そうだ。
そうだ。
そうだ。
ボクが――普通の人間?眼だけが異常?
真逆。
眼だけ壊れるなんて器用な真似ができるもんか。
ボクはもう、とうの昔に壊れてる。
そう、翼人だって、コロシタ。
思考する間も腕を振るう。脚を動かす。
一ミリでも動いてさえいれば、生存の可能性は上がり危険のリスクは下がるボクは生き残れる生き残って狩りを続けられる――!!
ケダマの“線”をなぞり、ケダマを殺害、両断、分割、破棄。
驚愕に歪むネロの顔が可笑しくてたまらない。
ペットの躾がなってないのは――キミのほう、だったね。
次々繰り出されるケダマ、ケダマ、ウサギ、ケダマ、シカ、シカ、シカ、クマ、ケダマ、ケダマ、ウサギ、クマ、クマ、クマ――!!
遅すぎて欠伸が出る。遅すぎて眠くなってくる。遅すぎて――。
「嘘…! こんなことって…!」
「にはは、どっちを見てるのかな。佳乃りん?」
公園の端まで吹き飛ぶネロ。獣達の残骸に埋もれる。
形勢は逆転。されどまだネロの闘志消えず。
警告スル警告スル警戒セヨ警戒セヨ警戒セヨ…
やばい、面白いwww
138 :
鍵姫:2005/09/25(日) 17:49:09 ID:wLFOtaaaO
「はぁ、久々の外だ、もっとゆっくりしてこ」
ボクの口で、そう、誰かが告げる。
「おい、娘。今度は貴様自身でかかって来い。獣じゃ相手にならんよぉ」
トゲトゲしい口調といつもの語尾がなんともミスマッチである…。
「もう、知らないよ…?私、バンダナ、外しちゃうよ…?」
ネロ・カノスも、会話に答えているのだか、一人言を呟いているのだかわからない。
ミスズは相変わらず、にはは、と、スキを伺っているようだ…。
何ともアブノーマルな3人が集まったものである。
「そうだな、何かあるなら出しておくがいい、と思うよ。結果は同じだけどね」
おぉ、いつものボクなら思いつかないセリフだ。今度、祐一くんにイジメられたときに使ってみよう。
「お姉ちゃん、バンダナ、外しちゃうね」
ネロ・カノスの腕に巻かれていた黄色いバンダナが宙を舞い、ボクたちのいた公園は黄金の麦畑に変わっていく。
「あはははー!羽根の力と魔力開放したかのりんは世界一強いんだからー!君たちをかのりんのホンキの敗者さん1・2号に任命する!」
やれやれと溜め息をつき構えるボク。
「月宮あゆ、いざ参る」
聞き覚えのある名前を発し、敵前へと向かった。
反吐が出る。
今日まで、何度そう思っただろう。
だけど本当に――反吐が、出る。
煽るだけ煽っておいて、欠片も役に立たないミスズに。
手品紛いの芸当しかできない、ネロに。
自らの本当の在り方にさえ気付かない、ミナセ アユに。
麦畑を踏み締め、正面からネロの“死”を凝視る。
見える。視える。哀れな道化師の、死が――!
麦が舞う。黄金の麦が舞う。
その一つ一つが意志を持ち、ボクに迫る。
わざわざ“視る”必要すらない。無造作に腕を振るう。それだけで黄金は闇に溶けた。
本当、つまらない。
この――三下。
「ひっ…!」
ネロのカラダから湧き出す無数のケモノ。放つと同時にこちらに向かってくる道化師。遅い。遅すぎる。
人だと、舐めた?消されるなど、微塵も考えなかった?ボクを、障害だなんて認識すらしなかった?
……なんて、無様―――。
――まあ、いい。
その。恐怖に怯えた顔。理不尽に生命を踏みにじられる驚愕。足元の蟻に喉を食い破られる程の意外性。
ボクの乾きを、少しは、癒してくれた、ようだからね。
一閃。
―――極彩と散れ、道化。
すげぇ…
141 :
鍵姫:2005/09/25(日) 21:17:02 ID:wLFOtaaaO
「トドメだ!剛・腕・爆・砕、ブロうぐぅ〜ファント〜ム!!!」
意味不明な叫びと共にネロ・カノスの存在を、世界を破壊する。
ネロ・カノスは文字通り跡形もなくなり、光る羽根だけが残っていた。
今日は本当にたくさんのコトがあった。
昨日殺してしまった相手との出会い。
わけわからない黒いウサギに襲われる。
化け物対化け物に加勢するという無茶な約束。
ミスズオリジナルどろり濃厚フルーツミックス味。
地球外生命体と思われる毛玉。
そして、化け物並の強さを誇るらしいミスズが倒せなかった化け物を倒してしまった化け物以上のボクの知らないボク。
そして、ふと気が付く本来のボク。
体が寒い。今日はもう寝よう。おやすみなさい。
「えいっ!」
「うぐぅ!」
「このまま寝ると起きれなくなっちゃうよ。ミスズちん、親切、ぶいっ!」
「………」
「えいっ!えいっ!!」
「うぐぅ〜〜〜」
「本当に死んじゃうよ!」
「そんなにチョップされたら死因が変わるだけだよぉ」
「せめて傷だけでも治癒しないと!」
「そんなのできるわけないじゃないかぁ、ボクは普通の人間だよ!」
「じゃあ私がやっとくね。ミスズちん、やっぱり親切〜」
その声を聞いてから数秒後、ボクの目の前は真っ暗になった。
何処をどう歩いたのかさえ、記憶に無い。
次にボクが意識を取り戻したのは、吐瀉物の臭いがする、水瀬家のいつもの自室。
身を起こし、自分の姿を確認して―――吐き気がした。
ラクガキだらけの、からだ。
馬鹿な、馬鹿な、バカな!!
だってボクは今、眼鏡を――!
顔をまさぐる。
…かけて、いる。
改めて身体を見るが、そこにはボロボロになった一張羅を纏った貧相な身体があるだけ。
気の、せいか。思わず安堵の息が零れた。
真っ暗な部屋で、時計の音だけをBGMに、今日のことを振り返ってみる。
途端、ガクガクと脚が震え脂汗が噴出してきた。
なんだってんだ、一体。
ボクは、あのバケモノを、コロシタ。
それは小躍りする位嬉しいことじゃないのか。相手は人外。世間様に後ろ指指されることなくボクは乾きを潤せたんだ。
収まれ、鼓動。鎮まれ、身体。
階下から、豚の呼ぶ声が聞こえた。糞め。またあの豚どもと顔をつき合わせて食事を取ることを考えると、それだけで吐き気がしてくる。
こんなことなら――。
こんな、ことなら…?
刹那。あの無邪気な笑顔が、階段を下りるボクの脳裏をよぎった。
――なんだってんだ、本当。