バスが鉄橋を渡ったのは、何時の事だっただろう。
思いもよらぬ大渋滞に巻き込まれて、半ば眠りかけていた俺は硬いプラスチック製のシートからようやく身を引き剥がしてステップを降り、曲がった腰を思い切り伸ばして、辺りを見回した。
あちこちからスチームの白い煙があがっているストリート、原色のタクシー、足しげく行き交う様々な恰好をした人々。
彼らが話しているのはもちろん自分には聞き取れない異国の言葉で、その何人かが御のぼりさん丸出しな自分を一瞥して失笑を漏らす。
そんなにおかしい恰好だろうかと、自分が着ている分厚いジャケットにトレーナー、それに手に持った数日分の着替えと洗面用具が入った旅行鞄を見やる。街中を歩くことになるから、と随分荷物は減らしたはずなんだけど、それでもやはり見た目には奇異に映るものなのだろうか。
想い人との半年振りの逢瀬には確かに似つかわしくない、分厚いジャケットの前を合わせ、地下鉄の乗り場へと降りる。
ロックフェラーセンタービルと、今夜ささらと二人の夜を過ごすホテルとに一番近い駅を巨大な迷路のような路線と街路の見取り図から探し、駅員を捕まえて、ほとんどジェスチャーだけの会話でやっとの事で切符を手にする。