【バカね】久寿川ささらスレ その3【本当にバカ】

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684久寿川ささら―Snowman―
オーバーブッキング? 
分厚いコートを羽織ってロビーに駆け込んだささらは、極上の愛想笑いを振りまくホテルマンから、その言葉を聞いた。
残念ですが、お連れ様のお部屋は既に先約がございまして。
あ、ですがもちろん貴女様のようなお嬢様のためでしたらご用意できますとも。
最上階のプレミアスイートをご用意致しましょう。
ささ、とコートのえりに手をかけようとするホテルマンを突き飛ばし、ささらは蒼白な顔で彼をにらみつけると、この日のためにと色々と持ってきた荷物を放り出して、真冬のストリートへと駆け出していった。


時刻は午後十一時を回ろうとしていた。
広場の人だかりも一人減り、二人減り、みんなそれぞれの我が家で、ホテルで、暖かい部屋で大切な人とクリスマスイブを祝いに帰っていく。
ささら、遅いよな。
雪を払いのけ続けて、すっかりふやけてしまった手袋の中で、かじかんだ手を握り締めながら、俺はぼんやりと呟いた。
夜中になるにつれて雪はますます降り積もり、ツリーの電飾が切れるのを防ごうと、何人かの係員が雪かき棒で持って必死で雪を叩き落しているのを見やる。
目もくらむような高層ビルで区切られた狭い空を見上げ、そして、もうすっかり冷え切ってしまった二つのプレゼントに目を落とす。
いくたりかの雪がついて、すっかり濡れてしまった包装紙のべたべたした感触を何とか取り除こうと、表面をこわごわと拭いてみる。
べり、と小さな音を立てて、テープが解け、雪の上に落ちていく。
あ、とそれを追いかけようと手が伸び、そこですっかり寒さで強張っていた足が支えきれなくなって、俺は雪の上に倒れこんでしまった。
突き刺さるように冷たい雪から顔をもぎ離し、慌てて立ち上がって、かじかんだ手でプレゼントの箱を探す。
大きな方はすぐに見つかった。
だけど、小さな方は。
そんな、あれが無いと。必死で、必死で探す。
傍目にみっともないぐらいに雪をかき回し、蹴り飛ばして、全身雪まみれになって、それを探す。
見つからない。何で、どうして。
悔しさに涙がにじんでくる。それを拭いもせずに、俺はいつまでもいつまでも探し続けていた。
685久寿川ささら―Snowman―:2005/12/14(水) 00:34:59 ID:CBJBLHLE0
無くなってしまったんだ。
散々探し回って、ジャケットがずぶ濡れから薄く凍りかけはじめた頃になって、俺はようやくそれを覚った。
よろめく足でベンチを探し、雪を払いのけもせずにその上から腰をおろす。
足腰が軋むように痛むが、そんなもの、気にならなかった。
せっかく、ささらに届けに来たのに。
半年振りに会う彼女への、プレゼントだったのに。
見上げるクリスマスツリーが、ぐにゃりとゆがんだ。
たった一つだけ残った、大きな箱をぎゅっと胸に抱きしめた。
ぽたぽたと、涙がその上に零れ落ちた。
もう、クリスマスツリーも、その電飾も、周りの煌びやかな全てが見ていられなかった。こんなんじゃ、ささらに会っても、恐ろしい魔が後ろから突き動かした。
足が勝手に動いた。逃げようと、ベンチから立ち上がろうと、尻を浮かせた。
ダメだ、嫌だ、俺は、ささらとここで。
唇を噛み締めて、もう一度顔をあげて、まばゆいばかりのクリスマスツリーを見上げる、その冷え切った頬に、暖かな何かが触れるのを感じた。




やっと、着いた。
息せき切って走ってきた荒い息遣いのままで、ささらは、ほっとため息をついた。
多分、すごく寒いと聞いて準備してきたのか、ずいぶんと着膨れして、まるで雪だるまのようになってしまった想い人の背中に、ぎゅう、としがみつく。
肌の感触は、感じられないけれど、だけど、ドレスと、分厚いコートの向こう側で、確かに、あの人の鼓動を感じる。
ごめんなさい、遅くなって。
触れてみるとびっくりするほど冷たい頬を、少しでも暖かくなるようにと、何度も何度も撫でさする。
懐かしい感触。
二人っきりの時に、良くおどおどしながら、指を伸ばして、撫でた頬。
ふ、ともうこんなにも近くにいるはずのあの人が泣き声を漏らす。
どうしたの? と驚いて聞いてみる。
けれど、あの人は、何も応えずに、小さな子供が泣くように、胸の大きな丸い箱を抱きしめて、ただ、しゃくりあげていた。
包装の破れた端から、かすかに、この季節によく嗅ぐ匂いが立ち上る。
ひょこ、と横から彼の顔を覗き込んで問いかける。