ミスズの空、AIRの夏

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208保守代わりに小ネタでも
半ば連行されるような形でド田舎学校の隅のプレハブ小屋――と言うと奴は必ずキレるので口には出さないが――
に連れ込まれた俺はいつものように悪態をついた。
大体俺は単なる旅芸人であってこの学校とは何の関わりも無い善良な一市民に過ぎないわけだが、お前はそこのところを
本当に理解しているのか。
「当然っ!」
自信満々の笑みで返されてしまった。いつものことなので今更特に何も思わない。
この馬鹿の言うことに一々まともな反応を返していては我が身が分身・ゴッドシャドー!しても全く足りないのだ。
それで、このクソ暑い中クソ暑いプレハブ小屋にいたいけで善良な青年を拉致監禁しておいて茶のひとつも出ないのか?
「今日集まってもらったのはね――」
完全に無視しやがった。
むかつくので備え付けの冷蔵庫を勝手に漁ることにする。
部屋の隅に(恐らく無許可で)置いてある冷蔵庫のドアを開けた。冷気が顔に当たり気持ちいい。
だがそれも一瞬のこと。俺は冷蔵庫の中身がいつものアレであることを確認し、失意のまま束の間のオアシスを後にした。

コホンと咳払いをし、机を思い切りはたき、
「今日集まってもらったのはね――」
誰も聞いてなかったからってそこから言い直すな。
部屋中の人間の視線が彼女に集中する。ある者はまたか、と思い、ある者はやれやれ、と思った。

パイプ椅子に腰掛けなんだかよく分からん本(表紙には御米論と書いてある)を読んでいる不思議少女。
致死量クラスの毒物を平気で飲み干す天然少女。
法術で扇風機のスピードアップを図っても、余計疲れるだけだと最近気付いた俺。
そして満面の笑みをたたえ、今日もきっと下らない騒動を持ち込む予定の元気少女。

そう。ここは地の果て流されて俺。
世界を大いに盛り上げるための霧島佳乃の団、略してAIR団。その総本山であった。
………そこ、無理やりにも程があるとか突っ込まない。
209名無しさんだよもん:2006/06/20(火) 19:42:20 ID:kf+nx0J40
全ての始まりは今から少し前に遡る。
放浪大道芸人だった俺はこの田舎の町で3人の少女と出会った。
泊まる場所の無かった俺は少女達の家を転々とし(俺自身の名誉のために言っておくが、断じてヒモではない。色々と事情があるのだ)、
まあ、そこそこ仲良くなったといっていいだろう。

問題はそこからだった。少女達の中に、霧島佳乃という少女がいた。
少女は商店街の外れで診療所を営んでいる姉と二人暮しで、俺も時折診療所で掃除のバイトをしている。
ある日、俺は少女の姉こと霧島聖から彼女の妹の秘密を打ち明けられ、頼みごとをされた。
自分の妹である佳乃は所謂二重人格であり、佳乃が鬱状態になると危険な第二の人格が表に出てしまう。
妹本人は自分が二重人格であることは知らないのだが、公共の目があるところで裏の人格が出ては妹の将来に悪影響が出ることは確実。
故に君とその友人達で妹の“暇潰し”に付き合って欲しい、と。

事情を知った佳乃の友人、神尾観鈴と遠野美凪はこれを快く(美凪に関しては謎だが、少なくとも観鈴は喜んでいた)承諾し、
学校の片隅にあったプレハブ小屋を無断拝借し、AIR団は結成されたのだった。
俺が付き合うのは旅費が稼げるまで、と念を押したのだが、恐らく少女達(特に佳乃)は全く気に留めていない様子である。

さて、ここで一応メンバーの紹介をしておこう。他を知ることは円滑なコミュニケーションの第一歩である。
…但し、それは相手がまともな人間であることが前提である、ということに俺は最近になってようやく気付いた。

まずAIR団のブレーンにして参謀、遠野美凪。成績優秀眉目秀麗ついでに電波全開。時折学校の屋上で電波を受信している。
AIR団の活動拠点となっているプレハブ小屋は元々彼女が所属していた天文部のものであったのだが、佳乃が勝手に徴収してしまった。
遠野自身はそのことについて特に興味が無いようである。いいのかそれで。
210名無しさんだよもん:2006/06/20(火) 19:56:59 ID:kf+nx0J40
続いてAIR団ドジっ子担当、神尾観鈴。ちなみにこのブレーンだのドジっ子だのいう呼称は全て霧島佳乃によるものであり、
俺は一切関与していないことを前もって述べておく。
ガオだのニハハだのとよく分からない口癖を操る少女。
頭はあまり良いほうではないようだが、佳乃に言わせれば“だがそれがいい”だそうだ。
どろり何とかという怪しげな飲料を愛飲しており、小屋に設置された冷蔵庫内容物の7割はそれである。
俺がこの町で一番最初に世話になった少女でもある。
出会って間もない頃は少し抜けているが悪いやつではないという評価だったのだが、
ある日、俺は彼女から翼がどうだの夢の中の私はずっと閉じ込められてただのとある意味遠野真っ青の電波話を延々聞かされたせいで、
観鈴という少女は俺の中でなんというか非常に微妙なポジションに位置づけられることになり今に至る。

そしてAIR団団長にして俺の頭痛のタネこと霧島佳乃。
一言で言うなら奇人、変人、天然、傍若無人、ああ全然一言でなくなってしまった。
こいつに関しては色々と言葉を並べるよりもその行動を見ていただくほうがずっと早いだろう。

最後に俺こと国崎往人。放蕩大道芸人だ。法術も使えるぞ。
本来ならば俺は学校にとって全くの部外者であるのだが、
プレハブ小屋が学校の裏門近くにあるのをいいことに俺は毎日のように佳乃によって死地へと連行されている。
…これが屋上であっても平気で連行されそうなところが佳乃の恐ろしいところだ。

この物語は、霧島佳乃を中心とした美少女と美青年が田舎の町を舞台に…って誰が美少女だ、美青年だ。
勝手に人の日記を書き換えるな、佳乃っ!

―――つづく?