前回までのあらすじ
心労と空腹で倒れる寸前アイスにありついた貴明は、ようやく一息ついて考える余裕を得た。店で偶然会ったちゃると
よっちにこのみをまかせ、考え事を始める貴明。
そのとき、突然ちゃるがこのみを連れて席を立った。残ったよっちは、貴明にこのみと何かあったのかと尋ねてきた。
よっちに向けて今日一日のことを話し出す貴明。話しながら貴明は、自分がシンプルな問題を難しく考えていたのだと
いうことに気が付く。
雄二の朝の言葉、それはひとりだけ幼なじみの関係に片足を残している優柔不断な貴明への叱咤だったのだ。
――今度こそちゃんと、このみの恋人になろう。貴明はついに決心した。
「今夜このみを――俺だけのものにする」
今夜、このみを、俺だけのものに。
――言ってしまってから、自分がかなり過激な発言をしたのだということに気が付いた。
しかも、このみと同い年の女の子の前で。
見るとよっちは頬をまっ赤に染めてこっちを見つめていて、俺の視線に気が付くと
「ふ、ふおおおおお〜〜〜……」
――と奇妙な声をあげながら、両頬を手のひらで挟むように隠してうつむいてしまった。
「あ、ご、ごめん」
思わず謝ってしまった。すこし遠回しな表現ではあったけど俺がなにをしようとしているかは明らかなわけで、そう考
えるといくら話を聞いてくれていたとしても年下の女の子相手にすべき発言じゃなかったかもしれない。
「その……気にしないで。って言っても、無理か……」
「……無理ッス」
「……ごめん」
気まずい、というより酸欠になりそうな沈黙がまた落ちた。
俺ってどうしていつもこんなんなんだろう、とか軽い自己嫌悪に陥り始めていると、パンパン! という気合いの入っ
た音が正面で起きた。
「――ッ! よしっ、もう大丈夫ッスよ、センパイ!」
よほど強く叩いたのだろう、頬はさっきよりも赤くなっていて、目にはうっすらと涙まで浮かんでいる。
また謝ってしまいそうになったけれど、俺は思い直して感謝の言葉を口にした。
「ありがとう、よっち。おかげで自分の気持ちをまとめることが出来たよ」
「それはセンパイの力ッス。あたしはただ聞いてただけッスから」
「うん、でも、きっとよっちが聞いてくれなかったら今でも腹をくくれずにうじうじ迷ってた気がする」
「へへ〜……そう言ってもらえるとうれしいッス。でも――そうかぁ……センパイとこのみが、ついに結ばれる時が来た
んスねぇ……」
どこか遠い目をしてそうつぶやくよっちの言葉に、今度は俺が赤面する番だった。
「む、結ばれるって……まあ、そうだけど……」
「あたしらのなかで一番成長が遅いと思ってたこのみが、先に大人の階段を登っていく……嬉しいような、さみしいよう
な……」
ため息なんかひとつついて物憂げにそうつぶやいたよっちは、直後、かっと目を見開いて俺の方に向き直った。
「センパイ!」
「は、はいっ」
その勢いに反射的に敬語で返事してしまう。
何事だろう、目がやけに真剣だけれど――と思っていると、よっちは親指と人差し指で輪を作り洒落のない声音で尋ね
てきた。
「センパイ……ちゃんとコレ、準備してるッスか」
「コレ?」
「だ、か、ら! 『コレ』ッス! 男のエチケットッスよ」
ひそめた声で突き出されるOKマーク。俺は反射的に同じ形に自分の指を動かし――そこで気が付いた。
丸い男のエチケット。超極薄で使用感なし。愛し合うふたりのために。ストップ・ザ・エイズ……
「な、なな、なななななな!」
「センパイが照れないで欲しいッス、あたしが一番恥ずかしいんスから!」
「そそそ、そりゃそう、だけど」
我ながら情けないとは思うけれど、今夜のことをそこまで具体的に追求されるとどうしたって普通じゃいられない。
俺のうろたえる姿に、よっちは「さては……」と軽く睨んできた。
「センパイ――もしかして『初めては着けずに』とか思ってなかったッスか?」
「そんなこと……」
思ってない、というより、着けるとか着けないとかそういう選択肢すら思いついてなかった。
「その顔は、考えてなかった、って顔ッスね……」
あきれ顔のよっち。またしても内心を見透かされた俺は、小さくなって頷くしかなかった。もしかして俺の考えてるこ
とはどこかに字幕で表示されてたりするんじゃないだろうか。
「セ・ン・パ・イ? 聞いてるッスか?!」
「聞いてる聞いてる聞いてます」
「大事なことなんスからね? ……でも、本当に気が付いて良かったッスよ〜」
これまでで最大級のため息は、まるで間一髪で交通事故を回避したような大きさだった。ちらりと横目でこのみとちゃ
るの二人を確認し、よっちはすこし眉をひそめた顔で俺に警告する。
「いいッスか、センパイ? 今持ってないんなら、帰りにでも帰ってからでも、どうにかして準備しなきゃダメッス。逆
に言うなら、準備できなかったら今夜は諦めるべきッス。これはもう、絶対絶対絶対ッスからね!」
「あ、う、うん」
勢いに押されて思わず頷く。
そんな俺のリアクションがまだなにか不満なのか、よっちはすこし怖い目で俺を見て言う。
「そんなおおげさな、なんて思ってないッスよね? センパイ」
俺が首をぷるぷると振ると、よっちはようやく目に込めていた力を抜いてくれた。
「――ごめんなさい、センパイ。こんなことで騒いで、はしたない女だって思ってくれていいッス。……でもセンパイ、
約束ッス。このみのこと、大切に思うのなら、絶対ッスよ」
まっすぐに俺の目を見つめながらそう語る今のよっちには、俺を睨みつけていたさっきまでの勢いは無いかわりになに
か静かな迫力のようなものがあって、舞い上がっていた俺の気持ちをあっというまに鎮めてくれた。
「うん、約束する」
自然と、厳粛な声になった。
「絶対、このみを泣かせたり、不安にさせたりしない」
「――合格ッス」
にこ、とよっちは笑った。このみやちゃるたちと話しているときに見せるような弾けるような笑顔じゃなくて、それは
穏やかで深い、どこか大人びた微笑み方だと思った。
「それにしても……」
よっちは一瞬でよっちらしさを取り戻し、頭の後ろで腕を組んで椅子の背もたれに大きく寄りかかりながらぼやいた。
「ちゃるとこのみ、一体なにをあんなに盛り上がってるんスかねぇ」
「それは俺も気になる」
俺はテーブルの上に頬杖をつきながら、よっちと同じ方を見る。街路樹の影で、いまだあの二人はしゃべり続けている。
ちゃるがなにか一言二言しゃべると、それにこのみが怪しげな身振り手振り付きの解説を加える、という感じで話が続い
ているようだ。
まったく、一体なにを話しているのやら。
「……センパイ」
ぼーっとそちらを見つめていると、目の前のよっちからぽつりと名前を呼ばれた。
「ん? なに? よっち」
頬杖のまま目だけ動かしてよっちの方を見ると、よっちは一瞬俺の目を見つめ、それから軽く目を瞑り――
「このみのこと、幸せにしてやってくださいね」
と、笑った。
俺も、自然と笑顔になった。
「うん。……でも、こういうのってなんだか結婚式の前みたいだよな」
「似たようなもんッスよ」
「そうかな」
「そうッス!」
ふふ、と笑い出したのはどちらからだったのか。
それからしばらく、俺とよっちはくすくすと笑い続けた。20分前まであんなに悩んでたのが嘘のように、それは心穏や
かで屈託のない笑いだった。
遠く近くで蝉が鳴く、暑い夏の午後はこんな風に過ぎていった。
その後まもなくこのみとちゃるが戻ってきて、お別れとなった。
「このあと塾なんスよ」
とよっちは言ったが、俺たちに気を遣ってくれたのは明らかだった。俺は目配せだけで礼を言い、このみと一緒にさよな
らを言った。
「ちょっと遅くなっちゃったね、タカくん」
公園の時計塔を見上げてこのみが言う。
「遅いったって、まだ5時だよ。全然大丈夫だろ」
「でもでも、これからお買い物して、お料理して――って考えると、あんまり余裕無いよ」
そういえば、帰りに買い物を一緒にするって約束してたっけ。
その時にアレを買う……のは無理だな。このみに気づかれるとか以前に、学生服で、しかも顔見知りの多いスーパーでそ
んなもん買ったらあっという間に街の噂になってしまう。
なにか適当な理由を付けて、こっそり後から買いに行くしかないだろう。
「そういえば、ちゃるとふたりで随分長話してたけど、何を話してたの」
「あ、うん。それがね――」
話しながら、自然とこのみは手を繋いできた。
……大丈夫。
もう、取り乱したりしない。
俺はその小さな手を、優しく、でもしっかりと掴んだ。
結局、ちゃるとこのみがどんな会話をしていたのかは――
「あれ? えと、それでちゃるが夜に学校に行ったら宇宙人がいて? あれ?」
「それ、さっきも聞いたぞ」
「う〜〜っ、何の話してたのか思い出せないでありますよ〜〜っ」
――謎のまま終わってしまったのだけど。
※9に続く※
というわけで、8をお届けします。
いつもながら、急かしてくださったみなさんに感謝します。
前の後書きでお話作りをジェットコースターに例えましたが、どうやらこの
てんだ〜は〜とも山を越えたようです。あとはもう、予定しているラストまで
速度を上げて突き進むだけです
私の筆の方まで加速してくれれば、言うことないんですけどね(^^;)
最近、投稿SSが多くて嬉しいです。
PC版が出る前に、できるだけたくさん二次創作の土台を造っておきたい
ものですね。
私もがんばろう。
ではでは、近いうちに9でお会いしましょう!
>448
乙でござる
451 :
だよもん:2005/07/11(月) 01:13:24 ID:319w42eu0
乙津
続きが楽しみなのと共にもうすぐこの物語が終わってしまうことに寂しさも覚える
うどんげ様!?
GJでごわストロベリー。
続きをツンと一緒に楽しみにしているでごわスマッシュ。
455 :
急かし係 河野貴明:2005/07/11(月) 20:11:25 ID:Uxk7ao8P0
何故か、このみよりよっちが気になる…PC版ではよっちをヒロインに!
なんて思ってる俺です。
お前の言ってることは宇宙の法則級に正しい。
しかしsageてない!
本当にいまさらだが何でTo Heart2ssのスレなのに
名無しさんだよもんなんだろう…
だよもんって鍵のキャラだよね
458 :
急かし係 河野貴明:2005/07/11(月) 20:14:15 ID:Uxk7ao8P0
次回、このみと急接近なるのか…?
ってなわけで…
てんだ〜は〜と、期待してますっ!!
中学生かい
460 :
急かし係 河野貴明:2005/07/11(月) 20:45:38 ID:Uxk7ao8P0
中学生っぽくてすんません…
それと、俺はしりとりを6時間も続けた…
そんな伝説を持つような暇人です…
お前の事なんかどうでもいいよ
462 :
急かし係 河野貴明:2005/07/11(月) 20:54:46 ID:Uxk7ao8P0
御意
>>457 たしかにここはToheart2SSスレだが
それ以前にleaf,key掲示板だからなのではなかろうか。
個人的には「うー」でいいと思うのだけど。
あと急かし係りさんはメール欄にsageって打ち込んで書き込み
しよう! キミなら出来る!
464 :
急かし係 河野貴明:2005/07/11(月) 21:42:56 ID:Uxk7ao8P0
了解しますた
あれ?
あ、大丈夫でした
変なのがわいてるな
よし、じゃあ次はコテハンをやめるんだ。
あとスレの容量を無駄に削るな。
ていうか二度と来るな
”あの事件”に関わらなかったこのみと雄二は俺たちの気まずい雰囲気に疑問を抱き、雄二は、俺が
タマ姉たちの風呂を覗いたせいだと推理した。それはタマ姉たちにとっては都合のいい解釈だったの
だろう。タマ姉たちによって雄二の推理は真実とされ、俺は覗き魔のレッテルを貼られてしまった。
土曜日の放課後、学校の屋上で俺が一人であれこれ考えていたところに草壁さんが現れる。彼女はタマ
姉たちと俺の関係を疑り、追求してきた。思わず目をそらした俺が見たものは、なんと飛び降り自殺しよ
うとしている瑠璃ちゃんだった! 俺はとっさの機転で瑠璃ちゃんの自殺を阻止するが、瑠璃ちゃんは
理由を話さず、ただ俺の胸で泣くのみだった。
「で、どういうことなの、タカ坊」
「で、どういうことなんですか、貴明さん」
俺と瑠璃ちゃんと草壁さんは今、俺の家の居間にいる。タマ姉もいる。
あの後、泣きやんだ瑠璃ちゃんを家に送ろうとした俺と草壁さんだったが、瑠璃ちゃんは家には帰れ
ないと拒否した。理由は相変わらず教えてくれない。
このまま放っておくわけにも行かず、俺は瑠璃ちゃんを一旦俺の家まで連れて行くことにした。瑠璃
ちゃんもそれを拒否することはなかった。
だがそこで、草壁さんが「私も一緒に行きます」と言いだした。家の同居人たちのことを知られたく
ない俺はやんわりと断ったのだが、草壁さんは普段からは思いも寄らない頑固さで、「ここまで関わった
以上は、私もお供します!」と言って聞かなかった。仕方が無く俺は、草壁さん共々瑠璃ちゃんを家に
連れてきた、というわけだ。
「で、どういうことなの、タカ坊」
そう繰り返し尋ねるタマ姉。どういうこととは、瑠璃ちゃんと草壁さんを家に連れてきたことだろう。
「で、どういうことなんですか、貴明さん」
そう繰り返し尋ねる草壁さん。どういうこととは、タマ姉が何故俺の家にいるかということだろう。
どちらにせよ、ここで下手な言い訳をしても始まらない。俺は腹を括ることにした。
ドカッとやや乱暴にソファーに座る。そして俺はまず草壁さんに、タマ姉、それに由真たちが俺の家に
来た経緯について話した。
「はぁ、そ、そうだったんですか……」
草壁さんは俺の話を聞いて呆然としている。まあ確かに今の俺の家は異常だ。その反応も当然だよな。
だけど草壁さんへの対応は、真実を話したということでそこまで。
それから今度はタマ姉に、瑠璃ちゃんの自殺未遂について話した。
「そう、そんなことがあったの……」
俺の話を聞きタマ姉は、居間の床に力無く座り込んでいる瑠璃ちゃんを心配そうに見つめた。
「で、どうする気なの、タカ坊?」
「とりあえず今日一晩は、このまま瑠璃ちゃんを家に泊めようと思う。それでいいよね、瑠璃ちゃん。
但し、珊瑚ちゃんには電話するよ。珊瑚ちゃんもイルファさんもきっと心配してるだろうから」
「……うん、貴明の好きにして」
投げやり気味にそう答える瑠璃ちゃん。
「あの……、やはりお家に帰してあげた方がいいのではないでしょうか?
ご家族の方も、その方が安心されると思うのですが……」
瑠璃ちゃんたちの家族構成を知らない草壁さんは、瑠璃ちゃんのご両親が心配しているのではと思い、
そう言ったのだろう。草壁さんには悪いが、今はそのことにあまり触れるべきではないと思う。
「うーん、草壁さんの言うことももっともなんだけど、やっぱ一晩ここに泊めるよ」
「そ、そうですか……」
そう言ってため息をつく草壁さん。なんだか草壁さんを蚊帳の外に追いやった感じになってしまった。
「心配してくれてありがとうな、草壁さん。
あとさ草壁さん、今日はこんな事になっちゃったけど、もしよかったらまた俺の家に来てよ。俺の家、
今、結構個性的なメンツが集まっているからさ、草壁さんもきっと楽しいと思うよ」
「その言い方だとまるで私たち、動物園の動物みたいね」
ぎゅ〜〜〜っ!
「あいひゃひゃひゃひゃ! た、タマ姉ごめんなさい!」
「でも、ま、確かに個性的な集まりだわね。草壁さんでしたっけ? よかったらタカ坊の言うとおり、
遠慮なく遊びに来てね」
俺のほっぺたをつねったまま、タマ姉は笑顔で草壁さんにそう言った。
「は、はい……」
苦笑しつつそう応える草壁さんだった。
瑠璃ちゃんに言ったとおり、俺は珊瑚ちゃんの家に電話をかけた。珊瑚ちゃんもイルファさんも心配
しているに違いない。一刻も早く、無事を伝えないと。
『はい、姫百合です』
イルファさんの声だ。その声から、イルファさんが動揺しているのが解る。
「あ、イルファさん? 貴明です」
『貴明さん!? もしかして……』
「うん。瑠璃ちゃん今、俺の家にいるよ」
『そうですか! では早速お迎えに……』
「いや、ちょっと待って」
俺はイルファさんに、瑠璃ちゃんが家に帰るのを拒否していることを伝えた。だが自殺未遂については、
あまりにショッキングな出来事なので、敢えて伏せておいた。
『そう、ですか……。やっぱり、私のせいで……。
あの、貴明さん、でしたら瑠璃様にこうお伝え下さい。イルファは、研究所に戻りますって……』
『いっちゃん、あかん!』
電話越しに珊瑚ちゃんの声が聞こえた。もしかして、瑠璃ちゃんがああなった理由は、イルファさんが
何か関係しているのだろうか?
イルファさんは珊瑚ちゃんが作った、心を持っているアンドロイドだ。珊瑚ちゃんはイルファさんを、
瑠璃ちゃんのために作った「友だち」だと言っていた。でもそのイルファさんが、瑠璃ちゃんをあそこ
まで追い込んだとでも言うのか? そんなの考えられない。
ひとまず俺は、珊瑚ちゃんと話がしたいと思った。
「イルファさん、珊瑚ちゃんに代わってくれる?」
『あ。はい……』
『もしもし、貴明?』
「珊瑚ちゃん? ……あのさ、もしよかったら、だけど、何が起きたのか教えてくれないか?」
『……』
少しの沈黙。そして、
『いっちゃんな、一日も早う瑠璃ちゃんに気に入ってもらえるよう、頑張って料理とか洗濯とかしてん。
だけどな、いっちゃんがどんだけ頑張っても、瑠璃ちゃん機嫌悪うなるばかりやった。
そんでな、今日のお昼、瑠璃ちゃんがご飯作ろうとしたんや。で、いっちゃんがそれを手伝おうとした
ら、瑠璃ちゃん突然怒ったんや。『ウチの仕事を取るな! ウチからさんちゃんを取るな!』って。
ウチ、誤解を解きたかったから、いっちゃんをかばったんや。そしたら瑠璃ちゃん泣き出して、ウチに
……こう言ったんや。『さんちゃんなんか嫌い! さんちゃんなんか死んじゃえ!』って。
そんで瑠璃ちゃん、家を飛び出して行ったんや……』
瑠璃ちゃんの「死んじゃえ!」が余程ショックだったのだろう。電話越しでも俺は、珊瑚ちゃんが今、
涙を流していることが痛いほどに解った。
そうか、そんなことがあったのか。瑠璃ちゃんは世界で一番珊瑚ちゃんが、珊瑚ちゃんだけが好きだと
言っていた。その珊瑚ちゃんが瑠璃ちゃんのためにと造ったイルファさん。だけど瑠璃ちゃんにとっては、
イルファさんも俺と同じ存在――『敵』でしかなかったんだ。そして、そんな『敵』をかばった珊瑚ちゃん
に瑠璃ちゃんは怒りを覚え、思わず『嫌い! 死んじゃえ!』と叫んでしまった……。
そして後になり瑠璃ちゃんは、大好きな珊瑚ちゃんにそんな言葉を吐いた自分が許せなくなった。
瑠璃ちゃんがあんなことをしたのはそれが理由だったんだ。
俺は、この二人、いや、イルファさんも含めて三人に、一体何をしてあげられるだろうか?
……でも、そんな事がすぐに思いつくほど、俺は賢くはない。ホント、頼りにならない駄目な男だ。
だから今は、ひとまず時間を稼ごう、考える時間を。
「珊瑚ちゃんゴメンな、辛いこと話させて。
とりあえず今日は、瑠璃ちゃんも珊瑚ちゃんに会いにくいみたいだから、俺の家であずかるよ。だから
心配しないで。それから、イルファさんを研究所に帰さないよう、何とか説得してくれないか? 多分、
いや絶対、今度の件はイルファさんが悪いわけじゃないから。
そうだな、明日、お昼頃に俺の家に二人で来てくれないか? そこでどうしたらいいか、みんなで一緒に
考えようよ。ね、珊瑚ちゃん」
『貴明……、うん、わかった。ホンマにありがとうな、貴明。
いっちゃんのことは任せて。ウチ、頑張って説得する。せやから貴明、瑠璃ちゃんのことお願いな』
「ああ、任せとけ」
「……聞いちゃったんやね。ウチらのこと」
珊瑚ちゃんとの電話を終えた俺の側には、いつの間にか瑠璃ちゃんがいた。
「ああ」
俺はそうとだけしか言わなかった。今は多分、俺が何を言っても、瑠璃ちゃんには自分を責める言葉に
しか受け取れないだろう。
「とりあえずさ、今日は俺の家でゆっくりしていきなよ。それから明日、珊瑚ちゃんとイルファさんに
会って、話し合おうよ、な?」
「……うん」
「それからさ、さっき言ってた同居人についてだけど」
俺はそこで一旦言葉を切り、そして、いつの間にか少し開いた廊下への扉へと向かい、そして、
「そこの盗み聞き連中!!」
扉の向こうにそう怒鳴った。
ばたばたどたーん!!
何やら複数の人の倒れる音がした。俺が扉を開けると、そこには由真、るーこ、花梨、それにこのみ
が、折り重なるように床に倒れていた。
「まったく、これじゃ覗き魔の俺と大して変わらないじゃないか」
「だ、だってタカくん、また新しい女の子、二人も連れてきたって笹森さんが言うから……」
「わ、私のせいにするなんてズルイよこのみちゃん! 私は現状を伝えただけで、盗み聞きに行こうって
言ったのはるーこなんよ!」
「るーは確認の必要があるかもしれないと言っただけだぞ。最初に盗み聞きし始めたのはうーゆまだ」
「げっ!? あたしのせいにするつもり!? あんたらだって聞いたんだから共犯でしょ!」
「ああもう、いいからいいから」
見苦しい責任転嫁を繰り広げる四人を制して、俺は呆然とする瑠璃ちゃんに彼女たちを紹介する。
「このみには以前会ったことあるよね? 後の三人とは初対面だよね。
紹介するよ。こいつは由真、家出娘。こっちはるーこ、自称宇宙人。そしてそんなるーこの謎を解こう
としているのが、この笹森さん。この三人とタマ姉が今、俺の家に住んでいるんだ」
「……ど、ど〜も〜」
気まずそうに挨拶する由真たちであった。
「それじゃあ、私はこれで失礼します」
夕暮れ時、家に帰る草壁さんを玄関まで送る。
「今日はなんだかゴメンな、変なことに巻き込んで」
「貴明さんのせいじゃありませんし、私、別に嫌じゃなかったですよ。むしろ、貴明さんのことを知る
ことが出来て、よかったです。あ、こんなこと言うと、瑠璃さんに悪いですね……。
貴明さん、私が頼むのもおかしいですけど、瑠璃さんのこと、お願いしますね」
「ああ、俺が出来る限りのことをするつもりだよ」
「はい、頑張ってくださいね。それから貴明さん、私、ここに”来ても”構いませんよね?」
「ん? ああ、いいよ。また来てよ」
「わかりました。それじゃあまたね、貴明さん」
含みのある言葉を残して草壁さんは帰ったが、その時の俺は瑠璃ちゃんのことで頭が一杯で、そんな
ことには気が回っていなかった。
草壁さんが帰り、居間に戻るとみんながいた。どうも何かを相談していた様子だ。
「何、どうかした?」
「たかあき、瑠璃ちゃんを泊めるのは構わないけどさ、部屋、どうするつもり?」
確かにそれは考える必要がある。俺の両親の部屋はタマ姉と由真が使っているし、空き部屋にはるーこ
と花梨がいる。どちらの部屋ももう一人入れられないことはないのだが、それではちょっと狭い。
唯一、今のところ一人しかいない部屋がある。俺の部屋だ。
「まさかたかちゃん、自分の部屋に瑠璃ちゃんを泊めるつもりじゃないよね!?」
それに気づき、花梨が釘を刺す。
「いや、さすがにそれはまずいから……」
どうしたものかと俺が悩んでいると、
「だったら、私がタカ坊の部屋に移るから、瑠璃ちゃんは由真さんと同じ部屋で泊まってもらいましょ」
そう提案、いや決定したのはタマ姉だった、って、えええっ!?
「駄目ですよ環さん! 昨日のたかあきを忘れたんですか!? 同じ部屋で寝たら何されるか……」
「大丈夫。自分の身は自分で守れるわ。私が強いの、由真さんだって知ってるでしょ?
それに、そうなったらなったで、タカ坊に責任取ってもらうから構わないわよ」
「せ、責任って環さん!?」
「ふふっ、冗談よ。まあとにかく、今晩はそういうことで」
一度こうと決めたタマ姉を止められる者は、この場には誰もいなかった。いや、”この世界には”
かもしれない。
瑠璃ちゃんを加えての夕食。しかし瑠璃ちゃんは、全く何も食べようとしない。
俺やタマ姉が色々とすすめるのだが、結局瑠璃ちゃんは、何も食べなかった。
就寝時。俺の部屋にはさっき決めたとおり、タマ姉が布団で寝ている。
いつもの俺なら、タマ姉が気になって仕方がないだろう。それこそ、由真が危惧する”何か”をして
しまうかも。
でも、今の俺は別の理由で眠れない。理由はもちろん、瑠璃ちゃんのことだ。
夕食が終わってからずっと、俺は考えていた。自分に何が出来るだろう。明日の昼までに、俺は何か
名案が浮かぶのだろうか? 一体、どうしたらいいんだろう……
「タカ坊」
タマ姉の声で我に返る。
「瑠璃ちゃんのこと、考えていたのね」
「うん……。でも、どうしたらいいか全然わかんなくてなぁ」
「無理もないわ。タカ坊は瑠璃ちゃん本人じゃないんだから。まあ、せいぜい悩みなさい」
「何だよそれ、人が真剣に悩んでいるのに、タマ姉ちょっと冷たいぞ」
「何でも私が相談に乗ると思ったら大間違いよ。今回の件はタカ坊自身で何とかしなさい」
突き放すようなタマ姉の言葉。でも何故か、優しさを感じる言葉だった。
夜中。喉が乾いた俺が廊下に出ると、由真たちの部屋から、由真と瑠璃ちゃんの話し声が聞こえた。
盗み聞きはよくないと思いつつも俺は、耳を澄まさずにはいられなかった。
「……あんた、貴明のこと、好きなん?」
「はぁ? べ、別に好きなんかじゃないわよ。
こ、ここにいるのは、まあちょっと、家族とケンカして、家出しちゃって、その、他に行くトコが……
って、べ、別に他に行くトコが無かったワケじゃないのよ! た、ただ、たかあきの家、一人暮らしで
部屋が余ってそうだったから……」
「でも、だからって貴明の家に来るのはおかしいと思うよ。貴明にHぃことされるかもわからんし……」
「ま、まあ確かにそういう危険はあるわね。現に昨日だって……
で、でもね、身を守る自信はあるのよ! いざとなったら殴ってでも蹴ってでも……」
「……せやね。ウチもそうしてる。貴明がさんちゃんにHぃことせんよう、ウチが守ってるんや」
「へぇ、そうなんだ……。
ってもしかしてたかあき、『さんちゃん』とか言うあんたの家族にまで手を出してるワケ?」
「そうや。貴明のスケベ、さんちゃんが気ぃ許してるからって、すぐさんちゃんにHぃことしようとする
んや。せやからウチが貴明のアホからさんちゃんのこと守ってるねん。でも……」
「……なんか、さ。あたしたち、似てるかもね」
「え?」
「ホラ、家族とケンカして家出してきたことと言い、たかあきが嫌いなことと言い、それにあんたの話を
聞いていると、何だかあたしたちって性格的にも似ている気がする。そう思わない?」
「そ、そうやろか……?」
「そうだよ。それにさ、あんたもあたしもたかあきの敵。だったら『敵の敵は味方』ってね。
改めて、あたしは由真。由真って呼んでいいよ」
「う、ウチ……瑠璃」
へぇ、由真と瑠璃ちゃん、うち解けたみたいだな。ちょっと意外かも……。
つづく。
どうもです。第14話です。
今回は双子エピソード前中後編の中編といった感じです。次回・後編をお楽しみに。
私事ですが夏風邪をひいてしまいました。皆さんも風邪には気を付けてくださいね。
それから、Tender Heartいいっすね。毎回楽しみにしています。何と言うか、焦らされ感がたまらん(w
GJとだけ言っておこう。
乙&GJです。体調気をつけてください。
それにしても双子に続き、草壁さんも来るのか。
いずれ貴明が家から追い出されそうだな。
ハーレムの苦悩ってやつですな。
そのうち菜々子ちゃんまで河野家にやってくるんじゃないだろうなw
GJ!
今まで色々と迷惑掛けて、ほんっとにすいませんでしたーっ!
俺、命令には従う方なんで、これからは気が向いたら来ます。
二度と、来ない訳じゃないです。
あと、無駄に容量削るのも止めるようにしま〜す。
河野家にようこそ、読み応えがあってよかったです!
これからの展開が気になります!期待してます!
自らの意志で最適解を見つけれ。
絶対21歳未満だな
なんだ、命令に従うのか。
俺は急かし係いたほうがいいと思うけどな〜
ガンバレ! 河野貴明!
>>485 ゼリービーンズ食べて出直して来ます…
すいません…
7月は夏コミ修羅場月間だからこの時期に急かしても意味ないと思うがなぁ。
書き手が全員夏コミ参加(orゲスト参加)とも限らないけどね
しがつにじゅうさんにち
お昼休み。
付き合いの良い河野貴明君が、今日もミステリ研究会の部室に足を運んでみると。
いつのも第二用具室の中には、猿轡をかまされたうえ、椅子に縛り付けられた見知らぬ女の子がひとり。
「んっ、んんんー、んんんんんん────っ」
女の子は貴明君の姿を見て、必死に身をよじりますが。
貴明君は呆然と入り口に突っ立ったままです。
「んんっ、んんんんん、んんんっ」
「ええっと、君は笹森さんじゃ、ないよね?」
当たり前の質問を、貴明君は女の子にします。貴明君もかなり混乱しているようです。
「えーっと、それじゃあ君は、誰?」
「んんんんんんーっ!!」
「あ、ご、ごめん。今ほどくから」
慌てて女の子に駆け寄った貴明君。
けれど、普通は猿轡の方からほどきそうな物ですが。女の子の長い黒髪に触ってしまうことに抵抗があったのか、貴明君は椅子に縛り付けられたロープの方からほどきにかかります。
「な、なんだよこの結び方!?」
女の子を拘束した人間の性格をよく反映しているかのような大雑把な方結びに、悪戦苦闘しながらほどいて行く貴明君。
女の子からするいい香りが、貴明君の焦りを更に増大させていきます。
すけべえですね。
それでも何とか、ロープを解いた貴明君。
猿轡もはずすと、女の子の方も落ち着きを取り戻してくれました。
「・・・ありがとうございます、貴明さん」
「えっと、君、何でこんなところで縛られていたの? あ、やっぱりいいや。大体想像付いたから」
おそらく貴明君の頭の中では、現在、黄色い髪の女の子が高笑いをしています。
「とりあえず、今は逃げた方いいと思う。迷惑をかけたことは、後で絶対謝りに行くから、えーっと・・・・・・」
全身から、申し訳無さそうな雰囲気を醸し出す貴明君。
しかし普段の花梨の行動を考えると、このまま女の子をこの場に留めておくのは自殺行為。貴明君が来るまで、女の子が無事だったこと自体が僥倖に近いのです。
ここは一刻も早く、花梨がここに戻ってくる前に女の子を逃がさなくてはなりません。
「草壁、優季です。貴明さん」
「草壁さんだね。それじゃあ、早く逃げて・・・・・・あれ? 俺、君に名前教えていたっけ?」
「あ───っ!!」
けれど、貴明君の必死の努力も少し遅かったようです。
「たかちゃん、今すぐその宇宙人から離れてっ!! 記憶を消されちゃうよ!!」
第二用具室の入り口を仁王立ちになって塞ぐ花梨。
その想像の更に上を行く台詞は、一瞬で貴明君の全身を腑抜けにしてしまいます。
けれどここで負けるわけには行きません。貴明君の後ろには、怯えきった草壁さんがいるのですから。
「笹森さん、宇宙人って、誰が宇宙人だよ」
「たかちゃん、たかちゃんの目は節穴? 今たかちゃんの後ろに立っているじゃない、正真証明の宇宙人が!!」
あまりにも断定的に宣言する花梨に貴明君もつられて後ろを見ますが、どうしたって草壁さんは普通の女の子にしか見えません。
っていうか、何で花梨には彼女が宇宙人に見えるのでしょう?
「たかちゃん、信じてないわね・・・・・・よろしい。だったら証拠を見せてあげる。後で『花梨会長、ボクが間違っていました、早くボクの記憶を取り戻してください』って泣いて謝ってきたって知らないんだからね」
花梨の、どうやら自分の物真似らしい、さっぱり似ていないその物真似に貴明君かなりご立腹のご様子ですが。部員のそんな様子に気が付く会長であればそもそもこんなことにはなっていません。
そしてそんな我が道を行く花梨が指し示した物は、貴明君にも思い出深い、教室から失敬してきた磁石のぶら下がった、一見すると時限装置にしか見えない物。
「UFOたんちきー」
誇らしげに、その一見すると時限装置にしか見えない物を掲げる花梨。その様子はどこかの22世紀から来たネコ型ロボットを彷彿とさせます。
「このUFO探知機が反応した時、外にいた怪しい物はこの宇宙人しかいなかった。だからこの宇宙人は宇宙人で間違いないんだよ、たかちゃんっ!!」
おそらく、花梨が警察官になった暁には迷宮入り事件は存在しなくなることでしょう。
冤罪が数十倍のオーダーで増えることになりそうですが。
「でも、今は反応していないみたいだよ」
「えっ? うーん・・・・・・まだまだ安定性に問題があるみたいだね。改良を加えて、常に万全の結果を出せるようにしないと」
花梨の辞書には「誤動作」とか「偶然」と言った単語は載っていないようです。
「えっと、草壁さん、だったよね。これ以上ここにいたら何されるかわからないから、今のうちに、早く、逃げて」
見れば花梨は一見すると時限装置にしか見えないUFO探知機の改良にお忙しいご様子。
あーでもないこーでもないと機械をバラす花梨の後ろには用具室の入り口が無防備な姿をさらしています。
当然まだ困惑する草壁さんを促して、ついでに貴明君自身もこの場から逃げ出そうと、足音を殺し一歩、また一歩と自由が待っている扉の向こうへと近づいていく二人。
しかし明日への入り口は、無情にも貴明君の目の前で閉じられてしまいました。
「たかちゃん、どこに行くの」
「え、っと、そろそろ授業も始まるし、教室に戻ろうかなー、なんて」
ちなみに昼休みが終わるまであと30分以上残っています。
「じゃあ、なんでその宇宙人の手を握ってるの?」
花梨の目は、草壁さんの手を握る貴明君に釘付けです。
その熱い花梨の視線に、貴明君の鼓動もどんどん速くなり、全身から汗が湧いてきます。全身といっても、主に背筋からですが。
「たーかーちゃーん、そーのーうちゅー人をどーこーへー連れて行くつーもーりー・・・・・・」
にじり寄ってくる花梨。
イヤイヤと首を振りながら後退する貴明君。
怖いのは当然ですし、気持ちもよくわかりますが。後ろには草壁さんがいるのです。貴明君、ここで勇気を出さなくては男の子ではありません。
「ど、どこへ連れて行くって、別にどこだっていいだろ。それに笹森さんこそ、草壁さんを椅子に縛り付けて、一体なにをするつもりだったのさ!」
ここで、「人体実験。あ、宇宙人だから宇宙人体実験だね」などと花梨が言えば、自らの身を犠牲にしてでも草壁さんのことを守ってあげなくてはなりません。
貴明君、心細そうな表情をする草壁さんを振り向いて、ちょっとだけ人体実験と言うフレーズに心を動かされながら、また前を向き毅然とした態度で花梨に挑みます。
「・・・・・・えーっと、どうしようか。たかちゃん、何かいいアイディアある?」
「人体実験!!」と口が勝手に喋りそうになるのを我慢させて、貴明君、一世一代の突込みが入ります。
「何も考えてないのに人を拘束したうえ猿轡までかませたのかあんたは!?」
「むっ、たかちゃん、会長に対してあんたなんて、口の利き方がなってないよ」
花梨の中では、拉致監禁罪よりも会長に対する不敬罪の方が罪が重いようです。
「だからっ、今問題なのはそんなことじゃなくて!!」
「やだなーたかちゃん。ジョークだよ、ジョーク」
どうせなら全部ジョークだったらいいのに、と、いくら願ったところで現実は非情なままです。
「私がなぜ宇宙人を捕獲してこのミステリ研究会の部室に隔離しておいたか。それはね・・・・・・宇宙人を、ミステリ研究会に入部させるためだったんだよ!!」
もう貴明君突っ込みをいれたくて仕方がないようですが、ここで口を挟んでしまうと話が進まないのでぐっとこらえます。
「な、なんだってー」などと言った日には花梨が図に乗るのでこちらも我慢です。
「そのために宇宙人を椅子に座らせておいて、ゆっくり勧誘をするはずだったのに。たかちゃん、ロープほどいちゃうんだもん。折角の計画が台無しになっちゃったじゃない」
ちなみに「勧誘」といっているのは、「脅迫」の誤植ではないのであしからず。
「それでね」
花梨の視線が、貴明君を通り越して後ろにいる草壁さんを射します。
急に話を振られて、きょとんとする草壁さん。
「ちょっとだけ順番が変っちゃったんだけど、ミステリ研究会に入ってみない? あ、大丈夫、そんないきなり宇宙人体実験がさせて欲しいなんて言わないから。ね、お願い」
頭まで下げて、草壁さんにお願いをする花梨。
そこだけを見ればとても誠意ある対応なのですが、先にロープで縛り付けていたのでは全てが台無しです。
「え、でも、私」
「ミステリのこと知らなくても大丈夫だから。ただ毎日お昼休みと放課後にここに来て、ちょっとだけ実験に協力してくれればいいから」
「ちょっと待て、今、実験って言ったぞ!?」
とうとう貴明君も突っ込みを我慢しきれなくなったようです。
「たかちゃんは黙ってて。うちの部員が変なこと言ってるけど気にしなくていいから。あ、そうだ。交換条件として副会長になるって言うのはどう?
この栄えあるミステリ研究会のナンバーツーになれるんだよ。いまなら雑よ・・・じゃなかった、有能な部員も付いてきてお得だよ」
貴明君の耳は今の会長の本心を聞き逃しはしませんでした。というか、自分の時にはそんな交換条件が一切なかったことに、ちょっぴりジェラシー。
「だから、ね、お願いっ」
「笹森さん、ほどほどにしておきなよ。草壁さんだって困っているだろ。それに、いきなり人を縛り付けておいてお願いだなんて、虫が良すぎるよ」
仕方がないなぁといった風に草壁さんを振り向く貴明君。
でも草壁さんは、ちょっとだけ考えて。
「・・・・・・いいですよ?」
「「えっ!?」」
花梨と貴明君。2人の台詞がハモります。
片方は感激に表情を輝かせて。もう片方は信じられないものでも聞いた様子ですが。
「入っても、入部してもいいですよ」
「ちょっと待って、草壁さん、本気!?」
「本当!? ありがとー!! あ、ちょっと待っててね、今腕章をあげるから」
飛ぶように部室の奥へといって、花梨はなにやら腕章を探しているようです。
何もかかれていない腕章をダンボールの中から引っ張り出して、黒のサインペンで『副会長』と。
「く、草壁さん、本当に入部する気なの? 今ならまだ間に合うから、早く逃げた方がいいよ!?」
「はい、本気ですよ、貴明さん」
にこにこと笑う草壁さんに、貴明君は絶望を表情に浮かべて首を振ることしかできません。
「でも、どうして・・・・・・?」
貴明君の問いに、草壁さんの首が少しだけ傾きました。
「んー・・・・・・貴明さんが、いるからかな」
「俺が?」
今度は貴明君の方が小首をかしげる番です。
もしかして、そんなに雑用係が付いてくるという花梨の出した条件に、魅力を感じたのでしょうか。
「はい、これ」
奥から腕章を持った花梨が、草壁さんと貴明君、2人に腕章を手渡します。
草壁さんには『副会長』と書かれた腕章を。貴明君には『ヒラ』と書かれた腕章を。
「いらないよ、こんな物!!」
「だめだよー、たかちゃん。いくら親しい仲でも、上下関係はきっちりしないと。目下の物は目上の者の命令に絶対服従っていうのが、このミステリ研究会の伝統なんだから」
もう文句を言う元気すら残っていません。
横を見れば、草壁さんがニコニコとしたまま貴明君のことを見ています。
「これから、よろしくお願いしますね。貴明さん」
「・・・・・・よろしく」
結局草壁さんが何で入部する気になったのか、良く分からずじまいでしたが。本人がやる気になっている以上文句をつけることもできません。
他に貴明君ができることといえば、2人に分からないように小さく溜息をつくことぐらいでした。
「さぁーって、念願の宇宙人の部員も入ったし。これから忙しくなるよたかちゃん、宇宙人!!」
なんだか、更に面倒なことになったような気がする。
なんだかとても張り切っている花梨を眺めて、そんなことを思う貴明君でした。
終
いろいろと試してます。
ところで、どうしてこう俺のかくSSのキャラ選択は、マイナー路線かな。
>>502 その組み合わせは面白い。
ちなみに1/12がふたつありますがw
>>502 亀甲縛りされた草壁さん想像したら、エロスwwwww
マイナー路線の利点:競争相手が少ない。新鮮味がある。そのジャンルを欲する人からしたら非常にありがたい。
なので、アリだと思います。この組み合わせは新鮮味もあるし、面白い。
ただ、改行少なくしてくれた方が読みやすかったかも。
「ごめーんタカくん。おまたせー」
「ほら、早く行くぞ。タマ姉と雄二きっと待ちくたびれてる」
「うん」
今日も寝坊したこのみを起こして学校へ向かう。
いつもの待ち合わせ場所まで走ると、そこには既にタマ姉たちの姿があった。
「おはよータマお姉ちゃん。ユウくんもおはよう」
「二人ともおはよう。今日もいい朝ね」
「おはようタマ姉、雄二。まだ時間大丈夫だよな?」
「うぃーっす。まだ走るほどじゃねぇよ」
時計を見れば、雄二の言うとおりここからはまだ歩いてでも十分間に合う時間だ。
合流を果たした俺たちは、いつものように他愛ない話に花を咲かせながら歩き出す。
「おい、貴明」
しばらくすると、雄二が歩くペースを落とし、タマ姉とこのみから少し離れた距離になると、二人に気付かれないよう
小さな声で耳打ちしてきた。
「昨日はあれからどうだったよ」
言われて昨日の夜の会議を思い出す。
「問題は片付いたのか?」
「……推進力がアップした」
「はぁ? なんだそりゃ」
悪化とまでは言わないが、今まで進展のなかった話が昨日の一件をきっかけに予想外の方向に向かって動き出してしまったのだ。
「教室着いたら詳しく教えろよ」
タマ姉に気付かれるのを恐れてか、手早く用件を言うと雄二はさっさと前の二人に追いついて会話に混じる。
雄二のああいう立ち回りの上手さは見習いたいものがある。
以前にも、珊瑚ちゃんと先に出会っていたのが雄二だったら全て丸く収まったんじゃないかって思ったことがあった。
今回も、もしも雄二が俺の立場だったらあっさりと事態を解決してしまっていたのかもしれない。
ちょっと考えてみた。
もしも雄二が俺の立場だったら……。
「…………」
大喜びで珊瑚ちゃんたちの家に引っ越すな。
うん、ダメだ。全然参考にならない。
「貴明ー、るー」
どうしたものかと考えているところに聞き慣れた声が耳に飛び込んでくる。
振り向くとそこには例のポーズで挨拶をする珊瑚ちゃんがいて、天高く上げた両手を前に突き出すとそのまま首元に飛びついてきた。
どうやらいつの間にかいつもの合流場所まで来ていたようだ。
「おはよう珊瑚ちゃん」
「こらー、貴明ー! 朝っぱらからさんちゃんにくっつくなー」
雄二たち三人はもはやいつものことだとばかりに、特に気にする風でもなく俺たちの少し前を歩いていく。
最初はこの過剰と言えるスキンシップに良い顔をしなかったタマ姉も、既にこの状況に慣らされてしまったようで、ジャレついてくる
珊瑚ちゃんとそれを引っぺがそうとする瑠璃ちゃん相手に曖昧な笑顔を浮かべているであろう俺を見ると、少し困ったような笑い顔で
ほどほどにねと小さく呟いてこのみとまたおしゃべりしながら歩き出す。
このみやタマ姉自身がよく同じようにくっついてきてたこともあり、加えて抑止役としての瑠璃ちゃんの働きっぷりを
知っているからこそ黙認、というようなことなのだろう。
そこまではいつもと同じ朝の風景だったのだ。
「あ、タマねーちゃん。ちょっとええ?」
珊瑚ちゃんのこの一言があるまでは。
「えっ、私?」
「そやー。あんなぁ、ちょっとお願いがあんねん」
「お願い? ふふ、何かしら」
最初はいきなりの珊瑚ちゃんからの呼びかけにちょっとびっくりしていたタマ姉だったが、すぐにいつもの頼りがいのある
年上のお姉さんっぷりを発揮して優しく珊瑚ちゃんに先を促す。
「貴明な、ウチらの家に引っ越したいんや」
「ちょぉっと待ったああぁぁ!」
バッと珊瑚ちゃんの口を塞ぐと、そのまま抱きかかえてダッシュ。
可及的速やかにその場からの離脱を試みる。
行動が迅速すぎるよ珊瑚ちゃん。
昨日の今日のしかも朝一でいきなりタマ姉に吶喊するなんて思ってもいなかった。
「……あー! こらー、たかあきーの誘拐魔ー。さんちゃんかえせー!」
生存本能に従ったいつもの俺からは想像できない俊敏な行動に一瞬呆気にとられていた瑠璃ちゃんも、すぐにいつもの調子を取り戻して
俺with珊瑚ちゃんを追って走り出す。
「……どうしたのかな、タカくん」
「引っ越しがどうの、とか言ってたみたいだけど……」
「ははぁ。なるほど」
事態を呑み込めずにいたこのみとタマ姉、何かを察したらしい雄二の呟きが届く頃には、既に危険領域の脱出に成功していた。
俺は珊瑚ちゃんを抱えたままスピードを緩めることなく学校まで一目散に向かった。
「はあっ、はあっ、はあっ」
軽いとは言え、女の子一人を抱いたままの全力ダッシュはさすがに体に無茶を強いたようだ。
息遣いが乱れたままなかなか整おうとしない。
「貴明はやいー。なーなー、帰りもまたやってな」
「ごっ、めん、むりっ」
まだ荒い息のまま、途切れ途切れに珊瑚ちゃんの無茶な注文をお断りする。
「待たんかいーたかあきー」
遅れること数十秒、追いついてきた瑠璃ちゃんとも合流し、本題へ。
「このスケベー!」
入る前に蹴られた。
「ご、ごめん。ちょっと気が動転して」
「ったく、今度やったら殺す。覚悟しぃ」
「あ、あのさ、珊瑚ちゃん。やっぱりいきなりああいうことをタマ姉に言うのはまずいよ」
「えー。でもタマねーちゃんに許してもらえれば問題ないんやろ?」
そうなんだけど、そのタマおねえちゃんが許してくれないから問題なんです。
というか、許してくれないだけなら別に問題じゃないんだけど、あんなこと言っちゃうとその上で十中八九
お仕置きを食らう羽目になるから問題なんです。
しかもあの言い方じゃあ、まるで俺が引っ越したがってるみたいだったし。
「……」
「どうかしたん?」
「あー、貴明、さんちゃんをえっちぃ目で見つめるなー!」
最近わかってきたことがある。
珊瑚ちゃんはイルファさんの生みの親だけあって、天然のようで実は計算高い。
いや、正確には天然で計算高い。
なので今回のことも、どこまで計算に入れての発言だったのか少しばかり怖い。
「とにかく、今タマ姉にあの話をするのはまずい。話をもちかけるにしても、他の問題が全部一切合財片付いて、あと残すは
タマ姉だけってなったら挑むことにしよう」
「タマねーちゃん、ラスボスやな」
「そうラスボスなんだ」
名実ともに。いや、冗談じゃなく。
「貴明も結局引っ越す話には乗り気なんや。このスケベー」
「ちっ、ちがっ。そうじゃなくて、万が一にもタマ姉にこの話を振るなら、後顧の憂いがない状態にしておかないと怒られ損に
なる可能性があるから」
「貴明のヘンタイー」
「ヘンタイー」
珊瑚ちゃんまで瑠璃ちゃんと一緒になって……。
行き場のないやるせなさ。
……でも、瑠璃ちゃんも口ではああ言ってるけど、もしかしたら俺が自分たちの家に転がり込んでくるかもしれないってのに、そこまで
本気で嫌がっている素振りは見せないな。
前よりも心を許してくれているんだというのが改めて実感できて、それについては少し嬉しく思えた。
しかしそれはそれとして、やっぱり女の子ばかりの家にお世話になるのも、自分の家に女の子が押し寄せてくるのも
出来れば遠慮したい事態だというのには変わりはない。
……でもこの勢いだとほんとに引っ越しすることになりそうなのが珊瑚ちゃんの行動力の恐ろしいところだ。
どちらにしろタマ姉に折檻されるなら、ラスボスとして姫百合軍勢を説き伏せて貰えれば、一番角が立たずにすむんだけどな。
……俺の被害は多分一番大きくなるだろうけど。
だが双方丸く治める手段としてはもっとも理想的とも言える手段ではないだろうか。
「あー、やめとけやめとけ」
朝のHR前、俺が着いたのよりもいくらか遅れて教室に入ってきた雄二は一にも二にもなく俺の席へと直行してきたの。
あとで話を聞かせろとも言っていたし、今の俺の状況とそうなるに至った経緯、そして今後の対策として先ほど考えた
タマ姉お任せの案を話してみたのだが、その第一声がそれだった。
「丸く収まる頃にはお前の頭が潰れてんぞ」
「すごい重みのある言葉だな」
憔悴しきった顔でこめかみを押さえている雄二の様子は、その言葉に嫌というほどリアルな説得力を帯びさせた。
これが経験者は語るというやつか……、恐ろしい。
「他人事みたいに言いやがって。お前がとっとと逃げちまった後大変だったんだぞ。どういうことなのか説明しろって俺に詰め寄ってくるんだぜ?」
「あー、やっぱり珊瑚ちゃんの言ったこと気にしてたか」
あの場からの逃走は正解だったようだ。
咄嗟の判断にしては上出来だ。
「ったく、俺が知るわけねーのによ。なのにいちいち頭引っ掴まれてちゃたまんないぜ」
雄二にしてみればほんのついさっきの出来事だ。
あのタマ姉から受けたダメージがそう簡単に抜けるはずもなく、未だ鮮烈な痛みの残っているであろう自分の頭を、調子を確かめるよう
にコツコツと軽く小突いている。
「悪かったな雄二」
「いいっていいって。それにとりあえずそっちの事情もわかったしな。要するにあの双子ちゃんから『わたしたちの家に引っ越してきてー』って
迫られてるんだろ」
「声色を変えるなよ気色悪い」
「かーっ、モテモテでいいご身分じゃねーか。羨ましいやつめ」
「そんな気楽な話じゃないんだよ」
「まぁな。姉貴が知ったらそりゃ黙っちゃいうないだろうしな。だがな、さっき言ったみたいに姉貴に任せようなんて思わないほうがいいぞ。
今もし姉貴がこの事を知ろうものなら、確実にお前は地獄を見ることになる」
それは何となく想像できる。
しかもついさっき珊瑚ちゃんの誤解を招くような発言があったばかりだ。
恐らく被害は予想以上に甚大になるだろう。
「でも珊瑚ちゃんは俺が言っても聞いてくれないというか、俺の言うことあらゆることを自分に都合よく解釈してしまうというか、
説得はかなり難しい相手なんだ。あの子を真っ向から説き伏せられるような相手といったら……」
やっぱタマ姉しかいないよなぁ。
少なくとも俺に無理だというのは今までの経験則でわかっている。
「確かに手強そうだな」
珊瑚ちゃんとは少なからず面識のある雄二にもそれはわかっているようで、早速二人して行き詰まる。
「みんなぁ〜、静かにしてぇ〜。HRをはじめるよぉ〜」
気の抜けるような号令に前を見るとそこには我らが委員ちょが立っており、教卓をバンバンと叩いて注目を引こうと奮戦している。
「静まれぇ〜、静まれってばぁ〜」
「……まあひとまずこの話はまた後でだな」
「ああ。じゃあまた昼放課……は姉貴がいてマズイか。んじゃ放課後ヤックにでも行って緊急会議だな。昨日の負け分、ちゃんと奢れよ」
「わかった。いろいろ悪いな」
「いいってことよ」
バンバンバンッ!
「いたっ! もぉー、みんなこっち向けぇー」
強く教卓を叩きすぎて自分の手を痛めても己の職務を全うせんとする委員ちょ魂。
見兼ねて助け舟を出そうかと少し迷ったが、そんなことをするまでもなくすぐに愛佳は教室の注目を集めることに成功した。
ザワッ
教室中にざわめきが起こり、いっせいにみんなの視線が愛佳が手にする黒板消しに集中する。
パフパフパフッ
「けほっ」
多分先ほどのことを教訓にして手が痛くないようにしたのだろうけど、結局自爆することに変わりはなかったようだ。
だがその甲斐あってというか、みんなも委員ちょの健気な姿に心打たれ、各自バラバラと自分の席に散っていく。
「けほけほっ」
教室は沈静化したものの、当の本人はまだ黒板消しの粉で咳き込んでしまっている。
頬杖をついてぼんやりと窓の外を眺める。
とりあえずは放課後、か。
「えっと、それじゃあ今日は先生は休みなので代わりにあたしが連絡事項を伝えます。まずは……」
しばらくすると、漸く黒板消しのダメージから抜け出したらしい愛佳がHRを開始した。
先生の代理までやらないといけないなんて、委員長も大変だな。
外をぼけっと眺めながらも、自分に関係のありそうな連絡がないか意識半ばに愛佳の声に耳を傾けてながらHRを過ごした。
「それから次に、美化委員の人は今日の放課後に……けほっ」
「…………」
まだ咳き込んでたのか。
513 :
書いた人:2005/07/13(水) 02:53:56 ID:+ryp4Czl0
雄二とのやりとりは書きやすいけどあんまり楽しくない。
ヒロイン絡めると書くのは試行錯誤になるけどとても楽しい。
でも書きやすいせいで妙に雄二が出張ってしまうアンビバレンツ。
作外で補足というのは邪道かもしれませんが、いいんちょを「愛佳」と呼んでしまっているのは
お決まりの「どのヒロインともある程度親しくなってる」パラレルルートを通ったということで
一つよろしくお願いします。
小牧でいこうか悩んだんですが、この先他キャラもいろいろ出張ってくるのでバランス均衡のためにこうさせていただきました。
いいんちょも出てくるのかようぜーとか思った人はごめんなさい。でもきっといないですよね?ね?
>>409 その一言で報われました。自分の間抜けな有様にちょっと自己嫌悪してたので大変ありがたいお言葉でした。
こっちこそ続き待ってますよ!と言いたかったけど先に投稿されていたので言えない寂しさ。
GJです。
何というか、キャラのらしさを大切に書いてくれてるのが実に有り難い。
丁寧な描写、読んでてとても心地良いですわー。
頑張ってくらさい。
特別粗もなく、良くまとまってると思うよ。
次回に期待age
再び流れが止まっている今だから言おう・・・・・
Tender Heartマダー?(・∀・)
カレー男まだ〜?
>>409 お前の空手を見せてやれ!
ビクともしないデカい奴め!
ごめん、誤爆した
どこへの誤爆だよw
こりゃ豪快な誤爆ですね
てんだ〜は〜とと空手にどんな関係が!?
とかマジで考えたよ。笑った。
>>518
ダイモスとゴーダムだっけ。
スパロボ系スレの誤爆か?
みんないくぞ〜(^o^)/
せ〜のっ!
↓
巫女みこナース!
>>525 す、すいませっ……!
巫女みこナースじゃなくてホントすいませっ……!(笑
その9、は一気に書き込むとちょっと長くなりそうなので9−1と9−2に
分けることにしました。
決してじらしてるわけではっ……(^^;)
前回までのあらすじ
雄二によって指摘された、このみと貴明の「とても自然で、とても不自然な」関係。それは結局、貴明だけが未だ幼なじみ
の関係に片足を残したままでいるせいだった。
悩み続けた貴明は、アイス屋でよっちと話す内にひとつの決心をする。
「今夜このみを――俺だけのものにする」
貴明の思い切った発言に驚きながらも、女ならではのアドバイスをくれて祝福してくれるよっち。
「このみのこと、幸せにしてやってくださいね」
よっち、ちゃると別れ帰路につく二人。
店に来るまでとは違う気持ちで手を繋ぎ、同じ家に帰れば――もうすぐ夜がやってくる。
買い物を終え、おしゃべりをしながら家に向かっていると川の方から緩やかな風が吹いてきた。
夕暮れの風だ。
「ん〜〜っ、気持ちいいね〜! タカくん」
すっ、と深呼吸をするみたいに体を開いて、全身で風を受け止めるこのみ。セーラー服の襟と横結びの髪先がふわふわと揺
れている。
……もう、この風が吹く時間なのか。
「ほんとだ」
俺も足を止め、このみの真似をして風を受けてみた。
地元の人たちが「川風」とか「夕風」などと呼ぶこの風はこの街の夏の風物詩だ。
夏の間、夕方が近づくと決まって川から丘へさかのぼるように吹き上げるそれほど強くない風で、この街の子供達は遊びに
出る前に母親から決まって「川風が吹いたら家に帰りなさい」と言いつけられる。俺とこのみも、そんな言葉を聞かされて育っ
たふたりだ。あたりはまだ明るいけれど、陽は西へ大きく傾いている。街が茜色に染まるのも、もうすぐだろう。
「気持ちいいなぁ……」
思わず深呼吸をしている自分に気が付く。
日差しと重い買い物袋のせいでじっとり汗ばんだ肌に訪れたつかの間の涼しさは、思わず声を上げたくなるくらいに心地よ
かった。
「いい風――」
街路樹の枝を揺らして、もうどこか遠くに去ってしまった風を惜しむようにつぶやいたこのみは、くるりと体ごと俺の方を
向いてにっこりと微笑んだ。
「えへ〜」
「? どうかした?」
「ううん。――嬉しいなって思って」
言いながら、ゆっくりとこのみは歩き出す。合わせて俺も足を進めながら問い返した。
「嬉しいって、何が?」
「全部!」
満ち足りた様子でそう言ったこのみは、前を向いたまま自分が幸せな理由を数え上げ始めた。
「だってぇ、今日は一日いいお天気だったし、夏休みはもうすぐだし、アイス屋さんにも行ったし、ちゃるとよっちにも会え
たし……」
後ろ手に掴んだ通学鞄と買い物袋をふりふりと揺すりながら、このみは明るく微笑む。
「……タイムサービスでいいお肉が安く買えたし、暑いから風吹かないかなぁって思ってたらいい風が吹いたし、晩ごはんは
もうすぐだし。それに――」
横に並んできたこのみは、俺の目をまっすぐに見上げて言った。
「――タカくんと、帰ってからも一緒にいられるから」
しあわせ! と顔に書いてあるかのようだった。
昼間、アイス屋に向かう途中や列に並んでいる時は、目を逸らし、はぐらかして逃げてしまったその表情。このみのまっす
ぐな俺への想い。
俺は、今日はじめてそれとまっすぐに向き合った。
どきどきと胸が高鳴る。頬が熱くなる。このみで視界がいっぱいになる。
それは昼と同じ感覚。でも、そこから先は昼とは違う。
俺はもう、この胸の高鳴りを否定しない。逃げ出さない。ごまかしたりしない。
なぜなら、今の俺はこのみの恋人なのだから。
川風が吹くなか手を繋いで家に帰った、子供の頃の俺たちとはもう違う関係なのだから……。
「――俺も」
想いを言葉にするのは、勇気が必要だった。
でも、これからはちゃんとそうしないといけない。このみはずっと前から、俺にそうしてくれていたのだ。
「俺も、同じだよ」
「え?」
「俺も――このみとずっと一緒にいられて、嬉しい」
言った途端、胸の鼓動が跳ね上がるように強くなった。
猛烈に恥ずかしい。今の俺の顔はきっと、ひとりだけ夕陽を浴びたみたいにまっ赤になっているだろう。
でも、視線はそらさない。
「タカくん……」
驚いた顔で立ちつくすこのみに、俺は微笑みかけた。すこし引きつっていたかも知れないけれど、それは今後の努力で改善
していけばいい。
「あともうちょっとだけど、手、繋いで行こう」
「う、うん」
どこか惚けたみたいな表情で固まったこのみの手から買い物袋を奪い取り、空いた手を掴んで指を絡ませた。
「行こう」
「あ、タカくん、わたし荷物持つよ」
「だめ」
「でも、今日はたくさんお買い物したから重いし――」
「平気だってば」
本当は体が傾きそうになるくらい重かったけど、不思議なことに全然辛くはなかった。
繋いだ手から伝わるぬくもりが、愛しさが、確かに俺を満たしている。俺を強くしてくれる。
「……このみエネルギーのおかげだよ」
握った手に、きゅっと力を入れる。
するとこのみはもう一度驚いた顔をして――
「うんっ!」
とろけそうな笑顔で、俺の手を握りかえしてきたのだった。
※その9−2に続く※
というわけで、ちょっと変則的になりましたが9−1をお届けします。
分けた理由は前書きに書いた通り、一気に書き込むと長くなるから、というのもあるのですが
一旦ここでお話を区切りたかった、というのも自分の中ではかなり大きいです。
あと、このスレの残り容量も少ないですし、あんまり私で埋めちゃうと他の職人さんたちに
迷惑かけてしまいますから。次スレもまだですしね。
この連休中、どれだけ書き進められるかが勝負です。
頑張ります。
>>522 私も笑いました。
TH2にはエクストリームは出てきませんし、ましててんだ〜は〜とには(^^;)
でも、誤爆もこういうのだと和みますね。
<<525
ばかっ!そこは
てんだ〜は〜とまだ〜?(・∀・)
だろっ!
きっと巫女ものや看護婦ものを書いてくれという525の心の叫びなんだよ
俺はどんな内容になるのかすら想像もできんが・・・・
たかが誤爆でここまで笑い物にされたのは初めてだな………
今俺の目の前には、先ほど、小牧が上っていったと思われる階段がある。
上るべきか、それともこのまま振り返り雄二を引っつかんで帰るべきか。
ただ病院で見知った相手を、それも女子を見かけたというだけならば、普段の自分は迷うことなく後者を選んだろう。
しかし今回は二つだけ、その普段とは事情が違っていることがあった。
一つは、小牧とは知らない仲ではなかったということ。
何故か今月に入ってからは、学校のそこかしこで困っている彼女に遭遇し、お節介かもしれないと思いながらもつい強引に世話を焼いてしまっていた。
それが高じて今では、小牧が自主的に行っているという書庫の整理を手伝うまでになっていた。
そしてもう一つは、そういったやり取りを通して俺なりに小牧の人となりというものがよくわかったつもりでいたからだ。
本来、今日あの委員長の(いや、正確には元委員長の、だが)お見舞いに来るはずだった小牧が突然の急用ということで、俺がピンチヒッターを引き受けた。
だというのに、その当の本人がこの病院にいるというのはいささか不可解である。
これが雄二だったりすれば、サボりやがったなあの野郎、ということで鉄拳制裁の一発で済む話なんだが、
小牧に限ってそんなことははないだろうし、何よりらしくない。
他人からの頼みごとを嫌とは言えない損なくらいに実直で真面目な性格も、嘘の用事を口実に自分の請け負ったことを
放棄するような不誠実な人間ではないことも十分承知している。
「何か理由があったのかな」
だが一体、どんな理由なのか。
同じ病院にいながら、委員長の見舞いに行くことの出来ない用事、理由。
この階段を上がれば、もしかしたら何かわかるのかもしれない。
「……でもなぁ」
これではまるで秘密を詮索するみたいで、小牧にも悪いし、何よりも後ろめたい気持ちだ。
どうするか。右へ左へと傾く心の秤のバランスは、最後にはわずかな好奇心の重みによってついにある一方へと傾いてしまう。
ごめん、小牧。
結局俺は目の前の階段に足を踏み出していた。
Tのハナシ 第二話
意を決して階段を上った。
そこまではいつもの俺からは考えられない行動力だったと思う。
が、よくよく考えると小牧が何階に行ったのかさっぱりわからない。
わずかな時間悩んだ結果、結局委員長の病室のあった階から一つ上の階を見て回ることにした。
これで見つからなければ、きっと余計な詮索はするなという天の意思だったのだろう。
委員長のところもそうだったが、待ち合いのフロアとは全然違い、入院患者の病室が並ぶ階層には一般の人の姿がだいぶ少ない。
たまにすれ違う私服の人たちは、恐らくさっきまでの自分と同じくお見舞いに来ている人たちなんだろう。
なんだか、自分がひどく下世話な真似をしている気がしてきた。
「気がするというより、まさにそうなんだろうな」
軽く自己嫌悪に陥りながらも懲りずにざっと見て回ったが委員ちょの姿は見当たらない。
「帰るかな」
それがいいだろう。
そう思って踵を返した瞬間だった。
「それじゃあ、ちょっとお水替えてくるからね」
すぐ目の前の病室からがらりとドアを開けて出てきたのは、まさに小牧愛佳その人だった。
「あっ」
「えっ?」
思わず声を上げてしまった俺に向こうも気付き、同じように驚きの声を上げる。
「…………」
「…………」
そのままお互い固まってしまい、見つめ合うこと数秒。
「えっ、えっ、なななななんで河野くんがここみぅっ」
うわっ、今噛んだ。
あれは痛そうだぞ。
「ひとまずちょっと落ち着こう」
「ひゃ、ひゃいー」
慌てふためく小牧を見ていると、不思議と自分の感情がクールダウンしていくのがわかる。
他人がパニックになっているのを前にすると逆に冷静になるって本当だったんだな。
「落ち着いた?」
「は、はい。舌はまだヒリヒリしますけど……」
病室の前で騒ぐのはまずいと、流し場に移動してから数分、ようやく小牧も会話が出来る状態にまで回復したようだ。
「あの、それでどうして河野くんはここに?」
「いや、どっちかというとそれは俺の台詞のような……」
見かけたというだけで後を追ってきてしまったという後ろめたい事実に段々と自分の声が小さくなっていくのがわかる。
が、小牧にはしっかりと聞こえたようで、小さく「あっ」と声を上げると、すぐさま俺が病院にいた理由に思い当たったようで、
申し訳なさそうに視線を伏せて俯いてしまう。
「ごっ、ごめんなさい。あたし自分のことで手一杯でそこまで頭が回ってませんでした。そっ、そうでしたよね、あたしの方こそ河野くんに
わざわざ代わってもらったのに病院にいるなんておかしいですよね」
そういうつもりはなかったのだが、今の一言は意図せず詰問するような形になってしまったのか、少なくとも小牧本人は
そう受け取ってしまったようで、小さくなってシュンとうなだれてしまている。
「あ、いや、別に別にそういうつもりじゃなくって、ただちょっと小牧の用事ってなんだったのかなぁなんて思っただけで。
って、病院にいるんだから病院でなんか何か用事があったに決まってるよな、ははは。いや、うん、用事があるんなら
委員長の見舞いなんかにまで手が回らなくたってしょうがないよ」
何とかフォローしようと言葉をひねり出すが、自分でも自覚できるくらいにあたふたとしてしまう。
こういうとき、気の利いた言葉の一つもかけられないのが少し情けなかった。
「とっ、とにかくさ、俺なんてどうせ暇で帰ってもやることなかったし、これくらい全然構わないよ。だから気にしないで」
「でも……」
「小牧にはさ、その、俺たちみんないつもお世話になってるし、こういうときはお互い様だろ。それに小牧はいつも
頑張りすぎてるんじゃないかってくらいみんなのためにいろいろと働いてるんだから、むしろもっといろいろ押し付けたって
いいくらいだと思うよ。だから謝る必要なんか全然ないし、気にすることもないって」
自分でもすごく恥ずかしいことを言っているとはわかっている。
こうして女の子と面と向かって話しているという緊張と合わさって、自分の体温が上がっていくような錯覚に陥る。
少なくとも、今俺の顔はとても赤くなっているだろう。
なにしろこんなにも熱く感じるのだら。
「その、どうもありがとうございます……なのよ」
どうやら小牧もこっ恥ずかしい発言に照れてしまったらしく、俯いてるのには変わりないが、少し顔を赤くしながらそう小さく零した。
まるで書庫にいる時のようないつもの雰囲気に流し場が包まれる。
「…………」
「…………」
「えっと、お茶……飲む?」
「いや、ここじゃちょっと」
雰囲気に呑まれすぎだった。
「そっ、そうですよね。ここだとソファもありませんもんね。やだなぁもう、冗談に決まってるよぉ」
「…………」
俺の無言のリアクションに堪えられなくなったのか、小牧はえへえへと頭を掻く。
その笑顔は不自然なまでに明るい。
小牧って嘘つけないタイプだな。
多分エイプリルフールとかではいい標的にされ、一念発起して逆襲を試みてもあっさり看破され一人涙で枕を濡らすタイプだ。
何はともあれ、小牧の畏まってしまっていた態度もほぐれたようで一安心。
「まあ、お茶はまた今度書庫整理のときの楽しみに取っておくよ」
「う、うん」
更なる緊張の緩和を図るつもりで、俺たち二人に共通する話題を振る意味も込めてを書庫という単語を出してみる。
「そうだっ、何かリクエストがあったら遠慮なく言ってよ。頑張って河野くんをおもてなししちゃうからっ」
試みは見事に功を奏したようだった。
張り切ってますと主張するような小さなガッツポーズとともに小牧がずいっと俺に詰め寄ってくる。
「リクエストって言ってもなぁ。今までで出てきたものってハズレがなかったし、小牧が用意したものなら俺は何でも良いよ」
「ほんとに何でもいいの……?」
「……やっぱり紅茶でお願いします」
気がつけば、もうすっかりいつものペースだった。
「あ、書庫といえば」
書庫と小牧、そして用事というキーワードから、一つ思い当たることがあった。
「そういえばたまに用事があるからって書庫の整理休みにすることがあったけど、もしかしてあれも今日と同じ用事だった?」
「……えっと」
何気なく、そう、本当に何の気なしに言ってみただけだったのに、小牧は言葉を詰まらせてしまう。
「えっ? あっ」
その反応が少し訝しく思えたが、すぐにぴんと来た。
しまった、踏んだ。
人には誰にだって踏み込まれたくない領域がある。今、俺はまさに小牧のその領域に無遠慮に足を踏み入れてしまったんだ。
だがいまさら気付いてももう遅い。
零れたミルクがもう器に戻らないように、一度発した言葉も戻ることは無い。
「えっと、その、いつもそういうわけじゃないんだけど」
とても言いにくそうに言葉を選んでいる小牧の姿に、俺の中の後悔はさらに募る。
よく考えてみれば、小牧はさっき誰かの病室から出てきていたんだから、誰かの見舞い(それこそ委員長なんかに
時間を割いていられないほどの重要で大切な人の)に来ていたのは明らかだ。
そういうのを、多少親しくなったとはいえ赤の他人の俺なんかに知られるのはやっぱり嫌なものだろう。
配慮が足りなかった。
「ごめん、無神経だった。その、詮索する気はなかったんだ」
「えっ、やだっ、そんな謝らないでよぉ。河野くんは全然悪くないよ。ただ、本人がちょっと人見知りして、あんまり
他の人に知られたがらないから……」
口ぶりからして、やはり小牧の身内か、あるいはごく親しい人間が患って入院しているのは間違いないみたいだ。
「あっ、そうだった。いけない、早く戻らないと」
小牧はハッとしたように、慌てて手に持っていた花瓶の古い水を流し、手早く洗ってまた花を生けなおす。
「時間とらせちゃったな。俺も帰るよ。今日はごめん」
「そんな、あたしのほうこそ」
ここで取ってつけたように「お大事に」とか言っても、その当の本人の事情や病状さえわかっていない俺の言葉では、逆に安っぽく
感じさせてしまい、かえって気分を害してしまうかもしれない。
かといって何も言わずにはいさようならというもの失礼な気がする。
「……時間取らせついでに、あとちょっとだけ付き合ってもらえないかな」
「えっ?」
「ごめん、すぐ済ますから」
「は、はい」
ハテナマークの浮かびそうな顔をしたまま場に流されてしっかり俺の後についてきてしまう小牧を連れて目的の場所へ向かう。
階段を下り、あやふやな記憶を頼りに足早に歩く。
確かロビーのすぐ近くで見かけ覚えがある。
「あっ、あの、河野くん。いったいどこに?」
歩幅が違うせいでついてくるのが精一杯といった感じにとてとてと小走りでついてくる小牧が当然といえば当然の疑問を投げかけてくる。
出来れば歩調を落としたいところだったが、あんまり時間をとらせないためにも申し訳ないがその速度を維持したままで答えを返す。
「ちょっと売店にね。っと、あったあった」
所詮は同じ建物内にあるだけあって、すぐに目指した場所へと辿り着いた。
「売店……。何か買うんですか……なの?」
言葉遣いに気をつけてくれてるのは嬉しいけど、それは明らかに日本語としてはおかしいだろ。
「うん。たいしたものじゃないけどね」
喉まで出かかったツッコミを呑み込み、雑誌やお菓子がずらりと並んでいる売店の前へと移動する。
そのうち、軽く摘めるお菓子をいくつか多めに購入する。
「はい」
そうして今買ったばかりのものを、袋ごと小牧の前に差し出す。
「……はい?」
いまいち状況が呑み込めていないのか、不思議そうな顔で小首を傾けて聞き返しながら、小牧は反射的に俺の差し出した袋を受け取った。
「お見舞い代わり、って言うのはちょっとおこがましいかな。本当はもっとちゃんとしたお菓子とか果物とか花みたいなのがいいんだろうけど」
生憎とそう都合よく用意できるはずもない。
本音を言ってしまえば、小牧の見舞いの相手へというよりも、小牧本人への差し入れのつもりだった。
ご機嫌取りといえなくもない行為ではあるが、半ば強引に小牧の領分に踏み込んでしまったことへの謝罪の意を込めて。
ささやかではあるが、これなら小牧本人が食べても良し、もしかしたら本当に入院しているという人への見舞いになるかもしれないし、
少なくともマイナスにはならないと思う。
幸い小牧がこの手のお菓子が好きだというのは、短いながらも共に過ごした書庫でのひと時でわかっていた。
「や、や、そんな悪いですよ」
やはりと言うか、小牧は袋を押し返すように花瓶を持っていない方の手を突き出して遠慮する。
だけど、小牧の視線が袋の中のお菓子にロックオンされているのを俺は見逃しはしない。
「まあまあ」
「いえ、ほんとわるいですから」
そうは言いながらも段々と抵抗する力が弱くなっていく。「もしかして迷惑かな」
「いっ、いえ、迷惑だなんて。ただわざわざこんな風にしてもらうのは河野くんに悪いと思って」
「それなら、遠慮なく受け取ってくれ。俺がしたくしてやってるんだし」
少し強引にお菓子の詰まっている袋を小牧の腕に抱かせ、俺はパッと手を離す。
「あ、う。その、どうもありがとうございます」
先ほど流し場で生けなおした花瓶と、今さっき受け取った(受け取らせた)袋を両腕に抱えながら、照れくさそうな控えめの笑顔で礼を言う。
その様子からすると、少なくとも迷惑とは思われていないのは本当だろう。
心のどこかでホッと安心する。
「本当にその場で用意したものになっちゃって悪いな」
「ううん、そんなことないよ。河野くんの気持ち、すごく嬉しいですよ」
「ありがと。そう言ってもらえると気が安らぐよ」
「でも、本当によかったの? わざわざこんな……」
「いいんだってば。成り行き……というかほとんど自分から図々しく首突っ込んだようなもんだけど、小牧の知り合いが入院してるって知ったのに、そのまま何もしないで素通りするのもなんか悪いだろ」
自己満足といわれればそれまでだけど、それでも何かできることがあるならやっておきたい。
「本当なら直接お見舞いできるのが一番いいんだろうけどね」
とは言っても、いきなり見ず知らずの人間が病室に押しかけて『お見舞いに来ました』などというのも相手からすれば迷惑極まりないだろうし。
ならばせめてこれくらいは。
「まあ本当にたいしたものじゃないから、気持ちだけになっちゃうけど」
「河野くん……」
「さて。俺はそろそろ帰るよ。えーと、こういうときでも『お大事に』でいいのかな」
他に適当な挨拶が見つからない。
自分の知識の無さを露見させるようで少し恥ずかしいが、無意味に見栄を張って変なことを言うような失敗をするよりはいい。
「今日はいろいろとごめん。それじゃまた明日」
「あっ、あのっ」
帰ろうと振り返る寸前に、いつもの小牧からは考えにくいほどの大きな声で呼び止められる。
驚いてそのまま固まっている俺にさらに続けて言ってくる。
「その、もし河野くんさえよかったらでいいんだけど……あの、一緒にきませんか……なのよ?」
先ほどの一声で全ての声を振り絞ってしまったのかと思えるほどに、さっきとは打って変わって、呟くような途切れ途切れの小さな声。
相変わらずのですます調の入り混じったおかしな口調で、とても控えめに、けれども小牧には珍しくはっきりと自分からそう申し出た。
543 :
↑の作者:2005/07/17(日) 03:31:01 ID:V/9F8i7h0
今回でメインの人とご対面にまでもっていくつもりだったのがなぜかいいんちょうに食われてしまいました。
これがいいんちょうマジックってヤツでしょうか。恐るべしです。
きっと途中で7分割から8分割にこっそり増えてるのもいいんちょうマジックです。
前回は改行ミスがあったし今回はこれだしで、一度くらいスパッと綺麗に投下してみたいものです。
それではお目汚し失礼しました。
瞠目して待つ。
543様、続きを待っております!
わたしの加入しているプロパイダが2ちゃんねると喧嘩してるらしく、当面パソコンからのアクセスが出来ないようです(今は携帯から書き込んでます)
回復がいつになるかわからないということなんですが??状況しだいでは自サイトへ移管となるかもしれません。
とりあえずそれだけです。SSスレに栄光あれ!
そしてOCNはよなんとかせんかーい(泣)
回復したYO
永久に規制ならどうしようかと思った…ocn
そんな下らない事でわざわざレスして容量削るのか
一生規制されてればいいのに
瑠璃ちゃんを家に連れ帰ったのはいいけれど、タマ姉からはその理由を聞かれ、何故か一緒に来てしま
草壁さんからはタマ姉が家にいる理由を聞かれる。俺はそれぞれ、ありのままを二人に話した。
とりあえず俺は電話で、珊瑚ちゃんとイルファさんに瑠璃ちゃんの無事を伝える。そこで俺は瑠璃ちゃん
があんなことをした理由を知る。それは、自分たちだけの世界にイルファさんという”異物”を招き入れ
た珊瑚ちゃんへの怒り、そしてその怒りから珊瑚ちゃんを傷つけてしまった自己嫌悪によるものだった。
今晩はこのまま瑠璃ちゃんを家に泊めることにした俺。明日の昼に珊瑚ちゃんとイルファさんに家に
来てもらうことにしたけれど、果たして無事解決となるだろうか……。
「あれ? 何してるの二人とも?」
日曜日の朝。キッチンで俺が見たのは、朝食の仕度をしている瑠璃ちゃんと、それを手伝う由真の姿
だった。
「何って、決まってるやん、朝ご飯。世話になったからな、このくらいはせんと」
「もうちょっとだから、たかあきはそっちで環さんとTVでも見てなよ」
由真にそう言われて居間の方を見ると、タマ姉が暇そうにソファーに座ってTVを眺めている。多分
自分も手伝おうとしたけど二人に断られたんだろうな。
それにしても、改めて瑠璃ちゃんと由真を見ると、瑠璃ちゃんはいつも通りって感じで料理してるし、
由真は食器や出来た料理をテーブルに並べたりと裏方に徹している。なんだかいいコンビネーションだ。
由真は今までタマ姉の手伝いをやってきた成果だと思うが、瑠璃ちゃんが由真を邪魔者扱いせずに手伝
わせているのは、人見知りの激しい瑠璃ちゃんにしては意外だ。昨晩のあの会話で二人は仲良くなった
と言うことだろうか?
「おっはよ〜」
「おはようだぞ、うー」
花梨とるーこも起きてきた。我が家の日曜日は、こうして始まった。
「おいしい! 瑠璃ちゃんって料理上手なんだね!」
「うーかりの言うとおりだぞ。うーるりの作った料理はどれも素晴らしい。また一人新たな強敵が現れ
てしまった。これでますます油断が出来なくなったぞ」
「タカ坊から話し程度には聞いていたけど、瑠璃ちゃんって本当に料理が上手なのね」
さすがは瑠璃ちゃん、その料理の腕は誰もが認めるところだった。
「ホントだよね。正直、自分より年下のコがここまで出来るのって、なんか悔しいっていうより、出来
ない自分が情けなく感じちゃうな……」
苦笑する由真。まあ、長年姫百合家の台所、いや家事全般を一手に担ってきた瑠璃ちゃんだからなぁ。
たまに母親を手伝うくらいしかやってなかった由真との差は歴然だ。
「こ、こんなん、いっつもやってるから出来て当然やもん……」
周りからの賞賛の言葉に、戸惑い気味の瑠璃ちゃん。
そう言えば瑠璃ちゃんって、珊瑚ちゃん以外のためにご飯を作ったことってあるのだろうか? あの塩
チャーハンは別として。
いや、多分初めてではないだろうか。この反応がそれを物語っている。と言うよりもしかしたら、珊瑚
ちゃん以外の誰かと一緒にいること自体、瑠璃ちゃんにとってはかなり珍しいことじゃないか?
「出来て当然なんて言わないでよ。そしたら、出来ないあたしがダメ人間みたいじゃない。ああ、余計
落ち込む……」
「べ、別に由真のこと悪う言うたんちゃうよ。た、ただウチ、いっつも普通にやってたから、その……」
やや大げさにヘコむ由真をなんとかフォローしようとする瑠璃ちゃん。
「今さら自分の未熟さを嘆いても仕方がないぞ、うーゆま。そんな暇があったらもっと料理の腕を磨け。
忘れていないだろうな、明日の夕食、再勝負だぞ」
「い、言われなくてもわかってるわよ!」
「あははっ、由真ちゃんまだ料理ヘタッピだもんね〜!」
「花梨には言われたくないっ!」
「おいおい、朝からギャーギャー喚くなよ」
「いいじゃない。このくらいはスキンシップの内よ。ふふっ」
朝っぱらから何とも賑やかな食卓である。これも瑠璃ちゃんには慣れない雰囲気だろう。
俺は瑠璃ちゃんを見る。タマ姉の言う”スキンシップ”に勤しむ由真たちを見て、やはり瑠璃ちゃんは
戸惑っている。でも、そんな由真たちから目を離さない瑠璃ちゃん。何を思っているのだろう?
朝食から少し経って、このみと小牧さんが遊びにやってきた。瑠璃ちゃんも加えて、みんなでまたトラ
ンプで遊ぶ。このみは懲りずにババ抜きで遊びたいと言い、案の定ビリの連続だった。
そしてお昼過ぎ、玄関のチャイムが鳴った。珊瑚ちゃんとイルファさんが来たのだ。
瑠璃ちゃんもそれに気づき、その顔が緊張でこわばる。
俺は廊下に出て、玄関のドアを開けた。
「貴明、こんちわ〜」
「貴明さん」
やはり珊瑚ちゃんとイルファさんだった。
「いらっしゃい。まあとりあえず入って」
俺は二人を瑠璃ちゃんのいる居間に連れて行く。
「瑠璃ちゃん!」
「瑠璃様!」
居間に入った珊瑚ちゃんとイルファさんは、そこに瑠璃ちゃんがいたことに安堵したようだった。
でも瑠璃ちゃんは、ソファーに座って下を向いたまま何も応えない。
「じゃ二人とも、こっちに来て」
俺は珊瑚ちゃんとイルファさんを、瑠璃ちゃんのそばに連れて行った。ソファーにはタマ姉と小牧さん
が座っていたが、二人とも何も言わずに席を空けてくれた。
「タカ坊、私たち、部屋を出ましょうか?」
タマ姉が気を利かせてそう聞いてくる。
確かに、これは珊瑚ちゃんと瑠璃ちゃん、それにイルファさんの問題だ。部外者は部屋を出た方がいい
かもしれない。
だけど……、俺は少し考え、こう答えた。
「いや、よかったらみんなもいてくれ。構わないよね、珊瑚ちゃん、瑠璃ちゃん、イルファさん?」
「う、うん、ええよ」
珊瑚ちゃんがそう答えて、イルファさんもうなずく。瑠璃ちゃんは答えなかったが、俺はそれを否定
とは受け取らなかった。
珊瑚ちゃんとイルファさんをソファーに座らせる。他のみんなはキッチンのイスや、居間の床に座って
黙ってこっちを見ている。事情を知らない小牧さんも、場の雰囲気を察して何も言わない。
珊瑚ちゃんたちがソファーに座り、それからしばらく、居間に沈黙が訪れる。
「さて、と、まずは何から話そうか……」
その沈黙を打ち破ったのは俺だ。何となく、この場を仕切らなければいけない気がした。だが……
「さんちゃん、イルファ、ごめんなさい!」
いきなり、瑠璃ちゃんは珊瑚ちゃんたちに頭を下げ、謝った。
「瑠璃ちゃん……?」
「瑠璃様……?」
驚く珊瑚ちゃんとイルファさん。瑠璃ちゃんは頭を下げたまま、話しを続けた。
「ウチ、悪いコやった。イルファのことイジメて、さんちゃんにあんな酷いこと言って、そんで家を飛び
出して……。ホンマ、悪いコやった。
ウチな、どうかしてたんよ。ウチ、さんちゃんはウチだけのものだって思ってたから、イルファ、ウチ
からさんちゃん取り上げようとしてるって思って、それで……
でも、ホンマは違うねんもんな。イルファ、ウチらのお手伝いがしたいって思っただけやもんな。イル
ファはメイドロボやもん、そんなん当たり前やのに、ウチ、変な誤解して……
ホンマにごめんなさい! 許してください! ナンボでも謝るから、だから許して……」
必死で謝罪する瑠璃ちゃん。
俺は、瑠璃ちゃんが根は正直な女の子だってことを知っている。だから今の瑠璃ちゃんがウソをついて
いるとは思わない。
だけど、何かがおかしい。そう感じるのだ。
頑固者の瑠璃ちゃんがあっさり自分の非を認めたから? 『敵』であるはずのイルファさんにさえ謝って
いるから? それとも……
「ウチ、ホンマに反省してるよ。もうイルファのこと、邪魔者扱いしないから。これからは、イルファと
ウチで仲良うご飯作りたいって思ってるよ。
ううん、ご飯だけやない。掃除も洗濯も、イルファと一緒にやっていこう思ってる。イルファのこと、
家族やと思ってるよ。だから、これからは三人で仲良う暮らしたいねん。
ホンマに、ホンマにそう思ってるから、だから……さんちゃん……、ウチ……ウチ、帰ってもええやろ?
さんちゃんの家に、帰ってもええやろ? な、さんちゃん……?」
顔を上げた瑠璃ちゃんは、泣いていた。その涙に濡れた目で珊瑚ちゃんを見つめ、そう訴える。
だけどその言葉と、瑠璃ちゃんの表情を見て、俺はわかってしまった。
瑠璃ちゃんが真剣に謝っているのは本当だ。だけど、その奥底にあるものは、”諦め”と”恐れ”だ。
瑠璃ちゃんは、珊瑚ちゃんが自分だけのものにならないことに”諦め”、それでも珊瑚ちゃんから離れ
たくないと”恐れ”ているんだ。
「……うん、ええよ瑠璃ちゃん。ウチ、怒ってなんかいないから。いっちゃんもやろ?」
「……はい。私が瑠璃様に対して、怒りを覚えるはずなどありません。私にとっては瑠璃様も珊瑚様も、
かけがえのない大切なお方ですから」
瑠璃ちゃんの謝罪の言葉を受け入れ、珊瑚ちゃんもイルファさんも瑠璃ちゃんを許そうとしている。
いや、元々珊瑚ちゃんたちは許す許さないではなく、最初から瑠璃ちゃんを家に連れて帰るつもりだった
のだろう。もし瑠璃ちゃんが謝らなければ、逆に珊瑚ちゃんとイルファさんが謝って、瑠璃ちゃんが家に
帰るよう説得していたと思う。
これでいいのかもしれない。奥底の気持ちはどうあれ、瑠璃ちゃんは自分の非を認め、再び珊瑚ちゃんの
いるあの家へ帰りたがっている。そして珊瑚ちゃんも、そんな瑠璃ちゃんを優しく受け入れようとしている。
このまま瑠璃ちゃんは家に帰り、姫百合家はイルファさんを加えて、三人で暮していくだろう。
でも、本当にこれでいいのか? 今回のことを「瑠璃ちゃんが悪かった」だけで終わらせていいのか?
その疑問がどうしても俺の頭から離れない。だから俺は、瑠璃ちゃんにこう問いかけてしまった。
「瑠璃ちゃん、本当にそれでいいの?」
「貴明……?」
「瑠璃ちゃんだけが悪かったって、本気でそう思ってる? 珊瑚ちゃんやイルファさんに、もっと他に言い
たいことがあるんじゃないの?」
「う、ううん、何もないよ。ウチが悪かったんや。ホンキでそう思ってるよ」
「自分だけが悪かったって、そう思い込もうとしているだけじゃないの? 本当はただ、珊瑚ちゃんに嫌わ
れたくないだけじゃないの?」
「ちょっとたかあき、何言ってるのよ!?」
俺の言葉に真っ先に怒ったのは、由真だった。だけどそんな由真を、タマ姉が無言で制する。
そして、やっぱり瑠璃ちゃんは、ウソが苦手な女の子だった。
「……そんなん、どうでもええやん」
「瑠璃ちゃん……」
「貴明の言うとおりや! でもそれがなんやの!? ウチ、ウチはずっとさんちゃんのそばにおられたら、
それだけでええんや! さんちゃんが誰を好きになっても、家に誰がおっても、ウチはさんちゃんのそば
におられたらそれでええんや! そう気付いたから、ウチは……ウチは……」
「……そう、そうやったんか」
「さ、さんちゃん?」
「瑠璃ちゃん、ウチと一緒にいたいだけで、ホンマはいっちゃんのこと、認めてなかったんやね。でも
ウチに嫌われたくないから、そんな風に謝ってるんやね。
でも、ウチもウチで、そんな瑠璃ちゃんの気持ち、よう考えてなかったかもしれんね……」
珊瑚ちゃんはそう呟き、それから目を閉じ、何かを考え始めた。
少しの時間、再び居間に沈黙が訪れ、そして珊瑚ちゃんは目を開き、瑠璃ちゃんに微笑んだ。
「瑠璃ちゃん、ウチら、今までずっと一緒に生きてきて、いろんなことしたね。一緒にご飯食べて、一緒
にどっか出かけて、一緒にホラー映画見たり、ゲームしたり……
でもな、ずっと一緒のウチらが、今まで一度もしてなかったことがあるって、今気付いたんや。何やと
思う、瑠璃ちゃん?」
「え……、な、なんやの……?」
「ケンカ」
「け、ケンカ……?」
「なんぼ双子言うても、ウチと瑠璃ちゃんは違う。考えていることが合わないことだってあるし、相手に
対して不満を感じるときもある。
でも、ウチらはお互いすきすきすきーやったから、そういうときは大抵どっちかが折れて、相手に合わ
せてきたんや。いつの間にかそれが当たり前になってたんやね。
でも今回の件は、どっちかが折れちゃいけないんや。
このまま瑠璃ちゃんが謝ってるのをウチが許して帰ったら、瑠璃ちゃんきっと、二度とウチに文句とか
言わなくなると思う。そんなんウチ嫌や。ウチは何でも言うこと聞く便利なロボットなんか欲しないねん。
だからいっちゃん作ったんや。ウチ、瑠璃ちゃんには瑠璃ちゃんのままでいて欲しいもん」
「じゃ、じゃあ、ウチ一体どうしたらええの!?」
「ウチもな、わからん。わからんねん。
ホンマに瑠璃ちゃんがあかんかったのかもしれんし、ウチがあかんかったかも。でも今はわからんねん。
だから、な、瑠璃ちゃん。今すぐわからんのやったら、ゆっくり時間かけて、お互い考えてみよう?
だけど、今までみたいにいつも一緒におったら、きっと考え方が相手寄りに曲がってしまう、それやと、
正しい答えは見つからないと思うんや。だから……」
珊瑚ちゃんはそこで一旦言葉を切り、そして俺を見て、こう言った。
「貴明、しばらく瑠璃ちゃんのこと、お願いしてもええかな?」
「さ、さんちゃん!?」
「珊瑚様!?」
驚く瑠璃ちゃんとイルファさん。でも俺は何となく、珊瑚ちゃんがこう言うとわかっていた。
「ああ、いいよ」
「さ、さんちゃん、何でウチ、帰ったらあかんの!? ウチのこと、そんなに嫌いになったの!?」
「違うよ瑠璃ちゃん、さっき言うたやろ。今のウチらは、いつも一緒じゃあかんのや。少しだけ離れて、
お互い一人で考える時間が必要なんや。
安心して瑠璃ちゃん。ウチは今だって瑠璃ちゃんすきすきすきーやで。寝泊まりする場所を変えるって
だけや。ウチ毎日貴明の家に遊びに来るから、そんときは仲良うしよ? これが、ウチらが初めてする
ケンカや。どっちかが、ううん、何が悪かったってわかるまでの、時間無制限一本勝負のケンカや」
満面の笑みでそう話した珊瑚ちゃんは、人差し指を瑠璃ちゃんにビシッと突き立ててこう宣言した。
「ケンカは真剣勝負や! なんぼ妹やからって手ぇ抜かへんからな、瑠璃ちゃん!」
呆然とする瑠璃ちゃん。
でも、瑠璃ちゃんも珊瑚ちゃんの気持ちに気付いたのだろう、同じく指を突き立ててこう言い返した。
「わ、わかったわ! ほんならウチかて容赦せぇへんで! 納得のいく答えが出るまで、絶対家には帰ら
へんからな! さんちゃんはそれまでせいぜい、イルファの作るまっずい飯でも食っとけや!」
何とも微笑ましいケンカである。でも、この二人らしいケンカだなと、俺は思った。
多分みんなもそう思っているのだろう。そんな二人をみんなが優しい目で見守っていた。
夕暮れ時、家に帰る珊瑚ちゃんとイルファさんを、みんなで見送る。
もっともイルファさんは、瑠璃ちゃんの服とか諸々必要なものを揃えて、もう一度俺の家に来ることに
なっている。
「ほなみなさん、瑠璃ちゃんのこと、よろしくお願いします」
そう言ってペコリと頭を下げる珊瑚ちゃん。
「ほな、また明日な、瑠璃ちゃん」
「う、うん……」
瑠璃ちゃんに手を振り、珊瑚ちゃんはイルファさんと一緒に玄関の扉を開け、出ていった。
「……ウチな、おかしいねん」
二人が去った玄関に残ったまま、瑠璃ちゃんが呟く。
「別に会えなくなったわけやない、明日になれば学校で会えるし、さんちゃん毎日ここに来る言うてたし、
寝る場所が違うってだけやのに、それやのに……
う、ウチ、さびしい、さびしいよぉ……う、ううぅ〜……うええええ〜ん」
まるで子供みたいに、涙と鼻水を流して泣く瑠璃ちゃん。
俺があんな疑問を抱いたせいで、瑠璃ちゃんと珊瑚ちゃんは離れて暮らすことになった。それがどれ程
瑠璃ちゃんを悲しませることになるのか、わかっていたクセに俺は……。
これは紛れもなく俺のせいだ。だから俺は、どれだけ瑠璃ちゃんに憎まれても仕方がないと思った。
それなのに……
「うえええええ〜ん……さびしいよぉ、さびしいよぉ、貴明〜」
瑠璃ちゃん、どうして君は、俺の胸で泣くの……?
つづく。
どうもです。第15話です。
こうして、河野家にまた新たな住人が増えました。
予定では後一人……、え、もう誰かバレバレ?(苦笑
いよいよ郁乃登場
委員長登場。
いやここは春夏さんが!
三人娘のうちの誰?
大本命と言えば雄二だろ(マテ
この中で正規のルートの問題が解決してるのって草壁さんだけになるのかな?
つ【ゲンジ丸】
ここで大穴、タカ坊の両親が休暇で帰ってくるとか。
ダニエルをおいて他にない
ここで菜々子ちゃんの登場
先 代 委 員 長 を忘れるな
ミルf(あqwsでrftgyふじこl
超久々に投下してみる。
誤字脱字があったら、ご勘弁のほどを。
以下、12レスほど続きます。
路地を曲がればダッシュはそこまで。後はチンタラ歩いて商店街へと向かった。白い太腿やふくらはぎを露わ
にしてママチャリのペダルを漕ぎつつ家路に急ぐ女子高校生どもを品定めしながら、俺は往く。声をかけてみた
いなぁとほんの少しでも思った女子生徒は、寺女が二名、うちの生徒が一名、西高が一名、市立商業が二名。特
に、市立商業のツインテールの娘は良かったね。その娘、街灯の下にいたから顔がバッチリ見えた。色白で髪は
ほんのり茶色がかっていて、胸もそこそこあって、背も姉貴くらいはありそうだった。そして笑顔が可愛いんだ
わ、これが。その娘がピンク色のケータイで誰かと喋っていなかったら、現在の任務を放棄してご挨拶に行った
ね、絶対。……でも、ケータイの相手が彼氏だったら? そう思っちまうと、途端にテンションが落ちてしまう
ガラス細工なハートの俺。貴明にチキンを伝染されちまったか!? 畜生め。
まあいいさ。二兎を追う者は一兎をも得ず、ってな。俺の目標は、あくまで、あの双子ちゃんよ。サヨナラ、
市商のツインテールちゃん。惰弱な貴明からあの二人を……って、待て。俺、二兎を追ってるじゃねえか!?
ならば、答えは至極簡単。ドラフト一位の指名候補、姫百合瑠璃ちゃんに猛アタック。これ。今は、逃げ場を探
しているだけの彼女を、どうにかして、心の底から「雄二お兄ちゃん好き好きー」な方向へ持っていかないと。
無論、彼女の心を奪うだけではダメ。珊瑚ちゃんも俺を恨むことなどない、すっきりしたカタチでないといけな
い。でも、どうする? 言うほどイージーじゃねえぞ、これって。
でもよ、誰からも恨まれることなく誰かの心を奪うなんて、出来るんだろうか。出来ないんだろうな。そうい
うものなんだろうな。だから有史以来、痴情のもつれでの人殺しが絶えないんじゃないのか。
俺も周囲から見れば、まだまだ伸び盛りのガキ。人の痛みを知ってオトナになるための踊り場に、俺は居る。
ウチに棲息しているボス猫だかメスゴリラもそれを見透かしていやがるから、俺に対して何かと思わせぶりな態
度を取るのだろうな。何か悔しいぞ。畜生め。
とにかく。今は、『雄二お兄ちゃん好き好き大好き☆めっちゃ愛してる大作戦』を成就させること。ただそれ
オンリー。その後のことは、考えなくていい。とりあえず、今は、な。
俺は、貴明とは違うんだ。このみと同じ布団でおねんねして、チンポが震度1程度も反応しないインポな貴明
とは違うんだ。やるしかない。迷っちゃいけない。姉貴が俺を見ている。男になれるかどうか、俺を見ている。
試していやがる。畜生め。だったら、見せてやろうじゃねえか。いつまでも、ハナ垂れ小僧扱いはゴメンだ。
やや薄暗い商店街の街灯には、『さくら通り商店街』と書かれた垂れ幕が釣り下げられている。この商店街、
俺が餓鬼の頃、そう、少なくとも小学校四年くらいの頃までは、もっと人通りがあって、肉屋魚屋八百屋豆腐屋
パン屋電気屋その他諸々の店舗のオッサンオバハン達にも活気があって、姉貴や家政婦さんにお使いを頼まれて
足を踏み入れるたんびに威勢のよい声が響いていたものなんだが、今は、悪いが、見る影もねえや。シャッター
が閉まったままの空き店舗が目立ち、色とりどりのスプレーで意味不明な記号だか文字が書き殴られている姿は
哀れみを誘う。俺が餓鬼の頃に比べて、この近辺の人口は増えているはずなんだが、近辺の再開発ビルに入って
いる店舗や駅前の大型スーパーマーケット、そこかしこに点在するコンビニその他の巨大資本に客を奪われてい
ったわけだ。
俺が幼稚園の頃にミニカーを買った玩具屋は、今ではシャッターが降りたまんまで店主は行方知らず。小学生
の頃にガンガルのプラモデルを買った模型店は、休業した後でなぜか居酒屋になり、それも一年保たずに今度は
コンビニになり、それは三年ほど続いたがやはり潰れ、今は子供向けのパソコン教室になっている。でも、外か
ら見る限り生徒の数はまばらであって、潰れるのは時間の問題だろうな。
この商店街で盛り上がるのは、年に一度の七夕祭りくらいなんだが、近年は青年会議所の連中が盛り上げよう
と鼻息荒く意気込みすぎてか迷走し、何の脈絡もなくヨサコイ踊り大会が始まったり、リオのカーニバルに出て
くるようなダンサーたちが会場中で踊り狂ったりしている。俺はな、射的で欲しくもない縫いぐるみをゲットし
てこのみにくれてやるとか、どっちが先に屋台を征服するかを貴明と競い合い、どんどん焼きとか焼き烏賊とか
チョコバナナを腹を壊すくらいに食いまくれれば、それでよかったんだ。どこで間違ってしまったんだろうな、
俺たちの商店街は。俺ならこうする、という考えはあるけれど。例えば、どうせ踊るのなら、織り姫と彦星に扮
した男女ペアで……。
……俺なら……か。
俺が自分の将来について考えたとき、やはり地元の有力者の子弟ということで、親父の事業(これがまたよく
わからないんだ。手前らの仕事のことは、一切俺たちには言わないからな)を引き継ぎつつ、ゆくゆくは地元の
リーダーとして市議会議員の候補に擁立されたりとか、色々と面倒くさい人生が待っているんだろう。そんなこ
と、姉貴の方が、俺よりもずっと、百万倍くらい向いているんだけどな。『向坂』という名前しかないんだ、今
の俺には。能無し二世タレントや、才能がないのに親父のコネでドラフトで獲ってもらう野球選手みたいなもの
なんだ。そして、そういうイヤらしい奴らは、俺は反吐が出るほど嫌いなんだ。俺は、動物園のパンダかコアラ
にはなりたくないんだ。俺は、そういう連中とは違うんだ。違うと思いたい。違うと、思わせてくれ。
できることなら、家の呪縛から逃れたい。大学だって、ここから通える首都圏の大学じゃなくてさ、遠く離れ
た関西の大学に行きたいんだ。関西だったら、双子ちゃんのことを考えれば丁度いいだろう。関西の出身なんだ
よな、あの二人は? そして、あわよくば、そこに生活の基盤を築いてしまいたい。とりあえずその第一歩とし
て、応援するプロ野球チームを、巨人から阪神に乗り換えておいた。職業野球といえば巨人、巨人こそ職業野球
の最高峰と未だに信じて疑わない姉貴には知られないように、こっそりとな。巨人が阪神にボコられて機嫌が悪
い姉貴を慰めつつ、心の中では「勝ったー勝ったーまた勝ったー、弱い巨人にまた勝ったー、地下鉄電車ではよ
帰れー」と叫び、脳内では六甲颪を三番までキッチリ唄う。もう準備は万端。あとはちょっと本気で勉強して、
あっちの名の知れた大学に潜り込めばいい。理由はどうとでも付けられる。こっちに戻ってきた姉貴みたいに。
姉貴に出来て、俺に出来ないはずはない、はずだ。俺は、チキンじゃない、チキンじゃない。ここから尻尾を巻
いて逃げ出す、エスケープじゃないんだ。俺に合った、より良い人生を求めてのエクソダスなんだ、それは。
でも、と俺は考えてしまう。俺は、将来何をしたいんだろう? 何が出来るんだろう? 俺に合った職業って
何だろう? 出来ることって? コンビニのレジ打ち? エロ雑誌の編集者? パチ屋の店員? ポン引き?
それとも、姫百合姉妹の、ヒモ?
そこまで考えたところで、俺は唾を吐き、ビールの空き缶を蹴っ飛ばした。空き缶は英会話教室の看板に当た
って跳ね返り、カラランと再び地面に転がった。俺を咎める者など、誰もいない。たとえ空き店舗にトラックで
突っ込んだところで、このわびしい商店街では、何事もなかったかのように、八百屋や魚屋のオッサンが虚ろな
目で、ええらっしゃいませぇえぇらっしゃいませえゃすいょやすいよぉーと、選挙カーみたいに連呼しているだ
けなんだろうよ、きっと。
普段は行かない酒屋で、首尾良く『山春もろみ醤油』の2リットル瓶と料理酒をゲットした。『山春もろみ醤
油』は5000円もしやがる。2リットルで5000円だぞ。以前、貴明にそれを話したら、「お前の家には、
海原○山でも住んでいるのか?」と言われたものだ。ウチにはさすがに海原○山はいないが、エサの味にはやた
らうるさいメスゴリラを飼っているから、似たようなものか。こんなのを買うのは、ウチみたいな金が余ってい
る家か、料亭くらいだろうな。畜生め。
任務を果たした俺は、意気揚々と帰途につこうとしたのだが、ここでちょっとした用事を思い出した。
ガムを切らしていたのを忘れていたんだ。ああ、どうして今日の帰りにコンビニで買っておかなかったんだ。
これも修学旅行の会合の時間が押したせいだ、あの笹森とかいう変な女のせいだ、畜生め、などと毒づきつつ、
ここから一番近いスーパーマーケットへ行くことにした。重い瓶を二本も抱えて、かったるいけど仕方がない。
ガムがなければ、家の中でウダウダ過ごしているとき、口の中が寂しくてたまらないんだ。
ガムならなんでもいいってわけじゃねえ。俺が愛してやまないのは、「キチリッチュ」フルーティーミントの
ボトルタイプだ。俺にとっては「キチリッチュ」以外はガムじゃねえ。ただの味の付いたゴム製品。ゴムだぜ、
ゴム。想像してみろ、輪ゴムやコンドームやジェット風船なんか食えるか? 食えねえだろう? 俺に「キチリ
ッチュ」以外の、本当にゴムみたいな二流メーカーのガムを食わせてみろ。「このガムを作ったのは誰だぁ!」
と菓子会社に乗り込んでいってやるからな。俺はマジだぜ。畜生め。
スーパーマーケット(とはいえチェーン店ではなく、個人レベルの小規模な店だ)に着く。ああ、瓶が重い。
この商店街には、荷物の一時預かり場所くらいねえのか。ねえんだろうな、聞いたことがないもの。だいたい、
この商店街には駐輪場すらロクにない。そこかしこに放置された錆びた自転車が、商店街の寂しさを増幅させて
いる。ここから一番近い駐輪場が、ここから徒歩五分の駅のガード下ってどういうことだ。あのな、需要がない
とか、そんなのは言い訳だ。こんな体たらくだから、みんなは大きな買い物などする気にならず、車でスイスイ
行ける量販店に客を奪われていくんだ。そういうことは、誰かが指摘してやらなきゃならない。畜生め。
でも、このスーパーは、レジの女の子が可愛いから、ちょっとだけ許そう。店主が面食いでさ、俺と趣味が合
うんだ。やっぱ、レジは男には打ってほしくないね。やっぱり、可愛い女の子が「いらっしゃいませぇ」とか
「ありがとうございましたあ」と言ってくれないとね。
スーパーに乗り込み、首尾良く「キチリッチュ」のボトルをゲット。さあ、どこのレジに並ぼうかな、などと
レジの女の子を品定めしていたところ、レジ近くの特売品売場に、一際目立つ“女の子”が立っていたのに気付
いた。店員さん? いや、違う。髪は鮮やかなブルーのドールヘアー、耳には銀色のアンテナみたいな物体がく
っついていて、顔立ちはちょっと憂いを湛えているように見えるがかなりの美少女、そして白と紺のツートンカ
ラーのメイド服を着ている。ああ、間違いない。あれはメイドロボだ。でも、あんなモデルは知らないぞ。新型
か? それとも、どこぞの金持ちがカスタマイズした特注モデルか?
おおっと、丁度近くに店主がいた。早速捕まえて、レッツ聞き込み。ゴーゴー。
「なあなぁ、おいちゃん。あのメイドロボ風の女の子さぁ、最近よく来るの? それとも……買ったのかい?」
「メイドロボ買う余裕なんざぁ、ありゃしねえよ、ぼっちゃん。もちろん、お客さんだよ」
ここの店主はいい人なんだが、いつまでも俺のことを「ぼっちゃん」と呼ぶんだよな。人前ではやめてほしい
んだがなぁ。恥ずかしいから。
「んーあー、あのメイドロボさんね、ここ最近だけどね、来るよ、毎日のように。でもよぉ、それがどうしたの
さ、ぼっちゃん。気になるのかい?」
「いや、見慣れないタイプだからさ、つい、な……」
「んーあー、俺も見たことねえし知らねえよ。見た感じは、四菱インダストリーやジャストエンタープライズ製
じゃなくて来栖川っぽいけどな。実はな、俺も気になってさ、ちょっと声掛けてみたわけよ、ぼっちゃん」
「そこんとこ詳しく」
「ああ、この近所の高級マンションにな、居候しているとか、なんとか……ああ、ボクたち、それ散らべちゃあ
ダメだよぉ……」
店主は、売り物のお菓子を散らかしているお子様たちの方へ慌てて行ってしまった。歪んだゆとり教育の生み
出した恥知らずな餓鬼どものせいで、話を聞き損なったじゃねえか。畜生め。ゆとり教育クソクラエだ。
再び俺は“彼女”に目をやった。“彼女”はまだ、どこか憂いを湛えた瞳のまま、特売品売場に佇んでいた。
今日の特売品は、醤油だった。1リットルボトルで99円か。『山春もろみ醤油』とは、えらい違いだな。醤油
の山の前で、“彼女”は何を迷っているというのだろう。賞味期限とか、気にしているのか?
「なあ。どれを選んでも、おんなじだぜ?」
俺は思い切って“彼女”に声をかけた。
「……本当に、同じなんでしょうか?」
“彼女”は俺を見ずに、そうつぶやいた。
「どういうことだい、そりゃ? 同じ工場で同じように瓶詰めしているんだから、同じに決まっているさ」
「でも、私の作る料理は……違うんです。る……いえ……ご主人様と同じレシピで作っても、同じ材料を使って
も、ご主人様の料理とは、同じ味には、ならないんです……それどころか……」
「そりゃあ、当然だよ。俺には姉貴がいるけどさ、姉貴が作る肉じゃがと、俺が作る肉じゃがでは、味が違って
当然だぜ?」
まあ、俺は、肉じゃがなんか作れないんだけどな。モノの例えってヤツだ。
「君は、ご主人様とは違うんだからさ、味が違ったって仕方ないじゃないか。そのご主人様が、君の知らない隠
し味を使っているかもしれないじゃないか」
「……」
“彼女”は何も言わずに、醤油の山を見つめたまま、俺の話を聞いている。
それにしても、話し方といい、態度といい、メイドロボらしくない娘だな。俺はさらに続けた。
「君がどっかのチェーン店、例えばラーメン屋で働いていてさ、よその店と同じ味のとんこつラーメンを作らな
ければならなくて、それで出来ないのなら怒られても仕方がないけどさ、そういうわけじゃあないんだろう?」
「でも……私がいくらビーフシチューを作っても、ハンバーグを作っても、ご主人様は『こんなん、見てくれだ
けの蝋細工と一緒や、こんなもん食い物と違うわ』と立腹されて……未だに、全部召し上がっていただいたこと
はありませんし、時には、箸さえつけていただけないことも……」
「ひでぇよな、そいつは……」
俺は呆れて、つぶやいた。この娘のご主人様は、美食倶楽部の会員ですか?
その時、“彼女”は初めて俺を見た。
“彼女”の瞳を見て、俺はたじろいだ。困惑した。“彼女”は明らかに怒っていた。ロボットが怒るのかよ?
それ自体、俺には信じられない光景だった。
「……ご主人様は、酷くも悪くもありません! 悪いのは……ご主人様の期待に応えられない私の方です!」
“彼女”は絞り出すようにそう言うと、俺から目を切り、ツカツカとレジへと向かっていった。オバサンの群
れはモーゼに割られる海のように、“彼女”を避けるように道を開ける。
「おい、待ちなよ!」
俺はとっさに叫んだ。周囲のオバサンや若奥様たちが、一斉に俺に注目した。
「……何でしょうか!?」
“彼女”は怒気を含んだ声で、振り返りもせずにそう言った。
「醤油、買わねえのかよ!?」
“彼女”の買い物かごには、買おうとしていたはずの醤油が入っていなかったのだ。
「……」
“彼女”は歩みを止めると、気恥ずかしそうな様子で俺の元へ戻ってきた。
心なしか、頬に赤みが差しているように見えた。可愛いな。素直にそう思った。
「さっきはゴメンな。悪気はなかったんだ」
俺は“彼女”の耳元で、こっそり謝った。
「……もう、いいんです」
“彼女”は醤油をかごに放りこみながら、ボソッと言った。
俺は“彼女”の買い物かごを覗き込んだ。豚肉の切り身の入ったパックを見て、気付いたことがあった。
「あと一つ、教えてやるよ」
俺は店主に聞こえないように、さらに小声で言った。
“彼女”は鬱陶しそうに俺を見た。
「この豚の切り身な、下にでっかい脂身が隠してあるぞ」
「どうして、そう言えるんですか?」
“彼女”も空気を読んで、小声で聞き返した。
「見てくれのいいヤツを選んだだろう? この肉、脂肪が少なめの綺麗な赤身に見えるよなぁ」
俺は、パックをツンツンつつきながら言った。
「それが一番良さそうに見えましたから。良い物を選ぶのは、消費者として当然だと思いますけど」
「良さそうなヤツが、どうしてこの時間まで売れ残っていると思う?」
俺は自分の腕時計を見せながら言った。時間は午後6時53分。専業主婦の皆さんなら、とっくに夕食の仕度
をしている時間だ。
「……どうしてでしょう?」
「専業主婦の皆さんはみんな、これがフェイクだってわかっているからさ。まぁ、お約束みたいなものだな」
これは、家政婦さんに聞いたことの受け売りだ。俺も旧家の嫡男とはいえ、小学生の頃はお使いによく行かさ
れたものだ。社会勉強ってやつだな。それで、一番見かけが良さそうな肉を買ってきたら、家政婦さんが呆れた
ように口を酸っぱくして、俺に色々とレクチャーするわけだ。「“ぼん”は人がいいですからねぇ、気ぃつけな
さいよぉ」てな具合に。で、実際にパックの中を見てみると、どうだい。赤身の下には、脂身の塊みたいなクズ
肉しかないわけだ。そいつを見たとき、俺は思わず笑っちまったよ。
ああ、“ぼん”ってのは、俺のことな。家政婦さんは今でも、俺と二人きりになると、俺のことを“ぼん”と
呼ぶ。家政婦さんにとって、一生、俺は“ぼん”なんだろうな。
「昔はどうだったか私にはわかりませんが、この時代にそんなことをしていたら、お店は信用を失ってしまい、
あっと言う間に廃業へと追い込まれてしまうはずです。私は、お店を信じます」
メイドロボの“彼女”は、俺の目をしっかり見て、気丈に言った。純粋だねぇ。
「そうかい。まぁ、無理強いはしねえさ」
“彼女”は俺に一礼すると、レジに向かっていった。
「がんばれよ、メイドさん。一生懸命やれば、いつかきっと、ご主人様も認めてくれるさ!」
俺がそう激励すると、“彼女”は少し振り返り、微笑みを返してくれた。
ちょっとお人好しだけど、頑張る“女の子”が見せた天使の微笑み。俺の欲望と謀略にまみれたハートが、少
しだけ洗われた、そんな気がした。
哀しみ、怒り、少し照れて、そして微笑む、感情が豊かな可愛いメイドロボちゃん。また、いつか逢いたいも
のだ。そういえば、“彼女”の名前は、なんて言うんだろう。それだけでも、訊いておけばよかったかな?
俺はガムの勘定を済ませ、店を出た。メイドロボちゃんの笑顔を見た後では、いつもは可愛いと思って見てい
たレジの姉ちゃんも、どうということはない、凡庸な女に見えた。行きがけに見た市商のツインテールの娘も、
どんな顔だったのか思い出せないや。
「あのぅ……」
家に戻ろうとしたとき、誰かが俺に声をかけてきた。
声の主に振り返れば、そこには“彼女”が立っていた。
「おう、さっきのメイドさんか。どうした? 何か、買い忘れでもしたのか?」
「いえ、その……先程は、はしたなくも大声を上げてしまい、申し訳ありませんでした。せっかく、心配してい
ただいたのに、恥をかかせてしまったみたいで……」
可愛いメイドさんは頭を下げて、俺に謝罪している。まぁ、俺も無意識とはいえ、“彼女”を傷つけるような
発言をしてしまったわけだし、そこまで卑屈にならなくってもいいのにな。
「いいっていいって。それより……俺、向坂雄二ってんだ」
俺は先手必勝、自己紹介。相手がロボットだろうが、このまま名乗らずに別れるのも気持ち悪いし、“彼女”
の名前も訊きたいからな。
「桜坂公園の通りを左折して、その坂道の突き当たりにある、共学の高校って言えばわかるかなぁ? そこに通
ってるんだよ」
「……え、そうなんですか?」
“彼女”はそう言った後、小声で「一緒なんだ……」とつぶやいたが、何の事やら。とにかく、俺は続けた。
「この商店街は、俺の庭みたいなものだからさ、困ったことがあったら、いつでも俺に訊いてくれよな。人間で
あろうがなかろうが、君みたいな可愛い娘なら全然問題ナッシングだから。幽霊やバケモノの悩みだって聞いた
ことがあるんだぜ、俺は」
ウチに、幽霊やゴリラのようなバケモノがいるのは事実だからな。嘘は言ってないぜ? 幽霊、俺見たことあ
るよ? 金縛りにあったことだって、一度や二度じゃないぜ? 明治維新の前から増改築を繰り返して、あそこ
に建っている屋敷だからな。幽霊や妖怪の二匹や三匹棲みついていたって、これっぽっちもおかしくないんだ。
親父もいつか冗談まじりに言っていた。戦災を奇跡的に免れたのも、そいつらのおかげじゃないかって。
「私……HMX−17a、通称“イルファ”と申します。また、お目に掛かることがありましたら、その時はま
た……色々とご教授ください」
俺に向かってご丁寧に頭を下げている純粋なイルファちゃん。偏屈なご主人様にゴミクズのように罵倒されよ
うとも、真摯な気持ちで尽くそうとする、純真なイルファちゃん。人間よりもヒトらしい、聖女のような娘だ。
汚れを知らぬイルファちゃんの澄み切った双眸が、再び俺を捉えた。その可憐な眼差しは、俺の中に巣くって
いる邪念怨念肉欲征服欲その他諸々の邪な思念を洗い流すどころか、ジャンピングニーパッドを喰らわせ、蹴破
った。俺は、KOされた。実に見事だ。俺は、涙が出そうになった。声を上げてわんわんと泣きたくなった。で
も、そこをグッとこらえた。この場に、涙は似合わないから。
「……ああ、待った待った!」
去って行くイルファちゃんを、俺は強引に呼び止めた。
「これ、持っていきなよ!」
俺は『山春もろみ醤油』を、彼女に差し出した。
「いい料理を作りたかったら、まずは材料からだ。こいつはきくぜぇ〜〜〜! きっとご主人様も大満足だ!」
「もろみ醤油……? でも、お醤油は買いましたし……それに、これ、随分と高そうに見えますけど……」
「高い? そんなもん、大したことねえって、ホントに。よし、君の醤油と物々交換といこうじゃないか。それ
なら、文句ねえだろ? ほらほらっ!」
俺は彼女の買い物かごから99円の醤油を引ったくり、『山春もろみ醤油』を強引に押し込んだ。
「はい、まいどありぃ!」
俺は終始笑顔、イルファちゃんはちょっと困り顔。
「……本当に、よろしいのですか? ご主人様には、何て説明すれば良いのか……」
「友達に貰ったって言えばいいじゃねえか。メイドさんに友達がいちゃ、おかしいかい? そうだ、説明に困っ
たら、俺の名前を出せばいいよ。ここら一帯で、俺の名を知らないヤツはモグリだぜ」
少しの間押し問答になったが、結局イルファちゃんは根負けして、またご丁寧に頭を下げて去っていった。
ガンバレ、俺の理想のメイドさん、いや、聖なる乙女よ。辛くなったら、いつでも俺の胸に飛び込んできな。
ああ、心が温かくなったぜ……。
はうっ!
急激に、俺のハートの温度は氷点下に達した。この手元に残った99円の醤油について、姉貴や家政婦さんに
どう説明したらいいんだろうね? 『山春もろみ醤油』って買い直せないかなぁと思って、己の財布を見る。所
持金は……1531円。はい、無理。うっひょう。
こうなれば、もう仕方がない。これしかなかったと言って、開き直ろう。開き直れ。開き直れば。どうにかな
る、かな? ならねえだろうな、畜生め。さぁ。雄二くん、ファイト……ファイ、ト……だよっ……。
この十数分後、俺は姉貴の渾身のアイアンクローを喰らったあげく、来月の小遣いを十分の一に削られるハメ
になったのだが、そいつはまた、別の話な。うっひょう。
以上です。それではまた、気分が乗った時に。
うっひょう。
おかえりー!
まってたよー!
懐かしいな。。。GJ!
なんかところどころから顔を出す佐藤大輔テイストがたまらなく美味。
美味、いわゆる( ゚Д゚)ウマー
GJです!
連休も明けたことだし・・・・
Tender Heartマダー?(・∀・)
GJ
よ〜しみんな、せかすぞ〜(^o^)/
せ〜のっ!
巫女みこナース!
おーい、だれか巫女さんと看護婦さんが出てくるTH2SSを書いてやってくれ……
神社が寂れすぎて巫女いねーじゃんか
ブルマで練習してる格闘家とか
弱小サークルの部長とか
筋肉爺とツンデレ娘ならいるかも
595 :
ぼのぼの:2005/07/23(土) 11:41:07 ID:9RZAdXE40
カンゴフって・・・いつの人間?
「看護士」じゃ萌えねーからだろ
597 :
帰り道:2005/07/23(土) 23:24:53 ID:N5i478JB0
「はぁ…」
小さくため息をつく。
今日も一人で夕暮れの坂道を降りていく。
なにも約束なんかしなくても、校門のところで待ち合わせて、一緒に帰るのがすごく自然だった。
それは今まで当たり前のことすぎて、なんとも思っていなかったのに。
こうして一人で帰っていると、どれだけ彼が隣にいた時間が幸せだったかを、痛感する。
でも、実際にはゲンジツは厳しい。もう、今日で4日連続だよ。一人で帰るの。
校門で彼を待っている時間は、日増しに5分、10分と長くなっていた。
昨日はさすがに日も落ちてしまい、お母さんに怒られたし。
今日は昨日よりは早めに切り上げたといっても、昨日の今日の話なら、またお母さんの雷が落ちるかもしれない。
でもね、待つのをやめちゃったら…もうきっと、彼は手の届かないところにいってしまう。
そしてそれは物心がついてからずっとそばにいた、彼への想いを少しでも分かって欲しくて続けていること。
好き、なんだもん。妹としてしか見られていないって分かっていても、その気持ちは変えようがないんだもん。
思わず続いて出そうになったため息を飲み込んだ拍子に、一人事が口から溢れてしまった。
「タカくん、明日は一緒に帰ってくれるよね…」
口から出た思いに、思わず涙ぐみそうになる。
でも、まだ大丈夫だよ、まだ…
明日の朝にはまた元気な笑顔でいないと、そう思って一歩、強く道を駆け出す。
と、そのとき、ペコン…!と足元から間の抜けた音がする。
「あ…あれっ!?あわわっ!」
今日のお母さんの雷は、当社比2倍以上になりそうだった。
598 :
↑作者:2005/07/23(土) 23:25:27 ID:N5i478JB0
誰もイナイ、初心者が投下するなら今のうち…
巫女さんも看護士さんもなくてゴメンナサイ。
タカくんの呼称がモノローグ内で彼にしているのは仕様です。
このみの頭の中まで電波色にしたくなかったので…
靴底がはがれるエピソードってゲーム開始2日目なのが、細かな矛盾。
文章の体裁のため、ちょっとそこだけは見逃してください…
「たかあきくん、学校の裏山に神社があるの、知ってる?」
「うん、まあ。行ったことはほとんど無いけど」
確か小さな鳥居にお社と賽銭箱があるだけの寂れたとこだった。格闘系の同好会が一時期
練習場所にしていたという話も聞いたことがあるけど、実際にあそこで誰かが集まっている
姿を見たことはない。活動停止になったとも、大きな場所に移ったとも噂では聞くのだけど。
「うん。でもね、実は由緒のある場所らしくて、10年に一度大きな神社から人が来て神事を
行うらしいの。保存会の人たちもいるんですよ〜」
「へえ。でも、たしかに人を見ない割にはいつも綺麗に掃除されてるよね」
「うんうん。今日先生の所にきてた保存会のおじいさんに話を聞いたら、あそこの神様は家内
安全、交通安全、勝利祈願、安産祈願、健康回復、恋愛成就、なんでも叶えてくれる偉い神様
なんだって」
「……そりゃまた」
神様の世界にも器用貧乏っているんだなあ。
「で、その凄い神社がどうしたの」
「あっ、そうそうそうなのよ〜! それでねたかあきくん。その保存会の人たちが言うには今年が
その10年に一度のお祭りがある年らしくて、すぐそばにあるこの学校にも協力をお願いしに来ら
れたそうなんですけど……」
「なんとなく話はわかった。つまり――」
言いつつ俺はテーブルの上に置かれた風呂敷包みを指先でつついた。
「学校側は――というか対応した先生が、愛佳を生贄にさしだした、と」
「推薦した、と言って欲しいなぁ」
困ったように笑いながら、風呂敷をめくってもう一度中身を確認する愛佳。
そこにあるのは、汚れひとつない白と目に鮮やかな朱の、時代がかった巫女服だった。
「いちおう、学業優秀、性格温和、容姿端麗というふれこみで先生は紹介してくれたんだから」
腰に手を当てて、ちょっぴり得意げな顔をする愛佳だったけど
「……で、おだてられてほいほいっとその話を受けちゃったわけか」
と俺がつっこむと、その澄まし顔は一瞬でへにゃっと泣き顔になる。
「ううう……たかあきくん意地悪……」
「ごめんごめん。でも、確かにまあ適役だと思うな。巫女服、似合うとおもうよ」
「そ、そうかなぁ」
巫女服の上着を制服の胸元にあててくるりと回る愛佳。
うん、やっぱり似合うと思う。気軽に愛佳に雑用を押しつける先生たちには正直あまりいい
感じはないんだけど、たしかに、成績性格容姿の三つの面で巫女らしさを満たせる人材は
愛佳くらいしか思いつかないな。タマ姉は成績と容姿は飛び抜けてるんだけど、性格が戦巫女
だし……。
「あれ、でも確か巫女ってもうひとつ大事な条件がなかったっけ」
思わずつぶやいた言葉は愛佳の耳に入ったらしく、朱色の袴を手に、え?と振り向いた。
「もうひとつの条件……?」
「そう、えーっと確かおt」
言いかけて、俺は慌てて言葉を飲み込んだ。
が、すでに遅し。愛佳は朱袴を胸元で握りしめ、上目遣いでこっちを見ている。
顔はもう、袴よりも鮮やかな朱色に染まってしまっていて。
「あ、その……」
何かフォローしようとする俺の言葉も空回りしてしまう。
おそらく、俺のほうがはるかに紅い顔をしてると思う。
――本当、余計なこと思い出さなければよかった。
巫女のもう一つの条件。
それは、乙女(処女)であること。
――つい先日までは、その条件も満たしていたんだけど。
「こ、断って、こようか」
まっ赤な顔で愛佳が言う。
「い、いや。先生に言うことでもないし」
まっ赤な顔で俺が言う。
あとはもう、ただただお互いの目をちらちらと伺いあう気恥ずかしい沈黙が延々と続いたわけで。
とりあえず、罰があたらないように、帰りにふたりでお参りに行ったのでした。
※おしまい※
とりあえず巫女話を作ってみましたよ。
委員ちょ書くの初めてだからちょっと変なのはごめんしてね。
ナースは誰かにまかせた!
俺はもう無理!以上!
ちょwwwwwwwwwwおまwwwwwwwwwwww
GJ!なんかヤってもういういしい二人萌え
GJ!!!
テラモエス!
ゴロゴロと萌え転がったYO
>>600 や ら な い か ?
うほっ!GJ!!
ジャンクション レスつけ待った 甲斐あった
東鳩2で巫女(巫女服に非ず)が似合うのっていいんちょと…草壁さんくらい?
他の皆は巫女ってイメージが沸かないんだよな。
会長は逆の意味で似合いそうな気がするが
「いかがですか貴明様。似合いますでしょうか」
「似合ってる……と思うよ。でもイルファさん、ひとつ聞いていい?」
ソファの上に通学鞄を置きながら、俺は頭を振った。目眩がしそうな気分だった。
ここは第二の我が家、というより今や自宅よりも長い時間を過ごしている姫百合家のリビング。
その室内の風景は昨日までとなにも変わらない。ただひとつ、イルファさんがいつものメイド服
ではなく――ピンクのナース服姿で俺を出迎えた以外は。
「どうして、看護婦さんの格好なの?」
「あら貴明様。いまは看護師って言わないと怒られちゃいますよ?」
くすっと笑ってイルファさんは冷蔵庫から麦茶を出し、ソファのいつもの場所に腰掛けた俺に差し
出してくれた。帰り道が暑くてのどが渇いていたから、ありがたく俺は受け取り一息に飲み干してし
まう。
「はい、貴明様。おかわりどうぞ」
「あ、ありがと――って、もしかしてイルファさん話逸らしてる?」
「そんなことは全然です。別に後ろ暗いことでも秘密でもなんでもありませんから」
と、言う割にはイルファさんの表情にはいつもの朗らかさがない。そんな微妙な感情の変化を表現
できる機体の精巧さに驚くべきなのかもしれないけれど、今はそんなことよりイルファさんの心の方
が気になって仕方がない。
黙ってじっとイルファさんを見つめていると、耳カバーのせいで落ち着きの悪いナースキャップを
両手でいじっていたイルファさんは結局それを頭から外し、それを見つめながら小さく息をついた。
沈黙に、先に耐えきれなくなったのは俺のほうだった。
「……ねえ、イルファさん。もし言いにくいことなら、無理には聞かない。でも――」
「貴明様」
「なに、イルファさん」
俺の言葉を遮って名前を呼んだイルファさんは、まっすぐに俺の目を見つめ、微笑みながら言った。
「貴明様は、私たちメイドロボが付くことが出来ない職業がある、ということを御存じですか?」
「うん、詳しくは知らないけど……ロボット三原則に反する職業には就けないっていうことだよね」
「はい、その通りです。つまり、ロボットは人間に危害を加えてはならない――」
そこでイルファさんは言葉を切って、俺を見上げた。
「ご存じでしたか? メイドロボは、医者にも、看護師にも、なれないんですよ」
は? と俺は声を上げてしまった。
「そんなまさか。だってこの間テレビでも見たし」
「ええ、病院に勤務するメイドロボはたくさんいます。その中には、今の私のように看護師の格好
をして働いている機体も大勢います。HM−13「セリオ」シリーズは特にその方面でのベストセラー
になりました」
「じゃ、じゃあ!どうして!」
「すいません、説明が不正確でしたね。正しくは医者や看護婦になれないのではなく……人を相手
に医療行為を行うことが禁じられているんです」
驚いた。
驚いて言葉がでないでいると、イルファさんはナースキャップを指先でくるくる回しながら説明
を続けてくれた。
「さらに詳しく言うと、ですね。ガーゼを交換したり、傷口を殺菌したり、止血をしたり、という
ことは許可されている場合も多いんです。でも、手術を行ったり、人体にメスを入れたり、注射や
採血を行うことは――「人間に危害を加える」ことを禁じた三原則に抵触する、そうです」
「危害って!だってそれは」
「貴明様」
名前を呼ぶ優しい声に冷静さを取り戻し、俺は浮かしかけた腰を落とした。
「――ごめん、イルファさん」
「いいえ、ありがとうございます。私たちのことをそんな風に想ってくださって」
ぺこ、とイルファさんは小さく頭を下げて微笑んだ。
「でも私は、この決まりがそれほど間違いだとは思わないんです。なぜなら――万が一不幸にして患者
様が亡くなられた場合、手術を執刀したのはロボットでしたと聞いてご家族の方はどう思われるでしょ
うか。毎日注射や点滴をしていたのはロボットでしたと聞いて、納得されるでしょうか」
「……でも」
「貴明様。私たちメイドロボには、今や心があります。珊瑚さまの開発される新しい技術はそれをさらに
人間に近い形へと進化させられました。それはもはや、魂、と呼んでも良いかもしれません」
でも――と、つぶやいた一瞬、イルファさんの視線は下に落ちた。
「私たちには……命が、ないんです」
「イルファさん」
「私は来週から来須川の関連病院で、メイドロボとしては初めて、実験的に臨床作業に従事する
ことになりました。三原則の解釈を緩和する動きがあるんです。このことは――初めてお伝えす
ると思います」
初耳だった。
そうか、じゃあこの今着ているナース服は……。
「はい、今日制服が届いたので、試しに着てみたところだったんです」
「そうだったんだ。なんだ、僕はてっきりイルファさんの趣味かと思ったよ」
なんだか重たい話の流れだっただけに、俺はなんだか気が抜けて笑ってしまった。
笑って、いつの間にか口の中がカラカラになっていることに気が付いて麦茶に手を伸ばした時――
イルファさんが言った。
「――怖いんです」
「え?」
「この服を着て、来週、実際に病院で患者様の前に立っている自分を想像したら――怖いんです」
きゅ、と引き絞られた指にナースキャップが歪む。
それにすら気が付かない様子で、イルファさんは言葉を続ける。
「私のような命のないものが、人のいのちを扱っていいのでしょうか。人のいのちは、わたしたちの
メモリのようにバックアップできません! リブートできません! 私のせいで患者様が命を落とす
ようなことがあったら私は……わたしはッ!!」
「イルファさんっ!」
声を上げて、僕はイルファさんの肩を掴んだ。
「イルファさん顔を上げて。俺を見て!」
「貴明、さま……」
「イルファさん。俺は――イルファさんが今感じている恐れを拭ってやることはできない。だって俺は
メイドロボじゃない。医者でも看護師でもない。おまけに言うなら、病気も怪我もほとんどしたことが
ない。だから来週から現場に立つイルファさんに偉そうなことなんて、とても言えない――でも!」
もどかしさに、俺は涙ぐみそうになる。
どうすればこの気持ちが伝わるだろうか。この、信頼が伝わるだろうか。
「でも、これだけは言うよ。俺は――俺だけじゃない、きっと珊瑚ちゃんも瑠璃ちゃんも、あの長瀬って
博士だって――イルファさんになら、命を預けていいって! 命はあっても心のない医師の手にかかるより
人間でなくたって誰よりも僕らを思ってくれているイルファさんを信じるって!」
掴んだ肩を引き寄せ、目をのぞき込むようにしてそう言った。
「貴明様……」
「きっと、すぐには難しいかもしれないけど……いつか、僕らだけじゃないみんなも、そう思う時代が来る
と、信じるよ」
「――はい」
イルファさんは、大きく開いていた目を急にうつむくようにして閉じ、そう小さく答えてくれた。
「あーーーーーっ! 貴明がイルファ泣かしとる!」
瑠璃ちゃんの声が背後から響いたのは、その直後だった。
「たかあき、いじめかっこわるいで〜?」
「さ、珊瑚ちゃんまで……」
「あー! しかもイルファにやらしい服着せとる! この……へんたーい!」
「ちょ……まっ……誤解ぁっ!」
慌ててイルファさんの肩から手を離しすものの、問答無用の回し蹴りが俺の意識をあっさり
刈りとり――。
イルファさんの看護実習の練習台にされたのを知ったのは、夜中意識が回復してからのことだった。
※おしまい※
すいません、巫女の条件を書いた者です。
無理、とか言いながら、考えてたら書けちゃいましたんで貼らせてください。
巫女みたいな萌え展開にするつもりが、やたら重い話になりましたが反省してません。
あと、スレ容量をかなり超えてしまいましたことは心よりお詫びします。
埋め立て完了ということで、どうぞ次スレへ!(^^;)
最後に一言!
巫女みこナース! 達成!w
>>615 興味深く読ませていただきました。
社会的な問題提起、面白いと感じましたです。
今だから言おう…よっちのSSを誰か書いてくれ!
>タマ姉は成績と容姿は飛び抜けてるんだけど、性格が戦巫女だし……。
ツボった。
>>617 ねこっちゃとタマ姉が同級・・・?
なら雄二が彼女らと会って、「姫川先輩が俺の姉貴だったら良かったのに」などと
思ってねこっちゃにモーションをかける話はどうだろう。プリキュアのなぎさの弟
みたいに。
一つ上だろ
うむ、琴音や葵の学年はこのみたちの入学と入れ違いで卒業している。
浩之やあかりの学年は貴明たちと入れ違い。
つまり琴音たちと貴明たちは一年間だけ重なっている。
…だよね?(汗)
623 :
617:2005/07/25(月) 20:05:41 ID:GBIoM9Bq0
重大な指摘どうも。あるところで見たタマ姉のCGに「この体でとても琴音ちゃんや葵ちゃんと同い年
とは思えない」とキャプションが付けられていたのを参考にして、それをそのまま話作りに使わせて
いただいたのですが改めて調べてみたら
>>621-622さんの説が正しいということが判明し、該当箇所を
加筆修正しますた。
でも雄二×琴音ってのは面白そうなんで何らかの形で書いてみたいです。無印アニメで琴音とくっついた
雅史がファンから嫌われたことを考えると行くところまでは行けないでしょうが(苦笑)。
新スレまだ?
それとももう設置してあるの?
書き込むにも書き込めないすよ。
626 :
ぼのぼの:2005/08/01(月) 13:06:47 ID:wXIDWi2y0
hosyu
627 :
名無しさんだよもん:2005/08/01(月) 17:05:57 ID:GcaGCNQC0
ほ
しな
629 :
名無しさんだよもん:2005/08/02(火) 23:37:45 ID:NJ9ENHsU0
いいんちょ
の
ほっぺ
よりも
633 :
名無しさんだよもん:2005/08/03(水) 16:26:00 ID:Rx5YXJZG0
こまき
いいんちょ
635 :
名無しさんだよもん:2005/08/03(水) 19:40:48 ID:5z0RAw8M0
の
おなか
と
ぬるぽ
ガッ
チョーン
せーのっ
642 :
名無しさんだよもん:2005/08/04(木) 10:18:48 ID:2PImhrQL0
バンザイ
るーこ
644 :
名無しさんだよもん:2005/08/05(金) 10:51:14 ID:tz1evjbm0
てんぺら
アホ毛の
中の人も
はいてない
そして
誰も
が
望む
永遠は
653 :
名無しさんだよもん:2005/08/12(金) 22:50:01 ID:Kp/4r6400
あるよ
でも実は
親父が
半裸で
白目を剥いて
涼宮茜の
服を
1枚1枚
脱がしていき
たかったのに
親父が
ゆびらまくまして
ぶったね!
と、言うと
全裸になり
潤んだ瞳で
やらないか?
でも僕は
守りたい世界があるんだ!
あと
は家に帰って
ご飯を食べて
PC版ToHeart2の
ゲンジマルで
オナニーして寝るだけ
Heartのない12月
第一章 終
超先生の次回作にご期待下さい
来週からは
ちゃんと学校に行きますから
勘弁して下さい……
そんなこと言ってホントは
喜んでるんじゃないのと
訴えかける
その女の名は
巫女みこナース(・∀・)!!
左舷!弾幕薄いよ!
そんな妄想ばかりしているから
パンストに異常な愛情を
もてあます
空虚な日々
だけどおまえは
国民新党
しかし俺は
魔法先生
今日も今日とて
それはかなわず
イナバ物置
100人ハメても
だいじょうV
と見せかけてテコンV
巨体がうなるぞ
そして、うねり打法は
輝く夜空のように
草壁さんが
(・∀・)チャーララーラララーラーララーラララ
こん平でーす!
山田くーん
わぎゃないざー
ナムコ
クロス
アウッ!!
と、このみが言うと
埒外
ガイガン起動
第二章 終
超先生の次回作にご期待下さい
駒大苫"小牧"
が全国早口言葉選手権大会で
ガスバスガスバツ・・・あれ?
もう、遅すぎた・・
だって・・・優勝したのに・・・
理屈はいいからもっとトマトを食べるんだ!
こんなにもアカいのに
いいんちょの経血が
猫に舐められる
その猫を
猫ジュース
にして飲むんよと命令する会長に
タマゴサンドと猫ジュースか
猫ひろしが乱入
すると大音量のパワーホールが
電動型オナホール
今なら布団圧縮カバー10枚付きで
通常の3倍の
ワックスを
身体中にかけられた由真が
大量のきな粉の中へ
そしてきな粉女と化した由真を見た愛佳が
美味しそうに嘗め回す
するといきなりゲンジ丸が
俺のキンタマを見てくれ
と叫んだ雄二に噛み付き
歯が折れた
第三章 終
もうちょっと続くんじゃ
そこから倍以上続く訳だな
ゆうじの ぼやきは やみに のまれた
コンティニューしますか?
YESorNO?
3
2
1
せーの!
犬ファ
淫ファ
イルファ!
ミルファ!
最後は貰った…と、思うニダ。
| \
|Д`) ダレモイナイ 不法投棄スルナライマノウチ
|⊂
|
|
| TH2
| TH2TH2 T
| TH2TH2TH2TH2
| TH2TH2TH2TH2TH
唯一神又吉イエスの政策
1. 年金問題・医療・介護・財政破綻の根っこはひとつ
2. 郵政民営化は絶対不可
3. 全失業者の救済
4. 憲法九条改悪不可
5. 首相小泉純一郎の靖国参拝不可
6. イラクは世界で守る所
7. 普天間基地移設は本土へ
8. 拉致問題について
9. 人権擁護法案不可
顔 意味
(・V・) (ははははは)
p(^−^)q (ヒャ〜 おもしれ〜)
(>、<) (応援ヨロシクっ!)
(M) (マリオが大好きだよ)
(・○・) (鼻がカユイ)
(^U^) (だーい満足)
(^板違い^) (板違いですよ〜)
(==) (最近ゲームつまんないですね)
(l l) (悲しいよ〜)
(・w・) (パズルゲームが好きです)
(’’) (カービィが大好き)