第二回 葉鍵板最萌トーナメント Round12!!
某春休みのある朝。小坂家リビング。
「おじゃましまーす。……ドタドタ……あれ? 浩平?」
「あー、おはよう長森(振り返らずに手元を見たまま)」
「あ、うん。おはよう。……浩平がこんな時間に起きてるなんて珍しいね。
……熱心に何見てるの? それ、本? ずいぶん年季が入ってるね」
「まーな……実はこれ、みさおの日記なんだ」
「みさおって……浩平の妹さんの?」
「ああ。昨日、由起子さんにもらったんだ。オレがみさおのことを忘れてたような感じだったから、
いつかオレがみさおのことを思い出すまでって、ずっと取っててくれたんだってさ」
「ふーん……由起子さんと、みさおちゃんの話したんだ」
「ああ。昨晩は珍しく由起子さんが早く帰ってきてな。
たまにはと思って昔話をしてみたんだけど、オレからみさおのことを話し出したから随分驚いてたな」
「まぁ……ずっと忘れてたからね。それで、読んだの?」
「いや、まだ開けてすらいない」
「……どうして?」
「えーと、それでな、長森。……一緒に読んでくれないか?」
「……わたしが一緒に読んでいいの?」
「長森ならみさおも許してくれると思うぞ。何しろオレの恋人だからな。
それに……ひょっとしたらいつか、みさおのお姉さんになるかもしれないわけだし(真っ赤」
「え、あ……う、うん(真っ赤
……でも、浩平だけが読んだほうがいいんじゃないかなぁ……
わたしだったらやっぱり、知らない人に日記読まれるの恥ずかしいし」
「いや、長森なら大丈夫だ。オレには分かる」
「えっと……ひょっとして浩平、一人で読むのが怖い?」
「そ、そんなことはないぞ。
ただページをめくろうとすると、胸がどきどきして手が震えて、どうしても先に進めないだけだ」
「……はぁ。分かったよ。浩平は相変わらず変なところでかわいいね」
「か、かわいいとか言うな!」
「だってかわいいものはかわいいもん。くすくす……それで、どうするの? わたしがめくろうか?」
「いや、それくらいは自分でやる。じゃあめくるぞ」
「うん」
登場人物紹介
「……なんで日記なのに登場人物紹介があるの?」
「……みさおは読書家だったからな。きっと何かの物語の影響を受けたんだろう。
漢字もあいつが書けるようなものじゃないし、そのまま写したんだろうな」
「ふーん……やっぱり兄妹なんだね」
「何がだ?」
「うん。よく分かり合ってたんだなぁっ……て」
「……まあ、仲は良い方だったと思うが……続き読むか」
・みさお
しゅじんこう。いつもお兄ちゃんになかされてるはっこうのびしょうじょ。
・おかあさん
ははおや。みさおにはやさしいけどお兄ちゃんにはきびしい。
・お兄ちゃん
みさおをたたいたりけったりしてなかせるひと。
いたずらずきで、よくおかあさんをおこらせている。
たまにみさおのおなかにらくがきをしたりもする。
ひかえめにいってばかだとおもう。わたしのくろうもひといちばい。
もうすこしおちついてもらいたい。
「……浩平、昔から全然変わってないんだね」
「……否定できない。というかこれ、登場人物紹介か?」
「浩平のことばかり書いてるね」
「……そうだな。ロクなこと書かれてないけどな……はぁ」
「わ、暗いため息。……あれ、なんだろ? 続きが小さい字で書いてるよ」
「ん?」
でも、やさしいからすき
「あはは。よかったね浩平。嫌われてるわけじゃ「ううぅ」……ってなんで泣いてるのーっ!?」
「うううぅぅぅぅ……だ、だってみ、みさおが……オレのこと好きって……うう」
「ああっもうっ……よしよし、よかったね、浩平」
「……ずっとオレ、自分がいい兄だったかなぁって思ってて……もっと優しくしてやればよかったって……」
「……大丈夫だよ。やさしいからすきって書いてあるもん。浩平の優しさ、ちゃんとみさおちゃんに届いてたんだよ」
「うう……みさおーみさおー」
「よしよし(……まだ登場人物紹介しか読んでないのにこれじゃあ、この後大変だろうなぁ)」
「えーと、もう大丈夫だよね?」
「すまん長森。世話をかけた」
「それは構わないけど……続き、読む? 今日はもう止めておこうか?」
「いや大丈夫だ」
「それじゃあ続き読もっか」
「ああ」
○月○日
お兄ちゃんにけられた。
きょうはしんくうとびひざげりごっこだっていってた。
まえにもじゅうろくもんきっくごっことかせんぷうきゃくごっことかやられたことがあるけど、
そのなかでもいちばんいたかったからたくさんないてしまった。
○月○日
お兄ちゃんにおなかにらくがきされた。
たしかにみさおのねぞうもわるいけど、こんなことしててもなおらないようなきがする。
どうすればねぞうはよくなるんだろう。
○月○日
たまにはおままごとでもやろうってお兄ちゃんにいってみたけど
「それでもおまえはおとこかーっ!」っておこられた。みさおはおんなのこなのに…。
そのあとからてチョップごっこでたたかれた。
○月○日
きょうはアイアンクローごっこでお兄ちゃんにあそばれた。
お兄ちゃんはみさおがないたらあやまるけど、あやまるぐらいならはじめからしないでほしい。
ってお兄ちゃんにいってみたら「ししはこどもをたににつきおとすんだぞ」っていわれた。
みさおはお兄ちゃんのしょうらいがしんぱいです。
「こいつ殺してやるーっ!! オレのみさおを毎日毎日酷い目にあわせやがってぇぇぇっ!!!」
「浩平っ! 落ち着いて浩平っ! それ浩平のことだから!!
毎日手を変え品を変えみさおちゃんを泣かせ続けてたのは間違いなく昔の浩平だからとりあえず落ち着いてっ!」
「……はぁはぁ……再びすまん長森。世話をかけた。もう大丈夫だ。それにしても、むぅ……我ながら酷いな」
「……本当だよ。どうしてこれで、やさしいからすき、なんて言葉が出てくるんだろうね」
「……それを言ったらお前もそうだと思うんだが」
「そうかもしれないけど、わたしは浩平のいいところも一杯知ってるもん」
「そ、そういう恥ずかしいことをサラッと言うなっ」
「くすくす……きっとみさおちゃんも、書いてないけど、浩平のいいところ一杯知ってたんだろうね。
んー……浩平はみさおちゃんが泣いたらどうしてたの? 泣かせっぱなし?」
「一応、泣き止むまでずっと頭を撫でてたな。まぁ……すぐに笑顔になってたけど」
「ほら、やっぱり。そういうところが優しいんだよ」
「……そもそも原因はオレなんだけどな」
「えっと……不良の人がちょっと優しくすると急に善人に見えるとかあるよね。そんな感じじゃないかな?」
「……あまり嬉しくないな」
「あはは。まぁ優しいって書かれてるし、いいんじゃない?」
「……そうだな」
○月○日
お兄ちゃんといっしょにおふろに入った。お兄ちゃんはみさおのからだじゅうをあらってくれた。
あらってくれるのはいいんだけど、すみからすみまでかんさつするのははずかしいからやめてほしいとおもう。
おかえしにあらってあげようとしたらきょひされた。じぶんばかりずるい。
「あ、前に浩平が言ってた一緒にお風呂に入ったのって、みさおちゃんのことだったんだ」
「……そうだっけ?」
「そうだよ。あの後考えてみたけど、やっぱり心当たりなかったもん。浩平が勘違いしてたんだよ」
「……そうだったのか」
「それにしても、やっぱり浩平はえっちだよ。すみからすみまで観察してたんだ」
「まあ好奇心旺盛なガキだったからな」
「……浩平、みさおちゃんに変なことしてないよね」
「するか馬鹿っ! だいたいこの日記ってまだ小学生になる前ぐらいのことだぞっ」
「そ、そうだよね。ごめん」