桜が舞う、暖かな季節。
新しい出会いや恋、そして友情に笑い、悲しみ。
すべてが始まり、終わるかもしれない季節。
季節といっしょに何かがやって来る、そんな気がする―――。
ToHeart2のSS専用スレです。
新人作家もどしどし募集中。
※SS投入は割り込み防止の為、出来るだけメモ帳等に書いてから一括投入。
※名前欄には作家名か作品名、もしくは通し番号、また投入が一旦終わるときは分かるように。
※書き込む前にはリロードを。
※割り込まれても泣かない。
※容量が480kを越えたあたりで次スレ立てを。
前スレ
ToHeart2 SS専用スレ 8
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1125228130/ 関連サイト等は
>>2-3以降
お疲れさん。
>>3のリンクはそろそろいじったほうがいいんじゃないかな?
残念なことに書庫も休止中みたいだし、
他のとこもずっと更新が無いとことかあるし・・・。
直リンしてもた('A`)
>>6 乙!
いろいろと考えてみたけど、
いっその事個人サイトは一回全部リンク外してしまってもいいかもしれない。
個人サイトリンクに入ってるのは初期からSS書いてた人たちだけになってるわけだし、
後続の人が「リンクに入れてください!」って言うのは気まずい感じがすると思うし。
うーん、ToHeart2 SS の書庫に全部リンクとか持ってっちゃえば
スッキリして良いと思ったんだけど、休止中だしな(;´д⊂)
書庫の人が復活してくれれば良いのだけど、
現状誰かが代わりのサイト作るしかないのかも。
あとはテンプレサイトに個人サイトリンク作っちゃうとか(´∀`)
>7
アイデアサンクス。
それが良さげだったのでテンプレ変更及びページ内に個人サイトリンク作りました。
気がついたら勝手に追加しますので、忘れてたりしたら指摘をお願いします。
>1
言い忘れてた。乙!
>>8 おう、がんばってくれ!
さてSSまだかなワクテカワクテカ。
草壁さんが夕食に作ったのは、誰もが知るあのアニメ映画に出てきたスパゲティだった。これが
またウマイのなんのって!
そんな草壁さんは、少しでも早く俺たちと仲良くなりたいからと、自分のことを「優季」と名前で
呼んで欲しいとみんなに願う。そしてそれを聞いた花梨もまた、同じ願いを口にした。確かにその
方が親しみを覚えるものな。断る理由なんてない。最初はちょっと照れたけどね。
食後の後片づけをこのみと一緒にやってる途中、このみは草壁さん、いや優季への劣等感を口に
する。確かに優季の行動力は凄いと思うけど、何もこのみがそれに倣う必要はないんだよな。優季は
優季、このみはこのみなんだから。
後片づけも終わり、みんな(由真除く)と楽しくお茶を飲みながら語らっていると、気が付けば
時間はもう夜の11時過ぎ。
「ええっ、もうこんな時間!? わたし帰らなきゃ」
慌てて立ちあがるこのみ。こりゃ春夏さんに怒られるの確実だな。
「このみ、送るよ」
俺もそう言って立ちあがる。
「え、いいのタカくん?」
この場合の「いいの?」とは、このまま一緒に家まで行くと、俺まで春夏さんに怒られるけどいい
のかという問いだ。
「いいよ。さ、行こうぜ」
それを承知でそう答える。こんな時間までこのみを居させた責任は俺にあるわけだし、な。
ゴンッ! ゴンッ!
グーで頭を殴られました。しかもいきなり。
「あた〜、春夏さん手加減無しですね」
「当たり前じゃない。前にも言ったけど叱るときはキチンと叱るのがウチの方針。例えタカくん相手
でも手加減なんかしないわよ」
「お母さ〜ん、だからって痛すぎだよ〜。これじゃ背が縮んじゃうよ〜」
殴られた頭のてっぺんを手で押さえ、涙目で訴えるこのみ。殴られても縮みはしないと思うが。
「コブの分だけ伸びるわよ」
母は母で冷たい物言いである。
「とにかく済みませんでした。みんなで話してたらあっという間に時間が過ぎちゃって……」
「ご、ごめんなさいお母さん」
二人で春夏さんに頭を下げる。
「まあ、タカくんの家にいるのは解っていたから、心配はしていなかったけどね。ちゃんと反省も
してるみたいだし、今日の所は許してあげる。
このみ、もういいから、さっさとお風呂に入って寝ちゃいなさい」
「はぁ〜い。
それじゃタカくんおやすみ。また明日ね」
春夏さんに言われたとおり、このみは風呂場の方にトコトコ歩いていった。
「それじゃ俺も帰ります。おやすみなさい春夏さん」
そう言って出ていこうとした俺だったが……。
「待ちなさいタカくん。私に何か報せるべきことがあるんじゃないの?」
報せるべきこと……あ、優季のことだ。
昨日と同じく居間に連れて行かれた俺は、優季のことを春夏さんに説明した。
「……それでまた一人増えちゃったんだ。タカくんってもしかして、女たらし?」
「違いますよ春夏さん! 俺だってビックリしたんですから!
まさか優季がそこまで俺のこと好きだったなんて、今まで考えたこともなかったから……」
「で、想い余って押し掛け女房しちゃった、と。
確かに、好きな相手の家に他のコが何人も同居しているなんて聞いて、そりゃ落ちついてなんか
いられないわよねぇ……。
で、その優季ちゃんについてはどうするつもりなのタカくん?」
「……優季の場合、俺の家にタマ姉たちがいるってことが問題なワケで、そっちが解消出来れば家に
帰ってくれるだろうと思ってます」
「じゃあ逆に言えば、タカくんの家に誰か一人でも他のコが居る限り、優季ちゃんは家には帰らない
ってことね」
「はぁ、多分……」
「やれやれね。タカくんはまた厄介事を抱え込んじゃったワケだ。
でも優季ちゃんのことについては、春夏さん的にはタカくんよりもこのみに同情しちゃうかな。
何せとんでもない強敵が新たに出現しちゃったんだからね」
などと春夏さんが言っていると、またまた噂をすれば何とやらで、
「お母さ〜ん、バスタオルどこ〜?」
と、風呂上がりのこのみが濡れた身体にパンツ一丁の格好で、
って、えええぇっ!?
「こ、このみ! なんて格好してんのアンタは!?」
「あれ? タカくんいたんだ。
…………え?
わ、わわわわわわっ!! た、タカくんこっち見ちゃダメー!!」
慌てて隠すこのみ。だけど時既に遅しなワケで、み、見ちゃった……、このみの胸。
『小さいは小さいなりに需要がある』
このみの友人の言葉である。いや〜、確かにその通りかもしれない。
うむ、何も大きいばかりが能じゃないね。手をこういう風にね、お椀型にしたときに丁度すっぽり
入るくらいの大きさもそれはそれで……
「タカ坊!」
ぎゅ〜〜〜っ!!
「あいひゃひゃひゃひゃ!!」
だ、誰かが俺の頬をつねっている!?
あ、あれ? ここは俺の家の居間? 俺いつここに戻ってきたんだ?
それに俺の周りにはいつの間にやらタマ姉たちがいるぞ?
「あれ?」
「あれじゃないわよ。このみちゃんの家から戻ってきたかと思えば、ずっとボーッとしてるし。
そうかと思えば、何か自分の手をじーっと見たりして……。今の話、全然聞いてなかったでしょ」
由真が俺を睨む。
「今の話?」
「ホラやっぱり。まったく何考えてたんだか」
「どうせ貴明のことや、Hぃことに決まってる」
はい、今回はその通りでございます瑠璃様。面目ない。
「部屋割りのことよタカ坊。優季の部屋、どうしようかって相談してたの」
あ、そうか。確かにそれは決めなきゃならない。
とは言っても、どの部屋も既に二人ずつ入っているワケで、となると……。
「あの……私、寝る場所でしたらどこでも構いませんから。
よければこのソファーで寝ますし」
優季が遠慮がちにそう言う。でもそう言うワケにはいかないよな。
「いや、だったら俺がここで寝るよ。優季は俺の部屋で寝てくれ」
「貴明さん!? そ、そんなの駄目です! これ以上貴明さんに迷惑は掛けられません!」
「女の子をこんな場所で寝かせるワケにはいかないよ。
由真と一緒の部屋になるけど、二人ともそれで構わないだろ?」
「あ、あたしは別に誰と一緒でも構わないけど」
「でも、貴明さん……」
「俺のことなら気づかい無用だよ。実はここのソファーで寝るの、しょっちゅうなんだ。TV見て
たらいつの間にかって感じでさ。それにここなら手錠せずに寝られるし」
「手錠?」
「あ、いや何でも。とにかく、部屋割りはそういうことで決定。荷物、部屋に運ぼうか」
俺は、優季が持ってきたスーツケースを持ち上げた。お、結構重いな。
「あ、貴明さん、私がやりますから」
「いいからいいから」
遠慮する優季に構わず、俺はスーツケースをえっちらおっちら、俺の部屋まで運んだ。
「ここが、貴明さんのお部屋……」
俺の後に付いてきた優季が、部屋中を見回す。
「ああ、そう言えば優季は俺の部屋、初めてだったっけ。この間はずっと居間だったからな」
「はい。何だかドキドキします。私、男の人のお部屋に入るの、初めてだから……。
あ、この机の上にあるの、パソコンですよね。インターネットとかも出来るんですか?
ガラステーブル、おしゃれですね。こっちは本棚。どんな本があるのかな……」
本当に初めてなのだろう。優季は物珍しげにあちこち見て回る。なんだか恥ずかしいなぁ。
と、優季がベッドの前で止まる。優季はそのままベッドをじっと見つめ、そして、何故か赤い顔で
上目遣いに俺を見ると、またベッドの方を向き、そして、
「えいっ!」
可愛い掛け声と共にベッドにダイブした。ぼふっという音。優季の身体をベッドが受け止める。
「ゆ、優季?」
「貴明さんのベッド〜♪」
うつぶせの優季は、楽しそうに足をバタバタさせながら俺の枕に顔を埋めた。
「……え?」
と、優季が顔を上げる。そしてもう一度顔を枕に近づけ、くんくんと臭いを嗅ぐ。
「……あの、貴明さん。これ、何だか女の子っぽい臭いがします」
女の子の臭い? あ、そうか。一昨日はタマ姉、昨日は由真がここで寝たからな。
「あー、それは……」
「どういうことかしらねぇ。聞きたい?」
いつの間に来たのか、由真がそう言って俺にしなだれかかる。
「ゆ、由真!?」
「ど、どういうことなんですか、由真さん?」
「あたし昨日、そこで寝たのよねぇ」
挑発的な由真の口調。言ってることは事実だが、由真は明らかに話の展開を事実とは異なる方向
へ持っていこうとしている。こいつ、ここぞとばかりに優季を引っかけるつもりだな。
「ゆ、優季、確かにそうなんだけど、それは……」
「勿論、たかあきも一緒、だったわよ。ねぇたかあき」
「一緒って……まさか……」
「い、一緒ってお前、部屋は一緒だったけど布団は別々だっただろうが! 誤解を招くようなことを
言うな!」
「そんな、誤解だなんて酷い!」
わざとらしく床に崩れ落ちる由真。
「二人であんなにも熱く激しい一夜を過ごしたと言うのに、たかあきはそれを無かったことにしたい
とでも言うの!?」
「ああ熱かったね! 激しかったね! 格ゲーをネタにあんな激論になるとは思わなかったよ!
今思えばあんなことで熱くなった自分が恥ずかしいよ! 無かったことにしたいよ!」
「二人でお互い、数を数え合ったじゃない! キャッ☆」
「対戦成績をな!」
「モーニングコーヒーを飲みながら語り合ったじゃない!」
「タマ姉たちも一緒にな!」
「……あのぉ」
優季がおずおずと手を挙げる。
「つまり、昨晩は由真さんと貴明さんがこのお部屋で、由真さんは貴明さんのベッドで、貴明さんは
別のお布団で寝て、それでお二人はゲームの話題で盛り上がった、ということですか?」
「ゲームだけじゃないわよ。漫画、映画、アイス、TV番組のことなんかも語り合ったわね。
あー楽しい夜だった。ね〜、たかあき☆」
優季に誤解させる作戦(?)に失敗したと見るや、今度は事実だけで俺との仲良しっぷりをアピー
ルする作戦に切り替えたようだ。何としてでも由真は優季に一杯食わせたいらしい。
だがある意味、優季は由真の敵う相手ではなかった。
「そうですか。やっぱり由真さんも貴明さんのことが好きなんですね」
「な!?」
由真の顔がたちまち赤くなる。そしてお決まりのパターン。
「そ、そそそんなわけないでしょ! あたしはたかあきなんか好きじゃないわよ!」
あ〜あ、結局自分で今までの布石をぶっ壊しちゃうんだもんな〜。これは優季の勝ちというよりも、
由真の自爆だな。
「そうなんですか? 今までの話だと由真さんと貴明さん、仲がいいように聞こえたのですけど?」
「ああもう、だからそうじゃなくて……」
パニクる由真。
「まあつまり、俺と由真は恋人とかそういう関係じゃなくて、単なる友達ってこと。ゲームしたり、
馬鹿なことで盛り上がったりする友達。な、由真」
「ま、まあ、友達というか勝負相手というか……」
「そうなんですか。性別を超えた友情ということですね。私は貴明さん以外の男の人とはあまり親し
くなかったのでよく解りませんが、そういう間柄も何だかいい感じがしますね。
由真さんって美人だし、活発だし、貴明さんと話が合うみたいだし、だからもし由真さんが貴明
さんのことが好きだったら私、勝てないかもって心配してたんです。でもそれを聞いて安心しちゃ
いました」
「そ、そう、あはは……」
苦笑する由真。何というか、色々と複雑な心境なのだろう。
「あの、由真さん、お願いがあるんですけど、聞いていただけますか?」
「な、何?」
「私、貴明さんのベッドで寝てもいいですか?」
「え? ど、どうして?」
由真がそう聞くと、優季は顔を真っ赤にしながら、こう答えた。
「……だって、貴明さんのベッド、だから……」
……う、うう〜っ、聞いて嬉しいやら恥ずかしいやら、一体どうしたらいいんだ俺はよぉ!?
で、この何ともストレートかつヘヴィーな優季のお願いには由真も敵わないようで、
「……う、うん、別にいいけど」
何故か由真まで顔を赤くして、そう答えるのだった。
パジャマやら掛け布団やらを部屋から持ち出し、俺は他に人がいなくなった居間でパジャマに着替
えた。さて、明日も学校。そろそろ寝ましょう。俺はソファーに横になった。
……それからしばらくして。
ぎぃ、と、ゆっくり扉を開ける音が聞こえた。そして小さな足音。誰かが入ってきた。何だろう、
喉が渇いたのかな? それともつまみ食い? だがその足音は、キッチンではなくこっちの方に近づ
いてきているように聞こえる。そして足音はどんどん近づき、それは俺の間近で止まった。
そこにいるのは一体誰だ?
「……たかちゃん、もう寝ちゃった?」
この声は花梨だ。
「……ん〜、どうした花梨?」
「うん、ちょっとね、たかちゃんと話したいなって思ったんよ。いいかな、たかちゃん?」
「ああ、いいよ」
俺がそう言って身を起こそうとすると、
「あ、たかちゃんはそのまま寝てていいから」
花梨はそう言って俺を抑え、自分が床に座った。俺はソファのアームレストのすぐ側にクッション
を枕代わりに置いて仰向けに寝ており、一方花梨はアームレストに背をもたれたようで、お互いの顔
は見られないが、その存在は間近に感じられる。
「……ねぇ、たかちゃん」
「ん?」
「優季ちゃんって、可愛いよね」
「……んー、まあね」
「それに優季ちゃんって、普通の女の子してるよね」
「普通の定義がイマイチ解らないけど、まあ、女の子っぽいと言えば確かに」
「ねえ、たかちゃん……」
「ん?」
「私、ミステリ、辞めようかな……」
つづく。
どうもです。第25話です。
PC版のTH2は18禁だそうですね。ちょっと驚いています。
個人的にはHシーンに違和感を感じるキャラもいるのですが……。とか言いながらも発売されたら
間違いなく買う俺(w
とりあえず河野家は今後も、PS2版準拠で書くつもりでおります。
でも河野家って雄二エンドの後の話だから、どっちだろうと同じかも。
PC版で、出会っていきなりHしちゃうようなキャラでもいない限り(w
それから、
>>1さん乙です!
さっそく河野家(σ・∀・)σゲッツ!!
今度は花梨の話ですか。各キャラにスポットが当たってていいですね。
続き楽しみにしてます!
はじめて花梨に萌えたかもしれんwwww
>虹
ここ数回は展開が間延びしちゃってて、なんだかどうでもよくなってきたなー。
作者さんが愛佳と郁乃のことが好きってのはよく分かった。続きも頑張ってくださいな。
作品とは関係ないが、定期的に前スレ664みたいな予想厨が沸くのはどうにかならんのか。
>Sister Bowl 2
イルファさんの企てで…って展開が前と同じなのは意識したのかな。ちとマンネリかも。
エロシーンが数クリックで終わっちまうエロゲみたいだし、もうちょっと小説ならではの描写に
こだわって欲しい気がする。
せっかくエロを書いてるのにあんまりエロくないような…
>Easy Come Easy Go
これまでにないタイプの話で面白かった。
文体を見て作者さんが一発で分かるってのは、いい意味での個性があるんだろうなあ。
ここまで電波な話だといっそ清々しさすら感じるw
>河野家
地味に文章なんかが読みやすくなってるなーと思った。
15話超えたあたりで長すぎじゃないかとも思ったけど、ここまで続くとスレの風物詩って感じ
になってくるねえ。
続きも頑張ってください。
前スレ650くらいから来た新参者だが、24の様な批評厨が沸くのはどうしようもないことなのかな?
くだらん煽り厨が沸くのと同じくらいにはどうしようもないんじゃないか?
>>21 GJ!&乙です。
各キャラの魅力を次から次へと書いてくださるのがGOOD!
18禁化については、作者さまと全く同じ感想です。
ただ、それだけにこのみのあの絵の破壊力は絶大でした。
こんこん、こんこん、と扉が叩かれる。時刻は日付も変わったばかりの午前零時十五分。
扉の方に背を向けて寝たふりをしている背後からぎー、とちょうつがいのきしむ音。
やはり今日も来るのか。
今の俺に拒む権利はない。
一度入れ替わってしまった人間関係を元に戻すには時間がかかるのだ。
思い起せば数日前……。
「た〜か〜く〜ん」
いつも通り仲良く帰ってきた俺とこのみは、いつも通り河野家の玄関を二人でくぐり、仲良く夕食までの時間を過ごすはずであった。
あの時、俺が制服をそのあたりに脱ぎ捨てなければきっといつも通りの日常がそこにあったはずなのに。
衣替えしたばかりでまだ暑さが残る十月の初め、制服を脱ぎ捨てた俺を誰が責められようか。
そして、親切にそれを拾い上げ、ハンガーにかけようとしていたこのみを誰が責められようか。
責めるべきは、ポケットの中に誤解を招くような手紙を忍ばせたクラスの(ある意味)アイドルである。
「これ何?」
このみってこんな低い声出るんだあ。極度の焦りは人をむしろ無心にしてしまう。
怒りに白く光る瞳と、背骨をつかんでがたがたいわされそうな声がとても遠くで聞こえた。
「これって?」
このみが人差し指と中指でつまんだそのピンク色の封筒はご丁寧にハートマークのシールで閉じられている。
男というものは心当たりがなくても女性に、あんた私に隠してることあるでしょ、といわれると焦る
とテレビで芸能人が言っていて、そんなあほなことが、と鼻で笑っていた矢先の出来事だ。
俺の頭脳はないはずの心当たりを必死でスキャンする。ハートマークつきのお手紙をもらう心当たりはないはずだ。
漫画のようにたらたらと汗を流しながら、俺にはなんのことだか、と必要のない弁解口調。
「じゃあ、開けても、いいよね」
目の前に立っているのはこのみの着ぐるみをかぶったタマ姉じゃないだろうな、というくらいのすさまじい殺気。
電話の脇に置いてあるペン立てからペーパーナイフを彼女が取り出したとき、それが飛んでくるような錯覚を見て
思わず首をすくめる。
「どうしたの?」
「い、いや、なんでもない。存分に中身を検分してちょうだい」
なんでこんなに自分が下手に出ているのかわからないまま、背中の汗は止まらない。
このみはすーっと刃を走らせ、中から同じく桃色の色からしてなまめかしい便箋を取り出す。
こんなことを俺にしてくるなんてなんて酔狂な……ああっ!!
昼休みだ!
委員ちょに頼まれてクラスの仕事を手伝ったんだ。といってもプリントを運んだり資料の整理を手伝っただけ。
そんななんでもないことをほんの少しして、ほんの少しお話しをしただけ。お手紙をもらうほどではない。
しかし差出人はやはりその人だった。
「こまき、まなか、さんっていうんだ。クラスの女の子だよね。読んでいいかな」
「はいっ」
はいっ、ってなんで俺はこんなに焦っているんだ。
妙に直立気味の俺にちょっと視線を走らせてこのみ便箋を開き、目を落とす。
「河野くんへ。こんにちは」
「声に出して読むのかよ!」
「だって読まないと。こまきさんに失礼でありますよ」
「わ、わかった」
あの小動物のように小心者の委員ちょがまさか妙な事を言ってくることはあるまい。
しかし、思い返してみるとちょっと変だ。いつもは話しかけても、それだけで半身が逃げているような彼女が
自分から助けを求めてきて、なおかつこっそりとお礼の手紙を制服のポケットに仕込んでおくなんて。
「今日はお手伝いしてくれてどうもありがとう。とっても助かったよ」
「そうそう。ちょっと頼まれて……」
ぎろりとこのみがこちらを見てあわてて俺は口をつぐむ。
「これまでずうっと一人でいろいろやってきたけど、声をかけたら助けてくれる人がいたことがとっても嬉しかったのです」
そうそう。俺じゃなくてもよかったんだ。内気な委員ちょが勇気を出せた感謝をこうやって伝えてくれているんだよ。
後ろ暗いことなんて何もないぞ。だからそんな怖い顔するな、といいかけたところでこのみは再び読み始める。
「声をかけるのは誰でもよかったのではなくて、実はずっと河野くんに手伝って欲しかったんだ」
「はあ? ちょっと待った」
「黙って! まだ続きあるよ」
「はい……」
このみが読み続けた手紙は驚愕の内容だった。これがあの委員ちょが書いたものとは到底思えない。
直接的なことは何一つ書かれていないが、これがラブレターであろう事は容易に想像できた。
「追伸、今度お礼にお茶でもご馳走したいと思います。あたし、お菓子作るの得意なんですよ?」
「……」
「……」
二人の間に初めて気まずい空気が流れる。初めてキスしたときも沈黙があったが、こんなに冷たいものではなかった。
このみはうつむいて手紙を丁寧に折りたたみ、封筒の中にしまって俺に手渡した。
「どうしよう」
「タカくんが決めて……」
こんな空気は耐えられない。だいたい委員ちょも俺に彼女がいるのを知っているだろうにどういうつもりだ。
「こんなものは」
「こんなものは?」
「ぽい! だ」
良心がうずくがここで妙な情けを出せばいろいろと不都合が多い。委員ちょのことは嫌いではないがどうにも出来ない。
しかしこのみは、封筒がくずかごに落ちる音を聞いてもうつむいたまま。
どうしていいかわからなくなっている俺にとことこと近づいてきた彼女は、ぽんと頭を俺の胸に預けた。
「……今日タカくんとこ泊まっていい?」
こんな状況でどうして断れようか。頷く俺に背を向けると、そのままぱたぱたとこのみは家に帰っていく。
春香さんをどうやって説き伏せてきたのか、服を着替えたあとこのみはすぐにやってきた。
それまでなかったことだが、このみは俺の手を引いて部屋まで連れて行くと、いきなりくちびるを合わせてきた。
小さな舌がくちびるを割って俺の舌先をまさぐり、背伸びしているつま先は身長差を埋めようとけん命だ。
それを支えるように背中に腕を回した俺をベッドに押し倒すと、ブラウスのボタンを乱暴にはだけ
まだ汗っぽい胸にくちびるを押し付けてきた。
「ちょっと、このみ……」
「わたしもっとがんばるよ。だからタカくん、わたしだけを見て?」
そう言いながらこのみの小さな手ははちきれそうになっている俺のその部分をいとおしそうになでる。
いつもと違う、これまで知っていた恥ずかしがり屋の幼なじみとはまるで違っている積極性に俺は興奮していた。
「タカくん、いつもよりもっと元気だね……」
とろん、とまるで何かに憑かれたような熱っぽい瞳で俺を見上げるとズボンを下ろし、それを柔らかくくちびるに含んだ。
「う……」
ぞわぞわと舌の表面が裏側をなぞってく。
小さなくちびるがいつもよりも膨張率の大きなその部分を口に含み、ちろちろとした舌先は先走りをついばんだ。
頭の中が真っ白になった俺はこのみを体の下に組み敷く。甘ったるい香りが髪からかおって、潤んだ瞳が俺をとらえる。
黄色いワンピースの下には下着の感触はなかった。ブラも、パンティーも、つけないまま隣家からやってきたのだ。
このみのその部分は、瞳よりもずっと潤んでいた。
「このみ」
「うん……」
もどかしくあてがわれた先端は、十分に熱い液体で満たされたその部分に飲み込まれていく。
前戯も何もしなかったからちょっと心配だったが、まるで舌でなめまわしたかのようにぬるぬるになっている。
そこもいつもより熱い。
入る瞬間のきつさを抜けると、柔らかい万力で締め上げられていく。
「タカ、くん……」
これまでえっちなことに関してはほとんど俺に任せっきりだったこのみの腰がほんの少しだが動いている。
確かに最近このみが体を合わせることに肉体的な喜びを感じているような気がしていたが、この日はすごかった。
締め付け、緩め、包み込み、絶頂に導いていく。
「だ、だめだ……このみっ……」
避妊具をつけていない俺が抜こうとすると、足を俺の腰に回してひきつける。
頭の中にさざなみが奔って一瞬視界が白濁し、収縮したその部分がエネルギーを放出して、俺はこのみの上に突っ伏す。
「えへー」
「えへー、って大丈夫なのか」
「わかんない」
「……」
突然向こう見ずになるのは勘弁して欲しい。
責任を取る気はあるが、今あたってしまえば二人とも高校生活をあきらめなければならない。
「タカくん……」
このみは俺の体を抱え込んだまま、嬉しそうにすりすりと頬を擦り付けてくる。
「じゃあ俺、シャワー浴びてくるな」
いつも通り一回終わったところで体を離そうとした俺をこのみはふくれっつらで引き止めた。
「だめ」
「へ?」
「もっと、だよ?」
嫉妬がこのみを変えている。
瞳には妖しい炎がともり、それにとらわれた俺は足が離れても彼女から体を離すことはなかった。
結局最後の一滴まで搾り取られ、真っ白に燃え尽きた俺の横ではこのみが安らかな寝息を立てている。
そしてそれが数日間続いていた。
毎日このみは泊まりに来ては、俺がよそ見できないように活力の全てを奪っていく。
委員ちょの手紙を検証してその筆跡に不自然さを感じても、そこからもう一歩考える気にはならない。
体を合わせるたびにこのみは綺麗になっていくようだったが、その底なしの体力に俺は恐れをなしていた。
「タカくん……」
脳幹がくらくらするような甘い女の子の香りと、優しい手のひらが俺を包んでいく。
「タカくんはわたしとずっと一緒にいるのでありますよ」
「ああ」
「わたし、タカくんのためならなんでもするから、ね……?」
あどけない顔立ちのまま淫らなことをしかけてくるこのみに包まれて、今日も俺は溺れていった。
前スレ644さんへお贈りしまっす。
どうしても18禁化の衝撃が……
>>21 河野家喜多ー!!!
次は花梨ですか、先が見えませんね。
で、委員ちょ復活はまだー?w
>>21 河野家乙です
私もいいんちょの再登場には期待しています
それとは別に
ジャンクションまだー?
すッごく跳躍するジャンクションの続きを期待しています。
作者さんにはぜひがんばって欲しいです。
>>34 春夏さん譲りの迫力で貴明を尻に敷くのか・・・と思ったら、そう来ますか。
コレはコレでこのみにとって幸せな結末・・・なんだよな。
GJ!
皆河野家を絶賛しているけれど俺は正直だるく感じるなぁ。
話の終わりとか展開が全くないからだろうな。
まぁ戯言なんで聞き流してくれ。
河野家まだぁ?
40 :
35:2005/09/27(火) 21:58:13 ID:5cHOeD7R0
>>38 確かに長寿番組のような、のんびりした雰囲気が流れてますが
各キャラクターが、一番PS2版オリジナルに近い雰囲気をもっており
それが一つ屋根の下という特異な状況でぶつかりあってるのは
読んでて結構楽しいですよ。
まあ、話の流れというか、雰囲気を楽しんでる部分があるので
ゴロゴロするほど萌える展開とか、息もつかせぬ展開とかを
楽しみたい人には、ぬるま湯すぎるかもしれませんね。
というわけで、次の河野家まだーー??
サザエさんみたいでいいじゃねぇか、と言ってみる。
>>40 一番って何と比べてるのか分からんけど。
仮に他の作家さんの作品と比べてってことなら、あまりそういうことは言わないほうがいい。
褒めるときに他のモノを持ち出すのはあまり賢い方法じゃないと思う。
その一文を除いては同意。河野家の作家さんには、この先も頑張って欲しいなー。
てんだあはあとまだ〜?
アイス屋まだぁ?
。・゚・(つд∩)・゚・。 ウエーンウエーン
…つ・д∩)チラ・・・ わたしが水着に着替えたら
…(つд∩) ウエーンウエーン
>>34 もしかして手紙を書いてポケットに入れたのはこのみ?
47 :
40(=35):2005/09/28(水) 09:07:20 ID:dAptqwml0
>>42 確かに余計な一文だった。 スマソ。
で、Easy Come Easy Goの続きまだーー??
>>47 ちょっと待て。アレが続くのか?
…まぁ、それはそれで面白そうだが。
てんだ〜まだ〜?
ジャンクションまだぁ?
残心まだぁ?
まて、残心は終わってなかったか?
いや、念のためだ。
ラストでこのみが「次はわたしの番だよ…たまお姉ちゃん…」って言ってたし、
次は、このみ(攻)×環(受)って事だよ!!
ガチ百合(・∀・)ノ☆ヽ(・∀・)
郁乃SSまだ〜
黒このみまだ――――?
56 :
河野家まだぁ?:2005/09/29(木) 17:27:15 ID:Dq9v7m/UO
せーのっ
57 :
名無しさんだよもん:2005/09/29(木) 17:40:07 ID:L/Yl4zWVO
てんだ〜まだぁ〜〜?(・∀・) っ/∪⌒☆チンチン
黙って保守だけにしておけよw
こういう催促が嫌で書き込まない人も居るんだろうな。
貴明と珊瑚が二人きりのSS読みたいなあ。
>>60 考えたこと無かったけど、それ結構よさそうだな。 珊瑚だけじゃなくて、瑠璃、イルファさんとの二人きりってのも見てみたい
>>60 お約束な甘々な展開のもいいけど、シリアスっぽいのも読んでみたいかも。
珊瑚と貴明が二人きりになった理由も、いろいろパターンが考えられるしね。
人類は、貴明と珊瑚を残して皆死んでしまった。HMX17というメイドロボによって…
そこまで考えた。
エロは悪くないんだが…
話が進むにつれてメイドロボ姉妹が単なる淫乱になってないか?('A`;)
甘いとか萌えとか、そういうものからかけ離れてるような気がする…
夏も過ぎ去り 空色のキャンバスには初秋の雲
窓から入る心地よい風と潮の香り サンルーフからはやわらかな日差し
となりにはあなたの横顔 その奥にはキラキラ光る海
今日は彼と海岸沿いをドライブ 手作りのお弁当とお菓子もいっしょに
真剣な眼差しでステアリングを握る彼 でもなんだかかわいい
そんなあなたを ずっと見ていたいな
そう、ここはわたしの特等席
「ねっ、たかあきくん」
-----------------------------------------------------------------------------
変なモン投下してスマソ。
一人ドライブしたら、いいんちょとのこんなシチュ妄想しちまった。
>>67 SisterBowlはBlownish〜とはパラレルとして書いているので甘いとは少し違う状態で元々書いてます。
ようするにこのミルファとあのミルファは同じだけど違います。…分かりにくいですね、すいません。
Blownish〜は甘く、SisterBowlはエロ中心で書くのを心がけているので淫乱なのはご了承頂ければと…_| ̄|○
>>68 >一人ドライブ
……俺にはお前の助手席に座る委員ちょの姿が確かに見えたッ!
見えたぞッ!
謝ることはない。
SSスレは妄想投下共有の場だ。と、俺は思う。
71 :
名無しさんだよもん:2005/09/30(金) 23:20:51 ID:XofQRgU70
明日早いからいいんちょと寝てくる
おやすみ
明日由真と一緒にメガネ買って来る
ミルファとのちょっとしたいざこざがあってから1週間。
彼女は自分の想いが通じたのがよほど嬉しかったのか今まで以上に笑顔を振りまいて料理
を作ったり掃除をしたりと俺の身の回りの世話をしてくれていた。
一緒にお風呂に入りたいと言って駄々をこねて困らせたり
夜のおやすみのキスをするのを俺が渋るだけで泣きそうな顔をして困らせたり
朝のお出かけのキスをするのを俺が渋るだけで泣きそうな顔をして困らせたり
1日に1回はギューっと抱きしめて頭を撫で撫でしてあげないと泣きそうな顔をして困ら
せたり…とまぁ嬉しいには嬉しいのだが怒るに怒れない状態で色々大変だったりする。
無論こんな事は雄二に話せるわけも無く、プレゼントを喜んでもらえたと言うことだけ
はきちんと報告はしておいた。周りの皆にも特に話すことも無く問題が解決したとだけ伝
えておいた。
けどミルファがイルファさん辺りに言うんじゃないかと内心怖かったりもする。
そして金曜日。
今日も目覚まし時計の電子音で目を覚ます。
一応何時も時計がある所に手を伸ばしても時計の感触はしない。
目を開けて音の鳴る方法を見ると空に浮かぶ太陽に負けないくらいにまぶしい笑顔で時計
を持っているミルファが居る。
「おはよう…ミルファ」
「おはよう!貴明〜」
起き上がった俺の目の前に顔を近づけてくると目を閉じて何時ものおねだりのポーズを
してくる。赤茶色の可愛い頭に生えている尻尾を揺らしてくるこの姿は顔がにやける位に
可愛いのではあるが朝からこんな恥ずかしい事をするのは幾分慣れたとはいえ体に悪い。
以前にここで無視して部屋を出ようとしたら後ろから怒りのドロップキックを食らって
悶絶したこともあったから下手に刺激することも出来やしない。
正直嬉しいと言うのもあったので今日も素直にその小さな唇に朝の口づけを交わした。
「えへ〜」
赤くなった頬に両手を当てて珊瑚ちゃん譲りの蕩けそうな顔を見せるミルファ。
この顔を毎朝見せられるとこう言った事もまんざら悪いもんじゃないかなと思ってしまう。
その恥ずかしさかを紛らわすために頭を掻いた。
「ほら、着替えるから…」
「あ、うん。ごめんね。じゃあご飯用意して待ってるね」
そう言って彼女はクマのスリッパをパタパタと鳴らしながら部屋を出て行った。
たまたま商店街で見かけたクマのスリッパをミルファに履かせたら可愛いかもしれない
と思った俺は買って帰って早速ミルファにあげたらそれはもう喜んで家の中では何時も履
いている状態になってしまった。
さっさと着替えて1階へと降りていくと味噌汁のいい匂いがする。最近は朝は和食で夕
飯が洋食か中華である事が多い。その度にミルファのレパートリーの多さに感心してしま
うがミルファ曰く色々料理の本を読んだりして頑張っているらしい。
俺の為にここまでしてくれるミルファには感謝の言葉しか見つからない。まぁそれを言
うと
『貴明が美味しいって喜んでくれるのが嬉しいから頑張ってるんだから喜んでくれればあ
たしにとってはそれが一番のお返しだよ☆』
と言われて顔を真っ赤にしてしまった事もあったっけ。
まぁそんなわけで今日も美味しく朝ごはんを頂き、学校へ行く時間へとなった。
「それじゃあ行ってくるよ」
「いってらっしゃーい。ちゃんと遅くなる時は電話してね?」
「はいはい…」
「それじゃあ…」
ミルファがまたキスのおねだりのポーズをしてくる。少しミルファの全体を見るように
視線をやると後ろで手を組んで唇を少し突き出してきているのが分かった。
…こんな可愛い格好されて断れるわけ無いよなぁ。
ちゅっ
「貴明大好き☆」
唇を離した途端に俺に抱きついてくるミルファ。今の状況は俺が玄関に居る分一段下に
なっているという構図になっている。
で、彼女が抱きついてくると顔全体にその柔らかい胸がくっついてきた。その瞬間に俺
の顔がどんどんと赤くなっていっているのが触らずとも分かった。
「ミ、ミルファ。恥ずかしいから…」
「だ〜め☆ ほらほら、気持ち良い?」
意地悪な声でそう言うと俺の顔に胸をぐりぐりと押し付けてきた。柔らかい感触で朝か
らどうにかなってしまいそうになる直前で何とか離れられた俺は再度抱き疲れないうちに
家を出ることにした。
「い、行ってきます」
「いってらっしゃ〜い♪」
笑顔を振りまいて手をひらひらと揺らして見送ってくれる姿を見てからドアを開けて外
へ出る。
何時もこんな調子の為に最近では家を出るタイミングを少し早くしているくらいだった。
そして何時も通りにこのみの家へ行ってインターホンを鳴らす。今日は珍しくちゃんと
起きていたらしく一々待つ必要も無く出発する事が出来そうだ。
そのままこのみと一緒に出ようとしたところでところで春夏さんに呼び止められた。
「何ですか?」
「タカくん、お願いがあるんだけど今日また出かけないといけないからまたタカくんの家
にこのみを泊まらせてもらっていいかしら?」
「えぇ、全然構いませんけど?」
「本当に良いの?無理しなくても良いのよ?」
何時もなら春夏さんのお願いに俺が答えてそれでおしまいのはずなのだが今日に限っては
何故か本当にいいのかと春夏さんが念を押して聞いてきたのだった。
「無理って何ですか?別に構いませんよ?」
「そ、そう?だって一緒に住んでる彼女さんの仲を邪魔したらいけないじゃない?」
「か、彼女って…だ、大丈夫ですから」
どうやら春夏さんはミルファが俺の家に住んでいる彼女だと思っているみたいだった。
このみの事だからミルファの事を色々と話していると思っただけに実に予想外の反応だっ
た。まぁミルファとは恋人…みたいなものなのだろうから否定はしないけど他人から言わ
れるのはやはり恥ずかしかった。
「そう。良かったわ〜。じゃあ今晩だけはちゃんと我慢してね?」
「何をですか、何を」
「うふふ☆」
口に手を添えて微笑むその笑顔は噂話が大好きな主婦独特の笑顔だった。
よもや俺の噂がご近所さんにある事無い事出回ってるのではないだろうか…女性の中で
も最も怖いと思われる主婦層の事だから最悪のことも想定しておいたほうが良いのかもし
れない。そう思うと少し頭が痛くなった気がしてきた。
「じゃ、じゃあ行ってきます」
「行ってらっしゃい。このみをお願いね〜」
春夏さんの見送りを背にして学校へと向かう。その途中にこのみが今日のお泊りの事に
ついて話してきた。
「タカくん。今日泊まりに行っても良いの?」
「あぁ、何時もの事だろ?問題ないって」
「そっかぁ、良かったぁ〜!」
俺の口から許可が出たのが嬉しかったのか何時もの笑顔を見せるこのみ。どうやら親子
して心配しなくても良い心配をしていたみたいだ。
それからのこのみはご機嫌で何時もの謎のジンギスカンキャラメルの歌を歌ったりして
雄二とタマ姉が待つ場所へと向かった。
「おはよう二人とも。あら、今日はこのみは随分とご機嫌みたいねぇ」
「えへへー。そうなんだよタマお姉ちゃん。今日ね、タカくんの家にお泊りさせて貰う事
になったのー♪」
「あらそう、良かったわねぇ〜」
このみの笑顔にタマ姉も頬を緩めてそれに応える。
「おい、お前本当に良いのかよ?」
「何がだよ?」
このみとタマ姉が楽しそうに何かを話している後ろで俺が歩いていると雄二が横に来て俺
をひじで突いて話しかけてきた。その顔はなにやらまずそうな顔をしていた。
「だって前の件だって客をしょっちゅう呼んでたからミルファさん怒ったんだろ?だった
ら今回の泊まりの件なんて言ったらまた怒るんじゃねーのかって事だよ」
「あ、そうか…」
最近のミルファが上機嫌続きだったのとこのみは何時も泊まりに着ているということか
らその点についてはさっぱり気にしてなかった。
「おいおい、どうなったって俺はしらねーぞ?あーぁ、河野貴明、暁に散る…か」
「演技でもないこと言うなよ…」
そうは言ってみたものの俺はかなり不安になっていた。何だかんだで嫉妬深いミルファ
の事だからどんな事になるかも想像がつかなかった。最悪何かの仕打ちを受けることも考
えておかなくちゃいけないかもしれない。
その不安を抱えたまま俺は学校へと向かった。
「ターカーくーん!」
放課後、俺が帰り支度をしているところに俺を呼ぶ元気な声が教室の入り口からしてき
た。目を向けるとそこにはサイドに縛った髪をぴょこぴょこと揺らして体全体で俺を呼ぶ
好みの姿があった。
「じゃあ貴明、頑張れよなっ」
見世物を見るような目をして雄二が俺の肩を叩いてきた。俺が心配している中、散々悪
いイメージを植えつけようとしてくるこいつには久々に殺意がわいた気もする。
そんな雄二はとりあえず置いておいてこのみのところへと向かう。このまま教室の前に居
られたら何を言われるか分かったもんじゃなかった。
幾ら俺らが幼馴染だとは言え俺の家に泊まるなんてのがばれたらなんていわれるか分か
ったもんじゃない。
「よし、じゃあ行くか」
「うん!久しぶりだから楽しみであります!」
二人で久しぶりに下校をしているとこのみが何時もの帰り道と違う方向へと歩き始めた。
「お、おい。どうしたんだよ?」
「タカくん、商店街行こう?」
「どうしてだよ。別に買うものなんか無いだろ?」
「う〜ん、何となくだよ」
そのままこのみに引きずられるままに商店街へと向かうとそこに何時も見ている服と赤
茶色のポニーテールを振るわせた彼女の姿が発見できた。このみもそれに気づくとタッタッタと走ってミルファの所へと向かった。
「ミルファさん見つけた〜☆」
「あ、このみちゃん☆」
ミルファにこのみがぽふっと抱きつくとそれを驚くことも無く彼女は受け止めた。
普通なら驚くと思うのだが…
「あれ?二人ともそんなにいっぱい会ってた?」
「良く商店街で会うんだよ」
「最初は春夏さんに会うことが多くて、それを聞いたのかこのみちゃんがあたしに会いに
商店街に来てくれるようになったんだ〜☆」
事の経緯を嬉しそうに話すミルファを見る限りは二人の関係はかなり良いみたいだ。確
かにミルファの顔を知っている春夏さんがミルファと同じくらいの時間に買い物にここま
で来ると言うのはごくごく自然のことだ。
と言うことは春夏さんはミルファから色々と聞いているだろうから…どうやら俺の嫌な
予想は当たってしまっているのかもしれないな。
「イルファさんとも時々会うんだよ?今夜お料理教えてもらうんだ〜♪」
「え?今夜?って事はミルファは今日のこともう知ってるの?」
「うん。昨日春夏さんから聞いた」
俺の質問に対して特に疑問も抱かずに頷いてみせるミルファ。どうやら雄二が考えてい
たような事は起こる以前の問題で、どうやら俺の杞憂ではあったみたいだ。
まぁ二人が中が良くて今回のお泊りに問題が無いならそれに越したことは無い。
安心した俺はミルファの籠を受け取り、3人で夕飯の買い物をすることになった。
「これちょっと…多くない?」
「今日はご馳走作るんだから当然!」
「頑張れタカくん〜」
両手に計4個の大きなスーパーのビニール袋を持たされている俺。まさかこれは二人の
画策だったのだろうか。俺が完全に荷物もちの状態になっている。両手にビニールが食い
込んで痛い。
結局俺がヒイヒイ言いながら運んでいる最中二人は仲良くおしゃべりをしつつ家路へと
着いた。
「あー、重かった…」
「お疲れ様〜」
このみは着替えてお泊りセットを持ってくると言って家に帰り、俺とミルファが先に自
宅へと戻った。あまりの荷物の重さに玄関に袋を置いて腰を下ろす。その隣にミルファも
座ってきた。
「今日はありがとね」
「荷物運びくらい楽なもんさ。こう言ったとき位しか活躍できないしな」
「じゃあ今日は頑張って夕飯用意しなくちゃね!」
腕をまくって気合を入れるポーズをするミルファの不意を突くようにしてその唇を奪う。
腕を曲げて気合を入れるポーズのまま固まってしまった彼女は暫しのキスの後に俺から
唇を離すと顔を真っ赤にして両手で頬を押さえるとそのまままた止まってしまった。
「あぅ…あぅ…」
「頑張るって言うから前払いのご褒美な」
「あぅ…」
はっきりと言葉に出ないのかあぅあぅ言ってそのまま動かない。
時間が経つと俺も恥ずかしくなりそうだったので早々に2階へと上がることにした。
「おじゃましまーす…わわ!ミ、ミルファさんどうしたの!?顔が真っ赤だよ!?」
「あぅ…」
俺が部屋に入る直前に顔がりんごの状態のミルファを見て驚くこのみの声が聞こえてき
たような気がしないでもなかったが気にしないでおこう。
着替えた後にさっきの出来事に対して自らの気を静めてから1階へと降りる。
リビングへ行き、キッチンを覗くと既に料理を再開している二人の姿があった。
「あー、もう作り始めてるのか」
「た、楽しみにしててね」
ミルファの笑顔も何時もよりは恥じらいが多いみたいだ。どうやら彼女は未だにさっき
の事に動揺をしているみたいだった。
何気なくテレビを見ながらキッチンの方の音に耳を向ける。野菜の切り方や味のつけ方
をミルファが教えているようだ。このみも料理の腕は下手では無いのだがやはり指を切る
んじゃないかという恐怖心があって俺としてはハラハラして違った意味で目が離せなかっ
た。
しかし今回は丁寧にミルファが教えてあげているのか特に騒ぎ声も聞こえず順調に事が
運んでいるようだった
結局1時間ほどした後に料理は煮るだけになったようでこのみがソファーに飛び込んで
きた。
「タカくん!タカくん!今日のは自信作だよ!!」
「ほー、そうか。で?何作ったんだ?」
「それは秘密なのでありますよ〜♪」
ニコニコと笑顔でこのみは言ってくるが匂いで何となくだが分かってしまった。
どうやら今日はデミグラスソースを使った煮込み料理なのだろう。ビーフシチュー、
ビーフストロガノフ、ハヤシライス…とまぁこんな所か。
どれにせよ楽しみなのは間違いなかった。
「秘密か…。じゃあ完成するまで腹空かせて待ってないとな」
「うん!」
このみと会話をしながらふとキッチンに目を向けるとミルファがまだ何かの用意をして
いる。俺の視線に気づいたのか俺に向かって笑顔を見せてくれた。どうやら今の時点でも
ご機嫌なのは変わりないみたいだ。
1時間ほどした後に夕飯の準備が全て出来たのかミルファが呼んでくれたのでテーブル
へと向かう。
そこにはメインディッシュのハヤシライスをはじめとして色々な料理が色とりどりに並
べてあった。さすがにこれだけの量は久しぶりで思わずよだれが垂れそうになる。
「これがミルファさん直伝のハヤシライスでありますよー」
「二人の初の合作だよー」
二人して早く食べてというオーラを放ちながらこっちを見てきた。その視線と匂いにつ
られて早速そのハヤシライスを口へと運ぶ。その味はコクがあってまろやかで…こういう
時に良い表現方法が見つからないのが悔しいがともかく美味いというのは確かだった。
「美味い、美味いよこれ。うん。凄いな、二人とも」
「「えへー」」
褒められて嬉しそうな顔をするこのみとミルファ。
ハッキリ言って俺は幸せモノなんだろう。
両脇で嬉しそうな顔をする二人を見て俺はそう感じた。
邪な気持ちとかは関係なくこの無邪気で純粋な笑顔を見ると心の奥が暖かくなる。
心を暖かくさせながら暖かいご飯を口へと運ぶ。
うん、美味い。
10日ほど空いてしまいましたね…16話書きあがりました。
まずはライバル第1弾としてこのみを出したつもりだったんですけどこのみだから仲良くなってしまいそう
と言う事でこんな流れになりました。
萌えをここしばらく書いてなかったのでうまく萌えてもらえるかが心配ですがとりあえず甘めにしました。
こってり甘くするには少し時間がかかりそうです('A`;)
GJ!
温かい雰囲気が(・∀・)イイ!
>>82 再開乙&GJ!
あの貴明に微妙に成長の跡が見えるのがまた良し。
>>82 GJ!!!!!!!!!!
エロよっかこっちの路線のがよさげ。
88 :
封麟:2005/10/02(日) 00:30:23 ID:z8kg4gtM0
はじますて。封麟と申します。
神から電波を受信したので、書き込んでみます。
いくのん一人称、ネタばれありまくり、
ちゃんと書けてない&変換ミスはスルーの方向で。
では、掛けてるところまでウプしやす。
題名は…二階の窓からであります。
89 :
二階の窓から:2005/10/02(日) 00:33:30 ID:z8kg4gtM0
「またやってる」
私はため息をついた。
私のうちは、二階から降りるときに丁度明かりを取るためについた窓から
家の傍の路地の様子が見えてしまうんだけど、
いつもの場所のいつものところで姉とその彼氏がいちゃついている。
あのほえほえバカップルは周りに気を使っているつもりのようだ。
確かに道のほうからだとその場所は死角だ。
良くぞあそこまでの場所を見つけたと思うけど…。
でも、この窓からは丸見えなのだ。
「あほらし…」
ちりちりと胸を焼くどうしようもない説明の付けられない気持ちに
ふたをして私は階下に降りた。
90 :
二階の窓から(2):2005/10/02(日) 00:35:04 ID:z8kg4gtM0
学校に復帰して驚いたのが、奴の人気ぶりだった。
まあ、見てくれだけはそこそこ良いのは認めるが、その人気ぶりに
火をつけたのが姉らしいと言うのが腹が立つ。
友達が言うには、
「あこがれていた子は多かったっぽいよ。特に…ほら」
その視線の向こうにはこのみがいた。
「うそ…それってホント?」
「うんうん…」
柚原このみ。復帰して席が隣だったから何となく話すようになって、
そこから拉致されるようにアイス屋に連れて行かれ、
何度かの買い食いに付き合ってから
何となく友達と言うところまできていた。
それだけに少々ショックだった。
同性の私の目から見ても十分可愛い。
あれだけだと妬まれたりしそうなものだが、
そう言う雰囲気はまるで無い。
もしそれが本当だとしたら、どうしてあいつは姉となんか…。
91 :
二階の窓から(3):2005/10/02(日) 00:36:22 ID:z8kg4gtM0
知れば知るほど、不自然だった。
どう見たって、このみの姉貴分にあたるあの人だって
奴のことを狙っていたに違いない。態度からモロばれだ。
ちなみに、あの人と姉は今は冷戦状態のようだ。
最初は萎縮して逃げ回っていたみたいだけど、
ここ最近姉が反撃をするようになったみたいだ。
恋は人を変えるというのは本当らしい。
トイレをすませ、部屋に戻ろうとして…あきれた。
「まだやってる…」
頭を抱える私の目の前で、二人はとんでもないことをやりだした。
「え、ちょ、ちょっ…うそ、本気?!」
あせる私の前で、姉はほんの少し抵抗するそぶりを見せたかと思うと…
身を任せた。
もう見ていられなかった。
私は、部屋に駆け込んで鍵を掛けた。多分、今私の顔は真っ赤だろう。
確かに炊きつけたことはある。
そうでもなければ、あのとろくさい姉は横からさらわれるに違いない。
しかし、それを実際に見ることになるとは思わなかった。
と言うより、あのへたれがそこまでやるとは思わなかったのだ。
「…ほんと、あほらし」
私はこれをネタに奴に何かをおごらせようと決意した。
92 :
二階の窓から―封麟:2005/10/02(日) 00:43:13 ID:z8kg4gtM0
本日分はこれで終了であります。
がんがって書いてますが…オチどうすんのさ(笑)
一応、明日かあさってまでには終わらせる予定です。
ねたが無いから電波をもう一度受信しない限り、
そんなに長くならんと思います。
何度も言いますが…
気に入らなければスルーよろです(w
まずsageよう。
面白そうなところで終わってるなあ。
続きが楽しみです。GJ。
ところで、個人的な意見がふたつほど。
1.sageましょう。
2.名乗るのは自由ですけど、コテハンはめんどくさい事態を
引き起こしかねませんよ? 老婆心ながら。
18禁化が発表されて以来どこか停滞気味のスレに新作を投下してくれた
貴方に、敬礼ッノ(-"-)
気に入らなければスルーしろって……
誉め言葉だけ欲しいならこんな場所に投下しなけりゃいいのに
かなり面白いと思うなあ。本格的に郁乃の嫉妬が見れそうでワクテカ。
個人的には
もう投下するな。正直、前置きとかうざい。ヲタ臭いコテハンもキモス。
マンセーしてもらいたいなら自分でhpを作れ。
も う こ な く て よ し w
俺は単純に続きが楽しみなので
続編を期待したい
俺はおもしろいと思うよ。作者さんがんばれ。続きを期待している。
俺は中身がよければ、その他の細かいことはあまりきにしない。
別にここでやってもいいと思うけど
荒れそうだからウザイとか言われる部分は直したほうがいいよ
>封麟
というわけで、君の書き込みはスレにこういう事態を引き起こしてしまうわけだ。
それが嫌なら、やっぱり突っ込まれやすいところは直すべきやね。
なんというかまぁ、偉そうな住人が多いんですねぇ。
つまり年齢制限がある板のくせに、住人がガキばっかって事ですね!(・∀・)
コメントはいらないな。
淡々とSSを貼るだけにしとけばいい。
こういうスレにSS書く人ってコメントの方がメインじゃないの?w
皆色々言いたいことがあるのはわかるが、マターリしようぜ
そして河野家とてんだーはーとと虹の欠片をてかてかしながら待つ
とりあえず俺は続編を待つ。
てんだーはーとまだー?
何やってんだー♥
>>103 普通に書いてればなんにも言われないがな。
わざわざ本文とコメント分けてあるんだから
気に入らなかったら黙ってアボンしとけ
2chブラウザ使ってんだろ
コテつけてageただけで叩かれる封麟(´・ω・) カワイソス
コメントつけてる人たくさんいるんだし気にせず投下よろしくお願いします。
いや、気にしては欲しい
うざいうざい言う奴らを黙らせられるから
このみが夜遅くまで俺の家にいたのは俺にも責任がある。だから俺はこのみと一緒に春夏さんの
ゲンコツを食らった。更に春夏さんから優季のことを問いつめられた俺だったが、その後、このみの
セミヌードを拝めたりもして……。
優季を俺の部屋で寝かせることにして、俺は居間のソファーで寝ることになった。正直、寝心地は
あまりよくないのだが仕方がない。そうやって俺が寝ていると、花梨がやってきた。そして花梨の口
から出たのは「ミステリ、辞めようかな」という信じられない言葉だった。
「え?」
思わず俺は身を起こし、花梨の方を見る。けれど花梨は俺に背を向けたままだ。
「な、何で辞めるの?」
「うん……」
だけど、花梨は何も答えない。どうしてだろう?
そう言えばさっき花梨は、優季が可愛いとか、優季が普通の女の子だとか、やたら優季のことを
口にしていた。と言うことは……
「もしかして、優季の影響?」
少し間をおいて、花梨は、
「……うん、まあね」
小さな声でそう答えた。
「何で花梨が、優季の影響でミステリを辞めるの? 優季とミステリは関係ないと思うけど?」
「優季ちゃんのせいと言うか、優季ちゃんを見ていて、羨ましいって思ったんよ」
「優季が羨ましい?」
「うん……。
私ね、自分は普通の女の子とは違うって、いつも思ってた。だって普通の女の子はミステリなんて
興味持たないもの。実際、他の女の子たちと話が合わなくて、いつも一人だったし……。
それでね、私、考え方を変えたんよ。私は普通とは違う、つまり特別なんだって。
そうやって自分自身に誇りみたいなものを持って、でもやっぱ一人は寂しいから、私は私のことを
理解してくれる人、私に共感してくれる人を探すことにしたの。そしたら、たかちゃんに出会った。
嬉しかったんよ。やっと探してた人を見つけたって……」
「そ、そうなんだ……」
いや俺、そんなにミステリに入れ込んでるワケじゃないんだが……。
「たかちゃんと一緒にUFO探したりUMA探したりして、どれも成果は無かったけど、たかちゃん
と一緒だったからとっても楽しかった。
でもたかちゃん、部活に顔を出さないようになって、それがるーこのせいだって思った私は、たか
ちゃんをるーこから取り戻すためにこの家に来たんよね。
なのに私、気が付いたらいつの間にか、るーこや他のみんなと一緒に料理とか家事とかやったり
一緒に遊んだり、まるで普通の女の子みたいなことして、でもそれに違和感無くて……。
そしたら、優季ちゃんが来たんよね。優季ちゃんはとっても可愛い普通の女の子で、たかちゃんの
ことが大好きで、たかちゃんのためにおいしい料理を作ったりして……。
そんな優季ちゃんを見ていて私ね、羨ましいって思ったんよ。それからこうも思ったんよ。私も
優季ちゃんみたいな普通の女の子になりたいかも、なれるかもって……」
「花梨……」
花梨は俺の方に振り返り、そして俺を見つめてこう聞いてきた。
「ねぇたかちゃん、たかちゃんはどう思う?
花梨も優季ちゃんみたいな、普通の女の子になれると思う?
それにもし、花梨が普通の女の子になったとしたら、たかちゃんは花梨のこと、どう思う?」
花梨が真剣に悩んでいるのは鈍い俺でもよく解る。花梨は今、重大な選択を自らに迫っているのだ。
ミステリに生きるか、それとも、花梨の言う普通の女の子になるか。
だけど、選択肢ってそれだけだろうか?
今の話を聞いて解ったことがある。花梨にとっての『普通』とは、自分とその他を隔てる境界線の
向こうにあるものだったのだろう。ところが俺の家に来てからの花梨は、その『普通』を違和感無く
やるようになった。そのことに花梨自身が戸惑っているのだ。そしてそれに気付くきっかけを作った
のが優季の存在。きっと花梨は優季の中に、『普通』の理想像を見出したのだと思う。
だけど、だからって選択肢が二つだけってのは違うよなぁ。俺はそう思い、そして……
「……成る程、どうやら順調のようだな」
俺はニヤリと笑う。気分は悪の組織の幹部Aといったところ。
「順調? たかちゃん?」
「花梨のミステリへの興味を無くすことで、るーこ様への詮索を止めさせる。どうやらるーこ様が
立てた計画は順調に進んでいるようだ。さすがはるーこ様と言ったところか。ふふふふ」
「た、たかちゃん何を言ってるの? るーこ様って……まさかたかちゃん、これもるーこの計画って
ことなの!?」
「その通りだ。るーこ様の地球侵略にあたり、お前は邪魔な存在だからな。しかしるーこ様は不必要
な流血を好まない。だから花梨自らがるーこへの詮索を止めるようにし向けたと言うわけさ。
後は花梨、お前が自ら、ミステリを捨てて普通の女の子になることを誓えばこの計画は完了だ。
さあ言え花梨、私は普通の女の子になりますと!」
「た、たかちゃん、そんな……」
「……なんてな」
「え?」
「今のは冗談。ってかこんなバレバレの芝居、普通騙されないだろ」
「じょ、冗談!? たかちゃんひどいよ〜! 私、真剣に悩んでるんよ! それなのに……」
「ごめんごめん、からかったりして悪かった。
だけどさ花梨、さっきから気になってるんだけど、花梨の言う『普通の女の子』って何? 普通の
女の子は、ミステリに興味を持っちゃいけないのか?」
「だ、だって普通の女の子はUFOとかUMAとかより、食べ物のこととか、おしゃれのこととか、
テレビのこととか、音楽のこととか、そういうのに興味を持つから……」
「でも、ミステリに興味を持っちゃいけないってことはないよな。普通の女の子しながらミステリを
追い求めたって別に構わないんじゃないの?」
「……駄目だよ。そんな中途半端じゃ、ミステリの探求なんて出来ないよ」
「そうやってミステリ一筋になるのもいいかもしれないけど、他の考え方もあるんじゃないかな?
例えば、そうだな……、休みの日にツチノコ探しに裏山に行くとして、そのときに自分で作った
おいしいタマゴサンドを弁当に持っていけたら、より一層ツチノコ探しに頑張れるって思わない?」
「そ、それは……」
「それにさ、そもそも花梨が俺の家に来た目的って、るーこの正体を暴くためだろ。それならるーこ
が出来ることを自分もやってみるのは、そのための情報収集だって見方もあるんじゃない?
るーこを調べることで、花梨がおいしいタマゴサンドを自分で作れるようになれば、花梨にとって
は一石二鳥だろ?」
「たかちゃん……」
「優季を羨ましいと思う気持ちは、それはそれでいいと思うよ。でもだからって、今までやってきた
ことを全部否定しちゃうのは勿体ないよ。
もう少し欲張ってもいいんじゃない? ミステリも普通の女の子も、どっちもやってみれば?
短い人生、色々やった方が得だと思うよ俺は」
言いたいことは言うだけ言った。後は花梨がどうするか、だ。
花梨は俯いて、しばらくの間そのまま考え込み、そして、
「……どっちも、かぁ」
ため息をつくようにそう呟いた。
「そ、どっちも」
「言うのは簡単だけど、やるのは私なんよ。たかちゃんちょっと無責任」
「そりゃそうだ。俺は責任なんて持ちませんよ。あくまで花梨自身の問題なんだから。
じゃあ逆に聞くけど、俺が責任持って『普通の女の子になれ!』って言ったら、花梨はその通り
にするつもりだったのか?」
「うん。そしたらたかちゃんには責任取ってもらって、花梨ちゃんの旦那様になってもらおうと
思ってたから☆」
「うわ、責任持たなくてよかったよホント」
「あ、それひどーい!」
そう言って怒る花梨だが、その後何故かクスクスと笑い出して、それにつられて俺も笑い出して、
暗い居間で俺たちは、しばらく笑い合った。
笑うだけ笑った後、俺は花梨を見て、
「でも正直言って、花梨が優季に影響を受けるなんて考えもしなかったよ。花梨って誰がどうだろう
と我が道を行くタイプだって思ってたからさ」
「失礼だねたかちゃんは! 花梨ちゃんだって多感なお年頃の女の子なんよ!」
俺の言葉に、腕を組んでプンスカ怒る花梨。
「女の子、ねぇ」
「あ、なんかヤな感じ。じゃあ実際に解らせたげるかんね!」
花梨はそう言うと不意に俺の右手を掴み、そして、
むにゅっ。
え? か、花梨が、俺の右手を、自分の胸に……?
「か、花梨、何を……?」
「……ねぇ、たかちゃん。解る?」
「な、何が?」
「花梨ね、今、すっごい心臓ドキドキしてるの。感じない……?」
た、確かに、手のひらには柔らかさと、そしてその奥からはっきりと、アップテンポの鼓動が伝わ
ってくる……。
「か、花梨……」
「……さてと」
そう言って、花梨は俺の右手を胸から離すと、
「これでたかちゃんは、ますますこの花梨ちゃんに逆らえなくなったわけで」
「……え?」
「もしこのことが環さんにでも知れたら、たかちゃん、どーなるかな」
「な、何ぃ!? か、花梨はめやがったなぁ!?」
「あははウソウソじょーだん! 今のは相談に乗ってくれたお礼ってことで、ね☆
じゃ、ありがとたかちゃん、おやすみー!」
そう言って花梨は、まるで逃げるように居間を出ていった。
お、お礼、ね……。思わずじっと手を見る俺だった。
今日はこれでもう終わり。後はもう寝るだけ。そう思っていた俺だったが……
またしても扉が開く音、そしてこちらに近づく足音。今度は一体誰だろう?
「お邪魔しますだぞ、うー」
「るーこ?」
るーこは俺の目の前にぺたんと座り、
「さっきまでうーかりと話してたな。今度はるーと話をしろ」
なんでるーこがそれを知って……? あ、るーこと花梨は同じ部屋だから、そのくらい解るか。
「いいよ。で、話って?」
「うーかべのことなのだが」
あら、るーこまで優季の話かよ。
「まさかるーこまで、宇宙人を辞めるなんて言い出さないよな?」
「辞める? 何を言っている、うー?」
「ああいや何でもない。で、優季のことって?」
「確認したいことがある。
うーかべがうーにホレているのは解った。では、うーはうーかべのことをどう思っているのだ?
答えろ、うー」
何ともるーこらしいと言えばらしい、単刀直入な質問である。
「い、いや、どう思っているかと聞かれても、なぁ……」
「簡単な話だ、ホレているかいないか、どちらかを答えればいい。
さあ答えろ、うー」
そう質問するるーこの声に、妙な真剣みを感じたのは俺の気のせいだろうか?
「ほ、ホレているかと聞かれたら、今の時点ではまだ、ホレている、とまでは言えないレベルかな、
と、自分ではそう思っている……かもしれない」
「ハッキリしない物言いだな、うー。ホレているかいないかだけ答えろ」
「は、はい、ホレてはいませんです」
「本当だな?」
「ほ、本当です」
何故か右手を挙げてそう答える俺。
「そうか、ならいい」
そう言って立ち上がろうとしたるーこを俺は抑え、
「待て、よく考えたら何でるーこにそんなこと答えなきゃならないんだ?
これは俺と優季の問題であって、るーこは関係ないだろ」
そう尋ねると、るーこは真剣な表情でこう答えた。
「関係ならある。もしうーもうーかべにホレていると言うのなら、二人は相思相愛、夫婦も同然だ。
ならばるーたちは二人の邪魔になるから、この家を出ていかなければならない」
「な、なんだ、そんな心配してたのか……。
なら今聞いたとおりだ。俺は今のところ優季にホレちゃいないよ。
それに俺は、例え何があってもるーこを家から追い出すなんてマネは絶対にしない」
「何故だ、うー?」
「だってお前、行くあて無いだろ?
それに何度も言ってるけど、俺にとってるーこは命の恩人なんだ。そんな大事な恩を仇で返すよう
なマネは、それこそ”うー”の恥だよ。るーこには”うー”が恩知らずな生物だなんて思われたく
ないからな」
「……本当に、それだけか?」
「るーこ?」
「ほ、本当に、それだけなのか? うーがるーを気に掛けてくれるのは、それだけの理由なのか?
こ、答えろ、うー」
「答えろって、何を?」
「る、る〜……、つ、つまり、うーは、るーのことをどう思っているのだ? 答えろ、うー」
俺が、るーこのことを、どう思っているか?
……俺、どう思っているんだろう。命の恩人。いや、それだけじゃないような気がする。
思い出してみる。それは、仮の住処を失ったるーこを探しに、公園まで走っていったあの日。
夕暮れの公園、「立入禁止」のフェンス、その前で為す術もなく、ただ座っていたるーこを見つ
けたときの、俺の気持ち……。
「……えっと、うまく言えないけど、何か俺、るーこのこと、放っておけないのかもしれない」
「そ、それは、うーがるーに、その……、ホレていると言うことなのか?」
「あ、い、いやホレているとかじゃなくて、あ、でもるーこのこと嫌いってワケじゃないぞ!
何て言ったらいいのかなぁ……、とにかく、放っておけないんだよ」
「……じゃあ、るーを哀れんでいるのか?」
「そうじゃないって! 違うんだって! ああもう! 何て言ったらいいかわかんねーーーっ!!」
何て頭が悪いんだ俺は! 思わず両手で頭をかきむしる。
そんな俺を見て、きっとるーこは呆れてしまったのだろう。
「……わかった。おやすみだぞ、うー」
そう言い残して、居間を出ていった。
「はぁ……、何だかなぁ……」
後に残ったのはどうしようもない無力感。俺はそのままソファーに横になるしかなかった。
朝。みんなで朝食。
いつもと同じ、と言いたいところだが、今朝の食卓は変だ。それは……
「ねぇたかちゃん。この紅鮭、花梨が焼いたんよ。おいしい?」
「あ、ああ、おいしいよ花梨」
「ホント!? じゃあ花梨のもあげちゃう!」
「い、いいよ花梨。そんなにいらないってば」
「こっちのダシ巻き卵はるーが作ったぞ。うまいか、うー?」
「あ、ああ、おいしいよるーこ」
「そうか、ならばるーの分もやる。食べろ、うー」
な、何なのでしょう? 花梨とるーこが妙に優しいと言うか、サービス過剰と言うか……?
「あらあら、朝から随分モテモテね、タカ坊」
「い、いやそういうワケじゃ……」
「どう見てもそういうワケに見えますよ。どういうことですか貴明さん?」
ゆ、優季、目が怖いんですけど……。
つづく。
どうもです。第26話です。
アニメ版TH2見たさの余り、スカパーのアニメ専門チャンネル「AT−X」に加入しちゃいました。
でも、月1500円は正直高い……。とりあえず元が取れるだけ、他のアニメも見てやろうと思って
ます。どれだけ見れば元が取れるかは解りませんが(^^;
124 :
名無しさんだよもん:2005/10/03(月) 20:34:32 ID:INoasacfO
河野家喜多ーーーーー!
河野家お疲れ様。
河野家お疲れ様。
河野家乙です
草壁さんはSSではなかなか見当たらないので
これからも貴明とイチャイチャして欲しいですね
続きも期待しています
>>123 GJ!です。
花梨をからかう(?)貴明のシーン、こういうのも好きだな〜。
. _, ,_ 眼を醒ませ!
( ・e・)
⊂彡☆;)`ω゜)
>>123
>>123 会社or学校やめてヒキコモリになって
おまけに24時間寝ないで死ぬまで見ても多分元は取れません。
お気の毒に。
つ P2P
河野家超乙
AT-Xはスクライド再放送だけで俺的には大満足さ。速さが足りない。
>>127 少しずつ存在感を尻上がりに上げてきているような気もする>草壁さん
風が少し冷たく感じられるようになった頃。
あたしは車椅子で近くの河原まで来ていた。ううん、正確にはあたしだけじゃ
なくて、後ろにもう一人いる。
「だいぶ、涼しくなってきたな」
そう言うと、その人はあたしに穏やかな笑顔を向ける。
「うん…そうね」
まだ出会ってから数ヶ月しか経っていないというのに、長いこと一緒にいる
ような気さえしていた。
それくらい、あたしにとってこの人の存在は大きかった。
「悪いな、最近なかなか来てやれなくて」
「文化祭の準備期間なんでしょ?無理して来いなんて言わないわよ」
また嘘ついてる――もう一人のあたしがそう言って呆れる。
ほんとはずっと隣にいてほしいくらいなんでしょ?もう少し素直になれば
あんたを見る目も変わるかも知れないのに…と。
…しょうがないじゃない。
今の小牧郁乃は、なかなか素直になれないひねくれた少女なんだから。
もう一人のあたしにそう返してやると、彼女は苦笑して引っ込んだ。
「まだ、歩けそうにないか?」
そう聞かれて少しためらった。もう大丈夫、歩けるわよって答えようか、それとも
まだダメかな…って答えるべきか。
前者の答えなら「無理はするな」、後者なら「焦ることはないよ」と
返してくれるに決まっている。
「………」
「…そうか。リハビリやってるからってすぐ歩けるようになるわけじゃ
ないのはわかってるけど」
答えず無言でいたのを、まだ歩けないという意味にとったらしい。
彼はちょっと残念そうというか、寂しそうな顔をしていた。
「あ、別に早く歩けるようになれとか催促してるわけじゃないからな」
「催促されて歩けるなら苦労はしないわよ」
「はは…それもそうだな」
いつか並んで歩けたらいいな――
この前、この人はそんなことを言っていた。
あたしも同じ事を思う。毎朝肩を並べて登校したいし、お喋りしながら
ゆっくりと帰りたい。
だけど長い入院生活で身体能力が弱っていたあたしは、手術後すぐに
その願いを叶えることはできなかった。
だけど、あたしの願いはもうすぐ叶う。その時は遠くないのだ。
「…見せてあげる」
「え?」
「誰にもまだ見せてないの。姉にも、両親にも」
両腕にぐっと力を込めて身体を車椅子から引き離し、あたしは立ち上がった。
当然、この人は慌ててあたしを支えようとする。
「お、おい。無理するな」
「無理じゃないってところを…見せるのよ」
少し離れて、と言って彼にちょっと移動してもらって距離を置いた。
全然無理しないわけじゃない。二人の距離はわずか1〜2メートル。
見ればたったこれだけの距離だけど、今のあたしにはまだ辛い。
「少しでも早く、歩けるようになりたかった」
姉はずっとあたしに構いっぱなしだったから。
本人はそう思っていないかも知れないけど、あたしは姉の負担で居続ける
ことが内心では辛かった。
姉が…お姉ちゃんが大好きなくせに冷たく突き放そうとしてしまうのは、
それがあったからだ。
あたしにばかり構ってないで、自分の幸せを探してほしかった。
だけどそれはあたしが一人でやっていけない間は叶わない。だからもう
助けはいらないんだと、これからは自分のことを考えられるようにと
独り立ちするための努力を続けてきた。
「姉やあなたをちょっとでも早くあたしから解放してあげたかったから」
「…迷惑だとか、負担になってるとか。俺は一度も思ったことはない」
それは下手な気遣いの言葉じゃなくてこの人の本音だった。
飾ることなく自分の気持ちを伝えてくれる。そしてそれにはいつも優しさが
込められていた。
「だからこそ…くっ」
歩き出そうとして少しよろめく。
でも決して地面に膝をついたりはしない。あの人のもとに辿り着くまでは。
「郁乃…」
「お願い、最後までやらせて」
もう一度、もう一度右足を前に出すことからやり直し。
ゆっくりでいいのだから。
「――二人があまりにも優しいから、早く歩けるようになりたかったのよ」
これ以上優しい二人の負担になりたくなかった。
そして、この人達の優しさについ甘えてしまう自分も嫌だった。
いつまでもこのままじゃいられないし、いるわけにもいかないから。
「二歩…三歩…」
呟きながら少しずつ歩を進める。
ああ…たったこれだけの距離なのに、そのなんと遠いことか。
「郁乃、もう少しだ」
「うん…」
あと1メートル…あと80センチ、あと70センチ。
もう手を伸ばせば届く距離だけど、彼はあたしがゴールに辿り着くのを
静かに待ってくれている。
「あっ…」
最後の一歩を踏み出したところで身体が傾いた。
――とすっ。
「え、あ…」
あたしは抱き止められて、彼の腕の中にいた。
「だいじょうぶか?」
「ん…」
――ゴール…できなかった、な…
「残念がらなくても、ちゃんとゴールしたぞ」
「え?」
踏み出した右足じゃなくて、左足が先に地面に着いていた。
結局受け止めてもらったから自力でゴールしたことになるかは疑問だけれど、
確かに自分の足でゴールラインに辿り着いたのだ。
「頑張ったね」
「…うん、頑張った」
やっぱり、肩を並べて歩く日はまだまだ遠いかも知れない。
だけどきっと…ううん、必ずその日は来る。
「やっぱり、もう少し二人に甘えちゃうかもね」
「いいんじゃないか?たまには…さ」
彼はそう言ってあたしを抱く腕に力を込めた。
あたたかい…こうしている時間が、あたしにはとても幸せに思える。
「あの、ね…」
「ん?」
「退院して、もし歩けるようになったら…言いたいことがあるの」
「言いたいこと?」
「うん」
言ったら笑われちゃうかな?
ううん、この人はきっと真剣にあたしの言葉を聞いてくれるよね。
結果なんかどうなるかわからないけど…その時は――
「そうか…うん、この調子なら、その時は遠くなさそうだな」
「見てなさいよ?すぐまともに歩けるようになってみせるから」
「それじゃ一週間だな」
「うっ…ちょっと延長を希望したいんだけど」
「郁乃〜、たかあきく〜ん」
向こうからお姉ちゃんがあたし達を探して歩いてきた。
どこに行くとも言わなかったから、あたし達が病室にいないのを見て
さぞ慌てただろうな。
「お、世話焼きなお姉様の登場だぞ」
「あ〜、車椅子車椅子。座ってないと何を言われるやら」
頑張ろう。早く「足手まといの妹」でなくなるように。
お姉ちゃんがあたしに構ってくれなくなるのは寂しいかも知れないけど。
それはそれで悪いことじゃないはず。
「さて、行くか」
「うん」
だけど、叶うならこの人にはずっと側にいてほしいと思う。
とても鈍感だけどとても優しい、あたしが好きな人。
今の一番目はお姉ちゃん。
でも、もうすぐこの人が一番目になるかも知れないね。
河野家の感想レス中に割り込んで申し訳ないです。
郁乃SSです。
別に意図してないんですが読み返してみたら途中が
AIRっぽくなってるしorz
(1/5)以外は改行多すぎと言われたので詰めました。
読みにくいかも知れません。
>>123 少し前からですが読ませてもらってます。GJ!
今後も期待してます。
>>123 河野家喜多ーーー!!!
とりあえず、草壁さん、もとい、優季の影響デカすぎw
ひょっとして、タマ姉より影響力あるんじゃないか^^;
>>124 いつもの「河野家喜多ー!」を取られた〜 orz
>>138 いくのんSS喜多ーw
ちょ、ゴールってw
郁乃に死亡フラグが!wwwww
だがGJ!
何の因果かリアルが忙しく、
書き込みができませんでした。
ここを読んでおられる人たちに謝りたいです。
不快に思われたら書き手として失格です。
もう少し気をつけて書きこすればよかったです…。
何はともあれ、お話を作ってしまった以上、
そして多少なりとも続きを希望される人がいる以上、
完結までは書き込みたいと思います。
以下、少し続きます。
しばらくして、
「ただいまー」
と言う声が聞こえた。遅いお帰りだ…全く。
この時間の帰宅と言うことは、
奴の家で夕食を作り一緒に食べてきたに違いない。
「あら、河野君わざわざ送って来てくれたの?」
「ええ…まあ、遅くなりましたし」
ちなみに、忌々しいが奴は母さんのお気に入りだ。
「あがって行って、お茶でも…」
「いえ、今日は帰ります」
「あらそう残念ねえ」
胸を撫で下ろす。少なくても今の状態では会えない。
そして、しばらく階下で音がした。何やら話をしているみたいだ。
冷やかしにでも行こうかと思ったが、やめた。
正直、今は私も平静でいられる自信は無い。
ゆっくりと忍び寄ってきた睡魔に身を任せることにした。
意識がぼんやりと戻ってくる。
体は普通の生活が可能な状態に快復しつつあるけど、
どうしようもないくらいに低血圧なのはそのままだった。
時計を見たら9時だった。
今日は日曜日で、わりとのんびりしていても構わない。
もう一度寝なおそうとして…稲妻のように記憶がよみがえった。
「うう…」
それでもう寝なおすなんてことは無理だった。
わたしはちょっと苛立ちを覚えながら顔を洗いに一階に向った。
静かだった。
日曜日のこの時間に起きて何かやるのは、まあ奴とデートのときの姉くらいだろう。
のろくさと洗面所に行って顔を洗い、歯磨きをする。
で、私が洗面所のドアを開けると…そこには姉がいた。
「あ、あら…いくの?」
あやしい。
露骨に怪しかった。
これで何事も無いなんてことはありえない。
「お姉ちゃん、ずいぶんと早起きね」
「う、ううう、うん。ちょっと目が覚めちゃって…あは」
だからそれがありえない。
昨日の今日でまたデートとか言うことは無いだろう。
そうだ、確か…今日はお母さんと買い物に出かける約束をしていたはずだ。
用事が無いときはゴマアザラシもかくやと言う体たらくで、
昼まで寝ている姉がこの時間から起きているなんてことは…ありえない。
そのまま姉は洗濯機に向おうとしているみたいだ。
「お姉ちゃん」
「なに?」
「そこの戸棚に歯磨き粉入ってない?」
足音を忍ばせてゆっくりと後ろから近寄る。
「えーこのまえ下ろしたよ」
後数歩、振り返らない…とった!!
「もう無いよ」
「う、うん。ちょっと待って」
その言葉と同時に私は姉のパジャマのポケットから
はみ出していたかわいらしい巾着を引っ張り出した。
「え?あ、い、郁乃!!」
いつのまに買ったのか、えらく可愛らしいショーツが入っていた。
血がついているが、別になんでもない。むしろがっかりした。
「え、あ…その…」
瞬間湯沸かし器みたいに真っ赤になる姉。
そして、いつも月の物が少々重い姉
―そう、確かだいぶ前に辛そうにしていたはずだ―
さらに、さっきから妙に歩きにくそうにしていた姉。
決定的だったのは…裏側についていた粘性高い何かだ。
べとついて…臭い。
で…つながってしまった。私の頭の中で。
「も、もしかして…し…したの?」
私の問いに姉は恥ずかしそうに答えた。
「う、うん」
「ふ、不潔!!!!!あれだけまだ早いとか何とか行ってたくせに!!」
「ちょ、郁乃〜さっさとしちゃいなさいって言ったくせに」
「うるさい、うるさい、うるさい!!!!」
憤りと説明できない想いとで頭がぐちゃぐちゃになる。
感情の高ぶりがいけなかったらしい。
膝の力がまず抜けた。
意識が向こう側に持っていかれる。この感覚は…貧血だ。
「郁乃、いくの!!!」
そうして…意識が電源を落とされたみたいに切れた。
目が覚めた。
ソファーの上に寝かされ、楽な姿勢になるように寝かされていた。
「あ、起きた?」
「…うん」
思わず目をそむけた。
だけど、意外なことに姉はそれを許してくれなかった。
「ねえ郁乃。私ね、分かったの。
誰かを好きになるってことって素敵なこと。
そして、その一歩先の想いが伝わったときはね…
いろんなことを可能にしてくれる力を生んでくれるんだよ」
それでようやく認められた。私は嫉妬をしていたのだ。
ソレだけだったらまだ良い。実際はもっと醜い。
頼っても寄りかかっても支えてくれる姉を取られることを恐れていたのだ。
「大丈夫だよ…私たち、姉妹でしょ?」
今度は、私が瞬間湯沸かし器になる番だった。
「ふふふ…可愛いなあ、もう」
そう言って私の頭を撫でる。何と言うか…すごい余裕だ。
「うーるーさーい!!」
「はいはい…」
悔しかったから、ちょっとやり返してやることに決めた。
「お姉ちゃん…」
「何?」
「あそこの路地裏やめたほうが良いよ。二階の窓から丸見えだもん」
ぴたりと姉の動きが止まった。
「うそ…」
「嘘じゃないって…って言うか、絶対やめてよね。
って、まさか…昨日」
「ち、違うよ。ちゃんと貴明君の家で…」
「へえ…」
墓穴を掘って、再び瞬間湯沸かし器になる姉。
それを見て思った。
ああ、多分私たちはずっとこのままで一緒に生きていくんだろうな…と。
オチは?
>>150 ああ、このまま一緒に生きていくんだろうな
この日常が続くんだろうなーと思って終わり。
ずぶ濡れでドアを開けた。まるで流れるように玄関に水溜まりが広がっていく。ドアを
閉めると、途端に世界を覆いつくしていた雨音は遠い雑音に変わって、一心地をつく。
自分たちを断絶する世界の攻撃からようやく逃れきった。ゲームで敵の弾の飛んでこな
い安全地帯に逃げ込んだひと時のような安堵感。ずぶ濡れのまま玄関に腰掛ける。腕の中
の小さな温もりは、手を離してやると玄関で体を大きく震わせて辺りを水浸しにすると、
大きな声で一声鳴いた。
ようやく、ようやく辿り着いた。
これで着替えられるし、暖かいミルクだってやれるだろう。できれば熱いシャワーを浴
びたい。
「あらあ――」
バスタオルを持って駆けつけてきた母親が、廊下の途中で固まっていた。
「お母さん、タオルもうひとつ。それを暖かいミルクを作っ――」
「ダメです!」
最後まで言い切れない。
「それはどうしたの!?」
濡れた頭にバスタオルをかけながら母親は怒気を含んだ声で訊ねる。その「それ」とい
う言い方がイヤだった。それ、ではなく、猫で、生きていて、モノじゃなくて、温もりが
あるのに……、「それ」だなんて、まるでモノみたいだ。
「震えてたんだ。だから……」
「震えてたから拾ってきたの? その子の親が近くにいたかもしれないのに、自分勝手に
そう思ったから連れて帰ってきたの?」
散々雨に打たれてきたのに、その上からさらに冷水を浴びせかけられたようだった。
この仔猫には、この仔猫の世界があって、生活があって、人生――いや猫生があるのだ。
そしてまだこいつは仔猫で、自分と変わらない子供で、多分親に助けられなければ生きて
いけない。それなのに自分は親猫が見当たらなかったという理由――いや、そんなこと考
えもしなかった。自分はただこの仔猫が震えていたから、ただそれだけで――何も考えず
に拾い上げてきたのだ。それがこの仔猫のためだなんて一人で思い込んで……。
「今すぐ元いたところに返してきて上げなさい、ね?」
母親の声は優しくて、それが一番良いことなのだと子供心に思わせるには十分な暖かさ
に満ちていた。
「その前に着替えて、ちゃんと傘を差していきなさい。その後でお風呂に入りましょう。
その子もちゃんと拭いてあげるといいわ」
母親は玄関から各部屋に通じる扉を全て閉めて歩きながら、洗面所から古くなったタオ
ルを一枚持ってきて手渡してくれた。それを使って玄関の隅っこで小さくなっている仔猫
を捕まえ、無理やりごしごしとその体を拭いた。
そして俺は母親に言われるがままに着替えて、傘を差して、まだ湿っぽい仔猫を腕に抱
くと、こいつと出合ったあのトタン屋根の下にそっと降ろした。
――結局俺は何も考えていなかったのだと思う。
――軽く、とても軽く考えていたのだ。
温もりを捕まえるということと、それを手放すということの、そのどちらの意味も。
それ以来、俺はそのトタン屋根の下に顔を出したことはない。
古びたその建物はとっくの昔に取り壊されてしまって、それが何処にあったのかすら定
かではない。
もちろんその仔猫がその後どうなったかなど、俺が知る由もない。
それが温もりを手放したことの代償だった。
--虹の欠片-- 第十話
走って帰ってきた――ワケではないようだったが、それでも遅くなった分急いでいたの
か小牧の手はとても暖かく汗ばんでいた。
「冷たい。……もうどれだけこうしてたの? また郁乃が何か言ったんでしょ?」
小牧は俺の手を握ったまま訊ねる。また――というのは俺と郁乃の口喧嘩はもはや日常
茶飯事だったからだ。しかし今回のコレは口喧嘩とは言えまい。郁乃がぎゃーぎゃーわめ
くのに俺がぎゃーぎゃー返すから口喧嘩なのであり、今回のようにただ相手の言葉に打ち
のめされて逃げ出すのは間違っても口喧嘩ではない。
「ほら、入って。体温めないと」
小牧は俺の手を引いて自分の家の玄関を開ける。
「ただいまー。郁乃ー! また河野くんに何か言ったんでしょ!」
「――知らない! そいつが勝手に出て行ったのよ!」
「もうっ!」
リビングからの返事に小牧は頬を膨らませる。そして靴を脱いであがるとそのままリビ
ングに向かう。俺も上着を取るためにその後を追いかけた。
「郁乃! 河野くんは郁乃の為に色々してくれてるんだから、ちゃんと感謝しなさい」
「それはそれ! これはこれよ! そいつは――」
何かを言いかけてはっと郁乃は口をつぐんだ。その先は言葉は俺には分かった。――お
姉ちゃんのこと好きなんかじゃないんだから――と、そう続くのだろう。けれどそれは郁
乃が口にしてはいけない言葉。禁忌だった。
「河野くんが、――なに?」
一瞬だけ不安を浮かべて小牧は俺を振り返る。
「なんでもないよ。ほら、小牧は着替えてきたらどうだ? 俺は帰るから」
椅子にかけていた上着を手に取って、小牧を階段に促す。
「あ、でも、河野くん、えっと――」
何かを言いたそうにしている小牧の背中をつついて階段に向かわせる。そんな俺たちの
姿を郁乃は殺人光線でも発射しそうな瞳で睨みつけていた。
「本当にごめんなさい。あの、文化祭が終わったら仕事も少し楽になると思うし――」
「うん、分かってる。それじゃおやすみ」
階段を上がる小牧に手を振って俺は振り返る。
さて、ここ、階段下から直接帰るなら郁乃のいるリビングは通らずに済む。それが何よ
りの幸いだ。多分、郁乃には少々ばかりの時間が必要なんだろう。誰にだってイライラす
るときはある。もちろん俺にだって。
……だから玄関で郁乃が仁王立ちで俺のことを待ち受けていた時は逆に意外に思った。
俺の顔なんて見たくないだろうとばかり思っていたからだ。いややっぱり俺の顔は見たく
ないらしい。その証拠に俺と目が合うと郁乃は元からしかめっ面だった顔をさらにしかめ
た。
とは言っても、俺にどうしろというのか。
「――またな」
とりあえず当たり障りのない挨拶だけを口にして、郁乃の隣を抜け、靴を履く。
そんな俺の背中にダウナーな時の平坦な口調で郁乃が言葉を投げ落とした。
「ひとつだけ訊かせて。――お姉ちゃんとは何回寝たの?」
ぎゅっと身が縮こまった。多分、毒のある針で刺されたらこんな感じなんじゃないだろ
うか? 俺は痛いほどに歯を食いしばって、その言葉を無視した。
俺もオチ弱いなと思ったw
>>89-91が導入として良い出来だっただけに展開を練ってほしかった。
「――分からないワケないでしょ。お姉ちゃんのことならあたしが一番よく分かってるん
だから」
それは、それは、……それは、まったく、それは……随分と過剰な自信だ。
――ぅ……ぁ……、こう、ん、ぅんっ!
郁乃の言う寝たというのがセックスのことを指しているのならば、答えはノーだ。俺と
小牧がそういう関係になったことは一度もない。俺以外の誰かと経験済みでないのであれ
ば小牧は処女だし、まあ間違いなくそうだ。
――おねがい……だから、やさしく、してください。あの、あたし、その――。
その、あれだ。
小牧が嘘をついてない限りは――。
バァン! と大きな音を立てて小牧家の玄関が閉まる。
情けないと自分でも思う。けれど手にこもった力をどうしても我慢できなかったのだ。
くそ、くそ、くそ、クソッ!
ワケの分からない苛立ちが体中からあふれ出て、俺は乱暴な足取りで自宅へと歩く。空
き缶でも転がっていれば思いっきり蹴飛ばしたかったし、そうでなくても電柱をぶん殴り
たいようなそんな気分だった。
アレは――。
そう、アレは過ちだった。間違いだった。失敗だった。
無かったことにして、忘れたことにして、そうして俺と小牧は平常を保っていられるの
だ。それなのに、それなのに――。
何も知らない郁乃が、訳知り顔で俺に説教するのが我慢ならない……。
そしてそれが一々的を射ているのが、俺を一層苛立たせるのだ。もちろん何回寝た云々
は大間違いだが。
「――うのくんっ!」
最初の一瞬は空耳だと思った。けれど、その声が二度目に聞こえたとき、俺は立ち止ま
り振り返った。
「河野くんっ!」
そこには肩で息をする小牧が居た。全力疾走でここまで走ってきたのだろう。服装は制
服姿のままで、手には何も持っていない。自室に戻った後、俺が玄関を乱暴に閉める音を
聞いて飛び出してきたことは一目瞭然だった。
「はぁふぅ……はぁぁぁ、やっと、追いついたぁ……」
息を整えながらも小牧はまだ苦しいようで、時折咳き込んでいる。そして苦しそうにし
ながらも微笑んだかと思うと、
「でも良かった。追いつけた」
等と宣った。
その笑顔に妙な罪悪感が浮かぶ。変なものだ。心の奥底はいまだカッカとワケの分から
ない怒りなのかなんなのかが渦巻いているのに、表面のほうでは小牧に対して玄関を乱暴
に閉めた所為でこんな苦労させて悪いな、なんて思っている。
「ねえ、河野くん、何かあった?」
そう言いながら小牧は俺の手を取った。
それは俺たちの習慣。相手のことを思いやるとき、それを示すサインとして手を取り、
そして手を取られたほうは素直にならなければいけない。ルールではないけど、そうして
きたし、これからもそうするだろうと思っていた。俺たちの形の始まり方が、まるで残響
音のように残っている。そんな感じだ。
だから俺はこの手の温もりに包まれて、嘘がつけない。
「――郁乃に言われたよ……」
「何を?」
「アンタはお姉ちゃんをどう思ってるのって……」
遠い街灯の照らす弱々しい光の中でも、小牧の頬が赤く染まるのが分かった。
「それから、小牧は俺のこと好きだって言ってた……」
たちまち小牧の顔全体が紅潮していくのが分かる。手の平が汗ばんで、今では明らかに
小牧の方が落ち着いていなかった。
「……それは、本当?」
訊ねると、弱々しく、本当に弱々しく、観念したかのように小牧は小さく頷いた。
「俺も……小牧のこと好きだよ……」
−−−−−− 終 −−−−−−
弾かれたように小牧が俺の顔を見上げる。
さて、世間的にはこれで俺たちは両想い。言わば恋人関係の橋頭堡を築いたということ
になるのだろうか。
……そうか?
なにかおかしいとは思わないか? 普通はこういう時は胸が躍るもんなんじゃないか?
好きな人が俺のことを好きでいてくれている。そんな嬉しいことが世の中にどれほどあ
るというのか?
なのに、それなのに俺の心はちっとも踊ってはくれなかった。
そしてそれは多分小牧も同じだった。
だから俺を見上げている小牧の顔は、紅潮こそしていたものの、何故か困った顔だった。
「……郁乃は悪い子だなぁ。後で叱っておかなくっちゃ」
小牧は俺の手を解放すると、くるりと背中を向けた。
「本当はね、明日、……明日言うつもりだったの」
後ろで手を組んで、小牧は空を見上げる。つられて空を見上げると――ぽつり、と頬に
は一滴の雨粒。
「文化祭が終われば、それほど忙しくもなくなるし、河野くんにこんなに頼ってばかりい
なくても郁乃の面倒はあたしがちゃんと見られると思ったから……」
――ぽつり、ぽつり……。
小牧は視線を地面に降ろすと、後ろで組んでいた手を離して、体の前で組みなおす。
「だからね、明日、明日河野くんに好きですって言って、それで……、それで……」
小牧の肩が震える。
アスファルトに黒い染みが増えていく。
「ね、河野くんの好きは、……友達の好きですよね……」
「…………」
俺はその問いかけへの返事ができない。そうでないと思いたい。けれど、やはりそうな
のだと心のどこかで知っている。それは、いつか小牧のことを普通に女の子として好きに
なれるのかもしれないけれど、今はまだそうじゃなかった。
「……やっぱり、ですよね……」
沈黙は小牧への十分な返答だった……。
だけど、それでいいのか? と心の中で問いかける声がある。
「違う」
「え……?」
だってそうじゃないか。これじゃまったく一緒だ。
幼馴染みからもう一歩が踏み出せなくて失ってしまったこのみとの関係と何も変わらな
い。俺はまた同じことを繰り返そうとしている。
そう、俺は確かに、確かに俺は、小牧のことを恋人とかそういう風にはまだ見れない。
けれど小牧はそういう風に俺のことを好きでいてくれている。
目を閉じて、考える。
――このみが自分を愛してくれる雄二のところに行ったように、俺もまた同じように俺
のことを好きで居てくれる小牧の気持ちに応えたっていいんじゃないだろうか?
「小牧……」
俺は小牧の肩を掴んで振り向かせると、その手を掴んで引いた。
「え、あ、あの、え、河野くん?」
俺の手に引っ張られて小牧は何度も地面につっかえる。だけど足を止めるつもりも手を
離すつもりもなかった。
「……あの日の続きをしよう」
その言葉を聞いて、小牧の手にぎゅっと力がこもった。俺は急ぎ足で家路を歩き、小牧
は何故か急に地面につっかえなくなった。
雨が降り始めた――。
あれは9月の半ば――。
郁乃の退院の日付が決まり、小牧の周辺が俄かに忙しくなってきた頃だ。まだこの時は
俺は郁乃のことを小牧の妹としか認識していなかったし、郁乃と名前で呼ぶことなど決し
てなかった。郁乃もまた俺のことをアンタとか、お前とか、そんな呼び方しかしていなか
った。
俺と小牧の関係は友達以上恋人未満と言うような古びたセリフが一番しっくりくる感じ
で落ち着いていた。学内の噂は幾十かのレパートリーがあったが、基本的には小牧が俺を
略奪したという形を基本にまとまり沈静化に向かっていた。変化のない状況など誰も楽し
まないものだ。
そういう理由で端から見れば平凡な日常生活を送っていたかのようなディティールが用
意されているにも関わらず俺の日常はそれほど平凡とは言いがたかった。少なくともそれ
までの俺の人生と比べれば、であるが。
小牧は学内での頼まれごとをすっぱり全て断り出した。委員長としての仕事でさえ副委
員長に任せっきりの有様で、小牧に頼り切ってた各種学内運営は右往左往していたそうだ
が、どちらかというと小牧に付きっ切りだった俺は人づてでそのことを聞いただけなので
詳しくは知らない。何故小牧がそういうことを始めたかというと至極簡単なことで、退院
の決まった郁乃関係の用事――又は余計なお世話――に奔走していたからである。
退院に向けた病院内での荷物の片付けや、医師、看護師への挨拶、実家の郁乃の部屋の
準備であったり、又は復学に向けた学校への書類提出や根回しなど、一々挙げていれば枚
挙に暇がないのでここではこの辺で勘弁していただきたい。要は小牧は学校の雑多な用事
になど手間を回せないほどに忙しかったということだ。
そしてその隣にはいつだって――とは言い難いが、まあ大抵は――俺がいた。
理由? 理由は特にない。
俺がそう望んで、小牧がそれを拒まなかったから。またその逆でもいいと思う。
その頃の俺は、打ちひしがれ、落ち込んで、小牧の暖かい手に救い上げられてからもま
だ癒えない傷の痛みに振り回されていて、小牧の用事に物理的に振り回されることによっ
てその精神的な苦しさから逃げていた。
そして小牧には――これは当時の俺の見立てではという意味である――妹の退院という
一大イベントに向けてそれ以外がまったく見えなくなっており、足元に落とし穴どころか、
ちょっとした段差でもあれば簡単に蹴躓きそうで、そうなったときに横からひょいと手を
出して支える存在をどうしても必要としていて、それに一番近い位置に居たのが俺だった。
実際のところ小牧の横について彼女の活動を見ていると、普段の様子からはとても考え
られない小牧の有能さが垣間見えてくる。何をどうして、次にどうして、誰のところに行
けばいいのかと言うような、全体的な手順の把握能力は小牧の特質的な能力ということが
できる。書き込む書類を間違えたり、住所欄に名前を書いたり、妹の名前を書き込むべき
ところに自分の名前を書いたりするところは、まあご愛嬌。俺が横にいて注意していれば
いい部分で、それがなくても十分に有能だった小牧の処理能力は俺というエラー回避プロ
グラムのお陰で飛躍的に向上した――と思う。
しかしその一方で小牧の脆い部分も見えてくる。学校でもクラス一同に静まれーと叫び
ながら大きな瞳に涙を溜めるようなところは散々見てきたが、病院の二階の検査室の並ぶ
廊下の人通りのない隅っこで俺の胸に顔を埋めて本格的に泣き出したり、逆に喫茶店でま
るで夢物語のような未来構想をそれこそ夢うつつに語りながらケーキを三人前ほどペロリ
と平らげてみたりするような、大きな感情の発露を目の当たりにしたのはこの頃が初めて
だった。
それは躁と鬱の間で揺れるやじろべえのようで、俺はもっと早く気付くべきだった。ふ
り幅がどんどん大きくなって行くやじろべえが最後にはどうなるのか?
――そう、許容範囲を超えて振れたやじろべえは台座から転げ落ちるしかない。
あの時の小牧がそうで、多分今の俺がそうだった。
そして俺たちはずぶ濡れでドアを開けた。全身は冷え切って、握り合った手の平だけが
熱かった。靴を脱いで、廊下に足跡を残しながら洗面所に入ると、小牧にバスタオルを押
し付けて、自分も一枚バスタオルを手にする。
小牧は受け取ったタオルを顔に押し付けかけて、その手を止めた。
「河野くん、その……」
「なに?」
「シャワー借りていいかな?」
「ああ……、うん」
俺は数歩後退して、洗面所の戸を閉じた。
顔と頭を拭きながら、自分の部屋に向かいつつ濡れた服を脱いだ。最初はぽつぽつと顔
を濡らす程度だった雨は、帰り着く直前に本降りになった。俺たちは慌てて走ったけれど、
時既に遅かった、というわけだ。
部屋で制服から下着まで全部着替え、濡れた衣服をまとめると、それを洗面所に放り込
むわけにもいかず、その前にまとめておく。濡れた廊下はバスタオルで拭いた。
髪の毛はまだ湿っていたけれど、ドライヤーは洗面所で、小牧がシャワーを浴びている
今、なんとなくそこには入りづらくて、俺は自分の部屋に戻る。
……落ち着かなかった。
勢いと、手のひらの熱に浮かされて、ついあんなことを言ってしまったが、その後で時
間が経つにつれ、自分の言ったことに自信がなくなってくる。なあ、本当にそれでいいの
か?
自分に問いかけてみても答えはない。
ベッドに仰向けに倒れこむ。考えたって分からないことだらけだ。もう考えるのを止め
てしまいたい。俺は小牧が好きで、小牧も俺が好きで、それでいいじゃないか。
そう考えると多分楽なんだ。
俺は目を閉じる。程よい疲労感は、全身を包む不快感をあっという間に覆い尽くして、
俺の世界は真っ暗な暗闇の中に包まれて行った。
夢を見ていた――。
なんだかよく分からないけど、とても幸せな夢だったんだと思う。
だけど幸せだったというその感覚だけが残るだけで、それがどんな幸せかはちっとも思
い出せない。夢なんてそんなものだ。
目が覚めると、右手だけが妙に温かかった。
「――まだ、寝てていいんだよ」
優しい声がそう言った。既視感のある光景。もうとっくに治ったはずの口の中の傷痕の
幻痛――。狂おしいほどの痛みと、そして狂ってしまったかのような幸福感。熱いものが
こみ上げてきて、俺は目から溢れる熱い液体を止めることができなかった。
「小牧……」
小牧だった。小牧しかいない。そこにいるのは小牧じゃないとダメなんだ。
小牧は俺の頭の右側に座り、俺の右手を両手で握っていた。バスタオルを体に巻いただ
けの姿。俺の見下ろす表情は微笑んでいた。
「……雨、止まないね」
窓の外からは、容赦なく降り注ぐ雨音が響いてきている。
「そうだな……」
そう答えながら、涙を見られたことが急に恥ずかしくなって、俺は顔を背けた。
「……さっき家に電話してね、今日は河野くんのところに泊まるからって言っちゃった」
ドクンと、心臓が鳴った。
ただ握られていた右手に、小牧の指が絡む。それだけで俺はどうしようもなく溶け切っ
てしまった。小牧の余った手が俺の首に触れた。
「河野くんのからだ、冷たいね」
その手は緩やかに首筋をあがり、耳に触れ、俺の髪に触れる。そして髪を離れた手は俺
の目の前、枕の上に降りる。その白い肌を手首から追うように見上げて行くと、俺に覆い
かぶさった小牧の目に行き着いた。
小牧の目は優しく俺を見下ろして――などいなかった。ここに来て、小牧は何故かとて
もとても強い光を帯びた瞳で俺を見下ろしていた。
「ねぇ、河野くん……」
「……なに?」
「ひとつだけ訊かせて。――あたしはこのみちゃんの代わり?」
ああ――、心臓が張り裂けるかと思った。
まるで悪いクスリでもやったかのようなバッドトリップ、フラッシュバックするのは二
ヶ月半ほど前の、やはりこの部屋の出来事。今の小牧とはまた違う、けど明確に同じ形の
意図を持った服装で現れたのは、確かそんな名の俺の幼なじみで、その時は俺の彼女だっ
た女の子。
――あの日の続きをしよう、と俺はさっき小牧に言った。だけどそのあの日ってのは結
局どっちのあの日だったのか。小牧を抱きしめ触れ合っただけのあの日なのか、それとも
このみが下着姿でこの部屋に現れたあの日なのか……。
もちろん――、それはもちろん小牧との、あの――過ちの――続きだ。だけど小牧の手
を引いてこの部屋に向かっているとき、このみの時にもこうしていれば良かったなんて一
瞬でも考えなかったか?
そう、少なくとも――このみとの時のような『失敗』はしたくない、なんて俺は考えな
かったか?
だとすれば、俺は――。
俺は――。
「……河野くん……」
すっかり考え込んでしまったそのこと自体が、小牧にとっては十分な答えだった。俺は
俺を見つめる小牧の、熱を失った瞳を見てそのことに気付く。小牧が求めた答えは、恐ら
くコンマ0秒以下での否定だったに違いない。
「やっぱり止めよ。こういうのってあたしたちらしくないよ」
「――でも、俺が小牧を好きだって言うのは嘘じゃない」
「うん、知ってるよ。うん、知ってる。……ありがとう。どんな好きでも、あたしのこと
好きになってくれてありがとう」
微笑んだ小牧の瞳から一筋涙が零れた。涙は頬を伝い、その途中で落ちて俺の頬を伝っ
た。俺はその瞳か唇に口付けたいと思ったが、そのどちらも今の俺には許されていないの
だと思った。そして多分俺が小牧にできることは、そして小牧が俺にできることはたった
ひとつしかないのだと理解した。
「小牧――」
「はい?」
「もう少し、しばらく手を繋いでていいかな?」
「――はい」
手のひらに、胸の中にあるのは消えかかった、でも確かにある温もりの欠片だった。
続く――
最後の最後で規制がw
ひとまずこれで第二章が終了。当初の予定とは異なる展開になっておりますが、
次回からは文化祭を舞台に、愛佳はちと脇にどいてもらう形で話が進む予定です。
次の日曜に続きは、流石にきついかな(´・ω・`)
○○とかどんな口調か忘れたのでプレイしなおしてきます(・ω・)ゝ
虹乙!
妨害にも負けず頑張ってSS書いてくれ。
虹の人、乙。
しかし、貴明は何がしたいんだ……。
前はこのみに腹が立ったが、今は貴明のヘタレ差加減に
腹が立つったらありゃしない。
自分が傷付いてるのを言い訳に、他人をそれに巻き込むなよ。
おつかれさん<虹の人
話の筋はよかったよ。うまいね、あんた。
でも、いつもと比べてちょっと読みにくかったな。
続き早めにたのむぜ。
TH2のキャラを使ってるからやはり違和感が拭えない
オリジナルの作品だったら良かったかな
これってこのみSS?それとも愛佳SS?
オナニーSS
虹の欠片乙です
続き期待しています
愛佳タカ棒に食われるの回避おめw
○○キャラSSという分類は
必ずしも必要というわけではないだろう
ブームってあるのかもしれないけど、同じ題材で書くと作者の力量の差がくっきり出てきついな…
>>175 あのサイト名掲げてて浮気するん?
ミルファに立てなくなるまで蹴られるぞ?
そのうちこっそりと、郁乃用のサイトが作られるだよ。いや、そうに違いない。
>>179 俺には精神的ブラクラもいいとこだったんだが…
期待してたのにorz
>>177 「sister bowl」なんだから、きっとそのうち小牧姉妹も・・・
なんていってると、それこそミルファに一滴残らず搾り取られるな。(何を?
Blownish Storm の中の人にしつもーん。
ミルファに立てなくなるまで蹴られるのと
ミルファに起たなくなるまで蹴られるのどっちがいい?
てんだあはあとまだか〜?
いつまでまたせるんだあ!
とおこっていいものか・・・
186 :
179:2005/10/07(金) 00:13:10 ID:W9HcK/pc0
>>180-182 スマソ。 というか、藻前ら釣られすぎw
ここは作者さまに、本当に裏ページを作ってもらうしか。
。・゚・(つд∩)・゚・。 ウエーンウエーン
…つ・д∩)チラ・・・ わたしが水着に着替えたら
…(つд∩) ウエーンウエーン
|∀・)<釣られてると良い事あるかもよ
>>188 GJ!
SisterBowl〜小牧姉妹編も期待してます(w
このみと春夏さんの親子丼を望む俺は傲慢でつか?
>>188 早っ!
いくのんかわえぇ。○○なミルファもかわえぇ。
昨日の昼ごろに
>>177-178のレス見て書こうと思って
会社から帰ってきてかいてて
>>179を見てページを作っちゃった次第です。
実は0時過ぎに既にアップしてあったからクリックすれば見れたりしてたんですよ(・∀・)ニヨニヨ
>>180-182 嘘も一歩転べば真実に
>>184>>189 個人的にはミルファに足蹴にされて罵倒されるのが…(*´д`)ハァハァ
>>190-191 今は3で手一杯…けど書きたいと思ってたりはします。
>>192 般若モードは書いてて楽しかったので別の所でも出そうかな('∀`)
流れに乗ってぽちっとなしたら・・・
マジいくのんキター!
>>188 GJ!!!
つい最近発売した某ゲームで同じような場面があったのを思い出した。
リースいいね。郁乃にどことなく似ている(´ω`)
196 :
179:2005/10/07(金) 15:40:58 ID:W9HcK/pc0
>>193 素早っ!!
まさかアドレスまでそのままで作ってくださるとわ!w
というわけで、いくのん喜多ーーー!!!
つうか、ミルファこえぇ^^;
>>188氏の郁乃は、ツン7:デレ3くらいの、ちょうどいいツンデレ具合ですね。
激しくモエス
198 :
180:2005/10/07(金) 18:31:14 ID:4iqifeWZ0
信じるものは救われるんですね
。・゚・(ノД`)
今来てみたらブラクラがとてもよいHPに変わっていた。
とても救われたような気がする、ありがとう、中の人!
>>188 GJ!ブラクラが幸せの空間に変わってましたな。
ところでこのいくのんをお持ち帰りしたいんですが(*´д`)
うわミルファなにをするやm(ry
201 :
179:2005/10/07(金) 23:21:33 ID:W9HcK/pc0
>>199-200 ブラクラって。 いや、だから釣られ過ぎだろw
まあ、信じるものは巣食われる、もとい、救われるのには同意。
だが、裏切られたとき誰よりもキツイぞ―――
>>202 それは螺旋な希ガス。ちょっと笑ったがw
クリックしたらもう救われていたので救われる前の精神的ブラクラが何だったのか知りたい
208 :
179:2005/10/08(土) 15:36:37 ID:v7F2cJTV0
>>204 乙です。第二章に期待させていただきます。
>>204 乙です&GJ!
郁乃SSキター
>>208 それはつまり今度はよっちSSを書いてくれと
言いたいわけだなw
新しいおねだりの仕方だな
213 :
210:2005/10/08(土) 19:51:06 ID:g6/IxuJt0
>>212 そのうち全キャラ分のURLが出てきそうだw
215 :
179:2005/10/08(土) 21:40:41 ID:v7F2cJTV0
>>214 ウソはいかんな。
言い出しっぺの漏れが言うのも何だが、このネタもう飽きたので
素晴らしいSS達をおとなしく待とうではないか。
河野家まだーーー?
ミルファSS書きの重鎮が二人とも郁乃に転んだか……。
いいよ……ぐすん。俺、部屋の隅でいじけてるから。
いーんだ、二人ともミルファに起たなくなるまで蹴られちゃえーだ。
ジャンクションキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!
もう激しく狂おしくGJです。
この先の展開を想像するだけで小生はたまらなく楽しみです
これからも頑張ってください
>>204 待ってました!しかも、郁乃SS、GJ!
珍しく貴明から積極的に動いてる!新鮮でいいかも。
>>217 ジャンクションもキター!
雄二・・・おまえ、ホントにいいやつだな。
作者さま、月刊でもいいですから、次も楽しみに待ってますよ!
春夏さんからのお願いでこのみを泊める事になったは良いが
雄二が変な事を言うもんだから不安になってしまった。
そんな不安を抱えたまま放課後になったのだが商店街へ行き、このみとミルファが仲が良い事を知る。
俺の心配も無くなったかなと安心して二人合作の夕飯をいただくのだった。
「も…もう食べられない」
二人に作ってもらった食事は確かに美味しかった。
しかし食べてもらいたいという気持ちは分かるのだがどんなに食べ盛りの年頃だと言っ
ても限界はある。二人の期待に何とかこたえようと俺自身も頑張っては見たのだが何時も
のざっと倍はある量を食うのが限界だった。
「えー、もう要らないのー?」
「ミルファ…、お前俺が食う量知ってるだろ!?」
「だって一杯食べてもらいたいもん」
俺の意見に対して不満そうな顔をするミルファ。作ったものの気持ちとしては沢山食べ
て欲しいのは分かる。
けど正直無理。
「タカくん…無理しないほうが良いよ?」
「あぁ…」
このみも俺の状態がかなり限界になっているのが分かるのか俺を心配してきてくれた。
結局殆ど動けない俺はソファーへと寝転がると腹に負担をかけないように上向きになる。
ソファーに寝転がっているせいで二人が良く見えないが仲良く話しているのは聞こえて
くる。相手がメイドロボなのにあんなにまでも仲良くできるのはミルファの人柄なのかこ
のみの人柄なのか。よくは分からないが人とメイドロボの共存というのも今の使役の関係
からこういった友達感覚、家族感覚になっていけたら良いなとそう思った。
「このみちゃん、お風呂入る?」
「あ、うん。それじゃあ入ろうかな」
「もうバスタオルは用意しておいてあるからどうぞ」
「ありがとうミルファさん。それじゃあタカくん、先に入ってくるね」
「おぅ。いってらっしゃい」
このみの声に身体を上げたいのは山々だがそれもままならない。
とりあえず俺は手を上げてその声に答えてあげた。
リビングのドアが閉まる音がしてからリビングに流れる音はミルファが流しで洗い物を
している音だけになっていた。
その音を聞きながら身体の具合を確認すると息をするのも大変なくらいに腹を圧迫し、
自分でも驚く程に腹が膨れているのが良く分かる。
その自分の身体の変化に驚きながらもボーっとしていると目の前にあった天井の明かり
が急に遮られた。
「貴明…大丈夫?」
「ん…少し横になってれば大丈夫さ」
完全に逆光になってるせいでミルファの表情は分からなかったがその声から俺を心配し
てくれているのは明らかだった。
上から見上げられているせいで彼女の髪が俺の顔へとかかってくすぐったい。
「ミルファ…くすぐったい」
「フフフ…ほれほれ、くすぐったいかー!?」
新たなおもちゃを手に入れた子供のように自分の頭を振って髪の毛をこしょこしょと動
かして俺の顔をくすぐってくる。
意地悪をしてきて、こっちが本当に調子悪いと分かったら途端にしょぼんとしょげて心
配そうな顔をして、かと思ったら新しいおもちゃを見つけてはしゃぎだす。
俺が好きになったこの子は本当に純粋で何時でも本気だ。
そんな所に惚れたのかもしれないな、と彼女の無邪気な笑顔を見ながら思ってしまう。
「ほらー、もう降参しなさ…」
俺に髪の毛で攻撃をし続けるミルファの身体をぐいっと引き寄せると少し顎を上げて唇
を奪う。今日2回目の不意打ちにも彼女は相変わらずの驚きの表情を見せ、目を丸くして
反応をするのだった。
「降参」
抑えていたミルファの体を離してあげて俺が一歩遅れた降参をしてあげると茹蛸になっ
た状態で彼女が声を出してくる。
「ず!ず!ずるい!今日の貴明ずるーい!!」
「ずるいって何だよ。別に意地悪してるわけでもないだろ?」
「してる!何時もは全然してきてくれないのに今日はしてくるんだもん!」
「じゃあもうしない」
「あ!だ!駄目!駄目!」
俺がそっぽを向いてワタワタと言わんばかりにあわててミルファが自分の素直な意見を
口にすると墓穴を掘ったのが分かったのか「あっ」とした表情をさせて動きを止める。
その可愛い表情を眺めていると真っ赤だった顔の頬がリスの様に頬袋を膨らませて不機嫌
さをアピールしてくる。
「貴明やっぱり意地悪っ」
「ほらほら、そんなにほっぺ膨らませるんじゃないの」
「知らないっ!」
そっぽを向いてさらに不機嫌さを強調すると彼女はそのまま台所へと行ってしまった。
上げていた身体をまたソファーへ横たわらせ耳をすませるとカチャカチャと食器が擦れる
音がしてくる。怒っているとその音が少し荒々しくなったりはするのだがそれが聞こえて
こない所を感じる限り、そんなには怒っていないみたいだ。
その心地いいBGMを耳に感じながら目を閉じて瞼の先にある光を感じ取る。
時計の音も特に感じないのが原因なのか分からないが、俺は時間がゆっくりと過ぎてい
く錯覚を感じていた。
「貴明…?」
「何だー?」
ミルファが俺に聞こえるギリギリ位の小さな声で話しかけてきた。食器の音が消えたの
を感じるとどうやら食器の片付けは終わったらしい。
「たまには…悪戯しても良いよ」
「気が向いたら…な」
改めてそう言われると自分がやった行為を思い出して体を捩るくらいに恥ずかしくなっ
てしまう。ミルファもそうなのかは分からないがこんなんで恥ずかしがってるようじゃあ
俺もまだまだ女性が苦手なのを克服するのには時間がかかりそうだ。それを思うとつい小
さいため息が出てしまった。
ガチャ
「お風呂出たよー」
頭にバスタオルをかぶせたままのこのみがリビングへと入ってきた。少し気恥ずかしい
状況から逃れられた事を心の中で感謝した。そのこのみはそんな状況だとは全く分かって
おらず顔をほんのり桜色にさせて気持ち良さそうな顔をしてソファーへとやってきた。
「タカくん大丈夫?」
「あぁ、大分よくなったよ。まぁただの食いすぎだからな。寝てれば治るさ」
「そっかー。じゃあ早く治してね。まだまだ夜は長いのでありますよー」
笑顔でそう言いながら髪の毛を拭くこのみ。
ミルファのお風呂上りを見るときもそうなのだが、女性の濡れた髪の毛を見ると恥ずか
しくなってしまう俺は正常なのだろうか。
何時もなら見る事に関しては慣れているミルファに対しても目を背けてしまう位恥ずか
しがっている始末だ。そんなもんだから今のこのみに対しても目を向けることが出来ずに
ただ天井を眺めている状態になってしまっている。
「それじゃあ次はあたし入ってくるねー」
「あ、ミルファさん入るなら一緒に入ればよかった…」
甘えん坊な気質が高いこのみはお風呂に一緒に入るのが楽しいのか昔からタマ姉とかと
良く一緒にお風呂に入っていたのを思い出す。ミルファがお風呂に入るとは思っていなか
ったのかミルファの発言に対して驚いた後にしょぼんとしているこのみが居た。
「今度一緒にはいろうね」
「うん、約束だよ!」
何か良く分からんがミルファがお姉さん的な位置に居るみたいだな。確かに身体的に見
てもミルファの方が大人と言った感じなのは分かるが、それに対して疑問を抱くわけでも
なく妹的な甘え方をしているこのみは人懐っこいというか何と言うか…
「…?タカくんどうかした?このみの顔に何か付いてる?」
何時の間にかこのみの方をずっと見ていたのか、その視線に気づいたこのみが顔をバス
タオルで拭きながら俺に聞いてきた。
「あ、いや。別になんでもない」
「タカくんがそういう時は何でもある時でありますよー」
ミルファ同様に面白いものを見つけたかのような表情をさせてこのみが俺に近づいてき
た。俺の頭元に来るとソファーへと座って自分の太ももをポンポンと叩く。
「ほら、タカくんこっち来て?」
「ん?何でだ?」
「膝枕してあげるのですよー☆」
「えぇ!?」
このみの突然の提案に対して思わず大きな声を上げてしまう。その静かだったリビング
に響いた自分の声で思わず自分がビックリしてしまった。
「ど、どうしたんだよ、このみ」
「何時もタカくんには甘えてばっかりだから今日はこのみが甘えさせてあげるのですよ。
ほら、タカくん来て。病人は寝てないといけないのでありますよー☆」
早く早くと急かすように自分の太ももを叩いて俺を呼ぶ。恥ずかしいには恥ずかしいの
だが、このみが折角そう言ってくれているんだから、と自分に言い聞かせながら頭を少し
上げてこのみの太ももの上へと頭をゆっくりと乗せる。お風呂上りのせいで後頭部には少
し湿った熱気を感じる。何時の間にか女の子らしく柔らかくなっていたこのみの太ももを
感じながら目を開けるといつもの様に髪の毛は縛っていない、湿った髪の毛を拭いている
このみの姿が目に入ってきた。
「何か何時もと違って変な感じだな」
「うん。何時もはタカくんを見上げてばっかりだったもんね」
小さいときからこのみよりは背が高かった…というよりもこのみが小さかったからこの
みが見上げてくる状態ではあったが時が経つにつれてその差が段々と開き始めて。
気づいたら大分背の高さが変わっていたっけか。そんな関係でこのみが見上げてくる事
なんて無論あるわけが無く、今のアングルが妙に新鮮でこのみがこのみじゃないみたいだ。
「タカくん…」
ちゅっ
俺が恥ずかしさのあまり視線を外すように顔を横にした所で頬に柔らかい感触を感じた。
「このみ!?」
「えへへ…タカくんのほっぺにキスしちゃった…」
唇の感触が無くなった時点でこのみの方を見るとそこには明らかにお風呂上りの火照り
とは違った赤みを帯びた顔があった。
「どうしたんだよいきなり…」
今の状況が余りにも恥ずかしかった俺は膝枕から起き上がって普通にソファーへと座り
直した。このみは相変わらずニコニコと笑顔でどうやら偶然でああなったという訳でも無
さそうだ。
「何となくしたくなったからじゃ…駄目でありますか?」
「いや…まぁ駄目じゃないけど…」
「なら良かった〜☆」
今までの笑顔がさらに晴れやかなものになって嬉しさを表現してくるこのみは何時もの
妹のようなこのみでは無くて何だか女の子らしさを感じさせる。
その違和感に妙な気恥ずかしさを覚えた俺はこのみから視線を離しながら会話をするし
かなかった。
「お風呂上がったよー」
「じゃ、じゃあ俺入ってくるな」
「うん、いってらっしゃーい」
何とか今の状況から開放されたかった俺はミルファがリビングに入ってきたのと入れ替
えになるように風呂場へと向かった。早々に湯船に浸かると大きく息を吐いて気持ちを落
ち着ける。何時ものこのみと違った感じを何で受けたんだろうか?あの位置関係が新鮮だ
ったからか?何故かはわからないがそれが俺の意識を混乱させていた。
ボーっと湯船から立ち上る湯気を眺めているとそれに呼応してか、俺の中で色々な考え
が出たり消えたりしている。
結局ずーっと何も無い天井を眺めたり窓を眺めたりとしていても頭の中が大して整理出
来ないままだった。
そしてのぼせる寸前になった俺は風呂を上がる事にした。
「わっ、タカくん茹で蛸みたいだよ!?」
「貴明珍しく長風呂だったねぇ〜」
「そんなに長かったか?」
そう言いながらリビングの時計を見るとどうやら30分も入っていたみたいだ。どうりで
上せかけるわけだ。
失った水分を補給するために冷蔵庫から麦茶を取り出してコップにそそぐと一気に飲み
干す。よっぽど水分が足りて無かったのか体中に冷たい水分がいきわたるような感じがし
て気持ちよかった。
水分を取って一息つけたのが良かったのか自分の中でも大分落ち着けた。改めてこのみ
を見てみるも何時ものこのみだ。どうやらあの時はなれない状況だったのが感じ方を変え
ていただけみたいだな。安心した俺は二人が居るソファーへと向かう。そこでは二人が今
注目だという恋愛ドラマを一緒に眺めながら…と言っても俺は本当にただ眺めていただけ
なんだが二人は話が合うらしくわいわいと色々話していた。
何か本当に同世代の友達っていった感じだな。
「お前らって仲良いよなぁ」
二人のあまりの仲のよさに俺もそう言うしかなかった。
「だってミルファさんと話してるの楽しいのでありますよー」
「このみちゃん良い子だもん。仲が悪くなるわけ無いもん」
気のせいかこの二人の思考回路が何処となく似ているのかもしれない。思い返してみる
とこのみと良いミルファと良い少し子供っぽい所がある。まぁミルファはしっかりやる事
はやるし、このみも同じ学年の子と比べればそんなに子供っぽいというわけでもないんだ
と思う。けど何処と無く感じる共通点につい笑ってしまった。
「タカくん何で笑うのー!?」
「貴明ひどーい!」
「いや、別に馬鹿にしているとかそんなんじゃなくてな。微笑ましくてつい、な」
そう言って俺はソファーから立った。
「あれ?貴明どうしたの?」
「いや、もう寝ようと思って」
「えー、明日はお休みなんだから遅くまで起きてられるのにぃ」
俺が寝ようとする事に対して不満そうな顔をしてくる二人。まぁ何時もなら俺も深夜遅
くまで起きてるのが何時もの事なんだが今日あった色々な事で体力的にと言うよりも精神
的に休みたいというのが本音だった。
「明日もあるんだから早めに寝て、早く起きる。だろ?」
「あ、それもそっか…」
意外にもこのみはあっさりと理解をしてくれたようだった。
「それじゃあ二人ともおやすみなさい」
「うん、おやすみなさい」
「おやすみなさーい」
そのままリビングを後にして自分の部屋へと戻る。何時もの寝なれたベッドへと思いっ
きりダイブして寝転ぶ。コンポで適当に曲を流しながらそこいらに置いてあった雑誌を開
いて何となく読み耽っているとドアをノックする音が部屋に響いた。
「どうぞー」
「何だ、タカくんまだ寝てない」
「まぁちょうど良かったんじゃない?」
丁度良い?何がだろうか。と言うか二人して何で枕なんか持ってきてるんだ?
「お前ら一緒に寝るのか?」
「うん。そうだよ」
「今日はタカくんが真ん中で川の字になって寝るのでありますよー」
「はぁ!?ちょっと待て、俺のベッドに3人で寝るとか言ってるのかそれは!?」
「「うん」」
さも当たり前かの様に首を縦に振る二人。最初俺は二人が一緒に寝るのかと聞いたのだ
が、どうやら二人は俺のベッドで寝る気まんまんらしい。
俺のベッドは二人で寝るのはそれなりに余裕なセミダブルベッドではあるがこれに3人
となると流石にきつい。
というか寝たことが無いから分からないが誰かはみ出るんじゃないか?これ。
俺の反対意見を聞きもしない二人はベッドに枕を置くと俺の左右に来て横になる。
しょうがなく俺も横にはなってみたがやはり狭い。
そして狭い分二人が密着してきて…
「貴明狭くない?大丈夫?」
「いや、大丈夫じゃないぞ…これ」
「可愛い二人に挟まれて貴明は幸せものだねぇ〜」
「ユウくんに言ったら何か怒られそうかも…」
確かにそうかもしれない。このみはともかくとしてミルファと3人で密着した状態で寝
るなんて事が雄二の耳に入ったらそれこそ神社に午前3時に白装束で行ってショットガン
と日本刀を持って…ってどこぞの殺人事件みたいになってしまったが俺を七代先まで祟っ
てきそうな事は想像にたやすかった。
「ねぇねぇタカくん。明日ね、ちゃるとよっちと遊ぶ予定なんだけどタカくんの家に呼ん
じゃ駄目?」
俺の襟元を掴みながらこのみが明日二人を呼んでいいかというお願いをしてきた。どう
やら二人にミルファの事を紹介したいのだそうだ。ミルファもそれに関しては全く問題な
し、むしろ大歓迎であるようだった。
「まぁタヌキツネの二人なら問題ないんじゃないか?」
「タヌキツネ?」
「あぁ、こっちの話。じゃあ昼前くらいに呼んでミルファの料理でも食べてもらったらい
いんじゃないかな。ミルファも作り甲斐があった方が良いんじゃないか?」
「確かにたくさん作って食べてもらえるのは嬉しいからあたしは構わないよ」
「ほんと!?じゃあ早速電話してくるね。タカくん電話貸してね」
「あぁ、分かった」
俺らから許可が出たのが嬉しかったらしく、このみは一目散に1階へと降りて行った。
「ねぇ、貴明。今日は寝る直前にちゅーは無理みたいだから今して?」
このみが居なくなって二人きりになった空間。その中でミルファが何時ものおねだりを
してきた。
外のぼんやりとした灯りでミルファのシルエットが浮かび上がる。そのシルエットから
ミルファ頬に手を当てて唇の位置を確認するとそっとキスをしてあげた。ミルファの顔色
は分からないが手を添えた頬はあったかく、お風呂上りから時間があったことを考えると
顔は赤くなっているのかもしれないな。
キスをしてあげてから再度寝転がるとミルファが俺の上に覆いかぶさるようになってく
る。
「貴明、このみちゃんの事好き?」
「何だよいきなり」
「答えて」
何時に無く真剣なミルファの口調に少し驚いたが俺の意見が代わるわけが無い。俺はミ
ルファに対して嘘偽り無い意見を言う。
「俺はミルファが好きだ」
「もぅ…ずるいなぁ…。このみちゃんについて聞いてるのに」
「今のじゃ回答になってないのか?」
「なってるけどぉ…」
俺の胸をポカポカと軽く叩いてきて少しばかりの反撃をしてくるミルファ。良く分から
ないがミルファなりにやっぱり心配な部分はあったのだろう。
「だってこのみちゃんって可愛いし、良い子だし…」
「何だ?そんな事で不安になってたのか?」
「そんな事って言わないでよー!あたしは心配なんだからー!」
少しばかりの反撃が頬抓りと言う強めの反撃へと変わる。タマ姉ほどではないけれどこ
れはこれでかなり痛い…
「いひゃいいひゃい!?」
「もぅ!貴明は女心が分かってない!」
「あぁ、それよく言われる」
「全く…」
呆れるようにため息をつくと抓っていた頬から手を離して俺の横へと寝転がってくる。
「ねぇ…」
「ん?」
「あたしも貴明の事大好きだよ」
「知ってる」
「ぶー!そういう時は普通『俺もだよ』って言うべき!!」
「まぁたドラマの影響かぁ?」
最近ミルファは恋愛ドラマに影響される事が多く、臭い台詞を求めてくる事が多い。普
通って言われてもあれはドラマだからであって現実にあんな臭い台詞を吐いたら俺がどう
にかなってしまいそうだ。少なくともそんな役は雄二にお任せしておきたかった。
「学習してるって言って!」
「学習ねぇ…」
それから少しした所でこのみが帰ってきてまた俺のベッドへと入ってくる。
「二人とも楽しみにしてるって言ってた!」
「じゃあ寝坊しないようにしなきゃな」
「うん!頑張るであります!」
「ミルファも明日頼むな」
「任せておいて!腕によりをかけるから!」
二人は随分と楽しそうだ。
俺はただでさえ苦手な女の子で、しかもそんなに知り合ってるわけでもないタヌキツネ
のコンビが来るとあって少し頭が痛かった。
「それじゃあ改めて二人ともおやすみなさい」
「「おやすみなさーい」」
明日も大変な事になりそうだ。
そんな俺の不安とは裏腹に夜空は快晴。
明日もきっと良い天気だ。
思った以上に作成に時間がかかりました。
なぜならこのみの扱いをどうするか、ここでひたすら悩んだ訳で…。
本当は告白させようかと言う事も考えたんですけどドロドロしかねないので結果としてあっさりとさせました。
何故か18話でタヌキツネ登場。
さーてどーしよう('A`;)
>>208>>212>>214 |ω・`)<流石に_
Brownish storm(σ・∀・)σゲッツ!!
キスされても気付かない鈍感貴明萌え。
次回も期待してます。
河野家マダー?
>>233 GJ!&乙!
このみ相手なら3人川の字で寝るのを許可なのか。
それでいて、このみのことを警戒していない訳でもない。
普段?のミルファなら絶対に川の字になんかさせないんでしょうけど、
それだけこのみとの相互理解が進んでいる、ということでしょうか。いいなぁ。
で、次はちゃる&よっちですか。くぁぁ、楽しみぃ!
てんだーはーとマダー?
>>233 GJ!やはり嫉妬してるミルファが一番かわいい
239 :
179:2005/10/10(月) 16:06:18 ID:nmyuAZ/P0
>>233 相変わらずGJ!
このぐらいあっさりしてる方が、このみっぽくていい感じですね。
次のちゃる&よっちを楽しみにしてます。
>>208>>212はネタですんで、お気になさらずw
179はいい加減にコテハン止めたほうがいいぞ。
リクエストに応えてもらって嬉しいのは分かるがはしゃぎすぎだ。
痛々しい。
>>240 そうは言ってもこのスレはもはや週刊誌状態になってるからなw
>>240 ああ、このネタの時だけのつもりだったので
下火になったからもちろんやめますよ。
というか、こんなに後を引くとは思わんかったのでw
で、河野家まだー?
優季の影響で花梨は、ミステリを辞めて『普通の女の子』になるべきではと悩んでいた。
だけど、それらを両立させても構わないのではと思った俺は、そう花梨に助言した。果たして花梨
がその通りにするかどうかは解らなかったが、その後の花梨の明るい表情からして、どうやら何らか
の答えを見出したみたいだ。
花梨の次にはるーこがやって来た。俺と優季が相思相愛なら、自分は邪魔だから家を出ていくべき
だと考えていたとのこと。だけど俺はるーこを家から追い出すつもりはない。それは単なる同情とか
じゃなくて、うまく言えないけど、るーこのことを放っておけないからで……
「なぁ貴明……、何で、一人増えてるんだ?」
登校時、合流した雄二が最初に俺に吐いた台詞がこれだ。
だが、俺がそれに答えるより早く、優季が雄二の前に立ち、そして、
「草壁優季です。貴明さんが好きなので、貴明さんの家に押し掛けちゃいました」
あまりにも直球な答えだった。一瞬ポカンとする雄二だったが、すぐさま怒りの形相で俺を睨み、
いきなり俺にネックロックをかけてきた。
ぎゅ〜〜〜っ!!
「ぐ、ぐえぇ……! お、おい雄二、お前本気で絞めてる……」
「当たり前だ畜生! 何で、何でお前ばっかこんなにモテるんだよ!?
日々地道にナンパしてる俺に彼女がいないってのに、何の努力もしていないムッツリスケベのお前
ばかりがこんなにモテるなんて、世の中間違ってるとは思わねぇかこの野郎!?」
「お、俺にそんなこと言われても……」
「それを自覚してねぇのが余計にムカつくんだよ!
いっそ死ね! 死んでしまえ貴明! お前は生きていてはいけない存在なんだ!!」
ぎゅ〜〜〜〜〜〜っっ!!
「や、やめてくれ雄二。ま、マジで苦しい……」
「やめてください! 貴明さんが死んじゃいます!」
「そうだよやめなよ雄二ちゃん! たかちゃんが死んだらどうするつもり!?」
「そこまでにしろ、うーユウ。うーを殺したら承知しないぞ」
優季、花梨、るーこが雄二を止めようとするが、しかし雄二は一切聞かず、いや更に強く俺の首を
絞め上げて……ぐ、ぐるじい……息が出来ない……
「た、貴明の顔が紫色になっとる……」
「ほ、ホントだ……、このままだとタカくん死んじゃうよタマお姉ちゃん!」
「さすがにそろそろ止めないとね。じゃあ……」
タマ姉はそう言うと俺たちの前にやってきて、
がしっ! ぎりぎりぎり……
「あ、あだだだだだっ!!」
タマ姉必殺のアイアンクローが雄二の頭を締め上げる。だがしかし……
「えっ?」
ぎゅ〜〜〜〜〜〜っっ!!
雄二のネックロックは外れることなく、いやむしろ更に強く俺の首を絞めて……
「へ、へへへ……、い、いくら姉貴でも今の俺は止められないぜ……」
タマ姉のアイアンクローを食らい、痛みに耐えながら雄二が不敵に笑う。お、恐ろしい執念だ……
って、あ、ま、マジで意識が……遠く……
「そう、なら仕方がないわね」
冷静なタマ姉の声。そして、
ズドンッ!!
「ぐはぁっ!?」
雄二の鳩尾を突き上げるタマ姉の左拳。悶絶した雄二の力が抜け、俺はようやくネックロックから
解放された。く、苦しかった……。
そして、俺と入れ替わるように力無く地面に倒れる雄二。
「まったく、男の嫉妬なんてみっともないだけよ。これが我が弟なんだから泣けてくるわ」
タマ姉、助けてくれたのは嬉しいんだけど、ちょっと酷過ぎやしませんか……?
気絶した雄二は、仕方がないので俺が背負っていくことにした。
そして校門の前。いつものように珊瑚ちゃん、小牧さん、郁乃が俺たちを待っていてくれた。
瑠璃ちゃんが真っ先に珊瑚ちゃんの胸に飛び込み、少し遅れて俺たちが珊瑚ちゃんたちの所に着き、
その後はいつもの通りの朝の挨拶。だけどやっぱりここでも、
「あれ? 貴明、そのコ誰?」
珊瑚ちゃんが優季を見てそう尋ねる。小牧さんと郁乃も優季が気になっている様子。
そしてやっぱりここでも、俺が答えるよりも優季が先に、
「草壁優季です。昨日から貴明さんの家にご厄介になっています」
「え、ええ〜っ!?」
驚く小牧さん。そりゃ当たり前だよな。
しかし珊瑚ちゃんは、何と言うか、相変わらず珊瑚ちゃんだった。
「ウチは姫百合珊瑚。瑠璃ちゃんの双子のお姉ちゃんや。よろしくな〜優季」
「ええ、こちらこそよろしくお願いします、珊瑚ちゃん」
「優季も貴明がすきすきすきーなんやね。ほなウチらと一緒や〜☆
ウチと瑠璃ちゃんも貴明がすきすきすきーなんやで〜」
まるで同士が増えたとでも言うような珊瑚ちゃんのリアクションである。
「そ、そうなんですか……」
驚いた顔で珊瑚ちゃんと瑠璃ちゃんを見る優季。
「う、ウチは貴明なんか好きちゃうもん!」
慌てて否定する瑠璃ちゃんだったが、それには耳を貸さずに優季は俺の方を向き、
「珊瑚ちゃんに瑠璃ちゃん、お二人ともなんですか、貴明さん?」
ゆ、優季、持ってる鞄がブルブル小刻みに震えているのは何故?
1限目が終わって、休み時間。
ふと気が付くと、クラスの連中の殆どが俺を見ている。そしてイヤでも耳に入る、連中の会話。
「ねぇ今朝見たんだけど、河野君、新しいカノジョできたみたいだよ」
「え? 河野君って、一年のコとつきあってるんじゃなかったの?」
「俺は三年のほら、向坂の美人の姉ちゃんとつきあってるって聞いてたぜ」
「ウソだよ〜。河野君はるーこちゃんとでしょ?」
「違うクラスの笹森って女子と部活内恋愛してるって聞いてたんだけどなぁ」
「違うクラスって言えば、もう1人別の女子もいるよね。ほら、名前なんだっけ……」
「みんな全然違うって。だって私見たもん、河野君が一年の双子とキスしてるの」
「双子って両方とも!? 河野君って一体……」
「いやその全員をはべらせてるって噂も聞いたぜ。とんでもないヤツだな河野って……」
そりゃ毎日校門の前であれだけ大勢でいれば、嫌でも人目に付くってもんだよなぁ。
さすがに彼女たちと同居していることまではバレていないみたいだけど、クラス中、俺の女性関係
の噂で持ちきりである。
「ははは、すっかり時の人だな貴明」
ざまぁみろ、と言った表情の雄二。
「まぁ仕方がないよな。傍目にはそういう風に見えるんだろうし。
ただ、俺はいいけどこのみやタマ姉たちも噂の的になってるのか、ちょっと気になるな」
「姉貴はファンが多いから、今頃大騒ぎになってるかもな。まぁあの姉貴だ。適当にあしらってる
だろうさ。それよか、ホントに放っておいていいのかよ?」
「なんで?」
「いや、この噂が生徒だけじゃなくて先生の耳に入ったら、ひょっとすると面倒なことになるかも
しれないぞ。複数の女子と交際してるなんて、正直誉められたもんじゃねぇからな」
「そう言われても……、じゃあどうすりゃいいんだよ?」
「そうだな……」
雄二は腕を組んでしばし考え、
「思い切って、誰か一人とつきあってるって公表しちまうのはどうだ?
つきあってるのは一人だけ、後はあくまでオトモダチってことにするんだよ。それなら多分、先生
方もうるさいことは言ってこないだろうからな」
「公表って……誰とだよ?」
「それを俺に聞いてどうする? んなもん、自分の胸にでも聞いてみろよ」
そうは言われてもなぁ……、誰が一番好きか、なんて自分でも解らないし……。
「ならば、るーにしろ」
「うわっ!? るーこ、今の話聞いてたのかよ?」
「最初から聞いていた。それに気付かないなんて少し冷たいぞ、うー。
それで今の話だが、うーさえよければ相手はるーということで公表すればいいぞ」
「俺さえよければって、るーこはそれでいいのかよ?」
「あくまで既成事実としてなら、るーは別に構わないぞ。
そ、それに、うーにもし、そ、その気があるなら、別に既成事実でなくても……」
「駄目です」
「うわっ!? 今度は優季がいきなり!?」
「そういうお話でしたら、貴明さんは私とおつきあいしているということにしてください。
私は全然構いませんから」
笑顔で俺にそう言う優季。しかし……
「待てうーかべ、るーだって全然構わないぞ」
「るーこさんは貴明さんのことが好きってわけではないですよね? でしたらここは、貴明さんが
好きな私に任せてください」
「昨晩確認したが、うーは特にうーかべに好意を抱いているわけではないそうだ。
いいからここはるーに任せろ。うーに世話になっている、せめてものお礼がしたいからな」
そう言い合う優季とるーこから、何か怖いオーラを感じるんですけど……。
「ほら、アレ見てアレ」
「あ、あれって今朝の新しいカノジョだよね」
「そうそう、カノジョ、るーこちゃんと何か言い争ってるみたいだよ」
「あれってもしかして修羅場ってヤツ? 河野君の取り合いしてるのかな?」
ああ、クラス中の視線が何だか痛い……。
「あの、河野君……」
そんな中、小牧さんが遠慮気味に俺に話しかけてきた。
「え、何、小牧さん?」
「あの、大丈夫ですか河野君? さっきからみんな、河野君たちの話ばかりしてるみたいだし……。
こ、ここは委員長のあたしが何とか……」
「いや、大丈夫だから小牧さん。
って言うか、逆に小牧さんの方がまずいかも。今このタイミングで俺に話しかけたりしたら……」
そう言って周りを見ると、
「ええっ、委員ちょまで河野君狙い!?」
「マジ? そういえば最近、委員ちょと河野君、一緒にいるの何度か見たな」
「おいおい、委員ちょまで河野ハーレムの一員かよ。見境無しだな河野のヤツ」
あちゃ〜、もう手遅れだ。小牧さんまで噂の対象になってしまった。
それに気付いた小牧さん、
「え!? あ、や、や、その、あ、あたしと河野君はそんなんじゃなくて……」
と必死で否定するが、そんなの誰も信じるはずもなく、
「慌ててる慌ててる。なんか委員ちょ、可愛いよね〜」
「うんうん、委員ちょって今まで浮いた噂全然なかったもんね。もしかしてこれって委員ちょの初恋
なのかな?」
「初恋の相手がハーレム河野かよ!? うわ、委員ちょも大変だなぁ」
と、周囲はそっち方面の解釈しかしないわけで、
「あ〜ん!! ち、違うんだったらぁ〜〜〜!!!」
そんな小牧さんの叫びも、周囲の声に空しくかき消されてしまうのだった。
昼休み。いつもの通り全員揃って屋上での昼食。
噂話の件が気になった俺は、他のみんなが同じような目にあっていないか聞いてみた。
「う、うん……」
と、あいまいな答え方をしたのはこのみ。
「やっぱ、何か言われたか?」
「うん、その、タカくんとおつきあいしてるのかって、クラスの子に聞かれた」
「そっか……、タマ姉は?」
「遠巻きにこっちを見てひそひそ話してる連中がいたから、近づいて何を話してるのか尋ねたわ」
さすがはタマ姉だ。俺にはちょっとマネ出来ない。
「それで?」
「タカ坊とつきあってるのかって聞かれたから答えたわよ、つきあってるって」
「ま、マジ!?」
「ふふっ、冗談よ。タカ坊とは幼なじみだって答えたわ」
「そ、そう……。由真は?」
「……べ、別に」
「あっそ……。花梨は?」
「どうかな? 午前中はコレに集中してたから、よくわかんない」
そういって花梨が出したのは、ミステリ専門誌「ムートロン」の最新号。いかにも花梨らしいよ。
「珊瑚ちゃんたちは?」
俺がそう尋ねると、珊瑚ちゃんはいつものほんわか笑顔で、
「うん、聞かれたよ〜。ウチらと貴明、おつきあいしてんの〜って。
だからウチ答えたよ。『ウチと瑠璃ちゃんと貴明はらぶらぶらぶーや』って〜☆」
「う、ウチはすぐ訂正したで! 貴明なんか大嫌いって!」
瑠璃ちゃんはそう言うが、多分珊瑚ちゃんたちのクラスでは俺って、双子両方に手を出した二股男
扱いされているに違いないだろうな。
「はぁ……、まいったなぁ……」
そうぼやいて俺が天を仰いでいると、
「なぁ貴明、今気付いたんだが」
「ん、何だ雄二?」
「考えてみればお前らが噂になっているのって、学校で一緒にいるのを周りが見ていたからだよな?
でもそういう時って、大概俺も一緒にいただろ。なのに何で俺は噂の対象になってないんだろう?」
確かにもっともな疑問だ。何故雄二は含まれないんだ?
「あら、そんなの簡単よ」
「タマ姉、どうして?」
「だって雄二は私の弟、つまり私のおまけとしか見られていないからよ」
「お、俺は姉貴のおまけかよ……」
その言葉にガクッと力を失い、手を突いて頭を垂れる雄二。この姿勢はこの間のTVで見たぞ。
OTLだ。
「でも……ホント、何とかならないかなぁ……」
さっきのことが頭から離れないらしい。赤面しながら小牧さんがそう言う。
「ゴメンな小牧さん、小牧さんまでこんなことに巻き込んじゃって」
「え? あ、あたし別に河野君のことを責めてるワケじゃないから……」
「ま、確かに姉にしてみりゃいい迷惑よね」
「い、郁乃も変なこと言わないで! ホント、迷惑だなんて思ってませんから……」
「でもさ、こういう噂が広まる原因作ったの、間違いなく俺だからなぁ。本来無関係の小牧さんまで
巻き込んじゃって、ホント、済まないと思ってる」
「何よ、その口振りだとあたしたちはどうでもいいわけ?」
俺の言葉に由真がくってかかる。
「いや、そう言うワケじゃないけどさ、幼なじみのこのみや、一緒に住んでる由真たちと違って、
小牧さんは今回の件には無関係じゃないか。それなのに色々協力してもらったり、こうやって迷惑
までかけちゃったり……」
「……無関係、ですか……」
不意に、小牧さんの表情が暗くなった。
「小牧さん?」
「……そ、そうですね。確かにあたし、無関係ですから」
そう呟くと、小牧さんは突然笑顔で俺の方を向き、
「あ、でも河野君、気にしないで下さい。
ほ、ホラ、ことわざでもあるじゃないですか、『人の噂も七十五日』って。
何もしないで黙っていれば、きっとみんなその内飽きてしまいますよ。だから大丈夫です。
うん、大丈夫大丈夫」
そう言う小牧さんの笑顔が雲って見えたのは、俺の気のせいだろうか……?
つづく。
どうもです。第27話です。
某アニメセカンドシーズンの某白河さんが不憫でなりません。・゚・(つД`)・゚・
あ、すみませんTH2と全く関係ない話題で。
(いつも関係ない話ばっか書いてますけど)
アニメ版TH2、第1話を見ました。
アニメは各話ごとそれぞれヒロインの視点で描かれるようですね。とりあえず全話見てみます。
OPに草壁さんが出てこなかったのは、彼女の立場上仕方がないのかな……。
GJです。
河野家ワールドに愛佳も引きづられるんかな。
だが、そろそろ誰にするかの決断も見てみたかったりして(ぇ
>>252 毎度ご苦労様です。
このゆったりとしたペースを今後も維持してもらいたいです。
>某白河さん
某腹黒妹ファンからしても今回は彼女がヒロインでいいだろと思います…
>>252 河野家喜多ーーー!
しかも委員ちょ復活喜多ーーー!!!
貴明のクラスでは、一部で「日刊・河野貴明ニュース」でも
流れてそうな勢いですねw
では、また来週(?)の展開を楽しみにしてます。
>>252 乙です!!
ハーレム河野ワロスw次回も期待してますー
>>252 キタキタキター!GJ!
雄二・・・金魚のフン扱い・・・泣け。夕日に向かって。思いっきり。
河野家めっちゃ面白いです
最初から読みたいのですが、まとめサイトとか無いのですか?
あったんだけど閉鎖中
>>258 テンプレの我楽多さんの所に過去ログはある
261 :
258:2005/10/12(水) 20:49:16 ID:9SXG81G3O
( ´д)ヒソ(´д`)ヒソ(д` )ヒソ
ある夜、体の関係を迫ってきたこのみを貴明は抱けなかった。それがきっかけで疎遠に
なる二人。ある日このみから連絡が来て、雄二と付き合うことになったから貴明とは別れ
るという。
傷心の貴明はタマ姉と短い関係を持ったりするが、その不毛な関係もタマ姉のほうから
打ち切られてしまう。
新学期が始まり、ちょっとしたきっかけから急接近する貴明と愛佳。愛佳を好きになろ
うと決めた貴明だったが、それが結局このみの代わりでしかないと感じた愛佳のほうから
距離を置かれてしまう。
微妙な人間関係を残したまま、物語は文化祭へ。
このたった一日で、貴明は何かを得ることができるのだろうか?
ここまでのお話は
ttp://www.geocities.jp/koubou_com/ にて――。
多分それは本当にどうでもいいことだった。
何が原因だったかすら覚えてないのだから、本当にどうでもいいことだったんだろう。
俺が何かを言ったのか、それとも俺が何かをやったのか……。
覚えていることは母親が激怒し聞く耳を持ってくれなかったことだ。
――違う、違う、違う、僕じゃない。
どんなに主張してもそれが聞き入れられることはなかった。母親は初めから悪いのは俺
だと決め付けていたからだ。今ならそれが間違いでも、その場だけは受け入れて後で自分
の不運に肩をすくめるくらいのことはできるだろう。だけど幼少の頃の俺はそうではなか
った。
それはもうムキになって主張した。幼く、拙い言葉で、考えうる限り自分の弁護をした。
しかしそうすることすら反抗の姿勢と母親は受け取ったようで、その態度はより頑なに
なるだけだった。
悔しくて、悲しくて、俺は自分の部屋に飛び込んで、でも何故か泣けなかった。
--虹の欠片-- 第十一話
目が覚めると小牧はいなかった。昨日のうちに帰ったのだから当然だ。俺は自分の分の
温もりしか残さないベッドから腕を伸ばして目覚ましを止めた。
結局あの後小牧はサイズの合わない俺の服を着て、濡れた制服や下着はビニール袋を2
重にして持った。傘はどれでも持っていっていいと言ったのだけど、小牧らしく一番安物
を選んで、そして雨の中を家に帰って行った。
俺は送ろうかと聞いたのだけど、そうすると小牧は顔を真っ赤にして、なにやら言い訳
みたいなことを口にしていた。要約すると、あんな電話をした手前、その相手と一緒に帰
ったりしたらどんな目で見られるか分からないとのことだ。
なんにせよ、何にもなかったのだし、何かあったにしては早い帰りということになるの
だろうが、そんなことは小牧には関係なかったらしい。
まあ、とにかくそんなわけで俺はいつも通りに、独りで目を覚ましたワケだ。
そんな今日は待ちに待った文化祭当日である。
――肩をすくめる。
文化祭を待っていたのは本当だ。だけどクラスでやるらしい何にも目新しくない喫茶店
だとか――誰かがメイド喫茶店を強く推していたが、特に興味もなかったのでどうでもい
い――、他のクラスの出し物にも興味はない。文化祭が待ち遠しかったのは、文化祭が終
わればまた小牧と郁乃と俺の三人でいられると思っていたからだ。だけど、それもこれま
でのようにはいかないだろう……。
HRが頭とお尻にくっついてさえいなければ、サボるのもやぶさかではないのだが、特
に理由もなく高校生活で三度しかない文化祭というイベントを逃すのも勿体無いという、
実に貧乏臭い理由で俺はベッドから起き出した。
「――貴明」
昨日の夕方からの雨が嘘のような快晴だった。突き抜けるように広がる青空に、ハケで
刷いたような薄い雲が描かれている。その手前、階段の上からタマ姉が俺に向かって手を
振っている。アレからというもの、タマ姉の口から――タカ坊というあの懐かしい響きを
聞いたことはない。
――もう貴明は子供じゃないでしょ。
初めてそう呼ばれた日の朝に理由を問うと、タマ姉はそんな風に答えた。確かにタカ坊
なんて呼び方はあまりに幼すぎて小恥ずかしいのも事実だ。ならば俺も呼び方を変えた方
がいいのだろうか、というとそういうワケでもないらしい。まあ確かに今更タマ姉のこと
を環と呼び捨てにするなんて考えられないし、向坂先輩と呼ぶなんてもっとバカげている。
だけどタマ姉が俺の保護者であることを辞め、その一環として俺のことを子供扱いしなく
なったというのであれば、俺もまたそれなりの態度でタマ姉に接しなくてはいけない気が
した。
気がしたので、環さんと呼んでみた。
呼んだ途端、タマ姉は見たことがないほど顔を真っ赤にして、声を上ずらせ、視線をさ
迷わせた。面白かったので何度もそう呼んだ。呼べば呼ぶほど、タマ姉は顔を赤らめて俺
から逃げた。
ざまあみろ、俺だって最初はそれくらい恥ずかしかったんだぞ。と、思ったが口にはし
なかった。
するとタマ姉は――貴明貴明貴明――と何度も俺の名前を呼んだ。最初ほどの恥ずかし
さは感じなかったのだが、何度も呼ばれているうちに何故か無性に恥ずかしくなってきて
顔に血が登ってくるのが分かった。
そんな俺をからかうようにタマ姉が繰り返し――貴明貴明――と連呼するので、俺も―
―環さん環さん環さん――と連呼してやった。
そんなバカげたやり取りをしているうちに、どちらともなくバカらしくなり俺たちは声
をあげて笑い、新しい呼び名でもう一度呼び合うと、それがお互いの新しい呼び方になっ
た。
それがおよそ二月ほど前の話だ。
「環さんは文化祭どうするの?」
「うーん、三年は自由参加だし、ウチのクラスはなんにもやらないしね。貴明は?」
「ウチのクラスは喫茶店やるみたいだけど、俺はなんにも関わってないから――」
そう言うと、タマ姉はハハァと苦笑じみた吐息を吐いた。
「相変わらず小牧さんの妹さんに付きっ切り?」
「そそ、でもそれも昨日で終わりかな」
小牧は言っていた。文化祭が終われば仕事も楽になって俺に頼らなくても郁乃の面倒を
見ることができる、と。だから俺はお役御免ということなんだろう。
「ふぅん、てことは今日の貴明はフリーなの?」
俺は答える代わりに肩をすくめる。
「あら、いいじゃない。それなら今日は私のお相手願おうかしら」
「お相手って――」
なんとなく血の気が引くのは何故だろうか。
「なによ。そんなに顔を青くすることないじゃない。普通に模擬店回って、展示を見て回
って、軽音部の演奏を聴いたりするのよ。文化祭ってそういうものでしょ?」
「そういうものでしょ、って環さんのほうが文化祭の経験数は一回多いはずだろ」
その一回の差がどれほどのものかは知らないが、少なくとも転校してる分、タマ姉のほ
うが文化祭というものに対する視野は広いだろう。
「どうかしらね。九条院の文化祭って閉鎖的だから」
今度はタマ姉が方をすくめる番だった。
「学校関係者と、生徒の血縁者しか参加を許可されていないから、それほど盛り上がるも
のでもなかったわよ。お遊戯の発表会みたいなものね」
タマ姉はそう言うが、実際にどうだったのかは知れたものではない。夏休み前辺りに九
条院からこちらに来て大騒ぎを繰り広げてくれた三人組が残していった情報によれば、タ
マ姉は九条院に存在する無数の派閥のどれにも属していなかったというから、それゆえに
文化祭への熱意も薄かったのではあるまいか。
「――だとしても、どうでもいいことよ。今は私たちの前に広がる今日の文化祭をどう楽
しむかのほうが問題じゃないかしら?」
俺の想像を聞くと、タマ姉はタマ姉らしい言葉で一蹴した。
「まあ、それはそうだね」
「なによ。乗り気じゃないわね。それとも私と回るのがイヤ?」
ちょっと考えてしまったが、別にイヤということはない。なんとはなしに不安が頭をよ
ぎるだけだ。どうせ今日までは小牧も忙しいのだろうし、誰と約束しているわけでもない。
「ならいいじゃない。HRが終わったら教室まで迎えにいくからそれまでどこにも行っち
ゃダメよ」
そう言ってタマ姉は極上の微笑みを浮かべた。
HRはどこまでも退屈だった。
喫茶店を運営するクラスメイトたちは、どうやら早いうちから準備に奔走していたよう
で、俺が教室に顔を見せた頃にはほぼ全員が揃っていた。いないのは小牧たち文化祭実行
委員くらいのものだ。俺が教室に足を踏み入れた数分後に担任が現れて喫茶店の準備は一
時中断、すっかり喫茶店と化した――とは言っても所詮は高校生のやることだ。いや、高
校生にしてはよくやったほうか――教室で、三々五々に座ったり、立ったままだったりで
HRが始まった。
それもまあお決まりな内容で、食品を扱うのだから衛生面に気をつけること。電磁調理
器を使うとは言っても火傷などには気をつけること。といった、ありきたりな通告に終始
して、それで終わった。
チャイムが鳴り、放送部の誰かが文化祭の開幕を通知し、文化祭が始まった。
とりあえず真っ先に俺がしたことは教室を出ることだった。何せこれっぽっちも関わっ
ていない模擬店の店内で何もせずに立ち尽くしてなどいれば、居心地の悪さは針のむしろ
というものだ。タマ姉は教室で待ってるように言っていたが、教室前の廊下でもどうせ同
じことに違いない。
ざわざわと生徒たちの行き交う廊下で、窓の間に背を預け、どうせ来るなら早くタマ姉
が来ればいいのにと考えていた。タマ姉と一緒にいるところを見られたらまたどんな風に
言われるかは分かったものではないが、それでもタマ姉に引っ張りまわされている間はそ
んなことを考えずに済むだろう。
「たかちゃん、見ぃ〜っけ!」
俺がそんな後ろ向きな思考にどっぷりとハマっている時だった。
そのよく通る声は、生徒達の喧騒が包む廊下でもよく響いた。一瞬で俺の背筋は氷点下
にまで突き落とされる。
俺のことを「たかちゃん」等と呼ぶ人物には一人しか心当たりはなく、その心当たりは
どこまでも「凶」だったからだ。
「なに見てるの、たかちゃん。何か不思議なモノでも見えるのかなぁ?」
一学期早々の頃に俺の学校生活をさんざ引っ掻き回してくれた笹森花梨が、額に水平に
手のひらを当てて俺が意図的に視線をずらしている壁を凝視する。
「むむむ、そこの壁の模様が実は死者からのメッセージだとか」
そう呟くなりポケットから取り出したデジカメでパチリと一枚。間違っても俺にはただ
の壁の染み? どころか、ただの壁にしか見えない。
「これは後で要調査対象だね。多分ヘブライ語かなんかなんよ」
俺には見えもしない文字を勝手に何処かの文字にされても困る。少なくとも俺はこのト
ラブルメイカーに視線を向けたくない一心で壁を凝視していたのだから。
「で、それどころじゃないんよ。たかちゃん。ミステリ研の研究発表があるんだから、栄
誉ある会員一号がいないと締まりが悪いから、ほら、さっさと来る」
「…………」
口を開けば、この口達者な悪魔に言い負かされるのは分かっていたから俺はただただ沈
黙した。昔の人は良いことを言ったものだ。沈黙は金、雄弁は――この場合死だ。
「たかちゃん? お〜い。なに? これ新しい遊び?」
目の前を手のひらがヒラヒラとよぎるが、見えない振りをするに限る。もう俺にできる
ことは早くタマ姉がやってきて、この余計なグレムリンをどこぞに追い払ってくれるのを
待つことだけだ。
そもそもミステリ研の研究発表ってなんだ? 無理やり同好会のメンバーに数えられた
のは事実だ。いくらか生活を引っ掻き回されもした。しかしそのうちにそれもなくなって、
今ではすっかり忘れていた。そんなワケだからミステリ研――そもそも研究会ではなく同
好会だ――の研究発表と言われても何のことかさっぱりだ。
分かるのは、ソレがなにやらまた途方もなく下らない戯言で、俺にだけ多大な迷惑がか
かるんだろうってことだけだ。
「――タカ坊、なにしてるの?」
そんな風に考え事をしていたのが悪かったに違いない。
「あ、やっと反応した」
だから俺はタマ姉がもう俺のことをタカ坊と呼ばないことも忘れ、この悪魔の似てない
物マネなんかに引っかかったのだ。
「ほら、たかちゃん、行くよ」
腕を取られ、ぐいと引っ張られるが俺はそれに抵抗する。
「拒否する。俺はミステリ研なんて得体の知れないものに参加した覚えはない」
「そんな……、たかちゃんがミステリ研に入ってくれるっていうから、あんなことやそん
なことまでしたのに!」
正確には俺をミステリ研に陥れるために、あんな手段やそんな手段を使ったというべき
だろう。恐るべきは言葉のミステリー。ちょっと言い方を変えるだけで、ほら遠巻きに見
てた人々の視線が軽蔑に変わる。
ああ、もういい加減にしてくれ。俺のこの学校での立場はどこまで下がれば気が済むん
だ。そろそろ本気で転校も考えたほうがいいかもしれない。どうせならもう誰も俺を知ら
ないところにまで……。
「ほらほら、会員二号もお待ちかねなんだから、行くよ。たかちゃん」
もはや拒否する気力も失った俺をアクマはずるずると引っ張っていった。
ああ、そうさ、もう他人事のように思うしかない。
「――屋上?」
「そう、屋上だよ」
天使の微笑みを浮かべる悪魔が俺を連れ立ってきたのは屋上だった。10月の終わりの
屋上は風が通り抜けるたびに身が震えるほどに寒い。そしてそうであるにも関わらずそこ
には先客がいた。
「待ちくたびれたぞ。地球人」
「るーこ?」
長い髪が秋の風に揺れて舞う。忘れもしない。桜舞い散るあの季節に出会った自称宇宙
人がそこにいた。一瞬で俺は花梨がいることも忘れ、るーこに魅入られる。るーこを最後
に見たのは四月のいつかまでだ。その後にほんの一瞬でもその姿を見かけたことがあった
か?
――いや、それ以前に俺はるーこがいなくなったことを認識していたか?
「るーこ? 違う。私はルーシー・マリア・美空だ。お前は私の名前を忘れたのか?」
「なん、だって?」
るーこ・きれいなそら、それが彼女の名前だった。忘れるわけがない。間違えるわけが
ない。
しかし今はその自信すら揺らぐ。
――何故なら俺は今の今までるーこがいないことに気付かないくらいるーこのことを忘
れていたのだから……。
「なに言ってるんだよ。るーこ。お前が自分でるーこだって」
「そんなことを言ったとは記憶していない」
よく考えてみれば、確かに喋り方が俺の記憶にあるるーことは違っている。るーこは自
分のことを「私」なんて言わなかったし、相手のことを「お前」と呼んだりもしなかった。
だとすれば今目の前にいるのはるーこにそっくりな別人なのか?
「何を言っている。私は私だ。桜の季節にお前と出会った私以外の誰でもない」
「ならどうしてお前は突然いなくなったかと思えば、こうして唐突に現れるんだよ」
「――来訪時の事故による機能障害の回復に時間を必要とした」
俺は頭を掻き毟る。るーこの言うことは相変わらず意味が分からない。しかしその意味
の通らなさが変わっている。以前はるーこの言うことは根本的に意味の通らない戯れ言の
ようなものだった。しかし今は俺の理解力が足りないだけのような気がする。
「気にすることはない。確かに意思伝達機能の障害回復、及び機能更新は行ったが私は以
前と変わらぬルーシーだ。お前も以前のようにルーシー・マリアと呼んでくれればいい」
「なんだよ、それ……」
それじゃまるでおかしいのは俺の記憶のほうで、俺の知っているるーこが初めからいな
かったみたいじゃないか。それとも本当にそうなのか? 俺が出会ったのはここにいる
ルーシーという少女で、るーこは俺の見た夢のような……。
「んなバカなっ。冗談きついぜ。ああ、そうだ。そうか。これはこういうドッキリなんだ
な? そうなんだろ。るーこ」
「ドッキリというのが、嘘や冗談で他人を担ぐというような意味を指しているのなら、そ
の認識は誤っている」
「そうだよ。たかちゃん。るーは嘘なんてついてないよ」
「笹森さん……」
すっかり忘れていたミステリ研会長(自称)が俺とるーこの終わりそうにない口論に割っ
て入ってきた。
「るーはね、地球に来たときの事故で色々大変だったんだからね」
「そうだぞ。貴明」
「ちょ、ちょっと待ってくれ、頼むから考える時間をくれ」
まずアレだ。この2対1という状況は不利だ。それからこの会長殿は――そろそろ言い
回しを考えるのも疲れてきた。笹森さんでいいだろ?――るーこ、いやこの場合はルー
シーか、が宇宙人だと信じて疑っていない様子だ。確かに俺の記憶にあるるーこは普通で
はなかった。しかしだからと言って宇宙人だなんてそれはぶっ飛びすぎだ。そうだろう?
いくら笹森さんがこの世の不思議を捜し求めているからといって、ちょいと自称宇宙人
が現れたからと言ってそれを全面的に信じるほどのおバカさんだろうか?
「どうしたの、たかちゃん。私の顔になにかついてる?」
――バカっぽい。
ではここで俺が取れる最上の手段は、この場からなんとかして逃げ出すことだ。
しかし――。
「どうした? 貴明」
そう、るーこ、いやルーシーのことが気にならないと言えば嘘になる。
思い出したのか、それが間違いの記憶なのか、もしかするとその誤った記憶さえ今植え
つけられたという疑念を振り払うことはできないが、俺にはるーこと関わった過去がある。
その思い出とせめて折り合いをつけなければここを離れられない。
「るーこ、いや、ルーシー、俺と初めて会った時のことを覚えてるか?」
ルーシーはきょとんとした顔で俺の顔を見つめると、それから眉をしかめた。少し怒っ
た表情だ。
「忘れるわけがないだろう。私はそんなに物忘れは激しくないぞ」
そうしてルーシーが語った俺との出会いはそのまま俺の記憶に重なるものだった。公園
で差し出された不味いハンバーガー、何を聞いても言語が通じない苛立ちと不安、そして
乱暴に腕を掴む俺の手が恐ろしかったこと。夜になってから俺が戻ってきてやっぱり怖か
ったこと。バッグを取るために転落した俺を助けるために因果律への介入を行ったこと。
何から何まで俺の記憶どおりだ。ルーシーは物覚えがいいどころか、俺との出会いの時の
ことをまるでビデオに撮ったかのように覚えているようだった。流石に俺も舌を巻くしか
ない。俺はなんとなくこんなことがあったよな程度のことしか覚えていない。
よく分からないが、ここにいるルーシーはやはり俺の記憶にあるるーこその人だと結論
付ける他にない。
「ふぅ〜〜ん、たかちゃんとるーはそんなことがあったんだ」
うんうんと何度も頷いてルーシーの話を聞いていた笹森さんは両腕を組んでいたかと思
うと、ぴっと人差し指を立てた。
「これは運命だねっ。私とるーとたかちゃんがミステリ研で一緒に活動するという運命だ
ったんよ!」
「いや、ちょい待て、なんでそこに笹森さんが入ってきて、しかもミステリ研に繋がるん
だよ」
「そんなの決まってるじゃない。困ってたるーを助けて、機能回復……だっけ? のお手
伝いをしたのは、何を隠そうこの私なんよ!」
――――。
――――。
――――。
――え?
「あれは忘れもしない五月の半ば――」
「花梨、あれは四月の終わりだ」
「え、あ、そうだっけ? そ、そう、ごほん、あれは四月の終わり――」
――以下略。
笹森さんの話はあまりにも荒唐無稽すぎて信じる余地すらない。最初の行き倒れていた
ルーシーを拾ったというところまでは、まあ信じてもいい。俺も拾ったしな。その後どう
してか笹森さんはルーシーから絶大なる信頼を得て、無事ルーシーは笹森さんの家へ居候。
その後、二人でルーシーの宇宙船の残骸を探しに走り回ったり、ルーシーの機能回復のた
め、地脈の集中しているところに向かったりと、大冒険を繰り広げていたと――、この辺
りでもう信じる気が失せるというものだ。
「あーー、もう分かった。分かったから。――で、結局ミステリ研の研究発表って何する
んだ? ルーシーを見せて、はい、これが宇宙人ですってやるんじゃないだろうな?」
「まったく本当に貴明は短慮だな。そんなことをしても誰も信じないし、驚かないぞ」
「実はね、るーの救助船団が今日辺り到着しそうなんよ。それで救難信号をあげたいんだ
けど、るーにはもう、なんだっけ? いんがりつかいにゅう?は許されてないんよね。そ
れで私たちで信号をあげようってワケ。分かる? たかちゃん」
つまり打ち上げ花火とかでもあげるのか? だけど、宇宙からそんなもん観測できるわ
け――って巻き込まれかけてるぞ、俺。あぶねぇ。
そこで恐る恐る聞いてみた。
「で、信号ってなにするんだ?」
もし花火をあげる程度のことなら、どうせ先生の許可は得ていないだろうが、ちょっと
した騒ぎで終わるだろう。昼間の花火なんて音以外は目立たないものだ。
「決まってるじゃない! 古来から地球人から宇宙へのメッセージといったら地上絵と、
祈りよ! というわけで、はい、あれ」
笹森さんが指差した先には、運動場でよく使われる白線引きが鎮座ましましていた。一
台だけ。もっともその一台をどうやって調達してここまで持ってきたかは不明だ。
「それじゃたかちゃん、私の言うとおりに線を引くのよ。いいよね」
笹森さんは両手を胸の前で組んで上目遣いにお願いのポーズを取る。そんなものに惑わ
される俺ではないが、俺をじっと見つめるルーシーの視線の方が気になった。
結果的に笹森さんのところでうまくやっているようだったが、先に出会っておきながら
女の子を独り放置したことの罪悪感が胸を刺す。それを考えればちょっと白線を引いて、
変な祈りを捧げるくらいどうってことないだろう。俺は諦めて白線引きに手を伸ばした。
ああ、できれば早くタマ姉が俺を見つけてくれないかな、と祈りながら……。
そして15分後……。
「あー、そこ違う! もっと右、右!」
俺の祈りも虚しく、いまだ白線を引き続ける俺がいる。笹森さんの指示は適当もいいと
ころで、書いては掃き散らして、また書き直しの繰り返しだ。
もういい加減この不毛な作業にも飽き飽きしてきた。階下ではきっと皆楽しんでいるの
だろうナァと後ろ向きな思考がちくちくと脳裏を刺激する。
もういっそこの粉をばーっと撒き散らして目くらましにして逃げ出そうかとか考え始め
た頃だった。
バァンと屋上の扉が開け放たれる音がして、
「貴明、やっと見つけた」
救いのめが――
「昨日、お姉ちゃんと何があったか説明してもらおうじゃないの!」
みじゃなくて、またぞろ厄介なことになりそうな郁乃さんが現れた。
――続く
まさか花梨を書くことになるとは思わなかった。
るーこは色々アレンジはいってますが、独自解釈バージョンということでお許しくださ
い。今更ですケド(笑
さて、仕事先で人が辞める辞める('A`)
仕事時間が延びる延びる。そういう状況ですので、次回投下タイミングは不明です。
体力ないからここ数日は夜の8時に寝て、朝の6時半に起きる生活です('A`)
今日は休みだけど、今からまた寝ます。おやすみなさい。
黄色のいらない子っぷりは相変わらずだな
Brownish Storm
虹の欠片
>作者さん乙です
楽しく読ませていただきました。
虹の欠片 キャラが全然違う上にもうおはなしがぐだぐだ。
何回も書かれてるけど二次でやる意味あんのか。
と読むたびに思う。
ついにるーこまで巻き込まれたか。
意味不明にDQNにされた雄二がかわいそうだから、
そろそろ締めて欲しいんだけどな。
>>276 乙です〜
まさか黄色が出るとは思いませんでした・・・
いつも楽しんで読ませていただいてます。
これからも頑張って下さい。
>>279 お前さんに聞いてみたいんだが。
虹の欠片が二次創作じゃなくて、TH2キャラも出てこない話だったら読んでるか?
手前味噌な話になるけど、人気のある作品の二次創作とオリジナルの物語を比べると
それこそ読者さんの反応は天と地ほどに違うものなんだよ。
つまり読者さんからの反応がもらえるだけで、二次でやる意味はあるってことだ。
ただキャラクター本来の性格とかけ離れてしまったせいで作者さんが苦労してる様子
が見て取れるのは確かだねえ。>虹
展開が散文化しすぎてて、悪い意味で先が読めねーや。まあガンガレ
そんなにキャラの性格違ってるのかな?あまり違和感ないや。
ゲーム本編してすぐに虹の欠片読むとわかると思うよ。
本編やってない俺は勝ち組
今までは虹養護派だったが、今回はもうグダグダで駄目だわ。
キャラ云々は作者さんが苦悩してるのは分かるし、8割方は違和感なくきてるが、
ただ単純につまんなくなってきてる。
委員長が出てきただけでも大概だったのに、花梨ルーシーコンビは明らかに蛇足。
話を大きくしようとしてるのが裏目にでてしまってる。
でもまあ実力のある(ただ心だけがは大好きです)作者さんなので、悲観はしていない。
しっかりまとめてほしい
確かにやや話の本筋がぼやけてしまっている感じはしますけど、作者さんの力量を鑑みるに
最終的にそれまでの展開が一つに収束すると期待していたり。>虹の欠片
現段階ではなんとも言えないですよね。作者さんは無理のない範囲で頑張って頂きたいです。
むしろ、決して少なくない批判を受けつつ、それでも書き続けられる意志と姿勢が凄い。
と、そんな風に感じるいち書き手。
真剣な感想=批判ではないですけど、そういう感想を頂けるのは少なからず羨ましいです(笑)
書きたくもないのに無理に花梨を書いてる感じがして
そんな出番はかもりんも喜ばないと思うんよ
>>262 乙〜
ちょっと気になったのは、SisterBowlの方で発端がすべて貴明のエロ本ってのは狙ってるんだろうかw
狙ってるなら別に構わないんだけど、さすがにワンパターンというかマンネリすぎないかなと……
長く書き続けるとネタもなくなってくるものなのかもしれんが、そろそろ別のパターンも見てみたい
わがままですんません。・゚・(ノд`)・゚・。
>>286 かなり同意。
俺はいいんちょは別によかったんだが……
今回出てきた2人はさすがに…
虹SSの本筋からズレすぎだと思った。
>>277 書き手がそういう風に書いてるからだろ。
こういうので書き手の評判が落ちるんだよ。
『意味もなく』登場キャラを増やしてる感じ>虹
キャラの魅力を引き出せないなら登場させない方がマシ。
特に黄色とか。
おまいら、これ以上は無駄レスですよっと。
本気で作者に物申したいなら、作者サイトの拍手にでも
想いの丈をぶちこんできてくれ。
スレの空気が悪くなる一方だ…。
スレの空気を悪くしてるのは作者じゃん。
自分のサイトでやってればいいのに。
そんなに他の書き手が投下し辛い雰囲気にしたいのか
そんなに見たくなければ2chブラウザ使って自動あぼーんしとけ
文句があるならここでグダグダ書かないで作者に直接言ってくれ
何のためにわざわざ冒頭にリンク貼ってあるのよ
>>294 暴論だな、SS書きを追い出したいのかお前は。
\ 静まれーーーっ /
\ てばぁーっ! /
__
〃 , ´ ` 丶、 っ
⊂ , ' }ヽ
ポ ,′ 〃 \ | イ |l っ
ム. l| l l l人 \ヽ \jノ)
ポ. l| l N∨ヽNヽ\フーイl7
ム. l| l c> <|ーlヘ/l___
ポ Nヽl ""r―┐゙゙/イ/l(6} /
ム. 乂ヽ ¨゙(て)〃>ヽイ
/ トイ>⌒) l
. (⌒=- (⌒Y_ノ}ソ\/ ,人
〔 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄「ニ=
| 「 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄||「│
| | ||l |
久しぶりにコレ貼ってみる。
>>296 そういうことではないと思うよ。
>>295なんかが
「作者さんにはHPがあるんだから、文句が言うなら件のHPのほうで」
っていうのと同様
>>294には
「作者さんにはHPがあるんだから、スレでは更新報告だけに留めて欲しい」
程度の意味しかないんじゃないかな?
てか、スレに投下したSSに関しては、スレに感想を書くのは当たり前じゃなかろうか。
正直、虹が投下されるたびにループのように肯定と否定のレスがつくのはうざい。
作品をあぼーんしたところで、スレはどうしたって伸びてしまうわけだし……。
今回は11話だけれど、けっこう前からこのループに陥ってるのは誰もがわかってる。
自HPに新作をアップして、スレには報告のみって形にすれば、ここにわざわざ否定的な
書き込みする奴だって減るだろうしさ。
で、そういうのを了承済みでスレに投下し続ける作者さんには、言い方は悪いけど悪意
すら感じてしまうんだが。
もちろん、匿名掲示板ならではの忌憚のない意見が欲しい、って意図があるとするなら
話は別だけどね。
その場合はここに否定的な感想書くな、なんていう奴の方が作者さんの意図に反してると。
長くなってしまって申し訳ないが、俺は作者さんが投下してくれたSSとその感想だけを
読みたいよ。
感想に対する感想なんて意味のないものこそをあぼーんしたいわ('A`)
俺ルールや俺SS論が一番イラネ
俺たちは所詮雛鳥なんだよ。
作者さんっていう親鳥が運んできてくれるご馳走に感謝しつつ
ピーチクパーチクさえずってればいいんだよ。
親鳥のご馳走が気に入らなければ口を噤んでりゃいい。
それさえも我慢できないならこの巣から飛び立って
自分のご馳走を見つけてくりゃいいじゃねぇか。
書き手にまわるという選択肢もあるはずなのだが
まあ虹の作者さんも自分で問題作っていっちゃってるくらいだし、
ここで賛否両論出るのは「ああ俺って問題作作家」って優越感に浸れるだろうから
むしろ望むところなんじゃないの。
だいたいこういうところに投下し続けてるんだからなに言われても
覚悟の上だろうし、サイトではマンセー意見ばかりもらって嬉しそうだよ。
だからここはここのノリでいいんじゃないのかなあ。
一読者として言わせてもらえば、最近の虹は技術的にはうまいんだろうけど
お話としては全然面白くなくなっているとは思うけどね。
東鳩系でこういうパロだったら二次SSで腐るほど見る。
別にどうでもいいじゃん…所詮「公式」じゃないんだし
自サイトで引き篭もってる限りは文句言われる筋合いはないね
もんのすげー長文書いてる奴は、そんな暇あったらSS書くべきだと思う。
何か、虹は「外交上の失敗は、どんなに戦術的勝利を重ねても覆せない」
を地で行っているような話に思えない。
外交をプロット、戦術的勝利を技術の巧みさに言い換えれば、そんな感じ。
間違えた。
話に思えない→話にしか思えない
今思ったけど虹の人って意見とかに全くレスしないよな。
これだけ色々言われてるなら普通反応するはずだが。
作品に対する是非を抜きにして、無視するのがここと自サイトで平穏を保つ最良の方法だからだろう。
イチイチ反応していたら、2chらしい結果が待っているだけだろう。
>>309 まあそうなんだがな。
だけどこれだけ批判されても平気でスレに載せる根性はすげえよ。
やめたらやめたで何か言われそうだが。
今まで面白い作品を載せてくださっていたのに、たった一作品評判が悪いだけで自サイトに引っ込めなんてひどい
続きを楽しみにしている人間としては叩かれて続きをかかれなくなったら
とても寂しいです、はい
>>312 今までの作品が免罪符になるとは限らない。
なんと言うか、今までの作品は何も無い所に自分の色を入れて良いものになったが、
今回の作品は東鳩2と言う作品の色そのものに、無理やり自分の色を乗せて台無しにしている感じ。
>>314 そんな感じだな。まあ、本人も消化不良起こしてるのは
自覚してるみたいだから、早めにけりをつけて
リハビリがてらにベタベタの甘甘SSを一本書けば
いい気がする。愛佳大好きみたいだからその辺りは丁度よさそう。
葉鍵板から職人が減った理由を、まだ理解してない奴がこんなにいるんだなあ。
や、や、そんな事より
河野家マダー?
んー、つーかスレのテンプレ管理してたり、ステ立てしてくれてたりするのが全部
虹の作者の人なんだよねw
だからマンセーだけしてろってわけじゃないが、スレ投下するなって感じの話まで
行っちまうのは横暴というか勘違いしてねーか?
どんなものであっても感想は感想でしかないんだから、騒ぐ必要ないじゃん。
しかも作者の人は「否定的な感想がきたらやめる」なんて言うどころか、まったく
反応してないんだから、外野がああだこうだ言うのは筋違いでしょ。
むしろ、批判したら投下する人がいなくなるとか言ってる奴は作者さんを舐めてる
と思うぞ。逆に失礼だと思うんだが。
と、我楽多本人が申しております。
だから、結局は何が言いたいのかわかんないのかw
つまらんいいあいはやめようぜ
河野家マダー?
虹擁護の中に我楽田入ってたらワロスw
まぁなんだ、とりあえず虹がとっとと終わって
また別の新作をうpしてくれることに期待ageして
今は待つ。
それぞれが思い思いに投下出来る場所と機会に恵まれて然るべきだと思うから、
文章の投稿の是非そのものに口を挟むつもりはない、かな。俺はね。
…俺はジャンクション派なので、来月までだって待つ。
書かない、批評も稀にしかしない俺に偉そうな事言う資格があるかどうかはさておき。
……不毛だ。
これから19連投行きます。
サイトに上げようかどうしようか悩んだのですが、ここで上げさせてください。
ワクテカ
ついに結ばれる時が来た。
貴明はシャワーを浴びて寝室にやってきたこのみに優しく口づけし、ベッドに押し倒した。
甘い吐息、熱い唇、高鳴る胸。
深く絡まるキスを交わしながら、柔らかなこのみの肌を慈しむ貴明。愛撫の手はゆっくりと下がってゆく。
陶酔に導かれるまま貴明の指はやがてこのみ自身へ到達し……
しかし、その時このみの口から出たのは。
『――ダメッ!!』
”拒絶”の言葉だった――
Tender Heart フィナーレ。
え?
そんな声を、俺は出していたのかもしれない。
もしかするともっと格好悪い声だったかもしれないし、音の響きすら形取れなかった呼吸だったかもしれない。
とにかく、俺は呆然としていた。
いま目の前でいま起きた事がどういう意味を持っているのか理解することができない。
――ただ、見えた。
このみのパジャマの背中が見えた。
ついさっきまで俺の腕の下にいて可愛い声を上げ、俺に身を委ねていたはずのこのみが、今はなぜかベッドの端で怯える
ように背中を丸めている。
あれ?
ショックで麻痺した思考力をリハビリするみたいに、自分の状態から一つずつ確かめてゆく。
片腕で体を支え、俺はベッドに横たわっている。
このみの一番敏感な部分に触れようとしていた手は滑稽な角度で宙に浮いていて、指先にも腕にも胸元にもこのみの体温
が残っている。
唇はまだ、このみの味を覚えている。
ペニスが痛いほど怒張している。
――でも、このみの体はもうそこにはない。
どうして?
さっきまであんなにいい雰囲気だったのに。
俺のキスに、あれほど積極的に応じてくれたのに。
胸を触った時も、声を上げるほどに感じてくれてたのに。
俺だって全身全霊でこのみの存在を感じていたのに。
どうして今、このみはあんなところで体を堅く丸めているんだろう。
このみは今なんて言ったっけ。
『――ダメッ!!』
ダメ?
なにがダメだって?
ダメってどういう意味だっけ?
ダメっていうのはつまり駄目ということで、つまりしてはいけないということでだからどうしてこのみはそんな
「――え?」
今度はちゃんと声になった。でも、落ち着いたわけではまったくなかった。
「このみ、いま、ダメっ……て?」
「――ごめんね」
ベッドの端で、こちらに背中を向けたままこのみが返事を返してきた。
「ごめんね、タカくん……」
「ごめんて――」
背中を見る。
自分を守るようにぎゅっと自分を抱きしめて、このみは小さく体を震わせている。
まるで、乱暴されそうになっているみたいに。
『ダメ!』
『ごめんね』
このみの言葉は聞き取れていたけど、それが一体何を意味するのか全然分からなかった。本当に分からないのか、それと
も分かっているのにそれを認めたくなくて無意識のうちにそれ以上の思考を止めているのか。
「ごめんって……なんで……」
俺は手を伸ばした。狭いベッドの上だ、どんなに端に寄っても手を伸ばせば届く。
なのに、さっきからこのみが遠くに行ってしまったように感じているのはなぜなんだろう。
「なあこのみ、俺、なにか気に障るようなこと――」
伸ばした手が、このみの肩に触れた瞬間だった。
「――ッ!!」
このみが、ぎゅっと身をすくめた。
その反応の激しさに俺は思わず手を退き――
そのときようやく、俺は理解した。
ああ。
つまり俺は。
――このみに、拒絶されたのか。
どうしてこのみは背中を向けているんだろうと思ってた。
体をあんなに小さく丸めて、何から身を守っているんだろうと思っていた。
俺だったんだ。
このみは、俺から身を護っていたんだ。
いじめっこに捕まえられたいじめられっこみたいに体を縮こまらせて……触っただけであんなにびくってして……
ああ、だから。
つまり、このみは俺を―
「――は」
乾いた声が、出そうと思ってもいないのにのどの奥から出てきた。
それは、笑い声の断片だった。
大声で笑いたくて仕方がなかった。
なぜかって?
今の自分があまりに滑稽だからだ。
今日一日の記憶がよみがえる。今ここに至るまでにたくさんの事があった。たくさんの事を考えた。そのすべてが、この
みのことだった。
今日という日は、本当にこのみのことばかり考えていた一日だった。
朝、雄二の言葉で、このみとの春から変わらない関係について考え始めた。あの時までは、このみを抱こうなんてすこし
も考えていなかった。
昼休み、抱きついてきたこのみに「女」を意識してしまった俺は嘘をついて逃げ出した。押しつけられた胸の柔らかさと、
髪から漂う甘い匂いにドキドキした。
五時間目の休み時間、渡り廊下で会ったこのみとアイス屋に行く約束をした。友達と連れだって去っていくこのみの後ろ
姿に見惚れて笑われたっけ。
放課後、アイス屋に向かう道すがら。アイスの幻が見えると冗談を言っていた俺に、このみが言った。
『わたしは、何アイスに見えるの?』
俺が答えるとこのみは顔をまっ赤にして抱きついて来て、こんなことを言った。
『――タカくんなら、食べられてもいいよ』
『……このみアイスは、タカくん専用スペシャルだからね』
確かに、このみはそう言った。
俺の聞き間違いじゃない。
アイス屋について、ちゃるとよっちに会って……俺はそこで決心したんだ。
このみを、俺だけのものにするって。
ずっと中途半端だった自分に気が付いて……
このみを待たせてたって思って……
遅れたのはしょうがないから、これからは俺のほうから積極的にこのみを求めていこうって、それが一番このみへの償い
になるって思って……
だからそれからは手を繋いだり、抱きしめたり、キスをしたり、甘い言葉を囁いたり……照れくさくて恥ずかしくて、ぎ
こちなかったけど、それでもこのみは喜んで――
喜んでくれてると、思っていたのに。
――目の前の現実を見ろ、河野貴明。
このみは、俺を拒絶してるじゃないか。
体中で「触らないで!」って叫んでるじゃないか。
そうか。
全ては勘違いだったのか。
全部全部、さかりがついて鼻の下を長くした俺が勝手に誤解しただけで、このみにはそんなつもりはなかったのか。
あのキスも
あの抱擁も
あの言葉も――
「は――はは……そっか」
今日一日は、俺にとっては、結構大きな一日だったんだけどな。
春、このみに告白したあの日と同じくらい大きな意味をもつ一日だったんだけどな。
このみも同じように感じてくれてると思ってたけど……
そうじゃなかったんだな。
だからあんなに、俺を怖がってるんだな。
「そっか……そう、だったのか」
ああ、あんなに怯えて。
悪いことしたんだな、俺。
胸が痛い。
このみはそんなつもりなかったのに、突然押し倒されて、キスされて、体じゅういやらしく触られて……
「……ごめんな」
怖かったろうな。
「ごめん」
自分が恥ずかしい。
「その、嫌がってるって気付かなくて、俺……」
「――タカくん?」
このみが振り向いた。
俺の言葉は、それ以上続かなかった。このみの頬が涙に光っているのを見た途端、俺は身を翻して逃げ出していた。
「タカくんっ!」
――逃げだそうと、した。
「タカくん! どこ行くの?」
このみが、俺の右手を掴まえていた。小さな手からは信じられないくらい、強い力だった。
俺はこのみの顔を振り返って見る勇気が無くて、でもその手をふりほどくこともできないで、出口の方へ顔を向けたまま
立ちつくした。
「ねぇタカくん! どこいくの? 行かないで!」
「だってこのみお前……」
「ごめん! ごめんね! このみが悪いの。だから、タカくん行かないで! そんなの……そんなのわたしヤダよ!」
このみの、涙声の訴え。
後ろから引き留められて掛けられたその言葉に俺は――
「なんだよそれっ!!」
――怒鳴っていた。
張り上げた声はまるで自分の声じゃないみたいにひび割れていた。体ごと振り返り、このみを見下ろすようにして立った。
このみは俺の突然の怒声にこわばりながらも、俺の手を握ったまま離さなかった。
それがなお、俺の怒りを燃やした。
「なんなんだよっ! ダメって言ったり、行くなって言ったり――俺にどうして欲しいんだよ!」
シーツの端に、ぽたりと水滴の跡がついた。このみの涙かと思ったら俺の顎からしたたり落ちた涙だった。
いつの間に、自分は泣いていたのか。
「俺は……俺は、お前の何なんだよ! 恋人じゃなかったのかよ!」
俺がこのみを抱く、ということは、単に恋人同士がセックスをするということとは違う意味がある。今朝雄二に言われ
た言葉から俺はそのことを悟った。だからこそ、俺は決意したんだ。
決して、断じて、ヤリたいだけの浮ついた気持ちでそう決めたんじゃない。
このみはこの春から、ずっとずっと、俺の恋人として俺に尽くして来てくれた。こちらが赤面するくらい言葉でも態度で
も好意と愛情を示してくれた。むしろ、ずっと恋人として中途半端で受け身だったのが俺で、だからこそ、これからはちゃ
んと恋人として応えてあげようと決めたのだ。
なのに。
なのに。
「――やっぱり、幼なじみなのか?」
俺の言葉に、うなだれていたこのみがはっと顔を上げた。
見たこともない、凍り付いたような顔だった。
「俺のこと、まだ、幼なじみだとしか思えなかったのか? だから……キスはしても、その先は嫌だったのか?」
雄二の言葉が思い出された。
アイツは、このみに手を出さない俺に言った。
『そんな風にずっとそういう欲求を押し殺し続けてると、肝心な時に辛い目にあうぞ』
……雄二が予言してたのは、このことだったんだろうか。
そして俺は、遅すぎたのだろうか。
春のころに、気持ちが高まったまま済ませていれば、こんな風に思い悩むことも無かったのかも知れない。
だけど俺がずるずると幼なじみを引きずったままこんな季節まで来てしまったせいで、このみもいつのまにかまた俺を幼
なじみとして見るようなっていたのだろうか。
だとすれば……。
やはり、一番悪いのは俺なのか……!
「違う、違うのタカくん! そんなんじゃないの!」
このみの声が間近に聞こえて、俺は深いもの思いから引き戻された。
このみはいつの間にかベッドの上に膝立ちになって、俺にすがりつくようにして呼びかけている。
「タカくん、お願いだからこのみを見て。話を聞いて。タカくん――!」
「このみ……」
俺は目を開けて胸元のこのみを見た。
大きな目は涙に濡れて、暗い部屋でもきらきらと輝いている。形の良い眉とすべすべした頬は泣き顔に歪んでいる。
このみを泣かせてしまった。
誰でもない、この俺が。
罪悪感に、胸が痛む。
だけど、今は抱きしめてあげられない。慰めてやれない。
そうしてあげていいのは、このみの恋人か幼なじみだけで……俺たちは今、互いがそのどちらなのかを決めなければなら
ない場に立たされているのだから。
「タカくん!」
「……なあ、このみ。俺は、どっちなんだ?」
すがりつくこのみに手を触れもせず、立ったまま俺はこのみに問うた。
「このみにとって、俺は、恋人なのか? それともやっぱり、幼なじみでしかないのか?」
「タカくん、そんな――」
「答えてくれ!」
なにか声を上げかけたこのみに、俺は迫った。
するとこのみは俺を見上げたまま、大きな瞳からぽろぽろと大粒の涙をこぼしはじめた。
「タカくんは……恋人だよ……」
しゃくり上げるように、言葉を波打たせながら。
「このみの……自慢の……恋人だよ……」
「じゃあどうして!」
このみの新たな涙に動揺する胸の内をごまかすように、俺は問うた。
「どうしてダメなんだよ! 俺は……」
言葉が途切れたのは、俺もまた泣いているからだった。
「――俺はお前を抱きたいんだ。このみを、まるごと俺のもんにしたいんだよ……! それがなんでダメなんだよ!」
格好悪い。
自分の事をそう冷静に見つめる目も、どこかに残っていた。でも、かまわないと思った。もともと、人を好きになるって
ことは、わがままで、身勝手で、格好悪いことなんだと思う。
今俺がしてるのは、これが欲しい、これじゃなきゃヤダとおもちゃ売り場で駄々をこねる幼児と同じくらい、みっともな
いこと。
でも、かまわない。なぜなら俺は、このみが本当に好きだから。このみが本当に欲しいから。みっともなくても、格好悪
くても、諦められないから――。
「答えてくれよこのみ。自慢の恋人って言ってくれるならなんで――なんでダメなんだよっ!」
「――来ちゃったの!」
俺の最後の叫びとこのみの声は重なって響き、その後、部屋には小さな沈黙が落ちた。
最初に沈黙を破ったのは、俺の、今夜二度目の
「――え?」
またしても思考停止に追いやられた俺は、このみのいまの言葉を無意識にリピートする。
「来たって、なにが」
「………」
目の前で、うなだれ肩をすくめて、流れた髪で顔を隠すこのみを見つめる。
さらさらの髪から覗く耳の先が、赤く染まっていて――
「……あ」
そのとき、俺は、ようやく理解した。
保健の時間に習った記憶がある。
おんなのこはおとなになるとつきにいちどしきゅうからしゅっけつするようになります。
これをげっけいといいます。
こどもをつくれるようになった、という、からだのあいずです。
「……あ、その」
ぐるぐると思考が回る。
「でも……それならもっと早く……」
言ってくれればよかったのに、と言いかけて、俺は言葉を飲み込んだ。
言えるわけ無いじゃないか! 生理が来たとかまだとか、ヤりまくってる他のカップルならいざ知らず、このみが俺に言
ったことが今まで一度でもあったか?
言われるよりも先に、俺は彼氏として気が付くべきだったのだ。
今こうして考えれば、思い至る節は山ほどあった。
放課後、保健室から難しい顔をして出てきたこのみ。
アイス屋で珍しくシングルだったこのみ。
夕食の時、ほとんどごはんを食べてなかったこのみ。
そういえばさっきのお風呂も、シャワーだけだった……。
このみの体の変調を示すサインを、俺はことごとく見逃していた。
それどころか、自分に都合の良いように誤解してさえいた。
恥ずかしさに、顔が燃え上がる。
鈍感鈍感とタマ姉によく言われるが、ここまでくると罪だと思った。
いまだうなだれたままのこのみを見る。
途端に俺は思い出した。思い出してしまった。
ダメ、と言われてから、俺がこのみにぶつけた言動の数々を。
――死にたくなった。
格好悪いのもみっともないのもかまわないと思っていた。だけどものには限度ってものがある。
格好悪いなんてもんじゃない。
勘違いで決めつけて、怒鳴って、怒って、泣いて、泣かせて……
今度こそ。本当に。心から。恥ずかしかった。
いっそいますぐこの部屋から逃げ出して河まで走り、橋の上から身投げしたいほどだった。
しかし――
「ヤダ……!」
うなだれていたこのみが、突然俺に抱きついてきた。俺の内心を読んでいたかのように、まるで俺を逃がすまいと捕らえ
るみたいな格好だった。
「タカくん、タカくんっ!」
「このみ……」
「わたし、こんなことでタカくんに嫌われたくない。わたし……わたしそんなのヤダよ!」
このみの言葉に、俺ははっとさせられた。
俺がこのみに罪悪感を抱いてるように、このみもまた、俺に罪悪感を感じているのだ。
今ここからいたたまれ無さに俺が逃げ出したとしたら、残されたこのみはどうなるだろう。
それはさらに深くこのみを傷つけることに他ならない。
俺は恥を掻く覚悟を決めて、このみの背中に手を乗せた。
「大丈夫。どこにもいかないから」
「タカくん……」
ようやく顔を上げたこのみの頬を、俺は手のひらで拭った。
涙でびしょびしょに濡れていたそこは、熱く、柔らかく、震えていた。
「……わたしね、嬉しかったの」
抱きついた俺の体に顔を埋めるみたいにして顔を隠したまま、このみは言った。
「今日のタカくん、いつもと違って、自分からキスしてくれたり手をつないでくれたり……タカくんはいつも優しいけど、
今日はなんだか積極的だったから……嬉しくて」
ぎゅ、と抱きしめる力が強くなった。
「もっと、もっとしてほしいって――思って……」
声が震えていた。
「タカくんが、わたしと今みたいなことしたいって思ってるの、気が付いてたよ。だから言わなきゃって思ってたけど……
もうちょっとだけ、もう少しだけ、タカくんにキスして欲しい、抱きしめて欲しい、触って欲しいって思ってるうちに、ど
んどん言えなくなって……」
「このみ」
「わたし欲張りだよ――! タカくん……タカくんは、こんな、えっちで欲張りな女の子嫌い? 大事なこと黙ってタカく
ん騙したこのみのことなんか、もう嫌いになっちゃった?!」
「もういい、このみ。もういいから!」
俺はこのみを抱きしめた。
まるで懺悔のように自分を傷つける言葉を続けるこのみの口が動きを止めるくらい、強く、強く、抱きしめた。
このみには懺悔しなければならない罪などなにもない。あるとすれば、それは全て俺のせいだ。
このみに、こんなことを言わせているのは、こんなことを思わせてしまったのは、全部、俺がこれまで恋人としてのつと
めを怠ってきた結果なのだ。
「ごめんな、このみ。ごめん!ごめん……!」
俺は、ほんの一時間ほど前に、このみに謝罪した。これまで恋人らしくしてやれなくてすまなかった、これからはちゃん
とするから許してくれとこのみに言い、このみは許してくれた。
でも、あんなのはただの言葉遊びだった!
俺は今、このみの体を抱き締めながらそう歯ぎしりする。
俺はなにも反省してやいなかった。
ダメ、という言葉であんなに動揺して、早とちりして、決め付けて、挙げ句の果てにこのみの愛情まで疑って――!
「情けないな、俺……本当、どうしようもないな……」
「タカくん――」
いつのまにか、目の前にこのみの顔があった。
このみの手が、俺の頬の涙を拭ってくれている。さっき俺がしてあげたのと同じように。
目を合わせると、このみは涙顔で微笑んで、そんなことない、と言うように小さく首を振ってくれた。
俺は、その手を掴まえて尋ねた。
「このみの方こそ、どうしてこんなどうしようもない奴に愛想尽かさないんだ? なんで、そんなに優しくしてくれるん
だ?」
するとこのみは目を細めて言った。
「……好きだから」
細めた目から、新しい涙がこぼれ落ちた。
「タカくんのことが、大好きだから……!」
ああ。
俺は今こそ、全ての言葉を失った。
このみを抱き寄せてキスをすることしか、俺にはもうできることはなかった。
誰かを好きになると、ひとのこころは弱くなる。
些細なことで傷ついて、怒ったり悲しんだりする。視野が狭くなって、勘違いをしてしまったり、すれ違ったりしてしま
うこともある。どんな賢いひとでも、どんなに力の強いひとでも、人を好きになると、こころは感じやすく、繊細になって
しまう。
このみの言葉に怒って泣いた、俺みたいに。
――だけど。
好きな人がいると、人は強くなる。
どんなに恥をかいても、どんなに悲しいことがあっても、それを乗り越えることができる。許すことが出来る。耐える事
が出来る。相手にぴったりくっついて、離れない強さが恋する人には宿る。
なさけない俺を許し、それでも好きだと言ってくれた、このみみたいに。
俺のなかの、繊細で弱い心。
だけどそれは強さでもあるんだと、このみは教えてくれたように思った。
気を失うくらい長く続いたキスをやっと終えた時、俺たちはいつのまにかまた、ベッドに横たわっていた。
「えへへ、いっぱい泣いちゃったね」
このみが照れくさそうに目元をぐしぐしと擦っている。
「拭いてやるよ、おいで」
「うん」
すり寄ってくるこのみを抱き寄せ、涙の跡を唇で吸った。
このみはくすぐったそうにしていたが、ぎゅっと目を閉じてされるがままになっていた。
頬、こめかみ、鼻筋、あご下、目元……やさしく口づけをして、最後に唇に軽くキスを落とした。
「そこも涙がついてた?」
「ううん、このみが可愛かったから、つい」
すると、このみは嬉しそうに微笑んで俺の懐にぐいぐいと潜り込んできた。
「タ〜カくん」
「なんだよ、暑いだろ」
なんて言いながら、俺も嬉しくて頬がゆるむ。
するとこのみは、すこしもじもじしたあとで、俺にお願いがあると言った。
「お願い? 今か?」
「うん、えっとね」
言うやいなや、このみは目の前でぐるんと体を回し、俺に背を向けた。
さっきと同じ構図。でも、さっき感じたような距離は微塵も感じなかった。
「この状態で、腕枕してほしいのであります」
「? いいけど」
俺は体を寄せて、後ろから抱き締めるみたいにこのみに腕枕をしてやった。
するとこのみは俺の両腕を、まるで毛布みたいに胸の前でかき寄せた。
「えへ〜、タカくんの毛布〜!」
「……椅子の次は毛布か。大変だな、俺も」
ひとりごちてくすくす笑っていると、このみはさらに次なるアイデアを思いついたらしい。
上に回った俺の手を掴んで、下腹部に導いた。
これには俺も驚いた。
「こ、このみっ!?」
「ここをね、ゆっくり、撫でてほしいな。手を当てるだけでもいいけど……」
その言葉で俺は気が付いた。
そこは子宮の位置だった。
「……痛いのか?」
「ううん。寝る前にお薬飲んだから、痛みはあんまりないよ。でも、ちょっと重たい感じがする」
「そっか……」
俺は女の子のことを何も知らないんだと、痛感した。
幼なじみだからこのみのことは何でも知ってるつもりでいたけど、本当はなんにも知らないんだということを今日は思い
知った。
ごめんな。
これからはそういうこともちゃんと気遣ってやれる、立派な彼氏になれるよう頑張るからな……。
俺はゆっくりと手を動かしてこのみのお腹をさすった。
このみが苦しみませんように、痛みが退いて楽になりますように、と祈りながら。
「タカくんの手、あったかい……」
「寝てもいいからな」
「うん……」
すでに声がとろんとしている。
「タカくん……」
「なんだよ」
「えへ〜……だぁいすき……」
きゅ、と。
枕にした俺の腕に頬をすり寄せて、このみは寝言のようにそう言った。
疲れてたのだろうか。それとも、薬のせいだろうか。
このみは本当にそのまま眠ってしまったようで、返事をしそこねた俺はなんだか一人取り残されてしまった気分を味わっ
た。
まあいいや。
今日はいろんなことがあって、俺もなんだか疲れた。
このみの体が暖かいし、俺もすぐに眠れそうだ。
俺が毛布だとしたら、こいつは毛布に潜り込んできた子猫だな。きっと。
「――おやすみ」
俺はこのみを起こさないように小さく囁いて、頭のてっぺんにキスをした。
目を閉じる。このみの匂いと体温に包まれる。
ああ。
結局これはこれで「抱いて寝た」ってことになるのかな?
明日雄二に冷やかされたら、そう答えてやろうかな……。
そんなことを事を考えながら、俺の意識は眠りへと落ちていった。
――こうして。
きっと一生記憶に残るだろう俺たちの長い長い一日は
ようやく、終わったのだった。
Tender Heart fin
乙です。
乙です。
「これでは道化だよ…」と呟きそうなタカ坊が目に浮かびます。
長らくお待たせして申し訳ありません。これにてテンダーハート、おしまいであります。
みなさんのお邪魔をする長文投稿、本当にすいませんでした。
冒頭にも書きましたが、スレふさぎの19連投、ためらいはありました。
でも、このスレで書き始めた作品ですから、このスレで終わらせたかったんです。
わがままをどうか許して頂ければと思います。
18禁化が発表された今となっては、やがて時代に風化されていきそうなテーマを
扱った本作ですが、書き上げたいまは満足感だけがあります。
いろいろあってSS書庫さまも現在閉鎖中となってますが、PC版がでることによって
もういちどTH2のSSは質量ともに増加するのではないかと考えてます。
専用スレと職人さんたちに栄光あれ、と言い残し、これにて作者挨拶とさせて頂きます。
読んで下さったみなさま。催促して応援してくださったみなさま。
本当に、ありがとうございました。
機会があったら、また別の作品でお会いしましょう。
さようなら!
PS:書庫さんが閉じてしまったので、そのうち一話からサイトに上げますね。
蛇足でした。
>>351 綺麗に終わってとても良かった。次回作ももし作るのであれば是非読ませて貰いますー。
個人的にタマ姉メインのSSキボン
>>351 乙です!
綺麗にまとめてあってよかった
乙っす!
次回作楽しみにしてます。
次回作のメインには是非ツンデレ由(ry
ウヒャw
すげぇオチw
おまえはそんなにエロを書くことを拒否るのかと問いつめたい!
だから次はよっちか郁乃をおながいします。
乙〉テンダーの人
つまりあれか
このみがひろゆきちゃんなオチかw
>>351 感動のあまり泣いてしまった・・・乙です!
>>351 お疲れ様でした!
伏線が多数あったので、オチそのものは皆さんおおむねわかっていただろうけど、
他のレスから見ても、そうした予想をも超えて、きれいに終わったと思います。
今はただ「いいSSが読めた」という喜びと、「終わっちゃった」という寂しさが。
長期連載ならでは、ですね。
機会があれば、また白(<ここ重要)このみを書いてください。待ってます。
>>351 まさか拒絶した理由がそっちとはw
エロを15禁くらいのところですりぬけてますね。
読めてた方もいらっしゃったようですが、自分は全くの盲点でしたw
次回作期待しております。
お赤飯来たー
先生!なんでタカ忘は救急戦士コンドムを買ってきたのにやらせてもらえなかったんですか!?(´Д`)
坊やだからさ
乙です!(まあ未遂とはいえ)ラストで幸せな2人が見れて良かった〜。(*´ー`)
やっぱりタカ坊&このみがベストカップルですな。
次回作も期待してますよ!
超乙です
感動しましたぁ(ry
これからも頑張って下さい
あらすじ〜
食べ過ぎた食事休憩をしているとふいに訪れたこのみの思いがけない行動に
パニックを起こしながら長風呂をしてしまった俺。早々に寝ようとしたところで
二人が俺の部屋で寝ると言い出したからさぁ大変。
結局断る事も出来ずに俺たち3人は狭いベッドの中、川の字で寝ることになったのだった。
明日はちゃるちゃん、よっちちゃんも来るって言うしどうなるんだか…はぁ
「…貴明、何でこんな所に寝てるの?」
「お前が言うか、お前が」
朝になり、ミルファがリビングへやってくるとソファーで寝ている俺を見つけて不思議
そうな顔をして俺を起こして質問をしてきた。
そりゃそうだ。俺は確かに昨日の夜は自分の部屋で二人に挟まれた状態で寝たのだから。
理由としてはこうだ。
夜中にトイレに立った俺は用を足した後に部屋に戻ってみると二人仲良く寝ていて俺が
寝るためのスペースが無くなってしまっていたのだ。その二人の寝顔につい見入ってしま
ったが全くスペースが空く気配が無いのでしょうがなく別の部屋から掛け布団だけを持っ
てリビングで寝ていたというわけだ。
まぁそんな事を知るわけが無いのも分かるがそんなに知らない素振りをされると腹ただ
しくも思えてくる。
「お前らに寝床を奪われたんでな、ここで寝てた」
「何だ、言えばスペース空けてあげたのに。何ならあたしを抱きしめて寝ても良かったん
だよ〜?」
朝から悪戯好きな顔を見せてくる彼女に対して怒りよりも愛しさが募ってしまうのは俺
が彼女に毒されてしまっているからだろうか。
「残念ながらもうこんな時間だからな、またの機会に」
そう言って再度ソファーへと寝転ぶと俺の前にミルファがやってきて俺の顔をマジマジ
と見てきた。珍しいものでも見るかのようだ。
「どうした?」
ちゅっ
「おはようのちゅー。まだだったでしょ?」
「あ、あぁ」
何時もの事なのに場所が少し違うだけでこうも感覚が違うものなのだろうか。
彼女の何時も通りの笑顔。その笑顔も外からの陽の光を浴びて輝いて見える。
その笑顔を浮かべたまま彼女はキッチンへと行く。恐らく朝ごはんの準備をするのだろう。
「貴明、このみちゃん起こしてきて?そろそろ起きておかないといけないでしょ?」
「あぁ、そんな時間か」
時計は9時を既に回っている。二人が来るのが10時過ぎになると言っていたからそろそ
ろ起きておかないとどたばたする事になりそうだ。自分の部屋に行き、ベッドを見るとす
やすやと気持ち良さそうな顔をして熟睡をしているこのみが居る。ベッドの端に座ってこ
のみの頭を軽く撫でてやる。これじゃあ1つだけ年下のはずなのにまるで妹みたいだな。
「ん…あ、タカくん」
俺が頭を撫でてあげているのに気づいたらしく、このみが目を覚ましてきた。
「よぉ、おはよう」
「おはよぉ〜。タカくん起きるの早いでありますねぇ〜」
「バカ、もうこんな時間だ。早く起きないと二人ともきちまうぞ?」
枕元においてあった時計をこのみに見せてやると驚いた顔をみせる。まぁこの位の時間
なら元々想定内だから問題は無いだろう。
「わ!わ!急がないと!!」
「ば!バカ!」
驚いたこのみはわたわたと慌てながら上着を脱ぎ始めた。このみは全く意識していない
みたいだが兄弟みたいなものとはいえ俺の目の前で着替えられて大丈夫なわけがない。俺
は慌ててこのみが上着を脱ぎきる前にその手を止めさせる。寝ぼけているのか、このみは
まだ脱ごうとしている。
「このみ、着替えるのは俺が部屋から出るかお前が別の部屋に行くかからにしてくれ」
「え…わ!わ!ご、ごめんタカくん!!」
俺の言葉でやっと目が覚めたのか今の状況を理解したらしく、このみは再度慌てながら
上着を下ろした。
「じゃ、じゃあ俺は出てるから着替えたら降りてこいよ?」
「う、うん。分かった…」
このみが顔を赤くさせたままなるべく冷静であるように心がけながら部屋を出ると目の
前には頬をぷっくりと膨らませて不機嫌そうなミルファが待っていた。
「あ、ミルファ。ど、どうした?」
「ご飯…出来たけど降りてこないから見に来たの」
「そ、そっか。じゃあ行こうか?」
なるべく波風を立てないように言葉を返して階段へ向かおうとしたところで襟首を後ろ
からがっしりと掴まれて動けなくなってしまった。ま、まずい…
恐る恐るミルファの方に向き直すと明らかに何かを言いたげな顔をしている、というか
問いただしたいと言いたげな顔をしていらっしゃいます。
「貴明…何か言う事無いの?」
「ベ、別にやましい事はしてないぞ?このみが寝ぼけて服を脱ぎそうになったから必死に
止めたし、うん」
俺が必死に事実を述べて弁明をしようとするも、彼女の目は明らかに納得していない。
むしろ怒りの度合いがアップしているような…
そう思っているとミルファは表情を変えないまま、その手をゆっくりと俺の頬へと近づ
けてくる。動きたくても恐怖からか足が固定されたかのように動かない。
これじゃ蛇に睨まれた蛙状態である。
(動け!動け!動け!動けーー!!)
心の中でレバーを引きながらそう叫んでも俺の身体は暴走してくれるわけもなくその手
に頬をつままれてしまった。
ギニニニニッ!!!
「いだいいだいいだいいだーい!!」
「何デレデレして嬉しそうな顔しちゃってさ!」
力いっぱいに頬を抓ってくるのと同時に思いの丈を吐き出すミルファ。
どうも彼女は最近不満になるとそれをこうやって表現をしてくるみたいだ。しかし常に
こんな痛い行動で表現してもらったら俺の頬がおかしくなってしまう。
ただでさえタマ姉並みに力があるのだからそんなんで抓まれればすぐに頬が真っ赤にな
ってしまうのだ。
力いっぱい抓って満足したのか、頬から手を離すと彼女は明らかに何時もと違う足音で
不機嫌さを強調させながら階段を降りていってしまった。
「いててて…何不機嫌になってんだか…」
ミルファなりに心配もあるのだろうが、彼女は俺の女が苦手と言う事を忘れているんじ
ゃないかというのを時々感じる。雄二じゃあるまいしそんなに俺は器用じゃないし、そも
そも精神的に持つわけが無い。そもそも起こすように言ってきたのはミルファ本人だ。
俺は赤くなってジンジンと痛みを発している頬をさすって少しでも痛みを和らげながら
階段を降りていった。
リビングに行くとミルファは既に椅子に座って居た。しかし俺のほうを振り向きもせず
に俯いてブツブツと何かを言ってるみたいだった。
彼女の向かいに座って一呼吸置いてから彼女に話しかけた。
「ミルファ?機嫌直せよ。別に俺が喜んでるわけ無いだろ?未だに女の子が苦手なのは変
わってないんだしさ」
「それは分かってるけどぉ…」
分かってるけど割り切れない、そんな感じなんだろうか。
彼女の今にも泣きそうな顔を見せられると彼女に惚れているんだな、と再確認させられ
てしまう。恥ずかしさを紛らわすために頭を掻くとミルファが小さくクスッと笑ってきた。
「な、何だよ」
「貴明って…それ、癖?」
「それって?」
「何時も顔を赤くした後に頭掻いてそっぽ向くよね」
「あ、いや、これは…」
言われて気づいたが確かにそうかもしれない。恥ずかしいときにそれを紛らわす行動と
してこの仕草を俺は気づいたらよくしている気がする。
「そういうときの貴明って可愛いな☆」
「バカ。からかうんじゃないの」
「からかってないよ?あたしにとって貴明はかっこよくてぇ、可愛くてぇ、頼りになるか
と思ったら情けないところもあってぇ…」
一つ一つ俺の好きなところを上げてくれるのは嬉しいのだが褒められてるのかバカにさ
れてるのかがよく分からない。とりあえず嬉しそうに指折り数えているミルファを見てい
ると悪い気はしないのは確かだった。
「ぜーんぶ好き!けど女の子に囲まれる貴明は嫌い!」
「こっちは囲まれたりしたら心臓止まるんじゃないかってくらいに緊張してるっての…」
想像しただけでも冷や汗が出るくらい恐ろしい。
そんな会話をしている最中ミルファの顔を見るとどうやら機嫌は直ってくれたらしい。
ほっと一息ついたところでリビングのドアが開く。このみが着替えて降りてきたみたいだ。
「おはようミルファさん、タカくん」
顔を見る限り、もう寝ぼけてはいないみたいだ。
俺たちもこのみに挨拶を返すと何時もの笑顔で答えてくれた。
さっそくこのみも椅子に座って朝食を頂く事にした。
ちなみに今日の朝食はベーコンエッグとサラダとご飯。
「やっぱりミルファさんのご飯美味しい〜☆
お母さんに負けないくらい美味しいであります!」
「おぉ、このみが春夏さんと比べて褒めるってかなり凄いな。ミルファ、凄いぞ」
「えへへ…。実は春夏さんに料理教えてもらったりもしてるんだ」
「え?そうなの?」
このみが驚いた表情を見せた。俺も確かに驚いたが良く思い返してみるとそんな予兆は
所々にあった。
「道理で時々料理の味付けがこのみの家に似てるなと思ったらそういうことだったんだ。
けどそれでも十分凄いじゃないか」
「うん。春夏さんは『敵に塩を送るくらいじゃないと駄目でしょ?』って言ってたけど」
敵に塩を…春夏さんは何を企んでるんでしょうか。少し不安な気もする…
このみも俺もご飯を完食すると食休みに少しテレビを鑑賞していた。
すると予定よりも少し早めの時間に呼び鈴が鳴った。
ピンポーン
ミルファがインターフォンを取ると何やら話してるみたいだ。
受話器を置くと
「このみちゃん、二人が来たみたいだよ?」
と言い、玄関を指差した。それにこのみの顔がぱぁっと明るくなると一目散に玄関へと
走って行ってしまった。
「ちゃる!よっち!久しぶりー!!」
「おっす!このみー!って久しぶりも何も先々週あったばっかっしょ?」
「おっす…。このみも相変わらず元気そうだな」
「うん!今日もこのみは元気であります!」
玄関から実に仲の良い3人の会話が聞こえてくる。後から玄関へとのんびりと向かうと
ミルファも後ろについてくるようにしてやってきた。
玄関へと行くと緑のタヌキと黄色いキツネ…ならぬよっちちゃんとちゃるちゃんが居た。
…何かあだ名にちゃんを付けると違和感があるなぁ。
俺に気づくと二人は俺に向かってお辞儀をして挨拶をしてきてくれた。
「先輩!今日はお世話になります!」
「不束者ですが…よろしく」
「うん、まぁ親が居るわけでもないし特に気にしないでゆっくりしてってね」
「はい!で…」
よっちちゃんが俺の後ろへと視線を向ける。後ろに居るのは無論ミルファ。
そっか、二人がミルファに会うのは初めてなんだよな。
「あぁ、紹介がまだだったね。こいつがミルファ。今はうちに居るんだ」
俺の紹介に対してミルファがペコリと頭を下げるとよっちちゃんが見る見るうちに顔を
真っ赤にさせて大声を上げた。
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!??せ、先輩ってば既にど、同棲してたんすかぁ!?」
流石は年頃の女の子と言うか…勘違いもはなはだしい。
「違う違う。ミルファはメイドロボなんだ。市販機じゃなくてテスト機なんだけどね」
「HMX-17b、ミルファと申します」
改めてミルファが挨拶をして頭を下げる。
それにつられてちゃるちゃんとよっちちゃんも頭を下げると、二人はマジマジとミルフ
ァを見てきた。
「ふわぁ〜、メイドロボなんてこんなに近くで見るのは初めてっす…。
人間と変わらないっすね〜」
「あ、あの…」
間近でじろじろと見られてミルファもさすがに恥ずかしいのか顔を赤らめてオロオロと
するしかなかった。
「凄い…よっち、ついに連敗か」
「うぅ〜…た、確かに負けてるかも」
自分の胸を触ってしょぼんとするよっちちゃん。連敗って何を競ってるんだ、何を。
「とりあえずリビング行こうか。こんな所で立ち話しててもしょうがないしね」
「そっすね。じゃあお邪魔しまーす」
「お邪魔します…」
このみに連れられてリビングに行く二人、その後ろでミルファの方を見ると彼女はぽや
んとした顔で自分の胸を見ていた。
「大きくしてもらった甲斐があった…」
「何言ってんだか…」
女性は気にするものなのだろうか。軽くため息をついてからリビングへと向かった。
「それにしても先輩ってば何時の間にメイドロボなんかを手に入れられるようになったん
すか?」
リビングのソファーに座り、ミルファが淹れてくれた紅茶を飲みながら一息ついたとこ
ろでよっちちゃんが俺に質問をしてきた。まぁその質問内容は至極適切だった。ごくごく
普通の一般家庭であるうちがメイドロボなんて高嶺の花もいいところだ。それが最新型の
テスト機なんて普通に考えてありえるわけないもんな。
「このみと同じ学年の子が知り合いでね、その子との関係でミルファを預かる事になった
んだ」
「なるほど…。で、先輩はどこまでしたんだ?」
「どこまでって?」
「セックスとか」
ブーーーーーーーーー!!!!!!!
ちゃるちゃんの率直なまでの発言に思わず口に含んでいた紅茶を噴き出してしまった。
後ろで食器が落ちる音が聞こえたのを察するとミルファも今の発言をしっかりと聞いてた
らしい。こぼれた紅茶を拭きながらさりげなくキッチンの方を見ると顔を真っ赤にしなが
ら同じように片付けをしているミルファが見て取れた。
「ベ、別にそんなのしてるわけないだろ」
「そうなのか。最近のは出来ると聞いたのだが…」
「そ、そうなんだ…」
考えもしなかったけど人に限りなく近いのだからそれ位出来るのも不自然では無いのか
も知れない。逆にミルファは人間過ぎるほどに人間臭くて、逆にそれが俺がそういったふ
しだらな考えも持たせてなかったのかもしれない。
ふと隣を見ると何故かこのみが顔を赤くさせているじゃないか。
こいつも子供子供と思ってたけど色を知る年頃になったんだなぁ、と親父臭い事を思っ
たりしてみた。
「なーんだ。じゃあ先輩が女の子苦手なのは変わってないって事っすか」
続いて運ばれてきたクッキーをポリポリと頬張りながらつまらなそうにそう言ってくる
よっちちゃん。何を期待してるんだ…っていうか
「それが分かっててわざわざ家に来たの?」
「いや、別にそういう訳じゃないっすよ。このみが誘ってくれたから来ただけであって。
あ、それともうちらはお邪魔だったっすか?」
「いや、そういう訳じゃないよ」
俺が彼女の発言を否定するとそれに対して今度は別方向から突込みが入ってきた。
「嫌よ嫌よも好きの内…か。流石だな、先輩は」
「何が流石なのさ…」
この二人相手は何時も以上に疲れる。それだけは断言できた。
ほどなくしてミルファが一通りの仕事が終わったのかリビングへとやってきて俺の隣へ
と座ってきた。
「そういえばミルファさんって表情が豊かっすよね。寺女の中にもメイドロボを持ってる
って子は居て、迎えに来てたのをたま〜に遠くから見てたけどこんなに表情は豊かじゃな
かったっすよ?やっぱり新型だからなんすかね?」
流石はお嬢様の行く学校である寺女と行ったところか。メイドロボを持ってるって奴な
んて俺の学校じゃあ探しても居るかどうか…。
「えぇ、私は生みの親である珊瑚様の考案された画期的なシステムであるダイナミック・
インテリジェンス・アーキテクチャ、通称DIAというOSを搭載してますので元来のシリー
ズとは違って感情と呼ばれている物がちゃんとあるんですよ?」
「だ、だいこん…?」
ミルファの説明に対して明らかに理解してない顔つきで珊瑚ちゃんのような反応をして
くるよっちちゃん。それに対してちゃるちゃんの突込みが容赦なく入った。
「バカタヌキ。ダイナミック・インテリジェンス・アーキテクチャだ」
「そ、そんなのは分かってるに決まってるっしょアホキツネ!」
「怪しいものだ…この前だって赤点ギリギリで必死になってたくせに何を言う」
ちゃるちゃんは小馬鹿にするような視線でそう告げると紅茶を一啜り。
「きーーーーー!!!お前だって平均点ギリギリだったくせにー!!」
「赤点ギリギリとは大違いだ」
そりゃそうだ。
「あ、あははは…」
そんな二人のやりとり(喧嘩とも言う)を見ながら苦笑の表情を浮かべるこのみ。それが
気になった俺はこのみの肩を叩くと耳元で質問をしてみた。
「どうした?何かあったのか?」
「あ、ううん…。このみも今の説明良く分かってなかったから…」
まぁ寺女に行くのも大変だと中学時代に言ってたくらいだ。このみの偏差値は推して知
るべしだろう。とりあえずフォローは入れておこうか。
「あぁ、安心しろ。俺も良くわかってない」
「タカくんも分かってなかったんだ〜。なら安心であります」
フォロー成功と思いたいが安心されるのが何となく不本意な気もする。
「え゙、貴明分かって無かったの?」
同時に俺の発言に対してミルファが逆にビックリしていた。
「いや、理論とかは珊瑚ちゃんや長瀬さんに長々と説明されたけどさっぱりわからんかっ
た。所謂学習型OSって事だろ?」
「ま、まぁそうだけど…そうだよね。貴明って成績悪いもんね」
ハァ…とため息をつくとやれやれと言った表情を見せてきた。何でこいつが俺の成績を
知ってるんだろうか。
「貴明、テストの結果が悪かったからって机の奥にしまうのはよくないと思うよ?」
「お前まさか机の中漁ったのか!?」
「失礼ねぇ。漁ったんじゃなくてゴミが無いか探しただけですよーだ」
いや、それは明らかに漁ってるだろ。
俺もこのみの事は強く言えはしないが成績が別に良い訳ではない。雄二や由真には勝て
て居るが愛佳や、ましてやタマ姉なんて雲の上の存在だった。
「これじゃあお母様やお父様に何を言われるか…今度のテストはあたしがみーっちり!と
勉強を教えてさしあげますからねー☆」
実に嫌な笑顔を浮かべてくるミルファ。よもやミルファがこんな事を言ってくるなんて
思いもしなかっただけに俺の中でのダメージは計り知れなかった。
「ま…マジですか?」
「ミルファさんこのみも教えてー!」
「うん、全然おっけーよ☆」
手を取り合って嬉しそうなこのみとミルファ、そして未だにギャーギャーとカラスの喧
嘩の如く言い合ってるタヌキツネの二人。みんな昼間っから元気だなぁ…。
俺はといえばミルファのテスト勉強の実施宣言を聞いて鬱になりそうであった。
その後は昼食のミルファ特製の茄子のミートソーススパゲッティに全員で舌鼓を打った
り、トランプに興じたりとしているうちに空は日が傾いて赤く染まり始めていた。
「そういえばミルファさんに1つ質問してもいいっすか?」
「うん?」
「普通ってメイドロボは実用性重視なんだからそんなに胸は大きくする必要ないっすよ
ね?何でそんばバンッ!キュッ!ボーン!!なんすか?」
死語を使い、手でナイスボディである事を説明しながらミルファの身体の疑問について
よっちちゃんが聞いてきた。
聞かれた当の本人であるミルファは少し頬を染めてニッコリと笑いながらまた一波乱を
起こしかねない…と言うか確実に一波乱が起きる一言を口にした。
「これは貴明が胸が大きいほうが好きだって聞いたから…」
「「えぇぇぇぇーーーーー!!!」」
いやん、と身体を捩じらせて恥ずかしがるミルファと、少しからだがのけぞるくらいの
勢いでビックリとした声を上げるよっちちゃんとこのみ。ちゃるちゃんはと言うと何故か
ニヤリとほくそ笑んでいた。
「流石先輩…こんな所で欲望を発散させてるとは思わなかった…」
「発散って何さ!?」
「そんな、先輩ってば大きいのが好きなら好きって言ってくれれば良かったのに。あたし
なら全然オッケーっすよ?」
「いや、何か勘違いを…」
「やっぱりタカくんは大きいほうが好きなんだ…頑張らなきゃ」
「このみまで何を言って…」
矢継ぎ早の問題発言に対して俺もオロオロと返すしかなかった。そんな中でミルファが
今度は火に油を注ぐ発言をして来た。
「だって貴明は胸大きいほうが良いんでしょ?チラチラとあたしの胸を見てきてるの知っ
てるんだぞー☆」
「ちょっ…!?ミルファお前何を言って…!?」
いや、まぁ確かにミルファの胸に目がいってしまうことは正直ある。しかし俺だって元
気いっぱいな男子高校生だ。それぐらいしょうがないだろ?
「うひょー、先輩ってばすけべっすねー」
「やっぱり発散…」
「タカくん…」
勘弁してください…
俺はそう上に向かって呟くと空笑いをするしか無かった。
思ったよりもタヌキツネの出番が少なかったかも…けど書いてて楽しいので
また出すかもしれないです。このコンビはさりげにお気に入り(*´∀`)
そろそろ20話も近いので竜虎激突させた方が良いのかなぁとか思いつつSisterBowlの執筆に入ります。
>>351 激しく乙です!
最後までの期間にやきもきさせられましたがスッキリと終わって気持ちよかったです。
次回作も期待してるんでお早いお帰りを('∀`)ノシ
>357
つまり1をやった事のない俺が想像するに
主人公がヒロインとセクースする段になって赤飯が来ると言う蝶シナリオか。
>>379 いつもながらにGJ!
タヌキとキツネ、読んでるこっちも楽しかったです。
機会があるようならまた出してやってください。
>>380 どんなんだw
主人公が緊張しすぎて、息子が機能不全をお越したんでつ
2、3ヶ月前にアップしたSSの続編を今更投下。
自分でも前スレのどこにあるのか覚えておらず。
さて、何人覚えてくれている方がいらっしゃるだろうか。
〜あらすじ〜
いろいろあって、草壁さんはミステリ研究会に入部しました。
>>379 竜虎激突ということはミルファvsタマ姉?
でもこの2人ならむしろ馬が合いそうだからなあ。
個人的にはイルファとタマ姉の方が衝突しやすそう。
「タン タタ タタ〜タタ〜」
四月。
爽やかな風に乗って、どこからともなく、歌声が響いてきます。
「タタ〜 タ タタタタ〜」
学校の裏庭を歩く貴明君の耳にも、その歌声は届きました。
どこか懐かしい気持ちのするその歌声に誘われて。
歌声が聞こえる方向へ貴明君の足も運ばれていきます。
「タン タタ タタ〜タタ〜」
建物の角を曲がると、その歌声は一層大きく聞こえてきました。
『芝生療養の為』と書かれた柵の向こう側。
そこで、草壁さんが楽しそうに歌を歌っていました。
「タン タタ タン〜タタ〜」
ただし逆さ吊りで。
「何をやっているんだよ!!」
貴明君、そのあまりの光景に思わず叫んでしまいます。
相変わらず不意を付かれることには弱いようです。
「あ、こんにちは。貴明さん」
崩れ落ちる貴明君に対して、普段と変わる様子もなく挨拶をする草壁さんがとても対照的です。
もうどこから突っ込んで良いのか、そもそも何と声をかければいいのか。
貴明君、地面に膝をつきながら全身で苦悩を表しています。
「やっほー、たーかちゃん」
「・・・・・・笹森さん、スカートの中、少しは隠せば」
こちらも草壁さん同様、逆さ吊りにされている笹森会長。
貴明君、そろそろ諦めの境地です。
「えっ、スカートの中?」
笹森会長、視線を自分のスカートに合わせます。
逆さ吊りで、しかも全く隠そうとしないものですから、笹森会長のブルマーはとても顕わな状態です。
つまり丸見え。
「んもぅ、たかちゃんったら。いくら私の魅力に興奮したからって、こんな所じゃ人に見られるかもしれないし」
かもしれない以前に、笹森会長の隣では一緒に草壁さんが吊るされています。
「でも、たかちゃんがどおしても、って言うなら、私・・・・・・」
貴明君、鼻で笑いました。
ちなみに草壁さんのほうはしっかり手でスカートの裾を押さえています。
「たーかちゃーん! 会長侮辱罪は終身刑なんだよー!!」
笹森会長、ぶら下がったままでも腹筋を使って器用に暴れます。
吊るされて暴れる姿は。
疑似餌にひっかかったブラックバス。
「でも、草壁さん」
「はい、何ですか?」
前に後ろに右に左に振り子運動を続ける会長はとりあえず。
放置の方向で意見の一致を見たらしい草壁さんと貴明君。
「・・・・・・なにがあったの?」
貴明君のその確信を突く質問に、草壁さんも考え込んでしまいます。
「あの・・・・・・最初は会長さんだけが吊るされていたんですけど、助けようと思って近づいたら」
「OK、それ以上は言わなくていいよ。近づいたら、草壁さんまで罠にかかったんだね」
吊るされたままだと、草壁さん、肯くのも大変そうです。
「それで、貴明さん。下ろしてくださると嬉しいのですが」
「うん、わかった。今下ろすよ・・・・・・るーこっ!!」
周囲の茂みが音を立てて揺れだします。
「るーるる、るーるる、るーるーるー」
聞こえてくる、民族的なリズム。
「るーるる、るーるる、るーるーるー」
徐々にそのリズムは3人に近づいてきて。
そして現れた、両手を天に掲げた。
「べっかんこ」
「っじゃ、ないっ!!」
民族的なリズムを口にしながら茂みの中から現れたのは。
バンザーイをした女の子。
「ん? 久しぶりだな、うー。だがコレはるーの獲物だ。あげないぞ」
どうやら貴明君とは知り合いのようです。
「誰も欲しいなんて言ってない!
そもそも草壁さんは獲物じゃない!!
その前に罠を仕掛けるなと何度言えば!!!
って言うかお前、帰ったんじゃなかったのか!?」
貴明君、怒涛の突っ込みです。肩で息をしています。
「相変わらずうーは愚かだ。この間は事故でうーのことを満足に調べられなかった。
調査をやり直すのは当然だ。少し考えればわかることだぞ、うー」
あまりにも平然と言われてしまって、貴明君も二の句をつげていません。
「あの、貴明さん。こちらの方は」
代わりに口を開いたのは、呆然と2人のやり取りをしていた草壁さん。
依然吊るされたままです。
「以前うーには命を救ってもらった。代わりにうーのピンチを救ってやった。
今ではうーはうーの調査のための、貴重なサンプルの一つだ」
今の説明で貴明君と彼女の関係を理解できる人間がいるとすれば。
かなりユニークな思考形態をとる人に違いないでしょう。
「そう、なんですか・・・・・・?」
案の定草壁さんも首をかしげるだけです。
「調査ってまさか、ミステリ研究会を狙ってるって言うの!?
前々からなんとなく監視されているような気がしてたの、てっきりたかちゃんが私のことを見つめていたんだとばっかり思っていたのに。
CIA? MI6? それともフリーメーソン?
ミステリ研究会はレジデンド・オブ・サンなんかに屈しないんだからー!!」
けれど笹森会長の頭の中では、かなり壮大なストーリーが展開されているようです。
恐らく今まさに、失くした聖なる“おひつ”でもあけようとしているのでしょう。
「るぅ?」
笹森会長の暴れようには、彼女も興味を引かれたようです。
逆さ吊りの笹森会長に近づき、まじまじと見つめ。
そして一言。
「リリース」
「ぎゃんっ!!」
突然ロープが切れ、地面に落ちる笹森会長。
「肉、柔らかそうだが癖つよそう。煮ても焼いても食べられそうにない。
だからリリース。獲物はあっちのうーだけでいい」
獲物の質にはうるさいようです。
「だから草壁さんを獲物扱いするなって」
「るぅ。しかしこれだけの上物がかかるのは滅多にないことなんだぞ。
ひと月は村が潤うほどだ」
よほど惜しいのか、草壁さんのことはなかなかリリースしようとしません。
「たかちゃん、早く逃げて。やつら、たかちゃんを政府の強制キャンプに連れて行って
『世界同時革命万歳』
としか言えなくするつもりなんだよーっ!!」
こちらは落ちたときにでも打ったのか。腰をさすりながら叫ぶ笹森会長。
「うー。あの賑やかなうーは何者だ? うーのコレか?」
と言ってサムズアップ
「・・・・・・いや、意味がわからないから」
どうも彼女、笹森会長に並々ならぬ興味を抱いたようです。
突然両手を空高く掲げて。
「決めたぞ、うー。今回の調査ではあのうーをサンプルにすることにする」
彼女の突然の宣言に、貴明君も面を喰らってしまいます。
「え、いや、笹森さんならうってつけと言うか、でもあんまり一般的じゃないから、サンプルとしては不適格なような」
「だが安心するがいい。うーへの観察も継続して行ってやる。
二つのサンプルの観察などるーにはサンマを焼くより容易い。
るーは優秀な民族なのだ」
そして手を上げたまま笹森会長を振り向きます。
「聞いたとおりだ。今からお前をサンプルその2として認定する。喜んでいいぞ」
普段とっぴなことを言っては周りを唖然とさせる笹森会長も、自分が言われることにはなれていない模様です。
今言われたことを頭の中で再生して。
その上でそれがどういう意味なのかを熟考して。
ちなみにそこまでにかかった時間はおよそ3秒ほどです。
「やったよたかちゃん!
この元KGBのスパイがミステリ研究会に入部してくれるんだって!!」
なぜそう言う結論になるかは笹森会長にしか理解できませんが、とにかく大喜びで彼女に駆け寄ります。
「うーたちの観察のためなら仕方がない。うーの組織に入ってやる。
感謝しろ」
彼女もまんざらではない様子で笹森会長と握手をしています。
ですが貴明君は、まるで酢でも飲んだ様な表情。
「宇宙人の次は元女スパイ。人材も増えてきたし。
今年はミステリ研究会飛躍の年になるよ、たかちゃん!!」
もう笹森会長の中では、彼女のことは元KGBの女スパイと言うことで固定のようです。
二人肩を組んで、茂みの向こうへと行ってしまいました。
「女スパイって・・・・・・笹森さん、何がしたいんだよ」
ガクリと肩を落として、我が身に降りかかる災難に溜息しか出ない貴明君。
休み時間もそろそろ終わりですので、早く教室に戻らなくてはなりません。
挫けそうな気持ちを何とか奮い立たせ、毅然と正面を向くと
「あの、私はいつになったら下ろしてもらえるんでしょうか」
慌てて草壁さんを助け出した貴明君が、授業に遅れて大目玉を食らったことは言うまでもありません。
終
こんなんなりました。
かなり時期のはずしたアップでしたが、折角書いたんだから、誰かに読んで貰いたいジャン。
ねえ
と言うわけで失礼しました。
次があれば、もっと速く書く努力しないと。
支払ったのは鉄扇であった。
優季の直球過ぎる挨拶で雄二は嫉妬に怒り狂い、俺を絞め殺そうとした。タマ姉のアイアンクロー
にも屈しない雄二だったが、タマ姉の新技・鳩尾打ちの前には悶絶するしかなかった。
優季のことがきっかけで、いやもしかしたらそれ以前から、俺たちは学校中の噂の的になっていた
らしい。確かに見方次第じゃ、男一人が女を大勢引き連れてるハーレム状態に見えても仕方ないよな。
どうすればいいかと悩む俺に雄二は「特定の誰かとつきあってると公表すればいい」と助言してくれ
るのだが、その「誰か」を決めろと言われてもなぁ……。
更に、まずいタイミングで俺に話しかけてきたせいで、小牧さんまで噂の対象になってしまった。
無関係の小牧さんだけは何とかしたいんだけど、小牧さんが落ち込んで見えたのはそれだけが理由
じゃなさそうで……
放課後。みんなで帰ろうというときに、俺は珊瑚ちゃんから意外な話を聞いた。
「イルファさんが、故障?」
「うん、さっきいっちゃんから電話で聞いたんやけど、足の調子が悪うなったんやて」
「足の調子がって、一体何があったの?」
「タンスの角に足の小指ぶつけたんやて」
コケそうになる俺であった。タンスの角ってイルファさん、人間っぽいにも程があるよ……。
「そ、それで、具合はどうなの?」
「うん、歩くのには問題無いんやけど、ぶつけた箇所の状態エラーが出っぱなしなんやて。せやから、
研究所行っておっちゃんに診てもらうことになったんや」
「じゃあ今晩、イルファさんいないの?」
「うん、明日には戻ってくる言うてたけど……」
「そっか、じゃあさ、今晩うちに泊まっていきなよ」
「ええの?」
「勿論。なぁみんな」
俺がそう尋ねると、みんな笑顔で肯いた。そして、
「やったーーー!!! さんちゃんと一緒やーーー!!!」
感激の余り、瑠璃ちゃんは珊瑚ちゃんの胸に思いっきり飛び込んだ。
ぼすっ!
「ふわわ……」
「おっとと……」
その力の強さに敵わず、倒れようとする珊瑚ちゃんを慌てて支える俺。
「ほな今晩のご飯、ウチが作ったるよ! さんちゃん何食べたい? 何でもええよ!」
「う〜ん、そやな〜」
俺に体重を預けたまま珊瑚ちゃんはしばし考え、
「オムライス〜☆」
と答えた。
「あのトロトロのやつやで〜」
「うんうん、わかっとる!」
トロトロのオムライス、なんだそりゃ?
まぁ食べてみりゃ解るか。瑠璃ちゃんの作るものだ、さぞかしおいしいに違いない。あ、そうだ。
「小牧さんたちもよかったらどう? 晩ご飯、食べてかない?」
そう聞いた俺。だけど、
「え、えっと、ごめんなさい。今日、早く帰るって両親と約束しちゃったから……」
「約束? そんなのした……むぐ」
何か言おうとした郁乃の口を小牧さんは慌てて塞ぎ、
「じゃ、じゃあ、あたしたちこれで失礼します!」
そう言って郁乃の口を解放した小牧さんは、その口から抗議の声が出るより早く、急ぎ足で郁乃の
車椅子を押しながら帰っていった。
「……なんか小牧さん、ちょっと変だったな?」
俺が由真にそう言うと、由真は小牧さんが去った方を見ながら何か考え込み、そして、
ぽいっ。
自分の鞄を俺に放り投げてきた。
「お、おい何だよ由真」
鞄をキャッチし、俺がそう尋ねると、
「あたし、ちょっと愛佳の家に寄ってくから。たかあきたちは先に帰って」
由真はそう言い、小牧さんたちを追いかけて走っていった。
「な、何だ由真のヤツ……?」
「小牧さんのことで何か気になっているみたいね。とりあえず私たちはこのまま帰りましょう。
あ、そうだ、雄二も晩ご飯、食べていきなさい」
「瑠璃ちゃん特製オムライスかぁ。確かに食ってみたいかも。んじゃ、姉上の仰せのままに」
「ねぇねぇ、わたしも一緒にいい?」
このみが瑠璃ちゃんにそう尋ねる。
「うんええよ! こうなったら何人前でも作ったる!」
やたら上機嫌でそう答える瑠璃ちゃん。
「なぁこのみ、お前ここんとこ毎日俺の家で晩飯食べてるけど、いいのか?」
「お母さんなら了承済みだよ。それとも、このみがご飯食べに来ちゃ、タカくん迷惑?」
心配そうにこのみが聞いてくる。
「ああいやそういう意味で言ったんじゃないって。春夏さんさえOKなら俺は構わないよ」
「ならいいよね。やたー! 瑠璃ちゃんのオムライスー!」
「やたー☆」
「るー」
このみに続き、珊瑚ちゃん、おまけに何故かるーこまで一緒に「るー」のポーズ。
そんな俺たちを見て、ヒソヒソ話したり、クスクス笑ったりして通り過ぎていく他の生徒たち。
……あの、恥ずかしいんで、さっさと帰りませんか?
お泊まり用のパジャマや着替えなどを取りに、珊瑚ちゃんは一旦自分の家に帰ることになった。
「さんちゃん、ほな、ウチも手伝いに……」
瑠璃ちゃんがそう言って付いていこうとしたが、
「あかんよ瑠璃ちゃん、ウチらまだケンカ中やねんから」
瑠璃ちゃんの頭を愛おしげに撫でながら、しかし珊瑚ちゃんはそれを拒否した。
「う、うん……」
寂しげに肯く瑠璃ちゃん。
「ほな、また後でな〜」
珊瑚ちゃんは手を振りながら、自分の家へと歩いていった。
そんな珊瑚ちゃんの後ろ姿から目が離せないでいる瑠璃ちゃん。俺は彼女の肩にポンと手を置いて、
「さて、こっちも帰って夕食の準備しなくちゃ。
オムライスってことは卵使うだろ? 卵、もう残り少ないから買いに行かないとな」
「貴明……、うん、そうやね」
瑠璃ちゃんは俺を見て微笑んでくれた。よかった……、ってあいたたたたたた!?
ぎゅ〜〜〜っ!!
ゆ、優季が俺の手の甲をつねってる!?
「優季、ちょ、ちょっと何で……?」
「貴明さんと瑠璃ちゃん、今、とってもいい雰囲気でした!!」
ふくれっ面で怒る優季は、一向につねる手を弛めてくれないたたたたたたたた!!
「う、ウチ貴明といい雰囲気になんか……」
慌てて俺から離れる瑠璃ちゃん。それでも優季はつねるのを止めてくれない。もう勘弁して!
そこに救いの手を差し伸べてくれたのは、やっぱり頼れるタマ姉だった。
「もうそのくらいにしなさい優季。嫉妬ばかりしてるとタカ坊に嫌われるわよ」
「き、嫌ったりしないから優季許して……」
「わ、解りました……」
ようやく優季がつねるのを止めてくれた。はぁ、痛かった……。
「さ、それじゃあみんなで買い物に行きましょうか。
ここに男手が二人もいるし、おまけに今日はスーパーの特売日。みんな、ここで一気に買い溜め
するわよ!」
「おーっ!!」
タマ姉がスーパーのチラシをまるで旗のように掲げ、このみたちがそれに応えるように右拳を高々
と揚げる。特売と聞いた途端、彼女たちは女の子から戦士へと変わったのだ!
そしてタマ姉を先頭に、戦場への行進が始まった。
「こらーっ! 河野二等、向坂二等、遅れるなであります!」
最後尾のこのみに叱られ、やむなく俺と雄二も行進に続く。
「なぁ貴明、俺もしかして、姉貴にハメられた……?」
「ああ、メシだけに、マンマとな……」
「貴明……」
「なんだ、雄二?」
「それ、つまんねぇぞ……」
戦場でのことかい? あまり話したくねぇな。
ま、一言で言えば戦場は地獄さ。ありきたりだって? じゃあ他に何て言えばいいんだ?
あそこにいるのは全員兵士だ。売る者、買う者、みんな必死さ。
売る者が拡声器で声を荒げ、買う者がそれに群がる。そして争奪戦の始まりだ。買う者は敵を押し
のけ、ひしめき合い、そして強いヤツが品物を手に入れる。無論、弱いヤツは品物に近づくどころか、
群れにもみくちゃにされ、仕舞いにははじき出されて終わりだ。だが勿論、そんなのに手を貸すヤツ
などいない。例えそいつが、「た、助けてタカく〜ん、全然入れないよ〜」なんて助けを求めてもな。
無情だが、それが戦場でのルールってヤツだ。
ルールと言えば、戦場にはこんなルールもある。「お一人様一品限り」ってヤツだ。だがな、この
ルールにも抜け道がある。知ってるだろう? 子持ちの兵士は子供を一緒に連れて行けば、その分
余計に品物を手に入れられるってアレだよ。今回俺たちは七人で戦場に行った。だから、お一人様
一パック限りのLサイズ10個入り78円の卵を7パックも買えたのさ。戦いは数だとはよく言った
モンだ。
欲しい品物を全て手に入れても戦いはまだ終わっちゃいない。次は会計だ。ここでは少しでも早く
会計を済ませることが求められる。そのためには、各レジに並んでいる人数、そしてその連中の品物
の量を分析し、どのレジに並ぶのが一番早いかを手早く分析する頭脳が必要だ。幸いウチには頭の
回転が地球人以上のヤツがいて「このレジが一番早いぞ、並べ、うー」と指示してくれた。全く、
優秀な仲間がいて頼もしい限りだぜ。
会計を済ませ、品物を袋に入れたら、そこからは俺たち輸送部隊の独壇場だ。
安い。お得だ。まとめて買っておこう。兵士たちがそうやって手に入れた品物でぎっしりの袋を
両手いっぱいに運ぶんだ。ひたすら、基地まで運ぶんだ。汗がにじんでも、袋の取っ手が指に食い
込んでも、誰も助けちゃくれない。たまにお人よしの兵士が俺たちを見かねて「あの、私も一つ持ち
ます」なんて優しい声をかけちゃくれるが、たちまち上官から「男の仕事を取らないの。いいから
任せましょ」と咎められちまう。結局頼れるのは自分の力だけってことさ。
そうやって何とか基地までたどり着いて、冷蔵庫の前まで荷物を運び終えたら、それで俺たちの
戦いは終わりだ。中には品物の搬入まで手伝わされる輸送部隊もいるらしいが、幸いウチでは各兵士
たちがやってくれる。その点、俺たちゃまだまだ幸せなのかも知れねぇな。
おっと、話が長くなっちまった。とにかく俺が言いたいのは、戦場は地獄。これだけさ。
じゃ、ひとまずあばよ。今度は飲みながら話そうか。お一人様二本限り、1リットル入り135円
の牛乳でも飲みながら、な……。
「タマお姉ちゃん、タカくんとユウくん、動かなくなっちゃった」
「疲れてへばってるんでしょ。あの程度で情けないわね。いいから放っておきなさい」
気が付くと、珊瑚ちゃんがいて、由真も戻ってきており、晩ご飯の仕度もすっかり整っていた。
「あ、タカくんおはよう」
「遅ぇぞ貴明。こっちはお前が目を覚ますのをずっと待ってたんだぜ」
見ると、俺以外の全員、テーブルの席に座って俺を待っていた様子。
「何言ってるのよ雄二。あんただってついさっき目が覚めたばかりじゃない」
「ぐ……、と、とにかく、貴明もさっさと席に着けよ」
雄二にせかされ、俺は自分の席に着いた。
「さて、それじゃみんな、食べましょうか」
「うん、いただきます!」
さて、それじゃあ瑠璃ちゃんが作ったオムライスを……、ん、なんだこのオムライス?
普通オムライスって、チキンライスを卵焼きでくるんだものだよな。だけどこれ、チキンライスの
上に、オムレツが乗ってる?
「あのな貴明、これは、こうやって食べるんやで」
珊瑚ちゃんはそう言うと、スプーンでオムレツを横に割り、オムレツを広げた。すると、オムレツ
の中の半熟卵がチキンライス一面にトロトロと広がっていく。そうか、これが「トロトロ」なのか!
俺も珊瑚ちゃんを真似て、オムレツを広げる。そしてまんべんなく広げきったところでオムライス
をスプーンで一口。――うん、うまい!! 半熟卵とチキンライスの見事なコンビネーション!!
「うまいよ瑠璃ちゃん!!」
「せやろ〜、これ、瑠璃ちゃんの自慢メニューの一つやねんで〜☆」
「ま、まぁそう言うてもパクリやねんけどな。前にTVでコレ見たさんちゃんが食べてみたい言うた
からマネして作ってみたんや」
「TVで見ただけ!? それって凄いよ瑠璃ちゃん!」
「これってあの有名な洋食屋さんのオムライスですよね。私、一度食べたことあるんですけど、アレ
と同じか、それ以上においしいですよ」
「このふわふわトロトロ加減最高! 瑠璃ちゃんってタマゴ名人かも!」
このみ、優季、花梨が賞賛の声を挙げる。相変わらず人に誉められるのに慣れていない瑠璃ちゃん
はそれに対し、「ぱ、パクリやもん……」と呟いて照れている。そして花梨の「瑠璃ちゃんはタマゴ
名人」というフレーズが気に入ったらしい珊瑚ちゃんは、
「わーい、瑠璃ちゃんはタマゴ名人や〜☆ マスターオブエッグや〜☆」
と、手を挙げて喜んでいる。
「普通のオムライスよりもこっちの方がおいしいわね。私も挑戦してみようかしら」
「同じオムライスでも、御飯堂のオムライスとは大違いだな。卵の使い方はこちらの方が断然上だ。
るーも是非覚えたいぞ」
おお、タマ姉とるーこも誉めてるぞ。
「うまい、うまいよこれ! やっぱ男は黙ってオムライスだよな!」
なら黙って食え雄二。ってかワケがわからん。
そうやってみんなが瑠璃ちゃんのオムライスに魅了されている中、難しい顔をしているのが一人。
「どうした由真?」
「……え? たかあき、何?」
「いや、全然食べてないけどどうした? オムライス、嫌いか?」
「う、ううん、そんなことない。いただきます」
そう言って由真もオムライスを口にする。どうしたんだろう? 何か考え事してたみたいだけど、
もしかして小牧さんのことか?
「なぁ由真、小牧さんの家で何かあったのか?」
俺がそう尋ねると、由真は何故か俺をじとっと睨んだ。
「な、何だよ……」
しかし、
「……まぁ、こいつだけの問題じゃないし」
そう呟くと俺を睨むのを止め、由真は黙々とオムライスを食べ始めた。
「な、なぁ、何なんだよ……」
そう尋ねても、由真は何も教えてくれなかった。
食事が終わり、このみと雄二が家に帰り、さてもう寝る時間。
「わーい、ウチ今夜は瑠璃ちゃんと一緒や〜」
珊瑚ちゃんは瑠璃ちゃんと一緒のベッドで寝るとのこと。身体の小さい二人なら、シングルベッド
でも大丈夫だろう。
みんなが二階に上がり、今には俺一人。さて、寝ますか。
また今夜も昨晩みたいに誰かが来るかな……。ひょっとしたら、由真が小牧さんのことで相談しに
来るかも……、いや、そんなことないか。何か俺、ちょっと思い上がってるかも。
……ん? いまかすかにだけど、上から何か物音が聞こえたぞ。どうも足音、それも複数っぽい。
どうしたんだろう、一体?
つづく。
どうもです。第28話です。
タマ姉好き好きな俺の日曜朝8時30分は「ゾイドジェネシス」大確定なのですが、俺の友達は
みんなプリキュアばかり……・゚・(つД`)・゚・
あ、またTH2と関係ない話題……、声優さん繋がりでご勘弁を。
>>351 Tender Heart完結、超乙です!!
貴明とこのみらしい優しい終わり方で、とてもよかったっす!( ^ー゚)b
次回作、期待してもいいっすか?
>>407 乙です、リアルタイムで読ませてもらいました
委員ちょとの問題を貴明がどうクリアしていくのかが楽しみです。
ゾイドジェネシスは俺も見てますよ (・∀・)人(・∀・)ナカーマ
コトナのゾイド搭乗時の前屈みはヤバイと思います。
>>396 絵本調(?)の文章ってのも、なかなか味があっていいですね。
次の投稿もぜひ、こちらへ。待ってますよ〜!
>>407 今度は珊瑚ちゃんまで連れ込んでますなぁ。
さすが貴明、素晴らしいほどの無自覚行動ですね。
ではまた来週!
おおお、河野家
くっ、今回は進展少ないな…次回に期待。ヲフヲフ言いながら待ってますね。
>>407 乙です、正直トラブルもなく貴明に関わりにくい愛佳は厳しいですね
いつの間にか各自の問題を解決することなく河野家に居座るのが
当然かのような空気が楽しく萌えるところが「河野家にようこそ」の魅力だと思います
なんというか、このまま永遠に楽しい時間が過ごせる様な気がします
これからも執筆頑張ってください
>>407 ちょっと遅くなったけど、河野家喜多ーーー!!
「トロトロ」のオムライスって、たいめいけんのタンポポオムライスでしたっけ?
図書館で以前子供向けに借りてきた本に載ってたのですが
実際に食べてみたくなりましたw
つか、写真でも十分美味しそうだったのに、あれより美味しいのか!
瑠璃ちゃん、恐るべし^^;
では、また来週続きをお待ちしております。
ところでそろそろエロSSが大量投下されてもいい頃合いなんじゃないか?
切実に。
よし書く。どんなんが良い?
河野家乙ゥ。
戦場での回想ディオガワロス
>>396 逆さ吊りで歌う草壁さん想像するとシュールだw
ささらSSキボンヌ
それはきついだろw
さららが河野家に来るのはいつですか?
素で間違えた・・・
ささらですよね。
このみとそれなりに恋愛関係になりつつ、
千夏さんと不倫してそれがこのみにばれてとんでもない修羅場展開なSSキボンヌ
千夏…?春夏さんか?('A`)
愛佳とそれなりに恋愛関係になりつつ、
由真と不倫してそれが郁乃にばれてとんでもない修羅場展開なSSキボンヌ
なんかSS書庫さんが復帰してるぽい。
ささらって誰?
個人的にはゲンジ丸×タマ姉な感じでおながいします。
新キャラなんて心からどうでもいいんだから
よっちをシナリオにお願いください出してね!頼むよマジホントに。
しかし、イルファ&ミルファの人気をあえてスルーして新キャラとは
いや、そう思わせて実は隠しシナリオとか……無いか・゚・(ノД`)
なんでPC版新ヒロインが郁乃じゃないんだorz
>>428 学園ラブコメにならないから
個人的にドSなタマ姉に飼われるSSキボンヌ
郁乃キタ━━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━━!!!!
次は郁乃18禁→小牧姉妹ドンブリのコンボか。
どんぶりって最高ですやん。
その次はよっち→よっち18禁→よっちゃるで3Pのフィニッシュブローをキボンヌ。
ヒマだったら柚原親子のドンブリもたのんます。
どんぶりって最高ですやん。
どんぶりって最高ですやん。
どんぶりって最高ですやん。
>>430 なんでそんなに上手いの?
もうたまらんです。雰囲気が原作にすごい似てるし、なによりキャラが生き生き
してます。
長くなりそうな雰囲気ですが、むしろ長引かして!w
郁乃SS・・・
今すぐ読んで次の更新まで悶えるか、
このまま禁欲を通して完結してから一気に読むかで
相当悩んでる俺がいる
郁乃キタ━━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━━!!!!
ジャンクションキタ━━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━━!!!!
もうGJGJGJです、夜中だというのにお疲れ様です。
/::://:::! /-=、 ,// u / _,,.-ゝ. 「ヽ l ! , l (ネタバレなので伏せます)……
/::_;イ-‐=レ'==ミ" '∠-==ヽl=ヽlヽ レ'レV
/::::::::..、 o ,≡:::::::〈、 o , :|│ リ ' (ネタバレなので伏せます)……
::::::::::::::::: ` ー--‐ '´三 :::::::::ヽ`::ー-‐:'.´ |│ l
::::::::::::::: ニニ ::::::::::::::ヽ::::::::: U |│ ! この二つの符号が意味するものは
:::::::::::::::U  ̄ ̄ U::::::::::::::::ヽ::: u |│ .l
:::::::::::::::: U r‐:::::::::::::::::::::ヽ. Lノ | ひとつ……!
雄二……ファイト
九話で貴明が風邪ひいて休むのって、誰かのシナリオに入ったということ?
誰のシナリオだろ?
>>435 GJです。
しかし・・・その展開は・・・おおぉぉ。
>>435 乙っす。
…もしかして、やっちまったのかタカ棒?
いや、きっと習字の練習をしてる最中にヨーグルトを食ってて
うっかり墨汁とヨーグルトをこぼしちゃったんだろう。
落ちてる毛は毛筆の毛。
恐ろしいほどちぢれていたとしても
>>441は同じことが言えるのかッ!
とまあ虹ほどには破綻してないが、ジャンクションもキャラきつくなってきたな
勢いがあるから違和感が薄まってはいるけど、本編という土台があるとは思えん…
特にこのみとか、台詞だけ見てたら何のキャラかわかんねーや
貴明のようなヘタレに女を抱く度胸なんてねーよ
雄二が女だったらとかいう妄想が頭を離れません。
助けてください。
>>442 自分にとって都合の良い想像ばかりしてないで、少しは現実を見ろ。
瑠璃は生えてない!!
448 :
幸福の腕輪:2005/10/23(日) 04:32:12 ID:enLSsL9T0
突然電波を受信して書きたくなった。30分で書いてみた。
「タカくん、おはよう」
「おはようこのみ、ん、その腕輪どうしたんだ?」
俺はいつも通りこのみを一緒に学校に行くよう誘った、だけどこのみの腕には昨日までは見なかった腕輪がはめられていた。
「これ?これはね、『幸福の腕輪』っていうんだよ、持ってる人のお願いを叶えてくれるんだって」
登校中にこのみが説明してくれた。なんでも「アンティークショップ『ミザリィ』」という店で購入した腕輪らしい。
『幸福の腕輪』という名前だが骸骨を主体とした装飾はおどろおどろしい、とても幸運を招くようなデザインじゃない。
だけど幸せいっぱいの笑顔のこのみに「そんな気味の悪い腕輪捨てたほうがいいよ」なんて言えなかった。
俺は代わりに。
「このみはその『幸福の腕輪』に何をお願いしたんだ?」
と聞いた。
「このみはね、『タカくんとずっと一緒にいられますように』ってお願いしたんだよ」
449 :
幸福の腕輪:2005/10/23(日) 04:32:47 ID:enLSsL9T0
三日後、由真の様子がおかしくなった。今までのように突っかからなくなり眼鏡をかけて無口になった。
由真と友達の愛佳に聞くと「急に家の仕事を継ぐことを決めたみたいです」と教えてくれた。
一週間後、俺をミステリ研に無理矢理入部させた笹森さんが入院した。
何でも一人でクラブ活動中(本人は『賢者の石』の作成と主張した)に発生させた塩素ガスに気づかず重態に陥ったらしい。
職員会議でミステリ研は廃部となった。
十日後、るーこが公園からいなくなった。先生の話によると都合により急に転校するとのことだった。
黒服に連れて行かれたのか、るーに戻れたのか……結局るーこが本当に宇宙人なのかどうかもわからなかった。
二週間後、瑠璃ちゃんと珊瑚ちゃんが学校に来なくなった。
何でも珊瑚ちゃんが作ったメイドロボと折り合いがつかなくて瑠璃ちゃんが精神病を患ったらしい。
結局瑠璃ちゃんも珊瑚ちゃんも海外の両親の元に行き、メイドロボは研究所に引き取られることとなったとのことだ。
瑠璃ちゃんと珊瑚ちゃんが転校して数日後、今度は小牧さんが転校することになった。
何でも家族の病気が思わしくなく専門の施設に入れることになり。
それについて行かなければならなくなったとのことだ。
三週間後、タマ姉が九条院に戻った。雄二の話によるとタマ姉を慕っていた三人の女の子が
タマ姉が九条院に戻らないならと集団自殺をしたらしい。
結局未遂に終わったが流石にタマ姉も無視できなくなりしぶしぶ九条院に戻ったとのことだ。
一ヵ月後、珍しく朝時間に余裕があり新聞に目を通してから学校へ行くことにした。
新聞にはこの学校に転校してきた「草壁優季」という少女が転校初日からトラックにひかれて
意識不明の重態という記事が掲載されていた。
顔写真を見るとどこか見覚えがあったような気もするが……他人の空似だろう。
新聞を畳み、家を出る。いつものようにこのみを誘って学校へ出かける。
「えへ〜、タカくん、今日も一緒だね」
このみは今日も幸せいっぱいの笑顔だった。
ブ……ブラック乙。
しかし首を突っ込んでなきゃ、せいぜいタマに気を遣う程度の話でしかないという罠。
黄色→一件落着
UMA→ライバル死す
姫百合→接点ほぼ無し
るーこ→ほぼ他人
小牧→それほど親しくない
タマ姉→雄二と共に、晴れて自由の身。
知らぬが仏とはまさしくこのことか。
飛行機が落ちるオチじゃないのか?
>>448 ブラックなSS乙です。
アウターゾーン…ひい(((((( ;゚Д゚)))))
このみが物理的手段に訴えてライバルを排除する話があったりするが、
そんな事しなくても再起不能(リタイヤ)フラグはゲーム中でも満載だったよな…
実際、そんなフラグがないのはこのみくらいだったりする。
いい電波ですね^^;
面白かったです。GJ!
>>448 懐かしくてJCS版引っ張り出して来ちゃったじゃないか
そういえば、旧痕にもアウターゾーンネタがあったな。
ピピピピ ピピピピ
今日も電子音が現実へと引き戻す。
しかし引き戻された現実は何時もと少し違っていた。
「…ん?」
暗い。
そして暖かい。
でもってやわらかい…。
目覚めて間もないエンジンもかかりきっていない脳を回転させ、そのいつもと違う状況
の原因を突き止めようと努力を始めた。
「んん……」
頭の上のほうから聞こえてくるくぐもった声。
それは何時も聞いているあの子の声。それを聞けただけで俺は現状を理解するのには十
分だった。
どうやら俺は何時の間にかミルファに抱きしめられて寝ていたみたいだ。というか最早
これはボディピローになっていると言った方が良いのかもしれない。
現状を理解したところでそこから開放されようともがいてみる。
「ふぬっ…ふぬぬぬっ…」
動けない。
ちなみに詳しく説明をするとミルファの胸に俺が埋もれているような状態になっており、
彼女の腕は俺の頭を包んでいる状態だ。
で、そこから離れようと体を捻り、捩り、もがいているのだがびくともしない。
何とか手だけは動くので目覚まし時計は止められたのだが、目覚ましが鳴ってるという
事はそろそろ起きないといけない時間であるというわけで…。
正直この感触を味わっているのは幸せではあるのだがこれで遅刻をしたんじゃタマ姉に
何を言われるかわかったもんじゃない。
動く腕を使ってミルファを起こそうと何度もミルファの体を揺らしてみる。
「んぁ……」
「ミルファー…起きてくれー」
「あ…貴明。おはよー☆」
何度か揺らしたところでやっと彼女は起きてくれた。そして解放されると陽の光をやっ
と目で感じることができた。もっとも今日の天気はイマイチみたいで良い日差しとはいえ
ないみたいだけど。
そんな事とは関係なくミルファの笑顔は何時でも何処でも寝起きでも快晴のようである。
「おはよう…。ところで、もうこんな時間だけど?」
まだ少し寝ぼけてる様子のミルファに目覚まし時計を見せて時間を知らせてあげる。
ミルファは目を擦ってから時計をまじまじと見つめて時間を確認すると寝ぼけ眼がすぐ
さま見開かれて驚きを見せてきた。
「あーーーーーーー!!!!ご、ごめん!寝過ごしちゃったー!!ご飯すぐ作るね!!」
「あ、あぁ…」
慌てた表情で彼女はバッと布団から出てベッドを降りると、そのまま自慢の長い髪の毛
を振り乱して部屋を出て行ってしまった。
「朝から忙しいやつだねぇ…」
やれやれと言った感じで軽くため息をついてから静かになった部屋でゆっくりと服に着
替える。改めて時計を見ると、元々早めにいつも起きていたからかこの時間でも幾分余裕
はあるみたいだ。
着替え終わったところで1階へと降りていくとワタワタとキッチンの中を歩き回って
色々と準備をしているミルファがいた。服装は起きたままのパジャマ姿、髪も縛らない
状態であるのをみると学校に行かなければ行けない俺以上に慌ててるみたいだ。
「おい、ミルファ〜。そんなに慌てなくても大丈夫だぞ〜」
ミルファを落ち着かせるためにキッチンを覗いて彼女に話しかけると今にも泣きそうな
顔でこっちを見てきた。う…可愛い。
「だって…だってぇ……」
「とりあえずはパンと紅茶用意してくれればいいから…な?」
そのミルファの表情についドキッとしてしまっている自分を落ち着かせてから明らかに
パニック状態に陥っているミルファの頭を撫でてやり、何とか彼女を落ち着かせると今日
は軽めの朝食を用意してもらうこととなった。
というわけで今日は目玉焼きとソーセージ、そしてトーストとダージリンティー。
実にオーソドックスな朝食だ。まぁ俺としては食べれるだけでも嬉しいなわけで、これ
だけでもあの短時間で作ったと考えるのなら十分どころか十二分である。
俺が食事をしている最中もしょげたままのミルファに「こんな時もあるし、俺も怒って
ないから大丈夫だよ」と俺なりに慰めてあげるも、彼女のしょげた状態は結局俺が家を出
る直前になるまで変わらなかった。
その動作、表情たるやまるで叱られた犬そのものだった。むしろゲンジ丸の方が憮然と
してるくらいだ。
「ごめんなさい…」
「ほら…だから気にするなって、今日の朝食も十分美味しかったし。夕飯、楽しみにして
るからな?」
「うん…いってらっしゃい…」
俯いたまま目を伏せた状態にして哀しそうな顔を見せてくるミルファ。別に俺が怒って
るわけでもないのにここまでしょぼんとされているとこっちも困ってしまう。
家を出る直前になってもいつものキスのおねだりをしてこない彼女に対してどうしてや
るべきなんだか…
「ほら、ミルファ。顔上げて…?」
「ん…!?」
彼女が目は伏せたまま顔をあげたところでその唇にいってきますのキスをしてあげる。
いつもしてきてくれてるんだからこんな時位はしてあげないと情けないだろう。
まぁ…仮にも彼氏であるわけだし。
そんな彼女の目は驚きを示していた。
「た、貴明…」
「いってきます!」
「い、いってらっしゃい」
笑顔とまではいかないが、嬉しそうな顔をしてるのを見る限り少しはミルファの機嫌も
直ってくれたのかな?
恥ずかしさを何とか我慢しながらも家を出た。
結局時間は何時も通りで、これまた何時も通りにこのみが寝坊して少し遅れながらもタ
マ姉と雄二に合流した。タマ姉は俺に気づくと、すぐさま俺にタックル…いや、飛び掛っ
て…いや、近づいてきた。
「タカ坊おっはよー☆」
「ぐえぇ…タマ姉くるぢい…」
朝から早々にタマ姉のさば折…ならぬ抱きしめ攻撃にあって窒息しそうになってしまう。
苦しめられながらも何時もの事であるせいか自分にも余裕がある。そんな訳で不謹慎なが
らもタマ姉とミルファの胸の大きさは同じぐらいなんだろうか…とか考えてしまった。
「もぅ、日曜日に会えなかった分タマお姉ちゃん寂しかったんだからおとなしくしなさい!」
いや、おとなしくしてたら窒息死してしまいます…。
で、何とかタマ姉から解放されたとしてもその後で瑠璃ちゃん、珊瑚ちゃんと合流した
らしたで珊瑚ちゃんが抱きついてきてそれに対して怒った瑠璃ちゃんが俺を攻撃してくる
訳だけど、それの相手をするのも疲れるのだ。
別にストレスを感じるわけでもないし嫌という訳でもないのだが疲れるのは確かだ。
まぁ雄二にこんな愚痴が言えるわけがないけど…
「はぁ…」
タマ姉と瑠璃、珊瑚ちゃんがくっついてくるという状態から解放され、自分の席に着い
てから雄二の方を見て小さくため息をついたところで雄二が文句を言ってきた。
「何だよ、俺を見てため息なんかつくなよな」
「別に…。あ、そうだ。今日の昼飯は弁当無いから学食でも行こうぜ」
「何ぃ!?作ってもらえると思って俺は今日も楽しみに来たのに未だに弁当無しかよ!?
俺は何のために今日一日頑張ればいいんだぁー!!」
よもやこんなにも雄二が落胆するとは思わなかったな…。あまりにもショックだったの
か雄二は頭を抱えた後、机へ突っ伏してしまった。
「しょうがないんだって。ミルファの奴、今日は寝坊して弁当作る暇も無かったんだから
さぁ」
「まぁそれならしょうがないけどよぉ…。今日一日のやる気が削がれたぜ…」
「お前が学校に来てやる気があるのを見た試しがないんだがな」
「お前だって授業中はボーっとしてるか寝てる癖に何を言ってやがる!!」
「俺より頭の悪いお前に言われたくない!!」
ガラガラッ
「お前らさっさと席に着けー」
先生が教室に入ってくることによってその場は納まったが、結局雄二は授業中も殆ど寝
ているような状態だった。
昼休みになり、教室には弁当を用意して食べる人、購買でパンを買って食べる人、学食
に行くために既に居ない人などでまばらな状態になっている。そんな中、外を見ると空は
どんよりと曇り、何時雨が降ってもおかしくない天候になってきていた。
こりゃ帰る頃には一雨きそうだな…。
学食に着き、カレーうどんをすすりながら雄二に天気のことを聞いてみることにした。
「なぁ雄二、今日の天気予報って雨の予報だったか?」
「ん?あぁ、雨は降るから傘は持ってった方がいいってのは言ってたな。何だ、お前持っ
てきてないのか?」
そう言いながら雄二は肉の薄いカツカレーを食う。しかし何で学食の肉類はこんなにも
貧相なんだろうか…。これならハムカツカレーとでも名前を変えたほうが適切なくらいだ。
「雨かぁ…朝急いでて天気予報も見てなかったから分からなかったんだよ」
「そりゃご愁傷様。言っとくけど傘はかさねぇからな。よもやお前と仲良く相合傘なんて
考えただけでも恐ろしい…。あーやだやだ。
まぁ、お前のことだから?姉貴とかこのみとか瑠璃ちゃん、珊瑚ちゃんとでも相合傘で
もよろしくやればいいんじゃねーの?」
皮肉っぽく言ってくる雄二は俺がそういった恥ずかしいことは大の苦手というのは無論
分かって言ってるのだろう。
「そんな事できるわけないだろ…しょうがない。雨が降らないのを祈っておくかぁ」
「じゃあ俺は逆さ照る照る坊主でも作っとくわ」
「作ってたらそれをもれなくお前の口の中に詰めてやるから覚悟しとけよ」
「へーい」
ザーッ
俺の願いなど何処吹く風、案の定雨はしっかりと降っている。でもって降りの強さは
強め。どうやら俺にずぶぬれになって帰れと言う事らしい。
「残念だったな、貴明♪」
「雄二…何でそんなに嬉しそうなんだ?」
「べっつに〜?ただお前に天罰でも当たればと思ってたから神様に感謝したいくらいだ
ぜ。それじゃあ俺は先に帰るからがんばれやー」
嬉しそうな顔で手のひらをヒラヒラとさせて雄二は教室を出て行ってしまった。
全く…雄二の言い分も分かるが何とも友達甲斐の無い奴だ。最もここで「俺の傘に入れ
てやるよ」と天変地異でもひっくり返りかねないことを言われても喜んで断るけど。
どうすることも出来ず、雨が少しでも弱くなってくれるのを待つためにのんびりと外を
眺めていると
「貴明くん…傘、無いんですか?」
「あぁ、まぁね」
愛佳が何時もならすぐ帰る俺が帰らないのが気になったのか、はたまた雄二との会話を
聞いてたのかは分からないが心配して聞いてきてくれた。
「じゃあ良かったら私の貸しますよ?傘なら郁乃も持ってきてるし大丈夫だから」
「あー…いや、大丈夫だよ。走ればそんなに距離があるわけじゃないし、帰ったらすぐに
風呂に入れば良いだけだから。心配してくれてありがとね。」
「そうですかぁ?なら良いですけど…。風邪引かないようにしてくださいね」
「ありがと。それじゃあね。あ、良かったらまた家に来てよ。ミルファも楽しみにしてる
と思うからさ」
「はい、時間が出来たら郁乃と行きますね。それじゃあまた明日」
俺が心遣いに感謝の言葉を返すと愛佳も笑顔で返してくれた。何だかんだで心配してく
れるのは嬉しい限りだ。もっともそれで傘なんか借りたら借りたで恥ずかしいし、よもや
相合傘をする事にもしなったらとか、それでミルファに問い詰められたりしたら大変な事
になりそうなのを想像すると借りることなんか出来なかった。
とりあえず下駄箱のところまで着てみるも雨足はそんなに変わっていない。
「こりゃ走って帰るしかないかな…」
諦めながら外へと向かうと人だかりが出来ている。
何か事件でもあったかな?
退屈な学校生活ではこういった刺激があるのも良いもんだ。野次馬根性を出した俺はそ
の人だかりの方へと歩き、人の頭と頭の合間からそのみんなの視線の先へと目をやる。
どうやら人が居るみたいだけど制服とは違う…って
「あ、貴明〜☆」
これだけの人だかりの中でよく俺のことが分かるもんだ。と、感心していても仕方が無
い。すぐさま人を掻き分けて何故か学校に居るミルファの元へと行くと、彼女のその手に
は傘が握られていた。
「はい、傘。今日持っていって無かったでしょ?」
「あぁ…うん。ありがとう」
彼女の普通の態度につい何時も通りに返してしまったがここが学校なのだ。
もちろん周りには野次馬という名のギャラリーが居るわけで、そしてミルファは耳のセ
ンサーでメイドロボというのはすぐに分かるし、そのメイドロボもこんな学校の生徒では
持っている人間はいやしない。
いわゆる高級品なのだから珍しがって見るのは当然のことだ。フェラーリ等の所謂スー
パーカーを見つけてつい見つめてしまう心理とそう大して変わらないのだろう。俺自身だ
ってミルファが来る前までは商店街等でメイドロボを見たらつい目で追ってしまっていた。
ふと我に返って耳を澄ませると俺がメイドロボを持っているという事に対して周り
からひそひそと話し声が聞こえてくるのが分かった。
「あれって河野くんだよね?」
「うん。彼の家ってお金持ちだったんだぁ?」
「知らなかったなぁ〜。だからあんなに何時も女の子が周りに居るのかなぁ?」
「あー、そうかもねぇー。噂に聞く限りだと1年生から3年生まで全学年に怪しい関係の子
が居るらしいよ?」
「うそぉ〜?河野くんって女の子苦手じゃなかったんだ〜」
…勘弁してください。
どうやら根も葉もない…とは言わないけどずいぶんと飛躍した噂話が広まっているらし
い。こりゃ早々に立ち去らないとまた妙な噂が出来てしまう…俺は平穏な学校生活がした
いだけなのに…。
俺はとりあえずこの場から逃げるようにしてミルファを引っ張って学校を出ることにした。
「はぁ…はぁ…とりあえずここまでくれば良いかな」
「貴明…手…」
顔を赤くしているミルファの一言に気づいて手を見ると必死だったので気にしては居な
かったが俺の手は彼女の手をしっかりと握って居たのだ。
「あ、ご、ごめん…」
「ううん…後傘も…」
「え?あぁ、傘ありがとうな」
「じゃなくて、あたしも傘持ってたんだけど…その」
そう言う彼女の手を見ると開いていない傘が1つ。ちなみに俺は傘を開いていて、彼女
を引っ張っていたのだから、つまりは俺が散々恥ずかしくて無理と言っていた相合傘をし
ているわけで。
「あ!慌てててさ…気づかなかった」
「ううん、構わないけど…。このまま家まで一緒にかえろ?」
俺の傘を握っている腕にぎゅっとつかまってきて見せてくれたその笑顔は何時ものにこ
やかな笑顔だった。朝のしょげてた状態からはどうやら立ち直ってくれたみたいで、それ
だけでも学校に来てしまった事など忘れてしまった。
…?そういえば学校に着たんだよな、こいつ。
「なぁ、ミルファ。何で学校来たんだ?」
「お昼過ぎに洗濯物を取り込んでたら雨が降りそうだったから。その時に貴明が傘もって
行かなかったの思い出したから傘もってきちゃった」
えへへー、と照れながら言うミルファに対して怒る気も起きなかった。それどころか何
時でも俺のことを心配してくれていることが嬉しくなってしまう。
雨が降ってる分少し肌寒いのだが顔は寒いどころか熱いくらいだ。胸の奥からも暖かさ
がこみ上げてきている気がする。相合傘ってこんなに緊張するもんなんだな…。
ミルファに視線を合わせるとまた顔が赤くなってしまいそうだったので少し遠くを、足
元の水溜りを何となく眺めながらミルファが今日見たニュースの事を話してくれるので聞
いていたら一つの疑問が浮かんだ。
「なぁ、ミルファ。お前学校に入るときに警備員さんか先生に止められなかったのか?」
このご時勢だから学校も部外者に対しては結構ピリピリしているところがある。ミルフ
ァみたいな部外者がきたら止められるのが当たり前何だけど…
「止められたよ。けどあたしがメイドロボなのが分かるとあっさり通してくれた」
意外と適当なのかもしれないな、この学校。
まぁメイドロボなら悪意を働くことはないし問題ないと見て通したのかもしれない。も
しくは珊瑚ちゃんの事で何か規制が甘いのか…まぁそんな事は気にしないでおくか。
雨でしかも相合傘のせいか、何時もよりも歩く速度が遅い気がする。まぁこんな雨の日
にのんびりと歩くのもやぶさかじゃないしミルファも嬉しそうだから良いのかもしれない。
結局、何時もよりも少し遅い時間になっての帰宅となった。
「ふぅー、傘さしてても流石に濡れたなぁ」
家の中に入って傘を畳むも足の部分は水が撥ねてきて濡れてしまっている状態だ。服も
ずぶ濡れではないが湿ってしまっている感じがする。
まぁ干しておけば大丈夫だと思うけど。
「ならお風呂入る?体冷したら風邪引いちゃうもんね」
「じゃあ頼もうかな。とりあえず制服干さないといけないから着替えてくるな」
ミルファにお湯を溜めるのをお願いして、俺は部屋へと向かった。部屋着に着替えてい
るときに別に風呂に入らなくてもシャワーで十分だな、と思った俺は風呂場に行ってミル
ファにシャワーで構わないことを告げるために脱衣所の扉を開けた。
「え…?」
脱衣所にはミルファが居た。
しかしその姿は何時もの服では無くて、ピンク色の下着姿だった。ふくよかなその胸を
包んでいるブラジャーを脱ごうと後ろのフックを外しかけたままこっちを向いた状態で固
まったままになってしまった。
「あ、えっと…ご、ごめん!!」
「…あぅ」
バタン!!
ミルファが何も言えないのか口をパクパクさせたまま顔を真っ赤にしているのがわかる。
そんな彼女から目を逸らし、急いで身体を180度転進させると脱衣所のドアを閉めた。
失礼な話ながらミルファの裸を見たことはあるので慌てる事はないのかもしれないが
慣れるわけが無いし、しかも突然のハプニングとなれば尚更だ。
心臓がドクドクと脈を打って興奮状態であるのが嫌でも分かる。顔は熱いくらいだ。
脱衣所のドアを背にしてそこに座ると深呼吸をして冷静になれ、と自分に言い聞かせた。
「貴明、もう大丈夫だよ」
「あぁ…ごめんな、ノックしなかった俺が悪い」
「もぉ〜…デリカシー無いんだからぁ」
脱衣所のドアが開き、風呂場から流れてくる暖かい風が廊下へと流れ出てきた。
出てきたミルファを見ると何時もの服とは違う部屋着になっていた。
座ってる状態で上を向くと服の中が見えそうになって慌てて俯くと後ろから抱きしめら
れてしまった。背中に柔らかい感触を感じて心臓がバクバクとまた鳴り始めてしまった。
背中に感じる限りはま、まさかノーブラじゃあ…
「ミルファ?」
「貴明…今日学校いっちゃって迷惑だった?あたしね、朝失敗しちゃったからどっかで挽
回したいなって思ってたんだ。そしたら雨が降ってきたから貴明に良い所見せようと思っ
て…」
思った以上にミルファは落ち込んでたみたいだ。俺が怒ってるわけでもないのに必死に
なってくれるんだから…こんな健気な事されて嬉しくないわけ無いじゃないか。
「ばーか。迷惑なわけ無いだろ?来てくれてなかったらずぶぬれで帰ることになってたん
だからさ、嬉しかったよ。久々だな、雨の帰り道が楽しかったのは」
後ろから抱き着いているミルファの頭に手を当てて撫でてやると抱きついてくる力が少
し強くなった気がした。
「貴明…大好き〜☆」
チュッチュッ☆
嬉しいのか俺の頬に何度もキスをしてきてくれる彼女についこそばゆい感じがしてしま
う。何度もしてくる途中で顔をミルファのほうに向けると丁度ミルファの唇に俺の頬では
なく唇が触れる。
「んっ…」
体が冷えた中、唇からはミルファの温もりが感じられる。
外では雨の音が今も鳴り続けている。
その音はこの静かな家の中では心地良い音になっていた。
他キャラとの絡みを書くことがやたらと多かった気がして
ミルファとの二人っきり中心でラヴラヴさせたれーと思って書いてみました。
雨の日に相合傘なんてしたことねーよ(つA`)バカー
>>468 いつもGJです!最近二人っきりのラブラブシーンがなかったので、
興奮してしまいました〜。
次回も楽しみにしてますよ〜
>>468 乙です\('A`)人('A`)ノナカーマ
機会はあっても恥ずかしくてできなかった俺はたかあきなんでしょうか…
たかあき以下ですねw
まぁ、もうそんな機会すらないんだけどさ
>>648 乙! 賑やかなのもいいけど、やっぱり二人きりが好きだなぁ。
相合傘? 高校の時に信号待ちの間だけだったけど傘に入れてもらった事あるよ。
好きな女の子だったからすげぇ嬉しかった。
その子は今、家庭持ち妊娠中だけどな_| ̄|○
こんばんは、河野貴明です。
突然ですが大ピンチです。誰か助けてください。
「貴明、ちゃんと肩まで浸からないと風邪ひくで」
「あ、うん」
「こ、こっち寄るなこのスケベーっ!」
具体的に何がピンチかと言うと
お 風 呂 は い っ て ま す 。
珊瑚ちゃん瑠璃ちゃんと一緒に。
「ご、ごめん」
「瑠璃ちゃん、いじわる言ったらアカンで〜。ちゃんとお風呂に浸からないと貴明風邪ひ
くやんか」
「貴明なんか風邪ひいて、のたれ死ねばええんや」
珊瑚ちゃんの家のお風呂、我が家のバスルームなんか比べ物にならないくらい広くて、
浴槽も2回りは大きいんだけど。
けどさすがに、3人も湯船に浸かっていれば体のどこかは触れ合ってしまうわけで。
肩まで浸かろうものなら、そりゃもうばっちりしっかり珊瑚ちゃん瑠璃ちゃんの肌のぬ
くもりが伝わってきて。
「お、俺はこれでいいよ。ほら、よくテレビでも半身浴が体にいいって言ってるだろ?」
「あかんて。お風呂はきちんと肩まで浸かるもんや」
うわ うわ うわ、か、肩を掴まないで。
さ、珊瑚ちゃん、立ち上がろうとしないで。
見えちゃう〜
「さんちゃんにベタベタ触るな、このへんたい貴明!!」
「触ってないったら!」
むしろ触られているのはこっちな訳で。
やめて、珊瑚ちゃんやめて、そんなところ触るのは・・・・・・あっ、あっ、あっ
「おれもうあがるよさんごちゃんもるりちゃんもゆっくりはいってて」
これ以上は本当にヤバイ。
なにがヤバイってお風呂以外のもので今にものぼせ上がりそうなことがヤバイ。
早く頭に上った血を冷まさないと、こ、このままじゃ本当に。
「えー、つまらんなぁ。お風呂はもっとゆっくりはいるもんやで」
つまらないっておっしゃられても珊瑚ちゃん。
あなたはここに一匹のケダモノを生み出すことをご所望ですか!?
「あー、そや〜。なあ、貴明。それじゃあ最後にいっこだけお願いがあるんやけど」
「お、お願い?」
それは何でございますでしょうか。できるだけ、できるだけ手早く簡単な物で。
「背中の洗いっこ〜」
「洗いっ゛!?」
「こっち向くなすけべーっ!」
瑠璃ちゃんの水しぶき攻撃が顔面をヒット。
慌てて壁を向くけど・・・・・・ちょっとだけ、見えちゃった・・・・・・
「あかんよさんちゃん。貴明にそんなことさせたら、さんちゃん襲われてしまうで」
「貴明、ウチのこと襲うん?」
「襲わないよ」
でもこっちの理性が残っているうちに、早くここから避難させて。
「ほら、貴明もこう言ってるで。だから洗いっこや〜」
「貴明の言うことなんて信用したらあかん。気を許すと骨までしゃぶられてしまうで」
いや、そんな悪徳サラ金業者じゃないんだから。
「ん〜、それじゃあウチが貴明の背中洗ったる。それなら問題なしや」
いや、それほとんど変わってないからって、いま後ろでザバーって音がしたザバーっ
て。
「貴明こっちむくな」
思いっきり首を縦に振ります。とてもじゃないですが、いま後ろを振り向く度胸はあ
りません。
ああ、ペタペタとタイルの上を歩く珊瑚ちゃんの足音が。
「貴明、座ってくれんと背中洗えんやん」
「あうぅ、さんちゃんー」
これは、もう観念しろと言うことなんでしょうか神様。
たのむ。持ってくれ、俺の理性。
「貴明の背中、おっきいけど肌スベスベやー。たまねーちゃんが触りたがるのも無理
ないわ」
背中を石鹸の付いたタオルが、珊瑚ちゃんの細い指が!!
うわ うわ! うわ!!
「なあー、瑠璃ちゃんも触ってみん? 貴明の背中、すべすべしてて気持ちええで〜」
「い、いらん。ウチは結構や」
ににんがしーにさんがはちーにごーじゅーにろくじゅうにーにはちじゅうしー
「そうなん? こんなに気持ちええのに、もったいないなぁ」
ろくごよんじゅうろくしちはちじゅうごぉっ゛!?
珊瑚ちゃん、背中に当たってるどこ当ててるの当たってるぅっ!!
「さ、珊瑚ちゃん止めてっ・・・・・・あ」
「さんちゃんあかんて・・・・・・え?」
慌てて振り向いたものだから、慌てて立ち上がった瑠璃ちゃんの、可愛らしい二つ
のふくらみが・・・・・・
「瑠璃ちゃん、大胆やなぁ」
・・・・・・えーっと・・・・・・いつものお約束としてこの次は
「このっ、ごーかんまーっ!!」
目の前を一瞬黒い影が横切ったかと思うと、顔面全体に鈍い衝撃が。
ああ、意識が遠ざかる。
瑠璃ちゃん、ありがとう。これで本物の強姦魔にはならなくてすみそうだよ。
でも、でもね、珊瑚ちゃんも瑠璃ちゃんも。
次からはお願いだから俺がお風呂にいるときは、入ってこないで貰えると助かるな。
終
こんなんなりました。
例の画像みてたら書きたくなりました。
ええ、あと一月半、必死に我慢しますとも。
まだXRATED買おうか悩んでる俺を誰か導いて(´・ω・`)
>>480 シューティングとパズルのミニゲームが付いてるらしいので買うといい
っと言ってみる
よっちのエロがある(と信じてる)ので買うといい
黄色がいなくなる(理想だが)ので買うといい。
>>468 たまには2人でしっぽり・・・か。イイ!素晴らしい!GJ!
やっぱりミルファの愛らしさあってこそ。2人の世界はどこまでも!
>>480 GJ!
瑠璃ちゃん、裸で蹴りを放つと全部見えちゃいますよ・・・
>477
>ににんがしーにさんがはちーにごーじゅーにろくじゅうにーにはちじゅうしー
貴明、コレでも聞いて落ち着け。 つ【ろりぱらッ! Tr08】
>>468 毎週投下おつ
ところで、何度も気になっているんだが
ミルファの行動に統一感がない気がするんだ
今回でいえば今朝方はどたばたしていたにも関わらず傘を持っていかなかったことをちゃんと見ているのに
迎えにいく前に風呂の準備をしていかないというのは、気が回るのか回らないのか
他にも貴明を抱き枕にして寝たりキスはたくさんするのに下着姿を見られるのはNGというのも
スキンシップのすごさに比べての恥じらい度が高すぎるような。
どういうキャラなのかいまいちつかめない。
と、読んでいて感じた。
細かいところには気が回るけど、肝心な部分は抜けている。
積極的なときは積極だけど、受け手に回るとウブ。
テラカワイス
みっちゃんは間抜けなくらいでちょうどいい
出来るメイドさんはいっちゃんだけで十分
イルファさんが足の故障で研究所に戻り、明日まで帰らないと珊瑚ちゃんから聞いた俺は、珊瑚
ちゃんを俺の家に泊めることにした。それに大喜びしたのは勿論瑠璃ちゃんで、珊瑚ちゃんのリク
エストに応え、特製のオムライスを作ってくれることになった。
せっかくだからと小牧さんたちも夕食に誘ったのだが、親との約束で早く帰らなければならない
と断られてしまった。そんな小牧さんを見て何かを感じた由真は、鞄を俺に預けて小牧さんの後を
追っていった。
このみ、雄二も夕食を食べていくことになり、みんなでスーパーへ。そこで俺は戦場という名の
地獄を味わった。
瑠璃ちゃん特製オムライスは、誰もが認める美味だった。しかし由真は難しい顔。どうも小牧さん
の家で何かあったみたいなんだけど、由真は何も教えてくれなかった。
夜。さあ寝ようかと思ったとき、二階から複数の足音が聞こえた。何だろう?
俺は身動きせず、耳をすます。
足音は……うーん、二人以上の人数だってのは解ったんだけど、何人が、どこから、どこに行った
のかまでは解らない。階段を下りる音も聞こえてこないし、少なくともこっちに来るわけではない
ようだな。
……まあ、いいか。考えてみれば足音くらいでいちいち気にする必要もないワケで。夕食時の由真
の態度が気になったせいか、ちょっとナーバスになってたのかも、俺。さ、もう寝よ。
翌朝。みんなは特に変わった様子も無く、いつものように朝食を食べ、学校へ。
このみと雄二、それと校門で待っていた小牧さんと郁乃も特に変わった様子は無い。
昨日の小牧さんの様子が心に引っかかっていたものの、今朝の小牧さんは普段通りで、だから俺も
何も聞かなかった。まあ人間、機嫌のいい日も悪い日もあるってことなのかな、などと考えて。
そして昼休み。いつものようにみんなで屋上へ。
タマ姉が作った弁当はいつもうまいなぁ、と感動しつつ味わっていたとき、
「たかあき」
「ん、何だ由真?」
「今日の晩ご飯、愛佳たちも呼んだから」
「へぇそうなんだ。あ、もしかして昨日由真が小牧さんの家に行ったのって、その約束をするため
なのか?」
「まあ、そんなトコかな。とにかく、そういうことで」
「他のみんなには聞かないのか?」
「ああ、環さんたちには昨日話したから」
あ、昨日の足音はそういうことだったのか。それなら夜中じゃなくても、夕食のときにでも話して
くれたらよかったのに。全く、変に勘ぐっちゃったじゃないか。
「ちなみに、今晩の夕食はあたしと愛佳が作るから、楽しみにしているように」
「へぇ、小牧さんが作ってくれるのか。楽しみだな、何作るの小牧さん?」
「え、えっと、それは出来てからのお楽しみということで……。
あ、で、でもあんまり期待しないでくださいね。あたし、環さんやるーこちゃん程上手じゃない
ですから……」
小牧さんはケンキョだなぁ。でも小牧さんの料理の腕はるーこが認めるくらいだからな。きっと
おいしい料理を作ってくれるに違いない。
「いやいや、期待してますよ小牧さん。うん、楽しみ楽しみ」
「こ、河野君そんな……」
ピシッ!
「あたっ!?」
不意に、由真からデコピン食らった。
「あのさたかあき、あ・た・しと愛佳が作るんだからね」
「は、はい……、期待してます由真さん」
「ふん……付け足しで言われたって嬉しくないわよ」
不機嫌そうにそっぽを向く由真。
「全く、素直じゃないんだから由真は」
そんな由真を見てタマ姉が微笑む。ってあれ?
「タマ姉、今気付いたんだけど、由真のことを『由真さん』じゃなくて『由真』って呼び捨てで呼ん
だよな?」
「ええ、昨日由真から言われたのよ。『他のみんなと同じように自分も呼び捨てで』って」
成る程ね。後から来た花梨や優季が名前の呼び捨てになったのに、自分だけ「さん」付けで呼ば
れるのが気になったワケだ。
「このみと雄二も今晩、また食べていきなさい」
「今晩もいいの? やたー!」
「今晩もか? まぁ俺も委員ちょの料理には興味があるからいいけどな」
「だから、あたしと愛佳だって言ってるでしょうが、このバカ雄二!」
「な、何だと!? 何でお前にバカ呼ばわりされにゃならんのだ!?」
「バカだからバカって言ったのよバカ雄二!
全く、アンタみたいなバカが環さんの実の弟だなんて、未だに信じられないわ」
「ば、ば、バカって、計5回もバカって言いががったな! このバカ由真!」
「バカにバカ呼ばわりされたくないわよバカ雄二!」
「ま、またバカって言いやがって、何様のつもりだバカ由真!」
なんか低レベルの口喧嘩が始まってしまった。二人とも小学生かよ。
そこでふと気が付く。由真のヤツ、雄二のこと名前で呼んでるな。いつの間にそんなに親しく?
……ああ、そうか。雄二はタマ姉の弟だから、まあ感覚的には俺が小牧さんの妹の郁乃を名前で呼ぶ
のと似たようなものか。
まあこの二人は放っておこう。その内タマ姉が収めてくれるだろ。それよりも……
「珊瑚ちゃんは、どうかな?」
イルファさんが研究所から戻ってくるのは今日だ。夕食はやはりイルファさんが作るのか、それ
とも……
「さっき電話で聞いたらな、戻ってくるの遅うなるんやて……」
「そっか。それなら珊瑚ちゃんも食べていきなよ。いいだろ小牧さん?」
「え? ええ、あたしなら構いませんよ」
「ホンマ? やた〜☆」
「今日もさんちゃんと一緒の晩ご飯! ウチも嬉しいー!」
両手を揚げて喜ぶ珊瑚ちゃんと、その珊瑚ちゃんに抱きついて喜ぶ瑠璃ちゃん。
「これで夕食は全員集合、ですね」
「だね。ここにいる全員だから、ええと……12人! なんか凄いね!」
優季と花梨も嬉しそうだ。
「でもこれだけの人数となると、さすがに全員キッチンのテーブルでってのは無理だな。何人かは
居間のテーブルで食べてもらわないと」
昨日の夕食だって総勢9人。一つのテーブルに全員はかなり狭かった。おまけにイスの数が1脚
足りなかったので、2脚のイスをくっつけて、身体の小さいこのみと姫百合姉妹の3人をそこに座ら
せるなんて工夫までしたのだ。でも12人となると、最早食べる場所を分ける以外手はない。まあ
キッチンと居間なら会話も出来る距離だし、後は面子をどう割り振るかってところだな。
なんて俺が考えていたその時、
「二人ともいい加減にしなさい!」
ゴンッ! ゴンッ!
「あ痛っ!?」
「いった〜い!?」
いつまでも口喧嘩を止めない雄二と由真に、タマ姉の裁きの鉄槌が下された。二人ともゲンコツを
食らった頭を痛そうに抱えている。
「た、タマ姉、由真まで殴ったのかよ」
「そうよ。喧嘩両成敗。ちゃんと手加減したから心配ないわよ」
「全然手加減してないですよ環さ〜ん。すっごい痛かったです〜」
目に涙を浮かべて由真が訴える。
「全くだよ。姉貴はいつもやり過ぎなんだよ。暴力反対!」
「暴力じゃなくて愛のムチよ。とにかく、これに懲りたら二度と口喧嘩しないこと。いいわね」
「「はい……」」
ハモって答えた雄二と由真。でもまたするだろうな、どっちも懲りない性格だし。
そして放課後。昨日散々買い物したので、今日は真っ直ぐ家に帰る。
家に着き、着替えを済ませると、由真と小牧さんは夕食の仕度に取りかかった。他の連中は居間で
TVを見たり雑談したり。
「そういえばさ」
俺は、車椅子を降りて床に座っている郁乃に話しかける。
「何よ?」
「ここに遊びに来るの、郁乃的にはどうなのよ?」
「別に。あたしは姉について来てるだけだから」
相変わらず醒めた台詞だ。
「そっか、そりゃちょっと残念だな。ここに来れば友達も出来るかと期待してたんだが」
「あ、それならタカくん……」
「こ、こらこのみ!」
何か言おうとしたこのみを郁乃が慌てて制する。
「何だ?」
「な、何でもないわよ。余計なこと言わないでよね……」
ぶつくさ言いながらも一安心と言った感じの郁乃。だが伏兵がいた。
「あのな貴明、ウチら4人、もう仲良しさんなんやで〜☆」
郁乃、このみ、瑠璃ちゃん、最後に自分を指さす珊瑚ちゃん。
「さ、珊瑚!?」
へぇ、そうだったんだ。そう言えば4人とも同学年だものな。
「ウチと瑠璃ちゃんが同じクラスで、その隣のクラスにこのみと郁乃がおるんや。せやから合同授業
のときとか、一緒にべんきょーしたりしてるんやで」
「珊瑚! 貴明には言うなって……」
「電話番号も教えっこしたから、電話で話したりもしてるんや。ウチホンマはみんなでチャットした
いんやけど、このみも郁乃もPC持ってない言うし、郁乃はモニタ見るのもしんどい言うてるけど、
液晶にフィルター付ければ目も疲れへんから、その内ウチの余ったパーツで……」
「うぁあ、珊瑚もう言わないでったら〜!」
何が恥ずかしいのか、顔が真っ赤の郁乃。
「別に恥ずかしがることなんて無いだろ。友達が出来てよかったじゃないか」
「うう……、あ、あんたの思惑通りなのが気に食わないのよ」
「いや俺何もしてないし。せいぜいこの家がきっかけってくらいだろ?
まあ何にせよ、このみや珊瑚ちゃんたちと仲良くしてやってくれよ。あ、こうやって俺がいちいち
口出しするから気になるのか? いや、悪い悪い。じゃあ今の発言ナシで」
「な、なんかムカつく……」
郁乃とこのみたちが友達か。よかったよかった。
「出来ましたー」
小牧さんと由真が、キッチンと居間のテーブルに料理を並べる。さて、その料理とは……
「クリームシチューの中に……、これ、ロールキャベツ?」
「はい、ロールキャベツシチューです」
へぇ、こういう組み合わせもあるんだ。初めて知った。
初めて見る料理に期待しつつ、俺は居間のテーブルに着いた。他のみんなもキッチンと居間に分か
れて席に着く。結局、キッチンにはタマ姉、由真、花梨、珊瑚ちゃん、瑠璃ちゃん、雄二の6人が
着き、居間にはこのみ、小牧さん、郁乃、るーこ、優季、それに俺の6人と、丁度半分ずつ分かれた。
「さて、それじゃ冷めないうちに、いただき……」
「ちょっと待って」
由真は席から立ち上がり、コホンと小さく咳払い。そして、
「食事の前に、ここで重大発表があります」
「重大発表?」
「ここに集まっているのは、それぞれの事情で河野家に住み着いた人、及びその関係者です。
それぞれの事情と言いましたが、それがここまで時期的に重なり、その結果これだけの人が一つの
場所に集まってしまったのは、ある種奇跡と言えるのではないでしょうか。まぁこの奇跡については、
この家の現在の管理人の女性遍歴が少なからず影響しているという声もありますが、それはここでは
言及せずにおきましょう。
あたしたちの中には、この家に住んだのがきっかけで知り合ったという人同士もいます。中には、
その出会いで何かを得た人もいると思います。え〜、昔から『縁は異なもの』と申しまして……」
「前置きが長いよ由真ちゃ〜ん、結婚式のスピーチじゃないんだから」
「わ、わかってるわよ花梨!
えー、つまり何が言いたいかというと、あたしはこの素敵な出会いをカタチにしたいと思いついた
次第で、要はあたしたちで、グループを結成しましょうということなのです」
へ、グループ?
「何だよグループって? 街に出て歌でも歌うのか?」
「うっさいバカ雄二! 黙って聞け!
グループって言っても別に何か活動するってワケじゃなくて、今この場にいるあたしたち全員が
一つの集団なんだって言う意識を持ちましょうってことなのよ。
例えば、悩みを相談するとか力を借りるとかって、他人にはなかなか頼めないことじゃない。でも
自分には、相談できる、力になってくれる仲間がいる。その代わり自分も、仲間が悩んだり困ったり
していたら助けてあげる。そういうグループになりましょうってことなの」
「グループかぁ……。あ、でもグループってことは、規則とかがあったりするの?」
「よくぞ聞いてくれましたこのみちゃん! 勿論、グループ内の規則はあります。だけどその規則は
至ってシンプル! この三つだけ!」
由真はどこから取り出したのか、巻紙をバッと広げた。そこに墨で書かれていたのは……
河野家メンバーズ規則
一.メンバーは互いを尊重し、助け合うこと。
二.メンバーズの存在は第三者に口外しないこと。
三.メンバーは名前で呼び合うこと。(一部のメンバーのみ、独自の呼び方を許す)
「なぁ由真、この『河野家メンバーズ』って……」
「グループの名前」
なんのヒネリもない、そのまんまじゃないか。……ま、いいけどさ。
「ちなみにこの案、愛佳、郁乃ちゃん、このみちゃん、それにたかあきと雄二以外の全員からは、
昨日の晩に賛成してもらってます。つまりこの案、既に多数決で過半数超えてるんだよね。
さて聞きますけど、たかあきたちはこの案、賛成しますか? しなくても可決だけど」
そう言われるとどうしようもないじゃん。他の連中も諦めたのか、誰も反対とは言わなかった。
「じゃあ満場一致で可決と言うことで、では早速たかあき、愛佳のこと、名前で呼んでみて」
「……え?」
「え? じゃないわよ。規則第三項に則って、愛佳を名前で呼べって言ってるの。ホラ、呼んで」
「い、いや、いきなりそんなこと言われても……」
「出来ないの? それじゃ環さん、やっちゃってください」
「仕方がない……、タカ坊、容赦しないわよ」
タマ姉が指をポキポキ鳴らしながら俺に近づいてくる。
「ちょ、ちょっと待て! タマ姉は俺に何する気なんだよ!?」
「たかあき、規則書ちゃんと読まなかったの? ホラここ」
由真が規則書の一点を指さす。そこには、鉛筆で小さくこう書いてあった。
規則に反したら、アイアンクローの刑☆
つ、つまりここで小牧さんのことを名前で呼ばないと俺、アイアンクローの餌食かよ!? じょ、
冗談じゃない!
「わ、わかったから待ってタマ姉! そう言うワケだからゴメンね小牧さん、じゃなかった……」
俺は小牧さんを見て、気を落ちつかせるために深呼吸を一回。そして……
「……ま、愛佳」
「ひゃ、ひゃい!?」
たちまち小牧さんの顔が真っ赤になる。
「ホラ愛佳、アンタもよ」
由真に促され、真っ赤な顔で小牧さん、いや愛佳は、ささやくような小さな声で、
「……た、たかあきくん」
そう呼ばれ、俺は自分の顔がかあっと熱くなるのを感じた。思わず顔を下に向ける。
多分俺と同じで赤面したままなんだろうな。そう思って俺は上目遣いに愛佳を見る。やっぱり愛佳
は真っ赤な顔で……、それでも、愛佳は微笑んでいた。
「愛佳」
顔を上げ、愛佳を見ながらもう一度呼んでみる。愛佳は赤い顔のまま、俺を見て嬉しそうに答えた。
「たかあきくん」
ちなみにシチューはすっかり冷めちゃったので温め直して食べました。とってもうまかったです。
翌日。学校での休み時間。
何となくボケーッとしていたところに、愛佳が一枚のプリントを手にやって来て、
「たかあきくーん、これ、花梨ちゃんがたかあきくんに渡してって」
その途端、クラス中の視線が一斉に俺に集中し、
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「たかあきくん!?」」」」」」」」」」」」」」」」」」
「ねぇ今の聞いた? 委員ちょ、河野君のこと名前で呼んだよね」
「ああ確かに聞いた。やっぱマジだったんだな。委員ちょ、河野とつきあってたのか」
「つきあってるっていうか、河野ハーレムの一員なんだろ?」
「みんなの委員ちょにまで手を出すとは、ハーレム河野、許すまじ!!」
や、ヤバイ、クラスのみんなの視線から、殺意すら感じる……。
「あ、ああっ!? ち、違うの、今のは間違いなの! 河野君、河野君なんだってばぁ〜!!」
つづく。
どうもです。第29話です。
今回はどーしても9ページにまとめきれず、1ページ増量しちゃいました。
PC版の新キャラ、久寿川ささら嬢、ツンデレ感がたまらんですな(w
俺的には、タカ坊を巡ってタマ姉と争う展開なんか期待しちゃいます。
ああ、発売日が待ち遠しいなぁ。(*´д`)
>>501 激しくGJ!
いいんちょと名前で呼び合うようになりましたか。
やばい、最後辺りとか読んでてニヤニヤが止まらんw
>久寿川ささら嬢
クーデレなんて言葉も出てきたなあ。
よっち&ちゃるがタヌキとキツネ、タマ姉が猫なら、
この娘は動物に例えたら何になるんだろう…
>>501 GJ!としか言いようがない。これからも期待してます。
>>501 河野家喜多ーーー!!!
何というか、由真も損な性格ですねw
しかし、「メンバーズの存在は第三者に口外しないこと」って、、
既に周りにはバレバレのようなんですが、メンバーズの名前が違うだけで^^;
何にせよ、委員ちょかわいすぎです!
ハーレム河野
なんかツボだわw
>>500 ん? ちょっと待てよ。
花梨が委員ちょ経由で貴明に渡すプリントって、、、何だ?
どうも、ロクでもない方向にしか、想像がいかない^^;
507 :
名無しさんだよもん:2005/10/24(月) 22:59:37 ID:uZsj7krH0
>>502 >久寿川ささら嬢
俺的にはカリカリ手を噛んでくるハムスターのイメージ
アグレッシブないいんちょ…みたいな
>>501 委員ちょも良いけど、やっぱり由真が良い!
出遅れ気味の委員ちょを引き込むための行動。
あぁ、素晴らしいやねぇ。
>508 素直クールのこと? 素直クールってなんか響きが変じゃない?オレだけか?
>
>>510 二面性のないクールキャラのことじゃない?
素クール
→素でクール(=デフォクール)
ダディクール思い出しちゃったじゃないか……
ささら嬢はクーデレじゃないのか?
そんな用語あんのかwww
きもい造語だな
まったくだ
捻りない、語呂微妙、性格を区分分けしてる時点でナンセンス、いかにもオタクっぽい
ツンデレは良くてクーデレはダメなのかよ
おまいら、いいかげんスレ違いですよ、と。
下校途中の何時もの帰り道。
普通なら家に直行するかゲーセンにでも寄るんだけどその日は確か何時も買ってる漫画
の新刊が出てるのを思い出した俺は商店街にある本屋へと向かった。
「まさかこんなに出てるとは…」
最近本屋に行ってなかったせいか目当ての本以外にも新刊が出ていてついつい散財して
しまった。これじゃあ今週末は家に居ることになりそうだな。
そのまま商店街から家へと帰ろうとした所でふとスーパーの方に目を向けるとそこに入
っていく見慣れた後姿を見つけた。その後姿を追ってスーパーの中に入り追いつくと俺は
その子の後ろから肩を叩いた。
「よっ、ミルファ」
「あ、ご主人様…」
いきなり肩を叩かれたのに一瞬びくっとするも俺だとわかったのか、ミルファは俺の方
を見るとふぅとため息をついた。
「なぁ、ミルファ。いい加減俺のことをご主人様って呼ぶの止めない?」
彼女たっての希望で俺の家に来て専属のメイドになってくれたのは助かるし嬉しかった。
しかしうちに来てからと言うもの彼女は俺の事を「ご主人様」と呼ぶ。俺としてはそん
な堅苦しい呼び方はしてもらいたくなかったから名前で呼んでくれと言ったのだが彼女が
頑として認めなかったので結局ずっとこの調子だ。
仕事は出来るしまったく問題は無いんだけどこれじゃあこっちが疲れちゃうよ。
「ご主人様はご主人様です。私にご主人様をお名前で呼ぶ資格はありません」
「うーん、俺は別にご主人だとか思ってないんだけどなぁ」
「私はメイドロボです。そしてご主人である貴明様に仕えてるのですからそう呼ぶのは当然です」
そう言いながらミルファはカートを押しながらそこに今晩の材料を入れていく。
珊瑚ちゃんは
『みっちゃんは貴明の専属のメイドになるって意気込んでたで〜☆』
って言ってたけど本当なのかなぁ?まぁミルファ自身が俺のところで働きたいと言って
くれたのは確かなんだけどこれじゃあどことなく寂しいものがある。
イルファさんとはてんで大違いだな、こりゃ。
「ご主人様は何故ここにいらしたのですか?」
彼女が今日の夕飯のメインディッシュなのか魚の鮮度を吟味しながら俺に質問をしてきた。
「本屋に用事があってね。で、買い物が終わったときにたまたま店に入ってくるミルファ
を見かけたからさ、追っかけてきた」
「そうですか…」
買う魚を決めたのか、籠に魚のパックを入れるとさっきよりも少し足を速めて次へとい
ってしまう。あれ?今、ミルファの顔赤くなって無かったかな?
イルファさんは良く顔を赤らめてるのを見たことはあったがミルファと会ってから彼女
が顔を赤らめることなんて記憶に無かった。気のせいだろうか。そのままミルファと並ん
で話をしながら買い物をし、買ったものを袋に詰めるとそそくさと彼女は袋を持って店の
外へと出てしまった。
「なぁ、ミルファ。片方持つよ」
彼女の両手には女性が持つには重そうな大きさの袋が握られている。メイドロボなのだ
から重さなど意にも介さないのだろうが仮にも女性だ。それを黙って見てられるほど俺は
ものの理解をしている人間じゃない。
まぁお人よしとか言われるのかもしれないけどな。
「結構です」
その彼女の一言が俺に重くのしかかる。
予想はしていたけれどもこうもあっさりとNOと言われるといささか凹んでしまう。
商店街を出て人通りが少なくなったところで俺はもう一度ミルファに聞いてみた。
「なぁ、持たせてくれよ。これじゃあ俺の思う通りに行かなくて困るんだよ」
困る、という俺の発言に対してミルファが疑問を浮かべた表情をしてきた。
恐らく荷物を持つ作業を俺に託さないと何故俺が困るのかが演算しても理解できないようだ。
「何でご主人様が困るんですか?」
「いいから。はい、渡して」
「はぁ…」
納得は出来ないようだが俺の言葉を断りきれずにしぶしぶ俺に荷物の片方を渡してくれた。
ギュッ
「ご、ご主人様?」
「こうしたかったんだ。駄目かな?」
「い、いいぇ…。全然問題ないです…」
俺に荷物を渡すことによって空いたミルファの手をぎゅっと握ってあげる。
俺の家に居て俺の身の回りの世話をしてくれる彼女に何かお礼みたいなものがしたくて、
それと何となくだけれどこの夕焼けに染まっているこの帰り道を彼女と手を握って帰って
みたくて…と、そうしたかった理由はいたって単純だった。
俯いてしまった彼女の方を見てみるも逆光のせいと夕焼けの赤さで彼女の表情を窺い知
ることは出来ないがまぁ怒ってないみたいだから問題ないか。
俺は変わらずのスピードで歩いていたつもりだったのだが、少しずつミルファが後ろに
くるようになってきてしまった。彼女の歩くスピードが遅くなったのだろうか。少し気に
なった俺は彼女に聞いてみた。
「ミルファ?どうした?」
「ゆっくり…少しだけゆっくり帰りませんか?」
「ん?あぁ、構わないよ」
特に何を話すわけでもなく、時々聞こえてくる子供の声と通り過ぎる車の音以外は静か
な道を二人でゆっくりと歩く。
俺の少し後方にミルファが居る状態なのだが彼女はその存在をハッキリと教えるように
俺の手をしっかりと、ギュッと握ってきてくれていた。
「貴明…様」
「ん!?ミルファ、今俺の事名前で呼んだ?」
「はい…い、いけませんでしたか?」
「いいや、凄い嬉しいよ」
今まで望んでいた事がやっと叶った。俺の家に居る限りは俺の家族も同然なんだ。そん
な彼女に名前で呼んでもらえたのが俺は嬉しかった。
「赤いな」
「え?わ、わ、私がですか?」
俺の一言に対してわたわたと急に慌てるミルファ。何時もは沈着冷静な彼女の慌てっぷ
りについ吹いてしまった。
「ぷっ、違うよ。空。良い夕日だなと思ってね。にしてもミルファが慌てるのなんて初め
て見たなぁ〜」
「笑わないでください…」
俺がミルファを軽くからかうと彼女は不満そうな声をあげつつも再度俺の手を強く握っ
てくる。それに俺も彼女のその小さい手を握り返してあげた。
何となく少し熱い気がするけど…ずっと握ってるせいかな。
そのまま俺は今日あった事を話しながら足を進める。彼女はそれに対して何時もどおり
の相槌を打ってくる。さっきは何時もと違う部分を見せてくれたけどやっぱりミルファは
何時も通りみたいだ。
歩いていれば家には着く。
何時もよりものんびり歩いたせいだろうか日はほとんど沈み、少し暗くなり始めた頃に
やっと家に着いた。
玄関に入り、手を離そうと俺が彼女の手を握っていた力を緩めたところで彼女は逆に一
層強い力で俺の手を握ってきた。
「また…また今度一緒に買い物にいってくれますか?」
いきなりの予想だにしていなかったお誘いにビックリした俺は彼女の方へと振り向く。
そこでやっとわかったが彼女の顔はまるで夕日のように赤くなっていた。
気のせいかそのミルファの目は潤んでいる気もする。その始めてみる女性らしい表情に
心臓がバクンと弾むのがわかった。
「あ、あぁ。明日も用事は無いから同じくらいの時間に商店街に行くよ」
「わかりました…じゃあ私は夕飯を作りますので失礼します」
そのまま彼女は俺から買い物袋を受け取ると会釈をし、早足でキッチンへと行ってしまった。
「少しは心を開いてくれた…のかな」
俺はもう誰も居ない玄関でポツリと呟く。
心臓に手を当てるとまだバクバク行っている。やっぱり女性に対して慣れてるわけじゃ
ないんだなと苦笑しながら俺は部屋へと向かった。
その日のミルファが作ってくれた夕飯は何時もよりも美味しかった気がした。
クーデレミルファで想像したら出来たんで投下してみました。
何か違和感が…ツンデレも想像したんだけど上手くいかなかったんだよぉ…orz
そういえば書庫がリニューアルしてますね
>>526 …乙w
ミルファっていうより、心のあるセリオって感じだなぁ
もっと想像して文にしていってホスィ。
このタイプはパイオニアにセリオがいるから新鮮味はないな。
まあ今後もがんばってくれ。
>>526 何時ものって言い回しがあの人っぽいな…
日本語変だし句読点ないし内容ないしキャラつかめてないし
つーか多分クーデレを分かってないとおも
>>530 擬音と、語尾に…一つ。気がした、思うなんかの曖昧感情表現の多用も追加してくれ
>>533 この前、ふたばの礼儀知らずが2ch語で掲示板に書きこんでたな…
このスレの住人はそんな事しないよな?
「38度5分…今日は休んでたほうがいいね」
「めんぼくない…」
今日も何時も通りに起きて学校へ…と思ったのだが起き上がろうとした瞬間に自分の体
の異常に気づいた。全身にけだるさがあり、頭も痛い。寒気もするし熱っぽい。
どうも昨日の雨に濡れた時にすぐに体を温めなかったのと夜に風邪を引いてもおかしく
ない格好で寝てたのが災いしたみたいだ。
全然1階へと降りてこない俺が寝坊しているものだと思ったミルファが怒りながら俺の
部屋へと入ってきた時にその異常に気づいて今にも泣きそうな、というか声は既に泣き声
にも近い状態で慌てながら氷枕と毛布、そして体温計を用意してくれた。で、測ったら熱
が十分にあったという事で今日は学校を休むことになってしまった。
「もぅ、ちゃんと掛け布団被らないで寝るからだよ?」
怒ってる、というよりも叱る様な口調で言われると反論のすべが無い。
彼女の方を見るとそれはもう優しい笑顔でこっちをみてきていて恥ずかしさが募る。目
をそらすように体勢を変えてもずっと見つめられているのが分かってしまい、自分の部屋
なのだがどことなく居場所が無い感じを受けてしまう。
「あ、そうだ。ミルファ、このみに学校を休むこと伝えてきてくれないか?このみに言っ
てくれれば学校の方にも伝えてくれるからさ」
「そうだね。じゃあ今からちょっと出てくるからおとなしく寝ててね。朝食は後で作り直
してあげるから待ってるんだぞ」
「わかった。頼むな」
「りょーかいしました☆」
ミルファが部屋を出てこのみの家へと言伝に行ってくれた。ずっと見つめ続けられる恥
ずかしさからやっと解放された事に安堵の息が漏れた。そんな息も熱さを持っていて喉を
焼いてくる。氷枕と額に張った冷却シートで頭が少し楽になったところで喉の渇きを感じ
たので1階へ降りようと体を上げた所で外を眺める。このみの家の玄関の方を見た所でミ
ルファが誰かと話してるのが分かった。そのまま見ているとこのみが家から出てきてミル
ファに抱きついてから学校へと向かっていくのが分かった。
どうやらミルファが話してるのは春夏さんのようだ。声は聞こえるわけが無いので内容
は分からないがミルファが笑ったり、両手を振って何かを否定するようなジェスチャーを
したり顔を真っ赤にしたりと彼女が春夏さんにからかわれてるのだけは何となくだが分か
った。
その光景を何となく見ていたところで本来の目的である喉の渇きを潤すというのを思い
出した俺は節々が痛く、けだるさもまだ残る体を何とか動かして1階へと降りた。
冷蔵庫から麦茶を取り出してコップにすすぐと一気に飲み干す。熱くなっている体に冷
たい水が浸透していくのが良く分かる。一息ついたところでリビングへと目を向けた所で
テーブルに食事が用意されていた。用意されていたのは俺が好きな和食だった。しかしそ
れは今の俺の調子では食べれない。せっかくミルファが朝早くにおきて用意してくれたも
のが食べられないのは申し訳なく感じてしまう。きっとミルファは口にも顔にも出さない
だろうけど残念で仕方ないだろう。
別に風邪になったときに申し訳ないなんて事は今まで思いもしなかった。けどミルファ
は俺のためだけに色々としてくれている。それに答えられない事に対して俺は悔しくて仕
方が無かった。しかし拳を握ろうにも体がそれを拒む。どうやら満足に力も入れられない
くらいに俺の体調は悪いみたいだ。
「あれ?貴明どうしたの?」
人の気配に気づいたのか、家に帰ってきたミルファが俺の部屋ではなくキッチンへとや
ってきた。
「喉が渇いてね。飲み物を取りにきたんだ」
「もぅ、動いちゃ駄目って言ったじゃない。欲しいものがあったら言えば用意してあげる
からね。ほら、部屋に戻ろ?」
ミルファが俺の手を掴んで引っ張って行ってくれる。何時もなら恥ずかしくて手を離し
たりもするのかもしれないが今はそれが心地良い。
そのまま歩いていく途中で眩暈が俺を襲ってきた。何とか姿勢を保とうとするが世界が、
視界が歪む。
「貴明、大丈夫?」
俺が急に足を止めたのに気づいたミルファが俺の方へと向いて心配をしてきてくれた。
心配ない事を伝えようとするも足がおぼつかない。何とか倒れまいとするのだが体が言う
ことを聞かずに倒れこんでしまう。そして俺は倒れまいとついミルファへと抱きついてし
まった。
「た、た、た、た、貴明!?」
いきなり俺が抱きついてきたのに動揺したのか彼女の声が上ずっているのが分かる。
「ごめん、ちょっと立ちくらみ」
「ほら、無理するからだよ」
「もう少ししたら回復すると思うから…」
「うん、あたしとしては貴明が抱きついてくれるのは嬉しいから何時まででも構わないけ
どね☆」
そんな彼女の一言にさっきみたキッチンの光景が思い出される。
「ごめんな…朝食食べられなくて」
「大丈夫だよ、貴明が元気で居てくれるのが一番なんだから朝食ぐらいどうって事無いか
ら。それに無駄にするつもりも無いから安心して。ね?」
俺が何時もに比べて弱気になってるのが分かるのか、ミルファが何時も以上に優しい声
をかけてくれる。その声を聞くたびに心が安らいでるのが自分でも分かった。
「ありがとう、ミルファ」
「そんな…あたしは貴明が大事だからこう言った事をするのは当然なんであって…ってた、
貴明!?」
ミルファを抱きしめる力が強くなる、と思った所で体中の力が抜けるのが分かり、全体
重を彼女に預けるような、違う表現をするとすれば彼女を押し倒すような状況になってし
まっていた。
それに対して彼女は体を硬直させて抗うというよりはそれを受け入れると言うかともか
く抵抗はしてきていなかった。このまま廊下に倒れこむのもまずい。何とか持てる力を出
して何とか倒れずにすんだ。
「ご、ごめん。力が入らなくってさ」
「そうだよね、貴明今病人だもんね。あたしったら何を…」
ミルファに対して謝るも彼女は怒るというよりもどことなく嬉しそうだった。
「はい、じゃあ今からご飯作ってくるから待っててね」
何とか自分の部屋へと戻り、ベッドに寝転がる。ミルファに顔まで毛布と掛け布団を掛
けられるともう動かないようにと釘を刺され、彼女は朝食を作りに1階へと降りていった。
ミルファの居なくなった部屋で寝転がったまま天井を眺める。
暇だ。
病人ってのはこうも暇なのか。
体調が悪いから満足に行動できないのは分かるがそれにしてもやる事が無い。意味も無
く部屋を見回すが何時もの部屋で珍しいものは何も無い。漫画でも読みたいところだがそ
れをしていてミルファに見つかった時に何て言われるか…怒られるだろうな。
仕方が無く俺は眠くも無かったが目をつぶって眠ることにした。眠くなくても目を瞑っ
てれば寝れるだろう。
───白い。
そこには何も無かった。
居るのは俺だけ。
そんな凄く寂しい空間に俺はいつの間にか立っていた。
「貴明」
俺の名を呼ぶ声がする。後ろを振り返るとミルファがそこにはいた。何も無い不安から
解放されほっとしている俺に対してミルファは物凄く悲しそうな顔をしていた。
「ごめんね、貴明。もう帰らないと」
「帰るって何処にだよ。お前の帰るところは俺の家だろ?」
俺の問いかけに対してミルファは首を横に振る。
「ちがう、そうじゃないの。もう会えないの。」
──だから、ごめんね
にっこりと微笑む彼女の目からは流れるはずのない涙が流れていた。
その笑顔は俺の胸の奥に突き刺さる悲しい、悲しい笑顔だった。
そのまま彼女が少しずつ遠ざかっていくのがわかる。
「待てよ!ミルファ!会えないってどういう事だよ!待てってば!」
必死に走ってもミルファには追いつけない。
どんどん彼女が俺の元から離れていくのが分かった。
「馬鹿野郎!何がさよならだ!勝手に決めんなよ!何がもう会えないだ、そんなの知った
ことか!お前は俺にとって一番大切な存在なんだ───」
「ミルファ!!」
「は!はぃ!?」
気づいたらそこは俺の部屋だった。どうやらいつの間にか寝てて夢でもみてたみたいだ。
横を見るとビックリしたミルファが椅子に座っていた。
「な…何?何かあたし悪いことでもした?」
「え?何が?」
「だって急にあたしの名前を叫んだから…」
「そうだっけ…ごめん、夢見ててさ」
「夢見てたんだ。それにしたはうなされてて心配しちゃった。
…ってあたしが出てきてうなされるってどういう夢なわけ?」
ギロリと鋭い目で俺の方を見てくる。どうやら彼女は俺が見た夢で自分が何か悪い役に
でもされてるんじゃないだろうかとでも思ってるみたいだ。
「いや、そんなんじゃなくて…あれ?じゃあ何の夢見てたんだろ?」
何とか思い出そうとするのだが思い出せない。
元々夢をあまり覚えて居ることが少ない俺のことだから忘れるのも当たり前なのかもし
れないが思い出そうとすると何かが拒んでるような、そんな感じがした。
まぁ思い出せないなら良いか。
「ふーん…そうだ、朝食作ってきたよ。食べる?ちゃんとお粥にしてきたから大丈夫だと
思うけど」
そう言って彼女は朝食を載せたトレイを俺に見せてきてくれた。
「ありがとう。一眠りしたらおなか空いたみたいだ」
「そっか。熱いから気をつけてね」
体を起こし、トレイを太ももの上へと置いてもらうとおかゆの入った小さい土鍋の蓋を
開ける。暖かい湯気の中から出てきたのは所々にピンク色が見える鮭粥だった。
「そうか、今日の元々の朝食って鮭だったもんな」
「うん、後卵焼きと梅干ね。病人はこれを食べてから薬を飲んで寝るのが一番!って春夏
さんに教えてもらったんだ。初めてお粥作ったから自信ないけど…」
どうやらさっき玄関先で話してたのは病人食の作り方みたいだな。
「大丈夫、見た感じ問題ないみたいだしミルファの料理は問題ないって信じてるから」
「ありがと☆冷めないうちに食べてね」
「それじゃあいただきます」
「はい、どうぞ〜」
早速湯気が立つお粥を食べようと蓮華でお粥を掬って口へと運ぶ。
「あちっ!?」
口に入れたとたん暖かさと言うよりも熱さが口の中を刺激してきた。土鍋の保温性が高
いのか予想以上の熱さにさすがにビックリしてしまった。
「あーもぅ、熱いって言ったのにぃ。気をつけないと駄目でしょ?ほら、貸して」
ミルファに言われるまま蓮華を渡すと彼女はお粥を掬い、そのお粥を口元に近づけると
ふー、ふー、と息をかけて冷まし始めた。
こ、これはまさか……
「はい、あーん☆」
「…え?」
「ほら、冷ましたからもう大丈夫だよ。あーん」
笑顔で俺の口元に蓮華を近づけてくる。恥ずかしくて仕方が無いのだが断れない現状が
そこにはあった。少しためらいつつもミルファの差し出してくれた蓮華に口をつける。
確かにそのお粥はさっきよりも冷めていて普通に食べることは出来た。
しかし俺の顔は風邪のせい以外の要因で熱くなってるような気がしてならなかった。
結局それに気を良くしたミルファが何度も同じようにあーんとしてくるのでその度に恥
ずかしがりながらも食べ続ける。これじゃあ俺が赤ん坊みたいだ。
最後まであーんで食べされられ続け、食べ終わったときにはミルファはニッコリ、俺は
グッタリとした状態になっていた。
その後に風邪薬を飲むと半ば無理矢理寝かせられ、掛け布団をかけられてしまった。
「じゃああたしは洗濯とかしてくるからちゃんと寝ておくように」
「はーい」
「よろしい。じゃあね☆」
顔の上半分を布団から出していた俺の額にミルファの唇が触れる。頬をほんのり紅く
させたまま彼女はトレイを持って部屋を後にした。
空腹が満たされて幾分体調も回復した所で気分はそんなに悪くない。
そのまま俺はさっきとは違って気分が良い状態でゆっくりと眠りへと落ちていった。
「…かあき……た……き〜」
「んっ…」
ミルファの声で目が覚める。目を開け、息を吸ったところで甘い匂いがこの部屋に立ち
込めてるのが分かった。
「何か作ったのか?」
「うん、ホットケーキ。本当はお昼ご飯にしては変かもしれないけどね、食べやすいから
良いかなと思って。牛乳も持ってきたからね」
疲れてる時に甘いものは良いとテレビで聞いたことがある。現に今漂ってる甘い匂いに
反応して俺の胃袋は栄養を欲していた。
「良い匂いだな。ホットケーキなんて食べるの何年ぶりかなぁ」
「ゆっくり食べるんだよ。あ、それともまたあーんしてあげようか?」
いたずら顔でにこやかに言ってくるミルファに対してさっきまでは気後れしていたが幾
分元気になった今は仕返しをしてやろうと悪戯心が沸いてくるのだった。
「じゃあお願いできる?」
「へ!?あ、うん」
少し驚いた様子だったがミルファは嬉しそうに小さく切ったホットケーキを俺に食べさ
せてくれた。
「美味しい?」
「んむ」
ホットケーキを頬張りながらうなづいて答える。久々に食べたホットケーキは甘く、美
味しかった。1枚はミルファに食べさせてもらうも残りは流石に恥ずかしくなったので自
分で食べることにした。最も、残りの一枚も食べさせると言って駄々をこね始めたときは
ミルファをからかった事に後悔したけど。
ピンポーン
時計の短針が3時を回った頃、チャイムの音が家の中へと響く。
その音で目を覚ました俺は何処と無くいやな予感を感じた。
「あ、環。どうしたの?」
「このみからタカ坊が風邪引いて休むって話を聞いてね、お見舞いに来たのよ」
「わざわざ来てくれたんだ。きっと貴明も喜ぶと思うよ☆」
「それじゃあ、おじゃまします」
「はい、どうぞ」
俺の体の寒気は消えている。どうやら風邪は快方へと向かっているみたいだ。
けど背筋に寒気が走るのを俺は確かに感じた。
「タカ坊〜!もう!お姉ちゃんに心配させるんじゃないの!」
タマ姉は部屋に入ってきた途端に起き上がってた俺に抱きついてきた。その豊満なタマ
姉の胸に顔が完全に埋もれる状態になり、嬉しいと言うよりは息が出来なくて苦しい状態
へとなっていた。
「タマ姉…苦しい」
タマ姉の体を叩いてタップをして降参を知らせると何とかその抱きしめる力を緩めてくれた。
そのタマ姉の顔を見るとどうやら怒ってるみたいだった。
「ご、ごめん。昨日の雨にあたっちゃったみたいでさ」
「もう、私に言えば傘に入れてあげたのに」
言えるはず無いじゃないか、言ったらどうなることやら──と言いたいところだったが
言えるわけも無いのでただ苦笑をするしかなかった。
「それなら安心していいよ?環。貴明なら昨日「あたしと一緒に」傘で帰ったから☆」
ドアの入り口の方を見ると何処と無く勝ち誇ったような、そんな笑顔でこっちを見てき
ているミルファが居た。
よく見るとその笑顔はイルファさんそっくりな気もする。しかも計算づくであるような
その笑顔…最悪の方向に行かないといいけど。
タマ姉もそっちを向いているから表情を知ることは出来ないけれど気のせいか髪の毛が
ゆらゆらと揺らめいているような…。
「そ、そう。なら安心だわね」
タマ姉の声が動揺を見せているのが分かる。
こ、これはかなり不味い状況なのでは無いだろうか。この部屋の気温も下がっているよ
うな気がしなくも無い。
「タカ坊、一緒に帰ったって…それ本当?」
こっちを振り向いたとき、タマ姉の目が光った。そんな気がした。
「う、うん…ミルファが迎えに来てくれたから……さ」
「そぉ…」
ちらっとタマ姉の手を見ると何かの準備をしているのか手がワキワキと動いているのが
分かった。こ、これはもしかして俺がお仕置きを食らうのでしょうか!?
「そうだ!貴明、そろそろデザート食べる?」
ミルファ、ナイスフォロー。
「あ、うん。頼もうかな」
「それなら心配に及ばないわよ?はい、タカ坊。ととみやのカステラよ?」
ミルファの提案を遮る様にタマ姉がそう言うと、持ってた紙袋から何かを取り出した。
取り出したのはこのみの大好物であるととみやのカステラの箱だった。
「ありがと。けどこれだと切れてないんじゃない?」
持ってきてるのは一本丸ごと。普通は切れてないと思うけど…。
そんな俺の予想をタマ姉は崩してきた。
「大丈夫よ、切れてるのを買ってきたから。はい、あーん」
用意周到というかなんというか…流石はタマ姉と言うべきなのだろうか。
支援砲撃…でいいのか?
タマ姉は箱から取り出したカステラを一切れつまむと、俺の口元へと持ってきてくれる。
どうやらミルファ同様にタマ姉もあーんをしたいらしい。
女の子はこれをしたがるもんなんだろうか…よく分からない。
「い、いいよ。自分で食べれるから」
「何?タマおねえちゃんが食べさせてあげようとしてるのに嫌って言うの?」
俺がその誘いを一度断るとタマ姉の回りが一瞬歪んだような気がした。
表情は変わってない。確かに変わってはいないのだが全身に鳥肌が立つのが分かった。
まるで肉食動物にでもにらまれてるみたいな感じを受ける。
今すぐにここから逃げ出したいが逃げれない、そんな袋小路に迷い込んだような気分に
なっていた。
「嫌じゃないです…」
「そう☆ じゃあ、あーん」
「あーん…んむ」
結局俺はタマ姉の誘いに乗るしかなかった。俺が了承したのが分かると、タマ姉は何時
もの笑顔になり、さっき感じた殺気に近い何かはもう感じなくなっていた。
食べさせてもらったカステラを味わうと確かにととみやのカステラだけあって美味しい。
しかし今のこの状況でゆっくり味わえと言うのが無理な話だ。
「そうだ!夕飯ぐらいはちゃんと食べれるんでしょ?折角だから私が作ってあげよう
か?」
「えぇ!?けど雄二はどうするのさ」
「別に連絡しとけば勝手に食べるでしょ」
雄二…流石に今ばかりはお前に同情を感じるよ。
「あら環、夕飯なら気にしなくても良いよ?もう用意はし始めてるから」
また部屋の入り口から声がする。その一言が発せられただけで部屋の気温がまた下がっ
た気がする。そんなミルファの顔はさっきと打って変わって不満そうだ。
こっちを立てればあっちが立たず…。
仮にもまだ病人の俺にはこの状況は辛すぎやしませんか…?
「けどタカ坊には栄養を取ってもらわないといけないし…何か副菜を作らせてもらうわね。
良いわよね?タ・カ・坊?」
こっちに見せてくるタマ姉の顔はもの凄く良い笑顔だ。
それこそ拒否したら何か恐ろしいことになりそうな位に良い笑顔だ。
俺はあっさりとその恐怖に屈すると何も言わずにただ頷いた。
「よろしい☆それじゃあキッチンへといくとしますか。タカ坊にどれが一番美味しいか決
めてもらわないと行けないしねぇ〜☆」
「ま、マジですか…」
勘弁してください、俺は心の底からそう思った。
「環に負けるつもりは無いからね」
「あら、挑戦してくるなんて中々やるじゃない?」
「そりゃあ貴明のために毎日料理の勉強してますから」
「へぇ…それは楽しみ」
ニコニコと笑う二人の会話は仲がよさそうなものに思える。
けど気のせいか何かパチパチと、電流が流れるような、何かが放電してるような、正確
にいうと二人の間で火花でも散っているような、そんな音が聞こえる気がした。
き、気のせいだよな。
ハハハ……
>>521-525 実はこれ、飲み会から帰ってツンデレ、クーデレの話題になってたときに思いついて書いて投下しました。
今読み返すと…これミルファじゃないね_| ̄|○ダレダロウ
文も変だし_| ̄|○シニタイ
黒歴史って事でどうかご勘弁を…
>>533 これって自分では素直クールって名前で覚えてました。
これはミルファじゃ無理だなぁ…先輩に(*´Д`)ハァハァ
思った以上に竜虎激突大変でした。仲が良くともライバルって感じなんでしょうか。
個人的に風邪を引いてざまぁみろと思いつつも貴明がうらやましい俺ガイル。
次はきっと週末です。
>>545 あ、支援どうもです。今気づいた(゚Д゚;)
>>548 乙&GJっす。
ある意味TH2最強決定戦の渦中に巻き込まれたタカ坊の運命や如何に?
551 :
名無しさんだよもん:2005/10/27(木) 01:44:44 ID:krf/+RZk0
>551
これも藻前か?
>某ページのネタパクが加速していることについて一言。XXXXの劣化コピーを読んでる気分に…
実は宣伝乙。
2/12のすすぐってのは標準語なのか?
注ぐ(そそぐ)だと思うんだが……スレ汚しすまん。
>>551 パクリに見える部分もある
一部のシチュエーションがどっかと同じだったりな。まぁそれを言い出すとなんでもパクりになりそうだが
>>557 「すすぐ」はうがいなんかで口の中を洗うことをさすので君が正しい
どこがパクりなのかわからんのだが
XXXXなんて伏字にしないで、指摘したいならはっきり書きなさいよ
偶然か、意図的なパロディか、ただのパクリかは、検証すればすぐわかる
パクリなんて話が出てくるのは呆れるな。
だけどBSがワンパターンというかマンネリなのも確かなんだよなあ。
前に河野家の作者さんが誰かに手厳しい指摘を受けて、それからグッとよくなったってことが
あったけどさ。
BSの作者さんももう少し展開というかキャラのやり取りを捻った方がよくねーか?
いちゃいちゃ→ヤキモチ→いちゃいちゃ→ヤキモチが繰り返されるだけって印象がある。
ま、それだけで20話も続けられるのはすげーのかもしれんが。
検証すれば直ぐ解るって・・・・・・・それ結局第三者の妄想でしょ? いや、確かに露骨なパクリとかもあるけどさ
まぁいーか
結局いちゃもんつけたいだけか
呆れたな
批評は自由。作者がそれをどう受け止められるかが問題。
いちゃもんとしか受け止められないようじゃそれまで。
まあ、批評を受けてよくなるのはマシだよ。
虹みたいに、散々批評を受けてもまるで好転しないどころか、
どんどん泥沼化してるのもあるわけで。
そもそも虹の場合、作者が自サイトにに寄せられたマンセーコメントには
嬉しそうにレスするくせに、このスレでの批評に対してはだんまりを
決め込んでることが、どうかと思うわけだが。
正直こんな所に作者さんが現れていちいちレスなんて付けだしたら祭りになって収拾がつかなくなると思われる。
東鳩2SSスレのどこに批評があったのか教えてほしい
妄想で叩いているだけな奴とか、ただの罵詈雑言とかは散々見たけどな
嫌いなら見なければ良いだけだと思うぞ
正直いきなりいちゃもんの同意求められても粘着みたい
>>567 激しく同意。
批評だろうがいちゃもんだろうが気にするかどうかは作者の自由。
その作品を読むかどうかは読者の自由。
>>566 作者さんが作品を投下したあとのレスを見てみればいいんじゃないか?
批評というと大層だけど、「GJ」だけじゃない感想はチラホラあるし。
564が言ってるのは、それを取り入れるかどうかは作者さん次第ってだけでしょ。
んな目くじら立てるほどのことじゃないと思うが。
まあ煽らせてもらうと、あんたはおそらく作者さん側じゃねーだろうw
俺らは作者さんに向けての感想書いてるんだから、それに作者さん以外の人間が噛み付くなっつってんだよ。
まあ、あんたが仮に書く側だったとしても、妄想で叩いてるとか罵詈雑言にしか見えないようじゃ
面白い作品なんて書けるわけがないだろうけどなー。
>>564 虹の人は虹の人で立派だよー。
あれは確固たる信念を持って書いてるから、周りの雑音が気にならないんじゃないかねえ。
拍手に返事してるのは、わざわざ自分のHPにきてくれてる人に誠意を見せてるんじゃないか?
web拍手使ってわざわざ好意的じゃない感想送るやつは滅多にいないと思うし。
批評家気取りうぜえな
よそでやれよ
俺に言えるのは「これ以上議論の余地はないんじゃない?」
こうして、相変わらず職人さんの数が減っていく葉鍵板なのでした
もう何回目だよこの話題。
このスレどんどん初心者(?)が減ってきて
ただでさえ週刊誌状態になってんだからさ、
トドメさすようなマネしないでくれyp
しかしまぁ、こんな話題で確認するのもなんだが。
人いなくなったなと思っていたSS専用スレも、見てる奴は見てるもんだな。
スレに投下してくれる作家さんは減ったけどSS作家さんの数はそれほど変わらんよね
SSリンクで新着チェックすると、ここに投下してない作品とか読めていいかもしれんよ
このスレだけが全てじゃないんだし、そこまで神経質にならなくてもいいんじゃね?
もちろん投下してくれる人が減るような行為は控えるべきだろうけど・・・
荒れそうになったらコレ言う事にしてる
河野家マダー?
578 :
名無しさんだよもん:2005/10/28(金) 15:01:54 ID:29tKikIR0
なんでも自由自由か。自由って言葉を覚えた小学生みたいだな。そんな香具師のほうが批評家気取りと何故気付かない。
新作マダーチンチン
自由と名がつくものはやりたい放題だからなw
過疎ってるなあ、このスレ
批評が自由だってのには同意するけど、あんまり雰囲気が悪くなって、
投下してくれるSS書きの人が減っちゃってもね・・・
しかし、自由って単語に過剰反応する人多いね
自由の主張しすぎは確かにアレだけど、自由をという単語を使って主張した人に対し
>578みたいに噛み付くのもどうかと思うなあ・・・
第一、批評家気取りって言うけど、こういうある種公の場にSSを投下する時点で、
他人からの批評は当然受け止める覚悟をしておくべきだしね
投下するのも自由なら、それに対して感想を寄せるのも自由だもの
もちろん、いわれの無い誹謗中傷の類は別だけどさ
とりあえず、この雰囲気に負けず、作品を投下してくれる人を熱望
584 :
571:2005/10/30(日) 09:41:41 ID:16Rr+ymy0
俺に言えるのは「蒸し返すな、しかも長文で」
自由自由うるさいほうがうざいぞ。
すぐに自由叩きにかかる奴もうざい。
俺は
>>583の方が正論だとは思ったぞ。
ただし正論がSSスレの活性化に繋がるかと言えば
必ずしもそうではないだろうがな。
その意味で
>>584の蒸し返すなという意見に同意する。
自由と責任
見ていて痛々しい自演ですね
自演怒
いっそ投下だけのスレと感想だけのスレに分けちゃえば?
廃れたな・・・
これだけ荒れればしょうがないわな
もともと自演でしか盛り上げてないから
とりあえず流れを変えるべく何か書いてみるわ。
あんまり期待せんでくださいな
>594
乙。期待するなと言われても期待する。
>>594さんではないですが、投下させて頂きます。9レスほど頂きます。
暖かい。
降下し始めた気温は留まるところを知らず、ここのところはめっきり冬の色合いが濃くなっていた。
たとえ日中が過ごしやすい気候であっても、朝夕の冷え込みは厳しい。
晴れた次の日の朝は特に寒くて、このときばかりは地球温暖化なんて言葉が空々しく聞こえたりする。
長い夏が終わり、秋をあっという間に飛び越えて冬がやってくるとばかり思っていたのに。
つい先日引っ張り出してきた毛布にくるまって、「布団の恋しい季節になったなあ」なんて思っていたのに。
今朝の目覚めは、暖かくて、穏やかで、柔らかかった。
――――柔らかいって何だ?
跳ね起きる。
「あ、おはよう。たかあき」
恋しい毛布の下から、しれっとした顔で現れたのは、
「み、み、み、」
「? どうしたの、そんな顔して」
赤茶色の長髪を無造作にかきあげて、こちらを見つめているのは、
「ミルファ!?」
見間違えるはずもない日常の象徴が、あられもない姿で俺の隣――ベッドの上に横たわっている。
一瞬で頭の中が沸騰した。
「ど、ど」
どうしたの、というのは俺の台詞のはず。
俺の台詞のはずだが、舌が上手く回らない。
何を言うべきなのか分からない。
ミルファは目を丸くして固まる俺を見て、おかしそうに目を細めると、
「メンテナンスが終わったから、昨夜のうちに戻ってきたんだよ?」
そうだ。
ミルファは少し前からうちを空けていた。
季節の変わり目に大がかりなメンテナンスをするとかで、今回は一週間くらいかかると話していた気がする。
ほんの少しの開放感と引きかえに、口に出したら耐えられなくなりそうな寂しさを胸に抱えた数日間。
それが終わったから、ミルファは戻ってきたのか。
だったら、
「……お、おかえり」
何はともあれ、これを言わなければ始まらない。
戸惑いを必死に抑え込んで、お決まりの台詞を口にした。
「ただいま」
花の咲いたような笑顔を浮かべ、ミルファが応えてくれる。
ミルファの笑みは、相手を安心させる笑みだ。
だが、今日ばかりはそれで鼓動が落ち着くことはなく、俺の心臓は激しく暴れ続けている。
「ここ、俺の、部屋、ですよね」
「うん」
カタコトで話す俺とは裏腹に、ミルファの返事は明快だ。
「どうして、ミルファさんは、ここに、いるんでしょうか」
「どうして敬語なの? たかあきちょっとヘン」
ヘン?
ヘンなのは俺ではない。
ここは俺の部屋で、これは俺のベッドなんだから、そこに俺がいるのはヘンではない、はずだ。
「早くたかあきに会いたかったのに、帰ってきたら寝ちゃってるし……」
だからむしろおかしいのは、こんなところにいるミルファであり、
「寝顔を見にきたら、布団から脱ぎ出てたよ?」
上半身にワイシャツ一枚だけを羽織り、ボタンを全開にしている格好は明らかに不自然であり、
「身体が冷えてたから、あっためてあげようと思ったの」
そんな風に上目遣いでにじり寄ってこられたらどうしようもないのであって、
「どう? あったかかった?」
――それだけじゃなくて柔らかかった。
「ち、ちょ、ちょっと待った!」
茹で上がった頭を冷やす時間が必要だ。
本能が告げるのだ。
このまま状況に流されたら不幸な結末が待っている、と。
ガチガチになった全身を死に物狂いで捻り、とりあえずベッドの上から逃げ出
「逃がしませ……じゃなくて、逃がさないわよ、たかあき」
「うひゃあ」
情けない声が出たのを、どこか遠くで聞いたような気がした。
それが自分の口から漏れたものだと理解したときにはもう遅い。
ベッドにうつ伏せに押し倒された俺の上に、ミルファが密着したまま乗っかっている。
背中に何だかものすごい感触が押し当てられていて、もはや正常な思考など働きそうにない。
「あの、たの、頼むから、離れて、」
「せっかく久しぶりに会えたのに、たかあき冷たい……」
離れるどころか、ますます強い力で背中から抱きしめられる。
それでも距離はゼロ以上に縮まらないのであって、余剰分は柔らかさに変換されて伝わるのだ。
抗い難い布団の魔力を、そのまま人肌に置き換えたような凶悪な攻撃だった。
「が、学校、学校いかないと、」
「ふふ、今日は日曜日だよ?」
「あ、あさ、朝は早く起きて顔を洗わな、」
「あとでいいよ、そんなの」
説得を試みるが逆効果にしかならない。
ミルファが答えるたびに、耳元に熱っぽい吐息が当たるせいで、何がなんだか分からない。
「どうして逃げるの?」
徐々に頭がぼうっとしてくる。
「たかあきは……イヤ?」
嫌なのだろうか。嫌ではない。
――じゃあ、どうして俺は逃げようとしているんだろう。
「……もうっ」
ミルファの身体が離れたと思ったのも束の間。
うつ伏せだった俺は、あっという間にひっくり返されて、今度はあお向けにされてしまう。
「ね、たかあき?」
ちょこんと首を傾げながら、ミルファが腹の上にまたがった。
膝立ちで、ふとももで俺のわき腹を押さえて、
「……これ、たかあきのために増やしてもらったんだよ?」
両手でワイシャツを観音開きにして、ミルファは妖艶な笑みを浮かべ、
「見て」
見た。
脱衣所で誤って見てしまったことはある。
それでも、こんな至近距離で見たことは一度もなかった。
それなのに、俺は見てしまった。
初めて見た。
もうワケが分からない。
「どうして、こんなこと」
こんなことを、するのか。
ミルファは一体どうしてしまったのか。
何もかもが分からない中で、ゆっくりと近づいてくるミルファの唇から目をそむけることができない。
「――たかあきが、好きだからだよ」
甘ったるいジュースを直接動脈に流し込んだような声。
ああ、それならいいのかなあ、なんて諦めにも似たことを考えて、すべてを委ねようとしたとき、
ずしん、と地響きがした。
目前にあったミルファの瞳が驚きで丸くなる。
「じ、地震!?」
一気に酔いが醒めた。
最近はよく地震がある。それと比べてもこれは結構大きい。だが、
「……意外と早かったですね」
俺にまたがったままのミルファは、そう呟いて顔を離すと、腕組みをしてため息を漏らす。
「み、ミルファ。揺れがおさまるまで、危ないから」
「大丈夫ですよ」
「……だ、だいじょうぶって……、ミルファ……?」
見下ろすミルファからは、先ほどまでの妖艶さが消え失せていた。
爽やかさすら感じさせる笑みには、しかしそこはかとない策謀の色が見える。
というか、喋り方が、おかしい、ような。
「あれは地震ではありませんから」
「地震じゃない……?」
ミルファの言葉を示すかのように、地響きが速やかにこちらに移動してくる――移動って何だ!?
家の前までやってきた地響きは、間隔をおかずに玄関から入り込み、そのまま階段を駆け上がってきたかと思うと、
「姉さん……!!」
怨嗟の篭った唸り声をあげながら、恐ろしい形相をしたイルファさんが部屋に飛び込んできた。
「――――――」
イルファさんがドアを開けた体勢のまま固まる。
俺と、俺の上でマウントポジションを取ったミルファを視界に収め、
「……なに、してるの?」
発射が一秒後に迫った拳銃に指を突っ込んだ雰囲気がひしひしと伝わってくる。つまり暴発寸前。
だというのに、
「貴明さんに迫ってました」
ミルファがあっさりと引き金を引く。
引いてしまう。
――って。
「たかあき、さん?」
呆けた声が出た。
ミルファはいつも俺を「貴明」と呼ぶはずで、だけどまたがっているミルファは「貴明さん」と呼んだ。
ミルファはわざとらしく肩をすくめ、
「再起動まで、あと一時間はかかると思ったんですけどね。やっぱり来栖川の技術者様たちは優秀です」
ますますワケの分からないことを口にする。
再起動? 一時間? 来栖川?
まったく理解の追いつかない俺を置き去りにして、イルファさんが歩み寄ってくる。
一歩ずつ。
威圧感のある足取りで。
行き過ぎた感情というのは、そうそう表に表れないものであって、
「……一時間あったら、なにをしてたの?」
もはや怒りを通り越した無表情のイルファさんに向かってミルファは、
「そうですね。貴明さんとの既成事実を作っていたのではないかと」
本当に妹思いの姉ですね、とうそぶきながら笑みを浮かべた。
「ひっ、」
イルファさんは思い切り息を吸い込むと、
「人の身体で勝手なことするな――――――――――――――――――!!!!!」
家を揺るがす大音量の叫びをあげる。
屋根が吹き飛んでもおかしくないくらいの、とんでもない声だった。
感情の爆発というのは、きっとこういうことを言うのだろう。
というか、これはひょっとして――
閃くものがあった。
性格が変わったかのようなミルファと、やけに威勢のいいイルファさん。
この二人を見比べれば、答えは自ずと明らかになる。
「は、早く服を着てよ姉さん! た、貴明の前でそんなかっこ、」
俺が内心で頷くのを知ってか知らずか、『イルファさん』は、慌てた素振りで『ミルファ』のワイシャツに手を伸ばし、
いそいそとボタンを付け始めた。
トリックが分かってしまえばこっちのものと、見上げた先には『ミルファ』の顔がある。
嫌な予感がした。
視線の先の『ミルファ』は、にやりと形容するにはあまりにも優雅な笑みを見せて、
「もう隠しても手遅れだと思いますよ」
あっさりと、最後の言葉を口にする。
ボタンをとめていた『イルファさん』の手が止まる。『イルファさん』がギチギチと俺の方に顔を向け、
「……貴明」
唾を呑み込む。
「……見た?」
短く問うた『イルファさん』は、真剣な眼差しで俺を見つめている。
真剣な問いには、真剣に答えるべきだと思った。
だから俺は、真剣に、
「見た」
頷いた。
『イルファさん』は俺の答えを噛み締めるように、ふっと目を伏せ、
「貴明のえっち――――――――――――――――――!!!!!」
一瞬の後、『ミルファ』のワイシャツから外した右手を振り下ろした。
景気のいい音が響いて、色鮮やかな花が咲く。
俺の左頬に咲いたのは秋の代表花。
モミジだった。
その後、珊瑚ちゃんからの電話で、メンテナンス中のトラブルでボディを間違えたという話を聞いて。
絶対に研究室の誰かが面白がってわざとやったに違いないと。
そんなことを、顔を真っ赤にしたミルファと話したりするのであるが――
それは、また別の話である。
というわけで小ネタでお目汚しを失礼しました。
PC版のメイドロボシナリオは、果たして本当にないのか、それとも最後の隠し玉なのか。
発売するまで希望は捨てないで生きていこうと思います(ノ∀`)
良い作品が来た後で後を濁しそうだけどハロウィンネタ出来たので7連投いきます
久々にのんびりとした夜半過ぎ。普段なら珊瑚ちゃん、瑠璃ちゃんの家に拉致と言う名の
お呼ばれを…いや、逆か。お呼ばれと言う名の拉致をされてあっちの家で色々と大変な目に
遭っているわけだが今日は違っていた。
何時もならHR終了のベルがなったとほぼ同時に俺のクラスに来て有無を言わさず連行されていくのだが
今日はそうではなくて
「ごめんな、貴明。今日はちょっと用事があんねん。せやから寂しいかもしれんけど一人で帰ってくれるか?」
と珊瑚ちゃんに言われたのだった。
特に理由も追求するつもりも無かったし久々にのんびりと放課後を過ごせるなら少しは寂しいが
それも良いだろう。俺は素直にそれを聞き入れ、珊瑚ちゃんは早々にクラスを後にしたのだった。
その後今のやりとりを見ていた雄二がからかいに俺の席までわざわざやってきて
「やっとお前の春にも終焉が来たか…お帰り貴明!独り身の世界へ!」
と言ってきたので当然のことながら反論はしておいたが。
「失礼な。別に付き合ってるわけでもないんだから振られるとかそんな次元の問題じゃないっての。
今日たまたまってだけだって」
「へーへー、流石は二股王。余裕でござんすねぇ〜」
「なんだその称号は。勝手にそんなもんつけんなよな」
雄二は口先を尖らせてやる気の無い顔を見せてくる。やっぱり雄二は勘違いしてるみたいだ。
別に俺は瑠璃ちゃんも珊瑚ちゃんも大事だし、無論イルファさんだって大事だ。
そんな俺が一人と付き合えってのが無理な問題なんだけど…これって優柔不断って言うんだよな、普通は。
「勝手にって言ってもなぁ、うちのクラスの男子はおろか瑠璃ちゃん珊瑚ちゃんの居る1年のクラスでも
お前は有名人だぜ?双子を手玉に取る二股王だってな」
「そ、そんな流言飛語俺は認めないぞ!」
「いや、実際そうだろ」
「ぐっ」
反論できない自分が悲しい。そういえば同じクラスの男子やら一年生の俺の見る目が何処と無く冷たいかなぁ
とは思っていたがそんな理由だったとは。つくづく自分の優柔不断さに嫌気が差してきた。
「あのー、河野君?」
「何? 小牧さん」
自分の情けなさを疎ましく思いながら帰っても使うわけが無い教科書なんかをバッグにしまい、
帰り支度をしていると相変わらずのおっとりとした口調と表情で小牧さんが話しかけてきた。
「今日は何時もの双子の一年生とは一緒じゃないんですか?」
「あぁ、今日は用事があるみたい。って小牧さんだったら俺たちの会話が聞こえる所に居たんだから
聞こえてたんじゃない?」
「えぇ!?そ、そんな、やだなぁ〜。それじゃあ私がまるで恋愛話が好きな耳年増な人みたいじゃないですかぁ〜」
どうも小牧さんは俺らの関係が気になるらしく、事あるごとに聞いてくるのだ。しかも席はクラスの入り口に
比較的近いのと珊瑚ちゃんのあの軽快な声という要素を考慮すると恐らくは聞こえているはずなのに。
雄二や他の友人の話を聞く限りだと小牧さんは恋愛に関しては首を突っ込みたがるタイプらしい。
小牧さんの思わぬ一面を発見って感じだな。
「で、本当に珊瑚ちゃん達の用事って何なんだろうな」
小牧さんの隣に雄二がやってきた。手に持っているのは一目見てわかるくらいに薄いバッグ。
こいつも俺と同じように家で教科書なんて必要が無い人種らしい。最も教科書を持って帰る素振りも
見せてない俺より重症みたいだが。
「さぁな、珊瑚ちゃんって俺の知らないところでもいろいろとやってるみたいだし。一緒に居る事も
多いけど謎は深まるばかりって感じだな」
「へぇ〜、河野君でも知らないことってあるんだぁ」
「小牧さん、何気に大胆な発言してません?」
「え?え?いや、そ、そそそ、そう言った意味では無くてぇ〜」
顔を赤くしている所を見る限り、どうやら彼女はそういう不謹慎な想像もしていたらしい。
まぁ年頃の女の子なんだからそう言った事を話すのは好きなんだろうけどさ。
「向坂さん、小牧さんってば中々破廉恥な事を考えてるみたいですよ?」
「あらあら。委員長ともあるべき御方がそんな事を考えるだなんて嫌ですわねぇ、河野さん」
「二人で何言ってるのよぉ〜!そうじゃないんだってばぁ〜!!」
顔を茹で上がった蟹の様にし、両手をバタバタと上下させて必死に否定するその様は小動物そのものだ。
というよりもか○道楽のあの看板を思い出すな。
と言う事で雄二と一緒に帰り、途中で買い食いやらゲーセンやらとむさいながらも久々に
男子高校生らしい放課後を楽しみ、7時前に雄二と別れた後は家でこうしてリビングでテレビを見ながら
くつろいでるわけだ。
たまにはこうしたのんびりとした一日も悪くないもんだ。
そんな風に思いながらテレビに耽っていると玄関のチャイムが鳴った。
公共料金の支払いは親が口座からの振込みで支払ってるからくるはずがない。恐らくは稀に来る
新聞の勧誘だろう。最近は新聞を取ってくれる家が少ないのか簡単に引き下がってくれないのが
うざったくて仕方がないのだがこのまま無視し続けてても家に明かりがついてる事から家に住人が居るのは
百も承知だろう。さっさと追い返すのが吉だ。
はいはいはい、と呟きながらドアを開けるとそこに居たのはそのうざったい新聞の勧誘とは少し、
いや大分違っていた。
「トリック・オア・トリート〜☆」
「ぐえっ!?」
ドアを開けた途端に飛びついてきたオレンジ色の塊。その瞬間は何がなんだか分からなかった。
何故ならその抱きついてきた人物の顔はお面というよりは被り物で隠れてしまっているからだ。
しかしその正体はすぐに分かった。短いながらも濃い付き合いのせいか、抱きつき方と声で把握は
悲しいかな出来てしまうのだ。
「珊瑚ちゃん?どうしたのこんな時間に」
「うちも居るんやけど?」
ドアを開けたままの状態で瑠璃ちゃんが不機嫌そうに立っていた。その彼女の服装は意外にも
似合っている。しかしこの二人の服装、普通の服装とは明らかに違っている。服装と言うよりは変装?
いや、衣装と言ったほうが良いのかもしれない。
「瑠璃ちゃんもこんばんわ。その服装似合ってるんじゃない?」
「ふん、今更褒めても何もでぇへんよ」
そう言い彼女はツンとそっぽを向いてしまった。羽織っている空と同じ黒い色のマントが
首の動きに合わせてパサっと靡く。そんな瑠璃ちゃんの格好は漫画やアニメでよく見る
円錐状で鍔広の黒い帽子、黒いマントと言う黒装束で身を包む魔女であった。
「なぁなぁ、貴明。うちは似合ってるー?」
大きなカボチャの被り物の中から喋る珊瑚ちゃんの声はどことなくくぐもっている。
しかしこの被り物の状態で似合うとかどうとか聞かれてもそういう言う問題でもないような
気がするんだけど。
「ちょっとカボチャじゃなぁ〜…」
「カボチャちゃうよー。ジャック・オ・ランタン言うんよ?」
カボチャならぬジャック・オ・ランタンの被り物を脱ぐと額に汗を少し浮かべながら何時もの笑顔の
珊瑚ちゃんの顔が出てきた。
「へぇ〜。で、今日って何か特別な日だったっけ?」
「やっぱりバカ明やな。今日はハロウィンや」
瑠璃ちゃんが呆れたといった様な表情を浮かべながら今日のイベントの説明をしてくれた。
ハロウィンか。確かに雑貨屋とかにこの手のグッズが並んでたのを最近見た気もする。
しかしあれはアメリカで人気があるだけであって別に日本ではそんなに人気があるイベントでも無いと
思うんだけど。
「ハロウィンねぇ。瑠璃ちゃん達は毎年ハロウィンやってるの?」
「今年初めてや」
「今までテレビとかで見ててやりたかったんやけどな、これって他の人の家にいかんと意味が無い
イベントやんか。けど行く家がなかってん。けどなぁ、今年は貴明の家に来ればえぇから用意したんよ〜」
屈託ない笑顔で珊瑚ちゃんはその理由を教えてくれた。俺も確かにハロウィンなんてイベントは
ある事は知ってはいたけどそんなイベントを面白そうに思ったことも無かったし、日付すら知らなかった。
こんな事でハロウィンを体験するなんて奇妙なめぐり合わせもあったもんだ。
「でな、貴明はうちらにお菓子くれんとあかんねん」
「何それ」
俺の質問に対して今度は魔女姿の瑠璃ちゃんが答えてくれた。
「ハロウィンではな、『Trick or Treat!!』って言って他の人の家にいくねん。『お菓子くれへんと
悪戯するで〜』って意味なんやけどな。まぁお菓子をもらう為に家を渡り歩くんよ」
「なるほど。けど生憎今この家にはお菓子無いよ?」
「えー、折角貴明にお菓子もらえる思ってきたのになぁ〜」
リビングに行き、ソファーに座ってからその本来の目的であって「お菓子を貰う」と言
うことが無理なことを伝えると珊瑚ちゃんはがっくりと肩を落とし、体全体で残念である事を表現してきた。
そ、そんなに期待されても困るんですけど。
「あかんでさんちゃん。こんな時間にお菓子食べたら夕飯食べれなくなるやろ?」
「ちぇーっ。瑠璃ちゃんのケチィ〜」
「うちのせい!?貴明のせいやん!?」
責任転嫁とは正に今この時の事を言うのか、初めて目の当たりにした気がするよ。いや、客観的に
見ていてもしょうがない。実際に責任転嫁されてるのが他ならぬ自分自身なのだから。
「俺なの!?だってそんなの知らないしさ!?」
「じゃあお菓子無いならいたずらせんとなぁ…うーん」
俺の意見は何処吹く風、珊瑚ちゃんが考え始めてしまった。瑠璃ちゃんは止めようともせず、
俺の方をただニヤニヤと見ている始末だ。どうやら俺が困る様を見たいらしい。全く…。
珊瑚ちゃんがうーんうーんと唸っていると再度玄関のベルが鳴った。
今度こそ新聞の勧誘だろうか。そう思いつつ再度ドアを開けるとまるでデジャビュかの
ように同じ様に俺に誰かが抱きついてきたのだ。
「え?ちょ、ちょっと!?」
「貴明さん、Trick or Treat!! ですよ」
「イ、イルファさんですか」
「はい☆ ちょっと夕飯の買い物に行ってたので遅れてしまいました」
イルファさんに抱きつかれながらも足元を見ると確かに買い物袋が置かれている。
どうやら俺の家で夕飯を作る気まんまんみたいだ。
まぁそれは良いとしてもイルファさんに抱きつかれるのはかなり恥ずかしいわけで…
「イルファさん、もう離していただけません?」
極めて平静を装いながら離れてくれるよう言うもイルファさんの抱きつく力は変わらない。
「駄目です。ちゅーをしてくれないと離してあげません」
耳元でそんな可愛い声で囁かれると腰が砕けかねなかった。この人はこんなにも俺を魅了してくる人
であっただろうか。当惑しながらも何とか両足で立っていると頬に柔らかい感触を受けた。
その感触が無くなるとイルファさんは俺から離れ、俺の目をまっすぐ見つめてきた。
「もぅ、そんなに顔を赤くしないでください。私まで恥ずかしくなっちゃいます。しょうがないので
今回はこれで許してあげますけど…」
そして再度耳元に近づいてくる。最早耳にキスをしてくるような距離だ。
「今度はちゃんとキスしてくださいね?」
「あの…えっと」
俺は顔を茹で上がらせながら返答に困っていると彼女は優しい笑みを浮かべてくる。
「やっぱり貴明さんは可愛いです。それではお夕飯の準備に移りますのでキッチンを使わせて頂きますね」
彼女は肩を弾ませて嬉しそうにキッチンへと行ってしまった。
こんな状況でリビングに戻ってまともに会話が出来るわけがない。とりあえず近くにあった階段に
腰を下ろして深呼吸を一回。何となく視線を玄関に移して眺めていたら目の前が黒い布で遮られて
見えなくなってしまった。そのまま視線を上に移すとその布が目の前に現れた理由が分かった。
瑠璃ちゃんが俺の目の前に来たのだ。
「客人がきてんのに何してん」
「あぁ、ちょっと心の整理を」
なるべく現状を悟られないようにしてみるも瑠璃ちゃんにはおおよそ判断がついている様子が見て取れた。
「イルファか?」
「あ、あぁ。まぁね、ちょっとからかわれてさ」
「まぁイルファやからなぁ…」
二人で同時に大きくため息をつく。どうやら瑠璃ちゃんもそれなりに被害にあってるみたいだ。
一緒に居ることを考えると瑠璃ちゃんの方が被害は甚大なのかもしれない。
「瑠璃ちゃんも大変だね」
「大変やけどそれなりに楽しいから問題あらへんよ」
彼女は困りながらも楽しそうな顔を見せてくれた。
「そっか。で、良いの?夕飯イルファさんが作ってるけど」
「今日はイルファが自分で作るってはりきってたからな、ちゃんと上達もしてるし問題ないやろ」
味音痴のイルファさんに料理を教えるのは至難の技だったろうに。そんな瑠璃ちゃんの日々の頑張りに
関心してしまった。しかし今までは瑠璃ちゃんとイルファさんでの合作の夕飯が多く、一人でちゃんとした
味付けが出来るのかと言った点はまだ不安であった。
「けど俺は瑠璃ちゃんの料理も食べたいかな」
そういった理由もあったし、単純に瑠璃ちゃんお手製料理も食べたいと言うのがあって言った俺の一言に
対して黒い服で包まれている瑠璃ちゃんの白い肌がピンク色へとみるみる内に変わってしまった。
あれ?俺何か変な事言ったかな?俺の疑問が解けないまま瑠璃ちゃんが喋り出す。
「そ、それならイルファと一緒でも構わんのやったら作ったるよ」
「なら楽しみに待つとしますかねっと」
瑠璃ちゃんと話した事によって大分楽になった。珊瑚ちゃんが暇そうにしてるという瑠璃ちゃんの言葉で
つまらなそうにしている珊瑚ちゃんを想像してつい笑みが浮かんでしまった。
瑠璃ちゃんの後についてリビングへと行く時にふと玄関に規則正しく並ぶ何時もより多い靴を見た。
こんな可愛いお化けが来るんならハロウィンも面白いもんだ。
「あーっ!イルファ!ちゃんと混ぜへんから鍋底焦げ付いてるやんか!!」
「す、すみません瑠璃様〜」
「今日は少し焦げた料理が出てきそうやなぁ」
「ねぇ…」
訂正。ちょっと困ることもあるけど面白いって事で。
さっき瑠璃ちゃんに夕飯を作ってもらえる事になってて本気で良かったなと自分で自分を褒めたかった。
ちなみにその夕飯になぜか黒ずんでいる少し苦めなカボチャのスープが出てきたのは言うまでもなかった。
「大丈夫か?」
「平気だってば」
ふらふらしながら言われても説得力がない。
強がりを言いながらもこの少女の手は俺の制服の裾を握ったままだ。
「だから無理するなって言っただろ」
「無理なんかしてない」
強情な奴だ。
今朝、コイツ…郁乃に頼まれてリハビリの手伝いを引き受けたはいいが、
授業中を除いてずっと郁乃につきっきりだった。
車椅子から立ち上がれるようになってから、まだそう経っていないのに
歩いて校舎を一周しようとか言い出したりするし。
「気持ちはわからなくもないが、順序っていうのがあるだろ」
「そんなのは一つや二つすっ飛ばすくらいでいいのよ」
気遣いのつもりで言ってやればこれだ。
愛佳が郁乃のことになると過剰なくらい心配するのに対して、こいつは
姉に心配かけまいと無理してみせる。
「わっとと」
「ほら、言わんこっちゃない」
よろめいた郁乃の肩をつかんで支えてやると、郁乃は気まずそうに
ぷいっと顔をそむけて、
「…ありがと」
やっと聞こえるくらいの声で呟いた。
「はあーっ」
書庫に戻ってくると、郁乃は大きく息を吐き出してソファーに腰を下ろした。
「疲れた」
「俺もだ…」
結局一時間くらいかけて校舎の周りを歩いてきた。大体付き添うだけの
はずだったのに、何故俺はこんなに疲れているんだろうか。
「なんであんたが疲れるのよ」
「疲れもするって」
とにかく見ていて危なっかしい。早く歩けるようになろうとする意志は
認めるが、身体がついていけるかどうかは別の話だ。
「嫌だったら付き合わなくてもいいわよ」
「そうもいかないだろ」
さすがに放ってはおけない。
郁乃は姉を想う余り無茶をする傾向がある。俺は何度かそういうのを
見てきたし、その度に止めてきた。
「一緒にいるのが俺だからわざと無茶してるんじゃないよな?」
「…そんなこと考えてない」
軽く首を振って答える。
「頑張るのはいいさ。でもそれは無理することとは違う。焦って無茶したら
却って悪くなるかも知れないぞ」
「――うん…ごめん」
郁乃はそう答えるとそのままうつむいてしまった。
「ちょっとごめん」
俺は郁乃の後ろに回ると、彼女の髪を留めていたバンドを外して
その長い髪を解いた。
「た、貴明?」
静かに郁乃の髪を両手で梳いていく。
最初はびっくりしていた郁乃も、ソファーに背を預けると黙って目を閉じた。
「上手なのね」
「いや、これが初めてだ」
「そうは思えないけど」
流れるような髪を梳いていると、なんだか心が落ち着いてくる。
わずかにこちらを向いた郁乃の顔は髪を解いているせいか、
いつもとずいぶん違って見えた。
「髪、痛んでるでしょ?手入れなんかしてなかったから」
「いいや。サラサラしてて綺麗だ」
それは意識せずに言った言葉だった。
郁乃は少し赤くなりながら小声で「…キザね」と呟いた。
「いつか、姉と並んで歩くのが夢だった」
目を閉じたまま、郁乃が語る。
何度そう願い、その度にベッドの上から動けないという現実に悲しんで
きたのだろうか。
「何度も願って、何度も諦めて。ようやく叶えられるところにきたわ」
「ああ、絶対に叶うさ」
「うん。けどね、ちょっと困ったことになったの」
願いが叶えられそうなところまできて、一体何に困ったというのか。
そう尋ねようとしたら、郁乃は俺の手に自分の手を重ねてきた。
「今度は"別の人"と並んで歩きたいな…なんて思い始めちゃって」
その意味は、鈍いと言われる俺でもすぐにわかった。
だから俺もこう返してやる。
「…俺もそう思ってた。だから、お前が望むならすぐにでも叶えてやるぞ」
俺の答えに心から嬉しそうに微笑むと、郁乃は立ち上がりスカートの
裾をちょいとつまんで持ち上げ、軽く頭を下げるとこう言うのだ。
「まだうまく歩けないけど…エスコート――してもらえますか?」
「喜んで」
開いた窓から風が吹き込み、郁乃の長い綺麗な髪をなびかせた。
今日は大漁やね
ここ数日間堪え忍んだ甲斐があったというもの
624 :
594:2005/10/30(日) 23:43:06 ID:9PzpgpNx0
あと少しタイミングずれたら割り込んでしまうとこだった…(´Д`;
リロードはしてたのだが。ともあれ
>>610の人GJ。
>>619-622 愛佳シナリオのイベントを郁乃に置き換えてみました。
愛佳とは付き合ってないことを前提で書いてます。
つかやっぱり期待を裏切った気がするorz
すごいすごい。
やっぱここはこんな場でないとね。
久々にここがSS専用スレだということを思い出したよw
みんなGJ!
>>607 中身イルファさんで妖しい雰囲気のミルファもいいけど、元気のありあまる中身ミルファなイルファもなかなか捨てがたい魅力でした〜。
速くオフィシャルでのクマ吉も見てみたいですね。
>>612 旬のネタと言うことで、ハロウィンの賑やかな双子やイルファさんはとても楽しそうでした。
イルファさんが仮装したなら、どんな格好が似合っていたでしょうかw
>>624 これからの2人が楽しみになる様な、気分のいいSSでした。
最後の風に郁乃の髪がなびくところなんて、引き方といいとても綺麗でした。
3つも良作読めて満足満足。
俺も近いうちに何か書きたいなぁ。
荒れるの覚悟で言わせてもらう、もう我慢できない。
ミルファという名のオリキャラが一人歩きするSSはもう飽きた。
そんなもんは自分のページつくって好きに書け。
ここは東鳩2SSスレだ。おまえらのオリキャラ発表の場じゃない。
>>627 昨日の夕方に起きてしまったため、
結局一睡もせずに今から出勤の俺がマジレスしてやろう。
たしかに「ミルファ」という
公式でもほとんどキャラの設定が確立されていないキャラを
妄想だけで書いてる作者達はたくさんいるが、
それを一概にオリキャラと言うことはできない。
なぜなら一応は公式キャラだからだ。
その時点でこのみとかいいんちょとかと同じ土俵に立てるわけだ。
極端な話、SSは全てオリジナルストーリーだから
このみが出ようとミルファが出ようと
それは作者によるキャラと設定を借りたオリジナルになる。
なのでここの「ミルファ」を否定するとSS全体を否定することになってしまう。
まあ正直なところ俺もミルファに関しては行き過ぎてるなぁと思うけどな。
半分寝てるので文が変になってたらスマヌ。
>>628 まあ、ミルファに関しては、原作ではクマ吉という形で
性格・行動パターンの片鱗が伺えたので
そこから大きく外れ過ぎていなければいい気がするけどな。
つうか、昨日の漏れと生活パターンが似てるな。
こっちは昨日ボチボチと昼寝してたため、夜の12時に起きれたので
勝手に出勤して一人で仕事をしてるよw
そろそろ家に帰らないと、嫁さん・子供が起きてくるな。
というわけで、河野家まだーーー!?
公式のキャラの名前を借りただけのようなキャラ書いてるよりはよっぽどマシだ
>>627 俺はミルファにではなく書いている人に「行き過ぎてるな」と感じたよ
葉鍵住人の醜悪さ、しかと見届けた!
飽きたなら読み飛ばせばいいだけなのに。
そんな選択も出来ないの?
ここの住人はいちゃもんをつける天才ばかりだな。
現実でも場をしらけさせる才能を発揮してそうだが。
ミルファを気にする必要は無い。おまいらだって『ミルファはこんなキャラだ!』って妄想くらいあるだろう。
肝心なことを忘れてるぞ。職人さん乙という気持ちだ。職人さん乙ノシ
>>624 GJなんだけど貴明と郁乃っつーよりも貴明と郁乃が演技してるように感じたな。
もうちょっと素っぽい二人が見たい感じ。
もちろんお話としてはきれいにまとまっててよかったです。
637 :
611:2005/10/31(月) 09:36:21 ID:PZ1d9rAi0
短文だから大丈夫だろ、とか思って書き込んだら、
危うく本編に割り込むところだった。申し訳ない&以後気をつけます。>610
>>624 うむ。あんたは期待を裏切った!イイ意味で!
>627
公式設定が全てだと言うのならSSなんか読まない方がいいですよ。
言いたい事はほぼ
>>628 と一緒なので省略。
そして読みたくないなら読まない自由(権利)はあるんだから自由にすればいい。
他人の書きたい・読みたい自由(権利)を侵害するな。
アホがいるよ
とうとうミルファ妄想SSまで叩きの対象になったか
住みにくい世の中だな
こんな状況でふたなりモノを投下したら、住所氏名や顔写真でも晒されそうだな
俺は
>>627の言ってることは正論だとは思う。
そりゃもちろん好きって人もいるだろうけど、
>>628みたいに
「あえて言わないけどさすがにやりすぎ」
と感じてる人が増えてきてるんじゃないかなあ。
個人的には、他のキャラがしっかり描けてるなら半オリジナルのミルファ程度なら書いても構わんのじゃないかと。
ただ最近は、他ヒロインの描き方があまりにお粗末というにも関わらず半オリキャラが幅をきかせた作品が多いからねえ。
どうしてもオリキャラ書くなら本編のキャラをしっかり捉えてからやってくれってのが本音。
偉そうな物言いをしてしまったが、いちミルファ好きとしてここんとこ食傷気味だったんで吐き出させてもらった。
だから見苦しい自演は辞めろって。
>>641 作者はおまいの為にSS書いてる訳じゃないんだから諦めろ。
ミルファモノも全然アリだしブラックふたなりどんと来いな俺もいる
でも小牧姉妹と姫百合とイルファミルファに偏ってるってのはまぁあるね
ここらでタマ姉由真あたりのSSが読んでみたい気もする。。。
期待さげ
>641
>いちミルファ好きとしてここんとこ食傷気味だったんで
なるほど。
3姉妹スレでお奨めされた2(作者の)作品しか読んでいないから
そういう感覚には疎いかも知れず。スマソ。
でも東鳩に限らず、同人誌でも お気に入りキャラの扱いが気に入らない
作品があっても何も言う気はないケドね。
読まなきゃいいし、読んでしまったらけなして忘れるだけ(w
「書く事」自体を否定するなら二次創作を否定するのと同義だと思うから。
そういえばこのみとタマ姉のSSって最近は投下されてないんだな。
このみはブラックが多くて普通のが最近ないしタマ姉は「残心」位か。
確かに最近は姫百合、郁乃物多いしSS書きの人達の中にもブームなんてもんがあるのだろうか?
俺はこのみとタマ姉のSSキボンしておきますね。
ツンデレ多すぎw
>>645 ブームというか、出来のいいSSを一人の作者さんが書くと
それに追従する形で書く人が多いような気がする。
パクリとは言わないが、選択肢としちゃ安易かもしれない。
郁乃が流行りみたいだから郁乃SS書きましたっつってた人いなかったか?
本当に書きたいならそれはそれでいいんじゃないかと思うのはもちろんだけどね。
昼休みに小牧さんが落ち込んだ理由、俺は全く解らなかったが、親友の由真はその解決へと独自に
行動した。
翌日。総勢12人での夕食の席で由真は、俺たち全員で『河野家メンバーズ』なるグループを結成
しようと提案する。と言うか、俺以外の同居人からは昨晩に賛成を得ているとのことで、全員の過半
数は既に超えており、反対してもムダだった。
かくして『河野家メンバーズ』結成。早速由真はグループの規則「メンバーは名前で呼び合う」に
則り、俺に小牧さんを名前で呼べと命じる。規則違反はアイアンクローの刑と脅された俺は仕方なく
小牧さんを「愛佳」と名前で呼ぶ。そして愛佳も俺を「たかあきくん」と。それは、もの凄く恥ずか
しいのだけれど、何だか、とてもいい感じがした……。
放課後。俺は久しぶりにミステリ研の部室にいた。
「で、なんなんだよこの『お宝探し』って?」
俺は愛佳から受け取ったプリントをひらひら揺らす。プリントには「ミステリ研・河野家メンバー
ズ合同企画 謎のお宝探し!」と書いてある。
「お宝探しはお宝探しだよたかちゃん」
コンパスやら懐中電灯やらを次々リュックに詰め込む花梨。
「それは解るけどさ、どこに探しに行くんだよ花梨?」
すると花梨は俺に振り返り、
「もう! 部活動のときは『花梨会長』と呼びなさいって前に言ったでしょ! 公私の分別はキチン
とつけなきゃダメだよたかちゃん!」
「は、はい、花梨会長……」
「で、質問の答えだけど、裏山だよ」
「裏山? あそこなら前にも行ったけど、別に何もなかっただろ?」
「前はUMA探し。今回はお宝探し。目的が違うよ」
「うーん、あんな裏山なんかにお宝があるとは思えないんだけどなぁ」
「その思い込みが真実へと至る道を見失う原因なんよ! 一見何も無さそうな所にこそ、実はとん
でもないお宝があったりするんだから! 例えば1963年、東京は荒川で……」
うわ、花梨の講義が始まってしまう。長くなるに決まってるからここは抑えよう。
「ああうん、わかったよ会長。確かに先入観はよくないよね。うん、反省します」
「解ってくれたらいいんだよたかちゃん。それにね、今回は既にあたりを付けてる場所があるんよ」
「そこって?」
「それは行ってからのお楽しみ。それじゃそろそろ出発しますか。ゲストの皆さんも待ちかねている
だろうし、ね☆」
「ゲスト?」
部室を出ると、そこにはるーこ、珊瑚ちゃん、瑠璃ちゃん、優季の4人がいた。
「あれ、どうしたの4人とも?」
「うーかりに呼ばれたから来たぞ。”うー”のトレジャーにはるーも興味がある」
「宝探しや〜、何見つかるか楽しみやな〜☆」
「う、ウチはさんちゃんが行く言うから……」
「あ、ちなみに環さんと由真さんは夕食の仕度があるから、愛佳さんは郁乃ちゃんの病院での検診、
このみちゃんはお友達との約束があるから欠席だそうです。それから雄二さんは、興味がないからと
帰っちゃいました」
「もう、ノリが悪いな雄二ちゃんは! 仕方がない、ここにいるメンバーだけで行きますか」
「花梨……会長? どうしてるーこたちが?」
「プリントに書いたでしょ。今回は、河野家メンバーズとの合同企画なんよ。みんなで一緒にお宝
目指してレッツゴーだよ!」
「おーっ」
「るー」
花梨の掛け声に応え、両手を挙げる珊瑚ちゃんとるーこ。それを見てため息をつく瑠璃ちゃん。
優季は恥ずかしそうに、
「お、おーっ……」
と、小さくガッツポーズ。今日の部活動は賑やかなものになりそうだな。
花梨に先導され山道を歩き、着いた場所は……、
「神社だけど、ここ……?」
「そう、ここだよたかちゃん。今日はこの神社及びその周辺を探しまーす」
「この神社にお宝があるなんて話、俺、聞いたことないぞ?」
「街の人に話が伝わってたら、お宝なんてとっくに持ってかれてるじゃない。書物への記録はおろか、
口伝すら封じられた、街の中でもごく一部の人間だけしか知らないような、もの凄いお宝が保管され
ているのかもしれないよ?」
「成る程、一理あるかもしれませんね」
真面目な表情で優季が肯く。
「それって例えば、勇者の鎧とか呪われた刀とかやろか?」
珊瑚ちゃん、それじゃどっかのRPGだよ……。
「それは実際調べてみないとね。さ、早速調査開始だよ! 私とるーこは社殿の中を調べてみるから、
たかちゃんたちはこの辺りを調べてみて」
花梨がそう言って俺にスコップを渡す。掘って調べろってことか、はぁ……。
「って、社殿の中って会長、勝手に入っていいのかよ!?」
「それじゃ、各自頑張ってね! では調査開始ー!」
俺の言葉を完璧に無視し、花梨はるーこを連れて社殿へと歩いていった。
「ほな、ウチらも調査開始や〜☆」
ノリノリの珊瑚ちゃん。
「さて、どこから調べたらよいものやら……」
「あの貴明さん、さっき花梨さんからこんなモノ渡されたんですけど……」
優季が両手に持っているのは、L字型の細長い金属棒。成る程、ダウジングね……。
その後、優季がダウジング棒を手に神社内をウロウロ歩き、棒が動いた場所を俺がスコップで掘る、
という作業を3回ほど行ったが、何も出てこなかった。疲れた……。
とりあえず一休みするか。適当な木陰に入って買っておいたジュースでも飲もう。そう思ったとき、
「るー」
「うわっ!? る、るーこ、いきなり目の前に現れるなよ!」
「見つかったぞ、うー」
「見つかったって、も、もしかして、お宝……?」
「うーかりが呼んでいる。行くぞ、うー」
まさか本当にお宝があったのか? るーこに連れられ、俺たちも社殿に向かった。
社殿の扉は開かれており(ちなみに床には解かれた南京錠があったりする)、中はうす暗くてよく
見えない。
「花梨会長?」
中にいるであろう花梨を呼んでみる。
「たかちゃん、こっちだよ」
妙に真剣みを帯びた花梨の声が返ってきた。それに従い、中に入る。数歩歩くと、しゃがんでいる
花梨の背中が見えた。
「たかちゃん、これ、何だと思う?」
花梨の足元にあったのは、薄汚れた布袋に収まった、2mくらいの棒状のものだった。
「さ、さぁ……?」
「もしかしたら……、聖遺物かもしれないよ」
「聖遺物?」
「大昔の偉い人にまつわる品物のことだよ。この長さ、もしかして……、ロンギヌスの槍?」
「あ、あのさ会長、さすがにそれは無いんじゃない? どこかの教会とか博物館ならともかく、何で
神社にロンギヌスの槍なわけ?」
かなり有名な品だけど念のため説明。ロンギヌスの槍とは十字架にはりつけられたキリストが死ん
だ際、その生死を確認するためにキリストの脇腹に刺した槍のことである。つまり思いっきりキリ
スト教関係の品物であって、それが神社に保管されてるワケないじゃん。
「じゃあグングニル? それともゲイボルク?」
「グングニルは北欧神話、ゲイボルクはケルト神話です。どちらも神社とは関係ないのですが……」
「へぇ、優季、詳しいね」
「ええ、神話ってロマンチックなお話が多いから好きなんです」
「とにかく、中を確かめないと解らないってことだね。それじゃ……」
「ちょ、ちょっと待って花梨会長! 神社の物を勝手に持ち出したりしたら……」
「中を確かめるだけだよ。持ち帰ろうってワケじゃないんだから平気平気」
「いや、ここは待ったや」
「さんちゃん?」
「持っただけで装備されてしまう呪いのアイテムかもしれへんで」
「珊瑚ちゃんは現実とゲームの区別をつけようね。とにかく会長、勝手に触るのも……」
すらり。
俺の言葉に耳を貸さず、花梨は布袋を取り去ってしまった。そして出てきたものは……。
「こ、これは……」
1.8mから、最長3mまで伸ばせる軽量1.25kgのアルミ製の棒。
先端部は、直径40mmもの太い枝でもカンタンに切れるハサミ。更にノコギリヘッドも装着可能。
末端のグリップを軽く握るだけで、高い枝もカンタンに切れます。
軽くてカンタン、これで面倒な枝切りも奥様一人でラクラク
「ってこれ、よくTVショッピングとかで見かけるラクラク高枝切りバサミじゃん! 聖遺物でも
何でもないよ、ただの神社の備品だよ!」
「いや……、もしかしたらコレ、曰く付きのモノかもしれないよ。
考えてみてよたかちゃん。ただの備品なら物置にでもしまっておけばいいのに、わざわさ社殿の
中に置いてあったんだよ。やっぱり何か曰くがあるんだよ、きっと」
「曰くって、どんな?」
「うーん、そうですね、こんな感じではないでしょうか?」
花梨への質問に優季が代わって語り出す。
昔々、ある国のお城にとても美しいお姫様がおりました。
ところが、悪い魔女の呪いによってお姫様は眠ったままになってしまいました。
お姫様を救おうと、一人の王子様がお城にやってきました。けれどもお城は、魔女の魔法が生み
出したイバラに覆われており、入ることが出来ません。
困り果てた王子様の元に、一人の庭師がやってきました。庭師が手にしていたのは、なんと高枝
切りバサミではありませんか! 王子様は庭師から高枝切りバサミを借りて、イバラをチョキチョキ
切りながらお城に入っていきました。そして王子様は悪い魔女を倒し口づけでお姫様を眠りから覚ま
して二人は結婚して幸せに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし。
「昔々って、そんな昔に高枝切りバサミは無い! それと庭師都合良すぎ! あと後半やっつけ
気味! それからハッピーエンドじゃ曰く付きにならないじゃん!」
「は、はぁい、ごめんなさい貴明さん……」
ショボンとうなだれる優季。
「そうだね。これはおとぎ話にまつわるモノじゃないね。きっとこんな感じだよ」
名前は解りません。仮にA氏としておきましょう。
A氏は庭師です。その日も庭ではしごに登ってハサミで枝切りをしていました。
そんな彼の頭上に、突如UFOが現れました。そしてA氏はそのUFOにアブダクションされて
しまったのです。ハサミと共に。
UFOの中で、彼に何があったのかは解りません。彼自身、何も覚えていないのです。
気が付くと、A氏は元の庭にいました。A氏は何が起きたのかも解らず、呆然とするばかり。
ふとA氏は、自分のハサミが無くなっていることに気付きます。辺りを探しますがハサミは見つ
からず、その代わりに、高枝切りバサミがあったのです。
試しに使ってみると、高枝切りバサミのなんと便利なことでしょう。この便利さを自分だけのもの
にするのは勿体ないとA氏は、会社を興して同じハサミを自分で作って販売しました。彼の作った
高枝切りバサミは飛ぶように売れ、A氏は一躍大富豪になりました。
後にA氏はこう語ります。「あの日の出来事が私の運命を変えた。出来るなら、私はもう一度彼ら
に会いたい、そして感謝の言葉を伝えたいよ」と。
めでたしめでたし。
「だから花梨はどうしていつもUFO関連に結びつけたがるかな!? 宇宙人がハサミを高枝切り
バサミに変えたとでも言うわけ? それに何の意味があるんだよ!? あと、名前は解らないって
言うワリにはA氏のその後まで語られるのは何でだよ!? それからこれもハッピーエンドだから
曰く付きにならないっての!」
「だ、だって、曰く付きならやっぱUFOかなって……」
優季の隣でショボンとうなだれる花梨。
「せやな。優季も花梨も、”曰く付き”って意味をもっと考えなあかん。きっとこうや」
今度は珊瑚ちゃんが語り出す。
時は江戸時代、徳川将軍綱吉の世。
庭師余平はその卓越した腕を認められ、将軍家お抱えの庭師として、江戸城内の木々の手入れを
任されていた。
余平の仕事は完璧の一言につきた。しかし余平は常々、その飽くなき探求心から自らの仕事道具に
不満を抱いていた。もっと使いやすくならないか、そうすれば仕事がもっと早くなるのにと。
ある日余平は、知人の鍛冶師・正五郎に相談する。余平は自らが思ったとおりの要望を口にし、
それを聞いた正五郎は、七日かけてそれを一つの形にこしらえた。高枝切りバサミの誕生である。
正五郎から高枝切りバサミを受け取った余平は、早速それを使ってみた。今まではしごを使って
切っていた枝も、高枝切りバサミならはしごに登ることなく楽に切れる。そのあまりの便利さに余平
は嬉し涙さえ流したと言う。
そんな余平に思わぬ不幸が舞い降りる。ある日、いつものように高枝切りバサミで庭仕事に従事
していた余平、その彼を見に将軍綱吉公がやって来たのだ。
上様が自分の仕事をご覧になられている。その緊張感に耐えながら余平は仕事を進める。そして
余平が一本の枝を切ったその時。
キャン!
犬のような悲鳴と、どさっと何かが落ちる音。余平は足元に落ちたそれを見た。そこには、一匹の
怯えたチワワがいた。余平は、枝の上にチワワがいたとは知らずに、その枝を切ってしまったのだ。
後に犬公方とまで呼ばれた綱吉がそれを許すはずもない。綱吉は余平にこう告げた。
「斬首よ☆」
持っていた刀で余平の首を一閃。余平の首は宙に舞い、高枝切りバサミに彼の血が降り注いだ。
余平の血を浴びた高枝切りバサミはその後、使った者を次々と死に追いやったことから、余平の
怨念が宿った呪いの高枝切りバサミ「小犬枝上」と呼ばれ、人々に恐れられたと云う。
むーざん、むーざん。
「優季と同じで時代設定がダメ! どう考えても江戸時代に高枝切りバサミはあり得ない! 真っ先
にそれに気付くべきだった! それとね、鍛冶師の正五郎が作ったって言ってたけど、はいココ見て
くれるココ、ホラ、「Made in China」って書いてあるね! つまり中国製なんだわ
コレ、残念! それから何でチワワが木に登ってるんだよ!? あと、将軍様が自分で人を斬るって
のも変だよね、時代劇じゃないんだからさ! 「斬首よ☆」ってのは決め台詞かな!? 確かに曰く
の残る終わり方だったけど、デタラメもいいトコだよ! もっとよく考えようよ珊瑚ちゃん!」
「えへへ〜、むずかしいな〜」
ダメ出しされてもほわほわ笑顔の珊瑚ちゃん。さすがである。
すっかり日も暮れて、帰り道。今日は色々と疲れた。メシ食って風呂入って寝たい。
「結局アレは、ただの高枝切りバサミだったってことだね」
するとるーこが、
「いや、必ずしもそうとは限らないぞ。うー。
るーの知っている話にこんなのがある。約1万と5千年ほど前、牡牛座35番星第6惑星で……」
「も、もう勘弁っす……」
つづく。
どうもです。第30話です。
ささら嬢の件ですが、クーデレなる言葉、初めて知りました。萌えの世界はまだまだ奥が深いなぁ。
>>657 河野家喜多ーーー!
まさかこういう話で1話つぶすとは^^;
しかも、次回につづくっすか?w
むーざん、むーざん。
>>657 GJ!!
しかし、こう……。
なんというか、その、手心というか………。
乙
あれだ、貴明のツッコミがなんだか某撲殺天使の主人公っぽいw
>>659 痛くなければ
覚えませぬ
河野家の作者さんGJ
河野家今回も乙ですー
河野家マダー?
>>627みたいに自分の自由と権利だけ主張して他者のそれはスルーってのは典型的なブサヨクの例だな。
>>627には自称戦争帰りの祖父と日教組教師の父と市民団体の母がいて朝日新聞と「論座」、「世界」を愛読してると予想してみるテスト。
↑もう郁ね?
粘着してるのオマイだけだお…。
そんな過ぎたどうでもいい事書いてないで、SSとかSSのネタとか書き込もうぜ〜
ルーシーSS書きたいのに、ネタが煮詰まりきらない俺がいるorz
信号機の真ん中は、黄色。
ちっちゃい子供が振り回す横断歩道の旗も、黄色。
タマゴの黄身も、黄色。
黄色。600ナノメートルの光の波長。空を見上げれば、そこにも黄色。どこにでもありふれた存在の黄色。
だけど……私は、黄色じゃない。
昔から、あの黄色い子は変わり者だと言われた。女の子向けのアニメを見るよりも、夜空に光る星を見るのが
好きだった。でも、私は星自体が好きなんじゃなくって、星と星との間に暮らしているはずの未知なる生命が好
きなだけだった。
だから、恋愛もののドラマなんかより、スタートレックとか特撮モノを見ている方が楽しかった。深夜にやっ
ている海外SFドラマを録画して、欠かさず見ていたものだ。
私は信仰していた。いつの日か必ず、宇宙の友人と一緒に星の海を旅しながら、みんなの知らないことをいっ
ぱい体験して、ワクワクドキドキ出来るって。
大人ぶって月9のドラマとか見ているみんなは笑った。そんなものはTVプロデューサーの捏造だって。
特撮とか空想物をガキの見るモノとバカにしていた男子は、私にケシゴムのカスをぶつけて言った。「あの狐
みたいな黄色いヤツ、いらねえ」って。アンタだって、ガキのくせに。
私は黄色の中でも、笑われ者の黄色だった。
でも、黄色は黄色。数ナノメートル程度、周囲と波長が違うだけの、黄色。
機械いじりも好きだった。300円で買った目覚まし時計やコンパクトカメラを分解しちゃっては、よく怒ら
れたっけ。
アマチュア無線の資格も取った。大空にアンテナを向けて、UFOや星の向こう側にいる生命たちと心を通わ
せあえるんじゃないかと思って。
そんなことを夢見て、中学の時、無線部に入った。裏切られた。そこで私がやったことは、限られた時間内に
どれだけたくさんの無線局と交信出来るかをひたすら競ったり(いわゆるコンテスト)、先輩部員が交信した記
録(ログ)をパソコンに黙々と入力する、つまらない事務作業だった。
コンテストの交信相手は、生命にあふれた存在ではなかった。5、6桁のコールサインを機械的に名乗り合っ
て、データを機械的に交換して、さようなら。パソコンの後ろでチカチカしているモデムやLANのデバイスと
やっていることが同じだった。
私は6桁のコールサインを与えられたただの部品。私は、黄色ですらなかった。
部を去った私は、河原で無線の免許を焼き捨てた。私は、ただの黄色に戻った。
一年生の秋、ちょっとした出会いがあった。出会い自体はちょっとしたものだったんだけど、私の中ではすご
く大きな、運命の出会い。
その日は授業が長引いて、教室を出るのが遅くなったんだっけ。購買には、もう人だかり。
運がいいことに、一日一度は食べないと死んじゃうタマゴサンドは残っていた。ラッキー!
どうにかお金を渡して、タマゴサンドを受け取ろうとしたんだけど、ちょっと押されて、指が届かなくなっ
て、落としてしまった。
踏み潰される! 私は悲鳴をあげた。
前にいた男子の足が踏み潰しにかかる寸前、奇跡が起きた。
隣にいた男の子が、手早く拾い上げてくれたのだった。
「はい、あぶなかったね」と、見るからに優しそうな男の子は笑いかけて、私にタマゴサンドを渡すと、タマ
ゴサンドを踏み潰そうとした赤毛の男子と一緒に去っていった。
痺れをきらした上級生に突き飛ばされるまで、私は彼の後ろ姿をずうっと見つめていた。
別れてからも、タマゴサンドを食べているときも、寝転がって不思議系マガジンを読んでいるときも、彼のこ
とが、ずっと、気になった。
彼にとっても、私はただの黄色なのだろうか? そうかもしれない。彼は私の名前を、笹森花梨だと知らない
だろう。そして私も、彼の名前を、知らなかった。
彼はただの「優しい男の子1号」で終わるのだろうか。それは、イヤだと思った。
私は、彼の黄色にはなりたくなかった。彼に黄色だと思われたくなかった。
・
・
・
私は、ミステリ研を創った。
私が黄色ではない唯一無比の存在になるために。
この世にただひとりの笹森花梨が、この世にただひとつの真実を追究するために。
そして、彼をオンリーワンの名前で堂々と呼ぶために。
彼の名前は、もう決めた。たかちゃん。私が“たかちゃん”って呼ぶのは、あなたが最初で最後。
私も、あなたの最初で最後の存在になりたい。
だから、たかちゃん。お願いだから、私を黄色と呼ばないで。
スーパー黄色タイム! スーパー黄色タイム!
以上。
>>666 SSのネタ?
そーだなぁ。
ある程度、このみシナリオを進めつつ、このみの処女をおいしく頂き、
タマ姉シナリオも進めつつ当然タマ姉の処女もおいしく頂き、
このみの母親と不倫して柚原家を崩壊させて、このみの母親と駆け落ちする貴明。
処女まで捧げて愛していたタカくんに、事もあろうに自分の母親と駆け落ちされ、
人間不信になり、ヒキコモリのリスカ女に変貌しちゃうこのみと、
長年の想いがやっと叶ったかと思えば、
事もあろうに自分より2歳下の娘が居るような歳のおばさんにかっさらわれて、
男性不信になり、泣きながら九条院に帰り片っ端から自分のファンをお召し上がりに。
斯くして、九条院は某リリ○ン女学園も真っ青な百合空間へと変貌を遂げる。
こんな感じの内容で、エロ満載でぶっちぎってくれる作家募集中。
>>670 珍しい、花梨SS乙ー!
雄二に踏み潰されたらどうなってたやら。。。次回作期待。
671……おぬしはやはり、物が違う……
>>670 かもりんキター!GJ!
こういうの好きだな。
>>657 遅レスですが、GJ!
こういうユルさも河野家の持ち味。
>>676 Blownish Storm の中の人が書いてくれるよ、きっと。
たかちゃん、ホントにいいの?」
不安そうな顔で尋ねてくる花梨。
その手にはかつて俺が「アンケート」と言われて名前を書いた
ミステリ研の入部届があった。
「いいも何も、俺はすでに部員のつもりだけど。それとも俺は
やっぱり部員失格なのか?」
「そ、そうじゃないよ」
たかちゃんは立派な一人前のミステリ研部員だよ、と言ってから
顔をうつむけた。
「でもこれは私が、その…騙して、書かせたものでしょ?」
しょうがないな、と花梨の頭にポンと手を乗せて笑顔を作る。
「そりゃ最初はとんでもないことされたって思ったけど、今はもう
そんなこと関係ない」
そう、もう前のことは関係ない。
ここに来るようになったきっかけは俺にとってろくでもないこと
だったけれど、今もここにいるのは俺自身の意思で決めたことだ。
「俺が正式にミステリ研に入りたいから入部届を出してくれって
言ったんじゃないか。笹森さんに強要されたわけじゃない、自分で
決めたことだ。俺の意思だよ」
「たかちゃん…」
「だから、もう気にしないで。堂々と出してくればいい」
花梨はしばらく入部届と俺の顔を交互に見比べながら迷っていたが、
やがて意を決して顔を上げた。
「…うん。ありがとう、たかちゃん」
「ほら、行って」
「うん!」
満面の笑みを浮かべると、彼女は元気よく職員室に入っていった。
これからのことを考えるとちょっと後悔しなくもないが、今までの
退屈な日々を考えるとよほど刺激的な生活を送れそうだった。
「ほんとに…いいの?」
「うん…たかちゃんなら、いいよ」
ミステリ研の暫定部室である体育倉庫(正式に部に昇格したので近々
別に部室が用意されるらしい)。
ここには俺と花梨しかいない。ドアを隔てた向こう側の体育館にも
人気はない。何をしても邪魔する人間はいなかった。
「それじゃ…いくよ?」
「う、うん」
ごくり。
唾を飲み込んで恐る恐る手を伸ばす。俺が今まで手の届かなかった
領域に、ついに踏み込む――
ペリッ。
開けたばかりのミックスサンドからタマゴサンドをひょいと取って、
ぱくりと一口。
「…うまい。うまいぞおおっ!」
「たかちゃん…普通そこまで感動する?」
そりゃ感動もするだろうさ。
ここしばらく口に入ることのなかったタマゴサンドの味は、懐かしさすら
覚えるほどに素晴らしいものだった。
「いつも俺がミックスサンド買ってくるたびにタマゴサンドを取られて
しまってたんだから」
「だって好きなんだもん」
「ああ、今ならよくわかる。タマゴサンドは偉大だな」
花梨に感化されたのかも知れないが、タマゴサンドがこれほどまでに
うまいとは思わなんだ。
卵とマヨネーズの絶妙なバランス。それをパンにはさむことにより、
こんなに素晴らしい味を生み出すとは。
「それにしてもよく俺に譲る気になったね」
「感謝の気持ちなんよ。タマゴサンド一個程度じゃ、私の感謝の気持ちを
伝えるには全然足りないけど…」
大好物を譲ってくれるくらいなのだから、それくらい感謝していると
いうことなのだろう。と、良い方向に解釈することにした。
「ところで、ほんとに良かったの?」
「これ?いいのいいの。気にすることないから」
テーブルの上には3枚の入部届が並んでいる。
右から柚原このみ、向坂環、向坂雄二と俺の幼馴染み達の名前がそれぞれ
記入されていた。
「さすがに3人となるとちょっと罪悪感があるんだけど」
「何を今さら。しおらしい女の子を装って俺に入部届を書かせた笹森さんの
言葉とは思えないぞ」
すると花梨は突然黙って俺の顔を見つめた。
な…なんだ?怒ったのかな。や、やっぱり失言だったよな。
「えーと、ご、ごめ…」
「それなんよ!」
「え?」
びしっと俺に人差し指を突きつけて花梨が声を上げた。
「たかちゃん、あの時以来呼んでくれないんだもん」
「何を?」
「私の名前…花梨って。『笹森さん』のままじゃない?」
うっ。いや、だって…あれはつい勢いで呼んでしまったわけで。
心の中では名前で呼んでいるけど、今でもなかなか口には出せない。
「私は…たかちゃんが好きだよ」
花梨は少しか細い声で、それでもはっきりと言った。
「たかちゃんは覚えてないかも知れないけど、ずっと前から…あの時から
ずっと好きだったの」
「え?え…あの時って?」
「一度だけ、たかちゃんが私を助けてくれたことがあって…それまで
お互いに話したことも会ったこともなかったけど、その時から私はずっと
たかちゃんが好きだった」
一度だけ…俺が、花梨を助けた?
それはきっと自分にとってはささいなことで、しかも俺は女の子が苦手な
奴だから恥ずかしさが先に立って、お礼を言われても聞きもせずに去って
いったのだろう。
「その時もタマゴサンドだったの。私が買ったのは」
「――あ!えっと、それはもしかして…三学期の?」
こくりとうなずく花梨。
「あっ」
――購買の人ごみにもまれて、せっかく買ったタマゴサンドがポトリと
床に落ちた。
取ろうとして少し背をかがめた時、周りの連中は気づきもせずに押し合い
私はその場に倒れそうになる。
「大丈夫?」
それをとっさに支えてくれたのは、私と同じ学年の男の子。
知らない顔だけど…とても優しそうな人だった。
「あ…はい」
「えっと…はい、これ」
「あ、ありがとう…」
私がお礼を言うと、彼は照れた風に「それじゃ」と人ごみから抜けて
どこかに消えてしまった。
「誰――だったのかな?」
名前も知らない男の子。
私(とタマゴサンド)を助けてくれた彼のことがそれ以来ずっと気になって。
「もう一度、お礼…言いたいな」
私は他の子と違って趣味とか変だったから。
男の子にからかわれたりすることはあっても、優しくされたことなんか
ほとんどなくて。
「河野、貴明くん――」
単純なのかも知れない。
ちょっと助けてもらったくらいで好きになっちゃうなんて。
「入部、届…」
だけど、会いたかった。話をしてみたかった。
きっかけは何でもいい。変な奴って言われてもいい。そんなことを
言われるのはもう慣れている。
もしかしたら嫌われたりするかも…それは、泣いちゃうかな。うん。
だけどそれでも――会いたかった。話がしたかった。
「強引だってわかってた。絶対に嫌がるよねって…」
見れば、花梨の閉じた瞳には涙が溜まっていた。
それでもなお彼女は言葉を続ける。
「でも、それまでたかちゃんとの接点なんかなかった私が作れる話題は
ミステリ研しかなかったの。だから…」
「もういい。もういいから…ごめん、嫌なこと話させた」
ようやくわかった。花梨が俺をミステリ研に引っ張り込んできた理由が。
もう、あの時には俺が好きだったなんて。
「ごめんなさい、ごめんなさい…」
「もういいから…泣かないでくれよ――花梨」
こんな時になって、やっと名前を呼んでやれるなんて。
本当に俺って奴は…
「やっと、花梨って呼んでくれたね」
「今だけだ。いつもは恥ずかしくて無理」
「えー、ケチ」
花梨は俺に抱きついたままでくすくすと笑う。
泣いたカラスがなんとやら…とはよく言ったものだ。
「じゃ、二人きりの時だけでいいから」
「それはものすごく多い気がするんだけど」
雄二達は名前だけの幽霊部員で、実質ミステリ研の活動をするのは
俺と花梨の二人だけ。従ってこれからもずっと二人きりということだ。
「それならたかちゃんも恥ずかしさを克服するのに十分な時間が
あるってことだよね」
「うわ、これからも名前で呼ばせる気満々?」
「もちろん。それとも私と…したのは遊びだったの?」
いや、「キス」のとこだけ小声にするな。
「――善処します」
「ん、よろしい。それじゃ活動開始しよっか」
「どこに行くのさ?」
振り回されるのはどうやらこれからも変わらないらしい。
それでも…俺は――
「どこでもいいの!ミステリは私達の行く先にきっと現れるんだから!」
俺は、この笑顔に振り回されることに楽しさを感じていた。
改行エラーのおかげで6レスに増えてしまいました('A`)
先に花梨SSが載ってたからちょっと迷いましたが。
ありがちっぽいなあ…読み流してくだされ。
>>686 スーパー花梨タイム! スーパー花梨タイム!
688 :
686:2005/11/02(水) 01:20:50 ID:oByoQKOw0
何気に俺のIDが…お父さん?お母さん?
>>687 確変突入?
私はこのスレッドを読んでいて始めて意見を言いたくなりました。
今まではどんなSSが出てきても特に感想を書こうとは思いませんでしたがこれは別格です。
これ多分エンディング前後の補完SSだと思います。
すごく花梨への愛に溢れていると思います。
ですが。
はっきり言って気色が悪い。
『現実逃避した花梨のひたすら自分に都合がいい妄想』かと思いました。
いいじゃん別に。
花梨って作中でも現実逃避して自分に都合のいい妄想してるよ?
こんなとこまできて粘着するなよ…
>>686 花梨SS乙。
でも、花梨がどれほど感謝しても、タマゴサンドは分けてくれない
気がするんだが、まだ漏れが花梨というキャラを掴みきれていないのか?w
>>
689
どのキャラも大なり小なり自分に都合のいい妄想をしてる気がするが、
特に草壁さんあたり。
都合が良い妄想に見えるのは貴明のキャラのせいじゃないかな
貴明っぽくないと思う。考え方とかじゃなくて台詞だけでそう感じる
でも、話は良いと思う。
>>686 ありがちだろうがなんだろうが構わないんじゃない?
要はどれだけ読み手を楽しませられるかだよ
草壁さんは拡大解釈、妄想とは似て非なるもの。
nijimada-?
何時ものように何も用事が無い日曜日。前日に深夜までテレビを見ていた俺は太陽が十
分に昇っても惰眠を貪っていた。そんな悦楽の時を妨げる音が家の中へと響き渡る。無論
睡魔に負けたい俺は電話など取るつもりも無かった。しかし何時まで経っても音が鳴り止
むことが無い。どうも相手は手ごわいようだ。
実に機械的な耳に障る音が鳴り続ければ嫌でも目は覚めてしまう。仕方が無くベッドか
ら重い体を持ち上げると電話を取りに1階へと降りた。
「はい…河野です」
「電話に出るのが遅い!」
その聞きなれた声を耳に受けて意識が一瞬にして覚醒した。タマ姉ならさっさと出とく
んだったと今更ながらに後悔。しかし後悔先に立たず。電話先のタマ姉は明らかに怒って
るのが分かった。
「ご、ごめん。部屋で寝てたから気づくのが遅くってさ」
「あら、なら起こしに行ってあげた方が良かったかしら…」
「大丈夫。大丈夫だから。もう起きたから」
タマ姉に起こされたら朝からどんな目に遭うか考えるだけでも冷や汗が出てしまう。
受話器越しには不満そうなタマ姉の声が聞こえてくる。
「朝起きたら愛しのタマお姉ちゃんが居るのよ?それだけでタカ坊の一日は幸せそのもの
じゃないの。なのに要らないって言うわけ?お姉ちゃん寂しいなー」
「もう起きたから今日は大丈夫だから」
「なら今度タカ坊に用事ある時は起こしに行ってあげるわね」
「そ、そうですか」
何時も半強制的に用事がある時は俺の家に上がりこんできてるじゃないですか、と俺は
言いたかった。けど言えなかった。そんな俺が悲しかった。抗ってもしょうがないんだな
と肩を落としている所にさらに追い討ちをかけてきた。
「で、タカ坊。今日暇でしょ?着替えたら私の家に来なさい」
命令形ですか…拒否権は無いんですか。そうですか。
「けど朝ごはんとか…」
「それならこっちで用意してあるから安心しなさい。ほら、早くする!」
「わかったよ…。そういえば雄二は?」
「安心していいわよ。逃げれないようにしておいたから」
「そうですか…」
想像するに優しいな。雄二、生きてると良いけど。
遅れてタマ姉に怒られるのも怖いので早々にその辺りに置いてあった洗濯済みの服に着
替えて家を出る。外に出ると風が冷たい。周りの家の木々も赤くなっていて既に落ち葉も
多くなってきているみたいだ。冬が近づいてくるのを落ち葉を踏みしめながら実感する。
そう時間もかからずに相変わらず大きいタマ姉の家に到着した。それにしてもこの家は
どれくらい大きいんだか。その長く続く壁を途切れさせる門をくぐって呼び鈴を鳴らす。
「はーい。タカ坊いらっしゃい」
「おはよう、タマ姉。で、今日は何か用なんでしょ?」
「まぁそれは追々話すとして、まずは朝食にしましょ?」
「う、うん」
タマ姉にはぐらかされつつ背中を押されて客間へと通される。そこには既に湯気を立て
ている実にこの家らしい和風な献立が並べられていた。
「凄いね。こんなの食べるの久しぶりかも」
「あら、家では普通よ?もしかしてタカ坊ちゃんと朝ごはん食べてないんじゃないの?」
「いや、食べてるけど…こんなには食べないよ」
並べられているのは鯵の開き、ほうれん草の御浸し、漬物、味噌汁、金平牛蒡、卵焼き、
そしてご飯。これだけボリュームのあるラインナップの朝ごはんなんて生まれてこの方食
べた記憶も無い。無論見ただけで出来合いではないことは分かる。これだけの物を作るな
んて流石はタマ姉と言った感じだ。
「そう。まぁ食べてるなら良いけど、もし食べたくなった言うのよ?タカ坊の分もちゃん
と作ってあげるから」
「気が向いたらね。それよりも今はこれを食べたいかな」
「そうね。私もお腹空いちゃったし。じゃあいただきましょうか」
「あれ?雄二は」
「雄二は寝てると思うから先にいただいちゃいましょ?」
「う、うん」
逃げれないようにしておいたって言ってたけど…雄二、落ちたか?しかしこんな所で下
手に詮索して俺も巻き添えになるのは賢い選択ではないのが本能的に分かった。雄二、許
してくれ。俺はお前よりも朝食を取るぞ。
心の中で雄二に対して謝ってから俺は食卓に座って朝食を頂くことにした。
「うん、美味しい」
「当然よ。タカ坊の為に作ったんだから」
「ありがと。こうやってこの家でタマ姉が作ってくれるご飯を食べるのは初めてかも」
「そうね、そもそもタカ坊が家でご飯を食べることが少ないものね」
小さいときはこの家で雄二、このみも一緒になってご飯を食べることはままあったけど
タマ姉が戻ってきてからは高校生になったというのもあるし何よりこの家で夕飯なんか食
べた日にはタマ姉のどんな策略があるかと言った不安からタマ姉に誘われても断ることが
しばしばだった。ひょんな事で一緒にタマ姉お手製のご飯を食べたが流石は九条院で自炊
していただけあって美味い。前からお弁当でタマ姉の料理の上手さは分かっていたがこう
して温かいご飯を食べると一層実感させられる。
味噌汁椀を手にとって口にしようとしたところでふと湯気越しにタマ姉の方を見るとこ
っちをニコニコしながら見てきていた。ずっとそんな笑顔で俺が食べているところを見ら
れていたのかと思うと急に恥ずかしくなってしまう。
そのまま終始タマ姉の視線が刺さってきて恥ずかしい中、朝食を食べ終えた。
「ご馳走様」
「はい、お粗末さまでした。全部食べてくれるなんてタカ坊偉いじゃない」
「だって折角作ってくれたのに残したら勿体無いからさ」
「うんうん、やっぱりタカ坊は良い子ねぇ〜。それに比べて雄二は好き嫌いが激しいし、
作ったご飯を残すし…我が弟ながら情けないわ」
はぁ〜とため息を大きくつくタマ姉。まぁ雄二にも雄二なりに大変な事もあるんだろう。
タマ姉が食器を片付けている最中に雄二に部屋へと言ってみることにした。寝てるなら
起こしておかないと俺だけに面倒な用事を押し付けられたらたまったもんじゃない。雄二
の部屋の前についてノックをしてみるも反応は無い。再度叩いても反応なし。ノックをし
たんだから別にやましい状況に出くわす事は無いだろう。俺はノブを回してゆっくりとド
アを開けた。
「ふむむむー!ふむむむむむー!」
雄二は確かにそこにいた。けど俺の知ってる雄二は蓑虫のように簀巻きにされ、吊るさ
れてはいない。きっと夢だろうと思いたかったのは山々だが俺に助けを請うように左右に
身体を捻るその姿は実に気持ちが悪い。現実であるのは間違いないみたいだ。
とりあえずは雄二の口にしっかりと咥えられている手拭を取ってやった
「よぉ、お前は珍しい寝方をするんだな」
「寝てたわけじゃねぇ!!姉貴にされたんだよ!!」
確かに自分だけの力でこんな器用な体勢になんてなれるわけない。粗方タマ姉から逃げ
ようとしたがそれも叶わずこの様な見るも無残な姿にされたのだろう。とりあえず雄二を
吊るされた状態から解放してやり、縄を解いて簀巻き状態から解放してあげた。
「また無駄に抵抗したのか?」
「無駄とか言うんじゃねぇ!! どうせ休日に姉貴が言ってくること何か次の日に全身筋
肉痛になりかねない他の見事なんだぜ!? 折角の休日をそんなことで潰してたまるかっ
て事で挑んだが…」
そこで悔しそうな表情を浮かべる雄二。どうやらその挑戦も徒労に終わったようだ。
「案の定お前も呼ばれたか…その様子じゃ未だに姉貴の事を信じきってるだろ!」
「信じきってるって…信奉者じゃないんだから。用事があるから来いって言われただけで
朝食も用意してもらってたから食べたし」
俺が話している途中で雄二が俺の両肩をがしっと掴んできた。何と言うか目がマジなの
が分かる。
「お前が義兄になるのは100歩譲って許すとしてもお前はそれで良いのか!?あの姉貴に
騙され続けていて良いのか?それで本望なのか〜!?」
肩をガシガシ揺らして熱弁を揮う雄二。こいつの義兄になるってどういう事だろうか。
まさか俺とタマ姉が結婚するって事か?そりゃまぁタマ姉は綺麗だし、怖いときもあるけ
ど優しいし料理も上手いし傍目から見ても非の打ち所の無い人であるのは分かる。けどそ
こで何で俺と結婚することになるんだろうか。理由がさっぱりわからん。
「ゆ、雄二落ち着けって」
「落ち着いてられるか!おい、今すぐに逃げるぞ!さもないと…」
「さもないとどうなるのかしらねぇ…?」
暖房も効いていない朝の部屋は寒い。しかしその寒さとは明らかに違っている。背筋が
凍る。冷や汗が出る。本能が緊急退避を告げているのが分かる。ヤバいのだ。何がヤバい
ってあの声がしたからだ。タマ姉のあの声。明らかに悪さを見つけたといった感じの声。
俺はドアを背にしているからタマ姉が見れないが直接見ている雄二は俺の肩を揺らすの
ではなく自分の肩を揺らし始めていた。
「や、やぁ姉貴。おはよう」
「あら、雄二。お遅いお目覚めです事。それにしてもまさか雄二が私とタカ坊の婚姻を認
めてくれるなんて嬉しい限りだわ」
俺の顔の横を何かが横切る。その横切ったものは雄二の顔にたどり着くとその顔をギリ
ギリと締め付け始めた。そこで俺はやっとタマ姉の手が俺の後ろから雄二へと伸びてアイ
アンクローを極めたのだと言う事が理解できた。
「あだだだだだだ!!割れる割れる!もう割れる!間違いなく割れる!割れるってば!」
「私がタカ坊を騙してるだなんてそんな法螺が良く吹けたわけねぇ?そろそろもう一度自
分の立場ってのを分かっておいたほうが良いんじゃない?」
「ご、ごめんなざい…おねえざま…」
最初は全身をのた打ち回らせていた雄二もギリギリと鳴り響く音が大きくなるに連れて
段々とその動きを小さくさせ、終いにはだらんと力なくだれてしまった。タマ姉がその手
を離すとどさりと雄二の骸が床へと横たわった。
あぁ、雄二、あなたは私の知らないところへと言ってしまったのですね…
「勝手に人を殺すな…」
タマ姉が早く着替えてきなさいと一言残して部屋を去ってから俺が雄二へ死への手向け
の言葉を送ってやろうとした所で死に掛けながらも雄二が俺の方を向いてきた。どうやら
まだ何とか生きていたらしい。といっても瀕死には間違いないんだが。
「何だ、生きてたのか。折角手向けの言葉を送ってやろうかと思ったのに。俺の思いを無
駄にするのかお前は」
「だからって俺を殺すのか!貴様は!」
「時と場合による」
「人でなし!!」
その後雄二は何とか息を吹き返し…いや、元の状態に戻り、俺達はタマ姉に庭へと連れ
て行かれた。この家はやたらと敷地がある分庭も広い。小さい子なら迷子になりかねない
くらいだ。…ちょっと言い過ぎたかもしれない。けど小さいときはちょっとした林と言っ
た感じもしたもんだ。
俺らが寒さに体を凍えさせながら待ってるとタマ姉は両手に竹箒を持ってきてそれを俺
達に渡す。
「えーっと、まさかとは思うけど」
「落ち葉をここに集めてきて頂戴」
「まじかよ…どんだけ広いと思ってんだよ〜」
雄二が箒を持って肩を落とす。雄二に同情したいところだが俺もしないといけないんだ
よな。広い庭を眺めてただただため息が出てしまった。これって飴と鞭って言うのかな。
「広い…広い…」
呟きながらひたすらに箒を使って落ち葉を集める。幸いな事にこの家の木は常緑樹が多
いのか落ち葉自体はそんなに多いわけではないのだが広いせいで落ち葉を拾っては別の所
へ探しに行って拾って…ときりが無い。最初は雄二と同じところを二人でやっていたのだ
が余りにも広すぎるので二手に分かれて端から行ってしまおうと言う事でこうして分かれ
て行っている。
どれくらい時間が経ったのだろうか。そしてどれ位終わったのだろうか。進行方向を眺
めてみても出発地点よりも遠くに目的地があるのだけは分かるだけだ。あー、何か嫌にな
ってきた。けどここで止めてもタマ姉からのお仕置きが待ってるだけか。結局心の中で泣
きながら黙々と箒を掃き続けた。
「タカ坊、そろそろお昼にしましょ」
「あ、ありがたい」
落ち葉掃除をしている俺のところにタマ姉がやってきてお昼を教えてくれた。縁側へ行
くと既に雄二は座って俺を待っていた。そんな雄二を見ると俺以上にへばった様子なのが
一目で分かる。また逃げようとでもしたんだろうか。
「大丈夫か?雄二」
「朝飯抜きでこれは辛い…」
あぁ、そう言えばこいつ朝飯食べてなかったな。自業自得と言いたいところだけどあん
な悲惨な目に遭ってたのを目の当たりにしたらそんな事も言えやしない。二人で縁側に座
ってぼーっと空を眺める。少し雲はあるけど太陽も出ていて天気は良好。こりゃまるで日
向ぼっこだな。
「はい、お疲れ様。お昼ご飯よ」
タマ姉がお盆に載せて持ってきたものはおにぎりに唐揚げ、たくあん、そしてお茶と
言った簡単に食べれるラインアップだ。最もその唐揚げだけでも凄く美味しいのは当然の
事だった。
うん、労働の後の食事は実に上手い。
食事の後の休憩を挟んで再度庭掃除が始まる。もう半分位は終わっただろうか。後半分
と考えると長いんだか短いんだが何がなんだか分からなくなってくる。それでもひたすら
に掃き続ける。昼食を食べてエネルギー補給をしたおかげでまだ何とかやれそうだ。
「終わったぁ〜!!」
最早太陽は真上を通り過ぎていたが何とか俺のやるべき範囲は終わらせることが出来た。
箒に体重を預けて休んでいると雄二も遅れて落ち葉をまとめた場所へと戻ってきた。
「やっと終わった…」
「お疲れ、雄二」
「お前もな」
二人で達成感以上の疲労感を受けているとタマ姉が今度はお盆にさっきとは違ったもの
を載せてきた。赤紫色の皮に包まれた根菜、秋の風物詩の野菜、さつまいもだ。
「焼き芋かぁ。こんな風に落ち葉で食べるのなんてタマ姉がまだこっちに居た時以来じゃ
ないかな」
「あの時は周りのガキ共全員を集めてみんなでこの庭の落ち葉集めさせられて焼き芋した
んだっけか」
あぁ、あの時も俺らはタマ姉に引っ張りまわされてたんだっけ。いい加減成長しろよと
自分に言いたかった。
落ち葉の中にホイルに包んださつまいもを入れ、上に落ち葉をかけて覆う。紙縒り状に
した新聞紙を使って種火をつくり、後は落ち葉をゆっくりと燃やすだけ。火が燃え移った
木の葉はパチパチと音を立てて爆ぜる。煙が立ち上りそれが天まで登っていく。
火が消えないように落ち葉を度々混ぜながら焼き芋が出来るまで待つ。
「こうしてると昔を思い出すわね」
縁側で焚き火を見ながら隣で座っているタマ姉が話しかけてくる。タマ姉の方を振り向
くと彼女の顔は焚き火を眺めながら昔を懐かしんでいるような表情をしている。
「確かにね。この年になってこんな事をするなんて思ってなかったよ」
「あら、つまらない?」
「そうじゃないよ。焚き火なんて高校生にもなってしないしさ、昔を思い出せて楽しいよ」
「そう。それならタカ坊を呼んだ甲斐があったわ。この年になってだけどね、タカ坊と昔
一緒にやった事をやってみたくなったのよ」
「一緒にねぇ。そういやぁいろんな事やったもんな」
主にタマ姉が俺らを引っ掻き回して楽しんでいたような気もするけど楽しかったのは小
さいながらも覚えていた。こんな思い出を再現できるのも良いもんだな。そんな事を思い
ながらじっと焚き火を眺めていると横からの視線に気づく。視線の元は無論タマ姉だった。
それに気づいてタマ姉の方を向くと彼女は途端に落ち葉の中で輝く炎の紅の様に顔を染
めてきた。あれ?俺ってばタイミング悪かったかな。
「どうしたの?タマ姉」
「あ、いや、た、タカ坊もかっこいい表情させるんだと思って…それだけよ」
「かっこいいなんて、俺なんか褒めてどうすんのさ」
「別に褒めたわけじゃないわよ。そう思っただけ」
「ふーん…、なら俺から言わせて貰えるならそうやって顔を赤くさせてるタマ姉も可愛い
と思うけどね」
「ばか…それこそ褒めてどうすんのよ…」
「別に褒めたわけじゃないよ。そう思っただけ」
タマ姉の言葉に対してさっきタマ姉自身が言った言葉そのままで返すと頬を膨らませて
不満そうな顔をしてきた。こうコロコロ表情を変えてくるところなんか何だかんだ言って
タマ姉も子供なんだからなぁ。
「おーい、もうそろそろ良いみたいだぞ〜」
落ち葉をカサカサとかき混ぜて焼き芋が出来上がったのを雄二が知らせてくれた。黒く
なった落ち葉の中から出てくるのは熱くなったホイルに包まれた焼き芋。熱い中慎重にホ
イルの包みを解くとほんのり焦げた焼き芋が姿を現してきた。二つに割ってみると湯気が
立ち上がり、その湯気の先には黄金色に輝く芋の中身が見える。どうやら焼き具合は良好
みたいだ。
「おーうまそー!」
雄二が嬉しそうな顔をさせながらホクホクと口を動かしながら芋を食べ始めた。俺も早
速食べてみた。無論食べ方は皮など剥かずにかぶりつく!!口に入れると芋本来の甘さが
口に広がってきて、味が懐かしさも伴って来ているような感じをさせてくる。
「うん、美味いな。そういえばタマ姉、このみは呼ばないの?こんなのこのみ呼ばなかっ
たら拗ねるんじゃない?」
こんな秋の風物詩でしかも食べ物のイベントでこのみを無視してそれをこのみが知った
場合の彼女の態度が容易に想像できる。それにタマ姉がこのみを呼んでないはずがないし。
「安心なさい。ちゃーんと呼んであるから…ほら、噂をすれば」
タマ姉の視線の先に目をやるとそこにはこのみの姿があった。まるでこの焼き芋の匂い
に釣られてやってきたみたいにも思えてくる。俺達が食べ始めているのが分かったのか
近づいてくる速度があがった気もする。そして自慢の健脚ですぐに俺達が居る所までやって
きたのだった。
「少し遅れてしまったであります。あ、タカくん達もう食べちゃってるの〜!?」
「安心しろよ、このみの分もちゃんと焼いてあるから」
「なら一安心であります」
自分の分があるのが分かると満面の笑みを浮かべてくる。相変わらず食いしん坊な奴だ。
「それじゃあいただくとしましょうか」
「あ!雄二!てめぇもう2本目だろそれ!!」
「知るか!この世は所詮早い者勝ちだ!!」
「あー!このみも食べるー!!」
「ほら、まだあるんだから取り合いっこしないの」
木枯らしが今にも吹きそうな冬の寒さが訪れているこの街でもここだけはまだほんのりと暖かかった。
色々貴重な意見どうもありがとうございます。
確かにみなさんの意見も聞いてなるほどと納得する部分ばかりです。
こればっかりは自らの技量の低さに申し訳なく思う限りです。
自分の作品でこのスレが荒れるのは自分としても好ましくないので
一先ずはBrownish StormはWebページでの公開のみでこちらではお知らせだけさせていただきます。
これなら見る見ないが完全に一人一人の判断になって良いかと思いますので。
最も連載の更新自体は少し置いて暫くは短編で修行してみたいと思います。
ミルファにこだわらないでというよりもミルファ以外で普通に書いていきます。
その際はこの名前は使わないので自分の作品だと分かっても詮索なしでいてくれると嬉しいです。
無論Brownish Stormは書きます。完結はさせます。ミルファへの愛で書きます。
気晴らしというと言い方は悪いかもしれないけどこうした普通のSSを書くのはやっぱり楽しいです('∀`)
>>705 激しく乙です
まぁ、よくもわるくも2chですし、気負いすぎずいきましょう。短編、ブラウニッシュ(やっと全話読んだ)共に期待してます。
個人的にはエロよりシリアスラブ黒希望。ところで河野家って今どこかに纏まって置いてないんですか?1話から読みたいんですが…前スレのみ?
>>705 乙〜
上でこのみとタマ姉のSS希望って話が出てたから、書くとは思っていたけども……
ホントにくると驚き通り越してポカーンとするなw
どーでもいいツッコミだけど、
落ち葉焚きって小学生とかだと危ないからむしろ高校生とかの方がやる機会はあると思う
>>705 乙です
俺は自宅にネット環境がなくて携帯からしか見れないから
Brownish Stormはここにupして貰いたかったんですが…
>>705 乙。
前から気になってたんだけど、読点の使用率極端に低いよね?
こだわりがあるのかなんなのかはしらんけど、読む側としては非常に読みづらい文章になってる。
読点なしの長文なんて読む気しなくなってくるよ。
あとどうでもいいことだが、4/9の雄二の台詞。
「どうせ休日に姉貴が言ってくること何か次の日に全身筋 肉痛になりかねない他の見事なんだぜ!? 」
これだれか翻訳してくれ。
ぱっと見でも、横方向に文字が詰まりすぎてると感じる。
句読点の使い方、というか読点の数がちょっと変。今まで通
りでも読めないことはないけど、やっぱちょっと読みづらい。
厨房がパクリとかうるさいけど、気にせずに頑張ってください。
>710
「何か」→「なんか」
「他の見事」→「頼みごと」だろうね。
後書きの「最も」は「尤も」だと思うよ。
本文その他共にちょっと誤字が多すぎるので、推敲を重ねてみては如何か。
Brownish Stormをサイトにあげるだけにしろとか誰も言ってないのに……。
最近、パターン化しててマンネリっぽいから、もうちょっと頑張ってくれって言ってたんじゃ?
結構もう長く続いてるんだし、それなりに読者も人気もある作品で
保守的になりがちなのは、なんとなくわかるがドラゴンボール化させてしまうのはもったいない。
連載の物語は常に新しい展開と読んだときの驚きと説得力と力業。
読者に先を読ませない、「えー、こんな展開になっちゃったら……でも、最後はうまくいくんだよね?」
例え、ミルファとの間がこじれても「どーせ、元鞘に戻るんだろ」と先に思われたのではダメ。
「これは、ミルファがヒロインの話だから、どんなにトラブルがあってもちゃんと元鞘に戻れるんだよね?」
この最後の?が大切。
まあ、Brownish Stormはずっと追いかけて楽しみにしている作品だし頑張ってくれ。
>>708に惚れた
ありがとうございます!お陰で河野家全話読めましたー。これで心おきなく河野家マダーできます!
このスレに触発されてSSという物を書いてみたけど難しいもんですね…自己満足で終わってUPする勇気なんてとてもじゃないけど無い…
精進しよう。
最近は批評なのか言いがかりなのかよくわからない意見が
SS投下の度にあるから、サイト持ってる作者がサイト掲載のみに
したくなるのも仕方ない。
つうかさ、誰とは言わんが尻軽すぎるんだよね。
スレでリクエストがあると、そのキャラのSSを書いてくださるとか……
そら要望に応えられるのは偉いと思うが、上がってきた作品は誤字脱字だらけ。
たまにキャラの名前を間違えてたり口調がおかしかったりする。
それを見ると「ホントに貴方はこのキャラの話を書きたかったのか?」と聞いてみたくなるんだよ。
ぶっちゃけ目立ちたいがために、そのとき流行ってる(?)キャラに手を伸ばしてるようにしか思えん。
最後は俺の私見でしかないけど、テンプレキャラにテンプレ台詞喋らせてるだけで
そのキャラらしさの感じられないSS読んでると気持ち悪くなってくるんだ。
荒れそうなレス書いちまってすまん。大人しくROMるわ。
>>716 そしてそのコメントを書くことでキミも目立ちたかったわけだな。乙。
キャラらしさとかそんなのは、初期設定とか作中の設定から外れなきゃいいんだよ。
職人さんを遠ざけるような我侭言うなよ、このタコスケ
>>716
まあ、716の言ってることはおかしいな。
どんなところに「らしさ」を感じるかなんて人それぞれ。個人の嗜好でSS作家さんのやる気を削がれちゃ敵わん。
だが717とか718みたいに煽るだけの作家さん擁護もどうかと思うぞ?
言いがかりみたいなレスでも悪いと思った点を指摘してるわけだし、一つでもいい点を挙げるのが本当の擁護なんじゃないか。
つーか、ロクに感想のレスもつかないのに、こういう話題になると急に人が増えるよな('A`)
これじゃ作家さんが離れてもしょうがないんじゃないよ…批判の批判する暇があったら感想書こうぜ…
>>705 GJ!
ミルファの話も頑張って。応援してる。
作品を人の目に触れる場所に出せば、賞賛や批評が来るのは当たり前
>>705 乙です。
いいな、こういう話好きですよ。句読点どうのこうのってのは、
まあ多少気にならなくもないけど。
適度に改行入れればもう少し読みやすいかなと思います。
(改行多すぎるとエラーが出るし、レス数が多くなるのも
どうかと思って詰めたのかも知れませんが)
>>689-693 レスサンクス。
もう一回花梨シナリオやってくる…いっそ全部やり直すか。
>>716 最初っからそんなの書かないで大人しくROMってろよ
それでも気持悪くなるんなら、NG指定するか失せろよ
直して欲しいならその煽り文体やめろよな
>>719 ここの住人は殆どが『批判』と『擁護』のラインが分かってない、もしくは見えてない。だからどんなことがあっても煽りに見えてしまう。
なら、マターリと職人さんが書いてくれるのを待って、正論だけ言った後GJ言えば丸く収まるじゃないか。
>>721 花梨の場合は、タマゴサンドを分けてくれるより
身体を許す方が先のような気がしますw
何にせよ、また花梨SSを期待してます。
いや、花梨でなくてもいいですがw
>>709のかたと同じ理由でどうかよろしくお願いします
【感想】桜の咲く頃 第六章
隠れていた(んだよねぇ?)人間の後ろからどうして?(どういうシチュエーションなのか)
というのは引っかかる…
それはさておき。
郁乃自身の言動もですが、次回に予測される貴明の行動に 愛佳と郁乃をどう動かすのか…
ハラハラドキドキです。だって下手をすれば前書きを裏切ってしまいそうで。
そして タマ姉の存在(介入)も予測不能でドキドキ(w
でも今回の 貴明と タマ姉の やり取り。郁乃の言葉からタマ姉とのやり取りに繋げて、
二人の自然な一シーンを話に織り込める、それがすごいなぁ と思います。
>>726 あきらめろ。
この状況で連載物をここに投下するのは勇気がいる。
>>728 同感だな。
後先考えずに叩くだけのモグラ叩きみたいなやつがいるからな。
漏れ自身は作者サイトに上げられても読めるが、やはり
このスレに上げてほしいと思うよ。
漏れでもこんなところうpしたくない罠。物書きだけどさ。
荒れると思うならグッと堪えろよ。物書きなんざごまんといる。でも皆が皆おまいらを悦ばせるためにいるんじゃない。
自己満足の文章で終わる香具師、どうでもいい話を作る香具師、ふかわみたいな一言ネタでツボを突く香具師。
十人十色なのに自分の気分に合わないから叩くじゃ、荒れるだけだ。見なかったことにすると割り切れないのかねぇ。
ここの住人の質も落ちたな。
気分に合うから褒める
気分に合わないから叩く
どっちも同じようなものだろ。
人によって感じ方が違うなんて当たり前。
叩かれるのだけ嫌だなんて、それは我侭だろう。
職人さんのご機嫌を取りたいんなら、1に「批判禁止」とでも書いとけ。
何かおかしな話になってるなあ。結局、作者さんがどう感じてるかってのがすべてじゃないのか?
>>731の言い草は極端すぎる。誉めてる読者側だって思うところがあって誉めてるわけで
別にご機嫌とりのために誉めてるってわけじゃないだろ(そういう側面はあるかもしれんが)
それが穿った見方だってことを自覚してくれ。
あと、728と729は作者さんなのかな? 貴方たちが作者さんで、批判なんていらないってのが
貴方たちの考えなら、作品投下するときに叩かないでくれって一言添えてくださいな。
それでもわざわざ叩く奴がいるなら、そのときに「そんなこと言うな」って言い返せばいいんじゃないかな。
730は作者さんみたいだけど、言いたいことはすごくよく分かる。
俺も書き手だし、同じように考えたことはあるよ。…でも、ここが2chだっての忘れてないか?w
荒れると自覚してるのに煽ってる人はレベルが低いだろうけど、
批判・叩きを「自分の気分に合わないから」って理由だと思い込んで切り捨てるのはどうかと思うぞ。
まー、虹が出てくるまでは、このスレのSSは叩かない、みたいな不文律があったし
今の雰囲気がいいか悪いか聞かれたら、間違いなく悪いよね。
ただ、どうして荒れてるかっていったら、730みたいな「誉めろ。気に食わないものは無視しろ」
って意見と、731みたいな空気を読まないで正論ばかり振りかざす意見が対立してるからなわけで。
大半の住人には関係のないことだから、もうごちゃごちゃ言うのやめてくれねーかな?>どっちサイドも
叩く人間が出てくるのは止められないけど、それにいちいち噛み付くから大事になるんだよ。
それこそ無視しちまえば勝手に流れるんだから、ほっとこうぜ。
というわけで、
河野家マダーチンチン
>>732 「職人さんが居なくなるから叩くのはやめろ」
という流れになっているから、ご機嫌を取りたいんなら〜って思ったんだよ。
褒めるのがご機嫌取りのためとは思ってない。
まぁ、
>>732でFAって事でみんな納得だろ
わ、わたしなんて河野くんの為に即席のSS書いたんだからぁ〜!
Ω>まったくいらない
作者の中には作者様マンセーを望んでる奴もいれば、道楽で書いている奴もいる。
ただ前者が圧倒的に多いのが実情だがな。だから作者に媚びる是非もない。
書きたい奴は書かせておけばいい、感想を言いたい奴は言えばいい、もともとそういうスレだろ?
気に入らなければレスしなけりゃいいだろ。批判までしてスレから作者を排除して楽しいか?
いつからマンセー&批判オンリースレになったんだ?
誤字・脱字、句読点がないのは、ただ読みにくいだけで読む分にはなんの問題もないし、プロだってそのくらいやる。
でもこう言っちゃなんだが、21歳超えてて、ある程度の漢字の読み書きぐらいできないのも変だけどな。
俺は新作に期待だな。ぶっちゃけ今のこのスレの職人にこの流れを変える力はない。
2chのSSスレなんて良くも悪くも「便所の落書き」
作者にとっては匿名で気軽に投稿出来る場だと思うんだけど。
その分 煽りレスも出てくるのは必然。でも同時に忌憚のない意見も言いやすい。
ちゃんとした意見が欲しければ無料サイトに自分でUPして無料BBSでも付けておけば良い。
連載もので自サイトがあるなら、何もここに投稿する必要は無い、とも思う。
まぁ、その管理の手間を作品書くのに廻したい、という考えもあるとは思うが。
選ぶのは作者側でしょ。
>>734 すまん。その部分は俺が思い込んでしまってたみたいだ。
悪かった。
>>736 …
だから、流れを変える必要なんてないんだってば。
貴方みたいなレスを書く人がいなくなれば、自然に前の流れに戻るんじゃないのか?
ここはそれでいいじゃん、って話をしてるんだよ。
そんなに優れた作品が読みたいなら、SSlinks回って自分で発掘すりゃいいんじゃない?
どうしてこの場所にそこまで執着するの?
ある程度実績があるって言うと変だけど、二次創作をキチッとやってる作者さんは2chに書き込まないで
自分のHPだけで活動してると思うんだが。
最後の一文をどういう意図で書いたのか分からんが、貴方みたいな人たちが言い争いをしているのを
持ち出して、その責任を職人さんに負わせるみたいな言い方はやめときなよ。みっともない。
「作者」とか「読み手」とかいちいち分けてかくあるべし、なんてナンセンスにも程がある。
ここにスレがあり、書きたいと思った人はSSを投下して、面白いと思ったらレスをつける。
それでいいじゃないか、それ以上何が必要なんだ。
741 :
571:2005/11/04(金) 17:40:51 ID:TxrfP5jP0
蒸 し 返 す な
ジャンクションと河野家を待たせてもらいます。
あと41kb…埋めるかあと41kb…埋めるかあと41kb…埋めるかあと41kb…埋めるかあと41kb…埋めるかあと41kb…埋めるか
あと41kb…埋めるかあと41kb…埋めるかあと41kb…埋めるかあと41kb…埋めるかあと41kb…埋めるかあと41kb…埋めるか
あと41kb…埋めるかあと41kb…埋めるかあと41kb…埋めるかあと41kb…埋めるかあと41kb…埋めるかあと41kb…埋めるか
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あと41kb…埋めるかあと41kb…埋めるかあと41kb…埋めるかあと41kb…埋めるかあと41kb…埋めるかあと41kb…埋めるか
あと41kb…埋めるかあと41kb…埋めるかあと41kb…埋めるかあと41kb…埋めるかあと41kb…埋めるかあと41kb…埋めるか
そんなんで埋めてもしゃーないw
SSできたんで上げようかと思ったけど、次のスレ待った方が良いかな?
>>744 新スレ立てましたので、お好きな方に投下してくださいませ。
746 :
744:2005/11/05(土) 03:13:15 ID:EyEDo7cn0
それじゃあお言葉に甘えて、新スレの方に。
お世話かけます。
んじゃ、こっちは埋めがてら、叫ぶとしようか。
河野家まだーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!???
新スレ何処〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
と聞きつつ埋める
新スレも立った事だしここいらで埋めがてらに18禁黒菜々子ssを投下しy(ry
埋め埋め
埋めがてらに好きなSSを挙げてみる
テンダーハート@このみ好き
作者さん新作書いてくれないかな〜
・苦手なものを克服しよう
・焼肉を食べよう
・受け継がれるもの
・指先に溶ける
・優しい嘘を
・ただ心だけが
・知らぬがホトケ?
・ある日、アイス屋の前にて
・つないだ手の先、指の先
・河野家にようこそ
とりあえず10個。わっかりやすい趣味してんな俺。
>754
>・知らぬがホトケ?
ここがかぶったので残りを参考にさせていただく。
取り敢えず「優しい嘘を」は良かった。
現時点では ミルファLOVE @ RE-try〜リトライ なんだけどね(w
姫百合姉妹のいいのって無いかなぁ〜
好きなSS?
自分で書いたSSかななんといってもじぶんももうそう120%とりいれられているし
まさに理想のSS。
と冗談はさておき、「いのちの行く末」と「Brownish Storm」のシリーズはかなり好き
な部類に入りますね。
他にも気に入ったSSはありましたが、タイトル気にしてなかったせいでもうどれがど
れやら。10話も20話も続く長編は、一度読まないでいるとなかなか続けて読みに
くくなります。
つーかですね、どなたかイルファ乃至は姫百合姉妹SSの良い物がないかと。
エロなら更によし・・・いやエロじゃなくても別に面白いSSなら、でもエロが読みたい
っ!!
俺はジャンクションの中の人の作品なら大概好きだな。
良い意味で面白い文章を書く人だからな。見ていてつまらなくなる事がない。
--虹の欠片-- 第十二話
いい天気だった。空は非現実的なまでに薄い水色で、ところどころに白い絵の具をハケ
で刷いたような雲が描かれている。風は冷たかったが、運動で温まった体には清涼に感じ
る程度のものだった。
文化祭の当日である。屋内がメインのこの行事に天気はあまり関係ないだろうが、文化
祭日和と言っていい、そんな天候だ。
だというのになんの因果か俺は屋上で白い粉まみれになりながら、ライン引きの道具を
持って、友人の妹に昨夜のことについて問い詰められている。
――昨日、お姉ちゃんと何があったか説明してもらおうじゃないの!
まだリハビリの終わりきらない足で屋上まで上がってきたその根性は見上げたものだが、
困ったことに昨日小牧と俺の間には何もなかった。まったく何もなかったワケではないが、
郁乃が思うようなことはなにも――。しかしこれほど説明しにくいものもあるまい。少な
くとも郁乃には、小牧が俺の家に泊まってくると電話したにも関わらず、結局その日のう
ちに帰ってきたという、十分すぎるほどの状況証拠があるのだから。
というか、おじさんとおばさんに弁明しなきゃいかんような、それをするとかえってお
かしいような……。
ともかく俺は固まった。思考が関係ない方向に向かうくらいに固まった。
「え、……あ、う……」
もどかしく口を動かすが、まともな言葉は出てこない。
その、なんだ、小牧とのことはまだ記憶に新しすぎて、生々しすぎて、俺の中で事態の
処理が終わりきっておらず、先に保留されている状態なのだ。それを説明しろと言われて
も困る。
「言えないようなことしたわけね……」
郁乃が人を刺せるような視線で俺を睨みつける。
「待て、それはない。その……なんだ……」
「セックスしたんでしょ」
そのあまりに明け透けな物の言い方に、俺の方が驚いてしまう。
「してない」
「嘘つき」
「本当だって」
「信じられるもんですか――」
――悲しいかな、この議論は多分どこまでいっても平行線だ。どうやら郁乃の中では俺
が小牧を相手に乱暴に事を運んだとでも言うようなストーリーがすでに出来上がっている
らしく、何もなかった以上、否定しか口にできない俺を郁乃が罵るといったような言い合
いにもなっていない口論がしばし続いた。
……やがて郁乃の語彙も尽きたのか、お互いに言葉が止まった時だった。
「――ええとお取り込み中のところ悪いんだけど……」
救いは意外な方向からやって――、
「ライン引き貸してくれる? 続きやるから」
こなかった。
「笹森さん……」
ちょっとは空気読んでよ、という万感の思いを込めた視線を送りながらライン引きを笹
森さんに預ける。
「ん、ああ、ええんよ。ええんよ。たかちゃんにはたかちゃんの事情があるんだろうし、
納得いくまでどうぞ、どうぞ」
そう言いながら、笹森さんはさっさと奇妙な図形を描く作業を自主的に始める。どうや
ら笹森さんとルーシーの二人で俺を弄って遊んでいたわけではなく、彼女らは彼女らなり
に真剣らしい。
そういうことなら仕方ない。郁乃はどうでもいいから続きをやれと言われなかっただけ、
笹森さんなりに気は使ってくれたんだろう。
「ふ〜んふん〜♪」
なにやらCMソングらしきものをハミングしながらラインを引くその姿は、気を使って
いるという姿とは余程かけ離れたものではあったけれど……。
「……ねぇ、なにやってんの?」
流石の郁乃も毒気を抜かれたか、眉をひそめて、当然至極なことを聞いてきた。
真面目に答えるべきか十秒ほどたっぷり悩んでから、ありのままを伝えることにする。
「聞いて驚け! そこにいる長髪の女の子は宇宙船の故障で帰れなくなった宇宙人で、救
助船にこちらの居場所を伝えるために、その、なんだ……、地上絵を描いている…………
らしい……」
言ってる最中に無性に恥ずかしくなって最初のテンションを維持できなかった辺りが、
俺らしいところだと思う。
「なにそれ? 貴明、アンタ、そんなこと信じてんの?」
郁乃は明らかに可哀相なモノを見る同情と軽蔑の入り混じった複雑な表情を浮かべる。
いや、俺だって知ってるヤツが急にそんなことを言い出したら同じ顔をするだろう。心
配して――お前、大丈夫か?――くらいのセリフが付くかもしれない。
だから郁乃の言葉は普通の反応だと言えるだろう。俺だってそうだ。だから俺は肩をす
くめて、「実のところこれっぽっちも……」と言うつもりだった。
「――信じることと妄信することはまったく違う」
しかし俺が何かを言う前に横槍を挟んできたのはルーシーだった。
「実存の世界をこれだと決め付けるのが妄信だ。己の在り方をこれだと決めるのが信じる
ことだ。他人が信じることを、在り得ない馬鹿らしいと決め付けるのは妄信を信じ込んだ
馬鹿者のすることだ」
郁乃はきょとんとルーシーを見つめた。俺だって同じだ。ルーシーの言うことはすっと
頭に入ってこない。
「その……なんだ、もうちょっと分かりやすく言えないか?」
「難しいか?」
「ああ、多分に……」
「翻訳機は完全に復調した訳ではないから、意訳するのは難しい。他人の世界について口
を挟むのは馬鹿だと言えば分かるか?」
より分からなくなっただけのような気がする。
「ワケの分からないことを言って、話を煙に巻こうとしないでよ」
「確かに理解できないことを理解しようとしないのは正常な反応だ。私はお前が私を信じ
なくとも一向に構わない。だが――、他人が信じていることを軽蔑するな」
「う……、なによ、だって宇宙人とか、そんなのあるわけないじゃない」
「そう信じるのは自由だ。――だがそれを貴明に強制するな」
いや、どちらかというと俺もあんまり信じてないんだけど……、とはとても言い出せる
ような状況じゃない。少なくともルーシーは俺が信じていると信じている。
「強制なんかしてないわよっ!」
郁乃も郁乃で引っ込みがつかないようだ。その辺は郁乃の悪い癖で、引きどころが分か
っていないというか、引き方を知らないのだ。普通ならこいつ相手には話が通じないなと
思ったら、とりあえず自分が引いておけばいいものを、どうにも話せば分かると思ってる
辺りまだ純粋なんだろう。
「ねぇ、あなた、名前は?」
いつの間にかライン引きを手にした笹森さんが隣にやってきていた。振り返ると、不可
思議な幾何学模様が完成している。うーむ、意外というか、これなら最初から笹森さんが
自分でやっておけばよかったのではないかな。
「こま……、人に名前を聞くときは先に名乗るもんじゃないの?」
どこで仕入れた知識なのか、どこかで聞いたようなセリフ。だが、しっかり答えかけて
るあたりがまだまだ未熟だ。
「私? 私はねぇ、ミステリ研初代会長兼永久名誉会長の笹森花梨よ!」
会長被ってるから!
俺の言葉にならない叫びは、言葉にしてないので誰の耳にも届かなかったし、それでよ
かった。
「はい、私は名乗ったよ。さあどうぞ」
「小牧郁乃……」
「オーケー、いくのんね」
「なっ」
郁乃は目を白黒させて、俺に救いを求めるような視線を送るが、もう遅い。ご愁傷様だ。
「いくのん、あなたはミステリ研の名誉ある会員三号よ。おめでとう!」
ついに偽のアンケート用紙すら使わない実力行使に出始めたか。
「さあ、一緒にるーの救助船に向けて呼びかけるんよ。大丈夫、一人増えれば百人力だか
ら」
いや、一人増えても四人じゃ四人力だろ。とは思ったが、そんなツッコミは無意味なの
で止めておく。
笹森さんは幾何学模様の一端に立ち、威勢良く両手を空に向かって伸ばした。ルーシー
もいつの間にか別の一端に立ち同じように空に両手を伸ばす。俺と郁乃はどうしていいか
分からずに顔を見合わせる。
――ねぇ、あれやるの?
――できれば勘弁したいな。
視線だけでそういう会話が成り立つ。
「貴明、早くしろ」
「どうしても?」
「どうしてもだ。貴明が必要だ」
「なんで?」
素朴な疑問。ルーシーは両手をすとんと落として、厳しい目で俺を見つめた。
「私の地球での最初の接触者が貴明だからだ。地球という環境体との初期接触という意味
ではなく、思索経路体としての人類の中で最初に私という異性体と接触し、その影響を広
げた特異点が貴明だ。それゆえ観測側からすると、地球内に落ち込んだ私を捜索するより、
波紋の中心、つまり貴明を見つけ出す方がより容易であり、その貴明から呼びかければさ
らに効率的になる道理だ。理解したか?」
あー、わかんねぇ。
「……つまるところ、アレだ。その、ルーシーの仲間からすると、俺のほうが見つけやす
いということでいいのか」
「その通りだ。そして私の同性体がこの惑星を走査できる時間はそれほど長くない。効率
的に事を運ばなければ失敗する」
「効率的、ね……」
学校の屋上に白いラインで模様を書いて、空に手を向けて、どうせなにやら呟くのだろ
う。ベントラーとかなにか、それが果たして地球全土において個人を特定する上でどれほ
どの効果があるというのか。
「失敗しても責任は取れんぞ」
「失敗はない」
ルーシーの瞳がじっと俺を見据える。
何故そんなに信じられるのか。だがルーシーが俺を信じ切っているのは分かった。変な
話だ。俺たちのファーストコンタクトは散散なものだったし、そもそも俺が出会ったのは
るーこであってルーシーではない。るーこは俺に警戒心を剥き出しだったし、結局俺は
るーこを放り出して、すっかり忘れていたのだ。
「なんで、そう、言い切れる?」
「貴明は特異点だ。私と接触したことも原因のひとつだが、それ以前から貴明には思索経
路体の中で外部入力を受け入れやすい性質がある。情報の入力経路として情報井戸とでも
言うべきすり鉢状の大きなくぼみが存在し――本来それは無視できる程度に小さなモノだ
が――故障した私が引き寄せられるには十分だった。そうして私という情報を取り入れた
思索経路体は新たな情報経路を貴明を中心に組み上げた。異性体である私を含んだ形での
思索経路体の再構築だ。それによって思索経路体の現在の形状は本来のものとは貴明を中
心に変化している。私の同性体が見逃すような類のものではなく、そうであることは貴明
の性質だから、貴明に失敗はない」
「……もっと分かりやすく言ってくれ」
「端からならば、見れば分かる。水の上に落とした一滴のインクを見逃すのは観測者の責
任であって、インクそのものの責任ではない」
「俺がインク?」
「というより、筆だ。落とされたインクが私の存在という情報。だがインクそのものは広
がり、観測は難しくなっていく。今日貴明に接近したのは同性体に発見を促すため、そし
て貴明に接触したのは協力を求めるためだ」
「協力って……」
俺は屋上に広がる幾何学模様を眺めやる。ふと気がついたけど、これどうやって掃除す
るんだろう?
「それは違う。一種の儀式的な交感作用を刺激するための素材に過ぎない」
「噛み砕いて言うと?」
「それっぽいから書いた」
身も蓋もないとはこのことだ。ならばあちらで一心に空に手を向けてベントラーやって
る笹森さんなんかは一体なんなんだ。
「友人だ」
迷いも無くルーシーは言い切った。
「花梨は私を信じ、損得無く私に協力してくれる」
いや、多分損得勘定は思いっきり働いてると思う。ただそれが双方にとって得なだけだ
ろう。そんな考え方は穿ち過ぎだろうか? それとも笹森さんはルーシーが自称宇宙人で
なくても協力を惜しまなかっただろうか?
「考察は無意味だ。私の感情は花梨を友人だと告げている。花梨が私をどう思っていよう
と、私に取って花梨は友人だ」
なんとなく笹森さんのベントラーが一際大きくなったような気がする。というか多分聞
こえてる。
「なら俺はなんだ?」
ルーシーの目的にとって必要だからここに呼ばれただけの存在か?
「友人だ」
笹森さんの時と同じ、一瞬の躊躇すらない返事。
でも――。
「なんでさ? 俺とルーシーが友達になるような何かがあったか?」
「あった。貴明は私の最初の接触者で、異性体である私に手を差し伸べた。翻訳機の不調
の所為で相互理解に問題があったことが悔やまれる。そうだ。私は大切なことを忘れてい
た」
「…………?」
「――ありがとう」
右手を差し出したルーシーが初めて笑みを浮かべた。
「遭難し、混乱の最中に居た私に手を差し伸べてくれて感謝している」
その笑みは俺がこれまでに見たどんな笑みとも違っていた。いやそれは言い過ぎかもし
れない。適当な言葉なら思いつく。一切の打算のない、まるで幼子のような笑み、だ。
ドキリとしたことを認めないわけにはいかない。心が揺れた。
「どうして手を握らない? こうするのが地球流だと判断したが間違っていたか?」
気がつけば俺は差し出されたルーシーの手を握り返すことすら忘れていた。慌ててその
手を握る。自称宇宙人の手のひらは少しひんやりとしていたが、至って常人の範囲内で、
俺の中でちらりと疑いの芽が伸びたが、反射的な自制心がそれを踏み潰した。
そう、自制心はルーシーを疑うことを拒否した。
理性は依然として警戒を発し続けている。ルーシーと笹森さんのペースに巻き込まれて
はいけないと、自己主張して頭蓋の内側をハンマーで叩く。しかしそれと同時に意識の別
な部分がそれを無視しようとする。
ルーシーと握手を終えた後、混乱した俺は第三者の視点を求めて視線をさ迷わせ、屋上
のベンチに腰を降ろし、呆れた視線を寄越す郁乃に辿り着いた。
俺の視線に気付くと、郁乃はわずかに肩をすくめる。
――好きになさいよ。あたしは関係ないから。
とまあ、どちらかが念話能力に突如として目覚めたわけでもないだろうが、郁乃がそう
思っていることは容易に窺えた。
「貴明――」
振り返った俺の目を覗き込んでルーシーは真剣な表情に戻る。
「礼を言うのが遅れたことを詫びる。詫びることしかできない。それ以外には私には何も
できないが――」
ルーシーは俺の手を取った。握手ではなく、それは別の意思表示。
俺はこれを知っている……。
「だが、もう一度だけ手を貸して欲しい」
救いを求める手。
ひんやりとした手。月の表面に触れるとこんな感じかもしれないな、と考えた。勿論科
学的な根拠は一切無し、だ。
どくん、と、体の中で熱が脈打った。
ルーシーは俺を必要としている。以前俺が小牧を必要としたように、例えそれが見当違
いなことだとしても、俺を必要だと思っている。その向けられた思いが、まるで太陽の熱
のように俺を焼く。
ああ、ちくしょう。そうだな。一度くらいなんてことはない。いまさらだ。
「俺にできる範囲で、話を聞いてからなら」
言葉は控えめだったが、今ではやる気は満々だった。多少の無理はしても構わない。少
なくともベントラーしている笹森さんより奇特なことにはなるまい。
「ありがとう。貴明」
ルーシーは一瞬だけ笑みを浮かべると再び真剣な顔に戻り、そして言葉を続けた。
「では、一番大切な人に伝えたい言葉を叫んで欲しい。全力で――」
ああ、そうだ。
ルーシーは眉をぴくりとも動かさず、至って真剣にそうのたまわった。
「……は?」
俺の反応は一般的に正常なものであったと信じたい。確かに俺が置かれている状況は異
様極まりない。そもそも宇宙人に頼まれて救助船に助けを請うという時点で根本的に常識
と照らし合わせて考えようとする前提が間違っている。
「一番大切な人に伝えたい言葉を叫んで欲しい。今此処で、全力で――」
俺の疑問符を、聞き逃したからだと思ったのか、ルーシーは同じ事を繰り返した上に、
要件は増えていた。
「ちょ、待って、なんでそんな必要が……」
「必要は、ない。だが意味はある。さっきも説明したとおり、貴明は現状のしさ――」
「説明はもういいよ」
どうせ聞いても分かりやしない。
俺はついに悟った。やると言った以上やるしかない。それに思ったとおり、ベントラー
に比べれば幾分か常識的な行動だと言えた。
「ええと、一番大切な人に伝えたい言葉を叫ぶんだよな……」
「そうだ」
なにやら背中にちくちくしたものを感じるのは間違いなく郁乃の視線だろう。そのせい
か、最初に浮かんだのは小牧の顔だった。それは昨夜の泣き顔で、俺は胸がぎゅっと締め
付けられたが、だけど俺は首を横に振る。
自分の心に問いかければ、いつだって一番大事なのはこのみのことだ。そしてこのみに
伝えたい言葉は山のようにあった。山のようにある気がするのに、いざそれを言葉にまと
めてみようとすると、何一つ浮かんではこない。
それにこのみとはもう終わってしまったんだ。今更俺に何を言うことがあるだろう。
「たかちゃんて、いつもそうなんよ」
いつの間にか押し黙ってしまった俺の前に笹森さんが立っていた。
「言いたいこと言えばいいのに、余計なこと考えて止めちゃうんよね。なんで? 言えば
いいんよ」
「でも、だって……」
視線が落ちる。屋上に引かれた白線を見つめる。
このみがここにいるわけじゃない。けど、このみを傷つけて雄二のところに行かせてし
まったのは結局俺なのだ。そんな俺が言えることなんて――。
「たかちゃんはなーんも悪くないよ」
笹森さんはあっけらかんとしてそう断言する。
「何があったかは知らないけど、付き合ってる彼女が浮気して他の男のところに行っちゃ
ったわけでしょ。それってたかちゃんはなーんも悪くないよね」
「だけど……」
それでもその原因は俺にあったんだ。
「それって、アレだよ。ほら、アレ、えーっと、なんていうの。アレアレ、そう! 家に
泥棒に入られたのに鍵をかけ忘れてた自分が悪いみたいな感じよ。たかちゃんは悪くない。
うん」
何故そこまで俺が悪くないと断言できるのか。俺とこのみの私生活を覗き見でもしてた
のかと問いたくなる。だけど、その一方で笹森さんの言うことに反論できない自分もいる。
だけど俺はそう簡単に自分が悪くなかったなんて思いたくなくて――。
だってそうじゃないか。自分が悪くなかったんなら、どうしたってこのみが悪いことに
なる。それはこのみがしたことは良くないことだった。だけどその原因すら俺にないので
あれば、それは俺がどうしたって止めようがなかったってことになる。
「貴明は間違ったことをしたのか?」
「――したんだと思う」
「そのことを相手に詫びたのか?」
「…………」
あれは、詫びるようなことだったか。このみを女として愛することを誤魔化していたこ
とが……。いや、謝るべきことだったんだろう。だけど謝るよりも早く何もかもが変わっ
てしまってそんなことを考える暇さえなかった。
「詫びるべきなら詫びればいい。今ここで叫べばいい。けれど私は違う気がする」
「なんで?」
「花梨は貴明は悪くないと言った。私もそれに同意だ」
俺は思わず振り返る。ベンチに座った郁乃は眉を歪めてこちらを見つめていた。
「噂は聞いたけど、アンタの前の彼女のことならあたしも同意するわ。そこだけはね」
俺は――悪くない?
いや、何もかもが許されたわけではないだろう。郁乃の言ったようにそこだけを切り取
ればという話だ。その前に、その後に、俺は沢山の間違いを犯した。けれど少なくともこ
のみがしたことについて、俺は悪くない、のか?
「たかちゃんはなーんにも悪くないよ。あえて悪いところを挙げるなら、運が悪かったか
な。うん。今のウマイね」
何が上手いのかはさっぱり分からなかったが、何故だろう。救われた気がするのは――。
――そうだ。言いたいことは沢山ある。伝えたいことは山ほど体の内側に詰まっている。
まるで張り裂ける直前の風船と言わんばかりに、パンパンに膨れ上がっている。
沸きあがった衝動は一瞬で胸を満たし、肺で膨れ上がり、喉を暴風雨のように駆け抜け
た。
「――こんッちィッくしょおぉ!!――」
叫んだ。力一杯叫んだ。両手を握り締め、腹ン底に力を込めて、出せる限りの大声を出
した。その声はあまりに大きすぎて、俺が叫ぶことが十分予見できていただろう笹森さん
がひゃっと声をあげて飛び上がるくらいだった。
「ふッざけんなッ! くゥそッたれッッ!」
一度叫ぶと、罵り言葉は次から次へと溢れ出してきた。叩きつけるように、まるで狂っ
たように叫び続ける。いや狂ってしまったのかもしれない。これだけのモノを体の中に抱
え込んでいたというのなら、狂っていたという方が正しいやも――。
「俺が何をした! 俺が何をした! 俺が何をしたって言うんだ!」
喚き散らすのは目の前にいる笹森さんにでも、ルーシーにでも、もちろん後ろにいる郁
乃にでもない。これは全部このみに言いたかった言葉だ。言えなかった言葉だ。そういう
言葉を自分の中に抱え込んでいることすら解っていなかったが、確かにあった言葉だ。そ
うじゃなきゃ、こんな風に溢れてくるはずがない。
叫びとおしているうちに、本当に目の前にこのみがいるような気になってくる。
――このみは目を丸くしている。
――俺からこんな言葉をぶつけられるなんて想像もしていないからだ。
――――ああ、なんていい気味――。
――――――そう感じる自分を今は自己否定しなくてもいい。
「この裏切り者!」
――このみはショックで動けない。それはそうだ。俺の言葉に嘘はない。
――裏切ったのはこのみだ。俺のせいなんかじゃない。
そんな当たり前のことにすら今まで気付けていなかった。
「裏切り者! 裏切り者! 裏切り者め!」
叫ぶたびに心が深く抉れる。
――何故?
裏切られた傷はまだこれっぽっちも癒えることを知らない。
――何故?
「ちくしょう――」
――何故か、そんなのは決まっている。
「くッそォォ!」
まったく糞ふざけた話だ。
「――それでも」
いつの間にか両の目には涙が溢れている。
クソクソクソ、――小牧の前ならともかく、笹森さんや、郁乃の前で真っ昼間から涙を
流すなんて情けなさ過ぎる。
「――オレはッ」
ぼやけた視界で、空に向かう。それでも溢れかけた涙を止めることはできず、熱い液体
はこめかみを通り、首筋を伝う。
「――このみが好きなんだッ! 好きなんだッッ!!」
多分、その叫びは俺が思ってるほど大きな声にはならなかった。
情けない話だが、感極まっていた俺はそのまま屋上に崩れ、突っ伏してしまった。
熱い血流が全身にほとばしるように流れるのが感じられたが、やがてそれも消えていく。
幸いなことに誰も何も言わなかった。俺は制服の袖で目元を拭う。今更でも涙は恥ずかし
かった。
いや、正直、恥ずかしいなんてもんじゃなかった。
熱狂が過ぎ去った後に残ったのは、正反対に冷静に自分を見つめる視線で、自分が何を
しでかしたかについて、はっきりと覚えていた。
ああ、間違いない。俺はどうにかしていた。どうにかしていた。結局、笹森さんやルー
シーのペースに乗せられただけに違いない。
でも、それでも心のどこかに小さな満足感があるのは、本当に思っていたことを口にで
きたからだろうか。つまるところ情けない男の小さな嫉妬の叫びを。
ああ、そうさ。俺は未練がましくて、情けない馬鹿野郎だ。
それが分かっただけでも儲けモノじゃないか。なぁ。
「貴明――」
最初に俺に声をかけてきたのはルーシーだった。
「運命を信じるか?」
素っ頓狂なことこの上ないルーシーの、素っ頓狂なことこの上ない問いかけだった。
「信じない」
信じたくないと言ったほうがいいかもしれない。
自分が陥ってる、とんでもなくクソッたれな状況を運命だなんて思いたくはない。
「だが運命は決まっている。世界は、人は、在るべくして在るからだ」
ルーシーの答えは簡潔で、冷淡だった。
「未来は現在によって決定付けられる。その現在は過去によって決定付けられる。その過
去もまたそれ以前の過去に決定付けられる。あらゆる要素は過去のある一点に向けて極端
に収縮していく。始まりの一点、そこから発生したあらゆるものが、その終末までを決定
付けられているのだ。まさしくそれが始まったという理由に因って――」
「俺は信じないぞ」
言い切る。ルーシーのワケの分からない物言いにむかっ腹が立ってきた。どうやら叫ん
だことで、俺の感情のスイッチはどこか壊れてしまったらしい。
「どうにかできたはずだ! このみを失わないで済んだはずだ! 何かを間違ったはずな
んだ!」
「間違いを犯したこともまた運命の一部だ。そして世界は在るべき未来へと流れていく」
「受け入れろってのか!? このクソッたれな現状を! このみに裏切られた。雄二にも
裏切らた。俺はタマ姉を傷つけて、小牧を傷つけて、誰も彼もが傷だらけだ! 何もかも
が滅茶苦茶だ!」
「受け入れろ。それが現実だ。貴明」
「ふざけろよ! クソッたれ! 俺は変えてやる! 見てろ! 俺はこのみを取り戻
す!」
拳を屋上に叩きつけ、俺はルーシーを睨みつける。
ルーシーはただ俺をじっと見つめている。その顔がわずかに歪む。
「そうだな――。心残りがあるとすれば、それを見られないだろうことだ。私は……」
ルーシーは不意に言葉を切り、俺の後ろ側の空を指差した。釣られて振り返る。青い空、
薄い雲……、それは平凡な、どこまでも平凡な秋の空。
何も――無い。
「花梨、貴明、るーはいいうーに出会えた。本当に感謝する」
――え?
聞き覚えのある言い回し――。
慌てて振り返ろうとすると、急な突風が背中側から吹き抜けて、目を開けていられない。
まるで春の突風のような一陣の風は、ほんの数秒で屋上を吹き抜けて行ってしまった。
「るーこ?」
いなかった。さっきまでそこにいたはずのルーシー・マリア・美空は、まるで手品のよ
うに屋上から掻き消えてしまっていた。それは彼女が早すぎる春風と、桜の花びらと共に
現れたときのように、唐突で、そして不可思議だった。
――まさか、そんなわけ……。
視線がいるはずの彼女を探す。しかし唯一の屋上からの脱出口であろう屋上の扉は閉じ
ていた。開いた形跡もなかった。隠れるような場所も、時間もない。文字通りルーシーは
消失した。
「え……」
間の抜けた声は郁乃のもので、郁乃もまたルーシーが消えた現実を受け入れられていな
い。当然だ。受け入れられるほうがどうにかしている。今の突風に屋上から転げ落ちたと
いう方がよほど理性的な考え方だ。
しかし俺は屋上のフェンスに駆け寄って下を確認しようなんて思わなかったし、その必
要もなかった。俺は屋上にへたりこんだまま空を見上げた。秋晴れの空はどこまでも青く、
どこにもおかしいところなどなかった。間違ってもアダムスキー型UFOが視界を横切っ
て飛んでいくなんてことはなかった。もちろん葉巻型なら飛んでいったというわけでもな
い。
ただすぅーと空を白い飛行機雲が横切っていく。それはまるでルーシーが気を利かせて
くれた贈り物のような気がした。
「ねぇ、たかちゃん……」
白いラインに二分されていく空を見上げたまま、笹森さんが呟いた。
「ルーシーはどうやって消えたのかな……」
「さあ……」
なにせ、ルーシーの言ってたことが本当なら宇宙を渡ってくるような科学力を持った連
中だからな。
「俺たちには考えもつかないような技術があるんだろ……」
「うーん……」
笹森さんはさっきまでルーシーが立っていた辺りに行くとマジマジと地面を眺める。
「トラクタービーム? それとも物体転送装置? これは謎だね。るーもなんか残してい
ってくれればいいのに」
恨めしそうにルーシーが居た辺りにしゃがみこんで、屋上の床をぐりぐりと弄繰り回す。
「ふ、ふふふ、――ククッ、あはははは――」
そんな笹森さんの背中を見ていると不意に笑いがこみ上げてくる。こいつは俺の理解の
範疇を超えている。笑うしかない。
「ははははははは――」
頭を抱えて笑い転げる。幾何学模様が体に移り、制服を白く染めるが気にしない。どう
せその幾何学模様はもう必要ない。
「はははは……はは……」
笑いつかれてごろりと屋上の真ん中に転がり、空を見上げる。
こうしていると空以外のなにも見えなくなって、上下感覚が消える。体が空に落ちるよ
うな幻視すら生まれる。案外ルーシーもこんな風に空に落ちたのかもしれない。
吹き抜ける風が火照った体に心地よかった。
「貴明――、何がどうなってるのか分かんないけど……」
郁乃の顔が視界の端に現れる。
「分からないことはこの際どうでもいいわ」
なるほど、理解できないことを理解しようとしないのは正常な人間の反応だ。
「……さっきの言葉、本気?」
「ん、なんだっけ?」
険しかった郁乃の顔がさらに険しくなる。
「アンタ、このみを取り戻すって言ったわ」
ああ、そういえばそんなことを言った気もする。
「本気だ」
そして間違いなく本気だった。
できるできないじゃない。やってみようとすることからすら逃げていた俺は、まずやっ
てみなければならない。
すると郁乃の顔がすっと視界から消えたかと思うと、脇腹に重い衝撃が走る。
「ふごっ!」
脇腹にめり込んだのは郁乃の爪先だった。
郁乃の顔が再び視界に現れて俺を睨みつける。
「あたしはアンタに振られて泣くお姉ちゃんなんて見たくない。もっともアンタがお姉ち
ゃんと付き合うなんて虫唾が走るけど」
なんだそりゃ。
「なるほど。どっちにしても俺は郁乃には嫌われるわけだ」
尤もこれまでだって存分に嫌われていたんだけれども。
「そうよ、あたしはアンタが大ッ嫌い! お姉ちゃんにアンタのこと好きにさせておいて、
決心がついたら振るなんて、さいッてーよ!。けど……」
郁乃は両手をぎゅっと握り締めて、視線を脇に逸らした。それから見上げる。ルーシー
が、るーこが消えたのかもしれない空を――。
「けど、この二ヶ月をまるでなかったことのようにしてお姉ちゃんとあたしから離れてい
くなら、あたしはアンタを許さない。悔しいけど……、悔しいけど、お姉ちゃんにも、あ
たしにもアンタが必要なの。いなくてもいいけど、必要なの」
郁乃の言うことは矛盾もいいところだった。だけどそれだけに郁乃の気持ちを代弁して
いるんだろう。郁乃自身が自分の気持ちと折り合いをつけられていないのだ。
「そんなつもりはないよ」
それも本心だった。このみを取り戻そうとすることに決めたからといって、これまで築
いてきたものを捨ててしまうつもりなんてまったくない。残酷かもしれないけれど、小牧
とはこれまでのように友達でいたいし、郁乃との繋がりだって大事だと思ってる。
それはどちらかを選ばなくてはいけないようなものではないはずだ。
「ほら、起きなさいよ」
郁乃に促されて起き上がる。見ると制服は白い粉が付着して斑模様になっていてみすぼ
らしいことこの上なかった。とりあえず手で叩いて落とせる分だけは落としておく。
「はい」
続いて差し出されたのはハンカチだった。
「顔拭きなさいよ」
なるほど、確かに顔には涙の残滓が残っていた。遠慮なく受け取って顔を拭く。できれ
ば顔を洗いたいところだったが屋上に水道は通っていない。階下に下りなくてはいけない
だろう。
「たかちゃん!」
よく通る大きな声に振り向くと、笹森さんがこっちに向かってXサインをしていた。
「ガンバレッ!」
笑顔で返す。
変な人だと思う。いや、間違いなく笹森さんは変な人なのだが、そういう意味ではなく、
なんの臆面もなく自分をさらけ出しているようなその様が、今は実に心地いい。
「俺は降りるけど、郁乃は?」
「あ、あたしも降りるわよ」
二人して屋上を降りる扉を潜る。陽光は消え、途端に校舎の中を反響して回る騒音に俺
たちは包まれる。郁乃の手が俺に向かって差し出された。俺はその意味がつかめずに首を
傾げる。
「……ん……か……しょ」
郁乃の声は小さすぎてよく聞こえない。
「え?」
聞き返すと、今度はよく通る大声が返ってきた。
「階段を降りるの大変なんだから手を貸しなさいよ!」
俺は苦笑して郁乃の手を取った。郁乃の手はその姉と一緒で暖かい。それを感じながら
月の表面のようだと感じたルーシーの手の冷たさを思い出す。
胸の中には太陽の欠片、手の平には月の欠片が残っていた。
続く――
というわけで容量ギリギリだったので序文とか削りつつ十二話お届けしました。
削らなくても十分足りましたね(´・ω・`)
さて、随分と期間が開いて大変申し訳ありません。
ようやく転回点を迎えた虹の欠片です。愛佳の話で話数を取りすぎてバランスが悪くな
ってしまってますね。
そして以前から考えていたのですが、次回からこの作品の連載をこちらでは取りやめ、
サイトでのみの更新にしたいと思います。スレが荒れたのは本意ではありませんでした。
作品の性質がこのスレにはそぐわないことから目を逸らし続けた私の責任であります。
どんな批評を浴びようと、書き手は作品で応じればいいと、放置し続けたこともよくな
かったと反省しております。もう少し書くペースを上げられれば、それこそ一気に最後ま
で投下することも考えたのですが、現状のペースでスレで連載を続けても、定期的にスレ
を荒らしていると受け取られても仕方ないと考え、こちらのスレッドに最後の投下をしま
した。
できましたら、このことについてのレスを次スレに持ち込まないでくだされば幸いです。
ではまたネタでも浮かびましたら、こちらに伺いたいと思います。
我楽多
ttp://www.geocities.jp/koubou_com/
>>775 俺はあんたに
「たかちゃんはなーんにも悪くないよ。あえて悪いところを挙げるなら、運が悪かったか
な。うん。今のウマイね」
って言葉を返すよ。
応援してます。
>虹の人
お話も自分マンセーって感じだな。
まぁ新作で頑張ってよ。
楽しみだからさ。
>>779 お前は一体何様なんだかな(´,_ゝ`)
>>781 俺もそう思った(´,_ゝ`)
ロクに感想も寄越さない乞食がよく吼えるもんだ
新作楽しみって言うだけましじゃん。
俺なんか楽しみでもなんでもねー。
,ィぃ_r 、
〃'´ ⌒ヽ
!,!〃_,ノハ))〉 うるせえ チンポ汁飲ませるぞ
lリ(l〉゚ ー゚ノリ
.|/~ヽ卯 i )っ━・~~
.j(⌒'Jηノ⌒)
(_) ω(_)
>>782 感想書いてるじゃん
褒めるだけが感想か?
まぁ要するに
「新作楽しみですよ。」って事じゃないか。
>>786 いや、俺は素でわかんねえんだが、どのへんが感想なんだ?
後ろの二行はともかく、最後の「お話も自分マンセーって感じだな」が意味不明すぎ。
お話「も」ってことは、他の部分で作者が自分マンセーしてるってことか?
そもそも、自分マンセーってどういうことだ?(;´Д`)
ちょっと解読してくれよw
グダグダですね。作者もろとも消えてください。
クスクス
>>788 虹は作者の体験から生まれたSSなんじゃなかったっけ。
つまりそういう事なんじゃないかな?
彼女をダチに寝取られた体験を元に虹を書いた。
貴明を自分に、このみを元カノに無理に当てはめるから、
キャラの性格がゲーム中と乖離してるわけで。
このみが最悪な女ですよね、みたいなこと言われると
女なんてこんなもんですwwwww
雄二やこのみが酷いと言わせることで自分を慰める。
2次創作書く気は全くないと思われ。
うわ、そうだったんか
それめちゃくちゃおもしれーなw
このみが貴明を裏切ったあたりの感情の流れがしっくりこなかったんだけど
ようやく理解できたよ
彼女が寝取られた理由を自分内で美化して書いてるから筋が通らなくなるんだろうなあ
元になる関係や積み重ねが違うのに当てはめて書いたらそりゃ無理も出るよな
おれはアレはアレで好きだし続き読んでみたいが
>ID:/v/SKLenO
携帯からこんな終わったスレにわざわざチェックご苦労さまですwww
ニヤニヤ
( ´・ω・`)つ且~~
うめ
うめ
, ´ ̄ ̄ ̄` 、
/ \
/ ヽ. ヽヽ ハ
,' ハ 、 、 、 ‐‐-ヽ、i i }__/w‐、
! i i レ'´ヽヽヽヽvrc 、`ニ=‐ V//~
! ii lvf'c、\ヽ ri__jヾミ=‐rヲ′
i ii│ ト Uj ` └‐゚イ「 Yミヲ' / ̄ ̄ ̄ ̄
i !! i |ヘ ´,, ' " |iL/〃 |
l i i i i| ii> 、 ` イ|ir '´ < うめ
リi i i iW ,`T´ !リ\ |
ヽNi / !____/ \ \____
ゝ<_ 「 ̄ フ >、
/, '´ ニア 、 / _. イ ハ
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/`==く / , マ、 \ l |
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ヽ. j ノんヘん〜⌒` 〈 /|
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