ボクの名前は倉田一弥。
所謂幽霊やってる。
ボクは小学校に入る前に死んでしまったから。
本当ならこの世、にいてはいけない存在なんだろうけど、事情があって、
いわゆる成仏って事ができなかった。
その事情って言うのは、ボクのお姉ちゃん、倉田佐祐理。
佐祐理お姉ちゃんのボクに対する気持ちが強すぎて、逆にこの世、に
縛られ続けてしまった。
まぁ、だからってそれほど困っているわけでもないんだけれど。
ただ気がかりなのは、お姉ちゃんがボクの死に心を痛めて、内に閉じこ
もってしまったこと。
お姉ちゃんは思いは強くても、普通の人よりは少し感覚がいいかな、程
度だから、時折ボクの姿は見えるらしいものの、声までは伝える事ができ
ない。
外面は明るく振舞っているお姉ちゃんだったけど、内面では心に殻を作
ってその中に閉じこもっていた。
ボクはお姉ちゃんを何とかその呪縛から解き放ってあげたかった。
でも、ボクには常に側にいて見守っていることしかできなかった。
弟として……側にいることしか。
「…………」
気がつくと、ボクはベッドの上に寝ていた。
知っている部屋。僕の部屋だ。
調度品はボクが暮らしていたときそのまま。でも絵本や、遊び道具とか
細やかな品は運び出されてしまっているから、殺風景な部屋。
でも、何かがいつもと違う。
「!?」
身体を動かそうとすると、重い。重力を感じる。
「えっ?」
布団の重みを感じる……
「えっ、まさか、ボク……!?」
ばっ、と飛び上がる。
身体がある!? ボクの身体がある?
自分の両手で自分自身に触れる。
温かい、しっかりとした感触。
それに、胸に手を当てれば、やわらかい感触越しにドクン、ドクンって心
臓の音がする。
生きてる? ボク、生き返った!?
それどころか、前より身体が大きくなっているような……
ベッドから降りてみる。やっぱり見え方が違う。
「ボク……生きてる……それに……」
身体が大きくなってる。胸も柔らかくて大きく…………
「ちょっと、待て」
確かに生きてるけど……成長した身体だけど……
い、いや待て、最終確認だ……
そろそろと手を伸ばして、あるべきモノの場所に手を伸ばす。
………………
…………
……
ない。
つまり……これって、
「お、女の子になってるよぉっ!?」
こ、こんないきなり、ど、どうすればいいんだよ!?
ガタガタッ
びっくぅ
物音に背筋が跳ね上がるほど驚いた。
よく見れば周囲は真っ暗。
時計がないから正確にはわからないけれど、夜。たぶん深夜。
ガチャ。
部屋の扉が開いた。
「なんの……音?」
少し怯えたような声の主は、ボクのよく知っている相手。
でも。
「あなた、誰ですか……?」
あぅぅ、佐祐理お姉ちゃんはボクの事がわからない。
当然だよ……佐祐理お姉ちゃんが知っているのは子供のときのボク。
まさかこんな姿になっているとは思わないだろう。
どうしよう……どうはなせば解ってくれるのかな。
佐祐理お姉ちゃんは目を真ん丸くしてボクを見ている。
でも、ボクが一弥だってどうやって説明すればいいんだろう……
「…………かず……や……?」
「え?」
不意にお姉ちゃんが、ポツリ、と呟いた。
「もしかして、一弥、なの?」
「佐祐理お姉ちゃん、ボクのこと、解るの?」
ボクの方も目を見開いて驚いてしまった。
「うん……解るよ。なんとなくだけど」
お姉ちゃんはそう言ってボクに近づいてきた。
お姉ちゃんの方が大胆で、ボクの方が身構えてしまう。
ぎゅ……
抱きしめられる。
お姉ちゃんと触れ合っている。
絶対にかなう筈のなかった想いが、現実になっている。
ボクの方からも抱きつき返した。
お姉ちゃんの身体から温もりを感じる。
ボクはそっと目を閉じて、軽く顔を上げて……
って、なにをやっているんだ、ボクは!
ボクとお姉ちゃんは姉弟で、しかも今は女の子同士で──
ちゅ。
「ん……」
佐祐理お姉ちゃんが、唇を重ねてくれた。
優しいキス。
「お姉ちゃん……」
少し申し訳ないような気がして、ボクはお姉ちゃんを見上げる。
「今は特別……だからね」
お姉ちゃんは少し悪戯っぽそうな顔をして、ウィンクしてきた。
最後に……あの時見たお姉ちゃんの顔を思い出した。
場所を何もないボクの部屋から、お姉ちゃんの部屋に移す。
「でも、どうして女の子になってしまったんでしょうねー」
お姉ちゃんが、少しは困っているような、けれどそれほど深刻そうでもな
い顔で言う。
これがお姉ちゃんの地だから仕方がない。
ちなみに、死人が生き返って、しかも成長していることに対するツッコミ
はなしか! という声もあるだろうけれど、それは佐祐理お姉ちゃんの許
容範囲内……って訳じゃなくて、それなりに理由があるんだけれど、それ
は後で説明する。
それよりなにより、ボクの着る物がない。
よくよく気がつけばボクは素っ裸だった。
当然ボクの服なんかないし、残っていたとしても小学校前のサイズでこ
の身体がはいるわけがない。
幸いというかなんと言うか、ボクの今の身体はお姉ちゃんとそれほど体
格差がなかった。
だからパンツは借りられたけど、ブラジャーはぶかぶかだった。
「これは……買いに行かないといけないねー」
お姉ちゃんが、ボクのおっぱいを下から持ち上げるようにしながら、言
う。
少し気持ちいい。
「え……いいよ。わざわざ……」
ボクはめんどくさそうに言ったけど、お姉ちゃんは少し強い調子で言い
返してきた。
「だめだよ、ブラはきちんとしたのをつけていないと……身体動かすと痛
かったりするよ」
「そうなんだ……うん」
女の子の身体っていろいろあるんだな。
佐祐理お姉ちゃんの姿見でボクの身体を写してみる。
「うわぁ……」
顔も佐祐理お姉ちゃんに似ている。比べると少し目つきがきついぐら
い。
お姉ちゃんが貸してくれた、ピンク色のパジャマを着ているけど、凄く可
愛らしい。
ただ、自分の姿だって言う自覚が少し薄かった。
「可愛いね、一弥」
「お姉ちゃん……」
言われると、なんだか凄く恥ずかしい。
でも、あまり嫌という感じじゃなかった。
その後、ボクは佐祐理お姉ちゃんのベッドで、一緒に寝た。
いろいろと話したい事があったけど、少し疲れていたらしくて、2人ともす
ぐに眠ってしまった──