葉鍵的SSコンペスレ15

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479名無しさんだよもん
作品0だったら、いくらなんでもまずい。
480 ◆FHrl.Kwpsk :05/02/25 00:39:43 ID:/5ttTS+F0
書き上がったので落とします。12レスくらい。
CLANNADの智代&有紀寧&生徒会役員です。
481白色光/白色料(1):05/02/25 00:41:18 ID:/5ttTS+F0
 生徒会室で作業をしつつも、僕の目は彼女へと向いていた。
 平凡な色彩の中で、一人だけ燦然と輝く存在。
 我らが生徒会長は、今は交通安全運動のポスターについて役員と打ち合わせている。
「ベージュの地に白文字は見にくいと思うぞ」
「そうかなぁ。スタイリッシュでいいと思ったんだけど」
「スタイリッシュもいいが、内容が伝わらなくては仕方ないだろう。デザインはいいと思うから、遠目からも見える配色にしてくれないか」
「ん、わかった」
 頷いて引き下がる役員。駄目出ししても素直に受け入れられるあたりが、坂上の人徳というものだろう。
 そんなことを考えていると目が合ってしまったので、見たままの光景をそのまま口にした。
「さしずめ僕らは灰色の地で、坂上は原色だね」
 しかし彼女の気には召さなかったらしく、不満そうな顔をされる。
「どうしてそういうことを言うんだ。そんな卑下が似合うような人間は、うちの生徒会にはいないはずだぞ」
「でも坂上と比べれば霞むよ。卑下してるんじゃなくて坂上を誉めてるんだ」
「それが卑下というんだ。情熱の赤も、若さの緑も、冷静の青も、どれが欠けても画家は絵を描けないじゃないか」
 ごもっともだが、坂上が言うと正論すぎて引っかかる。
 他の人間にはお題目でも、こいつだけは馬鹿正直にそれを信じているからだ。
「必要のない色だってあると思うけどね。世の中には」
 なので僕はついそんなことを言ってしまい、坂上は僅かに表情を強ばらせるだけで、沈黙で答えた。

 最近、坂上は彼氏と別れた。
 原因の一端は僕にある。悪いことをしたとは全然思ってないが、坂上からすれば敵も同然だろうし、殴られるくらいは覚悟していた。
 が…未だ、彼女は何も言ってこない。
 代わりに、時々遠くを見るようになった。
 呆けているわけではない。仕事は熱心にやっている。でも時々…遠くを見る。失ったものを懐かしむように。
 事情を知る僕にとっては、それは鮮やかな輝きの中で、一点だけ残った染みに近かった。
482白色光/白色料(2):05/02/25 00:42:17 ID:/5ttTS+F0
(そりゃまあ、別れて数週間で吹っ切れというのも無理な話ではあるが…)
「お疲れですか」
 翌日の昼休み。食欲がわかないので考え事をしていると、隣の席の宮沢さんが声をかけてきた。
「副会長さんも大変そうですね。何かお手伝いできることがあったら、言ってくださいね」
 そう言って、微笑む彼女の名は宮沢有紀寧。
 いつもこんな風に親切で人当たりも良く、人望では坂上にも引けを取らない。
 ただ、特別に親しい友人はいない。休み時間や放課後になると、決まってどこかへ姿を消すからだ。
「ありがとう。君みたいな優秀な人が生徒会に入ってくれれば、僕も楽になるんだけどね」
「あははは。またまたそんなお世辞を」
 笑顔でかわしてから、心配そうに覗き込んでくる。どうも僕は相当疲れた顔をしているらしい。
「本当に大丈夫でしょうか。何か生徒会で問題でも?」
「生徒会といえば生徒会だけど…」
「そうだ」
 宮沢さんはぽん、と手を合わせて立ち上がった。
「お時間があったら、一緒に来ていただけませんか」
「? 別にいいけど」
 嬉しそうに歩き出す宮沢さん。特にすることもないので着いていく。いつも彼女がどこへ行くのかも、多少興味があった。
 が、期待と裏腹に、連れていかれたのは単なる資料室。
 扉を開けて先に入った彼女が、右腕を広げて招き入れる。
「いらっしゃいませー」
「入ったけど…。ここに何があるのさ」
「今、コーヒーをお淹れしますね。砂糖はいくつですか?」
「っておい」
 見ればコーヒーカップに食器、調理器具まで揃っている。部屋を私物化しちゃいけないだろう。
 生徒会役員として抗議しようとしたが、『幸村先生の許可は取ってます』の一言で防御されてしまった。あんな爺さんでも教師には違いないので、権力構造上何も言えない。
 憮然として待っていると、ソーサーつきのコーヒーカップが差し出されてくる。
483白色光/白色料(3):05/02/25 00:43:16 ID:/5ttTS+F0
「それで、一体何があったんですか」
「なに、それを聞くためだけに連れてきたの?」
「こういう落ち着いた場所の方がお話もしやすいでしょう?」
「大して変わらないと思うけど…」
 まあ別に話して困ることではないし、誰かとこの憤りを共有したい気分もあったので、かいつまんで話した。
『坂上が変な不良と付き合って仕事を蔑ろにしたので、男の方に別れろと言ったら別れた』…む、こう言うと何の問題もないな。
「そうですか。別れてしまったんですか…」
「なんだよ? 僕が間違ったことをしたとでも?」
「うーん、わたしからは何とも言えませんが、それでは何が問題なんですか?」
「…坂上がまだ引きずってる」
 それはそうでしょうね、と言いたげに、宮沢さんは困った笑顔になった。
「時間が解決してくれますよ」
「ならいいんだけど。万一坂上に吹っ切る気がないとしたらと思うと、気が気じゃないよ」
「好きでい続けるつもりなのだとしたら、素敵なお話ですねー」
「相手によるだろ!」
「そこまで嫌わなくても…。少なくともその岡崎さんという方、あなたの希望通りにしてくださったんでしょう? それならいいじゃありませんか」
「そうだけど…!」
 つい、テーブルを叩いてしまう。
 コーヒーの中のクリープは渦を作り、元の液体の色は影も形もない。
「そりゃ僕は別れろと言ったよ。あいつと坂上は釣り合わないってさ。でもさ、そう言われたならむしろ奮起して釣り合う男になろうと努力するのが筋ってもんじゃあないか?」
「ま、まあそうかもしれないですね」
「なのにあの岡崎とかいうヘタレ男は、坂上と別れた途端に元の怠惰な生活に逆戻りだってさ! 遅刻はする、三年生なのに進路相談にも出ない、当然まともに勉強なんかしてない、もう呆れてものも言えないね!」
484白色光/白色料(4):05/02/25 00:44:17 ID:/5ttTS+F0
 ぜえぜえ…と息を切らせてから、一気にコーヒーを飲み干した。
 要するに僕が最も憤っているのはそこらしい。
 坂上が、あんな男のために悩んでいるのが許せない。あんな何の努力もせず、別れた途端にさっさと坂上のことを忘れ去るような野郎を、なんだって坂上が気にかけなければいけないのか。
「坂上は一体あの男のどこが気に入ったんだ…」
「まあまあ、恋の形は人それぞれですから」
 取り乱す僕にも動じることなく、宮沢さんは変わらぬペースでカップを傾けていた。
「きっとその岡崎さんという人にも、他からは分からない良いところがあるんですよ」
「これっぽっちもそうは思えない」
「まあまあ」
 さらに何か言おうとする彼女だが、昼休み終了のチャイムが鳴ってしまった。
 どうもこの部屋にいると、時間の経過を忘れてしまうようだ。
「残念です。また来てくださいね」
「もういいよ。君のことだから『その岡崎ってクズですね!』なんて同意は絶対にしてくれないんだろうし」
「あはは…でも、来てくださいね。コーヒーを用意して待ってますから」
 何でそこまで親切なのやら。
 僕は軽く肩をすくめて、ごちそうさまを言ってから資料室を後にした。
485白色光/白色料(5):05/02/25 00:45:17 ID:/5ttTS+F0
 当の会長はといえば表面上は何も変わらず、今日も熱心に仕事をしていた。
「うん、なかなかいい色合いじゃないか」
 再提出のポスター案を誉められて、役員は嬉しそうに顔を綻ばせる。
「ありがと。でもなーんか、印刷すると画面通りの色にならないのよね。プリンタが安物だからかしら」
「というより、光の三原色とインクの三原色は違うからな」
 そう言われた相手はよく分かっていないようだったので、つい僕が口を挟む。
「パソコンの画面、つまり光の三原色は赤青緑で、絵の具やインクは赤青黄なのは知ってるだろ。正確にはマゼンダ・シアン・黄だけど」
「それは聞いたことあるけど…」
「うん」
 その通り、というように頷く坂上。
「光の三原色を混ぜると白になるが、色料の三原色を混ぜると黒になる」
「なぜなら、光の色とはその光自体の色だが、物体の色とは『物体に一部吸収された後、吸収されずに残って反射した光の色』だからだ」
「バナナが黄色く見えるのは、青の光を吸収しているから」
「光を混ぜると全ての波長を含む白色になり、色料を混ぜると全ての光を吸収するので黒くなる」
「プリンタは違う三原色で画面の色を近似しているだけだから、どうしても多少の差はあるんだ」
「…ふーん。何となくわかったような」
 役員は何となく納得し、僕も満足して自分の席に戻った。
 見ろ、坂上についていけるのは僕くらいじゃないか。
 まあ無駄知識で自慢するのも何だけど、少なくともあの岡崎とかいう馬鹿男には今の会話はついてこれまい。
 あらためて、視界の端で彼女を見る。
 昨日は原色と言ったが、むしろ白色なのかもしれない。全ての原色を含む色。
 何もかもを持ち、なのに純粋でひたむきで真摯な坂上の色。
 だからこそ、余計に黒い染みが目立つのだ。
486白色光/白色料(6):05/02/25 00:46:17 ID:/5ttTS+F0
 数日は資料室に行くこともなかったが、しばらくして不快な事態が起こった。
 昼休みに学食に行こうとすると、玄関からあの岡崎が眠そうな顔で歩いてきたのだ。今頃登校してきたらしい。
(おい…もう昼だぞ)
 頭に来た僕が、嫌味の一つも言ってやりたくなったのは至極当然といえるだろう。
「随分と余裕あるんだね。とても三年生とは思えないよ」
「…うるせぇよ」
 こちらを睨み付けて、さっさと行こうと――僕から見れば逃げていこうとする背中に、さらに言葉を投げつける。
「あんたさあ、この場所がどこだか分かってんの?」
「……」
「進学校なんだよ。勉強する場所なんだよ。勉強する気も努力する気もないならとっとと退学しろよ。見苦しい!」
「テメェ…!」
 振り向いた岡崎に、胸ぐらを掴まれ持ち上げられた。
 今までもこうして自分より弱い奴を脅してきたんだろうが、そういつでも通じるものか。脅えるかわりに、思い切り侮蔑の目を向けてやる。
 効果がないと分かると岡崎は手を離し、睨むだけ睨んでさっさと行ってしまった。
(けっ。ヘタレ野郎め…)
 殴ってくれればそれを理由に退学にできたかもしれないのに。そこまで上手くはいかないか。
(………)
 …我ながら、精神がささくれ立ってるな。
 自然と、足があの部屋へ向く。別に癒されたいわけじゃないが、コーヒーでも飲ませてもらえば気分も落ち着くだろう。
487白色光/白色料(7):05/02/25 00:47:17 ID:/5ttTS+F0
 宮沢さんはいつもの人当たりの良さで歓迎し、コーヒーを淹れ、怪しげな本を勧めてくれた。
「おまじないなんてどうですか? とっても効くんですよ」
「一人、呪い殺したい奴がいるんだけど」
「穏やかではありませんねー」
「まあ、冗談だけどさ」
 でも本当に人形か何か渡されたら、『岡崎しねえええ!』と叫びながら釘を打つくらいはしたかもしれない。
「まったく、なんで坂上はあんな奴を…」
 コーヒーをすすりながら同じ愚痴を繰り返す僕に、宮沢さんは相変わらずにこやかに言った。
「本当に、坂上さんのことが好きなんですねぇ」
 危うくコーヒーを吹き出しかける。
「…そういうこと、さらりと言わないでくれる?」
「あはは。気をつけます」
「断っておくけど、好きだの嫌いだの低レベルの話じゃないんだよ。ただ坂上ならもっと高みへ行けると…」
 …こう言うと『それは勝手な理想を押しつけているだけだ』と思われそうではある。実際多少は自覚している。
 でも、あいつにそれだけの素質があるのは本当だから…。
「…坂上ってさ」
「はい」
「色に例えたら、何色だと思う?」
 ちょっと聞いてみたくなって、そんなことを口にする。
「それはやはり白…でしょうか。あの人は、純粋ですからね」
「だよな」
 彼女の目にも、そう写るようだった。裏表のない坂上は、誰の目にもその色に写るのかもしれない。
「それでは、わたしは何色だと思いますか?」
「宮沢さんが?」
「はい」
 いきなり返されて言葉に詰まる。眼前の、無垢に微笑む同級生は…
488白色光/白色料(8):05/02/25 00:48:17 ID:/5ttTS+F0
「やっぱり白…かなぁ」
 我ながらイメージが貧困のような気もするが、それ以外に思いつかない。
「あはは。さすがにそれは思い違いですよ」
「なんで?」
「だってわたしなんかが、坂上さんと同じ色のわけがないじゃないですか」
 謙遜、坂上風に言えば卑下なのだろうが、まあ言われてみれば、この二人はあらゆる面で対照的だ。
 坂上は剛で宮沢さんは柔。
 坂上は何でも正直に、自分の思うところへ突き進んで。宮沢さんは――。
「宮沢さんは――いつもそうして笑ってるんだな」
「はい?」
 唐突に妙なことを言われても、彼女はやはり微笑んでいた。
「同じクラスになって二年目だけど、君が怒鳴ったり、苛ついたりしているところと見たことがない」
「そう…ですね。そうかもしれません」
 生来のんびり屋ですからね、と言う宮沢さんの笑顔は、もうそれで固定されてしまっているようだった。
 何故だか少しだけむかむかする。
 この人は周りを助けてばかりで、誰かに助けを求めることはあるんだろうか。
(しばらく前に兄を失ったというのは、噂で聞いているが…)
「それで、これからどうするんですか?」
 話を逸らすように、宮沢さんはそう尋ねてきた。
「どうと言っても…どうにも」
「その岡崎さんのことを認めてあげる、という道もありますけど」
「それはない」
「あはは…。言い切っちゃうんですね」
 とはいえ、こうして愚痴るばかりなのも情けない。
 僕にできることといったら…
「坂上さんなら、真剣な気持ちは真剣に受け止めてくれると思いますよ」
 見透かされたようにそう言われた。
「…かもね」
 相手の欲しい言葉を言ってくれる。
 結局、宮沢さんはどこまでもそういう人なのかもしれなかった。
489白色光/白色料(9):05/02/25 00:49:16 ID:/5ttTS+F0
 放課後の生徒会室。
 役員たちが帰った後、坂上と二人きりになるのは簡単だった。いつもこいつは、最後まで残って仕事をしていくからだ。
 夕陽の中で、赤く染まろうと坂上は坂上であり、その存在感は確として揺るがない。
「うん、これで準備は終わりだな。そろそろ帰るか」
「ああ。ところで坂上――」
「うん?」
 実を言えば、あの日宮沢さんと話してから三日が経っていた。
 岡崎にはあれだけ言いたい放題言えたのに、坂上には言えないとは情けない。だから今日こそはと決意してきた。
 …これでまた、彼女に嫌われるとしても。
「もう、あの男のことは忘れろ」

 坂上は黙って、真っ直ぐに僕の目を見ていた。
 気圧されそうになりながら、必死で用意してきた言葉を続ける。
「あの岡崎とかいう最低男が、お前のために何か努力をしたか? お前が想ってるほどあいつはお前を想ってるのか? そう仕向けたのは僕だけど、でもその程度にしか想ってなかったから、あの男は逃げ出したんじゃないか――」
 なのに今のお前はまだあいつを想ってて、そんなのあまりにも報われない。
 …それは余計だと思ったから、口にはしなかったけど。
「もう、あんな奴のことなんか気にするな。お前にはいくらでも輝く世界がある。それに比べれば、あの男は単なる汚点だ。あんな奴、お前の好意を受ける資格なんかないんだ…!」

 坂上は――
 微笑んでいた。
「お前は本当にいい奴だな」
 開いた口が塞がらなかった。
 嫌われるのを覚悟して言ったのに、
「いつもそうやって、私のことを真剣に気にかけてくれる。お前にとっては一文の得にもならないのにな」
「い、いや――それは」
 真面目に言われて、気恥ずかしさがこみ上げてくる。僕こそ、そんな風に言ってもらう資格はあるのか。
 でも坂上は坂上で…
 陽が落ちていく中でも、その色は変わらないまま一点の染みもなかった。
「だから私も、せめて正直に答えようと思う。嫌だ。絶対に忘れない」
490白色光/白色料(10):05/02/25 00:50:17 ID:/5ttTS+F0
「あーゆー奴だよ、あいつはなっ!」
 静かな資料室は、僕のせいで最近騒々しくなってばかりだ。
「結局僕なんかが何を言ったって、あいつは生き方を変えたりしないんだ。全く強情で、一途で、前しか見ないんだから…」
 苦笑する宮沢さんの前で愚痴りながらも、どこかこの結果を予想していたような気もする。
 坂上の強さは、僕が一番よく知っていたのだ。
 強烈な白色光に、多少の色を加えたところで意味はないって。
 だから…
 だからあいつなら、あの岡崎とかいう駄目男すら、いつかは更正させてしまうのではないだろうか。
「…まあ、とりあえず僕も気が済んだよ」
「それなら良かったです」
「色々とありがとう。もうここへ来ることはないと思う」
「そうおっしゃらず、また気が向いたら来てくださいね」
 気が向いたらね、と答えはしたが、そんな時が来ないのは自分でも分かっていた。
 部屋を出ていこうとして、出口の所で振り返る。
「宮沢さんの色は、やっぱり白だと思うよ」
「こんなにも坂上さんと違うのに?」
「白にも2種類あるんだ。色光の白と、色料の白」
 それだけで、宮沢さんは十分理解したようだった。
 色料の白。それは全ての波長の光を反射するということ。
 誰にでも優しく微笑み、手を差し伸べ、望む答えを与えて…
 けれどその内面には、決して光は届かない。その前に反射してしまう。
「いつか、僕なんかよりもっと強い光が当たるといいね」
「そうですね」
 最後に微笑む宮沢さんは、やっぱり完全な白色に見えた。
491白色光/白色料(11):05/02/25 00:51:17 ID:/5ttTS+F0
*  *  *


 彼が来なくなってからも、わたしの毎日は変わらなかった。
 資料室で一人待ち、たまに来る客には飲み物を出して、話を聞く。
 みんなが喜んでくれる限り、この毎日は変わらない、変わらなくていいけど…
「たのもう!」
 いきなりそんな、場違いの声とともに彼女が現れたのは、そろそろ夏が始まる頃だった。
 しかも威勢良く来た割に、入口のところで逡巡している。
「え、ええと…。入ってもいいだろうか」
「はい、もちろん大歓迎ですよ。いらっしゃい、坂上さん」
 立ち上がり、椅子を引いて招き入れる。
「来てくれて嬉しいです」
「あ、ああ。本当は前から来たいと思ってたんだ。…でも、宮沢さんは私の過去のことを知ってるから」
「人づてですよ」
「それでもだ」
 彼女の顔が少し陰る。この人にも色々あったのだ。最初から純粋な白色だったわけじゃない。
「でも、来てくれましたね」
「そうだな…。自分が傷つくのを承知で、私に直言してくれた奴がいたんだ」
 わたしには少しだけ、心当たりがあった。
「言った内容はともかく、その勇気は見習いたかった。だから私も、もう逃げるのはやめようと思う。宮沢さん、実はっ!」
「は、はい」
 テーブルに身を乗り出して、ずいと顔を近づけた坂上さんは…
492白色光/白色料(12):05/02/25 00:52:15 ID:/5ttTS+F0
「その…宮沢さんはとても女の子らしいから、内心密かに憧れていたんだ。こんな私で良ければ、友達になってもらえないだろうか!」
 そう一気に言って、私は目をぱちくりして、そして思わず吹き出してしまった。
「笑うことないじゃないか…」
「ご、ごめんなさい。いえ、おかしくて笑ったわけじゃないんです。ただ坂上さんは、どこまでも真っ直ぐなんだなぁって」
 色光の白。本当、彼の言うとおり、この人は光そのものだ。
 こんな風な笑い方は、兄を失って以来では初めてかもしれない。
 この人なら、わたしを照らしてくれるのかもしれない。
「喜んで、坂上さん。どうか、わたしと友達になってください」
 破顔する彼女と握手した。
 もうすぐ夏が来て、世界の色彩が最もはっきりする頃に、わたしも少し変わるかもしれない。
493 ◆FHrl.Kwpsk :05/02/25 00:53:26 ID:/5ttTS+F0
以上です。
>>481-492 「白色光/白色料」
494 ◆kbmjpPvk3w :05/02/25 03:28:35 ID:sR5OULMT0
0はさすがに、と久しぶりにキーボードに向かってみました。
誰彼で、『ある暑い夏の日に』
3レス程度かと。
495ある暑い夏の日に(1) ◆kbmjpPvk3w :05/02/25 03:29:39 ID:sR5OULMT0
 じりじりと照りつける太陽の下、磯の水溜りに身をひたしながら老人と若者は過ごしていた。
「まだまだ夏は始まったばかりだというのに、今年は暑いなあ。」
「本当、うんざりしますね。まあ、そのおかげで食事が美味しくなるんですけど。」
 穏やかな夏の日。これからさらに暑さが増していく昼前の磯は、波の音が聞こえるのみで、ゆったりとしている。
「いやいや、そう言ってばかりもいられないぞ。この夏もまだまだこれからだ。私が若い頃にも一度、今年のように
 どうしようもなく暑い年があってね。その年は大変だった。あまりの暑さに磯の青海苔や海草はみな焼けてしまっ
 てね。食べていくのさえも大変だったよ、あの年は。今の季節からこの暑さというんじゃ、今年がそうなるんじゃ
 ないかと不安になってしまう。」
「はあ、そんな年があったんですか。私はそういう経験をしたことがありませんから、よくわかりませんけど。」
「何にせよ、無事にこの夏が終わってくれるといいな。」
「何を言ってるんですか。夏は始まったばかりだ、とさっき自分でおっしゃったばかりじゃないですか。」
「まあ、な……。」
 雑談を楽しみながら、二人はゆっくりと食事を口にする。ぎらつく太陽の下で味わうそれは、今が夏であることを
なお一層感じさせる、爽やかな味わいだった。
「……その年は本当に暑くてねえ。それだけじゃなく、嫌な年だった。いや、何があった、というわけでもないんだ
 よ。ただその夏は、嫌な感じのする奴がこの辺りをうろついていてね。思い出すだけで吐き気がするような、ピリ
 ピリした雰囲気がこの一体を覆っていた。」
「はあ……。」
「……そろそろ私は日陰に入ることにするよ。これ以上潮が引いたら、私まで干上がっちまうからね。」
「そうですか。私はここに居ますよ。また潮が満ちてきたら、お話を聞かせてくださいね。」
「ああ。まあ、嫌な感じがしたら、じっとしていることだよ。私らに出来ることなんて、それくらいだからな。」
496ある暑い夏の日に(2) ◆kbmjpPvk3w :05/02/25 03:31:00 ID:sR5OULMT0

 老人が去り、一際増した静けさの中、波の音と自分の食事の音だけが響く。
「嫌な感じ、か。」
 実感は湧かないが、自分よりもずっと経験が豊富な老人がわざわざ言うのだから、何かあるのだろう。でも、ただ
暑いというだけでそうそう異変が起こるものだろうか。去年との違いといえば、多少暑いことくらい。そんなに気に
しなければならないようなことなのだろうか。食事が満足に取れなくなるかもしれない、ということは気になるが。
まあ、考えても仕方ない。なるようになるだろう。
 ひとしきり考えを巡らせた後、若者は食事に集中することにした。

 ――その感覚は、突然に来た。
 チリチリと神経を焼かれるような感覚。敵ににらまれたときなどとは違う、しかし致命的な何かをもたらしそうなも
の。どこから見られているのかはわからない、だが確実に自分を視界に捕らえ、舐めるように見つめられているとしか
思えない。
 それまで口にしていた食事の味など、一瞬でわからなくなった。
『嫌な感じ』
 老人の言葉が思い出される。今ならわかる。これこそが、老人の言っていた『嫌な感じ』というものだろう。
 ただ、得体の知れない恐怖だけが身体を支配した。身をすくませ、ただただその『嫌な感じ』が通り過ぎてくれるこ
とを祈った。
497ある暑い夏の日に(3) ◆kbmjpPvk3w :05/02/25 03:32:29 ID:sR5OULMT0

「あ〜っ!みっけ〜っ!!」
「ほんとだ〜っ!」
 磯に月代と夕霧の声が響いた。
「でも小さいのだったよ。」
「どうやって見つけたんですか?」
 そうは言いながらも、夕霧の手にはしっかりとあめふらしが乗せられている。
「……勘だ。」
「へえ、凄いね蝉丸!!」
「やっぱり蝉丸さんも、子供の頃はあめふらしを触るのが好きだったんですか?」
「そんなのが好きなの、夕ちゃんだけだよ〜。」
「そうかなあ……。」
「ねえ蝉丸、次はどの潮溜まりに居そう?」
「そうだな……」
 夕霧があめふらしを潮溜まりに返すと、三人は次のあめふらしを求めて歩き去っていった。

 若者はただただ呆然としていた。
 一体、あの感覚は何だったのだろうか。わからない。しかし、確かに見られていると感じたし、実際にその直後に人
に見つかった。カサゴににらまれてすくみあがった時のことなど比ではないほどに、恐怖を感じた。生命の危機とはま
た違う、それどころかそれを上回るほどのものだった。
 今は、その感覚を直接感じることはない。しかし、既に心にはしっかりと刻み込まれてしまっている。
 暑い、というだけで思い出してしまうと言っていた老人の言葉。きっと老人も同じような感覚を味わい、そして忘れ
ることが出来なくなってしまったのだろう。心を捉え、二度と放すまいとするあの恐怖を。
 無意識のうちに身を守ろうと出した紫色の煙幕が揺れる潮溜まりの中、若者は思った。自分は一生、この感覚を忘れ
ることはできないのだろう、と。そして老人のように、暑さを感じるたびに思い出さずにはいられないのだろう、と。

 夕暮れ。
 再び潮が満ちてきている。
 潮溜まりの煙幕は既に波に洗い流され、澄んだ水に戻っている。
 しかし若者の心は紫色によどんだまま、なかなか清澄にはならなかった。
498ある暑い夏の日に(3) ◆kbmjpPvk3w :05/02/25 03:33:22 ID:sR5OULMT0
>>495-497以上です。
お目汚し、失礼しました。
499 ◆xcVxhFZH4I :05/02/25 06:35:57 ID:nbyt2IQb0
2レスほど投下します。
ONEで、『みさきと世界と色』です。
500みさきと世界と色(1):05/02/25 06:37:44 ID:nbyt2IQb0
今日の浩平君は、いつもの明るい浩平君とは違っていたと思う。

「みさき先輩はさ……っと、ごめん、やっぱりなんでもないよ」

放課後の屋上で突然こんなことを男の子に言われて、気にならないわけないよね。

「うー、浩平君のいじわる。そんなこと言われるとかえって気になるんだよ」
「いや、言いかけて、悪いなぁと思ってさ。ホント、なんでもないんだ」

浩平君がこんな風に戸惑うのは珍しい。

「浩平君ウソついてるよね。今日はカレー屋さんでご馳走してくれるのかな?」
「うっ、いや、その……」
「私が本気を出せば、お店買い取ることになっちゃうかもよ?」
「そ、それは…でも……」

あれ。冗談も軽く返されると思ったのに。
さすがの私でも心配しちゃうよ?

「何言っても怒らないから、何でも言って欲しいんだよ」

浩平君が悩むなんて珍しいから、ちょっとお姉さんぶっちゃったりして。
501みさきと世界と色(2):05/02/25 06:38:43 ID:nbyt2IQb0
「うんと、その……みさき先輩の世界には色があるのかなって、ふと思ったんだ」
「色?」

よくわからなくて、ただ同じ言葉を返しただけに。

「あ、いや、先輩は目がその、見えないってことはさ…ずっと真っ暗なのかなって思ってさ。やっぱそれってすごく寂しいだろうなって。つい聞いてみたくなっちゃったんだけど……ホントごめん。気分悪くしたかな」

あぁ、そういうことか。てっきり浩平君自身のことで悩んでると思ったのに。私のことで悩んでくれてたんだね。

「ううん、心配してくれてありがとう、浩平君。うん、確かに真っ暗で見えないし、やっぱり学校の外を歩くのは怖いんだけどね。そのかわり、ちゃんと感じることはできるんだよ」

こんな風に浩平君が気遣ってくれるのが嬉しくて、私は少し感傷的になったのかもしれない。

「たとえばほら」

そう言って浩平君の頬に触れる。

「こうすれば、浩平君を感じることができるんだよっ」
「んっ」

浩平君の息遣いを追って、唇に軽くキスをした。
502みさきと世界と色(3):05/02/25 06:39:43 ID:nbyt2IQb0
「それにね、私がいつも屋上(ここ)に来てるのは」
「夕焼け?」

私が言い切るより先に浩平君が繋いだ。

「うん、その通りだよ。こうして夕方、屋上に来るとね、いつもあっちからの風を受けて、むこうからの光を感じられる」

何年も前から変わらない情景。この場所は夕方になると必ず南から風が吹いてくるということを、昔先生から聞いたことがある。

「そうしてると思い出せるの。何年も前に見た、綺麗な夕焼けがね。そのときだけは、私の真っ暗な世界が、真っ赤な世界に変わって、本当に綺麗な赤を感じることができるんだよ」

いつもは心細くて仕方ない世界だけど、その分だけ夕焼けの美しさを私は知っていると思う。

「でも、私が知ってる世界は本当に少ないんだよね。きっと、浩平君の世界の半分の半分の半分も知らないんだと思う」
「……みさき先輩」
「でも、これから浩平君が教えてくれるんだよね」

ぎゅ。
返事の代わりに、浩平君は私の手を強く握ってきた。
これからの世界に少しの不安と、たくさんの希望を渡してもらったみたいだった。
503 ◆xcVxhFZH4I :05/02/25 06:41:04 ID:nbyt2IQb0
>>500-502
以上、3レス分でした。
504 ◆77UN7v/weY :05/02/25 07:43:41 ID:fLBdHDhy0
3レスほど投下します。
雫で「ぬくもり」です。
505「ぬくもり」1:05/02/25 07:45:33 ID:fLBdHDhy0

 もしかして。
 もしかして。
 …もしかしたら。

 ドアノブを握り締める右手に自然と力が籠もる。
 トク、トク、トク。
 心臓の鼓動が身体に響く。
 少し気を抜いたら、空へと浮かび上がってしまいそうな昂揚感。
 ここにくる時の僕はいつもこうだ。
 気が付いたら、それを期待してしまっている。
 
 汗で滑るノブをしっかりと掴んで、僕は重い扉を押した。
 ギギギ…と重苦しい音を立ててドアが開くのに合わせて、
 初春の冷たい風が踊り場に入り込んできた。
 と、咄嗟に目をつむった。目の中にゴミが入ったらしい。
 僕はそのままドアを押しやって体を外にすべらせた。

506「ぬくもり」2:05/02/25 07:51:56 ID:digH/fs/0

 心地いい風が吹いていた。
 あと少しすれば、この屋上も桜の匂いでいっぱいになるだろう。
 その頃にまた来たら、きっと確めてみようと思う。
 僕はそっと目を開けた。
 がらんと広がる屋上の空間は網目が斜めに張り巡らされたフェンスで囲まれていて、
 その隅っこのさらにてっぺんに、古ぼけたアンテナが一つ寂しそうに立っていた。
 いつもと同じ、見慣れた光景だった。
 安心したのとがっかりしたのが一緒に僕のもとにやってきて、なんだか笑ってしまった。
 やりきれないものが胸の中からこみ上げて、おかしくもないのに口元が緩んでしまう。
 そして、あんまり汚れてない場所を探して適当に寝転がる。
 流れていく雲をのんびりと眺めて、気が付いたらため息をついている。

 それもいつもと同じだった。
507「ぬくもり」3:05/02/25 07:52:50 ID:digH/fs/0

 あれからどれくらい経ったんだろう。
 もう何年も昔のような気がするし、昨日起こった事のような気もする。
 だけど僕は、絶対に忘れない。
 瑠璃子さんが残した電波のかけらをここに来ればすぐに感じることができる。
 そしてそれは、僕に僕のぬくもりを与えてくれる。
 独りで生きている限り感じることができなかったぬくもりを。


 僕が見ているのと同じように、雲ものんびりと流れている。
 背中が少し冷たいけれど、あたたかい気持ちに包まれている。
 二人の電波が絡みあって、あの夜に似た空間を作るから。
 だから、少し寂しいけれど、寒くはないんだ。

 ――ねえ、見えるかな?瑠璃子さん。

 ――空が青いよ。

 ――ほら、こんなに。 

508 ◆77UN7v/weY :05/02/25 07:53:45 ID:digH/fs/0
>>505-507
以上です。ありがとうございます。
509 ◆2tK.Ocgon2 :05/02/25 08:09:40 ID:SyOmsMrH0
延長希望の方はいらっしゃいますか〜
510名無しさんだよもん:05/02/25 08:13:14 ID:PMa3gA570
>>509
今から4レス分お願いします。
AIRで『初夏』です。
511初夏(1/4):05/02/25 08:14:24 ID:PMa3gA570
 夏の初め社中の湿度は本番には及ばぬものの蒸し暑く、只でさえ気難しい姫君の機嫌は益々悪くなるばかり。
 現なりし今も高貴なる身分は忘却の彼方、肌着以外全て脱ぎ捨てられる御姿を嗚呼女房が目にすれば、
 忽ち社殿は喧騒豊かになること請け合いである。
 しかし、そこはそれ姫君の知恵も然したるもの。衝立屏風で御姿を隠し畳に抱擁する始末、女房が世話役に入りし折も、
「裏葉以外は通るでない」 
 などと申されては御殿女中を困らせている。
 年長の女房も祟りを恐れる余り進言すること在らず。姫君の我侭に拍車が掛かり、
 読み書きすらも未だたどたどしく、諳んじることなかれ。
「ああ、裏葉殿。裏葉殿」
 弱り果てた女房は社中を隈なく探し件の女官を見つけ出す。
 さて、この裏葉と申すうら若き女、社殿の中でも新参者。
 高潔な翼人神奈備の社殿ではあるが、所詮は辺境の土地。手柄の数よりも釜の数である。
 どのような鳴り物入りであろうと、斯様な者が順序なく御側に仕えられるほど世の中上手く働かないのが常時であるが、
 斯く斯く云々、成る程成る程、お任せくださいと裏葉は笑顔で会釈する。
 僅か半年足らずで直に神奈備命の世話を許される功績、大した女官と言う他なかった。
「裏葉殿、してその手に持つものは?」
「万葉集全二十巻でございます。神奈様のお心を豊かに出来まする一品なれば」
 と、女房の疑問であった何処で如何様に手に入れたかは不確かなまま、踵を返した。
「御待ちくださいませ、神奈様。裏葉はすぐに参ります」
 上機嫌で鴬張りの廊下を――何故か音も立てず、裏葉は歩いていった。
512初夏(2/4):05/02/25 08:15:28 ID:PMa3gA570
 寝所は見るからに混沌、やんごとなき身分の御方にあるまじき姿に裏葉は眩暈を覚えた。
 衣服を畳む事を知らずは姫君の所業、これ仕方なしと裏葉も考えるのだが、あまりの体たらくに「嗚呼」と声を上げ、
 床に倒れるのは致し方なしこと。倒れた拍子に万葉集の巻き物が姫君の頭に落ちるもまた肝要。
「あらあら。まあまあ。どうしましょう、どうしましょう」
 むくりと起き上がる姫君だったが、
「この無礼ものが……ぬぐぐ!」
 怒声を上げる間もなく、裏葉に抱き込められる。
「ああ、神奈様、神奈様、しっかりしてくださいませ」
「は、はな、せ……無礼……もの、息が……出来ぬ、わ……」
 しかしここぞとばかりに裏葉は露になった姫君の肌に手を這わし大喜び、否、大慌て。
 姫君は翼人。背には純白の羽が携えられている。これこそ神の使いの証であり、
 社殿の者が畏怖する対象であったが、裏葉に掛かれば無響鈴や巫女装束と何ら変わりない、
 姫君を彩る装飾品のひとつに過ぎなかった。可愛い可愛い、と母のように姫君を抱き締める。
「く、苦しいと言っておるであろう!」
 裏葉をぐいっと押し退けて姫君が叱咤した。
 よよよ、と白々しく目尻に着物の袖を寄せて泣き崩れるが、
 ここで仏心を出し隙を見せるとまた抱き締めてくることは姫君もお見通しである。
「ええい。気に喰わんのは余の格好であるか。裏葉はもう少し話の分かるやつと思っていたぞ」
「お願いですから神奈様、寝所とは言え破廉恥な真似はお止めくださいませ」
「……裏葉にだけは言われたくないのう。して」
 眼を床に散らばった巻物に合わせて、
「この不届きな巻物は何だ? 釜戸に放るにしても風呂の焚きつけにするにしても、ここに置くでない」
「万葉集、一具にございます。神奈様のご機嫌麗しければ、手習い事などひとつ」
「むっ。確かに和歌のひとつも詠めなければ、恥であるのう」
 裏葉は目を輝かせて、
「神奈様も同じ心持ちとはこの裏葉感激の至り。時が惜しいとはこのことです」
「う、うむ。しかし、何だか嫌な予感がするぞ……」
 姫君の予感は的中。
 三日後の朝餉が雅な香りに包まれることになるのを裏葉は知る由もなかった。 
513初夏(3/4):05/02/25 08:17:18 ID:PMa3gA570
 後日、懲りもせず古今和歌集を手配しようとした裏葉を見つけ、
 姫君は大層取り乱し、「裏葉にだけは習いとうない」と啖呵を切るにまで至った。
 差しの裏葉も流石に無理強いすること叶わず、今回の習い事はご破算。
 泣く泣く姫君に白旗を上げることになる。
 とは言え、姫君の見識を広めることを裏葉は諦めた訳ではなかった。
 神奈様は飽きが来るのが早い、と見極めた裏葉は読み書きよりも先に、
 母が幼子に物語を聞かせるように、為るべく姫君の興味そそりそうな事柄を話し聞かせることにした。
「海? 海とは何だ?」
「とてもとても大きな水溜りでございます」
「水溜り? 森の奥の湖よりも広いのか?」
「はい、比べるのならば、この空と比較しても何ら遜色はありません」
「なんと。空と同等の水溜まりだと? そのようなでかいものがあるとは。世の中は広いのう」
 裏葉の狙いは遠からず。
 社殿の中が全てであった姫君の白亜の心を豊かにすることが徐々に出来ている。
 後々、今昔物語、宇治拾遺物語を語り聞かせ、源氏物語に移行し和歌の素晴らしさを語り、
 男女のいろはを教えるのはさぞ趣深いことだろうと微笑する。
「海か、一度はこの目にしたいものだ」
 その姫君の一言で夢想していた裏葉の意識が戻る。
 思慮が欠けていたのではないか、と裏葉は胸を痛ませた。
 使える主は、まさに籠の中の鳥。自由に飛び立つための翼を広げることも出来ぬ箱庭にある。
 海や富士を語り聞かせたところで見る術などない。
 でも、いやしかし、と裏葉は思案する。
『――神奈様が望むのならっ!』
 だが、言葉にすることは躊躇われた。今、自身に姫君を連れ出すこと叶わないことくらいは理解している。
 足は達者との自信はあるが、姫君の眼は海よりも遠くを見ているのだ。
 海。海とは母を指す示す言葉である。だから。
514初夏(4/4):05/02/25 08:21:06 ID:PMa3gA570
「……今のは戯言だ。聞き流してくれ」
「神奈様」
 悲哀の情に溢れた御姿を見ることは憚れる。
「大丈夫でございます」
「ふ。何がだ? まさか社から出ることか? 悪い冗談であるぞ」
「無論、冗談などではありませぬ」
 言うが早いか裏葉は姫君の横にそそくさと寄り尻を撫でる。
 声に成らぬ声音を上げて姫君は裏葉を睨み付けた。
「あらあら。矢張り、可愛いお尻ですね」
「な、何をするか!」
「お尻を撫でたのです」
「事も無げに言うな。何故にそのような無礼を働いたのかと訊いておる!」
「可愛らしいからです」
 裏葉は迷い無き眼で真摯に主に向けて言葉した。
「神奈様のような可愛らしい女子を、社殿に閉じ込めて置くような殿方などおりますまい」
「……それと尻を撫でることがどう繋がる?」
「無論、何時の日か姫を攫いに来る勇ましい殿方が社殿に訪れるということ」
「……は?」
「古今東西、美しい姫君を救いに来る殿方の物語は山ほどありますわ、神奈様」
 夢物語は必ずしもそうではない。
 平氏に打ち勝つ源氏の例もある。世の中、何が起きるか分からぬから面白いのだ。
 たったひとりの女子が幸せになることに不都合などあるわけがない。
 例えそれが翼人と呼ばれるものであったとしても。
「ふん、余を救いに来るうつけ者など居はしまいよ……」
 いやいやそれこそ何を言っているのだ、と裏葉は口を尖らせて言った。
「神奈様、ご存じないのですか?」

“可愛い可愛い神奈様、英雄は色好むものなのですよ?”


 ―終―
515名無しさんだよもん:05/02/25 08:22:04 ID:PMa3gA570
お待たせしました。すみません。

>>511-514
の4レス以上でした。

516 ◆2tK.Ocgon2 :05/02/25 08:23:37 ID:SyOmsMrH0
>>515
受け付けました〜
他に延長希望の方はいらっしゃいますか?
517 ◆2tK.Ocgon2 :05/02/25 08:39:25 ID:SyOmsMrH0
いらっしゃらないようなので終了します。
では、終了宣言〜
518 ◆2tK.Ocgon2 :05/02/25 08:41:20 ID:SyOmsMrH0
【告知】

ただ今をもって、投稿期間を終了させていただきます。
参加された書き手の皆様、どうもご苦労さまでした。

それでは、これから感想期間に入ります。
投稿された SS について感想、討論などをご自由に行ってください。
期限は 3 月 6 日の午前 8:00 までとさせていただきます。

以下が、今回投稿された作品一覧です。

>>481-492 白色光/白色料(CLANNAD)
>>495-497 ある暑い夏の日に(誰彼)
>>500-502 みさきと世界と色(ONE)
>>505-507 ぬくもり(雫)
>>511-514 初夏(AIR)

なお、今回投稿された作品一覧は
http://sscompe.at.infoseek.co.jp/
http://sscompe.at.infoseek.co.jp/ss/33/index.html
から見ることができる予定です。今日中には何とか。

*次回のテーマは『趣味』で、開催は 3 月上旬になる予定です。
*早くに書き始めてもらっても構いませんが、投稿は次回の募集開始までお待ちください。
519名無しさんだよもん:05/02/25 23:22:59 ID:LgSBQZMG0
一時はどうなることかと。
毎度はらはらさせるスレだなぁ。
520名無しさんだよもん:05/03/01 16:47:19 ID:IHiwuFNr0
感想いきますー。

○白色光/白色料
 この作品、すごく好き。
 『色』という題材を目一杯使って構成され、それでも違和感なく仕上がっている。テーマの昇華が非常に上手いと思う。
 原作で不満に感じた岡崎のヘタレっぷりをぶつけてくれたのが個人的に嬉しい所。生徒会の彼がいい動きしてる。
 個人的な話を続けると、有紀寧が原作より萌えたw

○ある暑い夏の日に
 原作やってなくて、最後の方の会話が誰の台詞かわからず…。
 誰彼のプロローグみたいな印象を受けた。
 ただ、全体的に色というテーマにはなっていないかと。
 思い浮かぶ雰囲気は好きなのだが…。

○みさきと世界と色
 浩平が暗い、というかどこか幼く見えるのは、みさき先輩の明るさとお姉さんっぽさの現れなのか…。
 それにしても浩平どうしちゃったんだ、という感じ。
 テーマがぼかされていて、最後のシーンは「色」からは外れている。
 ほんわかしたみさき先輩は好きなのだが…。

○ぬくもり
 この流れでは空の青さに説得力がないし、無理矢理「色」に結びつけた感は否めない。
 状況描写は好きなのだが…。

○初夏
 文体と相まって雰囲気が非常に好み。
 物語の流れとしても自然で、テーマの落とし方もいい。

全体的にやはり『色』に困った様子。
そんな中で「白色光/白色料」と「初夏」がいい味を出していたように思えるが、前者の方がより『色』っぽかったので、こちらを最優秀に推します。
521名無しさんだよもん:05/03/05 18:29:29 ID:lxMFHWjs0
感想〜。「雫」「AIR」以外は未プレイなり。

「白色光/白色料」
 最初タイトルを見たときは?だったけど、なるほどヒロインたちのことかー。
 今回難しいテーマだったと思うけど、このやり方にはとても感心した。
 登場人物について一通りの説明を付してくれてるのも、原作未プレイな自分にはうれしい。
 恋愛ものだと思わせつつ、女の友情話に落ちるところがいかにも鍵っぽいと思った(w。
 今回の最優秀に推薦します。

「ある暑い夏の日に」
 これは原作を知らないと辛い。
 もう少し説明があっても良かったかなぁ。

「みさきと世界と色」
 みさき先輩はお姉さん属性だったのかーー!?
 原作知らないからなんとも言えないけれど、これはこれで良い。と思う。

「ぬくもり」
 典型的な雰囲気重視SS……こういうの好きだ。
 長さもこのくらいが丁度いいかと。
 屋上で空を見るということに、その空がとても青いということに、特別な感慨を覚える自分は、未だに雫FANなのだなぁと思った。
 瑠璃子さんラヴ。

「初夏」
 本編を踏まえた展開で誰にとっても安心して読める内容と思う。
 ヒロインの描写もそれっぽく、なんというか、初めてsummer編をプレイしたときの雰囲気を懐かしく思い出した。
 やっぱりこの二人は良いコンビだ。
 1つ欠点を挙げるとすれば……
 上の人の感想とは逆に、自分は読みにくい文章だと思った。
 最初読んだときは、これは果たして日本語なのだろうか?とさえ(w
 確かに雰囲気は出てるけど……う〜ん。
522名無しさんだよもん:05/03/05 18:30:54 ID:lxMFHWjs0
以上です。最優秀は「白色光〜」で。
最終日なんでageてみる。
523名無しさんだよもん:05/03/06 01:06:04 ID:W4pB8SdRO
わ、最終日なのにこんなに感想少ないと職人さん達は張り合いがないのでは…と余計な心配をしてしまう。
それともこれからドカンと来るのかな?では、及ばずながら自分も協力しますね。
えっと最初に言っておきますと、クラナドと誰彼はやっていないので、白色光/白色料とある暑い夏の日にの二つは読んでいません(ルール違反なら謝ります)原作やったらよみますので…。
みさきと世界と色
全体的に纏まっている感があって良かったです。お姉さんチックな先輩は○。先輩の心の中の夕焼けは綺麗なんだろうな…としみじみしました。
524名無しさんだよもん:05/03/06 01:08:13 ID:Pk8FENLL0
 感想の締め切りが今日という事に、ついさっき気がつきました。
 簡単ではありますが、感想を投下させて戴きます。


○白色光/白色料

 文章的には及第点。
 読みやすい………とは言わないけど、読みづらくはない。
 ただ、
>「? 別にいいけど」
 この表現は、ちょっと判りづらい。

 話としては、テーマに引きずられている印象を受ける。
 その割には、テーマを消化しきっていないような。
 ただ、起こっている日常を、実況放送しているようで、もう少し構想に
時間を掛けて見た方が良いと思う。


○ある暑い夏の日に

 テーマが薄い〜。
 前半部分だけ読むと、テーマが『海』か『夏』に思えてしまう。
 短い文章だけに、目立つんだよね。
 あと、作者がこの作品を通して何を言いたいのかが判りづらいかな。


○みさきと世界と色

 見えない色を想像させる。
 正直、意表を突かれた。
 短い文章にもかかわらず、序文から結末まで綺麗にまとまり、話の意味も深い。
 良作だと思う。
525名無しさんだよもん:05/03/06 01:13:11 ID:Pk8FENLL0
 感想の締め切りが今日という事に、ついさっき気がつきました。
 簡単ではありますが、感想を投下させて戴きます。


○白色光/白色料

 文章的には及第点。
 読みやすい………とは言わないけど、読みづらくはない。
 ただ、
>「? 別にいいけど」
 この表現は、ちょっと判りづらい。

 話としては、テーマに引きずられている印象を受ける。
 その割には、テーマを消化しきっていないような。
 ただ、起こっている日常を、実況放送しているようで、もう少し構想に
時間を掛けて見た方が良いと思う。


○ある暑い夏の日に

 テーマが薄い〜。
 前半部分だけ読むと、テーマが『海』か『夏』に思えてしまう。
 短い文章だけに、目立つんだよね。
 あと、作者がこの作品を通して何を言いたいのかが判りづらいかな。


○みさきと世界と色

 見えない色を想像させる。
 正直、意表を突かれた。
 短い文章にもかかわらず、序文から結末まで綺麗にまとまり、話の意味も深い。
 良作だと思う。
526名無しさんだよもん:05/03/06 01:14:21 ID:Pk8FENLL0
○ぬくもり

 今回のテーマは『雫』を題材にした話が多いと思っていました。
 私自身、時間がなくて書けなかったけど、『雫』の話が頭に浮かんでいました。
 空の青。
 雲の白。
 溶鉱炉のような夕日の赤。
 そして………瑠璃子さんの瞳の色。
 シーン毎に印象に残る色がとても多くて。

 ……さて、この話の感想ですが、一つ前の『みさきと世界と色』と話の雰囲気は
似ています。
 しかし、構成仕方はコチラの方が甘いかな。

>――空が青いよ。

 この文章は、話の中間くらいに持って来た方が良かったと思う。
 テーマは色なんだから。


○初夏

>“可愛い可愛い神奈様、英雄は色好むものなのですよ?”

 どこで、テーマが出てくるのかと思ったら、そこで落としますか(笑)
 まず、文章。上手いです。
 この手の時代小説物は、単語の一つ一つに気をつかう必要があり、
それを難なくこなしているところに文章力を感じます。
 話はというと…………。
 これ、もうちょっと短くても良いんじゃない(;´Д`)
 最後のオチが、オチだからねぇ。
527名無しさんだよもん:05/03/06 01:16:24 ID:Pk8FENLL0
○総評


 なんか最初の作品以外、
『投稿作品が少なそうなので、とりあえず書いてみました』
 的な印象をどれも受けるんですが(笑)
 やっぱり、テーマが漠然として書きづらかったでしょうか。

 最優秀作品 該当なし
 佳作『みさきと世界と色』


 書き手の皆様、今回もお疲れ様でした。
528名無しさんだよもん:05/03/06 01:18:09 ID:Pk8FENLL0
コピー、ミスった………_| ̄|○
529名無しさんだよもん:05/03/06 01:22:32 ID:i8lPyZgK0
蔵は遊んでません。よってその分の感想はパス。

>>495-497 ある暑い夏の日に(誰彼)
・」の直前に句点を添えるのは素人臭く見えるからやめたほうがいい。
 特殊なファンタジーや歴史小説ならその限りじゃないけど。
・食事の献立がわかれば読者はもっと楽しめただろう。
 旨そうな朝食が痕のシナリオに錦上花を添えていたように。
・たとえば磯を歩く凸と月代の素足のきめ細かさを描写すれば、
 短いレスの中で作品の印象が大幅に増えるだろう。
 ささいな創意工夫を加えることでジャンプアップするSSだったかな。

>>500-502 みさきと世界と色(ONE)
ちょっと悪名高いONE時代のいたる絵だが、立ち絵の豊富さなどはこれ以上の
作品をほとんど俺は知らない。たとえばみさき先輩の立ち絵は
・掌を後ろ腰に組んで背中を見せる構図。
・口許に手を当てて考え込んだりする構図。
・軽く胸を張ってにっこり笑ったりする構図。
・両腕を前にたらしてだらんと落ち込む構図。
・涙をぬぐう構図。
と基本パターンだけで5種類あり、それぞれに表情変化も猫の目だ。
それに比べて、このSSの先輩はどうもただ突っ立ってるだけって印象がある。
こんなの先輩じゃない、とONE現役信者として説教したくなる口を抑えられない。
530名無しさんだよもん:05/03/06 01:24:13 ID:i8lPyZgK0
>>505-507 ぬくもり(雫)
行間の空白のあけかたや風と雲の描写などに、こまやかな意思を感じる。
よく磨きあげられた小品、といえばいいのか。
……ぶっちゃけ、性欲を一度克服し電波の力を制御下に置くまでになった
トゥルーエンドの祐介に、「ぬくもり」というやや小市民的な関係性は似合わない気がするが。
でもまあ、そのあたりは雫という傑作への読者間の解釈の違いなのかもな。

>>511-514 初夏(AIR)
漢字が多すぎて読みにくい。ルビも振れず行間も狭い(ブラウザにもよるけど)2chでは、
書き手は本来の文体より、漢字の開きや改行を増量するのが原則だと思う。
内容もようするにコメディー風味なんだから、なおさら漢語の多用は適切でないのでは。

最優秀は該当作なし。
531名無しさんだよもん:05/03/06 01:32:40 ID:W4pB8SdRO
>>523の続き。
ぬくもり
雫ですか〜。なつかしいです。最初は色が出てこないなと思ってたんですが…空の青だったんですね。
ちと強引な気もしましたが、描写は良かったと思います。瑠璃子さんの居た屋上…せつない気持ちになりました。
初夏
やはり最初は文体に目がいきました。確かに雰囲気は良く出てますが読みにくい印象を与えてしまいますね…。自分は好きですが。
話は、二人の掛け合いが良かったです。ラストはやっぱ色と色気を掛けてるんですよね?なるほどと思いました。でも柳也には合わない様な気もしましたが…。
532名無しさんだよもん:05/03/06 01:44:34 ID:W4pB8SdRO
>>531の続き
長々とすいません。続き書いてる間に感想増えてて良かったです。
とりあえず全部読んでないので自分的最優秀作品は決められません…。
感想書くことが初めてなんで感想になって無かったらすいません。職人の皆さん、どうもお疲れさまでした。
533 ◆2tK.Ocgon2 :05/03/06 12:09:23 ID:ZWaznklh0
【告知】

ただ今より4時間ほど前をもちまして、感想期間を終了させていただきます。
投稿された書き手の皆さん、感想をつけてくださった読み手の皆さん、
そして生温かく見守ってくれていた ROM の皆さん、どうもご苦労様でした。

引き続きこのスレでは、今回の運営への意見、書き手の挨拶、
次々回のテーマの決定などを行いたいと思います。

上記のものやそれ以外にも意見が何かありましたら、書きこんでください。

※次回のテーマは『趣味』に決定しており、開催時期は 4 月上旬〜になる予定です。
※今回決めるのは次々回のテーマです。お間違いのないように。
534 ◆2tK.Ocgon2 :05/03/06 12:19:00 ID:ZWaznklh0
感想の中で、評価が高かった作品は以下のとおりです。

『白色光/白色料』 >>520 >>522

ということで、第三十三回の最優秀作品は『白色光/白色料』らしいです。
おめでとうございます。
535 ◆2tK.Ocgon2 :05/03/06 12:21:21 ID:ZWaznklh0
訂正。
>>533
>※次回のテーマは『趣味』に決定しており、開催時期は 4 月上旬〜になる予定です。
4 月上旬 → 3 月中旬
ですね。
536『ある暑い夏の日に』作者 ◆kbmjpPvk3w :05/03/06 14:55:47 ID:i0cgAD5h0
 どうも、作者挨拶……といいますか、謝罪を。
お目汚しと呼ぶにも値しないようなものを公表という
スレ内部のSSの質を低下させるような行為、
本当に申し訳ありませんでした。
 最終日0時ごろ、いまだに誰も投下していないのを見まして、
それから「いっそ『枯れ木も花の賑わい』で」とプロットを練り始めておよそ3時間(含ゲーム発掘・プレイ時間)。
最初に出てきた案をそのまま突貫で書き上げ、誤字・脱字チェックだけをして投稿する、という暴挙でした。
このスレはほぼ完全にROM、最後に書いたのは第十四回『風』の回というくらい久しぶりの文章書き。
当初参加する予定など全くありませんでしたが、やっつけで見苦しいものをお見せしたこと、
どうもすみませんでした。

 自身での講評。
 内容としては、誰彼のゲーム内二日目午前中のイベントをアメフラシ視点で。
蝉丸が調整も兼ねて、仙命樹の力で一歩も動くことなくアメフラシを探してみせる話です。
おそらくそれなりに強烈な気配を伴うんじゃないかなあ、と……。
説明不足のため、誰彼本編をやったことがない人には何がなにやら全くわかりませんね。
自身の創作における発想の貧困さから某板レビュ書きという安住の地を見つけて逃げ出していたとはいえ、
久しぶりでも必要最低限の「誰が読んでも理解できるだけの説明」はできたはずだ、と反省しきりです。
 加えて、テーマの扱いの軽さがまた、ひどいですね。
『色』と言われて最初に思い出したのが月代の「アメフラシは紫色の毒を出す」発言だったのですが、
アプローチの仕方にもっと別の方法があった、もっと『色』に意味を持たせられた、と悔いております。
時間を言い訳にするのが最も見苦しいのはわかっておりますが、
もっと前から参加することを念頭に入れ、準備しておけばよかった、と。
537『ある暑い夏の日に』作者 ◆kbmjpPvk3w :05/03/06 15:26:46 ID:i0cgAD5h0
 レス返し。
まずは、読んでいただいたことに対する感謝をまとめて済ませてしまう旨、事前にお断りさせていただきます。
私のような拙い文章を読み、かつ講評までしていただけたこと、ありがとうございます。
次回参加がいつになるかはわかりませんが、糧とさせていただきます。

>>520
 返す言葉もございません。
実際プロローグ的イベントそのままですし、『色』とは言いがたい内容ですし。
雰囲気だけでも楽しんでいただけたなら幸いです。
誰彼、今なら高くても二千円することはまずありませんし、
雰囲気と世界観・音楽・グラフィックはいいですからこれを機に!……と勧誘してみる(笑)

>>521
 くどくならない程度に説明を入れておかないと、未プレイの方には厳しいですね。
自分の中ではしっかり世界観が構築されているから、と説明を端折りすぎました。
申し訳ありません。

>>524
 描きたかったものは、原始的恐怖とでも言いますか。
己の表現力の拙さのみならず、描写そのものが薄いせいで全く描ききれていませんね。
もっと全体としての構成を練り直すだけの余地は十分以上にありましたね。
勉強して出直してきます。

>>529
 なぜ『――。」』となっているのか、私にもさっぱり理由がわかりません(汗)
普段だったらまずそういうことはしないのになあ。
食事の献立は……岩に生えた藻類だから、とあえて詳しい描写は省きましたが、
発想力を駆使すればなんらかのものを引き出せたのかもしれませんね。
「粗い」という言葉さえもおこがましいようなもので、どうもすみません。
もっと地力を磨いてきます。

拙い本文、見苦しい言い訳と、お目汚し失礼しました。
538 ◆77UN7v/weY :05/03/06 21:17:32 ID:DCdFJ2Ko0
どうも、「ぬくもり」を書いた者です。
「そういえば今日は締め切り日、今回はどのくらい来てるのかなぁ」と
軽い気持ちでこのスレを覗いてみたのが寝惚け眼の午前4時。
…よく間に合ったと思います。

作品の解説を。

「雫」の冒頭、祐介は繰り返しの日常に辟易して「色」を失いかけています。
目に映るすべてが灰色に塗られた世界の中で、彼は瑠璃子さんと出会いました。
そして…ここから先は本編をやっていない方のために伏せますが、
結果的に、彼は自分の世界に「色」を取り戻すことが出来ました。
今回の作品では、「彼が得たものと失ったものの対比」を表現しようと試みました。
その舞台には、彼と瑠璃子さんとが出会った屋上を選びました。
お楽しみ頂けたなら幸いです。

レス返しを。

>>520
祐介が「色」を取り戻したことについての説明が不足していたかもしれません。
なるべく説明的なものを省こうとした結果、こうなってしまいました。
次回は気を付けます。

>>521
瑠璃子さんは好きです。でも瑞穂はもっと好きd
539 ◆77UN7v/weY :05/03/06 21:19:14 ID:DCdFJ2Ko0

>>526
「雫」の中で数ある色の中から「空の青」を選んだのは、…ごめんなさい、理由はありませんw
もっと様々な「色」を作品の中に絡ませられれば良かったかもしれません。
また、
>この文章は、話の中間くらいに持って来た方が良かったと思う。
ということですが、最後まで話のサゲを判らせない構成を自分は好むので…
次回はそのような構成も考えてみたいと思います。ご指摘ありがとうございます。

>>530
「トゥルーエンド後の祐介は、どのような人間だろうか」というものがまず念頭にありました。
その問題に対する自分なりの解答がこの作品の祐介だと思っています。
落ち着いてしまったというか、優しくなったというか。
自分はそう考えました。

>>531
はい、みんなで切なくなりましょうw

また次の機会に、皆様に作品を提供できたら幸いです。
では失礼して、回線吊って首切ってきます。

540名無しさんだよもん:05/03/06 23:01:56 ID:Pk8FENLL0
_                             ||
\\                           ||
  \\                         ||
   \\     −−―――─――─────────…‥
     \\                          ||
      \\                       ∧||∧
        \ 〆> ∧_∧             (  ⌒ ヽ>>539
        ∠/⊂(∀’  )              ∪  ノ
            ヽ(イ`  )ゝ           ∪∪
             (_\ \
                (__)
541 ◆2tK.Ocgon2 :05/03/09 23:20:52 ID:oZg9rAOy0
業務連絡です。

>進行役の引継ぎをお願いしたい件について
前回先送りした問題ですが、どんなもんでしょう?
私としてはそろそろ何らかの結論を出したいところです。
とりあえず >>458 を再掲しておきますと、

>進行役のお仕事
1.期間の開始・終了を宣言
2.適宜告知age
3.投稿作品一覧を作る
4.最優秀選出
5.総括期間の司会
6.保管所の管理

手間がかかるのは、3番5番6番かと思います。
1番2番は、このスレの住人に代行してもらうこともできるし、
4番は手間かからないし。

全部の仕事を引き継いでいただけるならそれに越したことはありませんが、
一部のみを手伝っていただくということでも構いません(その場合残りの仕事は私がやります)ので……
引き受けて下さる方、いらっしゃいませんでしょうか?


>次々回テーマの提案を募集したい件について
こちらの提案もお待ちしています。
参考までに、前回までに提案されていた案は、
「島編」「星」「指」
あたりです。よろしくお願いします。
542名無しさんだよもん:05/03/10 02:03:36 ID:rUTYIj040
次々回は4月…新学期ということで、『新しい』というテーマはどう?
543名無しさんだよもん:05/03/10 03:23:00 ID:XEeu/Hgg0
誰も名乗り出る人がいない場合、今回で解散……ということも有り得るか?
544名無しさんだよもん:05/03/10 13:54:23 ID:rUTYIj040
最悪の場合…はね。
545 ◆FHrl.Kwpsk :05/03/10 16:56:46 ID:k751MQCz0
流れを遮ってすみません。「白色光/白色料」の作者です。
感想及び最優秀ありがとうございました。

>>520さん
朋也についてはアンチ岡崎スレを参考にしました(w。
ゆきねぇはテーマに合わせたのと、シナリオ前半で感じたイメージで
書いたのとで、シナリオ後半での描写とは多少変わってしまいましたが、
萌えていただけたなら良しということで。

>>521さん
小学生の頃に「空が青いのは空気が青い光を散乱するから」という理科の
プリントを読んだのがなぜか印象に残ってまして、物理方面の切り口に
してみました。
説明については実は意識していませんでしたが、怪我の功名でした。
女の友情話大好きです(w。

>>524さん
普通に「ん? 〜」等にしておけば良かったですね。
ご指摘通り、テーマに合わせるためにかなりこじつけが入ってました。
言われてみればあまり起伏もないですし…もう少しメリハリをつけないと
いけませんねー。
546名無しさんだよもん:05/03/11 01:12:47 ID:YwBcEk7L0
まだスレを続けたいという人がいるし、
3, 4 月の短期間ならやってもいいかな >進行役
547名無しさんだよもん:05/03/11 07:45:57 ID:G8ePsoIeO
総括期間終わるまでに、長期出来るという人がでなかった場合はお願いしたい
548名無しさんだよもん:05/03/11 09:59:36 ID:8Bi6ZCfr0
時刻的に宣言の類はできないけれど、
保管所の管理(HTML作成)くらいなら手伝えるかもしれない。
ログさえ採っておけばどうにかなるだろうから。
きちんと請け負える人が出なかったら、
これだけでいいなら手伝わせてもらうよ。
549名無しさんだよもん:05/03/11 12:16:24 ID:G8ePsoIeO
宣言の類は思い切って締め切りをやりやすい時間に変えてしまうというのはどうか
そもそもマンドクセってなら仕方ないが
550名無しさんだよもん:05/03/11 13:41:13 ID:u4t9fuex0
締め切りは、深夜0時丁度でもいいんじゃない?
朝の10時なんて、社会人には無理。
551名無しさんだよもん:05/03/11 16:16:31 ID:2EbgNbUJ0
夜遅くに帰ってきてそれから寝ないで執筆する人も居るからなー
微妙。
552名無しさんだよもん:05/03/11 16:40:29 ID:p5BSE67a0
仕切る人の都合でいいじゃない
553名無しさんだよもん:05/03/11 17:36:45 ID:u4t9fuex0
>>551
>夜遅くに帰ってきてそれから寝ないで執筆する人も居るからなー

一日早く執筆しれ
554名無しさんだよもん:05/03/11 22:48:42 ID:i4oo9FfM0
>>553
全人類にそれが可能なら、夏休みの宿題は誰もが最初10日間で終わるはず。
555名無しさんだよもん:05/03/11 23:50:03 ID:ql5RRyI20
ま、全人類じゃなくてコンペ参加者のみだし可能でしょ。
間に合わなかったとしてもこれっきりお蔵入りになるわけじゃないしね。

仕切る人の都合のいい時間でいいと思う。
556名無しさんだよもん:05/03/12 00:30:06 ID:wCkNt1wL0
人数少なくなってるから、SS書く人、感想を書く人、
都合をひとりひとり聞いていってもいいような気もする……

まあでも
> 仕切る人の都合のいい時間でいいと思う。
これが一番いいかな。
557名無しさんだよもん:05/03/12 01:25:03 ID:j1fPXb3z0
> 仕切る人の都合のいい時間でいいと思う。
賛成。
なんにせよ、スレを続けられそうで良かった。
558 ◆2tK.Ocgon2 :05/03/12 17:31:54 ID:JXTw50ZC0
>>546 >>548
ありがとうございます。

>>548さんは保管所の管理を引き受けていただけるとのことですが、
>>546さんのご都合はどうでしょう?

差し支えなければトリップ付きでお返事をいただけませんか?
559546 ◆ofe8RX92rc :05/03/13 02:16:28 ID:ygJCYiAc0
トリップつけますた。

>558
今までの進行役の役割(負荷)を分散させるという試みは面白そうなので、
548 氏が良ければ保管所の管理は任せたいな。
560548 ◆AT4D7UpDws :05/03/13 05:48:15 ID:jc/P/GTL0
私はOKですよ。
561 ◆2tK.Ocgon2 :05/03/13 11:21:35 ID:fbSJvmPo0
>>559 >>560
それでは、そのような分担でお願いしたいと思います。

>>◆ofe8RX92rc さん
早速ですが、以降のスレ進行をお任せして構わないでしょうか?
急な話で申し訳ないかぎりですが……

>>◆AT4D7UpDws さん
保管サイトのパスワードをお渡ししますので、お手数ですが私のほう↓までご連絡いただきたく。
[email protected]
よろしくお願いします。
562名無しさんだよもん:05/03/13 14:56:41 ID:DkcmcBeU0
司会進行役の◆2tK.Ocgon2氏本当にお疲れ様でした。現スレがあるのは貴方の尽力のお陰です。
そして、お引継ぎの御二方、コンペスレを改めてお願い致します。

と、言うわけで空気読みつつ、しかし何かタイミング悪く出遅れた『初夏』を書いたものです。
口頭は短く、作品解説というか簡潔に説明をば。

古典を現代仮名遣いにしたような文体で書きたかった、との想いありこの形になりました。
読み仮名を振らなかったのは、振るくらいなら初めから平仮名を使うべきだよな、との心の葛藤があり、
結局、まあいいか、と己のぐーたらさを象徴するかのようなエピソードを経て、
ぱぎゅーと、今回の不親切な文と相成りました。ゴメンヨ。

>現(うつつ)なりし、なんて反則の表現です。
>忽(たちま)ち、なんて普通平仮名でいいような気もします。
>衝立屏風(ついたてびょうぶ)、はセーフですよね?

他にも数多く漢字を使う必然がないものが見受けられますが、
全部を根気よく読んでくれた人は最後の方、“女子”を“おなご”と読んでくれたんじゃないかなって、
雰囲気に流されてそう発してくれたんじゃないかなって、妄想してにやにやしてます。

作品解説以上っス。いやまあ、時代考証に触れてないのは武士の情けでした。
563名無しさんだよもん:05/03/13 14:58:40 ID:DkcmcBeU0
>>520
>テーマの落とし方もいい
お褒めの言葉ありがとうございます。もう自分の中は『色』は『color』じゃあないんですよね。
『色魔』『色男』『色香』『好色』と列挙するだけでこんなにも色っぽい意味があり、
何と言うか日本語万歳と思うわけですよ。

>>521
>上の人の感想とは逆に、自分は読みにくい文章だと思った。
いやいや、実は古典苦手なんです。それどころか与謝野晶子の源氏物語すら10ページも読めません。
まあ色んな意味で実験作なわけですが、本当は古語でSS書こうとしてました。
『翼人伝』を本物っぽくを作るとか。いや、嘘です。出来ません。ごめん。

>>526
>これ、もうちょっと短くても良いんじゃない(;´Д`)
無理むり。俺の構成力が無理です(胸を張り)。……いや、無理のひと言で片付けるのは凡人だ。
仮にもあっしはSS作家もどき。期待に応えねば創作する価値なしだ。

「神奈様、お色直しといたしましょう」
「いや。めどい」

――無理でした!

>>530
>ルビも振れず行間も狭い(ブラウザにもよるけど)2chでは
とりあえず、かちゅとIEでは私的にこの程度かな、とも思うんですが、
読みにくい人がいる以上は色を変えることも必要ですね。
でも、こういう文体で書いてると間延びしないように詰めてしまうんです。
漢字の多用はもう今回限りの作風ということで。

ん、ということで皆さん感想ありがとうございました。
564 ◆2tK.Ocgon2 :05/03/13 22:30:22 ID:fbSJvmPo0
業務連絡〜

>>560
メールお返ししました。
では、以降の管理をお任せします。
どうぞよろしくお願いします。
565 ◆ofe8RX92rc :05/03/13 23:51:13 ID:ygJCYiAc0
>567
了解です。
長い間おつかれさまでした > ◆2tK.Ocgon2 氏

さて引継ぎも終わりましたので、明朝 8:00 (ごろ)より
次回のテーマによる投稿を開始させていただきます。
次々回のテーマについては、そのとき票が一番多かったテーマ
(同数ならば自分の独断)で決めたいと思います。
566548 ◆AT4D7UpDws :05/03/14 00:25:21 ID:XrpvtEF50
>>564
保管所への接続他、確認しました。
改めまして、長らくお疲れ様でした。
567名無しさんだよもん:05/03/14 00:32:45 ID:MjQyldxb0
◆2tK.Ocgon2さん、おつかれさまでした。
みんなこのスレ住人でいられたのも進行役さんのおかげです。

◆ofe8RX92rcさん、◆AT4D7UpDwsさん、よろしくお願いします。
568名無しさんだよもん:05/03/14 00:44:37 ID:ZIclPDBt0
ん。
おまいら挨拶もいいけど、テーマ投票も宜しくですよ。
569 ◆ofe8RX92rc :05/03/14 08:00:56 ID:D8FWMiUr0
【告知】

第三十四回投稿テーマ:『趣味』

投稿期間: 3 月 14 日の午前 8:00 から 3 月 28 日の午前 8:00 まで。

テーマを見て、思いついたネタがあればどんどん投稿してみましょう。
面白い作品だったら、感想がたくさんついてきて(・∀・)イイ!! もちろん、その逆もあるだろうけど……(;´Д`)

※投稿される方は >>4-6 にある投稿ルール、FAQ をよく読んでください。
※特に重要なのが

・テーマに沿った SS を*匿名*で投稿する
・投稿期間中は作品に対して一切感想をつけない

※の二点です。他の各種 SS スレとは異なりますのでご注意を。

それでは、投稿開始っ!
570 ◆ofe8RX92rc :05/03/14 08:19:01 ID:D8FWMiUr0
次回のテーマですが同票だったので、独断と偏見で
「星」とさせてさせていただきます。
571名無しさんだよもん:05/03/17 07:56:18 ID:hbyfzI+sO
とりあえずは存続にしても、五月以降の進行役も募集しとかんとな
572名無しさんだよもん:05/03/18 18:57:26 ID:LJfq780J0
進行役ですが希望者がいなかったので、独断と偏見で
>>571とさせてさせていただきます。
573 ◆ofe8RX92rc :05/03/20 00:48:03 ID:dlpWPtSf0
【告知】

現在、葉鍵的 SS コンペスレでは投稿作品を募集しています。
今回のテーマは『趣味』です。
投稿の締め切りは 3 月 28 日の午前 8:00 までとなっています。
思いつくネタがあればどんどん参加してみましょう。
その際に >>4-6 のルール、FAQ に一度お目通しを。
574 ◆KjuAGqY9jo :2005/03/22(火) 01:52:19 ID:izq8AE270
今から投稿させて頂きます。
ONEで、タイトルは「無表情な彼女への傾向と対策」
575 ◆KjuAGqY9jo :2005/03/22(火) 01:54:13 ID:izq8AE270
 放課後の屋上と言えばまず最初に先輩の姿を思い浮かべるが、今日の相手は別だった。
「遅いっ」
 二月の寒空の中、せっかく会いに来てやったというのにこの男、クラスメイトである南は、開口一番不満そうな声をあげた。
「なんで同じ時間に終わったのに20分も待たされるんだっ」
「真打ちは遅れてやってくるものだからな」
「…ひょっとしてそれを言うためだけにどこかで時間を潰してきたのか?」
「で、なんの用だ?」
「答えろよっ」
「真実は時に人を傷つける。オレは南のためを思ってあえて沈黙を保つことにした」
「しゃべってるじゃないかっ」
 なるほど。今まであまり話したことはなかったが、南は突っ込み気質のようだ。
「七瀬と気が合いそうだな」
「はぁ?」
 リアクションも良く似ている。ただ七瀬の場合、スナップの効いたお釣りも付いてくるが。
「それで、なんだ? オレとコンビを組んで国立でも目指したいのか?」
「国立は…って、もういい。今日お前を呼んだのはだな、」

576 ◆KjuAGqY9jo :2005/03/22(火) 01:56:20 ID:izq8AE270
「浩平っ」
「どわっ」
 いきなり現れた顔に、驚いてのけぞる。
「急に目の前に来たと思ってるでしょー。さっきからずっと呼んでたもん」
「お前は超能力者かっ」
「浩平がわかりやすいんだよ」
 昨日の屋上での出来事を反芻しているうちに、授業は終わっていたようだ。
「それでどうしたの? 手紙まで回して」
 手に持った四つ折りの用紙を玩びながら、長森が尋ねてきた。
「うん? そうだな…」
 手紙に意味はない。入れ違いになるのが面倒くさかったので呼び寄せただけだ。
 オレは周りを見回し、特に注目を集めてる訳でもないのを確認してから切り出した。
「長森、里村の趣味って知ってるか?」
「え? 里村さん?」
 全く想定外のことだったのだろう。長森は目を丸くして聞き返してきた。
「ああ。噂でもなんでもいい。聞いたことないか?」
「う〜ん…」
 突発的に聞いたのにも関わらず、長森は真剣に考えて込んでくれているようだ。
577 ◆KjuAGqY9jo :2005/03/22(火) 01:58:35 ID:izq8AE270
「ごめん、わからないよ」
 そしてしばらく経った後、そう長森は答えた。
「そうか」
 長森がわからないと言った以上、本当に知らないのだろう。隠すメリットもない。
「用件はそれだけ?」
「おう、もう帰っていいぞ。ちゃんと声色変えて代返しといてやるから」
「帰らないよっ」
「帰らないよっ」
「真似しないでよっ」
 どうもオレの「長森瑞佳」はお気に召さなかったようだ。
「でも浩平が…そうだったんだぁ…」
「うん、なんだ?」
 長森が漏らした言葉を聞きとめ、聞き返す。
「浩平、応援してるからねっ」
「だからなにをだっ」
 オレの抗議を受け流し、長森は微笑を浮かべながら席へと戻っていった。
 …うーむ、どうやら勘違いをしているようだ。
 でも今説明すると契約が反故になるからな。やれやれ。

578 ◆KjuAGqY9jo :2005/03/22(火) 02:01:11 ID:izq8AE270
 昼休み。
「知ってるわよ」
「なにっ」
 廊下で捕まえた七瀬は、あっさりとそう答えた。
「そうか、まさかそんな趣味だったとは…」
「まだなんにも言ってないじゃない!」
「いやいや。そうか、里村が…なぁ」
 したり顔で首を振って教室に戻る素振りを見せる。すると七瀬は、
「勝手に納得するなぁ!」
 叫んでオレの胸倉を掴み、周りを見渡して慌ててその手を離した。
「ほ、ほら、折原くん。カッターが曲がっていてよ?」
「ここ、学ランじゃないぞ」
 取り繕うように笑みを浮かべる七瀬。でも今更、どうやってもフォローできないと思うんだが。
 七瀬もそれに気付いたのか「ひんっ」と声を上げると、今度は自分が教室に戻ろうとした。
「まあ待て。それで趣味はなんだって?」
「おか…むぐっ」
「場所を変えるか」
 流れのまま大声で答えようとする七瀬の口を抑え、人気の少ない方へと引きずっていく。
 そして気配が途絶えたのを確認してから七瀬を開放し、覆い被さるようにして後ろの壁に手をついた。
「ちょ、ちょっと折原っ。こんな所を誰かに見られたら…」
 見られないよう人目を忍んでいるんだが。
 まあいい。分析してみよう。廊下の片隅、オレと七瀬の二人きり。
 声が漏れないよう目と鼻の先まで近づいて話をしている。
「…オレが恐喝されてると勘違いされる?」
「なんでそうなるのよっ」

579 ◆KjuAGqY9jo :2005/03/22(火) 02:04:16 ID:izq8AE270
 あの後七瀬から入手した情報によると、どうやら里村の趣味はお菓子作りのようだ。
 調理実習の時間、それとわかるほど顔がほころんでいたらしい。里村にしては珍しかったので、よく覚えていたそうだ。
 心当たりはある。なるほど、それであの時あっさり承諾したんだな。
「流石はオレ。SISも真っ青の諜報能力だな」
「CIAじゃない所が折原君っぽいよね」
「なにっ」
 そのまま教室に戻らずに屋上で成果に浸っていると、隣で柚木が「やほー」とばかりに指をひらひらさせていた。
「いつの間に来たんだ?」
「さっきからいたよ。折原君、相変わらずへんなこと言うね」
 まるで当然のことのように柚木は答える。
 …オレか? オレが気付かなかっただけなのか?
「それより聞いたよ。折原君って大胆なんだね」
「なにが?」
 楽しそうな柚木の様子を見る限り、どうせまたろくでもないことを言い出すのだろう。
 これ以上ペースを乱されないよう、心の準備をしてから聞き返す。
「七瀬さんに廊下でキスしてたって」
「違うっ!」
 全く無駄だった。

580 ◆KjuAGqY9jo :2005/03/22(火) 02:06:17 ID:izq8AE270
「なるほどねー」
「……」
 結局オレは洗いざらい白状させられていた。
 警戒していたはずなのに、穴の空いたバケツのごとく話してしまう。
 とことんコイツとは相性が悪いようだ。
 しかし聞き出した側である柚木の表情が冴えないのはどういうことだ?
「それで、南君、だったかな。その人に教えてあげるの?」
「まあ、そういうことだ」
「うーん…」
 困惑したような、なんともいえない柚木の顔。そんなコイツが珍しくて、思わずまじまじと見てしまう。
「なにか気になることでもあるのか?」
「んー。ま、いっか。いつも玩具になってくれてるもんね。詩子さんからの大プレゼントだよっ」
 非常に嬉しくない前置きをして、詩子は続ける。
「七瀬さんの答え、残念ながら間違ってるよ」
「そうなのか? でも前里村を誘ったときは…」
「え、折原君、茜と出かけたことがあるの?」
「おう。長森が休んだときに課題を写させてもらってな。その礼がてらに」
 オレは里村を山葉堂に誘ったことと、承諾をもらったこと。そこから菓子作りが趣味だと納得した流れを説明した。
 ちなみにオレが里村を誘ったのは、単なるカモフラージュだったりする。
 いくら甘い物好きなオレでも、男一人であの店に特攻するほど無謀ではない。
581 ◆KjuAGqY9jo :2005/03/22(火) 02:08:17 ID:izq8AE270
「茜がねぇ…」
「それで?」
「あ、そうそう。茜の趣味は甘味屋巡りだよ。作るのは上手いけど、特別好きじゃないみたい」
 そっちか。調理実習の時間も、過程じゃなくて完成品が楽しみだったという訳だな。
「それで、どうするの? 南君にも教えてあげる?」
 オレが今の話の内容を吟味していると、詩子が一番最初にした問いかけをもう一度繰り返してきた。
「まあ、約束だからな」
「そしたら南君、茜を誘うんじゃない?」
「だろうな」
「その時茜、どうするんだろうね」
「一緒に行くんじゃないか? オレでさえ成功したんだから」
 オレの当たり前の答えを聞き、何故だか詩子は呆れたような表情を浮かべた。
 そしてその話が途切れるタイミングを計ったかのように、昼休み終了のチャイムが鳴り響いた。
「お、急がないとやばいな。柚木はどうする? そこから飛び降りるか?」
「それも面白いけど…あたしはもうちょっとここに残っていくね」
「そうか」
 覇気の感じられない柚木の様子が気にかかったが、時間がないのでその場を後にする。
「茜は断るよ。絶対」
 去り際、柚木の呟いた声が、何故だかオレの耳に深く残った。

582 ◆KjuAGqY9jo :2005/03/22(火) 02:10:17 ID:izq8AE270
「…いいですか?」
 放課後。南から数時間にも及ぶ愚痴を聞いて教室に戻ってきたオレは、まだ残っている人物がいることに驚いた。
 茜色に染まった教室の片隅。窓際に手をついていた里村が振り返る様子は、まるで映画の一場面のようだった。
「その前に、オレからいいか?」
「…なんでしょう」
「なんで南からの誘いを断ったんだ?」
「……」
「あいつ、ひょっとして『おごってくれ!』とか言い出したのか?」
 だとしたら尊敬するぞ、オレは。
 オレの問いかけに里村はかぶりを振ると、「気付きませんか?」と小さな声でささやいた。
「ああ、わからないな」
「…本当に?」
「髭に誓って」
 胸に手を当てて宣誓してやると、里村は溜息をつきながら答えた。
「…理由が、ないからです」
「理由?」
「…南君は、私の分も出してくれると言いました。でも私には、そうしてもらう理由がありません」
「いや、あるだろ」
 アレはどう見ても里村に好意を持っている。それに気付かないほど鈍感だとも思えない。
「…後になればなるだけ、辛いこともあります」
「そうか…」
 期待を持たすより、ってことか。
「でも里村ならおごってもらってから『…嫌です』とか言いそうなもんだけどなっ」
「……」
 もの凄い目で睨まれたぞ?
「ん? でもオレが誘ったときは付いて来たよな?」
583 ◆KjuAGqY9jo :2005/03/22(火) 02:12:10 ID:izq8AE270
「あれは…」
 それまでの断定口調から一転、語尾を濁すように言いよどむ。
「ああ、そうか。あの時はオレが課題を見せてもらったもんな。ちゃんと理由はあるか」
「…そうです。だから今日もおごってもらいます」
 何故か不機嫌そうに言い放つ。
「なんでそうなるんだっ」
「…南君から聞きました。私のことを調べた見返りとして、食券を受け取るんだそうですね」
「いやでも、A定食一週間分がB定食三日分に…」
「関係ありません。その取引があったという事実のみが肝心なのです」
 取り付く島もなくぴしゃりと跳ねつけられる。
 そして「反論は許さない」とばかりのオーラをまとって自分の席へと戻っていった。
「わかったわかった。おごればいいんだろ、おごれば」
「当然です」
 全くこちらを見ずに、黙々と帰る準備を続ける。
「そういやなんか話があったんじゃないのか?」
「…忘れました。それより早く行きましょう」
 コートをはおった里村に睨まれ、自分の薄い鞄を掴む。
 振り返った先には、既に教室の外へと出ている里村の姿があった。
「早っ」
 慌てて追いかけようとして、ふと先ほどのやり取りを思い出す。
 ……なんか流れ的に矛盾しているような気がするんだよな。
「…ワッフル」
「おわっ」
 耳元で里村の声が聞こえたような気がして、思考を中断する。
 これ以上待たせるのは危険だ。なにかが警鐘を鳴らしている。
 オレは本能に従って違和感を押し込め、里村の後を追いかけた。
584名無しさんだよもん:2005/03/22(火) 02:14:16 ID:izq8AE270
>>575-583
以上です。それでは…。
585名無しさんだよもん:2005/03/23(水) 21:00:17 ID:Hze1DaUK0
お題的には前回より書き易そうだけど。
また最終日にドバッと来るんかな。
586 ◆ofe8RX92rc :2005/03/23(水) 23:32:19 ID:l5dpCqAa0
【告知】

現在、葉鍵的 SS コンペスレでは投稿作品を募集しています。
今回のテーマは『趣味』です。
投稿の締め切りは 3 月 28 日の午前 8:00 までとなっています。
思いつくネタがあればどんどん参加してみましょう。
その際に >>4-6 のルール、FAQ に一度お目通しを。
587趣味と実益の狭間で ◆DFPMjwTAag :2005/03/27(日) 13:24:06 ID:Ypp4oNSS0
 ビタミンと水分が抜けきり、真っ赤に充血した眼。
『かゆみ』に眼の殆どを支配されたかのような気分で時計を見遣る。
 時計の短針は4の辺りを指し、長針は9を廻ったという事実が視覚から脳へと伝わり
眼の前の現実を俺の口からため息混じりに漏らさせるのに数秒かかった。
「もう5時かよ…」
 勿論、一日の疲れを食事で癒す夕食の時間を間近に控えた『午後5時』ではない。
 新たな一日を迎えるにあたり、多くの人々は未だ温かい布団の中で最後の眠りを貪っているであろう
『午前5時』。
 そんな時間に俺は机に向かい、ひたすら頭に浮かんだアイデアやネタを脳内で咀嚼し
それらを眼の前にあるケント紙に『絵』という形で再構成していた。
 黒いインクや、規則正しく並んだ斑点や線の集まりであるスクリーントーンがその紙の
面積のごく一部だけを占めているだけで、殆どが空白のままであるという紙切れが
今の俺の切迫した状況をそのまま表している。
 下書きは省いて、それで空いた時間をネタ出しとペン入れに費やし尚且つそれを同時に
やってストーリーと絵柄のレベルを落とさずに、作品そのもののクオリティアップを図る…
といえば聞こえはいいが、何の事はない。
 締め切り期日が間近に迫る今までに全然ネタが浮かばず、机の上で悶々としていて
無為に過ごした時間のツケを今此処で払わされているだけのことだった。
588趣味と実益の狭間で ◆DFPMjwTAag :2005/03/27(日) 13:24:38 ID:Ypp4oNSS0
 俺は、紙の上でのろのろと動く自分の手を止め、背後のちゃぶ台で一心にベタ塗りや
スクリーントーンの切り貼りに勤しんでいる、高校以来の友人の姿を見遣る。
 頭をちゃぶ台につくかつかないかの所まで下げているゆえに、そのトレードマークの
見事なまでに長いサイドポニーが横顔を隠すように垂れ、その多くはちゃぶ台の上に
ばらりと広がっている。
 傍から見ると、机に顔を近づけひたすら勉強に打ち込んだ挙句眼を悪くしたものの
懲りずに机に顔を近づけたまま本やノートに向かい、更に眼を悪くする…といった悪循環に
陥っている『ガリ勉』以外の何者でもない。
 もっとも、その豊かな髪の毛を汚さないよう、そして作業の邪魔にならないように
原稿用紙にあまり近づけないようにしている姿勢が、男以上に身だしなみに気を遣う女であることを
雄弁に語ってもいた。
 高瀬瑞希。
 高校以来の友人であると同時に、大学入学と同時に始めた同人活動に理解をしてくれ
プロの漫画家としてデビューする端緒となったのみならず、俺がマンガを描く作業を
手伝ってくれているベストパートナーでもあった。
 とはいえ、あくまで素人同然のアシスタントであるが故に、今手伝ってもらっているベタ塗りや
トーン貼りもあまり細かい作業を要する箇所は頼んではいない。
 それでも、瑞希によって幾分俺の負担が軽減されているのもまた事実であったが。
 俺は作業の手を止め、作業に打ち込む瑞希を姿を盗み見る。
 普通なら、顔をほんのりと赤らめながらとはいえ「な…何ジロジロ見てんのよ! バカ!」
という悪態の一つでも覚悟しなければならない行為だが、眼の前の原稿用紙に意識を
集中している今ならそのようなリスクを負うこともないだろう。
 瑞希が手を動かす度に、シャッシャッとペンと紙とが擦れ合う音が、さほど広いとはいえない
俺の作業部屋にかすかに響く。
589趣味と実益の狭間で ◆DFPMjwTAag :2005/03/27(日) 13:25:10 ID:Ypp4oNSS0
 一心に机に向かうに瑞希の様子を確認し、俺は既に書きあがって後は印刷されるのを今か今かと
机の端っこで待っているマンガの原稿を左手で取り、おもむろに右手でズボンのファスナーを
下ろした。
 別にマンガのように『ジジー』という音がするわけではないが、今の俺にとってはは
微かな金属音すらも『瑞希がこちらを向くのではないか』という警戒心を呼び起こす
ものだった。
 下着の布と布との境目から、いきり立ったナニを取り出し、右手で握りこんで少しずつ
擦り始める。
 左手で持っているマンガの中で、瞳からは涙を、だらしなく開けられた口からは涎を垂らし
そして男の屹立し、脈打つ肉棒をぱっくり開いた股間の秘裂に受け入れ、汗と分泌物を
飛び散らせつつ愉悦の表情を浮かべている女の子の痴態が、俺の勃起中枢を刺激する。
 その女の子は、薄い紺色のスカートに、太股までの長さの白い靴下を穿き、スカートの
色に合わせた紺のチェックのブラウスに白いGジャンを身につけ、長い豊かな髪の毛を
サイドポニーにしていた。
 勿論そのサイドポニーは、大きな黄色いリボンで纏められている。
 彼女の名前も、ちゃぶ台に向かって黙黙と作業している女の子と同じ『高瀬瑞希』だった。
590趣味と実益の狭間で ◆DFPMjwTAag :2005/03/27(日) 13:25:43 ID:Ypp4oNSS0
『ちょっ…止めなさいよっ! バカァっ!!』
『ああん? そう言っている割に下の口はずいぶん素直じゃねえか!』
 良く言えば読者にとって予定調和的、悪く言えば聞くからに頭の悪そうなセリフを
恥ずかしげもなく吐く『男』に自らをなぞらえて『作品の中で男に犯され、はしたないよがり声を
上げる瑞希』を『今、此処にいる俺』が犯している気分に浸り始める。
 別に俺はおかしくなったわけではない。
 エロマンガをネタに抜いているなんて事は、心身共に健康な男子であれば誰でも少なからず
していることだ。
 ただ、俺の場合は、友人である瑞希をエロマンガのネタにし、尚且つそれを自分が抜く時の
ネタにしているだけのことだ。
 手を伸ばせば届く所に、ちょっとわがままな所があるが本当はしおらしく、テニスのみならず
スポーツを大いに嗜むその性格が作り出した、出る所は出て締まる所はしっかり締まっている
素晴らしいプロポーションを誇り、そして、俺の前では喜怒哀楽の表情を包み隠さずに映し出す
可愛らしい顔をした瑞希かいるにも関わらず。
 なぜ俺は、今此処で一緒にマンガを完成させるべく作業に没頭している瑞希に興味を失い
自分で書いたマンガの中にいる『瑞希』に欲情するようになってしまったのだろうか…?
 そもそも、『何故』『俺』は『今』『ここ』で『エロマンガ』を描いているのだろうか…?
591趣味と実益の狭間で ◆DFPMjwTAag :2005/03/27(日) 13:27:21 ID:Ypp4oNSS0
 話は一年以上前に遡る。
 悪友の大志に半ば唆されるような形で『同人稼業』の世界に飛び込んだ俺だったが
こみパでの由宇や詠美、彩の『自分の創作物を見知らぬ他人に発信する熱気』を感じ
自分の心の奥底で蠢く何かが動かされた。
 美術系の大学を志望していたものの、それが叶わずにごく普通の大学に入った今の自分の
状況が、その熱気に共感する素地を作り出していたのかもしれない。
 そして俺は、普通に大学生活を送りつつマンガを描く自分を、美大で絵を描く自分に
なぞらえるかのように、頭に浮かんだネタを原稿用紙の上で実在するものにする行為を
繰り返してきた。
 自分が楽しむという、いわば趣味の延長で他人も楽しめるように。
 そして『本』という形にし、こみパで不特定多数の人々に頒布したわけである。
 メールや同封のアンケート、果てはこみパの会場で直接読者からの絶賛や感想、厳しい指摘
声援…等が反応として帰ってきた。
 中には作品と関係ない誹謗中傷の類もあったことはあったが、好意的な感想が多くなっている
事実の前では大した問題ではなかった。
 そして大志から『同人王』の称号を得(本当にそんなものがあるか、得たとしても
それが何の役に立つのかはまた別の問題だが)、澤田編集長に『アマが集まるこみパではなく
プロの編集者と書き手が集まる雑誌であなたの腕を振るってみませんか』という誘いを受けて
今に至るわけである。
 尤も、少年誌や青年誌ではなく男性向けの『成年誌』―所謂エロマンガ―に活躍の場を
与えられたのだが。
592趣味と実益の狭間で ◆DFPMjwTAag :2005/03/27(日) 13:44:07 ID:Ypp4oNSS0
 それに対して別に不満があるわけではない。
 元ネタである1次作品の世界観やキャラを活用してエロ同人に勤しんでいた俺にとっては
スカウトがあるとすればそういうところから来るのが至極当然の話だし、生計を立てる
という意味でも身に余る程の僥倖でもあった。
 そして今、俺は商業雑誌に掲載される予定のマンガを描いている。
『期待の新人登場』というアナウンスと共に巻頭に掲載される予定なのだが、肝心な
マンガを描く手がいまいち進まないのである。
 俺は作業の進捗状況が大幅に遅れているという現実から眼を背けるかのように、ナニを握り締める
手に更に力を入れ、サオを扱く手の動きをも早めて、紙の上で淫猥な舞いを舞う『瑞希』を
犯すことに意識を集中し始めた。
 実際の瑞希ではなく、俺自身が描いた『瑞希』を頭の中で本能の赴くまま好き勝手にする
この行為は別段今始まったわけではない。
 今、手がけているマンガを描く手が初めて止まってしまったのがその発端だった
593趣味と実益の狭間で ◆DFPMjwTAag :2005/03/27(日) 13:49:07 ID:Ypp4oNSS0
 和樹に与えられた作業を丁寧に、確実にこなすべくひたすら机に向かっている私。
 とはいえ、和樹が身動きした気配に感づかないほど鈍感ではない。
 小刻みに震える和樹の身体に合わせ、座っている椅子の背もたれが不自然な動きをし
椅子の脚と床とがカタカタと触れ合う音がし始めた。
『ったく…。また始めたのね…』
 そう一人ごちた私は、最早忘却の彼方へ押しやることが出来ないであろう忌々しい
ここ数日間の記憶を呼び起こした。

「瑞希。俺に漫画を描いてくれという依頼が来たんだ」
「ほんと!? すごいじゃない和樹。自分の趣味が仕事になるなんて。で、どんなマンガを描くの?」
「いや、それが…大人の、男向けのなんというか、Hな漫画で…」
「そ、そう…。で、でも、どんな形ででも和樹が描いたマンガが評価されるのは、嬉しいから…」
「そこで相談があるんだが…、瑞希をモデルにしたヒロインを登場させたいんだ」
「…私、が…? どうして…?」
「出来れば漫画を描くのも手伝って欲しい。これから二人で一緒に生きていく上での
初めての共同作業ということにしたい」
「で、でも…恥ずかしい…」
「俺は瑞希を描きたいんだ」
「和樹…」

 そして修羅場の幕が切って落とされた。
594趣味と実益の狭間で ◆DFPMjwTAag :2005/03/27(日) 13:49:49 ID:Ypp4oNSS0
「和樹ぃ〜。眠い眠い眠い〜」
「俺だって眠い」
「気分転換にテニスでもしに行こうよぉ〜」
「そんな時間なんてない」
『俺が漫画を描くのを手伝ってくれ』という和樹のいうまま、渡される原稿に向かってはいたが
これほどの重労働だとは思っていなかった。
 スポーツをした後のように、肉体的には疲れているが精神的には満たされているという
すがすがしい疲れではなく、肉体的にも精神的にもどんよりねっとりとした疲れ、まさに
『疲労困憊』という言葉に相応しい疲れが和樹には勿論、私にも覆い被さっていた。
 私にとっては、漫画を描くのを手伝うのは初めての経験で、とにかく和樹から手渡される
原稿を台無しにしないよう、丁寧に仕上げるという精神的な重圧は相当なものだった。
 そういったプレッシャーの中で要求される細かい作業が、私の指先や手首、ヒジや肩に
痛みやコリという形で肉体的な疲労を残していった。
『Hな漫画に私をモデルにした登場人物を登場させられるだけではなく、それを仕上げるのを
手伝わされる』事への羞恥心は、疲労と睡眠不足の前にあっさりと何処かへ押しやられてしまっている。
 いきなり立ち上がった和樹が、いかにも不機嫌そうな足取りでコーヒーメーカーへと向かう。
 先程までビーカーの中になみなみと満たされていた黒く熱い液体はすでに二人の胃袋の中に
収められていることに気付いた和樹が言った。
「瑞希…ブルーマウンテンを買って来てくれ」
「へ…」
 睡眠不足でもやのかかった頭の中で、私は和樹の言うことを理解しようと務めた。
「ブルマンだ。今まではブレンドだったが、やっぱ高級な豆が眠気覚ましにもいいだろう」
「わかった…買って来る…」
595趣味と実益の狭間で ◆DFPMjwTAag :2005/03/27(日) 13:50:33 ID:Ypp4oNSS0
 正直、どんな理由であれ、少しでもこの缶詰状態から抜けられるという喜びのほうが
大きいくらいだった。
 和樹から財布を受け取った私はのろのろと立ち上がり、半ばよろけながら玄関へと
向かい、外へ出る。
 私は数日ぶりに浴びる太陽の光の温もりを存分に楽しみつつ、ゆっくりと歩き始める。
 が、身体は起きてても、頭は覚醒していないことは、買い物によって証明されることとなった。
「和樹〜。買ってきたよ〜」
「ずいぶん遅かったけど、いい気分転換にはなっただろ」
「まあね、はい。サイズは適当だけど」
「…サイズ?」
 いぶかしげな表情を浮かべる和樹に、私は紙袋から『買って来た物』を取り出した。
「…ってこれブルマじゃないか!」
 濃紺の厚ぼったい布でできた女子専用の体操服を眼の前で広げて和樹は言う
「だって和樹が買って来いって言ったじゃない!」
「俺が言ったのはブルマンだって! コーヒーの! ったく、勿体無いから俺が穿く!」
 そう言いつつ和樹はズボンを脱ぎ、ブルマを穿き始めた。
 女性用下着と大差ないデザインの布切れは、和樹が穿いている下着を完全に覆うわけではなく
いたるところからトランクスの端っこをはみ出させている。
 和樹が着替え(?)を済ませたのを見計らったように電話が鳴った。
 その表情が、明らかに狼狽したものへと変わる。
 その一連の表情の変化は、否が応でも『借金取りから逃げ回る債務者』を髣髴とさせた。
596趣味と実益の狭間で ◆DFPMjwTAag :2005/03/27(日) 13:51:07 ID:Ypp4oNSS0
「和樹ぃ、電話、鳴ってるぅ…」
「瑞希が出てくれ。多分担当者からだ。『もう半分は描き終えました』『進捗状況は順調です』
と言ってくれればそれでいい」
「ん〜っ、もう〜」
 私はふらつく足取りでしつこく鳴り続ける電話機に向かい、受話器を取った。
「はい。高瀬です」
『あ、私は千堂さんを担当させて頂いてもらってる者ですが、千堂さんはいらっしゃいますか?』
 相手の少し焦りを含んだ慇懃丁寧な話し振りも、今の私には子守唄にしか聞こえない。
 勿論、何故和樹に電話してくるのか、そして何故和樹が電話に出るのを嫌がるのか
そして、どう贔屓目に見ても半分も描き上がったとは言えないにも関わらず、私に対し
『半分は描き終えたと言え』と強要する理由を想像することは、今の私の脳にとっては
無理な相談だった。
「和樹は…いますがぁ…、本人はなんだか電話に出たくない様子でしてぇ…」
『じゃあどこまで書き上げたかはご存知ですか?』
「さあ…。ただ、かなり煮詰まった様子なのはわかります…」
『そうですか。では失れぃι…』
 一際大きい睡魔の波が私に襲い掛かり、電話口から聞こえてくる声がぷつりと途絶える。
 結局、既に電話が切られていたことを知るのは、和樹が私がいないことに気付き、電話台に
寄りかかるようにして眠っているのを叩き起こした時だった。
 そのとき和樹は『寝るな! 寝ると起きられなくなるぞ!』と大声で叫んでいたっけ。
 雪山で遭難した二人じゃあるまいし。
 さすがに自分のしていることの愚かさに気付いたのか、和樹は私が買ってきたブルマから
自分のズボンに履き替えていたのがせめてもの救いだった。
 目覚めにあんな紙一重の格好を見せられたのではたまらない。
597趣味と実益の狭間で ◆DFPMjwTAag :2005/03/27(日) 13:51:58 ID:Ypp4oNSS0
 締切日が近づくにつれて、和樹は奇妙な行動を取るようになった。
 それに初めて気付いたのは、私の頭が猪脅しよろしくカクン…カクンとのめりこんだり
戻ったりを繰り返した挙句、額を机にごちんとぶつけた時だった。
「ん…」
 覚醒した頭に『原稿は無事か』という不安が広がる。
 焦点の定まった眼で、机上の原稿に何ら変わったところのないのを確かめ、安堵の息を漏らした。
 以前、私が居眠りして原稿に倒れこんだときは、私の睡眠不足を心配する前に原稿に
インク擦れが生じてないか、トーンがずれてないかを心配した挙句、ものすごい剣幕で
私に詰め寄ったものだった。
 血相を変えて私の襟首をむんずと掴み上げ
『もし締め切りに間に合わなくなったならコロスぞ!』
という脅しのおまけ付きで。
 そっと和樹の方を見ると、別に私の居眠りを咎める様子は見受けられない。
 原稿にのめりこんでいる姿勢は相変わらず…ではなかった。
 机に上で次々とストーリーを生み出しているハズの和樹の右腕が下腹部の辺りにあり
腕と上半身とが小刻みに震えているのが窺い知れる。
『ちょ…ちょっと…これって…』
 知識としては知っていたが、後姿とはいえ実際にそれを見るのは初めてだった。
 女ではなく、男が自分で自分を慰める行為を。
 不潔感よりも、むしろ好奇心の方が刺激され『ナニを考えてそういう行為に浸っているのか』
という疑問の答えを見出した私は複雑な気分になった。
 私をモデルにしたヒロインが登場するHな漫画をオカズにしているのだから、和樹の頭の中は
当然、私で一杯になっているのだろう。
 今までに仕上げた原稿を見る限りでは、女のキャラクターは一人しか登場していないし
『浮気』している可能性はかなり低い筈だ。
 尤も、頭の中は『私の知らない誰か』で埋め尽くされているのかも知れないが…。
598趣味と実益の狭間で ◆DFPMjwTAag :2005/03/27(日) 13:59:50 ID:Ypp4oNSS0
 デビュー作である漫画を描き始めて以来、傍から見るとロクな思い出がないようにも思えるが、
私は和樹のことが嫌いになったわけではない。
 同人活動に打ち込む、漫画を描くことに力を注ぐ和樹の姿を見て、友達付き合いから
男と女の付き合いへと変わるのにさほどかからなかった。
 漫画を描くのはオタクっぽいという偏見も、気に入らないものにレッテルを貼って
自らを正当化しようとしていただけに過ぎなかったのではないかとも思い始めるに至った。
 そして自分の好きなこと―漫画を描くこと―で生計を立てる、プロとして生きていくという
今の和樹の姿勢をも含めて、好きになったのである。
 とはいえ、私の心の奥底にある女としての心情を一言で表すとこうだ。
『和樹のバカ…』
 同じ部屋に、紙の上に描かれた『瑞希をモデルにしたヒロイン』ではなく、和樹の身の回りの
世話をするのみならず原稿をも手伝っている『本物の瑞希』がいるにも関わらず、
『そのような行為』に浸られてはどうしても嫉妬心が芽生えるのを押さえきれない。
 私は、思考が迷走し始める前に、意識を眼の前にある紙切れに戻した。
599趣味と実益の狭間で ◆DFPMjwTAag :2005/03/27(日) 14:00:36 ID:Ypp4oNSS0
 俺が、自分で描いた瑞希に欲情し、それをネタにしてカク…なんて行為を始めたのは
ある事に気付いた時だった。
 そう、漫画の最初の読者は他ならぬ自分自身であるということに。
 今の仕事を初めて以来、俺は顔も知らないどころか何人いるのかもわからない読者を
勝手に想像し、その期待に応えるべく色々試行錯誤していた。
 が、絶賛や酷評、叱咤激励の葉書や手紙・メールといった『眼に見える形』で読者の
反応が返ってくるわけではない。
 それも当然だろう。まだ読者そのものが存在しないのだから、読者の反応を期待すること自体
お門違いというものだ。
 初めてこみパに参加すべく、原稿に向かっていたあのときは、会場で感じた熱気と
美大に入れなかった悔しさとが作品を生む上での原動力となっていた。
 特に見返りなど望まず、ただ自分が好きなように漫画を描くことで自分を満足させるように。
 言ってみれば、漫画を描くこと自体に楽しみを見出し、趣味で済ませることが出来たのだ。
 今の仕事は、そういう気の赴くままに書けばよい趣味の延長ではない。
 不特定多数の読者を満足させなければならないゆえ、決して自己満足に浸ってはならない。
 読者を置いてきぼりにしないように。
 だが、必要以上に読者を意識して『最初の読者である自分』を蔑ろにした漫画をかいてよいものだろうか。
 他人に迎合することそのものを目的化してよいのだろうか。
 自分さえ納得できないものを、他人である読者が喜んで読んでくれるのだろうか。
 もし仮に、『読者受けしたが、自分では納得しない作品』と『読者受けしなかったが
自分では納得した作品』のどちらを選ぶと問われれば、今はまだ、後者を選ぶ気持ちの方が
幾分強い。
 今の俺は、商業雑誌に掲載されているという点ではプロではあるが、その雑誌の読者や
俺の担当者に作品を読まれてすらいないという意味ではアマと変わらない。
 プロに限りなく近いアマ、というのが今の俺の姿だろう。
 ならば尚更のこと、自分を信じるほかないわけだし、自信という根拠のない原稿を
編集者に託すわけにはいかない。
 そこで、俺は、ある基準を設けることにした。
『自分で満足できる、すなわち抜ける作品であれば、読者も大いに満足できるはずだ』
600趣味と実益の狭間で ◆DFPMjwTAag :2005/03/27(日) 14:01:38 ID:Ypp4oNSS0
 数日後。
 締め切りを間近に控えてはいるものの、俺は以前に比べて筆の進みが格段に早くなって
いるのではないかと思えるようになっていた。
 執筆開始から締め切りまでの中間点まではほんの数ページしか進まなかったものの
今ではもうページ数も残りわずかになるまでに描き終えている。
 日程的に決して余裕が生まれているわけではないが、それでも原稿を進める手がスピードアップ
したのは目に見えて明らかだ。
 これも、『自分で抜けるかどうか』という基準を設けた賜物だろう。
 だが、執筆のスピードアップと引き換えに、俺の自慰の頻度もそれ以上に激増していた。
 ゴミ箱の中には、くちゃくちゃに丸まったケント紙の他に、ぱりぱりに乾いたティッシュペーパーが
不自然なまでに山盛りになっている。
 そんな中、俺はひたすら頭に浮かぶ瑞希の痴態を眼の前の紙に表現してゆく。
 俺の頭に浮かぶ要求にも素直に応じ、その身体で受け入れる瑞希。
 だが、新しい場面で、先程と同じシチュエーションにしたのでは、ただのストーリーの
使いまわし以外の何者でもなく、当然読者も『ああ、またこのパターンか』という感想を
抱くのは間違いないだろう。
 マンネリ化だけはなんとしてでも避けなければならない。
 読者も満足できないだろうが、瑞希を描いて、それでカイている俺も満足できないからだ。
 いきおい、エロ漫画という特性上、『紙の上に描かれる瑞希』に無茶なプレイを強いることとなる。
 場面も、俺の部屋から人気のなくなった学校…という風に変わっていく。
 次回作があるとすれば、白昼堂々とテニスコートで、海水浴場、夏祭り、仮病を使う
瑞希の部屋に押し入り、挙句の果てには若い二人は並みの刺激では満足できず夕暮れの公園で…
というふうにエスカレートしていくことは間違いなさそうだ。
601趣味と実益の狭間で ◆DFPMjwTAag :2005/03/27(日) 14:02:11 ID:Ypp4oNSS0
「瑞希。コーヒーをくれ」
「新しく作んなきゃ。もうないし…」
「インスタントでいいから」
「どっちにしろ、お湯が必要じゃない…」
 ぶつぶつ言う瑞希から、インスタントコーヒーの粉が入ったビンを受け取り、口を天井に向ける。
 インスタントコーヒーの粉がザザザザッと音を立てて俺の口一杯に納まった。
 咀嚼するたびにジャリ…ジャリ…という砂を噛むような音がしていたが、唾液と交じり合ううちに
グッチャ…グッチャ…ニチャ…ニチャ…という粘着質な音へと変わる。
「うぷっ…」
 そんな俺の眠気覚ましの様子を見ていた瑞希が口元を押さえる。
 今日は締切日。
 なんとしても今日中に原稿を仕上げ、雑誌社に持ち込まなければならない。
 勿論、一部手直しや、ひょっとしたら全面的に書き直しの憂き目に遭うかもしれないが
とりあえず最初の関門はスケジュール通りにクリアできそうだ。
 原稿を書き上げるのに間に合うか間に合わないかの瀬戸際だった先程が一番大変だった。
 深夜にいきなり瑞希に『数日間寝ないでも疲れない薬を買って来てくれ』と頼むと
『お願いだから犯罪者だけにはならないで!』と泣きながら懇願されたり、俺が
『今から雑誌社に爆破予告を送りつけるか、放火して編集者を皆殺しにしよう。
そうすれば締め切りは延びるだろう』と言うと『和樹の漫画を本にしてくれる所を
無くしてどうすんのよ!』と一喝されたのも今となってはいい思い出だ。
602趣味と実益の狭間で ◆DFPMjwTAag :2005/03/27(日) 14:02:43 ID:Ypp4oNSS0
 が、商業用の漫画を描いていくに当たって、最初からこんな調子ではずいぶん先が
思いやられる。
 そんなことを思いつつも、俺は最後のコマを仕上げ、久々の開放感に浸りつつ立ち上がり
座りっぱなしで痛くなった腰を伸ばした。
 机に丸く覆い被さるような姿勢を余儀なくされていたのを取り返すように、四肢を
思う存分四方へと伸ばす。
「じゃあ瑞希、俺はこれから原稿を雑誌社に出してくるから。留守番を頼む」
 先程までの修羅場での瑞希に対する態度からの豹変振りに我ながら驚く。
 口ぶりや表情も自然に柔らかくなっているのも、何とか締め切りに原稿を間に合わせた賜物だろう。
「うん。気をつけて」
 瑞希もそんな俺の様子に気付いたのか、げっそりした顔から満面の笑顔を浮かべる。
 眼の下にクマを浮かべつつも。
「帰ったら…瑞希の好きなことに付き合うから」
「和樹…」
 瞳を潤ませる瑞希に背を向け、俺は新たな修羅場が用意されているであろう雑誌社へと
歩みを進め始めた。
603趣味と実益の狭間で ◆DFPMjwTAag :2005/03/27(日) 14:12:54 ID:Ypp4oNSS0
 夜。
 睡眠という概念が全くなかった先日までとは違い、俺は思う存分布団の中で安眠を貪っていた。
 寝返りを打つと、ムニュリとした柔らかい感触が俺の胸や腹一杯に広がる。
 俺と同じようにゆっくり眠っている瑞希の感触。
 俺は、つい先程まで、瑞希と一緒に過ごしていた時間を反芻していた。
 雑誌社から帰ってきた俺は、まず始めに『今回の原稿はOK』と言われたと瑞希に伝えた。
 尤も、重労働から解放されたばかりの瑞希に次の仕事に関することを言うのはあまりにも酷なので
『数日後に次回作について担当と打ち合わせますので構想だけは練っておいてください』
と言われたことは伏せておいたが。
 そして俺と瑞希はショッピングに映画、ちょっと贅沢な夕食と共にするという、ごく当たり前の
男と女の付き合いを存分に愉しんできた。
 当の瑞希はテニスにも行きたがってはいたようだが、さすがに俺の体が持たないので
またの機会に譲ってもらった。
『だったら和樹が自分で描いたヒロインではなく、ここにいるあたしを…その…愛して…』
 という瑞希の言葉通りに、俺はテニスではなく夜のスポーツに励むハメになったわけである。
 俺も瑞希も数日間徹夜が続き、ずいぶんハイになっていたせいか、くんずほぐれつの
絡み合いとなったわけだが、その最中にも、俺は心の片隅にあった小さなものが
少しずつ大きくなるのを自覚していた。
 ティッシュペーパーに滴った一滴のインクが大きな染みを彩るように。
604趣味と実益の狭間で ◆DFPMjwTAag :2005/03/27(日) 14:19:32 ID:Ypp4oNSS0
 今、ここにいる瑞希よりも、俺が漫画の中で動かしている『瑞希』の方が、はるかに都合がよい。
 俺の無茶な要望にも何ら反抗することなく、ただ俺の思うままに動く『瑞希』。
『瑞希』は、俺のなすがままでいるだけではなく、漫画という媒体の中で俺の意思を
見ず知らずの読者に伝えるという役割をも果たしているのである。
 俺のとなりで寝息を立てている瑞希は、こみパで売り子をするのにも少なからず
躊躇していた思い出がある。
 漫画の中の『瑞希』は、決してそんなことはない。
 俺の思うがままの『瑞希』をネタにしてカク自慰行為で生計を立てることになった俺だが
これからは雑誌社の意向に左右されるケースも増えるはずだ。
 締め切りなどはまだ可愛い方で、ページ数に話を合わせるのではなく、話をページ数に
あわせざるを得ないこともあるかもしれない。
 いや、それ以前に読者のアンケート葉書により、編集者から『参考という名の強制』を
強いられるかもしれない。
 勿論打ち切りに戦々恐々とする日々を送るようになる可能性も残されている。
 仮にそういった制約を受けずにプロとして漫画を描き続けることが出来たとしても
俺自身が漫画を描くことを『工業製品を生み出すように』し始めないという保証はどこにもない。
 慣れはマンネリでもあるからだ。
 とはいえ、たっぷり時間をかけて自分が納得ゆくまで満足するまで創作活動に励むのは
理想的ではあるが、結局は趣味の延長に過ぎず、アマチュア的な姿勢でしかないだろう。
 まして、自分がカクために作中で『瑞希』を描いている今の俺の漫画に対する姿勢は
自己満足以外の何者でもない。
 いくら自分が好きでやっているからとはいえ、果たしてネタがいつまで続くのか
俺の自慰行為に読者がいつまで付き合ってくれるのか。
 空転する思考にくさびを無理矢理打ち込み、俺は目を閉じた。
 新しい朝が来るまではまだ時間がある。
 一眠りすれば、俺の頭の中にいる『瑞希』も、新たな一面を見せてくれるようになるかもしれない。
 それを待つまでもなく、夢の中に『瑞希』が現れるかもしれない。
「瑞希を描きたかった俺だが…、『瑞希』でカクようになるとはなあ…」
 そう一人ごちた俺は、再びまどろみの中へと落ちていった。
605趣味と実益の狭間で ◆DFPMjwTAag :2005/03/27(日) 14:21:17 ID:Ypp4oNSS0
>587-604 趣味と実益の狭間で
以上。
606人には言えない趣味:2005/03/27(日) 23:51:35 ID:ExkM+t+y0
投下させて戴きます。

題名『人には言えない趣味』
20スレくらい
題材『痕』
主人公『初音』
18禁
607人には言えない趣味 その1:2005/03/27(日) 23:55:08 ID:ExkM+t+y0
人には言えない趣味

 我慢が出来なくて。
 あんまり良くないって判ってるけど………。
 止まんない。
 机に向かいつつ。
 ノートを広げつつ。
 ダメだよね。
 本当はこんなことしちゃ、イケないよね。
 でも、指が………。
 下着の中へと勝手に。
 ……ちゅく……。
「っん!」
 体がぴくりとケイレンする。
 やだな、最近敏感になってきちゃった。
 毎日、こんなこと、やってるから。
 ………耕一お兄ちゃんのせぇだよぉ……。
 わたし、前はこんなにエッチじゃなかったもん。
 耕一お兄ちゃんが、いっぱい気持ちいいことするから………。
 お兄ちゃんが帰った後も、わたし…。
「楓、初音ぇ。夕ご飯出来たわよぉ」
「ひゃいっ!」
 ガンッ!!
「っい!」
 い、痛ぁ〜い。
 膝、机の柱に、思い切りぶつけちゃったよぉ。
「早く降りて来ないと冷めちゃうわよぉ〜」
「い、今降りるからっ!」
 急ぎ下着を上げ、扉に手をかける。
 廊下に出た瞬間、楓お姉ちゃんと目があった。
608人には言えない趣味 その2:2005/03/27(日) 23:56:54 ID:ExkM+t+y0
 思わず目を逸らす。
 別に悪い事しているわけじゃないけど。
 ついでに頬も熱くなった。


「いただきます」
 机の上には湯気と共に、美味しそうな匂いが立ち上る。
「悪いね、今日は品数が少なくて」
 梓お姉ちゃんがすまなそうな顔をしつつ呟いた。
「しょうがないじゃない。みんな中間テストで忙しいんだから」
 千鶴お姉ちゃんが優しくフォローを入れた。
「もし良かったら、明日から私が料理を…」
「千鶴姉、今は掻き入れ時で忙しい時期じゃないの?」
 すかさず突っ込みを入れる梓お姉ちゃん。
「そ、そうだよね。丁度、紅葉のシーズンだし、千鶴お姉ちゃんもお仕事大変だから、
わたし達でなんとかするよ」
「あら……、そう?」
 シュンと落ち込む千鶴お姉ちゃん。
 ごめんねと心の中で謝った。
 千鶴お姉ちゃんの気持ちはありがたいけど、さすがにテスト前は………ちょっと………。
「三人とも勉強はすすんでいるの?」
 千鶴お姉ちゃんの声に、ピタリと箸が止まる。
 ごめん……実は全然すすんでいない。
 だって、ひとりで部屋にいると……。
 ……………ついつい、しちゃうんだもん。
「千鶴姉。心配しなくても、ウチはみんなちゃんと勉強しているから。その辺は
心配しなくても大丈夫さ」
 梓お姉ちゃんがチラリと視線を向けてきた。
 うぅ、そんな目でわたしを見て欲しくない。
「……耕一さん、勉強しているかしら」
 千鶴お姉ちゃんの声に、静かにご飯を食べていた楓お姉ちゃんが顔を上げた。
「耕一の事だから、アルバイトに精を出しているかもね」
609人には言えない趣味 その3:2005/03/27(日) 23:58:04 ID:ExkM+t+y0
 湯飲みにお茶を入れつつ、梓お姉ちゃんが答えた。
「ねぇ、千鶴お姉ちゃん」
「何かしら、初音」
「確か来月の連休、耕一お兄ちゃんが来るんだよね」
「えぇ、確かその筈よ」
 千鶴お姉ちゃんの顔がほころんだ。
「どうせ飯をたかりに来るだけだろ?」
 口ではあーいう梓お姉ちゃんも、どこか嬉しそう。
「楓お姉ちゃん。耕一お兄ちゃんが来たら、どこか遊びに行こうよ」
「………」
 無言の視線。
 わたしの方を向いたまま。
 無表情なまま。
 わたしを見ていた。
「………そうね」
 一言呟くと、楓は席を立った。
「ごちそうさま」
 脇目もふらず部屋から出ていった。


 わたしの名前は柏木初音。
 昔の名前はリネット……らしい。
 私を好きだと言ってくれた耕一お兄ちゃん。昔の名前は次郎衛門……だったらしい。
 前世では、お兄ちゃんとは夫婦だった……らしい。
 でも次郎衛門は、死に別れたエディフェルのことが、本当は好きだった……らしい。
 そしてエディフェルの現世の姿は、楓ちゃんお姉ちゃん……だと思う。
 あくまで『らしい』『だと思う』でしかない。
 何故なら、あの洞窟……九死に一生を得て、耕一お兄ちゃんと結ばれた洞窟で得た知識は、
どれもこれも真実なのかどうか、確かめようのないものだから。
 だから、わたしは『らしい』としかいえない。
610人には言えない趣味 その4:2005/03/27(日) 23:58:55 ID:ExkM+t+y0
 でも、ひとつ気になることがある。
 それは………。
 楓お姉ちゃんのこと。
 もし、わたしと同じ知識を有していたら……。
 複雑な気分。
 わたしは耕一お兄ちゃんのことが大好き。
 耕一お兄ちゃんも、わたしのことを好きだと言ってくれた。
 幸せだけど、それは確かに幸せなことだけど………。
 楓お姉ちゃん。あの日から笑わなくなった。
 もともと感情を顔に出さないほうだけど。
 そして………わたしを見る目が少し変わった。
 どこか悲しげな目で、わたしを避けるようになった。
 やっぱり、わたしと耕一お兄ちゃんが恋人同士になったから……。
 お姉ちゃん達には何も話していないけど、勘の鋭い楓お姉ちゃんのことだから気付いたのかもしれない。
 きっと間違いなく、楓お姉ちゃんも耕一お兄ちゃんのことが好きなんだろう。
 教科書を広げたまま。
 ノートを広げたまま。
 さっきから勉強が手につかない。
 机に座ってから、悲しげな楓お姉ちゃんの視線が頭に浮かんで。
 悩んでも、結論なんて出ないのは判っているのに………。
 あの日から出口のない迷路をさまよっているわたし。
「試験勉強、すすまないよぉ………」
 溜息をついた。
 そうだ。
 いいこと思いついた。
 梓お姉ちゃんと一緒に勉強をすればいいんだ。
 ひとりでするよりは集中できそう。
 わたしは早速勉強道具一式を手に持ち、隣の部屋へ向かった。
 コンコン。
 扉を軽くノックしてからノブに手を掛けた。
611人には言えない趣味 その5:2005/03/28(月) 00:00:08 ID:ExkM+t+y0
「梓お姉ちゃん、一緒に勉強し…よ………ぅ」
 真っ暗な部屋。
 電気が消え窓にはカーテンが引かれていた。
「………ん、はつね?」
 眠そうな梓お姉ちゃんの声。
「ごめんなさい。もう……寝ていたの、梓お姉ちゃん」
「う、うん。あたし、夜よりも早朝のほうが勉強はかどるから……」
「そ、そうなんだ。お休み梓お姉ちゃん」
「うん、お休み初音」
 わたしは静かに扉を閉めた。
 梓お姉ちゃんて、前から朝起きるの早かったよね。
 じゃぁ、どうしよ。
 楓お姉ちゃんとは……………。
 今は、やめたほうがいいかも。
 暫く廊下で悩んだ後、結局自分の部屋へと戻った。
 わたしも早く寝て、明日の朝に梓お姉ちゃんと一緒に勉強しよう。
 上着を脱ぎ、寝間着に着替えた。


 ………………。
 時計の音がカチコチと気になる。
 眠れないよぉ……。
 普段より2時間は早いから。
 遠くで鳴く虫の声。
 私は毛布を深く被った。
 ……………。
 …………ん。
 ………ぁっ。
 いつの間にか、右手がショーツの中へ。
 眠れないから。
 寂しいから。
 気持ち…いいから。
612人には言えない趣味 その6:2005/03/28(月) 00:00:49 ID:zB7k0l7k0
 一回すれば、疲れて眠くなるかな。
 きっと眠くなるから。
 そう自分に言い訳しつつアソコへと指を沈める。
 …………いつも思う。
 何か足りない。
 気持ちいいんだけど。
 やっぱり、耕一お兄ちゃんのアレが………。
 でも、他に代わりになるモノなんて………。
「うぅ、ぁふぅ」
 もう、ぬるぬるになってる。
 敏感になってる。
 お兄ちゃん。
 耕一お兄ちゃん。
 おにい…ちゃ……ん………………。


「初音、おはよう」
「……おはよう、梓お姉ちゃん」
「昨日はごめんね」
「う、うん。わたしこそ、起こしちゃってごめんなさい」
 わたしは目蓋を擦りつつ答えた。
「寝不足なの初音? 勉強も大事だけど体壊したら意味ないよ」
 思わず返事につまる。
 勉強……してたわけじゃないから。
 昨夜、止まんなくなって。
 一晩中エッチなこと、してたから。
 激しく自己嫌悪。
「梓お姉ちゃん、私も朝ごはん手伝うね」
「悪いね。サラダ作るから、そこのニンジン皮を剥いて細く切ってくれる?」
「うん。コレね」
613人には言えない趣味 その7:2005/03/28(月) 00:01:42 ID:zB7k0l7k0
 寝不足でふらつきながら、わたしは野菜籠から赤いニンジンを一本取り出した。
 細くて丸くて長い棒。
 ………ちょうどいいかも。
「初音。それ、どうかしたの?」
 お鍋を掻き混ぜつつ、梓お姉ちゃんが不思議そうな目でわたしを見ていた。
「うん。ひとりでエ………」
 わたしはハッとして口を手で塞いだ。
 な、な、な、な、なに言っているんだろ、わたしっ!?
「ひとりで……え?」
 梓お姉ちゃんが、わたしの顔を見つめる。
「ニンジンで何をするの? 初音」
「え……」
「え?」
「え…」
「え?」
「え、絵を最近、趣味で描いてるのっ!」
 背中に冷たい汗をかきながら。
 顔を引きつらせながら。
 わたしは咄嗟にウソをついた。
「あら、初音ったらそんな趣味があったの?」
 振り向くと、後ろに千鶴お姉ちゃんが。
 さらにその後ろに楓お姉ちゃんが。
 3人の視線がわたしと、わたしの握るニンジンに集まっている。
「そ、そうなの。最近、わたし絵に、め、めざめて、その、美術の時間に、先生に……ほめられて」
 ウソに、ウソを重ねるわたし。
「そうなんだ。画けたら、あたしにも見せてよ」
「う、うん」
 どんどん自分のクビがしまってくる……。
 それにもまして、無言でたたずむ楓お姉ちゃんの視線が痛かった。


「一応、ニンジンとっておいたから。あと適当に他の野菜も」
614人には言えない趣味 その8:2005/03/28(月) 00:02:43 ID:zB7k0l7k0
「あ、ありがとう梓お姉ちゃん」
 学校から帰宅すると、籠に盛られた幾種類の野菜がわたしを出迎えた。
「これ、お父さんが昔買ったまま、使わなかったスケッチブックよ」
「大事に使うね、千鶴お姉ちゃん」
 二人の姉に礼を述べながら、内心青くなっていた。
 夕ごはんを終えると、わたしは自分の部屋に籠もった。
 野菜とスケッチブックをたずさえて。
 真っ白な紙を前にして、頭を抱えた。
 試験勉強もすすんでいないのにぃっ!
 でも、絵を描かないとみんなに………。
 自業自得とはいえ泣きたくなった。
 とりあえずニンジンを手に取る。
 やっぱり、アソコに入れるのは……そうじゃなくてっ!
 しっかりしてよ、わたしぃ!
 もう…全部、耕一お兄ちゃんが悪いんだ。
 前はこんなにエッチじゃなかったもん………。
 でも、それを受け入れたわたしが一番悪いんだけど。
 …………わたし、あまり絵を描いたことない。
 この際だから、試験勉強が忙しかったということにしようかな。
 それでも、テストが終わったら描かなくちゃいけないだろうけど。
 コンコン。
 突然叩かれる扉。
「初音。お風呂沸いたわよ」
 楓お姉ちゃんの声。
「う、うん。わかっ……きゃっ!」
 腰掛けたベッドから立ち上がった瞬間、歩こうとして椅子に足を取られた。
 倒れまいと伸ばした手が野菜の籠に当たり。
 絨毯の上に大根や玉葱と共に転がった。
「どうしたの、初音」
 ガチャリと開かれる扉。
「な、なんでもない」
615人には言えない趣味 その9:2005/03/28(月) 00:03:31 ID:zB7k0l7k0
 床にぺたりと座りながら、わたしは答えた。
「…………初音。ニンジン、役に立ちそう?」
 冷ややかな視線と言葉。
「え………」
 楓お姉ちゃんの見ている場所。
 まくれたスカート……と、そこから覗くように股の間に転がったニンジン。
「あっ!」
 ニンジンがまるで、わたしの下着から………。
「ち、ちが、違うの、コレは…」
「早くお風呂に入りなさい」
 ガチャンッ!
 とりつくしまもなく閉じられる扉。
 ………………。
 うわぁ─────っ!
 楓お姉ちゃん、完璧に誤解してるよぉっ!
 どうしよぉっ!
 どうしよぉっ!
 どうしよぉ───っ!
 多分、楓お姉ちゃんのことだから、他の人には言わないと思うけど。
 でも、でもぉ……。
 ………………お風呂入りながら考えよ。


 体に湯を掛け、足を浴槽へ。
 あ、ちょうどいい温度。
 体を湯船に沈め一息ついた。
 頭に巻いたタオルを直しつつ天井を見上げた。
 …………なんて楓お姉ちゃんに説明しようかな。
 普通に転んだだけと言うしかないけど………。
 信じてくれたらいいけど。
616人には言えない趣味 その10:2005/03/28(月) 00:04:41 ID:zB7k0l7k0
 突然、ガララと脱衣所が開く音。
 誰だろう。
 布の擦れる音。
 服を脱ぐ様子が磨りガラス越しに見えた。
 わたしがお風呂に入ってるの知らないとか。
 でも、脱ぎ終えた衣服が脱衣所に残ったままだから、普通気がつくはず。
 そう思っていると、今度は浴槽の扉が開かれた。
「か、楓お姉ちゃん……」
 わたしは目を丸くした。
「初音。たまには一緒に入っても………良いでしょ?」
「……うん」
 特に断る理由もなかった。
 湯を体に浴びせ、楓お姉ちゃんも湯船の中へ足を入れた。
 ウチのお風呂は広いから、二人でも楽に入ることが出来るけど………。
 わたしと正対する形で楓お姉ちゃんは座った。
 どうやって話せばいいんだろうか。
 いきなりだから心の準備が…………。
「ねぇ、初音」
「な、なぁに楓お姉ちゃん」
「勉強、すすんでる?」
 う…………。
 あぅう………。
「あ、あんまり」
 正直に答えた。
 ウソをついてもしょうがないから。
「多分、そうだと思ったわ」
 え、多分……て?
「だって、初音。毎晩あんな事してるから」
 ふぇっ!?
 思わず、湯船の中でひっくり返りそうになった。
「あ、あ、あんなこと………って?」
617人には言えない趣味 その11:2005/03/28(月) 00:05:28 ID:zB7k0l7k0
 心臓が破裂しそうなくらいドキドキし始めた。
「初音。私達の一族には不思議な力がある事………知っているわね」
「うん……」
 怖ず怖ずと頷いた。
「私、何となく判るの」
「な、なにが?」
 嫌な予感がしてきた。
「家族の感情よ」
「感情?」
「そう、強い感情」
「た、たとえば……」
「怒っていたり、笑っていたりすると、家の中だったら何となく判るの」
「そ、そうなんだ……」
 それって……もしかして。
「おかげで、私も勉強がすすんでいないの」
「え?」
 まさか、まさか………。
「誰かさんが毎晩、エッチなこと考えているから」
 うわぁ─────っ!
 やっぱりぃっ!!
「ご、ごめんなさいっ!」
 あまりの恥ずかしさに楓お姉ちゃんの顔を見る事が出来ない。
「どうして謝るの?」
「そ、それは……」
「どうして?」
「わ、わたしが、毎晩エッチな事して………」
 恥ずかしいよぉ……。
「楓お姉ちゃんの、べ、勉強の邪魔を……」
「ウソよ」
 …………う、そ?
 今、楓お姉ちゃん、なんて……。
618人には言えない趣味 その12:2005/03/28(月) 00:06:11 ID:zB7k0l7k0
「私にそんな便利な能力、あるわけないでしょ」
「え?」
 え?
 まじ?
 うそ?
 うそぉっ!?
「初音。あなた毎晩エッチにな事してたのね」
 うぁわぁわぁあああっ!!
 バシャ。
 お湯の中に顔を沈めた。
 恥ずかしい。
 本当に恥ずかしいよぉっ!
「ニンジンもあんな事に使っていたのね」
「ち、違うのっ!」
 お湯から顔を上げ、慌てて否定した。
「使っていないの?」
「使ってなんか、ないっ!」
「どうして?」
「だって、大きく…て……」
 あぅ。
 か、楓お姉ちゃんの目が………吊り上がってる。
「何と比べて、大きくないの?」
「それ……は……」
 墓穴を掘っちゃった………。
「何が、ニンジンと比べて小さいの?」
「…………」
 あぅぅぅ………。
「黙っていても判らないわよ」
「ご、ごめんなさい」
 再び謝罪の言葉を、わたしは口にした。
619人には言えない趣味 その13:2005/03/28(月) 00:07:10 ID:zB7k0l7k0
「何を謝っているの?」
「……………」
 どうしよ。
 どぅしよぉ……。
 返答の代わりに涙が溢れた。
「初音。別に泣かなくて良いのよ」
 わたしの頬を流れる涙。楓お姉ちゃんが指ですくった。
「ニンジンの件は黙っていてあげるから。その代わり……」
「その代わり?」
「私に見せて」
「み、見せる?」
 何を?
 わたしは首をかしげた。
「初音が毎晩していることを」
「ぇええっ!」
 それって。
 まさか………。
「お風呂上がったら、私の部屋に来て」
 そう言うと楓お姉ちゃんは湯船から立ち上がった。
「楽しみに……待ってるから」
 ガラリと音を立てる扉。楓お姉ちゃんは脱衣所へと姿を消した。
 ジャボンッ!!
 全身をお湯の中に沈めた。
 頭ごと。
 このまま、深く沈んでしまいたかった…………。


「本当に、やらなきゃダメ?」
 椅子に座ったまま、無言で頷く楓お姉ちゃん。
 恥ずかしぃよぉ………。
 私は楓お姉ちゃんのベッドに腰掛けショーツを降ろした。
620人には言えない趣味 その14:2005/03/28(月) 00:07:50 ID:zB7k0l7k0
「電気、消してもいい?」
「………暗くしたら、良く見えないでしょ?」
 楓お姉ちゃん、目がマジだ………。
 私は観念して、ネグリジェの端をゆっくりたぐりあげた。
 露わになるわたしの性器。
 こんな明るい所では、耕一お兄ちゃんにも見せたことがないのに………。
「まず、どうするの?」
 低い楓お姉ちゃんの声。
「指で……」
「してみせて」
「ぅ……うん」
 頷きつつ、アソコに指を這わせた。
 顔は火が出るくらい熱くなって。
 ついでに………。
「んっ!」
 アソコも、かなり濡れてる……。
 恥ずかしいから。
 いつもより、なんだか……。
 …くちゅ。
 にちゅ。
 エッチな音。
 いつもより、ぬるぬるになってる。
「初音、足を広げて」
 楓お姉ちゃんが椅子から降り、わたしに近づいて来た。
「う、うん」
 太股をゆっくり広げる。
「もっとよ」
「はんっ!」
 太股を当てられた手が、わたしの足を強引に広げた。
 …にちゃぁ……。
 パックリと開かれる私のアソコ。
「み、みないで……」
621人には言えない趣味 その15:2005/03/28(月) 00:08:44 ID:zB7k0l7k0
 羞恥心で頭がカーッとしてくる。
 何も考えられないくらい。
「続けて、初音」
「うぅ……」
 もう嫌……。
 視線が食い込むなか、再び指を動かす。
 ………なんか、いつもと違う。
 いつもより敏感で。
 いつもより糸を引くくらい濡れて……。
 にちゃっ!
「ひぃっ!」
 ゆ、ゆびが…。
 楓お姉ちゃんのゆびが…。
「んぁ。だ、だめぇ…」
 ぴちゃ。
 にちゅぴち。
「はんっ! くふぅっ! そんな…ぁんっ!」
「初音。ココ、気持ちいい?」
「ふぁ…はぁっ!」
 おまめの部分、撫でられ…んんっ!
「こっちに、指とか入れるの?」
「こ……こっち?」
 ずりゅ…。
「ふぁああ!」
 楓お姉ちゃんの指が、わたしの中に……。
「一本じゃ物足りない?」
 ぢゅり…。
「ひんっ!」
 じゅちゅり…。
「はぁああっ!」
「三本も入れば十分かしら?」
622人には言えない趣味 その16:2005/03/28(月) 00:09:30 ID:zB7k0l7k0
 ずちゅ。
 ずりゅるる……。
 掻き回されてる。
 わたしの中を、掻き回せれて……る。
「この後は、どうするの?」
「どうする……って」
「いつも耕一さんに、どんな事をされているの?」
「それは……」
 ちゅぷっ!
 ずちゅっ!
 ぢゃくっ!
「ひぃっ! やめて、そんなに強く…はぁっ!」
「ねぇ答えてよ、初音」
 やっぱり、楓お姉ちゃんは………。
「許して……」
「ゆるす?」
「許して、楓お姉ちゃんっ!」
「何の事?」
 執拗にわたしを攻め続ける三本の指。
「お願いだから…ゆるして………」
 哀願した。
 目から涙がこぼれた。
「さっきから何を謝っているの。私は初音が、どんなふうに愛されているのか
知りたいだけよ。それなのに、どうして謝り続けるの?」
 許して、もらえないんだ………。
 悲しかった。
 とても、悲しかった。
「いつもは………」
「いつもは?」
「口で……」
「口でどうするの?」
623人には言えない趣味 その17:2005/03/28(月) 00:10:08 ID:zB7k0l7k0
「アソコを、舐めて……」
 にゅろ…。
「あっ!」
 ぴちゃ。
 ぢゅるるぅ。
「ふぁああああっ!」
 アソコが。
 敏感な部分に。
 楓お姉ちゃんの唇が、舌が。
 ぴちゃる。
 ちゅりっ!
「くはぁっ!」
 吸われて。
 揉まれて。
 アソコの中も、指が、動き続け……って!!
「ひぃっ! はぁあ!」
 刺激がっ!
 気持ち良すぎてっ!
「かえ、で、おねぇ…ぁあああっ!」
 あんっ!!。
 ひぁああああああああああああっ!!!
 んぁあああ…………………。
 ふぁあ……………。
 はぁ………。
 ………。
 …。
「初音。イッたの?」
「…………」
 わたしは顔を手で覆いながら、首を縦に振った。
「耕一さんと、こんなふうにエッチしているの?」
 返す言葉なんて頭に浮かばなかった。
624人には言えない趣味 その18:2005/03/28(月) 00:10:52 ID:zB7k0l7k0
「……………私にもしてよ。初音」
「…ぇ?」
 服を脱ぐ音。
 パジャマのズボン。
 水色のショーツ。
 わたしの目の前で、楓お姉ちゃんの下半身を覆う布が消えていく。
「私にも、気持ち良い事、してよ………」
「う、うん」
 ベッドの上で横になる楓お姉ちゃん。
 両足の膝を立てた状態で。
 気怠い体を起こし、わたしは白い太股の間に顔を近づけた。
 ………こんなふうなんだ。
 楓お姉ちゃんの性器。
 間近で見るのは初めてだった。
 自分のすら、あまり見たことないから。
 …にちゅ。
 人差し指でそっと触る。
 ピクリと細い足が震えた。
 濡れていた。
 ピンクの割れ目は、ぬるぬるになっていた。
 楓お姉ちゃんも興奮していたんだ………。
 口をアソコに近づける。
 変な臭い。
 わたしのも同じ臭いがしたのかな……。
 れろ…。
「ふぅっ!」
 楓お姉ちゃんのあえぎ声。
 ぺろぺろと舐めて上げた。
「ぁあ、んんっ!」
 さっきのわたしと同じ……。
 なんとも表現しがたい味がした。
 耕一お兄ちゃんもわたしとする時、舌で同じ味覚を感じているのだろうか。
625人には言えない趣味 その19:2005/03/28(月) 00:11:32 ID:zB7k0l7k0
 ちろ。
 にちゅ。
 ちゅる。
 楓お姉ちゃんのアソコを。
 なるべく感じるところを。
 女の子同士だから。
 楓お姉ちゃんの気持ちいいところも、多分わたしと一緒だろう。
 おまめの部分。
 指で皮の部分を引っ張って。
 プリッと現れた真珠のような肉の芽を。
 わたしは丹念に愛撫した。
 感じているのは聞こえる声と、震える腰の動きから容易に想像できた。
 気持ちいい?
 楓お姉ちゃん気持ちいい?
 さっきのお返しとばかりに、わたしは舌で攻め続けた。
「あふっ! ふぁあああああああああっ!」
 激しくケイレンする体。
 楓お姉ちゃんは、あっけなくイッてしまった。
「ふぁ、はぁ、ふぅ」
 顔を上気しつつ甘い吐息を吐き出していた。
「ふぁ…。はぁ、ふぁあああ……」
 鼻をすする音。
「うぅ、うぁあぁ……」
 目に当てられた指。
 その間から流れ落ちる雫。
 いくつも、いくつもこぼれ落ち、シーツを濡らしていった。
 押し殺した嗚咽と共に。
 やっぱり………。
 楓お姉ちゃんは耕一さんを愛しているんだ。
 深く、とても深く。こんなに苦しむくらい。
 その姿を見て、わたしの目頭も熱くなった。
 胸がギュッと苦しくなった。
626人には言えない趣味 その20:2005/03/28(月) 00:12:33 ID:zB7k0l7k0
 これと似た光景を、遠い昔に見たような気がして………。
 わたしはベッドに手をつき四つんばいの格好で、泣きじゃくる姉の耳元へと這っていった。
「楓お姉ちゃん。今度の週末、ふたりで耕一お兄ちゃんの所で行こぅ」
「……はつね……」
「耕一お兄ちゃんに、愛してもらいに行こぅよ」
 ずっと、考えていた。
「わたし、ひとりだけ幸せになることなんて、できない…………」
 幸せを独り占めすることなんて、できないから。
「大人になったら、ふたりで耕一お兄ちゃんの赤ちゃんを産もうよ」
 わたしは笑った。
「ふたりで、耕一お兄ちゃんの子供を育てようよ」
 楓お姉ちゃんに笑って欲しくて、わたしは笑顔を一生懸命つくった。
「きっと、そのほうが楽しいと思うから………」
「良いの? 本当に良いの初音」
 わたしは微笑みながら首を縦に振った。
 そっと向けられる二本の腕。
 わたしを包み込み、やさしく抱きしめてくれた。
 これでいいんだ。
 これで。
 向かい合う唇。
 自然に重なり合った。
 心が、とても安らいだ。
 そして、長い間抱き合い続けた………。
 静かな時が流れた。
 優しい時間が流れた。
 もう、いいかな………。
 目を合わせる。
 いつもの楓お姉ちゃんがそこにいた。
「わたし、そろそろ自分の部屋に……」
 離れようとするわたしを、楓お姉ちゃんが離すまいと引き留めた。
627人には言えない趣味 その21:2005/03/28(月) 00:14:31 ID:zB7k0l7k0
「ねぇ、初音……」
「なぁに、楓お姉ちゃん」
「もう少し、しない?」
「え?」
 …くちゅ。
「…んっ!」
 わたしのアソコへと、一本の指がするりと入り込んだ。
「とても、気持ちよかったから……」
「もう一回するの?」
 はにかかみながら楓お姉ちゃんは頷くと、わたしにキスをした。
「んん……」
 舌がお互いの口の中で重なり合う。
 なんか気恥ずかしいけど、気持ちいい……。
 わたしも楓お姉ちゃんの太股の間に指を割り入れた。
「んふっ!」
 ぴくりと楓お姉ちゃんの背中が震えた………。


(終わり)
628人には言えない趣味:2005/03/28(月) 00:18:26 ID:zB7k0l7k0
以上、21スレ
『人には言えない趣味』でした

今書いている野師、ラストスパートがんがれ(=゚ω゚)ノ
629人には言えない趣味:2005/03/28(月) 00:23:27 ID:zB7k0l7k0
>>607

冒頭の部分、題名に『』をつけ忘れていました………_| ̄|○
630名無しさんだよもん:2005/03/28(月) 00:33:43 ID:NK1MNDZj0
短いものですが、一個投下します。
タイトルは『考え事』で、ToHeart2の愛佳。
4レス予定です。
631『考え事』 1/4:2005/03/28(月) 00:34:36 ID:NK1MNDZj0
 どんなものにも必ず終わりがやってくる。
 古い書物と塵埃の積み重なった書庫で、俺と愛佳が過ごした時間にも。
 いろいろな事情も重なったけど、それでも終わりのやって来るのは、
 予想していたよりずっと早かった――。

「……たかあきくん、たかあきくん」
 感慨に浸っていたところを、いきなり脇腹をつつかれて我に返る。
 そうだ、今、後片付けの最中だったっけ。
 もう書庫で作業することもないからと、備品を引き上げているんだった。
 振り向くと、ダンボールの箱を抱えた愛佳が立っていた。
 どうやらキッチンの一角を整理してきたところらしく、箱の中身をガチャガチャ言わせている。
「サボっちゃだめですよぉ」
「サボってないサボってない」
「む〜」
 あからさまな疑いの視線を向けられる俺。
「嘘は良くないですよ? ちゃんと分かってるんですから」
 俺の言い訳などお見通しといわんばかりに、愛佳は薄い胸を張る。
「だからサボってないって。ちょっと休息をとっていただけ。
 休息をとることはサボリとは違うんだ。そう、最高能率を達成するためあらかじめ科学的計算によって合理的に定められた計画的行動なんだ」
「む〜」
「そういうわけで納得した……?」
「するかぁ〜、この屁理屈ぅ〜」
「いたいいたいっ!」
 愛佳が、手に持ったダンボール箱の角でがしがし俺を叩く。
 これは結構痛かった。
「……悪かった」
 素直に頭を下げる俺。いたずらは引き際が肝心だ。
「これ持ってってやるから」
 俺は愛佳の手からダンボール箱をもぎ取る。よし、武器奪取。
632『考え事』 2/4:2005/03/28(月) 00:35:48 ID:NK1MNDZj0
 ん? キッチンから持ってきたって事は、この中身って食器類だよな?
 壊れ物が入っているかもしれないな……。
 中身を確認すべく俺はダンボールの上蓋をぺらりとめくる。
「あ、開けちゃ駄目!」
 愛佳の静止よりも、俺が箱の中を覗き込むほうがほんの少しばかり早かった。
「え〜と、飴玉の詰まったガラス瓶に、チョコレートの箱折、クッキーにビスケット……」
「わーっわーっわーっ」
 愛佳が得体の知れない奇声を上げ、素晴らしい速さで箱を取り返した。
 そして一歩引き下がり、俺のほうを上目づかいで見る。
「……あたしのじゃないですよ?」
「お前以外に誰がいるんだよ」
 あからさまな疑いの視線を向ける俺。
「だってあたし、つまみ食いなんかしませんてば〜」
 ……この期におよんでいい根性してるな、こいつ。
 愛佳の言い訳などお見通しといわんばかりに、俺は無い胸を張る。
 ついでに一発デコピンを決めてやる。ばちん。
「嘘は良くないぜ。ちゃんと分かってるんだから」
「はぅ……」
633『考え事』 3/4:2005/03/28(月) 00:37:00 ID:NK1MNDZj0
 そんな他愛ない会話を繰り返しているうちに、作業はどんどん片付いて、やるべきことが本当になくなってしまう。
 そろそろ切り上げ時だろうか。
「あの、たかあきくん?」
 ふと見ると、愛佳が困惑したような顔で俺を見ていた。
「あたし、このあと部のほうに顔を出さなきゃいけないから」
 ……部? ああ、愛佳は文芸部にも入ってたんだっけ。
 あとクラス委員会と郁乃担当委員……は違うけど。
「だから……ごめん」
 愛佳が頭を下げる。
 ごめんっていうのは、一緒に帰れない……て意味だよな。
 愛佳の事情だから仕方ないけど、やっぱり寂しい……な。
 なんとなく思い沈黙が二人の間に流れる。
「たかあきくんも、何かクラブ活動すればいいのに」
 場の空気を察したのか、愛佳が口を開いた。
「そうは言ってもな……」
 俺は首をひねった。
 せっかく愛佳の出してくれた助け舟だけど。
「スポーツ系統はダメだし、これといって文化的趣味もないし」
 体育倉庫に呼び出されていた気もするが、それはこのさい忘れることにする。
 そうすると、マジで何にも思いつかない。
 ほとほと無趣味だな、俺。
 まぁ、今まではバーコード貼りが趣味みたいなもんだったからな。
「う〜ん、急に言われてもなあ……。愛佳は何か趣味持ってるの?」
「へ、あたしの趣味? あるよ」
 急に話を振られてきょとんとした愛佳だが、すぐ頭の中を整理したのか、自身ありげな笑みを浮かべる。

「それはね――」
「買い食い」
「ち、違うよ〜」
「つまみ食い」
「それも違う〜〜っ」
634『考え事』 4/4:2005/03/28(月) 00:38:14 ID:NK1MNDZj0
 ……何をやってるんだ俺は。
 愛佳の趣味を聞くのが怖くて、冗談にしてしまった。
 なぜだろう、聞いてしまったら、俺と愛佳の距離が一層離れてしまう気がしたからだろうか。
 愛佳も苦笑して、それ以上何も言わなかった。

 書庫を出たところで右と左。特に何をするでもなく俺たちは別れる。
 愛佳は文芸部へ。俺は一直線の帰り道へ。
 この書庫も今日が最後だと思うと、なんだか後ろ髪を引かれる思いだった。
 明日から俺は何をすればいいだろう?
 俺たちは、何を共有できるんだろう?
 5月の夕暮れ、茜色に染まった帰り道で俺はずっと、そんなことを考えていた――
635名無しさんだよもん:2005/03/28(月) 00:41:30 ID:NK1MNDZj0
>>631-634 『考え事』でした。
636名無しさんだよもん:2005/03/28(月) 00:53:47 ID:QD1xNy1u0
最終日だから見に来たら間違ってる…。

すいません、保管サイトに収録する際、>>578の11行目の
「カッター」を「カラー」に修正頂けませんでしょうか?
よろしくお願いします。
637名無しさんだよもん:2005/03/28(月) 06:13:21 ID:Q3XLDrUh0
AIRのないの?
638名無しさんだよもん:2005/03/28(月) 07:52:49 ID:NxwJ303q0
投下します。
ToHeart2でタイトルは「音楽鑑賞」
草壁優季についてのネタバレあります。ご注意。
639音楽鑑賞1:2005/03/28(月) 07:53:29 ID:NxwJ303q0

 うとうとと夢を見ていた。
 ずっと昔、幼い僕たちが知り合ったばかりのころの夢……

『音楽鑑賞』

 とても綺麗な海の中だった。
 水の色はどこまでも青く、たくさんの魚たちが自由気ままに泳ぎまわっていた。
 上を見上げれば、僕の背丈ほどもある大きなヒレを広げたエイが、頭の上をゆっくりと通り過ぎていく。
 その傍らでいろんな色や形の小魚が舞い、横を振り返ればマグロの群れがキラキラと金属質の輝きを放ちながら僕に近寄ってきたりして……
 僕は、まるで幻を見ているかのようなぼんやりした瞳で光景に見とれていた。

 そうして気がつかないうちに、ずいぶん時間が過ぎていたんだろう。
 いつのまにか僕は一人ぼっちだった。
 さっきまで確かにみんなと一緒にいたはずなのに……
 ぐるぐると周りを見回してみても、見知った顔のひとつも見つからなかった。
 右も左も、青い青い水の輝きと大きなぎょろ目を剥いた魚ばっかりで、僕は異世界に一人迷い込んでしまったような気分になる。
 少し心細くなりはじめた、その時だった。
640音楽鑑賞2:2005/03/28(月) 07:54:10 ID:NxwJ303q0
 突然、手を引っ張られた。
 びっくりして振り向くと、そこに草壁さんがいた。
 目が合うとにっこり笑って、
「こっちだよ」
 と、通路の一角を指差した。
 僕は、まるで救いの女神さまが現れたように思って、草壁さんの手を握った。
 と、草壁さんはいきなり僕の手を引いて歩き出そうとする。
「ちょ、ちょっと待ってよ草壁さん」
 いきなりどこへ連れて行こうとするのさ、と文句を言おうとすると、草壁さんはびっくり顔をして唇を尖らせた。
「河野くん。私、草壁って名前じゃないよ」
「え?」
「……草壁は私のお母さんの名字」
 あれれ、そうだっけ?
 僕は目の前の女の子を見つめなおす。
 僕と同じクラスの、僕も良く知っている女の子。黒くて長い髪の毛と、頭の上のほうについたかわいい髪飾りが彼女の目印だ。
 ちょっと人見知りするけど、優しくて良く気が付いて、それからおとぎ話が好きで……。
 名前は……ええと、高城さんだ。高城優季。僕は何を勘違いしていたんだろう。

「……高城さん」
「うん!」
 高城さんは納得したような表情で、また歩き始めた。
 エイやマグロの泳いでいる水槽を離れ、回廊のように曲がっている通路の奥へ。
 高城さんに手を引かれながら、僕は疑問を口にした。
「ねえねえ、僕をどこへ連れて行くの」
「さぁ? どこだと思う?」
 高城さんの答えはそっけなかった。
 僕は真剣な気持ちで聞いているのに、彼女はとてもいたずらそうな目で僕を困らせるばかりだ。
「イジワルしないで教えてよ」
「だ・め。河野くん私の名前間違えたから教えてあげない」
 ぴしゃりと言われてしまった。
 本気で怒っているわけじゃないんだろうけど……。
 仕方なく、僕は黙りこくって高城さんの後を付いて行った。
641音楽鑑賞3:2005/03/28(月) 07:54:51 ID:NxwJ303q0
 そのうち通路はどんどんうす暗くなってきて、周りの水槽を泳いでいる魚もさっきのみたいにきらきらしたものではなく、青白くて不気味なものばかりになってきた。
 枯れ草みたいにひょろ長いウミヘビとか、耳元まで口が裂けたアンコウとか……。
 高城さんは先に立ってずんずん歩いていくけれど、僕はなんだか異次元へ誘い込まれているかのような錯覚で恐怖さえ感じてしまう。
「ね高城さん? 本当に大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。任せて」
 何も心配していないような高城さんの態度が、かえって僕を不安にさせる。
 いったいどこへ連れて行かれるんだろうか……。
 僕は落ち着きなく、目をきょろきょろ動かしながら、通路の奥へ奥へと進んでいった。
 そのとき僕はあることを思い出した。
 そうだ。今の僕の状況と同じように、海の底へ連れて行かれて……っていう話があったじゃないか。
 その通りなら行き着く先はべつに恐いところじゃないはずだ。
 僕の心の中に、一筋の希望の光が差し込んだみたいだった。
「ねえ高城さん」
 思いきって聞いてみた。
「ひょっとして、高城さんの連れて行ってくれるところって……竜宮城?」
「……!?」
 高城さんは、俺のほうを見て目をぱちくりさせると、次の瞬間、とても大げさに笑い出した。
642音楽鑑賞4:2005/03/28(月) 07:55:51 ID:NxwJ303q0
「ごめんごめん……」
 しばらく経ったけど。
 いまだに虫が治まらないのか、高城さんは目に涙の粒さえ浮かべて笑いをかみ殺している。
 普段おとなしい彼女があんまり笑うもんだから、僕のささやかな怒りもどこかへ吹っ飛んでしまったくらいだ。
 笑うなんてひどいよ、とすっかり毒気を抜かれた文句を言うと、
「そうだね、ごめん……。海の底といえば竜宮城だよね」
 高城さんはまるで可愛い子供を見るような目で、僕を見た。
 僕はいまさらになって恥ずかしくなる。
 良く考えたら竜宮城なわけがないじゃないか。仮にもここは水族館の中なんだぞ。
 そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、高城さんは一層ご機嫌だった。
 彼女はこういうおとぎ話の類が大好きだったから。
「どうぞ浦島太郎さま」
 すっかり乙姫さまに成り切ったかのような高城さん。
「竜宮城へようこそいらっしゃいました。おもてなしに歌でもお聞かせ致しましょうか」
 大人びた口調で口上を述べると、優雅に膝を折る。
 つられて僕もお辞儀をしてしまう。ほんのちょっとした真似事なのに。
 けれど、そういうのは嫌いじゃなかった。
「ぜひ聞かせてよ。でも、どうして歌なの?」
 僕がそう訊いたのは、乙姫様ならもてなすべきはご馳走じゃないかと思ったからだ。
「ご馳走なんて用意できないでしょ」
 そりゃそうだ。
643音楽鑑賞5:2005/03/28(月) 08:02:31 ID:NxwJ303q0
 ゆらゆら揺れる光が、まるで特設のステージライトのよう。
 やわらかく幾重にも帯を巻いて、上質の天鵞絨のような美しさを輝かせる。
 その真ん中に立った高城さんは、さながら高貴なドレスを纏ったお姫様だ。
 僕がそのことを褒めると、彼女は心なしか頬を紅く染めて、今までに見たことがないくらいの笑顔を浮かべて……。
 それがまた、どんな手の込んだお化粧よりも彼女に似合っているように思うのだった。

 そして、たった一人の観客のために、彼女のコンサートが始まった。
 決して上手くはないけれど、誠実で、どこか暖かみのある歌声が僕の耳に届いてくる。
 僕は静かに目を閉じた。
 目を閉じると、本当に竜宮城の舞台で乙姫さまの歌声を聴いている気分だった。
 
 乙姫さまの歌は、とても優しかった。
 僕の中にすうっと入ってきて、不安で震えていた心を陽だまりのような暖かさの中に包み込んでしまう。
 まるで、僕の体全部が、高城さんの温かい手のひらに包まれたみたい。
 これは高城さんの優しさなんだろうか?
 心細くないよ、寂しくないよって、励まされているようだ。
 なんだかひとりでに涙が零れてきそうになって、僕は唇をぐっとかみ締めた。

 歌が終わっても、僕はなんだか頭がぼんやりして、夢の中を漂っているような気分だった。
 高城さんは礼儀正しく深々とお辞儀をすると、僕のほうを見て言った。
「えと、どうだった……?」
 その言葉に僕はきょとんとしてしまう。
 あとから考えれば、高城さんは感想を聞きたかったのだと思うけれど……。
 そのときの僕はぼんやりしていたので、彼女が何のことを聞いたのか分からなかった。
 僕があやふやな返事をしたせいだろう、彼女はその可愛い眉をひそめた。
「河野くん、歌好きだよね……? 趣味は音楽かん賞だったよね?」
 え……っ!?
644音楽鑑賞6:2005/03/28(月) 08:04:59 ID:NxwJ303q0
 僕たちの学校の通知票には特技や趣味を記入する欄があって、学期の終わりにはその欄を埋めて先生に見せなければならなかった。
 けれど幼い僕たちのことだから、趣味なんて聞かれてもよく分からなくて、大抵の子は思いついたものを適当に書いて済ませていた。
 むろん、まじめに書いている子もいたろうけど……。僕もご多分に漏れず、適当に書いていたうちの一人だった。
 そのときも、誰かが「音楽かんしょう」と言い出して、僕はそれを真似しただけだった。
 だいたい僕は、音楽鑑賞の正確な意味さえ分かっていなかった。
 ただ、音楽っていうのが、どっちかっていうと女の子っぽい趣味だな、と思っていた程度だ。

 だからこのとき、高城さんが趣味の話を持ち出したとき、僕は本当にびっくりしたと思う。
 どうして彼女は僕の書いた内容を知ったのか。
 通知票に適当に音楽鑑賞と書いたのは事実だけど、それを肯定したくはなかった。
 女の子っぽい趣味の持ち主だと思われるのは真っ平ごめんだった。
 そんな趣味の持ち主を、彼女はきっと軽蔑すると思ったから。
 幼ごころに僕は高城さんのことが好きだった。
 軽蔑されたくなかった。嫌われたくなかった。

 僕の体の中を渦巻いていたいくつもの感情を、幼い僕は幼い少女にどう伝えれば良かったんだろう。
 混乱する頭を抱えて、僕は、口を開いた。
「僕……音楽好きじゃないんだ」
「え……!?」
「音楽かん賞とか、趣味じゃないから……。だから、高城さんの歌もつまらなかったよ」

 高城さんの顔が、急に曇ってゆく。
 きゅっと唇を噛んで、瞳をうるうるに潤ませて下を向いてしまう。
 さっきまでの笑顔なんかかき消されてしまって。
 しまった、何か声をかけなきゃと思ったけれど、僕の頭の中はもうぐちゃぐちゃで……。
 とても気まずい雰囲気の中で、今にも泣き出しそうな高城さんを見て、
 僕はその場にいたたまれなくなって、駆け足で逃げ出したんだった。
645音楽鑑賞7
 そのあとどうなったのか、僕は覚えていない。
 覚えていないってことは、特に問題もなくて出口に辿り着いたんだろう。
 そしてクラスメートの群れに混ざって、何食わぬふりで学校へ戻ったはずだ。
 高城さんにはちゃんと謝れたんだろうか。それとも……。

 夢は、そこで終わる。
 ……。

「あ……起こしてしまいましたか?」
 夢から覚めると、目の前に草壁さんの顔があった。
 思わず名前を呼びそうになって、慌てて口をつぐむ。
 えとえと……今度こそ間違いないよな。正真正銘の草壁さんだ。
 昔の高城さんと同一人物だけど、今の名前は草壁さんで、俺の学校の同級生で、黒髪が綺麗で、スタイルが良くて、ちょっとメルヘンチックで、とても優しく笑ってくれる今の俺の恋しい人だ。
「ごめん、俺……」
「いえ。私もうとうとしていましたし……それに、退屈はしませんでしたから」
 草壁さんは静かに笑って、頭上を見上げた。
 俺たちは水族館デートの途中で、通路脇のソファーにもたれて休憩していたところだった。
「ここは、水槽のいちばん底の部分にあたるんですね。青い青い海の底。きらきら輝く水の色が綺麗でまるで夢の世界を見ているよう。こんな美しい光景を目にしながらのんびりした時間を過ごせるなんて、ふふっ、とても素敵だとは思いませんか?」
 草壁さんにつられるようにして、俺も上を見上げる。
 大きな水槽の青い色と、その中を悠然と泳いでゆくジンベイザメ。
 俺が夢の中で見た大きなエイは、どこを探してみても見つからなかった。
 ふいに、俺は思い当たる。
「草壁さん、いま歌……歌ってたでしょ?」
 聞かれて、草壁さんは目をぱちくりさせた。
「え……あの……? どうして分かったんですか? 貴明さん、実は狸ねむりだったとか、もしくはエスパー……? ああ、貴明さんにそんな力があったなんて私ぜんぜん……。あ、それじゃ、あの……とか……の事も……」
 なんだかおろおろしている草壁さんはそれはそれで可愛らしかったけど、その反応で俺の知りたかったことは分かってしまった。
 どおりで、夢の中の高城さん、あの歳にしては歌が上手すぎると思ったよ……。
 ……なんて言えないよな。恥ずかしいし。
「……あの時はごめん」