ToHeart2 SS専用スレ 15

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700名無しさんだよもん
>>699
乙です〜。
微妙に視点がわかりにくい分悩みましたが、るーこタイプのキャラだとなかなかこういう
雰囲気も味がありますね。
ともあれ、続きを楽しみにしています!
701BANG!前編:2006/08/02(水) 01:56:00 ID:NO5JIxUk0
こんばんはー。
「そしてあしたへ、ふたりで」とかあのへんの作者です。
今度はミルファ&このみのSSを書いてきました。
今回は遠慮なく長く書いていますので、とりあえず今日は前編です。
それではお時間のある方は読んでみて下さい。
702BANG!前編(1/12):2006/08/02(水) 01:57:28 ID:NO5JIxUk0

          ミルファ&このみの夏休みSS 「BANG! 〜前編〜」

 道路のアスファルトが溶けてしまいそうな、強い日差し。
 喧しくて昼寝をするにも調子が悪いほどの、蝉の声のシャワー。
 遅かった夏本番の到来。
 とある町の何の変哲もない一軒の家の庭で、降り続いた雨の為に延び放題になりはじめている雑草を抜き
まくる一人の少女の姿が見える。
 何が嬉しいのか鼻歌交じりで。

「よ……っと。これであとはしばらく置いておいて、ゴミの日の前に袋に詰めればいいよね」
 少女は、こんもりと盛り上げた雑草の小山の前で額の汗を拭っている。
 最近はこの国の人間の髪の色にもバリエーションが増えたとはいえ、なかなかお目にかかれない紅い髪、
更に深い碧を湛えた瞳に特徴的な乳白色の耳飾り……そう、彼女は『メイドロボ』であった。
 屋外での作業をする為であろう、色気のないオリーブドラブの陸自の空挺作業服を身に付けているのだが、
胸以外はだぶだぶで、上着の袖もズボンの裾も三段に折り上げられている。
 そして大きく開いた胸元では、深い胸の谷間と銀色のドッグタグが揺れていたりする。

「タ〜○コ〜♪ タ〜ラ○〜♪ つ〜ぶ〜つ〜ぶ〜、○〜ラコ〜♪」
 カマや軍手をプレハブ物置に放り込み、ひとつ大きく伸びをしたメイドロボの少女は、物置の壁に掛けて
あった数種のモノを取り出してきた。
 そして気持ち良さそうに鼻歌を歌いながら、塀に的のようなものを取り付けている。
 真ん中に黒丸があり、数重の同心円がそれを取り囲んでいるアレだ。
 次にニコニコしながらきゅきゅっと胸元に取り付けたものは……なんとショルダーホルスター。そしてそ
の中には、デザートイーグルと呼ばれる銃がぶち込まれている。
「イチ、ニー、サンシー……10メートル、っと」
 おおっと、歩測とは味な真似をするロボットですね。
 そこに白いリノリウムの線(?)を置き、ターゲットに向き直った彼女の表情は真剣そのものである。
 概ね肩の幅に脚を開き、手をゆらゆらと揺らして息を整える。
703BANG!前編(2/12):2006/08/02(水) 01:59:04 ID:NO5JIxUk0

「チャー、シュー、メン!」パン!
 ……ちょっと待て。
 実はエアガンでした、というのは当たり前すぎる事なのでスルーしてもいい。
 だがいくら冷静な第3者視点のナレーターとは言っても、この掛け声はコメントに困る。
「サン、ラー、タン!」パン!
 妙に間の抜けたというか旨そうなお調子はさておき、射撃のフォームや腕前はなかなかのものだ。
「ワン、タン、メン!」パン!
 流れるように大型拳銃を引き抜き、射るような眼差しで狙いを定め、迷わず撃つ。
 放たれたBB弾は、狙い違わずターゲットの中心付近に孔を空けている。
「んふふ〜〜♪」
 満足そうに微笑むと、再び物騒なモノを少女は胸元に収納した。
 そして目を閉じて、一呼吸……
「ミ〜ルファさん☆ なに、美味しそうなお話ししてるの〜?」
 瞬時に緊張を解き、ミルファと呼ばれた紅い髪のメイドロボが隣家を仰ぐと、つややかな黒髪を桜色のリ
ボンで頭の両脇に結った少女が、2階の窓から顔を出していた。
「あ、このみちゃん、勘違いさせちゃった? 射撃練習の、ただの掛け声だよ〜」
 そう言われてミルファの様子を改めてよく観察した黒髪の少女、柚原このみは目を輝かせて窓から身を乗
り出してきた。
「あぁ〜っ、もしかして『ミヅキ』ごっこ? 私にもやらせて〜!」

 ちなみにこのみの言う『ミヅキ』というのは、最近テレビで流行った戦闘ロボットが活躍する刑事ドラマ
『警視庁広域機動特別捜査官・ミヅキ』の主人公の事である。
 モデルばりの長身に長く美しい黒髪、暗視スコープ無用の紅い瞳の妖しい輝きは決して悪を見逃さず、高
い推理力・情報収集力・格闘戦能力や、掌に仕込まれたスタンガンなどで次々と難事件を解決し、凶悪犯を
倒していく、『戦場で受けたトラウマのせいで人間を撃てなくなった軍用ガイノイド、T3Tミヅキ』はそ
の無表情キャラが大受けし、ミルファとこのみも毎週楽しみにして見ていた。
704BANG!前編(3/12):2006/08/02(水) 02:00:27 ID:NO5JIxUk0

 極めてお約束ではあるが物語終盤、悪のテロ組織に立ち向かって命を落とした同僚刑事(当然序盤ではそ
の刑事とミヅキの「恋かも?」と思わせるような心の交流があった)がいたりして、その彼の為、ミヅキが
トラウマを乗り越え再び銃を手に取り、テロ組織と戦い始めてから大いに盛り上がりを見せ、ついこの間最
終回を迎えたばかりなのだ。

 閑話休題……

「おじゃましま〜す!」
 河野家の庭にこのみがトコトコと駆け込んできた。
 少々幼い印象を与えている気もするが、可愛らしく胸元に水色のリボンをあしらった白いチュニックブラ
ウスとライトブラウンのキュロットパンツは活動的な彼女によく似合っている。
「おはよ〜、今日も可愛いね、このみちゃん!」
「えへへぇ〜、ありがとう。ところで、さっきから気になってるんだけど……ミルファさんの格好、なんか
お父さんの服みたいに見えるんだけど……」
 ちょっと困ったような微笑を浮かべてこのみはミルファの服を眺めている。
 と、ミルファはその場でさっと回れ右をきめ、このみに向けてビシッと敬礼をして見せた。
 そうするとぶかぶかの軍服と、決まった姿勢のアンバランスが微妙にマッチしてとても可愛く見える。
「それは当然であります! なにせこの服はおじさまにいただいたものでありますから!」
 そしてにぱっと微笑んで、
「カッコいいでしょ?」
 くるくると踊るように回って見せる紅い髪の少女。
 父親はいったいどのような動機でこれをあげたのだろう?と考えるとどう返事して良いかわからず、この
みは曖昧な笑みを浮かべて流す以外の選択肢は思いつかないようだった。
「あははは……そ、そだね。ミルファさんミリタリールック良く似合うもんね」
「そお? 嬉しいな〜。おじさまもね、私の紅い髪にOD色や迷彩は良く似合うから、って言ってくれて、
今度また色々余ってるウエーブの制服なんかも調達してくれるって〜♪」
 うきうきワクワクといった風のミルファ。
 対照的に更に頭に大きな汗マークを貼り付けているこのみ。
705BANG!前編(4/12):2006/08/02(水) 02:01:53 ID:NO5JIxUk0

(余ってる女子自衛官の制服なんてあったとしても、お父さんが手に入れられるわけないよね……)
 それはそうだ。
 柚原父は確かに幹部自衛官だがあくまで普通の戦車ドライバーであり、普通に売店で買う以外の方法で余
計な戦闘服を手に入れられるわけがない。
 ましてウエーブの制服においておや。
(こ、これをお母さんに話したら、どうなるのかな〜〜)
 ちょっと対処に困ってしまう、このみちゃんであった。

「このみちゃんは、デザートイーグルとグロック18とどっちがいい?」
「う〜ん、名前で言われるとよくわかんないけど、ミヅキが乱戦の時によく使ってた、一回でパパパッて何
発も撃てるのがいいな」
「あ、グロックの方が好きなんだねー? じゃあ、こっち貸してあげるー。ミヅキみたくヒップホルスター
のがいいよね」
 楽しそうに黄色い声で2人の少女が語り合っているのは無骨な拳銃の話である。
 可愛いのだが、なんともミスマッチな風景ではないか。
 なおデザートイーグルはハンドキャノンの異名を持つイスラエル製の大型拳銃、グロック18(G18)
はオーストラリア製でフル/セミオートが切り替えられる軍用マシンピストルである。
 このみは何気なく選んだようだが、重さが2キロもあるデザートイーグルよりは、寸法・重量ともに普通
の拳銃程度のG18の方が小柄な彼女には扱いやすいに違いない。
「ホントは最終回で使ってたあのお〜〜っきなライフルが好きだなぁ〜」
「バレットM82A1? 私もあれのエアガン欲しいのになぁ〜。貴明ケチンボで買ってくれないの」
 なんとも物騒な事を話しているお嬢様方ですね。
 ちなみにバレットM82A1は、重機関銃用の12.7o弾を発射する超強力なアメリカ製の対物狙撃銃
で、劇中では建物の中に逃げ込んだラスボスの場所をミヅキがサテライトシステムや包囲した警官隊が設置
した各種センサーの情報だけを使って特定し、コンクリートの壁を撃ち崩して倒すシーンに用いられた。
 日本の警察が使うような武器ではないが、まぁ、そこらは見逃すとしよう。
 ドラマの警察ならば、たまにはショットガンで狙撃をするような行為も許されるというものだ。
706BANG!前編(5/12):2006/08/02(水) 02:05:20 ID:NO5JIxUk0

「じゃあ、撃ってみよ〜う♪」
「了解でありまぁす! ……じゃあ……」
 パン!
「あ、すごいすごい! 距離10mでいきなり的に入れるなんて! 5mにした方がいいかなって悩んでたの
に、全然そのままでいいみたい!」
 確かに、このみの放ったBB弾はターゲットの中心付近を捉えていた。
「えへへぇ〜〜。何度かお父さんに教えて貰った事があるんだぁ」
 そして再び綺麗な両手保持姿勢で構え、
 パン!
 また弾丸が中心付近に小さな穴を空けた。

「ミルファさん、そういえばさっきの『チャーシューメン!』とかはなんだったの?」
 2人交代で撃ちまくり、数マガジンを空にしたところでこのみがミルファに尋ねた。
「ん〜〜??」
 孔だらけになったターゲットを交換しているミルファのお尻が『何の話?』という風に揺れる。
 考えつつ作業を終えた彼女はくるりと振り返り、ぱちんと指を一つ、鳴らした。
「あ、あれね〜? ほら、ドラマでも出てきたでしょ、『警官は2秒で撃つ』ってあれをやってたの」
 さすがにそこまでは早く出来ないから3秒なんだけど……と言いつつ10mラインに戻ると、ミルファは
ぶらぶらと両手をリラックスさせながらターゲットに身体を向けた。
「1、でホルスターから抜いてセーフティを解除。2、で照準を付ける。3、で倒すべきターゲットか最終
的に確認して引き金を落とす……」パン!
 ゆっくりと、だが流れるように引き抜かれたデザートイーグルから小さな弾丸が放たれ、取り付けたばか
りのターゲットの中心に孔が穿たれた。
「これをリズム良くやるのに、ああやって合いの手を入れてたって訳」
 そう言って再び銃を胸元のホルスターに納めると、今度はさっきとは比べ物にならぬほどのすばやい動き
でBB弾を撃ち出した。
「みそ、らー、めん!」パン!
 間の抜けた掛け声は兎も角、BB弾はあやまたず再び黒い丸を抉った。
707BANG!前編(6/12):2006/08/02(水) 02:06:53 ID:NO5JIxUk0

 そしてさっとホルスターに銃を戻してにっこりと笑うミルファ。
 黙って場所を譲ったミルファに代わり、今度はこのみが銃をホルスターに納めてターゲットに向き直る。
「じゃあ私も……」
 きっ!と、鋭く的を見つめる瞳。
 ゆらゆらと揺れながら緊張を抜く両腕。
 振り子のような、そして、止まった、瞬間。
「ジン、ギス、カーン!」パンッ!
 ……やっぱり、それなんですね〜、このみちゃんは。
 美味しそうなセリフはさておき、このみの放ったBB弾もミルファが先にあけた中心部の穴を貫いた。
「むぅ〜〜、さすが上手でありますね、柚原陸士長! 自分も負けないでありますよ〜!」
「あははは〜〜……ミルファさん、セリフ取らないで〜〜」
「気にしない気にしない! ……それにしても前から気になってたんだけど、その『ミルファさん』っての
やめようよ。呼び捨てでもいいんだから。それに私が『このみちゃん』って呼んでるのが恥ずかしくなるじ
ゃない。やめてくれないんだったら今度から『このみ様』って呼ぶよ〜?」
「そ、それははずかしいよ〜〜……」

 楽しそうに、踊るように、2人の少女は夏の日差しの中で戯れる。
 右手には拳銃を携えて。

「パイ、コー、メーン!」パンッ!

「ひっ、つじ、肉ぅ!」パパパン!



        ◇         ◇         ◇         ◇
708BANG!前編(7/12):2006/08/02(水) 02:10:10 ID:NO5JIxUk0

「さっら、うぅー、どーん!」パンッ!
 ミルファのデザートイーグルが吼える。
 2キロもの重量がある大型拳銃を自在に操り、紅い髪の戦乙女は完璧にターゲット中央に破孔を穿つ。
「にっく、ぎょー、ざぁー!」パパパン!
 このみのG18がリズミカルにBB弾をはき出す。
 ブローバックする毎に跳ね上がる銃口をよく押さえ込み、黒髪の少女はフルオート射撃でも確実に的を捉
えている。
 調子を合わせる掛け声の間抜けさには似合わず、2人の美少女の射撃の腕はかなりの水準のようだった。

「さすがだねー、ミルファさん!」
「いえ。貴女の方こそお上手でいらっしゃいます、このみ様」
 す〜〜っと目を細めると、慇懃な態度でこのみを持ち上げ始めるミルファ。
 音に聞こえた乱暴者とはいえ一応メイドロボ、丁重な態度は堂に入っている。
 だが慣れない呼ばれ方に、たちまちこのみの背筋にはサブイボが走っているようだが。
「いかがなさいましたか? このみ様」
「はうぅ〜〜、こそばゆいからやめて〜〜ミルファさ……ちゃん?」
 すると、ミルファは伏し目がちの姿勢からぴょこんと弾かれたように上半身を起こした。
 顔を上げた彼女の頬には、ひまわりのような微笑が広がっている。
「そうそう、その調子だよ☆ このみちゃん」


「ふえ〜〜っ。美味しそうなものの事ばっかり考えてたせいか、なんだかお腹が減ってきたよ〜」
 ひとしきり撃ちまくった後、このみは額の汗を拭いながらにっこりと笑ってそんなコトを言いだした。
 二人の釣瓶撃ちを受けたターゲットは勿論孔だらけ、的の下に置かれたプラ製足洗桶の中にはたくさんの
BB弾が転がっている。
「そういえばもうお昼だもんね。あ、縁側のところにタオル置いてあるから使ってね」
 そういうミルファの額もうっすらと汗をかいている様だ。
 ロボットとはいえ、やはり夏の日差しを長時間受け続ければ冷却も必要になるのだろう。
709名無しさんだよもん:2006/08/02(水) 02:12:58 ID:Gz+weOcw0
支援
710BANG!前編(8/12):2006/08/02(水) 02:13:09 ID:NO5JIxUk0

 輝く太陽は空の一番高いあたりまで上りきり、いかに朝の遅い夏と言っても、確かにボチボチお昼の時間
にさしかかりつつある。
 トコトコとこのみは縁側に近寄り、かがんでタオルを手に取ろうとした。
 ところが……。
「あれ? なんかいい匂いがするよ??」
 犬のようにひくひくと鼻をうごめかせて空気中の匂い成分を探るこのみ。
 確かに、開け放されたリビングの窓の中から、どこか甘いような上質の脂の香りがする。
 よく嗅いでみると、漂っているのは脂のいい香りだけではない。
 新しい家の香りというか、なにかすがすがしさを感じさせる木の香りもしているようだ。
「はう〜〜、猛然とお腹が空くような匂いがしてるよぉ〜〜」

 ちりりりり……

 このみが誘うように河野家から洩れ出る香りに悩殺されていると、台所の方からキッチンタイマーの音が
聞こえてきた。
 それを察知してミルファもパタパタと縁側に駆け寄ってくる。
「出来た出来た〜〜っと♪ ……はう、上着汚れっぱなし!」
 上着をぱっと脱ぎ捨てリビングに放り込み、園芸用の水道でばしゃばしゃと顔と頭を洗う。
 作業着の下に来ていた服は若草色のタンクトップ一枚。
 密かに(?)ミルファのトレードマークともいえる大きな胸がぷるんと揺れる。
 一緒に、首から下げたドッグタグがきらりと銀色に光る。
「ぷはぁ〜〜っ! 気持ちいい!!」
 彼女が紅い髪をぷるぷると左右に振ると、水滴が宙に舞い、小さな虹が生まれる。
(うわぁ〜、やっぱり綺麗だな〜、ミルファちゃん。タカくんが夢中になるのも無理ないよね〜)
 メイドロボにこの誉め言葉を使ってもいいのか、冷静なナレーターでも迷うところではあるのだが、彼女
のこの「美しさ」は、いわゆる健康美と言い表すべきものであろうか。
 水滴と戯れる少女の姿に思わず、同性のこのみでも見とれてしまう。
 そんなこのみの想いを知ってか知らずか、タオルでわしわしと頭を拭いたミルファは、スニーカーを蹴飛
ばしながら窓からリビングへと突入していった。
711BANG!前編(9/12):2006/08/02(水) 02:15:24 ID:NO5JIxUk0

 このみが庭先でこしこしと汗を拭いながら観察していると、台所に飛んでいったミルファは湯気の上がる
大きな寸胴を覗き込んで何事かを作業している。
 更に、寸胴の隣には妖しげなくすんだ銀色のフードを取り付けたフライパンがおいてあり、隙間からうっ
すらと立ち昇っている煙が見える。ちなみにこの不恰好なフードは換気扇に向かって煙突状に伸びており、
金挾みでフードに仮止めされているようだ。このみの母、春夏ならば正体がわかるのかもしれないが、経験
不足のこのみには何が行われているのか想像もつかず、とりあえず理解出来るのは、
(ふぇ〜〜、美味しそうな匂い……お腹減ったよぅ〜〜)
 という極めて原始的な事柄だけであった。
「美味しそうな匂いだね〜〜。ミルファちゃん、何を作っているのでありますか??」
 万感の想いを込めて、窓の内に問い掛けてみるこのみ。
 目元口元に『えへへ〜』という照れ笑いが聞こえてきそうな微笑を浮かべながら。
 実は味見がしてみたい、という胸の内は勿論内緒だ。
「はう、ごめんごめん。早くあがっておいでよ、このみちゃん。咽喉も渇いたでしょ?」
 くるり、と後ろを振り向いてぱんっ!と拝むポーズをとるミルファ。
 どうやらミルファ嬢はすっかり、このみの存在を失念していたようですね。

「美しさは○〜♪ ほ○えみさえつ〜み〜♪ 黒いバ○の花〜♪ 刺があるよう○〜♪」
 このみがリビングに入ると、ミルファはこのみが聞いた事もないような妖しい歌を口ずさみながら台所で
作業をしていた。
 このみが入ってきた事に気が付くと、すぐさま冷蔵庫を開けて冷えたスポーツドリンクを取り出す。
「クーラー、点けなくて大丈夫? 暑かったら窓閉めて、冷房でもドライでも入れちゃって〜」
 そして、お客さんにもの頼んじゃダメだよね、と苦笑いしながらこのみにグラスを手渡した。
 既に細かい水滴で曇り始めている冷えたグラスは、やっと訪れた本気の夏の証か。
 それを見て思わずこのみは咽喉を鳴らさずにはいられなかった。
 きっと、考えていた以上に身体は乾いていたのだろう、グラスになみなみと注がれていたスポーツドリン
クは、あっという間にこのみの火照った身体に吸い込まれていった。
712BANG!前編(10/12):2006/08/02(水) 02:17:51 ID:NO5JIxUk0

 何も言わずに、ミルファが再びグラスを満たす。
 その半分ほどを飲んだ時、やっとこのみは人心地つけた様な気がしていた。
「ぷふぁ〜〜、ようやく生き返ったよ〜〜。ありがと、ミルファちゃん」
「どういたしまして。あ、これからちょっと台所暑くなるから、リビングでゆっくりしててよ。なんだった
ら冷凍庫に貴明のアイスが入ってるから、食べちゃえば?」
 さらっとすごい事を言いつつ、ミルファは台所に向かおうとした。
 このみがちらりと覗くと、やはりいい匂いが漂ってくる。
「え〜っと、このみも見せてもらったらダメかな? ダメならいいんだけど……」
「いいよ〜〜。あ、でも本当に暑いと思うから、クーラー入れようか」
 特に拘る様子も見せずにミルファは見学を承知してくれた。
 窓を閉めるとクーラーを入れ、二人は早速台所へと向かう。
「えっと〜、何を作ってるの?」
「んふふふふ〜〜」
 くつくつくつくつ…………
 ミルファが電熱器の上に乗った大きな寸胴の蓋を開けると、中には鶏がらや香味野菜、煮干などが沸騰す
るかしないかのラインで微妙に踊っている。
「こっちはね〜〜」
 次に、フードの乗ったフライパンの火を止め、ミルファがフードを外すとそこには……
「わあぁ〜〜、美味しそう!」
 煙とともに広がるりんごと白樺の香り。
 中に入っていたのは……
「チャーシュー? チャーシューって煮たりオーブンで焼いたりして作るんじゃないの??」
「確かにそれが一般的なんだけどね〜、これはスモークチャーシューって言って、一度煮た後に漬け汁に漬
けて燻製したんだけどね、夏向きのあっさりした感じのが出来上がるんだよ〜」
 うきうきと解説しながら、崩れないようにそっとまな板に豚肉の塊を移すと、ミルファは数枚、スモーク
チャーシューを薄いスライスにした。
 そして皿に乗せ、にっこり笑顔と一緒にこのみに差し出す。
「え、いいの?」
713BANG!前編(11/12):2006/08/02(水) 02:19:20 ID:NO5JIxUk0

 一枚をつまみ、口に運ぶ。
 このみの口の中に、ほの甘い豚の脂の味と木の香りが広がる。
「うわ、美味しい……」
 このみの率直な感想を聞いて、にまぁ〜〜っとミルファの相好が崩れた。
 そして彼女も自身の口中に一枚を放り込んだ。
「でしょでしょ〜〜?? もにゅもにゅ……うん、イメージ通り!」
 親指を立て、自分自身を誉めているミルファ。
 きっと、よほど満足の行く出来だったのだろう。
「あ、わかった!」
 さらにもう一枚チャーシューを味わっていたこのみがぽんと掌を叩いて言った。
「チャーシューにスープといえば、ラーメン!」
「ぴんぽ〜〜ん♪」
 寸胴のスープを鍋に移しながら、ミルファは陽気に答える。
 彼女の言葉通り盛大に湯気が上がり、台所の室温と不快指数が急上昇する。
「暑くない?」
「ううん、それよりいい匂いだね……」
「じゃあ、ちょっと味見してみる? ほとんど塩っ気ないけど……」
 小さな皿に、少しだけスープを移すミルファ。
 様々な材料が使われていたわりにはほとんど色のない、あえて言うなら和風出汁程度の薄い茶色の、綺麗
に清んだスープである。
「あはは、催促しちゃったみたいだね〜。……わぁ、本当にいい香り!」
 口元に皿を寄せると、際立つのは若干きつめに魚介系の匂い。
 しかし実際口にすると、とんこつスープのような脂の旨みやコクはほとんどないが、鳥スープの柔らかい
味わいの中に、魚の出汁の旨みが混ざり合い、なんとも言えない深みが感じられる。方向性としてはいわゆ
る『昔のラーメンスープ』に属するものだろう。
 このみが素直にその事を指摘すると、
「あ、そう思ってくれたなら大成功。これ、冷しらーめんのスープなんだ」
 と、ミルファはむしろ喜んでいた。
714BANG!前編(12/12):2006/08/02(水) 02:21:07 ID:NO5JIxUk0

「冷しらーめん??」
「うん。貴明のお母さんの実家から本場の冷しらーめんが送られてきたんだよね。スープとかも付いてたん
だけど、折角だから麺以外オール自作してみたんだ。今日の夕食に、と思ってね〜」
 そう言って別の鍋を開けると自作のメンマまで出てくる始末。
 相も変わらず気合の入ったメイドロボさんである。
 もっとも、それを見ているこのみの食欲は更に疼きまくるわけだが。
「うわ〜、タカくんいいな〜。美味しそうだな〜」
「じゃあ、お昼これ食べる?」
「え??」
 羨ましがるこのみに対して、ミルファはあっさりとそう提案した。
 一瞬考えたこのみではあるが……
「あ、でもお母さんもうお昼ご飯用意してるかもしれないし……」
 あわあわと手を振るこのみを尻目に、ミルファは迷わず電話機を取り上げた。
「もしもし? ミルファで〜す。 ……はい、来てますよ〜。それでですね〜、今ウチで冷しらーめん作っ
てるんですけど、……ええ、このみちゃんにご馳走したいと思いまして。もしまだお昼の用意をされていな
いのなら、春夏さんも一緒に召し上がりませんか? ……はい、どうぞ。……お待ちしていますね」

 がちゃん。

「というわけで、食べていってよ。今から仕上げるから」
 それは勿論嬉しい。
 嬉しいのだが……
(う〜〜ん、今のミルファちゃんを見たら、お母さんの反応はどうなるんだろう?)
 弾むミルファの胸を見つめながら、このみは少し、父親の未来を思いやるのだった。


                                           〜〜続く☆
715BANG!の人:2006/08/02(水) 02:39:24 ID:NO5JIxUk0
まずは>>709さん支援ドモです。

こんばんはー。懲りずに乱発しておりますw
まだ前編のみではありますが「BANG!」いかがでしたでしょうか。
最近、なんとなくミルファにはミリタリールックや銃が似合うような気がしてまして、
おかげでそういうシーンのある妄想がわしわしと脳内を占拠しております。
作中でミルファ(というか柚原父)が言っているように紅い髪に緑が合う!って思い
込みが原因なんだろうと思いますが。

ともあれ、相変わらずのお目汚し、失礼いたしました。
後編が出来ましたらまた投下しに参ります。
716名無しさんだよもん:2006/08/02(水) 19:01:27 ID:7akz+2I30
あー、些細な疑問なんだけど一つ

自サイトやブログで公開している作品を
わざわざ分割してまでスレに全文はっつけするのはなんで?
717名無しさんだよもん:2006/08/02(水) 19:13:36 ID:LIlrouRo0
またバカが沸いたか
スレに投下する理由なんざ人それぞれに決まってるだろ
逆に聞くけど、お前はどうしてそんな質問するの?
718名無しさんだよもん:2006/08/02(水) 19:24:41 ID:IVe1rvyV0
>>716
どうでもいい質問すぎるな。
うだうだいう前に自分がSS投下してみたらどうだ?
てか、投下してくれる人のおかげでこのスレが賑わってるんだから
いいんじゃないのか?これで。
お前はSS書けないから嫉妬してるのか?
つーか嫌ならこなきゃいいんじゃね?
719名無しさんだよもん:2006/08/02(水) 19:50:30 ID:aTnVEmTY0
多分だけど>>716は投下するなって意味じゃなくて
どうせ自分のトコでも公開してるならそのURLをはってくれれればいいのにってことじゃね?
以前そうしてた人もいたし。

擁護しといてあれだが、もしSS投下するなって意味ならそれこそじゃあこのスレ来るなよって話だけどな。
720名無しさんだよもん:2006/08/02(水) 20:05:44 ID:7akz+2I30
>>717
その理由が知りたいから聞いたんだけどね

>>718
縦乙

>>719
>URLはっつければ〜
そういう意味。
スレにはったのをHPスペースに、はわかるけど
逆、それも分割になると意味がわからないよ


しかしあれから投下するなって言ってるように見える方に驚いた
721名無しさんだよもん:2006/08/02(水) 20:13:03 ID:LIlrouRo0
>>720
いや、そりゃ目立ちたいだけじゃねーの?
空気嫁よ
回答が自分の中で出てる質問をするのは性格の悪さが滲み出てるぞ
722名無しさんだよもん:2006/08/02(水) 20:27:27 ID:xBQTpCQPO
とりあえずもちつけ
うだうだ言ってても無駄レスになるだけだ
723715:2006/08/02(水) 21:54:09 ID:7LH6cWAb0
>>716
ちなみに私もブログに載せてますが……

そのURLを貼らないのは、2ちゃんに貼るのはいかがなものかと思うからです。
でもここに作品を貼るのは、より多くの人の目に晒したいからです。
結局はアレですよ。>>721氏の言う通り目立ちたいからですね。
見せたがりが俺らの性なんですよw

もうちょっと突っ込んで言えば、他人の目に晒した方が緊張感が得られるからです。
他人の評判を気にしないと上達はしませんからねー。
好きには書きたいですが、上手にもなりたいですもの。

ご理解いただけましたか??
724白詰草 ◆Pd9gE38GCU :2006/08/02(水) 21:57:45 ID:uJOkd5l60
>>720
いや、むしろ、そうして良いんなら、
その方が手間がかからないからありがたいですよ。
文章の体裁とか、好きなようにできるし…。

そうしている様子がないから、暗黙の了解として
URLは貼り付けないようにしてるのかと思ってただけ。

というわけで、昨夜の続き、というか全部。

「From girl to …」(メインキャラ:ルーシー・マリア・ミソラ)
ttp://www004.upp.so-net.ne.jp/windbell/from_girl_to.htm

…なんか、妙にあっさりしちゃったなぁ(笑。
725名無しさんだよもん:2006/08/02(水) 22:00:29 ID:73cSAsLW0
今現在のこのスレの流れを見て、我楽多の人が消滅した流れを思い出した
726名無しさんだよもん:2006/08/02(水) 22:01:26 ID:NBiPWHtv0
まぁ2chにアドレス貼ったら荒らされそうだからってのもあるかもな。
ブログタイプで変なのに貼り付かれたら素敵なことになりかねないしな。
727名無しさんだよもん:2006/08/02(水) 22:09:57 ID:LIlrouRo0
>>724
おっ、白詰草氏はサイト持ちだったのか
じっくり読める&一度に読めるから個人的にはこっちのほうがありがたいw
楽しませていただきます

>>723
あーブログ持ちなんですか
2chに貼らないで自己防衛するのは当たり前だから正しい判断じゃないかね

ちょっと気になったんだけどメイドロボSS書く作者さんってどんどん自分の妄想を突き詰めて
最終的に見るに堪えないものになるのが多いんだよなあ・・・
最初はもてはやされるんだけどだんだんスレでも反応もらえなくなっていくし
ここんところそういう傾向見て取れるんで気をつけたほうがいいっすよ
728白詰草 ◆Pd9gE38GCU :2006/08/02(水) 22:14:08 ID:uJOkd5l60
>>727
サイト名でググっても1件もヒットしないというステルス仕様サイトです
2chでも何でも、定期的に宣伝しないと、誰も来ない…
729名無しさんだよもん:2006/08/02(水) 22:14:24 ID:EBnhke4u0
>>720
俺の場合、順番が逆だったこともあるけどね。
ブログに載せてるSSを、ここに上げてるんじゃなくて、ここに上げたSSをブログにも載せ
ている感じ?
結果はほとんど一緒だけどね。
ここにSS上げ始めたばかりのころは、手前のブログだのサイトだのは持ってなかったし
持ったからってここにSS上げないようになるんじゃ、それは世話になったここのスレに対
しても不義理が過ぎるだろうと、なんとなくそう思ってるわけで。
でもそんな手間かけてる本当の理由は、多分>>723とおんなじ。
けれどURLを貼るだけにしないのは、URLだけじゃなんか物足りないからだろうと。折角
SSスレにSS上げてんのに。
それに、こういうところに自分のブログだのなんだののURL貼るのは、こっ恥ずかしいか
らなんとなく嫌。
730名無しさんだよもん:2006/08/02(水) 22:18:43 ID:p+hq+j010
スレが過疎る云々なら、SSスレで書いたのをブログに張ればいいじゃない。
逆だとただの宣伝乙だよ。
731白詰草 ◆Pd9gE38GCU :2006/08/02(水) 22:19:02 ID:uJOkd5l60
>>729
>けれどURLを貼るだけにしないのは、URLだけじゃなんか物足りないからだろうと。

さっき自分であげてみたけど、確かに物足りないかも(笑
このスレの方針として、どうなんだろうね
732名無しさんだよもん:2006/08/02(水) 22:31:48 ID:aTnVEmTY0
SSが読めればそれでいい
733名無しさんだよもん:2006/08/02(水) 22:38:04 ID:7LH6cWAb0
次スレ、建ててみるよ?
734名無しさんだよもん
お答えありがとうございます

>>723
そうですね、緊張感はもっていた方が良いと思います
目立ちたいとおっしゃられるならSS-LinkなどSS登録サイトもご利用されてみては?

>>724
少し前はそういう流れもあったのですが
サイトもちの方は全員ここに投下しなくなりましたね

>>729
ブログに載せるのは構わないと思いますよ
自分のサイトとしてまとめるという意味もありますし
わからなかったのは、
『わざわざ全文を、サイトの方で先に公開しておいてスレに投下した理由』
ですから。