調子に乗って第2話。
9連投行きます。
そして土曜日。
何時もなら何時もの様に瑠璃ちゃん珊瑚ちゃんと一緒に帰るのだが今日は何時もと少し違っていた。
「なぁ貴明。今日は寂しいかもしれへんけど帰りは一人で帰ってなー」
今日の朝、何時ものように二人と合流をして歩いているところで珊瑚ちゃんがそう俺に告げてきた。
「どうしたの?昨日言ってた予定は無しになったの?」
「ちゃうよ。その今日の予定のためにうちら少し早くいかなあかんところあんねん」
「ふーん…。まぁそれならしょうがないな」
「ごめんなぁ、貴明。あ、じゃあ今日は瑠璃ちゃんと二人きりで帰るかー?」
「なっ」
「さんちゃん変な事いわんといてよー。このすけべぇが何するかわからへんやん」
横で瑠璃ちゃんがものすごく不満そうな顔をする。
「えー、こんなチャンス滅多にないで瑠璃ちゃん。ここで一気に貴明のハートをゲッチューやー」
珊瑚ちゃんの笑顔攻撃を食らうと流石の瑠璃ちゃんも強い反論はできないようで
「うー…た、貴明がどうしてもーって言うんやったら考えてやらんこともないけどなー」
しょうがないなぁというのを強調したいのだろうが顔を真っ赤にしてそっぽを向いていては説得力が無い。
何時もは物理的攻撃を食らっている身としてはここいらで精神的な反撃をしておきたいというのが正直な所。
そこで俺は瑠璃ちゃんが握ってきている手を少し強く握って
「じゃあ一緒に帰ろうか」
あっさりと乗ってきた俺にビックリしたのか体を一瞬こわばらせると
「う、あ、う…え、えぇよ…しょ、しょうがないなぁ貴明は」
「これで瑠璃ちゃんと貴明もすきすきすきーやなぁ」
「さんちゃーん!!」
あまりの恥ずかしさに耐えかねたのか瑠璃ちゃんは珊瑚ちゃんを追っかける。
それを猫のようにひょいひょいと逃げる珊瑚ちゃん。
うーん…これってト○&ジェ○ー?
それを笑いながら見ていると真っ白になったボクサー…もとい、雄二が俺の横にやってきた。
「貴明、俺はお前をまだまだ甘ちゃんでウジウジしたどーしようもないヘタレ野郎と思っていた」
色々と俺の悪口を言ってくれているようだ。
よし、殴ろう。
と拳を作ったところ
「けどまさか瑠璃ちゃん一本に絞ることにしたとは良くやった!感動したぞ!」
感涙しながら俺の肩をたたいてくる雄二。
どうも勘違いをしているのだがどうしてくれようか。
「珊瑚ちゃんに関しては安心しろ。俺が後フォローを入れてきちんと幸せに…!!」
母さん、
俺はどうやら間違った親友を作ってしまったのかもしれません。
「でぇ、珊瑚ちゃんと親しくなった暁には俺専属のメイドなんかを作ってもらってぇ…」
気持ち悪いくらいにニタニタと笑顔を作って妄想発言を連発する雄二。
現実に戻してあげようと思ったところで
ゾクゾクゾクッ
背筋につららをぶっ刺されたようなこの感触…
顔を向けずに目だけを雄二の後ろに向ける。そこに居たのは
「で、俺のハーレムぅぅぅぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!いだいいだいいだ〜い!」
堕ちた弟をまっとうな道に戻してあげようとするお姉さまがそこには居ました。
タマ姉…何時もより増して握力をアップさせているような気がする。
「ハーレムがどうかしたってぇー?」
「い゛、い゛い゛え゛。何でもあびばせん…」
何時もと違い体をビクンビクンを震わせながら許しを請う雄二。
それはさながらまな板の上で既に捌かれているにもかかわらず助けを請う魚のようだ。
「そう…へんな事をタカ坊に吹き込んだりしてるみたいだけど気のせい?」
さらにタマ姉の握力があがる。
「ぎにゃー!!」
「タ、タマお姉ちゃんユウ君がもう駄目っぽい動きしてるよぉ…」
このみも異常な事態にタマ姉を止めたいのだろうが恐らく恐怖がそれおも出来なくさせているようだ。
「大丈夫よこのみ。そんなヤワに育てた覚えは無いから」
「も、もう、もうだめ…頭の縫合がはずされちゃう…」
「ほらユウ君が断末魔に近い発言してる…」
このみの顔が青ざめていく。
「タマ姉。別に変なこと吹き込まれたりなんかされてないから…ね?もう雄二を許してあげて…」
そう俺が言うや否や「雄二であったモノ」がドサっと落とされる
「ユ、ユウ君耳から何か液体が出てるよぉ…」
「まるで内部から破壊されたみたいになってるな…」
俺とこのみでその「モノ」を恐る恐る見る。
「ほら、ふたりとも早く行かないと遅刻しちゃうわよ?」
「「は、はい」」
すまん雄二。俺は鬼に勝てるほどの獣を内に住まわせてなかった…
しかし俺が教室についた後で頭を抱えながらも入ってきた雄二を見て俺は初めて雄二を尊敬した。
いや、褒められたもんじゃないけど。
そんなわけで今日は瑠璃ちゃんと一緒に二人だけで帰ることになった。
HRが終わるや否や急いで下駄箱へ向かう。
珊瑚ちゃんならまだしも瑠璃ちゃんだと遅れたら怒られそうだしな。
急いで行くとそこには既に瑠璃ちゃんは待っていた。
こっちを見た瞬間不満そうな顔をすると覚悟はしていたのだが珍しくそれは無かった。
「ごめんね。待ったかな?」
「そんなに待ったわけやないから気にせんでえぇよ」
そう言うとスタスタと先に歩いて行ってしまった。
やっぱり怒ってるのかな?
瑠璃ちゃんがスタスタと急ぎ足で歩いても俺との身長差からの関係上そんなに急がずとも追いついた。
「どうしたの?やっぱり俺と二人きりじゃ嫌だったかな?」
俺が罰悪そうに鼻の頭をかくと普段からは考えられない言葉が瑠璃ちゃんから出てきた。
「そんなことあらへんよ…」
そういって俺の上着の裾をつかんでくる瑠璃ちゃん。
「ほら…」
俺がそっと手を差し出すときゅっとつかんできた。
そして二人の歩く早さも緩む。
何時もと違っているせいか少し気恥ずかしい帰り道。
瑠璃ちゃんは終始俯いて歩いていた。
「そういえば今日何あるか知ってる?珊瑚ちゃんもイルファさんも教えてくれないんだよ」
ふと思い出した今日の予定のこと。
瑠璃ちゃんなら知ってるかもしれない。
そう思った俺は瑠璃ちゃんに質問をしてみることにした。
「し、しらんよ…」
「そっか…そんなに秘密にして何するんだろ…」
「さ、さぁなぁ…」
何時もなら凄い口の速さでしゃべってくる瑠璃ちゃんとは思えない反応だった。
やっぱり何時もと違う状態に緊張をしてるのだろうか。
そういう俺も緊張はしている。
いつも一緒に居るおかげで瑠璃ちゃんと珊瑚ちゃん、イルファさんに対しては慣れたが
こう何時もと違う状況になると今までの女性慣れしていない状態になってしまう。
そこで別の何かを考えないとと思うといつの間にか瑠璃ちゃんと珊瑚ちゃんの家の前まで来てしまっていた。
「あ、今日はこの後着替えて駅前まで行かないといけないんだったっけ…」
「うん…せやね…」
しかしここまで来てしまって手前、手を離して別れるというタイミングが必要なのだが
いかんせんこんな状況になった試しが無い俺としてはどうしていいかわからず瑠璃ちゃんもそうなのか
二人で部屋の前まで来たところで止まってしまっていた。
どうしようとひたすらに考えていたところで瑠璃ちゃんがボソっと
「今はイルファがおらんから一日一回のカウントは無しやで…」
と俯いたまま小さな声でつぶやく。
「そっか。じゃあ特別に…」
と俺から瑠璃ちゃんの唇に自分の唇を重ねる。
少しして離れるお互いの唇。
「もっかい…」
耳まで真っ赤にしながらおねだりしてくる瑠璃ちゃんに2回目の今度は少し深いキスをする。
「じゃあまた後でね」
「やっぱり貴明はすけべぇやー」
意地悪そうな顔で言ってくる瑠璃ちゃんの顔は何時もの元気な顔に変わっていた。
自宅に帰って俺は私服に着替えて駅前に行くことにした。
正確には駅前からバスに乗って栗栖川エレクトロニクス研究所に行くことになっている。
自分で考えている限りはイルファさんのメンテか何かで研究所を見せてくれるのだろうと考えているのだ。
珊瑚ちゃんが一生懸命がんばってイルファさんを作った場所。
見てみはみたかったのだ。
駅前に行きバス停で待っているとスーツ姿のおっさんが話しかけてきた。
「君も研究所に行くのかい?」
「え?あ、はい」
いきなり何で人の目的地を聞くんだか気にはなったがこの人のしゃべり方のせいかつい答えてしまった。
「そーかそーか」
何故か嬉しそうな顔をするおっさん。
変な人だな…。
そして研究所行きのバスが来る。
どうせ終点まで行くのだからと一番後ろに座ることにした。
そうすると何故かさっきはなしかけてきたおっさんが俺の隣に来た。
別にほかの席が埋まってしまっているわけでもないのに…。
「いやね、私も研究所の関係者でね。あんな研究所に若い子がくるなんて珍しいもんだからね」
俺が怪しんでたのを察知したのかおっさんが話してきた。
「君は何で研究所に行くんだい?」
「えっと…友達がいて呼ばれたんで」
まさかここで瑠璃ちゃんの名前を出すのもおかしいと考えた俺は当たり障りの無い返答をしておいた。
「そーかそーか。じゃあ君もロボット工学には興味あるのかい?メイドロボとか」
「いや、まぁ学問に関してはそんなに興味があるわけじゃないですけど
メイドロボに興味があるというかかかわってるというか…」
「メイドロボか…きみはメイドロボには心があるのはおかしいと思うかい?」
いきなり具体的な質問がやってきた。
なんでこんなところで俺にこんな質問をしてくるのだろう。
おかしいとは思いつつもそのおっさんのやさしそうな顔をみていると
俺を陥れたりもしないだろうと思い素直に答えることにした。
「おかしくなんか無いと思いますよ。あったほうが楽しいじゃないですか」
おっさんの方を見るわけでもなく答える。
「そーかそーか。楽しいかぁ…なるほどねぇ。前に会った彼と同じだ…」
その言葉が気になったのでおっさんの方を見るとおっさんの目は懐かしい思い出を思い出すような目をしていた。
「ロボットなんだから心なんていらない。忠実に従ってればいいとお偉方は言うんだよ」
俺の視線に気づいたのかはわからないがおっさんが話し始める。
「けどね、私は思うんだ。あの子や君やあの時の彼のように心はあったほうが楽しい。
ロボットはもちろん「モノ」ではあるけれども「友達」であってもいいんじゃないかってね」
俺の反応を気にすることも無くおっさんが呟く
「よかった…」
と。
そしてバスは終点の研究所についた。
おっさんは先に降りて研究所の中に入って行ってしまった。
猫背でひょこひょこと歩くその後姿が何故か気になった。
「あー、貴明やっときたー」
入り口のところで入ることも出来ずに待っていると珊瑚ちゃんがやってきた。
胸元には関係者であることを表すプレートをぶら下げている。
「珊瑚ちゃん来たはいいけど俺関係者じゃないから入れないよ?」
「何言うとるのー。貴明は立派な関係者やねんでー」
そういうと俺に手を差し出してくる珊瑚ちゃん。
その手には珊瑚ちゃんがぶら下げているプレートがあった。
そのプレートには本人を示すために名前と顔写真が貼ってあった。
俺のが。
「え?何で俺の?」
「だってこれからは貴明も立派な関係者やからな。
ちゃんと長瀬のおっちゃんに言うて作ってもらったんやでー」
いや、俺の承諾は?
「さ、貴明さん早くこちらへ。お待ちかねなんですよ?」
「さっさとこいバカ明ー!」
珊瑚ちゃんの後ろにはイルファさんと瑠璃ちゃんが居た。
イルファさんはメイドロボだから何も要らないみたいだ。
瑠璃ちゃんもプレートをぶらさげていた。
「ほら、今日のメインイベントやでー」
ぐいぐい珊瑚ちゃんに引っ張られながらそのメインイベントとやらがあるのであろう部屋に連れて行かれる。
廊下を歩いていると白衣を着た研究所員らしき人とすれ違う。
廊下やドアもロボット工学の最先端の研究所の為かどことなく近未来感を漂わせている。
部屋の前に行くとプレートをドアの横のセンサーらしきところにかざす。
ピッと音がした後にロックが解除された音がする。
「お待たせしましたー」
にこにこしながら珊瑚ちゃんに連れられて入った部屋には一体の…いや、一人のメイドロボがいた。
何故それが分かったのかというとイルファさん同様の耳のセンサーと服。
違うのは顔立ちと髪の色くらいだろうか。
…あと胸の大きさとか。
いかんいかん!何初対面なのにそんな所みてるんだ。
俺が必死になって妄想をかき消そうとしつつメイドロボのほうを改めてみると
その子は何故か少し俯いて恥ずかしそうにしていた。
メイドロボなら清楚なたたずまいでいそうなのだが何故だろう?
これもだいこんインゲン何とやらのせいなのだろうか?
そんなことを考えているとコホンと意味の無い咳払いをする珊瑚ちゃん。
そして
「貴明ー。この子がイルファの妹のミルファやー!」
…え?
書いているうちに入れたいことが増えすぎて
ミルファがまた出せなかったorz
3話では必ず中心で活躍しますからご勘弁を。
リアルタイムキター
貴方の書くミルファがどんな性格なのかワクワクです!
由真は瑠璃ちゃんのために怒り、俺をひっぱたいた。それが俺には嬉しかった。
同居人が増えたことで部屋割りを見直し、俺の部屋にタマ姉が移ることとなった。その際、このみが
余計なことを喋ったせいで俺が由真たちにボコボコにされたことも付け加えておく。
夕食はるーこと花梨が担当したが、花梨の陰謀によりるーこは、タマゴサンドの山盛りを作ってしま
った。それは、俺たち8人がかりでも到底食べきれる量ではなかった。
食事の後、俺はまた小牧さんを家まで送ることにした。
夜道を二人で並んで歩く。だが小牧さんは、少々表情が硬い。やっぱ、このみの爆弾発言が原因だろ
うか? うーん、気になるなぁ。
「……あの、小牧さん?」
「河野君って……」
「え?」
「河野君って、あたしが思っていたイメージと少し違ってました」
「イメージ?」
「前にもお話ししましたけど、あたし、男の人が苦手で、だから普段の河野君を見てると、あたしと
同じで異性が苦手なんだなって思ってました。実際、河野君もそう言ってましたよね。
でも、河野君の周りには女の子があんなに沢山います。それに、河野君も彼女たちに普通に接してい
ます。特にこのみちゃんや環さんとは仲もいいみたいですし……」
「ま、まあこのみやタマ姉は昔からの付き合いだからな……。
それに、女の子が苦手だって言ったのはウソじゃないよ。確かにタマ姉やこのみは平気だけれど、
あの二人は俺にとっては姉妹みたいなものだから、他の女の子とは違うんだよ」
「じゃあ、由真たちは?」
「うーん。由真はあの通り俺に何かと突っかかってくるから俺もそれに応じてるって感じで、るーこの
場合は何か普通の女の子と違う感じだし、笹森さんは何かと俺を巻き込もうとするし、瑠璃ちゃんはあの
通り俺を嫌ってるし……
あー、何言ってるか自分でも解らないや。とにかく、みんな何故か俺と関わっちゃってるから、俺も
俺なりに手探りで接してるワケで、やっぱ苦手なのは変わらないよ」
「……じゃあ、あたしはどうなんですか?」
「え?」
「河野君、あたしに色々優しくしてくれます。今だってこうやって、家まで送ってくれているし。それ
でも、あたしのこと、苦手ですか?」
その言葉に、思わずドキッとしてしまう。何だろう、何かとても重大なことを質問されているような
気がする……
「うーん……、苦手って言うと違うんだけど、何て言うか、小牧さんに対してどう接したらいいのか、
なんて悩むことはあるかな。
あ、いや、悪い意味じゃなくて、どうすれば小牧さんが慌てたり困ったりしないかって悩んだりとか、
例えば司書室の手伝いだって、本当に小牧さんが喜んでくれているんだろうか、とか……。
要するに女の子のことだと全然ダメなんだよ俺って。こういうときだけは雄二のヤツが羨ましいよ」
「……それでいいんです、きっと」
「どうして?」
「うーん、あたしもうまく言えませんけど、河野君はそれでいいんです。それは、今の河野君の家が
証明しています。きっと、そんな河野君だから、ですよ」
そう言って微笑む小牧さんだったが、俺には彼女が言った意味がよく解らなかった。
小牧さんの家に着いた。小牧さんが玄関のドアを開けると、そこには郁乃がいた。きっと小牧さんの
帰りを待っていたんだろうな。
「ただいま、郁乃」
「ふん、また男連れでご帰宅ってわけね。いっそ家に入ってもらえば? そろそろお父さんたちに紹介
しておくべきじゃないの?」
「い、郁乃、河野君はそんなんじゃないんだから……」
郁乃ってば、まぁたお姉ちゃんをイジメてるし。ホント素直じゃないなぁ。
「よう、いくぽん」
「な、何よその呼び方は!?」
「だって、呼び捨てもちゃん付けもダメなんだろ? だから考えたんだけど」
「普通に呼べ普通に!
それからあんた、姉に聞いたけど、他にも女が大勢いるそうね。いいご身分じゃない」
「なんだ、郁乃も仲間に入れて欲しいのか?」
「違うわよ! 男好きの姉と一緒にするな!」
「そうか、郁乃は女の子の方が好きなのか。だったら今度、俺の家に来いよ。郁乃好みの女の子が見つ
かるかもしれないぞ」
「ああもう、そういう意味じゃないっつーの! いいからさっさと帰れ! ホントに警察呼ぶわよ!」
「はいはい帰りますって。それじゃ小牧さん、よかったらホントに郁乃連れて来なよ。このみとか瑠璃
ちゃんとか同級生もいるから、友達になれるかも知れないし」
「そうですね。それじゃあ今度は、郁乃も一緒にお邪魔しますね」
「勝手に決めるな〜〜〜!!」
家に帰り、自分の部屋に行くと、そこにはタマ姉と由真、それに瑠璃ちゃんもいた。由真はまた例の
ギャルゲーをやっている。
「タマ姉、このみは?」
「さっき帰ったわよ。タカ坊が見送りしてくれなかったのが不満そうだったけどね」
「そう言われても、俺は小牧さんを送らなきゃいけなかったし、このみの家はすぐ隣なんだから……」
「それでも見送って欲しいって気持ち、わからない? ホント、タカ坊は鈍感なんだから」
「ホントホント、たかあきは鈍感よねー。このみちゃん泣いてたわよ、『一緒に寝たのに見送りもして
くれないなんて、所詮は身体目当てだったのね!』って」
「それ、絶対ウソだろ」
「うん」
あっさり白状する由真だった。
「なあ、貴明」
「なに、瑠璃ちゃん?」
「さっきから由真がやってるゲーム、あれなに?」
「ああ、あれな。いわゆるギャルゲーってヤツで、女の子と仲良くなって、最終的には恋人同士になる
ってゲーム。ほら以前、珊瑚ちゃんも学校のコンピュータ室で、似たようなもの作ったじゃない」
「ああ、あんな感じなん。正直、何が面白いかわからんけどな。ま、ゾンビとか出ないだけマシやけど」
「ああ、あのゲームだったら俺も持ってるから後で……」
「絶対やらんわ!!」
ゲシッ!!
瑠璃ちゃんの蹴りが俺の脇腹に炸裂した。
「あたた……。ところで由真、そんなゲームやってていいのか?」
「なによ?」
「なによって、忘れたのか? 明日の夕食、るーこにリベンジマッチ挑んだだろうが。料理の練習とか
しなくていいのかよ?」
「……ああっ!? そうだった!!」
忘れてたんかい。
「ま、まずいわ、今のままだとるーこに絶対勝てない……。
た、環さん、すみませんが今から特訓に、ってもう寝てるし!?」
見ると、いつの間にやらタマ姉は俺のベッドですやすやと眠っている。
「ど、どうしよう、困った……。
そ、そうだ! 瑠璃ちゃん!」
由真は瑠璃ちゃんの両肩をガシッとつかみ、
「お願い、今から料理教えて!!」
「え? え?」
「あたし、明日の夕食でるーこと料理勝負するんだけど、今度は絶対負けたくないの!
お願い、あたしでも出来るような料理、今から教えて!」
困惑する瑠璃ちゃんに必死で訴える由真。
少しの沈黙。そして、その想いが通じたのであろうか、瑠璃ちゃんは小さな声でこう答えた。
「う、うん、ええよ……」
「ありがとう瑠璃ちゃん!!」
喜びのあまり、瑠璃ちゃんに抱きつく由真。しかし瑠璃ちゃんが驚く間もなくすぐ身体を離し、
「それじゃ、早速お願い! キッチンに行こう!!」
由真は瑠璃ちゃんの手を取り、キッチンへと飛び出していった。
由真たちが部屋を出てから少しして、
「由真さんたち、行った?」
「タマ姉、起きてたの?」
タマ姉は起きあがらず、寝転がって俺の方に向いた。
「ええ、見事に騙されたでしょ」
「うん、でもなんで寝たふりなんか?」
「うーん、私が由真さんに料理を教えてもよかったんだけど、せっかく瑠璃ちゃんもいたから、任せて
みるのもいいかなって思って」
なるほど、単に料理の練習をするだけでなく、そうすることで由真と瑠璃ちゃんをもっと仲良しに
しようとタマ姉は考えたわけだ。さすがはタマ姉だ。
「ふぅん。なぁタマ姉、明日の勝負、由真、勝てると思うか?」
「多分負けるわね。一夜漬けでどうにかなるほど、るーこちゃんは甘い相手じゃないわ。
まあ私としては明日の勝負の結果より、その後の方が気になるわね。そこで諦めてしまうか、それ
とも……」
「ああ、それははっきり解るな。由真は絶対諦めないよ」
「へぇ、タカ坊、やけに自信たっぷりに言い切るわね」
「そりゃあもう、自らの体験に基づく確信だからね」
由真は負けず嫌いだ。そして由真は、一度や二度の敗北では決して諦めない。その点だけは、俺は
由真を認めている。
「さて、と。そろそろ本当に寝る時間だし、タマ姉、どいてくれる? 自分の布団で寝てよ」
「イヤ」
「は?」
「面倒だからこのまま寝るわ。今夜はタカ坊がそっちで寝て。
それにこの布団、とってもいいわ。だって、タカ坊の匂いがするんですもの」
た、タマ姉、なんかエロちっくな発言なんですけど……。
などと俺が考えていると、何やら廊下の方からドタドタと走る音が聞こえたかと思ったら、いきなり
ドアが開き、由真が部屋に戻ってきた。
「ど、どうした由真?」
「こっちも忘れてた。たかあき、これ」
そう言う由真が手にしていたのは、例の手錠だった。やっぱ、ホントにするのね……。
約束通り俺は由真に、後ろ手に手錠を掛けられた。
「カギはあたしが預かるから。明日の朝になったら外してあげる」
俺はため息をついて、タマ姉用の布団に入った。それを見届けると由真は、
「じゃ、おやすみなさーい」
と言い、部屋の電気を消して出ていった。
しばらくの間、いつもの通り仰向けで寝ていた俺だったが、手錠を掛けた両手が身体の下敷きになって
痛いので、身体を横にした。その向きは何となく意識したせいか、タマ姉が寝ているベッドとは逆の方だ。
うん、これなら何とか寝られそう。
明日は月曜日、学校だ。さあ、もう寝よ寝よ。
……
……
……
すた……すた……
……
……
……
もぞ……もぞ……
……
……
……
……ん、何だ? 俺の背中が……なんだか暖かいぞ……?
……
……
……
「タカ坊」
ふぅっ。
「ぅわあっ!!」
み、耳に、なま暖かい風を感じた!
俺は恐る恐る、背中の方を見てみる。そこにいるのは……
「お邪魔してまーす」
た、た、タマ姉だ!! タマ姉、お、俺の布団に入ってきてるよ!!
「た、タマ姉!? な、何してるの!?」
「夜・這・い」
えええっっっ!?
「なぁんてね、ウソウソ。ただ、一緒に寝たいなって思ったから入ってきましたー☆」
「い、一緒に寝たいって、そ、それはまずいってタマ姉!」
「どうして? 私たちは姉弟同然なんだから、一緒に寝たって別におかしくないでしょ?」
「この歳じゃ十分おかしいよ!!」
「なによ、このみとは一緒に寝たクセに、私とは寝られないなんて、ずるいわよ」
「ず、ずるいとか言われても……
と、とにかく早く戻ってくれよ! こんなトコもし由真たちに見られでもしたら、俺殺されるよ!!」
「タカ坊がそうやって大騒ぎしなければ大丈夫よ。
それに、こういうのって背徳感って言うのかしら。他のみんなに気付かれないように一緒の布団で寝る
なんて、何だかドキドキするわね。更に……」
そう言ってタマ姉は、手錠を掛けられた俺の手首を撫でながら、俺の耳元にそっと囁く。
「体の自由を奪われた男の子を好きに出来るのっていうのもいいわ。私、本気になっちゃいそう」
う、うわああああっ! た、タマ姉が発情しております!!
「さぁて、どうしましょうか。このままあちこちくすぐって、タカ坊の弱いポイントを調べるのも楽し
そうだし、いっそ邪魔な服を全部脱がして、タカ坊の成長ぶりを直に確かめるっていうのもいいわね」
「ど、どっちもダメ! お願いだから止めてタマ姉!」
「そんなに嫌がらなくてもいいじゃない。別に痛いことしようっていうわけじゃないんだし。あ、それ
ともタカ坊、もしかして痛いことして欲しいの?」
俺はMじゃねぇ〜〜〜!!
「と、とにかく、まずいから、マジで、まずいから……」
「そんなに焦らないでよ。あ、もしかしてタカ坊、もう、なっちゃってる?」
「な、何が?」
「何がって、その……棒が……」
「……え? あ、ち、違う! まだなってない!」
「そっかぁ、ちょっと残念」
タマ姉はそう言うと、左手を俺の胸に回し、右手を俺の頭に置き、俺の背中に顔をうずめた。
「じゃあ、これだけで勘弁してあげる」
タマ姉の右手が、俺の頭を優しく撫でる。
「大きい背中……、それに背だってもう私よりも高いし、昔とは大違い。タカ坊も成長したって証拠ね」
「なんだか恥ずかしいよ、タマ姉」
「恥ずかしがること無いじゃない、ほめてあげてるんだから。
タカ坊はもっともっと成長して、誰もが認めるいい男になってね。タカ坊にはその素質があるんだから」
「そ、そうかなぁ……?」
「そうなの。私が言ってるんだから間違いないわ。
それに、もうなり始めているかも。だからきっと、この家がこんなことになったのよ」
小牧さんみたいに、俺の家の現状を引き合いに出すタマ姉。
「いい男になってねタカ坊。私の自慢できる、もう一人の可愛い弟……」
自慢できる弟、か。その期待に応えられるか、イマイチ自信無いよ俺……。
つづく。
どうもです。第17話です。
「虹の欠片」さんに「Brownish Storm」さん、新作が2作も読めて嬉しい限りです。(^ー^)
>>107 俺はスクールデイズの言葉様を想像してしまいました(w
GJ
乙&GJ!!
>>133 タカ坊とタマ姉がくっつくと登校中にこのみがカマもってタマ姉の首を・・・
137 :
名無しさんだよもん:2005/08/02(火) 23:45:03 ID:NJ9ENHsU0
ほ
しな
いいんちょ
>>136 やめろー。
あのコラを思い出す。・゚・(ノД`)・゚・。
ダメ……おいら、もうこのみには萌えられない。_| ̄|○
ホントだったら、このみはTH2の中で一番ツボにはまりそうなキャラなのに……。
>>138 「タカくん元気出してよ。このみはずっとタカくんと一緒だよ・・・。
だからタマお姉ちゃんのこと殺したんだよタカくん。
あはははははははははははははははははは。」
>>112 (*^ー゚)b グッジョブ!! です
ミルファ出る前に瑠璃だけで萌え狂っているオレガイル
144 :
名無しさんだよもん:2005/08/06(土) 01:16:30 ID:uRVIpfdo0
投下するならイマノウチ…
「貴明ー。この子がイルファの妹のミルファやー!」
…え?
確かそんな名前を聞いたような…
と、自分の中で記憶を探ってみる。
…
「あぁ、クマ吉か」
手をポンと叩いて俺が一言そう言うと周りのみんながいっせいに溜息をつく
「本当に感動の再会とかがありえない男やなぁ…」
呆れた目をしてこっちを見てくる瑠璃ちゃん。
「貴明さん…」
ふぅ、と溜息をついて頬に手を置いてこっちをみるミルファさん。
「貴明はボケボケやー」
笑いながらもひどいことを言ってくる珊瑚ちゃん。
そして
「うぅ…」
今にも泣きそうな顔をしてこっちを見てくるクマ吉…もといミルファさん。
「あ、いや。前があんなかっこうだったから気づくのに時間がかかっただけで
忘れてたわけでは決してなくて…ね?」
「貴明見苦しいー」
「ミルファに謝ってください」
「貴明情けないなー」
ぐさぐさと刺さる3人の言葉…やっぱり俺が悪い…んだよなぁ。
「ごめんね?ミルファさん…」
そういうとミルファさんはこっちをまっすぐ見つめ
「許さないもん」
ときっぱりと言い放つ。
でもその目は真剣というわけでもなくその先にある何かを示している様だった。
メイドロボ相手に目で何かがわかるとは。
正直この技術の躍進振りには目を見張るなぁと思っていると次の言葉が俺に止めを刺す。
「お詫びのちゅーしてくれないと許さないもん!」
意地悪そうな目をして言ってくる彼女をもはやメイドロボと思う人は居ないだろう。
って…
「な、なんでいきなりそうなるの?」
「だって酷い事いったんだよ?
前にえっちな事したお詫びも兼ねてちゅーくらいしてくれないと駄目!」
「いや、だってあれは…」
助けて欲しいと懇願するように見ている3人の方を見ると
プイとそっぽを向く瑠璃ちゃん
優しい顔をしつつもその奥に「いいからキスをしろよ」というオーラを漂わせるイルファさん
「みんなでラブラブやー」と出ても言いたそうにただニコニコしている珊瑚ちゃん
…だめだ。助けてくれそうに無い。
「ちゅー…」
「いや…」
「ちゅー…」
「だからね?」
「もー!ちゅーするのー!」
そう言いつつ俺の首に腕を回してくるミルファさん。
ぐっと体が近づいたと思ったら
むにゅん
普通の女性と比べても(といっても比べたことは無いが)大きいであろうミルファさんの胸が俺に当たる。
タマ姉に押し付けられたりしてるから柔らかさ位はなんとなくわかるが
ミルファさんの胸は俺が感じる限りは普通の女性の胸の感触と大差は無かった。
って何を考えてるんだ俺は!
「あー、貴明えっちな事考えてるー」
クスクスと笑いながら俺をしたからみてくるミルファさん。
「だってミルファさんが急にくっついてくるから」
「さん付けしないの。知らない仲じゃないんだからミルファって呼び捨てにしてくれて良いよっ」
そう言うと俺が恥ずかしがってるのを察知したのかあえて胸を押し付けてきている。
「ほらー。ちゅーするのー」
「いや、無理だってミルファさ…ミルファ。」
腕をさらに巻きつけて唇を俺に近づけてくる。
その近づいている顔を見ると凄く嬉しそうな顔をしているのがわかった。
女性とは気づかずに股を見てしまったところから始まり
そこから何故か気に入られしょっちゅう頭にのっかられ
最後にクマ吉ボディとのお別れの時にはわざわざクマ吉ボディに戻ってきて
俺に手を振ってお別れをしてくれたクマ吉改めミルファ。
そんなに会いたがってくれていたのかと思うと気恥ずかしい反面嬉しくもある。
けどなぁ…
「…(じーっ)」
そんな上目遣いをしても…
「…(じーっ)」
そんな目を潤ませても…
「…(じーっ)」
しない…
「…(うるうる)」
のは無理みたい…
「す、少しだけだからね」
「うん!」
ちゅっ
根競べというかお願い光線に負けた俺はお詫びと再開の喜びを兼ねた軽いキス。
珊瑚ちゃんや瑠璃ちゃんとのキスにもまだ緊張はするがミルファとのキスには殊更に緊張した。
耳まで熱い。きっと顔は真っ赤になってるんだろうなぁ…
そんな中ミルファはキスできたのがよほど嬉しかったのか
茶色のポニーテールをふりふり揺らしながら俺に抱きついている。
「これでみんなすきすきすきーやなぁー」
何時もよりまして嬉しそうな珊瑚ちゃん。
そして部屋の奥のほうに振り向くと誰かに話しかけた。
「なぁ、おっちゃん。これで全部おっけーやなぁ」
珊瑚ちゃんの視線の先を見ると部屋の奥で優しそうな笑顔で見ている白衣の男性が居た。
ってこの人…
「あぁ!?あの時の!?」
「あー、やっぱり君だったかぁ。いや、騙すつもりは無かったんだけどねぇ」
全然悪びれる様子も無くこっちに近づいてくるおっさん。
「なんや、長瀬のおっちゃんと知り合いやったんか貴明。流石やなぁー」
「あぁ、この人が…」
良く珊瑚ちゃんが話していた「長瀬のおっちゃん」というのがこの人だったのか…。
そう考えると車内でのあの会話にも納得がいく。
きっとこの人はメイドロボ、いや、この子達が好きなんだろう。
長瀬さんのそのニコニコとした笑顔や珊瑚ちゃんの笑顔がこの子達を育ててきたのだろう。
そう思うと何故か自分自身が嬉しく思えてきた。
「改めまして。HMXシリーズ研究主任の長瀬です」
すっと出してきたその手を少し見た後に握る。
「河野貴明です。みんなにはお世話になってばっかりで…」
というと長瀬さんがハッハッハと笑いながら
「珊瑚ちゃんやイルファ、ミルファからも聞いているよ。色々と大変みたいだねぇ」
その笑みを浮かべながらの言葉がどんな事を聞いているのかをある程度判断することはできた。
きっと俺はいわゆる見世物状態になっているのだろう…
「じゃあ改めて河野君に任せたいことがある」
長瀬さんの顔が心優しい目から急に責任者のしっかりとした目に変わる
「は、はい」
「ミルファの外での活動の支援をしてほしい。
基本的な報告はミルファが定期的に行うから気にしなくてもいいよ。
ただ君の生活上での支援をさせてくれればそれでいいんだ。」
「は、はぁ…」
「要するにミルファと一緒に生活して欲しいねん」
「まぁ平たく言うとそういうことだねぇ」
一緒に生活?
俺が?
女性と二人きりで?
「えー!!」
驚く俺をよそに嬉しそうに俺の後ろからくっついてくるミルファ。
「いや、だって大事なメイドロボでしょうしこっちも急に女性と一緒に住むのは色々と問題が…」
「せやせや!」
意外にも俺に賛同してくれたのは瑠璃ちゃんだった。
「なんでいきなり貴明の家に住むことになってんねん!
イルファみたいにうちでテストすればえぇやん!」
「瑠璃ちゃん…まぁそれもわかるんだけどねぇ…」
そういいながらクシャクシャのタバコの箱から一本タバコを取り出す長瀬さん。
「あー、おっちゃんここ禁煙やでー」
「硬い事気にしない気にしない」
注意する珊瑚ちゃんに対して微笑みながらタバコに火をつけ一服する。
珊瑚ちゃんも一応言うだけでその後は何も言わなかった。言ってもすぐに吸い始めてしまうのだろう。
そしてその火のついたタバコの先をこっちに向けてくると
「やはり今までとは違う他の環境でのテストが現在の課題。
だからといって全くの他人というのも問題がある。
で、瑠璃ちゃん珊瑚ちゃんの知り合いでメイドロボに対して嫌悪感を持たない人物。
それなりに若い男性で尚且つ一人暮らしなら尚良し。
となると…?」
「それって…」
「貴明の家やなぁ」
「貴明さんの家しかないですね」
「うぅー」
「まぁそういう事だから。よろしくね」
「ふつつかものですがよろしくお願いしますね☆」
「はぁ…」
駄目だ…この人たちに言っても無駄だ…きっと根回し済みなんだろう。
諦めつつも一つだけ質問してみることにした。
俺が仮に諦めたとしても大事な問題だ。
「親には何て言えばいいんだよ?」
「それなら長瀬のおっちゃんが貴明のパパやんママやんのところに連絡して
メイドロボのテスターに選ばれたって知らせてたでー」
「ご両親も一人暮らしでまともな生活ができてるのか心配だから是非ともお願いしますと喜んでくれたよ」
ハッハッハと笑いながらも最後の砦を見事に崩してくれた。
このおっさん…笑いながらすべての計略を進めてるな…。
流石はHMXシリーズの研究主任であって珊瑚ちゃんと関わっているだけある。
って感心してる場合じゃないって。
「そう…そうですか…」
がっくりとうなだれる俺の頭に感じる柔らかな感触。
「ほらぁ、これから一緒に居れるんだからもっと喜ぶのー」
上のほうからするのはミルファの声
何故上からかというとうなだれている俺の頭はミルファの胸に埋もれる状態になっているわけであって
だからそういうわけで…
「ミ、ミルファ?」
「ん?どうしたの?」
「む、胸が…」
「胸?当ててるよー?貴明は大きいほうが好きなんでしょ?」
「なっ…!!!」
驚く俺をよそに周りの4人は
「貴明のすけべぇー!!」
「貴明さん…わたくしの恥ずかしいところまで見たのに胸が大きいほうが良いだなんて…」
「貴明がすけべぇやー☆」
「ハッハッハ。若いねぇー」
駄目だこの人たち。
俺を助けてくれる人は居ないようです。
「ねぇ貴明…?」
少し胸を押し付ける力が強くなったように感じる。
「な、何?」
「イルファ姉さんの恥ずかしいところって…どこ?」
また少し力が強くなる…ま、まずい
「い、いや、あれは知らなかったからであって不可抗力…」
「貴明さんったらトイレに入っているところにやってきて…
その…わたくしの恥ずかしい所を…ポッ」
「ちょっと!そこ!ポッっとか言ってないで…!!!」
ギリギリとなりそうな勢いで俺を締め付けてくるミルファの腕。
ぐ…ぐるぢい…
うつむいていた瑠璃ちゃんの体がフルフルと震え始める
「た…」
や…やばい
「貴明の…」
に、逃げなきゃ…
「貴明のぉ…!」
無理。
逃げられません。
母さん、去り逝く不幸をお許しください。
「貴明のスケベぇー!!」
タイ○ーショットも真っ青なキック力で俺の股間を直撃してくる瑠璃ちゃんのキック。
……もうムリポ。
「た、貴明ー!?」
「ハッハッハ。貴明くんも大変そうだねぇ」
ミルファさんに締め付けられたまま胸の中で意識が遠のいていく俺…
いや、羨ましいとか言うだろうけど無理無理。マジで無理だって…
「ん…」
「あ、やっと起きた」
目を覚ますと俺はベッドの上に居た。
どうやら研究所の医務室にでも運ばれたらしい。
「あ…ミルファ」
「貴明大丈夫?」
起き上がって窓の外を見るとすでに日は傾き空は茜色に染まり始めていた。
「うぅ…久々に死ぬところだった」
「ふふふっ。ちゃんと手当てしておいたから大丈夫だって言ってたよ」
そう言われてふと気づくと股間が冷たい…
「氷嚢か」
「冷やしたほうが良いだろうって先生が…」
ミルファが顔を赤らめて顔を俺から背ける。
「…まぁおかげで何とか歩けそうだよ」
ベッドから降りようと上体を上げる。
「あれ、みんなは?」
「先に帰るって言って帰ったよ。また月曜日に会おうなーって言ってた」
「そっか」
まぁ帰る先は今日は別なわけだし当然といえば当然なんだろう。
「ごめんね…」
ミルファがうつむいて申し訳なさそうな声でそう言ってきた
「どうして?」
「だって本当なら私が貴明を守らないといけないのに」
メイドロボはご主人様を守るという原則を守れなかったのにしょげているようだった。
「まぁあれは瑠璃ちゃんの一種の愛情表現みたいなものだろうから大丈夫大丈夫」
そう言いつつ笑いながら体をベッドから下ろそうとすると
「愛情表現…」
ミルファがポツリと何かを呟く
「ん?何か言った?」
「あれって愛情表現なの?」
「はぁ?」
いきなりの妙な質問にビックリしてしまった。
「だって今一種の愛情表現だって」
「あぁ、まぁ言葉のあやっていうか…嫌われてるからあぁ蹴られるってわけじゃないって事だよ」
「そ、そうだよね。は、ハハハ」
空笑いをするミルファ。
うつむいたまま何かブツブツ言っているようだ。
「?どうした?もう行かないと暗くなっちゃうぞ?」
俺がドアの前に来てもベッドの前で何か考えてるのか止まったままのミルファ。
俺の声にやっと反応したのかこっちをやっと向いてくれた。
「あ、そ、そっか。今日から貴明の家に置かせてもらうんだもんね」
「何言ってんの?」
「え?」
ミルファはきょとんとした目でこっちを見てきた。
「置かせてもらうじゃないだろ?住むんだろ?」
「あ…うん!」
途端に満面の笑みを浮かべると俺の腕に擦り寄ってきた。
「お、おい…」
「だめぇ?」
また見せるおねだりの顔。
誰がこんなこと学ばせたんだ…
「研究所出てからなら…な」
「やったー♪」
研究所から駅前まで戻ってきた俺たちは商店街で買い物をしようとやってきた。
「とりあえず貴明は何食べたい?」
「あー…っとそれよりも…」
「?どうしたの?」
「商店街ではさすがに腕を組むのは止めていただけませんでしょうか?」
バスに乗ってからここまでミルファはずっと俺の腕にくっついてきていた。
それだけでも恥ずかしいのにその大きな胸があたると…勘弁してくださいと言いたくなってしまう。
「えー!?ずーっとこうしてたいのにぃー」
「クラスの誰かに見られたりでもしたら何ていわれるか…」
「?別に問題ないじゃない。
こんなかわいいメイドロボと一緒に居られるなんて果報者なんだよー?」
「からかわれるのが嫌なの!」
「ちぇーっ…」
口を尖がらせてしぶしぶ離れるミルファ。
まぁよく考えたら一緒に歩いているだけでも話題の種になるのは目に見えてるけど少しはマシだろう。
「で、何が食べたいのー?」
つまらなそうに腕をぶんぶん振りながら歩くミルファ。
それが人間くさくて微笑ましくてつい笑ってしまった。
「あー!笑ったー!貴明ひどいんだー!」
「違うって!別に馬鹿にしてたわけじゃないから!」
「いーもん!知らないんだからー!いじわるする貴明の夕飯はピーマンづくしだもーん!」
「嘘ぉっ!?それは待ってくれってー!」
「べーだっ!」
あっかんべーをして走っていくミルファ。
「待てぇー!!」
「こっこまでおいでー♪みゃはははは〜♪」
こうして俺の家にミルファが居る生活が始まった。
リアルタイムで見たw
乙&GJw
ミルファ最高!
とりあえず来週には暫し旅へ行くので週末か月曜あたりには4話を書きたいと思ってます。
ミルファの性格は最初タマ姉気質の姉御肌だったのですが甘え属性大好きな為に変更しました。
次のお話ではミルファと貴明だけで書けたらなぁと思います。
>>124 河野家にようこそ新作キタ━━━(´∀`)━━━!!
タマ姉属性の自分としては激しくGJです。
ミルファ━━━(゚∀゚)━━━!!!
Tender Heart その9−2
前回までのあらすじ
雄二によって指摘された、このみと貴明の「とても自然で、とても不自然な」関係。それは結局、貴明だけが未だ幼なじみ
の関係に片足を残したままでいるせいだった。
悩み続けた貴明は、アイス屋でよっちと話す内にひとつの決心をする。
「今夜このみを――俺だけのものにする」
貴明の思い切った発言に驚きながらも、女ならではのアドバイスをくれて祝福してくれるよっち。
「このみのこと、幸せにしてやってくださいね」
よっち、ちゃると別れ帰路につく二人。
店に来るまでとは違う気持ちで手を繋ぎ、同じ家に帰れば――もうすぐ夜がやってくる。
「じゃあタカくん、すぐに行くからね」
「うん」
家の前で一旦別れ、俺たちはそれぞれの家の門をくぐった。
いつもなら、ここでおしまい。次に会うのはまた明日。
でも、今日は違う。きっとこのみは帰ったら急いで準備をしてすぐさま我が家へやってくるだろう。
だけど『ずーっと一緒にいられる』のが嬉しいのは、このみだけじゃない。
鍵を回しノブに手を掛けたところで、わけもなくこのみがこちらを見ているような気がして振り向くと、果た
して柚原家のドアから半分体をのぞかせてこちらを見ているこのみが目に入った。
俺が振り向いたことに気が付くと、このみは嬉しそうに笑って手を振り、それからぱたんとドアが閉じられた。
テレパシーという単語をふと思い出して俺は笑いかけ、思い直して笑うのをやめた。
俺とこのみの間に、こころとこころが直接通じ合うようなそんな繋がりがあるとしたら、それはとても素敵な
ことだと思えたのだ。
そしてそれは、きっとある――そう信じることに、俺は今決めた。
かかとをすりあわせて靴を脱ぎ捨て、まっすぐに台所へ向かう。途中、階段の前に通学鞄を落とし、買い物袋
を片手にまとめて持って冷蔵庫のドアを開けた。
豚肉、豆腐、キャベツ、卵、牛乳……生ものをとりあえず冷蔵庫に入れ、その他を食材をしまう棚に収める。
ついでにリビングにちらかしていた雑誌や衣服を拾い、ざっと片づけた。
レースのカーテンだけを残して窓を開け、簡単に掃除を終えると、鞄を拾って二階の自分の部屋へ上った。部
屋に入るなり制服を脱ぎ捨て急いで着替える。
いつもなら楽な部屋着に着替えてこのみが来るのを待つだけの時間なのだけど、今日はいつもと事情が違う。
今夜この部屋で俺がなにをするつもりなのか、そのことを考えるならやるべき事はたくさんあるのだった。
「えーっと、新しいシーツはこっちにあったよな」
自分がこれからすることを、指差点呼のように声に出しながらひとつひとつ行っていく。
これは別に間違いを防ぐために慎重を期しているのではなく、そうやって目の前の作業に無理やりにでも集中
しておかないと、夜のことを考えて何も手につかなくなってしまうのが自分でわかりきっていたからだ。
「シーツを替える、シーツを替える……」
そう、シーツ。
ベッドのシーツを替えなければならない。
はじめての夜なんだから、寝汗のしみ込んだ使い古したシーツじゃなくて綺麗なシーツで迎えたい。
ああ、あった。新しい買い置きのシーツ。
真っ白だな……。
真っ白……染みが付いたら目立つな……やっぱり血が出るのかな。痛かったりとかするんだろうか……痛がる
ようだったらやめようか……でもこのみの性格からしてきっと我慢す
ガツン!
「えーっと、シーツは見つけたから後は枕を――!」
ガツン!
「テ、ティッシュの箱は――!」
ガツン!
準備する、ということは、シミュレートする、ということとイコールであり、声を出せば出すほど泥沼だという
ことを悟ったのは、殴りすぎていい加減たんこぶができはじめたころになってからだった。
おおかたの準備を終え、開け放っていた窓にカーテンを引いていると、両手にたくさんの荷物を持ったこのみが
向かいの柚原家から出てこようとしているのが見えた。
よし、では行動開始だ。
俺は買い物の間中考えていたある計画を実行するために動き出した。
「引っ越しみたいな荷物だな」
「あ、タカくん!」
階段を駆け下り、サンダルをつっかけて駆け寄った俺にこのみはぱっと笑顔を浮かべる。それはでも、どちらか
というと「会えて嬉しい」というよりも「良いところに来た!」という感じがしなくもない笑顔ではあったのだけど。
「タカくんお願い。これ……この左手の荷物取って……!」
「はいはい」
苦笑いを堪えつつ、スーパーのレジ袋に入った大きな新聞包みを受け取る。それほど重たくはないけれど、レジ
袋の掴む部分がよじれてヒモみたいに細くなっていて、指に食い込んで痛かったようだ。
「これ、何?」
「えへ〜。後のお楽しみでありますよ〜」
そう言うこのみの顔はだらしなくゆるんでいて、俺はそれでなんとなく見当が付いた。
まあ十中八九、果物だろうな。
柚原家から河野家までのごく短い引っ越しはすぐに終わりをむかえる。
「ただいまー」
開けたままにしておいたドアを先にくぐった俺がそう言うと、後ろからきたこのみが
「お邪魔しまーす」
と言った。
俺は玄関の上がり口に荷物を置きながら振り返って言った。
「このみ、違うぞ」
「え?」
「お邪魔します、なんて言わなくていいからな。言うなら、ただいま、って言うように」
「あ、う、うん」
言いながら照れくさくなってしまった。
このみもその気配が伝わったのか少し赤い顔で頷いた。
「ほら、じゃあやりなおし」
「えーっ」
抗議の声があがるが取り合わない。このみの手から荷物だけ受け取り、このみ本人をドアの向こうに追い出す。
玄関の敷居を挟んで、俺とこのみは向かい合った。
西からの日差しが、このみの顔に陰影を落としている。それなのに、頬がほんのりと上気しているのが見えた。
「た、ただいま。タカくん」
こちらの反応を伺うように、このみは上目遣いでそう言った。その姿に既視感を覚え記憶を探った俺は、すぐに
思い当たった。
それは今年の春、入学式の朝。初めて高校の制服を着て現れたときのこのみと、とてもよく似ていた。
……考えてみれば、あれからまだ半年も経っていないんだな。
「うん。おかえり、このみ」
上手く言えたと思う。
立ちふさがっていた体をずらしてこのみを玄関の中に迎え入れると、突然このみが抱きついてきた。
「うわっ! ど、どうしたんだよ」
「タカくんのせいだからねっ」
顔を胸に押しつけるみたいにして隠したまま、このみがくぐもった声で言った。
「タカくんが恥ずかしいことさせるから……」
「恥ずかしかった?」
「うん――」
でも、と言って、このみは抱きついたまま顔を上げた。
「――嬉しかった」
目の前に、このみの上気した笑顔がある。
お互いの瞳に映る自分の姿が見れるくらいの至近距離。後ろから誰かがつんとつつけば、そのままキスしてしま
いそうな唇の距離。
俺の心臓は途端に跳ね上がるように脈打ち出した。
それに気が付いたこのみが、ちょっといたずらな目になりながら言う。
「あ、タカくん、ドキドキしてる」
「……このみのせいだからな」
「えへ〜。仕返し達成なのでありますよ〜」
さりげに物騒なことを言って、このみは俺の胸に耳を当てた。
「ふわ〜。タカくんすごいよ〜。走った後みたいにどっくんどっくん言ってる」
「どうだ、すごいだろう」
開き直ってそう言った後に、馬鹿なことを言ったと後悔する。しかしこのみは後悔しきるヒマも与えてくれなか
った。
「じゃあ……こうしたらどうなるのかな〜? えりゃっ」
「ん――むっ!」
可愛らしいかけ声と同時にこのみが背伸びしてきて、気が付くと唇に柔らかい感触が触れていた。
一瞬でそれは離れてしまったけれど、俺に心臓発作を起こさせるにはそれ充分だった。
「わっ、すごいすごいタカくん。さっきより音が大きいよ〜」
「……人の心臓で遊ぶな」
壊れたらどうする。
そうつぶやきつつも、俺の意識は半分以上このみの唇の感触を反芻するほうに向いていた。
やわらかくて、あたたかくて、すこし濡れていて……そしていい匂いがした。
――そうだ、あの匂いは。
「このみアイスだ……」
「え、どうしたのタカくん」
俺のつぶやきに顔をあげるこのみ。
俺は下げていた手を上げ、このみの顔を手のひらで包みながら言った。
「このみは、本当にストロベリー味なんだな」
本当はかすかに香ったというだけなんだけど、わざと大げさに言った。
あんのじょう、このみはその意味にすぐに気が付いてまっ赤になった。
「やっぱりだ。赤くなったし」
「今日のタカくんは意地悪であります」
「嫌いになった?」
くすくす笑いながらいうと、このみはふるふると首を振った。その大きな目は、俺だけを映している。
ああ、こいつは俺のことが本当に好きなんだな。と、俺は改めてそう思ったのであり。
同時に俺も、いま腕の中にいるこの昔からよく知っている女の子に恋してるんだということを、胸の痛みとともに
はっきりと自覚したのだった。
「じゃあ、もう一回……」
このみの背中に腕を回して支え、もう一度……。
さっきよりもゆっくりと、俺たちはキスをした。
※その9−3に続く※
リアルタイムー!
このむずがゆさがたまりません!
このみパワー充填で、これでまた明日から頑張れます。
ってことで、てんだーはーと9ー3まだー?
遅くなって本当にすいません。
連休にまとめ書きするつもりが、あっというまに三週間が経ってしまいました。
てんだーはーと、9−2をお届けします。
本当は次で10に移るつもりだったのですが、ガチンコ恋愛の覚悟をきめた貴明は
作者の想像以上にえっちな子で、どんどん長くなってしまいました。
その9で描いておくべきエピソードが残ってしまったので、9−3に延長させてい
ただきました。
次回を早くお届けできますよう、がんばります。
というところで、今日はこれにて。
新作キタワァ.*:.。.:*・゚(n゚∀゚)η゚・*:.。.:*!!
乙GJです!
>169
UHOOOOOOOOOOOOOOO!!!
毎回乙です。このみエネルギーもたっぷり補給しますた。
>>159 GJ!!!!!!
リトライのひとのミルファもいいが、こっちもいい。
>>169 GJ!!!
>>164 >スーパーのレジ袋に入った大きな新聞包み
これは・・・・まさか、タマ姉の生首?
これで二人っきりだよとか言ってにっこり?
俺はモーターサイクルやフレッシュで免疫あったからさほど。
それよりかSchool Days風東鳩2を作ろうとしたら、アレのパクリ呼ばわりされた…
>>176 スクールデイズはね、発売前の宣伝とかみても
とてもああいうダークな展開だとは思わなかったので、
なんかこう、騙されたっていうか、個人的に軽いトラウマに・・・。
もっと、こそばゆくて甘い感じの三角関係を想像していたのに、
なんか比喩ではなくマジで血がドバドバ流れるんだもの・・・。
あんまりこういうことは言いたかないがオーバーフローっておかしいだろ頭
何を今更
今更・・・なんだろうねたしかに
OPムービーが静かなる中条の時点で見限った俺は勝ち組。
スレ違いってか板違いな俺らは負け組
第五話を投下します。誤字脱字があったら、勘弁してくださいおながいします。
以下12レスほど続きます。
も〜ぉい〜くつ寝ると〜修学旅行ぉ〜ってか。俺、姉貴、貴明、このみのいつも通りのカルテットで、いつも
の様に通学中、修学旅行のお土産の話題になった。
「ねえねえ、タカくんは何買ってきてくれるの?」
このみはニタニタ笑いながら、貴明の袖を盛んに引っ張っている。
「そんなの、今から言うわけないだろ? 何が来るかわからないからこそ、お土産ってのはワクワクするものじ
ゃないのか」
貴明は苦笑しつつ、兄貴面して言った。
「えぇ、教えてくれてもいいのに〜〜〜。それじゃあ、えっとね、わたしから頼んでいい? わたしねぇ……」
このみはしつこく貴明の裾をブンブンを振り回しておねだりする。このみのヤツ、今日も今日とて可愛い妹分
を演じているな。ご苦労なこった。ただ、今日のこのみは、“妹”にしてはちょっとベタベタしすぎだな。貴明
の袖を掴むどころか、いつの間にか腕を組んで揺さぶっていやがる。貴明はすっかり逃げ腰だ。情けないヤツ。
実の兄妹より兄妹らしいと言われるこいつらだが、今は兄妹というより、仕事に疲れた管理職のオッサンに向
かって、若い愛人がアレ買ってぇヴィトンのバッグ買ってぇと必死にせがんでいるように見える。
ここ数日間のこのみは、こと貴明に関しては目の色からして違う。双子ちゃんたちのことなど貴明の記憶から
葬り去ろうと目論んでいるのかどうかは知らないが、何かにつけて必死に貴明にアピールするこのみの姿は、
痛々しさすら感じさせる。長年所属していた球団を解雇され、強豪球団にテスト入団した野球選手が、必死にな
って特打ちをしたり、アメリカンノックを受けたり、狂ったように投げ込みしたりしているようなものだ。
俺には、このみの気持ちがよくわかるよ。俺が女の子を口説くときも、その一瞬一瞬は必死なんだ。そりゃあ
振られた後では「なんであんな馬鹿女に声かけたんだろう、俺って見る目ねえな」って思うこともあるが、口説
いているその瞬間では、その女こそが運命の相手だと信じている。その女こそが俺の全身全霊を捧げるのにふさ
わしい相手だと信じている。もう、その女しか見ない、いや見えない。だからこそ、その女に溢れんばかりのパ
トスを全力投球し、どんな恥ずかしいことでも言ってみせるわけだ。イメチェン(笑)した姉貴に対しても、思
い出したが最後、即座に投身自殺しかねないようなセリフすら吐けたわけだ。しかも、二度も!
このみには、貴明しか見えていない。貴明以外に男は存在していない。俺などはただの幼なじみでしかなく、
まるで眼中にない。逆に、貴明はこのみのことを、幼なじみの妹分としか見ていない。これを悲劇と言わずし
て、何と言おう?
貴明は有料道路を、このみは脇の一般道を並行して走っている。傍目には仲良く併走しているが、その道路に
はジャンクションがない。いや、あったとしても進入できないんだ。そこはことごとく通行止めだったり、工事
中だったりする。「工事中」という看板を置いているのは、他ならぬ貴明自身なのかもしれないが。とにかくこ
のみは、どうあっても貴明のいる有料道路には入れないんだ。
このみは貴明からは見えないと知りつつ、ライトを激しくパッシングする。クラクションを鳴らす。貴明が携
帯電話をドライブモードにしていると知りつつ、携帯電話でひたすら呼びかける。このみが聴くのは、「タダイ
マ デンワニ デルコトガ デキマセン」という素っ気ないガイダンスだけ。でも、このみは決して諦めない。
それは、貴明を運命の相手だと信じているからだ。
そう言えば、このみは最近、怪しげな占いにハマっていると聞く。貴明は笑い話として俺に話したのだが、俺
に言わせれば、それは笑い話じゃない。このみはな、神とかコックリさんとか得体の知れないモノにすがってま
でも、お前を自分のものにしたいんだ。貴明よ、「工事中」という看板で誤魔化すのは、もう止めにしないか。
このみの渾身のラブラブアタックを、さも当然のように受け流す貴明。このみの必死すぎる“かわいこぶりっ
こ”(死語)な振る舞いとヤツのしれっとした態度に少しジェラシーな俺は、すかさず牽制球を放る。
「おいおい。雄二お兄ちゃんには訊かないのかい、マイハニー? どうせ頼むなら、こんな坊やよりグッとハイ
センスな俺に頼みなよ俺にさぁ。ロシアの戦闘機やエキノコックス以外だったらなんでも買ってきてやるぜ?」
「ああダメよ、ダメ駄目。家のお使いすら満足に出来ない口先だけのボンクラに、お土産なんか期待しちゃダメ
よ、このみ。何を頼んだところで、買ってくるのはつまらないコケシと決まっているわ。『こんなもんしかなか
ったワリイワリイ』って手前勝手な言い訳をして」
姉貴が余計なことを言いやがる。じゃあ、電動コケシならいいか? それならつまらなくないだろう? アン
タの感じている感情を鎮めるのには、指先だけじゃあ、いい加減物足りなくなってきたんじゃねえのか? 昨日
のことをあんまり蒸し返すようなら、こっちにも考えがある。ICレコーダーにあの恥ずかしい“騒音”の一部
始終を録音して貴明に聴かすぞコラ。もしくはインターネットで全世界に実況中継してやろうか。ひひひひひ。
「お使いすら満足に出来ないって、どういうこと?」
このみが怪訝そうな表情で姉貴に訊いた。
昨晩から繰り返されている姉貴の愚痴にいい加減にウンザリしている俺は、「そんなこと聞かなくていい、デ
マゴーグに惑わされるな」などと喚きながらこのみの耳を塞ごうとしたが、姉貴は素早かった。自動車工場のロ
ボットアームみたいに腕を伸ばして、俺のこめかみをグイと掴んでねじり上げた。あががががががががががが!
「このみ、聞いて。昨日、酒屋さんに『山春醸造』のお醤油を買いに行かせたんだけど……この子ったら、何を
トチ狂ったのかしらね、スーパーの特売品の醤油を買ってきたのよ。この馬鹿っぷり、我が弟ながら擁護のしよ
うがないわ、まったく!」
ギリギリギリと、俺のこめかみに圧力が掛かる。畜生、野蛮なメスゴリラめええええええええぇぇぇ!
「し、醤油には違いねえじゃねえか。ね、ね、値段だってずっと安いし、家計の助けにもなったろ! もろみ醤
油は売り切れだったんだから、そそそ、そうするしかねえだろうよぉ」
売り切れってのはもちろんウソな。それしか弁解のしようがなかったから。もろみ醤油は偶然出会ったメイド
ロボに差し上げました、なんて言えるわけねえよ。イルファが偏屈主人に追い出されなければ、いつか姉貴とイ
ルファが顔を合わせることだってあるだろう。そのとき、イルファに嫌な思いをさせるのはゴメンだ。責めを負
うのは、俺だけでいい。
「家計の助けだなんて、何を偉そうに。ウチではずっと、山春さんのお醤油を使ってきたのよ。それが変わると
いうことがどういうことかわかってないのよ、このバカタレは!」
『山春もろみ醤油』と特売品の醤油の差額は、自分の部屋に秘匿してあった俺のヘソクリから捻出し、お釣り
として姉貴に渡した。おかげで、今月はもうゲーセンにもヤックにも行けねえ。来月の小遣いも、今時の小学生
以下の水準だ。正直、死ねる。畜生め。
でも、いいんだ。イルファが幸せになれるなら。偏屈なご主人様にイジメられずに済むのなら。きっと、もろ
み醤油を生かしておいしい料理を作ってさ、ご主人様を唸らせたに違いない。そして、全部食べてもらえたに決
まっている。純粋なイルファが真面目に頑張っていれば、必ずいいことがあるはずなんだ。正義は必ず勝つん
だ。そして再びイルファに出会えたなら、きっとお互いに微笑みあえるはずさ。そうだろ、イルファ?
「よ、要するに……ユウくんが、タマお姉ちゃんが頼んだのと違うものを買ってきたってこと?」
「ええ、その通り。お使いだったら、雄二よりチンパンジーの方がまだ役に立つわ!」
そう言うと姉貴は鼻をフンと鳴らしてアイアンクローを解いた。俺は無様に地面に転がり、周囲で見ていた連
中の失笑を一身に浴びた。おい、姉貴ぃ。そこまで言うか普通?
傷心の俺に、このみがさらに追い打ちをかける。
「言い訳はダメだよー。勝手な判断をしたユウくんが悪いよ、それは。命令違反は、銃殺刑でありますよ?」
このみが俺に指を突きつけ、「バーン」と俺を射殺するマネをした。それを見て貴明がゲラゲラ笑った。これ
では道化だな。畜生め。
貴明と腕組みをして離れないこのみの姿を、俺は背後から見つめていた。うなじから肩にかけてのラインが中
学時代よりも明らかに柔らかくなっていて、ああ、こいつも女になってきてるんだなぁって感慨にふける俺。
そう言えば、このみの母親の春夏さんは、年齢を全く感じさせない、出るところが出て引っ込む所は引っ込ん
でいる理想的な女性だ。このみも最近はふっくらしてきたように感じるし、ひょっとしたら二十歳までに急成長
して、あんな感じになったりして? あり得ないとは、言い切れないわな。女ってのは、急に変わるものらしい
からな。姉貴だってそうだぜ、あんないい女(ただし外見のみ)になるなんて、弟の俺ですら夢にも思わなかっ
たからな。ガキの頃から姉貴=メスゴリラとしか思ってなかった俺は、どうせ姉貴は柔道とかやってそうな、顔
が四角ばって肩幅が広くて筋骨隆々のゴツイ女になるんだろうってタカをくくっていたんだ。それがどうだい。
お盆の時期にこっちへ戻ってくるたんびに、乳はデカくなっていくわ、うなじから肩、腰から尻、ふくらはぎに
至るまでのラインは完成度を増していくわで、絶世の美女らしくなっていきやがるんだから。高等部に入ってか
ら、その傾向にさらに拍車がかかって、背までスラッと伸びて、俺の理想のタイプに近づいていきやがったん
だ。中身は相変わらずのメスゴリラのくせに。畜生め。
もしもの話。突然にバン・キュッ・ボン!に成長したこのみの姿を見せつけられたら……俺は、このみを自分
のものにしたいと思うだろうか。俺はこのみを口説き落として、自分の女に出来るだろうか。
俺には……たぶん出来ないと思う。でもそれは、俺にこのみを奪う度胸がないとか、このみを最初から諦めて
いるとか、勝てない勝負はしない主義だとか、そういうことじゃない。違うんだ。
俺は、このみの気持ちを知っているからだ。中学時代、いや、小学校の頃から、このみは貴明のことが好きだ
ったんだ。最初は“お兄ちゃん”として好きだったのかもしれないが、いつの間にか、貴明のことを男として意
識していることも。そうでなければ、中学生や高校生になっても男の家に一人でお泊まりに行って、しかも一緒
の布団で寝るなんて、出来るわけがないだろう? そんなこのみの気持ちを知らないのは、貴明だけだ。だいた
い、実の兄妹だってそこまでしないぞ、普通は。俺と姉貴だってそうだ。一緒の布団で寝たなんて、幼稚園の頃
が最後だぞ? 今は、NASAの予算をくれるって言われてもゴメンだけどな。
貴明は自分がどんなに恵まれた男であるのか、てんで無自覚なんだよな。それが何より腹立たしいし、ヤツが
そんな体たらくだからこそ、こっちも『雄二お兄ちゃん好き好き大好き☆めっちゃ愛してる大作戦』をどうして
も成就させたくなるわけだ。ヤツには俺の思いなど、到底わからんだろうよ。
貴明が笑いながら、このみがお泊まりに来たときの様子を話すのを聞くにつけ、俺は羨ましさ、そしてある種
の妬ましさと同時に、どうしてコイツはこのみを抱かないのか、というもどかしさを感じていた。コイツは実は
ホモなんじゃないか、実は俺の尻を虎視眈々と狙っているのではないかと真剣に疑ったことさえある。いや、今
でもそうだ。水泳の着替えの際、絶対に貴明の隣で着替えないのは、そういう理由があるんだよ。
貴明が「このみは妹みたいなものだろ?」と言うたびに、俺は決まって貴明をたしなめる。「お前がいつまで
もそんなんだったら、このみは俺が獲って食っちまうぞ!」ってな。俺がそう言うと、今度は貴明の野郎、「お
い雄二、お前、バン・キュッ・ボン!のナイスバディーのお姉ちゃんが好きなんじゃなかったのか? いくら女
にもてないからって、そこまで志が低くなったとはな」などと鋭いツッコミを喰らわせやがる。畜生め。
まぁ、お互いの距離が近すぎる、っていうヤツの言い分は理解できないわけではない。しかし、理解はできる
が、それでも、わかるわけにはいかないんだな。もう少しこのみの気持ちも考えてやれ、と言いたくなるんだ。
俺にとってもこのみは“妹”同然だ。だからこそ、俺はこのみのことが心配になるし、応援したい気持ちにも
なるわけだ。俺が冗談めかして、このみに「マイハニー」とか「結婚しよう」とか「俺の女神」とか言うのも、
貴明の危機感を煽りたいためなのだが、さすがに軽薄すぎるか、このみはナメたような口を利いて俺をやり過ご
し、貴明はアホの子を見るような目で俺を見るわけだ。俺は本来多分に思慮深く、その発言もウィットに富んだ
ナイスガイであるはずなのだが、このみに対して――特に、貴明と一緒にいる場合――は、どうしても普段より
軽薄な態度を取りがちになってしまう。何というか、全力投球できないんだな。このみの心の中には、いつも貴
明がいることを俺は知っているし。それに、俺がマジでこのみに迫ったら、このみの純粋な想いを汚してしまう
ようでさ。
俺には、このみの走る道には進入なんか出来ないや。俺は、このカルテットの関係が続く限り、このみの前で
は道化を演じるしかないんだ。でも……まあ、それもいいさ。
「ねえタカくん。わたしね、キタキツネの縫いぐるみが欲しいな。それもね、白いキタキツネ」
このみの横顔が見える。このみの大きな瞳が輝いているのがわかる。このみは、貴明と並んで歩いて言葉を交
わすだけで嬉しいんだな。楽しいんだろうな。毎日繰り返していることのはずなのに、その一瞬一瞬に喜びを感
じられるんだ。
俺には、このみにそんな眼差しで見つめられた記憶がない。なのに……お前は、それが当然だと思っている。
「なんだ、食い物じゃないのか? これは珍しいこともあるものだ」
「む〜〜〜。ひどいよタカくん! わたしを食いしん坊みたいに言って。えりゃっ!」
ああ、このみがフルジャンプして、貴明の背中におぶさった。いつもの麗しい光景。相変わらず仲のおよろし
いことで、善き哉、善き哉。
「うがはっ! ギ、ギブ……」
貴明が何か喚いている。楽しそうですね。そのまま苦しんで地獄に堕ちてくれねえかな、なんて思っていた
ら、このみが離れた。つまんねーの。このみも根性ねえなぁ。
「食べちゃったらおしまいの食べ物よりも、何かカタチが残るものがいいんだ。だって、せっかくタカくんが、
その……買ってきてくれるんだもの……」
「そうか。じゃあ『ジンギスカンキャラメル』や『夕張メロンオムレット』はヤメにするか。せっかくお前が喜
ぶと思ってリストアップしたのにな。いやぁ、全く残念でならん」
「え、ええっ!? そ、それは……」
「んん〜、どうした? 欲しいのは、白いキタキツネだろ?」
「え、えっとね。その……どっちも欲しいでありますよ、隊長」
「ああ゛〜? 聞こえんなぁ〜〜〜」
貴明が某獄長のような仕草をして言った。やっぱりお前、地獄行け。
「むう。隊長、意地悪であります。いいもん、ユウくんに頼むから。ねぇ、ユウくん……」
このみは貴明へのそれとは明らかに違う愛想笑いで、俺に話しかけてきた。
「皆まで言うな。わかってるって。雄二お兄ちゃんが、可愛いこのみちゃんのために買ってきてあげるよ」
俺はこのみの頭を撫でながら、俺のスペック全開で、カッコイイお兄ちゃんスマイルを作って言った。
「やたー☆ さすがユウくんでありますよ!」
「コケシをな」
「……」
馬鹿な会話をしているうちに、俺の脳裏にある邪念がよぎった。
このみが――まずあり得ないだろうが――「わたし、ユウくんが好きなの」、「わたし、ユウくんじゃないと
ダメなの」、「抱いて、ユウくん」などと口走ることがあったら、俺はいったいどうするのか、と。
ははは。まったく、俺も馬鹿なことを考えるものだ。そりゃあ、貴明から人間としての尊厳を著しく傷つけら
れるような仕打ちを受けたとか、そういうことなら、そんな状況もあるかもわからないけどさ。そんなことは、
優しさが男の武器だと根拠なしに思いこんでいる貴明には到底出来ない芸当だ。そういう状況は、貴明に傷つけ
られたというより、つれない貴明の代償として俺を求めていると考えた方が妥当だろうな。だけど、俺は、貴明
にはなれない。俺はどこまで行っても、幼なじみのユウくんなんだ。「タカくんが振り向いてくれないから、代
わりにユウくんが抱いて」ってことだろ? 俺には……そんなこのみを抱くことはできない。むしろ、「マンズ
リでもこいてろ!」と一喝してでも、俺はそんなこのみを止めないといけない。そして、それが“兄貴”として
の責任だと思っているんだ。
俺は美男子だけど、なぜか女の子にはモテる方じゃないから、それは願ってもない申し出かもしれない。だか
らと言って、お互いの傷を舐め合うようなマネはしたくないんだ。俺は、俺の美学に背くことはできない。あく
までも、セックスには愛がなければダメなんだ。誰かの身代わりで抱いたり抱かれたりするなんて……それのど
こに愛がある? そんなもん、まっぴらゴメンだ!
俺は、俺は何を願っているのだろう。姉貴と貴明がいい仲になったら、それはそれで申し分ないとは思うが、
このみにも自分の想いを遂げて欲しいと思っているんだ。
矛盾しているのは、よくわかっている。でも、どっちも本当の気持ちなんだから、仕方ないじゃないか。
このみが貴明とくっついて、幼なじみから、彼女彼氏にクラスチェンジ。いいじゃないか。結構なことじゃな
いか。姉貴も、貴明の相手がこのみなら、呆気なく身を引くんじゃないかな。誰よりも大切な妹分なんだし。
肝心の俺のことは、別に何も心配ないよ? 何もな。俺は、こんな近場で満足する気はサラサラないんだぜ?
こないだ姉貴が俺に「このみに手を出したら殺すわよ」とか言ったことがあるけどさ、あれは、妹分のこのみ
を俺に汚させたくないとか、そんな単純な意味じゃあないんだよ。あれはもっと視野を広く持ってさ、外の世界
で自分にふさわしい相手を見つけて来いって意味だと、俺は解釈しているんだ。だから、俺がナンパ目的であち
こちに遠征しても、姉貴は眉をひそめるどころか、戦果の報告まで俺に求めるわけだ。何人に声かけたのか、ど
んな娘とお茶を飲んだのか、どんな話をしたのか、そして、寝たのか寝ないのか……。余計なお世話だっての。
やっぱり俺、一生姉貴の手のひらの上で踊り明かす運命にあるのかなぁ。こうなりゃ、タンゴでもジルバでも
河内音頭でも、なんでも踊ってやるぜ。畜生め。
・
・
・
「ふひひひひ。お奉行様、ピンク色のCDでございまする。お納めを」
「うむ、向坂屋。大儀であるぞ、ふっふっふ」
教室で、布袋に入った例のブツ――メイド調教ゲーム(18禁)――を貴明に譲渡した。先生や委員ちょに見
つかったらかなり面倒なことになるので、中を開けて確かめることは無理だが、奴はホクホク顔で受け取った。
「で、結局どーすんだ? このみへの土産さ、白いキタキツネだけにするのか?」
俺は貴明に訊いた。
「もちろん食い物だって買うよ。おばさんたちへのお土産も必要だしな、まとめて渡せばいいことだろ」
「それもそうだな」
俺は、姉貴の前では出来なかったメイドロボの話をした。今までに見たことのないタイプだということ。青い
ドールヘアーが天使のように美しかったこと。とてもロボットとは思えない、豊かな感情表現の持ち主だという
こと。偏屈者のご主人様に虐待されていること。困っているところを助けてあげて、自己紹介しあったこと。も
っとも、俺がイルファにしたことについては、真実を語るわけにはいかない(姉貴に喋られたら困る)ので、高
い場所に置いてある商品が取れずに困っていたところを俺が代わりに取ってあげた、ってな感じに適当にデッチ
あげておいた。
「いくら女にもてないからって、メイドロボをナンパするか普通? タマ姉が聞いたら嘆くだろうなぁ。雄二も
そこまで墜ちたか、ってさ」
貴明は呆れたように、ハハンと笑った。
「お前には、なんにもわかっちゃいねえ。イルファちゃんはな、普通のメイドロボじゃねえんだよ。“哀しみ”
とか、“怒り”とか、普通の人間みたいな感情を持った特注品なんだよっ。心だよ。ソウルだよ。ハートがある
んだよっ!」
「“心”を持ったメイドロボ、ねぇ。昔この学園にいた、HMX−12みたいなものか?」
「まぁ、そんなところかな」
HMX−12ってのは直接会ったことがないからよく知らねえけど、傍目には人間にしか見えない感情豊かな
メイドロボだったと聞く。去年、ある先輩に話を聞いたことがあるんだ。その人と一緒に写っている写真も見せ
てもらった。見かけはHM−12みたい(つーかHM−12そのもの)だけど、その“娘”は笑っていた。ティ
ッシュ配りやウェイトレスをしている時みたいな営業スマイルじゃなかった。友達と一緒にいるのが心の底から
楽しそうな、いい顔をしていたっけ。ああ、可愛かったよ。
「心を持ったロボットなんて、見た人間じゃなけりゃ信じられねえか。でも、イルファは、本当に人間の女の子
みたいでさ。俺はな、どこか哀しげなオーラを湛えたイルファを、ほっとけなかったんだよ」
「俺も知ってるぞ、“心”を持ったロボットを。だから、雄二の気持ちはよくわかるよ」
貴明はさっきまでのふざけた調子を抑えて、確かにそう言った。
「貴明、HMX−12を見たことがあるのか? それとも……?」
俺は、貴明に訊いてみた。急に態度を変えたからには、もしかしたら、コイツはイルファのことを知っている
のではないかと思ったからだ。
「いや、メイドロボじゃない。クマのトイロボットさ」
俺は、ちょっと拍子抜け。
「トイロボット? なんじゃそりゃ?」
「話すと長くなるんだけどな……」
その時。俺の額にピキーンと稲妻が走った。教室の外から、何者かの殺気を感じたのだ。
このザワッとした感覚は、廊下から来るというのか!?
視線の先には、ヤツがいた。女ロシア兵じゃなくて、アンナじゃなくて……そう、ミステリ研の笹森花梨が。
俺は貴明に「ワリイ、小便」と声をかけると、席を立った。
俺は心のどこかで動揺していたのか、少しよろけて貴明の机上にある突起物と接触し、そいつを床に落として
しまった。それは、貴明にくれてやったエロゲーの入った布袋。さっさとロッカーにしまっとけ、この馬鹿。
「貴明さん、袋が落ちましたよ?」
最近転校してきたばかりの長い黒髪が魅力的な女の子が、そいつを拾おうとした。
「触るな、手が腐って落ちるぞ!」
「あうっ……!?」
俺は彼女を一喝して袋を引ったくり、そいつを貴明に押しつけた。
「……雄二、女子を怒鳴りつけるなんて、お前らしくもないな。何か、気に障ることでもあったか?」
貴明は、俺に一喝されてポカーンとしている女の子と俺の顔とを交互に見ながら、ポツリと言った。
「何もねえよ。ただ、廊下に生えてるパイナップルの木が邪魔なだけだ。だから、刈ってくる。それだけだよ。
俺はな、常に、ハッピーな人生を願っているんだ、俺とお前のな。ただ、それだけのことさ。俺たち、幸せにな
ろうぜ? それじゃあ、小便してくる」
俺は、改めて廊下に向かった。
「雄二……!?」
貴明はきっとマヌケ面で俺を見てるだろうが、俺はもう、振り返らない。
「あのぅ、貴明さん。それ、何が入っているんですか?」
「あ、草壁さん……。その……本だよ本、あはははは……」
「本? 貴明さんって読書の趣味があったんですね。素敵ですね。好きな作家って誰ですか?」
「いや、あれだよ、マンガみたいなものだから……」
「文体がマンガみたいってことですか? すると、最近の作家さんが好きなんですね」
「うん……まぁ……」
上手く乗り切れよ、貴明。先生にバレたら、俺もテメエも反省文だからな。
異様な空気が立ちこめる廊下へ向かうに連れて、俺を呼ぶパイナップルかヒトデアタマの声が一層強くなって
いく。それは、俺を暗黒面に誘う声か。『雄二お兄ちゃん好き好き大好き☆めっちゃ愛してる大作戦』成就のた
めとはいえ、脳内軍師の甘言に乗って花梨と手を組んで良かったのだろうか?
姉貴はいつも俺たちに言う。「言い訳しない! 結果がすべてよ」と。ならば俺は、花梨をも踏み台にして、
双子ちゃんをも手に入れられる男になる。無論、貴明にも“幸せ”になってもらうさ。俺の、向坂家の遺伝子に
潜む脳内軍師が、また色々と策謀を廻らし、様々なアイデアが俺の脳裏にグルグルと広がっていく。
やってやる。やってやるさ。俺は息を軽く吐くと、廊下に出た。
話が本格的に動くのは、この次からです。
今回はあっさり風味ですね。
それでは、また。
ジャンクションの下りに感心しました。
雄二かっこいいよ雄二。
HM-17が発売された。
販売価格が、HM-16よりも大幅にダウンしたこともあり、
HM-17姉妹は飛ぶように売れた。
それは、発売後の来栖川エレクトロニクスの株価を見れば一目瞭然である。
三種類の容姿と性格。
まるで人間の女の子のように振る舞い、恋までする。
今まではお金持ちの家にしかなかったメイドロボが、
一般の家にも普及するきっかけにもなった。
しかし、それは新たな問題を生んだのだった。
少子化問題。
最初は、秋葉原に集まるオタクの間で起きた。
現実の女性に恋する事の出来ない男性が、メイドロボ市場を活性化させた。
ゲーム・アニメなど二次元の女性にしか恋することの出来ない彼らは、
持ちうる財を投げ売って、メイドロボを買い漁った。
けして所有者の男性を裏切ることのない理想的な彼女。
それは彼らの望んだ二次元の女性に近いものだった。
だが、それは徐々に一般の人間にも浸透していったのだ。
恋に破れた男性、結婚しパートナーに失望した男性、恋することに臆病な男性。
そんな世の男性達がこぞってメイドロボを求めだしたのだ。
街には一人きりで寂しい女性があふれかえった。
だが、完璧な容姿を持ち、男性の求める理想像を体現したような彼女たちに、
生身の女性達が敵うわけがなかった。
メイドロボは我が儘を言わない。
メイドロボは歳をとらない、体形も崩れないし、
いつでも可愛らしい容姿を見せることができる。
体だけの関係でもかまわないからと、道行く男性に声をかける彼女たち。
しかし、男性達は振り向くこともなかった。
多くの女性は二次元の男性に逃げた。
同性に走る者も多かった。
しかし、男性を諦めることの出来なかった女性達は存在した。
「メイドロボは人類の敵である!」
薄暗いビルの地下室。
壇上で若い女性の演説。
「我が敵は、来栖川エレクトロニクス!」
壇上の女性に続きその場に集まった女性達が繰り返し叫ぶ。
そして、来栖川エレクトロニクスと女性達の熱き戦いが始まるのだった。
来栖川エレクトロニクスの工場へ乗り込み、
制作途中のメイドロボを破壊する女性達。
工場に火を付ける女性達。
来栖川側もそれに対抗すべく戦うが、相手の数が多すぎる。
次々と攻め落とされ、残るは長瀬の居るHM研究所のみとなった。
「こんなはずじゃなかった・・・・・。」
「おっちゃん・・・メイドロボは人間の友達やろ? どうしてみんな・・・」
「瑠璃様、珊瑚様、長瀬主任を連れて逃げてください」
「いっちゃん!?」
「私が時間を稼ぎます」
「でも、姉さん・・・・」
「ミルファは、シルファと一緒に瑠璃様達を連れて逃げて」
「だったら私も姉さんと一緒に・・・」
「あなたまで、私と一緒に残ったらこれから誰が瑠璃様達を守るのよ。
それに、最後ぐらい、姉らしくねっ」
それだけ言うと、イルファはミルファ達を研究室の非常ルートへ続く扉へ押し出した。
「貴明さんによろしくね」
イルファは扉の前に座り込むと、来訪者達を歓迎する準備を始めるかのように静かに目を閉じた。
という夢を見た。
夢オチかい!w
GJw
いい夢だ
感動した
ワロスw
夢オチって便利だな
ちょびっツみたいだな…w
でも今の女性はドライなの多いから「男女平等の見地から美少年型ロボも造ってくれ!」って
注文が殺到しそうだ。
東鳩1でそんなSSあったな、
たしかレミィが達磨にされて、
あかりがレイプされた挙句人間爆弾、
とかそんな展開だったような気がする。
13連投行きます
「わー、ここが貴明の家なんだー。結構大きいんだねー」
何故か途中で本気になって追っかけっこをしたりしつつ何とか買い物を終えて家に帰ってきた。
「そうか?タマ姉とかの家の方が圧倒的に大きいぞ」
「そうなんだー」
ミルファは適当に相槌を打つと俺の家を外からキョロキョロ見渡す。
一歩間違えれば不審者そのままだ。
「何そんなに見てるんだ?」
「だってこれからここに住むんだよ?何だか嬉しくって…」
えへへと照れながら門の前で立ち止まる。
「どうした?」
「えっと…これからよろしくお願いします!」
そう言うと俺の家に対してお辞儀をするミルファ。
その行動に何故だか俺が照れてしまった。
「ほら、入るぞ」
「あ、うん」
ミルファは俺がドアを開けたまま待っているとトテトテと家の中に入ってきた。
中に入ってもキョロキョロしている。
「ねぇねぇ、貴明の部屋ってどこ?」
「俺の部屋なら2階だけど…」
「そっかー」
そういうと早足で2階へと向かう。
「お、おい!ちょっと待てよ!」
ミルファを追っかけて階段を上る。
先には階段を上ってる途中のミルファがいてミルファはスカートを履いている。
そんなことも忘れて上を見上げると
「うぉ!」
目の前に見えるのはミルファの綺麗な足とその先には…
「え?」
俺の変な声にミルファがこっちに振り向く。
少しの間があった後に
「キャー!!」
げし!
大きな叫び声とともに強烈な蹴りが俺の顔面を捉えていた。
「ぐはっ!」
強烈な後ろ蹴りを食らった勢いで階段から転げ落ちてしまった。
「貴明のスケベー!!」
ドカドカと階段を上っていくミルファ。
誘ってきた(?)と思ったら怒られて…本当に忙しいなぁ。
まぁ普通に下着を見られたら怒られるのは当然か。
鼻をさすりながら恐らくミルファが居るであろう自分の部屋へと向かう。
丁寧にドアが閉められておりドアを開けるとベッドに座って何かを読んでいるミルファが居た。
「ミルファ?何読んで…」
と、ここまで言ってそこから先の言葉が出なくなった。
昨日雄二から
「いいからこれを読んで萌えを知れ」
と言われて半ば無理やり渡されたメイド物のエロ本をベッドの下に隠しておいたのだ。
……別に後ろめたいからとかそういうんじゃないからな。
「ミ、ミルファぁ?」
「貴明…」
顔を真っ赤にしながら本の上から上目がちに見てくる。
か…可愛い。
けど状況が状況なわけで。
「な、何?」
「貴明はメイド服の方が好きなの?」
「あ、いや、それは俺の好みじゃなくて雄二のこのみなわけであって…その、えっと」
「ふーん…」
俺が曖昧な回答をすると少し潤んでいた目がじとっとした目に変わる。
「ほら、そんなことよりも夕飯!夕飯にしよう!」
「はーい」
渋々本をベッドの上に置くと俺のほうにやってくる。
「どうしたの?」
「えへへー。かしこまりましたご主人様☆」
「なっ!」
良く本でメイドさんがご主人に対して言う口調で言ってくるミルファ。
そのむずがゆいような恥ずかしさのあまりミルファから目を背ける。
「ほらっ、下にいこっ」
いじわるが成功した子供のような無垢な笑顔を浮かべたまま俺を引っ張っていく。
何か振り回されてばっかりだな…
1階に下りるとミルファはすぐにキッチンへと向かい夕飯を作り始めた。
流石はメイドロボといった感じの手つきでテキパキと料理を作る。
自分の良く知っている台所で家族やこのみ以外の人が料理を作っている。
その今まで無かった状況に少し不思議な感覚を受ける。
「ご飯はまだですよー」
俺の視線に気づいたのかミルファが料理をしながら言ってくる。
なんとなく気恥ずかしくなった俺はテレビに目を向ける。
内容は特に面白くも無い番組だ。
ただ今の感情を落ち着かせるにはこんなのでも十分だった。
「はーい、でっきまーしたー♪」
「おー、凄いなぁ」
出来上がったのは酢豚だった。
「ごめんね。時間が無かったから酢豚の素つかっちゃった」
いわゆるタレが既に調合済みのを使って炒めた野菜とあわせただけのもの。
しかし豚がきちんと揚げられていて実においしそうだ。
「いや、家庭で1から作るほうが大変なんだしこれでも十分凄いよ」
「えへへ…」
褒められて嬉しそうにするミルファ。
やはり喜んでもらえるのが至上の喜びなんだろう。
「じゃあいただきます」
手を合わせてからさっそく一口。
モグモグ…
「…」
「…どう?」
「これ本当に既製品?」
「うん、そうだよ?不味かった?」
俺の一言で不安そうな顔つきになるも
「すげー美味いよこれ」
「ほんとっ♪」
次の一言で満面の笑みへと変わった。
表情がコロコロ変わるのを見ているだけでも面白い…いや、可愛かった。
お世辞抜きでミルファが作った酢豚は美味い。
豚肉に下味でもつけているのだろうか凄くやわらかくてそれでいてカリっとしている。
たけのこ、人参、ピーマンと野菜のしなびすぎずそれでいて味がしっかり染み渡っていて美味しい。
既製品でこんなにも美味く作れるなんて知らなかった。
お袋大分手を抜いてたんだな…
黙々と食う俺をひたすらニコニコ見続けるミルファ。
食べてる最中にずっと見られてるとなぁ…どうも気恥ずかしい。
そんな無駄な思考を紛らわせようとひたすらに食っていると
「むぐっ」
急に食べたせいで喉に…つまっ…
「はい、お水」
ゴクゴクゴク…
「プハーっ!あー、死ぬかと思った」
「フフフ、そんなに急がなくても誰も取らないですよー☆」
「まぁそうなんだけどつい美味くてな」
「そっかー」
ニコニコし続けるミルファ。
そんな視線に耐えつつ作ってもらった量をすぐに完食してしまった。
「あー美味かった。久々に手料理食ったなぁ」
「良かったー。イルファ姉さんに教えてもらったかいがあったなぁ」
「イルファさんに教わってたんだ?」
食後に椅子の背もたれに寄りかかりながら台所で洗い物をするミルファとの会話。
そういえばたまにイルファさんが居ない時があって珊瑚ちゃんに聞いたら
『研究所に行って報告とかメンテとかしてもらってんねん』
って言ってたけど本当はミルファに料理を教えてたのか。
「最初作るまでは少し不安だったんだ。失敗したらどうしようってね」
「そんなに気負わなくても良いのに」
「むー、貴明はわかってないなー」
洗い物をして下を向いているミルファの口が尖がる。
「何を?」
「だって記念すべきミルファちゃんの初手料理だよ?ここで良い印象を与えれば…」
「与えれば?」
と、ここでミルファがハッと何かに気づいたように一瞬止まった。
「あ、えっと」
「?」
「た、貴明に失望されないで済むかなーって…ね」
「ふーん、そっか。それならぜんぜん問題なし、だな」
「そうだね。良かった良かったー」
何故かミルファの食器を洗う動きが早くなる。
表情を読み取ろうにも俯いているのでわからない。
ま、気にしてもしょうがないか
『ミルファ、男性っていうのは手料理に弱いのよ』
『そうなんだ…』
『そうよ!ここで美味しい料理を貴明さんに食べさせればもうミルファにメロメロ!
ミルファちゃんすきすきすきーになるわ!
だ・か・ら!』
ガシっとミルファの両肩をつかむイルファ。
『頑張るのよ!』
その目には何故かギラリと光るものを感じる。
『ね、姉さんキャラが変わってる…』
食後にリビングに戻った俺はテレビを見ながら時間を潰す事にした。
ミルファは台所を自分が使いやすいように整理しているようだ。
〜数時間後〜
「貴明ー、もうお風呂入るー?」
「うーん」
時計を見ると11時過ぎ。明日のことも考えるとそろそろ入ったほうが良い時間だ
「そうだな、入ろうかな」
「了解しました。それじゃあお風呂溜めてくるねー」
そういうとミルファはトテトテと廊下に出て行った。
「あれ?あいつ風呂の場所わかるのか?」
少し疑問に思ったがまぁ風呂場なんて廊下に出ればすぐにわかるし問題は無いだろう。
そのままテレビを見ていると
「み゙ゅぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
風呂場のほうから奇妙な鳴き声、いやミルファの声がする。
「何だぁ!?」
急いで風呂場に行ってみるとそこには全身びしょぬれになったミルファが居た。
頭からシャワーを浴びている状態。
しかも服を着て。
「お、おい、大丈夫か?」
「みゅー…これが大丈夫にみえるのー」
栓をひねってシャワーを止めるとずぶぬれになって風呂場でぺたんと座ってしまっている
ミルファがこっちを怒った顔つきで見てくる。
「いや、みえないけど」
「お湯入れようと思って蛇口ひねったらシャワーからいきなり出てきて
あわてたら滑ってこうなっちゃったの!!」
手をブンブン振り回しながらこうなってしまった経緯についての説明をしてきた。
「あ、昨日シャワー浴びてそのままだったかも。ごめん」
恐らく蛇口とシャワーを切り替えるスイッチを蛇口に戻し忘れていた。
そしてそれを知らずにミルファは栓をひねってしまったのだろう。
「…」
ずぶ濡れになって髪の毛を頬に貼り付けながらこっちを見てくるミルファ。
そのまま見つめられる(睨まれているとも言う)のに耐えられなくなった俺は
洗面所からタオルを出すとミルファに差し出してあげた。
「ほら、これで拭きな。着替えもあるだろ?着替えてきたほうがいいぞ」
「うん…わかった…」
そういうと口を尖らせたまま頭からタオルを被ってゴシゴシしながら風呂場を出ていった。
せっかく風呂場に来ていることだしそのまま浴槽にお湯を溜める事にした。
数分した後に浴槽がお湯で満ちたため早速風呂に入ることにした。
少し熱めのお湯に体を沈めると大きく息を吸い、吐く。
今日は何もかもが忙しかった気がする。
瑠璃ちゃんと初めて二人きりで帰り、ミルファと再開し、そしてミルファと一緒に住むこととなった。
「まさに波乱万丈…かぁ」
湯気で白む風呂場の天井を見上げる。
そのままボーッとしていると洗面所のドアが開く音がした。
「貴明?もう入ってるの?」
「あぁ、入ってるよー」
ドアの方を見ていると曇りガラスなので詳しくはわからないのだがミルファが何かをしているようだ。
さっきので服も濡れた事だし恐らく洗濯物でも入れてるのかな。
と湯船に浮かびながらボーッとドアを見ていると突然
ガラガラッ
「入るよー」
「…!!!」
あまりの驚きに声が出なかった。
ミルファがいきなり風呂場に入ってきたのだ。
しかも服を脱いでタオル一枚だけを巻いて。
「ほら、背中洗ってあげるから出てきなよ貴明」
「ばっ…な、何いきなり入ってきてんだよ!」
「だって、背中洗ってあげるのって普通でしょ?」
「ふ…普通じゃない!」
ミルファに目が合わないように顔を壁に向けて声を風呂場に響かせる。
「まぁ、細かいことは気にしない☆ ほら、出てきなよー」
出れるわけがない。
結構良い体型のミルファのバスタオル姿を見て出れるわけがないのだ。
だって…お、大きくなってるわけで…。
「いや、また今度で、ね?」
「だめー!お背中流すのー!」
出た、ミルファの我侭攻撃。
どうもミルファは自分の思うように行かないと駄々をこねる癖があるようだ。
…メイドロボだよなぁ?
「ほーらー、出るのー」
ミルファが俺の腕をグイグイ引っ張ってくる。
「こ、こら!そんなにひっぱらな…」
と、ふとミルファの方を見たところで全思考が停止した。
ハラリ
巻いたタオルを気にせずに引っ張ってきてたせいかミルファの巻いていたタオルがはだける。
はだけたというわけで体に身につけているものはなくなるわけdくぁwせdrftgyふじこlp
「貴明どーし…」
俺の動きが止まった所でミルファがふと自分の胸元を見る。
何も巻かれておらずに露わになっている大きめな胸がそこにはあった。
「き…」
「キャァァァァァァァァ!!!」
顔を真っ赤にして引っ張っていた俺を今度は押し飛ばす
無論反対側は壁なわけなので
ゴンッ
「ぐぉっ!」
「ばかぁ!貴明のスケベー!!」
「おれが悪いのかよ!?ちゃんとタオルくらいまいとけって!」
ミルファは顔を真っ赤にして恥ずかしがりながらタオルを巻きなおした。
「もう…貴明が早くあがってこないのが悪いんだからね!」
「わかったから…上がるからこっちみてないでくれよ」
「はーい」
ミルファが向こうを見ているのを確認してそそくさと浴槽から出る。
そして椅子に座る。
しかしアレは大きいままなのでちゃんと座れるわけもなく…
「もういい?」
「あ、あぁ」
「…なんで前かがみになってるの?」
「気にするなって」
「よし、じゃあお背中流しますねー☆」
スポンジをワシャワシャと泡立てて背中を洗ってくる。
こんなのされたことがないからなんとなくこそばゆい。
たまに背中に当たるミルファのすべすべとした肌にドキっとする。
そして前かがみを解除することが出来なくなってしまう…
ミルファは楽しいのか鼻歌を歌いながら背中を洗ってくれる。
「はーいお湯流しますねー」
お湯で泡を落とされて何とか終わってくれた。
背中を洗ってもらうのってこんなにも疲れるものだったのか…はぁ。
「ほら、じゃあ今度は前ねー」
「な…っ!」
思わずミルファの方に振り向くとそこには悪戯っぽい笑みがあった。
「冗談だよーだっ」
「まったく…」
「じゃあお風呂はいろっか」
「また冗談なんか言ってるんじゃないの」
「え?冗談じゃないよ?」
「冗談じゃなくても駄目!ほらもう出るの!」
「ちぇっ。はーい」
そういうと不満そうにミルファはやっと風呂場を出て行ってくれた。
風呂場ででも疲れるなんて…もう勘弁して…
その後ぐったりしつつ風呂を出た俺は水分を補給した後そそくさと寝る事にした。
このまま起きてたらさらに疲れそうでたまらなかった。
というか体が休息を求めていた。
「もう俺寝るな」
「はい。おやすみなさい貴明☆」
「おぅ、おやすみー」
そういってリビングから去ろうとするとミルファが腕を引っ張ってきてそれを阻止してきた
「ん?どした?」
「駄目だよ貴明。おやすみなさいって言ったんだからおやすみなさいって返すのっ」
あまりの疲れに返すのも一瞬ためらったがミルファの「めっ」って表情についつい頬が緩む。
俺ってこんなに女性の表情に弱かったかなぁ…
「おやすみなさい」
「はい。おやすみなさい☆」
ちゃんと返してくれたのが嬉しかったのかミルファは笑顔で返してくれた。
そしてそのまま自室のベッドに倒れこんだ俺は明かりを消し、暗くなった天井を見上げた。
今まで女性と話すだけでも緊張していたのが瑠璃ちゃん、珊瑚ちゃんと出会ってから少しずつ変わってきた。
そしてミルファ。
彼女のコロコロ変わる表情と会話には特に緊張をしなかった。
いや、最初は確かに緊張もしたがミルファの人間くさい所を見ているうちにそんなのはいつの間にか無くなっていた。
もしこれが新しい技術の賜物だとするのなら人間の智慧とはこんなにも凄いのかと感心してしまう。
コンコン
暗い中でそんな事を考えているとドアをノックする音がした。
「ミルファか?どうした?」
「あ、起きてた?」
「ん、まだ…な」
ミルファはゆっくりとドアを開けると明かりもつけずに部屋に入ってきてドアを閉める。
しばしの静寂の後ミルファが口を開く。
「ねぇ、貴明…あたし本当に来て良かったの?」
今までは見せていなかった少し弱い心配そうな口調で話してくる。
「まぁ何だかんだで一気に決まっちゃったけどさ…」
暗闇の中ミルファの体がビクっとする。
「今日一日凄い楽しかったよ」
「本当?」
「本当」
「本当に本当?」
「本当に本当」
「本当に本当に本当?」
「だーっ!もう良い!本当だって!」
「だって…凄い心配だったんだもん…」
確かに初めての体験ばかりで失敗もして、不安でいっぱいだったんだろう。
俺はベッドに腰掛けてミルファの方を向く。
「これからもよろしくな、ミルファ」
「う…うん!」
暗闇で良くわからなかったがミルファが笑った。
そんな気がした。
第4話でやっとミルファと貴明の絡み三昧になれました。
旅行前に何とか形になってよかったorz
個人的な理想のミルファはRE-tryのミルファなので少しでも近づけるようがんばります。
GJGJ ミルファイイヨイイヨー!
乙〜
GJ!!
Brownish Storm続き楽しみにしてますじゃ。
TH2ssリンク巡ってもミルファ物あらかた読んじゃったし、
ミルファ物の良作に飢えてますじゃ。
RE-tryの人も新作書いてくれんかのぉ。
どれだけ歩いても虹には辿り着けなかった。
当然だ、虹に近づくことなんて不可能なのだから。だけど不可能だと知らないということは、それは当時の
俺にとっては間違いなく可能なことのはずだった。不可能だと知らなければ不可能なんてことはない。時とし
て無知はなによりも強い。
俺は歩いた。いつしか知っている光景が消えてなくなり、見知らぬ町を歩いても、俺の進む道は変わらな
かった。
ただ、虹へ。
虹へ。
決して届かない、虹へ。
--虹の欠片-- 第三話
「わたしね、もうユウくんとえっちしちゃった」
果たして俺はその言葉の意味をちゃんと理解できているだろうか。それはつまりこのみを雄二が抱いたと
いうことだ。抱いたというのはつまりセックスしたということだ。セックスしたということはつまりこのみの肌に
雄二の肌が重ねあわされたということだ。雄二のペニスがこのみのヴァギナに突き刺さったということだ。
それだけの言葉が頭に浮かびながらも、決して俺はそれを理解できなかった。それとも理解しようとはしな
かった。頭の中は真っ白で、ただこのみがいて、俺のリビングで、グラスについた水滴が滴ってテーブルに
溜まりを作っていた。それだけを認識するのにどれだけの時間を必要としたか分からない。
「……それでも……」
それでも俺はこのみが好きだと思った。このみが処女だから――いやそれも俺がそう思っていただけなん
だけれど――好きだったわけじゃないし、このみが雄二と寝たことがこのみを嫌いになる理由にはならな
い。それは理屈であるというよりは感覚だった。
――ただ心は苦しかった。
「このみは俺が嫌いになった……?」
「そんなことない。そんなわけないよ」
その言葉にウソは無かった。それすらも解ってしまうくらい俺はこのみのことを知っていた。
「タカくんのことは好きだよ。でも今はユウくんのことも好きなの……」
「なんで……」
どうして二人の人を一緒に好きになったりできるのか、俺には理解ができなかった。それは俺はタマ姉の
ことだって好きだ。けれどこのみへの好きとタマ姉への好きはまったく違う。
断言できる。
だからそれこそがこのみじゃないとダメな理由で、このみを女の子として見ている証拠でもあるのだ。
「タカくんね、やっぱりわたしのこと女の子として見てくれてなかったよ……」
そんなことはないと言いたかった。けれどつい先日まで確かに自分がその気持ちを誤魔化し誤魔化し続け
ていたのは本当のことだった。
「わたしがあんなにぴったりくっついてても何もしてくれなかった」
でもだって、このみがぴったりくっついてくるのはいつものことじゃないか。だから俺はいつもと変わらないこ
とだとしか思っていなかった。そりゃ確かにこのみと付き合いだしてからというものこのみは前よりずっと甘え
たがりになった。いつだって俺にぴったりくっついて、俺はそんなこのみを愛しいと感じていて……、でも
……、え……?
このみは今なにを言ったんだ?
――何もしてくれなかった。
…………?
それで気づく。俺たちのすれ違いに。
俺の愛し方と、このみが求めた愛され方の違いについて。
「それでね、タマお姉ちゃんとか、ユウくんに相談してたの。タマお姉ちゃんは焦らないでじっくり行きなさ
いって言ってくれてたけど、ユウくんは違った……。ユウくんはね、怒ってたよ」
怒ってた? 雄二が?
でも雄二が実際にそんな素振りを見せたことは一度も無かった。今となって実感できる何かがあるとすれ
ばこうして夏休みになってから一度も雄二が顔を見せていないことくらいだ。
「タカくんを殴りに行くって言うユウくんを止めながら、それが凄く嬉しかった……。けどユウくんはわたしのこ
とを応援してくれてたし、わたしもユウくんのことは大好きだけど、それはタカくんへの気持ちとは全然違って
た……」
このみがグラスに手を伸ばしかけて、その手を膝の上に戻した。
「あの日ね……」
つまりこのみが俺の寝室にやってきた夜のことだ。
「ああするってこと、ユウくんには言ってあったの。ユウくんはガンバレよって言ってくれた。だけどタカくんは
抱いてくれなかった。それはね、仕方ないと思うんだ。わたしに魅力が足りなかったんだもんね。タカくんに
とってわたしは女じゃなかったんだよね」
俺になにが言えただろう。
そんなことなかった。このみは十分魅力的だったよ?
けれどなによりも俺がこのみを抱かなかったことこそがこのみにとって、それがウソである証明だった。
――違うんだ!
俺は心の中で叫び声をあげた。
違うんだ、このみ。俺はあの時、このみを抱きたくて仕方が無かったんだ。だけど俺があのとき抱きたいと
感じたのはこのみがこのみだからじゃない。目の前にただ魅力的な女の子がいたからで、きっとそれがこの
みじゃなくても良かった。このみという女の子を抱きたいと思ったわけじゃなかった。
……言い訳だ。
言い訳だと解っていたからそれを言葉に変えることがどうしてもできなかった。
「そうして泣いたら、ユウくんはとても優しく、優しくしてくれたよ。本当はね、ユウくんにはずっと、もうずっと
前に一度告白されてたんだ……」
え……?
それは完全な不意打ちで、俺はなにがショックだったのかすら解らない。
雄二が……このみを……?
でもだってアイツの好みの女の子はどちらかというとこのみとは正反対で、まるでタマ姉みたいなタイプ
だったんじゃなかったのか?
「でもその時、まだわたしは全然そういうこと解らなくて、ユウくんは笑って「だろうな」って言って、「それにこ
のみは貴明が好きだからな」って、そう言ったの。その言葉の意味が分かったのはそれからまだずっとずっ
と後のことだった……」
それは一体どれくらい昔の話なんだろうか。このみの言葉からはまったく分からない。俺とこのみが付き合
い始める直前のことのような気もするし、数年前、下手をすると幼少時代のことのようですらある。
「ユウくんは「貴明が知ったら遠慮するから、秘密にしておいてくれよ」ってそう言ってた……。だからじゃな
いかな……」
だからなんだろう。
雄二はその気持ちを隠すためにずっと俺の前でこのみとは正反対の女の子を追いかけ続けていた。あた
かも自分はそういう女の子だけに興味があるような素振りで……。
「その時はまだよく分かってなかった。けどタカくんのことを好きになって、いっぱい傷ついて、苦しんで、そう
したらユウくんの気持ちが分かっちゃった……。そしたらね、我慢ができなくなっちゃったの……」
「…………え?」
あまりに言葉の繋がりに脈絡がなさ過ぎて、俺はその意味を理解しながら理解しなかった。
雄二がこのみを好きだったのは分かった。実感はないけれど、そういうことだったのだと理解はできる。だ
から傷ついたこのみを慰めるために……で、は、ない?
冷え切った体は、まだ冷えることができた。血の気はいくら引いても、また引くのだと知った。
「わたしから誘ったんだよ……」
その言葉は何よりもトドメの一撃だった。
喉はカラカラで、胃も、肺も、乾き切っていたのに、目の前のグラスに手を伸ばす気にはどうしてもなれな
かった。多分、体を動かすことすら怖かったのだと思う。
「だからわたしはもうタカくんに好きでいてもらえる資格なんてないんだよ」
そうなのか? 本当にそうなのか? 資格なんて必要なのか?
俺はこのみの言葉の中にどうしても違和感を拭い去ることができない。
何かおかしい。何かがおかしいんだ。
――だって雄二を好きになって、俺にさようならを告げるだけなら、……どうして俺に好きじゃなくなってもら
わないといけないんだ。
「俺はこのみが好きだよ……」
乾いた唇を動かしてなんとか言った。
「資格とか関係ない。なにがあっても、少なくとも今俺はこのみが好きだ」
「そんなの……」
このみがぎゅっと体をソファに押し付けた。
「そんなの今更卑怯だよ。……酷いよ。酷すぎるよ」
その姿に俺は理解する。
くそう、どうして理解できるんだ。
「このみ……」
俺は立ち上がる。このみの目が俺を追う。その目に浮かぶ光は恐怖?
――それとも期待?
「俺のこと、好きなんだろ」
テーブルの存在がもどかしかった。俺はそれを回り込んだ。
このみは俺から逃げるようにソファの上で体を滑らせたが、決してソファから立ち上がって逃げようとはしな
かった。
「どうなんだよ。答えてくれよ」
「そんな聞き方卑怯だよ。好きだよ。タカくんのこと好きだよ! 当たり前じゃない!」
その答えで十分だった。俺はこのみの小さな肩を抱き寄せた。
「…………!!」
このみは俺の体との間に両手を挟んで、いやいやと首を横に振った。そんなこのみを俺は強く抱いた。抱
きしめながら背中に触れ、髪に触れた。そして目の前にあるその唇に――。
「やっ!」
このみの顔が背けられる。俺はそれを追いかけることができない。
拒絶されたという事実は、俺に何より重い一撃を与えた。
「お願い、タカくん。お願いだから……」
このみの小さな体は震えていた。怯え、縮こまっていた。
そうさせたのは俺だ。俺なんだ。
それが何よりも俺の罪の証であり、この心の痛みは与えられるべき罰なのだろう。
「……このみ、好きだ……」
俺は搾り出すように呟いた。
このみの目が涙に揺れた。
「……こんなのって、こんなのってありかよ……」
俺の手がゆっくりとこのみの体を解放する。少し離れた場所に腰を降ろす。
「好きだから、このみのこと好きだから、なにもできるわけないじゃないか……」
手のひらを握り締めた。どんなに強くそれを握り締められたとしても俺は無力だった。
このみの気持ちが俺にも残っていることは分かっている。だからどんなに拒絶しても、最後にはこのみは
応じてくれる、そんな気がする。
けれどそれをすればこのみをさらに傷つけるだけに違いなかった。間違いが無かった。
このみを傷つけたくなかった。
これまでどれほど傷つけてきたか知れないけれど、それを知ってしまった今だからこそ、どんなにも傷つけ
たくなかった。
そして抱かなかったことで傷つけてきた俺が今、傷つけないためにこのみを抱くことができないなんて。
なんて――。
「タカくん……ごめんなさい……ごめんなさい……」
身を縮めて何度も何度もそう繰り返すこのみと、ただ拳を握り締めて何を考えているかも定かではない俺
は、ほんの1メートルにも足らない永遠の断絶を消して超えることは無かった。
どれほどの時間が過ぎただろう。
このみはいつの間にかいなくなっていた。コップは綺麗に片付けられて、テーブルの上にできていたはず
の水たまりも綺麗に拭き取られて、あったはずの時間の痕跡は完全に消されていた。
ひとつだけ残っている証拠は、ソファの傍に座り込み、両の手を固まるほど強く握り締めた俺自身の存在
に他ならない。
このみはあの後、何かを言ったはずだ。いくらかの言葉を俺に残し、そして自分のいた痕跡を全て消して
去って行った……のだと思う。それで終わりだった。それで終わってしまった。
俺はぐらりとソファにもたれかかって力を抜いた。このみの温もりも、匂いも、なにも残ってはいなかった。ま
るでこのみという少女が存在したことさえウソのことのように思えた。
多分、いや間違いなく、すべては俺の責任だった。だからこのみを恨むことも雄二を恨むこともできなかっ
た。そんなこと考えもつかなかった。
――最初はチャイムが鳴った。
だけどそれはまるで現実味が無くて、俺はそれをただ無視した。チャイムが鳴った現実を無視した。
チャイムは何度も鳴った。
けれどやはり俺にとってはそれは無意味な音だった。
すると今度は乱暴にドアが叩かれた。何度も、何度も、何度も、何度も余りに強く叩かれるものだからドア
が壊れるのではないかと思うほどだった。
「……かぼぅ……」
わずかに聞こえた声に聞き覚えがあったが、それすらどうでも良かった。
俺はただこのみが居たソファにもたれかかり、消えた過去にまだすがっていた。
「――タカ坊!」
今度ははっきりと聞こえた。もう無視できないほどはっきりした声で。
俺はゆっくりと顔を上げた。
タマ姉は庭に面した窓の外にいた。
あんな場所であんなに叫んだら、周りに丸聞こえじゃないか。近所迷惑も考えろよ。だいたい今何時だと
……。
何時だか分からなくて時計を見上げると、それはもう夜の九時を回っていた。ええと、このみが来たのが何
時くらいだったっけ?
「開けて、タカ坊!」
ドンドンと窓を叩くタマ姉はなんだか凄く必死な形相をしていて、俺はそんな顔のタマ姉を見るのは初めて
だなあと、ゆっくりとした思考の流れの中で思った。
俺はゆるゆると立ち上がると、タマ姉が叩き続けている窓の鍵を開けた。窓とは言っても庭に出ることもで
きる大きな窓だ。するとタマ姉は窓が壊れるのではないかというほどの勢いでそれを開けると、靴を脱ぎも
せずに飛び込んできて、俺の体を抱きしめた。
「な、なんだよ。タマ姉」
タマ姉の取り乱した様子を俺は冷静に受けとめていた。あまりに体は冷え切っていたので、多分頭の中も
冷たくなっていたんだろう。
「タカ坊……ごめんね」
ぎゅうと俺を絞め殺そうとせんばかりに抱きしめながらタマ姉はそう言った。
「気がつかなくてごめんね」
ポタポタと頬に熱いものが落ちてきて、流れた。見上げるとタマ姉の瞳からは大粒の涙が溢れ出しては流
れ落ちていた。
――あれ、なんだかおかしいなと思う。
本当なら泣きたいのは俺の方のはずなのに、なんでタマ姉が泣くんだよ。
「今、たった今雄二から全部聞いたわ……」
そうか、そりゃそうだよな。それ以外にタマ姉がこんな風に血相を変えて俺のところにやってくる理由なん
て考えられない。でも……。
「どうしてタマ姉が謝るのさ……」
「だって……私はちっとも気づいてなかったのよ。雄二とこのみがそんなことになってるなんて、ちっとも!」
「それはタマ姉の責任じゃないよ」
俺はタマ姉の手を振り解いて、首を横に振った。そんな俺の顔をタマ姉は覗き込んで、首を横に振った。
「いいえ、私は気づくべきだった。貴方たちを見守っているつもりでいて、自分のことで精一杯で、いつの間
にか何も見えなくなってた」
タマ姉はそう言うと俺の肩に手をかけた。目には涙が溢れたままだったが、その光はとても真剣だった。
「あの時タカ坊に無理に決断を迫ったのは私。だから私には貴方たちの関係に責任があるの」
タマ姉らしい言葉だとは思ったが、しかしやはりこのみと俺のことはこのみと俺の問題でしかない。タマ姉
は関係ない。けれどタマ姉はそうは思っていないようだった。
「だから、責任、取るわ……」
どういうこと? だなんて聞く暇もなかった。
次の瞬間、タマ姉の顔が大きくなったかと思うと、唇が何かに塞がれていた。
――それが俺の新しい過ちの始まり――
続く――
リアルのほうじゃ一度は好きだから何もできないつって、その後でやっぱり思い直したので
三人で傷つけあう泥沼展開ですが、こちらでは別の展開が待っています。
また一週間後を目処に(・ω・)ノシ
ω・)oO(この一週間別作品ばかり書いてて、これ四時間で書いたなんていえないヨゥ
死ねる
吐血した
まあ、ありがちな四角関係話ではあるが、読み物として純粋に面白い。
ただ、ありがちゆえ、なんとなく展開が予想できてしまうのは否定できないかな。
それをいい意味で裏切ってくれることを期待しているよ。
もう言葉少なくていいよね…
喀血しますた
読み物として純粋に面白い、ってのはホントその通りなんだけど。
なんつうか、作者さんの書きたいモノに既存のキャラを当てはめてる印象が強い。
これなら別にTH2SSである必要がないような気がしてくる。
こういう話を書きたい気持ち>TH2のSSを書きたい気持ち っていう不等式が見える。
まぁ俺の感じ方でしかないけど、雄二やタマ姉はともかく、このこのみは別人だなw
このみシナリオ〜このみEDを経たキャラとは思えない。
「キャラのイメージや世界観を壊すな」なんて言わないけど、二次創作として文章を
書くなら、そこらへんの整合性みたいなものには気を配って欲しかったかな。
>>237 まあ、あれだ。
あんまり細かいことは気にしすぎない方が人生楽しいぞ、と。
雄二もこのみもちゃんとタカ坊との決着がついてから
えっちなり付き合うなりしたらよかったのに
……と、彼女いない歴=年齢&童貞の俺が言ってみる
240 :
hage:2005/08/09(火) 15:49:59 ID:TIkttL+8O
オナニーばっかだな。
このレベルの低下っぷりが板の終焉を示しているな(苦笑
>>237 同感。普通の読み物なら面白い。でも無理やりTH2のキャラを当てはめてる
感じがして不自然にも思う。
そして
>>238の意見にも賛同する。
書き手さんを遠ざける様な書き込みはやめてほしい。
大体SSってものは自由にストーリーを作って楽しむものじゃないか。しかも読ませてもらっているのに注文をつけるなんて失礼じゃないか。
そんなに気に入らないのなら読まないなり自分で作るなりすればいいじゃないか。
>>242 SS書きを甘やかすとろくなことにならない。
Tender Heartとは正反対のEND後展開ですか。
すでに言われていることですが、『To Heart』のアフターストーリーとしてはなかなかキツイなぁ。
せっかくハッピーに終わったものを、わざわざ壊さなくてもいい気がする。
”俺だったら”、二人の間に距離が開いてしまっても、ギリギリ破綻まではいかない物語を練る。
俺は雄二がああいう状況でこのみに手を出したことが違和感あった。
書きたいストーリーがあって、そこにキャラを無理にはめたって感じ。
と書いてて、237と同じことを言ってるのに気づいた。意味ねぇ。
でも、俺はこのみはともかく、雄二とタマ姉がちとちげー気がしたけどなw
背中押してはみたものの、やっぱり諦めきれてなかったねんがんのタカ棒をどさくさに紛れてゲッツでタマ姉(゚д゚)ウマー
そこにこのみ帰ってきてさらにシュラーバ
このみがタカ君をほかの女に取られて、真っ暗な部屋の中でポツリと涙を流して
カッターナイフを握りしめ手首に押し当てる
それでも辛さが消えない(死ねない)とわかると
ふらふらと立ち上がり、駅のホームに立ち笑いながらホームに走り込んでくる電車に飛び込む。
ここの住人はそういう話が読みたいんだ。
このみが他の男と幸せになろうとする話なんていらねぇ。
俺的には、じつは雄二はこのみのことが好きで、でもこのみが貴明一途なのを
知ってるからあえて軽薄な女好きを装ってこのみをおこちゃま扱いしていた、
という設定には「なるほど」と思ったんだけどな。
でもま、このまま痛い寝取られ話で終わっては欲しくないかな。
まだ始まったばかりだし、最後で全てがチャラになるくらいの展開を見せてくれる
事をキボンしてますわ。
君のz…
俺はこのみエンド後のラブラブ話なんてアンソロジーや同人誌を読めば読めるものより
たまにはこういう話もいいものだと思う
この後の展開がとても気になるので作者さんにはぜひ続きを書いてほしい
俺は女の子が苦手だ。そんな俺が女の子と上手につきあえるワケはない。だけど小牧さんはそれでいい
と俺に言った。なんでだろう?
由真は明日の料理勝負に備え、瑠璃ちゃんにコーチを頼んだ。まあ一夜漬けで勝てるほど、るーこは
甘い相手じゃないと思うけどな。
今日からタマ姉と同室になったが、最初の晩から早々、タマ姉は俺の布団に入ってきて、手錠で身体
の自由がきかない俺にイタズラしようとするし……。
ピピピピッ! ピピピピッ!
ピピピピッ! ピピピピッ!
ピピピピッ! ピピピピッ!
……あー、目覚ましが鳴ってる。うるさいな、止めなきゃ。
ピピピピッ! ピピピピッ!
ピピピピッ! ピピピピッ!
ピピピピッ! ピピピピッ!
……あれ、手が動かせない……、ああそうだ、俺、手錠されてるんだった。
ピピピピッ! ピピピピッ!
ピピピピッ! ピピピピッ!
ピピピピッ! ピピピピッ!
……だー! やかましい! 誰か止めてくれー!
あ、そうだ、タマ姉だ。タマ姉に止めてもらおう。
「タマ姉、起きてる? 目覚まし止めてくれよ」
返事がない。
あー、タマ姉っていつも早起きだから、もう起きて部屋を出たのかな?
「……んー、なぁに、タカ坊?」
あれ? タマ姉の返事が俺の背中から聞こえたって、えええっ!?
た、た、タマ姉、俺の布団で寝てるよ!
「た、タマ姉、なんでそこで寝てるの!?」
「なんでって……、昨日の晩、タカ坊の布団に潜り込んで、タカ坊にイタズラしようとして、タカ坊の
頭をなでて……」
「そ、それから?」
「うーん、その先が思い出せない……、どうやら寝ちゃったみたいね」
そうか、確かに俺も頭をなでられたまでは覚えている。俺もそこで寝ちゃったんだな。
って冷静に分析している場合じゃない! 早くタマ姉に布団から出てもらわないと!
「た、タマ姉、いいから早く起きて、目覚まし止めてくれよ。
こんなとこ、もし由真にでも見られたら……」
「おはよう、た・か・あ・き」
その声は、俺の頭上から聞こえた。恐る恐る見上げてみると……
「お、おはよう、由真……」
そこには、腕を組んで仁王立ちしている由真、いや、由真という名の鬼がいた。
「あ、あのな由真、この光景に怒る気持ちはよく解るんだ。だけど、ここはひとつ冷静になって俺の話を
聞いて欲しい。
こんなこと言うとまた『男のくせに情けない!』とか言われるかも知れないけど、これはタマ姉が俺を
からかおうと布団に入ってきただけで、そしたらその内二人とも寝ちゃって、決してその、一線を越える
ようなことはしていないワケで……。
ほ、ホラ、第一俺、手錠されているだろ? 例え俺が何かやましいことしたくてもこれじゃ出来ない
ワケで、だから、な、もう俺もタマ姉も起きるから、とりあえず俺の手錠、外してくれるかな……?」
「たかあき」
「な、なんだ由真?」
由真は何故か、
「おはよう、たかあき」
と朝の挨拶をもう一度言って、それから、
「そして、おやすみなさい、永遠にね!!」
ゲシッ!!
「ぐえっ!?」
由真は俺の顔面を、思いっ切り踏みつけた。
朝食はやはり、昨日のタマゴサンドの残りだった。
みんながうんざりしている中で、唯一花梨だけが嬉しそうに食べている。
「お、おいしそうだね笹森さん……」
「うん! おいしいタマゴサンドは、一晩寝かせると更においしくなるね!」
カレーかよ。
「な、なあタマ姉、このタマゴサンド、もし食いきれなかったら、まさか今日の昼食もその残りってこと
はないよな……」
「それはさすがに無理ね。この季節、これ以上は食中毒の心配もあるし。ちょっと勿体ないけど、残った
ものは捨てるしかないわね」
「ええ〜っ、そんなぁ〜」
「また作ればいいじゃない笹森さん。今度は笹森さんが、るーこちゃんに教わりながら作るのはどう?」
「うう……、そ、そうですね……。
じゃあせめて、出来るだけ沢山食べなきゃ! ホラたかちゃんも食べて食べて」
「わ、わかったよ……」
花梨にタマゴサンドを押しつけられ、仕方なく食べていると、不意に由真と視線が合う。だが由真は、
すぐにプイッと顔を背けた。もしかしてまだ怒ってるのか、由真のヤツ?
「そういえば、今朝は寝坊しちゃったから、お弁当作れなかったわ。悪いけどみんな、今日のお昼は学食
で何か買ってくれる?」
「ええ、仕方がないですよね。たかあきとあんなことしてれば、寝坊もしますよね」
珍しく、タマ姉に攻撃的な由真。
「あら、もしかして由真さん、妬いてるの?」
面白そうに言い返すタマ姉。
「な!? そ、そんなワケないじゃないですか!
た、ただ、正直環さんには少し呆れました。まさか環さんの方から、だなんて……」
「だから、アレは懐かしさも手伝っての軽いスキンシップなんだって、さっきも言ったでしょ。
子供の頃はよく一緒に寝たりしたから、つい、ね」
「こ、子供の頃にしたからって、今あんなことするのは非常識ですよ……」
「はいはい、だからごめんなさいって謝ったでしょ」
そういうタマ姉の口調からは、反省の色は全く感じられない。
「あ、謝ればいいって問題じゃなくて……」
「んもう、要は私とタカ坊が同室なのが問題だって由真さんは言いたいのね。じゃあ今晩からは、私の
代わりに由真さんがタカ坊の部屋で寝てくれる?」
「え!?」
た、タマ姉、何言ってるんだよ!?
「た、環さん本気で言ってるんですか!?」
「ええ、本気よ。何か問題でも?」
「大ありですよ! た、たかあきに襲われでもしたら……」
「そのための手錠じゃない」
「そ、それはそうですけど……」
「ああ、由真さんさえよければ、私はこのままタカ坊の部屋でもいいのよ。
ねぇタカ坊、今晩はナニして遊ぼうかしらねぇ」
ニンマリと笑みを浮かべるタマ姉が、俺にはとても恐ろしい。昨晩だって、タマ姉の気分次第でどうに
でもなっていたのだから……。
「そ、そんなのダメです! 環さんは元の部屋に戻ってください!」
「じゃあやっぱり、由真さんがタカ坊の部屋に移る?」
「そ、それは……」
そう由真が戸惑っていると……、
「ならば、るーがうーの部屋に移ってもいいぞ。元々るーはうーの調査のため、それを希望していたの
だからな」
そう言って手を上げたのはるーこだ。
「それは禁止! るーことたかちゃんを二人っきりにしたら、たかちゃんまた何かされるかもしれない
からね! 代わりにこの花梨ちゃんがたかちゃんの部屋に移るよ! たかちゃん、二人っきりでUFO
のこととかミステリスポットのこととか、夜通しでお話ししようね!」
るーこに負けじと、花梨も手を上げる。
「う、ウチは絶対貴明の部屋になんか移らへんもん!」
瑠璃ちゃんは予想通りのセリフだ。
「どうするの、由真さん?」
タマ姉が由真に問いかけ、そして由真は、
「ああもう、わかりました! あたしがたかあきの部屋に移ります! 決定!」
なかばキレ気味でそう答えた。
あの、ところで、俺の意見は誰も聞いてくれないんですか?
今日は月曜、学校へ行かなければならない。このみ、雄二も一緒にみんなで学校へと向かう。
「な、なぁにぃ〜!? 姉貴と貴明が一緒に寝ただとぉ!?」
このみも雄二も、俺たちの生活ぶりに興味津々だ。そこへ花梨の口の軽さが手伝って、俺とタマ姉が
一緒に寝たことは二人にあっさりバレてしまった。
「お、おい貴明、それは本当なのか!? お前と姉貴は、遂に一線を越えてしまったのか!?」
「お、落ち着けよ雄二。確かに俺の布団にタマ姉が入ってきたのは事実だけど、それ以上のことは何も
してないって」
「嘘つけ! あんな反則級のナイスバディを誇る姉貴が自ら飛び込んできたというのに、何もしなかった
なんてありえねーだろうが!! ああ、恐れていたことが遂に現実に……、俺はこいつを『兄貴』と呼ば
なきゃいけなくなるのか……」
「だから、俺は由真に手錠を掛けられていたんだから、手を出したくても出せなかったんだって」
「手錠? そういうプレイか、結構マニアックだな」
「違う!!」
「じゃあ、手錠掛けられてなかったら、タカくん、タマお姉ちゃんにHなことしてたの?」
そう聞いてきたのはこのみ。心なしか機嫌が悪そう。
「す、するワケないじゃないか……」
「そうだよね。わたしと一緒に寝たときも何もしなかったんだから、タマお姉ちゃんだって同じだよね」
「いやー、言っちゃ悪いがチビ助と姉貴じゃ女の色気のレベルが……って、あだだだだ!!」
余計なことを言おうとして、速攻でタマ姉のアイアンクローの餌食となる雄二だった。
「まあ、このみちゃんにせよ環さんにせよ、たかあきに何もされずに済んだのは奇跡と考えるべきね。
まったく、このムッツリスケベときたら……」
「由真の言う通りや。このみももう、貴明と一緒に寝たらあかんで。その若さで妊娠したくないやろ」
「う、うん……。
あ、それじゃあ今晩からはどうするの?」
「うん、相談の結果、あたしが貴明と同室になっちゃった……。
ま、まあ心配しないで。もしたかあきが何かしてきたら遠慮なく殺すから」
「別に命を懸けてまで襲いたくも……」
「何か言った?」
ぼやいた俺を由真がギロッと睨む。
「い、いや何も」
つくづく情けない俺だった。
校門の前。そこには珊瑚ちゃんがいた。
「瑠璃ちゃ〜〜〜ん」
ニコニコ笑顔で手を振っている珊瑚ちゃん。瑠璃ちゃんは我も忘れて駆け出し、珊瑚ちゃんの胸に
飛び込んだ。
「さんちゃん! さんちゃん! さんちゃ〜〜〜ん!」
「瑠璃ちゃん、元気やった? ご飯ちゃんと食べてる? みんなと仲良うしてる?」
「うん、うん、うん!」
珊瑚ちゃんの優しい問いかけに、いちいち肯きながら答える瑠璃ちゃん。たったの一晩なのに、まる
で数年ぶりの感動の再会って感じだ。いや、二人にとってはそれと同等の喜びなのだろう。
「おはよう、珊瑚ちゃん」
「おはよう貴明。みんなもおはようさん」
珊瑚ちゃんの挨拶に、みんなも「おはよう」と返す。
「貴明、瑠璃ちゃん、何か迷惑掛けてない?」
「あ、ああ、迷惑ってほどのことは……」
何度も蹴られたりしているが、ここは言わないでおこう。しかし、珊瑚ちゃんは意外に鋭かった。
「あー、その様子やとまた瑠璃ちゃんに痛い目に遭わされているんやね。あかんよ瑠璃ちゃん、貴明の
こと、もっと大事にせな」
「ウチ悪ないも〜ん! 貴明がスケベなのが悪いんや!」
「まあ、その通りよね」
由真がうんうんと肯く。
「ま、まあご覧の通り、理解してくれる友人も出来たようで……」
「友達出来たん、瑠璃ちゃん! よかったな〜!」
「う、うん……」
まるで自分のことのように喜ぶ珊瑚ちゃんと、戸惑い気味の瑠璃ちゃん。珊瑚ちゃんは瑠璃ちゃんに
友達がいないことを案じていたから、喜ばずにはいられないのだろう。ただ、肝心の瑠璃ちゃんはその
ことをイマイチ実感していないようだが。
と、そこへ、
「あ、おはようございます、みなさん」
そう言ってやってきたのは小牧さんと、車椅子に乗った郁乃だ。
「おはよう、小牧さん、郁乃」
「あーあ、朝からこいつの顔を見るなんて最悪だわ。それにしても、ねぇ……」
郁乃はこのみやタマ姉たちを見て、
「総勢7人の女連れとは、実際見ると驚きを通り越して呆れるわね。あ、姉も入れると8人か。
まったくみんな、こんなさえない男のどこがいいんだか」
「あ、あの一応、俺もいるんだけどな……」
郁乃の視野に、雄二は入っていなかった。
「ねぇたかちゃん、この毒舌ちゃんは誰?」
「ああ、郁乃っていって、小牧さんの妹さん」
「へぇ、そうなんだ。初めまして郁乃ちゃん! 私の名前は笹森花梨! 早速だけど郁乃ちゃん、UFO
とかUMAとかに興味はない?」
「ない」
即答であった。
午前中の休み時間。特に誰も話しかけてこないので、俺は物思いに耽っていた。
思い出されるのは、昨日の小牧さんの言葉。
「河野君は女の子が苦手だと言っているのに、河野君の周りには女の子が沢山います」
確かにこれはヘンだ、矛盾してると言ってもいい。一体どうして、こんなことになってしまったのだ
ろうか?
昔からの付き合い。困っているところを助けた。偶然知り合ってしまった。
俺が彼女たちと知り合う、それぞれの理由はあるのだが、それだけだろうか? 本当にそれだけの理由
が、俺の家に5人もの女の子が住み着く原因になるのだろうか? もっと他に理由があるんじゃないか?
例えば……、
もしかして……、
実は俺って……、
女の子に……、
も、も、もてるタイプ、とか?
い、いやいやいや! そんなの絶対ありえねーってば! 思い上がりも大概にしろ俺!!
「貴明さん」
馬鹿なことを考えていた俺に話しかけてきたのは、草壁さんだった。
「え!? あ、な、なに?」
「ごめんなさい貴明さん。本当は昨日にでも貴明さんの家に行くつもりだったんですけど、思いのほか
母が頑固で許してくれず、行けませんでした。
でも待っていてくださいね貴明さん、必ず母を説得して、貴明さんの家に行きますから」
へぇ、草壁さんのお母さんって厳しい人なんだな。遊びに行くのにも説得が必要だなんて。
つづく。
どうもです。第18話です。
シリアス展開の「虹の欠片」さんの後に河野家では、雰囲気ぶちこわしかもしれませんね(苦笑
GJ&お疲れ〜
いよいよ大台に乗ってきたかな?
>>237 おおむね同意。
別に痛い展開だから嫌というわけではなく、TH2の二次創作として
見た時に、キャラ設定とかに無理を感じる。
その辺に無理がなければ、痛い展開でも文句は出ないだろう。
別に俺は、このみが貴明とくっかない展開がヤダ、というわけではないし。
ま、二次創作とはなんぞや、という見解は人によって違うであろうし、
あまり深くは追求しない。これはあくまでも俺の個人的な意見であるから。
あと、誤解の無いように言っておくと、読み物としては非常よくできていることは
間違いないと思うよ。
上手いか下手かといわれれば間違いなく上手い。素直に読み物としては
面白いと思う。それだけに惜しい。
「あ! あ! ダメ! 入れて入れて!」
リビングに声が響く。
「そこ! そこ! あっ! あっ!」
ミルファは顔を紅潮させ、激しく興奮していた。
俺にもミルファの熱が伝わってくる。
冷房を入れているのに、まったく効果を為していない。
既に身体は汗だくで、サウナの中にいるような状態だ。
暑くて、熱い。
「そのまま! あっ、あっ! お願い! そのまま!」
耳元で聞こえるミルファの声はとんでもなく色っぽくて、このままでは俺はどうにかなってしまうかもしれない。
「や……っ!」
そして、
「やったぁ――――っ!!」
一際大きな声があがり、ミルファが俺に抱きついてきた。
俺たちの目の前にあるテレビの中で、日本のサッカー選手が得点を挙げていた。
コーナーキックからの見事な先取点に、ミルファは飛び跳ねながら大喜びをしている。
ミルファはサッカーが大好きなのだ。さすがは元ロボットサッカーの選手といったところか。
「貴明! このままいけば勝てるよ!」
「あ、ああ……そうだな……」
なんていうか、俺にとっては東アジアがどうとか、サッカーの結果がどうとか、そんなことはどうでもよかった。
頭の中は、腕に押し付けられた二つの柔らかな感触で占められている。
――ミルファって、やっぱり大きいよなあ……。
幸せって、こういうことなんだと思う。
ちなみに、このときのミルファの絶叫はバッチリご近所にも聞こえていて、しばらくの間後ろ指をさされるように
なったのは言うまでもない。
悲しくなんてないぞ。ちくしょう。
お久しぶりです、と小ネタを投下させて頂きました。
なんだかいやらしいネタになりましたけど(つд`)
>>221さん
『Brownish Storm』読ませて頂いてます。続きが楽しみです。
自分の書いたミルファを理想と言って頂けるのは非常に嬉しいですねー。
>>223さん
TH2SSは時節ネタで攻めようと思っていますので、秋に文化祭の話でも書こうと思っています。
書き上げられましたら、そのときにはまた読んでくださるとありがたいです。
>>266 イリヤの空みたいなかんじだった…www
が!
GJ!(`・ω・´)
>>267 RE-tryの人キター。
GJですー。
『虹の欠片』、『河野家にようこそ』、ミルファSSS、
いずれもGJ!
『虹の欠片』・・・TH2としてキツイ展開なのは確かですが、面白いっすよ。
続きが気になる、という意味で純粋に1番です。
私的には、現時点では各キャラの行動に違和感ないのですが・・・
『河野家にようこそ』・・・ついに、ついに由真に襲われるんですね(違)
Tender Heartマダー?(・∀・)
よ〜し、俺も続けざまに
Tender Heartマダ〜(・∀・)
よし俺もさりげなく
てんだー鳩まだー?(・∀・)
よっちまだー!?
せーのっ
さすがにそのパターンは飽きたwwww
てんだ〜は〜とマダー?(・∀・)
もうてんだーはーと来るまでオナ禁する!ヽ(`Д´)ノ
じゃ俺はてんだーはーとまで飯抜く!
ならば俺はてんだーはーとが来るまで寝ない!
そんなら俺、てんだーはーと来るまでこのみと添い寝するわ。
なら、俺はてんだーはーと来るまで勝手に脳内で続編考えてる
>>281 ちょwwwwwwwwwwおまwwwwwwwwww
では俺はてんだーはーと来るまで河野家読んでる
Tender Heart その9−3
前回までのあらすじ
雄二によって指摘された、このみと貴明の「とても自然で、とても不自然な」関係。それは結局、貴明だけが未だ幼なじみ
の関係に片足を残したままでいるせいだった。
悩み続けた貴明は、アイス屋でよっちと話す内にひとつの決心をする。
「今夜このみを――俺だけのものにする」
貴明の思い切った発言に驚きながらも、女ならではのアドバイスをくれて祝福してくれるよっち。
「このみのこと、幸せにしてやってくださいね」
よっち、ちゃると別れ帰路につく二人。
店に来るまでとは違う気持ちで手を繋ぎ、同じ家に帰れば――もうすぐ夜がやってくる。
「玄関――開けっ放しでしちゃったね」
「………」
二度目のキスはまるで素潜りみたいで、溺れそうになる寸前にあわてて唇を離した。
このみの体温が残って火照る唇と、抱きよせた肩の小ささと柔らかさは、まるで酸欠のときのようにくらくらと俺の
頭を酔わせた。
――このまま、押し倒してしまおうか。
そんなことさえ脳裏に浮かんだ。このみというこのあたたかい海にこのまま深く身を沈めて、思うさま溺れてしまお
うか、という考えはひどく魅力的で、そしてたやすいことのように思えた。
しかし、最後の最後で理性が勝った。
ふたりの大事な初めてをこんな玄関先で、なし崩し的にしてしまうというのは、いくらなんでもこのみが可哀想だ。
それに、よっちとの約束もまだ準備できていない。
しかたなく俺は唇を離して、でもこのみを抱き寄せたまま開けっ放しになっていたドアを見てそう言うと、このみは
何も言わず胸にしがみついてきた。
このみも、少なからず溺れかけていたらしい。ぽーっとした赤い顔をすりよせる様子はまるで甘えてくる猫か小犬そ
のもので、俺はもう一度キスしてやりたくなるのを無理やり堪えなくてはならなかった。
「……外から見えちゃったかもね」
このみの言うとおり、今日の僕は意地悪なのかもしれない。
でも、これは正当な報復なのだ。今日よっちと話しながら覚悟を決めるまで、さんざんこのみの体当たり的愛情表現
に振り回されてきたのだから、このぐらい言っても罰はあたるまい。
そう。
このみが可愛すぎるのが悪いんだ。
「タカくん……」
呼ぶ声に視線を合わせると、いつのまにかこのみは顔を上げこちらをまっすぐにみつめていた。
「ん、なに?」
そう問い返したが、このみはしばらく黙って俺の瞳をのぞき込むように見つめているばかりだった。
「どうしたんだよ。やっぱり、恥ずかしかった?」
「ううん、違うの。ただ――」
「ただ?」
再び問い返す俺だったが、このみは不意に言葉を切りうつむいた。
「このみ?」
その仕草が、まるでなにかを言いかけて口ごもったように見えたので、俺はすこし心配になった。抱き寄せていた腕
をほどき、肩を掴んで顔を寄せる。
すこし意地悪が過ぎただろうか。でも、先にキスしてきたのはこのみのほうなんだし――と思っていると、突然この
みはぱっと顔を上げた。
「隙ありっ」
「うわっ!」
声と同時にこのみは俺の首っ玉にかじりついてきた。
俺はバランスを崩してよろけ、荷物の上に倒れ込みそうになるのを必死で踏ん張って堪えた。
……やられた。
「こら、危ないだろ」
いちおう叱る。
でも、声が笑ってしまうのはどうしようもなかった。こんな不意打ちは昔のこのみの十八番だったのに、最近は姿を
ひそめていたせいで油断していた。
耳の横に感じるこのみのすべすべした頬の感触も、頬をくすぐる髪先の感触も、ひどく懐かしくて、なのにとても新
鮮だった。
「えへ〜。タカくん」
俺の首にぶら下がるようにしながら、このみは言った。その声に、さっきみたいな口ごもる様子はない。
俺は、甘えん坊の娘に手を焼くパパの心境で返事を返した。
「なんだよ」
「大好き」
「うん」
俺も、という思いは、言葉ではなく、抱きしめ返す腕の力で返した。
「――で、晩飯の用意をしないといけないわけなんだけど」
いつまでもこんなところでいちゃいちゃしているわけにもいかない。
このみが俺の首から腕を放したのをきっかけに、俺はキスとハグの応酬に一応のピリオドを打つことにした。夜の本番
に備えて、このみとの間に「そういう雰囲気」を盛り上げていくのは大事なことだが、なにはともあれ今日という日をち
ゃんと終わらせなければそれも叶わない。
「あっ、タカくん。お肉とかお豆腐――」
「大丈夫、ちゃんと冷蔵庫に入れたから」
「良かったー。ありがとうタカくん」
このみはほっとした様子でほがらかに笑い、靴を脱いで廊下に上がった。
「荷物はいつもの場所でいいの?」
「うん、もう用意してある」
「じゃああとはお洗濯して〜、御飯を炊いて――」
そこで、このみは振り返った。
未だサンダルを履いたまま玄関に立つ俺に気が付き、あわてて戻ってくる。
「どうしたの? タカくん」
「いや、あのさ。今思いだしたんだけど」
さりげなく言えただろうか。本当は買い物している間ずっと考えていた。
「――ゲンジ丸の散歩、まだだよね」
「あっ!」
このみは口元に手を当てて驚いた。
「すっかり忘れてたよ〜……どうしよう……」
「ゲンジ丸のごはんは?」
「それはお母さんがあげたって書き置きしてあったよ。ゲンジ丸のごはんは一日一回だから大丈夫。でも、お散歩忘れて
たよ……ゲンジ丸お散歩大好きなのに」
それは事実と反するように以前から感じているのだけど、今はむしろ都合がよい。
「だから、さ」
俺は笑って言った。
「アイス3つも食った後だから、腹を空かせがてら俺が一人で行ってくるよ」
「う〜、わたしも一緒に行きたい〜」
「そりゃそうだけど、そうすると晩飯が遅くなっちゃうぞ。土曜とはいえ、一応明日は学校あるんだし」
あくまでも、仕方ない、という感じになるよう話を導く。
でも本当のところ、ゲンジ丸の散歩はこのみと離れて一人で行動する唯一の口実なのだから、そこは譲れない点だった。
俺のそんな内心に気づいた風もなくしばし悩んでいたこのみだったが、やがて残念そうな顔で言った。
「うん。じゃあ、タカくんお願い。……でも、早く帰ってきてね」
「わかってるよ。河原を一周したら帰ってくる」
俺はポケットの中の財布をさりげなく確認して、このみの見送りを背に散歩に出かけていった。
「ハヒー、ハヒー」
「分かったよ、そんな顔するなって」
ゲンジ丸は思った通り、俺の突然の散歩のお誘いに迷惑顔で、通りの角を曲がるか曲がらないかといううちにもう荒い
息をつきながら恨めしげな顔で見上げてきた。
なんとなく、自分がダシに使われただけだということをゲンジ丸は察しているんじゃないかと思えてしまい、俺は苦笑
してしまった。
「大丈夫、河原一周なんかしないから。買い物したらすぐ帰ろうな」
「オゥン」
この暑さだ。ゲンジ丸はモップのように毛足の長い犬種だから、元来の運動嫌いに輪をかけて今日の散歩は苦行なのだ
ろう。
すぐに帰ろう、とは言ったものの、これから買う物の性質を考えるとあまり家の近所の店はまずい。あまり行ったこと
のない、つまりは面が割れておらず、この先もあまり利用する可能性のない店に行かねばなるまい。
気にしすぎかもしれない。でも、変な噂が立ったとき一番傷つくのはこのみなのだ。細心の注意をしてしかるべきだ。
「橋の向こうに確かあったよな」
橋、というのは通学のときにいつも渡るあの橋のことだ。その橋を渡らずに通り過ぎた向こうは俺が普段あまり踏み込
まないエリアだ。そこへんの店なら大丈夫だろう。
はやくもバテ気味のゲンジ丸を励ましながら、階段を登り河原の道を行くことにした。
ゲンジ丸を連れて歩くその道は、俺たちが毎日学校へ通う道。
左手には、いまは青々とした葉を茂らせている桜並木。
右手には、落日の色を映して流れる川の流れ。
川風が背中から吹き付けてきて、並木の枝葉と俺の髪をわずかに騒がせて追い抜いてゆく。
――俺の足は、いつの間にか止まっていた。
そして思い出していた。
この道が、満開の桜で彩られていた今年の春のことを。
新しい制服に身を包んだこのみの姿に目を奪われたあの季節は、ついこの前のはずなのに、なんだかとても長い時が経っ
たような気がする。
あの頃、俺はこのみの気持ちにまったく気が付いていなかった。そして、このみへの気持ちも定まらないままだった。
それが今、俺はこのみと正面から向き合う覚悟を決め、その証としてこのみを今夜抱くつもりでその準備をしようとこの
道を歩いている。十数年にわたって続けてきた幼なじみの関係全てをこれからはやめ、はっきりと恋人になったのだという
ことをしるしづけるための、それは必要な儀式のようなものだと思う。
――なんだかんだ理由を付けて、本当は女の子とエッチなことしたいだけなんじゃないのか?
心の中で、そんな声があがる。
しかし今の俺は、自信をもってそれを否定できる。
もちろんエッチなことはしたい。今夜のことを考えると身悶えのあまり挙動不審で職務質問されかねないので、なるべく
考えないようにしているくらいだ。
でも、その相手はこのみしか考えられない。
相手がこのみだからこそ、俺はこんなにも嬉しいのだ。
視線を河原に振り、思い出の場所を見やる。
橋げたの近く、いまは夏草で覆われた川のほとり。
そこはこの春、俺とこのみが初めてキスをした場所だ。
そう、あの日も帰りにアイス屋に寄ったのだ。そこで俺がよっちの言葉に「このみは妹みたいなもの」と答えたのをこの
みが聞いて走り去って――
それを追いかけたところから、俺たちの関係は変わったんだ。
追いかけて、探し回り、この河原でゲンジ丸を連れたこのみの姿を見つけ……その時、このみは痛みを堪える顔でつぶや
いていた。
――タカくんに、ぎゅってしちゃ、ダメなの?
――タカくんが、好きなの……。
その時のことを思い出すと、今でも罪悪感に胸が締め付けられる。俺はもう二度と、このみにあんな顔をさせはしない。
あの時も、そう誓ったはずなのに、俺が意気地なしのせいで4ヶ月もふらふらして、このみのまっすぐな思いをどこかで
はぐらかしていた。恋人になった、という、その言葉だけで満足しようとしていた。
でも、もうそれも終わりだ。
俺は、あのときと同じ夕焼けに包まれる河原を見つめながら、家で待つこのみを想う。
大きく傾いた陽はやがて地平線に姿を隠し、まもなく夜が来るだろう。
俺はいま、心から嬉しいと思っている。
このみのように素敵な女の子が、俺をまっすぐに愛してくれていることが嬉しくてたまらない。
そしてなにより、このみのそのまっすぐな愛情に、俺だけがまっすぐに応えられるのだということが、幸せで、嬉しくて、
誇らしくてたまらない。
河野貴明は、柚原このみを、愛して愛して愛し抜くことを誓いますか?
「――誓います」
俺は思い出の場所を前に、そう決意の言葉をつぶやく。
近くを通った人からは、変な奴だと思われたかもしれないがかまうものか。
するとそれまで荒い息をついてへばっていたゲンジ丸が、足下で短く吠えた。
「オウン!」
「そうだな……お前が証人だな、ゲンジ丸」
まんざら冗談でもなくそう言葉をかけると、ゲンジ丸はその毛深い顔の合間から光る目をのぞかせて俺の顔をちらりと見
つめ――そして再び、ハヒハヒと荒い息をつき始めた。
俺はそれからまっすぐに進み。
……初めて入るコンビニで、コンドームを買った。
※その10に続く※
なんだかすごいことになっていて驚きました……。
お待たせして申し訳ありません、みなさんちゃんと御飯食べてオナって寝てください(^^;)
続編考えられた方は、その予想が当たっていたかどうか、いつか教えて下さい。
河野家読んでいた方は、河野家まだ〜? とご一緒に!
海水浴でまっ赤に日焼けして辛いので、明日書き込もうとおもっていたのですが
たくさんの方に急かしていただいてたので急いで書き上げました。いつもありがとう
ございます。
尊敬する我楽多さまの「虹の欠片」とは真逆の展開のようですが、私としては
このふたつの作品は、ほんのささいなきっかけの有無で道別れしてしまった、同じ
根っこをもつ違う可能性のお話のように思います。
てんだーはーともこのまま単なるラブエロで終わるかどうかは分からないわけですし
(無論ラストは決めていますが)できればこれからも暖かく応援してやってくださいませ。
長引いた9もいよいよ終わり。次こそ10に進みます。
ラストが見えてきました。ではまた!
PS 春は終わらない、マダ〜?(良いところで止まってるんですよねぇ)
キタ━━━(´∀`)━━━!!
GJ!!
サイコーですw
>>281 添い寝できなくてテラカワイソスwwww
キターー(・∀・)ーーー!!
まじいいわぁ
このみは渡せない、ってか?
見計らったかのようなタイミングも含めて、GJ!
有明の祭典があるので、この週末は誰も投下しないのかと思ってましたよ。
他の作品も、新作も、まとめてカモーン!
虹の話?
そんなものはあれでお終い。
ほんの隣町まで行ったところで、俺が力尽きる前に虹のほうが先に消えてしまったのだ。
だけどたとえ虹がいつまでも消えなかったとして、幼い俺が本当に虹を捕まえられただろうか?
答えは――否。
虹にはどうしたって手は届かない。
だってそうだろう。そうじゃないか。
今ならもう知っている。
――虹には届かない。
そうやって無理なこととそうでないことを知って人は徐々に大人になっていく。
そういうものじゃないか。
そういうものなんだよ。
--虹の欠片-- 第四話
それはとても、とても下手くそなキスだった。
唇がほんの少し触れただけで、本当にそれだけで、目の前の大事な姉は、目を閉じたままぴくりとも動か
ない。俺は驚きの余り目を閉じることもできず、俺の唇を奪った姉の目から流れ落ちた涙の跡をじっと見つめ
ているしかできない。
灯りの無い部屋の中で、開け放たれた窓から街灯の光と、夏の熱風が吹き込んでくる。
月は――どこにも見当たらなかった。
唇はゆっくりと離れた。
タマ姉は何も言わなかった。俺の肩を掴むその両手から逃れようと足が二歩後退すると、ソファの背に当
たって、俺はそのままずるずると崩れ落ちた。
何も分からなかった。何も分かるわけがなかった。
頭の中は真っ白で、裏切られ傷ついて、その傷痕をずっとなぞっていたいたことさえ、もう思い出せなくなっ
ていた。ただ理解できないということだけが頭の中の全てを占めていた。
何故タマ姉は俺にキスをしたのか。
何故タマ姉が泣いていたのか。
何故このみは俺を裏切ったのか。
何故、何故、何故……。
床を見つめたまま自問を繰り返す俺の傍にタマ姉は膝をついて座り、俺の頭をそっと撫でた。
「辛い? 辛いでしょう? だから今だけでもお姉ちゃんが忘れさせてあげるからね」
よく分からないまま、突然涙が一杯に溢れてきて、俺はそれをどうしても押し留めることができなかった。
頭を撫でていたタマ姉の手が頬に下りてきて、頬を流れた涙を指先でそっと拭った。だけどとめどなく溢れる
涙はタマ姉が拭いてもまた零れ、タマ姉は零れた涙をまた拭った。
零れ、拭い、拭われ、零れる。
やがてタマ姉は両手で俺の頬を挟むようにすると、もう一度俺にキスをした。それはやはり触れるだけの
優しい、そして下手くそなキスだった。
「どうして……」
長く、長く触れ合っていた唇が離れた後で訊ねた。
タマ姉が目を瞬いた。その後一瞬だけ微笑んで、その後その顔はしかめられた。
ワケが解らなかった。
慰めに来てくれたのは解る。
俺に同情してるんだってことも解る。
けれどどれもこれも俺にキスをすることの理由にはならない。
タマ姉がこんな顔をすることの理由にはならない。
「理由ならあるわよ」
震える声でそう言うと、タマ姉はぐいっと俺の体を引き寄せて抱きしめた。けれど俺は見逃さなかった。タ
マ姉の目から新しい涙が零れていた。
「……理由ならあるわよ」
同じことを二度言って、タマ姉は俺を抱く手に力を込めた。
外から流れ込んでくるじっとりと熱く湿った空気は、弱めの冷房で冷やされていた部屋の空気をあっという
間に追い出そうとしていた。タマ姉と触れ合っている体の部分がじっとりと汗で湿り出す。不思議と涙は止
まっていた。
悲しみがほんの少し収まっていることに俺は気がついた。まだ傷は深く、癒えるというよりはまだ深みを増
すかも知れない。それでもタマ姉の腕に抱かれ、その体温と鼓動を感じていることで俺はほんの少し平静さ
を取り戻していた。
俺は力を抜いてただタマ姉に抱かれるままに任せた。
苦しくて心地よかった。
「……ねぇ、タカ坊……」
そうしてどれほどの時間が過ぎ去った後だっただろうか。タマ姉が不意に小さく呟いた。
「貴方がショックだったのはこのみの心がタカ坊ひとりのモノじゃなくなったから? それとも……」
もぞりと俺の体の下でタマ姉の体が揺すられる。
「このみが他の男に体を許したから?」
――体が硬直した。それはあまりに率直な質問で、俺自身だってまだ答えを出せていない。あえて言うの
ならそのどちらもだろう。けれど、後者は理由にするにはあまりにも身勝手だ。だってこのみは俺の所有物
じゃなかった。それにこのみを傷つけたのは俺なのだから、そのどちらにも俺が何かを思える権利なんてあ
るのだろうか。
だけどほんの少し、確かに腕の中にあったはずの、あの小さな温もりが俺の手をするりと抜けて、誰か他
の、よりによってよく知った友人の腕の中に行ってしまったのは確かで、その事実がなによりも俺を苦しめて
いる。
「ごめんなさい」
何故か俺の答えを待たずにタマ姉は謝った。
「変なことを聞いちゃったわね。どちらも辛いに決まってるじゃない。どちらも辛いわ……」
そういうと、タマ姉は三度目のキスをした。また唇が触れ合うだけのそれは今度は短く、タマ姉は唇が離
れた後で、顔を歪め、笑った。
「……ね、タカ坊、私たちキスしちゃったわ」
俺は頷いた。それ以外になんと答えようがあっただろうか。
「イヤだった?」
タマ姉が訊ね、俺は首を横に振った。驚きはしたけれどイヤではなかった。
「じゃあ気持ちよかった?」
その問いには答えられなかった。
気持ちいいなんて感じられるような心は、今の俺には残っていなかったからだ。だたタマ姉にキスされた、
というそれだけの事実を認識しているだけだ。それ以上でもそれ以下でもない。
「キスくらい大したことじゃないと思わない?」
――それにも答えられなかった。
もしもこんなことになる前だったらどうだっただろうか。タマ姉がいきなり俺にキスしてきたとして、そんなこ
とは考えられもしなかったけれど、考えてみた。
――きっと、驚きはするが悪ふざけの延長くらいにしか思わなかったのではないだろうか。
でも……、
「それはタマ姉だから……」
ずっと姉のように慕ってきて、実際に姉のように思っていて、本当に姉のように俺たちを見守っていてくれ
ていたタマ姉だから。小さいときから一緒に居て、色んなことを知られていて、知っている。まるで家族のよう
に親しい、だから……。
だからタマ姉とのキスなら、多分、あまり大したことじゃないんだろう。それはまるで子供同士が親しみを
込めてするようなキスだからだ。
タマ姉は微笑を浮かべると立ち上がり、窓を閉め、カーテンを閉めた。
外からの灯りが遮断されて、部屋の中はほとんど真っ暗闇になる。それでも薄明かりに慣れていた瞳は
なんとかおぼろげにタマ姉の姿だけは捉えていた。
ひらりと何かが落ちた。それはまだ床に腰を降ろした俺のすぐ傍に落ちた。手に取るとそれはタマ姉が
キャミソールの上から着ていた上着だった。
「なら、セックスもしてみましょ」
その唐突な提案はあまりに現実味から切り離されていて、俺は返事ができなかった。
しかしタマ姉は多分俺の返事なんて待っていなかった。ベルトをはずし、ジーンズをさっと脱ぎ払う。そうす
るともうタマ姉を表面上覆っている衣服はキャミとショーツだけだ。まだ目が慣れなくて、シルエットに近いそ
の姿がゆっくりと近づいてくる。
「……セックスなんて大したことじゃないわよ」
そう言ってタマ姉は俺の上に跨った。
「――お姉ちゃんが――教えてあげる」
四度目のキスもまだ上手いとは言い難かった。もちろん俺が上手いキスがどういうものかを知っているわ
けじゃないけど、少なくともこんな唇を押し付けるだけのキスは初歩中の初歩だってコトくらいは判る。応える
べきか迷って、そして俺は応えた。
辛さを何か別のモノで埋めようと、俺は姉の身体にすがった――。
朝になり、俺とタマ姉は俺の部屋のベッドで目覚めた。二人とも裸で、いつの間にかそれを気恥ずかしい
とは思わなくなっていたと思ったのに、朝日の中で見るタマ姉の裸はまた違った新鮮さで俺の脳を灼いた。
「ふふ――」
顔を赤くした俺を見て、タマ姉が微笑んだ。
「なんだよ。起きたなら起こしてくれてもいいじゃないか」
「だってタカ坊の寝顔が可愛かったんだもの」
頬をつついてくるタマ姉の指を俺は軽く振り払った。
それは――、想像していたほど特別な経験ではなかった。最初の一回はまるで奪われるように過ぎた。
俺の上に跨ったタマ姉はもう十分すぎるほどに濡れていて、そのまま俺のを飲み込んで、揺すられるうちに
俺はすぐに達してしまって、それから膣に出してしまったことついて謝った。
タマ姉は苦笑して「今日は大丈夫な日だし、そういうつもりで来たんだからいいのよ」と言った。そしてタマ
姉が腰を上げると、そこから桜色の粘液がどろりと垂れて俺はタマ姉も始めてだったことを知った。そしてま
た謝ると、今度は「だから責任取るって言ったでしょう」と怒られた。
それから二人で一緒に風呂に入った。
「一緒に入るのは本当に久しぶりね」と、タマ姉は笑って言ったが、俺にはその記憶はあまりいい記憶では
なかったので詳しいことは略しておく。
だけどまあ幼い頃には二人で楽々入れた湯船が、今は押し合いしなくては入れないという事実が時間の
流れを考えさせられはした。もう俺たちは子供じゃなくて、そして俺がすがるように、タマ姉は同情で、肌の
触れ合いまでしてしまった。
「ごめんね」
湯船の中で今度はタマ姉のほうが謝った。
「どうして?」
心から何故タマ姉が謝るのか解らなかった。
確かに俺は傷ついていて、タマ姉は同情から俺とセックスして、でも確かにその触れ合いで少し楽になっ
た自分がいるのも確かだった。凄く不誠実だとは思ったが、だけどそれは事実だった。誰かの体温を感じる
ことはとても心が落ち着くことなのだと知った。
だから俺はタマ姉に感謝こそすれ、謝られるような覚えはまるでなかった。
けれどタマ姉が考えていたことはまるで違っていた。
「……このみじゃなくてごめんね……」
それで気づいた。タマ姉が最初から言っていたように、タマ姉は本当に責任感から俺のところに来たのだ
と。それはなんだかとても切なかった。
――だから……。
「タマ姉、もう少し甘えてもいい?」
そうして俺たちは一晩中触れ合いを続けた。
「このみがね、家に来るのよ……」
それは四日目のことだった。そして最初の日以来このみの名前が二人の口にあがるのはこれが初めて
だった。
それを聞いて最初に思ったことは、ああ、やっぱりそうなんだな。と言うことだった。
そりゃまあ、想像はつくというものだ。今やこのみと雄二が付き合っているというのなら、そりゃこのみだっ
て雄二のところに行くだろう。
そう、それが分かっていたから、俺は独りでいることがどんなに辛くなっても自分からタマ姉のところに行こ
うとはしなかった。雄二と顔を合わせられないというのもあったが、もしそこにこのみを見つければ俺はどうす
ればいいか分からなくなる。何をしでかすか分からないと思った。
「ごめんね。やっぱり言わないほうが良かった?」
「かも……、でも聞いてほっとした気もする」
少しずつ悲しみに慣れてきている自分がいる。悲しみが薄らいだのではなく、それ自体があるものとして
受け入れ始めたという感じだ。
「私もね、このみと顔を合わせ辛いというか、分かるでしょ。きっとこのみのほうでもそうなんでしょうけど」
タマ姉が苦々しく笑う。
「雄二だけはなんだか堂々としてて、腹が立ったから一回シメたけど、あの子なりに……」
一度言葉を切って、タマ姉は考えていたが、やがて続く言葉を口にした。
「あの子なりに気を使ってのことだと思うのよ」
俺は顔をしかめる。俺はまだ雄二と顔をあわせる勇気はない。どんな顔をすればいいのか分からない。怒
ればいいのかもしれない。キレて掴みかかればいいのかもしれないけれど、そういう感情が湧いてこないの
もまた事実なのだ。
「もう九月になるでしょ……」
言われてみればそうなのだった。もう八月も終わる。夏休みが終われば、雄二とは同じクラスなのだから
イヤでも顔を合わせるし、朝このみを迎えに行かなければおばさんだって何か気づくだろう。いや、もう全部
知っているかもしれない。
「その時に雄二はこそこそ逃げ回られるより、堂々とされてたほうが、タカ坊も楽なんじゃないかしら。……酷
いことを言ってるのは分かってるのよ。でも……」
タマ姉の言いたいことはなんとなく分かった。どうせ逃げられない現実なら、早めに突きつけた方が癒える
のも早い。それはまさに今俺自身が実感しているとおりだ。もちろん雄二の顔を見たとき、このみの顔を見
たとき、またその傷は深く抉り出されるだろう。けれど、それが以前ほど辛くはないだろうことももう分かって
いる。
――人は慣れていくのだ。
「……分かるよ……」
俺が答えるとタマ姉はちょっとだけ微笑んだ。
「そうね、だから私がお姉さんするのもこれでおしまいにするわ。いつまでもお姉ちゃんにべったりじゃタカ坊
もダメになっちゃうものね」
「タマ姉……」
「そう、それ……」
むぎゅうとタマ姉の指が俺の鼻をつまんだ。
「このみとの関係で、まるで妹のよう、ということがタカ坊に二の足を踏ませたように……、ううん、なんでもな
い。なんでもないわ……」
俺の鼻を解放したかと思うと、タマ姉は俺のことをぎゅうと抱きしめた。それはこの数日の間の優しい抱擁
ではなく、以前のタマ姉の遠慮の無い力任せの抱擁で、俺はその胸に潰されそうになりながら喘ぐ。
「ちょ、ちょっと、タマ姉、ギブ……」
だけど俺の懇願には耳を貸さずにタマ姉は俺をぎゅうと抱きしめたままだった。
「――貴明、一度だけでいいの……」
不意に名前を呼ばれ、俺は苦しみを忘れた。
貴明……って、俺の名前だ。
タマ姉の口からそれを聞くと、なんだかとてつもなく新鮮に聴こえてむずがゆい。
「たまきって……」
小さく呟かれた言葉がタマ姉の名前だと気付くのに時間がかかったのは、多分、つまり、それは、そういう
ことなんだろうと思う。
ぎゅうと締め付けられたのは身体じゃなくて、胸のほうだった。
結局のところ俺にとってタマ姉はどこまでもタマ姉で、姉で――。
「環……」
それはただの鸚鵡返しだった。俺は決してタマ姉をひとりの女性として見たことなんてなかった。
なかったんだ。だから……。
だけど、タマ姉はとても嬉しそうに微笑んで……。
その夜は俺とタマ姉の最後の嘘の欠片だった――。
続く――
性描写は避けてみました(笑
もしもタマ姉に、一人の女として貴明を奪い去るだけの勇気があれば、また違ったお話になっていたでしょ
う。しかし俺が描きたかったのは姉として接することしかできなかったために生じた歪んだ関係とその終わり
でした。
プロットに比べれば随分と鬱度の低い序章となったのは、俺の踏み込みの足らなさでしょうか。ただこれ
以上やるとヤバそうだったので随分押さえ込んでみました(;・ω・)
さて次回からは新学期となり、貴明の前に変わってしまった関係がもう一度突きつけられることになります
でしょう。はてさてどうなりますことやら。
そういやコミケ期間中なのですね。あんまり縁がないもので、すっかり忘れておりました。サークル参加の
方も一般参加の方も気をつけて行ってらっしゃいませ。
それではまた来週を目処に(・ω・)ノシ
てんだ〜は〜と、虹の欠片gj!!
両方とも続きを早く読みたいYO (ё)
キター!GJです
>>307 読むのにちょっぴりパワーが必要ですが・・・
でも、ホントにホントに次の展開が楽しみです。
しかし、このみENDの後日談がパラレルワールドで同時進行とは・・・
GJです!
新学期からの展開が気になります。
てんだーはーとで溜めたこのみ分を全て奪われた・・・
次もてんだーはーの直後か直前に・・・
どちらも力作乙。
ただ、しつこいといわれそうだが、虹の方の展開は、やはりキャラの
性格とか立ち回り方が、個人的にはしっくりこんなあ。
無論、読み物としては面白いんだけどさ。
まあ、まだどういうENDを迎えるかは分からんので、完結後でいいから、
こういう類の意見に対する、作者さんの見解を聞いてみたいように思うな。
とりあえず、どちらも続きを楽しみに待っているよ。
朝チュンキチャッタ━━━(゚∀゚)━━━!!!
ひどいや兄さん(ノ∀`)
それでは早速
てんだーはーと (´・д・`)マダー?
>>307 グッジョブだけど胸が痛ぇ・・・・
河野家まだぁ?(・∀・)
に、虹の欠片をてんだーはーとの先に読んでてよかった…
そうでないと心がつぶれるところだった
だがそれがいい!
Tender Heartマダー?(・∀・)
>307
>ただこれ以上やるとヤバそうだったので随分押さえ込んでみました
このみスキーにとってはもう十分やばいからw
でもどうせならリミッター解除ver.を読みたかったな
うちの"このみん"のばあい
お二方ともお疲れさま&GJ!
こういう流れで二つの話を読めるのは非常に面白い。
>>311 キャラの性格とか立ち回りに関してだけど、言うほど外れてはいないんじゃないだろうか?
これはTH2をプレイした各々が、そのキャラをどう捉えているかって話になってしまうから
難しいというか答えの出ない問題だと思う。
こういう面もあるかもしれない、って作者が思ってそれを形にするのも二次創作だし。
個人的には、一度試して駄目だったら別の方法で迫ってきそうな感じがするけどねw>このみ
春夏さんやタマ姉に入れ知恵されて、必死でタカ坊を誘惑するこのみ……
コメディにしかならんなorz
322 :
名無しさんだよもん:2005/08/15(月) 00:58:58 ID:jEWjnFyo0
河野家まだぁ?
>>321 >コメディにしかならんなorz
だ が そ れ が い い
みんな!俺に続け!!
Tender Heartマダー?(・∀・)
そうだ!
せえのっ
てんだぁはぁと
まだぁ?(・∀・)
巫
ぽ
巫
アイス屋まだぁ?(ぉ
どうでもいい…………わけじゃあないが
とにかくよっちマダー!?
まあまあ、てんだーはーとはつい最近もうぷされてるんだし、
あんまり作者さんを急かさずに待ちましょうや。
だって作者がせかしてくれって言ったもんwwww
ってことでテンダーハートくるまで彼女つくらない
俺とタマ姉が一緒に寝たことに由真が怒り、タマ姉の代わりに由真が俺の部屋で寝ることになった。
校門の前で待っていた珊瑚ちゃんに瑠璃ちゃんは駆け寄り、抱きついた。たった一晩別々だっただけ
でも、今までずっと一緒だった二人にとっては数年ぶりの再会と等しいくらいの喜びなのだろう。
休み時間、自分がモテるタイプなのではなどと馬鹿なことを考えていた俺に草壁さんが話しかけてきた。
草壁さんは俺の家に来ようとしたのだが、母親に反対されたとのこと。厳しいお母さんなんだなぁ。
学校が終わり、夕方、ついにその時は来た。由真対るーこ、料理勝負第二戦である。
俺の家にはゲスト審査員として、このみ、雄二、珊瑚ちゃん、小牧さん、それに郁乃も来ている。
「まったく、何であたしまで……」
ぼやく郁乃だが、小牧さんを置いて一人で帰ろうとしないところがやはりお姉ちゃん子だな。
「それで由真、勝負する料理は?」
「忘れたのたかあき? 三日前に言ったとおり、もう一度卵焼きで勝負よ!」
るーこに対して、ビシッと卵を突き出す由真。まるで熱血野球漫画みたいだ。
「るーはそれで構わないぞ。今度は食える卵焼きを作れるのだろうな、うーゆま」
「余計な心配は無用! じゃあ始めるわよ。まずはあたしからでいいわね」
「いいぞ、うーゆま」
「それじゃあ、由真さん、始め!」
タマ姉の号令を合図に、由真が卵焼き作りに取りかかった。
前回はまるでいいとこ無しの由真だったが、しかし今回の由真は、明らかに前回とは違っていた。
恐らくは余程瑠璃ちゃんにしごかれたのだろう。卵の割り方、かき混ぜ方、フライパンの扱いなど、
どれもちゃんとしている。一夜漬けにしては上出来じゃないか?
などと俺が考えている間に由真は、フライパンの上の卵を巻き、まな板に移し、均等な大きさに切って
いく。そして皿に盛りつけ、完成。
「出来ました!」
出来上がった卵焼きを見ると、とてもあの由真が作ったとは思えない程、ちゃんとした卵焼きだった。
「さ、食べてみて」
俺は箸を取り、由真の卵焼きを食べてみた。――うん、おいしい! 味もちゃんとした卵焼きだ。
他のみんなも卵焼きを食べ、感心している様子。
「上達したわね、由真さん。よくできてるわ、この卵焼き」
「ホントにおいしい……、凄いよ由真、あたしびっくりしちゃった」
「おいしいなー。瑠璃ちゃんが作った卵焼きと同じ味や。これ、瑠璃ちゃんが教えたんやろ?」
「う、うん、まあ、こんなもんやろな。一夜漬けにしては上出来や」
タマ姉、小牧さん、珊瑚ちゃん、それに師匠の瑠璃ちゃんが由真の卵焼きを誉める。
「それでは次はるーの番だな。いつでもいいぞ」
「そうね、それじゃあるーこちゃん、始め!」
タマ姉の号令を合図に、今度はるーこが卵焼きを作り始めた。
るーこの手際の良さは前回と変わらない。テキパキと調理をこなし、卵焼きを完成させた。その所要
時間は由真よりも確実に短かった。
「出来たぞ、食べてみろ」
出来上がった卵焼きを差し出するーこ。俺たちはそれぞれ卵焼きを箸で取り、食べる。――うん、
こっちもおいしい。その味は前回と全く変わらない。
「うーん、タマゴサンドもおいしかったけど、この卵焼きもおいしい!」
「るーこさんのは塩味なんだね。由真さんの甘い卵焼きもおいしかったけど、こっちもおいしいよ」
「自称宇宙人の卵焼きね……、まあ、おいしいのは認めるわ」
花梨、このみ、郁乃がるーこの卵焼きを誉める。
「うーん、正直どっちもうまいな。甲乙つけがたいぜ。どうするよ、貴明」
確かに雄二の言うとおりだった。正直、どっちもおいしいのだ。
更に問題なのはこのみが言ったように、由真のが甘口、るーこのが塩味と、同じ卵焼きでも味付けが
なら次は俺がてんだーはーと来るまでこのみと添い寝するであります
異なる点だ。これでは何を基準に比較したらいいかわからない。
「――さて、二人の卵焼きだけど、どっちがおいしかったか、決を採りましょうか。
じゃあ、由真さんの方がおいしかったと思う人、手を挙げて」
タマ姉がそう言い、手を上げたのは……
タマ姉、小牧さん、珊瑚ちゃん、瑠璃ちゃんの四人。
「い、言っとくけど、ウチが教えたからって手ぇ上げたワケやないからな!」
誰も疑ってないと思うよ、瑠璃ちゃん。
「じゃあ今度は、るーこちゃんの方がおいしかったと思う人、手を挙げて」
手を上げたのは……
花梨、このみ、郁乃、それに雄二の四人。
今のところは四対四の同数。そして、ただ一人手を挙げていないのは……俺である。
「タカ坊、どっちがおいしかったの?」
タマ姉が俺に聞いてくる。困った、決められない……。
散々悩んだ挙げ句、俺はこう言った。
「ど、どっちもおいしかった……」
「それじゃ勝負がつかないじゃない! どっちか決めてよたかあき!」
「うーゆまの言うとおりだ。勝敗の行方はうーに委ねられたのだぞ。さあ決めろ、うー」
由真とるーこが俺に詰め寄ってくる。
「そ、そう言われても、マジでどっちもおいしかったんだってば。
それに、由真のは甘い卵焼きで、るーこのは塩味の卵焼きだから、比較のしようがないって言うか……」
「なら、好みで決めればいいじゃない」
「そうだな、どっちがいいのだ、うーは?」
「う、そ、そう言われても……、どっちもおいしくて、俺は好きだな、なんて……」
苦し紛れの俺の言葉に、由真とるーこが呆れ顔になる。
「はぁ……、ダメだこりゃ。優柔不断にも程があるわ」
「まったくだ。こんなことも決められないとは、見損なったぞ、うー」
そ、そんなこと言われても……。
「うーん、それじゃあタカ坊は棄権ってことで、今日の勝負は引き分けでいいかしら?」
「まあ、仕方がありませんね。正直、決着がつかないのは気に入らないですけど」
「それにしても、まさかこれだけの短期間でるーと引き分けるとは、やるな、うーゆま。
もう一度勝負しよう。その時はこのようなことの無いよう、全く同じ料理で勝負だ。それでいいな、
うーゆま」
「そうね、わかった、もう一度だね。その時は絶対あたしが勝つからね!」
「ちょっと待った! 今度は花梨ちゃんも参戦するからね! るーこをギャフンと言わせちゃうよ!」
「面白い、どうせならうーまなとうーこの、それにうーるりもまとめて勝負してもいいぞ」
「え、ええっ!? あたしもですかぁ!?」
「わ、わたし!? え、えと……」
「う、ウチも!?」
こうして、由真とるーこの二度目の料理勝負は、俺のせいで引き分けとなった。
ああそうですよ! どうせ俺は優柔不断ですよ!!
「あれ、今日はもう帰るの、小牧さん?」
料理勝負が終わり、さて夕食を作ろうかという時、小牧さんが帰り支度を始めた。
「ええ、今日は一緒にご飯を食べるって、親と約束しちゃったので」
「そう、せっかくだから妹さんもご一緒にと思ったんだけど、それなら仕方がないわね」
「すみません。今度また郁乃と一緒に来ますから、その時にはご馳走になります」
「お、お姉ちゃん、勝手に決めないでよ……」
「郁乃、イヤなの?」
小牧さんが不安そうな顔で郁乃を見つめる。
「べ、別にそう言うワケじゃないけど……」
「そう、よかった。じゃ、また一緒に来ましょ」
小牧さんが微笑み、郁乃は照れたように顔を背けた。
「あ、ウチもそろそろ帰るわ」
そう言ったのは珊瑚ちゃんだ。
「ええっ!? まだええやん、さんちゃん。一緒にご飯食べよ、今晩はウチが作るから」
瑠璃ちゃんが珊瑚ちゃんを引き留めようとする。しかし……、
「うん、でも、いっちゃんご飯作って待ってるから……」
困ったような顔で珊瑚ちゃんがそう言う。そうだよな、もし珊瑚ちゃんが帰らなかったら、イルファ
さんは一人、誰も食べない夕食を作って待ってることになってしまう。
「ほ、ほな、しゃあないな……」
瑠璃ちゃんもそれはわかるから、それ以上は引き留めようとはしなかった。
「まあ、珊瑚ちゃんもまた今度、一緒に食べようよ。
じゃあ俺、小牧さんたちと珊瑚ちゃん、家まで送るよ」
「あ、それなら俺もそろそろ帰るわ。一緒に行くぜ、貴明」
夕暮れの道を、小牧さん、郁乃、珊瑚ちゃん、雄二と一緒に歩く(郁乃は車椅子だけど)。
五人で他愛もない話をしながら歩いている内に、小牧さんの家、珊瑚ちゃんの家への分岐点に差し
かかった。
さて、どうしようか。小牧さんたちと珊瑚ちゃん、どちらも家まで送ってあげたいんだけど……
などと俺が悩んでいると、
「河野君、今日はここまででいいです」
「小牧さん?」
「今日は郁乃もいるから一人じゃないし、大丈夫です。
河野君は、珊瑚ちゃんを家まで送ってあげてください」
小牧さんが気をつかって言ってくれてるのはわかるのだが、うーん、しかし……
「ああ、そう言うことなら俺が小牧さんたちを送るよ。貴明もその方が安心だろ?」
おお、確かにその通りだよ雄二! ありがたい。
「え? 向坂君、でも……」
「二人ったって両方とも女の子なんだから、やっぱ家まで送ってあげないと心配だよな、貴明?」
「ああ、その通りだな。じゃあ雄二、よろしく頼むよ。
それじゃ小牧さん、郁乃、また明日」
「あ、はい、また明日」
「ふん……」
小牧さんは笑顔で返事を、郁乃はプイッと顔を背けた。
「じゃあ珊瑚ちゃん、行こうか」
「うん、貴明」
俺は小牧さんたちを雄二に任せ、珊瑚ちゃんを家まで送ることにした。
「貴明」
家までの道の途中、珊瑚ちゃんが話しかけてきた。
「なに、珊瑚ちゃん?」
「瑠璃ちゃん、由真ってコと仲良しになれたんやね」
「うーん、今のところは由真が一方的に話しかけたり頼ったりって感じだけど、瑠璃ちゃんも特に嫌がっ
てる様子でもないし、まあ、仲良しに近づいてるってトコかな」
「そうか〜、うれしいな〜」
まるで自分のことのように喜ぶ珊瑚ちゃんは、目を輝かせて俺に聞いてくる。
「な〜な〜貴明、このまま瑠璃ちゃん貴明の家におったら、由真だけやなくて、環やこのみや他のみんな
とも仲良しになれるやろか?」
「少なくともタマ姉たちは瑠璃ちゃんに対して悪印象を抱いていない、むしろ仲良くなりたいって思って
いるに違いないよ。だから後は、瑠璃ちゃんの気持ち一つだな。
大丈夫だよ珊瑚ちゃん。今は瑠璃ちゃん、慣れない雰囲気に戸惑っているみたいだけど、時間を掛け
ればきっと、みんなとも仲良くなれるよ」
やや理想論的だなと思ったが、これはそうなって欲しいという俺の正直な気持ちだ。だから言ったし、
そうなるよう俺なりに頑張りたいとも思う。
……とは言え、何をどう頑張ればいいかわからないんだけどね。ちょっと無責任かも。
「そうなったらええな〜。瑠璃ちゃんに友達たくさん出来たらええな〜」
「うん、そうだね」
珊瑚ちゃんの期待に満ちた言葉に、おれも肯く。だけどその後、何故か珊瑚ちゃんの表情が曇った。
「きっと大丈夫や。だって瑠璃ちゃん、昔はあんなにたくさん友達おったんやから。ウチのせいで瑠璃
ちゃん、友達おらんようになったけど、貴明の家に、ウチと別々におったらまた友達作れるんや。
これでよかったんや。ウチが何もせんでも、瑠璃ちゃん友達ちゃんと作れるんや。ウチがいっちゃん
作らんでも、友達作れるんや……」
「それは違うよ、珊瑚ちゃん」
「貴明?」
「瑠璃ちゃんが自分で友達を作ることは確かにいいことだよ。でもだからと言って、珊瑚ちゃんが瑠璃
ちゃんのためにイルファさんを作る必要がなかったなんて言ったら、イルファさんはどうなるのさ?
それじゃイルファさんが可哀想じゃないか。
珊瑚ちゃんがイルファさんを作ったことは絶対に間違いじゃない。ただ、今は珊瑚ちゃんと瑠璃ちゃん、
それにイルファさんの間で何かがズレていて、それが仲違いを引き起こしてしまったんだと思う。その
”何か”にさえ気がつけば、きっと瑠璃ちゃんとイルファさんは最高の友達になれるよ。
そのための姉妹ケンカだろ? そのために、珊瑚ちゃんは瑠璃ちゃんを俺の家に預けたんだろ?
なら、今の段階で結論を出すのはまだ早いよ。あの時珊瑚ちゃん自身が言ってたように、二人が少し
離れた場所でお互いに考えて、その”何か”を見つけ出すまでは、な」
「貴明……」
しばらく呆然としていた珊瑚ちゃんだったが、やがて、笑顔へと変わり、そして、
「うん、うん、そうやね! 貴明の言う通りや〜!」
珊瑚ちゃんはいきなり俺に抱きついてきた。
「さ、珊瑚ちゃん!?」
「あかんな〜、ウチ、どうかしてたわ。きっと瑠璃ちゃんと離れて、ウチ自身寂しかったからやね。
それにウチ、大事なこと忘れてた。ウチと瑠璃ちゃんには、貴明がおったんや。
ありがとう、貴明のおかげや!」
「おいおい珊瑚ちゃん、感謝されるにしたってまだ早いよ。何も解決してないんだからさ」
「ううん、この”ありがとう”は、ウチを励ましてくれたことへの”ありがとう”や。
そして――」
ちゅっ。
それは、かつて一度味わったことのある、あの柔らかい感触……。
一瞬の早業で、俺は珊瑚ちゃんにキスされていた。
「――これは、そのお礼☆」
……あーうー、お礼はいいんだけど、天下の往来でキスなんて大胆過ぎるよ珊瑚ちゃん……。
珊瑚ちゃんのマンションに着いた。
「お帰りなさいませ、珊瑚様。
貴明さん、ありがとうございました」
玄関前、イルファさんが俺たちを出迎えてくれた。
「いっちゃん、ただいま〜」
「それじゃ俺、帰るから。珊瑚ちゃん、また明日」
「あ、貴明さん、もうお帰りになるんですか? もしよろしければ、貴明さんも夕食をご一緒に……」
「ゴメン、イルファさん。多分家でも俺のこと、待ってるだろうから」
イルファさんは残念そうな表情を浮かべ、
「……そうですか、それでは仕方がありませんね。
では、いずれ貴明さんをご招待いたしますので、その時はお願いします」
「うん、楽しみにしてる。じゃあね」
「貴明、また明日な〜」
「お休みなさいませ、貴明さん」
さっきの分岐点で、何故か雄二が俺を待っていた。
「どうした雄二?」
「ああ、お前に一つ知らせておくべきことがあってな」
雄二はそう言うと何故か俺の背後に回り、そして、
バンッ!!
俺の背中を思い切り叩きやがった!
「あたっ!! な、何すんだよいきなり!?」
「貴明、小牧さんな、お前が送ってくれなくて、とても残念そうにしてたぞ」
「え、えええっ? な、なんで? 小牧さんの方からいいって言ってたのに……」
「はぁ……、だからお前はニブチンなんだよ。ったく、少しは女心を理解しろってーの」
雄二は不機嫌そうにそう言い残し、自分の家の方に歩いていった。な、なんなんだよ一体……?
つづく。
どうもです。第19話です。
>>315さん、
>>322さん、うれしいっス!
いや、ぶっちゃけ「Tender Heartマダー?(・∀・) 」が羨ましかったもので……(´・ω・`)
ちなみに自分、コミケには行ったことないです。
以前、友人に誘われたのですが、「人混みがイヤだから行きたくない」と断り、
その時友人には「この引きこもりが!」と罵られてしまいました・゚・(つД`)・゚・
新作キタ━━━(゚∀゚)━━━!!
19話って結構な長編な上に終わりが見えないのでこの先ワクワクテカテカして待ってます。
俺もコミケは1回行って人ごみのうざさから行かなくなったクチです('A`)
河野家もキター!
全く、全然、まるっきり収拾へ向かう兆しすらない展開。
まだまだ当分、楽しめそうですね。待ってるよん
>>344
河野家キタ━━━(゚∀゚)━━━!!
この珊瑚もうすでにレベル3いってますなw
キター(・∀・)
続き気になるわぁ
ではいくぞっ!
せーのっ
よっちまだ〜?
てか前スレが面白いことになってる
GJ!>344
TH2の世界から離れてたので、懐かしく読ませていただきました。
で、草壁さんまだー。
色々あった1日を終えて泥のように眠った。
ふと気づくと俺は情報処理室に居た。
くま吉と初めて出会ったあの場所だ。
何故そこにいるかはわからないが周りを見回すとパソコンデスクの間からくま吉が顔を出した。
もちろん熊の人形の方のくま吉だ。
トテトテとこっちにやってくるとジャンプをして俺の首に飛びつく。
「お?どうした?くま吉」
「くま吉じゃないよ、ミルファでしょっ」
ふと気づくと首にぶら下がっているのがミルファに変わっていた。
「ミルファ?何で…」
「何でって…」
俺から離れたミルファが着ていた服のボタンをプチプチはずしていくミルファ。
外す度にミルファのきめ細かい白い肌が露になっていく。
俺がどうしようも出来ずにただそれを見ているうちにミルファは下着のみの姿となっていた。
「ほら、貴明…」
「う、あ…」
俺がただただ戸惑っているのを楽しんでいるのかミルファは妖艶な笑みを浮かべて近寄ってくる。
その姿が俺の目の前まで来るとぎゅっと抱きついてくる
「貴明…抱いて」
「うぉっ!」
ビックリしてふと気づいたら目の前にあるのはいつもの天井。
空は既に日が昇っていた。
「夢…か」
額には汗が浮かび、大分汗をかいていたのが分かった。
昨日風呂場であったあの事が脳裏に焼きついていたのだろうか…
女性が苦手とは言え仮にも若い男子校生なのだからこんな夢見ても仕方ないのかもしれない。
「シャワーでも浴びるか…」
汗を流すためにベッドから起き上がろうとするが何かが乗っかっているのか起き上がれない。
そこで布団を少しめくって自分の横にある重いものに目を向けると…
「すぅ…すぅ…」
「なんだミルファか…」
…?
何かおかしい。
昨日はミルファと別の部屋で寝たわけで。
だから…えっと…
「なんでお前がここに居るんだー!」
何とか上体を上げ、ミルファを起こす。
すると寝ぼけなまこの顔をさせて
「おはよーごじゃーまふ…」
やる気の無い声を出したかと思ったら俺に抱きついてまた寝始めてしまった。
そのすやすやと寝る寝顔を見るとついつい顔がほころんでしまう。
…ってそうじゃなくて。
「なんでお前が俺の部屋で、というか俺のベッドで寝てるんだよ!?」
「んー…知らな〜ぃ…」
くっつかれてるとミルファの大きな胸が俺の体に密着してくる。
ただでさえあんな夢を見たってのにこんなやわらかい感触を感じたら理性は持っても体が…
「ミルファ、頼むから離れてくれ」
「やー…」
「ほら!おーきーるー!」
メイドロボが起こされるって聞いたこと無いぞ…まったく。
ミルファは何度もゆすり何とか起きてくれた。
「あ、貴明おはよー」
眠そうな顔で笑顔を見せてくる。
きっとこいつ何してるか分かってないな。
「何でお前は俺のベッドで寝てるの?」
「えーっと…なんでだっけ?」
えへーと言った感じの朗らかな笑顔をされて俺は怒る気も失せてしまった。
「俺が知りたいよ…」
がっくりしている俺をよそにぼーっとしつつ思い出そうとしているミルファ。
「あぁ、一度は寝たんだけど起きちゃってなんとなくこっちに来て、
貴明の横で寝るの気持ちよさそうだったから横で寝たら本当に気持ちよかったから寝ちゃった」
「頼むから勝手に入ってこないでくれ…」
「あー…ごめんね?」
俯いている俺の顔を下から覗き込むようにしてくる。
良く見るとミルファの格好が大きめなシャツ一枚のみ。
そんなミルファの胸元を見ると胸の谷間が良く見え…
「貴明どうかした?」
俺の視線に気づいたのかキョトンとした顔でこっちを見てきた。
「あ、いや、なんでもない。汗かいたからシャワー浴びてくるわ」
「いってらっしゃーい。じゃあ朝ごはん作っておくね」
ベッドの上でまだ少し寝ぼけたままのミルファを置いて俺は風呂場へと向かった。
何はともあれこの変な状況と感情を少しでもさっぱりさせたかった。
くっつかれてるとミルファの大きな胸が俺の体に密着してくる。
ただでさえあんな夢を見たってのにこんなやわらかい感触を感じたら理性は持っても体が…
「ミルファ、頼むから離れてくれ」
「やー…」
「ほら!おーきーるー!」
メイドロボが起こされるって聞いたこと無いぞ…まったく。
ミルファは何度もゆすり何とか起きてくれた。
「あ、貴明おはよー」
眠そうな顔で笑顔を見せてくる。
きっとこいつ何してるか分かってないな。
「何でお前は俺のベッドで寝てるの?」
「えーっと…なんでだっけ?」
えへーと言った感じの朗らかな笑顔をされて俺は怒る気も失せてしまった。
「俺が知りたいよ…」
がっくりしている俺をよそにぼーっとしつつ思い出そうとしているミルファ。
「あぁ、一度は寝たんだけど起きちゃってなんとなくこっちに来て、
貴明の横で寝るの気持ちよさそうだったから横で寝たら本当に気持ちよかったから寝ちゃった」
「頼むから勝手に入ってこないでくれ…」
「あー…ごめんね?」
俯いている俺の顔を下から覗き込むようにしてくる。
良く見るとミルファの格好が大きめなシャツ一枚のみ。
そんなミルファの胸元を見ると胸の谷間が良く見え…
「貴明どうかした?」
俺の視線に気づいたのかキョトンとした顔でこっちを見てきた。
「あ、いや、なんでもない。汗かいたからシャワー浴びてくるわ」
「いってらっしゃーい。じゃあ朝ごはん作っておくね」
ベッドの上でまだ少し寝ぼけたままのミルファを置いて俺は風呂場へと向かった。
何はともあれこの変な状況と感情を少しでもさっぱりさせたかった。
「それじゃあいただきます」
「は、はい!どうぞ」
そのいたたまれない雰囲気から逃れるためと
折角作ってもらった料理が冷めてしまう前に早く食べることにした。
食べてみるとベーコンはこげているわけでもないがカリカリに焼けていて食べ応えがあり
目玉焼きは俺好みの外は固くて中は半熟の絶妙な焼き加減。
そしてコンソメスープも具沢山で美味しい。
黙々と食べる俺を見て最初は不安そうだったミルファの顔も笑顔に変わっていた。
「美味しい?」
「…(コクコク)」
そして瞬く間に全部を食べ終えてしまった。
こんな料理を毎日食べてたら身体が健康になれそうな気がする。
それほど美味さと栄養のバランスが取れている気がした。
「美味しそうに食べてくれると私も嬉しいな」
「美味しそうにというか本当に美味いからな。ありがとう」
「えへへ…それじゃあ片付けちゃうから着替えてきて」
「あぁ。って着替えるってどっか行くのか?」
「行かないけど休みだからってずっと部屋着でいるのは駄目だよ!」
またメッと怒られてしまった。
その仕草にも何か許せてしまう…これがミルファマジックか?
「はーい」
2階に行って早速着替えてくることにする。
外を見ると見事なまでの快晴。
今日は何かをするにはもってこいの一日になりそうだ。
そんな同でも良い事を考えながらのんびりと着替えをする。
ここまで気持ちよく晴れた空を見るのは久しぶりかもしれない。
最近色々と慌しくて…というか今も慌しいけどゆっくりしてなかった気もする。
今日くらいはゆっくり出来るといいんだけどな…
なんとなく無理な気がする。
その時そう感じた。
着替え終わった後にリビングへ戻ると洗い物を既に終えたミルファがソファーに座っていた。
「なぁミルファ、今日はどうする?」
俺には無論予定なぞあるわけもないのでミルファとの初めての休み位
ミルファの為に何かしてやろうと思っていた。
「うーん…」
何かを考えながら周りをキョロキョロするミルファ。
「どうした?」
「貴明、ちゃんとお掃除してる?」
「え゙っ」
うら若き男子校生である俺が掃除などするわけも無く
やることといったらゴミをきちんと捨てる位のものだった。
もちろん思い立ったときに掃除機をかけたりはするが
掃除らしい掃除など両親が居なくなってからしていないのが事実である。
「ま、まぁ一応は…」
「嘘。全然してないでしょ。だって部屋の隅とかにゴミが溜まってるもん。
フローリングって隅にゴミがたまるからすぐわかるんだよ?」
「う…」
事実を言い当てられてしまうと言い返すことなど出来る訳が無かった。
こうして初めての休みは家の大掃除をするということで決まった。
まぁ大掃除といっても窓を拭いたりきちんと隅まで掃除機をかけて水拭きをする程度とミルファは言った。
程度って…それは俺にとっては立派な大掃除であった。
あぁ…久しぶりのさわやかな快晴の中の休日がぁ…
「はい、それじゃあはじめましょー」
「おー…」
服が汚れないように割烹着と三角巾を着けたミルファがやる気満々といった表情で意気込む。
ちなみに俺も三角巾をさせられている。
「ほら!元気出す!部屋が綺麗になると気分もさわやか!」
「へーい」
ゴスッ
「やる気を出す!」
「お、お前…箒の柄で額を突くなよ…」
「気にしない」
頼むから気にしてください。
とりあえず俺は自分の部屋を掃除して布団を干す役。
ミルファはリビング、ダイニング、キッチンを掃除する役と分担が決まった。
やるからには中途半端にやってもしょうがない。
ここは気を引き締めて…というかあきらめて掃除をきちんとする事にした。
「とりあえずは布団を干す…っと」
ベランダに布団を持って行き布団たたきでパンパンと叩いて埃を払う。
その音に反応したのか向かいの家の窓が開く。
「あれ?タカくんこんな朝早くから珍しいねぇ」
無論隣の家というのはこのみの家なわけで。
「あぁ、昨日早く起きちまってな。天気もいいし布団でも干そうかなってな」
…まぁ嘘は言ってないだろう。
「へぇー。タカくん偉いねー。あ、じゃあ手伝いに行こうか?」
「あぁ…」
頼もうとしたところでふと我に返る。
今はミルファが1階に居る。
で、このみが着たら回りに知れ渡るわけで。
…まずい気がする。
いや、かなりまずい。
特にタマ姉辺りに知れ渡った日には…それだけは防がねば。
「いや、良いよ。別に大掃除をするわけじゃないし部屋の模様替えするだけだからさ。
このみも何か用事あるんだろ?」
「あ、うん。午後からちゃるとよっちと会う約束してるんだ」
「だったらその前に体力を使わせるわけには行かないよ。今度機会があったら頼むな」
「了解しましたであります!隊長〜」
ちっちゃい手でビシっと敬礼をするこのみ。
何とかわかってくれたみたいだ。
「じゃあタカくんまた明日ね〜」
「あぁ、明日な」
俺に大きく手を振ってこのみは部屋に戻っていった。
どうやら一命は取り留めたようだ。
緊張からの開放でつい干した布団に寄りかかってしまう。
お天道様はあったかいなぁ…
「いかんいかん。掃除しないと」
少し日向ぼっこした後に我に返って掃除の続きを始める。
まぁ模様替えといってもこれといって大きく変えるつもりも無いから棚の裏でもきちんと掃くようにしよう。
小一時間経ったところで主なところの掃除を終えた。
細かいところを掃除して少しだけ配置換えをしただけなのに大分見違えた気もする。
「こんなにしっかり掃除したのなんて何ヶ月ぶりだろう…」
ここ数年の大晦日の大掃除でもそんなにきちんとは掃除してなかったから楽しくもあった。
「さて…ミルファはどうしてるかなぁ…っと」
三角巾で軽く汗をぬぐいながらリビングへと向かう。
リビングへと向かうと別に配置は何も変わってないのにいつもと違う感じを受けてしまう。
これじゃまるで新築の家みたいだ…床もなんだか光ってるし。
「あ、貴明終わった?」
しゃがんで掃除をしていたミルファが俺の気配に気づいたのか顔を上げてきた。
「終わったよ。こっちはまだ終わってないみたいだな」
「うん。貴明ー、やっぱりちゃんと掃除してなかったでしょ。埃いっぱい出てきたよー」
「ん…ま、まぁ男の一人暮らしだったからなぁ」
「これからはミルファちゃんが綺麗にしたお部屋で住めることを光栄に思うのですよー」
鼻高々といった顔をして自慢げに話すミルファ。
しかしこの綺麗な掃除の具合を見るとそれも納得が出来てしまう。
「あぁ。本当にありがとうな。こりゃ凄いわ」
「えっへん!」
胸を張って威張るミルファ。
さっきまで綺麗だった割烹着が汚れているのが見て取れる。
大分頑張ったんだろうな。
ミルファばかりに任せていたら仮にも家を預かってるみとして情けない限りだ。
俺も頑張るとするか。
「よし!じゃあ一気にリビングを終わらせて休憩するか!」
「おー!」
二人でやったおかげかリビングの掃除もそんなに時間がかかるわけでもなく終わった。
「よーし、休憩しようか」
「って貴明が休憩したいんでしょ?」
「まぁな。それにもうこんな時間だ。腹も減ってきたしな」
時計を見ると既に時計の短針は12を過ぎていた。
珍しくきちんと朝飯を食って掃除という労働をすると腹も減りやすいわけで。
というわけで俺の腹は栄養を欲していた。
「はいはい。じゃあ何か食べたいものある?」
「何でも良いよ。そんなに手間がかからないほうがいいだろ。無理しなくて良いよ」
「うん。じゃあお言葉に甘えて簡単に…」
そう言いつつも暫くしたらキッチンからはソースのいいにおいがしてきた。
「はーい。お昼は焼きそばでーす」
昨晩の酢豚や朝のコンソメスープの余りの具材を使って出来たのは焼きそばだった。
「おー。いただきまーす」
焼きそばなんてのはそんなに凝ろうとしても市販の麺とソースを使用する限り特に変わりはしないものだ。
しかし何となくこの焼きそばが懐かしく、美味しいものに感じる。
掃除なんて労働をした後だからか?
良くわからんが美味いものは美味いのだ。
「うん、美味い」
「余りものも残さず使うミルファちゃんは賢いのでーす」
「おぉー」
「えへへー」
最近ぜんぜん味わっていなかったこの感覚。
家で掃除をして疲れたところで作ってもらったご飯を食べる。
新婚生活ってのがもし味わえるのならこんなのなのかな…
そんな事をミルファを見ながらふと考える。
「?どうしたの?私の顔に何かついてる?」
前髪に埃がついてないかパタパタと手で払うミルファ。
「いや、そういったわけじゃなくてね。いや、なんでもない。気にしないで」
「?」
俺が飯を食っている間、ミルファの顔には?が浮かんだままになっていた。
「さてと、続きをしますかね」
「はーい。がんばろーっ」
食後に少し休憩をした後に今度は俺が窓を拭いてミルファが台所の掃除をすることになった。
俺が1枚1枚ゆっくり拭いていると
「み゙ゅあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
大きな声というよりはけたたましい叫び声が台所から聞こえた。
「な、何だ?どうしたミルファ?」
台所へ向かうと一点を見つめたまま震えて動けなくなっているミルファが居た。
「ゴ…」
「ご?」
「ゴ…ゴ…ゴキ…」
「ごき?」
「ゴキブリー!!!!!!!!」
ミルファが指差す先には黒くて光物体。ゴキブリが居た。
別に大物というわけでもなくどちらかというと小さめのサイズのゴキブリのようだ。
カサカサカサッ
ゴキブリがふとこっちに方向転換して寄ってくる
「いやー!いやー!み゙ゃー!!!」
ドタバタ走り回った挙句ミルファは2階へと上がっていってしまった。
「やれやれ…」
ふと台所へ目を向けたらゴキブリはまだそこに居た。
中々にして動じないやつだな。
数百倍の大きさの、しかもメイドロボであるミルファの方がドタバタしているのを考えると面白く感じてしまう。
「さて、出てこられちゃ殺さなきゃな…」
別に恨み辛みは無いが出会ってしまった以上はしょうがない。
俺はそのゴキブリを昇天させてあげた。
その後に買い置きしてあってゴキブリが食べると死んでしまうホウ酸団子を
台所の隅の数箇所に設置して床は拭いておいた。
一通りの処理を終えてから俺は2階へと向かう。
恐らくは俺の部屋に居るだろうから。
「ミルファ?居るかー?」
そう言いつつドアをあけると俺の布団が丸くなっていた。
ミルファが包まっているのだろう。
「ゴキブリは退治しておいたぞ」
「また出てくるかも…」
「出てこないように退治する道具も設置しておいた。もう大丈夫だよ」
「…」
ベッドに腰掛けて丸くなっているミルファの横に行く。
「ほら、大丈夫だから…」
頭がどこにあるかわからないがとりあえず丸くなっている布団の上のほうをなでてみる。
するとミルファがひょこっと布団から頭だけを出してきた。
「…」
「ゴキブリ嫌いなのか?」
「うん…」
半泣きのような声で答える。
HMX-17シリーズは泣く事は出来ないらしいがこういったところの感情の表現は凄いみたいだ。
「そっか…」
「本当は虫系が嫌いなの…中でもゴキブリは凄く嫌い…」
「まぁあれは俺も好きじゃないな」
「けど貴明は退治したんでしょ?」
「まぁな…」
「貴明は凄いな…何かかっこいい」
思わないところで褒められて嬉しいというよりも恥ずかしさが上回る。
やはり褒められるのは慣れていないようだ。
気恥ずかしくてしょうがない。
「ミルファだって凄いぞ?料理だって上手いし掃除だって凄いし。助かるよ。ありがとうな」
特に意味はなかったが何となくミルファの頭をなでてやった。
撫でて上げるとまるでネコがなでられたときのように目を細めて気持ちよさそうな顔をする。
「う…うん」
そのままゆっくりと時が過ぎる。
「ねぇ…貴明…」
「ん?どうした?」
「ひざ…」
「ひざ?」
「膝枕してもらっても良い…かな?」
膝枕をしてあげる…。
前にタマ姉にしてあげたあれか。
普通は逆なんじゃないかと疑問を持ちつつもこのゆったりとした時間が続くなら…
「良いよ」
「ほんと?ありがと〜♪」
嬉しそうに身体を布団から出すと俺の太ももに頭を乗せてきた。
「気持ちいい〜…」
「ん〜…」
そのまま俺もベッドに身体を預けるとゆっくりとした時間に身を委ねて寝てしまった。
「…んっ」
ふと目を覚ますと空が少し茜色がかっている。
どうやらもう夕方になりつつあるようだった。大分寝てしまったのだろうか?
ふとももの部分を見てみるとミルファはまだすやすやと寝ているようだった。
「ほら、ミルファー」
ゆっくりとミルファの身体を揺らしてあげるとミルファが目を開いてこっちを見てきた。
「あ…いつの間にか寝ちゃってた?」
「二人してな」
俺が外を指差すと赤くなってきている空を見てミルファがあっとした顔をする。
「もうお掃除できないね」
「まぁいっぱいやったしな。また今度で良いんじゃないか?」
「うん…じゃあ…」
ミルファがぎゅっと抱きついてくる。
「もう少し…こうしてても良い?」
そう言うと上目遣いでこっちを見てくる。
確か初日にもこんなことがあったような……。
俺が、というか男がこのおねだりに弱いというのを知っているのだろうか。
「もう少しだけ…な」
「ありがとっ」
嬉しそうにミルファが俺に顔をうずめるとまた部屋にはゆっくりとした時間が流れ始める。
外はさっきよりも茜色に染まっていた。
リアルタイムです。乙。
今は規制が辛いのかなぁ……30分にわたるうp大変だね。
それはそうとこのミルファはツボですwwww
やっぱツンデレよりデレデレだな
旅行から帰ってきて妄想炸裂させつつ書きました。
1話目に比べて1.5倍までテキスト量が増えてる…_| ̄|○
なるべく脱線しないように頑張ります。
>>267 楽しみにしてもらってこちらも嬉しいです。
新作良かったです。次作も期待させてもらいます(0 ・∀・)ワクワクテカテカ
>>367 Sugeeeeeeeeee!!
萌え転がった!激しくGJ!!
次回も期待してますから頑張ってください(´∀`)b
>>367 >>354と
>>355が同じ内容。
実は、もうちょびっと第5話があるとか無いですか?
Brownish Storm第6話まだー?
RE-tryの人の次のまだー?
シャワーを浴びて幾分さっぱりした俺は頭からタオルを被ったまま良い匂いがするリビングへと向かう。
ここ最近では味わったことの無い環境。
朝起きたらリビングのほうから料理の匂いがする。
両親が出張に出て居なくなってからこんな状況になったのは初めてかもしれない。
当たり前の事なのかも知れないがこんな事をしてくれるミルファに感謝しなくちゃな。
そう思いながらリビングに入りキッチンのほうを見るといつもの服に着替えて料理をしているミルファが居た。
「あ、もう出てきちゃった?まだ出来てないから少し待っててねー」
「あぁ、わかった」
ソファーに向かいテレビをつけてみると朝の9時過ぎ。
平日に比べて幾分遅くまで寝ていたみたいだ。
まぁいつもなら10時を過ぎたりすることもあるから早いほうなのかもしれない。
何を見るでもなく適当にチャンネルを回しているとテーブルに食器を並べる音がする。
「貴明ー。朝ごはんできたよー」
その声に食卓へ向かうとそこにはトースト、ベーコンエッグ、コンソメスープが並んでいた。
「あんまり時間が無かったから簡単なものしか作れなかったけど…」
「いや、あの時間でここまで作れれば大したもんだ。凄いなミルファ」
正直に感心してしまった。
まだ使い慣れているわけではないキッチンでそれぞれ作るの自体は難しくは無いと思うが
ちゃんとしたものをあっさり作ってしまうミルファの腕前は
イルファさんや瑠璃ちゃんと比べても遜色は無いのではないかと思える。
「あ、ありがと…」
元気いっぱいの笑顔を見せてくるものかと思ったら顔を赤くして照れているようだった。
そのミルファの思いがけない反応につい照れてしまう。
ただ単に褒めただけなのに…なんだか俺も顔を赤くしてしまった。
ごめんなさい、ミスってましたね_| ̄|○
↑のが正式な4/14になります。
ぶっちゃけ無くても話がつながr(ry
>>369 指摘ありがとうございます。
実際のところこの後も書こうかなとは思ったりもしましたが量が多すぎるから端折ったのが真実です。
第6話はまだ書き始めてもいないので待ってて下さいorz
萌えていただけて光栄です(´∀`)
続き投下してもいいのかな…?(´・ω・`)
>Brownish Stormの中の人
迷わずGO!
ミルファが我が家にやってきてドタバタした週末が終わった。
今日から学校…マトモにすまない気がする。
ピピピッピピピッピピピッ
電子的なベル音でまどろみの世界から現実世界へと引き戻される。
その引き戻された非情な音を止めようと目覚まし時計を止めようと手を伸ばす。
ピピピッピピピッピピピッ
「あれ?」
普段なら時計があるその場所に手を伸ばしても時計の感触がせず手が空を切る。
仕方なく目を開けて時計があるはずの場所を見るも時計が無い。
ピピピッピピピッピピピッ
時計が無いのに音はなり続ける。
…何故に。
「ほらー、朝ですよー。おきなさーい」
謎は解けた。
元凶が居た。
「ミルファ…わかったから目覚まし止めて…」
「はーい」
ミルファが持っていた鳴りっぱなしの目覚まし時計を止める。
どうやら昨夜は俺の布団にもぐりこまずにきちんと寝てくれたようだ。
「おはよーございます」
「おはよー…」
きちんとお辞儀をしてくるミルファに対してあくびを出しながら挨拶をする。
ギニニニニニッ
「いひゃいひゃいひゃい!!」
「ちゃんと挨拶するの!」
目を座らせて思いっきり不満そうな顔をして俺の頬をつねってくる。
この細い腕からどんな力を出してくるんだか…
「おはよーございます…」
「はい、おはよーございます」
ちゃんと挨拶をしてくれたのが嬉しかったのか満面の笑みで答えてきてくれた。
朝から元気なことで。
「ほら、起きたらさっさと着替える。朝ごはんは出来てるから早く降りてきてね」
そう一言告げるとミルファは1階へと降りていってしまった。
何だか朝から部屋に嵐がやってきたような感じだ。
これからはこんな毎日なのか…なんか少し頭が痛くなった気がする。
ここで着替えないで手間取ってるとまたミルファがやってくる気もするのでさっさと支度をすることにした。
制服だからさほど着替えに時間がかかるわけでもなくすぐに着替えが終わった俺は1階へと向かう。
1階に行くとミルファが椅子に座って足をブラブラさせながら暇そうに待っていた。
その目の前には朝食が。
「あ、意外と早かったね」
「まぁ男の着替えだしな。それよりも朝から結構な量じゃない?」
「そう?」
そのテーブルにおいてある朝食を見た感じ
焼き魚、厚焼き玉子、金平ごぼう、焼き海苔、納豆、生卵、味噌汁と純和風なラインナップだ。
「これ結構時間かかったんじゃないのか?」
「まぁ簡単なわけじゃないけど朝は1日の始まりだからね!しっかりエネルギー補充しないと!」
そういってこんもりとご飯が盛られたお茶碗を差し出してきた。
簡単じゃないって言ってる辺り結構時間かかってるんだろうな。
俺のために早く起きて作ってくれたというだけでも凄く嬉しい。
ミルファを見ると早く食べてといった顔をしてこちらを見てきた。
こんなに作ってもらって食べない理由などあるわけもなく俺は早速箸をつかんだ。
「それじゃあいただきます」
「はいどうぞ♪」
モクモクモク…
「お、この厚焼き玉子甘いんだな」
「あ、甘いの駄目だった?」
「いや、甘いのが俺は好きだから問題ないよ」
「そっか。良かった〜♪」
モクモクモク…
「…この海苔炙った?」
「うん。良い匂いでしょ?」
「あれ?ミルファって匂いわかるの?」
「うーん…、わかるっていうのかなぁ?感知は出来るよ。」
「そっかそっか」
モクモクモク…
「ごちそうさまでした」
「はい、お粗末さまでした」
結構な量があったはずだが何だかんだですべて食べてしまった。
こんなにしっかりと朝食食べたのは何ヶ月ぶりだろう。
最近だとこのみがくさやを焼いてくれた位か?
…あれがちゃんとした料理なのかは伏せておこう。
「お、もう時間だ」
少し食休みのためにのんびりとテレビを見た後で時計を見るとまだ少し余裕はあったが
このみを起こすことを考えると丁度良い位だろう。
「はい、じゃあこれハンカチとティッシュね」
「あぁ、ありがとう。それじゃあいってきます」
玄関で靴を履いてドアを開ける。
それについてこようとするミルファ。
「…」
「…?」
「お見送りはここまでで良いからね?」
「えー。外までお見送りしたいのにぃー」
ブンブンと両手を振って不満を表現するミルファ。
どうやら駄々っ子モードに入ってしまったようですよ。
「駄目。そんなことされたら近所に何て思われるか…」
「うーん…新婚さんかなー?」
少し頬を赤らめて恥ずかしそうに言ってくる。
そんな顔されたらこっちまで恥ずかしくなってくるじゃないか。
「だから駄目!」
「ちぇーっ。じゃあじゃあ、いってきますのちゅーはぁ?」
顔を赤らめたままミルファが自分の唇に人差し指を当てる。
「駄目!」
「なんでよー!愛しのミルファちゃんと暫しのお別れなんだぞー!!」
口を尖がらせて不満を表現するミルファ。
何でこいつはこんなにも男を弱くさせる武器を使ってくるんだろう。
そしてそんなミルファに弱い俺も俺だ。
ちゅっ
「…いってきます」
「えへへ〜♪いってらっしゃい貴明ぃ〜♪」
珊瑚ちゃんのようなとろけそうな笑顔で手を振って見送ってくれた。
あぁ…俺の意気地なし。
このみの家の前に着くも出てきそうな気配は無し。
しょうがないのでベルを鳴らしてみることにした。
『あ、タカくん?もうちょっと待ってくれればもうこのみ出れるから待っててね』
「あ、はい。まだ遅刻する時間じゃないんで大丈夫ですよ」
『たまにはゆっくり行きたいでしょ?じゃあ待っててね』
『おかぁさーん。このみの朝ごはんは〜?』
『こんな時間まで寝てて何言ってるの!おにぎり作ったから食べていきなさい!』
『はぁ〜ぃ…』
インターフォン越しに聞こえる限りどうやら今日もギリギリに起きたみたいだ。
「えへへ…タカくんおはよー」
出てきたこのみの頭は少しボサボサの感じが残っている。
「ほら、さっさと行くぞ」
「うん。おかあさんいってきまーす」
「はい、いってらっしゃい。あ、タカくんもおにぎり持って行く?」
そんな春夏さんの手にはこのみの分だけにしては多いおにぎりがあった。
「あ、今日はちゃんと朝ごはん食べたんで大丈夫です」
「あら、タカくん一人暮らしなのにえらいわねぇ〜」
実は一人暮らしじゃありません。
…なんていえないよな。
「タカくん凄いであります」
そう言うとこのみはハムっとおにぎりを咥えて先に歩いていく。
「ふぉれふゃあふぃっひぇふぃふぁーふ」
何を言ってるのかさっぱりわからん。
そんなこのみの後につくように俺も行こうとするところで後ろから腕を引っ張られた。
春夏さんが俺の腕を引っ張ってきたようだ。
「タカくん。女の子を家に連れ込むのはあんまり良いとは言わないけどご両親にはバレないようにね?」
「はいぃ?」
春夏さんが指を指す方向、つまり俺の家を見ると家のドアが少し開いていて
こっちを見ている誰かさんの顔と揺れているポニーテールが見て取れる。
俺が家の方を見たのに気づいたのか慌てて顔を引っ込めるとドアが閉まった。
だから出て見送るなって言ったのに…
「あ、あれはその…」
「フフフッ。頑張りなさい男の子っ!」
ニコニコ笑った春夏さんが俺の背中をバンっと叩いて見送ってくれた。
「タカくんどうしたの?」
俺が背中をさすりながらこのみに追いつくと既におにぎりを食べ終えた様子で
さすっている俺の背中の方を見て質問をしてくる。
「あぁ、春夏さんにちょっとな」
「あ〜、タカくんおかあさんに怒られたんでしょー。お母さん怒ると怖いもんねー」
「あぁ、そうだな」
何とかミルファがこのみの目に入るのは避けられたようだった。
少し歩いたところでその問題のタマ姉と雄二は既に待ち合わせ場所についていた。
「うぃーっす」
「タマお姉ちゃんユウくんおはよー」
「おーっす」
「このみ、タカ坊おはよう」
そのまま何時もの他愛無い会話をしたまま学校へと向かう。
そして珊瑚ちゃんと瑠璃ちゃんの居る待ち合わせ場所へとついた。
珊瑚ちゃんはすぐにこっちに気づくと両手を振ってくる。
「るー☆」
「おはよー、珊瑚ちゃん瑠璃ちゃん」
「おはよー貴明ー。みっちゃんどうやー?」
俺がそれについての話題を静止しようとした矢先に出てきた言葉が俺の計画を断念させる。
「「「みっちゃん?」」」
後ろに居たこのみ、タマ姉、雄二の声が揃う。
「みっちゃんやー。いっちゃんの妹のみっちゃん」
「ク、クマ吉居ただろ、クマ吉。あれだよあれ。」
まさかメイドロボが居るなんて知られたらえらいことになる。
ここは何とか取り繕わないと
「あぁ、タカくん言ってたあのくまのぬいぐるみのロボット?」
「そうそう、それ」
「何でタカ坊にそのクマ吉の調子を聞くのよ?」
「何でってみっちゃ…むぐっ」
本当のことを言われる前に珊瑚ちゃんの口を塞ぐ。
「テスターのお願いをされてね。それでさ…」
「お前もついに熊のお人形に手を出すなんて…」
雄二が出てもいない涙をぬぐって俺の方を叩く。
思いっきりムカつく間違い方をされているだろうがこいつに恨みを持たれるよりはマシか。
ガッ!
「ぐあぁ!?」
太ももを思いっきり蹴られて後ろを振り向くと瑠璃ちゃんが怒った顔でそこに居た。
「る、瑠璃ちゃん何?」
「何やない!さんちゃん苦しそうやないか!さんちゃんをはなせー!!」
ハっとわれに返ると珊瑚ちゃんの口をずっと押さえたままだったせいか珊瑚ちゃんが苦しそうにもがいていた。
「あ!ご、ごめん!」
「うー…貴明ひどいぃ〜」
開放された珊瑚ちゃんが少し目を潤ませながら非難の目で見てくる。
「ごめんね、珊瑚ちゃん」
「貴明許してもらいたいん?」
「うん。そりゃあね」
「じゃあうちのお願い聞いてくれたら許したげる〜☆」
「キ、キスとかじゃなきゃ良いけど」
「ちぇーっ。貴明つまらんなぁー」
しようと思ったんですか。
事前に駄目って言ってよかった…こんな朝で生徒がちらほら居るところでそんな事をしたら
学校中で話題にされてしまうところだ。そんなことになったら登校拒否をしかねないぞ、俺。
「じゃあおんぶ〜☆」
「え゛っ」
キスまでじゃないにしろかなり恥ずかしい。
いや、まぁ毎日両手に双子をぶらさげて登校してるのが恥ずかしくないといわれればそれまでだけど。
「貴明お願い聞いてくれるって言うたよ〜」
両手をブンブン振って駄々をこねる珊瑚ちゃん。
ミルファの駄々っ子ぷりってこれを学習してしまったのだろうか。
この様子がミルファと凄くだぶる。
そしてこの駄々っ子には何を言っても効かない事を思い出す。
「はいはい…」
「あ〜っさんちゃんずるい〜っ」
「え?」
めずらしい抗議を聞いてその声の主の方向を見る。
そこにはしまったといった顔で顔を少し赤くしている瑠璃ちゃんが。
「あ、いや、ちゃ、ちゃうよ。この坂道を登らんで良いって意味でずるいって言っただけで
別に貴明におんぶしてもらいたいとかそう言ったわけやないから、えっと」
自分で何を言ってるのか瑠璃ちゃんはわかっているのだろうか。
明らかに墓穴を掘って「おんぶしてもらいたい」と言っている様なものだ。
このみ達の方を見て俺が困ってるのをわかっているのか笑いを必死にこらえている3人が居た。
「だめやで瑠璃ちゃん。これはうちだけや。
だって瑠璃ちゃんもおんぶしたら貴明が坂道登れへんやろ?」
「だから別におんぶしてもらいたないもん!!」
「ごめんね瑠璃ちゃん」
「だからちゃうも〜ん!!」
今にもウガーと言いそうな顔で必死に弁明する瑠璃ちゃん。
「じゃあ変わりに俺がおんぶしてあげようか?」
瑠璃ちゃんの隣にいつの間にやら雄二が居て何時もの女性にかける甘い声で話しかけていた。
「べつにいらんもん!」
そういって瑠璃ちゃんはさっさと先に行ってしまった。
「つれねぇなぁ…」
「雄二、それはつれないというのとは明らかに違うと思うぞ?」
「うるせぇ!敵に何を言われても聞く耳はもたねぇ!」
「いつ俺が敵になったんだよ!?」
「えぇい!お前なぞ瑠璃ちゃん珊瑚ちゃんと関わったときから敵だ!!」
「わけわから…うぉっ!?」
俺と雄二が言い合ってる中で急に背中が重くなる。
まさかこれが妖怪子泣き爺の仕業か!?
「ほらー、貴明はよ出発やー」
まぁ妖怪なんかいるわけなく原因は珊瑚ちゃんが痺れを切らしたのか俺の背中に乗っかってきたのだった。
「はいはい…」
「くぅ…お前なんか嫌いだー!!」
雄二が泣きながら走っていってしまった。
あいつも色々大変なんだな…同情はしないけど。
「ユウくん朝から大変だねぇ」
「あれは哀れっていうのよ、このみ」
途中でクラスメートに出会ってからかわれながら遅刻をせずに何とか登校できた。
その後HRまでの間クラスメートが俺の席によってきてはからかう始末だ。
朝からなんでこんなに体力と精神を使わないといけないんだ…
ぐったりしている俺を雄二はずっと恨めしそうな顔でただ見ていた。
ミルファの事を知られたら俺は呪い殺されるかもしれないな。
そして放課後
「タカくーん」
俺が帰り支度をしているところでクラスのドアの所からこのみの声がした。
その方向へ目を向けるとこのみ、珊瑚ちゃん、瑠璃ちゃんの珍しい組み合わせが居た。
「どうしたんだ?三人して」
「あのね、タカくん家に居るみっちゃん私も見たい!」
思いがけないお誘いに思考が停止する。
「な、何故?」
「だってクマのロボットなんでしょ?このみも見たいよー」
「あ、えっと…」
「貴明ー。あきらめた方がえぇんとちゃう?」
「まだうだうだ言って…諦めが悪いでー」
「ほら、珊瑚ちゃんと瑠璃ちゃんもこういってるよー?」
「あー…」
俺がなるべく回避しようと必死になっているところで後ろから重い感触がのしかかってきた
「私も見てみたいな☆」
「た、タマ姉…」
いつの間にか後ろに回ってきたタマ姉が俺によりかかってきていた。
背中に感じる柔らかい感触…
「タマ姉、押し付けるの止めてよ」
「あらどうして?タカ坊は大きいおっぱい好きでしょ?」
「なっ…!」
根も葉も無い事実(だと思う)に流石に驚いてしまった。
そこで変な視線に気づいて3人の方を見ると3人してじとっとした目でこっちを見てきている。
「タカくんやっぱり大きい胸の方がいいんだ…」
「貴明はやっぱりすけべぇや…」
「やっぱり貴明は胸大きい方がえぇんか…」
「いや、それは事実無根で、別に俺は胸で人を選んだりはしないから…」
「まぁタカ坊の好みは別としてぇ…。
ささ、早くタカ坊の家行きましょ?」
そう言いながらタマ姉は俺の背中を押して急かしてくる。
タマ姉とミルファが出会ったら絶対にタダじゃすまない…考えただけでも恐ろしい。
「ほら、今部屋汚いから…」
「あれ?タカくん昨日お掃除してたんだよね?」
「あらぁ?そんなに早く部屋って汚くなるのかしらねぇ?」
万事休す。こりゃ腹をくくるしか無いかな。
諦めてかけた俺の横を雄二がスタスタを通り過ぎていく。
「あれ?雄二、一緒に帰らないのか?」
俺の言葉に雄二がギッと睨んできた。
「そんなイチャイチャされた状態でさらにお前の家に行ってぬいぐるみを見に行くだぁ?
俺をそんなに馬鹿にしたいのか貴様ぁ!」
「いや、そんなつもりはまったく無いけど…」
寧ろこない方が俺のためにも良いしな。
そんな俺の本音を知ってか知らずか雄二の顔が怒りから悲しみに変わる。
「そうだよなぁ…お前は天然だもんなぁ…それが好かれる理由なのかなぁ……」
そう呟きながらトボトボと歩いていってしまった。
そして視界から消えそうなところでタマ姉が
「雄二!」
「なんだよ姉貴…」
「見苦しい」
「…」
「みんな大っ嫌いだぁー!!」
あ、走って行っちゃった。
流石にこれは雄二に同情をしてしまう。
にしてもタマ姉何も止めを刺さなくても…
「見苦しいのは見てて気持ちよくないわ。それもそれが我が弟だなんて…」
ハァとため息をついてもう雄二がいない廊下を見つめる。
「ほらほら、早くいこうよー」
「みっちゃんも待ってるでー」
左にこのみ、右に珊瑚ちゃんがくっついて引っ張ってくる。
後ろからはタマ姉。そして…
「うぅ…うちがつかむ所ないやん…」
俺をつかむところが無いらしく不機嫌になっている瑠璃ちゃん。
そんな理不尽な事で不機嫌になられても困るんだけどなぁ。
「ほら、背中ならまだつかまれるわよ」
タマ姉が俺の背中のスペースを空けて瑠璃ちゃんを招き入れる。
「あ、ありがとぉ…」
「どういたしまして♪」
先輩である3年生とそんなに話す機会なんて無い瑠璃ちゃんが恥ずかしそうにお礼を言うと
タマ姉が嬉しそうにそれに返す。
姉御肌であるタマ姉なら瑠璃ちゃん珊瑚ちゃんと仲良くやってくれそうだと少し安心した。
けど俺の身体が持たないと思う。
今もずるずると引きずられたまんまなのだから。
しかも学校の放課後の廊下。
もちろんクラスメートや同じ学年の生徒がこっちの方をキョロキョロと見てきて何かこそこそ話している。
あぁ…これで明日も話題のネタになりそうだ。
最近の俺に関する話題はクラスの中でも注目の的になっている。
それで別に苦手が克服できていない女子からも話しかけられるからたまったもんじゃない。
そんな愚痴を心の中で吐きながら俺は自分の家へと連行されていった。
その道中。
ちょうど商店街から俺の家へと向かう辺り。
引きずられるのから開放された(諦めた)俺は4人に囲まれて歩いていた。
タマ姉が居る以上は逃げようが無い。というか目的地が俺の家なのだから逃げられるわけが無いし。
歩いていると後ろで珊瑚ちゃんが何かを見つけたのか後ろに手を振った。
「みっちゃんやー☆」
「瑠璃様と珊瑚様。それと…」
えっと…と言った困った顔でこのみとタマ姉を見るミルファ。
「柚原このみですっ」
「向坂環です」
「このみ様と環様ですね。私、HMX-17bミルファと申します。以後お見知りおきを」
礼儀正しくお辞儀をし、それにきちんと返すタマ姉。
それに対して慌ててお辞儀をするこのみ。
微笑ましい光景ではあるけど…
「ミルファさんはお買い物?」
そのまま6人になり、歩いている途中
タマ姉が両手に買い物袋を持っているミルファを見て質問を投げかけた。
「はい。貴明…様の夕飯の材料を買いに行ってたんです」
「「貴明様?」」
「は…はは…」
神様はどうやら俺に試練をくれるのが好きらしい。
というか俺をいじめて楽しんでるんじゃないのか…はぁ。
学校でのやりとりもさせたいけどそうするとミルファの出番が無いジレンマに陥ってます。
とりあえず朝からラブラヴしてます。甘いです。
これで貴明が開き直ったらガムシロップくらい甘くなると思います。
じゃあ水男見てきます(゚∀゚)ノシ
(゚∀゚)ノシ
GJ!
萌え死にそう・・・
GJ!!
やっぱミルファは良い!
出来るならガムシロップを親の仇と言わんばかりに甘くして欲しい俺……
急かすようで申し訳ないですが、続きを期待してます。
Brownish Storm第7話まだー?
>>388 GJ!
あぁ・・・ペース通りならそろそろ「虹の欠片」第五話が・・・
読みたいけど怖い・・・
>>388 萌え狂った!
続き期待アルネー!ヽ(´∀`)ノ
395 :
名無しさんだよもん:2005/08/21(日) 03:10:25 ID:wH0gDu0lO
虹はこのみスレに投げて嫌がらせにつかえるな
嫌がらせにも使えない、毒にも薬にもならない話を投下します。
誤字脱字があったらご容赦を。
以下10レスほど続きます。
今朝はいいお天気で、校舎内にも爽やかな日差しがさんさんと降りそそいでいる。風に騒ぐ木の葉の影は、薄
汚れたリノリウムの廊下を水面のように揺らしている。そんな廊下のど真ん中で仁王立ちするパイナップルお化
けか怪人ヒトデアタマの髪は、そよそよと吹き込む朝風に揺れ、床にぬらぬらと影を落としている。
俺は、歯糞混じりの粘っこい唾液をグッと一呑みした。口の中がカラカラになってきんだ、それも急に。
廊下のド真ん中で見つめ合う、俺と花梨。こいつにゃ参った、しくじった。今の俺らってさ、まるで初々しい
恋人同士みたいじゃねえか!? 教室内外の連中が、俺らの一挙手一投足にご注目。委員ちょまでもが口に手を当
てて、ワクワクドキドキでハラハラしてやんの。こっちの気も知らねえでさ、畜生め。
んで、貴明はどうかというと、草壁さんの発する真面目な質問を、インチキな言葉で必死にやり過ごそうとし
ている。ご苦労さん。幸いこっちにはまるで気付いちゃいないようで、それだけがマジで救い。ここは、草壁さ
んに粘ってもらおう。ガンバレ優季ちゃん、赤いワーゲン5台見るまで喋り続けろ。
ところで。俺は、どうにも言いようのない違和感を抱いていたんだ。昨日目撃した、紅白の球を爆弾のように
投げつけてきた猿や、俺を高圧的に呼び寄せた会長さんや、悲壮感漂う嘘泣きで、俺を生暖かい目で見守る教室
内外を混乱のドン底に叩き込んだ我田引水女の姿は、どこにもなかった。俺の前にいるのは、胸の前でコブシを
ギュッと握りしめて、真っ直ぐに目を輝かせている一人の少女。優しいパパがお土産を差し出すのを、今か今か
と待っている幼児の瞳。これも、コイツお得意の猿芝居?
……いや、違う。こいつは、演技じゃない。演技でこんな目が出来るのは、天下に轟く名優か、自ら皇族を詐
称するような神をも恐れぬ大詐欺師だけだ。これが花梨の“素”の姿なんだと、俺は直感したよ。
俺は、花梨の熱視線を“殺気”と形容した。確かに、ドキドキな感情を通り越して、思いあまって人でも刺し
そうな目だ。眼球からX線でも放っていそうな真っ直ぐな眼差しは、花梨の抱いているらしい、あまりに純粋な
期待やら希望を、俺一身に浴びせていた。俺の背後のリノリウムに射す影では、俺の骨格だけが、すっかり泡を
くってホネホネロックを踊っていやがるんだ。
俺は張りつめた空気を少しでも和やかにすべく、出来るだけフレンドリーに、朝のご挨拶。
「ういーす、笹森さん。花梨ちゃんはさぁ、相変わらずユニークな髪型してるねぇ。ユニークってのは、面白い
って意味じゃあないぞ、この広い宇宙にオンリーワンって意味だ、わかるかなぁ? 観葉植物チックなキミの愛
らしさなら、シャイでチキンなアンチクショウも、一発KO間違いなし! 八百万の神々に誓ってもいいぜぇ」
俺はスマイル全開で、思いつく限りの褒め言葉を並べて、右手を軽くへろへろと振ってみせた。
「たかちゃん」
花梨は俺の目を真っ直ぐ見つめ、揉み手をするでもなく、自分の手を胸の前でギュッと握り締めたまんま、そ
れだけ言った。おい、花梨ちゃん。それが俺への朝のご挨拶か? せめて、可愛く「るー☆」とか言えよ。
「花梨ちゃん。俺はさ、キミがその大きな瞳のレティクルで狙ってる“たかちゃん”じゃないよ。俺は、精忠帰
宅部筆頭局長、向坂雄二……」
花梨は俺の話を遮り、一方的に質問を浴びせてきた。
「たかちゃんに話、してくれた? してくれたんだよね?」
「あ、いや、そいつはマダだけどさ……」
言っちまってから、激しく後悔した。今の花梨に、本当の事を言ったのはマズかった。
「ウソ、ついたんだ!? 『わかった』って言ったよね? 言ったよね!?」
花梨は、胸の前できつく握りしめた手と大きな瞳をプルプルと震わせた。
「いや、ウソはついてねえって! 男と男が話をするには、タイミングというものがあってだな……」
俺が必死に取り繕った言葉は、花梨ちゃんには届かなかった。
「たかちゃん。たかちゃん。たかちゃん……たかちゃん! たかちゃん、たかちゃん、たかちゃん、たかちゃん
たかちゃんたかちゃんたかちゃんたかちゃんたかちゃんたかちゃんたかちゃんたかちゃんたかちゃんたかちゃん
たかちゃんたかちゃんたかちゃんたかちゃんたかちゃんたかちゃんたかちゃんたかちゃんたかちゃん……」
花梨は「たかちゃんたかちゃんたかちゃん」と街宣車みたいに連呼しながら、瞬きすらせず、俺にがぶり寄
り。読売巨人軍(またはサッカーの日本代表)が惨敗して怒り狂い、テレビのリモコンを渾身の馬鹿力で壁に投
げつけ破壊する姉貴とは、また違った種類の恐怖を感じた。花梨の全身から発散するオーラから、ビリビリと痛
いほどに。
花梨は、俺が貴明を今すぐにでも連れてくることを期待している。しかも、馬鹿がつくほど純粋な気持ちで。
花梨は、俺に色々な期待やら幻想やらを抱いているみたいだけどさ、実のところ、お前は俺に、ガキの使いを頼
んだだけなんだぜ? それなのに……頼んだ翌日の朝っぱらから、こんな哀愁のこもった瞳で見つめられても、
どうしようもねえよ、疲れるだけだ。一時限目は、ただでさえダルい世界史なんだ。今のうちから張りつめてた
ら、朝から早速居眠りこいて、先公にゲンコツ喰らっちまうだろ。あのクソ教師は授業が糞つまらんくせに、マ
ジで殴るから困る。しかもグーで。訴えるぞこの野郎、って現実逃避してる場合じゃねえ。
女って怖いな。貴明の気持ち、ちょっとわかるかも。それなりに場数を踏んでいる(はずなんだけどなぁ)俺
でも恐怖を覚え、膝を笑わせて後ずさる俺。背後には、下りの階段。そのまま押し出しで、寄り切りで、突き出
しですか? このままじゃ、俺は死ぬ。きっと死ぬ。
「だあっ! うるせえ、ユー・シャラップ! 選挙カーのウグイス嬢か、お前はよぉ? 昨日のことはなぁ、俺
様でも色々と考えているんだよっ! 向坂雄二を見込んで頼んだんなら、どっしり構えてヤツの降臨を待ちやが
れ! わかるか? 頭テンパッてて、わかんねえか? でも、それをわかるんだよ!」
かなりやけっぱちになった俺は、言ってる自分でも情けなく思える上ずった声で、花梨を怒鳴りつけた。周囲
の連中が何やらザワついているが、ああ、もう、知らね!
「……ウソだったら、呪っちゃうよ? それも、最先端の科学的な呪い。負の波動を最大出力で、キミに浴びせ
てあげるから。フルパワーでマイナスの波動を浴びちゃったら……キミ、女の子には一生モテなくなるわ、ロク
な仕事にも就けなくなるわで、悲惨で残酷で破滅的な人生を歩むことになるんよ? わかってるのかなぁ? わ
たし謹製の波動発生器は、伊達じゃないんよ……?」
花梨は、クソ真面目な顔で恐ろしいことを言う。何なんだよ、波動発生器って!? エネルギー充填120%
で、俺の脳髄でも破壊する気ですか? それに、女の子にモテなくなるって、どういうこと? ハッタリだろ、
ハッタリ!? そうだ、そうに決まってるニンニン。でもコイツ、やけに自信ありげに言ってのけるし、万が一に
もマジだったらと考えると……いや、あり得ないけど、あり得れば、あり得るわけで。ああ、膝がガクガク。
「そ、そうか、伊達じゃないのか。じゃあ何だ、最上か? 二本松? そんな俺は、津軽為信がねこ大好き」
俺の言語感覚も思考も、プチパニックで完全にマヒ。おお、乱世の梟雄バンザイ。南部氏から津軽地方を見事
切り取った神算鬼謀と肝っ玉を、今すぐ俺に分けてくれ。
「……ギャグのつもりかもしれないけれど。キミ、寒いんよ。それに、わたし、日本史は得意じゃないんよ」
さ、寒いって言うなぁ! 人がせっかく張り切って声かけたってのに、俺に一瞥もくれずに捨て台詞だけ吐い
て去っていく脳天接触不良なメスどもみたいなことを抜かすなっ!
向坂家の嫡男の遺伝子に棲む軍師が、必死に策を練る練る練るね。具体的な貴明招聘プランを花梨に示さない
と、俺はマジで殺されかねないんだが……よくよく考えてみれば、俺は花梨の“ミステリ研究会”について、怪
しげな同好会という事以外はほとんど何も知らない。敵を知るどころか己も知らぬわけで、これでは策どころで
はない、わな? 時間的にも、もうじき朝のホームルームでタイムアップは近い。ここは一旦休戦といこう。冷
静になれ、俺。脳のエアダクトを開いてクールダウンしろ、俺。深呼吸。もひとつ深呼吸。ぷはーっ、OK。
俺は再び精一杯のスマイルを作り、花梨に話を持ちかけた。次の休み時間でいいから、ミステリ研の活動内容
について出来るだけ詳しく教えてくれ、と。今は時間がないから言えないが、アイデアは無いこともないぜ、と
も言ってやった。こいつはデマカセのインチキだけどな、時間稼ぎも立派な戦術だ。
「ミステリ研について教えてくれ」という俺の言葉を聞いた瞬間、花梨の表情は一瞬にして、昨日見た威勢の
いい会長さんのツラに変貌した。やっぱり、俺、コイツの演技に騙されていたのか? それとも……!?
「やる気を見せてくれれば、それでいいんよ。キミも、そろそろ帰宅部には飽きたでしょ? 次の休み時間に
は、この世の不思議を追求する素晴らしさを、花梨ちゃんがばっちりレクチャーしてあげるからね!」
花梨は足取り軽く、自分の教室に戻っていった。とりあえず、これにて一時休戦。
あと1、2分で担任が来るな。でも、その前から俺はグッタリでヘナヘナ。教室中のヒソヒソ話すら耳に入ら
ねえ。言いたければ、もう、好きに言っててくれ。弁解する気にもならんわ。
俺は花梨とやり合っているうちに、ようやく全てを思い出したよ。俺らが進級して間もなく、貴明がアンケー
ト用紙(実は課外活動参加届)を持った女、つまり花梨に騙されて、怪しげな同好会の会員にされてしまってい
たことをさ。あの時の俺は、貴明を散々笑いモノにしたわけだが、今では俺が笑われモノ。これも、因果応報っ
てやつかな。
そりゃあ確かに、花梨のやり口は悪辣だったけどさ、それは貴明を自分の元へ引き込みたいという、純粋な想
いがそこまでさせたわけだな。いや、別に褒めてるわけじゃないけど、口先だけの「愛してる」とか「大好き」
というインチキな言葉で下心ありありのオッサンを騙して一発宿まで一緒に行って、オッサンがシャワーを浴び
ている間に金品を持ち逃げする小娘どもよりは、遥かに健全じゃねえのかなぁ、と俺は思うんだな。ある意味、
可愛いヤツだよ、花梨ちゃんは。
花梨を踏み台に利用して貴明を双子ちゃんを完全に分断し、『雄二お兄ちゃん好き好き大好き☆めっちゃ愛し
てる大作戦』を成就させようとしている俺と、同好会をデッチあげて体当たりで貴明にアタックしていった花梨
は、ある意味、似た者同士じゃねえのか? 目的のためには手段を選ばぬ。恋する事は即ち戦い、戦いは非情。
俺は花梨を利用して、花梨は俺を利用する。精神的同志と言ってもいいかもな。
花梨もまた、貴明がチンタラ走る高架の道に進入すべく、必死にジャンクションを探している哀れなトラック
の運ちゃんなんだ。そう思えば、ただのヤバい女だと思っていた(いや、今でも思ってるけどさ)花梨に対し
て、急に親近感が沸いてきちまったじゃねえか。
ちなみに、貴明と草壁さんは、担任が入ってくるまで仲良く喋っていやがった。貴明、テメエ、女は苦手じゃ
なかったのか? 双子ちゃんや姉貴に振り回されて、いい加減に慣れたのか? それとも、“隠れ幼なじみ”の
草壁さんならオッケーなのか?
草壁さんって、俺らが小学生の頃に転校しちゃった高城優季のことだと、貴明に言われるまで気付かなかった
よ。貴明に聞いてから、小学生時代の写真をチェックして、ようやく「ああ、そんな女の子がいたっけなあ」っ
て思い出した。高城さんって、昔からそれなりに可愛かったけどさ、当時は俺もガキだったから、「合コンした
いなぁ」とか「エッチしたいなぁ」とか、そんな感情など抱くはずもない。「ああ可愛いなぁ」とか「頭洗うの
大変そうだなぁ」とか「ヒョロヒョロだけど足速いなぁ」とか、そんな程度だったけど、一緒にアメオニして遊
んだし、みんなで一緒に帰ったこともあるし、友達だったことには間違いないんだ。忘れるなよ、俺。
そんな草壁さんだが、貴明のことはしっかり覚えていて、こっちに来た最初の日からしきりに貴明に話しかけ
ていた。当然、俺もご挨拶に行ったわけだが、綺麗さっぱり忘れ去られていて、貴明の指摘でようやく気付いて
もらえた。まぁ、俺も彼女のことを頭から忘れていたから、おあいこだけど……悔しいなぁ。俺って、ほんの数
年で忘れ去られるような、そんなにしょぼい男だったのかぁ?
……お前は今までに同じクラスになった奴の名前を、全員分覚えているか……?
……もはや友達でもないどうでもいい存在に成り下がったから、名前すら思い出せないわけだ。名前も顔も思
い出せない奴は、お前の中で存在自体が消去されたんだよ……。
俺の脳裏に、数日前に貴明に言ってやったセリフが、唐突にフラッシュバックしてきやがった。
俺はどうでもいい存在なのに、貴明は違うのか? 俺の存在は否定されても、貴明の存在は許されるのか?
このままじゃ……俺の存在は、花梨が言ったように、時空の狭間に飲み込まれて跡形もなく消えてしまうのか
もしれない。俺みたいなナイスガイのなり損ないは、結局は粛清される運命なのか?
冗談じゃない。俺は認めない。絶対に認めないぞ。俺は、道化で終わる気はサラサラないんだ。
俺は理想の女の子と一緒になって、永遠の愛を誓って、そして一生ハッピーに暮らすんだ。誰にも、俺の行く
手を否定させはしない。誰にもだ!
俺は右手でシャーペンをくるくる回しながら、そんな怨念と戦っていた。担任が教卓の前で咳払いしようと、
委員ちょが「起立だってばぁ」と喚き散らしても、俺はひたすらシャーペンをダブルアクセルで回し続けていた
んだ。くるくる、くるくるっと。
・
・
・
昼休み。カツサンドを喰った後で、俺はこのみのクラスへと向かった。
このみは自分の教室で、友達と一緒にメシを喰ったらしい。いつまでも俺らにベッタリというのもどうかと思
うので、それはいいことだ。メシを一緒に喰える友達は、大事にしろよ。そうすればこの学園でも、ちゃるやよ
っちみたいな友達は、すぐに何人でも出来るだろうよ。
俺は……そんなお前を“自分たち”の作戦のダシに使う、悪い“兄貴”だ。
俺は軽く息を吐き、作戦の状況を開始した。
「こっのみ〜!」
俺は秘技・七色の声で、このみを呼んだ。今回は俺の十八番、よっちのモノマネ。
友達とダベっていたこのみは、驚いた様子で椅子を蹴って立ち上がると、プレーリードッグみたいなアホ面で
周囲をキョロキョロ見渡した。七色の声はバッチリ決まり、俺は心の中でガッツポーズを2回。俺、声優になろ
うかな? 才能あるだろ、マジで。儲からないらしいけどさ、ポン引きやるよりは、1億倍くらいマシじゃね?
キョドっていたこのみは、ニヤニヤしながら手招きしている俺の姿に気付くと、いささか落胆したツラをし
た。俺の姿を認めたこのみの友達がザワめき、何やら冷やかすような素振りをしているが、このみは「ああん、
違うってばぁ〜。そんなんじゃないよ〜」とか何とか弁解しながら、こっちに駆けてきた。
「む〜、ユウくん。ああいうのはやめてって、何回言えばわかるの? 一瞬、よっちが来たかと思ったよ……」
廊下に出てきたこのみは、少しむくれ顔で言った。モノマネ自体は大成功でそれはそれで気分がいいが、今回
はよっちのマネを披露しに来たわけじゃない。
「だいたいさ、用があるならもっと他に呼び方があるでしょ? わたしも恥ずかしかったよ。ああいうところが
なければ、ユウくんってもっと女の子にモテると思うんだけどなぁ……」
うるせえぞチビ、一言多いんだテメエはよぉ、と毒づきたくなるのを必死に堪え、ノドの奥にそいつをグッと
飲み込むと、俺は満面のスマイルで話しかけた。
「ワリイ、ワリイ。実はな、少し話があるんだ。顔を貸してくれねえか?」
「それはいいけど……何の話?」
「金策じゃないから安心してくれ」
俺はそんなことを言って、ギンギンに冷えたオレンジジュースの缶をこのみに差し出した。
「まあ、ちょいとした雑談だよ。ほら、飲ま飲めイェイ」
「合コンとかの話だったら、却下だよ〜?」
このみは何か警戒していて、受け取ろうとしない。
「そういう話は、お前に友達100人出来てからだな。そんときは、ナイスバディな美少女を頼むぜぇ」
「そんな女の子、何人もいないよ〜だ」
俺はこのみの教室を覗いて女の子を物色すると、胸の大きいポニーテールの女の子を指さして「お前がいらね
ぇってのなら、あの子にあげようかなぁ、コレ」とつぶやきながら、冷えた缶を少し振った。
まだむくれ顔のこのみは、「ゼッタイ、何か企んでるよ」ってボソッと言うと、素早く缶を引ったくった。
「これは、もう返さないからね〜」
このみは俺を横目でチラチラ見ながら蓋を開け、ジュースを一口飲んだ。
「……このみ、占いとか好きじゃん? 最近は、自分でも色々とやってるんだって? 貴明から聞いてるぞ」
「え、タカくんが?」
このみは俺が貴明の名前を出すと、明らかに話を聞く態度が変わった。貴明は、自分のことを少しは気にかけ
てくれている。そう思って嬉しくなったのかもしれないが、どこまでも現金なヤツだ。畜生め。
「うん。正確には“やってた”んだけどね。受験勉強が終わってヒマになったから、タロットカードの練習して
みたんだけど……でも、なかなか上手く出来なくって。最近は、もうしてないよ。タロットカードって並べ方と
か読み方とか、色々難しくってさ……」
このみの話の腰をへし折るように、ぷー、くすくすくす、と女の笑い声が聞こえてきた。まさか……。
「ちっちっち。素人はぁ、これだから困るんよ!」
パイナポーおんな が あらわれた!
コマンド?
突然花梨が乱入、俺とこのみの間に強引に割り込んできやがった。
おい花梨! 早い、早いよ! お前の出番は、まだだって! ちゃんと、シナリオ通りにやれ!
しかし花梨は、俺の心の叫びなど頭から無視、このみに向かってどうでもいいウンチクを披露していた。
「あなたの言う“タロットカード”は、正確には“タロウカード”と言わないとおかしいんよ? “タロウカー
ド”を“タロットカード”と呼ぶのは、“Knight(騎士)”を“クナイト”、“Know(知る)”を“クナウ”と
言うのと一緒なんよ! 『無知は罪』とは言うけれど……」
午前中の休み時間に、俺は花梨と謀議を重ねた。
俺が花梨に与えた策は、『将を射んと欲すれば、まず馬を射よ』。
つまりだ、貴明をミステリ研に呼びたかったら、まずはこのみを引き入れろ、ということ。
花梨は当初難色を示した(当然だ、恋敵だからな)が、このみが占い好きだと聞くと、急に態度が変わって目
を輝かせた。
「それは、ちょっと見込みあるかも」
「そりゃ、どういうことだい?」
俺は花梨に訊いた。
「占いというのは、未知なるモノ――つまり、神様とか大自然であったり、霊的なものであったり、ひょっとし
たら宇宙の意志かもしれない――そういう存在と交信するために考え出された手段なんよ。誰も見たことのない
未知なるモノの存在を、心から追求したいと、感じたいと、あわよくば直に接触したいと思っている……そうい
う意欲がある子なら、ミステリ研は大歓迎するよ」
「このみは、お前の敵になるかもしれないぞ?」
俺はそう言ってみたが、花梨は静かに首を横に振った。
「ミステリに興味がある子は、みんなわたしたちの同志なんよ。雄二くん……わたしはね、たかちゃんと一緒に
この世の真理を追究したいんよ。わたしの見込んだたかちゃんとなら、きっとUFOにだって乗れるって……わ
たしはそう感じたんよ。でもね、仲間は何人いてもいい。このみちゃんや雄二くんも同志になってくれるなら、
ミステリ研は安泰だよ。それに3人いれば、晴れて正式な同好会にもなれるしね」
俺の中で、今朝のこのみの瞳、貴明にキタキツネを笑顔でねだるこのみの横顔がフラッシュバックした。そい
つは花梨の瞳とピタリと重なったんだ。純粋なんだな。俺は素直にそう感じた。
そんな純粋なガラスの花梨ちゃんは、怯えるこのみを相手にウンチクをひたすら傾け続け、それは学園上空を
旅客機が5機通過するまで喋り続けそうな勢いだった。お前、本当にこのみを同志にしたいのかと、ただ問いつ
めたいだけと違うのかとガツンとツッコミかましたかったが、どうしてもタイミングが取れず、何も出来ずにヘ
ラヘラ笑いながら頭を掻き続けるだけの俺は、今や完全に花梨のオプションだった。もう、うっひょうと言う他
ない。うっひょう。うっひょう。うっひょう!
今回はここまでです。
それでは…
Brownish Storm(´・д・`)マダー?
春が好きだった。
暖かな陽光に包まれる感触。街一杯に広がる日向の匂い。そして淡い色彩が眺められる桜並木。
どれもが一言で終わらせるのが惜しいほど心地良くて、だからあたしは春が好きだった。
たかあきくんと一緒に歩く帰り道、あたしたちはマウンテンバイクに乗って走る由真を見つけた。
あたしが由真を見る視線に気付いたのか、振り向いてこちらを見てきた。
眼鏡を掛けてるとはいえ、由真の視力はそこまで高くない、見ているだけで動きが止まっている
のは、姿を確認するのに時間が掛かっているからだろう。
あたしの姿を捉えたのか、由真がマウンテンバイクを降りてこちらに向かってきた。
「やっ」
由真がそうしてあたしに挨拶をしてきた。あたしは曖昧な笑顔で返す。
「おいおい、俺には挨拶無しかよ」
隣を歩くたかあきくんがそう言うと、由真はわざとらしくしかめっ面をした。
「げ、あんたもいたの」
「いや、お前絶対に気付いてただろ」
「ふん、今気付いたのよ。あんたなんか存在感ないんだから」
そうして二人は口喧嘩を始めてしまう。これは春の時から二人が会うたびに行われることだった。
こうなるとあたしは置いてきぼりになってしまう。由真も普段は、いや、たかあきくんといない時は
大人しい子で、こんな大声で早口でまくし立てるような人じゃない。たかあきくんも同様で、他の人を
前にこんな口調で話す事はほとんど無かった。他にいるとしたら向坂くんくらいだろうけど、彼は男子
で、女の子相手にこんな対応をするのは、由真だけしかいない。
そこまで考えて、自分が感情に押しつぶされそうになっているのを実感した。この負の方面から来る
ものをあたしは知っている。それは、優しい春の季節が終わりを告げたあたりから、抱くようになった
あたしの醜い感情の一つだった。
「っと、あんたみたいなバカに構っている暇なんてないんだった」
どうやら二人の口喧嘩は終わったみたいだった。あたしを挟んでたかあきくんと平行線を描きながら
歩いていた由真が、マウンテンバイクに乗った。
「それじゃ愛佳、また明日!」
そう言って、由真はマウンテンバイクのペダルを強く踏みしめ、下り坂をあっという間に降りていった。
「まったく、本当にうるさい奴だ」
そうやって悪態をつくたかあきくん。あたしはその言葉に、さっきと同じように曖昧に頷くことしか出来なかった。
こうしてたかあきくんと二人で下校するようになったのは梅雨が始まるあたりからだった。
ちょっと前までは、郁乃を送り迎えする必要があって二人で帰ることが出来なかったけど、
少し前からお母さんが車で送り迎えをしてくれている。
学校までの坂道はけっこう急な勾配で行きも帰りも、大変な労力を必要とした。そして、あたし
の委員会の仕事の関係でどうしても帰りが遅くなる。車での送り迎えはある意味で必然だった。
委員会の仕事が無くて、たかあきくんに用事がある時は、郁乃と一緒に帰っていたけれど、余程
帰りが遅くならない限りはたかあきくんと一緒に帰るのがあたしの日課になっていた。
たかあきくんの顔を見る。さっきの悪態をついた顔はどこかに霧散して、今は穏やかな表情を
たたえている。
視線に気付いた彼が、少しだけ笑みをたたえてこちらを見返してきた。見ていたということ気付か
れたあたしは、恥ずかしくなってしまい顔をうつむかせる。顔が赤みを帯び始めているのが、なんとなく
わかってしまう。私の脇で、たかあきくんが軽く笑い声を上げているのに気付いた。きっと、今のあたし
を笑っているんだろう。そういった笑い声を上げられるのを、昔は嫌だと言ってたのを覚えている。
だけど今は、こうしてたかあきくんに温かい目で見られていることに、気持ちが暖かくなっている。こういう
変化を実感するたびに、あたしはたかあきくんの事が好きなんだとわかってしまう。そう考えると、また胸の
奥が暖かくなって、顔が火照ってしまうのだ。
「愛佳」
「うん?」
「夏休みに海でも行こうか」
「ええっ」
たかあきくんの突拍子の無い言葉に、あたしは大声を上げてしまった。海といえば、水着を着るわけであって、
しかも人が一杯居て、男の人もたくさん居てそれでそれで。
「や、やや! 海はちょっと……ね」
混乱した頭の中で搾り出した台詞は、ただそれだけだった。
「そっかぁ、ま、しょうがない」
食い下がる事もなく、たかあきくんはそこで話題を切ってしまった。ちょっと寂しい気もしたけど、恥ずかしいのは
確かだからどっちにしろ無理だったと思う。
たかあきくんがこうして羞恥心を見せなくなったのも、春が終わってからの変化
だった。
昔のたかあきくんなら、海なんて女の人が一杯いるから無理、と言っていたと
思う。最近は、あたしが恥ずかしがりそうな話題をあえて振って、あたしを困らせて
いるような節さえ見られる。そうやって弄られるのは嫌でもあるんだけど、見透かされ
る事が嬉しくもあったりするから自分でも変だなとか思ってしまう。
とはいえ、たかあきくんが自然に接せられる女の子が限られているのは確かだった。
あたしと妹さん(みたいな人)、一つ上の先輩……そして由真だった。
由真のことを考える。あの子の自然体は、きっとたかあきくんと接している時に見せて
いる姿なんだと思う。いつも喧嘩しているけれど、あの時の由真が一番活き活きしている。
少なくともあたしは、由真のあんな姿を引き出したことはなかった。本当は由真も、たかあき
くんと居る時間を楽しんでいるんだと思う。負けず嫌いだから、そんなの認めることは出来な
いだろうけど。
だけどあたしは想像してしまう。もし由真が、自分はたかあきくんと居る時間が一番楽しいと
認めてしまったら、どうなってしまうのか。それを思うと、火照った頬も一気に冷めてしまうような
気がしてきた。
書き込む前にリロードしといて良かった。あやうく被るところでした。
連載長編が多い中、あまり長くない作品になりそうでちょっと申し訳なく思ったり。
(´・ω・`)
(´・ω:;.:...
(´:;....::;.:. :::;.. .....
>>412 GJよ〜
長けりゃいいってもんでもないない。
>>407 相変わらず独特な表現力が羨ましい限り。
読むだけで楽しい文章は流石の一言。
>>393 ペース通りに投下するお
けど今回そんなに怖くない。
雨が降っていた。
それはとても激しい雨で、そのあまりの激しさにそれがいつ振り出したのかさえ俺は思
い出せなかった。
何処かの軒先で、雨どいから流れ落ちる滝と、それがコンクリートを打つ音と、暗い空
と、トタンの屋根を雨が打つ音と、そして消えかけた小さな温もり。
全身はずぶ濡れで雨宿りをする意味なんて多分無かった。
背中を後ろに預けると、木の壁がギシリと鳴った。
--虹の欠片-- 第五話
その日は朝から雨が降っていた。
カーテンを開けて閉じた。それからもう一度開けた。もう一度閉じなおした。薄暗い陽
の光は憂鬱だった。タオルケットを頭から被り、もう一度寝なおそうとして思い直した。
目覚ましをもっと余裕のある時間にセットしておくんだったと後悔した。
朝食を抜くことにして、これからどうするかを考えた。
――バカらしい。昨日一晩考え抜いたはずだ。
それでもこのまま意図的に寝過ごしたいという誘惑には抗いがたかった。寝ている間に
今日が、そして明日が過ぎ去ってくれればそれほど楽なことはないだろう。けれどいつま
でもベッドから抜け出さないわけにはいかない。それだって分かっている。
タオルケットを蹴り上げて、飛び起きた。
――くそ、どうせ暑くて二度寝なんてできやしないんだ。
九月一日、学校へ行こう。
朝なのに家を出るときに電気を消すというのは何か奇妙な感じだった。無論、朝が早す
ぎるというわけではない。それでもいつもより三十分以上早い出立には違いない。家族三
人、しかも両親は海外出張中だというのに玄関の傘立てには五本以上の傘が刺さっていた。
とは言ってもどうせ俺が使うのは一本だけだ。紺色の広めの傘を抜き出して、玄関の鍵を
閉める。
世界は煙っていた。もちろん本物の煙じゃない。まるで目の細かいシャワーから降り注
ぐような雨は、視界一杯をわずかに白く染め、アスファルトで小さな飛沫をあげている。
放送終了後のテレビから流れるような雑音が鼓膜を叩く。まだ屋根のあるところから一歩
も踏み出していないのにもう肌がべっとりと湿ってきたような気になった。
こういうのを霧雨というのだろうか。その中に足を踏み出すのに少し躊躇って、その後
でどうせ濡れるなら好きなだけ濡れたらいいと、自嘲的になって俺は傘を差して歩き出し
た。
――そしてこのみの家の前を意図的に通り過ぎた。
いや、だってどうしろって言うんだ。何も無かったかのように玄関のドアを叩き、おば
さんが出てきてこのみが起きてくるというのだろうか。……もしかしたらそうかもしれな
い。けれどだからといってそれが何になるというのか。このみは果たして俺の顔を見て微
笑むのかどうか。
なあ、俺よ。朝逃げ出さずに起きただけでも十分じゃないか。
こうやって雨の中学校に向かうだけで殊勲ものじゃないか。
だからわざわざ辛くなることをしなくたっていい。
俺は駅前を経由して、電車を使う生徒が使う道を歩く。俺たちの住む辺りからでは遠回
りになるので、登校にこの道を使うのは初めてだ。下校にはよく使う。放課後に遊んで帰
るなら駅前くらいしか選択肢はない。
いつも歩く道を逆向きに歩くというのは新鮮だった。それが雨の中となれば尚更だ。
幸いというか不幸にというか、まだ時間は早すぎて俺以外に制服姿は見かけない。いや、
単純に電車の時間とずれただけかもしれない。ああ、電車通学だとみんな一斉に駅から降
りるんだもんな。そんな当然のことに今更気づく。
坂道を上がって行く。大地に降り注いだ雨は当然下に流れて行くので、まるで薄い川を
逆にあがっていくようだと思った。水量はとてもとても少ない。道の脇の排水溝がごぼご
ぼと音を立てる。コンクリートの覆いの下では勢いよく水が流れているのだろう。いくら
こんな霧のような雨でも、総じれば結構な水量に違いない。
やがて学校が見えてきた辺りで、俺を追い抜いて行ったバスが止まった。市営の巡回バ
スだ。150円で利用できるので駅前でバスが来るのを待っていても良かったかもしれない。
けれど今の俺には雨の中を歩いていくほうがお似合いだなとそんなことを考えた。バスか
らは数人の生徒しか降りてこなかった。やはりまだ時間が早すぎるのだろう。不思議なも
のだ。三十分早く起きたりするだけで座ってゆっくり通学できるのに、みんなその三十分
を惜しがって窮屈なラッシュに押し押されて通学するのだから。
まあその辺は徒歩通学だから思うのかもしれない。俺だって朝の後五分という誘惑には
弱い。
――このみを起こさなければいけないという妙な義務感さえ無ければ俺だって……。
自然とこのみのことが頭に浮かんで俺は首を振ってそれを振り払った。
「河野くん、おはよ」
突然声をかけられてはっと顔をあげると見知った顔がにっこりと笑っていた。
「あ、小牧さん。おはよう」
小牧愛佳、クラスメイト、クラス委員長、数少ない女友達と言っていいかもしれない。
男の人が苦手な小牧は、女の子が苦手な俺が一番身近な男子生徒だったのかもしれない。
彼女の仕事を手伝ったり、一緒に帰ったこともある。けれどそれも俺とこのみが付き合い
始めるまでのことで、それ以来は自然と疎遠になっていた。いや、俺のほうから避けてい
た。
だって女の子が苦手なはずの俺が、幼馴染みの女の子と付き合いだすなんて、なにか裏
切りみたいだ。
バスから降りた制服の生徒たちはすでに少し先を歩いている。小牧は薄桃色の傘を手に
にこにこと微笑んで俺に合わせるように立ち止まっている。俺が歩き出すと自然に肩が並
んだ。
「河野くんは夏休みどうでしたか?」
それは他愛ない質問。今日一番交わされる会話のひとつではないだろうか。
「どうだろう。ずっと家でごろごろしていたような気がする。小牧さんは?」
「あたしも毎日同じことの繰り返しで、それ以外にはなんにもなかったですねぇ〜」
「もったいないな」
「もったいないですね」
「ところでさ……」
「はい?」
「なんでバスなの?」
小牧とは一緒に帰ったこともあるから分かる。中学の校区がたまたま違ったから高校に
入って知り合ったわけだけど、家はさほど離れていない。十分に徒歩通学圏内だし、実際
にいつもはそのはずだと思っていた。まあ小牧が通学してくるところを見るのは今日が初
めてなんだけど。
「あひゃ、うぇっと、それはですね」
何気ない質問だったのに小牧は妙に挙動不審になる。薄桃色の傘が揺れる。ああ、小牧
が困ったときによくやる両手を突き出すポーズを取りたいのだけど、傘と鞄に手を取られ
て困っているのか。
「今朝は少し寝坊しちゃいまして、急いでるところにちょうどバスがきたもので……」
「寝坊ってまだこんな時間だよ」
「始業式ですから、いろいろと準備がありましてー」
「そうか、委員長も大変だな」
「いやぁ、それが別にクラス委員の仕事というわけでも」
ないらしい。ということは始業式の朝にも関わらずもう頼まれごとの消化が始まってい
るということなのか。
小牧らしいな、と思うとふっと思わず笑みがこぼれた。
「ああ、笑うところじゃないですよぉ〜」
小牧がぷぅと頬を膨らませて抗議する。
「ホント、大変なんですからね」
そしてぷいっと顔を背けてしまった。
小柄な小牧が顔を背けると、身長差で薄桃色の傘しか見えなくなる。
「ごめんごめん、で、なにするの? 何か手伝えることはある?」
「あ、いえ、そんな悪いですよぉ」
「いや、俺が手伝いたいんだ」
正直なところこのまま教室について席でじっとしているというのも辛かった。小牧のよ
うに早めに登校してくる他のクラスメイトなんかもいるんだろうけれど、今のクラスにな
ってから俺と雄二とこのみとタマ姉、この四人でいることが多くて、クラスメイトの中に
友人と言えるような人はこの小牧くらいしかいない。
そうしているくらいなら小牧の手伝いをしているほうがよほど気が紛れる。
薄桃色の傘がくるりと回って小牧の顔が見えた。一瞬その表情が掴み取れなかった。無
表情だったのか、笑っていたのか、それとも違う顔をしていたのか。ただ一瞬後にはそれ
は小牧のいつもの笑顔になった。
「それじゃお願いします。ホント言うと力仕事もあって男手が欲しいところだったんです
よ」
「そりゃ良かった。で、力仕事って?」
「講堂の演台を運んだりとかですねぇ〜」
「そりゃきつそうだ」
バスの停留所は学校からさほど離れていないので、そんなことを話しているうちに俺た
ちは坂を上がりきろうとしていた。
「あ……」
そのとき少し先の角、いつもの通学路から二つの傘がふっと現れた。見覚えのある色。
思わず足が止まる。数歩先に行った小牧が不思議そうに足を止める。
「河野くん?」
小牧の顔が俺の視線を追ってそれを見た。
まだ生徒の少ない校門前、それは見間違えようがなかった。人が少ないのが不幸した。
傘がくるりと回って、その顔が見えた。見られた――。
このみと雄二の足も一瞬止まった。二人は何を話していたのか笑顔だった。何を話して
いたのか。
ズキンと胸が疼いた。
時間はまだ登校には早すぎる。俺がそうしたように二人も俺を避けて、時間をずらして
家を出た、ということなのだろう。たまたま俺とはそのタイミングが違ったというだけで、
そして俺は遠回りして小牧の歩調に合わせて、そうでなければこうして鉢合わせるなんて
ことは無かったに違いない。
そうやって二人で俺を避けるように登校しながら、一体何を笑顔で話していたのか。こ
れからのことか。学校でどうするかでも話していたのか。笑顔で。それとも夏休みの思い
出話か。俺のいないところで二人で何をしていたのかを話していたのか。
「――のくん」
はっと顔をあげると小牧が俺の前に立っていた。困ったような表情を浮かべて立ってい
た。
「行きましょう。仕事手伝ってくれるんですよね」
顔をあげた先にもう二人の姿は見えなかった。けれど小牧だって見たはずだ。小牧は知
っているはずだ。だから色んなことを考えたに違いない。けれどそれについて何も言わず
にいてくれたことが何よりも救いだった。
「始業式でやることは山積みですから今日は一日キリキリ働いてもらいますよ」
いつの間にか仕事を手伝うのは朝だけではなくなっているらしい。けれどそれは雨の中
で差し出された一本の傘のようだった。雨は本当に降っていて、俺は自分の傘を持ってい
るんだけれども――。
俺は少し先を歩く小牧の薄桃色の傘に向かって、小さく口の中だけで、小さく「ありが
とう」と呟いた。きっと雨音で小牧には聴こえなかっただろう。聴こえないでほしかった。
学校についた小牧は教室には向かわずにいきなり職員室に向かうと、朝の会議前の学年
主任を捕まえて俺に手伝いさせるのでそういうことでお願いしますと話を決めて、早速講
堂に向かった。
講堂ではどうやら小牧と同じようなボランティア数名と生徒会役員が始業式の準備をし
ているようだった。
「ちょっと出遅れちゃいましたね」
小牧は数人と挨拶を交わしながら、仕事の進み具合を確認していく。
「河野くん、ちょうどさっき話してた演台運びがまだみたいなので手伝いに行ってくれま
せんか? 準備室です。分かります?」
「分かった。任せとけ」
作業はどうやら少し遅れ気味で、演台を運び終わった後も小牧にわざわざ仕事を貰わな
くてもその辺から人手を呼ばれて駆け回ることになった。なるほど、普段の小牧はこんな
感じなのかもしれない。人手が足りてないところは足りてないものなのだ。
気がつくと朝のHRの時間になっていたが、作業はもう一息というところで終わっていな
かった。けれど誰も慌てたりしていないところを見るに、朝一で小牧が職員室に顔を出し
たのはそういうことのようだ。こういうのが学校の仕事を手伝うことの特権ということな
のだろう。それは今はまだ教室に向かいたくない俺にはありがたかった。
――俺は逃げてるな……。
とりあえず俺が頼まれた仕事は一段落がついていた。今はほとんど準備のできた講堂の
中で、最終チェックをしている生徒会役員や小牧や、朝の会議が終わって現れた先生方の
様子をぼんやり眺めているだけだ。一声かけて教室に戻ってもいいだろうし、実際そうし
ている生徒もいた。だがその一方でそうしなくてもいい雰囲気があった。俺はそちらに流
されている。
けれどいつまでも逃げられないのもまた事実だった。何せ始業式が始まれば出席番号順
に並ばされるのは自明の理であり、そうなると否が応にも俺と雄二が並んで立つことにな
る。どうせなら小学生みたいに背の高さ順で並ばせてくれりゃいいのにな、と愚痴ってみ
る。
「背の高さがどうかしたんですか?」
振り返ると小牧が立っていた。小牧の身長なら随分前の方に並ぶことになるんだろう。
「いや、どうもしないよ」
「そうですか。準備、終わっちゃいましたね」
まるで終わることを望んでいなかったような口調だと思ったけれど、それが俺に宛てた
言葉であることに気がついて俺は何も応えられなかった。
準備の終わった講堂からは生徒たちも先生たちもそれぞれに立ち去りつつある。
「教室行きましょうか」
戻りましょうか、ではなく行きましょうか。俺たちは登校してからまだ一度もクラスに
顔を出していないからだ。そして今クラスに向かえば間違いなく雄二がそこにいる。
「やっぱりちょっと休憩していきましょう」
そう言って小牧は教員用に用意されたパイプ椅子に腰掛けた。
「ほら、河野くんもどうぞ」
隣ではなくひとつ間を空けた椅子に座る。
しばらくの沈黙。HRの時間はまだ終わっていない。
「ふぅ……」
ため息をついたのは小牧のほうだった。
「なにがあったの、って聞いちゃっていいものなんでしょうか?」
それを本人に聞くのは変な話だ。普通は第三者に聞くべきことだろう。けれどこの場に
はもう俺と小牧しか残っていなくて、小牧としてはそう訊ねてみるしかなかったんだろう。
「どうなんだろう。聞いて気持ちのいい話じゃないよ」
「それは想像つきますけど……」
「大体その想像通りだと思うけど……」
「そうやってはっきりしないまま、あやふやなのもなんだか気持ち悪いですから……」
呟く横顔を見て、関係ない小牧にこんな顔をさせてしまったことで胸が痛んだ。
「実はさ……」
――キーンコーン……と、話しかけたところでHRの終了を告げるチャイムが鳴り響く。
「……あんまり時間ないですね」
小牧が鞄を手に立ち上がる。確かに今から話を始めるという雰囲気でもなくなってしま
った。俺も鞄を手に立ち上がる。
「河野くん……」
呼びかけられて講堂から出かかっていた足が止まる。
「後で片付けも手伝ってもらえますか?」
「もちろん」
少なくとも放課後の予定を埋めておけるというのは気が楽な話だった。雄二に何か言わ
れてもそれを言い訳にできるだろうから――。それにそれまでに小牧にどう話をするべき
か考える時間だって取れるだろう。
「それじゃ行きましょう」
小牧が雨音のする外に歩き出して、俺もその後を追った。
雨の中で新学期が始まる。
続く――。
初期プロット第二部突入です。あんまり話を引き伸ばすつもりはないので、ざくざく進
むとは思いますが、愛佳が出てくるとなんか長くなるんだよなあ。
お気づきの方もいらっしゃるとは思いますが、今回から1行49列から1行40列の構成に変
更しています。どうやら文庫本などの1行がそれくらいの長さのようなのでそれに合わせ
てみました。というのも過去作品を本にしてみようかなと思ったときにページ数計算でえ
らい目に合いましたので('A`)
ちなみにどんぶり勘定ではありますが「ただ心だけが」が190ページ「優しい嘘を」に
至っては340ページという計算結果に。どちらも本文だけで、です。
印刷断念 orz
しかしヤベェ、そのために導入したテキストエディタ使い易すぎる。これまでワードパ
ッドで書いてたのが嘘みたいだぜwwww
さてではまた一週間後を目標に(・ω・)ノシ って今回も今日一日で書いたんスけどねw
GJ!
乙です。さぁ後はこの胸のザワザワをTender Heartで癒すのみ。
って事でTender Heartマダー?(・∀・)
Tender Heartが投下されなければ、このみと添い寝しようと目論んでいる俺が
再び現れましたよ。
オナ禁四日目の俺が来ましたよっと。
>>422 テキストエディタ何使用してるんー(゚д゚)?
>>426 NoEditorで文章書いて貼り付け時にはTeraPadの折り返し反映コピーを利用することにしました。
これまでは改行を全て手打ちしていたのでこれだけで感動ものです。
今日一日で探して見つけてきたものなので、オススメあれば是非教えてください。
少なくとも現在ワードパッドに比べれば涙が出そうなほど楽になりました。(・ω・)ゝ
>>427 今までメモ帳使ってた…('A`)
TeraPadはCGI編集で使ってたから使ってみる。
dクス。
Tender Heart その10
前回までのあらすじ
このみが寄せてくるまっすぐな愛情を、自分はこれまでどこかではぐらかしていなかったか。幼なじみの関係に自分だけ
片足を残してはいなかったか。
――雄二の問いかけから始まった長い一日。貴明はさまざまな寄り道を経てようやく問題の本質をはっきりと捉えた。
これからは、逃げたりせずに自分もまっすぐにこのみと向き合おう。覚悟を決めた貴明は、その証として今夜このみを抱
くと決めた。
夕飯の買い物を終え、帰宅したふたり。貴明はゲンジ丸の散歩と言ってこのみを残し家を出る。
この春はじめてキスをした思い出の場所を見つめ、自分の気持ちをあらためて確かめた貴明は、その足でコンビニに向か
い――コンドームを、買った。
「ただいま」
ゲンジ丸を小屋に戻し玄関を開けると、米の炊けるやわらかい匂いがした。
外はすでに薄暗く、散歩の帰りがけに仰ぎ見た空にはもういくつか星が見えはじめていた。時計を見ていないからわからない
けど、もう7時を過ぎてるんじゃないかと思う。
「あ、タカくんお帰り〜」
ぱたぱたとスリッパの音がして、台所からこのみが小走りでやってくる。
その足音はそのまま止まらずまっすぐに近寄ってきて、サンダルを脱いで上がったばかりの俺の胸に、てりゃっ、とかいう可
愛いかけ声とともにぶつかってきた。
「おみやげは?」
「……あのな」
このみは冗談で言ったのだろうけど、俺は一瞬どきっとした。後ろのポケットに隠したアレに気が付かれたのだろうかと思っ
たのだ。
「えへ〜、やっとタカくん帰ってきたよ〜。……ねぇ、もうお出かけしないよね?」
「まあ、もう用事はないかな」
すると、このみは嬉しそうににこっと笑った。
その笑顔には見覚えがあった。
それは今日、アイス屋で、そして買い物からの帰り道、ずっと一緒にいられるから「幸せ」といった時の笑顔と同じだった。
俺は、少しはうぬぼれてもいいのだろうか。
俺がそばにいることが、このみの幸せなのだと、そう思っていいんだろうか。
――でも、それじゃ足りない。そばにいるだけじゃだめなんだ。
抱きしめられたら、抱きしめ返してあげよう。
このみは先に俺を愛してくれたのだから、俺はそれに倍する愛でこのみに応えなければならない。
これはもはや、義務だ。
「……これで、やっと『ずっと一緒』だな」
「うん」
俺の胸にほっぺを押しつけるようにして甘えていたこのみは、俺の言葉に嬉しそうに頷いた。
「タカくん、いっぱい汗かいたね」
「あっ、ごめんな。汗くさいだろ」
「ううん、タカくんの匂い、わたし好きだよ」
なんていうことを言うのか。
ふくれあがる愛しさを堪えるのはもはや拷問に近かった。気のせいではなく、本当に胸の真ん中がきゅうっと痛い。
「――このみは、おいしそうな匂いがする」
目の前にあるこのみの頭にキスをするように顔をよせ、鼻先でさらさらした髪を掻き分けながらそう言うと、このみはあっと
声を上げた。
「そうだ、ごはん作ってる途中だったよ」
「おダシの匂いがするけど、おかずは何?」
一緒に買い物したから材料は知っているものの、それを組み合わせてどんな料理を作るつもりなのかは、考え事ばかりしていた
せいで聞きそびれていた。
「それはまだ軍事機密なのでありますよ隊長〜」
「……おい」
何を食わせる気だ。
まさかまた「必殺」とかいう物騒な名前の付いたメニューじゃなかろうな。
「えへ〜、もう少しでできるから、タカくん先にお風呂入ってて」
「わかった」
俺はでも、内心のそんな小さな不安を言葉にすることなく、風呂の準備をしに二階へ上った。
必殺だろうと虐殺だろうと、このみが出したのなら俺は食うのみだ。
二階の自分の部屋に戻ると、俺はまっさきにポケットから買ってきたばかりの避妊具を取りだし、箱を開けた。
マンガなんかでどういうものか漠然と知ってはいたが、実物を触るのはこれが初めてだ。いざというときに少しでも慌てずにす
むよう、いくつか無駄にしてでもその使い方を勉強しておいたほうがいいだろう。
「封を開けて、こっちを当てて転がすように……」
箱に書いてある使用方法を読み、ひとつを開けて実際に使ってみる。とはいえそう器用に実物でテストすることもできず、足の
親指をそれに見立てての練習だ。
「っと、あれ? くそ、滑る……」
なかなかうまく行かない。表面がなにかぬるぬるした液で覆われているせいであてがってもなかなか力を入れられず、きつく巻
き上げられているそれはうまく開いてくれない。
練習で、しかも足の指でうまく出来ないのなら、本番のときはなにをかいわんや、だ。その時の俺は間違いなく、冷静さとか余
裕とか落ち着きを完全に失っているに違いない。それはもう絶対の確信がある。こうして失敗してだらんと情けなく広がってしま
ったコンドームを手の中に見ているだけで「事後」の様子を想像してしまい、冷静さを失いそうになっている自分がいるのだ。
いっそのこと手間取るようだったら――という考えが脳裏をよぎる。でも、それと同時に瞼の裏に浮かんだのは、昼に話した年
下の女の子の真剣な眼差し。
「……約束だもんな」
俺は歪に広がってしまったひとつ目を捨てながら、そうひとりごちた。
そう、これはよっちとの約束。「このみのことを大事に思うんなら、絶対」とまで言われた、よっちとの約束。
あの真剣な目を思い出したら、安易な気持ちで約束を破ることなんてできるはずもない。
「それになにより、このみのため。だよな」
よっちに言われたから、というだけじゃない。これを着けることでこのみを「妊娠」というリスクから護ることができるなら、
俺はどんなに気まずかろうと、そうしなければいけない。
これは、今夜このみを抱く俺に課せられた、男としての義務だ。
……まあ、暗い部屋で背中を丸めコンドーム片手になにを格好つけてるんだと言われたら、何も言い返す言葉はないんだけど。
俺は結局もうひとつを練習用に消費し、そのゴミを見つからないように念入りに処分し、風呂へ行くことにした。
枕の下に、そっと数枚を挟んでおく。箱は机の中に入れた。
――これで、この部屋でしておくべき準備は完了した。
あとはこれから下で二人で過ごす時間のなかで、いかにムードを高めていくかだ。
そしてそのための素地はもう出来ているという手応えがある。
帰ってきてから、俺とこのみは何度抱きしめあっただろう。開け放った玄関先でキスまでした。こんなこと、これまでなかった。
このみの愛情表現を、受け止めて、返してやる。アイス屋からの帰り道以降、俺がしてきたことはただそれだけのことなのに――
そう思うと、俺はますますこのみに対してすまなかったという気持ちになる。
キスしたときの、このみの表情を思い出す。抱き寄せた時のこのみの様子を思い出す。
このみは喜んでくれた。
やっと俺が応えてくれたから嬉しいんだ。
きっと、このみはもどかしい思いをしてきたんだろう。体当たりで愛情表現をしてるのに、相手がそれに思うように応えてくれな
かったら誰だって寂しいはずだ。
このみを――女の子を、待たせてしまった。
「……優しくしてあげないとな」
遅くなってしまったのは、いまさらどうしようもない。
でも、遅すぎはしなかった。雄二やちゃるたちのお陰で、遅くなったとはいえ、俺はそのことに気が付くことが出来たんだ。
遅れたぶんは取り返せばいい。このみが望むだけ……いや、望んだ以上に俺は自分を与えよう。
着替えを片手に風呂に向かいながら、俺は改めてそう決意した。
風呂場で服を脱いでいると、このみが声を掛けてきた。
「タカくん、脱いだお洋服は洗濯機に入れてスイッチいれてね」
「アイアイサー」
このみもすっかり家事が上手になった。はじめのうちは洗濯をしても液体洗剤と漂白剤の区別が付いてなかったり、洗い物をしても
茶碗を割ったりしていたけど、今ではほとんどそういううっかりも無くなった。今みたいに、複数の家事を要領よく同時進行で進めた
りも出来る。
この家は、高校生が一人で暮らすには大きい家だ。食事や洗濯はなんとかなっても、家の維持管理というのはそれだけではない。土
日や放課後に一人でやるだけでは、手が回らないこともある。
だから、プロの主婦である春夏さんがたまに河野家に入ってそういうメンテナンスをしてくれる――そういう話が出たことがある。
しかし、このみが反対の声を上げた。
「タカくんのお世話は、このみがするんだから!」
気合いの入った目だった。普段のほわほわな様子しか知らない人ならちょっと驚くぐらい、それは強い調子だった。
無論、春夏さんはそのくらいでひるむような人じゃない。反対の声を上げた我が子の目をまっすぐに見据えて言った。
「タカくんは、うちのゲンジ丸とは違うのよ。人ひとり、家一軒まかされるということがどれだけ重い責任を持ってるか、本当にわか
って言ってるの?」
いや、そんな大げさにしなくても……と口を挟みそうになって、春夏さんに睨まれた。
このみは一瞬黙ったが、すぐに目をあげてはっきりと答えた。
「……わかってる」
「その言葉、信じるわよ。このみ。――じゃあ、タカくん、悪いけどさっきの話は無しね。かわりにこの子が行く事になったから」
「えへ〜、よろしくお願いしますであります」
「こ、こちらこそ」
なんだか変にかしこまった挨拶になってしまったところに、春夏さんが追い打ちを掛けてきた。
「まあ、花嫁修業としては丁度いいかしらね。……ね、あなた」
そういう話題を、一家団欒の夕食の席で振らないでほしい。
花嫁、という言葉に頬を染めてうつむく娘。ものすごく意味深な笑顔の春夏さん。そして諦観とも苦笑いともつかない微妙な表情を
浮かべて、もっそりと無口でごはんを口に運んだおじさん……。
――胃の痛む夕食だった。
でも、あれ以来このみはがんばって家事を覚え、俺のために働いてくれている。
今朝は珍しく寝坊してしまったけど……いつもしてくれてる事を考えると、そのくらい本当になんでもないことなんだ。
「……俺は、このみのために何をしてやれるんだろう」
脱いだ衣服を放り込み、あらかじめ洗剤が入れてあった洗濯機が音を立てて回転し始めるのを見ながら、俺はそうつぶやいた。
体を洗いながらも、風呂に浸かっている間も……俺はずっと、そんなことを考えていた。
※その11に続く※
というわけで、表面上大した動きもないままに10話終了です。
書き手としては、大事なポイントなんですけどね。
じらすのもたいがいにしろ、と怒られそうですが、全てはラストのためなりw
TeraPadですか……折り返し反映コピーは便利そうですね。
私は秀○を使ってます。改行手打ちは確かに面倒……(^^;)
こうして他の人の執筆環境を伺うのって、参考になります。
さて、春からずっと続いてきたこのてんだーはーとも、予定通り進めばあと
3話です。
最後までお付き合いくださいますよう、心よりお願い申し上げます。
おお!!
来ました待ってました!
GJ!
やっぱ最高です♪
寸止め〜(つД`)www
GJ、早く続きがこないかなっと!
河野毛マダマダー?
_,,,,,,,,,_
,,,x-─''''''''''''''''ー-─く,,,,:..:.:::..;~゙''',つ
,z'~:; 彡;:. : .::.;'':::.. ,,:.:;''..:.,~ミt、:::;;t~
,,,イ~ .;:`メ:;;...,'',:::..:::,:..;::::..;:. __,,,,,;;;;,二ュ,,,,,,,,,,__
ン~;: ,,:' ,,,:::,':,;'::゙;;';;:...:::.'';::.,;:: ,r'~ `". ;:... .::::;;,;::,:'.:,,,;;;}つ
ノ,''. :: ' ;,:.::, :::,Zx,,:::';;`,:; ,::,;..゙:: ';: ..;;::..,;:: ::;r''~
ミ,,:.: ;:;.`::.;,'':...::'';''::,,ノヤ; 炎';;,.:. ::::,:.. :.;;:...;;;;/
爻i;;;.::;`:.:;;:.;r‐'''~ ,,;ジ::,: ::,;; "::,,::';;;;;;;ッぎテ~
、,,;.:{;,,. ;=~~'''ュ,,,;,_:::.:,':...::,;===''~.:
、>-、,,,,. ,:::,:..,;;~ヱ;;;,,,:::::.、、=
439 :
438:2005/08/22(月) 10:03:33 ID:awQcNh360
なんか色々間違えた。反省はしていない。
キターー(・∀・)ーーー!!
てんだぁはぁとも虹の欠片も最高(^o^)/
>>438 そのAAは何に対するどんな想いを表現したものなんだ?
Brownish Storm第7話まだー?
リトライの人の新作まだー?
そろそろお茶碗叩いてるAAとか探してこようと思う。
443 :
名無しさんだよもん:2005/08/23(火) 02:25:49 ID:Ra3Y5e32O
って
444 :
名無しさんだよもん:2005/08/23(火) 02:27:54 ID:PZ+EQx9R0
445 :
名無しさんだよもん:2005/08/23(火) 05:20:35 ID:OuxXwB810
あんま急かしちゃ悪いと思うよ
てんだーはーとまだー?(・∀・)
>445
オマエm(r
よっちネタまだ〜?
河野家まだぁ(・∀・)?
由真とるーこの料理勝負第二戦。由真の作った卵焼きとるーこの卵焼きに優劣を付けられなかった
俺のせいで勝負は引き分けとなった。
夕食時になり、家に帰る小牧さんと郁乃と珊瑚ちゃん。小牧さんたちは雄二が、珊瑚ちゃんは俺が
家まで送ることになった。
帰り道の途中で珊瑚ちゃんは、瑠璃ちゃんが由真と仲良くなり始めていることを喜ぶが、その後、
自分が瑠璃ちゃんのためにイルファさんを作る必要なんてなかったなどと言いだした。俺は即座に
それを否定して珊瑚ちゃんを励まし、それで珊瑚ちゃんが元気を取り戻したのはいいんだけど、お礼
と称していきなりキスをされてしまった……。
家に帰る途中、雄二が俺を待っていた。雄二は俺の背中を叩くと「小牧さん、お前が送ってくれ
なくて残念がっていた」と言い残し、自分の家に帰っていった。なんで?
「ただいまー」
家に帰った俺を出迎えてくれたのは、
「あ、お帰りなさい、タカくん」
エプロン姿のこのみだった。と、言うことは……
「もしかして今日の夕飯、このみが?」
「えへ〜、わたしとタマお姉ちゃんの合作であります!」
へぇ、このみとタマ姉の夕飯かぁ。そう言えば、タマ姉が俺の家に住むことになった日も、夕飯は
この二人の組み合わせだったっけ。
「合作って言ったって、殆どタマ姉任せじゃないのか?」
「む〜、そんなことないよ。今回はわたし一人で作った料理だってあるんだから」
「キャベツの千切り?」
「違うよー、もっとちゃんと、料理って呼べるものだもん」
あら、からかいすぎたかな? このみがちょっとむくれ顔。
「そうかそうか、じゃあ、何作ったんだ? 教えてくれよ」
「それは、食べるまでの内緒だよ」
気持ちの切り替えが早いのはこのみのいいところだ。このみは笑顔でそう答えた。
夕食は、サバの味噌煮にきんぴらごぼう、大根の味噌汁、白菜の浅漬けと、純和風メニューだった。
昨晩と今朝がタマゴサンド、昼は学食の焼きそばパンだったので、これは嬉しい。
いつもの通り、みんなで「いただきます」と言った後、さあどれから箸を付けようかと考える俺。
うん、やっぱ最初は味噌汁をズズッと一口。――ああ、おいしいなぁ。日本人ならやっぱ味噌汁だね。
次に、サバの味噌煮。――サバの身と味噌の絶妙な組み合わせ、最高っス! そして、その味が口の
中に残っている内に、ご飯を一口。――うんうん、ご飯がおいしい! 今度はきんぴらごぼうに箸を
付ける。――うん、ピリッと唐辛子が利いていて、これがまたご飯に合うんだよなぁ。 最後に白菜
の浅漬け。――もうね、これだけで飯三杯はいけるな!
おっと、うまさに感動するのはこのくらいにして、そろそろこのみが作った料理を当てないとな。
このみもそれを期待しているようで、俺のことをジッと見つめてるし。
最初は、このみには失礼だけど、一番出来の悪い料理で判断できるだろうと思っていたのだが、
この食卓に並ぶ料理に出来の悪いものはない。このみも料理の腕を上げたってことだな。
さて、困った。じゃあどうやって判断するか。――少しズルイが、あれしかないか。このみは、
思っていることが顔に出るタイプだ。それを利用させてもらうことにした。
このみの顔を盗み見ながら、まずは味噌汁を一口。――反応無し。
次に、サバ味噌を一口。――反応無し。
その次に、きんぴらごぼう。――お、表情が変わった。期待と不安が入り交じった感じで、俺を
じっと見つめている。成る程、これが当たりだな。
「このみ」
「な、なに、タカくん?」
「このきんぴらごぼうだろ、お前が作ったの」
「ええっ!? どうしてわかったの?」
ここで正直に「お前の顔見てりゃわかるよ」とはさすがに言えない。
「うーん、なんとなく、かな。春夏さんのきんぴらごぼうに味が似てるなと思って」
確信していたわけではないが、これは本当のことだ。以前このみの家で春夏さんが出してくれたの
と味が似ている。当然このみは春夏さんから作り方を教わったのだろうから、似ていて当たり前だ。
俺はもう一口きんぴらごぼうを食べ、そして、
「うん、うまいよ」
「ホント、やたー!!」
俺の誉め言葉に、手を挙げて喜ぶこのみ。
「よかったわねこのみ。確かにおいしいわよ、このきんぴらごぼう」
「うん!」
タマ姉にも誉められ、ますます上機嫌のこのみ。
「――たかあき、それだけ?」
「は?」
変な質問をしてきたのは由真だ。何だ、それだけって?
「は? じゃないでしょ。それしか言うことがないのかって聞いてるのよ。
ここはもう二言三言、何か言うべきなんじゃないの? 例えば……」
そう言うと由真は、いきなり隣の花梨の両手を握った。当然驚く花梨だが、何やら由真が目で合図
のようなものを送ると、花梨もそれを理解したのか、由真に肯く。そして……
『こんなうまいきんぴらごぼうを作れるなんて思わなかったよ。見直したぜ、このみ』
俺のマネなのか、低い声で花梨にそう言う由真。
『タカきゅんに誉めてもらえて、このみ、幸せ!』
花梨はこのみのマネなのだろう。でも何故か「タカくん」が「タカきゅん」になっている。
『こんなマーベラスなきんぴらごぼうが作れるなら、このみはいつでもお嫁さんになれるな』
『え!? タカきゅん、それってもしかして……』
『その通りさマイスイートハニー! 今すぐ俺とレッツウエディング!
白いチャペルで永遠の愛を誓うんだ。みんなが俺たちを祝福してくれる。ライスシャワーの中を
俺たちは歩き、そして俺たちはオープンカーに乗って、二人だけのスイートホームへ一直線だ!!』
一応つっこんでおくが、俺もこのみも結婚できる年齢じゃないし、この町には白いチャペルなんて
無い。それに俺は自動車免許を持ってないから車の運転はムリだし、スイートホームとやらも建てた
覚えは無い。しかし、寸劇はなおも続く。
『ステキよタカきゅん! あ、もうこのみ、タカきゅんの奥さんなんだから、呼び方を変えなきゃ。
ねぇダーリン、子供は何人作りましょうか?』
『作れるだけ作ろうぜマイスイートハニー! そしてみんなでTVに出よう! タイトルは『大家族
スペシャル! 河野家の愉快な毎日』ってな感じでどうだい?』
『わたしたちの幸せが日本中に電波で伝わるのね、何てステキなのマイダーリン!!』
『そうだろうマイスイートハニー、日本中のみんなが俺たちを羨むのさ! これで少子化問題も一気
に解決だぜ!!』
「……一つ聞きたいのだが」
「……なんだ、るーこ?」
「……この、見ていて不快な二人の芝居は一体いつまで続くのだ? これも”うー”の風習か?」
「……いつまで続くかは俺も知らん。それとこんなのは風習じゃない。
いいから、気の済むまでやらせとけ。このみ、おかわり」
「う、うん……」
『愛してるぜマイスイートスイートハニー!! フォーエヴァーマイラブ!!』
『わたしもよマイダーリン!! オンリーユアハート!!』
夕食が終わり、後かたづけも終わって、後は寝るなり遊ぶなりという時間。(勉強する、という
選択肢も人によってはある)
「じゃあわたし、そろそろ帰るね」
一緒に見ていたTV番組が終わり、このみはそう言ってソファーから立ちあがった。
「このみ」
「なに、タカくん?」
「家まで送るよ」
「え、どうして?」
「うーん、……なんとなくかな。おじさんや春夏さんにもここのところ会ってないし」
適当に答えた俺だったが、理由はあった。
昨日の夜、小牧さんを家まで送って帰ってきた俺にタマ姉は「このみ、タカ坊が見送りしてくれな
くて不満そうだったわよ」と言った。それを思い出したからだ。
送ると言っても、俺の家とこのみの家はすぐ近くだからあまり意味はない。それでも、もしそれで
このみが喜んでくれるなら、と思った。
「うん、ありがと、タカくん」
笑顔のこのみ。どうやら俺は間違っていなかったみたいだ。
このみと二人で玄関から外に出る。このみの家を見ると、居間に明かりがついている。春夏さんが
いるのは間違いない。
「タカくん、お願いがあるんだけど、いいかな?」
「ん、なんだ?」
「少し、お散歩しない?」
このみが俺を見上げ、そう聞いてくる。
「散歩? まあ、いいけど」
「ホント? やたー! じゃ、行こ行こ」
「お、おい、手を引っぱるなって……」
夜道をぶらぶら、このみと歩く。
特にどこを目指しているわけでもない。本当に、適当に、ぶらぶらと歩いている。
「そう言えば、タカくん」
「ん?」
「こうやって、二人だけでいるのって、久しぶりだね」
「確かにそうだな。俺の家は今や女の園と化してしまったし」
「朝、学校に行くときも、前は途中までタカくんと二人だけだったのに、今はずっとタマお姉ちゃん
たちが一緒だし」
「まったくだ。あの頃が懐かしいよ。今は一日中タマ姉たちと一緒だからなぁ」
「タカくん、タマお姉ちゃんたちと一緒に暮らすの、イヤになったの?」
「イヤって程じゃないけど、正直疲れるな。あ、こんなこと言ったの、タマ姉たちには内緒だぞ」
「うん、わかってる」
そう言ってクスクスと笑うこのみ。
「イヤなことばかりじゃないけどな。食生活は以前より格段に向上したし、家事もうまいこと分担
してやってるから前より楽になったし、賑やかなのが楽しいって感じるときだってあるし。
ただなぁ……」
「ただ?」
「やっぱさ、俺は男で、タマ姉たちは女なワケで、どうしてもその辺りで色々と問題が発生したり
するんだよなぁ。なんだかねぇ、年頃の娘さんたちと一緒に暮らすのは大変なワケよ」
「その言い方、お爺さんみたいだよ」
「精神的にくたびれてるんだよ。その内白髪でも生えてきそうだ」
俺は苦笑して、頭をかく。
「……タカくん」
「ん?」
「わたしね、今回のことで、よかったことが一つあるの。
それは、由真さんやるーこさん、笹森さん、瑠璃ちゃん、それに小牧さん、珊瑚ちゃんと知り合え
たこと。知り合って、仲良くなれたこと。
わたしたちって、タカくんっていう共通の知り合いがいるのに、今までお互いのこと知らなくて、
もしかしたらこのままずっと他人でいたかもしれないんだよね。それが今回のことで知り合って、
仲良くなれた。それがね、とっても嬉しいの」
「このみ……、それな、小牧さんも以前、似たようなこと言ってた。このみたちのことをもっと知り
たい、友達になりたいって。そっかぁ。このみもそう思ってたんだな」
「小牧さんが、そうなんだ……」
「確かにいいことだよな、これって。みんな友達が増えたんだからさ。うん、いいことだ」
この不思議な共同生活は、それまで赤の他人だった彼女たちが知り合い、仲良くなるきっかけを
作っていたんだ。そう言えば珊瑚ちゃんは、瑠璃ちゃんが由真と仲良くなり始めていることを喜んで
いたが、それは何も瑠璃ちゃんだけの話ではなかったんだ。
例えば、由真はタマ姉という、頼れる先輩と知り合えた。
例えば、花梨はるーこをよく知る機会を得られた。
例えば、るーこは由真という、料理のライバルを得られた。
ほら、ちょっと考えただけでもこれだけのいいことがあったんだよこの生活には! そして、これ
から先だって、更にもっといいことがあるかもしれない。そう考えると、なんだかワクワクしてくる。
「……でも、いいことばかりじゃないけどね」
上機嫌になっていた俺に、このみがぽつりとそう言った。
「え? このみ、何が問題なんだ?」
「……うーん、タカくんには教えたくない」
は? なんだそりゃ?
「おいおい、思わせぶりなこと言ってそれはないだろ」
「だって、教えたくないんだもん」
このみがそう言って顔を背ける。
「そんなこと言わないで教えてくれよ」
「ヤダ」
「教えろ」
「ヤダ」
「だー! いいからさっさと教えろ!!」
「イ・ヤ・ダ」
あくまでも拒むこのみである。よし仕方がない、こうなったら奥の手だ。
俺はこのみの背後に回ると、左腕でこのみの首を抱え込んだ。
「た、タカくん!?」
驚くこのみ。だがこのみよ、本当に驚くのはこれからだぞ。
そして俺は、右手の人差し指で……
ぐりぐりぐりぐりぐりっ!
このみのつむじをぐりぐりと押す。
「た、タカくん、何してるの……?」
「このみ、いいことを教えてやる。こうやってつむじをぐりぐり押すとな、お腹がゲリピーになるん
だよ。ケケケケッ」
ちなみにこれはウソなのだが、このみはこういったウソに騙されやすい。
「え、えええっ! や、ヤダ、止めてよタカくん!!」
案の定引っかかり、慌てるこのみ。
「ああ止めてやるよ、お前が教えてくれたらな。ほーら、早くしないとお腹が大変なことになっちゃ
うぞー。そしたらどうする? 家は遠いし、この辺には公衆トイレも無いし、どうするどうする?」
「わ、わかったよ! 話すから止めてよ〜!」
「よし、じゃあ話せ」
俺は左腕はそのままこのみを放さず、つむじを押す指だけを放す。
「……多分ね、わたしたちって、仲良くなっても、いずれ争わなきゃならないの」
「は? 争う? どうして?」
「……それはね、たった一つしかないものを、みんなが欲しがっているから。
どんなに頑張っても、手に入れられるのはたった一人だけだから……」
このみはそう言うと、自分の首を押さえている俺の左腕に両手でそっと触れる。
「わたし、これだけはどうしても手に入れたいんだ。
タマお姉ちゃんにも、他の誰にも、取られたくないんだ……」
「このみ……」
このみ、お前が欲しがっているものって、もしかして……
「隙ありっ!!」
ついゆるめた俺の腕からこのみはスルリと抜けた。
「あ、しまった! おいこら、それって一体何なんだよ!?」
「これ以上は教えてあげないよ〜」
そう言って笑いながら逃げるこのみ。
俺は慌てて追いかけるが、足の早いこのみには追いつけない。
と、少し離れた街灯の下でこのみが俺に振り返る。
街灯に照らされたこのみの笑顔。それは、いつもとは違う何かを俺に感じさせる笑顔だった……。
つづく。
どうもです。第20話です。
今回は、河野家ではイマイチ目立っていないこのみにスポットを当ててみました。
>>438 あの……、何、それ……?( ゚д゚)
>>447 おまたせー
GJ
てんだーはーとまだー?(・∀・)
>460
煽る前にやる事があるだろ?
河野家の作者さん、GJ!!
個人的にはドロドロした争いは勘弁と言ってみる。
放課後にこのみからの提案でタマ姉のゴリ押しで俺の家へとくることになった。
タマ姉に止めを刺されて泣きながら帰る雄二。彼の背中には哀愁がただよっていた。
そして帰り道にたまたまミルファと出会う。
そこで発せられた
「貴明様」
の一言でこの先に一悶着あるのは確定的になってしまった。
神様恨みます…
「「貴明様?」」
「は…はは…」
全てを諦めた俺にタマ姉が優しく話しかけてくる。
「タカ坊?クマ吉じゃなかったっけぇ?」
「う…うん」
「はい、クマ吉はわたしですけど?」
ミルファが頭に?を浮かべたような顔で返答をする。
それを聞いてタマ姉が逆に頭に?を浮かべる。
「え?あれ?」
頭に?を浮かべて必死に頭を整理しているタマ姉に珊瑚ちゃんがその答えを出してくれた。
「みっちゃんは元々代替でクマの人形に入ってたんよ。
それでその時に貴明と出会ったんや。」
「なるほどぉ…だからクマ吉でミルファなのね」
「まぁ、そういう事。だからクマ吉でミルファな訳」
「クマ吉という名前は貴明様がわたくしの為にわざわざ付けてくださったんですよ」
懐かしむような顔つきで少し顔を赤らめながら話すミルファを見て
タマ姉は表情は変わらないが雰囲気からするとかなり不満気だ。
こりゃ最悪の事態も想定しておかないとダメか…。
「そっかー。あれ?けどタカくん家にはもう居るの?」
「はい。先週の土曜から貴明様の家でご奉仕させて頂いてます♪」
珊瑚ちゃん譲りの満面の笑みでポニーテールを犬の尻尾さながらに揺らす。
俺としてみれば喜んでもらえるだけでも嬉しい限りなのだが…
「そ…そぉ…」
明らかにそれをよろしくなく思っている人が居る。
タマ姉だ。
「残念ながらまだ夜のご奉仕はまだなんですけど…」
顔に手を当てて照れた表情を見せるミルファ。
「ふわぁ…今のメイドロボって凄いんだ…」
「みっちゃん頑張ってるなぁ〜」
「うぅぅ…」
1年生3人組は三者三様の反応を見せる。
瑠璃ちゃんなんかはすごい何かを言いたそうな表情をしている。
そして一人違った感じで顔を赤くしている人が。
「…」
「タ、タマ姉?」
「あ、あたしだって…」
「環様?どうかしました?」
「あたしだってタカ坊が望んでくれれば…」
何か良く聞き取れないがタマ姉がぼそぼそと呟く。
「タマ姉?」
何か言ってるのだが良く聞き取れないので近づいて話しかけてみると
こっちに気づいたタマ姉がビックリした表情で見る見るうちに顔が真っ赤になった。
「あ、いや、その…」
「タマ姉どうしたの?落ち着いて…」
「お、落ち着いてるわよ!」
ワタワタしながら言われても説得力が無い。
そんな何時もはぜんぜん見せないタマ姉の一面を見て可愛く思ってしまう。
「…ぷっ」
「あ、タカ坊ひどい。笑うことないじゃないのよー」
「だってタマ姉が珍しい反応してるから…」
「そ、そんなことないわよ」
そんな俺とタマ姉のやりとりを宜しくない表情で見る人が。
まぁこの状態だと無論ミルファなわけで…
そのミルファの変化に気づいた珊瑚ちゃんがミルファに近づく。
「みっちゃんどうしたん?」
「なんですか珊瑚様」
「むっちゃ怖い顔なってんでー」
「そんなことないです…」
「あかんわさんちゃん。これは離れといた方がえぇよ」
「う…うん。何か嫌な予感がするよ…」
瑠璃ちゃんとこのみが顔を青ざめさせながらミルファとタマ姉から離れる。
そして珊瑚ちゃんがミルファから離れた瞬間に堰を切ったようにミルファがタマ姉の所へ
歩いていく。そして俺の後ろにきたところで背中にピッタリとくっついてきた。
「貴明様、早くご自宅へ帰りましょ?今日のご夕飯も腕によりをかけて作って差し上げます」
ミルファを見ると明らかに笑顔が怖い。
これは正に一触即発、冷戦状態、いつ核ボタンが押されても仕方ないそんな状態。
こ、ここは一先ず帰って方が良さそうだ。
本能がそう叫んでる。
「そうだな、折角みんな居るんだし、こんな所で立ち話も何だしな」
「それじゃいきましょ☆」
そう言ってミルファが俺の右腕に自分の腕を絡ませてきた。
こう絡まされると胸が当たって…いかん、こんな危険な状態に何を考えてるんだ俺は。
こんな状況になってきっとタマ姉が大人しくしてるはずがない。
そう思った矢先に今度は左腕に腕が絡んできた。
「あら、環様如何致しました?」
「別に、タカ坊と腕を組みたくなっただけよ」
「そうですか」
まるで正面からの交戦態勢になっている両軍の間に居て逃げることも防御もできない。
そんな板ばさみ状態な俺を少し離れてみている1年生3人組。
「タカくん何か凄い状態になってるね…」
「あれやな、捕まった宇宙人のアレに似とるな」
「ほんまやなー」
完全に見世物状態…早く家に帰りたい。
そんな俺の願いとは裏腹にこんな状態で歩きやすいわけも無く通常よりも遅い到着と
なってしまった。後半は俺がただ引っ張られていた気もする。
家に着いたときにはこれほど嬉しいことは今まで無かったのではないかと
思えるくらいに嬉しかった。
俺には帰れる家があるんだ…
こんなに嬉しいことは無い…
「どうしました?貴明様?」
みんながリビングに向かった後で玄関に座って一息ついているところで
最後に入ってきたミルファが心配そうな顔で見てきた。
「貴明様って…」
「あ、あはは…やっぱりみんなの前では様付けた方が良いかなぁって」
「タマ姉と何かあるかと思ってヒヤヒヤしたよ」
「だってあたしを挑発してくるんだもん」
「挑発って…」
そんなにタマ姉って好戦的だったのか…危ないところだった。
というか既に手遅れな気がしないでもないけど。
「貴明疲れちゃったかな、ごめんね?これはお詫び…」
ちゅっ
座ってる俺の額にミルファの唇が優しくあたる。
「先に行ってるね☆」
ミルファはそのままリビングへと行ってしまった。
どうしてあいつは俺の心の隙をついてくる可愛い悪戯をしてくるのだろう。
「頭冷さないとな…」
自分ではきっとわからないけど顔が真っ赤になってるのかもしれない。
少し顔が熱い気もする。
額に残ってる唇の感触を感じながら一先ず2階へ向かい着替えることにした。
すぐ着替えてリビングへ向かうとみんな紅茶片手に談話に花を咲かせていた。
「タカ坊遅いわよ?」
「ごめんごめん。あれ?うちに紅茶なんてあったっけ?」
「今日買ってきたんです」
台所にいるミルファがカップに紅茶を注ぎながら言ってくる。
見る限りティーバッグでは無く茶葉から淹れているようだ。
これもイルファさんに教わったのだろうか。
「へぇ、大分買い込んでたみたいだから冷蔵庫はにぎやかになってそうだな」
「最初は殆ど物が入ってなかったですからね」
クスクスと笑いながらミルファが紅茶の入ったカップを俺の前においてくれた。
「ありがとう」
早速一口もらうことにした。
飲んでみるとティーバッグで淹れたときに感じるイガイガした喉越しの悪さなどなく、
紅茶本来の香りと味が口の中に広がる。
こんなに美味しいものだったのか…。
「うん、美味い。紅茶の淹れ方もミルファは上手いんだな」
「お褒めに預かり光栄です」
後ろに居るミルファの方を見ると何時もの満面の笑みとは少し違いおしとやか
微笑を浮かべていた。何時もと少し違うミルファをみて少しドキッとしてしまった俺は
誤魔化す為にまた紅茶を啜る。
「で、タカ坊?」
その雰囲気を吹き飛ばすように何時もよりも冷淡なタマ姉の声がリビングに静かに響いた。
「な、何かな?」
「改めて事の経緯を教えていただけるかしら?」
妙にきちっとした敬語が逆に怖い。
あぁ…タマ姉確実に不機嫌だよ…
「まぁ最初はクマ吉として出会ってその後研究室に戻ったミルファは今のボディを
貰ったんだよ。で、その後に研究所の長瀬主任って人が俺のところで試験運用を
してもらいたいって事でうちにミルファがやってきた。
まぁ要約するとこんなところかな?」
まぁ間違ってはいないだろう。
「そぉ…でも家事を行ってもらうとしてもタカ坊お金そんなに無いでしょ?」
「あ、それなら心配御無用ですよ?」
タマ姉の優位性を消すかのようなタイミングでミルファが会話に入ってきた。
「ここで試験運用させていただいている謝礼という形でここの食費に関しては
研究協力費として私が来栖川エレクトロニクスからいただいてますから」
「あ、そうだったんだ…」
そういえばミルファにお金渡してなかったな。
「はい。一応それだけじゃ謝礼としては足りないので幾らかはご両親の口座に振りこませて
頂いてるみたいです。ご両親ともお喜びみたいですよ」
知らなかった…っていうかうちの親父とお袋は金で承諾したんじゃないだろうな?
変なところで不安がよぎってしまった。
「そ、そんな事言ってもタカ坊の世話は私が任せられてるし…」
「それならこの家の家事全般はすべて貴明様のご両親から任されてますからご心配なく。
すでにお掃除、お洗濯も済ませましたし」
そういえばと部屋を見回すと日曜日の大掃除のときよりも綺麗になっている。
恐らくは俺が学校に行っている間に掃除をしたのだろうか。
「わー、確かにいつものタカくん家じゃないよー」
「このみ、何気に酷い事言ってないか?」
俺の家ってそんなに汚かったかな…これでもゴミはきちんと片付けてたつもりなんだけど。
「き、気のせいだよ」
「いっちゃんゆずりで掃除もうまいんやなー」
「確かに綺麗になってる…」
感心しながら見回す3人。その様子にミルファも満足のようだ。
しかし一切の反応を見せないタマ姉。
その背後にはまるでオーラでも出さんかのような異様な雰囲気を醸し出していた。
「…」
「タ、タマ姉?」
少しの沈黙の後、タマ姉がミルファの方を見据えて言い放つ。
「あなたタカ坊の好みはきちんとわかってるの?」
「貴明様の好みですか…」
ここで今まではタマ姉の質問にことごとく返してきたミルファの反応が鈍くなった。
まだこの家に来て3日目。俺の好みをきちんと把握をしていること自体がありえないと
いっても過言ではない。好みというものはやはり長い期間を経て理解をしていくものだ。
ここでミルファがすぐに答えられるわけも無い。
ずっと考え込むミルファ。
「メイド?」
…緊張が完全に途切れてポカーンとした顔にみんななってしまった。
「ミルファ、だから言っただろ?あれは雄二から押し付けられたものであって…」
「だって…貴明がメイドさん好きだと思ったんだもん…」
突然の発言にミルファの口調も何時ものそれに戻ってしまっていた。
「ぷ…あははははは」
俺らのやりとりを見てタマ姉が笑い始めた。
「なんだよ、タマ姉」
「だって面白いんだもん。ミルファさん、あなた凄いわね」
「ミルファで結構です。環様」
「そう?ならあなたも私のこと呼び捨てで構わないわよ。」
「わかりました」
「じゃあ…ミルファ、私は最初あなたがメイドロボだと分かって凄く不安だったわ。
だって普通のメイドロボは一辺倒で工夫も特に無くて機械染みてて…」
恐らくそれは機械嫌いなタマ姉ならではの印象だったのだろう。
確かに既存のメイドロボを見る限りは人間に近いロボットと言った感じでロボットの枠は
超えられていなかった気がする。
しかし珊瑚ちゃんが開発した技術で作られてみんなの愛を受けて育ったミルファはもはや
人間と見間違えても仕方が無いほどの出来栄えだ。
恐らくその人間臭さがタマ姉が緊張を解いた要因でもあるのだろう。
「けどあなたは本当にタカ坊の為に頑張ろうと努力している。
なら私が怒ったり反対する理由なんて無いわ」
実にタマ姉らしい結論だった。
間違ったことをしていない人はきちんと認める。
それがあっさりできてしまうタマ姉が凄いというのをつくづく実感する。
「ありがとうございます。それじゃあ私は夕飯の準備をしますね」
微笑みというよりは何時もの笑顔に変わっているミルファが台所へ向かう。
そこにタマ姉がついていった。
「私がタカ坊の好みの味付けを直伝してあげるわよ」
「ありがとうございますっ♪」
「はー…」
「貴明よかったなー☆」
大きく息を吐いて緊張からの開放に安心していると珊瑚ちゃんが俺の横にやってきた。
「あぁ、一時はどうなることかと思ったけどね。珊瑚ちゃんの技術はタマ姉も
感嘆させた。ってとこかな。ありがとう」
「えへへ☆ なら貴明ご褒美のちゅーはくれへんのー?」
気体に満ちた顔で珊瑚ちゃんが俺に寄ってくる。
「ご、ご褒美はまた今度ね?」
「えー、えぇやん。瑠璃ちゃんだってこのみだって欲しがっとるよ」
その発言に対して驚く後ろの二人。
瑠璃ちゃんは戸惑いを見せながら顔を赤くさせ、
このみは頬をりんごのように真っ赤にさせていた。
「だ、駄目だよ、タマ姉とかミルファも居るし、ね?」
「えー、今日の貴明はケチケチやー。何時もならすぐしてくれるのにー」
ピシッ
空気に亀裂が入ったような音がした。
いや、それは俺の気のせいかもしれない。
たださっき消えたはずの緊張感が倍になって戻ってきている。
これはもはや一触即発というよりもすでに戦闘に入ってしまっているような緊張感だ。
理由はもちろん分かる。珊瑚ちゃんの一言。
無論俺も安心しきって珊瑚ちゃんの発言に気をつけていなかった落ち度はあるかも
しれない。しかし犀は投げられてしまった。後戻りは出来ない。
「タカ坊?今のはどういう意味かしら?」
「あ、いや、けしてそういったわけじゃなくて…」
「うちは知らんで」
瑠璃ちゃんが見事に突き放してくれた。
「タカ坊?ふしだらないけない子には何が必要かわかってるわよ…ね?」
うぅ…背筋に走るこの冷たい感じ。タマ姉かなり怒ってるみたいだ。
もう覚悟を決めたほうが良さそうだ。
「は、はぃ…」
ガシッ
えぇ、そりゃあ痛かったですよ。
何ていうかね、あれは武器じゃない。
もはや兵器でしたね。雄二の凄さを知った感じがしましたよ、えぇ。
「いたたたた…」
「貴明大丈夫ー?」
あわや頭蓋骨陥没までいきそうな勢いでアイアンクローをかまされやっと開放された。
最初の数分は本当に何も出来なかったがみんなが俺のことを心配しつつ帰宅の途についた
頃には何とか動けるまでには回復できた。
本当に雄二はこんなのをくらってすぐに立ち上がれるな。
あいつの回復力には敬服してしまう。
そんな痛みとの戦いをしている俺の横でミルファは心配してくれていた。
「あぁ…何とか生きてるよ」
「もぅ…環様から開放された時のあの妙な動き…本当に心配したんだからね?」
「俺はそんなにやばい状態だったのか?」
「うん…何ていうか…瀕死?」
そ、そんなにやばかったのか。
「とりあえずもう少しゆっくりすれば治ると思うから」
「じゃあ早い回復方法を教えたげる☆」
「ん?…ぶぁ!?」
俺が何をするのか聞くのよりも早くミルファの胸の中に俺の顔が埋まる。
「ほら、柔らかいでしょ?」
「んむ…」
顔全体に感じるミルファの胸の柔らかい感覚。
頭の痛みに対してこの感覚は違った意味で刺激的過ぎた。
「ミ、ミルファもう良いから」
「そう?」
この先ほどとは違った意味で危険な状態から何とか開放されたところでソファーに
グッタリと寝そべった。
「ほらぁ、ここで寝ちゃ駄目だよ?」
「あぁ…」
「寝たらいたずらしちゃうぞー」
「あぁ…」
駄目だ。色々あったものから開放されたせいか眠気が…
「ほらぁ、貴明ー」
「…」
ミルファが何か言ってるけど動け…
「貴明?本当に寝ちゃった?」
「…」
「キスしちゃうぞー?」
「…」
時計の音だけして後は静寂で包まれるリビング。
ミルファが寝ている貴明の顔を優しい顔で見つめる。
「本当にしちゃうよ…?」
そう言いながら貴明の顔に顔を赤らめながら近づけていく。
ゆっくり、ゆっくりと。
そして唇が触れ合う一歩手前で少し止まった後に重なり合う唇。
そのまま秒針だけが動く音でリビングは支配される。
唇が重なったまましばし時が過ぎる。
そして秒針が一回りほどした後だろうか。ゆっくりとお互いの唇が離れる。
「貴明…」
「…」
寝ている貴明に話しかける。無論反応があるはずがない。
しかしそれで良いのだ。これは寝ていることを確認する合図。
そしてミルファは顔を真っ赤にしながら一言呟く
「貴明…好きだよ」
「ん、んぁ?」
「あ、貴明起きた?」
「俺…いつの間にか寝てた?」
「うん。今日色々あって疲れてたのかもね」
ふと気づくとソファーの上には居るのだけれども頭のある感触はソファーのそれとは
違っていた。少し考えてやっと気づいた。膝枕をされているのだ。
「あ、ごめん」
「ん?何が?」
「膝枕…」
「あぁ、これ?私がしてあげたかったからしてるだけだから気にしなくていいよ。
それとも気持ちよくなかった?」
「そんな事は無いけど…」
ふと上を見上げると見えるのはミルファの顔ではなくその大きな胸。
身体が少し動くごとに少し揺れるその胸を見ていると気恥ずかしくて目を逸らすしかなかった。
「ほら、夕飯にしよ?今日は環さん直伝のお料理ですよー」
気づいたらミルファのしゃべり方が何時もの口調に変わっていた。
そしてそれに何となくホっとしている俺が居た。
「どしたの?」
ミルファが何かに気づいたのか俺に問いかけてきた。
「何が?」
「だって貴明笑ってる」
あぁ、気づいたら笑ってたのか、俺。
「やっぱり何時ものミルファの方が良いな」
ポツリと呟いた後、ミルファを見るとミルファの顔がみるみるうちに赤くなっていくのが分かった。
「あれ?俺何か変なこと言ったかな?」
膝枕から離れてソファーに腰掛けるとミルファは顔を俯けたまま顔を左右に振った。
それにつられて動くポニーテールが可愛かった。
そしてまた部屋に静寂が訪れる。ミルファは顔を俯けたまま何も言わない。
その状況に戸惑ってると急に時が動き始めた。
「ミルファ?」
ミルファが顔を俯けたまま俺の胸元に顔をうずめてきた。
さっきと立場が逆な状態。
しかもミルファは俺の服をギュっとつかんで離さない。
そしてまた静寂が訪れようとしていた。その状況から少しでも開放されようと目の前にある
ミルファの頭を撫でてあげた。これは膝枕のお礼、そう心の中で呟きながらそっと撫でる。
そして最初はビクっと反応したミルファだったが撫でられて嬉しかったのか服を掴む力が少し
強くなった気がした。
どれくらいそのまま過ごしただろうか。ふと、ミルファの顔が上がりこっちを見上げてきた。
まずい、このシチュエーションは何かを要求される。
何をお願いされるのかドキドキしながらミルファの唇が動くのを待つ。
「キス…」
たった二文字の言葉。
けどその二文字には破壊力が十分にあった。
しかしミルファの上気した顔をみると可愛さが募って来る。
ミルファの頭の後ろに手を回して顔を引き寄せる。
最初はミルファも少しビックリして戸惑っていたが目を閉じて唇を寄せてくる。
日が殆ど傾き薄暗い部屋の中で黒い2つの影が重なる。
暫しの間重なり合う影。
空も暗くなり、部屋も明かりをつけないと普通に見えなくなった頃に二人は離れた。
「お、お夕飯あっためるね」
今までの状況にさすがに恥ずかしくなったのかミルファが明かりをつけるとそそくさと
キッチンへと向かう。後姿と横顔を見る限り顔は真っ赤のようだった。
そんな俺の顔も熱い。きっと同じように真っ赤になってるんだろう。
そんな事実から目を背けようとソファーに座りなおしてテレビをつける。
「前よりはマシになったのかな」
ミルファに分からないように小さく呟き自嘲気味に笑う。
確かにこの春前までの俺と比べれば成長はしているのだろう。
…多分。
「貴明ーっ。ご飯できましたよーっ」
何時もの元気な声。そして振り向くとミルファは何時もの笑顔を浮かべている。
心なしかいつもよりも良い笑顔かもしれない。
「おーうっ」
俺は今日も美味しそうに色々と作られた夕飯が並ぶテーブルへと向かった。
昨日の夜中に書き上げて校正をかけたので量が多くなったことこの上なし_| ̄|○
まとめようまとめようと思ってもまとまらず膨大な量に。たくさん投稿して申し訳ないです。
>>まだー?と言ってくれた方々
頑張りました。
次は明後日が休みなのでその辺りには…出来たらいいなぁ。
>>391 ガムシロップまではいかないですが餡子くらいには甘くなりました(´∀`)ノシ
是非他の方のミルファも見てみたいので頑張ってください!
479 :
391:2005/08/23(火) 22:57:27 ID:beWDN5MzO
まずはGJ!!
かなり甘くて良いと思います。このまま更に甘くしてください。
SS書くの諸事情で諦めてます……文才も無いんで。
>>478 た、たのむ・・・一思いに俺を萌え殺してくれ・・・GJ!
萌えハートがInfinityDriveしてます。
そういえばTWO FACEっていうSSはもう再開しないのかなぁ・・
>>478 貴様ッッッ
超GJ
そしてこれからもがんがれ
484 :
せーのっ!:2005/08/24(水) 11:36:09 ID:hh8e2TQO0
巫
485 :
名無しさんだよもん:2005/08/24(水) 11:37:27 ID:iZCFR1+yO
女
巫
女
ナ
|
ス
もうそれ潮時だろ
せーのっ
てんだ〜は〜とまだぁ〜〜〜?(甘い声)
Brownish Stormまだ〜〜?とも書きたいが、
投下されたばかりなので……連投すまん。
491 :
せーのっ!:2005/08/24(水) 20:32:30 ID:hh8e2TQO0
虹
hh8e2TQO0と2l7xP9D7Oに幸あれ。
河野家まだぁ?(´Д`;)
ここで想定外の虹投下。
雨は激しさを増す。
強く、強く、強く、強く、強く――。
水の雫であることを感じさせない凶暴さで大地を叩き、弾け、響かせる。
視界は最早、水中となんら変わるところなく、騒音はまるで銃声のように鼓膜を叩く。
これは、暴力だ。
叩き伏せ、捻じ伏せる、自然の暴力だ。
トタンの下から右手を嵐の中に差し出すと、ばちっと大粒の水の雫が手を叩いた。弾け
た飛沫が頬を、服を濡らした。
世界はどこまでも狭まって、まるで独りきり世界からそこだけが切り取られてしまった
かのようだった。
独りきりだった。
--虹の欠片-- 第六話
新学期初日のHR直後、始業式前の廊下にはまだ夏休みの余韻がはっきりと残っていた。
生徒たちは銘々に教室で、廊下で、久しぶりの再開に花を咲かせている。様々な夏の思い
出が言葉になってあふれ出している。
夏の終わり――。
その中を小牧の背中を追うように歩く。まるで姫と従者のように。決してその肩を並べ
たりはしない。人の少ない登校路では肩を並べたのに、これが今の小牧と俺の距離感だっ
た。いや単にそれだけというわけでもない。俺は気後れしていて、誰かの背中にくっつい
て行かなければ教室までいける自信が無かった。
何故なら教室には町がなく雄二がいる……。
こんなことならやっぱり先に教室に行って待っていた方が楽だったかもしれない。自分
から苦難に向かうというのは力がいるものだ。とは言ってもやはり待っている時間は苦痛
だったと思う。一歩ごとに未来が重く圧し掛かる、茨の道とはこういうものかと思ったが、
自分で選んだ道でないのがこの困惑の一番の原因だ。
そう、困惑だ。
俺は雄二を前にどんな態度を取ればいいのか分からない。
普通に考えれば恋人を取られたのだ。怒って当然というものだろう。しかし何故か怒り
は湧いてこない。悪かったのは自分だという思いがあるからだ。
結局俺はその問題にどんな答えも見つけ出せないままに教室の前に辿り着いた。
教室の扉は開いていた。小牧は一瞬こちらを心配そうに振り返ったが、結局なにも言わ
ずに教室に入って行き、級友たちと挨拶を交わしていた。俺はしばらく教室の外で立ち尽
くしていたが、いつまでそうしていても何もならない。
覚悟も何も無いままに教室に足を踏み入れる。
まず真っ直ぐに一学期の終わりの自分の席を見つめる。席の位置の関係でそうすれば雄
二の席は視界の中に入ってこない。視線をずらさないまま真っ直ぐに机に歩いて、そこに
座った。
「よぉ、貴明」
だが俺のそんな色んな考えや苦労をコイツは一瞬で全部吹き飛ばした。俺が教室に入っ
てくるのに気付くや否や、自分の机から立ち上がりこっちに来ていたのだ。そしていきな
り俺の胸倉を掴み、顔を近づけた。
「お前、姉貴と何があった」
思考停止――。
あまりにもいきなりすぎる雄二の言葉の意味を考えるのにどれくらいの時間を要したか
分からない。だが雄二が俺の胸倉を掴んでいた手をドンと押して、俺が教室の床に転がる
までにかかった時間はきっと短かったはずだ。
俺は相当呆気に取られた顔をしていたのだろう。きっとそれは雄二の気に障ったに違い
ない。怒りを露わにした雄二の顔を俺は見上げた。
そして俺は唐突に雄二の言葉を理解した。
――姉貴と何があった!
姉貴、タマ姉と何があったか、だって?
無性にワケの分からないものがこみ上げてきて、それは喉元から肺の辺りに入り込み、
吐き出すと咽るような笑いに変わった。俺は地面に転がったまま、狂ったように笑いを吐
き出した。
「笑ってんじゃねぇよ!」
雄二が俺との間にある椅子を蹴り飛ばした。咄嗟に飛んできたそれを腕で受け止めたが、
じぃんと痛みが走る。俺の腕に当たった椅子は後ろの席の椅子を直撃したが、幸いそこに
は誰も座っていなかった。
教室内は突然のことに騒然とした空気に包まれていた。ただのケンカだって珍しいとい
うのに、何だって? 姉貴と何があった、だって? 姉貴ってあれだよな。三年の向坂環、
知ってる、あのすごい――。そんな声が聞こえた気がしたが、誰かがそんなことを実際に
話していたかまでは判らなかった。もしかしたらただの幻聴だったかもしれない。
「姉貴はおまえんとこに泊まってたんだろうが!」
雄二は完全に頭に血が昇っていた。そんなに腹が立つならもっと早く来ていれば良かっ
たのに、などと腕の痛みを堪えながら考える。
しかしこれはお笑いだった。俺はまだ笑いを堪えることができなかった。元々堪える気
なんて無かったのかもしれない。
俺は上半身を起こして、吐き出すように言った。
「――よく言うぜ」
「んだと、テメェ、今なんつった」
「人の恋人に手ぇ出しておいて、自分の姉貴が取られたら怒るのかっつったんだよ」
間違いなくそれは雄二の理性の糸を切った。あまりに可笑しかったのでわざとそんな風
に言ったのだ。しかしその一方で、それはようやく吐き出せた本音のような気もした。
雄二の拳が振り上げられて、俺の頬を打った。そんな風に怒りを吐き出せる雄二がなん
だか羨ましくも感じた。俺はもう一度床にはいつくばった。
「最初にこのみを泣かせたのはテメェだろうが!」
俺の上に馬乗りになって、雄二は拳を振り下ろす。
「姉貴のことはな、姉貴が望んだならそれもいいと思った」
ぐいと胸倉を掴む。掴んだり、殴ったり、忙しいことだ。
「それが新学期がはじまりゃ今度は委員ちょと仲良く登校か、テメェは!」
それまで俺たち二人を取り囲むようだった教室内の空気が別の一点にも向いた。その焦
点になった小牧は呆気に取られた顔で自分を指差した。
「え? あたし?」
つまりそれが発火点だったわけか。しかし――。
「小牧は関係ない! 今朝一緒になったのだって偶然だ」
「その偶然で、仲良く準備の仕事までお手伝いか。どうなってんだよ。オメェは。このみ
のことが好きだったんじゃないのかよ!」
「――!! お前が言うかっ!」
思わず手が出た。自分の中にこんな一面があるなんて思いもしていなかった。握り締め
た拳は雄二の頬にクリーンヒットして、ぐらりとその上体が揺れた。だが同時に右の拳が
ずきりと痛む。
雄二は答えなかった。代わりに拳で応えた。体勢的には雄二が圧倒的に有利で、上から
振り落とされる拳に俺は滅多打ちにされるしかなかった。殴られながら、何故俺が殴られ
ているのだろうと疑問に思ったが、やがてその疑問も白濁して行く意識に飲み込まれ、消
えて行った。
何もかもが消えてしまう――。
――目を開けると白い天井が見えた。それから銀色のレールと、微動だにしない白い
カーテン、鼓膜をくすぐる雨音は膜を通して聞くように遠かった。痛みは全身にあったけ
れど、一番は間違いなく口の中だった。切れてるな、と一杯に広がる鉄の味で分かった。
「――まだ、寝てていいんだよ」
優しい声がそう言った。穏やかで、カーテンはやはり微動だにしなかった。その人は俺
の右手、頭の横辺りに座っていた。声で誰かは分かったから、俺はその顔を確かめようと
はしなかった。
いいや違う。その顔を見ることで、自分の顔を見られてることを意識したくなかった。
情けなくて弱い俺を見られていることに気付きたくなかった。だから俺は天井を見つめた
ままだった。
「……雨、止まないね」
その言葉は独り言だったのか、それとも俺に向けたものだったのか。判らなかったから
俺は答えなかった。答える言葉を持たなかっただけかもしれない。
「始業式は?」
口を動かすと予想していたより痛んで、かすれた声になった。
「終わっちゃったよ。後片付けも全部――」
「……そっか、手伝えなくて悪い」
人影が首を横に振るのが分かった。そしてふと疑問に思った。
「――どうしてここに?」
「後片付けが終わったからちょっと立ち寄っただけ……」
なんとなく嘘のような気がした。それは多分カーテンが揺れていなかったからだ。俺の
勝手な決めつけかもしれないけど、部屋の中の空気は静かに澱んでいて、しばらくは誰も
それを掻き乱してはいないと思った。
けれどそれを訊こうとは思わなかった。多分訊いても本当のことを答えてはくれないだ
ろう。
「何も、訊かないんだな」
だから別のことを訊いた。
しばらく、何も動かなかった。俺の問いが聴こえなかったのかと思ったほどだった。
「……訊けば河野くんは楽になれますか?」
その率直な問いに、俺は答えられなかった。
言われてみれば訊かれたくないという思いがあるのも確かだ。訊かれれば傷は再び抉り
出され、俺はまた傷つくだろう。要らぬ痛みを抱えることになるだろう。けれど不思議な
ことに誰かに聞いて欲しいという思いもまたある。
「あたしも好奇心はありますから、訊きたいことは一杯あります」
それはそうだろう。それが普通だ。
それに本当ならこの放課後、それを話すはずだった。ちゃんとした約束ではなかったけ
れど、そうなることは分かっていた。
「さっき向坂くんのお姉さんが来てました」
ああ、それはそうかもしれない。あれだけの騒ぎになったのだ。もう学校中に知れ渡っ
てしまっているのだろう。そして噂には尾びれ背びれがついていっているに違いない。
「ごめん……」
多分、その噂に巻き込んでしまった。それは俺の不注意だった。
こうなるともう無関係とは言ってられない。噂の中には事実が含まれていて、それが嘘
にさえ真実味を与えるからだ。
「全部、話すよ……」
全てを包み隠さずに話すのは、本当なら恥ずかしくてできないようなことだったに違い
ない。けれどこの時の俺はまるで熱に浮かされるようになっていて、実際に殴られた顔や
腹が熱を持っていて、それで全部、隠しておけばいいようなことまで全部話してしまった。
その間、ずっと彼女は黙ってそれを聴いていた。驚き、身を竦め、時には顔を赤らめな
がらも、口は出さずにいてくれた。
「辛いですよね……」
全てを話し終えた後の感想がそれだった。
ああ、なんてまったく当たり前の感想だろう。けれどそれが一番正しいのもまた事実だ
った。
傷痕は再び抉られ、身を切られるような痛みがあった。
けれど、
「辛い……、とても辛いな……」
俺は右手を視界の端に映る人影に伸ばす。きっと誰でも良かった。いや、誰でも良かっ
た。そこにいたからすがった。ただそれだけのことだった。
「少しだけ、手を握っていてくれないか」
「……はい……」
伸ばした手を暖かい手が包んだ。手の温かい人の心が冷たいだなんて絶対に嘘だと思っ
た。その手は柔らかく小柄で、俺の手を包み込みきれていなかった。けれどそれで十分だ
った。十分すぎた。温もりは冷たく傷ついた俺の心を包み込んで、その痛みを和らげてく
れた。
続く――。
第二幕はもうちょい展開早い予定だったんですが、愛佳だと長くなるのは俺の伝統とい
うことでお許し願いたいです。今回は突発的な投下になりましたが、書いちゃったのをこ
う出し控えるのも悪い気がしたので、出せるときに出しておきます。
なお日曜日辺りには番外編。六話4.5節を投下予定ということにしておきます。
七話はそのまた来週に。
虹の欠片、来ましたか。来ましたね。来ちゃったんですね。
何はともあれ、乙です。
続き・・・楽しみなような、怖いような・・・
>>502 最高。こんなに面白い話初めて読みましたよ。マジGJ!!
果たして雄二がどんな風に描かれるのか期待してましたけど、想像通りというか想像の斜め上の
台詞を吐いてくれたので、思わず喝采してしまいましたw
続きが読みたくてタマラネェです。楽しみにしてます。
賞賛のレスが続いた流れを乱して申し訳ないが…。
悪いけど、個人的にそろそろ虹は読み続けるのが辛くなってきた。
別に話の展開のせいじゃない(こういう話自体は嫌いじゃないし)。
同じようなレスをしている人が過去にもいたけど、要はTH2でこれを
やらなくてもいいんじゃないの、という違和感が拭えなくなってきたので。
作者氏のサイトを見ると、TH2の基本的な設定やキャラだけを借りてきて
あとはオリジナルに近い形で、しかもこういう重めな恋愛話系のお話を
展開するのがスタイルの人なんだな、というのはよく分かるが…。
結局、TH2の二次創作である必然性が弱いというか、例えば、それこそ
TH2のキャラじゃなくても、同じものは書けるだろう、と。
だから、むしろ、最初からオリジナルでやればいいのに、と俺としては思った。
話自体はそれなりに面白いし、良くできていると思うからな。
まあいいんじゃないか?
ただでさえこのスレ3〜4人しかSS書いてる人いないんだから
1人減ったらえらいこっちゃ。
もう、どうにもとまらないは止まったまんま?
続きまだ〜?
>>502 乙!次も頑張って!
なんか雄二がかわいそうに見えてきた・・・
わざわざ愚痴垂れなくたってだまってタイトルであぼーんしとけばいいんじゃね
個人的には雄二よりも貴明が可哀想に思えるな。
親友の恋人寝取ったくせに、お前が言うなよって感じだw
ドロドロしたところで、河野家まだ〜〜〜?
確かに雄二はお前が言うなって感じだな
>>507 あれ続きが気になる!
ってことで俺も・・・
もうどうにもとまらないまだ〜?
Brownish Stormまだ〜?
あと、書庫の人Brownish Storm1話しか無いっぽいので保管よろ。
>>505 俺はタイトルでNGにしてる。
内容そのものじゃなくて、キャラの立ち振る舞いが読んでると
嫌になってくるから。こういう話自体は好きだけど。
ま、書くのやめろとかそういう話でもないし、
苦言を呈したところで、今更どうにもならんでしょ。
いちいち余計な事言わんで黙ってNGにしときゃいいものを
投下します。
バカ貴明と愛佳から別れてあたしは街中をマウンテンバイクで走っていた。
頭の中に浮かぶのは貴明のこと、なんていうかあいつはあたしのことをバカにしすぎだ
と思う。バカアキのくせに。
よし、今度会った時に、勝負を仕掛けよう。勝負を仕掛けて、あたしが勝って、そして
あたしの方が強いんだって言うのだ。そうすればこのむかむかしている気持ちも、随分と
晴れてくれるだろう。そうと決まったら、ゲームセンターで対戦するゲームの練習をして
おこう。これなら決して、あんな奴に負けたりはしない。
そうと決まれば、早くゲームセンターに行かなければ。あたしは、ペダルを一層強く踏
み込んだ。
ゲームセンターについたあたしは、早速対戦に向いているゲームの筐体を探した。やっ
ぱり、こういうのは対戦格闘のゲームが一番熱い。あたしは、今人気の対戦ゲームの台に
腰掛けて、コインを投入した。レバーを握り締めて、画面を覗き込む。そうして、貴明を
倒すシミュレートをしながらゲームを繰り返しプレイしていた。
ゲームセンターでの特訓からしばらくしたある日、あたしは坂道に入る手前のところで
貴明を待っていた。今日は委員会の集まりで愛佳の帰りが遅くなるのは知っている。貴明
は一人で帰るだろう。愛佳と貴明が一緒に居るのを邪魔するのは気が引けるので、一人で
居る時に勝負を仕掛けるしかない。一人になる日を、結構待った気がするけど、その間に
かなり腕は鍛えた。今度こそあたしが勝つ。
そう確信して、あたしは貴明を待っていた。向こうから見慣れた人影が近づいてくるの
が見える。あたしの今日の対戦相手だ。よし、向こうが気付かない内に驚かしてやろう。
そうと決めたあたしは脇の道に入って貴明が通り過ぎるのを待った。
……貴明はまだ通り過ぎない。
…………まだ姿が見えない。
……………。
「ちょっとっ。どうして通ってこないのよっ!?」
「よっ」
待ちきれなくなったあたしが路地から顔を出すと、直ぐそこに貴明の姿があった。
「な、なな、どうして」
「あのな、あんなマウンテンバイク乗ってる女子なんて簡単に気付くだろ」
「でで、でも、あたしが見てたとき、気付いた風には見えなかったしっ」
「ああ、俺はお前がこの路地に入る時に気付いたから、んで、どうせ俺を驚かすつもりだ
っただろうから、逆にびびらせようって」
「なによっ、それ! ちゃんと驚かされなさいよ!」
「んな無茶な。だったら気付かれないようにやれよ」
「ん、んぐ。これで勝ったと思うなよぉ〜〜!」
こうしてあたしは戦略的撤退を試みた。
「って、ちょっと待てよ! お前俺をびびらせる為だけに待ち伏せしてたのか?」
「あ」
そこで気付いて、全力で踏みしめようとしていたペダルへの力を緩める。
ちょっとだけきまりの悪い思いをしながらも、あたしは振り向いて貴明を睨みつけた。
「ついて来なさい」
それだけを告げて、あたしは坂道を降りた。
「な、ちょ、おま、待てよ」
振り向くと、貴明が必死になって追いかけてくるのが見えた。それだけであたしの気分
は良くなってきた。よし、この気分ならきっと貴明に負けることもないだろう。吹き抜け
る風に心地良さを感じながら、あたしはペダルに足を乗せたまま坂を下っていった。
「ぜい、ぜい、お前マウンテンバイクなんだから少しはゆっくり走れよ」
あたし達が今居るのはゲームセンターの入り口。ここまで、ほぼノンストップであたし
たちは来たわけで、貴明はかなり息切れしていた。
「体力ないんじゃない? あたしならこれくらい余裕だけど」
「だったら今度は俺がそれに乗るからな」
「イヤよ、貴明なんかに乗らせたらサドルが腐っちゃうじゃない」
「俺はゾンビかなにかか!?」
「別になんだっていいじゃない、それよりほら!」
「あ、お、おいっ」
そうしてあたしは貴明の腕を引っ張って、ゲームセンターの中に入った。
「えーっと、どれにしようかな? あ、あれなんていいんじゃない!?」
あたしは全く知らないフリをして、練習したゲームの筐体を指差した。
「あー、なんだ、要するに俺と対戦したいワケか?」
「そうよ! 今度こそアンタを負かしてみせるんだから!」
そう言ってアタシは対戦台の片方に腰掛ける。それを見て貴明も向こうの席に腰掛けた。
戦いは思いの他拮抗した。
「ちょっと! アンタこのゲームやりこんでるんじゃない!?」
「お前こそ! っていうかこのゲーム、この辺のゲームセンター通いの奴ならみんなやっ
てるぞ」
「なにそれ!? そういうのは事前にいいなさいよ!」
「今日いきなり誘われたんだろうがっ」
そんな会話している間にも、あたしのキャラの体力ゲージは見る見る減っている。ちょ
っと形勢不利。どうしたものだろうか……。
「ああっ」
「よしっ」
ちょっと考え込んでいる内に、あたしはやられてしまった。
「く〜〜! くやしい、くやしい!」
「ま、俺の実力ならこんなもんだろ」
「なによ、こんなみみっちいレバー握ってるから負けただけよ!」
「いや、お前これ確実に練習してただろ」
「今度はあそこのエアホッケーやるわよっ、これだったら運動神経が物を言うんだから」
「ああ? って、おまえ、腕を引っ張るな!」
こうしてあたしは、貴明と勝負をひたすら続けていった。
「今度は別のもので勝負よ!」
貴明とのレースゲームの対戦が終わって、あたしは別のゲームを探し始めた。貴明はと
いうと、まだレースゲームの筐体に跨ったままで、勝利の余韻に浸っているみたいだった。
その余裕ぶった気持ちを今度こそ打ち砕いてやる。そう考えながら、あたしは気分良く
色々なゲームを見て回った。
「あ」
ゲームセンターの入り口際のところを見て回ると、一つのクレーンゲームを発見した。
ウインドウの中にあるのは色とりどりのたこのぬいぐるみ。……というかあきらかに赤以
外のぬいぐるみは余計だと思う。迷彩色のたこなんて誰が欲しがるんだろう。
「なにやってるんだ?」
「うあっ」
後ろから声を掛けてきたのは貴明だった。いきなり声を掛けられてびっくりした。
「なんだ、あれが欲しいのか」
「っ、別にあんなの欲しくないわよっ」
「のわりにはじっと見つめてたみたいだけど」
「なっ、そういうアンタこそ欲しいんじゃないの? そうね、次の勝負はこれにしましょ
うか」
「はいはい」
なにかも見透かしたかのような貴明の表情、なんとなく気に入らないけど、そのままに
しておいた。とりあえず、これであのたこのぬいぐるみが手に入るかもしれない。
「で、何色のがいいんだ? なんか、有り得ない色ばっかあるけど」
「赤! それ以外は0点だから!」
「ち、ちがう、そ、そこじゃない、もうちょっと上。あ、ああ、そこなの、あっ、あああ! 駄目、ダメ、もっと深く
いかないと、ダメなんだから! あ、イク、イク、あ、イ、イク、イッちゃう、あ、ああ、あああぁぁあぁぁ!!」
「ええい、うるさい! 悩ましげな声を出すな!」
「な、あたしは別にそんな! バカ、変態!」
「アホ、叩くな、手元が狂う」
挑戦して五回以上になるけれど、あたしも貴明も一向に取れる気配がない。平たく言えば惨敗だった。
「バカ、なんで迷彩色のなんか狙ってるのよ。一番変なのじゃない」
「お前が手元狂わせたんだろ。……あ、でもこれで赤が取り易くなったな」
「ホラ! あたしのお陰じゃない!」
「偶然だろ、っていうかまだ取ってない」
そこまで言って、たかあきはクレーンゲームを凝視した。今までで一番真剣な顔だ。あたしもそれにならっ
て真剣な顔になる。貴明が最初の横移動のボタンを押す。目的物のやや手前でボタンを離すと、クレーンは
反応遅れで止まって、丁度良い位置になる。ここまで、順調だ。そして縦移動、こっちも順調に過ごしてアーム
がたこの唇に引っ掛かる。そして、たこが持ち上がった。
「……」
「……」
二人してアームが出口に進むさまを見守る。そしてそのまま、ぬいぐるみは出口に向かって落ちていった。
貴明が、出口に手を入れてぬいぐるみを取り出す。そして一瞥してからあたしに手渡してきた。
「ほら」
「え、な、なに」
「欲しかったんだろ、俺は別に欲しくなかったし、やるよ」
「なによ、こ、こんなの……」
「さて、もう時間も時間だし帰るか」
「待って!」
「ん?」
躊躇した。本当を言えば、これは欲しかったものだし、嬉しい。だから、言わなきゃいけないことがあった。
「あ、ありがと」
なぜだろう。その言葉を言った途端、少しだけ心が暖かくなった気がした。きっとあたしは、貴明といたこの時間を楽しん
でいたのだと思う。そして貴明もあたしといた時間を楽しんでいた。だから、こんな気持ちになるんだろう。そこ
まで考えると、なんだか心の中がもう少し暖かくなった気がした。
委員会の仕事で帰るのが遅れたあたしは、日が暮れそうになる時間に帰宅の途に就くこ
ととなった。流石に今日はたかあきくんも待ってないし、当然郁乃もいなかった。本当な
らたかあきくんと一緒に帰りたかったけれど、そこまでたかあきくんに無理をさせたくな
い。少し待ってくれているだけでもあたしは十分なのだ。
「はぁ……」
そうは思っても、気分は決して良くはならない。やっぱり先生方のお使いを頼まれるよ
りも、たかあきくんの方が重要に決まっているのだ。
「お腹すいたなぁ」
今日は携帯しているお菓子もない。最近はたかあきくんが目ざとくあたしがお菓子を食
べてるところを目撃するので、持ち込みにくくなっている。とはいえ、お腹がすいたのも
確か。そう思い至ったあたしは、お菓子を補充するべくアーケード街へと向かうことにし
た。
アーケード街には、まだウチの学校の生徒が居た。坂を下りきってここに着く頃には、
既に日は暮れて店がどれもオレンジ色染まっていた。目的のものを買おうと、あたしは通
いなれてる通路を歩いていった。久しぶりにお菓子やに顔をだしたけれど、品揃えはほと
んど変わってなかった。ゼリービーンズもたくさん置いてある。迷っている時間もあまり
ないので、適当に選ぶとあたしはレジへ持っていった。袋で買ったゼリービーンズは瓶に
入れておこう。
お菓子屋を出たあたしは、真っ直ぐに家に帰る進路を取った。途中、ゲームセンターを
見かける。あたしはそこで立ち止まった。
「ひょっとしたら、たかあきくん居るかな……」
先に帰るように言ったから、今日たかあきくんは一人で帰ったか、お友達と帰ったかの
どちらかだと思う。もし、高坂君と一緒に帰ったのなら、途中でゲームセンターに寄るの
もおかしくない。普段から、ゲームの話をしているし、二人でゲームセンターに行くのも
多いみたいだ。もしかしたら居るかもしれない、あたしはそう思って軽くゲームセンター
を覗くことにした。
ゲームセンター入り口の光景を見て、あたしは持っていたお菓子を入れた袋を取り落と
しそうになった。あたしは、自分で引き寄せた偶然を呪った。
入り口付近のクレーンゲームに二人並んで遊んでいたのは、たかあきくんと由真だった。
どうして、という言葉は口から漏れそうになって、あたしは口を塞いだ。或いは、その動
作は別の何かをこらえるためだったのかもしれない。
ともかく、あたしは自分の存在が気付かれないように勤めた。まるで、悪い事をしてい
るような気分だった。冷静に考えれば、どっちが悪い事しているのか分かりそうなものだ
ったけれど、果たしてたかあきくんたちがそんな自覚を持ってこんな事をしているのか分
からなかった。
だけど、多分、たかあきくんはそんなつもりはないのだと思う。今日は由真が強引にた
かあきくんに勝負を仕掛けて、それでたかあきくんが乗ってきたんだと思う。二人はただ
単にゲームを通して遊んでいて、結果として楽しんでいるだけなんだろう。そう、二人は
とても楽しんでいるようにあたしには見えた。
二人はあたしの姿に気付く事もなく、クレーンゲームを続けていた。赤いたこさんの人
形が引っかかったみたいで、出口に入ろうとする様を熱心に見守っていた。落ちるぬいぐ
るみ。出口に手を入れるたかあきくん。そして、ぬいぐるみはたかあきくんから由真の手
へと渡っていった。
手渡された時の由真の表情は最初は驚いた顔だったけれど、しばらくして恥じらいの表
情へと変わった。
あたしが二人の姿を見たのはそこまでだった。
振り返り、あたしは脇目も振らずにアーケード街をずんずんと歩いていった。頭の中で
色んな考えがぐるぐると渦巻いていて、平衡感覚すら無くなってしまいそうだったけれど、
それでもあたしはまっすぐに家へと帰っていった。
まずは、すいません。こちらの手違いで一部誤字脱字修正前の文章を上げてしまいました。('A`)
加えて前回の末尾に付け足した方が適切な文章を頭に加えました。これもミスです。
いずれ、完全な手直しverを別の場所で上げようと思います。
途中、連投規制喰らいましたが、二つのプラウザを交互に代えて書き込むという方法で乗り切り
ました。みなさんはどうやってるのでしょう?
以上、乱文失礼しました。
GJ!
虹と同じドロドロ話キタ━━━(´∀`)━━━!!
虹と春GJ!!
もうハラハラですわw
乙!
がんがってくれ!
連投はIPアドレス変えるだけでいいんじゃないのか?
よく知らんガナー
書いてたデータが消えましたよ( ゚∀゚)アハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \/ \
(´・ω・`)タノシミニシテタノニ……
まあ、またまったりと執筆して下さい。
>>531 作者さんもイタイでしょうが、待ってる方にもイタイ出来事です。
ぜひ、気を落とされずに続きを書いてください。お待ちしております。
では、そろそろ恒例で・・・
Tender Heartまだ〜?
恒例っていうか、2人位でやってるようにしか思えない
てんだーはーとまだー?(・∀・)
半ばムキになって書き上げました_| ̄|○
***ここからあらすじ***
結局ミルファの存在をタマ姉とこのみに知られてしまった。
最初はどうなることかと思ったがタマ姉も理解はしてくれたみたいだ。多分。
「ほらー」
「毎朝するの?」
「もちろん♪」
登校するために玄関に居る俺とそれを見送るミルファ。
まぁここまでは普通だと思うのだが
「だって貴明とは毎朝いってきますのちゅーするって決めたの!」
「誰が?」
「あたしが」
「俺の意見は?」
「あたしとキスするの嫌?そっか…そうだよね…こんなメイドロボ要らないよね…」
どうも昨日してしまった「行ってきますのキス」に味を占めたのか
ミルファがおねだりをしてくるようになってしまったようだ。
で、今はいじけてそっぽを向いている状態。
いや、まぁ別にミルファとキスをするのが嫌なんて言うわけないしだからといって
はいはいと毎朝キスをしてあげるってのも何か違う気がするし…
「そんな事言ってないだろ。別に嫌なわけ…ないし」
どうも俺が嫌なそぶりを見せるだけですべて嫌いになったと悲観的になるのも
珊瑚ちゃん譲りの様だ。
「ほんとっ!?じゃあキスしてっ」
これだ。
途端に笑顔を振りまいておねだりをしてくる。
このおねだりに何回屈したことか…。
「はーやーくー」
待ちきれないのかミルファが近づいてきてきた。
目の前には桜色の唇。
そして少し頬を赤らめ、目を閉じ、口を少し尖らせてキスを待つミルファ。
「……」
正直これを断れる人間が居たらそれは聖人か同性愛者じゃないだろうか。
ちゅっ
目を閉じて唇を合わせる。その桜色の唇の余りの柔らかさを視覚を失っている今は敏感に感じた。そして自然とその感覚に思考が停止し、唇の感覚だけにその身を委ねる。
時々俺の唇を確かめるかのように動くミルファの唇が少しくすぐったく感じた。
そのまましばらくの間その感覚に酔いしれていると音がしないはずの所から音がした。
ガチャ
「タカくーん?はやくしないと学校におくれ…」
そこで時が止まってしまった。
音の元凶−ドアを開けた張本人であるこのみはドアを少し開け、玄関を覗き込んだまま口を「え」の状態にしたまま動かない。
そしてどれくらい時間が経ったであろうか。
このみがはっと我に返ったと思ったら否や直ぐにその顔は真っ赤になってしまった。
「わ、わ、ごめんなさい!」
バタン!
まるで驚かされたハムスターのようにワタワタとしながらドアを閉めてしまった。
そして現実に引き戻されていた俺と同じく現実に引き戻されて
顔を真っ赤にして俯いているミルファがそこに居た。
「あ、えっと…」
「…いってらっしゃいっ☆」
ちゅっ
ミルファはそう言うとその唇を再度俺に寄せて軽くキスをしてきた。
えへへとはにかみながら顔を真っ赤にして手を振ってくる。
「いってきます…」
こりゃ端から見りゃ本当に新婚みたいだな…。
そんな事を思いつつドアを開けるとミルファ同様に顔を真っ赤にしたこのみが居た。
まぁさっきのを見たらこうもなるよな。
「お、おはようこのみ」
「う、うん。おはよう」
そのまま気まずい状況のまま二人で歩く。
時計を見ると何だかんだでまだ遅刻の時間では無いようだ。
「こ、この…」
俺が話しかけようとした所でこのみが自分の声でそれをさえぎってきた
「タ、タカくんっ!」
「うぉ!?な、何だ?」
「あ、えっと…」
顔をまだ赤らめたまま俺に寄ってくるも直ぐに意気消沈してしまったのか俯いてしまった。
「タカくんこのみがお願いしたらしてくれるのかな…」
何時もの待ち合わせの場所に行くとそこには何時ものタマ姉と雄二が居た。
そして何故か朝からぐでんとしている雄二。
「おはよータマお姉ちゃん、ユウくん」
「おはよー…って雄二朝からどうかしたのか?腹痛か?」
俺が一応心配して話しかけると雄二が俺の方に腕を回してタマ姉とこのみから離れるように
俺を引っ張ってきた。そしてある程度はなれた所で俺の方をガシっと掴む。
「お前…俺が渡した『メイドさん列伝〜ご奉仕するニャン☆〜』をどうした!?」
「あぁ、あれか…タマ姉に見つかった…」
「やっぱりそうか…だから俺はあれほど見つかるなといったのに…うぅ」
「どうかしたのか?」
「どうかしたのじゃねぇ!お前のせいで俺の部屋にあったメイド本全部没収されたんだよ!!
しかもその理由が「タカ坊に悪影響を及ぼすものは要らない」だとよ!俺は折角お前にメイドの
素晴らしさを教えてやろうと思ってお気に入りの一冊を貸してやったというのにこの仕打ちはなんだ!
おかげで俺のコレクションが無くなる危機に瀕してるじゃねーか!!」
「いや、俺にそんな事言われても…」
余りの雄二の気迫に流石に押されて後退してしまう。
こいつこんなにもメイドに餓え…もとい、萌えていたのか。
「二人とも何を話してるのかしら?」
「あ、いや、男だけでの語らいを、な?貴明ぃ〜?」
「あ、あぁ」
「そう…」
そういうとタマ姉の目が少し細まり
「まさかまたあんな本を貸すとか言わないわよねぇ?雄二ぃ?」
「ま、まさかぁ。貴明に悪影響を及ぼすものをもう貸すわけないじゃないか。ひどいなぁ姉貴ってば。ハハハハ」
顔を青ざめさせながら空笑いをする雄二。その額には冷や汗が浮かんでいた。
きっと昨日壮絶なことがあったんだろうと想像してみた。
「そう?なら良いけど。ほら、早く行きましょ」
「急がないと遅刻しちゃうよー」
そして何時もの待ち合わせ場所その2に着く。
そこには珊瑚ちゃん、瑠璃ちゃん、そして何時もは居ないはずのイルファさんが居た。
「るー☆」
「おはよーさん」
「おはようございます」
「おはようみんな。イルファさん今日はどうしたんですか?」
「はい、今日は貴明さんにお渡ししたいものがありまして」
そう言って包み袋を俺に手渡してきた。
重さと大きさからいって…
「これお弁当?」
「はい。瑠璃様に教えていただいた料理の成果を貴明さんにも見ていただこうと思いまして瑠璃様と珊瑚様のとご一緒に作らせていただきました。もちろん貴明さんのは多めに作ってありますから安心してくださいね☆」
イルファさんの笑顔はミルファの笑顔と違っておしとやかな微笑で見るだけで何か安心する。そんな笑顔を見せられてつい恥ずかしくなってしまった。
「あ、ありがとう」
「貴明イルファ相手にもデレデレしとる。本当に節操なしやなー」
「あら瑠璃様、だから一緒にお作りしましょうと言いましたのに」
「イルファの成果見せるんやからうちが作ったら意味ないやん!」
「あら、貴明さんなら喜んでくれると思いましたのでお誘いしましたのに…」
「そんなん関係あらへんもん!」
「まぁ、瑠璃様ったら恥ずかしがって…。そんな瑠璃様も素敵ですわ☆」
「あ、あぅぅ…」
イルファさんの勝ち。
どうも仲直りをしてからというもの瑠璃ちゃんはことごとく言い負けているような気がする。
大抵は顔を真っ赤にして終わっているので瑠璃ちゃんが恥ずかしがってるのが原因みたいだけど。
「それじゃあ行こうか。イルファさん、美味しくいただきますね」
「はい。是非感想をお聞かせくださいね」
「もちろん」
「それじゃあイルファいってきますー」
「…いってきます」
「いってらっしゃいませ皆様」
そして丁寧にお辞儀をして見送るイルファさんと別れて学校へと向かった。
普通のお見送りってこうなんだよな。
ミルファのあのお見送りが特別なものだと改めて思うと嬉しいやら恥ずかしいやら。
昼休みになり、何時もの屋上へと向かう。
今日はみんな弁当を持っているということで珍しく6人でご飯を食べる事になった。
相変わらずタマ姉の持ってくるお弁当…というか重箱は凄い豪華だ。
流石にその出来を見て瑠璃ちゃんと珊瑚ちゃんも喉を鳴らして見つめていた。
「それじゃあいただきまーす」
「いただきまーす」
早速イルファさん手作りのお弁当を食べてみることにした。
まずはから揚げ。
「おぉ、イルファさん腕上げてるなぁ」
ちゃんと醤油ベースのタレがしみこんでいてジューシーで美味しい。
感心しながら食べているとお弁当箱を開けたまま硬直している瑠璃ちゃんが目に止まる。
「どうしたの瑠璃ちゃ…」
話しかけながらるりちゃんの視線の先−お弁当箱を見るとご飯の上に桜でんぷんと卵で書かれている
「瑠璃様LOVE」
を発見してしまった。
「わー、瑠璃ちゃんえぇなー。めっちゃ豪華やーん」
「そ、そうやね…」
「わ、凄い凝ってるねそれー」
「こんな漢字を丁寧に形取るって…凄いわねぇ」
タマ姉とこのみもそのお弁当箱を見て感心していた。
何せ「瑠璃」なんて字画の多い文字をしっかり形取って色分けしているのである。
これこそ巧みの技だと言っても過言じゃないのだろう。
もっとも使われている用途がかなりアレなわけだが。
少し止まった後に瑠璃ちゃんは顔を少し赤くしつつ口にご飯を運ぶ
「味はしっかりしとる…イルファもがんばっとるようやな…」
何だかんだいってちゃんとイルファさんを認めてあげているようで何だかホッとした。
食事を終えて食後の談話しているときのことだった。
「そういえばみっちゃんはお弁当作ってくれへんの?」
「あー、考えてもなかった。作ってはいないみたいだけど」
あれだけ頑張って朝食を作ってもらってるのにお弁当を作ってくれ
なんて言えるわけもないしだからと言って作って欲しいというわけでもなかった。
なぜなら今日の瑠璃ちゃんのお弁当を見たからだ。
『貴明LOVE』
なんて書かれた日には恐らくマトモに昼飯が食えないことだろう。
幸いにも朝食、夕食を気にしないで済んでいるおかげで俺の使える金には余裕がある。
おかげで昼飯を食うにはまったく困っていないのもあったので考えることも無かった。
「おい、貴明。みっちゃんって誰だ?」
食後にイチゴミルクをちゅーちゅー吸いながら雄二が問いかけてきた。
「あぁ、クマ吉だよ」
「ダメよ、タカ坊。ちゃんとミルファって言ってあげないと失礼でしょ?」
「ミルファ?あのイルファさんに似た名前なんだな。クマのぬいぐるみにそんな名前がついてたのか」
さほど興味もなさそうに言う雄二。しかしそこでピタっと動きがとまる。
「…今『みっちゃんはお弁当作ってくれへんの?』って言ってたよな?」
まずい。
「あぁ…」
「ってことはミルファって…」
「?ミルファはいっちゃんの姉妹機やで?知らんかったの?」
珊瑚ちゃんがついに逃げ場の無い発言をしてしまった。
雄二をなだめようとするも時既に遅し。
雄二は猛然とした勢いで俺の胸倉を掴んできた。
「おいお前!ミルファってメイドロボって事だよな!」
「あ、あぁ…」
「何で俺に黙ってた!」
「昨日一緒に帰らないかって誘っただろうが!それに俺は一度もぬいぐるみとは言ってない!」
そう、ぬいぐるみと言ってはいない。あくまでそれは雄二が考えていたこと。
「そうか!分かったぞ!お前メイドロボが家に来たからあんな本は要らないと思って姉貴に
チクったな!そうなんだろ!俺の夢をあっさりとかなえるだけでは飽き足らずイルファさんに
お弁当を作ってもらうとはいい度胸だ!修正してやる!」
お、怒ってる。
久々に雄二が怒ってるのを見た気がする。
まぁその理由が何とも言えない理由なのが情けない気もするが
メイド萌えな雄二なのだからしょうがないのかもしれない。
ここで下手に抵抗したらどうなるか分かったもんじゃない。
ここはとりあえず交換条件を出して宥めないと。
「わ、わかった。なら今日放課後にでも来い」
「本当か?」
途端に胸倉を握っていた手の力が緩まる。
「あぁ。客人はいつでも歓迎って言ってたから問題は無いぞ」
「…」
緩んだ手が小刻みに震え始める。
「友よ!」
そう言った雄二は俺に抱きついてきた。
男に抱きしめられるのってこんなに気持ち悪いもんなんだなぁ…
「俺はお前を信じてたぜ!」
「さっきと言ってる事が違わないか!?」
「違うもんか!メイドロボを、しかも販売していないワンオフ物に
会わせてくれるなんて何て素晴らしい友人なんだ!」
更に抱きついてきた。
俺が周りに助けを求めると周りにはうちら以外の生徒も居てこっちを見てきていた。
まずい…また変なうわさが立ってしまう。
「雄二、離れなさい?」
「話せ姉貴!俺は友に感謝をせねb…いだだだだだだだだだ!」
何とかタマ姉のアイアンクローによって雄二からの離脱をすることに成功した。
嫌な汗をかきつつ深呼吸をしているとタマ姉が低い声色で話す。
「私も一緒に行くわね。タカ坊」
「マジかよ姉貴!?」
「えぇ。あんただけをいかせたら何しでかすか分かったもんじゃないでしょ?」
「可愛い弟を信じられないのかよ!?」
「タカ坊を悪の道に引きずり込もうとする人間は信じられないわねぇ」
そこでギリギリっとアイアンクローの威力が上がる。
「あだだだだだだだだ!ま!まって!分かったから…」
流石に痛みに耐えかねたのか雄二もギブアップをした。
俺同様に雄二も嫌な汗をかいたみたいだ。
そしてふと横を見るとそれをもはや無視する勢いで会話を弾ませる1年生3人組。
もはや雄二のお仕置きなど見飽きたということなのだろうか…哀れなり雄二。
「分かったわね?」
「はい…わかりましたお姉さま」
「よろしい」
タマ姉は大きく深呼吸すると何時もの笑顔に戻った。
そして3人組の所へ戻ろうとするタマ姉と入れ替わり雄二の所へと俺は向かう。
「馬鹿だなお前。あぁなることなんか分かってるのに…」
「何でお前は助けてくれないんだよ!?」
「だってお前がキモい事するから」
「う…。ま、まぁそれは良いとしてだ。今度是非ミルファさんをデー…」
「雄二ぃ?まだ懲りないのかしらねぇ?」
不意に聞こえてきたタマ姉の声で雄二がその言葉の続きが言えなくなってしまった。
「雄二…悪いことは言わない。諦めた方が良い」
「うぅ…」
そんな諦めながら泣いている雄二を見て、ミルファが誘われずに済んだ事に対して
ホッとなっている俺が居た。何でだろ?まぁ良いか…
ごめんなさい、ところどころ改行しわすれで大変なことに_| ̄|○
TeraPadの自動行送りで書いてたらこっちで改行しなおすの忘れてました。
しかも2回ほど書いてる途中にハングアップして書き直す始末に。
まぁそのおかげか最初のミルファの部分だけは少し練れました。
話としては気持ち伏線を張ったような張ってないような。
別に大波乱は無いです。きっと。
結構ドロドロ系…というかシリアスなSSも投稿されているので特に気にせずに
笑って萌えれるそんなSSで息抜きしてもらえればと思ってます。
批判等あると思いますが俺は楽しく胃を痛ませつつ読んでます。
色々意見が出てくるのはそれだけ注目されてるって事ですしね。
待っててくれた方遅れてしまってすみません。
台風の中会社の所用で奔走してて書く暇が無かったよ_| ̄|○
一応今度の目標は週末までに。
ここを超えたら来月まで暇無いもんで。
頑張ります(`A')
キタ━━━(´∀`)━━━!!
データ消えたのに気合で書き上げてくださって・・・GJ!
乙です!次回も期待してます!
GJ!
このshael付きの骨寸断をあげよう。
>>548 お疲れ様でした&GJ!
データ消えた、ってことで、てっきり今週は投下が無いのかと思ってました。
嬉しい誤算!
>>548 GJ!!!
Brownish Storm 第9話まだー?
>552
早すぎ。少し落ち着け。
作者さん、GJ!!本当、俺達読者を萌え殺して……!!
河野家がくるまで愛佳に中出汁する
GJ!!
萌え死んだ!w
河野くんの身体からぐらりと力が抜けて、ようやく誰かが事態が抜き差しならぬところ
まできていることに気がついた。その誰かが向坂くんを止めに入っている間にあたしは河
野くんのところに駆け寄って、そしてまた別の誰かに身体を引き剥がされた。
あたしは動転して河野くんの身体を揺さぶっていた、らしい。ああ、正しい判断をして
くれた誰かに後でお礼を言わなくちゃいけない。河野くんは頭を強く打っていたに違いな
いから。でもそれが誰だったかあたしはまったく覚えていない。
騒ぎはすでに大きくなりすぎていて、すぐに先生が飛んで来た。いいやそれだって遅す
ぎた。意識のない河野くんはすぐさま先生たちの手で保健室に運ばれて、向坂くんも先生
に連れ出され、あたしたちはクラスメイトを二人失った教室で待機を命じられた。
十五分後、少し遅れて始業式が始まったときも、二人はやっぱりいないままだった。
始業式そのものはまるでさっきの事件などなかったことのように進んだ。けれど先生方
の数が明らかに足りなかったりして、さっきのことが確かにあったのだということは感じ
られた。
河野くんと向坂くんの間に何があったのかは知らない。
けれど分からないワケでもない。
二人は喋りすぎた。
河野くんが幼馴染みで後輩の女の子と付き合いだしたのが五月。それは誰もが知ってい
ることだった。いや、まだ付き合ってなかったのか、という意見が大半を占めた。残りの
票は実の兄妹と勘違いしていたというものだ。
河野くんは言った。
――人の恋人に手ぇ出しておいて――。
それはつまりそういうことだ。それ以外には考えられない。あたしには考えのつかない
ような話だったけれど、そういうことがあるんだってことは、ドラマなんかの現実味の無
い絵空事としてなら知らないわけではなかった。
向坂くんは言った。
――お前、姉貴と何があった。
――姉貴はおまえんとこに泊まってたんだろうが!
それだってつまりそういうことだ。それ以外には考えられない。向坂くんのお姉さんは
有名人だからあたしだってよく知っている。もちろん知り合いというわけではないけれど、
目立つ先輩であることは間違いない。
なんだか現実味がないな、と思った。
あたしは河野くんのことをよく知っている。それはそのこのみちゃんであったり、向坂
くんのお姉さんと比べれば全然だろうけれど、それなりに河野くんとは接してきたつもり
だ。
そう思ってから、それがほんの二月ほどの期間であったことにあたしは気付く。それも
春休みを含めた二ヶ月間だ。それでも、それはあたしにとってはかけがえのない二ヶ月間
だったことに違いはない。
――初めて恋をして、初めて失恋した二ヶ月という期間だ。
その間にあたしは河野くんの色んな一面を見つけた。それまでクラスメイトとしてしか
知らなかった河野くんは、それまでは思いもしなかった沢山の顔を持っていた。優しかっ
たり、イジワルだったり、気が利いたり、鈍感だったり……。
そんなことを考えているうちに始業式は終わり、再びHR。担任の先生はいない二人につ
いては触れようとしない。まるで何もなかったかのように一日が進む。
HRが終わってすぐ先生に確かめると、河野くんは特に問題はないということで、保健室
で寝ているらしい。けれどなんとなく問題を大きくしたくなかっただけではないのかとい
う疑惑を抱かずにはいられない。河野くんは本当に大丈夫なんだろうか?
釈然としない思いを抱えながらあたしは始業式の後片付けに参加する。本当なら河野く
んも一緒にこの場にいたはずなのに……。
後片付けが終わりかけた頃、あたしは浮き足立つように保健室に向かった。誰もそれを
咎めようとはしなかった。表沙汰にはされていないあの事件はもう尾ひれ背びれがついて
学校中に広まっていた。その中では河野くんの最新の恋人はあたしということになってい
て、あたしはすでにそれを否定することに疲れ切っていた。その代わりにこうして河野く
んのところに行くことについて、誰もが分かったような顔をして許してくれるのだから、
それもまあ良しとしよう。
保健室のベッドの上で河野くんは眠っていた。
穏やかな寝息を立てて、それは普通に眠っているだけのように見えてあたしは安心する。
顔は赤く腫れて痛々しかったけれど、眠りは安らかのようだった。
保険医の先生は大丈夫だからと言って席を外す。噂は先生たちのところまで広まってい
るのかもしれない。けれど今はそのことに感謝する。
あたしはベッドの脇の椅子に腰掛けて、河野くんの寝顔を眺める。
あたしの好きな人。好きだった人。
今でも好きなのかと問われれば、少しだけ返答に困るだろう。好きなままだったら、河
野くんの恋人だなんて噂されて平然ではいられないだろうからだ。諦めようとして、諦め
てしまっていたから、なんだかその噂を現実味の無い夢想事としてあたしは片付けていら
れる。
河野くんは目が覚めてこの現状を知ったらびっくりするかな。
あたしなんかが恋人ってことになってるだなんて、なんだか申し訳ない気がする。けれ
ど否定していればいずれ収まるだろう。人の噂なんてはしかみたいなものなんだから。
河野くんの寝顔は今にも目を覚ましそうなくらい穏やかで、あたしはただ座って河野く
んが目を開けたらまず何を言おうか、と考えていた。おはようだとか、大丈夫? だとか、
当たり障りのない二三の案を頭の中のリストに書き上げてからあたしは不意に気付いた。
――見ただけで痛みが伝わってきそうなほどに腫れ上がった顔、でもそれ以上に傷つい
ているであろう彼の心について――。
それと同時に何時の間にか浮ついていた自分に気がついて、あたしは恥ずかしさのあま
り何処かに消えてしまいたいと思った。でもこの場から消えてしまうと、本当に河野くん
にとってあたしが消えてしまうような気がして、あたしはじっとその場に留まった。
河野くんは傷ついている。とても傷ついている。
それは朝の様子で分かっていた。あたしは分かっていたんだ。
それなのにあたしは心の何処かで河野くんの恋人と噂されて喜び悦に浸っていた。なん
て――浅ましい。
だからせめて目が覚めた河野くんを傷つけるようなことはしたくなかった。苦しませる
ような思いをさせたくなかった。もしもそれが無理ならせめて少しでも楽になれるように
……。
けれどあたしに何ができるというのだろう。
分からない。だからせめて最初の一言を考える。
――大丈夫?
大丈夫なワケがない。
――おはよう。
バカらしい。こんなことを言われても答えに窮するだけだ。
――痛みはどう?
痛いに決まっている。
当たり前のこと、分かりきったことを訊くなんてバカだ。だからそんなこと訊かない。
このみちゃんと何があったの?とか、向坂くんのお姉さんと何があったの?とかも訊かな
い。ううん。なにも訊かない。けどそうしたら何も言えなくなってしまう。
何も言わないでいようかと思った。河野くんが何かを言うまでじっと黙っているという
のもいいかもしれない。言いたいことがあれば言ってくれるだろうし、言いたくなければ
何も言わなくていいんだから。
ガラリと扉の開く音がして振り返ると、カーテンの向こうからやってくる人影が見えた。
「あら、貴方は?」
それは他でもない向坂環、向坂くんのお姉さんその人だった。
最初に思ったのは、敵わないな、という敗北感だった。顔やスタイルだけじゃなくて、
雰囲気や佇まい、そういった要素全てが負けていると思った。女として負けている。そん
なことを感じたのは生まれて初めてだった。
「はじめまして、河野くんのクラスメイトの小牧です」
「そう、貴方が……、私は向坂環、……お互い苦労するわね」
その最後の一言で彼女が噂を把握しており、その噂では河野くんの現在のお相手があた
しであることも知っていると分かった。そしてそれが単なる噂に過ぎないこともこの人は
ちゃんと気が付いているのだ。
あたしはなんだか悔しかった。
「それでタカ坊は?」
「頭を幾分打っているそうですけど、精密検査を受けるほどでもないと聞いています。す
ぐにでも目が覚めるだろうと先生が言ってました」
――タカ坊、その呼び方をあたしの前であえてしてみせることに何か意味があるのだろ
うか。牽制? それとも単なるクセ? この人は河野くんのことをどう思っているのだろ
う。どんな思いで河野くんと夜を共にしたのだろう。
あたしのこのささくれ立った焼けるような感情は、嫉妬だと考えていいのだろうか。
膝の上の手のひらを握り締めたくて、けれどそれを我慢する。あたしが身を強張らせん
ばかりに張り詰めているだなんて絶対に気付かれたくなかった。それは多分強がりという
感情で間違いないだろう。
「そう、なら後は私に任せて――」
あぁ、なんて――結局強がりなんてものは強がりに過ぎないのだ。無理をしているから、
ちょっとつつかれるだけで簡単に崩壊する。ぎゅっと体が縮こまったのは「嫌です」と叫
びたくて、それを押さえ込んだからだった。
「と、言いたいところだけど」
「え――?」
顔を上げると向坂くんのお姉さんは、きゅっと唇を真一文字に結んで窓の外を見つめて
いた。
雨は少しずつ激しさを増していた――。
「タカぼ――貴明のことちょっとだけ頼めるかしら。私は弟の方を引き取って帰らなくち
ゃいけないの」
この人が意図的に言い直したから、さっきのはただの無意識での失言だったのだと判っ
た。そして同時にあたしははっきりと覚る。この人は今、一人の女としてここにきたのだ、
ということを。
「――任されました」
窓の外を見ていた向坂くんのお姉さんの目があたしをじっと見つめた。一瞬だけ射抜か
れるかと思った。それほどにその目は強かった。
「――よろしくね……」
そう言うと長い髪を翻して颯爽とその人は去って行った。保健室の扉が閉じると、途端
に激しい雨音だけが耳を一杯にして、あたしは窓をすべて閉めた。そうして河野くんの傍
に戻り、その寝顔を見ているとふと考えないようにしていたことに気がついてしまう。
――向坂くんのお姉さんはどんな思いで河野くんと夜を共にしたのだろう。というそれ
よりも、――河野くんは向坂くんのお姉さんをどう思っているのだろう。――河野くんは
このみちゃんのことを今はどう思っているのだろう。
少なくともあたしよりは大事に思っている。それだけは間違いない。
それだけは確信だ。
だから――河野くんが目覚めたらこの時間は終わってしまう。
……終わって欲しくない――。
そう考えた自分にゾッとした。
あたしは気付いてしまったのだ。自分の内側から湧き上がるこの感情が一体何であるか
ということについて。
そう、恋は諦められるようなものじゃない。諦めたフリをしていただけだ。
身が震えるほどの歓喜と恐怖……。それに身を浸しながら、あたしはただ過ぎる一秒一
秒を愛した。もしかしたら河野くんをこれほど独り占めできるのはこれが最初で最後かも
しれないから……。だったから……。
「ん……ぅ……」
と、河野くんが呻いて身動きしたときあたしの体を貫いたのはもうこの時間が終わって
しまうという恐怖だけで、河野くんが目を開けて天井をぼんやりと見つめていても、あた
しは身じろぎすらできずに、ただ心から、心からの本心を口にした。
「――まだ、寝てていいんだよ」
そして物語は第六話の5節へと続き、七話へ……。
寝起きの貴明に愛佳が最初に口にする言葉はなんだろうか? と考えたとき、愛佳の心
情をトレースしたくて書き始めた短文が勿体無かったので引き伸ばしてみるとこんな感じ
になりました。
それではまた来週を目標に(・ω・)ゝ
GJ、このままだと愛佳まで貴明に食われそう…ハァハァ
虹の欠片、凄い展開になってきましたね。
とりあえずタマ姉頑張れ。
それとは関係なく、俺の為だけのSS投下。
「私は納得できません!」
どん!と机を叩いてその少女は立ち上がった。
「玲於奈・・・それは分かるから、とにかく落ち着きましょう。 ね?」
こく こく。
周囲の視線に耐えかねて、連れの少女は何とかなだめようと試みる。
さっきからこの調子で大きな声を張り上げるものだから、店内にいる人々にとって格好の
鑑賞動物となっているのだ。
「これが落ち着けますか! それともあなた達のお姉さまに対する気持はその程度のもの
なの!? 薫子! かすみ!」
「うっ・・・」
・・・・・・・。
こんな風に言われては返す言葉も無い。
薫子もかすみも、お姉さま――環に対する気持は玲於奈に決して劣るとは思っていない。
ただ、問題はいま、この場所にある。
ここは、九条院時代のお姉さまに対する憧れや、熱い気持を思う存分に語り合った女子寮
の三人部屋ではない。 近隣の学生、サラリーマンから子供づれの主婦、ヤンキーなお兄
さん、老若男女皆が集う憩いの場。
世界最大のファーストフードチェーン――ヤクドナルド(通称ヤック)なのだ。
以前からさすがに名前ぐらいは知っていたが、所詮は下賎なものが通う低俗な場所とたか
をくくっていた。
だが例の偽装デートの折、成り行き上から入店しここを使ってみると、この場所がこんな
会合からただダラダラと時間を潰すことまで、非常に使い勝手が良く居心地もいい場所で
あるということに気付く。
それ以後は頻繁に通い、いまではコーヒー一杯で何時間も居座り続け店員に嫌な顔される
ほどの高度なヤックユーザー(?)となっていた。
まあ、とにかくそんな自分達だけではない、他の人間もいる場所でこれ以上玲於奈にエキ
サイトされては困る。 ただでさえ、ヒソヒソ話のなかに「お姉さまですって」なんて言
葉が聞こえてくるのだ。
薫子は、女子高であると同時に一種の閉鎖空間である九条院から、共学である今の学園と
この町にやってきて、“お姉さま”という言葉がここではとても不穏当なものであるとい
う事を理解した。
玲於奈には悪いが彼女がいない他の人の前では、環のことを“向坂先輩”と呼ぶように
したり、なんとか外部の無用な誤解を呼ばないよう努力もしていたのだ。
彼女には九条院の常識と外の世界の常識とのズレを修正するバランス感覚がまがりなり
にも存在していた。
だが、玲於奈には(普段、言語そのものをほとんど発しないかすみは知らないが)それが
すっぱり欠落していた。
正直、玲於奈のところかまわぬ“お姉さま”の連呼は勘弁して欲しい・・・。
これは環に対する思いの強さとは関係なく常識の問題だと薫子は思ってる。
「玲於奈、あなたの気持は分かるは。私も・・・お、お姉さまに対する思いは同じよ!
だけど、場所を変えたほうがいいと思うの」
こく こく こく こく。
普段の倍のうなづきに、かすみも激しく同意と無言ながら雄弁に語っている。
「そ、そうね。 これ以上は作戦の機密にもかかわるしね・・・ほほほ」
さすがの玲於奈も周囲の自分に対する『危険な少女』という視線に気が付く。
残念ながら撤退するしかない。
「話の続きは別の場所で・・・いいですわね?」
「ええ」
こく こく。
こうして三人の少女は人々の生暖かい視線に見送られながら悠然と立ち去っていった。
玲於奈 薫子 かすみ
誰が呼んだか・・・誰も呼ばないが、九条院三人娘。
話の続き――作戦とは、もちろん
最愛のお姉さまである向坂環をどうやって憎き河野貴明から取り戻すか? である。
彼女たちには全世界の運命などよりもはるかに重要なことなのだ。
「お姉さま、待っていてください! 必ず・・・」
玲於奈は、自分達と同じ空の下にいるであろう最愛の人に思いをはせた。
いつもの帰り道、2、3歩ほど前を歩いていたその少女はふいに振り返る。
長い髪はその動きに合わせて美しい螺旋を作り出し、まるで重力の制約など無視した
かのような優雅な動きは何度もそれをみているはずの彼でさえ目を奪われる。
「タカ坊♪」
スローモーション映像のようなゆっくりとした、それでいて目にも留まらない動きで
彼女はタカ坊と呼ばれたその少年の腕に抱きつく。
「あのさ、タマ姉。 それやられ続けると歩きにくいからどっちかにしてもらえる?」
照れ隠しの意味も込めて、少年――河野貴明は環にぼやいてみせた。
さっきからコレを何度も繰り返している。
じゃれついてきては離れ、離れたと思ったらまたじゃれついてくる・・・まるで猫だ。
「どっちか?」
「そう」
「じゃあ、くっつく!」
「うわっ! ちょっと・・・」
言外に恥かしいから少し離れて欲しいという意味も込めていたのだが、見事に無視され
た。 ぎゅっと抱きつく二の腕に豊かなふくらみを押し付けてくる事からも分かるよう
に、理解したうえでの確信犯的行動だ。
「ううっ・・・」
「どうしたのタカ坊? 真っ赤になっちゃって」
「分かってるくせに」
「ふふっ、可愛いわね〜」
「あのね!」
「冗談よ。 男の子だもんね」
「あ、当たり前だよ」
タマ姉は間違いなくネコ科の人間だなと貴明はつくづく思った。
タカ坊」
「ん?」
先程までのおどけた雰囲気とは一転して、環は真剣なまなざしで貴明を見つめる。
吸い込まれてしまいそうなほど、美しい瞳で。
――きっと彼女はこの瞳で男を思いどうりに操るんだろうな・・・
――タマ姉の恋人になる人は大変だ
数日前まで彼はそんな風に漠然と考えていた、他人事のように。
「タカ坊は私の・・・なに?」
「また言うの?」
「答えて。 私のなんなの?」
じっと見つめる。
「俺は・・・」
何もする必要は無い、ただそれだけで環は貴明を思いどうりにできる。
「俺は?」
「タマ姉の彼氏だ!!」
彼は自分がその大変な人になるなんて想像だにしてなかった。
「それとタマ姉は俺の彼女!」
「よくできました〜」
どうせ次に「じゃあ私はタカ坊のなに?」と聞かれるので先回りして言ってみせる。
精一杯の抵抗ともいえるが、結局は環を喜ばせるだけだ。
こんなやりとりが、最低でも一日一回、多い時には三回、四回と繰り返される。
言わされる貴明としてはたまったものではないが、言わせる環にもそれなりの
理由が在る。 もちろん、貴明を困らせるためではない。
不安なのだ・・・何度も確かめ続けなければ安心できないほど。
だが、それにも限度がある。
言葉だけでは満足できない、もっと確かなものが欲しい。
――早く、タカ坊と結ばれたい・・・
「・・・・・・・」
「どうしたのタマ姉? 顔真っ赤だよ。 俺何もしてないのに」
「べ、別になんでもないわよ! 何もしないタカ坊が悪いの!」
「ええ?」
環が確信犯なら、貴明はさしずめ無自覚犯というところか。
貴明の彼女になるというのも大変なのだ。
「分からなければ、分からないでいいの! ほら、早く帰るわよ」
「はい はい」
まったく問題が無いわけではなかったが、環は間違いなく幸せだった。
――これも、玲於奈たちのおかげね
――玲於奈 薫子 かすみ あの三人がきっかけを作ってくれた
――もしあの娘たちがいなければ私は・・・
環は九条院の後輩たちに心の中で感謝した。
おそらく彼女たちがいなければ、貴明と恋人関係になるどころか、今頃は思いも
告げられずウジウジしていたことであろう。
そして、なにもできずに後悔のみを残して九条院に帰る事になっていたかもしれない。
数多くの事を器用にこなし、周りの人々から才色兼備と称えられる彼女も唯一、恋には
不器用だった。
「あの娘たちは、私のキューピッドね・・・」
「えっ? 何か言った?」
「なんでもない。 きりきり歩く!」
「立ち止まったのは自分のクセに」
「男がぐだぐだ言わないの。 家に寄って行きなさい、お茶ぐらいご馳走するわよ」
「やれ やれ。 タマ姉には逆らいません」
「うん! それが賢明よ」
恋人である貴明と腕を組み歩く・・・夢にまで見た光景を自分は現実のもにしている。
だが、そのために彼女らを傷つけたのも事実だ。 一度会ってちゃんと話さなければなら
ない、そしてお礼を言いたい。
玲於奈たちはどうしているだろうか? まだこの町にいる筈なのだが・・・
「お姉さまは、あの男に騙されているのです!」
近場のカラオケボックスに場所を移し、誰に遠慮する必要も無くなった玲於奈が
怪気炎を上げる。
「そのとうりですわ! そうでなければお姉さまがあんな男などに・・・」
こく こく。
環は貴明に騙されている――彼女たちはそう思っていた。
いや、そう思い込みたかった。
そうでなければ、自分達のやろうとしている行為は“悪い事”になってしまう。
たとえ一時的に悲しませる事になったとしても、それはすべてお姉さまのため・・・。
だからこれは正しい事なのだと、三人は自らに言い聞かせた。
「急がなければなりません。 こうしている間にもあの男! 河野貴明がお姉さまの
清らかで美しい、その汚れない肢体にどす黒いよ、欲望を―――っ!!」
「いやぁぁっ―――!! やめてください! そのような破廉恥な事。 想像する
だにおぞましい!」
ふる ふる ふる ふる。
もし、ここに彼女たちの最愛のお姉さまがいれば、「タカ坊にそれだけの甲斐性があれば
ね〜」とでも言うであろう。 もちろん、この三人は絶対にみとめないだろうが。
「私だって、そんなこと考えたくもありません! しかし、このままではそれも時間の
問題なのです! 河野貴明の毒牙にかかる前にお救いしなければ!!」
「わかりました! 私に作戦があります」
「本当ですか!? 薫子」
作戦がどうのこうのと言ってる割に、玲於奈には自分の案など全くなかった。
「あなた、相変わらず何も考えてないのね・・・」
「ほっときなさい!」
まあ、いつものことである。
「でも、大丈夫なのですか? 一度、失敗してるわけですし」
前回の「呼び出して脅迫作戦」は脅しが貴明に通じず、さらに環の介入により全く見事な
失敗に終わった。 ついでに言えば、その後のデートからキスの要求が貴明と環の関係を
大きく変化させることとなる。
結果として、恋のキューピッドという名前のピエロを演じてしまったわけだ。 彼女たち
の知らないところで。
「大丈夫です。 同じ失敗は繰り返しません」
前回の失敗が何を招いたのかにも気付かず、薫子は自信満々であった。
「玲於奈、かすみ、 この作戦には三人の協力が不可欠です。 正確に言えばそれぞれの
役割を、各自が着実にこなすことです」
「それぞれの役割?」
「ええ。 作戦を説明します」
誰かが聞き耳を立ててる事などほぼありえないのに、薫子は声を潜めた。
「ターカ坊っ♪」
翌日の放課後、貴明は下駄箱の前で環に呼び止められた。
いつもなら学校で朝の次に環と会うのは昼休みなのだが、今日、土曜日は半日授業で
下校時に再会したわけである。
「あれ? タマ姉。 今日はここで待っててくれたの?」
最近は環と二人で帰ることが多くなったが、いつもは雄二やこのみも含めた四人で
校門の前で待ち合わせて帰るのが通例だ。
「え〜と、そのことなんだけど・・・。 ごめんなさい、今日は一緒に帰れないの」
「なにか用事?」
「うん・・・まあ、ね。 雄二たちと帰ってくれる? あ! 私がいないからって
他の女の子となんて、許さないからね!」
「しないってば! そんなこと。 ・・・・・何かタマ姉、隠し事してない?」
悪巧みやいたずらは得意でも、環はウソを吐くことは苦手だった。 後ろめたい気持があ
ればなおさらである。
「し、してないわよ! 隠し事なんて!」
「ちょっとしたことでも、俺が隠すとメチャクチャ怒るくせにな〜」
「タカ坊はいつも女の子絡みでしょ! もう、最近のタカ坊は生意気よ!」
「で、なんなの?」
「ハア・・・、仕方ない。 あの子たちと会うのよ」
「あの子たち?」
これが、その日の大騒動の始まりとは知る由も無かった。
つづく?
むしゃくしゃしてやった。
玲於奈、薫子、かすみならなんでもよかった。
今はメチャクチャ後悔している。
一つ忘れてた・・・
|∀・)<リアルタイムで見たよー
3人組物SSは少ないので続きに期待!
玲於奈はツンデレでキボン
虹の番外編、GJ!
そして、新作・デートのじじょう、GJ!
期待の高まる新作の投下、嬉しい限りです。
続きの投下、待ってますよ!
>>562 これまで楽しく読ませてもらってたんだけど、今回のこれは蛇足じゃないかなーとおもた。
あと、最近は作者さんの実体験から離れ始めてる(?)んだよね?
なんだか実体験から離れた部分が急に作り物っぽさが強くなってしまってて、あれ? と
首を傾げてしまったんだが……。
なんつうか、噂話の広がり方とか、ちょっとギャグにしか見えなかったよw
リアル志向の話を書こうってわけでもないみたいだし、何がしたいのか不明瞭になってる
ように感じます。
つまらん感想を書き込んですまんね。
新作・続編ラッシュの今夜。
わたしも便乗させていただきますね。
長いので480kb越えるかもしれません。あらかじめお詫び申し上げます。
前回までのあらすじ
このみが寄せてくるまっすぐな愛情を、自分はこれまでどこかではぐらかしていなかったか。幼なじみの関係に自分だけ
片足を残してはいなかったか。
――雄二の問いかけから始まった長い一日。貴明はさまざまな寄り道を経てようやく問題の本質をはっきりと捉えた。
これからは、逃げたりせずに自分もまっすぐにこのみと向き合おう。覚悟を決めた貴明は、その証として今夜このみを抱
くと決めた。
そして、時すでに夜。
よっちとの約束守るべく準備をしたあと、食事の前に一番風呂に入る貴明だった。
風呂から上がり廊下に出ると、晩ごはんのいい匂いが台所からここまで漂ってきていた。
途端にきゅうう、と腹の虫が切ない音を立てる。我ながら現金な反応だけど、まともな食事は今日これがはじめてなんだ
から無理もない。いくらトリプルとはいえ、アイスではその場しのぎにしかならないのは最初からわかっていた。
「♪ふんふんふーん、ふふ〜んふふ〜ん……」
台所からは、ぱたぱたとこのみが立ち働く音と一緒にかすかな鼻歌が聞こえてきた。いつもの変歌じゃなくて、なにかの
テレビ番組の主題歌みたいだ。
俺は、台所まで数歩を残して立ち止まった。
このみはまだ俺が風呂から出てきたことに気が付いていない。どこかで聞いたことのある軽快なメロディを歌いつつ、忙
しく働いている。
俺は早く行って手伝ってあげなければと思いながらも、急に湧いてきたもの思いに足が絡めとられて、薄暗い廊下に立ち
つくしてしまった。
今朝、学校に行く前、俺は同じこの廊下を歩いていた。最近は朝食を作りに来たこのみに起こされる生活習慣が付いてし
まっていたために、このみが寝坊した今日は俺まで寝坊ぎりぎりの時間に起きてしまい、朝食をあきらめて顔を洗いに行っ
たその時だ。
あの時、俺はなにか特別な予感を感じていただろうか。
……いや、なにもなかった。今日が俺にとってこんなに波乱に富んだ一日になるなんて、あの時は思いもしかなった。
春夏さんたちがいつもの出張で、夜はこのみが泊まりに来ることは分かっていたけど、それも含めていつもどおりの一日
が始まって終わるだけだと、そう思っていた。
このみがうちの台所で料理を作っているのも、珍しい事じゃない。珍しくない、どころか、もはやそれは日常の一部だ。
このみが、なにか作業をするときに歌を口ずさむのも、いつものことだ。歩きながら歌う変歌もふくめて、これはこのみ
の昔からの癖で、幼なじみの俺としてはこれもまた耳慣れたものだ。
廊下に立つ、風呂上がりの俺。台所からは、ご機嫌そうに鼻歌を歌いながら夕食の支度をするこのみの気配。
何も変わったところのない、いつも通りの「お泊まりの日」の情景――
なのに、なぜ。
今の俺はこんなにも、胸がいっぱいなんだろう。
「あ、タカくん。お風呂どうだった?」
「いい湯加減だったよ。ありがとな」
台所に入った俺の気配に振り向いたこのみの笑顔に、俺も笑顔で応える。
おなじみのオレンジ色のエプロンを身につけたこのみは、よかった、と微笑みながら流しで手を洗った。
「俺も手伝う。これを運べばいいのか?」
「あ、大丈夫だよ。わたしがするから、タカくんは座ってテレビでも見てて」
「そうはいかない」
このみのために俺はなにができるだろう、とさっきまで考えていた俺が、いきなりふんぞりかえってソファでテレビとい
うわけにはいかない。
「俺だってこのみの役に――」
ぐるぐるきゅ〜。
俺のセリフは、俺の腹の虫に遮られて消えてしまった。
胃袋の突然の自己主張に言葉を失った口をぱくぱくしていると、ぽかんとしていたこのみがぷっと吹き出した。
「ごっごめんね、タカくん。ふふっ、お腹すいたよね〜」
「あー、いや、今のはその」
なんだか格好いいこと言いかけてたはずなんだけどなあ。
ぽりぽりと頭をかいて、俺はごまかすように言った。
「ところでこのみ、さっきの鼻歌もしかして……あの曲か?」
「え? あ、うん。そうだよ」
俺とこのみは、同じタイミングでタイトルを口にした。
「「暴れん坊将軍」」
「いただきまーす」
テーブルの上に料理が揃い、ようやく夕食となった。
いつものようにテーブルを挟んで向かい合わせに座って、俺たちは手を合わせ食事を始めた。
と言っても、上ののんびりしたいただきますはこのみの声であって、俺は早口で言った
「いただきまっ!」
の「まっ」のあたりで、すでに白米の塊を口の中に放り込んでいた。
このみの手伝いをして料理をテーブルに並べながら、俺の胃袋はもはやこれ以上耐え切れぬとばかりに痛いほどの空腹訴
え続けていたのだ。昼休み後の休み時間にも味わった感覚だったが、今回は目の前に匂いを放つあつあつの料理がありなが
らおあずけをくらったぶん、より強烈だった。
「ふわぁ……た、タカくん……」
このみの驚いたような呆れたようなこの声も、本日二度目な気がする。
俺はちらりとこのみに目をやったが、喋ろうにも口の中がたべもので一杯だった。
このみが「軍事機密」と言った本日の献立は、揚げ出し豆腐と冷豚肉のサラダ。お味噌汁の具は豆腐とわかめとネギ。
このみ曰く、簡単に作れる割に美味しい、春夏さん直伝「主婦の手抜きレシピ」その3、らしい。
「手抜き、って言葉がなんかヤだけど、お腹壊してたタカくんには消化のいいこんなおかずがいいかなって思って」
このみは刻んだショウガやネギを小皿に盛りながらそう「機密」をバラしたのだった。
確かに揚げ出しのつゆはそうめんのつゆから作ったものだし、サラダは薄切り豚肉を茹で氷水をくぐらせたものを千切り
キャベツの上に並べ、市販の胡麻だれドレッシングをかけただけのもの。味噌汁の豆腐もネギも、他のメニューからの流用
品だ。手抜きというか、合理的なのは間違いない。
でも、おいしい。
未だにこのみが俺がお腹を壊してたと信じてるのが騙してるようで気が咎めたが、そのせいでこのメニューになったのな
ら結果オーライなのではないだろうか。そう思ってしまうくらい、お世辞抜きで美味しい。
食べ損ねた朝と昼のぶんを取り戻さんとばかりに、猛烈に箸と口を動かす俺を、このみはじっと見つめていた。
箸を手に持ってはいるけれど、すこしも動かしていない。
「……おいしい? タカくん」
ちょっぴり上目遣いのこのみの質問に、俺は無言で首を大きく縦に振った。
感想のひとつも言えなかった理由はさっきと同じだけど、冬眠前のリスのように口いっぱいにごはんを頬張った俺の姿は
どんな言葉より雄弁だったらしい。
「やた〜!」
このみは小さくガッツポーズをして歓び、それからようやく自分のごはんに箸を付けた。
ごはんを三回おかわりしたころ、俺ははっと我に返った。
いかん! こんな食事風景じゃ色気もなにもあったもんじゃない。
食べることに必死で忘れていたが、ようやく満たされて思い出した「あの事」。俺はさっき自分の部屋から出る時、雰囲
気を盛り上げようとか考えてなかったか?
すると、食べ物を一杯に口に含んで咀嚼してる最中に突然考え事をしたりすると当然起きることが起きた。
「んぐっ……水、みずっ!」
「もー、タカくん急ぎすぎだってば〜」
そう言いながらも、コップを手渡してくれるこのみの顔は笑っている。
ああ、もうなんだかなあ。俺が作ろうとしてたのはこんなオモシロ食事風景じゃなかったはずなんだけどな……。
「そんなに急いで食べたら、またお腹壊しちゃうよ?」
「こんなうまい飯で壊れるのなら、胃袋も本望だ」
俺は水までおかわりして飲みながらそう答え、このみの茶碗からごはんがほとんど減ってないことに気が付いた。
「……そう言うこのみこそ、ほとんど食べてないじゃないか」
いつもは俺と同じくらいたくさん食べるのに、ちょっと気になった。
「どうしたんだよ。体調でも良くないのか?」
「う、ううん! そんなことないよ。タカくんが美味しそうに食べてくれるから、なんだか嬉しくて」
「あ……ごめんな、このみの分まで食べちゃったよ俺」
俺の食べっぷりに遠慮させてしまったらしい。俺は箸を止めた。
「ううん! 違うよタカくん。わたしはタカくんがお腹いっぱいになってくれれば、それで私もお腹いっぱいだから」
まるで母親みたいなことを言う。
そんなにも俺のことを、とちょっと感動しかけたが、それじゃダメだ。このみの愛情に甘えてしまう訳にはもういかない
のだ。
「はい、このみ。あーんして」
俺は自分の取り皿から豚肉を一切れつまみ上げると、下に手を添えてこのみに突きだした。
「え? え?」
「ほら早く。汁が垂れるから」
「あ……うん」
このみはちょっとためらってから、身を乗り出すようにして俺の箸をくわえた。
「美味しいだろ。もう一つ食べるか?」
「……うん」
「よし、ほら」
再び、あーん。ぱくっ。
「雛鳥に餌付けしてる気分だな」
恋人同士が見つめあって「あーん」ってしてるのに、なぜかいまいち嬉し恥ずかしな雰囲気にならないのはなぜだろう。
俺が苦笑しながらそうつぶやくと、このみはにっこり笑って手のひらを小さく体の横で羽ばたかせながら
「ぴーぴーぴー♪」
と、鳴き真似をした。
結局このみはごはんをおかわりしなかった。
あのあと何度か「餌付け」は続いたものの、途中から
「あとはタカくんが食べて」
と言ったのだ。
いつものこのみからすると半分くらいしか食べてない。どうしたんだろう、と思っていると、食後このみは冷蔵庫から大
きなメロンを取り出した。
「なるほど、これのためにか……」
謎は解けた、と俺は納得し、すこし笑った。
「え? なにか言った? タカくん」
「いや……ていうか、そんなメロン買ったっけ」
「ウチから持ってきたんだよ〜。さっきタカくんが受け取ってくれたじゃない」
思い出した。
あのレジ袋に入った新聞紙の包みの中身はこれだったのか。
「……それにしても立派なメロンだな」
「お父さんがお中元で貰ったんだよ。お母さんが『タカくんと食べなさい』って冷やしておいてくれたんだ〜」
しっかりネットの盛り上がった、大きなマスクメロンだ。一玉いくらするんだろう。こんなのをお中元で貰うなんて、お
じさん意外と大物だったりするんだろうか。
などと生臭いことを考えていると、このみが四分割したメロンを皿に載せて持ってきた。ふたりで半分を食べる。残り半
分は明日の朝のためにラップをかけて再び冷蔵庫へ。
そこで俺は提案した。
「なあこのみ。せっかくのメロンなんだから、テーブルとか片づけてからゆっくり食べないか?」
「あ、そうだね〜」
もちろん、これは今夜のための布石。
甘いメロンを食べながら、俺たちも甘い雰囲気になれれば……などということを自然と考えている自分に少し驚いた。
俺が食器を運び、このみが洗い物をした。その合間に、食事中にこのみが乾燥機に移していた衣類を取りだし、手早く畳
んだ。自分ひとりの分だから量はそれほど多くない。
台所に戻り、このみが洗った食器をふきんで拭いて棚に戻していく。
息のあったコンビネーションでみるみる家事は片づいていった。
「よし、終わり!」
ぱんぱん、と手を叩きながら俺が宣言すると、洗った手をタオルで拭いながらこのみが言った。
「タカくん、いっぱい手伝わせてごめんね」
「このみ、遠慮するのは――」
春夏さんの真似をしてそう言うと、このみは似てる似てると笑った。
ようやく舞台は整った。
いろいろと寄り道はあったけど、順調に進んでいると思う。
時間は九時前。いつもの就寝は11時くらいだけど、お泊まりの日は早めにベッドに入ってそこでおしゃべりをするのが
恒例だから、丁度いい時間だ。
あと少しだ。
あと少しで、俺とこのみは――
改めてそう考えた途端、急に緊張してきた。
メロンを載せた皿をリビングに移し、俺はソファに座って飲み物の用意をしているこのみを待っている。
ふと、顔を向けてこのみを見た。
白い頬には幸せそうな微笑みが自然と浮かんでいる。すこし伸びた髪が動きに合わせて揺れて、小さな耳を出したり隠し
たりしている。
その瞬間、フラッシュバックのように思い出した。
今日、玄関でこのみと交わしたキスを。あの濡れた熱い感触を。脳の奥が痺れるような、酸欠に似た陶酔を。
俺は目の前に手のひらを広げ、じっとそれを見つめた。
この手は、まだ覚えている。
抱きしめたこのみの体のやわらかさを、ぬくもりを、その肌のなめらかさを……。
その同じ手で、俺はいまから、このみを――抱く。
ぐっ……と手のひらを閉じ、俺は強く拳を握った。
俺は覚悟を決めたはずだ。
そして決意したんだ。
俺の優柔不断のせいでずっと待たせてきたこのみを、これからは精一杯愛してあげようと。
――そして、その時がついに来たんだ。
俺はこのみに気づかれないように深呼吸をして、見かけだけでもリラックスしようと勤めた。
「お待たせ、タカくん」
紅茶を載せたトレイを持って、このみがやってきた。
そのまま隣に座ろうとするのを、俺は引き留めた。
「ちょっと待った。座るならこっちだろ?」
「え、ええっ?」
ちょいちょい、と俺の膝を指さすと、このみは驚いた顔で俺を見つめてきた。
このみ言うところの『タカくんの椅子』だ。
「タカくん……本当に?」
「今朝、誰かさんが寝坊したせいでできなかったからな。――それとも、嫌か?」
半分意識して残念そうな表情を作りそう言うと、このみの頬にぱっと紅がさした。
「ううん……嫌なわけないよ」
「じゃあ決まりだ。ほら」
向かえるように手を広げると、このみはこくりと頷いて、俺の脚の間におずおずと腰を下ろした。俺はその背中をそっと
抱きしめる。
「………」
その背中に、すこしだけ力が入っている。俺のいつもと違う雰囲気を感じ取って、このみも無意識に緊張してるんだろう。
この体勢ではこのみの表情がわからないけれど、横で結んだ髪のあいまから見える耳の先はピンク色に染まっていた。
きっと、顔全体も同じ色になっているだろう。
俺は手を伸ばしてメロンの皿を取り、その柔らかい果肉をひとさじ掬ってこのみの口元に寄せた。
「ほら。口開けて」
囁くと、このみは静かにさじをくわえた。
やってることはさっきの豚肉と同じなんだけど、雰囲気はまるで違う。さえずる雛鳥に餌をやっていたような先刻とはう
ってかわり、俺もこのみも言葉少なで、動きもゆるやかだ。
お互いの鼓動を感じ合える距離。このみがメロンの果肉を噛み、その果汁を舌で味わい、ごくりと飲み込む様が感じ取れ
る距離。
冷房の効いた部屋で、俺とこのみの間の熱は急速に高まっている。
「タカくん……」
3,4回、スプーンを往復させた頃。
このみが、かすれるほど小さな声で言った。
「今日は……すごく優しいね」
「いつもは優しくない?」
「ううん、タカくんはいつも優しいけど……今日は、なんだか……」
うまく言葉にできないのか、言い淀むこのみ。
俺にはでも、その言わんとする意味は十分に伝わった。だから俺は、抱きよせたその頬に軽く口づけして囁いた。
「決めたんだ。これからは、俺も積極的になろうって。タマ姉が昼休みに言ってただろ? 『タカ坊はこのみの恋人なんだ
から、もっと堂々としてなさい』って」
「……うん」
「だから、そうしようと思ったんだ。タマ姉に言われたから、じゃないよ。気が付いたんだ、このみは俺を積極的に求めて
くれてたけど、俺はそれをただ受けるだけだった、自分からはほとんどなにもしてあげてない、って」
「そんなことないよ、タカくんは――」
「聞いてくれ、このみ。このみがそう思ってくれるのは嬉しいよ」
このみの上げかけた反論の声を、俺は遮って続けた。
「……でも俺は、これじゃ不公平だと思ったんだ。このみが俺を愛してくれてる程に、俺はこのみに気持ちを表してるだろ
うかって考えたら、全然だった。このみはそれでいいって言ってくれるかもしれないけど、それじゃ俺がダメになる。……
ううん、『俺たち』がダメになる」
「タカくん……」
「このみのこと――俺、本当に好きだよ。春に恋人同士になってから、その気持ちはどんどん大きくなっていった。時間が
あると、気が付くとこのみのこと考えてる」
それは本当の事だった。優柔不断に揺れながらも、俺はいつもこのみのことを想っていた。
「――でも。想ってるだけじゃ、考えてるだけじゃ、ダメなんだ。好きなら好きって、言葉で伝えないと。行動で表さない
と。このみのほうだけがそうしてくれたって、俺がそれを返してあげなくちゃこのみは報われないじゃないか」
とくん、とこのみの心臓が脈打つのが、抱き寄せた胸に伝わってきた。
俺は、今は腕の中にあるこのみのその小さな心臓が、愛おしくてたまらなかった。
「さっき、今日の俺はいつもより優しいって、このみが言ったよな。……あの時、俺が何を考えたか分かる?」
このみはちょっと考えて、それから静かに首を振った。
俺はその頬にもう一度キスを落として続けた。
「俺はあの時――このみに謝りたくなった。ごめん、遅くなってごめんな、って」
「……タカくん」
「俺がいましてるようなことは、もっと早くこのみにしてあげるべき事だったんだ。なのにこのみが驚いたっていうことは、
このみが恋人として当然受けるべき扱いを俺がしてこなかったってことなんだ。だから……ごめん」
「謝ることないよ。タカくん……」
「いや、俺を甘やかさないでくれこのみ。謝らせてくれ、そして……許してくれ。これからはちゃんと、このみの彼氏とし
て、このみのこと受け止めるって誓うから……!」
両腕に力を込めて、俺は力一杯その小さな体を抱きしめた。
――言った。
ついに、言った。
それは夕方、ゲンジ丸が証人となったあの誓いと同じ。
このみだけを愛し抜こうという、俺の決意。
大人が聞いたら、若気の至りだと、性急な誓いだと、そう言うかも知れない。
なんとでも言うがいい。
他の人にどう思われようがかまうものか。
ただひとり、このみが俺を信じてくれれば、それでいいんだから。
「タカくん、苦しい……」
「あ、ごめん」
腕の中からの声に、俺はあわてて力を緩める。
このみは呼吸を整えると、俺の膝のなかで身をよじって俺と向かい合った。
俺は、堪えきれずその唇にキスをした。
なにか言葉を紡ぐつもりだったのか、このみは突然降ってきたキスに肩をすくませて驚いたけど、その力はすぐに抜けた。
いつまでも続きそうなキスを、俺は無理やり断ち切る。
俺はまだこのみの答えを聞いてない。
「このみ、聞かせてくれ。……俺を許してくれるか? そしてこれからも、俺はこのみの彼氏でいていいのか?」
このみは絶対、はいと答えると分かっていた。単なる、雰囲気を盛り上げるためだけの大仰な質問のはずだった。
なのに、そう言葉にして問いかけた瞬間俺は恐ろしくなった。このみがもしNOと答えたらと考えただけで、足下が無くな
るほどの恐怖が襲ってきたのだ。
どうしてさっきの俺は、このみは絶対YESと答える、なんて思えたんだろうか。
言わない保障なんてどこにもないじゃないか。いまさらこんな基本的なことに気が付く鈍感な男なんて、むしろ愛想を尽
かされて当然じゃないか……
「――タカくん」
俺の思考の呪縛は、至近距離からのこのみの声で解けた。
目の前に、このみの顔がある。俺の頬に手を添えて、まっすぐに俺を見つめている。
俺が見つめ返すと、このみは優しい微笑みを浮かべて言った。
「わたしね、今、人生で一番幸せだよ? だって、世界で一番大好きな人から、好きだって言ってもらえて、抱きしめても
らえてるんだもん」
このみの指が、俺の頬を優しく撫でる。その心地よさにおれは目を細める。
「タカくんがわたしに謝らないといけないことなんてなんにもないと思うんだけど、タカくんが言って欲しいなら、言う
ね?――わたしはタカくんを、許します。だから……これからもずっと、このみと一緒にいてね」
「このみ……!」
今、たしかに俺たちの気持ちは重なり合った。
ようやく、俺とこのみはこんな関係になれた――全身を電流のような歓喜が流れる。
吸い寄せられるように唇が近づく。
俺たちは同時に目を閉じ、深い深い、魂を重ね合わせるようなキスを――
その時だった。
――プルルルルルッ プルルルルルッ
信じられなかった。
まさか、こんなねらい澄ましたタイミングで電話がかかってくることがあるなんて思いもしなかった。
俺とこのみは目を見開いて、お互いの顔が恐ろしいほど近くに接近していることに気が付いて、慌てて距離を取った。
電話は鳴り続けている。
でも、俺もこのみも体が凍り付いたみたいになってしまって動かずにいた。
「誰だろ、こんな時間に」
「さあ……間違いかな」
すぐに鳴りやむかと思われた電話はしかし、ずっと鳴り続けている。
出るしかないか。そう思って俺はソファから立ち上がった。
これで電話の主が雄二だったりしたら、明日殺す。そう思いながら受話器を取った。
「――はい、河野ですが」
その声は、ちょっとどころではなく不機嫌だったはずだ。
それも仕方ないだろう。あんなにいい雰囲気のところを邪魔されたなら、誰だって気分がいいはずがない。
しかし、電話の向こうから聞こえてきた声は俺のそんな気分を一瞬で吹き飛ばしてくれる相手だった。
「タカくん? わたしよ」
「春夏さん?」
え? お母さん? と、後ろでこのみも驚いてる。
「ど、どうしたんですか、こんな時間に」
「ごめんねこんな遅くに。もっと早く電話しようと思ってたんだけど、たった今ウチのひとと連絡がとれたものだから」
「連絡って――何かあったんですか!?」
一瞬、脳裏に不吉な予感が宿る。
おじさんは自衛官だ。まさかなにか事故が……!
しかし、返ってきた春夏さんの答えはむしろ、呆れたような声だった。
「何かって……もしかしてあなた達、帰ってから一度もテレビもなにも見てないの?」
「テレビ? えっ?」
俺の声にこのみがさっと動き、リモコンを取ってリビングのテレビを付けた。
その瞬間画面に映ったのは、暗闇に揺れる椰子の木の絵。その下で、レインコートをなびかせたアナウンサーが何事かを
叫んでいる。
画面の右上には、黄色いテロップが。
【台風7号 沖縄暴風圏に入る】
「台……風」
「そっちは晴れてるみたいだけど、こっちはもう凄いわよ〜。ホテルもさっきから停電したり復旧したりで大騒ぎ。あ、で
も心配しないでね、私もウチのひとも無事だから」
「は、はあ」
なにかしっかりした言葉を返すべきなんだろうけど、口からでるのは生返事だけ。脳みそが飽和したみたいにうまく言葉
が出てこない。
そんな俺の様子にかまわず、春夏さんは気楽に続ける。
「台風は明日の朝ごろ最接近するらしくて、明日乗って帰ろうと思ってた飛行機の欠航が決まったのよ。船も当然動かない
し、多分明日の夕方くらいまで、本土への交通機関は動かないと思うの」
「はあ」
「それでねタカくん。本当に悪いんだけど、このみのこと、あと一日お願いしてもいいかしら。今ウチの人と話して、いつ
になるかわからない明日の回復を待つより、予定より一日長くこっちに泊まって、明後日ゆっくり帰ろうって決めたのよ」
「はあ……って、ええっ!?」
思わず声が大きくなった。
フリーズしてた脳が動き出して、ようやく何が起きているのかを理解できるようになった。
「あの、春夏さん。それはつまり、明日は帰らないってことですか」
「そうよ。タカくんには悪いんだけど、頼めるかしら」
「はい――はいっ。任されました!」
俺が元気よく返事をすると、春夏さんはくすっと笑った。
「頼もしいわね。じゃあ、ちょっとあの子と替わってもらえるかしら」
俺はこのみに受話器を渡すと、テレビの前に歩いて行った。画面は今は予報士さんが天気図を指しながら、台風の予想進
路について解説していた。
俺はそれをぼーっとみながら、突然の出来事を頭の中で整理していた。
台風のせいで、春夏さんとおじさんの出張は長引くことになった。帰りの予定が、明日から明後日に変わった。それはつ
まり俺とこのみにどう影響があるかというと……
「台風、来てたんだね……」
電話を終えたらしいこのみが、俺の隣にやってきた。
「春夏さん、なんて?」
「うん、タカくんの言うこと聞いて、ちゃんとお手伝いしなさいって。あと私たちのことは心配いらないから、明日も学校
なんだから早く寝なさいって」
「……そうだな」
災い転じて奇貨となす。
俺はとっさに、この状況を利用することを考えていた。
お互いの気持ちはもう、十分に確かめ合った。
ならばもう――あとやるべき事は、一つしかない。
「もう遅いし、二階に上がろう。――さっきの続きは、寝ながらでも話せるよ」
俺はリモコンを取ってテレビを消した。
このみを促すように背中に手を当てると、このみは少しもじもじとして……
「わたし……お風呂入ってくるね」
そう言って、小走りで去っていった。
※その12に続く※
こんな時間まで待ってた甲斐があったクマー
リアルタイム更新(σ・∀・)σゲッツ!!
初の14連投。
ぎりぎり480kb前に終わってほっと一息(^^;)
今日は一日中これ書いてました。あー!目と肩が痛いw
おそらく12の後書きは、なにも言うことはないと思いますので
いつも応援してくださるみなさんに、この場を借りてお礼申し上げます。
残り、あと2話となりました。
それほどおまたせせずにお届けできるかと思います。
ちなみに、てんだーはーとはこれっぽっちも実体験には基づいておりませんw
基づけたらどんなによかったことかっ!w
このみ大好きエネルギーで出来ているこのお話。なによりもまず、自分自身のために
書いているような気がしてきた今日この頃です。
新人の方もベテランの方々も住人のみなさんも、8スレでもぜひよろしく
お願い致します。(スレ立てよろしくお願いしますー(^^;))
ではでは、また。
PS:春は終わらない、と、河野家にようこそ、と、跳躍するジャンクション、まだ〜?
(更新の早いミルファSSと虹の欠片も、ほぼすべてリアルタイムで読んでます)
くぁ〜、タカくん男前
みなさんお疲れ様。
ところで提案があるんだけど、
ここのスレ住人で書いてもらいたいSSの案を出しあって
気が向いたSS書きの人に書いて貰うってのはどうかな?
例えば、このみと由真を主役にとかサスペンスものにしてくれとか。
いくつか案がでたら適当にまとめて、誰か書いてくれませんか?みたいに。
SSの感想書くときのついでとかに案をだしたり。
読者参加型SSって感じのが出来たら盛り上がると思うんだけどなあ。
>594
正直言うと電話がかかってきた時は「超展開がくるのか?」と思っちゃいました。
でもこれなら大丈夫そうですね。そして乙
三者三様に乙
まだ前スレがdat落ちしてないってのに、ペース速すぎですよおまい様がた(*゚∀゚)
>>599 そうそう、こんな感じ!
でもそこだと色んなゲームひっくるめてだし、
やっぱこのスレでリクエストだしてそれが実現されたほうが
スレも盛り上がるかなーと。
マジにリクエストするんじゃなくて
こんな感じの誰か書いてくれないかなーってくらいでいいと思う。
現状だとほぼ連載のみだから(面白いからそれはそれでいいんだけど)
そういうのがあっても良いんじゃないかと。なんか偉そうでスマン。
TenderHeartの人乙。
読んでて勃った。
それはつまり、
せーのっ
↓
巫女巫女ナース!
の流れから、本当に巫女とナースのSSが出たときみたいにってこと?
「案が出たら書くのが義務」みたいな雰囲気になるのでなければ、面白いとはおもうけどね。
もしくはいつも募集するんじゃなくて、スレを埋め立てるときとかDAT落ちする直前の前スレを利用するとかしたらどうでしょ。
ちなみにおいらはミルファのエロ希望
>>594 あと2話ですか。寂しくなりますなぁ・・・。
あぁ、いや、完結してもらわないと生殺しなんで、終わらないのも困るけど。
えぇ、もう、ホントにGJ!&乙。
てんだーはーとGJ!
貴明が格好よくてちょっと悲しかったwww
>>602 それだそれだ。
まあ何か読みたいSSがあったら積極的にリクエストするのも
いいんじゃないかなあと。SSのネタに困っている書き手もいるだろうし。
あんまり期待はせずにリクエストしようってな感じで。
どの作品もよんでて楽しいけど、
俺にとってはあんたが最高だよ<虹の欠片の人
TH2本編のキャラはみんな魅力的だったけど、
少しきれいすぎたと俺は思ってる。
聖人君子なんかいやしない。
どんな人でも悪い面もあれば、いい面もあるだろうよ。
だからこそ、人間はおもしろいのだと思う。
※きれいすぎて、はまりこんだからこそ、
そういう別の面をみてみたいと思うだろうけどな。
これからあんたの思う、あるがままのTH2キャラたちをかいてくれ。
俺はあんたを応援する。
投稿すると480KB越えをすると思うんだけど投下していいのかな…(´・ω・`)
ギリギリでOKだと思うけど、だれか新スレ立てるほうが確実だね。
勇者さま、お願い。
んじゃ、ちょっと行ってくるノシ
>>610 乙です。ありがとうございます。
このスレでの自分の最後の投下いきます。
これは第8話の裏のお話。
いわゆるミルファサイドのお話。
「いってきます…」
バタン
貴明は顔を赤く染めたまま学校へと向かっていった。
「ふぅ…」
つく必要もないため息をついて気持ちを切り替える。
あたしの顔も熱い。きっと顔は貴明のように赤いのだろう。
昨日も今日もそうだけど何だかんだ言って貴明はいつも私にキスをしてくれる。
もちろんあたしがねだってるのが原因だというのは分かっている。
けど貴明のあの唇の感触とキスしている間のあの感じは中毒に近いのだ。
痺れる様な感覚。そしてすべてがとろけそうになるあの感じ。
キスってあんなに気持ち良いものなんだと再認識しては頬が緩んでしまう。
そんな素敵な行為を何度でも体感したいというのは必然だと思う。
うん、きっとそう。
しかし貴明との繋がりを感じるたびに寂しいこともある。
私と貴明は絶対的に違うところがあるから。
人間と機械−
例えばそれはすべてが順調だとしても決して乗り越えられない高い高い壁。
私がどんなに貴明を愛してもそれはプログラムが出した結論であって人間の感情とは違う。
そんなのは分かりきっていることなのにこの感情を抑えることができない。
食器洗いを終えて洗濯機を回している最中にテレビを見ながらそんな無意味なことを考える。
メイドロボに無駄な思考など必要ないのではないか。
メイドとはご主人様の命令に従ってご主人様に満足してもらう。
それが全てであってそれ以外は必要としない。
ある意味ロボットがやる職業としてはこの上なく適しているのかもしれない。
けどみんなはあたしにこの感情をくれた。
珊瑚様が作ってくださって長瀬さんや研究所のみんなが育ててくれた。
あたしの周りにはいつも笑顔があってそれはうれしかった。
だからこの感情に対して今までは何も感じたことはなかった。
けど今は違う。貴明が好き。
それだけで今ままで考えもしなかった事を何度も考えてしまう。
人を好きになってはいけないのだろうか?
それは好意では無くて愛情と呼ぶべきものであろう感情。
けどあたしは持ってしまった。
「持っちゃったもんはしょうがないよね…」
ソファーに寝転がって天井を見上げる。
今まで見ていた天井とは違う天井。
貴明が笑顔で迎えてくれた家。
ここが今のあたしの居るべき場所……なんだと思う。
「…」
ふと時計を見ると9時半を回ったところ。
貴明と別れてから2時間も経っていないのか…。
けどずっと離れ離れのような気がする。
もちろんこの家には今はあたし以外の人は居ない。
一人ぼっち。
けど決して一人なわけじゃないもんね。
だってあたしのやってることは全部貴明のためだから。
貴明の笑顔みたいもん。
「さて、掃除しちゃおっと」
ソファーから起き上がり、掃除機を持って2階へと向かう。
他の部屋は頻繁に掃除をすることは無いけれどこの部屋だけは毎日来てしまう。
貴明の部屋。
「お邪魔しまぁーす…」
主が居ないその部屋のドアを開けると独特の匂いを感じる。
貴明の匂い…
前に貴明に聞かれたっけ
『匂いってわかるのか?』
って。
あたしも勿論感知はできる。
おいしい匂いや臭い匂い、こげた匂い、水の匂い。
けど一番すきなのはここの匂い。
貴明が居るわけじゃないけど貴明を感じられるから。
この部屋に居ると貴明に包まれてる気がする。
それだけでもつい顔をにやけさせている自分が居るのに気づいた。
「駄目だなぁ…ちゃんと掃除しないとっ」
まずは散乱しているものを片付ける。
貴明は意外とちらかさないようでそんなに物が散乱しているわけでは無いのですぐ終わった。
掃除機も毎日かけているのでそんなに大変ではない。
けどフローリングだからモップとかで綺麗にしたほうがいいんだよね。
今度買ってこよう。
そして褒めてもらうんだっ
『ミルファ何時もありがとうな』
『そんな、貴明のためだもん。当然だよ』
『嬉しい事言ってくれるなぁ…』
ぎゅっ
『あ、貴明…だめだよ夕飯まだ作ってないから…』
『それよりもミルファが食べたい』
『えっ…』
「なぁ〜んちゃって!な〜んちゃってねー!!」
気づいたら手を振り回して恥ずかしさをごまかしている自分が居た。
どうも最近は妄想するまでになっちゃったみたい。
まかり間違ってこんなの貴明に見られたらどんな顔されるか…。
気を取り直して掃除を再開することにした。
掃除機をかけ終わった後でベッドに目をやる。
寝起きの跡である皺が寄ったベッドカバー。
それに目をやっていると自然と足がベッドへと寄ってしまう。
「もうしないって決めたのに…」
自分で抑制するように言葉には出してみるが欲望の方が強いのか足がどんどんベッドに向かってしまう。
そしてベッドに腰をかけると顔を枕に埋める。
「貴明の匂い…」
部屋の空気とは違ってもっとハッキリと感じる貴明のにおい。
そのままもぞもぞと掛け布団をかぶってみるとまるで貴明に包まれているような錯覚に陥ってしまう。
貴明の思ったよりも大きな胸板、大きな手、そして意外と柔らかかった唇…
貴明の感触を思い出しながら貴明の布団に包まっていると布団を掴んでいた右手が動く。
「もうしないって…」
そう言いながら手はスカートの中へと入っていく。
この手が貴明の手だったなら…そんな夢のような願望を抱きながら動く。
スカートの中に入った手はそのまま下着へと伸びていった。
くちゅ
「あんっ!」
少し触れただけなのに体が敏感に反応する。
下着はすでにうっすらとぬれていて指先でもその湿り気を感じる。
そのまま湿っている所に指を這わせる。
くちゅくちゅと動かすたびに体がビクンッと反応をしてしまう。
「駄目っ…やっ……んんっ…!」
止めなきゃと思うたびに指を這わせる速度がどんどん速くなってしまう。
こうなってしまうともう理性は飛んでしまい、止めることなんか考えられなくなってしまう。
指を這わせるだけでは飽き足らなくなったあたしは指を下着の中へと滑り込ませる。
「きゃうんっ!」
秘唇に中指をあわせると簡単に指はその中へと潜り込んで行く。
ちゅぷっと音が鳴り指は第二関節まですんなりと入ってしまった。
「んぁ…」
そのまま指をクニクニと動かすたびに快感が脳天まで走る。
快感に身を委ねようと動くたびに指が先ほどとは違う場所にあたり
それに対してまた体をくねらせる。動けば動くほど快感が体を支配する。
その行為にあたしは溺れていた。
最初にこんなことをしたのは昨日の昼間。
貴明の部屋を同じように掃除し終えたあたしは昨晩につい寝てしまった布団の
気持ちよさを再度体感しようと、ただそれだけの理由で主が居ない布団にもぐりこんだ。
そしてそこで感じた貴明の匂い。
自然と自慰行為に耽ってしまっていた。
「貴明ぃ…」
今は居ないあたしの最愛の人、そしてあたしのご主人様である人の名前を呼ぶ。
貴明は誰が好きなんだろう?
このみ?
環?
珊瑚様?
瑠璃様?
まさかイルファ姉さん?
それとも他の人?
そう考えるたびに胸の奥が痛くなる。
貴明を誰にも渡したくない。
メイドロボである私がそんな我侭言えるはず無いのについ思ってしまう。
そしてそれを考えるたびに指の動きは激しくなってしまった。
「貴明ぃ…あっ…すっ…んっ!…好きぃ…!」
言えるはずの無い告白を口にすると指の動きの激しさが増す。
部屋には湿ったぐちゅぐちゅと言った音とあたしの喘ぎ声だけが響いている。
「いっ…イクっ…!!イッちゃう…!!」
もう…駄目ぇっっ!!
「んーーーーーーーーーー!!!」
ビクンッ!ビクビクッ!ビクッ!!!
膣が収縮して指に絡まると同時にあたしは快楽の頂点へと達してしまった。
それにつられてか体全体が硬直して震える。
また…しちゃった。
少しの間そのけだるさに身を任せていたがこのままで居てもしょうがない。
起き上がってベッドシーツを確認しておく。
どうやらぬれてしまっては居ないようだった。
「…履き替えないと。あうぅ…」
あたしの下着の方は洗わないともう駄目みたいだけど。
とりあえず下着を履き替えてからベッドメイキングをしておく。
ちゃんとこれくらいはきちんとしておかないとね。
結局貴明の部屋の掃除が終わったところで時計を見たら
既に時計の単針は真上を指していた。
プルルルルルル プルルルルルル
掃除を終えて洗濯物も干し終えた所でリビングから電話の音がした。
こういう場合って出て良いのかな?
ご両親にも許可はいただいているし出ても問題ないよね?
あ、もしかしてオレオレ詐欺ってやつかな?
そんな意味も無いことを考えながら受話器をとる。
「はい…河野です」
河野です…か、そうするとあたしは河野ミルファになるのかな?
『ミルファ?』
本当に新婚さんになったみたいで嬉しかったりして。
『聞こえてる?ミルファ?』
えへへ。
『ミルファ?ミールーファー』
受話器の向こうからあたしを呼ぶ声がして我に返った。
どうやらまた妄想の世界に行ってしまっていたみたいだ。この癖直したほうが良いよね…。
「あ、ご、ごめんなさい…。イルファ姉さん?」
『もう、全然反応無いからどうかしたのかと思ったでしょ?』
「ごめんごめん。で、わざわざ電話なんかしてきてどうしたの?」
『んー、ミルファがそっちに行ってから全然連絡取ってなかったから順調か気になったの。
どう?貴明さんのハートはゲット出来た?』
何故か声を弾ませながら聞いてくるイルファ姉さん。
何であたしよりも姉さんが楽しんでるんだろう…姉さんってぱ色恋沙汰になると何時もの
おしとやかさは消えてしまっている気がする。妹として少し恥ずかしいなぁ。
「そ、それはまだ…だと思う」
そんなの分かるわけないじゃない。
まぁ貴明は喜んでくれてるけどさ。
そりゃゲット出来れば嬉しいけど…。
『そぅ…。まぁ急がば回れとも言うしね。ゆっくり行きましょ』
何で姉さんが先導してるの?よく分からなくなってきた…
『それでミルファ、あなた貴明さんにお弁当作ってあげてないでしょ』
「う、うん…だって作ってって言われてないし…」
言い訳はしてみたけど何時も朝食をがんばって作るのに手一杯でお弁当までに手が回らないのが
本音だった。
『駄目よミルファ!男性は手作りのお弁当に弱いんだから!今日だってどうせ作ってないと思って
私が貴明さんにお弁当渡しておいたのよ?』
え…?姉さん今何て…
「姉さんが貴明にお弁当渡したの?」
『えぇ。本当は瑠璃様への愛情弁当だけのはずだったんだけど
折角だから貴明様にも食べてもらおうと思って☆』
お願いだから可愛い声を出さないでもらいたいな…。
まぁ姉さんらしいといえばらしいけど瑠璃様について話している時の姉さんの声に良く似ている気がする。
え?それってもしかして……いや、変な事は考えないでおこう。
「ちょっ!ちょっと!姉さんなんでそんな事してるのよ!」
自分で「男性は手作りのお弁当に弱い」なんて言っておいてそれを自分で実行してどうするのよ!?
しかも貴明に…。
『あら、ミルファがお弁当を作ってればお渡しはしなかったのよ?
作ってないミルファが悪いんじゃない?』
何時ものおしとやかな姉さんからは想像が出来ない発言がどんどん出てくる。
もしかして今のところ一番のライバルはこの姉さんなんじゃないんだろうか。
そんな気まで起きてきてしまった。
「そ、それは…」
『明日も作るつもりですからミルファが作らないのならまた貴明さんの分を作らないと☆』
受話器の向こうから姉さんのウキウキした声が聞こえてくる。
とんでもない。
そんな事をされてもし貴明がそれを楽しみにするようになってしまったらあたしが渡す機会がなくなってしまう。
それだけは何としても防がなくっちゃ。
「駄目!明日からはあたしが作るの!姉さんは作らないで!」
『くすくす…。了解しました。ちゃんと作ってあげるのよ?』
「わかってるわよ…で、用件はそれだけ?」
あたしは内心ムっときていた。そしてその感情もつい声に出てしまった。
だってあたしの大事な貴明に手作り弁当を渡して貴明をあわよくば奪おうとしてるんだから。
……別に貴明はあたしのものじゃないけどさ。
「そうそう、今日貴明さんをうちにおよびしたいんだけどミルファは先に来ない?」
思わぬ誘いだった。
あたしがこっちに着てから貴明は家に直帰している状態だった。
それまではかなりの頻度で瑠璃様珊瑚様の家に行っていたのを考えるとだいぶ期間が
開いているのだろう。
それでどうせだから姉さんと私で夕飯を作ってみんなで食べてもらおうというのが姉さんからの提案だった。
貴明を独り占めできる時間が減ってしまうのは寂しいけどみんなで食べるご飯というのも良いものだし
特に反対する理由は無かった。
「うん。わかった」
『そう?よかった。じゃあ2時に商店街の入り口に来てくれる?一緒に買い物しましょ』
「はーい。それじゃあ切るね」
『はい。ちゃんと戸締りはしっかりね』
「わかってるって。じゃあまた後で」
『それじゃあミルファ、ばいば〜い☆』
「ば、ばいばーい…」
ガチャ
ばいば〜い☆だって…。一体誰から教わったんだろう。
姉さんってばだいぶ変わってきてるなぁ…何だかすごい心配。
受話器を置いて時計を見ると時刻は1時過ぎ。
まだ時間があるからさっさと洗濯物を畳んでしまおう。
全ての家事を終わらせたらそろそろ姉さんとの待ち合わせ時間に近づいていた。
少し乱れてしまっていたポニーテールを結びなおしてお気に入りの靴を履き、家を出た。
外に出たら良い天気。今日の夕日は綺麗かな。
「夕飯は何がいいかなーっ♪」
手提げ袋を振り回すとポニーテールも一緒に揺れる。
太陽の光に反射してキラキラと光るその髪を揺らしてあたしは商店街へと向かった。
初めてのミルファ視点は結構かいてて楽しかったです。
その分変に暴走もしてしまったわけで…萌えというよりエロくなってしまったorz
TenderHeartの貴明かっこいいなぁ…本編がヘタレだったからかっこいい貴明も良いもんですね。
>>550 ありがとう(*´∀`)ノ[骨]
>>602 これじゃ駄目?(´・ω・`)
では次スレで ノシ
激しく乙!!
みっちゃんかわいいよみっちゃん。
いっちゃんも何か萌えたよ。
それはそうと、前スレまだ生きてるのなw
昨日に続いてリアルタイム更新(σ・∀・)σゲッツ!!
>>624 書くの早っ!うまっ!
読んでて楽しい作品、サンクス!
602です……
GJとしか言いようがなかとです!
602です……
>>624 GJ!!!!!! ←だんだん増える「!」
で、第10話は明日? 明後日? ←待ちきれないらしい。
作者さんGJ!!
頑張れミルファ!
ネガワクバメイドロボシマイドンヲミタイトイッテミル
>629
『!』よりも『 i 』を増やせ。うー
新作キタワァ.*:.。.:*・゚(n‘∀‘)η゚・*:.。.:*!!
いやはや、やはり御大の話の面白さには敵いません_| ̄|○<オモシレー
まだまだ精進致しますです。
>>629 所用で早くても31日まで書く時間も無いです。
31日以降までは振っても出ないので振らないでくださいね
>>630 短編書く暇あったらそれ良いなぁ('∀`)グフフ
>>632 Brownish Stormも良い出来だけど、あなたは別格。
また楽しみが一つ増えましたよ。
ヤバ。リロードせずに書き込んだら、間に作者さまが・・・。
しかも、中身がかぶって、追い打ち状態・・・・・・スイマセン。
いえ、あの、ホントにどちらも楽しみにしてますんで気を悪くされないでください。
>>634-635 いやいや、全然気にはしてないですよ。
というか技量の差は自分でわかっているので。
そもそもプロットなしで手が進むように書いてるので内容の濃さは個人的にも無いと思ってます。
どちらかというとさっと読んで、笑えて萌えれてスカっとする炭酸飲料チックな感じで読んで貰えれば光栄です('∀`)
>632
キャラを「らしく」描けるってのは、才能だよなあ。
で、どこからエロになるんですか?w
>>636 そういっていただけると、救われます。
ホントに失礼しました。
>>632 リトライの人キター。
GJ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
おいおい、ちょっと覗くのを忘れて一週間放っておいたら、このレスの進みはなんなんだよ。
読むのが大変で嬉しい悲鳴ですよ、これは。
まあ、新作有り、連載中の作品有りで、各作者さんとも、まずはお疲れ様です。どの作品も、
それぞれ持ち味があって、楽しめました。
てんだーはーと、ひっぱりますねー。今回こそ、一線を越えるのか、と思わされ続けて
もう何回目だろう・・・。でも、それがまたいい!
あと、気づいた点というと、相変わらず虹に対してだけは賛否両論うずまいてるなー、って
ことかな。他の作品だと、あんまり「否」の意見を見ないからねー。
それだけ、個性の強い作品ということなんだろうね。
正直、否の意見をコレだけ集められるってのは、ある意味作者さんにしたらしてやったり
なんじゃないかな? それだけ注目を集めているわけで。
個人的に残念なのは、虹の作者さんがそういう意見に対して、沈黙を貫いていること。
きっと作者氏の心の中じゃ、否定的なレスに対して、「お前らはそういうけど、俺はこういう
考えで、この虹を書いてるんだー」っていう想いみたいのがあるんじゃないかと思うんだけど、
そういうのが今のところ見えてこないからね。
完結後にでもいいから、そのあたりの見解を聞いてみたいもんだねー。
ちなみに、私としては、てんだーはーと的なお話の方が好き。正直、虹みたいな雰囲気は
苦手ではある。でも、虹みたいなお話もまた有りだとは思うから、読みたくない、とか、
NGワード指定しよう、とかは思わないよ。これからもわが道を行っていただきたいな。
個性が強いというか、元の世界観と真逆の設定で書いてるってのが大きいんじゃないか。
なんといっても序盤のインパクトは凄かったw
それを個性と呼ぶならその通りなんだろうけど、俺はちょっと違うと思う。
てか、虹の欠片が反響を集めてからダーク系の作品が多くなったのは面白い傾向だねえ。
見てると少し安易じゃないかなーという気がしないでもないが、そういう作品をホントに
書きたいならどんどん書いて欲しいもんだ。
ただ、偉そうなことを言ってしまって申し訳ないけど、中盤に差し掛かるあたりからやや
のっぺりとした展開になってしまう話が多いよな。
SSと呼ぶには分量の多い作品ばかりになってるのが最近の傾向だと思うんだが、小説とは
呼べないというか、メリハリに欠けてて中盤以降読むのがシンドイ。
スレの二大作品にケチをつけるのはアレなんだが、テンダーはここまで引っ張ることねえ
んじゃないかと思ってしまうし、虹は最初のインパクトがかなり薄れてダレてるような。
面白い話だから、その分惜しいな、と思ってしまうんだよね。
まあ、名無しの戯言だと思って聞き流してください。
聞き流してって・・・んなこと言うなら始めから真剣にレスすんなよ。
大切な意見だと思うぞ?
不良に唐突に輪姦されるみたいなエロ同人的なノリだと思う。
通して読むとぐだぐだな印象は拭えないが、痛々しい展開を
その場その場では楽しんどけと。
痛々しいダークな展開もこのみだけだしな…さすがに飽きる
個人的には愛佳とか由真のダークSSを読みたい!
雄二が痛々しいSSが読みたい!
ダークじゃなくてもいいや、むしろギャグで
痛々しいダークなこのみって言うのは
初代THのメインヒロイン神岸あかりを思い出す
つまり柚原このみは
いろんな意味で「THのメインヒロイン」という存在を受け継いでいるんだよ!!!
>>643 みんな必死でオブラートに包んでんだからそういうこと言うのやめろよ…w
俺がこのみとタマ姉の共有物になってから1ヶ月。特に変わったことはなくこのみとタマ姉の接触が激しくなったくらいだ。そして今日は月に一度のこのみのお泊まりの日。
このみと一緒にタマ姉もやっときた
「何でタマ姉までいるの!?」
「あらぁ、私がいちゃ悪い?タカ坊」
悪い。とはとてもじゃないがいえない。さらにタマ姉は続ける。
「それにこんなおいしいイベント逃す分けないじゃない。私たちにとってタカ坊は共有財産なんだからタカ坊の独り占めは重罪よ。」
「・・・」
そこに俺の意志はあるのかい?なんてことを言いたくなる。が言っても仕方がないので黙ってることにする。
「どうしたの?タカ坊」
「いや、なんでもないんだ。」
そう、なんでもないんだ。あははははは
「さてと、じゃあお夕飯の準備に取りかかりましょ。」
「私も手伝うよ。タマお姉ちゃん。」
二人して台所にあがる。勝手知ったる何とやらだな。
「このみ。そこにあるお醤油持ってきて。」「は〜い」
・・・勝手知りすぎてるよ。まぁいいやとソファに座り台所の二人を見る。ほんとに姉妹みたいだな。こうしてると。
タマ姉がてきぱきと準備をこなし、それにこのみが手伝う。絶妙のコンビネーションだ。
・・・にしても、エプロン姿のタマ姉を見る。なんでああも着る物着る物がエロくなるんだろう。制服のミニスカがエプロンにあいまってこれまたそそる。隣のこのみを見る。同じエプロンだがお母さんのお手伝い然としててなんだか微笑ましい物があるがこれはこれで
などと見とれてると
「タカ坊」
「うひっ」
急に声をかけられ変な声を出してしまった。
「どうしたの?タカ坊。変な声を出して。」
「え、あ、いや、なんでもないんだ。気にしないで」
「そう。で何か食べたい物ある?一品だけリクエストに応えてあげるわ」
「え、でもうちの冷蔵庫何にもないから作れるものないと思うんだけど・・・」
「そんなのわかってるから心配しない。ちゃんとお姉ちゃんが食材買ってきてあるんだから。」
あ、そういや買い物袋下げてたような・・・タマ姉が来たショックと動転でそこまで目に入らなかった
人いないと思ったら結構いるし
653 :
名無しさんだよもん:2005/08/31(水) 23:58:43 ID:uizcpuazO
るー
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