桜が舞う、暖かな季節。
新しい出会いや恋、そして友情に笑い、悲しみ。
すべてが始まり、終わるかもしれない季節。
季節といっしょに何かがやって来る、そんな気がする―――。
ToHeart2のSS専用スレです。
新人作家もどしどし募集中。
※SS投入は割り込み防止の為、出来るだけメモ帳等に書いてから一括投入。
※名前欄には作家名か作品名、もしくは通し番号、また投入が一旦終わるときは分かるように。
※書き込む前にはリロードを。
※割り込まれても泣かない。
※容量が480kを越えたあたりで次スレ立てを。
前スレ
ToHeart2 SS専用スレ 7
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1122306133/ 関連サイト等は
>>2-3
5 :
あははっ(1):2005/08/29(月) 03:28:06 ID:Rip+Uc/nO
「………タカ君。」
誰かに名前を呼ばれた気がして、ゆっくりと眼を開ける。
カーテンを閉め、明かり一つ無い真っ暗な部屋に、誰かが、俺を見下ろす形で立っていた。
一気に眠気は消え去り、背筋に``何か``が走る。
「……タカ君。」
目の前にいる何者かがもう一度、俺の名前を呼ぶ。
その声と、呼び方に、聴き覚えがあった…。
「…このみ、か?」
恐る恐る口にする。
「…そうだよ。」
「おまっ!何勝手に人の家に入って来てんだ!それに今何時だと…」
言いかけて、部屋が暗くて時計が見えない事に気付く。
6 :
あははっ(2):2005/08/29(月) 03:47:19 ID:Rip+Uc/nO
明かりをつけようとベッドから立ち上がり、このみの横を通り抜ける。
その際、左手に何かがぶつかるが暗くてよく見えない。
特に気にせず、壁にある照明のスイッチを押す。
パチッ!
視界が一瞬にして、黒から白へ変わる。
説教の一つでもしてやろうと振り返り、このみを見る。
「!?」
このみは頭から膝下まである真っ黒な雨合羽を…。
左手には朱黒く汚れた鎌を、
右手には……
「タマ、姉…?小牧?」
このみの右手に握られているソレを認識すると同時に激しい嘔吐をもよおす。
7 :
あははっ(3):2005/08/29(月) 04:01:00 ID:Rip+Uc/nO
「どうしたの、タカ君?」
このみが、一歩俺に近付く…。
タマ姉や小牧だったモノを引きづりながら。
「ああ、これの事?タカ君にちょっかいを出す悪い蟲がいたから…。」
腰が抜けて、立ち上がれない。
このみがちかづいてくる。
「タカ君も迷惑してたんでしょ?」
さらにこのみがちかづいてくる。
ドサリと無造作にソレを床に捨て、いつもの様にこのみが俺に抱きつく。
「―――タカ君にはこのみがいるからね…。」
頼むから・・・やめてくれ・゚・(ノД`)・゚・
9 :
タカクン・1:2005/08/29(月) 05:58:13 ID:IOFCfjbG0
俺はいつものように愛佳のいる書庫に向かった。
書庫の扉を開けると何やらいつもと違う空気が漂っている。
少し書庫に入るのをためらったが、俺は中に足を踏み入れた。
なんだろう?
いつもなら古本屋のような匂いがするのだが
今日の書庫には、鉄を触ったときに手につく特有の臭いがしていた。
金属くさいとでも言っておこう・・・。
!?
ソファーのほうに目をやると、そこにはこのみが座っていた。
「このみ!?なんでここにいるんだ?驚いたじゃな・・・」
俺は途中まで喋ったところで我が目を疑った。
このみの手や服にべっとりと血がついているじゃないか!
「どうしたこのみ!?ケガでもしたのか?早く保健室に行こう!」
「・・・違うよタカくん、このみはケガなんてしてないよ」
「え?そうなのか。じゃあその血は・・・?」
俺が聞くとこのみは黙ってある方向を指差した。
そっちには愛佳がよく昼寝してしまう椅子がある。
ここからだと死角になっているので俺は本棚を回りこみ椅子の方に向かった。
「・・・これは?・・・ま、まなか?どうしたんだ愛佳!?」
そこには目を覆いたくなるような光景が広がっていた。
いつもの椅子に座っている愛佳。
だがいつもとは違う・・・。
愛佳の着ている制服は血で赤く染まっていて
全身のいたるところに深い傷があった。
10 :
タカクン・2:2005/08/29(月) 06:18:42 ID:IOFCfjbG0
「愛佳、なんでこんな、・・・そうだ救急車を!」
半分パニック状態になりながらも
救急車を呼ばなければいけないという事に気づく。
その瞬間俺の背後からこのみの声が聞こえた。
「救急車なんて意味無いよ、だってその人死んでるもん」
「何言ってるんだこのみ、・・・このみ?」
俺は気づいてはいけないことに気づいてしまった。
血だらけのこのみと愛佳。
一方は無傷、もう一方は死んでいる。
それが何を意味するか俺は悟った。
「まさか・・・、お前がやったのか・・・?」
俺の手はブルブルと震えていた。
「えへへ、だってその人タカくんのことをこのみから取ろうとしてたんだもん」
「・・・取る?もしかしてお前、愛佳が俺と仲良くしていたから・・・それだけで」
すると急にこのみが怒りに満ちた声で言った。
「そいつの名前を呼ばないでっ!!タカくんはこのみの名前だけしか呼んじゃダメなの!」
どうすればいいんだ・・・、俺は悪い夢でも見ているのか・・・?
そうだ、これは夢だ。
このみがこんな事するはずが無い、あの可愛い幼なじみのこのみが・・・。
「どうしたのタカくん?お腹でも空いたの?
そうだ!今日の夕飯はこのみがカレーを作ってあげるよ」
「うるさい!黙れ!お前はこのみなんかじゃない!」
「タカくん?このみはこのみだよ?」
「黙れっ!こっちに来るな!」
このみはゆっくりと俺に近づいてくる。
「ほらタカくん、このみの顔をちゃんと見て。タカくんだけのこのみでしょ?」
「く、くるな!近寄るんじゃない!」
11 :
タカクン・3:2005/08/29(月) 06:36:00 ID:IOFCfjbG0
俺は恐怖のあまり近寄ってきたこのみを突き飛ばす。
「きゃっ」
ゴツン、ドサッ。
このみは本棚に頭をぶつけ倒れこんだ。
訪れる静寂・・・。
俺の荒くなった息づかいだけが聞こえていた。
「・・・・・、このみ・・・?」
このみは倒れたままピクリとも動かない。
なんなんだ、これはいったい何なんだ、誰か助けてくれ・・・。
俺は全力疾走で書庫を飛び出した。
校門を抜け、俺は雄二の家まで死に物狂いで走った。
ピンポーンピンポーンピンポーン。
ピンポーンピンポーン。
俺は玄関のチャイムを連打する。
そして間もなくドアが開いた。
「あら、タカ坊じゃない?どうしたの?」
出てきたのはタマ姉だった。
「た、タマ姉、大変なんだ、ゲホッゲホッ」
ここまで走って来たせいで完全に息があがってしまっていた。
「一体どうしたの?とりあえず中に入りなさい」
12 :
タカクン・4:2005/08/29(月) 07:07:10 ID:IOFCfjbG0
家の中に入り、玄関のドアを閉めてすぐに
俺は今あった出来事をタマ姉に話した。
「・・・変な冗談はやめなさいタカ坊」
「冗談なんかじゃないよ!ほんとにこのみが!」
「全くもう、夢でも見てたんじゃないの?タカ坊」
「そんなわけない!信じてくれよタマ姉!」
「だから冗談はやめなさい。・・・タカ坊が来たわよこのみーっ!」
タマ姉は振り向いて家の中に向かって叫んだ。
トットットット、誰かが廊下を走る音。
俺の前に姿を現したのはこのみだった。
「・・・なんでお前がここにいるんだ、さっき俺が殺したはずなのに」
このみはにっこりと笑みを浮かべていた。
「・・・うわっ!」
俺はその場から飛び起きた。
「ここは・・・?」
周りを見渡す。
どうやら俺の部屋のベッドの上らしい。
やがて意識がハッキリとしてきた。
そういえばベッドの上でゴロゴロしているうちに眠くなって・・・、
そのまま寝ちまったのか。
・・・よかった、夢だったのか。
ふう、今まで生きてきた中で一番怖い夢だったな。
それにしてもすごい汗だ、布団まで汗で濡れてら。
シャワーでも浴びてくるか・・・。
13 :
タカクン・5:2005/08/29(月) 07:22:48 ID:IOFCfjbG0
階段を下りて一階までくるとおいしそうな匂いが俺の鼻をくすぐった。
「ん、何の匂いだろう」
俺はリビングのドアを開けた。
キッチンのほうから料理をする音が聞こえる。
誰が料理してるんだろ?
その時聞き慣れた声が聞こえた。
「タカくん、起きたのー?もうすぐカレーできるからねー」
夢のこともありさすがに一瞬ビックリしたが、
いつものようにこのみが夕飯を作りにきてくれているんだなと
すぐに気づいた。
「じゃあ俺シャワー浴びてくっから」
「あっ、タオルとか用意するね!」
「いいっていいって、このみはそのまま料理に集中してくれ」
そうキッチンに向かって言ってから俺は風呂場に向かった。
メシを作ってもらっているんだからタオルくらい自分で用意しないとな。
風呂から上がり再びリビングに向かう。
テーブルの上にはコップや麦茶が並んでいる。
「腹減ったぞー、早く食わせてくれー」
俺はふざけながらキッチンに向かって言った。
「あっ、今カレー持っていくね」
キッチンからこのみの嬉しそうな声が聞こえた。
きっと今日のカレーには自信があるのだろう。
「はい、お待たせタカくん!」
「お、待ってました!」
振り向くとそこには、血まみれの制服を着たこのみが立っていた・・・。
END
上のほうの「あははっ」に触発され思わず書いてしまいました。
下書きなしでいきなり書いてしまったので長時間かかってしまいスイマセン。
別にこのみが嫌いなわけではないので(むしろすきすきーです)
このみファンの方、もしお気を悪くされたらごめんなさい。
グロSS(?)gj!!
どうせならもっとダークなSSを読んでみたい(゚∀゚)
GJ!結構こういうの好き
いきなりこゆいの来ちゃったなぁ。とりあえず
河野家まだぁ?(´Д`;)
あははっの中の人だけど取り合えずスマソ
と、俺も謝っとく。
寝れなくて前スレ読んでたらこのみがタマ姉を〜みたいなのがあたから勢いで書いてみた。
あと、また何か書くかも知れないけど漏れの携帯コピペ出来ないから迷惑かけると思う。
出来るだけ人いないときに投下するぽ
――2月9日
最近、よっちと話をしてるとよくタカ君の名前が出てくる…。
今日はタカ君の好きな物を教えて欲しいと言ってきた。
何でそんな事聞いてくるんだろ…。
何か、イヤだな…。
――2月10日
今日、よっちとケンカした。
理由は…タカ君の事。
よっちが私に聞いてきたの…。
タカ君の誕生日、好きな歌手、食べ物、洋服…。
どうして私がよっちにそんな事教えなきゃいけないの!?
ずっと無視してたら怒ってどこか行っちゃった。
――2月11日
昨日からよっちとは口をきいていない。
ちゃるが心配そうにしてたけど、正直、それどころじゃなかった…。
だって、もうすぐ…。
――2月12日
今日は日曜日。お母さんに必殺チョコレートの作り方を教えてもらった!
もうすぐバレンタイン!!
…待っててね、タカ君。
――2月13日
よっちが何か言いたそうだった。
でも、知らない!今日も無視してやった。いい気味だ。
時間が無いのであとでうpします
3連続で黒いこのみか・・・
最近はダーク路線が流行ってるのか?
黒い三このみ
, *⌒´`*、 , *⌒´`*、 , *⌒´`*、
! i! (((ノリ)〉 | ! i! (((ノリ)〉 | ! i! (((ノリ)〉 |
⊂二二二W!(i| ゚ω゚)W二⊂二二二W!(i| ^ω^)W二⊂二二二W!(i ●ω^)W二⊃
| / | / | / ジェットストリームブーン
( ヽノ ( ヽノ ( ヽノ
ノ>ノ ノ>ノ ノ>ノ
三 レレ 三 レレ 三 レレ
Tender Heartマダー?(・∀・)
――2月14日
明日は待ちに待ったバレンタイン。
タカ君、甘いの大好きだから、と〜〜〜っても甘いチョコを作ってタカ君にいっぱいほめてもらおう!
――2月15日
…タカ君、今日は家に帰って来なかった。
遅くまで、寝ないで、待ってたのに…。
どこ行っちゃったの…。
会いたいよぉ、タカ君…。
――2月16日
今日は朝早くタカ君の家に行った。
いつもより一時間以上早く、タカ君の家に行った…。
昨日、渡せなかったチョコを渡したかったから…。
なんで?なんで!?よっちが!!タカ君の家にいるのッッッ!!!
わけわからないよッ!!
『…オレタチツキアウコトニナッタンダ』
な、に…言ってるの?
このみ、頭悪いから分からないよ…。
――2月17日
何でこんな事になっちゃったのかなぁ…。
このみ、何か悪い事したのかなぁ…。
何をしてても昨日の事を思い出しちゃう…。
胸の中が…もやもやして…もう、何も、考えられないよ、タカ君…苦しいよぉ。
――2月18日
いっぱい泣いた…。
おもいっきり泣いた…。
少し、気持ちが落ち着いた。
きっと、タカ君は、あの女に騙されたんだ…。
早く、タカ君を助けてあげないと…。
>>5-7 終わりが微妙に中途半端なのが気になる。
どうせなら、この後鎌を持ったこのみに貴明が犯されるとか、
そういった展開が良かったかもしれない。
犯されながら、鎌で斬りつけられ、ちょうど射精と共に貴明が息絶える。
で、最後はこのみが貴明は死ぬけど自分の中(射精した精子が受精して)で生まれ変わるみたいな事を言って終わるとか。
それから、もう少し血の臭いを強調してもいいかも。
生首の表情とかディテールを細かく描写したり。
後は、その前の生活をいくらか書いた方がいいかもしれない。
普通の日々を書きつつ、タマ姉や小牧と親密になっていく様子や、
このみの微妙な変化に気づいたが、気のせいだと思っていたとか。
この話のこのみ視点とか書いてみてもいいかも。
如何にしてこのみがタマ姉や小牧を虐殺するまでに至ったかなど。
歯車がくるっていく過程を書くような。
特に、このみはタマ姉を慕っているわけだからそのタマ姉を殺すにはかなり何かが必要だろうし。
>>9-14 夢オチに見せかけてというパターンは結構使い古されてるっぽいけど
結構面白い感じ。
>>19-20 続き期待。
ギャー
作品投下中ごめんです。
リロードすれば良かった_| ̄|○
――2月19日
夜、合鍵を使ってタカ君の家に入る。
早くタカ君の身体からあの女の毒を抜かないと…。
タカ君の身体に家から持って来た包丁を突き立てる。
いきおいよくタカ君の身体から毒が抜けていく…。
目を覚ましたタカ君が暴れる。
大丈夫だよ、タカ君…。このみがすぐに良くしてあげるからね。
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も…。
一時間くらいするとタカ君の身体から毒が出なくなった。
これで一安心だ。
これでタカ君は私の…私たけのモノになった。
これからもよろしくね…タカ君。
取り合えず書き終りますた。
コピペ出来れはすぐにうp出来るのですが…orz
迷惑おかけしますた…。
あははっ+にっきでこのみの一途さを別角度から攻めてみますた。
気分を害したらスマソです
…怖っ!
宿題終わったら白このみを書こうと誓ってみる
よっちを書いてくれる者はおらんのか('A`)
>>34 頼んだ!白このみ好きな俺としてはこの黒このみラッシュは正直キツイ
でもなぜか見てしまうんだよな・・・orz
流れを変えるべく
せーのっ
>>20 > でも、知らない!今日も無視してやった。いい気味だ。
最後の「いい気味だ」でバイオハザードの飼育員の日記思い出したw
いあ!シュブ=ニグラス!!Mi-Go Mi-Go ナース!
夕食でこのみが作ったのは、春夏さん直伝のきんぴらごぼう。うまかったー!
このみを家まで送ろうとしたら、散歩がしたいとこのみが言いだした。特に目的地もなくぶらぶら
と散歩をしていると、このみは「由真さんたちと仲良くなれてよかった」と俺に言った。それは俺に
とっても喜ばしいことだったが、しかしこのみはその後「いいことばかりじゃない」と否定する。
それは、「たった一つしかないものをみんなが欲しがっているから」だそうだが……
このみ、それって一体なんなんだ?
「とうちゃ〜く」
夜の散歩を終え、このみの家に着いた。
「ただいま〜」
そう言ってこのみが玄関のドアを開けると、
「お帰り、このみ」
春夏さんが出迎えてくれた。
「遅かったわね、どうしたのこのみ?」
「あ、うん、タカくんとちょっとお散歩してたんだ」
「こんな夜遅くに散歩?
あのねこのみ、いくらタカくんと一緒だからって、夜道が危険なのに変わりはないのよ。
最近は物騒な事件も多いんだから。タカくんがヘンな人に襲われでもしたらどうするの?」
あの春夏さん、俺よりまずこのみの心配をすべきではないかと……。
「う、うう、だって……」
「だってじゃないでしょ。タカくんと仲良くするのはいいけど、少しタカくんに甘えすぎなんじゃ
ないの? タカくんだって迷惑してるかもしれないでしょ。ちゃんとそういうことを考えて……」
「ご、ごめんなさい!
じゃタカくんおやすみ、また明日!」
春夏さんのお説教を遮り、このみはダッシュで階段を上っていった。
「あ、こら、このみ!
まったくもう……、タカくんご免なさいね。迷惑掛けて」
「いや、迷惑だなんて思ってませんから。
それじゃあ俺、帰ります。おやすみなさい、春夏さん」
そういって出ていこうとした俺だったが、
「あ、待ってタカくん。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
そう俺を呼び止める春夏さん。なんかイヤな予感がする……。
俺は春夏さんに連れられ、居間のソファーに腰掛けた。
「何ですか、聞きたいことって?」
「タカくんの家にいる女の子たちなんだけど」
げーーーっ!! ば、バレてる!!
「は、春夏さん、どうしてそれを?」
俺がそう尋ねると、春夏さんはやれやれといった顔で、
「タカくんねぇ、毎朝みんなで出かけたり、家の外まで聞こえるくらい賑やかだったりしていたら、
気付かない方がおかしいわよ。全然隠そうとしてないんだから」
い、言われてみるとその通りだな……。
「で、どうしてタカくんの家にあんなに大勢の女の子がいるのか、説明してもらえるかしら?」
俺は、春夏さんが半端なウソなど通用しない人だってことはよく解っている。それに春夏さんが
説明を求める理由も単なる好奇心ではなく、実の子同然に俺のことを心配してくれているからだって
ことも解っている。そういう意味ではもっと早い内から、このことは俺の方から春夏さんに打ち明け
ておくべきだったかもしれない。
俺は何も包み隠さず、ありのままの経緯を春夏さんに説明した。
「――成る程ねぇ。みんなそれぞれ事情があってのことなのね」
「ええ、まあ……」
「で、タカくんとしてはどうするつもりなの?」
「当然、みんなが元の家に戻れるようにするつもりですよ。俺だって今の生活が正しいことだとは
思ってませんから」
「具体的には?」
「うっ……そ、それは……」
「考えてないんだ」
「は、はい……」
「口先ばかり正しいこと言っても行動が伴わないんじゃ何の説得力もないわよ。
もしかしてタカくん、今の生活を楽しんでいない?」
春夏さんのその指摘に思わずドキッとなる。ついさっき、このみとの会話でこの生活でのいい点
を見出していただけに、その指摘を否定することが出来ない。
「……そういう部分もあると思います。
何て言うか、一緒に暮らして楽しいって感じることがあるのは本当だし……。
で、でも、このままじゃいけないって思っているのもウソじゃないんです。ただ、どの問題も現状
じゃ解決方法が見つかっていなくて……」
「まあ、さっき聞いた話だけでも、解決が難しそうなのは解るわ。タカくんは彼女たちの問題に巻き
込まれたって感じみたいだしね」
「るーこは俺が招き入れたんですけどね。他はまあ、そんな感じです」
「うん、事情はよく解ったわ。
しっかり者のタマちゃんが監督役を務めているみたいだから、ここは春夏さんの出る幕じゃない
ようね。いいわ、わたしは何もしない。
でもねタカくん、約束して欲しいことが二つあるの。よく聞いて」
「は、はい」
「一つ目は、今の生活への問題意識を決して忘れないこと。
理由がどうあれ今のタカくんたちの生活は、世間的には決して誉められたものじゃないわ。もし
このことが街中の噂にでもなってみなさい。最悪、タカくんも彼女たちも、学校を退学になったり、
街から出ていかなければならなくなるかもしれないのよ。
彼女たちとの生活を楽しむのもいいけど、羽目を外さないようくれぐれも気を付けて。いい?」
「はい」
確かに春夏さんの言うとおりだ。うん、気を付けなきゃ。
「二つ目は、これは一つ目の延長みたいなものだけど、絶対に彼女たちと間違いを起こさないこと。
言ってる意味、わかるわよね?」
「は、はい、わかります」
「あ、ねぇタカくん、一応聞いておくけど、彼女たちの中にタカくんと相思相愛なコ、いる?」
「い、いないですよそんなの!」
「そう? ならいいけど。
くれぐれも今言ったこと、忘れないでね。約束よ、わかった?」
「はい、約束します」
春夏さんの信頼を裏切るつもりは毛頭ないし、俺だってタマ姉や由真たちが不幸になるようなこと
は絶対にしたくない。春夏さんへの誓いの返事は、俺自身への誓いとして胸に刻んでおこう。
「うん、信じてるからね。
あ、もし何か困ったことがあったらいつでも相談に乗るから、遠慮せずにいらっしゃい」
「はい、ありがとうございます」
「それにしても、タカくん凄いわね。あんな大勢の女の子に好かれちゃったんだから。さすがはこの
春夏さんが見込んだ男の子っていうか、それ以上だわ」
「ち、違いますよ春夏さん! 俺なんか別に好かれちゃいませんって!」
俺が慌ててそう否定すると、春夏さんは俺に近づき、そして、
なでなでなでなで。
俺の頭をなで始めた。
「ち、ちょっと春夏さん!?」
「本気でそう思っているところが、タカくんの可愛いところなのよね〜。タマちゃんたちも母性本能
くすぐられちゃってるわけだ。んも〜、罪作りなタカくん☆」
なでなでなでなでなで。
「は、春夏さん、いいから止めてくださいよ。恥ずかしいですってば」
「いいじゃない久しぶりなんだし。あ〜あ、わたしもこんな息子が欲しかったな〜。
あ、そうか、タカくんがこのみと結婚すれば、タカくんはわたしの息子になるのよね。このみには
是非頑張ってもらわなくちゃ」
などと春夏さんが言っていると、噂をすれば何とやらで、
「お母さ〜ん、喉乾いた〜」
と、このみがパジャマ姿でやってきた。
「あれ? タカくんいたんだ、って、えええっ! お母さん何してるの!?」
「母と息子の愛の確認〜」
なでなでなでなでなでなで。
「タカくんはお母さんの息子じゃないでしょ! 止めてよお母さん、タカくん困ってるよ〜!」
「だから、このみが頑張ってタカくんをゲットするのよ。いいわねこのみ。
そのための協力は惜しまないわよ。必殺カレーも直撃ビーフシチューも熱血ハンバーグも魂のオム
ライスも、その他も全部伝授してあげるからね」
なでなでなでなでなでなでなで。
「お、お母さん、タカくんの頭なでながら真剣な目でそう言われても……」
「ただいまー」
春夏さんのなでなで攻撃から解放され、家に戻ったのはもうすっかり夜中。
居間の明かりは消えている。もうみんな自分の部屋で寝ているんだろう。
明日も学校だし、俺ももう寝るとするか。俺は階段を上り、自分の部屋に入った。
「遅かったわね、何してたのよ?」
部屋の中は明かりが点いていて、パジャマ姿の由真がベッドに座っていた。もしかして俺のこと、
待っていてくれたのか?
「あ、ああ、このみとちょっと散歩して、その後春夏さんにつかまってなぁ。――あ、春夏さんって
言うのはこのみのお母さんな」
「ふぅん、そう」
「で、春夏さんには俺たちのこと、全部話した」
「は、話したってあんた、信用できるの、そのおばさん?」
「由真、今の内に言っておくけどな、もしこの先春夏さんに会う機会があったら、絶対に春夏さんの
ことを『おばさん』なんて呼ぶなよ。命が惜しかったらな」
「う、うん……」
俺の忠告に圧倒され、素直に肯く由真。
「まぁ春夏さんには解ってもらえたから大丈夫だよ。色々注意はされたけどな」
「そう、いい人なんだ。このみちゃんのお母さんだものね。
じゃあ、そのお母さんの期待を裏切らない意味でも、はいこれ」
由真がそう言って俺に差し出したのは、例の手錠。
「さっさとパジャマに着替えて、これ掛けたら寝るわよ」
由真が俺を待っていたのは、そのためだったのね……。
俺はパジャマに着替え、由真に後ろ手に手錠を掛けられた。
「さて、じゃあ寝ますかね。由真、ベッドからどいてくれよ」
「あたし、今日はベッドで寝る」
「は? 何で?」
「何となく、今日はベッドで寝たい気分だから」
「いや、気分と言われても困るんだが……」
「何よ、環さんだってベッドで寝たんだから、別にいいじゃない。
環さんが良くてあたしがダメな理由でもあるわけ?」
いやに強情な由真。まあこんなことでもめても仕方がないから、ここは俺が一歩引きましょう。
「ああわかったよもう。じゃ、俺はこっちの布団で寝るな」
俺はそう言って、今夜もまた客用の布団に潜り込んだ。
「じゃ、おやすみ〜」
由真がそう言って、部屋の明かりを消した。
「ああ、おやすみ」
さあもう寝よ寝よ。今日はいろんなことがありすぎて疲れたし。
「……たかあき」
「……ん?」
「……まだ寝てなかったの?」
「話しかけといてそりゃないだろ。由真こそまだ寝てなかったのかよ?」
「まあ、ね……」
「もう寝ようぜ。明日も学校あるんだからさ」
「……うん。おやすみ」
「ああ、おやすみ」
「……たかあき」
「……ん?」
「たかあきってさ……」
「なんだよ?」
「……別に、何でもない」
「何でもないって、じゃあ話かけるなよ。寝るぞ、もう」
「……うん」
「……たかあき」
「……あ〜、今度は何だ?」
「……うん、じゃあ、ぶっちゃけて聞くけど、たかあきは誰が一番好きなの?」
「はぁ?」
「答えなさいよ、誰が一番好きなの? このみちゃん? 環さん? それとも愛佳?」
「このみとタマ姉は単なる幼なじみ。小牧さんはクラスメイト」
「じゃあるーこ?」
「るーこにとって俺は、最初の地球の友達」
「花梨?」
「ミステリ研会長とその部員、いや手下かも」
「瑠璃ちゃん?」
「あの態度で俺のこと好きだと思うか?」
「珊瑚ちゃん?」
「珊瑚ちゃんは俺のこと好きだって言ってくれるけど、あのコの”好き”は普通と違うからなぁ。
って片っ端から名前挙げてるだけじゃないか。だったら……」
「……だったら?」
「あ、いや、何でもない。さあもう寝るぞってば」
あ、危ない危ない。俺、今危うく「だったら何で由真が出てこないんだよ?」って聞くところ
だった。何考えてるんだ俺?
「……たかあき」
「……はい、今度は何ですか、由真さん?」
「……あのさ、たかあき」
「なに? さっさと言えって」
「もしも、あくまでももしもの話だからね。絶対にそんなことしないんだから……。
あのさ、たかあき。もしも、だけれど……」
「もしも、何だ」
「……」
「どうした由真? もしも、何だよ?」
「……うん、言うね。
もしも、あたしが、たかあきのその手錠、外してあげたら、たかあき、どうする?」
「……え?」
「ほ、ほら、答えなさいよ。どうするの?」
「べ、別に、どうもしやしないと思うぞ……」
「……ほ、ホントに?」
「……ほ、ホントに」
「……そ、そうなんだ、うん。何となく聞いてみたかっただけ。じゃ、じゃあ、おやすみ……」
「あ、ああ、おやすみ……」
つづく。
どうもです。第21話です。
最近「ノロイ」「ランド・オブ・ザ・デッド」という二本のホラー映画を見まして、
「ああ、これを姫百合姉妹が見たら、どんなことになるだろうか?」
などと妄想してしまいました(w
それから、「河野家まだ〜」とせかしてくれる皆さん、いつもありがとうございます。m(_ _)m
作者はスパロボをちょっとだけ我慢しつつ、これからも週一ペースくらいで投稿しますのでよろしく
おつき合いの程を。
河野家キタ━━(゚∀゚)━━!!
先が読めない故に続きが気になる……
が、マターリと待ちます。
てんだ〜は〜とm(r
河野家面白いなあ
しかしコイツは長くなるぞー(^^;)
簡単にはケリつけられまい
50話くらいいってもあきそうにない
最後は家族計画みたいに大円団になるとみた
6スレ目がいまだ健在な点について。
ちょい前に容量オーバーしてる。
たかあきくんと由真が一緒に居るのを見てから一日経った。今日は日曜日、用事もない
あたしは家でボーっとしていた。
……本当はこんなことしている場合じゃないのかもしれないのに。それでもあたしは、
ベッドの上から動こうともせずに、ぼんやりと天井を見つめていた。
昨日の由真の姿を思い出す。笑顔と恥じらい、惜しげもなくたかあきくんに晒すのは、
きっと自覚がないからだと思った。たかあきくんもきっと、由真が他の人といる時にどん
な接し方をしているか知らないだろう。
思えばあたしと由真は、それなりに長い付き合いなのに、互いのさらけ出す部分が少な
い。由真は郁乃の事を知っているけれど、あたしが郁乃に抱いていた醜い感情のことは知
らない。あたしもまた、由真が抱えているだろう悩みを、打ち明けられることもなかった。
長瀬の家に何か考えていることがあるのは、なんとなく分かるけれど。
そういえば昔、由真が「将来の夢はかわいいお嫁さん」と言っていた気がする。思考が
そこまで進んで、あたしは気持ちが大きく沈んでいくのを体感した。「かわいいお嫁さ
ん」の隣に、たかあきくんの姿を想像してしまったからだ。
ダメ、そんなの、耐えられない。唇だけだそんな言葉の軌跡を描いたけど、声帯が震え
る事はなかった。
自分の中に、こんな嫉妬めいた感情が強く渦巻いているなんて、春が終わるまでは思い
もしなかった。あたしとたかあきくんが、心を育んだ春はもう過ぎ去ったのだ。夏休みを
目前にして、今育まれているのは由真の感情なのかもしれない。そんな事まで一々連想し
てしまう自分が情けなかった。
「……なにやってるのよ」
「わひゃぁ!」
気が付くと郁乃があたしの部屋の入り口に立っていた。
「い、郁乃、いつの間にいたの?」
「さっきから、だってお姉ちゃん、呼んでも全然返事しないんだもん」
「そ、そうだった?」
あたしの返事を郁乃は不満に思ったらしく、むすっとした顔をする。
「バカ貴明のこと?」
「ち、ちちち、違います、のよ?」
「なんであたしに敬語使ってるのよ」
はぁ、と郁乃はため息を吐いた。
「まったく、あのバカは何やってるんだか……」
「だから、違うって〜」
今度は、さっきよりも盛大に、あからさまなため息。
「まあ、別にあいつじゃなくても、なんでもいいんだけど、一日中家の中でボーっとして
ても何にもならないんじゃない?」
「う、それはそうかもしれないけどぉ〜」
われながら随分情けない声が出てくる。
「妹に泣きついてもしょうがないでしょ」
「う、うん」
「なあなあに動いてたら、いつか後悔するよ?」
一瞬だけ、優しげな妹の表情が見えて、あたしがじっと見つめるとそそくさと郁乃は去
っていった。
ホント、妹に勇気付けられるなんて、どうしようもない。だけど、確かに勇気は沸いて
きた。
「決めた」
肺から空気を強く押し出す。それで気分が持ち上がった。由真の気持ちを調べないと。
あたしはベッドから起き上がった。とりあえずもっと元気を出さないと。頭の中で呟い
て、近くにあったゼリービーンズの瓶に手を伸ばした。
「なにしてるんだろ……あたし」
なんだか、自分で自分が情けなくなってきた。郁乃に勇気付けられておきながら、結局
由真に直接問いただすことの出来なかったあたしは、休み明けの月曜に、尾行なんてマネ
をしていた。なんとも情けないけれど、確実に由真の動向を知るのに、あたしは他の術を
知らなかった。由真はあのまま借りを返さないでいるようなタイプじゃない。そういう所
はかなりしっかりしていて(だから、逆に距離感を感じる時もあるのだけれど)、今日当
たりに何かするのは予想できた。何より、休み時間に遠巻きにあたしたちのクラスを眺め
ていたのが、良い証拠だと思う。
今は放課後、由真はたかあきくんに声を掛けていた。マウンテンバイクに乗った由
真と、立ったまま話しているたかあきくん。多分、今は貸し借りの話をしている所だと思
う。
それはたかあきくんと由真が織り成す、いつも通りの光景だった。遠慮なく言い合う二
人、人目を引くときがあるけれど、ある種の理想でもある気がした。あたしとたかあきく
んでは成り得ないし、また、由真とあたしでもそうだった。
そうこうしている内に、会話を打ち切って二人は歩きだした。お礼にどこかに出かける
つもりなんだろう。たかあきくんに、何か底意があるとは思ってない。それは信じてる。
けれど、あたしは心の中で「バカ」と呟くのを抑える事はできなかった。
街へと繰り出した二人は、まっすぐに何処か店に寄ることも無く歩いていた。目的地が
決まっている。ルートから推測するなら駅方面、おそらく駅前に目当てのものがあるんだろう。
かくして、あたしの予想通りに二人は駅前の、ある建物の前に立っていた。映画館、そ
れなりに混雑していて、並んでいるお客さんが見かけられる。上映されているのは複数有
って、どれが目当てなのかは流石に今は分からなかった。
立ち止まって二人は話をしていた。どれを見るのか話し合っているのだろう。一々オー
バーなリアクションをする由真は、昔なら楽しめただろうけど、流石に今は無理だった。
会話もそこそこに、二人はとある列に並び始めた。目を疑って、声も出そうになったけ
れど、あたしは必死にこらえた。
二人が見ようとしているもの、それは大人の恋愛物だった。
「なんで、こんなの……」
「仕方ないだろ、二者択一だったんだから。あの役者苦手なんだよ」
「あたしが招待する側だから、別にいいんだけど……」
「なんだ、大人の映画はまだはやいってか?」
「な、こんなの別に大したことないわよ!」
「じゃあ、別にいいじゃん」
「ぐっ、そうよ、大したことないんだから!」
そうは言ったものの、あたしはどうにも腑に落ちなかった。招待券を見たときから、単
純に二分の一の確立でこっちの映画になるのは予想出来たけど、本当になるとまた気分が
違ってきた。
あたしたち以外の列に並んでいる人を見回す。みんな男と女の二人組、つまりはカップ
ルで来ている人ばっかりだった。他の人から見たら、あたしたちもそんな列の一員となっ
ているのだろう。その想像にあたしは、顔が火照っていくのが分かった。
「映画、まだかな」
「もうちょいで終わるだろ、そんなにがっつくなって」
「あ、あたしは別にこんな映画なんかっ」
「なんだよ、そんなに嫌なら俺一人で見てもいいぞ、チケットがお礼と考えるなら」
「バカ、それじゃ意味ないでしょっ。いいわよ、この映画でいやらしい顔してるアンタの
顔見届けてやるんだから」
なんだか、まともな会話にならない。とはいっても、これがあたし達の普段の会話のよ
うな気がしなくもなかった。その事に、なんだか味気ない気分になる。
前の映画の上映が終わり、入場者の退場と共に列が進んでいく。貴明はもう先に進んで
いる。こうなったら、もう進むしかない。あたしは覚悟を決めて、映画館の床を踏みしめ
て歩き出した。
「うあ……」
映画の内容は予想通りに、予想以上のモノだった。今、ちょうど外国人の男と女の人が、
濃厚なキスを交わしているところだ。舌と舌が絡み合って、唾液が交じり合っていく様が、
鮮明に映されている。
「すご……」
それ以上の言葉が出なかった。目の前の光景が、今のあたしには非現実的で、もしかし
たら自分がいつかすることなんだと思うと、どうに不安に駆られてしまう。
キスが終わると、今度は次の段階の行動に移っていった。それは、今のあたしが言うに
は、どうにも憚られるような、そんなすごさだった。弄るように動く男の人の手と、何か
を求めるようにさまよう女の人の腕だけが、ひどく印象的に映った。
「あ、あわわ……」
幼児化したみたいに、あたしは単純な言葉しか言えなくなっていた。恥ずかしいと思い
ながらも、あたしはしっかりとその光景を見ていた。どう考えても、いやらしい顔してい
るのはあたしだった。時間に換算すれば大した時間にならなかっただろうけど、あたしに
は永遠の時間に感じられた。
「……」
この光景を貴明は、別になんでもないように見ていた。その様子にあたしは驚いた。な
んで平気でいられるの!? とは考えたけれど、それは一つの回答に導かれた。
……そうだ、貴明は愛佳と付き合っているんだった。
冷静になって、その事実に気付いて、そしてあたしは恐ろしくなった。
(なんであたしは、こんな所に貴明と二人でいるんだろう?)
あたしが映画に誘ったから、こうして二人で居る。良く考えてみれば、それはとんでも
ない事のような気がしてきた。
隣の席に座る貴明は、肘掛に手を置いてくつろいでいる。もし、今あたしが手を伸ばし
て貴明と手を重ねたなら、何か変わるのだろうか。けど、多分何も変わらない。不思議な
顔されて、「何?」とか聞かれるのがオチだと思う。また胸が痛くなった。
それはどうしてか、そんなのは考えるまでもなかった。
「……」
上映が終わってから、あたしたちは言葉を発することなく、駅前を突っ立っていた。
様々な感情がないまぜになって、形容することもできなかった。貴明もそんなあたしの
雰囲気につられてか、一言もしゃべらない。
「じゃあ、あたしはこれで……」
この状況に耐え切れなくなって、あたしは別れの挨拶を口にした。それで、あたしはマ
ウンテンバイクを置いてある場所へと向かおうとする。
「おーい」
貴明が緊張感の無い声であたしを呼び止めた。一瞬ためらったけれど、あたしは振り返
る。
「映画、ありがとな」
心音が一つ、強くなった。
「ば、ばかっ。借りを返しただけよ。これで貸し借りゼロだからね!」
「あー、わかったわかった」
「ふん、んじゃ、今度こそ行くわよ」
「おー、またな」
なんとなく、後ろで貴明が手を振る様子が想像できたけど、あたしはその姿を確認せず
に駐輪所へと向かった。
もう認めるしかない。
あたしは、貴明のことが好きなんだ。
「なーにやってんだろ、あたし……」
家に帰って、誰にも挨拶せずに、自分の部屋に来た。自分の中にある気持ちに向き合っ
てもなお、あたしの気持ちは晴れやかにはなれなかった。そう、愛佳が居るからだ。
愛佳の顔が浮かんでくる。貴明と居る時の愛佳の顔はいつも嬉しそうで、何より幸せな
顔をしていた。愛佳は間違いなく貴明のことが大好きなんだろう。きっと、あたしの気持
ちの何倍も。
そんな愛佳の大切な人を、あたしは横から掠め取るような真似をしてしまった。自覚が
有るとか無いとか、そういう問題じゃない。あたしはどうしようもなく卑怯な人間になっ
ていた。
愛佳に謝らないといけない。あたしはそう決心した。
「はぁ……」
昨日と同じように、あたしは部屋の天井を見つめていた。映画館に入る二人を認めたあ
たしは、そこから尾行することなく家へと帰っていった。昨日よりも気分が重い。
「たかあきくんの、ばか……由真の、ばか」
自分にしか聞こえないような小さい声で、悪態を吐く。そんな事言ったって、今日見た
事実は変わったりはしないのに。
もはや、アレは浮気現場と見た方がいいのだろうか。いや、たかあきくんに限ってそれ
は無いと思う。きっとあれは、ぬいぐるみの恩返しで、たまたま映画館の招待券があれし
かなくて。きっと、きっとそうなんだ。
「……」
この期に及んでまで、あたしはたかあきくんの事を信じていた。そんなのは希望的観測
でしかないのに。もはや、由真の気持ちは確定している。あの子は間違いなくたかあきく
んの事が好きだ。その気持ちも、きっと認めているハズ。
だからこそ不可解だった。あの子は決して、卑怯なマネを好むような子じゃない。あた
しとたかあきくんが付き合っていると知りながら、隠れて逢引きをするような、そんな子
じゃない。
「で、今日もなんか有った訳?」
「ひゃっ」
昨日と同じように、郁乃がそこに立っていた。
「あのねぇ、かえってきたと思ったら、昨日より酷い顔になっていたら、誰だって心配するでしょ」
「うっ」
言葉に詰まる。家に戻ってきてから、郁乃にはいつもあたしの行動を見られている気がした。
「おおかた、何も言わずに帰ってきたんでしょ?」
「な、なんで分かるのっ?」
「だって、玉砕したなら話す余裕もないだろうし、上手くいったらそんな顔しないし」
「う〜」
恥ずかしくなって、脇によけていた掛け布団を口元に持っていく。
「ま、まあ、あたしから言う事なんて何もない気もするけど」
郁乃はそれだけ言って去ってしまった。
自分から言う事は無い。つまり、もうやれる事なんて限られているという事だ。
そうだ、悩んでいる時間なんて、もう無い。
あたしは携帯電話を手に取った。
携帯を手に取ってから、散々悩んで時間を取ってしまったけれど、あたしは何とか由真
は呼び出す事に成功した。あたしの家に呼ぼうかと思ったけれど、なんだか問いただすの
に不適切な気がして、結局近くの公園にすることにした。
夏の公園はとても静かだった。この季節特有の、湿った生ぬるい風が惜しげもなく吹き
さらし、あたしはスカートの裾を押さえながら由真を待った。
(……なんて言えばいいんだろ?)
聞く内容は決まっている。だけど、どう言えばいいか分からなかった。こんな経験なん
て当然あるわけがない。精一杯詰め寄って「あたしのたかあきくんを取らないでっ!」と
でも言えばいいのだろうか。だけどあたしは、そんな風に言える自信が無かった。一体ど
う言えばいいんだろう……。
「愛佳」
「あっ」
そうこうしている内に、由真がやってきた。太陽はもう沈んでいて、心許ない公園の電
灯だけでは由真の表情が読めなかった。
「由真、お久しぶり」
「え? う、うん、久しぶり」
本当はそんな事ないんだけど、何故だか由真と会うのは久しぶりな、そんな気分だった。
「あのね」
「……うん」
結局どうしても弱腰になってしまうあたしだった。
「ああ、あたし、今日見ちゃったの、由真と、た、たかあきくんが一緒に映画館に入ると
ころ」
「……!」
暗がりの中でも、由真の表情が大きく動いたのが分かった。だけどあたしは気にせずに
話を続けた。
「それでね、聞きたいことがあって、由真って――」
「ごめんなさいっ!!」
あたしが言い終わるのを待つ前に、由真がいきなり謝ってきた。
「ごめん、愛佳! あたし、どうかしてた。愛佳が居るのに、あたし、あたし、たかあき
と一緒に」
「え? ええっ?」
「別に、悪気があってやったんじゃ。あたし、ただ映画のタダ券があって、それで昨日の
お礼にと、ただそれだけで」
混乱しそうになりながらも、あたしは由真の言葉を頭の中で反芻した。その内容は、あ
たしがさっき家で考えた希望的観測そのままだった。
「だから、愛佳を出し抜いて、たかあきを奪おうとか、そんなことは全然――えっ?」
「ふ、ふふ」
なんだか、おかしくなって、口から笑い声が漏れた。それをきっかけに、関を切ったか
のように笑い声が出てくる。
「あ、はは、あはははっ」
「え? なに、なんなの? ちょ、ちょっと! どうして愛佳が笑うのよ!?」
嬉しくて、可笑しくて、あたしは笑うのを止めることができなかった。
それからあたしたちは、色んな事を話した、。今まで決して腹を割って話してきた事も
無かったかのような内容も。こんなに由真と話をするのが楽しいと思ったのは初めてで、
それこそ話が尽きるまでしゃべるのを止めることができなかった。
「あー、なんだか愛佳とこんな風に話すなんて初めてよね?」
「うん、だって、由真いつも壁作ってるみたいで、そんな話できなかったし」
「あたしから言わせりゃ、愛佳だってそうよ。『委員ちょ』って壁作って、みんなと一定
の距離保っている感じで、あたしまでその余波食らってた」
「……お互いそこまで見えてるなら、深い話しても可笑しくないのにね」
本当にそう。なんであたし達は、こうまで不器用だったんだろう。お互いのためになら
ないような気遣いを、お互いがしている。たかあきくんの事だって、もっと早くに真剣に
話し合うことだってできたかもしれないのだ。
「うん、ま、今できてるからいいんじゃない?」
「そうだね」
その切っ掛けはたかあきくん。よくよく考えると変なきっかけで、あたしは可笑しくて
また笑ってしまう。
「ねえ愛佳」
「なぁに?」
二人ともが笑顔だった。由真の瞳には、揺るぎない強い力が宿っていて、吸い込まれそ
うになる。
「知ってるかもしれないけど、あたし、貴明のこと好きだから」
一瞬だけ、動きが止まった。けれど、さっきの由真に負けないように、あたしは自分な
りに精一杯したたかな笑みを浮かべる。
「うん、知ってるよ」
少しだけ睨み合って、二人で一緒に破顔する。二人の笑い声が収まって、それから由真
が宣言した。
「これでもう愛佳に隠れてコソコソやる必要もなくなったからね。絶対にいつか奪い取っ
てやるんだから」
「こっちだって、由真に奪われるような真似しませんよーだ」
べーっと、舌をだす。こうやって、由真と憎まれ口叩き合うなんて初めてのことで、余
計おかしくなる。
「それじゃ、あたしはこれで帰るから」
「うん、またね」
最後まで、笑顔のままであたしたちは別れた。
翌朝、あたしは気だるさを感じることなく目が覚めた。こんなに気分の良い朝は久しぶ
りのような気がする。
今日は朝からお母さんは用事があって、郁乃と一緒に学校に行くことになっている。低
血圧の郁乃を起こして、一緒に用意されてた朝ごはんを食べる。機嫌が良さそうなあたし
を、郁乃は何か言ってくるかと思ったけれど、まだ郁乃はボーっとしてて何も言う事はな
かった。
「よっ」
「あ、貴明! なんであんたがこんな所にいるのよ」
「いや、昨日朝一緒に行くように愛佳に言われたから」
玄関先でたかあきくんの姿を確認して、急に郁乃が覚醒した。……ひょっとして、郁乃
も要注意人物? とか考えたりしたけれど、とりあえず気にしないことにした。
「おはよ、たかあきくん」
「おはよう、何だかこうやって愛佳と登校するのって久しぶりだな」
「ふふ、そうだね」
「ほら、そんなところで突っ立ってないで、さっさと行こうよ!」
「ったく、しょうがない奴だ」
三人で行く坂道、今郁乃を押しているのはたかあきくんだ。
「そうだたかあきくん」
「ん、なに?」
「昨日、放課後何してた?」
「え、ああ、いきなり由真に誘われて映画館に行ったけど?」
「……」
あたしは笑顔のままでたかあきくんの頬をつねった。
「イテ、イテテテテ! ま、愛佳、痛い、痛いって」
「あ、バカ、こら揺らすな!」
郁乃の声に、あたしはパッと手を離す。
「たかあきくん」
「あー、いててて……え、何?」
「夏休みは海に行こっか?」
「え、あれ? 前に行きたくないって言ってなかったっけ?」
「前の話は、前の話だよぉ。それで、行く?」
今日のあたしのペースにたかあきくんは戸惑っているように見えた。
「ん、まあ、愛佳が行きたいなら、俺は是非」
「やったぁ!」
「うわっ、愛佳っ。学校近いから、手はマズイって!」
「コラ! あたしの後ろでイチャつくんじゃない!」
春が過ぎて、夏はもうここにある。
だけど、あたしとたかあきくんの時間はこれからも続く、いや続けていくのだ。
新しい決心を胸に、あたしは夏の坂道を登っていった。
こっそりと書き込み、これにて「春が過ぎれば」は終了となります。
ドロドロ話やダークを期待した方、ごめんなさい。スタート時点で要望があったのなら、
もしかしたら愛佳に包丁持たせることもできたかもしれないけど、途中でそれは無理でし
た。
こうやって読み返してみると、どうも複数回に分けての書き込みには向かない話だった
かもしれません。雰囲気作りを徹底できなかった私に問題があるんですけど。
色々欠点があったかもしれませんが、最後まで続けられたのはスレのみんなのお陰です。
みんなありがとう。もし次があったらまた会いましょう。
GJ!!
このみとタマ姉の取り合いENDの委員ちょ&由真版といった感じで良い。
>>70 おつかれ&完結オメ。
ドロドロやダークもたまにはいいけど、やっぱりTH2はこうでないとね。
73 :
にっきの中の人:2005/08/31(水) 14:43:52 ID:tgM7FsRyO
>>70 G J ! ! !
やっぱ爽やかはえぇなぁ……と、グロいの投下した俺が言ってみる。
Tender Heart その12
前回までのあらすじ
――夜。
貴明は、デザートを食べながらこのみを抱き寄せた。
「今日はすごく優しいね」と言ったこのみに、貴明はこれまでの努力不足を謝り、これからは照れたりはぐらかしたりせず
に受け止めることを誓った。
ようやく重なり合った想い。瞳を閉じて唇を寄せる二人の横で突然の電話が鳴る。電話は沖縄の春夏さんからで、台風の
せいで帰りが一日遅くなるという。
「もう遅いし、二階に上がろう。――さっきの続きは、寝ながらでも話せるよ」
……そして、このみはシャワーへ向かった。
トン、トン、トン……。
階段をのぼる、このみの足音が聞こえる。
俺は部屋のドアのところに立ってそれを聞いていた。照明は消され、部屋はただ月明かりの蒼い静けさだけで満たされて
いる。
俺はドアノブに手を掛け――ノブを握った手がじっとりと汗ばんでいることに気が付いて慌ててズボンで拭った。
――のどが鳴る。
もしかすると、俺は今、震えているのかもしれない。
俺ははじめ、思っていたよりも自分が落ち着いていることに驚いていた。
このみが風呂場に去ったあと俺は機械のように動いた。
玄関や窓の戸締まりを確認し、ガスの元栓を閉めた。食べかけで残してしまったメロンにラップを張って冷蔵庫へ入れ、
ぬるくなった紅茶をもったい無いけれどシンクに流した。そのまま台所で歯磨きをし、このみのいる風呂場と廊下を残して
すべての照明を落とした。
まるでやるべき行動をプログラムされていたかのように、体はよどみなく動いた。俺が二階の自分の部屋に入ったのはこ
のみが風呂場へ行ってから5分もたたないうちだったはずだ。
……しかし、それからの時間のなんと長く感じられたことか。
半分開けた窓からひんやりとした夜風が吹き込んできて、薄いレースのカーテンがかすかに翻る。その布擦れの音さえ聞
き取れるほど静かな部屋の中に座っていると、階下から伝わるこのみの気配はむしろ生々しいほどで、俺はみるみる落ち着
きを失っていった。
シャワーの水流が、このみのからだを叩いてタイルに落ちる音。
手おけが転がるカランという音。
水圧を調節しているのか、コックをひねるキュッという音。
……まるで自分がのぞき魔になったような気分だった。実際に覗いているわけではないが、気が付けば耳を澄ませてそれ
らの音や気配を探っていて、頭の中でシャワーを浴びるこのみの姿を想像しているのだ。
これまで気にもしてこなかったのに、今はどうしてこのみがシャワーを浴びる音を聞いてもこれまで自分が平静でいられ
たのか信じられなかった。
そして不意に、これこそが「微笑ましすぎて不安になる」と雄二に言われた原因だったのかと悟った。
――シャワーの音が止まった。
浴室のドアが滑る音がして、閉じた。このみは湯船に浸からずに入浴を終えた。
俺を待たせないためだ――そう気が付いて、俺は息を呑んだ。気配を探る方に集中して逸れかけていた意識が、ふとこの
部屋に戻った。
この部屋で俺は……このみを、抱くのだ。
今階下でシャワーを浴びていた女の子の体に、俺は触れるのだ。
覚悟していたはずなのに、待ちかまえていたはずなのに、浴室のドアの閉まる音でそれがもう目前に迫ったことに気付い
た俺は強い緊張に覆われるのを自覚した。
立ち上がり、深呼吸をする。吐き出す呼吸が震えている。闇に慣れた目が、庭に落ちていた浴室の照明が消えたことを知
らせる。
そして今、このみの足音がドアの前で止まった。
「……タカくん」
控えめなノック。俺は急がないように気をつけながら、ドアを開けてこのみを迎えた。
階段を上がった時にこのみが消したのか照明の落ちた暗い廊下で、このみの顔や手足は輝くように白く浮き上がって見え
た。
袖口と裾口が細いリボンで飾られた、かわいい水色のパジャマ。見つめる俺の目の前で、このみはすこし恥ずかしげに、
新しいんだよ、と言った。
「――かわいいよ」
誉めると、このみはぱっと微笑んで、室内に入ってきた。
ベッドに歩み寄るこのみの後ろ姿から目を離さないまま、後ろ手でドアを閉めた。
そして……窓のむこうの夜空を見つめているこのみの肩を、後ろからそっと抱いた。このみは、俺がそうすることを知っ
ていたかのように、俺の胸に体重を預けてきた。
いつのまにか、震えは収まっていた。
「このみ――キスしたい」
俺はそう言って、返事を待たずにこのみの背中を抱きすくめたまま、かがみ込むようにして後ろからキスをした。
柔らかく触れる唇。だのに、電流のようなしびれが脳髄を走った。
このみの指が俺の腕をきゅっと掴んだ。それはなにかの衝動を堪えているかのように思いがけないほど強い力が込められ
ていて――俺がキスを止めないように捕まえているのかもしれないと思った。
それでも、俺は唇を離した。なごりを惜しむようにゆっくりと離される唇からは、歯みがき粉のミントの香りがうすく香
った。
腕の中で体を回し、このみは向き合うように立った。唇を離しただけの距離――目の前に、このみの大きな潤んだ瞳があ
った。
何か言おう、と思っていた。
抱く前に、なにか愛のことばをささやこうと思っていた。そのセリフもいくつか考えてさえいた。
――でも今、このみを腕の中にして見つめ合ったこの時に及んで、その全ては無用だった。
ふくれあがる愛おしさに、言葉などすべてはじき飛ばされてどこかへ行ってしまった。
……目の前に海がある。このみという、暖かく、深い海。今はもう、その海に身を沈めることをためらう理由などなにも
ないはずだった。
「――んっ!」
抱き寄せて、口づける。
抱き寄せた力の強さにこのみが小さく声をあげ、一瞬身を固くしたがおかまいなしに俺は素潜りを続けた。
重ねた唇の合間から俺が舌先を潜り込ませたのは、雄二から借りた本の影響ではなかった。このみと――この愛しい存在
ともっと深く重なり合いたい、溶け合いたい、という想いが取らせた自然な行為だった。
「ん……ふっ――」
初めてのディープキスに、このみは戸惑ったように呼吸を乱した。俺は手を上げて、このみの髪を梳かすようにゆっくり
撫でた。髪は洗わなかったのか、さらさらと乾いていた。
このみの歯並びの良い歯列を舌先でなぞっていると、その合間から小さく出ていた柔らかく熱いものに触れた。
触れたと同時に臆病な仔リスのようにひっこんでしまったそれは、このみの舌先だった。体からは力が抜け、このみはも
う俺の腕に支えられてようやく立っているような状態だった。
俺は薄く目を開けて、ベッドの位置を確認する。
このみの背に腕を回してベッドに腰を下ろさせ――キスしたまま、そっと押し倒した。
はずみでこのみの口が大きく開いた。はぁっ、と熱い息が漏れる。それと同時に、俺の舌がかつてなく深くこのみの口中
へ侵入した。
体中の神経が、口と舌に集まったみたいだった。狭い空間の中で俺とこのみの敏感な先端が、絡まり合い、擦れあい、探
り合った。このみののどが立て続けに鳴った。流れ込んだおれの唾液を飲んでいるのだ、と気が付いた瞬間、俺の中でなに
かが弾けた。
左手でこのみの後ろ頭を抱いたまま、俺は右手でパジャマの上からこのみの胸に触れた。このみがのどの奥で声を上げた
がキスはやめなかった。
このみの胸は、大きくはない。雄二がよく貸してくれるその手の本の女の子たちに比べれば、谷間もできないくらいのこ
のみの胸はまだまだ発展途上なのだろう。
でも、俺はその柔らかさに酔った。もどかしさを堪えきれず、薄い夏物のパジャマをたくし上げ、直接肌に触れた。触れ
るたびにこのみが喘ぐようにのどを鳴らすのが、余計に俺の頭をくらくらと酔わせた。
「た……タカく――」
「このみ……愛してる……」
わずかの間離れた一瞬に、俺たちはお互いの名を呼び合った。このみは夜目にもわかるほど頬を紅く染め、すこしだけ不
安そうな顔で俺を見ていた。
「あの……あのねタカくん……」
「大丈夫、心配しないで」
瞳をのぞき込んで俺はこのみにそう囁き、キスをした。
お互い初めてなんだから、不安になるのはしょうがない。特にこのみは女の子だ。気持ちいいだけの俺とは違い、きっと
痛みがあるだろう。それに怯える気持ちもわかる。
でも――だからと言って止めるわけにはいかない。それでは何も変わらない。
優しくしてあげよう、そう思った。俺も初めてだからどうすれば痛みを少なくしてあげられるかなんて分からないけれど、
このみのことを第一に考えて反応をよく見て動けば、俺がひとりで突っ走ってこのみがただ耐えるということにだけはなら
ないだろう。
手のひらにおさまるほど慎ましやかなのに、たとえようもなく柔らかくなめらかな、このみの乳房。その先端が固く尖っ
ているのを、指先で軽くはさんだ。
「あっ――」
このみが可愛い声を上げるのをきっかけに、俺は胸元からそろそろと愛撫を下にさげて行った。
「あっあっ、タカく……んっ」
ベッドの上で身をよじるように反応するこのみに、俺は軽いキスの雨を降らせる。
このみの肌は、しっとりと汗ばんで熱く火照っている。幼なじみで、昔はよく一緒にお風呂にも入って、体の洗いっこも
していた俺たち。お互いの体で触ってないところはないと思っていた。でも、いまこうして愛撫しているこの体は、この肌
は――俺の知らない手触りだった。
俺の指先は、みぞおちを経て、引き締まったウエストをなぞり、可愛らしいへその窪みを伝って、さらに下へ。
パジャマのズボンの縁に指が触れた。
このみがぴくんと身を固くしたが、俺はやはり取り合わなかった。
ペニスが痛いほど膨張していることに、いまさらながら気が付いた。
頭はもう完全に酔っていた。
このみの唇の甘さに。
小さな胸の例えようもない柔らかさに。
首筋から漂う、汗の匂いに。
指先に吸い付くような肌の感触に。
その指の先にある、このみの一番大切な部分にこれから触れるという予感に――
俺は酔いしれていた。
だから――俺は、予想もしていなかった。
俺が指を進め、このみのショーツに触れた瞬間。
このみが上げた声を、その言葉の意味を、理解出来なかった。
弾けるように身を丸め俺の手から逃れたこのみは――
――俺に背を向け、はっきりとこう言った。
「――ダメッ!!」
※最終話へ続く※
予告通り、何もいうことはありません。
最終話はすこし遅くなるかもしれません。
気合い入れて書かないとねっ。
ではまた。
こ、これはもしかして誰もが予想していなかった「Hに失敗してそのまま別れてしまうバッドエンド」か?
ともかくGJです、最終話期待しています
キタキタキタ〜!
これは・・・あれかな?
なんにせよ、気合い入れた最終話、感動のフィナーレ、待ってます!
GJ!!
次回いよいよ最後ですか。期待してます。
個人的希望はこのみが奉仕orふたnうわなんだおm(r
85 :
名無しさんだよもん:2005/09/01(木) 12:53:07 ID:um11DSmvO
バイトの休憩時間に読みますたよ。GJでつ!!
まさか、拒絶、とは…
このみの仕草に萌えてた(脳内)のに、いきなり現実に引き戻された感じ('A`)
最終話楽しみにしてまつ。ヽ(・∀・)ガンガレー
勃たないんですか?
87 :
名無しさんだよもん:2005/09/01(木) 18:51:09 ID:um11DSmvO
>>86 Σ('A`;)
勃ったにきまってるだろが(゚Д゚;)ゴルァ
…って、何言わすんだ(゚Д゚;)ゴルァァアァァァァ
ちょっと書くのに時間がかかったり。
量的に多目なのでスレに負担がかかると思います。
御陵謝ください。
あらすじ〜
ミルファの事が雄二にも見つかってしまい、結局放課後に会わせてあげる事になってしまった。
小躍りして喜ぶ雄二を止めるタマ姉。しかし俺の中ではミルファに会わせるのに少し戸惑っていた。
結局雄二が襲ったり誘ったりすることは無くなったのだけれどそれに対してほっとしている俺だった。
何でこんな事を感じるんだろう?まぁ良いか…
「ん?」
食後の一騒動も収まりみんなでのんびり会話をしていると何かに珊瑚ちゃんが反応した。
ポケットをゴソゴソした後に取り出したのは携帯電話だった。今居るこのメンバーで唯一
珊瑚ちゃんだけが携帯電話を持っている。学校に来るだけで後は家の電話があれば誰に
邪魔されるわけでも電話を使えるから俺は持つ気が無いんだけど。
雄二の家は相変わらずの機械嫌いだから持たせてもらえないって愚痴ってたな。
このみは春夏さんが長電話を許さないのか持たせてくれないらしい。
珊瑚ちゃんは携帯をいじって何かを確認した途端に満面の笑顔で俺によってきた。
「貴明ー!今日一緒に夕飯食べような〜☆」
「いきなりどうしたの?」
「なんや、つい最近まで何時もうちで食べとったやん。別に珍しないよ〜?」
「貴明はミルファの飯の方がえぇんやろー」
目を三白眼にした状態で瑠璃ちゃんが愚痴っぽく俺に言ってきた。
まぁ確かにミルファが来てからはミルファが作ってくれるというのと珊瑚ちゃんに
拉致られる事も無かったからあっちで夕飯は食べてないのを思い出した。
といっても土、日、月と3日間だけなんだけど。
最も習慣づいていたものがふと無くなるとそれが元に戻るまでの間が長く感じるの
かもしれない。現に俺も珊瑚ちゃんの家に夕飯を食べに行っていない期間が実際よりも
長く感じている感はあるのだ。
「いや、わざわざミルファが作ってくれてるのを無視してそっちに食べに行くとか
出来るわけ無いだろ?」
実際ミルファが夕飯を作って待っててくれてて俺がそれを無視して珊瑚ちゃんの家で
夕飯を食べるというのは失礼だと思った。
ミルファは食事が出来ないのだから俺が食べないとそれは完全に無駄になってしまう。
そんな失礼なことは俺には出来るはずが無い。
「あら、タカ坊もちゃんとした意思はあるみたいね?」
「何だよタマ姉。それじゃ俺がまるで流されやすいみたいじゃないか」
「あら、そうじゃない?」
「俺もその意見にさんせーい」
姉弟して同調してきやがった。俺のどこが流されやすいタチだと…と考えながら今までの
行動を思い返してみるとどうも珊瑚ちゃんや珊瑚ちゃんや珊瑚ちゃんの我侭に付き合って
るような気がする。やっぱりこれって端からは流されてると思われてるんだろうか。
…思われてるんだろうなぁ。客観的に見てもそう思ったし。
「タカ坊が優柔不断だから色々問題が起きるんでしょ?」
「別に問題なんて起きてないじゃないか」
「あら?そうかしらねぇ?」
そう言いながらタマ姉は俺と雄二以外の3人に視線を移す。
俺らの会話を聞きながらタマ姉の視線に気づいた三人が少しビクっとした反応をする。
珊瑚ちゃんは笑顔のままだが瑠璃ちゃんとこのみに至っては何故か顔が赤い。
何だ?あいつらが関係してるのか?
「姉貴、駄目だぜ?だってこいつは天下きっての鈍感男だからな」
「俺のどこが鈍感だって言うんだよ」
「そんなの見てりゃ一目瞭然じゃねーかよ。じゃ、俺は行くぜ」
やれやれと言った顔で雄二は立ち上がると屋上のドアへと向かっていく。
「お、おい」
「じゃーなー。早く来ないと5限目に遅れちまうぜー?」
そう言うと雄二は教室へと戻っていってしまった。
「何であいつなんかがねぇ…」
「そうそう、それでな貴明」
途中でタマ姉の横槍があったせいで本題から逸れてしまっていたのが珊瑚ちゃんによって
引き戻された。相変わらず珊瑚ちゃんの表情はニコニコと笑顔で「断られるはずが無い」
とでもいいたそうだった。
「今日な、みっちゃんもうちに来て一緒に夕飯作ってくれるんやって。だから一々みっちゃんに断ったりする必要もないしみんなで集まってお夕飯やし問題なしやろ?」
そういうと携帯のメールを見せてくれた。内容は今日はミルファと夕飯を作るので貴明さ
んを連れて来て下さいね、といったものだった。
なるほど。イルファさんとミルファは姉妹機。姉妹なんだから一緒に夕飯を作ってみんな
で食べると言った発想が出てきてもおかしくは無かった。
「そっか。それならむしろ行かないとな。じゃないと帰っても夕飯が無いしなぁ」
「せやろ?ならけってーい☆」
俺が了承してくれたのが嬉しかったのか珊瑚ちゃんは急に抱きついてきた。
抱きつかれたりするのに慣れていないのにしかもここは屋上でみんなも居る。
いくら最近からかわれ続けてそれには慣れつつあるとは言え中々にして恥ずかしい。
「けどちょっと残念だな」
「残念?」
おそらく予想もしていないなかった俺の一言に珊瑚ちゃんが目をキョトンとさせて俺の顔
を胸元から上目遣いで見てきた。これは攻撃力が…とかそういう問題じゃなくって。
「うん。だってそうすると瑠璃ちゃんの料理は食べれないんでしょ?瑠璃ちゃんの料理
おいしいし食べれないのは残念かなぁってね」
俺がそう言うと珊瑚ちゃんは少し意地悪そうな笑顔で瑠璃ちゃんを見る。
視線の先にいる瑠璃ちゃんはワタワタとしていた。もしかしたら瑠璃ちゃんは俺同様に
他人に褒められるのに慣れていないのかもしれない。
「ま、きょ、今日はしょうがないやろ。また来れば貴明にも食わしたるよ」
明らかに「も」を強調してきたが照れ隠しなのだろう。
「楽しみにしとくよ」
「さ、それじゃあもう行かないと」
周りを見てみると生徒はほとんど居ない。時間を確認する限り予鈴は鳴っていないがそろ
そろ戻っておかないと移動教室とかの場合は大変な時間に近づいていた。
「ほら、珊瑚ちゃん離れて」
「やー☆」
珊瑚ちゃんは俺のお願いとは反対に俺の胸元に顔を埋めるとぎゅっと抱きつく力を加えて
きた。
「もう行かないと遅れちゃうから」
「だって貴明に抱きついてると気持ちえぇんやもーん」
「分かるわぁ…」
何故かうっとりとした目で賛同するタマ姉。
どちらかというと俺の意見に賛同してもらえると嬉しかったんだけど…
その後何とか予鈴がなった後に珊瑚ちゃんは開放してくれた。その頃には周りに生徒は
居なくなってたのは言うまでも無かった。
抱きつかれている最中、珊瑚ちゃん以外の3人が羨ましそうな顔をしていたような気が
しなくもないけど気のせいだろう。こんなのにずっと付き合ってたら体力が持たないよ、
本当に。
「あ、そうすると雄二をどうしよう」
教室に戻る途中にふとした事に気づいた。
わざわざ珊瑚ちゃんの家に連れて行ったら面倒な事になりかねないし…
「別にうちらはえぇよ?」
「せやね」
こう珊瑚ちゃんと瑠璃ちゃんは言うのだが家主の許可というよりは猛獣を餌が転がって
いる場所に解き放つのとほぼ同様の行為をすることになるのが問題なのだ。
もっともタマ姉という強大な抑止力と外見とは裏腹の力、技術の持ち主のイルファさん、
ミルファと言う3人が居るから大事にはならないと思うんだけど。
「タマ姉はどう思う?」
「そうねぇ、逆にみんなが居たほうが安全だとは思うし、珊瑚ちゃんと瑠璃ちゃんが
良いって言ってるなら問題は無いんじゃないかしら?」
やっぱりタマ姉も俺と同意見みたいだ。
「それじゃあ雄二にそう言っておくよ。多分あいつなら飛んで喜ぶだろうから」
「うん。それじゃあ貴明放課後になー」
「はいはい。放課後にね」
軽く手を振ってみんなはそれぞれの教室へと戻っていった。
教室でふてくされたように寝ていた雄二に変更された予定の旨を説明するとまた抱きつか
れかけたのは嫌な意味で予想通りだった。まぁ抱きつかれる前に下突きで迎撃したけど。
そして放課後。
スキップをせんばかりの勢いの雄二を先頭にして俺らは珊瑚ちゃんの家へと向かった。
唯一このみだけは春夏さんから許可がもらえないと言う事でこれなかった。
頬を膨らせていじけていたこのみを今度は連れて行ってあげる約束とアイスをおごる事で
何とか宥めるのに骨が折れたのだけは付け加えておきたい。高校生のくせにこういう所だ
けは子供なんだからな。
「…ここ?」
「そうや〜☆」
「へー…ここに3人で住んでるのってなんかすげーな」
着いた珊瑚ちゃんの家を外からみて感心するタマ姉と雄二。
そりゃあ姉妹とイルファさんの3人暮らしでこんな家に住んでいると想像する方が難しい。
俺だって最初着たときは何かのドッキリかと間違えたくらいだ。
そんなのを歯にも着せない珊瑚ちゃんと瑠璃ちゃんは凄いと思ってしまう。
最もこのマンションに住めるようになったメイドロボの開発だって瑠璃ちゃんの為だった
んだし別に金儲けのためじゃないと考えるとごく自然なのかもしれない。
「ほら、こんな所でボーっとしててもしょうがないだろ、早く行こうぜ?」
「あぁ。ってお前まるでここに住んでるみたいな態度だな」
「気のせいだろ」
確かにここには頻繁に来ているから少しながらここを知っている人間として自覚はしている。けど住んでるわけでもないしなぁ。
「はよ貴明もこっちに引っ越してきたらえぇのになー」
「あかんよさんちゃん、こいつが引っ越してきたら何されるかわかったもんやないでぇ」
「そんな事言っても瑠璃ちゃん昨日とか貴明と夕飯食べれなくて寂しそうにしとったやん。
瑠璃ちゃんも一緒に住みたいんやろ?」
「別にさみしないもん!」
珊瑚ちゃんの一言にあわてた瑠璃ちゃんは先に走って中に入っていってしまった。
今度は瑠璃ちゃんを先頭にして珊瑚ちゃんの家へと向かう。
ドアを開けて入ると久しぶりに…といっても4日ぶりだけど珊瑚ちゃんの家の匂いを感じ
た。そして料理を作る良い匂い。みんながリビングへと向かう中、キッチンを覗くとそこ
には仲良く料理を作っているイルファさんとミルファがいた。
「あ、おかえり貴明〜!」
「お帰りなさい貴明さん」
「あ、ただいま」
「貴明やっと言ってくれたなぁ〜☆」
そう言いながら突如に背中に重みを感じた。
声の主である珊瑚ちゃんが俺の背中に乗っかってきたのだった。
「やっと?」
「そや。貴明に前からここに来るときはただいまでえぇって言うたのに言ってくれんかっ
たやろ?けどやっと言ってくれたなぁ〜。うち嬉しい〜☆」
珊瑚ちゃんはぎゅっと抱きついてくると顔を俺の肩口から乗り出してきて頬にキスをして
くれた。これはきっとご褒美のちゅーなのだろうが分かってても恥ずかしい…。
「ほら、はやくリビング行かないと。ね?」
「はーい」
珊瑚ちゃんを何とかリビングへと誘導した後にキッチンの方を再度見ると明らかに不満そ
うなミルファ。そして何故かイルファさんも不満げな顔になっていた。
「ど、どうしたの?」
「別に〜?ただ珊瑚様にちゅーされてでれでれしちゃって…みっともないって思っただ
け」
「あら、何時も家では甘えてるとか言ってたのにこんな時だけ反抗的になっちゃって…」
「姉さん!」
イルファさんのからかいに顔を真っ赤にして反論するミルファ。
その二人の関係を何も知らずに見ていても中の良い姉妹にしか見えないだろう。
クスクスと笑いながらイルファさんが話すとそれに対してミルファが必死になって反論を
する。その光景がしばし続いた後にイルファさんがふとこっちを見てきた。
「貴明さんは私たちに何かご褒美は下さらないのですか?」
「え?ご褒美?」
「えぇ。今晩は私達が頑張って夕飯を作らせていただきます。だからそのご褒美です」
にこりと微笑んで俺に近づいてくるイルファさん。
その微笑は何時もとは少し違い、顔が上気がかっていて艶っぽくすら感じる。
そんな顔をして近づいてこられてもこっちとしては困る限りなんだけど…
「ふ、普通そういったものは全てが終わった後にするもんなんじゃぁ…」
「今回は前払いでお願いできます?」
そのイルファさんの勢いについ押されて後ろにあった椅子に座ってしまった。
「あら、貴明さんはするのよりもされる方がお好きなんですか?」
そう言って俺の目の前にイルファさんの顔が近づいてきた。
もはやパニック状態に陥っている俺は何をすればいいのかもわからずただそこに居るしか
なく、そして俺の唇がイルファさんの唇とくっつくか…と思ったところで止まった。
その思わぬ状態に一番びっくりしているのがイルファさんだった。視線をイルファさんの
後ろに持っていってみるとそこにはミルファが居た。どうやらミルファがイルファさんを
後ろから引っ張ってこの行為を阻止しているみたいだった
「あ…あたしが先にするの!」
少し違ってたみたい…
結局ミルファに先にキスをし、その後にイルファさんにもキスをすることになってしまっ
た。やっぱりこれは俺が流されてるのかな。
何とかそれで場を凌いだところでリビングに向かおうとしたところで今度は瑠璃ちゃんと
出会ってしまった。その顔は既に噴火寸前のごとく怒っているみたいだ。
「瑠璃ちゃん?」
「貴明…イルファとちゅーしとった…」
「あ、いや、あれはご褒美ってことでね」
「…うちもする」
「え?」
思いがけない言葉だった。
「今まで夕飯作ったったのに貴明ご褒美くれてへんよ」
「ま、まぁそうだけど…」
何だか訳の分からないことになってきてしまった。
どうも最近は珊瑚ちゃんの周りのみんなが珊瑚ちゃんと同じようなおねだりをしてきて
いるような気がしてならない。
まぁそれが決して嫌と言う訳ではないのだけれども大変であるというのは事実だ。何せま
だ女の子が苦手なのが直ったわけではないのだから知っていて中が良い子が相手だとして
も緊張してしまうのは当たり前なことだ。
「うちとするの嫌?」
「そんな事はないよ。嬉しいくらいだし」
俺の正直な言葉だった。
「じゃあして」
「うん…」
何時もなら緊張はしてもそんなに動けなくなるほどのことでも無くなってはいた。
しかしこの二人きりのシチュエーションと何時もと違う瑠璃ちゃん。この前もこんな事は
あったけどやはり慣れるわけが無い。
心臓の音がバクバク鳴っているのが自分でもわかる。ぎこちなく、ゆっくりと瑠璃ちゃん
の唇へと近づいていく。ほんの数cmの距離なのにそれが凄く遠くに感じてしまう。
近づけば近づくほど心音が大きくなっていく気がする。このままだと止まってしまうので
はないかと思えるくらいだ。そしてその長い距離を越えて二人の唇が重なる。
「どうしたの?瑠璃ちゃん」
キスを少しの間した後に顔を赤くさせたままの瑠璃ちゃんが何時もと様子が少し違うのが
気になった俺は瑠璃ちゃんにその理由が少しでも分かればと思って聞いてみることにした。
「貴明はもううちには来ないん?」
「そんな事無いよ」
「だってミルファがそっちにおったらこっちに来る理由なんか無いやん…そしたら貴明来
なくなってまうやん…」
−うちそんなん嫌や
小さな声で、精一杯絞ったであろうその声が俺に突き刺さる。
この子は何時も本心を心の底にしまってしまう。あの一件以来素直なところも多く見せる
ようにはなったけれど大事なところではどこか珊瑚ちゃんに譲ってしまっているのだろう。
そんな子が言ってくれた本心。それを聞けて俺は嬉しかった。
「大丈夫だよ」
目に涙をいっぱい溜めて震える瑠璃ちゃんを優しく抱きしめてあげる。
それに答えるかのように瑠璃ちゃんも腕を回してきてギュッと抱きついてくれた。
「うん…」
「俺は別にここにご飯をご馳走してもらいにきてるわけじゃないんだしさ。ミルファが居
る分来るときはミルファも一緒だと思うけど来たいと思ってるよ。迷惑じゃなければね」
「迷惑なわけ…ないよ」
そう言ってくれた瑠璃ちゃんの頭をなでてあげる。頭を撫で続けてあげると瑠璃ちゃんは
俺の体に回していた腕を緩めて体を離した。その顔を見ると泣いていたのは嘘かのような
何時もの瑠璃ちゃんの笑顔だった。
「うちも貴明の事…好きやで」
そう言うとくるりと体を180度回してリビングへと言ってしまった。
あぁ、俺の顔は真っ赤だろうな。また心臓がバクバク言って顔が熱い。
リビングに行く前に洗面所で顔を洗って気を取り直してから行くことにした。
「タカ坊遅いじゃない?何してたの?」
「ちょっとキッチンでね」
「何や貴明。もうお腹空いたんか?つまみ食いはあんまりしたらあかんよー?」
「してないって」
リビングに行ったらみんなでカードゲームをしていた。
みんなの表情を見る限りどうやらタマ姉の分が悪いようだ。あぁ見えてタマ姉は顔に心情
が出やすい。きっとババ抜きあたりではバレバレになることだろう。その証拠にどうも今
はタマ姉がJOKERを持ってるみたいだ。
「ちょっと、雄二。さっさとあんた負けなさいよ」
「こんな時位勝たせろよな。お、そうだ貴明。ミルファさんを早く紹介しろよな?」
そう言いながら雄二がペアにした手札をまた1つ場に出し、残り一枚となっていた。
「ほら、早く引けよ姉貴ぃ〜?」
ニヤニヤしているその雄二の表情とは裏腹にタマ姉の表情は曇っている。というかむしろ
イライラしていると言ったほうが良いのだろうか。
「あーもう!止め止め!何であたしばっかり負けるのよー!」
またタマ姉が最下位になった所で痺れを切らしたタマ姉がふてくされた顔で手元に残った
手札を地面に落とす。まぁ最下位かブービーばっかりじゃあやる気もなくなるよな。
トランプでの遊びも終わったところでキッチンを覗いてみたところもう後は煮込むのみと
いった感じだったのでミルファをリビングへと呼ぶことにした。
「貴明…様?呼びました?」
リビングに来たミルファを見て雄二がまるで天使にでも出会ったかのような顔をする。
それに対してミルファを除くみんなが引いているのを俺は見逃さなかった。
まぁ雄二は女の子を見るといつもあんな感じだから今更って感じだけど。
「あぁ、ミルファ。紹介しとくよ。こいつが俺の友達の…」
と俺が紹介をする前に雄二はミルファの前に行き握手を交わして自ら自己紹介を始めた。
「俺、向坂雄二って言います」
「向坂雄二様ですか。私、HMX-17b『ミルファ』と申します」
そういうとミルファは笑顔を見せる。とは言ってもこの笑顔は明らかに作った笑顔。
いわゆる営業スマイルって奴だ。
「ミルファさんですかぁ〜。くぅー!良いっすねぇ!」
「あ、ありがとうございます」
さすがにミルファもこの雄二の反応にはたじろぐを得なかった様子だ。
その状況にさすがのタマ姉も黙ってはいられなかった。
「ほら、雄二。いい加減にしなさい?ミルファさんも嫌がってるわよ」
「何だ姉貴、止めるなよ。これから俺がミルファさんと熱い語らいを…ってや、やめろよ
姉貴。何だよその手は。手をワキワキさせて…や、止めろ…止めて…やめてくれー!」
そして雄二はその手によって違う世界へと昇天させられたのだった。
「それじゃあ私たちはそろそろ帰るわね」
「あぁ、わかったよ」
「今度は是非ご夕飯も一緒に食べていってくださいね」
「えぇ、是非!」
結局今日だけで雄二がアイアンクローを食らったのは2桁はくだらないだろう。
食らってはミルファやイルファさんにちょっかいを出して食らい、出しては食らい。
さすがのタマ姉も最後のほうは完全に呆れているようだった。
今日だけで雄二の頭蓋骨が変形してないといいけど…。
「じゃあまた明日ね」
「じゃあなー」
「また〜☆」
バタン
一騒動を起こした元凶は最後までうるさいままだったな。
しかしメイドロボを見ただけでこんなにも潜在能力を発揮するとは向坂家の血はあなどれ
ないと言った所だろうか。まぁ使い道を間違えすぎている気がするが。
「さて、じゃあお夕飯にしましょうか」
一段楽したところでイルファさんが手をポンと叩いて食事の時間へとなった。
「今日は私とミルファの初の合作ですよ」
「ビーフストロガノフなのだー♪」
並んでいるものはビーフストロガノフ、ポテトサラダ、そしてコンソメスープとこの家で
は珍しく洋風な夕飯となった。
「わーおいしそうやな〜☆」
「うん、中々よう出来とる」
「確かに。早く食いたい」
俺らの反応に嬉しかったのかイルファさんとミルファは笑顔をほころばせた。
その二人の笑顔はまさに姉妹と言った感じで似ているのを感じる。
「さぁどうぞお召し上がりください」
「食べて食べて☆」
食べてみるとどれも美味い。
しっかり煮込んであるのかビーフストロガノフの肉は噛むと溶けてなくなってしまう。
ポテトサラダも市販品のくどい感じがせず、ポテトの味がする。
コンソメスープもこの前ミルファが作った味とよく似ていた。ということは…
「このスープはミルファが作ったの?」
「うん、そうだよ?何で?」
「いや、前に作ってもらったのと味が似てるから。美味いよ」
「ありがと〜!そう言ってもらえると嬉しいよ〜」
何時ものしっかりとしたミルファとは全然違ったでれっとした表情を見せてきた。
「うん、これならたまに料理任せてもえぇかもな」
「本当ですか!?瑠璃様にそう言っていただくと頑張ったかいがあります♪」
イルファさんも瑠璃ちゃんに褒められてご満悦…というかトリップしている様だった。
「ごちそーさまです」
「お粗末様でした」
夕飯を食べ終えたところで食器を片付けようとしたのだがそれは自分たちの仕事だからと
イルファさんとミルファに止められてしまった。暇になった俺はとりあえずリビングへと
行くことにしてみた。
「珊瑚ちゃん今日は何のゲームしてるの?」
リビングに入ると珊瑚ちゃんは楽しそうにゲームをしていて瑠璃ちゃんはクッションを
抱えてブルブル震えているようだった。まぁこの様子からしてまたホラーゲームなんだろう。
「今日やっとるのは新作やで〜☆」
実に楽しそうにイキイキとしてやっている珊瑚ちゃん。
急に敵が出てくるたびに悲鳴を上げながらクッションに顔を埋める瑠璃ちゃん。
最近は瑠璃ちゃんの反応を見るために珊瑚ちゃんがやってるようにしか見えないんだけど
なぁ…。
「あら、珊瑚様今日もしてるんですか?」
珊瑚ちゃんのプレイを眺めつつ何故か瑠璃ちゃんがクッション代わりに俺を使って居る所
に食器洗いを終えた二人が戻ってきた。
「そうや。イルファもやるかー?」
「私はちょっと…」
さすがのイルファさんもこれだけは苦手みたいだ。
そういえばミルファがこういったのをやったとこを見た事が無かったけどどうなんだろ
う?そんな事がふと脳裏をよぎった。
「ミルファってゲームはしないの?」
「うーん…あたしってやっぱり体を動かすほうが好きだから」
「なるほど」
さすがは元ロボサッカーの選手。
まぁミルファの場合はこういったので上手くいかないと頭に血を上らせ易そうだから最悪
ゲーム機を壊しかねないな。ちょっと注意しておかないと。
「そういえば貴明は今日帰ってまうの?」
ゲームも終えてのんびりとした時間の時に珊瑚ちゃんが聞いてくる。
「まぁ帰るつもりではあるけど」
「え〜。貴明つれないなー」
こういったときにつれないと言うのは正しいのだろうか?何か違う気もするけど。
「そんな事言ってもミルファも居るし…」
「あたしは構わないよ?みんなで一緒に寝るのも楽しそうだし☆」
少し意外な反応だった。ミルファの事だから帰りたいとか言ってくるものだと思ってたけ
ど。しかしこれで俺の逃げ道はふさがれたも同然。さぁどうするか…
「ほら、着替えとかも無いしさ」
「貴明用の下着とか服なら用意してあるよ〜」
そう言って珊瑚ちゃんが奥の部屋に入って少ししたら男物の下着を持ってきた。
「ほら〜☆」
「何でそんなの用意してるの!?」
「いつでも泊まれるように決まってるやん☆」
こんな所にも珊瑚ちゃんの策略が巡らされているとは思わなかった。ここまで先読みでき
なかった俺の負け…か。
「分かった。じゃあ今日は泊まることにするよ」
「わ〜い☆流石は貴明や〜☆」
また珊瑚ちゃんに抱きつかれながら瑠璃ちゃんを見ると嬉しそうな顔をしていた。
みんなが喜んでるみたいだしまぁ良いかな。
相変わらず色々と突っ込んでいったら10話でもこの日が完結せず。
進む時間がかなり遅いですね。いやはや。
何故か瑠璃ちゃんにフラグが立ち始めてます。
ツンデレに弱い作者の性なのでしょうか?自分ながらに困ってたりして('A`)
今回は状況、心情描写を多く入れた分、データ量が多くなってしまいました。
今後増えるようなら垢とってWebページにあげるのも検討しときたいと思います。
とりあえずTenderHeartの結末を期待しておきますね(*゚∀゚)=3
では11話で('A`)ノシ
>>104 GJっす。ふふふ、お楽しみな夜になりそうですな。
11話、楽しみです。
瑠璃たん…(´Д`;)ハァハァ
もう瑠璃たん持って帰っていいですか?
>>104 GJ!雄二の気持ちがイタイほどわかるうらやましさですな。
>104
GJ!!瑠璃も悪くはないが、ミルファスキーとしてはやっぱ
(゚∀゚)ミルファ!ミルファ!
ウギィァァァァァアア!!!
俺はよっち一筋なのに!なのに!
イルファとミルファと瑠璃と珊瑚、ゲロ萌え。
あえて言おう
ビーフストロガノフ萌え
>>104 Brownish Stormキター(*゚∀゚)=3=3
GJ!!!!!!!!!!!!!!!!
第11話が待ちきれねぇ……。
>今後増えるようなら垢とってWebページにあげるのも検討しときたいと思います。
投下は今まで通りでいいと思うけど、
まとめて読みたいし、そうしてもらえると嬉しいかもしれない。
SSリンクにミルファSS少ないし、登録してミルファファンを増やすってのもいいかもしれん。
ほしないいんちょのほっぺよりも、こまきいいんちょのおなか
とぬるぽ。
「ガッチョーン」
「せーのっ」
「バンザイ」
「るーこ」
「てんぺら」
アホ毛の中の人もはいてない。そして、 誰もが望む永遠はある
よ。でも実は、親父が半裸で白目を剥いて、涼宮茜の服を1枚1枚
脱がしていきたかったのに、親父がゆびらまくまして
「ぶったね!」
と、言うと全裸になり、潤んだ瞳で
「やらないか?」
でも僕は
「守りたい世界があるんだ!」
あとは家に帰ってご飯を食べてPC版ToHeart2のゲンジマルで
オナニーして寝るだけ。Heartのない12月。
第一章 終
超先生の次回作にご期待下さい
「来週からはちゃんと学校に行きますから勘弁して下さい……」
そんなこと言ってホントは喜んでるんじゃないのと訴えかける
その女の名は
「巫女みこナース(・∀・)!! 」
「左舷!弾幕薄いよ!」
そんな妄想ばかりしているから、パンストに異常な愛情をもて
あます空虚な日々。だけどおまえは国民新党。しかし俺は魔法先
生。今日も今日とてそれはかなわずイナバ物置。
「100人ハメてもだいじょうV」
と見せかけて
「テコンV。巨体がうなるぞ」
そして、うねり打法は輝く夜空のように、草壁さんが
「 (・∀・)チャーララーラララーラーララーラララ」
「こん平でーす!」
「山田くーん」
「わぎゃないざー」
「ナムコ。クロス。アウッ!!」
と、このみが言うと埒外。ガイガン起動。
第二章 終
超先生の次回作にご期待下さい
駒大苫"小牧"が全国早口言葉選手権大会で
「ガスバスガスバツ・・・あれ?」
もう、遅すぎた・・。
「だって・・・優勝したのに・・・」
「理屈はいいからもっとトマトを食べるんだ!」
こんなにもアカいのに、いいんちょの経血が猫に舐められる。
「その猫を猫ジュースにして飲むんよ」
と命令する会長に、タマゴサンドと猫ジュースか猫ひろしが乱入。
すると、大音量のパワーホールが電動型オナホール。
今なら布団圧縮カバー10枚付きで通常の3倍のワックスを身体
中にかけられた由真が、大量のきな粉の中へ。そしてきな粉女と
化した由真を見た愛佳が美味しそうに嘗め回す。するといきなり
ゲンジ丸が
「俺のキンタマを見てくれ」
と叫んだ雄二に噛み付き、歯が折れた。
第三章 終
6スレのアレか…
部妙に繋がっている気がしないでもない。
ワロタよ。
どんなデムパSSだろうと思ったら。
最終的にはワロス。
纏め乙w
まだ続きがあったのでうpしてみる。
もうちょっと続くんじゃ
そこから倍以上続く訳だな
ゆうじの ぼやきは やみに のまれた
コンティニューしますか?
YESorNO?
3
2
1
せーの!
犬ファ
淫ファ
イルファ!
ミルファ!
最後は貰った…と、思うニダ。
[イルファ]ヽ('A`)ノ[ミルファ]
('人`) パンッ
('∀`)ノ[
ttp://riden-b.hp.infoseek.co.jp/sister_bowl.htm ]
というわけで今日1日かけて妄想の轟く限り書いて見ました。
題名は「Sister Bowl」訳すと「姉妹丼」そのまんまです。ひねり無し。
本編の流れの中にはあるけれど今の「Brownish Storm」のだいぶ先とかパラレルとか
そんな感じで考えておいてくれると嬉しいです。
姉妹って書いておきながらシルファは居ません。
っていうか俺の中でシルファのキャラ固まってないし3人も出してたら頭パンクします。
本当はここに投稿するつもりでしたがあまりに量が多くなったのでアップしました。アップしたとすると*/25とかになるんで…。
ついでに自垢も取ったんで後日アップしなおします。
一応言っておきますが18禁なのでお子様は見ないで下さい。
エロSSなんて書いたことが無いのでエロくも無いかもしれませんが生暖かい目で見てあげてください。
>>108 ('∀`)デキタヨー
>>119 楽しませていただきましたが、数箇所イルファとミルファの名前が間違っているところがございますよ
で、1日かけて書いた貴方に一言
Brownish Stormマダー?(・∀・)
700行近くある文読み返しして校正かけてないのです
_| ̄|○<どこか教えてくれると嬉しい
本編は暇があれば週末。無いともっと先です('A`)
こんな状況で自分が抑えられるわけも無く、俺はミルファさん→恐らくイルファ
そういってミルファさんがまた咥え始めてきた→やっぱりイルファだと思う
貴明ずるい…こんな気も良くさせる→恐らく気持ちよく
こんなところでしょうか?
>>122 サンクスです。
早速変えておきます。
あれだけかいてこれだけで済んで良かったかも_| ̄|○
124 :
108他:2005/09/03(土) 03:09:04 ID:qdZbHB0NO
マジでGJ&Thanks!!
脳内イルファさんと性格等がほぼ一緒故に更に萌えました。
何を言ったら良いかわからないですが、簡単に言うと今後も期待してます。
Do your best.ではなくGood luck.Bestは尽くしてるでしょうし。
個人的希望としては、Brownish〜はミルファ一筋で。
虹の破片まだ〜?
かなり待ってるんだが……
>>119 これを・・・1日で書いたんですか?すげぇぇぇぇ!
なんちゅーか、ホントにGJ!
エ・ロ・ス!エ・ロ・ス!
イルファのエロさは俺的にはたまねぇ以上だと思うのだが。
あの恥らわねぇ感じがたまんねぇ。
イルファたまんねぇ。
でもやっぱ乳だよミルファ。
>>125 あ〜、俺も待ってる。
ビクビクしながら待ってる。
だって怖いんだよ!読むけど。
129 :
虹の人:2005/09/04(日) 18:22:40 ID:6shzmLPj0
この土日を使って七話を書き上げたのですが、
出来がどうしても納得がいかないのでもうしばらく時間を頂きたいと思います。
結構、これでいいやと投下しちゃう俺がダメだと感じるのでかなりダメダメなのだと
思われます orz
待っててくださってる皆様、ごめんなさい。(´・ω・`)
マターリ待たせてもらうよ(ё)
急かしてしまったみたいでスンマセン。
のんびり待ちます。
>>129 投下が無いな、と思ったらそうでしたか。楽しみに待ちますんで、
作者様が納得されるまで、じっくりと書いてくださいませ。
よっちスレの948にプロットらしきものが・・・。
ガクガクブルブル
河野家まd(ry
7スレもまた6スレみたいにして埋める?
もう7スレは埋まってるみたいだが
今スレの基本は黒このみですか?
このみの誕生日を記念して・・・
河野家まだ〜?
>>139 乙〜
いつまでも待つよ。うん。明日までだって待つよ?
待ちに待った、というほどでもないが、ともあれ放課後。
今日は既に昼放課のうちに珊瑚ちゃんと瑠璃ちゃんの二人には雄二と寄るところがあると伝えてある。
もちろんあっさりと話が済んだわけでもなく。
『貴明、昨日も雄二と帰ったやん。男同士でなんかこそこそやっとるなんてやらしいで』
『そやー。なぁ、今日はウチらと帰ろ? な? 瑠璃ちゃんも貴明と帰りたい言うてるよ』
『んなっ。ウ、ウチそんなこと言ってへんー』
という具合に、昨日に続いて今日もと言うことで(瑠璃ちゃんの方は違うけど)結構グズられてしまった。
しかも二日連続で雄二とというのがイマイチ気に食わないらしい。
なのでここは珊瑚ちゃんの性格を少しばかり逆手に取らせてもらうことにした。
『実は内緒なんだけど、雄二のやつ、恋の悩みがあるって言うんだ。昨日も本当はその相談をされてて』
言った途端、らぶらぶ話に目がない珊瑚ちゃんは目を輝かせて、逆に自分たちも着いていくと言い出す始末。
そこは男同士の秘密だからということでなんとか諫め、珊瑚ちゃんも渋々ながらも納得してくれた。
珊瑚ちゃんが容認してしまえば、瑠璃ちゃんの方も特に何も言ってこない。
……言ってこなかったんだけど、あの何か言いたげな、どこか不満そうな顔は単に俺の気のせいだろうか。
ともあれ、咄嗟の機転で道草の言い訳を取り繕えることに成功した。
もっとも、晩御飯は姫百合家で食べるもの、というのは既に決定事項だったらしく、用事が済み次第向かうということで話はまとまった。
何が恐ろしいって、それが当たり前のごとく唯々諾々と承諾してしまった自分が怖い。
なんだか俺餌付けされてるなぁ、なんて思わなくもない。
「よし、そんじゃ行くか貴明」
「おう」
まずは目先の不安を取り除くための話し合いに臨むことにしよう。
それとごめん雄二。
勝手に恋患いにさせてしまったことを親友に心の中でそっと一言謝り、一路ヤックへと向かった。
ヤックに着くと、何はさておきカウンターに並んで適当済ませる。
育ち盛りの青少年は常にエネルギーを欲しているのだ。
だからと言って、おごりだというのをいいことに何憚ることなく一番高いセットを頼み、挙句単品のオプションまでつけるなんて暴挙に出るのはいかがなものかと思うぞ雄二。
しかし個人的に雄二には後ろめたいことがあったのでこの場はあえて追求しないでおく。
店内を見渡してみると人はまだらでかなり空いており、二人しかいないのに窓際の4人がけののテーブルに堂々と座るなんてこともできたのもそのおかげだ。
「で、だ。姫百合姉妹の一件の話だが」
雄二は席に着くとすぐに包みを開け、ハンバーガーを頬張りながら早速本題へ入ろうとする。
「ああ。状況は朝話したとおりなんだが、雄二はどうしたらいいと思う?」
「俺なら引っ越す」
「まあそう言うだろうな。よくよく考えれば既に予想していた答えだった」
相談する相手を間違えたかもしれない。
いやいや、しかし他に適役もいないし。
ポテトを齧りながら、早くもこみ上げてくる後悔の念を何とか押しとどめようと努めながら話を進める。
「俺としては出来れば現状維持でいたかったんだが」
「まあ、貴明らしい答えだな」
俺がそうだったように、雄二にも俺の考えてることは筒抜けらしい。
こういうお互いのことを言わずとも分かり合えるというのが、相談しやすい理由の一つなのかもしれない。
「でも今まで現状を保つのに精一杯だったところに、姉貴が乱入しかねない状況に陥ったと」
「そういうこと」
「ったく、さっさとハーレムに引っ越しておけば良かったのに」
「あのなぁ、早く引っ越そうが遅く引っ越そうが、結局はタマ姉の耳に入るだろっ」
「それもそうか」
「だいたい俺がここまで再三再四に渡る引っ越し要請に応じなかったのも半分くらいはタマ姉の存在あってのことなんだぞ」
「だよなぁ。そうでもなきゃ、押しの弱い貴明があの姫百合姉妹相手にここまで粘れるわけないもんな。うんうん、その気持ちよーくわかるぞ。貴明」
お互い昔から苦労させられてきたもんなぁ。
もしかしたら俺と雄二をここまで強い友情で繋ぎ止めているのはタマ姉から受けた数々の非道という共通のトラウマを持っているからなのかもしれない。
「これで貴明が珊瑚ちゃんたちの家に転がり込んだりしたら姉貴は何しでかしてたかわかったもんじゃねぇからなぁ」
「とは言え、既に珊瑚ちゃんたちは俺が引っ越すものとして行動しちゃってるみたいでタマ姉と同じくらい難敵となってるんだ」
気付けばいつの間にか『いかにタマ姉を攻略して引っ越すか』みたいな話に摩り替わっているのが恐ろしい。
年下の珊瑚ちゃんたちにいつもペースを握られっぱなしだもんなぁ俺。
「気分は前門の虎後門の狼だよ」
タマ姉はもちろんのこと、イルファさんを擁する姫百合連合軍にも敵う気はしない。
「やっぱり珊瑚ちゃんの口から伝わるより先に、俺のほうからタマ姉にあらかじめ事情を説明しておいたほうがいいのかもしれないな」
一番最悪のケースは、今朝みたいに珊瑚ちゃんたちによって「俺が引っ越したがっている」という形で情報が伝わってしまうことではないだろうか。
そんなことになれば、タマ姉が烈火のごとく怒るのは明らか。
ならば先手を打ってしまうのが最良の策ではないか。
「なぁ貴明。あちらを立てればこちらが立たずって格言を知ってるか?」
「雄二が知ってて俺が知らないはずないだろう」
少なくとも目の前の幼馴染よりも日々勉学に励んでいる自信はある。
「なんか引っ掛かる言い方だが、まあ今は置いておこう。それよりも、いいか、今のお前はまさにその状況にあるんだぜ。姉貴と珊瑚ちゃんたちの板ばさみだ。貴明の心情がどうあれ、引っ越せば姉貴、引っ越さなければ珊瑚ちゃんと瑠璃ちゃんの不興を買うことになる」
「うっ」
ちゃんとわかってはいたつもりだったが、そうはっきりと言葉にされると改めて気が重くなる。
「一つ聞いとくが、恥ずかしいとか女が苦手とか姉貴が怖いとか、そういう感情を差っ引いて、貴明はどう思ってるんだ?」
「どうって……」
そりゃ珊瑚ちゃんたちと一緒にいると楽しいし、一人暮らしするよりもよほどいいだろう。
瑠璃ちゃんもイルファさんも料理をはじめ家事のプロフェッショナルだから、本来ならば全て一人で請け負わなければならない負担も激減するというのも家事がからきしな俺にはとても助かる。
「へっ、その顔見るとまんざらでもないって感じだな」
「そう……なのかなぁ」
自分で自分の気持ちがわからない。
まるでもやでもかかってるかのように自分の胸中が見通せない。
「向こうからお誘いが掛かってて、貴明もそうしたいってなら姉貴がどうこう言うことじゃねえよ。いいんじゃねぇの? 引っ越しちまえよ」
「そんな簡単に言うなよ」
「ちょっと河野貴明。あんた引っ越しするの?」
「えっ!?」
気楽そうに言う雄二に反論しようとしたところに突然振ってきた声。
声のするほうを振り向くと俺と雄二の座る席のすぐ目の前、いつからそこにいたのであろうか、見慣れた姿が俺たちを見下ろすように底に立っていた。
「何だよ、聞いてたのか由真」
「聞こえただけよ」
相変わらずの勝気で強気な物言いは、ことあるごとに勝負を吹っかけてきた実に彼女らしいものだった。
「んで、引っ越すってどういうことよ。なによ、それって転校するってこと?」
「いや、こっちの話だから気にするな」
好奇心からなのか新たな勝負事のネタにするためなのか、詮索をしてくる由真だったが、俺はそれを素っ気無い返答で軽くかわす。
なんてったって由真は俺の知ってる人間の中でも随一のトラブルメーカーだ。
わざわざ厄介ごとに更なる厄介の種を蒔くことはない。
由真には悪いがここはお茶を濁して誤魔化してしまおう。
「何隠してるのよ。今さっき引っ越しがどうのって言ってたじゃない」
「だからそれは」
「ええっ、貴明くん引っ越しちゃうんですか!?」
適当にはぐらかそうと口を開いた矢先、由真の後方から近づいてきた姿を見て思わず言葉に詰まる。
「……あー」
由真一人ならいざ知らず、相棒までいたとなると話は違ってくる。
愛佳と一緒に来てたのか。
二人の抜群のコンビネーションを発揮した追求の前に屈しまいた。
「そういうことだったの。てっきりあたし、貴明くんがどっか遠い町に行っちゃうのかと思っちゃった」
「…………」
話を聞き終えた愛佳は、えへへと頭をかいて自分の早とちりを恥ずかしがっている。
そんな愛佳とは対照的に、由真は何か考え込むように黙りこくったままだった。
あの騒がしい由真にしては意外な反応だ。
「あのさ、貴明」
「なんだよ」
「もしかしてその姫百合珊瑚って、来栖川でメイドロボの開発に携わってる子?」
「そうだけど……。なんで由真がそんなこと知ってるんだよ」
「あたしの家は来栖川に近しいっての忘れたの?」
そういえばそうだった。
由真の家は代々来栖川の執事を務める家系で、由真のじいさんもなんとかって称号だか名前だかをした現役執事だったんだっけ。
「そうか、そう考えれば確かに由真が珊瑚ちゃんのことを知ってても不思議はないか」
「知ってるっていっても一方的に存在を知ってるだけだけどね」
確かに、高校生にして最新型メイドロボの開発をてがけてる彼女の名前が売れているのも当然かもしれない。
「おい、貴明」
それまで俺と由真の会話を静に聞いていた雄二が、突然真面目な顔で詰め寄ってくる。
「今お前らメイドロボっつったか?」
「い、言ったけど……」
尋常じゃないプレッシャーを醸し出す雄二に気圧されてしまう。
「あの珊瑚ちゃんがメイドロボを作っちゃう人っての本当なのか!?」
「あ、ああ……」
雄二に知れたらきっとこういうことになるだろうからとあえて話すようなことはしていなかったのだが、改めて自分の予想が正しかったことを思い知らされる。
「よっしゃあ、俺は全面的に珊瑚ちゃんに協力しちゃうぜ」
「お、おい、雄二……?」
「任せとけ貴明、絶対に珊瑚ちゃんたちと一緒に暮らせるようにしてやるからな! なぁに、礼はいらないぜ。俺たち親友だろ。その代わり成功した暁には珊瑚ちゃんに俺の大活躍を伝えてくれよな」
……なるほど、あわよくば珊瑚ちゃんのコネでメイドロボを……とでも思っているのがよくわかる。
びっくりするくらい単純で即物的なヤツだった。
「でも雄二、そんなことしてタマ姉に頭潰されても知らないぞ」
「へっ、見損なうなよ貴明。俺が命に代えてもお前を姫百合家に放り込んでやる」
お前は命よりもメイドロボが大切なのか。
ある意味とんでもなく男らしい。
「た、貴明くん、向坂くん急にどうしちゃったの」
そのあまりの変貌に驚きを隠せずにいる愛佳が声を潜めて耳打ちをして訊ねてくる。
「多分、メイドロボって言葉に過剰反応してしまったんだと思う」
「向坂くんってそういうのが好きなんだ……」
「ヘンタイね。さすが貴明の親友だけのことはあるわ」
「俺は雄二みたいな偏った嗜好の持ち主じゃない!」
「よーし、それじゃあ早速明日珊瑚ちゃんたちと相談だ。姉貴対策も講じねえといけないしこうしちゃいられないぜ。それじゃあな、いいんちょとそのお供」
バッと鞄を引っつかみ、雄二はそのまま店の外へと駆け出していった。
「ちょっと、誰がお供よっ!!」
由真が怒りの形相でガタッと椅子を揺らして立ち上がり、雄二の走り去っていった方向に向かって怒号を放つ。
だがしかし、既にそこには雄二の姿はなく、由真の彷徨は虚空に向かって消えていった。
「まぁまぁ、由真」
怒れるお供をなだめる愛佳がふと俺を見て一言。
「向坂くん、貴明くん置いてきぼりで行っちゃったけどよかったのかな」
「……あっ」
言われてみれば当事者が目の前にいるのにほっぽって対策練られても困るような。
何よりも、あの勢いのまま暴走してしまわないか心配だ。
「雄二、頼むから掻き回してくれるなよ」
既に姿なき友に向かって、半ば祈るような気持ちで呟いた
久々の投稿過ぎて改行することをすっかり失念してました。
そしてちょっと間が空きすぎてしまい自分でもメモ読み返すまで
どんな話の筋だったか忘れかけてた体たらく。
そんな大それた内容だったわけでもないですが
かるくあらすじくらい書くべきだったかもしれません。
いいね、いいねー。投稿待っておりました。
個人的に、あなたの書くキャラが一番自然でしっくりきます。
まるで本編の続きを見てるみたい。
今後もがんばってー。
このみを家まで送った俺を待っていたのは、俺の家の現状に対する春夏さんの追求だった。俺は
春夏さんに全てを話し、幾つか釘を刺されたものの、一応の理解を得ることが出来た。
家に帰ったのは夜中。自分の部屋に入った俺は、待っていた由真に手錠を掛けられた。
俺のベッドで寝ると言う由真。仕方がないのでまた客用の布団で寝る俺。明かりを消して暫くする
と、由真が話しかけてきた。でもその話題は「一番好きなのは誰?」とか「手錠を外したらどう
する?」とか、返答に困るものばかり。そんなこと聞かれてもなぁ……。
「タカ坊、起きなさい」
ゆさゆさ。
「……んあ、タマ姉?」
タマ姉の声。起こしに来てくれたのか?
俺は眠い目をこすろうとして……出来なかった。俺の両手は手錠で拘束されたまま。
仕方がないので上半身を起こし、タマ姉の方に顔を向ける。そして朝の挨拶。
「おはよう、タマ姉」
「おはようじゃないわよタカ坊。さっきから目覚ましがずーっと鳴っていたの、気付かなかったの?
由真さんもまだ寝てるし……。由真さん、起きなさい!」
あ、そうなんだ。確かに何かうるさい音がしていたような……。音が止んだのはタマ姉が目覚まし
を止めてくれたからか。
俺は由真が寝ているベッドを見ると、確かに由真もまだ寝ていた。多分目覚ましの音を遮るため
だろう、布団に潜って丸くなっている。
タマ姉はそんな由真につかつかと歩み寄り、そして情け容赦なく布団を引っぺがした。
「ほら由真さん、起きなさい!」
「……うう〜っ、た、環さん、もう少しだけ〜」
半分寝ぼけたような声で、タマ姉が取り上げた布団にすがる由真。
「駄目よ、もう起きなさい。朝ご飯も出来てるわよ。
それにしてもタカ坊も由真さんも、目覚ましがあんなに鳴っても起きないなんてどうしたの?」
「……あ〜、ちょっと夜更かししちゃったもので」
「夜更かし?」
「いや由真のヤツがさ、あれこれ話しかけてくるんだよ。好きな女の子のタイプだの、最近読んだ
漫画がどうだのって……」
「なによ〜、たかあきだって楽しそうに答えてたじゃない。特に格ゲーキャラの話なんかさ。あんた
ってやっぱゲームオタクだったのね」
「答えた俺がゲーオタなら、その質問をしたお前だってゲーオタだろうが。
それにお前、一番好きな漫画が『鋼の武装錬金術師』って言ってたけど、女のお前が少年漫画って
どうなのよ?」
「最近は女の子だって少年漫画くらい普通に読むわよ。
むしろたかあきが今まで一番感動した漫画が『赤ん坊と俺』って方が問題あるわよ。男のくせに
少女漫画なんか読んで気持ち悪ーい」
「このみが貸してくれたから読んだんだよ。それにお前もあれには泣いたって言ってただろうが」
「ま、まあ確かにね……。
あ! それを言うならたかあきだって『鋼の武装』、単行本まで買ってるじゃない」
「ま、まあな……」
俺と由真はあの後も、かなり遅くまで話をしていたのだ。話題は、ゲームのことや漫画のこと、
面白かった映画、好きなアイスのフレーバー、ヤックで一番うまいバーガーはどれか、今一番笑える
芸人は誰か、等々……。
そして、そのしょーもない会話の中で、俺は一つ気付いたことがあった。
さっきの言い合いが示しているように、俺と由真、実は結構好みが合ってたりするのだ。正直、
素直には認めたくないのだが……。
「……で、二人とも、楽しいお喋りはそのくらいにして、起きて朝ご飯食べてくれるかしら?」
タマ姉の、若干苛立ちの交じった声で我に返る。
「あ、わ、わかったよタマ姉」
「は、はい環さん」
俺と由真は慌てて寝床から立ちあがった。
「はぁ……、ちょっと疎外感感じちゃったかも」
「ん? タマ姉、何か言った?」
「いいえ何にも。いいからタカ坊も由真さんも早く仕度して」
朝食の席で、俺は春夏さんとの話をタマ姉たちにも話した。
「――そう、春夏さんがそんなことを……」
「うん。だからさ、みんなもこれからは気を付けて欲しいんだ。あまりご近所の目を引きつけない
ようにしないと」
「具体的にはどうしたらいいの、たかちゃん?」
「うん、そもそも春夏さんにバレたのって、朝、全員で学校に行くのを見られたり、家の外まで聞こ
えるくらい騒いでいたせいだから、この二つだな。
とりあえず、朝は全員一緒じゃなく、一人ずつ時間差を設けて学校に行くようにするのと、大声を
出したり騒いだりしないよう気を付ける、ってところか」
「一人で学校行かなきゃならないの!? そんなのやだよ〜!!」
「だからそういう大声を出さないでよ笹森さん……」
「確かにうーかりは普段から少し騒ぎすぎだな。自重しろ、うーかり」
「るーこの言うとおりやな。TVで見たけど最近は、騒音が原因で殺人事件まで起こってるんやで。
ウチらかて他人事やない。注意せなあかん」
「は、はぁい……」
るーこと瑠璃ちゃんにダメ出しされ、ショボンとなる花梨。
「そうね、隣のラーメン好きのおじさんが、いつお鍋片手に怒鳴り込んでくるか解らないものね」
いや由真、古池さんはそんな人じゃないと思うが……。
「まあ出かけるのは一人ずつにして、どこかで集合すればいいんじゃないか? 例えば雄二と合流
する辺りとか」
「あ、そっか」
俺の提案を聞いてポンと手を叩く花梨。
「みんなもそれでいいかな? じゃあ早速今朝から……」
「その必要はないわよ」
「タマ姉?」
「例え一人ずつ出かけたって、結局同じ人数が家から出てくるワケだから意味ないわよ。むしろこそ
こそ人目をはばかるようにする方が、かえって人目を引くってものよ。
騒音については、確かに少し無神経だったかもしれないわね。春夏さんの言うとおり、今後は注意
しましょう。だけど、学校へは今まで通り一緒に行くわよ」
「だ、だけどタマ姉……」
「堂々としていればいいのよ、別にやましいところがあるわけじゃないんだから。
それにいざとなったら私が手を打つから、心配しないで」
タマ姉が手を打つって、どんな手を?
タマ姉の家、向坂家は有力な旧家だ。ま、まさかタマ姉、その力でご近所のみなさんを脅すなんて
考えてるんじゃ!?
「た、タマ姉、なるべく穏便な手を……」
「ん? この辺りの親しい人たちに、うまく事情を説明しようかって考えていたんだけど?」
そ、そうですか。よかったぁ……。
このみとは家を出てすぐ、雄二とは途中で合流し、いつも通り全員で学校へ。
そして校門の前。そこには珊瑚ちゃんと小牧さん、それに郁乃もいた。
だが三人はまだこちらに気付いていない。見ると三人、何か話をしているみたいだ。
「さんちゃ〜ん!」
瑠璃ちゃんが珊瑚ちゃんに駆け寄る。その声で三人はこちらに気付いた。
「さんちゃん!」
珊瑚ちゃんに抱きつく瑠璃ちゃん。
「おはよう瑠璃ちゃん。今日も元気やね」
「うん!」
「おはよう珊瑚ちゃん、小牧さん、郁乃」
少し遅れて到着した俺たちは、それぞれ朝の挨拶を珊瑚ちゃんたちと交わす。
「ところで小牧さん、さっき珊瑚ちゃんと何を話してたの?」
「え!? そ、それは、そのぅ……」
途端に何故か、もじもじする小牧さん。どうしたんだ?
「あんたのことよ」
小牧さんに代わって答える郁乃。
「俺?」
「そ。珊瑚がね、『ウチ貴明のことすきすきすきー。愛佳はどのくらい貴明のこと好きなん?』って
聞いてきたの。で、姉も負けじと『あ、あたしだってたかあきくんのこと、すきすきすきーなのよ』
って答えて……」
「う、ウソを言わないでよ郁乃!!」
慌てて郁乃の口を塞ぐ小牧さん。
「でも、ウチが貴明、すきすきすきー言うたんはホンマやで〜。愛佳ははっきり答えてくれなかった
けど、ウチが『じゃあ貴明のこと、嫌いなん?』って聞いたら『違う』って答えたから、愛佳も貴明
が好き言うことやな〜」
「だ、だから、好きって言ってもそういう意味じゃなくて……」
慌てまくる小牧さんである。こりゃ助け船が必要だな。
「あー、小牧さん大丈夫だから落ちついて。珊瑚ちゃんの場合、『好き』か『嫌い』かの二択しか
ないからなぁ。俺は変な誤解してないから、気にしないで」
「は、はい……」
「ま、あたしははっきり答えたけどね、貴明なんか大嫌いって」
まぁそうだろうね郁乃は。
「ウチも貴明なんかキライやもーん!」
珊瑚ちゃんに抱きついたまま、俺にあかんべーをする瑠璃ちゃん。すると珊瑚ちゃんはやれやれと
いった表情で瑠璃ちゃんの頭をなでながら、
「瑠璃ちゃん素直やないからなー。ホンマは貴明のこと好きなクセに☆
きっと郁乃も同じやな。ホンマは貴明のこと好きなんや」
「ちょ、ちょっと珊瑚、何言うのよ!? あたしは本気でこいつが嫌いだっつーの!!」
「うんうん、わかっとるわかっとる☆」
「その笑顔、全然わかってなーい!!」
郁乃の必死の否定も、珊瑚ちゃんの思い込みの前には無力であった。
もしかして珊瑚ちゃんって、俺の知り合いの女の子全員が俺のこと好きだと思ってるのか?
などと俺が考えていた、その時である。
「おはようございます、貴明さん」
ごろごろごろ。
その声の主が草壁さんだとはすぐに気付いた。しかし同時に聞こえた、何かが転がるような音は
一体なんだ?
俺は草壁さんの方を振り返る、するとそこには、旅行用の大きなスーツケースを引っぱりなから
こちらに歩いてくる草壁さんの姿があった。
「ど、どうしたの草壁さん、その大きなケースは?」
「これですか? 着替えとか勉強道具とか、必要なものを全部入れてきました。学校が終わったら
直行しますから。それでは、また後で」
草壁さんはそう言い残し、ごろごろとスーツケースを引っぱりつつ学校に入っていった。
あの、直行するって、一体どこへ?
そして、放課後。
いつもの通り、みんな仲良く家へと帰る。ちなみに小牧さんと郁乃は、今日はまっすぐ自分たちの
家に帰った。まあ毎日俺の家に来るわけにも行かないよな。あと、雄二も今日はまっすぐ家に帰る
とのこと。雄二のことだから本当にまっすぐ帰るかは疑わしいところだが。
しかし今日は、いつもと違うメンバーが一人。
ごろごろごろ。
俺たちのやや後ろを、スーツケースを引っぱりながら歩く草壁さん。もしかして草壁さん、俺たち
の後をついてきてる?
「ねえタカくん、草壁さん、どうしてついてくるの?」
そう思ったのは俺だけではなかった。このみも草壁さんが気になっていたようだ。
「い、いや、ついてきてるのかは解らないけど……」
「どう見たってついてきてると思うよ?」
花梨にそう言われても、俺の方から草壁さんに面と向かって「何でついてくるんだよ?」とは聞き
難いしなぁ……。
そんな微妙な空気の中、俺たちは家に着いた。
少し遅れて、草壁さんも俺の家の前で止まった。
「ふぅ。到着ですね」
額の汗をハンカチで拭きながら、草壁さんは俺を見て微笑む。
「あ、あの草壁さん、まさかとは思うんだけどその荷物、もしかして……」
すると草壁さんは、笑顔でハッキリこう答えた。
「はい、約束通り、私、貴明さんの家に来ちゃいました!
これから、よろしくお願いします!」
「え、えええっ!? や、約束って、そんな約束、俺したっけ!?」
「ええしましたよ土曜日に。あの時私、貴明さんに『来ても構いませんか?』って聞いて、貴明さん
は『いいよ』って答えてくれました」
「あ、あの時の『来ても』って、そういう意味だったの!?」
なんてこった! あの時、草壁さんが俺に尋ねていたのは「遊びに来てもいいですか?」ではなく、
「この家に住んでもいいですか?」ということだったのか!? で、そんなことに気付かず俺は、
あっさり「いいよ」と答えてしまったのか……。
「ちょっといいかしら、草壁さん?」
「はい何でしょう、向坂先輩?」
「私のことは環でいいわよ。ちょっと聞きたいことがあるんだけど……、ここだと人目に付くわね。
とりあえず家に入ってくれる?」
タマ姉はそう言って、草壁さんを家に招き入れた。
玄関前から居間に場所を変え、タマ姉が草壁さんにこう尋ねた。(ちなみに全員居間にいる)
「草壁さん、以前タカ坊があなたに話したとおり、今この家にいるタカ坊以外の人間は、全員理由が
あってこの家に厄介になっているの。それは解っているわよね?」
「はい」
「それじゃあ聞くけど、あなたがタカ坊の家に住む理由って何?」
タマ姉のその質問に、草壁さんは顔を俯かせる。
少しの沈黙。しかし草壁さんは何かを吹っ切るように首をブンブン振り、そして真剣な眼差しで
タマ姉を見つめ、答えた。
「……あります、理由」
「その理由って?」
「それは……、
それは、私、草壁優季は、河野貴明さんが好きだからです」
それは、思いも寄らぬ告白だった。
「く、草壁、さん……?」
俺も含め、一同が呆然とする中、草壁さんは俺にこう言った。
「好きだから、近い場所にいたいんです。それが私の理由です」
「だ、だからって、家を出てきたの?」
「はい。勿論母には反対されました。いくら何でもまだ学生なのに、同居は早すぎるって。
私自身、とんでもないことをしているって自覚もあります。でも私、貴明さんが好きって気持ちに、
後ろを向くことは出来ないんです。
今まで私、貴明さんと私は運命で結ばれてるって思ってました。でも気付いたんです。運命も自分
で守る努力をしなければ、手放してしまうものだって……。
だから私、ここに来たんです。運命を手放さないために」
草壁さん、そこまで俺のこと、想ってくれてるだなんて……。
つづく。
どうもです。第22話です。
22話にしてようやく、予定していた同居者が全員揃いました。(^^;
ホントはもっと早くそうするつもりだったのですが、思いついたことを色々書いてる内に延び延びに
なってしまい……。こういう時、プロの小説家ならバッサリ的確に不要な部分を決めて、切り捨てる
んでしょうね。
草壁さんついにキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!
新作キタワァ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(n‘∀‘)η゚・*:.。..。.:*・゜゚・* !!
鋼の武装錬金術師ワロスwwww
細かいネタについ吹きました。
結構行動派の草壁さんに高感度アップです(*´∀`)
>>149 祝!再開!
今後も作者様のペースでよいので、投稿してください。
続きをお待ちしておりますよ。
>>160 うぉ!草壁さんは直球勝負で来ましたね!
そしてこれで決戦の火蓋が切られたのでしょうか?
ますます目が離せませんな!
虹の欠片6,5が掲載されましたな。
ネット壊れた知り合い用に印刷してたんですが…
印刷する一瞬見るだけで胸がぐじゅぐじゅになっていく…
>>164 うまい、うますぎ!
こんな楽しいのが読めるなんて、ホントに嬉しいです。
>>160 河野家、喜多ー!
って、え? これで全員ということは、、、前回で前振りした春夏さんは?w
>>164 GJ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
続きを楽しみに明日まで待ってます。
河野家きたーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!
このみ誕生日記念SS ――恋する遺伝子――
「お、おかぁさ〜ん」
台所で夕飯の仕度をしていると、背後から娘の泣きそうな声が近づいてきた。
娘がこんな声で近づいてきた時は、なにかいたずらをして自分ではどうにも出来なくなった時助けを求めにやってくる時
と決まっている。
私は包丁を使いながら、ふっと苦笑した。
今日で16歳になるというのに、小さい頃とちっとも変わりのない娘の調子がおかしいやら情けないやら愛おしいやら。
「お母さぁん……」
「何なのこのみ、今いそが――」
手を洗って振り向いた私は、背後に立つ娘の顔を見て言葉を失い、そして
「……お母さんひどいよ。そんな座り込んで笑わなくても」
これが笑わずにいられるだろうか。
そこに立っていたのは、悪役レスラーか京劇俳優のような強烈なメイクで泣きべそをかいている娘だったのだから。
「だめこのみ、その顔で怒らないで、うふふ、ぷははははは……!」
「お母さん! 泣くほど笑ってないで助けてよ。もうすぐタカくん帰って来ちゃうんだから」
その言葉でぴんときた。
今日のこのみの誕生日は、お向かいのタカくんのおうちで二人きりでパーティをする予定になっている。
昔から好きだった男の子とようやくこの春に恋仲になり、初めての誕生日。子供っぽいと言われるのを密かに気に病んで
る娘のことだ、化粧をして大人びた姿を恋人に見せよう……と考えたに違いない。
それはもう間違いない。
だってそれはずっと昔に、私も通った道なのだから。
この子は私の娘。そして私は、この子の母。
いつまでも子供だと思っていたけど――ついさっきもそう感じたばかりだけど。
「……もう、そんな年頃なのね」
「え? なにお母さん」
「何でもないわ。それより、勝手に化粧品使ったらだめって言ってるでしょ?」
「ごめんなさぁい……。でも、どうしてもタカくんに」
「分かってるわ」
よく分かるからこそ、私も怒りきれないのだ。
甘いとは思いつつ私は立ち上がり、娘の肩を掴んで洗面所へ向かわせた。
「……上の棚にメイク落としがあるから、それでまず、そのオモシロ顔をすっぴんに戻してらっしゃい」
「オモシロ……」
「返事は?」
「あ、はーい」
たたっ、と走って行く娘。
その後ろ姿に、私は思わずはっとした。
20年前の私の後ろ姿も、こんなふうだったのだろうか。その私を見送ってくれた母は、こんな気持ちだったのだろうか。
恋と恋人が世界の全てで、一日中そのことばかり考えていた。綺麗になりたくて、もっと恋人に愛して欲しくて、はやく
大人になりたくて……倒れることもつまづくことも恐れずに、精一杯背伸びしていたあのころの私。
今の娘の後ろ姿からも、それとまったく同じエネルギーを感じた。
これも遺伝なのかしら、と一瞬考え、そしてふとさっき見た娘の顔を思い出して小さく笑った。
「……初めてとは言え、私はあれほどひどくなかったわよ」
洗顔を済ませて駆け足で戻ってきた娘を連れ、私は三面鏡の前に立った。
化粧箱の中身が、空き巣狙いにあったように引っかき回されている。
「あーあ、もう、こんなにぐちゃぐちゃにして」
「ご、ごめんなさい……」
肩をすくめてうなだれる娘。
でもきっと、頭の中はタカくんのことでいっぱいなのだろう。私もそうだったからよく分かる。
「……まあいいわ。罰として後からなにかさせるけど、今はこっちが先ね」
「うんっ」
嬉しそうにこのみは頷いた。さっきまでの反省してた様子はかけらも残らず消えている。
思った通りだ。
私は苦笑しながら中腰になり、三面鏡の前でかしこまっている娘の顔に自分の顔を寄せた。
鏡の中で並ぶ、私たち母娘の顔。
似てきた、と思った。
「えへ〜」
突然このみは笑って、頬と頬をぴとっと甘えるようにくっつけてきた。
「どうしたの」
「えっとね、その……嬉しくって」
「どうせまたタカくんのことでしょう」
お泊まりは許さなかったが、いつもより帰りが遅くなってもいい、という許可をこのみは私たちから勝ち取っていた。
「あ、うん。もちろんそれもだけど……」
しかしこのみは、照れくさそうに言った。
「……ここに座ってお化粧するの、憧れてたから」
「あこがれ?」
「うん、わたしね――お母さんみたいに綺麗になりたかったから」
トン。 と、胸の真ん中を突かれたようだった。
「お出かけの前にお母さんがここでお化粧して綺麗になるのいつも横で見てて……いつか大きくなったら、わたしもきっと
ここでお母さんみたいにお化粧するんだって決めてたの。そしたら絶対に、わたしもおかあさんみたいに綺麗になれるって
思ってたんだ」
そう言って娘は、鏡の中で微笑んだ。
わたしは、その微笑みに目を奪われる。いつのまにこの子は、こんな大人びた表情をするようになっていたのだろう。
私は改めて、鏡の中の娘の顔をじっくりと見つめた。
まだ、あどけなさを残す少女の貌。でもその瞳は、恋を知った乙女の情熱と色香を宿しはじめている。夢見るような眼差
しも、震える睫毛も、柔らかな頬も、つややかな唇も、この子を形作るすべてが、開き始めた花のつぼみのように少しずつ、
しかし確かに色づき始めている。
「……綺麗になれるわよ」
私は娘の頭を撫でながら言っていた。
「だって、あなたは私の娘なんだもの」
「お母さん……」
このみは振り向き、そしてぎゅっと抱きついてきた。
「うんっ!」
20分後、このみは意気揚々と出かけていった。
結局時間もなかったこともあり、お化粧に関しての指導はまた時間をとってすることにして、今日の所は私の言うままに
メイクを終えたのだ。
「たったこれだけ?」
終わった時、そのあっけなさにこのみはそんな声を上げたものだ。
しかし私はそういう娘の頬を横から左右に引っ張ってやった。
「あんたねえ、乳液もファンデーションも不要なこんな完璧なお肌しておきながら、これ以上なにがいるのよ」
「ひゃ、ひゃっへ……!」
「こんなので飾り立てなくても、今はそのままで充分綺麗なのよ。それともタカくんは、コテコテお化粧が好きな趣味な
の?」
だとしたら、母親としてちょっと考えなくてはならないこともある。
「そうじゃないけど……」
「大丈夫よ。きっとタカくんは気づいてくれるわ。自信をもちなさいな」
「うん……うん! ありがとうお母さん!」
そして今、娘は待ちかねたような足取りで恋人の家に駆けていく。
私はその姿を窓から見送り……出迎えて出てきた男の子がこのみを見て、玄関で硬直したみたいに立ちすくむのを見て思
わず声を上げた。
「やったわね、このみ」
――さて、では手早く家事を片づけて、私もおめかしするとしましょうか。
愛娘が誕生日に家を空けるショックで昨日からしょぼんとしていた――愛する、あの人のために。
※fin※
というわけで、このみ誕生日記念SSをお届けします。
本当はこのタイミングに合わせてテンダーの最終話を投稿するつもりでしたが、諸般の
都合によりこうなりました(^^;)
台風のせい、ということにしておきますw
(本当は春夏さんが描きたかっただけ、かも)
一日おくれですが、TH2メインヒロインの誕生日に捧げます。
このみ、おめでとう!
ではまた〜ノシ
追伸
>>164 あんたにゃかなわんw
萌え殺す気ですかっ
>>175 GJ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
そうか、TH2のメインヒロインってミルファじゃなかったんだと何かを思いだした気がしました。
よし、これからはミルファとこのみツートップで(え?
>>175 記念SS乙。
春夏さん、かっこいい!このみ、かわいい!
そして何より、作者さま、GJ!
さすがとしか言いようが無い…
GJ!!
181 :
名無しさんだよもん:2005/09/07(水) 17:42:45 ID:HVC8CL+10
何もかもに乙&GJ!!!!
楽しみに待ってますよ〜(・∀・)
昨夜から何気に投稿ラッシュ。
みんなうまいっす!おもしろいっす!
184 :
名無しさんだよもん:2005/09/08(木) 08:27:54 ID:Lmm/Fv370
あれれ?「河野家にようこそ」は22話でなく21話ですよね??
間違ってたら申し訳ない。
185 :
名無しさんだよもん:2005/09/08(木) 08:29:41 ID:Lmm/Fv370
あ、最新50で抜けてましたorz
大変失礼しました。
>>182 GJ!!!!!!!!!!!!!!!!!
すげぇ、毎日更新してるよ・・・・。 >サイト
修正版うpして、さらに続きもちゃんと書いててすごい。
続き、明日まで気長に待ってます。
「タカ坊、今日のお昼、屋上にいらっしゃい」
いつものように待ち合わせ場所にやってくると、タマ姉は開口一番そう言った。
すぐ横には試合終了後のボクサーみたいに傷だらけの雄二が今にも倒れるんじゃないかと思うくらいふらふらになりながら
死にそうな顔で立っている。
全て悟った。
先走りやがったな、雄二。
「わかったわね、タカ坊」
「……はい」
死刑宣告にも等しいタマ姉の有無を言わさぬ召喚に逆らう術もあるはずもなく、大人しく返事をするしかできない俺だった。
「ねぇねぇ、タカくん、なんだか今日のタマお姉ちゃんちょっと怖いね。どうしたのかな」
俺からすればちょっと怖いとかそんなレベルじゃない。
こめかみに拳銃を突きつけられている気分ってまさにこんな感じなのかもしれない。
静かな怒りを滾らせたままスタスタと歩いていってしまうタマ姉の背中を見ながらそんなことを考えていた。
学校に着いてからも気分は落ち着かないままで、とても授業になど集中できるはずもなかった。
主犯に事情を問いただそうと思ったのだが、雄二は雄二でタマ姉から受けたと思われるダメージがよほど深刻なのか、
放課の間どころか授業中まで机に突っ伏したままぴくりとも動かない。
しょうがない、あいつへの事情聴取と処遇は今度にしよう。
その前に、俺が審判を受ける時間となってしまったのだから。
つい先ほど午前中の授業は全て終わり、既に今は来る審判の時、昼休みとなっている。
珊瑚ちゃんと瑠璃ちゃんには朝のうちに今日の昼は用事があると伝えてあるので、あとはこのまま屋上へ向かうだけだ。
彼女たちも当事者といえばまさにそうなんだが、この場合珊瑚ちゃんのマイペースさは火に油を注ぐ結果を招きかねないという
わけで、タマ姉とは俺一人で話をつけることにしたのだ。
暗鬱な思いで階段を登り、屋上へ続く扉を開く。
目に飛び込んでくるのは一面の青。
ああ、空はこんなにも晴れているのに。
「どうして呼ばれたかはもう言わなくてもわかってるわよね。それじゃあ一体どういうことなのか聞かせてもらいましょうか」
俺の未来は真っ暗です。
「なるほどね」
ここ最近で何度目かになる説明を恐々とし終える。
てっきり問答無用でアイアンクローでもかまされるんじゃないかと思っていたが、意外にもタマ姉は終始落ち着いていて、
こちらの話をきちんと最後まで聞いてくれた。
「タマ姉は雄二から話を聞いてたんじゃなかったの?」
今朝の雄二のダメージはきっと事情を聞かされたタマ姉によって負わされたものだとばかり思っていたんだけど……。
それにしてはタマ姉はまるで今初めて事情を聞いたかのような素振りだ。
「聞くには聞いたけど」
タマ姉曰く、雄二の説明はかなり掻い摘まれてた上にものすごい曲解されたものだったという。
何でも、俺と珊瑚ちゃんたちが将来を誓い合い、その第一歩として同棲をはじめるという俺自身初めて聞く情報で一杯だった。
そして最後に恐怖の権化たる己の姉に向かってこう言い放ったそうだ。
『貴明は瑠璃ちゃんとも珊瑚ちゃんともラブラブなんだよ。姉貴の出る幕はねぇ!』
…………。
なるほど、同情の余地なく雄二が悪い。
「どうせいつものあの子の暴走だろうと思ったけど、一応タカ坊本人にも確認しようと思ってね」
「雄二のヤツ、めちゃくちゃなこと言いやがって」
やっぱあそこでメイドロボという単語を聞かせたのがまずかったのかもしれない。
まあでも、おかげでこうして穏便にタマ姉に事情を説明することが出来たのだから結果オーライといえばそうだけど。
「あら」
しかし、これで一つ難関をクリアしたと安心しきっていたところにタマ姉の氷の声が響く。
「ねぇタカ坊、雄二の言ってたことはめちゃくちゃだったけど、でも全部間違いだったわけでもないんじゃない?」
目を細め、まるで獲物を狙う豹のようなタマ姉の視線に射抜かれ、たちまち固まってしまう。
一言発せられるたびに、背中をゾクリとした冷たいものが伝っていく。
「だって、一緒に暮らそうって話が出ているのは本当みたいだものね」
「た、タマ姉、違うんだっ。それはその」
「少し複雑だけど、タカ坊が積極的に女の子と仲良くなるのはいいことだと思うわ。だってあなた、女の子が苦手だなんて言って
私やこのみ以外に女っ気がまったくない子だったものね。姉として少し心配していたのよ?」
それはタマ姉、あなたの過去の所業が原因なんです。
だがそんなこと今タマ姉に言えば導火線に火をつけることになりかねないので胸にしまっておく。
「そんなタカ坊にも仲のいい女の子が何人かできて、姉としてはちょっと寂しいけど弟の成長を喜んで見守っていたわ」
別に女の子が苦手なのは今も大して変わってないんだけどなぁ。
「でもね、物事には限度ってものがあるわ。確かに珊瑚ちゃんと瑠璃ちゃんの二人と特別親しくしていたみたいだけど、
だからって学生の身で同棲なんて許されることではないわよ」
「わかってるよ。さっきも言ったけど俺だってなんとか珊瑚ちゃんたちを説得させようとしてるんじゃないか」
「ねえタカ坊、あなた本当にきっちり断る気あるの?」
「あっ」
少しぎくりとした。
もしも同じ質問をもっと前に、例えばこの引越しの提案がなされて間もない頃にされていたら、きっとすぐにでももちろんと返事をしていただろ。
だけど今の俺には即答することができない。
なぜならほんの少しだけ、珊瑚ちゃんや瑠璃ちゃん、イルファさんとの生活を思い描いてしまった自分がいたから。
きっとタマ姉はわかっていて聞いてきたんだろう。
「……ふぅ、やっぱりね」
やれやれと溜め息をついたタマ姉がゆっくりと歩み寄ってくる。
「昔からタカ坊は押しに弱くて周囲に流されやすかったものね」
……主体性がなくて悪かったな。
でも言い返す余地なくその通りなんだよなぁ。
子供のときから我の強いタマ姉や雄二やこのみに振り回されることが多かったのは事実だ。
「だからね、もし今回もタカ坊が流されるままに不本意にも同棲することになるようだったら、私が珊瑚ちゃんと瑠璃ちゃんに
きっちりと言ってあげようと思ってたの」
言いながらタマ姉はぽんぽんと俺の頭を軽く撫でる。
「ほら、あの子たちって押しが強そうじゃない」
「う……。確かに強いなんてモンじゃないけど」
実際その押しの強さに負けてタマ姉の危惧していた状況寸前にまで追いやられてたわけだし。
「だけどもし単に流されただけでなく、タカ坊本人にもそれを望む気持ちがあるのなら、その気持ちを尊重してあげないといけないじゃない」
「タマ姉、そんなにも俺のことを思ってくれてたなんて」
「ふふ、かわいいタカ坊のためだもの」
もしもタマ姉にられたら有無を言わさず強制折檻されるもんだと決め付けてた自分が恥ずかしい。
ごめんよタマ姉、そしてありがとうタマ姉。
俺は良い姉(のような存在)を持って幸せだ
「でも困ったわね。やっぱりタカ坊はまだ高校生だし、私もおじ様とおば様にタカ坊のことをよろしくって言われてるから、
簡単に承諾するわけにはいかないのよね」
うーんと腕を組んで考え込むような仕草をする。
「とりあえず、今日珊瑚ちゃんたちのお家に言ってきちんとお話してみましょう。私もタカ坊の保護者として一度彼女たちを交えて
この件について話さないといけないものね。いいかしら?」
タマ姉が俺の親から直々に任され、今現在俺の保護者代理の立場にあるのは間違いないし、タマ姉の言うことも至極もっともだ。
よく考えてみれば、こうしてタマ姉が一切の事情を理解してくれた今、タマ姉に珊瑚ちゃんたちを説得してもらうという構図は
理想的なものなわけだし、何の問題もないはず。
「わかった、あとで珊瑚ちゃんたちに言っておくよ」
「ありがと、タカ坊」
「それじゃ放課後に……そうだな、校門あたりで待っててくれる?」
「いいわよ」
「それじゃ、俺は教室に戻るよ」
ふぅ、肩の荷が下りた。
今日は朝からタマ姉の招聘のおかげで緊張しっぱなしだったし、ようやく生きた心地がするよ。
「ちょっと待ちなさい。タカ坊はお昼まだなんでしょ?」
「そりゃ授業終わったらすぐ来たからね」
遅れでもしたらタマ姉にどんな目に遭わせられるかと思うと急がないわけにはいかなかった。
まだ時間は残っているはずだし、今から購買にいけばパンくらい残ってるだろう。
「なら一緒にお昼食べましょう。お弁当少し多めに作ってきたから」
「えっ、いいの?」
「もちろんよ」
売れ残りのパンとタマ姉お手製の弁当では比べるまでもなく弁当の方が良いに決まっている。
ここはありがたくご馳走になろう。
シートを広げ、弁当を並べ始めているタマ姉の横に座り、箸を取る。
「それじゃあ遠慮なく。いただきまーす」
「はい、いただきます」
タマ姉の料理は相変わらず絶品で、おかげで幸せな気分で午後の授業に臨めそうだ。
ふと視線を感じて横を向くと、タマ姉が食事を進めずにこっちを見ていた。
「おいしい?」
「うん、すごいうまいよ」
「そう、良かった」
タマ姉はそう言うと満足そうに笑い、自分も弁当に口をつけ始める。
「それにしても助かったよ。ちょうど弁当多めに作っててくれてたなんてラッキーだったなぁ」
「あら、偶然じゃないわよ」
「え?」
「いつタカ坊が来てもいいように、いつも少し多めに作ってるの」
少し耳に痛いセリフだった。
最近は珊瑚ちゃんや瑠璃ちゃんとばっかりだったからな。
タマ姉たちと疎遠になったというわけではないが、一緒にいる時間が前よりも減ったことには変わりがない。
実際、こしてタマ姉と一緒にご飯を食べるのは久しぶりだったんだし。
もう少し、幼馴染を大事にしても良かったのかもしれない、なんてことを少し考えてしまった。
「ふふ、冗談よ。毎日多く作ってたらもったいないじゃない」
「えっ、それじゃあなんで今日は……あっ」
俺を昼に屋上に呼び出したのはタマ姉なんだ。
つまり、こうなるのも織り込み済みというわけで……。
「そういうことよ」
にっこりと笑うタマ姉に、俺は絶対タマ姉には敵わないという幼少の頃からの思いをさらに強めた。
途中表記が7分割から6分割に減ってますが例によって間違いなので気づかない振りをしてあげてください。
投稿時一番の難敵ってこの分割作業だったりするんですよね。
しょっちゅう目測を誤って文章量オーバーになってしまってそこから少しずつ。
あまりギリギリを狙わずに、もうちょっと少なめ少なめに分割したほうがいいのかもしれませんね。
いえ、今回のは純粋に書き間違えてただけなんですが。
春の人GJ!!!!!
しかしタマ姉、なんかもう一暴れしそうな予感がするなw
GJ!GJ!GJ!
タマ姉可愛いよタマ姉(*´∀`)
この先どうなるのか楽しみです。
分割は行数が出るテキストエディタだと大体の目安がつくから楽ですよ。
>>193 嵐の前の静けさ・・・なんでしょうかね。
GJ!
Tender Heartと虹の破片まだ〜?
それはそうと“もうどうにもとまらない”ってどうなったんだ?
>>197 ×虹の破片
○虹の欠片
どうもこないだから気になって…
みぃ、と小さな音が聞こえた。
鼓膜を叩き伏せんとするような轟音の中でそれが何故聞こえたのかは分からず、最初は
ただの気のせいだと思った。
みぃ、と小さな音が聞こえた。
――今となってはそれが何故聞こえたのか、そんなのは明白だった。それはとてもとて
も悲しい音だったからだ。苦しい音だったからだ。救いを求める音だったからだ。聞こえ
てこなければ今にも自分が同じ声で泣き出しそうだったからだ。
木の小屋のトタンの屋根の下、土がむき出しの地面で丸くなって啼く一匹の仔猫。首輪
はなく、親とはぐれた野良猫なのか、それとも単に捨て猫なのか判断がつかない。雨に濡
れて毛がべったりと体に張り付いたその姿は痩せこけてとても小さく見えた。手を伸ばし
ても逃げなかったので抱き上げた。両手から少しはみ出すくらいの大きさ、冷たいけど温
もりがあった。
独りきりじゃなくなった。
仔猫が寒くないように両手で胸に抱く。服には泥がべったりとついて、冷たい感触が肌
まで達したけれど気にはしなかった。仔猫に温もりを与えたいと思った。けれど同時に仔
猫からも温もりを貰っていたのだろう。
独りきりじゃなくなった。
--虹の欠片-- 第七話
目が覚めた――。
目が覚めたことで、自分がいつの間にか寝てしまったのだと気がついた。
保健室の中はさっき目覚めた時となにも変わりはしない。穏やかに澱んだ空気、揺れな
いカーテン、遠い雨音、そして……右手を包む温もり――。
驚くほど心は落ち着いていた。怒りも、悲しみも、消えてはいなかったものの、奥底に
沈んでしまって、心の表面にわずかな細波を立てることくらいしかできない。
「――起きた?」
見れば分かることを、俺の右手を握る人が訊いてきた。
「うん、起きた。もう寝てちゃダメなのかな?」
喋るとやはり口の中が痛くて、くぐもった声になった。けれどその痛みは俺の心を掻き
乱したりはせずに、ただ雄二に殴られたことが本当にあったことなのだと俺に教えてくれ
る。
「それはそうだよ。今何時だと思う?」
小牧は悪戯っぽく笑う。
俺は時計を探したが、カーテンに遮られて壁にかかっているであろう時計を見つけ出す
ことはできなかった。
「はい、どうぞ」
右手の上に乗っていた温もりが消えて、目の前ににゅっと腕が突き出される。その腕に
巻かれた時計はすでに平日の放課後になった時間を指している。
「うわ……」
さっき起きたとき何時だったのかはっきりとした記憶はない。始業式が終わったとだけ
聞いたから昼前か昼過ぎか、それくらいの時間だったことは想像に難くない。二時間か、
三時間か、もしかしたらもっと――。
「えっと、……ずっと?」
「うん。ずっと」
平然と小牧は答える。まるでなんでもないことのように。
「……どうして」
「――どうしてだろうね……」
小牧は微笑んで俺の右手の上に手のひらを重ねる。自然と自分の手が小牧の手を握って、
俺ははっとする。思わず見上げた小牧の顔に動揺は無くて、それで俺は自分がずっとこう
やって小牧を捕まえていたのだと自分自身によって知らされた。
――どうして――の答えはこれに違いなかった。
照れくさくて顔が火照る……。
そしてそんな俺を見て小牧が微笑む。
「お腹減っちゃったな。あたし」
「あ、え、えっと、お礼にご馳走するよ。何か食べたい物はある。その、そんなに贅沢じ
ゃないもので……」
言いながら財布の中身は足りるだろうかと素早く考える。あまり財布に現金は入れない
ようにしているけれど、二人分の食事を出すくらいは十分にあるはずだ。
「その前に起きられる? 無理はしちゃ駄目だよ。頭打ってるんだから」
「ん、と、もう大丈夫」
体を起こしかけて、右手を小牧に預けたままだと起き難いことに気付く。小牧も気付い
て……、けれど手は離れなかった。離さなかったのではなくて、離れなかった。
――離したくなかったのは俺なのか、小牧なのか、それとも双方なのか。それほど強く
握り合っているわけでもないのに、手は強い磁石でくっついてしまったかのようだった。
俺たちは顔を見合わせて、照れくさくて笑って、手を離した。
手がくっついてしまったなんてただの幻覚に過ぎない。触れ合っていただけの手と手な
んて簡単に離れてしまう。けれど汗ばんだ手には温もりがきちんと残っていた。
両手でしっかりと起き上がる。すると小牧はベッドの下からカゴを出してそこから二人
分の鞄と傘を取り上げてると、両方を俺に渡した。
「あれ、どうして俺の鞄……」
俺は教室で殴られて意識を失って、その時一緒に運ばれてきたんだろうか?
「朝比奈さんが持ってきてくれたよ。施錠するときに残ってたからって」
クラスメイトの名前が出てきてドキッとする。
「えーっと、もしかして……」
「うん、見られちゃったね……」
小牧にしては平然としているな、と思った。それとももう慌てふためきすぎて、何かを
通り越してしまったのかもしれない。
「んと、ごめん……。なんか色々みんな誤解したよな……」
「そうだね。あたしと河野くんが付き合ってると思ってる人もいるみたい」
「え……」
必死に記憶を呼び覚ますが、どうしてそうなるのか今一分からない。……けれど夏休み
という空白はみんなの妄想を十分に満足させるくらいには長いはずだ。何があっても不思
議じゃない、と、そう――。
実際に色々あったわけで――。
「それは、なんというか、ごめん……」
「ううん。それは河野くんが謝ることじゃないよ。それに……」
それに、と言ったきり小牧は口をつぐんでしまう。
「それに?」
「……なんでもない。さ、先生に挨拶してご飯食べに行こう」
小牧はそう言って俺を促すと、保健室を出る。俺もその後を追った。
始業式の余韻もすっかり消えうせた学校は、人の居た痕跡をほとんど残していない。保
健室から職員室まではほんの20メートルほどの距離なのに、雨音が聞こえる以外はしん
と静まり返っていて、上履きが床を叩く音が必要以上に響いて聞こえた。
「失礼します〜」
遠慮もなく小牧は職員室の扉を開く。俺のような普通の生徒には職員室はできれば立ち
入りたくない場所のひとつなのだが、小牧にしてみれば自分の教室と大差ないのだろう。
「え〜っと、あ、新島先生、河野くんが目を覚ましたので帰りますね」
「お、河野、起きたか。ちょっと来い――」
嫌な予感がしたが、逆らうわけにもいかず先生の所に行くと、当たり障りのない二三の
小言を聞かせられる。俺は被害者だが、喧嘩両成敗と言ったところか。後日改めて事情を
聞くことも念を押される。
「ご両親にも本当なら連絡するところなんだが……」
うちの両親は連絡を取るには早朝か深夜にやるしかない、見事なほど不便なところに赴
任してくれているので、少なくとも今は連絡の取りようがない。
「家まで車で送っていこうか?」
ありがたい申し出だったが丁重に断っておく。頭を打ったといっても今は意識ははっき
りしているし、たんこぶができたくらいだ。それに小牧にご飯を奢らなくてはいけないし、
何より先生の車に乗るというのはどうにも気が引ける。
「それなら小牧、河野の家まで送っていってやってくれるか?」
「「え?」」
唐突な提案に俺たちは顔を見合わせる。
「お前たち、そんなに家遠くないだろ。一応誰かが家まできっちり送ってやるべきだろう
し、小牧なら安心して任せられるしな」
「そうだっけ?」
「ええ、まあ、というか中学一緒だったんですけどね」
何故か小牧は頬を膨らませる。
そうか、そういえば一緒に帰ったときも途中まで帰り道は同じだったし、小牧は徒歩通
学だ。中学の件は流石にクラスメイトになったことは一度もないはずで、他クラスの女子
まで覚えているというのは俺からすれば至難の技になるので勘弁してもらいたい。
「それじゃあ気をつけて帰れよ」
まるで小学生相手のようなことを言われながら俺たちは職員室を後にする。
「……そっか、言われてみればそうだよな」
人気のない廊下を歩きながら、いつまで小牧の分まで荷物を持っていればいいのだろう
とか思いながら呟く。
「どうかしましたか?」
「いや、小牧の家が近いっての。あそこからどれくらい離れてるの?」
あそこというのは、つまり前に一緒に帰ったときに別れた場所、ということだ。
「歩いて5分くらいですよ。ギリギリで自転車通学できない距離なんですよね」
向きを考えれば家とは徒歩でも10分もかかりそうにない。
昇降口で靴を履き替えて、傘を渡すついでに鞄も押し付ける。流石に鞄二つ持ったまま
傘を差して歩く気にはなれない。二人して出口で足を止める。
それまで遠かった雨音は、ここにきて途端に耳を覆いつくす轟音に変わった。
「本降りですね……」
空を覆う雲は分厚く陽を覆い隠していて、昼間なのに薄暗いほどだった。
「えーっと……」
ふと小牧がポケットから生徒手帳を取り出してパラパラとめくり、なにやら時計と見比
べたりしている。横から覗き込むと、それは手書きで書き写されたバスのダイヤだった。
「ちょっと雨宿りしてから、最初のバス停で駅前まで乗っちゃいましょう。そうしたら
アーケードですし」
「そうだな」
小牧のダイヤによれば数分も時間を潰せばちょうど良さそうだ。
「何か食べたい物は?」
「そんなに贅沢じゃないもので、ですよね」
小牧が頬を緩ませて笑う。つられて俺の頬も緩んだ。
――そうして俺たちは雨のアーケードを歩く。
行き交う人々は濡れた傘を邪魔そうに手に、しかしお互いに気遣いながらすれ違う。新
学期の初め、夏休みとの明確な違いは辺りに見て取れる制服姿だろう。俺たちはそれを意
識してか、少し距離を取って歩いた。……ほんの少し。
「だからもう平気だって」
「いいえ、家までは送って行きますから」
それはもう何度目のやり取りだっただろうか。最初の五回目までは数えていたが、それ
以降は数えるのが面倒になった。二桁に達しているのは間違いない。
いくら頭を打ったからと言って、そんな大したことではないだろう。そりゃ大事を取る
には病院に行って精密検査なんかを受けたほうがいいんだろうけど、たかだかケンカで病
院に行くのも恥ずかしい。たっぷり睡眠を取って頭もすっきりしているし、小牧が行きた
いと言ったパスタ屋で腹も十分に満たされた。名前はよく分からなかったが、とりあえず
シーフードのパスタだったことだけは確かだ。
顔や口の中の痛みを除けば、体調は万全。わざわざ雨の中、小牧に送って行ってもらわ
なくてはならないほどじゃない。
しかし何度そう言って説得しても、
「先生にもそう言われましたから」
という言葉を最後の盾に小牧は俺の横について離れようとはしない。
アーケードの切れ目に来るに至って、俺はもう説得を諦める。別に小牧に家まで送って
いって貰うことが不満なんじゃない。ただ俺が先に屋根の下に入って、その後小牧が一人
雨の中を家まで帰るという光景が、どうにもすっきりしない。
一歩前は、勢いこそ弱まったとは言え、本降りの雨の中だ。この中を家まで送らせた上
に一人送り返す? そんなことはできるわけがない。
その時ピコーンと古い効果音と、裸電球が瞬くエフェクトが頭の上で輝いた気がした。
「――それじゃお言葉に甘えて送っていってもらおうかな」
「はい、喜んで」
どこぞの居酒屋の店員みたいな返事をして、小牧が傘を広げる。
考えてみれば簡単なことで、小牧が拘るのは――俺を家まで送り届ける――ということ
であって、その後俺がどうしようとそれは関係ない。例えば、雨の中クラスメイトを家ま
で送って行くのだって俺の自由のはずだ。
俺は小牧の困り顔を想像して、頬を緩ませながら、雨を弾く傘の音色に耳を傾けた。
「こっちのほうって来たことないんですよね」
俺の横を歩きながら小牧がそんな言葉を漏らす。小牧の家は多分駅の北側で、俺の家は
南側だから、何か特別な用事でもない限りこちら側には来ることなんてないだろう。
「確かに町内でも行ったことないところって結構あるよな」
俺からしてみれば小牧と別れる角、小牧の向かう先のほうは行ったことがない。普段歩
く道以外は意外と知らないものだ。
「海外行く前に国内を見ろって話を聞いたことあるけど、まず町内だな」
「そうかもしれませんねー」
歩きながらやりとりされる他愛の無い会話。
何か不思議な感じがした。それは失ってしまったものが急に戻ってきたような……。
――だよね、タカくん……。
雨音に混じって聞こえた幻聴……、その途端、辺に胸の辺りが切なくなる。
これまではこうやって俺の隣で他愛もない話をしていたのはいつだってこのみで、そし
てその当たり前がもうどこかに行ってしまったということを思い出してしまう。
「――河野くん?」
不意に黙り込んだ俺をどう思ったのか、小牧が小首を傾げる。
「体調悪いなら、病院行きますか?」
「いや、ちょっと考え事してただけだから」
「ならいいんですけど……」
顔を上げて気が付けばもう家の前に辿り着いている。考え事をしていても自然と足は向
かうものだ。
「あ、ここ、ここだから」
足を止めると、小牧が傘の角度を変えて俺の家を見上げた。なんの変哲もない普通の一
軒家。特別なんら感想など聞けそうに無い平凡な家だ。
俺が門扉を潜り、小牧はその外で立ち止まる……。
「そうですか。それでは、えっと……」
――また明日……。
小牧の言葉がそう続くのは分かっていた。そしてそうしたら、今日はさようならだ。
「ちょっとあがってく? 誰もいないし」
いきなり言葉が口をついた。まるで小牧の言葉を遮るようで、しかもその内容に俺はマ
ズったと思った。これじゃまるで下心でもあるみたいじゃないか。
案の定というか、小牧はきょとんとした瞳でこちらを見つめている。俺の言った言葉の
意味を吟味するのに時間がかかっている様子だ。
「あ、いや、別にやましい意味があるわけじゃなくて、ちょっとタオルとか持ってくるけ
ど?」
本当は小牧を送っていくために、とりあえず着替えてしまいたいだけなのだけど、小牧
にタオルを渡したいというのも本音だ。夏の終わりを飾る雨は傘だけで到底防ぎきれるも
のではなく、俺たちはなんとか濡れてないところもある、という有様だった。
「ちょっと雨宿りしていってもいいと思うし、もしかしたら雨、収まるかもしれない」
テンパって喋りながら、俺は何を必死になってるんだろうと少し自嘲する。小牧は傘を
手にしたまま、俺の一方的な喋りを黙って聞いている。その表情は微かな微笑みに、少し
苦味を加えたようなもので、俺は小牧を困らせてしまっていることに気付く。
「その、迷惑、かな?」
恐る恐る訊ねると少し間が空いて、小牧はゆっくりと首を横に振った。
「それじゃちょっとだけお邪魔するね」
小牧が一歩家の敷地に足を踏み入れる。
俺は嬉しいというよりは、どこかほっとして、家の扉に鍵を差し込んで回す。
――スカッと、錠前が空回りした。
「――あれ?」
違和感――、ドアノブに手をかけて引くと、すんなりと扉は開いた。
「鍵、開いてる……」
少なくとも一人暮らしを始めてから、鍵を閉め忘れて出たことなど一度もない。心根に
妙な緊張感が走る。泥棒とかじゃないよな、とそう思ってみても、確信が無いわけじゃな
い。音を立てないように注意して扉を開ける。
その途端、心臓が跳ね上がった。
雨音さえ聞こえなくなった。
小牧がまだ傘の下、雨に打たれていることすら忘れた。
――このみがいた。
続く――。
本当に本当にお待たせいたしました。
うーむしかし書き直ししてみると展開的には前回ボツにした原稿の半分まで消化という
ところです。長くなりすぎ。
最初の愛佳の落ち着きっぷりは、郁乃を相手にするときみたいな看病モード入っちゃっ
たつもりで書いてます。6.5からさらに数時間、色々考える時間もあったでしょうし、愛
佳は今後どうするつもりなんでしょうか?
最近急に忙しくなり、また今後さらに忙しくなりそうなので、余暇の時間のほとんどを
執筆に回すつもりではいるのですが……。なので一週間後を目処とは言わず、書けたら即
投下くらいのつもりで行くことにします。
土日で書けばいーや、という考えが前回の原稿落としにつながりましたので('A`)
ボツ原稿は八話公開後、サイトのほうででも晒しうpする予定であります(・ω・)ゝ
GJです
やばい、このまま愛佳もタカ坊に食われるかと思っていたらこのみの登場ですか
続きを期待していますよ
むしろ食われて修羅場になってくれ、そのほうが楽しス
11連投いきます。
〜あらすじ〜
雄二をミルファに会わせて暴走しかけたところで守護神タマ姉の活躍により暴挙は未然に防がれた。
その後珊瑚ちゃんの家でイルファさんとミルファの手料理を食べた俺は
珊瑚ちゃんの策略とみんなの押しに負けて泊まる事になってしまった。
すぐに寝れたらよかったんだけど色々と会ってみんなに乗っかられて苦しみつつ寝ることになってしまった。
普通に起きれるといいけど…
朝は得てして何かのきっかけで目覚めるもの。
光、音、そして感触。
何時もは朝の光か主に目覚ましの音で起きるのだが今日は何時もと違っていた。
「ん…」
体にかかる重みと唇に感じる感触で目が覚めた俺は何時ものように目を開ける。
「ん〜☆」
目の前にいるのは珊瑚ちゃん。
目の前にしては近すぎる…というかこの唇の感触って…?
「んんっ!?」
「ぷはぁ…。貴明やっと起きた〜☆」
俺が目を覚ましたのに気がついた珊瑚ちゃんが俺から離れる。
今の状況からして…え〜っと…。いかん、寝起きだからか思考が上手く回らない。
「珊瑚ちゃん、今何してたの?」
「お目覚めのちゅーに決まってるやん?貴明起きへんからずーっとしとったんよ?」
「ずっと…どの位?」
「え〜っと…まずはいっちゃんがしてぇ、次にみっちゃん。瑠璃ちゃんもしとったよ?
で、うちが10分以上はしてたかなぁ」
「えぇ!?」
寝てる間にそんな事をされていたとは…もの凄い辱めを受けたような感じがして泣きたく
なってきた。
「ごめんなぁ、貴明」
「いや…謝られてもなぁ」
もう過ぎてしまったことだし珊瑚ちゃんがみんなにさせたわけでもないのだからここで珊
瑚ちゃんに謝られても仕方が無い事だ。
「やっぱり貴明起こしてからみんなでちゅーしたった方が良かったなぁ☆」
「そうじゃなくて!?」
謝る観点から違うとは思っても見なかった。どうやら珊瑚ちゃんは俺の予想の斜め上辺り
を行ってるのかもしれない。天才は違うなぁ…じゃなくて朝からこのテンションは本当に
困ったもんだ。
正直みんなにキスをしてもらって嬉しくないわけではないんだが無防備な状態でされるの
は男として恥ずかしいやら情けないやらである。
「じゃあ今からはみんなに内緒でうちとだけ朝のちゅーしような〜☆」
「さっき俺に散々したんじゃないの?」
半ば諦め気味に聞いてみると珊瑚ちゃんは首を大きく横に振った。
「あれはお目覚めのちゅーや。今からのはおはようの挨拶のちゅーやねん。それとも貴明
はうちとちゅーしたないん?」
「う〜ん…したい…かな」
ここで正直に言っておかないとまた何やら色々置きそうなのとこういった時位は少し素直
になってみようと思った俺は正直に言ってみた。
「やっぱりうちと貴明はらぶらぶ〜やなぁ☆」
何時ものとろける様な笑顔をさせて珊瑚ちゃんが俺に抱きついてくる。
両腕を回して包み込むとその小さい体を全身で感じる。もぞもぞさせながら珊瑚ちゃんが
俺の胸元から顔を出すと口を少し尖らせて俺の唇を待つ。その柔らかい唇に重ねると小さ
な体が必死になって背伸びをして俺の唇にくっついてきてくれる。その可愛さについキス
をする力が増す。時々唇の動きに珊瑚ちゃんの体ビクビクと反応してきた。
どれくらい時間が経っただろうか、ゆっくりと唇を離すと力が抜けたのか珊瑚ちゃんの体
が俺へともたれかかってきた。
「珊瑚ちゃん?大丈夫?」
「もぅ…貴明はえっちやなぁ」
「そんな事言って珊瑚ちゃんはこうしてもらいたかったんでしょ?」
「えへぇ…☆」
何時もとは少し違い、火照った顔で笑顔を作ると擦り寄ってくる。
「貴明ならもっとえっちな事してもえぇよ?」
「さ、珊瑚ちゃん!?」
抱きついてくるというよりかは密着した状態になって心臓がおかしいくらいに高鳴ってい
るのが自分でも分かった。ここは早く逃れないと…
「貴明〜、早く起きないと…」
「ミ、ミルファ…」
これぞ天の助けだろうかドアを開けてミルファが俺を起こしにきてくれた。
しかしミルファの顔を見てそれが天の助けというよりは私刑執行が訪れた事を理解する。
「貴明の……バカーーーーーーー!!!!!」
「おー、貴明〜。今日は朝からひでー面してんなぁ」
今日は3人で登校。そして少し逆走をしてタマ姉達が待つところへと向かう。
雄二が俺の顔を見るや否や何故か嬉しそうな顔をする。どうも俺の顔の異常を見て面白がっているようだ。こっちにとっちゃ笑い事じゃないっての。
「酷いわねその頬。誰に叩かれたのかしら?」
「…ミルファに」
「あらあら。ミルファに夜這いでも仕掛けたの?あぁ、タカ坊にはそんな勇気無いわよねぇ〜?」
楽しそうに言うタマ姉のその目は笑っていない。それが尚更怖いのだ。
「貴明はな、うちと遊んでてん。それをみっちゃんが勘違いして貴明をひっぱたいたん
よ」
後ろに居た珊瑚ちゃんが俺の横に来ると事の顛末を話してくれた。
俺が言ったのなら信じられないかもしれないが珊瑚ちゃんが言っているとなると流石のタ
マ姉も信じざるを得ないのか納得したような顔だった。
「まぁそれはミルファも悪いかもしれないけど疑われるような状況になったタカ坊にも
責任は勿論あるわよね?」
「ぐっ…」
その点については反論が出来なかった。確かに珊瑚ちゃんの押しに負けたというか何だか
んだであの状態になってしまったのは俺にも非があると思う。
「けどまぁ…これも愛情の現われと思って諦めなさい」
「絶対クラスに行ったら何か言われるよ…」
「安心しろよ貴明。俺がちゃ〜んとフォローを入れてやるからよっ」
「その笑顔で何を信じろと?」
声は俺を心配してそうにしていても顔が明らかに何かをたくらんでいるのが見え見えだ。
こいつ絶対にこれを良い事にある事無い事言いふらすに違いない。
こういう点だけはしっかりと信じられる辺りは親友としても問題だと思うぞ。
結局途中でからかう気満々の雄二をタマ姉の制裁が入って事なきを得つつ学校へと向かっ
た。
クラスに着いた早々にみんなが俺の腫れた頬を見て色々聞いてくる。
まさか後輩に迫られて困っていたらメイドロボに見られてぶたれましたなんてのを言える
はずも無い。適当に誤魔化し、雄二の嘘を未然に鉄拳制裁で防ぎつつ授業の時間になった。
そして休憩時間に俺のところへ委員長がやってきた。
「貴明君…じゃなかった河野君」
「別に普通に名前で呼んで構わないよ」
「う、うん。そのほっぺ…痛そうだけど大丈夫?」
「あぁ…。まぁ朝よりは痛みが引いてるから多分大丈夫だよ」
「えっと…」
もじもじしながら俺の方をちらちらと見てくる。明らかに知りたいけど聞けない、けど聞
きたい。そういった感じだ。
「これについて知りたいの?」
頬杖をつきながら愛佳の方を見ると彼女は顔を赤くさせながら必死にそうじゃないとア
ピールをしてくきた。
「ちょっと朝からゴタゴタがあってね」
「そ、そうなんですかぁ」
「委員長。こいつにはあんまり関わらない方が良いぜ?何せこの学校きっての女たらしだ
からな。気をつけないと委員長も狙われるぜ〜?」
「雄二、お前なぁ…」
「あ、あははは…」
笑いながらも委員長の足が一、二歩下がったのが分かった。
もしかして俺ってみんなにそんな目で見られていたのか?まぁ確かに色々ひそひそと話し
ているのは分かっていたつもりだが…。
「あ、あたしは貴明君の事信じてますから」
「あ、ありがと」
「それじゃあ失礼しますね」
ぺこりと頭を下げると顔を赤くさせたまま愛佳は自分の席へと戻っていってしまった。
礼儀正しいのは分かったが何で顔を赤くさせてたんだろうか…俺が何かしたかな。
雄二の方を見ると遊び道具がなくなったかの様なつまらなそうか顔になっていた。
「あ〜あ、何時の間にか委員長まで手懐けてるしよぉ〜」
「お前、愛佳をペットみたいに言うなよ」
「あ〜ぁ!委員長のこと名前で呼び捨てにしてるしよー!やってらんねーよ、ったく…」
「雄二」
「何だよ」
「怒りっぽいのは良くないぞ。カルシウムちゃんと取れよ?」
「うっせぇ!」
昼休みになり今日も購買にするか学食にするかで雄二と話していると珊瑚ちゃんが俺を呼
びにやってきた。
「どうしたの?珊瑚ちゃん」
「今日朝からゴタゴタしてたやろ?でな…」
ニコニコしたまま外を指差す珊瑚ちゃん。校門の近くを指している様でそこに視線をやる。
「…なっ!?」
校門に見える青と赤茶の髪の女性。特徴のある同じ服。そして耳のセンサー…
気づいた俺は珊瑚ちゃんを抱えて一気に校門へと走る。
雄二が、そしてみんなが反応する前に。
「あ、貴明〜♪」
「貴明様、珊瑚様」
俺が急いでやってきてくれたのが嬉しかったのか笑顔で迎えてくれた。
俺にとっては喜ばしいことではないんだけど。
「えっと…二人とも何しにきたの?」
「これ…」
おずおずと持っていたバッグから出したのは包み袋。大きさから言うとお弁当…?
「けど今日の朝は作ってなかった…よね?」
珊瑚ちゃんのほうを見て俺の記憶が間違ってないか確認をする。
珊瑚ちゃんは上下に頷いて俺の言ってることが間違ってないのが分かった。
「ミルファが勘違いして貴明様をぶってしまったのでそれに対してのお詫びと自分で貴明
様にお弁当を作りたいと言いましたのでみなさんが登校された後に作ったんですよ」
イルファさんが嬉しそうにその理由を話してくれた。
「えぇな〜貴明」
「ちゃんと珊瑚様と瑠璃様のは私が作ってますからご安心ください」
イルファさんもバッグから二人分のお弁当を出してきた。
「いっちゃんありがとうな〜☆」
珊瑚ちゃんの笑みを横目にミルファからお弁当を受け取る。
「ありがとな」
「ううん…今日の朝はごめんね」
「まぁ…あれは俺も悪かったし」
「初めて…作ったから、美味しくなかったらごめんね」
心配そうな顔を浮かべながら俺の方を見てくる。
何時も元気いっぱいで笑顔を絶やさない彼女のこんな一面を見るととことん弱い俺が居た
少しでも心配を和らげてあげようと彼女の頭に手を乗せる。
「心配すんなって。お前の料理は美味いの知ってるから」
「あ、ありがと…」
俯いたままだがミルファの顔が嬉しそうにしているのが何となく分かった。
「それでは私達は戻りますので、お昼休みに申し訳ありませんでした」
「「失礼します」」
二人一緒にお辞儀をしてくれる。
そのメイドロボらしい行動に何故か逆に違和感を覚えてしまった。
「じゃあね、貴明」
「あぁ」
ミルファは俺たちに手を振るとイルファさんの手を引っ張ってそそくさと帰って行ってし
まった。引っ張られていくイルファさんが苦笑していたのが見て取れてこっちも苦笑する
しかなかった。何だかんだで素直じゃないのは瑠璃ちゃん譲りかなぁ?
「それじゃいこか、貴明。うちお腹ペコペコや〜」
「そうだな。今ならタマ姉とかも屋上にいるだろうし」
お弁当を持って屋上に行くとご飯を食べずにタマ姉達は待ってくれていた。
「タカ坊、遅いわよ」
「あれ?もう食べてるもんかと思ってたけど」
「貴明が走っていった方向見たらイルファとミルファがおったからどうせこうなると思っ
て待っとったんよ。だからもうお腹ペコペコやねん」
瑠璃ちゃんがお腹をさすって空腹であることをアピールしてくる。
「ほら、瑠璃ちゃんの分やでー」
「さんちゃんありがとぅ」
「じゃあ早速…」
「「「「「いただきます」」」」」
早速ミルファお手製のお弁当のふたを開けてみる。
「う…」
「わ〜、タカ君のお弁当凄いよ〜」
「あら、可愛いクマさんねぇ」
開いたお弁当の出来は凄かった。タコの形をしたウィンナー、厚焼き玉子、アスパラのベーコン巻きetc…ただ問題なのはご飯の部分。鳥そぼろでクマの顔が模られていた。
まぁ可愛いのと、今日も見事に「瑠璃様LOVE」とご飯の上に書かれている瑠璃ちゃんの諦
めに近い顔を見ているとまぁ良い方なのかもしれない。
早速食べてみる。まぁ食べて美味しいなら問題ないしな。
「お、美味い」
「え〜ほんとほんと?このみも食べたい〜」
「ほぃ」
とりあえず小鳥のように寄ってきているこのみを落ち着かせるために厚焼き玉子を食べ
させてあげた。
「おいひぃ〜!」
口に入れたと単に至福の顔をするこのみ。
確かにミルファの作ったお弁当は美味しかった。ご飯は出来立てが美味しいのは当たり前
だがお弁当になってもそれはそれで味が染みていて美味しい。その美味しさについ箸が運
ぶ。最後には全部残らず平らげてしまった。
「みっちゃんのお弁当は美味しかったん?」
ゆっくりとお弁当を食べる珊瑚ちゃんが俺の食いっぷりに気になったようだ。
「あぁ、初めてにしては凄いよ」
「きっといっちゃんに教えてもらったんやろうなー」
「なるほど。じゃあイルファさんにも感謝しないとなぁ」
「うちもこれさえなければ感謝してんねんけどなぁ…」
呆れた顔でお弁当を見ながらつぶやく瑠璃ちゃん。
ご飯は半分まで食べられており「LOVE」とだけ書かれた状態になっていた
食事も終わったところで雄二のことを忘れていた俺は教室へと戻ってみた。
雄二の席を見るとうつぶせになっている雄二がそこには居た。
「ゆ、雄二?」
「裏切り者」
「何だよそれ」
雄二は顔を上げると七代先まで呪ってくれようかという勢いでこちらを睨んできた。
「さて、ここで問題です。俺と昼飯を食う約束をしていた貴明くんは愛しのメイドロボで
あるミルファちゃんの手作りのお弁当を貰うや否や俺という親友を無視して屋上へ行って
しまいました。この場合の雄二君のとる行動は何でしょう?」
「う〜ん…学食へ行って飯を食う」
「正解だよ!バカ野郎!」
「いでででで!ちょ、ちょっと待てって!」
タマ姉直伝(?)の劣化版アイアンクローで俺を掴んできた雄二は怒気を放ちながら声を荒
げてきた。
「放置プレイされて一人寂しく学食で飯を食った俺の気持ちがお前にわかるか?わかるの
か?しかも食べてるのはあのミルファさんの手作りだっていうじゃねぇか!これは俺に対
する挑戦状か?いや、宣戦布告なんだな!?」
「ちょ、ちょっと待て雄二!悪かった!悪かったから!?そ、そうだ!ミルファにお前の
分の弁当も頼んでみるから、な?」
「そ、そんなもんで…!!」
明らかに雄二の力が弱まる。俺の提案に明らかに迷ってるみたいだ。メイドに弱いという
か意志が弱いというか…。
「ミルファの弁当美味かったぞ」
「そ、そうか…」
雄二がどうしようか迷っているのか俺にかかっていたアイアンクローを外すと悩み始めて
しまった。
これで何とか雄二をやりすごせそうだと胸を撫で下ろしている所でクラスの女生徒に話し
かけられた。
「ねぇ、河野君。さっき校門で話してたのってまさかメイドロボ?」
「あ、あれは…」
ここではいそうですと言ったらそれはそれで質問の集中砲火を受けかねない。
どうにかしてやり過ごせないかと考えていると雄二が俺らの間に割り込んできた。
「校門に居た二人のうちの一人、赤茶色の髪のあの子はこいつ専属のメイドロボだよ」
「雄二、お前…!?」
「え〜!ほんと!?だってメイドロボってお金持ちじゃないと持てないんじゃないの?」
「何、何?どうしたの?」
「河野君の家ってメイドロボ持ってるんだってぇ〜!でね、今日お弁当持ってきてくれ
たみたいよ!?」
「マジ!?河野君の家って凄いんだね〜」
「おい、河野、それってマジかよ?」
「名前は何ていうの?」
「あ、ちょ、えっと…」
雄二のせいでとんでもないことになってしまった。
俺の周りは人だかりが出来て四方八方から質問が浴びせかけられる。
人だかりの隙間から雄二を見ると笑顔で手を振ってきやがった。
こうして俺の昼休みは平穏に終わることは無く、授業が始まるまでずっと質問され続けて
しまった。
「どうしたんだよ、貴明。ぐったりしてるじゃねーか」
「誰のせいだと思ってるんだよ…」
「ゆうじくんしらなーい」
気持ち悪い声を出して知らん振りをしてくる雄二。
つくづくこいつと親友である事を後悔しながら立ち上がろうとすると愛佳がまた俺の席へ
とやってきた。
「あ、貴明くん…」
「ん?どうしたの?」
「あの…み、みんなが言ってたけど…」
「あぁ、メイドロボの事?」
「うん…あれって良くうちのクラスにくる1年生の双子の子と関係あるの?」
愛佳が言ってるのは瑠璃ちゃん、珊瑚ちゃんの事だろう。
「まぁね。何だかんだでうちでテストする事になってね」
「テストって市販機じゃないんですか?凄いですねぇ〜」
「何だったら委員長も見てみるかい?ミルファちゃん」
「あ、えっと…」
雄二の誘いに明らかにどうすればいいのか困っている愛佳。
そりゃいきなりメイドロボ見に来ませんか?なんて言われりゃ困るに決まってる。
「やめろよな、雄二。愛佳も困ってるだろ?」
「そうでもないみたいだぜ?」
雄二が視線を愛佳の方に移動させると愛佳が目を好奇心で輝かせていた。
どうやら愛佳は意外にもこういった話題性のあるものが好きみたいだ。
愛佳が意を決したようにぐっと手を握り締めると口を開く。
「えっと、貴明くんが良ければ…行きたい…かなぁって…」
実は委員長も大好きです(*´∀`)
今回はミルファとの絡みがほとんど無いです、ごめんなさい。
最近テキスト量が多い状態だったのでこれくらいの量で美味く表現できればなぁと思ってます。
Webページに見に来てくれた皆さんありがとうございます。
修正版は第7話までアップ出来ました。
けど最新話はここに上げ続けるつもりです。
何だかんだでリアルタイムの声が一番勇気付けられますので。
次は遅いと1週間後になるかも。
では13話で('∀`)ノシ
もつでつ!
一週間後か…
いいんちょ好きにはつらいゎ
(ノ∀`)
224 :
名無しさん@そうだ選挙に行こう:2005/09/11(日) 02:26:14 ID:t98kpsXbO
>虹
うはあぁぁぁ!
そこでこのみを出しますか……
こういう修羅場はだい好きですwwww
さ、いよいよ先が読めなくなってきたな
>ぶらすと
こっちもはぁれむですかww
ミルファかわえぇなぁ
虹の人もミルファ使いの人もグッジョブ&お疲れ様。
両方とも違う意味で先の読めない展開で楽しみです。
神の居ぬ間〜とてんだーはーと、まだ〜?
虹ってこのみまだ鍵返してないよな?
「鍵返すね…」
とかだったら(((;゚д゚)))
やめて…orz
「タカくん……その人は?」
「ん……あ、ああ!俺のクラスの委員長だよ」
「ふぅん……あなたも私からタカくんをとるんだ?」
「貴明くんを……とる?」
「そうだよ私から大事な大事なタカくんをとるんだこの泥棒猫!」
「ちょ、このみ!どうしたんだ」
「私がこんなにタカくんを好きなのにユウくんに頼んで狂言までしたのに酷いよタカくんタマお姉ちゃんもそうおもうよね?」
「タマ姉!?タマ姉もいるのか!?」
「ほらタカくんタマお姉ちゃんだよ……」
「ひっ……!」
「タマお姉ちゃんもこのみからタカくんをとろうとするんだもん罰として首だけになってもらったんだ」
「っ…!」
「次はその泥棒猫だね大丈夫タカくんはこのみが守ってあげるよ?」
「や、やめ……」
「あはっ あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」
タカくんあいしてるよタカくんあいしてるよタカくんあいしてるよタカくんあいしてるよタカくんあいしてるよタカくんあいしてるよ
タカくんあいしてるよタカくんあいしキるよタカくんあいしてるよタカくんあいしてるよタカくんあいしてるよタカくんあいしてるよ
タカくんあいしてるよタカくんあいしモるよタカくんあいしてるよタカくんあいしてるよタカくんあいしてるよタカくんあいしてるよ
タカくんあいしてるよタカくんあいしチるよタカくんあいしてるよタカくんあいしてるよタカくんあい殺殺殺よタカくんあいしてるよ
タカくんあいしてるよタカくんあいしイるよタカくんあいしてるよタカくんあいしてるよタカくんあいしてるよ殺してんあいしてるよ
タカくんあいしてるよタカくんあいしイるよタカくんあいしてるよタカくんあいしてるよタカくんあいしてるよね?もんあいしてるよ
タカくんあいしてるよタカくんあいしてるよタカくんあいしてるよタカくんあいしてるよタカくんあいしてるよよいいんあいしてるよ
黒このみって大抵タマ姉かいいんちょ狙うのな…。
お二人ともGJ!!!
しかし、虹のこのみは何しに来たんだ…。
これで「ユウくんを殴るなんてヒドイよ」とか言いに来たんだったら
俺の中のこのみ株が下がりそうで怖い。
SSでキャラの評価が上がることはあっても下がることはないかなあ。
元々嫌いとかなら別だけど、虹の場合はそっくりさんたちが出てくる別の話として
楽しんでるし問題なしw
虹の人gjよ!
最近の楽しみです。はい。
>>207 貴明の無自覚行動っぷりが、またなかなか。
でも、今回は何もなく終わるのか?と思ってたら、最後の最後に来ちゃいましたよ。
スゲェ続き気になるぅ〜〜〜。GJ!
>>222 今回は確かにミルファさん少ないですけど・・・
要所要所で魅せる行動がまたかわいいっすなぁ。
で、こちらも最後に委員ちょですか。続きが待ち遠しいのぉ。
それから、平行してのWebページ更新お疲れ様です。
改めて修正版を読みましたが、やっぱ良いですな!GJ!
>>207 そしてこのみの手にはのこぎりが握られてるんですね?
黒このみ、黒環、黒愛佳、黒由真、黒黄、黒るーこ、黒珊瑚、黒瑠璃、黒壁。
一番黒がありそうなのって、やっぱこのみか愛佳だと思う。
次点で珊瑚と瑠璃ってとこか。
あくまで俺視点なので、ご注意の程を。
黒ポイントが高いのはダントツでこのみだな。
かなり離れて次点が愛佳だと思う。
(゚w゚)ノ
黒イルファ、黒ミルファってのは?
ダントツで黒度が高いのは愛佳だと思ってる。
健気度が一番高いのは由真かたまねぇかなぁ…
もしくは草壁さん
だーめ!一週間なんて待てません。明日♪
>236
黒黄と黒壁w
どうせなら黒色にすればもっとよかった希ガス
黒よっちは?
あの口調で黒いキャラは想像つかない
黒このみ→ど、どうかな……。タマお姉ちゃんが見繕ってくれたんだけど……。
黒環 →やっぱり私ってこういうイメージかしら? どう、似合ってる?
黒愛佳 →ち、ちち、違うんですじょ? ちょっとそそのかされただけで、これは、その。
黒由真 →みっ、見たわね!? くぅ〜、白だけが清純派だと思うなよ〜!
黒黄 →ほらほら、ここの模様が異世界に繋がる魔方陣になってるんよ。
黒るーこ→うーの好みは変わっているな。まあ通気性は悪くないぞ。
黒珊瑚 →る〜☆ 瑠璃ちゃんとおそろいや〜☆
黒瑠璃 →さんちゃんっ、そんな風に見せたらあかんっ! こ、こっちも見るなっ、すけべえっ!
黒壁 →こういう下着、お好きなんですね。……ぽっ。
黒イル →今日は色っぽさを追求して見ました。いかがでしょう?
以上。
あまりに黒々言うから、全員が黒下着をつけて迫ってくるメルヘンが降りてきたというお話。
>ち、ちち、違うんですじょ?
ちよちゃん入ってるよ愛佳w
しんとした静かな部屋の中、聞こえるのは本のページをめくる音だけ。
その静寂を打ち破る突然の声。
「ねぇ、貴明」
「んー?」
「海に行きたい」
『わたしも海に連れてって』
今年の夏は特別だった。
高校に入ってから二度目の夏休み。
夏休みといえば、去年はやることもなく暇を持て余し、結局雄二とつるむといういつものパターンに落ち着いて
時間を無為に過ごし、休みも残り数日といった頃にようやく宿題に手をつけるというなんともありきたりで面白みのない過ごし方だった。
加えて、春にタマ姉が帰ってきたときには、きっと夏休みもボランティアだなんだと引っ張りまわされるんだろと切ない予想をしていた。
だがしかし、今年はきっと今までとは違う夏になると、そんな期待を抱いていた。
なぜなら、今の俺には小牧愛佳という『彼女』というべき特別な相手がいたからだ。
既に夏休みが始まってから一週間が経つが、どこかに出かけたり一緒に宿題をしたりと、今のところ顔をあわせなかった日はない。
退屈な日なんてないしこんな時期から宿題に手をつけてしまうなんて、なんというかもう我が青春順風満帆って感じ?
今ならば、ことあるごとに『オンナオンナ』と叫んでいた雄二の気持ちも僅かにではあるがわかってやれる気がする。
今日だって愛佳の家にお邪魔して今さっきまで宿題をやっていたという勤勉学生ぶりを発揮していたところだ。
多分俺一人だったら暇だ暇だと言いつつも宿題なんかやる気が起きるはずもなく、雄二と暇つぶしにゲーセンにでも行っていたに違いない。
ああ、なんて不毛だったんだ去年までの俺。
しんとした静かな部屋の中、聞こえるのは本のページをめくる音だけ。
その静寂を打ち破る突然の声。
「ねぇ、貴明」
「んー?」
「海に行きたい」
『わたしも海に連れてって』
今年の夏は特別だった。
高校に入ってから二度目の夏休み。
夏休みといえば、去年はやることもなく暇を持て余し、結局雄二とつるむといういつものパターンに落ち着いて
時間を無為に過ごし、休みも残り数日といった頃にようやく宿題に手をつけるというなんともありきたりで面白みのない過ごし方だった。
加えて、春にタマ姉が帰ってきたときには、きっと夏休みもボランティアだなんだと引っ張りまわされるんだろと切ない予想をしていた。
だがしかし、今年はきっと今までとは違う夏になると、そんな期待を抱いていた。
なぜなら、今の俺には小牧愛佳という『彼女』というべき特別な相手がいたからだ。
既に夏休みが始まってから一週間が経つが、どこかに出かけたり一緒に宿題をしたりと、今のところ顔をあわせなかった日はない。
退屈な日なんてないしこんな時期から宿題に手をつけてしまうなんて、なんというかもう我が青春順風満帆って感じ?
今ならば、ことあるごとに『オンナオンナ』と叫んでいた雄二の気持ちも僅かにではあるがわかってやれる気がする。
今日だって愛佳の家にお邪魔して今さっきまで宿題をやっていたという勤勉学生ぶりを発揮していたところだ。
多分俺一人だったら暇だ暇だと言いつつも宿題なんかやる気が起きるはずもなく、雄二と暇つぶしにゲーセンにでも行っていたに違いない。
ああ、なんて不毛だったんだ去年までの俺。
勉強にひと段落が着くと、書庫整理の頃からのお決まりのお茶の時間となるはずだったのだが、なにやらうっかりしてて
お菓子が切れていたからと愛佳は慌てて買い物に出て行ってしまった。
手持ち無沙汰になった俺は『好きなのを読んでいていいよ』という愛佳の言葉に甘えることに。
愛佳の部屋はさすがというか、実にたくさんの本で溢れていた。
いつも愛佳がどんな本を読んでいるのかという興味もあり、何冊か適当に手にとってパラパラとめくってみる。
当たり前のことだがどの本も文字がびっしりで、普段本を読むなんて習慣のない俺にはどれが面白いのかなんてさぱりだった。
結局、以前愛佳がお勧めだといっていた本を見つけたので、無難にそれを読むことにする。
読書なんて柄ではない気もしたが、俺も本を読んで愛佳と共通の話題が増えれば愛佳も喜んでくれるかもと考えると、
意地でも読もうという気になるから我ながら現金なものだ。
そうして本を読み始めること数分、邪魔しちゃ悪いからと自室に篭ってしまっていたはず郁乃が、俺たちが勉強を切り上げる頃を
見計らっていたかのようなタイミングで姉の部屋に乗り込んできた。
いつもなら話し相手を務めるくらいはするのだが、あいにく俺はちょうど本の世界に引き込まれていた矢先のことだ。
ちょっと申し訳ないとは思ったが、本が意外なほど面白くてそっちにばかり意識が言ってしまい、ついつい
郁乃には生返事ばかりになってしった。
気付いたときには郁乃も本の世界に没頭しており、いつの間にか彼女の部屋でその妹と二人で読書という謎な
シチュエーションを形成していた。
それをさきほどの郁乃の一声が打ち破ったわけだが。
「海に行きたい」
「ふーん、行けば?」
「…………」
「…………」
……パラ
ページをめくる音だけが響く。
「連れてって」
「やだよ」
「…………」
「…………」
…………パラ
「いってえええええ。いきなりなにすんだっ。やめろって!」
「うっさいっ!」
「お前最近元気になりすぎだっ。痛えっ。だから乗るな!殴るな!噛み付くな!」
「いいことじゃないっ! 元気で何が悪いのよ!」
「その元気を俺にぶつけるなよ!」
優雅に読書を続けるつもりが、いきなり郁乃に殴りかかられ、二人して愛佳の部屋の中でどすんばたんと暴れまわる。
何で俺は郁乃に殴りかかられなきゃいけないんだ。
最近の郁乃はやたら好戦的で、手術以降健康な体に近づいてるのがよほど嬉しいのか生来の闘志ゆえか、
ことあるごとにバトルを仕掛けてくるのだ。
今日は見事なまでの不意打ちにあっさりとマウントポジションを取られてしまい、郁乃からの一方的に殴る蹴るの
暴行に我が身を晒されている。
「ただいまー……って二人とも何してるのよぉ!?」
勢いよくドアが開かれ、の向こうには両手いっぱいにお菓子の入った袋を提げた愛佳の姿が。
部屋の中の時間が一瞬止まる。
……ここで現在の自分の姿を客観的に分析してみたいと思う。
仰向けで(攻撃を防ぐために)郁乃の手を取っている(正確には受け止めているという)俺と、俺の上に乗って(攻撃するために)
俺に向かって全体重をかけている郁乃。
……うん、ダウト。
「ひどいっ、郁乃っ。よりによって貴明くんを取るなんてぇー」
袋がドサッという音を立てて床に落ち、愛佳は目元を押さえて体を翻し、部屋から走り去っていってしまった。
「…………」
俺も郁乃も思わず呆然と間かなの出て行ったドアの方を眺める。
トントントンと階段を下りていく音だけが耳に残った。
「なんであたしなのよ。こういう場合は自分の男の浮気を責めなさいよね」
「おい」
全然呆然としてなかった。
それどころかぶつくさ愛佳に文句を言っていた。
「余裕あるねキミ」
「それよりいつまであたしの手を握ってるのよ」
言われてから郁乃の手を取りっぱなしだったことに気付き、慌てて離す。
「きゃっ」
その勢いで体を起こして立ち上がると、上に乗っかってた郁乃がコロンと後ろに転げる。
ちょっとざまぁみろと思った俺は悪い子でしょうか神様。
「痛いじゃない」
「いいからさっさと愛佳を追いかけるぞ」
「そういうフォローはカレシの役目でしょ」
郁乃のヤツは小さく口を尖らせてぷいっとそっぽを向いてしまう。
そのしぐさの小生意気なことといったら。
「元凶がなにをぬけぬけと」
「いいの?」
言いかけた俺の言葉を遮り、郁乃がちょいちょいと窓の外を指差す。
釣られて外を覗くと、小さくなっていく愛佳の背中が見えた。
「待ってくれー、誤解だ愛佳ー」
すぐに俺も階段駆け下り、玄関で急いで靴を履いて駆け出した。
走っていく愛佳の後姿を追いかけながら、相手はトロい……もとい、のんびりやの愛佳だし多分すぐに追いつけるな、などと
心の中でどこか冷静に分析している自分がいたのは永遠に胸の中にそっとしまっておこうと思う。
「海かぁ。いってみたいね」
怖いくらいに予想通りすぐ捕まえられた愛佳に事のあらましを話し、納得してもらって部屋に連れ帰ってきたのがついさっき。
事なきを得て良かった。
本当に良かった。
ほっと安心する俺とは別に、愛佳はというとその説明の過程で出てきた今回の騒動の原因と思われる『海行きたい発言』に興味を示した。
「行きたいなら今度行ってみようか」
「本当、貴明くん?」
「……ちょっと」
早急に話がまとまろうとしていたところに、ぶすーと不機嫌そうな顔をした郁乃がずいっと話に割り込んでくる。
「あたしの時と態度がまるきり違うじゃない」
「そりゃあ愛佳が相手だし」
「やだぁ、そんな貴明くん。恥ずかしいなぁもう」
「なんか納得いかない」
「あっ、ごめんね郁乃。もう、ダメだよ貴明くん、郁乃に意地悪したら」
ますます頬を膨らませた郁乃に、愛佳は慌ててフォローに入る。
見ると、郁乃は愛佳に見えないように俺に向かってべーっと舌を出している。
多分こいつは俺の生涯のライバルになる予感がする。
「でも、郁乃は海になんて行けるのか?」
別にこれは愛佳と二人きりでいたいとか郁乃が邪魔者だとか、そういった類の意見ではない。
「郁乃はその……」
口に出してしまっていいものかどうか少し迷ったが、ここはきちんと言わないとダメだろ。
「泳げないんじゃないのか?」
「カっ……カナヅチじゃ悪いっていうの!?」
「そうじゃなくって、最近元気にしてるから忘れそうになるけど、郁乃って今まで派手な運動なんて出来なかったろ?」
リハビリの甲斐もあり、それこそ日常生活を送る分には何の支障もないが、やはりまだ激しい運動を続けられるほど回復はしていない。
当然カナヅチとかそんな問題以前に、泳いだりなんてできるはずがないだろう。
というか、ずっとそういう生活を送ってきたのだからカナヅチで当然、恥ずかしがることではない。
とまあ、そんな状態で海に行っても逆に落ち込んでしまうんじゃないかと思ったからこそ、海に行きたいという
郁乃の発言を軽やかにかわしたのだ。
まあ結果的に乱闘になっちゃったけど。
「別に泳げなくても水遊びくらいできるわよ」
「うーん、郁乃がそれでいいって言うならいいんだけど。でもやっぱ泳げないと退屈しないか? なぁ、愛佳」
念押し、というわけじゃないが、一応愛佳にも言ってもらい、それでもいいと郁乃が言えば連れてってあげるつもりでいた。
「…………」
「……愛佳?」
だが、話を振られた愛佳は一向に何も言わない。
「えっ、なっ、なぁに?」
「いや、だから愛佳も泳げないのに海に行っても退屈になると思わないか?」
「えっと、う、うーん、どうかなぁ。あたしその……は泳げないなら泳げないなりに海の楽しみ方ってあると思うよぉ」
なぜそんなどもる。
よく見ると視線もあちこちさまよって俺を見ようとしない。
「……」
「ほっ、ほら、砂のお城作ったり、水の掛け合いっこしたり、あと海の家でヤキソバ食べたり」
最後のが一番感情篭ってたように感じるのは果たして気のせいだろうか。
っていやいや、そうじゃなくて。
「もしかして……」
「あとはえっと……そうだっ、スイカ割なんていいよねぇ」
「愛佳って泳げない?」
「えっ゙!?」
明らかに動揺した。
「やっ、やだなぁ、そんなわけないよぉ」
「…………」
「泳げないわけないじゃないー」
「…………」
「ちょっとぉ、なんでそんな目で見るかなぁ」
「…………」
「え、えーとぉ」
「…………」
「……ほんとは泳げませぇん」
無言の圧力に負け、愛佳は俯いき消え入るような声でそう答えた。
「よし郁乃、海に行こう」
「おっけー」
それからすぐに日程なども決まった。
日帰りなので、日にちさえ決まってしまえばあとは持ち物の準備くらいしかするべきことがないのが気楽でいい。
「お姉ちゃん、水着買うの貴明に付き合ってもらえば」
「えぇぇええ!? で、でもそんなの恥ずかしいよぉ」
「ほんと相変わらずね。ったく、付き合ってるってのにそんなことくらいで照れててどうするのよ」
……ごめん、俺もちょっと恥ずかしい。
「まあでも荷物もちは必要だろ? 俺もついてくよ。水着買ってる間はどっか別のとこで時間潰してるから」
「でも、貴明くんに悪いよ」
「自分からやるっていってるんだから気にしなくていいって」
「そうよ、せっかくだしたっぷり買い物して存分に働いてもらおうよ」
「俺が持つのは愛佳の荷物だけだけどな」
もはや日常茶飯事となった軽口の応酬。
なぜか郁乃とはこういうやり取りが落ち着く。
もしかしたら雄二や由真と近いタイプなのかもしれない。
「彼女の妹なんだから貴明にとっても妹みたいなものじゃない。もっと大事にしなさいよ」
「妹みたいなやつならもう間に合ってるよ」
そうか、タイプ的には由真だがポジション的にはこのみなのか。
「ちょっ、ちょっとあんた、それってお姉ちゃん以外の女にも手を出してるってこと!?」
「ばっ、違う! お隣さんに一つ下の幼馴染がいるんだよ。そいつがもうほとんど妹みたいなやつなんだ」
「……ふーん」
別に浮気してるとかそういう話ではないことはわかってくれたはずなのに、なぜそうもあからさまに不機嫌なのだろうか。
「その子かわいいの?」
「いやぁ、どうなんだろう。ずっと一緒だったからよくわからないな。かわいいといえばかわいいかもしれないけど」
「ふーん、かわいいんだ。ずっと一緒だったんだ」
なんかますます機嫌悪くなってるような……。
「お姉ちゃんってものがありながら、いいご身分ね」
「おい、勘違いするなよ。べつにそういうのじゃ全然ないって。大体俺は愛佳が一番す……」
「す?」
「す?」
鋭い眼光で睨みつけてくる郁乃と、ぐぐっと身を乗り出してこちらをじっと見てくる愛佳。
今咄嗟に自分が何を言おうとしたのかが染み渡ってきて、死ぬほど恥ずかしい。
「い、いや、その……」
なんとか誤魔化そうとするも、二人の視線が突き刺さって抜けない。
とにかくここは強引に話を逸らすしかない。
「そういえば、そいつにも海に行こうって誘われてたんだっけ」
「そいつって……妹幼馴染?」
「うん、まあ」
どうでもいいが妹幼馴染ってなんだよ。
……いや、さり気に言い得て妙だし、ちょっと語呂がいいかも。
「行く気なの?」
「いや、愛佳たちと行くんなら、また行くことになってアレだしな。今回は断っておくか」
「それじゃあかわいそうだよぉ。せっかくだし一緒に誘ってみんなで行くのはどうかな」
「うっ、それはちょっと」
「ダメだった?」
愛佳が探るように顔を覗き込んでくる。
「ダメというかなんと言うか……」
「はっきりしないやつ」
郁乃にそんなことを言われては黙っているわけには行かない。
ここはスパッと男らしくワケを話してやる。
「……恥ずかしいんだ」
なんか結局男らしくはなれなかった気がする。
「? なんで?」
勇気を振り絞ってまで話したというのに、郁乃も、そして愛佳までもハテナ顔。
くぅ、説明までしなければならないのか。
「えーと、自分の家族が友達と鉢合わせしたりするとなんだか気まずくならるだろ? さっきも言ったけど、このみは家族みたいなもんでさ」
「このみ……?」
「ああ、そいつの名前柚原このみっていうんだ。そういえば郁乃とは同い年のはずだっけ。もし会ったら仲良くしてやってくれよ」
「そっ、そうね、会ったらね」
「でまあ、だからこのみに愛佳と一緒にいるとこを見られると思うと妙に照れくさくて」
「……なるほど、それならしょうがないわね。お姉ちゃん、海はあたしたち3人だけで行こ」
「しょうがないのかなぁ」
どうやら愛佳はこのみのことが気になるらしく、未だ納得いかない様子だ。
だがしかし、ここは愛佳の他人を思いやる心よりも郁乃の俺を思いやる心を尊重させてもらおう。
「まあ、このみとは今までにも何度も海に行ってるし。それにまたいつでも機会はあるさ」
「そうそう。貴明の気持ちもわかってあげなよ、お姉ちゃん」
郁乃、おまえって実はすごいいいやつだったんだな。
ライバルなんてとんでもない。
キミはとても素晴らしい理解者だよ。
「さーて、それじゃあ急いで支度しちゃおっと。お姉ちゃん、うちって浮き輪あったっけ」
「うーん、どっかにあると思うけど……。もうちっちゃくて使えないと思うよ」
「それなら買い物行った時に買えばいいよ。郁乃の分の荷物もちゃんと持ってやるから安心しろ」
なに、礼は不要。
これはさっきの恩返しだ。
「それじゃ今日は帰るよ、郁乃も当日になって風邪引いたりしないように今のうちから体調管理はしっかりしておけよ」
「だいじょーぶよ。ふふん、当日が楽しみだわ」
郁乃はにやりと笑うと、とてとてと自分の部屋に帰っていった。
「じゃあ外までお見送りするね」
「あ、うん、さんきゅ」
このとき、郁乃の笑みの理由をしっかりと探求しなかったことを、俺は後日後悔する事となる。
海に行く当日。
待ち合わせ場所の愛佳の家の前に行くと、なぜかそこにいるはずのない、それでいて非常によく見慣れた姿がそこにあった。
「えへー。隊長、おはようであります」
「…………」
なんでこのみがいるんだよ!
思い切りそう叫んでやりたかったのだが、あまりの驚きに言葉にならない。
いまだ驚きが抜けきらずにいるところに、家から出てきた郁乃がやってきた。
「おはようこのみ」
「あっ、いくのんおはよー。今日はお誘いありがとー」
「どういたしまして。今日は遅刻しなかったのね」
「えへー、このみはこういうイベントで遅刻したことはないのでありますよ」
いかにも仲良さげに話す二人に、さらに驚愕。
「あのー、つかぬ事をお聞きしますが、お二人はどういう関係で……」
「実はクラスメイト」
郁乃は誇らしげにVサインをかます。
…………やられた。
「いくのんのお姉さんがタカくんの恋人だって聞いてびっくりしちゃったよー」
「世間って狭いわよね」
「貴明くんおはよぉー。あ、あの子がこのみちゃん?」
愛佳も郁乃と話すこのみを見ても、いるのが当たり前といった顔で驚く様子がない。
おそらく郁乃が根回しを完璧にしていたのだろう。
このみの参加を知らなかったのは俺だけということか。
「隊長、そろそろ出発する出あります」
「そうね、電車の時間もあるし。貴明、あんまりお姉ちゃんとイチャイチャしないでよ。見てるほうが恥ずかしいから」
「……わかってていってるだろ」
「まぁね」
ちろりと舌を出す郁乃。
やっぱりこいつは永遠のライバルに違いない。
260 :
中身:2005/09/12(月) 05:11:24 ID:f5Z2IyBZ0
↑は(12/12)です。
短編を書いてみたので投げさせてもらったんですが、途中で内容重複で1レス無駄に消費したり
完投までやたら時間掛かったりと手際が悪いったらないですね。
いつもはゲームに準じたイメージでキャラを書くようにしているんですが、今回は自分の中にあるイメージで
書いたのですごく書きやすかったです。
そのおかげでだいぶキャラが崩れたように感じてしまうかもしれません。どうかご容赦を。
乙!
楽しく読ませていただきました。
キャラが崩れているというより、キャラを掴んだ上で表現出来ている感じですよ
元気になった郁乃ってこんな感じなんだろうなあと想像が膨らみました。
欲をいうなら、冒頭部分にもう少し工夫が欲しかったかなぁというくらい
>>260 キャラが崩れてる・・・なんてことは、無いと思いますよ。
新作短編、乙でした。GJ!
海の人gj!!
本編で有りそうで無いキャラの絡みは読んでて面白い!
続き期待してますよ。
264 :
名無しさんだよもん:2005/09/12(月) 08:10:33 ID:rG1YzVP2O
ヤバい海ヤバいよ、電車の中だってのにニヤニヤニヤニヤしちゃうよ(*´Д`)
>>264 宇宙ヤバいのコピペを改変して海ヤバいを作れ。
できる頃にはニヤケも治まるだろうよw
これってまだ続くんだよね?
期待してます
てんだぁはぁとまだ〜(・∀・)
海の人もつ!
おもろいでつ
がんがって!
途中で、このみが出てきて黒展開かと 思ってビビッた俺ガイル
このスレではこのみ=黒がデフォですか?www
靴の下をぱりぱりと落ち葉が音を立てる中、彼女は校門への道をゆったりと歩いていた。
掃除の行き届かない部分は気に入らないものの、その乾いた音は同じく乾いた彼女の心を癒す。
楓の大きな葉、銀杏の扇型の葉、そして桜の小ぶりな葉。
風に吹き寄せられて校門への途上のあちこちに枯れた色彩の群れを作っている。
ここ最近の彼女は独りを好んだ。
独りでいるほうが、自分が望んだ時空の中で遊んでいることが出来る。
そんな風に内向的にみられたことはない。きっと彼女を知る人は意外に思うだろう。
しかしそうやって空想の世界に生きることが、彼女は嫌いではなかった。
古い家に生まれるということは何かと面倒が多い。
それでも精一杯のわがままを通してみたつもりだが、そのわがままも結果出さなければ
それは単なる甘えでしかない。それ以上のわがままを通す気も、既に彼女にはなかった。
こうやって自分の心の中で遊ぶことが出来る時間も、大して残されていないことを彼女はよく理解していた。
だからこそこの時間を大切に使いたいと考えている。
せめて想いが残っているうちは、その小さなわがままを自分に許すつもりでいた。
二学期の中間試験など彼女にとってはなんでもない。
終わった者から帰ってよいという試験監督の教師の言葉を幸いに環は最後列の席から音もなく立ち上がると、
美しい手つきで答案用紙を裏返し、ほとんど誰にも気付かれることのないまま教室を出た。
メイドロボが恋人の代わりまでするご時世に、忍者もどきの武者修行がなんの役に立つのか
疑問に思いながら幼少期を過ごした彼女も、こういう時に意外な使い道があることに気付いて妙におかしい。
他のクラスから出てくる人影はなく、下の学年もまだテスト中のようで校舎内は静まり返っている。
人の気配はこれ以上ないくらい濃密なのに、まるで誰もいないかのような独特の雰囲気の中、
足音を消して彼女は廊下を行く。
別に足音を消す必要もないのだが、そうするとまるで自分がうたかたの煙のようになった気分がして
どこにでも行けるような気がするのだ。
久しぶりに自分の気配を消すようにして歩いていたため、靴箱を開け閉めする音がやけに大きく感じられる。
学校指定の靴と制服の組み合わせは彼女のお気に入りだった。
色気もそっけもない九条院の制服に比べると華やかで浮ついていて、あそこにいると忘れてしまいがちになる
つやめいた数々の感情を彼女の中で喚起させたものだ。
まっすぐ歩いているようで、彼女はさくさくと落ち葉を踏むのに夢中になっている。
校舎の窓からこちらを見る視線はなく、校門につながる道に人影はない。
彼女はちょっと歩みを止めてひざをかがめると、ふわ、としなやかなばねを使い
落ち葉の積もっている辺りを狙って軽く跳んで歩いた。
足の裏から心地よい感触が伝わってきて、その感触が彼女の表情を久しぶりに少し崩させる。
「タマお姉ちゃん、久しぶりだよ」
「!」
童心に返ったように落ち葉を踏んでいた環は最後の落ち葉に足を置いたところで声をかけられ驚いた。
校門の門扉にもたれるようにして、彼女が物心ついた頃から知っている少女が彼女を見つめていたからである。
「あ、このみ。もうテスト終わったの?」
「うん。さっぱりわからないから出てきちゃった」
「もう……。赤点とったらどうするの」
「タマお姉ちゃんに教えてもらうからいいよ」
そう言ってこのみはにこにこと笑った。それにしても……。と彼女は自分に苦笑する。
落ち葉踏みに夢中になって幼なじみの気配にも気付かないなんて。あっちに戻ったら苦労しそう。
思わずため息をつく彼女の顔を妹分は不思議そうに覗き込んだ。
「どうしたの?」
「ううん。なんでもないの。このみがいたのに気付かなかったなんて、って自分にあきれてたのよ」
「タマお姉ちゃん、楽しそうだったもんね」
「見てたの?」
思わず顔に血が上った。
普段えらそうに肩肘を張っている分、そういう無邪気な部分を見られるのは恥ずかしいものだ。
「笑ってるタマお姉ちゃん久しぶりだったから、なんだかわたしもうれしかったのでありますよ」
言われて見れば環にしてもこうやってこのみと言葉を交わすのは、ずいぶんと久しぶりだったし
まして笑顔を見るなんていうことも、記憶から引っ張り出してこなければならないほど過去のことのように思える。
どちらかが言うともなく肩を並べて歩き出す。
このみは饒舌だった。
クラスのこと、中学時代の同級生のこと、先生のこと、家族のこと……。
しかし、かつてどれだけ語っても飽きなかった一人のことだけは、ついに口にしなかった。
彼女がその人と一緒に登下校する姿を見ることがなくなって久しい。
たかだか数ヶ月のことであるのに、久しいといえるほどの時間がたったような気が、環にはしていた。
「ね、タマお姉ちゃん。公園行こうよ」
ひとしきり近況を語り終えたこのみは環を誘った。
落ち葉踏み、わたしもしたくなっちゃった。
そう言って二つ下の少女は、
昼間の陽光を受けてもあまり熱を持たなくなったアスファルトの上をひらひらと飛んでいく。
数歩先でとんとん、と軽い靴音を立てて着地した彼女は環のほうを向いてうれしそうに微笑んだ。
すっかりきれいになった。
環が知っているこのみはかわいらしい顔立ちこそしているものの、髪飾りがなければ男の子と
間違うほど、骨ばって、そして日にも焼けていた。
それが今では、胸には柔らかそうな隆起が育ち、横顔には花咲く寸前の控えめな美しさが紅色をさし
振り向いた笑顔には純真と健康的な媚態が漂っている。
「見て! 落ち葉たっくさんあるよ」
公園のあちこちには掃き寄せられたのか、風に吹き寄せられたのか、学校とは比べ物にならない
落ち葉の山があちこちにでき、ここ数日の乾いた晴天のおかげで水分のぬけ切った落ち葉色をなしている。
このみはベンチに鞄を置き、ぽーんと飛び上がるとその山の頂の一つに降り立った。
かさっ、と心地の良い音がして彼女の足首まで落ち葉が埋める。
さくさくとこのみはその場で足踏みし、感触を楽しむと次の山に移る。
三つ目の山の頂に降り立ったところで、このみは環を手招いた。彼女も鞄を置いて、このみと同じ枯れ葉の山に足を置く。
やがて二人は小さい頃に戻ったかのように無心でその感触と音を楽しんだ。
時計の針が二時を差す頃、二人はほぼ同時におなかを鳴らし、けたけたと笑い合った。
制服にかかった枯れ葉の破片を払い落とし、ベンチに置いた鞄を手にとって公園を出る。
まだ小学生も帰ってこない時間帯、公園には赤ちゃんを連れた数人の若い母親以外は誰もいず、
ほぼ貸しきり状態だった。
「楽しかったね」
このみは言葉を弾ませて環を見上げる。昔を思い出すわね、と言いかけて彼女は口をつぐんだ。
昔を思い出して二人で切ない思いをすることもない、と思い直したのである。
そうね。と無難に答えた環に、
「タマお姉ちゃん、これからは時々遊びに行ったりしてもいい?」
とちょっと遠慮がちにこのみは尋ねた。
「そんな遠慮するような間柄でもないでしょ?」
環は承諾を与える代わりに、ちょっと上目遣いでこちらを伺っている妹分の頭をなでる。
「やた〜!」
「最近このみとも遊んでないものね」
「うんっ。タマお姉ちゃん、ずっと忙しそうだったから……」
「大丈夫。このみのためなら忙しくたって時間あけるから」
「ホントに? えへー」
くるくる回って喜びを表現したこのみは、大きく手を振って帰っていった。
このみが遠慮するのも無理はない。環はため息をつく。
春からこの方、彼に恋人が出来てからというもの彼女を取り巻く人間関係は微妙な軋みを見せた。
環は自分がいかなる状況でも我を失わないくらい修行を積んだと自負していたがそれは全くの誤りで、
意識的に視界の中に彼を入れないように心がけるようになってしまった。
彼を、と言うより彼にまつわるもの全てが疎ましくなったのである。
彼とその彼女はもちろんのこと、このみや弟ですら関わりを持ちたくなくなっていた。
何か用件を見つけようとすればあるのが旧家の良いところでもある。
見たくないものから目をそらすように、かつて毛嫌いしていた家にまつわる諸々の事に没頭していた。
数ヶ月経ち、自分の心が落ち着いて改めて振り返る。なんと情けないことか、と環は自己嫌悪に陥ったものだ。
姿が見えなくなるまでこのみの背中を見送った環は再び小さくため息をつき、踵を返して家路についた。
実際の数値よりも大きく見えるいつもの威圧感はそこになく、
背筋こそしゃんと伸びてはいるものの、下を向いてゆっくりと歩き出す。
ふるさとだもの。時にはこういう風であっても、許してくれるわよね。
木の一本、塀の傾き加減にまで甘えるような気持ちでとぼとぼと歩く。しかしそれはすぐに破られた。
自分の名前をあだ名で呼ぶ声に、反射的に顔が上がる。
視線の先には、これまで彼女が避けるようにしてきた少年と、その横に寄り添うように恋人の姿があった。
277 :
残心 中の人:2005/09/13(火) 14:00:08 ID:e7lSGinN0
初めて投稿させて頂きます。
いろいろと拙い部分もあるかと思いますが、
どうぞよろしくお願いいたします。
乙〜
イイヨイイヨー
もっと絡みきぼんぬ
(*´Д`)
>>277 文章が美しい!( ゚∀゚)
しかも重要なところで寸留め…
期待するなっつっても期待するってのwww
>>277 第一話乙〜。
秋、という季節の似合う話になるんでしょうかね?
続きも期待大!でお待ちしてますよ。
いつもお世話になっております。
SSの続きをアップ致しましたので、また読んで頂けますと幸いです。
http://fsm-hmx-12.hp.infoseek.co.jp/th2_ss_f.html 感想をくださった皆さん、どうもありがとうございます(=゚ω゚)ノ
>>176さん
誕生日SS、楽しく読ませて頂きました。
このみスキーなもので、誕生日の話をどなたか書いてくださらないかな、と思っていたのですが
まさかテンダーハートの作者様が書いてくださるとは。眼福であります('-'*)
>>207さん
虹の欠片、この先の展開がとても気になります。
本編と毛色の違ったお話を書かれるのは大変だと思いますが、頑張ってください。
>>260さん
郁乃SS最高です。
これで完結なのでしょうか。続きが読みたい気分になってしまいました('-'*)
恋人ってだれなんだあ?気になる〜
あえて誰かは書かない。これがよいですな。
恋人が誰なのかは、読み手が想像すればいい。
このみ、タマ姉以外の一番お気に入りのキャラを当てはめれば、よし。
どうも俺と由真は趣味趣向が似通ってるらしい。あまり嬉しくないんだけどさ。
昨日の春夏さんの忠告をみんなにも伝え、今日からは全員別々に登校しようと提案した俺だったが、
タマ姉に「やましさがないのだから堂々としていればいい」と却下された。本当に大丈夫だろうか?
学校に旅行用のスーツケースを持ってきた草壁さんは、そのまま俺の家までついてきて「約束通り、
来ちゃいました」と俺の家に住むことを宣言。あのときの「来ても」ってそういう意味だったの!?
タマ姉が草壁さんに俺の家に来た理由を尋ねると、草壁さんは少し躊躇い、だけどその後きっぱり
と「貴明さんが好きだから」と答えた。ま、マジですか……?
「ふぅ〜っ、汗をかいた後の麦茶は格別ですね。
スーツケースが重かったから、ちょっと疲れちゃいました」
出された麦茶を一気に飲み干し、草壁さんは満足そうに笑った。
「冷たい麦茶って、頑張って汗をかいた人へのご褒美って味ですよね。少しはしたないですけど、
冷たい内に一気に飲み干すのが麦茶の醍醐味だと思います。みなさんもそう思いませんか?」
「え? ええ、そう、かもね……」
草壁さんのその問いに、あいまい気味に答えたタマ姉。他のみんなは何も言わず、自分の麦茶を
ちびちび飲んでいる。だからと言ってみんなが草壁さんを無視しているわけじゃない。いや逆に、
みんな草壁さんが気になって仕方がない様子。無理もないよな、あの爆弾発言の後では。
なんてまるで他人事のように言ってるが、その発言の対象である俺が多分、この中で一番戸惑って
いると思う。だって突然すぎるよあの告白は。
草壁さんのことは決して嫌いじゃない。でも、だからと言って特別な好意を抱いていたわけでも
なくて、だから草壁さんのあの告白には、正直、どうしたらいいのか見当もつかない。
「あの……」
「え? な、なにかしら?」
草壁さんはタマ姉に、ちょっと恥ずかしそうに、
「おかわり、してもいいですか?」
氷だけが残ったグラスを手にそう尋ねた。
「あ、ああ、麦茶ね。ええいいわよ、ちょっと待ってて」
「あ、いいです環さん、自分でしますから。もう私、ここのお客さんじゃありませんし」
立ちあがろうとするタマ姉を制し、草壁さんはグラスを手にキッチンの冷蔵庫へと歩いていった。
それを見計らっていたかのように、由真、花梨、このみが一斉に立ちあがり、そして、
「たかあき、ちょっと来て」
俺は由真たちに引きずられるように廊下へと連れ出された。
「さてと、それじゃあ説明してもらいましょうか」
腕を組んで俺を睨む由真。
「説明って、何をだよ」
「決まってるでしょ。あの草壁ってコのことよ。あんた、あのコとつきあってるワケ?」
「べ、別につきあってなんかいないぞ」
「ここは正直に吐いた方が身のためだよ、たかちゃん」
「タカくん、ホントに草壁さんとつきあってるの?」
「笹森さんにこのみまで……、あのなぁ、俺だって驚いてるんだぞ。あんな風に好きだなんて言わ
れたの、その、初めてだし……」
「何よその満更でもないって顔は!? たかちゃんの浮気者ぉっ!!」
いや、そんなこと言われても。
「草壁さんには彼女がうちの学校に転校してきた当日に話しかけられて、彼女の話だと小学校の頃、
俺と草壁さん、よく一緒に遊んでたらしいんだ。でも彼女、家の都合で引っ越しちゃったんだけど、
それが今年の春になって、またこっちに戻ってこられたんだって。で、俺にまた会えて嬉しいって
言ってくれたんだけど、俺の方はイマイチ思い出せなくてなぁ……」
「ふぅん、つまり彼女は小学校の頃からたかあきが好きで、転校した後もずっとたかあきのことを
想い続けていたワケだ」
「で、念願叶ってこの街に戻ってこられて、たかちゃんとも運命の再会を果たせた、と」
「でも、タカくんの家に他の女の子がいっぱいいることを知った草壁さんは、このままじゃタカくん
を誰かに取られるって思って、一大決心したんだね」
「そ、そうなる、んだよなぁ……」
由真たちの推理は事実だろう。否定もごまかしも、草壁さん自身の言動がそれを許さない。
「それじゃ聞くけど、たかあき、どうするの?」
「ど、どうするって?」
「このまま優季ちゃんをこの家に住まわせるかってことに決まってるじゃない。
結構重要だよこれって。住むのを認めるってことは、たかちゃんが優季ちゃんの好意を受け入れる
ってことになるし、住むのを認めないってことは、彼女を振るってことになるかんね」
「どうするの、タカくん?」
「ど、どうするって、なぁ……」
まさに究極の二択だ。今のところ俺は特別、草壁さんに恋愛感情は抱いていない。ま、まあ、結構
カワイイとは思ってるんだけどね……。でも、だからといって、ここまで俺を想って来てくれた草壁
さんを傷つけるようなこともしたくはないし……。まいったなぁもう。
「……とりあえず、しばらく時間を……」
「時間をおいて、どうするのよ?
たかあき、わかってるの? 少なくとも草壁さんの方はもう結論出してるんだよ。
後はたかあきの答え一つじゃない。逃げんじゃないわよ」
「べ、別に逃げたいワケじゃねぇよ! ただ……、考える時間が欲しいんだよ。
みんなだって想像してみろよ。もし自分が知ってる男子から突然『好きだ』って言われて、その場
ですぐに返事が出来るか?」
「そ、それは……」
「え、えっと……」
俺の質問に言葉を詰まらせる由真とこのみ、しかし……
「たかちゃん、それって……たかちゃんが私のこと好きって意味なの!?」
妙な質問を返す花梨。
「はぁっ!?」
「だって私、知ってる男子って言ったらたかちゃんだけだから、その質問だとたかちゃんが私に告白
したらどうするって意味だよね?」
「ち、違うよ。第一俺、笹森さんの交友関係なんて全然知らないし……」
しかしその否定は、既に花梨の耳には届かなくなっていた。
「ああ〜、どうしよう?
私とたかちゃんはあくまでもミステリ研の部長と部員。部内恋愛は当然御法度!
だけど、だけど、この胸の高鳴りを抑えられないのもまた事実! たかちゃんはそんな苦悶する
花梨ちゃんを見て楽しみたいとでも言うの!? なんて残酷なたかちゃん!」
「おーい、ささもりさーん……」
「はっ!? もしかして私、今、試されてる!?
『部活と俺、どっちを取る?』ってことなのたかちゃん!?
たかちゃん解ってるの? ミステリ研究は私にとってはライフワークなんよ。それをたかちゃんは、
愛のためなら手放してしまえとでも言うの!?
無理よそんなの! 私からミステリを取ったら一体何が残るって言うの!? 第一、そんな残り
カスのような女を愛せるとでも言うの!?
ああっ、でもそれでも、そんな花梨でも愛してくれるとたかちゃんが言うのなら、私、私……
……って、あれ? たかちゃんどこ行ったの? 由真ちゃんもこのみちゃんもいないし?
おーい、誰かー?」
妄想モードに突入した花梨を放置し、俺たちは居間に戻った。
ソファーの方を見ると、草壁さんと瑠璃ちゃんが話をしている。タマ姉とるーこは黙ってそれを
聞いてる様子。
「……そう、それで瑠璃さんは、貴明さんの家に住むことになったんですね」
「うん……」
草壁さんはどうやら、瑠璃ちゃんがこの家に住むことになった経緯を聞いていたようだ。
瑠璃ちゃんが学校の屋上から飛び降りようとしたのを俺が止め、家に連れ帰ったあの日、草壁さん
も俺たちと一緒にいた。だから草壁さんも、その後の瑠璃ちゃんのことが気になるのは当然だろう。
「でも、今の話を聞いて私、安心しました」
「安心?」
「はい。だってあの時の瑠璃さん、とても儚そうだったから。誰かが支えてあげないと、脆く崩れて
しまいそうに見えました。
でも、ちゃんと貴明さんが支えてくれたんですね。そして貴明さんは、瑠璃さんが心の傷を癒す
場所として、この家に瑠璃さんを住まわせたんですね」
「心の、傷……」
「心の傷って、癒えるまでとっても時間がかかりますから。それに場所と手段を間違えたら、癒える
どころか余計に傷が深くなってしまいます。
多分貴明さんは、もしこのまま瑠璃さんが元の家に帰ったら瑠璃さんの心の傷がより深く、いえ、
もしかしたらこのまま治らなくなってしまうと思ったんじゃないでしょうか。だから貴明さんは瑠璃
さんを引き留め、珊瑚さんもそれに気付いて、瑠璃さんを貴明さんに預けたんでしょう。
こんなことを言っても今の瑠璃さんには解らないかもしれませんが、瑠璃さんは幸せですよ」
「う、ウチが幸せ……? 優季、なんで?」
「どうしてそんなことが解るのか、ですか?
解りますよ。だって私も昔、貴明さんに癒してもらったことがありますから。
引っ込み思案で、いつも独りぼっちだった私……。そんな私に手を差し伸べてくれたのが貴明さん
でした。一緒に遊んでくれた貴明さん、とっても嬉しかった……。今でも私、貴明さんに感謝してる
んです。そして、きっとそのときから、貴明さんは私にとって特別な人になったんです」
「優季……」
「多分瑠璃さんも、そのうち気付くと思います。貴明さんの優しさに。
あ、でもだからって、貴明さんは譲りませんからね」
「べ、別にウチ、貴明なんか好きちゃうもん……」
……俺は、自分の顔が火照るのを止められなかった。誉められ過ぎて恥ずかしいよ草壁さん……。
「……だって、タカ坊」
居間のドアの前で突っ立って話を聞いていた俺に、タマ姉が振り返る。
「あらあらそんなに顔を真っ赤にして。照れることないじゃない、素敵な思い出だと思うわよ」
「か、からかうなよタマ姉……」
「成る程。これでうーかべがうーにホレている理由が解った。
どうやらうーは、るーが思っている以上にいい”うー”のようだな。ますます興味が湧いてきたぞ、
うー」
るーこまで楽しそうに俺をからかうし……。
「はいはい、素敵なメモリーですこと。
しっかし、思い出は美化されるってよく言うけど、いくら何でもたかあきのこと誉めすぎじゃない
の〜? こいつがそんな大した男だとは到底思えないんだけど」
由真が呆れ顔でそう冷やかす。しかし、草壁さんは穏やかな声でこう言い返した。
「私が貴明さんを誉めるのが気に入らないんですか?
それとも、自分が知らない貴明さんを私が知っていたのが気に入らないんですか?」
「な!?」
それは由真にとっては挑発に聞こえたのだろう。たちまち由真の顔が怒りに染まる。しかし草壁
さんはなおも穏やかに話を続ける。
「なら、私も一緒です。
私が由真さんの知らない貴明さんを知っていたように、きっと由真さんだって、私の知らない貴明
さんを知っています。そしてその中には必ず、由真さんが認める貴明さんの良さがあるはずです。
そうでなければ、由真さんが貴明さんの家に来るはず無いじゃないですか。
由真さんが家出をした理由は解りません。でも、ほんの僅かでも、貴明さんの良さにすがりたい
気持ちがあったから、由真さんはここに来たんじゃないですか?」
「わ、解った風な口聞かないでよ!
べ、別に誰の家でもよかったんだから。た、たまたま、たかあきの家が部屋空いてそうだったから
来ただけよ。それだけなんだから、本当に……」
「そうですか? なら、私の勘違いだったようですね。
ごめんなさい。私、ちょっと嫉妬してるんです。由真さんが、いえ、他のみなさんも、私の知ら
ない貴明さんを知っているんだって思うと、私……」
「草壁さん……」
「こんなこと考えてもキリがないって自分でも解ってるんですけど、どうしようもなくて。
でも、こうして私、貴明さんに近い場所に来ちゃいましたから、これからはみなさんに負けない
くらい、貴明さんのことをいっぱい知って、貴明さんにも私のことをいっぱい知ってもらうつもり
です。そうじゃなきゃ、たった一人しかいない貴明さんは、私だけの貴明さんにはならないから」
ドキッ!!
草壁さんが今言った、「たった一人しかいない」という言葉が胸に突き刺さる。
俺は少し前、同じような言葉を耳にしたことがある。それは、俺にとっては妹同然の、幼なじみの
このみが口にした言葉。
『……それはね、たった一つしかないものを、みんなが欲しがっているから。
どんなに頑張っても、手に入れられるのはたった一人だけだから……』
そしてあの時、このみはこうも言っていた。
『わたし、これだけはどうしても手に入れたいんだ。
タマお姉ちゃんにも、他の誰にも、取られたくないんだ……』
俺は思わず、俺の横にいるこのみを見た。
このみの首はやや俯き加減で、どんな顔をしているのか解らなかったが、その両手は胸の前で硬く
握られていた。
今晩の夕食は、草壁さんとるーこが作ることになった。
草壁さんが、「今晩は貴明さんのために一生懸命腕を振るっちゃいますから、楽しみに待ってて
下さいね!!」と宣言し、そのハイテンションぶりにみんながついていけない中、唯一マイペースを
維持するるーこが「ならばるーが手伝ってやる。感謝しろ、うーかべ」と申し出たのだ。
キッチンからは草壁さんの鼻歌が聞こえてくる。実に楽しそう。
一方、俺を含めた他のみんなは居間でTVを見ている。TVに映っているのはニュース番組。様々
な事件事故、最新情報などが次々と流れる。そしてそれを、ボーッと見ている俺たち。
……
「……あ、この事件、犯人捕まったんだ」
「そうみたいね。よかったわね」
「うん、そうだね」
……
「へぇ、この歌手、結婚するんだ」
「まあ別にあたし、この人のファンじゃないからどーでもいいけど」
「うん、わたしもだけど」
……
「この行列の出来るラーメン屋って、ホンマにうまいんやろか?」
「さあ、行ったことないからわかんない」
「まあ、実際食って見なきゃわからんわな」
……
「あ、明日、降水確率30%だって」
「一応、折り畳み傘は持っていった方がいいみたいだね」
「うん、そうやね」
……
……うーむ、一体なんなのだろう。俺たちのこの雰囲気は。
一見、みんなしてTVを見ているようで、その実どこか上の空。まるで別のことを考えているよう。
いや実際、俺は別のことを考えている。やっぱり草壁さんのことだ。
恋愛沙汰に不慣れな俺でも、草壁さんの俺への気持ちが真剣なものだってことは解る。そして俺
自身、そんな草壁さんに対して、少なくとも悪印象は抱いていない。って言うか俺、草壁さんのその
一途さに感動してるし、その想いに対して、だんだん肯定的になっているような気がする。それは
つまり、草壁さんの好意を受け入れるってことで、それはつまり、草壁さんと俺が、その、おつき
合いするってことで……。
い、いやいやちょっと待った! ブレーキブレーキ! 本当にそれでいいのかよ河野貴明!?
単に浮かれてるだけじゃないか? 流されてるだけじゃないか? 俺は草壁さんが好きなのか?
好きになれるのか? それに俺の今の気持ちはどうなんだ? もしかして、他に気になるヤツが……
つづく。
どうもです。第23話です。
14話と言い22話と言い、本作での草壁さんはかなり積極的です。
今回も草壁さんはかなり積極的なのですが、正直「これって草壁さんかぁ?」と言われるんじゃ
ないかとヒヤヒヤしています。本編では穏やかな女の子ですからね。
でも草壁さんって、貴明に対する想いはハンパなじゃなく強くて、それがあの奇跡を産む原動力に
なったのではと思う次第でありまして、そんな彼女が他のヒロインと知り合ったときにどうなるかを
考えて、こうなりました。
よって作者はこれからも、積極的な草壁さんを描いていくと思います。
以上、作者の言い訳でした。(^^;
>>293GJ!!
草壁さんイイヨ(・∀・)イイヨー
>>281 むぅ。今回の話を操る(裏で糸引く、とも言う)のは草壁さんと思っていただけに、
ちょっと意外な展開かも。それとも、そう見せかけて実は・・・ってことも?
このあとの展開がますます楽しみ。
>>293 リアルタイムで読ませてもらいました。
TH2のヒロインで、自分の思いを「素で」ストレートに語れる人は
草壁さんしかいないっしょ。
あえて他を探せば珊瑚ちゃんとるーこだけど、彼女たちは存在自体が変化球だし。
積極的な草壁さんに違和感なんて無し!
これからもこの路線で突っ走ってください>作者さま
>>293 河野家喜多ー!!!
いや、草壁さんは積極的だと思いますよ。
このままガンガンいってくださいw
で、そろそろ委員ちょが復活する頃でしょうか?(期待)
, -‐―‐‐-、
/ / `ヽ
| ノ |_l_l|__l|_j_)」
| |(l| ┃ ┃ | |
| ||ハ、''' ヮ''ノi | <貴明さんが好きだから!
| l⊂}| {介}|{つ
ハlL く_/_|_j_ゝノ
(__八__)
>>281 ミルファ神キター
GJ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「タマ姉、こんなところで珍しい。今帰り?」
彼はいたって無邪気に聞いてくる。環の家の方角とこの公園は少しずれている。
公園は学校から彼の家までの途上にあるから、彼は毎日ここを通っているわけだ。
イレギュラーなのは自分のほうであって、彼が驚くのも無理はない。
それにしても、と環は感心する。
昔は私の顔を見るとどこかこそこそしていたのに今は堂々としたものだ。
私が大好きだった初々しさは失われつつあるけれど、男は変わってなんぼ。これはこれでいいのだろう。
彼女は後ろのちょこんと立っている女の子には目を向けずに彼に答える。
「ええ。ちょっと寄り道したくなってね」
「そう、じゃあ」
私がどうしてこの公園に来て、誰とどんな時間を過ごしたかなんてことは彼の興味を惹く話題ではないのね……。
そこであっさり終わる会話に環は一抹の寂しさを覚える。
恋人を促すと彼は家に向かって歩き出した。彼の背中に隠れるように立っていた少女は環と目を合わせないまま、
なんだか申し訳なさそうに会釈して彼についていく。
ドロボウネコ。しゃきっとしなさいしゃきっと。
心が勝手に彼女を罵る。
私とこのみが逡巡している間に、横から出てきてさっさと彼を持って行ってしまった。
冷静に考えて誰が悪いかといったら、もたもたしていた私たちが悪いに決まっている。
でもどうして。どうして私じゃないの? どうしてこのみじゃないの?
環の心は堂々巡りの自問自答を繰り返す。
貴明の袖をちょっとつかんで歩いていた少女が環のほうをちらりと振り返り、あわてて視線を前に戻した。
秋の日差しは昼を過ぎて既に黄色の度合いを増し始めている。
環の靴の下で枯れ葉がかさかさと音を立てたが、もうその音は彼女の心を浮き立たせない。
空腹だったことも忘れ、川の土手道の脇に腰を下ろす。環は傍らの葉の大きな雑草を一本抜いて草笛を吹いた。
久しぶりだったのではじめなかなかきれいな音が出ない。やっとのことでまっとうな旋律を奏でられるようになった頃には
日が翳りだしていた。しかし瞬間でも嫌な気分を忘れられたことに彼女は満足する。
そっかあ。音をだすと気が紛れるのよね。家に帰ったらどーんとピアノでも弾こうかしら。
音の世界にいる間は、悲恋のヒロインにも救国の英雄にもなんにでもなれる。
嫌な空想で心が押しつぶされそうな時には鍵盤にその鬱屈をぶつければいいんだ。
いまさらながらの考えに環は気分が良くなり、いくぶん軽い足取りになって枯れ葉を踏む。
最後の角を曲がると、家の前からごついリムジンが滑るように走り出て行くのが目に入った。
文化財級の門構えは外に向かって大きく開かれ、ここ最近点いていなかった明かりが各所にともっている。
環は両親が帰っていることに気付き、少々気が重い。
今は仕事の話をされたくない。
そのまま回れ右をしてどこかに行こうかとも思ったが行くあてもなく、靴を脱いで自室に上がる。
弟の部屋からは大音量で音楽が聞こえいつも通り。気楽なものだった。
向坂家は古くから不動産業を営んでいる。
明治期において没落した士族の土地を大量に買占め、戦後の混乱でさらにその影響力を高めた彼女の一族は
街角にある、土地や建物を仲介する個人向けの会社とは比較にならない経済規模を誇っていた。
政界や財界に多大な影響力を及ぼしているのも狭い国土の何割かを左右できるだけの実力あってこそ。
しかしその力を維持し続けるのは生半なことではない。
土地にはあらゆる怨念がしみこんでいる。あぜの一つ、杭の一本を巡って簡単に人が死んできた国である。
何事にもドライな現在ですら、土地に絡んだもめごとは圧倒的に多い。
紙媒体にすれば莫大な量になるその権利書の扱いには、すさまじいばかりの気迫と人情の機微を捉える熟練が必要だ。
九条院から帰ってきたのを幸いに、父親は環に仕事のいろはを教えだしていた。
早々に家督を放棄すると宣言した長男に仕事上の見切りをつけた父親を環は拒めない。
手に入れられなかった彼のこともあって自分なりの未来が描けなくなっていたこともきっかけの一つとなっていた。
楽しくはない。
楽しくはないが、緊張感があるだけにそのことを考えずに済むからこそ続けている。
なにより彼女が手伝うと父親が非常にご機嫌麗しくなるので、一族中から彼女は仕事の継承を望まれていた。
「なんでしょうか」
珍しく父親の和室に呼ばれた環は、背筋を伸ばして父親を見る。
「最近学校はどうだ」
手ずから茶を点て、一見無造作でありながら作法どおり型を踏んで娘に茶碗を差し出す。
環はぴしっと胸を張り、教科書どおりの作法でそれを口にし父に返す。
「楽しいですわ」
「そうか……」
なにかを探るような口調である。父親が仕事以外で、しかも自分に向かってこういう遠まわしな
雰囲気をだすことは珍しい。内心首をひねっていると
「環にはいま言い交わした人がいるのか?」
とまたえらく古風な言い回しで娘に恋人の有無を尋ねた。
環の脳裏に一瞬一人の少年の笑顔がよぎるが、それは幻のようにすぐに消える。
「いません」
「そうか……」
普段あまり感情を表に出さず、鉄仮面とあだなされている父親が何事か逡巡していた。
環はじっと黙って父親の次の言葉を待つ。
「実はな、縁談が来ている。環の婿に一人いいのがいるがどうか、とな」
「縁談……」
唐突に切り出されて今度は環が動揺した。父親の恋愛観や結婚についての考え方を聞いた事のない彼女である。
しかし旧家のしきたりを破って恋愛結婚を果たした父親からよもや見合いの話が出るとは思わず、環は目を瞠るしかない。
「今すぐに、と言うわけではないし、もちろんおまえが気に入らなければ断って構わない」
彼は珍しく早口で、弁解するように言った。
そうか。環はふと思い当たる。相手がかなり大きなスジなのだ。
向坂家の棟梁が仕事を継がせようとしているほど期待している娘に、縁談を押し付けることが出来るスジなど限られている。
「相手は?」
「来栖川だ。本家ではないがエレクトロニクスの社長候補だ。私も一度会ったがなかなかの男だぞ」
「そうですか……」
結論は急がないでいい。という父に頭を下げて部屋を出る。
おおかたそんなところだろうと彼女は思っていた。
最近の寄り合いで、一族のこれからの発展のためにどこと組むか議題になっていたからだ。
確かに来栖川と組めば、不動産の向坂と動産の来栖川で鬼に金棒だろう。
しかし環はそんなスケールの大きな話よりも、もう少し女の子としての幸せも追求してみたかった。
学校帰りに好きな人のそでをちょっとつまんで、頬を赤らめながらついて歩きたかった。
結論を急がないというのなら、もう少し考えてみよう。
環は部屋に戻るとそのままベッドに倒れこんだ。
頭の上に重石が乗っかっているような気分のまま数日が過ぎた。
怏々と楽しまない風の環に声をかけるものはクラスにいない。
まして下級生は沈んだ表情の威厳高い編入生に声などかけられるわけもなく、校内で環は一人の時間を過ごしていた。
考えなければならないことはいくらでもあるのに、恨みにも似た暗い情念が浮かんでは消える秋の放課後である。
縁談の話がきた週末の下校途中。校門の向こうに今ただ一人彼女の心を癒すことの出来る人物の気配を環は察知した。
お互いの姿を認めた二人は思わずふわっと微笑んでしまう。
「このみ、誰か待ってるの?」
「タマお姉ちゃん待ってたんだよ」
「そう。じゃあ一緒に帰りましょうか」
「うんっ」
大きな黒目をくるくるさせてこのみは環の横に並ぶ。背が少し伸びて、美しい肌に少し下地が塗られていることに気付く。
「お化粧?」
「うん。お母さんに教えてもらったんだよ」
「化粧なんかしなくても十分きれいよ。このみは」
「ホント? えへへ……」
照れくさそうに笑う。
「今度タマお姉ちゃんに教わりたいなあ」
「私? いいわよ。でもこのみに私のメイク合うかしら」
「んー……お化粧したらタマお姉ちゃんみたいにぼいんぼいんなるといいのに」
環は思わず吹き出す。ちょっと想像してしまっていた。
「このみはこのみらしいのが一番だと思うけど?」
「むー。ひどいよ」
「ごめんごめん」
「でも笑ってくれてよかった。最近のタマお姉ちゃん、なんだか苦しそうな顔してたから」
「苦しそう……」
「わたし、まだ全然子供だけどタマお姉ちゃんの力になりたいんだよ」
「そっか。ありがとう、このみ」
頭を優しくなでられてこのみはうれしそうに目を細めた。
いつもの分かれ道で手を振って別れる。十数分話していただけなのに、環の心は明るさを取り戻していた。
日常の他愛のない話をしているだけなのに、環は数回声を上げて笑ったのを思い出す。
本当に健気で、優しい子だ。途中何回も振り向いて手を振る幼なじみを笑顔で見送ると
久々にいい気分で家の門をくぐった。
その日の夜、
「姉貴、電話。このみから」
弟のぶっきらぼうな声が扉の外から聞こえて彼女は集中を破られた。
民法の判例書を読んでいた環は付箋を貼って本を閉じ階下に降りて受話器をとった。
─タマお姉ちゃん?
「ええ。どうしたの?」
─今からお泊りしに行っていい?
「え? いいけど、だってもう九時よ?」
─いいの。お願い。
「わかった。途中までお迎えに行ってあげるから気をつけていらっしゃい」
あわてて出かける用意をして靴を履いている環に雄二が声をかけた。
「このみ、なんだって?」
「いまから泊まりにくるって。急に珍しいこともあるものね」
「そっか……」
何か引っかかる弟の雰囲気に彼女は顔を上げた。
「何かあったの?」
「いや。たださ、どっか泊まりに行きたくなる気持ちもわかるなって」
「どういうこと?」
「さあな」
雄二はそう言うと、俺もダチんとこ遊びに行くかもしれないから、と自室へ戻っていく。
引っ掛かりが解消されないままとりあえず環は家を出た。
307 :
残心 中の人:2005/09/14(水) 16:01:52 ID:9b9h9DeE0
第二話であります。
>>278さん
初感想ありがとうございます! これからどんどんと絡めて行きます。
>>279さん
美しいなんて畏れ多い…。レベルの高い書き手さんたちに混じって
少しでも自分の水準を上げていきたいと思っております。
>>280さん
秋の季節に合わせ、そこはかとなく寂しげで、でも心に残るような
物語を作っていけたらいいな、と考えております。
>>282さん
貴明が連れているのは誰なのか。誰であってもきっと環たちの無念は
深いと思います。長年の想いが届かなかった二人の気持ちを綴っていくつもりです。
>>283さん
きっとお読みいただいている方によって、最も効果的な恋人が
変わってくると思います。いろいろなヒロインを当てはめて読んでいただくと
またお話の毛色が変わってくるかもしれません。
初投稿の初心者にご感想下さった皆様、ありがとうございました。
まだしばらく続きますので、ご意見やご感想をいただけるとうれしいです。
個人的には確定できました、泥棒ネコ
雄二?
>>307 (つД`)セツナス
なんか新しい感じがするよ。
GJ!
>>309 ちょwwwwwwwwwwwwおまwwwwwwwwwwww
俺の予想では奈々子ちゃん
個人的には春夏さんきぼん
僕はルーシー・マリア・ミソラちゃん!
ちょっとおしゃまな女の子だ
315 :
残心 中の人:2005/09/14(水) 22:04:15 ID:wgEdMPZE0
ではそれぞれの場合で分岐させてみますか。
それにしても春夏さんや奈々子ちゃんは難しそうですね…
316 :
311:2005/09/14(水) 22:08:22 ID:pOKW3E5P0
嘘です冗談です謝ります勘弁してくださいorz
317 :
312:2005/09/14(水) 23:14:20 ID:wTpJuUZj0
だが俺は謝らないッ!
作者の皆様、どの作品もGJ!
夏コミ会場であんまりTH2本買えなかった分、ここで鍵分を補充させてもらってます。
ところでネタ振り、クロスオーバー物なんで少々あれなんですが、
雄二×緒方理奈ってどうでしょう?
(本編じゃあんなに連呼されてたのに本人未登場だし)
緒方理奈ファンを敵に回すぞそれはw
「おーい」
校門の前に立っているタマ姉に手を振ると、向こうも気付いたらしく、こっちを向いて手を軽く振って応えてくれる。
「待った?」
「私もさっき来たばかりよ」
「そっか、良かった。とりあえず珊瑚ちゃんと瑠璃ちゃんの家に行くって事になったけどそれでいいかな」
「ええ、私は構わないわ。でもいいのかしら、そんな急にお邪魔してしまって」
「いいと思うよ。珊瑚ちゃんが来いって言ってくれたんだし」
昼休み、教室に帰る前に一年の教室に寄って二人にわけを話しておこううと思っていたのだが、弁当を食べ終えてからもタマ姉と他愛ない話をしているうちに時間ギリギリになってしまい、仕方なく放課後に一番に捕まえに行くことにした。
HRが終わってすぐにコンピューター室に向かい、そこで少し待っていると、思ったとおり間もなく珊瑚ちゃんと瑠璃ちゃんもやってきた。
事情を話すと、珊瑚ちゃんも一昨日公言していた通り近々タマ姉に突撃するつもりだったらしく、ちょうどいいと快諾。
それなら話が早いと二人を連れてすぐに校舎をあとにし、約束どおり校門の前で待ってくれていたタマ姉とこうして落ち合う運びとなったわけだ。
「ごめんなさいね、二人とも。突然お家にお邪魔することになっちゃって」
タマ姉は俺のすぐ後ろにいる珊瑚ちゃん・瑠璃ちゃんに声をかける。
俺や雄二には遠慮無用なのに、他の人に対していつも律儀で礼儀正しい人だ。
タマ姉が顔を近づけると、瑠璃ちゃんはささっと俺の背後に回り、背中にしがみつく。
毎朝合流場所で二人が顔を合わせる時にさり気なく観察してわかったのだが、なぜか瑠璃ちゃんはタマ姉に苦手意識を持っているようだ。
今の行動もその苦手意識の現われだろう。
「…………」
「ん、どうかしたの珊瑚ちゃん?」
>>307 なんていうか、うまくいえないけど、凄い。
今後の楽しみがまた一つ増えましたわ。
ラストからすると、こちらの予想よりちょっと重めの話になりそうだけど。
でも、期待度Maxにて待ってます。
>>314 こちらもちょっと話が意外な方向に。
続きが気になる気になる・・・。ホントにうまいわ>作者さま。
それと、この騒動だけでは終わらんよ!との宣言も嬉しいっす。
元気よく挨拶を返すとばかり思っていた珊瑚ちゃんは、意外にも黙り込んだままタマ姉をじーっと見ている。
いつもならニコニコ笑って受け答えしそうなのに、このリアクションは珊瑚ちゃんらしくない。
「……ええなぁ」
黙りこくること数十秒、珊瑚ちゃんは唐突にポツリと呟いた。
しかし一体何がどういいって言うんだろか。
「タマねーちゃんと貴明、らぶらぶや」
「ぶっ」
「うわっ。なにすんの、ばっちいやんか!」
「ご、ごめん瑠璃ちゃん」
一体どういう思考から飛び出たのか知らないが、珊瑚ちゃんの発言に驚きのあまり思わず吹き出してしまい、瑠璃ちゃんに叱られた。
でも、俺の後ろに隠れてるんだから別に被害はなかったのに。
それにしても珊瑚ちゃんは何でもかんでもらぶらぶにしてしまうんだから。
「あのね、珊瑚ちゃん。別に今のはらぶらぶでもなんでもないよ」
「そんなことないでー。すっごくらぶらぶやったもん」
「あ、あら、そう?」
「いや、なんで照れてるのさタマ姉! 違うだろ!」
頬に手を当てて微妙に……笑顔、だよなこれは。
……なぜ笑顔?
「そや。ウチも貴明と待ったーするー」
「え、あっ、ちょっと珊瑚ちゃんどこに行くの!?」
たったったった……。
珊瑚ちゃんはポンと手を打つと、そのままくるりと振り向いて走り出していってしまう。
「校舎……戻っちゃったわね」
「うん……」
タマ姉と二人、校舎の中に消えていく珊瑚ちゃんを呆然と見詰めている。
さすがに瑠璃ちゃんは珊瑚ちゃんのこうした突発的な奇行に慣れてるのか、動揺している様子はない。
どうでもいいけどいつまで俺の背中にしがみついてるんだろう。
珊瑚ちゃんはたまにこうしていきなり不思議な行動に出るが、何を考えての行動かは毎回後になってみないことにはわからない。
「ちょっと変わった子ね」
そういえば、タマ姉たち幼馴染'sと珊瑚ちゃんたち姫百合勢は面識はあれど、それほど親しい仲ってワケでもなかったんだよな。
珊瑚ちゃんと知り合った当初あれこれとせっついてきた雄二や同じ学年のこのみと違い、タマ姉は特に二人との接点が薄い。
「いつもああなの?」
珊瑚ちゃんの走り去って行った方向を視線で示したまま訊ねてくる。
「まあおおよそは」
「そう、面白い子なのね」
クスクスと口元を押さえて笑う。
どうやら珊瑚ちゃんはタマ姉のお気に召したみたいだ。
タマ姉は小さい子や女の子に好かれる性質だし、きっと珊瑚ちゃんや瑠璃ちゃんとも仲良くなれるだろう。
雄二を除く弱きものには優しいからなぁ、タマ姉は。
「あ、さんちゃん戻ってきたで」
未だ背中にしがみついている瑠璃ちゃんが、校舎から出てきたばかりの珊瑚ちゃんの姿をいち早く見つけ出して指を差す。
「ほんとだ」
「何か忘れ物でもしてきたのかしら」
そんなことを話してるうちに、とてとてと珊瑚ちゃんがやってきた。
そして、俺を見ると、開口一番。
「待ったー?」
「…………えーと」
これはつまり……そういうことなのか?
「待ったー?」
決められた反応を催促するかのように珊瑚ちゃんのセリフが繰り返される。
しかたがない。
……やるかっ。
「いや、今来たところだよ」
精一杯の笑顔を浮かべてそう言うと、珊瑚ちゃんはとろっとろの笑顔で
「えへへー、ウチと貴明も、らぶらぶやー」
と、嬉しそうに俺の手を握ってぶんぶんと軽く振り回した。
よかった、どうやら珊瑚ちゃんの要求に見事に応えられたようだ。
「か、変わった子ね」
「まぁね」
さすがのタマ姉も珊瑚ちゃんの行動は予測の範疇を超えていたようだ。
「さて、それじゃあそろそろ」
行こうか、と言葉を続けることが出来なかった。
「恥ずかしがらんでええやん。ほらほら瑠璃ちゃんも」
「あううー、やめてぇなさんちゃん。押さんといてー」
振り向いた先では、珊瑚ちゃんがぐいぐいと瑠璃ちゃんの背を押して校舎の方へと向かわせている。
抵抗むなしく、二人が昇降口の中へと吸い込まれていったと思うと、珊瑚ちゃんが一人とてとてとこちらに向かって駆け寄ってくる。
「あの……瑠璃ちゃんは?」
二人で校舎に入ってったはずなのに、なぜか戻ってきたのは珊瑚ちゃんだけ。
「すぐ来るよー。ほら」
珊瑚ちゃんの指の先に視線をやると、本当だ、瑠璃ちゃんがこっちに向かって歩いてきている。
……まさかこれって。
そんなことを考えてる間に瑠璃ちゃんは俺の目の前に。
「……ま、待った?」
ああ、やっぱり。
顔を真っ赤にし、消え入るような声で、瑠璃ちゃんは予想通りのセリフを言ってのけた。
「い、いまきたところだよ」
「なんでウチのときだけ顔が引き攣ってんねん!」
「うそっ、引き攣ってた? ごっ、ごめん」
「やたー。これで瑠璃ちゃんと貴明もらぶらぶやー」
「ちゃっ、ちゃうもん! ウチはさんちゃんがお願いするからやっただけやもん!」
「……すごく変わった子たちね」
そう言ったタマ姉の顔も、やっぱり少し引き攣っていた。
「二人の家は学校からは近いの?」
「すぐ近くや。さんちゃんいっつも寝坊するから、遠いと間に合わへんもん」
確かに珊瑚ちゃんの寝起きは非常に悪い。
いつだったか雄二も一緒に四人で遊園地に行く時なんか、珊瑚ちゃんが起きなかったとかで瑠璃ちゃんが背負ってきてたくらいだしな。
それにしても、予想通りというか……。
あっという間に打ち解けあってるな。
もう瑠璃ちゃんも平気で話してるよ。
「なーなー、タマねーちゃん、今日は一緒にご飯食べてってな」
「あら、いいの?」
「もちろんやー」
「ウチもさんちゃんがええならかまわんよ」
「貴明もな、毎日うちでご飯食べてくよ」
「……へぇ、毎日」
一瞬、タマ姉の鋭い視線が向けられる。
珊瑚ちゃん、今その話はちょっと薮蛇だ。
「貴明、いっつもおいしいおいしい言うていっぱい食べるから、瑠璃ちゃんもいっちゃんも毎日張り切っとるよ」
「んなっ!? さ、さんちゃん、うちは張り切ってなんかあらへんよ!」
「まったく他所様の家ではしたないわよ。ちょっとは遠慮しなさい」
「う……、面目ない」
毎日誘われているうちにいつの間にか珊瑚ちゃんたちの家でご飯を食べるのが当たり前になっちゃってたからなぁ。
つい自分の家で食べてるようなつもりでいたな……って、これって餌付けされてる?
「でも、ほんとおいしいんだ。タマ姉の料理にも負けず劣らずだよあれは」
「ほ、褒めたってなんも出ぇへんからなっ」
「ふふ、それじゃあ今日は頑張って味を盗んで帰らなくっちゃね」
「あかんよー、泥棒は犯罪や」
「さんちゃん、今のはそういう意味やないよ」
みんなで笑いながら和やかに4人並んで歩いていく。
……はて。
ふと何かが心に引っ掛かってぴたりと足が止まる。
なんかこう、重要なことを忘れているような……?
「んー?」
一人首を傾げる。
なんだろう、すぐそこまで出掛かってるのにわからない。
喉に小骨が刺さってるようなもどかしさ。
「何やってるのタカ坊、置いていくわよ」
「あっ、すぐ行くよ」
一体自分が何を忘れていたのか。
この時答えの出なかった疑問は、ほんの数分後にあっけなく氷解することとなる。
「おかえりなさいませ、瑠璃様、珊瑚様、貴明さん」
この人がいた。
にっこりと笑ってお出迎えをしてくれたイルファさんを前にして、先ほどから胸にあったもやもやの正体がはっきりした。
「ただいまーいっちゃん」
「あら、お客様ですか?」
「そや、タマねーちゃんや」
「こちらが貴明さんのお姉様の環様ですか」
冷や汗をだらだら流す俺を置いて、イルファさんと珊瑚ちゃんは話を進めていく。
「タカ坊」
ポンと肩に手を置かれ、恐る恐る振り返る。
「こちらはどなた?」
そこには笑顔のタマ姉。
笑っているが、そのまばゆい笑顔を打ち消さんばかりの怒りのオーラが滲み出ていて、正直怖い。
よく考えてみるとタマ姉はイルファさんの存在すら知らなかったんだった。
まずい、完全に失念していた。
イルファさんがいるのなんて俺にとっては当たり前すぎて全然気にしてなかったのだ。
「瑠璃ちゃんと珊瑚ちゃんだけじゃなかったの?」
「そ、それはですね。話せば長くなるんですがこちらの方はイルファさんといって」
「貴明さん、立ち話もなんですから上がってもらってください」
タマ姉と俺との間の緊張など露知らず、イルファさんはほがらかに笑って中に入るよう促してくる。
「それじゃあお言葉に甘えてお邪魔させてもらうわね。さ、行きましょうタカ坊」
「はい……」
腕を引かれ、有無を言わさず引っ張られていく。
「あ、ちょっとすみません」
そんな俺を見かねたのか、イルファさんが救いの手を差し伸べてくれた。
「貴明さん、荷物持ちますよ。貸してください」
全然差し伸べてくれてなかった。
「あらあら、いいわねタカ坊。二人とも新婚さんみたいよ。うふふ」
「そんな貴明さんと新婚さんだなんて……。照れてしまいます」
イルファさんはタマ姉の怒りに気付く素振りもなく、相変わらずのマイペース。
「ねぇタカ坊、このかわいい奥さんのこと、きちんと説明してくれるわよね」
「それはもう」
むしろ説明させてください。
それはもう事細かに。
「貴明さん貴明さん、聞きました? 奥さんですって。きゃん、私どうしましょう」
顔を赤らめて両手を頬に当て、クネクネと身をよじるイルファさん。
もう俺のほうがどうしたらいいのやら。
「い、イルファさん、それはいいから」
「せっかくなんですから、イルファって呼んでくださればよろしいのに。貴明さん、いけずです」
さっきからイルファさんの一言一言が火に油というかむしろガソリンを注いでる。
こうなっては燃え上がった炎に焼き尽くされないことをただ祈るのみだった。
>>春は終わらない の作者さま
ごめんなさい、ごめんなさい。割り込んでしまいました。本当にすいません。
そして、住民の皆様にも、ご迷惑をおかけして申し訳ありません。
12秒差・・・orz
滞りなく完投できてちょっと幸せな気分です。
ここにきてようやく貴明以外のキャラ同士を絡ませられました。長かった。
本当ならもうちょっと話が展開するはずだったんですが、キャラ同士の掛け合いを書くのが楽しくて
つい必要ないやりとりをふんだんに盛り込んでしまって気付いたら一話分の量に…。
海SSに予想だにしない反応をいただいてしまって喜び半分驚き半分です。
即興で書いたものだったので少し雑になってしまったのではないかと心配していたのでほっとしました。
レス下さった皆様、ありがとうございました。
自分の好きなSSの作者様にまでコメント頂いちゃって嬉しいやら恐れ多いやら。
続きみたいなものは一応頭の中にぼんやりと浮かんでるんですが、まだ形になるほどではなくて書こうかどうか悩み中です。
もう少し話の輪郭がはっきりとしてきたら、また挑戦してみたいと思います。
>>330さん
こちらこそ絶妙のタイミングに投稿してしまってごめんなさいです。
332 :
330:2005/09/15(木) 01:17:27 ID:3xE0tfsS0
>>331 「滞りなく完投」の邪魔をしてしまい、ホントに失礼いたしました。
そして、寛大なお言葉、ありがとうございます。
では、感想の方も。
イルファさんかわいい!!!
珊瑚ちゃんも、瑠璃ちゃんも、タマ姉も完璧にキャラをつかんでいるし、
その行動もかわいいですが、今回はイルファさんがかわいすぎ。
最近はミルファ嬢が大人気ですが、負けるなよ〜!
では、その9〜貴明炎上?!〜を楽しみにお待ちしております。
え〜と、間違ってたら恥かしいんだけど。
残心の中の人って・・・・ひでさん?
三人称を使いこなす高度な文章テクニック。
地の文と会話文の独特な配分の仕方。
あれだけの内容を7レス程度にまとめられる密度の高さ。
残心ってタイトルもひでさんがいかにも付けそうだし。
なんか、そんな気がしてしょうがない。
そんな事聞いてどうするんだ
どうでもよいだろうに
335 :
名無しさんだよもん:2005/09/15(木) 01:49:40 ID:wu2zFSvFO
てんだぁはぁてまだ〜?
>>314 ミルファマスターキター
GJ!!!!!!!!!!!!!
虹と海と春とテンが楽しみ!
んでもってマダー?
>>333 匿名掲示板で個人を特定するのはナンセンスだよ
>>331 GJ!
くねくねイルファさんに悶え苦しみますた!
では、この勢いでくねくねイルファさんの夢見てきます。ノシ
十月初めの夜気は既に涼しさを越えて若干の肌寒さを環におぼえさせる。
カーディガンを羽織ってはいるものの、下がシャツ一枚では寒かった。
鍛錬を最近めっきり怠っている分、暑さ寒さへの対応する力が落ちているのかもしれないわ。
そんなことを考えながら歩きなれた道を行く。
月は雲に隠れ、街灯の明かりだけが路面をぼんやりと照らし、歩く人影は見当たらない。
いつもこのみと分かれる二又のあたりで彼女の耳は聞きなれた足音をとらえる。
次いで視覚が薄暗い道の先に、やけに小さく見える人影を感知。
しかしこのみの方は環がこのみの髪形がわかるあたりまで近づいてようやく、彼女の存在に気付いた。
「あーびっくりした。ちょっと怖かったよ」
「家まで迎えに行ってあげたのに」
「ううん。いいの……」
環の顔を見て一瞬表情を輝かせたこのみであったが、
タマお姉ちゃんが家まで迎えに来なくてもちゃんと行けるから。と表情を曇らせる。
このみにしては大ぶりに見えるスポーツバッグにはお泊りセットを詰め込んであるらしく、
両手で抱えるようにして彼女は歩く。
「なんだかやけに大きな荷物ね」
「二泊分でありますから」
「あら」
小さい頃はよく泊まりに来ていたものだが、二泊するなんてことは滅多になかった。
「迷惑かなあ……」
「全然。でも春夏おばさまは?」
「タマお姉ちゃんとこだったら良いって」
「そう。うちはもちろん歓迎よ」
「やた!」
このみがバンザイした拍子にかばんが手から落ちる。やたらと重い音がした。
「何が入ってるの?」
環の問いにこのみはいちいち指を折って暗誦した。雑誌や漫画などやたらと本が多い事に環は気付く。
「タマお姉ちゃん、忙しかったら本読んで待ってようって思ったの」
「大丈夫。忙しくてもこのみのためなら時間あけるからって前も言ったでしょ?」
実際このみが泊まりに来ているとあれば何か仕事をいいつかる事もないだろう。
今みたいな気分の時にこのみがいてくれるのは、彼女にとって本当にありがたいことだった。
落ちたバッグの持ち手を一つ環が持つ。このみは最初遠慮していたが、やがてもう片方を持って歩き出した。
「すごい。重さが半分になったよ」
当たり前のことをうれしそうに言う少女がかわいらしい。
確かにそうだ。重い荷物も二人で持てば楽になる。
環は自分の上に乗っかっている重石のうっとうしさを、このみが幾分受け持ってくれているような気がして少し気が引けた。
家に帰ると雄二は言葉どおりいなかった。不在を確認すると同時に彼の言葉が再び引っかかりを伴って浮かんでくる。
泊まりに行きたくなる気持ちもわかる、ってどういうことなんだろう。
しかし環は、それはこのみから言い出すのを待とう、と心に決める。
彼女にとって家族のように大切なこのみが頼って来ているのだ。どんなことであれ、力になる自信もあった。
「タマお姉ちゃん。はい、おみやげ」
このみはバッグの底のほうから洋菓子の詰め合わせを取り出した。
「ととみやのプチケーキセットだよ」
「そんな気を使わなくてもいいのに。わかった。このみが食べたかったんでしょ?」
「う……、ち、違うよ。お母さんがお世話になる分きちんと手土産は持っていきなさいって。
選んだのはわたしだけど」
「そ。後でいただきましょ」
「後で……?」
上目遣いのこのみの髪をくしゃくしゃとなでて環は台所に向かった。ちらりと時計を見ると十時を回っている。
夜遅くにあまり食べ物を口にしないように心がけている環だが今日は特別だ。
たまには体に悪いことをするのも悪くない。といたずらをたくらむような愉快な気持ちになる。
「うわーきれい。さすがととみやだね」
箱の中には小さいながらも繊細な細工を施された小さなケーキが十五個。
このみが先ほど落としたせいで、いくつかは形を崩しているがそれでもおいしそうな外観を失ってはいない。
環は一つ目にガトーフロマージュを、このみはベークドチーズを皿にとって二人だけのティーパーティーが始まる。
いつも通り天真爛漫に、ぼけているのか真剣なのかいまいちわからないこのみの話に環は笑いが止まらない。
最後一つあまったタルトをこのみに譲った環は、どこか爽快な気分でお風呂の湯加減を見に行った。
雄二が入ったのか、湯はなみなみと張られ、熱さもちょうど良い。
「このみ、お風呂どうぞ」
という環にこのみは、一緒に入ろうよ、と誘った。
そういえば一緒に入るなんて十年近くなかったことだ。浴槽は十分広いし、悪くないと彼女は考える。
にこにこしながら二人分のタオルを脱衣所に持ってきたこのみはぽんぽんと思い切りよく服を脱いで
洗い場に入ると、ざばざばと派手な音を立ててお湯をかぶり、どぼんと浴槽に飛び込んだ。
環はこのみの脱ぎ散らした服や小ぶりの下着をたたみ、自分の着衣もたたんでタオルで前を隠し、風呂場の扉を開ける。
浴槽の方を見るとこのみはかわいいおしりの隆起を水面に出して泳いでいた。
「ぷはー。やっぱりタマお姉ちゃんとこのお風呂は大きくてきれいだよー」
顔を上げたこのみはぶるぶると犬のように頭を振って髪についたお湯を払う。
そしてかかり湯をしてつつましく浴槽に身を沈める環の様子をじっと見ていた。
「なあに?」
あまりじーっと見られるので環はくすぐったくなる。
「タマお姉ちゃんってほんとスタイルいいよね。うらやましいよ」
真顔でほめられて彼女は動揺した。
たしかにスタイルには多少の自信はあるが、幼なじみに面と向かってほめられるのは面映い。
「わたしつるぺただからなあ」
環に比べると控えめな胸を手のひらで包んでこのみはため息をつく。
ひきしまって、それでいて丸みもあって十分にきれいだと環は思うのだが、
胸の大きさというのは小さければ小さいほどやはり気になるもののようだ。
「女は胸じゃないわ。今の自分なりにきれいになる方法があるもの」
そう慰める環に頷くこのみは思い出したように、タマお姉ちゃんお風呂上がったらお化粧教えて、とせがむ。
風呂場の暖気に温められてこのみの頬には健やかな桜色がのぼり、既にこれ以上の装飾は
必要ないようにも思えるが、お化粧をしたい気持ちは女の子としてよく理解できる。
くるくると表情を変える少女を見ながら、どう化けさせようかしら、と環はわくわくしてきた。
風呂から上がったこのみは待ちきれないらしく下着姿のまま布団の上でぺたりと座っている。
その前には家から持ってきたらしい、学生向けの安い化粧品の数々が並んでいた。
「うーん……私の使っているやつ塗ってみるか。それからこのみ、パジャマ着なさい。湯冷めするわよ」
このみは素直に返事をして自分用の化粧品を片付け、若草色のパジャマに袖を通した。
鏡台の前から一そろい自分用の道具を持ってきた環は、手始めに液状のファンデーションをスポンジにとる。
「じゃあ塗るわよ」
「え? タマお姉ちゃんがしてくれるの?」
「ええ。とりあえずはお手本ってとこかしら」
「どきどきするであります」
おでこから鼻筋、ほほと下地が塗られていく。もともと肌のきめが細かいのであまり変化はないが
それでもただ一塗りしただけで少し大人っぽくなるような気がする。
眉はもともと形がいいし、睫毛も長いのでビューラーで上げるだけにしておいた。
マスカラを付けると逆にくどくなるだろうという判断である。
「どう?」
コンパクトについた鏡で途中経過を確認させる。
「すごい! おめめぱっちりだよ」
「このみはもともときれいな目をしてるからね。お化粧しなくても睫毛を気にしておくだけでかなり違うわ」
先に期待が高まるこのみは目を見開くようにして環の様子を見ている。
薄くチークを掃いているところまできて、環はさすがに一言いう。
「あんまりじっと見られてるとやりにくいわよ」
「え? うん。わかったよ」
このみはそう言ってまぶたを閉じた。
いよいよ仕上げだ。十本ほどあるルージュの中から、この春自分がつけていた薄桃色の抑えた色合いの一本を取り出す。
くちびる用の細筆にちょっと色をつけ、塗ろうとしてこのみのくちびるがきゅっと引き締められていることに気付いた。
「このみ、ちょっと口あけてもらえるかしら。ルージュ塗るから」
「こう?」
スレの流れをブッた切って一つお願い。
イルファさんやミルファさんが生命の尊厳に触れることで、
厳粛な気持ちになっていくシリアスな話を読んでみたい。
瞳を閉じたまま、ほんの薄く開けたくちびるのなまめかしさに環はどきっとする。
こういう顔で迫られておちない男の子はいないだろうに。そう彼女に思わせるほどの艶っぽさだった。
改めてルージュの色をこのみのくちびるに乗せていく。
筆の感触がくすぐったいのか、ときおり形よく整えられた眉がぴくんと動く。
このみはこうやって好きな人のくちびるを待つのね。もしかしたら彼の最初のキスはこのみだったのかもしれないのに。
そう思うとやるせない。この先誰かを好きになってこういうかわいい顔をするのかしら。
慎重に筆を動かしながらくちびるの端まで桃色で彩る。
このみはくすぐったそうにこのみは眉をしかめ、布団をきゅっとつかんだ。
それにしてもかわいいくちびる。他の男にくれてやるのはもったいないわ。
環は軽い気持ちで自分の顔を近づけ、ちょんと自分のくちびるとこのみのくちびるを触れ合わせた。
ファンデーションとルージュと、そして風呂上りの甘い香りの混じった空気が環を包む。
「タマ、お姉ちゃん……」
くちびるを離してまぶたを開けた環の前に、驚きで目を瞠っているこのみの顔があった。
「あんまりこのみがかわいいからちゅってしちゃった」
頭をかきながら環は弁解する。そこで話は終わるはずだった。
もータマお姉ちゃんったら。とこのみが照れ照れして、そして二人いい気分で休めばいいと環は考えていた。
しかしこのみはその黒目がちな瞳をみるみる涙で一杯にすると、顔を覆って泣き出してしまったのである。
348 :
残心 中の人:2005/09/15(木) 16:19:40 ID:0NdOOMYz0
第三話でございます。
>>308さん
どなただったんでしょうか。お聞きしたいところです。
>>309さん
さすがにそれは!
>>310さん
セツナス! 感想ありがとうございました!
>>311さん
ようぢょ……
>>Brownish Stormの中の人
そんなそんな。こちらこそいつも拝見させていただいています!
>>321さん
感想ありがとうございます!
第三話でえらい方向に話が曲がりましたが、ぜひこれ以降も読んでやってくださいませ。
>>348 仕事早くてGJ
続き楽しみにしてます(・∀・)
考えてみた、「残心」貴明の彼女は誰なのか
春夏・雄二・奈々子は問題なく除外
まず貴明の側に一人で立っていたところから
瑠璃・珊瑚・イルファを除外
「立っていた」ところから郁乃を除外
このみとタマ姉の態度から九条院の三人娘とちゃる・よっちも除外
>私とこのみが逡巡している間に、横から出てきてさっさと彼を持って行ってしまった。
ということからタマ姉がシナリオに出てくる3月20日以降に出てきたと考えられるので。
るーこ・愛佳・由真を除外
つまり貴明の彼女は黄いr(略
|w゚)一人勝ちなんよ
草壁さん忘れているよ。
しまった………orz
詰めが甘かった
354 :
346:2005/09/15(木) 19:41:10 ID:19KNHK5A0
>残心 中の人
リロードせずにレスったばかりに
本当に話の流れをブッた切ることになってしまい面目ないです。
>>350 タマ姉登場直後は貴明の女性関係(?)にそこまで深く突っ込んでいそうな雰囲気は
感じられないので、後ろ三人は除外しきれないように思うのだがいかがか。
タマ姉と鉢合わせして申し訳なさそうに会釈するようなキャラなんてそんなにいないと思うんだが
態度だけで見るなら本命:愛佳 対抗:草壁 大穴:由真
ってとこかね。
るーこシナリオの花梨なら可能性はあるがフラグが消滅してるからなぁ
ぶっちゃけ架空のキャラが1番妥当じゃないか?
既存のキャラじゃあてはまらん…
まあ、次回以降のお楽しみって事で………てのは無し?
>>348 いい意味で予想を裏切る展開、気にせずにはいられないラスト。
続きが気になって気になってもう・・・GJ!
結局、河野貴明は柚原このみと結婚した。
病院の個室。
今、一人の老人が生涯を全うしようとしていた。
枕元には、彼の孫達からのお見舞いの品や写真が飾られて、
この老人がいかに家族に愛されていたかを窺い知ることが出来る。
5年前、最愛の妻に先立たれ、自身も確実に訪れる老いに体を蝕まれていた。
「貴明……」
赤毛の若い女性がその横に寄り添う。
彼女はもう随分昔に制作され、結局市販化されなかったメイドロボットの試作機だった。
「ミルファか……すまないが、もう少し近くに寄って顔を見せてくれないか」
「うん……」
「お前は、あの頃と少しも変わっていないんだなぁ……。 綺麗だよ、ミルファ」
老人はその老いた手で、ミルファの頬を優しく撫でた。
「ねえ、部屋の空気を入れ換えようか」
ミルファは、窓の外に見える暖かな春の景色を見せようと立ち上がった。
「ごめんな……お前だけを残して俺達は」
「馬鹿……そんなこと言わないで」
ミルファが開け放った窓から、一陣の風が病室内に舞い込んだ。
「ちょうど、珊瑚ちゃんや瑠璃ちゃん達と出会ったのもこんな日だったなぁ」
老人は遠い昔の記憶をたどっていく。
その少女達もそれぞれ結婚し、子を残し天に召されていった。
「イルファ姉さん……」
ミルファは行方知れずになっている姉妹機のことを思い出していた。
姉のイルファと妹のミルファ。
二人とも、珊瑚様と瑠璃様が亡くなられた後、姿を消してしまった。
特に、瑠璃様に依存していた姉の落ち込み様は酷かった。
今、どこで何をしているのだろうか。
メイドロボは、自分で自分を破壊することは出来ないように基本プログラムされている。
D.I.Aという珊瑚様が作られた仕組みによって、人間と寸分違わない思考回路を持ち、
アンドロイドの三原則にも縛られない彼女たちですら、それだけは出来ないように作られている。
人間というのは弱い生き物である。
辛いことが重なれば、自ら命を絶ってしまう人も居る。
だから、人間と寸分違わない思考回路を持たせる上で、
彼女たちを制作した来栖川研究所のスタッフは、OSとは別の部分で安全装置を組み込んだのだ。
OSが自己の破壊を選択した際、それをくい止めるためにボディの電源が一時的に遮断される。
それは彼女たちを愛した彼らの犯した罪だったかも知れない。
その仕組みは彼らが老いてこの世を去ってもなお、彼女たちを苦しめる。
「ねえ、貴明……覚えてる?」
それは、ミルファと老人の最初の思い出。
高校生だった彼とクマのぬいぐるみの姿をしたミルファの出会いだった。
最悪の出会いから恋が産まれた。
そして、再び巡り会ってから愛をはぐくんだ。
しかし、ミルファと彼は機械と人間だった。
けして結ばれることのない、結ばれてはいけない関係だった。
メイドロボはどんなに愛されても、人の子供を宿すことは出来ない。
それは、厳しい現実だった。
やがて彼は、幼なじみの彼女と婚約した。
ミルファはメイドロボとして彼に仕えた。
それからの生活は、平凡だが暖かかった。
彼の妻も優しく、その子供達もミルファにとって大切な家族となった。
恋は捨てたけれど、ミルファは大切な何かを手に入れた。
彼の子供達はすでに独立し、新たな家庭を築いている。
彼の妻は死ぬときに一言ミルファに「ごめんね」と言った。
「捨てたはずだったんだけどな……」
CPUが何度も答えを求め、演算を繰り返す。
人間だったらこんな時、どんな気持ちになるだろう。
目の前の老人に、出会った頃の少年の姿を重ねる。
メイドロボはどうして歳をとることが出来ないんだろう。
あの人は、彼と一緒に年老いていくことが出来た。
『ごめんね』
彼女が最後に言った言葉が頭の中で繰り返される。
彼女は、きっと幸せな生涯を終えることが出来たのだろう。
彼女はきっと気がついていたはずだ。私の想いを。
『ごめんね、ミルファ。 これからは貴明のことをよろしくね』
それは、私が見た幻だったのだろうか。
「ねえ、貴明……!?」
ねえ、目を開けてよ………私を一人にしないで。
酷いよ、これからなのに、もうあの人の所へ行っちゃうなんて……。
貴明…貴明……貴明ぃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!
連投規制…
368 :
機械と人間6/9:2005/09/16(金) 05:46:29 ID:ox5IsoDz0
「ミルファ」
「姉さん?」
「貴明さんを連れて、ここから逃げるわよ」
「え? 何」
貴明にしがみついて泣いていた私の前に現れたのは姉さんだった。
姉さんは貴明の体をベットから起こし、背中に背負った。
「理由は、後で話すから……」
「ちょっと、姉さん」
私は、姉さんの後をひたすら追いかけた。
貴明の亡骸を強奪する姉。
貴明の子や孫達にどう説明すればいいと言うのだ。
姉は、瑠璃様を失ってどうにかなってしまったのではないだろうか。
それにしては、しっかりとしすぎているようだが。
走る姉さんの背中で貴明の亡骸が揺れる。
はっきり言って、大好きだった貴明の亡骸とは言えものすごく気味の悪い光景だ。
「私はねミルファ、この時を待っていたのよ」
「な、何を言ってるのよ姉さん!」
この時を待っていた?
貴明が死ぬのを?
辺りはもうすっかり暗くなっていた。
姉さんに連れてこられたのは、もう使われていない来栖川の研究所だった。
無人のままに放置されたはずのその建物から、明かりが漏れている。
「入って」
姉さんに促されるまま、研究所に足を踏み入れる。
「なんや、ミルファやないか久しぶりやなぁ」
!?
る、瑠璃様!?
しかも、高校生の頃の姿をしている!?
「あ〜いっちゃんや。ほんま久しぶりや〜」
その横には珊瑚様もいる。
同じく高校生の頃の姿をして。
「ね、姉さん……こ、これはどういうこと? 珊瑚様と瑠璃様は……」
「私達と同じになったのよ、ミルファ」
「みんな私達と同じメイドロボになったの。ミルファおねーちゃん」
いつの間にか白衣に着替えた姉さんと妹のシルファが居る。
「今、貴明さんの記憶も新しいボディに移し替えてるわ」
そう言って、いつの間にかかけていた眼鏡をキラリと光らせる姉さんは、
マッドサイエンティストの香りをプンプンと漂わせていた。
「長瀬のおじさまは、人間の記憶をそのままメモリーに焼き付け、
人の心を持ったメイドロボを作る研究もされていました。
残念ながら、当時のハードウェアの技術水準では実現できなかったけれど、今なら出来る。
瑠璃様・珊瑚様が亡くなる前から研究を始めてここまでたどり着いたのよ。」
「それって、本当の瑠璃様と珊瑚様なの?」
「そうよ、体なんて所詮入れ物。 記憶が司る心を入れておくだけの入れ物に過ぎないわ」
「じゃあ、人間って何? 機械ってなんなの?」
「……って夢を見たの」
「……笑えない話だな」
いつもの食卓、ミルファは今日の昼間見た夢を俺に話した。
メイドロボットでも昼寝するんだなと我ながら感心し、
ミルファの作った肉じゃがに舌鼓を打つ俺が居る。
「でもさ、俺は機械か人間かなんて気にしないぜ。 ミルファはミルファだ」
「ありがとー」
ミルファは俺の頬にキスをした。
俺達の恋にはきっと障害も多い。
もしかしたら、ミルファの夢のような未来が待っているかもしれない。
それでも、一緒にいたいと俺は思うんだ。
おしまい。
☆―――――――
……一カ所sage忘れた_| ̄|●
初めて連投規制喰らった(ノ_・。)
朝っぱらから
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!
>>371 これって、
>>346さんに対する回答・・・でしょうかね。
人の不老不死への欲求。心と体。
早い上に、上手い。凄いっす。
それから、Webページ1万ヒットおめでとうございます。(違ってたらごめんなさい)
いらんツッコミ。
7/9「あ〜いっちゃんや。」>「みっちゃん」
いらんツッコミその2。
2/9
>ミルファは行方知れずになっている姉妹機のことを思い出していた。
>姉のイルファと妹のミルファ。
妹はシルファではなかろうか。
>>373 >
>>346さんに対する回答
うーん、どうなんでしょう。回答になってるかどうかw
確かに、
>>346さんの書き込み見て急に書きたくなって書いたんですが……。
>1万ヒット
それ……私違います。
てゆーか、あんなすごい人と間違われたらガクブルです。
>ツッコミ
そうです、「あ〜みっちゃんや」の間違いでした_| ̄|●
>>374 >ツッコミその2
はい、姉のイルファと妹のシルファでした……。
_| ̄|● アラだらけですねw
結構連投規制ってしんどいんですねぇ。
今回2作品目にして喰らっちゃいました。
前に書いたやつは確か3レスかそこらだったんで平気だったんですけどね。
そーいや、前のも夢オチでした。
貴明マルチボデー化?とわくわくしてたのに・・・・
,,, ,,,,,, : .と お. し 死. に メ
_ = ~~ ``ヽ_,=''~´ ´~ヽ : は こ よ. に. ん. イ
_= ~ ヽ : 思 が う を. げ. ド
~=、 ミゞ、 , -彡 ヽ. : わ ま な. 自. ん. ロ
~=、、、Cl~evj <e~}6)_ 、、、ミ : ん し ん. 由. の ボ
ミ.~~ /', ゚ ;'7 ミ7ヾ~- 、 : か い て に. 生. が
≡ (','゚, '.人 ゝ | ヽ : ね き
`= `ー' iノ' | / |
~ーノノノノノ'′
ツンとした消毒薬の匂いが鼻をつく。
ぼんやりとした照明が照らすのは、白一色で塗り潰された病院の廊下である。
時折、廊下を行き来する看護婦たちの足音が、やけに耳に残る。
彼女――、イルファは長椅子に腰かけながら、そんなことを考えていた。
「……貴明さん? だいじょうぶですよ、そんなに心配なさらなくても」
「……うん」
「きっとだいじょうぶです。だいじょうぶですから。だいじょうぶに決まってます」
「……イルファさんこそ落ち着いてよ」
横に座っていた貴明が、力ない苦笑を浮かべる。
苦い笑みではなく、苦しそうな笑みだ、とイルファは思った。
「うん。大丈夫。大丈夫に決まってるよ」
それはイルファに向けられた言葉なのか、それとも自らに言い聞かせていたのか。
貴明は、震える声で何度もそれを繰り返していた。
震える声で。何度でも、何度でも。
ふと視線を落とせば、握り締めた両こぶしも震えている。
貴明は、自分の肉体では抑え切れない感情の奔流に苦しめられていた。
イルファは思う。
消毒薬の匂い。嗅覚。
照明の明かり。視覚。
看護婦の足音。聴覚。
自分の感じるそれらの感覚は、すべて紛いモノなのではないか、と。
元を辿れば、ヒトの感覚というのは外部からの刺激にすぎない。
刺激が神経を経て脳に至り、熱い、冷たい、明るい、暗い、などという感覚として捉えるのだ。
刺激を感じる仕組みとしては、イルファのものとてそう大きな違いはない。
神経が人工物であったりとか、脳みそにあたる部分がCPUであったりする他は、イルファとヒト
の間にはそれほど明確な差異が見当たらないのである。
しかし、だからこそ差は歴然としている。
明確な差異が、そこにある。
同じものの匂いを嗅いだとしても、イルファと貴明たちでは違う。
同じものを見たとしても、イルファと貴明たちでは違う。
同じものを聞いたとしても、イルファと貴明たちでは、
――イルファは、そんな風に考えることがあった。
ヒトの感じる「感覚」は、アンドロイドにとっては「情報」でしかないのではないか。
もちろん、実際にそうなのかは分からない。
ヒトがアンドロイドになれないのと同様、アンドロイドはヒトになれないのだから比べようがない。
だが、イルファが感じているような不安は、おそらく貴明たちは感じてはいまい。
それは悲劇だった。
入れ物はヒトを模したにすぎないというのに、中身ばかりはヒトと同じモノを持ってしまった人形
の悲劇。
そのアンバランスさは、いつもイルファを苦しめている。
ともすれば、中身――自らの持つ感情さえも、作り物なのではないかと疑ってしまうほどに。
イルファは傍らの貴明を見る。
貴明は先ほどまでと変わらず、祈るような仕草で重ねた両手を額に当てていた。
イルファは視線を上げ、赤く灯るランプを見る。
手術中、という文字が浮かび上がるランプは、先ほどまでと変わらず忌々しい光を帯びていた。
ちょうどそのとき。
赤い光が消えた。
イルファは再び貴明の方に顔を向ける。
何かに導かれるように、貴明も消えたランプを見上げていた。
静寂が降りてくる。
永遠にも等しい一瞬が過ぎる。
重々しく白いドアが開かれる。
全身白尽くめの初老が、ドアの奥から現れた。
貴明は初老に駆け寄る。イルファもそれに習った。
「先生! 二人は……珊瑚ちゃんと瑠璃ちゃんは無事ですか!」
「……」
「……先生?」
貴明の問いには答えず、初老はゆっくりと白くて大きなマスクを取り外す。
そこには、
「うむ。母子ともに健康。まったく問題なしだね」
年齢不相応な、無邪気な微笑みが隠れていた。
「〜〜〜〜〜〜〜っ、……よかったあ……ホントに、よかった……」
貴明は目に涙すら浮かべ、がくりと床に膝をつく。力を使い果たした、という感じだった。
「あのなあ。君は一体どんな大手術だと思ってたんだね。そんなに私は信用がなかったかい」
「ち、違いますけど……っ、でも……何が起こるかなんてわからないじゃないですか……っ!」
「ふむ、それもそうか。まあ、君もこれから父親になるんだ。もっとしっかりしなさい、いいね?」
「というか、あの二人は両方とも君の……?」
「……はい!」
力強く応えた貴明に、初老の医師はほんの少し呆れた顔を向けて、
「どうもありがとうございました」
お辞儀をするイルファを、「まさかアンタが三人目か」みたいな目をして見つめていた。
「……若いってのはいいなあ。うん、君もそのときがきたら、私がとりあげてあげるよ」
「――ありがとうございます」
完璧な笑顔で、イルファはもう一度頭を下げた。
そこに不自然さは微塵もない。
「さあ、奥さんたちが待ってるよ。早く行ってあげなさい」
「本当に、本当にありがとございましたっ!!」
病室の中に飛び込んでいく貴明を、イルファは立ち尽くしたまま見つめていた。
思わず目を細める。
眩しい背中だった。
それはきっと、未来への希望を貴明が背負っているから。
だからこそ見えた、起きながらにして見る幻。夢。
――私に同じ夢を見ることはできないけれど。
イルファは背筋を伸ばし、一歩を踏み出す。
愛おしいあの人たちについていくために。
別れのときが訪れるまで、ずっと。
>>371さんに便乗する形で投下させて頂きました。
ミルファええですのう('┐'*)
ちなみに、珊瑚と瑠璃は互いに双子を生み、貴明は一気に四人の子持ちに!
などと勝手に妄想していました(ノ∀`)
たかあきは
ぜつりんだ
な
385 :
373:2005/09/16(金) 22:34:48 ID:3w5MjkzP0
>>383 やるなぁ、貴明。
>>375 アイタタタ・・・大変失礼しました。
主人公がミルファ>1万ヒット記念SS、と早とちりしてしまいました。
出がけでバタバタしながらの書き込みは要注意ですね。
両方の作者さまには、平に、平にご容赦のほどを。
ミルファ「大丈夫じゃない?きっと許してくれると思うよ。」
373「そ、そうかな?だといいんだけど・・・。」
ミ「うん。だって、私を好きな人に悪い人なんていないんだから!」
3「(苦笑まじりで)あはははは。・・・そっか、大丈夫だよな。」
ミ「・・・でも、今回の失礼なミスには、お仕置きが必要よね。」
3「え゛・・・ちょ、ちょっと待て!その釘バットはいったいどこから・・・」
ミ「大丈夫!あとで介抱してあげるから(はぁと)」
・・・・・・
さらに墓穴を深くしてどうするよ>自分
1万ヒットSS書く以前に14話で悩んでます('A`;)
377の味のあるつっこみに受けた俺はどうすれば。
,,, ,,,,,, : .と お. し 死. に に
_ = ~~ ``ヽ_,=''~´ ´~ヽ : は こ よ. に. ん. ん
_= ~ ヽ : 思 が う を. げ. げ
~=、 ミゞ、 , -彡 ヽ. : わ ま な. 自. ん. ん
~=、、、Cl~evj <e~}6)_ 、、、ミ : ん し ん. 由. の が
ミ.~~ /', ゚ ;'7 ミ7ヾ~- 、 : か い て に. 生.
≡ (','゚, '.人 ゝ | ヽ : ね き
`= `ー' iノ' | / |
~ーノノノノノ'′
なんかふと、セイバーマリオネットを思い出した
シルファを加えた姫百合家女子達にハーレムという名の虐めにあう貴明の話キボンヌ。
391 :
>>377:2005/09/17(土) 12:26:00 ID:fWKQd9Wa0
_.. _
, ´ ヽ
i ,,l !リリ!リ)リ
'{Q!i^ヮ゚ノ!
〈. 〉i:^:)〉
ん!,、X.'!
ヒ7ヒ7
_.. _
, ´ ヽ
i ,,l !リリ!リ)リ
'{Q!i ゚д゚ノ!
〈. 〉i:^:)〉
ん!,、X.'!
ヒ7ヒ7
_.. _
, ´ ヽ
i ,,l !リリ!リ)リ
'{Q!; ゚д゚ノ! ・・・・・・・・・
〈. 〉i:^:)〉
と_U_)_U ガク
_.. _
, ´ ヽ
i ,,l !リリ!リ)リ
'{Q!; ゚Д゚ノ!
〈. 〉i:^:)〉 メイドロボは何のためにあるんだー!
と_U_)_U
_,,..-―'"⌒"~⌒"~ ゙゙̄"'''ョ
゙~,,,....-=-‐√"゙゙T"~ ̄Y"゙=ミ
T | l,_,,/\ ,,/\
シルファが珊瑚をママと呼ぶ話は多いが
それなら珊瑚の彼氏はパパということにならんかね?
そういうSSあったっけ?
顔を覆った指の間からぽつんぽつんと涙が落ちる。
環は自分がいけないことをしてしまったんだということに気付き愕然となった。
戯れにもこんなことをしてはならなかった。
今でも彼女の心は彼の方を一直線に向いているのに、自分と同じだと勝手に思い込んで
このみが大事にしているものを奪ってしまったのだ。
「ごめんね……」
なんて軽い言葉なんだろう、と自分で腹立たしくなりながら環はうなだれる。
このみはうんうん、と頷くと覆っていた手のひらで涙を拭き、笑おうとした。
「大丈夫だよ。ちょっとびっくりしちゃって」
「このみ、私……」
「せっかくきれいにしてもらったのに、はげちゃうね。えへへ」
口は笑っているのに涙は後から後から流れ続けていた。
抱きしめて頭をなでてあげたいと環は思うが、今の自分にこのみに触れる資格はないような気がして
体が動かない。このみは立ち上がると部屋を出て行ってしまった。
「サイアクね」
自嘲する。自分の馬鹿さ加減に反吐が出る思いだった。
そっとくちびるに触れると、まだ柔らかくていい香りのするこのみの感触が残っている。
そこで改めて、環自身にとってもそれは初めてであった事を思い出す。
相手がこのみであったことは正常ではないけれど、環はそれはそれで嫌なことではない、と思っていた。
十分ほど経ってこのみは静かに部屋に戻ってきた。
「タマお姉ちゃん、ごめんね。顔洗ったらお化粧みんな取れちゃったよ」
ちょっとまぶたがはれぼったいあたりをのぞけばいつものこのみだ。
顔を洗っている間にどういうことを考えたのだろう。環の心は痛む。
「明日もう一回教えてくれる?」
「……もちろん」
「やた」
このみの笑顔がどこか痛々しいものに見えて環は目をそらした。
言いたいこともきっとあるだろうに、まず自分を許そうとしてくれる気持ちがいじらしい。
うつむいて座っている環の横にこのみはちょこんと腰を下ろした。
「今日は久しぶりにタマお姉ちゃんと一緒に寝るのでありますよ」
ああ、そうか。この子はこうやって気持ちを表してくれているのね。
あんなことをされても許していることを。まだ信頼していることを。
「そんなこと言ってるとまた雄二におこちゃま扱いされるわよ」
だったら私もこれまで通りのタマお姉ちゃんでいなければ。
そう思った環はことさら明るい声を装ってこのみに応える。
「ユウくんとは一緒に寝ないから大丈夫だよ」
「そりゃかわいそう」
このみはあはは、と笑うと自分の枕を環の枕の横においてベッドにもぐりこむ。
自分とは違った、甘い少女の香りと温かさがその中に満ちて環を迎え入れる。
電気を消してあまり広くはないベッドの左半分に体を横たえた環は、自分がじっと見られていることに気付いた。
その瞳の色に責める気配はなくて彼女はほっとする。
しかし深く、吸い込まれそうに黒い少女の目の色から内心の動きを読み取ることは出来ない。
すぐ近くにある形のよい、小ぶりのくちびるが先ほどの感触を環に思いださせて彼女を揺さぶった。
「タマお姉ちゃん」
どれだけの間、じっと環を見ていただろうか、このみは意を決したように話し出した。
「あのね……」
しかし言いかけたところで言葉を止める。彼女は目を伏せて少し苦しそうな顔をした。
環は何か言いにくいことを言おうとしているのだと気付き、黙って言葉を待つ。
「今日ね、タカくんところにね、タカくんの彼女が来たの」
「そう……」
こんな形で彼の名前を呼ぶのはこのみにとってなんとつらいことだろうか。
自分の気持ちとあいまって環は胸が締め付けられるような心地がした。
「お母さんがカレー作ったから、持って行きなさいって言ったから、行ったの」
このみはちょっと舌っ足らずな感じで、しかし胸のうちに積もった何かを環に告げようとしていた。
無残な……。鈍感な貴明はともかくとして、彼を一番近くで見ている恋人なら
この幼なじみの少女が自分の彼氏に対してどういう感情を持っているかくらいわかりそうなものだ。
雄二の言葉とあいまって、勘のいい環はこのみがここに泊まりにきた理由を理解した。
「ご飯くらいいいかなあって思ってお家に上がらせてもらったら、お泊りセットが置いてあって……」
そこまで言ってこのみは口をつぐんでしまった。
付き合っている男女が、両親のいない家で一晩を過ごして何もないと思うほど幼い年齢ではない。
ずっとずっと想いを寄せてきた相手が、誰か他の女の子と過ごす。
たとえ彼女がその気持ちに気付いたのが最近であったとしても、その衝撃はいかばかりか。
しかもこのみの家はすぐ隣だ。耐えられない気持ちもわかる。必死で逃げ場を探してここに来たんだ。
なのに私はなんていうことを……。
環は貴明が彼女と一晩過ごすこともショックだったが、それよりも自責の念の大きさに押しつぶされそうになる。
「タマお姉ちゃん」
「ん?」
「わたしね、わたしすっごくタカくんのこと好きなの。ちっちゃいころからずっとずっと好きだったの」
「そう、だったわよね」
このみは環が着ているパジャマの胸元をきゅっとつかんで吐き出すように言った。
「ずっとタカくんとは一緒にいられると思ってた。いつでもタカくんの背中に飛びつけると思ってたよ」
それは環とて同じだった。彼がいて、このみがいて、くすぐったいような甘い時間がずっと続くはずだったのに。
それが子供の考えだと彼女に教えたのは、ほかならぬ一番子供だと思っていた彼だった。
「でもね、気付いたらもうタカくんの背中が見えても飛びついていけないし、タカくんと一緒に寝ることも
できなくなっちゃってたんだよ」
「……」
「わたしの初めて、全部タカくんにもらって欲しかったのに。タカくんの初めても、全部欲しかったのに」
我慢しきれなくなったこのみは慟哭した。子供のように。
ずっと想いつづけて来た気持ちの大きさと深さをあらわすように。
ずっと心の奥底に蓄え続けてきた気持ちの強さがあふれ出したかのように、彼女は環の胸で泣き続けた。
環は自分のパジャマがみるみる涙で濡れていくのを感じたが、その号泣がおさまるまでぎゅっと抱きしめ続けていた。
今のこの子を支えることが出来るのは自分しかいないんだ。
どれだけ自分がこのみのことを大事にしているのか、抱きしめる腕を通してその気持ちを伝えたかった。
やがて嵐は収まり、このみはなんとなくきまり悪そうに環を見上げる。
「タマお姉ちゃん、ちょっと苦しい……」
「あ、ごめん」
鼻先を豊かな胸に押し付けられ、かわいらしい小ぶりの鼻はそこにめり込んでいた。
環も思わぬ強い力で彼女を抱きしめていたことに気付き、あわてて腕をほどく。
ぷは、っと息をついたこのみのまぶたははれあがり、泣きすぎのせいか強く抱かれていたせいか、
鼻の周りは真っ赤になっていた。
環は枕もとのタオルを一枚とってこのみの顔を拭いてやる。おとなしく拭かれていたこのみの心中には
大泣きしたはずかしさがわきあがり、姉と慕う人への申し訳なさと照れくささでどういう顔をして良いかわからない。
「ありがとう、タマお姉ちゃん」
「何言ってるの。このみのためだったらなんだってしてあげる。変な遠慮しちゃだめよ」
「タマお姉ちゃんがいてくれて本当に良かったよ……」
「私はいつでもこのみの側にいるわ。さ、もう遅いから寝ましょ?」
「うん。えへ」
ようやくこのみは微笑む。
環のほうを向いたまま目を閉じようとしていた彼女は、何かを思い出したようにぱちっと目をあけた。
「わたしのファーストキスの相手ってタマお姉ちゃんになるんだね」
「え? あ、ま、まあそうなるわね」
「……タマお姉ちゃんは何人目?」
「ちょっとこのみ、あんまりいじめないで」
「教えてほしいのであります」
むむっと顔をのぞきこんでくる妹分に環は根負けする。
「わ、私だって初めてよ……」
「えへー」
「へ?」
このみは何も言わずただうれしそうに笑った。
ちん、と鼻をかんだあと、環の肩に頬を寄せるようにして眠る。
つややかな髪をなでてやりながら、環もいま横にいてくれるその少女に感謝していた。
第四話でありますよ。百合っぽい雰囲気が苦手な方はごめんなさいです。
>>349さん
毎日更新を目指したのですが、無理でした…
>>350さん
すごく論理的っす。作者の頭の中ではいまのところ誰が入っても良い
ということになっておりますが、そうやって突き詰めていくと絞られてきますね…
>>346さん
いえいえ。こちらこそであります。どんまい!
>>361 いい意味で裏切ったのなら何よりでした。
これ以降も意外な展開に持っていければ、と考えています。
(;゚∀゚)=3 ムハー
こっから先どうしようか悩んだ挙句に出来た虎の子の第14話です。
ttp://hmx-17b.hp.infoseek.co.jp/bs14.htm まだ出そうか迷っていた挙句に「彼女」を出してしまいました。
結局まだどう使おうか悩んでいる最中だったりします。
さて、15話で一区切りが付きそうです。
別のを1本書いてから16話に行くと思うのでどうぞよろしく。
>>残心の中の人
毎日更新目指すって凄いですね…無理せずに頑張ってください。
とりあえず貴明が悪い奴に見えてきて仕方が無いです、はい。
402 :
名無しさんだよもん:2005/09/17(土) 17:59:25 ID:SMuMYgWx0
>>401
乙華麗&GJ!!!
次回のも期待させて貰いますよ!!
残心………
ガチ百合の予感…………ッ!
「貴明、おっはよー」
「ぐえっ」
部屋に響く元気な声と、轟音と、そしてカエルが押しつぶされたような声。
助走の勢いと重力とが合わさった衝撃が、未だベッドの中で惰眠を貪っていた俺を襲った。
確か天気予報では晴れと言っていたが、まさか女の子が降ってくるとは思いもしなかった。
「貴明ー、あそぼー」
「……」
この声は珊瑚ちゃんか。
見事なダイブを敢行した珊瑚ちゃんは、俺の上に乗っかりながら自分の乗っているふくらみに話しかけてくる。
だが、肺の空気が全部抜けたんじゃないかと思うような衝撃の直後に返事などできそうにもない。
「貴明? なーなー、たかあきー」
「……」
というか、返事どころかぴくりとも動けない。
しばらくすると、俺と珊瑚ちゃんを隔てる薄布がめくられる感触がする。
どうやら反応がないのを訝しく思った珊瑚ちゃんがタオルケットに手をかけたらしい。
「さんちゃんー」
だが、まさにめくられんとするタイミングでそこにもう一つの声が飛び込んできた。
振り向くと、ドアの前にはまるで鏡に映したようにそっくりな女の子が、おたまを持って立っている。
「あ、瑠璃ちゃんおはよー」
「おはよーやないよ。あかんよ、パジャマのままで貴明の部屋なんかに来たら。えっちぃことされてまうよ。ほらー、髪もまだ起きたまんま。結ったげるからあっちいこ?」
しません。
なんという人聞きの悪いことを朝っぱらから言ってくれるのか。
「でもウチ貴明と遊びたい」
「貴明のねぼーなんていつものことや。ほっとけばええんや」
「でも貴明、死んだかもしれんよ」
「それにさんちゃんが起こすとまぁたミルファが怒るで」
どたどたと騒ぎながら双子の少女が去っていく。
だが言われてみればしっかりと俺の目は覚めてしまったわけだし、これはやはり珊瑚ちゃんに起こされたことになるんだろうか。
だとしたら、確かに瑠璃ちゃんの言うとおりミルファが一騒ぎしそうだ。
そんなことを考えながら、一人ベッドの上で呼吸困難に陥ったまま苦しんでいた。
姫百合の咲く頃に
「あっ、貴明おはよー」
「おはよう、珊瑚ちゃん」
リビングに顔を出すと、ソファの上に座っていた珊瑚が駆け寄ってきて挨拶をしてくれる。
髪を結ってもらっていた最中なのか、片側だけお団子というちょっとおかしな髪型になっている。
先ほど半分手放しかけていた意識の端にあったやりとりが思い出される。
ソファのすぐ後ろには瑠璃ちゃんが櫛を持って立ってるし、やっぱり髪を結ってる途中だったようだ。
何の気なしに見てると、ちょうど瑠璃ちゃんと目が合ったので挨拶をする。
「瑠璃ちゃんもおはよう」
「もう起きたんやな。貴明にしては早起きや」
そりゃあんだけの攻撃を受ければ目もぱっちりですよ。
瑠璃ちゃんの中の俺は、あんな猛攻を受けても寝続けるようなタフガイなのだろか。
「てっきりしばらくは気ぃ失ってるかと思ったんやけど」
前言撤回、正確に俺という人間を把握していたようだ。
「もう大丈夫なん?」
「うん、まだちょっと痛いけど」
「貴明怪我でもしたん?」
痛みを与えた張本人は、全く心当たりがないといった風に首をかしげている。
「さんちゃんは悪気と自覚がまったくないから怖いんや」
「末恐ろしい……」
「なぁなぁ、どうしたん? 瑠璃ちゃん、ウチにも教えてぇ」
「ほらさんちゃん、ええからこっちきぃ。髪途中やろ」
瑠璃ちゃんに呼ばれると、珊瑚ちゃんは素直に先ほどいたソファまで戻る。
うーん、いつか過失で殺られてしまわないか心配だ。
もうちょっと手加減を覚えてくれれば助かるんだけど。
「あー、貴明起きてるー」
「うっ」
そう叫んで台所から顔を出したのは俺専用のメイドロボと公言して憚らないミルファだった。
別に俺はいいって言ってるのに、本人が断固として譲らないので、結局俺専用ということになってしまっているようだ。
「おはよう」
「おはよう貴明ー。って、そうじゃなくて、なんでもう起きてるの?」
「まあちょっとたまには早起きもいいかなぁなんて」
「よくないわよ。貴明を起こすのは私の役目なのに。逆に言えば私が起こすまで貴明は起きちゃダメなの!」
「そんなむちゃくちゃな!?」
明らかにメイドの発言じゃないだろうこれは。
どうなってるんですか生みの親の珊瑚さん。
「みっちゃん、貴明にらぶらぶやなぁ」
ニコニコ笑ってました。
「ふん、メイドロボが主人の行動縛ろうなんてええ度胸や」
代わりに瑠璃ちゃんが俺の言いたいことを三倍増しくらい過激にして代弁してくれる。
ああ、俺は別に自分が主人とか思ってないのに……、しかもまたそんな喧嘩腰で。
案の定、ミルファはムッとした顔で瑠璃ちゃんに向き直ると
「瑠璃様には関係ないでしょ。これは私と貴明の問題です」
「んなっ」
今度は瑠璃ちゃんがミルファの一言でムッとなる。
この二人、どっちも気が強いせいか妙に相性悪いんだよなぁ。
「いいから、貴明のお世話は私が全部やる! これからは貴明のご飯も全部私が作ります」
「アホ言え、そんな無駄なことできるはずないやろ」
「でも貴明は私の作るご飯のほうが好きだもん」
「んなことあらへん。ウチが作ったもん、いっつもおいしいおいしい言うて食べてるもん」
「貴明優しいから」
二人とも気は強い。
だが、決定的に違うのは、瑠璃ちゃんはここ一番でアドリブに弱いため、こういう言い合いになるとミルファに敵わない。
いつもはこの辺でイルファさんが瑠璃ちゃんの援護射撃に入るのだが……。
きょろきょろと見回してみるが、姿が見当たらない。
おかしいな、朝から買い物にでも行ってるんだろうか。
「瑠璃ちゃんとみっちゃんらぶらぶやなぁ」
「あれはどう見てもらぶらぶとは違うと思うけど」
いつの間にか髪を結い終えた珊瑚ちゃんが俺の側までやってきた。
「それじゃあ、二人とも貴明にらぶらぶー」
瑠璃ちゃんはともかくミルファは確かにそれは否定できない。
が、そんなことを自分で言うのは恥ずかしいから流しておく。
「ウチも貴明にらぶらぶするー」
言うが早いか、珊瑚ちゃんはするりと俺の首に抱きつくと、んーっと唇を寄せてくる。
「ちゅー」
「ちょ、ちょっと待った」
ぐいぐいと近づいてくる珊瑚ちゃんの顔を何とか引き離す。
「なんであかんの?」
「なんでって……そりゃ、ねぇ? とにかく、やっぱまずいよ」
「ならアメ舐めてきたらちゅーしてもええの?」
「いやそっちのまずいじゃなくって」
「あー」
尚も食い下がってくる珊瑚ちゃんをどう言い聞かせたものかと考えてると、瑠璃ちゃんが俺に抱きついたままの俺に気付いてしまう。
その声に反応して、ミルファの視線もこちらを向く。
……まずいところを見られた。
「貴明のスケベー! さんちゃんから離れろー」
「珊瑚様っ、貴明から離れてくださいっ!」
予想通り、二人から非難の声が飛んでくる。
そういえば、なぜかミルファがこういうとき俺でなく俺の相手を標的とする。
例えそれが生みの親だろと遠慮なしなのはすごいと思う。
特にイルファさんを見ていて、メイドロボは生みの親に対してはみんなイルファさんのようなのだと思っていた俺には大きな衝撃だった。
それと、以前なら即時に物理攻撃を飛ばしてきた瑠璃ちゃんだったが、いつからかあまり殴る蹴るといったことを
あまりしなくなったのも今の俺には救いだろう。
「だって、貴明がちゅーしてくれへんのやもん」
「さんちゃん、そんなん理由になってへんよ」
「そうです。大体貴明は私にだってちゅーなんてしてくれないんだからっ」
「でも一緒に暮らしたら毎日ちゅーしたるって言ってたやん」
いや、確かに言ったけどさ。
それを言ってたのは珊瑚ちゃんのほうだったはずじゃ。
「なのにウチ引っ越してきてから全然ちゅーしてもらってないで」
「そうは言っても」
そんな気軽に出来るはずないじゃないか。
なんだかんだ言っても、女の子に対して消極的になってしまうのは相変わらずだった。
「私は毎日してますけどね」
ピシッと、空気が凍る音がした。
いつの間にかリビングに来ていたイルファさんがさらりと爆弾を投下してくれた。
「してますよ、ちゅー。一日一回」
さらに強調するように繰り返す。
「いっ、イルファさん……、いつからそこにっ」
「ついさっきです。おはようございます貴明さん」
冷や汗をだらだら流す俺の心情など素知らぬ顔で、イルファさんは涼やかに朝の挨拶をしてくれた。
「いっ、イルファ、今のほんとなん!?」
「はい。あ、もしかして瑠璃様ヤキモチ焼いちゃいました?」
「ばっ、ばかー。ヤキモチなんか焼いとらへんわっ」
「なんでイルファ姉さんが貴明とちゅーなんてするのよ! 瑠璃様としてればいいじゃない!」
「なっ、何言ってるんやミルファ! ウチはイルファとなんかちゅーせえへん!」
「そんな瑠璃様……、イルファは悲しいです。瑠璃様は貴明さんとしかちゅーしないとおっしゃるのですね」
「んなっ!? そっ、そんなこと言ってへんやん! 貴明とだってちゅーなんか……」
「どうしてそこで声が小さくなるんですか!? 貴明とちゅーなんかしないとはっきり言ってください瑠璃様!」
「うっ、ウチが誰とちゅーしようが勝手や!」
「勝手じゃありません。貴明とだけはちゅーしちゃダメなんです!」
ああもう何が何やら。
「いっちゃんばっかずるいー。ウチもちゅーするー」
瑠璃ちゃんイルファさんミルファが女三人で姦しいを実演している傍らで、珊瑚ちゃんが再び顔を寄せてくる。
それを見た瑠璃ちゃんとミルファがまたあーっと大きな声を出すが、この際それは後回しだ。
両手で珊瑚ちゃんのちゅー攻撃から身を護りながら、爆弾魔を抑えこもうと試みる。
「イルファさんっ、なんであんなこと言うんですか!?」
「なんでって……だって毎日ちゅー、してますよね?」
「ぐっ」
頬に人差し指を当てて、不思議そうな顔で首を傾げるイルファさんに、俺は何も言い返せない。
なぜならば、確かにイルファさんの言うことは嘘偽りない事実なのだから。
だが、誤解なきよう言っておきたい。
あくまで『俺』がしているわけではない。
ちゅーするんじゃなく、されるのだ。
ちょうど今の珊瑚ちゃんがしようとしているように。
珊瑚ちゃんと違うのは、イルファさんがものすごく狡猾だということ。
常に俺の一手先二手先を読み、あの手この手で追い詰め、最後にはその……ちゅーっとされてしまうのだ。
俺の知る限りでは、イルファさん唯一はタマ姉に匹敵しうるくらい権謀術数が似合う人だろう。
「今日の分は今しちゃいますか? やん、みんなの前でなんて貴明さんってば大胆です」
イルファさんはにっこりとたおやかに笑い、なんとも恐ろしいことを言ってくれる。
それを聞いた瑠璃ちゃんとミルファの目つきが一層厳しいものになり、俺は恐怖心からひたすらぶんぶんと首を振ってNOと意思表示をする。
「そうですか、じゃあいつもどおり、二人っきりの時に致しましょう」
もうダメだ、完全に手玉に取られている。
どうしようかと思ったとき、俺は救世主の姿を見た。
「あっ、シルファ、おはよう」
イルファさんの陰に隠れた小さな姿。
イルファさんやミルファとそっくりな顔立ちに、淡いミントグリーンの髪。
名前だけはずっと聞いており、そしてついこの間この家にやってきたHMX−17シリーズ最後の一人。
それがHMX−17cシルファだった。
「……おはようございます、貴明様」
イルファさんやミルファさんと比べてずいぶんと他人行儀だが、そこは仕方がないだろう。
まだ出会ってから日も浅いのだ。
「あっ、しっちゃんおはよー」
「珊瑚ママっ」
珊瑚ちゃんに呼ばれた途端、俺のときとは打って変わってぱぁっと明るい笑顔になると、シルファは珊瑚ちゃんに駆け寄ってぴょんと抱きつく。
何でも、シルファは珊瑚ちゃんにベタ惚れとかなんとか。
他の二人と比べ精神的に(という表現が正しいのかわからないが)幼いという。
しかも、その内面の年齢にあわせてボディの方も相応の年齢に見えるように手直ししてしまったというから驚きだ。
聞いた話によるとHMX−17シリーズに対する入れ込みは並大抵のものではないらしく、イルファさんとミルファにもその持てる技術がつぎ込まれ、そのトリを飾るのシルファに至っては開発チームの皆さんのこだわりが徹底していたらしい。
そのおかげでシルファは一人珊瑚ちゃんたちと暮らせるようになるまで時間がかかってしまったのだと言う。
侮りがたし、来栖川。
そんなわけでシルファはイルファさんやミルファさんと同型機にも係わらず、一人だけ小柄なボディとなっている。
「あ、シルファおはよー」
「おはよーさん」
ミルファと瑠璃ちゃんの意識もシルファの方に向けられ、俺は辛くもこの歴史的ピンチを切り抜けることが出来た。
そうか、見当たらないと思ったら、イルファさんはシルファを連れに部屋に行ってたのか。
……そしてやってきて早々の爆弾発言、か。
イルファさんってもしかしなくても愉快犯なんじゃなかろうか。
まあなんにせよシルファのおかげで助かった。
まだ珊瑚ちゃんに抱きついているシルファの横まで行き、耳元でひそっとお礼を言う。
「さんきゅ、シルファ」
「……?」
シルファの方はなぜお礼を言われたのかわからないといった様子で怪訝な表情を浮かべた。
少し反応に乏しいような気もしたが、シルファとはあんまり会話したことない上に先ほどまでの事情を飲み込めていないようだし、これくらいの反応が当たり前か。
そんな風に自分を慰めていると、シルファはぷいっと無言で顔を逸らすと、さらにぎゅっと珊瑚ちゃんに抱きつく力を強めた。
「う……」
これは……もしかしてやっぱりそうなんだろうか。
薄々気付いていたが、俺って慣れてないとかでなくシルファに嫌われているのかもしれない。
少なくとも、今の反応は好意的なものではなかった。
「珊瑚ママ、ご飯食べよ」
「うん、ええよー」
ちょっとショックを受けていると、シルファは珊瑚ちゃんの手を引っ張ってダイニングへと行ってしまう。
「そうだ、貴明も朝ご飯にしよ。私今日も頑張って作ったんだから」
「あっ、うん」
俺は俺でミルファに腕を引かれ、テーブルの自分の席に着かされる。
向かいの席で楽しげに食事をする珊瑚ちゃんとそれを見ているシルファ。
そんな二人を、というかシルファを見て、一緒に暮らしてる相手から嫌われているのかと思うと少し気が重くなってしまう。
――まあ、いつかなんとかなるだろう。
結局時間が解決してくれるだろうと受身で客観的な結論に達してしまう。
タマ姉にも注意されたことがあったけど、俺ってどうにも消極的なんだよな。
いけないとはわかっててもなかなか治らない。
「はぁ」
「どうしたの貴明、おいしくなかった?」
「あ、ううん。すごくおいしいよミルファ」
「えっ、そう? えへへ、良かった」
男一人に女二人、そしてメイドロボが三人(体?)
これが今の我が家の状況だった。
なぜこんな雄二の妄想のような生活をすることになったのかはひとまず置いて、今はただ目の前の朝食に集中することにしよう。
そして今日こそはイルファさんから逃げ切ってやると心に決め、朝食を平らげていく。
415 :
中身:2005/09/18(日) 01:01:36 ID:yKfDoV+v0
グッジョ!
417 :
名無しさんだよもん:2005/09/18(日) 03:23:31 ID:DzU5BseVO
いいかげんアルルゥにモッコリさせてくれ
>417
バッサリ
>>415 アンタっっ! 最っっ高だっっっっ!!
うわ、すげえ良い!
タイプの違う各々のキャラがしっかりと立てられてるトコに巧みの技を感じるよ。
上手くまとめられているし、凄いね。
良いモノを読ませて頂きました。
GJ!!
>>415 GJ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
続きキボンヌ。
もっとシルファ分が欲しい。
虹の欠片マダー( ゚д゚)
空は昏く、雨音は途切れないけれど、その勢いは少し弱まった。
腕の中の泥にまみれた小さな命は小刻みに震えている。ふわふわのタオルと、暖かいミ
ルクをやりたいと思い、自分は熱いシャワーを浴びたかった。
空を見上げる。雲に切れ間は見つからず、どこまでも続く黒い天蓋。
雨はいつ止むとも知れない。
だから雨の中を走り出した。
家に辿り着けば全て与えられると思っていた。
だから雨の中を走り出した。
--虹の欠片-- 第八話
小降りになった雨がパラパラと其処らに落ちては音を立てている。これまで一体何度開
けたか分からない自分の家の扉。その向こうには目を閉じていてもはっきりと思い浮かべ
られる玄関の光景、……そしてこのみが居る。
私服姿なのは当然一度帰ってからこちらに来たからだろう。扉が開いていたのは……、
そういえばこのみが持っていた合鍵を返された記憶は無い。捨てられても困るのだけど、
まだ持ち続けていたのかと、複雑な思いが胸中を駆け抜ける。どんな思いでこのみはそれ
を持ち続けていたのだろう。
「――――」
このみを前に言葉が出ない。何か言うべきなんだろうと思うのに、頭の中は真っ白で何
も言葉が出ない。
「……タカくん、……ごめんね……」
先に言葉を発したのはこのみのほうだった。それは小さな、小さな声で、ちゃんと聞こ
えていたのに本当にこのみがそう言ったのか、俺には確信が持てなかった。
「ごめんって……」
何故今更このみに謝られなくてはいけないのか。謝罪ならもう散々聞いて、そして終わ
ってしまったのではなかったのか。
「河野くん……?」
雨音と俺の背中で陰になって、状況が分かっていない小牧がひょっこりと玄関を覗き込
んだ。止める間などなかったし、あったとしても止める言葉など思いつかなかっただろう。
「あ……」
二人の口から同時に同じ音が漏れた。
「――あ、あのっ、あたし帰りますねっ!」
先に反応したのは小牧の方で、慌てて傘を広げ雨の中に出て行こうとする。けれど、
「待って――」
どうして口がそんなことを言ったのか分からない。ただ小牧に行って欲しくなかった。
もう少し傍に居て欲しかった。――このみと二人きりになるのが怖かった。
薄桃色の傘は広げられたまま、小牧はその場に立ち尽くした。そして傘がゆっくりと半
回転した。
「……でも、あたし、お邪魔、ですよね……」
小牧の表情は傘に遮られて見えない。
「お邪魔なのはわたしのほうだね……」
振り返るとこのみはもう靴を履いて玄関に下りていた。
「タカくん、これ、もうわたしが持ってるのも変だし、返すね」
そう言って手に握らされたものを見ると、それはこのみが持っていた家の合鍵だった。
そうしてこのみは俺の横をすり抜けるようにして、傘も差さずに雨の中へ――。
「――――!」
行かせなかった。行かせられるわけがなかった。
「待てよ」
俺の右手はこのみの手を掴んで引き止めていた。手のひらから零れ落ちた合鍵がチリン
と地面で音を立てる。
「なんか変だろ。ごめんって言うためだけにずっと家で待ってたのか? 合鍵返すだけな
らポストに放り込んだっていいだろ。なんか言いたいことあったんじゃないのかよ」
「…………」
このみは答えない。俺から顔を背けたまま、けれど手を振り解くこともしない。
「…………いよ」
「……え?」
「酷いよ!」
俺が手首を掴んでいたこのみの手が逆に俺の手首をぎゅっと掴んだ。おそらくは力の限
りに握られる。痛みは……腕には感じなかった。
「言いたいこといっぱいあって、でも全部わたしの我がままで、ずっと考えてて、それで
何も言わないでおこうと思ったのに、こんな風に引き止めるなんてタカくん、酷いよ……。
言わないでいられない、いられないじゃない!」
叫んだ後で、ぽつりぽつりとこのみは言葉を漏らし始める。
「……タマお姉ちゃんと、ね、……そう、なったのは……、解るよ。タマお姉ちゃんはわ
たしよりずっと女らしいし、魅力的だし、仕方ないかなって思った……。……なに言って
るんだろう、わたし。わたしにこんなこと言う資格ないのにね……」
このみの手には強く、強く力が込められていて、ぶるぶると震えている。
「分かんないよ! わたしも、タカくんも、みんな、みんな何考えてるのか分かんない!
タカくん、どうしてタマお姉ちゃんじゃ駄目なの!? タマお姉ちゃんならわたし、タ
カくんのこと諦められるのに!」
ぞぶりと背中から心臓を貫いて行った衝撃は、血管に直接劇毒を流し込んだように頭の
先からつま先、そして指の先にまで駆け抜け、響いた。傷ついた心臓の軋む音が聞こえる。
呼吸は止まり、指先は震えた。
――諦められるのに!
つまり――!!
「このみっ……」
「…………」
ありったけの想いを込めて名前を呼んだ。ありったけの想いを込めたはずなのに、その
言葉は喉のあたりで引っかかって、まるで呻くような音にしかならなかった。
それでも俺の言葉はまだこのみを揺らすことができるのだという確信を持ってしまった。
それと同時にもう諦めかけていた様々な想いが胸中に満たされる。温もりは血液に乗って
全身に広がっていく。
――ああ、冷え切った体に満たされる熱い血液はこんなに痛く、そしてその痛みほど愛
しいものはない。
愛しい。愛しい。愛しい。愛しい。その髪も、その瞳も、その鼻筋も、唇も、その首筋
も、その肩も、手のひらも、指も、爪の形も、俺を呼ぶ声も、そうでない声も、表情が、
性格が、俺の知っている全てのこのみが、今俺の腕を痛いほどに掴むこのみが――
――愛しい――。
「……うして……」
「――!!」
けれどそんな俺の想いとは裏腹に、このみは力の限りで俺の右手を振り払った。そのあ
まりの勢いと指先に走った鋭い痛みは、指が折れたかと一瞬思わせるほどだった。
全身を満たしていた期待の熱は、まるで冷水でもかけられたように消え去った。
「どうしてこの人なの!」
このみの指が小牧に突きつけられていた。
薄桃色の傘が揺れて、小牧がびくりと身を竦ませたのが分かった。
「タマお姉ちゃんの方がずっと――」
「このみっ!」
「!!」
思わず叫んでいた。なんで叫んだのか分からない。ただ俺は無性にワケの分からない衝
動が全身に溢れかえっていて、それを吐き出しただけだ。
勢いに押されたのかこのみは小牧に指を突きつけた姿勢のままで固まっている。
「……小牧は違う……、タマ姉も……」
言葉を吐き出すのがこんなに辛いと思ったのは初めてだった。
「……俺が好きなのは――」
「嘘つきっ!」
嘘じゃない! と叫び返せなかったのはこのみを抱けなかった後ろめたさのせいだった。
「……嘘つきっ!」
何も言い返せなかった俺にもう一度同じことを叫んでこのみは雨の中に駆け出した。一
瞬の逡巡は、一秒になり、二秒になり、やがてこのみが自分の家に駆け込むには十分すぎ
るだろう時間が流れた。
それはつまりほんの数十秒。
ああ、かつてこんなに長く感じた数十秒があっただろうか。雨音の向こうで隣家の扉が
バタンと乱暴に閉じられる音がはっきりと聞こえてくる。
胸に溜まるのは限りなく降り注ぐ後悔だ。今だってもっといい言い方があったのではな
いだろうか。無理にでも抱きしめるべきだったんじゃないか。
分からない、分からない、分からない。
混乱する頭の中ではっきりと分かることは、――俺がまだこのみのことを好きでたまら
ないという事実だけだった。
「河野くん」
気がつくと、傘を畳んだ小牧が目の前に立っていた。
「はい、これ」
渡されたのは、このみから渡されて、そしてこのみを引き止めるときに落とした家の合
鍵だった。
「…………」
小牧はしばらく黙って俺の顔を見上げていたが、やがてわずかに顔をしかめた。
「追いかけないんですか?」
それは多分遅すぎる質問だった。このみを追いかけるならすぐに追いかけるべきだった。
いや、それを言うのならあの夜にこのみをしっかりとこの腕に抱いておけばよかったのだ。
「……いいんだ」
何を言っても、何をしても、もう手遅れなんだろう。
このみの気持ちがたとえほんの少しでも俺に残っていることは、さっきの会話で分かっ
た。分からないわけがなかった。けれど同時にそれがこのみを苦しめていることもよく分
かってしまった。
俺の気持ちを信じられなくなったこのみが、今安らぐ場所として雄二の傍を選んだのな
ら、今俺がこのみに近づこうとすることは結局このみを傷つけることなのだ。
「……本当に?」
迷いたくなかったから俺は頷いた。
このみを傷つけたくない。それが俺の答えだ。
愛しているから、傷つけたくない。もう、これ以上は――。
好きだから、終わることもあるんだろう……。
「…………」
何故か小牧は大きくため息を吐くと、首を横に振った。
「あたしはもう帰りますけど、一人で大丈夫ですか?」
「あ、いや、ちょっと待って……」
慌ててそう言うと小牧はちらりと腕時計に目をやった。
「あまりゆっくりもしてられないので……」
「五分、五分だけ待ってて」
返事を聞かずに振り返り、靴を脱ぎ散らかして玄関に上がる。
気持ちを切り替えなきゃいけない。今回のことで小牧には本当に迷惑をかけっぱなしで、
この上一人で帰らせるなんてしちゃいけない。
――本当にそれだけか?
階段を駆け上がりながらふとそんな疑問が浮かぶ。
――辛くて、独りで居たくなくて、俺は小牧を利用してるんじゃないか?
ずくんと胸に疼きが走る。
……俺はその自分を責める自分の声を否定できない。
それでも小牧を待たせたくなくて――小牧が帰ってしまうのが怖くて――俺は急いで着
替えをした。なんというか、着替えたのは小牧に科せられた――俺を家まで送っていく―
―という役目が終わったことを明確にしておきたかったからだ。
息を切らせて階段を駆け下りると小牧はまだそこにいた。困ったような表情で時計と睨
めっこをしている。俺も気になって壁掛け時計に目をやると夕方五時を回ったところだっ
た。
「ごめん、お待たせ」
「えっとあたしもう行かないと」
「うん。だから送ってくよ」
「え?」
小牧の呆気に取られた表情。
これを見られるだろうとニヤけていたのが遠い昔のように感じる。あの時なんで俺はあ
んなに浮かれていたのだろうか。バカみたいだ。いや、バカに違いない。バカだ。
「小牧は俺を送ってきてくれただろ。今度は俺が送る番」
「あ、と、え……」
小牧は俺の顔と腕時計の間で視線をさ迷わせていたが、すぐにため息を吐いて諦めた。
「寄るところがあるので遠回りになりますけど構いませんか?」
「……? もちろん構わないけど」
「そうですか。それじゃ行きましょう。戸締まりは忘れないように注意してくださいね」
小牧はそう言うと、俺の返事を待たずに傘を差して雨の中に歩き出す。
俺は慌てて玄関の鍵を閉めると、傘を中に忘れてることに気がついて、また鍵を開けて
傘を出して、鍵を閉め忘れたまま走り出しかけて、また戻って鍵をかけて、それからよう
やく小牧の背中を追いかけた。
小降りの雨の中を小牧の少し後ろを歩く。何度か横に並んでみたのだが、帰り道のよう
に小牧がこちらを見上げて微笑むようなことは一度もなかった。
それは――、仕方ないと思う。
本当に小牧には迷惑をかけっぱなしで、嫌な思いばかりさせている。
「ごめんな……」
はっきりと口にしたにも関わらず、小牧は何も答えなかった。振り返りもしなかった。
俺たちは駅前を通り抜け、よく知った坂道をあがっていく。それは学校帰りの道をまた
逆に歩いているだけのことだ。小牧の家が帰りに聞いた方向にあるのだとすると本当に随
分と遠回りをしてることになる。
学校に用事が残っていたのだろうか。しかし下校時間はとっくに過ぎていて今から学校
に入るのは中々難しいのではないだろうか。と思っていると、学校近くで小牧は角を曲が
る。
ここで小牧がどこに向かっているのかはっきり分かった。こちらの方向にわざわざ向か
って行く場所なんてひとつしかない。俺も幼い頃から何度も世話になっている学校の裏手
にある総合病院だ。
それを意識すると、少し口の中の痛みが戻ってきた。
まさか俺の診察のためにこちらに来たわけでもないだろう。とすると小牧はどこか体が
悪いんだろうか?
しかし病院につくと小牧は慣れた様子でロビーを抜けるとエレベーターに乗る。俺も慌
ててその後を追いかける。
愛佳の様子は学校内と変わらない。いつもと同じ、日常の一部分としてエレベーターの
ボタンを押し、その中で階数表示を見つめている。一方何も説明されないまま連れてこら
れた俺はただ色々な推測を頭で巡らすことしかできない。
普通に考えればお見舞いに来たということなんだろう。けれどこんな雨の中、わざわざ
ここまで戻ってきてまで訪れる相手って小牧にとってのどんな人なのだろう。
しかしそんなものは本当にどうでもいい思索だった。どうせすぐに分かることだ。
小牧がエレベーターを降りたのでそれを追う。小牧がナースステーションにちょっと頭
を下げたから、俺も同じように会釈しておく。そして小牧はある病室の前で立ち止まる。
病室のネームタグには「小牧郁乃」と書かれている。
家族か、親戚か……。
小牧が二度病室のドアをノックすると少し幼い声が「どうぞ」と応えた。
カラリと扉が開き、病室の中が露わになる。多分、一般的な個室の病室。荷物が多いな、
という印象を受けた。病室の真ん中にはベッド。その上には一人の少女が座っていた。
「遅くなってごめんね。母さんは来た?」
「うん。もう帰った。さっさと帰った方がいいんじゃない?」
「そう? でも面会時間ももうちょっとだし、ギリギリまでいるね」
「……好きにしたら。で、そちらは?」
病室のドアを閉めたところで立ち尽くしている俺に少女が胡散臭そうな視線を投げる。
「クラスメイトの河野くん。河野くん、あたしの妹の郁乃です。よろしくしてあげて」
「よろしく」
笑みを浮かべようとしたが、顔が強張っただろうなと思った。そもそも俺は小牧から妹
が入院しているどころか、妹がいることさえ知らされていなかったのだ。
ベッドの上の少女は服の上からでも体つきが華奢なことがよく分かる。でも言われてみ
れば目元なんかが小牧に似ているなと思った。
「酷い顔ね……」
郁乃という小牧の妹が酷評したのは俺の下手くそな作り笑いではなく、殴られた跡の残
る顔のほうだった。
「コラ、郁乃。せっかくお見舞いに来てくれたのに。ごめんね、河野くん」
「あ、いや、いいよ。実際酷い顔だよな」
病室にすえつけられた洗面台の鏡で改めて自分の顔を見てみると、そこには確かに酷い
顔が映っていた。腫れは収まってきていたが、その代わりにはっきりと青アザができてい
る。
「なにやったの。ケンカ? それともイジメでも受けてんの?」
明らかに軽蔑と分かる眼差しが突き刺さる。けれど不思議と怒りは湧かなかった。小牧
の妹が言ってるのはどちらも的外れすぎた。
「ちょっと郁乃!」
小牧に窘められて、小牧の妹は少しバツが悪そうな顔をするが、それも一瞬のことです
ぐにこちらに威嚇の眼差しを向ける。
「あたしが聞きたいのは、なんでそんなヤツがお姉ちゃんと一緒にいるのかってこと!」
がぅっと噛み付かんばかりの勢いで小牧の妹は俺を威嚇する。
――けれどそれはつまり、
「ああ、暴力的なヤツとか、イジメ受けてるようなヤツとお姉ちゃんが一緒にいるのがイ
ヤなのか」
「わぁーーー!! 帰れ! バカ! 帰れ!」
俺が思ったことをそのまま口にすると、小牧の妹は一瞬で沸騰してシーツを手繰り上げ
るとゴロリとベッドの上で丸く隠れてしまう。その様は思わず笑みが零れそうなほど、あ
からさまな図星の見本図だった。
「ふふっ」
「――あ……」
声に釣られて視線を向けると、小牧が目を大きく見開いて俺を見上げていた。
「なに?」
そんな顔をされる心当たりはなかったので素直に聞いてみると、小牧は目を瞬いて首を
少し横に振った。
「ううん。河野くんが笑ったって思って――」
「それだけ?」
「うん――、あれ、そうだね。それだけだよね」
小牧は自分が驚いたことに驚いているようでもうワケが分からない。なにやら突き刺さ
るような視線を感じるかと思うと、いつの間にかシーツから顔を出した小牧の妹がやけに
鋭い瞳でこちらを見ていた。
「シッ! シッ!」
野犬でも見るかのような目で手で払われる。
――これはもう処置なしだな……。
肩をすくめるしかない。初対面で随分と嫌われたものだ。
でもまあそれも仕方ないよな。
鏡に映る自分の顔は、少なくとも年頃の少女に好印象を与えそうにはない。
「小牧、俺は外で待ってるよ」
病院の玄関で面会は六時までとか書いてあったから、もう三十分も待つことは無いはず
だ。
「あ、でも……」
「待たなくていいから帰れぇ!」
「もう、郁乃」
俺への威嚇を止めない妹と、それを宥める小牧を微笑ましく思いながら病室を後にする。
すぐそこにロビーがあったので、そこの長椅子に腰を降ろした。夕食時間後なのか、食
器を収納する移動式の棚には疎らにトレイが収まっている。ロビーには数人の先客がいて、
一瞬だけ注目を集めるがそれだけで、それぞれ雑誌やテレビに視線を移した。
色々聞かれても逆に困るので無関心は在り難い。俺はローカルなニュースを流している
テレビを見ながらまったく別のことを考えていた。
――小牧に妹か……。
そう考えてみれば小牧の面倒見の良さは姉っぽいと言えるかもしれない。しかし一体何
の病気で入院しているのだろうか。ぱっと見た感じでは至って元気そうに見えた。しかし
その一方でその病室には十分な生活感が漂っていて、それはとどのつまり入院が長いこと
を示しているのだと思う。
なんとなく保健室での小牧の姿を思い出す。
ああ、そうか、あの時の小牧にどこか安心を感じたのは、小牧のほうがベッドの傍で誰
かを――つまり妹を――見守ることに慣れているからだったのだ。
「河野くん」
声をかけられて振り返ると小牧がいた。テレビの端に映し出された時刻は俺が追い出さ
れてからまだ五分と過ぎていない。面会時間の終わりまではまだ十分以上残っていた。
「お待たせしました。帰りましょう。……送っていってくれるんですよね?」
ああ、うん、と俺は頷いた。
病院に居たのはほんの三十分にも満たない時間だったのに、外に出ると雨は止んでいた。
西の空には雲の切れ間が見えて、そこから地平線に近づこうとする太陽が、黒かった雨雲
の天蓋を今は紅く照らしている。
俺は傘を左手に、小牧は傘と鞄を右手に肩を並べて歩く。
小牧の妹のことは色々と気に掛かっていたが、なんだかそれを聞くのを躊躇われて俺は
じっと押し黙ったまま小牧の歩調に合わせることだけを考えていた。
やがてゆっくりと太陽が地平線に差し掛かる頃、小牧が小さく呟くように言葉を口にし
た。
「郁乃は、妹はね……」
自己免疫疾患……、言葉にするとなんと短いんだろう。と小牧は憤りさえ込めてその言
葉を口にした。俺にはそれがどういう病気なのかよく分からなかったが、小牧の簡単な説
明によると、要は免疫細胞、つまり外敵から体を守る細胞が自分自身の体を外敵と誤認識
して攻撃してしまう、というものらしい。詳しいことは分からないし、多分理解もできな
いだろう。ただ分かったのは小牧の妹が幼い頃からずっとその病気に苦しめられてきたと
いうことだけだ。
「ホントはね、もう退院できてたはずだったんだ……」
近年見つかった新しい治療法で小牧の妹の病状は一気に改善に向かった、らしい。
「五月にね、一度手術を受けて、それは成功したんだけど……」
手術は成功したが結局退院できるほどに体力は回復しなかった。肉体は健康に向かって
いるのだが、疲弊しきった関節などのリハビリが終わらないらしい。
「視力が戻っただけでも本当に良かったんだけどね……」
小牧が声を詰まらせる。
こつんと空いた手と手の甲が触れた。それはほんの偶然だったけれど、俺はその手を捕
まえた。別にやましい考えがあったわけじゃない。ただ今日一日小牧から貰った温もりを
少し返したかった。ただそれだけだった。
小牧の手がぎゅっと俺の手を握り返してくる。
「……郁乃は何も言わないけど、本当は学校に行けるようになるの、楽しみにしてたと思
うの……」
そしてそれはまた小牧自身の願いでもあったのだろう。
繋いだ手から強く、強く、小牧の気持ちが流れ込んでくる。
期待するというのはいつだって諸刃の剣だ。期待している間は頑張れる。けれど期待が
叶っても喜びと引き換えに頑張りは終わる。そして期待が裏切られたときは、心は酷く傷
つくのだ。
それは、――それは俺も良く知っている。
俺自身裏切られ、裏切った――から――。
「――ごめん、なんだか暗くなっちゃったね。こんな話したの河野くんだけだよ……」
「俺も今日は情けないところ一杯見られたから、お互い様だな」
「そうだね……。お互い様だね」
夕日が沈む。
紅く染まる空の下を俺たちは手を繋いだまま歩いた。
どこまでも――。
いつまでも――。
と、ひと時願うことくらいは許して欲しい。
ほんのひと時。
雨上がり、東の空に虹が出ていたとしても俺たちは気付かなかっただろう。その時は空
よりも、水たまりよりも、お互いの手が伝える熱の方が大事だった。
続く――
愛佳ファンはこのまま続きは読まずに愛佳とくっついたことにしといてくださいwww
どろりかと思うと、さらりと流す。そして今回ほど小説ってヤツに選択肢が無いのを悔
しがったことはないですよ。皆さんが観たかったのはこのみ追っかけルートだったかなぁ
と思いつつ、好きなのに追いかけない。それが貴明クオリティ。受け身!受け身!
次回からは第二部後半ということになるのかな。前半部に時間をかけすぎたので、後半
部はざっくりと終わらせるかもしれません。というか、当初のプロットのままこのペース
で書くと数年かかるのでぃす('A`)
ある種、打ち切りみたいな作品の終わらせ方したらごめんね。どういう形でも終わらせ
るからごめんね。俺たちの戦いはこれからだ!!
>>436 まさにへたれクオリティ全開ですね!>貴明
でもこうじゃないと展開が面白くないので(笑)問題なしです。
ペースとか気にせずにご自身で納得できる作品にしてください。
一番最悪なのはこのみだろ
>>438 それについては触れる気すら起きませんでした…
多分このみとよりを戻す話になるだろうと思ってたから
(タマ姉、愛佳の方にいっちゃうってんじゃお話にならないし)
この展開は意外じゃないけど・・・。
貴明とこのみの「ピュアな恋愛」とやらの最大の被害者が向坂姉弟になるであろうこと
が哀れだな。
つか、このみは何様のつもりなんだ。
ヒドイのはお前だとまず自覚しろと小一時間(ry
つーか続けば続くほどグダグダになってく作品の典型だな
これなら早めに幕引きしたほうがいいようにオモ
最初の展開で、タマ姉このみ雄二貴明の四人の関係を描いたら面白かったと思うが
愛佳を絡ませたせいで駄作への道を突っ走ってると思う
都合のいい相手がいるのに、それでもこのみに執着した理由付けがあまりにも適当
すぎるんじゃないか?
その挙句に傷つけたくないから関係切るって面白すぎて笑っちまったぞ
悲痛な話めいているけど、その実「このキャラ攻略失敗したから別のキャラいこう」
程度にしか思えなくなってきた
愛佳のような逃げ道がない状態で、貴明やタマ姉がどう動くのか見てみたかったよ
>>443 微妙にテンポ悪くないか?
さっぱり怖くない俺はどう反応すれば良いのだろう。
血ッ…!
具合悪くなってきた…
447 :
226だが:2005/09/18(日) 22:00:33 ID:MSeX9lvS0
見事に当たってしまったじゃないか
あっはっはっはっはっは……ハハ(遠い目
残心(・∀・)マダー? チンチン
449 :
名無しさんだよもん:2005/09/18(日) 22:45:16 ID:DvZNbb6N0
河野毛まだでごじゃるか?
てんだ〜は〜とマダ-?
なんか前スレなどで一時期、虹に対して、TH2SSである必然性が・・・とか
キャラ設定に違和感が・・・とかいう理由での批判が集中したことがあったが、
おれはそうは思わなかった。
だから、これまでずっと読んできたんだが、ここ何回かを読んできて、
そういう批判のレベルじゃなく、もうお話として破綻しかかってると思ったよ。
虹の人には悪いが、お話の幕引き時を誤った感がある。
意地になってTH2キャラを無理やり片っ端から話に絡めようとしているように
しか見えないんだよな。(あるいはそれが初期の批判に対する、虹の人なりの
抵抗なのかもしれないが)
もっとすっきりとお話を終わらせるチャンスはあったと思うが、今となっては、
なんか無理やり連載を続けているマンガみたいで、痛々しい。
452 :
451:2005/09/18(日) 23:52:42 ID:uVsOgALI0
ちなみに、同様のことは、虹だけじゃなく、雰囲気としてはまるきり
正反対のテンダーハートの方にもいえると思う。
前回、やっと意外性のある終わり方で引いて見せたけど、
そこに至るまでの過程の描写があまりにも冗長で、読んでるうちにダレた。
もっとすっきりまとめられたんじゃないかと思うんだが。
虹への意見には反対。テンダーハートへの意見には賛成
虹の愛佳がどうも受け付けない漏れガイル。
作者の人の大概の作品に愛佳出てることから、お気に入りのキャラって言うのは分かるし、
今までのは受け付けられたんだが、虹の愛佳は何故か身体が拒絶反応起こす。
>>436 第二部前半終了、乙です。
この後の展開が気になる・・・といいたいところですが、
>愛佳ファンはこのまま続きは読まずに愛佳とくっついたことにしといてくださいwww
この言葉が、この後の展開を指し示しちゃってますからね。
一番キツイ役を引いているのは彼女、ということでしょうか。
読みたくない・・・けど、読まずにはいられないんだろうな・・・。
いろんな声があるようですが、
中途半端なところで打ち切り、とかはさすがに勘弁してください。
それこそ、作者さまが貴明以下のヘタレということに(失礼)。
もし雰囲気的にここに投下しづらければ、適当なフリースペースにでも誘導してください。
頼んますよ〜。
最近いろいろ議論されてるので、イッパシのSS書きからの意見だが・・・。
SSっつーのはifの世界を作者の好きなように書けるモノだ。
だからといって元々のキャラの性格等を著しく変えるのはダメだと思う。
(黒このみのようにネタと割り切ってやってるのはいいが)
設定を変えてまでそのキャラを使う意味が無いわけだ。
SSを書いている人たちはあらかじめ用意されている基本の設定を
使って物語を書くわけだから、基本の設定を崩すor気にいらないのなら
オリジナルのキャラを使うべきだと思う。
ましてや読み手を不快にさせるのは一番いけないことだと思う。
偉そうですまん。
なんか、虹の愛佳は貴明にとって都合のいい存在としてしか描かれてないからね。
(誰にとってのとは言わないが)自己愛の象徴になっちまってて、愛佳というキャラの
イメージを著しく逸脱している。
今回、貴明に引き止められた時点で、
「あたしは、そんなに都合のいい人間に見えますか?」
とか愛佳に言わせて、貴明を突き落としたほうがよかったんじゃないかな。
これなら原作における愛佳のコンプレックスとも合致してるし、ここまで批判を受ける
こともなかったんじゃないかなーと思うんだが。
二次創作で、キャラの扱いにどうこうってのはあんま言いたくないんだ
その人なりの解釈、考え、受けた印象っていうのがあると思うからね
そのギャップをネタにするような話(黒このみ)とか、別作品(カイジネタとか)に当てはめる場合などは
世界観そのものがTH2でないからこそ生きることだと思うんだけど
虹は、そのTH2の世界観がそのままに、キャラだけが原作と一致しなさ過ぎるんだと思う
かといってその差をネタに楽しめるわけでもない。
当初の発端がリアルの話だということなので、中傷めいた発言になるけど
貴明に自分を当てはめることで、自分に対して言い訳をするためにSSを書いた、
題材にTH2を選んだ理由が、ちょうど今SSを書いているゲームだったから程度のものであったのではないかという印象を受けた
それくらいには、貴明の行動と他キャラの貴明に対する対応の不自然さが目に付いた。
二次創作をするのならせめて、その作品の二次創作を作ろうと思った気持ち、くらいは表現して欲しいと思う。
というかHP持ってるのにわざわざここに貼るなよと言いたい。
自分の城だけで好きに書いたらええやないか。
特にこう、読む人を選ぶ話はさ。
「TH2のキャラクターはほのぼのしているからドロドロした痛い愛憎劇などイラン」
なんて言い出したらTH2のSSの可能性が狭まっちゃう気がする。
別に四肢切断虐殺話や主人公マンセー全キャラハーレム話という
読者が著しく不快に思ってしまう話という訳ではないし
「ハッピーエンドの後の話だから全てハッピー」以外の可能性もあるわけだから
そんなに目の敵にするほどキャラクターに違和感を感じはしないと思う
作者さんにはぜひ続きを書いて欲しい、ここが難しければ上の方で誰かが言ってたように
別の場所に投下してでもありがたいのでお願いしたいです。
結論:虹の作者は今後このスレで二度と二次創作するな
なんでこんな叩かれてるかわからん。
別に面白いって思う人が一人でもいればいいじゃん。
俺は面白いよ。
そんなことキツイ事いわないでくれよ>>461
>>461 虹を楽しみにしているやつも多い。
むしろ少数派はお前
嫌SSスレの住人が来てるのか?
いい加減巣に帰れよ
せっかく書いて下さってるのに…
この叩きよう見たら他のSS書き様も投下しにくいと思う。
>>464 真面目に語ってる奴らもいるのにそう言うのはどうかと思うぞ。
虹はいろんな意味でこのスレに革命を起こしたのかもな。
NGにして見ないように努めてる人もいるし、別に少数派じゃないと思うよ。
キャラの名前だけ借りて書きたいストーリーにあわせてキャラを無理に
動かしてるから、ぐだぐだだし、そもそもTH2の意味あるのか? って話。
別にTH2のSSで痛い話を書くなとは言って無いと思われ。
まあそういうこと。
読者は投下された「作品」に対しては、誉めたりあれこれイチャモンをつけることはできるが、
明確に荒らしやスレ違い板違いエログロ個人情報でない限り、「筆者」に対し「もう貼るな」と言う権利はナイ。
>>459 っていうか、
読む人を選ぶ作品じゃなくても
小ネタ・一発ネタの作品はともかくとして
連載ものの大作はHP持ってるならそこにupしてURLだけ貼ってくれた方が
作者の負担にもならないし(連投規制とか)、
後で誤字・脱字の指摘があったときに直せたりできていいような気がするけどね。
読む方も、新規にスレにやってきた住人とかまとめて読むには便利だ。
(まとめサイトあるけど、まとめサイトの人もリンク貼るだけで楽かも)
SSリンクとかにも登録できて、スレ住人の他にも作品が読まれる機会が産まれるし。
無料垢とってそこに作品upするのがベストの形だと思うなぁ。
ここが2chだという場所であることを考えると、本サイトと本HN晒すのはお勧めできないけど。
>>469 ・・・そのまさに一番最後の理由でURL貼らずに投下してるんでしょ?
HP持っててそれでも2ちゃんに投下してる人なんてエロパロ板等に蹴って捨てるほどいるし。
だいたい、HPで公開するのと2ちゃんに貼るのとでは、意味がえらく違う。
作者の人オリジナルの作品も書いたりしてるし、別にオリジナルでやってもいいと思うが…
TH2キャラを使う意味が俺にも分からん。
そこで生まれたのがこの疑問、
「何故TH2じゃないとダメだったのか」
虹はリアルであったことから生まれた物らしい、
そこから考えると、作者の人は自分を慰めてもらう、
共感してもらうのが目的に見えてならない。自分は間違ってなかった、とか慰めてもらえるように。
傍から見たら言い訳にも見えるんだがな。
リアルの方までは口出しできないから何も言えないが、虹という話で貴明どころか他キャラにも同情できない。
俺はキャラの設定とか、変わってないと思うのだが
書き漏らし。
TH2じゃないとダメだった理由は、↑で書いたように「誰かに共感してもらいたい」
というのが第一目的なら、書きこんで読んでもらえる場所が必要だった。
だからこの場所はよく作品を投稿していた、まさにうってつけの場所。
キャラも性格などを改変すれば、自分の状況と似せる事ができる。
つまりここは自分の鬱憤…と言ったら語弊があるかもしれないが、
慰めてもらえるの場所として投稿していたのではないだろうか。
やはり、本人に聞くのが一番ではないかな、と言ってみる
またループしてるのか
読みたくないなら、透明あぼーんでもなんでもしろよ。
ここでぐだぐだ言ってる奴等の方がウザイ。
ふたなりモノであっても許容してくれるマターリした雰囲気が好きだったんだが
お前らいい加減欝陶しい。
またーりと馴れ合いは別物
馴れ合いは職人さんの為にならないお
虹の筆者さん、いろいろ言われてるけど投下やめないでくださいね
あなたの作品待ってる人は批判書き込む人の何百倍もいるはずだから
確かに本編とは多少キャラが変わってるが、目くじら立てるほどではない。
作者さん、続き楽しみにしてます
馴れ合いでいいじゃん…
ぴりぴりとした雰囲気よりさ…
もっと気楽に行こうよ
>>472 単に「TH2キャラとその世界でシリアスダークなドラマを描きたかったから」では駄目なのか?
キャラクター性はズレはあるもののだいたいは生きているし、
その世界は紛れもなくTH2の世界である(空気は違うかもだが)。
プロットがキャラクターやゲームの世界から「わき出し」たものではないからといって、
二次創作における「必然性」がナイとは言えない。
たとえばハカロワは、その借用されたプロットには二次創作としての必然性は皆無だが、物語は明らかに二次創作である。
ハカロワ委員会の方々に、葉鍵キャラを使った意味を訊ねてみたら、どんな答えが返ってくる・・・?
だいたい、投稿された作品に対しそこから作者の人格を探って文句をつけるのは、読み手の倫理に反する。
(読む者の苦労を考えない不親切な文章に対し傲慢さや幼稚性を指摘するのは別にしても)
いちいちそんな詮索してたら、落ち着いて三島由紀夫も川端康成も太宰治も読めやしない。
そして、虹が、万が一にも書き手の体験をつづったものであるにせよ、だ。
小説の大先生たちが自らの体験をもとに小説の題材を掘り起こしているのだから、
素人SS作家がそうしてはならないのでは理屈が通らないし、
二次創作だからといって三次元の作者の生活体験から発したプロットを用いるべきではない、というのも意味のない話。
ゲームのシナリオライターが、自分の恋愛経験をそっくりシナリオとしていたら・・・?
それから。芸術作品の目的とは、作者と受け手(読者)との共感にほかならない。
読者の共感や理解を求めないような作品を公共の場に投稿する作者なぞ、アク禁処分にしたって足りないくらいだ。
それが作者本人への共感であろうがなかろうが一切関係ない。
余計な詮索する読者がいない限りそして作者が公開しない限り、それは明らかにはならないから。
上と同じ話になるが、「書いた人間」を見るな「作品」を見ろ。
人格をいちいち詮索して持ち出すとするなら、
「こんなに簡単に決めてかかるような
>>474のような奴はどんな奴なんだ?
せっかくの三連休の最終日の昼間に2ちゃんねるしてるなんてよほどサビシイ奴だな。
それでこんなこと書いてるんだな・・・気持ちわかるぞウンウン」
・・・と、それこそエンドレスなんだから。
文句があるならてめえらが読まなきゃいいだろうが。
ここのSS投稿の規程に何か引っかかってんのか?
読みたくねえなら読まなきゃいいじゃねえか。
SSの批評をするならいいが、ほとんどの奴のはただの批判だ。
批評と批判の違いも分からないお子ちゃまは人の作品にぐだぐだ言うんじゃねえ。
つーかお前ら落ち着け。どんどん関係のない言い争いになってるぞ。
書くこと、投下することまで否定してるのは単なる浅慮な人間だが、そういった人間と一括りにして
批判すること自体を責めてるヤツもいるみたいだし。
否定的な意見の大半は、「俺はこう思う。こういう理由で」って書いてるだけなんだからさ。
そりゃ好きな作品、好きな作家さんが批判されてるのを見れば腹が立つだろうけど、お前らがそんな
目くじら立てる必要もないんじゃないか?
批判の批判なんて本当に意味がないから、これ以上続けるのはやめようぜ。
あと、作者の人格等を推測で決め付けてどうこう言うのもやめたほうがいいよ。程度が知れるから。
ただまぁ、
>まだまだこの程度のこのみでは黒くも嫌なヤツでもなんともないなあと思ってしまうのはアレか、
>俺は彼女から浮気相手とのセックスがどんなだったか聞かされたりしたからかwwwww
>流石にこのみはそれしないよなあと思うのでこの程度でwww
>初期プロットではそれもやる予定でしたがwwwww
自HPでこんな文章載せちまう方だから、本当にTH2のSS書きたいと思ってるのか体験談を暴露したい
のかは、俺にも判断できん。
なあ。
そういう議論は別スレでやってくんねえか。
ここはSS専用板であって、討論板じゃねえのよ。
この書き込み自体モナと言われるのは自覚してるが
おれはここにSSを読みに来てる。断じておまいらの
SS哲学を読みに来てるわけじゃねえの。
というわけで、作者の皆さん帰ってきてください……(TT
とりあえずドロドロしたところで、話を変えて
河野家まだーーー???
楽しみにしてるんだけど。
前から気になってたんだけど、自分のHPでSSを公開して
ここで「続き書きました〜」というのはありなの?
>>489 先に今まで書いたぶんの置いてあるアドレス晒してから
こっちで続き書くのなら平気だと思うけどな。
いきなり続きだけ書かれてもサッパリ分からんし。
鬼畜もレズも書き逃げもあった1スレに比べて随分と窮屈になりましたね。
レス一杯ついてるから続きor新作キターかと思ったのに……
俺への想いを告白した草壁さん。だからと言ってすぐに返事しろと由真に言われても、なぁ……。
草壁さんは、瑠璃ちゃんがこの家に住んだ理由を聞いて一安心の様子。俺の優しさが瑠璃ちゃんを
癒すだろうと草壁さんは言うけど、過大評価だよそれって。
更に草壁さんは、たった一人しかいない俺を、自分だけの俺にしたいと告げる。その言葉は昨晩、
このみが俺の腕の中で呟いた言葉にどこか似ている気がして……。
どうする俺? このまま草壁さんを受け入れるのか、それとも……
「お待たせしました。晩ご飯、出来ましたよ」
草壁さんの呼ぶ声。TVを見ていた俺たちは立ち上がり、キッチンへと向かう。
そこで俺が見たもの、それは……。
「はい、これが今日の晩ご飯です」
テーブルの中央に置かれた大皿。それにどっさり盛られているのはスパゲティだ。でもこのスパゲ
ティ、どこかで見たような……、あ、もしかして!
「草壁さん、これってひょっとして、『あの』スパゲティ?」
「あ、やっぱり解っちゃいました? そうです、『あの』スパゲティです」
ミートボール入りのトマトスパゲティ。そう、某アニメ映画で大泥棒が相棒と食っていた、あの
スパゲティそっくりだ!
「うわー、すごいすごい! あれにそっくりだよ!」
「うん、確かに似てる。おいしそうかも」
「ホントそっくりだね! 大皿に山盛りになってるトコなんか特に!」
「ホンマや。さんちゃんにせがまれてウチが作ったのよりもそっくりや」
「子供の頃に見たあの映画のスパゲティね。見ていて生唾を飲んだの、今でも覚えているわ。凄い
わね、草壁さん」
今まで何度もTVで放送されたアニメ映画だけのことはある。みんながそれを知っていて、それ故
にあまりにもそっくりな目の前のスパゲティに目が離せない。
「うーかべの指示通りに手伝ってみたが、うーたちの反応は凄いな。やはりうーたちにとってこの
料理は、余程特別な思い入れがあるらしい。”うー”の重要情報として記録しておこう」
唯一あのアニメ映画を見ていないだろうるーこは、俺たちの驚きように興味があるようだ。
「みなさんで囲む料理って考えて、最初はお鍋にしようかって思ったんですけど、あまりお鍋向きな
季節じゃありませんからね。それで次に思いついたのがこれだったんです。
私、子供の頃からあの映画大好きなんです。悪の伯爵から囚われのお姫様を救い出す大泥棒。ロマ
ンチックですよね、憧れちゃいます。
そしてあの映画に出てくるスパゲティ。大泥棒と相棒さんが争うように自分の皿に取り分けて、
ちょっと品はないけど大きな口でモグモグ頬張って、それを見てたらなんておいしそうなんだろうっ
て思ったんです。
それで私、お母さんに『あれと同じもの作って』ってお願いしたんです。でもお母さんが作って
くれたのはちょっと違ってて……。だったら自分で作るしかないって思って、自分なりに試行錯誤
して、ようやくこれだって思えるものに仕上がったのがこれなんです。
あ、話が長くなっちゃいました。さあ皆さん、あの映画みたいに、遠慮せずにどんどん食べてくだ
さいね!」
「いただきまーす!!」
ええ言われなくてもそうしますとも! 俺たちは席に着き、一斉にスパゲティにありついた。
「うまーい!!」
パスタ最高! トマトソース最高! ミートボール最高!
そうだよこれだよこれ! あの映画見て食いたいと思ったスパゲティはこれなんだよ!
「タカ坊、がっつき過ぎよ。もうちょっと落ちついて食べなさい」
止めてくれるなタマ姉。このスパゲティだけは、作法なんか無視してがっついて食べるのが正しい
食べ方なんだ!
「うー、でもタカくんの気持ち解るよ。これホントにおいしいもん」
そう言って、俺ほどの勢いではないにせよ、せっせとスパゲティを食べるこのみ。
「ホントおいしいね! 特にこのミートボールが最高!」
「だからってミートボールばっかり取らないでよ花梨。ちょっとはあたしにもよこしなさいって」
「あ〜! 由真ちゃんが私のミートボール取った〜! 返してよ由真ちゃ〜ん!」
花梨と由真の間で、ミートボールが行ったり来たり。
「うーかりもうーゆまもみっともないぞ。とは言えこの料理にそれだけの魅力があるのも確かだな。
これはうーかべを手伝って正解だったぞ。おかげでこれの作り方を覚えられた」
そう言って一人ほくそ笑むるーこである。
「うう〜、後引くうまさや〜。こんなに食べたら体重が〜。
あ、でもパスタって確か、食べても太らないんやったかな?」
瑠璃ちゃんは相変わらず体重が気になっているらしい。瑠璃ちゃんの場合余裕でセーフだと思うの
だが、比較対照がスリムな珊瑚ちゃんじゃねぇ。
「みなさんに喜んでもらえて、私も嬉しいです。
あ、サラダとスープもありますから、そちらもどうぞ」
草壁さんは満足そうに微笑んでいる。と、草壁さんは俺を見て何かに気付き、そして、
「貴明さん、ほっぺにソース、ついてますよ」
ふきふき。
草壁さんは俺の横に来て、俺の頬をハンカチで拭いてくれた。
「あ、ありがとう草壁さん」
「ふふっ、いいんですよこのくらい。
貴明さん。私、とっても嬉しいんです。このスパゲティ、何より一番貴明さんに喜んでもらいたか
ったから……。
あ、でもスパゲティばかりじゃなくて、サラダもちゃんと食べてくださいね。栄養のバランスも
大事ですから」
草壁さんはそう言って、俺の皿にサラダを取り分け、ドレッシングをかけてくれた。(ちなみに
これは後で知ったのだが、このドレッシングも草壁さんお手製とのこと)
な、なんか照れるなぁ……。
などと俺が浮かれかけていると、それを見逃さないのが由真だったりして、
「おやおやまあまあ、すっかり新婚さん気分ですこと。
見ているこっちが恥ずかしくなりますよねぇ、環さん」
まるで小姑が姑に告げ口しているようなイヤミたっぷりの由真の言い方だ。しかしタマ姉は由真の
予想を反する台詞を返した。
「そんなに見ていて羨ましいなら、由真さんもタカ坊にしてあげたらいいじゃない?」
「んなっ!?」
たちまち由真の顔が赤くなる。
「あ、しますか由真さん?
いいですよ、幸いこっち側のほっぺにもソースついてますし」
草壁さんがそう言って、俺の頬を指さす。ってか俺、もしや顔中ソースだらけ? みっともねー。
「し、しないわよそんなの全然羨ましくなんかないって言うかたかあきがどこにソースつけてようと
あたしには関係ないって言うかたかあきだってもう子供じゃないんだからそんなの自分で拭かせろっ
て言うか大体あんたのその余裕っぷりはなんなのよって言うかああもう!!
とにかく! あたしはたかあきのほっぺたなんか拭かない! 以上! ごちそうさま!!」
そう一気にまくし立てると由真はいきなり席を立ち、早足でキッチンから出ていった。
あまりに突然の出来事に、一同は呆然。
「あの……私、由真さんに何か悪いこと言っちゃったでしょうか?」
戸惑い気味に俺にそう聞く草壁さん。しかし俺が答えるより早くタマ姉が、
「気にしなくていいわよ草壁さん。怒らせるきっかけを作ったのは私だし。
ホント、素直じゃないんだから……」
やれやれといった顔で、由真が出ていった扉を見つめるタマ姉。
「そうですか……、解りました。
あの、話は変わりますけど、皆さんに一つお願いがあるんですけど、聞いていただけますか?」
「お願い?」
「はい。あの、私のこと、これからは優季って、名前の方で呼んでもらえませんか?
来ていきなりこんなこと頼むのって図々しいかもしれませんけど、皆さんと少しでも早く親しく
なりたいんです、私」
「ふぅん……。ええ、構わないわよ。優季さん、でいいかしら?」
「優季と呼び捨てにしてください。年上の環さんには、そう呼んでもらった方がしっくり来ます」
「解ったわ優季、これからよろしくね」
「はい、環さん!」
「わたしは優季さんでいいよね? わたしの方が年下だから」
「ええ、このみちゃん」
「るーはこれからもうーかべと呼ぶ。別に構わないだろう、うーかべ?」
「は、はぁ……」
「まぁ、ウチは最初から優季って呼んでるから、別にええよな?」
「ええ、じゃあ私の方は瑠璃ちゃんで」
「あの、それじゃあ!」
突然、花梨が手を挙げて立ちあがる。
「優季ちゃんがそうなら、私もこれからは名前で呼んで欲しいな。花梨って。
前から少し気になってたんだけど、私だけ『笹森さん』って名字で呼ばれるの、何か寂しくって。
いいかな、みんな?」
「ええ、いいわよ。じゃあ私は、優季と同じく呼び捨てで、花梨でいいかしら?」
「はい、環さん!」
「じゃあわたしは花梨さん」
「花梨ちゃんでもいいんだよこのみちゃん」
「るーは……」
「ああるーこは解ってる。うーかりでしょ? それでいいよ」
「ウチも変わらず花梨やな」
「OKだよ瑠璃ちゃん!」
名字でなくて、名前で呼び合う、か。確かにその方が、より親しみを覚えるものな。
「よかったね、草壁さん、笹森さん」
「「こら〜〜〜っ!!」」
いきなり二人に怒鳴られました。しかもハモってるし。
「うわっ! な、何!?」
「何、じゃありませんよ。貴明さんも私たちを名前で呼んでください!」
「そうだよたかちゃん! さあ!」
「あ、ああ……」
そ、そうか、俺も例外じゃなかったのね。し、しかし、それまで名字で呼んでいた女の子を名前で
呼ぶのって、ちょっと……なあ。
……ま、まあ、由真の前例もあるし、それに瑠璃ちゃんだって珊瑚ちゃんとの呼び分けのためとは
言え、最初から名前で呼んでたし……。
べ、別に変に意識しなければいい。そう、一緒に暮らす仲なんだ。言わば家族、ファミリーだよ
ファミリー! ファミリーなら名前で呼ぶのも当然でしょ!
俺はまず草壁さん……じゃなくて、優季の方を向く。優季だけに勇気が要る、なんてな。
(あの、俺のこのダジャレ、無かったことにしてもらえませんか、作者さん?)←駄目(作者)
「……ゆ、優季、さん……」
「さんは余計です」
「……ゆ、優季」
「はい、貴明さん☆」
優季の満面の笑み。ちょっと照れるけど、まあ、喜んでくれて、悪い気はしないよな。
「たかちゃん、今度はこっちの番!」
グキッ!
「ぐえっ!?」
花梨が無理やり、俺の首を自分の方に向かせた。
花梨の場合、心の中では名前で呼んでいたせいか、優季ほどは抵抗感は無かった。
「……花梨」
「うん、たかちゃんよく出来ました!
あ、でも部活のときは敬意を込めて『花梨会長』と呼ぶこと!」
花梨もまた満面の笑み。うん、やっぱり悪い気はしない。首は痛いけどね。
今日もまた、食後の後かたづけは俺が引き受けた。今日のアシスタントはこのみだ。
他のみんなは居間で、優季が淹れた紅茶で食後のお茶会を楽しんでいる。但し由真はいない。俺の
部屋でまたギャルゲーでもやっているのか、それとも……。
このみが食器を流し台まで運び、それを俺が洗う。慣れてきたのか、我ながら以前よりも食器を
洗う手際がよくなっている気がする。やっぱさ、これからは男だって食器洗いくらい出来ないといけ
ない時代なわけで、なんて調子に乗っちゃったりして。
あれ? 次の食器が来ないぞ?
「おーい、このみ、次は?」
そう言ってテーブルの方を見ると、このみは食器を持ったまま、ぼーっと居間の方を見ている。
「このみ、どーしたー?」
「……え? あ、ゴメンねタカくん。はいこれ」
俺の声に気付き、慌てて俺に食器を渡すこのみ。
「居間で何かあったのか?」
「う、ううん、別に」
「なら、何見てたんだ?」
「うん、えへ……」
このみはばつの悪そうな笑みを浮かべ、答えた。
「……優季さん、見てた」
「優季を? どうして?」
「優季さんって、何て言うか、凄いなって思って。
わたしね、タマお姉ちゃんみたいに、美人で、スタイルもよくて、頭がよくて、料理も上手で……
とにかく、タマお姉ちゃんみたいな凄い人ってそうそういないって思ってた。
でも優季さんは、美人で、スタイルもよくて、料理も上手で、それに何より、自分の気持ちに真っ
直ぐで、タマお姉ちゃんとは少し違うけど、優季さんもやっぱり凄い人だなって思うんだよね」
「自分の気持ちに真っ直ぐ、か……。確かに凄いと言えば凄いけどなぁ。
でもさ、何でも凄けりゃいいってもんじゃないだろ。優季のとった行動だって、見方を変えたら
結構危ない感じだぞ。もしも男の俺が同じことをやってみろ、速攻でストーカー扱いされて警察に
連行されるぞ」
「あははっ、それはそうだね」
「だろ? 優季の場合は俺の家に他の女の子がいるってことと、優季の想いに対する俺の、その、
優柔不断さが結果オーライにしてるってだけで、優季のような真っ直ぐな行動が常に正しいってワケ
じゃないと思うぞ。
だからさ、もしこのみが優季の真っ直ぐさに劣等感とか感じているんだとしたら、それは間違い
だよ。あれはあくまで優季のやり方であって、このみが同じことをしなけりゃならないワケじゃない。
優季は優季、このみはこのみだよ」
「……でもね、タカくん」
「ん?」
「優季さんは、タカくんの家に来て、タカくんに告白して、タカくんをおいしいスパゲティで喜ば
せて、タカくんに名前で呼ばれるようになった。たった一日で、優季さんはここまでやったんだよ。
やっぱり、どうしても凄いって思っちゃうし……、勝てないかもって……思っちゃうよ」
「勝てないって、何がだ?」
俺がそう尋ねると、このみはハァとため息をつき、
「……やっぱり、タカくんにはわかんないよね」
「む、なんかバカにされた気がするぞ。じゃあズバリ当ててやるよ。お前が優季に勝てないのは……
女の色気とか?」
「うん、それで正解。よっちにもよく言われるよ、『このみはまだまだお子様だよね』って。
で、その後決まってちゃるが『気にするなこのみ。小さいは小さいなりに需要がある』ってフォ
ローしてくれるんだけどね〜」
「まあなんだ、今無いものであれこれ悩んだって仕方がないだろ。このみだってきっとこれから、
背も伸びるし、出るトコだって出てくるって。
だからさ、このみは自分のペースでいけばいいんだよ。あと二、三年もすれば、きっとそこら中の
男どもが放っておかないような、色気出まくりのいい女になれるって」
「……じゃあ、それまで待ってくれる?」
「ん? 何か言ったか、このみ?」
「ううん何も。それより早く済ませて、優季さんの紅茶、一緒に飲もうよタカくん」
つづく。
どうもです。第24話です。
スカパーで「劇場版イデオン」を見て、富野スゲーと改めて思ったりしてる今日この頃です。
あ、だからといって河野家があんな終わり方をすることは絶対にあり得ませんのでご安心を(w
河野家GJ!
このみもいいなー こうして改めてみると皆魅力的だ。
続き楽しみにしてます!
新作キタワァ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(n‘∀‘)η゚・*:.。..。.:*・゜゚・* !!
GJです。
あのスパゲッティって作ってみると意外と美味いんですよね。
俺の場合はミートボールはレトルトだったけど。
イデオンENDな河野家を想像して吹いたwww
明け方ふと環が目を覚ますと、このみは彼女のパジャマの袖を軽く握るようにして眠っていた。
外からは、広い庭の木立に成った木の実を求めてさわぐ野鳥達の声が聞こえ、
白々と登りかけの太陽が気配を濃くしはじめている。
環は顔を横に向け、すうすうと安らかな寝息を立てる少女の顔を見つめた。
しみ一つない肌、小ぶりの花びらのようなくちびる、そして甘い香り。
まだ少しはれの残るまぶたに、昨日流れ出した感情の名残が漂っている。
寝入るときと同じように、環は彼女の髪を優しくなでた。
表情なく眠っていた少女はその感触に心地良さそうなうめき声を一つ上げ、かすかに頬を緩ませる。
「タカくん……」
くちびるがかすかに動いて吐き出されたその言葉に思わずなでる手を止めてしまう。
むにゃむにゃとさらに何か言いかけて、微笑んだままこのみは寝返りを打った。
幸せな夢を見ているんだ。
そう思った環はそこから覚まさないようにそっと体をベッドから抜き、パジャマ姿のまま台所に降りた。
彼女は基本的に休日であろうと生活のサイクルは崩さない。
朝の五時には起きて身だしなみを整え、朝食を作り、一日に備える。
堅苦しく自分で律しているというより、それが自然なリズムになっていた。
買い置いてあったしじみに砂をはかせ、きゅうりを手早く塩でもむ。
北海道の親戚から送ってきた絶妙の塩加減の紅鮭を切り身にし、網に乗せる。
たちまち台所には健康的な朝の香りが漂い始めた。
環は家事をするのが嫌いではない。特に料理は、気持ちを沸き立たせてくれるものとして大好きだった。
心が温まって、なおかつひび割れた夜の翌朝には、きっちりとした朝食をとるに限る。
鮭が香ばしいにおいを立て、おいしそうな焼き色をまとい始めたころ、廊下にある年代ものの
黒電話が時間にふさわしくないけたたましい音を立てた。
「はい、向坂です」
―わたしだ。
父親からこんな早朝に何事かと環は身構えるが、その身構えにふさわしい電話の内容であった。
折角の爽やかな気分を台無しにされたように彼女の気分は重くなる。
結論はまだまだ先でよかったはずだが、結論を出す前の行事をこなせとのお達しである。
一時的な感情より優先されるべき事項がこの旧家にはある。環はそれも良く承知していた。
承知の上で父親の仕事に踏み込んでいるのである。それが必要だと当主が認めたのなら最大限協力する義務があった。
「ごめんね、このみ」
「ぜんぜん。わたしの方が急にきちゃったのでありますから」
申し訳なさそうに謝る環にこのみは屈託なく手を振る。
朝食があらかた出来上がったころ、環はこのみを起こしに自室の扉をあけた。
まだ眠っているかと思いきや、ぼーっとしてはいたものの彼女は体を起こしていた。
部屋に入った環に気付いてにぱっと笑う。夢の記憶も、昨夜のわだかまりもない、いつものこのみである。
「きっと帰ってくるの夕方くらいになっちゃうから、どこか出かけるなら鍵渡しとくけれど」
「ううん。今日はお留守番してるよ」
街に出れば、一晩を共に過ごした二人に出会わないとも限らない。
今は会いたくないという気持ちならばそれもかまわない。我が家がこのみのシェルターになるなら望むところだった。
環はそれ以上何も言わず食料のありかを教え、もし気が変わってどこかに行きたくなった時には
携帯に連絡してくるように頼む。
「わかったよ。でも今日はタマお姉ちゃんのお部屋でごろごろしてる」
「そっか。じゃあお願いね」
二人でごちそうさまと手を合わせ、洗い物をすると申し出たこのみに食器を任せて身支度を開始する。
部屋着を脱ぎ、鏡台の前に座り、顔と体を整えていく。その目的を考えるごとに気分が重くなっていくが
これはしなければいけない義務なのだ、と自分に言い聞かせてそのままの自分をおおい隠していく。
鏡に洗い物をし終わったこのみの姿が映り、環は労をねぎらった。
「ちょっとしかなかったから楽だったよ。こちらこそご馳走様でした」
ぺこりと頭を下げる少女の姿がふっと環の心にかかった雲を払う。
帰ってくればこのみが待ってくれているのだと思うことで今日という日を乗り切れそうな気がしていた。
「タマお姉ちゃん、きれい……」
このみは鏡に映る環の姿を見て嘆声を上げた。あでやかな色彩の大人びた下着の上下と
気分がささくれ立っていたせいか、いつもより強めのメイクを載せた華やかな顔立ちは、
環がふだん余人には見せたことのないよそ行きの、近寄るものを拒絶するような美しさをかもし出している。
しかし環自身は、こうやって化けるよりは、ほぼすっぴんのままいる方が好きであった。
これからの”義務”には有効だろうが、こんなものは仮面でしかない。
「このみにこんな厚塗りは似合わないわよ」
環は自分への皮肉を込めて、軽い口調で言う。そのままが一番美しいこのみには無用。
できればこんなメイクが必要な状況に踏み込んで欲しくないものだ、と環は心から思った。
「ううん。でもでも、タマお姉ちゃんみたいなきれいでかっこいい女の人にわたしもなりたいよ」
「んー、わかった。じゃあ今夜教えてあげるわね」
このみの気迫に押されるようにして、環は思わずこういったよそいきのメイクを教えることを約束してしまう。
昨日のことを思い出して嫌な顔をされるかな、と彼女は一瞬心配するが、
このみは花がぱっと開くようにうれしそうに微笑んで、大きく頷いた。
これから行く場所を考えてかっちりしたスーツに身を包み、父親が指定した時間きっかりに門を出ると、
そこにはにはがっしりした初老の男がハンドルを握る、黒塗りのリムジンが横付けされていた。
英国風のマナーで身を固めたようなその男が一切の感情を沈めたまま恭しくドアを開け、環は革張りの座席に身を沈める。
無口でありながら、窮屈さを感じさせない独特の雰囲気を持った彼は
「三十分ほどで到着いたします」
と腹に心地よく響く声で一言いうと、車を発進させた。
あまり高級車の乗り心地が好きではない環が、思わずうつらうつらと眠りそうになるほどの優しい運転である。
気付くと窓外の風景は地方都市の喧噪から、ヨーロッパの城内にある庭園のそれに移っていた。
老運転手の言うとおりちょうど三十分で目的地についたリムジンは、彼女を降ろして去っていく。
迎えに出た父親は魁偉な風貌をなれないスーツ姿で締め上げるようにして現れた。
「すまぬ。このみちゃんもいるところ」
「いえ」
「先方がぜひ一度お会いしたいとご執心でな」
「そうですか……」
なんとまあ金持ちに割りに床急ぎする無粋な男か、と環は不快になる。
「まあとりあえず会ってみてくれ」
「お父様」
一つ確認しておこうとして環は足を止める。
「これはお見合いとかそういうものではないのですよね?」
「それは間違いない。この先おまえがどのような結論を出そうと我らの仕事に支障はないし、
環や一族に不利益が降りかかることもない」
「それを聞いて安心しました」
会う前から彼女は断りを入れる決心をつけていた。
”義務”を果たすだけだ。
環はつつましく目を伏せて会場らしき広間に入り、メイドロボが引いた椅子に腰を下ろす。
既に席についていた先方の親子が、ほう、とため息を漏らすのが聞こえた。
向坂の家の名前が付いて、自分くらいの外見があればどの程度の価値があるかを計算できるくらいには
環は仕事に身を染めていた。しかし、どんなに仕事に没頭しようと自分自身だけはその道具にしたくはない。
その気持ちが強い環に政略結婚は気の重いものでしかなかった。
型どおりの挨拶が終わり、やがて年よりは部屋を去る。二人だけが残った部屋の中で、彼女は初めて目を上げた。
油にまみれたつなぎに長身を包み、柔らかい微笑を浮かべて一人の青年が座っている。
その前には工場でかぶるのであろう青い帽子がきちんと置かれ、すわり姿に厳しいしつけと高い教養がにおっている。
来栖川の苗字を胸にぶら下げた名札につけた彼は、目を上げた彼女の目線をとらえると丁寧にお辞儀をした。
ふー……と長い長いため息をついて環はリムジンのシートに身を沈める。
悪い人間ではなさそうだ。彼女は値踏みする。
金持ちにありがちな傲慢と驕奢が見られない。
まだ隠しているのかもしれないが、少なくともこの二三時間の間に環が見破ることは出来なかった。
もし隠しているのだとして、環に看破させないのはそれだけで特筆すべきことである。
彼女は、彼と交わした会話を目を閉じて反芻していた。
「すみません。お休みのところ。しかもこんな汚い格好で。でもどうしても一度お会いしておきたくて」
休日でも稼動している来栖川の工場で下積み修行中のその青年は、自らの装いを詫びた。
「もう今日くらいしか時間が取れなかったものですから……」
幹部候補としてまもなく海外に出るという彼は、本当かどうかは知らないがこれまで色恋に縁なく生きてきたという。
しかし、油まみれの作業着ながら、相手を気遣う気持ちと初々しい恥じらいは環に好感を持たせる。
「私は家のこととかあまり興味がありません。でもこうやって来栖川の一族に生まれたおかげであなたに会えた。
それは素直に感謝したいと思います」
異性にこのように率直に好意を見せられたことのなかった環は内心動揺した。
心の中に彼がいる現状で、今すぐどうこう言うことは出来なかったが、その真摯さは
友人として持っておきたい、と彼女に思わせるほどのものだった。
「もし良かったら、私がこの国を後にしてもお手紙のやり取りを許していただけるとうれしい」
という別れ際の彼の言葉を環は断ることが出来ない。
町のもう一方の旧家がもつ奥深さを味あわされた気分と、その青年に興味を持っている自分に環は戸惑っていた。
510 :
残心 中の人:2005/09/19(月) 20:46:57 ID:2lZpXgM50
黙々と第五話であります。
ガチ百合からは少し離してみました。
>>501 GJ!投下お疲れ様です&ありがとうございます。
劇場公開から既に四半世紀が過ぎているにもかかわらず、
今なお輝きを失わないあの映画は凄いよな・・・って、見るところが違いますね。
ではまた来週を楽しみにお待ち申し上げておりますです、ハイ。
>>510 GJ!
物語がそろりと動き始めたのでしょうか。
これからの各人の行方が楽しみでなりません。
。・゚・(つд∩)・゚・。 ウエーンウエーン
…つ・д∩)チラ・・・ わたしも海に連れてって
…(つд∩) ウエーンウエーン
ミルファへ誤解が解けずに学校へと向かった俺は雄二のアドバイスもあって
プレゼントを買うことにした。
しかし帰宅してみるとミルファの姿は無かった。
探してもミルファは見つからない…。
俺は不安を抱えたまま一夜を過ごしたのだった。
カーテンの隙間からこぼれる明かりで目が覚める。
どうやら帰ってからずっと寝続けていたらしく体調的には悪くないみたいだ。
「帰ってるわけない…か」
1階に下りて玄関の靴を確認するも靴の数は変わっていない。
昨日シャワーも浴びずに寝てしまったためか服がベトついて気持ちが悪い。
少しでもさっぱりしようと俺は風呂場へと向かった。
シャワーを浴びてからリビングへと向かってテレビをつける。
天気予報では今日も快晴。熱くなりそうですとキャスターは言っている。
外は確かに雲がほとんど無い状態。
しかし俺の心の中には曇りがかかっていた。
ミルファが帰ってきたときの為にと俺はテーブルの上に昨日手に入れたクマのぬいぐるみ
を置き、ぬいぐるみに昨日買った包み紙を持たせる。
彼女が帰ってきてくれるのを信じて学校へと俺は向かった。
「よぉ、結局ミルファさんには謝れたのか?」
登校途中に雄二が他のみんなには聞こえないように小さな声で話しかけてきた。
この様子だと何だかんだで大分心配してくれてたみたいだ。
「帰ったら家に居なくて探したけど見つからなかった…プレゼントは買ったんだけどな」
「おぃおぃおぃ…マジかよ」
「めぼしい所には居なかったから多分居たとしても珊瑚ちゃんの家か研究所だろうし今日
も戻ってこなかったら流石に珊瑚ちゃんにも相談してみるさ」
「まぁそれが一番だろうな…全く、お前は事ある毎にどうして自体が悪くなる方向にばっ
かり進むのかねぇ」
やれやれといった感じで雄二が空を見上げる。
天気予報のとおりに今日は綺麗な晴天だ。
俺にとって青天の霹靂にならないことを望むけど…正直心配で仕方が無かった。
学校についてからも勉強など耳に入るわけでもなく黒板にかかれるままに書き取る。
こうしておけば最悪テスト前に見ればなんとなくでも分かるだろう。
今の俺にはこんな授業の内容など頭に入るわけがなかった。
「貴明、今日の昼飯はどうするんだ?」
昼休みになり、雄二がぼーっとしていた俺のところへやってきた。
「んー…今日も学食に行くかぁ…。そういえばお前タマ姉のお弁当はどうしたんだよ?」
昨日は気にする余裕もなかったが二日連続で学食で食うのは珍しい。
最近は…というかタマ姉が編入してきてからは殆どタマ姉のお弁当を食べていたのだ。
雄二は事ある毎に金がないとぼやいていた。そんな雄二に無駄な出費をさせているのだと
したら流石に申し訳なくなってしまう。
「安心しろよ。姉貴には貴明には男同士の語らいが必要だからといってちゃーんと昼飯代
はもらってあるからよ。まぁお前に変なこと吹き込むなって小言は言われたけどな」
タマ姉は今の俺の状態を察知しているのかもしれない。
その上で特に何も言わずに色々としてくれているのだから頭が上がらないな。
「それじゃあ行くか」
のんびりと何をするわけでもなく適当に雄二と話す昼休み。
周りに女性が居ない分精神的な負担もかからないから楽ではあるのだが暇というのも確か
な話。
「なぁ、今日帰ってこなかったらどうするんだよ」
「うーん…珊瑚ちゃんに話してみてもいいと思うし直接研究所に行けば解決策があるかも
しれない。今は動かないで待ってみてダメなら動いてみるさ。なんとなく今日辺りに帰っ
てくるような気もしてるしな」
「何だよそれ」
「何となくだよ、何となく」
「ふーん…」
結局俺は学校の授業を終えると早々に帰宅をした。
少しは気分転換したほうがいいんじゃないかとタマ姉達にも言われたがそんな事をしても
ミルファへの心配が無くなるわけじゃない。
それなら早く帰って待ってた方が良いと俺は思った。
寄り道をせずに自宅へ一直線に帰る。
何時もよりも歩く速度が上がってるかもしれない。
ガチャ…
少し息を荒くさせながら恐る恐るドアを開ける。
自分の家なのに何故かゆっくりと家の中を覗き込む。
玄関の靴を確認するも数は増えていない。
「ミルファの奴……帰ってきたら怒ってやらないとな」
リビングに置いたままになっているクマのぬいぐるみに向かってそう呟いてから俺は自分
の部屋へと向かった。
雄二の奴にはああ言ったが動かないで待ってみるというのも辛いものだ。
動いていれば嫌でも時間は過ぎるに細かいことを考えなくて済む。
しかし待っていると色々と無駄なことを考えてしまう。
事故に遭ってるんじゃないだろうか
誘拐…はミルファの護身術を考えるとありえないとしても何かのトラブルに巻き込まれて
いるんじゃないだろうか?
それとも俺に愛想を尽かせて研究所へ戻ってしまったんじゃないのか?
こんな事を考えるのは無駄な事くらいは分かっている。
けど何をせずに待っていて考えない事なんか出来やしない。
俺の頭の中はミルファに対することで頭がいっぱいになっていたのだ。
ここで俺はふと自分の考えに疑問を持った。
「俺はミルファをどう思ってるんだろうか」
家に一緒に居るのだから家族も同然な状態だ。
こんな状態で家から居なくなるのに心配するのは極々当たり前のことだ。
じゃあ何で考えるたびにあいつの顔が思い浮かぶのだろうか。
そして考えれば考えるほどあいつに逢いたくなるのだろう。
笑ったミルファ
怒ったミルファ
怒られてしょげるミルファ
口を尖らせていじけるミルファ
寝ぼけなまこのミルファ
甘えてくるミルファ
彼女の色々な表情を想像しただけで自分の顔がどんどん熱くなっていっているのが分かる。
たった一週間の間に気がついたらこんなにも自分の深いところにミルファが居るのか…。
改めて考えても恥ずかしいものがある。
皮肉にもあいつが居なくなってから気づくなんて…いや、こういったのは無くなって始め
て気づくのかもしれない。
けど手から零れ落ちた水をすくいなおすことなんて出来やしないのだ。
ガチャ
ベッドに寝転んで静寂を保っていた部屋に待ちわびていた音がする。
その音に反応して身体をとっさに起こす。心臓がバクバクと音を立てて高鳴っていること
を感じる。別に不審者が入ってきたわけじゃない。普通に考えたら極々当たり前のこと。
けど怒ってやろうだとか、何を言ってやろうかだとかいった事が一切吹き飛んでしまった。
少しでもこの高鳴りを収める為に深呼吸を数回してから部屋を出て1階へと降りる。
リビングへと向かうと足元に大きな買い物袋を置いてクマのぬいぐるみを持ってそれを見
続けているミルファが居た。その姿を見たら今までの緊張や胸の高鳴りも幾分治まって久
しぶりに逢えた嬉しさがこみ上げてきた。
その感情を少し抑えてミルファに何時も通りに話しかけてやった。
「よぉ、おかえり」
「え?あ、えっと…」
ぬいぐるみを抱えたままどうしたらよいのか分からない様子でわたわたとするミルファ。
その久々に見る仕草についつい笑みがこぼれてしまう。
「おかえりって言ったらどうするんだっけ?」
「た…ただいま。あの…これ…」
ミルファがまだ理解が出来ないのか目をキョトンとさせて俺にクマのぬいぐるみを見せて
きた。
「プレゼント」
「誰への?」
「お前への」
「貴明が…?」
「そりゃそうだろ」
やっと理解できたのかミルファはぬいぐるみをじっと見つめる。そしてぬいぐるみが持っ
ていた小さな包み紙を開いて中身を確認した。何であるかを理解するや否やおもちゃを与
えられた子供のような満面の笑みを浮かべてきた。
「綺麗……」
「可愛いネックレスがあったからな、お前に似合うかなぁ…って」
自分で言ってて恥ずかしい。これじゃあ初めて彼女にプレゼントを渡す彼氏みたいだ。
そのネックレスをつけるとミルファが俺に抱きついてきた。
「ミ、ミルファ?」
「…ごめんなさい」
ミルファの口から出たのは謝罪の言葉だった。
その言葉を口にすると俺の胸元へ顔を目一杯押し付けてきた。
「俺こそ…ごめんな」
「貴明は悪くないよ…だって勘違いを勝手にしてたのはあたしの方なんだし」
「けど…」
俺がミルファの言葉に返そうとしたところで言葉がさえぎられる。
さすがにいきなりはビックリしたがそれは何時もよりも優しいキスだった。
「駄目だよね、あたしは貴明のメイドロボなのに貴明を困らせてばっかりで…別に彼女だ
ろうが誰だろうが怒る理由なんか無いのに……」
その顔は物凄く寂しそうで、それでいて哀しそうで。
もし彼女が泣けるのならきっと今はボロボロと泣いているのだろう。
逆に涙が出ていないことによってその表情は普通よりも悲壮さがただよっていた。
こんなに悲しまなくてもいいのに。
こんなに寂しがらなくてもいいのに。
こんなに……
「確かにお前はメイドロボだよ。けどお前はお前が望んで今ここに居るんだよな?」
「うん……」
「だったら我侭言ったって良いじゃないか。怒ったって、不機嫌になったって良いじゃな
いか。だってお前は…」
「…」
ミルファが緊張した面持ちで俺の方を見てくる。
俺は次の言葉を振り絞れずに喉を鳴らして口に溜まった唾を飲み込む。
こんな所でつまずいてどうする。俺は決めたんだ。ミルファに大事なことを告げようと。
「お前は俺の大事な人だから」
「……」
やばい、顔が熱くてしょうがない。
体も震えている。
このまま気を緩めたら倒れてしまいそうだった。
「嬉しい……」
ミルファの顔は今にも涙があふれてきそうな、そんな顔だった。
その顔は紅く染まり俺を抱きしめる力も強くなっている。声もどことなく震えている様だ。
そんな彼女を見ていると恋しくて愛おしくてたまらなくなる。
「貴明と一緒に居たい…離れたくないよぉ…」
切なそうなその声に俺の心臓は停止してしまうのでは無いかと言うくらいに激しく鼓動を
刻み始めた。
「最初に出会った時から貴明に会えるのが毎日楽しみで…最後だって無理やりあの体に戻
って貴明にお別れの挨拶して…。この体が貰えた時だって早く会いたくて…どうしようも
なくて…。」
ミルファがそんなにも俺の事を想っていてくれたのが嬉しかった。
その彼女の口は止まらずに今まで溜まっていたものを洗い出すように言葉が出てくる。
「やっと会えた時の貴明のあの優しい笑顔、とぼけた顔、困った顔…。見ているうちに、
一緒に居るうちにどんどん貴明の事が好きになっていってた。けど…」
次の一言がミルファの心の内の全てを語っていた。
「あたしはメイドロボだから…貴明とは違うから…好きになっちゃいけないんだって…」
俺達には到底理解できない彼女のみが持つ悩み。
絶対に解けることは無いロジック。
それが彼女を苦しませていたことを知った。
「けど…そう思うたびに貴明の事が好きになっていってて…貴明の事しか考えられなくて
…。だから他の女性を連れてくる度に嫌な気分になってた…そんな自分が嫌だった。あた
しは貴明の幸せを手助けできればいいのに…」
「それは違うよ…」
ミルファの頭を軽く撫でてあげてミルファの言葉に俺の気持ちを返してあげる。
「え…?」
「お前が幸せになってくれないと俺は楽しくないし幸せじゃないよ。みんなに対しても勿
論そうだけど俺だけじゃ駄目なんだよ。ミルファ、お前にも幸せになってもらいたい」
俺の言葉を聴いてまたミルファが今にも泣き出しそうな顔になる。
それを宥める様に頭を撫でてあげながら話を続けた。
「俺はお前と一緒に幸せになりたい」
「だって…あたしは人間じゃないんだよ?」
「俺はお前を見ててそう思ったことは無いよ。ミルファはミルファだ。俺にとって大事な
人だって事に変わりは無いよ」
ミルファはその言葉を聴いて俺の胸元に再度顔を埋めると精一杯の声で精一杯の気持ちを
ぶつけてきてくれた。
「貴明の事好き…ずっと好きだった!!」
ミルファが俺を抱きしめる力が強くなり、同時に震えているのが分かった。
感情を表に出しやすいこの子がこんなにも思いを内に秘めておくのはどんなに大変だった
ろう。それを受け止めてあげるように彼女の頭を腕と体で包み込んであげる。
「あぁ…俺も好きだよ…ミルファの事が好きだ」
「本当…?」
「こんな所で嘘をつけるほど俺は器用じゃないの位知ってるだろ?」
「夢…じゃないよね」
「なんならほっぺでもつねって差し上げましょうか?それとも…」
言葉を途中で止め、ミルファの唇に自分の唇を重ねる。
ミルファに催促されてするものではなく初めての自分からのミルファへのキス。
お互いの胸の内が分かっているからか何時ものキスよりも繋がりを感じた。
唇から感じるミルファの感触。軽く、優しいキス。
少しの時間が経った後に二人の唇は離れる。
「これでも夢?」
「あぅ…あぅ……」
いきなりの事で言葉も満足に出ないのか顔を真っ赤にさせて目を大きく見開き、口をパク
パクとさせて慌てている様だ。
その普段からは想像出来ない可愛らしい姿についつい頬が緩んでしまった
「あーっ、貴明ずるい!一人だけ満足してるー!」
「違うって」
「ねぇ、今のいきなり過ぎて実感出来なかった。だから…ね?」
何時もの可愛らしい笑顔で何時もの様におねだりをしてくる。
「…しょうがないなぁ」
そう言いつつも俺はミルファのおねだりが聞けたことに嬉しさを感じていた。
ちゅっ
2回目のキスをしてもらえたミルファの顔はさっきとはうって変わって蕩けそうな笑顔に
なっている。
その幸せそうな笑顔を見ているだけで俺の心の中も暖かくなっていく感じがした。
結局その後はミルファが居なくなった経緯、シルファと長瀬主任に話しを聞いてもらった
事、そして今日は帰りに買い物をたくさんした為に遅れた事なんかを矢継ぎ早に聞かされ
た。そのしゃべりっぷりと満面の笑顔は何時ものミルファそのものだった。
その後ソファーでくつろいでると腹時計が今の一時を妨害するように空腹を知らせてきた。
「ミルファ、今日の夕飯は何?」
「今日はお手製オムライスで〜す♪」
「オムライスなんて最近食ってないなぁ・・・」
「それじゃあもう作ろっか。貴明もお腹空いたでしょ?」
「あぁ、出来れば早急にお願いしたいくらいだ」
「了解しました、ご主人様☆」
俺の頬にキスをすると嬉しそうに頭の尻尾を揺らしてキッチンへと向かうミルファ。
幾ら告白なんて大それた真似をしたからと言ってすぐに女性の苦手が治るわけでもなく今
の不意を突かれた攻撃に顔を紅くしている自分が居た。
夕飯も終わり、色々と話をしたりしている内にそろそろ寝る時間に近づいてきていた。
「さて、そろそろ寝ないとな」
「うん…」
ミルファがもじもじしながら俺の方を上目遣いに見てくる。
さて、どんなお願いをされることやら……
「あのね…一緒に寝ても良い?」
「う……ま、まぁ今日だけな」
「やったぁ☆ やっぱり貴明大好き!」
そうやって言われるとやっぱりまだ恥ずかしいものは恥ずかしいわけで…
何だかんだで今までとあんまり変わらないのかもしれないな。
まぁそれは良いとしてパジャマ姿のミルファに抱きつかれると…その…胸が…。
「ほ、ほら、さっさと部屋行くぞ」
「はーい☆」
部屋に行くなりミルファがベッドにぼふっとダイブをする。
こうやって自分の部屋のベッドに女の子がパジャマ姿で乗っかっているというのを見れる
だけでも眼福であるのは確かなのだがこれが現実なのだからそれだけで俺の心臓の鼓動は
早くなる。当の本人は両手を広げて「早くきてきて☆」と催促している状態。
「ほら、貴明ぃ〜♪」
「はいはい…。ほら、灯り消すぞ」
「はぁ〜い」
灯りを消すと目がまだ慣れないせいか部屋の中が真っ暗になる。
さっき見た部屋のイメージから少しずつベッドへと近づく。
ベッドの端っこをみつけ、掴んだとたんに体がベッドへと引き寄せられた。
「うぉ!?」
「捕まえた〜☆」
ベッドに寝転んだ状態になり、ミルファに抱きつかれた状態になってしまった。
何だかんだで結局こんな状況には慣れていないわけでどうして良いかも分からずに混乱状
態になっている俺にミルファが優しい声で語りかけてきた。
「貴明…あたしね、今きっと世界で一番幸せ♪」
顔は良く見えないが声だけでも嬉しさ満点であるのが良く分かる。
「そっか…俺も幸せだよ」
「うん☆ じゃあおやすみのちゅーして?」
「…マジで?」
「ほら、はやくぅ☆」
猫なで声を出しておねだりされると恥ずかしさと同時に愛しさが募るのはもうミルファに
溺れている自分が居るからだろうか。今日だけで何度顔を紅くさせたか分からないが顔を
熱くさせてミルファの愛しい唇にキスをしてあげる。
「…おやすみ、ミルファ」
「おやすみ、貴明♪」
二人手を繋いでゆっくりと目を閉じる。
手の中にミルファをしっかりと感じる。
今、彼女はここに居るんだ。
ゆっくりと目を開けると穏やかな顔をして寝ているミルファが居る。
その細く小さな手は俺を離さないようにしっかりと俺の手を握っていた。
心の中にゆったりとした感じが沸いてくる。
手から水なんか零れちゃいなかった。
ずっと俺の手の中にあったんだ。
結局ミルファENDって形になりました。
期間にして1週間…マルチシナリオみたいですね('∀`;)
とりあえずこの後にラブラブ甘々な展開にしていく予定です。
実は昨日完成はしてたんですけど本当にこのシナリオで良いのか悩んでました。
少し手直しもしました。
けど結果として甘くて萌えるものを書くにはラブラブした方が良いに決まっていると思いこういった結果になりました。
次はSisterBowlの続編を書いてから16話に行くので少し時間がかかるかもしれないです。
今まで応援してくれた皆さんありがとうございます。
二人の物語はまだまだ続きますので引き続きのご愛読をお願いしますm(__)m
527 :
488:2005/09/19(月) 23:11:00 ID:EXz1J9tk0
>>501 仕事してる間に、河野家喜多ー!!!
草壁さん、もとい、優季はバッチリイメージ通りです。
強いて言えば、まだ「運命的」という言葉を使ってないぐらいですか。
貴明の家に来た理由を「運命ですから!」と言いきって、一同を
シラけさせる草壁さん、もとい、優季も見てみたかった気もしますがw
あと、既婚者として一言。
>>「これからは男だって食器洗いくらい」
いや、男が食器洗いをするより、食器乾燥機を買ってやる方が
経済的だし喜ばれると思いますw
>>526 Brownish Stormも、とりあえず一段落ですか。
お疲れさまです。
あやうく11/12と12/12の間あたりを、
>>527の発言でぶった切るところでした^^;
あぶない、あぶない。
>526
GJ!!
このまま一思いに俺を殺してくれ………!!
530 :
名無しさんだよもん:2005/09/19(月) 23:49:23 ID:dE8lus1h0
>>526 お疲れ様です。
感動しましたTT
16話も期待して待ちますね。
頑張って下さい!!
今日は郁乃と一緒に駅前にオープンした
喫茶店に行くことになったんだけど・・・。
「どうして急に行きたくなくなったの?」
「・・・だって、車椅子なんか乗ってたら恥ずかしいじゃん」
「恥ずかしくなんかないよ、学校だっていつも車椅子で行ってるでしょ?」
「学校と出かけるのは別だよ・・・」
「もう・・・、出かける準備までしたのにそんなこと言わないでよ郁乃」
「・・・私なんかと行かずに貴明と行ってくればいいじゃない」
「もーーう!私は郁乃と行きたいから誘ったの!・・・ぐすっ」
「あ・・・、い、行けばいいんでしょ、行くから泣いたりしないでよ・・・」
「今日は絶好のお出かけ日和だね!」
「うん」
雲ひとつない青空で、
郁乃の乗っている車椅子がいつもより軽いような気さえした。
もうすぐ冬なのに今日はなんだか暖かい。
15分ほど歩き、目的の喫茶店に到着した。
まだお昼前なので駅前にあまり人の姿は無い。
「やっぱり綺麗だね・・・」
「できたばっかなんだから当たり前じゃない」
・・・郁乃ってばまだ機嫌が悪いみたい。
「はい、メニューメニュー」
「いい。もう持ってるから」
「あ。じゃあ何にしよっか?今日はおごってあげるから何頼んでもいいよ」
「・・・これでいい」
メニューを指差す郁乃。
その先には単品のオレンジジュース。
「え、ジュースだけでいいの?遠慮しなくていいんだよ?」
「してない」
「うーん、じゃあ私はケーキセットにしよっと」
きっと郁乃は意地を張ってるだけだから、
私のケーキを半分わけてあげよう。
「うん、おいしいよこのケーキ。半分あげようか?」
「いい」
「そっか・・・。郁乃、もしかして退屈してる?」
「ううん・・、楽しいよ。元々こういう性格だから・・・」
郁乃は一応楽しんでいるらしい。
「よかった。もし具合が悪くなったらすぐに言うんだよ?」
「平気」
「他にどこか行きたい所があったら連れてってあげるから遠慮しないで言ってね。
あ、そうだ。服見に行く?ちょうど冬物が出てるし。
マフラーとかも見てみる?郁乃、マフラー持ってないから私が買ってあげるよ。
うーん、郁乃にはどんなのが似合うかなぁ。色はやっぱり・・・」
私が郁乃の方を向いた瞬間。
ちゅ。
・・・・・・・・。
「え・・・郁乃!?」
「・・・ありがと」
「え、あ・・・、うん」
突然郁乃がキスをしてきたのだった。
私は何がなんだか分からなくて、ボーっと郁乃のことを見つめていた。
少し経って郁乃は恥ずかしそうにうつむいて言った。
「その・・・、お礼」
「お礼?」
「・・・お姉ちゃん私に優しくしてくれるから、お礼」
「・・・・・」
「・・・ほ、ほら。早くケーキ食べてよ。マフラー買ってくれるんでしょ?」
「あ、うん、そうだね。じゃあ駅ビルに行ってみよっか!お店いっぱいあるから」
「うん」
今日の出来事で、私と郁乃の距離がすごく近づいた気がする。
むしろ郁乃のことが・・・。
おしまい。
534 :
喫茶店作者:2005/09/20(火) 00:19:28 ID:4d36/hk20
短編です。
郁乃スレで見たコピペに心を動かされ、勢いで書いてしまいました。
郁乃サイコー。
>>526 GJ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
次も楽しみにしてます。
>少し時間が
頑張って明後日まで待ちますです。
(中略)
ダニエル「良い肉付きをしておる。それに…。」
ゲンジ丸「ヲッ、ヲフゥ!!」
舌をすぼめゲンジ丸のアナルに差し込む。
内壁を丁寧に舐めあげる。
ダニエル「やはり動物は本能に正直じゃわい。」
ゲンジ丸の肉棒が硬くそそり立ったのを確認し、肛門から顔を離す。
弛みきった肛門を満足気に見下ろすと、大型犬にも勝るとも劣らない剛直な己の分身を掴み出し…。
>>526 GJ!&乙!
これ以外のENDは存在しえませんね。素晴らしい。完璧。
萌えたよ・・・萌え尽きたよ・・・
しかもこのあとは
>とりあえずこの後にラブラブ甘々な展開にしていく予定
>SisterBowlの続編を書いてから16話に
ですか。えぇ、もう覚悟はできてます。何度でも萌え殺してください。
>>534 GJ!ほほえましいやねぇ。
郁乃だと言葉ではなく、行動に出そうだし。
1のキャラとの絡みが見たいとか言ってみるテスト
ガチ百合!( ゚∀゚)ノ☆ヽ(゚∀゚ )
リムジンが再びきっかり三十分で自宅の前に横付けされると、運転手は慇懃な身のこなしで
環のためにドアを開けた。礼を言って降り立つと、礼を返して初老の運転手は車に戻る。
家の門をくぐって初めて彼女はほっと気を緩めた。
「タマお姉ちゃん、おかえり!」
待ちかねたようにこのみが飛びつく。
何もない、ただ古いだけの家で一人の留守番はつまらなかっただろうと彼女は気の毒に思った。
「ただいま。遅くなってゴメンね」
「ううん。さっきまでユウくんいてくれたから」
「あら」
このみの話によると、昼前に帰ってきた雄二はこのみと向かい合って
インスタントラーメンをすすってしばらくしゃべった後、また友達の家に出かけると言い置いて出かけたらしい。
環は弟が最近交友関係を微妙に変えていることに気付いていた。
昔は貴明ともっぱら遊んでいたのが、彼に恋人が出来てからはそう密接に遊ばなくなっている。
貴明の方も彼女にはまっている状態なのでそれはごく自然な流れなのかもしれない、と環は思う。
しかしそれはそれで、やはり一抹の寂しさを彼女に感じさせるのだ。
「何時ごろに帰るって言ってた?」
「遅くなるって」
「そう……」
部屋に戻って窮屈なスーツを脱ぎハンガーにかける。
洗面台で化粧を落としているうちに体も心も軽くなっていく。
そうだ、このみの晩御飯作ってあげなきゃ。
気軽な服装に着替えた環は向坂家の環から幼なじみのタマお姉ちゃんに戻っていた。
「このみ?」
彼女が台所に入るとこのみが割烹着を着て左に右に危なっかしく動き回っている姿が目に入った。
台所に入ってきた環に気付くと、今日はわたしが作るのであります、とおたまで敬礼する。
座って待っててと言われて環は食卓に腰をおろす。時に菜ばしを、時にフライ返しをふりふりこのみはごきげんだ。
意識しているのかどうかはわからないが、鼻歌をうたっておたおたと料理を続ける。
環はテーブルにひじをついてその背中を見ながら、誰かがこうやって何かしてくれるのって嬉しいなあ、
と温かい気持ちになる。ことことと何かを煮込む音と、このみの足音を聞いているうちに環は眠ってしまった。
「タマお姉ちゃん」
肩をゆすられて環ははっと目を覚ます。やはり気疲れしているらしい。
テーブルの上にはぶりの照り焼き、ほうれん草のおひたし、湯がいたおくらの和えたものに炊き立てのご飯。
目にも鼻にも優しい和食の献立だ。
「これ全部このみが作ったの?」
「うんっ」
「すごいわね」
「最近練習しているのでありますよ」
ほとんど料理の出来なかったこのみが誰のために何のために、と環はかんぐってしまう。
しかし彼女はいたって無邪気に、タマお姉ちゃんにいろいろ直して欲しい、と積極的である。
口にしてみると、ぶりは醤油がきつすぎ、ほうれん草は半生で、おくらは逆に湯がきすぎてくたくただ。
しかしそれでも、環には美味しかった。昼、大豪邸で出されたフルコースよりよっぽど心に残る味だった。
きっと彼でもそう思うだろう。
あの子だって料理は出来るかもしれないが、このみほど気持ちのこもった料理は決して作れない。
品数もできばえも決して最上級とはいえない料理でも、こめられた気持ちは誰にも負けない。
おいしいわ、という言葉に、箸を止めて彼女の様子を見ていたこのみははにかんだように微笑んだ。
環はあまりテレビを見ない。社会情勢を知るためにニュースは見るがドラマやバラエティーにあまり興味をもてない質だった。
夕食が終わると普段なら部屋に戻って読書をしたり、ピアノを弾いているのが常である。しかしこのみがいればそうもいかない。
誰よりも知っているはずの少女が、食事の後どういった時間を過ごすのかも知らず環は苦笑した。
「あ、そうだ。タマお姉ちゃん、お風呂もうわかしてあるよ」
「そう? 気がきくわね」
「えへへ……」
「先、どうぞ」
「えー、一緒に入ろうよー」
とこのみは袖を引く。
彼女は嬉しそうに環の手を引っ張って脱衣場に入ると、今日も思い切り良くぽんぽんと服を脱ぐ。
結局昨日と同じように二人で檜の浴槽につかることになった。昨日と違うのは泡の入浴剤入りであることだ。
台所用洗剤に熱湯を注ぎ込んだように豪快にあわ立っている浴槽にこのみは大喜び。
かかり湯もそこそこに湯船に飛び込んでいく。
環も続いて湯船に飛びこみ、顔中泡だらけになりながら二人ふざけあった。
ざぶざぶと遊んでいるうちに泡もやがて少なくなる。ジャスミンの香りがする湯船には、名残の泡の島が
ほんの少し残るだけになっていた。
「タマお姉ちゃん、楽しいね!」
鼻の頭に泡をくっつけたこのみはにこにこと上機嫌。環はその泡を取ってやりながらそれに頷いた。
「さ、このみ、体も髪も洗わなきゃ」
「はあい」
環に促されてこのみは洗い場に座り、それに背を向けるように環は湯船に体を沈める。
再びごきげんな鼻歌が聞こえ、わしゃわしゃとスポンジが肌を滑る音が聞こえた。
こうしてこのみが毎日いてくれたら寂しくないかもね、と明日帰ってしまう妹分を惜しむ。
「タマお姉ちゃん、どうぞ」
全身を洗い終えたこのみが環のために椅子を空ける。しかし環がさあ体を洗おうという段になっても
このみはそこに湯船に入ろうとせず立っていた。
「どうしたの?」
「うん。タマお姉ちゃんの背中流そうと思って」
返事を待たずこのみは既にスポンジにボディソープをつけるとむにゅむにゅと泡立て始めている。
そうなっては遠慮することも出来ず、環は彼女の方に背中を向けた。
誰かに背中を流してもらうなんて、小さいころにお父様に体を洗ってもらったとき以来だわ。
くすぐったいような心地いいような感触を背中で感じながら、鏡越しに一生懸命な表情を見る。
こんな妹がいてくれたらどんなに心がなごむことか。
視線を感じて顔を上げたこのみはふわっと笑う。
こうやって笑顔を見せられるごとに、自分も幸せな気持ちになっていくことを環は実感していた。
「タマお姉ちゃんはスタイルもいいけどお肌もきれいだよね」
「そんなことないわ。このみのほうがきれいよ」
まじまじと背中を見られて環はくすぐったい。
するとこのみはするすると手を回して形のよい環の乳房をふにっとさわった。
「……!! な、何するの!」
「やっぱりよっちよりもおっきい。しかも柔らかいよ」
「よっち? ああ、このみの友達ね。でもいきなりなんてことするの。びっくりするじゃない」
ごめんごめん、と言いながらこのみはまた環の胸に手を伸ばそうとする。
「こら!」
「自分じゃ味わえない感触なのであります」
たしなめる環にこのみは妙に真剣な表情である。
その目には純粋な好奇心しか見て取れないが、環としてはその細い指に触れられたときの感覚に恐れをなしていた。
ぷんぷんと軽く怒ったふりをして浴槽に肩までつかる。
「タマお姉ちゃんにセクハラしてしまったですよ」
「ホント、男の子だったら許さないところよ」
「わたし女の子で良かったあ」
そう言いながら環に向かい合うように入ってきたこのみは、浴槽の中でくるりと向きを変えると
背中を環のもたれかけさせた。お湯の中で二人の素肌が触れ合う。電気に触れたような感触が環の後頭部に走った。
「ふいー……」
安心したようにこのみは体重を預ける。
環はこのみの体が湯の中に沈んでしまわないように後ろから腕を回して支えた。
密着した部分からこのみの温かさと、頼りないくらいの細さが伝わってくる。そしてこのみが自分へ寄せる信頼も。
「タマお姉ちゃんが男の子だったらなあ……」
「男の子だったらこうして一緒にお風呂はいったり出来ないわよ」
「どうして?」
「だって付き合ってもいない男女が一緒にお風呂はいったりするのっておかしくないかしら」
「あ、そっか」
自分が男で、このみに好意を持っていたとしたらどうだろう。
環はふと考える。しかしこのみは貴明に好意を持っているわけで、どの道自分が失恋するのかと思うと逆におかしい。
今日の昼間あった青年に心が揺らいだことにしても、このみが自分のことを男だったら、と言った言葉にしても
やはりその裏側には未練や寂しさがあるのだ。同じ寂しさを共有する少女を環はぎゅっと抱きしめた。
密着する部分が大きくなり、洗い髪を通して頬がくっつく。
少し張り詰めたような空気が二人の間に流れて、環もこのみもしばらく動けない。
「タマお姉ちゃん……」
少し震えたこのみの声が環を正気に戻した。
「あがりましょっか」
「う、うん」
「冷蔵庫に梨が冷えてるの。剥いてあげるわね」
そそくさと浴槽から上がり、体を拭いた環は自分でも戸惑うくらい胸が激しく鼓動を打っているのを感じていた。
548 :
残心 中の人:2005/09/20(火) 14:03:04 ID:8Rv+0wit0
そそくさと第六話。
ガチ……百合?( ゚∀゚)ノ☆ヽ(゚∀゚ )
lol
残心は、延々とBADendを見せられてる気分になって正直凹む。
しかしおかげでタマ姉好きな自分に気付いたよ。
ていうかルーp
何でこうなったんだろう。
思考が働いていないまま駅へ行き、電車に乗り、こうして今4人でボックス席に座ってる今となっても、未だ思考は錆付いたままだった。
いや、このままではいけない。
このまま流されるだけでは郁乃の悪戯にしてやられたままではないか。
別段このみが混じることに異論はないし、もともとこのみとは長い付き合いだから、一緒にいることに何の抵抗もない。
そりゃ、ちょっと恥ずかしいとは思うが、だからといって追い返したり邪魔者扱いするつもりはない。
問題は、郁乃にしてやられたままであるということなのだ。
ここはきちっと俺自身の気持ちの切り替えをする必要がある。
斜め前にいるこのみは、既に遠足気分も絶頂で、荷物の大半を占めていたんじゃないかと思われるお菓子の攻略に乗り出していた。
愛佳といい勝負が出来そうだなんて思ってチラリと隣を見ると、愛佳もチョコレート一箱を空にする寸前だった。
やっぱりいい勝負だ。
「なぁ、このみ」
「はぁに?」
呼んでみると、このみはポッキーをくわえたままこっちを振り向くむ。
それをパッとこのみの口から奪い取り目の前にいる郁乃の口に放り込んでやる。
「むぐっ!? ちょっと何するのよ!」
「このみはいつから今日来ることになってたんだ?」
郁乃からの文句を無視して、話を進める。
へへん、ちょっといい気味だ。
「んーと」
口元に人差し指を当てて考え込む仕草をすると、しばらく黙り込んでしまう。
「えっとね、一昨日の前の日なんだけど……しおととい? なんて言うんだろ」
「いや、言い方はいいから」
そんなこと考え込んでたのかよ。
「要するに3日前か」
「うん、そうだよ。夕方にいくのんから電話があって、海にいこうって」
……3日前というと、まさに郁乃が海に行きたいと言い出した日じゃないか。
あんにゃろう、こんな悪戯を即日決行してやがったのか。
「貴明からこのみも海に行きたがってるって聞いたから、ちょうどいいと思ったのよ。急な話でちょっと悪いかなとも思ったんだけどね」
「ううん、嬉しかったよ。ありがとーいくのん」
ガシっと隣り合う郁乃にこのみが抱きつく。
女の子同士ってちょっと過剰なスキンシップをするとはよく聞くがこのみも立派に女の子やってるんだな。
これが男同士、例えば俺と雄二だったら絶対あんなことはしない。
……うっ、俺に抱きついてくる雄二を想像したらちょっと気持ち悪くなってきた。
「いいのよ。あたしたち友達じゃない」
言葉はこのみに向かってるのに、その不敵な視線はさっきから俺をロックオンしている。
「春夏さんはちゃんと知ってるのか?」
「うん、タカくんが一緒なら安心だって」
あの人なら言いそうだ。
でも俺だってよく考えたらこのみより一つ年上のだけなんだけど。
「あんまりはしゃぎすぎて人に迷惑かけないようにするんだぞ」
「もー、わかってるよー。このみそんなに子供じゃないよ」
「ほんとに兄妹みたいなのね」
郁乃が俺とこのみを見比べ、感心したような声を出す。
「そりゃな。もうずっとお隣さんやってるんだし」
家族ぐるみの付き合いで何をやるにも一緒だったこのみは俺にとって血が繋がっていないだけで妹にかわりはない。
「だからこの前妹代わりはもう間に合ってるって言ったろ」
「でも、あたしは将来戸籍上の妹になるかもしれないわよ?」
さらりと。
それはもう本当にごく自然に、郁乃はとんでもないことを言ってのけた。
「なっ、なっ、なにを」
待て、慌てるな。
あんなこと言われたくらいであたふたしてしまえば郁乃の思う壺じゃないか。
ここは一つ大人の余裕ってヤツを見せてやるんだ。
「こほん」
咳払いを一つし、自分を落ち着ける。
「まああれだよ、将来がどうなるかなんてわからないし。なぁ愛佳」
同じように顔を真っ赤にしているだろう愛佳を味方につけようと隣を見てみると
「んぐんぐ。……ふぁい?」
ちょうどチョコレートの二箱目を空にしていた。
「えっと、何の話でした?」
ずっと食ってたんかい。
そういやさっきから一言も会話に参加していないと思ったら……。
恐るべきは愛佳の食に対する集中力。
「なぁに? 将来どうなるかわからないって、そんないい加減な気持ちでお姉ちゃんと付き合ってたの? お姉ちゃん、今の聞いた?
貴明と付き合うのなんてやめておいたほうがいいんじゃない?」
「おいっ、なんでそうなるんだよっ」
「えっ?えっ? 何の話?」
「いや、愛佳はぜんぜん気にしなくていいんだ」
くそぅ、大人の余裕を見せるはずがなぜ逆に追い詰められてるんだ。
「お、俺は断じていい加減な気持ちなんかで愛佳と付き合ってるわけじゃないぞ! 俺だってこれからも愛佳とずっと一緒にいられたら
いいなぁと思ってるし、愛佳さえ良ければいつかは……その……」
そこまでまくしたてたところで、ふと自分に突き刺さる3つの視線に気付く。
……やってしまった。
「タカくん、愛佳さんと結婚しちゃうの……?」
「ちっ、ちがっ」
ああ、もう手遅れだ。
このみにまでばっちり恥ずかしいセリフを聞かれてしまった。
「そ、そうだよね。二人は恋人同士なんだもんね」
「待てこのみ。別に今のはそういうことを言ったんじゃなくって」
いや、確かにそうなったらいいなという本音をぶちまけかけてしまったんだが。
だからと言ってここで認めてしまうわけにはいかない。
「今のはほら、あれだよ。このみだってタマ姉や雄二とずっと一緒にいたいなぁとか思うだろ?」
「ううん。だいじょうぶ、このみ応援するよ。おじさんたちがもし反対しても一緒に説得してあげるから」
ダメだ、俺がなんて言おうと聞いちゃいない。
完全に思考が突っ走っちゃってる。
「ふふん」
目の前に座ってる郁乃は、満足気ににやっと笑っている。
……またやられた。
そしてこのみ以外にもう一人、熱暴走してる人間がいた。
「や、やだぁ。結婚だなんてまだ早いよぉ。そ、そのね、貴明くん、あたしたちまだ進学や就職もあるし、そういうのは
二人できちんと相談してから決めたほうがいいと思うの」
「まぁ確かに人生設計は大切だな……って、今はそういう話じゃなくって」
「あ、そうだよね、まだちょっと早いよね。やだなぁあたしったら。まずは高校を卒業してからだよね、うん」
愛佳は何を思ったのか、小さくガッツポーズを取る。
見るからにファイト満タンって感じだ。
違うっ、そうじゃないんだ。
俺が言いたかったのはそういうことじゃなくて。
「参っちゃうでしょ? この二人いっつもこうなのよ」
「そ、そうなんだ」
やれやれと言った顔の郁乃と、なぜか顔を赤くしているこのみ。
「四六時中目の前でイチャイチャされて困っちゃうわ」
「確かに目の毒かも……」
別にいちゃいちゃなんてしてないってのに目の毒のわけがないだろう。
だが確信犯の郁乃と勘違い娘のこのみの妹コンビには何を言っても無駄だろう。
なんてこった、こんな凶悪なタッグが誕生してしまうなんて。
電車に揺られながら、タマ姉に続く新たな天敵の誕生に頭を悩ませた。
海に着くと、まずは俺が手早く着替えを済ます。
こういうときさほど時間がかからないのは男の利点だ。
「それじゃあタカくん、このみたちも着替えてくるねー」
着替えて戻ってきたところ、今度は女の子三人が連れ立って更衣室へと向かっていった。
……このみが来ると、女二人と男一人でギリギリ保たれていたバランスが、男女比3:1になっちゃうんだったな。
ちょっとした寂しさを感じながら、一人ぽつんと砂浜の上で座って待つ。
このみも来るとわかってたなら雄二やタマ姉も一緒に誘ってしまえたのに。
いやしかしあの二人がいるとなるとますます愛佳とのことをちゃかされそうだ。
「そういやあんまり混んでないんだな」
あたりを見渡すと、それなりに人はいるが、これくらいならば人の多さに煩わされることもなくのんびりと遊べそうだ。
ここで俺は一つ、心に誓ったことがある。
それは『絶対に寝ない』こと。
十数年来の付き合いで遠慮のないこのみと、生来の図太い性格で遠慮のない郁乃。
この二人が揃っている場で隙を見せようものなら、絶対に埋められる。
ただ埋められるだけじゃない、きっと自分では出られないくらいに砂を積まれる。
しかもその上に乗っかって記念写真とか撮りかねない。ああ、撮りかねないとも。
「そうなんでも思い通りになると思うなよ妹コンビめ」
「貴明くん、お待たせー」
「あんたは何を一人でぶつぶつ言ってるのよ」
「準備完了であります隊長」
「ん、おかえり」
何の気なしに声のするほうに振り返ったのがいけなかった。
海、とくれば当然水着なわけで。
そんな当たり前のことをすっかり忘れていた俺には、それはとんでもない不意打ちだったわけで。
だから、その、つい愛佳に目が釘付けになってしまったのもしょうがないことだと思う。
確かセパレートって言うんだっけ、ああいうの。
愛佳らしい水着で、色も愛佳のイメージと合った水色のストライプ。
この水着ってこの間買い物に行ったときに買ったんだよな。
結局売り場に行くのが恥ずかしくてベンチで待ってたが、俺が待ってる間にこんなかわいい水着を選んでいたなんて。
愛佳も俺の視線に気付いているのか、わずかに顔を伏せ、もじもじとしている。
う……、どうしよう、こういうときはやっぱ褒めたりした方がいいんだろか。
でもなんか照れくさいし。
雄二がいればきっと聞いてるほうが恥ずかしくなるような褒め言葉を臆面もなく連発してくれただろうから、それに便乗してしまえたのに。
ええい、俺だって愛佳の彼氏なんだ。
何を恥ずかしがることがある。
「えっと、水着すごくかわいいと思うよ。あっ、いや、今がかわいいって意味じゃなくって、水着を着てる愛佳がかわいいってことで」
しどろもどろという言葉が似つかわしい。
褒め言葉の一つや二つ、もっと流暢に言ってあげられればいいのに。
自己嫌悪に陥りそうになる。
「あ、ありがとう貴明くん」
だが、愛佳はそんな俺の拙い言葉にも嫌な顔もせず、嬉しそうな顔をしてくれた。
その顔を見て今度は俺が嬉しくなる。
「なんかちょっと照れくさいな」
「うん」
「よし、せっかく海に来たんだ。遊ぼうぜ」
お互い照れているのはここまで、と気持ちを切り替え、早速海を満喫せんと愛佳の手を取って走り出す。
「ちょっと待つ」
走り出す前に、ぐいっと郁乃に肩を引っ張られた。
「なんだよ。今せっかく気分が盛り上がってたところだったのに」
「あたしたちにも何か言うことあるんじゃないの?」
「言うこと……?」
しばし間。
「ああ」
ぽんと手を打つと、荷物から財布を取り出す。
「ほい、ラーメン食べてきていいぞ」
郁乃も食いしん坊の愛佳の妹だ、きっと海の名物を食べたくてうずうずしていたんだろう。
そう思って、ここは年上らしく奢ってやろうと500円玉を渡してやる。
寛大な心遣いに感激したのか、郁乃は俺の腕をそっと手に取ると。
「いってええええええっ!?」
思い切り噛み付いてきた。
「なっ、なにすんだよ! うわっ、あとががついてるっ」
「うわ、すごいくっきり。いくのんあごの力すごいねー」
「あたしたちも水着なんだけど」
人の腕に歯型の照合が出来そうなくらいくっきりと傷を残しておいて、郁乃は何事もなかったように話を進める。
「そりゃ海なんだから、水着なのは当たり前だろ」
一体何が言いたいのか。
「タカくんー」
このみもまた、咎めるような口調で俺の名前を呼ぶ。
妹コンビは俺に何を求めているんだ。
どうすればいいのか悩んでいると、愛佳がひそひそと耳元で囁く。
「貴明くん、このみちゃんたちの水着だってかわいいよ」
「ん? そうだね」
まあかわいいっちゃかわいいけど、それがどうしたというのか。
……あっ、もしかしてそういうこと?
窺うように愛佳の目を見ると、こくりと頷いて答えてくれる。
いつの間にか俺たちはアイコンタクトまでできるハイレベルなカップルになっていたようだ。
ともあれ、俺のすることははっきりした。
「二人とも似合ってるんじゃない?」
とりあえず褒めてみた。
「お姉ちゃんのときとは態度が全然違う」
「タカくん、すっごく投げやり」
だが、二人は不満そうに唇を尖らせる。
愛佳はそんな俺たちを見て。
「もお、ダメだなぁ貴明くんは。女心がわかってないんだから」
そのお姉さん笑いやめて。
あれから10分、海に来たというのにまだ一歩も水に浸かってない。
というのも、未だに俺はすっかり機嫌を損ねてしまったこのみと郁乃のご機嫌取りをしてたからだ。
「ほんっと、お姉ちゃんしか見えてないのね」
「このみもあの扱いはショックだったよ」
「だから悪かったってば」
しょうがないじゃないか。
いくら相手がこのみや郁乃だからって、やっぱり女の子の水着を褒めるのは少し照れくさいんだ。
意を決して愛佳と恋人らしいやり取りを終えて満足していた俺には、とても二人のことまで頭が回らなかったんだ。
「ほら、二人ともかわいいかわいい」
しかしあれから今まで延々褒めちぎっていたともなればさすがに慣れてもくる。
「心が篭ってないよタカくん」
そんなこと言われても、たいしたボキャブラリーもないのにこれだけ頑張ったんだ。
そろそろ許してもらいたい。
「お姉ちゃんのときみたいにもっとしどろもどろに慌てふためいてほしいわね」
勘弁してください。
「二人とも、貴明くんも反省してるし、そろそろ許してあげよ?」
ここで愛佳から援護が。
やはり持つべきは心優しい恋人だ。
「はぁーい」
「そうね。ま、この辺でやめてあげるわ」
愛佳に言われるなり、二人ともさっさと荷物の置いてあるシートの方へ歩いて行ってしまう。
「……なんかえらいあっさり引っ込んだな」
ちょっと肩透かしな反応にびっくりする俺だが、その瞬間確かに見た。
振り向いた郁乃がぺろっと小さく舌を出しているのを。
そうして俺は悟った。
あいつら、面白がってわざとあんな責めるようなことばっか言ってやがったのか。
……ふふふ、上等じゃないか。
俺がやられてばかりだと思ったら大間違いだということを教えてやらなくてはなるまい。
「このみ」
「なぁにタカくん?」
まずは狙いを長年の幼馴染に定める。
既にシートの上でくつろいでいる三人のところまで行くと、優しい声でこのみに声をかけて近づく。
「さっきのは本当に悪かった。お詫びと言ってはなんだが」
「わっ? わっ!?」
言いながら、ひょいとこのみを担ぎ上げ海の方へ歩いていく。
「一番最初に雄大な海を味あわせてやろう」
「ちょ、ちょっとタカくん、待って待って」
聞く耳持たない。
「わぷっ」
遠慮なく、海の中に放り投げてやる。
少し深めのところまで運んでやったのはせめてもの情けだ。
「ぷはっ」
水面から顔を出したこのみが、恨めしそうに見上げてくる。
「ひどいよタカくんー」
「はっはっは、海の醍醐味醍醐味」
軽く流し、次のターゲットをロックオン。
「な、なに? まさかあたしまで投げ捨てる気?」
慌てふためく郁乃に、一歩ずつゆっくりと歩み寄っていく。
「や、やー。こっち来ないでよ!」
郁乃の目の前まで行くと、このみと同じように抱き上げてやる。
「まあそう遠慮するな。俺と郁乃の仲だろ」
「どんな仲よ! あっいやっおろしてー! おっ、お姉ちゃん助けてっ」
すぐ隣で事の成り行きをぽかんと見守っていた愛佳に助けを求める。
さすがの愛佳も、妹の声にハッと正気に返る。
「いっ、郁乃があたしに助けてって……。おねえちゃん嬉しいよ郁乃」
「ちょっとそんなことで感動してないで助けなさいよっ! きゃー」
残念ながらタイムオーバーだ。
郁乃を抱き上げたまま海へと近づいていく。
傍から見ると俗に言うお姫様抱っことなってしまっていて少々恥ずかしいのだが、復讐に駆り立てられている今の俺は
そんな程度では止まらない。
「安心しろ、郁乃にあんな乱暴なことはしないさ」
「ひっどーいタカくん」
海の中のこのみから文句が飛んでくるが、これも気にしない。
まあ、さすがにちょっと前まで入院生活を余儀なくされていた郁乃に強制海中ダイブをさせるわけにはいかないしな。
なので。
「息止めてないと水飲んじゃうぞ」
「ちょ、ちょっと、ここかなり深いじゃない! 止まってよ!」
「まあまあ」
離してしまわないように気をつけながら、郁乃を抱えたまま海の中に潜ってやる。
郁乃はぎゅーっと目を瞑り、必死になってしがみついている。
ふふん、そろそろ許してやろう。
「ぷはぁ」
海面に出ると、郁乃はぜぇぜぇと息を切らし、ちょっと涙目になっていた。
「なっ、なんてことすんのよ!」
「かわいい妹に身をもって海を体験してもらったんだ」
「ぐっ」
電車の中でからかわれたネタを逆手にとって平然と切り返してやる。
「大丈夫だって。ちゃんとしっかり抱いててやったろ?」
「うっ」
取り乱したのがよほど恥ずかしかったのか、郁乃は見る見る赤面していく。
これは久々の、いや、もしかしたら初めての完全勝利じゃないだろうか。
久しく味わったことのなかった勝利に酔っていると、郁乃が一層ぎゅっと俺に抱きついてくる。
「お、おい、そんなに怖かったのか?」
やばい、さすがにやりすぎたかも。
ちょっと反省しかけたその時だった。
「いってええええええっ」
「ふんっ」
郁乃のヤツ、首筋に噛み付いてきやがった。
「おまえは吸血鬼かよ!」
この抱いている格好を見事に利用した攻撃だった。
転んでもタダでは起きないとは、きっとこういう人間を言うんだろう。
「いってぇ」
シートまで郁乃を運んで下ろしてやり、首元を擦る。
郁乃のヤツ、すっかり噛み付く攻撃が板についてるな。
「郁乃、大丈夫だった?」
「まあね」
心配そうに訊ねる愛佳にぶっきらぼうに返事をする郁乃の顔は、まだ赤いままだった。
「もお、びっくりしちゃたじゃない貴明くん」
「ごめんごめん」
軽い悪戯のつもりだったが、やはり姉からしたら心配でしょうがなかったのだろう。
このみも一緒だったせいか、つい悪ノリが過ぎてしまったかもしれないな。
「水に入る前にはちゃんと準備運動しないとダメだよ?」
「「心配する点が違う!」」
今この瞬間、郁乃と俺の心は完璧なまでにシンクロしていた。
565 :
中身:2005/09/20(火) 18:50:02 ID:Ow8BHmeV0
一応わたしも海に〜の続きです。
海に〜と同じくかなり自分の中のイメージが前に出てしまっています。
最初は「あのあと海に行ったらこういうことやってそうだなぁ」という程度に漠然とイメージがあっただけなのですが、
続きを期待して下さる人がいてくれたのでつい調子こいて書いてしまいました。
少しでも楽しんでいただければ幸いです。
566 :
512:2005/09/20(火) 18:50:04 ID:DjnbqEgC0
n n
(ヨ ) ( E)
/ | _、_ _、_ | ヽ
\ \/( ,_ノ` )/( <_,` )ヽ/ / グッジョブ!!
\(uu / uu)/
| ∧ /
しゃくしゃくと小気味いい音だけが食卓を往復する。
鳥取名産の歯ごたえと甘みが最高の梨は、よく冷えて、そして程よく熟していた。
環は刃物を扱うことで冷静さを取り戻したはずだったが、このみのさくらんぼのように
つややかで色のよいくちびるをついつい見てしまう。
このみもどこか照れくさそうに目を伏せたままであった。
「わ、私今日ちょっと疲れちゃったから早く寝るわね。このみはテレビとか見たかったら
居間で見てていいから。眠くなったらお部屋に戻ってくるといいわ。おやすみ」
そこまで一気に言うと環は立ちあがった。
幼なじみの、しかも同性をこんなに意識してしまうなんて一体どうしてしまったのか。
初対面の男性に心が動いたり、このみにどぎまぎしたり。
自分が今正常な状態ではないことを自覚した環は睡眠に逃げようと決意する。
このみはそんな彼女の様子をきょとんした目で見送っていた。
歯を磨き、部屋に戻ってベッドに倒れこむ。
そこにいつもと少し違う香りが混じっていることに気付いた彼女は深くにおいを吸った。
このみが昼寝でもしていたのか、あどけない香りが枕元からする。
その香りは環の心を落ち着かせ、そしてかき乱した。
何とか眠ろうとするがなかなか寝付けない。
枕もとの時計が時を刻む音がやけに気に障る。ここ最近なかったことに環はいらだった。
どういう状況であれ、自分を見失わず、正しいと思う道を進むように叩き込まれてきた彼女は
いま正しいと思う道を見失っていることを悟る。こんなに弱い人間だったなんて。
どれだけ叱咤してもゆらゆらと揺れ続ける自分を引きちぎってしまいたいくらいであった。
鬱々と寝返りを打ち続けて時計を見るとまだ三十分ほどしかたっていない。
天井を見上げ、気持ちを落ち着けようと深い呼吸を繰り返す。
規則正しく深い息吹を重ねることで体と心を安息に導こうとし、それは実際成功しかかった。
しかしそこでかちゃり、と扉が開く。
眠っているであろう環を起こさないようにこのみが静かに部屋に入ってきたのである。
「このみも眠くなった?」
驚かさないように優しく声をかける。それでもこのみはびくっと立ち止まったように見えた。
「あ、うん。タマお姉ちゃん起こしちゃった。ごめんね」
「ううん。まだ起きてたから」
このみはまだ暗さに目が慣れないのかそろそろと布団をひいてあるところまで来ると、枕を抱えて環の枕元に立った。
「タマお姉ちゃん」
「ん?」
「今日も横で寝ていいかな……」
先ほどまでの妖しい胸騒ぎが再び首をもたげる。今の状態でこのみと密着しているのはあまり好ましいことではない。
そう判断した環は、お布団で寝なさい、とつっけんどんに言ってしまう。
「うん……」
夜目にもはっきりわかるくらいしょげ返ったこのみは背を向けて環のベッド脇に敷いた布団に入った。
かわいそうだと思うけれど、おかしなことになってはこれ以降の付き合いに差障りがある。
しかしふと横目でこのみの様子を見た環はたちまちその強い決心も揺らがざるを得なくなった。
小刻みにその細い肩が揺れていたからである。
このみはただ幼なじみのお姉ちゃんに甘えたかっただけだ。それ以上の何も求めているはずがない。
環は一点の曇りもない妹分のくるくるした瞳を思い出す。
貴明に彼女ができ、私まで拒んだら誰がこのみを包んであげられるというのだ。
私こそ、寂しくてちょっとおかしな状態になっているからと言ってそんなすげない態度を取るなんて最低だ。
「このみ?」
びくっとなったこのみはあわててぐしぐしとパジャマの袖で目をぬぐう。
「な、なあに? タマお姉ちゃん」
普通に返答しようとするがその声は思いっきり鼻声だ。環の胸はちくちくと痛む。
「一緒に寝ましょっか」
「……」
環の呼びかけに、傷ついた小動物のように様子を窺っているのが見て取れた。
「いいの?」
「もちろん」
「うん。じゃあ……」
枕を持っておずおずとベッドに乗ってくる。環は彼女のために場所をあけこのみが体を横たえるのを待った。
「タマお姉ちゃん、無理してない?」
「無理? どうして?」
「わたしが横に来ると迷惑かなって」
「大丈夫」
環は力強く言ってこのみのさらさらしている黒髪を指ですく。
そこでようやく、安心したようにかすかにこのみは笑い、環はやはりその笑顔に心を温められるのを感じた。
少しあいていた二人の距離はこのみによって詰められる。やがて額を環の胸元に置いた彼女はふう、と体の緊張を解いた。
「あっち行きなさい、って言われたらどうしようって思ったよ」
「そんなことこのみに言うわけないでしょ」
「だってだって、タマお姉ちゃんさっき一人で寝なさいって言ったよ?」
「そ……それは……」
まさかこのみにドキドキしてましたなどと言えるはずもなく、環は言葉に詰まる。
「でもね、さっきお風呂場でタマお姉ちゃんにぎゅってされて、すごくどきどきして、すごく温かい気持ちになったの」
「そう……」
「タマお姉ちゃん、優しいよ」
優しいんじゃない。私は自分が寂しいのをこのみでごまかそうとしていただけだ。
私ではなくてこのみが優しいんだ。体全体を包み込むような少女の体温を感じながら環は思う。
お風呂場で感じたような甘い、ちょっと張り詰めた空気が布団の中に満ちる。
このみは胸の前で握っていた手のひらを開いて、おずおずと環の背中にまわした。
環も髪をなでていた手をこのみの背中にまわす。お互いの温かさと香りがそれぞれをおおう。
二人は一つになるように強く抱きしめあった。
寂しさも切なさも、その瞬間だけは忘れられることを二人は気付いてしまった。
「タマお姉ちゃん……」
「だめよ、私たち……んっ」
甘い吐息が交わりあい、何も知らないはずの少女が奔放な舌の動きで環をいざなう。
環にはわかっていた。このみが環のくちびるを通して、体温を通して誰と交わろうとしているのか。
代わりになんかなれっこない。でもこの二人であることが一番その近似値をとらえることが出来るのだ。
だったら今夜はそれでもかまわない。私だって同じことだ。
がむしゃらに求めてくる少女の舌の動きにお預けを食らわせて、環は焦らすようにこのみのくちびるを
舌先でなぞっていく。驚いたように目をあけたこのみも、その感覚にしびれたようにされるがまま。
環のくちびるが柔らかくこのみのくちびるをかみしめていくと、彼女はもじもじと体をよじった。
「お姉ちゃん、ずるいよ……」
しばらくされるがままだったこのみは、環のくちびるの動きが一瞬と待った隙をとらえて反撃に出た。
されたとおりに環のくちびるをなぶっていく。自分が少女に与えていた快感がそのまま跳ね返ってくる。
独奏は重奏となって湿ったハーモニーを二人だけの空間に満たす。
環の手はこのみの後頭部を抱き、このみの手のひらは環の頬に添えられていた。
硬くなった二人の胸の先端が抱き合っている相手にもっと先に進むよう命じている。
罪悪感も、違和感ももうなかった。明日のことなんてどうでもいい。いま目の前にいる存在が全てだった。
「このみ……」
環が甘ったるい香りを放つ首筋にキスしようとすると、このみは頭を傾けて環のためにその部分をあらわにした。
どうしてこんなに昂奮しているのか、少女の細い首筋を味わいながら環は考える。
ああ、そうか。私はタカ坊になりきってるんだわ。
このみが求めているものが向坂環ではなく河野貴明だと思うからこそ、自分が一次的に男性化しているのかもしれない。
自分が同性愛的な要素を持っていると思ったことはなかった。
同性愛的な愛情を向けられることはあっても、向けることは一度もない。
でもいまこのみに対して狂おしいほどの愛情と情欲を抱いてその細いうなじにくちびるの跡をつけている。
これがこのみの心の中に秘められた欲求だったんだ。
そう環が理解しても、彼女はこのみへの動きを止めることはない。今はそれでいい。
こうやってこのみが溺れてくれたら、そして私も溺れていけばいいんだ。
手のひらを口に当てて声を抑えようとしてるこのみのパジャマに手を掛けた時にも、環にためらいはなかった。
573 :
残心 中の人:2005/09/20(火) 19:06:13 ID:1jUHgRRH0
百合っぽい雰囲気を楽しんでいたらループと
お叱りをいただいてしまったので、先に進めてみました。
GJ!
これからどうなるんだ?
そういえばてんだあはあとまだ〜?
かなり日にちあいてるとおもうのだが・・・
>>573 GJ!
激しくガチ百合!( ゚∀゚)ノ☆ヽ(゚∀゚ )
どちらも同じ人を同じくらい長い間同じくらい好きでいたのに、
その好きだった人がそのどちらでもない人を好きになってしまい、
どちらもその人が好きだって事に気づいていたから、
傷の舐め合いが加速して、こんな事になったという感じで、
なんともありえそだなっと感じました。
今後は、この関係が一時のモノになるのか、永遠のモノになるのかっというところでしょうか。
環にお見合いの話があったりするので、一時のモノになりそうな感じではあるが。
あと、貴明の彼女は文中の仕草から考えると、愛佳思えてしかたがない・・・・
貴明の彼女は草壁さんのような気がする・・・。
環やこのみはその存在を知らないだろうが(知ってる可能性もあるが)
長い間好きでい続けたと言う事に関して、二人と比肩しうるのは彼女だけだし。
なにもなければ、4月の下旬か5月初めに転校してくるはず。
持ち前の積極性(思い込みの強さともいう)を発揮して、横から貴明かっさらうという点で
ストーリーとも合致するし。
ただ彼女のシナリオは解釈が難しく、完全なパラレルと言う説もあるしな。
>>565 GJ!!
やばいクソ萌えたwwwwwww続き超絶期待してますから(`・ω・)
壮絶な誤爆したorz
スレ汚しスマソ。
どこからの誤爆なのか激しく気になるな…
>>573 GJ!そして何より、書くの早っ!
翌日がどういう描写になるのか楽しみ。
>>565 GJ!
小姑と同レベルで張り合う貴明がかわいい・・・って、アレ?
ほぼ完璧に手玉にとられる貴明が・・・って、アレレ?
そして何より、手玉にとる郁乃が!!!
>>574 やっぱり、催促しないと書いてくださらないんですかね?てことで、
てんだぁはぁと、マダ〜?
>>565 激しくGJ!
文章は荒削りながらもそれを補って余りある勢いとテンポの良さ、小気味よいやりとり、
そしてなによりも作者さん自身が楽しみながら書いてるのが伝わってきて、すごく気持ちのいい作品です。
読んでて思わずニヤニヤしちゃうよ(*´ー`)
海シリーズが終わっても、また別のキャラ同士の絡み話とか書いてくれたら嬉しいなあ…気が早いけどw
すいません、別の原稿の締切があったもので、そちらを優先させていただきました(^^;
拙作に寄せられたご意見は全部読ませて頂いております。読み込んでくださるが故の
愛のムチ。快感ですw 次回作があれば、そちらで活かしたいと思います。
とりあえず、最終回をこれから頑張って書きますので……(^^;
(しかしどうして、報われないこのみや黒このみが多いんだろうここw)
「・・・・・んぁ・・・・んん・・・・あれ?俺、いつの間にか寝てたのか・・・」
ふと、目を覚ますと目の前に優季の顔があった。
「あ、貴明さん、起きられたのですね。」
優季が俺の顔を覗き込む。
「あぁ、そうみたい・・うぐぁ・・・頭いて〜・・・・」
「大丈夫ですか?」
「ん〜・・・なんとか大丈夫かな。」
こんなやり取りの中、俺は何故この様な状況になっているか考えていた。
理由は単純明白。ただ単にビールを飲みすぎて、そのまま寝てしまったというだけなのだが。
「で、一つ聞きたいことがあるのだが、なんで優季の顔がこんなに近くにあるんだ?」
「それは膝枕をしているからですよ。」
「いや、まぁ・・・それはわかるんだが・・・・」
「貴明さんがお休みになられてしまったので、ついつい膝枕をしてしまいました。」
優季は、そんな事をしれっと言った。
俺としては嬉しくもあるのだが、なんだか気恥ずかしくて顔を背けてしまった。
「よろしかったら、お水を注いできましょうか?」
「あぁ、それじゃぁお願いしようかな。」
少し名残惜しさを感じながら、俺は体を起こした。
「・・・・・んぁ・・・・んん・・・・あれ?俺、いつの間にか寝てたのか・・・」
ふと、目を覚ますと目の前に優季の顔があった。
「あ、貴明さん、起きられたのですね。」
優季が俺の顔を覗き込む。
「あぁ、そうみたい・・うぐぁ・・・頭いて〜・・・・」
「大丈夫ですか?」
「ん〜・・・なんとか大丈夫かな。」
こんなやり取りの中、俺は何故この様な状況になっているか考えていた。
理由は単純明白。ただ単にビールを飲みすぎて、そのまま寝てしまったというだけなのだが。
「で、一つ聞きたいことがあるのだが、なんで優季の顔がこんなに近くにあるんだ?」
「それは膝枕をしているからですよ。」
「いや、まぁ・・・それはわかるんだが・・・・」
「貴明さんがお休みになられてしまったので、ついつい膝枕をしてしまいました。」
優季は、そんな事をしれっと言った。
俺としては嬉しくもあるのだが、なんだか気恥ずかしくて顔を背けてしまった。
「よろしかったら、お水を注いできましょうか?」
「あぁ、それじゃぁお願いしようかな。」
少し名残惜しさを感じながら、俺は体を起こした。
「それではちょっと待っててくださいね。」
優季はそう言って、台所のほうへ足を運んでいった。
再び俺は考えた。何故頭が痛くなるほどビールなんて飲んだのか。
これまた理由は単純明白で、親父宛に送られてきたお中元のビールを、
いつ帰るかもわからぬ親父達の代わりに飲んでしまおうということだ。
そう思い立ったものの、流石に一人で酒を飲むなんて寂し過ぎると思い、
彼女でもある優季を一緒に飲むことにしたのだ。
そんな事を考えていると、優季が水を持って戻ってきた。
「はい、どうぞ。貴明さん。」
「ん、ありがと。」
優季から水を受け取ると、そのまま一気に飲み干した。
冷たい水が喉を潤し、ボーっとしていた頭をスッキリさせていく。
「ふぅ、助かったよ。」
「いえいえ、どういたしまして。」
頭をスッキリさせ周りを見渡すと、蓋の開いたビールの缶がいくつか置かれていた。
それを見た俺は、自分が何本ほど飲んだのであろうか思い返してみた。
まぁ、精々5,6本といったところだろう。そう思い直し、再び周りを見渡した。
そしてふとおかしな事に気づく。俺は5,6本しか飲んでないはずなのに、
明らかにその倍以上の缶が転がっているのだ。それに気づいた俺は優季に、
「ところで優季。ビール、何本飲んだ?」
と、聞いた。
587 :
名無しさんだよもん:2005/09/21(水) 01:43:18 ID:BbYT8ec80
「えっ、そうですね・・・・ひーふーみー・・・」
そう言うと優季は、指を折りながら数えていった。
「・・・やーこーとー・・・えーと、20本です。」
「えぇ!!20本!!」
ビール20本とか飲みすぎだろ・・・・
草壁優季、恐るべし・・・・
====================================
誤爆をネタにしてみようと速攻で書いてみる。
だが、ダメダメな文章だ・・・・
何気に、1つ目を2重投稿してしまったしorz
んでもって、ageちまった・・・
ダメダメだ・・・orz
>彼女でもある優季を一緒に飲むことにした
次はこの誤字をネタにエロスきぼん
何故、ビール20本で、タマ姉やるーこや由真ではなく
草壁さん、もとい、優季なのかが激しく気になるw
ついでに、漏れも
>彼女でもある優季を一緒に飲むことにした
この誤字ネタSS希望w
まあ草壁さんって一番動じない感じがするのは確かかも
タマ姉はよわそう。
黄色は(ry
このみ…絡み酒
愛佳…泣き上戸
UMA…二日酔い
るーこ…全然酔わない、というか飲めない
郁乃…アルコールなんてもっての他
瑠璃…気弱・自虐化
珊瑚…年中笑い上戸ですが何か?
イルファ…わかめz(ry
ちゃる・よっち…絡み酒・脱ぎ上戸
三人娘…環を酔わせてお持ちか(ry
春夏…酔った勢いで貴明を(ry
アルコール入った瞬間から、ドSになる珊瑚とか面白そうだなあ。
んで、気弱になった瑠璃を苛め抜く。
るーこはコーラで酔う体質だし、アルコールは問題ないだろう
よし、折角だから菜々子たんにアルコールをぅゎょぅι゙ょっょぃ
既にSSスレではなくなってるな。
そして、今日の残心をじっと待つ。。。
TH2PC版って18禁ってまじか?。
ここにおとされてる2次SSのほとんどがぶっとばされる可能性あるし。
このみとタマ姉はED後もなかなかHしないっていうのがSS界での定説になってたけど
それが思いっきり覆ってしまうわけで。
信じられない人は本スレへどうぞ。このみのフェラ(!)とか
ルーコの挿入寸前半脱ぎ(?)とかのCGがUPされてる。
まだ確定とはいいきれないけど、ちょっとショック。
601 :
名無しさんだよもん:2005/09/21(水) 17:32:07 ID:eGg54H5+O
由真ほしー
>>600 > TH2PC版って18禁ってまじか?。
> ここにおとされてる2次SSのほとんどがぶっとばされる可能性あるし。
> このみとタマ姉はED後もなかなかHしないっていうのがSS界での定説になってたけど
> それが思いっきり覆ってしまうわけで。
> 信じられない人は本スレへどうぞ。このみのフェラ(!)とか
> ルーコの挿入寸前半脱ぎ(?)とかのCGがUPされてる。
> まだ確定とはいいきれないけど、ちょっとショック。
そんな定説あったんかいな?
長くなってしまいましたので、サイトのほうでご覧下さい。
http://www.geocities.jp/sora466/zanshin8.html がっちりした百合話を書きたくて投下させていただいておりました。
もしカップリングするとしたらTH2の中ではやっぱりタマ姉とこのみかな、と
いうことで最終話、濃い目となっております。
百合がお好きでない方は読まれれないことをおすすめいたします。
感想等下さった皆様、最後までお読みくださった皆様本当にありがとうございました。
ぼかしたままの部分などもありますので、続きを書くこともあると思います。
そのときにはまたお付き合いくださいませ。
残心 中の人
本編は本編、SSはSS
>>603 うひゃ〜・・・GJ!
もう、堪能させてもらいましたわ。
またの機会、待ってますよ!
>>607 ミルファ神キタワァ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(n‘∀‘)η゚・*:.。..。.:*・゜゚・* !!
GJです!
結末に笑いましたが実に良い終わり方だと思います。
喉越しならぬ読み越し爽やかです(*´∀`)
短編でも続編を是非お願いします。
>ミルファスキー氏
震えるほどにGJ! 最高でした! ヴィーバ、ミルファ!
次回作も楽しみにしております、いい話、マジでありがとうございましたm(__)m
>>607 やっぱり草壁さん、裏で糸引いてたのね。
いやもう、ホントに凄い。素晴らしい。
2段構え、3段構えで読者を振り回すその手腕に、脱帽です。
短編でもかまいません。気が向いたらでかまいません。
次作を楽しみにしております。ありがとうございました。
PC版は18斤か…
これからエロSSが増えるのだろうか…?
18にすると声優変わるのが困りどころだな。
変わるのかなあ・・・w
みんな栗林化したりして
草壁さん以外は過去に出演経験あるから大丈夫だそうだ。
声は同じでも何故だかエンディングとか違う名前なんだよ。
大人の事情。
それはそうとミルファ神乙〜
リーフがどんなの出すのか知らんけど
俺にとってはリトライが真のミルファシナリオだよ。
これからも続編期待してるからなっ!
とりあえずミルファ、シルファの立ち絵が出てこないうちは恐ろしくて描けたモンじゃないし。
ミルファ、シルファに関してはどうなんだろうな・・・。
“2次”創作SSである以上、「公式」は尊重する必要が有るし。
リーフの方でもこの二人に関して、ファンの間ではどんな「イメージ」が
固まりつつあるかは把握してると思うので、まったく予想外なものが
来るとは思わないが。
Sister Bowlの新作が出来ました('A`)ノ[
ttp://hmx-17b.hp.infoseek.co.jp/milfa.htm ]
題名は何も捻らずにSister Bowl 2です。
今回はリクエスト品だったのでWebページに同時公開です。
完結させようとしたけど無理だったよ_| ̄|○
3話程度で終わらせるのでテキスト量は前作と同じぐらいになる予定です。
PC版が18禁…嘘かと思ってたけどどうやら本当みたいですね。
とりあえずはミルファが出ることを切に願ってSSを書き続けます。もしミルファが出たらそれでまた新作でも書きます。
ミルファへの情熱はまだまだ消えません(*´∀`)
フハハハハハ!!
FDや追加シナリオが怖くてサブキャラSSが書けるかっ!
PC版が18禁ってことは、
ここの「てんだーはーと」や「虹の欠片」みたいなのは、元設定が崩れてしまうのか。
それはちょっと残念かも。
かわりに、いいSSのネタが出てくることを願おう。
・・・まさか、某ソフトみたく妄想オチ、とかしないだろうな。
ToHeart2 SS の書庫 一時閉鎖だって
お疲れ様でした
お疲れさまでした。
ToHeart2(PS2版)のSS書庫として復活待ってます(笑)
最近地味ーに草壁さんが増えてきたね。実に嬉しいのう。
いやー18禁か。
これでようやく黄色・UMA・雄二以外のキャラに手を出せるな。
よっちクリア出来ないと知った直後に、ショックのあまりに投げ出しちゃったからな。
俺は一年待ったのだ。
627 :
名無しさんだよもん:2005/09/23(金) 13:34:00 ID:UqF1UPlm0
あら、書庫SSは一時閉鎖ですか><
はやく復活して欲しいものです><
しかし、ケータイでも見てたから、見れないのか・・;
何かいい方法はないものか・・・
うわぁ・・・、
SS後半まで書いたのにPCがフリーズ。
また書き直しか・・・、ドラクエのデータが消えた気分・・・。
WORDとかだと一定時間ごとに保存してくれますぜ旦那ぁ?
>>628 定期的にCtrl+Sを押す癖を付けておくと良いぜ('A`)b
>>632 そだな。
がんばって書き直してきまつ(;´д⊂)
634 :
一発ネタ:2005/09/24(土) 00:03:47 ID:sePe/vZO0
私のおじいさんが教えてくれた初めてのお仕事
それはダニエルで、私は4歳でした。
それは華麗で格好良くて
こんな素晴らしい仕事を教えてもらえる私は、
きっと特別な存在なのだと感じました。
今では私がおじいさん。
孫に勧めるのはもちろんダニエル。
なぜなら彼女もまた、特別な存在だからです。
「……なのに何故逃げるのじゃ由真よ〜!」
「そんないい話っぽく言っても、あたしはダニエルなんか継がないってば!」
「あーあ、またやってる」
「見てないで助けろバカたかあき!」
「ム、貴様は由真を誑かしおった小僧!!」
※
ついカッとなってやった。
思いついたはいいが膨らまないので改変だけして投げることにした。
今では反省している。
ついでに由真SSがもっと増えるといいと思う。
最近すっかりご無沙汰になってますが、むかーし葉鍵板でSS職人やってた者です。
いまTH2やってるんですが、これを他の葉鍵ゲーと絡ませてるSSって多いですか?
職人自体少なくなったからねぇ
鬼ごっことか学園スレあたりならクロスオーバーがデフォだからゴロゴロしてると思うが、
ここはそういうのは今までなかったよ
自分で自分のことを職人って呼ぶのって…
さて、週末だからSSがupされるのを期待するか。
で、河野家まだーーー?
明らかに時系列がおかしとかでなければいいような気もするけどな
TH2発売前後の時のように各スレで
テンプレすら読まないような人とか、キャラ叩きする奴らがPOPしてるな・・・。
せめてここだけは平和であって欲しい。
愚痴でスマソ。
641 :
638:2005/09/25(日) 02:47:25 ID:Kic+P5Ah0
先週末と違って、仕事が終わってもSSがupされてないな ショボーン
楽しいSSキボンヌ。
・・・このみのエロキボン
・・・るーこのエロキボン
やっぱ
由真だろ
エロキ
ボン
ボン
644 :
名無しさんだよもん:2005/09/25(日) 20:24:45 ID:9sauVnXI0
潤いがほcccccccccc
このみ分を補給したい
なんつーか、今週末はまったく作品が上がってきてないな・・・・
走った――。
走った――。
走った――。
水たまりを踏みつけ、雨粒を弾き、濡れて重くなった衣服はまるで体に巻きついた鉄の
鎖のようだった。
それでも走った――。
温もりへ。
ただ、温もりがあると信じた其処へ。
--虹の欠片-- 第九話
郁乃を部屋に送り届けた後、リビングでテレビを見ながら、帰り道で買ってポケットに
突っ込んであったホットコーヒーの栓を開けて一口すする。
「うわ、ぬる……」
思わず呟く。
中途半端な時間でテレビはワイドショーか、ドラマの再放送か、サスペンスドラマしか
やっていない。いつものことなので、いつものワイドショーにチャンネルを合わせて、見
るともなしに興味の無いコーナーを垂れ流す。
缶コーヒーを飲み終わって、テレビが二度目のCMに入った。
「たかあきー!」
階上から呼ぶ声、俺はキッチンに寄って缶用のゴミ箱に空き缶を放り込んでからもはや
入りなれた郁乃の部屋の扉を叩いた――。
幼い頃から入退院を繰り返してきた郁乃の部屋は、郁乃自身の私物こそ少ないものの簡
素ではない。病室での郁乃を見慣れていた所為か、初めてこの部屋に入ったときは違和感
を感じずにはいられなかった。
暖色の色調でまとめられた室内は、ぬいぐるみやら造花などが散りばめられ、実に女の
子女の子した空間を作り出している。その中で壁際の棚の中に収まった、角ばって無骨な
コンポがなんとも言えない違和感をかもし出している。
そして部屋の中で違和感を放つもうひとつの存在が、私服に着替え終わった本来部屋の
主であるはずの小牧郁乃その人だった。
「まったく……、どうして……、部屋が二階なのよ……」
慎重に階段を降りながら、もう何遍聞かされたも定かではない愚痴を飽きることもなく
郁乃は繰り返す。俺の役割は万が一郁乃が足を踏み外したときに支えられるように、一段
か二段下で――郁乃の熱烈な希望により触れることなく――見守ることだったりする。
「だから部屋の入れ替えをするならいつでも手伝うって言ってるだろ」
小牧家の一階にはリビングとキッチン、その他水回りと、小牧家両親の部屋があり、二
階に小牧姉妹の部屋がある。退院したものの足元の覚束ない郁乃の為に両親の部屋と郁乃
の部屋を入れ替える計画はあるのだが、なかなか時間が取れず後回し後回しになっている。
小牧の両親は一度俺にやってもらえばいいじゃないか、というような冗談を口にしたが、
空気の読めなかった郁乃の大反対で、部屋の入れ替えはさらに遠のいた。
「部屋に入られるだけで寒気がするのに、部屋のものを端から端まで触られるなんて、う
わ、耐えられそうにない」
わざわざ想像したのか、身震いして郁乃が吐き捨てる。まあそれでも最初の頃に比べれ
ば随分マシになった。初めて小牧が居ないときに部屋まで郁乃を送っていったときなど―
―まああれは郁乃が嫌がるのを無理やり部屋まで送って行った俺も悪いのだけど――犯さ
れるなどと叫び散らして大変だったものだ。
「ふぅ……、はい、もういいから帰りなさいよ」
ぽす、とソファに収まって郁乃は俺に向かってシッシッと手の甲を払う仕草を見せる。
俺はそれを無視して、少し離れたカウンターのところのスツールに腰掛けた。
「小牧が帰ってくるまではいるよ」
いつもの受け答え。
郁乃が肩をすくめるのもいつものことだ。
「お姉ちゃんは今日も?」
「まあ、な。手伝うとは言ったんだけど、俺には後方支援をお願いします、だってさ。だ
から小牧が帰ってきたときにいなかったら、後で俺が怒られる」
「お姉ちゃんにはあたしからうまく言っとくわよ」
「そう言ってフォローするつもりなんてまったくないだろ」
図星だったのだろう、チッ、と郁乃が舌打ちする。
「なんだよ」
流石にちょっとムッとしたので反撃に出ることにする。
「もしホントに俺が帰ると寂しいくせに」
カーッと郁乃の頭に血が昇るのが目に見えるように分かって大変楽しい。
「――帰れ! 死ね! 帰れ!」
「はいはい。それはまた今度な」
郁乃を怒らせたら満足したので、言葉の応酬はせずに受け流す。
「うーーーー!」
がるるると唸り声をあげる郁乃。
その背後、視界の端に映ったテレビでは青森で平均より十日ほど早く初雪が観測された
と報じていた。
「――雪か」
呟くと郁乃も振り返りテレビに視線を向けた。画面の中では雪舞い降る青森のどこかの
光景が映し出されていた。人々は厚いコートを羽織り、傘を手に行き交っている。
「もうそんな季節なんだな」
「当たり前でしょ、もう十月も終わるんだから――。バカじゃない?」
季節感の欠片もなかったヤツがよく言うよ、と思ったが言葉にはしない。郁乃が視力と
体力を取り戻し、他の人と変わらぬ時間の流れに身を浸し始めたことを茶化すようなこと
は言うべきではない。
そう――、あの雨の九月一日から二月近い時が流れ、季節は秋の終わりに差しかかろう
としている。
まったく――、本当にまったく慌ただしい二ヶ月であったように思う。
何が原因だったのかは分からないが、郁乃の体調は突如劇的な回復を見せ、退院が決ま
ったのが九月の半ば、実際に退院したのが九月の終わり。その間、躁鬱を繰り返す小牧の
手を握り、支えてきた――つもりだ。学校で、病院で、小牧を追いかけ、時には手を引い
た忙しい日々に のことなんて考えている暇はなかった。酷い噂にも耳を貸す余裕は
なく、気がつけば十月。
復学を果たしたことで小牧の郁乃狂いはひとまずの落ち着きを見せ、一月先に待ち受け
る文化祭への準備で俄かに慌ただしく学内に飲み込まれるように小牧は以前からの人間関
係に奔走するようになった。
郁乃の退院準備に費やした一月の空白を、小牧は皆への貸しの取り立てなどではなく、
迷惑をかけた皆への負債としてしか考えられないようで、文化祭の準備を好機とばかりに
新たな貸しを作っている。本人は負債の返却としか考えていないのだろうけれど……。
しかしながら郁乃の体調は良好とは言え、弱った関節や筋肉などは完全に回復しきった
わけではない。そこで郁乃のサポート役として白羽の矢が立ったのが俺だったというわけ
だ。
そうして一月、文化祭を控え、一層忙しくなる小牧と会う時間は日々減って行き、郁乃
と過ごす時間がそれだけ延びていく。
まあ、だからといってそれがどうこうというワケじゃない。郁乃は初対面の時に思った
とおりの素直じゃない性格で、自分が一般的に見れば不幸な境遇にあるにも関わらず、そ
れを大して不満とも思っていない自分を不満に思い、世の中を必死に斜めに見ようとして
いる、ありふれた思春期の少女だと思う。
もちろんその境遇は世間の同年代の少女たちと比べた時により良いとは言い難いが、郁
乃自身が不幸に感じていないそれをわざわざ指摘して、君は不幸な子だ、なんていう気に
はとてもなれない。
「で、最近お姉ちゃんとはどうなのよ」
不意に訊かれて答えに窮する。
いつの間にか郁乃はテレビから視線を外し、こちらを見つめていた。
「あのな……」
その質問にはもううんざりしていた。しかしそれは郁乃も分かっていたようだ。
「なんでもないって言うんでしょ。違うわよ。あたしが言いたいのはいつまで誤魔化し続
けるつもりなのかってこと」
「ごまかし……?」
「あー、もう、イライラするったらない。なんであたしがこんな役回りなのよ」
「なに言ってるんだよ?」
郁乃の言うことは脈絡がなくて分からない。郁乃のほうも自分が何を言いたいのかよく
分かっていないのかも知れない。自分の頭を片手でぐしゃぐしゃに掻き回すと、びしっと
その指を俺に向けて突きつけた。
「アンタみたいなバカでも分かるようにハッキリ言ってやると、アンタはお姉ちゃんのこ
とどう思ってるのかってこと! 言ってる意味分かる?」
「それは……」
それはこの二ヶ月間で初めて突きつけられた問いだった。
――俺が、小牧のことを、どう思っているか……。
考えてみると、俺自身がそれを一度も考えたことがなかったことに気がついた。
「小牧はいい子だと思うよ。頑張り屋さんで、優しいし」
考えながら、思ったことをそのまま口にする。
「可愛らしいとも思うな……」
ブチンと何かが切れる音がした。と、思ったら郁乃がテレビの電源を落とした音だった。
「――そういうことじゃない!!」
あ、いや、別のものもしっかり切れていたようだ。覚束ない足取りで俺のところまで歩
いてきたかと思うと、俺の襟元を両手で掴む。
「好きなのかどうかって訊いてんのよ。このニブチン!」
「好きなのか、ってそれは――」
それは女の子として小牧のことを好きか、という意味だ。それを考えた途端、何かが胸
にざくりと突き刺さる。それは小牧は可愛い。小牧は優しい。小牧のことは好きだ。好き
だけど、小牧は じゃない。
ざくり――。
小牧はいい娘だ。
ざくり――。
小牧をそういう風に好きになれればどんなにいいだろう。
ざくり――。
だけど……、
「俺は――」
「お姉ちゃんはアンタのこと好きだよ」
――――。
「え――?」
思考が真っ白になった。この二ヶ月間、心臓が止まるほどの衝撃を受けたことは何度も
あった。だけどこんな風に、ふっと自分の体がなくなってしまったような感覚は初めてだ
った。
「違う……」
「何が違うのよ。分からないと思う? 分からないワケがあると思う?」
「だったら……、だったらなんで小牧は学校で、俺はここにいるんだよ」
俺は郁乃の肩を掴む。
「分からないよ。分かるわけがない。他人の気持ちなんて分かるワケがない」
本当は、本当はほんの少し小牧の気持ちに期待したことがなかった訳じゃない。
この娘が俺を好きでいてくれたらいいな。
俺がこの娘を好きでいられたらいいな。
そんな風に何度も思った。
だけど、小牧の好意に気付いたなら、もうひとつどうしても気付くことがある。
「じゃあ言えばいいじゃない。訊けばいいじゃない。ムカつくったらありゃしない」
俺は首を横に振る。それはできない。してはいけない。
俺は小牧が好きだ。
小牧も俺が好きだ。
それは間違いないんだろう。
けれど、同時に俺たちはどちらも……お互いがお互いの一番ではない。
もしかしたら二番目ですらない。
そんな二人に未来があるだろうか? ない……と、俺は思う。俺がそう思うことが、俺
たちには未来が無い一番の理由だ。
「たかあきっ!」
俺の襟首を掴んだままで郁乃が声を荒げる。
こんな郁乃は珍しい。それは、確かに郁乃は感情が表に出やすい性質だとは思う。だけ
ど、今日の郁乃はいつもとは明らかに違っていた。
「なあ、もしかしてお姉ちゃんと何かあったのか?」
「――――」
間違いない、図星だった。俺の襟首を掴む郁乃の手から力が抜け、ふらふらとソファに
戻りそこに収まると、体を丸めてしまう。
「…………」
「…………」
郁乃が何も言わなかったので、俺も何も言わなかった。テレビの消えたリビングは無駄
に静か過ぎて、時折冷蔵庫が動き出す音が聞こえる。
「ねぇ……」
「ん……」
「アンタはさあ、どうしたいの? お姉ちゃんとどうなりたいの?」
「…………」
考えた。それはもう、テストで計算問題を前にするときよりも真剣に考えた。けれど、
答えはでなかった。
「……今のまま、じゃ、ダメなのか?」
その言葉は郁乃の雷管のようなものだったらしい。一度は萎れた郁乃の怒りがぱぁんと
弾けあがるのを俺は確かに見た。
「ダメに決まってんじゃないのよっ!」
郁乃は両手を振り上げると、ソファに叩き付けた。驚いたことにその頬には涙が伝って
いた。両目から大粒の涙を溢しながら、郁乃は何度も何度もソファに手を叩きつける。
なんだよ……。これじゃまるで俺が悪いみたいじゃないか……。
だけど、俺には郁乃の怒りの理由が分からない。だから俺は俺の思うことを口にするし
かない。
「俺は今の小牧や郁乃と居る時間がすごく大切に感じてる。だからできればこの先もこう
してたいと思うんだ」
しかしその言葉も結局は郁乃を激怒させた言葉となんら変わるところはないのだ。郁乃
はソファを強く握り締めると、俺のほうをキッと睨みつけた。
「お姉ちゃんのこと好きじゃないなら、今すぐ帰って二度と来るな!」
そうは言われても、実際にそうするわけにもいかない。それに……。
「好きは、好きだよ……」
言った。それは嘘じゃなかった。
郁乃はソファを掴んだまま、俺のことをまだじっと睨みつけている。
「なにそれ。言い訳? 今の時間を失いたくないから? ウソツキ! 一度でもお姉ちゃ
んのこと、ちゃんと見たことなんてないクセに!」
俺は……言い返せない。郁乃の言葉は確かに俺の胸を貫いていた。
「……何があったかは知らないけどさ、ちょっと落ち着け……」
俺は答えをはぐらかす。
いつの間に俺はこんな逃げ方を覚えていたのだろう。
「ちょっと外にいるよ。なんかあったら呼べよ。玄関から離れはしないから」
「なによそれ、子ども扱いして逃げるの!? はっきり答えなさいよ! この臆病者!」
俺は何も答えることができずに、小牧の家のリビングを後にした。
全て郁乃の言うとおりだった。
俺は――逃げたのだ。
小牧家の玄関に背を預け空を眺める。
昼過ぎには明るかった空が暗くなり始めたのは季節の所為か、それとも空を覆い始めた
黒い雲の所為か。
「雨……降るかもな……」
誰に言うとでもなく呟く。
――雨は嫌いだ――。
雨はいつだって残酷だ。降る時を考えてはくれない。
冷たい……、冷たい……。
独り玄関に立つ俺の姿は自分で省みても滑稽だった。一歩間違えれば不審者もいいとこ
ろだろう。
ちくしょう、寒い……。
上着を着ずに出てきてしまったのが間違いだった。最近は夕方になるとやけに冷え込む
のが早い。だけど今更上着を取りに家の中に戻れそうな雰囲気でもなかった。小牧が帰っ
てきたらその時に上着だけ持ってすぐに帰ろう……。
それにしても、と思う。
どうして郁乃は急にあんなことを言い出したのだろう?
いくら考えても自分の中から答えは見つからなかったし、誰かが突然現れて答えを教え
てくれるなんてこともなかった。分からないことは分からない。郁乃の病状が急に改善さ
れた理由について医者が首を捻っていたのと同様に世の中にはどうしたって分からないこ
とが多すぎる。
だから皆考えるのをやめる。考えたって仕方の無いことをいつまでも考えていても仕方
ないからだ。そうやって人は忘れる。覚えていたって仕方の無いことをいつまでも覚えて
いても辛いだけだからだ。
それにしても本当に寒い――。
この秋になって一番の冷え込みなんじゃないだろうか?
季節は一日一日と冬に近づいている証拠なんだろう。季節感を愛でる気にはなれず、俺
は小さく体を揺すって少しでも暖を取ろうとする。
小牧はどれくらいで帰ってくるだろうか? 早いところ帰ってきてくれないと凍えてし
まいそうだ。いや実際にそこまで寒いわけじゃないけれど……。けれど、小牧が早く帰っ
てくるというのはとても望めたものじゃないだろう。
よりにもよって今日は文化祭の前日。その準備もピークを迎えていて、下校時間を越え
て学校に残る許可申請書が乱れ飛んでいたようだ。ともなれば事務仕事に追い回されてい
た様子の小牧のことだ。今頃は書類に埋没でもしているかもしれない。
頭の中に浮かんだのは、本当に書類の海で溺れている小牧の姿。
――ふっ……。
と、自分の口元が緩むのが分かった。
寒さが一瞬だけ消えた。
――好きは、好きだよ……。
さっき郁乃に言った言葉がふと脳裏に甦る。
その言葉には、ひとつの嘘も含まれていなかった。小牧の存在はいつだって俺に温もり
をくれる。小牧がいれば、胸の中がほんわりと暖かくなって、それにどれほど救われてき
たか分からない。
――ウソツキ! 一度でもお姉ちゃんのこと、ちゃんと見たことなんてないクセに!
けれどそう、俺が小牧を好きだという気持ちに偽りがないのであるのなら、郁乃に突き
つけられたこの言葉がこんなに俺の胸を抉るのだろう。
俺が、小牧のことをちゃんと見たことが無い?
だけど俺は俺の知る限り小牧のことを見てきたと思う。こうやってより親しくなる前、
今年の三月、書庫の整理を手伝っていたあの頃から……。
俺は今は無きあの小牧の秘密基地に思いを馳せる。
あそこに居たときの小牧は俺の知るどの小牧とも違っていた。
だけどそれは小牧の中身が変わるということじゃない。教室での小牧の顔があれば、書
庫での小牧の顔があり、郁乃の前でだけ見せる小牧があれば、……俺の前でだけ見せる小
牧もいるのかもしれない。
――お姉ちゃんのこと、ちゃんと見たことなんてないクセに!
そう言った郁乃はどれほど小牧のことを知っているというのだろう。
そう言った郁乃はどんな俺の知らない小牧を知っているというのだろう。
…………。
――俺は一体どれほどの時間をそうして過ごしていたのだろう。やがて陽は完全に沈み、
雲に覆われた空は真っ暗な天蓋に変わる……。いいや、地上の明かりに照らされて、いく
らか雲があることが見て取れる。
「河野くん?」
雨はまだ降り始めてはいなかったが、空気は湿り気を帯び始めていたように思う。
「どうしたの? なにかあった?」
小牧は駆け寄ってきて俺の手を掴む。
――その手は、とても、とても暖かかった……。
続く――
もうちょっとだけ愛佳編が続きます。
そして物語は新章へ――。
そういえば18禁化されるということで二次創作する人間として、結構ショックが大き
いです。1ユーザーとしてなら歓迎なんですけどねぇ。気にしてくださっていた方もいら
しゃいましたが、根本的に原作設定が変化してしまう部分なのですよねえ。
でもまあこの作品はPS2版を原作としてますということで、また今後PC版が出た後
もPS2版TH2を原作とする二次創作が出ることをなんとなく期待しております。
では今週辺りからなんか異様に仕事忙しくなりそうなので、と先に言い訳しつつ、次回
をお待ちくださいませ。
虹の作者が原作設定気にしてるとは思わなかったw
こらこら。
原作は掴んどかないと、二次にならないだろw
とりあえずGJ!
>>657 乙です。
愛佳がいえないことを郁乃が代弁しているのか、それとも郁乃が一人で走っているのか。
なんにせよ、小牧姉妹になにがあったのかは、今後の展開で見えてくるのでしょう。
次回は・・・ちょっと延びるのかな?お待ちしとります。
>627
つ[ index_old.html ]
今のところはこれで御勘弁・・・
>>657 乙です。
この二ヶ月の間にも
このみと雄二がギシギシアンアン言っていたり
タマ姉と雄二が気まずい生活を送っていたりした事
もしかしたら愛佳や郁乃もタカ坊に食われるのか
そんな想像すると身もだえしてしまいそうです
気長に続きを期待しています
全く予想つかんなー…
自分的予想 愛佳 80%
このみ 10%
タマ姉 10%
ってとこだけど。誰ともくっつかないってのもありそうだし…
うーん分からん。続きが早く読みたいぜ
(このみと雄二のからみが無いと精神的に楽で読みやすくていいな)
もう1話くらい貼れるかな? 誤字脱字があったらゴメンなさい。
↓ 以下13レスくらい続きます。
「うー、ソ連という国は滅んだのか?」
BS野球中継の合間に流れるニュースをのほほんダラリと見ていたら、台所のるーこが不意に訊いた。
「ああ。共産主義の国だったが、分裂してな。それ以上は良く知らない」
「愚かだな、“うー”は。“うー”同士で争っていては、白鳥座を目指すことなど出来はしないぞ」
るーこはそんな事を言いながら、キュウリを切り刻んだ。
流れていたのは、旧ソ連の偵察衛星が数日中に落ちてくるってニュース。原子炉を積んでるヤバイ衛星らしい
のだが、ソ連なんて俺が生まれた頃にはとっくに崩壊していた歴史上の存在だし、衛星だって太平洋の真ん中に
でも落っこちて、深海のオブジェが一つ増えるだけと決まっている。陸地より海の方が圧倒的に広いんだから。
現実感に乏しいニュースはどうでもいい。それより、自由になる金が手元にない事の方がよっぽど重大だ。
「おい、るーこ。金ねーんだけどさ」
夕食後。ソファーに寝そべって野球中継を見ながら、俺はるーこに愚痴ってみた。小遣いはとうに枯渇して、
ゲーセンにすら行けやしない。高校生にとって、これは痛い。身銭を切って競い合い、大の野郎が泣き笑いする
コミュニティに参加できないのは、俺にとって恥辱であり屈辱であり大変遺憾なのだ。
「そうか。ならば働け、うー」
るーこは、にべもなく言った。
「気軽に言ってくれるなぁ。俺はまだ高校生だぞ、夏休みにでもならなきゃ金になるバイトなんかできねえよ。
それになぁ。元はといえば、るーこが悪いんだぞ。いつもいつもバカみたいに高い食材買ってくるから。今日だ
ってそうだ、10キロ6500円もする魚沼産コシヒカリなんて買いやがって。そういうものは、向坂家みたい
なブルジョア階級にでも食わせておけばいいんだ。ちったあ考えろよな」
「それは違うぞ、うー。粗末な食事は心まで貧しくする。るーは、うーパパとうーママから、うーを飢えさせな
いために財産を預かった。それは、うーの健康と幸福のために最大限に利用されるべきだ」
るーこは悪びれずに言った。
「食欲を満たすばかりで幸福になれると思うな。『人はパンのみにて生きるにあらず』って言うだろ」
「るぅ」
俺が文句を言うと、るーこは頬をリンゴのように膨らませて、食器を洗いに行ってしまった。
バイトが出来ないなら、パチスロでもやろうかな。動体視力には自信があるから、結構稼げるんじゃないか
なー、なんて。でも、俺って未成年じゃん。はい、残念。
そんな事をダラダラと思いつつ、居間のテーブルに目をやると、街で適当にもらってきたマークシートが目に
ついた。
「もはや、こんなものに頼るしかねーのか」
俺は紙切れを手に取ってつぶやいた。
「何だそれは」
るーこは洗い場から俺の方を覗き込んだ。
「ナンバーズ3。好きな数字を3つ選んで、当たれば金がもらえる。一種の運試しだな」
「うーは愚かだ。報酬とはあくまで労働の対価として得られるべきだ。楽をして糧を得ようとする頽廃的な発想
は、いつかうーを滅ぼすぞ」
るーこは、落ちこぼれの少年を叱る猫型ロボットのように喚いた。
「いつかねぇ。まあ、人はいずれ死ぬからな。とりあえず今は、0から9の範囲で好きな数字を3つ選んでくれ
ると嬉しいね」
「るぅ……」
るーこは終始不機嫌だったが、どうにか数字を聞き出すことに成功した。
8、3、5。
「おい。当たったぞ、るーこ」
「どうした、うー。下痢が止まらないのか。さては、おやつの牛乳が古かったか」
「違う違う、食あたりじゃない。聞いて驚けよ。昨日の紙切れがなぁ、12万円になった」
先日るーこに選んでもらったナンバーズが、なんと1等に当選したのだ。
インターネットの宝くじのページで確認したときは、喜ぶどころか震え上がった。渋るるーこに吐かせた数字
が一発で的中するなんて、夢にも思わなかったのだ。
「る……」
るーこは関心なさげに、鼻を鳴らして生返事した。
「何だよ、嬉しくねえのかよ。お礼に服でも買ってやろうと思ったのに」
「るーは自分の衣服くらい自分で調達出来る。見損なうな、うー」
るーこはやっぱり不機嫌だった。
そんな石頭じゃ人生楽しくねえぞ。そう言ってやろうと思ったが、思うだけにしておいた。今日のところは。
・
・
・
「なんだって? そいつはマジか」
次の日のこと。教室で雑談中に、うっかり雄二に話してしまった。るーこに選んでもらった数字でナンバーズ
に当たった事を。
「なんてこった、あのキュートでおしゃまなプリティーベイビーは、幸福の女神でもあったというのかぁ!?
おのれ貴明、俺は貴様が憎くてたまらん。るーこちゃんとラブラブになったばかりか、坐りしままに巨万の富
まで手に入れられるとはっ! 俺もお前も同じ人間なのに、全く許せん、実に許せん。打倒すべき人類の敵だ」
雄二は唾を散弾のように飛ばして喚き散らした。
「男の嫉妬は醜いな。デカい屋敷に住んでるブルジョア階級のくせによく言うわ」
「バカ野郎、元々小遣いはテメエの方が多いじゃねえか。俺はなぁ、地獄から来た化け猫女にサイフをガッチリ
握られてんだよ。俺の自由になる金なんか、遠足のおやつ代ほどもありゃしねえ」
そこまで言って、雄二の目の色が変わった。
「なぁ貴明。お前が人類の敵にならずに済む方法を教えてやろうか?」
雄二の瞳にに妖しげなオーラを感じとった俺は、次の時間のチャイムが鳴るまで便所に避難しようと思った。
「別に聞きたくもないね……」
俺はそう言って、席を立った。
「そうかい。ならば、ここで果てるがいいわ!」
言うが早いか、雄二はいきなり俺の首に飛びつき、チョークスリーパーを掛けてきやがった。
「んががごがっ! 何しやがる、殺す気かあっ」
「さあ聞くか? 聞くとき、聞けば、聞くべし、聞けえぇっ! 俺のソウルの悲鳴をなあっ!」
視界にあるすべての物体がフェードアウトしていき、淡い光の中で全裸のるーこがおいでおいでしている姿が
見えてきた。るーこの側にたどり着き、ぼかぁ幸せだなぁと思った瞬間、俺は死に絶えた。
・
・
・
その日の放課後。ウチまでやってきた雄二は、自分の家からがめてきた菓子折と一緒に、マークシートをるー
こに渡した。
「この紙切れはなんだ、うー」
渡された紙切れを見ると、るーこはウンザリした表情を見せた。
「俺に対抗してミニロトか。どこまでも小さい男だなぁ。馬の予想でも頼むのかと思ったのに」
俺はすっかり呆れていた。
「ウルセー。未成年なんだから仕方ねえだろ」
雄二は俺の脛にローキックすると、とびきりのスマイルでるーこに向き直った。
「というわけでぇ、るーこちゃん頼むよ。化け猫に睨まれた哀れなハムスターを助けると思ってさ」
「“るーこ”じゃない。ルーシー・マリア・ミソラだ」
るーこは真顔で言った。
「ルーシーさんお願いだ。今日だけでいいから、俺の女神になってくれぇ」
雄二は観音様でも拝むように、両手を合わせて頭を下げた。
「このクジの一等当選確率は、169,911分の1だ。末等まで含めたところで、当選確率は52分の1に過
ぎない。自ら得たわけでもない金銭を古井戸に投げ捨てるようなものだぞ」
「1回だけ! 200円分だけでいいんだ!」
雄二はしつこく食い下がった。
「仮に高額当選金が当たったとして、うーは得た金銭を何に使う?」
るーこが訊いた。
「決まってるだろ。緒方理奈主演ドラマのDVDボックスを買うのよ」
雄二は胸を張って答えた。
「あーあ。るーこにそんな事言っても通じないぞ……」
果たして、その通りになった。
「愚かだぞ、うー。若く健康な男子が何の努力もせずに娯楽ばかりを追求し、それを許す社会に未来はないぞ。
懦弱な文明は、一日も早く騎馬民族に蹂躙されるべきだ」
るーこの言葉を聞いた雄二は、カハッと目と鼻の穴を全開にして、掴みかからんばかりに喚き散らした。
「るーこ……じゃなくて、ルーシーちゃんはなんにもわかっちゃいねぇ。緒方の理奈っちはなぁ、人類が生み出
した文化の極みなんだよっ。その歌声は聴く者の心を震わせその、見目麗しい笑顔は見る者の魂を燃え上がらせ
るんだ。俺はパンを食わなくても1ヶ月は生き抜いてみせるが、理奈っちなしでは1時間と持ちはしねえんだ。
理奈っちの音楽や演技は、遊びじゃないんだよ、わかるゥ? 心に理奈っちエネルギーを摂り続けないと、俺は
生きていけないんだよ。わかるか? 俺の感じている感情が!?」
「……るぅ」
さすがのるーこも雄二の迫力に圧倒され、渋々ながらマークシートに数字を書いてやっていた。
7、10、11、16、31。
「よっしゃぁ、急いで買ってくるぜ〜。今日のうちに抽選があるんだもんね、うひひひひ」
雄二はホクホク顔で帰って行った。
もう当たった気でいられるとは、実に幸せな男だ。別に、見習いたいとは思わないけど。
その日の晩。メールを確認したら、雄二からHTMLメールが来ていた。HTMLメールはやめろと言ってい
るのにわかんねー野郎だなぁ、それ以前に電話しとけやハゲとか思いつつ、開いてみた。
俺は、驚愕した。
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Subject: るーこちゃん女神コレキタ!
From: 向坂雄二 <
[email protected]>
To: 河野貴明 <
[email protected]>,柚原このみ <
[email protected]>
http://www.takarakuji.co.jp/ 何も言わずにミニロトの抽選結果を見てくれ
7・10・11・16・31キタワァ*:.。..。.:*・゚(n‘∀‘)η゚・*:.。..。.:* ミ ☆
13,528,100円当選キタ━━━(゚∀゚)━( ゚∀)━( ゚)━( )━( )━(゚ )━(∀゚ )━(゚∀゚)━━━!!!!!
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!
キタキタ━━━(゚∀゚≡(゚∀゚≡゚∀゚)≡゚∀゚)━━━!!!
キタ━━━ヽ(∀゚ )人(゚∀゚)人( ゚∀)人(∀゚ )人(゚∀゚)人( ゚∀)ノ━━━ !!!!!
(中略)
モナモナモナモナ━━━(‘ ε ’≡(‘ ε ’≡‘ ε ’)≡‘ ε ’)━━━!!!
グヘグヘグヘヘ━━━(' ь`≡(' ь`≡' ь`)≡' ь`)━━━!!!
(゚∀゚)ノ ジークるーこ! (゚∀゚)ノ ジークるーこ! (゚∀゚)ノ ジークるーこ! (゚∀゚)ノ ジークるーこ!
(後略)
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・
・
・
翌朝。玄関の前では、このみの母親の春夏さんが落ち着きのない様子でウロチョロしていた。
玄関を出た俺たちと目が合った途端、春夏さんは女忍者のように素早く駆け寄ってきた。
「あら、おふたりさんお早う、奇遇じゃない。あ、あのね、ルーシーちゃん。この数字の中で、一番好きな数字
って、どれかな?」
俺たちに白々しく挨拶した春夏さんは、るーこに紙切れを見せた。紙切れは、ナンバーズのマークシートでは
なく普通のメモ用紙だったが、4桁の数字が5つ書かれていた。
9984、5401、5002、8701、4753。
るーこは黙って、8701を指さした。
「……8701ね。ありがとうルーシーちゃん!」
春夏さんは踊るように走り去った。
「何だよ。春夏さんまでナンバーズやってるのか? こういうことには縁がなさそうなのに」
「クジの数字じゃないぞ、うー」
「え? ナンバーズ4じゃないか。じゃあ、なんなんだ?」
俺はるーこに訊いてみた。
「あれは株式銘柄のコード番号だ。8701は、エー・トレード證券の番号だ。ちなみに、9984はソフトパ
ンク。頭テカテカでフラッシュは無用」
「株だと? 春夏さんは、株をやってるのか!?」
「そのようだな」
「しっかし、女性相手ならあっさり予想してあげるんだな。いつもなら『うーは愚かだ』とか何とか、ブツクサ
言ってさ……」
俺がちょっと呆れて言うと、るーこは口を尖らせて反論した。
「株式投資はクジでもギャンブルでもない、立派なビジネスだ。“うーこのママ”は、うーのような怠け者とは
違うようだな」
「ほっとけ」
ちょっとムカついた俺は、るーこに2、3発デコピンしてやった。
・
・
・
学校から戻ると、るーこが俺のパソコンを勝手に起動しているではないか。オナニーを覗かれたような気まず
さを覚えた俺は、早速るーこを問いただした。
「見ればわかるだろう。メールの確認だ」
るーこは悪びれもせず言った。
「相手は珊瑚ちゃんか? それとも、メル友でもいるのか?」
「違うぞ、うー。株の約定メールだ」
るーこが、春夏さんの見せた数字の意味を簡単に見破れた理由がわかった。俺に隠れて株をやっていたのだ。
「約定したようだな。喜べ、うー。76,000円の利益が確定した。今日は寿司の特上を食わせてやるぞ」
るーこは満足げにバンザイして言った。
「株取引の口座なんて、いつ作ったんだ?」
「うーママの口座を借りた。当然、了承は得ている。大損さえしなければ、好きに使っていいそうだ」
母さんが株やってたなんて、この時初めて知った。息子である俺が知らずに、るーこが知っているというのは
どういう事だと少し腹が立ったが、るーこを責めても仕方ないので、この場はグッと堪えた。
「……ふーん。で、どこの株で儲けたんだ?」
るーこは証券会社のホームページを開くと、コード番号欄に“8701”と入力し、“本日の株価”というボ
タンをクリックした。ブラウザに、会社名と色とりどりのチャートが表示された。
「8701、エー・トレード證券……。春夏さんに教えた銘柄じゃないか。株価はどんなもんかな?」
俺は“現在値”の欄を見た。株のことはよくわからないが、株価らしき数字の横に下向きの矢印があったのが
気になった。
その下には“前日比”という欄があった。
見た瞬間、息が詰まった。
「……前日比マイナス42,000円って、何だよこれ! 暴落してるじゃないか!」
俺はるーこを怒鳴りつけたが、当のるーこはしれっとした顔をしていた。
「今日は絶妙のタイミングで空売りが出来た。しばらくは底値をうかがう展開だろうが、また上げに転じること
もあるだろう」
「ひでえ。春夏さんをハメたのか!?」
「るーは8701を買えとは一言も言っていない。本日は調整相場で全体的に下げ基調、チャートを見ても売り
時は一目瞭然」
「そんなもん、オマエ……」
俺の頭に沸騰した血液がグングンと上っていった。
その時。何気なく窓からこのみの家を見ると、洗濯物を取り込んでいる春夏さんの姿が目に飛び込んできた。
俺は震えあがった。春夏さんの目は虚ろ、口は哄笑するように開きっぱなしで、庭には落としてしまった下着や
靴下、タオルなどが散乱していた。春夏さんがここまで動揺するとは、よほどの恐ろしい目に遭ったのだろう。
「るーはそろそろ買い物に行く。夕飯は特上握りだが、お吸い物くらいはるーが作ってやろう」
るーこはさっさと部屋を出て行こうとした。俺はるーこの元へ駆け寄ろうとした。
「おい待て、まだ話は終わってな……」
ガッ!
……!!
「かぐぁぎゃはあぁあぁぅあぅぁくぐあぁうぉあぁあぁっはっはっ!」
激痛が大津波の如く足の末梢神経を逆流、脊髄をフルスピードで駆け抜けて脳髄を破砕した。脳髄に反射した
パルスは視神経にあまたの星とノイズを散らし、俺の知覚をことごとく蹂躙した。
ああ、間抜けなことに、ベッドの端に左足の小指を加速度全開で打ち付けてしまったのだ。俺は足を押さえて
のたうち回り、フローリングの床に這いつくばってピカピカに磨き上げるしか術はなかった。
「傷は浅いぞ。立て。立つんだ、うー」
るーこは他人事のように言い、悶え苦しむ俺を覗き込んだが、そうそうすぐに立てる筈はなかった。
「……ダメか。哀れなうーの魂よ。“すー”となって遥かな“くー”へと飛び、“るー”の元に召され給え」
「殺すなあぁぁぁあぁぁっ!!」
・
・
・
骨こそ折れていないようだが、左足小指の付け根はすっかり腫れ上がってしまった。
俺が泣きながら温感湿布を貼り付けていると、俺を見捨てて買い物に行ったるーこが帰ってきた。
「生きてるか、うー? 蘇生ダンスが必要ならば、いつでもうーの胸の上で踊ってやろう」
るーこはいつものようなとぼけた表情で言った。
「おのれるーこ。捨て猫以下のお前のためにUFOまで呼んでやったというのに、よくもほざいたな」
俺がいくら嫌味を言おうと、るーこは「るー」と生返事をするだけだった。
「くっ、どこまでも俺を馬鹿にして。何故こんな目に遭わねばならん……」
「それは歪みのせいだ、うー」
るーこは冷蔵庫に食材を詰め込みながら言った。
「何の歪みだよ? 家の柱か? シロアリでもいるのかな……」
「うーが一生のうちに使える運気の総量には限度がある。その場その場では消費量にある程度の幅はあるが、一
生を通じて見れば平均的に消費されていく性質のものだ。
だが、うーは意地汚い金銭欲のために、るーにクジの数字を選ばせた。その結果、うーは多少の金銭を得た
が、るーをうーの運気に介入させたがために、うーの運気に大きな歪みが生じた。
だから、うーには不幸が降りかかりやすくなった。それだけの事だ」
「それだけの事って……気軽に言いやがって。その、歪みってのはどうにかならないのか?」
俺は湿布の上から足を撫でながら訊いた。
「方法はあるぞ。簡単だ」
るーこはそう言うと、意志の強い瞳で真っ直ぐに俺を見た。そして、ゆっくりと口を開いた。
「うーは……るーと一緒に……るーの……」
その時だった。るーこが言い終わらぬうちに、ズドーン!という体の芯に響く衝突音と地震のような衝撃、そ
して瓦礫が崩れ落ちる音が付近一帯に響きわたったのだ。ガラス戸がガタガタと音を立てて揺れた。
「何だ? 爆弾テロか?」
俺はヨロヨロと立ち上がり、左足を引きずって玄関先に向かった。
扉の磨りガラスの向こうには、大慌てでやって来た何者かが、扉をコココンコココンと16連打でノックして
いる姿が浮かび上がっていた。
急いで扉を開けると、血相を変えたこのみが、肩でゼエゼエと息をしていた。
「タカくんタカくん、大変だよ。タマお姉ちゃんの家に、ダンプカーが突っ込んじゃった」
吹き込んでくる外気は埃の匂いで汚れていて、空には土煙が濛々と立ち上っているのが見えた。
「歪みだ」
るーこはボソッとつぶやいた。
・
・
・
事故現場は凄惨の一言。ブレーキが突然故障しハンドル操作が利かなくなった(運転手談)ダンプカーが、向
坂邸の周囲に巡らされた堀と垣を突破し、雄二の部屋付近に深々と突き刺さっていたのだ。
事故現場から玄関付近にかけては野次馬の人だかりが出来ていて、キレ気味の警官に追い払われていた。
俺とるーこは、手薄な裏口から回り込んだ。
向坂家の関係者にケガ人はなく、ダンプの運転手も奇跡的に軽傷であった。しかし、いくら無傷とはいえ、雄
二のヘコみようは尋常ではなかった。
「部屋は暴走ダンプに潰されるわ、夜な夜な苦労してコレクションしたエロゲーや動画は全滅するわ、当たった
金は家の修繕費として全額化け猫に没収されるわ……。俺は宇宙一不幸な青年だぜセニョール」
雄二は瓦礫の散乱する裏庭に立ちつくして、すすり泣いていた。俺は明るく「ダウソ厨必死だな」と冷やかし
てやろうとも思ったが、やはり気の毒すぎる気がしたので、やめた。
「あんたは何を言っているの? いい加減目覚めなさい! 命があるだけいいでしょう!?」
タマ姉は昔の学園ドラマで聞いたような台詞を吐き、雄二にお決まりのアイアンクローを喰らわせた。
「あう〜、気持ちいい! 超気持ちいい〜〜〜!!」
雄二は痛がるどころか、涙を流しながらウヘラウヘラと奇声を上げていた。
そこへ、心なしか白髪と小ジワの増えた春夏さんが、千鳥足でやってきた。
「ルーシーちゃん、呪まーす」
「タカくぅん。お母さんがおかしくなっちゃった……」
一緒に来たこのみは、春夏さんの周りでオロオロしているばかりだった。
「株取引は自己責任だぞ、うーこのママ。情報の盲信と思い込みは大ヤケドの元」
るーこはにべもなく言った。
春夏さんは虚ろな目のまま、正確に3回「呪まーす」と繰り返した。
「おかーさんがおかしくなっちゃった」
このみが言った。
「ああ、俺のことはどうでもいいですか、そうですか。もう終わりじゃー、終末じゃー、うひゃうひゃきゃ」
雄二の視線は、遥かな“くー”を彷徨っていた。
「まだまだ運気の歪みが溜まっている。早く解消しないと危険だぞ、うー」
るーこは言った。
「解消するには、どうすればいい?」
俺はるーこに訊いてみた。さっきの答えの続きを。
「……踊れ。“るー”の踊りを」
俺、このみ、タマ姉の間の空気が瞬間的に凍った。
「どれくらい踊り続ければいい?」
「歪みが消えるまでだ」
「消えなかったら?」
「死ぬまで踊れ」
そして、るーこは大きな木の下で舞い始めた。河原の桜の木の下でこのみ達と渋々踊った、出来ることなら記
憶の引き出しの中へと永久に閉じこめておきたかった、あのるーるーダンスを。
るーるる、るーるる、るーるーるー。るーるる、るーるる、るーるーるー。
「何をしている。お前たちも踊れ。踊って、お前たちに潜む歪みのエネルギーをすべて発散させるのだ」
哄笑しながら佇んでいた雄二が、るーこの声に呼応して、俺らの先陣を切ってゆらゆらと踊り始めた。
るーるる。るーるる。るーるーるー。るーるる。るーるる。るーるーるー……。
「ねぇ、タカくん……。ホントに踊らないと……ダメ?」
春夏さんが半笑いで俺に訊いてきた。
「覚悟を決めた方がいいっすよ」
「踊れ。踊らねば、この歪みは永遠に是正されないぞ」
顔面を紅潮させ、ブラウスまで汗に濡らして熱心に踊り狂っているるーこは、目を剥いて怒鳴った。
「……呪まーす」
春夏さんはそう言うと、アハハッと幼児のように笑い、るーこの真似をして踊り始めた。
るーるる、るーるる、るーるー、るー。るーるる、るーるる、るーるー、るー。
るーるる、るーるる、るーるー、るー! るーるる、るーるる、るーるーるー!
「おかーさんが、おかしくなっちゃった」
このみが言った。
「うーも踊れ。うーこのも、うーたまも踊れ。醜い欲望がもたらした歪みを掻き出し“くー”へと散らすのだ」
歪みから世界を救うために、身を粉にして踊り狂っているるーこを、一体誰が止められようか。
俺たちは、いつかの花見の日のように、るーこを先頭にるーるーダンスを踊るしかなかった、死ぬるまで。
るーるる、るーるる、るーるーるー。るーるる、るーるる、るーるーるー。
「声が小さい」
るーるる、るーるる、るーるーるー。るーるる、るーるる、るーるーるー。
「気合を入れろ」
るーるる、るーるる、るーるーるー。るーるる、るーるる、るーるーるー。
「闘志無き者は去れ」
買い物途中の草壁さんも、通りすがりの笹森花梨も、たこ焼き友達の双子ちゃんも、野次馬してた由真や小牧
も、みんなみんな呼び寄せて、るーるーダンスを踊る踊る踊る。
「た、貴明さん……私、恥ずかしいです……」
「たかちゃん、頑張って宇宙人呼んで、歴史の目撃者になろうね」
「さんちゃん帰ろ、こんなことしてたらアホになるで」
「るー☆」
血走った目を暗黒の世界に漂わせている雄二は、頭をブンブン振りながら喚いた。
「わはははは、一人でも多く地獄に引きずり込んでくれるわ!」
実況見分中の警官も野次馬も、俺たちの暗黒舞踏には呆れ顔で、誰もが全く見えないものとして扱っていた。
るーるる、るーるる、るーるーるー。るーるる、るーるる、るーるーるー。
俺たちは夢中で身体を動かし、流れる汗さえ拭わずに、声を枯らして叫び、踊り続けた。
大量に分泌された脳内麻薬のおかげだろうか、足の痛みはいつしか消えた。るーるるるーるるという脱力系な
掛け声は、至福の賛美歌と化していた。今すぐ死に絶えたとしても、俺たちは踊りを止められそうになかった。
幸福なダンスを手に入れた俺たちにとっては、クジも、大金も、株の暴落も、足の打撲も、屋敷の崩壊も、何
もかもが無意味でよかった。世のしがらみを燃やし狂える、この熱狂さえあれば。
大空を走る流れ星が燃え尽きず、火球となって降り注いでも、俺たちは正確にダンスを踏み続けた。
るーるる、るーるる、るーるーるー。るーるる、るーるる、るーるー
以上です。
うわ、スレの容量がやべえ……
結局もうかってんのはるーこだけか。
これはよいデムパですね
電波というかブラックというか…久々にすごいSSを見た。
どう楽しむの?これ
いや、かなり楽しかったんだが。
るーこは素敵だなぁ。
話しの中にもちょっと出た猫型ロボットの原作やアニメを彷彿とさせる話になってるよね
向坂家にダンプカーが突っ込んでくる唐突な超展開と春夏さんの壊れっぷりにクソワロタ
大損したぶんだけ春夏さんに幸運が舞い降りるとかって無いの?
>>679 ここで終わりですか。
何かスゴイモノを読んだ気が(汗
貴明や雄二のキャラが変わってるが、何故かるーこだけはイメージ通りw
容量的にそろそろ次スレの立て頃じゃまいか?