ちはやは、そういえば、かくれんぼがうまかった。
ぼくとお母さんは、いちじかんいじょういえのまわりをさがしたけど、みつからなかった。
「寒いから、家に入ってなさい。おかあさんはもう少し探すわ」
「さむくないよ。きっと、ちはやのほうが、さむいよ」
「そうね・・・じゃあ、一度家に戻って、上着をもってきましょ」
「・・・うん」
ちはやは、どこにいったろう。
きんじょにいないとすると、となりのまちに出たんだろうか。
ちはやがいつもかけているパスケースには、Suicaとバスカードがはいってる。
でも、ちはやがひとりでいくところ、いけるところなんて…
あ。
「おかあさん!」
「えっ?ちはやいた!?」
「ううん、でも、もしかしたら…」
お母さんとぼくは、あつぎをしていえをでた。
もしちはやがもどったときのために、となりのおばさんに、いえにいてもらうことにした。
むかいのおばさんも、うらのおじさんも、いえのまわりをさがしてくれるって。
ぼくたちは、えきにむかった。
お母さんが、えきいんさんに、ちはやのしゃしんをみせた。
「自働改札ですから、ちょっとわからないですね…」
けいびいんさんに、おなじことをきいた。
「あ、二時間くらい前に、これくらいの子が一人で改札を通ったかも知れません。
親御さんと待ち合わせかと思ってたんですが…」
「ありがとうございますっ」
ここででんしゃにのれば、おそらくいきさきは、お父さんのところ。
バスていでは、ちはやがきたかどうかわからなかったけど、
とにかくぼくとおかあさんは、バスでお父さんのおはかにむかった。
お父さんのおはか。そこには、おはなのかわりに、ちっちゃなくさがそえてあった。
まちがいない。ちはやはここにきた。
じゃあ、どこにいるんだろ。
「ちはや〜」
「ちはや〜」
ぼくとお母さんは、手わけしておはかのまわりをさがした。でも、いなかった。
かえったのかな。でも、くるとちゅうにあわなかったし・・・
きゅうに、なつにおはかまいりしたときのことをおもいだした。
たしか、ちかみちしようとしてやまのなかで、おはなをみつけた。
あそこにいったんだろうか。
いまはふゆだから、はななんてさいてるわけないのに。
でも、山におりるみちには、ちはやの足あとがあった。
そして、
「・・・ぐすっ・・・ひっ・・・くっ・・・」
下のほうから、ちいさなこえがきこえた。
「ちはやっ!」
ぼくは、かけだした。
お母さんにこえをかけるのも、わすれた。
ぼくは、やまみちを、こえがするほうにはしった。
山のなかは、なつよりもじめじめして、はしりにくかった。
かすかなこえ、ないている。
みみをすまして、おいかけた。
「恭介!どこ!あぶないわよ!ちはや!いるの!」
うるさいなあ。ちはやのこえがきこえないよ。
そして、ちいさながけにでた。
なつにきたとき、はながさいてたところ。
もちろん、はななんてひとっつもさいてない。
がけの下。すこしとおくに、ちはやがたってた。
「すんっ・・・ぐすっ・・・」
ないてる。なぜか、うしろにあとずさってきている。
グルルルルル
うなりごえがきこえた。ちはやのまえに、おっきないぬがいた。
<<野犬出没注意>>
やけんしゅつぼつちゅうい。のらいぬにきをつけましょう。
おはかのいりぐちに、たってたかんばん。おかあさんによんでもらった。
「のらいぬにあったら、おっきなこえで叫びなさい。走っちゃだめよ」
いぬなんておくびょうだ。
おっきなこえをだせば、びっくりしてにげていく。
でも、ちはやのほうがにげだした。せなかをむけて、はしって。
いぬがガウワゥとほえて、ちはやをおいかけだした。
ぼくは、がけをすべりおりた。おしりがいたい。
下におりるまでに、2かいころんだ。
「ちはやっ!」
「おにいちゃん!?」
ちはやがたちどまった。のらいぬがとびかかった。
ぼくは、ちはやといぬのあいだにはいった。
がんっ!
めのまえに火ばながとんだ。
そのまま、ひだりのうでに、かみつかれた。いたい。
そのまま、ぼくはたおれた。めのまえに、いぬのかお。こわい。
けど、ちはやがみえた。なみだめを、まるくして。
だから、ぼくは、まけなかった。
「うわあああああっっ!!」
ぼくは、からだをおこした。よこから、いぬをたたいた。
ぼよん、と、あまりかたくないてごたえ。
うでにかみついたくちをつかんで、ひきはなす、はなれない。うでがあつい。
「わあああああああああああああああ!」
おっきなこえがした。
がんっ!
なにかが、いぬのあたまをたたいた。
かたいおとがした。石だ。ちはやが、石でいぬをたたいた。
ギャン!
いぬがひるむ。ぼくは、石をつかんで、ふりあげて、
「うわあっ!」
たたきおとした。
がきっと、すごくかたいてごたえ。
もういちど。
ごきっと、なにかがこわれるおとがした。
いぬが、うでをはなした。よろっと、ぼくはからはなれる。
きゅうにうでがいたくなって、ぼくはよろけた。
でも、こんどはちはやが、石をりょうてでつかんで、いぬをたたいた。
がちん。
ぼくのてのそばにも、おっきな石があった。ひろって、いぬをたたいた。
ぐちゃ。がちん。ぼこっ。ばきっ。
なんだか、とちゅうでてごたえがなくなった。
なまあたたかいものが、ぼくのかおにかかった。
ちはやのかおにも、あかいのとか、くろいのとかついている。
うでをふりあげると、ひだりうでがいたかった。まっかになってる。
でも、ふたりともやめなかった。
ぼくはむちゅうで、ちはやのてきをたたいた。
ちはやもむちゅうで、ぼくのてきをたたいた。
きがつくと、てきはぐったりして、よこむきにたおれてた。
それで、ようやく、ぼくとちはやはたたくのをやめた。
ふたりとも、かたでいきをした。
ちはやが、ぼくのケガにきづいて、びっくりした。
「おにいちゃん!うでっ!」
「へーきだよ。いたくない」
いたくないのはウソだけど、へーきなのはホント。
「よかった…」
ちはやは、ほっとしたみたい。
「ちはや、かおまっかっか」
ちはやのかおには、いぬのちか、ぼくのちかが、べったりついていた。
「おにいちゃんもまっかだよ」
ぼくはじぶんのからだをみた。あちこちに、あかいものと、なにかネトっとしたものがついてる。
「あかいおはな。サンタさん」
はながあかいのはサンタじゃなくてトナカイ。
「サンタさん、たすけてくれてありがとう」
でも、それよりもいいことがある。
「サンタじゃないよ」
「?」
「アンクル・パピィ」
「ピンチのときにちはやをたすけるのは、アンクル・パピィだよ」
たんじょう日のはなしを、ちはやはおぼえてるかな?
「・・・うん、・・・せいぎのみかた、だもんね・・・」
おぼえてた。
「ありがとう、アンクル・パピィ」
ちはやはべたっとだきついた。おたがい、ちのついたほほを、すりよせた。
「恭介っ!ちはやっ!」
がさがさと足おとがした。お母さんが、はしってきた。
「だいじょう・・・っ!」
ちかくにきて、いっしゅん、ぴたっととまる。
ぼくとちはやをみて、びっくりしたみたい。あわててかけよる。
「だ、だいじょうぶ!ケガ!いたくない!?」
あわててぼくとちはやをだきよせる。
「だいじょうぶだよ。」
「でも、その血まみれで・・・」
「これは、いぬのちだよ」
「犬?」
「ほら」
ぼくは、あしもとにころがるぐったりしたものをゆびさした。
いぬだったかな。なんだか、あたまのあたりがボコボコへこんで、へんなかたち。
めんたまがなくなって、くちから、はがボロボロこぼれてる。
お母さんは、いきをのんだ。
「あたしとおにいちゃ・・・アンクルハ・゚ピィ・・・おにいちゃんでやっつけたんだよ」
ちはやはうれしそう。ぼくもにこにこ。
お母さんは、ホラーえいがをみるときのめで、ちはやとぼくをみた。
そのあと、ぼくのうでのけがにきづいて、あわててハンカチをだした。
かえりみち、お母さんは、なんだかきもちわるそうだった。
けど、ぼくとちはやはきにしなかった。
ぼくは、ちはやといっしょならしあわせだから。
ちはやは、ぼくといっしょならしあわせだから。
もしもこのよに、ふたりぼっちでも。