ToHeart2 SS専用スレ 14

このエントリーをはてなブックマークに追加
7オトナになる方法(前半) 前置き
性懲りもなく郁乃に坐薬ネタを考えてたら、坐薬が入る前に力尽きたのでそこまで投下
全13レス。前半とありますが後半はまだ全然書いてないので悪しからず
なお、郁乃は手術時期やEDの台詞から愛佳の一つ下に転入したと見るのが自然ですが
確か明言はされてなかったと思うので敢えて1年遅らせて2年下という設定にしています
8オトナになる方法(前半)1/13:2006/04/27(木) 00:09:00 ID:R2QHB37C0
「ほら、もうすぐだぞ」
「ん…ふぁ?」
隣りでウトウトしていた愛佳を揺り起こす。よだれ、垂れてるぞ。
「ぅん…着いたんだ。」
「さっき携帯鳴ってたぞ」
「あ、由真から着信入ってる。今日の集合場所かな?っとまず荷物荷物」
「その前に広げたお菓子をなんとかしろ」
「わわっ?」
電車に乗るなり座席でお菓子屋さんを開店した愛佳だったが、疲れていたのかあっという間に睡魔に襲われたらしく、目の前のトレイに並べた商品に殆ど手は着いてない。
荷物棚から旅行鞄を降ろす。1週間ほどの帰省なので、中身は主に俺の着替え。愛佳の着替えは実家に在庫があるし。

学園を卒業した俺は、厳しい就職事情により遠方で仕事に就く事になった。
愛佳は、だいぶ悩んだようだが、結局俺に付いて家を出た。
愛佳の両親は、強くは反対しなかった。何かあれば、いつでも頼っていいとまで言ってくれた。
郁乃も、内心穏やかではなかったろうが、快く姉を送り出した。「好きこのんで苦労しなくともいいのに」というぼやきは、俺達のどちらに向けられたものだったか。
俺の両親?知るか。一応手紙で報告しておいたら、何を勘違いしたのか新居にベビー用品が大量に届いた。
それから約8ヶ月、社会に出た二人は、新しい生活と慣れない環境に苦労しながら、ようやく自分たちの居場所を作り始めている。
ひと足早い冬休みは、お盆に続いて2回目の帰省。俺の家はどうせ無人なので、目的地は小牧家の方になる…
「…ところで、なにをやってるんだ」
「んごぐっ、がっ、お、お菓子をかたづけようと…」
「誰が食って片づけろと言った」
まあ、格好つけた所で、学園時代とさして変わらぬ二人でもあった。
9オトナになる方法(前半)2/13:2006/04/27(木) 00:10:26 ID:R2QHB37C0
「ただいま〜」
「お邪魔しま〜す」
俺が愛佳の家にお世話になるのは学園時代を含めて都合4度目。
初めて泊まった時は緊張で眠れなかったものだが、流石にもう慣れた、と、思う。
「お帰り」
食堂から声がした。郁乃だ。あれ、愛佳のお母さんはいないのかな?
「あ、郁乃〜」
愛佳は靴を脱ぐと、嬉しそうに廊下をパタパタ歩いていく。
俺は荷物を玄関にまとめる。と、
「い、郁乃どうしたのそれ!?」
慌てた愛佳の声がした。俺も愛佳に続いてダイニングへ移動。
「昨日、体育の時間にちょっとね…」
郁乃は両手の指に包帯を巻いていた。愛佳が心配そうに見ている。
「たんなる突き指よ、気にする程じゃないわ」
「両手同時かよ。器用な奴め」
「うるさいな。バレーボールが顔面に飛んで来たから止めようと思ったの」
「ああもう、化膿したりはしてない?」
「見ればわかるでしょ。平気。まあ生活は不便だけどね」
言って手を開いて見せる郁乃。右手の人差し指と中指、左手の中指と薬指と小指が包帯で纏められている。
普通の人でも不便だろうが、足が悪いため手を使って体を支える事の多い郁乃にはさらに負担だろう。
「気をつけないと…あ、それで、お母さんは?」
「出張。父さんも。」
「ええっ!?」
「別に珍しいことじゃないわ」
「今日は?帰ってこないの?」
「明後日の夕方まで。死ぬほどカレー作っていったから食い物の心配はないわ」
「愛佳、聞いてなかったのか?」
「うん…」
ちょっと俯く愛佳。今日明日は愛佳も用事があったんだけど…
10オトナになる方法(前半)3/13:2006/04/27(木) 00:11:23 ID:R2QHB37C0
「お姉ちゃんも今日から泊まりでしょ?」
「へ?なんで知ってるの?」
郁乃からの指摘に、愛佳が間抜けた声をあげる。
「さっき長瀬先輩から電話があった。6時に駅前集合だって」
「あ、こっちに電話入れたんだ由真。う、うぅ〜」
「なに頭抱えてんのよ」
「だってぇ…」
「あたしが怪我してる位でドタキャンしようなんて考えないでよね」
「うっ」
図星を指された愛佳。いつもながら判りやすい。
「でもぉ」
なおも抵抗を試みる。以前の愛佳なら絶対に引き下がらない部分だが、郁乃は一蹴した。
「あのねえ、家を出た時点でお姉ちゃんはこういう計算には入ってないの。それともあたしが体調崩す度に戻ってくる気?」
「できればそうしたいくらい」
「貴明を放っといて?」
「う」
「自分で付けた優先順位は守りなさいよね」
久々の顔合わせ早々キツいなあ郁乃。
「そういうの違うと思う…」
「そういうので違わない。ま、心配せずに楽しんできなさいな。なんかあったら携帯に電話するから」
姉妹喧嘩(?)は相変わらず妹の完勝に終わり、すごすごと引き下がる愛佳。
「うん…じゃあ…貴明くん郁乃をよろしくね」
「なに?貴明ウチに泊まるの!?」
「そりゃまあ、そのつもりだったけどなぁ…」
愛佳の妹とはいえ、いちおう年頃の女の子である郁乃と二人きりで宿泊というのは気が引ける。
11オトナになる方法(前半)4/13:2006/04/27(木) 00:12:37 ID:R2QHB37C0
「俺の家に戻ろうかな」
「ダメぇ!」
ある意味自然な俺の台詞に、意外と強く反応した愛佳。
「郁乃に何かあったらどうするの」
「愛佳、それ普通は逆」
「まったくよ。コレでも一応オトコなんでしょ?あたしはうら若き乙女、しかも惚れた女の血縁よ」
「全然似てないけどな」
「どこ見てモノ言ってんのよ#」
「とにかく、ダメ」
絶妙の呼吸で展開した俺達の漫才も通用しない。
「貴明くんがうちに泊まらないなら、私が家にいるっ」
さっきやり込められたお返し、でもないのだろうが、こうなると愛佳を外出させてあげたい郁乃が弱い。
「はいはい、わかったわかった。」
ため息ひとつ。
「姉はあたしが貴明に襲われてもいいってことね」
憎まれ口ひとつ。
「…襲うの?」
上目遣いの愛佳。
「…俺は愛佳以外は襲わない」
下目遣いの俺。
「だって♪」
「一生やってろこの万年新婚夫婦」
そんなこんなで体制決定。ところで俺達はまだ夫婦じゃないので念のため。
12オトナになる方法(前半)5/13:2006/04/27(木) 00:14:28 ID:R2QHB37C0

「じゃ、じゃあ、行って来るね。明後日の朝には戻るから。それと、明日の昼に電話入れるね。」
「ゆっくりしてきなさいよ」
「気を付けてな。由真によろしく」
「うん。いってきまーす」
「いってらっしゃい」
バタン。
気掛かりはあっても流石に浮かれた様子で愛佳が家を出ると、小牧家には俺と郁乃の二人だけ。
いやはや、何を話したらいいものか。悩んでいたら、
「お茶飲む?」
郁乃の方が気を遣ってくれた。
「ああ」
「じゃあ淹れて。ついでにあたしの分も」
む、ウデを上げたなお主。
といって、考えれば当たり前の事なので、二人分のお茶を淹れて食堂で落ち着いた俺。
仲良く湯気をあげる茶碗のひとつを両手で引き寄せ、顔の方を近づけて行儀悪くすする郁乃。
「学園はどうなんだ?」
深い意味はない、場つなぎに近いネタ振り。
「別に苦労してないわよ。姉が心配するほどは」
「愛佳がいない方が気楽な意味もあるかなぁ」
「それは否定しない」
苦笑する俺と郁乃。姉妹は学園生活の一年間を共にしたのだが、まあ愛佳の過保護ぶりといったらなかった。
朝夕昼はおろか、休憩時間や体育の合間にこっそり様子見。トイレの中まで覗き込みかねない勢いに、俺や郁乃が直接間接に苦言を呈した事も一度や二度ではないが、まったく通用しなかったものだ。
13オトナになる方法(前半)6/13:2006/04/27(木) 00:15:22 ID:R2QHB37C0
「とはいえ、やっぱ一人じゃ大変だろ?友達とかいるのか?」
「真面目な顔で失礼な事聞かないで。結構遊んでるわよ。カラオケとか、ゲーセンとか」
「ゲーセン?お前が?」
なんだか一人で延々と落ちモノをやってる光景しか目に浮かばないんですが。
「ビデオゲームは目が疲れるから、主にクレーン系」
「それはそれで、部屋に獲物が貯まってそうだな」
「ぐ」
赤くなるって図星かよ。
「あとで愛佳に分けろ。どうもウチは殺風景でさ」
「清貧洗うがごとし?まあ、お姉ちゃんが欲しいって言うならね…」
「ああ。しかしま、楽しい学園生活になってるならなによりだ」
「まあね。お姉ちゃん達が卒業してから、このみ先輩がなにかと世話してくれるし」
う?いま聞き慣れない単語を耳にしたような。
「誰が先輩だって?」
「このみ先輩。歳は同じだけど、学年上だし」
郁乃とこのみは二人とも俺達のひとつ下だが、郁乃は1年遅れて入学している。
「…」
「なによ」
「いや、お前は悪くない」
悪くないんだが、「このみ」と「先輩」がどうにもこうにも水と油か磁石の同極。
「こ、このみが先輩と呼ばれる世の中になったのか…」
「一、二年生に凄い人気だよ」
「マジか」
「まじまじ。可愛いくて撫でたくなるって」
それも先輩としては如何なものか。まあ、最上級生になってもこのみはこのみという所か。
「そうそう、アンタの事よく聞かれるわよ。心配っていうより自分が寂しいって感じだけど。家出てから、会ってないの?」
「ああ…」
愛佳と付き合うようになってからも、俺とこのみとの関係はあまり変わらなかった。
むろん放課後は主に愛佳と一緒だったので、このみと下校する事はなくなったのだが、一方朝が弱いこのみを起こしに行くのは、結局卒業するまで俺の日課だった。
でも、卒業からこっち、新生活に忙殺されてロクに電話もしていなかったな。
14オトナになる方法(前半)7/13:2006/04/27(木) 00:16:31 ID:R2QHB37C0
「明日にでも会いに行ってあげたら?」
「そうだな」
「長瀬先輩とか向坂さんも、お姉ちゃんとアンタの事は気になってるみたい」
「う、タマ姉にも近況報告にいっとくか…由真は…愛佳に任せよう」
「そんな毛嫌いしなくても。向こうもそういうだろうけどさ」
くつくつと郁乃が笑う。ひとしきり笑い収めて俺を見ると、今度は怪訝な顔。
「なに?私の顔になんか文句あるの?」
「それを言うならなんか付いてるのだろ。ちょっと感心しただけだよ」
郁乃をいま話題に出た連中との、家族でも見舞客でもない人間関係に引きずり込んだのは俺と愛佳だ。
だが、郁乃の口から他人の事情とか感情についての言葉が出てくるのは、少し意外だった。
入学してからも他人に構うより構われる事の圧倒的に多い郁乃は、必然的に自分中心だったから、
余裕にしろ成長にしろ、他人の事を気遣えるようになったのだとすればそれは良い事だろう。
「しかし、な」
「は?」
「このみや由真が「先輩」で俺が「アンタ」ってのは納得いかない。呼び方直せ」
「やっぱり「お兄ちゃんっ(らぶ)」って呼ばれたい?」
「呼んでみろよ」
「おに〜ぃちゃんっ(らぶ)」
「どうしたんだいマイシスター(ハニー)」
「…」
「…」
パタッ
きっかり3秒後、二人同時に、机に突っ伏した。
15オトナになる方法(前半)8/13:2006/04/27(木) 00:17:31 ID:R2QHB37C0

さて、人使いの荒い郁乃に晩飯の支度をさせられ、
(といっても愛佳の両親が作り置いてくれたカレーと市販品のサラダを盛りつけただけだが)
不器用にスプーンを使う郁乃を嘲笑った後
(拗ねた郁乃に俺の分までサラダを食われた事はおいといて)
当然ながら後かたづけも俺がして
(その間郁乃はヒマそうにぼへ〜っとTVを眺めていた)
俺もテーブルでお茶飲みながらTVを…くぅ。



つんつん、つんつん
「ん、んぐぁ?」
「お風呂わいたよ。先に入って」
あれ?いつのまに。
「んんっ。寝ちまったのか。今何時?」
無言で時計をさす包帯が巻かれた指。なんだ、また9時じゃん。
そういえば小牧家も夜は早かった。
も、というのは俺の人名録には柚原このみという素晴らしく早寝遅起きな人物が記載されているから。
「移動で疲れてんでしょ。とっとと寝なさい」
「うーむ、流石にまだいいや。郁乃先に入れよ」
「そう?んじゃお先」
ダイニングから出ていく郁乃。出口で一言。
「「覗くなよ」」
「ハモんなぁ!」
お約束お約束。
16オトナになる方法(前半)9/13:2006/04/27(木) 00:20:01 ID:R2QHB37C0
郁乃の気配が風呂場に消えると、ダイニングには俺一人だけ。
付けっぱなしだったTVを消すと。時計の音が妙に大きい。
少し落ち着かない。何度も泊まっているとはいえ、やはり他人の家なのか。
「ってさっきまでぐーすか居眠りしてた人間の台詞じゃねーか」
ひとり苦笑する。そして、そこんとこの気分の違いが、郁乃の存在に拠ることにも気が付いた。
いつのまにか、郁乃は俺にとって落ち着ける相手になっていたらしい。

「足手まといの妹です」
「自分が何人目なのか教えてあげようか?」
「こいつじゃないよ、郁乃。い・く・の。全然育ってないけどね」

出会った頃の郁乃を思い出すと、今のアイツには隔世の感がある。
「育ってるじゃんか。郁乃」
また聞かれたら噛みつかれそうな独り言を呟いたりしながらぼんやりしていると、
ドンガラガッシャーン
「なんだ?」
風呂場からした派手な物音に、俺は慌てて立ち上がった。
とりあえず、ドアの前で声を掛ける。
「郁乃、大丈夫か?」
「わ、わわっ、あ、開けないでよっ!?」
ドア一枚隔てて近い声。上がった所か。しかし心配して声掛けた相手に失礼な奴だ。

コマンド?
→開けない
  開けない
  開けない

悪いが、俺は愛佳と結婚する前に死にたくはない。
17オトナになる方法(前半)10/13:2006/04/27(木) 00:20:54 ID:R2QHB37C0
「ったく、怪我ないか?」
「大丈夫、洗濯カゴをひっくり返しただけ」
「そっか、気を付けろよ」
ホッとしてダイニングに戻ろうとすると、
「だけなんだけど、ちょっと待って」
物言いがついた。
「どうした、やっぱり覗いて欲し」
「いわきゃないでしょっ!ちょっと収拾がつかなくてさ」
「え?」
ガラガラと扉を開閉する音。
「えーっと、とりあえず入ってくれる?」
少し声が遠くなった。風呂場に戻った…んだろうな。入れって事は。
「あ、ああ。入る、ぞ」
ちょっと緊張しつつドアを開けた俺は、脱衣所の惨状に概ね郁乃の依頼事項を理解した。
倒れた洗濯カゴが着替えとバスタオルを下敷きにしている。これでは着替えもできない。
といって金属製の洗濯カゴは、両手が使えない今の郁乃が立て直すには大物だろう。
「派手にひっくり返したなあ」
「よりかかったら、足が外れちゃったみたい」
「あ、ホントだ。後でちゃんと直さないと」
とりあえずカゴを起こして足を取り付け、床に散らばったタオルや着替えを…あ、パンツ。
「ふ、服はそのままでいいからっ!」
「なあに遠慮することはないぞマイシスター」
「用が済んだらとっとと出てけこの変態っ!」
「はいはい。せっかく直してやったのに…!…」
唐突に目に飛び込んだ、風呂場のドア越しの白い影。
やりとりの中で、俺は無意識に風呂場の方に視線を向けてしまっていた。そして、郁乃は湯船にまでは戻っていなかった。
愛佳も色白な部類だが、日光に当たる事が少ないためか更に色素の薄い郁乃の体は、曇りガラスに白く映えている。
「こ、こここここっち見るな!」
あ、バレた。白い体が真っ赤になってそうな声色に、
「…風邪引くなよ」
気の利いた返答も頭に浮かばず、そんな事を言って、俺は脱衣所を出た。
18オトナになる方法(前半)11/13:2006/04/27(木) 00:24:00 ID:R2QHB37C0

夜。
客間で寝ていた俺は、物音に目が覚めた。
ダイニングから明かりが漏れている。
「ん、どした?」
「起こした?ごめん」
「いや、それより暖房入れろよ」
郁乃だった。パジャマの上から袖付きのどてらを羽織って、ポットに手を伸ばしている。
テーブルの上には、昼間と同じお茶道具が並んでいた。
「お茶飲む?」
エアコンのスイッチを入れた俺に言いながら、二つ目の湯飲みを引き寄せる。
手つきが、妙に危なっかしい。だけでなく、声もおかしいような。
「どうした?」
再度問いかけながら、郁乃の方に歩み寄った。
「な、なんでもな…っ!」
答えるより先に、俺は郁乃の額に手を当てた。
コイツの体調は聞くより証拠を押さえた方が早い。
「熱いじゃないか」
「アンタが冷たいんじゃない?」
憎まれ口を叩く元気があるのはたいしたものだが、熱っぽいとかのレベルではなさそうだ。
確か、体温計は壁際の引き出しにあったよな…
「いいよ、計ったからって熱が下がるわけじゃないし」
「いいから、ほれ」
箱から取り出した電子体温計を郁乃に手渡す。
郁乃は包帯を巻かれた指でぎこちなくパジャマの胸元を開けると腋に体温計を挟もうとして、するりと取り落とした。
「あ」
すけん、と床に落っこちる体温計。俺は拾おうとする郁乃を制して床に屈む。
「なにやってんだ」
「アンタねえ、人の状況を見てからもの言いなさいよ」
「それはそうだな。ほれ」
「?ちょ、ちょっとっ!?」
俺は郁乃の後ろに立つと、直球で胸元に手を、いや体温計を、いや手もだけど、突っ込んだ。
19オトナになる方法(前半)12/13:2006/04/27(木) 00:25:08 ID:R2QHB37C0
「わ、わわ、こ、このスケベっ!」
「暴れるな。余計な所まで触られたいか」
「余計とはなによ」
「それは言葉のあやだ」
事を急ぎすぎたか、派手な抵抗にあって作戦失敗。一旦体温計を引っ込めた俺の手に、じっとりと郁乃の汗の感触。
「う、汗…酷いな」
これではまともな計測結果は出ない。手近にあったタオルを掴む。
「こらっ、ど、どこ拭く気よ」
「腋だけだ、あとは体温計ってから着替えろ」
「気軽に「腋だけ」とか言うなぁ」
再チャレンジ。悪態をつきつつも、今度は素直に俺の手を許す郁乃。
ふにふに。
「っ、くすぐったいっ」
強く擦ると皮膚に良くないだろうと優しく拭いたのが微妙な刺激だったか、郁乃が身をよじる。
「…弱点発見?」
「く、くすぐったらお姉ちゃんに言いつけるわよ」
「そんな事しないよーだ」
久々に聞いた郁乃の子供っぽい物言いがなんだか楽しい。
俺はタオルを取り出すと、今度は体温計を郁乃の腋に挿入する。それをぺたんと挟む郁乃。
胸のボタンを閉め…かけて、どうせすぐ取り出す必要があることに気が付く。
ついでなので少し胸元を直してやると、郁乃は恥ずかしそうに肩をすくめた。
チッチッチッチッチッ
コポコポコポコポコポコポ…
体温を計測している間、隣の椅子に座ってまたも俺がお茶汲み係。
ぼんやり湯飲み茶碗を眺める郁乃の顔は、熱のせいか気恥ずかしさなのか相当赤い。
なんか、計測時間が長く感じる。
「シーツどこだ?替えてくる」
「あたしの部屋のタンスの一番下。余計なとこ見ないでよ」
「ガキのタンス覗いたって嬉しかねぇよ」
憎まれ口を叩く元気は、あるんだなあ。
20オトナになる方法(前半)13/13:2006/04/27(木) 00:25:50 ID:R2QHB37C0
郁乃の布団は、寝汗でかなり湿っていたので、シーツの他に、敷き布団とタオルケットも替えてやった。
作業を終えてダイニングに戻る。
「どうだった?」
ピピピピッ ピピピピッ
「今鳴った」
「ああ、どれ」
「うぅ」
三度目胸元に手を突っ込まれてうめく郁乃。顔はまたも茹で蛸モード。
俺の方は、意識しないわけでもないが、やはり愛佳の妹という感覚が強いので比較的冷静、だと思う、たぶん。
しかし郁乃、さっき拭いたあたりもまた汗書いてるな。
「8度6分…よく動いてるなお前」
計測時間が長かったのは、気のせいではなかったらしい。
「もとから熱には強い方だから」
「ったって酷いだろ。熱冷ましあるのか?」
「うん…そこの引き出し」
「じゃあ使えよ」
言って引き出しを開けた俺に
「あ、やっぱ今のなしっ!いらないいらない。」
「なんだよそれ」
「な、なんでもいいのっ、ほら、熱は慌てて下げない方がいいから、明日の朝まで様子みるわ」
珍しく長回しの台詞を吐いた郁乃に違和感を覚えつつ、言う事はもっともなので俺は従った。
「じゃあ、ほうじ茶飲んだら着替えて寝ろ」
「あんたもね。起こして悪かった」
「逆だ。調子悪い時は声かけろ」
「どうしよ。お節介を起こすと面倒くさいからね」
憎まれ口を叩きつつも表情は柔らかい郁乃。
「諦めろ。俺は愛佳に頼まれてるんだから」
「はいはい」
のろけは結構とばかりに、残りのお茶を飲むと、郁乃は松葉杖を付いて自分の部屋に戻った。
気のせいかも知れないが、最後はなんだか、拗ねたみたいだったな。
21名無しさんだよもん:2006/04/27(木) 00:30:41 ID:AueROKkg0
郁乃キターヽ(゚∀゚)メ(゚∀゚)メ(゚∀゚)ノ--!!!

しかし、他所の郁乃SSの多くにも言えることだけど、
既に愛佳とくっついてるという設定がなんとも邪魔だよなw
22名無しさんだよもん:2006/04/27(木) 00:33:24 ID:530JMOs30
そこは人それぞれ。
俺は愛佳エンド後のほうが自然でいいと思うし。
23オトナになる方法(前半) 後書き:2006/04/27(木) 00:34:06 ID:R2QHB37C0
以上です。題名は某少女漫画からですが漫画の内容とは全く関係なし
後半ですが、これは予告しておいた方がいいと思うのでネタバレしておくと、
後半では郁乃と貴明が浮気してしまう予定なのでそういうの嫌な人は回避してください
っつーか漏れ自身が郁乃が愛佳を裏切るなんて有り得ないと思う方なんで書き方悩み中
ともあれ、新スレ一発目失礼しました。遅くなりましたが>1さん乙です