ミスズの空、AIRの夏

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117鍵姫
「あゆさん、お久しぶりですっ!退院記念にヒトデをプレゼントしちゃいます!」
「今日のお昼に外でアイスでもいかがでしょうか?」
席に着くと早速、友達の伊吹風子ちゃんと美坂栞ちゃんが話かけてくれた。
「そういえば知っていますか?この街で起きている連続殺人事件のコト…」
「エェ!?知らなかったよ!最近退院の荷物整理とかで忙しかったから」
「何やら殺されちゃった人達はみんな、体中の血液がなくなってるらしいですよ!お昼のワイドショーでは『現代の吸血鬼』の話で持ちきりなんです」
「風子の楽しみにしていた番組も特番で潰されてしまいました!いい迷惑です!」
そんなこんな話をしていると授業開始のチャイムが鳴った。

そして久しぶりの授業だ。1限目の授業内容は世界史。担当は、たったひとつの誤字でテストを中止にしたことがあることで有名な、橘敬介先生である。
とても眠くなる授業を、ぼ〜っと聞いていると、案の定、当てられた。
「じゃあ水瀬、これを答えてみろ」
「はい、えぇと、うぐぅ、その…、まず……」
眠気のせいか、はたまた病み上がりのせいか、ボクは倒れそうになった。
「ん?まだ体が悪いのかい?事故のことは担任の先生からも聞いている。きつかったら早退していいからな」

せっかくの学校だが体が変なので、お言葉に甘えて今日はもう帰ることにしよう。
118名無しさんだよもん:2005/09/24(土) 16:08:41 ID:nCry6wne0
下らない。
過去を顧みることで得られるものなど、雀の涙もいいところだ。
――だからといって、未来に、なにがあるわけでもないのだけれど。

几帳面を絵に描いて顔に貼り付けたような能無しの授業など、真面目に聞いてられなかった。
病み上がりなのをいいことに早退した。“ご学友”が、私心配してます、といった表情でこちらを見ていた。
白痴顔をこっちに向けるな。
下らない。

昼前だと言うのに街は人で溢れかえっていた。
馬鹿みたいに声を張り上げるガキ。
下らないことで口論する男女。
ゴミタメに群がるゴミタメ。
何一つ、生み出さないくせに口ばかり達者なゲロども。
下らない。

オマエラナンテ、イッシュンデ、カイタイデキル。
ポケット越しに感じる硬い感触が、ボクの心を侵食していく。
眼鏡をずらせば。眼鏡を外せば。
あとはもう自動で全部やってくれる。
そんな気にさえなった。
―――本当に、下らない。

本当は、そんなこと、できはしないんでしょ?
――うるさい。
だってボクは、皆大好きなんだよ。
――だまれ。
秋子さんも、名雪さんも、栞ちゃんも、風子ちゃんも……祐一くんだっ
だまれ黙れだまれダマレダマレ!!!!!
だったら今直ぐ証明してやる!誰でもいい!バラバラにしてやる解体してやる血の海でのたうちまわらせてやる!!!
ほらそいつがいいあいつがいいどいつだっていっしょだだってみんなごみだげろだいらないやつらなんだぼくはえものをみつけこっそりあとをつけるのだった
119鍵姫:2005/09/24(土) 16:41:41 ID:cOQ5gcQiO
帰り道、何だか頭がもやもやする。自分の中にもう一人の知らない自分がいるような…。
って、こんなこと考えるなんてマンガの読み過ぎだね、きっと。
真っ直ぐ帰って秋子さんのお手伝いをしようっと。

秋子さんの手伝いの内容を考えながら歩いていると、一人の金髪の女性と擦れ違った。
擦れ違い際、ボクは急に胸が苦しくなってその場に座りこむ。
そして、その瞬間からコトが終わるまで、もう一人の自分に操られたかのように行動していた。

その金髪の女性を気付かれないように追い掛けて追い掛けて。
「月宮」と書かれたナイフをそっと取り出す。
晴子さんからもらった大切な眼鏡を外す。
ここは人気のない公園。
やるならいま。何を?殺るなら今!

コトが済んだ瞬間、金髪の女性は17つの肉片に変わり、ボクは元の怖がりの自分に戻り、生の死体を認識した同時に気絶してしまった。
120名無しさんだよもん:2005/09/24(土) 16:59:36 ID:nCry6wne0
「……おい、あゆ。さっきからどうしたんだ?」
―――気付けば、そこは。
「あゆちゃん、今日は学校早退したんだって?大丈夫だった?」
同情と憐れみと優越感が支配する何時もの日常。吐き気がする程に、平和だった。
赤と朱に染まったあの世界とここは、本当に繋がっているんだろうか?

大丈夫だよ、と曖昧に言葉を濁し、部屋へと退散を決め込む。
豚の作った食事を豚に混ざって食べることを、これ以上強制しないで欲しい。

扉を開ける。部屋に入る。扉を閉める。
電気もつけず、ベッドに転がる。
日中のことを思い出そうとしたが、よく思い出せなかった。
記憶にあるのは狂いそうな程に美しい、赤と金のコントラスト。
ポケットからナイフを取り出してみる。
血も、衣服も、皮も肉も髪の毛すら付着していない。
――結局のところ、あれは一体何だったのだろう。
思考を回転させるより早く、精神は深い眠りの闇に落ちていった。

翌日。
人気も疎らな交差点。学校までの距離は200メートル。
月宮あゆはそこで、再会と邂逅を同時に果たすこととなった。

「にはは」

その出会いは、突然。
だけどきっと、必然。
121鍵姫:2005/09/24(土) 17:43:49 ID:cOQ5gcQiO
ボクは逃げた。
何で?何でボクは逃げてるの?
何故って、夢であったと思っていた出来事が、実は現実だったって思ったから。
でも、現実だったらあの娘は何で生きてるの?
どこまでが夢でどこまでが現か。わからない…。

「ハァハァ…」
たいやきで培ったボクの速さには付いては
来れまい。
振りきり、成功。学校、遅刻だけど到着。
自分の席に着いて、一安心して、そして気付いた、お気に入りの羽根付きカバンがない…。
どうやら走っている間に落としたようだ。
うぐぅ…、最低の午前であった。

お昼休み――
「あゆさん、食べないんですか?アイス、溶けてしまいますよ」
「うん、今日は食欲がないみたい」
「まだムリしちゃダメですよ!風子がヒトデパワーを分けてあげます!」
そんな会話をしていると、見知らぬ先輩が声をかけてきた。
「よければご一緒してもいいですか?」
「何言ってるんですか、先輩なら大歓迎ですよ!」
アレ?2人ともこの先輩と仲良く話してる。ボクが入院している間にお友達になったのかな?
「あゆちゃんはどこかリクエストありますか?」
「え?どうして先輩、ボクの名前知ってるの?」
「ヒドいです!あゆちゃん!どうせ私はこのグループのお荷物ですよぉ〜!」
「うぐぅ、待って下さい、渚先輩!」
そうだった、古河渚先輩だった。どうして
忘れていたのだろう…。

とにかく、今日、今までは踏んだり蹴ったりの一日であった。
さて、心を新たにしてカバンを探しに行こう。
ボクは学校をあとにした。
122名無しさんだよもん:2005/09/24(土) 18:01:30 ID:nCry6wne0
最悪だ。最悪だ。
何時から最悪だ。
昨日、の午後からか。水瀬家に来た時からか。
――あの、女に、出会った時からか。

鞄を置き忘れた?
我ながら間抜け極まりないと思う。そこまで動転していたのだろうか。
あの事故以来、何事も冷静にこなしてきたと思っていた。
落とし穴なんて、何処にでもあるって、そう言っているのか?

…それもそうか。
自嘲する。
世界はこんなにもツギハギだらけ。
落とし穴だらけじゃないか。
そう考えたら少し冷静になれた。

落とした場所なら大体見当はつく。
どうせ、あの場所だ。
気味が悪い程無垢な笑顔を思い出してしまい、少しふらつく。
――これも、いい機会かもしれない。
狂ったのが世界か。自分か。
それを確かめるには。

ボクはポケットに手を突っ込み、金属の冷たい感触に暫し酔う。
よし、行こう。
昨日と同じ朱に染まる町の。
昨日とは違う、場所へ。
123鍵姫:2005/09/24(土) 18:35:56 ID:cOQ5gcQiO
「うぐぅ」
自分が今朝走り回ったであろう場所を隈無く探して見たが、一向に見つからない…。
日が暮れたし一回公園で休もう。
そういえばこんな探し物をしたのは、あの冬の日以来である。

公園のベンチに腰掛け、物想いにふけっていると、誰かから話し掛けられた。
「探し物ですか?」
「うん」
「もしかしてコレですか?」
顔を上げると、例の金髪の娘が立っていた。
どうやら今日のボクは変みたいだ。
「付いて来て」
ボクは人目の着かないところまで移動することにした…。

「あ、あの、どこまで行く気ですか?」
「人に会いそうもないところまで…。」
「何でですか?」
「一人で何もないところに話し掛けてたら気持ち悪いでしょ?
 で?幻覚がボクに何の用?」
「が、がお。人のこと殺しておいてひどい言い様…」
「…ち、違う…」
「違くなんかないよ。すっごく痛くて、ミスズちん、ぴんちっ、って感じだったけど、頑張って生き返ったんだから」
「い、生き返る人間なんて聞いたコトないよ!」
「だって、私、正確に言うと、もう、人間じゃないから」
「え?」
「私は翼人。翼を持つ人だよ」
訳がわからない。ボクはただ彼女の言うことを聞くことしかできなかった。
124名無しさんだよもん:2005/09/24(土) 19:39:53 ID:nCry6wne0
今日はつくづく厄日だ、なんて、呑気な考えしか浮かばなかった。
目の前にいる女が、昨日×した女だって?
でも生き返って、今目の前にいるって?
どうしてボクのバッグを持ってる?
どうしてボクに会いに来た?
どうしてボクを、そんな眼で見る?
大体おかしいじゃないか。
だってあれは幻。そうさ。赤も朱も金も、全部幻の筈じゃないか!!
でなきゃ駄目だ。でなきゃボクは人を――×したってことに、なる。

「それでね、私にもちょっと事情あって…」

―――あれ?
でもボクは、思ってた筈だ。
誰だって直ぐにカイタイできる。煩イ豚ハ一瞬デ挽キ肉ニシテヤル。
だったらナニを否定する必要がある?ボクは見事この女をカイタイした。幻なんかじゃなかった。
それで何処が間違ってる?
ああ、でもボクは本当はそんなこと、考えて、なかった、んじゃあ、ないの?

「これも、何かの縁だと思う。だから、手伝って欲しいな」
混乱するボクをよそに、女はひとりで話を進める。
そして、まるで友達を誘うかのように、こう告げた。

「―――を、殺すのを」

今日は、本当に、厄日だ。
125鍵姫:2005/09/24(土) 20:17:46 ID:cOQ5gcQiO
「カーカー」
カラスが鳴いている。そろそろ日が沈む頃合いか。
よし、ここはコレを機に…、
「リュック見つけてくれてありがとね。カラスが鳴くから帰りましょ〜」
「あっ。もう見つかっちゃった」
「へっ?」
意味不明な答えが返ってきて、ボクは思わず素頓狂な声を上げてしまった。
「見つかっちゃったって誰に?」
「ぷぎゅる。ぷぎゅる」
真っ黒いウサギさん、にしては少し大き目の動物がコチラを見ている。
「あっ、来るよ」
と、金髪の娘はドンッ、とボクを押した。

数瞬のコトでよくわからなかったが、ウサギさんがボクのいたところに体当たりして、ボクがいたところのドラム缶がぺちゃんこになった。
そしてウサギさんは壁に貼りつき、そこからボクに一直線に飛び掛かってきた。
そこを金髪の娘が仕留めてウサギさんは動かなくなった…。

「にはは、ミスズちんの勝利、ぶいっ」
ぶいっ、ではない。
「もうここらは危ないから行こう」
「行こうってどこに?」
「ん〜〜…、私の隠れ家!」
「でも、ボクはお腹ペコペコでお家帰りたいよ」
「ウチに来ればご馳走するよ、たいやき一緒に食べよ」
キュピーンと音が出る程目輝かせ、ボクはこの娘に付いて行くことにした。
これではどこかの旅人さんである。

「私はミスズェイド。呼びにくいからミスズって呼んで欲しい」
「ボクは水瀬あゆ、たいやき大好き女子高生だよ!」
126名無しさんだよもん:2005/09/24(土) 20:35:45 ID:nCry6wne0
夜の帳が下りた町を、女の後について歩く。
その後姿は笑える程に無防備。
だというのに、ボクは膝の震えが止まらなかった。
認めよう。まだ、ボクは何処かでこれが冗談だと、夢だと思っていた。

あの、力を見るまでは。
奇妙な生物の力。
――そして、この、バケモノのチカラ。
きっと今この瞬間にだって。
こいつにはできるんだ。ボクを、それこそ呼吸するみたいに、肉塊に変えてしまえるのだ。

どうやら女の根城に着いたらしい。
そこは在り来たりな高級マンション。
この女をカケラほども信用はしてはいなかったが、今更水瀬家に帰る気にもならなかった。
元よりあそこは自分の居場所ではない。
顔は笑っていても、心の底などこの闇よりも深いに違いないのだ。
ボクは黙ってマンションに入った。

階段を昇る間、これからのこと、そしてこれまでのことを整理しようとして、止めた。
腑に落ちない点など、挙げればキリは無かった。
この女、さっきボクに、たいやきを一緒に食べようと言った。
ボクは一言もたいやきが好物だ、などとこいつの前で口にしたことなど、ない。
この女が持つ異質なチカラ、それは単純な力だけではない、ということだ。
ひょっとしたら今この瞬間だって、ボクの心を読んでいるのかもしれない。

―ハ、いいさ。
読みたければ読めばいい。唖然とすればいい。
ボクの心が、どれだけ狂っているのか、知ればいい。
127鍵姫:2005/09/24(土) 21:26:27 ID:cOQ5gcQiO
たいやきを頂いてハッと我に返る。
知らない人に付いて来てしまった〜。
あれだけ秋子さんから言われてたのに〜。
そんな気持ちが顔に出たのか、ミスズが心配そうに声をかける。
「んと、どうしたのかな?」
「いや、別に」
さすがにたいやき頂いて、ハイサヨナラはできないだろう。

そういえばココに来てからミスズは何も食べていない。
これは不思議である。
「ところでミスズは食べないの?」
「私に普通の食事はあまり意味がないから…」
そうだ、ミスズは詳しくはわからないけど、翼人というモノだった。
「じゃあ何を食べてるの?」
「うんと、食べなくても大丈夫なんだけど、最近口にするのはコレだけかな」
ドスッ、と怪しげな音と共に机に置かれたのは高密度そうな紙パックであった。
「どろり濃厚フルーツミックス味、私のオリジナルだよ!」
人のこと言えないが世の中は不思議でいっぱいである。

128名無しさんだよもん:2005/09/24(土) 21:37:51 ID:nCry6wne0
勧められるままに、その奇妙な物体を手にとってしまった。
気付かぬうちにボクは、この女の術中にはまってしまっているのだろうか?
口をつけてみるが、全く中身が出てくる気配がない。
どうやらこの女は心の底から人を馬鹿にしているらしい。
床に叩きつけ、踏みにじった。
――本当、鬱陶しい。

床を拭きながら、女――ミスズは語る。
曰く、翼人は“殺せない”。
言われてみれば確かにそうだ。
ボクの記憶が確かならば、昨日あれほど完膚無きまでに“殺した”筈だ。
そう告げると、女は軽く首を振り、違うと答えた。

翼人はその存在自体がこの星の生命と直結しているだの、自分はその中でも特に高位の存在だの、
寝言を並べ立てて説明するところによると、どうやらこの女を“殺せた”のは、ボクが持つこの眼のせいらしい。
その気さえあれば、君は神さまだって殺せる、と女は言う。

そりゃあいい。
神さまなんて、どうせ碌なヤツじゃない。
ミナセアキコとミナセナユキとアイザワユウイチを足して濁らせてもまだ足りないくらいだろう。
もし今度町を歩いてるのを見かけたら、バラバラにしてやる、と言うと、ナニが可笑しいのかミスズは白痴のように笑った。
129鍵姫:2005/09/24(土) 22:06:37 ID:cOQ5gcQiO
「それじゃあそろそろ作戦会議タイム〜」
「何の?」
「えっ、だから今夜闘う敵との…」
「敵って?」
「あゆさん、路地裏にいたときの話覚えてる?」
「えと、たいやきのとこだけ」
「そんな、約束覚えてないの…?」
「どんな?」
「私と一緒に、今夜、ネロ・カノス闘ってくれるって」
「な、なんだってー!?(AAry
「私を殺した責任、とってくれるって約束したのに」
どうやらボクは目の前のたいやきに釣られてとんでもない約束をしてしまったらしい。
しかし、考えてみれば自分の撒いたタネである。
ミスズはボクにこんなによくしてくれているのに、ボクはミスズを…。
そうだ、ボクは自分が犯した罪を軽く見すぎていた!
「ミスズ何だかよくわからないけど約束は破らない。ボクにできるコトなら手伝うよ
 そして謝らせて。水瀬あゆは君を殺した。ボクは何よりそのコトを最初に謝らなければならなかったのに…」
「にはは、殺した相手に謝るなんて、変な殺し屋さん」
「うぐぅ!ボクは殺し屋さんじゃないよ!
 それにミスズだって変だよ!普通、自分を殺した相手なんかに協力を求めるなんてさ!」
「私を殺せたからこそ頼みたいんだよ」

そしてボクたちは、必勝!ネロ・カノス撃破マスター会議、を始めたのであった。
130名無しさんだよもん:2005/09/24(土) 23:04:15 ID:nCry6wne0
ボクはミスズと、もう何時間共に過ごしたのだろう。
不思議な感覚だった。
普段ならば、直ぐに感じる嫌悪感も、吐き気も無い。
いい意味で純真、ストレートに表現するのなら、馬鹿なのだろう、このミスズという女は。
そうでなければ、不意打ちとはいえ一度殺された相手にこうも心を開きはしないだろう。
――まあ。
それだって、ミスズが怪しげな術を使った結果なのかもしれないけれど。
いいさ。
久しぶりにあの頃の――幼かった頃の気持ちで過ごせたのだから。

――あれ、どうして、だろう。
その感覚は覚えているのに、具体的なコトは何も覚えていない、なんて。
思い出せるのは、暖かな気持ち。
そして、あの――ユウイチクンの、うつろな、メ。

忘れよう。忘れてしまえ。
「…ってことで、どうかな。ミスズちん、凄い」
ニハハ、と。
癇に障る笑い声で我に返った。
作戦会議、と言ってもボクは相手のことなんて全く知らない。
実際のところは、ミスズの指示を仰いでボクが切り込む、その確認作業みたいなものだ。

不思議と恐怖感は無かった。
最上級の恐怖など、きっとずっと昔に経験したから。
だから、寧ろ。
ボクは―――興奮、していた。
131鍵姫:2005/09/24(土) 23:46:06 ID:cOQ5gcQiO
まず、ミスズが先に出る。
そのあと、ボクはその30分後にミスズの隠れ家を出発する。
場所はボクとミスズが初めて出会った公園。
ミスズはベンチに。
ボクは茂みに。
ここまでは作戦通り。あとは敵が現れる待つのみだ。

ところで敵はどんな奴なんだろうか?
しまった、肝心なところを聞き逃がした。
さっきの作戦会議といい、自分の世界にトリップするなんてまるで風子ちゃんみたいだ。

辺りの空気が変わった。
ボクは眼鏡を外した。
ふと、ミスズを見ると彼女の前に一人の少女が立っている。

「お待たせだよ〜、翼人の末裔さん」
「にはは、私も今来たとこだよ、ネロ・カノス。それとも霧島佳乃と言った方がいいのかな?」
な、なんか想像してたのと違って拍子抜けだ。
ミスズはミスズで楽しそうに会話してるし…。
けれど、殺るなら今だろう。
敵はミスズしか見ていない。
ボクはナイフを取り出し、ネロ・カノスへ走り出した!
132名無しさんだよもん:2005/09/25(日) 00:25:49 ID:gQwWcym60
「あっれぇ〜? ミスズちん、なんだかヘンなの飼ってるんだね!でも…」
眼前に迫るのは、絶望。確実な、死。
「躾が、なってないよ?」

黒いケダマが、嘘みたいなスピードで突っこんできた。
不意打ちも何もあったもんじゃない。

浮かれてた浮かれてた浮かれてた!!
ミスズを×せたからって浮かれてた!!!
もっとよく考えればよかった。ミスズからして、死んでも生き返るバケモノじゃないか!!
ボクが普通じゃないのはこの眼だけだ!あとはただの人間じゃないか!!!
やりあえる筈ない勝てる筈ない!!

昏くなっていく、セカイ。
重くなっていく、カラダ。
血溜りでのたうつのは、結局――。

「あっけないの〜っ! もう、壊れちゃった」
痛みなんてない。
でも、ボクはもう、死んだ。

―――――――死んだ?

誰が?ボクが?
冗談、じゃない。
冗談じゃない、冗談じゃない冗談じゃない!!
ボクは、“もう死んでいる”んだ。
二度死ぬなんて、有得ない――!!
133鍵姫:2005/09/25(日) 00:54:50 ID:wLFOtaaaO
「あゆさん!」
ミスズの叫び声も夢心地だ。
周りの毛玉達にボクはゆっくり侵蝕されている。
栞ちゃんが言ってた、奇跡って起きないから奇跡って言うんです、ってホントだなと感じた。

向こうでミスズとネロ・カノスが闘っているようだ。
「わー!わー!セミ怖い!」
どうやらミスズの方がピンチのようだ。

ここでボクの意識は途切れた。
しかし体は動いている。
誰だろう?ボクを動かしているのは?
次の瞬間、ボクを喰らってた毛玉達は吹っ飛ばされた。ボクの意思とは関係なく動く体によって。