「ま、まあまあ。二人とも、少し落ち着こうよ。ほらっ、水でも飲んでさ!」
「早くっ……離してください……!」
「ちょ、ちょっと! 暴れないでよねっ」
雅史の声など何処吹く風、椋と詩子はお互いのことに夢中でまるで取り合わない。
椋は詩子を退けることに夢中で、詩子は椋を押さえつけることに夢中だ。
雅史の声は聞かないが、それでも彼女達は身勝手な助けを催促することは忘れなかった。
「さっきから何ぼっと突っ立ってんの!? だからキミも早く手伝いなよ!」
「お、お願いします……っ。この人退けてください……!」
「だから、まずは僕の話を……」
依然として雅史の意向は無視されていた。
いや、彼女達の勢いに呑まれて、気勢が削がれたといったほうが正しいか。
ぼそぼそと喋る雅史の声など、言い争う二人の前では無きに等しい。
何の役にも立たない雅史を置いて、場の好転は一向に良くならないと諦めかけていたとき―――
「詩子さん。何を遊んでいるのですか」
「うわっ!?」
背後からの唐突な声に、雅史は飛び上がる勢いで驚いた。
後退りながら振り向くと、そこにはメイドロボであるセリオ(060)が静かに佇んでいた。
―――いつのまに……。
こんなに近くにいながら足音はおろか、息遣いまでも感じなかった。
だが、それもメイドロボという理由で納得できてしまう。
「あぁー! セリオ良いところに来た! この子捕獲するのに手伝ってっ!」
「承知しました」
その言葉と共に、詩子は椋を離す。
チャンスとばかりに、椋は立ち上がり駆け出そうとするが―――
「失礼します」
「い、痛っ!」
椋の前にすぐさま回りこみ、腕を背後に取って軽く固めた。
あくまでメイドロボが基準とする軽くであって、椋にとっては耐え難い苦痛であった。
「痛い痛いっ……痛いです!」
「あー……。セリオ、少し緩めたげて」
詩子の指示にコクリと頷いて手を緩めると、椋の顔も幾分か緩む。
椋の身体を固めたままのセリオへと、詩子は悠々と近づいてその肩を叩いた。
「いやぁ、ホント助かったよ。ちょっち遅かったけど、結果オーライオーライ!」
「F−04のポイントに詩子さんがいなかったので、捜索に手間取ったのですが」
「あはは! セリオがあの怖い女の人が離れたかどうか確認しに行った時ね、その悪女に狙われちゃってさ」
「あ、悪女って……。だから、それは勘違いだと……」
弱弱しくも言葉を挟む椋だったが、詩子は意図的に黙殺する。
そして、何故かセリオもその意向に従った。
雅史と椋をそっちのけで、朗らかに会話をする詩子とセリオ。
椋はともかく、雅史に至っては気付かれてもいないんじゃないだろうか。
悲鳴が聞こえたから勇ましく飛び出したというのに、不当な扱いだ。
(むしろ、僕って役立たず……?)
内心で、咽び泣いてしまう雅史を慰めるものはいない。
『佐藤雅史(049)』
【時間:1日目午後2時頃】
【場所:E−05】
【所持品:金属バット・支給品一式】
【状態:疲労。行動を決めかねている】
『藤林椋(091)』
【時間:1日目午後2時頃】
【場所:E−05】
【所持品:何かしらの拳銃・支給品一式】
【状態:普通。セリオを何とかする】
『柚木詩子(114)』
【時間:1日目午後2時頃】
【場所:E−05】
【所持品:ニューナンブM60(5発装填)&予備弾丸2セット(10発)・支給品一式】
【状態:普通。セリオと行動を共にする】
『セリオ(060)』
【時間:1日目午後2時頃】
【場所:E−05】
【所持品:不明・支給品一式】
【状態:左腕損傷(軽微) 専守防衛】
「その他:074の捕捉文です。一応Bルート059の続きのつもりで書いたのですが、分かり難いようだったので追加しました。」
申し訳ありませんが、以上の分を追加、各状態の更新をお願いします。」