【バカね】久寿川ささらスレ その3【本当にバカ】

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662名無しさんだよもん
久寿川ささら―Snowman―


ニュージャージー州、ニューアーク空港。
合計十二時間以上の空の旅に強張った足を引きずるようにして、俺はタラップを降りた。
カード大のクリアファイルにレシートのようなチケットを挟んだだけの航空券に、真新しいパスポート。視界に飛びこんでくる、成田とは比べ物にならない巨大なコンコースを見て、それらを取り落としそうになる。
書いてある文字の中から、日本語を探し出すだけでも一苦労で、団体旅行客らしい中年男女の集団の後ろにひっついて、入国審査を受け、税関を通り、手荷物受け渡し所を抜けて、巨大なバスロータリーに出る。
皮膚を突き刺さんばかりの冷たい風。
冬の東海岸は寒いわよ、なんて母親が言っていたのを思い出す。
せっかくだから、時々遊びにいらっしゃい、などと言う言葉を邪険に流してしまっていたのを、今さらながら、少し後悔する。
たどり着けるのだろうか。無事に、会えるのだろうか。
夏休みの間、必死で働いたバイト代を両替所でありったけドルに換金し、トレーナーの内側にしまう。首筋がうすら寒くて、マフラーをぎっちりと巻く。
目的地、ロックフェラーセンターまでは、ここから。
ごう、と再び強い風が吹く。ガラスのように硬い色の空を見上げる。
時刻は午後五時。
手近に待機している大型バスに乗り込み、一番後ろの席に陣取って、目的地はマンハッタン島のある方角を見やる。
直線距離ではそんなに遠くないはずなのだけれど。
空港の施設に隠れて、見えない島の方をそれでも見つめながら、俺は小さく呟いた。
ささら。