手足を縛り上げられ、システムバスの天井から全裸で吊られた詠美。
その脇のミニキッチンのコンロの上では、パスタ用の大きな鍋になみなみと
注がれた天麩羅油が煮えたぎっている。
「…よし!」
真剣な表情で油温を測っていた瑞希は柄杓を持ち、鍋に突っ込むと、
詠美に向き直った。
「ちょ、ちょっと、あんた…!や、や、やめて…お、お願いよぉ!助けて!」
詠美は必死で懇願する。しかし瑞希は眉一つ動かさない。
彼女の言葉が全く理解できないらしい。瑞希が詠美を見るその目は…
豚のコマ肉や野菜を見る時の目と同じ、只の食材を見る目である。
何の躊躇いもなく、そろり、そろりと煮えた油を詠美の首筋に注ぎかける。
「ぎゃあああああっ」
バスルームに絶叫が響き渡った。詠美の皮膚が忽ち焼けるが、爛れない。
慎重に油温を調節した成果だ。油の熱は皮を焦がさずそのまま脂肪と筋肉を加熱・調理する。
柄杓が空になると、瑞希は再び油を汲み、今度は少しずらした位置に注いだ。
「ひぃぃっあ、熱いよぉ、おおおああああああああっ!!」
通常の神経の持ち主ならばその場で耳を塞ぎたくなる苦悶の叫び。
だが瑞希は涼しい顔で煮え油を浴びせ、詠美の体を生きたまま焼き続ける。
「!」
瑞希は突然詠美の口に漏斗を突っ込んだ。詠美が窒息しそうになるのも構わず、
喉の奥までぐいぐいと押し込み、そして…漏斗に油を流し込んだ。
「ごぼ!ごばぁ…!!!」
熱せられた油が胃と肺を内部から焼く。詠美はそのまま息絶え、物言わなくなった。
そして瑞希が詠美の全身を焼き終え、全身に砂糖醤油をベースにした特製のタレを塗り終わった所で
調理時間が終了した。
後は和樹達の試食で全てが決まる。
一方、隣室で由宇に調理された千紗は…
「…これはただの千紗ちぃの丸揚げやないで…!」
卓上に乗せられた千紗を見た時、瑞希と和樹、大志は思わず息を呑んだ。
「活き作り千紗ちぃの丸揚げ五目あんかけや!」
何と言う事だろう!丸揚げにされた彼女はまだ生きていたのだ!
腹を裂き内臓を抜いた空隙に野菜を詰め込まれてから、そのままこんがりと揚げられた千紗。
しかし、その目は生きて動いていた。物言いたげに和樹を見つめる目。明らかにまだ意識がある。
「…い、一体どうやって…」
大志も唖然としている。
「ちっちっち。そりゃ企業秘密や。
それより料理と見詰め合ってばかりいないで、せっかく可愛い千紗ちぃの顔もちゃんとみたってや」
「顔…?…はっ!!」
「…わ、笑っている!?」
千紗の顔は笑みを浮かべていた。顔面の表情筋は油が浸透し焼け焦げ、香ばしい香りを
放っているにも関わらず、明るく朗らかな満面の笑顔を作っている。
「う…」
瑞希は唇を噛んだ。
由宇の千紗料理に比べ…彼女の調理した詠美の顔は、生きながら焼かれる熱と痛みに悶え狂う
醜い断末魔の表情だった。
「…まだよ!料理は味なんだから!さぁ!冷めない内に食べて!」
「望む所や!さ!」
由宇の千紗揚げの頬肉に続き、瑞希の甘詠美の右腕が食される。
和樹と大志の目が見開かれた。
「この爪の軽さ!フライの衣より軽いし油っぽくない。」
「低温の油で丁寧に揚げたのか…身はジューシーそのもの!詠美の画力が乗り移ってくるようだ!」
瑞希は由宇に勝ち誇る。
「あんたの活き作りには驚かされたわ…だけどその丸揚げは生きている千紗でも死んでる千紗でも同じ味のはず」
大志は言った。
「この勝負は…シスター瑞希の勝ちだ!
同志由宇の人肉料理の技術は卓越したものだが、神戸で修行した料理をここに紹介しただけだ。
それに比べてマイシスター瑞希の作った甘詠美には驚かされた。
なにせ爪がこんなに旨いと発見させた料理は始めてだからな」