†††† 麻枝&Key葬式会場 死屍累々編 ††††
麻枝は罵倒を渇望していた。元来彼は被虐愛好者である。
彼には音楽の才があった。だがそれは彼に罵倒をもたらさなかった。
故に彼はシナリオを書いた。造形すらままならない原画のもとで。
だが強烈な電波と糞にまみれたその作品は絶賛で迎えられた。
麻枝は諦めなかった。次回作では幻想と陵辱を散りばめて罵倒を求めた。
その作品は稀代の名作として受け入れられた。
麻枝は混乱した。そして賞賛の原因を上司に求めた。
この会社では罵倒して貰えない。それがkeyが出来た理由である。
罵倒を求め麻枝は万全の布陣を引いた。
まず企画を久弥にすること。悪意に満ちたキャラ造型で彼の右に出るものはない。
そんな彼の企画ならきっと良識あるユーザが罵倒するであろうと。
四次元絵師いたるを継続すること。彼女の七瀬転倒絵は伝説ともいっていい。
彼女の技量が上がることなど考えられない。きっと作品は最低になるであろうと。
この万全の体制のもとで彼は久弥の企画を無視し荒唐無稽なシナリオを書き上げた。
その作品は社会現象を引き起こすほどのヒットとなった。
麻枝は泣いた。辞めてやると思った。しかし先に久弥が辞めてしまった。
さらにそんな彼の元に、涼元をはじめとする新たなスタッフも集まった。
麻枝は考えた。辞めるのはいつでも出来る。だがもう一度頑張って糞ゲを作ろう。
そして思いっきり罵倒して貰おうと。
彼は集まったスタッフに出鱈目に書かせた。それを彼独自のスパイスで体裁を
でっち上げ、エンディングも適当に誤魔化した。
原点回帰である。手抜きこそが罵倒の第一歩であると彼は信じた。
その作品は数多の議論と解釈を生み、ついには映画化されるに至った。
麻枝は灰になった。業界のカリスマに祭り上げられた彼を誰も罵倒してくれない。
開発室で虚しく音楽を聴くだけの日が数年続いた。
しかし麻枝は不屈の男であった。もう一度、もう一度だけ糞ゲを作るんだ。
執念で彼はシナリオを書き上げていった。
何を書けば罵倒されるのかなどもう分からない彼は全てを込めてシナリオを書いた。
沢山書けば、何か1つくらいはユーザ様の逆鱗を踏むだろうとの憶測に基づいて。
その作品は静かな満足をもって受け入れられた。
非18禁も叩かれず、いたる絵も突然変異を起こし、またもや麻枝は罵倒されなかった。
しかし今回彼ははじめて希望を見出した。魁である。
前代未聞の叩きが魁に集まった。麻枝の渇望する罵倒が、である。
麻枝は歓喜を抑えつつ冷静に徹底的に魁を分析した。そしてついに結論を得た。
長年の想いを込めて、ゆっくりと、そして力強く、麻枝はキーボードを叩いていく。
これはある伝説の終わりであり、新たな伝説の幕開けである。
智代アフター 〜It's a Wonderful Life〜