11日目 1時52分
A太>これも見たことねーな。
クレゾー>黒髪ロング!黒髪ロング!
あきお>しかしなあ…ヤバくね、これ?
あれから数日、件のチャットでは、引き続き俺達の事件の画像が散発的に上げられていた。
俺の立場からすれば、通報すべきところなのだが、やはり躊躇している。
間もなく、俺の下に、手紙が送られてきた。
「香月 恭介 様」
活字の切り抜きで作られたシンプルな便箋には、時刻と住所だけ。
そして同梱されていたのは、1枚のCD−R。
内容は、やはり例の事件の画像が数枚。
事件の際に直接目撃したわけではない画像もあったが、
写っているのが皆知り合いでは間違いようもない。
何故今頃、そして誰が。
その答えも、知っていたのかも知れない。
だから、さしたる準備も警戒もせずに、俺は指定の場所に赴いたのか。
11日目 23時51分
奥の方は蛍光灯がついているようだ。
「・・・電気が生きてるってことは、使われてる建物なんだ、よ、な?」
呼び出された場所は、見るからに胡散臭い倉庫風の建物だった。
内部には、どこで使うのか判らないような建築資材が積み上げられており、
どうやら倉庫風、ではなく倉庫そのものであると主張している。
警備もろくにされていないのか、人の気配のしない倉庫の内部には、しかし騒音が満ちていた。
すぐ近くを高架が通っている。交通量はなかなか多いようで、電車と車の振動はひっきりなし。
加えて建物内部の反響は、可聴域ぎりぎりの低音を生みだし、耳栓でもしたように音が聞きづらい。
「人を襲うには絶好の場所だな。」
むしろ俺は襲われるのに絶好の獲物か。
そんな事を考えながら、資材の間を縫って歩いた。
「・・・へ?」
灯りの守備範囲まで歩いてきて、俺は間の抜けた声をあげた。
テレビが置いてある。床の上に。
今どきな、7型くらいの小画面TV。繋がってる機材は、ビデオカメラか。
なにか映ってる。
なにか・・・人影のようなものが絡みあって・・・
『うぐ・・・! あ、痛っ・・・!』
なにか・・・なに?
『い、痛いっ! やめて、腕が折れ・・・』
映像の内容を認識したとき、俺は思わず画面に駆け寄った。
『許して、もう許してよぉぉ!!』
見たくもなかった光景が、画面に映し出されている。
そこには忘れもしない陵辱者と、組み敷かれているのは、恵。
目をそらすこともできず、映像を見つめていた俺は、別な方向に違和感を覚える。
あれ・・・これは・・・でも・・・時間が・・・
画面が切り替わる。ここは、船底か?機関室?あれは。?岸田と?、恵?。あれ?、なんだ?
映像の衝撃が強すぎて、音声が耳に入らない。
なのに、思考は働いていた。
あの時、泣いていた恵。
岸田は消え、事件は幕を下ろす。その間際に向けられた、言葉と殺意の意味。
あ、今、俺は、どんな顔をしているのだろう。
ガンッ!
突如、目の前が真っ暗になる。
殴られた、と思う間もなく、意識も暗闇に沈む。でも、
そういうことだったんだ。やっと、意味がわかったよ、恵。