「ほんとにいいの?たかあきくん。」
「うん、郁乃のことは俺に任せて行ってきなって。」
「でも…」
「いいのよ、ただの風邪なんだから。薬だってもらってきたし、心配しなくても大丈夫。」
「本人もこう言ってるんだから。」
「うん…郁乃もゴメンね?」
「だから大丈夫だって。むしろ、コイツが変なことしないか心配したほうがいいんじゃないの?」
「たかあきくん…」
「なっ!絶対しないって!!愛佳もそんな心配そうな目でみるなぁ〜!!」
「ふふっ、信じてるからね。それじゃ行ってきま〜す。」
「「行ってらっしゃ〜い」」
両親は仕事で、愛佳もどうしても外せない学校の用事があるらしい。
日曜日だというのに大変だなぁ。
それなのに郁乃が朝から熱を出したとかで、こうして俺が看病に来てるというわけだ。
「ほんとに何かしたら握りつぶすわよ?」
まぁ、こんだけ減らず口叩けるんだから大丈夫だろう。
「なにもしないよ。ほら、さっさとベッドに入って今日はおとなしく寝てな。」
郁乃がベッドに入るのを見届けてから、ふと思ったことを聞いてみる。
「そういえば、熱何度くらいあるんだ?」
「朝は7度2分くらいだったけど…」
「そうか、念のためにもっかい測っとけ。はい、体温計。」
郁乃に体温計を渡してしばらく待つ。
ピピピッと音がして郁乃から体温計を受け取る。
「はい。」
「どれどれ?…なっ!!」
体温計には、38,1℃の表示。
「何度だったの?」
「熱あがってるよ。38度ある。お昼時には起こしてやるからしばらく寝てな。」
「どうりでぼ〜っとすると思った。悪いわね、お願いするわ。」
「ん。それじゃあ俺リビングにいるから…」
そう言って部屋から出ようとすると、ピンッと服の袖を引っ張られる。
「ちょっと待って。」
「なんだ?」
「……ここに…いて…」
少し赤かった顔をさらに真っ赤にさせて言う郁乃。
やっぱり熱で色々不安になっているんだろう。
「でも、変なことするんじゃないわよ!」
不安…なのか?
「いいよ。本適当に借りるな?」
今日くらいはこいつのわがままに付き合ってやるか。
本棚から適当に本を数冊とり、イスをベッドの横に持っていって腰掛ける。
「じゃあ何かあったら声かけてくれ。」
「ん、わかった。おやすみ…」
そう言うと早々に規則正しい寝息をたてて寝てしまった。
疲れてたんだな・・・やっぱり寝顔は愛佳に似てる。
かわいいな…って何考えてんだ!?
余計なことを考えないように、とりあえず本の世界に没頭した。
ふぅ…
気が付くとすでに時計は12時を回っていた。
腹減ったな・・・そろそろ郁乃を起こすか。
「郁乃、起きろ〜」
「ん〜…うん・・・・うん・・」
寝ぼけてる…
「大丈夫か?」
「・・うん……あれ?なんであんたがいるのよ?」
「寝ぼけるな。お前の看病だろ。」
「そうだったっけ。で、なに?」
ふぁ〜と欠伸をしながら郁乃が聞いてきた。
「あぁ、もうそろそろ俺も腹が減ったしな。食欲あるか?」
「そうね。朝ごはん食べてないから少しおなかすいたし。お願い…ってあんたが作るの!?」
「まさか。愛佳がおかゆ作っといたってさ。温めてくるからちょっとまってろ。」
「そう、よかった。あんた料理できなそうだもん。」
「失礼な。これでも独り暮らししてるんだぞ?」
「じゃあ出来るの?」
「ぐぅ…」
確かにインスタントに頼りっぱなしだしなぁ…
「じゃあよろしくね。」
そう言いながら郁乃は上体を起こす。
「無理すんなよ。」
「大丈夫よ。もう大分楽だし。」
「熱は・・・・まだあるじゃないか。もう少し横になってろ。」
郁乃の額に手を当てながら、そう言った。
「なっ!?」
郁乃の顔は真っ赤だ。
「ほんとに大丈夫か?」
「〜〜〜〜〜!!さっさと取って来い!!!」
枕投げてきた。
キッチンに向かうと机の上におかゆと…菓子パンとメモ?
メモを見てみると、
たかあきくんはコレで我慢してね
本当は作りたかったんだけど、時間なくて…
−愛佳−
愛佳の気遣いに苦笑しながら、おかゆの入ったなべを火にかける。
ってゆうか、菓子パン買い置きしてあるんだ…
なべをお盆にのせ、郁乃のもとへ。
「おまたせ〜。熱いから気をつけろよ。」
おかゆを小皿に分け、れんげを渡してやる
「あっ!」
が、郁乃はれんげを落としてしまった。
「どうした?」
「…手がしびれて上手く持てないのっ!」
そっか、こいつ寝起きはほんとに弱いんだったな。
痺れがとれるまで待ってたら、おかゆが冷めるかもしれないし…
恥ずかしいけど、仕方ないか。
余ったら貰おうと思っていたので、れんげは2本持ってきていた。
「ほら、郁乃。あ〜ん」
うぅ、やっぱり恥ずかしい。
「な!?何してんのよっ!」
「いや、おかゆ冷ましちゃうのももったいないしな…」
「う…しょうがないわね・・あーん」
「ん。上手いか?」
「う、うん。おいしい。も、もう大丈夫だから!」
「そうか?んじゃ、はい。」
そう言って郁乃に小皿とれんげを渡す。
「全く…わかっててやってんのかしら・・・・」
なにかぶつぶつ言ってるけど、気にしないでおこう。
「おかわりいるか?」
「うん」
なべの中はすっかり空っぽになってしまった。
全部喰いやがった…まぁいいか、パンあるし
愛佳が用意してくれたパンを食べながら、郁乃の薬の事を思い出す。
「そういえば、薬どこだ?」
「机の上。水持ってきてもらえる?」
「ちょっと待ってろよ。」
とりあえず薬を出しておこうと思い袋から取り出す。
「え!?」
「なに?」
「郁乃…薬って・・・・これ・・」
「え?……って、はぁ!?」
そう、薬といっても入っていたのは座薬だったのだ。
「自分で出来る?」
「…出来ないわよ。」
「じゃあ俺が…」
「ッ!?あんたにやられるくらいなら、死んだ方がマシよ!!!」
だよなぁ…愛佳も何時帰ってくるかわかんないし、かといって何時までも放っておくと悪化するかもしれないし…
そうだ!
「じゃあ、俺目隠ししてるからそれで入れるってどうだ?」
「いやよ!!なんで…ツッ!?」
少しよろけて頭を抑える郁乃。
「ほら、無理すんなよ。それにこのまま放っておいたらまた愛佳心配するぞ?」
「うぅ〜・・・絶対見るんじゃないわよ…」
何とか郁乃を宥めて、目隠しするということで落ち着いた。
「じゃ、じゃあいくぞ・・」
「は、早くしなさいよ!恥ずかしいんだからっ!!」
つっても見えないからなぁ…ここらへんか?
ぷにっ
「ひゃうんっ!?」
「ご、ごめん!?」
もうちょっと上か?
むにむに
「あっ…ん・・っ…はぁ・・・」
「郁乃…変な声出さないでくれよぉ〜・・」
「あ・・あんたがぁ…変なトコ触るからでしょうがぁ〜・・・・」
やばいやばいやばい。普段があれだからあまり意識してなかったけど、郁乃だって女の子だ。
そんな声出されたら俺のタカ棒が…って落ち着け、俺!!
ツプッ
「・・そこぉ…」
ここか!?ここでいいんだよな!?後は少し押し込めば…
ず…ぷっ・・
「あっ…あぁ〜・・・」
あぁ、その声やめてって…
ガチャ
「郁乃、ただいま〜♪たかあきくんもお疲れさ…ま・・・・」
「お、お姉ちゃん!?」
「え!?愛佳!?」
今の状況を整理してみよう。
(見えないけど)下半身丸出しで俺にお尻向けてる郁乃。
目隠しして郁乃のお尻の指突っ込んでる俺。
うん、アウト。
「たかあきくん…信じてたのに・・・・」
「ち、違うんだ!!愛佳!!」
「そ、そう!!違うの!お姉ちゃん!!」
とっさにそんな言い訳じみた言葉が出てくる。てゆうか郁乃も同じこと言ってるし…
「わ、わたしだってお尻はまだなのにぃ〜〜!!郁乃のばかぁ〜!!!」
「「そっちかよっ!!!」」
次の日
なんとか愛佳の誤解を解いて、今は3人で登校中。
「ったく…愛佳も早とちりしすぎだよ。」
「だってぇ…」
「もうその話はいいからっ!!」
真っ赤な顔で怒鳴る郁乃。熱は下がったようだけど、とりあえず謝っておこう。
「ごめんな、郁乃」
「ごめんね、郁乃」
「だぁ〜〜!!もういいって言ってるでしょ!!!」
「およっ?なになに?なにがあったの?」
どこからともなく聞こえた声に愛佳が答える。
「たかあきくんが昨日郁乃に座薬を〜ってどちら様ですか!?」
「ほっほ〜う♪そうかそうか、たかりゃんはそうゆうプレイが好きかぁ〜」
「なっ!?ま、まーりゃん先輩!?」
そう、そこにいたのはゴッデス・オブ・卑怯ことまーりゃん前生徒会長。
「やっほ〜たかりゃん♪」
「い、今の聞いてました?」
「だいじょ〜ぶ、このことは一字一句漏らさず尾ひれも付けてさーりゃんに伝えといてあげるから☆」
最低だよ、この人・・・
「やめてくださいよ!!」
「でわ、さらばだ☆」
「あっ!!逃げた!!!」
まぁ、久寿川先輩のほうは後で誤解を解いておけばいいか…
そんなことを思いながら郁乃を見ると、真っ赤な顔でプルプルと体を震わせていた。
あっ、やな予感。
「たかあき…あんたってやつはぁ〜!!!!!」
「げふぅ!!!」
く、車椅子で突っ込んでくるとは…ガクッ。
放課後、まーりゃん先輩から話を聞いたであろう久寿川先輩の誤解を解きに生徒会室へとやってきた。
「失礼しま〜す。」
「こ、河野さん!!」
「はいっ!?」
部屋に入るなり、先輩が声をかけてきた。
「私も…熱があるの…」
「へっ!?」
「だから・・・・コレ…入れてもらえるかしら・・・・・」
そう言う先輩の手には…座薬。
「せ、先輩!!だからそれは誤解で…」
「…いやなの?」
「え!?」
「…いやなのね・・」
「いや、だから先輩…?」
「…いやなんだ・・・」
「あーーー!!!もう!!」
まーりゃん先輩、恨みますよ…
リアルタイムキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!
乙
>>788のプロットを見て書いてみた。
細部は違うけど、おれの脳内ではこうなった。
タイトルの意味は「座薬騒動」。
タイトルに一番迷った末、そのままにした。
つか、「ざやく」って漢字もしかして「坐薬」のほう?
さーりゃん!さーりゃん!( ゚∀゚)∩
⊂彡
>>823 GJ!!!!!
最後にささらが出てくるなんて思わなかったけど、マジ最高。
さーりゃん、可愛いよ、さーりゃん
ささらとのその後も期待、と言ってみる。
ともかくお疲れでした!
話よりも小牧姉妹とささらを侍らす貴明に感動した。
目隠しして尻に指突っ込んでるってどんな特殊なプレイだと思ったのかw
829 :
名無しさんだよもん:2006/04/15(土) 22:21:46 ID:MnrngQjU0
|ω・`)
・・・・・あとで投下しようかと思うんですが
新人でも良いですか・・・?
投下するのは構わない。むしろ大歓迎。どんとこい。
でもsageてくれると嬉しい。
半角文字のせいで、ほとんどNGになってて読めなかった
由真かタマ姉でアナルセックス→痔→タカ棒がポラギノール軟膏注入というシチュきぼん
|ω・`)・・・sage忘れゴメソ
最近TH2やって愛佳のしかないけどおk?
同じSS書きの人に質問なんですが
会話ほとんどなくてもいいですかね?
|ω・`)
>>834 そ、そうですか
なんだか文が短くて縦に長いんです。
正直こんなの描いたの5年ぶりくらいなので自信がないっす・・・
836 :
788:2006/04/15(土) 23:10:59 ID:757YjLs50
>>823 SS化乙&ありー
GJでした! つか、指突っ込んだのかよw
帰宅したら自分で書いてみようかと思ってみたけど
いい出来のがあぷされたんで良かったよ。
838 :
792:2006/04/15(土) 23:37:07 ID:Tu+Q8y3A0
>>792の作者です。
拙作を読んでくださった方、ありがとうございます。
某氏の創○○会員疑惑が表立ち、それから五分足らずで作り上げた作品なのですが、
拙作で気分を害された方もいらっしゃるようで、その方々には深くお詫び申し上げます。
あくまでネタはネタと受け止めて頂ければ恐縮です。
南無ぅ。
>823
郁乃&愛佳に笑い、さーりゃんに萌えた。まーりゃん先輩GJ!
でも普通に考えると坐薬って自分でも入れられるよーな気が…
843 :
785:2006/04/16(日) 01:44:58 ID:3SZT6hAj0
>823
GJ!!!!!
いやー、なんでも言ってみるもんだw
>>832 ネタとか抜きにしてもアナルセックスで痔になることは多いよ。慣れていない人間ならばなおさら。
由真なんか強がって(or恥ずかしがって)我慢してるうちに余計に悪化して病院行く羽目になりそうな気がする。
845 :
愛佳:2006/04/16(日) 02:34:43 ID:kYF62eH00
名前を呼ばれるたびに、胸の鼓動が高鳴った
そのだいすきなひとの唇が、私の名前を紡いでくれる
それだけでも十分だった
正直言って、ここまで好きになるはずじゃなかった
貴方のことを、いつもどこかで探していた
貴方の顔を、もっと見て居たかった
貴方の胸に、ぎゅっと抱いてほしかった
貴方の唇に触れてみたかった
いつか髪を鋤いてくれたその手に
いつもも少し近くに行きたかったけれど
中々出来なくて言葉を飲んだ
846 :
愛佳:2006/04/16(日) 02:35:30 ID:kYF62eH00
私は荷物をまとめていた
もうここに来ることはないのだと思いながら
それは妹の手術の日
時期はずれのサクラを探して駆け回った初夏
サクラが見たいといったあの子のために
私たちは必死でサクラの木を捜して駆けずり回った
偶然にもサクラのような枝を見つけて
サクラだと誤解してくれることを期待して病院を出た
病室からの帰り道、私は学校に足を向けていた
彼も心配そうに付いて来てくれたのが嬉しかった
午後の暖かな日差しに浮かび上がる図書館の秘密基地
できるだけ手際よく後片付けを終えて
こんな日がまだ続くだろうと買っておいたお茶請けを見る
幸せな時間がもう訪れないという絶望感で胸が一杯になる
泣いてはいけないと、心に誓う
ここで泣いたら、二人の時間は悲しい思い出になってしまう
少なくとも彼には、楽しい思い出でありますようにと願っているから
「ねぇ。これみんな食べちゃお」
後ろで見守っている彼に悟られないように
できる限り明るく告げるが、声は喉をなかなか通ってくれない
もしかして声が震えていたのかもしれない
彼を来客用のいすに無理やり座らせて、隠していたお菓子をありったけ
机に運んで封をといていく
彼は戸惑っているようだった
甘いものでも食べながら笑って話をする
そしてここを出たら、彼と笑ってさよならをするのだ
いつのまにか机の上はお菓子だらけになったが
彼はまだ手をつけていなかった
847 :
愛佳:2006/04/16(日) 02:36:46 ID:kYF62eH00
しょうがなく私は彼の座ったいすの前のいすに座ってお菓子を口に入れる
甘いお菓子はどうして人を幸せな気分にするのだろう
こんな幸せを、どうしてもう彼と分かち合えないのだろう
こうして傍にいることをただ願っていたのに
涙がもう目の隅に溜まっているのに気づいて私は他のお菓子を口に入れる
呆気にとられていた彼が私の様子に気づかないで居てほしくて
私はただ食べつづける
彼の進まない手が苛立たしかった
『そうだね』って言って欲しかった
このお菓子の山の高さがが、私の業の深さなのだと思う
そしてこれがなくなったら、私は彼と作業をし始める前の私になれる
そんな気がする
848 :
愛佳:2006/04/16(日) 02:37:39 ID:kYF62eH00
時々喉を詰まらせても、私は食べつづける
酷い姉はこんなところで、好きな人とお菓子を食べている
妹はそんな私を見て落胆するだろう
でも、それもこれで最後だ
彼の視線を感じながらも、私は彼にお菓子をすすめた
「たべないの・・・?おいしいよ?おかし」
口の中のお菓子を気にしないで私は言う
お菓子を飲み下して、私は次のものに手を出した
口の中に叉食べ物を詰め込む
「お、おい!」
不意に彼は聞いたことのない声をあげる
ちょっとビックリして私は一瞬気を抜いてしまう
涙がこぼれたのが分かった
自分でもわかるくらいに大粒の涙
「どうしたの?たかあきくん・・・ほら、まだこんなにたくさん残ってるよ」
それでも自覚するわけにはいかない
自覚したら・・・きっと彼に甘えてしまう
言いながら声が震える
きっと酷い顔をしているんだろう
「こんなに・・・いっぱい・・・」
喉はそれ以上の声をあげてはくれそうにない
胸が苦しい。視界が一気に霞む
頬を、涙が伝う
「ぜんぶ・・・私の前からなくして・・・」
849 :
愛佳:2006/04/16(日) 02:39:07 ID:kYF62eH00
ああ泣いてしまった・・・
そう思えば思うほどに、涙があふれる
もう止められない時間
終わっていく私たちの時間
胸を打つほどに・・・綺麗なオレンジの世界
私の愛した空間
向かい側に座った彼を思った全て
850 :
愛佳:2006/04/16(日) 02:41:38 ID:kYF62eH00
次の瞬間私の体は彼の腕の中にあった
向かいに座った彼がテーブルの上を乗り越えて私を抱きしめた
抱きしめられた反動で私たちはいすに倒れこむ
シャツ越しに彼の体温を感じる
それは私を守るかのような
嗚咽が喉を駆け上がる
肩が震えて、力が入らない
ねぇ、本当にごめんなさい
私の声は出なかった
彼の体が私を覆い尽くす
彼の重みを感じる
優しくて強い彼の腕の中
涙は止まらない
今だけでも
この世界の時間を止めてほしい
彼の胸の中で泣き声だけは聞かれたくなかった
声をあげたら彼はきっと悲しむ
彼は悲しまなくてもいい
私が誘わなければ、こんな思いをさせずにすんだのだ
でも少しだけ
少しだけこの時間を私にください
何度祈っても願いを叶えてくれなかった神様
もう何も要らないから
彼だけでも私にください
ねぇ神様
851 :
愛佳:2006/04/16(日) 02:45:21 ID:kYF62eH00
私が泣くのをやめたころ
彼の戸惑いが手にとるように分かり始めた
思わず抱いたはいいが、今更になって緊張の度合いを強めていく
彼の胸の鼓動が大きくなっていく
彼は少しだけ体を引いて、私の背中、肩をまさぐる
いとおしい
素直にそう思えた
「た・たかあきくん・・・」
気が付かないうちにいとしい彼の名を呟いていた
こんな私なんかに気を使わないでいいのに
もうずっと前から、求められたら答える決心はついていた
やがてぎこちなく、行き場を失った手が私をなで始める
痛いほどの緊張感が私に伝わる
はじめて貴方が私の髪に触れた時も
はじめて胸を触られた時も
本当は少しだけ期待していた
期待するだけでも私の奥が濡れるのを、彼は知らない
この日を・・・本当はずっと待っていた
「予行練習なんかじゃない・・・」
彼の私に聞こえるようにそういって
決心したように、私の胸のふくらみに触れた
自分の意志とは関係なく与えられた感覚に私は少し驚いてしまう
息がしづらい。下腹部がうずく
ここまで来て引き下がれないのは私も一緒だった
852 :
愛佳:2006/04/16(日) 02:47:26 ID:kYF62eH00
「あ・・あのさ・・・」
彼の口から思わぬ弱気な発言が飛び出す
「もし嫌だったら・・・」
さっきから彼の喉が何度も生唾を飲んでいるのが分かる
言いよどんで私の反応を気にしながら・・・
少しの沈黙
中々声が出ない私は、彼の胸で首を横に振った
意味を取り違えたのか、彼は慌てて言葉を続ける
なにか綺麗なことでも言ってはぐらかす気だ
思ったとおりはぐらかしの言葉が後に続いたので
なんだかおかしくて吹き出してしまう
「たかあきくん、止める言い訳ばっかり」
彼の言葉を遮るように私は言った
「私のほうが男の子みたい」
言ってから私は俯く
胸まで触って今更後に引くはずがない
彼に抱かれる私を想像して、私のほうがいやらしいみたいだと・・・
少しだけ本心をさらけ出したみたいで恥ずかしさがこみ上げる
彼は私の顔を見て、確かめるように「いいの・・・?」と呟く
まるで私が誘ったみたいで、顔が熱くなる
「嫌じゃない・・・。ホントだよ・・。嫌じゃないから、じっとしてるの」
言ってから言葉を頭の中で反芻すると
かなり恥ずかしいことを言っているのがわかった
「してもいいの・・・?」
彼はどうしてもハッキリ言って欲しいらしい
恥ずかしくて顔を見れない
下腹部がキュンとして、下着に何か染み込んでいくのを感じる
「こ、これ以上・・・」
喉が震えた
「言わせないで・・・」
853 :
835:2006/04/16(日) 02:52:19 ID:kYF62eH00
|ω・`)・・・「愛佳」前半ですが・・・つたない文でゴメンなさい
まぁ台詞は一切自分のものではないところが気になりますね・・・
多分だれか書いてるような愛佳視点の独白文ですが
・・・続き・・・読みたいですか?
おねがいしまつ。
856 :
835:2006/04/16(日) 08:22:20 ID:kYF62eH00
|ω・`*)・・・ごめん・・・まだ書きかけやねん・・・
ってかゲームと同じ流れは・・・つまんなくないかと
どうしよ?
>>856 ゲームとは同じ場面でも別の視点からだからつまらなくないよ。
>>853 まず視覚的に読みにくい文であると感じた。
ちゃんと句点を使え。内容以前の問題だ。
続きを書くなら直すがいい。
859 :
835:2006/04/16(日) 09:35:09 ID:kYF62eH00
|ω・`)
>>858・・・使おうとすれば使えるが
あんまり使わないように意識して抜いてるの
(深い意味はない)
読みにくいとは思うが、やっぱダメかな?
本編よりも|ω・`)が気になってしょうがないのは俺だけか
内容は激しく期待してるけど、中の人がちょっとうじうじしすぎ。
途中で反応確認したりせずに、肚括りなされ。
>>859 意図して使ってるならそのままでいいんじゃない。
句点ないとダメな読者なら読まなければいいだけだ。
>>853 今やめたらそこまでの半端状態で評価されるよ。
で、途中で反応窺われたから言ってしまおう。
正直、ポエミーなので読み飛ばした。
句点なし短文連打はもうおなかいっぱい。
改行ばかりだねぇ。文の終わりに句点を用いないのは論外だし、
かと思えば箇所によっては使っている。他人に読ませるなら
文章として最低限の体裁は整えましょうってことかな。
あと短い文を箇条書きにずらずらと羅列してるだけでたどたどしいね。
それだけ表現したいことがあるのだろうけど、まとまりもほしいところだ。
865 :
835:2006/04/16(日) 12:32:42 ID:kYF62eH00
うむ参考になるなぁ、人の意見は。
実際書こうとは思うが、多分何日かかかるよ
居間で書いてるので投下は深夜だろうし
でも、貴重なご意見をみんなありがとう
>835のは極端(故意)だろうけど、改行が多い方が読みやすい意味もあるんだよな
あと空白行を使うかどうかも悩む。そのへんセオリーとかあるの?
>>859 携帯から読む分には改行は全く問題ない。内容は良いと思うので続きマダー
書く側としては色々な方からの指摘は参考になりますよ。GJ、面白いと言ってくれる人もできればそれだけでなくどういったところが良いと
思ったのかなど具体的にもっと書いてもらえるとありがたいんですけども。
869 :
835:2006/04/16(日) 14:40:25 ID:kYF62eH00
一人称で書いても、口頭文(とでもいうのか)での心情は書きたくない性格なので
ゲームとはかけ離れた感はありますね。あえて突っぱねているが、これは箇条書きにしか見えないね
今読み直してみたら。確かに「、」を使うべきところで使ってなかったり、「。」でくくってしまったほうが
読みやすいかもですね。深い意味もなく抜いただけなので逆効果だったのか・・・
>>861の言うとおりウジウジしているかもしれないが
ぶっちゃけ「他の人の意見や、物の見方の違い」というのが得たくて投下したわけで。
870 :
835:2006/04/16(日) 14:42:00 ID:kYF62eH00
あれ?
>>868の人が同じことを言ってくれてるww
「…それじゃあ委員会に行くけど、大丈夫?」
この『大丈夫』と言うのは一体、誰に向けての言葉なのだろうか…などあまりい意味の無い考え事をしながら愛佳を書庫から送り出す。
となると、当然郁乃と二人っきり。
ここは暇つぶしに全力でからかってやるのが未来の義兄様の仕事だ。
(…なんてな)
ハハッと思わず苦笑い。
そんな事したら命がいくつあっても足りないよな。
「何よ…、急に笑いだして。良いお医者さん紹介してあげようか?」
相変わらずの口の悪さ。仕返しに『こいつと付き合う奴は苦労するだろうな〜』という視線を投げ掛けてやる。
「あんた、今失礼な事考えてたでしょ。」
「えっ!?まさか〜。」
本日二度目の苦笑い。
「…そうそう、イイ物見せてあげるわ。」
「イイ物?何?食べ物?」
俺の問いかけに答えず自分の鞄をガサゴソと物色する郁乃。
「ん…、あった。これ。」
そう言って鞄から取り出されたイイ物とは、ピンク色で見掛けは女の子らしいが、側面に『大往生』と書かれた…
「スタン、ガン?」
そう、スタンガン。
「そ、良いでしょ。今日貴明と二人っきりになるかも…って話してたら姫百合さんが貸してくれたの。」
>>835 俺は、句読点云々ってよりも、ちょっと全体的に表現がクドく感じた。
例えば、文中に「私」と「彼」を多用しすぎというか、文章の雰囲気自体は悪くないんだから
もっと削るべきところは削って、まとまりのある作品に仕上げてくれればよかったのになと。
あとはまあ、これは俺個人の希望なんで無視してもらって構わないんだが。
別に締め切りがあるわけじゃないんだし、どうせだったら全部書き上げてから投下すれば
よかったんじゃないか?
前編(という体で)投下して、「続き読みたいですか?」とか、向上心があるっていうよりも
構ってチャンみたいに見えるからさ。
「お姉さんの特製らしく最大出力なら牛でも倒せるらしいわよ…。
試してみる?」
すっ、と珊瑚ちゃん特製スタンガンを近付けてくる。
「わっ、止めろって!」
「冗談よ。そんな事したら姉になんて言われるか。
運がよかったわね。」
「は、ははは……はぁ…」
ありがとう、愛佳。
「ところで、郁乃。」
「何よ、改まって。」
「悪いけど…お前の気持ちには、応えられない。」
「………」
「俺には愛佳がいるから。
本気で、好きなんだ。愛佳の事が…。だから、ごめん。」
バチバチバチ…
無言でスタンガンのスイッチを入れる。
「一度、死んでみる?」
顔先、5cmまで迫る青白い光。
「わーーーっ!待った待った!!落ち着けって!!」
「落ち着くのはあんたでしょ!何いきなりぶっちゃけてんのよ!!」
「と、取り合えず…、それを、下げ…下げてください。」
何とかスタンガンをしまわせ、改めて向き合う。
「いや…、お前、顔がすごく赤かったからてっきり愛の告白かと…」
「……あんた、馬鹿でしょ。真性の。
なんで姉はこんな奴に…」
かなり失礼な事を言われる。
「朝から少し熱があるの。分かった?」
ω・`)ノ
先をこされたが座薬投下です。
携帯厨だから遅くてスマソ。
評判がよければ後で投下すます。
河野家の作者です。
えっと、今、決心したので書きます。明日の河野家はお休みさせてください。
皆さんに指摘され、改めて読み直してみると、確かに貴明が饒舌過ぎると自分でも思いました。
で、それを気に掛けながら53話をついさっきまで書いていたのですが……どうも、筆が(と言うか
キータッチが)進みません。
このまま書いていて、もしかすると明日に間に合うかもしれませんが、なんか、満足のいくものを
書ける自信がない、と言いますか……。
(ちなみに俺はいつも、日曜日にまず全体を書いて、一日おいて、月曜に見直し・修正の上、書き
込みをしています)
いい機会といってはアレですが、ちょっと以前の話を読み直したりして、自分の中の貴明像を描き
直してみます。
済みませんが、少し、時間をください。来週の月曜には必ず投下しますので。
心待ちにしてくださっている方たちには、ホント、ご免なさい。m(_ _)m
>>875 毎度乙であります。
週刊として書くのは義務じゃないし納得いくものが出来るまで考えると良いかと。
楽しみに待ってるのでがんばってください。
一度本編をやりなおしてみるのも良いかもしれないですよ。
内面描写っていうか、漠然と気づくような事を、事細かに口に出して説明させすぎな感が確かに
来週まで乙であります
>874
座薬の競演キター。携帯からSSとは凄い根性ですな。。。続きよろ
>875
毎回楽しませてもらっとります。
書きたい時に書くのがSSなんですから焦る必要も謝る必要も全然ナッシングです
仕事で書いてる週刊漫画だってほいほい休載してるけドナー
>>823 「坐薬」が正しいらしいけど、「座薬」でも桶ラスィ
はじめまして山崎荘ストーリー小説「To Heart2編」の作者です。
新しい小説を5月14日(日)より毎週1話ずつ投下させていただきます。
一応ですが、全20話の投下予定です。それ以降は、皆さんの評価次第では
続編(21話以降)も検討しております。本編投下するまで皆さんお楽しみに
ここは皮肉屋が多いスレですが
ss作家さん無くては成り立たないので
頑張ってください
883 :
823:2006/04/16(日) 20:32:15 ID:27nLUlau0
やっぱり自分の書いたSS褒められるとうれしいなw
携帯からみんなの感想読んでほくそえんでた俺は、周りからみたら相当変なやつだったろう。
>>874 スタンガンこえぇwww
続きが楽しみだ(^ω^)
>>875 乙です。頑張って下さいw
>>879 そっかぁ。よかったー(・ω・)
ところで、
>>672-677、
>>809-823が俺なんだけど…
俺、実は東鳩2やったことないんだ。
違和感無かったかなぁ?
山崎荘って何?
>883
特に問題なかったよ。せっかくだから原作もやって見て自分で判断してくれ
886 :
883:2006/04/16(日) 22:20:33 ID:27nLUlau0
>>885 ありがとうw
でも、金ないからしばらくは買えねorz
またなんか思いついたら投下しまつ。
携帯から投稿してみたいが実際のスレにどうなるかわからないから困る
山崎荘とかシランガナ
期待もなにもねぇよ
つーか(^^)の類でしょ名前からして
反応は餌となるだけ
…とはいえ絶対反応する連中いるだろうから、まあ今後、拒否反応でスレを自沈させないようにな
>>875 河野家、喜多ーーぢゃなくって、中の人、喜多ーーー!!!
別に義務ではないのですから、ご自分が納得できるように書くのが一番かと。
あと饒舌という点では、貴明もそうですが、愛佳も若干饒舌気味ですね。
以前に優季を叩いて落ち込む貴明を励ます時(第40話)も、愛佳にしては
しゃべりすぎかな?と少し感じました。
まあ、原作通りの設定で、貴明と愛佳が2人きりだと、話がなかなか進まず
2人きりのシーンだけで4話ぐらいかかってしまいそうですが^^;
というか数えてみると、長い長い長い土曜だけで10話経過ですかw
現行スレだけでは収まりきらないわけだ^^;
>>777 そういえば、感想を書くのを忘れてました。
つうか、こちらも月曜連載かと勘違いしてましたw
さりげなく楽しみにしてますので、続きをお願いします^^;
>>883 とりあえず、PS2版でもXRATEDでもいいから、お金ができたらプレーしませふw
「熱?大丈夫か?」
「ん〜…、平熱より少し高いくらい。
何?心配してくれてるの?」
「当たり前だろ。」
「………」
少し驚いた顔をする郁乃。
「あ、あんたはふざけてる時と真面目な時のギャップが激しいのよ!
ま、まぁ…ありがとう心配してくれて。」
最後の方はゴニョゴニョと聞き取りずらかったが、こう面と向かい合って郁乃に礼を言われるのも…
「意外といいもんだな。」
「はっ?何が?」
思わず口に出してしまった。
俺は馬鹿なのか?
「じゃ、じゃあ奥でバーコード貼ってるから何かあったら呼んでよ。」
「…もう4時か」
作業に没頭すること約30分。慣れてきたのか、小棚の一つを貼り終えてしまった。
そう言えば郁乃はどうなったのか。
休憩がてらソファーのある場所へ向かう。
「………」
郁乃爆睡。
そりゃ静かだよなぁ…、と思った時点で異変に気付く。
横長のソファーに横になる郁乃。
荒い息に、時折漏れるあえぎ声。
「お、おい!大丈夫か!?」
ユサユサと体を揺すると、ゆっくりと目を開ける。
「…ん、お姉ちゃん帰ってきた?」
「いや、まだだけど…。それより熱は?気分はどうだ?何か飲むか?え〜っと、え〜っと…」
やばい、愛佳いないしどうすれはいいんだ?
ビシッ…
「えっ!」
「いいから…、落ち着き、なさい」
相当、テンパっていたんだろう。
郁乃に頭を叩かれる。
「ご、ごめん。えっと、何かしてほしい事はないか?」
病気の事はまったく分からない為、そう言って素直に指示をまつ。
「鞄の中に…、薬、あるから…取ってちょうだい。」
言われるまま、郁乃の鞄を物色すると、病院名と郁乃の名前、あと薬の名称?らしきものが書かれた紙袋を見付だす。
「郁乃、これか?」
紙袋を見せると、こくりと頷く。
「よし。じゃ、じゃあ…」
紙袋から薬を取り出す。
「………」
「………」
今、俺の手元には鉄砲の弾丸の形をした……
どこからどうみても座薬です
wKtk
本当にありがt…支援
座薬ネタは一発ネタだよなぁ。
つーかよっぽど意識が朦朧としてなきゃ自分で入れられるだろ。
でないと自分の尻も拭けんぞ。
それとも郁乃はトイレも誰かの介助がないとダメなのか?
じゃぁ、アナリスクのほうが良いってかこのやろう。
郁乃のトイレの介助なら俺に任せろ。
闘病生活の長い郁乃だし、一人で入れられるだろ。
身体の動かない爺じゃるまいし。
そこをうまいこと言いくるめてインサート
寝起き狙えばいけそう
こんなときこそ手がしびれる設定が使える
おまいらはいつも俺に妄想の活力をくれる。
なんだか盛り上がってまいりました。
つまり朝一だと手がしびれて自分で出来ないから愛佳がいつもフキフキしてあげてるのか。
今までは世話焼きのお姉さんが毎回入れてくれたので
郁乃自身では座薬挿入経験が無く、ひとりで入れるのは無理説を唱える。
入院経験から言うと自分でできることは自分でやるものだぞ。
自分でできるのに過度に世話を焼くのは患者にとってもあまりよろしくない。
妹思いの愛佳がそんな勘違いをするとは思えないが・・・
座薬については分からんが浣腸は看護士さんがしてくれたぞ。
目隠しは郁乃にする方が感度も上がって
お互いに一層興奮するのでおすすめ。
908 :
名無しさんだよもん:2006/04/19(水) 13:23:38 ID:LLxdOpfg0
目隠ししたら他人にやってもらう意味ないっしょ
ましてや興奮するためにするものでもないんだし
一ヶ月くらい忙しくてとまってたSSを投稿したいけれど、
座薬ネタ・郁乃の流れを止めてしまうのが忍びない(´・ω・`)
かめへんよ。続きはしばらくうpできないから。
みんな、おまいのssを期待してるから早くうp汁
朝、自分の使っているシャンプーのにおいに包まれて目を開ける。
すると、眼前にささらの気持ち良さそうな寝顔が。
驚きのあまり、声をあげそうになるのを抑えられたのは、昨日の夜の出来事を思い出したから。
「シャンプーのにおいは、ささらの髪からか…」
俺は、ささらが起きないように小声で呟く。
時計を遠目でみると、いつもより若干早い時間。
昨日と今日の起きる時間が逆だったら、昨日はもう少し余裕があったかもな…。
でも、もしそうだったら今日ここにいる俺はいないんだよな…。
それはそれで、ちょっと嫌かもしれない…と思わず苦笑する俺。
そういえば、ささらがいつも俺の寝顔を見てるっていてたなぁ。
…今日は俺が見てるかな。いつものお返し(?)だっ。
そして、ささらの顔をじっと見詰める。
その幸せそうな寝顔は、どんな夢をみているんだろうか…。
俺は、ささらから天井に視線を移す。
「貴明さん」
そう急に呼ばれ、驚いて声の聞こえたほうを向く。ささらは、先と同様に眠っていた。
しかし、その顔は先ほどまでの笑顔ではない。どこか寂しさを覚える顔。そして、言う。
「貴明さんは…日本に帰りたいの?私と離れたいの?」
ドキッとした。
寝言は、人の本心を曝け出す。それがたとえどんなことだろうと。
少しでも心に巣食う不安や暗い部分まで全部。
何よりも、悪気がない…どころか、意識すらない状態で言うって事だろう。
そんな状態で言った人に対して、とやかく言う事は出来ない。
ましてや、世界中で一番好きな相手となったら、なおさらだ。
しかし、その一言で、俺の中に心の迷いが生じた。
『離れても、次に会うときはその分まで幸せになれる。』
―――――俺は、ささらと離れたいのか?
「うん…わかってるわ、ママ、先輩。ちゃんと渡さないと…ダメ…だよね…」
今度はまた違うことを言う。さっきとは違う、悲しそうな顔をしながら。
―――渡す?いったい誰に?そして何を?
ささらのお母さんとまーりゃん先輩が関係していることを考えると、【誰】は俺だろう。
―――すると、いったいなにを渡すんだ?
ささらの顔から視線をそらそうとして、やめる。
ささらの悲しい顔はみたくない。だけど、それも俺の好きなささらの一部。
受け入れてあげるべきなのである。むしろ、この顔を笑顔に変えるのが俺の役目だ。
でも、今の2つの台詞から導きだされるものは――――。
まさか――!?
「―――貴明さん、おはよう」
目を覚ましたささらが、笑顔で俺に言った。そして、俺もそれに笑顔で答えた。
「うん、おはよう、ささら」
俺は、それを考えるのを一時的にやめた。
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
「〜♪♪〜♪〜♪♪〜〜〜♪♪♪〜♪」
ささらが朝食を作ってくれている。いつまで続くのかは分からないけど、今では日常の一コマ。
「ご飯までもうすこしかかりそうだから、のんびりしていてね」
「うん、わかった」
そう言われた俺は、部屋を出てトイレに。
――ふぅ、すっきりリフレッシュ!
手を洗い、再び戻ろうとしたときに、ささらの部屋の扉があいているのに気づく。
そして、扉を閉めようとしたときに、部屋の中に見覚えのある1枚の紙片が。
これをみたら、さっきの予想が明確なものになる。
なぜか俺の直感がそういっていた。
俺はそれに引き寄せられるように部屋に入っていく。
徐々に像がはっきりとしてくるその紙片は――――搭乗券。時間は今日の夕方。
何故か、あまり驚きはなく冷静な判断ができた。
なるほど。そういうことか…。やはり予想はあたっていた。
しっかし、どうやってこれを…ってどう考えても、まーりゃん先輩だろうな…。
チケットってところを見ると、水族館の時と同じだなぁ…。まぁ、今回は金額や重大さが段違いだけど。
あの人、親が3000円より多くもたせない、みたいなこと言ってたような…。まぁ、いいか。
まーりゃん先輩から、搭乗券に意識を戻す。
きっと、まーりゃん先輩はささらに渡させるために、これを渡したんだろう。
いざ、搭乗券を前にすると、また迷ってしまったのだろう。不安の中を。
だから…寝言だけど、あんなことを言ったんだろう。
そして、俺は―――。
俺自身は、どう思っているんだろうか――――?
ささらの部屋の窓から見える空は、青く澄み渡っていた。
しかし、そんな空とは正反対に、俺の心はどんどん曇っていくのがわかった。
変われたと思ったのに、またもとに戻っているのか?
俺がこんなんじゃ、ささらの決心を鈍らせるんじゃないのか?
俺は―――――どうすればいいんだ?
しかし、その心の迷いが作り出す迷宮は、すぐに出口が見つかることになる。
ああ、そうか…。ああ、そうだったのか…。
さっきの心の曇りが嘘のようになくなっていく。その様は、可笑しくて笑ってしまうほどだ。
あの時、俺はあの言葉を理解できなかった。どうして?っと本気で聞きたかった。
だけど、今なら分かる。その意味が、十分すぎるほどに。
俺の心の雲が一掃され、今日の空のように澄み渡っていた。
ふと、ささらの部屋の時計をみると、随分と時間が経っていたのに気づく。
俺はそっと部屋を出て、音を立てないように扉を閉めると、ささらが朝食を作るリビングへ戻った。
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
「今日はどうする?」
朝食を食べ終わりそうになり、何気なく言った俺の一言。
今日で終わるであろう、日常的になってしまった一コマの1つ。
「えっと…もしよかったらなんけど…」
言いにくそうな感じ。
今日が最後の一日になるかもしれない(ささらのためを思うと、なるべきなんだろう)ので、思い出になるようなところにいくのかな。
搭乗券の時間が夕方なのも、最後にどこかにいける時間を残すためのまーりゃん先輩の気遣いないのかもしれない。
「今日は…家にいて、ゆっくりしない?」
意外だった。今まで毎日どこかしらには出かけていたから、余計に。
でも、慌(あわただ)しい一日にするより、落ち着いた一日のほうがいいかもしれない。
「いいね、そうしようか」
「ホントにいいの?貴明さんはどこかいきたいところはないの?」
「ささらの行きたいところが、俺の行きたいところ。ささらが家にいたいなら、俺も家にいたいんだよ」
俺は笑顔で言った。ささらは、照れたように顔を朱色に染める。
そんなささらの頭を、撫でる。
特に意味や理由はない。ただ俺がそうしたかっただけだ。
でも、ささらは照れたような笑顔になってくれた。それだけで、俺は幸せだった。
もしかしたらささらの決断を鈍らせることになったかもしれない、と少し反省。
俺は、残り少しとなった朝食を食べる。
そうだ…。あれの用意をしなきゃなぁ…。
今日で帰ることになるだろうから、それまでにはなんとしても。
と言っても、既に渡す物自体は準備してある。後は渡すだけ、なんだけどね。
「ふぅ〜、ご馳走様。今日もおいしかったよ」
ささら特性調味料、【愛】が含まれている朝食は、最後の日でも相変わらずとても美味かった。
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
朝食後のデザートである、ヨーグルトを食べる。
一昨日と同様に、美味い。
ささらの料理が無条件で俺の口に合うというのを差し引いても、十分に美味いといえるものだった。
「あ…飛行機雲…」
ヨーグルトを食べながら、窓の外の真っ青な空を見て、ささらが言う。
「すっごいな〜。青い空に、一筋の飛行機雲。まるで、空を二つにわけてるみたいだよ」
「2つの空…。飛行機雲が邪魔をするせいで、決して触れ合うことが出来ない…。まるで、私たちみたい…」
その言葉は、ささらの口から出た。
今まで聞いたことのなかったような表現。
ささらが違う人になったような錯覚すら覚えた。
「ご、ごめんなさ―――」
「うん、確かにまるで俺たちみたいだね。遠い距離があるせいで、決して触れ合うことができない」
ささらが言い切り、話が逸らされる前に、俺が遮って言う。
「えっ?」
驚いた声。顔も、ものすごく意外だ、って感じの顔をしている。
俺はその顔を見て、でも、と続ける。
「ほら、後ろのほうも見て?後ろのほうは、雲も消えてまた1つになってる。触れ合ってる」
さっき以上に驚いた顔をして、俺が言ったほうをみる。
「あ…」
「つまり、一時の別れなんて、どってことないんだよ。どんな隔たりがあろうとも、2人はまた会える。
ちゃんと、また触れ合うことができる」
ささらは、その意味を理解しているみたいだった。
それで、敢えて突然に単刀直入言ってきた。
「貴明さんは…日本に帰りたいの?私と離れたいの?」
寝言のときと一語一句同じ。もしかしたら、ささらはあの時おきていたのかもしれない。
俺は正直な感想を言う。
「ささらがいないのはイヤだ。一緒じゃなきゃ毎日の強さ耐えられないって思うときもあるくらい。
それは、今回こっちにきて、ささらと一緒に過ごして、改めて思った」
今の言葉には、何一つ余計なものに包まれていない。
俺の正直な思いの言葉。
「だけど…。だけど、やっぱり、ダメなんだと思う。それじゃ、ダメなんだと思う。
ささらと一緒にいたいからって理由で、いつまでもささらに依存してちゃダメなんだ。
ささら、NYに行く日に言ってたよね。
『でも、それじゃあ、私、ダメになっちゃう。私たち、だめになっちゃう』って。
俺、聞いたときいまいち理解できなかったんだよね。
でも、こっちにきて、ささらとまた一緒に過ごして分かったんだ。
我が儘で作った時間の中ですごしていたらダメなんだって。
後ろめたい事が一切ない中で過ごさなきゃダメなんだって。
最初にも言ったけど、ささらの傍にずっといたい。でも、それは今じゃまだ叶わない願いなんだと思う」
「ありがとう…ありがとう、貴明さん…」
そう言うと同時に、ささらの目から大粒の涙が零れた。拭う事を忘れたかのように、ただ泣き続けた。
そんなささらを、俺は抱きしめた。
離さないように、ぎゅっと。
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
「貴明さん…実は、渡さなくちゃならないものがあるの…」
しばらく経ち、だいぶおちついたささらが、とうとう切り出してきた。
「ここで、まっててくれる?」
「うん、わかった」
俺は、頷きながら、言う。
ささらが、部屋をでる。そして、少したった後に戻ってくる。
「貴明さん、これ…」
ささらが差し出すのは、俺がさっきみた搭乗券。
「ごめん。実はさ…それさっきみちゃったんだよね。」
「やっぱり…。そう思って、さっき突然聞いてみたの。日本に帰りたいのかって」
「そうだったんだ…。急に核心部分に迫ったから、何事かと思ったよ」
ささらは、笑顔になる。可笑しくて笑ったという感じだった。
俺は、半分わかっていることを聞く。
「でも、どうやってこれを?」
「まーりゃん先輩が私から絶対に渡せって、昨日渡してきたの。貴明さんに、色々やってもらったお礼だーって」
やはり、予想通りの返答が返ってくる。ついでに、これも言っておこう。
「やっぱり水族館のときと同じノリだったんだね」
ここまで見事に予想が的中するのを見ると、俺もあの人の行動パターンが読めてきたのかもしれない。
渡された搭乗券を見直すと、時間まで少し余裕があった。
「ねぇ、ささら。時間まで、もう少しあるみたいだから、最後にこのあたりを一緒に歩かない?」
「荷物の整理はできてるの?」
「実は、一昨日荷物をまとめたまま、面倒だからほとんど出してないんだよね」
俺は笑いながら言う。
「じゃあ、いきましょ、貴明さん」
「うん」
一緒に家を出て、歩く。もちろん、手をつないで。
つなぐ手から伝わるものは、揺るぐ事がないほど強い思い。
――導いた選択。
――確認しあった思い。
――繋がりあう心。
ささらに会いに、NYに来て、本当によかった。
俺は今、心からそう思っている。
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
最後に回りながら、NYに来てあったことを色々と思い出す。
自由の女神像の前と、クリスマスツリーのあったショッピングモールに行けなかったのが心残りだったが、
それでも、最後に一緒に散歩してよかったと思う。
そして、もう時間が間近となる今、空港に到着していた。
「はは、半年前と逆になったね」
「ふふ、そうね。なんだか可笑しいわ」
俺が笑いながら言うと、ささらも、笑いながら同意してくれた。
あの時と違うのは、もう遣り残したことがないって事だろうか。
「そうだ、ささら。俺からの今回最後のプレゼント。昨日の夜に買いにいったもの」
そういって、俺はポケットの中に隠していた小さな箱の中に収められた物をささらに手渡す。
「これを…。ごめんなさい、棘棘しい言い方をしちゃって…。でも、ありがとう…。あけて…いい?」
「もちろん。むしろ、いますぐあけて欲しい」
俺から了承を得ると、箱をそっと開ける。
その中に収められていたのは、白い少し太めの紐。いわゆる、リボン。
「白いコート・白い手袋に合わせて白いリボンにしてみました。
本当は、黒にしようかな、って思ったんだけど、ちょっと違うささらもみてみたくてね」
購入した理由をちょっと解説。
「つけてみて…いい…かな?」
ささらは、本当にわくわくしてるように聞いてきた。
無論、俺は頷く。
今つけてる黒いリボンをはずし、俺がプレゼントした白いリボンを同じようにつける。
「ど、どう…かな?」
思わず、くらっとしそうになった。
「自分で、選んでおいて言うのもあれなんだけど…よく似合ってる…」
私服のときのように上下黒とは対照的に、上下白。とてもとても似合っている。
上から下まで完全に白い姿は一種の精霊や女神をも思わせるほどだった。
さらに、首からさげる銀色のペンダントがさらなるチャームポイントを作り出している。
「ありがとう、貴明さん」
ささらは、少しはにかむように笑って言った。
時間はゆっくりに過ぎていく。しかし、それでも、常に刻々と過ぎていっている。
もう、時間はほとんど残っていなかった。
「ねぇ、ささら。最後に、一度キスしていいかな?」
「私も…したかったの」
そう言うと、一歩近づいてこちらを向き、目を閉じる。
俺も、それにつられるようにして、顔を近づけていく。目を閉じる。そして、唇を重ねる。
少しして、二人ともそっとはなれる。
もう残り時間はなかった。
俺は名残惜しい気持ちを抑えて、言う。
「それじゃあ、元気で。また、手紙や電話送るね」
もしかしたら、声が震えていたかもしれない。
「うん、待ってる。私からも、手紙送るし、電話もするわ」
ささらも、目の淵に涙が溜まっていた。
「ありがとう」
そんなささらを、最後に、もう一度だけぎゅっと抱きしめる。
ささらがずっと傍にいてくれてるのを、確認するように。
離れた後、ささらに笑いかける。
ささらも、同じように笑い返してくれた。
「それじゃあ…。また、今度」
「うん、貴明さん、また今度」
そういって、俺はささらに背を向け、歩き出した。
この先、生麦が何回も東にある月と西にある日をみたら、俺たちはまた会える。
その時にはきっと――――。
920 :
↑の中の人:2006/04/19(水) 19:19:08 ID:n+6Ett2y0
以上です。一ヶ月以上あいてたから、もう忘れられてそうですねw
とりあえず、これで終わりです。
一応エピローグも、近日に書き終えて、投稿しようかな、と思っています。
きっと今回も、誤字脱字あると思いますので、
なにかありましたら、よろしくお願いします^^
長々とすいませんでした〜
乙。
座薬に関してはそんなに突っ込まなくていいんじゃないのかw
座薬だから突っ込むんだろww
とか、思ってしまった俺ってorz
ちょっと座薬ネタしつこい。
郁乃スレでやればいいじゃない。
煮詰まったらSSでも投下してくれ。
the・ヤック
>>920 乙であります
なんだかじわ〜っときちゃったよ…
ささらルートもういっかいやり直してこようかなぁ
>>924 シンプル1500シリーズですか
愛佳「なんでやねん」
最近ちょっとしたSSを思いつき始めたのだが、
いまひとつ話がうまく繋げられなくて困ってるorz
1と4はなんとなく決まってるが2と3が思いつかない感じ。
まぁ、公開できる勇気はないが・・・
起承転結ができてない物書きはプロでもゴロゴロしてるからな。
>>930 別にそれにこだわる必要はないと思うが
俺的には起転々結とかもありだと思う
色んなところのSS読むと、起だけで話が終わってるのとか多いもんな。
むしろ起承承承でそのままフェードアウトするのが多い。でもシチュが萌えればそれもアリ
いや、ちゃんとイかないとスッキリしないから駄目
書いた人間は起のつもりだが、見てる方から言わせてもらえばどう見ても転です、とか
俺は最後がケツならなんでも良いけど。
みんなSS読むときに起承転結とか考えながら読んでるのか
俺は起承転結とか特に気にしない。SSを読まして貰えるだけで満足。
俺も起承転結とかあんまり気にしてないけど、句点打ってなかったり
誤字が多すぎたりする文章見るとそこで読む気なくしてしまうな。
俺は場面の描写だけで、話に意味の無いSSが嫌だな。主題が無いタイプ。
おまえの好みなんかどうでもいい
そういうのは、ソノシチュエーションというか萌えとかそういうのが目的なんじゃないのかなー
起承承結のマターリもそれはそれで。
月曜日がやって来ましたwktk
月曜日がやってきましたgdgd
河野家はたぶん来るだろうから、投下後は即次スレ準備した方がいいかもね。
もしくはもう950だから次行ってもいいんだけど。
容量まだあるから次スレじゃなくてもいいだろ
先に言っておくけど、河野家定期更新乙。
意地っ張りで毒舌でひねくれ者で、だけど愛佳のことが大好きな郁乃。俺はそんな郁乃が嫌いじゃ
ないし、そんな郁乃が、瑠璃ちゃんたちと友達になれたことを嬉しく思う。郁乃や瑠璃ちゃんが、
互いにふれ合うことで得るものがあったなら――なんてことも思ったり。派手に吹いてしまった牛乳
の後始末をしながら、愛佳にそんな話をしてしまう、ちょっと恥ずかしい俺だった。
愛佳が部屋に戻ったすぐ後、今度は珊瑚ちゃんがやって来た。るーことのたこ焼き議論に熱中する
あまり、俺を無視してしまったことを謝る珊瑚ちゃん。全然怒っちゃいない俺は、むしろその話題に
登場したチーズ入りたこ焼きの方が気になって、珊瑚ちゃんと食べに行こうと約束。喜ぶ珊瑚ちゃん
の、いつものハグ&キス攻撃を何とか防いだものの、それが不満な珊瑚ちゃんは、代わりにるーこと
キスすると言いだした! るーこをイケナイ道に目覚めさせるわけには行かず、結局、珊瑚ちゃんの
言いなりでキスしてしまう俺、でした……。
翌朝、帰ってきたタマ姉に起こされる。けど時計を見るとまだ6時前。とりあえず帰ってきたタマ
姉には「お帰り」と挨拶し、もう少し寝かせてもらうことに。
心地よい眠りの中、花梨や優季、みんなの声が聞こえる。夢、だろうか……
……ん〜、なんか、いい匂い。……きっと、バターが焼ける匂い。
その匂いに誘われ、目を開ける――
「おはよう、タカ坊」
「……あ、おはようタマ姉」
優しく微笑むタマ姉。ああ、そうだった。タマ姉、帰ってきたんだ。
で、まだ眠かったから二度寝して……、あれ? 後頭部の感触がいつもの枕と違うような……?
確認のため、手を伸ばして頭の下に――
ふにょ。
枕とは違う、けど柔らかいもの……
「あんっ、タカ坊ったら」
ペシッ。
いて、手を叩かれた。
「いきなり太股触るなんて、ちょっと大胆じゃないの、タカ坊」
ああ、タマ姉の太股触っちゃったのか……
……
……
……って、
「えええええっ!?」
慌てて起きて、振り返ると、ソファーに座ってニコニコ笑ってるタマ姉。その場所はさっきまで俺
の頭があった場所で、つまり、俺、タマ姉に膝枕してもらってたってことか!?
「え!? ちょ、た、タマ姉!?」
「起きるなりそんなに慌てて、どうしたのタカ坊?」
「あ、タカくんやっと起きた」
キッチンの方からこのみが駆け寄ってきて、
「おはよう、タカくん」
「あ、ああ、おはようこのみ……」
ふと辺りを見回すと……由真、愛佳、郁乃、るーこ、珊瑚ちゃんに瑠璃ちゃん、更には花梨と優季
までいる。つまり、俺はみんなが見ている中、タマ姉の膝枕ですやすや寝てたのか!?
……こ、これは、恥ずかしいぞ。
「あ、おはようたかちゃん!」
「おはようございます、貴明さん」
「……あ! お、おはよう……。
か、花梨と優季も帰ってたんだ」
何故かソファーの上で正座して、そう答える俺。
「はい、もう少しで朝ご飯ですから、待ってて下さいね」
優季はキッチンのテーブルの前に立って、朝食の仕度をしている様子。
「たかちゃん、じゃなかった、るーこのことが気になったから、朝イチで帰ってきたんよ。
たかちゃん、私がいない間、るーこに何か変わったことはあった?」
居間のテーブルに食器を並べつつ、花梨が尋ねてくる。
「あ、いや、別に」
「こら、タカ坊」
「え、なに、タマ姉?」
「花梨と優季に、挨拶は?」
挨拶? ――あ、そっか、花梨と優季だってタマ姉と同じく”帰って”きたんだから、
「お帰り、花梨、優季」
「うん、ただいま、たかちゃん!」
「ただいまです、貴明さん」
花梨と優季が笑顔で応える。――なんか、嬉しいかも。
寝具を片づけ、顔を洗い、服を着替えて(居間にみんながいるので、元・俺の部屋で着替えた)、
居間に戻るとすっかり朝食の仕度が整っていた。
居間のテーブルには、このみ、瑠璃ちゃん、珊瑚ちゃん、愛佳、郁乃、由真が座っていたので、俺
はキッチンのテーブルへ。こちらには、タマ姉、るーこ、花梨、優季がいて、
「どうぞ、貴明さん」
と優季に言われ、俺は優季のとなりに腰掛けた。
おや? テーブルの真ん中にあるのは、ホットプレート? こんなの、俺の家にあったっけ?
「これ、家から持ってきたんです」
疑問を口にする前に答えてくれたのは優季。
「優季の家から?」
「家に帰って、母と色々なお話しをしてたら、何故かこれの話になったんですよ。
昔――父がいた頃は、これでよくフレンチトーストとか、お好み焼きとか、焼肉なんかにも使った
んですけど、母と二人になったら何故か使わないようになって、ずっとしまってたんです」
そうか、優季の家、お父さんが離婚で……
「使わないまましまっておくより、貴明さんの家に持ってきた方が何かと使えるんじゃないかなって
思って。で、早速使ってみたんです、このフレンチトーストを作るのに」
優季が差し出した皿の上には、四分割され、きつね色に焼き上がった食パンが。――うわぁ〜、
焼きたてで、バターの匂いが食欲をそそるなぁ。そう言や俺も、フレンチトーストなんて随分久し
ぶりだなぁ。ガキの頃はよくお袋が作ってくれたっけ。
「それでは皆さん」
いつもの通り、このみの号令でみんな一緒に、
「いただきます!」
では早速一口――うわぁ〜、コレだよコレ! ふんわり柔らかくて、噛むとじゅわ〜って卵と牛乳
の味がして、ほんのり甘くて、バターも効いてて――美味いってマジで!!
「美味いっ!」
優季へ賞賛のサムズアップ。
「わぁっ、やった!」
手を叩いて喜ぶ優季。
「はむっ、はむっ、おいひーい!」
フレンチトーストを頬張るこのみ。こらこら、口にものを入れたまま喋るんじゃない。
「うん、美味しい。何枚でも食べられそう。
――あ、ねぇ由真、覚えてる? 前に二人で作ったよね、フレンチトースト」
「うんうん、作った作った。懐かしいねー。
あたしと愛佳がそれぞれ焼いて、出来たのを取り替えッコして食べたんだよね。
あたしが作ったのはちょっと焦げてたけど、愛佳、美味しいって食べてくれて、嬉しかったなぁ」
「アレは由真が無理やり取り替えて……」
「ん、何か言った?」
「あ、ううん! ほ、ホントに美味しかったよ、あのフレンチトースト」
由真と愛佳、二人の思い出にはいささか食い違いがあるようだが、敢えて追求はすまい。
「確かに美味いぞ。だが……
うーかべ、一つ尋ねるが、この料理はこのまま食べるだけなのか?」
「そのままでもいいんですけど、メープルシロップやジャムをつけても美味しいんですよ」
「甘さが控えめなのはそのためか。では、実際試してみるぞ」
テーブルに置かれたジャムやシロップをかき集め、それぞれフレンチトーストに塗るるーこ。
いつもならまず調理法を尋ねるるーこだが、それをしないのは多分、優季が作るのを見て覚えた
からだろう。作り方の次は食べ方もマスターしようということか。少なくともるーこがこのフレンチ
トーストを気に入ったのは間違いなさそう。
「ホンマに美味いなー。瑠璃ちゃんが作るのとはパンが違うけど、こっちもええなー」
珊瑚ちゃんの言葉が引っかかる。パンが違う?
「違うの、瑠璃ちゃん?」
俺がそう尋ねると、やや不満そうな顔で瑠璃ちゃんは、
「フランスパンや。フレンチトーストはフランスパンで作るのが正しいんや」
「え、そうなの?」
「当たり前やん。名前からしてフレンチ言うんやから、フランスパン使うのは当然やん」
「そうなの、優季?」
「え? いえ、私も初めて知りました」
優季もやや驚き気味の様子。それなら、
「愛佳たちは知ってた?」
「フランスパンを使うフレンチトーストもあることは知ってましたけど、どっちが正しいかは……」
「どうなんでしょう、環さん?」
いきなりタマ姉に話を振る由真。
「私もあまりフレンチトーストには詳しくないんだけど、そうねぇ……
同じ料理でも国や地域によって、食材が違うことってあるじゃない? それと同じでこの場合、
どっちが正しいとは一概には言えないんじゃないかしら」
まぁ確かにその通りだよな。カレーなんかも豚肉やら牛肉やら鶏肉やら、シーフードなんてのも
あるし。あ、確か羊肉を使うカレーもあったような……
「でも……、フランスパンやもん」
素直に認めようとはしない瑠璃ちゃん。そのクセ、自分の分はちゃんと食べていたりする。
「お姉ちゃん」
「なに、郁乃?」
「さっきの話、あれ、ホント?」
「さっきの話って?」
すると郁乃はムッとした顔で、
「あたし、お姉ちゃんのフレンチトースト、食べたことないんだけど」
「……え? えええっ!? そ、そう……だったっけ?
えっと、その、ご、ゴメンね郁乃。今度、郁乃にも作ってあげるから、ね」
「別にいい。優季先輩のフレンチトースト、美味しいから」
必死で謝罪する姉にそっぽを向いて、フレンチトーストを食べる郁乃。
恐らく、妹の自分さえ食べたことのないフレンチトーストを由真に食べさせた愛佳が気に食わない
のだろう。全く、郁乃のヤキモチにも困ったものだ――ん? ふと気付くと、花梨が妙に深刻な顔。
「どうした、花梨?」
俺が話しかけると、
「たかちゃん、どうしよう……」
「え、どうかしたのか?」
再度問いかけると、思い詰めた表情で花梨は、
「どうしよう……、コレ、美味しいよ!」
「は?」
イヤ、確かに美味しいけどさ、それがどうしたって言うんだ?
「タマゴサンドみたいにやわらかくて、ふわふわしてて、でもタマゴサンドじゃなくて、だけど美味
しくて……、こんな、こんな食べ物があったなんて」
「え、花梨、フレンチトースト食べたことないのか?」
「うん、初めて。
パンと卵のコラボレーションで、タマゴサンド以外にこんな美味しい食べ物が世の中にあるなんて、
私、今初めて知ったよ!
ねぇ、優季ちゃん!」
「は、はい!?」
いきなり大声で名前を呼ばれ、ビクッと驚く優季。
「作り方、教えて! お願いっ!」
手を合わせてお願いする花梨に優季は、
「あ……、ええ、いいですよ。
あ、そうだ。花梨さん、これから貴明さんのおかわりを焼こうと思ってたんですけど、よかったら
手伝ってもらえませんか?」
「うん、喜んで!」
ガタッと立ち上がり、優季のもとに駆け寄る花梨。優季からボールとさいばしを受け取り、俺の
おかわり用のフレンチトーストをその中から――って、
「ちょ、チョット待った! 俺、おかわり頼んだっけ?」
ちなみに俺が今まで食べた枚数は8枚。食パン2枚分。
他にもサラダやスープもあるし、フレンチトーストはもう十分なのだが……
しかし優季は当然のように、
「食べますよね、おかわり?」
「え? いや、その……」
「遠慮しないでください。ほら、まだまだ沢山ありますから」
花梨の持つボールの中身を見てみると――うわっ! 卵と牛乳を混ぜた液体の中に、ひたひたに
浸った食パンがどっさりと!
「貴明さん、お腹いっぱい、食べてくださいね」
「そうそう、たかちゃん、ここからはこの花梨ちゃんが焼いたげるから、どんどん食べてね!」
「あ、じゃあこのみも、おかわりー!」
「ウチもおかわり〜」
「あ、あの、あたしももう少しだけ、お、おかわりを」
このみ、珊瑚ちゃん、愛佳が手を挙げる。よかった、俺一人じゃなくて……。
このみたちだけじゃなく、由真やタマ姉もおかわりしてくれたので、用意されたフレンチトースト
は幸い、残さず食べ尽くされた。しかしやはり俺が請け負った枚数はハンパではなく、おまけに途中
で飽きたからと言ってジャムやらシロップやらをかけまくったのが裏目に出て、俺は食後のコーヒー
すら喉を通らない有様で、今はただ胃袋が無事に消化を終えるのを、ひたすらソファーに座って待つ
のみだった。
今日が日曜日で本当によかった。この状態で学校まで歩くなんて、考えただけでも……
ピンポーン。
おや、チャイムが鳴った。お客さんか?
正直、今は動きたくないのだが、お客様を出迎えるのは一応俺の役目なので仕方がない。、
腹が苦しいのを我慢しつつ、玄関へ。
「はい、どなたですか?」
玄関のドアを開けると、
「まいどー、宅配便でーす」
宅配便のおじさんが、大きめの段ボール箱を抱えていた。
「河野貴明さんは?」
「あ、はい、俺ですけど」
「こちら、河野貴明さん手渡し指定になってますので」
おじさんから段ボール箱を受け取り――うわ、重っ! 何が入ってるんだこれ!?
「では、確かに。ありがとうございましたー」
おじさんが去った後、受け取った伝票を見てみると……
「差出人は……雄二?」
雄二が俺に何を? 伝票には「PC関係」と書かれてあるけど、俺、あいつにPCのパーツとか
もらう約束なんかしてたっけ? うーん、全然覚えがないぞ。
しかも段ボール箱には「本人以外開封厳禁」とマジックで書かれてある。何なのこれ?
「貴明」
「うおっ!? 雄二、いつの間に!?」
「しーっ、大きな声出すな。貴明、今、お前の部屋に誰かいるか?」
「い、いや、みんな居間だから……」
「なら大丈夫だな、よし、それ持ってついてこい」
こそこそと階段を上る雄二。一体何なんだ?
つづく。
リアルタイム遭遇キタ━━━━━━≡゚∀゚)≡゚∀゚)≡゚∀゚)≡゚∀゚)≡゚∀゚)━━━━━━!!!!!
激しくGJ!
どうもです。第53話です。
とりあえず一週休んで、過去の話を読み直したり、TH2本編をもう一回やり直してみたりして
ました。
これで心機一転、と行きたいところですが、さて……。
GJです。
河野家があると月曜日がいいものに感じますよ。
毎週ありがとうございます。
河野家北ーーーヽ(`・ω・´)ノーーー!!
フレンチトーストはとても美味しいものですよねw
先週はお休みされましたけど、もう一度TH2をやり直したりする辺りが流石作者様であります。
続きがとっても気になるので、来週も頑張って下さいね。
河野家キタ─wwヘ√レvv〜(゚∀゚)─wwヘ√レvv〜ー!!
やっと月曜日が来た感じがする…w
>>959 河野家喜多ーーー!!!
なんか、久しぶりって感じですね〜。
フレンチトーストと言えば、ダスティホフマンのクレイマークレイマーを
連想してしまう漏れはオジサンでしょうか?
つうか、雄二はダンボール箱の中に潜んで喜多のか^^;
どうせ隠しカメラを仕掛けるとか、ロクなことを企みそうにないけどw
以前のどなたかの書き込みによれば、1年前の4/26が第1話だったそうだから
だいたい連載一周年ですか。 おめでとうございます!
先日時間を作って、第1話から読み返しながら年表ならぬ日表を作ってみたら
1年の連載中に、河野家では19日しか経ってないのですねw
作った日表もupしようかと思いましたが、さすがに思い止まりました^^;
どこまで続くかは作者の方のみぞ知るところですが、これからも
楽しい河野家を楽しみにしてます。
で、今週の「向坂家へようこそ」はマダー?
あ〜、あと、そういえば優季の家って母子家庭なのでしたっけ?
離婚とは書いてあったけど、その後再婚したかどうかは不明だったような。
もし母子家庭だとしたら、一人きりの母親を残して河野家へ入り浸るというのは
優季の母親には寂しいことですね。
河野家にようこそキターーー!!!!!
面白い!!面白いですぞ〜〜!!!フレンチトースト食べたくなったよ。
再婚して無くても男の一人や二人いるだろ。
「河野家」での優季母が娘が邪魔だったとか。
先日お伝えした通り本編20話(以降皆さんの評価次第で続編)なんですが
取り合えず原稿は既に仕上がっております。後は追加と修正をするだけです
それと実は本編20話の予定でしたが2部構成となってしまいましたが、
投下予定は先日と同じです。それまで待ってて下さいね。
それと河野家にようこそはいつも読んでおります。
面白い展開ですね。今後頑張って書いて下さい。
「山崎荘」で登録しておけばおk?