ToHeart2 SS専用スレ 6

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1名無しさんだよもん
桜が舞う、暖かな季節。
新しい出会いや恋、そして友情に笑い、悲しみ。
すべてが始まり、終わるかもしれない季節。
季節といっしょに何かがやって来る、そんな気がする―――。


ToHeart2のSS専用スレです。
新人作家もどしどし募集中。

※SS投入は割り込み防止の為、出来るだけメモ帳等に書いてから一括投入。
※名前欄には作家名か作品名、もしくは通し番号、また投入が一旦終わるときは分かるように。
※書き込む前にはリロードを。
※割り込まれても泣かない。
※容量が480kを越えたあたりで次スレ立てを。

前スレ
ToHeart2 SS専用スレ 5
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1111814888/

関連サイト等は>>2-3
2名無しさんだよもん:2005/05/20(金) 21:40:46 ID:UhYwCWM80
AQUAPLUS『To Heart2』公式サイト
ttp://www.aquaplus.co.jp/th2/

ToHeart2 スレッド 過去ログ置き場(仮)
ttp://f55.aaa.livedoor.jp/~kuma/toheart2/
本スレや各キャラスレはこちらから。

ToHeart2 SideStory Links
ttp://toheart2.ss-links.net/

各キャラの呼称相関図は
ttp://botan.sakura.ne.jp/~siori/hth/
内のToHaert2呼び方相関図を参照。

テンプレ
ttp://www.geocities.jp/koubou_com/template_th2_ss.html
3名無しさんだよもん:2005/05/20(金) 21:41:28 ID:UhYwCWM80
作品保管庫(順不同)

ToHeart2 SS の書庫 (全作品保管)
http://th2ss.hp.infoseek.co.jp/

以下は各作者さまによる保管庫
チラシの裏
ttp://www2.tokai.or.jp/v-sat/
ToHeart2 SS(゚w゚)
ttp://www.geocities.jp/karin_th2/
B.C.Projectの住処
ttp://bcproject.h.fc2.com/
未開拓保管庫
ttp://www.geocities.jp/umisouko/
権三郎の書庫
ttp://www17.ocn.ne.jp/~gonzou/
我楽多工房.com
ttp://www.geocities.jp/koubou_com/
紅空精神
ttp://www.geocities.jp/saotome_99/
7thSummer
ttp://www.geocities.jp/fuduki7th/
TH2SS置き場
http://fsm-hmx-12.hp.infoseek.co.jp/th2_ss_f.html
4名無しさんだよもん:2005/05/20(金) 21:49:39 ID:hrnt4w7M0
>1
乙です!!

さぁ、このスレも皆さんでもりあげていきまっしょい!!
5名無しさんだよもん:2005/05/20(金) 21:50:18 ID:R6CgyGdn0
寒い、厨房はカエレよ
6名無しさんだよもん:2005/05/20(金) 21:55:48 ID:dCDu4CCn0
>>1
乙〜ん

これをやるぞ つi
7名無しさんだよもん:2005/05/20(金) 21:57:45 ID:bzDnTnLA0
>>1
8名無しさんだよもん:2005/05/20(金) 22:00:19 ID:uXN4Qhdy0
>>1
9名無しさんだよもん:2005/05/20(金) 22:41:14 ID:USLtU2yZ0
>>1
乙だっ!!
10名無しさんだよもん:2005/05/20(金) 22:42:57 ID:3yXpmsA10
>>1
乙!
11名無しさんだよもん:2005/05/20(金) 22:53:49 ID:1i61aMYP0
>>1


東鳩2のPC版が出るな、新キャラのSSも楽しみにしておこう。
(まだ先の話だが)
12名無しさんだよもん:2005/05/20(金) 23:53:02 ID:dM8QiWqD0
>>1
13名無しさんだよもん:2005/05/21(土) 00:09:09 ID:BFzTjcbiO
>>1
萌え
14名無しさんだよもん:2005/05/21(土) 12:26:18 ID:2zmHj8ar0
>>1
乙です。

先日ミルファSSを書いた者なのですが、今度は郁乃SSを書かせて頂きました。
よろしければ読んでやってください(=゚ω゚)ノ

http://fsm-hmx-12.hp.infoseek.co.jp/th2_ss_f.html
15名無しさんだよもん:2005/05/21(土) 13:36:33 ID:Z2SuI8+8O
>>1乙かレイジングハート
16名無しさんだよもん:2005/05/21(土) 14:32:06 ID:p7b7dBRo0
>>14
 待ってました。
 完成度高くてあっというまに読んでしまいました。
 いやあ、上手い人は本当に上手いなあ……。

17名無しさんだよもん:2005/05/21(土) 15:24:03 ID:Bg3wx9PM0
>14
GJ!!
そして言わせてください…書いてくれて、そして最後を決めつけないでくれてありがとう、と

私も前スレでこのみ&郁乃コンビでSS書き…ゲフンゲフン
この二人の組み合わせ好きなんですよね。
後、最後の−結−の真ん中あたり、私も全く同じ事考えていたのでびっくりしました。
これからも期待しております、がこの後拙作SSを投下するの…やだなぁ
18名無しさんだよもん:2005/05/21(土) 15:27:42 ID:wwL1ILAu0
SS書きの人は好きなキャラしか書かないとか
好きなキャラのほうが書きやすいとかあるの?
19名無しさんだよもん:2005/05/21(土) 15:38:02 ID:Bg3wx9PM0
>18
商売でもないしリビドーの赴くままに自分の好きなモノを飽きるまで書き尽くすって
人が多いのではないでしょうかね…すくなくても自分はそうですw
20もうどうにもとまらない作者:2005/05/21(土) 16:48:30 ID:Bg3wx9PM0
人がいないようなので邪魔にならないうちにコソ〜と投下します。
後編ですけど、決着付いてません。
2に続きます…ごめんなさい。
では
21−もうどうにもとまらない1−後編編(1/11):2005/05/21(土) 16:50:40 ID:Bg3wx9PM0
ピンポン!ピンポン!ピンポン!ピンポン!ピンポン!ピンポン!ピンポン!ピンポン!
ピンポン!ピンポン!ピンポン!ピンポン!ピンポン!ピンポン!ピンポン!ピンポン!
 高橋名人顔負けのチャイム連打もこのみ@貴明の眠りを破ることは出来ない。
ガチャ、バタン……ドタドタドタドタドタ、ガチャ
「このみー!!朝だぞ、起きろぉ!!」
 貴明@このみがドアから入ってきてそう怒鳴る。
 このみ@貴明は布団の中でもぞもぞっとするが起きる気配はない。
「このみ、お前何時まで寝てるつもりだよ。もう朝だぞ!」
「タカくん…もうちょっとぉ〜むにゃむにゃ」
 このみは毛布を抱き寄せると反対側を向く。
「色々学校での事とか打ち合わせたい事もあるんだし…おきてくれよ、このみ」
 貴明@このみはボフボフと布団の上からこのみ@貴明を叩く。
「むにゃむにゃ…う〜ん…後10分でいいでありますからぁ〜」
 このみ@貴明は徹底抗戦の構えだ。
 その姿を見た貴明@このみは無言で入り口のあたりまで戻ると、勢いを付けてベッドに向かってダッシュする。
ダダダ…バッ!!
「うひゃん!?」
 ボムっと布団の上からフライングボディプレスをこのみ@貴明にかますが、
 もともと体重が軽いので大した衝撃を与えられない。
 それどころか軽々と受け止められこのみ@貴明に組み敷かれてしまう。
「えへへ〜タカくん捕獲でありますよ〜♪」
22−もうどうにもとまらない1−後編(2/11):2005/05/21(土) 16:51:42 ID:Bg3wx9PM0
 ニンマリと笑うこのみ@貴明。
「ちょっ、お前いつから起きてたんだ!?」
 それには答えず貴明@このみの胸元に顔を埋めるこのみ@貴明。
「タカく〜ん…良い香り〜♪」
「こら…こらぁ!」
 貴明@このみはなんとか抜け出そうとするがジタバタ力ではとてもかなわない。
「このみ!冗談は止めてくれ〜重いんだって」
すーすー
 見ればこのみ@貴明は幸せそうな顔をしてそのまま眠りこけている。
「……オイ!起きろ、起きろって!!このみぃ〜」
 それから10分後…
「ふぁ〜…ふあ?!タカくん…なにしてるんでありますか?」
「……いいから俺の上からどいてくれないか?重いんだが…」
「あわわわ、ゴ、ゴメン!!」
 ようやく目覚めた頭で自分の体勢を理解したこのみ@貴明は慌てて膝立ちの姿勢になる。
「………」
「?」
 そのままの状態で急に硬直するこのみ@貴明
「タカくん…タカくん…」
「ん?」
23−もうどうにもとまらない1−後編(3/11):2005/05/21(土) 16:54:06 ID:Bg3wx9PM0
 このみの視線の先に目をやる貴明@このみ
 そこには見事に朝のテントを張ったこのみ@貴明の股間。
「な…なんかの病気かなぁ…?」
「いや…なんていうか…その…」
 返答に窮する貴明@このみ。
「なんか…腫れてるし…ジンジンして痛いよ…」
 自分でグィっとトランクスを引き下げて怒張しているのを確認し、涙目になるこのみ@貴明
 目の前に突き出されたモノが元は自分のモノであるのになぜか醜悪に思えてしまい目をそらす貴明@このみ。
「いーから、しまえって!10分もすれば元にもどるから!!」
 生理現象とはいえ、自分の恥ずかしい姿をこのみに見られてしまったという羞恥もあったのだろうか、
 思わず顔を赤くし強い口調で怒鳴ってしまう貴明@このみ。
「タカくん…ごめん、ごめんね」
 このみ@貴明はその怒鳴り声にビクリと震えて慌ててパンツをもとに戻す。
「…ゴメン。その、このみが悪い訳じゃないんだ。謝るのは大声出した俺の方だよ。それに…」
 ちらっと横目でこのみ@貴明の股間を見て、慌てて目をそらす貴明@このみ。
「そ…それはさ。なんていうか…朝の生理現象ってもんで病気でも何でもないんだから、心配しなくて大丈夫なんだよ」
「そ、そうなの?」
「ああ、ホントにしばらく時間が経てば元に戻るんだ。お、俺もよくそうなるしさ…」
「そっか…」
 ようやくこのみ@貴明の表情が晴れる。
 そのままベッドから降りると歩きにくそうにクローゼットへと向かう。
 このときもう一つの処理の方法を教えておかなかったことが、後の騒動につながるのだが…
24−もうどうにもとまらない1−後編(4/11):2005/05/21(土) 16:55:30 ID:Bg3wx9PM0
 貴明@このみもベッドから起きあがると、乱れたスカートの裾を直す。
「なんか…前がすれて歩きにくいでありますよ」
「しばらくじっとしてればすぐなおるさ。深呼吸してリラックスしてなって」
 貴明@このみはそういいながら部屋から出ようとドアを開ける。
「朝飯は俺が作っておくから、着替えたら下に降りてこいよ」
「あ、朝ご飯ならこのみがつくるでありますよ〜」
 貴明@このみはおもわずクスっと笑ってこのみ@貴明にウィンクする。
「たまには俺につくらせてくれよ」
 そういってトントントンと階段を下りていく。
 このみ@貴明はなんだかポーっとした顔でそれに見とれてしまう。
『タカくん…なんだかかわいいな…』

 このみ@貴明が学生服に着替え階下に降りていくと、貴明@このみがエプロンを着けて料理をしている。
「ふんふん…ふふふん…ふんふふーん♪」
 貴明@このみは楽しそうに鼻歌を歌いながらフライパンに生卵を落とす。
「タカくん」
「お、降りてきたか。もうすぐ出来るからテーブルについてまっててな」
 貴明@このみは手早く目玉焼きをフライパンから皿に移すとテーブルへと運ぶ。
「よし、できた。さぁ朝飯にしようか」
 そういいながらたった今炊けたご飯を炊飯器からお茶碗によそう貴明@このみ。
25−もうどうにもとまらない1−後編(5/11)::2005/05/21(土) 17:15:30 ID:Bg3wx9PM0
 このみ@貴明が昨晩の内に用意しておいたのだった。
「なんか…タカくんにご飯よそってもらうのはじめてかも」
 このみはくすぐったい気持ちで貴明@このみからお茶碗を受け取る。
「ん?そうだったっけ。まぁたまにはいいだろ。いつもこのみには世話になってるしな」
 そういってニコっと笑う貴明@このみ。
 その笑顔にドキッとするこのみ@貴明。
「えへへ〜♪」
 それを誤魔化すようにふにゃっと笑うと慌ててご飯をかっこむこのみ@貴明。
 そんなこのみ@貴明を不思議そうに見ていたが、やがて自分も食べ始める貴明@このみ
「このみ、お代わりは?」
「お願いするであります、隊長」
 そんなこんなで三杯目をお代わりするこのみ@貴明。
「しかしこのみは良く食べるなぁ」
「今はタカくんの身体でありますから、おなかも沢山空くのであります」
「うそつけ!普段から大食らいのくせに」
「むぅ、大食らいは酷いでありますよ?」
 そういいながら和気藹々と食事をする二人。
「「ごちそうさまでしたー」」
「じゃあ、後片付けはこのみがするであります」
 このみ@貴明はそういいながら二人分の食器を流し台へと運ぼうとするが、貴明@このみがそれを制する。
26−もうどうにもとまらない1−後編(6/11)::2005/05/21(土) 17:17:46 ID:Bg3wx9PM0
「ちと、ストップ」
「タカくん?」
 貴明@このみはそう言うとでこのみ@貴明のほっぺたに付いていたご飯粒を指で摘むと自分の口に入れる。 
「よし。もういいよ」
 このみ@貴明はその場で硬直したまま耳まで赤くしてしまう。
「………はぅ」
 奇妙な声を上げると卒倒しそうになるこのみ@貴明
「わたたたた! このみ?大丈夫か!?」
 倒れそうになるこのみ@貴明を慌てて支える貴明@このみ。
 そうこうしているうちに壁に掛けられた時計はそろそろ家を出かける時間を差していた。

「おーっす!」「おはよう、タカ坊、このみ」「おはよう」「おはようータマお姉ちゃん、雄くん」
 いつもの場所でいつものように落ち合う四人。
「なんかまだ違和感あるよなぁ」
 雄二が貴明@このみとこのみ@貴明の顔を交互に見比べながら笑う。
「うるせー」
 貴明@このみは雄二の腹に軽くパンチを入れる。
「一晩寝たら直るかも…とか考えてたんだけど、そうそう都合良くはいかないようね」
 環はこのみ@貴明の顔を見ながら困ったように呟く。
「えへへ〜しょうがないでありますよ」
27−もうどうにもとまらない1−後編(7/11)::2005/05/21(土) 17:21:35 ID:Bg3wx9PM0
 このみ@貴明は邪気のない笑顔で環に話しかける。
「んも〜このみったらかわいすぎなんだから〜!!」
むにゅ〜!!
 そういってこのみ@貴明にベアハッグをかます環。
「うぁっぷ!タマ姉おちゃん苦しいでありますよ〜!!」
 つい貴明にやるような調子で抱きしめてしまう環に悲鳴を上げるこのみ@貴明。
「あ、あらごめんね。あんまりにもこのみが可愛いから、つい…」
 慌ててこのみ@貴明を離す環。
「えほ、えほ…だ、だいじょうぶでありますよ」
 軽く咳き込みながらちと涙目で微笑むこのみ@貴明。
「ブレイク!ブレイク〜!!」 
 再び反射的についウズウズっとしてしまう環とこのみ@貴明の間に身体毎割ってはいる雄二。
「姉貴!いまの貴明は貴明でなくてこのみなんだから手加減してやれってぇの」
「わ、わかってるわよ、そんなこと。第一私はタカ坊じゃなくてこのみとして抱きしめたいんだから…勘違いしないでちょうだい」
「まったくタマ姉にもこまったもんだな」
 傍観者の体で環とこのみ@貴明をみていた貴明@このみが大きな欠伸をしながらいう。
「タ〜カ〜坊〜」
 環はそんな貴明@このみのまえまでくると彼を凄みのある顔で睨み付ける。
「な…なに、タマ姉」
 思わずたじたじっとなる貴明@このみ。
28−もうどうにもとまらない1−後編(8/11)::2005/05/21(土) 17:24:35 ID:Bg3wx9PM0
このみ目線からだと環は頭一つ分高く、更に威圧感と圧迫感と迫力を感じてしまう。
 環は無言のままずずずぃっとこのみの前に立つと顔をくっ付けるようにして貴明@このみの顔を除きこむ。
 貴明@このみは蛇に睨まれた蛙のように一歩も動けず、環の吸い込まれそうに深い瞳から目を逸らせられない。
「…………」
「…………か」
「か、か?」
「かーわーいーいーぞー!!」
 環はそう高らかに宣言すると貴明@このみを力の限り抱きしめる。
もぎゅうううううううううう
 環の豊かなバストが丁度顔に当たり口や鼻を塞ぐ。
 世の野郎どもには天国と感じられるかもしれないが、今の貴明@このみにとってはまさに拷問だった。
「むぐもがむぎゅもげもご〜!もごもが…もげべがもぎゅ!!も…」
「タカ坊の体の中に入ってるこのみもすごくキュートでキッチュで最高にいいんだけど、
このみの体に中に入ってるタカ坊は…なんていうか、そうねぇ…芸術よ芸術!!
これぞ神の気紛れが作りたもうた珠玉の逸品!!!」
 環は感極まったように天を仰ぐ。
「あの〜姉貴?」
「私は今二つの宝物を手に入れた。これを手放すことが出来ようか?
否、出来ない。そんなことは天、地、人が許しても私が許さない!」
「姉貴ってば」
「向坂家の女として…ひゃう!?」
「あーねーきー!!!」
29−もうどうにもとまらない1−後編(9/11)::2005/05/21(土) 17:26:19 ID:Bg3wx9PM0
 完全に自分の世界に入ってた環は耳元で雄二に怒鳴られやっと我に返る。
「な、何?雄二、行きなり人の耳元で大声出して…」
 雄二は何も言わずにちょいちょいと環の胸元を指差す。
 そこには…環の豊かな双丘に顔を埋もれさせたまま動かなくなった貴明@このみの後頭部があった。
「た、タカ坊〜!!??」
「タカくん!!」 
「貴明…成仏しろよ、南無」

「…巨大肉マンが襲ってくるっ!!!…あ…あれ?」
 なにやら叫びながら貴明@このみが飛び起きる。
「タカくんだいじょぶでありますか?」
「よかった、大丈夫見たいね」
「おお、生きてたか」
 貴明@このみが実際に気を失っていた一分ほどの間、環が膝枕していてくれたのだった。
「ごめんね、タカ坊。つい興奮しちゃって力の加減わすれちゃった」
 てへっと舌を出されては、貴明@このみにはもう何も言うことはできなかった。
「まぁ、タマ姉が力加減間違えるのはいつものことだからしょうがないんだけど…」
 貴明@このみはふらふらっと立ちあがると頭をさする。
「この身体はこのみのものなんだから気をつけてくれよな。無傷でこのみに返したいんだよ」
「ホント、ご免ね。タカ坊」
30−もうどうにもとまらない1−後編(10/11)::2005/05/21(土) 17:28:22 ID:Bg3wx9PM0
 環もゆっくりと立ち上がって貴明@このみの髪をやさしく撫でる。
「いや、わかってくれれば…」
 そういいつつも貴明@このみは環が再び難しい顔をしていることにたじろぐ。
「こ、今度は何…?」
 環は無言のまま両手を伸ばすとおもむろにこのみの胸を揉む。
もにゅもにゅ
「のわ!?いきなり何すんだよ、タマ姉!!」
「タカ坊、あなたまさか…ブラしてないんじゃ?」
 その言葉に顔を引きつらせつつつっとタマ姉から離れようとする。
「き、気のせいじゃ…ないかな?」
「このみ」「はーい」「やっておしまい」「了解であります、隊長!」
 このみ@貴明は素早く貴明@このみの後ろに回るとがっしりと彼の肩を掴む。
「このみ!!お前」「えへへ〜ごめんね、タカくん」
「雄二、ちょっと向こう向いてなさい」「へ〜い」
 雄二があさっての方向を向いたのを確認し、周りに誰もいないのを確認すると
 グィっと貴明@このみの上着を半分ほどたくし上げる。
 ぺろんちょっと貴明@このみの小ぶり可愛いらしい胸が露わになる。
「やっぱり…と、いうことは…まさか下も?」
 そういうと、今度は貴明@このみのスカートをぴらっとめくる。
 流石に下はちゃんと履いていた…男のモノのトランクスだったが。
31−もうどうにもとまらない1−後編(11/11)::2005/05/21(土) 17:31:13 ID:Bg3wx9PM0
「回れ右!全速前進!!さっさと家にも戻って下着を着替えてくる!!!」
「今から家に戻ったら完璧遅刻だって…」
「却下。ほれさっさと戻る!このみに恥かかせたくないでしょ?」
 貴明@このみは不承不承来た道を戻ろうとする。
「ダッシュ!急げば一時間目のはじめには間に合うわよ」
「た、タマ姉の…ばかあああああああああ」
 そう言いながら猛スピードで自宅へと走り去る貴明@このみ
「あはは…タカくん…チョットかわいそう」
 心配そうな表情で走り去るのを見送るこのみ@貴明
「割り切れないタカ坊が悪いのよ。現実を受け入れないとね」
 腕を組みながらヤレヤレと首を振る環。
「確実に不幸の量が増えてるな…まぁ強く生きろ。これも定めだよ、南無」
 自分にくるとばっちりが減ったことを喜びつつ、貴明のテンパリ気味が少々可哀想になる雄二。

「ところで雄二、教室でのこのみのフォロー、しっかり頼むわね」
「OK、姉貴。貴明の方はどうするよ?」
「大丈夫よ、私がそれとなく様子を見ておくから」
「このみもタカくんの様子見る〜」
「お前、その言葉使いは止めろよ、めっちゃ怪しまれるぞ」
「えへ〜そうでありますか?」
「「………ダメだこりゃ」」

 そして奇妙な入れ替わり学園生活が幕を開けた。

−もうちょこっとだけ続きます-
32もうどうにもとまらない作者:2005/05/21(土) 17:36:39 ID:Bg3wx9PM0
以上であります。
急に2chブラウザで書き込めなくなり、手間取ったことをお詫びします。
本当は後編でこのみが決めちゃうつもりだったのですが、
もう少し描写したいことがあったのでこの様に致しました。

最後に感想をレスしてくださった方、SS保管庫に移してくださった管理人様
ありがとうございました。
では!
33名無しさんだよもん:2005/05/21(土) 17:45:48 ID:T+zJtZJF0
>>32

タマこのスキーとしては嬉しい限り。
続きも楽しみにしてます。

−もうちょこっとだけ続きます- ←ドラゴンボールを思い出したw
34名無しさんだよもん:2005/05/21(土) 18:56:50 ID:M2yMQzrf0
>>32
 GJ。
 スゲー楽しみに読んでます。

 >−もうちょこっとだけ続きます- ←ドラゴンボールを思い出したw

 そして延々と続いたよなw



35名無しさんだよもん:2005/05/21(土) 19:27:22 ID:N928lX+60
>>32
GJ!!
続きも楽しみだ。もう少しどころか、もうしばらく続いても
大歓迎だ。
36名無しさんだよもん:2005/05/22(日) 02:37:45 ID:DfPkQSnG0
駆け出し作家です。
「とりあえずは、書いてみよう」
ってことでやってますので
アドバイス等ありましたら、どしどしお願いいたします。

以下、由真SSを投下します。
ネタバレありです。
37あたしの想い−前編(1/2):2005/05/22(日) 02:41:51 ID:DfPkQSnG0
休日の商店街。
買い物や遊びに行く人で混雑する中、十波由真もその中にいた。

「眼鏡も直ったし、これで月曜からの授業が楽になるわね」
ちなみに、由真は先日の登校途中に壊れてしまった眼鏡の修理に出していた。
日常生活に支障が出るほど彼女の眼が悪い訳ではないのだが
眼鏡無しでは黒板の文字などは見づらく苦労をしていた。

用を済ませて帰ろうとするその先に、ティッシュやらビラ配りの中
ひときわ目立った恰好で何か配っている。
『葉っぱタウン オープン1周年記念で〜す』
「なんだろ? も少し近づいてみよ」

気になった由真が近づいていくと、そこには少々露出の高いお姉さんと
可愛らしいクマの着ぐるみが風船やチラシを配っている。

『葉っぱタウン オープン1周年記念で〜す どうぞっ』
お姉さんが笑顔であたしにビラを差し出したので
勢いにつられてついつい手を出してしまう。
クマが渡していた風船には、流石に手は出せなかった。
(あたしは子供じゃないのよ!)
38あたしの想い−前編(2/2):2005/05/22(日) 02:43:53 ID:DfPkQSnG0
葉っぱタウンは来栖川社が出資している室内テーマパークである。
そこには、ちょっとしたアトラクションがあったり
期間限定で『カキ氷博覧会』や『インドカレー祭り』
といった珍しい食べ物が集まるイベントを行っている。
特に「黒魔術占い」は良く当たるとして評判だ。

「そっか〜 葉っぱタウンが出来てから、もう1年も経ったんだ」
あたしはこのテーマパークが出来る前に、来栖川家からの招待で行ったことがある。
招待されたときはあまり乗り気ではなかったが、付き合いってのもあるし
オイシイものが食べれるのならと思って行ってみたのだ。
しかし、そこには客は一人も居なく、周りには黒い服を着たオジサンばかり。
ガランとして熱気の無い中では何を食べたって美味しくはなかった。

そんなことを思い出しながら、あたしはチラシに目を落とす。
「え〜と、ナニナニ・・・ カップルペアチケットっ!?」
チラシの下には
「男女2名のカップル 入場料無料券」が付いていた。
どうやら、これを切り取って男女で行けば入場料がタダになるらしい。

「ふんっ バカらしい」
そういって、チラシを捨てようとして手が止まる。
(貴明(ルビ:アイツ)でも、誘ってみようかな・・・?)
「って、どうやって誘えってのさっ。だいいちっ、なんでこういう時にアイツが出てくるのよっ!」
自分の思考回路に激怒しつつ、由真は家へと帰っていった。
手にチラシを握り締めたままで・・・
39あたしの想い作者:2005/05/22(日) 02:46:07 ID:DfPkQSnG0
以上です。
とりあえずは、様子見ってことでコレくらいで。

・・・つか、タイトル考えていたらこんな時間になっちった。
40名無しさんだよもん:2005/05/22(日) 02:56:12 ID:w2TuzJxFO
由真キター
由真スキーにはたまりません。作者様GJ!
続き期待してます!
41名無しさんだよもん:2005/05/22(日) 09:25:03 ID:dOEhlgJGO
由真SSばっちこーい!
щ(゚Д゚щ)
42夢の迷い道3−2 その0:2005/05/22(日) 11:59:32 ID:c1dr+f+g0
お久しぶりです。前スレ>>457-463の続きです。
一応チェックはしていますが、誤字脱字があったらご容赦を。
以下、7レスほど続きます。
43夢の迷い道3−2 その1:2005/05/22(日) 12:00:24 ID:c1dr+f+g0
 さて、これから持久走。市街地に出て起伏のあるコースを走り回る、ちょっとしたマラソンだ。
 コースは、校門を出てから、川べりまで走る→川の土手を走り、中学校の裏手を通過→橋を過ぎてから左に折
り返す→公園前、バス停前を通過→坂道を上り学校に戻る→校門でゴール。距離にして、約4キロ。距離自体は
大したことがないのだが、起伏に富んだコースなので、男子でもかなり辛かったりする。

 スタート地点の校門に向かう際、用務員さんが植木に水をやっているのを見た。戻ってくる頃には、花壇に水
やりをしているのだろうな。
 ……でも、何か違うんだよな。服装は、確かに用務員の作業着なんだが、背格好が、いつものオッサンじゃな
くて、女の子に見えるのだ。しかも、髪の色が鮮やかなブルーときている。まるでメイドロボだ。顔はよくわか
らないが、首筋から肩にかけてのラインはミルファに似ていないこともない。ミルファと同型なのだろうか?
 青い髪のメイドロボ……はて。どこかで、見覚えがあるような……?

 まあ、用務員さんが何者だろうが、花壇に水を撒いていてくれさえすればいいので、あまり気にしても意味は
ないんだけどな。



「ヨーイ、ドン!」

 先生がストップウォッチ片手に叫び、生徒たちが飛び出していく。
 俺はペース配分を考え、先頭集団ではなく、第二集団についていくことにした。序盤で飛ばしすぎたせいで、
ラストの坂道でバテては意味がない。あそこが一番キツイので、体力を温存しておかねばならないのだ。

 さて、俺は河野貴明(つまり由真)の最終打席が廻ってくるまでにゴールしなければならない。
 俺が大ファールを打ったのは、授業が終わる10分くらい前の出来事だ。由真、要するに俺がずぶ濡れになる
ためには、それよりも前にゴールして水飲み場でくつろいでいなければならない。時間は……あと25分程度。
 由真の肉体の身体能力は決して低くはないのだが、所詮は帰宅部だし、走るのはグラウンドのトラックじゃな
くて、起伏のあるコースだ。辛い戦いの予感がする。
44夢の迷い道3−2 その2:2005/05/22(日) 12:01:14 ID:c1dr+f+g0
 イチ、ニ。イチ、ニ。吸って、吸って、吐いて、吐いて!

 ダンゴになっていた先頭集団が早くもバラけてきた。第二集団でペースを守っている俺は、誰をペースメー
カーにすればよいか、様子を窺っていた。

 第二集団には見慣れた姿があった。草壁さんだ。昔から足が速かった彼女は、女子テニス部の生徒を抑えて、
第二集団の先頭を快走している。さすがに、先頭集団にいる陸上部や女子バレーボール部の生徒には及ばない
が、足の速さは健在のようだ。まさしく“帰宅部の星”……というのは、言い過ぎかな?
 俺は、草壁さんをペースメーカーにすることにした。

 地面を蹴り、地面を踏みしめるたびに、大きめの胸がわさわさ揺れるのが気になる。肩に下着の紐が擦れる。
下着のサイズが合っていないのだろうか? それとも、俺の付け方に問題があったのかもしれない。今朝、装着
する際に慌ててしまったからな……。

 いかん、いかん。余計なことを考えて、ペースを乱したらまずい。ここは集中しないと!
 俺は脳内で、無理矢理にでも、雄二に借りて聴いた緒方理奈の“SOUND OF DESTINY”のメロディーを思い浮か
べる。軽快なリズムに呼吸と足の運びを合わせ、ペースを乱さずに走り、草壁さんに食らいついていく。

 川が見えてきた。走者は舗装道から砂利道の土手に出て、そこをひた走る。
 初夏の日差しに穏やかな川面はキラキラ輝き、河原のグラウンドでは、俺の苦悩など露ほども知らない爺さん
婆さんたちがゲートボールに興じていた。しかし、のどかな光景に気を取られている余裕はない。今は、俺がこ
の理不尽な夢から脱出できるかどうかの瀬戸際なのだ。
 俺は、ハートの刻むリズムに乗って、どこまでも走る。
45夢の迷い道3−2 その3:2005/05/22(日) 12:02:30 ID:c1dr+f+g0
 第二集団は再び舗装道に入り、学校へ戻るコースをひたすら駆ける。
 今まではどうにか我慢していた胸の揺れが気に障り始め、俺を苛立たせる。下着の紐が擦れて、痛くてたまら
ん。舗装道で地面が堅くなったせいで走る際の衝撃が強くなり、揺れも大きくなったってことか? いわゆるス
ポーツブラを着けてくれば良かったかな……なんて、後の祭りか。
 女の子になってみないと、女の子の苦労ってわからないよな。男でも性器の剥け始めのときは、先っぽがトラ
ンクスと擦れてキズになり、痛い思いをすることがある。男にも女にも、それぞれに苦労があるわけだ。
 それに加えて、脇腹まで痛くなってきやがった。あー、イライラする。午後一の体育は、いつもこうだ!

 ……いかん、集中集中。
 この体でいるのも、あと少しの辛抱だ。この程度の痛み、何するものぞ! 今はノリの良い歌を思い浮かべ
て、リズムに乗って走り続けねば!
 脳内にエンドレスで流れる曲が、“SOUND OF DESTINY”から“キンゲグイナー・オーバー!”に切り替わっ
た。この間、衛星チャンネルで再放送していた、ロボットアニメの主題歌だ。
 ♪キーンゲ、キーンゲ、キンゲグイナー! メタルオーバーラン、キーンゲグイナー! ……



 俺は、数メートル先を行く草壁さんの姿を捉えて走り続ける。公園前、バス停の前を順調に通過し、ラストの
上り坂に差し掛かろうとしている。今のペースでいけば、由真の打席には十分間に合うはずだ。

 草壁さんは、俺の命を救ってくれたあの日も、夢の宮殿でも、何らかの形で、俺を導く役割を果たしてきた。
この夢の中では、彼女は主導権を持っていないのかもしれないが、今は俺のペースメーカーとして、俺をこの夢
から脱出させる先導としての役割を果たそうとしている。やはり、俺と草壁さんは運命的なもので結ばれている
のかもしれない。
 そんな大切な人に……俺は、万死に値する愚行を働いてしまった。
46夢の迷い道3−2 その4:2005/05/22(日) 12:03:42 ID:c1dr+f+g0
 ひょっとしたら、現在俺が見ている草壁さんは、俺の意識が生み出した幻影であって、草壁さんとは夢を共有
していないのかもしれない。俺が由真の姿になった理由を把握していないことからも、他人の夢の中を自分の庭
みたいに動き回るいつもの草壁さんとは違うように見える。
 しかし、そうであったとしても、草壁さんを傷つけたままで、夢から覚めてしまっていいものだろうか?
 走り終わった後、一言でいい。草壁さんに声をかけたい。そして、お礼を言いたい。本当は土下座でもなんで
もして許しを請わなければならないけれど、残念ながらそこまでする時間的余裕はない。
 これは、草壁さんを一方的に責めてしまった自分への戒めでもある。こういうところでケジメはきっちりつけ
ておかないと、現実世界でも同じ事を繰り返しかねないのだ。

 坂道を息を荒くして駆けながらそんなことを考えているうちに、草壁さんとは10メートルくらい離されてし
まった。まずい。草壁さんに追いつこうとして、ややアップテンポ気味の歌を思い浮かべようとしたとき……。

 50メートルくらい先の電柱の陰に、誰かが倒れ込んでいるように見えた。一体、誰だろう? 不法に放置さ
れているゴミ袋が邪魔で、誰かはまだ判別できない。
 坂道を上っていく生徒たちは、倒れている人のことなど頭から見ていない様子で、脇目も振らずに駆け抜けて
いく。集中していて眼中にないのか、それとも勝負の世界に情けは無用ってことか? てめえらの血は何色だ?

 しかし……そう言う俺とて、行き倒れの人に構っている余裕などない。この夢から覚めるためには、由真が打
席に入る前にゴールして、水飲み場にいなければならないんだ。

 やはり、ここは、心を鬼にして見捨てるしかない……のか?
 そりゃあ、無視していくのは、人としてどうかと思うけど……所詮は夢の中だし……誰も俺を責めたりはしな
いんじゃない、かな?

 先を行く草壁さんが、行き倒れの人に振り返った。誰かが、俺の頭の中で「草壁さんに任せちゃえよ」と囁い
た。それは心に棲む悪魔の声か。
 しかし、草壁さんは小首を傾げただけで、そのまま走り去っていってしまった。
47夢の迷い道3−2 その5:2005/05/22(日) 12:05:01 ID:c1dr+f+g0
 かつて、命懸けで俺を救ってくれた草壁さんが、人を見殺しにするなど、絶対にありえない。そうだよ、あそ
こに転がっているのは人じゃなくて、不法投棄されたマネキンか何かなんだろう? きっと、そうに違いない。
そうでなければ、とても、説明がつかない……。
 電柱まで、あと15メートルくらい。もう少しで、真相がわかる……。

 その時、俺の足元に、風が通り抜けた。
 後方から突然現れた、野良猫のような黒か茶色の塊が俺を追い抜き、獲物を追うチーターみたいな速さで、行
き倒れの人に駆け寄っていったのだ。
 そして、そいつは後足で立ち上がると、確かに俺の方を向き、バンザイの格好をした。両手、いや両前足をブ
ンブン振りながら、「早く来い」と俺を呼ぶように。
 そいつは、野良猫でもチーターでもなかった。
 クマの縫いぐるみだった。数学の授業中、俺のパソコンの画面に出てきてバンザイしていた、アイツだった。

「クマ吉!」

 俺は、思わずそう叫んでいた。俺は、アイツを知っているはずなんだ。何だ、この胸騒ぎは……。
 俺は力を振り絞り、ダッシュで“クマ吉”の元へと駆け寄った。
 電柱の陰でうつ伏せに倒れていたのは、体操着姿の女の子だった。鮮やかな栗色の頭髪、耳に装着された銀色
のカバー、うなじに覗くホクロの一つもない色白の肌……こんな女の子は、学年、いや学園に一人しかいない。
ミルファだ!
 彼女は、ロボットのくせに肉付きのいい脚を微動だにさせず、腕の力だけで路肩にズルズルと這っていた。
「ミルファ! 大丈夫かっ!?」
 俺は、もう一度叫んだ。
 ミルファは仰向けにゴロンと転がって、泥に汚れた顔を俺に見せた。ミルファは眉間に皺を寄せて痛々しい表
情をしていたが、俺と目が合うと、意地を張って無理矢理に笑顔を作った。
 俺はミルファに駆け寄り、肩を抱き寄せた。導線のビニール皮膜が焼けたような刺激臭が付近に漂っていた。
「……たかあき……遅かったじゃない……」
 ミルファは、泥の付着した唇でつぶやいた。
「どうした? 何があったんだ……」
 俺は鼻を利かし、刺激臭の発生源を探した。周辺でゴミなどを焼いている様子はないのだが……。
48夢の迷い道3−2 その6:2005/05/22(日) 12:06:35 ID:c1dr+f+g0
 ……わかった。それは、ミルファの足元からだった。見ると、ミルファの右膝が黒ずんでいた。人造の皮膚が
熱で溶解し、転倒した際に泥がべっちゃりと付着したのだろう。
 指で軽く触れようとしたら、あまりの熱さに火傷しそうになった。俺は慌てて指を引っ込めた。

「馬飛びでコケたときに、やっちゃったみたい」
 ミルファは、無理に作った笑顔で言った。
「それって、走る前の話じゃないか。ヤバそうだったら、休めば良かったのに!」
 俺が叱るように言うと、ミルファは急に目を逸らしてしょげ返ってしまった。
「だって……いけると思ったんだもの。それに……」
「それに?」
「たかあきがゴールしたとき、勝者の余裕で祝福したかったの」
「なんだそりゃ……」
 俺は呆れて、激しく脱力。抱きかかえているミルファを地面に落としそうになってしまった。

 ミルファを抱え直すついでに、ふと周囲を見渡してみた。“クマ吉”は、いつの間にか消えていた。一体、ど
こへ消えてしまったのだろう。あいつは付近を徘徊していただけの未確認生物だったのだろうか? それとも、
ミルファが“クマ吉”を使って俺を呼んだのだろうか? まさか、と思ってミルファの顔を見た。目が合った。
ミルファは今にも死にそうな表情だったが、一瞬で作った笑顔に戻した。意地っ張りめ。俺は苦笑しつつ、顔の
泥を拭いてやった。

 聞けば、ミルファは下半身が全く動かせないらしい。右膝付近がショートしているらしいので、脚部の電源を
カットしたのだそうだ。
「とにかく、ここにいても仕方がない。一旦学校に戻って、来栖川のサービスマンを呼ぼう」
 嘆いていても仕方がないので、ミルファを連れて学校へと戻ることにした。
 ミルファはお姫様ダッコで連れて行くように主張したが、坂道なので、それでは俺の方が倒れてしまう。ここ
は背負っていくことにした。
 周囲には、手を貸してくれそうな人など誰もいなかった。坂道を走る女子生徒は、もはや一人もいなかった。
もはや、自分だけが頼りだ。
「……重かったら、ゴメンね」
 ミルファが背中にのしかかってきた。彼女の乳房の柔らかな感触と温もりが、俺の背中に広がるのを感じた。
ミルファを救いたいという気持ちが、俺の中で一層強くなっていく。
49夢の迷い道3−2 その7(ここまで):2005/05/22(日) 12:07:38 ID:c1dr+f+g0
 ミルファは人の創ったモノかもしれないが、俺たちみたいに笑い、喜び、怒り、苦しみ、意地も張る。同じよ
うに生きている仲間なんだ。ミルファは、機械人形なんかじゃない。誰が見捨てるものかよ。
 俺はミルファを背負うと気合いで立ち上がり、坂道を一歩、また一歩と上り始めた。
 今からでは、由真の打席には間に合わない。夢から覚めるチャンスを逸したわけだが、これが最後のチャンス
と決まったわけではない。それに、苦しむミルファを見捨てて元の世界に戻ったとしても、きっと目覚めが悪い
に違いない。内容のない愉快な夢は目覚めた途端に忘れても、悪夢の内容は後々まで覚えているものだ。
 後悔するのは、現実の世界だけで十分だ。せめて夢の中では、自分の信じる道だけを行きたいものだ。

「できればでいいけど、コンピュータ室まで連れて行ってくれないかな。そこなら、応急処置が出来るから」
「ああ、わかった。だから、何も心配するな」

 坂道を上る間、俺はミルファに絶えず話しかけていた。ミルファを不安がらせないように。
 奇妙な授業のこと。明日の昼食のこと。グラウンドで見たファインプレーのこと。雄二という馬鹿な友人のこ
と。草壁さんは実は幼なじみだということ。俺は一方的にしゃべくった。ミルファはクスクスと笑った。

 校門までは、直線距離であと数百メートルのはずなんだ。なのに、ちっともたどり着けない。相手のゴールポ
ストが地平線の彼方にあり、ロスタイムのラスト1分で単行本一冊使ってしまうサッカー漫画みたいな感じだ。
 ミルファの足を抱える腕が悲鳴を上げ、足腰はギシギシきしむ。汗が滝のように流れ、目に入ってくる。いく
ら身体能力が高いとはいえ、由真の肉体ではさすがに辛い。河野貴明の体だったら、幾分は楽だろうに。

 ふと、坂道を踏みしめる左足首から力が抜け、バランスを崩しそうになった。ミルファがアッと声を上げた。
 ミルファが塀に叩きつけられそうになる。しかし、下半身の踏ん張りが利かない。俺は思わず目を瞑った。

 その時、風が吹き抜けた。誰かが駆けつけ、俺たちを支えてくれたのだ。俺は気合いでどうにか踏ん張った。
 俺は息を吐きながら、薄目を開けて、その救世主を見た。

 戻ってきた草壁さんが、そこにいた。
50名無しさんだよもん:2005/05/22(日) 12:10:37 ID:c1dr+f+g0
マラソンコースの設定は、『電撃 G's Festival!』48−49頁の地図を参考にしました。

以上
51必殺カレーの作り方 0/4:2005/05/23(月) 19:51:46 ID:GHUK3w3L0
掲示板投稿用に思いついた小ネタを書き込ませて頂きます。
4〜5レス程度の微々たる量ですが、よろしくお願いします。
52必殺カレーの作り方 1/4:2005/05/23(月) 19:52:14 ID:GHUK3w3L0
 右手に包丁、左手にじゃがいも。
「む〜……」
 狙いを定めて、じゃがいもの表面に包丁を当てて、
「――えいやっ」
 皮を剥こうと気合を込めたら、
 ぽかっ。
「あいたっ」
 それよりも早く、わたしの頭にげんこつが飛んできた。
 まな板の上に包丁とじゃがいもを置いて、両手でつむじのあたりを抑える。
 ひりひりとした痛みが少しだけ和らいだけど、目の端に滲んだ涙はどうすることもできない。
「お母さん、酷いよ〜」
 振り返ると、そこにはわたしをぶった張本人が立っていた。
 恨みがましく見つめるわたしのことを、厳しい目をして睨んでいる。
「そんな風に力を入れてたら、指を切っちゃうでしょ」
 そう言ったお母さんは、腕を組んでため息をひとつ。
「でも……」
 わたしはお母さんと向き合いながら、少しだけむくれてみせる。
 たしかに物覚えが悪いのは申し訳ないと思うけど、その度にぽかぽかやられちゃたまったもんじゃない。
 だいたい、お母さんは容赦がなさすぎる。
 小さな頃からあっちをぽかぽかこっちをぽかぽか。
 わたしの頭の形が悪くなったりしたら、絶対にお母さんのせいだ。
53必殺カレーの作り方 2/4:2005/05/23(月) 19:52:43 ID:GHUK3w3L0
 だけど、そういうのはお母さんがわたしのことを大切に思ってくれているからこその行動だというのは
分かっている。
 なんでも『誉めるときは思いきり誉める。叱るときは思いきり叱る』というのがうちの教育方針らしい。
「いい? 包丁は軽くじゃがいもに添えるだけで、じゃがいもの方をくるくるって回して皮を剥くの。
そうしないと指を切っちゃうから、変に肩に力を入れたりしちゃダメよ?」
 たしなめるようなお母さんの言葉を、わたしは黙って聞いていた。
 目に映るお母さんの手元では、まるで魔法でも使ったみたいに、じゃがいもの皮が長く長く伸びていく。
 皮にはじゃがいもの実はほとんどついていなくて、剥き終わるまで一度たりとも途切れたりしない。
 とてもじゃないけど、わたしに同じことができるとは思えなかった。
「……ふう」
「あら、どうしたの?」
 ため息をついたわたしの顔を見て、お母さんが首を傾げる。
「……わたしは、お母さんみたいに上手にできないもん」
「まあ」
 不機嫌な声を出したわたしに、お母さんは怒るでもなく呆れるでもなく、
「――お母さんも、初めのうちはそうだったのよ」
 優しい笑顔を浮かべて、なんだか信じられないようなことを言う。
「うっそだあ」
「ほんとよ」
 驚いて目をまん丸にしていると、お母さんは包丁と皮の剥き終わったじゃがいもを置いて、
「最初はじゃがいもの皮むきなんて全然できなくてね。鍋に入れたお野菜が、一つ一つばらばらな大きさ
だったんだから」
 おかしそうに微笑みながら、わたしの頭を撫でた。
54必殺カレーの作り方 3/4:2005/05/23(月) 19:53:10 ID:GHUK3w3L0
 そうやってわたしを見つめるお母さんの目は、なにか懐かしいものを見ているようだった。
「そんな風にして作った初めての必殺カレーは、正直あんまり美味しくなかったんだけど、お父さんは
美味しいって言ってくれたの」
 ちょっとだけお母さんの頬が赤くなっている。
「せっかくお母さんのお母さんが教えてくれたのに、全然『必殺』じゃなかったのよね。それでも、
お父さんが美味しいって言ってくれて嬉しかったわ」
「……そうだったんだ」
 なんだか物騒な名前で、手間のかかるカレーだなあ、なんて思っていたけど。
 どうやらこの料理は、わたしのうちに代々伝わっているものらしい。
 にこにこと笑うお母さんの視線がくすぐったくて、わたしはそれを誤魔化すように再び包丁を握る。
「お、今日はカレーか?」
 ドアが開いて声がした。
「そうよ〜、わたし直伝の必殺カレー! お父さんも楽しみにしててね」
 上機嫌なお母さんに、お父さんは照れくさそうな苦笑で応える。
 お母さんがわたしにどんな話をしながら手ほどきしているか、薄々勘付いているのだろう。
「そういえば、夕刊は取ってきたか?」
「あ」
 お父さんに尋ねられて、お母さんは思わずといった感じで口元を抑える。
「何だ。さっき買い物に行ったとき、見てきてくれればよかったのに」
「う〜……」
 お母さんは口をあひるみたいに尖らせて、お父さんとにらめっこを始めてしまった。
 わたしには厳しくて優しいお母さんは、お父さんを相手にするとこうやって隙を見せるのだ。
 結婚してから十年以上になるというのに、お熱いのは結構なことだと思う。
 たまに目の毒なときがあるので、娘の前ではもう少しだけ控えて欲しいけど。
55必殺カレーの作り方 4/4:2005/05/23(月) 19:53:36 ID:GHUK3w3L0
「いいよ、わたしが取ってくるよ」
 笑いを堪えているのを気付かれないよう、わたしは足早にキッチンを飛び出した。
 照れ隠しに、またぽかりとやられたらたまらない。
 ぱたぱたと廊下を駆けて、玄関に置いてあったサンダルを足にかける。
 ドアを開けたら外の世界は赤く染まっていて、山の向こうに夕日が沈もうとしていた。
「夕刊、夕刊」
 口ずさみながら郵便受けを覗いたら、薄っぺらな新聞とハガキが何通か入っている。
 それらを全部まとめて取り出して、両手で胸に抱えた。
 家の中に戻ろうと踵を返したら、ドアの脇にかかった表札が目に入る。
 少しだけ色褪せた『河野』という表札。

 わたしのお父さんは河野貴明。
 わたしのお母さんは河野このみという名前だった。

「早くこないと、お母さんが必殺カレー作っちゃうわよ〜!」
 家の中から、お母さんの声が聞こえて、
「わ、わ、待ってよ〜!」
 わたしは慌ててドアの向こうに飛び込んだ。
56名無しさんだよもん:2005/05/23(月) 19:58:49 ID:GHUK3w3L0
以上です。
投稿用に短いものを書きたいと思いまして、こんな感じでまとめてみました(=゚ω゚)ノ
叙述トリックなどという大層なものではありませんが、最後に「なるほど」と思って頂ければなと。

>>17
前スレのこのみ郁乃SSを書かれた方でしたかー。
あれは非常によいものでした。
郁乃は本編での出番が少ないので、キャラの動かし方などは他のSS作家さんの郁乃を参考にさせて
頂いた部分が多々あったりします。
もうどうにもとまらない、クライマックスが楽しみです。頑張ってくださいませ。
57名無しさんだよもん:2005/05/23(月) 20:12:48 ID:YCS94TjV0
>>56
GJ!!
最後のオチにはおっと思わされました。
必殺カレー、子々孫々に伝わっていくのですねw
58名無しさんだよもん:2005/05/23(月) 20:13:29 ID:MLQK8DFx0
>56
GJ!!
終わり方も綺麗だし…”彼女”の名前も気になりますなぁw
また期待しております〜
59名無しさんだよもん:2005/05/23(月) 20:42:14 ID:k2HpEkxL0
>56
ぐぅっぅうううううううじょぉぉぉぉおおおおおぶ!!!!
60名無しさんだよもん:2005/05/23(月) 21:08:07 ID:olHi/K5R0
>>56
GJ!!
このみタンとタカ君の娘(*´д`)ハァハァ
こうして歴史は繰り返されるのでつねw
61名無しさんだよもん:2005/05/24(火) 00:08:19 ID:m/UduM+N0
このみのイメージは髪がストレートの春夏さんってとこか?
まぁ、なんにしてもGJ!
62名無しさんだよもん:2005/05/24(火) 00:33:19 ID:3TjykxQi0
>>37-38の続きです。
今回は厚めに7スレほど続きます。
63あたしの想い−中編(1/7):2005/05/24(火) 00:35:08 ID:3TjykxQi0
週明けの学校は、再来週から行われるテストに向けて少し空気が張り詰めていた。

「テストかぁ。イヤだな〜」
眼鏡をかけている為か、周りからは勉強ができると思われているようだが
勉強は苦手で正直、成績は良い方ではない。
むしろ、いっつも赤点ギリギリの線だ。

(アイツだけには負けたくないわね・・・)
(・・・ん?)
(そうだ!!)
良いことを思いついたあたしは早速、アイツのいるクラスへと足を運ぶ。

ガラガラッ
「たかあき! 勝負っ! 勝負よっ!!」
「な・・・ なんだ由真。いきなり来て勝負って・・・」
「あんた、再来週からテストが行われることは知ってるわよね」
「ああ、そりゃな」
「今回はテストの点数で勝負よ!」
ズビシッと貴明に向かって指をさす由真は自信のある表情だった。
64あたしの想い−中編(2/7):2005/05/24(火) 00:36:08 ID:3TjykxQi0
「つっても、由真。この前のテストの点数だって全部俺に負けてたじゃないか?」
「むっ・・・ うるさいわね! 何? あんた、あたしに負けるのが怖いの??」
その一言が貴明の心に火をつけたとは知らず、由真は次々に罵声を浴びせる。

「そうか・・・ そこまで言うならこの勝負受けてやろうじゃないか!」
「じゃあ、この勝負に勝った方が、負けた方のいうことを何でも聞くってのはどう?」
「いいだろ、あとでやっぱナシなんてのは辞めろよ」
「あたしがそんなこと言う訳ないじゃない! んじゃ、決定ね」
「ああ、いいだろう」
普通にやっていれば、まず勝てる勝負にオレはOKをした。
ちなみに、前回の答案をこっそり覗いてみたが
あと数問間違っていれば赤点だというぐらい、ギリギリの点数だった。

「せいぜい、首を磨いて待ってることね」
「それをいうなら、『首を洗って』だろ・・・」
オレが失言を指摘すると、由真の顔がみるみると赤くなる。
「こ・・・ これで勝ったと思うなよ〜」
いつもの捨て台詞を残して、由真は去っていった。
65あたしの想い−中編(3/7):2005/05/24(火) 00:37:05 ID:3TjykxQi0
学校から帰った由真は、めずらしく部屋に引篭もって勉強なんてものをしている。
「なによ! あたしが勉強しちゃ悪いの?」

この勝負に負ける訳にはいかない。
必ず勝って、アイツを『葉っぱタウン』に誘うのだ。
これなら、敗者は命令を聞かなければならない為に断られることは無い。
あたし自身も「勝ったから仕方なく誘う」っていう言い訳も出来る。
いいことだらけだ。

「その為には、とにかく勉強〜 勉強っと」
自分を鼓舞するかのように呟くと、ノートにペンを走らせる。
だが、付け焼刃の集中力なんぞはスグに切れるもので・・・
66あたしの想い−中編(4/7):2005/05/24(火) 00:37:49 ID:3TjykxQi0
「そういえば、葉っぱタウンって今、何やってるのかしら?」
10分もしないうちに勉強を中断し、広げたノートの上にノートパソコンを置く。
「え〜っと、『葉っぱタウン』っと」
パソコンの検索サイトに文字を打ち込み、お目当てのサイトにジャンプする。
「なになに、『チーズケーキ博』,『ドネルゲバブ祭』,『ソフトクリーム畑』か・・・」
どれも美味しそうね〜
アイツ、甘いもの苦手だったりするのかな?

(そっちのケーキも美味しそうね)
(食ってみるか?)
(う・・・ うんっ)
(ほらっ 一口だけだからな!)
(うんっ あ〜ん)

「って、アホかっ!!」
「べ、勉強するわよ! 勉強っ」
自分しか居ない部屋で、一人ツッコミをする由真。
ノートパソコンをどかし、再びノートにペンを走らせる。
67名無しさんだよもん:2005/05/24(火) 00:38:15 ID:2tVE9F6g0
河野このみ
こうのこの…
…語呂が悪いな…
68あたしの想い−中編(5/7):2005/05/24(火) 00:39:04 ID:3TjykxQi0
だが、だが、一度走り始めた暴走機関車は止まるはずも無く
その後も度重なる妄想にニヤけてしまい、全く勉強に手が付かない。
「もしも、アイツが勝ったら。あたしに何を命令するつもりなんだろ?」

(由真 何でも言うこと聞くんだよな?)
(えっ、なに・・・ なに!)
両手をあたしの肩に乗せて抱き、そして・・・
(オレと付き合ってくれ。由真)
(し、し、仕方無いわね。アンタがそういうなら付き合ってあげてもいいわよ)

「って、アホかっ!!」
本日、2度目の一人ツッコミ。
69あたしの想い−中編(6/7):2005/05/24(火) 00:40:24 ID:3TjykxQi0
そうして、満足な勉強も出来ないまま由真はテスト当日を迎えた。
「いい! 手を抜いたら承知しないからね」
「ああ、わかってる」
「何を命令されてもいいように、精々準備しとくのね!」
そういってズビシとオレを指差すと、そそくさと自分の教室へ帰っていった。
「なぁ〜、貴明?」
「なんだ、雄二」
「アイツ、だいぶ自信があるみたいだけど大丈夫か?」
「いつものことだ、大丈夫だろ」
「まっ、俺には関係ないからいいけどね〜」
言い返そうかと思ったが、教師が入ってきたのでその抗議は中断された。
雄二の方を睨みつけてみたが
(まっ、がんばれよ〜)
とでも言わんばかりにヒラヒラと手を振っている。

一方の由真はテスト勉強が捗らなかったこともあり、かなり余裕が無い。
教師が問題用紙を配る直前まで、教科書とにらめっこしていた。
70あたしの想い−中編(7/7):2005/05/24(火) 00:41:26 ID:3TjykxQi0
キーンコーンカーンコーン
「はい、そこまで。後ろの人は答案を集めてください」
監視役の先生がテストの終わりを告げると、教室全体の空気が和らいだ。
これで、全教科のテストが終了した。
生徒達はそれぞれ仲間内で集まり、今までのうっぷんを
晴らす為のプランを立てている。

「長瀬さん♪ 長瀬さんもこれからカラオケいかない?」
あたしがぼけっと座っていると、クラスの中でも割かし
仲の良い子が声をかけてきた。

「え? あたし??」
「うんっ どうかな?」
鬱憤を晴らすという点では賛成なのだが
カラオケが好きではないあたしには、乗り気ではなかった。
「ごめんなさい。遠慮しとくわ」
「そ〜ぉ 残念ね。じゃ、また今度ね」

彼女はそういって手を振ると、これからカラオケに
向かうであろう仲間達の元へ戻っていった。
71あたしの想い作者:2005/05/24(火) 00:43:00 ID:3TjykxQi0
以上です。
なんだか、これからの展開&オチがバレバレな気がしますが
(・ε・)キニシナイ!!

多分、おそらく皆さんが考えるような展開になると思われますが
も少しだけ、付き合ってやってください。
72名無しさんだよもん:2005/05/24(火) 01:02:23 ID:29kJO0th0
>>71
GJ! 由真はある意味で素直だなw
73名無しさんだよもん:2005/05/24(火) 01:38:59 ID:k7zXYN1DO
>>56
おいおい、キャラの口調とか全然つかんでねーじゃないかよ

って途中まで思ってました、すいませんww
なかなか凝ってましたね、GJ

>>70
由真萌えの俺は無条件で満点ですよ
74名無しさんだよもん:2005/05/24(火) 13:05:45 ID:0ImhruTc0
由真キトゥアアアアァァァ!!!!
激しくGJ!
75名無しさんだよもん:2005/05/27(金) 00:28:10 ID:VnrxlV2d0
>>37-38>>63-70の続きです。
一気に最後まで ゆるりとどうぞ。
76あたしの想い−後編(1/7):2005/05/27(金) 00:29:35 ID:VnrxlV2d0
帰り道、いつものMTBに乗りながら由真は浮かない表情をしていた。
(はぁ〜 結局、あんまし勉強できなかったわね。)
テスト期間中、気がつくとアイツのことばかり考えていた。
どうしてだろ?
あたしにとって、アイツってどんな存在なんだろう・・・

「長瀬・・・か・・・」
先ほどの彼女の言葉が頭の中にリフレインする。
眼鏡をかけ、大人しい。あたしらしくない『長瀬』
アイツの前だと、何故だかいつものあたしでいられる。
『長瀬』ではなく、いつもの『十波』でいられる。
そんな存在・・・
だけど、それだけじゃあ無いような気がする。
なんだろ? この気持ち・・・
・・・あたしには、よく判んないや・・・
家に着くまでの間、あたしはずっとそのことばかりを考えていた。
77あたしの想い−後編(2/7):2005/05/27(金) 00:30:40 ID:VnrxlV2d0
答案が返ってきた日の休み時間、由真はさっそく結果を
知らせに貴明のいる教室へと向かった。
「いいか? じゃあ、合計得点を同時に言うぞ?」
「いいわっ」
「「せーの」」

「356点!」
「2・・ 234点・・・」
差は圧倒的だった。
全教科、平均点ギリギリの貴明。
片や全教科、赤点ギリギリの由真。

「ふふんっ、余裕だな。由真。」
「くっ・・・ こ、こんなにも差がつくなんて・・・」
「さて・・・ 敗者は勝者の言うことを何でも聞くんだったよな」
「そ、そうよ」
アイツは余裕の表情であたしを見下している。
あたしが決めたとはいえ、いったい何を命令されるんだろう?

「まっ、今日は午前中で授業も終わりだし、それまでに考えておくよ」
「さっさと決めることね!」
「じゃあ、放課後。駐輪場で待っていてくれ」
「わ・・・ わかったわよ」
相変わらずアイツは、余裕の表情で見ている。
「こ、これで勝ったと思うなよ〜!!」
「いや、勝ったんだけど・・・」
そんな貴明のツッコミは、走り去ってゆく由真には届かなかった。
78あたしの想い−後編(3/7):2005/05/27(金) 00:31:29 ID:VnrxlV2d0
放課後、あたしは言われたとおり駐輪場へと向かった。
「おっ、由真。逃げずに良く来たな」
「なによ? あたしが逃げるとでも思った?」
「もしかしたら?って思ってな」
「あたしは、そんな卑怯者じゃないわっ」
誰もいない駐輪場に由真の声が響く。
ココであんまし時間がかかってしまっては、意味が無いので
俺はいつもの言い争いを辞め、本題を切り出した。

「さて、勝者から敗者への命令だが」
「ぐっ・・・ さっさと言いなさいよ!」
あいつはガサガサとカバンの中身をまさぐっている。
「これなんだけどな・・・」
そういって、あいつが取り出したものは

「あっ、これ・・・。葉っぱタウンのペアチケット・・・」
「こ、こないだ商店街歩いていたとき貰ってな・・・」
アイツはそっぽを向きながら、頬を掻いている。
「タダだし・・・ チケットの有効期限も近いし・・・」
79あたしの想い−後編(4/7):2005/05/27(金) 00:32:12 ID:VnrxlV2d0
「・・・エスコート」
「はぁ?」
「あんたが誘ったんだから、ちゃんとエスコートするのよ!」
「勝ったのは俺だぞ? なんでお前の命令聞かなきゃならないんだ?」
「イヤなの?」
「別にイヤじゃ・・・。わかったよ。」
「んじゃ、決まりね」
「今から行こうかと思ってるんだけど、大丈夫か?」
「何よ! あんたが勝者なんだから、あんたが決めなさいよ」
「じゃあ、今から行くぞ! これが俺の命令だ」
「し、仕方ないわね・・・ あんたがどうしてもっていうなら
 行ってあげてもいいわよ!!」
由真は精一杯の虚勢をはる。
貴明はMTBに手を伸ばし、サドルにまたがった。

「それじゃあ、行くぞ。後ろに乗れ!」
「何よ〜、コレ、あたしのMTBよ」
「じゃぁ、お前が漕ぐか?」
「そんなん嫌に決まってるでしょ!!」
「なら、さっさと後ろに乗れ」
「・・・わかったわよっ」
そう・・・
これが、あたしらしくいられる場所。
あたしが好きな場所。
80あたしの想い−後編(5,6/7):2005/05/27(金) 00:33:01 ID:VnrxlV2d0
「そういえば、あんた知ってる?」
「何をだ?」
「いま、葉っぱタウンでは『チーズケーキ博』,『ドネルゲバブ祭』
 『ソフトクリーム畑』が開催してるのよ」
由真が偉そうな表情をしていうが、前を向いている貴明には見えない。
「よく知ってるな、お前」
「当然よ、と・う・ぜ・ん」

「なぁ、由真?」
「何よ?」
「お前が勝ったら、俺に何をさせるつもりだったんだ?」
自転車が通学路の下り坂を下ってゆく。
風を切ってゆく感覚が気持ちいい。
81あたしの想い−後編(7/7):2005/05/27(金) 00:33:57 ID:VnrxlV2d0
「な、何だっていいじゃない!」
「どうせ、お前のことだから『アイス奢れ〜』とかだろうけどな」
「そんなんじゃないわよっ」
「じゃぁ、なんだったんだ?」

まさか、同じ命令だったなんて・・・
言える訳ないじゃない。
「ふんっ、あんたになんか教えてやるか」
(帰ったらカバンの中のチラシ、さっさと捨てなきゃ。)

自転車が風を切って進んでゆく。
あたしとアイツが行きたかった場所へ。


82名無しさんだよもん:2005/05/27(金) 00:35:00 ID:EUwh0M7R0
GJ!!
リアルタイムで読ませていただきました。
83あたしの想い作者:2005/05/27(金) 00:38:37 ID:VnrxlV2d0
以上です。
なんせ、初めてなもんで展開やツメの甘さ等あるかと思います。
自分なりの反省点を次回に繋げていけるように、頑張ります。

次回がありましたら、お付き合いくださいませ。
84河野家にようこそ 第7話(1/7):2005/05/27(金) 01:44:29 ID:ewEmmW7L0
 タマ姉、由真との生活が始まった。
 由真はタマ姉に説得され、学校に行くようになって、小牧さんもまずは一安心だ。
 そう思っていたとき俺は、るーこが落ち込んでいるのを目にする。そしてその原因――るーこが公園
から追い出されたことを知った俺は、るーこを家に連れてきた。

「じゃあ、るーこはこの部屋を使ってくれ」
 俺はるーこを連れて、2階の空き部屋に入った。
「今まで物置部屋にしてたから少しごちゃごちゃしてるけど、まあその辺の片づけは後々ということで、
まずは布団かな。親父達の部屋の押し入れに客用の布団があるから、ちょっと行って持ってくるな。
るーこはここで待っててくれ」
「うー」
「ん、なんだるーこ?」
「……本当に、感謝してるぞ、うー」
「だから気にするなって。俺とお前の仲だろ」
「そうか……なら、一つ頼みがあるのだが」
「なんだ?」
「るーは、うーと一緒の部屋がいいぞ」
「駄目よ」
「うおっ! タマ姉いつの間に!?」
「晩ご飯が出来たから呼びに来たのよ。
 それよりるーこちゃん、タカ坊と一緒の部屋がいいなんてどういうこと?」
「るーは元々、”うー”の調査のためにやってきた。そしてそのサンプルとして、うーを選んだ。
 そのうーと一緒の家で生活できるのだ、いい機会だからもっとうーを調査する。だから一緒の部屋が
いい」
「あのねるーこちゃん、『男女七歳にして同衾せず』って言ってね、男性と女性はある程度の年齢に
なったら、きちんと節度を持った付き合い方をしなくちゃいけないの。同じ部屋で寝泊まりなんて、
決してしちゃいけないことなのよ」
 そう言ってるーこを諭すタマ姉。
 タマ姉には、このみが”お泊まり”に来たときのことは口が裂けても言えないな……。
「る〜……、それが”うー”の常識と言うなら仕方がない、うーと一緒の部屋は諦める。
85名無しさんだよもん:2005/05/27(金) 01:44:35 ID:Zcm3fFHGO
素人の感想だが終り方がイイ
爽やか系の小説って感じや!
86河野家にようこそ 第7話(2/7):2005/05/27(金) 01:45:15 ID:ewEmmW7L0
 この部屋でいいぞ、うータマ」
「よしよし。わかってくれて嬉しいわ、るーこちゃん」

「――確かにうーが認めるだけのことはある。この料理、どれもうまいぞ、うータマ」
 タマ姉、由真、そしてるーこと一緒の夕食。
 由真といい小牧さんといいるーこといい、タマ姉の料理はみんなを虜にして止まない。まぁ、確かに
うまいのだが。
「特にこの、サンマの塩焼きは絶品だぞ。サンマの見立て、火加減、塩加減、どれも完璧だ。
 ”うー”における食文化の調査については、うータマの料理はかなり重要な情報となるだろう。
 誇るがいいぞ、うータマ」
「大げさ過ぎよ。私の料理なんてありふれたものばかりなんだから」
「そのありふれた料理をここまでおいしく出来るんだから凄いんですよ環さん!
 ね、るーこちゃんそうでしょ?」
「その通りだぞ、うーゆま」
「……それはいいんだけど、ねぇるーこちゃん、その”うーゆま”って呼び方、なんとかならない?
 なんか『かゆ…うま』みたいで、凄く気になるんだけど」
「気に入らないか? ”うー”の中の”ゆま”だから、うーゆまだ。問題は無いと思うぞ」
「あ、あっそ……」
 ゲーム好きの由真らしい訴えだったが、もちろん元ネタを知らないるーこには通じなかった。哀れ。
「しかし、一つだけ気になる点があるぞ」
「ん、なんだ、るーこ?」
「この大根の漬け物、味自体は問題ないが、厚さにばらつきがある。あと、ちゃんと切れていないのも
あるぞ」
 るーこはそう言って一切れのたくあんを箸でつまみ上げる。あら、もう一切れくっついてきた。
「あ〜、それは……」
「……悪かったわね、それ切ったの、あたし」
 由真が切ったのか。タマ姉の夕食作りを手伝ったんだ。
「うーゆまが切ったのか。これではダメダメのぷっぷくぷーだぞ、うーゆま」
「な、な!?」
「これでは嫁の貰い手が来ないぞ。もっと修行しろ、うーゆま」
87河野家にようこそ 第7話(3/7):2005/05/27(金) 01:46:10 ID:ewEmmW7L0
「よ、嫁の貰い手なんて、あんたに関係ないでしょ!? だ、第一、誰がお嫁なんか……」
「……将来の夢はかわいいお嫁さん」
 めきゅっ!!(俺の顔面に由真の拳がめり込んだ音)
「え、偉そうなこと言ってるけど、あんたはどうなのよ、料理の腕は!?」
「そうだな、うータマには一歩及ばぬが、この漬け物を見る限りだと、うーゆまよりは上だと思うぞ」
 そう言って、さっきのたくあんをぶらぶら揺らするーこ。
 きっとるーこは、自分の言動が由真を挑発しているとは思っていないに違いない。
「そ、そんなのじゃ、あたしの真の実力は測れないわよ!
 ほ、包丁が悪いのよ包丁が! 包丁をちゃんと研いでおかなかった貴明が悪い!」
 なんでそこで俺のせいになる?
「失敗を道具のせいにするか。未熟者の常套句だぞ、うーゆま」
「み、み、未熟者……こ、このぉ、好き勝手言わせておけば……」
「はいはい、もうそこまで。二人ともケンカしないの。食事は楽しく食べましょう」
 さすがに見かねたタマ姉が二人を抑えようとする。しかし……
「……なるほど、今のは宣戦布告ってことね……」
「お、おい由真?」
「いいわよ、その勝負、受けてたつ!!
 るーこちゃん! いやさ、るーこ・きれいなそら!! 料理で勝負だ!!」
「ゆ、由真、落ちつけって。るーこに悪気はないんだよ。ただこいつ妙にグルメな奴で、細かいこと
にも目がいくっていうか、一言多いっていうか……」
「勝負か、面白い。るーは戦士だ、勝負と言われて断る舌を持たない。その勝負、受けてたつぞ」
「お、おいるーこまで……。タマ姉からも何か言ってやってくれよ」
「うーん、もうここまで来ちゃったら、行くところまで行くしかないんじゃない?
 いいじゃない、料理勝負。そうやって切磋琢磨することも、物事の上達に結びつくんだから」
 タマ姉はどうやら、この状況を楽しんでいるようだ。
「よし! 環さんの許可も下りた!」
「では早速、明日の朝食で勝負するぞ。勝負のメニューは、そうだな、卵焼きでいいか?」
「卵焼き、上等よ! 審判は環さんと貴明、いいわね!?」
「問題ないぞ、うーゆま」
 なんか勝手に審判に選ばれてしまいました。まあこの場にいるのが俺とタマ姉だからね。
88河野家にようこそ 第7話(4/7):2005/05/27(金) 01:47:05 ID:ewEmmW7L0
「ふふっ、面白くなりそう。二人とも頑張るのよ」
「はいっ、環さん!」
「当然だぞ、うータマ」

 夕食が終わり、食後の後かたづけも終わり、そして俺の部屋。
 由真はまた例のギャルゲーをやっている。
「なぁ由真、それってそんなに面白いかぁ?」
「うんとっても。なんていうか、男の願望を具現化したら、きっとこんな世界になるんだろうね。
客観的に見ると面白いよ。
 男は主人公だけ、登場する女の子はみんな可愛くて個性的で、しかも全員主人公に好意を抱いて
いる。これって一種のハーレムだよね。どう貴明、実際に世界がこんなだったら、嬉しいでしょ?」
「う〜ん、どうだろ? 男が俺だけって、寂しい気がするんだが」
「なに、貴明ってホモだったの?」
「違う! 女にも女同士の付き合いがあるように、男にも男同士の付き合いってもんがあるんだよ。
 それにさ、もしもこのゲームの主人公みたいに、8人の女の子がみんな俺に好意を抱いていると
したら、俺にとってはプレッシャーだな」
「どうして?」
「8人に好かれるってことは、8人分の期待が俺に寄せられるってことだよな。その全てに応えてあげ
られるほど、俺は大きい人間じゃないよ。
 大体、8人だぞ8人。そんな大勢に好意を抱かれる俺って一体何者だよ。
 しかも俺は、結局はこのゲームみたいに、8人の中から誰かを選ばなきゃならないんだよな。じゃあ、
選ばれなかった残りの7人はどうなるんだろ? 他に男のいない世界で、俺が選んだ1人だけが幸せ
になれて、じゃあ残りの7人は? そうやって考えると、さ。
 ……なんてな。実際そんな立場にない俺が考えても、単なる取り越し苦労なんだけどな」
「……そういえば、さ」
「なに?」
「貴明のまわりって、女の子、結構多いよね。環さん、このみちゃん、るーこ、愛佳……」
「おいおい、何でそこで小牧さんが出てくるんだよ」
「何となく。愛佳って男の子苦手だけど、貴明とは結構仲良く接してるし」
「そうかぁ? 普通だと思うが」
89河野家にようこそ 第7話(5/7):2005/05/27(金) 01:48:00 ID:ewEmmW7L0
「そうなの。他にもそういうコ、いるんじゃないの? ほら、白状しなよ。
 あ、言っとくけど、あたしはその中に含まないでよね。あたし別に貴明のこと好きじゃないし」
「はいはいわかってますって。それに、お前が今言った4人だって、俺に対してその、好意を抱いて
いるわけじゃないと思うが」
「はぁ? マジで言ってるのそれ?」
「ああ、何かおかしいか?」
「……ま、いっか。別にあたしがどうこう言う問題じゃないし」
 コンコン。
「はい?」
「るーだぞ、うー」
「るーこ、入ってきなよ」
 俺がそう言うと、るーこが部屋に入ってきた。
「暇なので遊びに来たぞ、うー。
 うーゆまも一緒か。何をしている、うー? るーも仲間に入れろ」
「るーこ! 何しに来たのよ!? しっしっ」
「由真、料理勝負は料理勝負で、それ以外で敵対する必要はないだろ。同じ屋根の下で住んでる者同士、
仲良く仲良く」
「うーの言うとおりだ。スポーツマンシップだぞ、うーゆま」
 料理はスポーツじゃないと思うが、今は突っ込むまい。
「……ふんっ、どうだか。大方、敵情視察にでも来たんじゃないの?」
「敵情視察って、何の?」
「料理勝負」
「お前今、料理してないじゃん」
「う、うるさいわね! 細かいこと突っ込むな!
 まあいいわ。敵情視察でも何でもしていったらいいじゃない」
 由真はそう言うと、またゲームに没頭する。
「うー、うーゆまは一体何をしているのだ?」
「ああ、ゲームだよゲーム」
「ゲーム? ゲームとは通常、二人以上で遊ぶものだと思うが、見たところ遊んでいるのはうーゆま
だけのようだが?」
90河野家にようこそ 第7話(6/7):2005/05/27(金) 01:49:31 ID:ewEmmW7L0
「”うー”には、一人で遊ぶゲームもあるんだよ。由真が遊んでいるのもその内の一つ」
「そうなのか? それではうーは今、遊んでいないのだな? なら、るーと遊べ。”うー”の遊びを
るーに教えろ」
「あーだめだめ。貴明は今、萌子ちゃん萌え〜状態だから、あんたに構ってられないの」
「萌えてねぇよ!」
「もえ? もえとは何だ、うーゆま?」
 るーこがそう尋ねると、由真は面倒そうな顔をして、それでも説明をする。
「ほら、この画面に映ってる女の子、これが萌子ちゃん。このゲームの主人公の義理の妹で、主人公
が大好きなの。で、貴明はそんな萌子ちゃんに心ときめいているの。これが萌えってヤツ」
「うーは、この絵の女に惚れているのか。しかしこのモエコという女は、シュジンコウという男が好き
なわけだから、つまりは横恋慕か? 虚しいな、うー」
「違う!!」
 ああもう、るーこに何て説明すればいいのやら。

 そして翌日の朝。ついに勝負の時は来た。
 由真VSるーこ、卵焼き対決。果たして勝負の行方は?
 勝負は、使えるガスコンロが一つしかないため、一人ずつ調理することになった。先攻は、ジャン
ケンの結果、るーことなった。
「それではるーこちゃん、始め!」
 タマ姉の号令を合図に、るーこが卵焼きを作り始める。
 卵を割ってボールに入れ、塩と胡椒を入れつつかき混ぜる。るーこは塩味の卵焼きを作るようだ。
 フライパンをコンロに乗せ、火を入れ、フライパンに油をひく。
 フライパンが熱するのを待って、卵を入れ、焼き、巻いていく。
 全て巻き終えると、卵焼きをフライパンからまな板に移し、均等な大きさに切っていく。
 最後に皿に盛りつけ、完成。
「できたぞ。食べてみろ」
 そう言って俺とタマ姉の前に卵焼きを差し出するーこ。
 では、いただきます――うん、おいしい。何て言うか、しっかり卵焼きになっている。
「うまい」
「うん、おいしいわね。上出来よ、るーこちゃん」
91河野家にようこそ 第7話(7/7):2005/05/27(金) 01:50:25 ID:ewEmmW7L0
「お褒めに与り光栄だぞ、うー、うータマ」
「それじゃあ今度は由真さんね。準備はいい?」
「はい、環さん!」
「それでは由真さん、始め!」
 タマ姉の号令を合図に、由真が卵焼きを作り始める。が……
「ええと、まずは卵を割って……あ、殻が入っちゃった! 殻を取って……お箸じゃうまく取れない
なぁ。手で取っちゃえ。よし、全部取れた。
 今度は砂糖を入れて……あれ、これ砂糖かな? まぁいいや、適当に入れれば甘いかしょっぱいか
どっちかになるでしょ。
 で、今度はフライパンに火を……あ、油入れ過ぎちゃったかな? いっか、焼ければいいんだから。
 フライパンに卵を入れて……うわっ! 卵が油の中でカラカラって、テンプラみたいになってる!?
やっぱ油が多いのかな? 今からでも油、少し捨てようかな? あ、でも油って確か、直接流しに捨て
たらいけないって、お母さん言ってたよね。じゃあどうしよう……ええい、このままいっちゃえ!
 で、卵を巻いて……あ! 卵がちぎれた! ああもう、うまく巻けないよ〜! もういいや、適当
にがーっと焼いちゃえ! 見てくれなんかより、味で勝負よ!
 よし、焼けたかな? あれ、ちょっと焦げてる感じ。ま、まあちょっとだけならいいか。
 で、お皿に盛りつけて……あああ、油も一緒にお皿に入っちゃった。なんかギトギトしてる。
 とりあえず完成かな。はい、お待たせしました、どうぞ召しあがれ」
「「却下」」
 俺とタマ姉の声が見事に重なった。

「まあ、今回はるーこちゃんの圧勝ね」
「圧勝というか、不戦勝って感じもするが」
「当然の結果だぞ、うーゆま。もっと腕を磨いてから、るーに挑むのだな」
「ぐ、ぐぐぐぐ……」
 あまりの悔しさに、由真の握った拳がわなわなと震える。
 そして由真は、人差し指をびしっとるーこに向け、お決まりのセリフを叫んだ。
「これで勝ったと思うなよぉ〜〜〜!!」

 つづく。
92河野家にようこそ の作者:2005/05/27(金) 01:51:53 ID:ewEmmW7L0
 どうもです。第7話です。
 由真が料理が出来るか否かはゲームではわからないので、悩んだ挙げ句、こういうことにしました。
(ちょっとヘタ過ぎかな、とも思いましたが……)
 あと、アイス屋の時も思ったんですけど、るーこって難しいキャラです。何せ宇宙人だし。
93名無しさんだよもん:2005/05/27(金) 02:23:07 ID:tdbbuzno0
>>92
GJです!!
るーこ萌えの俺としては最高の話でした
あと、たしかに由真は料理下手そうだな・・・
94名無しさんだよもん:2005/05/27(金) 02:54:43 ID:mVi3h38O0
>>92
普段ROMだけど、GJと言わずにいられない!
るーこと由真のやり取りなんて想像の範囲外だったけど、互いが互いの魅力を引き立てていて、
すごいよかった。
由真のリベンジにも期待
95名無しさんだよもん:2005/05/27(金) 07:40:22 ID:4WI17aYc0
>>92

登場人物が上手く絡んでるのがいい。
続きを楽しみにしてます。
96名無しさんだよもん:2005/05/27(金) 10:23:10 ID:VJnqAJlk0
ゲーム内ゲームで本編を語る…中々のテクニシャンなり
GJ!!…このみたんが出てこないのがチト寂しいがw
97名無しさんだよもん:2005/05/27(金) 23:50:58 ID:GBpm09Do0
>>83
爽やかな話で良かったです、この二人はある意味一番馬が合うというかw

>>92
るーこ&由真の絡みは新鮮でいいですな。そういやTH2って結構料理上手が多いような…。
98名無しさんだよもん:2005/05/28(土) 14:43:42 ID:mkdU9mZm0
>>92
GJ!

最近花梨分が足りない・・・。
花梨SS書いてた人どこ行った。
99名無しさんだよもん:2005/05/28(土) 18:19:39 ID:QSBn2kU50
イラネ
100名無しさんだよもん:2005/05/28(土) 22:51:20 ID:LCBktO3+0
息抜きにやるだけssキボn
「あっ、あぁあっ。貴明様、貴明様、私、もうっ」

「イルファさん、イルファさんっ!!」

 照明を落とした部屋の中でも、それと判るくらい綺麗な白いイルファさんの体が、俺の身体の上で弾んでいる。
 さっきから俺のものを飲み込んでいるイルファさんの中は、火傷をしてしまいそうなくらい熱い。
 痛いくらいにギュウギュウとこちらのものを締め付けてくるのと、
それに、激しく体を、
動かす、
イルファさんに、
こっちの、
余裕なんてものはだいぶ前になくなってしまっていつ我慢の限界が来るかただいじとせいしんりょくとでひっしなどりょくをしているけどもうだめげんか・・・・・・あっ、ああっ、あああっ

「「ああ─────────・・・・・・

 部屋中に響く、きれいにハモった2人の叫び声。
 一瞬やってくる物凄い開放感と、そのあとに来る脱力感。
 指一本だって動かせそうに無いくらい疲れているところに、イルファさんの柔らかい体が覆いかぶさってきた。

「貴明様・・・・・・今日も、すごかったです」

「えっと、うん、ありがとう」
 なんだかすごく間抜けなやりとりをした気がするけど、まあ、いいや。今は物を考えるのも面倒なくらい、疲れた。
 2人とも抱き合ったまま動こうともしないで、乱れた息のまま、ベッドの上に重なり合ってころがっている。
 イルファさんの体、あったかいなー。
 肌を通して伝わってくるイルファさんの温もりに、イルファさんがメイドロボだと言うことを忘れてしまいそうになることがある。いや、今だったら実はイルファさんは人間でしたと言われても、信じてしまうだろうな。
 もう何回目になるんだか解らないイルファさんとの「夜の営み(イルファさん談)」を終えて、取り留めの無いことを考える。
 イルファさんとこんな関係になってしまった理由には
イルファさんが「お背中流します」と言ってお風呂に入ってきたとかその時うっかり足を滑らせてイルファさんを押し倒してしまったとかその場の空気に逆らい切れなかったとかそのことをたてにイルファさんが迫ってきたとか
いろいろあるけれど。
 いや、そのこと自体にいまさら後悔はないし、責任だってちゃんと取るつもりだけど。
 でも、珊瑚ちゃんや瑠璃ちゃんに内緒でこんなことになってしまって、万一このことが2人にばれたりしたら・・・・・・ぶるぶるぶる。あまり考えたくない。

「貴明様。2人だけでいるときに、他の女性のことを考えるのはマナー違反ですよ」

「べ、別に他の女の人の事なんて考えてないって」

 なんだか頭の中を見透かされたような気分になって、あわてて否定する。
 珊瑚ちゃん瑠璃ちゃんを女性として捉えていたわけじゃないから、この場合嘘は言っていないよな。
 それにしても、俺、そんなに考えていること顔に出てたかな。

「それは女の勘とだけお答えしておきます」
 なんだか含みのありそうな笑顔ではぐらかされてしまった。
 というか、メイドロボにもやっぱり女の勘と言うのは存在するんだろうか。

「それで、さっきまであんなに愛してくださったメイドロボのことも忘れて、貴明様は何を考えていらしたんですか?」

「だ、だから何も変なことは考えていないってば!」

 『あんなに』の部分に力を入れて話すイルファさんに、笑顔でからかわれていることは十分承知しているんだけど。
 上にのられているせいなのか、なんだか立場が弱い気がする。

「ただ、珊瑚ちゃんたちがこのことを知ったらどうなっちゃうんだろう、って」

 もしかしたら、今度こそ本当に軽蔑されてしまうかもしれない。
 なんと言っても、珊瑚ちゃんにとってみれば娘同然。瑠璃ちゃんにすれば恋人みたいな人を傷物にしてしまったんだから。
 何を言われたって言い訳はできないよな。

「貴明様、そんな心配はありませんよ?」

 えっ?

「確かに瑠璃様珊瑚様よりも先に、貴明様の初めてをいただいてしまったのは謝らなくてはならないでしょうけど」

 いや、はじめてって。イルファさんもう少し言葉選ぼうよ。

「けれど瑠璃様も珊瑚様も貴明様のことがすきすきすきーなんですから、きっと笑って許してくださいます」

 そう言うものなのかなぁ。
 それよりも、イルファさんはそれで良いの?

「んー、そうですね。私も貴明様をお慕い申し上げるのと同じくらい、瑠璃様のことを愛していますから。そうだ、いっそのことお2人もお誘いして、4人ですると言うのはいかがでしょうか?
 そして瑠璃様の初めてを私が・・・・・・ああっ、考えただけでもモーターが熱くなります」

「いや、それはさすがに遠慮させて」

 目の前でイルファさんにこんな反応をされてしまうと、本気で悩むことに疲れてしまいそうになる。むしろ本当に、何とかなってしまうんじゃないだろうか。
 でも、いつまでもイルファさんとのことを秘密のままにはしておけない。いつか2人にもちゃんと、このことを伝えなきゃいけないことは確かだ。

「でも──」

「でも?」

 俺の胸の上で、イルファさんは微笑みを浮かべて。

「お2人にこのことをお伝えするまでは・・・・・・今だけは、私だけの貴明様でいてくださいね」

 メイドロボの柔らかい体が覆いかぶさってきた。



   終
タイトルはブレードでランナーとは一切関係ありません。
どちらかと言えば1のほうのメイドロボテーマ曲のもじりです。
内容ともども、なんとなくイルファさんのことを考えてたら思いつきました。

ところでこれ、年齢制限かかりますかね?
106名無しさんだよもん:2005/05/28(土) 23:45:41 ID:dPhJxYkp0
セフセフ!



エロスw
107名無しさんだよもん:2005/05/29(日) 03:51:42 ID:HcIjIUQP0
>>105
無問題だ。だってここ21禁だしw
108名無しさんだよもん:2005/05/29(日) 06:58:52 ID:qTJiHWUM0
いやっほーう!イルファ!イルファ!
109名無しさんだよもん:2005/05/29(日) 14:53:57 ID:V69c8LIZO
イルファイイヨイイヨ〜!
あっさりしてて読みやすくて、だけどぐっと来るものがあった。


GJ!!
110名無しさんだよもん:2005/05/29(日) 21:04:44 ID:ENWPcgAP0
余韻を残すのが好きです
111もうどうにもとまらない作者:2005/06/01(水) 00:03:57 ID:AERtehQW0
これより<もうどうにもとまらない2>の前編を投下させていただきます。

サブタイトルはノンストップこのみちゃんです。

では参ります
「タカくん!!もう駄目我慢出来ないであります…ゴメンね!!!」
「ま、待てこのみ…落ち着け、落ち着けって!」
ドタンバタン
「タカくんが…タカくんが悪いんだよ…そんな風にこのみの事を何時も何時も挑発するから…」
ドスンバタン
「してないって、そんな事!!このみ、ま、待ってくれって!!」
「もう待てないでありますよ、隊長!!!!」
 興奮するこのみ@貴明に強引に組み敷かれながら、貴明@このみはどうしてこんな事になってしまったのだろうと、
 ここに至るまでの事を思いかえしていた…

 事の起こりは三週間前に遡る。
 ひょんな事から精神が入れ替わってしまった貴明とこのみ。
 その事を知っているのは本人達の他には向坂環、雄二の姉弟のみ。
 元に戻る方法を模索しつつ、なんとか日常生活をはじめたのだった。

 学校生活はそれなりに順調だった。
 雄二と環のフォローもあってそれぞれの学友達にもなんとか怪しまれずに過ごせていた。
 ただ勉強に関してはもともと苦手なこのみが、さらに一学年上の授業についていけるわけもなく、
 なんとか雄二にフォローしてもらっては居たが今度の中間テストはかなりヤバイ状態ではあった。
「あう〜授業わかんないよ〜」
「まぁ、しょうがないわよ。このみは本当なら一年生なんだし」
「おちびちゃんは一年生の勉強もあやしいからなぁ」
「むぅ…雄くんだってこのみが先生に当てられた所の答え聞いてもわかんないのにぃ」
 このみは口をとがらせて雄二に反論する。
「そ…それは、簡単に教えたらお前のためにならないからだよ…」
 視線を逸らしながらわざとらしく口笛を吹く雄二。
「ふう〜ん、そうなんだ、雄二…」
「ゲ!?このみ余計な事いうなって!」
「だって本当の事であり…もがっ」 
 慌ててこのみの口塞ぐ雄二。
 しかし時遅く、環のアイアンクローがガッシリと雄二の後頭部に決まる。
 ギリギリギリギリギリギリ
「ぎゃああああああ…ギブギブギブメルギブソンッ!!!!」
  
「タカくんは…ダイジョブでありますか?」
 このみはもがき苦しむ雄二を横目に貴明に尋ねる。
「ん?何…ああ、勉強のことか?」
 貴明はこのみに向かってVサインをする。
「任せろ。一年生は去年やったばっかりだし、次のテストはバッチリだよ。郁乃の奴もびっくりしてたよ」
 このみは小牧郁乃とクラスメートであり、親友なのだった。

「このみ…あんた何時の間にそんなにデキルようになったのよ!?」
「えへへ〜男…いや女子、三日会わずば刮目して見よ…でありますよ?」
「むうう…このみの癖に生意気なぁ」
「チッチッチ…もうこのみは昔のこのみじゃないんだからね〜。なんなら勝負するでありますか?」
「おもしろい、受けてたつ!そして、泣かす!!」  
「泣かす…って負かす、じゃなくてでありますかぁ?」
「泣かすったら泣かす!!おぼえてなさい、このみ!」

「てな事になってな。今度のテストで勝った方がヤック食べ放題って賭けになったんだよ」
「ヤック食べ放題!!いいなぁ……でね、タカくん。こんどこのみに勉強教えてほしいでありますよ」
 このみ@貴明は胸の前に手を組んで貴明@このみにお願いする。
「おまえ…俺の身体でそんな女の子っぽい仕草するなって…」
「ねぇねぇ、タカく〜ん。お願いでありますよ〜」
 男の身体だと妙な迫力がでるおねだりポーズで貴明に迫るこのみ。
「だから…まぁ、ヤマかけて要点暗記するくらいしか手は無いけど、それでよかったら、な」
 根負けしたように肩をすくめる貴明@このみ。
「ほんと?ヤター!!タカくんとお勉強〜♪お勉強〜♪お勉強〜♪」
 万歳しながらクルクルと回転するこのみ@貴明…凄いはしゃぎ様だ。
「だ〜か〜ら〜!!俺の身体でそういう行動するなって!!」
「あらあら、このみったら」
 環はこのみの喜び様を目を細めながら見つめる。
「姉貴…ソロ…ソロ…離し…て……くけ」
「あら…いけない」
 環は雄二にアイアンクローをかけたままだったのを思い出し、力を込めていた指を開く。
 ドサ!!っと重い音を立てて雄二がスローモーションで地面に倒れ伏す。
 ピクピクと痙攣している雄二を尻目に環は貴明@このみに話しかける。
「よかったら、私もこのみの勉強を見るの手伝おうか?」
 貴明はそう言う環の方を見て顔の前で手を振る。
「い、いいよ。このみの勉強くらい俺一人でダイジョブだよ…」
 確かに学年トップの環なら家庭教師役としてはうってつけだろう。
 しかしその授業は厳しい…ハッキリ言って鬼だった。
「だ、だから…そうだ雄二の勉強を見てやってくれよ。こいつ今回赤点だと
夏休みに補習食らう羽目になりそうなんだよ、確か」
「補習…ですって…」
 ぶわっ!!とタマ姉の身体から怒りのオーラが吹き出すのが見えた、確かに見えた。
 ふと気がつくと、雄二は仰向けに倒れ伏したまま環から少しでも離れようと匍匐前進で移動していた。
「ゆ・う・じ・くん。どこにいくのかなぁ♪」
「は、はひ!」
 まるで瞬間移動したかのように雄二の横まで移動すると、優雅に膝を折り彼のベルトにひょいと人差し指をかける。
 そのまま、まるで空のボストンバッグでも運ぶようにひょいと持ち上げる!
「うは…」
「うわぁ…」
「あ、姉貴?!」
 雄二はそんなに大柄な方ではないが、それでも高校生男子として平均に近い体重はある。
 それを片手の一本指だけでまるで子猫の襟首をつまんで持ち上げるかのごとく軽々とできるものだろうか…
「ねぇ、雄二くん」
 向こうを向いているので環の表情は見えないが、その声はとても穏やかだった。
「な…なんだよ、姉貴ぃ…」
 雄二は手足をジタバタさせているが、環の腕すら揺らすことはできない。
「家に帰って…勉強しましょう♪」
ゾク…
 雄二の背に悪寒が走る。
「そうね…一週間しかないから…学年で50番以内って所で妥協しましょっか」
 環は明日の弁当のメニューを決めるような気楽な口調で話す。
「あ、そうだ。タカ坊、このみ」
「「は…はい!?」」
「悪いけど明日から一週間…一緒に帰れないから、ごめんね」
「それは…もちろんかまわないけど…」
「後、お弁当も作れないから、その間はこのみにお願いしていいかしら?」
「は、はい。了解であります、隊長殿!!」
 このみ@貴明は我知らず直立不動で環に向かって敬礼してしまう。
「そう…じゃあよろしくね」
 それだけいうと環はスタスタと家路に向かって歩き始める。
「たかあきぃ……」
ドナドナドーナードーナ〜♪ 
 環につり下げられた雄二は売られていく子牛のように悲しげな目で貴明に助けを求める。
「雄二…すまん、俺にはどうすることもできない…達者でな」
 貴明@このみは目を伏せ顔を左右に振り悲しげにつぶやく。 
「たぁかぁあぁきぃいいいいいいいいぃ〜!!」
 夕暮れの町に雄二の悲しげな声が響き渡っていった……

「このみ、あれから雄二の様子はどうなんだ?」
「それが…」
 雄二が強制連行されてから3日。
 このみ@貴明は言いにくそうに口ごもる。
「なんか…日に日にやつれていくみたいだし、このみが話しかけてもほとんど返事もしてくれないのでありますよ…」
「それに休み時間がくるとタマお姉ちゃんが教室まで迎えにきて雄くんをどこかにつれてっちゃうんでありますよ」 
 「雄二…自業自得とはいえちょっとかわいそうな気もするな」
 貴明@このみは空を見上げて嘆息すると手にしてたカツサンドを口に放り込む。
 屋上にはほかにも三々五々に昼食を取る生徒たちの姿もあるが、数はそう多くない。
「なんか二人だけだとチョット寂しい気もするな」
「………」
「このみ?」
 顔を赤らめて貴明@このみの口元を凝視していたこのみはハッと我に返ると慌てたように彼から顔を逸らす。
「な、なに?タカくん」
 貴明はそんなこのみの様子に怪訝そうな表情をする。
「ん、いや…このみ、おまえ最近なんかぼーっとしてることが多くないか?顔もなんか赤いし…」
「別にそんなこと…ないでありますよ?」
 このみ@貴明は慌てて否定するが、貴明は納得しない様子でこのみをみるとおもむろに身を乗り出すと
 このみの顔に自分の顔を近づける。
「た…タカくん…?」
ドックン ドックン ドックン ドックン
 このみは自分の心臓が早鐘のように打ち鳴らされているのを悟られまいと貴明から身を離そうとするが、
 貴明@このみは委細かまわずにこのみのおでこに自分のおでこをつけると体温を測りはじめる。
「すこし熱っぽいな…風邪か?」
ドクンドクンドクンドクンドクンドクン
『タカくんの顔がこんなに近くに…タカくん…タカくん…』 
 このみ@貴明はその問いも耳に入らないほど混乱つつも、両手を無意識のうちに伸ばして貴明を抱きしめようとする。
 ふわっと貴明@このみはそれをかわす様に体を離して立ち上がる。
「タカくん…?」
「このみ、熱があるなら今日は相対した方が良いんじゃないか?」
「え…え、あ、…だ、大丈夫でありますよ〜」
 このみはわたわたと胸の前で手を振る。
「そうか、なら良いけどな」
 貴明はそういいながらスカートにこぼれたパン屑をポンポンとはたき落とすとくぅ〜と大きくのびをする。
 そのとき丈の短い上着から上にずれ形のよい可愛らしいお臍がちらりと覗かせる。
ドクン!!
 それの光景がこのみの網膜を貫通し脳髄に焦げ付くような刺激を与えてしまう。
「はぅ…」
 このみ@貴明は最大限の理性をもって気づかれないうちに貴明@このみの可愛らしいお臍から視線をはずす。
「ふぅ…食った食った。さて、チョット早いけどそろそろ教室に戻ろうか」
 そういいながら、屈み込むと昼食を入れてきたバケットなどを片付け始める。
「あ、このみも手伝うでありますよ」
 そういいながらこのみ@貴明も慌ててシートをたたみ始める。
 チラっと片付けてる貴明@このみの方を見ると、彼はこちらにお尻を向けて細かなゴミを拾っているようだ。
 プリっプリっと小ぶりでキュートなお尻が動くたびにチラっチラっと白いモノが細いが形の良い太股の付け根から見え隠れする。
 その貴明のお尻の動きにこのみの目は魅了されたかのように吸い付いて離れない。
『タカくんのお尻…もとはこのみの体なのに…どうしてこんなに興奮しちゃってるだろ…』
「このみ〜そっち片付け終わったか?」
 貴明はそのままの姿勢でゴミ拾いをしながらこのみに声をかける。   
「え、も、もちろん終わってるでありますよぉ」
 ちょっとうわずった声で答えてしまうこのみ。
「じゃあもどろっか」
 そういいながら貴明は立ち上がってこのみの方を見る。
「?」
 振り返ってみるとこのみ@貴明は耳まで赤くして座ったままだった。
「あ〜っと、そうそう、今日はお天気もいいしこのみもう少し日向ぼっこしてからきょうしつにもどろっかな〜…」
「ん…そか。じゃあ先戻ってるから……遅れないように戻れよ?」
 貴明@このみはそういいながら先に鋼鉄製の扉を開け校舎内に戻る。
「はぅ〜」
 このみ@貴明は深くため息をつきながら先ほどから痛いほど勃起している股間に軽く手をやる。
 刺激をしないように細心の注意を払いながら、大きく深呼吸をして精神を落ち着けようとする。
『収まって…収まって…私の…おちんちん』
 貴明と体が入れ替わって最初のうちは腫れ上がるのは朝立ちだけだったし、気持ちを落ち着かせたり、よそ事を考えたりすれば
 すぐ収まっていた。
 しかし日が経つにつれだんだん収まるまでの時間が遅くなり、そして日常でもふとしたときに勃起してしまうほどになってしまっていた。
 男ならそれが俗に言う【溜まっている】状態だと言うことがすぐわかるし、処理する方法も様々にわかっているものだ。
 けれども、このみはもともと女の子だし人一倍そういうことには疎かったので、一番最初に勃起したときに貴明に教えられた
 通りの収め方を頑なに守っていた。
 そのために図らずも禁欲状態になっており、精力と性欲が捌け口を求めてこのみ@貴明の体の中を駆けめぐり始めた。
 健康な高校生男子なら一週間も保たずに我慢しきれずにマスターベーションするか、たとえそれを意志の力で
 押し留めたとしても恐らく夢精してしまっていただろう。
 性に疎いこのみも二週間を半ば過ぎた頃からどうにも収まりきれない得体の知れないモノが体の奥底にどんどん溜まっていくのを
 朧気に感じていた。 
 そしてそれは貴明を見るたびに、貴明の声を聞くたびに、貴明の臭いを嗅ぐたびに、
 貴明の体温を感じるたびにその得体の知れないモノは高まり増殖していった。
 このみは気づいていなかった…否、気づかないふりをしていただけなのかもしれないが、既に臨界点は超えていた。
 溜まり溜まったダムが蟻の一穴で決壊するように、後はほんの少しのショックさえあればこのみ@貴明は
 己の雄雌両方の本能を押さえられなくなるだろう。
 そしてその機会はもう、すぐそこまでやって来ていた。

「このみ、そういや明日の土曜日にお前ん家泊まりに行くから…よろしくな」
 その日の放課後、貴明とこのみはいつものように連れ立って家路についていた。
「そか、お母さんのお出かけの日は明日からだっけ…」
 昔からこのみの母である春夏さんがこのみ父の所に泊まりに行く日は、このみが貴明の家に泊まることが慣習となっていた。
 今は体が入れ替わっているから実質としては貴明がこのみの家に(とっても元々の自分の家だが)泊まりに行くことになるのだが、
 今までと何も変わるモノではない…少なくとも貴明にとってはその筈だった。
「じゃあ、また腕によりをかけて必殺カレーを作るでありますよ〜」  
 このみ@貴明はニコニコ笑いながら貴明に話しかける。
「お、いいね。このみの料理であれだけは美味しいからなぁ」
「むぅ〜それは酷いでありますよ〜」
 頬を膨らますこのみに貴明@このみは悪戯っぽい表情で彼女の腕に自分の腕を絡ませると上目遣いにのぞき込む。
「冗談だって。俺と入れ替わって一人暮らしするようになってからお前の料理の腕前は確実に上達してるって」
 貴明はこのみ@貴明が前を向いているのを怒っているのかと思い、体をさらに密着させると精一杯甘えた声で冗談めかして
 呟く。
「なぁ、このみ。怒ってないで機嫌直してくれよ。今晩はたっぷりサービスしてあ・げ・る…………勿論テスト勉強の、だけどな」
 腕から伝わる貴明の体温、汗でほのかに香るかぐわしい体臭、自分に向けられる魅力的な笑顔、柔らかな感触。
プチッ!
 そのときこのみは確かに自分の中で何か切れた音を聞いた気がした。
 既に矢は放たれてしまったのだ。
     
<続く>  
122もうどうにもとまらない作者:2005/06/01(水) 00:22:36 ID:A/OMWpTf0
以上です
長々と失礼いたしました。

今回はちょっとリズムを考えて貴明@このみとこのみ@貴明という表記を減らし、
貴明、このみにしてみました
もし混乱させたてしまったらごめんなさい。

最後に前作に感想レスをくださった皆様…ありがとうございました

では
123名無しさんだよもん:2005/06/01(水) 00:29:33 ID:SX1KsWaC0
いや〜、いいですな。
サラッと読ませるだけの力があります。続きも楽しみにしとりますんで。
124名無しさんだよもん:2005/06/01(水) 08:55:19 ID:aPpmhM/b0
「性欲を持て余す」
125名無しさんだよもん:2005/06/01(水) 19:07:31 ID:1mFckiklO
>>124
スネーク!スネークじゃないか!!



…じゃなくて、GJ!
いったいどんなプレイになるのか激しく気になる。続き期待して待ってます〜
126名無しさんだよもん:2005/06/01(水) 19:38:39 ID:ZlHIrIj5O
GJ!続き楽しみにしてるよ〜
127名無しさんだよもん:2005/06/01(水) 21:05:09 ID:xldHNt2Y0
>>125
アドニス!もうこんなコトはやめて、普通の生活に戻してくれ。
お互いにな・・・。ビルのコトはもうしらん。
128春は終わらない(1/3):2005/06/02(木) 00:08:19 ID:W/cevXjz0
 季節の巡りというのは実に忙しないものだ。
 桜咲き乱れる四月が過ぎ、ようやく新しい学年にも慣れてきたと思っていた矢先に、気付けば五月ももう終わりに
差し掛かろうとしていた。
 思い返せばこの二ヶ月、濃密という言葉が相応しいほどにいろいろな出来事が凝縮された日々だったように思える。
 ああ、そうか。きっと今年はいつも以上に時間の進みが速く感じるのは、きっとそのせいだったんだ。一人納得する。
 そして今もなお、その濃密な日々は現在進行中で続いていたりするわけで。
「なー。貴明はいつウチに引っ越してくるん?」
 今日もまたいつものように屋上で三人、ベンチに並んでイルファさんの作った弁当をつついていると、右隣に座る
珊瑚ちゃんが近頃お決まりになったフレーズを投げかけてきた。
「う、うーん、ほら、その、俺はまだ学生だし、やっぱり引越しはちょっと……」
 それに対する返答もまたいつもと代わり映えのない言い訳。
 瑠璃ちゃんとイルファさんのわだかまりが解けたあの日から、こうしたやり取りを幾度となくしてきた。

 一緒にいたい。

 その俺の言葉は上手い具合に『珊瑚ちゃんフィルター』を介してしまい、「=一緒に暮らしたい」という本来
込めていなかった意味まで帯びて受け取られたようで、その日以来珊瑚ちゃんもイルファさんもしきりに引っ越すよう勧めてくる。
 当然ほいほいと承諾できるような話ではないのだが、あの珊瑚ちゃん相手に生半可な断りは通用するはずもなかった。
 一応毎回断ってはいるが、思い込んだら一直線の珊瑚ちゃんの前にはあまり意味を成さず、かと言ってあまりに
強く拒絶してしまうと今度は「お前なんか嫌いだ」みたいに解釈されてしまう恐れがあった。
 結局どっちつかずの態度でその場しのぎを繰り返し、事態は解決の兆し見せることなくずるずると今に至る。
129春は終わらない(2/3):2005/06/02(木) 00:08:54 ID:W/cevXjz0
「う〜。でも、ウチらラブラブやん? だったら、ええんちゃう?」
 そうして今まで曖昧にかわし続けてきたのだが、だんだんと痺れを切らしてきたのか、ここ最近珊瑚ちゃんの攻勢が続いている。
「なー。いっちゃんも、貴明と一緒に住みたい言うてるよ? それにな、もうすぐみっちゃんも一緒に暮らせるようになんねん。
そしたら5人でラブラブやー。今よりももっと楽しくなるで?」
 思わず口に含んでいたハンバーグをブッと吹いてしまう。ああ、ごめんなさいイルファさん。
「わっ、ばっちぃやないか貴明!」
「ご、ごめん」
 ちょうど今日は俺が真ん中に座る「貴明サンドイッチ(命名、珊瑚ちゃん)」の日だったために、珊瑚ちゃんとは反対側の
左隣に座る瑠璃ちゃんにも被害が出てしまったようでクレームが出る。
 ちなみに、珊瑚ちゃんの要望により並び順は毎日代わることになっている。そんな面倒なことをせずに適当に座っちゃえば
いいんじゃないかとも思ったのがだ、あのトロトロの笑顔で「これでみんなラブラブ公平やー」などと言われては何も言えない。
 いや、今はそんなことはいい。それよりももっと重要なことがある。
「みっちゃんって確かクマ吉のことだよね」
「そや〜。貴明すきすきーのみっちゃんや」
「……クマ吉もこっち来るの?」
「来るよ〜。みっちゃんも貴明専属メイドになる言うて張り切っとったよ」
 知らぬうちに状況はさらに加速していたらしい。
 話だけなら以前にも聞いた覚えはあるけど、いつの間に実現に向かっていたんだろうか。
「貴明はみっちゃんに会うの、嫌なん?」
 一向に返事がなかったせいか、少し不安そうな顔をした珊瑚ちゃんが窺うように訊ねてくる。
「あ、いや、そういうわけじゃないんだけど」
「じゃあ、嬉しい?」
「ん、まあ、久しぶりにクマ吉に会えるのは楽しみ……かな?」
130春は終わらない(3/3):2005/06/02(木) 00:09:28 ID:W/cevXjz0
 ただ今やイルファさんと同型ボディに移植済みとなると、少し不安かもしれない。
 ダイナミック・インテリジェンス・アーキテクチャという新技術を使われて生まれたHMX-17シリーズが
いかに人間に近いかはイルファさんという実例を以って十分体験している。
 俺にとってイルファさんは既にメイドロボではなく女の子であり、おそらくはクマ吉に対しても同じことを思うだろう。
 つまりそれは女の子が苦手な俺にとってはまたちょっとした試練の予感でもあるわけで、そこがちょっとばかり不安要素でもある。
 ふと左を見ると、なぜか瑠璃ちゃんがちょっと、いや、かなり不機嫌そうな顔でこっちを睨んでいる。
「? ど、どうかしたの?」
 この顔が爆発の予兆であることはこれまで経験でわかっていた。が、その引き金がなんだったのかまではわからず、下手に
刺激しないようにと恐る恐る瑠璃ちゃんに話しかける。
「貴明のヘンタイー!」
「んなっ」
 お馴染みといえばお馴染みの台詞だが、あまりに唐突で何ゆえ今そんなことを言われるのかわからずに、つい間抜けな声を出してしまう。
「貴明はすけべーやからミルファに会えるのが嬉しいんや。どーせミルファにもHぃことするつもりやろ」
「ちっ、違う、冤罪だ。そんなことこれっぽちも考えてないよっ」
 一体どういう流れでそういう結論に至ったんだ。
「瑠璃ちゃんはワガママさんやな〜。みっちゃんに貴明とられたないんやね」
「ちゃ、ちゃうもん。そんなんやあらへんもん」
「照れんでもええのに」
「照れてへんーっ!」
「瑠璃ちゃんはほんまに照れ屋さんやなぁ。たまには素直にちゃんと貴明すきすきすきー言うてやらんと貴明寂しがるで?
そんでちゅーしてやれば貴明も瑠璃ちゃんすきすきすきーやのに」
「ちゅーなんてせぇへんもん! うぅ〜。さんちゃんがこないHぃことばっか言うようになったんは貴明のせいや」
「また俺!?」
 むしろ俺もそんな珊瑚ちゃんの発言に振り回されている側なんですが。
 しかしこうなった瑠璃ちゃんにはもはやそんな言葉は通じないというのも経験則でわかっていた。
「貴明のー」
 となれば、出来ることといったらあとはこの直後に来るであろう衝撃に備えるくらいしかない。
 ああ、神様。この世はこんなにも不条理です。
「ヘンターイ!!」
131名無しさんだよもん:2005/06/02(木) 00:12:44 ID:bvWm2JpH0
ガッポイ。

よし続きに期待ageてなにはともあれGJ
132名無しさんだよもん:2005/06/02(木) 00:22:26 ID:4kWtQQH/0
イイヨイイヨー
こういう普通の話を待ってたよー
>>128(*^ー゚)b グッジョブ!!
133河野家にようこそ 第8話(1/7):2005/06/02(木) 01:13:54 ID:U7eqAS410
 タマ姉の料理はるーこをもうならせた。
 しかし、由真が切ったたくあんにるーこがダメ出しし、それに怒った由真はるーこに料理勝負を挑む。
 だが、るーこは強かった。と言うか、由真はまるでダメだった。
 結果はるーこの勝ち。でもきっとこれ、由真にとってはまだ第1ラウンドなんだろうな。

 唐突だが、今日は金曜日だ。つまり、学校に行かなくてはならない。
 料理勝負(&朝食)を終えた俺達は、このみ、雄二と合流し、学校へと向かう。
「――へぇ〜、そんなことがあったんだ」
 料理勝負の顛末をタマ姉から聞くこのみ。
「るーこちゃんの卵焼きか。俺も食べてみたかったなぁ〜。
 なあ貴明、今度料理勝負するときは、俺もゲスト審査員として招待してくれよ、な」
「なら雄二、明日から朝食はこっちで食べる? 私は構わないわよ」
「い、いや、毎日はちょっと……」
 朝食を俺の家で食べるということは、毎日早起きして俺の家に来なきゃならないってことだ。そりゃ
イヤだよな、雄二。
「るーこさんの卵焼きってそんなにおいしかったの、タカくん?」
「ああ、うまかった」
「わたしの作ったカレーとどっちがおいしかった?」
「いや、カレーと卵焼きを比べろと言われても」
「ほう、うーこのはカレーが得意か。ならばるーとカレー勝負するか?」
「え!? えっと、わたし、そんな、得意ってほどじゃないから……」
「なんだ、つまらないぞ。いずれうータマに挑む前に、歯ごたえのある相手と一勝負と思ったのだが」
 るーこのその言葉を聞き、由真が悔しげにわなわなと握り拳を震わせる。由真にとっては自分が歯
ごたえのない相手だったと言われたようなもんだ。しかし結果は結果。由真もそれはわかっているから
何も言えない。
「今度料理勝負をするなら、夕食の方がいいかもしれないわね。夕食の方が色々メニューを選べるし、
何より時間を気にしなくてもいいしね」
「同感だぞ、うータマ。しかし対戦相手がいないのでは……」
「……リベンジよ」
「由真?」
134河野家にようこそ 第8話(2/7):2005/06/02(木) 01:14:41 ID:U7eqAS410
「一度勝ったからって調子に乗るんじゃないわよ! リベンジよ、リベンジマッチを要求するわ!
 三日後の夕食時! 料理は前回と同じ卵焼き! これでどう!?」
「構わないぞ。だが、今のお前相手なら、何度やっても結果は見えているぞ、うーゆま」
「人間はね、常に成長する生き物なのよ! 三日後のあたしを、今朝のあたしと同じだとは思わない
ことね、るーこ!!」
「なるほど、わかった。では、三日後を楽しみに待つとするぞ、うーゆま」
「どうやら交渉成立みたいね。私も楽しみだわ、ふふっ」
「三日後にリベンジマッチかぁ。貴明、俺も審査員として参加、な、な?」
「ま、まあ、別に構わないけど」
「わたしもいいかな、タカくん?」
「このみもか? ああ、いいよ」
「負けられない……、今度は絶対、あたしが勝つんだから……」
 そう呟きながら歩く由真。気合い入ってるというか、なんか怖い……。

 昼休み。いつもの屋上昼食会。もちろん今日から、るーこも仲間入りだ。
 けれど、料理勝負に時間と場所を割いたせいで、今日の昼食はタマ姉弁当は無し。小牧さん、このみ
以外は、購買でパンを買うことになった。
 久しぶりの購買。さて、俺は何を買おうかな。お、ミックスサンドが一つだけ残ってる。せっかく
だからこれにしようか。
 ん、まてよ、ミックスサンド? なんだろう、嫌な予感が……
「貴明、もう買ったか?」
「ん、ああ、今行くよ。おばちゃん、ミックスサンド」

「料理勝負、ですか?」
 由真が仏頂面でパンにぱくついてるものだから、それを気にした小牧さんにも、その理由を説明しな
けりゃいけないわけで。
「そう。由真とるーこのどっちが料理上手かを競ってね。今朝、卵焼きで勝負したわけ」
「そうなんですか。……あの、それで、結果は?」
「るーこの勝ち」
「そうですか……。それで由真、こんなに不機嫌なんですね」
135河野家にようこそ 第8話(3/7):2005/06/02(木) 01:15:25 ID:U7eqAS410
「あたしは別に不機嫌じゃないわよ愛佳!」
「ひゃっ!? ご、ごめんね由真」
 思いっきり不機嫌じゃないか。
「でもるーこさんって凄いんだね。外人さんなのに日本の料理を作れるなんて」
 このみが尊敬のまなざしでるーこを見る。
「”うー”を調査するにあたり、その期間の食糧は現地調達が基本だ。だから事前に、その調理法を
学ぶ必要があった。それにるー自身、”うー”の食文化については以前から興味があった。かつて、
”うー”を訪れた”るー”が記録した、料理に関する情報を調べ、それと似た食材、調味料を用意し、
何度か作ってみたことがある。だがやはり、”うー”の料理は”うー”の食材と調味料で作る方が
うまい。るーはそう実感した。ところでうーこの。その料理、なかなかうまそうだな。どうだろう、
るーのカレーパン一口と交換しないか?」
「あ、これ? うん、いいよ。はい、あーん」
 このみは、るーこが指さした料理――アスパラのベーコン巻きを箸でつまみ上げ、るーこの口元まで
持っていく。
「あーん。――うん、うまいぞ、うーこの。
 アスパラのシャキシャキした食感と、それを包むベーコンの塩味。実に絶妙だ。これはうーこのが
作ったのか?」
「ううん、お母さんが作ったの」
「そうか、うーこのは良いママを持ったな。幸せ者だぞ、うーこの」
「そ、そうかな。えへ〜」
「うーまなの料理もうまそうだな。うーこのと同じ条件で交換しないか?」
「うーまなってあたし? え、ええ、いいですよ」
 小牧さんも、るーこが指さした料理――鳥の唐揚げをるーこに差し出す。
「では、あーん。――うん、こちらも実にうまいぞ、うーまな。
 鳥のもも肉のジューシーさと、唐揚げのパリパリ感と絶妙な味付け。素晴らしいぞ。これはうーまな
が作ったのか?」
「え? ええ、まぁ……」
「思わぬ伏兵がいたものだ。うーまなの料理の腕はるーと互角か、あるいは……。
 どうだ、うーまな。るーと料理勝負してみないか? うーまなとならいい勝負になりそうだぞ」
「ええっ!? や、や、そんな、あたし、勝負だなんてとてもとても……」
136河野家にようこそ 第8話(4/7):2005/06/02(木) 01:16:15 ID:U7eqAS410
「ふん、なーにさ、美食家気取りでいい気になっちゃって」
「こらっ、いつまでも負け戦にこだわって、ひねくれないの。
『敵を知り己を知れば百戦危うからず』って言ってね、今回の由真さんは、敵も己も知っていなかった、
だから負けてしまったの。でも、今回の負けで知ったでしょ、るーこちゃんの実力と、あなたの実力の
差を。なら、るーこちゃんに打ち勝つためには、どうしたらいい?」
 そう優しく由真に問いかけるタマ姉。
「……そりゃあ、練習、だと思います」
「その通り。練習に練習を重ねて、その差を縮め、追い越さなくちゃね。
 そうとなったら、帰ったら特訓よ。私の料理の全てを、あなたに教えてあげるからね!」
「はいっ、環さん! よろしくお願いします!」
 タマ姉の両手をがしっと握り、潤んだ目でタマ姉を見つめる由真。まるでスポ根マンガだな。
 そう思いながら、次のサンドに手を伸ばした、その時――
「だ〜れだ?」
 不意に俺の視界が真っ暗になる。そして、すぐ真後ろに感じる誰かの気配。
 俺にこんな事をする人間は数えるだけしかいない。タマ姉、このみ、そして……
「笹森さん?」
「あったり〜!!」
 やっぱり花梨だった。
 そうだった。花梨は俺がミックスサンドを買うと、その中のタマゴサンド目当てに必ずと言っていい
程現れるのだ。さっき感じた嫌な予感とは、正にこれだったんだ。
「たかちゃん、久しぶりだね! っていうか最近全然部活に出てくれないね。花梨、寂しかったんよ」
「ま、まぁ色々と忙しくてさ……」
「タカ坊、そのコは?」
「ああ、こいつは……」
「よくぞ聞いてくれました!
 私の名前は笹森花梨! この世のミステリを探求するミステリ研究会会長! 好きな食べ物はタマゴ
サンド! 座右の銘は『この世に解けない謎はない』! この世界に存在する数多のミステリを日々
追い求める、ミステリハンターなのです!」
 おお〜っ。ぱちぱちぱち。
 何故か、感心の声と拍手がまわりから聞こえてくる。
137河野家にようこそ 第8話(5/7):2005/06/02(木) 01:17:15 ID:U7eqAS410
「ミステリーハンターさん、ですか?」
「『ミステリー』じゃなくて『ミステリ』よ、おチビちゃん!」
「お、おチビちゃん……また言われた……」
 由真に続き、花梨にもおチビちゃんと言われてしまったこのみ。頑張れ、きっと背は伸びてるって、
何ミリかは。
「今日こそは部活に出てくれるよね、たかちゃん? ……って、そこにいるのは、自称宇宙人のるーこ
・きれいなそらじゃない。なんで?」
「それは……」
「るーはうーの家の居候になった。うータマとうーゆまも一緒だ。だから昼食も一緒なのだ。わかった
か、うーかり」
「うーかりって何よその呼び方!? まるで私がうっかり屋さんみたいじゃない!」
 あながち間違ってはいない。
「それよか、居候ってどういうことなの、たかちゃん!? なんでるーこが、たかちゃんの家にいる
わけ!? いつからそういう関係になったの!? たかちゃんの浮気者ぉっ!!」
「はい、5人目〜」
 由真、それは何のカウントだ?
「ま、まあ、話せば長い理由があって……」
「……はっ!? ま、まさか……」
 何かに驚愕し、数歩後ずさる花梨。どうしたんだ?
「た、たかちゃん、ちょっとこっち来て」
「ん? どうしたの笹森さん?」
「いいから早く!」
 花梨に手を引かれ、屋上の隅に連れて行かれる。
「どうしたのさ、笹森さん?」
「たかちゃん、私の目を見て」
「あ、ああ……」
 妙に真剣な花梨に圧倒されつつ、俺は言われるまま、花梨の目をじっと見つめる。
「いい、私の質問にちゃんと答えて。まず、あなたの名前は?」
「河野貴明」
「生年月日、出身地、家族の名前、言ってみて」
138河野家にようこそ 第8話(6/7):2005/06/02(木) 01:18:10 ID:U7eqAS410
 俺は言われたとおりに答える。
「それじゃあ、るーこは何者?」
「前にも言ったとおり、ただの家出娘だよ。宇宙人とかじゃなくて」
「じゃあ、好きな女の子の名前を言ってみて」
「いきなり何だよその質問は? そ、そんなの特にいないって」
「やっぱり怪しい……」
 なんでそこで怪しいとなるわけ?
「いい? たかちゃん、落ち着いて聞いてね。
 たかちゃん、もしかしたら、るーこに洗脳されたのかもしれないよ」
「はぁ?」
「きっとそうだよ。何らかの目的で地球にやってきたるーこは、まずたかちゃんをアブダクションして、
自分の思い通りに操作できるように、たかちゃんを洗脳したんだよ。恐らく私がるーこの調査をたか
ちゃんに頼んだ時点で、既にたかちゃんは洗脳されていたんだね。だからるーこの正体がばれないよう
に、ウソの報告をさせて、私の目をそらした……。
 それが成功すると今度は、居候をかたって、たかちゃんの家を拠点としたんよ。一緒に住んでるって
いうあの二人も、手先として洗脳されているんだね。
 私が気を抜いたばっかりに、こんな事態になるなんて……」
「あ、あのな笹森さん。俺は別に洗脳なんかされていないよ。るーこが俺の家に来たのは、るーこが
住んでた場所から追い出されたせいで……」
「洗脳された人はみんな、自分が洗脳されたなんて自覚はないんだよたかちゃん!
 考えること、すること、喋ること、全て自分の意志でしているつもりでも、それは全てマインドコン
トロールによるものなんだよ! るーこの意のままに操られているんだよ!」
 ダメだ。花梨は俺がるーこに洗脳されたと本気で思い込んでいる。ああもう、一体どうしたものやら。
「お話は済んだ?」
「あ、タマ姉。ええっと……」
 花梨を見ると、緊張の面もちでタマ姉を警戒している様子。そっか、タマ姉も洗脳されてるんだっけ、
花梨の頭の中では。
「ええと、笹森さん、だったかしら。お昼ご飯もう済んだの? そうじゃないなら、よかったら笹森
さんも一緒に食べない?」
「……なんとかしなくちゃ」
139河野家にようこそ 第8話(7/7):2005/06/02(木) 01:19:10 ID:U7eqAS410
「笹森さん?」
「たかちゃん、それに、タマ姉とかいう人。今はわからないかもしれないけど、待ってて。あなたたち
はこの花梨ちゃんが必ず助けてあげるから!」
 そう言うと花梨は、逃げるように去っていった。
「なんだったの、あのコ?」
「うーん、なんと言ったらいいやら……」
 ちなみに、俺のタマゴサンドはいつの間にか無くなっていたことを付け加えておく。

 放課後。みんな仲良く帰り道。
 今日は、由真に誘われた小牧さんも一緒だ。それから、タマ姉の勧め(というか半ば命令)で雄二が
晩飯を食べていくことになった。
 家に到着。おや? ドアの前に誰かいる。――って!?
「お帰り〜、たかちゃん!」
「笹森さん!? なんで笹森さんがいるの!? それにその荷物は? ま、まさか……」
 ああっ神様、どうか俺の嫌な予感が外れていますように……。
 だが、あいにくと神様は多忙のようで、俺のことなど見てなかったらしい。

「うん、今日から花梨もここに住むからね!」

「ええ〜〜〜っ!?」
 その場にいる全員(るーこを除く)の声が見事に重なった。
「さ、笹森さんマジで言ってるの!? なんで!? 大体、親には何て言ってきたの!?」
「うん、マジもマジ、大マジだよ。
 あれから考えたんだけど、たかちゃんたちの洗脳を解くには、るーこが宇宙人だってことを実際に
証明することが最も効果的だという結論に達したの。だから花梨ちゃんは、24時間常にるーこに張り
付いて、その化けの皮をひっぺがす機会を待つことにしたんよ。
 あ、ちなみにうちの親って放任主義なんよ。しばらく部活動で合宿するって言ってきたから大丈夫」
「ま、マジですか……」

 つづく。
140河野家にようこそ の作者:2005/06/02(木) 01:20:05 ID:U7eqAS410
 どうもです。第8話です。
 黄色はいらない子なんかじゃありません!!
141名無しさんだよもん:2005/06/02(木) 01:23:20 ID:bvWm2JpH0
いりません!よっちはどこですか!?(0w0)



よっちが出てくることに期待をしつつ、グレートなSSにGJ。
なんかるーこ出ばりまくりまくりすてぃな気がする
142名無しさんだよもん:2005/06/02(木) 01:32:56 ID:skXbhU0S0
>>128

GJ 三人のやりとりが目に浮かぶようです。
続きはあるんでしょうか?

以後も期待しています。
143名無しさんだよもん:2005/06/02(木) 01:53:09 ID:XRAScW+G0
>>140
やはり会長が来たか…w
本格的に大所帯になってきたし。
144(゚w゚)キシャーッ ◆AOKANFcWcA :2005/06/02(木) 02:03:27 ID:wqhYYXd70
マスター、>>141にモスコミュールとシアン化カリウムを。
私の奢りだ。

それはそうと、連作お疲れ様&GJです。
やっぱりるーこを追いかけるのはかもりんの仕事だぜ。
145名無しさんだよもん:2005/06/02(木) 02:18:18 ID:fxTOhVKO0
>>141
やべぇ俺同意するわ

>>144
青酸花梨…
146名無しさんだよもん:2005/06/02(木) 11:58:50 ID:rYvb2COc0
そろそろ家がパンクしそう
双子と草壁さんの参戦はまだか?
このみと愛佳はこのまま観客で終わるのか?
先が読めませんなあ。
147名無しさんだよもん:2005/06/02(木) 18:35:43 ID:A5v3K7Ck0
>>144
糞コテ邪魔
148名無しさんだよもん:2005/06/02(木) 21:01:10 ID:QqsPpy9H0
>>140
アンタ凄いよ。
これだけ雑多になってるのに展開に無理がないもんね。
これからも楽しみにしてます!
149名無しさんだよもん:2005/06/03(金) 01:28:55 ID:pcJsgOCn0
>>122
GJ! このシリーズ楽しみだ。
ついに、次回このみが貴明をやっちゃうのか。
150名無しさんだよもん:2005/06/03(金) 02:48:58 ID:UqU8D96P0
家がパンクしかけて双子の家にみんなで引越しとか
151春は終わらないその2(1/6):2005/06/03(金) 04:07:38 ID:wPQT/nWr0
「おーおー、今日も愛しの双子ちゃんからいつもの愛の飴と鞭か? モテる男は大変だねぇ」
 昼休みも終わり、もう間もなく午後の授業が始まろうとしている教室。
 授業の準備を済まし、席について瑠璃ちゃんに蹴られた背中の痛みに耐えていると、明らかにからかい半分とわかる
にやにやした笑いを浮かべて絡んでくる。
「飴はともかく鞭は抜群のをもらったよ」
「けっ、女嫌いの貴明くんもすっかり世慣れしちゃったよな。ちょっと前だったらムキになって否定してきたのに」
「まあな」
 これもまた例の一件による副産物だ。あの時、自分が珊瑚ちゃんのことも瑠璃ちゃんのことも好きだということがはっきりとわかった。
 恋人だとかそういうのはよくわからないけど、好きということにかわりはない。
 雄二に二股野郎とか言われてもあながち否定できないのが悔しいが、もう自分の気持ちを誤魔化すつもりはなかった。
「くっそー。余裕かましやがってこのモテモテ主義め」
「わかったわかった。モテて悪かったよ。ほら、もうすぐ先生が来るから席に戻れ」
 別にモテているつもりなんてないのだが、そんなこと聞く耳持たない相手なのはわかっているので、軽くあしらうことにする。
「ふん、今に見てろよ。いつかすっげーかわいい彼女かメイドロボをゲットしてやるからな。そんときになって吠え面かくなよ!
羨んだっておまえにはわけてやんないからなっ!」
 ……雄二との友情のためにもイルファさんの存在は決して漏らすまいと心に誓った。



152春は終わらないその2(2/6):2005/06/03(金) 04:08:21 ID:wPQT/nWr0
 昼食直後の眠気ピークとなる5時間目を無事に乗り越え、今はもう6時間目の真っ只中。
 だが授業中だというのに頭の中を渦巻く思考は、放課後にもあるであろう珊瑚ちゃんからの追撃をいかに乗り切るかの
対処に集約されていた。
 いや、珊瑚ちゃんたちのマンションにまで行けばさらにイルファさんの援護射撃も加わるのだ。
 感情に訴えかけて押してくる珊瑚ちゃんと、理詰めで攻めてくるイルファさんのタッグは正直隙がない。
 さらに今日の珊瑚ちゃんはいつにも増して押しの一手だったし、この調子ではいつか本当に押し切られてしまうんじゃ
ないだろうかという不安がよぎる。
 でもなぁ。こちらとしてもそうだねと簡単にその提案を受け入れるわけには行かないんだよ。
 もちろんそれは珊瑚ちゃんや瑠璃ちゃんやイルファさんたちと暮らすのが嫌だからというわけではない。
 だがしかし、まだ親に養ってもらっている身分でそんな同世代の女の子たちの家に押しかけるなんてことはできるわけがない。
 確かにここ最近は学校が終われば珊瑚ちゃんたちの家に寄って当たり前のように夕飯まで食べてるという、
情けないことにいわゆる入り浸り状態だ。
 だが、だからこそ最後の一線として我が家はあくまで河野家であり、例え寝るためだけでもそこに帰るのが最終防衛ラインなのだ。
 これで引越しなんてしてしまえば最後、自分を律しきれる自信がない。
 うーんうーん、一体どうしたら……。
「では、今日はここまで」
「きりーつ」
 小牧の気が抜ける号令で思索に耽っていた意識が現実に引き戻される。
 もう授業終わってたのか。
153春は終わらないその2(3/6):2005/06/03(金) 04:08:51 ID:wPQT/nWr0
「貴明ー、帰ろうぜ。久々に一勝負やらねぇか?」
 すぐさま雄二が鞄を抱えてやってきた。
「おっと、貴明は恋人たちの元へ急がないといけないだったか」
「わざわざ『たち』を強調するんじゃない」
 まあ、確かに授業が終わったらコンピューター室に行って、そのあと瑠璃ちゃんと珊瑚ちゃんと一緒にマンションまで行くのが
いつものパターンなんだけど。
 でも引っ越し論争で今日はいつも以上に押せ押せだった珊瑚ちゃんのことを思うと、このまま増援(イルファさん)もいる
敵陣の真っ只中に乗り込むのも少しばかり戸惑われた。
 あの調子だと、このまま陥落させられてしまいそうでちょっと怖い。
「……いや、今日は行かない」
「なんだよ。珍しいな。ケンカでもしたのか?」
「別にそんなんじゃないよ。俺も久しぶりに雄二と勝負したくなっただけ」
「なんだなんだー、愛情より友情を取るってか?」
「おいおい、俺にどうして言うんだよ雄二は」
「冗談だって。よし、じゃあ行くか。負けたほうがヤックおごりだよな?」
「当然」



「ってわけで、今日は行けないからさ、イルファさんにもよろしく言っといてくれるかな」
 雄二との話がまとまってすぐにコンピューター室に向かい、既にパソコンに向かっていた珊瑚ちゃんに事情を話す。
 すぐに話を済ませるからと、雄二のほうには先に昇降口で行って待ってもらっている。
「う〜、つまらんな〜」
「ごめんごめん。それじゃあ瑠璃ちゃんにもまた明日って」
「ウチがどうかしたん?」
「わっ」
 最後まで言い切る前に、当の本人が不思議そうな顔をしてすぐ真後ろに立っていた。
154春は終わらないその2(4/6):2005/06/03(金) 04:09:33 ID:wPQT/nWr0
「なんやの。声かけただけでそんなびっくりして」
「いや、急だったもんだから」
「きっとやましいことがあるから、ちっさいことでびっくりするんや」
「いや、突然後ろから声をかけられれば普通驚くと思うけど」
「貴明のことやし、どーせまたHぃこと考えてたんやろ。まったく貴明はほんとにすけべーやなぁ」
 全く聞く耳持たないようだ
 瑠璃ちゃんの中で俺は一体どんな人間像を形成しているんだろうか。
「まあちょうどいいか。今日は俺、このまま先に帰るからさ」
「……」
「今日は瑠璃ちゃんたちの家に寄らずに直接自分ちに帰ることにするから。それを言いに来たんだけど、直接会えてよかったよ。それじゃまた明日ね」
 相手が雄二とはいえ、あまり待たせるのもさすがに悪ので、手早く用件を伝えた。
「……なに?」
 言うべきことは言ったし、さあ帰ろうとコンピューター室を出ようとしたところを、どこか不機嫌そうな瑠璃ちゃんの声で呼び止められる。
「用事ってなんやの?」
「何って……えーと、大したことじゃないんだけど」
「大したことないならええやん」
 瑠璃ちゃんは声だけでなく、傍目に見ても不機嫌というのがわかるくらいムッとした顔になる。
「あ、いや、というか約束があって」
「やくそく?」
「う、うん。雄二とちょっと寄るところがあってさ」
 何となく。
 別にやましいことでも後ろめたいことでもないはずなのに、ついぼかすような言い方になってしまった。
 目の前の瑠璃ちゃんの纏う雰囲気がそうさせていたのかもしれない。
 ゲーセンに遊びに行くだけのことなんだけど、なぜかそれが気軽に言いづらい。
155春は終わらないその2(5/6):2005/06/03(金) 04:10:25 ID:wPQT/nWr0
「別にええやん。大したことないならまた今度にすれば」
 かつての瑠璃ちゃんならばこれ幸いとばかりに追い払わんばかりの勢いでさっさと行けーとか言っていたのだろうが、俺が素直になったのと同様、
瑠璃ちゃんも何らかの心境の変化があったようで、以前のような何かにつけてつっかかってきたり、頑なに俺を突っぱねるような態度は影を潜めていた。
 まあ殴る蹴るの暴行は相変わらずだけど。
 だけどいくら態度が軟化していたとはいえ、瑠璃ちゃんが俺を引き止めるようなことを言うとは驚きだった。
「瑠璃ちゃん、わがまま言うたらあかんよ〜。貴明おらんとさみしいんはわかるけど、用事あるんならしゃあないよ」
「べ、別にさみしないもん。ウチは貴明なんかおらんでもちっともさみしないー!」
 こういう売り言葉(のつもりはないんだろうけど)に買い言葉で返してしまうところも相変わらずだった。
「えっと、じゃあ俺は雄二を待たせてるからこの辺で」
「ちょいまちぃ。用事あるんはわかったけど、なんで家に来られへんのん? そのあと来ればええだけやん」
「そういやそうや。瑠璃ちゃん頭ええなぁ」
 確かに瑠璃ちゃんの言うとおりだ。
 というか、まさにドンピシャの意見だろう。
 何せ、珊瑚ちゃん宅に行かずに済まそうと思って雄二の誘いを優先させたんだし。
 つまり今の瑠璃ちゃんの意見は非常に痛いところを突いてきていた。
「今日はな、カレー作るんや」
「カレーって、夕飯の話?」
「そや」
 なんで突然夕飯のメニューの話に移行したのかはわからないが、黙って続きを聞くことにする。
「やた〜。今日はカレーや〜」
 大喜びする珊瑚ちゃんの気持ちはよくわかる。
 うん、瑠璃ちゃんのカレーはすごくおいしかったからな。
「貴明、前にまたウチの作ったカレー食べたいて言うてたやん」
 確かに言ったこともあったかもしれない。
 ちょっと記憶が曖昧だが、言った言ってないに関わらず瑠璃ちゃんのカレーはとんでもなくおいしいから、また食べたいかと
聞かれれば当然イエスだ。
156春は終わらないその2(6/6):2005/06/03(金) 04:23:04 ID:wPQT/nWr0
「べっ、別にだからカレー作るんとちゃうねんで。ただ、さんちゃんもカレー好き言うてたから、さんちゃんのために作るんや。
ついでに、貴明も食べたい言うてたし、それに貴明いっつも家をレストランにしとるやん。だから、しゃーないから貴明の分も作ったるだけや」
 ついででも何でも俺のために作ってくれるという気持ちも確かにそこにはあるらしい。
 いや、相手は意地っ張りな瑠璃ちゃんだ。もしかしたら言葉以上に俺のためという気持ちは大きいんじゃないだろうか。
 自惚れなのかもしれないけど、暗に俺のことを家に誘ってくれているような解釈も出来る。
 だとするとそれを断るなんてことは以ての外だ。
「なー。貴明はどうしても今日は家来られないん?」
 珊瑚ちゃんは両手を挙げた格好のまま、窺うように訊ねてくる。
「いや、やっぱり用事が終わったらそっちに行くことにするよ」
 もはや折れることに抵抗はなかった。
 むしろ、この誘いを突っぱねるほうがよっぽど抵抗が大きい。
「やた〜。瑠璃ちゃんの愛の力やー」
「なっ、ちゃうー、愛なんかじゃないーっ!」
「ほんまに瑠璃ちゃんは照れ屋さんやなぁ」
「うぅ〜、さんちゃんいじわるやぁー」
 目の前ではもういつもの光景が繰り広げられている。
 やっぱり俺、珊瑚ちゃんや瑠璃ちゃんと一緒にいるのが好きなんだと改めて実感してしまった。
「っと、雄二を待たせたままだったんだ。それじゃまたあとでね」
 今度こそコンピューター室を後にし、雄二の待っている昇降口へと向かう。
 すぐに済ますつもりだったけど思った以上に時間がかかっちゃったな。
 きっとまた、雄二が冷やかしてくるんだろうなぁ。
「貴明ー、またあとでなー」
 階段を下りようとしたところで大きな声に後ろを振り向くと、珊瑚ちゃんがぶんぶんと大きく手を振っている。
「うん。なるべく早く行くよ」
 お返しに、珊瑚ちゃんとその横でそっぽを向いている瑠璃ちゃんに軽く手を振り、階段を駆け下りた。
157春は終わらない作者:2005/06/03(金) 04:47:24 ID:wPQT/nWr0
投下させていただきました。
ほんとは短編のつもりだったんですが、上手く終わらせられずに書いてるうちに長くなってしまいました。
ちょこちょとこ書き進めては、続き物として投稿させていただくことにします。
お付き合いいただければ幸いです。

レス下さった方、どうもありがとうございます。
期待を裏切ってしまったのではないかと怖々ですが、愛想を尽かされなければ嬉しい限りです。
158名無しさんだよもん:2005/06/03(金) 07:37:13 ID:tJJobRoM0
>>140
本当に上手く話つないでるなあ
優季は一番絡ませにくいキャラだと思うができれば出してあげてください
159名無しさんだよもん:2005/06/03(金) 09:58:59 ID:klxyvq5T0
>>157

ミルファ登場まで書いてくださいw


>>122を見て寝たせいか、
タマ姉END後→タマ姉ふたなり化→性欲を抑えられずに度々雄二を襲う→タカ棒に襲ってるところを見られる→
タカ棒怒って破局→タマ姉激しく後悔する

っていう夢を見たw
SSでは幸せな結末を迎えさせてくださいw
160名無しさんだよもん:2005/06/03(金) 17:21:02 ID:+WEnIgvT0
>159
凄く想像力をかき立てられるおもしろそうな夢ですなぁ
そんな豊かなイマジネーションをもってる貴方がチョットうらやましいぞ
161名無しさんだよもん:2005/06/04(土) 00:18:40 ID:mBwSe0W50
>>157
続き楽しみにしてます
162名無しさんだよもん:2005/06/05(日) 02:37:32 ID:5KHgeB6H0
スレ移行に気がつかずに前スレで新作を待ち続けていた俺が来ましたよ…orz
163名無しさんだよもん:2005/06/05(日) 02:49:17 ID:nz2z/Irc0
>>162
連載はあるが新作はない。
164名無しさんだよもん:2005/06/05(日) 03:17:42 ID:rXM+wpSe0
暑くなって参りましたが、時期に合わせた話を書いてみたくなりまして
ちょこちょこと書き始めてみました。
またよろしければ読んでやってください(=゚ω゚)ノ

http://fsm-hmx-12.hp.infoseek.co.jp/th2_ss_f.html
165名無しさんだよもん:2005/06/05(日) 23:42:19 ID:Ew+HH00o0
>>164
お、もしかしてミルファの話の続編かなコレ?
夏コミで出すなら今読まないで楽しみにしときたいんだけど。
166名無しさんだよもん:2005/06/05(日) 23:55:01 ID:Wsgk0Llk0
俺は今読みたい
167夢の迷い道4−1 その0:2005/06/06(月) 19:59:36 ID:ZPC5Ri5S0
>>43-49の続きです。
誤字脱字があったら平にご容赦を。
以下、8レスほど続きます。
168夢の迷い道4−1 その1:2005/06/06(月) 20:00:22 ID:ZPC5Ri5S0
「「……草壁さん!」」
 俺とミルファは、同時に彼女の名を叫んだ。
 間一髪で俺たちを支えた草壁さんは、肩で荒く息をしており、端正に切りそろえられていた前髪は、汗に濡れ
て乱れきっていた。眉間には深く皺を寄せ、眼光は鋭く、普段の彼女とは別人のようなキツい表情をしていた。
「……手伝います。体操のパートナーの危機ですから」
 草壁さんは、俺とは微妙に目を合わせないまま、しかしハッキリと言った。基本的にはミルファの方を注視し
つつも、恥ずかしいものでも見るような様子でチラリチラリと俺を目をやり、二人でミルファさんを運びましょ
う、とつぶやくように言った。
 うちの学園では、5月半ばに防災訓練があり、その時に二名でケガ人を搬送する方法を実習していた。俺と草
壁さんは、その方法でミルファを運ぶことにした。

 まず、二人で互いに手を組むように掴み、その掴み合った手にミルファを座らせるようにした。
 俺などが草壁さんの手を本当に握っていいのか、握る資格があるのかという思いが俺の思考のどこかにあり、
指先がかすかに震えた。草壁さんは厳しい表情のまま、強引に俺の手を掴んだ。草壁さんのか細い指先に躊躇し
た俺は、一瞬だけ、彼女と目を合わせた。しっかりしなさい、と眼差しで俺を叱っていた。
 もう片方の手でミルファの脇の下から抱えるように支え、そのまま「せーのっ!」と気合いを入れて持ち上げ
た。ミルファは、俺たちの腕で作られたイスに座ったような状態になった。ミルファはどこか浮かれ気味で、
「こういうのって資料映像で見たことあるな、騎馬戦だったっけ?」などと、とぼけたことを言った。

 煙草の吸い殻、潰れたビールの空き缶、サラリーマンが吐き散らしたラーメン、犬の糞、繰り返された工事で
継ぎ接ぎだらけのアスファルト。俺一人でミルファを背負っているときに見えていたのは、それが全てだった。
延々と狭い地面を見続け、ミルファ、いや、自分が心細くならないように一方的に言葉をまくし立て、校門に着
くまで足を交互に動かし続ける、安物のトイロボットみたいなものだった。
169夢の迷い道4−1 その2:2005/06/06(月) 20:01:14 ID:ZPC5Ri5S0
 今、俺は草壁さんと一緒に坂道を上っている。顔を上げて見えるものは、登校するときのいつもの風景。脆く
崩れそうなセメントのブロック塀とトランスと電話線をたわわに実らせた電柱とが織りなす回廊、その上に突き
出ている焼けたトタン屋根や瓦、鈍く輝く古びた太陽熱温水器、風に騒ぐ深緑の木々。どうということもない日
常が、そこにあった。

 皮膚を刺し貫くような日差しと、サウナのような湿気が俺たちに襲いかかり、盛んに体力を奪おうとする。汗
が額や胸元、背中を大雨後の河川のように滴り落ちていく。草壁さんとつなぐ手にも汗が攻めたててきて、彼女
と俺とを断ち切ろうとした。しかし、そんなもので手を放しはしない。放すものか。決して、一人で重荷を背負
っているわけじゃない。いつも通りの道を通って、みんなで、三人一緒に、学園に戻るんだ。

 ミルファはそんな俺の気も知らずに、塀に貼ってある市議会議員候補のポスターを見ては、「あ、見て見て、
あの人HM研の田中さんにそっくり〜」とはしゃいだ。なあ、田中さんって誰よ? また、他の家のベランダを
勝手に見ては、「ねえねえ、あそこに干してあるTシャツさあ、ガラのセンス悪いよねぇ、もう見てらんない」
などと色々なことを抜かした。あのな、俺の位置からじゃ見えねえよ。

「……どうして、気付いてくれたの? みんな、無視するようにして行ってしまったのに」
 俺は、思い切って草壁さんに訊いてみた。それは、一番の疑問点だった。先行していた連中ならともかく、俺
より後ろにいたはずの小牧なら、目聡く見つけて大騒ぎするはずだろうに。
「……ミルファさんだと、わからなかったからでしょう。最初は、私にもわかりませんでした」
 シカトされるかとも思ったが、草壁さんは答えてくれた。俺とは、目を合わそうとしなかったが。
「どうして?」
「“モザイク”が、かかっていて、ゴミ袋か何かに見えました。今は、ミルファさんの姿がハッキリと見えます
けどね」
「……モザイク?」
 俺の家の表札にかかっていたアレが、ミルファの姿にもかかっていたというのか? 無視して行ってしまった
連中の言い訳ならともかく、助けに来た草壁さんが言うのだから信憑性は高い。
 何故モザイクが? という疑問は残るが……。
170夢の迷い道4−1 その3:2005/06/06(月) 20:03:20 ID:ZPC5Ri5S0
 草壁さんは続けた。あたかも、独り言のように。
「私、貴明さんのために戻ってきたわけじゃないんですよ? スタートダッシュして、私のずっと先にいたはず
のミルファさんが、校門にいなかったんです。……だって、ミルファさんがゴールしていたら、校門の前で貴明
さんを、余裕の表情で待ち構えているはずですから」
 俺たちの腕の上で忙しなくしていたミルファが、急におとなしくなった。草壁さんが自分の行動パターンを読
んでいたのに驚いたのか。
 草壁さんは、さらに続けた。
「それで……胸騒ぎがして、引き返してみたら……そこにミルファさんを背負ったあなたがいた……ただ、それ
だけの話なんです……」
 俺は言葉を返せず、草壁さんの顔すら見られずに、ただ黙って聞いているだけだった。
「……貴明さん、私をペースメーカーにしていましたね?」
 「うん」と、俺は頷いた。彼女に隠し事は通用しない。
「ピッタリ付いてきているのが、気配と息遣いでわかりました。だから、わざと飛ばし気味に走ったんです。あ
なたなんかに、捕まるものかって。……私、こう見えても、結構意地っ張りなんですよ?
 それで、あなたの息遣いが聞こえなくなって、最後の最後でようやく振り払ったかと思ってホッとしていたら
……結局は、こうなるんですね。今回ばかりは、さすがに運命を憎みました」
 そう言って草壁さんは、ふふっと少し笑った。『運命を憎んだ』などと厳しい言い方をしつつも、語気の荒さ
はなく、後日談でも語るような気楽な口調に感じられた。横目で見る限りでも、こっちに来た直後よりはずっと
落ち着いている。
 俺からも少し緊張感が解け、「きっついなぁ……」とボソッと言ってしまったのだが、草壁さんはそれを聞き
逃さなかった。
「自分が何をしたのか、忘れたとは言わせませんよ」
 草壁さんは、厳しい口調に戻って言った。声を微妙に震わせ、それはどこか哀しげでもあった。
 信じていた男に侮辱され、その姿を振り払おうともしてみたが、今はその男の腕を、必死になって掴んでいる
のだ。
171夢の迷い道4−1 その4:2005/06/06(月) 20:05:30 ID:ZPC5Ri5S0
 俺と草壁さん、ミルファの間で、少しの間――それは10秒程度かもしれないし、5分以上だったかもしれな
い――沈黙の時が流れた。俺と草壁さんはお互いに牽制し合い、ミルファはどうしていいのかわからなかったの
か、それとも昼のメロドラマでも見るような感覚で事態の推移を楽しんでいたのか。

 沈黙する俺たちをあざ笑うように、キーンコーンカーンーコーンと、チャイムが響いた。

「……ゴメン、草壁さん。朝のことは、俺が悪かった。反省してる」
 沈黙に耐えられなくなった俺は、謝るなら今しかないと思い、自分から切り出した。
「あの時は俺、朝起きたらこんな姿になっていたせいで、気が動転していて、何もかもやけっぱちになってた。
今までの自分が、否定されたような気がして……だけど……姿形は変わっても、俺の中身は、何も変わっていな
かったのにな。由真の姿になっても、草壁さんは、俺の存在をつかまえていてくれていたのにな……」
 草壁さんは何も言わずに聞いていた。頭からシカトしているのか、言い訳がましい男だと呆れているのか。
「でも俺は、一方的な思いこみで、俺をつかまえていてくれた指先を、自分から振りほどいてしまった……」
 俺がそこまで言うと、草壁さんはカハッと大きく息を吐き、心の奥底から言葉を絞り出すようにした。
「たとえ、振りほどいたとしても……貴明さんの、あんなに必死な姿を見たら、イヤでも捕まえないわけにはい
かないでしょう!?」
「えっ?」
 草壁さんの顔は紅潮し、その大きな瞳は充血しきっていた。
「貴明さんっ!! あなたという人は……いつも、そう……! 無鉄砲で……思いつきで、名前までくれて……あ
の時だって……私に会うためだけに、毎晩毎晩学校に、来てくれて……今だって、普段の肉体じゃないのに、自
分一人だけで、誰からも捨てられたミルファさんを必死に背負い込んで……。いつだって、いつだってあなた
は、そこにある月のように、私に、輝きを見せつけるんです! 貴明さんのことを、忘れることなんて、捨てる
事なんて、到底、出来るはずがなかったんです……!」
172夢の迷い道4−1 その5:2005/06/06(月) 20:07:04 ID:ZPC5Ri5S0
 草壁さんは、泣いていた。俺の腕を必死に掴みながら涙を流していた。林檎のように紅潮させた顔を、俺にも
ミルファにも見えないように背けていたが、俺にはわかった。ミルファにもわかっているだろう。
 俺には、草壁さんの腕を出来る限り強く握り、「悲しい思いをさせて、ごめん」と言うのが精一杯だった。

「はいはい、純愛ドラマな展開はそこまで! お互い言いたいこと言っちゃったみたいだし、もういいじゃん」
 ミルファは重苦しい雰囲気に耐えきれなくなったのか、俺たちの肩をポンポンと叩き、わざとらしく明るい声
で叫んだ。
「病人は黙ってろ」
 俺はそう言ったが、ミルファはそんなものは頭から無視して喋り続けた。
「要するに。草壁さんは、最初っからあたしを助けに来てくれたってこと? 嬉しいなぁ。これも、ミルファち
ゃんの人徳ってやつかな?」
「ええ、それはもう。クラスメートに変人扱いされたのも、休み時間をフイにしたのも、お下劣で破廉恥な貴明
さんと手をつないでいるのも、すべてはミルファさんのためですから」
 草壁さんも涙を堪え、わざと明るい声で答えた。
「色々あったみたいだけど、今は仲良くたかあきと手をつないでるじゃない。仲直りできてよかったね〜〜〜。
ほら、『夫婦喧嘩は熊も喰わない』とも言うし?」
「いや、それは言わない」
 俺はすかさず突っ込んだ。
「言うって。“愛のキューピッド”のミルファちゃんが言うんだから間違いないよ」
「お前、落とすぞ?」
 俺はミルファの脇を支える手で、ミルファをユサユサと揺すった。ミルファは「うわ、ジョークも通じない
の? たかあきのくせに! この超絶石頭〜!」などと喚きだした。
 小さく、ふふっ、と笑い声が聞こえた。笑顔を取り戻した草壁さんを、俺は見た。
 俺はミルファをユッサユッサ揺すりながらも、ミルファには心の中で手を合わせていた。
173夢の迷い道4−1 その6:2005/06/06(月) 20:08:54 ID:ZPC5Ri5S0
「見た目が変わっても……ぶつかりあっても……やっぱり、私たちは、どこまでも運命的な関係なんですね」
 そびえ立つ校舎と校門が見えてきたところで、草壁さんが言った。もう、彼女に涙はなかった。
「……また、運命的な出会いができたね。こんな俺を想い続けてくれて、本当にありがとう」
 俺はそう言って草壁さんを見た。草壁さんと目が合った。彼女は優しく微笑んだ。俺にはそれで十分だった。
 俺がミルファを助けようとした想い。草壁さんがミルファを心配して思いやる心。互いに熱い想いを持って、
必死に足掻いてみせれば、綻びかけた運命だろうと揺り動かすことが出来るんだ。運命が俺たちを再び引き寄せ
たわけじゃない。運命的な出会いを引き寄せたのは、俺たち自身だったんだ。
 だから……すべてが、運命的なんだな。



 校門まであと数メートルというところで、再びチャイムが鳴った。もう、次の授業の時間になってしまった。
 夢から覚める機会は逸したが、いくらでもチャンスはあるだろうし、何より、草壁さんと仲直り出来たわけだ
から、それで良しとしなければならない。

「コンピュータ室に行くのはいいけど、カギはどうするんだ? あそこ、入るのにカギが要るだろう?」
 校門の手前で、俺はミルファに訊いた。
「大丈夫、だいじょうぶ。あたし、顔パス利くから」
 ミルファは、事も無げに答えた。
「でも、どこかのクラスが授業で使っていたらどうしましょう?」
 草壁さんも不安げに言った。
「迷わず行けよ、行けばわかるさ」
「……誰が教えてるんだ、そんな言葉」
 俺は、いつかミルファとこんな会話をしたことがなかったかな、などと思いつつ、校門に足を踏み入れた。

「「え? えええええ!?」」

 俺たちが校門に入ると、そこはコンピュータ室だった。目の前にそびえ立っていた灰色の校舎は、林立する幾
多のパソコンの群れに姿を変え、アスファルトの地面は青いカーペットに、今まで履いていたはずの運動靴は、
いつの間にか上履きになっていた。
 ああ、空調が効いていて涼しいな、って落ち着いている場合じゃないか。
174夢の迷い道4−1 その7:2005/06/06(月) 20:10:08 ID:ZPC5Ri5S0
「私たち……ワームホールでも通り抜けたんでしょうか?」
 あまりの超展開に、どう反応していいかわからなくなった草壁さんが、半笑いで俺を見た。
「……少なくとも……ここは、デルタ宇宙域ではなさそうだ」
 俺には、そんなことを言うのが関の山。俺だって、訳がわからないよ。
 ちなみに、ミルファの反応はどうかと思って横目で見れば、ヤツはさも当然のような涼しい顔をしていた。

「あんたたち、何やってんの?」
 俺らの背後でポツネンと立っていた男子生徒が、いきなり話しかけてきた。
 そいつは、俺――河野貴明――の姿をした由真だった。由真の腕には、見覚えのあるクマの縫いぐるみが抱か
れていた。
「お前こそ、授業サボって何してるんだ……!?」
 俺が訊くと、由真はクマの縫いぐるみを、俺の目の前に突き出して言った。
「ほれ、この子が……このクマ助が、あたしをここに連れてきたのよ」
 間違いない。こいつは、俺をミルファの元へ連れてきた“クマ吉”だ。
 “クマ吉”は俺を見ると、すかさずバンザイをした。
「また、“クマ吉”か……」
「“クマ吉”? クマ助の方が可愛いじゃん」
「“クマ吉”って言うんだから仕方ないだろ、あきらめろ」

 俺たちは愚にも付かない会話をしながらも、ミルファの指し示す場所に、傷ついた彼女を横たえてやった。
 そこには、ペンギンとか、レッサーパンダとか、可愛くない小鳥とかの様々な縫いぐるみが、いくつも無造作
に置かれていた。
 ……いや、置かれていたのではない。彼らは、自らそこに集まっていたのだ。恐らくは、“クマ吉”と同じよ
うなトイロボットなのだろう。
 連中は俺たちを強引に押しのけると、ミルファの周りをモゾモゾと取り囲み、懸命に首を伸ばし、手足をバタ
つかせて、横たわるミルファに群がっていった。
 ミルファは、連中に「ちょっとドジっちゃった、心配ないって」などと話しかけていた。
「ねえ、ミルファさん? この子たちは……?」
 草壁さんが、ミルファに訊いた。
「きょうだい、みたいなものかな。……応急処置は、ここのみんながしてくれるから、もう大丈夫だよ。運んで
くれて、ありがとね」
 ミルファはそう言いながら、心配そうに傷口を撫で続けるペンギンの頭を、手のひらで優しく抱いた。
175夢の迷い道4−1 その8(ここまで):2005/06/06(月) 20:11:20 ID:ZPC5Ri5S0
「なあ……お前の打席で……野球の試合、終わらなかった?」
 微笑ましいような、メルヘンのような、それでいてどこか不気味な光景から少しだけ逃避するように、俺は由
真に話しかけた。
「……よく、知ってるじゃないの」
 由真も俺と同じ思いだったらしく、すぐに話に乗ってきた。
「結果、どうだった?」
「ふふん、聞いて驚け。超特大のホームランよ!」
「嘘つけ、ただのファールフライのくせに。体育倉庫の屋根にでも落ちたんだろ?」
「ブーッ、残念! イチ、ニのサンで放った弾丸ライナーは、カブレラのホームランみたいに、空の彼方へ消え
てった。まあ、飛びすぎたおかげで、先生に怒られたのは余計だったけどね。ボールを失くしちゃったから」
「カブレラって、どっちのカブレラ?」
「あんたねえ。カブレラと言えば、白! アレックス! カリブの怪物に決まってるでしょ? 黒は邪道! パ
チモンよ!」
 この時、どこからか視線を感じた。草壁さんではない。足下からだった。
 ミルファがニタニタして、俺を見つめていたのだ。ミルファはチラッと草壁さんに目をやったかと思えば、再
び俺と由真とを見て、目を細めた。ひょっとして、俺が、草壁さんと由真とを二股掛けてるとでも思っているの
か? そいつは、悪い冗談だよ。
 そう言えば、ビニールの焼ける臭いが、いつの間にか消えていた。焼けて黒ずんでいたはずのミルファの右膝
を見ると、何事もなかったかのように元通りになっていた。ペンギンのヒーリングパワー、恐るべし。

 由真は、大飛球をかっ飛ばした自分に酔って喋り続けていた。
「男子も女子も、あたしの打球に見とれて、マジでいい気分。用務員さんなんか、あたしの打球にビビって撒水
中のホースを落としちゃった。そのせいで水圧が変わっちゃって、水飲み場にいた笹森さんがずぶ濡れになっち
ゃったけど」
「悲惨なヤツもいるものだな」
 本当は、俺がその悲惨なヤツになるはずだった。しかし、由真は大ホームランを打ったわけで、俺の望んでい
た結果が手に入っていたとは限らない。つまり、これでよかったわけだ。
「そういや笹森さん、『たかちゃんヘタクソ、大嫌い!』って叫んでたけど……あんた、たかちゃんって、誰だ
か知ってる?」
「……お前だよ」
「うそっ!」
176名無しさんだよもん:2005/06/06(月) 20:12:52 ID:ZPC5Ri5S0
以上。この次で終了です。
177春は終わらないその3(1/5):2005/06/07(火) 04:25:51 ID:a5+uz0nd0
「くっそー。また負けた」
 これで5連敗。
 自分では結構得意なつもりでいたゲームだったはずが、認識を覆されるに十分な戦績だった。
 対戦台の向こうから、雄二の勝ち誇る声が飛んでくる。
「へっへっへ。悪いな貴明。お前にはしばらく極貧生活を強いることになりそうだ」
「っかしいなぁ。腕が落ちたのか?」
 画面にゲームオーバーと表示された対戦台を離れ、雄二の座る向かいの台の後ろに移動する。。
 ここんところずっと珊瑚ちゃんと瑠璃ちゃんと一緒に直帰コースだったから、ゲーセンに来るのも久しぶりだったし、ありえなくもない。
 とは言え、これはだいぶやり込んでいたんだから、そう簡単に腕が落ちるなんてないと思うんだけど。
「違うな、お前が弱くなったんじゃない。俺が強くなりすぎてしまったんだ」
 いつもなら冗談として流すところだが、今はなんだか言葉に信憑性がある。
「でもここまで差がついてるとは……」
 3ラウンドの内2本先取で一勝となるのだが、悔しいことになんと未だ1ラウンドたりとも取ることが出来ていない。
 5敗全てがストレート負けだったのだ。
「当然だ。お前がラブラブな日々を送って腑抜けている間、俺は来るお前との戦いに向け一人ゲーセンに通いつめて練習を積んでいたんだからな」
「それもどうよ」
 とんでもなく寂しいことを堂々と言い切る雄二だが、本人は気にした素振りもなく、というか敢えて気にしないようにしているのか、
一心不乱にCPU戦を勝ち抜いていく。
178春は終わらないその3(2/6):2005/06/07(火) 04:26:46 ID:a5+uz0nd0
「それにしてもよくゲーセンなんかに通えたな。タマ姉が黙ってなさそうなもんだけど」
「あー、お前が姫百合姉妹と帰るようになっただろ? おかげでおかげで帰りに姉貴に捕まることってないんだよ。その点については貴明さまさまだぜ」
「なんでだよ。雄二はタマ姉と帰る家が一緒なんだから、別に俺はあんまり関係ないんじゃないのか?」
「ったく、こーのニブチンが。お前がメインで俺はそのついでだったってことだよ。その貴明が別口の方に行っちまったから、
俺のほうもいちいち捕まったりしないんだよ。まあ、姉貴とこのみはいつも一緒に帰ってるみたいだけどな」
 タマ姉からの束縛が一つ無くなったらしいのがよほど嬉しいのか、開放感いっぱいの満面の笑みを浮かべて、今の状況を教えてくれる。
「ま、そのおかげで貴明とだいぶ実力の差がついちまったようだがな」
「悔しいが確かに」
 今の俺では雄二に勝てる気がしない。
 再戦を挑んだところで返り討ちが関の山だろう。
「どうする? まだやるか?」
「いや、今日はもう負けがこれ以上溜まる前にやめておくよ」
 時計を見るともういい時間だし、そろそろ頃合だろう。
「んじゃ出るか。さっそくヤックに行こうぜ。貴明の金で食うビックヤックはうまいだろうな」
「それなんだけどさ、奢るのはまた今度じゃダメか?」
「あん? なんでだよ。そんなこと言って踏み倒そうとか考えてんじゃないだろーなー」
「違うって。これから珊瑚ちゃんたちのところに行くって約束しちゃってて。あんまり遅くなると悪いし」
 事情を説明すると、雄二の訝しげに問う声が呆れたようなものへと変わっていった。
「やれやれ、貴明もほんっと女に甘いやつだな」
「なんだよ突然」
 呆れ顔の雄二だが、一体なんでそんな話になるのかがわからない。
 いや、心当たりがないわけではないのだが、全く事情を知らないはずの雄二の口から出る話ではないはずだ。
179春は終わらないその3(3/6):2005/06/07(火) 04:27:10 ID:a5+uz0nd0
「お前、ちょっとあの双子たちと距離置きたがってたんじゃねぇの?」
 鋭い。
 一瞬、考えを見抜かれたのかと思ってドキッとした。
「なんでそう思うんだよ」
「んー、なんか昼休みのお前、いつもとちょっと違ったからよ。カマかけてみたんだがけどよ」
「カマ?」
「ゲーセンだよ。いつもならあの子たち優先させてさっさと帰っちまうのに、今日に限って俺に付き合っただろ。
だからこれはなんかあったんじゃないかってな」
「……わかるもんなのか」
「バレバレだってーの」
 正直、雄二を甘く見ていたようだ。
 表面に出していたつもりはなかったのに、雄二は俺の胸のうちをしっかりとわかっていた。
 幼馴染は伊達じゃない、ということなんだろうか。
「まあ、確かに雄二の言うとおりだよ。別に距離を起きたいってほどでもなかったんだけど、ちょっと思うところがあってな」
「だと思ってたぜ。ま、困ったことがあるならいつでも相談してこいよ」
「ん、サンキュ」
 いつも珊瑚ちゃんや瑠璃ちゃんのことでからかわれてばかりだと思っていたのに、まさかこんな心遣いをしてくれるとは思っていなかった。
 すまん、雄二。きっとお前なら、イルファさんのことを知ったくらいじゃ友情は揺るいだりしなかったな。
「とにかくもう行けよ。女を待たすなんて最低ヤローのすることだ」
「ああ。それじゃまた明日な」
 ゲームセンターを出たところで雄二と別れ、一路珊瑚ちゃんたちの家へ急いだ。
180春は終わらないその3(4/6):2005/06/07(火) 04:33:17 ID:a5+uz0nd0
「お邪魔しまーす」
 勝手知ったるなんとやら、鍵は掛かっていなかったので勝手に入らせてもらう。
 勘違いされると困るが、なにも最初っからこんな図々しい真似してたわけじゃない。
「お帰りなさい、貴明さん。もう、そんな他人行儀はやめてくださいっていつも言ってますのに」
 ということだった。
 珊瑚ちゃん曰く

『ここは貴明の家でもあるんやから、いちいちチャイムなんて鳴らさんでもええよー』

 ということで、フリーパス状態になっている。
 初めのうちはそんなわけにはいかないと律儀にチャイムを鳴らしてたんだけど、その度に珊瑚ちゃんやイルファさんから同じようなことを言われ続け、しまいには

『どうせ毎日来るのにそのたんびにピンポンピンポン鳴らされたらうるさいやろ! とっとと入ってきい!』

 と瑠璃ちゃんに叱られてしまい、以来勝手に出入りさせてもらっている。
 礼儀正しくして文句をいわれるというのもおかしな話だが、家主住人全員が口を揃えてそう言うのならそれに従うのがいいのだろう。
 ちなみに、一度も使ったことはないが、同じような経緯で合鍵まで渡されていた。
 俺のほうもいざってときに駆けつけられないと困るからと言われ、自分の家の合鍵を姫百合家に預けてある。

『だって貴明が家の中で死んでたら困るやろ?』

 珊瑚ちゃんはなぜか俺を死体にしたがるが、要するに一人暮らしをしていて病気にでもなったら大変だからということらしい。
 そういう時はこのみや春夏さんがいるから大丈夫だとは言ったけど、ここではイルファさんが大奮闘。
181春は終わらないその3(5/6):2005/06/07(火) 04:33:48 ID:a5+uz0nd0
『貴明さんは私たちのことを信頼してくださらないのですね』
『お隣の方だっていつでもいるとは限りません』
『旦那さまが苦しんでいる時に駆けつけるのは妻の役目です』
 そんなようなことをいろいろ言われて説き伏せられたというわけだ。
 怒涛のごとく押し寄せる言葉の波にのまれてしまったというのが正しいかもしれない。
 結局押し切られる形で合鍵を渡すことになったのだが、不思議とそのことに躊躇いや抵抗は感じなかった。
 こうして珊瑚ちゃんたちが俺に合鍵を渡してくれているのはそれだけ信頼してくれている証なのだろうし、俺もまた同じだけ
彼女たちを信頼しているんだということを形に表したかったのかもしれない。
 まあ、珊瑚ちゃんやイルファさんが濫用するんじゃないかという点で若干の不安もあるが、以前のように入れないからと
窓を割って侵入を試みられたらそっちの方が困るし。
 気づけば、俺にとって姫百合ファミリーは長年のお隣である柚原一家と同じくらい親しい存在になっていたようだ。
「二人はもう帰ってるの?」
 聞きながら足元を見ると、そこには二人の靴が揃えて並べられている。
 どうやらもう帰宅しているようだ。
「貴明さんは私よりも瑠璃様珊瑚様の方が気になるのですね。そうですよね、私なんかどうでもいいですよね。
瑠璃様のかわいらしさの前には私の存在など霞んでしまいますものね」
「ただいまイルファさんっ。会いたかったよ!」
「まあ、嬉しいです貴明さん」
 俯いてた顔が一転してにこやかな笑顔に。
 わかっていても引っ掛からざるを得ない、それがイルファさんの罠の怖いところだった。
 人間を陥れるメイドロボってどうなんだろうか。つまりそれだけ人間に近い存在ってことなんだろう。
「えっと、それで二人は?」
「はい、先ほど帰られて、珊瑚様はリビングの方にいらっしゃいます。瑠璃様は今はキッチンでお料理をしていますね」
「あ、早速作ってるんだ」
「早速……ですか?」
 意味を取りかねているのか、事情を知らないイルファさんははてな顔で首を傾げる。
182春は終わらないその3(6/6):2005/06/07(火) 04:56:28 ID:a5+uz0nd0
「実は今日さ、ほんとはちょっと別口の用事があって」
 雄二と約束があったこと、ここには寄らずに自分の家に直帰するつもりだったこと、珍しく瑠璃ちゃんから(遠まわしに)誘われたので
やはりいつも通りこちらに顔を出すことにしたことを掻い摘んで話す。
 するとイルファさんは今度は困ったような顔で何かを考え込んでいる。
「どうしましょう」
「……何が?」
 どうやら『困ったような』ではなく本当に困っていたようだが、一体今の会話で何を困るのかさっぱりわからない。
 俺の処理能力は最新のメイドロボのそれには遠く及ばないようだ。
「この場合私は瑠璃様と貴明さんのどちらに嫉妬すればいいんでしょうか。ああ、旦那様と恋人、愛しい二人に挟まれて惑う罪深いメイドロボです」
 だからその艶っぽい溜め息やめてください。
 というか、そんなことを真面目な顔して考えてたんですか。
「ほんとに人間くさいな、イルファさんって」
「そんな急に褒められても照れてしまいます」
 というか、イルファさんは瑠璃ちゃんのことなると結構ろくなことを言わない人だったりするのも、この一ヶ月でだいぶ思い知った。
 普段は真面目で、突飛な珊瑚ちゃんや意地っ張りな瑠璃ちゃんよりも俺に近い常識を持った人(メイドロボ?)なのだが、
珊瑚ちゃん風に言う『すきすき』が絡む話となると、途端に生みの親直伝の思考回路が首をもたげてくるようなのだ。
「あっ、私としたことが、すっかり忘れてました」
 ひとしきり照れたあと、思い出したようにこちらに向き直ったイルファさんは、また困ったことを言い出した。
「お帰りなさい、貴明さん。ご飯にします? お風呂にします? それとも」
「さっ、珊瑚ちゃんと遊んでくるっ」
 慌てて言葉を遮り、トタトタと足早にリビングへと急ぐ。
「貴明さん、つれません……」
 後ろの方からイルファさんの呟きが耳に届いたが、ここが聞かなかったことにしよう。
183名無しさんだよもん:2005/06/07(火) 10:23:12 ID:167YpYXa0
GJ!X2
184河野家にようこそ 第9話(1/9):2005/06/07(火) 20:58:15 ID:ATKl1hAS0
 由真は、たった一度の負けで根を上げるような奴じゃない。それは俺が一番よく知ってる。
 由真はタマ姉のもとで修行し、3日後のリベンジをるーこに誓う。
 ところで、るーこが俺の家にいると知った花梨は、俺たちがるーこに洗脳されているとか言いだした。
 そしてるーこの正体を暴くため、なんと俺の家に住むと言ってきたのだ。

「へぇ〜、これがたかちゃんの家の中かぁ〜」
 玄関前で立ち話もなんなので、とりあえず俺は花梨を家に入れ、居間に案内した。
 ちなみに居間には他に、タマ姉、このみ、るーこ、由真、小牧さん、雄二もいる。結構大人数だ。
「タカ坊、どうするつもり?」
 物珍しげに周りをキョロキョロと見回す花梨を見て、タマ姉が俺にそう尋ねる。
「どうするつもりって言われてもなぁ……」
「前にも言ったけど、今、この家の主はタカ坊なんだから、タカ坊が決めなきゃ駄目よ。
 まあ彼女の場合、何か大きな誤解をしているようだから、まずはそれを解くことからかもね」
 確かにそうだ。そしてそれが、一番の難題でもある。しかし、やるしかあるまい。
「あ、あのね笹森さん。昼にも言ったけど俺たちは洗脳なんかされていないよ。家出娘のるーこは今
まで公園に住んでいたんだけど、その公園で工事が始まって、るーこはいられなくなったんだよ。で、
それを知った俺がるーこを家に連れてきたんだ。本当なんだって」
「え? 公園に住んでたってことは、るーこさんって、いわゆるホームレスさんだったんですか?」
 驚く小牧さん。ああそうか、小牧さんにはその辺りは話してなかったっけ。
「違うぞうーまな。るーにとってはあそこが仮の家だったのだから、家無しではないぞ」
「は、はぁ……」
「なるほどね、今までは公園の地下に秘密基地を建造してそこを拠点にしていたけれど、それが何処か
の調査員に暴かれてしまった、それでたかちゃんの家に拠点を移したというわけだね」
「だから違うって! どうして話がそっち方面にいくかな? いい? 俺が話したそのまんまなの! 
185河野家にようこそ 第9話(2/9):2005/06/07(火) 20:59:01 ID:ATKl1hAS0
嘘偽り脚色省略一切無し! それから何度も言うけど俺は洗脳もアブダクションもされてなければ、家
の庭にミステリーサークルも無い! なんだったら俺の頭を調べてみてもいいよ、手術痕も何かを埋め
込まれた痕も一切無いから!!」
 俺は花梨の目の前に自分の頭をずいっと突き出す。
「わかった、じゃあ調べてみるね。……う〜ん、確かに何もないね。手術痕もチップを埋め込んだ痕も
悪魔の数字も無いね」
 俺はダミアンかよ!?
「わかった? じゃあ……」
「何も見つからないということは、それだけ高度な技術をもってたかちゃんを洗脳したってことだね」
「違うっての!!」
「さっきから聞いていると、るーがうーを洗脳したとか言っているが……」
 話題の本人、るーこが口を開いた。
「そうよるーこ! 調査員の目はうまくごまかしたみたいだけど、この花梨ちゃんだけはごまかされ
ないわよ! さあ、正体を現しなさい! そして今すぐ、たかちゃんたちの洗脳を解きなさい!」
「るーは”うー”の調査に来た、それだけだ。うーたちを洗脳などしていない。調査対象はありのまま
でいるからこそ調査する意味がある。洗脳など何の意味もない。
 それから、正体を現せと言うが、るーはるーのままだ。変装も擬態もしていないぞ」
「ウソ! 人間の皮を被ってるけど、その中には灰色の肌に大きな目があるんでしょ!?」
「どこまでも疑り深いなうーかりは。……いいだろう、実際に確認してみるがいい」
 そう言うとるーこは、いきなり制服を脱ぎ始めた、っておいおい!!
「るーこ、待て待て! 何みんなの前で服脱ごうとしてるんだよ!?」
「証明のためだ、仕方があるまい」
「そうだ貴明! ここは我ら全員でるーこちゃんの全てを確かめようではないか!
 さぁるーこちゃん、いいからどんどん脱いで脱いで……」
186河野家にようこそ 第9話(3/9):2005/06/07(火) 20:59:50 ID:ATKl1hAS0
 がしっ! ぎりぎりぎり……
「ぐあああだだだだだ!! 割れる割れる割れる!! ウソですごめんなさい許してください!!」
「この馬鹿は放っておいて、るーこちゃん、やめなさい」
 そう言うとタマ姉は、アイアンクローで持ち上げた雄二をポイッと放り投げる。雄二は床に倒れ、
「きゅぅ……」と言って動かなくなった。合掌。
「しかし、証明せねばうーかりが納得しないぞ」
「そうね……、なら、上の部屋で二人っきりで”証明”しなさい。それならいいわよ」
「るーはそれで構わないぞ。では行こうか、うーかり」
「むむむ……」
 るーこは居間を出ようとするが、花梨は何故か警戒して動かない。
「どうしたの笹森さん?」
「二人っきりになったところで、私を襲って洗脳するってこともあり得るし……」
 ああもう、本当に疑り深いな……。
「やれやれね。だったらそうね……、小牧さん、いいかしら?」
「はい?」
「悪いんだけど、この二人と一緒に行ってあげてくれないかしら? どうも笹森さん、るーこちゃんと
二人っきりになるのを警戒しているみたいだし、かと言って私か由真さんだと、タカ坊と同じく洗脳
されてるって思われてるみたいだから」
「あ、はい、あたしでよければ」
「あ、それならわたしも行く。いいでしょ、笹森さん」
 そう言って手を上げたのはこのみだ。
「う、うん、そういうことなら……」
 そうして笹森さん、るーこ、小牧さん、このみは2階に上がっていった。
 居間に残ったのは俺、タマ姉、由真、そして倒れたまま雄二だ。
187河野家にようこそ 第9話(4/9):2005/06/07(火) 21:00:40 ID:ATKl1hAS0
「なんだかね〜。るーこもかなり変わっているけど、あの花梨とかいうコ、重度の変わり者だね。
 UFOオタクってヤツかな? 宇宙人とか本気で信じてるんだ。ばっかみたい」
「こらっ、そんな簡単に人を蔑まないの。確かに変わったコだけど、ああやって何かに真剣に打ち込む
姿は、むしろ今の由真さんにとっては見習うべきものよ、わかる?」
「料理のことですか? ええ、まぁ……」
 確かにタマ姉の言うとおり、花梨は真剣にミステリに打ち込んでいる。ただ花梨の場合、真剣すぎて
周りが見えなくなることが多いんだよなぁ……。
 などと俺が考えていると、2階が何やら騒がしい。なんだ?
『えええっ!? あ、あたしも脱ぐんですかぁ!?』
『わたしも脱がなきゃいけないの、さ、笹森さん!?』
 なに!? 小牧さんとこのみが!? ど、どうなってるんだ!?
 その後、花梨が何か言っているようだが、よく聞こえない。
『ひ、比較対照って言われても、そんな……!』
 再び聞こえる小牧さんの声。
 その後の花梨の声。今度は聞こえた、はっきりと。
『よし、それじゃあみんなで脱ごう! それならいいでしょ!』
 み、みんなって、あの4人全員脱ぐのか!?
 しかしその後は何も聞こえてこない。何か話しているかも知れないが、居間までは届かない。
 い、一体あの4人は、部屋の中で何をしてるんだ!?
 思わず俺は想像してしまう。一つの部屋に、は、裸の女の子が、よ、4人……。
「こらっ!」
 そう言って俺の後頭部をグーで殴ったのは由真だ。
「いてっ! 何すんだよ由真!?」
「今たかあき、Hな想像してたでしょ。このスケベ」
188河野家にようこそ 第9話(5/9):2005/06/07(火) 21:01:30 ID:ATKl1hAS0
「し、してねーよ!」
「ウソウソ、顔真っ赤にしてるくせに。
 ねぇたかあき、愛佳って全体的にポチャっとしていて可愛いと思わない? お尻とか特に。
 たかあき、愛佳のお尻、触ってみたいとか思ったことない?」
「そ、そんなの思ったことねーってば!」
「ウソウソ、男の子なんだからそのくらい当然でしょ。
 あ、ちなみに胸はあたしの方が大きいんだよ。環さんには……負けてるけど」
「?」
 俺と由真に見られて、きょとんとするタマ姉。まあ、タマ姉は反則級だからなぁ……。

 それから、どのくらいの時間が経っただろうか。
 扉が開く音、その後、トントンと階段を下りる、複数の足音。
 そして、花梨たちが居間に戻ってきた。
 4人の表情は様々だ。何故か満足げな花梨、憮然としたるーこ、顔を真っ赤にしてる小牧さんに、
落ち込んだ様子のこのみ。
「お帰りなさい。で、確認は出来たの?」
 タマ姉が花梨に尋ねる。
「はいもうバッチリと! バストは私がいちば〜ん!」
 は? バスト?
「でもヒップは小牧さんが一番だったね!」
「い、言わないって約束したのに〜!」
「るぅ〜、悔しいがうーかりとうーまなの発育の良さは認めざるを得ないぞ」
「ぜ、全部最下位……、ぎ、玉砕であります……」
「まあまあ、ウエストが一番細かったのはいいことじゃないの、このみちゃん」
189河野家にようこそ 第9話(5/9):2005/06/07(火) 21:04:57 ID:ATKl1hAS0
「一体あなたたち、何の確認をしていたの?」
「スリーサイズを、これで」
 そう言って花梨がメジャーを差し出す。
「っておい! 確認するのはるーこが宇宙人かどうかじゃなかったのかよ!?」
「え? ああ、それもちゃんと確認したよ。まあ、るーこが人間と同じ外見だってことは認めるよ」
「そうか、じゃあ……」
「でも、人間型の宇宙人って可能性もあるからね。るーこが宇宙人じゃないと判断するのはまだ早いよ。
 というわけでたかちゃん、花梨会長はこれより24時間体制でるーこの監視を行うため、しばらく
この家に厄介になりますので、よろしくね!」
「は、はぁ……」
 駄目だこりゃ。俺は観念した。

「じゃあ、笹森さんはるーこと同じ、この部屋を使って」
 俺は、花梨を部屋に案内した。
「同じ部屋……、ねぇたかちゃん」
「何?」
「花梨、たかちゃんと同じ部屋がいいな、なんて」
「はぁっ!?」
「あ、ヤダたかちゃんったら! そういう意味で言ったのと違うんよ!
 ほ、ほら、るーこと同じ部屋だと、寝込みを襲われて洗脳されるかもしれないでしょ。だから……」
 そう言って花梨は、持ってきた鞄の中から何かを取り出す。それは……
「何これ、ビデオカメラ?」
「そう。これをるーこの部屋に置いてね、ケーブルをたかちゃんの部屋のテレビに繋いで、るーこを
監視するの。これでバッチリだよ」
190河野家にようこそ 第9話(7/9):2005/06/07(火) 21:05:41 ID:ATKl1hAS0
「あのさ笹森さん、笹森さんは俺がるーこに洗脳されたって思ってるんだよね。だったら、るーこの
手先になった俺と一緒にいるのは危険じゃないの?」
「例え洗脳されていても、たかちゃんの花梨への想いは決して変わらない。花梨はね、そう信じてる
んよ。それに……」
「それに?」
「いざとなったらコレがあるし」
 そう言って花梨が鞄の中から出したものは……
「ってそれ、もしかしてスタンガン!? なんでそんな危険なもの持ってるの!? それにそっちの
スプレー缶は痴漢撃退用の催涙スプレーでしょ!? 全然俺のこと信じてないじゃん!!」
「イヤだなぁたかちゃん、ちゃんと信じてるって。でもね、男の子って、女の子の魅力についムラムラ
とってケースもあるらしいし、一応は、ね☆」
 なんか理由が、洗脳から男の本能に変わってるんですけど。
「とにかく俺の部屋はダメ。本当にムラムラするかもしれないし、だからってスタンガンで痛い目に
遭いたくないし。
 あと、タマ姉たちの部屋は既に二人いるから、やっぱるーこの部屋しか空いてないよ」
「うう……でもぉ……」
「そんなにるーが怖いか、うーかり」
「うわっ! るーこ、いきなり現れないでよ!」
「うーかりはるーを監視するのではなかったか? なら、るーと一緒の部屋で寝泊まりするのは、うー
かりにとっても都合がいいと思うのだが。それから……」
「それから?」
「さっきも言ったが、るーはうーたちを洗脳などしていないし、する気もない。
 るーにとってうーは恩人だ。そんなうーを洗脳するなど、恩を仇で返すようなものだ。
 誇り高き”るー”の名において、そのようなことは決してしないぞ、うーかり」
191河野家にようこそ 第9話(8/9):2005/06/07(火) 21:06:09 ID:ATKl1hAS0
「……」
「信じろ、うーかり。
 うーかりがるーを警戒する気持ちは分かる。でも、るーは”るー”に帰る日まで”うー”の中で生き
ていくと決めた。そして、もっと”うー”のことを知りたいと思った。だからるーは今、ここにいる。
 互いのことを知ろうともせず、警戒し、その先にあるのは争いだ。そして争いは、両者に悲しみしか
残さない。”るー”の歴史にも、そのような記録は数多くある。だが歴史は学ぶもので、繰り返すもの
ではない。だからうーかり、るーは何も隠さない。あるがままのるーを知ってもらいたい。そして、
るーもうーかりのことを知りたい。それでは駄目だろうか?」
 真剣な目で花梨を見つめ、るーこはそう言った。花梨もるーこを見つめ、そして……
「……ふぅっ、なるほどね、わかったよ。たかちゃん、私、るーこと一緒の部屋にするね。
 あ、言っておくけど、まだ完全にるーこのことを信じたワケじゃないからね! 直接見て、聞いて、
話して、確かめることにした、それだけだかんね!」
「うん、わかったぞ。では、よろしくだぞ、うーかり」
「うん、よろしく、るーこ」
 こうして、るーこと花梨は同じ部屋で暮らすことになった。ところでるーこと花梨のこれって、第何
種接近遭遇になるんだっけ? 後で花梨に聞いてみようか。

 部屋に荷物を置いた花梨、るーこを連れて、俺は居間に戻った。
「あ、タカくんたち戻ってきた」
 居間ではこのみ、小牧さん、雄二(ようやく復活したらしい)がソファーに座っており、タマ姉、
由真はエプロン姿でキッチンにいる。二人は夕食の仕度を始めたようだ。
「あの、やっぱり何か手伝いましょうか?」
 小牧さんがタマ姉にそう尋ねる。
「いいのよ、ここは由真さんと私だけで。そうじゃなきゃ由真さんの特訓にならないから」
192河野家にようこそ 第9話(9/9):2005/06/07(火) 21:06:32 ID:ATKl1hAS0
「そういうこと。愛佳はそこで、たかあきたちと遊んでて」
「う、うん……。と、言われましたが、どうしましょうか?」
「うーん、みんなで遊ぶ、か……。ここは無難なところで、トランプで遊ぶか」
「トランプで何しようかタカくん? わたし、ポーカーとかいいな」
 ポーカーフェイスの出来ない自分がカモにされるとも知らず、このみが言う。
「うーん、あ、そうだ、るーこはトランプって知ってるか?」
「とらんぷ? 知らないぞ、うー」
 やっぱり、宇宙人のるーこが知ってるわけないか。
「それじゃあ、初心者のるーこでも覚えやすいヤツにするか。……ババ抜きなんてどうだろ?」
「ばばぬき? ばばとは老婆のことか? 老婆を抜くとは、仲間はずれにするという意味か?
 ”うー”では老いた”うー”は除け者にされるのか? 酷い風習だな。改善すべきだぞ、うー」
「ああいや、そういう意味じゃなくてな……」
「神経衰弱なんてどうでしょうか?」
「神経衰弱? ”うー”では自分の神経を衰弱させるような遊びがあるのか? 不健全な遊びだな。
あまり感心しないぞ、うーまな」
 ああもう、一体どこから説明すればいいのやら。

 つづく。
193河野家にようこそ の作者:2005/06/07(火) 21:07:58 ID:ATKl1hAS0
 どうもです。第9話です。
 第7話で、由真が貴明のことを「貴明」と呼ばせていたというミス(正しくは「たかあき」)に
今さら気づき、ちょっと落ち込んでます。_| ̄|●
 あと、投稿ミス発見。>>189の正しいタイトルは「河野家にようこそ 第9話(6/9)」です。
194名無しさんだよもん:2005/06/07(火) 22:48:22 ID:r3luuteF0
キタ━━━(゚∀゚)━━━!!!!!
GJ!
くらべっこで蝶萌えた、
小さいことは良いことだ(w
195名無しさんだよもん:2005/06/08(水) 01:48:20 ID:2F6qsSJ10
                 ,r=''""゙゙゙li,
      _,、r=====、、,,_ ,r!'   ...::;il!
     ,r!'゙゙´       `'ヾ;、, ..::::;r!'゙
    ,i{゙‐'_,,_         :l}..::;r!゙
.  ,r!'゙´ ´-ー‐‐==、;;;:....   :;l!:;r゙
 ,rジ          `~''=;;:;il!::'li
. ill゙  ....         .:;ll:::: ゙li
..il'   ' ' '‐‐===、;;;;;;;:.... .;;il!::  ,il!
..ll          `"゙''l{::: ,,;r'゙
..'l!       . . . . . . ::l}::;rll(,
 'i,  ' ' -=====‐ー《:::il::゙ヾ;、
  ゙i、            ::li:il::  ゙'\   *´`⌒*、
  ゙li、      ..........,,ノ;i!:....    `' 、 ! 〈(リ))〉 i! !
   `'=、:::::;;、:、===''ジ゙'==-、、,,,__ `'.'Wi、ヮ^ リ.!W GJでありますよ、>>193隊長!
     `~''''===''"゙´        ~`''~`'' i不 (つ
                         <l_iヾ>
                         〈_ハ_)
196名無しさんだよもん:2005/06/08(水) 03:17:41 ID:/4zkLh3F0
GJ!!

つか、ふと思ったけど、花梨と貴明のやり取りってドクロちゃんと桜くんのやり取りに似てるな。
そう考えたら切なくなってきた(つД`)
197名無しさんだよもん:2005/06/08(水) 15:18:42 ID:Dyg1laLO0
>>193
激しくGJです!
しかし賑やかやな…。
198名無しさんだよもん:2005/06/08(水) 16:38:01 ID:WSV04cSG0
>>196
ぴぴるぴるぴるぴぴるぴー♪
199名無しさんだよもん:2005/06/09(木) 14:59:01 ID:SR6gEJIR0
>>193
GJ!!

翌朝タマ姉が起こしにいったら布団の中に草壁さんが。「運命的な出会いですね」
200名無しさんだよもん:2005/06/09(木) 19:35:29 ID:womftwDL0
>>164です。
続きを書きましたので、またよろしければ読んでくださると嬉しいです(=゚ω゚)ノ

http://fsm-hmx-12.hp.infoseek.co.jp/th2_ss_f.html

一応、ミルファの話の続編という位置付けですけど、いわゆるハーレムルート後みたいな
ものを想像して頂ければ。
双子END後ですと皆で同居していそうですので、それは確実に異なっていると思いますが。
あとは、このみとタマ姉好きなので、そちらとも絡めていく感じで。

夏コミの方はどういう形で頒布するのかまだ決まっていませんので気軽に読んでください。
201名無しさんだよもん:2005/06/09(木) 21:33:48 ID:CPfrX1q50
>>196
「たかちゃんって、こうするとお勉強できないんだぁ〜?」
ワンピースのすそをするすると持ち上げていく花梨・・・

とか妄想しちゃった責任を取ってください
202名無しさんだよもん:2005/06/11(土) 00:36:43 ID:Jei1SfHH0
>200
拍手のコメントで済まそうと思ったんだけど文字数制限で描ききれなかったよ。

『初孫』は『はつまご』でも変換できるけど正しくは『ういまご』ね。
……いや、貴明のお母んが間違えて覚えててミルファはウイマゴはしってるけどハツマゴはしらなかったってことか?

黒船でやってきたペリーも言ってた。ウイマゴはジャッキーにしようかジャクリーヌにしようかって。
203名無しさんだよもん:2005/06/11(土) 01:30:32 ID:+cmzGBGR0
200です。

>>202
ご指摘ありがとうございます。アレは『ういまご』自体を知らなかったということで。
作中の表現については、実は『はつまご』にするか『ういまご』にするかで迷いました。
家族、友人に訊ねてみたところ、ほぼ全員が『初孫』を『はつまご』と読んでいまして。
結局、語感(雰囲気)重視で『はつまご』にしてみたのですが、やはり誤用は避けるべきでしょうか。

小説を書いていると、たまにこういった語の読み等で迷うことがあります。
スレ違いになってしまうかもしれませんが、よろしければ他の方のご意見もお聞かせ願えればなと。
最後になりますが、読んでくださっている皆さん、いつもありがとうございます(=゚ω゚)ノ
204名無しさんだよもん:2005/06/11(土) 02:16:36 ID:qUTb7q9a0
>>200
ジージェー。
205名無しさんだよもん:2005/06/11(土) 10:19:56 ID:yWv+CwkO0
>>201
塩素ガスと青酸カリンで毒殺天使・・・とかどうだろう
206名無しさんだよもん:2005/06/11(土) 20:10:14 ID:sccBEhud0
>>203
はつまご、でいいと思うよ。言葉って変わっていくもんだし、
ういまごなんて使ってる人はもう少ないんじゃない?

元々の意味・使い方等を知ることは大事だと思うけど、
正しい日本語とか言って、意味の無いこだわりとかは
いらない気がする。
207名無しさんだよもん:2005/06/11(土) 22:05:26 ID:5AbA3u+C0
ちょっとおおげさになるからな。
208名無しさんだよもん:2005/06/12(日) 13:21:46 ID:lthA82Bq0
正しい日本語より今使われている日本語ってところかな
元来、文字や言葉は意思疎通のものであり、伝えることが第一だしね。
伝わればいいのさ、なんて思ってる人間がここに
209河野家にようこそ 第10話(1/9):2005/06/13(月) 21:30:02 ID:OZiAr9xm0
 いきなり家に押し掛けてきた花梨は、俺たちがるーこに洗脳されていると信じて疑わない。
 俺が何を言っても、るーこが花梨の前で裸になってみせても、その誤解は解けなかった。
 しかし、るーこの真摯な訴えが、頑なな花梨の心をほんの少しだけ動かしたようで、二人は同じ部屋
に住むことになった。
 ところで、みんなでトランプ遊びをすることになったんだけど、宇宙人のるーこが地球の遊びを知って
いるわけもなく、イチから説明しなけりゃならないわけで……。

 というわけで俺は、るーこにトランプについて、及び神経衰弱のルールを説明した。
「――とまあ、これが神経衰弱のルール。わかったか?」
「理解したぞ、うー。同じ数字の札をめくり当てていけばいいのだな。記憶力が試される、なかなか面白
そうな遊びだぞ。早速始めよう」
 るーこはかなり乗り気のようだ。
「随分な自信だねるーこ。あ、まさか透視とかインチキするつもりじゃないよね!?」
「それはるーに対する侮辱だぞ、うーかり。インチキで得た勝利に何の価値がある? ”るー”の誇りに
かけて、インチキなど行わないぞ」
「ま、まぁ、るーこさんも遊び方がわかったことですし、河野君、始めましょう」
「いよぉし! ここは俺様の記憶力と直感の凄さをみんなに見せつけてやるからな!」
「タカくん、早く早く」
 このみにせかされて俺は、トランプを軽くシャッフルした後、テーブルにばらけた。

「これと……これ。あ、間違えちゃった」
「るーの番だな。うーこのが探していた9の札はこれとこれだ。次に、うーまなが間違えたJの札はこれ
とこれだ。次に、うーかりが間違えた3の札は……」
 とまあ、終始こんな感じでゲームは進み、終わってみればるーこの圧勝だった。
210河野家にようこそ 第10話(2/9):2005/06/13(月) 21:30:21 ID:OZiAr9xm0
 るーこの記憶力は並はずれている。あたかも、他のみんながめくったカードの中身を全て正確に記憶
しているようだった。さすがは宇宙人ってところか。
「お、俺様の見せ場が……」
 愕然とする雄二。
「す、凄いな、るーこ」
「うーたちの記憶力が足りないだけだ。この程度の記憶力では、宇宙航海など到底不可能だぞ、うー」
「い、いや、今のところ宇宙に出かける予定はないから……」
 そして当然、この結果が花梨には面白くないわけで。
「むむむ……さすがは宇宙人、記憶力は地球人以上というわけだね。ならば!」
「ならば?」
「次はババ抜きで勝負よ、るーこ!」
 うう、またルールをるーこに説明しなけりゃならないのか……。

 ババ抜きのルールをるーこに説明し、ゲーム開始。
 今度は割と接戦になっている。だがここに、ババ抜きにおいて致命的な欠点を持つ人間が一人いた。
「はい、タカくん」
 このみが真剣な表情で、数枚のカードを俺に差し出す。さて、どれにしようか……左端のヤツにでも
するか。そう思って俺が左端のカードを抜こうとすると、
「……」
 期待に溢れる笑顔を隠しきれないこのみ。……なるほどな、それがジョーカーか。
 俺は左端ではなく、右端のカードを抜いた。
「ああっ」
 途端に落胆するこのみ。わかりやすいにも程があるって。
 結果、1位は俺、2位は雄二、以下、花梨、るーこ、小牧さんと続き、ビリはやっぱりこのみだった。
211河野家にようこそ 第10話(3/9):2005/06/13(月) 21:30:44 ID:OZiAr9xm0
「うわ〜ん! なんでなんで〜!?」
「あれだけわかりやすい顔してたら、このみがジョーカー持っていることくらい誰でも見抜けるって。
もう少し考えてることを表に出さないようにしないと、ババ抜きでもポーカーでも必ずビリ間違いなし
だぞ」
「うう……そ、そうかなぁ」
「ま、正直なのはチビ助のいいところだけれどな。おかげでババ引かずにすんだし」
「それ全然フォローになってないよユウくん……」
 落ち込むこのみ。一方、
「やったー! るーこに勝ったー!!」
 4位のるーこに勝ったと喜ぶ、3位の花梨。
 ジョーカーをこのみが持ち続ける以上、後はカードの巡り合わせ、つまりは運でしかない。そして今回、
運はほんの少しだけるーこよりも花梨に向いたというわけだ。
「どうよるーこ、これが地球人の実力よ! あまり花梨ちゃんをなめないでよね!」
 まるで自分が1位であるかのように自慢げな花梨。
「るぅ〜、悔しいが今回は敗北を認めるぞ、うーかり」
 あの、るーこさんも、勝ったの俺なんですけど……。
「うう〜! 悔しいからもう一回やろうよ!」
「そりゃいいけどこのみ、さっき言ったとおり、いちいち顔に出てるようじゃ何度やったって同じだぞ」
「こ、今度は顔に出さないもん! 絶対出さないもん!
 それとタカくん、わたしの隣に座るの禁止! どっか移って!」
 そう言って俺を追い出すこのみ。仕方が無いなぁ。
「あ、じゃあ、こっちに座ります?」
 小牧さんがそう言って、座るスペースを空けてくれる。
「うん、ありがと」
 俺は小牧さんの左隣に座った。ちなみに俺の左隣にはるーこがいる。
「それじゃ、始めるからね……んしょっと」
212河野家にようこそ 第10話(4/9):2005/06/13(月) 21:31:05 ID:OZiAr9xm0
 前回ビリのこのみが、慣れない手付きでカードをシャッフルし、みんなに配る。そして配り終えると、
2回戦開始。
 ……さて、次は俺が小牧さんからカードを抜く番だ。小牧さんが俺にカードを差し出す。さて、どれ
にしようか……ん?
「……」
 俺の指先を、いやに真剣な目つきで追う小牧さん。もしかして……。
 俺はまず、真ん中のカードに指を近づける。
「……」
 小牧さんの表情は変わらない。俺は指を、右隣のカードに移す。すると……
「ぁっ……」
 小牧さんの声が漏れる。更に指を右隣へ。
「……」
 また無言。指をさっきのカードに。すると……
「ぁっっ……」
 また小牧さんの声が漏れる。うーん、小牧さんもわかりやすいなぁ。
 結局この勝負、1位は雄二、2位はるーこ、以下、俺、花梨と続き、ビリは小牧さんとこのみが接戦の
末、やっぱりこのみだった。
「いよっしゃ〜〜〜っ!! どうよどうよ、コレが俺様の真の実力ってもんだぜ!!」
 たった1回の勝利がそんなに嬉しいのか、雄二よ。
「うわ〜ん! どうしてまたビリなの〜!?」
 やはりこのみには、ポーカーフェイスは無理らしい。一方、
「うわ〜ん、るーこに負けた〜!」
「今度はるーの勝ちか。2勝1敗だな、うーかり」
 2位のるーこに負けたと悔しがる4位の花梨。るーこもるーこで花梨との勝敗にこだわっている様子。
213河野家にようこそ 第10話(5/9):2005/06/13(月) 21:31:27 ID:OZiAr9xm0
正直、1位でなけりゃ何位だろうと同じだと思うのだが。

 その後ババ抜きを3回やったが、内2回はやっぱりこのみがビリで最後の1回は小牧さんがビリだった。
「小牧さん」
「え、なんですか河野君?」
「最後のアレ、わざとでしょ」
 俺は小声でそう尋ねる。最後のアレとは、小牧さんが残り2枚のカードをこのみに選ばせたときのこと
だ。このみはジョーカーではない方のカードを選び、見事ビリ連覇からの脱出に成功したのだが、どうも
俺には、このみを見かねた小牧さんがわざと違うカードを選ばせたように見えたのだ。
「な、なんのことですか? あたし知りませんよ。ああっ、ビリになっちゃって悔しいですのよ〜」
 とぼける小牧さんだったが、バレバレである。
 ちなみに、花梨対るーこの対戦成績は、花梨が1位、3位、2位に対し、るーこが3位、1位、3位
だったため、先の対戦成績を加えると、どちらも3勝3敗だ。
「うーん、今のところ引き分けだね。これじゃ決着が付かないから、もう1回やろうよたかちゃん!」
「うーかりの言うとおりだ。次をもって最終戦とするぞ、うー」
 だが、試合終了を告げるタマ姉の声。
「みんなー、ご飯出来たわよー」
「だってさ。というわけでトランプはおしまい。みんな、飯食おうぜ」
「ええ〜っ、そんなぁ〜っ!? もう1回、もう1回だけやろうよたかちゃ〜ん!」
 そう訴える花梨。しかし、
「早く来なさーい。でないと晩ご飯抜きにするわよー」
「ええっ、ご飯抜き!? 仕方がない、勝負はおあずけよ、るーこ!」
「同意だぞ、うーかり。いずれこの決着はつけよう。今は食事だ」
 タマ姉の脅しには素直に従う二人であった。
214河野家にようこそ 第10話(6/9):2005/06/13(月) 21:33:49 ID:OZiAr9xm0

 我が家のキッチンのテーブルは6人がけ用で、イスも6脚しかない。
 幸い、予備のイスが2つあったので、8人全員座ることが出来たが、正直ちょっと狭い。
「なんか、TVでよくやってる大家族スペシャルって感じだね」
 このみがそう言って笑う。
「じゃあ、誰と誰がお父さんお母さんだろ? まあこのみちゃんは末っ子確定として、うーん……」
 どうでもいいことを真剣に考える由真。
「やっぱり、河野君と向坂先輩が、その、お父さんお母さん、じゃないでしょうか?」
「わ、私とタカ坊が夫婦!? え、ええっと……」
 小牧さんの発言に、妙にうろたえるタマ姉。
「ええ〜、それは無いよ愛佳。たかあきって頼りないから、環さんとつり合わないよ。
 たかあきは末から二番目の、それもお母さんベッタリの甘えん坊だね。うん、決定」
 由真は普段、そういう風に俺を見ているのか?
「じゃあ、お父さんは? まさか向坂君?」
「ええっ!? 俺が姉貴の旦那!?」
「いや、それも無い。向坂君は、よく食事をたかりに来る環さんの弟」
「それって実際のまま……ってか食事をたかりにって何だよ……」
「じゃあ、お父さんは? もう男の人いないよ?」
「だから、環さんはシングルマザーなのよ。定職に就かず酒浸りの旦那を早々に見限って、女の細腕
ひとつであたしたちを育ててくれてる、肝っ玉母さんってとこだね」
「な、なんだか喜んでいいのか悩む設定ね……」
 苦笑するタマ姉。
「じゃあ、残りの役どころは? みんな向坂先輩の子供ってことなら、その順番は?」
「うーん、そうだね……みんな同じ学年だから、4つ子でいいでしょ」
215河野家にようこそ 第10話(7/9):2005/06/13(月) 21:34:11 ID:OZiAr9xm0
 随分個性的な4つ子だな。っていうか、俺だって同じ学年なんですけど。
「異議あーり! 由真ちゃん、愛佳ちゃん、私が3つ子で、るーこはあくまで宇宙人――そうだね、
記憶操作でこの家の子供だと思い込まされているって設定にすべきでーす!」
 あくまでもるーこが宇宙人であることにこだわる花梨。
「宇宙人だから仲間はずれにするのか? それはイジメだぞ。イジメ、カッコ悪いぞ、うーかり」
「まあまあこの話はそのくらいにして、料理が冷めちゃうからそろそろ食べましょ」
「そうだねタマお姉ちゃん。それじゃあみなさん、いただきます!」
 このみの音頭で全員が「いただきます!」と言った。

 タマ姉の作る料理は味だけでなく、見た目もキレイだ。だが、テーブルに並んだ料理の中に一つだけ、
見た目がイマイチの野菜炒めがある。もしかしてこれって……
「由真」
「なに、たかあき?」
「この野菜炒め、由真が作ったのか?」
「そ、そうよ。それがどうかした?」
「なるほど、やはりそうか。野菜の乱雑な切り方、炒めすぎによる焦げ付きと汁気、とてもうータマが
作ったとは思えない出来だからな、うーゆま」
 ああ、またるーこが余計なツッコミを。
「な、なによなによ! これでも頑張ったんだからね!」
「では、その頑張った成果を確かめさせてもらうぞ」
 るーこはそう言って、由真の野菜炒めを一口食べた。
「――やはりな。野菜は炒めすぎでしなしなになっているし、全体的に脂っこいし、調味料のバランスも
悪い。これではとてもうまいとは言えないぞ、うーゆま」
「ど、どうせそうでしょうよ。悪かったわね、不味いもの出して」
216河野家にようこそ 第10話(8/9):2005/06/13(月) 21:34:30 ID:OZiAr9xm0
「だが、今朝の卵焼きよりは、幾分進歩が見られるぞ。やはり師匠のおかげか。これからもうータマの
教えに従い、精進するがいいぞ。るーはいつでも勝負に応じるからな、うーゆま」
 そう言って微笑むるーこ。
「るーこ……。ええ、待ってなさい! いつか必ず、あんたをギャフンと言わせてやるからね!!」
 どれ、俺も由真の野菜炒めを食べてみるか。――うん、たしかにあまりおいしくない。でも、食えない
レベルじゃないな。朝の卵焼きから比べると格段の進歩じゃないのか、これって。
「ねえ、たかちゃん」
「ん、なに、笹森さん?」
「るーこって、あんな大口叩けるほど料理上手なの?」
「ああ、確かにるーこは料理上手だよ。俺の見立てじゃタマ姉といい勝負だと思う」
「へぇ、そうなんだ。確かに環さんの料理っておいしいよね。これに近いってことか……」
 タマ姉の料理をじっと見つめる花梨。どうしたんだ?
「そう言えば笹森さんって、料理は出来るの?」
「ううん、全然。どうして?」
「いや、るーこの料理の腕を気にしているみたいだから」
「うーん、なんだかね、宇宙人のるーこが地球の料理を作れて、地球人の私が料理出来ないってのが、
ちょっと悔しいなって思ったんよ」
「だったらさ、ここにいる間、笹森さんもタマ姉から料理教わればいいんじゃない? 由真と一緒にさ、
なあ由真」
「え? うん、あたしは別に構わないけど、環さんは?」
「私も構わないわよ。笹森さん、やってみる?」
「ほう、うーかりもうータマから料理を学ぶか。その上でるーとの勝負に挑むのだな。面白い。好敵手
が一人増えるわけだな。望むところだぞ、うーかり」
「……うん、私、やってみるね。環さん、よろしくお願いします!」
217河野家にようこそ 第10話(9/9):2005/06/13(月) 21:34:49 ID:OZiAr9xm0
「ええ、頑張りましょうね。笹森さん」
「あたしと一緒に頑張って、るーこなんかやっつけちゃおうよ、笹森さん!」
 こうして、打倒るーこを目標に掲げ、花梨もタマ姉に料理を教わることになった。
 そんな花梨と由真を見て、小牧さんが嬉しそうに笑っている。
「どうしたの、小牧さん?」
「……河野君、由真、すっかり元気になりましたね」
「え? ああ、確かに、最初の頃に比べたらね」
「ううん、それだけじゃない。由真、とっても明るくなりました。河野君は以前の由真、知ってますか?
以前の由真って、どちらかと言うとおとなしくて口数の少ないコだったんですよ」
「え、マジ!?」
 あの由真がおとなしい? 口数少ない? 到底信じられない。
「きっと、今の由真が本当の由真なんですね。以前の由真って……もがが」
「ち、ちょっと愛佳! なにたかあきに話してんのよ!?」
 小牧さんの口を慌ててふさぐ由真。
「まったく、油断もスキもあったもんじゃない! 人をネタにして笑ってんじゃないわよ!!」
「……も、もが、もがもが……」
「……な、なあ、由真」
「何よ!?」
「お前それ、小牧さんの鼻までふさいでるぞ。小牧さん苦しがってる」
「え!? あ、ああ、ゴメン愛佳、苦しかった!?」
 慌てて手を離す由真だったが、少し遅かったようだ。小牧さんはのびてしまった。
「でろ〜ん……」

 つづく。
218河野家にようこそ の作者:2005/06/13(月) 21:35:15 ID:OZiAr9xm0
どうもです。第10話です。
花梨と貴明のやりとりは確かに、ドクロちゃんと桜君に似ていると思います。
ドクロちゃんの小説読んでるから、影響出ちゃったかも(w
219名無しさんだよもん:2005/06/13(月) 22:07:58 ID:W/axa/EG0
>>218さん
激しくGJです。相変わらずテンポがいいですねー。
これだけ登場人物が多いのに、バランスよく会話に絡ませてらっしゃるのは感服
いたします。
続きも期待して待っています。

自分の他にも貴明花梨のやり取りがドクロちゃんに似てると思ってる人がいらして
よかった(笑
220名無しさんだよもん:2005/06/13(月) 22:20:09 ID:ScXwAuCK0
双子とメイドと中将マダー
221名無しさんだよもん:2005/06/13(月) 23:30:13 ID:D8LQRNhs0
>>218
GJ

ごせろやろーぜ
222名無しさんだよもん:2005/06/14(火) 01:21:56 ID:SRB157rc0
もうちょっと地の文に工夫が欲しいような………
223名無しさんだよもん:2005/06/14(火) 01:33:49 ID:B/79AQLC0
>>218

  | _
  | M ヽ
  |从 リ)〉 ジーーーー
  |゚ ヮ゚ノ|
  ⊂)} i ! 
  |_/ヽ|」
  |'  
224名無しさんだよもん:2005/06/14(火) 01:36:04 ID:mJCuPyIf0
最後に由真と良い雰囲気になって終わりとかはやめてな
225名無しさんだよもん:2005/06/14(火) 12:16:30 ID:MoyYtGUoO
てんだ〜は〜とまだ〜?
とせかしてみる
226名無しさんだよもん:2005/06/15(水) 14:35:04 ID:z1e/rFem0
>>224
むしろ全員で貴明取り合いENDこそベタw
227名無しさんだよもん:2005/06/15(水) 15:47:10 ID:u28af3l20
春夏さん乱入→強奪ENDこそTrue。
228名無しさんだよもん:2005/06/15(水) 16:36:37 ID:Yh3eGgcj0
由真に婿入り→ダニエル襲名こそBAD
229名無しさんだよもん:2005/06/15(水) 17:08:47 ID:2bNm/Jta0
むしろ執事になってメイドと同僚になるのもいいかなと思った。

夢の職場結婚END
230春は終わらないその4(1/9):2005/06/17(金) 01:20:20 ID:Qo6A1dWu0
「あっ、貴明おかえりや〜」
「た、ただいま」
 リビングに顔を出すと、一人テレビの前に座ってゲームをやっていた珊瑚ちゃんが俺に気づくと、ふわふわトロトロの笑顔で出迎えてくれた。
 いつもついお邪魔しますとか言ってしまうが、こうして先にお帰りといわれると、ただいまと返す他ない。
 それにしても、また瑠璃ちゃんが隣にいると泣き出しそうなのやってるなぁ。
「貴明もゲームしよ〜」
「うん」
 鞄を部屋の隅に置き、珊瑚ちゃんの隣に位置取る。
「これ、新しいやつ?」
「そや〜。貴明がいると少しむずくてもへっちゃらや。瑠璃ちゃん怖がってこういうゲームあんま一緒にやってくれへんかったからなぁ」
「瑠璃ちゃんはこういうゾンビとかお化けとか、すごい苦手だからね」
 カタカタとコントローラーを鳴らしながら、テレビ画面を見つめたまま会話を交わす。
「今度格ゲー持ってくるから、一緒にやってみない? それなら瑠璃ちゃんも怖がらないだろうし」
「う〜。それやとちょっとつまらんな〜」
 薄々わかってはいたけど、やっぱり珊瑚ちゃんは瑠璃ちゃんを怖がらせて楽しんでいたのか。
 本人としては『ホラー=怖いもの』なので『怖がってる瑠璃ちゃんは心底ホラーを楽しんでいる』と信じて疑わない珊瑚ちゃんに
悪意はないものだから、瑠璃ちゃんにしてみれば非常に厄介な親切心だろうな。
「まあ明日にでも持ってくるから、一度やってみようよ」
「ええよ〜」
「実を言うと、そのゲームで雄二にぼろ負けしちゃってさ。ちょっと練習したかったところなんだ」
「貴明も男の子やな。そういうことならウチも協力したるよ〜」
 その通り、俺だって男の子だ。負けたまま引っ込むつもりはない。
 雄二との再戦に向け、リベンジの炎が心の中で燃え上がっていた。
「あの、貴明さん」
「ん?」
231春は終わらないその4(2/9):2005/06/17(金) 01:20:54 ID:Qo6A1dWu0
 いつの間にか後ろに陣取ってゲームを眺めていたイルファさんが、控えめに声をかけてくる。
「何もゲームだけでなく、他の私物も持ってくればよろしいのでは?」
「うっ」
 なるべく避けたいと思っていた話題をダイレクトかつピンポイントに振られ、思わず言葉に詰まる。
「お〜、いっちゃん、あったまええなぁ」
 すかさず珊瑚ちゃんも反応を示し、今にもまた引っ越しの話にシフトしそうな状況に陥った。
「そうやってこまごまと私物を運び入れ始めるのは、きっと貴明さんがこちらに引っ越してくる決意をなされたからかと思ったんですが……違いましたか?」
 ダメの一押しだった。


「なー。貴明引っ越してこればええやん」
「なーに、さんちゃん。またその話してるん?」
 一度火がついてしまえばあとは燃え上がるばかりで、結局またいつものパターンで珊瑚ちゃんイルファさんの二人から熱心な勧誘を受けることに。
 なんとかかんとか夕飯まで乗り切り、今は食べるのに集中している振りをしてやり過ごそうと画策中。
「このカレーおいしいなぁ。瑠璃ちゃん相変わらず料理上手だね。ほら、珊瑚ちゃんも今は食事中だし、その話は一旦やめようよ。
せっかく瑠璃ちゃんが作ってくれたんだから、ちゃんと食べなきゃ」
「う〜。わかった」
 根が素直ないい子の珊瑚ちゃんはそういわれると話を中断せざるを得なくなり、不満顔で目の前のカレーに集中する。
 が、カレーを一口食べると途端に笑顔に変わるあたり、実に感情が豊かだ。
「瑠璃ちゃん、このカレーおいしいで〜」
「ほんま? さんちゃんがおいし言うてくれるんならウチもうれしいよ」
 珊瑚ちゃんはすぐに自分の目の前にあるカレーを食べるのに没頭する。
 これで珊瑚ちゃんのほうは食べ終わるまでは大丈夫そうだな。
 食べるのもあまり早くないし、ひとまずは安心といえる。
 さて、問題は……。
232春は終わらないその4(3/9):2005/06/17(金) 01:21:15 ID:Qo6A1dWu0
「…………」
 見てる。すっごいこっち見てるよイルファさん。
 にこやかな笑みを浮かべながらも、一瞬たりとも我から視線を外そうとしない。
 俺が食事中ということを盾にして話題を避ける事を予想していたのか、食事を必要としないイルファさんは俺たちが食べ始めてからは
自分は席に座って静かに佇むだけで、その話題を出すことはしなかった。
 しなかったのだが、その座った席というのがちょうど俺の座っている真正面。否応なしにイルファさんからの視線を感じてしまう。
 恐らくは全て計算ずく、かくしてイルファさんは目で訴える作戦に出ていた。
「今日はイルファ静やな」
 いつも食卓では食事できない代わりに会話で花を咲かせるイルファさんが、さっきから一言も発していないことに気づいたらしい瑠璃ちゃんがイルファさんに声をかける。
「はい。瑠璃様特製カレーをおいしく召し上がる皆さんを眺めているのがとても楽しくて」
 いやいやいや、皆さんとか言って俺に視線釘付けだから。射抜かんばかりに見つめてるから。
 例え理由がなんであれ、女の子にじっと見られていると思うと、非常に落ち着かない。
 意識すまいとしても無理な話で、顔が熱くなるのを自分でも止められず、恥ずかしさを掻き消けすかのように一心不乱にスプーンを口と皿の間を往復させる。
「貴明」
 声のした方に視線を向けると、そこにはまるで不思議な物を見るかのような顔をした瑠璃ちゃんがいた。
「なにやってんの? もうお皿空っぽやで」
 瑠璃ちゃんの視線を追って目の前の皿を見る。既に盛られているものは何もなくなっていた。
「……おかわりください」
 結局食事の間中イルファさんの視線は俺にロックオンされたままだった。
 


 行動は迅速だった。
 三杯目のカレーを平らげ食器をシンクに浸した俺は、すぐさまリビングの隅に放ってあった鞄を拾い上げて玄関に向かった。
「ご馳走様。おいしかったよ。それじゃあまた明日」
 シュタッと爽やかに手を挙げ、そのまま靴を履いて帰途に着く。
 そのはずだったのに。
233春は終わらないその4(4/9):2005/06/17(金) 01:22:16 ID:Qo6A1dWu0
「食後のデザートもありますよ」
 にっこりと笑うイルファさんが玄関で待ち構えていた。
 そう、確かに行動は迅速だったのだ。
 ただイルファさんはそれをさらに上回っていた。
 そんなわけで、戦略的撤退をしようにも退路を断たれてしまった俺はこうして。
「あかん〜、死んだ〜。貴明、ウチの分までファイトや」
「まかせろ、仇はとる」
 珊瑚ちゃんを相棒にし、無心にゾンビを撃ち殺していた。
「さんちゃんも貴明もこんなんのどこがたのしいのかわからへん」
 涙目になりながらも珊瑚ちゃんの後ろにへばりついてテレビ画面を覗き込んでいる瑠璃ちゃん。その根性は尊敬に値するよ。
「瑠璃様、怖いのでしたら無理をなさらず、あちらで私と愛の語らいでもいたしましょう」
「さんちゃんの側にいる」
「つれない瑠璃様も素敵です」
 イルファさんはそれ以上に見上げた根性の持ち主だった。
 不屈のメイドロボだぜ。
「それよりもお二人とも、そろそろお風呂に入られた方がよろしいのではないでしょうか」
 言われて時計を見るともう10時。夢中になっていたのか、気づかぬうちにいい時間になっていたらしい。
 もうお暇するほうがいいだろうと腰を上げようとしたところに、珊瑚ちゃんの声が降ってきた。
「ほな、お風呂入ってくるな。貴明、ファイトや」
「え、ちょ、ファイトって」
 俺の返事を聞く間もなく、珊瑚ちゃんは脱衣所へと行ってしまう。
「あっ、さんちゃん待ってぇなー」
 瑠璃ちゃんもすぐに着替えを持って珊瑚ちゃんの後を追う。
 リビングにはゲームパッドを持って固まっている俺と、その俺の隣に腰を下ろして先ほどまで珊瑚ちゃんが使っていたパッドを
手にしたイルファさんだけが取り残される。
「さぁ、頑張ってクリアしてしまいましょうねっ!」
 あ、頑張れってやっぱそういうことなのね。


234春は終わらないその4(5/9):2005/06/17(金) 01:22:38 ID:Qo6A1dWu0
 なんだか以前にも似たような状況に陥ったことがあったような。
 行く手を阻むゾンビを次々に撃ち殺しながら記憶を遡ってみる。
 否、あったようなではなく、あったのだ。思い出したぞ。
 あれは確か、初めてこの家に来た時のことだ。あの時も俺に中ボスを倒すようノルマを課して珊瑚ちゃんたちがお風呂にいってしまったんだった。
 それでバスタオル一枚で珊瑚ちゃんが出てきちゃって、いつものごとく瑠璃ちゃんからの攻撃を食らったんだけど、それがクリティカルヒットしてしまい、
意識を手放した俺はそのまま自分の意思とは無関係にお泊りすることになってしまったんだ。
 ……よく考えれば、俺が引っ越しするとかって話が出たのもそれがきっかけだったんだっけ。
「ねぇ、イルファさん」
 ゲーム画面から目を離さないまま声をかける。
「は、はいっ、なんでしょう!?」
 イルファさんは手元のパッドを必死にかちゃかちゃと操作しながら返事をしてくれる。
 珊瑚ちゃんに代わり、俺の隣で相棒を勤めているイルファさんは、先ほどから予想外の苦戦っぷりを披露していた。
 現時点で最上級の技術を投入されて生まれた新型という肩書きのせいか、てっきり鼻歌でも歌いながら楽々と
ノーミスクリアとかしそうなイメージがあったのだが、これは意外にも意外な展開だ。
「あっ、あっ、ああー……。やられてしまいました」
 こうして最先端技術の結晶は市販のゲームに敗れ去った。
「思ったよりも難しいんですね。これはもっと練習が必要です」
 その一言で気が付いた。そうだ、最先端技術の結晶だからこそだったんだ。
 練習をするなんてメイドロボらしからぬ台詞だが、イルファさんに限ってなんの違和感もない。
 過程から結果が生まれる。学習ではなく、成長をする。
 イルファさんをはじめとするHMX-17シリーズは、珊瑚ちゃんの提唱した新理論により、全くの新しいアプローチで生み出されたメイドロボだ。
 生みの親である珊瑚ちゃんは、感情から知性を生み出す道筋を求め、そしてそれは『彼女たち』をより人間に近い存在へと押し上げた。
「あの……、そんなに見つめられては照れてしまいます」
 恥ずかしそうに頬に手を当てているイルファさんに言われ、いつの間にか視線がゲーム画面からすぐ隣に移っていたことに気づく。
235春は終わらないその4(6/9):2005/06/17(金) 01:32:23 ID:Qo6A1dWu0
「あっ、ごめん」
「それよりも、何かご用だったのでは?」
「そうそう、そうだった」
 特に気にした素振りも見せないイルファさんに促され、いよいよ本題を持ち出す。
「そのさ、このマンションへの引っ越しの話なんだけどさ」
 パッドを置き、イルファさんのほうに向き直る。
「珊瑚ちゃんもイルファさんも、俺が一人暮らししてるのを心配して言ってくれてるんだと思う。それはすごく嬉しいし、俺だって
みんなと暮らすのは楽しいだろうな、なんて思うくらいで、嫌だとかは思っていないんだ」
「それではついにこちらに越してきてくださるんですか? 嬉しいです。珊瑚様も瑠璃様もきっと喜びますよ」
「いや、違うんだ。とりあえず今のは俺自身の気持ちの話。でも、やっぱり引っ越しは無理なんだ」
「そんな……」
 悲しそうに俯むくその表情は、罪悪感となって俺の心に重くのしかかる
 ああ、ごめんなさいイルファさん。だけどもうちゃんと言っておかないといけないと思ったんです。
 今日雄二に言われた『女に甘い』というのは、きっとこういう場面ですぐに引き下がってしまう俺の情けなさをずばり言い当てていたのかもしれない。
「俺がみんなと暮らしたいと思っても、やっぱり現実はそう簡単にはいかないんだ。俺も珊瑚ちゃんも瑠璃ちゃんもまだ学生だし」
 同年代の女の子が姉妹だけで住んでるところに転がり込むのは大変世間体がよろしくない。
 学校側に知られたら何らかの処分がある可能性だって否めない。
「それにほら、俺も一応両親から家の留守を預かってる身だから、その家を離れるってわけにはいかないんだよ」
 あとは、一緒に暮らすのはやはりちょっと恥ずかしいという俺の個人的な私情もあるが、それは黙っておく。
 ともあれ、これでひとまずは言うべきことは言った。
 これでイルファさんが納得してくれれば、そのまま珊瑚ちゃんの説得も手伝ってもらえるかもしれない。
「そうですか……」
 イルファさんは難しそうな顔でそう小さく呟くと、顔を上げてこう続けた。
「確かに貴明さんのおっしゃるとおりです」
 おお、どうやら本当にわかってくれたみたいだ。
 よかった、安心した。
236春は終わらないその4(7/9):2005/06/17(金) 01:32:57 ID:Qo6A1dWu0
 ここまではっきりきっかりと拒絶してしまえば、理由がどうあれイルファさんも少なからず傷つくかもしれないと懸念していたが、どうやら杞憂で終わったようだ。
「お父様とお母様に留守を任されていらっしゃるのに、勝手に家を出るわけにはいきませんね」
「え、ええ、そうなんです」
「それを、貴明さんにこちらに引っ越してきてくださいというのも難しい話でしたね」
「はい、そういうことです。わかってもらえてよかった」
「でしたら私たちが貴明さんのお家に引っ越すというのはどうでしょう? これなら問題解決です」
 ぜんぜんわかってくれてませんでした。
 なんて究極的にポジティブシンキング。
 さすが珊瑚ちゃんが生みの親というだけのことはある。
 なんでこれで瑠璃ちゃんとの一件であんなマイナス思考に陥っていたのか、今思えば不思議なくらいだ。
 それはともかく、このまま話の路線を「俺が姫百合家にお引っ越し」から「みんなが河野家にお引っ越し」にシフトさせておくのは得策ではない。
 こんな話を珊瑚ちゃんが聞きつけようものなら

『やたー。貴明んちにお引っ越しやー』

 とか言って決行に乗り出すのは目に見えている。
「あ、あのですね。それでは根本的な解決には」
 そう口を開いた途端だった。
「やたー。貴明んちにお引っ越しやー」
 想像したとおりの台詞が、想像したとおりの人物から発せられた。
  何もこんな時ばっかり寸分違わず予想通りにならなくたっていいのに。

237春は終わらないその4(8/9):2005/06/17(金) 01:33:34 ID:Qo6A1dWu0
『第一回家族会議』
 あの後珊瑚ちゃんに続いてお風呂から上がってきた瑠璃ちゃんも加え、4人全員揃ってテーブルを囲う。
 議題は無論、俺の引っ越し(または珊瑚ちゃんたちの我が家への引っ越し)について。
「では会議を始めたいと思います。瑠璃様、珊瑚様、貴明さん、皆様準備はよろしいですか?」
「ええでー」
「もー、湯冷めしてまうやん。これでさんちゃんが風邪でも引いてみぃ。ただじゃおかへんからなー貴明」
「いや、俺は別に明日でもいいって言ったんだけど」
 その珊瑚ちゃんが率先して『家族会議やー』と言い出して今に至るわけなんですが。
 だがせっかくの機会だ。ここできちんと納得してもらわなければ。
「まずは貴明さん、ご両親の不在自に勝手にご自分も家を空けてしまうわけにはいかない、ということでしたが」
「そういうことです」
 確認するように先ほどの俺の話を反芻する。
「親が帰ってくるまでは、責任を持ってきちんと家を管理しないと」
 うん、これはどう見ても正論だ。
「だからウチらが貴明んちにお引っ越しや」
「ちょ、待ってぇなさんちゃん。そしたらこのマンションはどうするの?」
「お二人とも、お待ちください。まだ貴明さんの発言の途中です」
 すごいよイルファさん。見事に議長役をこなしている。
「まず前提として、一緒に暮らすっていうのが難しいと思うんだよ。学校とかに知られたら問題になるだろうし」
「学校の対処…と」
 イルファさんはいつの間に用意したのか、先ほどから飛び交う意見を律儀にホワイトボードに書き込んでいる。
「あとは……」
 そこで少し言い淀む。
 俺には決定的に引っ越しを拒絶しなければならない理由があるだ。
 だが、それを口にするのは非常に躊躇われる。
238春は終わらないその4(9/9):2005/06/17(金) 01:33:58 ID:Qo6A1dWu0
「あとは……なんなの?」
 せかすような口調の瑠璃ちゃんに促され、口を開く。
「タマ姉に知られたら、タダじゃ済まされない」
 そう、それが俺の中ではかなりの割合を占めていた大きな理由なのだ。
 情けないと思わば思え。しかし敢えて声高に言おう。タマ姉の反応がものすごく怖いと!
 雄二を見ているととてもそうは思えないが、向坂家はとても由緒正しい家であり、そこで厳しく育てられたタマ姉は
今にしては珍しいほど昔気質なところがある。
なんせ、カラオケやゲームセンターを不良の溜まり場と言って憚らない人だし、女の子と一緒に住むなどと言えばそれはもう
あれこれとお説教をくらうのはわかりきっている。
 下手をすれば頭を割られてしまうかもしれない。
「まして俺の家に引っ越して来るなんて、自分からタマ姉の餌食になるようなもんだ。絶対やめたほうがいい」
 俺の家は言わばタマ姉のテリトリー。
 珊瑚ちゃんたちが引っ越してくれば、そのままタマ姉の支配下に入るようなものであり、逆に俺が引っ越すなんてことは他国に亡命するようなもの。
 どちらにしてもタマ姉が心穏やでいてくれるとは思えない。
「タマねーちゃん、優しそうやったけどなぁ」
「環様、と」
 イルファさんがさらにホワイトボードに書き込む。
「これらを解決すれば、晴れて貴明さんと一緒に暮らせるようになるのですね」
「そや〜。貴明、見ててな。ウチがんばるよ〜」
「私も瑠璃様と珊瑚様のために精一杯頑張りますっ」
「……あれ」
 なぜか話が妙な方向に。
 この会議の主旨は一緒に暮らせない理由を列挙し、みんなに納得してもらうためのものじゃなかったっけ?
「まずは貴明のパパやんたちに連絡やね」
 俺の疑問などお構いなしに、珊瑚ちゃんとイルファさんは手際よくあれこれと準備を進めていくのであった。
 遠い地にいるお父さんお母さん、多分近いうちに度肝を抜く連絡がいってしまうと思いますがごめんしてね。
239名無しさんだよもん:2005/06/17(金) 02:10:00 ID:zIFmSlW30
GJ
読みながらニヤけてしまいましたよ
240名無しさんだよもん:2005/06/17(金) 04:33:31 ID:aEw5KJ4t0
>>238
良務!是非常良!
給仕的機械激萌!

>>あちらで私と愛の語らいでもいたしましょう
>>つれない瑠璃様も素敵です

我激笑wwwwwwwwww
是即一花的会話良表現
241名無しさんだよもん:2005/06/17(金) 19:21:06 ID:/zdfufBi0
>>200です
ご意見を下さった皆さんどうもありがとうございました。
少し間が空きましたが、また続きをアップしましたので読んで頂けると嬉しいです。

http://fsm-hmx-12.hp.infoseek.co.jp/th2_ss_f.html
242名無しさんだよもん:2005/06/18(土) 04:25:08 ID:cXERuFNO0
デリってるorz
243名無しさんだよもん:2005/06/18(土) 15:32:29 ID:eHMk6hcx0
【アニメ】 「ToHeart2」アニメ化決定 【今秋】
http://news19.2ch.net/test/read.cgi/moeplus/1119075718/
244名無しさんだよもん:2005/06/19(日) 20:33:49 ID:vVN+XUaU0
>>241
GJ!!
245河野家にようこそ 第11話(1/9):2005/06/21(火) 19:32:15 ID:fAPubEOp0
 タマ姉、由真が夕食を作る間、俺たちはトランプで遊ぶことになった。
 トランプ初心者のるーこだったが、神経衰弱では圧勝、ババ抜きでは花梨と順位を競い合った。
 一方、ポーカーフェイスの出来ないこのみはババ抜きでは連続ビリ。最終戦では小牧さんに勝ちを
ゆずってもらい、なんとかブービー賞を取った。小牧さんは優しいなぁ。
 夕食時。由真の作った野菜炒めを食べたるーこは、由真の料理の腕が少し上がったことを認めた。
そして、そんな由真に触発されたのか、花梨もタマ姉に料理を教わることになったんだ。

 夕食が終わり、食後の後かたづけ。今日は俺と花梨がやることになった。
 花梨がテーブルから食器を運び、それを俺が流し台で洗う。まあ、このくらいの作業は料理の出来ない
俺と花梨でも問題ない。
「ねぇ、たかちゃん」
「なに、笹森さん?」
「こうやって、たかちゃんと一緒に何かするのって、久しぶりだよね」
「そうかもね。ここのところ忙しくて、部活に出てなかったからね」
 花梨に対して、少しだけすまない気持ちになる。なにせミステリ研は花梨と俺の二人だけだ。俺が
出なけりゃ花梨は一人っきりなわけで……
「たかちゃんは今、るーこに洗脳されて手下になっているから仕方がないよね。でも任せて、るーこの
陰謀はこの花梨ちゃんがきっちり暴いてみせるから。そしたら、たかちゃんも元に戻って、また一緒に
部活出来るよね!」
 ああもう、また話がそっち方面かよ。もういい加減、洗脳を否定するのも疲れてきたよ……。
「どうかした、たかちゃん?」
「ん、いいや、何でもないよ」
「たかちゃん、私ね、環さんに料理教わることになったでしょ。でね、まず真っ先に教わりたい料理が
あるんだ。何だと思う?」
246河野家にようこそ 第11話(2/9):2005/06/21(火) 19:32:39 ID:fAPubEOp0
「やっぱ、タマゴサンド?」
「大正解!! さすがだねたかちゃん!」
 まぁそりゃ、花梨=タマゴサンドってくらいだから、すぐに思いつくわな。
「一口にタマゴサンドって言っても、その味はお店によって結構違うんだよね。学校の購買のは花梨的
には第2位かな。ちなみに第1位は、商店街の安田ベーカリー! でもあそこってあんまり多く作らない
から、売り切れていることが多いんよね。
 あ、でね、何が言いたいかって言うと、一番大好きなタマゴサンドをもし自分で作れたら、毎日毎食
おいしいタマゴサンドが食べられるんだよね! これって最っ高に幸せだと思うんよ!」
 毎日毎食ってさすがに飽きないか? タマゴサンドマニアの花梨なら飽きないのかも。
「たかちゃん、私がタマゴサンド作れるようになったら、たかちゃんにも食べさせてあげるから、楽しみ
に待っててね! あ、そだ、ついでにハムサンドの作り方も教わろうっと」
 ハムサンドって、パンにハムはさむだけじゃないの?

 後かたづけが終わり、ふと居間の方を観ると、タマ姉がTVを見ている以外誰もいない。このみや小牧
さんはもう帰ったのかな?
「タマ姉、他のみんなは?」
「タカ坊の部屋にいるわよ。由真さんがみんなを連れて行ったの。例のホラ、まじかるナントカってゲーム
を小牧さんにも見せたいんだって。私は興味ないから断ったんだけど」
 うあ……またギャルゲーですか由真さん。っていうか、最早完全に由真が楽しんでるよな。
「で、タマ姉は何見てるの?」
「歌番組よ。最近はどんな曲が流行っているのか少し気になってね。
 それにしても、最近の歌手って昔と全然違うのね。昔みたいに歌唱力よりルックス重視のアイドル歌手
が少なくなって、今は歌唱力や歌詞、音楽そのものが重要視されているって感じね。好ましい傾向だと
思うわ。でも……」
247河野家にようこそ 第11話(3/9):2005/06/21(火) 19:33:02 ID:fAPubEOp0
「でも?」
「今映ってるこのグループ、さっきからずっと曲のテンポに合わせて喋ってるだけなんだけど、何なの
これって? まるでお経じゃない」
 長らく下界から遠ざかっていたタマ姉は、ラップというものを未だ知らない。

 そのままタマ姉と一緒にTVを見ていてもよかったのだが、俺の部屋で由真たちが余計なことをして
いないかも気になる。俺は自分の部屋に行くことにした。
「あ、たかちゃん、私にも行く」
 そう言って花梨もついてくる。
 俺の部屋に入ると、そこでは由真、るーこ、このみ、小牧さん、それに雄二が全員、ゲームの画面に
注目している。なんか異様な光景だ。
「ど、どうしたんだみんな?」
「あ、たかあきちょうどいいところで来た! ホラ、あんたも見なさいよ」
「な、何だよ一体……」
 由真にそう言われて、俺も画面を見る。画面に表示されているのは、萌子ちゃんが主人公に抱きついて
いるシーンだ。そして萌子ちゃんは主人公に、想いをついに打ち明けた。
『あたし、あたしお兄ちゃんが好き!!』
「いよっしゃ〜〜〜っっっ!! ついに来た、告白シーン!! もはや萌子ちゃんルート確定だね!
 さあ、後は主人公の気持ち一つ! 一気にいっちゃえ、エンディングへ!!」
 由真が興奮気味にまくし立てる。まあ実際遊んでいるのは由真だから、喜びもひとしおなのだろう。
 だが……
『ごめん……、俺、萌子の気持ちには応えられない』
 それは、誰もが予想せぬ主人公のセリフだった。
「え、ええーーーっ!?」
248河野家にようこそ 第11話(4/9):2005/06/21(火) 19:33:22 ID:fAPubEOp0
 仰天する由真。声が大きいって。隣の古池さん、ラーメン吹いてるかも知れないぞ。
『そんな……お兄ちゃん、どうして?』
『俺、やっぱり萌子のこと、妹だとしか思えないんだ。だから、ごめん……』
『お兄ちゃん……。そっか、そうだよね。でもね、萌子はそれでもお兄ちゃんが好きなの。
 ねぇお兄ちゃん、これからも仲良くしてくれる? 妹として』
『ああ、もちろんさ』
『うん、これからもよろしくね、お兄ちゃん』
『こうして、俺達の関係は兄と妹のまま、変わることはなかった。
 まじかるハートフルデイズ fin』
 由真のこれまでの努力(?)も虚しく、ゲームはいわゆる、バッドエンドを迎えた。
 エンディング曲が流れ、真っ暗な画面にスタッフの名前が次々とスクロール表示される。
「ど、どうしてバッドエンドなの……? お昼と放課後のキャラ選択は萌子ちゃんオンリーだったし、
選択肢だって直前でセーブして、萌子ちゃんの反応がいい方を選んでいったのに……」
 愕然と呟く由真。たかがゲームで大げさ過ぎだろと思ったが、言うと殴られそうなので黙ってる。
 で、そんな由真を見ると、放っておけないのが親友の小牧さんなわけで。
「ゆ、由真、気を落とさないで。
 あたし、このゲーム初めて見たからよく分からないけど、きっと、こういうゲームなのよ。
 ほ、ほら、兄妹愛とは何かがテーマで……」
「いや、それはあり得ないな」
 小牧さんの必死のフォローをあっさり否定したのは雄二だ。
「由真ちゃん、このゲームの持ち主として言わせてもらおう。さっき君は萌子ちゃんオンリーで進めた
と言っていたが、果たしてそれは正しかったのだろうか?」
「ど、どういうことよ?」
「ゲーム開始時点から、主人公と萌子ちゃんは”兄妹”として仲良く接してきた。昼飯を一緒に食べる
249河野家にようこそ 第11話(5/9):2005/06/21(火) 19:33:44 ID:fAPubEOp0
のも、学校から一緒に帰るのも、いつもと同じ、普段通り。由真ちゃんはそんな、二人にとってはいわ
ゆる日常的な行動しか選んでいなかったということだ。
 更に言えば、放課後のキャラ選択時、萌子ちゃんが出てこなかったことが度々あっただろう。その時、
由真ちゃんは何を選んだ?」
「そりゃもちろんまっすぐ家に……はっ!?」
「そう、その通りなのだよ由真ちゃん! それに気付くべきだったのだよ!」
「そ、そうか……、いつもと同じ事を選んだって、何も変わらない。だったら、その何かを変える外的
要因が必要ってことか……。この場合、他のヒロインの好感度も上げて、いわゆるバーサスイベントを
発生させる必要があったということね」
 俺さ、気になってるんだけど、由真、好感度だのバーサスイベントだの、段々ギャルゲーに染まって
いってないか?
「わかっただろう由真ちゃん。さぁ! いつまでも失敗したことにクヨクヨせず、もう一度最初からやり
直すんだ! そしてつかみ取れ! 栄光の萌子ちゃんハッピーエンドを!!」
「ええ、任せて! 一度の失敗なんかでめげるあたしじゃないわ! 今度こそ必ず萌子ちゃんをゲット
してみせる! だからもう少しまっててね、このみちゃん!!」
「わ、わたしのため? う、うん……」
 なんでこのみのためなんだ? 由真いわく、このみが萌子ちゃん似だからか?
「さぁ、そうと決まったら始めから……」
「ぽちっとな」
 そう言ってゲーム機の電源を切ったのは、花梨だ。
「な、何するのよ笹森さん!?」
「このゲーム一人でしか遊べないし、つまんないよ。
 ね、ね、それよりも、もっと面白いソフト持ってきたから、みんなでやろうよ」
 そう言って花梨がみんなに見せたのは……
250河野家にようこそ 第11話(6/9):2005/06/21(火) 19:42:07 ID:fAPubEOp0
「何だこれ? 『マインドツーカー』?」
「知らないのたかちゃん? これを遊ぶと超能力が覚醒するという、そのスジでは超人気なゲームだよ!
 そのあまりの人気のせいで、入手が困難なレアものであることでも有名なんだよ!」
 人気があるのに入手困難って、矛盾してないか? っていうか、超能力を覚醒させるなんて、うさん
臭いにも程がある。ただマニア受けしてるだけのクソゲーだろ、これ?
 そんな俺を余所に、花梨は手早くソフトを入れ替え、ゲーム機を起動させる。やがて画面にタイトル
が表示され、花梨はコントローラを由真から引ったくり、スタートボタンを押す。すると……
「何、これ?」
 画面には、ポリゴンで書かれた5円玉がヒモで吊されている。ただそれだけ。
「笹森さん、これ、何すればいいの?」
「わからないかな、たかちゃん。念力だよ。念力を送って、5円玉を動かすんだよ。
 さ、たかちゃんやってみて。自分を信じて、一心に念を送るんだよ」
 馬鹿馬鹿しいとは思ったものの、多分それを口に出しても花梨の意思は変わらない。仕方がないので
俺は言われるがまま、画面の5円玉に向かって、動け、動けと念を送る……。
「……動かないね」
 どのくらいの時間が経ったのか、このみのその声を聞いて、俺は諦めた。
「動かないよ。どうやら俺はダメらしいね」
「うーん、残念だけどそうみたいだね。それじゃあ次、由真ちゃん」
「ええっ、あたし!?」
「さ、ほらほら、ここに座って念じるの。動けって」
「ええ〜、動くワケないよ。第一あたし、そういうの信じてないし」
「そんなこと言わず、ちょっと試してみるだけでいいから、ほら」
 花梨に強引に画面の前に座らされて、由真は呆れ顔で、それでも仕方がないからやってみることに
したようだ。
251河野家にようこそ 第11話(7/9):2005/06/21(火) 19:42:31 ID:fAPubEOp0
 多分「動け」と念じているのだろう。由真は真剣な表情で画面の5円玉に集中している。
 だがやはり、5円玉は一向に動こうとしない。
「ほら、やっぱダメ」
 そう言って、降参しましたって感じで両手を上げて立ちあがる由真。と、由真は何かに気がついたと
いった表情で、るーこを見て言った。
「るーこなら出来るんじゃないの? なにせ宇宙人だし」
 いや、宇宙人と超能力はジャンル違いだと思うんですけど……。
「むむっ、確かにそうだね。宇宙人だし」
 あの、花梨さんも、なに同調しちゃってんの?
「出来る? 何をだ、うーゆま、うーかり?」
「だから、念力だよ。念力でこの5円玉を動かすの。宇宙人だからこのくらいのことは出来て当然じゃ
ないの?」
「何の根拠もない発言だな、うーかり。そんなものでるーを測られるのは困る。
 第一、こんな5円玉を念力で動かせたとして、それが何になる? 5円玉を動かしたければ、手で動
かせばいいだけのことだ。念力になど頼る必要はない。そうではないか?」
「念力の価値なんかどうでもいいの! 念力が使えるかどうかが重要なんだから!
 私たち地球人類にとって未だ未知の領域である超能力。それがもし自在に使えるようになったとき、
人類は更なる進化の時を迎えるんよ、人の革新なんよ!」
 なんか白いロボットが出てくるアニメを思い出しましたよ、俺。
「まあ、自分の足元にしか世界がない”うー”には、この程度の児戯が革新だと思えても仕方がないの
かもしれないな。ところでうーかり、うーかり自身は出来るのか?」
「で、出来たよ! ……3時間念じて、1回だけちょこっと」
 出来たことよりむしろ、3時間念じたあなたの集中力に拍手したいですよ俺は。
 などと俺が思っていたとき……
252河野家にようこそ 第11話(8/9):2005/06/21(火) 19:42:52 ID:fAPubEOp0
「あ、動いた」
「え!?」
 その声に、思わずみんなが画面を見る。――おお、確かに5円玉がゆらゆらと左右に動いているじゃ
ないか! 一体誰が……って、
「このみが!?」
「うん、そ、そうみたい。
 タカくんたちみたいに、『動け〜、動け〜』って念じてみたんだ。そしたら動いちゃった」
 このみ本人も驚いている様子だ。
「やったねこのみちゃん!!
 凄いよ、このみちゃんは今、人類を超えた存在になったんだよ! 新人類だよ!!」
 そうか、このみは新人類か。じゃあその内、仮面の軍人にそそのかされて、某一流ブランドと同じ名前
のマシンに乗って、白いロボットと戦ったりするのだろうか? なんてな。
 あ、5円玉の動きが止まった。
「ね、このみちゃん、もう一回やってみて。今度は動く瞬間をきっちり見たいから!」
 花梨がこのみをせかす。このみも「うん、わかった」と快諾して、再び念力集中。
 ――あれ? 動かないぞ?
「あ、あれ、どうして、さっきは動いたのに? 動け〜、動け〜」
 このみが更に念力を送るが、5円玉は止まったまま動かなかった。
 結局、さっきのアレはまぐれだったのだろう。人の革新はまだ遠いようだ。

 楽しい時間はあっという間に過ぎていくというのは本当だ。気がつけば時計の針は、夜の9時を指そう
としていた。
「あ、もうこんな時間。あたし帰らなくちゃ」
 小牧さんがあわてて帰り支度を始める。
253河野家にようこそ 第11話(9/9):2005/06/21(火) 19:43:17 ID:fAPubEOp0
 確かに、女子高生が夜の9時に帰宅というのは、世間一般の常識から考えても問題がある。帰ったら
小牧さん、ご両親に叱られるんじゃないだろうか。
 それに、こんな時間に女の子を一人、夜道を帰らせるのはとても危険だ。だから、
「小牧さん、俺、家まで送るよ」
「河野君? や、や、いいですよぉ。大丈夫、一人で帰れますから」
「さすがにこんな時間の一人歩きは危険だよ。今日は小牧さんが何と言っても送るからね」
「河野君……、はい、あ、あの、よろしくお願いします」
「途中までは俺も一緒するよ、小牧さん、貴明」
 雄二がそう言って立ちあがる。
「あ、じゃあ、わたしも家に帰るね」
「そうだな、このみ。それじゃあ行きますか」

 このみが家に入るのを見届けてから、小牧さん、雄二と夜道を歩く。
「にしても、短期間で随分賑やかになったな、貴明の家」
「まあなぁ。由真が来て、タマ姉が来て、るーこは俺が招いて、そしたら笹森さんだもんな」
「まったく、モテる男はつらいってか? うらやましいぜ畜生!
 なぁ貴明、まさかこれ以上、女の子が増えるなんてことないよな?」
「まさか、いくらなんでもそんなことあるわけ……」
「あら、わかりませんよ?」
「小牧さん?」
「あたしも、河野君の家に住みたいな」
 な、なんですと〜〜〜っ!?

 つづく。
254河野家にようこそ の作者:2005/06/21(火) 19:43:36 ID:fAPubEOp0
どうもです。第11話です。
>>222さんの言う「地の文」の意味すら知らなかったド素人の作者です。
とりあえず意味は分かったので俺なりに頑張って書いてみます。
よければこれからも読んでやってください。
255名無しさんだよもん:2005/06/21(火) 22:02:02 ID:pg6UQpDJ0
そうだね、確かに地の文は説明・捕捉としか機能してないっつーか
シチュを淡々と説明してるだけなんで、どうにも場のふいんき(なzry)が伝わってこない印象がある。
もう少しタカ棒の個性を出してあげましょう
256名無しさんだよもん:2005/06/21(火) 22:20:47 ID:QRMYeqKx0
慣れてないと説明以上のことを書きにくいというか、作者さんの個性が出る分「地の文」は
書くのが難しいよね。
他にSS書いてる人もいるわけだし、それこそゲーム本編も参考になるから、コツがつかめる
までそういうところに注意してバランスを取ってみればいいと思う。

>>254
続き頑張ってください!
257名無しさんだよもん:2005/06/21(火) 23:55:22 ID:tihchdWEO
>>254
GJ杉
マインドツーカーワロタ
258名無しさんだよもん:2005/06/22(水) 00:19:47 ID:8XXC65if0
全く関係ないけど
>今は歌唱力や歌詞、音楽そのものが重要視されている
この部分につっこみたくなる
259名無しさんだよもん:2005/06/22(水) 01:03:50 ID:h1FudDYp0
>>254
GJ。雄二のギャルゲレクチャーにワロスw
あとタマ姉にzazen聞かせたい、あれこそ真のお経。
260名無しさんだよもん:2005/06/22(水) 01:20:06 ID:NviY8Zcp0
GJ
いいんちょまで泊り込み開始ですか(w
双子と中将マダー
2610/6 Tender Heart その6:2005/06/26(日) 03:23:33 ID:treKAeRe0
 長くなってきましたし、間が空きすぎたので必要かな?と。


 前回までのあらすじ

 今日はこのみが河野家に泊まりに来る日。久しぶりにこのみが寝坊した以外はいつも通りに始まった一日は、雄二が
真面目な顔で言ったこの一言で狂い始める。
「――このみを抱きたいと思わないわけじゃないんだろう?」
 いつも通り甘えてくるこのみに、いつも通りに接することができない貴明。昼飯も食い損ね身も心もボロボロの貴明
は、このみの提案でアイス屋に寄る。
 今日はずっと一緒にいられるから嬉しいと笑うこのみに、貴明は正念場に立たされていることを自覚する。
 そこに、よっちとちゃるが現れた。



2621/6 Tender Heart その6:2005/06/26(日) 03:26:19 ID:treKAeRe0
「タ、タカくん……」
「うひゃ〜っ。ど、どうしたんスかセンパイ!?」
「――先輩、もしかしてお腹すいてるか?」

 席に着くやいなや三段重ねのアイスにかぶりついて食べ始めた俺を見て、このみたち三人は自分のアイスに口をつける
のも忘れた様子でそんな声をあげた。
 しかし、今の俺にそれにかまっている余裕はまったくなかった。
 う……美味い!
 口の中でとろけたアイスの冷たく濃い流れが、干涸らびかけた食道をつたって空っぽの胃袋へ落ちていく様子がありあ
りと分かる。
 まるで体の中に一本の線が走ったみたいだ。
 いや――これはむしろ河!
 乾燥しひび割れた大地を潤す生命の大河!

「な、なんか、センパイ泣いてるっぽくない?」
「バニラと紫芋とシークァーサー、泣くほど美味しいのか。……今度試そう」
「たぶんアイスの種類とかじゃなくて、単純にタカくん、お腹すいてたからだと思う……」
 このみは苦笑いを浮かべてそう言って、ようやく自分のアイスを舌先でちろっと嘗めた。
 ちなみにこのみが頼んだのはストロベリーのシングルだ。
 アイス屋に行こうと言い出したのはこのみなのにどうしてシングルなのか疑問に思って尋ねたけれど、このみはえへへ〜
と笑って答えてくれなかった。
 ダイエットを気にするようなタイプでも無いし、どちらかというと普段なら俺のアイスを一口貰いたがるタイプなのに
な、などと考えつつも口はほとんど自動的に動き続け、今は最下段のバニラと一緒にコーンを囓っている。
「センパイ、そんな一気に食べて大丈夫っスか?」
 俺がやや落ち着いたと見たのか、正面に座るよっちがちょっと呆れたような顔で尋ねてきた。
2632/6 Tender Heart その6:2005/06/26(日) 03:29:09 ID:treKAeRe0
 む、甘く見るなよ。アイスの3つや4つ一気に食べたところでどうにかなるようなヤワな胃袋は持ち合わせてないつも
りだ。とか思っていると、よっちが続けて言った。
「いまこのみから聞いたんスけど――センパイ、お昼お腹壊してたんスよね?」
 はっとした。
 ……すっかり忘れてたそんな設定。
 そういやお昼屋上から逃げ出した時にそんな嘘をついたっけ。雄二によく言われるけれど、つくづく俺は嘘が付けない
タイプらしい。
 俺は小指の先ほどになったコーンの残りをぽいっと口の中に放りこんで
「う、うん。まあでも、もう全然平気だから」
 とごまかした。
「それより、自分の食べないと垂れちゃうよ?」
「あっ、わっ、やばっ」
 俺の指摘によっちはあわててコーンの縁をなぞるように嘗め取った。パイナップルの黄色い滴がもう少しで握る手の上
にしたたる所だった。
「油断しすぎだ、タヌキ」
「うー、うるさいこのメガネキツネ」
 どうやら話は流れたらしい、と俺が内心でほっと一息ついていると、真横に座るこのみが俺の腕をつんつんとつついて
きた。
「ねえ、タカくん。わたしのもちょっと食べる?」
 ほら、と突き出されるアイスは赤く甘い果肉入りのストロベリー。
 まだほとんど減っていないけれど、わずかに溶けたその表面にはこのみがすくうように嘗めた跡が残っている。
「あ――」
 礼を言って口をつけようとする前に体の動きが止まった。
2643/6 Tender Heart その6:2005/06/26(日) 03:30:49 ID:treKAeRe0
 このみが口をつけたアイスを、平然と食べることができない。俺の視線はアイスの表面に残る、その小さな舌先の跡に
釘付けになった。
 しかも、ストロベリー。

『このみアイスは、タカくん限定スペシャルだからね』

 ……迂闊だった。
 このみがストロベリーを注文した時点で、こういう展開になることは予想できたはずなのに。
「――いいよ。晩ごはんが入らなくなっても困るし」
「あ、そうだね。うん」
 あっさりこのみは引いてくれたけど、その横顔がすこし残念そうに見えるのは気のせいではないのかもしれない。

 このみはいつも通りふるまっているだけだ、とも思う。
 でも、このみがぶつけてくるこうした無防備なまでの愛情表現を俺はどう受け止めればいいのか。
 朝からずっと続いている俺の変調の原因は、一言でまとめるとそういうことなんだろうと思った。

 このみは今、久しぶりに会った親友ふたりと何事かを楽しそうに話している。
 よっちとちゃるを呼び止めたのは、こうしてこのみの意識を俺から逸らしてゆっくり考える時間をつくるためでもあっ
たのだから、チャンスは有効につかわなくてはならない。俺はテーブルの上に頬杖をついて、このみの方を意識されない
程度に見つめた。

 すこし髪が伸びたな、と思う。
 顔立ちはまだ子供っぽいけど、時折どきりとするくらい大人びた表情をするようにもなった。そんなとき、たいていそ
の視線は俺の方に向けられている。
2654/6 Tender Heart その6:2005/06/26(日) 03:33:10 ID:treKAeRe0
 このみはそして、俺によく触れるようになった。
 飛びついたりぶらさがったりといった子供っぽい接触は姿をひそめ、腕を抱いたり手を握ったり、さっきみたいにそっ
と体を寄せてきたり……そういった落ち着いた触れあいを求めてくるようになった。
 このみが俺を好きでいてくれているのは、間違いないと思う。このみの俺を見る表情を見ていれば、どんなに鈍い俺で
もそのことは疑いようがない。
 では――なぜこんなに俺は迷っているのだろうか。

『――このみを抱きたいと、思わないわけじゃないんだろう?』

 雄二にこう言われた時に反射的に感じたあの抵抗感は、一体なんだというのか。

『お前に性欲はないのか』

 あるさ! あるに決まってる!
 俺だって健康な男子高校生だ。雄二ほどの熱意は無いにせよエッチな本だって部屋のあちこちに隠してて、タマ姉に冷や
かされたり隠し方が甘いと理不尽な怒られ方をされるくらいだ。
 ……でも。
 でも、このみを抱く――このみとセックスするということを、俺は考えなかった。
 このみに性的な魅力がないというわけじゃない。むしろ、今朝雄二の言葉で揺るがされただけでこんなにも動揺してしま
うくらいに、このみの「女」の部分を意識している自分がいる。
 ただ、そういったことを考えた途端に――これまで大事に守ってきたなにかが壊れるような気がしたんだ。
2665/6 Tender Heart その6:2005/06/26(日) 03:33:42 ID:h0yCvHUP0
 このみの手を握るとどきどきする。
 腕を抱かれると、二の腕にあたる胸の柔らかさに意識は集中してしまう。
 抱きつかれると、抱きしめたくなる。
 キスをすると、愛おしいと心から思う。

 でも。
 そこから先に進む事を、俺はためらっている。
 それはなぜか。
 今日の昼にこのみが抱きついてきたとき、俺が走って逃げ出さなければならなかったのはなぜなのか。

 答えなんて探すまでもない。
 はじめっから分かっていた。
 自分に正直に認めればすぐにでもわかることだった。
 
 俺は。
 俺だけがまだ――

 そのとき、よっちがいつからか俺の方をじっと見ていることに気が付いた。
 何だろう、と思って視線を返すと、俺が気が付いたことに気付いたよっちは隣のちゃるに何かの合図めいた目配せをした。
ちゃるはそれを受けて頷くこともなく、ただ平然と言った。
「――このみ、ちょっと相談したいことがある」
「え、なに?」
 突然のちゃるの言葉にきょとん、とした感じのこのみの返事。意表を突かれたのは俺も同じで、今まで考えていた俺とこの
みのことに関する思考がすっかり中断してしまった。
 ただひとり、よっちだけが事態を了解した雰囲気で成り行きを見守っている。
「ここでは話せない。女同士の話だ。――先輩、このみを少し借りてもいいか」
「ああ、俺に遠慮しなくていいよ。ていうか、俺が外そうか?」
2676/6 Tender Heart その6:2005/06/26(日) 03:34:49 ID:h0yCvHUP0
 女同士の話なら、俺がいない方が三人で盛り上がれるだろう。そう思って席を立ちかけると、なぜかよっちが慌てた様子で
俺を引き留めた。
「いや〜、先輩を立たせて後輩のあたしらが座っておしゃべりなんて失礼極まりないッスから!」
「いや、でも」
「そ、それに用があるのはこのみだけのはずッスから、あたしは残りますし」
「そうなの?」
「――ん」
 ごく短いちゃるの返事に、俺も浮かせた腰を下ろす。
「じゃあ、なんかよくわかんないけど、行ってくるねタカくん」
「ああ、ゆっくり話してきていいからな」
 俺とこのみがそんな会話を交わしている横で、ちゃるが素早くよっちの耳元で何かを囁いているのが見えた。
 さっきの目配せといい、一体なんなんだろう? 

 席を立って歩いていった二人の後ろ姿を何となく見送っていると、出し抜けに俺の真向かいに座るよっちが
「さてっとお!」
 と声を出して、自分の両頬をぱちんと挟むように叩いた。
「ど、どうしたの急に」
「気合い入れたんス。なんせ本命はこっちッスから」
「――? どういうこと?」
「つまり、あたしが先輩に聞きたいことがあったから、ちゃるに頼んでこのみを連れてってもらったんスよ」
 困惑の表情を浮かべた俺に、よっちは含めるように言った。その目には、冗談を言っている様子は少しもない。
 続きを話し出す直前、その目がちらと動いて歩き去った二人に目をやった。二人は数十メートル離れた街路樹の木陰で、樹に
寄りかかるようにして話し始めた所だった。
「俺に、聞きたいこと?」
「はい」
 よっちはひとつ深呼吸をすると、思い切ったように、言った。

「センパイ……このみと、何かあったんスか?」

                                                   ※その7に続く※
268 Tender Heart 作者:2005/06/26(日) 03:36:09 ID:h0yCvHUP0
 クッキーが消えてしまうくらい間があいてしまって本当に申し訳ありません。
 入院したり永遠のアセリアにハマったりしてたもんで、ついつい。
 入院してる間、きっとヒマだろうから話の展開を考えておこう、とか思ってた
のですが、そんな余裕無いことにすぐに気付かされました。
 退院して書きかけだった部分を読み返したら気に入らなくて、ほとんど書き
直してしまったし。
 相変わらず非効率的です。

 てんだ〜は〜とまだ〜?と急かしてくださった方、本当にありがとうござい
ました。これからもしょっちゅう急かしてやって下さい。

 さて、作中の季節に追いつくまでには終わらせるぞ!
 ではではまた。今度は比較的早くお届けできるのではないかと思います。

269名無しさんだよもん:2005/06/26(日) 12:43:47 ID:5eQnx5pG0
>>268
久々乙

(゚∀゚)このみ!よっち!

>これからもしょっちゅう急かしてやって下さい。
続き(´・д・`)マダー?
270名無しさんだよもん:2005/06/26(日) 13:05:32 ID:pHXABrr80
(゚∀゚)よっち! よっち!
それはともかくとして>>268乙。待ってたよ〜。

そして二ヶ月強ぶりです。
愛佳長編完結したのでよろしかったら読んでやってください。

「優しい嘘を」
ttp://www.geocities.jp/koubou_com/
271名無しさんだよもん:2005/06/27(月) 02:01:41 ID:iLteVLot0
>>268

続き楽しみにしてます
272名無しさんだよもん:2005/06/27(月) 16:29:56 ID:DwLz3RlM0
>>268
GJ!ここからどうなるのか楽しみ

>>270
相変わらずクオリティ高いなあ・・・
ただ個人的な好みを言わせて貰うと、ちと便利なオリキャラを登場させすぎ
かなと思った
まあ単なる好き嫌いの問題なんだけどね
273名無しさんだよもん:2005/06/27(月) 16:35:50 ID:n2+fqnYV0
実はテンダーハートはよっちシナリオだったんだよ!!



これからNTR→ビンタ合戦へと続きます
274河野家にようこそ 第12話(1/9):2005/06/27(月) 20:06:09 ID:R5BbkDfX0
 タマ姉に料理を教わることになった花梨がまず覚えたいのは、当然タマゴサンド。「好きこそ物の上手
なれ」ってことわざがあるくらいだから、きっと花梨はおいしいタマゴサンドが作れるようになると思う。
 由真は相変わらずギャルゲーにはまっているのだが、頑張りも虚しくバッドエンド。しかし雄二の助言
を得た由真はめげずに再挑戦を誓う。何事にも頑張り屋さんだね、由真は。
 一方、花梨が持ってきたゲームソフトは超能力覚醒用という胡散臭い代物。このみがまぐれで出来た
以外は誰も覚醒しなかった。人の革新は遠い。
 すっかり夜も更け、小牧さんを一人で帰すわけにはいかず、俺は小牧さんを家まで送ることにした。
 だがその途中、小牧さんが「あたしも河野君の家に住みたい」と爆弾発言! マジ?

「こ、小牧さん、今何とおっしゃいましたか!?」
 何故か敬語で聞き返す俺。だが……
「――なんてね。冗談ですよ。うふふっ」
 な、なぁんだ、冗談かぁ。あ〜びっくりした。
 一瞬、俺の家には女の子を呼び寄せる呪いでも掛けられているのかと思っちゃったよ。
「じょ、冗談キツイよ小牧さん。今の状況だってマジでおかしいんだから、この上小牧さんまでなんて、
どうしようかとあせっちゃったよ」
「うふふ、驚かせちゃってごめんなさい。そうですよね。今でさえ女の子が4人もいるんだから、この上
あたしまで入っちゃったら、河野君ストレスでダウンしちゃうかもしれませんよね。
 でも、何て言うか、『河野君の家って、いいなぁ』って思ったのは本当なんですよ。それはきっと、
あたしが由真たちを羨ましいと思っているからなんでしょうね。だって、あんな風に言いたいこと言って、
同じ家に住む誰かと何かを競ったり、一緒の食卓でご飯を食べたりしてる由真って、本当、活き活きして
るんです。あんな由真、あたし今まで一度も見たことありませんよ」
「そうなのか?」
「あたしが知ってる由真って、心の中にいつも、相手を入らせない線みたいなものを引いていて、普段は
275河野家にようこそ 第12話(2/9):2005/06/27(月) 20:06:29 ID:R5BbkDfX0
その線の内側で一人でいるようなコなんです。正直、あたしは由真の親友だと自分では思ってるんです
けど、そのあたしは線の内側に入れてもらえているのか、いえ、線にどれだけ近いのか、分かりません。
 でも、その線の内側には、負けず嫌いとか、好奇心とか、由真が普段秘めている部分があると思うん
です。そして、そういう部分を由真は、河野君には見せているんです。あたし、正直ちょっと悔しいです。
河野君は間違いなく由真の線の内側にいますから」
「小牧さん……」
「そして、環さん、るーこさん、それに笹森さんも、どんどん由真の線に近づいているんです。環さんは
由真が気を許せる先輩として、るーこさんはライバルとして、笹森さんは、そうですね、戦友って感じ
でしょうか。もしかしたら、もう既にあたしよりも近い位置にいるかも知れないんです。
 なんだか、自分が情けなく感じます。親友を名乗っておきながら、あたしは由真のああいった部分を
今まで全く知らなかった。それなのに、河野君たちはあっさり由真の内側を暴いて、それに近づこうと
している。じゃああたしは由真の何なのでしょう? 今まで誰より由真と一緒にいながら、線の内側を
見ていなかったあたしは、本当に由真の親友、いえ、友達なのかなって?
 ……なんだか愚痴っぽくなっちゃいましたね。ごめんなさい」
「……小牧さん。俺、うまく言えないけど、そんな小牧さんだから、由真は小牧さんが好きなんだと思う
し、そんな小牧さんだから、由真は小牧さんに余計な心配を掛けたくないって、普段は強がっているん
じゃないかと思うよ。
 大丈夫、由真は間違いなく小牧さんが好きだよ。相手を思いやるから、相手を大切にしたいから、自分
の弱いところとか格好悪いところとかを見せたくないんだ。由真ってそういうヤツなんだよ。
 俺やるーこに対していちいち突っかかるのは、多分、そんな自分が隠している部分をさらけ出している
ように見える俺たちが気に入らないからだと思う。きっと由真の目には、俺たちは途方もないバカに見え
るんだろうな」
「河野君……」
「貴明、いいこと言うなお前。なんか成長したっぽいな、一皮むけたって感じだぜ。
276河野家にようこそ 第12話(3/9):2005/06/27(月) 20:06:54 ID:R5BbkDfX0
 はっ!? ま、まさか、本当にむけたんじゃないだろうな!? 俺を出し抜き、大人の階段を登って
しまったのか!? 女の子たちとの共同生活で、まさか、その内の誰かと一線を越えちまったんじゃない
だろうな!?」
「バカ、そんなことあるわけないだろ」
「相手は誰だ、とっとと白状しろ! 由真ちゃんか? 姉貴か? るーこちゃんか? 笹森さんか?
 ま、まさか4人まとめておいしくいただいちゃったんじゃなかろうな!? うおおっ、酒池肉林!!」
 エロ妄想に浸る雄二はとりあえず放っておくことにする。
「河野君、一つ、お願いがあるんですけど、聞いてもらえますか?」
「ん、なに?」
「これからも、河野君の家に遊びに行ってもいいですか?
 一緒に住むのは無理だとしても、あたし、由真のこともっと知りたいんです。
 いえ、由真だけじゃない、環さんやるーこさん、笹森さんやこのみちゃんのことももっと知りたい。
友達になりたいんです。ダメでしょうか?」
「前にも同じようなことを聞かれた覚えがあるけど、小牧さんなら大歓迎だよ。いつでも遊びに来て、
由真たちに会ってやってくれよ。
 なんかさ、色々な事情が重なってあの4人は俺の家に来たわけだけど、あの4人が俺の家にいることで、
これから先、何かとても面白いことになるんじゃないかって予感がするんだ、俺。何て言うのか、お祭り
前夜のドキドキ感って言うか。だからさ、小牧さんもどんどん俺達に関わって、どんな面白いことが起き
るか、一緒に見届けようよ。
 あ、逆に俺からも頼みがあるんだけど、4人が俺の家に住んでいるのはくれぐれも……」
「内緒に、ですよね。もちろんですよ。だってあたしも共犯なんですから。うふふっ」
 そう言って小牧さんは、本当に、嬉しそうに笑った。

 いつまでもエロ妄想に浸る雄二と別れる。まぁ今夜はせいぜい、頭の中で酒池肉林を愉しむがいいさ。
277河野家にようこそ 第12話(4/9):2005/06/27(月) 20:07:22 ID:R5BbkDfX0
 それから小牧さんと二人、司書室での仕事のこととか、由真のこととかを話しながら夜道を歩く。
 そうしている内に俺達は、目的地である小牧さんの家に到着した。
「河野君、わざわざありがとうございました。じゃあ、お休みなさい」
 そう言ってペコリとおじきをし、小牧さんは玄関のドアを開けた。すると玄関の先に、車椅子に乗った
小生意気そうな女の子が一人。
「いつもより帰りが遅いと思ったら、ふぅん、そういうことか。姉の男好きにも困ったものね」
 へぇ、あのコが小牧さんの妹さんか。しっかし毒舌だな。男好きってアンタ……。
「い、郁乃、や、や、これはそういうことじゃなくて……」
 名前は郁乃ね。よし、ここは俺が一肌脱ごう。
「おい、郁乃」
「な!? 呼び捨てにするなこのバカ! することしたんだったらとっとと帰れ!」
「言われなくても帰るけどさ、一言言わせてもらうぞ。あまり大好きなお姉ちゃんをイジメるなよ。
 でないとお姉ちゃん、家出しちゃうかもしれないぞ」
「だ、誰が姉のことが好きだっていうのよ! う、うるさい、いい加減帰れ! 警察呼ぶわよ!!」
「わかったわかった、帰るから。じゃあ小牧さん、郁乃ちゃん、お休みな」
「ええ、お休みなさい、河野君」
「ちゃん付けで呼ぶな〜〜〜!!」

 家に帰った俺を出迎えてくれたのは……
「たっかちゃん、おっかえり〜!」
「お帰り、タカ坊」
「お帰りだぞ、うー」
「お、お帰り」
 パジャマ姿の花梨、タマ姉、るーこ、由真だった。
278河野家にようこそ 第12話(5/9):2005/06/27(月) 20:07:43 ID:R5BbkDfX0
 そう言えば、一緒の家にいながら俺は、彼女たちの寝間着姿を見たことがない。寝る時間になれば各々
自分たちの部屋に入ってしまうし、朝には制服姿で部屋から出てくるから、ある意味当然なのだけれど。
 しかしなんだろう、パジャマって大して露出度が高いわけでもないのに、花梨たちを見ると何故か胸が
ドキドキしてしまう。このみのパジャマ姿は見慣れているのに……
 そして、そういう時の俺は、実にわかりやすいみたいで、
「あ〜、たかちゃんってば黙っちゃって、さては花梨ちゃんのこのパジャマ姿にドキドキ胸キュンって
感じになってるのかなぁ〜? ねぇねぇたかちゃん、このパジャマ可愛いでしょ? 日本のUMAの代表
格が身体中にプリントされてるんだよ!」
 俺に見せるため、くるりと一回転する花梨。
「UMAってあたしの名前みたいだからやめてよ。ってソレ、ヨンリオのカッパ君パジャマでしょうが。
まったく小学生じゃあるまいし……な、なによたかあき。そんなスケベな目でじろじろ見ないでよ」
 何故か胸元を両手で隠す由真。
「うータマの見立てで買ったのだが、似合っているか、うー?」
 一歩前に出て、何故か「るー」のポーズをするるーこ。
「タカ坊にパジャマ姿見られるのって、結構久しぶりよね。小さい頃はよく一緒の布団で寝たっけ。
 どうタカ坊、今のお姉ちゃんのパジャマ姿、ぐっとこない?」
 そう言ってタマ姉は、俺の右腕を自分の胸元に引き寄せる。タマ姉の身体が俺に密着し、その柔らかい
感触と、甘い香りが俺の脳を刺激する。俺の目は自然とタマ姉の胸元に引き寄せられ、そして俺は、ある
事実に気付いてしまう。
 タマ姉!! ノーブラじゃん!!
「あ、あ、あの、た、た、タマ姉、そ、そ、そそその、あ、あ、あた、あたた……」
「ん? なんなのタカ坊、日本語になっていないわよ。ちゃんと言いなさい」
「い、い、いやだから、そ、その、む、む、胸が……」
「あ〜っ! 環さんったらずるい〜! そんじゃ花梨も、んしょっと☆」
279河野家にようこそ 第12話(6/9):2005/06/27(月) 20:09:12 ID:R5BbkDfX0
 そう言うと花梨は、俺の左腕に自分の身体を密着させる。花梨の柔らかい感触と香りが俺の脳を刺激し、
俺の目は自然と花梨の胸元に引き寄せられ、そして俺は、また新たな事実に気付いてしまう。
 花梨も!! ノーブラじゃん!!
「あ、あ、ああ、あああの、さささ、笹森さん、そそそ……」
「なかなか面白そうだな、ならばるーは、こうだ」
 そう言うとるーこは俺の背後に回り、俺の背中に抱きついてきた。るーこの柔らかい感触と香(以下略
 るーこも!! ノーブラじゃん!!(多分)
「あああっ!! 環さんも笹森さんもるーこも、何してるのよ!?
 こらるーこ、たかあきから離れなさいよ!!」
 そう言って由真は、俺の首に巻き付いているるーこの両腕を引き剥がそうと、俺に接近してくる。
そうする内に何故か由真の身体が俺に密着してしまい、由真の柔(略
 由真も!! ノーブラじゃん!!

 突然ですが皆さん、皆さんは、ミツバチが天敵のスズメバチを倒す術を持っていることをご存知ですか?
 体が大きく、凶暴な顎と毒針を有するスズメバチ。それに比べると、ミツバチは余りにも非力です。
当然、一対一の戦いではミツバチに勝機はありません。
 では、ミツバチはどうやってスズメバチに対抗するのでしょうか? それは数です。
 ミツバチの巣を襲撃してきたスズメバチに対して、ミツバチたちは集団でスズメバチに襲い掛かります。
そしてミツバチたちは、スズメバチが身動き出来なくなるまで次々とスズメバチに密着します。これを
専門用語で、「蜂球」と呼びます。そしてミツバチたちは、自らの体熱でスズメバチを熱死させるのです。
 自然界が生み出した大いなる知恵。私たち人間も、自然から何かを学ぶ姿勢を常に忘れず……

「あら、タカ坊? 急にぐったりしてどうしたの?」
「うわっ、たかあき鼻血出してる!」
280河野家にようこそ 第12話(7/9):2005/06/27(月) 20:09:52 ID:R5BbkDfX0
「たかちゃん死なないで〜!!」
「この程度で根を上げるとは、まだまだ未熟だぞ、うー」

 気がつくと、そこは俺の部屋だった。
 俺は自分のベッドに寝ており、額には冷たいタオル。気持ちいいな。
「タカ坊、気がついた?」
 ベッドの側には、タマ姉がいた。
「あ、あれ? タマ姉、俺一体どうして……」
 タマ姉は、そう尋ねる俺の前髪を優しくなでて、
「ちょっと刺激が強すぎたのね。タカ坊ったらのぼせて倒れちゃうんだもの、びっくりしちゃった。
 そ、それに、タカ坊ったら……」
 何故か口ごもるタマ姉。
「タマ姉?」
「え!? い、いえ、ね、タカ棒じゃなかったタカ坊だって立派な男の子だものね。女の子4人にあんな
ことされて、正常な男の子ならああなっても当然だって、保健体育の授業でもキチンと教わっているし、
だから、あまり気にしないで、ね?」
「ね? って言われても、俺には何のことだかさっぱり……」
「で、でもねタカ坊、わ、私は大丈夫、覚悟は出来てるけど、由真さんとか笹森さんとかるーこちゃんの
前では極力自重してね。わ、私はタカ坊だから平気だけれど、由真さんたちには刺激が強すぎるからね。
実際、あの後、アレを見てみんな大騒ぎだったし……」
「アレ?」
「も、もしも、今後の共同生活の中で、どーーーしても我慢が出来なくなったときは、そ、その、その時
は私に言いなさい。お、お姉ちゃんとして、キチンと、その、タカ坊のアレを手伝ってあげるから!」
 そう言うと顔を真っ赤にして、タマ姉は俺の部屋から飛び出すように出ていった。
281河野家にようこそ 第12話(8/9):2005/06/27(月) 20:10:27 ID:R5BbkDfX0
 何なの、アレって?

 翌朝。寝入った時間が早かったせいか、今日は目覚ましより早く目が覚めた。今日は土曜日だ。
 ベッドから飛び起き、大きく伸びをした後、俺は部屋を出る。
 と、丁度部屋から出てきた由真とばったり遭遇。
「あ、おはよ、由真」
 しかし由真は俺の挨拶には応えず、何故か顔を真っ赤にしてダッシュで階段を下りていく。
「お、おい由真、そんなに急いだら転んじゃう……」
 その俺の忠告は、少し遅かった。
「ふぎゃっ!?」
 どてどてごろばた〜〜〜ん!!!
 由真が階段から足を踏み外し、転げ落ちてしまった!
「由真! 大丈夫か!?」
 慌てて俺も階段を下り、床に大の字に倒れている由真に駆け寄る。
「骨折は……大丈夫そうだな。どこか痛くないか、由真?」
 由真の手足が骨折していないことを確認し、俺は由真を抱き起こす。
「た、たかあき……、え!? い、いやあぁぁぁ!!」
 俺から逃れようと、手足をジタバタさせる由真。
「何なんだよ一体、俺が由真に何かしたか!?」
「な、何かってアンタ、あ、あんなモノあたしのお腹に押し当てて……」
「あんなもの? 押し当てて?」
「こ、この変態! スケベ! 離してよ!」
 そう叫んで由真は立ち上がり、俺から数歩離れる。
「ゆ、由真、急に立ちあがって大丈夫かよ?」
282河野家にようこそ 第12話(9/9):2005/06/27(月) 20:10:48 ID:R5BbkDfX0
 俺は由真に近寄ろうとする。しかし、
「それ以上近づくな! 妊娠するから!」
 ワケの分からないことを言い残し、由真はキッチンへと逃げるように去っていった。何なの一体?

 朝食、なのだが、みんなの様子がおかしい。
 タマ姉、由真、それにるーこも笹森さんも、さっきから俺と目を合わせようとしない。
「ねぇ、みんなどうしちゃったのさ? 何だか俺を避けているみたいだけど、俺何か悪いことしたか?」
 すると、笹森さんが、
「わ、悪いことじゃないと思うんよ。た、ただ、あんなモノいきなり見ちゃうのは、心の準備が出来て
いないって言うか、想像よりずっと大きくて、あんなの入るのかな、なんて……」
 続いてるーこも、
「る、るぅ〜、うーも”るー”の男性と生殖器が同じなのは分かったが、いささかるーには刺激が強す
ぎて、や、やはりああいったモノは、男女の契りを結んだ間柄でなければ、その……」
 大きい? 生殖器? ……ま、まさか!?
 その時、俺の灰色の脳細胞は、ある事実に気付く。気絶する前の俺は私服を着ていたが、気絶後の俺
は何故かパジャマを着ていた。これはつまり、誰かが俺を着替えさせてくれたと言うことだ。
 そして気絶の直前、俺は4人の女の子の”攻撃”によって、ある部分が(パオーン!!)していた。
もし、もしもだ、気絶した俺の(パオーン!!)が、気絶後もその状態を維持していたとしよう。そして、
気絶した俺を介抱し、パジャマに着替えさせてくれたのがタマ姉たちだったとしよう。着替えさせようと
タマ姉たちが俺のジーパンを脱がせたとき、彼女たちの目に入ったモノは……

 あ、あ、あ、ああああああああああああああああああああああああああああああっっっっっ!!!

 つづく。
283河野家にようこそ の作者:2005/06/27(月) 20:12:24 ID:R5BbkDfX0
どうもです。第12話です。
アイス屋でさんざん登場させた(つもり)の郁乃をちょっとだけ出してみました。
基本的にこの物語はメインヒロイン中心で書きたいので、よっちちゃるは今のところ登場予定はないん
です。(それでもちょっとは出すかもしんない。やっぱ好きだから)
あと、双子と草壁さんはもう少し待ってください。必ず出しますから。
284名無しさんだよもん:2005/06/27(月) 20:14:57 ID:n2+fqnYV0
>>283
痛みに耐えてよく頑張った、感動した!
以前と比べてずっと勢いが出たと思われ。
ずっと良い。英語で言うとmore better
285名無しさんだよもん:2005/06/27(月) 20:35:24 ID:Qaeyet130
>>274
マインドシーカーキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
286名無しさんだよもん:2005/06/27(月) 22:11:38 ID:bAmyXWnE0
>タカ棒じゃなかったタカ坊だって立派な男の子だものね。

ベタだけど俺こ〜ゆ〜の好きよ
287名無しさんだよもん:2005/06/27(月) 23:11:51 ID:WNb3Qz/R0
>>283
前半の小牧姉妹で和んだと思ったらコレかいW
由真エロいぞ由真、第一にタカ棒に触れる(?)なんて。
288名無しさんだよもん:2005/06/27(月) 23:18:21 ID:+3YgRDZB0
GJ!
パオーン!にギガワロスww
289名無しさんだよもん:2005/06/28(火) 12:29:01 ID:Bwz3hU7jO
こういうの良いわぁ…
290名無しさんだよもん:2005/06/28(火) 14:54:54 ID:nurdmMW10
うーむ、たまねぇのセリフを見てたら、秋桜の空にを思い出した………
いや、なんつーかたまねぇのテレた立ち絵が真っ先に頭に思い浮かんだよ。
よっち一筋の俺だが、今日ばかりは言わせて貰うぜ。

たまねぇ、たまんねぇ。
291名無しさんだよもん:2005/07/01(金) 00:24:05 ID:066ygV3V0
流れが止まって人のいない今なら言える・・・・・















Tender Heartマダー?(・∀・)
292ミステリの人:2005/07/01(金) 00:57:05 ID:DTpBzShU0
久しぶりにSS投下です。
他の作者様方が連載モノを中心に書かれているので、
自分も連載モノに挑戦してみました。
一応設定としては、タカアキがヒロイン全員と仲良くしていた状態で雄二END後となってます。
(るーこと草壁さんと姫百合姉妹を混ぜると全員仲良しがゲーム上の設定で
困難となるので泣く泣く省かせていただきました。ファンの皆様すいませんorz)

非常に前置きが長くなってしまい申し訳ないです。では投下します。
293Cry to Heart (1):2005/07/01(金) 01:00:24 ID:DTpBzShU0
高校2年生の春も終わり、季節はもうすぐ夏に変わろうとしていた・・・。

この春は本当にいろいろな出会いがあった。
幼なじみのタマ姉との再会、妹のためひたむきにがんばる委員長の愛佳、
なにかと俺に突っかかってくる由真、ミステリ研に俺を引き込んだ花梨、
とにかく今までの人生の中で一番楽しかった春だった。
だけど、今ではその事が夢だったようにも思えてしまう。
何故こうなってしまったのか、それを考えるのも嫌になってしまった・・・。


・第一話「暗闇へのトビラ」
いつものように俺は
幼なじみのこのみ、雄二、タマ姉と一緒に学校への道を歩いていた。
夏も近いせいか日差しが眩しい。

「おいタカアキ、結局誰が本命なんだよー?」
雄二がわざとらしく俺に聞く。
「あらタカ坊、一体何の話?本命って何のことかしら?」
雄二の言葉に敏感に反応したタマ姉がすぐに食いついてくる。
「えっ、イヤその、えっと・・・、昨日テレビに出てたアイドルで
 誰が一番好きかって話だよ、なあ雄二?」
「本当かしら・・・?まあいいわ」
ふう、なんとか誤魔化せたけど・・・。
雄二の奴、俺が色んな女の子と仲が良いのを知っているから
わざとあんなこと言いやがって。後でシメとかないとな。
294Cry to Heart (2):2005/07/01(金) 01:02:18 ID:DTpBzShU0
今年の4月頃から妙に女の子と仲良くなる機会が多かった俺は、
自分では思ってないが雄二から見ると6股をかけているように見えるらしい。
それを恨んだ(勝手に)雄二が、ちょくちょくこのみやタマ姉のいる前で
バラそうとしているのだ。何度も言うけど俺はそんなつもり無いのだが・・・。
だけど実際のところ周りから見れば俺が女の子を何人も掛け持ちしているように
見えるのかもしれない。
そろそろちゃんと区切りを付けておかなきゃいけないのかもな。


放課後、俺は書庫にいる愛佳と郁乃のところへ向かった。

少し前に書庫が無くなりそうになる事件があったのだが、
その書庫を無くそうとする手口があまりにも酷いものだったので
それに怒った俺は、書庫を無くす計画の責任者である
3年生の図書委員長を思い切りぶん殴ってしまった。
もちろん俺は先生に呼び出されこっぴどく怒られたが、
俺にビビったのか図書委員長はそれ以来姿を見せなくなった。
その為書庫が無くなることは取り消しとなり、
少々荒っぽい事になってしまったが俺は書庫を守ることに成功したのだった。
それ以来俺は愛佳と今まで以上に親しくなり、
生意気な妹の郁乃とも知り合うことが出来た。

俺は重たい書庫の扉を開けた。
「よぉー、やってるかい?」
俺が声をかけると本を整理していた愛佳がこちらを向いて笑顔を見せた。
「あ、タカアキ君。いらっしゃい〜。なにか用?」
「いや別に用事は無いけどさ、元気にしてるかなーって」
俺がそう言うと愛佳の頬が少し赤くなった。・・・ような気がした。
295Cry to Heart (3):2005/07/01(金) 01:03:29 ID:DTpBzShU0
「まったく、こんな時間からイチャつかないでよ・・・」
本棚の間から車椅子に乗った愛佳の妹、郁乃が顔を出した。
「べ、べつにイチャついてなんかいないってば!」
慌てる愛佳を見ながらニヤリとする郁乃。
「・・・そうだ、タカアキ君が来たことだしそろそろお茶にしよう!ね、郁乃」
「ハイハイ、タカアキはまたタダで飲み食いしに来たのね」
ギクッ、正直に言うとそれもあるかもしれないな。
とかなんとか言ってる間に愛佳が紅茶を入れ終わったらしい。
応接セットのソファーに座るように俺にジェスチャーしている。

「ふう、やっぱり愛佳の入れる紅茶はおいしいな」
ティーカップをテーブルの上に置く。
愛佳はさっきよりも赤くなりながら、
俺のティーカップにおかわりの紅茶を注ぐ。
「今日はいつもより多めに用意したからどんどん飲んでね」
「うん、それよりさっきからいろいろ用意してばっかりで
 愛佳が何にも口にしてないぞ、おかわりは自分で注ぐから愛佳も紅茶飲みなよ」
「あ、そうだね、ありがとうタカアキ君」
本来お礼を言うのはごちそうになっている俺の方なのだが、
愛佳はいつもこんな調子なのでこれでいいのだろう、多分。
郁乃は相変らずニヤニヤしながら俺たちのやり取りを見ている。
く、なんかムカツクな。
296Cry to Heart (4):2005/07/01(金) 01:04:45 ID:DTpBzShU0
その時だった。
・・・ガチャン!!
食器が落ちるような音がした。
音のした方に目を向けると・・・。
「ど、どうしたの!?お姉ちゃん!」
郁乃が悲鳴にも近い声を上げる。
そこにはティーカップを手から落とし、
ソファーにぐったりと倒れこんでいる愛佳の姿があった。
「愛佳?おい、何があったんだよ」
愛佳は全く反応しない。
一体どうしたんだ・・・!?
「お姉ちゃん!起きてよ、お姉ちゃん!」
あまりにも突然のことに冷静に考えようとしても
焦ってしまい、何がなんだか分からない。
「と、とにかく救急車を呼ぶぞ!
 俺が電話をかけてくるから郁乃はここにいるんだ!」
「う、うん・・・」


幸いなことに愛佳の命に別状は無く、1ヶ月もしないうちに退院できるらしい。
医者が言うには愛佳は強いショック症状を与える薬を飲まされたそうだ。
飲まされた・・・?一体誰に?
297Cry to Heart (5):2005/07/01(金) 01:07:13 ID:DTpBzShU0
次の日、郁乃は学校を休んだ。
姉が倒れたのだから精神的に学校へ行ってる場合ではないだろう。

学校の帰り俺は愛佳が入院している病院に立ち寄った。

病室のドアをノックすると、開いたドアから郁乃が顔を見せた。
「なんだタカアキか」
「よう、愛佳の調子はどうだ」
「今は寝てるよ」
「そうか。・・・郁乃に話したいことがあるからちょっと付き合ってもらえるか?」
「別にいいけど・・・」

俺と郁乃は病院の屋上へと出た。
ちょうど夕日が沈むところだった。
「話ってなに」
俺はゆっくり口を開く。
「・・・一晩考えてみたんだが、誰かが愛佳の紅茶に毒を入れたのは
 間違いないと思うんだ」
郁乃は少し驚いた顔をしたが冷静に答えた。
「それは私も思ったことだけど、紅茶に毒が入っていたら私もアンタも
 倒れているはずよ?」
「そうだな。だからおそらく紅茶にではなく、愛佳のティーカップに毒が
 仕込まれていたんだと思う。まだ警察の検証の結果が出てないけど
 多分それで間違いないはずだ」
「確かにお姉ちゃんは自分専用のティーカップを使っているから
 お姉ちゃんを狙って毒を盛ることは出来るだろうけど・・・。
 誰がそんな事をしたって言うのよ?」
「それは分からないな・・・」
「そう・・・」
298Cry to Heart (6) 第1話終:2005/07/01(金) 01:08:30 ID:DTpBzShU0
いや本当は心当たりがある、愛佳を恨んでいそうなのはアイツしかいない。
「もう日も暮れちまったな、面会時間も終わってるだろうし、
 家まで送っていってやるよ」
「一人で帰れるってば!」
「いいからいいから」
俺はぶつぶつ文句を言っている郁乃を気にせずに、
郁乃の車椅子を押した。
もちろん暗い夜道を車椅子の女の子1人で帰らせるのは
物騒だから送っていくことにしたのだが、
郁乃をアイツから守るためでもあった。

ほとんど夕日が沈みかけた空を背に、郁乃の乗った車椅子を押して歩く。
これから先起こる事をまだ俺たちは予想さえも出来なかった・・・。
299ミステリの人:2005/07/01(金) 01:13:27 ID:DTpBzShU0
第1話終わりです。
タカアキと郁乃のコンビがメインの予定です。
なるべくアッと驚く展開にしていきたいと思いますm(_ _)m
300名無しさんだよもん:2005/07/01(金) 01:50:19 ID:V9ljiY7vO
GJ!
ただあんまりキャラに酷いことしないでね
いいんちょ毒のんだなんて、かわいそすぎ
301名無しさんだよもん:2005/07/01(金) 02:15:05 ID:OlVG2mfG0
ダーク系読むのは久しぶりだな………出だしから暗澹としてるし。
期待ageてテンションsage。
302名無しさんだよもん:2005/07/01(金) 15:13:47 ID:qgHKRMtK0
薬物とか出したら普通に警察沙汰になっちゃうだろ
303ミステリの人:2005/07/01(金) 19:25:58 ID:DTpBzShU0
>>300
少々酷いことをしてしまうかもしれません・・・w
もちろん本当はいいんちょに毒飲ませるなんてしたく無かったですorz

>>301
ダークにいこうと思ってますのでご期待ください。

>>302
いちおう表では警察も動いてる事になってますが
タカアキ達が真相を解明していくみたいな方向で。
304名無しさんだよもん:2005/07/01(金) 23:54:29 ID:K7M+2gCJ0
>>241です。
続きをアップしましたので、またよろしければ読んでやってください。
いつもご意見ご感想ありがとうございます。

http://fsm-hmx-12.hp.infoseek.co.jp/th2_ss_f.html

夏コミには余裕で間に合いそうなので一安心です(=゚ω゚)ノ
305ミステリの人:2005/07/02(土) 01:33:24 ID:Sg8as/GS0
Cry to Heart 第二話 投下します。
306Cry to Heart (1) 第2話:2005/07/02(土) 01:34:48 ID:Sg8as/GS0
・第2話「早すぎた結論」
昼休み、
俺はこの時間を待ちわびていた・・・。

そう、愛佳にあんなことをした犯人・・・、
図書委員長を捕まえてやる為に。

あらかじめ図書委員に聞いておいたクラスに赴く。
さすがに周りが3年生だらけなので気が引けるが、
今はそんなことを言っている場合ではない。

教室のドアのところに居た3年生に図書委員長を呼んで欲しいと頼む。
だが次の瞬間俺が全く予想もしなかった言葉が返ってきた。
「図書委員長なら少し前に転校しちまったぞ。
 なんでも2年生に恥をかかされたからっていう噂だけどな。
 ・・・いくらなんでもそりゃねえか。その程度のことで普通は
 転校なんてしないしな。とにかく図書委員長はいないぞ」
なんてことだ、まさか俺のせいなのか・・・?
いや、そんなことはどうでもいい。
図書委員長が転校したということは、
愛佳のティーカップに毒を盛るチャンスは限りなく少ない。
さらに3年生に聞いてみたがどうやら図書委員長は
かなり遠い地方の学校へ行ったらしい。
ならば図書委員長がこの学校に忍び込み、
なおかつ鍵のかかった書庫に入り、愛佳のティーカップのみを狙うことなんて
不可能なのではないだろうか・・・?

俺の中にあった確信が徐々に崩れ去っていった。
307Cry to Heart (2) 第2話:2005/07/02(土) 01:36:08 ID:Sg8as/GS0
放課後、昇降口の所で由真を見かけた。
「おう、由真」
「あ、タカアキ・・・」
愛佳と親友ということもあってか、
由真は例の事件のことで相当ヘコんでいるようだった。

俺は由真と事件のことについて話しながら自転車置き場まで来た。
「じゃあ私、MTB取って来るね」
「うん、ここで待ってるよ」
・・・・・。
数十秒後。
「な、なにこれーーっ!」
自転車置き場の奥の方から由真の叫び声がした。
「どうした!由真?」
俺は慌てて由真の元に走る。

「何があったんだ?由真」
「こ、これ・・・」
由真が指をさした方向に目を向ける。
「なんだ・・・こりゃ・・・」
そこには変わり果てたMTBがあった。
タイヤはズタズタに切り裂かれ、チェーンやサドルは外され、
ライトとペダルは壊されていた。
そしてMTBのハンドルの辺りに一枚の紙が貼ってあった。
俺は恐る恐るその紙を見る。
308Cry to Heart (3) 第2話:2005/07/02(土) 01:38:09 ID:Sg8as/GS0

・・・『死ね』

紙には赤いインクでそう書き殴ってあった・・・。
俺は由真にその紙を見せないように、すぐにクシャクシャに丸めた。
「・・・なんて書いてあったの?タカアキ」
「いや、別に・・・。それより誰が一体こんなことを」
由真は既に半ベソをかいている。
本当に誰がこんなことを・・・、由真は誰かに恨まれるような奴じゃないはずだ。
もし恨んでた奴がいたとしてもここまでやらないだろう、普通。
ダメだ、頭の中が混乱している。
とりあえず由真を・・・。

その時だった。
タッタッタッタッタッタ・・・。
「!!?」
俺たちのすぐ近くから誰かが走り去るような音が聞えたのだ。
まさか犯人が!??
すぐに振り向いてみるもそこに人の気配はなかった・・・。

「・・・とりあえずダニエルの爺さんに迎えに来てもらおう、な?由真」
「・・う、うん」
309Cry to Heart (4) 第2話 終:2005/07/02(土) 01:39:29 ID:Sg8as/GS0
その夜、俺はただひたすら今日あった出来事について考えた。

まず由真のMTBのこと。
どう考えても普通の嫌がらせではない。
一種の狂気のようなものがあそこからは感じられた。
そしておそらく犯人はすぐ側にいたのだろう。
物陰から俺たちの様子を見ていたに違いない。

次に図書委員長のこと。
今の時点で俺の頭の中では、図書委員長は犯人の候補からほとんど消えていた。
俺は愛佳と由真の事件の犯人が同一人物なのではと思い始めたからである。
なんというか、あの書庫と自転車置き場には同じ空気が流れていたような感じがしたからだ。
ほとんど勘としか言いようがないのだが・・・。

だが俺の知り合い2人が数日の間にこんな酷い目にあうなんて、
ただの偶然だとは思えない。
だけど・・・、だったら誰が犯人だっていうんだ?

きっとこれだけでは終わらない。そんな胸騒ぎがした・・・。
310ミステリの人:2005/07/02(土) 01:41:59 ID:Sg8as/GS0
うっかり書き忘れましたが、
>>293-298の続きです。
311名無しさんだよもん:2005/07/02(土) 02:04:02 ID:XlQvOf2J0
 >>304
 いつもながらGJ。
 安定したおもしろさと高い文章力。
 続きを激しく待ってます。
312名無しさんだよもん:2005/07/02(土) 05:11:14 ID:RVxZX6y+0
犯人が嫉妬したこのみとかそんなオチないよね?

とりあえず>>310さん乙!
313名無しさんだよもん:2005/07/02(土) 15:22:47 ID:uAD057E80
(゚∀゚)神のヨカーン
314ss初心者:2005/07/02(土) 15:53:03 ID:jxmBjQ7i0
「この世には不思議なことなんて何もないのよ、タカ坊」

低い、落ち着いた声だった。
一面の桜である。
満開の夜桜の只中である。
舞い散る花びらが世界のすべてを桜色に染め上げんとしているようだった。
その、花びらで霞むただ中に二つの影があった。
一人は青年のようである。そして、それに対峙するのは桜色に染まった女だった。
青年は魔性のものに魅入られてしまったのか、身動ぎ一つせずただ桜の妖精を見つめていた。

「タカ坊、聞いてる?」

時間が動き出す。
タカ坊と呼ばれたその青年は我を取り戻したのか、花びらで霞む視界の中に再び最愛の女性(ひと)の輪郭を映し出した。

「タマ姉・・・どうして」

女は云う。

「タカ坊、今更なにを云っているの?あんな点数を取って・・・私の補講から逃げられるワケがないでしょ!!」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!タマ姉ごめんなさい!!ウゲッ!タマネェ、そこ襟じゃなくて首・・・首だから、ぐるじぃ・・・」

青年は首をつかまれ何処に引き摺られていく・・・・


つづく
315名無しさんだよもん:2005/07/02(土) 23:21:40 ID:U+vrFqb00
>310
乙。ついでに犯人はヤス…じゃなくてこのみだな。間違いない
316名無しさんだよもん:2005/07/02(土) 23:27:17 ID:QtV2PpVM0
>>315
そこまで陰湿、危険な嫌がらせはしないと思うが…
317名無しさんだよもん:2005/07/03(日) 00:42:58 ID:st1QNElH0
これで犯人オリキャラだったら愚息もションボリだな。
318名無しさんだよもん:2005/07/03(日) 01:39:06 ID:H0GWLRPE0
>>316
そのギャップが萌える
319名無しさんだよもん:2005/07/03(日) 01:54:41 ID:2r5rCQ7A0
りゅうおうたん? りゅうおうたんだなっ!?
320名無しさんだよもん:2005/07/03(日) 02:43:04 ID:xCw9zosg0
>>316
愛は時として女を狂わせる。
狂人ENDひゃほ〜い。
321名無しさんだよもん:2005/07/03(日) 06:39:07 ID:6FzTblMt0
犯人がこのみだとしたら人格が変り過ぎじゃないか?
322名無しさんだよもん:2005/07/03(日) 10:59:09 ID:Kf5dIHfmO
>>310
GJ!!
『たまねぇのなく頃に』とか脳裏に浮かんだのは内緒だ!
323名無しさんだよもん:2005/07/03(日) 15:50:38 ID:1BcyStLI0
皆漏れと同じこと考えてたか・・・
どうなることやら
324名無しさんだよもん:2005/07/03(日) 16:13:51 ID:MfYlzZHE0
>>304です。
「Raison d'etre」完結致しましたので、読んで頂けますと嬉しいです。
休日を使って一気に書き上げました(=゚ω゚)ノ
感想をくださった方、どうもありがとうございました。

http://fsm-hmx-12.hp.infoseek.co.jp/th2_ss_f.html
325名無しさんだよもん:2005/07/03(日) 20:47:35 ID:DBUU79uC0
 >>324
 更新早いな!そしてGJ!
 安心して読めます。
 ミルファと貴明の距離感がたまらんです。
326夢の迷い道4−2 その0:2005/07/03(日) 21:51:01 ID:Km3xk+BL0
>>168-175の続きです。ようやく最終回。
はっきり言って長いので、2回に分けて貼ります。
誤字脱字があったらごめんなさい。
327夢の迷い道4−2 その1:2005/07/03(日) 21:52:00 ID:Km3xk+BL0
 ……。

 俺は、自分の教室の、自分の席にいた。
 俺は、今まで何をしていたんだろう。頭がボーッとしていて記憶が定かでない。思考に薄絹が被さっている、
そんな感じだ。
 俺は、今まで夢を見ていたのか? それとも、まだ夢を見ているのか?

 黒板には、4月1×日(×は消えかかっていて読めない)と書いてある。

 ああ、そうだ。帰りのホームルームが終わって、雄二と一緒に帰るところなんだった。何ボケてんだろ、俺。
きっと、さっきの世界史の授業が、退屈だわ眠いわでたまらなかったせいだ。ちくしょう。

 あれ? 俺は、まだ何かを忘れているような気がするぞ!? 忘れ物でもしたのかな?
 俺は何気なく、机の中をまさぐってみた。
 ……ビンゴ。机の中に、あの教科書がない。
「まずい。保健体育の教科書、コンピュータ室に忘れてきたままだった」
「はぁ!? おいおい、保健体育って午前中だろうが!? さっさと気付けよ、ドンくせえな。もうカギを掛けられ
てて入れねえぞ?」
 雄二は呆れて、吐き捨てるように言った。

 今日の午前中、保健体育の性教育の授業があったんだ。パソコンを電気紙芝居みたいに使って、どうすれば性
感染症を防げるのかという内容の映像を延々と見せられて、最後に感想文をちょこっと書かされて終わりという
つまらん授業だった。コンピュータ室でやる必然性が、これっぽっちもない内容だったな。

 高価な機材でいっぱいのコンピュータ室に入るには、カギが必要だ。職員室に行って取ってくるしかない。
「やれやれ、仕方ない。職員室に行ってくるか、よっこらせ」
 ジジ臭い掛け声と共に立ち上がった俺は、午後の数学の授業内容を思い出す。小テストで、10点満点中4点
だったことを。そして、数学教師の下痢便でも見るような嘲笑の眼差しが、俺の脳裏に蘇ってきた。
「ああ、職員室はイヤだ嫌だ。あの先生とは、顔を合わせたくないんだがなぁ……」
「へっへっへ、ご愁傷様ぁ〜〜〜」
 雄二がヘラヘラと手を振る。他人事だと思って、気楽なものだ。ちくしょう。
328夢の迷い道4−2 その2:2005/07/03(日) 21:52:53 ID:Km3xk+BL0
 しぶしぶ職員室に向かおうとはしたものの、やっぱり、あの教師と顔を合わせるのは嫌だ。
 ……そうだ。ホームルーム直後の今なら、誰かがコンピュータ室で掃除をしているのではないか!? どこのク
ラスが掃除当番なのかは知らないけれど。
 俺は早速、コンピュータ室へと向かうことにした。誰もいなけりゃ、その時はその時だ。



 ……読みはズバリ的中。磨りガラスの向こうで、誰かが黙々と清掃をしているのが見えた。
 ふふっ、俺は運がいい。
 俺はほくそ笑みつつドアを開け、「すいません、忘れ物を取りに来ましたぁ」と元気よく中へ入っていった。
 首尾よく中に入れたのはいいが……おかしい。

 コンピュータ室は、一番最初にここに来たときのように、立ち並ぶ灰色の構造物どもと、黒い電気紙芝居の波
また波、そして真っ正面に陣取っているホワイトボードが「ここは、選ばれし者のみが使える特別な教室なんだ
ぜ、落ちこぼれはとっとと消えな」と俺をあざ笑い、床に敷かれた光沢すら帯びている青いカーペットが、敷物
の分際で「消えなー消えなー」と合成繊維の毛の一本まで輪唱する。ここには、独特の冷徹な空気がムンムンと
立ちこめているばかりだった。そこだけ予算を浮かせたと一目でわかる、近所の量販店で2980円(税込)
で売っていそうな安っぽいパソコンチェアだけが、俺に癒やしを与えてくれていた。
 さっきの人影は幻だったか、それとも幽霊か、はたまたパソコンの妖精か。掃除の人は、どこへ消えた!?

 突然、背後から殺気! 額に稲妻が走った。
 振り向けば、女が、隣のクラスの由真がいた!

「死ね、貴明!」
 ブォンッ!
 由真は手にした掃除機の柄を、俺の脳天目がけて勢いよく振り下ろした。
 俺は咄嗟に飛び退いて、間一髪でかわしたのだった。
「うぬっ、背後からとは卑怯な!」
「フン、ぼやぼやしてるからよ。悔しかったら、後ろにも目をつけるのね」
 由真は掃除機の柄を肩に担ぐと、悪びれずに鼻で笑った。
329夢の迷い道4−2 その3:2005/07/03(日) 21:53:50 ID:Km3xk+BL0
「なにゆえお前がここに?」
 俺は教科書を回収しつつ、由真に訊いた。
「……掃除当番。他の連中は、修学旅行の打ち合わせがあるから」
 由真はツンと俺から目を逸らし、ぶっきらぼうに言った。
「なぁんだ。俺の前は威勢がいいくせに、自分のクラスでは呈のいい使いパシリだったのか」
 俺が鼻で笑ってそう言うと、由真は眼を猛禽類のように光らせて、隠し持っていた雑巾を俺に投げつけた。
 不意打ちの雑巾は難なくかわしたが、由真はその隙を突き、「おのれぇー」と叫びつつ掃除機の柄を振りかざ
して襲いかかってきた。

 由真はどこまで正気なのか!? ここはコンピュータ室だぞ! 今年導入したばかりの最新鋭パソコンを叩き壊
す気か? 何かの拍子で、由真がパソコンを破壊してみろ。きっと俺まで責任を問われ、全額弁償あるいは自宅
謹慎停学退学処分などなどの憂き目に遭うに違いない。それだけは、マジでご勘弁だ。
 こんな状況では、いつまでも逃げてはいられない。俺は、手にした教科書で、どうにか防御。
「ふっ、楯に頼るとは情けないヤツ!」
 由真が勝ち誇るように言った。
「これがお前の望んだ勝負か?」
 俺は低い声で由真に問う。
「戦いは非情よ、兵は詭道なりってね!」
「『詭道』って漢字で書いてみろぉ」
「うるさい。ホワイトボードはさっき拭いたばかりよ」
「どうせ書けないんだろう?」
「漢字は得意っ! 漢字検定4級は、伊達じゃないっ!」
 由真はサッと後ろに飛び退くと、掃除機の柄を上段に構えた。俺の脳天をかち割る気マンマンのご様子。
 由真は俺と張り合うためなら、場所などお構いなしか。周りなんか、少しも見えちゃあいないんだから。将来
こいつと付き合う男は、さぞ大変だろうな。今、強引に付き合わされている俺は? ああ大変だよ。命懸けさ。

「お前は俺に恨みでもあるのか?」
 俺は半笑いで由真に訊いた。名字もロクに知らない女に一方的に目の敵にされている自分に笑えてきたのだ。
「あるわよ。あんたはね、そろそろその辺から出て来るんじゃないかと思ったら本当に現れる。鬱陶しいのよ。
打たれそうで本当に打たれる巨人の敗戦処理かっつーの! そういうヤツ、何重にも取り囲んで『蛍の光』をエ
ンドレスで唄い続けたくなるくらい嫌い!」
330夢の迷い道4−2 その4:2005/07/03(日) 21:54:54 ID:Km3xk+BL0
「お前、阪神ファンか?」
「ううん、横浜。タヌラってさぁ、握手会で手を痛めたり、靴履こうとしてギックリ腰になる生粋のスペラン
カーだけど、そこがタヌラらしくて愛おしいんだよね……って話を逸らすな、卑怯者!」
 由真は一人で勝手に興奮して頬を赤く染め、一人で勝手に怒りのゲージをアップさせていく。
「そりゃ、お前が勝手に」
「問答無用ぉ! お前はっ、いつもいつも横から掃除の邪魔ばかりして! ここからいなくなれぇ!」
 由真はそう叫んで、掃除機の柄を派手に振り回した……。

 ボゴッ!
 ……ボテッ!

「「あっ……」」
 俺たちは、ふたり同時に声を上げた。由真が掃除機の柄で、何かを叩き落としてしまったようだった。
 金属音とは明らかに違う、柔らかい感じの音が、ふたりだけのコンピュータ室に響いた。

 “それ”の正体は、すぐにわかった。由真の足下に転がっている縫いぐるみだった。何故かはわからないが、
パソコンの机に置いてあった縫いぐるみを、由真が掃除機の柄でしばき落としたのだ。
 そのクマらしき縫いぐるみは、頭からカーペットの床に落ちたらしく、三点倒立のような姿で床に突き刺さっ
ていた。

「あ、ああ、クマの縫いぐるみが! あんたのせいよ!!」
 高価な機械を粉砕したわけではないことに安堵したのか、機械だらけの教室に縫いぐるみが置いてあったこと
に困惑したのか、とにかく、一瞬の間を置いて由真が声をあげた。

 その時。俺はクマの縫いぐるみの異変に気付いたのだ。足をヒクヒクと動かしたかと思うと、マット運動でも
するように、床にゴロンと転がり、大の字に寝そべったのだ。
「……!! こいつ、動くぞ!?」
 クマの縫いぐるみは上半身をむっくり起きあがらせると、頭をふるふると横に振ったかと思えば、今度は短い
両手(?)で頭をさすりだしたのだった。まるで、生きているかのような動きだった。
 由真も俺も、クマの姿を唖然として見つめていた。
331夢の迷い道4−2 その5:2005/07/03(日) 21:55:55 ID:Km3xk+BL0
「……ロ、ロボット、なの? と、とにかくゴメンね〜、悪いのはあっちの“バカあき”だから」
 由真は恐る恐るクマに近づくと、意を決したようにクマの胴を両手で掴み、自分の顔のあたりまで持ち上げ、
ニッカリと笑いかけた。
 それが、仇になった。

「ぶぐ!」
 クマの縫いぐるみは、あるのかないのかいまいち判りづらい肩を怒らせるようにしたかと思うと、その短い足
で由真の顎を渾身の力をもって蹴り上げたのだった。
 由真がたまらずクマを放り投げると、クマは近くのパソコン机にヒョイと飛び移った。
 その攻撃、その身のこなし、実に見事であった。どう見ても、ただの縫いぐるみではない。

 動きの良いクマの縫いぐるみ。きっとトイロボットなのだろうが、人に対して怒りを見せ、ましてや蹴りを入
れるようなロボットなど見たことがない。俺は興味津々で、そいつの側へと駆け寄った。
「よしよし、俺が来たからもう安心だぞ“クマ吉”。あの性悪女は、あとで俺がやっつけてやるからな」
 いつまでも縫いぐるみヌイグルミと言うのも面倒だ。やんちゃそうな動きだから、きっとオス(という設定)
のクマだろう。俺はそいつを“クマ吉”と呼ぶことにした。
「誰が性悪女だっ!」
 由真は顎を押さえながら喚いていたが、俺はシカト。
 俺は精一杯の微笑みを見せつつ、クマ吉を高い高いして、フレンドリーな態度を全身でアピールした。

 アピールしつつ、俺はクマ吉を観察した。クマ吉は内装された機械のせいでちょっと重いが、手や足の付け根
に不自然な関節は見られず、やはり普通の縫いぐるみにしか見えなかった。ふんわりした手触り、とぼけた顔。
5歳くらいの娘にプレゼントしたら大喜びして「パパ大好き」と言ってくれそうな、そんな縫いぐるみ。

 クマ吉は一瞬おとなしくなって、動きを止めて俺を見下ろすようにした。我が意、クマ吉に通ず、か。
332夢の迷い道4−2 その6:2005/07/03(日) 21:56:55 ID:Km3xk+BL0
 そう思ったが、甘かった。

 クマ吉は急に手足をバタバタと動かし、暴れ始めた。
「おい、ちょっと待て……」
 俺が言い終わる前に、クマ吉の連続キックが、俺の脳天に炸裂した!
「がはぁっ」
 俺は攻撃に耐えかねて、よろけてクマ吉から手を放すと、クマ吉は俊敏な動きで俺の左腕にしがみついた。
 そして、渾身の力で腕を締めつけた! 激痛が走る! 腕が痺れる! 血が止まるぅっ!
「うわあああ、やめてとめてやめてとめてやめてえ!」
 俺は腕を振り回して懸命にクマ吉を振り払おうとするが、クマ吉は離れるどころか、締めつけが一層きつくな
るばかりであった。
「きゃはははははは! “クマ吉”なんてダサい名前で呼ぶから!」
 俺の必死な姿を見て、由真が腹を抱えて爆笑している。ちくしょう。お前のせいだろ、お前の!

 そんな時。突然ガララとドアが開き、背の低い女の子が入ってきた。髪の両側をシニヨンでまとめ、お団子か
肉まんがくっついているような、独特の髪型をした娘だった。見覚えがないので、きっと新入生だろうな。

「みっちゃん、なにしとん〜?」
 女の子は、イントネーションが微妙にヘンな関西弁で言った。
「「み、みっちゃん!?」」
 俺と由真は、また同時に声をあげた。みっちゃん。その凶暴さとは程遠い呼び名だった。
 クマ吉は女の子の姿を認めるや否や、身軽に床へと飛び降りると、お団子頭の女の子目がけ、ダッシュで駆け
寄っていった。
 クマ吉は、俺や由真の方向を時折振り返りながら、幼稚園児か低学年の小学生が先生に悪事を言いつけるかの
ように、身振り手振りで、女の子に向かって何かを懸命に伝えていた。
 お団子頭の女の子は、クマ吉の言いたいことを理解しているようで、「ええ? そらホンマ?」などと聞き返
していた。
333夢の迷い道4−2 その7:2005/07/03(日) 21:57:53 ID:Km3xk+BL0
 俺と由真は、そのあまりに奇妙な光景を見ながら、いつの間にか雑談を始めていた。
 それは、どちらが先に「今のうちに逃げよう」と言い出すかを競い合う、チキンレースであった。
「……クマってさぁ、覚えさせれば手話とか出来るかなぁ」
 由真が言った。
「クマじゃ無理だろう、チンパンジーならわからんでもないけど」
「でも二本足で立てるし。案外、知能指数良さそうじゃない?」
「その理屈なら、ペンギンやレッサーパンダなんか手話しまくりじゃないのか。『おいそこのガキ、エサよこ
せ』とか」
「そんなレッサーパンダ嫌すぎ。だいたい、エサ欲しいなら、鳴いた方が早いじゃない」
「レッサーパンダって、どんな鳴き声だっけ?」
「う、う〜〜〜ん、キュ、キュー、キューって……」
「ホンマか!?」
「そ、そうよ! キューキュー鳴いてるの、懐かしのアニメ特集で見てて、知ってるんだから!」
「……その懐かしアニメに出てきたのは、アライグマではありませんか」
「似たようなものじゃないの。男なら、細かいことにはこだわるな!」

 お団子頭の女の子は、クマ吉の言い分をフンフンと聞き終えると、クマ吉を抱きかかえ、俺たちの方に近づい
てきた。彼女の幼い顔立ちは、明らかに不機嫌さを湛えていた。
 俺たちが、逃げるのか開き直るのかと、小突き合いながらお互いを牽制しているのを後目に、女の子はクマ吉
を近くの机の上に座らせると、俺たちの方に向き直った。
 俺は意を決して、なるべく友好的に話しかけるべく口を開こうとしたが、女の子はそれに構わず右手を振り上
げ、由真、そして俺にゲンコツをした。決して本気ではない。軽く触れた程度だった。

「……な、なにすんのよ!?」
 由真が、俺より先に口を開いた。
「みっちゃんが、ねえちゃんにシバかれたって言うてた。ええ歳して、弱い者いじめはあかんで」
 お団子頭の女の子は、声こそ落ち着いているが、明らかに怒っていた。
 俺は横目でクマ吉を見た。「いい気味だ」とでも言うように、バンザイして喜んでいた。
334夢の迷い道4−2 その8:2005/07/03(日) 21:58:50 ID:Km3xk+BL0
「ねえ。このクマちゃんの言ってること、わかるの?」
 由真は女の子に訊いた。
「そらそうや。みっちゃんは、ウチの“友だち”やもん」
「“友だち”……」
 女の子は、ハッキリと言った。あのクマの縫いぐるみ、クマ吉は自分の“友だち”だと。

 由真はお団子頭の女の子が涙目になっているのに気付いたようだった。由真の表情が曇っていく。
「……確かに、あなたの友だちを、棒きれをぶつけて落としちゃったのは、あたしが悪かった。ごめんなさい。
ただ、あの子をいじめるつもりなんか、これっぽっちもなかった。これだけは信じて」
 由真はそう言って、女の子に頭を下げた。
 しかし、女の子は厳しい表情を崩さなかった。
「……謝る相手がちゃうよ。それは、みっちゃんに言わな」
 由真はしおらしく頷いて、今度はクマ吉に向き直ると、頭を撫でながら素直に「ゴメンね」と謝った。
 クマ吉は、「まぁ、許してやろう」とでも言いたげな様子で、右手(右前足?)をヒラヒラと振った。クマ吉
が心の広いヤツでよかったな、由真。
 お団子頭の女の子は一息ついて、「まず一人は仲直りやなぁ」とつぶやいた。

 しかし。俺はどうも納得がいかない。
 クマ吉を叩き落とした由真がゲンコツされたのはわかるのだが……。
「なんだ、悪いのは由真だけじゃないか。なにゆえ俺まで叩かれにゃならんのだ」
 俺がそう愚痴ると、女の子はまた不機嫌そうになって言った。
「みっちゃん、にいちゃんのこと、ドすけべ〜、痴漢や〜って言うてる」
「えぇ? なにゆえ、俺が痴漢なんだ?」
「ふん、“クマ吉”なんてセンスのカケラもない名前で呼ぶから、嫌われたのよ」
 由真は鼻を鳴らしてそう言ったが、口にした後で、アレ? と小首を傾げた。
「もしかして……このクマちゃん、メス?」
 由真は、お団子頭の女の子に訊いた。
「“女の子”や」
 お団子頭の女の子は、やや強い調子で言い直した。
335夢の迷い道4−2 その9:2005/07/03(日) 21:59:52 ID:Km3xk+BL0
「下からイヤらしい目でお股覗いたって、みっちゃん、えらい怒っとるで」
 お団子頭の女の子は、口を尖らせて俺を糾弾した。
 イヤらしい目でお股覗いた!? ちょっと待て! 人を盗撮マニアみたいに言うな! これは罠だ!
 俺はまた横目でクマ吉を見た。腰に手を当てウンウンと頷いていた。縫いぐるみの分際で事実を捏造するな!

 ……あ。ひょっとして、あの“高い高い”をしたことか!?

「お股って……そんな、なんもついてなかったぞ!?」
 俺は、クマ吉とお団子頭の女の子を交互に見ながら、喚くように言った。
「あたしも見た見た! こいつ、下から舐めるように覗いてた! 河野貴明の超エッチすけべ〜! 痴漢野郎は
懲役三年猶予五年! 少年刑務所へさようならぁ〜」
 さっきのしおらしい様子はどこへやら。由真も調子に乗って、俺に指を突きつけてそう言った。
「猶予があるなら行かなくていいだろ……」
 俺がそうボヤくと、お団子頭の娘はクマ吉を持ち上げて、俺の鼻先に突きつけて言った。
「そういう問題とちゃうやん。にいちゃんも、みっちゃんに、ちゃんと謝らなあかんで」
 由真、お団子頭の女の子、そしてクマ吉が俺に注目している。
 とほほほほ。なぜ、今日に限ってこんな目に遭うんだ。縫いぐるみへの痴漢行為で謝罪しろ、だなんて。
 いっそのこと逃げ出したいが、ここで逃げたら、由真が小牧とか雄二相手に散々言いふらすんだろうな。河野
貴明は強制ワイセツの常習犯だ、とか。
 俺は、覚悟を決めた。
「……女の子とは知らなかったこととはいえ、俺が悪かった、です。ごめんなさい、みっちゃん。この通り」
 俺はクマ吉に頭を下げた。それから思い切って土下座して、「ごめんなさい、この通りっ」とカーペットにキ
スをしながら謝り続けた。
 由真の失笑が聞こえた。今日は厄日だ。
 ぽん、ぽん、と誰かが軽く頭を叩いた。俺が顔を上げると、そこにはクマ吉の姿があった。女の子の手を離れ
て床に降り、犯人のはずの俺を慰めるような仕草をしていた。
「にいちゃん、もうええって。みっちゃんが、逆に気の毒がっとるやん」
 お団子頭の女の子が、呆れた様子で俺に言った。
336夢の迷い道4−2 その10:2005/07/03(日) 22:01:11 ID:Km3xk+BL0
 俺はクマ吉、いや、みっちゃんと仲直りの握手をした。
「にいちゃんも、仲直りできてよかったなぁ。これでみんな“友だち”や〜〜〜☆」
 仲直りを見届けたお団子頭の女の子は、俺たちに笑顔を見せてそう言った。
 そう言えば……彼女の笑顔を見たのは、これが最初だった。
 俺とみっちゃんが“友だち”、か。そうなるまでは、随分痛い思いをしたけどな。友情というのは痛みを伴う
ものなのだなぁと、しみじみ思った河野貴明であった。



 うん? みっちゃんがまた、お団子頭の女の子に向かって、身振り手振りで何やら伝えているぞ!?
 お団子頭の女の子がそれを見てフンフンと頷くと、俺に向き直ってこう言った。
「なぁ、にいちゃん。みっちゃんなぁ、にいちゃんの呼びたい名前で呼んでもええって言うてるよ。“クマ吉”
でええって」
「……そうか。ありがとな、“クマ吉”」
 俺はそう言って、みっちゃん、いやクマ吉の頭を撫でた。クマ吉はバンザイして俺に応えた。
「みっちゃんなぁ。にいちゃんのこと、えらい気に入ったみたいやで。過ちを認めて土下座までしよるなんて、
ごっつ男らしいて」
 お団子頭の女の子が、俺に耳打ちしてそう言った。
 俺が「……マジ?」と聞き返すと、彼女はにっこり笑うだけだった。

 それからしばらくの間、俺、由真、お団子頭の女の子(珊瑚ちゃんというらしい)、そしてクマ吉で、コンピ
ュータ室で過ごした。
 動く縫いぐるみは、クマ吉だけではなかった。ペンギンとか、犬とか、鳩ぽっぽとか、いろんなヤツがいた。
「見て見て、貴明。この子の踊り面白いよ。脱力系でMP吸い取られそう」
 由真は興味津々で、クマ吉の仲間を撫でたり抱いたりして、その反応を楽しんでいた。
「もともとMP0だから関係ねえだろ」
 俺がクマ吉と戯れながら答えると、由真は俺の背後に回り込み、俺の頭を拳骨でグリグリしやがった。それを
見て珊瑚ちゃんが笑い、クマ吉はバンザイする。喜ぶなよな、痛いんだから。
 訊けば、ここにいる動く縫いぐるみは、全て珊瑚ちゃんが作った“友だち”らしい。このみと同じ学年だとい
うのに、これだけのロボットを作れるとは大したモノだ。表情や仕草は随分幼い印象を受けるが、人は見かけに
よらないな。
337夢の迷い道4−2 その11:2005/07/03(日) 22:02:06 ID:Km3xk+BL0
「さんちゃーん、終わったで〜」
 もう一人のお団子頭の女の子がやってきたところで、この縫いぐるみ祭りはお開きになった。
「瑠璃ちゃん、やっと数学の追試終わったん? どうやった?」
 珊瑚ちゃんは、縫いぐるみたちを片付けながら、もう一人のお団子頭の娘に訊いた。
「やっぱり、さんちゃんのヤマは凄いわ。95点やった」
「初めっからちゃあんと勉強しとけば、追試なんか受けんでええのになぁ」
「……そんなん無理。ウチはさんちゃんとはちゃうもん」
 この瑠璃ちゃんという女の子は、珊瑚ちゃんとは一卵性の双子みたいだが、頭の中身まではそっくりではない
ようだ。
「それより……この人たち、誰?」
 瑠璃ちゃんが珊瑚ちゃんに訊いた。
「ウチの、新しい“友だち”やねん。学年はいっこ上やけどな」
 珊瑚ちゃんが笑顔で言うと、まだ側にいたクマ吉が、ちっちっち、と言いたげに腕を振った。クマ吉としばら
く一緒にいたから、俺にもこいつのジェスチャーの意味がわかるようになってきたのだ。
 クマ吉は一旦バンザイしたかと思うと、人を抱擁するような格好をした。
「ああ……この人ら、そういう関係なん」
 瑠璃ちゃんにも、クマ吉のジェスチャーがわかるらしいな……。

 ……うん? “そういう関係”って、まさか……。

「……ちょっと、待て! お前、俺たちのこと……!」
「超誤解っ! ありえないっ! こんな変態で痴漢でデリカシーのカケラもなくて、人にケンカばかり売ってき
ては負けてばかりのジェリド=メサみたいな男と、このあたしが、こ、こ、こいび……!」

「結構、お似合いに見えますけど……?」
 後ろから、女の子の声。
 振り向けば、そこにいたのは草壁さん。なんか目が据わっていて怖いんですけど!?
 それより、どうして草壁さんが!? 今は4月1×日で、俺はまだ草壁さんとは会ってないはずだし。でも、俺
は草壁さんを知っているし……。
 どういうこと!? 俺は混乱して言葉を失い、後退りして腰を抜かした。
338夢の迷い道4−2 その12:2005/07/03(日) 22:03:04 ID:Km3xk+BL0
 場所はコンピュータ室のままだけど、珊瑚ちゃんや瑠璃ちゃんはいつの間にか姿を消していた。
 さっきのは、いったい何だ? 草壁さんが見せた幻覚? それとも、夢の中の夢だったのか?

「そうそう。あんたたちみたいな関係って、“ツンデレ”って言うんだよね?」
 また、後ろから女の声が。振り向けばミルファがいた。
 ミルファは腕組みして、一人で納得するようにウンウン頷いていた。
 見れば、ミルファの左腕には、縫いぐるみのクマ吉がしがみついており、俺を見るとヒラヒラ手を振った。
 そうか……“みっちゃん”というのは、ミルファのことだったのか。しきりにクマ吉が俺の前を駆け回ってい
たのは、そういうことだったのか。
「そういうの、いつかマンガで見たよ。今Googleで“ツンデレ”を検索したら、5万件以上も引っかかったし」
 ミルファはニヤニヤしながら得意そうに言った。
「し、シベリアの、永久凍土の大平原ですか?」
「それはツンドラです」
 草壁さんは怖い表情のまま、俺のボケにすかさず突っ込む。

「言わない! ありえない! こいつはね、あたしに打倒されるために存在している、人生の敗北者なの!」
 由真は口を尖らせ、唾を拡散メガ粒子砲のように飛ばして喚き散らした。
「だってさ……あんなイチャイチャじゃれ合っている所を見れば、誰だって彼氏彼女だと思うじゃない!?」
 ミルファがさらに言う。
「「冗談じゃないっ!」」
 俺と由真が同時に怒鳴った。
「あのねぇ、こいつの彼女はこっちだから!」
 由真は、草壁さんを指さしてミルファに力説した。
 その草壁さんは「さっきので三回目のシンクロ……」などとつぶやきながら、『くずかごノート』に何やら書
いているばかり。
「ああ、なるほど、ようやくわかった。オッケー」
 ミルファは、また勝手にウンウンと頷くと、由真を見ては「こっちが元カノ」、草壁さんを見て「で、こっち
が今カノ」、そして俺を見てはニヤリと笑い「まさか、二股はないよね?」と抜かしやがった。お前は何がした
いんだ!?
「だから! 違うって何回言えばわかるんだ、頭わりいのかお前は! 二石ラジオみたいに分解するぞコラ」
 俺はキレる寸前で喚き散らしているのだが、ミルファはそんな俺の姿を見て笑っているばかりだった。
339夢の迷い道4−2 その13:2005/07/03(日) 22:04:08 ID:Km3xk+BL0
「まったく、貴明さんには失望しました。まさか、由真さんと二股をかけていたなんて……勝手に追いかける相
手を変えるなんて、ルール違反ですっ」
 草壁さんはそっぽを向いてしまい、口を尖らせてしまった。
 俺はすっかり泣きたくなった。あれは草壁さんが来る前の話だから、由真はただの腐れ縁どころか名字すら知
らないし、俺の人生にとってどうでもいい存在だ、などと情けなく弁解するのが精一杯。草壁さんは呆れた様子
で苦笑している。
 さて、今度は背後から、由真の殺気を感じるが、もう弁解とかはする気になれません。今の俺は、完全に彼女
たちのオモチャに成り下がっている。もう、どうにでもしてくれ……。

 もはや精根尽き果てて、半泣きで体育座りしていると、ミルファは俺の肩を軽く叩き、色々と話し始めた。
「今日は、たかあきに逢えて良かった。ほら、普段あたしの周りにいるのは、研究者以外は女の子ばっかりだか
ら、女の子の……由真さんの姿にしてみたのよ。その方が、とっつきやすいかと思って」
 そうか。全てはミルファの仕組んだことか。どうやったのかは知らないけれど。ヤバい電波でも使ったのか?
 だから、草壁さんにもコントロールが出来なかったんだ。“夢見るロボット”にしてやられた、か。
 ミルファは、さらに続けた。
「それに……少しでも、たかあきと二人っきりでいたかったから。二人が違うクラスだってことは会話の内容で
わかっていたし。たかあきのクラスにはもう空席が無いから、あたしが割り込む余地がなかったけど、隣のクラ
ス、つまり由真さんのクラスには余裕があるってことが、学園の生徒名簿を検索してわかったし。それに……」
「あたしを、こんなクソ野郎にした理由は?」
 由真が俺を指さして、憮然とした様子で口を挟んだ。
「……そうねぇ。掃除機でブン殴られた憂さ晴らしってことで」
 ミルファはそう言って、ふふんと笑った。
340夢の迷い道4−2 その14:2005/07/03(日) 22:05:06 ID:Km3xk+BL0
「よりによって、俺を由真にすることはないだろう……?」
「だって、隣のクラスでたかあきが一番よく知っている女の子は、由真さんだと思ったから。
 どんな姿でも、たかあきはたかあきだよ。ちょっと素直じゃないところがあるけど、本当は潔くて優しいし、
クールそうでいて、実は結構熱いもんね。さっき証明してくれたばかりじゃない。そう、たとえ恋敵の姿であっ
ても、あたしは、ちゃんとたかあきを感じられた……」
 そう言って、ミルファは笑った。
「だから、恋敵ってのは!」
 由真は肩を怒らせ、否定しようとした。
「結局、それは誤解だったみたいだけど……あたしは、自分の欲望に忠実だから……勘弁してね」
「あんたねえ……!」
 怒った由真は、ミルファに掴みかかろうとした。

 グワッシャーン!

 突然、コンピュータ室の窓ガラスが大音響と共に砕け散り、何かが部屋に飛び込んできた。
 怒りに燃える由真も、俺も、草壁さんも、みんなガラス窓に注目した。

 飛び込んできたモノ――それは野球のボールだった――を買い物かごで器用にキャッチしたのは、メイド服を
着た青い髪の女の子だった。……いや、違う。耳にアンテナがある、ミルファに似たメイドロボだ。
 ……そうだ。花壇で水を撒いていた用務員は、この青い髪のメイドロボだ。
 そしてその傍らには、何故か瑠璃ちゃんが、金属バットを肩に担いで立っていた。

「野球便で〜す」
 青い髪のメイドロボはそう言って、買い物かごからボールを取り出した。
「あ、あのボール……あたしの打ったホームラン……」
 由真がボソッと言ったが、彼女たちの耳には届かなかった。
 青い髪のメイドロボがボールをトスすると、瑠璃ちゃんは金属バットをフルスイングした。
「貴明宛てやぁっ!」

 グヮラゴヮラガキーン!

 ライナー性の打球は、おれオレ俺の顔面目がけて
341夢の迷い道4−2 その15:2005/07/03(日) 22:06:28 ID:Km3xk+BL0
 ……直撃した。いてえ。
 俺は、顔面からベッドから転落し、フローリングの床に思いっきり額をぶつけていた。
 時計を見る。午前6時35分。あれだけ長い夢を見せられながら、普段よりもずーっと早く目覚めるなんて。
 頭の痛みで、二度寝なんか出来やしない。俺は観念して、起床した。

 どこからが夢で、どこからがただの記憶だったのか、それとも実は夢ですらなくて、変な薬でも飲んだか、毒
電波でも受信するかして、何者かの妄想を見せつけられていたのだろうか? 俺には、わからない。

 夢の中で迷い込んだ4月の出来事だって、あれは本当にあったことなのだろうか?
 4月の中頃、どこかの教室に保健体育の教科書を忘れて、放課後になって取りに行ったのは、あったような気
がする。でも、そこで何があったのかは、わからない。記憶にないんだ。動く縫いぐるみは、いたかもしれない
し、いなかったのかもしれない。いや、見たことのないモノは夢には出てこないのだから、恐らくは、何らかの
カタチで見ていたんだろう、たぶん。

 でもミルファ、いやクマ吉には悪いが、俺にとってはどうでもいいことだったのだろう。
 あの頃は、夜な夜な草壁さんに逢いに行っていたから、そちらの記憶の方が楽しく鮮烈だったから、草壁さん
と重ねる逢瀬がすごく幸せだったから……だから、俺の記憶のリンクからは途切れてしまったのかもしれない。

 俺の夢、もしくは草壁さんや由真の夢、そして夢の中で見た夢、あいまいな記憶、そして何者かの生み出した
――その源は、人でなくクマ吉かもしれない――潜在的な欲望から生み出された幻想。それらが幾重にも織りな
した迷い道に、俺は見事に嵌りこみ、惑わされた。しかし、何が夢で何が夢でなかったかなんて、もはや俺には
わからない。俺は目覚めてしまったのだから、結局ただの夢でしかなかったのだから、現世に生きる俺にとって
はどうでもいいことなのかもしれない。
342夢の迷い道4−2 その16:2005/07/03(日) 22:07:19 ID:Km3xk+BL0
 でも、一つだけ確かなことがある。さっきの夢の中で、俺がクマ吉と過ごした時間は、本当に楽しかった。
 俺の世話係を自称し、奇妙な授業を一緒に受け、どこへ行くにも一緒だった。便所にまでついてきたのには驚
かされた。カニコロッケ弁当を食わせてもらったかと思えば、こっちが彼女の故障の危機を救ったりもした。

 結局、すべてはただの夢でしかなかったけど、この想い出は、絶対に忘れないよ。
 願わくば、現実の世界で再び逢いたい。そして、“友だち”になりたいものだ。



「タカくん、それどうしたの? 痛くなぁい!?」
 このみが額のアザを見て、心配そうに声をかけてくる。
「痛いに決まってるだろ……なんせ、ボールが……」
「ボールって? 昨日、回覧板届けに行った時には、そんなアザなかったよ!?」
「……いや、なんでもねえ。こっちのことだ……」
「ヘンなタカくん……」

 そんな折、草壁さんの姿を見つけた。このみに「それじゃ、わりいな」と手を振って、草壁さんの元へ。
 このみの表情は、あえて見ない。切なくなるから。

「おーい、草壁さん……」
「シベリアの大平原な関係って、どういう意味なんでしょう? 響きは、運命的な匂いがしますけど」
 挨拶する前に先制パンチ。やはり草壁さんも、あのクマ吉の“夢”に巻き込まれていたのか。
「……二股ってのは、本当に誤解だから。あいつ、由真とは、ただの腐れ縁ってヤツで……」
「さぁ、どうでしょう? 腐れ縁というのは貴明さんの思いこみで、実は運命的な間柄だったりして!?」
「それはないから、1001%ありえないから」
「とにかく。少しばかり不愉快な思いをしましたから、その埋め合わせはしてもらいます」
 草壁さんは、横目で睨むように俺を見て言った。
「埋め合わせって……?」
343夢の迷い道4−2 その17:2005/07/03(日) 22:08:20 ID:Km3xk+BL0
 草壁さんは、懐から『くずかごノート』を取り出すと、(草壁さんにしては)大声で読み上げ始めた。
「貴明さんは、私の前でお尻を丸出しにすると、真っ赤な顔で『バッチこーい!』と絶叫して」
 俺は慌てて草壁さんから『くずかごノート』を取り上げると、我ながら情けない声で「お願い、もうやめて」
と哀願した。
「わかった、わかりました。じゃあ……今晩は、お城で……」
 今晩はあの宮殿で、草壁さんの奴隷になることを覚悟した、のだが。
「それまで待てませんっ」
 草壁さんは俺から『くずかごノート』を引ったくりつつ、口を尖らせて言った。
「そんなご無体な」
 じゃあ、古文の時間がいいですか? 世界史にしますか? どっちも熟睡できるから……。
 しかし、草壁さんの答えは違った。
「今日の放課後がいいな。私、見たい映画があるんですよ。『バッチこーい!』って言うのは、万事滞りなくエ
スコートするから、安心してついて来なさいって意味の俗語なんですよね? こぐま座の星たちが教えてくれま
したから、間違いないですっ」
 夢の世界の埋め合わせは、夢でしなくちゃならないと思いこんでいた俺はマヌケだった。
 これって、つまり……デートのお誘い!?
「……します、万事エスコートするから。映画代もポップコーンも飲み物も、全部俺持ちで!」
 草壁さんはクスクスと笑い、「それじゃあ、よろしくお願いします」と言った。



 朝のHRの時間のこと。隣のクラスから、何やら歓声と拍手が響いた。誰かが何かの競技の全国大会にでも出
場するのかな。そう思い、雄二に訊いてみたが「わかんね」の一言で済ませられてしまった。使えない奴だな。

 で、休み時間になった。俺は便所に行こうと廊下に出た。

「おっはよう! たかあき!」

 女の子の大声が廊下に響いた。誰だ? どこだ? 俺を呼び捨てで呼ぶような女子は、由真くらいだが……。
 俺は、声のした方向に振り返った。

 その瞬間、柔らかいものが抱きついてきた。
344夢の迷い道4−2 その18(終):2005/07/03(日) 22:12:07 ID:Km3xk+BL0
「また逢えたね、たかあき!」

 鮮やかな栗毛の髪。ちょっと気が強そうな瞳。一点のホクロもない真っ白な肌。そして、ふくよかな胸。
 間違いない。その娘は、夢に出てきたミルファだった。いや、“クマ吉”と呼ぶべきか。

「人でもロボットでも、夢は信じ抜けば叶うんだよ。そうだよね、たかあき?」
 今宵の夢は、この瞬間のために、クマ吉が草壁さんもビックリの不思議パワーを発揮して、俺たちに見せたん
だな。
 クマ吉……なんて、恐ろしい娘。
 周囲の連中は、何が起こっているのかわからず、俺たちをキョトンと見つめているばかりだ。そりゃあ、そう
だろう。そんな中、苦々しさを含んだ視線が背中に突き刺さった。それは由真か、草壁さんか。

「今日もカニコロ弁当、作ってきたよ! 『明日もミルファの弁当がいい』って言ってたもんね。お昼は一緒に
食べようね!」
「お前は食えないだろ……」
「もちろん、あたしは見てるだけでいいよ。それとも、あたしが食べさせてあげようか?」
「いいよ、恥ずかしい。それより、もう放して、苦しい」
 クマ吉は馬鹿力で、俺の胴を締め付けていた。
「それじゃあ、お昼は約束だからね!」
「もう、好きにして……」

 クマ吉は両手を振って、隣の教室に消えていった。朝の歓声の意味が、ようやくわかった。

 小便をして教室に戻ると、草壁さんが『くずかごノート』を取り出して何やら書いていた。
 さっきのお惚気シーンの“埋め合わせ”について考えているのだろうか。

 それなら……せめて、キスくらいはしないと、釣り合わない、かな!?
 それとも……もっと、すごいことがいいですか?

 俺は、オッケーだよ。
345名無しさんだよもん:2005/07/03(日) 22:14:05 ID:Km3xk+BL0
二度に分けて貼ると書きましたが、一気に貼ってしまいました。
ここまで長くなるとは思わなかった。

それじゃあ、またいつか。
3460/7 Tender Heart その7:2005/07/04(月) 01:01:54 ID:b5BQwIRC0
 >>345
 長期連載お疲れ様でした! 大団円大好きです。
 週末に入ってたくさんSSが読めて幸せですねぇ……。
 再登場を激しく待ってます!

 >>324氏もお疲れ様でした。ていうかファンです。
 いまのトレンドはミルファなのでしょうかっ!?(笑
 
 私も皆様にあやかって、続きを貼らせて頂きますね。



  前回までのあらすじ

「このみを抱きたいと、思わないわけじゃないんだろう?」
 雄二のこの一言から、貴明の長い一日は始まった。
 このみが無邪気にぶつけてくる愛情表現を、前のように落ち着いて受け止められなくなった貴明は心労と空腹で倒れる寸前
ようやく食糧(アイス)にありつく。
 アイス屋で偶然出会ったちゃるとよっちを貴明は呼び止めこのみの相手をしてもらい、その間に自分の気持ちを整理するこ
とに。
 しかしちゃるがこのみを連れて席を立った時、よっちが話しかけてきた。

 「センパイ――このみと何かあったんスか?」

3471/7 Tender Heart その7:2005/07/04(月) 01:03:27 ID:b5BQwIRC0
「何か、って……」
 反射的に口から出かけたごまかしの言葉を、俺は続けることができずに飲み込んだ。
 よっちはじっと俺を見ている。
 別に睨まれているわけじゃない。むしろどちらかというと心配そうな表情とさえ言えるだろう。
 でも――いや、だからこそなのかもしれない。俺は、いま目の前に座る女の子に下手なごまかしや嘘を言いたくなかった。
 もし今そうしたら、きっとこれから先よっちと顔を合わせるたびに気まずい思いをしないといけなくなりそうな、そんな気
がした。
 それに、よっちにしても、何らかの確信がなければこんな回りくどいことをしてまで俺にこんな踏み込んだ質問をしようと
は思わないだろう。
 俺はため息をついて、軽く両手を挙げた。
 降参、のポーズ。
「参ったな。どうしてそう思ったの」
「ひとことで言うと、女の勘ッス」
 案ずるような表情を崩さずに、よっちは言った。
「具体的にいうと、最初っからなんか変だなって思ってたッスよ」
「最初から?」
 俺が驚くと、そこではじめてよっちは小さく笑った。
「はい、センパイがあたしらを呼び止めて誘ってくれた時からッス。もちろん嬉しかったッスけど、その時あれ?って思った
んス」
「………」
 俺は軽い自己嫌悪に陥りそうだった。策士策に溺れる、なんてものですらない。
 今が平和な時代で良かった。生き馬の目を抜く戦国時代だったら絶対にすぐ死んでると思う。タマ姉は天下取りそうだけど。
 俺が黙っていると、よっちは冷酷にも暴露を続けた。
「それと、センパイ実は今日お腹なんて痛くなかったでしょ」
「ど……なっ」
 驚きが大きすぎて言葉が上手く出ない。
 な、なんでそんな事まで分かるんだ?
3482/7 Tender Heart その7:2005/07/04(月) 01:09:20 ID:b5BQwIRC0
「さっきアイスを一気食いしてるセンパイにあたしが『大丈夫ッスか?』って声を掛けた時、センパイきょとんってしてたッ
スよね? その後うまくごまかしたつもりだったかも知れないッスけど、バレバレッスよ」
 外国人めいた仕草で肩をすくめてそう言うよっちの前で、俺は文字通り頭を抱えた。穴を掘って埋め立ててその上にマンシ
ョンでも建てて欲しい気分だった。
「その後も、このみの顔をちらちら見ながらずーっとなんか深刻そうな顔して考え込んでるし――センパイ、あたしらとこの
みがさっきまで何の話してたか知ってるッスか?」
 力無く首を振ると、やっぱり、という表情でよっちは複雑な表情で笑った。
「夏休みの話をしてたんスよ。海に行こうとか今年こそプールに行きたいとか……その中で何度もセンパイの名前出てたの、
本当に気が付かなかったんスか?」
「……考え事、してたから……」
 俺はもうすっかり打ちのめされて、弱々しくそうつぶやくのが精一杯だった。
 甘かった。というより間抜けにも程がある。
 俺とよっち、なぜか同じタイミングではぁ……とため息をついた。
「……それでまあ、どうもセンパイの様子がおかしいし、もしかしてなんかあったのかなって思ってちゃると相談したんス」
 そこでよっちは、ふたたび表情をはじめの真面目なものに戻して続けた。
「余計なおせっかいだってことは分かってるッス。もしあたしに言えないこととかだったら、ごめんなさいッス。でも、この
みとセンパイの間になにかあったんだとしたらって考えたら……じっとしてられなかったんスよ!」
 俺は、よっちの言葉を小さからぬ驚きと共に聞いていた。
 いつもこのみやちゃるとつるんでテンション高くはしゃいでる陽気な下級生だと思っていたよっちが、こんな事を言うなん
て。こんな表情を、見せるなんて……。
 それに引きかえ、自分の幼稚さはどうだ。俺はもう一度頭を抱えたくなるのを必死に自制しなくてはいけなかった。自分の
ことばかり考えていたその視野の狭さが、問題に正面から向き合わずごまかして逃げてばかりいた自分の弱さが、恥ずかしく
て恥ずかしくてたまらなかった。
3493/7 Tender Heart その7:2005/07/04(月) 01:12:33 ID:b5BQwIRC0
「センパイ、さっき考え事してたって言ったッスよね? あたしでよかったら……役に立てるかどうかわかんないッスけど、
話聞くッスよ? 誰かに話してるだけで、考えがまとまることって、あたしもよくあるし……」
「――ありがとう」
 感謝の言葉は、本当に素直に胸の奥から出てきた。
 自然に頭が下がった。
「俺とこのみのことを、そんなに思ってくれて、ありがとう。そして心配させたみたいで、ごめん」
「い、いやそんな! あたしが勝手に突っ走ってるだけッスから!」
「――でも、先にひとつだけ誤解を解いておくと」
 俺は謝り合戦になりそうなのを手で押さえて、小さく息をついて言った。
「『何か』が起きてるのは、俺とこのみの間じゃない。このみはいつも通りだよ。ただ――俺がひとりで考え込んでただけだ
から」
 話を変に重くしないために、俺はそこで意識的に笑った。痒くもない鼻の頭を、指の先で掻く真似をする。
「それと、安心させるために言っておくけど、考え事って言っても、このみの事が嫌いになったとか重荷になったとか、他に
好きな人ができたとか、そんなことじゃないよ。それは、絶対にない」
「センパイ……」
 最後の言葉は、意識していなかったのに、強い語調で口から出た。
 それを聞いたよっちはすこしびっくりした顔になって、それからようやく、表情から不安な色が消えた。
「じゃあ、お言葉に甘えて話してもいいかな。女の子としての意見も聞かせて欲しいし……でも、大丈夫かな」
 街路樹の影でなにかを話し合うちゃるとこのみの姿を横目で見つつ、最後のひとことを付け加えると、よっちは「抜かりは
無いッスよ」と笑った。
「さっき延長可能の合図があったッスから、あと10分20分は平気ッス。あのキツネ、自分は喋らずに相手に話させるのが
妙に上手いんスよ」
「……そりゃまた」
 警察とかに勤務したらその才能は重宝されるんじゃないだろうか。誘拐犯との交渉担当、とか。
「だから、とりあえず心配ご無用ッス」
「そっか。じゃあ、どこから話そうか……」
3504/7 Tender Heart その7:2005/07/04(月) 01:14:23 ID:b5BQwIRC0
 それから俺は、よっちに今朝からの出来事をなるだけ簡単に要点をまとめて話して聞かせた。
 このみの両親が出張で、今夜このみが泊まりにくること。
 それを知った雄二が、今朝俺に言ったこと。その言葉を、俺がどんな風に感じたか。
 昼休み、飯も食わずに逃げ出した時の俺側の事情。聞きながらよっちは、ため息をつきたいのをぎりぎりのところで堪えて
いるようだった。
 5時間目の休み時間、同級生と一緒にいるこのみを見て綺麗だなと思ったこと。もちろん、アロエベラのことは話さなかった。
 放課後、アイス屋に向かう道すがら考えていたあれこれも話した。その後の「このみアイス」のくだりで、ついによっちは
ため息をついた。どこか、やってられるか、と言わんばかりの盛大なため息だった。
 ここに付いて行列に並んでいる間のこと。逃げるのはおしまいにして、考えなければと覚悟をきめたところによっちたちが
現れたこと。
 そして、たったいまようやく今朝からのことを振り返って考えることができたこと――。

 よっちが言った「誰かに話すだけでも、考えがまとまることがある」というのは、本当なんだと思った。
 自分の考えや経験を他者に伝えるための言葉になおすということは、物事をある程度客観的に見つめなおすのに役立つ、と
いうことなんだろう。
 よっちに向けて話しながら、俺は自分がとてもシンプルな問題を複雑に考えていたんだということに気がつかされた。
 そう、問題はとてもシンプル。
 そしてきっと、答えもとてもシンプル。
 だけど、だからこそ、根が深い問題なんだと思った。

「向坂先輩って、本当にセンパイの親友なんスね……」
 話を聞き終わったよっちが最初に言ったのは、そんな一言だった。
「なんでそこで雄二の名前が出てくるの」
「センパイだって分かってるはずッスよ。向坂先輩の言葉の、本当の意味」
「――ああ」
3515/7 Tender Heart その7:2005/07/04(月) 01:14:47 ID:TaQSLjQY0
 俺はうなだれるようにしてうなずいた。
 そう。
 雄二の今朝の言葉こそが、全ての鍵だったのだ。
 その言葉が、あまりに鋭く俺の抱える問題を暴いたものだから、そしてそのことを弱虫なことに俺がなかなか認めようとしな
かったために、今日一日をこんなにも悩みながら過ごさなければならなかったのだ。

 今朝の雄二の言葉を思い出してみる。

『お前達ふたりのつきあい方を見てると、微笑ましすぎて不安になってくるんだよ』

 ――微笑ましい関係。
 お互いの食べかけのアイスを、気負い無く食べあう関係。
 彼女がベッドに潜り込んできても、なにも無い関係。
 それはとても自然で、そしてとても不自然な関係。

 俺たちは、つき合いだしたばかりの彼氏彼女なのに。

 そう、俺たちは恋愛の手順が逆になっている。
 初めから誰よりも近くにいて、互いのことをよく知っていて、家族みたいに思っている存在。
 手を繋ぐのも、抱きしめるのも、同じベッドで眠るのも――世の中の普通のカップルが、胸を高鳴らせながら少しづつ登って
いくそうした恋愛のステップを、俺たちはとっくの昔に済ませてしまっているのだ。
 俺たちはただ、この春にお互いの気持ちに気が付いて、幼なじみの距離から恋人の距離への最後のラインを一緒に飛び越えただけ。
 ――いや。俺は頭を振って、自己欺瞞の罠に陥りそうな思考を否定した。
 俺は認めなくてはならない。
 飛び越えたのは、このみだけだったのだ。
3526/7 Tender Heart その7:2005/07/04(月) 01:17:37 ID:TaQSLjQY0
 俺は、このみと恋人としてのキスを交わしたこの春からの三ヶ月を思い起こしてみる。

『……微笑ましすぎて不安になってくるんだよ』

 雄二の言うとおりだ。
 俺のこのみへの接し方、扱い方は、つき合う以前とあまり変わっていない。
 雄二に指摘されなければ、きっと今夜もそれ以前と同じく、ごく普通にしゃべって、ごく普通に一緒のベッドに入り、何事も
なく朝を迎えていただろう。
 そのこと自体が問題なのではない。問題なのは、俺が未だに幼なじみの関係に片足を残したままでいる、ということ。
 以前の関係をやめ、新しい関係に入ることへの覚悟を、まだちゃんと決められずにいるのだ。

 今なら、雄二があの時最後に言った言葉の意味が分かる気がする。

『無意識にせよ意識してにせよ、そんな風にずっとそういう欲求を押し殺し続けてると――』
『……肝心な時に、辛い目にあうぞ』

 幼なじみではない、でも、恋人にもなりきれてない。
 そんな生ぬるい距離はいつかお互いを傷つけてしまうだろう。
 雄二が言ったのは、単にこのみを抱くか抱かないかという、表面的な行為の問題じゃない。
 このみという存在を、恋人としてきちんと受け止める覚悟を決めろという、優柔不断な俺への叱咤だったのだ。
 俺のことを深く理解して、そんな言いにくい事を言ってくれる奴は――たしかに、雄二しかいない。
3537/7 Tender Heart その7:2005/07/04(月) 01:19:42 ID:TaQSLjQY0
「そういう男の友情って、うらやましいッス」
 どこかまぶしそうな表情で、よっちが言った。
「よっちだって、ちゃるやこのみがいるじゃないか」
「ま、そーなんスけど」
 どこか照れくさそうによっちは笑う。
「で、どーするんスか」
 絡ませた指の上にあごを乗せて、上目遣いでこちらを見つめてくるよっち。
「どうやらもう、答えは出てるみたいッスけど」
「――うん」
 俺は頷いた。

 話しながら、考え、そして決めたことがある。
 シンプルな問題の、シンプルな答え。
 ただ、それを認めるのに勇気が必要だった。

 でも、もう迷わない。
 俺は今度こそちゃんと、完全に、このみの恋人になる。
 覚悟を決めた。
 だから――

「今夜このみを――俺だけのものにする」




                            ※8に続く※
354Tender Heart の作者:2005/07/04(月) 01:20:42 ID:TaQSLjQY0
 奇跡的なスピードでみなさんにまたお会いできましたw
 てんだ〜は〜とまだ〜? と急かして下さったみなさんのお陰です。
 あれ見ると「書かなきゃ!」という焦りが湧いてくるんです。

 さて、お話の方もようやく山場を迎えつつあります。
 お話というのはジェットコースターに似ていて、最初にカタカタ高い山の
てっぺんまで持っていく作業にこそ地道なパワーがいると思います。
 てっぺんまで登ってしまえば、あとはお話自体の重さで勝手に動いてくれ
ますから、ずいぶん楽にいけるんですが。
 
 TH2本編の一日をなぞる形で進むこのてんだーはーと。
 覚悟を決めた貴明に、やがて、夜が訪れます。
 また近いうちにお目にかかれますよう、頑張ります!
355名無しさんだよもん:2005/07/04(月) 01:45:47 ID:/WD8HnGtO
とてもきれいな文章、物語に感動した
ラスト?楽しみにしてます
356名無しさんだよもん:2005/07/04(月) 09:13:48 ID:oVoc4D1VO
お疲れです。
見やすくて面白いわ〜、さすがだねぇ。夜も楽しみだwwww
濡れ場もくれぐれもよろしくな
357名無しさんだよもん:2005/07/04(月) 11:25:48 ID:IMRnXThy0
ヴァ、ヴァンダボー!!
ミルファもこのみもラブリーで最高でした!
続きを楽しみにしています! 特に濡れ場!
358名無しさんだよもん:2005/07/04(月) 14:58:21 ID:34DtDdRDO
>>354
カリスマGJ!!
蝶期待して待ってます!
359名無しさんだよもん:2005/07/04(月) 18:05:48 ID:ErBo4m8z0
オレが待望して止まないのは
「跳躍するジャンクション」なんだ……。
360ミステリの人:2005/07/04(月) 18:19:35 ID:lp9SXTLJ0
>>306-309の続きを投下します。
361Cry to Heart (1) 第3話 終:2005/07/04(月) 18:20:35 ID:lp9SXTLJ0
・第3話「憎悪の影」
いつものようで、だが決して違う朝。
昨日までと比べて少し肌寒い朝だった。

「なあタカアキ、なんかいつもと違うな」
雄二が心配したように俺に聞く。
それもそのはずだ、昨夜は事件のことを考えててほとんど眠れなかったし、
今この時間も事件のことが頭から離れない。
きっと思いつめた顔でもしていたのだろう。
「タカ坊・・・、まだ小牧さんのことに責任を感じているの?
 悪いのは犯人なんだからタカ坊が思いつめることはないのよ」
「タカくん、元気だして。悩みがあるんならこのみが聞いてあげるよ?」
俺のことを心配してくれる2人。
確かに俺は考えすぎていたのかもしれない。
きっと今日からいつも通りの日常が始まるんだ。きっと。
今はそう信じていたい。


昼休みになった。
そういえば今日はミステリ研のある日じゃないか。
よし気晴らしに行ってみるか。
花梨のテンションに付き合ってれば嫌な事も忘れられるだろう。

俺は部室のドアを開く。
「ちーす」
「あ、タカちゃん。丁度良かった、これから食堂に
 行こうと思うんだけど一緒に来てくれる?」
「うん、いいよ」
おおかたタマゴサンドでも買いに行くのだろう。
昼休みも半ばを過ぎていたせいか食堂にいる生徒はまばらだった。
「あれれ、タマゴサンドが無い・・・」
花梨はタマゴサンドが置いてあったであろう棚を見てガックリとした。
「ははは、残念。きっと笹森さんの日頃のおこないが・・・」
「むぅー」
「あ、そういえば俺まだ昼食べてないや。
 付き合ってもらってもいいかな笹森さん、ジュースくらいならおごるよ」
「タカちゃんがそこまで言うのなら断るわけにはいかないね。
 うーん、喉が渇いてるからおっきい紙パックのやつがいいなあ〜」
「・・・・・」

俺はうどんの入ったどんぶりを持ってイスに座った。
花梨は機嫌がよさそうに俺の正面に座る。
花梨の奴、どさくさに紛れてお菓子も買いやがって・・・。
ああ、財布が軽い。
「どーしたの?タカちゃん。元気ないね」
「笹森さんのせいだよ」
「えー?」

うどんを食べ終わったので俺たちは部室に戻ることにした。
すると花梨が、
「あっ!タカちゃんあれ見て!」
「ん?どうしたの」
花梨はそう言うと同時にパン売り場へと駆け出した。
「ちょっとどうしたの笹森さん」
俺も小走りでパン売り場に向かう。
・・・。
なんとさっきは無かったタマゴサンドが1つだけあるではないか。
「おばさん、これくださーい!」
花梨の執念がタマゴサンドを召喚したのだろうか?
んなワケない。多分棚に並べ忘れた分があったのだろう。
363Cry to Heart (3) 第3話:2005/07/04(月) 18:24:09 ID:lp9SXTLJ0
上機嫌な花梨と一緒に部室に戻る。
「タカちゃん、さっきのお礼に半分あげるよ」
そう言うと花梨はタマゴサンドを半分こにして俺に差し出す。
「うん、ありがとう」
半分のタマゴサンドを受け取りそれをかじる。
・・・が、俺がタマゴサンドを3回ほど噛んだ瞬間。
ガキッ!
「!!?」
俺は何か硬いものを噛んでしまった。
驚いてその硬いものを手のひらに吐き出す。
「タカちゃんどうかしたの?」
「なんか硬いものが・・・」
俺は自分の手のひらに乗っている物を見る。
・・・画鋲だった。
なぜタマゴサンドに画鋲が・・・?
!?
俺はあることに気づいた。
もしも花梨がタマゴサンドを半分にして俺に渡さなかったら、
この画鋲を口に入れていたのは花梨じゃないか・・・。
まさか、あのタマゴサンドは誰かが置いたもので、
花梨が食べることを確信して画鋲を仕込んでいたのでは・・・。

少しだけ忘れかけていた事が俺の脳裏に甦った。
これもまさか愛佳と由真の事件と同じ犯人が?
一体誰なんだ・・・。
364Cry to Heart (4) 第3話 終:2005/07/04(月) 18:24:55 ID:lp9SXTLJ0
昼休みが終わり授業が始まった。
俺は勉強そっちのけでこれまでの事について考えていた。
そして一つの結論に達したのである。

愛佳、由真、花梨に共通していること、
それは『俺と仲が良い』ということだ。
つまり犯人は俺と仲の良い女の子を狙っている。
次に狙われるのは間違いなくこのみかタマ姉だ。
2人を守らなければ!
でもどうすればいいんだ・・・。
・・・いや、待てよ。
俺は全ての事件をこの目で見ている。しかも目の前で。
つまり犯人は、ターゲットとなる女の子が俺と一緒にいる時を
狙っているのではないだろうか。
それが本当だとしたら、俺がこのみやタマ姉と一緒にいる時に
犯人はなにか仕掛けてくるはずだ。
つまり周りを警戒していれば、このみとタマ姉への
攻撃を防ぐことが出来るかもしれないのだ。
そしてあわよくば犯人を捕まえることも・・・。

とにかく学校が終わったらこのみとタマ姉に一連の事件のことを話して、
気をつけるように言わないとな。

キーンコーンカーンコーン。

俺は急ぎ足で2人の教室に向かった。
365ミステリの人:2005/07/04(月) 18:29:41 ID:lp9SXTLJ0
第3話終わりです。
366名無しさんだよもん:2005/07/04(月) 19:33:11 ID:DNFdkhdi0
た、たまごサンドに画鋲………(;゚Д゚)
367名無しさんだよもん:2005/07/04(月) 19:45:16 ID:1TZXhKti0
もう明日からタマゴサンド食えないよ・・・
368河野家にようこそ 第13話(1/9):2005/07/04(月) 20:43:41 ID:iLmN3p4R0
 みなさんこんにちは、このみです。
 いつもならタカくんが前回のあらすじをみなさんにお話しするんですけど、今回は何故かわたしが
タカくんの代わりにお話しすることになりました。なんでもタカくん、ショックでそれどころじゃない
んだって。何があったんだろう、心配だなぁ。あ、じゃあお話しするね。
 わたしもだけど、小牧さんもタカくんの家の雰囲気が羨ましいらしいです。あんな風にみんなで一緒
に暮らすのって、きっと楽しいもんね。わたしもタカくんの家に住みたいなぁ。
 小牧さんを家まで送って帰ってきたタカくんは、タマお姉ちゃんたちのパジャマ姿を見てドキドキ
しちゃって、のぼせてダウンしちゃったんだって。むー、わたしのパジャマ姿は何度も見ているのに、
何でタマお姉ちゃんたちだとそんなになっちゃうのかな、やっぱ、わたしって色気がないからかなぁ。
 でもその時、タマお姉ちゃんたちはタカくんのパオーン!! を見ちゃったんだって。パオーン!!
ってなにかな? 象さんのモノマネ?

 いつもと同じくこのみ、雄二、タマ姉たちと一緒に学校へと向かう。
 ホントは学校なんかさぼって、自分の部屋でヒザを抱えていたい気分なのだが、欠席の理由がアレでは
物笑いの種でしかない。
 しかし、タマ姉たちにとってもあの事件は精神的ダメージが大きかったようで、さっきから俺達は、
ロクに会話すらしていない。
「ねぇ、みんな今日はどうしたの? なんかヘンだよ?」
 その理由を知らないこのみが、そう俺に尋ねる。でも俺には理由なんて説明できない。出来るワケ無い
でしょ!
「全くだ。貴明も姉貴たちも葬式みたいに黙りこくっちゃってヘンだぞ。何かあったのかよ?」
 だから雄二、お願いだから聞かないでくれ。そっとしておいてくれ。
「何もないわよ、雄二」
 タマ姉は淡々と答えるのだが、顔を赤らめながらでは説得力がない。
369河野家にようこそ 第13話(2/9):2005/07/04(月) 20:44:02 ID:iLmN3p4R0
「そそ、何もなかったの私たちは。何も見てないんよ」
 って花梨、フォローのつもりだろうけどそれじゃかえって疑われるでしょうが!
「あぁん? 何もなかったぁ? 何も見てないぃ?
 怪しいなぁ、俺の直感が告げているぞぉ。昨日の夜、貴明たちに何かが起きたとなぁ」
 案の定、雄二の疑念は強まってしまった。
「様子がおかしいのはこのみ以外の全員。つまりこのみ以外の全員が事件に関わっているということだな。
 ……………………よし!! 謎は全て解けた!!
 昨日の夜、貴明と姉貴たちとの間で起きたこと、それは!!」
 名探偵気取りだな雄二。どうせまた酒池肉林とか言い出すんだろ。
「姉貴たちが4人仲良くお風呂に入っているところを貴明が覗き、それがバレて貴明が袋叩きにされた。
間違いない!!」
 まぁ雄二が思いつきそうな推理ではある。でも雄二、お前だって俺の家の風呂くらい見たことあるだろ。
あの大きさの風呂で、4人全員入るのはちょっとキツくないか? 大体、袋叩きにされたと言うなら俺の
身体に生傷の一つも残ってるだろうが、ご覧の通り俺は無傷だぞ。
 ……心に深い、致命傷一歩手前の傷を負っちゃいるけどな。
 ところが、この迷推理に対し、
「そ、そうなのよ! たかあきのどスケベが風呂場の窓から覗きくさってハァハァ言っていたのをあたし
が見つけて、みんなで袋叩きにしてやったのよ! ねぇみんな!?」
 由真がそれを肯定する。その方が都合がいいと判断したのだろうか? どっちかと言えば、見られたの
は俺なのですが……。
 だが、他のみんなもそれに同意したようで、次々とフォローが入る。
「そ、そう、由真さんの言うとおりなのよ。そ、そりゃあタカ坊もお年頃だから、女の子の裸に興味を
持っても仕方がないとは思うんだけど、さすがに覗きは良くないわ。だからちょっとキツめのお仕置きを
してあげたのよ」
370河野家にようこそ 第13話(3/9):2005/07/04(月) 20:44:35 ID:iLmN3p4R0
「る、る〜。うータマの言うとおりだ。女の裸を見せていいのは、夫と決めた男のみだぞ。
 本来なら死をもって償うべきところを、あの程度の仕置きで許してやったのだ、感謝しろ、うー」
「ま、全くもってるーこの言うとおりだよ! こういうところは宇宙人も地球人も同じなんだね!
 いいたかちゃん、今度覗きなんかしたら、股間にスタンガン食らわせるからって、こ、股間……」
 きっと自らが発した”股間”という言葉で、昨日のことを思い出したのだろう。花梨の顔がたちまち
真っ赤になり、花梨はうつむいてしまう。
「そうなんだ。タカくんのエッチ!!」
 そう言ってむくれるこのみ。
 ……うーん、「覗き魔」と「露出男」と、どっちのレッテルがマシだろうか?
 正直かなり微妙だが、ここは由真たちに合わせて、前者を選ぶことにする。
「ご、ゴメンなこのみ。つい魔が差したっていうか……」
「わたしに謝ってもダメでしょ! ちゃんとタマお姉ちゃんたちに謝ったの!?」
 腰に手を当てて、プンスカ怒るこのみ。
「そ、そりゃあもちろん、床に頭をこすりつけて何度も何度もごめんなさい、許してくださいと」
「ホント、タマお姉ちゃん?」
「ええ、だから私たちも許すことにしたんだけど、昨日の今日だからね。ちょっとまだ恥ずかしさから
立ち直っていなくて、だから黙りがちになっちゃったの。ゴメンねこのみ、余計な心配かけて」
「やっぱり俺の推理は正しかったか! まぁ、貴明も女の子が苦手だ何だと言いながら、その正体はただ
のムッツリスケベだったと言うわけだ。で、どうよ貴明?」
「ど、どうよって、何だよ?」
「決まってるじゃんか。姉貴たちの裸、どうだったって聞いてるんだよ。
 姉貴なんか服着ててもああだからな。かなり凄かったんじゃないのか? それに由真ちゃんや笹森さん
も結構いい身体してるし、るーこちゃんだってスリムなのもそれはそれで……」
「それはそれで、何よ、雄二。
371河野家にようこそ 第13話(4/9):2005/07/04(月) 20:45:04 ID:iLmN3p4R0
 あんた、解ってるの? 私たちはね、もう忘れたいのよ、昨日の出来事をね。
 それをまぁ、まだ塞がってすらいない私たちの心の傷を、グリグリとえぐるような事を言ってくれやが
ってねぇ。ここまでトサカに来るのはあのとき以来だわ。覚悟は出来ているわね、雄二」
 怒りの形相で雄二を見据えるタマ姉。その右手は、既にアイアンクローの構えだ。
「あ、姉貴、わ、悪かった! ゆ、許してくれ……」
 しかし、鬼と化したタマ姉に、雄二の謝罪の言葉はもはや届かない。
 ガシッ!! ぎりぎりぎりぎりぎり……
「あだだだだだだだ!! い、いつもより余計に痛い気がするのですが気のせいでしょうかお姉様!!
 わ、悪かったごめんなさい許してください割れる割れるマジで割れる!!」
 しかしその言葉はタマ姉の耳には届かず、結局タマ姉は、学校に着くまでアイアンクローで雄二を引き
ずっていったのであった。

 今朝も言ったが、今日は土曜日だ。よって、屋上昼食会はナシ。しかし俺は今、一人で屋上にいる。
 一人になりたかった、と言うと格好付けすぎで、要はタマ姉たちと顔を合わせるのがまだ恥ずかしい
だけなのだ。とにかく、今は少しの時間だけ、一人で落ちつきたかった。そしてタマ姉も、そんな俺の
気持ちを察してくれて、由真たちと一緒に先に帰ってくれた。
 男女が一緒の家に住む。それはつまり、お互いの性に関するトラブルが十分起こり得ることだって、
今さらながら思う。例えば雄二の迷推理だって、覗きはともかく、洗面所に行ったら風呂上がりの彼女
たちと偶然ばったり遭遇、なんてケースは十分考えられる。それに比べたら今回の事件はむしろ、男の
俺が多少恥をかいただけで、まだマシなことかもしれない。
 ……やっぱ恥ずかしいけど。
 ふと俺は、自分の”前科”を思い出した。あれはイルファさんが俺の家に来たときのことだ。メイド
ロボがトイレで”用を足す”なんて思いもしなかった俺は、そこにイルファさんがいると知り、非常識
にもいきなりトイレの扉を開けてしまった。我ながら、なんて馬鹿なんだろうと今でも思う。
372河野家にようこそ 第13話(5/9):2005/07/04(月) 20:45:25 ID:iLmN3p4R0
 とにかく、今後はもう少し、俺が出来るだけ気を付けなくちゃならない。昨日の出来事だって、俺が
最初にタマ姉を頑と拒めば、あんな事態にはならなかったんだ。うむ、今後の俺の仮題は”自制”、これ
だな。人間には理性ってものがある。全力で理性を維持すれば本能だって抑えられるさ。頑張れ俺!
「貴明さん」
「ぅおっっっ!!」
 不意に背後から誰かに声を掛けられた。びっくりした俺が振り返ると、そこには、
「草壁さん?」
「はい、こんにちは貴明さん。どうしたんですか、こんなところに一人で?」
「あ、うーん、何となく、かな。草壁さんこそどうしてここに?」
「きっと運命です☆」
 そういって微笑む草壁さん。運命って?
 草壁さんは俺の隣に来ると、まぶしそうに目を細めて空を見上げた。
「いい天気ですね、貴明さん。私、星空も好きですけど青空も大好きです。
 きれいな青空。どこまでも青い、でも羽根のない私たちには見上げることしか出来ない世界。
 だからこそ、私たち人間は青空に憧れる。青空を見上げて、心が洗われる。そんな風に思いませんか、
貴明さん?」
 草壁さんは、まるで詩を朗読するように俺に問う。もし俺が詩人なら、ここで気の利いたセリフでも
思いつくんだろうけど、生憎俺にその才能はない。
「うーん、確かに青空はきれいだって思うよ。それにどんな意味があるかなんて解らないけどね」
 そう言って俺も空を見上げる。
 草壁さんの言うとおり、そこには雲一つないきれいな青空。すると、どうしてだろう。今まで俺の心に
のしかかっていた昨日の事件が、なんだかどうでもいいことのように思えてきた。これが草壁さんの言う、
心が洗われるってヤツだろうか。
「……ああ、たしかに、気持ちがいい青空だなぁ」
373河野家にようこそ 第13話(6/9):2005/07/04(月) 20:49:01 ID:iLmN3p4R0
「そうですか、よかったです、貴明さんがそう感じてくれて」
「よかったって、どうして?」
「だって貴明さん、朝からずっと落ち込んでるみたいだったから。
 何があったかは知りませんけど、貴明さんは暗い顔より笑顔でいる方が素敵ですよ」
 なんか、聞いてるこっちが恥ずかしくなることをさらっと言うのが草壁さんなんだよなぁ。
「だからなんでしょうね。貴明さんの周りに女の子がいっぱいいるのは」
「え?」
「あの一年下の女の子は、確か、このみちゃんでしたっけ。あの頃から仲良しでしたよね。
 それから、一年上の人は、環さんですよね。貴明さんがいつもタマ姉って呼んでる人。
 それから、同じクラスの小牧さん、あと最近、名前は知りませんけど青い髪の女の子と、黄色い髪の
女の子、それにピンクの髪の女の子ともよく一緒にいますよね」
 それは間違いなく由真、花梨、るーこのことだ。っていうか一体何の確認なのこれは?
 それに草壁さんの声、何となくだけど、怒りのようなものを感じるのは何故だろう?
「貴明さん、教えていただけませんか? 貴明さんの本命は一体誰なんですか?」
「ほ、本命? い、いや、そんなこと急に言われても……」
「いるんですよね、本命の女の子が。
 それとも貴明さん、まさか全員とおつき合いしているわけではないでしょうね?」
「全員とおつき合い!? い、いや、このみたちとは別にそんな関係じゃなくて……」
「みんなで仲睦まじく、屋上でお昼ご飯、食べていますよね」
「あ、あれは別にそう言う意味じゃなくて、第一あそこには雄二だっているし……」
 何だか、浮気の弁解をしているような感覚に陥る俺。
「とにかく、教えてください。一体誰が本命なんですか?
 貴明さん、覚えていますか、あの日の言葉を? 私は、あの言葉、ずっと覚えていましたよ。いえ、
忘れるなんて出来っこありません。だってアレは間違いなくプロポー……」
374河野家にようこそ 第13話(7/9):2005/07/04(月) 20:49:54 ID:iLmN3p4R0
「あ、あれは!?」
「そんな古典的な手段は通じません! さぁ貴明さん、答えて下さい!!」
「い、いや違うんだって!!」
 そう、確かに違うんだ。草壁さんの責めるような質問を避けたいと、視線をそらしたのは事実なのだが、
そのそらした先で目にしたものは、とんでもない光景だった。
「瑠璃ちゃん!!」
 そこには瑠璃ちゃんがいて、瑠璃ちゃんは靴を脱いでフェンスをよじ登ろうとしている。まさか!?
「草壁さんゴメン! 瑠璃ちゃん!!」
 俺は草壁さんを押しのけ、瑠璃ちゃんの元へと急ぐ。俺の不安が正しければ、瑠璃ちゃんは……!!
「瑠璃ちゃん、ダメだ!! 降りてきて!!」
「た、貴明!?」
 俺の叫び声で瑠璃ちゃんが俺の方を振り返る。だが瑠璃ちゃんは、フェンスから降りようとしない。
「貴明、来るな!!」
「そんなワケにいかないだろ!! とにかく降りるんだ瑠璃ちゃん! 早まるな!!」
「うるさい! ウチのことなんか放っといて!
 ウチ、あかん子やもん! だから生きていても仕方がないんやもん!!」
「何を言ってるんだよ瑠璃ちゃん!? とにかく降りて! 飛び降り自殺なんて絶対ダメだ!!」
「放っといてって言うてるやろ! ウチなんか生きる資格ないんや! さんちゃんを困らせて、さん
ちゃんにあんなひどいこと言うて、ウチなんか最低や! だから死ぬんや!!」
 俺はフェンスの前に着いたが、既に瑠璃ちゃんはかなり高いところまで登っている。どうする? 俺も
登るか? いや、思ったより瑠璃ちゃんの登るスピードは速い。間に合わないかも知れない。どうする?
考えろ貴明、効果的な手段を、早く、早く!!
 ……そうだ! この手だ!!
 俺はフェンスには登らず、ほぼ真上の瑠璃ちゃんに向かってこう叫んだ。
375河野家にようこそ 第13話(8/9):2005/07/04(月) 20:50:42 ID:iLmN3p4R0

「瑠璃ちゃん!! パンツ見えてるぞ!!」

「え!? い、イヤぁ!!
 こ、この、ヘンタ〜〜〜イ!!」
 全ては、俺の計算通りの結果となった。
 瑠璃ちゃんはフェンスを登るのを止め、その高さから俺目掛けて飛び降り、そして瑠璃ちゃんのキック
が俺の顔面にクリティカルヒット、俺は鼻血を噴き出しつつ、コンクリートの床にダウンした。
 仰向けに倒れた俺。その意識がとぎれる前に見たものは、相変わらず雲一つない青い空。
 ああ、きれいだなぁ……。
 
 あれ? 目の前が真っ暗だ。それに何だか、目と鼻の辺りに濡れた何かが覆い被さっている。
 あと、両方の鼻の穴に何かが押し込められている。
 俺は手で触って確かめる。こりゃあ、濡れたハンカチだな。鼻には恐らくティッシュが詰められている
んだろう。
「気がつきましたか、貴明さん?」
 すぐ側から、草壁さんの声が聞こえる。俺はハンカチを手で掴んで顔から離し、上半身を起こした。
 俺の両脇に、草壁さんと瑠璃ちゃんがいた。二人とも心配そうな顔で俺を見ている。
「貴明……大丈夫?」
 瑠璃ちゃんにしては意外な質問。やりすぎたと思っているのだろうか?
「ああ、大丈夫」
 本当は顔――特に鼻先がずきずき痛むのだが、そこは俺だって男の子。見栄を張って痛いとは言わない。
 それよりまず、確かめなければならないことがある。
「瑠璃ちゃん、どうしてあんな、飛び降り自殺なんてしようとしたんだよ?」
376河野家にようこそ 第13話(9/9):2005/07/04(月) 20:51:13 ID:iLmN3p4R0
 しかし、瑠璃ちゃんは下を向き、何も答えない。
「さっき、『さんちゃんを困らせて』とか、『あんなひどいこと言って』とか言ってたよね。珊瑚ちゃん
と何かあったの?」
「……」
 やっぱり、瑠璃ちゃんは何も答えない。
「……何があったのかは知らないけどさ。自殺なんて絶対ダメだよ。
 瑠璃ちゃんが死んだりしたら、珊瑚ちゃんが悲しむよ。もう絶対自殺なんて……」
「……そんなことあらへん」
「瑠璃ちゃん?」
「きっとさんちゃん、ウチのこと嫌いになったんや。ううん、本当はもっと前から、ウチのことなんか
好きじゃなかったんや。でもさんちゃん優しいから、口にしなかっただけで……」
「そんなことあるわけないだろ!」
 思わず俺はカッとなり、瑠璃ちゃんを怒鳴る。瑠璃ちゃんは怯えたようにビクッと身体をこわばらせる。
「貴明さん」
 そんな俺を諫める草壁さん。
「あ、ゴメン……。でもさ瑠璃ちゃん、珊瑚ちゃんが瑠璃ちゃんのことを嫌うわけなんて絶対にないよ。
珊瑚ちゃんはいつも瑠璃ちゃんのことを大事に思ってる。俺の言葉じゃ信じられないかも知れないけど、
神様にでも何にでも誓って、これだけは絶対に本当だよ」
「……ほな、なんで? なんで、さんちゃんは……、なんで、なんでぇ!?」
 瑠璃ちゃんは、その両目から大粒の涙をポロポロと流し、
「う、うああああぁぁぁ!!」
 俺の胸に飛び込み、大声で泣き出した。一体何があったんだ、瑠璃ちゃん?
 
 つづく。
377河野家にようこそ の作者:2005/07/04(月) 20:51:39 ID:iLmN3p4R0
どうもです。第13話です。
お待たせしました、双子(但し片方)と草壁さんの登場です。
378ぼのぼの:2005/07/04(月) 22:33:57 ID:gUfXtmI90
ぼのぼの の こうげき!
スナドリネコ に 2 の ダメージをあたえた。

さらに、 ぼのぼの のこうげき!
スナドリネコ に 4 の ダメージをあたえた。

スナドリネコ の こうげき!
ぼのぼの に 85 の ダメージをあたえた。

スナドリネコ の うんこほう!
ぼのぼの に 433 の ダメージをあたえた。

ぼのぼの は やられてしまった。
379名無しさんだよもん:2005/07/04(月) 22:37:16 ID:XdkhCl620
やっと草壁さんキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!!!!!!!
380名無しさんだよもん:2005/07/05(火) 00:37:28 ID:8sH6LEln0
チラシの裏

過去を盾にして、答えを急がせるのはらしくないとオモタ。
381名無しさんだよもん:2005/07/05(火) 14:10:01 ID:k0T5UMwJ0
瑠璃ちゃんが飛び降りた直後、ジェットパックを背負った超合金イルファさんが颯爽と空中キャッチをかますに違いない!!
そう思った俺はもう末期なんだろうか。

それはともかくGJでした。続きを期待しています。
382名無しさんだよもん:2005/07/06(水) 03:05:14 ID:j+TCvXZ+0
やっと全員集合ですね
つかなんだこの示し合わせたかのような良作ラッシュは、
これはフリーメーソンの仕業かゴルゴムの仕業かw
383名無しさんだよもん:2005/07/06(水) 17:00:36 ID:eJISEokv0
ショッカーの仕業です
384名無しさんだよもん:2005/07/06(水) 23:30:33 ID:Ljl8J7lP0
デスクロスとハニワ原人が手を組んだそうです
385名無しさんだよもん:2005/07/07(木) 21:34:35 ID:olKma3DU0
てんだ〜は〜とまだ〜?
386名無しさんだよもん:2005/07/07(木) 23:47:20 ID:Q65CNtxB0
前の人に便乗して・・・・















Tender Heartマダー?(・∀・)
387名無しさんだよもん:2005/07/07(木) 23:56:40 ID:ryhMk75F0
アイス屋の続編まだー?
388名無しさんだよもん:2005/07/08(金) 00:57:05 ID:5d2suHqS0
アイス屋は完結したやん。
つまりよっち分が足りないのだよ



よっちまだー!?
389名無しさんだよもん:2005/07/08(金) 01:29:50 ID:7iKce+CE0
    _
  , '´,   ヽ、
  i i|ハヾゞ,'ツ、 / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
  リ(l|´ヮ`ノ|ミ < せんせい! 痛風しますた
   (m9~l;(シ   \_________
   く/_|〉
   (_/|_j
390名無しさんだよもん:2005/07/08(金) 02:40:36 ID:XXLTpegd0
漏れは、どうにもとまらない、が待ち遠しいなあ。
このみと貴明の心と身体が入れ替わっちゃう奴ね。
いよいよ、性欲をもてあましたこのみが貴明に向かって・・・
ってとこで止まってる。寸止め気分だ。
作者さん、続編待ってるYo
391名無しさんだよもん:2005/07/08(金) 09:11:35 ID:5d2suHqS0
そうは言うがな、大佐
392名無しさんだよもん:2005/07/08(金) 09:20:51 ID:/DWsDzaB0
あえてここで新ネタ(and新人)を期待してみる俺がいる
393名無しさんだよもん:2005/07/08(金) 13:46:30 ID:WlNzCx8PO
>>390
激しく同意。
あれはネタはありきたりだけど、すげぇ面白かったからはやく読みたいな
394名無しさんだよもん:2005/07/08(金) 20:55:39 ID:QNgNV3230
もうどうにもとまらない、まだ〜?
395名無しさんだよもん:2005/07/08(金) 20:57:36 ID:jCzUteuR0
タカ棒破瓜展開きぼんぬ
396名無しさんだよもん:2005/07/08(金) 21:58:04 ID:zuh20cFB0
もうどうにもとまらない待望論、思いのほか大きいな。
俺もそんな一人。
作者氏の次の降臨を心待ちにしている。
397名無しさんだよもん:2005/07/08(金) 23:14:04 ID:f1Fjo+Pn0
 このみが貴明の体でオナーヌする展開もよろしくてよ?
398名無しさんだよもん:2005/07/08(金) 23:19:55 ID:7KVR+54U0
>>397
もちろんタカ棒が教えるんだよな
399春は終わらないその4(9/9):2005/07/08(金) 23:48:02 ID:tTmDT8Qn0
現在進行中の続き物SS

もうどうにもとまらない
河野家にようこそ
春は終わらない
Tender Heart
Cry to Heart

続き物だけでも5つもあるのは嬉しいね
これ以外にも新規のものや単発物なんかもきっとあるだろうからすごく楽しみ

オラわくわくしてきたぞ

400名無しさんだよもん:2005/07/08(金) 23:48:08 ID:Bo48we6f0
           ‐-;-.,_ "''=;- .,_\ \\
             "‐ニ‐-> "`"'-' \
      ______二)          ヽ
         ̄"'''─-、       *⌒´`*、ヽ
__   ____-─       ! i! (((ノリ)〉 |  ヽ, 
   ̄ ̄ ̄ ̄     三⊂二二二W!(i| ^ω^)W二⊃ ヽ えへ〜、これなら追いつけるよ〜
  ――=                  |    /      |   タカクーン
        ――         ( ヽノ         |
    _____          ノ>ノ       !
 ̄ ̄ ̄ ̄     ̄ ̄ ̄ ̄ヾ、 _、 レレ         |
                 ヾ./_     _   //
                、ー`、-、ヾ、、,  、, /i/
                 // ./// /
401春は終わらないその4(9/9):2005/07/08(金) 23:53:33 ID:tTmDT8Qn0
>399
まとめたのをそのまま自分のヤツ除外せずにそのまま投稿しちゃったよションボリ
久々に板覗いたと思ったら恥晒してしまう自分を誰かあざ笑ってください
402名無しさんだよもん:2005/07/09(土) 01:07:54 ID:Id0JxbXt0
>>401
m9(^Д^)プギャー
403Tのハナシ第一話(1/5):2005/07/09(土) 12:07:27 ID:2wyY/2S/0
「ったく、なぁんで俺たちがこんなことしなくちゃいけないんだよ。なぁ、貴明」
 すぐ隣でぶつくさと絶え間なく文句を吐き続ける雄二に、さすがに鬱陶しくなって一言いってやる。
「あのなぁ、雄二。俺はお前のせいでその『こんなこと』に巻き込まれてるのを忘れるなよ」
「そりゃわかってるけどよ。そもそもなんで見舞いになんか行かなくちゃならないのかって思うと文句の一つも言いたくなるだろ?」
「それはそうだけど……」
 雄二の場合は一つどころじゃなかっただろう。
 だが、確かに元をただせば非は完全に相手側にあるのは間違いないので、雄二の気持ちもわからなくもない。
「はぁ、ほんとに面倒だよなぁ。ほっときゃいいのによ」
 さっき嗜めたばかりでもう文句が再び湧き出ている。
 どうやらこれはいくら言っても効果はなさそうだ。
 これはもう諦めて、さっさと用を済ませてしまうのが一番手っ取り早いだろう。
「ほら、いつまでもぶつくさ言ってないで行くぞ」
「あっ、おい待てよ貴明ー」
 歩みを速めた俺を、後ろから雄二が慌てて追ってくる気配がする。
 先ほど寄った花屋で包んでもらった花が崩れないように気をつけながら、その速度を維持する。
 目指す先はは病院。
 そこに入院している委員長の見舞いが、今の俺と雄二の目的だった。

404Tのハナシ第一話(2/5):2005/07/09(土) 12:08:06 ID:2wyY/2S/0
 Tのハナシ


 受付で聞いた番号の部屋の前に立つ。
 部屋番号のプレートを改めて確認。
 聞いた番号と一致しているし、ここで間違いないはずだ。
 仄かな緊張が、ノックしようとする腕の動きを鈍らせる。
 この感覚、職員室の扉をくぐろうとしている時や、友達の家に電話するときに少しだけ似ているかもしれない。

 一つ、大きく息を吸い、吐く。

 いつまでもこうしていてもはじまらない。
「よし」
 コンコン、と軽く扉を叩き、そっとスライドさせる。
 開けた視界には大きなベッドがあり、そのベッドに鎮座している人間は、紛れもなく今日訊ねにきた相手に他ならなかった。
 ここでようやく軽い緊張がほぐれる。
「具合はどうだ委員長」
「やあ河野、わざわざ見舞いに来てくれたのか?」
 俺の突然の来訪に、委員長はいつものように気障ったらしく前髪をかきあげると、本音とも形式ともつかない挨拶を述べた。
「クラスの代表ってことでね」
405Tのハナシ第一話(3/5):2005/07/09(土) 12:09:23 ID:2wyY/2S/0
 三月に入ってすぐに、退院したといってギプスを腕に巻いて登校してきた元委員長が、なぜいまさらまた病院のベッドに伏しているかといえば、
あの時本当はまだ完治していないどころか安静にしていなければならない状態だったのに学校に来たせいで傷が悪化してしまった、という実にくだらなく実にシンプルな理由のためだった。
 ちなみに、なぜそんなバカなこと、もとい無理をしたのかというと、入院中に誰一人として見舞いに来なかったから、だという。
 見上げたバカだと思った。多分クラスのみんながそう思ったに違いない。
 そんなわけで愚行を繰り返させないためにも、今回はこうしてクラスから誰かが見舞いに赴く、ということになった次第だ。
「そうか。クラスのみんなはそんなにも僕を慕ってくれていたとは感激の極みだな」
「まあ元委員長だしな」
 当然進んで行きたがるような奇特な人間などいるはずもなく、あみだくじで決めようということになったのが事の真相だ。
 その際、委員ちょが(ややこしいがこちらは現委員長である小牧さんのことだ)がいつまで経っても決まらない見舞い要員の選定に痺れを切らし、自分が行くと名乗りを上げてその場は解散となった。
 が、いざ当日、つまり今日になると、小牧さんはなにやら急な用事が入ってしまったとかで、お見舞いにいけなくなってしまったと困っていた。
 そんな小牧さんを見兼ねて、俺が代理を買って出ようと思ったそのときだった。

『委員ちょー、任せとけって。代わりなら俺たちがなんとかするから』

 何を思ったのか雄二がいきなり、そう小牧さんに声をかけていた。
 要領が良いというか、打算的というか、とにかくあの雄二が自らそんな面倒を買って出るなんておかしい。
 何よりも『俺たち』というのが気にかかった。当然のごとく俺も織り込み済みの台詞に思えてならなかった。
 どういうつもりだと詰め寄ると、案の定だった。

『いやぁ、貴明がさっきから委員ちょに声をかけようかどうか迷ってた風だったからさ。せっかく貴明が珍しく女子に積極的になろうとしてたから親友として一肌脱いでやろうと思ってな。感謝しろよー』
406Tのハナシ第一話(4/5):2005/07/09(土) 12:10:13 ID:2wyY/2S/0
 確かに代理に見舞い役を請け負おうとは思ったが、雄二の思うような下心があったわけではない。
 イマイチ釈然としないまま雄二の見当ハズレな思いやりを受理するハメに。
 一方小牧さんは、最初は俺たちに悪いと思ってたのか遠慮がちだったけれど、結局他に手がなく、この提案は渡りに船だったことに代わりはなく、申し訳なさそうに『俺たち』に後を託すことになった。

『ごめんなさい。河野くん、向坂くん、よろしくお願いします』
『ああ、いやいや、俺じゃなくて貴明が』
『さてそれじゃあ行こうか雄二』
『ぐぇっ。締まってる締まってる』

 俺一人に全てを押し付けようとする雄二を逃すまいと発言を遮り、首根っこを引っつかんで教室の外に向かう。

『あ、あのー』
『あ、小牧さん。気にしなくていいよ。それじゃまた明日』
『は、はい。どうもありがとうございます』


 こうして今に至るというわけだが、雄二は雄二で自分から余計なことに首を突っ込んだくせに文句ばかり。
 まったく、悪いやつじゃないんだけど。
「それで、河野は一人でわざわざ来てくれたのか?」
「いや、雄二が一緒だったんだけど」
 その雄二は今は看護婦さん(今は看護士さんと呼んだほうがいいのかもしれないが)相手にナンパ中。
 見たところ全然相手にされてなかったけどな。
「あ、これお見舞いの花。クラスのみんなから」
 クラスのみんなから徴収した金で来る途中に買ってきた花束を空いていた椅子にそっと置く。
407Tのハナシ第一話(5/5):2005/07/09(土) 12:10:41 ID:2wyY/2S/0

「みなの気持ち、しかと受け取ったよ。マイクラスメイツにありがとうと伝えてくれたまえ」
「わかった。あ、花のほうは悪いけど、俺は生けたりできないから誰かできる人に頼んでやってもらってくれるか?」
「心得た。白衣の天使にお願いするとしよう」
「それじゃ、雄二もそろそろ撃沈を重ねてヘコんでる頃だろうからそろそろ行くよ」
「ああ、今日はわざわざありがとう。君の心遣い、僕の記憶に刻み付けよう」
 席を立ち、鞄を持って扉に向かう。
「それじゃ、早く退院できるといいな」
「今の僕は天にも昇る気持ちだ。今すぐにでも学校に行けるとも」
 普通ならば社交辞令の冗談なんだろうが、こいつは普通じゃない。
 多分心のそこから本気だろう。
 放っておいたら、俺と一緒に病院を出てそのまま学校に向かいかねない。
「……今度はちゃんと完治させろよ」
 別れの言葉を言い直し、病室を出る。
 さて、役目は果たしたし、帰るとするか。
「っと、その前に」
 同じ役目を負いつつも一人放棄していた親友をひっ捕まえてこないといけない。
 ったく、散々文句言っておいて面倒なことは結局俺一人に押し付けるんだもんな。
 多分惨敗しててこの上なく落ち込んでいるだろうが、ここは一つ追い討ちをかけさせてもらうとしよう。
 余計なお世話を焼いた挙句にこれじゃあ、それくらいしてやらないっと気がすまない。
「えーと、雄二雄二と」
 特徴的な赤い頭を探して病院内を見渡すと、ふと見覚えのある姿が視界の隅をよぎったような気がした。
 あのピンクの生地に赤いスカーフはうちの学校の制服だろう。
 反射的に視界を戻してみるが、そこには既に見覚えのある姿はなく、上の階へ続く階段があるだけだった。
 学校でならいくらでも見かける珍しくもなんともない制服姿の女子も、病院で見かけるとなれば記憶に留まる珍しさだ。
 さらに俺の意識をひいたのは、制服だけでなくその中身にも見覚えがあったからだ。
 女の子が苦手な俺に見覚えのある数少ない女子の中から、先ほど見た姿と一致する人物を記憶のデータベース内で検索する。
 該当、あり。
「……小牧さん?」
 それは、今日は用事があるからと病院に来られなくなったはずの、我がクラスの現委員長の名前だった。
408↑の作者:2005/07/09(土) 12:26:36 ID:2wyY/2S/0
投下させていただきました。
病院で委員長というシチュエーションやタイトルからもう予想がついてしまっているかもしれませんが、
お察しの通りTのあの人の話です。

改行し損ねてるところがいくつもありますね。
見難くなってしまった人はすみません。
次回は気をつけます。
409 Tender Heart 作者 :2005/07/09(土) 13:16:29 ID:MTA590Yo0
>>408
おおっ、新人さんか!?
ありがとうございます。続き待ってますよ!

>>401
気にすんな!
現在連載中の続き物であることは間違いないんだし、そこから自分の
だけ除外するのも変でしょうに。
ていうか私のSSも含めてくれて感謝ですw
春は終わらないの続き、待ってますよ!
河野家移住計画はどうなるんですか?
(あと、そろそろあらすじを付けられた方がわかりやす
くていいと思うです(^^;))
410星の川に架ける橋0/6:2005/07/09(土) 18:19:06 ID:cChD6Ja70
七夕は終わってしまいましたが、七夕をテーマにした草壁さんSSを書き始め
ましたので投下させて頂きます。
411星の川に架ける橋1/6:2005/07/09(土) 18:19:37 ID:cChD6Ja70
 過ちを犯すのが愚かなのではない。
 過ちを繰り返すのが愚かなのだ。
 そんな風に中学の担任に言われたのを覚えている。
 ひょっとすると小学生のときだったかもしれない。
 幼いなりに自分の中で反芻して「なるほど」と思ったからなのか、それは成長した今になってもやはり「なるほど」
と思わされる言葉で、こういうのは年齢に関わりのない、いわゆるインパクトが大切なのだと強く感じる。だから、
つい最近同じような話をしていた説教好きの教師は、おそらく俺くらいのときに同じ話を聞かされて「なるほど」と
思ったに違いない。

 そして、その教訓に照らすと、残念ながら俺は愚か者だった。

 雲の切れ間から覗く月に背を向けて早足で歩く。
 月のおかげか、街灯のおかげか、昼間ほど明るくはないけど、暗闇で立ち往生してしまうようなことはない。
 道沿いに連なる塀の向こうから、ときおり団欒の声やテレビの音が漏れ聞こえてくる。
 その他に聞こえるのは、俺のやる気のない足音くらいのものだ。
 夜の八時をとうに過ぎ、間もなく九時になろうとしている。
 そんな時間に俺――河野貴明が何をしているかといえば、擦り切れかかったシャツにジャージのズボンという
「夜逃げする人の方がまだマシ」みたいな格好をして学校に向かっている最中だった。
 明日の一限に提出するプリントを忘れたのだ。
 三ヶ月ほど前にも、同じようなことをした。
412星の川に架ける橋2/6:2005/07/09(土) 18:20:11 ID:cChD6Ja70
 過ちを繰り返している。
 愚かな自分に、ため息を捧げた。
「……やっぱり閉まってるよなあ」
 呟いて、目を向けた先には見慣れた校門がある。頑強な作りというわけではないので、乗り越えるのはそれほど
手間ではないものの、近所の人に見られたら面倒なことになるかもしれない。ほんの少しだけ助走を取って、
「よっ……と」
 勢いのまま校門の縁に手をかけ、一気に身体を持ち上げた。
 手の脇に右足を乗せ、そこを軸にしてくるりと身体を回せば、
「侵入成功、っと」
 悪いことをしている罪悪感がそうさせるのか、ひとり言が多くなっていた。
 端から見るとかなり怪しい奴だという自覚はあっても、元々自分しかいないのだから気にした方が負けだ。いつも
と違って、玄関前に制服姿は一つも見当たらない。時間を考えれば当然だった。
 誰もいない玄関に足を踏み入れ、下駄箱から上履きを取り出す。
 土足のまま上がり込むなんてことは、律儀というか小心者の俺にはできそうもない。
 シンと静まり返ったリノリウムの廊下を歩く。
 ひたひたという足音が妙に大きく響いた気がして、自然と忍び足になる。
 月明かりの差し込む廊下は別世界のようで、毎日見ている廊下と同じものだとはとても思えない。
 この青白い世界は、まるで時が止まっているようにも感じられる。
 幻想的といえば聞こえはいいけど、どちらかというとこれは薄気味悪い。
 教室に辿り着いたら、ようやく自分の知っている場所に帰ってきた気がして、安堵に胸を撫で下ろした。
413星の川に架ける橋3/6:2005/07/09(土) 18:21:01 ID:cChD6Ja70
 できるだけ音を立てないように、ゆっくりとドアを開けて、さっと身体を滑り込ませる。
 座席のところまで行って、机に手を突っ込む。
 あった。
 指先に触れた紙の感触を引っ張り出した。間違いなく目当てのプリントだ。
 こんなのを欲しがる者がいるとも思えないので、なくなっているわけがなかった。
「あ、カバン持ってくればよかったな」
 深く考えずに手ぶらできてしまったけど、このまま持ち帰ったらしわくちゃになってしまうじゃないか。
 本当に間が抜けているにもほどがある。締め切りが明日のプリントを忘れるのがそもそもありえないというか、
 あまり緩んでいるとタマ姉あたりに締められかねないので、気合を入れ直した方がいいかもしれない。
 ――まあ、へこんでてもしょうがないか。
 用は済んだわけだから、とっとと帰ろう。いつまでもこんなところをうろうろとしている趣味はないし、一晩で
手付かずのプリントを終わらせなければならない。
 入ってきたときに開け放っておいたドアから廊下に出て、後ろ手に閉めた。
 廊下は相変わらず青白いままだった。時が動き始める気配はない。
 無意識に逃した視線の先には、整然と並んだ窓がある。

 その向こうには裏庭が広がっていて、
 俺の記憶に刻まれた光景と重なった。
414星の川に架ける橋4/6:2005/07/09(土) 18:21:30 ID:cChD6Ja70
 何度も学校に忘れ物をするぼんくらでも、さすがにあの出来事を忘れたりはしない。
 およそ三ヶ月前のあの日。
 桜が散って間もない頃。
 今日と同じように学校に忘れ物を取りにきた俺は、裏庭にまばゆい光が落ちるのを見て、
 ――え?
 心臓が跳ね上がる。
 なんだ。
 俺の目はおかしくなってしまったのか。
 プリントを持っていない方の手で、がしがしと両目を擦る。
 もう一度窓の外を見る。
 何もない。あるはずがない。
「……見間違い?」
 強烈な既視感が襲ってくる。見間違いだ。見間違いに決まってる。
 自分に言い聞かせるようにしながら、ほとんど駆け足で廊下を進んでいた。
 下駄箱に入れたスニーカーを乱暴に地面に放り投げて、履き替えるのももどかしく玄関から飛び出した。
 ちょうどそのとき、自分の呼吸が乱れていることに気付く。
 いつの間にか、俺は全速力で走っている。
415星の川に架ける橋5/6:2005/07/09(土) 18:24:45 ID:cChD6Ja70
 裏庭にやってきた。
 首筋を伝う汗になんて構っていられない。あたりを見回した。
 あるはずがない、いるはずがないと思っているのに、俺は彼女を探している。
 そう。春先は禁止帯が備えられていた場所。今はそこに青々とした芝生が茂っている。そして、
「――どうして」
 彼女は、そこにいた。
 静かな寝息を立てながら芝生に身体を横たえている。あのとき――俺と『再会』したときと、まったく同じ。
 まるで何かから自分を守るように身体を丸めている。
 呆然とした足取りで、ふらふらと近づくと、
「……むにゃ……あれ……貴明さん?」
 俺の気配を感じたのか、彼女はタイミングよく目を開けて、寝ぼけまなこで首を傾げた。
 三ヶ月前と変わらない、だけどもう見慣れたうちの学校の制服を身に纏っている。いや、あのときはまだ冬服だった
けど、今の彼女はちゃんと夏服を着ていた。
 しばらくぼんやりと俺を眺めていた彼女は、突然くわっと目を見開いて、
「た、貴明さん!? ど、どうしてこんなところに、い、いるんですか!!」
 悲鳴に近い叫びをあげ、「葬式の最中に棺桶の中身が起き上がったのを見た」みたいな顔をして、上半身を起こした
まま芝生を後ずさった。制服のスカートは非常に短いので、そういう格好をされると非常に困る。
「い、いけませんっ!! わ、私たちには、こういうのは早すぎます!! 私、結婚するまでは、その、綺麗な身体で……」
 尻すぼみで声が小さくなっていく彼女は、「貴明さんがもらってくれるなら構いませんけど」とかぼそぼそ言っていた
けど聞こえてないフリをしよう。うん、それが正しい選択だ。
416星の川に架ける橋6/6:2005/07/09(土) 18:25:26 ID:cChD6Ja70
「……えっと、ひょっとしてここがどこか分かってないの?」
「……はい?」
 妄想に浸りかけていた彼女は、俺の一言でこちらの世界に帰ってくる。
「……私の部屋……じゃないみたいですね」
 俺のことを見上げて、それから自分のことを見下ろして、きょろきょろとあたりを見回して、
「――あ”」
 カエルが潰れたような声を出して固まった。
 彼女の方が取り乱していたせいか、こちらは逆に落ち着いていられる。
「……あの」
「うん」
 おずおずとこちらを向いた彼女は、
「ひょっとして、今日は七月七日よりも前の日だったりしちゃいます?」
「俺の記憶が確かなら、今日は七月の四日だよ」
「そうですか……」
 理解と困惑が半分ずつ混ざったような様子で、
「貴明さん、私――」
 申し訳なさそうな笑みを浮かべて、
「また、未来からきちゃいました」
 あっさりと、とんでもないことを口にした。
417名無しさんだよもん:2005/07/09(土) 18:26:13 ID:cChD6Ja70
以上です。
また読んで頂けると嬉しいです(=゚ω゚)ノ
418名無しさんだよもん:2005/07/09(土) 23:04:50 ID:2xCw6U7X0
>>417
設定がよく分からないっす。
貴明が事故を免れてから草壁さんとは会ってないのかなぁ?

それと状況説明とか無駄な文が多いように感じる。
419名無しさんだよもん:2005/07/09(土) 23:54:13 ID:cU7MJJBV0
とりあえず草壁さんでSSを作るという功績と目の付け所にGJ!!
420名無しさんだよもん:2005/07/10(日) 18:58:15 ID:tZaqqeQl0
七夕ネタは草壁さんに似合うな
421名無しさんだよもん:2005/07/10(日) 21:43:22 ID:q3g9JMAW0
春はおわらないまだー?
422「あたしの一番」第一話1/7:2005/07/10(日) 22:20:08 ID:MtC4UlYW0
4/20

日が赤く染まった頃、お姉ちゃんは家に帰ると私に告げた。
「それじゃあね、郁乃」
「あ…うん」
今日も一日終わってしまった。
お姉ちゃんが帰ってしまえば、一日は終わったも同然で、
他には嬉しい事なんてまるでない。
悪い考えがどんどん頭の中を交差するだけだ。

お姉ちゃんは毎日とまでは行かないが、
お母さんたちよりずっと多く、私のお見舞いに来てくれる。
そこでお姉ちゃんは、色んな話をしてくれる。
そのお姉ちゃんが、外で見聞きしたり体験したりしたこと。
その日あった面白かったこと。
外を知らない私としては、とても新鮮で面白い話。
……ただ最近私を不機嫌にさせる話がある。

『たかあきくんがね−−』

事あるごとに私にその”たかあきくん”の話を持ち出してくる。
今日も嬉しそうに”たかあきくん”の話をしていく始末だ。
名前は分かっている、そいつの名前は河野貴明だ。
フルネームで憶えることができたのには訳があった。
最初は話してくれる話の登場人物が”河野君”だったのに対し、
最近では”たかあきくん”になっているのだ。
423& ◆LzyzILUNfE :2005/07/10(日) 22:21:35 ID:MtC4UlYW0
腹立たしい…。
姉の一番はあたしのはずなのに…。
お姉ちゃんの一番にあたし以外の人間は要らない。
あたしの一番を返してもらう。

…しかし思うだけ思っても近づく方法がない。
それができないからって河野貴明の悪口をお姉ちゃんの前で言おうものなら、
きっとお姉ちゃんは傷ついてしまう。
しかもそれを河野貴明が慰めてしまえば更に始末が悪い。
なんとか方法はないものかと、ここ数日寝る間も惜しんで考えている。

ベッドに倒れこむと、あるものが目に入る。
ナースコールだった。
説明の余地は無いが、このボタンを押すと看護婦さんが来てくれる、というものである。
−−ん?これって…。
…ああ、なるほど、こんな簡単なことでいいんだ。
私は不敵に笑い、すぐさま実行に移すことにした。

プルルルル……
「あ、お姉ちゃん? もう家に着いた? 一つ頼みがあるんだけど…」
ガチャン
近づけないなら呼べばいいんだ。
あたしは今愉快でたまらなかった。
424「あたしの一番」第一話3/7:2005/07/10(日) 22:22:39 ID:MtC4UlYW0
4/21

放課後、俺がいつものように書庫に行くと、
愛佳がぺたんと床に座り、俯きながら小さく『ごめんね』と呟いた。
床には何かから乱暴に剥ぎ取られた一枚の紙が、存在した。
その紙には何度も何かを書き、何度も消された跡があった。
「愛佳」
「ひゃぁ!!なんですか!?何もしてませんよ?」
愛佳は慌てて、何かを後ろに隠した。
「あ、たかあきくん」
「どうかした?」
「ううん。何でもないよ」
「そっか」
なんでもないことはなさそうだったのだが、
これ以上踏み入るのは無粋だと思い、深くは聞かないことにした。
どうせお互い弱点克服のための間柄だし、と甘く見ている部分もあったが。
「じゃあ、仕事始めようよ」
今日は愛佳が本にシールを貼り、俺が慣れない手つきででキーボードを叩いていく。
しかし、ゆっくりとシールを張る姿はどこか元気がなく、
ついには、手が止まってしまう。
425& ◆LzyzILUNfE :2005/07/10(日) 22:23:45 ID:MtC4UlYW0
「……」
「愛佳。なにか悩みでもある?」
「え?」
「あ、違うならいいんだ。忘れて」
「たかあきくん…」
俺が振り向くと愛佳がおずおずと喋る。
「あの…あのね?」
「うん」
「あの…ぶしつけなことを言って申し訳ないんですけど」
また敬語になっている。
気付いていないのか、そのまま愛佳はもう一つ言葉を続ける。
「−−会って欲しい人がいるんです」
ピクンと俺の身体が波打つ。
俺の額を無数の低温の汗が流れ落ちる。
「−−え?」
一瞬時が止まる。そしてまた動き出し、何かに気付いたように訂正を始める。
「あ、や、違います! あたしの両親とかじゃないんですぅー! …のよ?」
話し慣れてないんだな、と内心苦笑しながら聞き返す。
「うん。いいけど、誰に?」
「……妹に」
…何故。
俺の頭の中に大きめの疑問符が浮かんできた。
426「あたしの一番」第一話5/7:2005/07/10(日) 22:25:21 ID:MtC4UlYW0
その日の夜、俺は愛佳から言われたことについてまとめてみた。
愛佳には郁乃という妹がいて、その妹は先天性のとても重い病気を患い、
入院生活を送っている。
病気のせいで視力が弱く、迂闊に外を出歩くことができないらしく、
病院内でも、気軽に歩き回ることすらままならないという。
その為、毎日毎日寂しそうにしているので、郁乃と友達になってもらえないか、
ということだった。
別に断る理由はないので、そのまま安請け合いをする。
まぁ、愛佳の妹なので悪い子ではないだろう。
このみの感覚で付き合えばいい、楽観的に考えていた。
しかしそこで一つ疑問が生まれる。
何故『俺』なのだろうか?
やはり女の子の友達は女の子の方がいいだろうし。
愛佳にはたくさん友達もいるし、その一人に頼むくらいのことは容易なはずだ。
俺を郁乃ちゃんの友達に選んだことに、思惑があるのだろうか。
考えてるうちに目蓋が徐々に重みを増してきた。
まぁ、明日郁乃ちゃんに会ってみれば分かるかな。
俺は静寂に耳を傾け、静かに眠りについた。
427& ◆LzyzILUNfE :2005/07/10(日) 22:26:30 ID:MtC4UlYW0
4/22

今日も学校が終わってしまった。
愛佳と校門前で待ち合わせをした俺は、ちょっと遅めに教室を出る。
校門へつき、俺は愛佳の姿を認めたが、愛佳に笑顔はなかった。
「愛佳、おまたせ」
「ううん、私も来てすぐだから」
と教科書通りの文字を並べる。
「じゃ、いこっか」
愛佳がコクリと頷く。

結構な距離を歩いたが、俺たちの間で会話が交わされることはなかった。
やがて病院へ着き、何かに導かれるように愛佳は進んだ。
俺もその後に続くが、愛佳の足は心なしか重い。
ある病室の前で愛佳がピタリと止まる。
そこの表札には『小牧郁乃』の文字。
そこで初めて愛佳が口を開く。
「ごめんなさい。妹には一人で会ってもらえますか?」
428「あたしの一番」第一話7/7:2005/07/10(日) 22:27:36 ID:MtC4UlYW0
「え……なんで?」
「ごめんなさい。理由は……言えません」
ついには愛佳は俯いてしまう。
その状態で言葉を続ける。
「−−ごめんなさい」
それがどんな意味の『ごめんなさい』だったのかは分からない。
「分かった」
愛佳はすぐ傍の椅子に座り込み、俺を送り出した。

コンコン。

ノックをすると女の子の声で『どうぞ』と返って来る。
ドアを開けると、そこには華奢な女の子がベッドに座り込み俺に話しかけてきた。

「こんにちは」

全てを見通した様な瞳は俺を貫き、何故か俺は不安を感じた。
429& ◆cIYxGPRRGA :2005/07/10(日) 22:34:32 ID:MtC4UlYW0
初めまして、↑の作者です。
勢いで書いてしまった郁乃のSSです。
なんか【第一話x/7】のxが偶数のところ文字化けしてるみたいですが、
スルーの方向でお願いします(汗)
普通に名前書いたんですが、なんでだろ…。

誤字や脱字は申し訳ありませんが、想像して読んでやって下さい。
しかし、改めて読み直してみると…orz
430名無しさんだよもん:2005/07/10(日) 22:45:28 ID:EWNHYRiA0
GJ 続編期待します。
431名無しさんだよもん:2005/07/10(日) 22:51:03 ID:yQSMXxiJ0
再び言わせていただきます…




てんだ〜は〜とまだ〜?
432名無しさんだよもん:2005/07/10(日) 22:55:48 ID:yQSMXxiJ0
こちらも再び…





もうどうにもとまらない、まだ〜?
433名無しさんだよもん:2005/07/10(日) 23:00:10 ID:yQSMXxiJ0
もちろんこちらも…




河野家へようこそ、まだ〜?
434名無しさんだよもん:2005/07/10(日) 23:06:54 ID:yQSMXxiJ0
とことん急かします…




春は終わらない、まだ〜?
435名無しさんだよもん:2005/07/10(日) 23:16:51 ID:yQSMXxiJ0
犯人は誰なのか…




くらいとぅは〜とまだ〜?
436名無しさんだよもん:2005/07/10(日) 23:19:51 ID:yQSMXxiJ0
これからどうなるのか…




Iのハナシ、まだ〜?
437名無しさんだよもん:2005/07/10(日) 23:27:18 ID:yQSMXxiJ0
続編、期待しています…




「あたしの一番」まだ〜?
438名無しさんだよもん:2005/07/10(日) 23:33:35 ID:yQSMXxiJ0
これで全て急かし終えた…かな?
まぁ「あたしの一番」に「まだ〜?」
と、急かすのはおかしいかもしれませんね。
すぐ前にあるわけですし…
439名無しさんだよもん:2005/07/10(日) 23:38:29 ID:yQSMXxiJ0
何だかんだで、自分勝手に急かしてすんません。
出来るなら、「急かし係 河野貴明」として
やっていきたいです…
440名無しさんだよもん:2005/07/10(日) 23:43:28 ID:tZaqqeQl0
郁乃いい
441急かし係 河野貴明:2005/07/10(日) 23:47:05 ID:yQSMXxiJ0
や、反対する人がいれば辞めますよ?もちろん。
では、明日も来るんで。おそらく。
4420/5 Tender Heart その8:2005/07/11(月) 00:03:40 ID:VbKZ+He+0
 前回までのあらすじ

 心労と空腹で倒れる寸前アイスにありついた貴明は、ようやく一息ついて考える余裕を得た。店で偶然会ったちゃると
よっちにこのみをまかせ、考え事を始める貴明。
 そのとき、突然ちゃるがこのみを連れて席を立った。残ったよっちは、貴明にこのみと何かあったのかと尋ねてきた。
 よっちに向けて今日一日のことを話し出す貴明。話しながら貴明は、自分がシンプルな問題を難しく考えていたのだと
いうことに気が付く。
 雄二の朝の言葉、それはひとりだけ幼なじみの関係に片足を残している優柔不断な貴明への叱咤だったのだ。
 ――今度こそちゃんと、このみの恋人になろう。貴明はついに決心した。

 「今夜このみを――俺だけのものにする」

4431/5 Tender Heart その8:2005/07/11(月) 00:05:55 ID:VbKZ+He+0
 今夜、このみを、俺だけのものに。
 ――言ってしまってから、自分がかなり過激な発言をしたのだということに気が付いた。
 しかも、このみと同い年の女の子の前で。
 見るとよっちは頬をまっ赤に染めてこっちを見つめていて、俺の視線に気が付くと
「ふ、ふおおおおお〜〜〜……」
 ――と奇妙な声をあげながら、両頬を手のひらで挟むように隠してうつむいてしまった。
「あ、ご、ごめん」
 思わず謝ってしまった。すこし遠回しな表現ではあったけど俺がなにをしようとしているかは明らかなわけで、そう考
えるといくら話を聞いてくれていたとしても年下の女の子相手にすべき発言じゃなかったかもしれない。
「その……気にしないで。って言っても、無理か……」
「……無理ッス」
「……ごめん」
 気まずい、というより酸欠になりそうな沈黙がまた落ちた。
 俺ってどうしていつもこんなんなんだろう、とか軽い自己嫌悪に陥り始めていると、パンパン! という気合いの入っ
た音が正面で起きた。
「――ッ! よしっ、もう大丈夫ッスよ、センパイ!」
 よほど強く叩いたのだろう、頬はさっきよりも赤くなっていて、目にはうっすらと涙まで浮かんでいる。
 また謝ってしまいそうになったけれど、俺は思い直して感謝の言葉を口にした。
「ありがとう、よっち。おかげで自分の気持ちをまとめることが出来たよ」
「それはセンパイの力ッス。あたしはただ聞いてただけッスから」
「うん、でも、きっとよっちが聞いてくれなかったら今でも腹をくくれずにうじうじ迷ってた気がする」
「へへ〜……そう言ってもらえるとうれしいッス。でも――そうかぁ……センパイとこのみが、ついに結ばれる時が来た
んスねぇ……」
 どこか遠い目をしてそうつぶやくよっちの言葉に、今度は俺が赤面する番だった。
4442/5 Tender Heart その8:2005/07/11(月) 00:08:06 ID:VbKZ+He+0
「む、結ばれるって……まあ、そうだけど……」
「あたしらのなかで一番成長が遅いと思ってたこのみが、先に大人の階段を登っていく……嬉しいような、さみしいよう
な……」
 ため息なんかひとつついて物憂げにそうつぶやいたよっちは、直後、かっと目を見開いて俺の方に向き直った。
「センパイ!」
「は、はいっ」
 その勢いに反射的に敬語で返事してしまう。
 何事だろう、目がやけに真剣だけれど――と思っていると、よっちは親指と人差し指で輪を作り洒落のない声音で尋ね
てきた。
「センパイ……ちゃんとコレ、準備してるッスか」
「コレ?」
「だ、か、ら! 『コレ』ッス! 男のエチケットッスよ」
 ひそめた声で突き出されるOKマーク。俺は反射的に同じ形に自分の指を動かし――そこで気が付いた。
 丸い男のエチケット。超極薄で使用感なし。愛し合うふたりのために。ストップ・ザ・エイズ……
「な、なな、なななななな!」
「センパイが照れないで欲しいッス、あたしが一番恥ずかしいんスから!」
「そそそ、そりゃそう、だけど」
 我ながら情けないとは思うけれど、今夜のことをそこまで具体的に追求されるとどうしたって普通じゃいられない。
 俺のうろたえる姿に、よっちは「さては……」と軽く睨んできた。
「センパイ――もしかして『初めては着けずに』とか思ってなかったッスか?」
「そんなこと……」
 思ってない、というより、着けるとか着けないとかそういう選択肢すら思いついてなかった。
「その顔は、考えてなかった、って顔ッスね……」
 あきれ顔のよっち。またしても内心を見透かされた俺は、小さくなって頷くしかなかった。もしかして俺の考えてるこ
とはどこかに字幕で表示されてたりするんじゃないだろうか。
4453/5 Tender Heart その8:2005/07/11(月) 00:09:14 ID:VbKZ+He+0
「セ・ン・パ・イ? 聞いてるッスか?!」
「聞いてる聞いてる聞いてます」
「大事なことなんスからね? ……でも、本当に気が付いて良かったッスよ〜」
 これまでで最大級のため息は、まるで間一髪で交通事故を回避したような大きさだった。ちらりと横目でこのみとちゃ
るの二人を確認し、よっちはすこし眉をひそめた顔で俺に警告する。
「いいッスか、センパイ? 今持ってないんなら、帰りにでも帰ってからでも、どうにかして準備しなきゃダメッス。逆
に言うなら、準備できなかったら今夜は諦めるべきッス。これはもう、絶対絶対絶対ッスからね!」
「あ、う、うん」
 勢いに押されて思わず頷く。
 そんな俺のリアクションがまだなにか不満なのか、よっちはすこし怖い目で俺を見て言う。
「そんなおおげさな、なんて思ってないッスよね? センパイ」
 俺が首をぷるぷると振ると、よっちはようやく目に込めていた力を抜いてくれた。
「――ごめんなさい、センパイ。こんなことで騒いで、はしたない女だって思ってくれていいッス。……でもセンパイ、
約束ッス。このみのこと、大切に思うのなら、絶対ッスよ」
 まっすぐに俺の目を見つめながらそう語る今のよっちには、俺を睨みつけていたさっきまでの勢いは無いかわりになに
か静かな迫力のようなものがあって、舞い上がっていた俺の気持ちをあっというまに鎮めてくれた。
「うん、約束する」
 自然と、厳粛な声になった。
「絶対、このみを泣かせたり、不安にさせたりしない」
「――合格ッス」
 にこ、とよっちは笑った。このみやちゃるたちと話しているときに見せるような弾けるような笑顔じゃなくて、それは
穏やかで深い、どこか大人びた微笑み方だと思った。
4464/5 Tender Heart その8:2005/07/11(月) 00:11:13 ID:VbKZ+He+0
「それにしても……」
 よっちは一瞬でよっちらしさを取り戻し、頭の後ろで腕を組んで椅子の背もたれに大きく寄りかかりながらぼやいた。
「ちゃるとこのみ、一体なにをあんなに盛り上がってるんスかねぇ」
「それは俺も気になる」
 俺はテーブルの上に頬杖をつきながら、よっちと同じ方を見る。街路樹の影で、いまだあの二人はしゃべり続けている。
ちゃるがなにか一言二言しゃべると、それにこのみが怪しげな身振り手振り付きの解説を加える、という感じで話が続い
ているようだ。
 まったく、一体なにを話しているのやら。
「……センパイ」
 ぼーっとそちらを見つめていると、目の前のよっちからぽつりと名前を呼ばれた。
「ん? なに? よっち」
 頬杖のまま目だけ動かしてよっちの方を見ると、よっちは一瞬俺の目を見つめ、それから軽く目を瞑り――
「このみのこと、幸せにしてやってくださいね」
 と、笑った。
 俺も、自然と笑顔になった。
「うん。……でも、こういうのってなんだか結婚式の前みたいだよな」
「似たようなもんッスよ」
「そうかな」
「そうッス!」
 ふふ、と笑い出したのはどちらからだったのか。
 それからしばらく、俺とよっちはくすくすと笑い続けた。20分前まであんなに悩んでたのが嘘のように、それは心穏や
かで屈託のない笑いだった。

 遠く近くで蝉が鳴く、暑い夏の午後はこんな風に過ぎていった。
4475/5 Tender Heart その8:2005/07/11(月) 00:11:59 ID:lrl1Hq1c0
 その後まもなくこのみとちゃるが戻ってきて、お別れとなった。
「このあと塾なんスよ」
 とよっちは言ったが、俺たちに気を遣ってくれたのは明らかだった。俺は目配せだけで礼を言い、このみと一緒にさよな
らを言った。

「ちょっと遅くなっちゃったね、タカくん」
 公園の時計塔を見上げてこのみが言う。
「遅いったって、まだ5時だよ。全然大丈夫だろ」
「でもでも、これからお買い物して、お料理して――って考えると、あんまり余裕無いよ」
 そういえば、帰りに買い物を一緒にするって約束してたっけ。
 その時にアレを買う……のは無理だな。このみに気づかれるとか以前に、学生服で、しかも顔見知りの多いスーパーでそ
んなもん買ったらあっという間に街の噂になってしまう。
 なにか適当な理由を付けて、こっそり後から買いに行くしかないだろう。
「そういえば、ちゃるとふたりで随分長話してたけど、何を話してたの」
「あ、うん。それがね――」
 話しながら、自然とこのみは手を繋いできた。
 ……大丈夫。
 もう、取り乱したりしない。
 俺はその小さな手を、優しく、でもしっかりと掴んだ。

 結局、ちゃるとこのみがどんな会話をしていたのかは――
「あれ? えと、それでちゃるが夜に学校に行ったら宇宙人がいて? あれ?」
「それ、さっきも聞いたぞ」
「う〜〜っ、何の話してたのか思い出せないでありますよ〜〜っ」
 ――謎のまま終わってしまったのだけど。



                        ※9に続く※
448Tender Heart 作者:2005/07/11(月) 00:16:54 ID:lrl1Hq1c0
 というわけで、8をお届けします。
 いつもながら、急かしてくださったみなさんに感謝します。
 前の後書きでお話作りをジェットコースターに例えましたが、どうやらこの
 てんだ〜は〜とも山を越えたようです。あとはもう、予定しているラストまで
速度を上げて突き進むだけです
 私の筆の方まで加速してくれれば、言うことないんですけどね(^^;)

 最近、投稿SSが多くて嬉しいです。
 PC版が出る前に、できるだけたくさん二次創作の土台を造っておきたい
ものですね。
 私もがんばろう。

 ではでは、近いうちに9でお会いしましょう!
449名無しさんだよもん:2005/07/11(月) 00:43:53 ID:wmEtnJIxO
>>448
GJです!9期待してますよ〜!
450名無しさんだよもん:2005/07/11(月) 00:55:37 ID:iHaF1X3CO
>448
乙でござる
451だよもん:2005/07/11(月) 01:13:24 ID:319w42eu0
乙津
452名無しさんだよもん:2005/07/11(月) 01:14:14 ID:1J1a2bCaO
続きが楽しみなのと共にもうすぐこの物語が終わってしまうことに寂しさも覚える
453名無しさんだよもん:2005/07/11(月) 05:00:42 ID:M1ByJwIO0
うどんげ様!?
454名無しさんだよもん:2005/07/11(月) 16:57:56 ID:WfYnMvgM0
GJでごわストロベリー。
続きをツンと一緒に楽しみにしているでごわスマッシュ。
455急かし係 河野貴明:2005/07/11(月) 20:11:25 ID:Uxk7ao8P0
何故か、このみよりよっちが気になる…PC版ではよっちをヒロインに!
なんて思ってる俺です。




456名無しさんだよもん:2005/07/11(月) 20:12:01 ID:Rs9LCmJw0
お前の言ってることは宇宙の法則級に正しい。
しかしsageてない!
457名無しさんだよもん:2005/07/11(月) 20:12:55 ID:5inNAJr60
本当にいまさらだが何でTo Heart2ssのスレなのに
名無しさんだよもんなんだろう…
だよもんって鍵のキャラだよね
458急かし係 河野貴明:2005/07/11(月) 20:14:15 ID:Uxk7ao8P0
次回、このみと急接近なるのか…?
ってなわけで…




てんだ〜は〜と、期待してますっ!!
459名無しさんだよもん:2005/07/11(月) 20:19:23 ID:Rs9LCmJw0
中学生かい
460急かし係 河野貴明:2005/07/11(月) 20:45:38 ID:Uxk7ao8P0
中学生っぽくてすんません…
それと、俺はしりとりを6時間も続けた…
そんな伝説を持つような暇人です…
461名無しさんだよもん:2005/07/11(月) 20:46:48 ID:160etFbM0
お前の事なんかどうでもいいよ
462急かし係 河野貴明:2005/07/11(月) 20:54:46 ID:Uxk7ao8P0
御意
463名無しさんだよもん:2005/07/11(月) 21:04:46 ID:d4aoOi/v0
>>457
たしかにここはToheart2SSスレだが
それ以前にleaf,key掲示板だからなのではなかろうか。
個人的には「うー」でいいと思うのだけど。

あと急かし係りさんはメール欄にsageって打ち込んで書き込み
しよう! キミなら出来る!
464急かし係 河野貴明:2005/07/11(月) 21:42:56 ID:Uxk7ao8P0
了解しますた
465急かし係 河野貴明:2005/07/11(月) 21:44:20 ID:Uxk7ao8P0
あれ?
466急かし係 河野貴明:2005/07/11(月) 21:45:08 ID:Uxk7ao8P0
あ、大丈夫でした
467名無しさんだよもん:2005/07/11(月) 22:21:32 ID:8sYVzB3w0
変なのがわいてるな
468名無しさんだよもん:2005/07/11(月) 22:33:01 ID:gBkcb+720
よし、じゃあ次はコテハンをやめるんだ。
あとスレの容量を無駄に削るな。
469名無しさんだよもん:2005/07/11(月) 22:34:06 ID:160etFbM0
ていうか二度と来るな
470河野家にようこそ 第14話(1/9):2005/07/11(月) 22:40:15 ID:u75fgTVd0
 ”あの事件”に関わらなかったこのみと雄二は俺たちの気まずい雰囲気に疑問を抱き、雄二は、俺が
タマ姉たちの風呂を覗いたせいだと推理した。それはタマ姉たちにとっては都合のいい解釈だったの
だろう。タマ姉たちによって雄二の推理は真実とされ、俺は覗き魔のレッテルを貼られてしまった。
 土曜日の放課後、学校の屋上で俺が一人であれこれ考えていたところに草壁さんが現れる。彼女はタマ
姉たちと俺の関係を疑り、追求してきた。思わず目をそらした俺が見たものは、なんと飛び降り自殺しよ
うとしている瑠璃ちゃんだった! 俺はとっさの機転で瑠璃ちゃんの自殺を阻止するが、瑠璃ちゃんは
理由を話さず、ただ俺の胸で泣くのみだった。

「で、どういうことなの、タカ坊」
「で、どういうことなんですか、貴明さん」
 俺と瑠璃ちゃんと草壁さんは今、俺の家の居間にいる。タマ姉もいる。
 あの後、泣きやんだ瑠璃ちゃんを家に送ろうとした俺と草壁さんだったが、瑠璃ちゃんは家には帰れ
ないと拒否した。理由は相変わらず教えてくれない。
 このまま放っておくわけにも行かず、俺は瑠璃ちゃんを一旦俺の家まで連れて行くことにした。瑠璃
ちゃんもそれを拒否することはなかった。
 だがそこで、草壁さんが「私も一緒に行きます」と言いだした。家の同居人たちのことを知られたく
ない俺はやんわりと断ったのだが、草壁さんは普段からは思いも寄らない頑固さで、「ここまで関わった
以上は、私もお供します!」と言って聞かなかった。仕方が無く俺は、草壁さん共々瑠璃ちゃんを家に
連れてきた、というわけだ。
「で、どういうことなの、タカ坊」
 そう繰り返し尋ねるタマ姉。どういうこととは、瑠璃ちゃんと草壁さんを家に連れてきたことだろう。
「で、どういうことなんですか、貴明さん」
 そう繰り返し尋ねる草壁さん。どういうこととは、タマ姉が何故俺の家にいるかということだろう。
 どちらにせよ、ここで下手な言い訳をしても始まらない。俺は腹を括ることにした。
471河野家にようこそ 第14話(2/9):2005/07/11(月) 22:40:42 ID:u75fgTVd0
 ドカッとやや乱暴にソファーに座る。そして俺はまず草壁さんに、タマ姉、それに由真たちが俺の家に
来た経緯について話した。
「はぁ、そ、そうだったんですか……」
 草壁さんは俺の話を聞いて呆然としている。まあ確かに今の俺の家は異常だ。その反応も当然だよな。
だけど草壁さんへの対応は、真実を話したということでそこまで。 
 それから今度はタマ姉に、瑠璃ちゃんの自殺未遂について話した。
「そう、そんなことがあったの……」
 俺の話を聞きタマ姉は、居間の床に力無く座り込んでいる瑠璃ちゃんを心配そうに見つめた。
「で、どうする気なの、タカ坊?」
「とりあえず今日一晩は、このまま瑠璃ちゃんを家に泊めようと思う。それでいいよね、瑠璃ちゃん。
 但し、珊瑚ちゃんには電話するよ。珊瑚ちゃんもイルファさんもきっと心配してるだろうから」
「……うん、貴明の好きにして」
 投げやり気味にそう答える瑠璃ちゃん。
「あの……、やはりお家に帰してあげた方がいいのではないでしょうか?
 ご家族の方も、その方が安心されると思うのですが……」
 瑠璃ちゃんたちの家族構成を知らない草壁さんは、瑠璃ちゃんのご両親が心配しているのではと思い、
そう言ったのだろう。草壁さんには悪いが、今はそのことにあまり触れるべきではないと思う。
「うーん、草壁さんの言うことももっともなんだけど、やっぱ一晩ここに泊めるよ」
「そ、そうですか……」
 そう言ってため息をつく草壁さん。なんだか草壁さんを蚊帳の外に追いやった感じになってしまった。
「心配してくれてありがとうな、草壁さん。
 あとさ草壁さん、今日はこんな事になっちゃったけど、もしよかったらまた俺の家に来てよ。俺の家、
今、結構個性的なメンツが集まっているからさ、草壁さんもきっと楽しいと思うよ」
「その言い方だとまるで私たち、動物園の動物みたいね」
472河野家にようこそ 第14話(3/9):2005/07/11(月) 22:41:02 ID:u75fgTVd0
 ぎゅ〜〜〜っ!
「あいひゃひゃひゃひゃ! た、タマ姉ごめんなさい!」
「でも、ま、確かに個性的な集まりだわね。草壁さんでしたっけ? よかったらタカ坊の言うとおり、
遠慮なく遊びに来てね」
 俺のほっぺたをつねったまま、タマ姉は笑顔で草壁さんにそう言った。
「は、はい……」
 苦笑しつつそう応える草壁さんだった。

 瑠璃ちゃんに言ったとおり、俺は珊瑚ちゃんの家に電話をかけた。珊瑚ちゃんもイルファさんも心配
しているに違いない。一刻も早く、無事を伝えないと。
『はい、姫百合です』
 イルファさんの声だ。その声から、イルファさんが動揺しているのが解る。
「あ、イルファさん? 貴明です」
『貴明さん!? もしかして……』
「うん。瑠璃ちゃん今、俺の家にいるよ」
『そうですか! では早速お迎えに……』
「いや、ちょっと待って」
 俺はイルファさんに、瑠璃ちゃんが家に帰るのを拒否していることを伝えた。だが自殺未遂については、
あまりにショッキングな出来事なので、敢えて伏せておいた。
『そう、ですか……。やっぱり、私のせいで……。
 あの、貴明さん、でしたら瑠璃様にこうお伝え下さい。イルファは、研究所に戻りますって……』
『いっちゃん、あかん!』
 電話越しに珊瑚ちゃんの声が聞こえた。もしかして、瑠璃ちゃんがああなった理由は、イルファさんが
何か関係しているのだろうか?
473河野家にようこそ 第14話(4/9):2005/07/11(月) 22:41:26 ID:u75fgTVd0
 イルファさんは珊瑚ちゃんが作った、心を持っているアンドロイドだ。珊瑚ちゃんはイルファさんを、
瑠璃ちゃんのために作った「友だち」だと言っていた。でもそのイルファさんが、瑠璃ちゃんをあそこ
まで追い込んだとでも言うのか? そんなの考えられない。
 ひとまず俺は、珊瑚ちゃんと話がしたいと思った。
「イルファさん、珊瑚ちゃんに代わってくれる?」
『あ。はい……』
『もしもし、貴明?』
「珊瑚ちゃん? ……あのさ、もしよかったら、だけど、何が起きたのか教えてくれないか?」
『……』
 少しの沈黙。そして、
『いっちゃんな、一日も早う瑠璃ちゃんに気に入ってもらえるよう、頑張って料理とか洗濯とかしてん。
だけどな、いっちゃんがどんだけ頑張っても、瑠璃ちゃん機嫌悪うなるばかりやった。
 そんでな、今日のお昼、瑠璃ちゃんがご飯作ろうとしたんや。で、いっちゃんがそれを手伝おうとした
ら、瑠璃ちゃん突然怒ったんや。『ウチの仕事を取るな! ウチからさんちゃんを取るな!』って。
 ウチ、誤解を解きたかったから、いっちゃんをかばったんや。そしたら瑠璃ちゃん泣き出して、ウチに
……こう言ったんや。『さんちゃんなんか嫌い! さんちゃんなんか死んじゃえ!』って。
 そんで瑠璃ちゃん、家を飛び出して行ったんや……』
 瑠璃ちゃんの「死んじゃえ!」が余程ショックだったのだろう。電話越しでも俺は、珊瑚ちゃんが今、
涙を流していることが痛いほどに解った。
 そうか、そんなことがあったのか。瑠璃ちゃんは世界で一番珊瑚ちゃんが、珊瑚ちゃんだけが好きだと
言っていた。その珊瑚ちゃんが瑠璃ちゃんのためにと造ったイルファさん。だけど瑠璃ちゃんにとっては、
イルファさんも俺と同じ存在――『敵』でしかなかったんだ。そして、そんな『敵』をかばった珊瑚ちゃん
に瑠璃ちゃんは怒りを覚え、思わず『嫌い! 死んじゃえ!』と叫んでしまった……。
 そして後になり瑠璃ちゃんは、大好きな珊瑚ちゃんにそんな言葉を吐いた自分が許せなくなった。
474河野家にようこそ 第14話(5/9):2005/07/11(月) 22:41:48 ID:u75fgTVd0
 瑠璃ちゃんがあんなことをしたのはそれが理由だったんだ。
 俺は、この二人、いや、イルファさんも含めて三人に、一体何をしてあげられるだろうか?
 ……でも、そんな事がすぐに思いつくほど、俺は賢くはない。ホント、頼りにならない駄目な男だ。
 だから今は、ひとまず時間を稼ごう、考える時間を。
「珊瑚ちゃんゴメンな、辛いこと話させて。
 とりあえず今日は、瑠璃ちゃんも珊瑚ちゃんに会いにくいみたいだから、俺の家であずかるよ。だから
心配しないで。それから、イルファさんを研究所に帰さないよう、何とか説得してくれないか? 多分、
いや絶対、今度の件はイルファさんが悪いわけじゃないから。
 そうだな、明日、お昼頃に俺の家に二人で来てくれないか? そこでどうしたらいいか、みんなで一緒に
考えようよ。ね、珊瑚ちゃん」
『貴明……、うん、わかった。ホンマにありがとうな、貴明。
 いっちゃんのことは任せて。ウチ、頑張って説得する。せやから貴明、瑠璃ちゃんのことお願いな』
「ああ、任せとけ」

「……聞いちゃったんやね。ウチらのこと」
 珊瑚ちゃんとの電話を終えた俺の側には、いつの間にか瑠璃ちゃんがいた。
「ああ」
 俺はそうとだけしか言わなかった。今は多分、俺が何を言っても、瑠璃ちゃんには自分を責める言葉に
しか受け取れないだろう。
「とりあえずさ、今日は俺の家でゆっくりしていきなよ。それから明日、珊瑚ちゃんとイルファさんに
会って、話し合おうよ、な?」
「……うん」
「それからさ、さっき言ってた同居人についてだけど」
 俺はそこで一旦言葉を切り、そして、いつの間にか少し開いた廊下への扉へと向かい、そして、
475河野家にようこそ 第14話(6/9):2005/07/11(月) 22:46:51 ID:u75fgTVd0
「そこの盗み聞き連中!!」
 扉の向こうにそう怒鳴った。
 ばたばたどたーん!!
 何やら複数の人の倒れる音がした。俺が扉を開けると、そこには由真、るーこ、花梨、それにこのみ
が、折り重なるように床に倒れていた。
「まったく、これじゃ覗き魔の俺と大して変わらないじゃないか」
「だ、だってタカくん、また新しい女の子、二人も連れてきたって笹森さんが言うから……」
「わ、私のせいにするなんてズルイよこのみちゃん! 私は現状を伝えただけで、盗み聞きに行こうって
言ったのはるーこなんよ!」
「るーは確認の必要があるかもしれないと言っただけだぞ。最初に盗み聞きし始めたのはうーゆまだ」
「げっ!? あたしのせいにするつもり!? あんたらだって聞いたんだから共犯でしょ!」
「ああもう、いいからいいから」
 見苦しい責任転嫁を繰り広げる四人を制して、俺は呆然とする瑠璃ちゃんに彼女たちを紹介する。
「このみには以前会ったことあるよね? 後の三人とは初対面だよね。
 紹介するよ。こいつは由真、家出娘。こっちはるーこ、自称宇宙人。そしてそんなるーこの謎を解こう
としているのが、この笹森さん。この三人とタマ姉が今、俺の家に住んでいるんだ」
「……ど、ど〜も〜」
 気まずそうに挨拶する由真たちであった。

「それじゃあ、私はこれで失礼します」
 夕暮れ時、家に帰る草壁さんを玄関まで送る。
「今日はなんだかゴメンな、変なことに巻き込んで」
「貴明さんのせいじゃありませんし、私、別に嫌じゃなかったですよ。むしろ、貴明さんのことを知る
ことが出来て、よかったです。あ、こんなこと言うと、瑠璃さんに悪いですね……。
476河野家にようこそ 第14話(7/9):2005/07/11(月) 22:49:51 ID:u75fgTVd0
 貴明さん、私が頼むのもおかしいですけど、瑠璃さんのこと、お願いしますね」
「ああ、俺が出来る限りのことをするつもりだよ」
「はい、頑張ってくださいね。それから貴明さん、私、ここに”来ても”構いませんよね?」
「ん? ああ、いいよ。また来てよ」
「わかりました。それじゃあまたね、貴明さん」
 含みのある言葉を残して草壁さんは帰ったが、その時の俺は瑠璃ちゃんのことで頭が一杯で、そんな
ことには気が回っていなかった。

 草壁さんが帰り、居間に戻るとみんながいた。どうも何かを相談していた様子だ。
「何、どうかした?」
「たかあき、瑠璃ちゃんを泊めるのは構わないけどさ、部屋、どうするつもり?」
 確かにそれは考える必要がある。俺の両親の部屋はタマ姉と由真が使っているし、空き部屋にはるーこ
と花梨がいる。どちらの部屋ももう一人入れられないことはないのだが、それではちょっと狭い。
 唯一、今のところ一人しかいない部屋がある。俺の部屋だ。
「まさかたかちゃん、自分の部屋に瑠璃ちゃんを泊めるつもりじゃないよね!?」
 それに気づき、花梨が釘を刺す。
「いや、さすがにそれはまずいから……」
 どうしたものかと俺が悩んでいると、
「だったら、私がタカ坊の部屋に移るから、瑠璃ちゃんは由真さんと同じ部屋で泊まってもらいましょ」
 そう提案、いや決定したのはタマ姉だった、って、えええっ!?
「駄目ですよ環さん! 昨日のたかあきを忘れたんですか!? 同じ部屋で寝たら何されるか……」
「大丈夫。自分の身は自分で守れるわ。私が強いの、由真さんだって知ってるでしょ?
 それに、そうなったらなったで、タカ坊に責任取ってもらうから構わないわよ」
「せ、責任って環さん!?」
477河野家にようこそ 第14話(8/9):2005/07/11(月) 22:50:17 ID:u75fgTVd0
「ふふっ、冗談よ。まあとにかく、今晩はそういうことで」
 一度こうと決めたタマ姉を止められる者は、この場には誰もいなかった。いや、”この世界には”
かもしれない。

 瑠璃ちゃんを加えての夕食。しかし瑠璃ちゃんは、全く何も食べようとしない。
 俺やタマ姉が色々とすすめるのだが、結局瑠璃ちゃんは、何も食べなかった。

 就寝時。俺の部屋にはさっき決めたとおり、タマ姉が布団で寝ている。
 いつもの俺なら、タマ姉が気になって仕方がないだろう。それこそ、由真が危惧する”何か”をして
しまうかも。
 でも、今の俺は別の理由で眠れない。理由はもちろん、瑠璃ちゃんのことだ。
 夕食が終わってからずっと、俺は考えていた。自分に何が出来るだろう。明日の昼までに、俺は何か
名案が浮かぶのだろうか? 一体、どうしたらいいんだろう……
「タカ坊」
 タマ姉の声で我に返る。
「瑠璃ちゃんのこと、考えていたのね」
「うん……。でも、どうしたらいいか全然わかんなくてなぁ」
「無理もないわ。タカ坊は瑠璃ちゃん本人じゃないんだから。まあ、せいぜい悩みなさい」
「何だよそれ、人が真剣に悩んでいるのに、タマ姉ちょっと冷たいぞ」
「何でも私が相談に乗ると思ったら大間違いよ。今回の件はタカ坊自身で何とかしなさい」
 突き放すようなタマ姉の言葉。でも何故か、優しさを感じる言葉だった。

 夜中。喉が乾いた俺が廊下に出ると、由真たちの部屋から、由真と瑠璃ちゃんの話し声が聞こえた。
 盗み聞きはよくないと思いつつも俺は、耳を澄まさずにはいられなかった。
478河野家にようこそ 第14話(9/9):2005/07/11(月) 22:50:42 ID:u75fgTVd0
「……あんた、貴明のこと、好きなん?」
「はぁ? べ、別に好きなんかじゃないわよ。
 こ、ここにいるのは、まあちょっと、家族とケンカして、家出しちゃって、その、他に行くトコが……
って、べ、別に他に行くトコが無かったワケじゃないのよ! た、ただ、たかあきの家、一人暮らしで
部屋が余ってそうだったから……」
「でも、だからって貴明の家に来るのはおかしいと思うよ。貴明にHぃことされるかもわからんし……」
「ま、まあ確かにそういう危険はあるわね。現に昨日だって……
 で、でもね、身を守る自信はあるのよ! いざとなったら殴ってでも蹴ってでも……」
「……せやね。ウチもそうしてる。貴明がさんちゃんにHぃことせんよう、ウチが守ってるんや」
「へぇ、そうなんだ……。
 ってもしかしてたかあき、『さんちゃん』とか言うあんたの家族にまで手を出してるワケ?」
「そうや。貴明のスケベ、さんちゃんが気ぃ許してるからって、すぐさんちゃんにHぃことしようとする
んや。せやからウチが貴明のアホからさんちゃんのこと守ってるねん。でも……」
「……なんか、さ。あたしたち、似てるかもね」
「え?」
「ホラ、家族とケンカして家出してきたことと言い、たかあきが嫌いなことと言い、それにあんたの話を
聞いていると、何だかあたしたちって性格的にも似ている気がする。そう思わない?」
「そ、そうやろか……?」
「そうだよ。それにさ、あんたもあたしもたかあきの敵。だったら『敵の敵は味方』ってね。
 改めて、あたしは由真。由真って呼んでいいよ」
「う、ウチ……瑠璃」
 へぇ、由真と瑠璃ちゃん、うち解けたみたいだな。ちょっと意外かも……。

 つづく。
479河野家にようこそ の作者:2005/07/11(月) 22:51:14 ID:u75fgTVd0
どうもです。第14話です。
今回は双子エピソード前中後編の中編といった感じです。次回・後編をお楽しみに。
私事ですが夏風邪をひいてしまいました。皆さんも風邪には気を付けてくださいね。
それから、Tender Heartいいっすね。毎回楽しみにしています。何と言うか、焦らされ感がたまらん(w
480名無しさんだよもん:2005/07/11(月) 22:54:55 ID:NKXpRxQ60
GJとだけ言っておこう。
481名無しさんだよもん:2005/07/11(月) 22:56:53 ID:+umIXN9f0
乙&GJです。体調気をつけてください。
それにしても双子に続き、草壁さんも来るのか。
いずれ貴明が家から追い出されそうだな。
482名無しさんだよもん:2005/07/11(月) 23:01:49 ID:KpPlPvMs0
 ハーレムの苦悩ってやつですな。
 そのうち菜々子ちゃんまで河野家にやってくるんじゃないだろうなw
 GJ!
483名無しさんだよもん:2005/07/11(月) 23:12:35 ID:Uxk7ao8P0
今まで色々と迷惑掛けて、ほんっとにすいませんでしたーっ!
俺、命令には従う方なんで、これからは気が向いたら来ます。
二度と、来ない訳じゃないです。
あと、無駄に容量削るのも止めるようにしま〜す。

河野家にようこそ、読み応えがあってよかったです!
これからの展開が気になります!期待してます!
484名無しさんだよもん:2005/07/12(火) 03:40:05 ID:6eSg90Ie0
自らの意志で最適解を見つけれ。
485名無しさんだよもん:2005/07/12(火) 07:24:38 ID:7f6pO2PE0
絶対21歳未満だな
486名無しさんだよもん:2005/07/12(火) 17:22:12 ID:HkPBCSgo0
なんだ、命令に従うのか。
俺は急かし係いたほうがいいと思うけどな〜
ガンバレ! 河野貴明!
487名無しさんだよもん:2005/07/12(火) 20:01:18 ID:JwKcbS2N0
>>485
ゼリービーンズ食べて出直して来ます…
すいません…
488名無しさんだよもん:2005/07/12(火) 21:29:43 ID:poVn4KDC0
7月は夏コミ修羅場月間だからこの時期に急かしても意味ないと思うがなぁ。
489名無しさんだよもん:2005/07/12(火) 21:38:39 ID:iLyNKL0a0
書き手が全員夏コミ参加(orゲスト参加)とも限らないけどね
490ミステリ研究会の愉快な仲間たち1/12:2005/07/12(火) 22:30:31 ID:k/eW6eii0
 しがつにじゅうさんにち
 お昼休み。
 付き合いの良い河野貴明君が、今日もミステリ研究会の部室に足を運んでみると。
 いつのも第二用具室の中には、猿轡をかまされたうえ、椅子に縛り付けられた見知らぬ女の子がひとり。

「んっ、んんんー、んんんんんん────っ」

 女の子は貴明君の姿を見て、必死に身をよじりますが。
 貴明君は呆然と入り口に突っ立ったままです。

「んんっ、んんんんん、んんんっ」

「ええっと、君は笹森さんじゃ、ないよね?」

 当たり前の質問を、貴明君は女の子にします。貴明君もかなり混乱しているようです。

「えーっと、それじゃあ君は、誰?」

491ミステリ研究会の愉快な仲間たち1/12:2005/07/12(火) 22:31:29 ID:k/eW6eii0
「んんんんんんーっ!!」

「あ、ご、ごめん。今ほどくから」

 慌てて女の子に駆け寄った貴明君。
 けれど、普通は猿轡の方からほどきそうな物ですが。女の子の長い黒髪に触ってしまうことに抵抗があったのか、貴明君は椅子に縛り付けられたロープの方からほどきにかかります。

「な、なんだよこの結び方!?」

 女の子を拘束した人間の性格をよく反映しているかのような大雑把な方結びに、悪戦苦闘しながらほどいて行く貴明君。
 女の子からするいい香りが、貴明君の焦りを更に増大させていきます。

 すけべえですね。
492ミステリ研究会の愉快な仲間たち3/12:2005/07/12(火) 22:32:39 ID:k/eW6eii0
 それでも何とか、ロープを解いた貴明君。
 猿轡もはずすと、女の子の方も落ち着きを取り戻してくれました。

「・・・ありがとうございます、貴明さん」

「えっと、君、何でこんなところで縛られていたの? あ、やっぱりいいや。大体想像付いたから」

 おそらく貴明君の頭の中では、現在、黄色い髪の女の子が高笑いをしています。

「とりあえず、今は逃げた方いいと思う。迷惑をかけたことは、後で絶対謝りに行くから、えーっと・・・・・・」

 全身から、申し訳無さそうな雰囲気を醸し出す貴明君。
 しかし普段の花梨の行動を考えると、このまま女の子をこの場に留めておくのは自殺行為。貴明君が来るまで、女の子が無事だったこと自体が僥倖に近いのです。
 ここは一刻も早く、花梨がここに戻ってくる前に女の子を逃がさなくてはなりません。

「草壁、優季です。貴明さん」

「草壁さんだね。それじゃあ、早く逃げて・・・・・・あれ? 俺、君に名前教えていたっけ?」
493ミステリ研究会の愉快な仲間たち4/12:2005/07/12(火) 22:34:02 ID:k/eW6eii0
「あ───っ!!」

 けれど、貴明君の必死の努力も少し遅かったようです。

「たかちゃん、今すぐその宇宙人から離れてっ!! 記憶を消されちゃうよ!!」

 第二用具室の入り口を仁王立ちになって塞ぐ花梨。
 その想像の更に上を行く台詞は、一瞬で貴明君の全身を腑抜けにしてしまいます。
 けれどここで負けるわけには行きません。貴明君の後ろには、怯えきった草壁さんがいるのですから。

「笹森さん、宇宙人って、誰が宇宙人だよ」

「たかちゃん、たかちゃんの目は節穴? 今たかちゃんの後ろに立っているじゃない、正真証明の宇宙人が!!」

 あまりにも断定的に宣言する花梨に貴明君もつられて後ろを見ますが、どうしたって草壁さんは普通の女の子にしか見えません。
 っていうか、何で花梨には彼女が宇宙人に見えるのでしょう?
494ミステリ研究会の愉快な仲間たち5/12:2005/07/12(火) 22:35:38 ID:k/eW6eii0
「たかちゃん、信じてないわね・・・・・・よろしい。だったら証拠を見せてあげる。後で『花梨会長、ボクが間違っていました、早くボクの記憶を取り戻してください』って泣いて謝ってきたって知らないんだからね」

 花梨の、どうやら自分の物真似らしい、さっぱり似ていないその物真似に貴明君かなりご立腹のご様子ですが。部員のそんな様子に気が付く会長であればそもそもこんなことにはなっていません。
 そしてそんな我が道を行く花梨が指し示した物は、貴明君にも思い出深い、教室から失敬してきた磁石のぶら下がった、一見すると時限装置にしか見えない物。

「UFOたんちきー」

 誇らしげに、その一見すると時限装置にしか見えない物を掲げる花梨。その様子はどこかの22世紀から来たネコ型ロボットを彷彿とさせます。

「このUFO探知機が反応した時、外にいた怪しい物はこの宇宙人しかいなかった。だからこの宇宙人は宇宙人で間違いないんだよ、たかちゃんっ!!」

 おそらく、花梨が警察官になった暁には迷宮入り事件は存在しなくなることでしょう。
 冤罪が数十倍のオーダーで増えることになりそうですが。

「でも、今は反応していないみたいだよ」

「えっ? うーん・・・・・・まだまだ安定性に問題があるみたいだね。改良を加えて、常に万全の結果を出せるようにしないと」

 花梨の辞書には「誤動作」とか「偶然」と言った単語は載っていないようです。
495ミステリ研究会の愉快な仲間たち6/12:2005/07/12(火) 22:37:04 ID:k/eW6eii0
「えっと、草壁さん、だったよね。これ以上ここにいたら何されるかわからないから、今のうちに、早く、逃げて」

 見れば花梨は一見すると時限装置にしか見えないUFO探知機の改良にお忙しいご様子。
 あーでもないこーでもないと機械をバラす花梨の後ろには用具室の入り口が無防備な姿をさらしています。
 当然まだ困惑する草壁さんを促して、ついでに貴明君自身もこの場から逃げ出そうと、足音を殺し一歩、また一歩と自由が待っている扉の向こうへと近づいていく二人。
 しかし明日への入り口は、無情にも貴明君の目の前で閉じられてしまいました。

「たかちゃん、どこに行くの」

「え、っと、そろそろ授業も始まるし、教室に戻ろうかなー、なんて」

 ちなみに昼休みが終わるまであと30分以上残っています。

「じゃあ、なんでその宇宙人の手を握ってるの?」

 花梨の目は、草壁さんの手を握る貴明君に釘付けです。
 その熱い花梨の視線に、貴明君の鼓動もどんどん速くなり、全身から汗が湧いてきます。全身といっても、主に背筋からですが。

「たーかーちゃーん、そーのーうちゅー人をどーこーへー連れて行くつーもーりー・・・・・・」
496ミステリ研究会の愉快な仲間たち7/12:2005/07/12(火) 22:38:51 ID:k/eW6eii0
 にじり寄ってくる花梨。
 イヤイヤと首を振りながら後退する貴明君。
 怖いのは当然ですし、気持ちもよくわかりますが。後ろには草壁さんがいるのです。貴明君、ここで勇気を出さなくては男の子ではありません。

「ど、どこへ連れて行くって、別にどこだっていいだろ。それに笹森さんこそ、草壁さんを椅子に縛り付けて、一体なにをするつもりだったのさ!」

 ここで、「人体実験。あ、宇宙人だから宇宙人体実験だね」などと花梨が言えば、自らの身を犠牲にしてでも草壁さんのことを守ってあげなくてはなりません。
 貴明君、心細そうな表情をする草壁さんを振り向いて、ちょっとだけ人体実験と言うフレーズに心を動かされながら、また前を向き毅然とした態度で花梨に挑みます。

「・・・・・・えーっと、どうしようか。たかちゃん、何かいいアイディアある?」

 「人体実験!!」と口が勝手に喋りそうになるのを我慢させて、貴明君、一世一代の突込みが入ります。

「何も考えてないのに人を拘束したうえ猿轡までかませたのかあんたは!?」

「むっ、たかちゃん、会長に対してあんたなんて、口の利き方がなってないよ」

 花梨の中では、拉致監禁罪よりも会長に対する不敬罪の方が罪が重いようです。
497ミステリ研究会の愉快な仲間たち8/12:2005/07/12(火) 22:39:41 ID:k/eW6eii0
「だからっ、今問題なのはそんなことじゃなくて!!」

「やだなーたかちゃん。ジョークだよ、ジョーク」

 どうせなら全部ジョークだったらいいのに、と、いくら願ったところで現実は非情なままです。

「私がなぜ宇宙人を捕獲してこのミステリ研究会の部室に隔離しておいたか。それはね・・・・・・宇宙人を、ミステリ研究会に入部させるためだったんだよ!!」

 もう貴明君突っ込みをいれたくて仕方がないようですが、ここで口を挟んでしまうと話が進まないのでぐっとこらえます。
 「な、なんだってー」などと言った日には花梨が図に乗るのでこちらも我慢です。

「そのために宇宙人を椅子に座らせておいて、ゆっくり勧誘をするはずだったのに。たかちゃん、ロープほどいちゃうんだもん。折角の計画が台無しになっちゃったじゃない」

 ちなみに「勧誘」といっているのは、「脅迫」の誤植ではないのであしからず。

「それでね」

 花梨の視線が、貴明君を通り越して後ろにいる草壁さんを射します。
 急に話を振られて、きょとんとする草壁さん。
498ミステリ研究会の愉快な仲間たち9/12:2005/07/12(火) 22:41:26 ID:k/eW6eii0
「ちょっとだけ順番が変っちゃったんだけど、ミステリ研究会に入ってみない? あ、大丈夫、そんないきなり宇宙人体実験がさせて欲しいなんて言わないから。ね、お願い」

 頭まで下げて、草壁さんにお願いをする花梨。
 そこだけを見ればとても誠意ある対応なのですが、先にロープで縛り付けていたのでは全てが台無しです。

「え、でも、私」

「ミステリのこと知らなくても大丈夫だから。ただ毎日お昼休みと放課後にここに来て、ちょっとだけ実験に協力してくれればいいから」

「ちょっと待て、今、実験って言ったぞ!?」

 とうとう貴明君も突っ込みを我慢しきれなくなったようです。

「たかちゃんは黙ってて。うちの部員が変なこと言ってるけど気にしなくていいから。あ、そうだ。交換条件として副会長になるって言うのはどう?
この栄えあるミステリ研究会のナンバーツーになれるんだよ。いまなら雑よ・・・じゃなかった、有能な部員も付いてきてお得だよ」

 貴明君の耳は今の会長の本心を聞き逃しはしませんでした。というか、自分の時にはそんな交換条件が一切なかったことに、ちょっぴりジェラシー。

「だから、ね、お願いっ」
499ミステリ研究会の愉快な仲間たち10/12:2005/07/12(火) 22:42:06 ID:k/eW6eii0
「笹森さん、ほどほどにしておきなよ。草壁さんだって困っているだろ。それに、いきなり人を縛り付けておいてお願いだなんて、虫が良すぎるよ」

 仕方がないなぁといった風に草壁さんを振り向く貴明君。
 でも草壁さんは、ちょっとだけ考えて。

「・・・・・・いいですよ?」

「「えっ!?」」

 花梨と貴明君。2人の台詞がハモります。
 片方は感激に表情を輝かせて。もう片方は信じられないものでも聞いた様子ですが。

「入っても、入部してもいいですよ」

「ちょっと待って、草壁さん、本気!?」

「本当!? ありがとー!! あ、ちょっと待っててね、今腕章をあげるから」

 飛ぶように部室の奥へといって、花梨はなにやら腕章を探しているようです。
 何もかかれていない腕章をダンボールの中から引っ張り出して、黒のサインペンで『副会長』と。
500ミステリ研究会の愉快な仲間たち11/12:2005/07/12(火) 22:43:01 ID:k/eW6eii0
「く、草壁さん、本当に入部する気なの? 今ならまだ間に合うから、早く逃げた方がいいよ!?」

「はい、本気ですよ、貴明さん」

 にこにこと笑う草壁さんに、貴明君は絶望を表情に浮かべて首を振ることしかできません。

「でも、どうして・・・・・・?」

 貴明君の問いに、草壁さんの首が少しだけ傾きました。

「んー・・・・・・貴明さんが、いるからかな」

「俺が?」

 今度は貴明君の方が小首をかしげる番です。
 もしかして、そんなに雑用係が付いてくるという花梨の出した条件に、魅力を感じたのでしょうか。

「はい、これ」
501ミステリ研究会の愉快な仲間たち12/12:2005/07/12(火) 22:43:49 ID:k/eW6eii0
 奥から腕章を持った花梨が、草壁さんと貴明君、2人に腕章を手渡します。
 草壁さんには『副会長』と書かれた腕章を。貴明君には『ヒラ』と書かれた腕章を。

「いらないよ、こんな物!!」

「だめだよー、たかちゃん。いくら親しい仲でも、上下関係はきっちりしないと。目下の物は目上の者の命令に絶対服従っていうのが、このミステリ研究会の伝統なんだから」

 もう文句を言う元気すら残っていません。
 横を見れば、草壁さんがニコニコとしたまま貴明君のことを見ています。

「これから、よろしくお願いしますね。貴明さん」

「・・・・・・よろしく」

 結局草壁さんが何で入部する気になったのか、良く分からずじまいでしたが。本人がやる気になっている以上文句をつけることもできません。
 他に貴明君ができることといえば、2人に分からないように小さく溜息をつくことぐらいでした。

「さぁーって、念願の宇宙人の部員も入ったし。これから忙しくなるよたかちゃん、宇宙人!!」

 なんだか、更に面倒なことになったような気がする。
 
 なんだかとても張り切っている花梨を眺めて、そんなことを思う貴明君でした。



   終
502ミステリ研究会の愉快な仲間たち あとがき:2005/07/12(火) 22:46:02 ID:k/eW6eii0
いろいろと試してます。
ところで、どうしてこう俺のかくSSのキャラ選択は、マイナー路線かな。
503名無しさんだよもん:2005/07/12(火) 22:58:44 ID:t2wTZsnp0
>>502
その組み合わせは面白い。
ちなみに1/12がふたつありますがw
504名無しさんだよもん:2005/07/12(火) 23:27:57 ID:Xpma90c70
>>502
亀甲縛りされた草壁さん想像したら、エロスwwwww
マイナー路線の利点:競争相手が少ない。新鮮味がある。そのジャンルを欲する人からしたら非常にありがたい。
なので、アリだと思います。この組み合わせは新鮮味もあるし、面白い。
ただ、改行少なくしてくれた方が読みやすかったかも。
505春は終わらないその5(1/8):2005/07/13(水) 02:35:54 ID:+ryp4Czl0
「ごめーんタカくん。おまたせー」
「ほら、早く行くぞ。タマ姉と雄二きっと待ちくたびれてる」
「うん」
 今日も寝坊したこのみを起こして学校へ向かう。
 いつもの待ち合わせ場所まで走ると、そこには既にタマ姉たちの姿があった。
「おはよータマお姉ちゃん。ユウくんもおはよう」
「二人ともおはよう。今日もいい朝ね」
「おはようタマ姉、雄二。まだ時間大丈夫だよな?」
「うぃーっす。まだ走るほどじゃねぇよ」
 時計を見れば、雄二の言うとおりここからはまだ歩いてでも十分間に合う時間だ。
 合流を果たした俺たちは、いつものように他愛ない話に花を咲かせながら歩き出す。
「おい、貴明」
 しばらくすると、雄二が歩くペースを落とし、タマ姉とこのみから少し離れた距離になると、二人に気付かれないよう
小さな声で耳打ちしてきた。
「昨日はあれからどうだったよ」
 言われて昨日の夜の会議を思い出す。
「問題は片付いたのか?」
「……推進力がアップした」
「はぁ? なんだそりゃ」
 悪化とまでは言わないが、今まで進展のなかった話が昨日の一件をきっかけに予想外の方向に向かって動き出してしまったのだ。
「教室着いたら詳しく教えろよ」
506春は終わらないその5(2/8):2005/07/13(水) 02:37:00 ID:+ryp4Czl0
 タマ姉に気付かれるのを恐れてか、手早く用件を言うと雄二はさっさと前の二人に追いついて会話に混じる。
 雄二のああいう立ち回りの上手さは見習いたいものがある。
 以前にも、珊瑚ちゃんと先に出会っていたのが雄二だったら全て丸く収まったんじゃないかって思ったことがあった。
 今回も、もしも雄二が俺の立場だったらあっさりと事態を解決してしまっていたのかもしれない。
 ちょっと考えてみた。
 もしも雄二が俺の立場だったら……。
「…………」
 大喜びで珊瑚ちゃんたちの家に引っ越すな。
 うん、ダメだ。全然参考にならない。
「貴明ー、るー」
 どうしたものかと考えているところに聞き慣れた声が耳に飛び込んでくる。
 振り向くとそこには例のポーズで挨拶をする珊瑚ちゃんがいて、天高く上げた両手を前に突き出すとそのまま首元に飛びついてきた。
 どうやらいつの間にかいつもの合流場所まで来ていたようだ。
「おはよう珊瑚ちゃん」
「こらー、貴明ー! 朝っぱらからさんちゃんにくっつくなー」
 雄二たち三人はもはやいつものことだとばかりに、特に気にする風でもなく俺たちの少し前を歩いていく。
 最初はこの過剰と言えるスキンシップに良い顔をしなかったタマ姉も、既にこの状況に慣らされてしまったようで、ジャレついてくる
珊瑚ちゃんとそれを引っぺがそうとする瑠璃ちゃん相手に曖昧な笑顔を浮かべているであろう俺を見ると、少し困ったような笑い顔で
ほどほどにねと小さく呟いてこのみとまたおしゃべりしながら歩き出す。
 このみやタマ姉自身がよく同じようにくっついてきてたこともあり、加えて抑止役としての瑠璃ちゃんの働きっぷりを
知っているからこそ黙認、というようなことなのだろう。
 そこまではいつもと同じ朝の風景だったのだ。
507春は終わらないその5(3/8):2005/07/13(水) 02:37:41 ID:+ryp4Czl0
「あ、タマねーちゃん。ちょっとええ?」
 珊瑚ちゃんのこの一言があるまでは。
「えっ、私?」
「そやー。あんなぁ、ちょっとお願いがあんねん」
「お願い? ふふ、何かしら」
 最初はいきなりの珊瑚ちゃんからの呼びかけにちょっとびっくりしていたタマ姉だったが、すぐにいつもの頼りがいのある
年上のお姉さんっぷりを発揮して優しく珊瑚ちゃんに先を促す。
「貴明な、ウチらの家に引っ越したいんや」
「ちょぉっと待ったああぁぁ!」
 バッと珊瑚ちゃんの口を塞ぐと、そのまま抱きかかえてダッシュ。
 可及的速やかにその場からの離脱を試みる。
 行動が迅速すぎるよ珊瑚ちゃん。
 昨日の今日のしかも朝一でいきなりタマ姉に吶喊するなんて思ってもいなかった。
「……あー! こらー、たかあきーの誘拐魔ー。さんちゃんかえせー!」
 生存本能に従ったいつもの俺からは想像できない俊敏な行動に一瞬呆気にとられていた瑠璃ちゃんも、すぐにいつもの調子を取り戻して
俺with珊瑚ちゃんを追って走り出す。
「……どうしたのかな、タカくん」
「引っ越しがどうの、とか言ってたみたいだけど……」
「ははぁ。なるほど」
 事態を呑み込めずにいたこのみとタマ姉、何かを察したらしい雄二の呟きが届く頃には、既に危険領域の脱出に成功していた。
 俺は珊瑚ちゃんを抱えたままスピードを緩めることなく学校まで一目散に向かった。



508春は終わらないその5(4/8):2005/07/13(水) 02:38:54 ID:+ryp4Czl0
「はあっ、はあっ、はあっ」
 軽いとは言え、女の子一人を抱いたままの全力ダッシュはさすがに体に無茶を強いたようだ。
 息遣いが乱れたままなかなか整おうとしない。
「貴明はやいー。なーなー、帰りもまたやってな」
「ごっ、めん、むりっ」
 まだ荒い息のまま、途切れ途切れに珊瑚ちゃんの無茶な注文をお断りする。
「待たんかいーたかあきー」
 遅れること数十秒、追いついてきた瑠璃ちゃんとも合流し、本題へ。
「このスケベー!」
 入る前に蹴られた。
「ご、ごめん。ちょっと気が動転して」
「ったく、今度やったら殺す。覚悟しぃ」
「あ、あのさ、珊瑚ちゃん。やっぱりいきなりああいうことをタマ姉に言うのはまずいよ」
「えー。でもタマねーちゃんに許してもらえれば問題ないんやろ?」
 そうなんだけど、そのタマおねえちゃんが許してくれないから問題なんです。
 というか、許してくれないだけなら別に問題じゃないんだけど、あんなこと言っちゃうとその上で十中八九
お仕置きを食らう羽目になるから問題なんです。
 しかもあの言い方じゃあ、まるで俺が引っ越したがってるみたいだったし。
「……」
「どうかしたん?」
「あー、貴明、さんちゃんをえっちぃ目で見つめるなー!」
 最近わかってきたことがある。
 珊瑚ちゃんはイルファさんの生みの親だけあって、天然のようで実は計算高い。
 いや、正確には天然で計算高い。
 なので今回のことも、どこまで計算に入れての発言だったのか少しばかり怖い。
509春は終わらないその5(5/8):2005/07/13(水) 02:40:08 ID:+ryp4Czl0
「とにかく、今タマ姉にあの話をするのはまずい。話をもちかけるにしても、他の問題が全部一切合財片付いて、あと残すは
タマ姉だけってなったら挑むことにしよう」
「タマねーちゃん、ラスボスやな」
「そうラスボスなんだ」
 名実ともに。いや、冗談じゃなく。
「貴明も結局引っ越す話には乗り気なんや。このスケベー」
「ちっ、ちがっ。そうじゃなくて、万が一にもタマ姉にこの話を振るなら、後顧の憂いがない状態にしておかないと怒られ損に
なる可能性があるから」
「貴明のヘンタイー」
「ヘンタイー」
 珊瑚ちゃんまで瑠璃ちゃんと一緒になって……。
 行き場のないやるせなさ。
 ……でも、瑠璃ちゃんも口ではああ言ってるけど、もしかしたら俺が自分たちの家に転がり込んでくるかもしれないってのに、そこまで
本気で嫌がっている素振りは見せないな。
 前よりも心を許してくれているんだというのが改めて実感できて、それについては少し嬉しく思えた。
 しかしそれはそれとして、やっぱり女の子ばかりの家にお世話になるのも、自分の家に女の子が押し寄せてくるのも
出来れば遠慮したい事態だというのには変わりはない。
 ……でもこの勢いだとほんとに引っ越しすることになりそうなのが珊瑚ちゃんの行動力の恐ろしいところだ。
 どちらにしろタマ姉に折檻されるなら、ラスボスとして姫百合軍勢を説き伏せて貰えれば、一番角が立たずにすむんだけどな。
 ……俺の被害は多分一番大きくなるだろうけど。
 だが双方丸く治める手段としてはもっとも理想的とも言える手段ではないだろうか。


510春は終わらないその5(6/8):2005/07/13(水) 02:40:57 ID:+ryp4Czl0
「あー、やめとけやめとけ」
 朝のHR前、俺が着いたのよりもいくらか遅れて教室に入ってきた雄二は一にも二にもなく俺の席へと直行してきたの。
 あとで話を聞かせろとも言っていたし、今の俺の状況とそうなるに至った経緯、そして今後の対策として先ほど考えた
タマ姉お任せの案を話してみたのだが、その第一声がそれだった。
「丸く収まる頃にはお前の頭が潰れてんぞ」
「すごい重みのある言葉だな」
 憔悴しきった顔でこめかみを押さえている雄二の様子は、その言葉に嫌というほどリアルな説得力を帯びさせた。
 これが経験者は語るというやつか……、恐ろしい。
「他人事みたいに言いやがって。お前がとっとと逃げちまった後大変だったんだぞ。どういうことなのか説明しろって俺に詰め寄ってくるんだぜ?」
「あー、やっぱり珊瑚ちゃんの言ったこと気にしてたか」
 あの場からの逃走は正解だったようだ。
 咄嗟の判断にしては上出来だ。
「ったく、俺が知るわけねーのによ。なのにいちいち頭引っ掴まれてちゃたまんないぜ」
 雄二にしてみればほんのついさっきの出来事だ。
 あのタマ姉から受けたダメージがそう簡単に抜けるはずもなく、未だ鮮烈な痛みの残っているであろう自分の頭を、調子を確かめるよう
にコツコツと軽く小突いている。
「悪かったな雄二」
「いいっていいって。それにとりあえずそっちの事情もわかったしな。要するにあの双子ちゃんから『わたしたちの家に引っ越してきてー』って
迫られてるんだろ」
「声色を変えるなよ気色悪い」
「かーっ、モテモテでいいご身分じゃねーか。羨ましいやつめ」
「そんな気楽な話じゃないんだよ」
511春は終わらないその5(7/8):2005/07/13(水) 02:42:39 ID:+ryp4Czl0
「まぁな。姉貴が知ったらそりゃ黙っちゃいうないだろうしな。だがな、さっき言ったみたいに姉貴に任せようなんて思わないほうがいいぞ。
今もし姉貴がこの事を知ろうものなら、確実にお前は地獄を見ることになる」
 それは何となく想像できる。
 しかもついさっき珊瑚ちゃんの誤解を招くような発言があったばかりだ。
 恐らく被害は予想以上に甚大になるだろう。
「でも珊瑚ちゃんは俺が言っても聞いてくれないというか、俺の言うことあらゆることを自分に都合よく解釈してしまうというか、
説得はかなり難しい相手なんだ。あの子を真っ向から説き伏せられるような相手といったら……」
 やっぱタマ姉しかいないよなぁ。
 少なくとも俺に無理だというのは今までの経験則でわかっている。
「確かに手強そうだな」
 珊瑚ちゃんとは少なからず面識のある雄二にもそれはわかっているようで、早速二人して行き詰まる。
「みんなぁ〜、静かにしてぇ〜。HRをはじめるよぉ〜」
 気の抜けるような号令に前を見るとそこには我らが委員ちょが立っており、教卓をバンバンと叩いて注目を引こうと奮戦している。
「静まれぇ〜、静まれってばぁ〜」
「……まあひとまずこの話はまた後でだな」
「ああ。じゃあまた昼放課……は姉貴がいてマズイか。んじゃ放課後ヤックにでも行って緊急会議だな。昨日の負け分、ちゃんと奢れよ」
「わかった。いろいろ悪いな」
「いいってことよ」
 バンバンバンッ!
「いたっ! もぉー、みんなこっち向けぇー」
 強く教卓を叩きすぎて自分の手を痛めても己の職務を全うせんとする委員ちょ魂。
512春は終わらないその5(8/8):2005/07/13(水) 02:42:59 ID:+ryp4Czl0
 見兼ねて助け舟を出そうかと少し迷ったが、そんなことをするまでもなくすぐに愛佳は教室の注目を集めることに成功した。

 ザワッ

 教室中にざわめきが起こり、いっせいにみんなの視線が愛佳が手にする黒板消しに集中する。
 パフパフパフッ
「けほっ」
 多分先ほどのことを教訓にして手が痛くないようにしたのだろうけど、結局自爆することに変わりはなかったようだ。
 だがその甲斐あってというか、みんなも委員ちょの健気な姿に心打たれ、各自バラバラと自分の席に散っていく。
「けほけほっ」
 教室は沈静化したものの、当の本人はまだ黒板消しの粉で咳き込んでしまっている。
 頬杖をついてぼんやりと窓の外を眺める。
 とりあえずは放課後、か。
「えっと、それじゃあ今日は先生は休みなので代わりにあたしが連絡事項を伝えます。まずは……」
 しばらくすると、漸く黒板消しのダメージから抜け出したらしい愛佳がHRを開始した。
 先生の代理までやらないといけないなんて、委員長も大変だな。
 外をぼけっと眺めながらも、自分に関係のありそうな連絡がないか意識半ばに愛佳の声に耳を傾けてながらHRを過ごした。
「それから次に、美化委員の人は今日の放課後に……けほっ」
「…………」
 まだ咳き込んでたのか。
513書いた人:2005/07/13(水) 02:53:56 ID:+ryp4Czl0
雄二とのやりとりは書きやすいけどあんまり楽しくない。

ヒロイン絡めると書くのは試行錯誤になるけどとても楽しい。
でも書きやすいせいで妙に雄二が出張ってしまうアンビバレンツ。

作外で補足というのは邪道かもしれませんが、いいんちょを「愛佳」と呼んでしまっているのは
お決まりの「どのヒロインともある程度親しくなってる」パラレルルートを通ったということで
一つよろしくお願いします。

小牧でいこうか悩んだんですが、この先他キャラもいろいろ出張ってくるのでバランス均衡のためにこうさせていただきました。
いいんちょも出てくるのかようぜーとか思った人はごめんなさい。でもきっといないですよね?ね?

>>409
その一言で報われました。自分の間抜けな有様にちょっと自己嫌悪してたので大変ありがたいお言葉でした。
こっちこそ続き待ってますよ!と言いたかったけど先に投稿されていたので言えない寂しさ。
514名無しさんだよもん:2005/07/13(水) 03:41:13 ID:Fa/vxmYx0
GJです。
何というか、キャラのらしさを大切に書いてくれてるのが実に有り難い。
丁寧な描写、読んでてとても心地良いですわー。
頑張ってくらさい。
515名無しさんだよもん:2005/07/13(水) 04:52:35 ID:wAcccsgP0
特別粗もなく、良くまとまってると思うよ。
次回に期待age
516名無しさんだよもん:2005/07/14(木) 23:35:34 ID:SVUZcXVj0
再び流れが止まっている今だから言おう・・・・・















Tender Heartマダー?(・∀・)
517名無しさんだよもん:2005/07/14(木) 23:36:15 ID:y4iomWCy0
カレー男まだ〜?
518名無しさんだよもん:2005/07/15(金) 02:24:29 ID:ncvdYE5L0
>>409
お前の空手を見せてやれ!
ビクともしないデカい奴め!
519名無しさんだよもん:2005/07/15(金) 02:27:51 ID:ncvdYE5L0
ごめん、誤爆した
520名無しさんだよもん:2005/07/15(金) 06:57:11 ID:rSQwQges0
どこへの誤爆だよw
521名無しさんだよもん:2005/07/15(金) 10:00:49 ID:sqWnkjbu0
こりゃ豪快な誤爆ですね
522名無しさんだよもん:2005/07/15(金) 17:19:15 ID:pCK/90TG0
てんだ〜は〜とと空手にどんな関係が!?
とかマジで考えたよ。笑った。
523名無しさんだよもん:2005/07/15(金) 20:44:46 ID:QipWuC6c0
>>518
ダイモスとゴーダムだっけ。
スパロボ系スレの誤爆か?
524名無しさんだよもん:2005/07/16(土) 23:13:14 ID:vKUohEzZO
みんないくぞ〜(^o^)/
せ〜のっ!
525名無しさんだよもん:2005/07/16(土) 23:44:16 ID:uQ7b1KLN0
巫女みこナース!
5260/3 Tender Heart その9−1:2005/07/17(日) 00:42:58 ID:XyWYAoLG0
>>525
 す、すいませっ……!
 巫女みこナースじゃなくてホントすいませっ……!(笑

 その9、は一気に書き込むとちょっと長くなりそうなので9−1と9−2に
分けることにしました。
 決してじらしてるわけではっ……(^^;)



 前回までのあらすじ

 雄二によって指摘された、このみと貴明の「とても自然で、とても不自然な」関係。それは結局、貴明だけが未だ幼なじみ
の関係に片足を残したままでいるせいだった。
 悩み続けた貴明は、アイス屋でよっちと話す内にひとつの決心をする。
「今夜このみを――俺だけのものにする」
 貴明の思い切った発言に驚きながらも、女ならではのアドバイスをくれて祝福してくれるよっち。
「このみのこと、幸せにしてやってくださいね」

 よっち、ちゃると別れ帰路につく二人。
 店に来るまでとは違う気持ちで手を繋ぎ、同じ家に帰れば――もうすぐ夜がやってくる。

5271/3 Tender Heart その9−1:2005/07/17(日) 00:44:31 ID:XyWYAoLG0
 買い物を終え、おしゃべりをしながら家に向かっていると川の方から緩やかな風が吹いてきた。
 夕暮れの風だ。
「ん〜〜っ、気持ちいいね〜! タカくん」
 すっ、と深呼吸をするみたいに体を開いて、全身で風を受け止めるこのみ。セーラー服の襟と横結びの髪先がふわふわと揺
れている。
 ……もう、この風が吹く時間なのか。
「ほんとだ」
 俺も足を止め、このみの真似をして風を受けてみた。
 地元の人たちが「川風」とか「夕風」などと呼ぶこの風はこの街の夏の風物詩だ。
 夏の間、夕方が近づくと決まって川から丘へさかのぼるように吹き上げるそれほど強くない風で、この街の子供達は遊びに
出る前に母親から決まって「川風が吹いたら家に帰りなさい」と言いつけられる。俺とこのみも、そんな言葉を聞かされて育っ
たふたりだ。あたりはまだ明るいけれど、陽は西へ大きく傾いている。街が茜色に染まるのも、もうすぐだろう。
「気持ちいいなぁ……」
 思わず深呼吸をしている自分に気が付く。
 日差しと重い買い物袋のせいでじっとり汗ばんだ肌に訪れたつかの間の涼しさは、思わず声を上げたくなるくらいに心地よ
かった。
「いい風――」
 街路樹の枝を揺らして、もうどこか遠くに去ってしまった風を惜しむようにつぶやいたこのみは、くるりと体ごと俺の方を
向いてにっこりと微笑んだ。
「えへ〜」
「? どうかした?」
「ううん。――嬉しいなって思って」
 言いながら、ゆっくりとこのみは歩き出す。合わせて俺も足を進めながら問い返した。
5282/3 Tender Heart その9−1:2005/07/17(日) 00:46:26 ID:XyWYAoLG0
「嬉しいって、何が?」
「全部!」
 満ち足りた様子でそう言ったこのみは、前を向いたまま自分が幸せな理由を数え上げ始めた。
「だってぇ、今日は一日いいお天気だったし、夏休みはもうすぐだし、アイス屋さんにも行ったし、ちゃるとよっちにも会え
たし……」
 後ろ手に掴んだ通学鞄と買い物袋をふりふりと揺すりながら、このみは明るく微笑む。
「……タイムサービスでいいお肉が安く買えたし、暑いから風吹かないかなぁって思ってたらいい風が吹いたし、晩ごはんは
もうすぐだし。それに――」
 横に並んできたこのみは、俺の目をまっすぐに見上げて言った。
「――タカくんと、帰ってからも一緒にいられるから」
 しあわせ! と顔に書いてあるかのようだった。
 昼間、アイス屋に向かう途中や列に並んでいる時は、目を逸らし、はぐらかして逃げてしまったその表情。このみのまっす
ぐな俺への想い。
 俺は、今日はじめてそれとまっすぐに向き合った。
 どきどきと胸が高鳴る。頬が熱くなる。このみで視界がいっぱいになる。
 それは昼と同じ感覚。でも、そこから先は昼とは違う。
 俺はもう、この胸の高鳴りを否定しない。逃げ出さない。ごまかしたりしない。
 なぜなら、今の俺はこのみの恋人なのだから。
 川風が吹くなか手を繋いで家に帰った、子供の頃の俺たちとはもう違う関係なのだから……。
「――俺も」
 想いを言葉にするのは、勇気が必要だった。
 でも、これからはちゃんとそうしないといけない。このみはずっと前から、俺にそうしてくれていたのだ。
5293/3 Tender Heart その9−1:2005/07/17(日) 00:47:51 ID:XyWYAoLG0
「俺も、同じだよ」
「え?」
「俺も――このみとずっと一緒にいられて、嬉しい」
 言った途端、胸の鼓動が跳ね上がるように強くなった。
 猛烈に恥ずかしい。今の俺の顔はきっと、ひとりだけ夕陽を浴びたみたいにまっ赤になっているだろう。
 でも、視線はそらさない。
「タカくん……」
 驚いた顔で立ちつくすこのみに、俺は微笑みかけた。すこし引きつっていたかも知れないけれど、それは今後の努力で改善
していけばいい。
「あともうちょっとだけど、手、繋いで行こう」
「う、うん」
 どこか惚けたみたいな表情で固まったこのみの手から買い物袋を奪い取り、空いた手を掴んで指を絡ませた。
「行こう」
「あ、タカくん、わたし荷物持つよ」
「だめ」
「でも、今日はたくさんお買い物したから重いし――」
「平気だってば」
 本当は体が傾きそうになるくらい重かったけど、不思議なことに全然辛くはなかった。
 繋いだ手から伝わるぬくもりが、愛しさが、確かに俺を満たしている。俺を強くしてくれる。
「……このみエネルギーのおかげだよ」
 握った手に、きゅっと力を入れる。
 するとこのみはもう一度驚いた顔をして――
「うんっ!」
 とろけそうな笑顔で、俺の手を握りかえしてきたのだった。



                                 ※その9−2に続く※
530Tender Heart 作者:2005/07/17(日) 00:53:23 ID:XyWYAoLG0
 というわけで、ちょっと変則的になりましたが9−1をお届けします。
 分けた理由は前書きに書いた通り、一気に書き込むと長くなるから、というのもあるのですが
一旦ここでお話を区切りたかった、というのも自分の中ではかなり大きいです。
 あと、このスレの残り容量も少ないですし、あんまり私で埋めちゃうと他の職人さんたちに
迷惑かけてしまいますから。次スレもまだですしね。

 この連休中、どれだけ書き進められるかが勝負です。
 頑張ります。


 >>522
 私も笑いました。
 TH2にはエクストリームは出てきませんし、ましててんだ〜は〜とには(^^;)
 でも、誤爆もこういうのだと和みますね。
531名無しさんだよもん:2005/07/17(日) 01:48:14 ID:5zCJafNiO
<<525
ばかっ!そこは
てんだ〜は〜とまだ〜?(・∀・)
だろっ!
532名無しさんだよもん:2005/07/17(日) 02:03:19 ID:iuqxiINL0
きっと巫女ものや看護婦ものを書いてくれという525の心の叫びなんだよ







俺はどんな内容になるのかすら想像もできんが・・・・
533名無しさんだよもん:2005/07/17(日) 02:27:47 ID:FoJqa1u10
>>531
ばかっ!そこは
>>525
だろっ!
534名無しさんだよもん:2005/07/17(日) 02:28:59 ID:Fif67i4E0
たかが誤爆でここまで笑い物にされたのは初めてだな………
535Tのハナシ 第二話(1/7):2005/07/17(日) 03:11:14 ID:V/9F8i7h0
 今俺の目の前には、先ほど、小牧が上っていったと思われる階段がある。
 上るべきか、それともこのまま振り返り雄二を引っつかんで帰るべきか。
 ただ病院で見知った相手を、それも女子を見かけたというだけならば、普段の自分は迷うことなく後者を選んだろう。
 しかし今回は二つだけ、その普段とは事情が違っていることがあった。
 一つは、小牧とは知らない仲ではなかったということ。
 何故か今月に入ってからは、学校のそこかしこで困っている彼女に遭遇し、お節介かもしれないと思いながらもつい強引に世話を焼いてしまっていた。
 それが高じて今では、小牧が自主的に行っているという書庫の整理を手伝うまでになっていた。
 そしてもう一つは、そういったやり取りを通して俺なりに小牧の人となりというものがよくわかったつもりでいたからだ。
 本来、今日あの委員長の(いや、正確には元委員長の、だが)お見舞いに来るはずだった小牧が突然の急用ということで、俺がピンチヒッターを引き受けた。
 だというのに、その当の本人がこの病院にいるというのはいささか不可解である。
 これが雄二だったりすれば、サボりやがったなあの野郎、ということで鉄拳制裁の一発で済む話なんだが、
小牧に限ってそんなことははないだろうし、何よりらしくない。
 他人からの頼みごとを嫌とは言えない損なくらいに実直で真面目な性格も、嘘の用事を口実に自分の請け負ったことを
放棄するような不誠実な人間ではないことも十分承知している。
「何か理由があったのかな」
 だが一体、どんな理由なのか。
 同じ病院にいながら、委員長の見舞いに行くことの出来ない用事、理由。
 この階段を上がれば、もしかしたら何かわかるのかもしれない。
「……でもなぁ」
 これではまるで秘密を詮索するみたいで、小牧にも悪いし、何よりも後ろめたい気持ちだ。
 どうするか。右へ左へと傾く心の秤のバランスは、最後にはわずかな好奇心の重みによってついにある一方へと傾いてしまう。

 ごめん、小牧。

 結局俺は目の前の階段に足を踏み出していた。

536Tのハナシ 第二話(2/7):2005/07/17(日) 03:11:51 ID:V/9F8i7h0
 Tのハナシ 第二話


 意を決して階段を上った。
 そこまではいつもの俺からは考えられない行動力だったと思う。
 が、よくよく考えると小牧が何階に行ったのかさっぱりわからない。
 わずかな時間悩んだ結果、結局委員長の病室のあった階から一つ上の階を見て回ることにした。
 これで見つからなければ、きっと余計な詮索はするなという天の意思だったのだろう。
 委員長のところもそうだったが、待ち合いのフロアとは全然違い、入院患者の病室が並ぶ階層には一般の人の姿がだいぶ少ない。
 たまにすれ違う私服の人たちは、恐らくさっきまでの自分と同じくお見舞いに来ている人たちなんだろう。
 なんだか、自分がひどく下世話な真似をしている気がしてきた。
「気がするというより、まさにそうなんだろうな」
 軽く自己嫌悪に陥りながらも懲りずにざっと見て回ったが委員ちょの姿は見当たらない。
「帰るかな」
 それがいいだろう。
 そう思って踵を返した瞬間だった。
「それじゃあ、ちょっとお水替えてくるからね」
 すぐ目の前の病室からがらりとドアを開けて出てきたのは、まさに小牧愛佳その人だった。
「あっ」
「えっ?」
 思わず声を上げてしまった俺に向こうも気付き、同じように驚きの声を上げる。
「…………」
「…………」
 そのままお互い固まってしまい、見つめ合うこと数秒。
「えっ、えっ、なななななんで河野くんがここみぅっ」
 うわっ、今噛んだ。
 あれは痛そうだぞ。
537Tのハナシ 第二話(3/7):2005/07/17(日) 03:16:25 ID:V/9F8i7h0
「ひとまずちょっと落ち着こう」
「ひゃ、ひゃいー」
 慌てふためく小牧を見ていると、不思議と自分の感情がクールダウンしていくのがわかる。
 他人がパニックになっているのを前にすると逆に冷静になるって本当だったんだな。


「落ち着いた?」
「は、はい。舌はまだヒリヒリしますけど……」
 病室の前で騒ぐのはまずいと、流し場に移動してから数分、ようやく小牧も会話が出来る状態にまで回復したようだ。
「あの、それでどうして河野くんはここに?」
「いや、どっちかというとそれは俺の台詞のような……」
 見かけたというだけで後を追ってきてしまったという後ろめたい事実に段々と自分の声が小さくなっていくのがわかる。
 が、小牧にはしっかりと聞こえたようで、小さく「あっ」と声を上げると、すぐさま俺が病院にいた理由に思い当たったようで、
申し訳なさそうに視線を伏せて俯いてしまう。
「ごっ、ごめんなさい。あたし自分のことで手一杯でそこまで頭が回ってませんでした。そっ、そうでしたよね、あたしの方こそ河野くんに
わざわざ代わってもらったのに病院にいるなんておかしいですよね」
 そういうつもりはなかったのだが、今の一言は意図せず詰問するような形になってしまったのか、少なくとも小牧本人は
そう受け取ってしまったようで、小さくなってシュンとうなだれてしまている。
「あ、いや、別に別にそういうつもりじゃなくって、ただちょっと小牧の用事ってなんだったのかなぁなんて思っただけで。
って、病院にいるんだから病院でなんか何か用事があったに決まってるよな、ははは。いや、うん、用事があるんなら
委員長の見舞いなんかにまで手が回らなくたってしょうがないよ」
 何とかフォローしようと言葉をひねり出すが、自分でも自覚できるくらいにあたふたとしてしまう。
 こういうとき、気の利いた言葉の一つもかけられないのが少し情けなかった。
「とっ、とにかくさ、俺なんてどうせ暇で帰ってもやることなかったし、これくらい全然構わないよ。だから気にしないで」
「でも……」
538Tのハナシ 第二話(4/7):2005/07/17(日) 03:18:02 ID:V/9F8i7h0
「小牧にはさ、その、俺たちみんないつもお世話になってるし、こういうときはお互い様だろ。それに小牧はいつも
頑張りすぎてるんじゃないかってくらいみんなのためにいろいろと働いてるんだから、むしろもっといろいろ押し付けたって
いいくらいだと思うよ。だから謝る必要なんか全然ないし、気にすることもないって」
 自分でもすごく恥ずかしいことを言っているとはわかっている。
 こうして女の子と面と向かって話しているという緊張と合わさって、自分の体温が上がっていくような錯覚に陥る。
 少なくとも、今俺の顔はとても赤くなっているだろう。
 なにしろこんなにも熱く感じるのだら。
「その、どうもありがとうございます……なのよ」
 どうやら小牧もこっ恥ずかしい発言に照れてしまったらしく、俯いてるのには変わりないが、少し顔を赤くしながらそう小さく零した。
 まるで書庫にいる時のようないつもの雰囲気に流し場が包まれる。
「…………」
「…………」
「えっと、お茶……飲む?」
「いや、ここじゃちょっと」
 雰囲気に呑まれすぎだった。
「そっ、そうですよね。ここだとソファもありませんもんね。やだなぁもう、冗談に決まってるよぉ」
「…………」
 俺の無言のリアクションに堪えられなくなったのか、小牧はえへえへと頭を掻く。
 その笑顔は不自然なまでに明るい。
 小牧って嘘つけないタイプだな。
 多分エイプリルフールとかではいい標的にされ、一念発起して逆襲を試みてもあっさり看破され一人涙で枕を濡らすタイプだ。
 何はともあれ、小牧の畏まってしまっていた態度もほぐれたようで一安心。
「まあ、お茶はまた今度書庫整理のときの楽しみに取っておくよ」
「う、うん」
 更なる緊張の緩和を図るつもりで、俺たち二人に共通する話題を振る意味も込めてを書庫という単語を出してみる。
「そうだっ、何かリクエストがあったら遠慮なく言ってよ。頑張って河野くんをおもてなししちゃうからっ」
 試みは見事に功を奏したようだった。
 張り切ってますと主張するような小さなガッツポーズとともに小牧がずいっと俺に詰め寄ってくる。
「リクエストって言ってもなぁ。今までで出てきたものってハズレがなかったし、小牧が用意したものなら俺は何でも良いよ」
「ほんとに何でもいいの……?」
539Tのハナシ 第二話(5/7):2005/07/17(日) 03:20:10 ID:V/9F8i7h0
「……やっぱり紅茶でお願いします」
 気がつけば、もうすっかりいつものペースだった。
「あ、書庫といえば」
 書庫と小牧、そして用事というキーワードから、一つ思い当たることがあった。
「そういえばたまに用事があるからって書庫の整理休みにすることがあったけど、もしかしてあれも今日と同じ用事だった?」
「……えっと」
 何気なく、そう、本当に何の気なしに言ってみただけだったのに、小牧は言葉を詰まらせてしまう。
「えっ? あっ」
 その反応が少し訝しく思えたが、すぐにぴんと来た。
 しまった、踏んだ。
 人には誰にだって踏み込まれたくない領域がある。今、俺はまさに小牧のその領域に無遠慮に足を踏み入れてしまったんだ。
 だがいまさら気付いてももう遅い。
 零れたミルクがもう器に戻らないように、一度発した言葉も戻ることは無い。
「えっと、その、いつもそういうわけじゃないんだけど」
 とても言いにくそうに言葉を選んでいる小牧の姿に、俺の中の後悔はさらに募る。
 よく考えてみれば、小牧はさっき誰かの病室から出てきていたんだから、誰かの見舞い(それこそ委員長なんかに
時間を割いていられないほどの重要で大切な人の)に来ていたのは明らかだ。
 そういうのを、多少親しくなったとはいえ赤の他人の俺なんかに知られるのはやっぱり嫌なものだろう。
 配慮が足りなかった。
「ごめん、無神経だった。その、詮索する気はなかったんだ」
「えっ、やだっ、そんな謝らないでよぉ。河野くんは全然悪くないよ。ただ、本人がちょっと人見知りして、あんまり
他の人に知られたがらないから……」
 口ぶりからして、やはり小牧の身内か、あるいはごく親しい人間が患って入院しているのは間違いないみたいだ。
「あっ、そうだった。いけない、早く戻らないと」
 小牧はハッとしたように、慌てて手に持っていた花瓶の古い水を流し、手早く洗ってまた花を生けなおす。
「時間とらせちゃったな。俺も帰るよ。今日はごめん」
「そんな、あたしのほうこそ」
 ここで取ってつけたように「お大事に」とか言っても、その当の本人の事情や病状さえわかっていない俺の言葉では、逆に安っぽく
感じさせてしまい、かえって気分を害してしまうかもしれない。
540Tのハナシ 第二話(6/8):2005/07/17(日) 03:24:40 ID:V/9F8i7h0
 かといって何も言わずにはいさようならというもの失礼な気がする。
「……時間取らせついでに、あとちょっとだけ付き合ってもらえないかな」
「えっ?」
「ごめん、すぐ済ますから」
「は、はい」
 ハテナマークの浮かびそうな顔をしたまま場に流されてしっかり俺の後についてきてしまう小牧を連れて目的の場所へ向かう。
 階段を下り、あやふやな記憶を頼りに足早に歩く。
 確かロビーのすぐ近くで見かけ覚えがある。
「あっ、あの、河野くん。いったいどこに?」
 歩幅が違うせいでついてくるのが精一杯といった感じにとてとてと小走りでついてくる小牧が当然といえば当然の疑問を投げかけてくる。
 出来れば歩調を落としたいところだったが、あんまり時間をとらせないためにも申し訳ないがその速度を維持したままで答えを返す。
「ちょっと売店にね。っと、あったあった」
 所詮は同じ建物内にあるだけあって、すぐに目指した場所へと辿り着いた。
「売店……。何か買うんですか……なの?」
 言葉遣いに気をつけてくれてるのは嬉しいけど、それは明らかに日本語としてはおかしいだろ。
「うん。たいしたものじゃないけどね」
 喉まで出かかったツッコミを呑み込み、雑誌やお菓子がずらりと並んでいる売店の前へと移動する。
 そのうち、軽く摘めるお菓子をいくつか多めに購入する。
「はい」
 そうして今買ったばかりのものを、袋ごと小牧の前に差し出す。
541Tのハナシ 第二話(7/8):2005/07/17(日) 03:25:27 ID:V/9F8i7h0
「……はい?」
 いまいち状況が呑み込めていないのか、不思議そうな顔で小首を傾けて聞き返しながら、小牧は反射的に俺の差し出した袋を受け取った。
「お見舞い代わり、って言うのはちょっとおこがましいかな。本当はもっとちゃんとしたお菓子とか果物とか花みたいなのがいいんだろうけど」
 生憎とそう都合よく用意できるはずもない。
 本音を言ってしまえば、小牧の見舞いの相手へというよりも、小牧本人への差し入れのつもりだった。
 ご機嫌取りといえなくもない行為ではあるが、半ば強引に小牧の領分に踏み込んでしまったことへの謝罪の意を込めて。
 ささやかではあるが、これなら小牧本人が食べても良し、もしかしたら本当に入院しているという人への見舞いになるかもしれないし、
少なくともマイナスにはならないと思う。
 幸い小牧がこの手のお菓子が好きだというのは、短いながらも共に過ごした書庫でのひと時でわかっていた。
「や、や、そんな悪いですよ」
 やはりと言うか、小牧は袋を押し返すように花瓶を持っていない方の手を突き出して遠慮する。
 だけど、小牧の視線が袋の中のお菓子にロックオンされているのを俺は見逃しはしない。
「まあまあ」
「いえ、ほんとわるいですから」
 そうは言いながらも段々と抵抗する力が弱くなっていく。「もしかして迷惑かな」
「いっ、いえ、迷惑だなんて。ただわざわざこんな風にしてもらうのは河野くんに悪いと思って」
「それなら、遠慮なく受け取ってくれ。俺がしたくしてやってるんだし」
 少し強引にお菓子の詰まっている袋を小牧の腕に抱かせ、俺はパッと手を離す。
「あ、う。その、どうもありがとうございます」
 先ほど流し場で生けなおした花瓶と、今さっき受け取った(受け取らせた)袋を両腕に抱えながら、照れくさそうな控えめの笑顔で礼を言う。
 その様子からすると、少なくとも迷惑とは思われていないのは本当だろう。
 心のどこかでホッと安心する。
542Tのハナシ 第二話(8/8):2005/07/17(日) 03:26:10 ID:V/9F8i7h0
「本当にその場で用意したものになっちゃって悪いな」
「ううん、そんなことないよ。河野くんの気持ち、すごく嬉しいですよ」
「ありがと。そう言ってもらえると気が安らぐよ」
「でも、本当によかったの? わざわざこんな……」
「いいんだってば。成り行き……というかほとんど自分から図々しく首突っ込んだようなもんだけど、小牧の知り合いが入院してるって知ったのに、そのまま何もしないで素通りするのもなんか悪いだろ」
 自己満足といわれればそれまでだけど、それでも何かできることがあるならやっておきたい。
「本当なら直接お見舞いできるのが一番いいんだろうけどね」 
 とは言っても、いきなり見ず知らずの人間が病室に押しかけて『お見舞いに来ました』などというのも相手からすれば迷惑極まりないだろうし。
 ならばせめてこれくらいは。
「まあ本当にたいしたものじゃないから、気持ちだけになっちゃうけど」
「河野くん……」
「さて。俺はそろそろ帰るよ。えーと、こういうときでも『お大事に』でいいのかな」
 他に適当な挨拶が見つからない。
 自分の知識の無さを露見させるようで少し恥ずかしいが、無意味に見栄を張って変なことを言うような失敗をするよりはいい。
「今日はいろいろとごめん。それじゃまた明日」
「あっ、あのっ」
 帰ろうと振り返る寸前に、いつもの小牧からは考えにくいほどの大きな声で呼び止められる。
 驚いてそのまま固まっている俺にさらに続けて言ってくる。
「その、もし河野くんさえよかったらでいいんだけど……あの、一緒にきませんか……なのよ?」
 先ほどの一声で全ての声を振り絞ってしまったのかと思えるほどに、さっきとは打って変わって、呟くような途切れ途切れの小さな声。
 相変わらずのですます調の入り混じったおかしな口調で、とても控えめに、けれども小牧には珍しくはっきりと自分からそう申し出た。
543↑の作者:2005/07/17(日) 03:31:01 ID:V/9F8i7h0
今回でメインの人とご対面にまでもっていくつもりだったのがなぜかいいんちょうに食われてしまいました。
これがいいんちょうマジックってヤツでしょうか。恐るべしです。
きっと途中で7分割から8分割にこっそり増えてるのもいいんちょうマジックです。

前回は改行ミスがあったし今回はこれだしで、一度くらいスパッと綺麗に投下してみたいものです。
それではお目汚し失礼しました。
544名無しさんだよもん:2005/07/18(月) 07:09:23 ID:hyQgqAJf0
瞠目して待つ。
545てんだーはーと作者:2005/07/18(月) 13:35:04 ID:R6Ho31pv0
543様、続きを待っております!
わたしの加入しているプロパイダが2ちゃんねると喧嘩してるらしく、当面パソコンからのアクセスが出来ないようです(今は携帯から書き込んでます)
回復がいつになるかわからないということなんですが??状況しだいでは自サイトへ移管となるかもしれません。
とりあえずそれだけです。SSスレに栄光あれ!
そしてOCNはよなんとかせんかーい(泣)
546名無しさんだよもん:2005/07/18(月) 15:37:00 ID:ov/SVoWD0
回復したYO

永久に規制ならどうしようかと思った…ocn
547名無しさんだよもん:2005/07/18(月) 15:38:58 ID:F7jZJ/8Q0
そんな下らない事でわざわざレスして容量削るのか
一生規制されてればいいのに
548河野家にようこそ 第15話(1/9):2005/07/18(月) 20:17:46 ID:9LvNE+E70
 瑠璃ちゃんを家に連れ帰ったのはいいけれど、タマ姉からはその理由を聞かれ、何故か一緒に来てしま
草壁さんからはタマ姉が家にいる理由を聞かれる。俺はそれぞれ、ありのままを二人に話した。
 とりあえず俺は電話で、珊瑚ちゃんとイルファさんに瑠璃ちゃんの無事を伝える。そこで俺は瑠璃ちゃん
があんなことをした理由を知る。それは、自分たちだけの世界にイルファさんという”異物”を招き入れ
た珊瑚ちゃんへの怒り、そしてその怒りから珊瑚ちゃんを傷つけてしまった自己嫌悪によるものだった。
 今晩はこのまま瑠璃ちゃんを家に泊めることにした俺。明日の昼に珊瑚ちゃんとイルファさんに家に
来てもらうことにしたけれど、果たして無事解決となるだろうか……。

「あれ? 何してるの二人とも?」
 日曜日の朝。キッチンで俺が見たのは、朝食の仕度をしている瑠璃ちゃんと、それを手伝う由真の姿
だった。
「何って、決まってるやん、朝ご飯。世話になったからな、このくらいはせんと」
「もうちょっとだから、たかあきはそっちで環さんとTVでも見てなよ」
 由真にそう言われて居間の方を見ると、タマ姉が暇そうにソファーに座ってTVを眺めている。多分
自分も手伝おうとしたけど二人に断られたんだろうな。
 それにしても、改めて瑠璃ちゃんと由真を見ると、瑠璃ちゃんはいつも通りって感じで料理してるし、
由真は食器や出来た料理をテーブルに並べたりと裏方に徹している。なんだかいいコンビネーションだ。
由真は今までタマ姉の手伝いをやってきた成果だと思うが、瑠璃ちゃんが由真を邪魔者扱いせずに手伝
わせているのは、人見知りの激しい瑠璃ちゃんにしては意外だ。昨晩のあの会話で二人は仲良くなった
と言うことだろうか?
「おっはよ〜」
「おはようだぞ、うー」
 花梨とるーこも起きてきた。我が家の日曜日は、こうして始まった。
549河野家にようこそ 第15話(2/9):2005/07/18(月) 20:18:25 ID:9LvNE+E70
「おいしい! 瑠璃ちゃんって料理上手なんだね!」
「うーかりの言うとおりだぞ。うーるりの作った料理はどれも素晴らしい。また一人新たな強敵が現れ
てしまった。これでますます油断が出来なくなったぞ」
「タカ坊から話し程度には聞いていたけど、瑠璃ちゃんって本当に料理が上手なのね」
 さすがは瑠璃ちゃん、その料理の腕は誰もが認めるところだった。
「ホントだよね。正直、自分より年下のコがここまで出来るのって、なんか悔しいっていうより、出来
ない自分が情けなく感じちゃうな……」
 苦笑する由真。まあ、長年姫百合家の台所、いや家事全般を一手に担ってきた瑠璃ちゃんだからなぁ。
たまに母親を手伝うくらいしかやってなかった由真との差は歴然だ。
「こ、こんなん、いっつもやってるから出来て当然やもん……」
 周りからの賞賛の言葉に、戸惑い気味の瑠璃ちゃん。
 そう言えば瑠璃ちゃんって、珊瑚ちゃん以外のためにご飯を作ったことってあるのだろうか? あの塩
チャーハンは別として。
 いや、多分初めてではないだろうか。この反応がそれを物語っている。と言うよりもしかしたら、珊瑚
ちゃん以外の誰かと一緒にいること自体、瑠璃ちゃんにとってはかなり珍しいことじゃないか?
「出来て当然なんて言わないでよ。そしたら、出来ないあたしがダメ人間みたいじゃない。ああ、余計
落ち込む……」
「べ、別に由真のこと悪う言うたんちゃうよ。た、ただウチ、いっつも普通にやってたから、その……」
 やや大げさにヘコむ由真をなんとかフォローしようとする瑠璃ちゃん。
「今さら自分の未熟さを嘆いても仕方がないぞ、うーゆま。そんな暇があったらもっと料理の腕を磨け。
忘れていないだろうな、明日の夕食、再勝負だぞ」
「い、言われなくてもわかってるわよ!」
「あははっ、由真ちゃんまだ料理ヘタッピだもんね〜!」
「花梨には言われたくないっ!」
550河野家にようこそ 第15話(3/9):2005/07/18(月) 20:19:01 ID:9LvNE+E70
「おいおい、朝からギャーギャー喚くなよ」
「いいじゃない。このくらいはスキンシップの内よ。ふふっ」
 朝っぱらから何とも賑やかな食卓である。これも瑠璃ちゃんには慣れない雰囲気だろう。
 俺は瑠璃ちゃんを見る。タマ姉の言う”スキンシップ”に勤しむ由真たちを見て、やはり瑠璃ちゃんは
戸惑っている。でも、そんな由真たちから目を離さない瑠璃ちゃん。何を思っているのだろう?

 朝食から少し経って、このみと小牧さんが遊びにやってきた。瑠璃ちゃんも加えて、みんなでまたトラ
ンプで遊ぶ。このみは懲りずにババ抜きで遊びたいと言い、案の定ビリの連続だった。
 そしてお昼過ぎ、玄関のチャイムが鳴った。珊瑚ちゃんとイルファさんが来たのだ。
 瑠璃ちゃんもそれに気づき、その顔が緊張でこわばる。
 俺は廊下に出て、玄関のドアを開けた。
「貴明、こんちわ〜」
「貴明さん」
 やはり珊瑚ちゃんとイルファさんだった。
「いらっしゃい。まあとりあえず入って」
 俺は二人を瑠璃ちゃんのいる居間に連れて行く。
「瑠璃ちゃん!」
「瑠璃様!」
 居間に入った珊瑚ちゃんとイルファさんは、そこに瑠璃ちゃんがいたことに安堵したようだった。
 でも瑠璃ちゃんは、ソファーに座って下を向いたまま何も応えない。
「じゃ二人とも、こっちに来て」
 俺は珊瑚ちゃんとイルファさんを、瑠璃ちゃんのそばに連れて行った。ソファーにはタマ姉と小牧さん
が座っていたが、二人とも何も言わずに席を空けてくれた。
「タカ坊、私たち、部屋を出ましょうか?」
551河野家にようこそ 第15話(4/9):2005/07/18(月) 20:19:27 ID:9LvNE+E70
 タマ姉が気を利かせてそう聞いてくる。
 確かに、これは珊瑚ちゃんと瑠璃ちゃん、それにイルファさんの問題だ。部外者は部屋を出た方がいい
かもしれない。
 だけど……、俺は少し考え、こう答えた。
「いや、よかったらみんなもいてくれ。構わないよね、珊瑚ちゃん、瑠璃ちゃん、イルファさん?」
「う、うん、ええよ」
 珊瑚ちゃんがそう答えて、イルファさんもうなずく。瑠璃ちゃんは答えなかったが、俺はそれを否定
とは受け取らなかった。

 珊瑚ちゃんとイルファさんをソファーに座らせる。他のみんなはキッチンのイスや、居間の床に座って
黙ってこっちを見ている。事情を知らない小牧さんも、場の雰囲気を察して何も言わない。
 珊瑚ちゃんたちがソファーに座り、それからしばらく、居間に沈黙が訪れる。
「さて、と、まずは何から話そうか……」
 その沈黙を打ち破ったのは俺だ。何となく、この場を仕切らなければいけない気がした。だが……
「さんちゃん、イルファ、ごめんなさい!」
 いきなり、瑠璃ちゃんは珊瑚ちゃんたちに頭を下げ、謝った。
「瑠璃ちゃん……?」
「瑠璃様……?」
 驚く珊瑚ちゃんとイルファさん。瑠璃ちゃんは頭を下げたまま、話しを続けた。
「ウチ、悪いコやった。イルファのことイジメて、さんちゃんにあんな酷いこと言って、そんで家を飛び
出して……。ホンマ、悪いコやった。
 ウチな、どうかしてたんよ。ウチ、さんちゃんはウチだけのものだって思ってたから、イルファ、ウチ
からさんちゃん取り上げようとしてるって思って、それで……
 でも、ホンマは違うねんもんな。イルファ、ウチらのお手伝いがしたいって思っただけやもんな。イル
552河野家にようこそ 第15話(5/9):2005/07/18(月) 20:20:32 ID:9LvNE+E70
ファはメイドロボやもん、そんなん当たり前やのに、ウチ、変な誤解して……
 ホンマにごめんなさい! 許してください! ナンボでも謝るから、だから許して……」
 必死で謝罪する瑠璃ちゃん。
 俺は、瑠璃ちゃんが根は正直な女の子だってことを知っている。だから今の瑠璃ちゃんがウソをついて
いるとは思わない。
 だけど、何かがおかしい。そう感じるのだ。
 頑固者の瑠璃ちゃんがあっさり自分の非を認めたから? 『敵』であるはずのイルファさんにさえ謝って
いるから? それとも……
「ウチ、ホンマに反省してるよ。もうイルファのこと、邪魔者扱いしないから。これからは、イルファと
ウチで仲良うご飯作りたいって思ってるよ。
 ううん、ご飯だけやない。掃除も洗濯も、イルファと一緒にやっていこう思ってる。イルファのこと、
家族やと思ってるよ。だから、これからは三人で仲良う暮らしたいねん。
 ホンマに、ホンマにそう思ってるから、だから……さんちゃん……、ウチ……ウチ、帰ってもええやろ?
さんちゃんの家に、帰ってもええやろ? な、さんちゃん……?」
 顔を上げた瑠璃ちゃんは、泣いていた。その涙に濡れた目で珊瑚ちゃんを見つめ、そう訴える。
 だけどその言葉と、瑠璃ちゃんの表情を見て、俺はわかってしまった。
 瑠璃ちゃんが真剣に謝っているのは本当だ。だけど、その奥底にあるものは、”諦め”と”恐れ”だ。
 瑠璃ちゃんは、珊瑚ちゃんが自分だけのものにならないことに”諦め”、それでも珊瑚ちゃんから離れ
たくないと”恐れ”ているんだ。
「……うん、ええよ瑠璃ちゃん。ウチ、怒ってなんかいないから。いっちゃんもやろ?」
「……はい。私が瑠璃様に対して、怒りを覚えるはずなどありません。私にとっては瑠璃様も珊瑚様も、
かけがえのない大切なお方ですから」
 瑠璃ちゃんの謝罪の言葉を受け入れ、珊瑚ちゃんもイルファさんも瑠璃ちゃんを許そうとしている。
いや、元々珊瑚ちゃんたちは許す許さないではなく、最初から瑠璃ちゃんを家に連れて帰るつもりだった
553河野家にようこそ 第15話(6/9):2005/07/18(月) 20:21:10 ID:9LvNE+E70
のだろう。もし瑠璃ちゃんが謝らなければ、逆に珊瑚ちゃんとイルファさんが謝って、瑠璃ちゃんが家に
帰るよう説得していたと思う。
 これでいいのかもしれない。奥底の気持ちはどうあれ、瑠璃ちゃんは自分の非を認め、再び珊瑚ちゃんの
いるあの家へ帰りたがっている。そして珊瑚ちゃんも、そんな瑠璃ちゃんを優しく受け入れようとしている。
このまま瑠璃ちゃんは家に帰り、姫百合家はイルファさんを加えて、三人で暮していくだろう。
 でも、本当にこれでいいのか? 今回のことを「瑠璃ちゃんが悪かった」だけで終わらせていいのか?
 その疑問がどうしても俺の頭から離れない。だから俺は、瑠璃ちゃんにこう問いかけてしまった。
「瑠璃ちゃん、本当にそれでいいの?」
「貴明……?」
「瑠璃ちゃんだけが悪かったって、本気でそう思ってる? 珊瑚ちゃんやイルファさんに、もっと他に言い
たいことがあるんじゃないの?」
「う、ううん、何もないよ。ウチが悪かったんや。ホンキでそう思ってるよ」
「自分だけが悪かったって、そう思い込もうとしているだけじゃないの? 本当はただ、珊瑚ちゃんに嫌わ
れたくないだけじゃないの?」
「ちょっとたかあき、何言ってるのよ!?」
 俺の言葉に真っ先に怒ったのは、由真だった。だけどそんな由真を、タマ姉が無言で制する。
 そして、やっぱり瑠璃ちゃんは、ウソが苦手な女の子だった。
「……そんなん、どうでもええやん」
「瑠璃ちゃん……」
「貴明の言うとおりや! でもそれがなんやの!? ウチ、ウチはずっとさんちゃんのそばにおられたら、
それだけでええんや! さんちゃんが誰を好きになっても、家に誰がおっても、ウチはさんちゃんのそば
におられたらそれでええんや! そう気付いたから、ウチは……ウチは……」
「……そう、そうやったんか」
「さ、さんちゃん?」
554河野家にようこそ 第15話(7/9):2005/07/18(月) 20:21:47 ID:9LvNE+E70
「瑠璃ちゃん、ウチと一緒にいたいだけで、ホンマはいっちゃんのこと、認めてなかったんやね。でも
ウチに嫌われたくないから、そんな風に謝ってるんやね。
 でも、ウチもウチで、そんな瑠璃ちゃんの気持ち、よう考えてなかったかもしれんね……」
 珊瑚ちゃんはそう呟き、それから目を閉じ、何かを考え始めた。
 少しの時間、再び居間に沈黙が訪れ、そして珊瑚ちゃんは目を開き、瑠璃ちゃんに微笑んだ。
「瑠璃ちゃん、ウチら、今までずっと一緒に生きてきて、いろんなことしたね。一緒にご飯食べて、一緒
にどっか出かけて、一緒にホラー映画見たり、ゲームしたり……
 でもな、ずっと一緒のウチらが、今まで一度もしてなかったことがあるって、今気付いたんや。何やと
思う、瑠璃ちゃん?」
「え……、な、なんやの……?」
「ケンカ」
「け、ケンカ……?」
「なんぼ双子言うても、ウチと瑠璃ちゃんは違う。考えていることが合わないことだってあるし、相手に
対して不満を感じるときもある。
 でも、ウチらはお互いすきすきすきーやったから、そういうときは大抵どっちかが折れて、相手に合わ
せてきたんや。いつの間にかそれが当たり前になってたんやね。
 でも今回の件は、どっちかが折れちゃいけないんや。
 このまま瑠璃ちゃんが謝ってるのをウチが許して帰ったら、瑠璃ちゃんきっと、二度とウチに文句とか
言わなくなると思う。そんなんウチ嫌や。ウチは何でも言うこと聞く便利なロボットなんか欲しないねん。
だからいっちゃん作ったんや。ウチ、瑠璃ちゃんには瑠璃ちゃんのままでいて欲しいもん」
「じゃ、じゃあ、ウチ一体どうしたらええの!?」
「ウチもな、わからん。わからんねん。
 ホンマに瑠璃ちゃんがあかんかったのかもしれんし、ウチがあかんかったかも。でも今はわからんねん。
 だから、な、瑠璃ちゃん。今すぐわからんのやったら、ゆっくり時間かけて、お互い考えてみよう?
555河野家にようこそ 第15話(8/9):2005/07/18(月) 20:22:25 ID:9LvNE+E70
 だけど、今までみたいにいつも一緒におったら、きっと考え方が相手寄りに曲がってしまう、それやと、
正しい答えは見つからないと思うんや。だから……」
 珊瑚ちゃんはそこで一旦言葉を切り、そして俺を見て、こう言った。

「貴明、しばらく瑠璃ちゃんのこと、お願いしてもええかな?」

「さ、さんちゃん!?」
「珊瑚様!?」
 驚く瑠璃ちゃんとイルファさん。でも俺は何となく、珊瑚ちゃんがこう言うとわかっていた。
「ああ、いいよ」
「さ、さんちゃん、何でウチ、帰ったらあかんの!? ウチのこと、そんなに嫌いになったの!?」
「違うよ瑠璃ちゃん、さっき言うたやろ。今のウチらは、いつも一緒じゃあかんのや。少しだけ離れて、
お互い一人で考える時間が必要なんや。
 安心して瑠璃ちゃん。ウチは今だって瑠璃ちゃんすきすきすきーやで。寝泊まりする場所を変えるって
だけや。ウチ毎日貴明の家に遊びに来るから、そんときは仲良うしよ? これが、ウチらが初めてする
ケンカや。どっちかが、ううん、何が悪かったってわかるまでの、時間無制限一本勝負のケンカや」
 満面の笑みでそう話した珊瑚ちゃんは、人差し指を瑠璃ちゃんにビシッと突き立ててこう宣言した。
「ケンカは真剣勝負や! なんぼ妹やからって手ぇ抜かへんからな、瑠璃ちゃん!」
 呆然とする瑠璃ちゃん。
 でも、瑠璃ちゃんも珊瑚ちゃんの気持ちに気付いたのだろう、同じく指を突き立ててこう言い返した。
「わ、わかったわ! ほんならウチかて容赦せぇへんで! 納得のいく答えが出るまで、絶対家には帰ら
へんからな! さんちゃんはそれまでせいぜい、イルファの作るまっずい飯でも食っとけや!」
 何とも微笑ましいケンカである。でも、この二人らしいケンカだなと、俺は思った。
 多分みんなもそう思っているのだろう。そんな二人をみんなが優しい目で見守っていた。
556河野家にようこそ 第15話(9/9):2005/07/18(月) 20:22:47 ID:9LvNE+E70

 夕暮れ時、家に帰る珊瑚ちゃんとイルファさんを、みんなで見送る。
 もっともイルファさんは、瑠璃ちゃんの服とか諸々必要なものを揃えて、もう一度俺の家に来ることに
なっている。
「ほなみなさん、瑠璃ちゃんのこと、よろしくお願いします」
 そう言ってペコリと頭を下げる珊瑚ちゃん。
「ほな、また明日な、瑠璃ちゃん」
「う、うん……」
 瑠璃ちゃんに手を振り、珊瑚ちゃんはイルファさんと一緒に玄関の扉を開け、出ていった。

「……ウチな、おかしいねん」
 二人が去った玄関に残ったまま、瑠璃ちゃんが呟く。
「別に会えなくなったわけやない、明日になれば学校で会えるし、さんちゃん毎日ここに来る言うてたし、
寝る場所が違うってだけやのに、それやのに……
 う、ウチ、さびしい、さびしいよぉ……う、ううぅ〜……うええええ〜ん」
 まるで子供みたいに、涙と鼻水を流して泣く瑠璃ちゃん。
 俺があんな疑問を抱いたせいで、瑠璃ちゃんと珊瑚ちゃんは離れて暮らすことになった。それがどれ程
瑠璃ちゃんを悲しませることになるのか、わかっていたクセに俺は……。
 これは紛れもなく俺のせいだ。だから俺は、どれだけ瑠璃ちゃんに憎まれても仕方がないと思った。
 それなのに……
「うえええええ〜ん……さびしいよぉ、さびしいよぉ、貴明〜」
 瑠璃ちゃん、どうして君は、俺の胸で泣くの……?

 つづく。
557河野家にようこそ の作者:2005/07/18(月) 20:24:03 ID:9LvNE+E70
どうもです。第15話です。
こうして、河野家にまた新たな住人が増えました。
予定では後一人……、え、もう誰かバレバレ?(苦笑
558名無しさんだよもん:2005/07/18(月) 20:36:27 ID:4Fsu8bUNO
いよいよ郁乃登場
559名無しさんだよもん:2005/07/18(月) 20:43:05 ID:sL3t7qHx0
委員長登場。
560名無しさんだよもん:2005/07/18(月) 22:19:17 ID:iVwmfEbn0
いやここは春夏さんが!
561名無しさんだよもん:2005/07/18(月) 22:33:54 ID:2UzBWa9p0
三人娘のうちの誰?
562名無しさんだよもん:2005/07/18(月) 23:58:08 ID:ov/SVoWD0
大本命と言えば雄二だろ(マテ

この中で正規のルートの問題が解決してるのって草壁さんだけになるのかな?
563名無しさんだよもん:2005/07/19(火) 01:06:06 ID:YYRuedaY0
つ【ゲンジ丸】
564名無しさんだよもん:2005/07/19(火) 12:30:02 ID:cECFvpJb0
ここで大穴、タカ坊の両親が休暇で帰ってくるとか。
565名無しさんだよもん:2005/07/19(火) 12:32:09 ID:uhPmdX5O0
ダニエルをおいて他にない
566名無しさんだよもん:2005/07/19(火) 15:44:18 ID:UmItFry60
ここで菜々子ちゃんの登場
567名無しさんだよもん:2005/07/19(火) 16:18:08 ID:Tv8WlnIe0
 先 代 委 員 長 を忘れるな
568名無しさんだよもん:2005/07/19(火) 17:25:57 ID:lksEePab0
ミルf(あqwsでrftgyふじこl
569跳躍するジャンクション 第四話 0:2005/07/19(火) 17:32:03 ID:W+WpIvEh0
超久々に投下してみる。
誤字脱字があったら、ご勘弁のほどを。

以下、12レスほど続きます。
570跳躍するジャンクション 第四話 1:2005/07/19(火) 17:33:05 ID:W+WpIvEh0
 路地を曲がればダッシュはそこまで。後はチンタラ歩いて商店街へと向かった。白い太腿やふくらはぎを露わ
にしてママチャリのペダルを漕ぎつつ家路に急ぐ女子高校生どもを品定めしながら、俺は往く。声をかけてみた
いなぁとほんの少しでも思った女子生徒は、寺女が二名、うちの生徒が一名、西高が一名、市立商業が二名。特
に、市立商業のツインテールの娘は良かったね。その娘、街灯の下にいたから顔がバッチリ見えた。色白で髪は
ほんのり茶色がかっていて、胸もそこそこあって、背も姉貴くらいはありそうだった。そして笑顔が可愛いんだ
わ、これが。その娘がピンク色のケータイで誰かと喋っていなかったら、現在の任務を放棄してご挨拶に行った
ね、絶対。……でも、ケータイの相手が彼氏だったら? そう思っちまうと、途端にテンションが落ちてしまう
ガラス細工なハートの俺。貴明にチキンを伝染されちまったか!? 畜生め。
 まあいいさ。二兎を追う者は一兎をも得ず、ってな。俺の目標は、あくまで、あの双子ちゃんよ。サヨナラ、
市商のツインテールちゃん。惰弱な貴明からあの二人を……って、待て。俺、二兎を追ってるじゃねえか!?
ならば、答えは至極簡単。ドラフト一位の指名候補、姫百合瑠璃ちゃんに猛アタック。これ。今は、逃げ場を探
しているだけの彼女を、どうにかして、心の底から「雄二お兄ちゃん好き好きー」な方向へ持っていかないと。
無論、彼女の心を奪うだけではダメ。珊瑚ちゃんも俺を恨むことなどない、すっきりしたカタチでないといけな
い。でも、どうする? 言うほどイージーじゃねえぞ、これって。

 でもよ、誰からも恨まれることなく誰かの心を奪うなんて、出来るんだろうか。出来ないんだろうな。そうい
うものなんだろうな。だから有史以来、痴情のもつれでの人殺しが絶えないんじゃないのか。
 俺も周囲から見れば、まだまだ伸び盛りのガキ。人の痛みを知ってオトナになるための踊り場に、俺は居る。
ウチに棲息しているボス猫だかメスゴリラもそれを見透かしていやがるから、俺に対して何かと思わせぶりな態
度を取るのだろうな。何か悔しいぞ。畜生め。
571跳躍するジャンクション 第四話 2:2005/07/19(火) 17:34:08 ID:W+WpIvEh0
 とにかく。今は、『雄二お兄ちゃん好き好き大好き☆めっちゃ愛してる大作戦』を成就させること。ただそれ
オンリー。その後のことは、考えなくていい。とりあえず、今は、な。
 俺は、貴明とは違うんだ。このみと同じ布団でおねんねして、チンポが震度1程度も反応しないインポな貴明
とは違うんだ。やるしかない。迷っちゃいけない。姉貴が俺を見ている。男になれるかどうか、俺を見ている。
試していやがる。畜生め。だったら、見せてやろうじゃねえか。いつまでも、ハナ垂れ小僧扱いはゴメンだ。

 やや薄暗い商店街の街灯には、『さくら通り商店街』と書かれた垂れ幕が釣り下げられている。この商店街、
俺が餓鬼の頃、そう、少なくとも小学校四年くらいの頃までは、もっと人通りがあって、肉屋魚屋八百屋豆腐屋
パン屋電気屋その他諸々の店舗のオッサンオバハン達にも活気があって、姉貴や家政婦さんにお使いを頼まれて
足を踏み入れるたんびに威勢のよい声が響いていたものなんだが、今は、悪いが、見る影もねえや。シャッター
が閉まったままの空き店舗が目立ち、色とりどりのスプレーで意味不明な記号だか文字が書き殴られている姿は
哀れみを誘う。俺が餓鬼の頃に比べて、この近辺の人口は増えているはずなんだが、近辺の再開発ビルに入って
いる店舗や駅前の大型スーパーマーケット、そこかしこに点在するコンビニその他の巨大資本に客を奪われてい
ったわけだ。
 俺が幼稚園の頃にミニカーを買った玩具屋は、今ではシャッターが降りたまんまで店主は行方知らず。小学生
の頃にガンガルのプラモデルを買った模型店は、休業した後でなぜか居酒屋になり、それも一年保たずに今度は
コンビニになり、それは三年ほど続いたがやはり潰れ、今は子供向けのパソコン教室になっている。でも、外か
ら見る限り生徒の数はまばらであって、潰れるのは時間の問題だろうな。
572跳躍するジャンクション 第四話 3:2005/07/19(火) 17:35:22 ID:W+WpIvEh0
 この商店街で盛り上がるのは、年に一度の七夕祭りくらいなんだが、近年は青年会議所の連中が盛り上げよう
と鼻息荒く意気込みすぎてか迷走し、何の脈絡もなくヨサコイ踊り大会が始まったり、リオのカーニバルに出て
くるようなダンサーたちが会場中で踊り狂ったりしている。俺はな、射的で欲しくもない縫いぐるみをゲットし
てこのみにくれてやるとか、どっちが先に屋台を征服するかを貴明と競い合い、どんどん焼きとか焼き烏賊とか
チョコバナナを腹を壊すくらいに食いまくれれば、それでよかったんだ。どこで間違ってしまったんだろうな、
俺たちの商店街は。俺ならこうする、という考えはあるけれど。例えば、どうせ踊るのなら、織り姫と彦星に扮
した男女ペアで……。

 ……俺なら……か。

 俺が自分の将来について考えたとき、やはり地元の有力者の子弟ということで、親父の事業(これがまたよく
わからないんだ。手前らの仕事のことは、一切俺たちには言わないからな)を引き継ぎつつ、ゆくゆくは地元の
リーダーとして市議会議員の候補に擁立されたりとか、色々と面倒くさい人生が待っているんだろう。そんなこ
と、姉貴の方が、俺よりもずっと、百万倍くらい向いているんだけどな。『向坂』という名前しかないんだ、今
の俺には。能無し二世タレントや、才能がないのに親父のコネでドラフトで獲ってもらう野球選手みたいなもの
なんだ。そして、そういうイヤらしい奴らは、俺は反吐が出るほど嫌いなんだ。俺は、動物園のパンダかコアラ
にはなりたくないんだ。俺は、そういう連中とは違うんだ。違うと思いたい。違うと、思わせてくれ。
573跳躍するジャンクション 第四話 4:2005/07/19(火) 17:36:39 ID:W+WpIvEh0
 できることなら、家の呪縛から逃れたい。大学だって、ここから通える首都圏の大学じゃなくてさ、遠く離れ
た関西の大学に行きたいんだ。関西だったら、双子ちゃんのことを考えれば丁度いいだろう。関西の出身なんだ
よな、あの二人は? そして、あわよくば、そこに生活の基盤を築いてしまいたい。とりあえずその第一歩とし
て、応援するプロ野球チームを、巨人から阪神に乗り換えておいた。職業野球といえば巨人、巨人こそ職業野球
の最高峰と未だに信じて疑わない姉貴には知られないように、こっそりとな。巨人が阪神にボコられて機嫌が悪
い姉貴を慰めつつ、心の中では「勝ったー勝ったーまた勝ったー、弱い巨人にまた勝ったー、地下鉄電車ではよ
帰れー」と叫び、脳内では六甲颪を三番までキッチリ唄う。もう準備は万端。あとはちょっと本気で勉強して、
あっちの名の知れた大学に潜り込めばいい。理由はどうとでも付けられる。こっちに戻ってきた姉貴みたいに。
姉貴に出来て、俺に出来ないはずはない、はずだ。俺は、チキンじゃない、チキンじゃない。ここから尻尾を巻
いて逃げ出す、エスケープじゃないんだ。俺に合った、より良い人生を求めてのエクソダスなんだ、それは。

 でも、と俺は考えてしまう。俺は、将来何をしたいんだろう? 何が出来るんだろう? 俺に合った職業って
何だろう? 出来ることって? コンビニのレジ打ち? エロ雑誌の編集者? パチ屋の店員? ポン引き? 
それとも、姫百合姉妹の、ヒモ?

 そこまで考えたところで、俺は唾を吐き、ビールの空き缶を蹴っ飛ばした。空き缶は英会話教室の看板に当た
って跳ね返り、カラランと再び地面に転がった。俺を咎める者など、誰もいない。たとえ空き店舗にトラックで
突っ込んだところで、このわびしい商店街では、何事もなかったかのように、八百屋や魚屋のオッサンが虚ろな
目で、ええらっしゃいませぇえぇらっしゃいませえゃすいょやすいよぉーと、選挙カーみたいに連呼しているだ
けなんだろうよ、きっと。
574跳躍するジャンクション 第四話 5:2005/07/19(火) 17:37:44 ID:W+WpIvEh0
 普段は行かない酒屋で、首尾良く『山春もろみ醤油』の2リットル瓶と料理酒をゲットした。『山春もろみ醤
油』は5000円もしやがる。2リットルで5000円だぞ。以前、貴明にそれを話したら、「お前の家には、
海原○山でも住んでいるのか?」と言われたものだ。ウチにはさすがに海原○山はいないが、エサの味にはやた
らうるさいメスゴリラを飼っているから、似たようなものか。こんなのを買うのは、ウチみたいな金が余ってい
る家か、料亭くらいだろうな。畜生め。

 任務を果たした俺は、意気揚々と帰途につこうとしたのだが、ここでちょっとした用事を思い出した。
 ガムを切らしていたのを忘れていたんだ。ああ、どうして今日の帰りにコンビニで買っておかなかったんだ。
これも修学旅行の会合の時間が押したせいだ、あの笹森とかいう変な女のせいだ、畜生め、などと毒づきつつ、
ここから一番近いスーパーマーケットへ行くことにした。重い瓶を二本も抱えて、かったるいけど仕方がない。
ガムがなければ、家の中でウダウダ過ごしているとき、口の中が寂しくてたまらないんだ。
 ガムならなんでもいいってわけじゃねえ。俺が愛してやまないのは、「キチリッチュ」フルーティーミントの
ボトルタイプだ。俺にとっては「キチリッチュ」以外はガムじゃねえ。ただの味の付いたゴム製品。ゴムだぜ、
ゴム。想像してみろ、輪ゴムやコンドームやジェット風船なんか食えるか? 食えねえだろう? 俺に「キチリ
ッチュ」以外の、本当にゴムみたいな二流メーカーのガムを食わせてみろ。「このガムを作ったのは誰だぁ!」
と菓子会社に乗り込んでいってやるからな。俺はマジだぜ。畜生め。
575跳躍するジャンクション 第四話 6:2005/07/19(火) 17:38:54 ID:W+WpIvEh0
 スーパーマーケット(とはいえチェーン店ではなく、個人レベルの小規模な店だ)に着く。ああ、瓶が重い。
この商店街には、荷物の一時預かり場所くらいねえのか。ねえんだろうな、聞いたことがないもの。だいたい、
この商店街には駐輪場すらロクにない。そこかしこに放置された錆びた自転車が、商店街の寂しさを増幅させて
いる。ここから一番近い駐輪場が、ここから徒歩五分の駅のガード下ってどういうことだ。あのな、需要がない
とか、そんなのは言い訳だ。こんな体たらくだから、みんなは大きな買い物などする気にならず、車でスイスイ
行ける量販店に客を奪われていくんだ。そういうことは、誰かが指摘してやらなきゃならない。畜生め。

 でも、このスーパーは、レジの女の子が可愛いから、ちょっとだけ許そう。店主が面食いでさ、俺と趣味が合
うんだ。やっぱ、レジは男には打ってほしくないね。やっぱり、可愛い女の子が「いらっしゃいませぇ」とか
「ありがとうございましたあ」と言ってくれないとね。

 スーパーに乗り込み、首尾良く「キチリッチュ」のボトルをゲット。さあ、どこのレジに並ぼうかな、などと
レジの女の子を品定めしていたところ、レジ近くの特売品売場に、一際目立つ“女の子”が立っていたのに気付
いた。店員さん? いや、違う。髪は鮮やかなブルーのドールヘアー、耳には銀色のアンテナみたいな物体がく
っついていて、顔立ちはちょっと憂いを湛えているように見えるがかなりの美少女、そして白と紺のツートンカ
ラーのメイド服を着ている。ああ、間違いない。あれはメイドロボだ。でも、あんなモデルは知らないぞ。新型
か? それとも、どこぞの金持ちがカスタマイズした特注モデルか?

 おおっと、丁度近くに店主がいた。早速捕まえて、レッツ聞き込み。ゴーゴー。
「なあなぁ、おいちゃん。あのメイドロボ風の女の子さぁ、最近よく来るの? それとも……買ったのかい?」
「メイドロボ買う余裕なんざぁ、ありゃしねえよ、ぼっちゃん。もちろん、お客さんだよ」
 ここの店主はいい人なんだが、いつまでも俺のことを「ぼっちゃん」と呼ぶんだよな。人前ではやめてほしい
んだがなぁ。恥ずかしいから。
576跳躍するジャンクション 第四話 7:2005/07/19(火) 17:40:11 ID:W+WpIvEh0
「んーあー、あのメイドロボさんね、ここ最近だけどね、来るよ、毎日のように。でもよぉ、それがどうしたの
さ、ぼっちゃん。気になるのかい?」
「いや、見慣れないタイプだからさ、つい、な……」
「んーあー、俺も見たことねえし知らねえよ。見た感じは、四菱インダストリーやジャストエンタープライズ製
じゃなくて来栖川っぽいけどな。実はな、俺も気になってさ、ちょっと声掛けてみたわけよ、ぼっちゃん」
「そこんとこ詳しく」
「ああ、この近所の高級マンションにな、居候しているとか、なんとか……ああ、ボクたち、それ散らべちゃあ
ダメだよぉ……」
 店主は、売り物のお菓子を散らかしているお子様たちの方へ慌てて行ってしまった。歪んだゆとり教育の生み
出した恥知らずな餓鬼どものせいで、話を聞き損なったじゃねえか。畜生め。ゆとり教育クソクラエだ。

 再び俺は“彼女”に目をやった。“彼女”はまだ、どこか憂いを湛えた瞳のまま、特売品売場に佇んでいた。
今日の特売品は、醤油だった。1リットルボトルで99円か。『山春もろみ醤油』とは、えらい違いだな。醤油
の山の前で、“彼女”は何を迷っているというのだろう。賞味期限とか、気にしているのか?

「なあ。どれを選んでも、おんなじだぜ?」
 俺は思い切って“彼女”に声をかけた。
「……本当に、同じなんでしょうか?」
 “彼女”は俺を見ずに、そうつぶやいた。
「どういうことだい、そりゃ? 同じ工場で同じように瓶詰めしているんだから、同じに決まっているさ」
「でも、私の作る料理は……違うんです。る……いえ……ご主人様と同じレシピで作っても、同じ材料を使って
も、ご主人様の料理とは、同じ味には、ならないんです……それどころか……」
「そりゃあ、当然だよ。俺には姉貴がいるけどさ、姉貴が作る肉じゃがと、俺が作る肉じゃがでは、味が違って
当然だぜ?」
 まあ、俺は、肉じゃがなんか作れないんだけどな。モノの例えってヤツだ。
「君は、ご主人様とは違うんだからさ、味が違ったって仕方ないじゃないか。そのご主人様が、君の知らない隠
し味を使っているかもしれないじゃないか」
「……」
 “彼女”は何も言わずに、醤油の山を見つめたまま、俺の話を聞いている。
577跳躍するジャンクション 第四話 8:2005/07/19(火) 17:41:31 ID:W+WpIvEh0
 それにしても、話し方といい、態度といい、メイドロボらしくない娘だな。俺はさらに続けた。
「君がどっかのチェーン店、例えばラーメン屋で働いていてさ、よその店と同じ味のとんこつラーメンを作らな
ければならなくて、それで出来ないのなら怒られても仕方がないけどさ、そういうわけじゃあないんだろう?」
「でも……私がいくらビーフシチューを作っても、ハンバーグを作っても、ご主人様は『こんなん、見てくれだ
けの蝋細工と一緒や、こんなもん食い物と違うわ』と立腹されて……未だに、全部召し上がっていただいたこと
はありませんし、時には、箸さえつけていただけないことも……」
「ひでぇよな、そいつは……」
 俺は呆れて、つぶやいた。この娘のご主人様は、美食倶楽部の会員ですか?
 その時、“彼女”は初めて俺を見た。
 “彼女”の瞳を見て、俺はたじろいだ。困惑した。“彼女”は明らかに怒っていた。ロボットが怒るのかよ?
 それ自体、俺には信じられない光景だった。
「……ご主人様は、酷くも悪くもありません! 悪いのは……ご主人様の期待に応えられない私の方です!」
 “彼女”は絞り出すようにそう言うと、俺から目を切り、ツカツカとレジへと向かっていった。オバサンの群
れはモーゼに割られる海のように、“彼女”を避けるように道を開ける。
「おい、待ちなよ!」
 俺はとっさに叫んだ。周囲のオバサンや若奥様たちが、一斉に俺に注目した。
「……何でしょうか!?」
 “彼女”は怒気を含んだ声で、振り返りもせずにそう言った。
「醤油、買わねえのかよ!?」
 “彼女”の買い物かごには、買おうとしていたはずの醤油が入っていなかったのだ。
「……」
 “彼女”は歩みを止めると、気恥ずかしそうな様子で俺の元へ戻ってきた。
 心なしか、頬に赤みが差しているように見えた。可愛いな。素直にそう思った。

「さっきはゴメンな。悪気はなかったんだ」
 俺は“彼女”の耳元で、こっそり謝った。
「……もう、いいんです」
 “彼女”は醤油をかごに放りこみながら、ボソッと言った。
 俺は“彼女”の買い物かごを覗き込んだ。豚肉の切り身の入ったパックを見て、気付いたことがあった。
「あと一つ、教えてやるよ」
 俺は店主に聞こえないように、さらに小声で言った。
578跳躍するジャンクション 第四話 9:2005/07/19(火) 17:42:52 ID:W+WpIvEh0
 “彼女”は鬱陶しそうに俺を見た。
「この豚の切り身な、下にでっかい脂身が隠してあるぞ」
「どうして、そう言えるんですか?」
 “彼女”も空気を読んで、小声で聞き返した。
「見てくれのいいヤツを選んだだろう? この肉、脂肪が少なめの綺麗な赤身に見えるよなぁ」
 俺は、パックをツンツンつつきながら言った。
「それが一番良さそうに見えましたから。良い物を選ぶのは、消費者として当然だと思いますけど」
「良さそうなヤツが、どうしてこの時間まで売れ残っていると思う?」
 俺は自分の腕時計を見せながら言った。時間は午後6時53分。専業主婦の皆さんなら、とっくに夕食の仕度
をしている時間だ。
「……どうしてでしょう?」
「専業主婦の皆さんはみんな、これがフェイクだってわかっているからさ。まぁ、お約束みたいなものだな」
 これは、家政婦さんに聞いたことの受け売りだ。俺も旧家の嫡男とはいえ、小学生の頃はお使いによく行かさ
れたものだ。社会勉強ってやつだな。それで、一番見かけが良さそうな肉を買ってきたら、家政婦さんが呆れた
ように口を酸っぱくして、俺に色々とレクチャーするわけだ。「“ぼん”は人がいいですからねぇ、気ぃつけな
さいよぉ」てな具合に。で、実際にパックの中を見てみると、どうだい。赤身の下には、脂身の塊みたいなクズ
肉しかないわけだ。そいつを見たとき、俺は思わず笑っちまったよ。
 ああ、“ぼん”ってのは、俺のことな。家政婦さんは今でも、俺と二人きりになると、俺のことを“ぼん”と
呼ぶ。家政婦さんにとって、一生、俺は“ぼん”なんだろうな。
「昔はどうだったか私にはわかりませんが、この時代にそんなことをしていたら、お店は信用を失ってしまい、
あっと言う間に廃業へと追い込まれてしまうはずです。私は、お店を信じます」
 メイドロボの“彼女”は、俺の目をしっかり見て、気丈に言った。純粋だねぇ。
「そうかい。まぁ、無理強いはしねえさ」
 “彼女”は俺に一礼すると、レジに向かっていった。
「がんばれよ、メイドさん。一生懸命やれば、いつかきっと、ご主人様も認めてくれるさ!」
 俺がそう激励すると、“彼女”は少し振り返り、微笑みを返してくれた。
579跳躍するジャンクション 第四話 10:2005/07/19(火) 17:44:08 ID:W+WpIvEh0
 ちょっとお人好しだけど、頑張る“女の子”が見せた天使の微笑み。俺の欲望と謀略にまみれたハートが、少
しだけ洗われた、そんな気がした。
 哀しみ、怒り、少し照れて、そして微笑む、感情が豊かな可愛いメイドロボちゃん。また、いつか逢いたいも
のだ。そういえば、“彼女”の名前は、なんて言うんだろう。それだけでも、訊いておけばよかったかな?

 俺はガムの勘定を済ませ、店を出た。メイドロボちゃんの笑顔を見た後では、いつもは可愛いと思って見てい
たレジの姉ちゃんも、どうということはない、凡庸な女に見えた。行きがけに見た市商のツインテールの娘も、
どんな顔だったのか思い出せないや。

「あのぅ……」
 家に戻ろうとしたとき、誰かが俺に声をかけてきた。
 声の主に振り返れば、そこには“彼女”が立っていた。
「おう、さっきのメイドさんか。どうした? 何か、買い忘れでもしたのか?」
「いえ、その……先程は、はしたなくも大声を上げてしまい、申し訳ありませんでした。せっかく、心配してい
ただいたのに、恥をかかせてしまったみたいで……」
 可愛いメイドさんは頭を下げて、俺に謝罪している。まぁ、俺も無意識とはいえ、“彼女”を傷つけるような
発言をしてしまったわけだし、そこまで卑屈にならなくってもいいのにな。
「いいっていいって。それより……俺、向坂雄二ってんだ」
 俺は先手必勝、自己紹介。相手がロボットだろうが、このまま名乗らずに別れるのも気持ち悪いし、“彼女”
の名前も訊きたいからな。
「桜坂公園の通りを左折して、その坂道の突き当たりにある、共学の高校って言えばわかるかなぁ? そこに通
ってるんだよ」
「……え、そうなんですか?」
 “彼女”はそう言った後、小声で「一緒なんだ……」とつぶやいたが、何の事やら。とにかく、俺は続けた。
「この商店街は、俺の庭みたいなものだからさ、困ったことがあったら、いつでも俺に訊いてくれよな。人間で
あろうがなかろうが、君みたいな可愛い娘なら全然問題ナッシングだから。幽霊やバケモノの悩みだって聞いた
ことがあるんだぜ、俺は」
580跳躍するジャンクション 第四話 11:2005/07/19(火) 17:45:34 ID:W+WpIvEh0
 ウチに、幽霊やゴリラのようなバケモノがいるのは事実だからな。嘘は言ってないぜ? 幽霊、俺見たことあ
るよ? 金縛りにあったことだって、一度や二度じゃないぜ? 明治維新の前から増改築を繰り返して、あそこ
に建っている屋敷だからな。幽霊や妖怪の二匹や三匹棲みついていたって、これっぽっちもおかしくないんだ。
親父もいつか冗談まじりに言っていた。戦災を奇跡的に免れたのも、そいつらのおかげじゃないかって。

「私……HMX−17a、通称“イルファ”と申します。また、お目に掛かることがありましたら、その時はま
た……色々とご教授ください」
 俺に向かってご丁寧に頭を下げている純粋なイルファちゃん。偏屈なご主人様にゴミクズのように罵倒されよ
うとも、真摯な気持ちで尽くそうとする、純真なイルファちゃん。人間よりもヒトらしい、聖女のような娘だ。
 汚れを知らぬイルファちゃんの澄み切った双眸が、再び俺を捉えた。その可憐な眼差しは、俺の中に巣くって
いる邪念怨念肉欲征服欲その他諸々の邪な思念を洗い流すどころか、ジャンピングニーパッドを喰らわせ、蹴破
った。俺は、KOされた。実に見事だ。俺は、涙が出そうになった。声を上げてわんわんと泣きたくなった。で
も、そこをグッとこらえた。この場に、涙は似合わないから。

「……ああ、待った待った!」
 去って行くイルファちゃんを、俺は強引に呼び止めた。
「これ、持っていきなよ!」
 俺は『山春もろみ醤油』を、彼女に差し出した。
「いい料理を作りたかったら、まずは材料からだ。こいつはきくぜぇ〜〜〜! きっとご主人様も大満足だ!」
「もろみ醤油……? でも、お醤油は買いましたし……それに、これ、随分と高そうに見えますけど……」
「高い? そんなもん、大したことねえって、ホントに。よし、君の醤油と物々交換といこうじゃないか。それ
なら、文句ねえだろ? ほらほらっ!」
 俺は彼女の買い物かごから99円の醤油を引ったくり、『山春もろみ醤油』を強引に押し込んだ。
「はい、まいどありぃ!」
 俺は終始笑顔、イルファちゃんはちょっと困り顔。
「……本当に、よろしいのですか? ご主人様には、何て説明すれば良いのか……」
581跳躍するジャンクション 第四話 12(ここまで):2005/07/19(火) 17:46:43 ID:W+WpIvEh0
「友達に貰ったって言えばいいじゃねえか。メイドさんに友達がいちゃ、おかしいかい? そうだ、説明に困っ
たら、俺の名前を出せばいいよ。ここら一帯で、俺の名を知らないヤツはモグリだぜ」
 少しの間押し問答になったが、結局イルファちゃんは根負けして、またご丁寧に頭を下げて去っていった。
 ガンバレ、俺の理想のメイドさん、いや、聖なる乙女よ。辛くなったら、いつでも俺の胸に飛び込んできな。
 ああ、心が温かくなったぜ……。


 はうっ!


 急激に、俺のハートの温度は氷点下に達した。この手元に残った99円の醤油について、姉貴や家政婦さんに
どう説明したらいいんだろうね? 『山春もろみ醤油』って買い直せないかなぁと思って、己の財布を見る。所
持金は……1531円。はい、無理。うっひょう。
 こうなれば、もう仕方がない。これしかなかったと言って、開き直ろう。開き直れ。開き直れば。どうにかな
る、かな? ならねえだろうな、畜生め。さぁ。雄二くん、ファイト……ファイ、ト……だよっ……。

 この十数分後、俺は姉貴の渾身のアイアンクローを喰らったあげく、来月の小遣いを十分の一に削られるハメ
になったのだが、そいつはまた、別の話な。うっひょう。
582名無しさんだよもん:2005/07/19(火) 17:49:17 ID:W+WpIvEh0
以上です。それではまた、気分が乗った時に。
583名無しさんだよもん:2005/07/19(火) 18:51:37 ID:GipWBxhv0
うっひょう。
584名無しさんだよもん:2005/07/19(火) 19:05:09 ID:fwGOqZ3A0
おかえりー!
まってたよー!
585名無しさんだよもん:2005/07/19(火) 19:12:30 ID:I5T+8uZS0
懐かしいな。。。GJ!
586名無しさんだよもん:2005/07/19(火) 20:47:13 ID:pCHVbKvX0
なんかところどころから顔を出す佐藤大輔テイストがたまらなく美味。
587名無しさんだよもん:2005/07/20(水) 18:32:58 ID:XUyfyJKuO
美味、いわゆる( ゚Д゚)ウマー

GJです!
588名無しさんだよもん:2005/07/20(水) 22:31:27 ID:NfPq5GE+0
連休も明けたことだし・・・・















Tender Heartマダー?(・∀・)
589名無しさんだよもん:2005/07/21(木) 21:57:39 ID:LLi6hZ0W0
GJ
590名無しさんだよもん:2005/07/22(金) 00:51:21 ID:PKEZuHG2O
よ〜しみんな、せかすぞ〜(^o^)/

せ〜のっ!
591名無しさんだよもん:2005/07/22(金) 00:54:20 ID:GjF+903U0
巫女みこナース!
592名無しさんだよもん:2005/07/22(金) 07:35:01 ID:Gq7DiME80
おーい、だれか巫女さんと看護婦さんが出てくるTH2SSを書いてやってくれ……
593名無しさんだよもん:2005/07/22(金) 11:37:10 ID:oN5aftM80
神社が寂れすぎて巫女いねーじゃんか
594名無しさんだよもん:2005/07/23(土) 03:16:40 ID:AcHoFGT40
ブルマで練習してる格闘家とか
弱小サークルの部長とか
筋肉爺とツンデレ娘ならいるかも
595ぼのぼの:2005/07/23(土) 11:41:07 ID:9RZAdXE40
カンゴフって・・・いつの人間?
596名無しさんだよもん:2005/07/23(土) 11:52:06 ID:wN7Q0H9h0
「看護士」じゃ萌えねーからだろ
597帰り道:2005/07/23(土) 23:24:53 ID:N5i478JB0
「はぁ…」

小さくため息をつく。
今日も一人で夕暮れの坂道を降りていく。
なにも約束なんかしなくても、校門のところで待ち合わせて、一緒に帰るのがすごく自然だった。
それは今まで当たり前のことすぎて、なんとも思っていなかったのに。
こうして一人で帰っていると、どれだけ彼が隣にいた時間が幸せだったかを、痛感する。
でも、実際にはゲンジツは厳しい。もう、今日で4日連続だよ。一人で帰るの。

校門で彼を待っている時間は、日増しに5分、10分と長くなっていた。
昨日はさすがに日も落ちてしまい、お母さんに怒られたし。
今日は昨日よりは早めに切り上げたといっても、昨日の今日の話なら、またお母さんの雷が落ちるかもしれない。
でもね、待つのをやめちゃったら…もうきっと、彼は手の届かないところにいってしまう。
そしてそれは物心がついてからずっとそばにいた、彼への想いを少しでも分かって欲しくて続けていること。
好き、なんだもん。妹としてしか見られていないって分かっていても、その気持ちは変えようがないんだもん。
思わず続いて出そうになったため息を飲み込んだ拍子に、一人事が口から溢れてしまった。

「タカくん、明日は一緒に帰ってくれるよね…」

口から出た思いに、思わず涙ぐみそうになる。
でも、まだ大丈夫だよ、まだ…
明日の朝にはまた元気な笑顔でいないと、そう思って一歩、強く道を駆け出す。
と、そのとき、ペコン…!と足元から間の抜けた音がする。

「あ…あれっ!?あわわっ!」

今日のお母さんの雷は、当社比2倍以上になりそうだった。
598↑作者:2005/07/23(土) 23:25:27 ID:N5i478JB0
誰もイナイ、初心者が投下するなら今のうち…
巫女さんも看護士さんもなくてゴメンナサイ。
タカくんの呼称がモノローグ内で彼にしているのは仕様です。
このみの頭の中まで電波色にしたくなかったので…
靴底がはがれるエピソードってゲーム開始2日目なのが、細かな矛盾。
文章の体裁のため、ちょっとそこだけは見逃してください…
5991/2 巫女の条件:2005/07/24(日) 01:46:23 ID:HMQqEIgv0
「たかあきくん、学校の裏山に神社があるの、知ってる?」
「うん、まあ。行ったことはほとんど無いけど」
 確か小さな鳥居にお社と賽銭箱があるだけの寂れたとこだった。格闘系の同好会が一時期
練習場所にしていたという話も聞いたことがあるけど、実際にあそこで誰かが集まっている
姿を見たことはない。活動停止になったとも、大きな場所に移ったとも噂では聞くのだけど。
「うん。でもね、実は由緒のある場所らしくて、10年に一度大きな神社から人が来て神事を
行うらしいの。保存会の人たちもいるんですよ〜」
「へえ。でも、たしかに人を見ない割にはいつも綺麗に掃除されてるよね」
「うんうん。今日先生の所にきてた保存会のおじいさんに話を聞いたら、あそこの神様は家内
安全、交通安全、勝利祈願、安産祈願、健康回復、恋愛成就、なんでも叶えてくれる偉い神様
なんだって」
「……そりゃまた」
 神様の世界にも器用貧乏っているんだなあ。
「で、その凄い神社がどうしたの」
「あっ、そうそうそうなのよ〜! それでねたかあきくん。その保存会の人たちが言うには今年が
その10年に一度のお祭りがある年らしくて、すぐそばにあるこの学校にも協力をお願いしに来ら
れたそうなんですけど……」
「なんとなく話はわかった。つまり――」
 言いつつ俺はテーブルの上に置かれた風呂敷包みを指先でつついた。
「学校側は――というか対応した先生が、愛佳を生贄にさしだした、と」
「推薦した、と言って欲しいなぁ」
 困ったように笑いながら、風呂敷をめくってもう一度中身を確認する愛佳。
 そこにあるのは、汚れひとつない白と目に鮮やかな朱の、時代がかった巫女服だった。
「いちおう、学業優秀、性格温和、容姿端麗というふれこみで先生は紹介してくれたんだから」
 腰に手を当てて、ちょっぴり得意げな顔をする愛佳だったけど
6002/3 巫女の条件:2005/07/24(日) 01:49:34 ID:HMQqEIgv0
「……で、おだてられてほいほいっとその話を受けちゃったわけか」
 と俺がつっこむと、その澄まし顔は一瞬でへにゃっと泣き顔になる。
「ううう……たかあきくん意地悪……」
「ごめんごめん。でも、確かにまあ適役だと思うな。巫女服、似合うとおもうよ」
「そ、そうかなぁ」
 巫女服の上着を制服の胸元にあててくるりと回る愛佳。
 うん、やっぱり似合うと思う。気軽に愛佳に雑用を押しつける先生たちには正直あまりいい
感じはないんだけど、たしかに、成績性格容姿の三つの面で巫女らしさを満たせる人材は
愛佳くらいしか思いつかないな。タマ姉は成績と容姿は飛び抜けてるんだけど、性格が戦巫女
だし……。
「あれ、でも確か巫女ってもうひとつ大事な条件がなかったっけ」
 思わずつぶやいた言葉は愛佳の耳に入ったらしく、朱色の袴を手に、え?と振り向いた。
「もうひとつの条件……?」
「そう、えーっと確かおt」
 言いかけて、俺は慌てて言葉を飲み込んだ。
 が、すでに遅し。愛佳は朱袴を胸元で握りしめ、上目遣いでこっちを見ている。
 顔はもう、袴よりも鮮やかな朱色に染まってしまっていて。
「あ、その……」
 何かフォローしようとする俺の言葉も空回りしてしまう。
 おそらく、俺のほうがはるかに紅い顔をしてると思う。
6013/3 巫女の条件:2005/07/24(日) 01:50:39 ID:HMQqEIgv0
 ――本当、余計なこと思い出さなければよかった。
 巫女のもう一つの条件。
 それは、乙女(処女)であること。

 ――つい先日までは、その条件も満たしていたんだけど。

「こ、断って、こようか」
 まっ赤な顔で愛佳が言う。
「い、いや。先生に言うことでもないし」
 まっ赤な顔で俺が言う。
 あとはもう、ただただお互いの目をちらちらと伺いあう気恥ずかしい沈黙が延々と続いたわけで。

 とりあえず、罰があたらないように、帰りにふたりでお参りに行ったのでした。

 

                                   ※おしまい※
602巫女の条件 作者:2005/07/24(日) 01:54:42 ID:HMQqEIgv0
 とりあえず巫女話を作ってみましたよ。
 委員ちょ書くの初めてだからちょっと変なのはごめんしてね。
 ナースは誰かにまかせた!
 俺はもう無理!以上!
603名無しさんだよもん:2005/07/24(日) 03:15:03 ID:5vpkiiXHO
ちょwwwwwwwwwwおまwwwwwwwwwwww
GJ!なんかヤってもういういしい二人萌え
604名無しさんだよもん:2005/07/24(日) 10:03:37 ID:NZ97vhWZ0
GJ!!!
テラモエス!
ゴロゴロと萌え転がったYO
605名無しさんだよもん:2005/07/24(日) 13:26:11 ID:3YSkMmmtO
>>600
や ら な い か ?
うほっ!GJ!!
606名無しさんだよもん:2005/07/24(日) 18:42:31 ID:yO12B90G0
ジャンクション レスつけ待った 甲斐あった
607名無しさんだよもん:2005/07/24(日) 22:29:06 ID:Ty+mgZPu0
東鳩2で巫女(巫女服に非ず)が似合うのっていいんちょと…草壁さんくらい?
他の皆は巫女ってイメージが沸かないんだよな。
608名無しさんだよもん:2005/07/24(日) 23:59:07 ID:NZ97vhWZ0
会長は逆の意味で似合いそうな気がするが
609名無しさんだよもん:2005/07/25(月) 01:48:38 ID:qdw2u+5i0
>>607
草壁さんはわかるが、何故いいんちょ?
6101/5 メイドロボに向かない職業:2005/07/25(月) 02:18:23 ID:hs16w1zK0
「いかがですか貴明様。似合いますでしょうか」
「似合ってる……と思うよ。でもイルファさん、ひとつ聞いていい?」
 ソファの上に通学鞄を置きながら、俺は頭を振った。目眩がしそうな気分だった。
 ここは第二の我が家、というより今や自宅よりも長い時間を過ごしている姫百合家のリビング。
 その室内の風景は昨日までとなにも変わらない。ただひとつ、イルファさんがいつものメイド服
ではなく――ピンクのナース服姿で俺を出迎えた以外は。

「どうして、看護婦さんの格好なの?」
「あら貴明様。いまは看護師って言わないと怒られちゃいますよ?」
 くすっと笑ってイルファさんは冷蔵庫から麦茶を出し、ソファのいつもの場所に腰掛けた俺に差し
出してくれた。帰り道が暑くてのどが渇いていたから、ありがたく俺は受け取り一息に飲み干してし
まう。
「はい、貴明様。おかわりどうぞ」
「あ、ありがと――って、もしかしてイルファさん話逸らしてる?」
「そんなことは全然です。別に後ろ暗いことでも秘密でもなんでもありませんから」
 と、言う割にはイルファさんの表情にはいつもの朗らかさがない。そんな微妙な感情の変化を表現
できる機体の精巧さに驚くべきなのかもしれないけれど、今はそんなことよりイルファさんの心の方
が気になって仕方がない。
 黙ってじっとイルファさんを見つめていると、耳カバーのせいで落ち着きの悪いナースキャップを
両手でいじっていたイルファさんは結局それを頭から外し、それを見つめながら小さく息をついた。
 沈黙に、先に耐えきれなくなったのは俺のほうだった。
「……ねえ、イルファさん。もし言いにくいことなら、無理には聞かない。でも――」
「貴明様」
「なに、イルファさん」
 俺の言葉を遮って名前を呼んだイルファさんは、まっすぐに俺の目を見つめ、微笑みながら言った。
「貴明様は、私たちメイドロボが付くことが出来ない職業がある、ということを御存じですか?」
6112/5 メイドロボに向かない職業:2005/07/25(月) 02:20:44 ID:hs16w1zK0
「うん、詳しくは知らないけど……ロボット三原則に反する職業には就けないっていうことだよね」
「はい、その通りです。つまり、ロボットは人間に危害を加えてはならない――」
 そこでイルファさんは言葉を切って、俺を見上げた。
「ご存じでしたか? メイドロボは、医者にも、看護師にも、なれないんですよ」
 は? と俺は声を上げてしまった。
「そんなまさか。だってこの間テレビでも見たし」
「ええ、病院に勤務するメイドロボはたくさんいます。その中には、今の私のように看護師の格好
をして働いている機体も大勢います。HM−13「セリオ」シリーズは特にその方面でのベストセラー
になりました」
「じゃ、じゃあ!どうして!」
「すいません、説明が不正確でしたね。正しくは医者や看護婦になれないのではなく……人を相手
に医療行為を行うことが禁じられているんです」
 驚いた。
 驚いて言葉がでないでいると、イルファさんはナースキャップを指先でくるくる回しながら説明
を続けてくれた。
「さらに詳しく言うと、ですね。ガーゼを交換したり、傷口を殺菌したり、止血をしたり、という
ことは許可されている場合も多いんです。でも、手術を行ったり、人体にメスを入れたり、注射や
採血を行うことは――「人間に危害を加える」ことを禁じた三原則に抵触する、そうです」
「危害って!だってそれは」
「貴明様」
 名前を呼ぶ優しい声に冷静さを取り戻し、俺は浮かしかけた腰を落とした。
「――ごめん、イルファさん」
「いいえ、ありがとうございます。私たちのことをそんな風に想ってくださって」
 ぺこ、とイルファさんは小さく頭を下げて微笑んだ。
6123/5 メイドロボに向かない職業:2005/07/25(月) 02:22:04 ID:hs16w1zK0
「でも私は、この決まりがそれほど間違いだとは思わないんです。なぜなら――万が一不幸にして患者
様が亡くなられた場合、手術を執刀したのはロボットでしたと聞いてご家族の方はどう思われるでしょ
うか。毎日注射や点滴をしていたのはロボットでしたと聞いて、納得されるでしょうか」
「……でも」
「貴明様。私たちメイドロボには、今や心があります。珊瑚さまの開発される新しい技術はそれをさらに
人間に近い形へと進化させられました。それはもはや、魂、と呼んでも良いかもしれません」
 でも――と、つぶやいた一瞬、イルファさんの視線は下に落ちた。
「私たちには……命が、ないんです」
「イルファさん」
「私は来週から来須川の関連病院で、メイドロボとしては初めて、実験的に臨床作業に従事する
ことになりました。三原則の解釈を緩和する動きがあるんです。このことは――初めてお伝えす
ると思います」
 初耳だった。
 そうか、じゃあこの今着ているナース服は……。
「はい、今日制服が届いたので、試しに着てみたところだったんです」
「そうだったんだ。なんだ、僕はてっきりイルファさんの趣味かと思ったよ」
 なんだか重たい話の流れだっただけに、俺はなんだか気が抜けて笑ってしまった。
 笑って、いつの間にか口の中がカラカラになっていることに気が付いて麦茶に手を伸ばした時――
 イルファさんが言った。
「――怖いんです」
「え?」
「この服を着て、来週、実際に病院で患者様の前に立っている自分を想像したら――怖いんです」
 きゅ、と引き絞られた指にナースキャップが歪む。
 それにすら気が付かない様子で、イルファさんは言葉を続ける。
6134/5 メイドロボに向かない職業:2005/07/25(月) 02:22:36 ID:3QTBTysW0
「私のような命のないものが、人のいのちを扱っていいのでしょうか。人のいのちは、わたしたちの
メモリのようにバックアップできません! リブートできません! 私のせいで患者様が命を落とす
ようなことがあったら私は……わたしはッ!!」
「イルファさんっ!」
 声を上げて、僕はイルファさんの肩を掴んだ。
「イルファさん顔を上げて。俺を見て!」
「貴明、さま……」
「イルファさん。俺は――イルファさんが今感じている恐れを拭ってやることはできない。だって俺は
メイドロボじゃない。医者でも看護師でもない。おまけに言うなら、病気も怪我もほとんどしたことが
ない。だから来週から現場に立つイルファさんに偉そうなことなんて、とても言えない――でも!」
 もどかしさに、俺は涙ぐみそうになる。
 どうすればこの気持ちが伝わるだろうか。この、信頼が伝わるだろうか。
「でも、これだけは言うよ。俺は――俺だけじゃない、きっと珊瑚ちゃんも瑠璃ちゃんも、あの長瀬って
博士だって――イルファさんになら、命を預けていいって! 命はあっても心のない医師の手にかかるより
人間でなくたって誰よりも僕らを思ってくれているイルファさんを信じるって!」
 掴んだ肩を引き寄せ、目をのぞき込むようにしてそう言った。
「貴明様……」
「きっと、すぐには難しいかもしれないけど……いつか、僕らだけじゃないみんなも、そう思う時代が来る
と、信じるよ」
「――はい」
 イルファさんは、大きく開いていた目を急にうつむくようにして閉じ、そう小さく答えてくれた。
6145/5 メイドロボに向かない職業:2005/07/25(月) 02:24:12 ID:3QTBTysW0

「あーーーーーっ! 貴明がイルファ泣かしとる!」
 瑠璃ちゃんの声が背後から響いたのは、その直後だった。
「たかあき、いじめかっこわるいで〜?」
「さ、珊瑚ちゃんまで……」
「あー! しかもイルファにやらしい服着せとる! この……へんたーい!」
「ちょ……まっ……誤解ぁっ!」
 慌ててイルファさんの肩から手を離しすものの、問答無用の回し蹴りが俺の意識をあっさり
刈りとり――。

 イルファさんの看護実習の練習台にされたのを知ったのは、夜中意識が回復してからのことだった。



                               ※おしまい※
615メイドロボに向かない職業 作者:2005/07/25(月) 02:25:18 ID:3QTBTysW0
 すいません、巫女の条件を書いた者です。
 無理、とか言いながら、考えてたら書けちゃいましたんで貼らせてください。
 巫女みたいな萌え展開にするつもりが、やたら重い話になりましたが反省してません。
 あと、スレ容量をかなり超えてしまいましたことは心よりお詫びします。
 埋め立て完了ということで、どうぞ次スレへ!(^^;)

 最後に一言!
 巫女みこナース! 達成!w
616名無しさんだよもん:2005/07/25(月) 02:40:08 ID:68cj0zpJ0
>>615
興味深く読ませていただきました。
社会的な問題提起、面白いと感じましたです。
617B.C.Projectの住処”管理”人:2005/07/25(月) 02:43:47 ID:2j9b/Naz0
どうもご無沙汰してますた。諸事情でしばらく休業してますたが久しぶりに新作
うpしたんでよろしかったら読んでやってくだせえ。

ttp://bcproject.h.fc2.com/pool.html
618名無しさんだよもん:2005/07/25(月) 08:22:52 ID:VIIuJEybO
今だから言おう…よっちのSSを誰か書いてくれ!
619名無しさんだよもん:2005/07/25(月) 08:29:06 ID:HfF2daF10
>タマ姉は成績と容姿は飛び抜けてるんだけど、性格が戦巫女だし……。

ツボった。
620名無しさんだよもん:2005/07/25(月) 12:32:13 ID:ZjBzejR80
>>617
ねこっちゃとタマ姉が同級・・・?


なら雄二が彼女らと会って、「姫川先輩が俺の姉貴だったら良かったのに」などと
思ってねこっちゃにモーションをかける話はどうだろう。プリキュアのなぎさの弟
みたいに。
621名無しさんだよもん:2005/07/25(月) 16:19:02 ID:iWscXLVk0
一つ上だろ
622名無しさんだよもん:2005/07/25(月) 19:11:56 ID:JGXeTHyh0
うむ、琴音や葵の学年はこのみたちの入学と入れ違いで卒業している。
浩之やあかりの学年は貴明たちと入れ違い。
つまり琴音たちと貴明たちは一年間だけ重なっている。
…だよね?(汗)
623617:2005/07/25(月) 20:05:41 ID:GBIoM9Bq0
重大な指摘どうも。あるところで見たタマ姉のCGに「この体でとても琴音ちゃんや葵ちゃんと同い年
とは思えない」とキャプションが付けられていたのを参考にして、それをそのまま話作りに使わせて
いただいたのですが改めて調べてみたら>>621-622さんの説が正しいということが判明し、該当箇所を
加筆修正しますた。
でも雄二×琴音ってのは面白そうなんで何らかの形で書いてみたいです。無印アニメで琴音とくっついた
雅史がファンから嫌われたことを考えると行くところまでは行けないでしょうが(苦笑)。
624名無しさんだよもん:2005/07/25(月) 21:15:22 ID:ICgu0XQE0
 新スレまだ?
 それとももう設置してあるの?
 書き込むにも書き込めないすよ。
625名無しさんだよもん:2005/07/26(火) 00:45:27 ID:2DlwnE+k0
とりあえず立ててきたので>>624の作品を楽しみにしてる

ToHeart2 SS専用スレ 7
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1122306133/
626ぼのぼの:2005/08/01(月) 13:06:47 ID:wXIDWi2y0
hosyu
627名無しさんだよもん:2005/08/01(月) 17:05:57 ID:GcaGCNQC0
628名無しさんだよもん:2005/08/02(火) 19:45:56 ID:hJl9E6PW0
しな
629名無しさんだよもん:2005/08/02(火) 23:37:45 ID:NJ9ENHsU0
いいんちょ
630名無しさんだよもん:2005/08/03(水) 08:24:47 ID:uReOb5XX0
631名無しさんだよもん:2005/08/03(水) 08:28:00 ID:hi2UDaPD0
ほっぺ
632名無しさんだよもん:2005/08/03(水) 12:25:27 ID:JKSJrCDaO
よりも
633名無しさんだよもん:2005/08/03(水) 16:26:00 ID:Rx5YXJZG0
こまき
634名無しさんだよもん:2005/08/03(水) 17:43:59 ID:RhTu1VwG0
いいんちょ
635名無しさんだよもん:2005/08/03(水) 19:40:48 ID:5z0RAw8M0
636名無しさんだよもん:2005/08/03(水) 22:09:51 ID:cXip899O0
おなか
637名無しさんだよもん:2005/08/03(水) 22:53:56 ID:z1+jTM4p0
638名無しさんだよもん:2005/08/04(木) 01:00:14 ID:O91TEB4n0
ぬるぽ
639名無しさんだよもん:2005/08/04(木) 01:39:49 ID:w/6R/wfa0
ガッ
640名無しさんだよもん:2005/08/04(木) 01:59:33 ID:kGCIO/1L0
チョーン
641名無しさんだよもん:2005/08/04(木) 07:06:45 ID:gO0GBs8BO
せーのっ
642名無しさんだよもん:2005/08/04(木) 10:18:48 ID:2PImhrQL0
バンザイ
643名無しさんだよもん:2005/08/04(木) 23:28:57 ID:mW8aAOeK0
るーこ
644名無しさんだよもん:2005/08/05(金) 10:51:14 ID:tz1evjbm0
てんぺら
645名無しさんだよもん:2005/08/05(金) 23:18:32 ID:3cFmIfc40
アホ毛の
646名無しさんだよもん:2005/08/06(土) 11:17:55 ID:dtlJ7BXPO
中の人も
647名無しさんだよもん:2005/08/06(土) 13:24:23 ID:wX99+Iet0
はいてない
648名無しさんだよもん:2005/08/11(木) 23:02:17 ID:HFczNNx10
そして
649名無しさんだよもん:2005/08/12(金) 01:37:48 ID:A60c552YO
誰も
650名無しさんだよもん:2005/08/12(金) 11:53:24 ID:Wl4tP6Og0
651名無しさんだよもん:2005/08/12(金) 15:43:02 ID:HaJwCbZ+0
望む
652名無しさんだよもん:2005/08/12(金) 21:34:24 ID:A60c552YO
永遠は
653名無しさんだよもん:2005/08/12(金) 22:50:01 ID:Kp/4r6400
あるよ
654名無しさんだよもん:2005/08/12(金) 23:05:36 ID:N7ApuMeX0
でも実は
655名無しさんだよもん:2005/08/13(土) 00:00:09 ID:1Jwuh/YY0
親父が
656名無しさんだよもん:2005/08/13(土) 03:59:45 ID:j/7I1dqhO
半裸で
657名無しさんだよもん:2005/08/13(土) 07:44:47 ID:1Ftp0zny0
白目を剥いて
658名無しさんだよもん:2005/08/13(土) 12:39:06 ID:hR3kZG+F0
涼宮茜の
659名無しさんだよもん:2005/08/13(土) 19:35:53 ID:nCgernJo0
服を
660名無しさんだよもん:2005/08/13(土) 23:29:04 ID:8cgC2gG20
1枚1枚
661名無しさんだよもん:2005/08/13(土) 23:51:10 ID:hR3kZG+F0
脱がしていき
662名無しさんだよもん:2005/08/14(日) 00:53:37 ID:TAcmt1I30
たかったのに
663名無しさんだよもん:2005/08/14(日) 03:12:08 ID:aDjuPowx0
親父が
664名無しさんだよもん:2005/08/14(日) 03:43:15 ID:kGucnd+N0
ゆびらまくまして
665名無しさんだよもん:2005/08/14(日) 06:31:22 ID:lkMDm977O
ぶったね!
666名無しさんだよもん:2005/08/14(日) 16:02:28 ID:1qKzatVO0
と、言うと
667名無しさんだよもん:2005/08/14(日) 18:47:46 ID:ZYy3e64Q0
全裸になり
668名無しさんだよもん:2005/08/14(日) 19:13:55 ID:hSbzJM4M0
潤んだ瞳で
669名無しさんだよもん:2005/08/14(日) 19:14:22 ID:Ih/6n9Oy0
やらないか?
670名無しさんだよもん:2005/08/14(日) 21:18:55 ID:I2qdfbXT0
でも僕は
671名無しさんだよもん:2005/08/14(日) 22:04:00 ID:3ssPFf+U0
守りたい世界があるんだ!
672名無しさんだよもん:2005/08/14(日) 22:22:41 ID:kUQIKfwz0
あと
673名無しさんだよもん:2005/08/14(日) 23:11:16 ID:pKYXrG9F0
は家に帰って
674名無しさんだよもん:2005/08/14(日) 23:21:49 ID:7YJqNlcX0
ご飯を食べて
675名無しさんだよもん:2005/08/15(月) 00:57:37 ID:WyDWV5k30
PC版ToHeart2の
676名無しさんだよもん:2005/08/15(月) 01:57:32 ID:3xd2pRrO0
ゲンジマルで
677名無しさんだよもん:2005/08/15(月) 11:01:29 ID:hG0rsXrnO
オナニーして寝るだけ
678名無しさんだよもん:2005/08/15(月) 13:51:01 ID:UNYydmsf0
Heartのない12月
679名無しさんだよもん:2005/08/15(月) 14:39:09 ID:/E5J2MexO
第一章 終
680名無しさんだよもん:2005/08/15(月) 19:05:26 ID:Eegz8p1R0
超先生の次回作にご期待下さい
681名無しさんだよもん:2005/08/16(火) 01:38:19 ID:/W20UreXO
来週からは
682名無しさんだよもん:2005/08/16(火) 01:42:39 ID:GzFE64Dr0
ちゃんと学校に行きますから
683名無しさんだよもん:2005/08/16(火) 11:36:47 ID:+83xiVtkO
勘弁して下さい……
684名無しさんだよもん:2005/08/16(火) 14:53:16 ID:c9IfOab50
そんなこと言ってホントは
685名無しさんだよもん:2005/08/16(火) 21:58:39 ID:A8l7RW620
喜んでるんじゃないのと
686名無しさんだよもん:2005/08/16(火) 22:33:19 ID:ERLCd2D30
訴えかける
687名無しさんだよもん:2005/08/16(火) 23:00:35 ID:NDitXNB/0
その女の名は
688名無しさんだよもん:2005/08/16(火) 23:40:24 ID:gLvPZ7sT0
巫女みこナース(・∀・)!!
689名無しさんだよもん:2005/08/17(水) 07:09:27 ID:rS64SOkFO
左舷!弾幕薄いよ!
690名無しさんだよもん:2005/08/17(水) 10:38:49 ID:cmIa72Cu0
そんな妄想ばかりしているから
691名無しさんだよもん:2005/08/17(水) 15:16:23 ID:g4w/ii+K0
パンストに異常な愛情を
692名無しさんだよもん:2005/08/17(水) 20:04:52 ID:rS64SOkFO
もてあます
693名無しさんだよもん:2005/08/17(水) 22:04:43 ID:/J1myPvh0
空虚な日々
694名無しさんだよもん:2005/08/17(水) 22:07:30 ID:m0yy4k4WO
だけどおまえは
695名無しさんだよもん:2005/08/17(水) 22:18:44 ID:zIaMYA3v0
国民新党
696名無しさんだよもん:2005/08/17(水) 22:26:15 ID:ugYH4ySh0
しかし俺は
697名無しさんだよもん:2005/08/17(水) 22:35:52 ID:iF4ThbbQO
魔法先生
698名無しさんだよもん:2005/08/17(水) 22:59:56 ID:l9Wbu5Ah0
今日も今日とて
699名無しさんだよもん:2005/08/18(木) 00:06:12 ID:TjohwDAK0
それはかなわず
700名無しさんだよもん:2005/08/18(木) 00:06:45 ID:XWoIQ+VB0
イナバ物置
701名無しさんだよもん:2005/08/18(木) 00:45:15 ID:0ECsF4SG0
100人ハメても
702名無しさんだよもん:2005/08/18(木) 01:22:24 ID:eOruQJ9T0
だいじょうV
703名無しさんだよもん:2005/08/18(木) 02:06:26 ID:TdKV0kL60
と見せかけてテコンV
704名無しさんだよもん:2005/08/18(木) 07:09:11 ID:WDxo5LldO
巨体がうなるぞ
705名無しさんだよもん:2005/08/18(木) 19:00:55 ID:0ECsF4SG0
そして、うねり打法は
706名無しさんだよもん:2005/08/18(木) 20:04:02 ID:H8jyldzj0
輝く夜空のように
707名無しさんだよもん:2005/08/18(木) 22:25:05 ID:MQFSpd/B0
草壁さんが
708名無しさんだよもん:2005/08/18(木) 23:11:31 ID:07Tqp6my0
(・∀・)チャーララーラララーラーララーラララ
709名無しさんだよもん:2005/08/19(金) 01:12:27 ID:5B26FPwA0
こん平でーす!
710名無しさんだよもん:2005/08/19(金) 07:49:59 ID:Jh9bXMTMO
山田くーん
711名無しさんだよもん:2005/08/19(金) 11:21:35 ID:dSdEaAajO
わぎゃないざー
712名無しさんだよもん:2005/08/19(金) 19:53:34 ID:Ggvn7FNA0
ナムコ
713名無しさんだよもん:2005/08/19(金) 23:12:44 ID:e0G5Ja+B0
クロス
714名無しさんだよもん:2005/08/20(土) 06:47:10 ID:tudjBahWO
アウッ!!
715名無しさんだよもん:2005/08/20(土) 12:25:50 ID:1ShuJLfR0
と、このみが言うと
716名無しさんだよもん:2005/08/20(土) 16:27:44 ID:IMNt2lIYO
埒外
717名無しさんだよもん:2005/08/20(土) 16:28:20 ID:Lg1ls+0X0
ガイガン起動
718名無しさんだよもん:2005/08/21(日) 18:56:28 ID:nViGzH2i0
第二章 終
719名無しさんだよもん:2005/08/21(日) 22:10:23 ID:33P0sI5O0
超先生の次回作にご期待下さい
720名無しさんだよもん:2005/08/22(月) 06:45:41 ID:Yya2VpcDO
駒大苫"小牧"
721名無しさんだよもん:2005/08/22(月) 15:01:21 ID:L98IRko10
が全国早口言葉選手権大会で
722名無しさんだよもん:2005/08/22(月) 19:25:20 ID:r4rsvlo/0
ガスバスガスバツ・・・あれ?
723名無しさんだよもん:2005/08/23(火) 01:00:20 ID:HXthjnw80
もう、遅すぎた・・
724名無しさんだよもん:2005/08/25(木) 02:24:15 ID:Lg7sF1Q80
だって・・・優勝したのに・・・
725名無しさんだよもん:2005/08/25(木) 02:31:14 ID:4wdcWKwV0
理屈はいいからもっとトマトを食べるんだ!
726名無しさんだよもん:2005/08/25(木) 12:52:19 ID:Voa878nUO
こんなにもアカいのに
727名無しさんだよもん:2005/08/26(金) 05:08:31 ID:UKr9Obrf0
いいんちょの経血が
728名無しさんだよもん:2005/08/26(金) 06:39:34 ID:uQRsYnlw0
猫に舐められる
729名無しさんだよもん:2005/08/26(金) 09:25:18 ID:/RvNV2+K0
その猫を
730名無しさんだよもん:2005/08/26(金) 10:04:25 ID:UT1tMfIvO
猫ジュース
731名無しさんだよもん:2005/08/26(金) 20:42:18 ID:N4zs+n2V0
にして飲むんよと命令する会長に
732名無しさんだよもん:2005/08/26(金) 22:46:27 ID:oEvZ6oq20
タマゴサンドと猫ジュースか
733名無しさんだよもん:2005/08/27(土) 09:30:29 ID:3LOJRS+40
猫ひろしが乱入
734名無しさんだよもん:2005/08/27(土) 23:54:27 ID:HdfbKQ/D0
すると大音量のパワーホールが
735名無しさんだよもん:2005/08/28(日) 00:41:45 ID:/S3t8B0kO
電動型オナホール
736名無しさんだよもん:2005/08/28(日) 01:15:32 ID:YnlS+lh70
今なら布団圧縮カバー10枚付きで
737名無しさんだよもん:2005/08/28(日) 06:01:36 ID:SmLUBHfGO
通常の3倍の
738名無しさんだよもん:2005/08/28(日) 15:26:48 ID:TP33v8CC0
ワックスを
739名無しさんだよもん:2005/08/28(日) 21:33:23 ID:DTuVi7jZ0
身体中にかけられた由真が
740名無しさんだよもん:2005/08/28(日) 22:09:09 ID:OoG0MfuC0
大量のきな粉の中へ
741名無しさんだよもん:2005/08/28(日) 22:29:03 ID:5FsbAwWo0
そしてきな粉女と化した由真を見た愛佳が
742名無しさんだよもん:2005/08/28(日) 22:37:20 ID:3rvjvdcv0
美味しそうに嘗め回す
743名無しさんだよもん:2005/08/28(日) 22:40:55 ID:Npbvs1vC0
するといきなりゲンジ丸が
744名無しさんだよもん:2005/08/28(日) 23:40:54 ID:xrwpsCyL0
俺のキンタマを見てくれ
745名無しさんだよもん:2005/08/29(月) 00:08:11 ID:zMYVq7wq0
と叫んだ雄二に噛み付き
746名無しさんだよもん:2005/08/29(月) 01:54:51 ID:eelRYbct0
歯が折れた
747名無しさんだよもん:2005/08/29(月) 12:22:34 ID:cCAVwi9y0
第三章 終
748名無しさんだよもん:2005/08/29(月) 17:46:42 ID:PcYSadNF0
もうちょっと続くんじゃ
749名無しさんだよもん:2005/08/29(月) 19:08:06 ID:FNXHd2Vi0
そこから倍以上続く訳だな
750名無しさんだよもん:2005/08/29(月) 19:12:56 ID:8GJIHpW4O
ゆうじの ぼやきは やみに のまれた
751名無しさんだよもん:2005/08/29(月) 20:09:32 ID:GjoicYYR0
コンティニューしますか?
752名無しさんだよもん:2005/08/29(月) 20:33:25 ID:qy+g3TYr0
YESorNO?
753名無しさんだよもん:2005/08/29(月) 22:31:18 ID:S9NXnAGt0
3
754名無しさんだよもん:2005/08/29(月) 22:32:27 ID:fnlxx71X0
2
755名無しさんだよもん:2005/08/29(月) 22:55:40 ID:AeYgM3u/0
1
756名無しさんだよもん:2005/08/30(火) 00:56:00 ID:3dQVEW3x0
せーの!
757名無しさんだよもん:2005/08/30(火) 01:20:49 ID:Bn9N+o0GO
犬ファ
758名無しさんだよもん:2005/08/30(火) 02:37:13 ID:pGGeguRh0
淫ファ
759名無しさんだよもん:2005/08/30(火) 02:59:38 ID:Co3Kijy50
イルファ!
760名無しさんだよもん:2005/08/30(火) 13:49:24 ID:I0A44FQo0
ミルファ!
761名無しさんだよもん:2005/08/30(火) 18:34:27 ID:4EDLpB+Z0
最後は貰った…と、思うニダ。
762名無しさんだよもん:2005/08/30(火) 18:40:20 ID:3TPM5tzH0
   | \
   |Д`) ダレモイナイ 不法投棄スルナライマノウチ
   |⊂
   |


   |
   |       TH2
   |      TH2TH2 T
   |    TH2TH2TH2TH2
   |   TH2TH2TH2TH2TH
763名無しさんだよもん:2005/08/30(火) 18:48:32 ID:JsISnGHA0
唯一神又吉イエスの政策

1. 年金問題・医療・介護・財政破綻の根っこはひとつ
2. 郵政民営化は絶対不可
3. 全失業者の救済
4. 憲法九条改悪不可
5. 首相小泉純一郎の靖国参拝不可
6. イラクは世界で守る所
7. 普天間基地移設は本土へ
8. 拉致問題について
9. 人権擁護法案不可
764名無しさんだよもん
 顔         意味
(・V・)     (ははははは)
p(^−^)q  (ヒャ〜 おもしれ〜)
(>、<)   (応援ヨロシクっ!)
(M)     (マリオが大好きだよ)
(・○・)    (鼻がカユイ)
(^U^)    (だーい満足)
(^板違い^) (板違いですよ〜)
(==)    (最近ゲームつまんないですね)
(l l)     (悲しいよ〜)
(・w・)    (パズルゲームが好きです)
(’’)     (カービィが大好き)