ToHeart2 SS専用スレ 15

このエントリーをはてなブックマークに追加
435名無しさんだよもん
>>433

乙です。うーん、なんだろ…、空欄は意図してやったんだと思うけど、
どうしてそうしたのかよくわからない。普通に考えたら、空欄に入る名前は
瑠璃しかないのに、それならそうする必然性を感じない。
かといって別の名前が入るとも思えないし…。
珊瑚視点、なのに瑠璃の名前が出てこないというのは、それがはばかれるほど
罪悪感というか後ろめたさを感じてる、そういう表現なのかと思ったりもするけど。

作者はそういうつもりじゃないのかもしれないけど、こういう謎かけみたいなのは嫌いじゃないですがw
436かみさまがくれたもの〜前編〜:2006/07/21(金) 01:30:13 ID:px5oD4cl0
こんばんはー。

イルファSS18禁版投下して行きます。
本稿は、先だって投下した「たましいのありか」の続きにあたります。
温泉旅行の話ではないんですがw

この作品の前提条件として……貴明はミルファと同居(肉体関係アリ)しています。
他の姫百合ファミリーとは仲はいいですが、誰ともそういう関係ではありません。
では、ゆるゆると投下を開始します。
437かみさまがくれたもの〜前編〜(1/8):2006/07/21(金) 01:31:59 ID:px5oD4cl0
「ええっ!? お姉ちゃん、温泉旅行当てたのお姉ちゃんなのに!」
「そうやで〜。それに、別にイルファとシルファ、二人連れてくくらい、どうにでもなるやろ?」

 いつもながらお優しい珊瑚さま……でもまぁ、それも折込み済みです。
 ふふふ……神さまが授けて下さったこの温泉旅行、最大多数の最大幸福を目指してこのイルファ、全身
全霊をかけて作戦を練らせていただきましたわ。
 その結果!!
 姫百合家の皆様も、貴明さんも、私たちメイドロボシスターズも癒される素晴らしい計画が出来ました!
 ……どうも、ミルファちゃんにワリが行っている様な気もしますが、この際目を瞑りましょう。
 あの娘は間違いなく日頃一番『癒されて』ますからね、どう考えても。
「いいのよ、シルファ。あなたはまだ泊りのお出かけの経験はほとんどないでしょう? 折角の神さまから
 の頂き物なのだから、遠慮なく行ってきなさい。……珊瑚さま、確かにメイドロボは子供料金です。でも、
 無駄なお金は使わないに越した事はありませんし、それにこのシーズンは一部屋取るのがやっとでした。
 4人泊まれないことはないでしょうが、人数は少ない方が快適に決まってます」
 やはり、二人とも圧倒されているようですね。
 こういう事は一気に押し切るに限ります。
「それに、メイドロボを2人も連れてお泊りでは、宿の方々も面食らうでしょう。ここは珊瑚さまと瑠璃
 さまと、シルファだけでゆっくりしてきて下さい」
 あ、瑠璃さまが不審そうな顔で見ていますね……。
 しかーし! そうは行きませんわ。
「ああっ、瑠璃さまと一晩離れるなんて私としては残念なのですが……シルファの社会勉強を考えればこ
 こは譲るのが姉の務め……」
 いえ、本心ですよ? 半分は。
 ん〜〜、それにしても瑠璃さまのこの控えめなお胸、いつ揉ませて頂いても素敵☆
「チチ揉むなぁ〜! さんちゃん、シルファ、本人がええ言うとるんやから、3人だけで行ってこよ! 
 ウチかてたまには家事せーへんでゆっくりでけるし!」
 案の定ですね。

 ふ、瑠璃さまの行動パターンはお見通しですわ。
438かみさまがくれたもの〜前編〜(2/8):2006/07/21(金) 01:34:09 ID:px5oD4cl0

「さて、決まりですね。……昼に確認したら、来週の水曜日なら空いているようでしたし、とりあえず大人
2人+メイドロボ1人押さえてありますので、そのまま予約してしまっても大丈夫ですね?」
 きゅきゅっとカレンダーにも書き込んでしまいます。
 これで決定! っと。
「了解や〜♪」
「楽しみです〜☆」


「もしもし、姫百合です」
『もしもし……って、イルファさんか。こんばんは〜』
 あら、貴明さんが取ってくださって丁度良かった。
 運も味方に付いていてくれますわね。
「実はですね、今度の水曜日、珊瑚さまと瑠璃さまが温泉旅行に行かれるんですよ」
『ああ、そういえば俺もこのみに教えられて見たよ。特賞姫百合イルファさんってデカデカと出てたね』
「あら恥ずかしい。見ていらしたんですね?」
 このみさん、グッジョブです。
 やっぱり貴明さんのお耳に入れて下さったんですね!
「それで、その日……ィルファが1人で家に残されて可哀相なんですよね〜」
『そうか〜。シルファ1人じゃ寂しいよな〜。じゃあ、その日は家に寄越しなよ……って、来週の水曜だ
っけ? 丁度ミルファの定期メンテナンスにも重なってる日だな。間が悪いなぁ』
「ホント、そうですねー」
 当然ですわ、そうしたんですもの。
「でもそれなら尚更……ィルファにお世話させたらいいですよ。あ、ミルファがいないのなら、その日は貴明さんが
こちらにいらしたら如何です? その方が厨房など慣れている場所でお世話出来る訳ですし」
『それもそうか。……じゃあ、それでお願いするかな。じゃあシルファにもよろしく言っておいて』
「はい。それではよろしくお願いしますね。おやすみなさい」
439かみさまがくれたもの〜前編〜(3/8):2006/07/21(金) 01:35:48 ID:px5oD4cl0

 かちゃん。 ツー……ツー……

 ふふふ……これでこのみさんや環さんの妨害の危険性も極小に出来ます……作戦通り……
 向坂家の親族会議の日にもぶつけていますし大丈夫だとは思いますが、念には念を、でありますよ!
 あとは、当日を楽しみに待つだけですね♪


  イルファの夏休みSS 「かみさまがくれたもの 〜前編〜」


 ぴんぽ〜ん

 久しぶりにシルファと二人か。なんだかちょっと照れくさいな〜。

 がちゃっ

「おじゃましまーす」
「いらっしゃいませ、お待ちしていました♪」
 がちゃん……
 青い髪、だったよな。
 それと、なに? あの格好。
 何かのドッキリ?
 さて……こういう時は落ち着いてヤックにでも寄って帰ろうか。

 がちゃっ!!
「どぉして締めちゃうんですかあぁぁ〜〜!?」
「いや……別に……」
 猛然と再びドアが開くと、部屋の中からつっかけを履いたイルファさんが飛び出してすがり付いてきた。
 ……って、その格好でくっ付かれると、頭が混乱しますデス!
 心臓バクバクいってマス!!
440かみさまがくれたもの〜前編〜(4/8):2006/07/21(金) 01:37:40 ID:px5oD4cl0

 それもここマンションの廊下、共用スペース!!
 
 イルファさんの格好はど〜〜見ても、いわゆる裸エプロン。
 スレンダーで且つ、出るところは出た麗しい裸身を包むのは白くてフリル付きの可愛いエプロンのみ……

「……な……ちょ……どうして……」
「え? この格好ですか?」
 そう言ってくるっと回るイルファさん……って、その格好で回っちゃダメ〜〜!!
 ……あれ?
「みず……ぎ……?」
「え? 今日は暑いし湿気が多かったですから……」
 満面の笑顔のイルファさん。
 今度はゆっくり目にくるり、と身を翻す。
 エプロンに巧みに隠すように、彼女は水着を身に付けていた。
 ああ、いかにも『してやったり』な表情だ……
「貴明さんは、なんだと、思ったんですか?」
 どきり、と更に心臓が大きく跳ねる。
 ミルファやシルファとは全然違う……大人を感じさせる艶のある微笑み。
 それを、感じさせたのはほんの一瞬だった。
 くるりと背後に回りこむと、イルファさんはイタズラっぽく、えっちらおっちらと俺の背中を押してきた。
「さ、どうぞ中にお入りください。もうご飯も用意してありますから!」


「ごちそうさま〜! 久しぶりにイルファさんのご飯ご馳走になったけど、やっぱり上手だね〜!」
 うん、さすがと言う他はないだろうね。
 
 最近はミルファとタマ姉(あとたまにこのみ)のご飯を食べる機会が多いからかなり舌は肥えてきたと
 自負しているんだけど、2人に比べても全く遜色はない。
 元々そこそこ出来る上に、瑠璃ちゃんの技術を吸収して更に上手になっているのは知っていたけれど……
441かみさまがくれたもの〜前編〜(5/8):2006/07/21(金) 01:39:14 ID:px5oD4cl0

 ここまでとは正直恐れ入った。
 メニューといい、味付けといい、すごくツボをつかれたと言うかなんと言うか。
 タマ姉系の和食メニューでもなく、瑠璃ちゃん系の和中折衷モノとも異なる、言うなれば『懐かしの洋
 食メニュー』的な構成で巧みに男の子ゴコロを攻められると、俺としてはもう白旗を揚げるしかない。
「当然です。ミルファちゃんの『すきすき貴明♪データファイル』を参考にしてメニューも味付けも構成
 してありますもの。美味しくないなんて言われたら世を儚んで壊れてしまいます。」
 微妙に怖いことを言いつつも、やっぱり柔らかく微笑むイルファさんの顔を見ていると心が安らぐね。
 今日のイルファさんの顔以外を見ると心拍数が急上昇するしな〜。
 それにしてもその嫌な名前のデータファイルはなんとかならんのだろうか?
 ……なんてしょーもない事を考えながら、俺はイルファさんの入れてくれたアイスコーヒーをすすった。
「はぁ〜〜、コーヒーもんまい。……でも正直、これミルファのより美味しい」
 うん。
 なんていうか香りがいいし、すごく澄んだ味。
 試行錯誤の末生み出されたミルファコーヒーも旨いけど、これはちょっとその1枚上を行くな。
「それは……ちょっと水が違うだけです」
 くすっ、と笑うイルファさん。
 ……水? ですか?
 何の水でしょう? ……ちょっと、聞くのが怖いような気がします。

「……たかあきさん……」
「はいっ!」
 いつの間にか背後に忍び寄っていたイルファさんが、急に間近から声をかけてきた。
 ううう、今日はまともに見れないからちょっと油断するとすぐ急接近を許してしまうんだよなぁ。
 それに、いちいち俺の心臓を疲れさせないで欲しいんだが……
「お風呂の準備が出来ましたよ……。どうぞよろしい時にお入り下さい」
 そんな耳元でいう事ではないような気もしますが……

「今日は、夏休み特別サービスで、お背中を流させて下さいね」
 って、えええええぇぇぇぇ〜〜!!??
442かみさまがくれたもの〜前編〜(6/8):2006/07/21(金) 01:40:55 ID:px5oD4cl0

「そんなに驚くほどの事ですかぁ?」
 いえ、驚きますって!
 今日誰もいないしヤバイし暑いし風呂だしって、落ち着け! 俺!!
「いやいやいや!俺は別に特別サービスなんて!!」
 そう! 別にそんな気を使わなくても結構!
 別にあの美味しいご飯だけでもう充分だし!
 ……すると、イルファさんは少し寂しそうに、拗ねたように口を尖らせて近付いてきた。
「そんなぁ? 私に夏休みサービス、ないんですかぁ? 折角こんな格好までしたのに……」
「イ、イルファさんの?」
「そう。……私の」
 にっこりと微笑むイルファさん。
 そ、そういやいっつもこういうのは断ってるしな〜〜。
『ミルファちゃんばっかりずるいです!』
 とかいつも言われてるもんな〜〜。
 たまにミルファのいない時くらいいいのかなぁ〜〜?
 まぁ、水着を着てるんなら……
 夏休みだし……
 特別サービス、ありといえばありのような……
「う、うん、そういう……コトなら……いい、よ?」
 言っておくがな、ミルファ。
 浮気じゃないぞ、浮気じゃ。……多分。
「嬉しいです。……じゃあ、行きましょうか……」
 え〜っと、俺は、なにかとんでもない状態に足を踏み入れているのではないかという気がふつふつと……

 ………………。
 ………………。

「失礼します……」
443かみさまがくれたもの〜前編〜(7/8):2006/07/21(金) 01:42:40 ID:px5oD4cl0

 ぶうぅぅ〜〜〜っっっ!!
「イ、イ、イ、イルファさん……み、みず……ぎは……?」
「お風呂に入るのに、そんな無粋なものは必要ないでしょう??」
 無粋って、この際そういうコトが問題になるのでしょうか……?
 そんな……一糸纏わぬ……イヤーレシーバーまで外して……
 ミルファに比べるとサイズ的にはちょっと及ばないとはいえ、形のいい柔らかそうなおっぱい……
 そしてちょっと事故で覗いちゃった事はあるけれどな、ふっくらとした無毛の恥丘……
 ぜ、全部……見えてる……んすけど……
「まずはお背中をお流ししますね……」
 まず? まずって、そのアトはなにかなさるんですか!? お姉さま!!

 しゃ〜〜……

「ごし、ごし、ごし……」

 むに、むに、むに……

「ごし、ごし、ごし……」

 むに、むに、むに……

「あの……イルファさん?」

 むに、むに、むに……

「なんでしょうか……貴明さん」

 むに、むに、むに……
 だきっ!
444かみさまがくれたもの〜前編〜(8/8):2006/07/21(金) 01:44:19 ID:px5oD4cl0

「っひ!!」
「おイヤ……ですか?」
 背後から、ゆっくりと、イルファさんの手が俺の身体に絡みついてきた。
 探るように、じりじりと、彼女の細い指が胸や下半身を這い回る。
 頭の奥が……じんじんと痺れるような……快感が這い登ってくる。

「イルファ、さん……」

 かぷ。

 優しく、イルファさんの唇が俺の耳朶を噛んだ。

「今日はイルファ、と呼んで下さい……」


                             〜〜後編に続くっ!
445かみさまがくれたものの人:2006/07/21(金) 01:48:23 ID:px5oD4cl0
という訳でまず前編を投下させていただきました。
後編も鋭意製作いたします。
こーいうのは照れくさくて大変ですが。

……照れくさいもなにも、さっぱりエロくないっすね、まだ(苦笑)

ともあれ、お目汚し失礼いたしました。
それでは、また。
446名無しさんだよもん:2006/07/21(金) 14:20:11 ID:mv2e8KJ10
>>445
GJ!
おっきした
447名無しさんだよもん:2006/07/21(金) 14:23:49 ID:TRqP+aod0
>>445
続編投下乙!ソフトエロGJです!
後編激しくキボンヌ!ガンガレ!ガンガレ!
448名無しさんだよもん:2006/07/21(金) 17:00:14 ID:2JozrkFG0
school days風のを推敲中

・・・バットエンドですが
449名無しさんだよもん:2006/07/21(金) 18:47:07 ID:2p7TP6iIO
最近はSS投下が増えてくれて良い傾向だなぁ
450名無しさんだよもん:2006/07/21(金) 22:03:08 ID:dsd/4Hwl0
空気読まないで悪い。
俺、昔ホームページにToheart2の小説で、目茶キツいの書いたんだわ。
ホムペも閉めたし、知ってるやついないと思うけど、

小牧end→雄二に小牧を寝取られる→貴明、ショックで不登校に→タマ姉の説得でなんとか学校へ、タマ姉に仄かな想いを抱く→タマ姉も雄二に寝取られる→貴明、他人を信じられなくなり自殺

の流れ。
んでその後が、
貴明、遺書に全ての顛末を書き記す→瑠璃&珊瑚、序に一部ヒロイン、ブチ切れ→雄二&タマ姉&小牧の三人、来栖川の力で社会的に殺される→さらに向坂の家、小牧の家も完全に来栖川に抑えられる
(向坂の家も並以上の名家とは言え、来栖川とは雲泥の差。瑠璃&珊瑚、由真の説明などを受けた来栖川が権力行使したと考えていい)
→最終的に、雄二たちは成す術が無くなり死亡

みたいな感じ。
こういうのって受け入れられるんかな?
451名無しさんだよもん:2006/07/21(金) 22:05:55 ID:bE/Hzfvb0
>>450
黒このみがだいすきです
452名無しさんだよもん:2006/07/21(金) 22:07:18 ID:P6wZ2uY40
どっちにしろ、プロットだけ見せられて面白い面白くないとか評価できません。
迷うくらいなら投下しろ。もしくは投下するな。
453名無しさんだよもん:2006/07/21(金) 22:07:48 ID:RHOk2JAM0
ん〜。俺は別に BAD ENDも好きだがな。
世間一般に受け入れられるかどうかはわからんが・・・
454名無しさんだよもん:2006/07/21(金) 22:11:54 ID:pwkWAHEA0
最初に展開ありきのキャラ暴走タイプだな。
ささらシナリオの中盤みたいな感じで。
別に嫌いじゃないけど、もともとサイトで公開してたものを
わざわざ貼る意味がわからん。
455名無しさんだよもん:2006/07/21(金) 22:12:34 ID:pwkWAHEA0
って、受け入れられるってもここに貼るとは言ってないな。ごめんw
456名無しさんだよもん:2006/07/21(金) 22:21:02 ID:J0q2WeKj0
展開に無理があって暴走してるってならU-1ならぬU-2だなw
457名無しさんだよもん:2006/07/21(金) 22:31:20 ID:G/wLCRRG0
>>450
とりあえず投下してみたら?
書いたものは見せたいのがやっぱり基本だと思う。
見せたがりが俺たちの性、ほれ〜〜、投下しれ〜〜w
458名無しさんだよもん:2006/07/21(金) 22:34:09 ID:RHOk2JAM0
>>457
ホムペ閉めたって言ってるからもう無いんじゃね??
でも自分で書いた小説とかは保存しておくか・・。
459名無しさんだよもん:2006/07/21(金) 22:45:02 ID:G/wLCRRG0
>>458
無かったら「こういうのって受け入れられるんかな?」とは聞いてこないんでね?
見せたいから、落としてもいいか気にかかってるもんだと思ってた。
460名無しさんだよもん:2006/07/21(金) 22:46:59 ID:RHOk2JAM0
>>459
まぁとりあえず、 ID:dsd/4Hwl0 の反応待ちしかできん罠
461名無しさんだよもん:2006/07/21(金) 22:54:53 ID:G/wLCRRG0
そりゃ、そーだww

まぁ、俺的には色々なのを読みたいから、投下して欲しいもんだ。
ヘタレじゃない雄二なんて少なくとも俺には絶対書けないしねー。
462名無しさんだよもん:2006/07/21(金) 22:55:31 ID:J0q2WeKj0
たぶん原作とは別人になってるとおもう
463名無しさんだよもん:2006/07/21(金) 23:01:58 ID:i5rNX13G0
虹の時みたいにならなきゃ良いんだが……それだけが心配だ
464450:2006/07/21(金) 23:15:52 ID:+hasKteIO
パソがフリーズしたんで携帯から。
一応パソに保管はしてますが、視点が由真だったりかなり分かりづらい構成です。
今はパソの復旧作業に当たってるんで、直りしだい手を加えて投下します
465名無しさんだよもん:2006/07/21(金) 23:17:21 ID:RHOk2JAM0
>>464
おお。期待してますー
466名無しさんだよもん:2006/07/21(金) 23:19:00 ID:7G+Crw7RO
確かに鬼畜とか欝100%系統の板から見てアウトローの話は
人によっては不快に感じる人もいるだろうからね・・・

投下するにしても始めに注意の表記をするとか
別のどっかのサーバースペースに載せるとかしたほうがいいんじゃないか?
467名無しさんだよもん:2006/07/21(金) 23:47:19 ID:G/wLCRRG0
でもまぁ、アダルト〜なヤツとかは確かにちょっと落とす時に考えちゃう罠。

照れくさいし、嫌がられたらどうしよ〜とか思うし。
見せたいけど、見せたくないってアレだなw
468450:2006/07/22(土) 00:31:19 ID:XRa4x1BvO
orz
パソのデータが全部消えて・・・。


代わりにるーこと貴明二人のネタなんか投下しますね(今から)
469450:2006/07/22(土) 00:32:30 ID:XRa4x1BvO
それは、酷く暑い日の事だった。

「・・なぁるーこ」
「どうしたうー。夕飯にはまだ早いぞ」
「いや、違うから」

何時ものような、他愛ない話。
そう、この後るーこと買い物に行って、夕飯を作って貰って、一緒に夕飯を食べて、で後は恋人たちがやることをやるだけ。
それが、何時も通りのスタイル。
宿題などタマ姉に言われる前に片付けなければ何を言われるか分からないし、早々に終らせている。
だが。

「なぁるーこ。聞きたいんだが」
「今晩はカツ丼だぞうー。付け合わせはポテトサラダと大根の味噌汁だ」
「そうじゃなくてさ。・・・るーこと、今まで避妊したことなかったような気がするんだけど」


一秒。二秒。
微妙な空気が俺とるーこの間に流れ・・・・。

「そうかうー。カツ丼よりうな重とスッポンの吸い物がいいのか」
「違う。はっきり言うと、るーこ、危険日とかなかったのか?」
「あった。今まで合計八回程中に出された」

気持ち良かったぞ、今晩もたっぷりとだな、何て呟くるーこ。
夏の暑さでるーこの頭のネジが溶けたと考えて、オレは考えてみる。
470450:2006/07/22(土) 00:34:10 ID:XRa4x1BvO
るーこは危険日に八回程中に出されたと。
で、それはつまるところ子供が出来る恐れ大と。

「・・・オレ、この歳でパパか・・・」
「何を言っているうー。るーはうーの子を孕んでなどいないぞ」
「・・・嘘だ・・」

きっとるーこはオレに気を使っているに違いない。
そして一人で黙って子供を育てるつもりで・・!

「るーこ!」
「るー!?い、いきなりどうしたうー!?」
「子供が出来たって隠さないでいいんだぞ?」
「隠してなどいない。もしるーがうーの子を孕めば、第一に話す」

るーこは真剣な目でオレを見ている。
あぁ、そうだ、とオレは確信した。

るーこはきっと疑う事などなくオレを信じているに違いない。
理解者として、恋人として、最大限の信頼をしてくれてるのだろう。

「どうしたうー?よもやうーはるーの子はいらないのか?」

るーこは、不安そうな顔で。
471450:2006/07/22(土) 00:35:01 ID:XRa4x1BvO
しかしそれを隠すように笑うと、中絶をも受け入れるから側にいたいなんて言って。
そんなるーこの顔を見て、オレはオレの失敗に気付いた。


「大丈夫だぞ、るーこ」

るーこの頭を撫でる。
さらさらの髪から、少し汗の混じった匂いがする。

「オレは、ずっとるーこの側にいるから。中絶なんて考えなくていい。子供が出来たら産んで欲しい。オレ、働くから」
「うー・・・・」


るーこは少しばかりくすぐったそうに微笑むと。

「うーならば、そう言ってくれると信じていた。・・我慢出来ない。今から、抱いてくれ」

NO、なんて言える訳がない。
オレとるーこはそのまま寝室で三回、汗を流すために入った風呂場で二回、計五回も昼間から愛し合って。
そして、絆を確認した。




半年程後に、本当にるーこが妊娠することになるのは、まだ知らないこと。
472450:2006/07/22(土) 00:36:22 ID:XRa4x1BvO
短いのですみません。
最初はコメディックにしようとしたんですが、長々と・・・。
改行が多すぎるのは癖らしいんで、容赦下さい。


では
473名無しさんだよもん:2006/07/22(土) 00:44:10 ID:gzmu4rr10
>>472
乙です。
るーこSS、少ないんで大喜びですw
それにしてもルーシーじゃなくてるーこに子供が出来たらどうなるんだろ??
って言うか出来るのかな??

まぁ、いいとして。

それにしても全部のデータを消してしまうとは……

うかつだぞ、うー450
474名無しさんだよもん:2006/07/22(土) 00:48:09 ID:tJO3ErL10
>>472
乙っす。
黒いのをいつまでも待っているよ……
475名無しさんだよもん:2006/07/22(土) 00:52:18 ID:MMWUosFJ0
>>468
ちょwww何事だwwwww
HDDでも壊れたか?
unknown errorとか出てた?
476かみさまがくれたもの:2006/07/22(土) 02:50:58 ID:PyqE/Y+V0
うう、後編完成しますた。
寝る前に投下して行きます。

これは>>436-445のSS、「かみさまがくれたもの」の後編です。
それでは、ゆるゆると落とさせていただきます。
477かみさまがくれたもの〜後編(1/11):2006/07/22(土) 02:53:48 ID:PyqE/Y+V0

 俺はどうして、姫百合家の風呂場で裸のイルファさんに絡み付かれてるんだろ?
 すべすべのイルファさんの肌が、泡の力を借りてぬるぬるとあちこちを這い回る。
 イルファさんの髪が、指が、太ももが、ぴんと勃った乳首が、張りのある胸が……
 石膏に固められたように動けない俺の背中、腕、首筋、胸、腹、脚を……

 頭の芯に靄がかかってしまったように、なにも考えられない。
 ただ、イルファさんに触れられている部分だけがひどく、熱く感じる。
 もう、身体は完全に彼女に魅了されていた。
 何故、イルファさんはオレに触れてはくれないのだろう?
 欲しい、欲しい、欲しい、彼女が、欲しい。
 今すぐ触れて欲しい今すぐ口に咥えて欲しい今すぐ……

 でも、心はまだ、必死にブレーキをかけ続けようとしていた。
 ……愛しい、赤い髪の少女は泣かせたくないから……

「イルファ、さん……」
 かぷ。
 優しく、イルファさんの唇が耳朶を噛んだ。
「今日はイルファ、と呼んで下さい……」

 はむ。はむ。はむ……
 ぺろ。ぺろ。ぺろ……

 右の耳を、丹念に彼女の舌が這いまわる。
「……何故、こんな事を……?」
 やっと。
 湧き上がる何かに耐えながら。
 俺はやっと、それだけを訊ねる事が出来た。
478かみさまがくれたもの〜後編(2/11) :2006/07/22(土) 02:55:35 ID:PyqE/Y+V0

 イルファさんはゆっくりと俺の耳を解放すると、囁くようにこう言った。

「ミルファが、羨ましいから。」

 そして、今度は左の耳が、彼女の舌の蹂躙を許す事になった。
 それは……きっと事実だ。
 なんとなく、俺はそれを確信していた。


      イルファの夏休みSS 「かみさまがくれたもの 〜後編〜」


「どうして……こんな……コトを……イルファ……さん」
 ぴくん

 イルファさんの動きが、止まった。
 ……するり、とすべるように俺の前に回ってくる。
 そして音を紡ぐことなく、口が幾つかの文字を形作った。
『い……る……ふ……あ』
 そしてにっこりと微笑む。
「キス、してくれたら、教えて差し上げます」
 目の前に、顔を寄せるようにして。
 甘い、息が薫るほどの距離に近付いたイルファさんの顔。
 ミルファに良く似ているが、少し落ち着いた、大人びた印象を受ける美しい顔。
 吸い寄せられるように……
 俺は彼女の柔らかい唇に、唇を重ねていた。
479かみさまがくれたもの〜後編(3/11):2006/07/22(土) 02:57:07 ID:PyqE/Y+V0

「貴明さん……ちゅ〜ではなく……キス、ですよ……」

 はむっ……
 はじめは優しく、擽る様に。
 次第に、じっくりと、ゆっくりと、味わう様に。
 もう……オボれたい……
 ……ダメだ……オちる……

「はふぅ……気持ち……いいです……」

 ……気持ち、いい?
「本当に?」
 くすっと、イルファさんが笑う。
「ミルファに、聞いたんですね? ……私たちには『感じる能力』がないってコト……」
 ちゅ……
 再び、重なる、くちびる。
 再び、洩れる、吐息。
「……気持ちいい……本当ですよ? 私には性感反応プログラムはないはずなのに……気持ちいい。」
 とろけるような微笑。
 ぎゅ……っと、正面から彼女が抱きついてきた
 ふに……っと、弾力のある胸が押し付けられている。

 くちゅ……

 気が付くと、そそり立つオレ自身の上に、暖かい、湿ったなにかが擦りつけられていた。
 じわじわと、弄る様に。
 吸い……込まれるような、イルファさんの……
 歯を食い縛る様にして、俺はその蠢きに耐えなければならなかった。
480かみさまがくれたもの〜後編(4/11):2006/07/22(土) 02:58:46 ID:PyqE/Y+V0

「イル……ファ……」
 俺はそっと、彼女の背中に手を回す。
 こくり、と頷くイルファ。
 そっと、震えるその身体を抱きしめる。
 ゆっくりと、ゆっくりと……
 
 ぶるっ……

「あ……あ……ああ……っ」

 喘ぎながら、少しずつイルファが腰を、下ろしていく。
 オレが、じわじわと、イルファのナカに……
 飲み込まれる。

「嬉しい……私にも感じる……貴明さんが感じられる……」

 熱い、蜜壺が。
 ぞろり、とオレを撫で上げる。
 イルファの腰が、俺の上で円を描くたびに。

「これが……貴明さん……これを……感じてみたかった……」

 夢中で、俺たちは唇を重ねた。
 ……抱き合って、何度も、何度も、お互いを、貪るように。

「……キス、気持ちいいです……」

 オレを咥え込んでいる所がみしり、と喰い締めてくる。
481かみさまがくれたもの〜後編(5/11):2006/07/22(土) 03:00:10 ID:PyqE/Y+V0

 イルファのナカに、出たり入ったりするごとに。
 じり、じりと。
 背筋から這い上がるように、ナニかが近付いてくる。
 決して激しくなんかしていないのに……
 ……耐えられない……

 イルファが少し、俺から顔を離した。
 妖艶な微笑を浮かべた口元が、声にならない言葉を紡ぐ。

『た・か・あ・き・さ・ん……あ・い・し・て・い・ま・す……』

「……っく!」
 びゅっ!……びゅく……びゅく……。

 たまらず、オレは全てを吐き出していた。
 吸い尽くすかのように蠢く、熱い、イルファの膣奥へと。
 ……く、止まらない……

 びゅく……びゅく……。びゅく……びゅく……。

 物おし気に、イヤイヤをするように、俺の上で腰をくねらせるイルファ……
 柔らかい笑みを浮かべた口元が、一語一語、区切るように。
 その科白を紡いでいた。

『せ・い・え・き……あ・た・た・か・い・で・す・よ』

 随分長い間射精していたような気がする。
 ようやく、オレの強張りが脈打つのを止め……
482かみさまがくれたもの〜後編(6/11):2006/07/22(土) 03:01:30 ID:PyqE/Y+V0

 ぐったりと、本当にぐったりと、俺はイルファの胸に顔をうずめた。
 大きく、息を一つ吐き出す。
 呼気と一緒に、一気に体外に緊張感が放出されるようだ。
 静かな、でもひどく充実感のあるセックスだったな……
 優しく、抱き締めてくれる彼女に、フレンチキスを一つ。
 何故か彼女が泣いている気がして、目尻にももう一つ、キスをした。

 そうしてようやく、イルファはずっと俺に押し付けていた身体を起こした。

 ごぽっ……

 ……名残を惜しむように、ゆっくりと離れたイルファの奥から、音がするほど大量の白濁が零れ落ちた。

    ◇         ◇         ◇         ◇

 しゃしゃ〜〜……きゅきゅっ!

「ごし、ごし、ごし……」

 むに、むに、むに……

「あぅあぅ、あの〜〜、イルファ……さん?」
「はい?」
 いつもの、どこかお茶目な、でも上品な笑顔。
 俺の大好きな、イルファさんの。
 つややかな、青い髪。
 キラキラと輝く、アメジストの瞳。
 それはやっぱりとても綺麗で。
483かみさまがくれたもの〜後編(7/11):2006/07/22(土) 03:02:52 ID:PyqE/Y+V0

「当たって……マスよ?」
「何が、ですか?」
 してやったりと言う風に、すまし顔になるイルファさん。
 更に、こりこりとした乳首で俺の背中をイタズラしはじめる。
 む〜〜、完全に遊ばれてるな〜〜。
 仕方が無いので……

 俺は黙って遊ばれている事にした。

「はぁ〜〜い、綺麗になりましたね〜〜☆」
 しゃしゃしゃ〜〜っ……
 あ〜〜、気持ちいい。
 誰かの手で世話されるのって、ホント気持ちいいんだよね。
 っていうかいつもこんな事されてるとすぐ堕落しそう。
「さあ、それではお風呂につかりますよー。」
 って……
「なんで子供扱いかな〜〜?」
「ほら、あれですよ。一度貴明さんの……を受け入れると、なんだか可愛く感じちゃうんですよ〜」
「そういうものなのかな〜〜?」
「私にも良くわかりません♪」
 並んで、浴槽に浸かる俺たち。
 ……はぁ、じわりと、お湯の中に心地好い疲労が溶け出すね。
 お湯から、いい香りがするからかな。
「ラベンダーとマリーゴールドを入れてあるんですよ」
 あう、思考を読まれました。
「落ち着きます?」
「そういう効果があるの? ラベンダーとかって」
「はい。そうなんです」
484かみさまがくれたもの〜後編(8/11):2006/07/22(土) 03:06:21 ID:PyqE/Y+V0

 お湯のところどころに浮いている花びらを集めて、イルファさんは俺に差し出した。
 うん。確かにいい香りがするなぁ。
 でも。
「でも、イルファさんとこんなコトしてると、ドキドキしちゃって落ち着かないよ〜」
 ……。
 瞬転。
 イルファさんの表情がすっと引き締まる。
「本当に……?」
「え……?」
 物問いたげな、瞳。
 何かに怯えるような、泣いている様な。
「いやですわ〜〜、貴明さんったら! お・茶・目さん☆」
 ……あの一瞬は……
 なんだったんだろう?

    ◇         ◇         ◇         ◇

 ……結局、イルファさんが何故こんなコトをしたのか。
 彼女は明確な答えをくれはしなかった。
 いや、俺も『本当の答え』が怖かったのかもしれない。
 何故なら俺も強いて聞く事はなかったのだから……

 イルファさんは、その夜もベットに忍んで来て激しく俺を求めた。

 俺が彼女の中で達する度に、彼女はとても幸せそうで、そしてどこか哀しそうだった。
 だから俺は……もっと激しく彼女を求めた。
 後ろ暗い気持ちがなかったといえば嘘になるけれども。
 イルファさんに、俺のありったけを、あげたかった。
485かみさまがくれたもの〜後編(9/11):2006/07/22(土) 03:08:02 ID:PyqE/Y+V0

 それしか、出来ないような気がしたから。

 次の日の朝……

「おはようございまーす! 朝ですよー!!」

 何事も無かったように。
 そこには明るいいつものイルファさんがいた。

「ミルファちゃんも帰ってきましたよー!」
「もう! シルファがって言ってたのに、なんでイル姉が居るのよ!!」
 ドアの向こうからはいつもの喧騒。
 ミルファが噛み付き、イルファさんがいなす。
 見慣れた風景。
「まさか……全部姉さんの陰謀なんじゃないでしょうね〜〜。」
「誤解よ〜〜。偶然よ〜〜♪」
「ううううう〜〜、イル姉、昨日のデータファイル見せろぉ〜〜!!」
「見られるものなら見て御覧なさい〜〜♪」
 昨日の事は……夢だったのかな……
 俺は……イルファさんと……
 確かに、そんなコトは……
 その時。
 ドアの向こうの、イルファさんと目が合った。
 整った彼女の口元が、にっこりと微笑みの形を作る。
 アメジストの瞳が、哀しげに、曇る。

 どくん。
486かみさまがくれたもの〜後編(10/11):2006/07/22(土) 03:09:34 ID:PyqE/Y+V0

 俺の心臓が、一つ大きく高鳴った。
 妙にゆっくりとした時間が流れる中……
 イルファさんの口が、しずかに、声にならない言葉を紡いだ。




『ま・た…………だ・い・て・ね』



                              〜〜終わり☆



 ミルファと一緒に、家への帰り道。

「さてと……」
 ごそごそ。ごそごそ。
 川原の道に差し掛かったとき、ミルファが背負っていた大きな荷物を開きはじめた。
「どしたんだ? ミルファ」
「ん〜〜〜??」
 がちゃがちゃ。
 かしゃん!
 しゃこっ!
「……なぁ」
 じゃきっ!
「どうしました? 何か気になる事でもありました? 貴明様」
487かみさまがくれたもの〜後編(11/11):2006/07/22(土) 03:11:19 ID:PyqE/Y+V0

 いきなりなんですか、その気持ちの悪い敬語は?
「つかさぁ……」
 お前が持ってるソレ……なんか豪くごつい銃に見えるんですけど。
 ライフルって言うのもおこがましいと言うか……
「それ、何?」

 ミルファは無言で特大の弾巣を取り出し、「ソレ」に装着した。
 今の、コッキングレバーのとんでもなく長いストロークは、何を意味するんだろう??
 そして『にっこり』と満面の笑みを浮かべた。

「見てお解りになりません? クルスガワAMT−08、20mmアンチマテリアルライフル。戦闘ロボット
 用に開発された、大型狙撃銃ですよ!」

 おわかりになりません!
 なりたくもありません!
 って言うか20mmってなんですか!
 零式艦上戦闘機ですか? それともU号戦車ですか!?

「さあ! きりきりと昨夜の出来事をお話下さいね〜。 大丈夫、死刑の執行にはコレを使って差し上げま
 すからご安心下さい。全然、痛くなんてありませんよ〜〜♪」



                              〜〜これで本当に終わり☆
488かみさまがくれたものの人:2006/07/22(土) 03:16:57 ID:PyqE/Y+V0
むー、やっぱ恥ずかしいっすね。

ともあれ、イルファでアダルトSS、いかがだったでしょうか。
それにしても私はミルファメインで書いているはずなのに、何故イルファのアダルト版を
先に書く事になったんだろう??
いや勿論イルファもシルファもすきすきすき〜ですけどね。

とりあえずこれにてイルファ3部作w終わりになります。
またちょぼちょぼと書いたら(今度はミルファメイン!)投下しに参ります。

ではでは、お目汚し失礼いたしました。
おやすみなさ〜〜い♪
489名無しさんだよもん:2006/07/22(土) 04:09:37 ID:1cn+wVft0
深夜に乙、そしてGJ!
イルファさん可愛いよw


ミルファメインもかなり期待!!
密かにシルファメインにも期待www


490名無しさんだよもん:2006/07/22(土) 04:19:25 ID:RAY3jm360
>>488
GJでつ!やっぱイルファさんいいでつね!
寝ようと思ったら投下されてて、不覚にもおっきして眠れなくなってしまいますた。 ><
双子回想モード行ってきまつ・・・。
次回作にも期待でつ!
491名無しさんだよもん:2006/07/23(日) 10:00:06 ID:BFtsMj0h0
>>488
GJ! 一気に全部読みました。
ただのエロってだけじゃなくて、ちゃんと貴明とかイルファの心情が描写されてるのがグッド。

三部作完と言われてるのに第四部見たいと思ってるのは俺だけですか、そうですか。
ミルシルにも期待。
492488:2006/07/23(日) 10:26:00 ID:51RoMgVS0
ほえ? 結構好評?

いや、今俺の中のイルファさん結構走ってるから、もっと書こうと思えば書けるかもしんないけど……
ちょっとミルファが不憫なだけで…… (-_-;)
考えてみると「3部作」ちゅーても「たましいのありか」「かみさまがくれたもの」で2部分しか書いて
ないやん! って気が密かにしてたし、じゃあ近々イルファさんの夏休みSSもう一本書こうかな。

という訳で調子に乗ってイルファさんSSもう1本書いてみますねー。
エロくするかはわからんけど。
んー、じゃあ、あれかな? 浴衣着て神社でデート。神社にはじまり神社に終わる。
今度はミルファも絶対阻止を目指すかもしんないし、どうなるかわからんですが……
まぁ、次はミルファメイン書くとして、ぼちぼちとがんばってみます。
493名無しさんだよもん:2006/07/23(日) 14:33:03 ID:NJpoBQu20
個人的にHMX絡みでない姫百合SSが読みたい。 けしてイルファミルファ絡みが多い今のSSに文句がある訳じゃなくて。 単に姫百合終いが好きだから。 独り言スマソ。
494名無しさんだよもん:2006/07/23(日) 15:28:49 ID:3M9FLdCu0
俺は白詰草さんの作品が読みたいな
495白詰草 ◆Pd9gE38GCU :2006/07/23(日) 16:44:31 ID:3UAinkAH0
>>494
期待してくれてたいへん嬉しいですが、
しばらく自サイト用のるーこ短編にかかりきりになるので、
ここに投下するためのものを書けないんですよ…。
あ、期間は空いても、「パジャマ」「ソロモンの指輪」ともに続きはちゃんと書くんで。

いや、決して、D.C.2おもしれーなーとかでサボってるわけじゃないですよ?
496心を持ったメイドロボ 1/19:2006/07/23(日) 22:13:50 ID:4sEHxgld0
 最近、向坂環は機嫌が悪い。
 理由は簡単。4月から河野貴明と事あるごとにくっついてまわっているあの双子のせい
だ。
 いや、あの双子は別に問題ない。むしろ、あの女の子に対して臆病すぎる河野貴明には、
良い経験だとさえおもっている。
 では何が彼女の機嫌を悪くしているのか。正確に言うのならそれは、双子よりもむしろ、
その双子のところにいるメイドロボのせいだ。

 唐突だが向坂環はメイドロボが嫌いだ。
 嫌いだというよりも、理解できない。
 人件費の削減だとか、そういった理由ならまだわかる。でも、なぜ、弟をはじめ世の人
たちはああもメイドロボのことを有難がるのか。
 結局メイドロボなんて、人の形をしただけの機械ではないか。機械がいくら人間のよう
に振舞ったとしても、そこには人間のような温かみが無いし、第一心が無い。
 常々そう考えていたし、自宅ではメイドロボ導入を叫ぶ弟に日々教育を施す毎日だった。
 そんなメイドロボ嫌いの向坂環の前に、ある日、河野貴明がメイドロボを連れてきた。
 連れてきただけならまだ良い。聞けばあの双子の姉の方は、来栖川で顧問をやるような
優秀なメイドロボ研究者だと言うではないか。そんな彼女がメイドロボの一つや二つ持っ
ていても不思議はない。あとはただ河野貴明に、そんなロボットよりも私が家事でも何で
もしてあげる。そう言えば事は済むはずだった。
497心を持ったメイドロボ 2/19:2006/07/23(日) 22:14:55 ID:4sEHxgld0
 河野貴明から、次の一言を聞くまでは。

「俺の、大切な人なんだ」

 最初はたちの悪い冗談かとも思ったが、どうも河野貴明はそれを本気で言っているらし
い。目を見ればわかる。河野貴明は、本気でそのメイドロボを愛していると言ったのだ。
伊達に何年も河野貴明のことを見つめ続けてきたわけではない。
 おかげで向坂環はひどく混乱することになる。

 なんだそれは。
 
 「大切な人」?

 タカ坊、それは人間じゃなくてロボット、機械なのよ!?

 なんとかそれをその場で叫ばずに済んだのは、河野貴明の隣に、そのメイドロボが立っ
ていたからだろう。
 河野貴明のそのセリフに、瞳を潤ませて。
 まるで、好きな相手から告白を受けた女の子のように。
498心を持ったメイドロボ 3/19:2006/07/23(日) 22:16:24 ID:4sEHxgld0
 おかげで向坂環は機嫌が悪い。
 河野貴明がメイドロボなんかにはしった事も機嫌を悪くさせるなら、そのメイドロボ相
手に嫉妬してしまった自分にも腹が立つ。
 本当なら、そのセリフは自分が聞かせてもらうつもりでいたのに。
 河野貴明の隣にも、自分が立つ予定だったのに。
 これで河野貴明が連れてきたのが、他の、人間の女の子だったらここまで混乱すること
もなかっただろう。
 例えばあの双子。どちらと付き合うにせよ、2人のことを向坂環は素直に祝福したにち
がいない。
 でも、まさか河野貴明の好きな相手が血も通っていないロボットで。その心なんてない
はずのメイドロボは、まるで人間の女の子のような表情をするのだから。
 そんな気持ちに整理を付けられないまま、今日も向坂環は学校に向かう。
 教室に入って、自分の席に座っても気持ちは落ち着かない。そもそもそれくらいで整理
の付けられる感情なら、とっくに決着が付いている。おかげで今朝もまた、そんな答えの
見つかりそうにない問題に悩むことになるのだ。
499心を持ったメイドロボ 4/19:2006/07/23(日) 22:17:36 ID:4sEHxgld0
 だから、向坂環はそのことに気が付くことができなかった。
 いつもなら教室に入ってきてすぐ号令をかける担任が、今日はそうしなかったことに。
 開けっ放しにされた教室の入り口から、彼女が中に入ってきたことに。
 そんな彼女を見て、クラス中からどよめきの声があがったことに。
 向坂環がそのことに気が付いたのは、彼女が黒板に自分の名を書いて、お辞儀をしたあ
とのことだった。

「HMX−17a“イルファ”と申します。一週間と言う短い時間ですが、どうか皆様よ
ろしくお願いいたします」

 
500心を持ったメイドロボ 5/19:2006/07/23(日) 22:19:27 ID:4sEHxgld0
 休み時間の校内を、異様な一団が移動していく。バラバラの学年の男女で構成された一
団は、場所を移動するごとにその人数を増やしていった。
 中心に居るのは2人。向坂環と、彼女に校内を案内してもらっているイルファ。
 そして、そんな2人を距離をおいて取り囲む野次馬たち。
 来栖川の新型メイドロボを一目見ようと集まった彼らを、向坂環は気にも止めないよう
にイルファを連れて歩いていく。
 実際のところ、野次馬どころではない。
 このところのイライラの、その原因が。よりにもよって自分と同じ制服を着て、同じ学
年の同じクラスにやってきて、しかも校内の案内しているのが自分自身というのだから。
 周りに誰もいないのなら、何の冗談だと叫びだすところだ。
 もちろん、こんな人の多いところで、しかも隣にこのメイドロボがいる状態でそんなこ
とをできるわけがないのだけど。
 だが今朝教室に入ってきたイルファをみて、思わず驚いた表情をつくってしまったこと
が運の尽きだった。
 もとより教師からの信任が篤い向坂環。なんだ向坂、イルファのことを知っているのか。
じゃあ、次の休み時間に校内を案内してやれ。
 思わず頭を抱えたり、そのことを表情に出さなかっただけ向坂環はさすがというべきだ
ろう。
501名無しさんだよもん:2006/07/23(日) 22:21:11 ID:4tewQeGF0
連投支援
502心を持ったメイドロボ 6/19:2006/07/23(日) 22:21:24 ID:4sEHxgld0
「それで、向こうが学食ね。これで一通り校内の施設は案内したけど、どこかわからない
ところはあった? イルファ」

「いえ、だいたいは理解できました」

 今だって、こうやって校内を案内するだけでもう必死なのだ。
 そこへ一緒に歩くイルファ。

『申し訳ありません。メイドロボの私が向坂様にお時間を割いていただくなんて』

『気にすること無いわよ。先生にも言われたことだし。それに、河野貴明の姉代わりとし
てこれくらいは当然じゃない? イルファはタカ坊の大事な人なんだから』

『い、いえ、そんな私が貴明さんの・・・・・・だなんて』

 思わず教室を出るときに言ってしまった河野貴明の名前。
 そして河野貴明の名前が出たときに見せた、この表情。
 心なんてないはずなのに。まるで気持ちがあるような顔をする。いや、本当にこのイル
ファはロボットなのだろうか。
 だんだんと、教室の影からドッキリの看板を持った人間が飛び出してくる妄想に駆られ
始めた。
503心を持ったメイドロボ 7/19:2006/07/23(日) 22:23:26 ID:4sEHxgld0
 ひっかかったな姉貴。今までのは全部俺たちが考えた嘘だったんだ。
 それにしてもタマ姉がこんなにうまく引っかかるとは思わなかったよ。もちろんイルファ
さんはメイドロボじゃなくて人間だし、俺が言ったセリフも全部台本通りだったんだよ。

「向坂様? どうか、なさいましたか」

「い、いえ、なんでもないわよ。ちょっと考え事していただけだから」

 けれどそんな不毛な妄想が実際に起きることもなく、もちろん看板もカメラも飛び出し
てこない。

「だいたい案内もできたし、そろそろ戻りましょうか。クラブ棟の方は、またお昼休みに
でも案内してあげるわ」

 ついうっかり落としそうになる肩を、努力して正す。いくら調子が落ち込んでいても、
背筋を曲げて歩くなんて無様な真似、できるはずがない。
 たとえ相手がメイドロボでも、いや、メイドロボだからこそ。毅然とした態度を取り続
けなくてはならないのだ。

「あの・・・・・やはり私の案内、向坂様のご負担になっていませんでしょうか」
504心を持ったメイドロボ 8/19:2006/07/23(日) 22:25:10 ID:4sEHxgld0
「もう、だからそんなことは無いって言ってるじゃない」

「ですが、時々難しいお顔をなさいますし。やはり何かご予定があったのでは」

 負担になっていると言うのは当たらずとも遠からずといった所だが。だからってまさか、
イルファを案内しているせいでこっちは考え込んでしまっているのだ、と言うわけにもい
かず。
 向坂環にすれば、相手はロボットなんだから、そんな向こうの気持ちを考える必要本来
はないはずなのだけれど。

「それとも、私に案内されるよりもタカ坊の方が良かった? それはそうよね、なんと言っ
てもイルファは、タカ坊の『大切な人』なんだから」

「い、いえ、そんな」

 更に。うろたえるイルファに、向坂環は自己嫌悪だけを大きくするハメになる。
 抑えきることのできなかった気持ちと、いつもの向坂環らしくもない、そんな皮肉めい
た言い方に。
 薄々感じていた、自分のイルファに対する羨望を見せ付けられたような気がして。
505心を持ったメイドロボ 9/19:2006/07/23(日) 22:26:38 ID:4sEHxgld0
 そして現実は、どこまでもそんな向坂環にとって残酷なもので。

「い、イルファさん!?」

 しかも、よりにもよって一番最初に叫んだのがその名前。

「貴明さん」

 追い討ちをかけるようにイルファの声。
 そして自分を追い抜いていく足音。
 
「え、なんでイルファさん学校に・・・・・・それにその制服」

「はい、珊瑚様がお願いしてくださったんです。研究所の方に、運用テストということで
私がこちらに来られるよう」

 固く手を結ぶ2人。
 どよめく野次馬。
 もう、目眩でも起こしそうだ。
506心を持ったメイドロボ 10/19:2006/07/23(日) 22:28:10 ID:4sEHxgld0
「一週間の短い間ですけど、私、貴明さんたちと一緒に学校に通えるんです」

「そう・・・・・・なんだ。でも嬉しいよ。一週間でも、イルファさんと学校でも会える
なんて」

 周囲の目さえなければ、そのまま抱き合いでもしそうな2人の様子に野次馬たちの期待
も盛り上がる一方で。

「ちょっとタカ坊。イルファも。2人で盛り上がるのは良いけど、もうちょっと時間と場
所を考えなさい」

 けれどただでさえ自己嫌悪に陥って、イルファに対して気持ちの整理の付かない今の向
坂環。自分の目の前で、周りの期待通りに2人がなることを、黙ってみていられるわけが
なく。

「た、タマ姉、なんでここに!?」

 ただ、河野貴明からそんな返事が返ってくるんじゃないかなぁと言う予感は向坂環には
あって。
 だって、河野貴明、イルファ以外の物が目に映っているようには見えなかったし。
507心を持ったメイドロボ 11/19:2006/07/23(日) 22:29:33 ID:4sEHxgld0
 溜息のひとつも漏らしたくなるのを必死にが我慢する。
 溜息をついたとたん、今までの自分の気持ちや悩みが、全部無駄になるんじゃないかと
思えてしょうがないせいで。
 例えイルファがどんなに人間のように見えたところで、ロボットはロボット。いくら2
人が仲睦まじそうに見えたとしても、そんなものはきっとプログラムでしかないのだ。
 手を硬く結び合って寄り添う2人が、まるで何年も連れ添った恋人に見えたとしても。
 心を持たないロボットが、心からの笑顔を貴明に向けていたとしても。
 メイドロボに、イルファに河野貴明を愛することなど、できないはずなのに。
 なのになんでタカ坊とイルファが笑いあっているのを見るだけで、こんなに胸を締め付
けられるような気分にならなければならないのか。
 その気持ちが、嫉妬だとか羨望だとか言うものだと向坂環は知っているはずだし、薄々
気が付いているはずなのだけれど。
 けれど向坂環は、その気持ちを必死になって隠そうとしてしまう。

「あのねタカ坊。イルファは私たちのクラスに入ってきたの。初めてこの学校に来たクラ
スメイトに、校内を案内するのは当然でしょ」

 河野貴明にとって、向坂環と言う人間は、そんな情けない気持ちを抱くことのない人間
な筈だから。
508心を持ったメイドロボ 12/19:2006/07/23(日) 22:31:05 ID:4sEHxgld0
「もう、何年も面倒を見てあげたタマお姉ちゃんの言うことは信用しないのに、イルファ
の言うことは信じるの、タカ坊」

だから向坂環は、河野貴明の前では彼の考える向坂環を演じ続けなければならないし。向
坂環は、たとえ河野貴明が愛したのが機械だって、それを理解してやらなければならない
のだから。

「はいはい、ごちそうさま。でも人前でいちゃつくのもほどほどにしなさいよ」

 いっそ、イルファが本当の人間だったら良かったのに。
 それだったらイルファのこの笑顔も、タカ坊に向ける眼差しも、2人のこの愛情だって、
全部本物だって思うことができるのに。
 そう、思ってしまう。

「それじゃあイルファさん。私は先に戻っているわね。タカ坊、ちゃんとイルファのこと
送ってあげなさいよ」
509心を持ったメイドロボ 13/19:2006/07/23(日) 22:32:32 ID:4sEHxgld0
 そう言って、向坂環は踵を返す。
 心配なのは、ちゃんと今、いつも通りの表情でいられたかどうか。
 いつもなら、いつもの通りの向坂環ならそれくらい、なんの問題も無くこなせただろう。

『ただ、俺はイルファさんと学校でも一緒にいられるのが嬉しくて』

 最後に、2人の前から立ち去る前に、河野貴明の口からそのセリフさえ聞いていなけれ
ば。
 最初から、とっくに我慢の限界などは超えていたのだ。ここで向坂環が2人の前から、
まるで逃げ出すように離れたとしてだれが彼女のことを責められるだろうか。
 野次馬の輪から、何でも無いという風に抜け出したところでもう無理だった。
 振り返りもせず、教室に向かうことも無く、一目散に屋上に向かう。途中で誰かに呼ば
れた気もするが、今の向坂環の耳にそんなものが入るはずも無い。
 ようやくたどり着いた屋上には、幸い誰の姿も見当たらなかった。

「なぁにやってるんだろうなぁ、私」

 冷静に今の自分を考えることができるくらいには、落ち着いて来たようだ。
 休み時間もそろそろ終りになる。教室に戻らなければいけないのだが、果たして、今の
向坂環にイルファの顔をまともに見ることができるのかどうか。
510心を持ったメイドロボ 14/19:2006/07/23(日) 22:34:14 ID:4sEHxgld0
「でも、仕方ないじゃない。タカ坊が、あのメイドロボのことを好きだって言うんだから」

 そう嘯いててはみるが、自分で自分の言ったことに、まるで共感できていない表情をす
る。
 向坂環だって気が付いているはずなのだ。
 けれどイルファはロボットで、そのせいで、今向坂環は屋上にいる。

「向坂様」

 扉の開く音がする。
 彼女が振り向くと、屋上の入り口のところに青い髪のメイドロボが立っていた。

「イルファさん? そろそろ授業よ? タカ坊もしょうがないわね、ちゃんと送ってあげ
るように言ったのに」

「いえ。貴明さんは送ってくれようとしたのですが、私がお断りしました」

 手すりに寄りかかる、向坂環の体が一瞬固まった。

「あら、どうして?」
511心を持ったメイドロボ 15/19:2006/07/23(日) 22:36:14 ID:4sEHxgld0
 あんなに嬉しそうにしていたじゃない、とは続けなかったけれど。
 そう思ったからこそ、向坂環はあの場を離れたのだ。
 嬉しそうにしている2人を、こんな気持ちのままでいる自分が邪魔してしまわないように。

「はい。今、私を案内してくださっているのは向坂様ですから。ご迷惑でなければ、また
案内していただいてもよろしいですか?」

 なのにイルファはそんなことを言う。
 なんで? どうして? 向坂環の混乱は、加速する一方だ。
 河野貴明のことが好きなら、ずっと一緒にいれば良いのに。

「だって、向坂様。あとでクラブ棟を案内してくださると、約束してくださいましたから」

「そんなの、タカ坊にしてもらえば良いじゃない」

 思わずそう叫んでしまう向坂環だったけれど、イルファの真剣な表情は変わることはな
い。

「いいえ、私は向坂様に、案内をしていただきたいです」
512心を持ったメイドロボ 16/19:2006/07/23(日) 22:37:25 ID:4sEHxgld0
 それどころか、前に出て、向坂環のことを見つめてくる。

「だから、タカ坊のことが好きなら、タカ坊と一緒にいたほうが良いじゃない。それなの
に私がいいだなんて。だいたい、あなたが本当にロボットだって言うなら、心が無いって
言うなら、もっとそれらしくしてなさいよ! 心が無いってわかるのなら、私だってこん
なに悩むことなんて無かったんだから!!」

「・・・・・・もう、向坂様も強情な方ですね」

 叫ぶ向坂環。けれどそれを聞いたイルファの反応は、向坂環の言葉にショックを受ける
どころかむしろ嬉しそうで。
 おかげでこの瞬間、向坂環の混乱はピークに達する羽目になる。

「そうです。私はロボットなのですから、普段機械に接するように、『お前の案内なんて
したくない』『なんで私がロボットのために働かなければいけないんだ』とおっしゃって
くださればよかったんです。そうすれば私も、こんなに向坂様を困らせるような真似をし
ませんでしたのに」

 そう言われて、向坂環は愕然とする。今、そう言われるまで。いや、言われた後でも、
そのようにイルファに向かって言おうとは考え付きもしなかったのだから。
513心を持ったメイドロボ 17/19:2006/07/23(日) 22:38:56 ID:4sEHxgld0
「そ、それは、イルファがタカ坊の大切な人だから・・・・・・」

 ようやく搾り出したその言葉だって、言っていて本当にそう思っているのか自信が無さ
そうだ。

「ありがとうございます」

「えっ!?」

「向坂様は最初から、私に心があるのだと考えていてくださっていましたから。だから、
ただの機械にするように命令するのではなく、心がある人と同じように接してくださいま
した。本当に、ありがとうございます」

 あいた口が塞がらないとは、このようなことを言うのだろうか。
 深々と頭を下げるイルファを、向坂環はただうろたえて見ていることしか出来ていない。

「ちょ、ちょっと、そんな。早く頭を上げなさいよ恥ずかしいじゃない」

 さっき屋上に上がってきたときに確認したはずなのだが、思わず周囲の人影を確認して
しまう。
514心を持ったメイドロボ 18/19:2006/07/23(日) 22:41:55 ID:4sEHxgld0
「それでは──

「もう、わかったわよ。ちゃんと約束通り、あとでクラブ棟は案内してあげるから」

 思わず、大きく溜息をついてしまう向坂環。脱力して、その場にしゃがみこまないのが
不思議なくらいだ。

「イルファさん!!」

 勢い良く屋上の扉が開く。

「急にいなくなっちゃうから心配・・・・・た、タマ姉、なんで!?」

 その場に慌てた河野貴明が跳びこんできた時、2人は目を合わせ、クスクスと笑い声を
上げていた。


515心を持ったメイドロボ 19/19:2006/07/23(日) 22:43:24 ID:4sEHxgld0
 向坂環はメイドロボが嫌いだ。

「さぁ、貴明さん。あーんしてください」

 嫌いだというより、対抗心を燃やしている。

「ちょっとイルファさん、みんな見てるって。ほら瑠璃ちゃんも何か言ってあげてよ」

 人に代わって、仕事をしてしまうからではない。

「ほらほらタカ坊。せっかくイルファが作ってくれたお弁当なんだから、残しちゃだめよ」

 人と同じ形をして、人間と同じように振舞うからだけじゃない。
 彼女は暖かな笑顔で、人と変わらない心をもっていたから。



   終
516心を持ったメイドロボ あとがき:2006/07/23(日) 22:44:07 ID:4sEHxgld0
タマ姉も、影ではいろいろと大変だと思うのです。

支援ありがとうございました。
517白詰草 ◆Pd9gE38GCU :2006/07/23(日) 22:58:51 ID:3UAinkAH0
>>516
乙ですー。導入と結びの対比が面白かったです。
個人的には、姫百合姉妹が絡んでくれたらもっと良かったかも(欲張りすぎ?
518名無しさんだよもん:2006/07/23(日) 23:33:01 ID:YZH2CNhk0
>>516
乙カレーです。
イルファさんがタマ姉のクラスに編入ってのがちょっと新鮮だったなー。
確かにイルファさんは年上っぽいけど。
ストーリーラインはなかなかいいと思うんだけど、いやだからこそオチが少し気にかかるかな?
この流れで来たら本当に対抗心を燃やすタマ姉でもよかったような。
それをやったら折角シリアスに来たのにドタバタになりかねないんだけれどさw

ともあれ、タマ姉もきっと色々大変だと思うのは俺も同感。
519名無しさんだよもん:2006/07/24(月) 02:20:20 ID:cg3KkPR10
>>516
乙。
イルファさんが編入っていう発想が面白かった。
ミルファの編入は見たことあったけど。
ストーリーは全体的にうまくまとまってるかな。ラストが弱い気もするけど、タマ姉の性格を考えるとこういう風になりそう、ってのはあるし。素人が何言ってんの、って話だが。
520名無しさんだよもん:2006/07/24(月) 08:20:19 ID:h3/A0sbR0
>>516
お疲れ様でした。
最後は和解するのかしないのかドキドキしながら見させて頂きました。
でも編入したのがこのみのクラスだったら、闇討ちして破(ry
521名無しさんだよもん:2006/07/24(月) 19:55:25 ID:OyG9igZB0
そろそろですか。
522河野家にようこそ 第65話(1/9):2006/07/24(月) 20:55:27 ID:7b/7GmHj0
 春夏さんに挨拶を済ませ、家路につく愛佳たち。春夏さんのことを『ママ』と慕う珊瑚ちゃんは
春夏さんとの別れが寂しそうだったけど、まぁ、またいつでも会えるって。
 その後春夏さんに土日の報告を済ませ、家に帰る俺をこのみが見送ってくれる。この二日間が凄く
楽しかったこと、そして、ずっとこんな風に楽しいといいねと言うこのみ。ずっと続くハズなんて
ない、続いちゃいけないと分かっているのに、それを否定出来ない俺……。
 家に戻った俺を待っていたのは雄二。どうやらこいつは、本気でイルファさんに惚れてしまった
らしい。最早止めることなど出来ないようで、せめてイルファさんに迷惑だけは掛けるなよと忠告。
素直に肯く雄二だったが、その直後に下着をプレゼントするとか言うし。やっぱバカだよこいつは。
 二階の部屋で家計簿をつけていたタマ姉。いい機会だからと常々抱いてた生活費に関する疑問を
ぶつけてみると、俺たちの生活を金銭面でサポートしてくれている人たちがいるとタマ姉は言う。
ただしその正体は絶対に明かせないとのこと。その事情は俺にだって何となく想像はつくから、今は
何も言わず、その人たちの好意に甘えておこうと思う。本当に、ありがとうございます。
 ところで、家を出る際見かけた三人の女の子。聞いてみるとやはりタマ姉の知り合いで、元の学校
の後輩とのこと。タマ姉の居場所を調べてやってきたと言うのにいきなり逃げてしまった後輩さん
たち。一体彼女たちは何しに来たんだろう……?

 その後は、特に語るような出来事はない。
 夕食を食べ、交代で風呂に入り、他愛もない話をしたりTVを見たりゲームをしたりしているうち
に夜も更けて、みんなは部屋に戻り、俺は一人、真っ暗な居間でソファーに横になっている。後は
眠りについてしまえば、やたら色々なことがあったこの週末もオシマイだ。そして明日は月曜日。
当然、学校に行かなければならない。……何か、面倒くさいなぁ。
 それにしても気になるのは、やはりあの女の子たち――タマ姉の九条院での後輩だっけ。
 タマ姉の居場所を調べ上げ、はるばる九条院から(と言っても場所知らないけど)やって来たと
言うのに、タマ姉に挨拶もせずに逃げていった三人。あの後、彼女たちが再び我が家に来ることは
523河野家にようこそ 第65話(2/9):2006/07/24(月) 20:56:33 ID:7b/7GmHj0
なかったが、あのまま九条院に帰ってしまったのだろうか? まぁ彼女たちだって学生、明日は学校
に行かなきゃならないんだから、きっとそうだろう。
 ま、彼女たちのことはもうどうでもいいや。さ、寝よ寝よ。

 だが俺は翌日、自分の考えが甘かったことを思い知らされることになる。

 朝。いつも通りに朝食を食べて学校へ。珍しくこのみが家に来なかったので、久しぶりに迎えに
行ってみる。
「お、おはようタカくん……」
 パジャマ姿で苦笑いのこのみ。寝坊しやがったなこいつ。
「分かった。おいていく」
「うわーん、待ってよー! 五分、五分で用意するから!」
「四十秒で支度しな」
「どっかのアニメ映画のお婆さんみたいなこと言わないでよー!」
 慌てて階段を駆け上るこのみ。
「ごめんなさいねタカくん。最近はようやく寝坊しなくなったと思ったのに」
 ため息をつく春夏さん。その手には弁当とは別に何かの包みが。多分このみのためにおにぎりでも
作ったのだろう。
「やれやれですね。チョット俺、みんなに断ってきます」
 俺は一旦外へ出て、
「このみのヤツ寝坊して今支度中だよ。時間かかるかも知れないからみんな先に行っててくれ」
 するとみんなから一斉にブーイング。ちょ、ちょっと待ってみんな、朝から近所迷惑だって。
「薄情なこと言わないでよたかちゃん! 私たちも一緒に待ってるに決まってるでしょ!」
 一同を代表して花梨がそう訴える。
524河野家にようこそ 第65話(3/9):2006/07/24(月) 20:57:35 ID:7b/7GmHj0
「いや、俺たちはそれでよくても愛佳たちを待たせるのは――」
「時間の余裕ならまだありますよ。いざとなったらみんなで走りましょう」
 腕時計で時間を確かめ、そう言ってニッコリ笑う優季。――ま、それでもいいか。

 幸いこのみは約三分で支度を終えて出てきた。とは言うものの髪型がチョット乱れていたりして
いたので、歩きながらタマ姉に髪型を直してもらったこのみである。(ちなみにその間、このみは
春夏さんのおにぎりをパクついていた)
「おや?」
 雄二との待ち合わせの場所、なのだが、雄二の姿がどこにもない。雄二も寝坊か?
 少しの間待ってみたものの雄二は一向に現れず、仕方がないので学校へ。だが……
「おはよう、諸君!」
 校門の前。小牧姉妹、珊瑚ちゃんと一緒に、何故かヤツはいた。妙に爽やかな笑顔を浮かべて。
「どうしたんだ雄二、いつもの場所にいなかったけど?」
 俺がそう尋ねると、雄二はこれまたアハハと爽やかに笑い、
「悪い悪い、いやー実はさ、朝からどーしてもイルファさんの顔が見たくなってな」
「まさかお前、珊瑚ちゃんの家に行ったのか!?」
 すると雄二はちっちっちと指を振り、
「それだけじゃないぞ、聞いて驚け貴明。何と俺は初日にして、イルファさんの作った朝ご飯まで
ご馳走になったのさ!」
 こ、こいつ、図々しいにもほどがあるぞ……!
「美味かったなぁ〜、イルファさんの作ったみそ汁。あれぞお袋の味ってヤツだな。
 それにイルファさんの作ったベーコンエッグもよかった! チョット焦げてたのもまたアクセント
ってヤツだよな。それにイルファさんの漬けたキュウリの漬け物もいい感じに漬かってて……」
 思い出しつつヨダレを垂らす雄二。ったく、迷惑を掛けるなって念を押したのに……。
525河野家にようこそ 第65話(4/9):2006/07/24(月) 20:58:47 ID:7b/7GmHj0
「ご、ゴメンな珊瑚ちゃん。雄二のアホが朝から迷惑かけて」
「ごめんなさいね珊瑚ちゃん。雄二には私から後できつく叱っておくから」
 並んで頭を下げる俺とタマ姉に、しかし珊瑚ちゃんはいつものほわほわ笑顔で、
「別にええよ〜。いっちゃんも最初ビックリしてたけど、料理ほめられて嬉しい言うてたし。
 それに雄二な、明日から毎日いっちゃんの朝ご飯、食べに来ることになったんやで〜」
「ま、マジ!? いいの、珊瑚ちゃん……?」
「ウチはええよ〜。一人でも多い方が朝ご飯楽しいし。
 それにな、雄二みたいにたくさん食べてくれる人おった方が、いっちゃんも作りがいあると思う
んや。ウチ小食やからな〜」
 最早、姫百合家の食卓に雄二を迎えることに何の異存もない様子の珊瑚ちゃん。
「い、いいのかなぁ……?」
 タマ姉と、瑠璃ちゃんにも聞いてみる。タマ姉は頭痛でもするのか無言でこめかみを指で押さえ、
「……まぁ、ええんちゃうの。雄二、さんちゃんに手ぇ出す気ないみたいやし」
 やや複雑な面もちでそう答える瑠璃ちゃん。……いいのかなぁ。ホントに?
 などとモヤモヤしつつも、とりあえず学校へと歩き出そうとしたその時――

「おはようございます、お姉様!」

「あ、あなたたち……」
 俺たちの前に現れたのは、昨日の女の子三人組。それだけならまだしも、彼女たちは何故かうちの
学校の制服を着ている。一体コレは……?
「……まさか、あなたたち転校してきたの!?」
「はい! 私たち、お姉様のためならどこへでも――」
「た、環さんを追いかけてわざわざ転校!? 一体この子たち、環さんの何なんですか?」
526名無しさんだよもん:2006/07/24(月) 20:59:26 ID:DIcguK2bO
支援
527河野家にようこそ 第65話(5/9):2006/07/24(月) 21:00:04 ID:7b/7GmHj0
 驚いてタマ姉に尋ねる由真。それを聞いた女の子の一人が由真をギロリと睨み、
「お姉様に対して随分と馴れ馴れしいですわね。あなた、どこの者ですの?」
「は? ど、どこの者って……?」
 質問の意味が分かってない由真。って言うか俺も分からん。どこって何が? 出身地?
「ですから、どこの家の生まれかと聞いているんです。
 さぞかし名のある家のお方なのでしょう? 是非お聞かせ願いたいものですわ」
「……と、じゃなかった、な、長瀬よ」
「長瀬? ――聞いたことがあるような気がしますけど、ええと……」
 すると、となりの女の子が、
「玲於奈、もしかしてあの長瀬じゃないかしら。来栖川家に仕えている」
「――ああ、道理で聞き覚えがあると思いましたわ。
 そうですか、あの長瀬の者なのですね。ですがその程度の家の者が、古来よりの名門である向坂家
の長女たるお姉様にそのような態度、無礼じゃありませんこと!?」
「……(コクコク)」
 明らかな敵意を持って由真を睨む三人。だが、
「そこまでよ」
「お、お姉様?」
「由真は私の大切な後輩よ。後輩を侮辱するなら、――分かるわね?」
「は、はい……」
 穏やかだが、怒りを感じさせるタマ姉の言葉に、三人がすくみ上がる。
「……ねぇねぇ、たかちゃん」
 いつの間にか俺のとなりにいた花梨が、肘で俺をつつく。
「あの子たち、なんか時代錯誤なこと言ってるけど、環さんの家ってそんなに凄いの?」
「花梨、タマ姉の家のこと知らないのか? 向坂家って言えばこの街の顔みたいなもんだぞ。
528河野家にようこそ 第65話(6/9):2006/07/24(月) 21:01:04 ID:7b/7GmHj0
 かなり名の知れた旧家だからな。政治家とか大企業のお偉いさんとかがしょっちゅう挨拶しに来る
って雄二も言ってる」
「え、じゃあ環さんってお嬢様なの!?」
 改めてそう尋ねられると、成る程タマ姉って立場的にはお嬢様なんだよな。もっとも本人にその
自覚があるかどうかは微妙だけど。
「ご覧の通りよ! 環さん本人が認めてくれてる以上、あんたらにとやかく言われる筋合いなんて
無いわよ! そっちこそ何よそのお姉様って? 実の妹でもないのに気色悪っ」
 あ、売られたケンカを由真が買っちゃった。って言うか今のタイミングで言い返すのって、虎の威
を借る狐っぽくて格好悪いぞ。
「き、き、気色悪いですって!?
 私たちが敬愛を込めてお姉様と呼ぶことのどこが気色悪いと言うのですか!?」
「敬愛? ……ははぁん」
 由真は何故かいやらしい笑みを浮かべ、
「そう言えば九条院って全寮制の女子校だったっけ。
 それでお姉様、ねぇ。さてはあんたたち、環さんを愛しちゃってるワケ?」
「なっ!?」
 由真の質問に、たちまち三人の顔が真っ赤になる。
「ちょ、ちょっと由真! 何てこと言うのよ!?」
 この質問にはタマ姉も驚いたようだ。まぁ、ねぇ。いくら全寮制の女子校だからって、その生徒が
同性愛者だと決めつけるのはいくら何でも偏見――
「……そ、その通り、ですわ」
「え?」
「わ、私は、お姉様をお慕い申しておりますわ!」
「わ、私だって!」
529河野家にようこそ 第65話(7/9):2006/07/24(月) 21:01:56 ID:7b/7GmHj0
「……!(コクコク!)」
「あ、あなたたち!?」
 タマ姉もビックリ。あまりにいきなりな愛の告白だ。
「げ、マジだったの」
 ドン引きの由真。からかうつもりがまさか図星だったとは。
「それのどこがいけないと言うのですか!?」
「い、いや、女同士ってのは、どうかと……」
「真実の愛に性別など関係ありません!」
「その通りっ!!」
 いきなり声を上げたのは雄二。
「そこの玲於奈さんの言うとおりだぞ由真。
 性別、人種、人とロボット、真実の愛の前にはどのような垣根も意味を持たないのだ!!」
 ……要はアレか。お前とイルファさんのことが言いたかっただけと。
「そちらの中にも話の分かる方がいらっしゃるようですね。
 ……あら? あなたもしかして、雄二様?」
「いかにも、俺様は向坂雄二だが」
「やっぱり! お久しぶりです雄二様。分家の玲於奈です」
 へぇ、玲於奈って子、分家ってことはタマ姉たちの親戚とかかな。
「知ってるのか、雄二?」
「うんにゃ、全然」
 あまりにあっさりそう答える雄二に、やや顔を引きつらせながらも玲於奈さんは、
「む、無理もありませんわよね。こうして顔を合わせるのは何年かぶりのことですし……。
 あ、この二人とは初対面ですね。紹介します、薫子とカスミです」
「よろしくお願いします」
530河野家にようこそ 第65話(8/9):2006/07/24(月) 21:02:41 ID:7b/7GmHj0
「……(コクリ)」
 薫子さんとカスミさんが雄二に頭を下げる。
「そ、それで」
 タマ姉は自分も落ち着くためか、わざと大きめの咳払いをし、
「あなたたち、どうして九条院を出て、この学校に転校してきたの?」
「そ、それは……」
 理由ならさっき聞いた気もするのだが、何故か言いよどむ玲於奈さんたち。タマ姉のことが好き
だから追いかけてきた、と言うだけではないのか?
 玲於奈さんたちは俺たちを見て、
「お、お姉様。ここでは話せませんので……」
 第三者には聞かれたくない、と言うことか。
「分かったわ。じゃ、こっちへ。タカ坊、みんな、悪いけど」
 タマ姉は三人を連れて体育館の方へ、人気のないところで話をするつもりなのだろう。
 残された俺たちは仕方がないので校舎へ。
「タカくん、タマお姉ちゃんとあの人たち――」
「まぁ、今はタマ姉に任せておくしかないだろ」

 午前中の授業を終え、昼休み。いつものように屋上でみんな揃ってお昼ご飯、なのだが……
「……」
「……」
「……(じーっ)」
 し、視線が気になる……。いつものようにシートに座って弁当を食べている俺たち。そこから少し
離れた場所に玲於奈さんたちが並んで座って、俺たちをじーっと観察しているのだ。
「な、なんか、食べにくい……」
531河野家にようこそ 第65話(9/9):2006/07/24(月) 21:03:34 ID:7b/7GmHj0
「そ、そうだね……」
 そう言い合う由真と愛佳なのだが、それでも愛佳の箸はしっかり動いていることは付け加えておく。
「好きにさせておけばいい。気にするな、うーゆま、うーまな」
 あくまでマイペースのるーこである。
 とは言えやはり気になるものは仕方がなく……、そうなるとどうしても気になるのは、あの後、
タマ姉とあの三人が何を話したのかと言うこと。今、あの三人がああやって俺たちを観察してるのは、
それと何か関係があるのだろうか?
「タマ姉、あのさ……」
「何、タカ坊?」
「あ、いや……」
 けどやっぱり、それを聞くワケにはいかないよなぁ。ええと……
「よかったら、さ。あの三人にもこっちに来てもらおうか?」
「えええっ!?」と数人が声を上げるが俺は構わず、
「何か朝はチョットモメちゃったけどさ、タマ姉の知り合いなら俺たちも仲良くした方がいいと思う
んだよ。だから、さ」
「あたし、反対」
「まぁそう言うなって由真。とっつきにくいだけでホントはいい人たちかもしれないだろ」
「……そうね、タカ坊がそう言うなら」
 タマ姉は立ち上がり、玲於奈さんたちのところに歩いていく。
 やや驚いた様子の玲於奈さんたち。タマ姉からの誘いに、最初は俺たちを――気のせいか、特に俺
を疑わしげに睨んでいた気がするが、やがて渋々と言った感じで肯き、タマ姉に連れられてこっちに
やってきた。とっさの思いつきで言っちゃったものの……うう、ヤバイかも。

 つづく。
532河野家にようこそ の作者:2006/07/24(月) 21:04:17 ID:7b/7GmHj0
どうもです。第65話です。
>>526さん、支援ありがとうございました。m( __ __ )m

本編と関係ない話ですが、ゲンジ丸って元ネタがあったんだと、この間見た「うたわれるもの」で
初めて知りました。
PC版やってないんですよね。(^^;
今度PS2版が出るとのことなので、いい機会だからやってみようかなぁ。
533526:2006/07/24(月) 21:17:27 ID:DIcguK2bO
毎週、お勤めご苦労様です。
タマ姉シナリオが、いよいよヤマ場に差し掛かって来ましたね。
まあ、彼女の場合は問題が片付いても最後の一人を送りだすまで河野家に居そうですが。
534001:2006/07/24(月) 21:20:26 ID:1h02thky0
姫百合&メイドロボ好きな私にとって雄二に殺意がめばえる・・・
535名無しさんだよもん:2006/07/24(月) 21:30:23 ID:IzgT9SOy0
このくらい生き生きとした獣のような雄二も面白い
536名無しさんだよもん:2006/07/24(月) 22:03:39 ID:i3gsobvB0
しかし、貴明は雄二がイルファに近づくのちょっと嫌そうだな
これは軽い嫉妬みたいなものか
537名無しさんだよもん:2006/07/25(火) 00:58:49 ID:CBP6D8eGO
>>534
俺はむしろ雄二に感情移入して楽しんでるけどな
イルファさんイイヨー
538名無しさんだよもん:2006/07/25(火) 10:22:15 ID:yZiSO6Iv0
実はイルファの策略では?
と言ってみるテスト。
姫百合家の問題解決に繋がりそうな気がしないでもない。
539名無しさんだよもん:2006/07/25(火) 10:38:07 ID:b7FcJcVM0
ゲーム本編での問題なら河野家ではもう解決してるような
540名無しさんだよもん:2006/07/25(火) 10:58:05 ID:sfoZXY/j0
>>538
いくら雄二がいい奴だとは言え
そこまで考えてないと思うぞw
541名無しさんだよもん:2006/07/25(火) 14:06:25 ID:uZHL3nto0
貴明とくっつくよりは雄二の方がいい
542名無しさんだよもん:2006/07/25(火) 15:32:43 ID:dAInQaygO
貴明x雄二でよくね?
543名無しさんだよもん:2006/07/25(火) 16:09:25 ID:CBP6D8eGO
アッー!
544名無しさんだよもん:2006/07/25(火) 16:21:17 ID:6ebjrUbJO
そろそろホモネタも廃れ頃だな。
545名無しさんだよもん:2006/07/25(火) 22:01:46 ID:wE653kGM0
いや、ここは貴明×ダニエルでいいかもな
546名無しさんだよもん:2006/07/25(火) 22:37:28 ID:RHrfQz+S0
もうホモ飽きたから獣にしようぜ。
547名無しさんだよもん:2006/07/25(火) 23:39:50 ID:mozidRJe0
ゲンジ丸×雄二でいいじゃん
548名無しさんだよもん:2006/07/26(水) 00:05:38 ID:cWMxGeIl0
ここで

俺×ゲンジ丸

ですよ。
549名無しさんだよもん:2006/07/26(水) 00:14:38 ID:Kz0Ke6l10
いやいやここは俺が
550名無しさんだよもん:2006/07/26(水) 00:26:56 ID:8mx65W8pO
ここは異常な性癖を持つ人が多いインターネッツですね
551名無しさんだよもん:2006/07/26(水) 00:28:38 ID:Op5vqAZ40
>>532
今更ながら、河野家喜多ーーー!!!

なんか、あれだけ続いた日曜があっさり終わりましたね^^;
しかも、姫百合家と向坂家と2つ同時に話が進展しようとしてるし、
なんか急に時間が動き出したかのような感じw
来週の展開を楽しみにしてます。

「うたわれ」は、、、プレーしてないけど、音泉のラジオが
妙に面白くて聴いてしまっている今日この頃^^;
552433:2006/07/26(水) 00:55:02 ID:vTu8o8j40
>>435
ものすっごい遅レスですが有難う御座いました。
はい。何と無くです。
考えてませんでした。

>>516
これまた遅レスですが御疲れ様です。
こういう話大好きです。
553名無しさんだよもん:2006/07/26(水) 14:43:41 ID:+fNvTMWIO
>>549
どーぞどーぞ
554どきどき水着パニック♪:2006/07/26(水) 21:30:07 ID:RX0Y3cFL0
こんばんは。

ミルファ&貴明くんの夏休みSS「どきどき水着ぱにっく♪」というのを書いてみましたので、投下しに
やってきました。
本稿は、先日来投下し続けている「たましいのありか」とかあの辺の流れです。
元々は設定をSS風にまとめたら「案外それらしくなったので見せびらかそう」と思いたって構成しなお
したものですので、私が今まで書いていたSSの脳内設定がいっぱい出てきますw
メイドロボさんズのプロポーションや構造など好き勝手に設定してありますが、これも作品の一つと思っ
て生暖かく見てやってください。
555どきどき水着パニック♪(1/12):2006/07/26(水) 21:32:21 ID:RX0Y3cFL0

「貴明〜、ほらほら、見て見て〜♪」
 夏休み中のある日。
 ようやく暑さから解放されつつある、夕闇の迫った貴重な一時。
 なんだか良くわからないけど、我が家に生息するクマは妙に浮かれていた。
 きっと昼に街のデパートに狩りに出かけた時の獲物を自慢したいに違いない。
 しかし、大概クマが獲ってくる獲物なんて見ても面白いものでもない。
 鮭とかウサギとか蜂の巣とか。
 うむ。こういう時は無視に限る。
「た〜か〜あ〜き〜、新しい水着だよ〜〜、見て見て見て〜〜??」
 じたばたじたばた!
 じたばたじたばた!
「だあっ! 鬱陶しい!!」
 我慢しきれずついにクマ吉に向き直った、瞬間。
 床の上で伸びやかな四肢をバタつかせるミルファの麗しい肉体が目に飛び込んできた。
 身に付けているのはいわゆるビキニという名の極僅かな布地のみ。

 ぶうぅぅ〜〜っ!!

 は、鼻血噴いてしまいマス……
 だから見ないようにしていたのに……
 それにしても、日常の風景の中で眺めるとすっぽんぽんよりも刺激的だと思うのは俺だけだろうか?
 俺のそんな様子を見たミルファは、呆れたように腰に手をやって嘆息する。
「もう! 相変わらずこういうのが苦手なんだから。私の裸なんていっつも見てるのに」
 いやまぁ、それはそれ、これはこれだと思うよ。
 俺が苦笑で答えると、ミルファは満更でもなさそうに微笑を返してくれた。

 ぴんぽ〜〜ん♪
556どきどき水着パニック♪(2/12):2006/07/26(水) 21:34:03 ID:RX0Y3cFL0

「あれっ? 今頃お客さんなんて誰だろ?」
 もう夜だしなー、柚原家チームか?
「……って、その格好で出るのはやめれっ! 俺が出てくるから上に何か着てなさいっ!」
 あわてて立ち上がりかけたミルファを押し止めて玄関に向かう。
 ふぅ、あんな格好を春夏さんにでも見られた日にはなんと言われることか……
 更にこのみやタマ姉だったりしたら……
『あら、タカ坊。もしかして海にでも行くのかしら? まさかとは思うけど……いつも世話してあげているタマお
 姉ちゃんをのけ者にしようなんてコトは、考えていなかったわよね?』
『タカくん、ミルファさんばっかりずるい〜! ずっと待ってるのに、私を遊園地に連れて行ってくれる約束だ
 って忘れてるみたいだし……』
 な〜んてコトになるのは間違いない訳で。

「はーい、どなた?」
 返事をするなり鍵&ドアが開いたと思ったらそこにいたのは……
「る〜〜☆ 貴明〜、ゲームしよ〜♪」
「こんばんは、貴明さん♪ 今日は水着を買ったので〜、見せびらかしたくて来てしまいました!」
 意外というか全く意外でないというか、姫百合ファミリー大集合でした。


     ミルファ&貴明くんの夏休みSS 「 どきどき水着ぱにっく♪ 」


「あああっ! ミルファちゃんってばなんて大胆な水着!」
「うわ、こんなん裸といっしょやん……こんなん着せるなんて、やっぱり貴明ヘンタイや」
「ヘンタイや〜〜☆」
「あうぅ、ミルお姉ちゃんはずかしいです……」
 すっかり俺の家に慣れた珊瑚ちゃん達は一気にリビングを制圧、そこに件の黒のモノグラビキニ姿でう
 ろついていたミルファが発見され、やはりというか4者4様の反応が返ってきた。
557どきどき水着パニック♪(3/12):2006/07/26(水) 21:35:44 ID:RX0Y3cFL0

 が、それぞれの反応が予想通りだったことは内緒だ。
 もっとも、ミルファはそんなコトはあまり気にしていない、というか単に浮かれてまくっているようだが。
「えへへ〜、いいでしょ。今日貴明に買って貰ったんだぁ〜」
 ミルファがくるくると回ると、胸元のレインボーリボンがひらひらとなびいて可愛らしい。
「「「「ええぇぇ〜〜っ!?」」」」
「お盆に〜、貴明のお母さんの実家に連れてって貰える事になったの〜♪」
 空にも駆け上がりかねないほど、ミルファは小躍りして喜んでいる。
 まぁなー、ミルファはお袋のお気に入りだからなー。
 今回だって「お盆はミルファちゃんも連れてくるんですよ!」って念を押されちまったもんな。
 その上「海にも連れて行ってあげなさい」って水着購入用の追加小遣いまで寄越しやがった。

 俺のお袋の実家は、田舎の某県の、日本海側にある小さい町だ。
 最近近隣市町と合併して規模だけは大きくなったらしいが、だからといって何が変わるわけではない、
 静かで退屈な田舎町。
 でも、ご飯と空気が美味しくて、何よりも海がとても綺麗な町だ。
 今から、ミルファに日本海に沈む夕日を見せてやるのが楽しみだったりする。

「ええなぁ〜。ウチも貴明と海行きたい〜。」
 珊瑚ちゃん、まさか付いてくる気じゃないでしょうね?
 いくらなんでもそればかりはマズいような……
 第一そうなったら120%間違いなく4人セットでしょう?
 5人も女の子引き連れていったりしたら、ウチのじーさんばーさん卒倒するって。
「あかんあかん。お盆はお父さんお母さん帰ってきて、ウチらもお墓参りやん」
「そやったぁ。パパやんママやん、お盆しか居られへん言うてたな。……うう、でもウチも海も行きたい〜」
 瑠璃ちゃんナイスフォローです!
 すると、台所の方でごそごそと何かやっていたイルファさんとシルファが声をかけてきた。
「それでしたら、別にお盆にこだわらずとも、貴明さんと私たちで海に行きましょう! 折角こうやって水着も
 買ったコトですし〜、勿体無いですわ」
558どきどき水着パニック♪(4/12):2006/07/26(水) 21:37:36 ID:RX0Y3cFL0

「はうぅ〜、恥ずかしいですぅ」
 って、をいをいをい!!
 姿を現した2人は、いつの間にか水着姿になっていた。
 イルファさんの水着はこの間の白いマイクロビキニみたいな過激なモノではなく、落ち着いた雰囲気の、
 青いスカート付きのホルターフリル。
 シルファの水着は白地に水玉模様の、可愛らしいAラインワンピースだ。それにしてもこの水着にしても
 そうだし、イルファさんといい、ミルファといい、今年はひらひらが流行りなのかな?
 こんなお嬢様方をぞろぞろと引き連れて海ですか?
 それもこの人数で収まらない可能性が極大だと俺の危険感知センサーが告げているんですが。
 まったく、俺に死ねと??
 よし、こういう場合は誤魔化して有耶無耶にするに限る。
 はい? これは撤退ではないでありますよ。戦術的転進であります!
「あっはははは……そ、それにしても相変わらずイルファさんはカッコいいね〜。シルファも可愛くて良く似合
 ってるよ」
 う〜〜ん、笑いが引き攣るのが自分でもわかる……
 それでもシルファはサクランボのように真っ赤になって黙り込み、イルファさんは某ムー○ン谷に生息する
 不思議生物のような妖しい踊りに突入してしまった。
「むぅ〜っ! でも胸は私が一番大きいもん! ほらほらぁ〜〜、Fカップだよ、Fカップ〜。イル姉より2サイズ
 も大きいんだよぉ〜」
 という事はイルファさんはDカップですか……
 弾力があって形の良いアレが……って、いかんいかん! 思い出してはいかん!
 それにしてもミルファ、頭の上におっぱいを乗せるな!
「私のは90p! イル姉のは85p! シルファに至っては80cm!」
 まぁ、確かにね、ミルファの胸はすごい迫力だよ?
 イルファさんよりも少し身長が低くて、少し童顔なものだから更にそれが引き立つんだよなぁ。
 確かイルファさんが164p、ミルファは160pだそうで。更に幼い顔立ちのシルファは156pと、ミルファよ
 りも一回り小さい。
559どきどき水着パニック♪(5/12):2006/07/26(水) 21:39:24 ID:RX0Y3cFL0

 これは「Lサイズのイルファ」が社会人モデルの20歳前後、「Mサイズのミルファ」が高校生モデルの16
 歳前後、「Sサイズのシルファ」が中学生モデルの14歳前後を想定してデザインされた素体(彼女ら
 の場合はHM−16だね)をベースに作られているから、らしい。
「……私より3pくらい大きくって騒いで結局5pも……第一元々は83cmだったくせに……」
 あああ、気が付くとイルファさんがオドロ線を背負ってしまっている。
 おっぱいは大きさだけが魅力じゃありませんから!
 揉み心地とか形とかも重要ですから!
 って、そんなコトは思っても絶対に口には出せないんですけど……
「どうせシルファはペチャです……このみちゃんよりは大きいけどお姉ちゃんたちには敵いません……」
 なんとなくこのみ……お前が不憫に思えてきた。
 でもシルファ。それは比較する相手が間違ってると思うぞ。
「しっちゃん、落ち込む事なんかあらへんで〜。80cmやったら瑠璃ちゃんのおっぱいと一緒やん♪ ウチな
 んか76p、65のAカップ、ペッタペタのナインちゃんや〜☆」
 それにしてもどうしてバストサイズの暴露大会になっているのでしょうか?
 もっとも、自爆ギリギリの珊瑚ちゃんのフォローも、
「ううっ、でも瑠璃さまはほっそりしててアンダーが小さいじゃないですかぁ。瑠璃さまは65のCでしょ? シル
 ファは70のBです〜」
 あまり届いてはいないようだった。
「さんちゃん、なんでウチを引き合いに出すんや〜〜!」
 それどころか爆発のあおりを受けて、瑠璃ちゃんが真っ赤になってじたばたしていた。

 ぴんぽ〜〜ん

 おや? また誰かお客かな?
 とか言ってるうちに、
「やっぱり珊瑚ちゃんたちだ〜、る〜〜♪」
「こんばんは、タカ坊。みんな。お邪魔するわね」
 あっという間に居間まで進撃してきたのは……
560名無しさんだよもん:2006/07/26(水) 21:39:38 ID:SU/n7DLF0
支援
561どきどき水着パニック♪(6/12):2006/07/26(水) 21:40:57 ID:RX0Y3cFL0

 げげ、全く予想通りの2人でした。
 それよりもメイドロボさんズは水着のままなんですが、結構俺やばい?
「このみちゃんだ〜〜、る〜〜☆」
「こ、こんばんは、タマ姉ちゃん」
 いきなりじゃれ合っているこのみとシルファ。
 ここでさっき「シルファがこのみの胸はぺちゃだって言ってた」ってチクるのは拙いんだろうな〜。
 瑠璃ちゃんは少し頬を染めてタマ姉にお辞儀をしている。
「こんばんは、瑠璃ちゃん」
 なでなで、なでなで。
 お姉さまモードになったタマ姉に撫でられて、瑠璃ちゃんってばすっかりぽ〜っとなってしまった。

 じろり!

 ぎく。
 何故俺を睨むのかな? タマ姉。
 お、俺は何も悪くないんだよ? 多分。
「みんな随分可愛らしいわね〜。ミルファなんて随分セクシーで結構ですこと」
 はぁ、って感じで盛大にタマ姉がため息をつく。
「タカ坊、これはなに? ファッションショー? それとも海にでも行くのかしら? まさかとは思うけど……いつ
 も世話してあげているタマお姉ちゃんをのけ者にしようなんてコトは、考えていないわよね?」
 うう、どこかの脳内劇場で聞いた事のある台詞デスね。
「タカくん、いつも珊瑚ちゃんたちばっかりずるい〜! ずっと待ってるのに、私を遊園地に連れて行ってく
 れる約束だって忘れてるみたいだし……」
 ううう、こちらも非常に覚えのあるお言葉
 俺って脚本家の才能あり?
 それとも今の俺、あまりにもお約束のドツボに嵌まってる??
 どう考えても後者の方がしっくり来るのが嫌過ぎる……
「貴明、約束まもらんのカッコ悪いで〜」
562どきどき水着パニック♪(7/12):2006/07/26(水) 21:42:32 ID:RX0Y3cFL0

「あんな〜、貴明な〜、ミルファ連れて……」
「ですから、私たちとはお盆前に……」
 はぁ、もうこうなると完璧にオチは読めます。
 皆まで言うなって感じデス。
「「じゃあタカ坊(くん)、私も一緒に連れてってくれるわよね?(よね?)」」
「とほほ〜、俺の意見は?」

「「「「「「「却下(語尾多種につき中略)!!」」」」」」」


    ◇    ◇    ◇    ◇


 結局、その日の夜は雄二も呼んで全員で食卓を囲み、わやわやと楽しい食事会になった。
 メニューは涼しく楽しめるように手巻き寿司。
 うん、やっぱりこういうのは大人数の方がいいね〜。
「はむはむはむ……このタマゴ、めっちゃ美味しいわ〜」
 余程気に入ったのか、さっきから珊瑚ちゃんは卵焼きばかりを包んで食べている。
「さんちゃん、タマゴばっか食べてると、ほかのが食えんくなるよ〜? もう、結構お腹いっぱいやろ〜」
 軽く瑠璃ちゃんにたしなめられた珊瑚ちゃんはもう涙目になっている。
 う〜ん、でも珊瑚ちゃんは少食だからなぁ。
 でも、恨めしげに見詰められた瑠璃ちゃんはすでにタジタジだ。
「タマゴ……ううぅ……もっと食べたい……」
「そんなん言うたかて……さんちゃん、魚とか野菜とかさっぱり食うてへんやんか〜」
 困ってはいるけれども、主張するべき事は主張する瑠璃ちゃん。
 うんうん、お姉さん想いの本当にいい娘だよ、この娘は。
「珊瑚ちゃん」
 そこで、瑠璃ちゃんに助け舟を出したのはタマ姉だった。
563どきどき水着パニック♪(8/12):2006/07/26(水) 21:44:05 ID:RX0Y3cFL0

「卵焼き、もっと沢山焼いて、パックして持たせてあげるから、明日の朝も食べたらいいんじゃないかしら?
 それに、ほかにも美味しい具があるかもしれないでしょう? ほら、新鮮なイカが手に入ったからイカそうめん
 も作ったんだけど、美味しいわよ。お姉ちゃんが包んであげるね」
 うわ、さすがタマ姉!
 珊瑚ちゃんはタマ姉に包んで貰ったシソとイカそうめんの手巻き寿司を頬張って、もう至福の表情だ。
「イカさん、美味しい……タマ姉ちゃん、ありがと」
 はぐはぐと寿司を頬張る珊瑚ちゃん、それを見守るタマ姉。
 うんうん。絵になるねぇ。
 瑠璃ちゃんもタマ姉相手だとヤキモチ妬かないしな。
「そんなに美味しいんですか〜。私も作り方を教えて貰おうかな……」
 じ〜っとタマ姉の卵焼きを見詰めるのはイルファさん。
「あ〜、無理無理。これは一朝一夕には真似出来ないって」
 どれどれと、ミルファが一つを口に放り込んだ。
「もぎゅもぎゅ……やっぱり環さんの卵焼きは絶品だわ。私も何度も試してるんだけど、これがなかなかね」
 まぁね。多分火加減とか色々あるんだろう。
 タマ姉のはホントトロッとしてるし、口の中で広がる卵とみりんの程好い香りがして、最高に美味いんだ
 よな。
 とはいえミルファの料理もなかなか上達してるぞ?
 こういう達人テクの必要なメニュー以外は遜色の無いレベルに近付いてるとお世辞抜きで思うし。
「いやいや、ミルファの料理も随分上達したって。俺さ、家に帰って飯食うのがこんなに楽しいなんて、思
 わなかったもん」
 何気なく素直な感想を言ったつもりだったのだが……
 ミルファは文字通り『ボン!』と音がするくらい真っ赤になって、俯いてしまった。
 そ、そ〜いう態度を取られると、俺まで恥ずかしくなるではないか。
「うわ、よくそういう事臆面も無く言えるなぁ。女の子が苦手なキャラだった頃が懐かしいぜ」
「あらあら、お熱いですね〜。お姉ちゃん妬けちゃいますね〜」
「貴明とみっちゃん、らぶらぶや〜〜☆」
 ううっ、皆さんそろそろ勘弁して下さい……
564どきどき水着パニック♪(9/12):2006/07/26(水) 21:46:30 ID:RX0Y3cFL0

「それにしても前から気になってたんだけど、やっぱり食べる事は出来るんだね、ミルファちゃんたちも」
 何を今更という気もするが、雄二が突然そんなコトを言いはじめた。
「ふえ?」
 はむはむとイカ巻きを頬張り、更にはお吸い物まで啜っていたミルファが顔をあげた。
 イルファさんとシルファは、困った様に顔を見合わせている。
「……食べる、というか味見程度ですよ、あくまで」
 むにむにしたイカを飲み込むのに四苦八苦しているミルファに代わって、イルファさんが雄二に答えた。
「食べたからといって、結局後でメンテナンスハッチから排出しなければならない訳ですし……」
 ちらりと、ミルファを横目で見るイルファさん。どこかバツが悪そうだ。
「少なくとも、私やシルファはこんなに食べたりはしませんね」
「でもな、みっちゃんの『美味しく食べる』って能力は、今AI開発室でめっさ研究されてる凄いコトなんやで〜」
 珊瑚ちゃんがそんなコトを話し始めた。
 ほう、それは俺も初耳のような。
 というよりミルファ本人もビックリした顔をしている。
 更に珊瑚ちゃんは続けた。
「あんな、メイドロボの味覚センサーいうたかて、いわゆる5味センサーと、温感センサーの集合体やねん」
 そりゃまあそうだろう。
 感知出来る「味」はそれなんだから。
「でもな、味覚に限らず、機械のセンサーが出せるのは、あくまで数字でしかないんや。普通のメイドロボは
 それでもええかも知れんけど、感情のあるAIやと、やっぱそれが寂しいと思うんとちゃうかな?」
 確かにな。
 イルファさんもそういえば美味しいがわからないって言ってた事があるし、考えてみれば、ミルファも最初の
 うちは味そのものには無頓着だったような気がする。
「触覚センサーの情報を心地好いと思うって面でも、食べ物の味をデータだけでなく感情で理解出来る
 って面でも、みっちゃんほどすごいメイドロボはおらんねん。あのデリケートな感情プログラム積んでるマルチち
 ゃんかて、触覚はともかく味覚はそこまで進んでへんのやて」
 へえ? 実はミルファってすごい?
565名無しさんだよもん:2006/07/26(水) 21:46:52 ID:h6f6W8LQ0
私怨
566どきどき水着パニック♪(10/12):2006/07/26(水) 21:48:04 ID:RX0Y3cFL0

 マルチってあの娘だろ? 来栖大学に行ってる藤田先輩の家にいる最初の「心のあるメイドロボ」
 実はOSの根幹に未解決のフレーム問題を抱えてるんだけど、藤田先輩は今必死になってその解決
 策を探っているのだそうだ。
 だからDIAとサイバーブレインにも期待している、って一度言われたことがあるんだよね。
 あ、ちなみにサイバーブレインは人間の脳の構造を模して作られた、階層構造を持つロボット用のコン
 ピューターの事だ。
 人間の脳が「考えなくても身体の制御が出来る」ように、大脳、中脳、小脳、延髄などに役割分担
 したコンピューターが独立して存在する事で、より知性を持ったOSを運用しやすくした……のだそうな。
 特に人格を作り出す過程で重要と考えられる「忘却するプログラム」の為には必須のシステム(知性
 部分は物忘れをしてもいいけれど、歩行を司る部分が物忘れをしたら困るだろう?)らしく、HMX−16
 から試験運用が始まったらしいがまだコスト的に見合わないらしい。
「そんなに意識してる訳じゃないんだけどなー。ただこう、普通に味見の為に食べてて、環さんや春夏さん
 に『これはタカ坊が好きなおかずなのよ』『タカくんはこういう味付けが好きみたいよ』なんていうのを聞いてるう
 ちに段々とね。それに、実際作ってみて、貴明が『美味しい』って言ってくれた物の味を覚えていたら、な
 んとなく美味しいって思うようになっちゃったんだって」
 顔を赤らめながらとつとつと語るミルファに、ふと気が付くと皆がドン引きしている。
 それどころかヒソヒソと額を寄せ集め、堂々と陰口を叩いていやがる。
「……ラブラブだね」
「……愛の力ってすごいんだね〜〜」
「……うう、ミルファちゃんが遠くに行ってしまいました……」
「え? えええ〜〜??」
 う〜〜む、困ったもんだ。
 どうも今日は(今日だけじゃないとか言うな)俺たちがおもちゃの日らしい。
「そういえばさ」
 どうしたものかと考えあぐねていると、雄二が今度は別方向の疑問を出してきた。
「唐突だけど、顔色が変わるのって、すごいよな」
 あー、それは俺も思った事あるよ。
 人間の顔色は要するに「血の気」だもんな。
567どきどき水着パニック♪(11/12):2006/07/26(水) 21:49:26 ID:RX0Y3cFL0

 血が流れていないはずのロボットに血の気とはこれ如何に、ってね。
「それはですね、私たちの身体にも『血』が流れているからですよ」
 今度の雄二の疑問に答えたのはイルファさんだった。
「雄二さんは、私たちが概ねどういう仕組みで動いているかは、ご存知ですね?」
 メイドロボ……に限らず殆どのヒューマノイドタイプのロボットや、義手・義足といったサイバーパーツは、
 多くがムーバルフレームと呼ばれる人間の骨格とほぼ同じ構造を持った軽金属やカーボンファイバー
 製の骨格に、マッスルシリンダと呼ばれる人工筋肉を取り付け、それを動かす事で殆ど人間と変わら
 ない動作を再現する事に成功している。
「マッスルシリンダを動かしているのはポリマーリンゲル液という液体触媒と電気刺激です。ポリマーリンゲル
 液は常に浄化が必要ですので、私たちの体内では人工心臓と人工血管を使用して循環させています。
 だから、私たちはその仕組みを情動反応にも利用し、ドキドキしたり、顔色が変わったりするんです。」
 最初この話を聞いた時は驚いたものだけど……
 長瀬さん曰く「人間と同じ動きをさせたいなら、人間と同様の仕組みを持たせるのが一番早い」という
 事らしい。
 以前は主要部のみの内骨格にサーボモーターを組み込み、「手首を外して充電する」なんて事もさせ
 てたらしいのだが、重量や熱の問題、そしてマッスルシリンダの性能向上に伴い、ホームアシスタントタイ
 プのアンドロイドは完全なムーバルフレーム方式に移行したのだそうな。

 とにかく、見せてもらった事はないんだけれども、彼女たちの「中身」は結構俺たちと似ているらしい。
 人間と同じように骨があり、筋肉があり、内臓があり、脳がある。
 ただそれが人工物、というだけなのだ。
 メンテナンスハッチ(どうやらヘソから開けるらしい)を開いて中を見せて貰うと驚くらしいが、俺は彼女た
 ちのヘソが広がっているところなんて見たくないので、実際見た事はない。

「なるほどねー、勉強になったわ」
 日頃、そういうメカニカルな話題には興味を示さないタマ姉も、イルファさんの懇切丁寧な説明に納
 得が行ったようだった。
568どきどき水着パニック♪(12/12):2006/07/26(水) 21:51:17 ID:RX0Y3cFL0

 タマ姉なりに、全く人間と変わらない表情を作れる仕組みや、暑かったり運動したりすれば汗をかく仕
 組み(冷却水も循環していると聞いて驚いていた)を疑問に思っていたらしい。

 さてさて、夜も更けてきましたね。
 お話をしていると時間の経つのは早いものです。
 さぁ、皆さんお開きですよ〜♪
「で、タカ坊。いつから田舎の方に行くの?」
 うっ、忘れていなかったんデスね……
 帰りしな、玄関口でタマ姉が俺に質問してきた。
「まだ詳しい事は決まってないけど……なんで?」
 タマ姉はにっこり微笑むと、軽く俺を地獄に突き落とした。
「あら。決まってるじゃない? タカ坊が出かけちゃう前に海に行かなきゃ。声をかけないと、いじける人もたく
 さんいそうだし」
 ささらとか、まーりゃん先輩とか、愛佳ちゃんとか……楽しそうに次々と指折り数えはじめるタマ姉。
 愛佳先輩を呼ぶならきっといくのんも来るねーとか、そういう不吉な幻聴も遠くで聞こえる。

 ああもう、どうせなら来栖川研究所チームも呼びましょうかねぇ?
 藤田先輩とか呼んだら楽しそう……と思った瞬間、そんなコトをしたら更に女の子が増える事に気が
 付いて、俺は深く深くため息をつくのだった。


                                       〜〜終わり☆
569どきどき水着パニック♪:2006/07/26(水) 21:57:50 ID:RX0Y3cFL0
>>560さん支援ありがとう!
>>565さん恨まないで下さい……orz

というわけで「どきどき水着ぱにっく♪」を投下させていただきました。
まぁ、相変わらずのお目汚しで申し訳ないのですが……(^^ゞ
そうそう、言い訳ついでに……メイドロボの構造設定がサ○ライ○のロボットアニメに毒されているのは
気にしないで下さいね。
ではまた何か書いたらお邪魔しにやってきます。
570Metal Manaka Chaos(1/4):2006/07/26(水) 23:52:40 ID:WrtiM5El0

愛佳と付き合い始めてから数ヶ月。
俺の自由は死んだ。
いつの間にか俺は、クラスの副委員長的な存在になっていたらしく
ことあるごとに仕事を押し付けられるようになっていたのだ。(断りきれない俺も悪いのだが)
来る日も来る日も仕事仕事仕事仕事。
いいかげんノイローゼになりそうではあったが、そんな俺にも、まだ希望は残っていた。


2年B組学級委員長だ。





貴明「まったく……底無しのお人好しだな」
郁乃「ホント……他人のために、よくあそこまで出来るわね
   ……あまり無茶しないでよ、お姉ちゃん」


愛佳「さて、と。お仕事お仕事♪」
571Metal Manaka Chaos(2/4):2006/07/26(水) 23:53:36 ID:WrtiM5El0

君臨する定番メニュー
愛佳「今日はアップルパイな気分……」


新たなる期間限定商品
愛佳「でもでも! ヤックシェイクのマンゴーも捨てがたいかも……」


10人のヒロイン
るーこ「いいだろう。るーが相手になる
    地上最強のうーとしてふさわしい実力か……ためさせてもらうぞ」


おごる者
貴明「シェイクだけで1000円!? 腹壊すぞ!?」
愛佳「やだなぁ。半分はたかあきくんの分だよ?」
貴明「飲めるかっ」
572Metal Manaka Chaos(3/4):2006/07/26(水) 23:55:06 ID:WrtiM5El0

凡ミスはさらなる凡ミスに埋もれ
瑠璃「次は容赦せんで、貴明ー!!」
由真「これで勝ったと思うなよー!!」


恋人ごっこは、いつの間にか『ごっこ』ではなくなっていた
雄二「敵部隊を確認。姫百合姉妹とイルファさんだ
   かなりの長期戦が予想される。種切れに注意しろ」
貴明「どんなアドバイスだ。オイ」
雄二「委員ちょの分も残しておけよっ」
貴明「雄二ぃぃぃぃぃぃ!!!!」


この先生きのこるために、欺き、裏切り
玲於奈「どうやら、嗅ぎ付けられたようね……」
薫子「そろそろ引き際ということ……?」
玲於奈「敵はたった一人……ここで消してしまいましょう」
カスミ(こくこく)
雄二『た、貴明助けてくれ!! バケモn(ザザー』


昨日迄の友人にも敵意を向ける
優季「私達の存在……それが何を意味するのか、これで分かる気がします」
573Metal Manaka Chaos(4/4):2006/07/26(水) 23:56:23 ID:WrtiM5El0

だが、しかし――
真の正義は砕けない! 何故なら彼女は――


雄二「無理だ、貴明! もう間に合わねぇ!!」
貴明「それでも! それでも愛佳なら、何とかしてくれる!!
   何故なら、あいつは――」





――2年B組、学級委員長だからだ!!!


Metal Manaka Chaos
2006年8月3日より、連載決定!!!

君はまだ、本当の委員長を知らない――


雄二「……人って、ああも簡単に変われるものなんだな。貴明」
貴明「その責めるような目はなんだ」
574Metal Manaka Chaos:2006/07/26(水) 23:58:07 ID:WrtiM5El0
分かる人にしか分からないネタだが、唐突に思いついたので書いてみた
よりにもよって良作の直後にこんなもん投下して、本当に申し訳ない
「もはやSSじゃねーよ」といったツッコミも受け付けます
今では猛省している

ちなみに、連載ってのはウソです
ええ、ウソですとも
575ちょおSS初心者:2006/07/27(木) 00:25:11 ID:WO1s1iMA0
皆さん始めまして
今回初めてこのスレにSSを投下してみようと思っているのですが、
皆さん通し番号とかはどうやって付けてるんでしょうか?
自分は今メモ帳に書き込んでいるのですが、ワードに写して1ページくらいを基準にして通し番号を付けるつもりです。
他の方法を取った方が良いのなら教えて下さいませ。
よろしくお願いします<_ _>
576名無しさんだよもん:2006/07/27(木) 00:43:23 ID:F8Oey2iw0
>>575
え〜と、作者さんにもよるようですが、大体48文字×28行くらいで投下している方が多いようです。
で、ワードの書式を(48×28)に設定してやれば、全部で何ページかすぐわかるわけですな。
この行数だと最初の文頭と最後の文末に1行入れて少し読みやすく出来ますしね。
ま、何度か落としてみるとそのうち慣れますよ。
がんばってください。
577白詰草 ◆Pd9gE38GCU :2006/07/27(木) 00:48:06 ID:o0WYP6DV0
>>575
スレの制限で、1レスあたり30行しか投下できないので、それを考慮する必要があります。
他の人は判りませんが、私は行番号付きのテキストエディタを使って、40文字×30行で作
品を区切って(区切り位置が文章の途中だったりと問題がある場合は、座りの良い位置ま
で行数を減らしたり)、それがいくつになるかを数えて通し番号をつけます。

作業工程は…
1.とりあえずWordで最後まで書く
2.書いた物をTeraPadに移して、ブロックに区切る
3.通し番号を付ける
4.折り返し反映コピー&ペーストを使用して、ひたすら投下する

あくまで白詰草のやり方です…
他の人はもっと簡単なやり方をしてるのかな

578ちょおSS初心者:2006/07/27(木) 01:17:44 ID:WO1s1iMA0
>>576 >>577
お二人とも貴重な意見ありがとうございます。
自分はテキストエディタを持っていないので、
ワードに写して通し番号をつけることにします。
それでは、掲載のための準備をしてきます。
二人ともご意見どうもありがとうございました。
579名無しさんだよもん:2006/07/27(木) 01:57:11 ID:er2RUcEc0
>>549
帰れ、ゲンジマルは渡さないぜ!
580『恋に盲目』 1/3話 (1/13):2006/07/27(木) 02:05:56 ID:WO1s1iMA0
「タカ坊、さっきから唐揚げとか卵焼きとかばっかり食べて、野菜を全然食べてないじ
ゃない」
「え、いや〜。別に嫌いってわけじゃないんだけどこっちの方が好きだから……」
「じゃあこの野菜の煮物もちゃんと摂りなさい。そうじゃないと体壊すわよ?」
「わ、分かってるって」
「そ、じゃあ口あけて」
「口あけてって?」
「あ〜んよ、あ〜ん」
「あ、あ〜ん……もぐもぐ……やっぱりタマ姉の料理は美味いね」
「当然じゃない、愛がこもってるんだから♪」
「タカくんとタマお姉ちゃん、なんだかとってもラブラブだね」
「そうだなぁ……」

 キャンパスに青で塗りつぶしただけで終わりそうなくらい青く晴れ渡った空の下、俺
こと向坂雄二、チビ助こと柚原このみ、俺の姉貴である向坂環、そして河野貴明の幼
馴染連中と一緒に昼飯を食っている。
 それにしてもだ、なんだ?
まだ春真っ只中のゴールデンウィーク明けだってのに、この空間に漂う異様なラブコ
メチックな熱気はよぉ。
『恋は盲目』とはよく言ったもんだが、俺やこのみに加え、他の生徒達までもが見てる 
中で、よくもまあこんな恥かしい事を堂々と出来るもんだぜ。



 それにしても貴明の奴、昔と比べて随分と積極的になったもんだ。
 昔ならこういうことに関しては断固拒否だったってのに、今となっちゃあ公の場で手
を握って帰宅する様子すら噂されるにまでなっちまったんだからな。
 それもこれも、姉貴と付き合い始めるようになったのが影響しているのかもしれないな。
581『恋に盲目』 1/3話 (2/13):2006/07/27(木) 02:06:30 ID:WO1s1iMA0
俺の幼馴染である河野貴明と俺の姉貴である向坂環は、4月末あたりから付き合うこ
とになったらしい。
 付き合うってのは俺達四人の関係みたいな人付き合いじゃなく、男と女としての付き
合い、つまりはカップルになったってわけだ。
 姉貴は俺に対して、その自慢のアイアンクローをお見舞いする暴力性を持ち合わせて
いたりはするが、その他の面においては成績優秀で容姿端麗、更には炊事や洗濯まで
もこなすパーフェクトレディだ。
 ……これだとただの姉貴自慢の様に聞こえるわけなんだが、実際にそうなのだから文
句は言えない。
 そういうわけで姉貴には全く問題が無いわけなんだが、問題なのはその片割れである
河野貴明だ。
 この大バカ野郎と言ったら、自分が女の子と触れ合うのが苦手な癖してやけに女の子
に優しい、超が付くほどのお人よしと来たもんだ。
 しかし最近になって、その女性恐怖症も解消されつつある。
 何たってその原因を作った女性と付き合ってるわけだからな。
 しかしその女性恐怖症が治った事により、新たな問題が浮上してきやがった。
 それは……徐々に貴明がやたらとモテモテになりつつあることだっ!
 貴明は何故か知らないが、元々女にモテる傾向がある。
 その俺にも少しくらい分けて欲しいと思えるほどの天賦の才を、最近になって如何な
く発揮し始めた。
 クラスの委員ちょとその妹。
 前まではただ貴明に突っ掛かってきていただけの変な女子生徒。
 俺達の知らないところでの秘密の幼馴染。
 そして挙句の果てには、年下の双子姉妹まで貴明への好意を示しだしたんだ。
 まあ、恋するのは自由だから別に良いんだけどよ。
 貴明にはすでに決まった相手がいるわけで、こうやって中途半端に回りに愛想を振り
まくと、後でとんでもねぇ修羅場になっちまうのが相場ってやつだ。
 俺はそんなもんに幼馴染を巻き込みたくねぇし、何よりもそうなっちまった場合に一
番悲しむのは姉貴だ。
582『恋に盲目』 1/3話 (3/13):2006/07/27(木) 02:07:26 ID:WO1s1iMA0
 姉が悲しむ姿を見るってのは、弟の立場としてはあまり良いとは言えないもんだ。
 だから河野貴明ことこのラブコメヤロウを監視やりたいのだが、生憎一人ではそこま
で手が回らねぇ。


 はぁ、誰か俺と一緒にこの困ったラブコメヤロウの見張りをやってくれる奴はいねぇ
のかぁ〜?


 って、いるじゃねぇか。
 そんなどこにでも恋愛フラグを立てちまう様なあいつのラブコメパワーを振り払って、
逆にその恋愛フラグを取り上げようと奮起していた連中が。
 しかしあいつら、最近どうしてんだ? 俺や貴明の前に全く姿を表さねえんだが。

「ま、考えたって仕方ねぇ。明日暇があったらあいつらの教室に邪魔するとするか」

 そんなことを思いながら俺は、彼女が出来てすっかり付き合いが悪くなった親友に置
いていかれ、一人で帰路に着くのだった。

**

 その翌日の昼休み、俺は予め買っておいたパンをさっさと食って、
 早速例の奴らに会いに行くことにした。
 確か、あいつらの教室はっと…… あった、ここだな。
 普通の奴なら他のクラスに堂々と入るなんてことは出来ないだろうが、普段から他の
クラスにしょっちゅう顔を、もといちょっかいを出している顔を出して幅を利かせて
いる俺だ。
583『恋に盲目』 1/3話 (4/13):2006/07/27(木) 02:07:57 ID:WO1s1iMA0
だから、こんなことは朝飯前も同然だ。
 でもまあ、今はそんなことどうでも良い。
 今日の目的はちょっかいを出しに来たわけでも、女の子をナンパしに来たわけでもね
ぇからな。
 俺はいつもと同じようにいきなり他のクラスに入り、いつもと同じように適当にその
クラスの連中と適当にダベる。
 そしてその後で、このクラスの一員でありながら、別クラスの俺よりも存在に違和感
を漂わせているお嬢様学校出身の女子生徒に声を掛けることにした。

「よっ、久しぶりだな」
「貴方はお姉さまの…… お久しぶりですわね」

 別に俺や姉貴と兄妹でもねぇのに、姉貴のことを『お姉さま』と呼ぶこの女子の名前
は玲於奈。
 姉貴に心酔しきっている九条院三人娘のリーダー格だ。

「そういや残りの二人は一緒じゃねぇのか?」
「……私達でもいつだって一緒というわけではありませんわ。二人にはそれぞれの用事
があるのですから」
「そっか、それもそうだな」

 どうにもあの三人組は常に三人セットだと言う印象がついちまっているのか、なんと
なく一人でいることが気になってしまったから聞いてみたんだが……
 どうやら余計な質問だったみてぇだな。

「それで貴方は、わざわざそんな事の確認のために私を訪ねてきたというのですか?
 全く……そんな無駄な事に時間を使うのでしたら、向坂の人間らしく自己を磨くため
の時間を―――」
584『恋に盲目』 1/3話 (5/13):2006/07/27(木) 02:09:21 ID:WO1s1iMA0
「いやいや、さすがに俺だって無駄なことに時間を費やすほどの暇人じゃねぇって。
 本件は別にあるんだが、ちょっと時間取れるか?」
「丁度昼食も食べ終わった事ですし、予鈴が鳴るまででしたら」

 こいつ、さっきまで昼飯を食ってたのか?
 そんな雰囲気すら感じられないほど机の上は綺麗に片付けられてあるし、机の周りに
も他のクラスメイトと一緒に食べていた気配すらねぇのに。

「用があるのでしたら手早く済ませて頂けませんこと?」
「あ、ああ。済まねえ、今行く」

 しかし俺はその理由を考える暇なんて与えられることも無いまま、玲於奈に急かされ
るようにして二人で教室を出る事にする。
 しかし男女二人組が一緒に教室を出て行くなどと言う、色恋沙汰が好きな年代の連中
が飛びつきそうな話題の種を、そのクラスの連中は特に気にも止めていないようだった。

***

 そして俺達は中庭へと移動して話をすることになった。
 こういう風に相談をする時は本来、人気の少ない屋上の方が良いんだろう。
 でもご生憎様、屋上はどっかのバカップルによる甘い空気が立ち込めちまってて、話
なんてする雰囲気じゃないからな。
 今日はこのみにもクラスの奴らと食べるように言ってあるし、今頃はお空の下で二人
仲良くランチタイムだろうよ。

「それで、話と言うのは一体何なのです?」
「話ってのは他でもねぇ、姉貴のことなんだが……」
「やっぱりお姉さまのことだったのですねっ。それでお姉さまがどうかされたのですか?」
585名無しさんだよもん:2006/07/27(木) 02:11:40 ID:sJi8h2L70
支援
586『恋に盲目』 1/3話 (6/13):2006/07/27(木) 02:12:06 ID:WO1s1iMA0

 姉貴の話をすると言った瞬間、途端に玲於奈が表情を変える。
 こいつ、姉貴以外の話題だったら適当に流すつもりでいやがったな……

「やっぱり九条院へ戻られる決心が付いたのですね!?
 そうですか! やっぱりお姉さまはそう決断してくれると信じてましたわ!!」
「い〜や、それは絶対ねぇよ」

 一人で結論を付けて盛り上がってる玲於奈には悪いんだが、このままだとまた余計な
方向に話が流れそうだったのでひとまずは否定しておく。

「絶対などと、何故言い切れるのですっ……!」

 こ、こえぇ……
 こいつも姉貴同様、睨むだけで人を殺しかねねぇ程の殺気を放ってきやがった。

「わ〜った、わ〜った。理由を説明してやるからそう睨むなって」

 玲於奈は納得は出来ずに俺のことを訝しげに睨んでくるのだが、何とか話は聞いてく
れる態勢にはなってくれたようだ。

「それでだ、そもそも姉貴がこっちに戻ってきた理由って分かるか?」
「そのことについてお姉さまが全く話して下さりませんし、私達に分かるはずがありま せんわ」
「じゃあその理由から話してやるよ。
ズバリ、姉貴がこっちに戻ってきた目的はだな―――」

 そういって間を溜めてやると、お約束とばかりに玲於奈の視線が俺に注がれる。
587『恋に盲目』 1/3話 (7/13):2006/07/27(木) 02:13:10 ID:WO1s1iMA0
 本当ならこれって結構良いシチュエーションなんだが、その視線は睨みつけているよ
うにしか見えねぇからなぁ……

「何を隠そう君たち三人の宿敵、河野貴明なのだよっ!」

 そこで俺はその視線を跳ね返すべく、ちょっと偉そうな口調でそう言ってみる。
 ここでこいつなら、勢いよく激情して貴明への対抗心を燃え滾らせるだろうから、そ
こに上手く付け入って貴明の監視をするように言ってやるだけだ。

「そう、でしたのね……」

 しかし玲於奈は、激情するどころか逆に炎が消えちまう寸前の蝋燭みてぇに、力無く
呟くだけだった。

「っておいっ、ここはガーっとぶち切れて貴明の寝首を掻きに行くくらいの勢いをだなぁ」
「それをして、お姉さまは喜ぶというのですの?」

 その玲於奈の一言は、以前見た貴明への対抗心を燃やしていた時の様な勢いが無いに
も関わらず、その頃のものよりも更に鋭い言葉だった。

「お姉さま自身の意志で九条院に戻られると言うのでしたら私達は大歓迎ですが、
 お姉さまはこちらに戻ることを選び、あの河野貴明と言う男を選んだのでしょう?」
「ま、まぁそうなんだがよぉ……」
「でしたらもう、私に出来ることはもうありませんわ」

 それでもう用事は無くなりましたわと言わんばかりに、玲於奈は中庭から立ち去ろう
とする。

588『恋に盲目』 1/3話 (8/13):2006/07/27(木) 02:13:42 ID:WO1s1iMA0
「ちょ、ちょっと待て! それで最近貴明の奴が見境無く愛想を振りまいてやがるんだ。
 だから、そんな貴明が他の助詞に手を出さねぇように一緒に見張りを―――」
「そういう仕事は、弟である貴方の役目でしょう?
 そんな事も分からないのによく人に頼めたものですわね」
「なっ……」

 今までで一番冷たく、そして重たい言葉が玲於奈の口から発せられる。

「それに私は、もうすぐ九条院に帰るつもりですから」

 それだけ言い残し、玲於奈は九条院で教えられた流麗な足取りで立ち去っていく。
 その足が向かう先は、遥か遠くにある学園に向けられているような気がした。

****

「はぁ〜、失敗しちまったか……」

 そんなことを一人でぼやきながら、今日も一人寂しく帰路に着くことにする。
 貴明の奴は既に教室を出ちまって今頃は姉貴と帰っている頃だろう。
 ったく、ちったぁ友情の方にもウェイトを設けろっての。
 それにしてもだ…… まさか玲於奈の奴があそこまで冷め切っちまってるとはなぁ〜。
 あの頃は何が何でも『お姉さま!』ラブな奴だったってのに。
 それにあいつ、もうすぐ九条院に帰るなんて言ってたな。
 本当に良いのか? 確かに貴明と姉貴の仲はもう崩せねぇだろうが、このままじゃあ
いつら、何のためにこっちに来たんだが分からないじゃねぇか。
 俺は帰るなら帰るで別に良いんだが、何かこっちに来て良かったと思えるものがあり
ゃあ良いんだけどよ……
 って、俺は何考えてんだ。今はどうやって貴明を監視をするかが目的なんだろうが。
589『恋に盲目』 1/3話 (9/13):2006/07/27(木) 02:14:24 ID:WO1s1iMA0
 とにかく今日のところは家に帰って作戦でも―――

 お、あれって確か……
 そんな事を思いながら帰ろうと家に下駄箱の前で、
 覚えのある顔を見つけたので何となく声を掛けることにした。

 ―――今回はナンパじゃねぇからな?

*****

「よ、委員ちょ」
「だから委員ちょって呼ばないでってばぁ〜」

 俺が見つけたのは俺のクラスの委員長で、『委員ちょ』という愛称で呼ばれている(本
人は嫌がってるが)小牧愛佳だった。

「下駄箱の前で突っ立って何やってんだ?」
「文芸部の友達と一緒に本を買いに行こうと思ってるので、その友達が来るのを待って
るんですぅ〜」
「文芸部ってーと、草壁さんだったっけ?」

 草壁さんってのは文芸部に所属している俺達の同級生で、俺達は知らねぇ貴明だけの
幼馴染。
 幼少時代の貴明と草壁さんは仲が良かったらしいのだが、つい最近こっちに帰ってく
るまではどっか別の所で暮らしていたらしい。
 まあ、貴明との関係を含めて過去に何があったかは俺の詮索するところじゃねぇから、
俺が知っているのはここまでだ。

590『恋に盲目』 1/3話 (10/13):2006/07/27(木) 02:14:55 ID:WO1s1iMA0
「優季さんもそうですけど、今日は優季さんだけじゃないんです〜」
「なんだ? 他にも誰かいんのか?」
「はい、えっと―――」
「ごめんなさい小牧さんっ。待ちました?」
「ううん、別に待って無いですよ」

 廊下からとんでもないスピードで走ってきておきながら、
 息一つ切らさず冷静に委員ちょにお辞儀をする草壁さん。
 そのバイタリティはチビ助とタメを張ってそうなんだが……
 俺なんかが言うべきことじゃねぇが廊下は走るなよ?

「すみません、少し掃除に手間取ってしまいまして…… 皆さんに手伝ってもらったの
ですが」
「皆さんって誰なんだ?」
「あの二人です」

 俺が何気なしに聞いてみた質問に、草壁さんは振り返ってその二人を紹介するように
手をかざす。
 そしてそこには、やたらと早足で歩いてくる二人の影がこちらに段々と近づいてきて
いた。
 そんななまじ走るより疲れるようなことすんなら、いっその事走っちまえばいいのに
よぉ。
 よっぽど校則とか規律とかを重んじる優等生なんだろうな。

「すいません、やり始めたら本格的にやらないと気が済まなくなってしまって、
 余計に遅くなってしまいました……」
「ペコリ」
「あ、別に良いんですよ。あたしは待つの嫌いじゃないですから」
591『恋に盲目』 1/3話 (11/13):2006/07/27(木) 02:15:30 ID:WO1s1iMA0
「この二人って凄いんですよ〜、細かいところの掃除までしっかりをやってくれて、教
室が見違えるほど綺麗になりました」
「いえいえ、ただ手間を掛けただけの話ですので」
「コクコク」

 こいつら……九条院三人組のうちの二人じゃねぇか。
 確か、名前は薫子とカスミだったか。
 ―――それにしても、この四人って仲が良さげだな。
 元々おっとりしててマイペースな委員ちょと草壁さんと、お嬢様学校で上品な物腰を
叩き込まれて育ったこの二人は相性抜群らしい。
 その会話風景はまるでそこだけ時間が止まっているように緩やかで、さっきまで委員
ちょと話してた俺が、丸っきり蚊帳の外へと追い出されてしまっていた。

「お久しぶりです、向坂様」
「コクコク」
「おお、久しぶり。だが向坂“様”ってのはこっぱずかしいから止めてくれねぇかな?」
「あれ? 向坂くん、薫子さん達とお知り合いなんですか?」
「ん、まあな」

 こいつら三人組とは姉貴の件で色々とあったからなぁ―――
 ん? そういや今日は『三人組』じゃなくて『二人組』じゃねぇか。

「そういや玲於奈はどうしたんだ? 今日は一緒じゃねぇのか?」
「玲於奈、ですか…… 最近玲於奈とは――」
「玲於奈? それって誰のことなんですか?」

 俺の質問に薫子とカスミは目を伏せてしまい、委員ちょと草壁さんは頭に疑問符を浮
かべちまっている。
592『恋に盲目』 1/3話 (12/13):2006/07/27(木) 02:16:18 ID:WO1s1iMA0
「誰も何も、いつもこいつらと一緒にいるタカビーなお嬢様のことだって」
「あのぅ〜、それって由真のことですか?」
「由真? 誰だそりゃ?」
「長瀬由真。普通の生徒が通うこの学校では珍しく、あの来栖川家の系列に属している
長瀬家の娘なんですよ」

 本人はそういう風に差別されるのが大嫌いみたいですけど、と委員ちょは付け足しな
がらそんな事を口にする。

「そんな子いたのか? まあとにかくだ、その由真って子と玲於奈は別人だって」
「そうなんですか。じゃあ他にお嬢様と言ったら……」
「誰なんでしょうかぁ……」

 そう呟きながら、委員ちょと草壁さんは本気で考え込んでしまう。
 まさかこの二人、本気で玲於奈のことは知らねぇのか?
 いやそんなはずはねぇ。
 薫子とカスミのことを知ってるんなら、当然玲於奈のことだって知ってるはずだ。
 だってこいつらは、どんな時だろうと一緒にいた『三人組』のはずなんだからよ。

「おい、お前らも訳のわかんねぇこと言ってるこの二人に何か言ってやれって」

 俺はやっぱり頭に疑問符を浮かべたままでいる委員ちょ達にちゃんと分かるように説
明してやれと、薫子やカスミ達に言葉を投げかける。

「……本当にその二人は、玲於奈のことは知らないと思いますよ」
「……コクコク」
593『恋に盲目』 1/3話 (13/13):2006/07/27(木) 02:16:49 ID:WO1s1iMA0
 しかし薫子とカスミは、そう言って俺の言葉を真っ向から叩き落としてきたのだった。

「な、何言ってやがんだよ。
 お前達二人が委員ちょ達と知り合いってことは、いつも一緒にいる玲於奈の事も知っ
てるってこじゃねぇか」
「だから、小牧さん達といる時に玲於奈がその場に居合わせたことが無いと言っている
のです」
「ちょっと待てって、それってどういう事だよ」

 薫子は俺に嘘を付いてる様子もなく、毅然とした態度でそう言ってのける。
 その物腰はさすがは元お嬢様学校の生徒と言いたいところだったが、そんなことより
もこいつが言った内容の方が気に掛かった。

「どうもこうも、本当の事を言ったまでです」
「あのぅ〜、お二人は一体何を話しているんですか?」
「さて、時間も無い事ですしそろそろ行きませんか?」
「え、はいっ」
「それでは時間も無い事ですのでこれで。お姉さまには宜しく伝えておいて下さい」

 それでは、と薫子達は行儀良く俺に一礼をして、そのまま委員ちょ達と一緒に帰宅の
途に着くのだった。
 一体、何がどうなってんだ?

 こうして俺の姉貴と貴明の仲を監視しようと思って始めた俺の企みは、なんだか良く
分からねぇ方向に進んでいきそうな気配がしていた。
594ちょおSS初心者こと『恋に盲目』の作者です。:2006/07/27(木) 02:23:49 ID:WO1s1iMA0
まずはじめに >>585様、支援どうもありがとうございました!

二度目の挨拶ですが、改めて始めまして。
今回このスレに初めて『恋に盲目』というSSを投下したちょおSS初心者です。
名前の通りちょおSS初心者でどうやって書いたら良いのか迷走中の毎日ですが、今持っているものを全部投下して読みました。
感想とかもらえるととても嬉しいです。
初心者だからと言って甘えるわけにもいきませんので、批評などもして下さるとありがたいです。

とりあえず、今日の投下はここで打ち止めにしておきます。
原稿はもう完成しているので、反響を見ながら続きを投下していこうと思います。

それでは、お目汚し失礼いたしましたっ。
595名無しさんだよもん:2006/07/27(木) 09:46:05 ID:BQkXXT/n0
(玲於奈フラグ)来たか
596名無しさんだよもん:2006/07/27(木) 09:47:40 ID:kw1Xrs/Y0
ただのトーシロの意見としては、余計な言い回しが多くて無駄に文章が長くなってるような気がしました。
珍しいキャラにスポットが当たってるので個人的には続き楽しみにしてます。
597ちょおSS初心者こと『恋に盲目』の作者です。:2006/07/28(金) 01:29:27 ID:wuziW0SD0
>>595 >>596

二人ともコメントどうもありがとうございました。
文章が長くなっている、ですか……
とりあえず詰め込めるだけのものを詰め込んでいる感じでしたので、バランスについてはあまり考慮してませんでした……
今後の参考にさせて頂きます。
貴重なご意見どうもありがとうございました。

それでは、準備が出来次第続きを投下したいと思いますので宜しくお願いします。
598『恋に盲目』 2/3話 (1/14):2006/07/28(金) 01:37:01 ID:wuziW0SD0
「う〜ん、一体全体どうなってやがるんだ?」

 色々と想定外のことが起こりすぎて頭が混乱してきたので、今日はどこにも寄り道を
せずに家まで帰ってきた。
 そのせいか家には誰もいなくて、無闇に広い屋敷は静寂そのものだったが、
 一人で色々と考えたい俺にとっては返って好都合だ。


 今日の放課後に会った薫子の発言からすると、最近あの三人組は行動を共にすること
が少なくなってきてるという事だけは何となく分かった。
 だけどよ、あんなにいつでもベッタリだった三人組が離れて行動してるってのは、一
体誰が想像出来るってんだ?

「―――仕方ねぇ。明日直接薫子達に理由でも聞きに行くか」

 しかしなんで俺は、こんな余計なお世話みてぇなことをやってんだ?
 俺の目的は貴明の監視だったはずなのによぉ。
 そんなことを考えると自分でも笑ってしまいたいくらいだが、それは見てるこっちが
恥かしいくらいの、ウブでお人よしな幼馴染がいたせいだからと諦めちまおう。 



 そうして次の日の放課後を迎えた俺は、そのお節介な性格通りに薫子の教室を尋ねる
ことにした。
 本当は昼休みに行くつもりで教室にも行ったんだが、その時薫子の周りには勉強やら
淑女としての心得やらを教わろうとしている女子生徒達が何人かいて、結局話なんか
切り出せる雰囲気ではなかったから先送りすることになったってわけだ。

599『恋に盲目』 2/3話 (2/14):2006/07/28(金) 01:37:36 ID:wuziW0SD0
 その光景は玲於奈の教室を尋ねた時とはまるで正反対の光景で、あっけに取られてし
まっていたのが本当のところなんだが。

「よぉ」
「これは向坂様、私に一体何のご用でしょうか?」
「だから向坂様ってのはやめろって。なあ、色々と聞きたいことがあるんだが良いか?」
「私は別に構いませんが、一緒に掃除している草壁さん達に悪いですので……」

 薫子はカスミや草壁さん達と一緒に、教室の掃除をしている最中だった。
 なるほど、机を後ろに下げるんじゃなくて一度廊下に出している辺りかなり本格的に
掃除しているみたいだ。
 これなら、昨日みたいに委員ちょが待ちぼうけを喰らうのも無理も無い話だったって
わけだ。

「草壁さんだったっけ。ちょっと薫子を借りてっていいか?」
「ええ、別に構いませんよ。今日の掃除はもうほとんど終わりですから」

 俺が草壁さんに声を掛けると、草壁さんはテキパキとした動作で椅子や机を片付けな
がらそう返してくれる。
 この調子なら薫子が抜けた穴もなんとか補えそうだな。

「それじゃあ遠慮なく借りていくな」
「ええ。心置きなく薫子さんに求愛して来てくださいねっ」

 そのまま薫子と教室を出ようとすると、草壁さんはそんなことを言いながら、楽しそ
うな笑みでこちらを見つめてきていた。

「今日は別にそんなんじゃねぇってっ」
600『恋に盲目』 2/3話 (3/14):2006/07/28(金) 01:38:33 ID:wuziW0SD0
「そうなんですか? 向坂くんが女の子を連れ出すと言ったら、
 ナンパか告白ぐらいしか無いだろうってクラスの皆さんが言ってた事があったのです
けど」
「あ、はは…… それに関しての否定はしない」

 そこまで噂が広まってたのか。こりゃ今後の身の振り方も考えねぇとな……
 って、そんなこと考えてる場合じゃねぇっ!

「とにかく、薫子は借りて行くからなっ」
「はい、どうぞごゆっくり〜」
「ふるふる」

 俺は草壁さんの生温かい視線と、カスミの心配そうな視線を受けながら、薫子を人気
の無い屋上へと連れて行くことにした。

**

 予想通り放課後の屋上には生徒は全く人気が無く、夕焼け空になる前の青い空が広が
っている。
 そんな青い空の下、グラウンドから部活動に精を出している生徒達の掛け声が聞こえ
てくる程度の静けさが、話し合いをするには丁度良い空間となっていた。

「あの、それで一体何の用なのですか?」
「ああ、すまねぇ。聞きたいことってのは玲於奈の事なんだが……」
「玲於奈、ですか……」

 その名前を聞いた瞬間、薫子は視線を落としてしまう。
 やっぱり何かあるみたいだな。
601『恋に盲目』 2/3話 (4/14):2006/07/28(金) 01:39:08 ID:wuziW0SD0
「最近三人組でいないみたいだからな。何かあったのかと思ってよ」
「それは、玲於奈が私達の事を遠ざけるようになったからです」
「んなこと何であいつがするんだよ」
「それは…… 私達がこの学校に馴染んでしまったからでしょうね」

***

 そうして薫子は淡々と話を続ける。
 玲於奈の実家が向坂の分家である事は聞いた事はあったのだが、実はあいつの家も相
当な資産家の家系だったらしい。
 そしてそんな家系に生まれてきたと言う事実と、自分に対しての親の教育などの影響
からか、あいつは幼少の頃から上流階級に相応しい人間になるように努力してきたと
いうことらしい。

「私とカスミは実家が普通の家なのでどの様に過ごしていたのかは分かりませんが、相
当厳しい家系だったことは間違い無さそうですね」
「ん? 普通の家って、九条院って資産家令嬢とかみたいな金持ちの娘しか入れないん
じゃなかったのか?」
「そんなことはありませんよ。
 さすがの九条院も学力水準の維持は必要ですから、一般の生徒達も入試で合格すれば
入学することは出来ます。
 つまり私とカスミは、一般入試から九条院に入学してきた、いわばお嬢様になりたく
て学校に入ってきた生徒たち。
 それに対して最初から九条院にいた玲於奈は、お嬢様だから学校にいた生徒たちとい
うわけです」
「でもあんたやカスミだって、それなりにお嬢様っぽく見えるんだけど」
「それは入学したら九条院に相応しい人間になるように、礼儀作法や社交辞令を徹底的
に仕込まれるからです」
602『恋に盲目』 2/3話 (5/14):2006/07/28(金) 01:39:39 ID:wuziW0SD0
「元は一般人だった奴にそんなもん仕込むのかよ……」

 それは言ってみれば、俺やチビ助を舞踏会やら懇親会やらに出ても恥かしくないよう
にさせる躾けるってわけだ。
 ……それ、3秒でさじを投げちまいそうなほど無理な話だよなぁ。

「よくもまあそんなのに耐え切れたもんだな」
「……実際の話、一般入学組のほとんどはその厳しさから途中で九条院を出て行きますし、
私とカスミも何度九条院を出て行こうかと考えたものです。
 でもそんなことを考えて気が塞ぎこんでいる時に声を掛けれくたのが、お姉さま、そ
して玲於奈だったのです」

****

「その当時の私達は日々の修練に耐え切れなくなっていて、
 正に九条院から出て行こうとする寸前にまでなっていました―――」

『カスミ、ここにいても辛いだけだし、もうやめちゃおっか……』
『コクコク……』
『待ちなさい貴方達、まだ半人前なのに此処から出て行こうなどとはどういうつもりで
すの?』
『こらこら玲於奈、いきなりそんな風に突っかからないの』

「そうして食堂で相談をしていたのを、たまたま聞いて声を掛けてきて下さったのがお
姉さまと玲於奈で、すっかり九条院で過ごす事に疲れきってしまった私達のことを励
ましに来てくれたのです」
「その調子だと、玲於奈は突っかかってるようにしか聞こえねぇけど」
603名無しさんだよもん:2006/07/28(金) 01:41:46 ID:IO9wP2VH0
支援
604『恋に盲目』 2/3話 (6/14):2006/07/28(金) 01:42:21 ID:wuziW0SD0
「私もこれが彼女なりの応援だったのだと分かったのは、かなり後の事でしたからね」

 そんなことを言いながら薫子がくすりと笑う。
 その理由は俺には全く分からなかったが、思い出話をする時ってのは、本人にしか分
からないような楽しさってやつがあるもんだ。
 ……それくらい俺にだって分かるぜ?
  俺にだってそれなりに青春のほろ苦い思い出ってやつがあるんだからよ。

「あらあら、いきなり脇道に逸れてしまいましたね。続きに参りましょう。
 当時の私達にとって、お姉さまと玲於奈は長年九条院で育ってきた本当のお嬢様でした。
 だから私達には関わりが持てるはずの無い、高嶺の花のような存在だったのです」

『何があったの? 良かったら私に聞かせてもらえるかしら』
『何があったも何も、私達はここにいる事自体に耐え切れなくなったのです』
『コクコク』

「私達の言ったことはきっとこの二人の様な筋金入りのお嬢様などには通じないものな
んだと、半分諦めながらそう打ち明けました。
 ですがお姉さまや玲於奈は、そんな私達の言葉に真剣に耳を傾けてくれていました」

『なるほどね〜。確かにここって全てにおいて縛られてて、時には窮屈だって思っちゃ
うこともあるわね』
『そうでしょうか? 私にしてみればこの程度のことは何でもありませんけど』
『それは玲於奈は入学可能学年の時からずっとここにいたからよ。
 もう体にその習慣が染み付いちゃってるのね』
『そのようなものでしょうか? でも私にしてみても時には煩わしいことも無いとは言
い切れないですが』

605『恋に盲目』 2/3話 (7/14):2006/07/28(金) 01:42:51 ID:wuziW0SD0
「その会話はつい最近入ってきた私達などには分からない、九条院での生活に慣れるこ
との出来た、本当に余裕のある会話でした」

『ほら、私達にだって不満は一杯あるものなのよ』
『そうですわ。そのような事でいちいち弱音など吐いていては、立派な九条院の生徒に
はなれませんわよ』
『でも基本の礼儀作法さえ出来てない私達は、授業の度にずっと怒られ、そしてクラス
の笑いものにされているのですよ』

「そういう風にして笑いものにされるものの気持ちなんて、貴方達なんかに分かるはず
なんてないと、私はお姉さま達に言いようの無い怒りをぶつけていました。
我ながら恥かしい限りです」

『そのようなもの、しっかりと出来るようにして見返してやれば良いだけのことですわ』

「ですが玲於奈は弱気になっている私達に、当然のようにこんな言葉を言い放ってきた
のです」
「なんかいかにも言いそうだよなぁ……」

『出来ないなら私達が教えてあげるし、それでも無理ならスッパリと諦めるのも良い。
 でもまだ何も出来ないって決め付けるのは早いんじゃないかと、私は思うけど』
『そうですわ。貴方達は九条院に入る時、その程度のことで根を上げるほどの志しか持
ち合わせていなかったのですの?』
『……そんなこと、無いっ!』
『そんな軽い気持ちじゃありませんっ!』

「私達はその玲於奈の一言で目が覚めました。
 私達は根っからのお嬢様なんかに遅れを取らない様に、自分を磨いて立派な淑女にな
るためにここに来たのだという事を」
606『恋に盲目』 2/3話 (8/14):2006/07/28(金) 01:43:34 ID:wuziW0SD0
『そう。でしたら私が作法というものを教えて差し上げましょう』
『え? 玲於奈が?』

「その時のお姉さまが目を点にさせて驚く様子と言ったら、思わず笑いがこみ上げそう
になりました」

『ひどいですわお姉さま。そのような驚き方をなさるなんて』
『ごめんごめん、いつもの玲於奈からは想像も付かない言葉だったものだから』
『わ、私だってそこまで冷血な人間ではありませんっ!
 それにこのような事、お姉さまの手を煩わせるほどでもありませんわっ』
『あらあらそう、じゃあお願い出来るかしら?』
『当然ですっ。貴方達、これからはミッチリと仕込んで差し上げますから覚悟しなさい』
『はい、よろしくお願いしますっ』
『コクコク』

「私たちは玲於奈の言葉に答えるように、しっかりと背筋を伸ばして頭を下げました」

『あら、中々良いお辞儀が出来るのね。それで、私は玲於奈と言いますの』
『え……?』
『名前ですわよ、な・ま・え! 全く、褒めたと思ったらすぐこれでは先が思いやられ
ますわよ』
『ご、ごめんなさい…… 私の名前は薫子です』
『カ、カスミですっ』
『薫子にカスミね。これからビシバシ行きますから根を上げないように頼みますわよ』
『玲於奈はハードだからねぇ。気をつけなさいよ二人とも』
『『はいっ』』
『それじゃあ、今後は宜しく頼みますわよ』
『『宜しくお願いしますっ!』』
607『恋に盲目』 2/3話 (9/14):2006/07/28(金) 01:44:36 ID:wuziW0SD0
「そうして私達は、玲於奈に作法などを教えてもらって何とかみんなに笑われないような、
 一人前の九条院の生徒になれたというというわけです」
「なるほどなぁ……」

 姉貴のお節介ぶりは昔から色々と知るところがあったんだが、まさかあの玲於奈がそ
んなことを言い出すとはな。
 ……ってあれ? 俺ってこんな昔話を聞きに来たんだったか?
 確かに良い話だったとは思う。
 だが、俺が聞いたのは玲於奈が薫子達を遠ざけている理由だったはずだ。

「それで、それが今の状況にどう関係あるんだ?」
「つまり玲於奈は根っからのお嬢様で、素直ではありませんがとても他人思いそしてと
いうことです」
「それは分かったけどよ、それが何だっていうんだよ」
「まだ分からないのですか? あの河野貴明と言う方もそうでしたが、貴方も相当鈍い
ですのね」
「なっ…… 俺は貴明よりかは大分マシだぞっ」
「自分でそう言っている者ほど案外鈍いものなのです。
 仕方ありませんね、そんな敏感な貴方に分かりやすく説明して差し上げましょう」

 面倒なことになりました…… と呟きながらも、薫子の態度からはとても面倒そうに
は見えない。
 それは薫子のお嬢様として心得なのか、それとも別の理由があるのかはその時の俺に
は分からなかったが、薫子は俺に対して真剣に理由を説明しはじめた。

「実は私達、そこまでお姉さまに溺愛してはいなかったのですよ」

608『恋に盲目』 2/3話 (10/14):2006/07/28(金) 01:45:12 ID:wuziW0SD0
 しかし薫子は理由を説明すると思いきや、真剣な表情でいきなりそんなことを言い出
した。

「は、はぁっ!? だってお前達、あれほどまでに貴明と姉貴の仲を邪魔して一緒にい
ようと―――」
「確かにお姉さまは大事なお方です。
 ですが本当に一緒にいないとどうにもならない程に愛していたのなら、お姉様がこち
らに転入すると知ったらすぐにこちらに来ているはずですよね?」
「た、確かに言われてみれば……」

 姉貴はこっちへ転入するって事をこの玲於奈達に言ってからこっちに来たみてぇだから、
 本当ならその足ですぐに追いかけてくるはずだ。
 しかしこいつらは、姉貴が転入すると知ってからこっちに来るまでに微妙な間があった。
 それはすぐにそのことを決断出来なったという事で、姉貴に対する想いは実はそう根
深いものでも無かったということになるってわけだ。

「その理由は簡単です。それは玲於奈が身勝手な主張が行き交う様になり荒れてしまっ
た九条院の様子に見かねて、“やはりお姉さまがいないと、九条院は成り立たない”と思
ったからです。
 さて、ここで優先順位が上になっているのはどちらでしょう?」
「……九条院、だな」
「そういうことです。そして玲於奈はお姉さまを九条院へ連れ戻すためにこちらに転入
する事にして、私達はそれを追いかけるようにしてこちらに転入してきたのです」
「つまり、お前達が一番優先していたことってのは――」
「心の奥で大事だと思っていた一番優先すべきもの。それは玲於奈にとっては自分の居場所である九条院。
 そして私達は、あの時絶望から引っ張り出してくれた大事な友達である玲於奈だった
のです」
609『恋に盲目』 2/3話 (11/14):2006/07/28(金) 01:45:49 ID:wuziW0SD0
 その言葉は自分達がこちらに来た理由を根本から覆すものだというのに、薫子は毅然
とした態度でそう言いのけた。

「ですがあの河野貴明に負けを確信させられるまで、私達はそのことに全く気付きもし
ませんでした。
 それが今の私達の、疎遠になってしまっている原因でもあります」
「それってどういう事なんだ?」
「……いけなかったのは私達だったんです。
 玲於奈はお姉さまの事を想いながらも、心の底では自分の居場所である九条院の事
を意識していました。
 ですからいつか九条院に帰る事を想定して、この学校の生徒方との人付き合いは避け
ていました。
 元々玲於奈はお嬢様気質で一般の方とはそりが合わないのですから、この学校ではど
んどん孤立していきました」

 それだけ話した途中で、日が落ちてきたことが影響しているのか急に薫子の表情が暗
くなりだした。

「それだけならまだ玲於奈は『孤立』しているだけで済みました。
 ですが私達が、玲於奈が大事な友達だったということを忘れて、
 この学校の生徒達と仲良くなってしまいました。
 一般の方と付き合うことが苦手な玲於奈をないがしろにして……
 その結果玲於奈は、『孤立』するだけではなく『孤独』になってしまったのです」

 そして日が沈むのと同時に薫子の表情は更にその暗さを増していく。
 いや、日が落ちると言っても今の空は夕焼け空。
 それは空の色が青から赤に変わるだけで、別に辺りが暗くなっていくはずは無い。
 だが薫子の表情は、夕焼けに照らされながらどんどん暗くなっていくのだった。
610『恋に盲目』 2/3話 (12/14):2006/07/28(金) 01:46:37 ID:wuziW0SD0
「わたしは、お姉さまに夢中になっている間に本当に大切なものを失くしてしまったの
……
 元々叶わぬ恋だったのなら、本当に大事な友達だって玲於奈だけを見ていれば良かったのにっ……!」

 それは薫子自身の、本当の気持ちなんだろうか。
 自分が苦労して身に付けた丁寧な言葉など忘れ、有りのままの自分になって言い放っ
た言葉。
 しかしその言葉を受け取るべき相手に届く事はなく、夕焼けの赤い空へ吸い込まれて
いった。

「本当にそう思ってるんだったら、はっきりと自分の気持ちを伝えちまえよ」
「え……?」
「え? じゃねぇよ。そんな中途半端に気持ちだけを抱え込んでるなんて、俺は認めね
ぇからな」

 そう、そんなもん俺は認めねぇ。
 自分を偽るのが苦手なくせに、自分の想いを偽ってきた不器用な姉。
 自分の気持ちは決まっていたくせに、あと一歩を踏み出そうとしなかった幼馴染。
 そんな馬鹿な奴らを見てきた俺は、そういう優柔不断な事が大嫌いになっていたんだ
から。

「でも最近の玲於奈は、私達と口すら聞いてくれない状態なのですよ?」
「それならいきなり押しかけてから、いきなり言っちまえばいいだけじゃねぇか」
「そんなことしても、玲於奈は聞いてくれさえしないと―――」
「聞いてなかろうが言ってちまえって。いきなり押しかけるのはお前達の得意技だろ?」

611『恋に盲目』 2/3話 (13/14):2006/07/28(金) 01:55:14 ID:wuziW0SD0
 例え相手が拒否したとしても、諦めずに食い下がるのがこいつを含めた九条院三人組
の真骨頂のはずだ。

「―――それもそうですね。私は大事なものと同時に私達の信条まで忘れてしまうとこ
ろでした」
「カスミにもちゃんと言っとけよ? 『コクコク』と頷いてるだけじゃ伝わらないんだからよ」

 言いたい事はハッキリと言葉にして伝えて、それが嘘じゃないっていうことをその言
葉に乗せる。
 そうじゃないと絶対に伝わらねぇんだから。

「その位のこと、貴方に言われなくても分かってます」
「そうそうその意気だって。本番の時もその調子で頑張れよ」
「はいっ」

 さてと、もうこいつらは大丈夫そうだな。
 後は本人達に任せて、俺は成り行きを見守ることにすっかな。
 俺は踵を返し、そのまま屋上から立ち去ることにする。
 ……っと、その前に聞かなきゃならねぇことがが一個出来た。

「つーか、何で俺にここまで話してくれたんだ?」
「聞いてきたのは貴方の方でしょう?
 ……それに、貴方ならしっかりと考えてくれそうな気がしたので」
「それならそれで良いけどよ。俺なんかただのお節介ヤローだぜ?」
「それでもですよ」
「そっか〜」

612『恋に盲目』 2/3話 (14/14):2006/07/28(金) 01:55:50 ID:wuziW0SD0
 さてと、今度こそ聞くべき事は全部聞き終わったし、帰るとすっかぁ〜。

「んじゃ、俺はここで」
「え? ……ええ。ですが向坂様」
「だから“様”ってのは止めろって何回言えば分かるんだっ」
「あ、申しわけありません…… ただ今回は何の目的で私達のことに関わってきたのか
気になったもので」
「……あ〜」

 そういえば、最初の目的は貴明の監視だったっけな〜。
 いつの間にか目的が貴明からこいつらのことに摩り替わっちまっていたが、今更そん
なこともうどーでもよくなちまった。

「まあ気にすんなって。どうせ頭のわりー馬鹿の下らない考えだったんだから」

 俺は振り返らないまま答える。
 そんな俺に、薫子はこんな言葉を言ってきた。

「――――貴方って、絶対色々なところで損をしてますよね」
「……言われるまでもねぇことだよ、それは」

 俺はふと振り返る。
 するとそこには、夕焼け空をバックにして薄っすらと微笑みを浮かべている薫子の姿
があった。
613『恋に盲目』 の作者です。:2006/07/28(金) 02:03:55 ID:wuziW0SD0
どうもこんにちは。ちょおSS初心者です。
本編での玲於奈達の扱いって、出しておきながら用事が終わったら後はスルーという状態でしたので、
「ただ貴明を妨害しにきた憎いやつ」の様に思われてしまっていますよね……
今回のSSは、そんなイメージを何とかしようと思って彼女達の補完SSという形を取りました。
このSSで少しでも彼女達のイメージを払拭することが出来て、少しは魅力を感じてもらえたらなと思っています。

第三話は後日談です。
また少し見直しをしてから投稿したいと思っていますので、この三人がその後どうなったかを楽しみにして頂けたら幸いです。

それでは、今回はこの辺りで。
お目汚し失礼いたしましたっ。

614『恋に盲目』 の作者です。:2006/07/28(金) 06:11:17 ID:wuziW0SD0
追記、>>603さん支援ありがとうございました。
すっかり見落としてました…… 申し訳ないです<_ _>
615名無しさんだよもん:2006/07/28(金) 08:08:26 ID:eXX/ygvZ0
>>613
乙です。
いやいや、ご自分で初心者と言っておられる割にはなかなか纏まっていると思いますよ。
それにしても薫子やカスミは生粋ノーブルではないという方向性は大胆ですね。
とにかく第3話にも期待しております。

それと……
文章の長さとか修辞は趣味の問題もあると思います。
少なくとも私は無駄に長い文章でも「綺麗な言葉」になっていればむしろ好きですし。
一つ気になったことがあるとすれば、>>600の中で「青い空」、後半>>609あたりから連発する
「夕焼け」のように、同じ言葉を繰り返す事にあまり気を使っていないように見える事ですね。
特に情景描写で同じ言葉を繰り返すと、どんないいシーンも陳腐化してしまいます。
ボキャブラリー勝負になりますが、そういうのに気をつけるのが「魅せる文章」への第一歩かな、と。

まぁ、私自身もそれが実行出来ているとは言いかねるのですがね(-_-;)
616名無しさんだよもん:2006/07/28(金) 10:51:44 ID:SYoeUT5z0
ssスレだけどToHeart2新作ゲーム情報
Leaf「ToHeart2のなにか(仮)」

ttp://d.hatena.ne.jp/moonphase/20060727

めっちゃ楽しみ(゚∀゚)
617名無しさんだよもん:2006/07/28(金) 13:17:20 ID:oBv9wdguO
新作ktkr!ミルファ出せミルファ!
618名無しさんだよもん:2006/07/28(金) 15:11:43 ID:mTKdhkTjO
>>617
ミルファは俺の側にいたいからって出演依頼を断わったよ。
619そしてあしたへ、ふたりで:2006/07/28(金) 18:35:21 ID:0B4Lty8x0
こんばんは。「どきどき水着ぱにっく」の作者です。

今回はミルファSSを投下しにまいりました。
それでは、ミルファ&貴明くんの夏休みSS「そしてあしたへ、ふたりで」
お時間のある方は、どうぞ読んでみてください。
620そしてあしたへ、ふたりで(1/8):2006/07/28(金) 18:36:50 ID:0B4Lty8x0

 長かった梅雨が明け、ようやく、この街にも夏がやってきた。

 頭の上から容赦なく照り付ける太陽。半ば熔けかかったアスファルトに黒々と刻み込まれる諸々の影。
 目に痛いほど濃い山の緑。どこまでも青い空に映える白い入道雲。耳に張り付くほど騒々しい蝉の声。
 午後の強い日差しを避けているのか、出歩く人も疎らな街角。
 ゆらめく陽炎に身をよじる学園坂を、俺は自転車で駆け下っていた。
 ……大好きなメイドロボが待つ、我が家へと向かって。

「ただいまー」
 ふぅ、今日もワイシャツが汗で重くなるほどだよ。
 玄関を開けると、紅い髪の少女が弾むような足取りでパタパタと出迎えに来てくれた。
 おヘソが見えそうなほど短い若草色のタンクトップにオリーブドラブのミニスカート、ミルファ嬢最近お
気に入りのプチミリタリールックですね。
 って、その上ノーブラだし……その格好だと豊かなチチがこぼれちゃいそうですよ?
 揺れまくってるし、横から見たら丸見えだろうし。
 いくら夏だからといって、昼日中からそんな煽情的な格好をされてもなぁ。
 ま、彼女らも暑いと冷却効率を高める為にも薄着がしたいらしいけれど……
「おかえりなさい。暑い中お疲れさまでした。それではご飯になさいますか? お風呂になさいますか? 
 それともワ・タ・シ??」
 ……昼飯は食ったし、夕方にも程遠いこの時間でなんでご飯なのさ?
 第一そのセリフって夜に言う事じゃないのかなぁ。
 ちょっと訝しく思いながらも、結局俺はナップザックを廊下に放り出し、慌しく靴を脱ぎ散らかしながら
少しぶっきらぼうに、
「そりゃぁ、一日くそ暑い学校に篭ってきた後だもの。シャワーに決まってるじゃん」
 と、答えると。
「むぅ〜〜っ、貴明、冷たい……」
 たちまちミルファの頬は、ハムスターのそれのようにぷっくりと膨れた。
621そしてあしたへ、ふたりで(2/8):2006/07/28(金) 18:38:16 ID:0B4Lty8x0

  ミルファ&貴明くんの夏休みSS 「そしてあしたへ、ふたりで」


 しゃしゃぁ〜〜……

 ふぅ。やっぱり夏はぬるめのシャワーに限るね。
 さっぱりするし、身体の芯にこびり付いている太陽の焦熱が溶けて流れ出るようだよ。

 ん? 少し乱暴に更衣室のドアが開いた音がしたな。
 多分、俺の着替えを持って来てくれたんだろうが……。
 それにしても、まだ機嫌が治っていないのかなぁ?
 さっき、もう少し真面目に相手してやればよかったかな〜。

 とん。

 あ、紅い何かが、スリガラスの向こうに透けて見える。
 っていうかミルファが戸に頭をくっつけてじっとしているんだな、これは。

「ミルファ? どうかした?」

 あちゃ〜、実はかなりいじけてるかな、これは。
 HMX−17三姉妹はそれぞれに個性的で、次女のミルファさんはその中でも最も積極的で元気な娘と思
われている節があるが、彼女を一番そばで見ている俺に言わせると、それは大きな間違いである。
 ミルファは確かに乱暴者だし、直情的だし、考えている事をストレートに伝えてくるのでそう見えるのも
仕方がないとは思うのだが、本当のミルファの心はもっと臆病で、繊細だと俺には思える。
 多分、彼女の姉や妹よりも。
622そしてあしたへ、ふたりで(3/8):2006/07/28(金) 18:39:40 ID:0B4Lty8x0

 ミルファはもしかしたら、今でも自分に自信が持てないのかもしれない。
 ……それは、やっぱり俺が原因なんだろうな。
 どうしたらいいかは、わからないんだけれど。

 そうだな。まずとにかく話をしてみよう。
 彼女が喜ぶような事が言えるほど器用な俺じゃない、なんて事は百も承知だけれど、逆にだからこそ自分
の気持ちを素直に伝えるしか、俺には出来ない。

「おい、ミルファ――っと!」

 ぽすっ

 ドアを開けると、ガラスに寄りかかっていたミルファは軽くバランスを崩したのか風呂場の中につんのめ
ってしまい、慌てて受け止めなければならなかった。そして倒れ込んだ姿勢のまま、彼女は黙って俺の胸に
額を押し付けている。
「どう、したのさ? 服、濡れちゃうよ?」
「……もう手遅れ」
 ぼそっと、ぶっきらぼうな返答。
 だがまぁ、確かにそれはそうだ。
 でも……その格好で、更に濡れちゃったりすると目のやり場に困るんだけど……
「折角の可愛い服が、台無しじゃないの?」
「ウソ……」
 え?
「ウソばっかり!」
 きっ、と俺を見上げた彼女の碧い瞳は、見間違えようのない怒りと、悲しみに濡れていた。
 ウソ?
 ……俺が、なんのウソを?
「可愛い服なんて、思ってないくせに! 貴明はちっとも私を見てくれてないじゃない!」
 堰を切ったように。
623そしてあしたへ、ふたりで(4/8):2006/07/28(金) 18:41:10 ID:0B4Lty8x0

 ミルファの言葉が溢れ出す。
「前に、嫌でも来年は忙しいんだから今年の夏休みは遊ぶって、貴明言ってたのに、夏休みに入ったら毎日
 必修でもないのに講習に出かけて……本当は、講習の後生徒会室に行きたいだけなんでしょ。ささらさん
 に会いたいからなんでしょ?」
 そうか……
 お前は……そんなコトを考えていたんだ。
「やっぱり私なんてどうでもいいんだよ、貴明には……だって、私がお願いしないと見てもくれない。私が
 近付かないと触ってもくれない。私がせまらないと抱いてもくれないじゃない!」
 ……ああ、やっぱり俺は、チキンで、ヘタレで、バカだ。
 タマ姉、貴女の言う通りだよ。
 ミルファは積極的だからなんて、元気だからなんて、一番甘えていたのは俺じゃないか。
 わかっているふりをして、一番わかっていないのは俺なんじゃないか。
「それならそれでもいいんだよっ……私が、勝手に貴明の専属メイドロボになるって決めたんだからっ……
 貴明が誰を好きになったっ……て……連いて行っく……」
 やめろよ、ミルファ。
 それ以上自分を傷付けないでくれよ……
 かけるべき、何の言葉も思い付かず。
 気が付いた時には俺は力任せに彼女を抱き竦め、強引に唇を奪っていた。
「っふぁ!?」
 驚いたように目を見開いたミルファ……
 一瞬、身体も強張る。
 だが、彼女はすぐに力を抜き、俺の為すが侭に、身体を絡みつかせてきた。
 嬉しそうに、頬を輝かせて。

「……どうしたの?」
 俺が少し身を離してバスタブに腰掛けると、
「何も気にしなくていいんだよ? 私は貴明に求めて貰えるだけで嬉しいんだから。それだけで……いいん
 だから。どこでする? あ、折角お風呂なんだから、おっぱいでしようか?」
624そしてあしたへ、ふたりで(5/8):2006/07/28(金) 18:42:45 ID:0B4Lty8x0

 泣きそうな瞳のまま、でも口元には笑みを浮かべて。
 力なく、ミルファは俺の膝に縋り付いてきた。
 これは重症だな。
 いや、俺が悪いんだけどさ。
 全然、想いを伝えられていないじゃねーか。
 それで彼女を不安にさせるなんて、全く自分の不甲斐無さに腹が立ってくる。
「ミルファ、聞いてくれよ」
 タンクトップを脱ぎ捨てようとしているミルファを押し止め、俺は極力静かに、話しはじめた。
「確かにミルファに何も言わずに夏期講習決めたのは悪かったよ……だから、どうして俺がそんなコトを考
 えたのか、まずは黙って聞いてくれ」
 ちなみに生徒会はあくまでもついでだぞ……と言おうかとも思ったが、冗談めかすのはやめよう。
 今話さなければならない事は、そういう事じゃない。
 落ち着いて話すためにもとりあえずシャワーを止め……
 ドアを開け、バスタオルを取って腰に巻く。素っ裸というのは今ひとつ緊張感がないからな。
 ついでに、扱いに困ってここ数日ポケットに入れっぱなしになっているアレを忍ばせる。
「俺さ」
 俺は再びバスタブに腰かけ、自分の気持ちとミルファの気持ちを鎮める為に、ゆっくりと彼女の頭を撫で
はじめた。
 うん、こうしているとちょっとは落ち着いて話しをする事が出来るな。
「実はさ。来年、来栖大学を受けようかと思うんだ」
 なでなで。
 なでなで。
 物問いたげに、俺を見上げる碧い瞳。
「ロボット工学科に行くには、今から勉強しないとちょっと間に合わないんだよ。俺、物理とか結構苦手だ
 しな、情けない事だけど」
 なでなで。
 なでなで。
625そしてあしたへ、ふたりで(6/8):2006/07/28(金) 18:44:11 ID:0B4Lty8x0

「俺……この先もずっとミルファにそばにいて欲しい。だから、もしも将来来栖川のサポートが終わる事が
 あっても、ずっと君を守ってやりたい。是非とも、その力が必要なんだ。藤田先輩の受け売りかも知れな
 いけど、マジで、そうしたいと思ってるんだ」
 なでなで。
 なでなで。
 俺を見上げる瞳が、じわりと潤む。
「だから、どうでもいいなんて、そんな哀しい事言うな。……気にしなくていいなんて、そんな寂しい事言
 うな。気にしてるから、ミルファが綺麗だから、可愛いから、照れちゃってなかなかまともに見られない
 だけだよ。ミルファが好きだから、嫌がられたら困るから、無理に求められないでいるんだよ」
 なでなで。
 なでなで
 ……がばっ!
 飛びつく様に、ミルファが全身で抱きついてきた
「ごめん、ごめんね、貴明! 私、私……」
「いいんだよ、俺の言葉が足りなかったんだ。ミルファはなにも悪くない」
 よかった、わかってくれたみたいだ。
 うう、でもさっきまでの自分の恥ずかしいセリフが甦ってくるなぁ。
 そうだ、恥ずかしさ大爆発で何も喋れなくなる前に……
「でもさ、俺の気が利かないのなんて生まれつきだからこれを……」
 アレを、取り出した。
 この間たまたま街角で見かけたモノ。
 銀の、ペアドッグタグ。
 ついつい、衝動的に作って貰ったアレ。
「俺はさ、いつもこういう気持ちでいるから。なかなか口には出せないけど、これが本心だから」
 俺は、その一枚を彼女に渡した。
 じっと、そこに書かれたちいさなメッセージに見入るミルファ。
『TAKAAKI KOUNO & MILFA KOUNO』
 そこにはそう、刻印してある。
 世間的な意味は特にないのかもしれないけれども、俺にはとても重要な事だったから。
626そしてあしたへ、ふたりで(7/8):2006/07/28(金) 18:45:31 ID:0B4Lty8x0

 ミルファはもう、欠かす事の出来ない俺の大切な家族だから。
 そしてもう一文。
「……Heart to Heart(私の心を、あなたの心へ)
 ……Be happy together(いっしょに、しあわせになろう)」
 静かに、呟くように、ミルファが俺の心を言の葉に紡ぐ。
 一粒、また一粒。
 涙が。
 彼女は、首に下げたタグを両手で包み込むようにしながら……。
「いっしょに……しあわせに……」

 大丈夫、きっと、なれるよ。
 そう信じて、俺は明日も学園坂を駆け上がろう。

 ふたりのあしたへとつながる、それはかげろうのみち。



                                          〜〜終わり☆



「いってきまーす!」
 さあ、今日も頑張って学業にいそしみますか!
 ナップザックには教科書とノート、そして今日の弁当はミルファ特製サンドウィッチ。
 自転車を引き出し、颯爽と……
「あら、タカくんじゃない。おはよう」
「あ、春夏さん、おはようございます」
 春夏さん、なんだか妙にニコニコしているような気が……
627そしてあしたへ、ふたりで(8/8):2006/07/28(金) 18:46:58 ID:0B4Lty8x0

 俺の脳内危険感知センサーがびんびんと警報を発していますよ〜〜。
 案の定というか、つつ〜〜っと春夏さんが近寄ってきて、俺にとんでもない言葉を耳打ちした。
「『もしも将来来栖川のサポートが終わる事があっても、ずっと君を守ってやりたい』」
 ぎく。
「『俺はさ、いつもこういう気持ちでいるから。なかなか口には出せないけど、これが本心だから』」
 ぎくぎくっ。
「『……おっぱい、気持ちイイ?』」
 はうぅぅぅ〜〜、勘弁して下さい!
 心臓が止まります!! それといつまで聞いていたんデスか!?
「カッコいいわね〜、タカくん。でも、お風呂場でそういう事をする時は、換気扇は止めた方がいいわよ」
 その『にま〜』っとした笑いヤメテクダサイ……。
 っていうか何でそんなに俺やミルファの口真似上手なんデスか……。
 第一その『しなしな』はなんなんデスか??
 くそー、絶対俺が出かけるのを知っていて待ち伏せていたに違いない……。

「がんばってね、オ・ト・コ・ノ・コ♪」



                                       〜〜本当に終わり♪
628そしてあしたへ、ふたりでの人:2006/07/28(金) 18:57:22 ID:0B4Lty8x0
「そしてあしたへ、ふたりで」終わりになります。いかがでしたでしょうか。

 ここの所、頭の中のキャラクターたちが走り回っていますので、その勢いの赴くまま乱造して
投下しまくっているのですが……少しは成長していればいいのですが。
自分ではよくわからないもので(-_-;)
 それにしても、ウチのミルファは浮き沈みが激しいというか、結構内気ですねー。
いや、こういう女の子に違いないと思っているからこそ萌えると言った方がいいのでしょうか。
ともあれまだしばらく私の中の「結構内気なミルファ」と「ヘタレだけどくさい事をやっちゃう
タカ坊」、「お姉さまモード炸裂のタマ姉」「ちょっと自分の気持ちがわからないイルファさん」
あたりが突っ走っていそうなので、また何か投下しはじめたら読んでやって下さい。

しかし、改めて読んでみるとベタな話ですね〜〜。
629名無しさんだよもん:2006/07/28(金) 19:59:07 ID:C5E9XVki0
>628
乙です。
確かにありがちと言えばありがちですが、王道と言えば王道、個人的にこういうのは嫌いじゃないです。
どっちかというと強気で押せ押せなイメージが強いミルファと
未来を見据えて勉学に励んだり優しくミルファを諭すなどいかにも主人公してる貴明が噛みあってて良かったと思います。
ただ展開が急ぎ足だったのが気になったかも。
会話の流れの切り替わりがどこも唐突な感が否めず、展開を追いかけるのがちょっと大変だった。

でも春夏さんが一番おいしいよねこれ。
ちなみにこのおかげで河野家での出来事なんだと気が付いた。
てっきり珊瑚たちの家なのかとばかり。
630名無しさんだよもん:2006/07/28(金) 20:15:13 ID:zRDyWRaT0
乙。最後は春夏さんで締めたか〜
・・・って、このオチHMX-17b研究所のミルファSSまんまじゃんw
つうか作者さん自身も書いてるけど浮き沈み激しすぎじゃね?
前にもちょいシリアスな話書いてたような記憶があるんだが
これくらいの長さの話でシリアスな話を書くのは無理があるような
展開が唐突すぎる以前に躁鬱病みたいであんまり魅力を感じないキャラになってると思う
631名無しさんだよもん:2006/07/28(金) 22:25:11 ID:C5E9XVki0
629
>どっちかというと強気で押せ押せなイメージが強いミルファと
じゃなくて
どっちかというと強気で押せ押せなイメージが強いミルファの弱気な部分と
だった

そこ抜けてるせいで意味がまるきり違っちゃってる
632名無しさんだよもん:2006/07/28(金) 23:09:37 ID:7NJgRIYR0
>>628
GJ
ミルファは好きなキャラなのでまずそれだけで満足、ごちそうさま。
欲を出せば、ベタな内容だけにもうちょっとどこかに捻りが欲しかったところだけど。

他の人も言ってるけど、真面目な話をするには短すぎて、詰め込み&急ぎ足になってるんだと思う。
それくらいの尺の長さで書くなら、少しライトなSSがハマると思う。
633名無しさんだよもん:2006/07/28(金) 23:37:04 ID:3DPxTVjS0
ミルファすきすきーなら、昨日の最萌の試合で、何本かSS出てたよ。
634名無しさんだよもん:2006/07/28(金) 23:47:37 ID:7NJgRIYR0
素敵な情報サンクス
あんた私の父さんだ
635名無しさんだよもん:2006/07/28(金) 23:52:49 ID:3DPxTVjS0
埋まった前スレは死んでるかも知れないから、その時は過去ログ倉庫に行くんだマイサン。
636628:2006/07/29(土) 00:37:17 ID:CQKFPs5F0
こんばんはー。色々批評どうもです。

う〜〜ん、やっぱ詰め込みすぎですね。
ミルファの性格は少しエキセントリックにイメージしているのですが、ちょっと唐突過ぎるのかな。
情景描写力&描写量が足りないところを意識して次は書いてみようかと思います。
あとは、まだまだ内容を絞れるような力量はないんだから、素直に分量を気にせず書くか、ですか。
今はブログに1回で入る量、約4500文字くらいを上限に書いているもので、それも反省点ですね。
詰め込むのに一番技術がいりますものね。

さて、ではまた頑張ってみるとします。またよろしく!

>>630
おおっと、ネタ被ってましたか。
一応恥ずかしい実体験に基づいた教訓をベースにしてるんですけどね(-_-;)
でも、こういうコトがあるから少なくとも有名どころはチェックせんといかんですな……ちと反省。
637白詰草 ◆Pd9gE38GCU :2006/07/29(土) 00:42:16 ID:kqczJHIU0
>>613
乙です〜。
初心者という割には抑制された文章がいい感じです。
文章を書き始めた頃って、けっこうあっちこっちに記述が飛ぶものですが、
そうなっていないところは、しっかり世界観が出来ている証拠だと思います。
ただ、雄二の一人称部分が雄二の内面にしか向いていないため、
舞台の情景や他キャラの表情が見えにくくなっていると思われます。
一人称叙述では陥りがちなところですが…。
…もっとも、そこにこそ意味があるような展開が今後あるとすれば、
白詰草の読み違いというしかないです。


>>628
こちらも乙です〜。
全体的に色々と削ってしまうか、
そうでなければ伸ばすかするとバランスが良くなると思います。
たぶん、『書いてあることみんな、書きたいこと』だと思われるので、
そうすると伸ばす方になりますでしょうか。
このままだと少々もったいないので、
ブラッシュアップしてみてはいかがでしょう。



それにしても、皆さん創作意欲が旺盛で羨ましいです。
こちらは夏バテ気味で筆が進まないというのに…。
精進せねば。
638628:2006/07/29(土) 01:22:24 ID:CQKFPs5F0
>>637
こんばんはー、どもです。
色々と意見も頂いた事ですし、しばらくネタ帳に寝かせてボリュームアップ&ブラッシュアップ
してみようかなーって思ってます。
いずれにせよ量産して精進あるのみっすw

創作意欲が旺盛というか、最近書き始めたばかりなのでキャラクターが暴走してるんですよー。
今は何故かこのみ嬢とミルファが暴れてるんですよねー。
また近日中に二人を絡めた何かを投下したくなりそうな悪寒がします。
こういうのは久しぶりで実に楽しいです。
639名無しさんだよもん:2006/07/29(土) 01:46:47 ID:uIqxWGZa0
>>638
書き始めってのは誰しもそうだと思うよ。
己の妄想を指に宿してひたすらに打ち込む。
それが情熱的なものを作るのだよ。

書いてればそれなりに形が出来上がると思うから頑張れ。
とりあえずはネタ被りだけは気をつければ良いんじゃないかな。
640『恋に盲目』 の作者です。:2006/07/29(土) 04:09:43 ID:c3MyBIgN0
>>615 >>637
貴重なご意見どうもありがとうございました。

なるほど、確かに同じような表現を何度も使うとくどい印象を与えますね。
その辺りは注意が必要だと思いました。
一人称での周りの描写が薄いのにはそれなりの理由が、あるんでしょうかね?(汗

いやはやとても貴重なご指摘を頂きましてありがとうございました。
今後の糧になる良いご意見でした。

それでは、今日はそろそろ寝させて頂きますね……
見直しに思ったより時間が掛かって今日の投下は出来なくて申し訳ないです。
641『恋に盲目』 3/3話 (1/5):2006/07/29(土) 22:50:27 ID:c3MyBIgN0
 その後の三人がどうなったのは俺は知らない。
 というより俺の詮索するべきことじゃねぇしな。
 でも何日か経った後、見飽きるくらいに見慣れた三人組が一緒に下校をしている姿を
確認してくらいだ。
 しかしそれも、梅雨が明けた頃にはめっきり見かけなくなった。

「あの三人、結局九条院に帰っちゃったみたい」
「姉貴には伝えて俺には何も報告も無しかよっ」
「何? 貴方あの三人に何かしたの?」
「い、いや別に何も」
「雄二、何か隠してない?」
「何も隠してねぇって」
「本当かしらねぇ……」
「本当に何にも隠してねぇってだからそんな視線で睨むのはやめて下さいあだだだだっ!
 割れる割れる割れるぅ〜!!」

 たは〜、結局こうなっちまうのかよ〜……
 でも結局、これで良いんだろうな。
 あいつらの間で起こったことを姉貴が知る必要なんかねぇだろうし、俺だって忘れた
方が良いだろう。
 何も言われないまま帰ってしまったのは、俺としては良かったことなのかもしれねぇな。
 あいつらは自分の大事なものを勘違いして『恋に盲目』になって突っ走って、後でそ
のことに気付いて帰っていっただけなんだから。
 それがあいつらがこっちに来たことの意味だと勝手に結論付けそのことをさっさと忘
れて、俺はまたいつものように貴明と姉貴のバカップルぶりを見守る、いつもの日常
へと戻っていった。



 ちなみにその後貴明は、今まで中途半端に親切を振り撒いた女子達に、自分が女性と
して好きなのは向坂環だけだとはっきりと宣言しやがった。
642『恋に盲目』 3/3話 (2/5):2006/07/29(土) 22:51:10 ID:c3MyBIgN0
 なかなかどうして男として成長したのかはしらねぇが、その背後にはある三人組が関
わっているとか何とか。
 まあ姉貴が喜んでいたし、貴明も腹を決めたみたいだし、俺の目的も達せられたし満
足するとしよう。

**

 そうしてうちに季節は流れていき、貴明を向坂の家に連れてくることを姉貴が勝手に
決めた。
 勿論俺は大賛成。だって、これで姉貴は貴明につきっきり。晴れて俺は自由の身だー!!

「あ、そうそう。私はタカ坊の面倒を見なくちゃならないから、雄二の面倒は他に頼む
ことにしたから」
「まさか、向坂の家にもいよいよメイドロボの導入か? ひゃっほー!」
「何言ってるの、私はそういうのに頼るのは嫌いだっていつも言ってるでしょ?」
「しょぼーん…… じゃあ、何に頼むってんだよ」
「貴方達、そろそろ出てきていいわよー」

 姉貴がパンパンと手を叩いて合図をすると、今まで閉まっていた姉貴の後ろの襖が開
かれる。

「「「はい、お姉さま」」」

 そこには三つ指を突いてお辞儀をする、いかにもお嬢様といった佇まいの三人組の姿
があった。

「お、お前らは……九条院三人組っ!?」
「一まとめにして呼ばないでくれますこと?」
「玲於奈、薫子、カスミ……」
「よろしい」

643『恋に盲目』 3/3話 (3/5):2006/07/29(土) 22:51:48 ID:c3MyBIgN0
 いや、その前に、なんでこいつらがここに……?

「この子達ね、九条院が一度転出した生徒が再入学してくることを認めないって知らな
いで飛び出してきちゃったらしいのよ。
 結局三人は九条院に戻ろうとしたんだけど、戻れなくなっちゃったのよ。
 それでこうなっちゃったのは私の責任でもあるし、だからうちで面倒見ようってこと
にしたわけ」
「さすがに物分りの悪い貴方でも分かりますわよね?」
「は、はい……」

 くそ、玲於奈の奴相変わらず口がわりぃなぁ……

「そういうわけで、彼女達には貴方の監視をお願いすることにしたから」
「はぁ!? そんなこと勝手に決めるなよっ!」
「でも、もう決定したから」

 姉貴の目がこれは冗談でも何でもない、本気と書いてマジなんだと告げてくる。
 こうなると俺は、素直に頷くしかなかった……

「それじゃあ早速雄二のことは任せるわね。私はこれからちょっと夏祭りに出かけてく
るから」
「あ、待て! 姉貴だけセコイぞ!」

 何故姉貴が浴衣に着替えていたのかずっと疑問だったが、自分だけ夏祭りに行くつも
りだったのかよっ。
 姉貴は何故か玲於奈達と目線を合わせた後、颯爽と家から出かけていった。
644『恋に盲目』 3/3話 (4/5):2006/07/29(土) 22:52:19 ID:c3MyBIgN0
***

 そして、だだっ広い向坂の家には俺と(元)九条院三人組が残されることになる。

「それで、元気にしてたか?」
「ええ、元気にしていましたわ」
「おかげさまで」
「コクコク」

 暫しの沈黙があった後、特に意味も無く聞いてみる。
 すると玲於奈達も、特に何もせずに普通に返してくれた。

「……薫子から色々聞きましたわ。貴方には色々とお世話になりました」
「俺のお節介でやったことなんだからそんなに気にするなって」

 それより結局どうなったんだ? と聞こうとしたが、
 今目の前にいる三人の様子を見れば聞かなくても答えが分かるので聞く必要もねぇか。
 
「貴方がいなければ今頃どうなっていたことか…… 本当にありがとうございました」

 そんな薫子の言葉と同時に、玲於奈達が一斉に頭を下げる。

「だからそんなに改まらなくても良いって」
「そうですか。それでしたらこの件はこれで終わりにしましょう」
「さっきお姉さまが言っていました通り、私と玲於奈とカスミは、これからは貴方の監
視をすることになりました」
「コクコク」
「マ、マジかよ……」
645『恋に盲目』 3/3話 (5/5):2006/07/29(土) 22:52:51 ID:c3MyBIgN0
 俺の言葉に三人は同時に首を縦に振る。
 どうやら本人達も本気らしい……

「クラスも二学期からは同じクラスに編入させて頂きますので」
「それってほぼ一日中監視されてるってことだよな……?」
「ええ、そうですよ」

 やっぱり俺には自由はねぇのかぁ……?

「「「ずっと、見ていますから……」」」
「? 何か言ったか?」
「い、いえっ。何でもございませんわよっ」
「そうそう、なんでもないですよっ」
「コクコク!」
「本当かぁ?」

 絶対何か言った気がするんだけどなぁ……
 何かを言っているかっていう程度の声だったから、何を言ったかまでは聞き取れなか
った。

「そ、そういうわけですから、今後は厳しく監視させて頂きますからよろしくお願いし
ますわっ!」
「ま、まぁ、お互いあんまり気を張らねぇように頑張れたら良いな」

 貴明がこの家に来るうえにこいつらまで居候することになって、
 向坂家が一気に慌ただしいものになっちまったが、それはそれで何とかなるかぁ……
 そんな事を考えてしまう、空が綺麗に澄み渡った初夏のある日だった。
646名無しさんだよもん:2006/07/29(土) 22:54:35 ID:Uhr1YHZZ0
支援
647名無しさんだよもん:2006/07/29(土) 22:55:24 ID:Uhr1YHZZ0
間に合わなかったか……ともあれ乙。
これから読ませてもらいマス。
648『恋に盲目』 の作者です:2006/07/29(土) 22:56:22 ID:c3MyBIgN0
こちらに投下させて頂いた『恋に盲目』も、こうして何とか完結させることが出来ました。
読んでくれた皆さん、支援してくれた皆さん、コメントを頂いた皆さん。
本当にありがとうございました。

では、短いですが今回はこれにて失礼します。
また詳しい後書きなどは今度コメントへの返事をする時にさせて頂きます。
649名無しさんだよもん:2006/07/29(土) 23:03:58 ID:Uhr1YHZZ0
何はともあれ一つ疑問が……
3人娘は九条院に受け入れて貰えずに戻ってきて、夏まで向坂家で隠れてた?
というわけではないよね?なんとなくちょっとそこが違和感。

なんにせよあれですね。
プロローグって感じですね。
これからどうなるのか気になるところですねw

というわけで雄二頑張れ! っていうか玲於奈たち頑張れ?
650名無しさんだよもん:2006/07/30(日) 00:31:34 ID:McJQNZqZ0
雄二にフラグが立っただと!?
バカな!ありえん!ありえんことだがGJ!
651名無しさんだよもん:2006/07/30(日) 00:35:32 ID:QtAf2KYb0
>>650は貴明
652名無しさんだよもん:2006/07/30(日) 00:37:43 ID:4f+JWsFm0
>>648
詳しい後書きは別にいらない
653名無しさんだよもん:2006/07/30(日) 02:31:25 ID:XYgYM6LM0
ま  た  お  前  か  !

毎度毎度懲りん奴だ・・・
654名無しさんだよもん:2006/07/30(日) 02:33:20 ID:XYgYM6LM0
すみません、誤爆しました_| ̄|○
655名無しさんだよもん:2006/07/30(日) 05:29:13 ID:Zp4rpzqL0
九条院が再入学不可だったらタマ姉も困るんじゃないか…?
大学からなら良いんだろうか。
656『恋に盲目』 の作者です:2006/07/30(日) 05:32:02 ID:urtak7jA0
皆さんコメントありがとうございました。

>>649
むしろこんな家に来る事になってしまった貴明に頑張れですよ・・・(笑
>>650
たまにはこういう確変が起こっても良いじゃないですかっ。
>>651
ここでも貴明に奪われるんですか((( ;゚Д゚)))
>>652
了解しました。だらだらと長い後書きはやめておきます・・・。

今回の話は、雄二もたまにはカッコイイところ見せるんだっていうのと、
出てきた後スルーされていた九条院三人組の補完話を書こうってことで思いついたものでした。
というより、正直自は貴明より雄二の方が好きですっ。
ああいう普段ふざけてるようで決めるとこでは決めてくれるっていうキャラが好きなもので。
それでは、次回は投下出来るか分かりませんが皆さん御機嫌よう〜。
657追記:2006/07/30(日) 05:35:16 ID:urtak7jA0
九条院三姉妹は帰ってこっちに来るまでにちょっと時間が掛かっただけです。
速攻でいって速攻で帰ってくるというのはちょっとどうかなと思ったので。

その辺りの説明不足があったことは私の力不足でした……申し訳ないです。
658名無しさんだよもん:2006/07/30(日) 14:19:16 ID:McJQNZqZ0
そして九条院三姉妹による、「新・向坂家へようこそっ!」が始まる……
659名無しさんだよもん:2006/07/30(日) 16:01:22 ID:ZFSMEMJ8O
真の方がかっこいい
660名無しさんだよもん:2006/07/30(日) 22:31:04 ID:q9fwPfRp0
この3人で雄二の取り合い、ってのも悪くはないよな・・・・・・
661名無しさんだよもん:2006/07/31(月) 07:59:31 ID:EgAQCFe8O
うたわれるものを見ながらtoheart2のSSみてたら思いだしたけど
どっかにハクオロは大人になった貴明ってSSがあったような…
662名無しさんだよもん:2006/07/31(月) 10:34:53 ID:NlFxux/v0
>>661
学生の頃は持続力があったのに、あんなに早漏になって…
663名無しさんだよもん:2006/07/31(月) 12:21:00 ID:Mbk0bqgS0
ワロスw
664名無しさんだよもん:2006/07/31(月) 15:48:09 ID:gf+lmvjDO
カフェオレ吹いたwww










ハクオロ早漏なん?
665名無しさんだよもん:2006/07/31(月) 15:58:34 ID:0XW4OdtI0
5クリックの伝説とうたわれた、あのお方の早漏っぷりを知らないとは
666名無しさんだよもん:2006/07/31(月) 18:34:45 ID:EgAQCFe8O
まあ、かなり長い間眠ってたみたいだから溜ってたんじゃない?
667河野家にようこそ 第66話(1/9):2006/07/31(月) 20:56:21 ID:DjdjgVAA0
 色々な出来事があった週末が終わり、月曜日の朝。珍しく家に来なかったこのみを迎えに行って
みると、案の定寝坊してやがった。仕方がないのでみんなで待つことに。
 待ち合わせの場所に現れず、学校へ行くと何故か珊瑚ちゃんたちと一緒にいた雄二。話を聞くと
雄二のヤツ、いきなり朝から珊瑚ちゃんの家に押し掛け、おまけにイルファさんの朝ご飯をご馳走に
なったらしい。しかも明日から毎日朝ご飯をご馳走になる約束までしてきたとのこと。図々しいにも
ほどがあると思うのだが、珊瑚ちゃんやイルファさんが認めた以上、まぁ、俺からは何も言えん。
 そこへいきなり現れたのは、昨日の女の子三人。なんとタマ姉を追いかけてうちの学校に転校して
来たと言うのだ! 玲於奈、薫子、カスミと名乗る女の子たちは、タマ姉のことを本気で愛してると
公言してはばからないのだが、彼女たちがここに来た理由、どうもそれだけではない様子。
 昼休み。いつものように屋上で弁当を食べる俺たちをじーっと観察する玲於奈さんたち。由真たち
も気になって仕方がないようで、とっさの思いつきで俺はタマ姉にあの三人をこっちに呼ぼうと提案、
承諾したタマ姉は三人のところに向かい、彼女たちを説得して連れて戻ってきた。ホントにとっさの
思いつきだったとは言え、こりゃまずいことになるかも……

「ど、どうぞ……」
 優季が、隣のるーことの間に隙間を作る。玲於奈さんたちもそれに従い、一礼してからその場に
正座した。
「そう言えばあなたたち、お昼まだ食べてなかったの?」
 自分の場所に戻ったタマ姉が玲於奈さんたちに尋ねる。
「あ、はい」
 そう答える玲於奈さんたちの膝の上には弁当箱が。――あれ? 玲於奈さんたちってお嬢様らしい
から、タマ姉みたいに重箱でも持ってきてるかと思ったけど、見るとごく普通の弁当箱だなぁ。
 そして玲於奈さんたちは弁当箱のふたを開け――思わず覗いてしまった俺は、その中身にまた驚く。
ご飯の他に、卵焼き、焼き魚の切り身、煮豆など、実にごく普通なおかずたち。
668河野家にようこそ 第66話(2/9):2006/07/31(月) 20:57:25 ID:DjdjgVAA0
 箱だけじゃなく中身まで普通すぎて、それが逆に違和感があるなぁ。ちなみに三人の弁当の中身は
全くの一緒。ただしカスミさんだけご飯の上に桜でんぶと海苔で何かの動物(多分猫)が描かれて
いたりする。チョット可愛いかも。
「……(ポッ)」
 俺の視線に気づき、恥ずかしげに弁当を隠すカスミさん。
「あの、それって、玲於奈さんたちが作ったんですか?」
 やや遠慮気味に愛佳がそう尋ねる。
「ええ、それが何か?」
「あ、いえ、お料理お上手なんですね。とっても美味しそう」
「……」
 玲於奈さんは無言でそっぽを向くが、チョット照れてるのかも。
「九条院では料理は勿論、家事全般みっちり仕込まれるのよ。
 それに玲於奈も薫子もカスミも人一倍の努力家だから、料理の腕はかなりのものよ」
「お、お姉様、そんな……」
「も、勿体ないお言葉……」
「……(もじもじ)」
 タマ姉のほめ言葉に顔を赤らめる玲於奈さんたち。
「……意外」
 俺同様弁当を覗いていた由真が呟き、それを聞き逃さなかった玲於奈さんが、
「何ですか? まだ何か文句でも?」
「あ、いや、あんたたちって良家のお嬢様なんでしょ。お嬢様と言ったらお弁当の中身も伊勢エビ
とかキャビアとかお刺身とか……」
 人のことはあまり言えないのだが、それにしたって何ともベタな由真の想像である。けど、いくら
お嬢様でも弁当に刺身はないだろ。食中毒が怖いって。
669河野家にようこそ 第66話(3/9):2006/07/31(月) 20:58:52 ID:DjdjgVAA0
 玲於奈さんはやや大げさにハァとため息をつき、
「そのような贅沢なものを、お弁当のおかずになんて勿体ないですわ」
「ぜ、贅沢!?」
「も、勿体ない!?」
 おおよそお嬢様の口から出る言葉とは思えない台詞とは俺も思うが、だからって由真と一緒に花梨
まで大声出さなくても。その大声に驚きつつ玲於奈さんは、
「あ、あなた方凡民が――」
「玲於奈!」
 いきなり玲於奈さんの言葉を遮る薫子さん。タマ姉をちらりと見たのは何か関係があるのだろうか。
「あ、そ、そうでした……。
 あ、あなた方が私たちにどのような印象をお持ちになっているかは存じませんが、これが私たちの
普段の食事です。九条院では不必要な贅沢は許されませんから」
 成る程、お嬢様学校とは言え、毎日贅沢なもの食ってるワケじゃないのか。
「じゃあ食べたことないんですか、伊勢エビとかキャビアとか?」
「ウチは食べたことあるよ〜、伊勢エビとキャビア。回るお寿司屋さんで食べた〜☆」
「さんちゃん、あれキャビアやなくてトビッコや言うてるのに……」
 このみの質問に姫百合姉妹のコント付き。
「ば、馬鹿にしないでください! 食べたことくらいあります! ……お、お正月に実家で」
「じゃあ、フォアグラは?」
「あ、あの、トリュフってどんなお味なんですか? あたし食べたことないんです」
「松阪牛とはどのような牛肉なのだ?」
「ええと、何て名前だったかな……、男の人の名前みたいな……?
 あ、思い出した、鮭児! 鮭児ってとっても珍しいお魚なんですよね。どんなお味なんですか?」
670河野家にようこそ 第66話(4/9):2006/07/31(月) 20:59:57 ID:DjdjgVAA0
「ダチョウの卵ってニワトリとどう違うの? ダチョウの卵で作ったタマゴサンドって美味しい?」
 矢継ぎ早に河野家メンバーズの娘さんたちから質問が。どれが誰のかは解説しないけど、一番最後
が誰の質問かは分かりますよね?
「フォアグラは、そうですね、まったりとしてそれでいて――」
「薫子ストップストップ!
 な、何で私たちがあなた方の質問にいちいち答えなければならないんですか!?」
 半ばキレ気味の玲於奈さん。こりゃいかん。
「ま、まぁみんな、そんないきなり質問されたって玲於奈さんたちも困るだろ。
 第一、玲於奈さんたちまだご飯食べてないんだしさ……」
 みんなを抑える俺。
「そうね、ごめんなさいね三人とも。気にせず食べてちょうだい」
「は、はい」
 タマ姉に促され、玲於奈さんたちは自分の弁当を食べ始めた。――美味しそうなんだけど、あまり
ジロジロ見るのもよくないな。俺も自分の残りを……
「……うん、よしっ!」
 ん、愛佳が何か気合い入れてるぞ?
「あ、あのっっ!!」
「ひえっ!?」
 愛佳はいきなり自分の弁当を玲於奈さんに突き出し、驚いた玲於奈さんが思わずのけぞる。
「あ、ご、ごめんなさい!
 え、えっと、よ、よかったら、あたしのおかず、食べてみてくれませんか?」
「……は?」
「え、えっと、玲於奈さんたちのお口に合うかどうか分からないですけど、その、今日作ってきた
鳥の唐揚げ、自分では結構上手に作れたって思うんです。だ、だから、よかったら……」
671河野家にようこそ 第66話(5/9):2006/07/31(月) 21:01:04 ID:DjdjgVAA0
 まさか、自分がそのようなお願いをされるなどとは思っていなかったのだろう。玲於奈さんは困惑
しつつ、愛佳と、目の前に突き出された弁当を交互に見る。
 そのままの状態がしばらく続き、弁当を突き出す愛佳の手がプルプル震え始めた頃、玲於奈さんは
フンと鼻を鳴らし、
「そうね、分かりました。なら、私の卵焼きと交換しましょう」
「……あ、はい!」
 喜ぶ愛佳。二人は唐揚げと卵焼きを交換するのだが、その時、玲於奈さんがニヤリとほくそ笑んだ
ように見えたのは俺の気のせいだろうか?
 そして二人はお互いの料理を口にして――
「――あ、美味しい!」
 顔がほころぶ愛佳。一方玲於奈さんだが、
「……」
 驚愕の表情で、口を手で押さえて何も言わない玲於奈さん。――まさか、不味かったのか? いや、
愛佳の料理はタマ姉だって認めてるくらいなんだ。そんなはずないけど……
「れ、玲於奈、どうしたの?」
 いつまでも黙ったままの玲於奈さんに薫子さんが声を掛けるが、それでも玲於奈さんは無言。
 薫子さんは愛佳をキッと睨み、
「あなた、玲於奈に何を食べさせたんですか!?」
「え!? あ、あの、鳥の唐揚げですけど……」
「なにかおかしなものでも入ってるんじゃないでしょうね!?」
「そ、そんなことしませんよぉ! ほ、ホラぁ」
 そう言って証明のため、唐揚げを一つ口に放り込む愛佳。もぐもぐとしっかり咀嚼して飲み込むが、
愛佳に異常は現れない。って言うか毒なんて入れてるワケないじゃん。元々愛佳自身が食べるための
おかずなんだし。
672河野家にようこそ 第66話(6/9):2006/07/31(月) 21:02:04 ID:DjdjgVAA0
 けれど薫子さんはイマイチ信用しきれていないようで、
「な、なら、私も一口」
 薫子さんは愛佳の弁当箱から唐揚げを一個取り上げ、口にした。ちなみにこれで愛佳の唐揚げは
品切れ。そして食べ終えた薫子さんは、
「――あら、結構おいし」
 ガッ!!
 いきなり薫子さんの口を押さえつける玲於奈さん。当然驚く薫子さんなのだが、玲於奈さんの目を
見るなり、顔を真っ青にしてコクコクと肯く。その横で、怯えてふるふる震えているカスミさん。
 玲於奈さんは愛佳に向き直り、
「ま、まあまあと言ったところ、かしら。正直、思っていたよりは食べられるものでしたわ。
 ですが、この程度ではまだまだですわね。どこのどなたかは存じませんが、もっと精進なさい!」
「そ、そうですか……」
 ショボンと落ち込む愛佳。すると黙ってないのが、
「随分言いたい放題言ってくれるけど、あんたの料理はどうなのよ?」
 妹の郁乃である。
「あ、あなたは何ですの?」
「あんたの言うまあまあな唐揚げを作った姉の妹よ。で、もう一度聞くけど、あんたの料理はそれ
だけのことが言えるほどのものなのかしら?」
「フン……、なら、ご自分の舌でお確かめなさいな」
 郁乃の目の前に弁当箱を突き出す玲於奈さん。郁乃はそこから卵焼きを一つ取り――
「じゃあ、あたしも一つ」
「なら、るーも確かめさせてもらおう」
「あ、じゃあ花梨も!」
「ほなウチも〜」
673河野家にようこそ 第66話(7/9):2006/07/31(月) 21:03:31 ID:DjdjgVAA0
「あ、このみも!」
 その瞬間、由真、るーこ、花梨、珊瑚ちゃん、このみが一斉に群がる。
「ちょ、ちょっと! なんなのあなたたち!?」
 まるで鳩の大群に襲われた観光客のような玲於奈さん。
 女の子のお弁当とは中身がそれほど多くはない。なのにこれだけの人間がおかず目当てに群がると、
その結果は……
「あ、あ、ああ……」
 哀れ、玲於奈さんのお弁当はご飯と梅干しのみになってしまった。
「おいおい、お前らなぁ……」
「あ、美味し〜い! ――ん、何、たかあき?」
 何も言わず、悲惨な状況の玲於奈さんを指差してやる。すると由真は玲於奈さんにエヘヘと笑い、
「ゴメンゴメン。美味しそうだったからつい、ね。お詫びにあたしのおかず、分けてあげるからさ」
「るーはこのミートボールを譲ろう。るーの手製だから味わって食え、うーれお」
「じゃあ花梨ちゃんは、代わりにこのミニトマトをあげるね!」
「ほなウチは、カニクリームコロッケあげる〜」
「じゃあこのみは――」
「い、いりませんわ!!」
 目に涙を浮かべて怒鳴る玲於奈さん。
「こ、こ、このような仕打ち、生まれて初めてですわ! な、何て人たちなのあなた方は!?」
「ご免なさいね玲於奈。この子たちには私から――」
「お、お姉様が謝る必要なんてありません! 悪いのはこの凡民たちです!!」
「れ、玲於奈、その呼び方はやめなさいって――」
「薫子は黙ってて!」
 玲於奈さんは立ち上がると、一番手近な由真を指差し、
674河野家にようこそ 第66話(8/9):2006/07/31(月) 21:04:34 ID:DjdjgVAA0
「今ハッキリ分かりましたわ! あなた方にはお姉様と一緒にいる資格なんてない!
 いいえそれだけじゃない、あなた方はお姉様にとって有害、いえ猛毒よ! あなた方などとと一緒
にいたら、お姉様まで下等な人間になってしまうわ!」
「な、なんなのよそれ!?」
 カチンときた由真だがそれに構わず、
「私は断じて認めないわ! あなた方がお姉様いることも、お姉様が九条院を捨て、こんな学校に
いることも!
 覚えてらっしゃい! いずれ必ず、この手にお姉様を取り戻してみせるわ!!
 行くわよ、薫子、カスミ!!」
「あ、待って玲於奈!」
「……!(あたふた)」
 靴を履くのも忘れ、すたすたと去っていく玲於奈さん。薫子さんとカスミさんは慌てて弁当やら
玲於奈さんの靴やらを回収し、タマ姉にペコリと一礼してから玲於奈さんの後を追った。
「ホラ、だから反対だったのよ。最初からあんなのと仲良くできるワケなんて――」
「誰のせいだよ、誰の」
 自分のことを棚上げしまくりの由真の頭をチョップ。
「あたっ!? な、何するのよたかあき!」
 由真の抗議には耳を貸さず、俺は思わずハァとため息。……こりゃあ完全に嫌われたかな、俺たち。
食い物の恨みは恐ろしいとも言うしなぁ……。

 放課後、である。――念のため言っておくが、授業中の様子を語らないのは特に語るべき話がない
だけであって、決して俺が居眠りをしているとかそういう理由じゃないからな。
 自分の靴箱を見た俺は、そこに見慣れぬ物体を発見する。封筒だ。
 一瞬、甘い想像が俺の脳裏をよぎるが、すぐさまイヤな予感がそれを覆い隠してしまう。
675河野家にようこそ 第66話(9/9):2006/07/31(月) 21:05:46 ID:DjdjgVAA0
 このタイミングでこれだもの。やっぱ、なぁ……。
「タカ坊、どうしたの?」
 とっくに靴を履き替えて出口の前で俺を待つタマ姉たちからは見えないように封筒を開け、中の紙
を開けてみる。するとそこには、こう書いてあった。
『裏山の神社にてお待ちしております。お一人でお越しくださいませ』
 やっぱり。この達筆な文面から、差出人が誰なのかくらい容易に想像がつくってもんだ。
 どうする? 行くべきか、それとも――
「タカ坊」
「うわっ!?」
 いきなり真後ろからタマ姉の声がしたかと思ったら、手紙を取られてしまった!
「ちょ、ちょっとタマ姉!?」
 慌てる間もなくタマ姉は手紙の中身を読んでしまい、眉をひそめる。
「仕方がないわね。私が行ってくるわ」
 その文面からタマ姉も、差出人が誰なのか理解したのだろう。けど、
「いや、俺が行ってくるよ。これは俺宛だし」
「タカ坊、でも――」
「大丈夫だって。少なくとも俺は彼女たちとケンカがしたいワケじゃないしさ。それに」
 内心の動揺を悟られたくないので、冗談っぽく、
「もしかしたらコレ、他の子からのラブレターかもしれないじゃないか」
「タカ坊……、そうね。それなら私はお邪魔よね。でも」
 タマ姉は俺のほっぺたをぎゅーっとつねり、
「どっちにしても、帰ったら話、聞かせてもらうからね」

 つづく。
676河野家にようこそ の作者:2006/07/31(月) 21:06:18 ID:DjdjgVAA0
どうもです。第66話です。

>>616
キタ━━━━━━\(゚∀゚)/━━━━━━ !!!!!
俺もめっちゃ楽しみです!!
ボリュームたっぷりのAVGかぁ。どんなストーリーなんだろ。
ある日、貴明の家に大勢の女の子が押し掛けるってストーリーだといいなっ!(って馬鹿

あと、リンク先のその記事の下の「アニメ関連の企画が進行中」もちょっぴり気になります。
TVアニメの第2シーズンかなぁ? なら今度はもう少し……
677名無しさんだよもん:2006/07/31(月) 21:21:09 ID:Qvyb5Ghf0
ああ、そこはあえて見ないようにしてた(´・ω・`)>アニメ
678名無しさんだよもん:2006/07/31(月) 21:32:37 ID:3j/HhXrN0
>>676
毎週お疲れ様です 。
玲於奈は”うーれお”なんですね……
なんとなく某特撮シリーズを彷彿させるような……
679名無しさんだよもん:2006/07/31(月) 22:00:28 ID:NeJCfHrf0
>>676
乙ですー。
う〜〜む、どうなることやらですねぇ。
このままあの3人まで河野家に雪崩れ込むような事にならねばよいのですがw
680661:2006/07/31(月) 22:15:05 ID:5M4MPvUC0
>>666
も自分だが
確かED後にゲンジマルの墓参りをしている時にハクオロの記憶がフラッシュバックして
『ゲンジ丸の墓』って書いてある板が頭に浮かんで
なんだいまのは?って言って
それからというもの何かするたびに色々な情景が頭に浮かぶみたいな話だったと思う
681名無しさんだよもん:2006/07/31(月) 22:45:46 ID:OvtCYeDs0
雄二撲滅! 雄二イラネ!  貴明ハーレム帝国バンザ〜イ!!!
682名無しさんだよもん:2006/08/01(火) 03:17:18 ID:Litqlu0O0
>>676
お疲れ様です。この調子ならタマ姉を堕落させないために
河野家に無理矢理住みつきそうですね。
アニメは無印並みになって欲しい・・・
683名無しさんだよもん:2006/08/01(火) 04:15:42 ID:DQF5u3iaO
アニメやるならうたわれと同じくらいのクオリティにしてほしい
684名無しさんだよもん:2006/08/01(火) 08:11:03 ID:e1Hc3RApO
名作になりそうw
だがあのクオリティで作れと言うのは酷じゃないか?
685名無しさんだよもん:2006/08/01(火) 11:51:48 ID:SayJJ43i0
>>666
詳細希望
686666:2006/08/01(火) 13:24:16 ID:e1Hc3RApO
PCクラッシュしてからみたことないしどこのかもわからん
687名無しさんだよもん:2006/08/01(火) 14:36:42 ID:Q1OkWIkM0
キャビア→トビッコは峠のラジオネタ?
688名無しさんだよもん:2006/08/01(火) 14:48:23 ID:DQF5u3iaO
>>684
前と同じクオリティってのは酷すぎないか?
689名無しさんだよもん:2006/08/01(火) 15:26:01 ID:828BQWEU0
>>676
遅くなったけど、河野家喜多ーーー!!!

本編もそうだけど、つくづく食べ物にこだわる
キャラ達だなあ、と再確認^^;
このメンツで料理番組が一つできそうですね。
調理人にも事欠かないことだし。

個人的には、AVGは河野家のゲーム化がいいなあ。
全キャラのパジャマ姿とかも見れそうだし^^;
ついでにゲーム内ゲームで「まじかるハートフルデイズ」も
収録希望。
690名無しさんだよもん:2006/08/01(火) 20:07:26 ID:6flFg52o0
そこまで河野家を妄信してるのもちょっと怖いな。
いや、確かに面白いけどさ。
さすがにそこまでいくとちょっと引く。

まあ誰が何をどれくらい好きかなんて他人が口出せたことじゃないですけどね。
個人的にはやっぱ河野家は二次創作だからと割り切ってこそ楽しめる面はあると思う。

二次創作全般に言えることだけど、原作で係わり合いのなかったキャラの絡みって
面白く感じるのと同じくらい白々しく感じることもあるからさ。
特に河野家はオールキャストに近いちゃんぽんだし、良くも悪くもその両面が強く出てると思う。

なんか噛み付いちゃってごめんね。
うん、俺も好きだよ河野家。
でもやっぱ原作ありきの二次創作捕まえて
本家のを押しのけてヨイショするのはちょっとあれだったもんでつい口出しちゃった。
ほんとごめんね。
691名無しさんだよもん:2006/08/01(火) 21:23:27 ID:ph2hbM0k0
別に押しのけてヨイショしてるわけじゃないと思うけどなw

でもまあ真面目な話、もうLeafには期待できないような気がする
FDも発表されたけど、XRATEDの手抜きっぷりを見せられたらマトモなものになるとは思えないし
むしろ「原作ありき」というのを再確認させてくれるような満足感のある内容になって欲しいよ・・・
河野家をゲーム化した方がよかった、なんて言われるような出来じゃないことを心から望む

なんてことを某萌えゲのFDをやりながら思った
これの半分でもいいから頑張ってくれないかなあ
692名無しさんだよもん:2006/08/01(火) 22:03:15 ID:q/a9fEF40
>>691
つまりエロエロにしろと








俺は大歓迎
693白詰草 ◆Pd9gE38GCU :2006/08/01(火) 22:30:13 ID:oC4gIH8i0
From girl to … (1) 1/6


 一昔前のある日、男がひとりやってきて、
 大海のどよめく、日のささぬ寒い浜辺に立ってこう言った。
 「この海原越しに呼びかけて、船に警告してやる声が要る。その声を作ってやろう。
 これまでにあったどんな時間、どんな霧にも似合った声を。
 それは、夜更けてある人のそばの空っぽのベッド、訪れた人のいない家、
 また、葉の散ってしまった晩秋の木々に似合った、そんな音。
 鳴きながら南方へと飛び去る鳥、12月の風、寂しい浜辺に寄する波に似た音。
 それはあまりにも孤独な音だから、誰もそれを聞き逃すはずはなく、
 また、それを耳にした者は誰もが密かに忍び泣きをし、
 遠い街で耳にすれば、我が家がよりいっそう温かく懐かしく思われる、
 そんな音を作ってやろう。
 俺は我と我が身をひとつの音、ひとつの機械と化してやろう。
 そうすれば、人はそれを霧笛と呼び、
 それを耳にする者は皆、永遠というものの悲しみと、生きることの儚さを知るだろう」
694白詰草 ◆Pd9gE38GCU :2006/08/01(火) 22:30:52 ID:oC4gIH8i0
From girl to … (1) 2/6


 君が初めてその猫に出会ったのは、桜もまだ咲き揃わない3月の上旬のことだった。
 川沿いの木の下で、あの高校生の男の子と出会った日。ハンバーガーをいかにも美味し
くなさそうにもそもそと食べた後、ほんの少しの行き違いからその男の子とけんかになり、
君が茂みの中に身を隠したその時だった。カイヅカイブキの向こう側の芝生で寝ていたブ
チ模様の猫の驚いたような瞳を、君はきっと今でも覚えている。
「%$'▲○&¥」#×=¥」
 そう、その時君はそう口にした。猫であろうとなかろうと、その発音から何がしかを読
み取れるものはきっといなかったろう。案の定、猫も何を言われたのか判らずにきょとん
として、自分の睡眠を邪魔した桜髪の闖入者を見つめているばかりだった。
 さらに君は、「弄醒了?」とか「Io sono spiacente. Ha cominciato?」とか、いろい
ろな音を猫に向かって発したけれど、少なくとも猫がそれを解した様子は見られなかった。
 猫がようやく反応らしい反応を見せたのは、君が29回目に話した、「すまない。起こし
たか?」という日本語。
 その言葉を聴いたときに、猫が「うにゃあ」と鳴き声をあげたんだったね。
 それを見た君は、ご満悦そうに「そうか、この地域の言語はこれになるのか」と言って、
頭の辺りにある何かを調整するようなしぐさをした。君には、猫が偶然あくびを漏らした
可能性というのは、どうやら考えるに値しないもののようだ。
 そして、君はやおら立ち上がり、両手を天に突き上げて何かを宣言するような格好になる。
「るーの名前は、るー・%&+@@#¥**という。覚えておくが良い」
695白詰草 ◆Pd9gE38GCU :2006/08/01(火) 22:31:30 ID:oC4gIH8i0
From girl to … (1) 3/6


 何を言っているのか猫には全く理解できなかったろう。かろうじて名前を言っているん
だと言うことくらいは判ったかもしれないが、肝心の名前の部分は全く読み取れない。
 それでも、猫が「にゃあ」と興味なさそうに鳴くと、君は「そうか、お前の名前は"ニ
ャー"というのか、記憶したぞ、ニャー」と、またぞろとんでもない勘違いを披露した。
 君は今でも知らないが、その猫の名は「ニャー」などという散文的なものではない。だ
が、その後猫がいくら「ニャーニャー」と抗議しても、「そうか、確かに良い天気ではあ
るな」「それは違うぞ、ニャー。大いなる"るー"の仲間たちは、るーを決して見放しはし
ないだろう」と、なんら関係ないことを次々に口にするばかりで、結局猫が諦めたように
「にゃあ」と漏らすまで、噛み合うことの無いコミュニケーションを続けていた。
「るーの名前は、るーこ・きれいなそら」
 君の名前をようやく猫が知ったのも、日はとっぷりと暮れた後、あの男の子と2度目の
やり取りをしていた時だった。
 そうでなければ今も…猫は君の名を知らないままだったかもしれないね。
「るーは大熊座47番星第3惑星"るー"から、光より速い光に乗って"うー"を探検にやって
きた。るーは"うー"の言うところのエイリアンだ」
 アルテミスの明かりに反射して、君の左手の中指に嵌められた銀色の指輪が輝く。
 それはとても鮮明で、きっと、その場の誰もが…君の、とりこになったんだ。
696白詰草 ◆Pd9gE38GCU :2006/08/01(火) 22:32:03 ID:oC4gIH8i0
From girl to … (1) 4/6


 君は、その後この公園で昼夜を過ごし続けていたね。
 朝は公園の水道で身だしなみを整えて、昼は何やらごそごそと作り物をしたり、学校に
出かけたりし、夜は公園の遊具の中で眠っていた。汗をかくと近所の銭湯に行き、服が汚
れれば学校の家庭科室で洗濯をする。おなかが空けば商店街で食事をしたり、公園で魚を
焼いて食べていた。
 驚くべきことに、君はそれにかかる全ての経費を、マッチ棒で済ませていたね。もっと
も、最初は面食らっていた商店街の人々が、すぐにマッチ棒での取引を開始したことは、
さらに驚くべきことだったけれど。
 あの時、君がどんな魔法を使ったのかは判らないけれど、商店街のみんなが君の笑顔を
心待ちにしていたことは疑いがない。君が商店街にいない時に、お店の人たちが「今日は
まだ来ないのかなぁ」「美味しい魚を仕入れたんだよ。今日も持ってかれちゃうかなぁ」
と待ち遠しそうに話していたことを、君はきっと知らない。あの時君が配ったマッチ棒が、
今でも店々のレジスターの中に大切にしまわれていることを、君はきっと知らない。
 みんな、君の事が大好きだった。ぶっきらぼうで、無表情で、尊大で、口を開けばわけ
の判らないことばっかり喋ってる君のことを、みんなが愛していた。
 どうしてだろう? そればっかりは誰にも判らない。
 でも、想像力をたくましくすれば……君がその時、寂しい思いをしていたことを、みな
が直感的に悟っていたのかもしれないね。
「ニャー。今日はイワシを買ってきたぞ。イワシは今が旬なのだ。ニャーにも存分に味わ
わせてやるから、覚悟するがいい」
 "るーこ"と書かれた紙を公園の表札に貼り付けた君の家。郵便ポストまで用意して、君
はすっかり公園の主を気取っていたね。
 おすましした服とスカート、花の髪飾りと銀の指輪はどう見てもお嬢様で、公園でホー
ムレスのような暮らしをしているなんて、誰が信じただろう?
 猫を横にはべらせた、夕暮れの公園のお食事会。本当に、誰が想像しただろうか? で
も、それはどこまでも現実で、夕暮れと宵闇のダンスを天上に、君はぱたぱたと団扇の音
も軽やかに、七輪で魚を焼いていたんだ。
697白詰草 ◆Pd9gE38GCU :2006/08/01(火) 22:32:44 ID:oC4gIH8i0
From girl to … (1) 5/6


 春先とはいえ、まだ肌寒い三月の黄昏時。美味しそうな匂いの煙がゆらゆらと立ち昇る
向こう側、君は物憂げな表情で、ちりちりと油の爆ぜるイワシをぼんやりと眺めていた。
 そして、どこかの家の夕餉の匂いを含んだ風が君の髪を少し揺らすたび、君は、思い出
したように猫に話しかけるんだ。
「ニャーは聞く限りではあまり良い食事をしていないようだ。以前はハンバーガーも食べ
ると言っていたが、あれは栄養バランスが良くない。るーがしっかり健康管理してやるか
ら、毎日ここに来い。判ったか?」
 家に帰れない、と君は言っていた。自分は遭難者なのだと。
「にゃあ」
「わがままを言うな。好き嫌いは健康の敵なのだ」
「にゃあ」
「心配せずとも味の保証はしてやろう。るーは、"るー"でるーママに次いで2番目に料理
がうまいのだ。ニャーの舌ごとき、満足させられぬわけがないだろう」
「にゃあ」
「判れば良い。いいか、毎日来るのだぞ。毎日だ」
 はたから見れば全く会話が噛み合っているようには見えないが、君にとってはコミュニ
ケーションの成立は疑う余地は無いようだ。返答にうんうんと嬉しそうに頷いて、油の乗
ったイワシをふうふうして、猫に与えていたね。
「うまいか、ニャー」
「にゃあ」
「そうか」
 君はずっと猫を見つめていた。はむはむと、まだ熱いイワシの身をそれでも口に入れよ
うとがんばっている猫の姿を、君は嬉しそうにずっと見つめていた。
 誰もいない公園の中で紡がれる、猫と2人の時間を、君はいつも宝物のように大事にし
ていたね。
698白詰草 ◆Pd9gE38GCU :2006/08/01(火) 22:34:25 ID:oC4gIH8i0
From girl to … (1) 6/6


 でも……茜色の空は次第に夜の色に染まって行く。猫がいなくなるころには月明かりが
公園を薄く照らし、家々の窓には蛍光灯の光が明るく灯り、仕事を終えて帰ってきた父親
と楽しそうに笑い会う子供たちの声が遠くから聞こえてくる。
 ひんやりとした風はさえぎるものの無い園内を我が物顔で駆け抜け、時折どこかから飛
ばされてきた紙くずが、からからと乾いた音を立てながら転がっていく。
 明るい頃には、子供たちを乗せてキイキイと歓声を上げていたブランコも、歌を忘れた
小鳥のようにじっとして音も立てない。
 君は、時折ブランコに腰を下ろして、遊んでいた子供たちがやっていたように漕いでみ
る。ブランコが前後に振り出すと、次第に勢いをつけて荷重をかけ、より高いところへと
上っていく。その先に何かを見るように、ずっと空を眺めながら、星を眺めながら、君は
ブランコを一心不乱に漕いでいた。
 そして、何度目かの振り子を繰り返した後、君は天にその身を投げ出すように、ブラン
コからジャンプする。
 たぶん、その一瞬だけ、君は鳥になっていた。白い翼をはためかせ、どこまでも空の向
こうへと飛んでいく、一羽の鳥に。
 …でも、一瞬が通過すれば、そこには重力に抗うことのできない、翼をなくした少女の
姿だけ。
 ブランコから投げ出された君は、どこへも行くことなく、地面に着地する。
 後に残るものは、誰もいない公園と、どこかの家から聞こえてくる談笑。
 一人で遊んでみたあと、決まって君は遊具の中に入っていき、両脚を折り曲げて丸くな
る。小さな手で懸命に耳を閉じ、小さく震えながら眠りに付く。

 明日また、誰かに会えるように。
 明日また、楽しいことがあるように。
 きっとそんなことを思いながら、君はひとりぼっちで眠りに付く。
699白詰草 ◆Pd9gE38GCU :2006/08/01(火) 22:38:39 ID:oC4gIH8i0
最近かかりきりだったるーこSSです。
指輪連作シリーズにしては短くまとまったので、
このスレにも投下。4夜連載になります。
マニアックな作りですがご勘弁ください。

なお、冒頭の一節は、作:レイ・ブラッドベリ 『霧笛』より引用。
大西尹明氏の訳を元に、白詰草が編集したものです。
700名無しさんだよもん:2006/08/02(水) 01:35:27 ID:NO5JIxUk0
>>699
乙です〜。
微妙に視点がわかりにくい分悩みましたが、るーこタイプのキャラだとなかなかこういう
雰囲気も味がありますね。
ともあれ、続きを楽しみにしています!
701BANG!前編:2006/08/02(水) 01:56:00 ID:NO5JIxUk0
こんばんはー。
「そしてあしたへ、ふたりで」とかあのへんの作者です。
今度はミルファ&このみのSSを書いてきました。
今回は遠慮なく長く書いていますので、とりあえず今日は前編です。
それではお時間のある方は読んでみて下さい。
702BANG!前編(1/12):2006/08/02(水) 01:57:28 ID:NO5JIxUk0

          ミルファ&このみの夏休みSS 「BANG! 〜前編〜」

 道路のアスファルトが溶けてしまいそうな、強い日差し。
 喧しくて昼寝をするにも調子が悪いほどの、蝉の声のシャワー。
 遅かった夏本番の到来。
 とある町の何の変哲もない一軒の家の庭で、降り続いた雨の為に延び放題になりはじめている雑草を抜き
まくる一人の少女の姿が見える。
 何が嬉しいのか鼻歌交じりで。

「よ……っと。これであとはしばらく置いておいて、ゴミの日の前に袋に詰めればいいよね」
 少女は、こんもりと盛り上げた雑草の小山の前で額の汗を拭っている。
 最近はこの国の人間の髪の色にもバリエーションが増えたとはいえ、なかなかお目にかかれない紅い髪、
更に深い碧を湛えた瞳に特徴的な乳白色の耳飾り……そう、彼女は『メイドロボ』であった。
 屋外での作業をする為であろう、色気のないオリーブドラブの陸自の空挺作業服を身に付けているのだが、
胸以外はだぶだぶで、上着の袖もズボンの裾も三段に折り上げられている。
 そして大きく開いた胸元では、深い胸の谷間と銀色のドッグタグが揺れていたりする。

「タ〜○コ〜♪ タ〜ラ○〜♪ つ〜ぶ〜つ〜ぶ〜、○〜ラコ〜♪」
 カマや軍手をプレハブ物置に放り込み、ひとつ大きく伸びをしたメイドロボの少女は、物置の壁に掛けて
あった数種のモノを取り出してきた。
 そして気持ち良さそうに鼻歌を歌いながら、塀に的のようなものを取り付けている。
 真ん中に黒丸があり、数重の同心円がそれを取り囲んでいるアレだ。
 次にニコニコしながらきゅきゅっと胸元に取り付けたものは……なんとショルダーホルスター。そしてそ
の中には、デザートイーグルと呼ばれる銃がぶち込まれている。
「イチ、ニー、サンシー……10メートル、っと」
 おおっと、歩測とは味な真似をするロボットですね。
 そこに白いリノリウムの線(?)を置き、ターゲットに向き直った彼女の表情は真剣そのものである。
 概ね肩の幅に脚を開き、手をゆらゆらと揺らして息を整える。
703BANG!前編(2/12):2006/08/02(水) 01:59:04 ID:NO5JIxUk0

「チャー、シュー、メン!」パン!
 ……ちょっと待て。
 実はエアガンでした、というのは当たり前すぎる事なのでスルーしてもいい。
 だがいくら冷静な第3者視点のナレーターとは言っても、この掛け声はコメントに困る。
「サン、ラー、タン!」パン!
 妙に間の抜けたというか旨そうなお調子はさておき、射撃のフォームや腕前はなかなかのものだ。
「ワン、タン、メン!」パン!
 流れるように大型拳銃を引き抜き、射るような眼差しで狙いを定め、迷わず撃つ。
 放たれたBB弾は、狙い違わずターゲットの中心付近に孔を空けている。
「んふふ〜〜♪」
 満足そうに微笑むと、再び物騒なモノを少女は胸元に収納した。
 そして目を閉じて、一呼吸……
「ミ〜ルファさん☆ なに、美味しそうなお話ししてるの〜?」
 瞬時に緊張を解き、ミルファと呼ばれた紅い髪のメイドロボが隣家を仰ぐと、つややかな黒髪を桜色のリ
ボンで頭の両脇に結った少女が、2階の窓から顔を出していた。
「あ、このみちゃん、勘違いさせちゃった? 射撃練習の、ただの掛け声だよ〜」
 そう言われてミルファの様子を改めてよく観察した黒髪の少女、柚原このみは目を輝かせて窓から身を乗
り出してきた。
「あぁ〜っ、もしかして『ミヅキ』ごっこ? 私にもやらせて〜!」

 ちなみにこのみの言う『ミヅキ』というのは、最近テレビで流行った戦闘ロボットが活躍する刑事ドラマ
『警視庁広域機動特別捜査官・ミヅキ』の主人公の事である。
 モデルばりの長身に長く美しい黒髪、暗視スコープ無用の紅い瞳の妖しい輝きは決して悪を見逃さず、高
い推理力・情報収集力・格闘戦能力や、掌に仕込まれたスタンガンなどで次々と難事件を解決し、凶悪犯を
倒していく、『戦場で受けたトラウマのせいで人間を撃てなくなった軍用ガイノイド、T3Tミヅキ』はそ
の無表情キャラが大受けし、ミルファとこのみも毎週楽しみにして見ていた。
704BANG!前編(3/12):2006/08/02(水) 02:00:27 ID:NO5JIxUk0

 極めてお約束ではあるが物語終盤、悪のテロ組織に立ち向かって命を落とした同僚刑事(当然序盤ではそ
の刑事とミヅキの「恋かも?」と思わせるような心の交流があった)がいたりして、その彼の為、ミヅキが
トラウマを乗り越え再び銃を手に取り、テロ組織と戦い始めてから大いに盛り上がりを見せ、ついこの間最
終回を迎えたばかりなのだ。

 閑話休題……

「おじゃましま〜す!」
 河野家の庭にこのみがトコトコと駆け込んできた。
 少々幼い印象を与えている気もするが、可愛らしく胸元に水色のリボンをあしらった白いチュニックブラ
ウスとライトブラウンのキュロットパンツは活動的な彼女によく似合っている。
「おはよ〜、今日も可愛いね、このみちゃん!」
「えへへぇ〜、ありがとう。ところで、さっきから気になってるんだけど……ミルファさんの格好、なんか
お父さんの服みたいに見えるんだけど……」
 ちょっと困ったような微笑を浮かべてこのみはミルファの服を眺めている。
 と、ミルファはその場でさっと回れ右をきめ、このみに向けてビシッと敬礼をして見せた。
 そうするとぶかぶかの軍服と、決まった姿勢のアンバランスが微妙にマッチしてとても可愛く見える。
「それは当然であります! なにせこの服はおじさまにいただいたものでありますから!」
 そしてにぱっと微笑んで、
「カッコいいでしょ?」
 くるくると踊るように回って見せる紅い髪の少女。
 父親はいったいどのような動機でこれをあげたのだろう?と考えるとどう返事して良いかわからず、この
みは曖昧な笑みを浮かべて流す以外の選択肢は思いつかないようだった。
「あははは……そ、そだね。ミルファさんミリタリールック良く似合うもんね」
「そお? 嬉しいな〜。おじさまもね、私の紅い髪にOD色や迷彩は良く似合うから、って言ってくれて、
今度また色々余ってるウエーブの制服なんかも調達してくれるって〜♪」
 うきうきワクワクといった風のミルファ。
 対照的に更に頭に大きな汗マークを貼り付けているこのみ。
705BANG!前編(4/12):2006/08/02(水) 02:01:53 ID:NO5JIxUk0

(余ってる女子自衛官の制服なんてあったとしても、お父さんが手に入れられるわけないよね……)
 それはそうだ。
 柚原父は確かに幹部自衛官だがあくまで普通の戦車ドライバーであり、普通に売店で買う以外の方法で余
計な戦闘服を手に入れられるわけがない。
 ましてウエーブの制服においておや。
(こ、これをお母さんに話したら、どうなるのかな〜〜)
 ちょっと対処に困ってしまう、このみちゃんであった。

「このみちゃんは、デザートイーグルとグロック18とどっちがいい?」
「う〜ん、名前で言われるとよくわかんないけど、ミヅキが乱戦の時によく使ってた、一回でパパパッて何
発も撃てるのがいいな」
「あ、グロックの方が好きなんだねー? じゃあ、こっち貸してあげるー。ミヅキみたくヒップホルスター
のがいいよね」
 楽しそうに黄色い声で2人の少女が語り合っているのは無骨な拳銃の話である。
 可愛いのだが、なんともミスマッチな風景ではないか。
 なおデザートイーグルはハンドキャノンの異名を持つイスラエル製の大型拳銃、グロック18(G18)
はオーストラリア製でフル/セミオートが切り替えられる軍用マシンピストルである。
 このみは何気なく選んだようだが、重さが2キロもあるデザートイーグルよりは、寸法・重量ともに普通
の拳銃程度のG18の方が小柄な彼女には扱いやすいに違いない。
「ホントは最終回で使ってたあのお〜〜っきなライフルが好きだなぁ〜」
「バレットM82A1? 私もあれのエアガン欲しいのになぁ〜。貴明ケチンボで買ってくれないの」
 なんとも物騒な事を話しているお嬢様方ですね。
 ちなみにバレットM82A1は、重機関銃用の12.7o弾を発射する超強力なアメリカ製の対物狙撃銃
で、劇中では建物の中に逃げ込んだラスボスの場所をミヅキがサテライトシステムや包囲した警官隊が設置
した各種センサーの情報だけを使って特定し、コンクリートの壁を撃ち崩して倒すシーンに用いられた。
 日本の警察が使うような武器ではないが、まぁ、そこらは見逃すとしよう。
 ドラマの警察ならば、たまにはショットガンで狙撃をするような行為も許されるというものだ。
706BANG!前編(5/12):2006/08/02(水) 02:05:20 ID:NO5JIxUk0

「じゃあ、撃ってみよ〜う♪」
「了解でありまぁす! ……じゃあ……」
 パン!
「あ、すごいすごい! 距離10mでいきなり的に入れるなんて! 5mにした方がいいかなって悩んでたの
に、全然そのままでいいみたい!」
 確かに、このみの放ったBB弾はターゲットの中心付近を捉えていた。
「えへへぇ〜〜。何度かお父さんに教えて貰った事があるんだぁ」
 そして再び綺麗な両手保持姿勢で構え、
 パン!
 また弾丸が中心付近に小さな穴を空けた。

「ミルファさん、そういえばさっきの『チャーシューメン!』とかはなんだったの?」
 2人交代で撃ちまくり、数マガジンを空にしたところでこのみがミルファに尋ねた。
「ん〜〜??」
 孔だらけになったターゲットを交換しているミルファのお尻が『何の話?』という風に揺れる。
 考えつつ作業を終えた彼女はくるりと振り返り、ぱちんと指を一つ、鳴らした。
「あ、あれね〜? ほら、ドラマでも出てきたでしょ、『警官は2秒で撃つ』ってあれをやってたの」
 さすがにそこまでは早く出来ないから3秒なんだけど……と言いつつ10mラインに戻ると、ミルファは
ぶらぶらと両手をリラックスさせながらターゲットに身体を向けた。
「1、でホルスターから抜いてセーフティを解除。2、で照準を付ける。3、で倒すべきターゲットか最終
的に確認して引き金を落とす……」パン!
 ゆっくりと、だが流れるように引き抜かれたデザートイーグルから小さな弾丸が放たれ、取り付けたばか
りのターゲットの中心に孔が穿たれた。
「これをリズム良くやるのに、ああやって合いの手を入れてたって訳」
 そう言って再び銃を胸元のホルスターに納めると、今度はさっきとは比べ物にならぬほどのすばやい動き
でBB弾を撃ち出した。
「みそ、らー、めん!」パン!
 間の抜けた掛け声は兎も角、BB弾はあやまたず再び黒い丸を抉った。
707BANG!前編(6/12):2006/08/02(水) 02:06:53 ID:NO5JIxUk0

 そしてさっとホルスターに銃を戻してにっこりと笑うミルファ。
 黙って場所を譲ったミルファに代わり、今度はこのみが銃をホルスターに納めてターゲットに向き直る。
「じゃあ私も……」
 きっ!と、鋭く的を見つめる瞳。
 ゆらゆらと揺れながら緊張を抜く両腕。
 振り子のような、そして、止まった、瞬間。
「ジン、ギス、カーン!」パンッ!
 ……やっぱり、それなんですね〜、このみちゃんは。
 美味しそうなセリフはさておき、このみの放ったBB弾もミルファが先にあけた中心部の穴を貫いた。
「むぅ〜〜、さすが上手でありますね、柚原陸士長! 自分も負けないでありますよ〜!」
「あははは〜〜……ミルファさん、セリフ取らないで〜〜」
「気にしない気にしない! ……それにしても前から気になってたんだけど、その『ミルファさん』っての
やめようよ。呼び捨てでもいいんだから。それに私が『このみちゃん』って呼んでるのが恥ずかしくなるじ
ゃない。やめてくれないんだったら今度から『このみ様』って呼ぶよ〜?」
「そ、それははずかしいよ〜〜……」

 楽しそうに、踊るように、2人の少女は夏の日差しの中で戯れる。
 右手には拳銃を携えて。

「パイ、コー、メーン!」パンッ!

「ひっ、つじ、肉ぅ!」パパパン!



        ◇         ◇         ◇         ◇
708BANG!前編(7/12):2006/08/02(水) 02:10:10 ID:NO5JIxUk0

「さっら、うぅー、どーん!」パンッ!
 ミルファのデザートイーグルが吼える。
 2キロもの重量がある大型拳銃を自在に操り、紅い髪の戦乙女は完璧にターゲット中央に破孔を穿つ。
「にっく、ぎょー、ざぁー!」パパパン!
 このみのG18がリズミカルにBB弾をはき出す。
 ブローバックする毎に跳ね上がる銃口をよく押さえ込み、黒髪の少女はフルオート射撃でも確実に的を捉
えている。
 調子を合わせる掛け声の間抜けさには似合わず、2人の美少女の射撃の腕はかなりの水準のようだった。

「さすがだねー、ミルファさん!」
「いえ。貴女の方こそお上手でいらっしゃいます、このみ様」
 す〜〜っと目を細めると、慇懃な態度でこのみを持ち上げ始めるミルファ。
 音に聞こえた乱暴者とはいえ一応メイドロボ、丁重な態度は堂に入っている。
 だが慣れない呼ばれ方に、たちまちこのみの背筋にはサブイボが走っているようだが。
「いかがなさいましたか? このみ様」
「はうぅ〜〜、こそばゆいからやめて〜〜ミルファさ……ちゃん?」
 すると、ミルファは伏し目がちの姿勢からぴょこんと弾かれたように上半身を起こした。
 顔を上げた彼女の頬には、ひまわりのような微笑が広がっている。
「そうそう、その調子だよ☆ このみちゃん」


「ふえ〜〜っ。美味しそうなものの事ばっかり考えてたせいか、なんだかお腹が減ってきたよ〜」
 ひとしきり撃ちまくった後、このみは額の汗を拭いながらにっこりと笑ってそんなコトを言いだした。
 二人の釣瓶撃ちを受けたターゲットは勿論孔だらけ、的の下に置かれたプラ製足洗桶の中にはたくさんの
BB弾が転がっている。
「そういえばもうお昼だもんね。あ、縁側のところにタオル置いてあるから使ってね」
 そういうミルファの額もうっすらと汗をかいている様だ。
 ロボットとはいえ、やはり夏の日差しを長時間受け続ければ冷却も必要になるのだろう。
709名無しさんだよもん:2006/08/02(水) 02:12:58 ID:Gz+weOcw0
支援
710BANG!前編(8/12):2006/08/02(水) 02:13:09 ID:NO5JIxUk0

 輝く太陽は空の一番高いあたりまで上りきり、いかに朝の遅い夏と言っても、確かにボチボチお昼の時間
にさしかかりつつある。
 トコトコとこのみは縁側に近寄り、かがんでタオルを手に取ろうとした。
 ところが……。
「あれ? なんかいい匂いがするよ??」
 犬のようにひくひくと鼻をうごめかせて空気中の匂い成分を探るこのみ。
 確かに、開け放されたリビングの窓の中から、どこか甘いような上質の脂の香りがする。
 よく嗅いでみると、漂っているのは脂のいい香りだけではない。
 新しい家の香りというか、なにかすがすがしさを感じさせる木の香りもしているようだ。
「はう〜〜、猛然とお腹が空くような匂いがしてるよぉ〜〜」

 ちりりりり……

 このみが誘うように河野家から洩れ出る香りに悩殺されていると、台所の方からキッチンタイマーの音が
聞こえてきた。
 それを察知してミルファもパタパタと縁側に駆け寄ってくる。
「出来た出来た〜〜っと♪ ……はう、上着汚れっぱなし!」
 上着をぱっと脱ぎ捨てリビングに放り込み、園芸用の水道でばしゃばしゃと顔と頭を洗う。
 作業着の下に来ていた服は若草色のタンクトップ一枚。
 密かに(?)ミルファのトレードマークともいえる大きな胸がぷるんと揺れる。
 一緒に、首から下げたドッグタグがきらりと銀色に光る。
「ぷはぁ〜〜っ! 気持ちいい!!」
 彼女が紅い髪をぷるぷると左右に振ると、水滴が宙に舞い、小さな虹が生まれる。
(うわぁ〜、やっぱり綺麗だな〜、ミルファちゃん。タカくんが夢中になるのも無理ないよね〜)
 メイドロボにこの誉め言葉を使ってもいいのか、冷静なナレーターでも迷うところではあるのだが、彼女
のこの「美しさ」は、いわゆる健康美と言い表すべきものであろうか。
 水滴と戯れる少女の姿に思わず、同性のこのみでも見とれてしまう。
 そんなこのみの想いを知ってか知らずか、タオルでわしわしと頭を拭いたミルファは、スニーカーを蹴飛
ばしながら窓からリビングへと突入していった。
711BANG!前編(9/12):2006/08/02(水) 02:15:24 ID:NO5JIxUk0

 このみが庭先でこしこしと汗を拭いながら観察していると、台所に飛んでいったミルファは湯気の上がる
大きな寸胴を覗き込んで何事かを作業している。
 更に、寸胴の隣には妖しげなくすんだ銀色のフードを取り付けたフライパンがおいてあり、隙間からうっ
すらと立ち昇っている煙が見える。ちなみにこの不恰好なフードは換気扇に向かって煙突状に伸びており、
金挾みでフードに仮止めされているようだ。このみの母、春夏ならば正体がわかるのかもしれないが、経験
不足のこのみには何が行われているのか想像もつかず、とりあえず理解出来るのは、
(ふぇ〜〜、美味しそうな匂い……お腹減ったよぅ〜〜)
 という極めて原始的な事柄だけであった。
「美味しそうな匂いだね〜〜。ミルファちゃん、何を作っているのでありますか??」
 万感の想いを込めて、窓の内に問い掛けてみるこのみ。
 目元口元に『えへへ〜』という照れ笑いが聞こえてきそうな微笑を浮かべながら。
 実は味見がしてみたい、という胸の内は勿論内緒だ。
「はう、ごめんごめん。早くあがっておいでよ、このみちゃん。咽喉も渇いたでしょ?」
 くるり、と後ろを振り向いてぱんっ!と拝むポーズをとるミルファ。
 どうやらミルファ嬢はすっかり、このみの存在を失念していたようですね。

「美しさは○〜♪ ほ○えみさえつ〜み〜♪ 黒いバ○の花〜♪ 刺があるよう○〜♪」
 このみがリビングに入ると、ミルファはこのみが聞いた事もないような妖しい歌を口ずさみながら台所で
作業をしていた。
 このみが入ってきた事に気が付くと、すぐさま冷蔵庫を開けて冷えたスポーツドリンクを取り出す。
「クーラー、点けなくて大丈夫? 暑かったら窓閉めて、冷房でもドライでも入れちゃって〜」
 そして、お客さんにもの頼んじゃダメだよね、と苦笑いしながらこのみにグラスを手渡した。
 既に細かい水滴で曇り始めている冷えたグラスは、やっと訪れた本気の夏の証か。
 それを見て思わずこのみは咽喉を鳴らさずにはいられなかった。
 きっと、考えていた以上に身体は乾いていたのだろう、グラスになみなみと注がれていたスポーツドリン
クは、あっという間にこのみの火照った身体に吸い込まれていった。
712BANG!前編(10/12):2006/08/02(水) 02:17:51 ID:NO5JIxUk0

 何も言わずに、ミルファが再びグラスを満たす。
 その半分ほどを飲んだ時、やっとこのみは人心地つけた様な気がしていた。
「ぷふぁ〜〜、ようやく生き返ったよ〜〜。ありがと、ミルファちゃん」
「どういたしまして。あ、これからちょっと台所暑くなるから、リビングでゆっくりしててよ。なんだった
ら冷凍庫に貴明のアイスが入ってるから、食べちゃえば?」
 さらっとすごい事を言いつつ、ミルファは台所に向かおうとした。
 このみがちらりと覗くと、やはりいい匂いが漂ってくる。
「え〜っと、このみも見せてもらったらダメかな? ダメならいいんだけど……」
「いいよ〜〜。あ、でも本当に暑いと思うから、クーラー入れようか」
 特に拘る様子も見せずにミルファは見学を承知してくれた。
 窓を閉めるとクーラーを入れ、二人は早速台所へと向かう。
「えっと〜、何を作ってるの?」
「んふふふふ〜〜」
 くつくつくつくつ…………
 ミルファが電熱器の上に乗った大きな寸胴の蓋を開けると、中には鶏がらや香味野菜、煮干などが沸騰す
るかしないかのラインで微妙に踊っている。
「こっちはね〜〜」
 次に、フードの乗ったフライパンの火を止め、ミルファがフードを外すとそこには……
「わあぁ〜〜、美味しそう!」
 煙とともに広がるりんごと白樺の香り。
 中に入っていたのは……
「チャーシュー? チャーシューって煮たりオーブンで焼いたりして作るんじゃないの??」
「確かにそれが一般的なんだけどね〜、これはスモークチャーシューって言って、一度煮た後に漬け汁に漬
けて燻製したんだけどね、夏向きのあっさりした感じのが出来上がるんだよ〜」
 うきうきと解説しながら、崩れないようにそっとまな板に豚肉の塊を移すと、ミルファは数枚、スモーク
チャーシューを薄いスライスにした。
 そして皿に乗せ、にっこり笑顔と一緒にこのみに差し出す。
「え、いいの?」
713BANG!前編(11/12):2006/08/02(水) 02:19:20 ID:NO5JIxUk0

 一枚をつまみ、口に運ぶ。
 このみの口の中に、ほの甘い豚の脂の味と木の香りが広がる。
「うわ、美味しい……」
 このみの率直な感想を聞いて、にまぁ〜〜っとミルファの相好が崩れた。
 そして彼女も自身の口中に一枚を放り込んだ。
「でしょでしょ〜〜?? もにゅもにゅ……うん、イメージ通り!」
 親指を立て、自分自身を誉めているミルファ。
 きっと、よほど満足の行く出来だったのだろう。
「あ、わかった!」
 さらにもう一枚チャーシューを味わっていたこのみがぽんと掌を叩いて言った。
「チャーシューにスープといえば、ラーメン!」
「ぴんぽ〜〜ん♪」
 寸胴のスープを鍋に移しながら、ミルファは陽気に答える。
 彼女の言葉通り盛大に湯気が上がり、台所の室温と不快指数が急上昇する。
「暑くない?」
「ううん、それよりいい匂いだね……」
「じゃあ、ちょっと味見してみる? ほとんど塩っ気ないけど……」
 小さな皿に、少しだけスープを移すミルファ。
 様々な材料が使われていたわりにはほとんど色のない、あえて言うなら和風出汁程度の薄い茶色の、綺麗
に清んだスープである。
「あはは、催促しちゃったみたいだね〜。……わぁ、本当にいい香り!」
 口元に皿を寄せると、際立つのは若干きつめに魚介系の匂い。
 しかし実際口にすると、とんこつスープのような脂の旨みやコクはほとんどないが、鳥スープの柔らかい
味わいの中に、魚の出汁の旨みが混ざり合い、なんとも言えない深みが感じられる。方向性としてはいわゆ
る『昔のラーメンスープ』に属するものだろう。
 このみが素直にその事を指摘すると、
「あ、そう思ってくれたなら大成功。これ、冷しらーめんのスープなんだ」
 と、ミルファはむしろ喜んでいた。
714BANG!前編(12/12):2006/08/02(水) 02:21:07 ID:NO5JIxUk0

「冷しらーめん??」
「うん。貴明のお母さんの実家から本場の冷しらーめんが送られてきたんだよね。スープとかも付いてたん
だけど、折角だから麺以外オール自作してみたんだ。今日の夕食に、と思ってね〜」
 そう言って別の鍋を開けると自作のメンマまで出てくる始末。
 相も変わらず気合の入ったメイドロボさんである。
 もっとも、それを見ているこのみの食欲は更に疼きまくるわけだが。
「うわ〜、タカくんいいな〜。美味しそうだな〜」
「じゃあ、お昼これ食べる?」
「え??」
 羨ましがるこのみに対して、ミルファはあっさりとそう提案した。
 一瞬考えたこのみではあるが……
「あ、でもお母さんもうお昼ご飯用意してるかもしれないし……」
 あわあわと手を振るこのみを尻目に、ミルファは迷わず電話機を取り上げた。
「もしもし? ミルファで〜す。 ……はい、来てますよ〜。それでですね〜、今ウチで冷しらーめん作っ
てるんですけど、……ええ、このみちゃんにご馳走したいと思いまして。もしまだお昼の用意をされていな
いのなら、春夏さんも一緒に召し上がりませんか? ……はい、どうぞ。……お待ちしていますね」

 がちゃん。

「というわけで、食べていってよ。今から仕上げるから」
 それは勿論嬉しい。
 嬉しいのだが……
(う〜〜ん、今のミルファちゃんを見たら、お母さんの反応はどうなるんだろう?)
 弾むミルファの胸を見つめながら、このみは少し、父親の未来を思いやるのだった。


                                           〜〜続く☆
715BANG!の人:2006/08/02(水) 02:39:24 ID:NO5JIxUk0
まずは>>709さん支援ドモです。

こんばんはー。懲りずに乱発しておりますw
まだ前編のみではありますが「BANG!」いかがでしたでしょうか。
最近、なんとなくミルファにはミリタリールックや銃が似合うような気がしてまして、
おかげでそういうシーンのある妄想がわしわしと脳内を占拠しております。
作中でミルファ(というか柚原父)が言っているように紅い髪に緑が合う!って思い
込みが原因なんだろうと思いますが。

ともあれ、相変わらずのお目汚し、失礼いたしました。
後編が出来ましたらまた投下しに参ります。
716名無しさんだよもん:2006/08/02(水) 19:01:27 ID:7akz+2I30
あー、些細な疑問なんだけど一つ

自サイトやブログで公開している作品を
わざわざ分割してまでスレに全文はっつけするのはなんで?
717名無しさんだよもん:2006/08/02(水) 19:13:36 ID:LIlrouRo0
またバカが沸いたか
スレに投下する理由なんざ人それぞれに決まってるだろ
逆に聞くけど、お前はどうしてそんな質問するの?
718名無しさんだよもん:2006/08/02(水) 19:24:41 ID:IVe1rvyV0
>>716
どうでもいい質問すぎるな。
うだうだいう前に自分がSS投下してみたらどうだ?
てか、投下してくれる人のおかげでこのスレが賑わってるんだから
いいんじゃないのか?これで。
お前はSS書けないから嫉妬してるのか?
つーか嫌ならこなきゃいいんじゃね?
719名無しさんだよもん:2006/08/02(水) 19:50:30 ID:aTnVEmTY0
多分だけど>>716は投下するなって意味じゃなくて
どうせ自分のトコでも公開してるならそのURLをはってくれれればいいのにってことじゃね?
以前そうしてた人もいたし。

擁護しといてあれだが、もしSS投下するなって意味ならそれこそじゃあこのスレ来るなよって話だけどな。
720名無しさんだよもん:2006/08/02(水) 20:05:44 ID:7akz+2I30
>>717
その理由が知りたいから聞いたんだけどね

>>718
縦乙

>>719
>URLはっつければ〜
そういう意味。
スレにはったのをHPスペースに、はわかるけど
逆、それも分割になると意味がわからないよ


しかしあれから投下するなって言ってるように見える方に驚いた
721名無しさんだよもん:2006/08/02(水) 20:13:03 ID:LIlrouRo0
>>720
いや、そりゃ目立ちたいだけじゃねーの?
空気嫁よ
回答が自分の中で出てる質問をするのは性格の悪さが滲み出てるぞ
722名無しさんだよもん:2006/08/02(水) 20:27:27 ID:xBQTpCQPO
とりあえずもちつけ
うだうだ言ってても無駄レスになるだけだ
723715:2006/08/02(水) 21:54:09 ID:7LH6cWAb0
>>716
ちなみに私もブログに載せてますが……

そのURLを貼らないのは、2ちゃんに貼るのはいかがなものかと思うからです。
でもここに作品を貼るのは、より多くの人の目に晒したいからです。
結局はアレですよ。>>721氏の言う通り目立ちたいからですね。
見せたがりが俺らの性なんですよw

もうちょっと突っ込んで言えば、他人の目に晒した方が緊張感が得られるからです。
他人の評判を気にしないと上達はしませんからねー。
好きには書きたいですが、上手にもなりたいですもの。

ご理解いただけましたか??
724白詰草 ◆Pd9gE38GCU :2006/08/02(水) 21:57:45 ID:uJOkd5l60
>>720
いや、むしろ、そうして良いんなら、
その方が手間がかからないからありがたいですよ。
文章の体裁とか、好きなようにできるし…。

そうしている様子がないから、暗黙の了解として
URLは貼り付けないようにしてるのかと思ってただけ。

というわけで、昨夜の続き、というか全部。

「From girl to …」(メインキャラ:ルーシー・マリア・ミソラ)
ttp://www004.upp.so-net.ne.jp/windbell/from_girl_to.htm

…なんか、妙にあっさりしちゃったなぁ(笑。
725名無しさんだよもん:2006/08/02(水) 22:00:29 ID:73cSAsLW0
今現在のこのスレの流れを見て、我楽多の人が消滅した流れを思い出した
726名無しさんだよもん:2006/08/02(水) 22:01:26 ID:NBiPWHtv0
まぁ2chにアドレス貼ったら荒らされそうだからってのもあるかもな。
ブログタイプで変なのに貼り付かれたら素敵なことになりかねないしな。
727名無しさんだよもん:2006/08/02(水) 22:09:57 ID:LIlrouRo0
>>724
おっ、白詰草氏はサイト持ちだったのか
じっくり読める&一度に読めるから個人的にはこっちのほうがありがたいw
楽しませていただきます

>>723
あーブログ持ちなんですか
2chに貼らないで自己防衛するのは当たり前だから正しい判断じゃないかね

ちょっと気になったんだけどメイドロボSS書く作者さんってどんどん自分の妄想を突き詰めて
最終的に見るに堪えないものになるのが多いんだよなあ・・・
最初はもてはやされるんだけどだんだんスレでも反応もらえなくなっていくし
ここんところそういう傾向見て取れるんで気をつけたほうがいいっすよ
728白詰草 ◆Pd9gE38GCU :2006/08/02(水) 22:14:08 ID:uJOkd5l60
>>727
サイト名でググっても1件もヒットしないというステルス仕様サイトです
2chでも何でも、定期的に宣伝しないと、誰も来ない…
729名無しさんだよもん:2006/08/02(水) 22:14:24 ID:EBnhke4u0
>>720
俺の場合、順番が逆だったこともあるけどね。
ブログに載せてるSSを、ここに上げてるんじゃなくて、ここに上げたSSをブログにも載せ
ている感じ?
結果はほとんど一緒だけどね。
ここにSS上げ始めたばかりのころは、手前のブログだのサイトだのは持ってなかったし
持ったからってここにSS上げないようになるんじゃ、それは世話になったここのスレに対
しても不義理が過ぎるだろうと、なんとなくそう思ってるわけで。
でもそんな手間かけてる本当の理由は、多分>>723とおんなじ。
けれどURLを貼るだけにしないのは、URLだけじゃなんか物足りないからだろうと。折角
SSスレにSS上げてんのに。
それに、こういうところに自分のブログだのなんだののURL貼るのは、こっ恥ずかしいか
らなんとなく嫌。
730名無しさんだよもん:2006/08/02(水) 22:18:43 ID:p+hq+j010
スレが過疎る云々なら、SSスレで書いたのをブログに張ればいいじゃない。
逆だとただの宣伝乙だよ。
731白詰草 ◆Pd9gE38GCU :2006/08/02(水) 22:19:02 ID:uJOkd5l60
>>729
>けれどURLを貼るだけにしないのは、URLだけじゃなんか物足りないからだろうと。

さっき自分であげてみたけど、確かに物足りないかも(笑
このスレの方針として、どうなんだろうね
732名無しさんだよもん:2006/08/02(水) 22:31:48 ID:aTnVEmTY0
SSが読めればそれでいい
733名無しさんだよもん:2006/08/02(水) 22:38:04 ID:7LH6cWAb0
次スレ、建ててみるよ?
734名無しさんだよもん
お答えありがとうございます

>>723
そうですね、緊張感はもっていた方が良いと思います
目立ちたいとおっしゃられるならSS-LinkなどSS登録サイトもご利用されてみては?

>>724
少し前はそういう流れもあったのですが
サイトもちの方は全員ここに投下しなくなりましたね

>>729
ブログに載せるのは構わないと思いますよ
自分のサイトとしてまとめるという意味もありますし
わからなかったのは、
『わざわざ全文を、サイトの方で先に公開しておいてスレに投下した理由』
ですから。