蘇るSSスレ

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「お、おはようございます。」
場所は港の駐車場。
おずおずと挨拶をすませると、彼女は恭介の背中に引っ込んだ。
「こら、隠れるな。」
恭介が彼女を叱る。
「う、うん…」

「こいつ見るからに堅物だもんな、ちはやちゃん、こっちおいでよ」
早間に声を掛けられて、彼女、香月ちはやは、早間とは逆方向に出てきた。
つまり、私の正面に立ってるわけで。

「そんな硬くならなくていいわ。」
「あ、はい…」
うわ、可愛い。早間が惚れているというのも納得。まあ、釣り合わないだろけど。
恭介の妹である彼女は、当然私や明乃よりも年下だが、年以上に幼い印象を受ける。
これは生まれつきじゃない。近くに守ってくれる相手がいて育った、そういう幼さだ。

とにかく、せっかくなので情報収集。
「ねえ、家での恭介ってどんなの?」
「恵、それ禁止」
ちっ。
「…明乃」
「なぁに〜」
「恭介持ってっていいわよ」
「わぁい〜恭ちゃん貰った〜」
「ちょ、ちょっとまて、お前こら、引っ張るな!」
なんのかんのいって、恭介がこういうのに逆らえないのは織り込み済み。
「い、家で、ですか・・・」
恭介が離れて、急に不安なそぶりを見せる。
ちょっと媚びたような目線。なんか、この子反則っぽい。
幼い顔つきなのに、明乃よりも女らしい雰囲気、独特の媚びがある。
しかも私より胸が…思考停止。

「学校での兄を知らないので、比較はできないですけれど、
平日は本読んでる事が多いですね。なんだか判らない数学とか科学の本たくさん持ってます。」
時々見せる妙に役立たずな博識ぶりはそのせいか。
「あ、私の部屋で少女漫画読んでることもありますよ。
私の方が遅く帰ってきたら、床に座って電気も付けずに読み耽ってたことが。」
「・・・出禁にしたら」
「でも、私も兄の部屋に勝手に入ってますし・・・」
そこでどうして頬を赤らめるのかな。

「それから、毎日通販で買ったトレーニングマシンで運動してますね。」
「ガタイ良いわよね」
「はい、って他の男の人の裸は普段見ないからわかりませんけど…」
妹って兄の裸を普段見るものだろうか
「えっ、あ、いや、そういうわけじゃ。」
思わず声に出していたようで、回答が返ってくる。
「べ、べつに見ようと思ってるわけじゃなくて、その、まあ日常的に、
洗濯物もいっしょだし、あ、そういえばこの前お風呂・・・あひゃぁ!」
なんだかボロボロと凄い事実が発覚しそうなところで、
明乃から脱出した恭介が彼女の脇腹をつっついた。
「なにを不穏当な発言をしてるんだこら。」
「え、えーと、いや家庭の環境を・・・あうっ、や、やめてお兄ちゃんやめてぇ」
訂正、つっついたのではなく、恭介は妹の脇腹、肋骨のあたりを指で擦っている。
・・・これは一般的な兄妹のコミュニケーションの範疇なのかなあぁ・・・

「たいしたことは聞いてないわ」
「ちはやちゃんがお兄ちゃんっ子だって事はわかったけど」
「え、えっと…ふぇっ…んっ…な、なにも言わないよぉ」
「まあ、否定はしない」
恭介がちはやから手を離す。
「うぅ・・・それじゃ、また」
ちろっと恭介に視線を向けて、彼女は明乃の方に歩き出す。
怨みがましいというより、名残惜しい感じの視線だったと思う。

「いい子じゃない。ちはやちゃん」
「ん、ああ。」
びくぅ
わざと彼女に聞こえるように恭介に振ってみたら、彼女の背中があからさまに緊張した。
お兄ちゃんっこ、ね。

「仲良さそうね」
「親父が死んだのが早かったからな。」
「可愛いわよね。」
「まあ、否定はしない。」
「血が繋がってて残念ね。」
「ああ・・・って何を言わすんだっ!」

あんまり冗談にも聞こえなかった、今の。