「許さねぇ…あんただけは…!」
迸る怒りを抑え、一語一語、はっきりと言葉にする。
「そうだ、来い、朋也。岡崎の血の力とやらを見せてみろ…!」
智代が俺を挑発するかのように近づいてくる。
「俺の記憶を奪い…オッサン達を襲わせただけじゃなく、智代まで…!」
「…?何を言っているんだ、お前は…?」
きょとんとする智代の顔を覗き込む。
その澄んだ瞳の奥に、禍々しい光が潜んでいるのが見えた。
「全部、あんたの仕組んだことだったんだな…!」
――――なに、心配はいらない。私は君の…『友人』だからね…
「何が、『友人』だっ!許さない、あんただけは、絶対っ…!!」
智代の制服の襟を掴む。
「くっ…離さないかっ!」
智代が俺の腕を払おうとした瞬間、
ばちっ
俺の体から火花が迸った。
「痛っ…!?な、何だ…?何なんだ、お前は…!」
智代の声はもう俺には届いていなかった。
俺は一心に智代の瞳を睨んでいた。
その奥底に潜む、『そいつ』を。
「お前の薄汚い能力で、いつまでも智代を操ってるんじゃねぇよっ!」
「糞親父っ!!!」
刹那、
空間は光に包まれた。
***
荒野の中、リヤカーを引き、進む男の姿があった。
パキ…
「おや…?」
荷台からした音に振り返り、声を漏らす。
「『リントホルストの壺』が割れている…」
小首を傾げ、壺のかけらを摘み上げる。
「偽の『光』とは言え…私の操る『光』を内側から破壊するとは…
驚いたねぇ…こんな真似が出来るのは…『岡崎の血』を引く者しかいない…
『光の使い手』としての力を持つものしかね…」
にっこりと満足気に微笑む。
「朋也くん、か」
***
光が収まると同時に、智代はくたりとその場に倒れこんだ。
俺の言葉が聞こえるか分からなかったが、かいつまんで状況を説明することにした。
「智代、もう大丈夫だ。お前は記憶を奪われてたんだ。
俺の親父がやった…でも、もう元に戻ったはずだからさ…」
むくり、と智代が体を起こす。
長い眠りから覚めた後のように虚ろな目をしていた。
「そうか…記憶を奪われていたか…
私としたことが、迂闊だったな…」
ぽつりと呟くと、ごそごそと制服のポケットを漁り始める。
中から、桜色の折り紙の束を取り出した。
「あ、それ…!」
―――馬鹿野郎!それを使っちまえばてめぇの寿命が…!
オッサンの言葉を思い出す。
「もう、使わないでくれな…寿命、減らすんだろ、それ…」
俺の言葉に、ふっと微笑みんでみせる。
ふと
その笑みに、違和感を感じた。
「なに…こんな不完全な光、こちらから願い下げだ……」
「え…?」
徐々に、『違和感』は明確な『異常事態』へと姿を変えていく。
その笑みは、気のおける仲間に向ける類のものでは、なかった。
その裏には、分かりにくいけれど、確実な『棘』が、あった。
『敵意』が。
「光とは、その人間の想いが形となって現れるもの…
あれが私の『本当の光』だと思ったか…?記憶を失った状態で発現した光が…?」
手中の折り紙が、桜色に光り輝く花弁へと姿を変えていく。
舞い散るその花びらは、智代の体を覆いつくし、やがて、あるものを形作っていく。
それは…
「『スティーリィ・ベアー』
‘守りたい’と願う私の意志に呼応して発現した…私の、『本当の光』だ」
いつか…創立者祭で見たことがある。
熊の着ぐるみだった。
ただ、俺が創立者祭で見たそれとは違い、銀色の毛皮を纏っている。
その着ぐるみはとても可愛らしくて…
それだけに、次に発した言葉は――――
「待たせたな、朋也…」
――――背筋を、凍らせた。
「殺し合いを、再開しようか」
◆森
001 岡崎朋也 所持品:銃、『光弾銃ゾリオン』
005 伊吹公子/気絶 所持品:なし
013 古河早苗 所持品:レインボーパンほか
014 古河渚 所持品:『ゼウクシスの魔筆』、『レイジングヒトデ』
018 仁科りえ 所持品:不明
017 坂上智代 所持品:『スティーリィ・ベアー』
012 古河秋生 生死不明
◆荒野
欠番 岡崎直幸 所持品:『胡蝶』、大量の武器を積んだリアカー
破損:『リントホルストの壺』(偽)
意味わかんねえよっ!
でもかっこいいよっ!
何だかよく分からないけど、行くよっ!
と思っても先の展開が難しいよっ!
意味わかんねぇよ!
お、おいおい!
新作キタ-GJ!!
このままだと病院前で春原組や芳野組、仁科までかち合ってしまう予感
「悪い、今何て?」
違う。
俺はしっかりと耳にしていた。聞こえなかった訳じゃない。
ただ、信じられなかっただけだ。
「呆けたか、朋也。私はこう言ってるんだ」
目前の熊のぬいぐるみが肩を竦めてみせる。
本当に、冗談みたいな光景だった。
だから冗談で終わらせてくれ。
言わないでくれ。その先を―――
「殺し合いを再開する、とな」
カサリ、と落ち葉を踏みしめる音。
俺は智代から後ずさっていた。
何で?何で智代から逃げるような真似をしなきゃならない?
記憶は戻ったはずじゃないのかよ…?
「ないだろ…もうっ…!俺とお前が戦う理由なんて…っ!」
かすれた声でそう言うのがやっとだった。
「そうか?」
くぐもった声が着ぐるみの向こう側から返ってくる。
「だって、記憶は戻ったんだろっ!?」
「だから?」
即答。
もう、俺との会話に一縷の興味すら抱いていないような…そんな、即答だった。
「……っ!」
着ぐるみに遮られ、智代の表情が、見えない。読めない。
クマの眼窩にはまっているガラス球が、やけに大きく、不気味に見えた。
着ぐるみを怖いと感じたのはそれが初めてだった。
「変わらないんだ。記憶を取り戻したところで」
唐突に、言葉を発する。
「な…!?」
「何も変わらない。私の置かれた状況はな」
そう言って重心を落とし、構えた。
つまり、どうやらそれで終わりらしかった。
俺の問いに対する返答は。
俺を殺す理由は。
「行くぞ」
短い言葉と共に、智代の足元の枯れ葉が弾けた。
パンッ!
突如、熊の頬から火花が散る。
「仁科さんっ!?」
渚の声。
振り返ると、震える手で銃を握り締める仁科の姿があった。
「記憶を取り戻したのに、私達を殺そうとするだなんて…
もう、話し合いが通じる相手じゃないです…!
しかし…でも何故…何故銃弾が効かない…!?」
着ぐるみが顔を仁科の方に向ける。
「『スティーリィ・ベアー』…
つまりは、『steely(鋼鉄製の・動じることのない心)bear(クマ)』と言う訳だ。
鋼鉄製のこの毛皮には…銃弾など効きはしない。
鋼鉄による剛の防御力、そして毛の弾力による柔の防御力。
その二つを兼ね備えたこの『光』は、紛れも無く、『最強の防具』だ」
着ぐるみの首がぐるりと回る。
呆けたように突っ立っていた俺と目が合った、その時だった。
ドン…!
不意に…鈍い音と共に、腹部に激痛が走った。
いつの間にか、智代は俺の眼前に迫っていた。
その右拳が俺の腹にめり込んでいる。
一瞬遅れて凄まじい吐き気が襲ってきた。
「ぉ…」
声にならない声と共に汚物を吐き出す。
ビチャビチャと音を立てて溢れ出すそれは…
血、だった。
「どうした?もうことわってあったはずじゃないか…『行くぞ』、とな」
ぐっと右腕を押し込まれ、背後の大木に叩きつけられる。
拳が離れるときに、鋼の毛皮が俺の腹の皮膚をえぐっていった。
「ぐ……っ!!」
歯を食いしばり、絶叫を飲み込もうとする。
「悲鳴を堪えるな。我慢するより吐き出してしまった方が痛みは緩和されるものだ。
まぁ…死に逝く人間には関係の無いことだったか…」
「う………」
頭からサーッと血の気が引いていく。
それが出血によるものなのか…今、この状況に絶望しているためなのかは分からない。
寒気がするのに、いやな汗がじっとりと噴出してきた。
「反撃してこないのか…?
このままでは数分と待たず、この世とお別れだぞ」
智代の声が這い蹲ったままの俺に浴びせられる。
「無抵抗の相手を一方的に甚振るのは趣味じゃないんだ。
できれば正当防衛を貰いたかったんだが」
(こ…こいつ……っ)
悪びれる様子も無い智代を見て、
俺の中にどす黒い感情が湧き上がってくるのを感じた。
駄目だ…こんなことを考えるのはまずい…
(もう…智代は……『駄目』だ…)
やめろ……考えるな…
(もう手遅れだ…智代は……)
智代は、仲間だ…
(俺じゃあ救うことの出来ないくらい、深いところまで…堕ちている…)
………。
(やらなきゃ、やられる……しょうがないんだ…もう…!どうしようもないことだってあるんだ…!)
………………。
(あいつも言ってたろ?正当防衛だ…!撃て…っ!身を守るんだっ……!)
ふらふらと、手がベルトに差し込んだゾリオンまでのびていく。
「そうだ…さっさと構えるんだ」
智代の声。
カリカリと、爪がゾリオンの表面を掻いた。
…………………じゃあ、さ……
(え?)
どうなるんだよ…智代は……誰があいつを救うんだよ……?
(だから、それはしょうがない…)
見捨てるのかよ…?智代を…?あいつの幸せを…!?
(………)
できるかよ…!そんなこと…!
そんな…簡単に…諦めていいもんじゃない…!
…例え、智代自身が『智代』を見捨てていたとしても……!
手が、ゾリオンから離れていく。
「俺は…」
ひどく…肩が重くて…首を上げるのが億劫だったけれど…
「見捨てないからさ…」
しゃんと首をあげて、着ぐるみの…智代の、顔を見た。
「俺は『智代』を見捨てたりしないから…!」
「………」
一瞬の間、そして…
「馬鹿な奴だ」
そう吐き捨てた。
ガンッ…ガン…カンッ…
遠くで聞こえていた音が、徐々に鮮明になってきた。
クマの全身から散る火花。
遅れて、仁科が智代を狙撃してるのだと気づいた。
「鬱陶しいな…」
俺から視線を外さずに、そう漏らした。
足を振り上げる。
「うわっ」
とっさに両手で頭を庇った。
ドォンッ!
鈍い音と共に体が震える。
いや、俺が攻撃されたのではなかった。
メキメキと音を立て、背後の大木が傾いでいく。
智代の蹴りは俺ではなく大木に命中していたのだ。
(外したのか…?助かっ…)
「きゃあああああああっ!!」
鋭い悲鳴。
と同時に、全身に戦慄が走った。
外したんじゃない――――
「渚ぁああああああーーーーっ!!!」
――――わざと、狙ったんだ。
仁科や早苗さん、そして、渚を……!!
ズゥゥゥゥウン!
低いうなり声を上げて、大木が地面に倒れこむ。
「渚っ!早苗さんっ!!仁科ーっ!!」
痛む体に鞭を打つようにして立ち上がり、その姿を探す。
そんな俺の前に、智代が立ちはだかった。
「お前が悪いんだ、朋也。こうでもしなければ、私と戦おうとしないからな」
「お前――――!」
「あいつらは木の下敷きだろう。急げばまだ助かるかもしれないな…」
その言葉に、はっと目が覚めた。
「邪魔だ!」
智代の肩を掴み、脇へどけようとする。
しかし、頑として智代は動かなかった。
まるで、巨岩のように。
俺の人生…俺の幸せ…その前に立ちはだかる、番人の様に。
「助けたければ助けるがいい。ただし…」
クマのガラスの瞳がぎょろりと回転した。
「私を殺した後でな」
◆森
001 岡崎朋也 所持品:銃、『光弾銃ゾリオン』
017 坂上智代 所持品:『スティーリィ・ベアー』
005 伊吹公子/気絶 所持品:なし
013 古河早苗/生死不明 所持品:レインボーパンほか
014 古河渚/生死不明 所持品:『ゼウクシスの魔筆』、『レイジングヒトデ』
018 仁科りえ/生死不明 所持品:不明
012 古河秋生/生死不明
「ちょっと、アレって…!」
病院へと向かう途中、森の入り口。
杏の声で春原達は立ち止まった。
視線の先には人影、対峙するのは熊の着ぐるみ。
「おーい、おかざ…」
知り合いの姿に気付いた春原が無防備に近づこうとする。
「!!」
杏に耳を引っ張られて春原が木陰に引きずり込まれた。
勝平と椋もそれに続いて木陰に身を潜める。
「何するんだよっ!」
「馬鹿っ、少しは無い頭使いなさいよ!」
更に強く春原の耳を引っ張る。
「痛い、痛いって! 取れるーーっ!」
「ほら! 見なさい」
春原と勝平が木陰から顔だけを出す。
距離が離れすぎていて会話は聞き取れない。
けれど。
横たわる人影。異形の熊が放つのは、確かな殺気。
「穏やかじゃないね…」
そして、その光景を見つめる春原の顔は険しい。
「………アイツ、まだ」
「アイツって、キミはあの熊の正体を知ってるの?」
「ああ。だから、僕が止めなきゃいけない」
木陰から身を出そうとする春原の腕を勝平が掴んだ。
「止めるなよっ、今行かないでどうするんだよっ!」
「無鉄砲に飛び出しても状況が好転するとは限らないよ!」
椋さん達に勘付かれないように足をさする。
癌細胞の力で今はなんとか歩けるようになってはいるけど、あとどれだけ“走る”ことができるのかは分からない。
焦ってチャンスを失うわけにはいかない。
けれど…。
春原君の顔を窺う。
焦り、不安、苛立ち。
(ボクは…どうすれば…)
「だからって、こんなの…指をくわえて見てられるかよっ!」
「陽平!」
静止を振り切り、春原君が走り出す。
その時、影に動きがあった。
熊の脚が翻る。
脚は側にあった大木を捉える。
打ち抜かれた大木が倒れる。
少女たちの、頭上へと。
その光景がやけにスローに見えて、ボクは――。
(無鉄砲なのはボクも同じだな、ハハ)
「持ってくれよ、ボクの脚…! ラスト・ランッ!!」
「助けたければ助けるがいい。ただし…私を殺した後でな」
「智代…」
智代を睨みつけ、ゾリオンに手をかける朋也。
けれどその瞳に浮かぶのは、哀しみ。
「それでも、俺は…お前を救う。でなきゃお前が…可哀想だ」
「まだ言うか…!」
「同感だね」
森に響く声。
金髪を逆立たせて、春原陽平が姿を現す。
「春原!」
「岡崎。何だかよく分からないけど…今しなきゃいけないことは分かるよ」
並び立つは岡崎朋也。
そして春原陽平。
「生きていたか、春原。いいだろう…二人まとめて殺してやる」
再び構える智代。
「私を救うなど無駄なことと知れっ!」
「生憎だな。無駄なことに一生懸命なのが、俺たちなんだよ」
馬鹿ふたり、ここに在り。
◆森
001 岡崎朋也 所持品:銃、『光弾銃ゾリオン』
002 藤林杏 所持品:『三千世界・上巻』、辞書いっぱい、
003 藤林椋 所持品:『三千世界・下巻』、ルガースーパーレッドホーク9in
004 春原陽平 応急処置済み 所持品:無し(上着に癌細胞)『コミック力場・弱』
007 柊勝平 所持品:『アポロンの銀弓』、『バーサーカー・レクイエム』、44マグナム
017 坂上智代 所持品:『スティーリィ・ベアー』
005 伊吹公子/気絶 所持品:なし
013 古河早苗/生死不明 所持品:レインボーパンほか
014 古河渚/生死不明 所持品:『ゼウクシスの魔筆』、『レイジングヒトデ』
018 仁科りえ/生死不明 所持品:不明
012 古河秋生/生死不明
バイク(ガス欠)は廃墟の町に放置してます。
お、おいおい!
意味わかんねぇよ!
おお、新作がたくさん来てるGJ!
正直燃えた。
やっぱここの春原はカッコいいな。
GJ!
俺も次は春原と岡崎の再会にしようと思って書いていたんだが、先を越されてしまったなw
まさかその日のうちに続きが投下されるとは。全部仕上げる暇が無かった
ずっと温めてたネタなだけに無念だよっ・・・orz
何だかよく分からないけど、頑張れよっ!
技術さえあれば漫画化したい・・・。
大切なのは技術じゃない、情熱だ!と無責任に言ってみるよっ!
856 :
'ヽ/ヽ ◆DOASFNYARI :2005/12/31(土) 15:19:02 ID:esoeLQkE0
おいおいっ
意味はわかるよっ
858 :
人生ブラフ ◆8/zHLnhKDE :2005/12/31(土) 20:33:49 ID:l9xCE7iJ0
俺が立てたこのスレまだ残ってたんだな。
あんなトンデモ設定でよくぞ話を広げてくれたもんだ。
50話くらいまでしか読んでないけど時間がある時全部
読み直してみるよ。
とりあえず書き手さんガンバレ。
ジャンプの富樫並の不定期連載ですな
書き手サソガンガレ!
イメージイラストとして黒スーツに赤のシャツで正装した渚が描きたい
でも俺どらえもんしか描けない((ミ゚o゚ミ))
お、おいおい!
「おい岡崎、遂に…最強コンビが揃ったなっ」
金髪の馬鹿が、にっと白い歯を俺に向ける。
「え?どこに?」
「露骨に目を逸らすなよっ!お前の最高の親友が目の前にいるでしょっ!?」
「悪い、お前のこと友達だと思ってねぇや」
「思えってのっ!世界が滅びたときくらいっ!」
春原と軽口を叩きあう。
もう二度と…戻らないかと思っていた日々。
楽しかったあの日々が、蘇っていく気がした。
まだ戻れるんだ。
きっと、オッサンも、早苗さんも、渚も…みんな無事で…
あとは、この中に智代が加わればいい。
そうすれば帰れるんだ。あの日々に。
ドゴッ!!
鈍い音と共に春原の姿が視界から消えた。
「せっかく助けに来ても、無駄死にだったな。だが、まぁ…好きなんだろう?無駄なことが…」
その背後から智代の姿が現れる。
「すの…!?」
見おろすと、後頭部から血を流しながら転がっている春原の姿があった。
一瞬で、現実に引き戻された気がした。
智代には容赦なんてない。
本気で殺す気なんだ。
熊の冷たい両眼が俺を睨み付けた。
「いい加減にしないか、朋也…何人、殺したら気が済むんだ?」
そう、吐き捨てる。
「な、なに言ってる…!みんなを傷つけたのはお前だろ…!」
「なら、そうさせなければ良かったじゃないか」
「な…!?」
「私を殺していればこんなにも仲間が傷つけられることはなかった」
「お…俺は…お前を助けようと…!お前が可哀想だから…!」
「ふざけるな…」
智代が静かに言葉を放つ。
「え…?」
「ふざけるなっ!!!!!!!」
怒号に、
森全体がビリビリと震えた気がした。
「いつまで…そうやって…気取っているつもりだ…偽善者を…っ!!」
わなわなと手が震えていた。
「みんな…必死なんだ…!何かを守るために…生き残るために、必死なんだっ…!!」
「お前…」
「必死だからっ…許されると思ったんだっ…!!
この戦いは、バトルロワイアルじゃなかったのか!?
互いに、殺されることを覚悟した戦いじゃなかったのかっ!?
私は覚悟していたっ!殺されても文句は言うまいと、胸に刻んでいたっ!!」
かすれた声で叫んでいた。
「だから、い っ ぱ い 殺 し た っ !!
いっぱい、殺したんだ!!許されると思ったから、殺したんだっ…!!
なのに…それなのに…っ!!」
智代は、泣いているようだった。
涙は流さねど…
心で。
「お前は、否定するのかっ……!
私のしてきたことを…この戦いを……っ
だったら…何だったというんだ…私の決意は…!奪ってきた、命…は……」
ほとんど悲鳴に近かった。
搾り出す様にして発する一語一語が、静かな森に吸い込まれていく。
守るため……
智代は度々そう言っていた。
―――‘守りたい’と願う私の意志に呼応して発現した…私の、『本当の光』だ。
智代はそうも言っていた。
それほど強い想いなのだろうか。
『本当の光』を発現させるほどに…それほどに守りたいものが、智代にもあるのだろうか。
そして、仲間を手にかけても守り通すと…覚悟を決めていたのだろうか。
なら…俺は、甘かった。
渚なら、決して智代を傷つけたりしないだろう。
杉坂たちが…合唱部のために顧問を諦めてくれと頼みに来たときも…
顔で微笑みながら…心で泣きながら…
夢を、譲った。
そんな渚だから、今度だって…譲ってしまうに違いなかった。
だけど…夢なら…代わりを探せる。
しかし、命は代わりを探せない。
「智代…」
微笑んで譲ってしまう…そんな渚を、守るためには…
俺だけは、死んでも、譲っちゃだめなんだ…!
大事なものを守るために…!
そして、仲間である智代を止めるために…!
「俺はお前と、戦う…!」
体の震えが、止まった。
そして…
俺はゾリオンの引き金を引いた。
『苦痛』…『怒り』…
俺の全てを込めた光弾が智代に迫り…
「ありがとう、朋也」
その時、着ぐるみの向こうで智代は微笑んだ気がした。
鋭く右腕を横に薙ぐ。
ばしっ、という音と共に、光弾はかき消えた。
「これで迷い無く殺せる」
そう、言った。
(ばしっ…?)
俺は銃を掲げたまま、ぼうっと突っ立っていた。
(ばしって、何だよ…あの『光弾』には…
仲間を傷つけられた俺の『苦痛』が…立つのもやっとなほどに傷つけられた、この体の『痛み』が…
詰まってるはずじゃ、なかったのか…?俺の全てをぶつけたんだぞ…っ!?)
「な、何で……!?」
俺はみっともなく呟いていた。
「そんなに不思議か。渾身の一撃を防がれたことが」
淡々と、智代が答える。
「こんな…馬鹿な……」
うわ言のように俺は繰り返していた。
なぜか体が震えている。
「なら…お前は積み重ねていなかったということだな」
智代が呟く。
「え…?」
「私だって…何も最初から強かったわけじゃない…
学年でトップ10に入る学力だって、持ち合わせてはいなかった。
この運動能力、それに学力も、少しずつ、日々の生活の中で積み重ねてきたんだ」
ぽつりぽつりと語りだす。
「連日連夜、町を徘徊し、悪さをする奴を懲らしめた。
時には…深刻なダメージを負うこともある。
地に伏し、泥を舐め、顔をぼこぼこに腫らしたことも、あった…
それでも家に帰ってくれば、休むまもなく、学校の予習や復習をしなければならない。
辛かった…本当に…過酷な…日々だった。
だが、そこで挫けず…放棄せず…積み重ね続けたから、今の私の強さがある…!」
「お前の渾身を防げる、強さがあるんだ」
俺のうわ言に、応えてくれていた。
それは本気で向ってきた俺に対する感謝の気持ちだったのだろうか…とにかく…
俺は惨めだった。
「あ……!」
脳裏に浮かぶ。
学校で寝て…春原の部屋で漫画本をあさって…
怠惰に暮らしてきた生活の様子が。
「う……っ!!」
あつかましい、と思った。
どうしてこれで勝てるんだ…?勝てるだなんて思うんだ…?
智代はきっとあの瞬間にも努力を重ねていたのに…!
「ううっ…!!」
何故、俺は努力しなかった…!
何故、怠惰に暮らすその生活の中で、ほんの少しでも積み重ねてこなかった…!?
「うううっ!!」
目に溢れていた涙が、遂に零れた。
及ぶはずはなかった…!
今まで努力もせず、だらだらと生きてきた俺なんかの全てをぶつけたところで…
智代に及ぶはずはなかったんだ…!
目標のために…懸命に積み重ねてきた人間に…勝てるはずないだろっ…!!
俺なんかに、誰かを守ることなんて…最初っから…
で き や し な か っ た ん だ っ … !
「哀れだな…今、楽にしてやる」
智代が体を捻った。俺へのとどめの一撃を下すために―――
もう、俺には…みっともなく涙を零しながら…祈ることしか出来なかった
だ、誰か…
俺はいい…俺はいいから…っ
みんな…を……!
「助けて…くれぇっ……!」
風を切る音。
そして…
「待てっての」
智代の拳を掴む影があった。
血で真っ赤に染まった金髪が、日の光を受けてきらきらと輝いていた。
「まだ息があったとはな…春原…!」
智代が掴まれた手を振り払い、攻撃対象を春原に移す。
「死んだ振りをしていれば助かったものを…なぜ、わざわざ命を捨てにくるんだ?」
―――智代がそう吐き捨てた、その時だった。
「春原、時間稼ぎごくろうさま〜!あんたたまにはいい仕事するじゃない!」
「古河さんたちは、勝平さんと私たちで、安全な所へ避難させておきました」
「みんな軽く頭を打って気絶してるけど、命に別状はないよっ!」
明るい声が右方向から聞こえてくる。
「杏…藤林…勝平…!」
「何だ…まだ命知らずがいたのか…
だが、屠る相手が三人ばかり増えようと同じことだ」
智代が杏たちを一瞥する。
「じゃあ、もう三人足しといてくれますか?」
左方向からの新たな声に、智代がハッと体を翻す。
「仲間の窮地に間に合えてよかった。これも愛の起こした奇跡、か」
「はぁ…また坂上智代と鉢合わせるなんてねぇ…。しゃあない、やるしかないか」
懐かしい顔がそこに並んでいた。
「美佐枝さん…芳野さん…それに、確か春原の妹…芽衣ちゃんまで…!」
春原が智代に向き直る。
「さっきの質問の答え…!何で僕が…僕たちが…岡崎を助けに来るのか、教えてやるよっ」
「なに…?」
「仲間だからだよっ!死なれちゃ困る、仲間だからだっ」
クマの瞳が一瞬春原を見つめ、微かに頷くと俺にその視線を移した。
「そうか、朋也…」
自分を包囲する人影をぐるりと見渡す。
「これがお前の…‘‘積み重ねてきたもの’’というわけか…」
独り言のように呟くその声は、みんなが口々に俺を呼ぶ声でかき消されてしまった。
やかましい声たちに囲まれて…
俺は…また、涙が出てしまうほどに…頼もしかった。
俺は一人で…勝てなくたって、いいんだ…
だって、俺には…!
「遂に…最強のチームが揃ったな、岡崎っ!」
窮地に駆けつけてくれる『仲間』が――――!
◆森
001 岡崎朋也 所持品:銃、『光弾銃ゾリオン』
002 藤林杏 所持品:『三千世界・上巻』、辞書いっぱい
003 藤林椋 所持品:『三千世界・下巻』、ルガースーパーレッドホーク9in
004 春原陽平 応急処置済み 所持品:無し(上着に癌細胞)『コミック力場』
005 伊吹公子/気絶 所持品:なし
007 柊勝平 所持品:『アポロンの銀弓』、『バーサーカー・レクイエム』、44マグナム
009 相楽美佐枝 所持品:銃、洗濯ロープ、ライター、リュック(中身不明)
011 芳野祐介 所持品:工具一式、防弾チョッキ
欠番 春原芽衣 所持品:グロック18C
017 坂上智代 所持品:『スティーリィ・ベアー』
012 古河秋生/生死不明
013 古河早苗/気絶 所持品:レインボーパンほか
014 古河渚/気絶 所持品:『ゼウクシスの魔筆』、『レイジングヒトデ』
018 仁科りえ/気絶 所持品:不明
おいおいおい!
冷蔵庫に入れておいたプリンがないよっ!!
意味わかんねえよっ!
何だかよく分からないけど、行くよっ!
>>863-970 持ち上げといて落としてさらに引っくり返す…もう王道も王道だな。GJ!
この対智代戦で最終章幕開けになりそうな予感。
敵側の数が圧倒的に少ないからしかたないとはいえ
智代一人VS光戦士ほぼ総がかりってのはパワーバランス悪すぎだよね
戦隊モノでは、怪人は常に5人のヒーローにボコられるんだ
ちゃんと戦えそうな奴少ないから、うまくやれば大丈夫だろ。たぶん。
最近、ヒーロー戦隊は最初の5人に加えて、第6の戦士が加入するケースが多いよっ!
燃えだな…
何だかよく分からないけど、行くよっ!