(゚w゚)笹森花梨〜第16回定例部会〜(゚w゚)

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512名無しさんだよもん
「河野くん、同好会入ったんだって? 先生が、喜んでたよ。
 完全に入部手続きをすませるために、同好会の責任者から、
 『課外活動参加届』をもらって来るようにだって」
「ど、同好会って……なんの?」
「へっ?」
「俺は、なんの同好会に入ったってことになってるんだ?」
「……ミ、ミステリ同好会……だよね。 河野くん、推理小説とか読むんだぁ。
 そんな趣味があるなんて、全然知らなかったよ」
「意外だよなぁ。俺も全然知らなかったよ」
「事情知ってるお前が言うな! 俺だって知らなかったよ」
「えっ?」
「あ、こっちの話だから。 小牧、その同好会って場所どこかな?」
「えっと、先生が確か体育館の第二用具室に行くように……って河野くん!?」
「小牧、その話は何かの間違いだって、先生に伝えといてよ!」
「えっ、えっ、あの?」
「無駄だと思うけどな」
「えっと、先生が確か体育館の第二用具室に行くように……って!?」
「小牧、その話は何かの間違いだって、先生に伝えといてよ!」
「えっ、えっ、あの?」
「無駄だと思うけどな」
 何が起こったのかわからない小牧を置き去りにして、俺はダッシュで走り出した。
 事態をこれ以上悪化させる前に、なんとかしないと……
513名無しさんだよもん:2006/04/13(木) 03:44:51 ID:SLkHPtv40
「ぜえ、ぜえ……」
 荒い息をつきながら、体育館の中を見回した。
 ちょうど授業が終了して、課外活動が始まる直前の時間帯に当たるせいか、
開けっ放しの体育館には人っ子一人みあたらない。
「第二用具室って、確か、バレーボールのネットや卓球台なんかをしまってあるところだよな……」
 体育の授業の時なんかは、『体育倉庫』って呼んでいるから、いまいち自信がないけど、たぶんそうだろう。
「とにかく行って、『課外活動参加届』を取り戻さねば……」
 自分に確認するようにつぶやくと、体育館の左奥の方に向かった。
「ち、違う……」
 10秒もしないうちに間違いに気づく。
 いつも使ってる体育倉庫には、無情にも、『第一用具室』とあった。
 おまけに鍵までかかっていて、とても誰かと待ち合わせが出来る場所じゃない。
「じゃ、じゃあ、第二用具室って?」
 第一用具室のドアノブを、もう一度だけ、がちゃがちゃやってから、周りを見回してみた。
 右側にも同じような扉があったけど、確かあっちは放送室で、館内放送用の機材が置いてある部屋だったし……。
「じゃあ、外かな……」
 そう思って外に出ようとした、その時だった。
『河野貴明くん、ミステリ研にようこそ!!
 部室で待ってるよ!』
 どこかで聞いたような声が、ファンファーレと共に、フルボリュームで聞こえた。
「わわわっ」
 その場に倒れそうになったのを、なんとかこらえる。
 ファンファーレの残響で、きんきんする耳を押さえながら、顔をあげた。
「部室って言われても……どこにあるんだよ」
514名無しさんだよもん:2006/04/13(木) 03:47:01 ID:SLkHPtv40
 待てよ。
 館内スピーカから聞こえてきたって事は、
「放送室の方か!」
 右側のドアに駆け寄ってノブをつかんだ。
 あっさりと開いた中には、放送室へ続く小さな階段と……その奥に……。
「あった!」
 階段の裏に隠れるようにもう一つドアがあった。
 確かに『第二用具室』とある。
 ドアを開けて、中に入った。
「ようこそ、ミステリ研究会に!
 私がミステリ研の創始者にして初代会長の笹森花梨だよ!」
 昨日のアンケート娘が、にこにこと、どちらかと言うと不敵に笑っていた。
 どうりで、どこかで聞いた声だと思ったわけだ。
「そして、会員第1号の河野貴明くん」
「は?」
「なんて呼んだらいいかなぁ?
 河野くん?
 貴明くん?
 ううん、何か違うなぁ。
 河野くんは、普段は、なんて呼ばれてるのかな?」
「別に河野でいいよ」
 特に親しい訳じゃないし……。
「わかった!
 じゃあ、『たかちゃん!』
 これからは、『たかちゃん』に、とにかく決定!!」
「ちょ、ちょっと……話きいてる?」
515名無しさんだよもん:2006/04/13(木) 03:49:06 ID:SLkHPtv40
「私のことは好きに呼んでいいよ!
 あ、でも、会長はちょっと照れるかな……。
 だったら代表とかアタマとか総長とか……。
 ううん、ここはフレンドリーに接するべきだよね、とにかく好きに呼んでね!
 たかちゃんは、何か質問ある?」
「退部届はあるかな?」
「ないよ。どうして?」
 笹森花梨と名乗った少女は、天使みたいな笑みを浮かべて即答した。
「どうしてって言われても……」
『無駄だと思うけどな』
 なぜか雄二の言葉が思い出されて、俺は小さく身震いした。
 悪魔が悪魔の姿をしていれば、どんなに世界は安全なことか……。
 なんとなく、もう何をしても無駄な気がした。
 いや、あきらめちゃ駄目だ、俺。
「俺は『課外活動参加届』に知らないうちに署名してしまっただけで……。
 って、このあたりは、君が一番知ってることだろ!」
「そうだっけ。
 昨日のことだよね。
 確か……そうそう、たかちゃんは、
 とっても期待と情熱に満ち満ちた熱い熱い目で私を見つめて、
 『ミステリ研究会と会長に、ボクの短い青春の全てを捧げさせて下さい』って、
 泣きながら哀願したんよ」
「だから仕方なく私も……『いいよ』って言ったの。
 そしたら、たかちゃんは目を大きく見開いて、私を見つめて……
 まつげから小さな涙の雫が光って、瞳をうるませながら、
 ありがとうございますありがとうございます……って何度も何度も……」
「人の過去を勝手に作んなよ!
 笹森さんって昨日会った時とキャラが全然違うよ!」
「ああ、彼女もうちの会員だったんだけど、さっき死んじゃったの。
 いかにも病弱そうだったでしょ?」
516名無しさんだよもん:2006/04/13(木) 03:50:14 ID:SLkHPtv40
「俺が会員第一号じゃなかったのか!?
 あんただ、あんたが演じてたんだろ!! 全部!!
 とにかく、俺の『課外活動参加届』を返してもらおうか。
 まだ提出してないのは、わかってるんだからな!」
 強い調子で言ってみると、ちょっとは反省したのか、花梨は、しょんぼりとうつむいてしまった。
「たかちゃん?
 本当にミステリに興味ないの?」
「ありません」
「少しも?」
「少しもないです」
「これっぽっちも?」
「これっぽっちもないです」
「ほんのちょっぴりも?」
「ほんのちょっぴりもないです。
 それから、これ以上言い方を変えても無駄だから」
「子どもの時とか、ワクワクしなかった?」 伏し目がちに、じっとこちらを見る花梨。
「……えっと……」
 うまく説明できないけど、花梨の目にどこか、ひたむきなものを感じて、ちょっとだけ考えてみることにした。
 ミステリか。そりゃあ、小さい頃には、学校の図書室なんかで、シャーロック・ホームズとか、アルセーヌ・ルパンとか、怪人20面相とか、子ども用の字の大きい本を読んでたよな。
 内容は、あんまり覚えてないけど、確かに、読んでた時はワクワクしてたような気がする。
「……ほんのちょっぴりはワクワクしたかも」
「でしょ?」
 花梨は、にっこりと笑った。