B
「……ある研究所で人工的に生み出された実験生命体、それがカミュ達なんだ」
やはりか。俺はさほど驚かなかった。御堂もそうだが、
実験や手術で超人化する人間を俺は知っている。
だが実験生命体…この言い方は手術強化の類ではなく、
まるで0から作られた存在のようだ。
「カミュはずっと、ずーっと狭いお部屋の中で暮らしていたの」
「毎日毎日、知らないおじさんに変な事をされて凄く嫌だった」
変な事…レイプ?いや、言葉通り考えるな。これは人体実験の類と考えるのが妥当だ。
「カミュちゃんが作られた理由というのは、自分では知ってるのかい?」
「解らない。カミュが自分を実験生命体だと知れたのは、オボロ兄さまが教えてくれたからなんだ」
あの男の名がここで出るか。オボロがこの女を救いたいという気持ちは本当なのか?
「カミュがもう死にたいと思いつめていたある日、オボロ兄さまがカミュを助けてくれたの」
「カミュは兄さまと一緒に研究所を出た。カミュはもう飛ぶ元気もなくて、兄さまがおぶってくれた」
俺としてはその研究所が何なのかも気になる所だが…
「走る兄さまに背負われながらカミュは振り返って、今までカミュがいた建物を見たの」
「どんな建物だった?」
「う〜んとね…」
A ミズシマ研究所と書いてあった
B 軍隊の施設みたいだった
C 長瀬エレクトロニクスと書いてあった
D 篁バイオテクノロジーと書いてあった
A
「ミズシマ研究所。そう書いてあったよ」
ミズシマ…?確か前にテレビで…そうだ。
少し前のオカルト番組やSF番組に出演しては
狂人扱いを受け、ネタ芸人呼ばわりされていたあのミズシマ博士か?
彼は雑誌にテレビ全てのメディアでこう叫んでいた。
『今のままでは人類は絶滅する』
『人の殻を破らなければ21世紀を生き抜く事はできない』
『人間は、さらに進化しなければならない』
『遺伝子レベルからの改革、一般人からの変貌』
『倫理やモラルに縛られていては未来は無い』
マスコミも最初は彼の常軌を逸脱した言動に注目していたが、
メディアのネタの移り変わりは激しく数年もしない内に忘れ去られていった。
俺自身もこんな事を冗談で言ってるのでなければ気違いの戯言としか思えなかった。
まさか本当にこんな生命体を作り出しているとはな。
「で、逃げ続けた先であの動物園の連中に捕まった訳なんだね」
「うん…」
これで憶測とはいえ大体の見当が付いた。
ミズシマ研究所から実験体のカミュとオボロが逃走した。それだけの事だ。
だが、何故かカミュ達を捕らえる者と逃がす者達が存在する。
あの動物園の連中はどうだ?単純に異形の珍獣だと思い見世物にしたと考えるのが妥当だし
御堂がカミュを逃がす任務を受けたという事からも、動物園の連中は
研究所とは無関係の敵と考えるのが普通だ。
しかし、なら何故オボロは殺そうとした?カミュだけ必要でオボロは不必要と考えたか?
御堂もそうだ。途中で銃撃を止めたとはいえ明らかにオボロを殺そうとしていたのは明白。
御堂を雇っていたのがミズシマ研究所だと考えると、カミュだけ逃がしてオボロを殺す理由が解らない。
大体この逃がす、という選択も理解不能だ。ミズシマ側に立って考えれば脱走した実験体を捕獲する事が重要だろう。
御堂を使って動物園から逃がすより、最初から御堂にカミュを捕獲させるなり
動物園と交渉してカミュを引き渡して貰えばいいだろうが!
何故捕らえる、のではなく逃がす?オボロも俺を信用してカミュを預けた。
何故だ?何故こんな回りくどい事をしてまで犯罪者である俺にこの女を預ける?
それに何の意味がある?誰の思惑が絡んでいる?考えろ。必ず理由があるはずだ…。
A 『鎖』という単語について何か心あたりがないか聞く
B オボロという人物について詳しく聞く
C その時、電話がかかってきた(人物指定)
Cオボロ
プルルルルル・・・
その時、電話が鳴った。
「カミュちゃん、ちょっと待っててね」
俺はにこりと笑って電話の方へ向かう。
「もしもし」
「…カミュは無事か?」
この声は…オボロか!
「あの…どうして僕の」
「そんな似合わない態度を取らなくていい。いつも通りに喋ってくれ」
この男は俺の本性をお見通しって訳か。
「解った、そうさせてもらう。何故俺の家の電話番号を知っている?」
「簡単な事だ。お前がカミュの事を調べていたように、俺もお前の事を知っている」
オボロが俺の事を知っている?カミュの事を俺が調査していた事も…
待て、そういえばミズシマ研究所で作られている実験生命体なんて極秘事項もいい所だ。
そんな情報を何故俺が調べ、知る事が出来た?何故動物園にカミュが囚われている事を
俺如きが容易に知れたんだ?…わざと情報を流させて、俺の元にカミュを匿わせるのが目的だったのか?
「…何もかもお見通しという事か?」
「そういう事だ」
「だったら一つどうしても聞きたい事がある」
「何だ?」
「どうして俺なんだ?」
「………」
「なんで俺を使った?何故お前は俺にカミュを預けた?何故俺でなければならないんだ?」
「………」
「俺はお世辞にも自分を真面目な男だとは思っていない。犯罪者でしかないんだ」
「………」
「今にも俺がカミュの事を襲い犯してしまうかもしれないんだぞ?そんな危険を考えなかったのか?」
「……………………」
「答えろッッッ!!俺をここまで振り回した理由を!!」
「………それを答えるのは、あんたの人生にも関わる。それでもいいか?」
「構わないさ」
俺は所詮悪人。襲い犯し殺し殺されるのが日常だ。
今更身の危険がどう変わろうと、知った事か。
「岸田洋一…。あんたは…」
だがその後に続いた一言は、本当に俺の人生を一変させた。
A あんたは能力者だ。偽の記憶を植えつけられている
B あんたはミズシマが作ったクローンだ。本物の岸田洋一じゃない
C あんたも俺達と同じ実験体だ。作られた存在なんだよ
CCCCCCCCCCCCCCCCC
「あんたも俺達と同じ実験体だ。作られた存在なんだよ」
………………………………………………………………は?
何を言ってるんだ?こいつは?頭が沸いてるのか?
「あんたはミズシマが初期に作ったサンプルの一人なんだ」
………………………電話の向こうで男が何か言っている。
俺はそれを呆けた面で聞いていた。他人から見たらさぞ低脳な顔に見えただろう。
オボロの話によると、俺は十年以上前に起きた
高速実験船バシリスク号大量虐殺事件の犯人の遺伝子から作られた実験体で
サンプルの元になった犯人は船を乗っ取り乗組員と乗客のほとんどを虐殺、
女性は全員強姦したらしい。そんな犯人が死刑執行される前に
極秘に採取しておいた遺伝子からデータを抽出、培養して作られたのが俺だとか。
………俺は馬鹿面をして固まっていた。
そんな話をいきなりされて、平常でいられると思うか?
俺は記憶している。何年何月にこの世に生まれ幼少時代過ごした場所も、
初めて殺した男の顔も、初めて犯した女の顔も、全部覚えている。
その記憶に嘘があるっていうのか、ええ!?
「いや、お前は誰も殺しちゃいない」
「…何だと?」
「お前は元のデータの死刑囚の記憶に酔っているだけだ。誰も殺していないし誰も犯していない」
「いい加減にしろ!罪を犯す事こそ悪人の美学だ!それを貴様は否定するってのか?」
「…あんた、自分で自分が丸くなっていると思っていないか?」
「どういう意味だ!?」
「あんたの元のデータの死刑囚はもっと好戦的だったし本性を現した時の口調ももっと汚かったらしい」
「そ、それは…」
「強い女しか犯さないと心に決めていたそうだが、その時点でもう可笑しいんだよ」
「………」
「だからこそ俺はカミュをあんたに預けられたんだ。襲う訳が無いと踏んでいたからな」
訳がわからない。俺は俺ではないのか?俺が俺でないとしたら
俺の記憶は一体…?嘘を付いているとしか思えないが…
「とにかく俺は今からそちらへ向かう。カミュを頼む」
一方的に俺を無残に混乱させた電話は一方的に切られた。
「はは…ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
俺は笑った。突然自分の人生を根本から否定され、笑うしかなかった。
A ほどなくして、オボロが家にやって来た
B 俺は俺の人生をもう一度思い出し振り返ってみた
C カミュが俺に声をかけてきた
b
俺は元の部屋に戻りオボロが来るまでの間に
PCを立ち上げ、ネットで検索をかけた。
同時に自分の過去の記憶を思い出す。
そういえば俺は今の今まで自分が過去に犯した犯罪の場所を
振り返った事がまるでなかった。中にはニュースやワイドショーで
取り上げられるほどの事件も起こしたはずなのに、だ。
平成○○年………俺が3人の女を監禁し、三日三晩犯したあげく
全員バラバラにして殺した。その場所は…この辺りだ。
モニターに地図が写される。そこには…
…???なんだこれは?警察署が立っていた。
まさか。俺が女を監禁したのは小さいバラック小屋だ。
警察署など近くにある訳がない!!この警察署が立てられたのは…昭和△△年!?
俺が事件を起こす数十年も前からこの場所には警察署が!?
そんな、そんなはずはない!だったらあの事件はどうだ?
平成□□年に俺が起こした雑居ビル立てこもり虐殺事件だ。
俺はあの事件で善良な人間の振りをして20人もの人間を虐殺した。
これはニュースにもなったしマスコミを騒がせる大事件になったはずだ。
ビルの名前に月日まではっきり覚えている。これで打ち込んで検索をかけてやる。
検索結果が出た。俺はそれを凝視した。………!?
「馬鹿なッ!!」
確かに事件はあった。ビルの名前も表示された。だがこれは…。
『雑居ビル連続爆破事件、犯人の金森弥太郎を逮捕』
何だこれは!?誰だこいつはッ!?俺はビルを『爆破』なんてしていない!
こんな顔のこんな名前の犯人など面識も無い!!全く関わりの無い出来事だ!!
その後も俺は記憶を頼りに検索するが、俺の記憶の中で起きた事件は
実際には全くの他人のした犯罪か、事件を起こした場所に矛盾がある等して
全て否定されてしまったのだ…。
「じゃあ、俺は本当に何もしていないのか…?」
A オボロが家にやってきた
B その時メールが届いた。差出人不明
C 家の外が騒がしい。何かあったのか?
A
ピンポーン
玄関のインターホンが鳴り響く。誰かなんて見なくても解る。
「…オボロか?」
「そうだ」
ドアを開け、奴を迎え入れる。
「カミュは無事か?」
「向こうにいる」
オボロは部屋の奥に入っていった。
「オボロ兄さま!」
「カミュ!気が付いたんだな!」
二人は抱き合って感動の再開としゃれこんでいる。
俺はそれを冷めた目で見つめていた。いや、腹が立っていた。
今すぐこの場で二人ともくびり殺して自殺してやりたくなるような
衝動的な怒りがこみ上げてきたが、俺は抑えた。感情は殺す。冷静になる。
そして心は冷静にしたまま俺は二人に近寄り…一気にオボロの胸倉を掴み上げた。
「答えろ。さっきの話、あれは真実なのか?」
カミュの前だがもう体裁を取り繕う必要も無い。
「ああ、事実だ」
オボロも胸倉を掴まれたまま顔色一つ変えず答える。
「岸田さん、どうしたの?」
「カミュ、少し黙っていてくれ」
オボロは俺の手を振り払い、さらに話し始めた。
「自分の記憶に矛盾がある事に気付いたか?」
「……ああ、悔しいがその通りだ」
俺の人生、犯罪歴、美学が全て打ち砕かれてしまった。
普通の精神を持つ人間なら自分が全く罪を犯していない事を
当然だと思いこそすれ、わざわざ喜んだりはしないだろう。
だが、俺は悪人だ。自分が悪である事に誇りを持ち
罪を犯す事に喜びを感じる。それを否定されるのは死んだのと同じ事だった。
「お前も自分の記憶が偽りの物だと気付いたのか?」
「そうだ。だから俺は脱走を決意した。カミュと一緒にな」
「…俺が作られた理由はなんだ?」
目の前の二人も俺も全てミズシマ博士が作った実験体だというのなら、
俺にだって作られた理由があるはずだ。
「それは岸田、お前だけじゃない。これから全てのサンプルに聞かれるであろう質問だな」
「どういう意味だ?」
「そして全てのサンプルに同じ答えを返さねばならない」
A ミズシマの作った遺伝子を人から人へ拡散するのが目的だ
B もうすぐ『人間狩り』が始まる。それを止めるのが目的だ
C 殺人者の遺伝子を集め、戦闘に特化した怪物を作るのが目的だ
A
「ミズシマの作った遺伝子を人から人へ拡散するのが目的だ」
「拡散、だと?」
「そうだ、ミズシマが作った遺伝子には二種類ある」
「一つはカミュやオボロ兄さまみたいな動物や鳥類と人間の遺伝子を掛け合わせるタイプ」
「もう一つは岸田のような外見上は普通の人間と同じタイプだ」
オボロの話によると、動物の遺伝子と掛け合わせるタイプは
獣の生命力や防疫力、肉体強化を図るのが目的だったが
やはり耳や羽根や尻尾などの外見上に人ならざる箇所が残ってしまう。
俺の体に流れている遺伝子は、すぐには効果が訪れず
数年をかけて力を発揮するらしい。この遺伝子は
性交をすれば感染し、例えばこの遺伝子を持つ男性が女性とセックスすれば
精子を伝って女性にも遺伝子が混ざり、当然これで妊娠すれば生まれる子供にも遺伝子は含まれる。
俺はそんな遺伝子と凶悪死刑囚の遺伝子を掛け合わせて生まれた実験体らしい。
「この遺伝子を持つ男性が他人と交われば交わるほど遺伝子は散らばっていく」
「そして遺伝子を移された女や生まれた子供が大人になってセックスしても…」
「そういう事だ。何十年もかかるが確実にミズシマの作る遺伝子が世界中に広がっていく」
記憶自体は作られた物でも、性衝動や本能は遺伝子のデータ元の人間の特性を濃く受け継ぐ。
だから最初の遺伝子を広める人物のデータ元は、俺の元データのような強姦魔、
ホストやAV男優に風俗嬢と『不特定の他人と性交する回数が多い』人間から取ったらしい。
遺伝子を気付かせずにバラ巻く最初のサンプル。それが俺だったという事だ。
つまり、俺は『生きていた』のではない。『生かされて』いたにすぎないんだ…!!
「では、俺は常に監視されていたのか?」
「常に、じゃあない。だが監視している者がいるはずだ」
「俺の遺伝子は体にどんな効果を与えるんだ?」
「それが解らないんだ。だが、岸田のようなサンプルが活動してもう数年経つ」
「効果が目に見えて現れるのはそろそろだという事か」
「俺はそれを確認する為と、お前のようなサンプル全員に会い注意を促すのが目的なんだ」
オボロ達の遺伝子ですら外見を人間として取り繕う事はできない欠陥がある。
俺の遺伝子にも何か不都合がある可能性があるという事か。そしてそれは発症するまで解らない。
A そういえば、あの時言った『鎖』ってどういう意味だ?
B そんな事を言っていると早速俺の体に異変が起こった!
C そこに他のサンプルが現れた(人物指定)
D 突然ガラスを割り敵が乱入してきた!何者だ?(人物指定)
A
「そういえば、あの時言った『鎖』ってどういう意味だ?」
カミュを連れて逃げろ、彼女は大事な『鎖』なんだ!
オボロは俺にカミュを預ける際にこう叫んだ。
この鎖というのが俺は気になっていた。
「その事なんだが……岸田は鎖と聞いて何を連想する?」
「やはり縛る、繋げる、絡みつく、拘束するという辺りか」
「だろうな。俺もそんな感じだ。で、それは置いといてだ」
「何が言いたいんだ?」
「───『糖鎖』という言葉を知っているか?」
糖鎖?砂糖を逆さまにした言葉か?…解らん。
「待ってくれ、今調べる」
俺はまたPCの前に座り糖鎖を検索する。話術や演技の知恵はあっても
こういう知識はないとは…自分が情けねえ!
糖鎖について検索し調べていく。糖鎖とは、
解析が完了したヒトゲノム遺伝子に続く次の生命の設計図として
研究が進められている人間を構成する大事な物質の一つのようだな。
ちなみにDNA、タンパク質、糖鎖。この3つが生命の三大設計図と言われている。
糖鎖はタンパク質や脂質等と結合し、色々な糖質や栄養素を体中に送り込み、
自然治癒力を上げ、60兆個から成す人体細胞全てを覆っている
とにかく生命体になくてはならない重要な物らしい。
人間一人一人の血液型も免疫作用もこの糖鎖により決まっているという。
「難しい話だが、遺伝子と同じくらい人体に必要な物なのは解った」
「いや、俺も研究所を脱出する時に少し調べただけに過ぎない」
「それで、この糖鎖とお前の言った『鎖』に何の関係があるんだ?」
「……こっちに来い。カミュ、少し待っててくれ」
オボロは玄関の方へ向かい、俺を呼びつけた。カミュに話したくない事なのか?
「それで、何の話だ」
「──人は生まれる時も、生まれてからもずっと『鎖』に縛られている」
「どういう意味だ?」
「例えばDNA。これが鎖状の形をしているのは知っているだろう?」
「ああ、それぐらいは知っている」
「糖鎖もそうだ。細胞同士を繋げ、絡まっている『鎖』だ」
「だからなんだ?その話とお前の言う『鎖』に何の関係があるんだ!」
「ミズシマ博士はこの『鎖』を引きちぎり、人間を解き放つのが目的だった」
「それは知っている。以前テレビでそんな電波な事をしきりに叫んでいたからな」
「だが、その『鎖』を外したら俺達はもはや人ですらなくなってしまう」
「いい加減にしろ!勿体ぶらずに結論を言ってくれ!!」
俺が怒鳴ると、オボロは真剣な眼差しで言った。
「カミュを守って、いや助けてほしい」
「なんだと?」
「カミュは──」
A ミズシマ遺伝子を無効化する抗体を持っている。人を人のまま繋げられる『鎖』だ
B 糖鎖の影響でタンパク質が変異し、もうすぐ変身してしまう。『鎖』が解かれてしまう
C カミュが死ねばミズシマ遺伝子を持つ全ての人が暴走する。彼女自身が世界の安全を支えている一本の『鎖』なんだ
悩むがC
「もしカミュが死ねば……俺やお前、それにミズシマ遺伝子を持つ全ての人間が暴走してしまうんだ」
「ぼ、暴走だと?!」
「ああ。詳しくは知らないが、カミュの生命反応とミズシマ遺伝子を持った人間の『糖鎖』とは、密接な関係があるらしい」
「…………」
あまりの展開に言葉を失ってしまう。
……『鎖』とはそんな意味だったのか。
「早い話、俺やお前の正常さとカミュの命は一蓮托生ってことか」
「それだけじゃない。他のミズシマ遺伝子の持ち主や、そいつ等と性交を持った人間やその子供もだ。
だからカミュを助けてほしい。彼女自身が世界の安全を支えている一本の『鎖』なんだ」
オボロの懇願。目は真剣そのものだ。
犯罪者の遺伝子と記憶を持つ俺に、真摯な態度を崩さない。
それだけカミュを守りたい、助けたいと考えているのだろう。
と、ここで俺は一つの疑問を思いついた。
……いや、思いつかなかったほうが良かったのかも知れない。
だが思いついた以上、聞かねばならないものだった。
「一つ聞きたい。カミュが死ねばミズシマ遺伝子の持ち主が暴走するって言ったよな」
「ああ」
「少なくともお前達のような、動物や鳥類と掛け合わせたタイプはごく少数だろう」
「珍獣扱いされるぐらいだかな」
「それで、俺のような最初から『ミズシマ遺伝子の拡散』を目的としたタイプはどれくらいいるんだ?」
「……俺達よりいくらか多いのは確かのはずだ」
「仮に他の俺と同じタイプの人間が、既に何人かの女と性交をしてしまったとしても……
カミュの死で暴走してしまう人間って、世の中全体から見たらごく少数じゃないか?」
「…………」
「…………」
気まずい沈黙が俺達の間に流れた。
オボロの目が「何で気が付いたんだよ、このバカ!」と言っているように思える。
「だからって、岸田。世の中のために進んでカミュを死なせて自分も暴走するなんて認められるか?」
「No! 絶対にNoだ!」
俺はそんなお人好しでは無い。
「もちろん俺もだ。だがお前のように考える人間も当然いる。自分達が助かるために少数を切り捨てようとする連中が」
「そういう連中がカミュの命を狙っているのか?」
「ああ、そういう事だ」
「だとして! 俺達に対抗策はあるのか?! 俺達は圧倒的少数者で厄介者なんだぞ!」
声を荒げる俺に、オボロは渋い表情を浮かべた。
「……手段が無くはない」
「何だそれは? 勿体ぶらずに言え!」
A 「……計算上、カミュの子供から暴走を無効化できるワクチンが採取できるらしい」
B 「ミズシマ遺伝子を持つ人間の中に、暴走を無効化できるワクチンが採取できる突然変異種がいるらしい」
C 「……カミュを、仮死状態のまま永遠に『死なせない』ようにするんだ」
A
「……計算上、カミュの子供から暴走を無効化できるワクチンが採取できるらしい」
「子供だと?」
「そうだ。人体は上手くできていて、悪い因子を進化や遺伝情報から取り除くように出来ているのかもしれない」
確かにその子供からワクチンを取り出せばミズシマ遺伝子かに対する安全は保障されるだろう。
問題はまだあるんだが…、それより気になるのは、
「こんなガキに子供だと?」
悪いがカミュはどう見ても13、4歳ぐらいにしか見えんガキだ。
胸だけは発達しているが。子供が子供を生むってのか?
いくら最近は高校や中学でガキを生んだり捨てたりしてる馬鹿女が増えてるとはいえ。
「お前がカミュを連れて研究所から逃げたのはいつだ?」
「半年ほど前だな」
この時点で無理がある。半年でどうやって子供を生む?早産にもほどがあるぞ。
大体、妊娠してるなら今カミュの体型は腹ボテになってなきゃまずいだろうが!
「待ってくれ。岸田、お前は普通の人間の常識で話をしているだろう?」
「…じゃあ、常識的に生まれた子供ではないという事か?」
「それに、カミュの子供という言葉も言葉通りに捉えているだろう?」
「それ以外何が考えられる?」
「まず、俺やカミュ達の肉体は遺伝子工学で培養され作られた」
「俺も作られた存在だというのならば、同じ原理で人工的に作られただろうな」
「鋭いな。俺達は普通の人間の数十倍の勢いで成長し生み出された」
「それを前提に踏まえたとして…、どういう事になるんだ?」
「詳しい説明はこれからするが…、驚かずに聞いてほしい」
「今更これ以上驚く事などあるか!」
A 「実は、既にカミュは子供を生んでいる」
B 「カミュのデータを親元として作られた実験体がいるらしい」
C 「カミュと交わりを持った男がさらに他の女と交わって、それで生まれる子供からもワクチンは採取できる」
Aかな
「実はな……カミュは既に子供を産んでいる」
「なっ!!!」
これ以上驚く事など無いと、さっきの言葉がもう覆ってしまった。
「カミュが……子供を……」
思考が混乱する。言葉が続かない。
「カミュは妊娠から出産まで、普通の人間のように10ヶ月も時間を必要としない。
受精から一週間足らずで、赤ん坊を産むことができる」
「そんな……まさか……」
「お前もだが、俺達が普通じゃない存在なのは十分理解しただろう」
「…………」
確かにオボロもカミュも普通の人間じゃない、オボロに言わせれば俺もそうらしいが。
通常の妊娠から出産までを基準に考えるなど、無意味なのかも知れない。
だが――それでも――
(カミュが……あのカミュが……何かの冗談だろ)
モノマネのネタをハズした時に見せた、楽しそうに笑った顔。
パジャマを着せた時に見せた、安心しきった表情。
あの無邪気で純粋なカミュに、そんな過去があったなんて――
(ん、待てよ?)
カミュの過去に少なからぬショックを受けていた時、脳裏にごく素朴な疑問が浮かんだ。
「ちょ、ちょっと待て。カミュは既に子供を産んでいると言ったな」
「ああ」
「おかしいじゃないか。だったら子供からワクチンを作って問題は解決するハズだ」
「…………」
「なのに何故カミュは追われている? 御堂は手を出してくる?」
そうだ、子供がいるならワクチンが作れる。
ワクチンをミズシマ遺伝子の持ち主に摂取させれば、それで全てカタがつくはず。
「……実は――
A カミュの子供が、行方不明なんだ」
B カミュの子供は……死んでいるんだ」
C ワクチンが採取できるのは(男・女)の子だが……カミュが産んだのは(女・男)の子なんだ」(組み合わせを指定)
う〜ん、どの選択でどう変化するかさっぱり想像がつかん
Bでいいや
「カミュの子供は……死んでいるんだ」
「どういう事だ!?」
「その前に俺達が研究所を脱出した後の事を話さなくてはならない」
オボロはさらに語りだした。カミュを助けだしミズシマ研究所から逃げた後の事を。
「俺がカミュを助け出した時には、既に腹は少し膨れていた」
「その時点で誰が父親なのかも解らないのに種付けされてたって訳か」
「人工授精だろうとは思うが、とにかく人間の胎児なら3、4ヶ月といった辺りだろう」
「そこまで成長が早いとは…」
「研究所から離れ追っ手が来ないのを確かめた後、すぐに俺は医者を探した」
だが、ただでさえ羽根を生やしているような異形の者。
しかも僅か数日で成長し出産するなんて非科学的な状況を
まともに受け入れてくれる病院がなかなかあるはずもなく…
「やっとカミュを受け入れてくれる病院を見つけた時は、カミュはもう限界だった」
陣痛がいつ始まってもおかしくないほどカミュは腹が膨れ上がっていたのだ。
「その病院の医者は俺達の姿を見ても何も騒がず、すぐに入院の準備に取り掛かった」
「まさにギリギリセーフだったのか」
「医者は明日にはもう出産するだろうと言い、俺を安心させてくれた。
俺は連日カミュの為に動き回った疲れもあり、そのまま病院のソファーで寝てしまったんだ」
そしてオボロは目を覚ました。が、ここで事件が起こる。
「俺が起きると明らかに様子がおかしかった。嫌な予感がした」
「何があったというんだ?」
「結論から言うと…、カミュが浚われていた」
「病院内の状況はどうなっていたんだ?」
A 病院の医者や看護婦も全て消えていた
B 血と死体だらけだった。何者かに襲撃され、荒らされた跡がある。
C いや、病院そのものが『なかった』。俺はまったく知らない場所で寝ていたんだ
B
「病院の中はそれはもう凄まじい事になっていた…」
オボロの話を聞いて俺は絶句した。夜中に目を覚ますと
病院の廊下、病室、ナースルームを問わず血の海。
患者や看護婦は全員殺されていた。
「俺は血相を変え、カミュのいる病室に走った」
オボロはカミュの病室に向かう。だが、そこには誰もいなかった。
目の前にあるのは誰も寝ていないベッド、割られたままのガラス窓、そして…
「――血溜まりの中に捨てられていた、赤ん坊の死体だったんだ…」
「それがカミュの子供だったというのか?何故解る?」
「俺達の体を見れば解るだろう?体のどこかに必ず普通の人間とは違う特徴が出来る」
「ああ、そうだったな」
「その子も背中の肩甲骨の辺りに羽根が少し生えていた。それでカミュの子供だろうと解ったんだ」
その後オボロはカミュが生きていると信じ半年間も一人で捜索を続け、
ミズシマ遺伝子に関する知識、情報、一部の感染者の居場所等を頭に叩き込んだ。
そしてついに動物園にカミュが囚われている事を嗅ぎ付ける。
「後は知っての通りだ。…やっとカミュを助けられた」
「……しかし、無茶苦茶をやるもんだな」
「岸田、お前があの時いてくれたのは偶然だった。だが、俺は必然だと思っている」
「必然だと?」
「何も知らず生きていく俺達実験体が真実を知る為のな」
「ところで、オボロが病院で目が覚めた時には既に皆殺しだったと言ったな?」
「ああ、そうだ」
「じゃあ何故オボロ、お前は助かったんだ?お前も寝ている内に殺されたかもしれないんじゃないか?」
「敵の立場で考えろ。俺が目を覚ましたら、俺は当然反撃するしカミュの元へすっ飛んでいくだろう?」
「ああ、そして敵の立場で考えればカミュを殺さずに攫うという事はだ、」
「カミュが死ぬと不味いという事を既に知っているという事になるな」
「カミュの子供だけは殺していったというのも、ワクチンが子供から作られるのを知っていたからと予想できる」
「やはりカミュを攫った連中はミズシマの手の者か、カミュの必要性を解っている連中と考えるべきか…」
「しかしミズシマの関係者だったら、カミュを攫った後研究所にまた戻すはずだ」
「だから気になるんだ。病院でカミュを攫った連中は誰なのか。半年もの間何をしていたのか」
「あの動物園の連中はどうなんだ?本当に見せ物目的だけでカミュを捕まえたと思うか?」
「確かに、言われてみれば…それに、あれから半年も経っている」
「…何か考えがあるようだな」
「俺はカミュを助けるのに必死で動物園の内情までは考えていなかった。だが…」
「だが?」
「半年もあれば、何でもできる。これはあくまで予想に過ぎないが…」
オボロは語りだす。
「これはあくまで予想なんだが…」
A あの動物園に、カミュが産み落とした他の子供がいるのではないか?
B あの動物園は、ミズシマ研究所と裏で繋がっているのではないか?
C あの動物園で、カミュは既に新しく種付けされているのでは?
C
「あの動物園で、カミュは既にまた妊娠しているのでは?」
「おい、それは今度こそ本当に考えが早すぎるんじゃないか?」
カミュが妊娠すれば常人の数十倍のスピードで成長するのは聞いた。
しかし、そうだとしても今のカミュの腹部は全く膨れてなどいない。
「だから言っただろう、これはあくまで予想だと。だが――」
その時、部屋の奥からカミュが顔を覗かせた。
「うぷ、気持ち悪い…」
「カミュ!どうした!?まさか…岸田ッ!洗面所は?」
「こっちだ!」
オボロはカミュを抱えて洗面所に向かった。まさか…
流し台から吐く声と水を流す音が聞こえる。
「岸田、この辺に病院はあるか?」
「何?ではやはり…」
「ああ、一応見てもらった方がいいだろう」
とはいえ、まともな病院ではカミュのような外見の人が行って
いきなり取り合ってくれるとは思えない。
それに表立った病院だとまた襲撃されるかもしれない。
だが、心配ない。何も問題はないのだ。
「オボロ、今度は俺に任せてくれ」
俺は病院に電話をかける。といっても普通の病院じゃあない。
前にも言ったろう?悪には悪の、裏には裏の繋がりがある。
小さいのではヤクザの指詰めの治療から
大きいのでは臓器ブローカーから買った内臓の移植手術まで、
そういう裏の仕事を生業としている闇医者はいるもんだ。俺はある病院に電話をかけた。
その病院は…
A 霧島診療所。表向きはただの診療所だが裏では絶大な人気を誇る。
B 石原診療所。御堂がいつも世話になっている診療所らしいが…
C 助産師エルルゥ。「何だと!?」その名前を聞いた途端オボロが反応した!
c
俺はとある産婦人科に電話をした。
この産婦人科は、所謂訳ありの仕事を裏でやっていて
堕ろせなくほど成長した胎児の堕胎等
犯罪が絡む仕事も請け負う、まさに裏の産婦人科だ。
この婦人科なら子供を産みに来た女がヤクザだろうが犯罪者だろうが
奇形の障害者だろうが、どんな奴でも対応してくれるだろう。
表立った病院ではないので敵に襲われにくいというメリットもある。
ここにエルルゥという凄腕の助産婦がいるらしい。
噂ではどんな難産でも何なくこなし、母体に苦痛を与えず
出産させられる、若くして産婆のスペシャリストと言われるほどだとか。
さらに薬学にも詳しく薬の調合の分野でも有名らしい。
ただ、こんな裏の世界にいながら子供を堕ろす仕事には立ち会わず、
あくまでも出産する仕事しか受けないらしい。
何故これほどの女が表の世界ではなく裏の世界に生きているのか?
とにかく俺はその産婦人科に電話をかける事にした。
「もしもし、○○産婦人科ですか?そちらにエルルゥさんは…」
「何だとッ!?」
突然、オボロが叫んで俺の目の前に詰め寄ってくる。
「あ、はい。解りました…今電話に出すってよ」
「今、エルルゥと言ったな?本当にエルルゥという名前なんだな?」
「ああ、間違いないが」
「そいつは俺達と同じ半獣半人の実験体だ!研究所で名前を聞いた事がある」
「何だとッ!?」
「俺達以外にも研究所から逃げた実験体がいたとはな…」
思わずオボロと同じ事を言ってしまった。
いや、だとすれば何故これだけの腕前を持ちながら
裏の世界に生きているのか納得がいく。カミュやオボロと同じ外見だとしたら、
表の世界では目立ちすぎる。奇異の目で見られすぎるからだ。
しかしこれは好都合だ。オボロ達と同じ実験体なら俺達に快く協力してくれるだろう。
「もしもし」
「エルルゥさんですか?」
「はい、そうですが…」
ここで俺は裏の仕事の合言葉を言う。
「ルクスゥト」
「!!──────解りました。どのような仕事ですか?」
オボロが俺に換わってくれという身振りを見せる。俺は受話器を渡した。
「ミズシマ遺伝子の実験体の女性がいる。妊娠しているかどうか調べてほしい」
「ミズシマ!?どうしてその名前を知っているのですか?」
「俺はオボロ。お前と同じ実験体の一人だ。いや、逃げてきた仲間という方が正しいか」
「そこまで知っているなんて…」
「今すぐにお前の力が借りたい。同じ実験体として」
「………」
しばらく沈黙の時が続き、エルルゥは言った。
A 解りました。今すぐにこの病院に来てください
B 解りました。私がそちらに伺います
C 待ってください。今どうしても手が離せない用事があるんです
B
「解りました。私がそちらに伺います。それまで女性を安静に寝かせておいて下さい」
「解った、住所は――」
オボロは俺の家の住所をエルルゥに伝え、電話を切った。
「ほらカミュ。もうすぐお医者さんが来るから」
「うん……ありがとう岸田さん」
電話の後、俺達はカミュをベッドに寝かせた。
「……すぅ……すぅ」
疲れていたのだろう。少しするとカミュは穏やかな寝息を立てだす。
未だに信じられなかった。カミュの幼い寝顔を見ていると。
彼女が既に一度子供を出産し、しかもその子供は殺され、あまつさえ再び妊娠させられた可能性があるなんて。
エルルゥが来るまでの間、俺とオボロは現状を整理するために話し合い始めた。
「……ところで、半年前にカミュが出産した子供を殺し、カミュを浚った連中が現れたんだよな」
「ああ」
「そいつ等はカミュもお前も殺さなかった、だがワクチンの取れる子供は殺した」
「その通りだ」
「そこから考えると、連中は『ミズシマ遺伝子の暴走無力化』を嫌っていると考えられる」
「なるほど」
「だが、カミュ自身は殺さなかった。彼女を殺せばすぐにミズシマ遺伝子は暴走しだすはずなのに」
「確かに…不思議だ」
「ここからは俺の予想だが、カミュを浚った連中は、ミズシマ遺伝子がより広まるのを待っているのではないか?
十分に世の中にミズシマ遺伝子が広まったところで、カミュを始末して大勢の人間を暴走させる。
今カミュを殺してしまっても、少数の人間しか暴走しないからだ」
「ならカミュを死なせないように監禁しておくのじゃないか、カミュに新たな子供を妊娠させるなど話があべこべだ」
「俺はカミュを浚った連中と敵対関係にある別の連中が、カミュを浚い返したのだと考える。
そいつ等はワクチンを作り出すために、動物園の連中にカミュを引き渡した。
あるいは動物園の連中自身が、カミュを浚った連中と敵対関係にあるのかも知れない。
こう考えれば色々と辻褄が合うんじゃないか?」
「間違っていないようには聞えるが……」
俺の話を聞き、オボロは複雑そうなな顔を浮かべる。
正直なところ、俺だってそうだ。仮説に仮説を重ねて自論を語っているに過ぎない。
真相に迫りたければ、調べねばならない事が山ほどある。
A しばらくすると、エルルゥが俺の家に来た。
B ……しばらく待ってもエルルゥが来ない、何かあったのか?
C その時、御堂から電話が掛かってきた
c
俺はオボロと現状について話し合いながら、エルルゥの到着を待った。
そろそろ到着するころか、そう思ったその時。
「電話? こんな時に一体誰だ?」
不意に電話のベルが鳴った。
俺はオボロとの会話を一旦切り上げ、受話器を取る。
『はい、もしもし』
『ゲーック。元気か岸田』
『み、御堂…さん』
独特の口癖、聞き覚えのある中年ボイス。
電話の主は御堂だった。
(御堂……コイツの立場もよく分からん)
御堂はカミュを「逃す」のが組織からの任務だと言っていた。
それが本当なら、もうコイツの仕事は終わっているはず。
なのに何故、今さら俺に電話を掛けてきたんだ。
予定と違って、俺が乱入してきたオボロと協力してカミュを逃したからか?
ならば何故あの時、オボロをキッチリ仕留めようとしなかったんだ?
どうしてオボロを狙撃し、そして中途半端に止めたのか?
単に敵と勘違いしただけだったのか?
他に理由があるのか?
俺は御堂の次の言葉を待った。
A 『仕事も終わったし酒でも飲まないか。良い気分だからおごってやるぞ』
B 『予定通りオボロと接触できたか?』よ、予定通りだと?
C 『俺の組織がカミュを引き渡せと言ってるんだが、どうだ?』
Bだな
岸田さんらしさが失われてきてる
「予定通りオボロと接触できたか?」
予定、予定通りだと?何を言っているんだ?
「御堂さん、予定通りとはどういう意味ですか?」
「お前には黙っていたがな…俺の本当の任務は
『オボロ達と岸田洋一』を合流させる事だったんだよ」
何?では…
「俺がお前と動物園で会ったのは偶然じゃない。
あの日にお前が動物園にカミュを見に行く事も、
オボロがカミュを助けに向かう事も全て知ってたんだよ」
「!!」
「その上で俺はお前をカミュ救出に誘い、
わざと手加減してオボロを狙撃した。オボロとお前を接触させる為にな」
やはり御堂の行動は全て計算づくだったのか!
不自然な出会いや撤退だと思ってはいたが…
「まさかオボロがカミュをお前に預けるとは思わなかったぜ。
そこまで確認して、俺は去った訳だ」
「………………」
「オボロがカミュをお前に預けたままボサッとしてる訳ねえよなあ。
当然、オボロとまた会っているんだろう?それとももうそこにいるんじゃねえか?ケケケ」
「御堂さん、貴方はカミュやオボロ達にとって敵ですか?味方なのですか?」
俺は敢えて会話に答えず、御堂に聞いてみた。
「カミュやオボロ達…だけじゃねえなあ!『お前』も入ってるんだぜ、実験体の岸田さんよ」
な…に!?御堂は俺が実験体だという事も知っている?という事は、
「それらは全て御堂さんに任務を下した組織から聞いた事ですか?」
「ケケケッ!そうだ。任務を受ける前にお前らの事は一通り聞いてある」
「その組織は一体何者なんですか!?」
「ゲーック、そいつぁ守秘義務って奴だ、言う訳にゃあいかねえな!」
糞が!それが解ればこの先の行動の指針も決められそうだったのに!
「…だがこれだけは教えてやる。今俺はお前らにとって敵か味方かと、そう言ったな?」
「はい、言いました」
「答えは、どっちでもねえ。次の任務で味方になるかもしれんし敵に回るかもしれねえ」
「それはどういう意味で…!?」
「俺は仕事として、組織に金を貰い任務を果たしただけだ。
もう前の仕事は終わった。次の命令次第では…」
「協力もするし、殺す事もあるという事ですか」
「そうだ。俺は傭兵だからな…情やエゴで動いたりはしねえ」
御堂のような化物を敵に回したくはない。
だが御堂を操る組織が掴めない以上はどうしようもない…!
「ただ、今の所はお前らが殺されるなんて事はないと思うぜ」
「何故なんですか?」
「俺が命令を受けた組織は、お前達実験体同士を集め、合流させる方向で動いているらしい」
「集める?実験体を殺さず、捕まえもせずに?何の目的で?」
「それは解らねえし、俺にとっちゃどうでもいい事だ。とにかく俺が話せるのはここまでだな」
「そうですか…」
「ただ忘れるなよ。あくまで今の組織はお前を殺さないだけで、他にお前達を狙ってる連中がいるかもしれねえ」
それはいる可能性が大きいだろう。カミュを病院から攫った奴等も気になる。
「案外そういう連中に俺が雇われるかもしれないぜ?ゲッゲッゲ!!」
「御堂さん、笑えない冗談ですよ」
「ケケケ、まあいい。お前とオボロ達が行動を共にしているのを確認できたら
俺はそれでいいんだ。気が向いたらまた連絡してやる。またな」
一方的にかかってきた御堂からの電話が終わった。
だが御堂の謎の行動の理由が解った事と、御堂を雇っている組織が
少なくとも俺やカミュの命を脅かす存在ではない事が解っただけでも収穫というべきか。
A ほどなくしてエルルゥが家に到着した
B 再度電話がかかってきた。御堂やエルルゥではない。誰だ?
C 家の側で叫び声が聞こえた!この声はエルルゥか!?
A