ポテトのスレ

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34名無しさんだよもん
人形が真っ白に輝いていた。
自分の意識が、人形に吸い込まれていくのを感じる。
なんなんだろう…これは…
『…往人』
声が聞こえた。
『…今こそ、思い出しなさい』
懐かしい人の声だった。
『あなたのなすべきことを…』
おぼろげになっていく意識の中で、俺は必死に佳乃の姿を求めた。
思い出すことなんて、もう何もない。
なすべきことなんて、俺は知らない。
俺はただ、佳乃のそばにいたいだけなんだ。
ただもう一度、佳乃の側で穏やかな日々を過ごしたいだけなんだ。
ただ、佳乃を笑わせてやりたいだけなんだ。
もう一度… もう一度だけやり直せるのなら。
そうすれば、俺は間違えずにそれを求められるから…
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なにかが近づいてくる音だ。逃げなければ。
だけど、逃げずにいた。
その音が、なつかしいような気がして。
【声】「…あ〜っ、行き倒れ犬1号だぁ」
ぴと。 背中に、温かなものがさわった。
【声】「まだ生きてるかなぁ」
【声】「つんつん」
背中をつつかれる。
見上げても、まぶしくてよく見えない。
【声】「よかったあ〜、生きてるよぉ」
ただ、声だけが聞こえる。
【声】「この子犬、かわいいよ〜」
なでなで なでなで…
気持ちがいい。 いつまでも、そうしていてほしい。
35名無しさんだよもん:05/01/17 00:05:35 ID:KPUHCl0A
冷たい石の階段に彼女が横たわっていた。
「魔法で…行けるよ…」
彼女の目が閉じる。
「お母…さん… 今…行くから…」
手首から赤いものが広がっていく。
そして、その顔が、すべてのしがらみから解き放たれたように無表情となる。
もう苦しみも、悲しみも、喜びもない。そんな表情だった。
また…繰り返すのか。僕は唐突に、そう感じた。
いつか、こんなことがあった気がする。
遠くて古い記憶。頭が…痛む。
そして、恐怖を感じる。
このまま、その向こうに行ってしまえば、僕は消えてしまう。
嫌だ…そんなのは嫌だ…
でも、自分の中で大きくふくらんでゆくものは、止めようがなかった。
今日までの日々を僕はさかのぼってゆく。
佳乃との暮らし。地面で動けなくなっていた日。
僕が生まれた日。
そして、その向こうに、別の光景が待っていた。
36名無しさんだよもん:05/01/17 00:07:07 ID:KPUHCl0A
………。
頭が痛む…
あるべき自分に、俺は還ろうとしている。
この記憶は思い出してはいけない記憶だった。
人の記憶は、この体にはあまりに大きいものだった。
記憶とちしきが…こぼれてゆく…
目のまえにみえるものが…わからなくなる…
よかった、と思う。
ふたたび人だった記憶をうしなえば…
俺は、苦しむこともない…。
ひとでない自分のからだをのろうこともない…。
もうえいえんに、彼女をうしないつづけることもない…。
よかった…。俺は目を閉じる。
………。でも…
それでも、俺はまだ願うのだ。
佳乃のそばにいたい。居続けてたい。
これから先も…俺がどうなろうとも…
だから今、やらなければならない。
今、がんばらなければ、永遠にうしなってしまう…
だから、佳乃を連れ戻さなければ。
そうだ。かつての俺の力なら佳乃を連れ戻せるかもしれない。
俺が完全に消えてしまう前に“俺”を探し出さなければ。
「ぴこぴこーーっ!!」
俺は転がるように参道の石畳を疾走していった。