きもい造語だな
まったくだ
捻りない、語呂微妙、性格を区分分けしてる時点でナンセンス、いかにもオタクっぽい
ツンデレは良くてクーデレはダメなのかよ
おまいら、いいかげんスレ違いですよ、と。
下校途中の何時もの帰り道。
普通なら家に直行するかゲーセンにでも寄るんだけどその日は確か何時も買ってる漫画
の新刊が出てるのを思い出した俺は商店街にある本屋へと向かった。
「まさかこんなに出てるとは…」
最近本屋に行ってなかったせいか目当ての本以外にも新刊が出ていてついつい散財して
しまった。これじゃあ今週末は家に居ることになりそうだな。
そのまま商店街から家へと帰ろうとした所でふとスーパーの方に目を向けるとそこに入
っていく見慣れた後姿を見つけた。その後姿を追ってスーパーの中に入り追いつくと俺は
その子の後ろから肩を叩いた。
「よっ、ミルファ」
「あ、ご主人様…」
いきなり肩を叩かれたのに一瞬びくっとするも俺だとわかったのか、ミルファは俺の方
を見るとふぅとため息をついた。
「なぁ、ミルファ。いい加減俺のことをご主人様って呼ぶの止めない?」
彼女たっての希望で俺の家に来て専属のメイドになってくれたのは助かるし嬉しかった。
しかしうちに来てからと言うもの彼女は俺の事を「ご主人様」と呼ぶ。俺としてはそん
な堅苦しい呼び方はしてもらいたくなかったから名前で呼んでくれと言ったのだが彼女が
頑として認めなかったので結局ずっとこの調子だ。
仕事は出来るしまったく問題は無いんだけどこれじゃあこっちが疲れちゃうよ。
「ご主人様はご主人様です。私にご主人様をお名前で呼ぶ資格はありません」
「うーん、俺は別にご主人だとか思ってないんだけどなぁ」
「私はメイドロボです。そしてご主人である貴明様に仕えてるのですからそう呼ぶのは当然です」
そう言いながらミルファはカートを押しながらそこに今晩の材料を入れていく。
珊瑚ちゃんは
『みっちゃんは貴明の専属のメイドになるって意気込んでたで〜☆』
って言ってたけど本当なのかなぁ?まぁミルファ自身が俺のところで働きたいと言って
くれたのは確かなんだけどこれじゃあどことなく寂しいものがある。
イルファさんとはてんで大違いだな、こりゃ。
「ご主人様は何故ここにいらしたのですか?」
彼女が今日の夕飯のメインディッシュなのか魚の鮮度を吟味しながら俺に質問をしてきた。
「本屋に用事があってね。で、買い物が終わったときにたまたま店に入ってくるミルファ
を見かけたからさ、追っかけてきた」
「そうですか…」
買う魚を決めたのか、籠に魚のパックを入れるとさっきよりも少し足を速めて次へとい
ってしまう。あれ?今、ミルファの顔赤くなって無かったかな?
イルファさんは良く顔を赤らめてるのを見たことはあったがミルファと会ってから彼女
が顔を赤らめることなんて記憶に無かった。気のせいだろうか。そのままミルファと並ん
で話をしながら買い物をし、買ったものを袋に詰めるとそそくさと彼女は袋を持って店の
外へと出てしまった。
「なぁ、ミルファ。片方持つよ」
彼女の両手には女性が持つには重そうな大きさの袋が握られている。メイドロボなのだ
から重さなど意にも介さないのだろうが仮にも女性だ。それを黙って見てられるほど俺は
ものの理解をしている人間じゃない。
まぁお人よしとか言われるのかもしれないけどな。
「結構です」
その彼女の一言が俺に重くのしかかる。
予想はしていたけれどもこうもあっさりとNOと言われるといささか凹んでしまう。
商店街を出て人通りが少なくなったところで俺はもう一度ミルファに聞いてみた。
「なぁ、持たせてくれよ。これじゃあ俺の思う通りに行かなくて困るんだよ」
困る、という俺の発言に対してミルファが疑問を浮かべた表情をしてきた。
恐らく荷物を持つ作業を俺に託さないと何故俺が困るのかが演算しても理解できないようだ。
「何でご主人様が困るんですか?」
「いいから。はい、渡して」
「はぁ…」
納得は出来ないようだが俺の言葉を断りきれずにしぶしぶ俺に荷物の片方を渡してくれた。
ギュッ
「ご、ご主人様?」
「こうしたかったんだ。駄目かな?」
「い、いいぇ…。全然問題ないです…」
俺に荷物を渡すことによって空いたミルファの手をぎゅっと握ってあげる。
俺の家に居て俺の身の回りの世話をしてくれる彼女に何かお礼みたいなものがしたくて、
それと何となくだけれどこの夕焼けに染まっているこの帰り道を彼女と手を握って帰って
みたくて…と、そうしたかった理由はいたって単純だった。
俯いてしまった彼女の方を見てみるも逆光のせいと夕焼けの赤さで彼女の表情を窺い知
ることは出来ないがまぁ怒ってないみたいだから問題ないか。
俺は変わらずのスピードで歩いていたつもりだったのだが、少しずつミルファが後ろに
くるようになってきてしまった。彼女の歩くスピードが遅くなったのだろうか。少し気に
なった俺は彼女に聞いてみた。
「ミルファ?どうした?」
「ゆっくり…少しだけゆっくり帰りませんか?」
「ん?あぁ、構わないよ」
特に何を話すわけでもなく、時々聞こえてくる子供の声と通り過ぎる車の音以外は静か
な道を二人でゆっくりと歩く。
俺の少し後方にミルファが居る状態なのだが彼女はその存在をハッキリと教えるように
俺の手をしっかりと、ギュッと握ってきてくれていた。
「貴明…様」
「ん!?ミルファ、今俺の事名前で呼んだ?」
「はい…い、いけませんでしたか?」
「いいや、凄い嬉しいよ」
今まで望んでいた事がやっと叶った。俺の家に居る限りは俺の家族も同然なんだ。そん
な彼女に名前で呼んでもらえたのが俺は嬉しかった。
「赤いな」
「え?わ、わ、私がですか?」
俺の一言に対してわたわたと急に慌てるミルファ。何時もは沈着冷静な彼女の慌てっぷ
りについ吹いてしまった。
「ぷっ、違うよ。空。良い夕日だなと思ってね。にしてもミルファが慌てるのなんて初め
て見たなぁ〜」
「笑わないでください…」
俺がミルファを軽くからかうと彼女は不満そうな声をあげつつも再度俺の手を強く握っ
てくる。それに俺も彼女のその小さい手を握り返してあげた。
何となく少し熱い気がするけど…ずっと握ってるせいかな。
そのまま俺は今日あった事を話しながら足を進める。彼女はそれに対して何時もどおり
の相槌を打ってくる。さっきは何時もと違う部分を見せてくれたけどやっぱりミルファは
何時も通りみたいだ。
歩いていれば家には着く。
何時もよりものんびり歩いたせいだろうか日はほとんど沈み、少し暗くなり始めた頃に
やっと家に着いた。
玄関に入り、手を離そうと俺が彼女の手を握っていた力を緩めたところで彼女は逆に一
層強い力で俺の手を握ってきた。
「また…また今度一緒に買い物にいってくれますか?」
いきなりの予想だにしていなかったお誘いにビックリした俺は彼女の方へと振り向く。
そこでやっとわかったが彼女の顔はまるで夕日のように赤くなっていた。
気のせいかそのミルファの目は潤んでいる気もする。その始めてみる女性らしい表情に
心臓がバクンと弾むのがわかった。
「あ、あぁ。明日も用事は無いから同じくらいの時間に商店街に行くよ」
「わかりました…じゃあ私は夕飯を作りますので失礼します」
そのまま彼女は俺から買い物袋を受け取ると会釈をし、早足でキッチンへと行ってしまった。
「少しは心を開いてくれた…のかな」
俺はもう誰も居ない玄関でポツリと呟く。
心臓に手を当てるとまだバクバク行っている。やっぱり女性に対して慣れてるわけじゃ
ないんだなと苦笑しながら俺は部屋へと向かった。
その日のミルファが作ってくれた夕飯は何時もよりも美味しかった気がした。
クーデレミルファで想像したら出来たんで投下してみました。
何か違和感が…ツンデレも想像したんだけど上手くいかなかったんだよぉ…orz
そういえば書庫がリニューアルしてますね
>>526 …乙w
ミルファっていうより、心のあるセリオって感じだなぁ
もっと想像して文にしていってホスィ。
このタイプはパイオニアにセリオがいるから新鮮味はないな。
まあ今後もがんばってくれ。
>>526 何時ものって言い回しがあの人っぽいな…
日本語変だし句読点ないし内容ないしキャラつかめてないし
つーか多分クーデレを分かってないとおも
>>530 擬音と、語尾に…一つ。気がした、思うなんかの曖昧感情表現の多用も追加してくれ
>>533 この前、ふたばの礼儀知らずが2ch語で掲示板に書きこんでたな…
このスレの住人はそんな事しないよな?
「38度5分…今日は休んでたほうがいいね」
「めんぼくない…」
今日も何時も通りに起きて学校へ…と思ったのだが起き上がろうとした瞬間に自分の体
の異常に気づいた。全身にけだるさがあり、頭も痛い。寒気もするし熱っぽい。
どうも昨日の雨に濡れた時にすぐに体を温めなかったのと夜に風邪を引いてもおかしく
ない格好で寝てたのが災いしたみたいだ。
全然1階へと降りてこない俺が寝坊しているものだと思ったミルファが怒りながら俺の
部屋へと入ってきた時にその異常に気づいて今にも泣きそうな、というか声は既に泣き声
にも近い状態で慌てながら氷枕と毛布、そして体温計を用意してくれた。で、測ったら熱
が十分にあったという事で今日は学校を休むことになってしまった。
「もぅ、ちゃんと掛け布団被らないで寝るからだよ?」
怒ってる、というよりも叱る様な口調で言われると反論のすべが無い。
彼女の方を見るとそれはもう優しい笑顔でこっちをみてきていて恥ずかしさが募る。目
をそらすように体勢を変えてもずっと見つめられているのが分かってしまい、自分の部屋
なのだがどことなく居場所が無い感じを受けてしまう。
「あ、そうだ。ミルファ、このみに学校を休むこと伝えてきてくれないか?このみに言っ
てくれれば学校の方にも伝えてくれるからさ」
「そうだね。じゃあ今からちょっと出てくるからおとなしく寝ててね。朝食は後で作り直
してあげるから待ってるんだぞ」
「わかった。頼むな」
「りょーかいしました☆」
ミルファが部屋を出てこのみの家へと言伝に行ってくれた。ずっと見つめ続けられる恥
ずかしさからやっと解放された事に安堵の息が漏れた。そんな息も熱さを持っていて喉を
焼いてくる。氷枕と額に張った冷却シートで頭が少し楽になったところで喉の渇きを感じ
たので1階へ降りようと体を上げた所で外を眺める。このみの家の玄関の方を見た所でミ
ルファが誰かと話してるのが分かった。そのまま見ているとこのみが家から出てきてミル
ファに抱きついてから学校へと向かっていくのが分かった。
どうやらミルファが話してるのは春夏さんのようだ。声は聞こえるわけが無いので内容
は分からないがミルファが笑ったり、両手を振って何かを否定するようなジェスチャーを
したり顔を真っ赤にしたりと彼女が春夏さんにからかわれてるのだけは何となくだが分か
った。
その光景を何となく見ていたところで本来の目的である喉の渇きを潤すというのを思い
出した俺は節々が痛く、けだるさもまだ残る体を何とか動かして1階へと降りた。
冷蔵庫から麦茶を取り出してコップにすすぐと一気に飲み干す。熱くなっている体に冷
たい水が浸透していくのが良く分かる。一息ついたところでリビングへと目を向けた所で
テーブルに食事が用意されていた。用意されていたのは俺が好きな和食だった。しかしそ
れは今の俺の調子では食べれない。せっかくミルファが朝早くにおきて用意してくれたも
のが食べられないのは申し訳なく感じてしまう。きっとミルファは口にも顔にも出さない
だろうけど残念で仕方ないだろう。
別に風邪になったときに申し訳ないなんて事は今まで思いもしなかった。けどミルファ
は俺のためだけに色々としてくれている。それに答えられない事に対して俺は悔しくて仕
方が無かった。しかし拳を握ろうにも体がそれを拒む。どうやら満足に力も入れられない
くらいに俺の体調は悪いみたいだ。
「あれ?貴明どうしたの?」
人の気配に気づいたのか、家に帰ってきたミルファが俺の部屋ではなくキッチンへとや
ってきた。
「喉が渇いてね。飲み物を取りにきたんだ」
「もぅ、動いちゃ駄目って言ったじゃない。欲しいものがあったら言えば用意してあげる
からね。ほら、部屋に戻ろ?」
ミルファが俺の手を掴んで引っ張って行ってくれる。何時もなら恥ずかしくて手を離し
たりもするのかもしれないが今はそれが心地良い。
そのまま歩いていく途中で眩暈が俺を襲ってきた。何とか姿勢を保とうとするが世界が、
視界が歪む。
「貴明、大丈夫?」
俺が急に足を止めたのに気づいたミルファが俺の方へと向いて心配をしてきてくれた。
心配ない事を伝えようとするも足がおぼつかない。何とか倒れまいとするのだが体が言う
ことを聞かずに倒れこんでしまう。そして俺は倒れまいとついミルファへと抱きついてし
まった。
「た、た、た、た、貴明!?」
いきなり俺が抱きついてきたのに動揺したのか彼女の声が上ずっているのが分かる。
「ごめん、ちょっと立ちくらみ」
「ほら、無理するからだよ」
「もう少ししたら回復すると思うから…」
「うん、あたしとしては貴明が抱きついてくれるのは嬉しいから何時まででも構わないけ
どね☆」
そんな彼女の一言にさっきみたキッチンの光景が思い出される。
「ごめんな…朝食食べられなくて」
「大丈夫だよ、貴明が元気で居てくれるのが一番なんだから朝食ぐらいどうって事無いか
ら。それに無駄にするつもりも無いから安心して。ね?」
俺が何時もに比べて弱気になってるのが分かるのか、ミルファが何時も以上に優しい声
をかけてくれる。その声を聞くたびに心が安らいでるのが自分でも分かった。
「ありがとう、ミルファ」
「そんな…あたしは貴明が大事だからこう言った事をするのは当然なんであって…ってた、
貴明!?」
ミルファを抱きしめる力が強くなる、と思った所で体中の力が抜けるのが分かり、全体
重を彼女に預けるような、違う表現をするとすれば彼女を押し倒すような状況になってし
まっていた。
それに対して彼女は体を硬直させて抗うというよりはそれを受け入れると言うかともか
く抵抗はしてきていなかった。このまま廊下に倒れこむのもまずい。何とか持てる力を出
して何とか倒れずにすんだ。
「ご、ごめん。力が入らなくってさ」
「そうだよね、貴明今病人だもんね。あたしったら何を…」
ミルファに対して謝るも彼女は怒るというよりもどことなく嬉しそうだった。
「はい、じゃあ今からご飯作ってくるから待っててね」
何とか自分の部屋へと戻り、ベッドに寝転がる。ミルファに顔まで毛布と掛け布団を掛
けられるともう動かないようにと釘を刺され、彼女は朝食を作りに1階へと降りていった。
ミルファの居なくなった部屋で寝転がったまま天井を眺める。
暇だ。
病人ってのはこうも暇なのか。
体調が悪いから満足に行動できないのは分かるがそれにしてもやる事が無い。意味も無
く部屋を見回すが何時もの部屋で珍しいものは何も無い。漫画でも読みたいところだがそ
れをしていてミルファに見つかった時に何て言われるか…怒られるだろうな。
仕方が無く俺は眠くも無かったが目をつぶって眠ることにした。眠くなくても目を瞑っ
てれば寝れるだろう。
───白い。
そこには何も無かった。
居るのは俺だけ。
そんな凄く寂しい空間に俺はいつの間にか立っていた。
「貴明」
俺の名を呼ぶ声がする。後ろを振り返るとミルファがそこにはいた。何も無い不安から
解放されほっとしている俺に対してミルファは物凄く悲しそうな顔をしていた。
「ごめんね、貴明。もう帰らないと」
「帰るって何処にだよ。お前の帰るところは俺の家だろ?」
俺の問いかけに対してミルファは首を横に振る。
「ちがう、そうじゃないの。もう会えないの。」
──だから、ごめんね
にっこりと微笑む彼女の目からは流れるはずのない涙が流れていた。
その笑顔は俺の胸の奥に突き刺さる悲しい、悲しい笑顔だった。
そのまま彼女が少しずつ遠ざかっていくのがわかる。
「待てよ!ミルファ!会えないってどういう事だよ!待てってば!」
必死に走ってもミルファには追いつけない。
どんどん彼女が俺の元から離れていくのが分かった。
「馬鹿野郎!何がさよならだ!勝手に決めんなよ!何がもう会えないだ、そんなの知った
ことか!お前は俺にとって一番大切な存在なんだ───」
「ミルファ!!」
「は!はぃ!?」
気づいたらそこは俺の部屋だった。どうやらいつの間にか寝てて夢でもみてたみたいだ。
横を見るとビックリしたミルファが椅子に座っていた。
「な…何?何かあたし悪いことでもした?」
「え?何が?」
「だって急にあたしの名前を叫んだから…」
「そうだっけ…ごめん、夢見ててさ」
「夢見てたんだ。それにしたはうなされてて心配しちゃった。
…ってあたしが出てきてうなされるってどういう夢なわけ?」
ギロリと鋭い目で俺の方を見てくる。どうやら彼女は俺が見た夢で自分が何か悪い役に
でもされてるんじゃないだろうかとでも思ってるみたいだ。
「いや、そんなんじゃなくて…あれ?じゃあ何の夢見てたんだろ?」
何とか思い出そうとするのだが思い出せない。
元々夢をあまり覚えて居ることが少ない俺のことだから忘れるのも当たり前なのかもし
れないが思い出そうとすると何かが拒んでるような、そんな感じがした。
まぁ思い出せないなら良いか。
「ふーん…そうだ、朝食作ってきたよ。食べる?ちゃんとお粥にしてきたから大丈夫だと
思うけど」
そう言って彼女は朝食を載せたトレイを俺に見せてきてくれた。
「ありがとう。一眠りしたらおなか空いたみたいだ」
「そっか。熱いから気をつけてね」
体を起こし、トレイを太ももの上へと置いてもらうとおかゆの入った小さい土鍋の蓋を
開ける。暖かい湯気の中から出てきたのは所々にピンク色が見える鮭粥だった。
「そうか、今日の元々の朝食って鮭だったもんな」
「うん、後卵焼きと梅干ね。病人はこれを食べてから薬を飲んで寝るのが一番!って春夏
さんに教えてもらったんだ。初めてお粥作ったから自信ないけど…」
どうやらさっき玄関先で話してたのは病人食の作り方みたいだな。
「大丈夫、見た感じ問題ないみたいだしミルファの料理は問題ないって信じてるから」
「ありがと☆冷めないうちに食べてね」
「それじゃあいただきます」
「はい、どうぞ〜」
早速湯気が立つお粥を食べようと蓮華でお粥を掬って口へと運ぶ。
「あちっ!?」
口に入れたとたん暖かさと言うよりも熱さが口の中を刺激してきた。土鍋の保温性が高
いのか予想以上の熱さにさすがにビックリしてしまった。
「あーもぅ、熱いって言ったのにぃ。気をつけないと駄目でしょ?ほら、貸して」
ミルファに言われるまま蓮華を渡すと彼女はお粥を掬い、そのお粥を口元に近づけると
ふー、ふー、と息をかけて冷まし始めた。
こ、これはまさか……
「はい、あーん☆」
「…え?」
「ほら、冷ましたからもう大丈夫だよ。あーん」
笑顔で俺の口元に蓮華を近づけてくる。恥ずかしくて仕方が無いのだが断れない現状が
そこにはあった。少しためらいつつもミルファの差し出してくれた蓮華に口をつける。
確かにそのお粥はさっきよりも冷めていて普通に食べることは出来た。
しかし俺の顔は風邪のせい以外の要因で熱くなってるような気がしてならなかった。
結局それに気を良くしたミルファが何度も同じようにあーんとしてくるのでその度に恥
ずかしがりながらも食べ続ける。これじゃあ俺が赤ん坊みたいだ。
最後まであーんで食べされられ続け、食べ終わったときにはミルファはニッコリ、俺は
グッタリとした状態になっていた。
その後に風邪薬を飲むと半ば無理矢理寝かせられ、掛け布団をかけられてしまった。
「じゃああたしは洗濯とかしてくるからちゃんと寝ておくように」
「はーい」
「よろしい。じゃあね☆」
顔の上半分を布団から出していた俺の額にミルファの唇が触れる。頬をほんのり紅く
させたまま彼女はトレイを持って部屋を後にした。
空腹が満たされて幾分体調も回復した所で気分はそんなに悪くない。
そのまま俺はさっきとは違って気分が良い状態でゆっくりと眠りへと落ちていった。
「…かあき……た……き〜」
「んっ…」
ミルファの声で目が覚める。目を開け、息を吸ったところで甘い匂いがこの部屋に立ち
込めてるのが分かった。
「何か作ったのか?」
「うん、ホットケーキ。本当はお昼ご飯にしては変かもしれないけどね、食べやすいから
良いかなと思って。牛乳も持ってきたからね」
疲れてる時に甘いものは良いとテレビで聞いたことがある。現に今漂ってる甘い匂いに
反応して俺の胃袋は栄養を欲していた。
「良い匂いだな。ホットケーキなんて食べるの何年ぶりかなぁ」
「ゆっくり食べるんだよ。あ、それともまたあーんしてあげようか?」
いたずら顔でにこやかに言ってくるミルファに対してさっきまでは気後れしていたが幾
分元気になった今は仕返しをしてやろうと悪戯心が沸いてくるのだった。
「じゃあお願いできる?」
「へ!?あ、うん」
少し驚いた様子だったがミルファは嬉しそうに小さく切ったホットケーキを俺に食べさ
せてくれた。
「美味しい?」
「んむ」
ホットケーキを頬張りながらうなづいて答える。久々に食べたホットケーキは甘く、美
味しかった。1枚はミルファに食べさせてもらうも残りは流石に恥ずかしくなったので自
分で食べることにした。最も、残りの一枚も食べさせると言って駄々をこね始めたときは
ミルファをからかった事に後悔したけど。
ピンポーン
時計の短針が3時を回った頃、チャイムの音が家の中へと響く。
その音で目を覚ました俺は何処と無くいやな予感を感じた。
「あ、環。どうしたの?」
「このみからタカ坊が風邪引いて休むって話を聞いてね、お見舞いに来たのよ」
「わざわざ来てくれたんだ。きっと貴明も喜ぶと思うよ☆」
「それじゃあ、おじゃまします」
「はい、どうぞ」
俺の体の寒気は消えている。どうやら風邪は快方へと向かっているみたいだ。
けど背筋に寒気が走るのを俺は確かに感じた。
「タカ坊〜!もう!お姉ちゃんに心配させるんじゃないの!」
タマ姉は部屋に入ってきた途端に起き上がってた俺に抱きついてきた。その豊満なタマ
姉の胸に顔が完全に埋もれる状態になり、嬉しいと言うよりは息が出来なくて苦しい状態
へとなっていた。
「タマ姉…苦しい」
タマ姉の体を叩いてタップをして降参を知らせると何とかその抱きしめる力を緩めてくれた。
そのタマ姉の顔を見るとどうやら怒ってるみたいだった。
「ご、ごめん。昨日の雨にあたっちゃったみたいでさ」
「もう、私に言えば傘に入れてあげたのに」
言えるはず無いじゃないか、言ったらどうなることやら──と言いたいところだったが
言えるわけも無いのでただ苦笑をするしかなかった。
「それなら安心していいよ?環。貴明なら昨日「あたしと一緒に」傘で帰ったから☆」
ドアの入り口の方を見ると何処と無く勝ち誇ったような、そんな笑顔でこっちを見てき
ているミルファが居た。
よく見るとその笑顔はイルファさんそっくりな気もする。しかも計算づくであるような
その笑顔…最悪の方向に行かないといいけど。
タマ姉もそっちを向いているから表情を知ることは出来ないけれど気のせいか髪の毛が
ゆらゆらと揺らめいているような…。
「そ、そう。なら安心だわね」
タマ姉の声が動揺を見せているのが分かる。
こ、これはかなり不味い状況なのでは無いだろうか。この部屋の気温も下がっているよ
うな気がしなくも無い。
「タカ坊、一緒に帰ったって…それ本当?」
こっちを振り向いたとき、タマ姉の目が光った。そんな気がした。
「う、うん…ミルファが迎えに来てくれたから……さ」
「そぉ…」
ちらっとタマ姉の手を見ると何かの準備をしているのか手がワキワキと動いているのが
分かった。こ、これはもしかして俺がお仕置きを食らうのでしょうか!?
「そうだ!貴明、そろそろデザート食べる?」
ミルファ、ナイスフォロー。
「あ、うん。頼もうかな」
「それなら心配に及ばないわよ?はい、タカ坊。ととみやのカステラよ?」
ミルファの提案を遮る様にタマ姉がそう言うと、持ってた紙袋から何かを取り出した。
取り出したのはこのみの大好物であるととみやのカステラの箱だった。
「ありがと。けどこれだと切れてないんじゃない?」
持ってきてるのは一本丸ごと。普通は切れてないと思うけど…。
そんな俺の予想をタマ姉は崩してきた。
「大丈夫よ、切れてるのを買ってきたから。はい、あーん」
用意周到というかなんというか…流石はタマ姉と言うべきなのだろうか。
支援砲撃…でいいのか?
タマ姉は箱から取り出したカステラを一切れつまむと、俺の口元へと持ってきてくれる。
どうやらミルファ同様にタマ姉もあーんをしたいらしい。
女の子はこれをしたがるもんなんだろうか…よく分からない。
「い、いいよ。自分で食べれるから」
「何?タマおねえちゃんが食べさせてあげようとしてるのに嫌って言うの?」
俺がその誘いを一度断るとタマ姉の回りが一瞬歪んだような気がした。
表情は変わってない。確かに変わってはいないのだが全身に鳥肌が立つのが分かった。
まるで肉食動物にでもにらまれてるみたいな感じを受ける。
今すぐにここから逃げ出したいが逃げれない、そんな袋小路に迷い込んだような気分に
なっていた。
「嫌じゃないです…」
「そう☆ じゃあ、あーん」
「あーん…んむ」
結局俺はタマ姉の誘いに乗るしかなかった。俺が了承したのが分かると、タマ姉は何時
もの笑顔になり、さっき感じた殺気に近い何かはもう感じなくなっていた。
食べさせてもらったカステラを味わうと確かにととみやのカステラだけあって美味しい。
しかし今のこの状況でゆっくり味わえと言うのが無理な話だ。
「そうだ!夕飯ぐらいはちゃんと食べれるんでしょ?折角だから私が作ってあげよう
か?」
「えぇ!?けど雄二はどうするのさ」
「別に連絡しとけば勝手に食べるでしょ」
雄二…流石に今ばかりはお前に同情を感じるよ。
「あら環、夕飯なら気にしなくても良いよ?もう用意はし始めてるから」
また部屋の入り口から声がする。その一言が発せられただけで部屋の気温がまた下がっ
た気がする。そんなミルファの顔はさっきと打って変わって不満そうだ。
こっちを立てればあっちが立たず…。
仮にもまだ病人の俺にはこの状況は辛すぎやしませんか…?
「けどタカ坊には栄養を取ってもらわないといけないし…何か副菜を作らせてもらうわね。
良いわよね?タ・カ・坊?」
こっちに見せてくるタマ姉の顔はもの凄く良い笑顔だ。
それこそ拒否したら何か恐ろしいことになりそうな位に良い笑顔だ。
俺はあっさりとその恐怖に屈すると何も言わずにただ頷いた。
「よろしい☆それじゃあキッチンへといくとしますか。タカ坊にどれが一番美味しいか決
めてもらわないと行けないしねぇ〜☆」
「ま、マジですか…」
勘弁してください、俺は心の底からそう思った。
「環に負けるつもりは無いからね」
「あら、挑戦してくるなんて中々やるじゃない?」
「そりゃあ貴明のために毎日料理の勉強してますから」
「へぇ…それは楽しみ」
ニコニコと笑う二人の会話は仲がよさそうなものに思える。
けど気のせいか何かパチパチと、電流が流れるような、何かが放電してるような、正確
にいうと二人の間で火花でも散っているような、そんな音が聞こえる気がした。
き、気のせいだよな。
ハハハ……
>>521-525 実はこれ、飲み会から帰ってツンデレ、クーデレの話題になってたときに思いついて書いて投下しました。
今読み返すと…これミルファじゃないね_| ̄|○ダレダロウ
文も変だし_| ̄|○シニタイ
黒歴史って事でどうかご勘弁を…
>>533 これって自分では素直クールって名前で覚えてました。
これはミルファじゃ無理だなぁ…先輩に(*´Д`)ハァハァ
思った以上に竜虎激突大変でした。仲が良くともライバルって感じなんでしょうか。
個人的に風邪を引いてざまぁみろと思いつつも貴明がうらやましい俺ガイル。
次はきっと週末です。
>>545 あ、支援どうもです。今気づいた(゚Д゚;)
>>548 乙&GJっす。
ある意味TH2最強決定戦の渦中に巻き込まれたタカ坊の運命や如何に?
551 :
名無しさんだよもん:2005/10/27(木) 01:44:44 ID:krf/+RZk0
>551
これも藻前か?
>某ページのネタパクが加速していることについて一言。XXXXの劣化コピーを読んでる気分に…
実は宣伝乙。
2/12のすすぐってのは標準語なのか?
注ぐ(そそぐ)だと思うんだが……スレ汚しすまん。
>>551 パクリに見える部分もある
一部のシチュエーションがどっかと同じだったりな。まぁそれを言い出すとなんでもパクりになりそうだが
>>557 「すすぐ」はうがいなんかで口の中を洗うことをさすので君が正しい
どこがパクりなのかわからんのだが
XXXXなんて伏字にしないで、指摘したいならはっきり書きなさいよ
偶然か、意図的なパロディか、ただのパクリかは、検証すればすぐわかる
パクリなんて話が出てくるのは呆れるな。
だけどBSがワンパターンというかマンネリなのも確かなんだよなあ。
前に河野家の作者さんが誰かに手厳しい指摘を受けて、それからグッとよくなったってことが
あったけどさ。
BSの作者さんももう少し展開というかキャラのやり取りを捻った方がよくねーか?
いちゃいちゃ→ヤキモチ→いちゃいちゃ→ヤキモチが繰り返されるだけって印象がある。
ま、それだけで20話も続けられるのはすげーのかもしれんが。
検証すれば直ぐ解るって・・・・・・・それ結局第三者の妄想でしょ? いや、確かに露骨なパクリとかもあるけどさ
まぁいーか
結局いちゃもんつけたいだけか
呆れたな
批評は自由。作者がそれをどう受け止められるかが問題。
いちゃもんとしか受け止められないようじゃそれまで。
まあ、批評を受けてよくなるのはマシだよ。
虹みたいに、散々批評を受けてもまるで好転しないどころか、
どんどん泥沼化してるのもあるわけで。
そもそも虹の場合、作者が自サイトにに寄せられたマンセーコメントには
嬉しそうにレスするくせに、このスレでの批評に対してはだんまりを
決め込んでることが、どうかと思うわけだが。
正直こんな所に作者さんが現れていちいちレスなんて付けだしたら祭りになって収拾がつかなくなると思われる。
東鳩2SSスレのどこに批評があったのか教えてほしい
妄想で叩いているだけな奴とか、ただの罵詈雑言とかは散々見たけどな
嫌いなら見なければ良いだけだと思うぞ
正直いきなりいちゃもんの同意求められても粘着みたい
>>567 激しく同意。
批評だろうがいちゃもんだろうが気にするかどうかは作者の自由。
その作品を読むかどうかは読者の自由。
>>566 作者さんが作品を投下したあとのレスを見てみればいいんじゃないか?
批評というと大層だけど、「GJ」だけじゃない感想はチラホラあるし。
564が言ってるのは、それを取り入れるかどうかは作者さん次第ってだけでしょ。
んな目くじら立てるほどのことじゃないと思うが。
まあ煽らせてもらうと、あんたはおそらく作者さん側じゃねーだろうw
俺らは作者さんに向けての感想書いてるんだから、それに作者さん以外の人間が噛み付くなっつってんだよ。
まあ、あんたが仮に書く側だったとしても、妄想で叩いてるとか罵詈雑言にしか見えないようじゃ
面白い作品なんて書けるわけがないだろうけどなー。
>>564 虹の人は虹の人で立派だよー。
あれは確固たる信念を持って書いてるから、周りの雑音が気にならないんじゃないかねえ。
拍手に返事してるのは、わざわざ自分のHPにきてくれてる人に誠意を見せてるんじゃないか?
web拍手使ってわざわざ好意的じゃない感想送るやつは滅多にいないと思うし。
批評家気取りうぜえな
よそでやれよ
俺に言えるのは「これ以上議論の余地はないんじゃない?」
こうして、相変わらず職人さんの数が減っていく葉鍵板なのでした
もう何回目だよこの話題。
このスレどんどん初心者(?)が減ってきて
ただでさえ週刊誌状態になってんだからさ、
トドメさすようなマネしないでくれyp
しかしまぁ、こんな話題で確認するのもなんだが。
人いなくなったなと思っていたSS専用スレも、見てる奴は見てるもんだな。
スレに投下してくれる作家さんは減ったけどSS作家さんの数はそれほど変わらんよね
SSリンクで新着チェックすると、ここに投下してない作品とか読めていいかもしれんよ
このスレだけが全てじゃないんだし、そこまで神経質にならなくてもいいんじゃね?
もちろん投下してくれる人が減るような行為は控えるべきだろうけど・・・
荒れそうになったらコレ言う事にしてる
河野家マダー?
578 :
名無しさんだよもん:2005/10/28(金) 15:01:54 ID:29tKikIR0
なんでも自由自由か。自由って言葉を覚えた小学生みたいだな。そんな香具師のほうが批評家気取りと何故気付かない。
新作マダーチンチン
自由と名がつくものはやりたい放題だからなw
過疎ってるなあ、このスレ
批評が自由だってのには同意するけど、あんまり雰囲気が悪くなって、
投下してくれるSS書きの人が減っちゃってもね・・・
しかし、自由って単語に過剰反応する人多いね
自由の主張しすぎは確かにアレだけど、自由をという単語を使って主張した人に対し
>578みたいに噛み付くのもどうかと思うなあ・・・
第一、批評家気取りって言うけど、こういうある種公の場にSSを投下する時点で、
他人からの批評は当然受け止める覚悟をしておくべきだしね
投下するのも自由なら、それに対して感想を寄せるのも自由だもの
もちろん、いわれの無い誹謗中傷の類は別だけどさ
とりあえず、この雰囲気に負けず、作品を投下してくれる人を熱望
584 :
571:2005/10/30(日) 09:41:41 ID:16Rr+ymy0
俺に言えるのは「蒸し返すな、しかも長文で」
自由自由うるさいほうがうざいぞ。
すぐに自由叩きにかかる奴もうざい。
俺は
>>583の方が正論だとは思ったぞ。
ただし正論がSSスレの活性化に繋がるかと言えば
必ずしもそうではないだろうがな。
その意味で
>>584の蒸し返すなという意見に同意する。
自由と責任
見ていて痛々しい自演ですね
自演怒
いっそ投下だけのスレと感想だけのスレに分けちゃえば?
廃れたな・・・
これだけ荒れればしょうがないわな
もともと自演でしか盛り上げてないから
とりあえず流れを変えるべく何か書いてみるわ。
あんまり期待せんでくださいな
>594
乙。期待するなと言われても期待する。
>>594さんではないですが、投下させて頂きます。9レスほど頂きます。
暖かい。
降下し始めた気温は留まるところを知らず、ここのところはめっきり冬の色合いが濃くなっていた。
たとえ日中が過ごしやすい気候であっても、朝夕の冷え込みは厳しい。
晴れた次の日の朝は特に寒くて、このときばかりは地球温暖化なんて言葉が空々しく聞こえたりする。
長い夏が終わり、秋をあっという間に飛び越えて冬がやってくるとばかり思っていたのに。
つい先日引っ張り出してきた毛布にくるまって、「布団の恋しい季節になったなあ」なんて思っていたのに。
今朝の目覚めは、暖かくて、穏やかで、柔らかかった。
――――柔らかいって何だ?
跳ね起きる。
「あ、おはよう。たかあき」
恋しい毛布の下から、しれっとした顔で現れたのは、
「み、み、み、」
「? どうしたの、そんな顔して」
赤茶色の長髪を無造作にかきあげて、こちらを見つめているのは、
「ミルファ!?」
見間違えるはずもない日常の象徴が、あられもない姿で俺の隣――ベッドの上に横たわっている。
一瞬で頭の中が沸騰した。
「ど、ど」
どうしたの、というのは俺の台詞のはず。
俺の台詞のはずだが、舌が上手く回らない。
何を言うべきなのか分からない。
ミルファは目を丸くして固まる俺を見て、おかしそうに目を細めると、
「メンテナンスが終わったから、昨夜のうちに戻ってきたんだよ?」
そうだ。
ミルファは少し前からうちを空けていた。
季節の変わり目に大がかりなメンテナンスをするとかで、今回は一週間くらいかかると話していた気がする。
ほんの少しの開放感と引きかえに、口に出したら耐えられなくなりそうな寂しさを胸に抱えた数日間。
それが終わったから、ミルファは戻ってきたのか。
だったら、
「……お、おかえり」
何はともあれ、これを言わなければ始まらない。
戸惑いを必死に抑え込んで、お決まりの台詞を口にした。
「ただいま」
花の咲いたような笑顔を浮かべ、ミルファが応えてくれる。
ミルファの笑みは、相手を安心させる笑みだ。
だが、今日ばかりはそれで鼓動が落ち着くことはなく、俺の心臓は激しく暴れ続けている。
「ここ、俺の、部屋、ですよね」
「うん」
カタコトで話す俺とは裏腹に、ミルファの返事は明快だ。
「どうして、ミルファさんは、ここに、いるんでしょうか」
「どうして敬語なの? たかあきちょっとヘン」
ヘン?
ヘンなのは俺ではない。
ここは俺の部屋で、これは俺のベッドなんだから、そこに俺がいるのはヘンではない、はずだ。
「早くたかあきに会いたかったのに、帰ってきたら寝ちゃってるし……」
だからむしろおかしいのは、こんなところにいるミルファであり、
「寝顔を見にきたら、布団から脱ぎ出てたよ?」
上半身にワイシャツ一枚だけを羽織り、ボタンを全開にしている格好は明らかに不自然であり、
「身体が冷えてたから、あっためてあげようと思ったの」
そんな風に上目遣いでにじり寄ってこられたらどうしようもないのであって、
「どう? あったかかった?」
――それだけじゃなくて柔らかかった。
「ち、ちょ、ちょっと待った!」
茹で上がった頭を冷やす時間が必要だ。
本能が告げるのだ。
このまま状況に流されたら不幸な結末が待っている、と。
ガチガチになった全身を死に物狂いで捻り、とりあえずベッドの上から逃げ出
「逃がしませ……じゃなくて、逃がさないわよ、たかあき」
「うひゃあ」
情けない声が出たのを、どこか遠くで聞いたような気がした。
それが自分の口から漏れたものだと理解したときにはもう遅い。
ベッドにうつ伏せに押し倒された俺の上に、ミルファが密着したまま乗っかっている。
背中に何だかものすごい感触が押し当てられていて、もはや正常な思考など働きそうにない。
「あの、たの、頼むから、離れて、」
「せっかく久しぶりに会えたのに、たかあき冷たい……」
離れるどころか、ますます強い力で背中から抱きしめられる。
それでも距離はゼロ以上に縮まらないのであって、余剰分は柔らかさに変換されて伝わるのだ。
抗い難い布団の魔力を、そのまま人肌に置き換えたような凶悪な攻撃だった。
「が、学校、学校いかないと、」
「ふふ、今日は日曜日だよ?」
「あ、あさ、朝は早く起きて顔を洗わな、」
「あとでいいよ、そんなの」
説得を試みるが逆効果にしかならない。
ミルファが答えるたびに、耳元に熱っぽい吐息が当たるせいで、何がなんだか分からない。
「どうして逃げるの?」
徐々に頭がぼうっとしてくる。
「たかあきは……イヤ?」
嫌なのだろうか。嫌ではない。
――じゃあ、どうして俺は逃げようとしているんだろう。
「……もうっ」
ミルファの身体が離れたと思ったのも束の間。
うつ伏せだった俺は、あっという間にひっくり返されて、今度はあお向けにされてしまう。
「ね、たかあき?」
ちょこんと首を傾げながら、ミルファが腹の上にまたがった。
膝立ちで、ふとももで俺のわき腹を押さえて、
「……これ、たかあきのために増やしてもらったんだよ?」
両手でワイシャツを観音開きにして、ミルファは妖艶な笑みを浮かべ、
「見て」
見た。
脱衣所で誤って見てしまったことはある。
それでも、こんな至近距離で見たことは一度もなかった。
それなのに、俺は見てしまった。
初めて見た。
もうワケが分からない。
「どうして、こんなこと」
こんなことを、するのか。
ミルファは一体どうしてしまったのか。
何もかもが分からない中で、ゆっくりと近づいてくるミルファの唇から目をそむけることができない。
「――たかあきが、好きだからだよ」
甘ったるいジュースを直接動脈に流し込んだような声。
ああ、それならいいのかなあ、なんて諦めにも似たことを考えて、すべてを委ねようとしたとき、
ずしん、と地響きがした。
目前にあったミルファの瞳が驚きで丸くなる。
「じ、地震!?」
一気に酔いが醒めた。
最近はよく地震がある。それと比べてもこれは結構大きい。だが、
「……意外と早かったですね」
俺にまたがったままのミルファは、そう呟いて顔を離すと、腕組みをしてため息を漏らす。
「み、ミルファ。揺れがおさまるまで、危ないから」
「大丈夫ですよ」
「……だ、だいじょうぶって……、ミルファ……?」
見下ろすミルファからは、先ほどまでの妖艶さが消え失せていた。
爽やかさすら感じさせる笑みには、しかしそこはかとない策謀の色が見える。
というか、喋り方が、おかしい、ような。
「あれは地震ではありませんから」
「地震じゃない……?」
ミルファの言葉を示すかのように、地響きが速やかにこちらに移動してくる――移動って何だ!?
家の前までやってきた地響きは、間隔をおかずに玄関から入り込み、そのまま階段を駆け上がってきたかと思うと、
「姉さん……!!」
怨嗟の篭った唸り声をあげながら、恐ろしい形相をしたイルファさんが部屋に飛び込んできた。
「――――――」
イルファさんがドアを開けた体勢のまま固まる。
俺と、俺の上でマウントポジションを取ったミルファを視界に収め、
「……なに、してるの?」
発射が一秒後に迫った拳銃に指を突っ込んだ雰囲気がひしひしと伝わってくる。つまり暴発寸前。
だというのに、
「貴明さんに迫ってました」
ミルファがあっさりと引き金を引く。
引いてしまう。
――って。
「たかあき、さん?」
呆けた声が出た。
ミルファはいつも俺を「貴明」と呼ぶはずで、だけどまたがっているミルファは「貴明さん」と呼んだ。
ミルファはわざとらしく肩をすくめ、
「再起動まで、あと一時間はかかると思ったんですけどね。やっぱり来栖川の技術者様たちは優秀です」
ますますワケの分からないことを口にする。
再起動? 一時間? 来栖川?
まったく理解の追いつかない俺を置き去りにして、イルファさんが歩み寄ってくる。
一歩ずつ。
威圧感のある足取りで。
行き過ぎた感情というのは、そうそう表に表れないものであって、
「……一時間あったら、なにをしてたの?」
もはや怒りを通り越した無表情のイルファさんに向かってミルファは、
「そうですね。貴明さんとの既成事実を作っていたのではないかと」
本当に妹思いの姉ですね、とうそぶきながら笑みを浮かべた。
「ひっ、」
イルファさんは思い切り息を吸い込むと、
「人の身体で勝手なことするな――――――――――――――――――!!!!!」
家を揺るがす大音量の叫びをあげる。
屋根が吹き飛んでもおかしくないくらいの、とんでもない声だった。
感情の爆発というのは、きっとこういうことを言うのだろう。
というか、これはひょっとして――
閃くものがあった。
性格が変わったかのようなミルファと、やけに威勢のいいイルファさん。
この二人を見比べれば、答えは自ずと明らかになる。
「は、早く服を着てよ姉さん! た、貴明の前でそんなかっこ、」
俺が内心で頷くのを知ってか知らずか、『イルファさん』は、慌てた素振りで『ミルファ』のワイシャツに手を伸ばし、
いそいそとボタンを付け始めた。
トリックが分かってしまえばこっちのものと、見上げた先には『ミルファ』の顔がある。
嫌な予感がした。
視線の先の『ミルファ』は、にやりと形容するにはあまりにも優雅な笑みを見せて、
「もう隠しても手遅れだと思いますよ」
あっさりと、最後の言葉を口にする。
ボタンをとめていた『イルファさん』の手が止まる。『イルファさん』がギチギチと俺の方に顔を向け、
「……貴明」
唾を呑み込む。
「……見た?」
短く問うた『イルファさん』は、真剣な眼差しで俺を見つめている。
真剣な問いには、真剣に答えるべきだと思った。
だから俺は、真剣に、
「見た」
頷いた。
『イルファさん』は俺の答えを噛み締めるように、ふっと目を伏せ、
「貴明のえっち――――――――――――――――――!!!!!」
一瞬の後、『ミルファ』のワイシャツから外した右手を振り下ろした。
景気のいい音が響いて、色鮮やかな花が咲く。
俺の左頬に咲いたのは秋の代表花。
モミジだった。
その後、珊瑚ちゃんからの電話で、メンテナンス中のトラブルでボディを間違えたという話を聞いて。
絶対に研究室の誰かが面白がってわざとやったに違いないと。
そんなことを、顔を真っ赤にしたミルファと話したりするのであるが――
それは、また別の話である。
というわけで小ネタでお目汚しを失礼しました。
PC版のメイドロボシナリオは、果たして本当にないのか、それとも最後の隠し玉なのか。
発売するまで希望は捨てないで生きていこうと思います(ノ∀`)
良い作品が来た後で後を濁しそうだけどハロウィンネタ出来たので7連投いきます
久々にのんびりとした夜半過ぎ。普段なら珊瑚ちゃん、瑠璃ちゃんの家に拉致と言う名の
お呼ばれを…いや、逆か。お呼ばれと言う名の拉致をされてあっちの家で色々と大変な目に
遭っているわけだが今日は違っていた。
何時もならHR終了のベルがなったとほぼ同時に俺のクラスに来て有無を言わさず連行されていくのだが
今日はそうではなくて
「ごめんな、貴明。今日はちょっと用事があんねん。せやから寂しいかもしれんけど一人で帰ってくれるか?」
と珊瑚ちゃんに言われたのだった。
特に理由も追求するつもりも無かったし久々にのんびりと放課後を過ごせるなら少しは寂しいが
それも良いだろう。俺は素直にそれを聞き入れ、珊瑚ちゃんは早々にクラスを後にしたのだった。
その後今のやりとりを見ていた雄二がからかいに俺の席までわざわざやってきて
「やっとお前の春にも終焉が来たか…お帰り貴明!独り身の世界へ!」
と言ってきたので当然のことながら反論はしておいたが。
「失礼な。別に付き合ってるわけでもないんだから振られるとかそんな次元の問題じゃないっての。
今日たまたまってだけだって」
「へーへー、流石は二股王。余裕でござんすねぇ〜」
「なんだその称号は。勝手にそんなもんつけんなよな」
雄二は口先を尖らせてやる気の無い顔を見せてくる。やっぱり雄二は勘違いしてるみたいだ。
別に俺は瑠璃ちゃんも珊瑚ちゃんも大事だし、無論イルファさんだって大事だ。
そんな俺が一人と付き合えってのが無理な問題なんだけど…これって優柔不断って言うんだよな、普通は。
「勝手にって言ってもなぁ、うちのクラスの男子はおろか瑠璃ちゃん珊瑚ちゃんの居る1年のクラスでも
お前は有名人だぜ?双子を手玉に取る二股王だってな」
「そ、そんな流言飛語俺は認めないぞ!」
「いや、実際そうだろ」
「ぐっ」
反論できない自分が悲しい。そういえば同じクラスの男子やら一年生の俺の見る目が何処と無く冷たいかなぁ
とは思っていたがそんな理由だったとは。つくづく自分の優柔不断さに嫌気が差してきた。
「あのー、河野君?」
「何? 小牧さん」
自分の情けなさを疎ましく思いながら帰っても使うわけが無い教科書なんかをバッグにしまい、
帰り支度をしていると相変わらずのおっとりとした口調と表情で小牧さんが話しかけてきた。
「今日は何時もの双子の一年生とは一緒じゃないんですか?」
「あぁ、今日は用事があるみたい。って小牧さんだったら俺たちの会話が聞こえる所に居たんだから
聞こえてたんじゃない?」
「えぇ!?そ、そんな、やだなぁ〜。それじゃあ私がまるで恋愛話が好きな耳年増な人みたいじゃないですかぁ〜」
どうも小牧さんは俺らの関係が気になるらしく、事あるごとに聞いてくるのだ。しかも席はクラスの入り口に
比較的近いのと珊瑚ちゃんのあの軽快な声という要素を考慮すると恐らくは聞こえているはずなのに。
雄二や他の友人の話を聞く限りだと小牧さんは恋愛に関しては首を突っ込みたがるタイプらしい。
小牧さんの思わぬ一面を発見って感じだな。
「で、本当に珊瑚ちゃん達の用事って何なんだろうな」
小牧さんの隣に雄二がやってきた。手に持っているのは一目見てわかるくらいに薄いバッグ。
こいつも俺と同じように家で教科書なんて必要が無い人種らしい。最も教科書を持って帰る素振りも
見せてない俺より重症みたいだが。
「さぁな、珊瑚ちゃんって俺の知らないところでもいろいろとやってるみたいだし。一緒に居る事も
多いけど謎は深まるばかりって感じだな」
「へぇ〜、河野君でも知らないことってあるんだぁ」
「小牧さん、何気に大胆な発言してません?」
「え?え?いや、そ、そそそ、そう言った意味では無くてぇ〜」
顔を赤くしている所を見る限り、どうやら彼女はそういう不謹慎な想像もしていたらしい。
まぁ年頃の女の子なんだからそう言った事を話すのは好きなんだろうけどさ。
「向坂さん、小牧さんってば中々破廉恥な事を考えてるみたいですよ?」
「あらあら。委員長ともあるべき御方がそんな事を考えるだなんて嫌ですわねぇ、河野さん」
「二人で何言ってるのよぉ〜!そうじゃないんだってばぁ〜!!」
顔を茹で上がった蟹の様にし、両手をバタバタと上下させて必死に否定するその様は小動物そのものだ。
というよりもか○道楽のあの看板を思い出すな。
と言う事で雄二と一緒に帰り、途中で買い食いやらゲーセンやらとむさいながらも久々に
男子高校生らしい放課後を楽しみ、7時前に雄二と別れた後は家でこうしてリビングでテレビを見ながら
くつろいでるわけだ。
たまにはこうしたのんびりとした一日も悪くないもんだ。
そんな風に思いながらテレビに耽っていると玄関のチャイムが鳴った。
公共料金の支払いは親が口座からの振込みで支払ってるからくるはずがない。恐らくは稀に来る
新聞の勧誘だろう。最近は新聞を取ってくれる家が少ないのか簡単に引き下がってくれないのが
うざったくて仕方がないのだがこのまま無視し続けてても家に明かりがついてる事から家に住人が居るのは
百も承知だろう。さっさと追い返すのが吉だ。
はいはいはい、と呟きながらドアを開けるとそこに居たのはそのうざったい新聞の勧誘とは少し、
いや大分違っていた。
「トリック・オア・トリート〜☆」
「ぐえっ!?」
ドアを開けた途端に飛びついてきたオレンジ色の塊。その瞬間は何がなんだか分からなかった。
何故ならその抱きついてきた人物の顔はお面というよりは被り物で隠れてしまっているからだ。
しかしその正体はすぐに分かった。短いながらも濃い付き合いのせいか、抱きつき方と声で把握は
悲しいかな出来てしまうのだ。
「珊瑚ちゃん?どうしたのこんな時間に」
「うちも居るんやけど?」
ドアを開けたままの状態で瑠璃ちゃんが不機嫌そうに立っていた。その彼女の服装は意外にも
似合っている。しかしこの二人の服装、普通の服装とは明らかに違っている。服装と言うよりは変装?
いや、衣装と言ったほうが良いのかもしれない。
「瑠璃ちゃんもこんばんわ。その服装似合ってるんじゃない?」
「ふん、今更褒めても何もでぇへんよ」
そう言い彼女はツンとそっぽを向いてしまった。羽織っている空と同じ黒い色のマントが
首の動きに合わせてパサっと靡く。そんな瑠璃ちゃんの格好は漫画やアニメでよく見る
円錐状で鍔広の黒い帽子、黒いマントと言う黒装束で身を包む魔女であった。
「なぁなぁ、貴明。うちは似合ってるー?」
大きなカボチャの被り物の中から喋る珊瑚ちゃんの声はどことなくくぐもっている。
しかしこの被り物の状態で似合うとかどうとか聞かれてもそういう言う問題でもないような
気がするんだけど。
「ちょっとカボチャじゃなぁ〜…」
「カボチャちゃうよー。ジャック・オ・ランタン言うんよ?」
カボチャならぬジャック・オ・ランタンの被り物を脱ぐと額に汗を少し浮かべながら何時もの笑顔の
珊瑚ちゃんの顔が出てきた。
「へぇ〜。で、今日って何か特別な日だったっけ?」
「やっぱりバカ明やな。今日はハロウィンや」
瑠璃ちゃんが呆れたといった様な表情を浮かべながら今日のイベントの説明をしてくれた。
ハロウィンか。確かに雑貨屋とかにこの手のグッズが並んでたのを最近見た気もする。
しかしあれはアメリカで人気があるだけであって別に日本ではそんなに人気があるイベントでも無いと
思うんだけど。
「ハロウィンねぇ。瑠璃ちゃん達は毎年ハロウィンやってるの?」
「今年初めてや」
「今までテレビとかで見ててやりたかったんやけどな、これって他の人の家にいかんと意味が無い
イベントやんか。けど行く家がなかってん。けどなぁ、今年は貴明の家に来ればえぇから用意したんよ〜」
屈託ない笑顔で珊瑚ちゃんはその理由を教えてくれた。俺も確かにハロウィンなんてイベントは
ある事は知ってはいたけどそんなイベントを面白そうに思ったことも無かったし、日付すら知らなかった。
こんな事でハロウィンを体験するなんて奇妙なめぐり合わせもあったもんだ。
「でな、貴明はうちらにお菓子くれんとあかんねん」
「何それ」
俺の質問に対して今度は魔女姿の瑠璃ちゃんが答えてくれた。
「ハロウィンではな、『Trick or Treat!!』って言って他の人の家にいくねん。『お菓子くれへんと
悪戯するで〜』って意味なんやけどな。まぁお菓子をもらう為に家を渡り歩くんよ」
「なるほど。けど生憎今この家にはお菓子無いよ?」
「えー、折角貴明にお菓子もらえる思ってきたのになぁ〜」
リビングに行き、ソファーに座ってからその本来の目的であって「お菓子を貰う」と言
うことが無理なことを伝えると珊瑚ちゃんはがっくりと肩を落とし、体全体で残念である事を表現してきた。
そ、そんなに期待されても困るんですけど。
「あかんでさんちゃん。こんな時間にお菓子食べたら夕飯食べれなくなるやろ?」
「ちぇーっ。瑠璃ちゃんのケチィ〜」
「うちのせい!?貴明のせいやん!?」
責任転嫁とは正に今この時の事を言うのか、初めて目の当たりにした気がするよ。いや、客観的に
見ていてもしょうがない。実際に責任転嫁されてるのが他ならぬ自分自身なのだから。
「俺なの!?だってそんなの知らないしさ!?」
「じゃあお菓子無いならいたずらせんとなぁ…うーん」
俺の意見は何処吹く風、珊瑚ちゃんが考え始めてしまった。瑠璃ちゃんは止めようともせず、
俺の方をただニヤニヤと見ている始末だ。どうやら俺が困る様を見たいらしい。全く…。
珊瑚ちゃんがうーんうーんと唸っていると再度玄関のベルが鳴った。
今度こそ新聞の勧誘だろうか。そう思いつつ再度ドアを開けるとまるでデジャビュかの
ように同じ様に俺に誰かが抱きついてきたのだ。
「え?ちょ、ちょっと!?」
「貴明さん、Trick or Treat!! ですよ」
「イ、イルファさんですか」
「はい☆ ちょっと夕飯の買い物に行ってたので遅れてしまいました」
イルファさんに抱きつかれながらも足元を見ると確かに買い物袋が置かれている。
どうやら俺の家で夕飯を作る気まんまんみたいだ。
まぁそれは良いとしてもイルファさんに抱きつかれるのはかなり恥ずかしいわけで…
「イルファさん、もう離していただけません?」
極めて平静を装いながら離れてくれるよう言うもイルファさんの抱きつく力は変わらない。
「駄目です。ちゅーをしてくれないと離してあげません」
耳元でそんな可愛い声で囁かれると腰が砕けかねなかった。この人はこんなにも俺を魅了してくる人
であっただろうか。当惑しながらも何とか両足で立っていると頬に柔らかい感触を受けた。
その感触が無くなるとイルファさんは俺から離れ、俺の目をまっすぐ見つめてきた。
「もぅ、そんなに顔を赤くしないでください。私まで恥ずかしくなっちゃいます。しょうがないので
今回はこれで許してあげますけど…」
そして再度耳元に近づいてくる。最早耳にキスをしてくるような距離だ。
「今度はちゃんとキスしてくださいね?」
「あの…えっと」
俺は顔を茹で上がらせながら返答に困っていると彼女は優しい笑みを浮かべてくる。
「やっぱり貴明さんは可愛いです。それではお夕飯の準備に移りますのでキッチンを使わせて頂きますね」
彼女は肩を弾ませて嬉しそうにキッチンへと行ってしまった。
こんな状況でリビングに戻ってまともに会話が出来るわけがない。とりあえず近くにあった階段に
腰を下ろして深呼吸を一回。何となく視線を玄関に移して眺めていたら目の前が黒い布で遮られて
見えなくなってしまった。そのまま視線を上に移すとその布が目の前に現れた理由が分かった。
瑠璃ちゃんが俺の目の前に来たのだ。
「客人がきてんのに何してん」
「あぁ、ちょっと心の整理を」
なるべく現状を悟られないようにしてみるも瑠璃ちゃんにはおおよそ判断がついている様子が見て取れた。
「イルファか?」
「あ、あぁ。まぁね、ちょっとからかわれてさ」
「まぁイルファやからなぁ…」
二人で同時に大きくため息をつく。どうやら瑠璃ちゃんもそれなりに被害にあってるみたいだ。
一緒に居ることを考えると瑠璃ちゃんの方が被害は甚大なのかもしれない。
「瑠璃ちゃんも大変だね」
「大変やけどそれなりに楽しいから問題あらへんよ」
彼女は困りながらも楽しそうな顔を見せてくれた。
「そっか。で、良いの?夕飯イルファさんが作ってるけど」
「今日はイルファが自分で作るってはりきってたからな、ちゃんと上達もしてるし問題ないやろ」
味音痴のイルファさんに料理を教えるのは至難の技だったろうに。そんな瑠璃ちゃんの日々の頑張りに
関心してしまった。しかし今までは瑠璃ちゃんとイルファさんでの合作の夕飯が多く、一人でちゃんとした
味付けが出来るのかと言った点はまだ不安であった。
「けど俺は瑠璃ちゃんの料理も食べたいかな」
そういった理由もあったし、単純に瑠璃ちゃんお手製料理も食べたいと言うのがあって言った俺の一言に
対して黒い服で包まれている瑠璃ちゃんの白い肌がピンク色へとみるみる内に変わってしまった。
あれ?俺何か変な事言ったかな?俺の疑問が解けないまま瑠璃ちゃんが喋り出す。
「そ、それならイルファと一緒でも構わんのやったら作ったるよ」
「なら楽しみに待つとしますかねっと」
瑠璃ちゃんと話した事によって大分楽になった。珊瑚ちゃんが暇そうにしてるという瑠璃ちゃんの言葉で
つまらなそうにしている珊瑚ちゃんを想像してつい笑みが浮かんでしまった。
瑠璃ちゃんの後についてリビングへと行く時にふと玄関に規則正しく並ぶ何時もより多い靴を見た。
こんな可愛いお化けが来るんならハロウィンも面白いもんだ。
「あーっ!イルファ!ちゃんと混ぜへんから鍋底焦げ付いてるやんか!!」
「す、すみません瑠璃様〜」
「今日は少し焦げた料理が出てきそうやなぁ」
「ねぇ…」
訂正。ちょっと困ることもあるけど面白いって事で。
さっき瑠璃ちゃんに夕飯を作ってもらえる事になってて本気で良かったなと自分で自分を褒めたかった。
ちなみにその夕飯になぜか黒ずんでいる少し苦めなカボチャのスープが出てきたのは言うまでもなかった。
「大丈夫か?」
「平気だってば」
ふらふらしながら言われても説得力がない。
強がりを言いながらもこの少女の手は俺の制服の裾を握ったままだ。
「だから無理するなって言っただろ」
「無理なんかしてない」
強情な奴だ。
今朝、コイツ…郁乃に頼まれてリハビリの手伝いを引き受けたはいいが、
授業中を除いてずっと郁乃につきっきりだった。
車椅子から立ち上がれるようになってから、まだそう経っていないのに
歩いて校舎を一周しようとか言い出したりするし。
「気持ちはわからなくもないが、順序っていうのがあるだろ」
「そんなのは一つや二つすっ飛ばすくらいでいいのよ」
気遣いのつもりで言ってやればこれだ。
愛佳が郁乃のことになると過剰なくらい心配するのに対して、こいつは
姉に心配かけまいと無理してみせる。
「わっとと」
「ほら、言わんこっちゃない」
よろめいた郁乃の肩をつかんで支えてやると、郁乃は気まずそうに
ぷいっと顔をそむけて、
「…ありがと」
やっと聞こえるくらいの声で呟いた。
「はあーっ」
書庫に戻ってくると、郁乃は大きく息を吐き出してソファーに腰を下ろした。
「疲れた」
「俺もだ…」
結局一時間くらいかけて校舎の周りを歩いてきた。大体付き添うだけの
はずだったのに、何故俺はこんなに疲れているんだろうか。
「なんであんたが疲れるのよ」
「疲れもするって」
とにかく見ていて危なっかしい。早く歩けるようになろうとする意志は
認めるが、身体がついていけるかどうかは別の話だ。
「嫌だったら付き合わなくてもいいわよ」
「そうもいかないだろ」
さすがに放ってはおけない。
郁乃は姉を想う余り無茶をする傾向がある。俺は何度かそういうのを
見てきたし、その度に止めてきた。
「一緒にいるのが俺だからわざと無茶してるんじゃないよな?」
「…そんなこと考えてない」
軽く首を振って答える。
「頑張るのはいいさ。でもそれは無理することとは違う。焦って無茶したら
却って悪くなるかも知れないぞ」
「――うん…ごめん」
郁乃はそう答えるとそのままうつむいてしまった。
「ちょっとごめん」
俺は郁乃の後ろに回ると、彼女の髪を留めていたバンドを外して
その長い髪を解いた。
「た、貴明?」
静かに郁乃の髪を両手で梳いていく。
最初はびっくりしていた郁乃も、ソファーに背を預けると黙って目を閉じた。
「上手なのね」
「いや、これが初めてだ」
「そうは思えないけど」
流れるような髪を梳いていると、なんだか心が落ち着いてくる。
わずかにこちらを向いた郁乃の顔は髪を解いているせいか、
いつもとずいぶん違って見えた。
「髪、痛んでるでしょ?手入れなんかしてなかったから」
「いいや。サラサラしてて綺麗だ」
それは意識せずに言った言葉だった。
郁乃は少し赤くなりながら小声で「…キザね」と呟いた。
「いつか、姉と並んで歩くのが夢だった」
目を閉じたまま、郁乃が語る。
何度そう願い、その度にベッドの上から動けないという現実に悲しんで
きたのだろうか。
「何度も願って、何度も諦めて。ようやく叶えられるところにきたわ」
「ああ、絶対に叶うさ」
「うん。けどね、ちょっと困ったことになったの」
願いが叶えられそうなところまできて、一体何に困ったというのか。
そう尋ねようとしたら、郁乃は俺の手に自分の手を重ねてきた。
「今度は"別の人"と並んで歩きたいな…なんて思い始めちゃって」
その意味は、鈍いと言われる俺でもすぐにわかった。
だから俺もこう返してやる。
「…俺もそう思ってた。だから、お前が望むならすぐにでも叶えてやるぞ」
俺の答えに心から嬉しそうに微笑むと、郁乃は立ち上がりスカートの
裾をちょいとつまんで持ち上げ、軽く頭を下げるとこう言うのだ。
「まだうまく歩けないけど…エスコート――してもらえますか?」
「喜んで」
開いた窓から風が吹き込み、郁乃の長い綺麗な髪をなびかせた。
今日は大漁やね
ここ数日間堪え忍んだ甲斐があったというもの
624 :
594:2005/10/30(日) 23:43:06 ID:9PzpgpNx0
あと少しタイミングずれたら割り込んでしまうとこだった…(´Д`;
リロードはしてたのだが。ともあれ
>>610の人GJ。
>>619-622 愛佳シナリオのイベントを郁乃に置き換えてみました。
愛佳とは付き合ってないことを前提で書いてます。
つかやっぱり期待を裏切った気がするorz
すごいすごい。
やっぱここはこんな場でないとね。
久々にここがSS専用スレだということを思い出したよw
みんなGJ!
>>607 中身イルファさんで妖しい雰囲気のミルファもいいけど、元気のありあまる中身ミルファなイルファもなかなか捨てがたい魅力でした〜。
速くオフィシャルでのクマ吉も見てみたいですね。
>>612 旬のネタと言うことで、ハロウィンの賑やかな双子やイルファさんはとても楽しそうでした。
イルファさんが仮装したなら、どんな格好が似合っていたでしょうかw
>>624 これからの2人が楽しみになる様な、気分のいいSSでした。
最後の風に郁乃の髪がなびくところなんて、引き方といいとても綺麗でした。
3つも良作読めて満足満足。
俺も近いうちに何か書きたいなぁ。
荒れるの覚悟で言わせてもらう、もう我慢できない。
ミルファという名のオリキャラが一人歩きするSSはもう飽きた。
そんなもんは自分のページつくって好きに書け。
ここは東鳩2SSスレだ。おまえらのオリキャラ発表の場じゃない。
>>627 昨日の夕方に起きてしまったため、
結局一睡もせずに今から出勤の俺がマジレスしてやろう。
たしかに「ミルファ」という
公式でもほとんどキャラの設定が確立されていないキャラを
妄想だけで書いてる作者達はたくさんいるが、
それを一概にオリキャラと言うことはできない。
なぜなら一応は公式キャラだからだ。
その時点でこのみとかいいんちょとかと同じ土俵に立てるわけだ。
極端な話、SSは全てオリジナルストーリーだから
このみが出ようとミルファが出ようと
それは作者によるキャラと設定を借りたオリジナルになる。
なのでここの「ミルファ」を否定するとSS全体を否定することになってしまう。
まあ正直なところ俺もミルファに関しては行き過ぎてるなぁと思うけどな。
半分寝てるので文が変になってたらスマヌ。
>>628 まあ、ミルファに関しては、原作ではクマ吉という形で
性格・行動パターンの片鱗が伺えたので
そこから大きく外れ過ぎていなければいい気がするけどな。
つうか、昨日の漏れと生活パターンが似てるな。
こっちは昨日ボチボチと昼寝してたため、夜の12時に起きれたので
勝手に出勤して一人で仕事をしてるよw
そろそろ家に帰らないと、嫁さん・子供が起きてくるな。
というわけで、河野家まだーーー!?
公式のキャラの名前を借りただけのようなキャラ書いてるよりはよっぽどマシだ
>>627 俺はミルファにではなく書いている人に「行き過ぎてるな」と感じたよ
葉鍵住人の醜悪さ、しかと見届けた!
飽きたなら読み飛ばせばいいだけなのに。
そんな選択も出来ないの?
ここの住人はいちゃもんをつける天才ばかりだな。
現実でも場をしらけさせる才能を発揮してそうだが。
ミルファを気にする必要は無い。おまいらだって『ミルファはこんなキャラだ!』って妄想くらいあるだろう。
肝心なことを忘れてるぞ。職人さん乙という気持ちだ。職人さん乙ノシ
>>624 GJなんだけど貴明と郁乃っつーよりも貴明と郁乃が演技してるように感じたな。
もうちょっと素っぽい二人が見たい感じ。
もちろんお話としてはきれいにまとまっててよかったです。
637 :
611:2005/10/31(月) 09:36:21 ID:PZ1d9rAi0
短文だから大丈夫だろ、とか思って書き込んだら、
危うく本編に割り込むところだった。申し訳ない&以後気をつけます。>610
>>624 うむ。あんたは期待を裏切った!イイ意味で!
>627
公式設定が全てだと言うのならSSなんか読まない方がいいですよ。
言いたい事はほぼ
>>628 と一緒なので省略。
そして読みたくないなら読まない自由(権利)はあるんだから自由にすればいい。
他人の書きたい・読みたい自由(権利)を侵害するな。
アホがいるよ
とうとうミルファ妄想SSまで叩きの対象になったか
住みにくい世の中だな
こんな状況でふたなりモノを投下したら、住所氏名や顔写真でも晒されそうだな
俺は
>>627の言ってることは正論だとは思う。
そりゃもちろん好きって人もいるだろうけど、
>>628みたいに
「あえて言わないけどさすがにやりすぎ」
と感じてる人が増えてきてるんじゃないかなあ。
個人的には、他のキャラがしっかり描けてるなら半オリジナルのミルファ程度なら書いても構わんのじゃないかと。
ただ最近は、他ヒロインの描き方があまりにお粗末というにも関わらず半オリキャラが幅をきかせた作品が多いからねえ。
どうしてもオリキャラ書くなら本編のキャラをしっかり捉えてからやってくれってのが本音。
偉そうな物言いをしてしまったが、いちミルファ好きとしてここんとこ食傷気味だったんで吐き出させてもらった。
だから見苦しい自演は辞めろって。
>>641 作者はおまいの為にSS書いてる訳じゃないんだから諦めろ。
ミルファモノも全然アリだしブラックふたなりどんと来いな俺もいる
でも小牧姉妹と姫百合とイルファミルファに偏ってるってのはまぁあるね
ここらでタマ姉由真あたりのSSが読んでみたい気もする。。。
期待さげ
>641
>いちミルファ好きとしてここんとこ食傷気味だったんで
なるほど。
3姉妹スレでお奨めされた2(作者の)作品しか読んでいないから
そういう感覚には疎いかも知れず。スマソ。
でも東鳩に限らず、同人誌でも お気に入りキャラの扱いが気に入らない
作品があっても何も言う気はないケドね。
読まなきゃいいし、読んでしまったらけなして忘れるだけ(w
「書く事」自体を否定するなら二次創作を否定するのと同義だと思うから。
そういえばこのみとタマ姉のSSって最近は投下されてないんだな。
このみはブラックが多くて普通のが最近ないしタマ姉は「残心」位か。
確かに最近は姫百合、郁乃物多いしSS書きの人達の中にもブームなんてもんがあるのだろうか?
俺はこのみとタマ姉のSSキボンしておきますね。
ツンデレ多すぎw
>>645 ブームというか、出来のいいSSを一人の作者さんが書くと
それに追従する形で書く人が多いような気がする。
パクリとは言わないが、選択肢としちゃ安易かもしれない。
郁乃が流行りみたいだから郁乃SS書きましたっつってた人いなかったか?
本当に書きたいならそれはそれでいいんじゃないかと思うのはもちろんだけどね。
昼休みに小牧さんが落ち込んだ理由、俺は全く解らなかったが、親友の由真はその解決へと独自に
行動した。
翌日。総勢12人での夕食の席で由真は、俺たち全員で『河野家メンバーズ』なるグループを結成
しようと提案する。と言うか、俺以外の同居人からは昨晩に賛成を得ているとのことで、全員の過半
数は既に超えており、反対してもムダだった。
かくして『河野家メンバーズ』結成。早速由真はグループの規則「メンバーは名前で呼び合う」に
則り、俺に小牧さんを名前で呼べと命じる。規則違反はアイアンクローの刑と脅された俺は仕方なく
小牧さんを「愛佳」と名前で呼ぶ。そして愛佳も俺を「たかあきくん」と。それは、もの凄く恥ずか
しいのだけれど、何だか、とてもいい感じがした……。
放課後。俺は久しぶりにミステリ研の部室にいた。
「で、なんなんだよこの『お宝探し』って?」
俺は愛佳から受け取ったプリントをひらひら揺らす。プリントには「ミステリ研・河野家メンバー
ズ合同企画 謎のお宝探し!」と書いてある。
「お宝探しはお宝探しだよたかちゃん」
コンパスやら懐中電灯やらを次々リュックに詰め込む花梨。
「それは解るけどさ、どこに探しに行くんだよ花梨?」
すると花梨は俺に振り返り、
「もう! 部活動のときは『花梨会長』と呼びなさいって前に言ったでしょ! 公私の分別はキチン
とつけなきゃダメだよたかちゃん!」
「は、はい、花梨会長……」
「で、質問の答えだけど、裏山だよ」
「裏山? あそこなら前にも行ったけど、別に何もなかっただろ?」
「前はUMA探し。今回はお宝探し。目的が違うよ」
「うーん、あんな裏山なんかにお宝があるとは思えないんだけどなぁ」
「その思い込みが真実へと至る道を見失う原因なんよ! 一見何も無さそうな所にこそ、実はとん
でもないお宝があったりするんだから! 例えば1963年、東京は荒川で……」
うわ、花梨の講義が始まってしまう。長くなるに決まってるからここは抑えよう。
「ああうん、わかったよ会長。確かに先入観はよくないよね。うん、反省します」
「解ってくれたらいいんだよたかちゃん。それにね、今回は既にあたりを付けてる場所があるんよ」
「そこって?」
「それは行ってからのお楽しみ。それじゃそろそろ出発しますか。ゲストの皆さんも待ちかねている
だろうし、ね☆」
「ゲスト?」
部室を出ると、そこにはるーこ、珊瑚ちゃん、瑠璃ちゃん、優季の4人がいた。
「あれ、どうしたの4人とも?」
「うーかりに呼ばれたから来たぞ。”うー”のトレジャーにはるーも興味がある」
「宝探しや〜、何見つかるか楽しみやな〜☆」
「う、ウチはさんちゃんが行く言うから……」
「あ、ちなみに環さんと由真さんは夕食の仕度があるから、愛佳さんは郁乃ちゃんの病院での検診、
このみちゃんはお友達との約束があるから欠席だそうです。それから雄二さんは、興味がないからと
帰っちゃいました」
「もう、ノリが悪いな雄二ちゃんは! 仕方がない、ここにいるメンバーだけで行きますか」
「花梨……会長? どうしてるーこたちが?」
「プリントに書いたでしょ。今回は、河野家メンバーズとの合同企画なんよ。みんなで一緒にお宝
目指してレッツゴーだよ!」
「おーっ」
「るー」
花梨の掛け声に応え、両手を挙げる珊瑚ちゃんとるーこ。それを見てため息をつく瑠璃ちゃん。
優季は恥ずかしそうに、
「お、おーっ……」
と、小さくガッツポーズ。今日の部活動は賑やかなものになりそうだな。
花梨に先導され山道を歩き、着いた場所は……、
「神社だけど、ここ……?」
「そう、ここだよたかちゃん。今日はこの神社及びその周辺を探しまーす」
「この神社にお宝があるなんて話、俺、聞いたことないぞ?」
「街の人に話が伝わってたら、お宝なんてとっくに持ってかれてるじゃない。書物への記録はおろか、
口伝すら封じられた、街の中でもごく一部の人間だけしか知らないような、もの凄いお宝が保管され
ているのかもしれないよ?」
「成る程、一理あるかもしれませんね」
真面目な表情で優季が肯く。
「それって例えば、勇者の鎧とか呪われた刀とかやろか?」
珊瑚ちゃん、それじゃどっかのRPGだよ……。
「それは実際調べてみないとね。さ、早速調査開始だよ! 私とるーこは社殿の中を調べてみるから、
たかちゃんたちはこの辺りを調べてみて」
花梨がそう言って俺にスコップを渡す。掘って調べろってことか、はぁ……。
「って、社殿の中って会長、勝手に入っていいのかよ!?」
「それじゃ、各自頑張ってね! では調査開始ー!」
俺の言葉を完璧に無視し、花梨はるーこを連れて社殿へと歩いていった。
「ほな、ウチらも調査開始や〜☆」
ノリノリの珊瑚ちゃん。
「さて、どこから調べたらよいものやら……」
「あの貴明さん、さっき花梨さんからこんなモノ渡されたんですけど……」
優季が両手に持っているのは、L字型の細長い金属棒。成る程、ダウジングね……。
その後、優季がダウジング棒を手に神社内をウロウロ歩き、棒が動いた場所を俺がスコップで掘る、
という作業を3回ほど行ったが、何も出てこなかった。疲れた……。
とりあえず一休みするか。適当な木陰に入って買っておいたジュースでも飲もう。そう思ったとき、
「るー」
「うわっ!? る、るーこ、いきなり目の前に現れるなよ!」
「見つかったぞ、うー」
「見つかったって、も、もしかして、お宝……?」
「うーかりが呼んでいる。行くぞ、うー」
まさか本当にお宝があったのか? るーこに連れられ、俺たちも社殿に向かった。
社殿の扉は開かれており(ちなみに床には解かれた南京錠があったりする)、中はうす暗くてよく
見えない。
「花梨会長?」
中にいるであろう花梨を呼んでみる。
「たかちゃん、こっちだよ」
妙に真剣みを帯びた花梨の声が返ってきた。それに従い、中に入る。数歩歩くと、しゃがんでいる
花梨の背中が見えた。
「たかちゃん、これ、何だと思う?」
花梨の足元にあったのは、薄汚れた布袋に収まった、2mくらいの棒状のものだった。
「さ、さぁ……?」
「もしかしたら……、聖遺物かもしれないよ」
「聖遺物?」
「大昔の偉い人にまつわる品物のことだよ。この長さ、もしかして……、ロンギヌスの槍?」
「あ、あのさ会長、さすがにそれは無いんじゃない? どこかの教会とか博物館ならともかく、何で
神社にロンギヌスの槍なわけ?」
かなり有名な品だけど念のため説明。ロンギヌスの槍とは十字架にはりつけられたキリストが死ん
だ際、その生死を確認するためにキリストの脇腹に刺した槍のことである。つまり思いっきりキリ
スト教関係の品物であって、それが神社に保管されてるワケないじゃん。
「じゃあグングニル? それともゲイボルク?」
「グングニルは北欧神話、ゲイボルクはケルト神話です。どちらも神社とは関係ないのですが……」
「へぇ、優季、詳しいね」
「ええ、神話ってロマンチックなお話が多いから好きなんです」
「とにかく、中を確かめないと解らないってことだね。それじゃ……」
「ちょ、ちょっと待って花梨会長! 神社の物を勝手に持ち出したりしたら……」
「中を確かめるだけだよ。持ち帰ろうってワケじゃないんだから平気平気」
「いや、ここは待ったや」
「さんちゃん?」
「持っただけで装備されてしまう呪いのアイテムかもしれへんで」
「珊瑚ちゃんは現実とゲームの区別をつけようね。とにかく会長、勝手に触るのも……」
すらり。
俺の言葉に耳を貸さず、花梨は布袋を取り去ってしまった。そして出てきたものは……。
「こ、これは……」
1.8mから、最長3mまで伸ばせる軽量1.25kgのアルミ製の棒。
先端部は、直径40mmもの太い枝でもカンタンに切れるハサミ。更にノコギリヘッドも装着可能。
末端のグリップを軽く握るだけで、高い枝もカンタンに切れます。
軽くてカンタン、これで面倒な枝切りも奥様一人でラクラク
「ってこれ、よくTVショッピングとかで見かけるラクラク高枝切りバサミじゃん! 聖遺物でも
何でもないよ、ただの神社の備品だよ!」
「いや……、もしかしたらコレ、曰く付きのモノかもしれないよ。
考えてみてよたかちゃん。ただの備品なら物置にでもしまっておけばいいのに、わざわさ社殿の
中に置いてあったんだよ。やっぱり何か曰くがあるんだよ、きっと」
「曰くって、どんな?」
「うーん、そうですね、こんな感じではないでしょうか?」
花梨への質問に優季が代わって語り出す。
昔々、ある国のお城にとても美しいお姫様がおりました。
ところが、悪い魔女の呪いによってお姫様は眠ったままになってしまいました。
お姫様を救おうと、一人の王子様がお城にやってきました。けれどもお城は、魔女の魔法が生み
出したイバラに覆われており、入ることが出来ません。
困り果てた王子様の元に、一人の庭師がやってきました。庭師が手にしていたのは、なんと高枝
切りバサミではありませんか! 王子様は庭師から高枝切りバサミを借りて、イバラをチョキチョキ
切りながらお城に入っていきました。そして王子様は悪い魔女を倒し口づけでお姫様を眠りから覚ま
して二人は結婚して幸せに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし。
「昔々って、そんな昔に高枝切りバサミは無い! それと庭師都合良すぎ! あと後半やっつけ
気味! それからハッピーエンドじゃ曰く付きにならないじゃん!」
「は、はぁい、ごめんなさい貴明さん……」
ショボンとうなだれる優季。
「そうだね。これはおとぎ話にまつわるモノじゃないね。きっとこんな感じだよ」
名前は解りません。仮にA氏としておきましょう。
A氏は庭師です。その日も庭ではしごに登ってハサミで枝切りをしていました。
そんな彼の頭上に、突如UFOが現れました。そしてA氏はそのUFOにアブダクションされて
しまったのです。ハサミと共に。
UFOの中で、彼に何があったのかは解りません。彼自身、何も覚えていないのです。
気が付くと、A氏は元の庭にいました。A氏は何が起きたのかも解らず、呆然とするばかり。
ふとA氏は、自分のハサミが無くなっていることに気付きます。辺りを探しますがハサミは見つ
からず、その代わりに、高枝切りバサミがあったのです。
試しに使ってみると、高枝切りバサミのなんと便利なことでしょう。この便利さを自分だけのもの
にするのは勿体ないとA氏は、会社を興して同じハサミを自分で作って販売しました。彼の作った
高枝切りバサミは飛ぶように売れ、A氏は一躍大富豪になりました。
後にA氏はこう語ります。「あの日の出来事が私の運命を変えた。出来るなら、私はもう一度彼ら
に会いたい、そして感謝の言葉を伝えたいよ」と。
めでたしめでたし。
「だから花梨はどうしていつもUFO関連に結びつけたがるかな!? 宇宙人がハサミを高枝切り
バサミに変えたとでも言うわけ? それに何の意味があるんだよ!? あと、名前は解らないって
言うワリにはA氏のその後まで語られるのは何でだよ!? それからこれもハッピーエンドだから
曰く付きにならないっての!」
「だ、だって、曰く付きならやっぱUFOかなって……」
優季の隣でショボンとうなだれる花梨。
「せやな。優季も花梨も、”曰く付き”って意味をもっと考えなあかん。きっとこうや」
今度は珊瑚ちゃんが語り出す。
時は江戸時代、徳川将軍綱吉の世。
庭師余平はその卓越した腕を認められ、将軍家お抱えの庭師として、江戸城内の木々の手入れを
任されていた。
余平の仕事は完璧の一言につきた。しかし余平は常々、その飽くなき探求心から自らの仕事道具に
不満を抱いていた。もっと使いやすくならないか、そうすれば仕事がもっと早くなるのにと。
ある日余平は、知人の鍛冶師・正五郎に相談する。余平は自らが思ったとおりの要望を口にし、
それを聞いた正五郎は、七日かけてそれを一つの形にこしらえた。高枝切りバサミの誕生である。
正五郎から高枝切りバサミを受け取った余平は、早速それを使ってみた。今まではしごを使って
切っていた枝も、高枝切りバサミならはしごに登ることなく楽に切れる。そのあまりの便利さに余平
は嬉し涙さえ流したと言う。
そんな余平に思わぬ不幸が舞い降りる。ある日、いつものように高枝切りバサミで庭仕事に従事
していた余平、その彼を見に将軍綱吉公がやって来たのだ。
上様が自分の仕事をご覧になられている。その緊張感に耐えながら余平は仕事を進める。そして
余平が一本の枝を切ったその時。
キャン!
犬のような悲鳴と、どさっと何かが落ちる音。余平は足元に落ちたそれを見た。そこには、一匹の
怯えたチワワがいた。余平は、枝の上にチワワがいたとは知らずに、その枝を切ってしまったのだ。
後に犬公方とまで呼ばれた綱吉がそれを許すはずもない。綱吉は余平にこう告げた。
「斬首よ☆」
持っていた刀で余平の首を一閃。余平の首は宙に舞い、高枝切りバサミに彼の血が降り注いだ。
余平の血を浴びた高枝切りバサミはその後、使った者を次々と死に追いやったことから、余平の
怨念が宿った呪いの高枝切りバサミ「小犬枝上」と呼ばれ、人々に恐れられたと云う。
むーざん、むーざん。
「優季と同じで時代設定がダメ! どう考えても江戸時代に高枝切りバサミはあり得ない! 真っ先
にそれに気付くべきだった! それとね、鍛冶師の正五郎が作ったって言ってたけど、はいココ見て
くれるココ、ホラ、「Made in China」って書いてあるね! つまり中国製なんだわ
コレ、残念! それから何でチワワが木に登ってるんだよ!? あと、将軍様が自分で人を斬るって
のも変だよね、時代劇じゃないんだからさ! 「斬首よ☆」ってのは決め台詞かな!? 確かに曰く
の残る終わり方だったけど、デタラメもいいトコだよ! もっとよく考えようよ珊瑚ちゃん!」
「えへへ〜、むずかしいな〜」
ダメ出しされてもほわほわ笑顔の珊瑚ちゃん。さすがである。
すっかり日も暮れて、帰り道。今日は色々と疲れた。メシ食って風呂入って寝たい。
「結局アレは、ただの高枝切りバサミだったってことだね」
するとるーこが、
「いや、必ずしもそうとは限らないぞ。うー。
るーの知っている話にこんなのがある。約1万と5千年ほど前、牡牛座35番星第6惑星で……」
「も、もう勘弁っす……」
つづく。
どうもです。第30話です。
ささら嬢の件ですが、クーデレなる言葉、初めて知りました。萌えの世界はまだまだ奥が深いなぁ。
>>657 河野家喜多ーーー!
まさかこういう話で1話つぶすとは^^;
しかも、次回につづくっすか?w
むーざん、むーざん。
>>657 GJ!!
しかし、こう……。
なんというか、その、手心というか………。
乙
あれだ、貴明のツッコミがなんだか某撲殺天使の主人公っぽいw
>>659 痛くなければ
覚えませぬ
河野家の作者さんGJ
河野家今回も乙ですー
河野家マダー?
>>627みたいに自分の自由と権利だけ主張して他者のそれはスルーってのは典型的なブサヨクの例だな。
>>627には自称戦争帰りの祖父と日教組教師の父と市民団体の母がいて朝日新聞と「論座」、「世界」を愛読してると予想してみるテスト。
↑もう郁ね?
粘着してるのオマイだけだお…。
そんな過ぎたどうでもいい事書いてないで、SSとかSSのネタとか書き込もうぜ〜
ルーシーSS書きたいのに、ネタが煮詰まりきらない俺がいるorz
信号機の真ん中は、黄色。
ちっちゃい子供が振り回す横断歩道の旗も、黄色。
タマゴの黄身も、黄色。
黄色。600ナノメートルの光の波長。空を見上げれば、そこにも黄色。どこにでもありふれた存在の黄色。
だけど……私は、黄色じゃない。
昔から、あの黄色い子は変わり者だと言われた。女の子向けのアニメを見るよりも、夜空に光る星を見るのが
好きだった。でも、私は星自体が好きなんじゃなくって、星と星との間に暮らしているはずの未知なる生命が好
きなだけだった。
だから、恋愛もののドラマなんかより、スタートレックとか特撮モノを見ている方が楽しかった。深夜にやっ
ている海外SFドラマを録画して、欠かさず見ていたものだ。
私は信仰していた。いつの日か必ず、宇宙の友人と一緒に星の海を旅しながら、みんなの知らないことをいっ
ぱい体験して、ワクワクドキドキ出来るって。
大人ぶって月9のドラマとか見ているみんなは笑った。そんなものはTVプロデューサーの捏造だって。
特撮とか空想物をガキの見るモノとバカにしていた男子は、私にケシゴムのカスをぶつけて言った。「あの狐
みたいな黄色いヤツ、いらねえ」って。アンタだって、ガキのくせに。
私は黄色の中でも、笑われ者の黄色だった。
でも、黄色は黄色。数ナノメートル程度、周囲と波長が違うだけの、黄色。
機械いじりも好きだった。300円で買った目覚まし時計やコンパクトカメラを分解しちゃっては、よく怒ら
れたっけ。
アマチュア無線の資格も取った。大空にアンテナを向けて、UFOや星の向こう側にいる生命たちと心を通わ
せあえるんじゃないかと思って。
そんなことを夢見て、中学の時、無線部に入った。裏切られた。そこで私がやったことは、限られた時間内に
どれだけたくさんの無線局と交信出来るかをひたすら競ったり(いわゆるコンテスト)、先輩部員が交信した記
録(ログ)をパソコンに黙々と入力する、つまらない事務作業だった。
コンテストの交信相手は、生命にあふれた存在ではなかった。5、6桁のコールサインを機械的に名乗り合っ
て、データを機械的に交換して、さようなら。パソコンの後ろでチカチカしているモデムやLANのデバイスと
やっていることが同じだった。
私は6桁のコールサインを与えられたただの部品。私は、黄色ですらなかった。
部を去った私は、河原で無線の免許を焼き捨てた。私は、ただの黄色に戻った。
一年生の秋、ちょっとした出会いがあった。出会い自体はちょっとしたものだったんだけど、私の中ではすご
く大きな、運命の出会い。
その日は授業が長引いて、教室を出るのが遅くなったんだっけ。購買には、もう人だかり。
運がいいことに、一日一度は食べないと死んじゃうタマゴサンドは残っていた。ラッキー!
どうにかお金を渡して、タマゴサンドを受け取ろうとしたんだけど、ちょっと押されて、指が届かなくなっ
て、落としてしまった。
踏み潰される! 私は悲鳴をあげた。
前にいた男子の足が踏み潰しにかかる寸前、奇跡が起きた。
隣にいた男の子が、手早く拾い上げてくれたのだった。
「はい、あぶなかったね」と、見るからに優しそうな男の子は笑いかけて、私にタマゴサンドを渡すと、タマ
ゴサンドを踏み潰そうとした赤毛の男子と一緒に去っていった。
痺れをきらした上級生に突き飛ばされるまで、私は彼の後ろ姿をずうっと見つめていた。
別れてからも、タマゴサンドを食べているときも、寝転がって不思議系マガジンを読んでいるときも、彼のこ
とが、ずっと、気になった。
彼にとっても、私はただの黄色なのだろうか? そうかもしれない。彼は私の名前を、笹森花梨だと知らない
だろう。そして私も、彼の名前を、知らなかった。
彼はただの「優しい男の子1号」で終わるのだろうか。それは、イヤだと思った。
私は、彼の黄色にはなりたくなかった。彼に黄色だと思われたくなかった。
・
・
・
私は、ミステリ研を創った。
私が黄色ではない唯一無比の存在になるために。
この世にただひとりの笹森花梨が、この世にただひとつの真実を追究するために。
そして、彼をオンリーワンの名前で堂々と呼ぶために。
彼の名前は、もう決めた。たかちゃん。私が“たかちゃん”って呼ぶのは、あなたが最初で最後。
私も、あなたの最初で最後の存在になりたい。
だから、たかちゃん。お願いだから、私を黄色と呼ばないで。
スーパー黄色タイム! スーパー黄色タイム!
以上。
>>666 SSのネタ?
そーだなぁ。
ある程度、このみシナリオを進めつつ、このみの処女をおいしく頂き、
タマ姉シナリオも進めつつ当然タマ姉の処女もおいしく頂き、
このみの母親と不倫して柚原家を崩壊させて、このみの母親と駆け落ちする貴明。
処女まで捧げて愛していたタカくんに、事もあろうに自分の母親と駆け落ちされ、
人間不信になり、ヒキコモリのリスカ女に変貌しちゃうこのみと、
長年の想いがやっと叶ったかと思えば、
事もあろうに自分より2歳下の娘が居るような歳のおばさんにかっさらわれて、
男性不信になり、泣きながら九条院に帰り片っ端から自分のファンをお召し上がりに。
斯くして、九条院は某リリ○ン女学園も真っ青な百合空間へと変貌を遂げる。
こんな感じの内容で、エロ満載でぶっちぎってくれる作家募集中。
>>670 珍しい、花梨SS乙ー!
雄二に踏み潰されたらどうなってたやら。。。次回作期待。
671……おぬしはやはり、物が違う……
>>670 かもりんキター!GJ!
こういうの好きだな。
>>657 遅レスですが、GJ!
こういうユルさも河野家の持ち味。
>>676 Blownish Storm の中の人が書いてくれるよ、きっと。
たかちゃん、ホントにいいの?」
不安そうな顔で尋ねてくる花梨。
その手にはかつて俺が「アンケート」と言われて名前を書いた
ミステリ研の入部届があった。
「いいも何も、俺はすでに部員のつもりだけど。それとも俺は
やっぱり部員失格なのか?」
「そ、そうじゃないよ」
たかちゃんは立派な一人前のミステリ研部員だよ、と言ってから
顔をうつむけた。
「でもこれは私が、その…騙して、書かせたものでしょ?」
しょうがないな、と花梨の頭にポンと手を乗せて笑顔を作る。
「そりゃ最初はとんでもないことされたって思ったけど、今はもう
そんなこと関係ない」
そう、もう前のことは関係ない。
ここに来るようになったきっかけは俺にとってろくでもないこと
だったけれど、今もここにいるのは俺自身の意思で決めたことだ。
「俺が正式にミステリ研に入りたいから入部届を出してくれって
言ったんじゃないか。笹森さんに強要されたわけじゃない、自分で
決めたことだ。俺の意思だよ」
「たかちゃん…」
「だから、もう気にしないで。堂々と出してくればいい」
花梨はしばらく入部届と俺の顔を交互に見比べながら迷っていたが、
やがて意を決して顔を上げた。
「…うん。ありがとう、たかちゃん」
「ほら、行って」
「うん!」
満面の笑みを浮かべると、彼女は元気よく職員室に入っていった。
これからのことを考えるとちょっと後悔しなくもないが、今までの
退屈な日々を考えるとよほど刺激的な生活を送れそうだった。
「ほんとに…いいの?」
「うん…たかちゃんなら、いいよ」
ミステリ研の暫定部室である体育倉庫(正式に部に昇格したので近々
別に部室が用意されるらしい)。
ここには俺と花梨しかいない。ドアを隔てた向こう側の体育館にも
人気はない。何をしても邪魔する人間はいなかった。
「それじゃ…いくよ?」
「う、うん」
ごくり。
唾を飲み込んで恐る恐る手を伸ばす。俺が今まで手の届かなかった
領域に、ついに踏み込む――
ペリッ。
開けたばかりのミックスサンドからタマゴサンドをひょいと取って、
ぱくりと一口。
「…うまい。うまいぞおおっ!」
「たかちゃん…普通そこまで感動する?」
そりゃ感動もするだろうさ。
ここしばらく口に入ることのなかったタマゴサンドの味は、懐かしさすら
覚えるほどに素晴らしいものだった。
「いつも俺がミックスサンド買ってくるたびにタマゴサンドを取られて
しまってたんだから」
「だって好きなんだもん」
「ああ、今ならよくわかる。タマゴサンドは偉大だな」
花梨に感化されたのかも知れないが、タマゴサンドがこれほどまでに
うまいとは思わなんだ。
卵とマヨネーズの絶妙なバランス。それをパンにはさむことにより、
こんなに素晴らしい味を生み出すとは。
「それにしてもよく俺に譲る気になったね」
「感謝の気持ちなんよ。タマゴサンド一個程度じゃ、私の感謝の気持ちを
伝えるには全然足りないけど…」
大好物を譲ってくれるくらいなのだから、それくらい感謝していると
いうことなのだろう。と、良い方向に解釈することにした。
「ところで、ほんとに良かったの?」
「これ?いいのいいの。気にすることないから」
テーブルの上には3枚の入部届が並んでいる。
右から柚原このみ、向坂環、向坂雄二と俺の幼馴染み達の名前がそれぞれ
記入されていた。
「さすがに3人となるとちょっと罪悪感があるんだけど」
「何を今さら。しおらしい女の子を装って俺に入部届を書かせた笹森さんの
言葉とは思えないぞ」
すると花梨は突然黙って俺の顔を見つめた。
な…なんだ?怒ったのかな。や、やっぱり失言だったよな。
「えーと、ご、ごめ…」
「それなんよ!」
「え?」
びしっと俺に人差し指を突きつけて花梨が声を上げた。
「たかちゃん、あの時以来呼んでくれないんだもん」
「何を?」
「私の名前…花梨って。『笹森さん』のままじゃない?」
うっ。いや、だって…あれはつい勢いで呼んでしまったわけで。
心の中では名前で呼んでいるけど、今でもなかなか口には出せない。
「私は…たかちゃんが好きだよ」
花梨は少しか細い声で、それでもはっきりと言った。
「たかちゃんは覚えてないかも知れないけど、ずっと前から…あの時から
ずっと好きだったの」
「え?え…あの時って?」
「一度だけ、たかちゃんが私を助けてくれたことがあって…それまで
お互いに話したことも会ったこともなかったけど、その時から私はずっと
たかちゃんが好きだった」
一度だけ…俺が、花梨を助けた?
それはきっと自分にとってはささいなことで、しかも俺は女の子が苦手な
奴だから恥ずかしさが先に立って、お礼を言われても聞きもせずに去って
いったのだろう。
「その時もタマゴサンドだったの。私が買ったのは」
「――あ!えっと、それはもしかして…三学期の?」
こくりとうなずく花梨。
「あっ」
――購買の人ごみにもまれて、せっかく買ったタマゴサンドがポトリと
床に落ちた。
取ろうとして少し背をかがめた時、周りの連中は気づきもせずに押し合い
私はその場に倒れそうになる。
「大丈夫?」
それをとっさに支えてくれたのは、私と同じ学年の男の子。
知らない顔だけど…とても優しそうな人だった。
「あ…はい」
「えっと…はい、これ」
「あ、ありがとう…」
私がお礼を言うと、彼は照れた風に「それじゃ」と人ごみから抜けて
どこかに消えてしまった。
「誰――だったのかな?」
名前も知らない男の子。
私(とタマゴサンド)を助けてくれた彼のことがそれ以来ずっと気になって。
「もう一度、お礼…言いたいな」
私は他の子と違って趣味とか変だったから。
男の子にからかわれたりすることはあっても、優しくされたことなんか
ほとんどなくて。
「河野、貴明くん――」
単純なのかも知れない。
ちょっと助けてもらったくらいで好きになっちゃうなんて。
「入部、届…」
だけど、会いたかった。話をしてみたかった。
きっかけは何でもいい。変な奴って言われてもいい。そんなことを
言われるのはもう慣れている。
もしかしたら嫌われたりするかも…それは、泣いちゃうかな。うん。
だけどそれでも――会いたかった。話がしたかった。
「強引だってわかってた。絶対に嫌がるよねって…」
見れば、花梨の閉じた瞳には涙が溜まっていた。
それでもなお彼女は言葉を続ける。
「でも、それまでたかちゃんとの接点なんかなかった私が作れる話題は
ミステリ研しかなかったの。だから…」
「もういい。もういいから…ごめん、嫌なこと話させた」
ようやくわかった。花梨が俺をミステリ研に引っ張り込んできた理由が。
もう、あの時には俺が好きだったなんて。
「ごめんなさい、ごめんなさい…」
「もういいから…泣かないでくれよ――花梨」
こんな時になって、やっと名前を呼んでやれるなんて。
本当に俺って奴は…
「やっと、花梨って呼んでくれたね」
「今だけだ。いつもは恥ずかしくて無理」
「えー、ケチ」
花梨は俺に抱きついたままでくすくすと笑う。
泣いたカラスがなんとやら…とはよく言ったものだ。
「じゃ、二人きりの時だけでいいから」
「それはものすごく多い気がするんだけど」
雄二達は名前だけの幽霊部員で、実質ミステリ研の活動をするのは
俺と花梨の二人だけ。従ってこれからもずっと二人きりということだ。
「それならたかちゃんも恥ずかしさを克服するのに十分な時間が
あるってことだよね」
「うわ、これからも名前で呼ばせる気満々?」
「もちろん。それとも私と…したのは遊びだったの?」
いや、「キス」のとこだけ小声にするな。
「――善処します」
「ん、よろしい。それじゃ活動開始しよっか」
「どこに行くのさ?」
振り回されるのはどうやらこれからも変わらないらしい。
それでも…俺は――
「どこでもいいの!ミステリは私達の行く先にきっと現れるんだから!」
俺は、この笑顔に振り回されることに楽しさを感じていた。
改行エラーのおかげで6レスに増えてしまいました('A`)
先に花梨SSが載ってたからちょっと迷いましたが。
ありがちっぽいなあ…読み流してくだされ。
>>686 スーパー花梨タイム! スーパー花梨タイム!
688 :
686:2005/11/02(水) 01:20:50 ID:oByoQKOw0
何気に俺のIDが…お父さん?お母さん?
>>687 確変突入?
私はこのスレッドを読んでいて始めて意見を言いたくなりました。
今まではどんなSSが出てきても特に感想を書こうとは思いませんでしたがこれは別格です。
これ多分エンディング前後の補完SSだと思います。
すごく花梨への愛に溢れていると思います。
ですが。
はっきり言って気色が悪い。
『現実逃避した花梨のひたすら自分に都合がいい妄想』かと思いました。
いいじゃん別に。
花梨って作中でも現実逃避して自分に都合のいい妄想してるよ?
こんなとこまできて粘着するなよ…
>>686 花梨SS乙。
でも、花梨がどれほど感謝しても、タマゴサンドは分けてくれない
気がするんだが、まだ漏れが花梨というキャラを掴みきれていないのか?w
>>
689
どのキャラも大なり小なり自分に都合のいい妄想をしてる気がするが、
特に草壁さんあたり。
都合が良い妄想に見えるのは貴明のキャラのせいじゃないかな
貴明っぽくないと思う。考え方とかじゃなくて台詞だけでそう感じる
でも、話は良いと思う。
>>686 ありがちだろうがなんだろうが構わないんじゃない?
要はどれだけ読み手を楽しませられるかだよ
草壁さんは拡大解釈、妄想とは似て非なるもの。
nijimada-?
何時ものように何も用事が無い日曜日。前日に深夜までテレビを見ていた俺は太陽が十
分に昇っても惰眠を貪っていた。そんな悦楽の時を妨げる音が家の中へと響き渡る。無論
睡魔に負けたい俺は電話など取るつもりも無かった。しかし何時まで経っても音が鳴り止
むことが無い。どうも相手は手ごわいようだ。
実に機械的な耳に障る音が鳴り続ければ嫌でも目は覚めてしまう。仕方が無くベッドか
ら重い体を持ち上げると電話を取りに1階へと降りた。
「はい…河野です」
「電話に出るのが遅い!」
その聞きなれた声を耳に受けて意識が一瞬にして覚醒した。タマ姉ならさっさと出とく
んだったと今更ながらに後悔。しかし後悔先に立たず。電話先のタマ姉は明らかに怒って
るのが分かった。
「ご、ごめん。部屋で寝てたから気づくのが遅くってさ」
「あら、なら起こしに行ってあげた方が良かったかしら…」
「大丈夫。大丈夫だから。もう起きたから」
タマ姉に起こされたら朝からどんな目に遭うか考えるだけでも冷や汗が出てしまう。
受話器越しには不満そうなタマ姉の声が聞こえてくる。
「朝起きたら愛しのタマお姉ちゃんが居るのよ?それだけでタカ坊の一日は幸せそのもの
じゃないの。なのに要らないって言うわけ?お姉ちゃん寂しいなー」
「もう起きたから今日は大丈夫だから」
「なら今度タカ坊に用事ある時は起こしに行ってあげるわね」
「そ、そうですか」
何時も半強制的に用事がある時は俺の家に上がりこんできてるじゃないですか、と俺は
言いたかった。けど言えなかった。そんな俺が悲しかった。抗ってもしょうがないんだな
と肩を落としている所にさらに追い討ちをかけてきた。
「で、タカ坊。今日暇でしょ?着替えたら私の家に来なさい」
命令形ですか…拒否権は無いんですか。そうですか。
「けど朝ごはんとか…」
「それならこっちで用意してあるから安心しなさい。ほら、早くする!」
「わかったよ…。そういえば雄二は?」
「安心していいわよ。逃げれないようにしておいたから」
「そうですか…」
想像するに優しいな。雄二、生きてると良いけど。
遅れてタマ姉に怒られるのも怖いので早々にその辺りに置いてあった洗濯済みの服に着
替えて家を出る。外に出ると風が冷たい。周りの家の木々も赤くなっていて既に落ち葉も
多くなってきているみたいだ。冬が近づいてくるのを落ち葉を踏みしめながら実感する。
そう時間もかからずに相変わらず大きいタマ姉の家に到着した。それにしてもこの家は
どれくらい大きいんだか。その長く続く壁を途切れさせる門をくぐって呼び鈴を鳴らす。
「はーい。タカ坊いらっしゃい」
「おはよう、タマ姉。で、今日は何か用なんでしょ?」
「まぁそれは追々話すとして、まずは朝食にしましょ?」
「う、うん」
タマ姉にはぐらかされつつ背中を押されて客間へと通される。そこには既に湯気を立て
ている実にこの家らしい和風な献立が並べられていた。
「凄いね。こんなの食べるの久しぶりかも」
「あら、家では普通よ?もしかしてタカ坊ちゃんと朝ごはん食べてないんじゃないの?」
「いや、食べてるけど…こんなには食べないよ」
並べられているのは鯵の開き、ほうれん草の御浸し、漬物、味噌汁、金平牛蒡、卵焼き、
そしてご飯。これだけボリュームのあるラインナップの朝ごはんなんて生まれてこの方食
べた記憶も無い。無論見ただけで出来合いではないことは分かる。これだけの物を作るな
んて流石はタマ姉と言った感じだ。
「そう。まぁ食べてるなら良いけど、もし食べたくなった言うのよ?タカ坊の分もちゃん
と作ってあげるから」
「気が向いたらね。それよりも今はこれを食べたいかな」
「そうね。私もお腹空いちゃったし。じゃあいただきましょうか」
「あれ?雄二は」
「雄二は寝てると思うから先にいただいちゃいましょ?」
「う、うん」
逃げれないようにしておいたって言ってたけど…雄二、落ちたか?しかしこんな所で下
手に詮索して俺も巻き添えになるのは賢い選択ではないのが本能的に分かった。雄二、許
してくれ。俺はお前よりも朝食を取るぞ。
心の中で雄二に対して謝ってから俺は食卓に座って朝食を頂くことにした。
「うん、美味しい」
「当然よ。タカ坊の為に作ったんだから」
「ありがと。こうやってこの家でタマ姉が作ってくれるご飯を食べるのは初めてかも」
「そうね、そもそもタカ坊が家でご飯を食べることが少ないものね」
小さいときはこの家で雄二、このみも一緒になってご飯を食べることはままあったけど
タマ姉が戻ってきてからは高校生になったというのもあるし何よりこの家で夕飯なんか食
べた日にはタマ姉のどんな策略があるかと言った不安からタマ姉に誘われても断ることが
しばしばだった。ひょんな事で一緒にタマ姉お手製のご飯を食べたが流石は九条院で自炊
していただけあって美味い。前からお弁当でタマ姉の料理の上手さは分かっていたがこう
して温かいご飯を食べると一層実感させられる。
味噌汁椀を手にとって口にしようとしたところでふと湯気越しにタマ姉の方を見るとこ
っちをニコニコしながら見てきていた。ずっとそんな笑顔で俺が食べているところを見ら
れていたのかと思うと急に恥ずかしくなってしまう。
そのまま終始タマ姉の視線が刺さってきて恥ずかしい中、朝食を食べ終えた。
「ご馳走様」
「はい、お粗末さまでした。全部食べてくれるなんてタカ坊偉いじゃない」
「だって折角作ってくれたのに残したら勿体無いからさ」
「うんうん、やっぱりタカ坊は良い子ねぇ〜。それに比べて雄二は好き嫌いが激しいし、
作ったご飯を残すし…我が弟ながら情けないわ」
はぁ〜とため息を大きくつくタマ姉。まぁ雄二にも雄二なりに大変な事もあるんだろう。
タマ姉が食器を片付けている最中に雄二に部屋へと言ってみることにした。寝てるなら
起こしておかないと俺だけに面倒な用事を押し付けられたらたまったもんじゃない。雄二
の部屋の前についてノックをしてみるも反応は無い。再度叩いても反応なし。ノックをし
たんだから別にやましい状況に出くわす事は無いだろう。俺はノブを回してゆっくりとド
アを開けた。
「ふむむむー!ふむむむむむー!」
雄二は確かにそこにいた。けど俺の知ってる雄二は蓑虫のように簀巻きにされ、吊るさ
れてはいない。きっと夢だろうと思いたかったのは山々だが俺に助けを請うように左右に
身体を捻るその姿は実に気持ちが悪い。現実であるのは間違いないみたいだ。
とりあえずは雄二の口にしっかりと咥えられている手拭を取ってやった
「よぉ、お前は珍しい寝方をするんだな」
「寝てたわけじゃねぇ!!姉貴にされたんだよ!!」
確かに自分だけの力でこんな器用な体勢になんてなれるわけない。粗方タマ姉から逃げ
ようとしたがそれも叶わずこの様な見るも無残な姿にされたのだろう。とりあえず雄二を
吊るされた状態から解放してやり、縄を解いて簀巻き状態から解放してあげた。
「また無駄に抵抗したのか?」
「無駄とか言うんじゃねぇ!! どうせ休日に姉貴が言ってくること何か次の日に全身筋
肉痛になりかねない他の見事なんだぜ!? 折角の休日をそんなことで潰してたまるかっ
て事で挑んだが…」
そこで悔しそうな表情を浮かべる雄二。どうやらその挑戦も徒労に終わったようだ。
「案の定お前も呼ばれたか…その様子じゃ未だに姉貴の事を信じきってるだろ!」
「信じきってるって…信奉者じゃないんだから。用事があるから来いって言われただけで
朝食も用意してもらってたから食べたし」
俺が話している途中で雄二が俺の両肩をがしっと掴んできた。何と言うか目がマジなの
が分かる。
「お前が義兄になるのは100歩譲って許すとしてもお前はそれで良いのか!?あの姉貴に
騙され続けていて良いのか?それで本望なのか〜!?」
肩をガシガシ揺らして熱弁を揮う雄二。こいつの義兄になるってどういう事だろうか。
まさか俺とタマ姉が結婚するって事か?そりゃまぁタマ姉は綺麗だし、怖いときもあるけ
ど優しいし料理も上手いし傍目から見ても非の打ち所の無い人であるのは分かる。けどそ
こで何で俺と結婚することになるんだろうか。理由がさっぱりわからん。
「ゆ、雄二落ち着けって」
「落ち着いてられるか!おい、今すぐに逃げるぞ!さもないと…」
「さもないとどうなるのかしらねぇ…?」
暖房も効いていない朝の部屋は寒い。しかしその寒さとは明らかに違っている。背筋が
凍る。冷や汗が出る。本能が緊急退避を告げているのが分かる。ヤバいのだ。何がヤバい
ってあの声がしたからだ。タマ姉のあの声。明らかに悪さを見つけたといった感じの声。
俺はドアを背にしているからタマ姉が見れないが直接見ている雄二は俺の肩を揺らすの
ではなく自分の肩を揺らし始めていた。
「や、やぁ姉貴。おはよう」
「あら、雄二。お遅いお目覚めです事。それにしてもまさか雄二が私とタカ坊の婚姻を認
めてくれるなんて嬉しい限りだわ」
俺の顔の横を何かが横切る。その横切ったものは雄二の顔にたどり着くとその顔をギリ
ギリと締め付け始めた。そこで俺はやっとタマ姉の手が俺の後ろから雄二へと伸びてアイ
アンクローを極めたのだと言う事が理解できた。
「あだだだだだだ!!割れる割れる!もう割れる!間違いなく割れる!割れるってば!」
「私がタカ坊を騙してるだなんてそんな法螺が良く吹けたわけねぇ?そろそろもう一度自
分の立場ってのを分かっておいたほうが良いんじゃない?」
「ご、ごめんなざい…おねえざま…」
最初は全身をのた打ち回らせていた雄二もギリギリと鳴り響く音が大きくなるに連れて
段々とその動きを小さくさせ、終いにはだらんと力なくだれてしまった。タマ姉がその手
を離すとどさりと雄二の骸が床へと横たわった。
あぁ、雄二、あなたは私の知らないところへと言ってしまったのですね…
「勝手に人を殺すな…」
タマ姉が早く着替えてきなさいと一言残して部屋を去ってから俺が雄二へ死への手向け
の言葉を送ってやろうとした所で死に掛けながらも雄二が俺の方を向いてきた。どうやら
まだ何とか生きていたらしい。といっても瀕死には間違いないんだが。
「何だ、生きてたのか。折角手向けの言葉を送ってやろうかと思ったのに。俺の思いを無
駄にするのかお前は」
「だからって俺を殺すのか!貴様は!」
「時と場合による」
「人でなし!!」
その後雄二は何とか息を吹き返し…いや、元の状態に戻り、俺達はタマ姉に庭へと連れ
て行かれた。この家はやたらと敷地がある分庭も広い。小さい子なら迷子になりかねない
くらいだ。…ちょっと言い過ぎたかもしれない。けど小さいときはちょっとした林と言っ
た感じもしたもんだ。
俺らが寒さに体を凍えさせながら待ってるとタマ姉は両手に竹箒を持ってきてそれを俺
達に渡す。
「えーっと、まさかとは思うけど」
「落ち葉をここに集めてきて頂戴」
「まじかよ…どんだけ広いと思ってんだよ〜」
雄二が箒を持って肩を落とす。雄二に同情したいところだが俺もしないといけないんだ
よな。広い庭を眺めてただただため息が出てしまった。これって飴と鞭って言うのかな。
「広い…広い…」
呟きながらひたすらに箒を使って落ち葉を集める。幸いな事にこの家の木は常緑樹が多
いのか落ち葉自体はそんなに多いわけではないのだが広いせいで落ち葉を拾っては別の所
へ探しに行って拾って…ときりが無い。最初は雄二と同じところを二人でやっていたのだ
が余りにも広すぎるので二手に分かれて端から行ってしまおうと言う事でこうして分かれ
て行っている。
どれくらい時間が経ったのだろうか。そしてどれ位終わったのだろうか。進行方向を眺
めてみても出発地点よりも遠くに目的地があるのだけは分かるだけだ。あー、何か嫌にな
ってきた。けどここで止めてもタマ姉からのお仕置きが待ってるだけか。結局心の中で泣
きながら黙々と箒を掃き続けた。
「タカ坊、そろそろお昼にしましょ」
「あ、ありがたい」
落ち葉掃除をしている俺のところにタマ姉がやってきてお昼を教えてくれた。縁側へ行
くと既に雄二は座って俺を待っていた。そんな雄二を見ると俺以上にへばった様子なのが
一目で分かる。また逃げようとでもしたんだろうか。
「大丈夫か?雄二」
「朝飯抜きでこれは辛い…」
あぁ、そう言えばこいつ朝飯食べてなかったな。自業自得と言いたいところだけどあん
な悲惨な目に遭ってたのを目の当たりにしたらそんな事も言えやしない。二人で縁側に座
ってぼーっと空を眺める。少し雲はあるけど太陽も出ていて天気は良好。こりゃまるで日
向ぼっこだな。
「はい、お疲れ様。お昼ご飯よ」
タマ姉がお盆に載せて持ってきたものはおにぎりに唐揚げ、たくあん、そしてお茶と
言った簡単に食べれるラインアップだ。最もその唐揚げだけでも凄く美味しいのは当然の
事だった。
うん、労働の後の食事は実に上手い。
食事の後の休憩を挟んで再度庭掃除が始まる。もう半分位は終わっただろうか。後半分
と考えると長いんだか短いんだが何がなんだか分からなくなってくる。それでもひたすら
に掃き続ける。昼食を食べてエネルギー補給をしたおかげでまだ何とかやれそうだ。
「終わったぁ〜!!」
最早太陽は真上を通り過ぎていたが何とか俺のやるべき範囲は終わらせることが出来た。
箒に体重を預けて休んでいると雄二も遅れて落ち葉をまとめた場所へと戻ってきた。
「やっと終わった…」
「お疲れ、雄二」
「お前もな」
二人で達成感以上の疲労感を受けているとタマ姉が今度はお盆にさっきとは違ったもの
を載せてきた。赤紫色の皮に包まれた根菜、秋の風物詩の野菜、さつまいもだ。
「焼き芋かぁ。こんな風に落ち葉で食べるのなんてタマ姉がまだこっちに居た時以来じゃ
ないかな」
「あの時は周りのガキ共全員を集めてみんなでこの庭の落ち葉集めさせられて焼き芋した
んだっけか」
あぁ、あの時も俺らはタマ姉に引っ張りまわされてたんだっけ。いい加減成長しろよと
自分に言いたかった。
落ち葉の中にホイルに包んださつまいもを入れ、上に落ち葉をかけて覆う。紙縒り状に
した新聞紙を使って種火をつくり、後は落ち葉をゆっくりと燃やすだけ。火が燃え移った
木の葉はパチパチと音を立てて爆ぜる。煙が立ち上りそれが天まで登っていく。
火が消えないように落ち葉を度々混ぜながら焼き芋が出来るまで待つ。
「こうしてると昔を思い出すわね」
縁側で焚き火を見ながら隣で座っているタマ姉が話しかけてくる。タマ姉の方を振り向
くと彼女の顔は焚き火を眺めながら昔を懐かしんでいるような表情をしている。
「確かにね。この年になってこんな事をするなんて思ってなかったよ」
「あら、つまらない?」
「そうじゃないよ。焚き火なんて高校生にもなってしないしさ、昔を思い出せて楽しいよ」
「そう。それならタカ坊を呼んだ甲斐があったわ。この年になってだけどね、タカ坊と昔
一緒にやった事をやってみたくなったのよ」
「一緒にねぇ。そういやぁいろんな事やったもんな」
主にタマ姉が俺らを引っ掻き回して楽しんでいたような気もするけど楽しかったのは小
さいながらも覚えていた。こんな思い出を再現できるのも良いもんだな。そんな事を思い
ながらじっと焚き火を眺めていると横からの視線に気づく。視線の元は無論タマ姉だった。
それに気づいてタマ姉の方を向くと彼女は途端に落ち葉の中で輝く炎の紅の様に顔を染
めてきた。あれ?俺ってばタイミング悪かったかな。
「どうしたの?タマ姉」
「あ、いや、た、タカ坊もかっこいい表情させるんだと思って…それだけよ」
「かっこいいなんて、俺なんか褒めてどうすんのさ」
「別に褒めたわけじゃないわよ。そう思っただけ」
「ふーん…、なら俺から言わせて貰えるならそうやって顔を赤くさせてるタマ姉も可愛い
と思うけどね」
「ばか…それこそ褒めてどうすんのよ…」
「別に褒めたわけじゃないよ。そう思っただけ」
タマ姉の言葉に対してさっきタマ姉自身が言った言葉そのままで返すと頬を膨らませて
不満そうな顔をしてきた。こうコロコロ表情を変えてくるところなんか何だかんだ言って
タマ姉も子供なんだからなぁ。
「おーい、もうそろそろ良いみたいだぞ〜」
落ち葉をカサカサとかき混ぜて焼き芋が出来上がったのを雄二が知らせてくれた。黒く
なった落ち葉の中から出てくるのは熱くなったホイルに包まれた焼き芋。熱い中慎重にホ
イルの包みを解くとほんのり焦げた焼き芋が姿を現してきた。二つに割ってみると湯気が
立ち上がり、その湯気の先には黄金色に輝く芋の中身が見える。どうやら焼き具合は良好
みたいだ。
「おーうまそー!」
雄二が嬉しそうな顔をさせながらホクホクと口を動かしながら芋を食べ始めた。俺も早
速食べてみた。無論食べ方は皮など剥かずにかぶりつく!!口に入れると芋本来の甘さが
口に広がってきて、味が懐かしさも伴って来ているような感じをさせてくる。
「うん、美味いな。そういえばタマ姉、このみは呼ばないの?こんなのこのみ呼ばなかっ
たら拗ねるんじゃない?」
こんな秋の風物詩でしかも食べ物のイベントでこのみを無視してそれをこのみが知った
場合の彼女の態度が容易に想像できる。それにタマ姉がこのみを呼んでないはずがないし。
「安心なさい。ちゃーんと呼んであるから…ほら、噂をすれば」
タマ姉の視線の先に目をやるとそこにはこのみの姿があった。まるでこの焼き芋の匂い
に釣られてやってきたみたいにも思えてくる。俺達が食べ始めているのが分かったのか
近づいてくる速度があがった気もする。そして自慢の健脚ですぐに俺達が居る所までやって
きたのだった。
「少し遅れてしまったであります。あ、タカくん達もう食べちゃってるの〜!?」
「安心しろよ、このみの分もちゃんと焼いてあるから」
「なら一安心であります」
自分の分があるのが分かると満面の笑みを浮かべてくる。相変わらず食いしん坊な奴だ。
「それじゃあいただくとしましょうか」
「あ!雄二!てめぇもう2本目だろそれ!!」
「知るか!この世は所詮早い者勝ちだ!!」
「あー!このみも食べるー!!」
「ほら、まだあるんだから取り合いっこしないの」
木枯らしが今にも吹きそうな冬の寒さが訪れているこの街でもここだけはまだほんのりと暖かかった。
色々貴重な意見どうもありがとうございます。
確かにみなさんの意見も聞いてなるほどと納得する部分ばかりです。
こればっかりは自らの技量の低さに申し訳なく思う限りです。
自分の作品でこのスレが荒れるのは自分としても好ましくないので
一先ずはBrownish StormはWebページでの公開のみでこちらではお知らせだけさせていただきます。
これなら見る見ないが完全に一人一人の判断になって良いかと思いますので。
最も連載の更新自体は少し置いて暫くは短編で修行してみたいと思います。
ミルファにこだわらないでというよりもミルファ以外で普通に書いていきます。
その際はこの名前は使わないので自分の作品だと分かっても詮索なしでいてくれると嬉しいです。
無論Brownish Stormは書きます。完結はさせます。ミルファへの愛で書きます。
気晴らしというと言い方は悪いかもしれないけどこうした普通のSSを書くのはやっぱり楽しいです('∀`)
>>705 激しく乙です
まぁ、よくもわるくも2chですし、気負いすぎずいきましょう。短編、ブラウニッシュ(やっと全話読んだ)共に期待してます。
個人的にはエロよりシリアスラブ黒希望。ところで河野家って今どこかに纏まって置いてないんですか?1話から読みたいんですが…前スレのみ?
>>705 乙〜
上でこのみとタマ姉のSS希望って話が出てたから、書くとは思っていたけども……
ホントにくると驚き通り越してポカーンとするなw
どーでもいいツッコミだけど、
落ち葉焚きって小学生とかだと危ないからむしろ高校生とかの方がやる機会はあると思う
>>705 乙です
俺は自宅にネット環境がなくて携帯からしか見れないから
Brownish Stormはここにupして貰いたかったんですが…
>>705 乙。
前から気になってたんだけど、読点の使用率極端に低いよね?
こだわりがあるのかなんなのかはしらんけど、読む側としては非常に読みづらい文章になってる。
読点なしの長文なんて読む気しなくなってくるよ。
あとどうでもいいことだが、4/9の雄二の台詞。
「どうせ休日に姉貴が言ってくること何か次の日に全身筋 肉痛になりかねない他の見事なんだぜ!? 」
これだれか翻訳してくれ。
ぱっと見でも、横方向に文字が詰まりすぎてると感じる。
句読点の使い方、というか読点の数がちょっと変。今まで通
りでも読めないことはないけど、やっぱちょっと読みづらい。
厨房がパクリとかうるさいけど、気にせずに頑張ってください。
>710
「何か」→「なんか」
「他の見事」→「頼みごと」だろうね。
後書きの「最も」は「尤も」だと思うよ。
本文その他共にちょっと誤字が多すぎるので、推敲を重ねてみては如何か。
Brownish Stormをサイトにあげるだけにしろとか誰も言ってないのに……。
最近、パターン化しててマンネリっぽいから、もうちょっと頑張ってくれって言ってたんじゃ?
結構もう長く続いてるんだし、それなりに読者も人気もある作品で
保守的になりがちなのは、なんとなくわかるがドラゴンボール化させてしまうのはもったいない。
連載の物語は常に新しい展開と読んだときの驚きと説得力と力業。
読者に先を読ませない、「えー、こんな展開になっちゃったら……でも、最後はうまくいくんだよね?」
例え、ミルファとの間がこじれても「どーせ、元鞘に戻るんだろ」と先に思われたのではダメ。
「これは、ミルファがヒロインの話だから、どんなにトラブルがあってもちゃんと元鞘に戻れるんだよね?」
この最後の?が大切。
まあ、Brownish Stormはずっと追いかけて楽しみにしている作品だし頑張ってくれ。
>>708に惚れた
ありがとうございます!お陰で河野家全話読めましたー。これで心おきなく河野家マダーできます!
このスレに触発されてSSという物を書いてみたけど難しいもんですね…自己満足で終わってUPする勇気なんてとてもじゃないけど無い…
精進しよう。
最近は批評なのか言いがかりなのかよくわからない意見が
SS投下の度にあるから、サイト持ってる作者がサイト掲載のみに
したくなるのも仕方ない。
つうかさ、誰とは言わんが尻軽すぎるんだよね。
スレでリクエストがあると、そのキャラのSSを書いてくださるとか……
そら要望に応えられるのは偉いと思うが、上がってきた作品は誤字脱字だらけ。
たまにキャラの名前を間違えてたり口調がおかしかったりする。
それを見ると「ホントに貴方はこのキャラの話を書きたかったのか?」と聞いてみたくなるんだよ。
ぶっちゃけ目立ちたいがために、そのとき流行ってる(?)キャラに手を伸ばしてるようにしか思えん。
最後は俺の私見でしかないけど、テンプレキャラにテンプレ台詞喋らせてるだけで
そのキャラらしさの感じられないSS読んでると気持ち悪くなってくるんだ。
荒れそうなレス書いちまってすまん。大人しくROMるわ。
>>716 そしてそのコメントを書くことでキミも目立ちたかったわけだな。乙。
キャラらしさとかそんなのは、初期設定とか作中の設定から外れなきゃいいんだよ。
職人さんを遠ざけるような我侭言うなよ、このタコスケ
>>716
まあ、716の言ってることはおかしいな。
どんなところに「らしさ」を感じるかなんて人それぞれ。個人の嗜好でSS作家さんのやる気を削がれちゃ敵わん。
だが717とか718みたいに煽るだけの作家さん擁護もどうかと思うぞ?
言いがかりみたいなレスでも悪いと思った点を指摘してるわけだし、一つでもいい点を挙げるのが本当の擁護なんじゃないか。
つーか、ロクに感想のレスもつかないのに、こういう話題になると急に人が増えるよな('A`)
これじゃ作家さんが離れてもしょうがないんじゃないよ…批判の批判する暇があったら感想書こうぜ…
>>705 GJ!
ミルファの話も頑張って。応援してる。
作品を人の目に触れる場所に出せば、賞賛や批評が来るのは当たり前
>>705 乙です。
いいな、こういう話好きですよ。句読点どうのこうのってのは、
まあ多少気にならなくもないけど。
適度に改行入れればもう少し読みやすいかなと思います。
(改行多すぎるとエラーが出るし、レス数が多くなるのも
どうかと思って詰めたのかも知れませんが)
>>689-693 レスサンクス。
もう一回花梨シナリオやってくる…いっそ全部やり直すか。
>>716 最初っからそんなの書かないで大人しくROMってろよ
それでも気持悪くなるんなら、NG指定するか失せろよ
直して欲しいならその煽り文体やめろよな
>>719 ここの住人は殆どが『批判』と『擁護』のラインが分かってない、もしくは見えてない。だからどんなことがあっても煽りに見えてしまう。
なら、マターリと職人さんが書いてくれるのを待って、正論だけ言った後GJ言えば丸く収まるじゃないか。
>>721 花梨の場合は、タマゴサンドを分けてくれるより
身体を許す方が先のような気がしますw
何にせよ、また花梨SSを期待してます。
いや、花梨でなくてもいいですがw
>>709のかたと同じ理由でどうかよろしくお願いします
【感想】桜の咲く頃 第六章
隠れていた(んだよねぇ?)人間の後ろからどうして?(どういうシチュエーションなのか)
というのは引っかかる…
それはさておき。
郁乃自身の言動もですが、次回に予測される貴明の行動に 愛佳と郁乃をどう動かすのか…
ハラハラドキドキです。だって下手をすれば前書きを裏切ってしまいそうで。
そして タマ姉の存在(介入)も予測不能でドキドキ(w
でも今回の 貴明と タマ姉の やり取り。郁乃の言葉からタマ姉とのやり取りに繋げて、
二人の自然な一シーンを話に織り込める、それがすごいなぁ と思います。
>>726 あきらめろ。
この状況で連載物をここに投下するのは勇気がいる。
>>728 同感だな。
後先考えずに叩くだけのモグラ叩きみたいなやつがいるからな。
漏れ自身は作者サイトに上げられても読めるが、やはり
このスレに上げてほしいと思うよ。
漏れでもこんなところうpしたくない罠。物書きだけどさ。
荒れると思うならグッと堪えろよ。物書きなんざごまんといる。でも皆が皆おまいらを悦ばせるためにいるんじゃない。
自己満足の文章で終わる香具師、どうでもいい話を作る香具師、ふかわみたいな一言ネタでツボを突く香具師。
十人十色なのに自分の気分に合わないから叩くじゃ、荒れるだけだ。見なかったことにすると割り切れないのかねぇ。
ここの住人の質も落ちたな。
気分に合うから褒める
気分に合わないから叩く
どっちも同じようなものだろ。
人によって感じ方が違うなんて当たり前。
叩かれるのだけ嫌だなんて、それは我侭だろう。
職人さんのご機嫌を取りたいんなら、1に「批判禁止」とでも書いとけ。
何かおかしな話になってるなあ。結局、作者さんがどう感じてるかってのがすべてじゃないのか?
>>731の言い草は極端すぎる。誉めてる読者側だって思うところがあって誉めてるわけで
別にご機嫌とりのために誉めてるってわけじゃないだろ(そういう側面はあるかもしれんが)
それが穿った見方だってことを自覚してくれ。
あと、728と729は作者さんなのかな? 貴方たちが作者さんで、批判なんていらないってのが
貴方たちの考えなら、作品投下するときに叩かないでくれって一言添えてくださいな。
それでもわざわざ叩く奴がいるなら、そのときに「そんなこと言うな」って言い返せばいいんじゃないかな。
730は作者さんみたいだけど、言いたいことはすごくよく分かる。
俺も書き手だし、同じように考えたことはあるよ。…でも、ここが2chだっての忘れてないか?w
荒れると自覚してるのに煽ってる人はレベルが低いだろうけど、
批判・叩きを「自分の気分に合わないから」って理由だと思い込んで切り捨てるのはどうかと思うぞ。
まー、虹が出てくるまでは、このスレのSSは叩かない、みたいな不文律があったし
今の雰囲気がいいか悪いか聞かれたら、間違いなく悪いよね。
ただ、どうして荒れてるかっていったら、730みたいな「誉めろ。気に食わないものは無視しろ」
って意見と、731みたいな空気を読まないで正論ばかり振りかざす意見が対立してるからなわけで。
大半の住人には関係のないことだから、もうごちゃごちゃ言うのやめてくれねーかな?>どっちサイドも
叩く人間が出てくるのは止められないけど、それにいちいち噛み付くから大事になるんだよ。
それこそ無視しちまえば勝手に流れるんだから、ほっとこうぜ。
というわけで、
河野家マダーチンチン
>>732 「職人さんが居なくなるから叩くのはやめろ」
という流れになっているから、ご機嫌を取りたいんなら〜って思ったんだよ。
褒めるのがご機嫌取りのためとは思ってない。
まぁ、
>>732でFAって事でみんな納得だろ
わ、わたしなんて河野くんの為に即席のSS書いたんだからぁ〜!
Ω>まったくいらない
作者の中には作者様マンセーを望んでる奴もいれば、道楽で書いている奴もいる。
ただ前者が圧倒的に多いのが実情だがな。だから作者に媚びる是非もない。
書きたい奴は書かせておけばいい、感想を言いたい奴は言えばいい、もともとそういうスレだろ?
気に入らなければレスしなけりゃいいだろ。批判までしてスレから作者を排除して楽しいか?
いつからマンセー&批判オンリースレになったんだ?
誤字・脱字、句読点がないのは、ただ読みにくいだけで読む分にはなんの問題もないし、プロだってそのくらいやる。
でもこう言っちゃなんだが、21歳超えてて、ある程度の漢字の読み書きぐらいできないのも変だけどな。
俺は新作に期待だな。ぶっちゃけ今のこのスレの職人にこの流れを変える力はない。
2chのSSスレなんて良くも悪くも「便所の落書き」
作者にとっては匿名で気軽に投稿出来る場だと思うんだけど。
その分 煽りレスも出てくるのは必然。でも同時に忌憚のない意見も言いやすい。
ちゃんとした意見が欲しければ無料サイトに自分でUPして無料BBSでも付けておけば良い。
連載もので自サイトがあるなら、何もここに投稿する必要は無い、とも思う。
まぁ、その管理の手間を作品書くのに廻したい、という考えもあるとは思うが。
選ぶのは作者側でしょ。
>>734 すまん。その部分は俺が思い込んでしまってたみたいだ。
悪かった。
>>736 …
だから、流れを変える必要なんてないんだってば。
貴方みたいなレスを書く人がいなくなれば、自然に前の流れに戻るんじゃないのか?
ここはそれでいいじゃん、って話をしてるんだよ。
そんなに優れた作品が読みたいなら、SSlinks回って自分で発掘すりゃいいんじゃない?
どうしてこの場所にそこまで執着するの?
ある程度実績があるって言うと変だけど、二次創作をキチッとやってる作者さんは2chに書き込まないで
自分のHPだけで活動してると思うんだが。
最後の一文をどういう意図で書いたのか分からんが、貴方みたいな人たちが言い争いをしているのを
持ち出して、その責任を職人さんに負わせるみたいな言い方はやめときなよ。みっともない。
「作者」とか「読み手」とかいちいち分けてかくあるべし、なんてナンセンスにも程がある。
ここにスレがあり、書きたいと思った人はSSを投下して、面白いと思ったらレスをつける。
それでいいじゃないか、それ以上何が必要なんだ。
741 :
571:2005/11/04(金) 17:40:51 ID:TxrfP5jP0
蒸 し 返 す な
ジャンクションと河野家を待たせてもらいます。
あと41kb…埋めるかあと41kb…埋めるかあと41kb…埋めるかあと41kb…埋めるかあと41kb…埋めるかあと41kb…埋めるか
あと41kb…埋めるかあと41kb…埋めるかあと41kb…埋めるかあと41kb…埋めるかあと41kb…埋めるかあと41kb…埋めるか
あと41kb…埋めるかあと41kb…埋めるかあと41kb…埋めるかあと41kb…埋めるかあと41kb…埋めるかあと41kb…埋めるか
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あと41kb…埋めるかあと41kb…埋めるかあと41kb…埋めるかあと41kb…埋めるかあと41kb…埋めるかあと41kb…埋めるか
そんなんで埋めてもしゃーないw
SSできたんで上げようかと思ったけど、次のスレ待った方が良いかな?
>>744 新スレ立てましたので、お好きな方に投下してくださいませ。
746 :
744:2005/11/05(土) 03:13:15 ID:EyEDo7cn0
それじゃあお言葉に甘えて、新スレの方に。
お世話かけます。
んじゃ、こっちは埋めがてら、叫ぶとしようか。
河野家まだーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!???
新スレ何処〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
と聞きつつ埋める
新スレも立った事だしここいらで埋めがてらに18禁黒菜々子ssを投下しy(ry
埋め埋め
埋めがてらに好きなSSを挙げてみる
テンダーハート@このみ好き
作者さん新作書いてくれないかな〜
・苦手なものを克服しよう
・焼肉を食べよう
・受け継がれるもの
・指先に溶ける
・優しい嘘を
・ただ心だけが
・知らぬがホトケ?
・ある日、アイス屋の前にて
・つないだ手の先、指の先
・河野家にようこそ
とりあえず10個。わっかりやすい趣味してんな俺。
>754
>・知らぬがホトケ?
ここがかぶったので残りを参考にさせていただく。
取り敢えず「優しい嘘を」は良かった。
現時点では ミルファLOVE @ RE-try〜リトライ なんだけどね(w
姫百合姉妹のいいのって無いかなぁ〜
好きなSS?
自分で書いたSSかななんといってもじぶんももうそう120%とりいれられているし
まさに理想のSS。
と冗談はさておき、「いのちの行く末」と「Brownish Storm」のシリーズはかなり好き
な部類に入りますね。
他にも気に入ったSSはありましたが、タイトル気にしてなかったせいでもうどれがど
れやら。10話も20話も続く長編は、一度読まないでいるとなかなか続けて読みに
くくなります。
つーかですね、どなたかイルファ乃至は姫百合姉妹SSの良い物がないかと。
エロなら更によし・・・いやエロじゃなくても別に面白いSSなら、でもエロが読みたい
っ!!
俺はジャンクションの中の人の作品なら大概好きだな。
良い意味で面白い文章を書く人だからな。見ていてつまらなくなる事がない。
--虹の欠片-- 第十二話
いい天気だった。空は非現実的なまでに薄い水色で、ところどころに白い絵の具をハケ
で刷いたような雲が描かれている。風は冷たかったが、運動で温まった体には清涼に感じ
る程度のものだった。
文化祭の当日である。屋内がメインのこの行事に天気はあまり関係ないだろうが、文化
祭日和と言っていい、そんな天候だ。
だというのになんの因果か俺は屋上で白い粉まみれになりながら、ライン引きの道具を
持って、友人の妹に昨夜のことについて問い詰められている。
――昨日、お姉ちゃんと何があったか説明してもらおうじゃないの!
まだリハビリの終わりきらない足で屋上まで上がってきたその根性は見上げたものだが、
困ったことに昨日小牧と俺の間には何もなかった。まったく何もなかったワケではないが、
郁乃が思うようなことはなにも――。しかしこれほど説明しにくいものもあるまい。少な
くとも郁乃には、小牧が俺の家に泊まってくると電話したにも関わらず、結局その日のう
ちに帰ってきたという、十分すぎるほどの状況証拠があるのだから。
というか、おじさんとおばさんに弁明しなきゃいかんような、それをするとかえってお
かしいような……。
ともかく俺は固まった。思考が関係ない方向に向かうくらいに固まった。
「え、……あ、う……」
もどかしく口を動かすが、まともな言葉は出てこない。
その、なんだ、小牧とのことはまだ記憶に新しすぎて、生々しすぎて、俺の中で事態の
処理が終わりきっておらず、先に保留されている状態なのだ。それを説明しろと言われて
も困る。
「言えないようなことしたわけね……」
郁乃が人を刺せるような視線で俺を睨みつける。
「待て、それはない。その……なんだ……」
「セックスしたんでしょ」
そのあまりに明け透けな物の言い方に、俺の方が驚いてしまう。
「してない」
「嘘つき」
「本当だって」
「信じられるもんですか――」
――悲しいかな、この議論は多分どこまでいっても平行線だ。どうやら郁乃の中では俺
が小牧を相手に乱暴に事を運んだとでも言うようなストーリーがすでに出来上がっている
らしく、何もなかった以上、否定しか口にできない俺を郁乃が罵るといったような言い合
いにもなっていない口論がしばし続いた。
……やがて郁乃の語彙も尽きたのか、お互いに言葉が止まった時だった。
「――ええとお取り込み中のところ悪いんだけど……」
救いは意外な方向からやって――、
「ライン引き貸してくれる? 続きやるから」
こなかった。
「笹森さん……」
ちょっとは空気読んでよ、という万感の思いを込めた視線を送りながらライン引きを笹
森さんに預ける。
「ん、ああ、ええんよ。ええんよ。たかちゃんにはたかちゃんの事情があるんだろうし、
納得いくまでどうぞ、どうぞ」
そう言いながら、笹森さんはさっさと奇妙な図形を描く作業を自主的に始める。どうや
ら笹森さんとルーシーの二人で俺を弄って遊んでいたわけではなく、彼女らは彼女らなり
に真剣らしい。
そういうことなら仕方ない。郁乃はどうでもいいから続きをやれと言われなかっただけ、
笹森さんなりに気は使ってくれたんだろう。
「ふ〜んふん〜♪」
なにやらCMソングらしきものをハミングしながらラインを引くその姿は、気を使って
いるという姿とは余程かけ離れたものではあったけれど……。
「……ねぇ、なにやってんの?」
流石の郁乃も毒気を抜かれたか、眉をひそめて、当然至極なことを聞いてきた。
真面目に答えるべきか十秒ほどたっぷり悩んでから、ありのままを伝えることにする。
「聞いて驚け! そこにいる長髪の女の子は宇宙船の故障で帰れなくなった宇宙人で、救
助船にこちらの居場所を伝えるために、その、なんだ……、地上絵を描いている…………
らしい……」
言ってる最中に無性に恥ずかしくなって最初のテンションを維持できなかった辺りが、
俺らしいところだと思う。
「なにそれ? 貴明、アンタ、そんなこと信じてんの?」
郁乃は明らかに可哀相なモノを見る同情と軽蔑の入り混じった複雑な表情を浮かべる。
いや、俺だって知ってるヤツが急にそんなことを言い出したら同じ顔をするだろう。心
配して――お前、大丈夫か?――くらいのセリフが付くかもしれない。
だから郁乃の言葉は普通の反応だと言えるだろう。俺だってそうだ。だから俺は肩をす
くめて、「実のところこれっぽっちも……」と言うつもりだった。
「――信じることと妄信することはまったく違う」
しかし俺が何かを言う前に横槍を挟んできたのはルーシーだった。
「実存の世界をこれだと決め付けるのが妄信だ。己の在り方をこれだと決めるのが信じる
ことだ。他人が信じることを、在り得ない馬鹿らしいと決め付けるのは妄信を信じ込んだ
馬鹿者のすることだ」
郁乃はきょとんとルーシーを見つめた。俺だって同じだ。ルーシーの言うことはすっと
頭に入ってこない。
「その……なんだ、もうちょっと分かりやすく言えないか?」
「難しいか?」
「ああ、多分に……」
「翻訳機は完全に復調した訳ではないから、意訳するのは難しい。他人の世界について口
を挟むのは馬鹿だと言えば分かるか?」
より分からなくなっただけのような気がする。
「ワケの分からないことを言って、話を煙に巻こうとしないでよ」
「確かに理解できないことを理解しようとしないのは正常な反応だ。私はお前が私を信じ
なくとも一向に構わない。だが――、他人が信じていることを軽蔑するな」
「う……、なによ、だって宇宙人とか、そんなのあるわけないじゃない」
「そう信じるのは自由だ。――だがそれを貴明に強制するな」
いや、どちらかというと俺もあんまり信じてないんだけど……、とはとても言い出せる
ような状況じゃない。少なくともルーシーは俺が信じていると信じている。
「強制なんかしてないわよっ!」
郁乃も郁乃で引っ込みがつかないようだ。その辺は郁乃の悪い癖で、引きどころが分か
っていないというか、引き方を知らないのだ。普通ならこいつ相手には話が通じないなと
思ったら、とりあえず自分が引いておけばいいものを、どうにも話せば分かると思ってる
辺りまだ純粋なんだろう。
「ねぇ、あなた、名前は?」
いつの間にかライン引きを手にした笹森さんが隣にやってきていた。振り返ると、不可
思議な幾何学模様が完成している。うーむ、意外というか、これなら最初から笹森さんが
自分でやっておけばよかったのではないかな。
「こま……、人に名前を聞くときは先に名乗るもんじゃないの?」
どこで仕入れた知識なのか、どこかで聞いたようなセリフ。だが、しっかり答えかけて
るあたりがまだまだ未熟だ。
「私? 私はねぇ、ミステリ研初代会長兼永久名誉会長の笹森花梨よ!」
会長被ってるから!
俺の言葉にならない叫びは、言葉にしてないので誰の耳にも届かなかったし、それでよ
かった。
「はい、私は名乗ったよ。さあどうぞ」
「小牧郁乃……」
「オーケー、いくのんね」
「なっ」
郁乃は目を白黒させて、俺に救いを求めるような視線を送るが、もう遅い。ご愁傷様だ。
「いくのん、あなたはミステリ研の名誉ある会員三号よ。おめでとう!」
ついに偽のアンケート用紙すら使わない実力行使に出始めたか。
「さあ、一緒にるーの救助船に向けて呼びかけるんよ。大丈夫、一人増えれば百人力だか
ら」
いや、一人増えても四人じゃ四人力だろ。とは思ったが、そんなツッコミは無意味なの
で止めておく。
笹森さんは幾何学模様の一端に立ち、威勢良く両手を空に向かって伸ばした。ルーシー
もいつの間にか別の一端に立ち同じように空に両手を伸ばす。俺と郁乃はどうしていいか
分からずに顔を見合わせる。
――ねぇ、あれやるの?
――できれば勘弁したいな。
視線だけでそういう会話が成り立つ。
「貴明、早くしろ」
「どうしても?」
「どうしてもだ。貴明が必要だ」
「なんで?」
素朴な疑問。ルーシーは両手をすとんと落として、厳しい目で俺を見つめた。
「私の地球での最初の接触者が貴明だからだ。地球という環境体との初期接触という意味
ではなく、思索経路体としての人類の中で最初に私という異性体と接触し、その影響を広
げた特異点が貴明だ。それゆえ観測側からすると、地球内に落ち込んだ私を捜索するより、
波紋の中心、つまり貴明を見つけ出す方がより容易であり、その貴明から呼びかければさ
らに効率的になる道理だ。理解したか?」
あー、わかんねぇ。
「……つまるところ、アレだ。その、ルーシーの仲間からすると、俺のほうが見つけやす
いということでいいのか」
「その通りだ。そして私の同性体がこの惑星を走査できる時間はそれほど長くない。効率
的に事を運ばなければ失敗する」
「効率的、ね……」
学校の屋上に白いラインで模様を書いて、空に手を向けて、どうせなにやら呟くのだろ
う。ベントラーとかなにか、それが果たして地球全土において個人を特定する上でどれほ
どの効果があるというのか。
「失敗しても責任は取れんぞ」
「失敗はない」
ルーシーの瞳がじっと俺を見据える。
何故そんなに信じられるのか。だがルーシーが俺を信じ切っているのは分かった。変な
話だ。俺たちのファーストコンタクトは散散なものだったし、そもそも俺が出会ったのは
るーこであってルーシーではない。るーこは俺に警戒心を剥き出しだったし、結局俺は
るーこを放り出して、すっかり忘れていたのだ。
「なんで、そう、言い切れる?」
「貴明は特異点だ。私と接触したことも原因のひとつだが、それ以前から貴明には思索経
路体の中で外部入力を受け入れやすい性質がある。情報の入力経路として情報井戸とでも
言うべきすり鉢状の大きなくぼみが存在し――本来それは無視できる程度に小さなモノだ
が――故障した私が引き寄せられるには十分だった。そうして私という情報を取り入れた
思索経路体は新たな情報経路を貴明を中心に組み上げた。異性体である私を含んだ形での
思索経路体の再構築だ。それによって思索経路体の現在の形状は本来のものとは貴明を中
心に変化している。私の同性体が見逃すような類のものではなく、そうであることは貴明
の性質だから、貴明に失敗はない」
「……もっと分かりやすく言ってくれ」
「端からならば、見れば分かる。水の上に落とした一滴のインクを見逃すのは観測者の責
任であって、インクそのものの責任ではない」
「俺がインク?」
「というより、筆だ。落とされたインクが私の存在という情報。だがインクそのものは広
がり、観測は難しくなっていく。今日貴明に接近したのは同性体に発見を促すため、そし
て貴明に接触したのは協力を求めるためだ」
「協力って……」
俺は屋上に広がる幾何学模様を眺めやる。ふと気がついたけど、これどうやって掃除す
るんだろう?
「それは違う。一種の儀式的な交感作用を刺激するための素材に過ぎない」
「噛み砕いて言うと?」
「それっぽいから書いた」
身も蓋もないとはこのことだ。ならばあちらで一心に空に手を向けてベントラーやって
る笹森さんなんかは一体なんなんだ。
「友人だ」
迷いも無くルーシーは言い切った。
「花梨は私を信じ、損得無く私に協力してくれる」
いや、多分損得勘定は思いっきり働いてると思う。ただそれが双方にとって得なだけだ
ろう。そんな考え方は穿ち過ぎだろうか? それとも笹森さんはルーシーが自称宇宙人で
なくても協力を惜しまなかっただろうか?
「考察は無意味だ。私の感情は花梨を友人だと告げている。花梨が私をどう思っていよう
と、私に取って花梨は友人だ」
なんとなく笹森さんのベントラーが一際大きくなったような気がする。というか多分聞
こえてる。
「なら俺はなんだ?」
ルーシーの目的にとって必要だからここに呼ばれただけの存在か?
「友人だ」
笹森さんの時と同じ、一瞬の躊躇すらない返事。
でも――。
「なんでさ? 俺とルーシーが友達になるような何かがあったか?」
「あった。貴明は私の最初の接触者で、異性体である私に手を差し伸べた。翻訳機の不調
の所為で相互理解に問題があったことが悔やまれる。そうだ。私は大切なことを忘れてい
た」
「…………?」
「――ありがとう」
右手を差し出したルーシーが初めて笑みを浮かべた。
「遭難し、混乱の最中に居た私に手を差し伸べてくれて感謝している」
その笑みは俺がこれまでに見たどんな笑みとも違っていた。いやそれは言い過ぎかもし
れない。適当な言葉なら思いつく。一切の打算のない、まるで幼子のような笑み、だ。
ドキリとしたことを認めないわけにはいかない。心が揺れた。
「どうして手を握らない? こうするのが地球流だと判断したが間違っていたか?」
気がつけば俺は差し出されたルーシーの手を握り返すことすら忘れていた。慌ててその
手を握る。自称宇宙人の手のひらは少しひんやりとしていたが、至って常人の範囲内で、
俺の中でちらりと疑いの芽が伸びたが、反射的な自制心がそれを踏み潰した。
そう、自制心はルーシーを疑うことを拒否した。
理性は依然として警戒を発し続けている。ルーシーと笹森さんのペースに巻き込まれて
はいけないと、自己主張して頭蓋の内側をハンマーで叩く。しかしそれと同時に意識の別
な部分がそれを無視しようとする。
ルーシーと握手を終えた後、混乱した俺は第三者の視点を求めて視線をさ迷わせ、屋上
のベンチに腰を降ろし、呆れた視線を寄越す郁乃に辿り着いた。
俺の視線に気付くと、郁乃はわずかに肩をすくめる。
――好きになさいよ。あたしは関係ないから。
とまあ、どちらかが念話能力に突如として目覚めたわけでもないだろうが、郁乃がそう
思っていることは容易に窺えた。
「貴明――」
振り返った俺の目を覗き込んでルーシーは真剣な表情に戻る。
「礼を言うのが遅れたことを詫びる。詫びることしかできない。それ以外には私には何も
できないが――」
ルーシーは俺の手を取った。握手ではなく、それは別の意思表示。
俺はこれを知っている……。
「だが、もう一度だけ手を貸して欲しい」
救いを求める手。
ひんやりとした手。月の表面に触れるとこんな感じかもしれないな、と考えた。勿論科
学的な根拠は一切無し、だ。
どくん、と、体の中で熱が脈打った。
ルーシーは俺を必要としている。以前俺が小牧を必要としたように、例えそれが見当違
いなことだとしても、俺を必要だと思っている。その向けられた思いが、まるで太陽の熱
のように俺を焼く。
ああ、ちくしょう。そうだな。一度くらいなんてことはない。いまさらだ。
「俺にできる範囲で、話を聞いてからなら」
言葉は控えめだったが、今ではやる気は満々だった。多少の無理はしても構わない。少
なくともベントラーしている笹森さんより奇特なことにはなるまい。
「ありがとう。貴明」
ルーシーは一瞬だけ笑みを浮かべると再び真剣な顔に戻り、そして言葉を続けた。
「では、一番大切な人に伝えたい言葉を叫んで欲しい。全力で――」
ああ、そうだ。
ルーシーは眉をぴくりとも動かさず、至って真剣にそうのたまわった。
「……は?」
俺の反応は一般的に正常なものであったと信じたい。確かに俺が置かれている状況は異
様極まりない。そもそも宇宙人に頼まれて救助船に助けを請うという時点で根本的に常識
と照らし合わせて考えようとする前提が間違っている。
「一番大切な人に伝えたい言葉を叫んで欲しい。今此処で、全力で――」
俺の疑問符を、聞き逃したからだと思ったのか、ルーシーは同じ事を繰り返した上に、
要件は増えていた。
「ちょ、待って、なんでそんな必要が……」
「必要は、ない。だが意味はある。さっきも説明したとおり、貴明は現状のしさ――」
「説明はもういいよ」
どうせ聞いても分かりやしない。
俺はついに悟った。やると言った以上やるしかない。それに思ったとおり、ベントラー
に比べれば幾分か常識的な行動だと言えた。
「ええと、一番大切な人に伝えたい言葉を叫ぶんだよな……」
「そうだ」
なにやら背中にちくちくしたものを感じるのは間違いなく郁乃の視線だろう。そのせい
か、最初に浮かんだのは小牧の顔だった。それは昨夜の泣き顔で、俺は胸がぎゅっと締め
付けられたが、だけど俺は首を横に振る。
自分の心に問いかければ、いつだって一番大事なのはこのみのことだ。そしてこのみに
伝えたい言葉は山のようにあった。山のようにある気がするのに、いざそれを言葉にまと
めてみようとすると、何一つ浮かんではこない。
それにこのみとはもう終わってしまったんだ。今更俺に何を言うことがあるだろう。
「たかちゃんて、いつもそうなんよ」
いつの間にか押し黙ってしまった俺の前に笹森さんが立っていた。
「言いたいこと言えばいいのに、余計なこと考えて止めちゃうんよね。なんで? 言えば
いいんよ」
「でも、だって……」
視線が落ちる。屋上に引かれた白線を見つめる。
このみがここにいるわけじゃない。けど、このみを傷つけて雄二のところに行かせてし
まったのは結局俺なのだ。そんな俺が言えることなんて――。
「たかちゃんはなーんも悪くないよ」
笹森さんはあっけらかんとしてそう断言する。
「何があったかは知らないけど、付き合ってる彼女が浮気して他の男のところに行っちゃ
ったわけでしょ。それってたかちゃんはなーんも悪くないよね」
「だけど……」
それでもその原因は俺にあったんだ。
「それって、アレだよ。ほら、アレ、えーっと、なんていうの。アレアレ、そう! 家に
泥棒に入られたのに鍵をかけ忘れてた自分が悪いみたいな感じよ。たかちゃんは悪くない。
うん」
何故そこまで俺が悪くないと断言できるのか。俺とこのみの私生活を覗き見でもしてた
のかと問いたくなる。だけど、その一方で笹森さんの言うことに反論できない自分もいる。
だけど俺はそう簡単に自分が悪くなかったなんて思いたくなくて――。
だってそうじゃないか。自分が悪くなかったんなら、どうしたってこのみが悪いことに
なる。それはこのみがしたことは良くないことだった。だけどその原因すら俺にないので
あれば、それは俺がどうしたって止めようがなかったってことになる。
「貴明は間違ったことをしたのか?」
「――したんだと思う」
「そのことを相手に詫びたのか?」
「…………」
あれは、詫びるようなことだったか。このみを女として愛することを誤魔化していたこ
とが……。いや、謝るべきことだったんだろう。だけど謝るよりも早く何もかもが変わっ
てしまってそんなことを考える暇さえなかった。
「詫びるべきなら詫びればいい。今ここで叫べばいい。けれど私は違う気がする」
「なんで?」
「花梨は貴明は悪くないと言った。私もそれに同意だ」
俺は思わず振り返る。ベンチに座った郁乃は眉を歪めてこちらを見つめていた。
「噂は聞いたけど、アンタの前の彼女のことならあたしも同意するわ。そこだけはね」
俺は――悪くない?
いや、何もかもが許されたわけではないだろう。郁乃の言ったようにそこだけを切り取
ればという話だ。その前に、その後に、俺は沢山の間違いを犯した。けれど少なくともこ
のみがしたことについて、俺は悪くない、のか?
「たかちゃんはなーんにも悪くないよ。あえて悪いところを挙げるなら、運が悪かったか
な。うん。今のウマイね」
何が上手いのかはさっぱり分からなかったが、何故だろう。救われた気がするのは――。
――そうだ。言いたいことは沢山ある。伝えたいことは山ほど体の内側に詰まっている。
まるで張り裂ける直前の風船と言わんばかりに、パンパンに膨れ上がっている。
沸きあがった衝動は一瞬で胸を満たし、肺で膨れ上がり、喉を暴風雨のように駆け抜け
た。
「――こんッちィッくしょおぉ!!――」
叫んだ。力一杯叫んだ。両手を握り締め、腹ン底に力を込めて、出せる限りの大声を出
した。その声はあまりに大きすぎて、俺が叫ぶことが十分予見できていただろう笹森さん
がひゃっと声をあげて飛び上がるくらいだった。
「ふッざけんなッ! くゥそッたれッッ!」
一度叫ぶと、罵り言葉は次から次へと溢れ出してきた。叩きつけるように、まるで狂っ
たように叫び続ける。いや狂ってしまったのかもしれない。これだけのモノを体の中に抱
え込んでいたというのなら、狂っていたという方が正しいやも――。
「俺が何をした! 俺が何をした! 俺が何をしたって言うんだ!」
喚き散らすのは目の前にいる笹森さんにでも、ルーシーにでも、もちろん後ろにいる郁
乃にでもない。これは全部このみに言いたかった言葉だ。言えなかった言葉だ。そういう
言葉を自分の中に抱え込んでいることすら解っていなかったが、確かにあった言葉だ。そ
うじゃなきゃ、こんな風に溢れてくるはずがない。
叫びとおしているうちに、本当に目の前にこのみがいるような気になってくる。
――このみは目を丸くしている。
――俺からこんな言葉をぶつけられるなんて想像もしていないからだ。
――――ああ、なんていい気味――。
――――――そう感じる自分を今は自己否定しなくてもいい。
「この裏切り者!」
――このみはショックで動けない。それはそうだ。俺の言葉に嘘はない。
――裏切ったのはこのみだ。俺のせいなんかじゃない。
そんな当たり前のことにすら今まで気付けていなかった。
「裏切り者! 裏切り者! 裏切り者め!」
叫ぶたびに心が深く抉れる。
――何故?
裏切られた傷はまだこれっぽっちも癒えることを知らない。
――何故?
「ちくしょう――」
――何故か、そんなのは決まっている。
「くッそォォ!」
まったく糞ふざけた話だ。
「――それでも」
いつの間にか両の目には涙が溢れている。
クソクソクソ、――小牧の前ならともかく、笹森さんや、郁乃の前で真っ昼間から涙を
流すなんて情けなさ過ぎる。
「――オレはッ」
ぼやけた視界で、空に向かう。それでも溢れかけた涙を止めることはできず、熱い液体
はこめかみを通り、首筋を伝う。
「――このみが好きなんだッ! 好きなんだッッ!!」
多分、その叫びは俺が思ってるほど大きな声にはならなかった。
情けない話だが、感極まっていた俺はそのまま屋上に崩れ、突っ伏してしまった。
熱い血流が全身にほとばしるように流れるのが感じられたが、やがてそれも消えていく。
幸いなことに誰も何も言わなかった。俺は制服の袖で目元を拭う。今更でも涙は恥ずかし
かった。
いや、正直、恥ずかしいなんてもんじゃなかった。
熱狂が過ぎ去った後に残ったのは、正反対に冷静に自分を見つめる視線で、自分が何を
しでかしたかについて、はっきりと覚えていた。
ああ、間違いない。俺はどうにかしていた。どうにかしていた。結局、笹森さんやルー
シーのペースに乗せられただけに違いない。
でも、それでも心のどこかに小さな満足感があるのは、本当に思っていたことを口にで
きたからだろうか。つまるところ情けない男の小さな嫉妬の叫びを。
ああ、そうさ。俺は未練がましくて、情けない馬鹿野郎だ。
それが分かっただけでも儲けモノじゃないか。なぁ。
「貴明――」
最初に俺に声をかけてきたのはルーシーだった。
「運命を信じるか?」
素っ頓狂なことこの上ないルーシーの、素っ頓狂なことこの上ない問いかけだった。
「信じない」
信じたくないと言ったほうがいいかもしれない。
自分が陥ってる、とんでもなくクソッたれな状況を運命だなんて思いたくはない。
「だが運命は決まっている。世界は、人は、在るべくして在るからだ」
ルーシーの答えは簡潔で、冷淡だった。
「未来は現在によって決定付けられる。その現在は過去によって決定付けられる。その過
去もまたそれ以前の過去に決定付けられる。あらゆる要素は過去のある一点に向けて極端
に収縮していく。始まりの一点、そこから発生したあらゆるものが、その終末までを決定
付けられているのだ。まさしくそれが始まったという理由に因って――」
「俺は信じないぞ」
言い切る。ルーシーのワケの分からない物言いにむかっ腹が立ってきた。どうやら叫ん
だことで、俺の感情のスイッチはどこか壊れてしまったらしい。
「どうにかできたはずだ! このみを失わないで済んだはずだ! 何かを間違ったはずな
んだ!」
「間違いを犯したこともまた運命の一部だ。そして世界は在るべき未来へと流れていく」
「受け入れろってのか!? このクソッたれな現状を! このみに裏切られた。雄二にも
裏切らた。俺はタマ姉を傷つけて、小牧を傷つけて、誰も彼もが傷だらけだ! 何もかも
が滅茶苦茶だ!」
「受け入れろ。それが現実だ。貴明」
「ふざけろよ! クソッたれ! 俺は変えてやる! 見てろ! 俺はこのみを取り戻
す!」
拳を屋上に叩きつけ、俺はルーシーを睨みつける。
ルーシーはただ俺をじっと見つめている。その顔がわずかに歪む。
「そうだな――。心残りがあるとすれば、それを見られないだろうことだ。私は……」
ルーシーは不意に言葉を切り、俺の後ろ側の空を指差した。釣られて振り返る。青い空、
薄い雲……、それは平凡な、どこまでも平凡な秋の空。
何も――無い。
「花梨、貴明、るーはいいうーに出会えた。本当に感謝する」
――え?
聞き覚えのある言い回し――。
慌てて振り返ろうとすると、急な突風が背中側から吹き抜けて、目を開けていられない。
まるで春の突風のような一陣の風は、ほんの数秒で屋上を吹き抜けて行ってしまった。
「るーこ?」
いなかった。さっきまでそこにいたはずのルーシー・マリア・美空は、まるで手品のよ
うに屋上から掻き消えてしまっていた。それは彼女が早すぎる春風と、桜の花びらと共に
現れたときのように、唐突で、そして不可思議だった。
――まさか、そんなわけ……。
視線がいるはずの彼女を探す。しかし唯一の屋上からの脱出口であろう屋上の扉は閉じ
ていた。開いた形跡もなかった。隠れるような場所も、時間もない。文字通りルーシーは
消失した。
「え……」
間の抜けた声は郁乃のもので、郁乃もまたルーシーが消えた現実を受け入れられていな
い。当然だ。受け入れられるほうがどうにかしている。今の突風に屋上から転げ落ちたと
いう方がよほど理性的な考え方だ。
しかし俺は屋上のフェンスに駆け寄って下を確認しようなんて思わなかったし、その必
要もなかった。俺は屋上にへたりこんだまま空を見上げた。秋晴れの空はどこまでも青く、
どこにもおかしいところなどなかった。間違ってもアダムスキー型UFOが視界を横切っ
て飛んでいくなんてことはなかった。もちろん葉巻型なら飛んでいったというわけでもな
い。
ただすぅーと空を白い飛行機雲が横切っていく。それはまるでルーシーが気を利かせて
くれた贈り物のような気がした。
「ねぇ、たかちゃん……」
白いラインに二分されていく空を見上げたまま、笹森さんが呟いた。
「ルーシーはどうやって消えたのかな……」
「さあ……」
なにせ、ルーシーの言ってたことが本当なら宇宙を渡ってくるような科学力を持った連
中だからな。
「俺たちには考えもつかないような技術があるんだろ……」
「うーん……」
笹森さんはさっきまでルーシーが立っていた辺りに行くとマジマジと地面を眺める。
「トラクタービーム? それとも物体転送装置? これは謎だね。るーもなんか残してい
ってくれればいいのに」
恨めしそうにルーシーが居た辺りにしゃがみこんで、屋上の床をぐりぐりと弄繰り回す。
「ふ、ふふふ、――ククッ、あはははは――」
そんな笹森さんの背中を見ていると不意に笑いがこみ上げてくる。こいつは俺の理解の
範疇を超えている。笑うしかない。
「ははははははは――」
頭を抱えて笑い転げる。幾何学模様が体に移り、制服を白く染めるが気にしない。どう
せその幾何学模様はもう必要ない。
「はははは……はは……」
笑いつかれてごろりと屋上の真ん中に転がり、空を見上げる。
こうしていると空以外のなにも見えなくなって、上下感覚が消える。体が空に落ちるよ
うな幻視すら生まれる。案外ルーシーもこんな風に空に落ちたのかもしれない。
吹き抜ける風が火照った体に心地よかった。
「貴明――、何がどうなってるのか分かんないけど……」
郁乃の顔が視界の端に現れる。
「分からないことはこの際どうでもいいわ」
なるほど、理解できないことを理解しようとしないのは正常な人間の反応だ。
「……さっきの言葉、本気?」
「ん、なんだっけ?」
険しかった郁乃の顔がさらに険しくなる。
「アンタ、このみを取り戻すって言ったわ」
ああ、そういえばそんなことを言った気もする。
「本気だ」
そして間違いなく本気だった。
できるできないじゃない。やってみようとすることからすら逃げていた俺は、まずやっ
てみなければならない。
すると郁乃の顔がすっと視界から消えたかと思うと、脇腹に重い衝撃が走る。
「ふごっ!」
脇腹にめり込んだのは郁乃の爪先だった。
郁乃の顔が再び視界に現れて俺を睨みつける。
「あたしはアンタに振られて泣くお姉ちゃんなんて見たくない。もっともアンタがお姉ち
ゃんと付き合うなんて虫唾が走るけど」
なんだそりゃ。
「なるほど。どっちにしても俺は郁乃には嫌われるわけだ」
尤もこれまでだって存分に嫌われていたんだけれども。
「そうよ、あたしはアンタが大ッ嫌い! お姉ちゃんにアンタのこと好きにさせておいて、
決心がついたら振るなんて、さいッてーよ!。けど……」
郁乃は両手をぎゅっと握り締めて、視線を脇に逸らした。それから見上げる。ルーシー
が、るーこが消えたのかもしれない空を――。
「けど、この二ヶ月をまるでなかったことのようにしてお姉ちゃんとあたしから離れてい
くなら、あたしはアンタを許さない。悔しいけど……、悔しいけど、お姉ちゃんにも、あ
たしにもアンタが必要なの。いなくてもいいけど、必要なの」
郁乃の言うことは矛盾もいいところだった。だけどそれだけに郁乃の気持ちを代弁して
いるんだろう。郁乃自身が自分の気持ちと折り合いをつけられていないのだ。
「そんなつもりはないよ」
それも本心だった。このみを取り戻そうとすることに決めたからといって、これまで築
いてきたものを捨ててしまうつもりなんてまったくない。残酷かもしれないけれど、小牧
とはこれまでのように友達でいたいし、郁乃との繋がりだって大事だと思ってる。
それはどちらかを選ばなくてはいけないようなものではないはずだ。
「ほら、起きなさいよ」
郁乃に促されて起き上がる。見ると制服は白い粉が付着して斑模様になっていてみすぼ
らしいことこの上なかった。とりあえず手で叩いて落とせる分だけは落としておく。
「はい」
続いて差し出されたのはハンカチだった。
「顔拭きなさいよ」
なるほど、確かに顔には涙の残滓が残っていた。遠慮なく受け取って顔を拭く。できれ
ば顔を洗いたいところだったが屋上に水道は通っていない。階下に下りなくてはいけない
だろう。
「たかちゃん!」
よく通る大きな声に振り向くと、笹森さんがこっちに向かってXサインをしていた。
「ガンバレッ!」
笑顔で返す。
変な人だと思う。いや、間違いなく笹森さんは変な人なのだが、そういう意味ではなく、
なんの臆面もなく自分をさらけ出しているようなその様が、今は実に心地いい。
「俺は降りるけど、郁乃は?」
「あ、あたしも降りるわよ」
二人して屋上を降りる扉を潜る。陽光は消え、途端に校舎の中を反響して回る騒音に俺
たちは包まれる。郁乃の手が俺に向かって差し出された。俺はその意味がつかめずに首を
傾げる。
「……ん……か……しょ」
郁乃の声は小さすぎてよく聞こえない。
「え?」
聞き返すと、今度はよく通る大声が返ってきた。
「階段を降りるの大変なんだから手を貸しなさいよ!」
俺は苦笑して郁乃の手を取った。郁乃の手はその姉と一緒で暖かい。それを感じながら
月の表面のようだと感じたルーシーの手の冷たさを思い出す。
胸の中には太陽の欠片、手の平には月の欠片が残っていた。
続く――
というわけで容量ギリギリだったので序文とか削りつつ十二話お届けしました。
削らなくても十分足りましたね(´・ω・`)
さて、随分と期間が開いて大変申し訳ありません。
ようやく転回点を迎えた虹の欠片です。愛佳の話で話数を取りすぎてバランスが悪くな
ってしまってますね。
そして以前から考えていたのですが、次回からこの作品の連載をこちらでは取りやめ、
サイトでのみの更新にしたいと思います。スレが荒れたのは本意ではありませんでした。
作品の性質がこのスレにはそぐわないことから目を逸らし続けた私の責任であります。
どんな批評を浴びようと、書き手は作品で応じればいいと、放置し続けたこともよくな
かったと反省しております。もう少し書くペースを上げられれば、それこそ一気に最後ま
で投下することも考えたのですが、現状のペースでスレで連載を続けても、定期的にスレ
を荒らしていると受け取られても仕方ないと考え、こちらのスレッドに最後の投下をしま
した。
できましたら、このことについてのレスを次スレに持ち込まないでくだされば幸いです。
ではまたネタでも浮かびましたら、こちらに伺いたいと思います。
我楽多
ttp://www.geocities.jp/koubou_com/
>>775 俺はあんたに
「たかちゃんはなーんにも悪くないよ。あえて悪いところを挙げるなら、運が悪かったか
な。うん。今のウマイね」
って言葉を返すよ。
応援してます。
>虹の人
お話も自分マンセーって感じだな。
まぁ新作で頑張ってよ。
楽しみだからさ。
>>779 お前は一体何様なんだかな(´,_ゝ`)
>>781 俺もそう思った(´,_ゝ`)
ロクに感想も寄越さない乞食がよく吼えるもんだ
新作楽しみって言うだけましじゃん。
俺なんか楽しみでもなんでもねー。
,ィぃ_r 、
〃'´ ⌒ヽ
!,!〃_,ノハ))〉 うるせえ チンポ汁飲ませるぞ
lリ(l〉゚ ー゚ノリ
.|/~ヽ卯 i )っ━・~~
.j(⌒'Jηノ⌒)
(_) ω(_)
>>782 感想書いてるじゃん
褒めるだけが感想か?
まぁ要するに
「新作楽しみですよ。」って事じゃないか。
>>786 いや、俺は素でわかんねえんだが、どのへんが感想なんだ?
後ろの二行はともかく、最後の「お話も自分マンセーって感じだな」が意味不明すぎ。
お話「も」ってことは、他の部分で作者が自分マンセーしてるってことか?
そもそも、自分マンセーってどういうことだ?(;´Д`)
ちょっと解読してくれよw
グダグダですね。作者もろとも消えてください。
クスクス
>>788 虹は作者の体験から生まれたSSなんじゃなかったっけ。
つまりそういう事なんじゃないかな?
彼女をダチに寝取られた体験を元に虹を書いた。
貴明を自分に、このみを元カノに無理に当てはめるから、
キャラの性格がゲーム中と乖離してるわけで。
このみが最悪な女ですよね、みたいなこと言われると
女なんてこんなもんですwwwww
雄二やこのみが酷いと言わせることで自分を慰める。
2次創作書く気は全くないと思われ。
うわ、そうだったんか
それめちゃくちゃおもしれーなw
このみが貴明を裏切ったあたりの感情の流れがしっくりこなかったんだけど
ようやく理解できたよ
彼女が寝取られた理由を自分内で美化して書いてるから筋が通らなくなるんだろうなあ
元になる関係や積み重ねが違うのに当てはめて書いたらそりゃ無理も出るよな
おれはアレはアレで好きだし続き読んでみたいが
>ID:/v/SKLenO
携帯からこんな終わったスレにわざわざチェックご苦労さまですwww
ニヤニヤ
( ´・ω・`)つ且~~
うめ
うめ
, ´ ̄ ̄ ̄` 、
/ \
/ ヽ. ヽヽ ハ
,' ハ 、 、 、 ‐‐-ヽ、i i }__/w‐、
! i i レ'´ヽヽヽヽvrc 、`ニ=‐ V//~
! ii lvf'c、\ヽ ri__jヾミ=‐rヲ′
i ii│ ト Uj ` └‐゚イ「 Yミヲ' / ̄ ̄ ̄ ̄
i !! i |ヘ ´,, ' " |iL/〃 |
l i i i i| ii> 、 ` イ|ir '´ < うめ
リi i i iW ,`T´ !リ\ |
ヽNi / !____/ \ \____
ゝ<_ 「 ̄ フ >、
/, '´ ニア 、 / _. イ ハ
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/`==く / , マ、 \ l |
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ヽ. j ノんヘん〜⌒` 〈 /|
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