二一行、氷川村到着。
静かな場所である、立ち並ぶ民家に人気は感じられない。
「なぁ、何でこんな時間かかったんだ?」
「さぁ・・・」
「まぁ、目と鼻の先のはずだったんだけどね」
「はわわ・・・すみません〜〜」
顔を覆うマルチ、道中こんなことがあったんだ。
「はぅ?!」
「どうした、マルチ」
いきなり大声を出したマルチ、貴明が聞いてみたところ。
「わ、私の耳がぁ〜〜」
「あれ、本当だ。アンテナみたいなの、かたっぽなくなっちゃってるね」
「うお、マジだ。なくても動けるもんなのか?!」
興味深そうにジロジロ見られる、マルチは頬を染めて俯いてしまった。
「はう〜〜ダメなんです〜、わ、わたし、わたしはメイドロボとして、あ、あれがないとぉ・・・な、ないとぉぉ!!」
「お、落ち着いてマルチ。多分そこら辺に落としただけかもしれないからさ」
「そうそう。さっきからよく転んでたし、その弾みなんじゃね?」
・・・が、これに意外と手間取った。
「・・・え、えっと。ここでも・・・あれ、あっちでも転んでなかった?」
「いや、新城。ここもあそこもみーんなだ」
「はわぁ、すみません〜〜〜」
結局茂みの奥から見つかるまで、ゆうに一時間弱。
本来ならば日が暮れる前に、到着できたというのに・・・
「す、すみません〜・・・」
「いいから、気にしないの。見つかって良かったね」
「は、はいっ!ありがとうございます、沙織さんっ」
ここまで他の敵対者に会うこともなく順調に来れたからか、彼らはのん気なものであった。
緊張感の欠片もない。
だが、それはここまで。
「・・・!雄二、あっち誰かいる」
貴明が雄二の手を引く、沙織とマルチも向かいの民家の影に逃げ込んだ。
「・・・おい、誰も来ないぞ」
「しっ!静かに。」
貴明の真剣な表情に、思わず雄二も押し黙る。
・・・実際、彼の感覚は当たっていた。
「ほほう、気を抜いていたとはいえ、俺の気配を読み取るとはやるじゃねえか」
四人組の数十メートル先、彼らからは死角になっているであろう場所。
そこに、那須宗一は立っていた。
右手にはFN Five-SeveN。準備、万端。
「来やがれ、腕が鳴るぜ」
556 :
補足:2006/10/05(木) 22:34:28 ID:WU+WGPcP0
那須宗一
【時間:午後5時15分過ぎ】
【場所:I−07】
【所持品:ベレッタ トムキャット(残弾7/7)、FN Five-SeveN(残弾20/20)、包丁、ツールセット、ロープ(少し太め)、救急箱、ほか水・食料以外の支給品一式】
【状態:周囲を警戒している】
河野貴明
【時間:午後5時15分過ぎ】
【場所:I−07】
【所持品:Remington M870(残弾数4/4)、予備弾×24、ほか支給品一式】
【状態:周囲を警戒している】
向坂雄二
【時間:午後5時15分過ぎ】
【場所:I−07】
【所持品:死神のノート(ただし雄二たちは普通のノートと思いこんでいる)、ほか支給品一式】
【状態:貴明の後ろに隠れている】
新城沙織
【時間:午後5時15分過ぎ】
【場所:I−07】
【所持品:フライパン、ほか支給品一式】
【状態:フライパンを顔の前にかかえびびっている】
マルチ
【時間:午後5時15分過ぎ】
【場所:I−07】
【所持品:モップ、ほか支給品一式】
【状態:あわあわしている】
(関連・136・141)(Bルート、デスノ有りルート共通)
557 :
眠り姫:2006/10/05(木) 22:45:44 ID:7KOorvyS0
「にはは、ありのままに起こったことを話すよ。
『わたしは祐一さんと行動をともにしていると思ったら、いつの間にか一人になっていた』
何を言ってるのかわからないと思うけど、わたしも何が起こったのかわからなかった。
おいていかれたとか、幻を見ていたとか、そんなチャチなものじゃ断じてない。
もっと恐ろしいものの片鱗を味わった」
神尾観鈴は困惑していた。一緒に行動しようと決めた祐一が、何故か忽然と姿を消したからだ。
とりあえず辺りを適当に探しまくったが、結局見つけることはかなわなかった。
「もう疲れたよパトラッシュ。少し眠ってもいいよね」
(駄目です先生。まだ仕事がたくさん残っています)
「が、がお。なんか変な電波受信した」
彼女は横になり、仮眠をとることにした。
武器を持っていないので、どうせマーダーに対抗する手段はない。
夢、夢を見ている
3人の男女が旅をする夢を
「柳也ど───」
558 :
眠り姫:2006/10/05(木) 22:46:19 ID:7KOorvyS0
───ガブリ───
獲物を求めて彷徨っていたムティカパは、眠っている観鈴の横腹に噛み付いた。
引き摺り出された胃の中から、消化途中のパンがあふれ出てくる。
続いて心臓を引き摺り出し、意識のない病原体保有者に止めを刺す。
一心不乱に肉を引きちぎり貪り食うその獣は、
後ろで翼を広げてたたずむ少女の姿に気付いていなかった。
「破ッ」
少女の掛け声ひとつでムティカパは遠方まで吹き飛び、木に叩きつけられた。
彼女の周りからは異様なオーラが立ち上り、景色が揺らめいている。
その髪は徐々に逆立ち、色を金色へと変化させていく。
「戦闘力5、まったく益体もない。余の宿主を喰い殺すとはいい度胸だ。
この代償は高くつくぞ。貴様の鼻水を飲み尽くしてくれよう!
まて、なんでそんなものを飲まねばならぬのだ。
変なことを書くでない!」
(が、がお。ちょっとした冗談)
559 :
眠り姫:2006/10/05(木) 22:46:57 ID:7KOorvyS0
神尾観鈴
【時間:3時ごろ】
【場所:E-03】
【持ち物:カンペ】
【状況:死亡(神奈の力で霊体になる)】
神奈
【時間:3時ごろ】
【場所:E-03】
【持ち物:不明】
【状況:怒り心頭】
ムティカパ
【時間:3時ごろ】
【場所:E-03】
【持ち物:なし】
【状況:軽傷、炭疽菌に感染】
【備考:さすがは神奈様だ、瞬間移動してもなんともないぜ】
(→010, 046, 052, ルートD)
このゲームが始まってかれこれ数時間………
久瀬はまだ例の部屋にいた。
たびたび水と食料が部屋に不定期に送られてはきたが、誰がどのように送ってきたのかは久瀬にはわからなかった。
さらに、この部屋に来てから尿意等がまったくしないということも気になっていた。
そのため、久瀬はこれは例の人のものではない力によるものだろうと思った。
『やあ、調子はどうかな久瀬君?』
「――!? 貴様は!」
久瀬が見ていたモニターの映像が突然変わり、あの殺人ゲームのスタートを告げた忌まわしいウサギが画面に映った。
『―――いかがかな? 君のために特別に用意した121番目の参加者―――『観測者』となった気分は?』
「…………最悪だな。こんな役割まで用意して、いったい貴様たちは何を企んでいる?」
『それは最後までこのゲームを見届ければわかるさ。
………さて、本題に入るが、実は君にもうひとつ頼みたいことがある』
「なんだ?」
『今島で行なわれているゲームは毎日朝6時と夕方6時にこれまで出た死者を発表する定期放送というものがあるんだがね。
それのアナウンサーを君にお願いしたいのさ』
「なんだって!?」
『5時59分になったらこれまでの死者の名を君の部屋のモニターに送るから、6時になったら随時発表してくれたまえ。
君の部屋に仕掛けてある隠しカメラとマイクから君の声と顔が島に送られる仕組みになっているからね。
ああ。基本的には何を言ってもいいが、我々に関する情報、参加者に対してゲームを止めるように促すこと等を言うのは禁止だよ。
少しでも言った瞬間、君を君の部屋ごと木っ端微塵に爆破するつもりなのであしからず』
「クッ……」
それのどこが自由なんだ、と思いながらも久瀬はウサギの言うことにただ従うしかなかった。