【バカね】久寿川ささらスレ その3【本当にバカ】

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681久寿川ささら―Snowman―
まるで雪だるまみたいな恰好、と向かいの幼馴染に目を丸くされた自慢の防寒具も、本場の寒風には手も足も出なかった。
あっと言う間に身体の芯まで凍えてしまい、俺はあちこちの店に入っては暖を取り、冷やかしだと追い払われては別の店に、と店から店を転々としながら、これからどうしようか、と寒さで耳の裏がずきずきと痛む頭で考えていた。
スノーボールや色とりどりのアクセサリー、ささらに似合いそうな高級ブランドのブティック、宝飾店などの窓をぼんやりと眺める。
分厚いガラスの向こうに映るそれらは、日本では見ることも出来ないような煌びやかな輝きに包まれていた。
これが、こっちのクリスマスなんだな、とふと思う。
ささらに会ったら、まずこれを見せてやろう、絶対に喜ぶだろう、なんてはりきって持ってきた、とっておきのプレゼントが入った旅行鞄を見下ろし、深くため息をつく。
ささらは、喜んでくれるだろうか。
高価な物を贈ったから喜ぶ、そんな女性なんかじゃないことはわかっているのだけれど。
かじかんだ手で旅行鞄のジッパーを開ける。中に入っているのは、手のひら大の小さな箱と、一抱えぐらいありそうな大きな箱。
まだ、機内やホテルの温もりが微かに残っているそれらの包装紙を撫で、そこからわずかな暖かさをもらって、俺はロックフェラー・センタービルに向かって歩き始めた。
682久寿川ささら―Snowman―:2005/12/14(水) 00:31:11 ID:CBJBLHLE0
長々と続いていた教授の話が、唐突に止まった。
主は来ませり、と柔らかなアルトがチャペルの方角から聞こえてきた。
皆さん。教授が呼びかけた。
今日は我らの主がこの世にお遣わされになった喜ばしき夜。その御名を褒め、讃えましょう。父と子と聖霊の御名の下、皆さんに素敵なクリスマスが訪れん事を。
だが、そんな恍惚とした表情を浮かべる教授の前で、共に手を組む生徒は一人もいなかった。
みな我先に出口に殺到し、コートもマフラーも手づかみのままで、クリスマスムード一色の街へと繰り出して行った。
ごほん、と咳払いを一つして、教授は一人残ってノートを片付けている聴講生を見やった。
君はいいのかね。ぐずぐずしていては、せっかくのイブが終わってしまうぞ。
半ば腹立たしげに言う彼にくすりと微笑を贈って、ささらは落ち着いた声で答えた。
大丈夫です。彼は、ちゃんと待っていてくれていますから。


講義が遅くなるかもしれない、なんて言っていたっけ。
ロックフェラー・センタービルの前の、立錐の余地も無いほどに溢れかえっている人ごみを眺めながら、俺は腕時計をもう一度見やった。
聞き取れない言葉で盛り上がる人々、みんな口々にクリスマスソングを口ずさみ、知り合いもそうでない人も肩を組んで、見上げるような大きさのクリスマスツリーの前で踊っている。
あちこちで大きな白い袋を背負い、プレゼントを道行く人に渡しているサンタクロース。
広場の一角にあるスケートリンクでは子供たちが勢い良く氷を蹴ってきゃらきゃらと笑い声をあげている。
時刻は午後十時を過ぎようとしていた。
見上げた時計の向こうから、ひそひそと雪が落ちてくる。
頬に当たり、溶けていくのをぼんやりと感じながら、もう、泊まる場所なんて無いだろうな、とちらと思う。
雪だ、雪だ、人々の声が一段と高くなる。
子供たちも、雪を追いかけてはしゃぐ。
そんな光景を見ながら、俺は腕の中に抱えているプレゼントの箱をぎゅっと抱きしめていた。